剣と少女と世界の旅人 (ADONIS+)
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1.上位世界

 男ならば女の身体に興味を持つことはあるだろう。ボクもオナニーをして性欲処理をした時にふと思った。女のオナニーはどんな感じなのだろうと。

 

 女の方がよく感じるらしいが、当然ながら男のオナニーしかしたことがないボクにはそんな経験はない。ついでにいえばヘタレで女に付き合った事のないボクはセックスの経験もなかった。

 

 まあ、フリーターで収入も少ないから結婚できないという理由もあるが、実際に女性と付き合う事を煩わしいと考えていたのもあった。その為、ネットではTSを取り扱った小説などをみて楽しむこともあった。後から思えば、そんなボクだからこそあの時あんな選択をしたのだろう。

 

 ある時ボクは自殺した。理由は金欠による生活苦だ。まあ、元から安定していない職業だったから首になってそうなっても別におかしなことではないだろう。

 

 

 

 そして、気が付けばボクは謎の空間にいて、ボクの周囲には多くに人たちがいた。恐らく百人は下らないようだ。そんな中で一人の少女がボクたちに説明していた。

 

「……というわけで貴方達は死んだわ。それでトリッパーになって貰うわ。拒否してもかまわないけど、その場合、魂を洗浄されて輪廻転生の輪に乗るから記憶をすべて失う事になります」

「あんた俺達をトリッパーにするって言ったよな?」

「ええ、そうよ」

 

 一人の青年が少女に質問していたが、これってネット小説とかでよくある転生物かな?

 

「それじゃ、あんたは女神なのか?」

「いえ、私は神ではなくトリッパーよ。神々は私の事を『全能なる観察者』と呼ぶけどね」

「それはどういうことだ?」

 

 少女の言葉にボクたちは疑問を持ったが、少女の説明はボクの斜め上をいく物だった。彼女はあらゆる能力を創造できる能力を持ち、おまけに能力を他者に与えることができて、所謂チートオリ主だろうといくらでも作れるらしい。

 

「じゃ、俺には当然チート能力をくれ! 俺達をこんな所にまで連れてきたんだからな」

「俺もだ!」

「俺も、俺も!」

 

 その事を訊いた一人の男は少女にチート能力を要求して、他の男達もそれに便乗していく。

「勘違いしているみたいだね。私はトリップさせるとはいったけど、能力を与えるとは言っていない。そんな面倒なことしないわよ」

「なんだと!」

「だから私は貴方達を適当な世界にトリップさせるだけよ」

「テンプレとは違うのか!」

 

 少女が男たちの要求を蹴ったとたんに周囲が騒がしくなったが、少女に文句を言っていた者たちがいきなりその場から消えてしまい、その場に残されたのは少女を除くとボクを含めて五人の男達だけだった。

「まったく、これで少しは静かになったわね」

「か、彼等はどうしたんですか?」

 一人の男が恐る恐る訪ねた。

 

「あいつ等?あいつ等は相応しい世界にトリップさせただけよ。貴方達は『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』って知ってる?」

 

 少女の原作名を訊いてボクは顔を青ざめた。まさか彼らはあのゾンビが蔓延る世紀末な世界に飛ばされたのか?

 

「あの世界なら、運が良ければ好きなだけ家に引きこもれるわ」

 

 確かにあの世界は学校も仕事も関係ない。というかリアルゾンビな世界だから、下手に外を出歩くとあっさり殺されてされてしまう。運が悪ければそれまでだろう。

 

 つまり少女の機嫌を下手に損ねると、とんでもない世界にトリップさせられると理解させられたボクたちの顔は引きつっていた。

「さてと貴方達はとりあえず『魔法少女リリカルなのは』の世界に転生させようと思うけど、それでいいかしら?」

 

 ボクは『魔法少女リリカルなのは』という原作名に安堵した。あの世界は比較的安全だからね。少なくとも学園黙示録よりかは遥かにマシだ。

 

「その世界ではその内オリ主が現れるから、気が向いたら貴方達はそのオリ主を支援すればいいわ。それと転生先での容姿に関して要望を言いなさい。調整しておくわ」

「えっと、俺はアルピノでイケメンがいいです」

「俺は金髪碧眼の美男子な感じで…」

 

 容姿を決めろと言われてどうしようかと考えていたら、他の男はなんかいろいろと外見を盛っていた。ボクも暫く考えてから少女に要望を伝えた。

 

「それと貴方達にはサービスとして特殊な条件で覚醒する能力を与えておくわ。ほら主人公がピンチになると能力に目覚めるってよくあるじゃない?それよ」

「おおっ!」

 

 少年漫画の主人公にありがちな話にボク以外は喜んでいた。でもボクは漫画じゃあるまいしそんなに都合よくいくのかと盛り上がる彼らを余所に冷淡に考えていた。

「それじゃ貴方達を転生させるわ」

 

 少女が指パッチンするとボクたちの立っている床がいきなり黒い穴に変わってボクたちはその黒い穴に落下した。

 

「「「「「ここだけテンプレかよ~!!」」」」」

 と、絶叫しながら。

 

 

 

みこside

 

 天然能力者という者がいる。それは転生特典や人工的に開発された物ではなく、自然に特殊な能力に目覚めた者を意味する言葉だ。

 

 数多の下位世界では普通の人間には持ち得ない特殊な能力を持つ者がいて、それは自然と能力を獲得していく者と、人工的に能力を開発している者に分けられる。『機動戦士ガンダム』では【ニュータイプ】と【強化人間】と呼ばれて、『とある魔術の禁書目録』では【原石】と【人工ダイヤ】に例えられている。

 

 そして上位世界においても自然に能力を得る者が極稀に存在していた。後に”全能なる観察者”と呼称される最高にして唯一の訪問型トリッパー”姫神みこ(ひめがみみこ)”はそんな上位世界の天然能力者の一人である。

 みこの天然能力は『あらゆる能力を創造できる能力』であった。魔法、超能力、霊能力など下位世界に存在するありとあらゆる能力だけでなく、自分のオリジナルの能力であろうと無制限に造る事ができる。更にその能力を後天的に他人の与えることも可能で、自分でチート能力者を作れるというトンデモ能力だ。

 これは冗談抜きで神様クラスの実力がある。死神は転生型トリッパーに転生特典としていろいろと能力を付与させるが、それは受精卵の段階でないと出来ない。だから例え赤ん坊に憑依したとしても憑依型では能力が付与されないのだ。

 

 これは下手に後天的に能力を与えると、バランスを崩してトリッパーが死んでしまうからだ。だから先天的ではなく後天的に能力を与えるのは死神でも不可能の領域であるが、それ以上の上位の神々ならば可能らしい。

 

 みこはその上位の神々に並ぶもしくは凌駕する能力を持っている。彼女は聡明で、その力を無闇に行使しなかった。むしろあまりにも強すぎる力故に隠蔽していた。その為、一般人はみこの能力を知ることはなかったが、死神を初めとする神々はそれを知り驚愕した。その能力は神々も放置できず、死神が接触して状況を説明するに至った。

 

 その結果、みこは主に上位世界と下位世界を行き来するようになり、監察軍に所属して後にパートナーとなったカリン・エレメント(絶望~青い果実の散花~)と共に他のトリッパーの支援に回ることになる。

 しかし、あるトリッパーが彼女の能力に目を付けて精神を支配して利用した挙げ句、さんざん陵辱した。その後、正気を取り戻したみことカリンはそのトリッパーを抹殺したが、これを切欠にみことカリンは、トリッパー並びに監察軍とは距離を取るようになる。

 

 

「トリッパーを用意して欲しいですか?」

 全能なる観察者と自他共に認められている『最高のトリッパー 姫神みこ』に対して死神が言った言葉がそれだった。

 

「どういうことです?トリッパーの用意は貴方達死神の仕事ではないんですか?」

『いや、私達だけじゃ手が回らないんだよ。通常の仕事もあるし、トリッパーの必要数を満たすのに全然足らないからな』

 

 死神が困り顔だ。わざわざ私に頼むとは、それだけトリッパー不足が深刻なんだろう。私という例外はあるものの通常トリッパーとは下位世界に転生か憑依した者たちだ。

 

 しかし、上位世界人をトリップさせるのはかなり手間がかかる。転生特典を与える転生者の場合なおさら手間が掛かり数をこなすのが面倒になる。しかもトリッパーの大半が転生型で強力な転生能力を求めるから、なおさら手間が掛かる。

「まあ、できないことはないですけどね」

 と、私はぼやきながら言う。

 

 ハッキリ言って、私に不可能という物はない。伊達に全能なるなどと言われている訳でない。確かに、なんでもできるが……。

「一々チート能力を与えてトリップさせるというのは面倒ね」

 わざわざ他人に能力を与えたりして下位世界にトリップされるのはかなり面倒です。

 

『まあ、私たちもそれで苦労しているからな』

 死神が苦笑いしていた。

 

「……まあ、そういうことならこちらも適当な死者を使ってトリッパーを補充しておくわ」

『よろしく頼むよ』

 そういうと死神は姿を消した。

 

 これは気が進まないが、必要な事でもある。最近のトリッパー不足はマジ深刻で、補充が急務なのは確かだしね。そういう事があったので面倒だけどトリッパーを用意しないといけない。

「とはいえ、問題は誰を選ぶかね」

 

 一言に死者といっても沢山いるから悩ましい。絵に描いたような善人にするか。それとも優秀な逸材にするか。どれもいまいちだ。

「そうだ! 世の中にはオタクがいたわ! こいつ等なら下位世界にも精通しているから、原作知識が不足していないと思うし丁度良い」

 善は急げ。取り敢えず下位世界に干渉しやすい特殊な空間に移動する。次に日本国にいる生前オタクだった死者の魂を百ほどここに呼びだして下位世界にトリップさせた。

「どれだけ残るかな?」

 私はこれの結果を想像した。




おまけ

「そういえば『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』に送った連中はどうなったかしら?」

 あの世界に送った連中は原作開始の一週間前に未登場キャラに憑依するようにしておいた。彼等は原作開始の初日に9割方死亡して、残りも一ヶ月と保たずに全滅したようだ。一人ぐらいは生き残るかと思っていただけに期待はずれだったが、能力も渡していなかったから全滅してもおかしくない。

「元々見込みのない連中だからね。別にいいか」
 元々大した事ではないので、私はその件を頭から消した。



解説

■姫神みこ(全能なる観察者)
 上位世界人としての肉体と魂を併せ持って、上位世界と各地の下位世界を行き来することが出来る唯一の訪問型トリッパー。あらゆる能力を創造する能力を持ち、反則的な能力を千だろうが万だろうが無限に作り使うことができるため事実上不可能な事はない。これは死神から与えられた転生能力ではなく自然に手に入れた天然能力であり、彼女は上位世界人の天然能力者である。その能力から”最高のトリッパー”や”全能なる観察者”という二つ名で神々や監察軍では呼ばれている。
無制限に反則的な能力を創造することができるので、大量に能力を保有している。元々は、心優しい純粋な美少女であったが、あるトリッパーに酷い目に遭わされてからは人間不信に陥る(トリッパー列伝 カリン・エレメント)。その後、他のトリッパーに不信感を抱き、あまり関わらないようになった。現在は独自の美学を持ち、それに反する気に入らない者には残酷な振る舞いをするようになった。その振る舞いから彼女のことを恐ろしい魔女として見る者も多い。
 外見イメージは神山みこ(下級生)。外見年齢:17歳 / 身長:156cm / スリーサイズ:83/60/87(cm) / 血液型:A

■学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD
 ゾンビ漫画で、ある日世界中でゾンビが現れて彼らに噛まれた人間もゾンビになるという非常でデンジャラスでホラーな世界である。


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2.次元世界①(魔法少女リリカルなのは)

良次side

 俺は佐藤良次(さとうりょうじ)転生者だ。転生して早数年ようやく俺の出番が来た。やっと俺のターンだぜ!

 

 原作無印の開始。ユーノの念話で高町なのはが駆け付けているのを見た。俺も魔力に目覚めたらしくユーノの念話が聞こえた。ふふっ、原作介入だぜ。俺は高町なのはの後を追った。

 俺には力がある。ピンチになると目覚めるというまさに主人公のような能力。

「ふっ、俺様登場!」

 と、その場のさっそうと登場する俺。

 そんな俺に気付いたのだろうジュエルシードの暴走体が俺に突進してきたが、俺にはピンチになると目覚める能力があるんだ。そんな俺の考えとは異なり、俺は暴走体の突進でブチャッと潰された。

アキラside

 俺は田中アキラ転生者だ。俺はオリ主となるべく高町なのはと同じ小学校に通い、学校でも会話ぐらいはしていた。全てはこの時のフラグのために。

 

 原作の最初に干渉しそこねたが、今は二度目のジュエルシード回収がある神社に向かっている。犬に取り憑いた暴走体となのはちゃんが対峙している。

 周りの空間が変質してしまった。おそらく結界が張られたのだろう。魔力を持たない一般人はこの中に入ることはできないが、魔力資質を持つ俺は突破することは容易い。やはり俺がオリ主なんだ。原作ブレイク。目指せハーレムだぜ!

「なのはちゃん!」

「田中くん!どうしてここに!?」

 

 ふふっ、なのはちゃんがビックリしている。何せ俺はオリ主なんだ。そんな俺に気付いたのか暴走体が突進してきた。

 

「危ない!」

 と、なのはちゃんが俺を庇い犬のような暴走体に噛まれた。

 

 えっ! なのはちゃんは血をダクダクと流しながら倒れた。

 

「なのはちゃん!」

 

 予想外なことに驚いた俺は暴走体に殴りかかったが、全く通用しない。

 

「なんで効かねえんだよ!」

 

 俺はオリ主なんだ。凄い力があるはずだ。

 

「ガアアア!!」

 

 暴走体の攻撃で俺は倒れた。シールドもバリアジャケットも展開していなかった俺は呆気なく暴走体にやられた。

美月side

 ボクは東条 美月(とうじょう みつき)TS転生者です。ボクは前世ではもてない男だった。童貞でフリーター生活を送る日々でしたが、ある日生活苦から自殺しました。

 そんなボクは”全能なる観察者”と名乗る少女によってこの世界に転生した。容姿を調整してくれると言われたときにボクは『ヤミと帽子と本の旅人(アニメ版)』の東 葉月にして貰った。

 

 他の者はアルピノだの金髪だの言っていたが、『魔法少女リリカルなのは』に転生するなら多分日本に転生することになるだろうから日本人離れした容姿は避けるべきだ。それに元々女の子の身体に興味があったからどうせなら葉月みたいな美少女というのになってみたかったという願望もあった。ついでにいえば彼女がボクと同じようにオナニー好きで親しみやすかったのもあるね。

 そして今では葉月の幼少期にそっくりの小学三年生(8歳)になった。あと六年もしたら原作の葉月の容姿になるだろう。そんなマイペースなボクの生活でしたが、原作開始の時期になり、ユーノの念話を受信した。

 ちなみにボクは原作に干渉するつもりはない。そもそもボクは強力な能力を与えられている訳ではないので、そんなことをしたら命がいくらあっても足りないからだ。

 

 そういえば創作物の主人公のようにピンチになると能力に目覚めるらしいですが、危険なので試す気にはなれなかった。そもそもいきなり目覚めた能力で危機を乗り越えることができるのは物語の主人公だけでボクにはとても真似できない。出来たとしても真似したくないね。

 

 例えば皐月駆(11eyes)や衛宮士郎(Fate/stay night)はピンチに際に強力な力に目覚めて危機を乗り越えているが、選択を間違えるとあっさりと死んでしまっている。ゲームではないのだから、そんな危険な博打なんかしたくない。

 

 

 

「あら賢いのね」

「誰だ!」

 いきなり響いた声に驚く。ここはボクの部屋だからボク以外誰もいないはずなのに!

 

「私は貴女を転生させた者よ」

 気が付けば、その場にいた少女がそう喋る。

 

「まさか全能なる観察者!?」

 ボクは十年近く前の霞がかった記憶を呼び起す。確かにこの少女だった。

「……今更何のようです?」

 これまで何の音沙汰もなかった相手だ。ここで接触してくるとなると何かあるだろう。

 

「美月、貴女がこの世界のオリ主に選ばれたわ」

「どういうことですか?」

「他の転生者が全滅してしまったの。最悪なことに主人公の高町なのはを巻き添えにしてね」

 詳しく聞くと、本当に自分以外の転生者はいなくなったらしい。アルピノになった奴はその体質から紫外線にやられて死んでしまい、日本人夫婦の子供なのに金髪碧眼で転生した奴は、その結果として家庭崩壊を招いて逆上した母親に殺されてしまったらしい。まあ、あからさまに血が繋がっていない子供だからね。容姿に気を付けて本当に良かったよ。

 次にジュエルシード暴走体との戦いに干渉した二人の転生者が返り討ちにあった。特に最後は主人公の高町なのはの足を引っ張り巻き添えにして死んでしまった。

 実はボクを含めた五人の転生者はFランクの魔力資質があったらしい(今後の成長の見込み無し)。でも魔力が低すぎてバリアジャケットも展開出来ないほどだが、一応魔力があるために結界の中に侵入できた。だがFランクなんて念話ぐらいしかできず、魔導師として役に立たない。

 更にピンチになると「蔵(アーカイバ)」という能力が目覚める。これは、ドラえもんの四次元ポケットやギルガメッシュの王の財宝の様な物らしい。でも、それは最初は何も入っておらず、必要なものは自分で用意して入れる必要があるのでは?

 

「その通りよ。よく分かったわね」

 

 彼女はまたも美月の心を読んだようで、その疑問を肯定した。やはり蔵は、ギルガメッシュの『宝具』や、ドラえもんの『秘密道具』などのような強力な道具を事前に入れておかないと意味がないようだ。

 

 ピンチになると目覚める能力であっても、それがピンチを切り抜けるのに役立つとは限らないということである。だから原作に干渉した二人は呆気なく返り討ちになった。

「なぜそんな事をしたのですか? 予め注意しておれば防げた筈では?」

 だからこそ思う。何でそんな事をするのかと。

「私はトリッパーにはそれなりの質が必要だと思うのよ」

「質ですか?」

「そう、私がこれまで見てきたトリッパーは大概その能力で好き勝手していたわ。特に酷いのがニコポ、ナデポなどの魅力洗脳系の能力でハーレムを作る奴ね」

「それが不満だったと?」

「そうよ。仮にもトリッパーならある程度の質は必要だし、あまりの醜態に我慢がならなかったわ!」

 

 みこにとって話にもならない愚物が自分と同じトリッパーになるのは好ましく思っていない。現実にはみこが嫌うタイプのトリッパーが多いが、自分からそれを増やしたいとは思わない。だから選別を行う。

 

 実は容姿を好きにさせたのも罠だし、ピンチになると目覚める能力も罠だ。それらを潜り抜けて生き残った者は、少なくとも最低限の水準は満たしている。

 

 そんな風に同じトリッパーとして、迎えることができるように彼等に試練を与えて試す。その一方で問題外な者はさっさと退場させた。

「その点、美月は優秀だわ。自重して身の程を弁えていたからね」

 ここで少女は溜息を零した。

 

「でもまさか高町なのはが巻き添えになるとはね。これでは話が根本的に変わってしまう」

 確かに主人公が死んだら原作ブレイクも良いところだ。このままだと拙い。A'sでは上手くいけばグレアムが闇の書を封印できるかもしれないが、ジュエルシードは確実に拙い。下手をすると地球が吹っ飛ぶ。

「所詮は並行世界の一つにすぎないから最悪地球が滅んでも問題ないんだけど、放置しておくのは後味が悪いから、貴女には高町なのはの代わりをしてもらうわ。やって貰うことはジュエルシードによる次元災害を最小限に抑える事よ」

 最悪の場合、地球が無事ならそれで良いと言われた。

 

「でもこのままじゃ話にならないから能力を与えておくわ。東葉月と同じ容姿だから彼女の能力を与えておきましょう」

 とんとん拍子に能力が与えられ、チートオリ主に仕立てられるボク。

 

「あ、あの本当にボクがやらないといけないんですか?」

「うん、貴女がやらないと地球は崩壊ね」

 絶句、本当にやるしかない状態だ。座して死を待つ訳にはいかない。両親もいるわけだし。

 

 前世の記憶の所為で両親とは少し壁があるものの、それでも家族としての情というものがある。見捨てるわけにはいかない。というか、この人何でも出来るならPT事件も自分で処理できる筈では、と思うが…。

「それじゃ、面白くないじゃない」

 と言われた。

 

 やはり心を読まれていますね。これは迂闊な事は考えられないか。はあ~。さよなら、ボクの平穏な生活。まあ、いいや。とりあえず能力の確認をしないとね。

 

 ボクの能力は、ソーマによる不老不死(毒が効かず病気にならない。即死の重傷でも即座に復元する。外見年齢は現在8歳だが、15歳になると外見が固定される)と、ソーマによる超人的な身体能力の二つです。

 

 それと、みこから与えられた装備品は、引狭(いなさ)という刀だ。これはボクと同じトリッパーがエレザールの鎌(うしおととら)と同じ製法で造った刀にみこが大量のソーマを吸い込ませた刀で、東葉月が使用していた刀に比べるとより日本刀に近い形状をしている。

 

 これは単体でも一級の宝具に匹敵する業物であるが、ボクのソーマの力を増幅させてくれる働きがある。具体的には装備していると全ステータスが一ランク上昇するみたいな感じですね。

 

 チートだ。これに蔵(アーカイバ)が加わるから、確かにこれなら何とかなりそうだ。

 

「でも魔法が使えないと、ジュエルシードの封印も出来ないよ」

「問題ないわ。その刀でぶった切れば、ジュエルシードは消滅するから」

 

 おお、さすがチート特性の刀。ロストロギアでも問題なし。というわけで弱小転生者改めチートオリ主”東条美月”の原作介入が決定された。




解説

■引狭(いなさ)
『トリッパー列伝 引狭』で引狭が製作した日本刀。彼自身は使いこなせなかったのでみこに預けていたが、今回それが美月の手に渡る事になる。

■ソーマ
『ヤミと帽子と本の旅人』でイブが消えるさいの光で、それを浴びると不老不死になり超人的な身体能力や絶大な魔力を持つようになる。


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3.次元世界②(魔法少女リリカルなのは)

 それからボクは高町なのはの変わりにジュエルシードを刀で蹴散らして破壊して回った。そしてフェイト・テスタロッサがマンションに拠点を作ると、近所の住民のふりをして訪ねて騙し討ちをかまして暗殺した。思いっきり卑怯だけど、まともに戦うなんてハイリスクな事はしたくないからそうした。

 

 凄まじく原作ブレイクだが、既に主人公が死んでいる以上原作はとっくに破綻している。ならば容赦無用だ。邪魔者を速攻で排除したことで次元震が起こることがなかったので、管理局も出ることなく、ジュエルシードの消去を進めていった。

 

 ここで原作と異なるのは海中にジュエルシードが一つも落ちていなかったことだ。ボクはただの剣士なので海では戦闘など出来ないのでこれは有り難かった。もしかしたらみこが干渉しているかもしれない。そんなわけで21個のジュエルシードを破壊することで、無印終了。

 次にヴォルケンリッターが出てくる前に、八神はやてを探し出して暗殺しておいたので、闇の書はどこかの世界に転生していった。これでA's終了。

 容赦がないが、よくよく考えると60億人もの人々の命がかかっている。当事者として関わらざるを得ない立場になった以上、その辺りは甘い行動はできないわけで目障りだから潰した。

 しかし、八神はやての殺害でグレアムに目を付けられて犯罪者として時空管理局に追われることになり管理局員と戦闘になった。その際、引狭によって向上したステータスにより管理局員の射撃魔法や砲撃魔法を防御と回避に成功して、逆にこちらの攻撃はシールドやバリアジャケットを紙の様に切り裂く等、ボクも奮戦して、時空管理局に激しく抵抗していたが、やはり数の差には負けてバインドで拘束されて捕らえられてしまう。

 

 ステータスが上がってもミッドチルダ式魔法が使えるわけではないからバインドを解除できなかった。というのも、ミッドチルダ式魔法がオカルトサイドの魔法であれば対魔力でレジストできたのだが、あの魔法形式は魔法の癖に科学サイドであるからどうしようもなかったからだ。

 

 こうなったのは、やはり身体能力が上がっていても未熟な子供の体で、技量も経験も伴わなかったのが大きかった。いうならば突然身体能力が上昇した子供が刃物で暴れているだけという状態だったのだからそれも無理もないだろう。

 こうして時空管理局に捕らえられて本局に連行されたボクは重罪人として裁かれることになった。そんなボクの元に二人の人物が現れた。

「ひさしぶりですね。美月」

「やはり来ましたか」

「あら、予想済みかしら?」

「ええ、貴女にとってボクがこんな所で終わるのは面白くないでしょう?」

「なるほど、頭はそれなりに回るね。それでこそトリッパーに相応しいわ」

 

 全能なる観察者こと姫神みこは上機嫌だった。どうやらボクはみこの眼鏡にかなったらしい。

「ところで、そちらの方は?」

 

 ボクはみこの隣に立つ銀髪の美少女が気になり尋ねてみた。

 

「東条美月さんですね。私はカリン・エレメントと申します。私も貴女と同じトリッパーです。この度はみこがいろいろと迷惑をかけてしまい、すみませんでした」と頭を下げられた。

「ぶう、別にいいじゃない」

 

 そんなカリンに対してみこは不満顔だった。

「そうですか。それより二人ともこちらに来られたということは、ここの連中は?」

 

 ここは時空管理局本局だ。当然ながらそう簡単に部外者は入れない筈なのに二人がここまで来ることができたとなると…。

 

「ああ、あいつらなら邪魔だから別の下位世界に送っておいたわよ。自然が豊かで珍しい動物も一杯いる所だから彼らも気に入ると思うわ」

 と、みこは事無しげに言う。

 

 邪魔だからって、それは少しやりすぎじゃ? 大体どこの世界にとばしたのかな? などとボクは思わず疑問に思った。

「一応、美月を帰して欲しいといったんだけど、彼らは拒否した上に私に敵対的な行動をするから退かしたのよ」

 

 まるで障害物を払いのけたかのような言い方である。前から思っていたけどみこは本当に容赦がない。管理局員も災難ですね。まあ、よく考えたら別にいいか。どうせ、被害にあったのは管理局員だろうし、彼らがどうなろうがボクの知ったことではない。

 

 ちなみにカリンは溜息を零していた。苦労しているんですねと思わずカリンの境遇を察した。

「さて、ここから出るとしましょう」

 

 みこの言葉にボクは頷く。ボクも好きでここにいるわけではない。拘束されて連行されているだけなのだ。こうして、ボクは解放された。

「それにしても美月は弱すぎるわね。チート過ぎるのは良くないけど、弱すぎるのも良くないわ」

 と、みこがストレートに言ってきた。

 

「……」

 

 管理局に捕まってしまい、みこにわざわざ助けに来て貰うという醜態を晒したボクは何も反論できない。

 

「ここはやはり強化計画を立てた方がいいわね」

「強化計画ですか?」

 

 なんか嫌な予感がしたのでボクはみこに恐る恐る尋ねる。それによると、みこはトリッパー育成計画という物をたてていて、それは下位世界で試練を与えて、ボクを立派なトリッパーにする計画らしい。

 

 拒否権? そんなものあるわけないでしょ(泣)。まあ、どのみち管理局に犯罪者として扱われている以上、この世界にはとどまれない。地球を離れるのは心苦しいが、やむを得ない。

 

 そんなこんなでボク、東条美月は『ヤミと帽子と本の旅人』の東葉月の様に様々な世界を巡る事なる。はあ、これからどうなるものかな。

 余談ではあるが、管理局本局ならびに次元航行艦隊の人員は残らず行方不明となり、大混乱になった時空管理局は崩壊した。こうして管理局の体制が崩壊して、次元世界は各世界が外交によって協力して運営されていくことになる。




後書き

 美月は他のトリッパーとはタイプが違うようにしています。どうも今までのトリッパーはチート能力による力技で解決しがちというパターンに偏るみたいなので。これはチートオリ主なのに拒否権の無い試練を受けさらせる美月の受難の日々。前途多難ですね。

 フェイトとはやてに関しては南無。でもよく考えると原作が跡形もなく崩壊してしまったあの状況で地球を最優先で守る為にはあの二人を暗殺するのが一番効率が良いワケなんですよね。他のオリ主はチート能力で解決しがちですが、美月は違います。危険を避け、安全に成果を出します。卑怯だけど(爆)。

 でもマジであの二人って、六十億もの人々+その他の動植物+地球の滅びの原因になってしまっていますから、どこかの運命な世界なら抑止力で殺されています。まあ、たった二人の少女に対して天秤にかけるものがあまりにも重すぎたわけです。だから美月はそれを失う危険を少しでも減らす為に卑怯で非情な手段に出ています。まさに九を生かす為に一を殺すならぬ、六十億+αを生かすために二を速やかに始末するという衛宮切嗣ばりの外道な行動ですが、それでも地球は守れています。


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4.るろうに世界①(るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-)

 ボクは気が付けば人気のない場所にいた。

 

「ここは?」

 

 周りを見てもこんな場所に覚えがない。確か、管理局に捕らえられた所をみこに助けて貰って、気が付いたらこの場所にいた。

 

「あれ、ポケットに何か入っている」

 

 スカートのポケットには何も入れていない筈なのに違和感があった。あさってみると二枚の紙が折り畳まれて入っていた。開いて読んでみましょう。え~と、何々。

『美月へ。早速だけど強化計画を始めます。この世界は『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の並行世界だよ。並行世界だから主人公の剣心はいません。時期は幕末の動乱期だから気をつけないとすぐに死んじゃうからね。この世界なら君に不足している実力を付けるのに丁度良いと思うので頑張ってね。姫神みこより』

「……」

 

 あ~、つまりボクは幕末のるろうに世界で生きなきゃいけないわけか。結構キツイね。まぁ無理じゃないけど。そういえば、もう一枚紙があるね。読んでみよう。

『東条美月さんへ。突然の事で驚かれたと思いますが、それはご容赦して下さい。さて、今回は蔵(アーカイバ)の能力を補足説明しておきます。前回みこがちゃんと説明していなかったようですから(笑)。蔵はその名の通り様々な物品を収納できます。その収納量には限界がないのでいくらでも出し入れができます。しかし、蔵の中ではあらゆる生物が生きられないので生き物をそのまま収納することはできません。一方、蔵の内部では微生物ですら死滅してしまうため物品の保存に適しており、食料も腐る事はありません。更にギルガメッシュの王の財宝のように、収納した物品を高速で射出して攻撃に転用することも可能です。その為勝手ながら、美月さんの蔵の中に鉄の槍を千本ほど入れておきましたので、宜しければご利用下さい。

 追伸、ついでに蔵には衣服類、お金、宝石、貴金属類もある程度入れておきましたので、生活の足しにして下さい。カリン・エレメントより』

 うん、カリンさんには色々お世話になっているね。今度あったら御礼を言っておこう。一文無しは辛いからお金を入れてくれたのは有り難い。

「とりあえず町に行って情報収集でもしますか」

 

 そう気を取り直して、ボクは歩き出した。

「……本当に治安が悪いですね」

 

 ボクは町を探して歩き回っていると、運が悪い事に盗賊の集団とばったり遭遇してしまう。というか盗賊なんて平成日本では見たことがないが、幕府の治安能力が麻痺した幕末ならば珍しくもないのだろう。

 

「仕方ない」

 

 刀を手に降りかかる火の粉を払うか!

「はあああっ!」

「ぎゃあああ!!」

 

 ボクは身体能力に物をいわせて盗賊達を次々と斬り捨てていく。ボクの刀は恐るべき業物であるため盗賊の刀をあっさりと切り裂いていく。まぁソーマを帯びた刀と、ただの日本刀ではそもそも打ち合いにすらならないだろう。

 

「何だ! てめえ!」

 

 盗賊の一人が動揺していた。彼らからすれば十にも満たない小娘が一人で出歩いていたので、カモだと襲いかかったのだ。しかし、実際には逆に自分たちが返り討ちにあっていた。勿論、盗賊達もただやられていたわけではない。必死にボクを切ろうとしたのだが、ボクの背丈が小さい上に信じられない速度で動くので捕らえきれなかった。

 

「がはっ!!」

 

 斬られた瞬間、盗賊は自分たちが運に見放されたことを悟った。盗賊なんてやっていたから、どうせろくな最後はおくれないと思っていただけに、来るべきものが来ただけかもしれない。薄れゆく意識の中で盗賊はそう嘆息した。

「……これじゃ、駄目だね」

 

 ボクは盗賊達を返り討ちにしたけど、この結果に満足していなかった。確かに戦いには勝てたが、ボクも幾つもの深手を受けていた。勿論、そこは不老不死の美月である。そんな傷など即座に癒えた。

 

 しかし、これで自分がスペックだけで、技量がまるで追いつけていないことがハッキリ理解できた。盗賊達は複数いたとはいえ所詮はゴロツキ。はっきり言ってただの雑魚だった。超人的なスペックと業物の刀を持っていながら、その程度の相手に手こずった事実はボクを苛立たせるのに十分だった。

 そこに「確かに駄目駄目だな小娘」と声が聞こえた。それにボクは驚愕する。ボクは自分に声をかけてきた男に気付かなかったのだ。

 

「誰っ!」

 

 ボクは刀を構えて警戒する。そこにいたのは美形の青年だが、その顔には見覚えがあるような? もしかしてこいつ原作キャラか?

 

「おいおい、そんなに警戒するなよ。俺は盗賊じゃねえよ」

「……その様ですね」

 

 ボクは刀を下ろす。

「しかし、お前小娘の癖に大した身体能力だな。剣の腕はてんで駄目だが…」

 

 男の言葉がボクの胸に突き刺さる。確かにボクは前世では剣道すらしていない素人だったし、現世でもまだ8歳なので当然ながら剣の訓練など一切してこなかった。そんなボクが剣を振るってもチャンバラごっこにしかならない。

 

「……何分、剣を習っていないので」

 

 だからボクは、そう答えるしかない。

 

「ふむ、勿体ないな。それだけの身体能力がありながら」

 不意に男は盗賊達の死体を見渡す。

 

「しかし、お前小娘の癖に人を躊躇いもなく斬るな」

 

 確かに端から見れば、年端もいかないボクが躊躇いもせずに人を斬ったのが異様に見えるだろう。

 

「……ボクは降りかかる火の粉を払っただけ。それに一々躊躇なんかしていたら自分の身も守れません」

「はっ、これは一本取られたな。確かにその通りだ」

 

 ボクの言葉に大受けした男は、大笑いした。

「まあいい。小娘何故こんなところで一人でいる。親はいねぇのか?」

「親は(この世界には)いません。それにボクは一人旅の最中ですから」

 

 うん、嘘は言っていない。るろうに世界には両親はいません。

 

「そうか……」

 

 それを聞くと男は考え込んだ。それにしても、この男先程から記憶を刺激している。やはり原作キャラか? どうも原作知識がうろ覚えな所為でハッキリ思い出せない。試しに名前を聞いてみるか。

「ボクは東条美月です。貴方のお名前は?」

「俺か。俺は比古清十郎だ」

 比古清十郎ですと……。確か十三代目飛天御剣流継承者で緋村剣心の師匠じゃないですか! 何でるろうに世界最強がこんな場所にいるんですか! 今のボクは、鳩が豆鉄砲でもくらったかの様な顔をしていた。

「よし、決めた! おい、小娘お前に俺のとっておきを教えてやる!」

 と、比古清十郎は硬直したままのボクに格好良く言い切った。



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5.るろうに世界②(るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-)

 どうも、お久しぶりです。ボクは比古清十郎(ひこ せいじゅうろう)です。えっ、お前は東条美月じゃないのかって? はい、おっしゃる通りです(笑)。正確には十四代目飛天御剣流継承者になり比古清十郎という隠し名を継承しました。その際、師匠であった先代は亡くなりましたけど、それは仕方ありません。これも奥義継承の定めです。

 ボクの手足は伸び、東葉月(ヤミと帽子と本の旅人)とまったく同じ容姿になった。というよりも十五歳になってからは成長が止まって外見が固定されました。今のボクは、目も醒めるような美貌に男女共に人気があります。おかげで良くナンパされます。まあ、断っていますが。

 

 スタイルも葉月そっくりのナイスバディなので、毎晩のオナニーとかでは盛り上がる。でも男に抱かれる気にはなれないので未だに処女(笑)。服装も蔵に入っていた聖フェミニン女子学院中等部のセーラー服を着ていて、葉月と違う所は足に包帯を巻いてない所ですね。

 

 ちなみに飛天御剣流継承者になったけど現在では白外套(しろマント)は装備しておらず、蔵に放り込んだままだったりする。

 

 この白外套は飛天御剣流継承者に受け継がれてきた外套で、通常時継承者の力を抑える為に、10貫(約37.5kg)の肩当と筋肉の逆さを反るバネが仕込まれているというキチガイじみた代物だ。思わず「どこのドラゴンボールだよ!」と突っ込みたくなったのはここだけの話です。とはいえ、チートボディの凄いことにこの外套にもすぐに慣れて先代の様にこれをしたままでも戦闘ができるようになった。最も素早さは大きく殺されてしまうし、やたら疲れますが。

 

 ボクがそんな白外套を装備していないのは単純に似合わないからです。この時代の女性にしては長身とはいえ女性があんな恰好をしたら悪目立ちしてしまいます。まあ、聖フェミニン女子学院中等部のセーラー服を着ているから余計そうなんですね。

 

 

 さて、ボクの習得した飛天御剣流は、超人的な技が多くて肉体にかかる負担が大きい。その為、体格に恵まれた者でもないと、主人公のように体を壊していまいますが、超人的な身体能力と不老不死のチートボディなら華奢な少女の姿でもそれを難無く使えます。

 

 これって地味に凄いよね。剣心みたいに体の心配をしなくていいのは都合がいい。というよりも飛天御剣流は、ボクみたいなある意味人外な連中じゃないとまともに使えないんじゃないかな。こうも短期間で体を壊していたら、流派の継承にも支障が出てしまうよ。原作では十三代目で終わりみたいだから問題にならなかったけどね。

 しかし、本当にここまで来るのには苦労しました。先代はスパルタでしたから怪我が耐えなかったし、ボクの不死身ぶりに気付いた先代の殺人的な扱きはトラウマものです。何度死ぬかと思ったか(不死身ですけど)。

 

 おかげで強くなりましたよ。超人的な身体能力に更に磨きをかけて、効率よく使う事ができるようになりました。そうでなかったらやってられませんよ!

 現在は明治十一年。ようやく来た原作開始の時期です。この世界は並行世界だから原作との相違点もあります。志々雄真実は特にそうでした。

 

 あの志々雄さんが……。何と、きれいな志々雄さんでした(爆)。

 原作の志々雄真実は、常人には理解できないほどの功名心や支配欲を危険視されて仲間から暗殺されかかった上に、日本転覆を謀り大騒動を起こした。でも、この世界では志々雄さんは真面目にやっていたため、そんなイベントは発生していない。それどころか、剣心の変わりに大いに活躍して、長州派維新志士たちの信頼を獲得するなどまるで別人です。現在では陸軍大臣として日本の為に奮闘しているそうです。

 

 一体、何かあったんだ!志々雄さん、あんた何か悪いもんでも食ったのかい? ま、まぁいいです。所詮は並行世界。元々、この世界の原作には干渉する気はなかったですから。

 

 そういえば、るろうに世界では「剣心がいなかったら維新は成功しなかっただろう」とか言われていたけど、何とか上手くいった様ですね。その分、志々雄さんがハッスルしたようですが(笑)。

 

 当然ながら美月は剣心のように維新志士に協力などしていない。それは流派の理念の問題もあるけど、必要以上にこの世界に関わりたくなかったからで、もしかしたら維新が失敗するかもしれないと割と心配していましたが、いや良かったよ。

 これで、この世界では刀の時代は終わりですね。もう刀一本でできることはないでしょう。廃刀令もあることだし、逆に刀を帯びていたら警察に捕まってしまいます(汗)。

 史実通りならば、これから日本は迷走して、やがてそれは暴走にすり替わっていきます。まだ白人至上主義や帝国主義が全盛期で、弱肉強食の嫌な時代なので、それもある意味仕方なかったのでしょう。

 

 どこぞのオリ主ならばここで介入したりするんでしょうが、ボクはそのつもりはなかった。ボクが干渉したからといってすべてがよくなるとは限らないし、それは権力と深く結びつくことを意味しますから。となると、そろそろ別の世界に行くべきか?

「その通りね」

「そうでんな」

「!!」

 

 不意に聞こえてきた声に驚く。ボクに話しかけてきたのは姫神みことオコジョだった。

「……いつも唐突に現れますね。みこ」

「あら、いいタイミングだと思うけど?」

 

 ボクが皮肉気味に話したが、みこは涼しい顔で答えた。

 

「……まあ、いいでしょう。しかし、何故ボクの所に来たのです?」

「いや~。美月が私の出した課題を立派にこなしてくれたからね。チート能力という借り物の力で増長するトリッパーは数多いけど、厳しい修行の果てに自力で戦闘能力を向上させる人は少ないもん」

 

 確かに反則としかいえない力を手に入れたら増長するなというのが無理だし、「そうなった人間が血がにじむような努力をわざわざするのか?」と質問されたら「多分無理」と答えるしかない。

 

「まぁ美月はこの世界ではやることはなくなっているみたいだし、暇だから来たわけ」

「暇ですか。カリンさんは一緒じゃないみたいですね」

「カリンは別の計画をやっていて、私とは別行動をしているのよ。それで美月と旅でもしようと思ったわけね」

 別の計画ですか。何かやっているのかな? ちょっと引っかかったが、所詮は他人の仕事ですからあまり気にする必要もないでしょう。でも、旅に出るのは良いかも知れない。飛天御剣流継承者として、時代の困難に苦しむ人々を助けるには、この世界はやりにくいというのは深刻な問題です。

 

「そうですか。では旅に出ますか」

「うん。ノリがいいね。それでこそ美月だよ」

「美月はんおおきに」

 

 みことオコジョが嬉しそうに言う。改めて思うとボクはとんでもない存在に気に入られたようですね。

 

「それとさっきから気になっていたけど、そのオコジョは誰?」

「わいはジョニーやねん。美月はんよろしゅう」

「ジョニーはトリッパーの一人でね。魔法少女のお供になりたいからネギまのオコジョ妖精になった奴よ」

「じゃ、みこと美月とジョニーの刺激的な旅の始まり~」

 

 みこがそういうとボクたちはこの世界から別の世界に移動した。こうしてボクたち三人で旅に出たのだった。




解説

■東条 美月(とうじょう みつき)
 外見年齢:15歳 / 身長:167㎝ / 体重:48㎏ / スリーサイズ:B88、W54、H85 / 一人称:ボク
 流派:古流剣術・飛天御剣流免許皆伝(るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-) / 装備品:引狭(美月のソーマの力を増幅させてすべてのステータスをアップさせる一級の宝具に匹敵する日本刀)

 みこから貰った能力
 1.蔵(アーカイバ)
 2.不老不死
 3.超人的な身体能力
 4.精神干渉無効化能力

 転生型トリッパーの一人であり、姫神みこの眼鏡にかなった数少ないトリッパー。それゆえ、みこと共に活動することが多く、監察軍の者達からは同情されている。外見は尻の辺りまで伸ばした黒髪にモデル体型、美しすぎる美貌から見惚れる者は多く、クールビューティというべき完璧美少女ぶりから男女問わず人気は高い。卓越した剣の技量を誇り、転生型トリッパーの中では低い能力を補っている(というよりも他の転生者がチート過ぎるだけである)。そんな才色兼備の美少女だが、実はTS転生者でオナニーが大好きなちょっと痛い娘である。飛天御剣流の理(ことわり)から下位世界で人助けの旅に出る。

■ジョニー
『トリッパー列伝 ジョニー』に登場。魔法少女のお供になりたくて『魔法先生ネギま!』のオコジョ妖精に転生したトリッパー。実は重度のロリコンで12歳以上の女には興味がない。とはいえいたいけな幼女に手を出す外道ではなく、YESロリータ、NOタッチをスローガンに掲げる変態紳士である。そんなジョニーは転生特典で幼い少女たち魔法少女にして活躍させていたが、その行動が魔法の隠蔽に反する為にオコジョ刑務所にぶち込まれてしまった。そこを『ヤミと帽子と本の旅人』のネタに走って旅のお供(人語を話す小動物)を探していたみこに助けられて、そのまま旅のお供にさせられている。なお転生前は関西の人間だったので大阪弁で話す癖がある。


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6.監察軍の世界(魔法少女リリカルなのは)

 三千世界監察軍本部。そこは『魔法少女リリカルなのは』の世界に転生した一人のトリッパーが自らの帝国を築き上げ、更にそれを母体に様々な創作物の世界にトリップした仲間達を支援する為の組織だ。そんな監察軍に二人の少女が現れる。

 

「ここは?」

 ボクは周囲を見渡す。

 

「ここは三千世界監察軍本部だよ。美月を監察軍に紹介しておいた方がいいからね」

 そんなボクにみこがことなしげに言った。

 

「……ここが監察軍ですか」

 

 ボクは監察軍の事は話には聞いていたが、これまで彼らと遭遇したことはなかったし、みことカリン以外のトリッパーと接触した事もなかった。なんかいかにもSFと思える場所である。

 

「……ユグドラシル・システムを使わずに自力でここまで来るなんて相変わらず出鱈目な能力ね」

 そんな二人に近づいてきた少女が話しかけてきた。

 

「あらハルヒ。貴女だって、かなりのチートだと思うけど?」

「それはそうね」

 

 みこの言葉に涼宮ハルヒは苦笑いした。ハルヒもまた強力なチート能力を持つトリッパーだった。

 

「それはそうと、そちらの方はどなたですか?」

 と、ハルヒが美月に視線を向けていた。

 

「彼女はこの間話した東条美月よ。私のお気に入りね」

「ああ、貴女がね。噂は聞いています。あたしは涼宮ハルヒといいます。見ての通り『涼宮ハルヒの憂鬱』の主人公に転生したトリッパーです」

「噂ですか」

 

 ボクはハルヒの言葉が気になった。

 

「ええ、みこに気に入られた気の毒な方だと」

「気の毒って酷い言い方ね」

 

 ハルヒの言い方にみこが心外だと言わんばかりだったが、ボクとしてはさもあらんと思わず頷きたくなった。ボクからしてもみこは少々トリッパーに手厳しい。それはトリッパーであれば多かれ少なかれ反発すると思われるほどだ。

 

「ともかく連絡もなしに直接こちらに来るのは止めて欲しいわ。そんな事をされると一々確認しないといけないから面倒なのよ」

 

 基本的にトリッパー達が下位世界を移動する時は監察軍の異世界間転移装置『ユグドラシル・システム』を使う為、それらの移動は監察軍がちゃんと管理していた。

 

 しかし、ユグドラシル・システムを使わずとも異世界間の移動が可能な者もいる。死神や姫神みこを含めた極少数の規格外なトリッパーがそうであるが、頭が痛い事にトリッパーの宿敵たるベヅァーもそれが可能であった。その為、そうした管理外の転移がおこると警戒態勢を取ることになっていた。

 

「それは悪かったわね」

 と、みこは少しも悪く思っていないのが丸分かりな表情でそう言った。

 

「まあ、何事もなくてよかったわ。それで今回来たのはどういう用件です?」

「美月に監察軍を見学させようと思ってね。挨拶というものあるけど」

「そうですか。では彼女を案内しましょう」

「よろしくお願いします」

 

 話がどんどん進んでいるが、ハルヒが案内してくれるらしいのでボクは無難にハルヒに頼んだ。

 ハルヒに案内された美月は一通り、監察軍の施設を見て回った。

 

「ここはスペース・コロニーだったんですね」

 

 スペース・コロニーだなんてガンダムなどの物語の存在だと思っていただけに、そういった場所にいるというのは何ともいえないものがある。

 

「それほど文明が進んでいない世界にトリップした人なら慣れてないと思うけど、コロニーだからといって不安定という事はないので安心していいわよ。慣れれば有人惑星よりも住みやすいもの」

「凄い技術ですね」

 

 ボクはそれがどれだけ優れた技術であるかきちんと想像できない程だ。

 

「当然ね。監察軍の技術は三千世界一だもの」

 

 そう話すハルヒは自信満々だ。確かに監察軍は各地の下位世界の優れた技術や知識を収集しているから必然的にレベルが高くなるのだろう。でも、それってただのパクリではないのか?とボクは内心で思った(怖いから口には出さない)。

 

 そういった会話をしていたが、そろそろ食事時になったので食堂に入る事になった。

 

「ここが食堂ね。監察軍ではトリッパーの特権として最低限の衣食住が無償保障されているから、美月なら大衆食堂とかなら無料で利用できるわ」

 

 その他にも必要であればマンションの様な個室や衣服類と光熱費も無償提供されるらしく、極端な話トリッパーであれば働かなくても生活していける。事実監察軍本部には一切働くことなく個室に引きこもってニート生活している者もいるらしい。

 

 それはそれで拙くないかと思わなくもないが、監察軍はトリッパーの支援を行う組織であるから生活苦に陥らせるわけにはいかなかったのだ。といっても保障されているのはあくまで最低限にすぎない。

 

 食事は大衆食堂、ファミレス、屋台などは無料で使えても高級レストランなどは利用できない。衣類もある程度の必要な物は供給されるが、ブラント品などは支給されず、当然ながら宝石類などのアクセサリーもなし。住居は快適に生活できるだけのマンションは可能でも豪邸なんかは当然却下させる。

 

 こうした質を向上させたければ働いて自分で用意しないといけないが、文化的に生活できる最低限の質を無条件で与えられるだけでもトリッパーは十分優遇されているだろう。事実、ボクが知るだけでもるろうに世界ではその最低限を確保できずに困窮していた者などいくらでもいた。

 

 食堂で日替わり定食を食べてかなり美味しかったですね。これはこれまでいた世界は明治時代だったから食品の質が監察軍のそれに大きく劣っていたからです。遺伝子操作や品種改良などで用意された美味しい食材だけを食べるなんて贅沢はあの世界ではまず不可能でしたからね。

 

 食事が終わって食堂を出たボクたちは監察軍の施設を巡り他のトリッパーにあいさつ回りをするなど、色々やって監察軍本部訪問は終わりました。結構大変でしたね。

 

 

 

みこside

 

 美月が挨拶回りで四苦八苦していた頃、みことハルヒは世間話をしていた。話題は美月の事であった。

 

「美月の強化計画ですか。意外と手間を掛けるのね」

「ええ、流石に能力的に駄目だったからね。ある程度の実力がないと困るのよ」

「だったら貴女が能力をあげたらいいじゃない?」

 確かにみこがその気になれば必要な能力などいくらでも与えられるだろう。

 

「それじゃ、私に頼ってしまうじゃない。そんな風になったら嫌よ」

「まあ、確かにそうでしょうね。でも随分と彼女を気に入っているね。正直驚いたわ」

 

 みこはあの事件以降は同じトリッパーであっても倦厭するようになり、例外は親友のカリン・エレメントだけだと監察軍の所属するトリッパーは誰もがそう思っていた。

 

「美月はあれで見所があるからね」

 その言葉にハルヒは複雑な表情をする。それにはみこに目をつけられた美月に対する同情があったのかもしれない。

 

「それより、例のトリッパー増員計画は順調なの?」

「ええ、令子もカリンも計画通りやっているわ。貴女が送り込んだトリッパーたちも特に問題はないみたいね」

 

 みこは監察軍とは疎遠であった。というよりもある時期から意図的に監察軍を避けていたが、ベヅァー戦争後はトリッパー補充の為に監察軍の外部協力者としてトリッパー増員計画に協力していた。これは親友であるカリン説得もあったが、状況的にやるしかなく、それだけトリッパーの増加は急務で差し迫った問題だったのだ。

 

「それならいいわ。私も骨を折っている訳だから成果を出してくれないと困るからね」

 あの計画に関わっているのはみこだけではないが、彼女が他のトリッパーには出来ない事を一人でこなしている事はハルヒも分かっているので、彼女はみこの言葉を黙って受け入れたのだった。




解説

■涼宮ハルヒ
『トリッパー列伝 涼宮ハルヒ』で登場した転生型トリッパー。監察軍では数少ない科学者にして技術部の部長である。

■トリッパー増員計画
 第一次ベヅァー戦争で激減したトリッパーの補充と更なる増員を目的とした計画で、現在二つの下位世界で推進されている。


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7.絶滅動物の世界(エデンの檻)

 ライカ島。気候が穏やかで自然は豊か、他では見られない様々な絶滅動物が沢山いる場所である。と言えば聞こえはいいが、その実情は非常に面倒な島で、凶暴な肉食獣がごろごろしてかなり危険であるし、毒ダニや生物兵器として開発された粘菌もどきまである。そんな世界にわざわざやってきたのには理由がある。

 

 そもそもの始まりは以前ボクが時空管理局につかまった時にボクを助ける時に、みこが時空管理局本局と次元航行艦隊に所属するすべての局員を、自然が豊かで珍しい動物も一杯いるという下位世界に飛ばした事で、実はその転送先こそが『エデンの檻』のライカ島だったのだ。

 

 当然ながら次元世界ではなく別の下位世界に飛ばされた彼らの運命は悲惨なものであった。まず、この世界では次元転移どころか魔法そのものが一切使用できない。これは次元世界で使用されている魔法がこの世界に対応していないからだ。

 

 これで質量兵器で武装でもしていたらまだマシだっただろうが、彼らは魔法を絶対視して質量兵器を忌み嫌い廃絶していた為、治安維持組織でありながら何の力もなくこの島の動物たちに狩り立てられて最後の晩餐(食べられる方)となっていた。

 

 それは次元世界の支配者を気取っていた彼らの没落ぶりをものの見事に表していたが、ボクとしては今更どうでもいい事だった。とはいえ、早々に駆逐されると思われていた彼らが二十年以上すぎてもしぶとく生き残っていた事にみこが興味を示し、ボクとみこは彼らの様子を観察することにした。

 

 元管理局員といっても動物の皮をきて石器を使う彼らの姿は原始人そのものだった。もう二十年以上も前に着の身着のままでこの世界に飛ばされた彼らの衣服はとっくに駄目になり、そんな恰好をするようになったのだろう。

 

「それで美月どうする?」

 

 みこは言外に管理局員の生き残りをどうするかと訊きたいのだろう。確かにボクは奴らには煮え湯を飲まされた事があるから思う所がまったくないわけではないが、ここで過去の報復とばかりに無力な彼らを虐げるのはボクの好みではないし、少なくとも飛天御剣流継承者として間違っている。

 

「どうも、こうもしないわ。彼らはどうでもいいから無視するわ」

「へえ、関心がないんだ」

 

 そんなボクの態度にみこは面白そうに言う。

 

「それよりこんな何もない世界から移動しましょう。ここ数日、自然と動物ばかりで嫌気が指しているのよ」

「せやでぇな。確かにこれやおもんないでっせ」

「そうね。じゃ別の世界にいこうか」

 

 ボクとジョニーが移動したがっていたのでみこも次の世界に行くことにした。

 

 

 

クロノside

 

 僕の名はクロノ・ハラオウン、時空管理局の執務官だ。この世界に僕たちがいきなり転移してから既に二十年以上が過ぎていた。何故かこの世界では転移魔法どころかあらゆる魔法が一切しようできなかった。正直な話、何が原因なのかまったく分からないが、気が付けば管理局本局と次元航行艦隊にいた管理局員がすべて謎の塔の周囲に転移していた。

 

 当初はそこまで危険ではなかったが、転移した塔の辺りは植生が乏しくて大人数が必要とする水と食糧の調達に問題があったからとりあえずここを移動して調査しようと考えていたが、そこに猛獣たちが襲いかかってきたのだ。

 

 次元世界の武力の象徴である高ランク魔導師が多く揃っている管理局員たちにとって通常ならば問題なく撃退できたが、魔法が使えず武器もない非力な一般人に転落した彼らに戦う術などなく、管理局員たちは次々に猛獣たちの餌食になり、ボクたちはパニック状態になってバラバラに逃げ惑った。

 

 それからは悲惨の一言だった。僕たちは多数のグループに分かれて島の各地をさまようことになったが、どこに行っても危険極まりない動物たちに襲われて仲間が次々に死んでいった。更にこの極限状態によって局員の中には精神を病んで殺し合いになってしまうこともしばしばあった。

 

 ちなみに僕たちが使っている武器は研磨した石を木の棒に取り付けた石器の槍ぐらいで、そんな状況では質量兵器があればと誰もが思うだろう。命がかかった状況だと危険だとかクリーンじゃないとか言っていられないのだ。

 

 こうして考えると、管理局の質量兵器廃絶は一方的なものだったのだろう。それを盲信して魔法を絶対視した結果がこれである。魔法が使えず動物たちに蹂躙される弱者になってから質量兵器を求めるなど身勝手極まりない事を願う羽目になってしまったのは最早笑うしかないだろう。

 

 そんな惨めで悲惨な日々の中で、ボクたちはある人工物を見つけた。それは朽ち果てた居住区であり、ここに人がいた証拠でもあった。

 

 この島の凶悪な動物たちは何故かこの場所にだけは入ってこなかった。僕達のグループにたまたまいた技術者は電磁波がどうとかいっていたが、管理世界でも実用化されていない技術が使われているらしかった。まあ、詳しい理論はどうでもいい。重要なのがここは拠点として使えるという事だ。

 

 こうして僕たちはここに家を建てて住み着いたおかげで二十年も生き残ることができたのだ。正直な話、時間が立てば管理局の救援が来ると期待していた、というよりそう思わなければやっていられなかったが、ここまで待っても管理局の救援どころか他の人間も来ない事から救援が来ないのは誰の目にも明らかだった。

 

 その後、クロノたち元管理局員は仙石アキラという少年たちのグループと合流して、彼らと一緒にライカ島の外に出発することになるがそれは余談である。




解説

■ライカ島
『エデンの檻』の舞台。凶暴な絶滅動物が存在している殺伐とした世界でまともな装備がない一般人が暮らせる環境ではない。また下位世界におけるリリカル世界の魔法の互換性の悪さが仇となってこの世界ではミッドチルダ式魔法は使用できない為に管理局ご自慢の高ランク魔導師もそこいらの一般人と変わらない存在となっている。というかライカ島では自動小銃で武装した犯罪者の方がよっぽど役に立つ。

■クロノ・ハラオウン
『魔法少女リリカルなのは』の登場人物。執務官として次元航行艦隊に所属していたためにみこの転送によってエデンの檻のライカ島に強制転移させられた。



あとがき

 クロノたちが仙石たちと違ってライカ島から逃げ出そうとしなかったのは、なまじ次元世界の知識があった為に、この世界が猛獣たちがうじゃうじゃいる無人世界だと勝手に思い込んでしまったからです。つまりこの島を脱出しても意味がないと誤認したわけです。


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8.神仙と妖魔の世界(十二国記)

「あーもー、一体何ですか、この国は!?」

 と、苛立ちのあまり周囲に喚き散らしたボクは悪くないと思う。

 

 ボクが今いるのは巧州国。【十二国記】の世界に存在する国の一つだ。この世界は天帝が支配しており神仙と妖魔がリアルに存在する古代中華風ファンタジー世界だ。

 

 ぶっちゃけると前にいた明治時代の世界よりも更に文明レベルが低い。そんな世界を選んだのは飛天御剣流の理に従って刀で人々を救うために活動するならば、やはり文明レベルが低い世界がいいからだ。そうでないと色々とやりにくいからね。

 

 そんな世界であるが、この国は荒れているのか。この世界に来ていきなり人間が妖魔に襲われている場面に遭遇したボクはその場の判断で妖魔を切り捨てておいた。

 

 この世界の妖魔は冬器という特殊な呪をかけた武器を使わなければ傷一つ付けられないという設定であったが、幸いにもボクが使う引狭(いなさ)はそこいらの概念武装どころか一級の宝具に匹敵するとんでもない業物であった為に、妖魔を問題なく殺すことが出来た。

 

 そこまでは良かったが、助けた住民がボクと会話ができない事に気付くと態度を豹変させて襲い掛かって来たのだ。正直言って彼らの言語が理解できないから何言っているのかさっぱり分からなかったが、とりあえず襲い掛かって来た者を切り捨ててボクに恐れをなしてその場から逃げ出した者はあえて切らずに放置したが、これが拙かった。そこから情報が漏れたようで、この国の兵士たちがボクたちに向かって来たのだ。

 

 結論から言えばこの兵士たちは無謀だった。確かに兵士たちは何十人もいたので数において彼らは優勢であったが、多数の敵を倒すのに長けた飛天御剣流継承者相手に雑兵が何十人いても相手になるわけがない。たった一振りで三人を切り殺す事ができるボクは、あっという間に兵士たちを全滅させた。

 

 ボクの超人的な身体能力と技量、更に愛刀“引狭(いなさ)”の攻撃力を持ってすれば鎧を着ていようが、剣を持っていてもまったく意味がない。紙のように兵士の剣を切断し鎧ごと兵士を切り裂く。そんなボクを相手に戦いを仕掛けた彼らは運が悪かったとしかいいようがないだろう。

 

 しかし、その後も兵士たちや住民の襲撃があり、いくら殺しても絶える事なく突っかかって来るこの国の人間たちにボクも嫌気が指していた。

 

 何でもこの世界では触という次元災害のようなものによって日本から人間(ほとんど日本人)が流されてくる事があるらしく、この世界ではそんな漂流者を海客とよんでいるらしいが、この巧州国の場合、事実上ほとんどの海客を国を滅ぼすと称して処刑しているらしい。

 

 ちなみに、彼らは言葉と服装で海客と原住民を見分けているらしい。まあ、言語が違うから会話すれば一発で分かるし、特にボクたちの場合セーラー服に巫女服だからこの世界では浮くんだよね。

 

 

 

「こんな連中にいちいち付き合っていられないわ。こんな世界さっさと出て行きましょう」

 

 ボクはこれ以上無益な人斬りは御免である。斬るのが民衆を苦しめる悪党とかなら兎も角、王に扇動されて襲い掛かっているとはいえ基本的に悪人ではない民衆や兵士を殺すのは本意ではない、というか人助けの旅なのにそんな事をしたら本末転倒だ。

 

 このまま海客として追われるとなると、この国の人間が邪魔でしょうがない。かといって邪魔な人間を片っ端から殺して回るわけにもいかない。こうなったらさっさとこの世界から撤退するべきだろう。

 

「確かにこれじゃ、困るわね」

 と、まったく困っていない風にみこが言う。

 

 言うまでもないが、この国の人間たちはボクだけでなくみこにも攻撃を仕掛けていたが、彼らはみこに触れる事すらできなかった。恐らく何らかの防御系のチート能力を使用しているのだろう。正直みこならどんな出鱈目なチート能力を持っていても驚くに値しない。

 

「せやでぇ。これじゃなんにもでけへん。みこはんに美月はん、こないなとこさっさっとおさらばしまひょ」

 

 ジョニーも美月に同意する。ジョニーはみこの傍にいておこぼれで無事だったが、彼にとってもこの国は居心地が悪いだろう。

 

「そうね。じゃこの世界は外れってことで、次行きましょう」

 

 こうして、ボクたちはこの世界から撤退した。尚、ボクたちがこの国で派手に暴れた影響で、某赤毛の少女の追手が減少して彼女の逃亡の一助になったが、そんな事はボクたちには関係なかった。




あとがき

 もし、十二国記の巧州国に美月たちが来たら海客扱いされて揉め事になるだろうと思ったので試しに書いてみました。反則そのものなみこでもこの国に居座る気にはなりません(笑)。尚、美月の刀が妖魔に通用したのは型月の概念武装辺りなら十分に冬器の代用品になるだろうと考えた事からやってみました。


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9.精霊の世界(デート・ア・ライブ)

 いかにも現代日本という建物が並んでいる無人の街中を二人の少女とオコジョが歩いていた。

 

「おかしいわね。住民がいないなんてどういう事かしら?」

 そう、この街は真昼間にも関わらず人が誰もいないのだ。

 

「ゴーストタウン、それとも何かの怪奇現象かな?」

 

 下位世界は様々な物語の世界な為に奇妙な事が起こる世界があっても可笑しくない。下手をするとここがゾンビ系の世界で、住民がゾンビに蹂躙されてこの街から人が駆逐されたというオチもありうると考えていたら、いきなり近くの街並みがまばゆい光に包まれて、凄まじい衝撃波がボクを襲った。

 

「何これ!」

 

 いきなりの異常事態に状況を確認するとそこに巨大なクレーターがあった。そのクレーターの中心に一人の少女がいた。

 

 その少女は紫の鎧に金属とも布ともつかぬ不思議な材質の光り輝くドレスを身に纏っていたが、大剣をこちらの方向に振り下ろしてきた。

 

「くっ!?」

 

 それは当然ながら剣の届く範囲ではないが、それでも危険と判断したボクは横に大きく回避した。とっさの判断は間違いではなく、それまでボクがいた場所を剣の軌跡が通り抜けていた。それは恐るべき切れ味でアスファルトすらも切り裂いていた。

 

「ちっ!」

 

 即座にボクは引狭(いなさ)を抜いて、少女に斬りかかる。正直言って彼女が何者なのかとか、彼女が何故ボクに攻撃を仕掛けたのか何かはどうでもいい。状況からみて少女が敵である事は間違いなく、速やかに倒さなければこちらが危ないのだ。

 

 ボクは少女と激しい斬り合いを行っていた。最初から普通の少女ではないと分かっていたが少女の力とスピードは常人のそれではなく、ボクと対等に戦えるほどだったのはやや驚いた。ぶっちゃけると奥義継承を終えて以降はボクと剣でまともに戦える者など皆無だったので、これは意外だった(美月は監察軍の仲間とやり合うことはしていない)。

 

 このままでは埒が明かないので、大技で一気に片付ける事にした。ボクは九頭龍閃(くずりゅうせん)を放った。九頭龍閃とは剣術の基本である9つの斬撃を飛天御剣流の神速を最大限に発動させつつ突進しながら同時に放つ技で、一度技が発動してしまえば防御も回避も不可能な技である。

 

 少女はこれをすべて防ぐことは出来ず五つの斬撃を受けたが、それらは何かに弾かれてしまい致命傷を与えることができなかった。

 

 鎧が覆っている部分だけでなく肌が露出している部分に加えた斬撃も効き目が悪い事から、どうやら彼女の身に纏っている異様な衣装はただのコスプレではなく何らかの防御機能があるのだろう。

 

 勿論、まったくの無傷というわけではなく少女も少なからず負傷していたが致命傷には程遠い。正直言ってこの異様な防御力は脅威と言うしかないだろう。

 

 そこに空からおかしな恰好をした女性たちがこちらに飛行してきた。彼女たちは水着の様な妙に露出度の高い格好の上に重武装といういかにもメカ娘みたいで、どうみても「そんな恰好をして恥ずかしくないの?」と聞きたくなるほどの痛いコスプレ好きに見えるが、実際に空からこちらにミサイルを撃ち込んできたから正式な装備何でしょう。

 

 そうこうしている内に、新たに現れた彼女たちと少女が激しく交戦しだしたので、ボクはみこと共にその場からさっさと退散した。

 

 

 

「みこ、あれは何?」

 あの場所からある程度離れた場所で、ボクはみこに先ほどの少女について訊ねた。

 

「あー、あれは精霊で、後から現れたのはその精霊を武力で殲滅する為に陸自の対精霊部隊だわ」

 と、あっさりと答えが返って来た。

 

 元々、この世界を選んだのはみこだから元となる原作の内容ぐらい知っていても可笑しくないし、例えまったくしらない世界でも彼女の出鱈目ぶりからすれば必要とする情報を入手するなど朝飯前なので別に驚くに値しない。

 

「陸自はともかく精霊ね。私の九頭龍閃でも仕留められないなんて厄介ね。一体どんなやつなの?」 

「えーとね。この霊結晶(セフィラ)といわれる物を取り込む事で精霊になれて、美月の攻撃を防いだ霊装という鎧と、天使という武器を得られるわけだよ」

 と、みこは青い輝きを放つ宝石のようなものを空中に浮かべた。

 

「美月はん、それを取り込んでみたらどうや?」

「結構よ。ソーマを取り込んだだけでも十分強くなっているもの。これ以上そんな方法で強くなってもうれしくないわ」

 

 強くなるだけならチート能力を得るのが一番手っ取り早いが、剣士としてそれでは駄目です。ソーマの力だけでも反則染みた身体能力なのに、それ以上になると正々堂々とした戦いではなく卑怯としか言いようがないでしょう。

 

「そうよね。じゃあ、これは監察軍の連中に上げときましょう」

 みこが事なしげに霊結晶を消していた。

 

「そこの民間人。武器を捨ててこちらに来てもらおうか」

 そうしていると、上空から陸自の部隊が展開して、そう要求してきた。

 

「みこ、行くわよ」

「はあ、そうね」

 

 恐らく、生身で精霊と戦った不審人物を取調べしようというのだろうが、ボクたちはこの世界の戸籍なんかないから不法入国者扱いされて、色々と面倒な事になるから流石にこれは困る。ならさっさとこの世界から引き上げるべきだ。

 

 こうして、ボクたちはそうそうにこの世界から引き上げた。尚、陸自のASTは不審人物たちがいきなり消えた事に困惑したが、彼女たちには何一つわかる事はなかった。




解説

■霊装
 精霊が纏う鎧。凄まじい防御力を持ち通常攻撃を受けつけず、陸自のASTでも傷つける事すら不可能であるが、鉄壁というワケではなく、人間離れした極一部の魔術師ならば破壊することは可能である。

■霊結晶(セフィラ)
 精霊の力の源。これを取り込む事でただの人間が精霊になる事ができる。今回登場した霊結晶はみこがこの世界の霊結晶を参考にチート能力で作り上げたオリジナルの霊結晶で、それは後に別のトリッパーの手に渡る事になる。


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10.赤い海の世界(新世紀エヴァンゲリオン)

 地球上のすべての生命体がL.C.L.に変換されて微生物すら存在しない世界。かつてはこの世界も生命が満ち溢れていたが、サードインパクトによって心の壁を解かれた者たちはその姿を保つ事が出来ずL.C.L.となってしまった。こうしてサードインパクトの依代となった一人の少年を除いて、誰一人いない世界となっていた。

 

 その状況が変わったのが、異世界から一人のトリッパーがやって来た時だった。そのトリッパーはこの世界をいたく気に入り、自らに仕える百五十名の死徒と共にここに住み着いたのだった。

 

「本当に赤い海と廃墟しかない世界だね」

「ほんまに殺風景な所やねん。こないな場所に住みたがるなんて奇特な人もおるもんや」

 

 少なくともボクはこんなこの世とは思えない様な世界に住みたいとは思えないからジョニーの意見に頷く。

 

「そうね。でもここがいいってトリッパーもいるのよ~。ほら見えてきた。あれがザビーネ・クライバーの千年城よ」

 と、みこが言う通り遠目からでもはっきりと立派な城が見えた。

 

 

 

サビーネside

 

 転生者ザビーネ・クライバー。彼女はこの世界の住む住民(碇シンジを除く)を取りまとめる人物である。彼女はかつて型月世界に真祖と人間のハーフとして転生して活動していたが、現在ではこの世界を根城にして事実上の楽隠居状態であった。

 

 実のところ監察軍の延命技術によりトリッパーには長生きをするものが多いが、その場合周囲との確執によって自らの世界から引き上げて監察軍本部に移住する者が大半だったりする。まあ、普通に不老長寿の人間がいるわけにはいかないからそれも当然ですが、ザビーネの場合は自分の配下以外は誰もいない世界に移住するという方法でこの問題をクリアしていた。

 

「ご主人様。監察軍の方からお客様が来られました」

「へえ、あいつ以外でここに来るなんて珍しいね」

 と、ザビーネは興味を持った。

 

 実のところ、碇シンジがこちらが呼んでもいないのに頻繁にこの千年城に訪問してくるから、いい加減ブチ切れたザビーネがシンジを門前払いしていたのだ。その以降、シンジが来ても無視していたが、シンジ以外がそれも同胞たる監察軍からの来客となると無視するわけにもいかない。

 

「それで誰が来たの?」

 一言で監察軍関係者といっても該当する者はザビーネが知っているだけでも多数いる。一応確認しておこうと何となくメイド長のクレアに訊いてみた。

 

「姫神みこ様です」

「彼女ですか?」

 

 メイド長クレアの報告にザビーネは意外そうな顔をした。監察軍本部に所属していないとはいえ、ザビーネは監察軍と関わりが深いから、監察軍のトリッパーがこの千年城に尋ねてくることはかなり稀であるがあるが、あの姫神みこが来たことはなかったから予想外だったのだ。

 

 勿論、ザビーネはみことは関わりがあった。何しろ彼女には借りがあるが、彼女がわざわざ私に会いにくるとは思えなかったのだ。

 

「いかがいたしましょうか?」

 私が熟慮しているのを見てクレアが訊ねるが、この場合答えは決まっている。

 

「まあ、いいわ。会いましょう」

 あれこれ考えても仕方ない。どうせ暇だし取りあえず会いましょう。

 

 

 

「久しぶりね。ザビーネ」

「ええ、本当にそうですね。それでそちらは?」

 

 みこには少女とオコジョの同行者がいた。ザビーネの見立てでは少女は常人ではないし、オコジョもただの小動物ではないようだ。

  

「そういえばザビーネは初対面だったわね。紹介するわ。東条美月とオコジョのジョニー二人ともトリッパーよ」

「そうですか。貴女がカリン以外と行動を共にしているなんて驚きました」

 

 確かみこはあの一件以来人間不信になっており、トリッパーに距離を取っていた筈だ。まあ、例のトリッパー増員計画でしぶしぶ協力しているようなので関係改善したのかもしれない。

 

「美月が気に入ったから暇つぶしに旅に同行しているのよ。貴女こそその気になれば自力で世界を旅できるのに相変わらずニート生活送っているのね」

「まあ、この世界が気に入ったからね」

 

 以前ザビーネは監察軍の協力を得て移住先を求めて各地の世界を探索していた時期があったが、この際に問題となったのが、天敵、食糧、魔術基盤の三点だった。

 

 天敵は言うまでもなく魔術師や聖堂教会だ。ザビーネからすれば脅威ではないが、戦力不足なメイドたちには十分脅威であるし、食糧調達も問題だった。更に魔術基盤がないと魔術が使えないので地味に困るのだ。その為、いろいろな世界を探し回り結果としてこの世界にした。

 

 この世界は碇シンジを除いて人類が滅亡しているから邪魔な天敵はいないし、L.C.L.が血液の代わりになるのでメイドたちの食糧調達がかなり容易、おまけに魔術基盤がありマナが豊富にあるので魔術を使用できる環境、と申し分ない世界だった。

 

 この世界に移住したザビーネはメイドさんを侍らせつつもゴロゴロと自宅警備員(ニート)をやっていたが、みことカリンが監察軍に所属したばかりの頃にみこから固有世界観というチート能力を貰っていた。

 

 実は私の第六魔法・異世界間の移動【世界門(ワールド・ゲート)】は監察軍のサポートなしでも数多の下位世界を自由自在に移動できる物であるが、型月世界の魔術が使えない世界では使用できず大きな制限を受けていたので、その制限を取り外す為にみこに借りを作っていた。

 

 この結果、ザビーネはみこと同じく異世界間転移装置ユグドラシル・システムに頼らず下位世界を自由自在に旅できる存在になったのだが、彼女はその能力をあまり有効活用していなかった。その気になればどんな世界にでもいけるのだが、わざわざ旅をする気になれなかったのだ。

 

「そういえばカリンは例の計画に志願したらしいね」

「ええ、現在はアトランティス帝国で奮闘しているわ。とても手が離せないらしいわね」

「それはご苦労様です」

 

 すでに自宅警備員を長く勤めてだらけきっているザビーネは勤労意欲というものはとうになくなっており、カリンが自ら苦労や責任がある大変な仕事をしている事に何か口をはさむつもりはない。勿論、カリンがそれをやっている理由は分かる。下位世界存続の為には誰かがやらなければならない事なのだ。

 

 まあ、それはともかく折角同じトリッパーが来てくれたのだ。暇を持て余していた事もあるし、歓迎しておくとしよう。




解説

■ザビーネ・クライバー
『トリッパー列伝 ザビーネ・クライバー』に登場した転生型トリッパー。現在は赤い海に包まれた地球で自分に仕える死徒メイドたちと悠々自適の生活を送っている。

■第六魔法・異世界間の移動【世界門(ワールド・ゲート)】
 ザビーネ・クライバーが会得したオリジナル魔法。型月世界では並行世界とも異なる完全なる異世界に行くことはどんなにお金と時間をかけても不可能なので、これも立派な魔法。元々は監察軍の世界間跳躍システム『ユクドラシル』の機能を参考にして作り出した物で、ザビーネがこの魔法を編み出せたのは根源に至ったため。

■固有世界観
 トリッパーシリーズでは、魔法や魔術はその世界観が適合して初めて行使可能になるという設定になっています。例えば精霊のいない世界で精霊魔法を使えませんし、魔術基盤がない世界で型月系の魔術は使えませんが、この能力は現地の世界観の壁を無視して自分の都合のいい世界観を現地世界に押し付ける事が出来る。これによって本来ならば魔術が使えない筈の世界で魔術が使えたりします。


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11.神秘の世界(神秘の世界エルハザード)

「美月さんみこさん本当にありがとうございます」

 と、青い肌の人たちがボクたちに頭を下げていた。

 

「唯の気紛れだから気にしなくていいわ」

 

 みこはそんな彼らにあっけらかんと言うが、本来なら不可能な事をやっているだけに彼らの感謝は当然だろう。

 

「美月お姉ちゃんありがとう」

 と、ボクと仲良くなった幻影族の幼女は無邪気に喜んでいた。

 

 そして、彼らはみこによって彼らが元々いた異世界に転移されて、彼らの苦難が終わりを告げた。ボクは世界を巡る旅に出て久々に良いことをしたなと実感するのであった。

 

 

 

 幻影族。それはエルハザード人が神の目を使用した際に異世界からこの世界に引き込まれてしまった異邦人たちであるが、彼らは幻影を操るという能力と肌の色からエルハザード人から迫害されていた。

 

 聖戦と呼ばれる先エルハザード文明崩壊後に弾圧を受けていた幻影族の幼女をボクは助けていた。正直な話自分たちのやらかした事で来たくもない世界に繰る羽目になった幻影族を一方的に弾圧するエルハザード人に思う所があったからだ。

 

 それが切っ掛けで他の幻影族と接触することになったが、幻影族はエルハザード人とは異なる世界の人間であるボクたちに共感意識を持ったのか接触自体は問題なかった。とはいえボクたちが異世界間を気ままに旅している事を知った彼らは、ボクたちに幻影族を故郷の世界に送り返してほしいと頼んできた。

 

 彼らはこの世界にうんざりしており、故郷に帰りたいと切実に願っていたのだ。まあ、エルハザードにいても毛嫌いされて弾圧されるだけだからそれも当然でしょう。とはいえ、元の世界に帰るにしてもその座標もわからないとなると難しいのではないかと思っていたが、そうでもなかった。

 

「いいよ」

 と、みこがそれをあっさりと了承したのだ。

 

 みこはアカシックレコードから情報を引き出して、幻影族を彼らの故郷の世界に転移させるのだった。改めてチートだと実感したね。リアルで“吾輩の辞書に不可能の文字はない”と言わんばかりな彼女にボクは呆れてしまう。

 

 こうして幻影族はいなくなったが、この世界には地球でいう所の中東みたいな文化を持つエルハザード人がいるので観光には事欠かないでしょう。ある程度楽しんだらまた別の世界にいけばいい。

 

 そういえば、何気に原作ブレイクをしてしまいましたね。本来の流れでは後世に幻影族が暗躍してエルハザード崩壊の危機を招くわけですが、幻影族がいなくなるとそれもなくなります。こうなると主人公の水原誠などの地球人がエルハザードに来る事もないでしょう。

 

 まあ、いいでしょう。原作ブレイクはちょっと不味いけど、幻影族は救済されて誠達も故郷から異世界に飛ばされることもなく平和に暮らせる。原住民のエルハザード人だってエルハザード滅亡の危機を未然に防げるわけですから結果からすれば悪くありません。

 

 勿論、幻影族がいなくなってもエルハザード人とバグロムの対立はなくなるわけではないからもしかしたら原作よりも悪くなるかもしれませんが、それは私たちには関係ない事です。




解説

■幻影族
 聖戦と呼ばれる先エルハザード文明が崩壊した大戦で使用された神の目の暴走によって異世界からエルハザードに飛ばされてしまった種族。その為、エルハザードの民からすれば異端者であり迫害の対象となってしまう。

■神の目
 先エルハザード文明が作り上げた戦略兵器。これが暴走すれば最悪世界が滅亡する恐れすらあり、極めて危険な大量破壊兵器である。


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12.神殺しの世界(カンピオーネ!)

「何か最近美月が腕を振るう機会がないわね」

「何を唐突に言っているんですかみこ?」

 

 とある世界のイタリアの街を観光しているといきなり妙な事を言い出したみこに美月は嫌な予感がした。

 

「うん、やっぱりここいらでちょっと腕試しでもしようよ」

「いや、腕試しって言っても私と戦える奴はあまりいないよ」

 

 これは美月にとって問題な事に常人では美月の相手にはならないが、強い奴を選ぶと美月では勝てない敵に当たってしまう事が多いのだ。これはみこが能力持ちのトリッパーの中では比較的弱いから起こる事で、ようは美月の強さが中途半端すぎて戦う相手を選び過ぎてしまうのだ。結果として、そこいらのゴロツキ相手に無双してばかりだったりする。

 

「この世界にはカンピオーネという神殺しをなした連中がいるでしょ。そいつらと戦ってよ」

「まさかボクにカンピオーネにケンカ売って来いと?」

「ううん、実は美月にはまつろわぬ神の気配がするようにしておいたからカンピオーネの方から仕掛けてくれるよ」

「な、なに勝手なことしているんだよ!」

 

 まつろわぬ神の気配がするという事は、カンピオーネがボクをまつろわぬ神だと誤認して襲い掛かってくるだろう。そんな事を了承もなしにしないで欲しい。

 

「ほら、早速来たよ」

 と、みこが指さす方向を見ると金髪の青年がこちらに向かってきていた。

 

「ちっ!」

 

 ボクは慌てて全速力で走り街中から移動した。街中でカンピオーネと戦闘などやっていられないのだ。

 

「ちょっと、逃げないでよ」

 と、金髪の青年がボクを追いかけて来た。

 

 ある程度人通りの少なくなった場所で、ボクは蔵から引狭(いなさ)を取り出して、ボクを追って来た青年に切っ先を向けた。

 

「やっとやる気になってくれたようだね。じゃ早速行くよ」

 

 彼は右腕を銀色に輝かせて、その手に持つ剣が尋常ではない力を発している。金髪の青年で右腕を銀色に輝かせるとなると、こいつはイタリアのカンピオーネ剣の王サルバトーレ・ドニに間違いないだろう。

 

 ボクはサルバトーレの権能、斬り裂く銀の腕(シルバーアーム・ザ・リッパー)によってあらゆるものを切り裂く魔剣と化した剣を引狭で受け止めた。そしてボクとサルバトーレ・ドニは目にも留まらぬ速度で激しい剣劇を行っていく。

 

 先読みによりサルバトーレ・ドニの防御を掻い潜り斬撃を加えるが、まるで鋼に刃をぶつけたかのような感覚にボクは一端後ろに下がった。

 

「やるね。真正面からボクと切り合いができる神様がいたなんて思わなかったよ。君どこの神様?」

 と、サルバトーレが感心したように言う。

 

「ボクは神様じゃなくてただの人間だよ」

「えっ、だって僕の身体が反応しているよ」

「それはボクからまつろわぬ神の気配がするように細工されているからだよ。みこいい加減に細工をやめてよ」

「そうだね。もういいかな」

 

 ボクの言葉にみこが答えて、ボクからまつろわぬ神の気配が消えたが、

「あれ、本当に神様の気配が消えたね。まあいいや。君とやり合うのは面白いからもっとやろうよ」

 サルバトーレ・ドニはあまり気にしていなかった。

 

 やはり、こうなるか。正直な話、ボクがあの魔剣とまともにやり合えるのは引狭が不朽不滅の属性を持っているからだ。言うまでもないがそれを与えたのはみこだ。みこは折角完成させた業物を朽ち果てさせるのを惜しんで製作するついでにその属性を与えていたのだ。この為、魔剣の権能はどうにかできるが、問題は鋼の加護(マン・オブ・スチール)だ。

 

 正直言って、引狭を使ってもあれを破るのは少々難しい。並大抵の技では無理だろう。となるとあれしかないか。ボクは引狭を鞘に納めて抜刀術の構えを取った。

 

「それは確か日本の侍が使う居合という技だね」

「ボクの奥義は伊達じゃない」

 

 剣心は抜刀術に不向きな逆刃刀を使っていたが、ボクは正真正銘の日本刀、それも一級の宝具に匹敵する業物を使っている。おまけにボクの技量と身体能力と相まって天翔龍閃 (あまかけるりゅうのひらめき)の威力はとんでもない物になっている。これなら鋼の身体をも突破できる筈だ。

 

 サルバトーレ・ドニがボクに斬りかかるが、ボクが超神速で天翔龍閃 (あまかけるりゅうのひらめき)を放った。次の瞬間、サルバトーレ・ドニの剣は砕け、彼の身体は斬りつけられていた。

 

「ま、まさか僕の鋼の身体を純粋な技で突破するなんて君本当に凄いね」

 

 サルバトーレ・ドニは胴体を大きく切り付けられて明らかに重傷で戦闘不能だ。このままでは死ぬのではないかと思わんばかりで常人であれば即座に病院に連れて行かないと命に係わるだろうが、こいつらカンピオーネの生命力は化け物染みているからそうそう死にはしないだろう。

 

「いやー、美月強いね。流石!」

「ほんまにごっつやねん」

 

 調子のいい事を言う二人(?)にボクはため息を吐いた。

 

「もういいでしょうみこ。さっさとこの世界から引き上げましょう」

「あー、そうだね」

 と、みこが少々バツが悪そうに言うが、そう思うなら最初からこんなことやらないで欲しい。

 

 その後、サルバトーレ・ドニが人間に重傷を負わされて病院送りにされた話が欧州魔術界に広まり、そんな偉業を達成した者を探そうとしたが、その人物が見つかる事はなかった。




解説

■不朽不滅の属性
 決して朽ち果てる事がなく破壊不可能な属性。カンピオーネ世界の神具が保有している事が多い属性である。

■逆刃刀
 るろうに世界の剣心が使用している刃と峰が通常とは逆になっている刀である。この刀の場合、普通に振るっても峰打ちになるが、原作のように逆刃刀で他の刀と切り合うのは実際には無理(笑)。


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13.聖杯戦争の世界(Fate/Zero)

雁夜side

 

 俺の名は間桐雁夜。今回の聖杯戦争にマキリのマスターとして参加する魔術師もどきだ。そう俺は魔術師ではない。促成で魔術回路を用意しただけの三流以下の魔術師にすぎない。

 

 そんな俺の前にサーヴァントが現れたが、その姿が問題だった。その姿はセーラー服を着た絶世の美少女だった。確かに容姿はとても優れていたが、その姿はどこからどうみても英霊ではなく唯の女学生にしか見えなかった。

 

 いや外見がそうなだけでちゃんとしたサーヴァントの筈、と思い直した俺はセーラー服姿の英雄を記憶から思い浮かべてみる。結果、そんな英雄はいない、と無情な結論が出た。

 

 おいおいどういうことだよ。そりゃ確かに臓硯がサーヴァント召喚の為の触媒を手に入れる事ができなかったから触媒なしでやったけど、いくらなんでもこりゃないだろう。

 

「ほ、本当にお前が俺のサーヴァントなのか?」

「はあ。サーヴァントって何の事です?」

 

 少女はいきなりワケに判らない事を言われたと言わんばかりに困惑していたが、その反応に俺は泣きたくなった。

 

「カカカッ、どうしてよばれたのかもわからぬか!」

 

 そんな俺を間桐臓硯が嘲笑う。

 

「雁夜、どうやら此度の聖杯戦争は結果が出たようだな。まあ、三流以下の魔術師と神秘性が欠片もないサーヴァントでは余興にしかなるまい。精々がんばるがいいわ」

 

 そう言いながら臓硯は部屋から退出していった。

 

「くそっ、どうしてこうなったんだ!」

 

 俺はそんな臓硯に苛立ちながらも少女に対して罵らずにはいられなかった。

 

 

 

美月side

 

 それは次の世界に渡る時だった。ボクは何かに引っ張られるような感覚を受けて気が付けば知らない部屋にいて、そこには見覚えのない男と老人がいた。老人はすぐにその場を離れたが、男はまだその場に残り頭を抱えていた。ボクはそんな男を見ていたが、

 

「美月、お待たせ」

「美月はん、無事でなによりでっせ」

 そこにみことジョニーが現れた。

 

「みこ、これはどういう事?」

「うん、ちょっとしたミスでこの世界のサーヴァントの召喚システムに触れちゃったみたいだね」

 

 詳しく話を聞くと、どうやらここは『Fate/Zero』の世界らしい。道理であの老人をどっかで見たような気がしたわけです。

 

「で、今のボクはどうなっているの?」

「それがね。どうも美月がアサシンのサーヴァントになっているのよ」

「ボクは死んでいませんよ」

「まあ、美月がサーヴァントになったのはイレギュラーって事ね。聖杯がポンコツだから誤作動でもしたんじゃないのかな?」

 

 確かに本来ならばサーヴァントとは英霊がなるものであって、死者でない生者がなれるものではないだろうが、あの聖杯ならエラーの一つや二つはありそうです。でも、ボクがそうなった事を考えるとみこが裏で手を引いている事が十分あり得る。と言うか、多分そうでしょうね。

 

「そういえば何故ボクのクラスがアサシン何です?」

 

 ボクは剣士なので、クラスが与えられるならセイバーの筈だ。それなのにアサシンなのはどういうことでしょう?

 

「それは美月が暗殺で世界を二度も救っているからよ」

 

 そう言われたらボクとしては沈黙するしかない。確かにジュエルシード事件と闇の書事件は地球を滅亡させかねないもので、ボクは確実に世界を守るために暗殺という手段を使ったのだ。それを考えれば世界を救った暗殺者の英雄と持ち上げられても文句は言えない。

 

「まあ、折角だから聖杯戦争を楽しんで来たら?」

「そうもいかないわ。イレギュラーな私たちが派手に暴れるわけにはいかないでしょう」

 

 ボクは無暗に原作ブレイクをやりたいわけではない。えっ、今更何言っているですか? まあ、そういう突っ込みを受けるのは分かっていますが、ボクは本来の流れを乱したくないのです。そんなわけで、ボクはみこに聖杯との繋がりを切ってもらいこの世界から撤退した。

 

 その後、第四次冬木聖杯戦争はマキリ陣営が開始前に脱落した影響もあって、流れが少々変化したものの概ね原作通りに進んで、聖杯戦争は勝者なしで終了した。雁夜は虫に体を喰われていた影響で聖杯戦争後にすぐに死亡し、臓硯は最初から今回の聖杯戦争に見切りを付けて次の聖杯戦争の準備に入っていたので、今回は何ら干渉することはなかった。




あとがき

 美月を聖杯戦争に参加させてサーヴァントと戦わせようと思ったけど美月にとって聖杯戦争に参加する理由はないので撤退させました。雁夜は美月たちの所為で何もできずに犬死しましたが、それでも原作よりはマシなのが悲惨ですね(汗)。


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14.宇宙移民船の世界(セイバーマリオネット)

 22世紀末、地球では深刻な環境破壊、あまりにも増えすぎた人口、貧富の差の拡大など様々な問題を抱えていた。そうした中で新天地を目指して恒星間移民船を次々に外宇宙に送り込んでいた。

 

 言うまでもなく、この宇宙に人類がそのまま居住できる惑星などそうありはしない。移民と称していたものの彼らが事実上の棄民であることは誰の目にも明らかであったが、そのような非人道的な政策がまかり通る程、人権と人命が軽視させる状況だったのだ。

 

 そんな移民船の一隻がメソポタミア号であり、そのメソポタミア号がテラツーと呼ばれることになる地球型惑星に到着して国家を形成することになるが、それは別の話である。今回は件のメソポタミア号とは別の恒星間移民船シュメール号で起こった話である。

 

 

 

 ボクたちは気が付けばやたらと機械的な場所に出た。自然はどこにもなく何らかの人工物の中だと思われる。

 

「ここは何処かな?」

「美月とりあえず見てもまわろうよ」

「そうですぜ」

 

 確かにここで考えていても仕方ないから歩き回ってみよう。

 

「誰もいないね」

 

 ボクたちはあちこち移動したけど人に会う事はなかった。無人の場所なのかもしれないが、それにしては何か変だ。

 

「美月、ちょっとこっちに来てよー」

 みこの声にボクはそちらに向かう事にした。

 

「これはスーパーコンピュータですか?」

 そこにあったのは物語とかでよくある大がかりなスーパーコンピュータだった。

 

『そうです。私はこの船の管制コンピュータ“ウルク”といいます』

 と、コンピュータからいかにも合成音声という感じな声が発せられた。

 

「船というと、ここはまさか宇宙船ですか?」

『はい、このシュメール号は宇宙移民船です』

 

 なるほど道理で誰もいない筈です。恐らくこの船の乗員乗客は冷凍睡眠しているのだろう。宇宙移民するなら宇宙船の中で人間を生活させても物資が無駄なだけだし、(発見できる可能性は低いが)移民先の惑星を見つけるまでは機械任せにしておいて問題ないのだ。

 

『実はこの移民船は危機的な状況に陥っています』

 

 なんでも、このシュメール号は、22世紀末に宇宙移民の為に外宇宙に送り込まれて300年が過ぎたが、未だに居住に適した地球型惑星を発見することができなかった。この300年もの間にシュメール号は全体的に老朽化してしまい、あちこちが故障してしまっていたのだった。勿論、ウルクも可能な限り修理はしていたものの最早修理不可能な状態になってしまったのだった。

 

 これは元々シュメール号にろくな補修部品がなかったことと移民船自体が低コストで製造された安かろう悪かろうな宇宙船だったからだ。そんな劣悪な移民船を使用するなど自殺行為だったが、元々移民と取り繕っていただけの棄民であった為に地球はそれを是としていた。

 

 おまけに地球では200年ほど前に人口問題による集団ヒステリーによって核による最終戦争が勃発してしまった。その結果、地球環境は崩壊して地球は人間が住むことができない惑星になり、地球圏に残存していた人類は滅びてしまった為、今更地球に帰る事もできない状態だった。

 

「はあ、本当にろくでもない世界だね」 

『はい。最早地球人類はこのシュメール号でコールドスリープされている人々と、他の移民船の乗客のみでしょうが、他の移民船が新たな惑星を発見したという情報は未だに届いていないので、恐らくこの船が地球人類最後の地になると思っていました』

 

 ウルクは知る由もなかったが、メソポタミア号が惑星テラツーを発見できていたもののトラブルにより彼らは地球や他の移民船にその情報を発信していなかったのだ。

 

『しかし、貴女たちが来たことで希望が持てました。貴女たちは恐らく空間転移技術によって他の移民船からこのシュメール号に来たのでしょう。まさか人間単位で空間転移を可能とする技術が確立していたとは思いませんでしたが』

「まあ、そんなものね」

 

 本当は技術ではなくみこの能力なのだが、いきなり宇宙船に現れたら原理はわからないものの高度な空間転移技術と判断するだろう。少なくとも異世界人がチート能力で現れましたというキテレツな考えよりももっともらしいのはボクでもわかるから、その考え違いをあえて否定はしない。

 

『そこでお二人にお願いがあります。この船の乗員たちが移住できる惑星を情報を教えてほしいのです』

「地球型惑星の情報って言われてもね」

 

 当然ながらボクはこの世界の事は良く知らない。ましてや居住可能な地球型惑星の情報なんて知っているわけがないが、そこで思い直したボクはみこを見た。もしかしたら彼女ならそれは可能かもしれない。

 

「そう、でも私たちには関係ないわね」

 と答えるみこはシュメール号の危機に興味なさそうだった。

 

「みこ、流石にそれはどうかと思うよ」

「せやでぇ。そらももないやねん」

「はあ、しょうがないわね。ウルクこの船ワープは可能なの?」

『はい、後二、三回なら何とかなります』

「なら、いい惑星の座標を教えてあげる」

 と、みこはしぶしぶウルクにその惑星の座標を伝えた。というか本当に知っていたんだね。いや知っていたというよりチート能力で知識を得たと思うけど、相変わらず出鱈目な人です。

 

 こうして、シュメール号は地球型惑星にワープした。その惑星は人類を初めとした知的生命体が存在せず、環境はむしろ昔の地球よりも穏やかないい惑星だった。その惑星の最終調査を終えたウルクは乗員乗客たちをコールドスリープから目覚めさせた。彼らは本当に新天地にたどり着けた事に大喜びしており、早速降下艇で次々に惑星に降下していった。

 

「これで、めでたし、めでたしだね」

 

 新たな惑星に降り立った彼らがこれからどうなるかは彼ら次第だろう。ボクたちはそれに関わる事はない。何故なら新しい世界を作り上げるのは彼らがやるべきことだからだ。



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15.世界観が混在する世界(オリジナル)

 下位世界にはそれぞれ世界観という物がある。それは下位世界の触媒となった物語の設定であり、その世界の法則も世界観を元に構成されていた。

 

 例えば『魔法少女リリカルなのは』の世界では数えきれないほどの多くの宇宙(世界)が次元世界という一つの世界に内包されていて、それぞれの世界を比較的容易に行き来できるが、他の下位世界ではそんな事は不可能である。

 

 また物語の設定で、魔法がない世界では魔法が使用できない事が多いし、魔法が存在する下位世界であっても世界観が違う下位世界にいけばその魔法が使用できなくなる事が多い。例えば、魔力素がない世界では『魔法少女リリカルなのは』の魔法は使えないし、魔術基盤のない世界では型月世界の魔術は使用できない。

 

 こうした世界観による障害は純粋な科学技術であれば概ね問題ない。科学は大概の世界で問題なく使用できる汎用性の高い技術なのだから。しかし、魔法や魔術となると世界観の壁にぶつかって互換性が悪い事が多いのだった。

 

 さて、前提としてそうなる以上、魔法や魔術を使うマジックユーザーのトリッパーにとって世界観の壁が最大の壁である事は言うまでもないだろう。勿論、エリーゼ・ペルティーニやザビーネ・クライバーのように特殊な転生特典でそれを乗り越えて魔法を使用できるトリッパーもいたが、それは特殊な例外でしかない。

 

 そんな問題を解決するため以前みこが作り出したのが、この下位世界“カオスワールド”だ。

 

 通常下位世界は数多くの上位世界人に認知された創作物を核に上位世界人たちの創造具現化能力によって構築されるものであるが、姫神みこの場合は他の上位世界人の力や、原作と言う媒介もなしに自分が思うが儘の下位世界を創造することができた。

 

 そうして作られたカオスワールドは下位世界に存在するありとあらゆる魔法や魔術などを行使できるという規格外の世界観を持つ世界だった。その為、この世界は監察軍の様なトリッパー組織にとって非常に都合が良く作れてているというか、元々は姫神みこが監察軍の本部として提供する為にカオスワールドを作り上げていた。

 

 しかし、ある事件を切っ掛けにみこが他のトリッパーと距離を取るようになったために監察軍にこの世界を提供することなく、自らの拠点として使用するようになったのだった。

 

 

 

「これがカオスワールドですか、人がいないところを除けば地球と変わりませんね」

 

 ボクがいるこの世界はカオスワールドというご都合主義ともいえる特殊な世界観を持つ特殊な下位世界であるが、人類などの知的生命体がいないことを除けば気候や生態系などは地球と同じであった。

 

「元々がトリッパーの拠点として作った世界だからね。違和感がないように地球に似せているのよ」

「せやけどなんもないしょーもない世界やねん」

「ジョニー、人がいないのだからそれはしょうがないでしょう」

「そうよ。あんた私の世界にケチ付ける気」

「みこはん、しんどい堪忍や」

 

 みこは右手でジョニーを握りしめている。不用意な言葉でみこを怒らせたジョニーの迂闊さにため息をつきつつも放置はできないのでボクはみこを宥める事にした。

 

「ところで何でボクはこんな恰好をしているの?」

 

 そう気が付けばボクとみこは水着姿でこの世界の海岸にいたのだ。みこは赤の水着で、ボクは何故かスクール水着を着ていた。

 

「それはネタよ。まあ美月はスタイルがいいからもっと露出したほうがいいかもしれないわね。それにこの世界は私のとっておきだから、ここで海水浴でも楽しもうよ」

 

 海水浴か。確かにこの世界では他にやる事もないか。取りあえず海で泳ぐとしましょう。

 

「ふう、こんなものかな」

「ねえ、美月」

「何かな」

 

 存分に泳ぎ程よく疲れて砂浜に建てた椅子に座ったボクに、みこが深刻な顔をして話し掛けてきた。

 

「美月はもしも時間を巻き戻してやり直すことが出来たらって考えた事はない?」

「それは…」

 

 唐突なみこの言葉にボクは少し考え込んだ。そう転生した次元世界では管理局の所為でボクは家族と引き離されてしまう事になった。もしも、あの時をやり直す事ができたらと思った事はある。

 

「私なら時間を巻き戻して失った時間を取り戻す事もできるよ」

「やり直しですか」

 

 確かに今生ではやむを得なかったとはいえ親不孝な事をしてしまった。というか前世でもろくな職業に就けず生活苦でさっさと自殺しているから本当に親不孝だったなと、自分の過去の愚行に苦笑した。

 

 通常ではやり直しなどできないが、もしもそれができるとしたら今度はきちんと親孝行するべきかもしれないね。



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16.次元世界③(魔法少女リリカルなのは)

 ボクは気が付けばかつての自室にいて8歳の姿になっていた。念の為に確認したが今日の日付はボクが管理局につかまった日だった。みこもボクがやり直しできるようにその辺りはちゃんとしてくれたようだ。

 

 過去に戻ったボクは記憶が曖昧になったことから学校や家で色々とミスをしてしまい多少不審に思われたが、そこは小学三年生の子供にすぎなかったので何とか誤魔化して生活を送る事ができた。ボク的には数十年ぶりだからかなり忘れていたわけです。

 

 また、この時期の各管理世界は、みこによって管理局が壊滅してしまった為に体制が崩壊して大混乱になっていたが、管理局とは無関係な地球は何の影響もなかったのも好都合だった。正直管理局は邪魔だけど、管理世界の混乱がこっちにまで飛び火したらたまらないよ。

 

 

 

<七年後>

 

 高校一年生15歳になったボクは様々な世界を旅をしていた頃の姿まで成長していた。自分で言うのもなんであるが、ボクの容姿は並外れたもので、勉強やスポーツも優れていた為に文武両道のクールビューティとして学校の人気者になった。

 

 まあ男子からもてるだけでなく、女子高のノリで下級生の女子からも「お姉さま」と呼ばれて慕われることが多かったのはちょっと問題だったのは余談です。

 

 

 

<更に十年後>

 

 ボクは高校を卒業後すぐに結婚して子供を出産した。早すぎだって? 実は高校時代にはセックスの快楽を求めてそれなりの年齢(五歳年上)の男性と付き合っていて、当時からいろいろやっていたわけです。二人で性感を開発しましたよ。

 

 まあ高校生が妊娠するのは拙いから避妊だけはしていたけど、相手がボクを本気に好きになり、ボクもまんざらでもなかったから卒業したらすぐに籍を入れて結婚したわけです。

 

 通常、結婚となると収入とか経済的な問題になるけど、ボクの場合は蔵に収納している宝石や貴金属類などを売れば一生働かなくていいほどのお金が得られるからこれは度外視しても構わなかった。といってもニートやヒモ男なんて嫌だから相手はそれなりに勤労意欲がある男性です。

 

 夫が働いてボクが専業主婦として家事や子育てをする生活。それは刺激のない当たり前の生活ですが、案外これも悪くないですね。勿論夜の生活も充実していますよ(笑)。

 

 

 

<更に五十年後>

 

 ボクは75歳になった。既に夫は亡くなり、子供たちもとっくに自立して孫までいます。当然ながらボクの両親もとっくに亡くなりました。一応両親にはできるだけの親孝行はしましたが、きちんとできたとは断言できないのが少々残念です。

 

 実のところボクは15歳から歳を取る事はなかった。老いることなく少女のままの私ですが、夫はそんな私を不気味がる事無くむしろ永遠の美少女と喜んで愛してくれました。まあ、そういう意味で寛容な男性だから夫に選んだわけですけどね。

 

 しかし、子供たちは夫とは違い、外見が変わらないボクを気味悪がってボクからさっさと離れていきました。まあ、母親の外見が十代の少女だしね。それも分からなくもありません。正直いうとここでの生活はもう限界でしょう。そろそろここから離れるべきでしょうね。

 

 

 

「ヤッホー、美月久しぶり」

 と、そんなことを考えていると誰かがボクに話しかけて来た。誰がボクに話しかけてきたのか確認するまでもありません。当然みこです。

 

「みこですか。本当に久しぶりですね」

「うん、そろそろいいかなって思ってね。どう美月、また私と一緒に旅に出かけない?」

「……いいでしょう。もうこの世界にようはありませんから」

 

 ボクは少し考えて旅に出る事を了承した。最早この世界にいても仕方ないというか不老不死の身体なだけに厄介事になるだけでしょう。

 

「じゃあ、出発だよ」

 

 そして、ボクは転生したこの世界から姿を消して、再び世界を巡る旅に出たのだった。

 

 

 




あとがき

 これで『剣と少女と世界の旅人』は終わりです。正直言うとトリッパーの中ではかなり弱い東条美月が様々な下位世界で活動する話は書きにくくて苦労しました。まあだから話が上手くいかなくなり適当な所で終わらせる事にしたわけですが(笑)。最も美月たちの旅はこれからも続くので、その後の事はご想像にお任せします。


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