銀河英雄ガンダム (ラインP)
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第一話 イゼルローンのその先に…

「ラインハルト様、偵察部隊が未発見の星系を発見しました」

 

それは叛徒共に奪われたイゼルローン要塞を偵察する艦隊からの報告だった。

 

「イゼルローン回廊の内部。イゼルローン要塞と帝国領の中間あたりです」

「イゼルローン回廊内にだと?もう何百年も回廊内を行き来してて未発見な星系などあったのか?」

 

銀河帝国と自由惑星同盟は銀河を二分する壁があって、イゼルローン回廊というトンネルでだけ繋がっている。

それ以外は岩壁に阻まれていて、銀河帝国はそのトンネル内にイゼルローン要塞を作って、自由惑星同盟と戦っていたが、先日、ヤンウェンリーに奪われてしまったのだ。

ラインハルトは皇帝からイゼルローン要塞の偵察の任務を受けていた。

そこで偵察に送り出した艦隊が、トンネル内で未発見の星系を見つけたのだ。

でもトンネル内は岩壁に囲まれていて、そのトンネルも狭いので星系があったら今まで見つかっていないことが不思議だった。

 

「どうやら、もともとイゼンローン回廊の壁に使用期限切れが近いミサイルを練習で打ち込んだところ、壁が薄いところがあったようで。

その壁が砕けて、その向こうに空間が広がっていたので、偵察したところ、その向こうに有人の惑星と恒星が見つかったのです」

「有人だとっキルヒアイス!我々と叛徒以外に宇宙に人がいたのか!グレイ型か!それともタコ型なのか!」

 

宇宙には今まで銀河帝国と自由惑星同盟の2種類しか宇宙人は存在しておらず、それ以外の宇宙人など子供向けの漫画かオカルトでしかなかった。

 

「無人機を使って調査したところ、我々と同じような姿形のようです。叛徒人を発見したときに宇宙人研究者が言っていた通り、知的生命体とは進化の都合上、同じような見た目になるんでしょうね」

「そうか、グレイ型じゃないのか。グレイ型なら捕獲して、寂しい思いをしている姉上にペットとして差し上げたかったんだがな」

 

ラインハルトは愛する姉、アンネローゼを思い、ため息をついた。

 

「でもラインハルト様、新しい星系は早い者勝ちです。形式上は皇帝陛下に発見した星系を献上しますが、その後、発見者に下賜されます。世にも珍しい宇宙人のいる星系です。アンネローゼ様にお渡ししたら喜んでくださるんじゃないですか」

「それはいい考えだキルヒアイス。それでその星は現地人になんて呼ばれているんだ」

「なんでも地球。そして恒星は太陽と言われているようです」

「ははははは!それは傑作だキルヒアイス!なんとも安直な名前じゃないか!そいつらは知能指数が低いサルなんだろうな!」

「そうですねラインハルト様。ラインハルト様ならもっと素晴らしい名前を付けるでしょうね」

「しかもそいつらは宇宙に進出しているようです」

 

偵察の結果、地球の周りに宇宙空間で居住できるコロニーを作り、地球とそのコロニーで戦争をしていることが分かった。

 

「ほう、コロニーか。宇宙空間に進出する程度の技術はあるのか。なおさら価値が出てきたじゃないか。このまま情報だけ持ち帰ったら他の貴族に取られる可能性もあるな。今回は偵察しかしておらず弾薬や燃料は全く減っていないのだったなキルヒアイス」

「えぇ、艦隊数15万隻、エネルギーも弾薬も9割近く残ってます。あと1年は無補給でも航行可能です」

「よし、では全艦隊で進撃!まずは全コロニーを破壊しろ。地球だけあれば後は余分だからな」

「かっしこまりました!ラインハルト様!」

 

偵察任務ばかりでストレスのたまっていたキルヒアイスは久々に戦闘ができる事でテンションが上がり飛び上がるように敬礼しウキウキと操縦席に座り、全艦隊をコロニーへと向けた。

 

 

 

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場所は変わり、地球側の一つのコロニー。

 

1年前に二度目の大戦を終え、ようやく平和を取り戻した本日。

戦争をしていた国家、地球連合とプラント、そしてオーブの3国の平和会談がコロニーの一つ、アプリリウス市で行われていた。

地球連合軍の首相ムウ・ラ・フラガ、プラントの最高議長ラクス・クライン、オーブの国王カガリ・ユラ・アスハの3人が平和条約に捺印し、その後会談が行われていた。

 

「では地球連合は今後プラントを正式に独立国と認めるということで構いませんね」

「ムウさん、そんなに安請け合いしていいの?首相になったばかりでしょw」

 

ラクスの提案を快諾したムウをカガリがからかった。

 

「任せておけって!俺は不可能を可能にする男だぜ!今頃特殊部隊がコーディネーター反対派のブルーコスモスの拠点をつぶして回ってるぜ」

 

プラントはコーディネーターという遺伝子操作をされた新人類で、それを認めない旧人類側の地球連合軍は内部組織ブルーコスモスの扇動で戦争をすることになった。戦後もブルーコスモスの残党がコーディネーター撲滅運動を各地で行っているが、新体制になった連合軍はそれを叩き潰し、平和への道を作り出していった。

 

「俺もこの前、コーディネーター手術を受けて、コーディネーターになってさ、持病の腰痛がすっかり良くなったよ」

 

ムウは腰をさすりながら親指を立ててみせ、陽気に笑った。

首相や幹部たちが率先してコーディネーターになることで、コーディネーター手術への嫌悪感をなくす政策をしている。

 

「それに来年から連合軍は全員コーディネーター手術を受ける法律ができたからな。これで全員コーディネーターになって能力差がなくなることによって反感なんてなくなるしさ」

「さすがムウさんですね。今まで反対派が多くてできなかったことを意図もあっさりと可能にする手腕。御見それしました」

「いやあそれほどでも…あるけどね!!!!!」

 

ラクスにおだてられて木にも登りそうなぐらい上機嫌で飛び跳ねるムウ。

その会談を見ている全世界の人たちはこれで平和になったんだと改めて感じた。

 

ただし、その会談は平和には終わらなかった。

 

「おい!あれを見ろ!」

 

会談場にいたスタッフの一人が窓の外を指出した。

ビルの外に見えたのは見たこともない戦艦の群れだった。

その戦艦の群れはアプリリウス市に向かって猛然と侵攻してきた。

 

「1万5000隻もいやがる、なんて数だ!くそっ条約が破談した時のためにって銃を持ってきてよかったぜ!バキューンバキューンもういっちょバッキューンって感じでこれでどうだ!」

「さすがですムウさん!それよりスタッフさん!警報を出してください!」

「艦隊までの距離、約30キロか!ニュートロンジャマーのせいでレーダーが効かなかったためここまで接近を許してしまったか」

 

ムウは素早く戦艦の数を数え、その数の多さに慄きながらも隠し持っていた銃を取り出し戦艦へと発砲する。ただし、元々隠し持つための小型の銃だったため弾数は多くなかった。燃料タンクを正確に狙撃し十数隻を沈めたが、それで弾切れとなる。

ラクスは準備のいいムウに感心しつつイベントスタッフに指示を出す。

カガリは目視距離になるまで気づかなかった理由を察してしまった。

そう。戦争はもう終わって襲撃なんて起きる確率は0%だったために戦争のせいで赤字続きだった予算回復のために節約モードに入っていた各国の軍事情勢のために軍人や警備員は全員解雇されていたのだ。

ゆえに会談場所であるここにも軍人や警備員はおらず、イベント会社のスタッフだけだったため、警戒などだれもしておらず、ここまで接近されていたのだ。

もし警備している人がいれば、敵艦隊が索敵機を送り出す前、イゼルローン回廊の壁を爆破した爆発に気づいただろう。

 

降伏勧告と民間人と非戦闘員の離脱を呼びかける準備をしていた敵艦隊は、まさかこの戦力差で先制攻撃してくると思っておらず油断していた。

なのでムウからの思わぬ反撃を受け、十数隻を沈められたことに怒り心頭になり、艦首を銃撃があった会談場に向けビームを撃ってきた!

1万5千隻から放たれるビームが迫るさまは、まさに空一面が眩く光に覆いつくされ、世界の終わりを予期させる光景だった。

 

「大丈夫かカガリ!あの黒い艦隊は黒色槍騎兵艦隊(シュワルツ・ランツェンレイター)だ。非常に野蛮で猪突猛進なやつらで、攻撃力だけなら帝国一だ!今すぐ逃げないと危ない」

 

ビームが向かってきているのを見たアスラン・ザ・ラー(カガリの護衛にプラントに来ていた)はすぐさまインフィニットジャスティスに乗り込み、カガリを掌に載せ、ビルの壁面を破壊し、外に飛び出す。

 

「アスラン!このままコロニーの外に!アークエンジェルまで飛んでくれ!そこで指揮をする!」

 

カガリは振り落とされないようにインフィニットジャスティスの指にしがみつきながらコロニーの外に飛んでいるアークエンジェルを指さす。

それを聞いたアスランは迫りくるビームの群れをもう一度見て、このままでは港まで行くのは間に合わないとビームライフルを連射し、コロニーの壁面に穴をあけ、そこからコロニーの外へと飛び出した。

 

「私たちもアスランに続きますわよ!スタッフの皆さんはここに残って市民の誘導を優先してください!」

「おう!」

 

ラクスとムウもアスランの開けた穴からそれぞれ飛び出す。

スタッフは市民を避難させるために市内各地へと走り出す。

だがその直後、無情にもビームの群れはコロニーを引き裂く。

市民の脱出は間に合わず、結局4人だけが何とか生き残った。

燃え盛り爆発し、そして崩れ行くコロニーを見ながらラクスとムウは呆然としつつ、アークエンジェルの甲板へとなんとかたどり着いた。

その時、アークエンジェルのカタパルトから1機のモビルスーツが飛び出した。

それは2つの大戦を終わらせた英雄キラ・ヤマトが駆る最強のモビルスーツ、ストライクフリーダムガンダムだった。

 

 

 

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時は帝国歴796年、そして地球ではコズミック・イラ75年。

今、二つの歴史は交じり合い、新たな戦火を地球へともたらすことになった。




次回からキラ・ヤマトのフリーダム無双が始まるかも。

感想をいただけたら嬉しいです。


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第二話 ビッテンフェルト艦隊の恐怖

第一話はなかなかの好評で嬉しく思ってます。
感想でこうしたらもっと良くなると色々アドバイスを頂き感謝しています。
本当なら翌日に更新予定だったのですがアドバイスを受け書き直していたら遅れてしまいました。
待たせてしまってゴメンナサイ。

あと今回は作者がチョイ役でゲスト出演しています。
探してみてね。


会談中、キラ・ヤマトはアークエンジェルの一室で妻のシズコと愛し合っていた。

 

 

シズコとの出会いはヘリオポリスが襲撃した日のこと。

ヘリオポリスが崩壊するときに時空乱流が起き、20世紀の地球からシズコがタイムスリップしてきたのです。

そしてヘリオポリスから脱出したアークエンジェルの前に気を失ったシズコが漂流してきたのをキラが見つけ、助けたのが馴れ初めです。

シズコはタイムスリップしたショックで未来を見る能力を得たといい、クルーゼ隊が襲い掛かってくるときも事前に察知し逆に罠にかけたり、アスランとの仲を取り持ったりしました。

そしてキラ、アスラン、イザークは本来の歴史よりも早く仲間になり、いつしか3人はシズコを愛し、ラブロマンスを展開しました。

クルーゼ隊の他の二人は最初の罠にかけたときに死にました。

 

そして、最終的にシズコはキラを選び、キラはシズコのために戦うことを誓いました。

シズコの未来を知る能力でブルーコスモスの拠点を突き止めたり、ジェネシス発射を事前に阻止したりでき、影の英雄と言われています。

恋に破れたアスランはしょうがなくカガリと付き合いましたが、でも心の奥では今でもシズコを愛していて、少しでもシズコのそばにいようとアークエンジェルを乗艦としています。

イザークはたとえ報われないと知りつつもシズコの騎士として生きることを誓い、常にシズコを護衛するために部屋の外で待機していました。

 

 

ビービービー。

 

 

警報がアークエンジェル艦内に鳴り響きます。

イザークはすぐさま反応し、状況を確認。キラとシズコへと危険が迫っていると伝えます。

 

「謎の宇宙人が攻めてきたぞ!」

「なんだって!」

「えっ!あれはもしかして銀河帝国!」

 

シズコは未来を見る力で艦隊がビッテンヘルト率いる黒色槍騎兵艦隊だとキラたちに説明しました。

実はこの世界に来る前に銀河英雄伝説も見ていたのです。

 

「銀河帝国の艦隊ならバリアがあるからモビルスーツの攻撃があまり効かないかもしれないわ。だから燃料タンクを狙って」

 

銀河帝国の艦隊はバリアを張っているので通常のビームでは効果が低いのです。

ですが燃料タンクは揮発性の高いガソリンが詰まっています。

なのでちょっとの衝撃で爆発するのです。

 

「あとビッテンヘルトは猪突猛進で真っすぐな提督よ。曲がったことが嫌いでずっと直進しかしないから横から回り込んで後ろから襲えば背後を打ち放題よ」

 

いかに勇猛で強い提督でも戦術を最初から知られて対策を取られてしまえば形無しでした。

 

「キラ・ヤマト!ストライクフリーダムで生きてます!」

 

カタパルトからキラの乗ったストライクフリーダムが発信しました。

イザークはアークエンジェルのブリッジでシズコを直接守るために量産型のストライクフリーダムルージュに乗って待機しています。

ストライクフリーダムはマッハ2の超速度で黒色槍騎兵艦隊の横を通り抜け、後ろに回りこみます。

 

「撃ちたくない…撃たせないで!それでも僕には守りたい人がいるんだドヤァ」

 

キラはこれから死んでいく敵兵を思い、涙を流しながら、それでも愛するシズコのためにトリガーを引きました。

ドラグーンもすべて使ったフルバースト射撃が正確に燃料タンクを打ち抜いていき、一気に1000隻が火球となり、跡形もなく消滅しました。

 

銀河帝国の船は主砲の中性子ビームは前面についていて後方には打てません。

ですが威力は低いですが副砲のビームで対抗するのですが、ストライクフリーダムはそのすべてをことごとく避けていきました。

そして帝国艦隊の主砲ビームはアークエンジェルにも向かってきました。

 

「避けなさい!」

 

艦長のマリューさんが命令します。

アークエンジェルはこれでも2つの大戦を潜り抜けてきたベテラン揃い。

この程度の窮地など日常茶飯事でした。

 

「バレルロール!」

 

アークエンジェルのパイロットのアーノルド・ノイマンがいち早くビームに反応します。

そしてビームの嵐の中をアークエンジェルはくるくると回転しながら華麗に避けていきます。

筒状の帝国軍の戦艦には真似できないアークエンジェルならではの回避方法です。

 

「そこ!そこ!ほらそこも!はい雑魚ーwww」

 

そしてアーノルド・ノイマンはお返しとばかりに主砲のローエングリンを連射し敵の燃料タンクを次々と打ち抜いていきます。

 

「ローリングで回避しつつ狙撃できるガチ勢の俺ってば輝いてる!そしてお前らみんな雑魚、また一人死亡ですかー、はい雑魚ーwww」

 

アーノルド・ノイマンはこれでも戦艦のパイロットとしては一流です。

そして実は人気ユーチューバーなので知名度は高いですが、イキリ勢でうざく、なので彼女がいつまでたってもできません。残念。

今も自分の華麗な操縦をリアルタイムネット配信して実況しています。

 

「アーノルドの馬鹿はいつも通りだとして…敵の艦隊がこれだけとは限らないわ。他のコロニーの様子は確認できる?」

「はい、シズコ様。………確認できました!な!これは…他のコロニーにもそれぞれ艦隊が攻め込んできて全部のコロニーが破壊されてます!」

「なんですって!ザフトはどうしたの!」

 

通信兵から驚愕の事実を知らされ、シズコは驚きの声を上げました。

ブリッジにいる他のクルーも凍り付いたように愕然としています。

 

「それが、ラクス最高議長がザフトを解体したせいで防衛できるものが誰もいなく、降伏勧告もされたようですが、それぞれのコロニー代表が今回の会談に参加していたため返答できず、一方的に攻撃され、全滅。結局生き残りは誰一人いないとのことです」

 

哀れプラント。2つの大戦を生き抜いてきた強国は一日にして全滅することになったです。

 

「現在敵艦隊は集結しようと移動中。ですが1艦隊は月に向かっているようです」

 

コロニーを全滅させた次は月を破壊する気のようです。

もしそうなったら月に住む民間人は助からないでしょう。

 

「今すぐ月のレクイエムを起動してそれで向かってくる艦隊を攻撃してください」

「ロゴスから奪い取ったあの兵器ですね。ブルーコスモス残党対策に常に使える準備はできてるので至急発射させます」

「あとオーブ基地とカーペンタリア基地からモビルスーツをあるだけ打ちあげて防衛するのよ」

 

さすがシズコ、矢継ぎ早に適切な指示をしていきます。

その様子にマリューや他のクルーたちは常勝のシズコここにありと頼もしく感じています。

 

「まだ戦いは始まったばかりよ、みんな気を抜かないように」

 

シズコは普段の愛らしい顔とは違う戦闘の時に見せるキリッとした顔でそう告げました。

 

 

 

 

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時は戻りビッテンフェルト側。

 

「はっはっは!この黒色槍騎兵艦隊に敵などない!一応降伏勧告だけはしておけ」

 

偉丈夫のビッテンフェルト提督は抵抗が全くなくコロニーに接近できたことに満足気です。

 

「この勝利、皇帝陛下に捧げる!乾杯!」

 

と先ほどから勝利祝い用の高級酒をラッパ飲みしています。

まだ勝利が確定したわけでもないのに飲めや歌えの大騒ぎ。

まさに帝国貴族の悪いところが出てしまっています。

ビッテンフェルトもラインハルト艦隊の提督なので戦闘中は有能ですが、馬鹿なのでしょうがないです。

 

「がっはっはっはっは!お前も飲め飲め、見張りなんぞ平民にでもやらせておけ」

 

帝国では貴族と平民の身分差がすごく、平民とは奴隷階級です。

士官である貴族は高級料理と美酒を飲み放題で仕事なんてほとんどありません。

そのしわ寄せは兵士である平民にきます。

平民はまともな食事や休息などありません。

死なない程度の栄養合成食品とタンクベットという30分で睡眠がとれる装置を使っての24時間勤務な不健康な状態です。

きっと平均寿命も貴族の半分もないことでしょう。

ですが今回は別の人型生命体を捕虜として捕獲できれば、人権のない野生動物扱いなので平民より下の階級として扱われます。

なので自分たちより下のなにをしてもいい存在ができると知り、士気は非常に高いです。

ですので殺すよりは捕虜にしたいと何度も降伏勧告を送っていました。

 

ちゅどーーーーーーーーん!

 

降伏勧告を送っていた時、仲間の戦艦が爆発しました。

それも連続で何度も爆発していきます。

 

「何事だ!」

 

ビッテンフェルトは爆発の揺れで倒れそうになり、顔を真っ赤にして叫びます。

 

「敵の攻撃です!」

「それはわかっておる!バリアは張ってなかったのかバカ者!」

 

普通、こんな未開の原始人がバリアを突破する攻撃などできないなど常識です。

しかもよく見れば、敵は拳銃で攻撃してるではないですか。

ビッテンフェルトはその拳銃で船が吹き飛ぶ光景に二度見、三度見して酔っぱらって幻覚でも見ているのではないか。

そう思い、「俺は一発やって寝る。まかせた」といって平民の従軍少年兵の肩を抱きながら部屋に戻ろうとしましたが副官に必死に止められました。

 

「結局なんでバリアを突破してるんだあの拳銃」

「どうやら燃料タンクを正確に打ち抜いてるようです。燃料タンクには1年間航行できるように燃料のガソリンが満タンです。ガソリンは非常に揮発性が高くてちょっと衝撃を与えただけで爆発するので、燃料タンクを攻撃されたら吹き飛びます。今まで叛徒とは長距離からの砲撃戦しかしていなかったので精密な射撃など考慮してないため危険性なんてないも同然だったんですが」

「ぐぬぬ!偉大なる帝国軍の艦隊に攻撃するとは!不敬である!今すぐコロニーごと吹き飛ばして皆殺しにしろ!」

 

ビッテンフェルト艦隊15000隻は一斉にコロニーに向かって斉射。

圧倒的な破壊力でコロニーを消滅させました。

ですがそのコロニーの陰から一隻の船が現れます。アークエンジェルです。

そこから一機の人型兵器が飛び出してきました。

 

「何か来ました!なっすごい速さです!ビームが避けられてます!」

「なんだと!観測班!あれはなんだ!」

「人型の兵器、大きさは19m程ですね。ですが早い、速度は約マッハ2。光の2倍の速さです!ビームより早いので当たりません!」

 

ストライクフリーダムは他のモビルスーツと違い、キラ・ヤマト専用機として開発されています。

普通のパイロットではGに耐えらえないため、光の速さは越えられませんが、キラ・ヤマトはスーパーコーディネーターなので大丈夫です。

同じようにキラ・ヤマト専用機として開発されたストライクガンダムもマッハを超えることができます。

ムウさんがローエングリンに割り込んでアークエンジェルを守った時などから考えれば光の速さより早いのは劇中でも見て取れるでしょう。

ですが普通の人間のムウさんはGに耐えられず重傷を負ったのですが。

そしてスーパーコーディネータのキラは特別な体を持っていて、SEEDが割れることによりサイキックパワーですべてのGをキャンセルさせて縦横無尽に戦場を駆け抜けるのです。

 

そして一瞬でビッテンフェルト艦隊に横切り後ろに回り込まれます。

まさに電光石火、鬼神キラ・ヤマトここにあり!

 

「提督!後ろです!反転しないと!」

「バカモーーーーン!敵前で反転など自殺行為だ!]

 

そうなのです、帝国軍の船は直進だと早いのですが反転するのに何時間もかかるのです。

更にソフトウェアが自由惑星同盟製の船より低性能で同時に複数の動作を処理できないので反転中は攻撃ができません。

完全に無防備になってしまうのです。

なので以前、ヤン・ウェンリーに背後を取られ、反転しようとしてあっという間に全滅してしまったお馬鹿な提督もいました。

 

「構わんからこのまま直進しろ!黒色槍騎兵艦隊は直進以外禁止だ!そこの白い船を沈めてそのまま地球に一直線だ!この俺様の顔に泥を塗ったサルがいるあの忌々しい青い地球を木っ端微塵に破壊しろ!」

「なるほど!攻撃は最大の防御なりですな!了解!全艦主砲斉射!目標白い船!」

 

だが時は既に遅し、弱点を見抜かれたビッテンフェルト艦隊はアークエンジェルにも側面へと回り込まれ、燃料タンクを狙い撃ちにされ、全滅することになったのでした。

 

 

 

 

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「なんだと!ビッテンフェルトの艦隊が全滅だと!」

 

すべてのコロニーを破壊したと聞き、勝利の祝杯をあげていたラインハルトとキルヒアイスはビッテンフェルト艦隊全滅の報を聞き驚きを隠せませんでした。

 

「謎の白い人型兵器のパイロット、鬼神キラ・ヤマト。そしてビッテンフェルト艦隊を手玉に取った女、時の賢者シズコ・ヤマト…まさかヤン・ウェンリー以外にこの俺に対抗できる存在が2人もいるとはな」

 

情報部からの調査ファイルを見ながら、この戦争、容易くは終わらないであろうと予感しました。

ラインハルトはこの戦場へと誘った運命を大神オーディンからの挑戦と感じ、この借りは絶対返すと誓い、再度進撃の指示を出したのでした。

 

 

そして、戦いは次の戦場へと移っていくのです。

 

 




今回はSSを再度読み直してキャラの本来の口調とか性格を意識してます。
ですがキャラの理解は人それぞれなので違和感を感じる人ももしかしたらいるかもしれません。
ですが自分のほうがマイノリティだと理解して歩み寄る努力は必要だと思います。

アーノルドくんに関してはキャラが再現できなかったのでちょっとキャラ立てさせるために実況民という趣味をつけてみました。
昨日たまたまゲームの実況動画を見たときに「これだ!」って感じたので。
口調もこんな感じで今風の若者っぽく表現できたと思います。

あと感想でも言われてますが別に銀英伝側はサゲてません。
あくまでアークエンジェル勢が突出しているだけです。
なので他のコロニーは一方的に虐殺されてしまいました。

ガンダムとキラ・ヤマトがすごいだけで、コズミック・イラ勢は普通の人間ですので。



では感想とアドバイスをまたよろしくおねがいします。


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第三話 誰よりも疾く

あけましておめでとうございます。
元旦という目出度い日に更新できて感無量です。

高校受験でちょっと忙しくて更新が滞っていました。
でも無事に推薦貰えたので他の受験生よりは速く受験戦争から抜けれる予定ですので、お待ちください。

感想もいっぱい頂けて、みんなの期待が高まっているのを感じます。
より良い作品にできるように敢えて厳しい言葉を掛けてくれて私も頑張ろうって思えてホロリときてます。

拳銃弾の射程距離とか分からなかったことを教えてくれたのもありがたかったです。
おかげで投稿直前で修正できました。

これからももっと感想をお願いします。




戦場を高速で飛ぶアークエンジェルの艦橋に立つムウガフラガの髪は彼の闘志の昂ぶりを表しているのか太陽風を受け鬼神のごとく舞い上がっている。

彼は敵艦を厳しい目で睨みすえ、腕を組み拳銃の射程圏内に捉えるまで仁王立ちだ。

そして敵艦とすれ違う一瞬、拳銃の射程圏内に入り込んだ敵艦。

その一瞬で敵艦の核融合炉があるエリアへと拳銃を抜き撃つ。

拳銃から飛び出した弾丸は20メートル先の敵の装甲へと着弾する。

だが宇宙戦艦の装甲は厚い。

50センチもの分厚い鉄の装甲に守られた宇宙戦艦を一発で破壊するのは不可能だろう。

だが、ムウラフラガはエンディミオンの鷹と呼ばれた男。

その鷹の如き目は敵装甲のウィークポイントを一瞬で見抜く。

装甲が貼り付けるためのネジを高速ですれ違う一瞬で狙い、そのネジの頭を正確に撃ち抜いたのだ。

そしてネジ穴から艦内へと飛び込んだ拳銃弾は核融合炉の中のコアを撃ち抜く。

撃ち抜かれた核は一瞬でメルトダウンを起こしキノコ雲を上げながら核爆発を起こす。

その爆発力は凄まじく、周りの味方の戦艦20~30隻を巻き込み吹き飛ばして破壊する。

つまり1発の拳銃弾で30隻ほどを一度に破壊できるのだ。

ビッテンフェルト艦隊がアークエンジェル1隻に全滅させられた理由はこのようなわけなのである。

数が多いからこそ巻き添えで吹き飛ぶ味方が多く、アークエンジェルは味方がいないからこそ巻き添えでダメージを受けることがなく、そして多数の敵の中に1隻しかいないアークエンジェルが紛れることで、敵はアークエンジェルがどこにいるかわからなくなり、すれ違いでまた撃ち抜かれるとういう悪循環に陥ったのだ。

まさに発送の転換。

時の賢者シズコ・ヤマトが考え出したアークエンジェル必勝の作戦である。

常に単艦で戦ってきたアークエンジェルは今までシズコの考え出したこの戦術でジャイアントキリングを巻き起こしてきたのだ。

ヤキン・ドゥーエでの連合とザフトを相手にした戦いではこの手法でアークエンジェル単艦で1000隻を超える連合とザフトの艦を一隻残らず撃沈させたのだ。

 

そしてビッテンフェルト艦隊を打ち破ったアークエンジェルは今、月へと向かっていた。

各コロニーを消滅させた敵艦隊はその後、地球の衛星軌道上に集結しているが、ただ一つの艦隊だけ、その集結へと参加せずに月を目指して飛んでいるのだ。

このままでは月もコロニーのように虐殺されてしまう。

コーディネーターは後でコーディネーター技術でいくらでもすぐに生み出せるがナチョラルはそうはいかない。

ナチョラルは赤子で生まれ、成人するまでに20年かかる。

そして復興に必要なだけの人口を確保するのに更に数年かかるだろう。

コーディネーターが死ぬのとナチョラルが死ぬのでは命の重みが全く違うのだ。

故に、ムウラフラガ首相はすぐさま月へ侵攻する敵を追いかけることを選んだ。

 

「敵はエンディミオンにあり!あれだ!あれを行かせるな!」

 

アークエンジェルの向かう、月。そこへと向かう敵艦隊を指差し、更に速度を上げるように指示を飛ばす。

その指示を受けたアーノルド・ノイマンはアクセルペダルを折れるのかと思うぐらいに全体重をかけて踏み込む。

バーニアが爆発するような音を立てアークエンジェルを月へと、あの憎き艦隊へと喰らいつけとばかりに押し出していく。

だがビッテンフェルト艦隊と戦い、敵艦隊よりも月に向かうのが遅れてしまった事実は覆せない。

このままでは敵艦隊のほうが先に月へと到着するだろう。

敵艦隊がすでに到着後にすぐに爆撃できるようにミサイルハッチが開いているのが見える。

少しでも月につくのが遅れればミサイルで月が破壊されてしまう。

そのことを理解してしまったのだろう。

艦橋のクルーたちは青ざめた顔でオロオロと辺りをうろついている。

月に家族がいるあるクルーは「もう我慢出来ない!これなら泳いで行ったほうが早い!」と怒鳴りアークエンジェルの艦橋ハッチを開け、外へと飛び出していく。

当然だが、そんなことをしたらアークエンジェルから振り落とされ宇宙の彼方へと漂流してしまい、彼の生存は絶望的だ。

だが、誰もが他の人にかまっていられるほど正常な判断ができず、その奇行を止めることはなかった。

 

まさに絶体絶命の危機。

 

否、艦橋の中、ただ一人、時の賢者シズコ・ヤマトだけはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「あの愚かな抜け駆け艦隊には絶望の光を味あわせて上げましょう」

 

その言葉に、他の人達は誰も真意を理解できないといった呆然とした顔を向ける。

 

「月へと通信を!アレを使うわよ!」

 

それはまさに帝国軍にとっては絶望の光となるのだった。

 

 

 

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帝国軍艦隊はコロニーを破壊後は、地球の反応を見て改めて戦略を立てるために一度衛星軌道上へと引いて集結するようにラインハルトが命令をくだしていた。

 

だがただ一人、その命令に従わず、月へと向かった艦隊。

 

それは「帝国軍の双璧」の一人、疾風迅雷のウォルフガング・ミッターマイヤー上級大将が率いる艦隊だった。

 

「閣下。本当に集結地点へと向かわなくていいんですか?これって抜け駆けでは」

 

「馬鹿め。俺は疾風迅雷のウォルフガング・ミッターマイヤーだ。誰よりも二手三手先を読み、先取りして行動することが求められているんだ!お前ら俺らの仕事はなんだ!」

 

「もっと早く!速く!疾く!敵が想定するよりも疾く!味方が想定するよりも疾く!誰よりも疾く!」

 

「そうだ!戦果さえ上げてしまえばどうとでもなる!ミサイルの準備!一撃で月を粉々にしたあと、その爆風で更に加速するんだ!そのまま地球へと向かい、地球も破壊して勲功第一位で出世だ!お前ら!地球を攻略後はお楽しみだぞ!誰よりも先に降りて金も女も全部我が艦隊で独占だ!農奴がいっぱい手に入るぞ!これでまた我が領地は栄えるだろうな!」

 

「俺ら、閣下についてきて本当に幸運です!」

 

「ははははは!そうだろう!む?何やら月から光が?攻撃か?とりあえず防御態勢を取れ!」

 

月へと攻撃可能距離まであと僅かというところで、ミッターマイヤー艦隊が月からの不可思議な光を捉え、警戒のために散開する。

その不可思議な光はどんどんと輝きを強くし、そして巨大な光の柱となり、ミッタイマイヤー艦隊へと襲いかかる。

光の柱に飲まれた戦艦は一瞬で蒸発する。

ミッタマイヤー艦隊をその光が通り過ぎる頃には100隻の戦艦が蒸発していた。

だが、ビッテンフェルト提督と違い、防御能力にも優れていたミッタマイヤーは艦隊を散開させていたため、逆に言えばその程度の損害ですんだのだ。

 

「ふぅ、驚かせおって。確か日本のことわざで窮鼠猫を噛むというやつか。だがそれも無駄に終わったな。先程の発射工程を見るのに、撃つのに時間がかかる上に発射前に散開する時間すらあるほどだ。次を撃たせる暇などもう与えん!全艦攻撃開始だ!!」

 

ミッタマイヤーの号令で全艦前進を再開する。

 

だが、その前にミッターマイヤー艦隊の後ろから再度光の柱が襲いかかり、またもや百数隻を蒸発させる。

 

これにはさすがのミッタイマイヤーも指揮席から飛び上がって驚いた。

ゴロンゴロンと指揮席から転がり落ちたミッターマイヤーを愛妾であるお付きの少年兵が支える。

ミッターマイヤーは少年兵の尻を撫でながら落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせながら立ち上がる。

そして索敵兵に怒声をあげる。

 

「後方に敵に回り込まれるとはちゃんと索敵しているのか!」

 

いつも朗らかな性格のミッターマイヤーが珍しく上げた怒声に索敵兵はしどろもどろになりつつ答える。

 

「後方の攻撃可能な範囲に敵はいません!それに今の光は先程月から放たれた光と同一です!」

 

「バカを言うな!ビームだかレーザーだか知らんが、そいつがUターンして戻ってきたというのか!」

 

「あれを!あれを見てください!その光が今まさにUターンしています!」

 

索敵兵が光が飛び去った方向を望遠機能で拡大する。

 

その先には筒型の移動コロニーが待機している。

光の柱はそのコロニーの中を通過するとグルっと曲がり、再度ミッターマイヤー艦隊へと飛び込んできた。

またもや百数隻を蒸発させた光の柱。

索敵兵はすかさず光の飛んでいく先をモニターに映し出す。

筒型コロニーがすばやく光の向かう先に回り込み、光の柱の侵攻先を捻じ曲げる。

 

艦隊の周り広範囲を索敵すると筒型コロニーが多数あり、それらが光の先に回り込み、何度でも帝国艦隊へと光の柱を叩き込むべく動いていた。

 

「な・・・なんだこれは・・・これでは逃げようがないではないか!」

 

ミッターマイヤーは信じられない光景を見て絶望の表情を浮かべる。

 

これこそがシズコが用意した最強の切り札。

 

月面ダイダロス基地に設置された巨大ビーム砲と筒型コロニーを使ったオールレンジ戦略砲『レクイエム』である。

もともと地球連合軍が隠し持っていた兵器であるが、シズコの知略で撃たせることもなく秘密裏に奪取して隠していたのだ。

 

これによってミッターマイヤー艦隊は次々と削りとられ、最後の一隻、ミッターマイヤー艦隊旗艦だけになる。

 

持ち前の疾さで味方艦を盾にして避けてきたミッターマイヤーだったが、流石に1隻になってしまえば為す術がない。

 

 

 

疾風迅雷のウォルフガング・ミッターマイヤーは顔に絶望を貼り付けたまま光の柱に飲み込まれ蒸発した。

 

 

 

 

 



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第四話 ラインハルトの苦悩

卒業式も終えて春休み!なので最新話投稿です。

感想で指摘を受けたので、姉の持っている同人誌を全部読み、Wikiも確認しました。
本当なら原作も読むべきなので1巻を読んでみたんですが、なんかよくわからないことばかり書いてて数ページで挫折。今度お小遣いが入ったらアニメをレンタルしようと思います。
でもやっぱりBLとしては最高傑作だと再認識しました。

それで今回はなぜ帝国軍がやられたのかの説明回になっています。
これで軌道修正できたはずです。


「ビッテンフェルトに続いてミッタマイアもやられただって!」

 

びっくりしてラインハルトは指揮官席から転げ落ちた。

まさかこんな未開の原住民に帝国軍がやられるなど想像もしていなかった。

 

「いやまてよ、本来の俺たち帝国軍ならどうやっても負けることはないはずだ。でも今回の場合は・・・」

 

 

そう、今回ばかりは帝国軍は不利な状況なのだ。

 

 

何万年も宇宙戦争をしている帝国軍と宇宙に進出して数年のアークエンジェル軍とは技術レベルが数万年以上離れている。

光の速さで動くことができる帝国軍人の乗る船はそもそもそれ以上の速さである。

何しろ光秒単位で銃を打ち合うのだ。

数十キロ先を狙撃したムウラフラガ隊長が凄腕と持て囃される人類とは生物的にも大きな隔たりがあり、本来なら戦闘などおこがましく、吹けば飛ぶような塵芥と同類である。

にもかかわらずビッテンフェルト艦隊とミッタマイア艦隊がやられたのには理由があった。

 

 

元々、ラインハルトは減衰になったばかり。

宇宙帝国減衰に就任して帝国軍艦隊総司令官となり、今回の偵察任務が最初の任務である。

帝国軍は貴族社会なので貴族同士の足の引っ張りあいが酷いのが売りである。

ラインハルトは元々貧乏な帝国騎士階級だった。

後ろ盾のないラインハルトは出世もできず、本来なら父と同じく世間を恨みアル中になっていただろう。

だがラインハルトは帝国軍で出世するために姉のアンネローゼを皇帝の愛人にすることに成功し、今の地位まで上り詰めた。

当然だがその強引なやり口に他の真面目にコツコツやっていた貴族たちは激怒した。

金髪の小僧として揶揄され、陰口を叩かれたり、不本意な任務を回されたりした。

今回の偵察任務もその一つだ。

艦隊総司令官としての最初の任務で躓けば、皇帝も呆れ、解雇になるだろう。

なのでラインハルトは任務を成功させるために全艦隊を動員することに決めたのだ。

 

 

本来なら15万隻の最新鋭の艦隊で見事に偵察任務を完了して華々しくデビューを飾れただろう。

 

 

だが貴族たちはそれを許さなかった。

 

「たかだか偵察任務のために最新鋭の艦隊などはもったいない」

 

帝国荷台貴族のオットー・フォン・ブラウンシュヴァイクとウィルヘルム・フォン・リッテンハイム3世は皇帝にそう忠告した。

これを受けた皇帝は適切な艦隊を支給するようにオットー・フォン・ブラウンシュヴァイクに命じた。

オットー・フォン・ブラウンシュヴァイクが用意した艦隊は帝都オーデンの皇帝博物館に展示されていた5000年前の艦船だった。

 

「常勝の艦隊総司令官様ならこの程度の船で自由軍を討ち滅ぼすこと容易いことです」

 

それを聞いた皇帝は大貴族が太鼓判を押すのならばそうなのだろう。確かにラインハルトはいつも勝ってたから大丈夫だ。そう納得して決定の印を押した。

 

 

当然ラインハルトは激怒した。

だが誇り高いラインハルトはこんな古い船では勝てませんなど口が裂けても言えない。

新しい船をくれと言ってしまえば大貴族へのお願いということで下につくことになる。

かと言ってこのままこの船で任務に行けば負けてしまうかもしれない。

ラインハルトはこのジレンマに頭を悩ませ、どうすればギャフンと言わせれるかを必死に考えた。

 

 

そして考え抜いた末に一つの名案を思いついた。

さすが戦略の天才ラインハルト。

これならば任務成功して自由軍も打ち倒せる。

 

「囮作戦だ」

 

ラインハルトは配下の指揮官たちに今回5000年前の旧式艦艇で出陣して勝利する案を披露した。

 

「まずは旧式艦隊15万隻でイゼルローン要塞に突撃する。自由軍は当然迎撃に来るだろう。そしていくら善戦しようとも旧式では歯が立たず全滅するだろう。

だがよく考えてほしい。全滅してもそれは本来数に入らない旧式の船だ。

それを全滅させた自由軍はこう考える。

これで帝国の全軍は壊滅したと。

自由軍は無防備になった帝国首都星オーデンまで一直線に全軍を上げて突っ込んでくる。

そこで隠れていた本来の帝国軍艦隊が退路を立つように回り込んで攻撃するんだ。

自由軍は旧式艦隊との戦いでボロボロになっているだろう。そこを無理してオーデンまで攻めてくるんだ。

補給もままならず弾も食料もない状態でも戦闘がないとわかってたら全軍を上げてやってくる。

そこに新品で補給万全の帝国艦隊が襲いかかる。

まさに必勝だ。

そしてこの私、ラインハルトは偵察任務で敵軍を壊滅させた稀代の英雄として次期皇帝の座を確実のものにできるだろう。

その際はお前らは全員大貴族として取り立ててやるぞ」

 

その演説を聞いた兵士たちは大喝采でラインハルトを讃え、我先にと旧式艦艇に飛び乗ったのだ。

 

そして現在、アークエンジェルたちに襲いかかったラインハルト艦隊は全部5000年も前の旧式の艦隊ということなのだ。

本来の艦隊なら歯も立たないぐらい実力に差があるアークエンジェルがジャイアンツキリングを成し遂げた理由はこういうことだった。

 

 

「ラインハルトさま。今からでも遅くありません。オーデンで待機している帝国正規艦隊を呼ぶべきでは」

キルヒアイスは苦悩を浮かべたラインハルトに提案する。

 

「いやだめだ、今オーデンから艦隊を呼べば囮作戦がバレてしまい、作戦は失敗する。今回の為に俺がどれだけ根回ししたと思っている。しかもオーデンの正規艦隊を今指揮しているのは皇帝閣下なのだぞ。今か今かと自由軍を待ちわびている皇帝に原住民に喧嘩を売ったら2個艦隊壊滅したと報告するのか?お前も俺も銃殺刑だ。こうなったらこのボロ船でなんとしても奴ら原住民を根絶やしにして有耶無耶にするしかないのだ」

 

ラインハルトの苦悩の戦いは始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 



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第五話 ローゼンリッター出陣

SEED側に有利すぎると言われていますが、帝国軍にも強みはあります。

今回はやっと本腰を上げた帝国軍が逆撃を開始します。

君は生き残れるか!


「ラインハルト様、妙案があります」

キルヒアイスが提案した。

 

「艦隊は旧式でも、兵士は最新です」

 

「兵士?やつらは所詮平民だろう?そんなもの使い物にならないではないか」

 

「いえ、貴族階級のエリート部隊がいます。陸戦隊です。装甲鉄団兵です。常勝不敗のますらお達です。もう呼んでありますのですぐに来ます」

 

ブッブー!

来客のブザーが鳴り、そして扉が蹴り壊される。

司令官室の暑い防御力を誇る装甲が施された頑丈な扉が地面と水平に吹っ飛んでいく。

飛んでいった扉はガシャーンと窓を突き破り、宇宙の彼方へと飛んでいった。

まさに怪力。

荒々しいまでの入場の仕方だ。

だがそれでこそ陸戦隊。肉体の強さこそ評価されるべき真の兵士たちだ。

蹴り破った男は腕組みをしたまた悠然と司令官室へと入ってくる。

身の丈2メートルを超え、筋骨隆々。腕の太さはラインハルトの身長程もある。

背中には血で真っ赤に濡れた炭疽菌でできた斧を背負っている。

彼こそが肉弾戦では帝国軍最強の男。

貴族たちから恐れと畏怖と怯えから石器時代の勇者と呼ばれている。

その反面、類まれなる美貌で女性たち熱狂させる美丈夫でもある。

 

「帝国軍陸戦隊装甲鉄団兵ローゼンリッター隊長、ワンダーフォンシェーンコップ。御身の前に」

 

ラインハルトに忠誠を誓っているような口ぶりだが、その顔は侮蔑にまみれている。

そしてラインハルトの正面に座っていたキルヒアイスを蹴飛ばすと、空いたその席にどっかりと座り、テーブルへと足を叩きつける。

野性味溢れるスタイルが似合う男である。

 

「それで、金髪の小僧閣下が俺みたいな貧乏貴族に一体何のようだ」

 

「何奴!無礼だぞシェーンコップ!」

 

あまりの無礼な態度にキルヒアイスが激高し、銃を取り出し銃殺しようとする。

だが銃を撃つより早く、ショーンコップの体が椅子の上から消える。

からーん。

キルヒアイスの持っていた銃が輪切りになって床へと落ちる。

そしてキルヒアイスの喉元に血濡れの斧が押し当てられる。

 

「小姓の坊やは黙っててくれねーか。俺はお前ごときに指図されるなんて虫唾が走るんだよ」

 

「まぁまてショーンコップ。お前を呼んだのは大事な作戦があるからだ」

 

ラインハルトはショーンコップの荒々しい態度にも動じず、鷹揚に止める。

それを見たシェーンコップは面白くもないとばかりに鼻を鳴らすと斧を振り抜き、血糊を飛ばし背負い直す。

 

「まずは現在の状況を確認しようか。現在、我々は未開の原住民に襲われ、2個艦隊が消し飛んだ」

 

「噂には聞いていたが随分な状況じゃねーか。流石に旧式艦では限度があるってわけかい。でもクソッタレ、栄光ある帝国臣民を殺した罪は重いぜ。しかも降伏勧告もなく女子供関係なく無差別に殺したらしいじゃねーか。とんでもない野蛮人共だ。奴ら全員挽肉にしてやらねーと、気が収まらねえ」

 

「そうだ、落とし前だけはきっちり付ける必要がある。お前たちをはるばるオーデンから呼んだのは、そのためだ」

 

ラインハルトは懐から取り出した数百ページはあろうかという分厚い紙束をシェーンコップの目の前に投げつける。

 

「こんな事もあろうかと日頃から俺が準備していたプランBだ」

 

ショーンコップがその紙束、プランBと書かれた作戦文書を読む。

へぇこいつはなかなか…読み進めるごとにシェーンコップは面白そうに口元を釣り上げる。

緻密にして大胆、周到にして簡潔、鬼才にして王道。

まさにラインハルト節ここに極まれりな神がかった作戦案だった。

 

「そうだ。ガンダムには勝てずともアークエンジェルならば。そしてそれを動かしている兵士になら勝てる」

 

「揚陸作戦ですな」

 

「そうだ、ローゼンリッター全軍を使ってアークエンジェルに乗り込み、白兵戦で制圧。その後ガンダムを遠隔で自爆させるという作戦だ」

 

「ローゼンリッターの揚陸艇1万隻、そして隊員100万人を動員した空前絶後の大作戦ですな。1万隻と全隊員をいきなりオーデンから呼び出したから何事かと思ったらこんな面白いことを考えてたなんてね、閣下、俺は一生テメーについていくぜ」

 

 

 

- SEED Side -

 

びーびーびー

 

警告音と同時にアークエンジェルに衝撃が走り指揮官席で寝ていたマリューラミアス提督が転がり落ちる。

指揮官席はなぜシートベルトがないのか。

何かあったら指揮官が転がり落ちるのが様式美なのか。

他のクルーの席は全部シートベルト完備なのに指揮官席だけついていないのはなにかの陰謀を感じる。

そのようなことをぶつぶつと愚痴りながらマリューラミアス提督は起き上がり、「いったいなにがあたー」とクルーへと大声で誰何する。

 

「マリューラミアス提督!揚陸艦です!1万隻の揚陸艦がアークエンジェルを囲むようにワープしてきてどんどん接舷してきています」

 

レーダー担当の士官が悲鳴を上げ報告してくる。

 

「敵が!兵士がどんどん艦内に乗り込んできてます!あれはローゼンリッターだ!」

 

「ローゼンリッターだって!やつら、戦場に出たら敵の死骸の山をまたたく間に作り上げる装甲鉄団兵のエリート部隊だろ!なんでこんな未開の地に来るんだよ!」

 

「ギャー私の腕がー!腕が切り落とされたー!」

 

「俺の下半身・・・俺の下半身どこいったんだよ・・・・おれ・・・の・・・ガクリ」

 

ブリッジはまたたく間に大混乱になった。

 

「静まりなさい!皆さん落ち着くのです!らーーらららーーーらーーらららーー」

間一髪。ラクスが現れて歌を歌いだすと、ブリッジのクルーたちはその美しい歌に惹かれ心ここにあらずといった恍惚な笑みを浮かべ、大人しく席へと戻っていく。

 

 

「皆さん正気に戻りましたか。では落ち着いて、現状を報告してください」

ラクスは優しげな笑みを見せながら安心させるように指示を出す。

 

「はい。現在艦内に帝国軍の装甲鉄団兵100万人が侵入してきて、戦闘状態に突入しています。いま現場のカメラの映像を出します」

 

モニターに激しい戦闘風景が映し出される。

斧を持った筋骨隆々の厳つい男たちがどんどん艦内に入り込んでアークエンジェルのスタッフを斬り殺している。

 

だがアークエンジェルは人類の希望となる旗艦であるので、乗り込んでいるスタッフも一流だ。

すぐに迎撃するためにバリケードと塹壕に鉄条網を構築し、侵略を抑え込む。

彼らは全員アークエンジェルに配備される為だけに物心ついたときから選抜され常に戦地で戦い続けたエリート兵なのだ。

モビルスーツ搭乗時間も10万時間以下の者は一人としていない。

だが多勢に無勢という言葉もまた真理。

烏賊にすぐれた兵士であろうとも、アークエンジェルに配備されている兵士の数はたったの5000人。

100万対5000。

一人当たり約400人と戦わないといけない比率だ。

普通なら勝率などまったくないであろう。

そう、普通なら。

 

それでもまだ均衡を保てる理由の一つは装甲鉄団兵にあった。

 

装甲鉄団兵は騎士道精神を重んじる部隊であり、皇帝陛下に恥をかかさないため常に正々堂々と戦うのが決まりだ。

なので卑怯な銃や爆弾は使わず、炭疽菌クリスタルでできた斧一本で肉弾戦をするのだ。

それも真正面から堂々と。

 

それに対し、アークエンジェル軍は重火器やミサイル、迫撃砲に地雷原、更には戦車や戦闘ヘリを駆使して戦う。

 

それだけではなく…

 

「援軍が来たぞ!ストライクダガーだ!」

 

アークエンジェルの整備室に繋がる通路の奥から多数のストライクダガーがフル装備で駆けつけてきた。

流石に艦内なのでビーム兵器はアークエンジェルのPS装甲を貫通してしまうため使用できないが、ミサイルランチャーやマシンガンで武装しているため強力な助っ人には違いない。

無数の装甲鉄団兵の群れに向かって乱射しながら突っ込んでいき、なぎ倒していく。

だが鉄団兵も負けてはいない。

戦車やヘリ、そしてモビルスーツにまとわり付き、しがみつき、強力無比な斧を装甲へと叩きつける。

装甲鉄団兵の持つ炭疽菌クリスタルは人工ダイヤモンドで、ガンダムの装甲よりも硬いのだ。

いくら人間が手持ちで使うサイズでもアリがたかるように無数にしがみついて延々とその斧で叩かれたらあっという間にスクラップになってしまう。

 

まさに一進一退の攻防が展開されていた。

 

これぞ稀代の戦略の天才、ラインハルトの神のごとき作戦であった。

あぁまさに恐るべしラインハルト。

 

これに対抗できるキラ・ヤマトは未だにベッドの中。

 

彼が目を覚ますまであと5時間。

 

それまでにブリッジを支配できるか。

まさに時間との勝負であった。

 

 



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第六話 歌の力

アイドルマスタータグは今回の話から。Fateタグは次回登場する予定です。

感想でタグを指摘されたので。
銀英伝のDVDレンタルしに言ったらアイドルマスターのDVDがあってそっち借りてハマっちゃいました。
アイマスってロボアニメだったんですね。勘違いしてました。


「くっそマジつえー」

「うでがーうでがー」

「俺の下半身どこいったー下半身―ガクリ」

 

あちこちで被害が拡大している。

 

敵将シェーンコップは不可能を可能にする男ムウラ・フラガ首相が一対一で止めているので壊滅的というほどではないが、それでも兵士の数では圧倒的に不利。

ジリジリと押されてきていた。

 

キンキンキンキン!

シェーンコップの振るう斧とムウラ・フラガの愛機アカツキ改のビームサーベルが何度も打ち合わされる甲高い金属音が鳴り響く。

キキンキンキンキキンキンキン!

その音は時間を減るたびに加速する。

斬る薙ぐ逸す避ける突く斬る斬る薙ぐ薙ぐ逸す逸す避ける避ける突く突く

お互いに一歩も引かず、卓越した技量でお互いへの致命打を打ち、そして尽くをお互い回避していく。

斬る薙ぐ逸す避ける突く斬る斬る薙ぐ薙ぐ逸す逸す避ける避ける突く突く飛ぶ飛ぶ穿つ穿つ跳ねる跳ねる抉る抉る斬る薙ぐ逸す避ける突く斬る斬る薙ぐ薙ぐ逸す逸す避ける避ける突く突く飛ぶ飛ぶ穿つ穿つ跳ねる跳ねる抉る抉る斬る薙ぐ逸す避ける突く斬る斬る薙ぐ薙ぐ逸す逸す避ける避ける突く突く飛ぶ飛ぶ穿つ穿つ跳ねる跳ねる抉る抉る

もはや常人には到底理解どころか視認すらできない光の速さまで到達している。

その剣速は1秒間に1万発。

余波だけで通路の床という床、壁という壁を切り裂き崩落させ、お互いの兵はその空間に近寄ることすら許さない。

彼らが戦っている半径10キロは誰も近寄れない空白地帯ができていた。

 

 

だがシェーンコップは抑えれても、こちらもムウラ・フラガが同時に抑えられている状況。

装甲擲弾兵にはもうひとりの将軍オフレッサーがいる。

 

そのオフレッサー将軍の指揮のもと、装甲擲弾兵は悠然と戦場を闊歩する。

 

ブリッジへ続くメイン通路。

そこまであと少し。

そこまでたどり着かれるとあとはブリッジまで直線なので防衛が厳しくなる。

投入されるモビルスーツも虎の子のガンダム部隊を残し数百機もはや出し惜しみなどできない。

 

 

このままでは防衛は難しいか。

防衛部隊の隊長はいざとなったら自爆を覚悟せねばと嘆息する。

だが運命の女神はまだ彼らを見捨ててはいなかった。

 

 

「抱きしめて!銀河の果てまで!」

 

 

通路後方からステージがせり上がり、ライトアップと共に歌が戦場に響き渡る。

ステージに立つのはラクス直轄戦術歌唱部隊756小隊所属のアイドルたちだ。

 

 

「プロデューサーさん!戦場ですよ!戦場!」

「この私が歌ってあげるんだから、無様な姿見せたら承知しなんだからっ!」

「「はるるんもいおりんも久々の戦場で高ぶってるぞ、亜美と真美も負けないように精一杯歌うから兄ちゃんたちもうーんと頑張って戦ってね」」

 

アイドルたちが歌い出すと今まで心が折れかけていた兵士たちが活力を取り戻していく。

重症をおって気を失っていたり、手足がもげて瀕死状態だった者たちも次々と起き上がり、残り少ない命の灯を燃やし尽くすかのように光の消えた目を敵へと向け、突撃していく。

 

アークエンジェル軍の兵士たちはコーディネイター手術の際に特定の周波数の歌を聞くと戦意を高めたり、痛みを感じなくなったり、また逆に混乱していた心を沈めて気を落ち着かせたりといったバフを受けることができるようになっている。

戦術歌唱部隊は戦場で歌をうたうことによって、それぞれの状況にあったバフを兵士たちに与える特殊部隊なのである。

 

ラクスがザフト時代に培った歌による民衆への心理的影響に関する研究を実践的に採用したのだ。

先程ラクスがブリッジのクルーを落ち着かせたのもこのバフの効果である。

これによって恐怖も痛みも感じず最後の一兵まで勇敢に戦い抜く理想の軍ができたのだ。

 

 

「サクリファイスソング・隣へ・・・」

 

アイドルの三浦あずさ少尉が『隣へ…』を歌うと、特殊な装備を身にまとった兵士500人が次々と敵へと突撃していく。

その兵士の顔は無表情。ただ「生まれ変わっても君を見つける」とだけぶつぶつと言いながら敵の元へと全力で走り続ける。

そのあまりにも不気味さに装甲擲弾兵が近寄りがたいふいんきを感じ、遠くから斧を投げつけて殺そうとする。

だが兵士たちは頭が潰れようが足が無くなろうが止まることなく走り続け、敵まで接近してくる。

その止まらない理由は彼らの装備したパイロットスーツにある。

三浦あずさ少尉だけが使える特殊ソング『隣へ…』の部隊に配属された兵士は特殊なパイロットスーツを着ている。

それは歌が発動すると敵をロックオンし、たとえ装着者が途中で死のうともスーツが動きを補佐して任務を完遂する機能があるのだ。一種のパワードアーマーである。

そして、敵へと接近すると敵を思いっきり抱きしめ、肉体内部に仕込んである超高性能戦略核が炸裂する。

腸の部分に収められるサイズの小型サイズにかかわらず、戦略級の威力を誇る核爆弾が炸裂すると、ガンダムタイプのモビルスーツすら蒸発する威力がある。

元々モビルスーツの保有数が少ないアークエンジェル軍が兵士でモビルスーツを倒せるようにと開発された特殊部隊だ。

ただその特殊性故に高い包容力を持つ三浦あずさ少尉にしか使用できない。

この攻撃で敵を5万人ほど削ることができた。

まさにキルレシオ100倍である。

 

「遠い彼方へ旅立ったのね、また私を一人置き去りにして。ずっとそばに居てくれるといったのに嘘つきな人たち…」

 

散りゆく兵士たちを見ながら三浦あずさ少尉は一人涙を流す。

 

 

また歌は味方へのバフのためだけではない。

男性アイドル白銀御行が装甲擲弾兵へと自慢のラップを歌う。

 

「ボエ!ボエ!ボエ!ボエ!ボエ!ボエ!ボエ!ボエ!ボエ!ボエ!」

 

音程とリズムが異次元へと乖離したなまこの内臓のような歌声が敵へと響く。

それを聞いた装甲擲弾兵たちは口から泡を吹きながら倒れていく。

彼の歌は指向性を伴う音響兵器として特化したもので、例え鼓膜を破ろうとも脳へと直接響かせ地獄へと引きずり込む魔性の歌声の持ち主なのだ。

この歌によってまた1万人ほどの装甲擲弾兵が戦線離脱を余儀なくされる。

 

 

「あのアイドルどもだ!あのアイドルどもを倒せ!」

 

アイドルたちの歌の危険性に気づいたオフレッサー将軍はそれをやめさせるために禁忌をやぶってブラスターで狙撃させる決断を下す。

 

「インベル!おねがい!」

アイドル天海春香が叫ぶと、彼女の後ろから全長38メートルの大型ロボットが飛び出し、重力レイヤーとも呼ばれる防御フィールドを展開してブラスターからアイドルたちを守る。

インベルと呼ばれたそのロボットはロストアルテミス社が作り出したiDOLと呼ばれる謎のロボットである。

特殊な資質を持った人にしか操縦できないロボットであり、アイドルたちは歌うアイドルであり、同時にiDOLを制御するidolm@sterでもあるのだ。

先の戦争で多数のiDOLを喪い、残り少ないiDOLのうちの一つがこのインベルであり、アイドルたちを守る最後の砦でもあった。

故にインベルがいる限り、アイドルたちを倒すことは難しい。

そしてインベルの攻撃と死兵と化した兵士たちによって装甲擲弾兵の猛攻は尽く食い止められていく。

 

 

帝国軍旗艦

 

「うぬぬ。文明すら持たない未開の猿どもが!小癪な木偶人形を使いおって!」

 

もはや勝ったも同然と優雅にマッサージを受けながらワインを嗜んでいたラインハルトは、その映像を見て顔を真っ赤に怒りに染め上げ手に持ったグラスをオーベルシュタインに投げつける。

 

「オーベルシュタイン!参謀の貴様が何をこんなところで突っ立っている!あの猿どもを駆逐する策をひねり出すのがお前の仕事だろうが!」

 

「お言葉ですがラインハルト様、プランBは未だ始まったばかり。まだ2手3手と残されております。やられたのはせいぜい10万。残り90万を残らず投入しておりますれば、所詮敵兵5000など造作もなく押し切れます。このまま突撃されるのがよろしいかと」

 

それを聞いたラインハルト。

常に冷静で頭脳明晰な王者の脳が冴え渡る。

 

「ふむ、確かに妙案だな。よし、下手な小細工などより数で押しつぶすのが王道。獅子はネズミをかるのも全力を尽くすのだ。いざとなったら第二、第三の装甲擲弾兵をオーデンから呼び出すのだ」

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間58分。

戦いはまだまだ加熱していく。

 



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第七話 失われた半身の為に

Fateは原作のZeroが一番好きです。続編のSNもかっこいいキャラ出てくるんですが、主人公くんが微妙。
Zeroが売れたからって二番煎じで作られたけど、子供受けを狙って主人公を若くしたんだろうね。
でもアーチャーとランサーは好きです。


シェーンコップとアカツキ改の激しい戦いが行われている頃。

 

アークエンジェル、最高級VIPルーム。

 

照明が落とされて窓からは綺麗な夕日が差し込む部屋の中。

窓の外には接舷している無数の揚陸艇が見えるが、部屋の主はそれを意に介さない様子で、ただベッドの上で寝息を立てる青年たちを慈しみの眼差しで見ている。

 

ベッドの上で静かに寝息を立てているのは、キラ・ヤマト、アスラン・ザラー、イザーク・ジュール、シン・アスカ、レイ・ザ・バレル、アンドリュー・バルトフェルドの7人。

 

それぞれ、全裸で満足しきった恍惚な笑みを浮かべ寝入っている。

 

部屋の主、時の賢者シズコ・ヤマトもまた全裸の上にガウンを羽織り、ソファーの上でワインを飲みながら優雅に寛いでいる。

 

「パスはちゃんと繋がってるわね」

 

ポツリと呟いた彼女に姿なき声がかけられる。

 

「この時代の英雄、死後を守護者になることが決められている逸脱者、それを7人分。そんな膨大な魔力を受け止めれる君の才能には恐れ入る」

 

「これぐらいしないとあの金髪の獅子には勝てそうにないものね、それにしても未来の守護者の魔力で呼び出されたのが別世界線の守護者とは皮肉がきいてるわ」

 

「あの母にしてこの娘ありか。まさか親子二代に渡ってこき使われるハメになるとはな。だが私を簡単に御せるなどと思わんことだな」

 

「まぁお手柔らかにお願いしますわ、お父様」

 

 

---

 

 

 

同時刻

 

ドンッドンッドンッ!

ドンッドンッドンッ!

ドンッドンッドンッ!

ドンッドンッドンッ!

ドンッドンッドンッ!

ドンッドンッドンッ!

 

青い空に儀礼兵の弔砲の音が響く。

その数、21発。

故人がどれだけの人望があったのか、それが伺える数である。

 

ここは帝国首都星オーディン、高級貴族用墓地ヴァルハラ霊園。

そこで慎ましくもしめやかにミッターマイヤー上級元帥(2階級特進)の葬儀が行われていた。

 

「ミッターマイヤー様は私に最後まで希望を捨てるな。生き恥を晒してでも人類の勝利のために戦えと言って私を脱出ポッドに載せ敬礼を送ってくれたのです。一緒に逃げようと私が進言しても、艦長である自分はこの船と最後をともにする義務があると頑ななまでに拒み、旗艦と最後をともにしたんです」

 

ミッターマイヤーの副官が彼が生前どのように勇敢に戦ったのかを涙を流しながら語っていた。

それを聞いている彼の部下たちは嗚咽を漏らしながらやけ酒を煽っている。

 

その片隅で、ロイエンタール提督が静かにはらはらと涙を流しながら佇んでいた。

彼の胸中は愛すべきミッターマイヤーが亡くなった悲しみと、それを謀ったラインハルトへの憎しみの2つの感情が渦巻き巨大なうねりとなり、そして自らを復讐の凝縮態へと変貌させていった。

 

 

 

---

 

 

 

1時間前、首都星オーデン、衛星軌道上、ロエインタール艦隊旗艦、執務室

 

「なんだと!ミッターマイヤーが死んだだと!」

 

寝耳に水な言葉を聞かされ思わず激高して立ち上がるロイエンタール。

それに対して無表情ながらどことなく沈痛なふいんきを漂わせるオーベルシュタイン。

 

「はい、ミッターマイヤー上級大将、いや今は二階級特進してミッターマイヤー上級元帥ですな。彼はラインハルト陛下の無謀な命令によって単艦で敵の基地へと攻撃を命じられ、奮戦の末惜しくも戦死されました」

 

その言葉を聞き、常に冷静沈着なロイエンタールが珍しくも顔を青くしたり赤くしたり、口をパクパクとあけしめしたり、まさに混乱の心地である。

 

「我が友…ミッターマイヤーが…そんな…まさか…」

 

信じたくはない、そんなことは信じたくはない、そんな様子できつく目をつぶり、頭を左右に振るロイエンタール。

そんな彼にオーベルシュタインはズボンのポケットからハンカチーフを取り出し、ロイエンタールへと差し出す。

そのハンカチーフを開けば、そこにあったのは。

 

「これは!ミッターマイヤーの髪!まさかこれは…」

 

「はい、ミッターマイヤー提督の遺髪になります。ミッターマイヤー艦隊全滅の報を受け、至急御遺体を探しに戦場を捜索いたしたところ、戦艦は高出力のビーム兵器で破壊されており、兵たちの遺体もほとんど蒸発したりバラバラの状態でありました。そんななか、なんとかミッターマイヤー提督の遺髪を見つけ、それを持ってミッターマイヤー提督が戦死したことを認定、ラインハルト陛下に報告したのですが…」

 

 

『ええい、私の栄光ある常勝不敗の戦歴を汚すやつなど配下などとはいえん、ミッターマイヤー?聞いたことがないな。データベースにも乗ってないぞ。汚らわしい髪など持ってくるな』

 

「そのように言われ、ラインハルト陛下はミッターマイヤー提督の遺髪を土足で踏みにじりました。小官は悔しくて仕方がなく、こうしてミッターマイヤー提督の旧知であるロイエンタール提督のもとに馳せ参じたのです。ラインハルト陛下は次期皇帝の器にあらず。ロエインタール提督こそ、この銀河英雄帝国をまとめ上げ、皇帝となるに相応しい王者と考えております」

 

「おのれ・・・おのれ、ラインハルトぉぉぉ」

 

「ですが、ロイエンタール提督、唯一つだけ、朗報があります。実はラインハルト陛下が狙っているものが分かったのです。それは・・・」

 

 

 

----

 

 

 

彼、ミッターマイヤーとの出会いは唐突でそして鮮烈だった。

 

 

 

「金銀妖瞳か。その瞳、とても美しい」

 

 

 

自ら忌み嫌っていた瞳を揶揄されたのかと激高しそうになったが、まっすぐな彼の強い眼差しにそうではないと分かり、戸惑いを覚えた出会い。彼は戸惑う私を壁へと押し倒し、更に瞳を覗き込んできた。

 

「美しい、だが寂しい瞳だ」

 

そして唇を奪われた。

 

「君はまだ本当の愛を見つけられていなんだね、君は女性を愛せない。その瞳と同じように、普通の愛じゃ満たされないんだ」

 

彼の言葉は私の胸を深く貫いた。

 

 

それから私は彼と共に行動するようになった。

 

当然のように体も彼に差し出すようになった。

 

だが彼には婚約者がいて、そして任官後、その婚約者と結婚した。

 

それでも彼は私と寝ることをやめようとはしなかった。

 

「私の家は厳格な家でね。人と違うことは認められていないのさ。だからエヴァンゼリンと結婚した。俺は卑怯な男だ」

 

私が彼の妻に対する不義理からもう会うのは止めようと言ったら、彼は泣きそうな顔で告白した。

 

「エヴァンゼリンはいい子さ。純粋で汚れることも疑うことも知らず、私が軍人で今まで何億人という敵国人を殺していることすら理解していない。・・・そして・・・私の本当の愛がどこにあるのか。それすらも理解していないのさ」

 

そういって、私の体を力強く抱きしめてきた。

誰にも理解されない悲しみ、それが辛くて仕方がないと彼は泣いていた。

 

「私も。私もそうだ。いくら女を抱いても満たされることなんてなかった。いつだって私を殺そうとした母が脳裏にちらつくんだ。愛していると言っているこの女ですら、母のようにいつか私を殺そうとするのだろう。そう思えてしかたがなかった」

 

 

「ただ、ミッターマイヤー。君に抱かれているときだけが唯一安らげるんだ。私には君が必要だ。だから泣かないでくれ、ミッターマイヤー」

 

ミッターマイヤーとロイエンタールはその時から一つの存在となった。

 

 

---

 

 

私の半身でもあるミッターマイヤーを殺してラインハルト。

 

絶対に許す訳にはいかない。

 

オーベルシュタインは語った。

ラインハルトは地球という星の冬木市という場所で行われる魔術儀式が狙いなのだと。

その魔術儀式で聖杯が現れ、その聖杯を手にしたものは何でも望みが叶う奇跡が得られると。

 

 

ラインハルトの願いは全人類を支配すること。

そんな子どもじみた願いのためにミッターマイヤーは殺された。

そんなどうでもいい願いのためにミッターマイヤーは殺された。

それがどうしようもなく許せない。

 

 

そしてその聖杯を手に入れればミッターマイヤーを生き返らせれる。オーベルシュタインはそう言い、参加するための魔術書を渡してきた。

 

こうなった今、やることはただ一つだ。

 

 

 

「ロイエンタール艦隊、全艦隊に告げる。これより我が艦隊は地球へと出撃する。目標は冬木市の制圧だ!全艦出撃せよ!」

 

ロイエンタール艦隊10万隻が首都星オーディンから出発した。

 

彼の傍らには、全身を黒い鎧に身を包んだ異形の騎士が立っていた。

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間56分。

復讐の鬼が地球へと旅立った。

 

 




原作をガンダムにしてみるテスト。後で銀英伝に戻すかも。


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第八話 ヤン・ウェンリーの布石

おはようございます。
今回は感想でいろいろ誤解されていたので科学的な説明回となります。


シェーンコップとアカツキ改の戦いは熾烈を極めていた。

 

この戦い、一見身長3mのシェーンコップと20mのアカツキ改では、大きさの差がありすぎて勝負にならないように見える。

だがそれは実際の戦闘を経験したことのない素人がライト級ボクサーがヘビー級ボクサーに勝つのは不可能と言っているようなものである。

武道に熟練した者ほど、柔よく剛を制すという言葉の重要さを理解するだろう。

20mサイズのアカツキ改が兵士一人と戦うということ、それは人間がハエを相手に戦うということだ。

小さくてすばやく動くハエを素手で捉えて倒すのすら苦労するのに、それをMSを操縦して行うことなど非常に難しいことは科学的に明らかである。

MSはもともと戦闘機やMS、戦艦といったサイズの敵を相手にすることを想定していて、歩兵を相手にする際には弾幕を張ったり広範囲を爆撃して倒すことはしても、ビームサーベルで歩兵を斬るなど想定していないのである。

なので、素早く動く熟練した武術の達人の動きは如何に超天才的な操縦技術を持つムウ・ラ・フラガ首相でも難しいのだ。

その上、戦っているのはアークエンジェルの中。

アークエンジェルを破壊するなんてもっての外であるので、普段は使えている銃火器を一切封印してビームサーベルだけで戦わざるを得ない。

 

更に、ここは宇宙だ。

故に無重力である。

 

つまり、現在アカツキ改の重量は0グラムである。

本来は90トンあるアカツキ改の重量も、無重力だと0グラムになる。

シェーンコップも体重が0グラムになるが、同じ0グラム同士、力が均衡する。

であるからして、格闘戦が成立するのだ。

すばやく動き、攻撃の届かない懐に飛び込み斧で斬りつける。

まさに小さい歩兵の利点を活かした戦い方だ。

 

そして、アカツキ改には致命的な弱点がある。

それは本来、アカツキ改の大きなメリットである、ビームに対する絶対的な防御である黄金の装甲である。

ヤタノカガミと呼ばれるそれは、ビームを完全に無効化するのだが、それ故に質量兵器に対する致命的なまでの脆さがある。

アカツキ改はヤタノカガミを実現するためにすべて純金で出来ている。

純金は普通の人は触ったことが少ないだろうから気づきにくいが、非常に柔らかいのだ。粘土のように。

そして、シェーンコップの持つ炭素クリスタルの斧は、人工のダイヤモンドで出来た斧である。

ダイヤモンドはこの世で一番硬い物質で、どんな力を持ってしても破壊することは不可能である。

たとえビームに焼かれても何億トンの重量をぶつけられても傷一つ付かないのがダイヤモンドの特徴である。

そんな硬いダイヤモンドで出来た斧で純金の装甲を殴ればどうなるか。

一撃で豆腐のようにグチャグチャに飛び散るだろう。

故に、ムウ・ラ・フラガ首相は一撃でも喰らえば負けてしまうため、回避に専念する必要があるのだ。

 

どちらも一撃を与えれば倒せる、そして一撃も食らうことが出来ない。

そんな状況だからこそ、戦いは拮抗する。

 

 

現在、アークエンジェルは衛星軌道上にいる。

それは衛星軌道上に配置されたジェネシスとドッキングしてるからだ。

150万隻という大艦隊を擁する銀河帝国と戦うには大火力が必要だ。

故に、ザフトから接収したジェネシスとドッキングしている。

これは大戦後に接収したジェネシスを有効活用するためにアークエンジェルとともに改修されたのだ。

そのようなわけで現在アークエンジェルwithジェネシスの大きさは、直径100万キロほどの大きさになっている。

もちろんこんな大きさだと移動できないので、ジェネシスは衛星軌道においてあり、ドッキング中はアークエンジェルも動くことは出来ない。

なので、揚陸艇がワープしてきた際に、移動できずに接舷を許してしまった。

痛恨の極めである。

だが、ドッキングしていたため、内部はとても広く、MSや戦闘機などで防衛できている。

 

 

これは5年ほど前、自由惑星同盟のイゼルローン要塞から技術供与され、衛星型要塞として機能させるために作られたもので、ブルーコスモスやデュランダル議長との戦いの際に大活躍した。

ヤン・ウェンリーがいつかこの地球も銀河帝国の侵略を受けるのではないかと危惧して先んじて手を打っていたのだ。

まさに神算鬼謀といえる。

故に、如何に装甲擲弾兵といえど、攻略に手間取っているのだ。

 

 

つまり、未だアークエンジェル軍と帝国軍が拮抗した争いを続けれるのはヤン・ウェンリーの布石あってのこととも言えるだろう。

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間54分。

戦いは更に加熱していく。

 

 



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第九話 時の流れに身をまかせ

帝国軍装甲擲弾兵がアークエンジェルへの攻撃を開始して、そろそろ6分が経過しようとしていた。

 

「ラインハルト様、おせち料理が出来ました」

 

キルヒアイスが幾人もの料理人を従えて、テーブルに料理を広げる。

そう、今日は帝国の暦では正月に当たる日だった。

 

「ふむ、そうか、今日は帝国では1月1日なのだったな。地球とは時差が数ヶ月ずれているから忘れていた」

 

「自由惑星同盟でも数ヶ月ずれていますから年3回はおせち料理が食べられる。それが軍人の役得ですね」

 

「クリスマスプレゼントも年3回だ。なんとも夢が広がる話だな。それにしても地球への進行を開始してからもう6年も経つのだな」

 

ラインハルトは窓から煌めく太陽を見つめ、遠く離れた故郷を思いアンニュイな気分になる。

そろそろアンネローゼにも皇帝との子供を作ってもらわなければな。

そしてその子供の摂政になり、時期を見てその子供は風邪をこじらせて私へと皇帝位を禅譲する。

これならば波風は経つまい。

あとは二代貴族はイゼルローン要塞攻略の任務を与えて、自由軍にトールハンマで蒸発してもらえば。

あとはめぼしい貴族など居ないからな。

 

だが、それも保険の一つ。

その方法では真の意味で私を絶対皇帝として全員が敬う存在にはなれない。

 

ラインハルトは懐から一冊の本を取り出してペラペラとめくる。

実家の書庫で見つけたこの古文書。

『冬木市聖杯戦争について』と書かれた、かのルドルフ大帝による直筆の古文書。

それによれば数万年前、かのルドルフ大帝は地球の冬木市で行われた過去の聖杯戦争に参加したそうだ。

古代の英雄をサーヴァントとして召喚して他の魔術師とそれらに召喚されたサーヴァントと戦った詳細。

そして最後まで勝ち残り、聖杯を手にすることにより銀河帝国を作り上げる力を得たことが書かれている。

巻末にはその際にサーヴァント召喚に使われた蛇の抜け殻がセロテープで貼り付けられていた。

これを見つけたとき、私は狂喜乱舞して召喚を行った。

はじめは半信半疑な気持ちもあったが、実際にルドルフ大帝が呼び出したという黄金の太古の王を召喚でき、地球の冬木へと向かうことに決めたのだ。

 

 

「本当ならもうとっくに冬木へとたどり着いているはずだったのだがな」

 

「えぇ、地球の連中がここまでしぶといとは思いませんでした」

 

 

この6年という日々、何も無為に過ごしていたわけではなかった。

 

襲撃1年目、ビッテンドルフ艦隊がアークエンジェルにやられたという手痛い被害はあったものの、プラントのコロニーを全部破壊することが出来た。

 

だが襲撃3年目、プラントのコロニーを破壊後に再集結する予定だったのをミッタマイヤー艦隊が独断専行で月へと向かった。

その途上でアークエンジェルの策謀により謎の兵器により全滅させられた。

 

その後些細な小競り合いで消耗を抑え時間を稼ぎつつ、オーディンから100万人の装甲擲弾兵をなんとか工面して、今回のアークエンジェル襲撃をしようとした矢先に、アークエンジェル側はジェネシス要塞を完成させたのだ。

 

 

ラインハルトとキルヒアイスは料理を食べながら窓の外にポツンと見える小さな要塞を見やる。

 

全長100万キロほどの要塞。

首都星オーディンの1万分の1ぐらいのサイズだろうか。

地球と比べれば大きいが、そんなもの銀河の規模に比べれば塵と同じだ。

 

「5年前、ヤン・ウェンリーが乗ったスパルタニアンが木星をワイヤーで牽引して地球のそばまで持ってきていたので何をしているのかと疑問でしたが、木星の中身をくり抜いて要塞化するとは思いもよりませんでしたね」

 

「うむ、しかも戦艦とくっつけるとはさすが鬼才というべきか。我がライバルに相応しい知略の持ち主だ」

 

「えぇおかげで装甲擲弾兵も制圧に難儀しています。本来ならあの程度の要塞、地球破壊爆弾を使えば一撃で消滅できるのですが、地球の衛星軌道にあるおかげで、それをすると地球にも影響が出ます。それによって聖杯戦争の開始が行えない可能性も考えれば、制圧して自爆させるしか手はありませんので」

 

「この前、冬木市の聖杯戦争の監督官に連絡をとってみたところ、サーヴァントは5体召喚されているらしい。今まで60年単位で行われているそうだから1体当たり8年半として、残り17年。それまでに冬木市を制圧できねば聖杯戦争は不戦敗になってしまう」

 

「それに早く地球での寄り道を済ませて偵察任務に戻らないと、首都星の周辺で自由惑星同盟の艦隊が来るのを待っている陛下もしびれを切らすかもしれませんしね」

 

ラインハルトは食後の紅茶を飲みながらしばし考える。

 

「5体か、私の召喚した王以外に4体サーヴァントがすでに現界している。もしかしたらあの要塞にもサーヴァントがいる可能性もあるのか」

 

「もしそうならばシェーンコップやオフレッサーには荷が重いかもしれませんね」

 

「それな。もし奴らが駄目だった場合には王にお願いして宝具の開帳をしていただかねば。今から考えても胃が痛い。医者を呼べキルヒアイス」

 

「かしこまりました、ラインハルト様」

 

キルヒアイスは青い顔をした料理人たちを引き連れて急いで部屋から出ていった。

ラインハルトもまた、王にどのようにお願いしたものかと顔を青くしてアークエンジェルwithジェネシスを静かに見つめていた。

 

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間52分。

6年の歳月を経て行われたアークエンジェル占領作戦、未だ決着は遠い。




5年前はイゼルローン要塞は自由惑星同盟ではなかったと。
いやいや、時間というのは常に進んでいるのです。
宇宙規模の戦いは時間がかかるので、なんとすでに6年が経過していたのですよ。


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第十話 月からの来訪者

「やつら・・・食ってやがるのか」

 

装甲擲弾兵は死んだ兵士の体に群がり、その腹部をかぶりつき腸を咀嚼し、そして手足をもいでくちゃくちゃと食べている。

その様はまさに餓鬼のようで、美味しい美味しいこんな新鮮な肉を食べるのは久しぶりだ、そう嗤い、我先にと夢中になって死肉を貪っている。

 

その光景を見ながら、アークエンジェル第425艦内警備大隊3781中隊隊長のボンボラン中尉は15年前、士官学校時代に教官から聞いた話を思い出す。

 

「教練で聞いたとこがある、銀河帝国では貴族や平民のほかに、『農奴』というものも貴族士官の配下として徴兵されていると。農奴は貴族の私有物で人間ではないため、動物として扱われると」

 

死肉を貪る彼らはその農奴たちだった。

 

「農奴は人ではないため、人が行う行為を一切禁止されている。道具を使うこと、服を着ること、そして料理も人の行うことの為に禁止されていると。その上に栽培された農作物や飼育された家畜を食べることも禁じられているため、普段は地べたに生えた雑草を食べ、ネズミや虫を調理もしないまま生で食べていると」

 

「だから、普段は食べられない肉を食べるために陸戦隊に喜んで参加するということですか」

 

「ああ、奴らにとって戦闘というのは食べ物を得るための狩りということなのだろうな。見ろ、やつらの目を。あれは敵を見る目ではない、狩りの獲物を見る目だ」

 

装甲擲弾兵たちはより新鮮な肉を得ようと、目を爛々と輝かせ、口からはよだれを垂らしながらこちらへと襲いかかる隙を伺っている。

 

その目に見つめられた兵士がひぃっと喉奥から悲鳴じみた声にならない声を発し、数歩後ずさる。

まるでジャングルで野生の肉食獣にあったかのような原初の恐怖を呼び覚まされる。

彼ら農奴はたとえ軍に入ろうと農奴という階級から逃れられない。

軍のシステムの問題で人間の言葉を喋ることと、戦闘服を着ることは軍属の間は許可されるが、それ以外は他の農奴と同じ。

普段は軍で飼育されている軍馬と同じ食事を取らされ、厩舎で寝起きをさせられる。

軍艦に乗ってはネズミすら取れないので動物性たんぱく質が不足していく。

そしていざ戦場に立つとようやく食べられる肉を求めてまるでゾンビのごとく命を顧みないほどの苛烈な戦闘を率先して行うのだ。

農奴の中にはもともとは自由惑星同盟から連れてこられた捕虜もいる。

高度な教育を受けた捕虜も、裸にされ動物と扱われ、一言でも言葉を喋ると全身の骨という骨が砕かれるまで懲罰を受ける。

そんな生活を1年も続けるころには恐怖と苦痛で脳が委縮し、知能は動物とほぼ変わらなくなる。

帝国ではそうやって何も考えずに本能で戦う兵士を農奴という形で得ているのだ。

戦争というのは人の人権を踏みにじることを容易く容認してしまう。

 

「クソッタレ!本当に戦場は地獄だぜ」

 

ボンボラン中尉は軍用スマホを取り出しラミアス提督へと連絡を取る。

 

「こちらアークエンジェル西地区ネオサンフランシスコ市777地区3番通路、敵の装甲擲弾兵が多すぎて抑えきれねぇ。航空支援はまだなのか!」

 

「こちらマリュー・ラミアス提督です。中尉、すまない。現在同様に押されている戦区が多すぎて航空支援を回すの現状では無理だわ」

 

マリューラミアス提督の淡々とした通告にボンボラン中尉は激怒する。

 

「おい!20分前にも押されてるからって航空支援の予約入れたよな!そんときは直ぐにでも回すから持ちこたえろって言われて、必死で死守してんだよ!」

 

「でも中尉、その地区は無人で物資もなく、その通路の先は袋小路だから特に戦略価値がないのよ。だからどうしても後回しになるの。あと1時間後ぐらいにはなんとか回せると思うの、だからなんとか死守して欲しいのよ。この戦いは貴官の奮闘次第よ。そこを抜けられると後はないと覚悟してちょうだい」

 

「チッ!わかったよ、あと1時間だな。ちなみに聞きてえんだがよ、帝国軍とは陸戦協定などは結んでないだろうな」

 

その言葉にマリューラミアス提督はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ええ、今まで帝国軍なんて異星人がいることなどは想定していなかったし、戦争後何度か接触を試みたが通信技術が違いすぎて連絡が取れなかったわ。だからこの6年一切条約などは結んでいないわ。安心してすべての手段を模索して頂戴」

 

「あぁそいつはいいね、クソッタレな人権団体様が怒りで空を飛ぶぐらいの素敵な不良在庫兵器をたんまりお見舞いしてやるよ」

 

ボルボラン中尉はそしてスマホを地面に叩きつけ踏み壊して大声を張り上げる。

 

「野郎ども!提督の許可が出た!ありったけの非人道兵器をあの異星人共に食わせてやろうぜ!」

 

それを聞いた部下たちは満面の笑みを浮かべ、陸戦協定により使用不可と注意書きが貼られたコンテナから様々な装備を取り出す。

 

「まずは生物兵器から行くぜ!こいつは超微細なウイルスで酸素中に散布することで急激に繁殖してダクトを通して10分で要塞一つを死体の山に変えれるぜ」

 

防護マスクを付けた隊員が複数のボンベを取り出し、開封厳禁と書かれたシールを破り蓋を開ける。

ボンベから空気が猛烈に吹き出し、隊員はそれを未だに死体を漁っている装甲擲弾兵へと転がす。

 

ボンベの近くにいる装甲擲弾兵は顔色を変えて喉元を掻きむしるように倒れていく。

そのそばには大型のダクトが存在するため、すぐに各地区へと繁殖し飛散して各地の装甲擲弾兵がこのウイルスに感染して倒れていく。

ウイルスは無色無臭のため、人知れずどんどん拡散していき、オフレッサー将軍が気づいて防護マスク着用を支持するまでに装甲擲弾兵だけで10万人の死者が発生した。

また、接舷している揚陸艇にもウイルスが流れ込んでいるため、今後揚陸艇が帰還した先でもウイルスによる攻撃はしばらく続くだろう。

 

マリューラミアス提督は現地士官の独断でのその暴走を艦内カメラで見て、ブリッジのクルーにワクチンを飲むように指示した。

 

「いくらなんでもいいって言っても限度というものがあるわ。これだから脳筋は駄目ね」

 

その後、核手榴弾や毒ガス、火炎放射器と陸戦協定違反のため有り余っていた不良在庫を一掃するがごとく駆使して敵軍を駆逐していく情景が各地で散見するようになる。

 

そんな悲惨な戦場をマリューラミアス提督の横で見ていたラクスはというと。

 

「やはり想いだけでは駄目なのですね」

 

と散りゆく兵士たちを涙を流しながら見守り、追悼の為のレクイエムを歌っていた。

 

「提督!月からの援軍が到着しました!」

 

ブリッジクルーの明るい嬌声が艦橋に響いた。

 

艦橋から外を見るとデストロイガンダムが100個師団、アークエンジェルの前に整列していた。

他にも量産型フリーダムガンダムが30個師団、戦艦も100隻ほど随伴している。

 

この6年の間に月基地で秘密裏に建造していた虎の子の部隊だ。

アークエンジェル襲撃の報を受け、スクランブルで発進してきた。

 

「すごい…これだけの戦力、ヤキン・ドゥーエの戦いの時以来ですよ」

 

ブリッジクルーが呆けたようにポツリと漏らす。

 

「えぇ、アークエンジェルと地球連合、そしてプラントの意地をかけて揃えたエリート部隊よ。これで奴らへの反撃を開始できるわ、現在の装甲擲弾兵の侵攻範囲は!確認して!」

 

その命令を受けた観測兵がすぐさま艦内マップを出す。

 

「現状、敵装甲擲弾兵はすべてジェネシスの中に押し留めています!いけますよ提督!」

 

マリューラミアス提督はその報告を聞き、満面の笑みを浮かべる。

 

「オペレーション・ジェノサイド、フェイズ3に移行!アークエンジェルをジェネシスから切り離すわよ!出航!!!」

 

「ジェネシス、メインブリッジパージ!5、4、3、2、1…パージ完了!メインエンジン点火!メインジェネレーターのガスタービン全力全開で回ってます!出力全開!速度、マッハ10000を突破!ジェネシスからの切り離し完了!」

 

 

遠く離れていくジェネシスを見ながらマリューラミアス提督は勝ったわと小さく呟き、そして次の命令を下すべく声を張り上げる。

 

 

「装甲擲弾兵はまだジェネシス内ね。ジェネシスの動力炉を暴走開始させなさい!」

 

「提督!ムウラ・フラガ首相がまだジェネシス内です!」

 

それを聞いたマリューラミアス提督は不敵な顔で答える。

 

「彼を誰だと思ってるの?不可能を可能にする男なのよ。彼だってこの作戦は知ってるわよ。アカツキ改の性能なら十分に離脱可能よ。それにいざとなったらセーフティシャッターもあるしね」

 

「ジェネシス、動力炉臨界点突破。ジェネシス内でブラックホール発生を確認!周囲1万キロを飲み込みつつ崩壊していきます!」

 

ジェネシスはブラックホール化し、周囲に展開していた揚陸艇、そしてそれを救助しようとしていた帝国軍艦隊を飲み込みつつ崩壊していく。

 

そして10分後、その中域には最初から何もなかったかのような不自然なほど澄んだ空間が広がっているだけだった。

 

アークエンジェルはそのまま月からの援軍を率いて、銀河帝国軍の中枢艦隊に向かって出陣する。

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間50分。

アークエンジェル襲撃からようやく10分が経とうとしていたころ、戦局は地球圏から銀河へと移り変わろうとしていた。



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第十一話 老兵は死なず、ただ消えゆくのみ

 

ラインハルト艦隊旗艦の艦橋にて。

 

ラインハルトはちょっと早いお昼を取っていた。

 

「ラインハルト様、お昼のシャウエッセン盛り合わせです」

 

「うむ、分かってるではないか、キルヒアイス。やはりゲルマニア帝国の血を引く帝国貴族たるもの、シャウエッセンは至高。他民族の料理もいいが、やはりゲルマニア料理が一番だ。後は芋だ、蒸した芋も山程もってこい!芋とシャウエッセンこそゲルマニアの宝なのだ!」

 

「ええ、朝におせち料理など作った料理人はすでに処刑いたしました。やはり高貴なる者は高貴なる食事を取るのが一番です。食後のデザートもゲルマニア料理のアイスバインを用意しています。バニラ味とチョコレート味の2種類でございます。チョコレートはベルギー星系の最高級品です。皇帝専属のパティシエを呼びましたから味は格別ですよ」

 

「うむ、キルヒアイスはやはり気が利くなモグモグ。うむこのシャウエッセンは上物だ、皮がパリッとして中から肉汁がジュージュー出て美味い。芋もホクホクだ。熱々の料理を食べた後にヒエヒエのアイスバインをたらふく味合う。これほどの贅沢は他にはないな。自由惑星同盟ではハンバーガーとかいうパンに肉を挟んだ手抜き料理や、芋を油で揚げたりした雑な料理ばかりだと聞く。実に可哀相だとは思わないか?奴らには料理の何たるかが理解で見ないらしい」

 

「えぇ、たしかジャンクフードというらしいですよ。ゴミを食べるなんて野蛮な未開人らしいですね。ラインハルト様、このマスタードをつけても美味しいですよ、モグモグ」

 

「うむむ、ケチャップも良いが、たまにはマスタードも試してみるか。おおう、舌がヒリヒリするぞキルヒアイス。でもこの刺激がたまらんな」

 

ラインハルトとキルヒアイスが楽しげに食べているところに非常警報が鳴り響く。

 

ビービービー

 

ラインハルトは驚き、指揮官席から転がり落ち、床に叩きつけられながらも華麗に立ち上がり誰何する。

 

「何事だ!誰かいるか!状況を説明せよ!」

 

仮眠中だったのだろう、パジャマ姿の兵士が慌てて飛び込んできて状況を説明する。

 

「はっ!艦橋警備担当のイーグエッグ曹長であります!ご報告します!閣下、緊急事態です!外をご覧ください!」

 

「「なんだって!」」

 

ラインハルトとキルヒアイスは甲板から身を乗り出し、外を注視する。

 

すると地球の方向、正確には地球のそばに据えられたジャスティスが異常な状態になっているのに気づく。

 

ジャスティスには未だに100万隻の陸戦艇が接舷している。

その中からアークエンジェルだけが分離して飛び出し、銀河の彼方へ猛烈な速度で飛び去っていった。

いやそれだけではない。

 

 

「む?なんだあれは?」

 

「デストロイガンダムと量産型フリーダムですね。ひのふのみの・・・100個師団と30個師団、あとアークエンジェル級戦艦が100隻居ます。あっ彼らもアークエンジェルと一緒に銀河の中心方面に飛んでいきましたね」

 

「むむ、多いな。あれだけの数、こちらに向かってくると少し厄介だな」

 

「それよりラインハルト様!ジャスティスが膨張しています!」

 

『警告します。ジャスティス要塞は後120秒で自爆します。警告します。ジャスティス要塞は後10秒で自爆します。要塞と要塞の外1万キロはブラックホールに飲み込まれ完全に消滅します。要塞と要塞の外1万キロはブラックホールに飲み込まれ完全に消滅します。要塞内に残っている方は直ちに所定のルートから脱出ポットに避難後、脱出ポットを起動させ退避してください。脱出ポット起動の鍵はアークエンジェルのブリッジで保管しています。各班の班長は直ちにアークエンジェルのブリッジまで取りに来てください。くりかえします。ジャスティス要塞は後120秒で自爆します。ジャスティス要塞は後10秒で自爆します…』

 

 

要塞から大音量の警告音が響いてきた。

ジャスティス要塞の窓から、通路を大慌てで走り回っている両軍の兵が見える。

 

 

「なんだと!自爆だと!この艦は巻き込まれないだろうな!」

 

それを聞いたラインハルトは大慌てでイーグエッグ曹長に尋ねる。

 

「大丈夫であります!要塞とこの艦は1000万キロ離れていますので十分影響外であります!ただ、放射能の影響があるので艦内に戻ってください!」

 

「陸戦隊はどうする!今からでは間に合わんぞ」

 

「それについてもご安心を、報告に来る前に鉄壁ミュラー艦隊に救出を指示しておきました。御覧ください」

 

イーグエッグ曹長は胸を張り、悠然と仲間の救出を行うミュラー艦隊を指さしました。

 

さすが鉄壁ミュラー。

派手さはないが堅実に陸戦隊員を慌てさせず混乱もなく収容していた。

だが、それすらもマリューラミアス提督の罠である。

マリューラミアス提督が帝国軍が味方の救出をすることを計算に入れていたのだ。

その上で、要塞の時計を100秒遅れさせていた。

するとどうだろう、本来なら120秒前にタイマーがセットされている警報が100秒遅れて出されるのだ。

つまり自爆まで120秒の猶予があるように見えて、実際は20秒しかないのだ。

本来なら余裕を持って80秒で収容して安全圏まで撤退するように計画立てられ行動していたミュラー艦隊。

それがたった20秒で自爆が始まり、気づいた頃にはもうブラックホールへと飲み込まれていた。

 

 

イーグエッグ曹長が指さした先には、ちょうどブラックホールに飲み込まれながら諦めの極地で遺書を手紙にしたためているミュラー提督の通信映像が映し出されていた。

 

「閣下。お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません。閣下の覇道に最後までお供できずに汗顔のいたりでございます。せめてこの手紙を家族へとお渡しください」

 

「ああ、ミュラー提督。貴官の勇猛果敢な最後、確実に家族へと伝えようじゃないか。最後までよく仕えてくれた」

 

「ラインハルト様、立派になられて…。小官がおむつを変えて差し上げたのが昨日のように感じられますぞ」

 

「やめてくれ、ミュラー提督。兵が見てる。私も子供時代、よく遊んでくれた貴官が居なくなって寂しい。必ずや貴官の敵を取ることを誓おう」

 

ラインハルトは両の目から滝のような涙を流しながらも、心配をかけまいと胸を張り、ミュラーから受け取った手紙を強く握りしめる。

 

傍に控えているキルヒアイスとイーグエッグ曹長も涙を堪えながらも真っ赤になった目で、と慈愛に満ちたラインハルトと壮絶な最後を遂げようとしているミュラー提督を見つめつつ敬礼をしている。

 

「それではラインハルト様、おさらばでございます」

 

ミュラー提督は最後に最敬礼を行い、その次の瞬間、ブラックホールの超重力に引かれ、闇の中へと落ちていった。

 

 

通信が切れ、後には何も残らない空間を見つめながら、ラインハルトはポツリと呟いた。

 

「絶対に許せん。許せんぞ。私の大切な部下を殺したマリューラミアス!八つ裂きにしてくれる!」

 

「ラインハルト様。明日にはジャンク屋組合へ発注していた艦隊1000万隻が届きます。それが届き次第出撃致しましょう」

 

ラインハルト艦隊は何も無意味にこの宙域に留まっていたわけではない。

アークエンジェル襲撃は本来の目的から注意をそらすための作戦に過ぎない。

「作戦プランB」

つまり、作戦の要はAではなくB。

この場合、囮となる作戦Aがアークエンジェル襲撃であり、そしてそれによって隠された本命の作戦がBである。

 

ラインハルトはライバル貴族の策略により15万隻の旧式艦しか手に入れられなかった。

だから現地でジャンク屋組合に1隻見本として艦艇を渡し、6年かけてコピー艦を作らせたのだ。

その数なんと1000万隻。

銀河帝国の所有する艦艇数が50万隻ほどに対して、それに約20倍である。

皇帝になった後に惑星をいくつか譲るという空手形ではあるが、天才ラインハルトのプレゼンの前には小学校もろくに出ていないジャンク屋組合の社員を騙すことなど造作もなかった。

時間こそかかったが、これでアークエンジェルと銀河帝国を滅ぼすだけの戦力は整えられたのだ。

 

あとは銀河の中心へ向かったアークエンジェルを追うだけだ。

ラインハルトは決意の視線をアークエンジェルの飛び去った彼方へと向け、無言で力強く拳を突き上げた。

 

 

 

「ラインハルトよ、随分と我を楽しませてくれる」

 

黄金の王はその姿をワインを飲みながら優雅に鑑賞していた。

 

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間48分。

ようやくラインハルトが本気になったようです。




こういう美味しい消え方をする老兵ってのも素敵ですよね。

ラインハルト様の性格がちょっと悪いかもと指摘を受けていたので、
いやいや、ちゃんといいところもあるんですよって話をさせていただきました。
これで銀英伝ファンの方もにっこりですね。

あとおせち料理はちょっとおかしいって指摘もあったので、
他民族の料理もあるけど、ちゃんとドイツの料理をメインで食べてますよって書くために、
ちょっと早いけどお昼ご飯にしてもらいました。
大丈夫、軍人さんだから健啖家だよ。


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第十二話 発進!銀河帝国殴り込み艦隊!!

投稿期間があいてしまい申し訳ないです。

入学早々、4月に実力テストがありまして。
その試験勉強と、その後の補習授業で執筆時間が大いに削れてしまいました。

GWは家族で海外に行くので投稿できないかも。
もし出発までに書き上がったら予約投稿しておきますね。

では今回も楽しんで読んでください。


ジェネシス要塞から超加速で離脱したアークエンジェル艦隊は1年前まで冥王星があったあたりで停止し小休止することにした。

 

「ラミアス提督、各種レーダーで調べましたが、地球からの連絡が完全に途絶えています」

 

通信観測兵からの報告にマリューラミアスだけでなくブリッジのみんなも愕然とする。

 

「恐らく私たちが発進後に守りがなくなった地球を銀河帝国軍が総攻撃をかけたとみるべきね、非戦闘員を虐殺するなんて、やはりやつらは残虐な宇宙人なんだわ」

 

マリューラミアスは地球を守り切れなかった自身の力不足を悔やみ、嗚咽を漏らす。

 

「提督、そんなに悔やまないでください。まだ天の箱舟があります。きっと人類はまだ生き延びているはずですわ」

 

ラクスがマリューラミアスの頭を撫でながら宥める。

 

天の箱舟とはジェネシス要塞で秘密裏に建造中の人類脱出船で、1万人の選ばれし優秀な人間と太陽光発電で稼働可能な食料プラントを搭載した巨大移民船である。高級軍人、高級政治家、天才科学者などより良い血統を残せるように選別された船であり、プラント製造設備や材料、コーディネイター技術を応用した人類繁殖装置も搭載されているので地球圏から離脱後、人類をすぐさま繁栄させる手段を搭載している。

 

「天の箱舟はまだ未完成ですが、幸いムウさんが起動権限を持っていますから、それで脱出しているはずです。あとはどれだけの人を助け出せたかわかりませんが、もし人手が足りなくてもすぐに培養可能な精子バンクと卵子バンクは10兆人分搭載済みなのですぐに人手を増やせるはずですよ」

 

コーディネイター技術を応用した人類繁殖装置。

これはコーディネイター技術とクローン技術を使い、ジャパンの博士が開発したSTAP細胞を培養させることにより、10日間で成人の人間を作り出す装置である。

そして産みだした人間にあらかじめ用意しておいた知識や技術と疑似記憶を植え付けるクルーゼシステムにより、総額17万円ほどのコストで優秀な兵士を生み出せるのだ。

このシステム名は開発者によって用意されていた疑似記憶や知識、技術の元となったとある人物の名前から付けられている。

この装置は計3台作られていて、一つはアークエンジェル、二つ目が天の箱舟、そして三つ目は月に設置される予定だったが、輸送を委託したジャンク屋の横流しにより、銀河帝国軍へと渡っていた。

銀河帝国軍がジャンク屋に1000万隻もの艦を発注した理由はその装置なのである。

その装置によりラインハルト艦隊の兵士数は5年前の段階ですでに5000兆人まで増えているのだ。

そして増えた兵をなんとか使わないと食料がもったいないと気づいたラインハルトは装置を売りつけてきたジャンク屋に戦艦を作らせることに決めたのだ。ジャンク屋も1000万隻もの艦隊を作るのには苦労をしたのだが、ツーバイフォー工法により、すべての艦の規格を統一することで流れ作業で組み立てる手法を確立した。今まで職人が艦隊毎に指揮する提督の戦闘スタイルに合わせた戦艦を作っていたが、それでは到底間に合わないための苦肉の策である。また、曲面ではなく平面の装甲によるプレハブ構造にすることによって打ち出した鉄板を6面合わせるだけという簡易的な建造も製造スピードを飛躍的に高めることができた。

そして出来上がった艦艇は従来の艦艇に比べれば性能的な特徴はなく、すべて凡庸な艦艇となってしまったが、それでも5000兆の兵が操作する分には十分な性能である。

ラインハルトはこの艦隊を信頼する副官であるキルヒアイスへのサプライズプレゼントとして用意したのだ。

事前に知らされていなかったキルヒアイスはラインハルトの想いに感激し一層の忠誠を誓うことになった。

そしてキルヒアイスは戦場任官として宇宙艦隊副指令の任を受け、大佐から上級大将の最先任へと昇進することになった。

 

そのような装置が地球側とラインハルト艦隊側双方に設置されることにより、人的資源の価値というのものが著しく軽くなっていた。

兵士が減ったなら作ればいいじゃないかの精神である。

もはや兵士が畑で取れるレベルを超えていた。

ラウ・ル・クルーゼの記憶と知識そしてMS操縦技術を持ったエリート兵士が兆単位で量産されていた。

もしこの作品が公式でアニメ化した際には関○彦さんが過労死するだろう。

 

 

 

 

「「「「私にはあるのだよ! この宇宙でただ一人、全ての人類を裁く権利がな!」」」」

 

「「「「正義は双方にある。それは互いに相容れない 戦場に立つものは全て 己の正義の為に敵を討つ」」」」

 

仮面をかぶったクローン兵士たちが声をあげながら作業をしている。

このクローン兵士たちは戦闘中以外でも、また戦闘要員以外でもやたらと自己主張が高いのだ。

 

「ふむ、この地球産のクローン兵士は士気が高いのはいいのだが、やたら煩くて暑苦しいのが欠点だな」

 

便利なのはいいのだが、帝国軍将校の評価は今ひとつであった。

 

 

場面は戻りアークエンジェルの艦橋。

 

小休止となったのでブリッジのクルーはそれぞれ決戦前の休息を取っている。

 

マリューラミアス提督はそのクルーたちに今後について話す。

 

「2分の休息後、本艦は帝国軍首都星オーディンへと奇襲を仕掛けます」

 

そういってスクリーンへと天体図を表示させる。

地球のある天の川銀河、そこから7つの銀河を挟んだ先になるM87星雲。

そこの中心部にある一際明るく輝く一等星、それが銀河帝国の首都星オーディンである。

星の総人口は100億前後、大きさは太陽のほぼ1万倍ぐらいである。

スクリーンに映るM87星雲、それを拡大していき、中心の光り輝くオーディンへと焦点を合わせてどんどんと望遠レンズの倍率を上げていく。

すると首都星オーディンの周りに大量の艦隊が待機しているのが見えてくる。

 

「あれがラインハルトたちを送り出して、オーディンを守護している正規艦隊よ。数はおよそ10個艦隊、約15億隻。恐れ多くも偉大なる皇帝陛下が指揮されていらっしゃるわ」

 

マリューラミアス提督が言う通り、旗艦に黄金の獅子帝の旗が舞っている。

 

「首都星オーディンまで1兆光年。本来なら通常航海で10兆年かかりますね」

 

スクリーンを見ながらラクスはいう。

 

「ええ、5年前まではワープ技術なんてなかったものね。でも今は違う。次元波動超弦励起縮退半径跳躍重力波超光速航法、略してワープ。タンホイザー博士が開発したこの技術を使ったタンホイザーゲートで光速を超え、デュラックの海から虚数空間へと入り込みエーテルの中を進むことによって7つの銀河を飛び越えます」

 

「そのために、地球以外の太陽圏すべての星を消し去ることになってしまいましたがね」

 

マリューラミアス提督のワープに関しての説明を受け、ラクスはそれを可能にした新エンジンについて苦言を呈す。

 

「縮退炉がなければブラックホールを人為的に発生させて安定してタンホイザーゲートを発生させるのは無理だったの。連合議会でもちゃんと承認済みよ。人類は存亡をかけて全てを使い切ってでも生き残るって決めたの」

 

アークエンジェルは改造を施され、メインエンジンに太陽を1ミクロサイズまで圧縮して内部へと取り込んだ手のひらサイズの画期的な縮退炉を搭載してる。

「人類が母なる太陽を無くしてでも勝たねばならない。太陽は大切だ。それは分かるけど、みんなの太陽だって分かるけど、でもカガリ・ユラ・アスハは今泣いているんだ。アークエンジェルが負けるのが嫌で、今泣いているんだぞ! 何故みんなはそれが分からない!なのにこの戦争もこの犠牲も仕方がないことだって、全てラミアス艦長とカガリのせいだって、そう言ってみんなは討つのか!いまカガリが守ろうとしているものを!」

キラ・ヤマトが連合議会にストライクフリーダムガンダムで乗り込み、この演説を行い、太陽の使用権限を承認させたあの自己犠牲精神の発露たる行為はラミアス艦長の心を激しく揺さぶり涙を堪えることはできなかった。

そしてラミアス艦長は心を鬼にして、太陽だけではなく、地球以外の他の惑星全てを縮退炉へと変えることを心に近い、有限実行したのだ。

今、アークエンジェルと共にいる艦隊は、それらの縮退炉を搭載した艦である。

故に、現在太陽圏には地球だけが残っている状態なのだ。

地球の人々は開けぬ夜に耐え忍びながらアークエンジェルの勝利を願い空を見上げていることだろう。

 

「全員、出発前に地球に残った家族や知人へとメールを送っておきなさい。ワープするとウラシマ効果で首都星オーディンにつくときには1万年たっています。そこで帝国艦隊を倒してすぐに戻ってきても地球に帰ったときは2万年たっているわ。今後医学が発展して寿命が伸びたとしても、その頃まで家族が生きている可能性は少ないわ。そもそも人類がその間にラインハルトたちに滅ぼされる可能性もある。地球が生き残るには、私達が1日でも早く首都星オーディンを落とすことで、ラインハルト艦隊を帰還させるしかないの。なので、ワープ後は時間との勝負よ。一秒でも早く首都星オーディンを陥落させるわ」

 

 

そして休止後、アークエンジェルたち「銀河帝国殴り込み艦隊」はタンホイザーゲートを発生させ、首都星オーディンへとワープしていった。

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間46分。

人類最後の戦いが今、始まろうとしていた。

 



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第十三話 シェーンコップの真実

筆が乗ったので投稿。

久々の執筆は楽しいですね。
勉強などしないで小説家として生計を立てるのも良いかもしれません。


ラインハルト艦隊旗艦

 

ラインハルトの昼食は未だ続いてた。

彼は優雅にデザートのよく冷えたアイスバインをスプーンで一匙掬って優雅に口へと運ぶ。

その姿はまさに雲上人の如く、気高く気品に溢れている。

アイスバインを口へと含み、その冷たさを目をつぶり少し顔を上げ、感慨深く味合うその姿は、彼の波打つような豪奢な長い金髪が良く映え、天へと吠えたける獅子を幻視させる。

それを見ているブリッジクルーたちは索敵や操舵などの業務をしばし忘れ、呆然と見惚れてしまっている。

獅子帝、貴族令嬢たちにもそう呼ばれ、黄色い悲鳴を上げられているが、その美しさは異性だけではなく、同性の兵士たちにも有効なようだ。

ラインハルトは、「美しいというのも罪なのだな」と内心苦笑を浮かべるが、これが兵にとって癒やしとなるのならしばし道化を演じるのもやぶさかでないと思い、指揮官椅子から寝台へと身を移し、より魅惑的に見えるように横になりながらアイスを食すことにした。

確かに涅槃の釈迦の如く、神々しいラインハルトが口の端から溶けたアイスバインをこぼして垂れるのお舌で舐め取る姿は、兵たちの股間をしたたかに強打することになった。

ブリッジにいたクルーは一人残らず前かがみになり、そそくさとトイレに駆け込み、そこからくぐもった声が響くのだった。

 

「ふっ可愛い奴らめ。それはそうとやはりアイスバインはチョコレート味に限るな。トルコ風もいいが、爽シリーズのアイスバインはシャリシャリしてて非常に美味だ。これはロッチの株をもう少し買ってやってもいいな。あそこは銀河連邦時代より前から連綿と受け継いだ爽アイスだけが大帝ルドルフ陛下に製造を認められたが、その理由がこの爽アイスバインだというのは高貴なる血を引く我らが貴族では常識なのだ。シャリシャリ」

 

爽アイスは至高。これは銀河帝国時代にも変わらぬ真理なのだ。

今日は本当に良い一日だ。なんか良くわからないがいつの間にかジャネシス要塞も吹き飛んでいるし、何より飯がうまい。

それだけでラインハルトはご機嫌なのさ。

アークエンジェルへの追撃?そんな無粋な事は食後の運動ですればいい。

 

そんなご機嫌な彼に来訪者が現れた。

食事中のラインハルトに声をかけられるとしたら、そう、彼しかいない。

 

「ラインハルト様!!!ご機嫌麗しくて不肖このキルヒアイス!嬉しく存じます!とりあえず只今地球より帰還しました!」

 

赤毛の副官。宇宙艦隊副司令のキルヒアイス・フォン・ジークフリードだ。

そう。フォンがついたのだ。

宇宙艦隊副司令になったので、ラインハルトから伯爵を名乗ることを許されたキルヒアイス。いや、今ではジークフリード伯爵だ。

太陽系を殲滅後にそこを領地として与えられることになっている。

なので、ここ1年ほど領地予定の地球を視察に行っていた。

 

「ふむ、キルヒアイスよ。予定では帰還は半年後ではなかったか?可愛い嫁さんを見つけてくると言ってはしゃいでいたではないか。何か問題でもあったのか?」

 

「ええ。ラインハルト様。実は冬木市でとある方々に出会いまして。おいお前ら、入室を許可しますよ。土下座しながら入ってきなさい」

 

「おおっなかなか板についてるな」

 

伯爵として威厳のある声を出して命ずるキルヒアイスにラインハルトもちょっと胸キュンだ。

 

キルヒアイスの声を聞いて恭しくドアが開く。

果たしてそこにいたのは、ジェネシス要塞が吹っ飛んださいに内部で戦っていたため戦死したと思われていた、ワンダー・フォン・シェーンコップとオフレッサーの二人であった。

 

「直言を許可します。この高貴なる私と次期皇帝ラインハルト様に状況を説明するがよかろう」

 

土下座で頭を地面に擦りながら部屋へと入ってきたシェーンコップはおどおどと帰還できた理由を説明する。

 

「あれはそう、我がライバル、エンディミオンの鷹がのるアカツキ改と戦っていたときです。

なんとか自慢の戦斧でアカツキ改の頭部を叩き割ったところで、自爆開始の放送が流れたんです。

頭部を叩き割ったので、当然それを装着している鷹が死んだと誤認した私はそばにいたオフレッサーと共に勇気ある転進を敢行することにしました。

ですが、さすがに大きい要塞。

揚陸艦まで到底辿り着けるはずもありませんでした。

アチラコチラでブラックホールが発生して、それをなんとか部下を押し込んで蓋をすることで生き延びていましたが、流石に限度があり、これはもうダメかもわからんね、とオフレッサーと相談していたときにたまたま入った部屋の掛け軸の裏に通路があることに気づきました。

ブラックホールも直ぐ側まで迫っていたので、これはやばいと、そこに飛び込んでみたら、そこが要人用の隠し脱出通路だったのです。

そして必死にその通路を駆け抜けた先が、冬木市の円蔵山の洞窟だったわけです」

 

「その洞窟こそが、私がラインハルト様から秘密裏に調査依頼されていた大聖杯が設置されている洞窟だったのですよ」

 

いい仕事をしたとふんぞり返って鼻を高くするキルヒアイス。

 

「ええ、伯爵様のおっしゃる通り、大聖杯を調査中だった伯爵様に助けられて戻ることができました」

 

「ふむ、要人用の脱出通路か。そんなのが一つの訳がないだろう。きっとエンデュミオンの鷹もそれを使って脱出した可能性があるわけか」

 

「ええ、ここ最近冬木市で金髪の青年を見たって噂がありましたから、きっと脱出したエンデュミオンの鷹のことかと思われます」

 

「くそう!俺が!俺があのときにシェーンコップにトドメをさすように言っていれば!そうすればミュラー提督は死なずにすんだはずなのに!」

 

オフレッサーが轟々と滝のような涙を流しながら戦場に散ったミュラー提督へと、すまんすまんと何度も言う。

その光景に流石にラインハルトもしんみりとした気持ちが湧いてくる。

 

「オフレッサー。お主の気持ち、とくとわかった。開発中の新型MS”ワルキュリア”をお主に渡す。ミュラーの敵、それで取るが良い」

 

「ラインハルト様!?ワルキュリアは戦局を打開する決戦兵器ですよ!あの忌々しいストライクフリーダムガンダムを倒すために5年の歳月をかけて開発してきた機体です!ワルキューレの500倍の出力、300倍の速度。ストライクフリーダムガンダムと比べても80%以上のポテンシャルを秘めた秘密兵器です!あれ1機で戦艦が1000隻作れるのです!それをこんなゴリラに渡すのは反対です!」

 

「ふふ、キルヒアイスよ。ゴリラは森の賢者と呼ばれるぐらい優秀なのだぞ。それにMSは格闘兵器。ならば装甲擲弾兵が乗るのが一番だ。戦艦乗りが乗っても扱いきれんよ」

 

「おおっラインハルト様。そこまで遠謀深慮の考えがあった上での決断ですか。さすが獅子帝とまで呼ばれるお方。感服いたします」

 

「ははは!そうだろう!いやいやお前も私の副官ならば少しは頭を使ってくれないとこまるぞ」

 

愉快げに声を上げて笑うラインハルト。

キルヒアイスとシェーンコップ、オフレッサーたちも和やかな雰囲気で紅茶を飲みながら歓談する。

 

だがそんなユーモア溢れる空気に突如の乱入者が!

 

「見つけたぞワンダー!」

 

そこに立つのは同盟軍の装甲擲弾兵だった。

 

「何者だ!」

 

シェーンコップは椅子を蹴り上げて闖入者へと相対する。

 

「ふふふっ俺のことを忘れたかワンダー・フォン・シェーンコップ。いや、ヘルマン・フォン・リューネブルクよ!」

 

「なんだと!!!その名を知っているとはお前もしや!」

そこで装甲擲弾兵は兜を脱ぎ捨てる。

 

「俺こそが自由同盟軍ローゼンリッター隊長!ワルター・フォン・シェーンコップだ!」

 

「「「なっなんだってーーーー!」」」

 

その名を聞いてラインハルトとキルヒアイス、オフレッサーの3人は驚愕の声を上げる。

 

「ど、どういうことだ?リューネブルクとは!シェーンコップ、説明せよ」

 

「くくく、バレてしまってはしょうが無い。そうよ、俺こそがヘルマン・フォン・リューネブルクよ!」

 

ワンダー・フォン・シェーンコップは顔の皮をおもむろに脱ぎ捨てた。

そこにはリューネブルクの本当の顔が隠されていたのだ。

 

「俺は自由同盟軍と帝国軍のダブルスパイだったのさ。いや、だったと言ったほうが良いか。今では俺はアークエンジェルのシズコ様の密命を受けたエージェント。いつか銀河帝国と自由同盟軍の戦争が地球に飛び火する可能性を察知したシズコ様がサモン・サーヴァントの魔術でこの俺を召喚し、契約したのさ。そして俺はワンダー・フォン・シェーンコップを名乗り、金髪の小僧の元で働きつつシズコ様に情報を送っていのだ」

 

「なんと!ではエンデュミオンの鷹のトドメを刺さなかったのは!」

 

オフレッサーが驚愕の声でシェーンコップに真意を問う。

 

「ふはははは!その足りない頭でよく考えてみるのだ。いくら私が天才だからといって、MSと生身の俺が対等に戦えるわけがなかろう。あの勝負も茶番だったのだよ!」

 

「「「なっなんだってーー!!」」」

 

再び驚きの声を上げる3人。

 

そして驚きで固まっている3人の脇をくぐり抜けるように駆け抜けたリューネブルクはブリッジの窓を体当たりで割り破り、旗艦から外へと逃げ去ってしまった。

 

すかさずシェーンコップがブラスターライフルを連射するが、巧みにAMBACで宇宙を泳ぎ逃げるリューネブルクに当てること叶わず、取り逃がしてしまった。

 

「ふむ、逃げられたのは痛いな。だが行き先はわかってる。アークエンジェルだ。ヤツの始末は私が直接つけたい。それまで私は客食として居座らせてもらおう」

 

シェーンコップはふてぶてしく指揮官席へと座り、残っていたアイスバインを口へとかきこみ、ああ懐かしいなこの味、とにこやかに笑みを浮かべる。

そんな彼を見て心強く感じたラインハルト。

 

「ああ、あの名に聞くシェーンコップならば、否もない。このラインハルトの手足となって戦うが良いぞ」

 

もちろん当然のように彼を受け入れる度量を見せるのだった。

 

平静を取り戻したかのように見えるラインハルト。

だが、彼は内心怒りに燃えていた。

 

ここまでこの私を愚弄したシズコ。絶対に許すまじ。

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間44分。

今は遠くへと去っていったアークエンジェルへと再び闘志を燃やすのだった。

 

 



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第十四話 唸れ!銀河のボンバーマン!

ハッピー令和!

急いで書いたので文法が変な所あるかも。
予約投稿なので修正とかはまた後日。


アークエンジェル艦隊はエーテル宇宙を進んでいた。

銀河帝国中枢に向かい、ワープを開始して2分、ウラシマ効果により地球では2000年ほどたっているだろう。

 

 

このまま何もなく7つの銀河を素通りし、オーディンへと辿り着けるのが最良ではある。

だが、やはりというべきかそうすんなりとは行かせてはもらえなかった。

 

 

1つ目の銀河を通ろうとしたとき、突如として現れたエーテル宇宙を次元断裂させる結界により、アークエンジェル艦隊は通常宇宙へと引き戻されてしまった。

 

 

「できるだけ気づかれないうちにオーディンへと行きたかったのだけど」

 

 

マリューラミアス提督はちらりと通常宇宙でどれだけの時間が経過したのかを測定するウラシマ時計を見る。

 

 

「通常宇宙時間で2072年経ってるわね。ラインハルト艦隊がその間に情報を送って待ち伏せさせたってところかしら」

 

『そのとおおおおおおり!!!』

 

 

マリューラミアス提督の呟きに対して、いきなりオープンチャンネルで割り込みがかかった。

 

 

『貴様ら蛮族の原始的なワープと違い、我ら銀河帝国のワープ技術はウラシマ効果などおこらず瞬時に転移可能なのじゃ!故にゆっくりとそなたらを待ち伏せできたというわけじゃ!』

 

 

モニターにでかでかと映し出された老人が「これが飛んで火に入る夏の虫じゃな」といい呵々大笑する。

 

 

「索敵班!あの老人の情報は!」

 

「銀河のギリワンボンバーマンことクロプシュトック侯爵です!」

 

 

マリューラミアス提督の問いかけに索敵版のクルーがすぐさま応答する。

 

 

「クロプシュトック!あの有名な爆弾狂いのクロプシュトックなのね!」

 

 

銀河のギリワンボンバーマン、または爆弾狂いのクロプシュトック。

 

 

地球から1つ目の銀河を領土とする侯爵家であるクロプシュトック家は銀河帝国貴族の中でも一番裏切り者として知られ、また稀代のボンバーマンとしても有名だった。

クロプシュトック家の当主は他家のパーティーに呼ばれる度に必ずその場に核爆弾をお土産でおいていきパーティー会場を爆破することを代々の当主の役割としており、現当主ウィルヘルム・フォン・クロプシュトックも年間50以上のパーティー会場を爆破している。

特にブラウンシュヴァイク公爵は寛容さ故に毎回クロプシュトック家をパーティーに招待しては爆破されている。

今ではブラウンシュヴァイク公爵家の毎月定例パーティーの締めくくりはクロプシュトックの爆破で終わると貴族たちの常識として知られている。

これがいわゆる銀河帝国の爆破オチといわれ、自由惑星同盟ではお貴族様コントの定番ネタにまでなっているほどだ。

 

そんな変わり者貴族として「駄目だこいつ」と貴族間でもはや諦められているほどだが、クロプシュトック家の能力としては侯爵だけあって、油断できない実力がある。

 

銀河帝国の貴族領地では当然だが領民全員が一人の例外もなく兵士である。

老若男女関係なく軍事訓練を受け、いざ領土の危機となれば全員が武器を手に立ち上がるのである。

生まれたばかりの赤ん坊ですら口に爆弾を詰められブービートラップとして活用され、誰もそれに疑問など覚えないのだ。

そして領民の戦い方というのはその領地ごとの個性が反映されている。

 

例えば全身甲冑とレイピアをこよなく愛するポルナレフ髭男爵家の領土では領民は常に全身甲冑とレイピアを着るのが法律で定められており、敵との戦いではその格好のまま「シルバーチャリオッツ!」の掛け声と共に突撃するという戦闘方法だ。

例え相手が戦車であろうと航空機であろうと宇宙戦艦相手でもレイピアで戦うのが彼らの誇りである。

おかげで自由惑星同盟との戦争開始初期になぶり殺しにあい、すでにポルナレフ家は断絶している。

 

 

そしてクロプシュトックの領土では爆破こそ真理。爆弾が彼らの唯一無二の武器である。

クロプシュトック領民は全員生まれながら爆破のプロフェッショナルである。

産まれた赤ん坊に手榴弾をもたせ、爆弾に慣れさせて爆弾と共に育っていく。

当然赤ん坊の頃に誤爆して死亡する子供も出てくる。

だがその過酷な状況の中生き延びた子供こそ、真のボンバーマンとして成長するのだ。

 

 

故に彼らの戦いとは爆弾による爆破である。

 

 

アークエンジェル艦隊の艦艇が3隻、いきなり爆破して火球となる。

 

 

「魚類戦艦ダライアス!宅配巡洋艦ヤマトクロネコ!郷愁駆逐艦ホームシック!爆沈しました!」

 

「なんですって!状況どうなってるの!」

 

 

通信士からの報告に驚き、指揮官席から転げ落ちたマリューラミアス提督が情報の確認を指示する。

 

 

「どうやら各艦にクロプシュトックの領民が無差別にボソンジャンプしてきて、自爆しているようです!」

 

「各艦、陸戦隊が領民が爆破する前になんとか無力化しようとしていますが、数が多すぎて対応しきれていません!」

 

 

クロプシュトック家の領土である第一銀河は小さいながらも総人口100億を超える。

それら全員が次々と転移しては自爆するのだ。

いくら優秀な陸戦隊がいようとも、数的にどうしようもないであろう。

 

 

『ふはははは!どうだマリューラミアス提督!このクロプシュトック家に歯向かうからこうなるのだよ!』

 

 

通信モニターからクロプシュトック翁の笑い声が響く。

 

 

「こんな攻撃…一体どうしろっていうのよ」

 

 

無数に転移してくる敵兵に対してマリューラミアス提督はどう対応すればいいのか分からず絶望に暮れる。

こうしている間にも次々と味方の艦が爆破されていく。

遂にはアークエンジェルにも転移するものが現れてきた。

領民が爆弾を爆破させようとするのをブリッジクルーたちが必死に止めていくが、すぐに対応しきれなくなるだろう。

まさに絶体絶命か、そんなときだった。

 

“諦めるな、ラミアス艦長!あなたは艦長である前に技術者でしょ!こんな原始的な爆弾なんかに負けるあなたではないはず!”

 

マリューラミアス提督の頭の中に叱咤する声が響く。

 

 

「ナタル・・・貴方なの?」

 

 

その声はヤキン・ドゥーエでの戦いで散ったナタル・バジルール少佐の声であった。

 

 

「そうね。何を勘違いしていたのかしら。提督提督って持て囃されて、ちょっと考え違いしていたみたいね」

 

 

マリューラミアス提督はふっきれたような清々しい笑顔で立ち上がる。

 

 

「私は元々技術士官よ。戦術でやり返せないんなら、技術屋らしく技術で勝負するしかないでしょ」

 

 

そう言って、ラップトップコンピュータを取り出し、一心不乱にプログラムを書きはじめる。

 

 

『ん?そんなPCで一体何をしようというのかね?』

 

 

クロプシュトック侯爵は怪訝な顔をする。

 

 

「爆弾のバイタル角から爆発の物理衝撃がこうで、更に領民の平均的な身長から、そして固定脳波をフレミングの右手の法則に当てはめて、起爆に使うのはBlutoothの規格が…よし!できたわ!アーノルドくん!このプログラムを全艦で実行させて頂戴!」

 

 

マリューラミアス提督が組み上げたプログラムを5インチフロッピーへと書き込んでアーノルド・ノイマンへと手渡す。

だがそれを受け取った彼はすぐさま床へと叩きつける。

 

 

「だめですよ!提督!こんなレガシーすぎる媒体、読み込める機械なんてないですよ!このUSBメモリを使ってください!」

 

「えーー!フロッピーってもう時代遅れなの!だって、サーバとかではまだまだ現役じゃない?」

 

「せめて3.5インチ使ってくださいよ!」

 

「あのペラペラなのが素敵なのよ!だからわざわざ外付けドライブを特注で発注したのに・・・」

 

 

そう愚痴りながらも渋々とUSBメモリへと書き込んで渡すラミアス提督マジ昭和。

 

 

「もう令和になるっていうのに、この平成ジャンプ提督め」

 

 

そんなことだからいつまでたっても独身なんだよと、内心で罵倒しながらプログラムを送信する。

そして恙無くプログラムは実行されていく。

 

 

『一体なんじゃというのだ!わけがわからんわ!』

 

 

「ふふふ、これは爆弾の起爆スイッチ乗っ取りバックドアプログラムよ!」

 

 

どーーんとドヤ顔で説明するラミアス艦長。

 

 

「これを起動している艦の中ではあなた達の爆弾は起爆しないわ!」

 

 

そして、そのプログラムが正しく動作しているようで、領民が何度も起爆アプリで爆破させようとしているが、いっこうに爆弾が爆破する様子はみられない。

 

 

「そしてもう一つ、そのバックドアプログラムからあなた達の起爆アプリをこちらへと転送させてもらったわ。ふむふむ、こういうソフトね、ならばこうして、えっと、銀河の半径がこうで、クロプシュトック領土をシャヌエル予想して、さらに爆弾の周波数をフィボナッチ数列に当てはめて、オイラーの定理がこうだから、メルセンヌ素数で組み上げれば・・・できたわ」

 

 

タタタタターーーン!とスーパーハカーのようにリターンキーを押して、マリューラミアス提督がプログラミングを終える。

 

 

「今組み上げたプログラム、これを起動することによって、クロプシュトック領土の全爆弾を起爆できるわ。最後に言い残す言葉はあるなら聞くわよ」

 

 

それはそれはとてもいい笑顔で尋ねるマリューラミアス提督。

 

 

『ぐぐぐ・・・だが、致しなしか』

 

 

クロプシュトック翁はそれに対して、とても悔しそうな顔で、だが最後は貴族として誇り高くあろうと、冷静さを取り戻す。

 

 

『そうじゃな、せめて妻のエミリーちゃんと側室のリンリンちゃんとシェリーちゃんとチュッチュしてからでいいかいのう?』

 

「リア充爆発しろ」

 

 

絶賛独身のマリューラミアス提督は容赦なくプログラムを実行した。

 

 

こうして、クロプシュトック領土の星はすべて爆破され、第一銀河は消滅した。

銀河帝国開闢から続く、伝統あるクロプシュトック侯爵家はその日をもって歴史に幕を閉じた。

この出来事から貴族たちは三十路を過ぎた独身女性をからかうと爆破されるという教訓を得たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

七銀河貴族専用チャットルームにて。

 

「クロプシュトック侯爵がやられたか」

 

「所詮やつは七銀河貴族の中では一番の小物」

 

「アークエンジェルなど我らの敵ではないわ」

 

「さて、次は第二銀河の私の出番であるな。どーれ軽く揉んでやるとしよう」

 

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間42分。

アークエンジェルの銀河帝国を討つ旅はまだまだ始まったばかりである。



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第十五話 カガリの戦い

ただいまニッポン!
GWは皆さん楽しめましたか?

お伝えしてなかったですが、高校入学して文芸部へと入部しました。
今回のお話を作るにあたって、本小説を文芸部顧問の先生に見てもらいました。

指摘として、情景描写が少ない、著者の思想を主張するべき、読者への啓蒙を促す話にすべきと指導されました。

そういうわけで、今回の話は一旦かきあげた後顧問の先生に添削してもらいました。
政治や思想などよく分からなかったけど、顧問の先生が学生ならばこうあるべきと熱く語ってくれたお蔭でいろいろリアリティのある話になったと思います。

また、戦争なのだからもっと戦争の悲惨さを訴えるべきだと言われ、先生が集めた戦争体験談などを盛り込んだ結果、ちょっとグロい展開も出てきます、ごめんなさい。

なのでそういうのが苦手な方は回れ右おねがいします。




コロニー入り口の長いトンネルを抜けると港町だった。

深々と降る雪の中、艦隊は一隻、一隻と、コロニー内に作られた人口の海へと着水する。

その度に波が立ち、無数の波紋となり、流氷浮かぶ冬の海を彩っていく。

水兵達は馴れた手つきで錨を投げ込み、それがまた新しい波紋を作り出し、艦橋からそれを見ているクルー達の目を楽しませる。

港では地元の宇宙漁師達が着崩したノーマルスーツの襟元に巻いた手拭いを両の手で擦りながら巻きつけ、外からのお客さんを物珍しげに見ながら焚き火で暖をとっている。

「こんな軍人さんがたくさん来らっしゃるとわ、プラントとの戦以来かぁ」

戦前生まれらしい初老の漁師が若い頃の出来事を思い出し、何事もなく出て行ってくれればと小さく呟く。

「あぁ爺さんの親御さん、あの戦争で…」

「うんだ、わしの両親はあの戦争で両方ともな。親父の方はまだ乳飲み子だったのに、奴らコーディネイター達に何度も槍を体に突き刺されての。妊婦だった婆さんはそんな親父の命乞いをしたのに、冷たくなっていく親父の横で兵達に三日三晩乱暴されて、最後は裸のまま腹を裂かれて、中にいたわしの母親を取り出し笑いながら井戸に放り込んだんさ。まさに鬼畜の所業じゃ」

「酷いことをするのぉ。コーディネイターは試験管からさ産まれるもんだから、人の情というもんが分からないんべさ。だから惨いことも平気さ顔で出来るんさ」

そう話してるうちに、船から兵達が次々と上陸しては小隊ごとに散開して次々と港を制圧していく。

噂話をしていた漁師達も兵達がタタタンッと銃を左から右へと動かすことで口を開くことのないモノへと変えられていった。

その後、アークエンジェル艦隊が港町を制圧完了するのにはさほど時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

第一銀河が消滅した後、アークエンジェル艦隊は第一銀河跡を通り過ぎ、第二銀河方面に100光年ほど進んだ先にあるコロニー群に来ていた。

 

そこはアメノミハシラを中心としたコロニー群、つまりオーブ連合首長国である。

アークエンジェル艦隊は補給のため、そのコロニー群の中の一つ、再建されたヘリオポリスへと入港していた。

 

「懐かしいわ、あの頃のままね。ここでザフトに襲われてストライクガンダムに乗って戦ったのは忘れられない記憶だわ」

 

マリューラミアス提督は港の工場を見渡して感慨深く深呼吸している。

周囲の安全が確保されている為、少数の護衛兵と共に制圧した施設を視察していた。

港がある海からは少し強めの潮風が吹き、磯の香りが濃厚で、戦争で疲れた心を癒してくれる。

海には5万を超えるアークエンジェル艦隊が浮いている景色が風情を損ない、少し残念ではあるが。

 

「ラミアス艦長!お久しぶりでーーーす!」

 

海を隔てた先にある山の尾根から声が響き、ラミアス提督が仰ぎ見れば、そこには逆光を背負いガイナ立ちで立っている女性がいた。

まばゆい光を手で遮りながら、訝しげに見るや、その女性は「とうっ」と掛け声一つ、崖から飛び立つ。

アッと悲鳴をあげる間も無く、その女性はヒラリヒラリと木の葉のように舞い、海から捲き上る強風に煽られるや、上着をひろげ、ムササビの如く滑空する。

あにはからんや彼女はそのまま五里もある海をなんとなんと馴れたように飛んでくるではないか。

此れにはラミアスも目を剥いて仰天する。

しかししかしよく考えれば、ここはコロニーの中。

つまり無重力、故に理論的には可能であるが、はたして其れを為すとは飛んだじゃじゃ馬娘である。

はて、そんなじゃじゃ馬に一人覚えがあるではないか。

ラミアス艦長がその人物を記憶から掘り起こそうとするやいなや、アレレと戸惑う声とともにあらまぁその女性は体勢を崩し、海を漂う流氷へと頭から叩きつけられ、椿のような真っ赤な華を海面へと咲かせる。

これはいけない、早く誰か助けねば。

その光景を見ていた水兵達は戸惑いつつも浮き輪だの荒縄だのを手に取り慌たゞしく海へと飛び込もうとする。

だがその直前、水没した場所から巨大なビームが連続して飛び出してくる。

海面の分厚い流氷を幾条ものビームが切り裂いた後、海面がせり上がり、大型のビームランチャーを高く掲げたピンク色のモビルスーツ、ストライクフリーダムルージュが現れる。

それが現れるのに合わせて、港の埠頭にいるオーケストラの楽団が「ワルキューレの騎行」を演奏しだす。

一歩、二歩、とその機体は厳かにビームを撃ちながら港へと上陸してくる。

そしてマリューラミアス提督の正面へとやってきたその機体のコックピットが開かれる。

コックピットから丸まった赤い絨毯が落とされ、マリューラミアス提督の元まで転がり、いわゆるレッドカーペットの道が出来上がる。

 

「オーブ連合首長国永世女王!カガリ・ユラ・アスハ女王のおなーーーーーーりーーーーー!!!」

 

いつの間にか機体の足元に立っていた年老いた大臣が声を張り上げると、レッドカーペットの脇にずらりと並んだ儀仗兵が捧げ銃をし、管弦楽団による勇ましいオーブ国歌が演奏される。

マリューラミアス提督と水兵たちは自然と最敬礼を取り、彼女が現れるのを待つ。

国歌の演奏が終わり、漸くコックピットから人影が現れる。

その姿は全身に宝石を散りばめた豪奢なドレスとアクセサリに身を包み、10万カラットを誇る超特大の人工ダイヤモンドを先端につけた王杖を手に持った女王、カガリ・ユラ・アスハだった。

その王杖はカガリ・ユラ・アスハの古き祖先が住んでいたジパング国のエンペラーに代々伝わっていたムラクモソードを、当時ジパング総理だった初代アスハがジパング国から独立する際に記念として持ち出し、ジパングより優れていることを示すために鋳直して作らせた特注の王杖である。

初代アスハ首長はオーブ独立戦争時に先陣に立ち、その王杖を振るいオーブ諸島先住民の頭を次から次へと叩き潰し、英雄となったのだ。

先端の20キロのダイヤは見栄えだけではなく、ハンマーして用いられ、先住民の血が絶えてオーブ諸島を真に解放するまでに何万という先住民の血を啜ってきたため、妖しいまでの輝きを放つようになっていた。

そのような歴史的背景から、それを代々受け継ぐアスハ家の正統性が保たれている国宝だ。

初めて生で見たラミアス提督はその輝きに一体いくらで売れるだろうかとつい皮算用するほど感動していた。

 

「ラミアス艦長、息災でなりよりだ。最後に会ったのは2000年ほど前だったかな」

 

女王として悠久とも言える長い時間を君臨し続けたカガリの声は自然と襟を正させるほど威厳にあふれていた。

 

「私の主観ではまだ1年も経ってないのですが、ウラシマ効果で2000年以上の年齢差が出てしまいましたね。もうおねしょはしなくなりましたか、カガリ女王」

 

「もうこの体は全身サイボーグでね、生身の部分なんて残ってないのだよ。もちろん記憶データはリアルタイムで分散バックアップは取られているし、培養されている生身の体もあるんだが、2000年も生きていると肉の欲求というのも枯れ果ててね、利便性を考えるとやはり機械の体のほうが全然面倒が少なくていい」

 

ラミアスの冗句に答えるようにカガリも顔を開き、機械仕掛けの内部を見せながら切り返す。

 

カガリ・ユラ・アスハは2000年前、ジェネシス要塞崩壊後、アークエンジェル艦隊がワープしたことを聞き、将来的にオーブへと寄港する可能性を考え、クローン技術と記憶転写技術を駆使し、老化するごとに何度も若い肉体へと記憶を入れ替え、記憶を永続化することによる不死化を実現させ、現代まで生き延びていた。

更に2000年という時間の流れは科学の飛躍的発展を遂げさせ、全身を機械化することを可能とするまでに至っていた。

とはいっても、その維持費は膨大なものであり、一般市民どころか富豪であろうとも難しいものであった。

全身サイボーグ化ならば高額ではあるがなんとか購入できるだろうが、リアルタイムの記憶のバックアップはデータ量が膨大になるため、富豪でも定期的なバックアップに留まっている。

カガリ・ユラ・アスハは数億テラバイトもの記憶データを複数同時に保存するため、コロニーと同等の大きさを誇る巨大ハードディスクをオーブコロニー群の中にいくつも建造して維持しているのだ。

1日の維持費はまさに膨大で、1億人の1年分の生活費が1日で飛んでいくほどである。

これを維持するため、オーブでの消費税は300%である。

 

閑話休題

 

そのような理由で現在まで生き延びているカガリだが、彼女の表情には翳りがあった。

 

「ラミアス艦長。この2000年、私は自分の全てをかけてより良い国家を作るために奔走してきたつもりだ。私心を捨て、民の安寧を望み、全ての民が手を取り合い笑顔で暮らせる社会を作る為に」

 

そう言ってカガリは港を見渡す。

港に停泊している様々な漁船。

ラインハルト軍に察知される恐れがるためこの度の寄港は極秘であった。

そのため、目撃者として処分された先程の漁師たちの船であった。

現在、その船の中を兵たちが火炎放射器で掃討している。

火炎放射器から業火が船内を蹂躙する度に身の毛もよだつような老若男女の断末魔が聞こえてくる。

時に、中から炎に包まれた小さい人のようなものがまろびでてくる。

その人の形をしたものは体を焼く炎を消そうと海面へと身を投げ出し、そしてぷかりとその身を浮かす。

見るとまだ10にも満たない少女ではないか。

全身が焼けただれ、すでに事切れている少女を悼ましげに見つめるカガリ。

 

「あれは蟹工船ですよ」

 

「蟹工船?」

 

聞き覚えのない単語に疑問を浮かべるラミアス提督。

 

「宇宙タラバガニが富裕層に高値で取引されていてね。それを取って船の中で缶詰に加工するために、大資本の企業が寒村などから二束三文で人買いをして船に閉じ込め働かせているんですよ。碌な食事も与えられず、ノーマルスーツすら着させないので放射線で宇宙病にかかり、死んだら宇宙へと投げ捨てられて、また新しい貧民を買ってくる。その繰り返し。お蔭で寒村では常に若者が不足して幾ら国が支援しようが貧しさから抜け出せず、大資本の一部の勝ち組だけが肥え太るだけ。今では貧富の差が覆しようが無いほど」

 

カガリの言葉にラミアス提督は怒りの声を上げる。

 

「そんな!貴方は女王でしょ!制度の改正や法律などで取り締まれなかったの!」

 

「やったさ!何度もやろうとしたさ!でも私にはそれを押し通す力がなかったんだ!」

 

カガリは悔しさの余り声を張り上げる。

 

「大資本の企業を支配しているのは国の中枢の氏族家たちだ。私がそんな彼らの損になる救済政策をどれだけ提案しようが、全て他の氏族家に潰されてしまった。アスハ家がなんとか運用した資産で救済しようとしても焼け石に水。中には同じアスハ家内でも私を疎んじる者たちまで出てくる有様だ。そしていつからか私は軍事力も削ぎ取られ、本当のお飾りに仕立て上げられてしまった。せめて、せめてアスランが居てくれれば…」

 

「まさにインテリ共が考えそうな事ね」

 

憎々しげに呟くラミアス提督。

 

「資本主義の豚共が、私達軍人がどれだけ命を削って私心を廃し戦っても銃後が腐ってしまっては勝利の栄光なんて虚しいだけだわ。やはり連合議会ごと消しておくべきだったのね」

 

「ああ、2000年前に軍部主導で国造りをするべきだった。資本主義へと舵取りした結果がこの腐敗の原因。若き日に夢見た共産国家を力づくでも作るべきだったんだ。すべての利益は全ての国民に平等に分配されるべき。それをあの資本主義の豚どもが美辞麗句で塗布した論説で発展だのなんだのといった弁舌を許したために、知識のない大衆が煽動され、私まで騙されてしまった。若さというだけでは済まされない痛恨の失敗だ」

 

「だけど今私達がここにいる」

 

ラミアス提督は強い眼差しで訴える。

 

「ああ、ラミアス艦長たちが来てくれるのを一日千秋の思いで待っていた。奴らはフェザーンとも手を組み甘い蜜を長い期間吸っていたからこそ、今更私が牙を剥くなど全く考えてない。危機感なんてものは遥かイゼルローンの向こう側まで長期旅行中だ」

 

カガリはラミアス提督、そしてアークエンジェル艦隊の兵士たち全てを見渡し、力強く声を張り上げる。

 

「親愛なるラミアス艦長、そしてアークエンジェル艦隊の将兵たち。帝国軍との戦いの最中である諸君らの負担は重々承知している。だがそれでもあえて私は希求する。今こそ諸君らの力を持って、資本主義企業の殲滅を、共産国家樹立の為の助力を要請する。新体制確立後は全力を持って諸君らの帝国打倒の支援を女王カガリの名のもとに誓おう」

 

『イエス・ユア・ハイネス!!!!』

 

こうしてアークエンジェル艦隊の資本主義打倒の戦いが始まった。

 

 

 

オーブコロニー群、346番コロニー。

そのコロニーは大資本を誇る大企業346プロダクションが所有するコロニーである。

346プロダクションは蟹工船で稼いだ資本を元に、見目麗しい女性たちを買いあさり、アイドルとして活動させる芸能企業である。

様々なタイプのアイドルで一般大衆から満遍なく富を搾り取り、また、富裕層からは特殊な接待をさせることによって政治的配慮を引き出すことにより、ここ数百年で急成長した巨大企業である。

346型コロニーは346企業だけで運営されている。

それは買ってきた、または攫ってきたアイドルたちが逃亡しないように、また罪悪感で心を病んだ社員が内部告発することを防ぐためでもあった。

346コロニーには150億人が生活していたが、そのような理由で、その全てが346社員とアイドルだけであった。

 

 

アークエンジェル艦隊所属の765分隊、双子戦艦アミマミと平面空母キサラギの3隻が346コロニーへと接近し、攻撃を開始した。

それはもはや戦いとは呼べないまでの一方的な蹂躙だった。

 

「打倒悪徳企業!囚われた少女たちを助け出すんだ!」

 

765分艦隊の指揮官プロデューサー大佐の掛け声とともに、戦艦から何百もの核ミサイルが釣瓶撃ちされ、346コロニーは抵抗虚しく数瞬後には原型を留めない有様となる。

その後、空母から発艦したモビルスーツ隊が残骸となった346コロニーへと侵入。

囚われていたアイドルたちの救出に成功する。

 

「所属アイドル5万人のうち助けられた少女たちは隔離区画へと監禁されていた100人ほどか。他の少女たちは恐らく資本主義者たちに殺されたんだろう。くっ、もう少し私達が来るのが早ければ…」

 

 

アークエンジェル艦隊の戦いは他のコロニーでも続いた。

数百の商業コロニー、工業コロニーを次々と制圧。

アスハ家以外の氏族は全て根切りされていった。

 

 

 

 

 

 

『神聖オーブ共和国、初代永世女王カガリ・ユラ・アスハ様のおなーーーーーーりーーーーー!!!』』

 

共和国建国後、新しく作られた女王専用コロニーにて謁見が行われていた。

 

アークエンジェル艦隊の活躍の元、オーブ連合首長国は解体され、新たに神聖オーブ共和国が建国されたのだ。

そして建国の儀が行われた後、様々な制度を制定した後、漸くカガリ・ユラ・アスハ女王とラミアス提督の謁見が行われることになった。

 

「ラミアス艦長、いや、ラミアス・フォン・マリュー侯爵。私をよくぞ助けてくれた」

 

マリューラミアス提督は資本主義打倒の功績を持って、侯爵の地位を与えられ、ラミアス・フォン・マリュー侯爵となった。

 

「カガリさん、いえ、カガリ女王。これで全ての民が平等に暮らせる理想の国ができあがったのね。私達がここオーブへと寄港してから、本当に長い戦いだったわ。でもそれでも、時間をかけた価値のある戦いでもあった。これで銃後の不安を抱かずに打倒帝国へと向かえる。例え何万年かかろうとアークエンジェル艦隊は帝国を打倒し、全銀河に神聖オーブ共和国の名を知らしめてくるわ」

 

ラミアス侯爵は誇り高いドヤ顔で敬礼した。

 

それを受けてカガリもまた威厳を持った顔でラミアス侯爵を送り出す。

 

「我が最高の友、ラミアス侯爵。例え何億年かかろうと、私は卿の帰還を待っているぞ」

 

二人が再び相まみえる保証などどこにもない。

これが本当の別れになるかもしれぬ、なのに二人は決して涙を見せようとはしない。

 

ただ全てを背負い戦う二人の戦士の顔がそこにはあった。

 

 

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間40分。

神聖オーブ共和国から新たに新造されて提供された艦隊100万隻と量産型デスティニーガンダム1億機、そしてそのパイロットとしてクローン培養された量産型クローンパイロット『シン・アスカ』1億人を連れて、アークエンジェル艦隊は第二銀河へと旅立つのだった。



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空手バカ一代編
第十六話 千里の道も一歩から


はじめましての方ははじめまして、いつもの方はこんにちは。


いや、はじめましての方は1話から見てね。


前回は雰囲気がちょっと違ってびっくりした方も多いのではないでしょうか。
実ははじめはもっとライト路線な内容だったんですよ。
ちょっとだけ最初に書いていたあらすじを紹介します。

アークエンジェル艦隊は補給のためにオーブへ立ち寄る。

カガリが雷門中学の教師になっている。

オーブとの交流のため雷門イレブンとのサッカー対決。

円堂守とアーノルド・ノイマンとの一騎打ち、同点のまま引き分けで試合終了で親友同士に。

そこにマリーンドルフ伯爵令嬢ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ率いる神聖黄金樹サッカークラブが乱入。

マリーンドルフ伯爵領とオーブ本国、負けた方の領地をブラックホール爆弾で吹き飛ばすという条件で試合。

最終的に円堂守とアーノルド・ノイマンの合体技ダブルイナズマブレイクでゴールを貫き、その勢いのままマリーンドルフ伯爵領を吹き飛ばして勝利。

故郷を喪い悲嘆に暮れるヒルデガルド・フォン・マリーンドルフをアーノルド・ノイマンが優しく慰めて恋仲同士になる。

最後に旅立つアークエンジェル艦隊を「いつまでも待っている」と涙ながらに見送るマリーンドルフ伯爵令嬢の美しいラストシーン。


顧問の先生に見せた初稿はそんな切ないラブストーリーだったのですが、先生から帰ってきたら前回の話になっていたわけで。
3割ぐらいかな、残ってたの。
その御蔭でとても詩的で重厚なストーリーになったので先生には感謝ですが。

今回は前回を踏まえて書いてみなさいと言われたので殆ど直しなしの私節でがんばりますよ。



 

「リューネブルクが見つかったですと」

 

 

デザートを食べ終え、腹ごなしに感謝の正拳突き1万回をしていたシェーンコップ。

そこにジェネシス要塞崩壊後における地球の被害状況調査をしていた通信兵が入手したネット新聞の記事を持ってきた。

 

 

記事には『ロシア国家代表選手決定!代表決定トーナメントを勝ち抜いた新たな英雄ヘルマン・フォン・リューネブルク!』という大見出しが載っていた。

 

 

「国家代表選手としてリューネブルクは次回のモンド・グロッソへの出場が決定。つまりIS乗りとなったということか。これまた厄介なことだ」

 

 

IS…正式名称「インフィニット・ストラトス」

それは日本の篠ノ之束という科学者によって宇宙空間での活動用に開発されたノーマルスーツやモビルスーツに代わる新たなマルチフォーム・スーツである。モビルスーツ全盛の時期だったため、開発初期は見向きをされなかったが、束が起こした最大級のテロ『血のバレンタイン(※1)』にてこのISが使用されたことがヤキン・ドゥーエ戦役後の調査により分かったため、注目されることになる。

だが、本来は宇宙開発用のために作られたはずのISはこのテロにより戦闘での優位性を証明してしまい、戦闘用パワードスーツとして活用されるのになったのが束にとって痛恨のミスである。

しかし、束は事前に戦闘に使われないように男性には使えないようにロックはかけていた。

だが、束は知らなかった。実は戦いにおいて女性のほうが怖いのだということを。

論理では戦う男性と違い、感情で戦う女性は時として容赦というものを知らなかったのだ。

よって、ISでの戦闘はより悲惨なものとなった。

唯一の救いはISを作るにあたって必須であるコアは篠ノ之束にしか製造できず、その数は合計467個しかなかったことである。

各国に割り当てられたコアは平均10個に満たない数であり、少ないがゆえにお互いが抑止力となり、ISによる戦闘は小規模に留まった。

モンド・グロッソとはそのISを使用した国家間の代理戦争であり、そこでの勝利が連合内での各国の発言権強化に繋がるため、それに出場する国家代表選手は国から最高級の持て成しと保護を受けることになる。

故に、逃亡中のリューネブルクがロシアの国家代表選手として選ばれたということは、彼に危害を加えることはロシア全体を敵に回すことに等しいということである。

 

 

ちなみに女性しか使えない設定について、数年前に織斑一夏という男子高校生が初めてISを起動して話題になったが、後々に彼は新宿二丁目常連のオネエ系で中学時代に愚息をモロッコで取り外していたことが分かり、オネエ系で愚息さえなければ乗れるというセキュリティーホールが判明している。

つまり、現在リューネブルク氏はリューネブルクちゃん(アラフォー)なのである。

 

 

シェーンコップが見ているネット記事では代表決定トーナメントの動画が掲載されていた。

その動画には、オネエ系の濃い化粧を施したリューネブルクちゃんがシリコンで出来た豊満な胸を激しく揺らしながら汗まみれでコサックダンスを踊っている光景が収録されていた。

ロシア代表は代々コサックダンスで決めるのだ。

どの女性も、また元男性も、それぞれ過酷なロシアで生き抜いてきただけあって熊のような巨大な体に分厚い筋肉を纏い、足の太さなどラインハルトの身長よりも大きいほどである。

その丸太のような足を激しく交互に前へと突き出しながら踊り狂うさまは圧巻の一言である。

ISでの戦闘時はそのコサックダンスで相手選手を容赦なく蹴り殺していくのだ。

これこそロシアにおけるパワー・オブ・ジャスティスの体現である。

 

 

「これはなんと美しい…」

 

「は?」

 

 

記事を横から見ていたオフレッサーが汗まみれになって踊るリューネブルクちゃんを見てポツリと感嘆を漏らす。

それを聞いたシェーンコップは聞き間違いかと思いつつオフレッサーを見る。

 

 

「マジか」

 

 

そこには鼻を手で押さえ、その指の隙間から血を滴らせて前かがみになっているオフレッサーの姿があった。

マジか。

さすが石器時代にできた氷から蘇生されて現代によみがえったオフレッサー、美意識が野性的である。

 

 

「いや、なんというか、俺が生きていた石器時代は恐竜と戦うために男も女も皆頑健であってだな。肉体的に優れている者が伴侶として相応しいという概念があってだな、だからいや違うぞ、誤解するな」

 

 

何も言っていないのに慌てて弁明するオフレッサー、いやマジか。

どうやら今のリューネブルクちゃんはオフレッサーのどストライクのようである。

いつだって"ラブストーリーは突然に"なのだ。

 

そんなオフレッサーは置いておくとして、まず考えるべきなのはこれからの身の振り方である。

現状、アークエンジェル軍と戦っている銀河帝国にロシアまで敵に回す余裕はない。

ロシアというのは侵略に際してはその強大な国土故に前線と首都首脳部の連携が遅れ、補給線も長くなるため国力に反してその戦果は往々にして敗北の度合いが高い。

だが、防衛に関して言えば、その巨大な国土と過酷な気象風土、そして畑でなぜか採れる大量の兵士が強みとなり、更に、進行すればするほど『冬将軍』という称号を与えられた強力な防衛専用の将軍が猛威を振るうため、たとえ銀河帝国軍であろうとも迂闊に手を出すと痛い目にあう相手なのだ。

そんな国だからこそ、リューネブルクちゃんはロシアへと逃げ込んだのであろう。

では、そんなロシアに守られているリューネブルクちゃんを倒すにはどうすればいいかだが。

シェーンコップはもう一度記事を見る。

 

 

「モンド・グロッソか」

 

 

ロシア国家代表選手となったリューネブルクちゃんはロシアから守られる代償としてモンド・グロッソというIS乗りによる代理戦争ともいえる大会への出場が義務付けられている。

 

 

「ユリアン君、現在代表選手の決まっていない国をリストアップしてくれないか」

 

 

シェーンコップは従士であるユリアン・ミンツ准尉に検索を頼む。

ユリアン・ミンツ准尉の操作によって旗艦に搭載されているスーパーコンピュータ『Ren-4』(※2)が唸りをあげて高度な演算を行う。

長い長い時間をかけ、月が昇り、日が沈み、そしてまた夜が明けるというサイクルをいくつ繰り返したか。

実際月も太陽も既に無くなっているので当然比喩的表現ではあるが、それだけ時間がかかる高度な演算なのだ。

その間、シェーンコップは来る決戦へ向けて日々鍛錬を続けていた。

 

 

あれからいくつの眠れぬ夜を過ごしたか。

ようやく演算が完了した。

 

 

『ピーガガーー。もっとも確度が高い結果を計算致しましたが2位の結果じゃダメなんでしょうか?』

 

 

『Ren-4』から計算終了を告げる人工音声が流れ、2位の結果を記したパンチカードが吐き出される。

 

 

いやダメだろう、ユリアン・ミンツ准尉は内心そう思いながらももう一度計算するのは面倒なのでそのことは黙ってシェーンコップへと渡した。

 

 

「ふむ、銀河帝国と自由惑星同盟、そしてフェザーンはすでに代表選手が埋まっているのか。そして残っているのがテロ実行犯として元代表の織斑千冬が逮捕された為、空席になっている日本の国家代表選手枠だな」

 

 

そしてその日本代表を決める試合が近々行われることが書かれていた。

試合内容は…それを見てシェーンコップはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「これはこれは、私にも運が向いてきたようですな。ユリアン君、鍛錬の時間だ!」

 

 

シェーンコップが装甲服を脱ぎ捨てると、その下からは背中と左胸に<<亀>>の字が入った山吹色の道着姿が現れた。

これはシェーンコップが本気で戦うときの正装である。

まだ試合ではない。だが常に死合う気持ちで訓練をするのだ。

感謝の正拳突き一万回だけでは終わらない。

感謝の瓦割り一万枚、感謝の飛び膝蹴り一万回、感謝の100mダッシュ一万本、感謝の瞑想一万秒、感謝の牛乳配達一万件、感謝の書類整理一万枚、感謝の昼食一万皿、感謝の似顔絵書き一万人、感謝の靴磨き一万足、感謝のラインハルト一万人、感謝の映画鑑賞一万作、感謝の…感謝の…感謝の…

ありとあらゆる感謝の修練は、いずれ音を置き去りにし、そしてスピードの向こう側へ。

 

 

やがて艦橋は静寂に包まれていた。

全身のありとあらゆる穴から汗を吹き出し、それらが蒸発し蜃気楼となり、その中心に立つワルター・フォン・シェーンコップの背後には菩薩が浮き上がっていた。

ゆるりと。ただ感謝の気持ちに満たされ。無心の気持ちで佇むシェーンコップ。

シェーンコップの構えたその両の手は握らない、開かない、人生最初に型造る手の形…。

これか・・・ポツリとつぶやき、一人納得するシェーンコップ。

ブリッジクルー達はそれを理解できずとも何やらとんでもない事が起きている、それだけは本能で感じつつ只々息を飲んで無言で見つめる。

その静謐な空間にドアが開閉する音が響く。

入ってきたのは全長15メートルはあろうかという巨体の宇宙ベンガル虎であった。

過酷な宇宙空間に適応するために強大化しそしてその膂力は宇宙戦艦の装甲すらたやすく切り裂く。

小型の駆逐艦が宇宙ベンガル虎の縄張りに迂闊に足を踏み入れズタズタに切り裂かれ全乗員逃げる間もなく食い殺されるという悲劇もあちらこちらで幾らでも聞くことができるほどの極めて危険な猛獣である。

そんな危険な猛獣がなぜこんなところに。

何も聞かされていなかったブリッジクルーは泡を吹き意識を喪う者も多数。

だがその虎から放たれる空間すら歪ませるのではないかと思わせるような殺気に誰も声一つ上げることができなかった。

 

 

 

誰一人?

 

 

 

否。

 

 

 

断じて否。

 

 

 

この中で唯一人、ワルター・フォン・シェーンコップだけは違った。

 

 

 

彼は、彼だけは宇宙ベンガル虎と相対しているというのに、何も変わらず、ただただ心が凪いだように無心で立っている。

 

 

 

宇宙ベンガル虎はそんな彼を他とは違うと本能で感じ取り、一定の距離を保ったまま彼の周りの注意深く旋回する。

 

 

一回り。

 

 

二回り。

 

 

注意深く、狩りをする時以上の警戒。

まるで銀河マッコウクジラを相手にするかのような真剣さで宇宙ベンガル虎はシェーンコップを観察する。

他のブリッジクルーという餌などもはや彼には眼中にはなかった。

この得体の知れない人間?本当に人間なのか?いや、もっととんでもないナニカを。

そのナニカから少しでも気をそらすと次の瞬間に自分の生は終わっているのではないか。

猛獣の本能はそれを察知し、ますます警戒心を高める。

 

 

やがて、虎は完全に自然と同化し、完全に気配を消す。

これは宇宙ベンガル虎が真に強者と戦う時に見せる奥義であった。

 

ブリッジクルー達の目には、目の前に虎がいるはずなのになぜか見ることができない。

いるはずなのにいない。

そう感じられ、混乱の坩堝となった。

 

 

そして気配を隠した虎はシェーンコップの背後に忍び寄り。

 

 

 

一足飛びで飛びかかった!!!!

 

 

 

全長15メートルを超える巨体が伸び上がり、上空から鋭利な爪を伸ばした前足をシェーンコップの頭めがけて雷の如く振り下ろす!

 

 

 

そこまでで虎の意識は完全に消え去った。

 

 

 

ブリッジクルーが気づいたときには虎の頭部が消え去っていて、腕を振りきった後に残心の構えに戻したシェーンコップの姿があった。

 

 

「菩薩の拳。ようやく掴めた」

 

 

満足気な、やりきった男の顔でシェーンコップはつぶやいた。

それは完全に殺気を消し、攻撃の瞬間を、それどころか攻撃された事すら相手に感じさせずに逝かせる絶技。

今まで只管正拳突きを極めんと荒々しく腕を振り続けたが、極みとは速さでも強さでもなかった。

ただ無心の心。菩薩の心だったのだ。

それを漸く掴むことができた。

 

 

今、シェーンコップの心にあるのは唯、感謝、それだけであった。

 

 

その一部始終を見ていたラインハルト。

彼はそんなシェーンコップが真に欲しいと心に思った。

だが、シェーンコップは客食。

無理強いをするなどという器の小さいことなどできなかった。

 

 

だから只今は称賛を送るだけだ。

 

 

「シェーンコップよ、良いものを見せてもらった。これから卿はリューネブルクを討つために日本の代表者決定戦へと赴くのであろう」

 

 

その言葉にシェーンコップは、うむ、とだけ答え、背を向ける。

もはや決心はついている。

準備もすでに終わっている。

ならば後は征くだけ。例えその道が二度と戻れぬやもしれぬ一本道であろうとも。

 

 

「よかろう。だが手ぶらで行かせては、この獅子帝ラインハルトの名が廃る。これを持っていくが良い」

 

 

ラインハルトはブリッジの端に置いてある布に覆われた物体を指差す。

それを受けてシェーンコップが布を剥ぎ取る。

 

 

そこにあったのは一台の大型バイクだった。

 

 

「これは…まさか…」

 

 

現れたバイクを見て、シェーンコップは息を呑む。

 

 

SR400をベースにした改造バイクであった。

それも伝説級の知名度を誇る海賊バイクである。

 

 

「"時貞"クンの…"悪魔の鉄槌(ルシファーズ・ハンマー)"」

 

 

その答えにラインハルトは応と答える。

 

 

「そのとおり。"悪魔の鉄槌(ルシファーズ・ハンマー)"…かつて天草四郎時貞が幕府へと謀反を起こした際に乗っていたと伝わる伝説のバイクだ」

 

 

恐る恐ると、シェーンコップはそのバイクの表面を撫ぜる。

すると遥か江戸、肥後国、島原の風を感じた。

 

 

「菩薩を体現した男がキリシタンの伝説のバイクに乗って鬼退治。実に痛快ではないか」

 

 

そういって高笑いを上げるラインハルト。

ラインハルトの笑いに触発され、シェーンコップが顔を上げる。

その面は鬼退治どころか、シェーンコップ自身が鬼のような凶悪な笑みを浮かべていた。

 

 

「そいつぁ、ドエレー…"COOL"じゃねーか」

 

 

その一言を告げて、ヒラリとバイクに跨ったシェーンコップは。

 

 

「"()(パツ)"だ!」

 

 

その叫びとともにアクセルをフルスロットルで一気に駆け出すのだった。

 

 

 

 

向かう先は日本。IS国家代表決定戦。試合会場は奈良県法隆寺の五重塔。

 

 

 

 

試合内容は日本の誇る武道。

 

 

 

 

それは"カラテ"である。

 

 

 

 

征くは自由惑星同盟が誇る最強の"カラテマスター"、誇りある"ホワイトベルト"をその身に巻いた"菩薩のシェーンコップ"

 

 

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間38分。

さぁシェーンコップ、いざ出陣!!

 

 

 

(※1):『血のバレンタイン』とはプラントが有する農業用コロニーであるユニウスセブンが連合軍のMAによる核ミサイル攻撃を受けて壊滅した事件である。プラント側は連合を激しく非難し、連合側は寝耳に水の事件であったためプラント側の自作自演だと反論した。これによって両者の対立の溝が深まり開戦へと至った。だがヤキン・ドゥーエ戦役後の両国共同の調査により、ISの実力を示すための篠ノ之束のテロだったことが判明した。当時、篠ノ之束が連合軍へとハッキングし、核を搭載したMAを自動操作し、ユニウスセブンへと襲わせた。同時にユニウスセブンにもハッキングをかけ、当時駐在していたプラントの警備兵器も自動操作し、両方を束が作成したIS「白騎士」を纏った織斑千冬が撃破するといった自作自演テロだった。そして両者を撃破した後、最後に盛り上げるためにユニウスセブンを白騎士に蹂躙させ、最終的に用意していた核バズーカで吹き飛ばしたというのが真相である。もちろん、事件後に束は犯行声明と共に映像を公開したが、一個人が起こせる規模の事件ではないことと、プラントと連合のお互いへの憎悪により、無視された形となった。

 

 

(※2):スーパーコンピュータ『Ren-4』。銀河帝国軍で現在使われているスーパーコンピュータ『Ren』シリーズの最新機種。大変な吝嗇家で有名なオトフリート5世の統治時、それまでイゼルローン要塞や現代まで使われている最新鋭の技術などを開発する為に活用されていた当時のスーパーコンピューター『Kei』シリーズは開発に携わっていたスタッフの優秀さと、それによって作られる機種の超高性能故に、バージョンアップや維持費などに膨大な額がかかっていた。イゼルローン要塞の建設費用大幅超過を発端としたオトフリート5世の各部署の予算見直し、後に「事業仕分け」と呼ばれ、各部署から阿鼻叫喚の嵐を巻き起こした予算の大幅カットにより、次世代のスーパーコンピューターの選定から『Kei』が除外されることになった。当時、その事業仕分けを指揮していた皇帝の愛妾であった伯爵夫人は「2位じゃダメなんでしょうか?」と発言し、Kei開発スタッフ全員に死を賜るように示唆し、結果、開発スタッフは全員自由惑星同盟へと亡命することになった。その後、その伯爵夫人の実家と懇意にしているフェザーンの『ボッタ・クリーン物産』が自社開発したというスーパーコンピューター『Ren』を予算額限界ギリギリで導入することが決定され、現在まで新規に開発する予算を残さないかのような高額な費用を払ってバージョンアップを繰り返し使用されている。

『Ren』シリーズの特徴は、"古き良き技術の再発見"をテーマとしており、銀河連邦時代より前のCPUやメモリなどのレガシーパーツをデブリとして廃棄されている艦船などからタダ同然で入手して組み上げられている、人件費ぐらいしか開発費が掛かっていないほどの清貧さを売りにした機種で、吝嗇家の皇帝には「製作にほとんど予算を使いません」という説明を受け歓喜したという。当然その予算とはボッタ・クリーン物産の予算のことであり、原価と販売額は別である。皇帝は実際に使われた予算などいちいち確認したりはしないのだった。

故に、後のバージョンアップ作業とはあまりにも古い中古パーツを使っているため長期間使うと壊れてしまうためパーツを交換しているだけで実際には性能など下がることはあっても上がることなど一切なかったのは秘密である。

また、そのような理由で記憶媒体なども5インチフロッピーやパンチカードなどが現役で使われているため、もしラミアス提督がこのスーパーコンピューターを見たならば狂喜乱舞することであろう。

余談だが、その伯爵夫人は自由惑星同盟から潜入したスパイだったという噂がまことしやかに囁かれている。

 

 




話の流れ的に説明文を途中で入れるより、後に注釈として入れたほうが流れを阻害せずにすむかなと、2点だけ最後の所に解説を入れました。

ここから暫く、リューネブルクを追うシェーンコップの空手バカ一代編が始まります。
よろしくね。


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第十七話 正義の使者

今回ちょっと長くて1万字を超えました。

区切りどころ良いところが無かったんだよね。


今回は色んな意見を聞こうと、部の男子たち、銀英伝を読んでる子もいたので意見を出し合ってもらって、
あれだそう、こういう展開とかどうかなって話し合ってるうちに封印していた中2ハートが再燃して何か良く分からないものが産み出されました。

でもお待たせしてしまった分、濃厚になったと思います。

お楽しみください。

イゼルローン要塞陥落から同盟軍の帝国領侵攻作戦までの間に、もしかしたらありえたかも知れないシェーンコップの冒険物語。
銀英伝ちょっとだけオリジナル入ってるストーリー開幕です。





「日本は魔境やけん。気ばつけんしゃい」

 

ラインハルト艦隊を離れた後、アステロイドベルトの船着き場から小さな渡し船に乗り込んだシェーンコップ。

日本へと頼んだ際に、年老いた船頭に一言だけ忠告された。

何の事か分からず困惑していたシェーンコップ。

お兄さん、日本は初めてかい。重そうな背負子を足元へと置きながらヨッコラショと対面に座った年配の行商人がシェーンコップへと問う。

船頭とシェーンコップ、それに行商人の3人が乗ればもう満員という小型の船。

先程の意味を聞こうにも船頭はもうこちらを見ずに黙々と櫓を漕いでいる。

日本には魔物がいるんですよ。面白がるように行商人は言う。

外の国の人には与太話に聞こえるかもしれんですがね。気をつけなさい。彼処は魑魅魍魎が跋扈する本当の地獄ですから。

 

 

 

 

 

 

奈良県法隆寺五重塔。

 

 

琵琶湖の畔で船を降りたシェーンコップはIS国家代表選手選抜試験会場である法隆寺へと来ていた。

法隆寺中門を潜り抜けた先、五重塔がある広場には50億人を超える人がおしくらまんじゅうのように集まっていた。

これらはIS国家代表選手選抜試験へと望む猛者たちであった。

集まった人々を一目見て、シェーンコップは船頭や行商人の話を思い出していた。

確かにこれは魔物の群れであるな。

シェーンコップの肌にはビリビリと圧力めいたプレッシャーを感じ取っていた。

ここに集まっている者、誰一人として弱いものなどおらず、装甲擲弾兵一個師団を指先一つでダウンさせる程度の力はそれぞれ持ち合わせている。

それが確信できる。

修練で研ぎ澄まされたシェーンコップの知覚はオフレッサーをも超える戦闘力すら何人も感知していた。

それによくよく見れば人間とは思えない姿かたちをした者もいる。

 

「鬼や獣人、妖怪たちも参加しているのですよ」

 

不意にかけられた言葉に後ろを振り向くとそこには船で一緒になった行商人。

 

「三種の神器、ムラクモソードが遺失してから、この国の龍脈を制御していた封印が溶けてしまいましてね」

 

行商人が言うに、この国は神話の時代から列島を流れる龍脈、その魔力の影響で鬼や妖怪、そして特殊な力を持った人間が蔓延る魔の島であったそうだ。

それを神々が封印して、その封印を制御する為に三種の神器をこの国を治めるエンペラーへと与えたそうだ。

それこそが『ミラー・オブ・ヤタ』、『ヤサカニ・マガダマ・ストーン』、そしてオーブのアスハ氏が強奪した『ムラクモソード』である。

代々エンペラーはその神器を使い国を治めていた。

だが、行き過ぎた左翼主義且つ改革思想の塊であった当時の総理アスハ氏が、学生運動グループSHELLsを武装化させクーデターを起こした。

そのクーデターによって起こった混乱の最中に私兵と共に宮中を襲撃、『ムラクモソード』を奪い国外へと脱出したのだ。

三種の神器は三つ揃うことにより封印を万全のものにしていた。

なので『ムラクモソード』が欠けることにより、封印が一部解かれ、龍脈より噴出した魔力により御伽噺と思われていた鬼や妖怪、そして平安京エイリアンなどが封印から目覚めるようになった。

また、日本で暮らす人々も魔力に中てられ、人外じみた能力を獲得していった。

 

「故に、連合もプラントも日本には手出しできずに未だに独立を維持しているんですよ」

 

両軍とも何度も日本を制圧しようとしたが、海を越えて本土へと入ろうとした戦闘機やMSはそこら辺の主婦が適当に投げた物干し竿に貫かれて悉く撃破されたそうだ。

 

つまりここにいるのはそういう人外どもばかりということか。

 

「ヒャッハー!また一人自殺志願者がやってきたぜ!」

 

火炎放射器を持ったモヒカンヘッドの革ジャン男が広場に入ってきたシェーンコップを見て舌なめずりする。

だがその次の瞬間にはそのモヒカン男は空から急降下してきた大男に掴まれ、頭から丸のみにされる。

かと思えば、その大男も足元から急に現れた大きな口に下半身を食われ絶命する。

まさにここは一瞬でも気を抜くと食われる弱肉強食の世界。

 

「ではそろそろ私も肉の仕入れをしてきますので、ご武運を」

 

行商人はそういうと背負子から取り出した特大の牛刀を振りかざし、近くにいる男たちを解体し、背負子の中に次々と詰め込んでいく。

どうやら食肉を扱うカラテ商人だったようだ。

そのカラテの冴えは凄まじく、たった一振りで100人近くが細切れになり、部位ごとに手早く解体されていく。

巻き込まれてはいけないと、シェーンコップは人込みを掻き分け、五重塔へと向かう。

あちらこちらで血気盛んなカラテ家どうしの血で血を洗う殺し合いが繰り返される中、五重塔から厳かな鐘の音が響く。

 

その鐘の音に皆が五重塔へと注目したとき、その4階の壁が粉砕され、中から血塗れの人間が飛び出てきて地面へと頭から叩きつけられる。

周囲の者たちは悲鳴や驚きの声を上げるが、その声冷めやらぬ前に今度は3階の壁を突き抜けて黒焦げになった人間が落ちてくる。

次は2階の壁から。四肢が切断された人間が飛び出す。

最後は1階、正面の扉を稲妻が突き破り、帯電した人間が転がり出る。

どの者も既に事切れてピクリともしない。

その光景に先ほどまで喧騒で賑わっていた広場は物音一つせず凍り付いている。

 

 

そして事切れたその4人の遺体を見ていた一人の男がポツリと言う。

 

「おい。4階から落ちてきたあいつ、確かIS日本代表の最有力候補の更識楯無のストーカーじゃないか」

「3階から落ちたやつはあの有名なシスの暗黒卿、ダースベイダーのコスプレイヤーだ」

「2階のやつはよく見たら範馬勇次郎のそっくりさんだぞ!」

「1階のはうちの近所の八百屋のオヤジだ!」

 

更識楯無、ダースベイダー、範馬勇次郎、八百屋のオヤジ。

どいつもこいつも銀河帝国にまで名が聞こえる超有名なカラテ家ではないか。

そんな化け物たちがゴミのような遺体になって目の前に転がっている。

夢だ、夢に違いない。

あまりに現実離れした現状に思わず立ち眩みをしてしまう。

 

「おい!見ろ!」その声に五重塔を見上げたシェーンコップ。

すると先ほど飛び出してきた1階から4階までのそれぞれの穴からフードで覆われた4人が現れる。

そのうちの4階の者が「傾注せよ!」と声を張り上げる。

 

「ここに集まりし命惜しまぬ愚かな者共よ。IS国家代表選抜試験は既に始まっておる!試験内容は至極簡単。1階の門より入りて、各階にいるわれらカラテ四天王を一人ずつ戦って殺し合い、最上階にて『レジェンダリー・カラテ・絶対・マスター』に勝てば終わりよ」

「そこに転がっているものは、その試練に敗れし者どもよ」

「ふん、先ほどの更識の者、4階まで辿り着けたそいつが今回の最高記録だ。とはいっても今回のIS国家代表選手選抜試験が始まってから約1000年。その間、誰一人として最上階にまで辿り着いたものなど居らんがな」

「IS国家代表などという無謀な夢など我ら四天王がいる限り、絶対叶うことなどないのだ」

 

カラテ四天王はそれぞれ嘲笑しながら説明する。

その余裕、まさに強者の威風。濃密な死の気配がぷんぷん丸だ。迂闊に近づくと瞬く間に俳句を詠むことになるだろう。

だがそれを感じ取れない愚か者というのはどこにでもいるものだ。

人込みの中から槍を持った4人の男が飛び出す。

 

「俺ら恵比寿の団子屋4兄弟!連携攻撃なら日本一の力を見せてやる!俺らの連携必殺カラテ技『花びら大回転』を食らって死ぬがいいね!」

 

4人の男はそれぞれ各階の四天王に猛烈な勢いで槍を突き出す。

だが、

「ぬうううううん!四天王"4階の切り裂きジャック"秘儀『千尋の刃』」

「四天王"3階の煉獄王"の灼熱パンチを食らうがいい!」

「私は四天王"美しき2階目の魔闘家"。貴方如きでは相手にもなりませんね」

「そして私が四天王最弱の戦士!"1階のとりあえず電撃使い"!必殺のカラテ魔法ライトニングボルトで感電死するがいい!」

それぞれ先ほどの焼き直しとばかりに、血塗れ、黒焦げ、四肢切断、感電死となり遺体となりはてる。

 

「おいおいおい、あの団子屋4兄弟がなすすべなくやられるなんてマジやばいぞ」

「こんなの聞いてねーぞ!勝てるわけねえ!」

 

それを見ていた周りの者たちは恐怖にかられ、一目散に中門から逃げようと走り出す。

だが無情、あと一歩のところで中門が閉ざされ、広場から出られなくなる。

 

『どこに行こうというのだお前たち。この選抜試験は途中リタイアは死亡しない限り無効だよ』

 

広場全体に怪しげな声が響く。この声は四天王ではない。

見るといつの間にか5階の窓が空いていて暗い人影がボウっと浮かんでいる。

 

「おお、マスターよ」

 

四天王達が一斉に跪く。

 

『ふふふ、私が姿を見せるのはいつぶりだろうか。今日は特別に気分がいい、今回の試験を盛り上げるために少しアトラクションを用意しようではないか』

 

暗い人影、『レジェンダリー・カラテ・絶対・マスター』は窓から右腕をヌゥっと突き出す。

その右腕が黄金に輝き、矢を空へと放った。

矢は黄金に輝き、空を裂き、地球を飛び出し宇宙を駆ける。そして遂にラインハルト艦隊の旗艦へと直撃する。旗艦の正面装甲を容易く貫いた黄金の矢はなんと獅子帝ラインハルトの心臓へと突き立った!

それはまさに一瞬の出来事。天鱗の才能を持つラインハルトも不意を突かれたその一撃を避けること叶わずドゥっと大の字に倒れる。キルヒアイスやオフレッサーが慌てて駆け寄る。その黄金の矢は心臓の中心へと見事に突き刺さっているが、奇跡的に出血などはない。だが少しでも触ると心臓が裂ける絶妙な状態だった。

 

『聞け、参加者諸君。たった今、私は獅子帝ラインハルトの心の臓を黄金の矢で射抜いた。この矢は無理に取ろうとすればたちまち心の臓を突き破る。黄金の矢を抜く手段は唯一つ、モンド・グロッソに優勝すること。そして優勝賞品であるキン肉族の秘宝である黄金のマスクと銀のマスクを手に入れることだけだ』

 

『ただしっ!』とレジェンダリー・カラテ・絶対・マスターの右腕は東、東大寺の方向を指差す。

すると大地を揺るがす地鳴りが響く。

見ると東大寺のある方角から大仏様が見えてくるではないか。

東大寺の大仏様が下から柱で突き上げられ、ここ法隆寺から見える高さまでせり上がる。

その大仏様の下にある柱をよく見ると時計のように外周に12干支が配置されている円模様が彫り込まれている。更に12干支が配されている場所に一つ一つ炎が計12個燃えている。

 

『よく見ると良い。あれは火時計である。これより2分おきにあの火が一つずつ消えていく。すべての火が消えたときが獅子帝ラインハルトの命が燃え尽きるのだ。奴の命を救わんとするなら急ぐことだな、ふはははは!』

 

レジェンダリー・カラテ・絶対・マスターはひとしきり笑い終えるとサムズアップをしてから窓を締めた。

 

「おお、さすが慈悲深き尊い御方。こんな有象無象共に猶予を与えていただけるとは。お前ら、これに感謝して試験を楽しむのだぞ」

「でもさすがにこの人数は少し面倒だな」

「よかろう、お前たち、これからお互い殺しあうがいい」

「そして最後の一人になったものにこの五重塔への挑戦権を与えよう」

 

そういうと四天王は五重塔の中へと消えていった。

 

かくして生き残りをかけた参加者同士の殺し合いが始まった。

シェーンコップが身構える間もなく後ろから殴りつけられる。

辛くも前転受け身を取り衝撃を殺すも、横合いから他の者がサッカーボールキックを顔面へと目掛け繰り出す。

顔を背け、逆立ちになり蹴りつけた相手の顔面へ蹴り返してやる。

更にひっそりと切りつけようとしていたカラテ家の剣の峰へと飛び乗る。

足の指でその剣をつかみ、体をひねらせることで剣を奪い取る。

そしてサーフボードのように剣に乗り、他の男たちの頭の上に飛び乗り、波を渡るかのように次々と切り裂いていく。

それで30人ほどを屠ったところで剣での前進が止まる。

見ると剣を歯で受け止めている男がいるではないか。

これは危ない、シェーンコップはすぐさま飛び降りる。次の瞬間には剣はすべてその男に食われ、あと一歩遅れれば自身の足も呑まれていたであろう。

地面へと降りたシェーンコップに周りの者たちが襲い掛かる。

 

「菩薩拳!2倍!」

 

シェーンコップは修練で身に着けた菩薩の拳を発動する。

この人数、通常の菩薩拳では捌ききれぬか。相対する人数とその力量を瞬時に見て取ったシェーンコップ。やむを得ないと、無心の心を通常の2倍まで高める。

心を無にすることで至れる菩薩の心。無の深度を深めれば深めるほど菩薩へと近づき、その練度は高まる。

だが闇雲に深度を深めれば人間の心は容易く形を喪い菩薩へと飲まれ戻ってこれなくなる。

故に菩薩の拳を使えるようになっても使うのは2倍までにするようにと子供の頃に父から厳しく言われていた。

なので2倍は切り札として置くと決めていたのだが、こんな序盤で切ることになるとは。

悔しさで頭が沸騰しそうになるが、そんなことはとりあえず置いておく。

今はここを乗り切らねば何も始まらぬ。

無心の拳が次々と襲い来る敵へと炸裂する。

如何な化け物じみたカラテ家たちだろうが、認識できねば避けられぬ。

通常の2倍の希薄さになった菩薩の拳が次から次へと湧いてくるカラテ家の頭を無情に砕いていく。

相対したカラテ家たちは俳句を詠む間も与えられず、次々とその儚い生涯を閉ざしていく。

「アイエエエ!カラテナンデ!?」その獣めいた断末魔が耳にこびりつく。

シュッポシュッポシュッポシュッポ!拳を振るうたびにシェーンコップの胸は高鳴り、さらに拳の回転数を上げていく。

うぉぉぉぉ!俺はまるで人間蒸気機関車だ!

ぐるぐるぐるぐると両手を回転させ、目の前にいる敵、敵、敵の悉くを菩薩の拳で粉砕して突き進む。

すでにシェーンコップが屠ったカラテ家は100万を超えていた。

このまま全員倒しきれるか、そう考えていた時期もありました。

その男は快進撃を続けるシェーンコップへと卑怯にも背後からバールのようなもので殴りかかった。

頭をかち割られ、もんどりうったシェーンコップ。

あまりの衝撃に地面を転げまわるも、気力を振り絞り殴りつけた相手へと向く。

そこには大型バイクに乗ったリーゼントの男がバールのようなものを肩に担ぎ立っていた。

そいつはガタイの良い特攻服を身にまとった17か18歳程の不良少年だった。

カラテマスターの集まるこの試合会場には余りにも不釣り合いであった。

 

「"魍魎"の、"武丸"だよぅ」

 

その男、武丸はシェーンコップへとメンチを切ってきた。

 

「あんまチョーシくれてっと、ひき肉にしちまうぞ。小僧」

 

シェーンコップも負けじと武丸にメンチを切り返す。

 

二人の間に一瞬空気が凪いだ。

 

 

 

 

次の瞬間、

 

 

 

 

二人の頭が弾け飛ぶ。

 

 

 

 

武丸の顔面に菩薩の拳が叩き込まれ、同時に武丸が持つバールのようなものがシェーンコップの頭を殴り飛ばしたのだ。

両者の頭から血しぶきが舞う。

ぐらりと体が崩折れそうになるも、直ぐ様立て直し、またもやお互いの頭を跳ね飛ばす。

二人共、相手の攻撃を認識など出来ていない。

ただ、己の攻撃を当てる、それだけの本能で殴り合う。

シェーンコップと武丸の頭が面白いようにポンポンと跳ね上げられる。

両者全く同じタイミングで殴り合っているのだ。

だが相手は唯の不良少年。シェーンコップは菩薩の拳で無心の境地に至っているというのに、なぜ打ち勝てぬのか。

確かに武丸はカラテマスターではない、唯の不良少年だ。

しかし、その力は普通ではなかった。

 

 

『全集中・不良の呼吸』

 

 

それは人間が鬼のように強くなれる特殊な呼吸法である。

本来なら鬼を狩る剣士達が極意として身につける技なのだ。

だが武丸は産まれてから十何年もの間、ありとあらゆる相手にメンチを切って喧嘩三昧の生を送ってきた。

横浜の暴走族を潰し、連合軍基地へと殴り込み、妖怪共をぶちのめし、最終的には鬼を相手に命のやり取りを繰り広げてきた。

故に、その戦いの中で彼の喧嘩殺法は磨き抜かれ、いつの間にか独自の呼吸法を生み出していた。

それが武丸の『不良の呼吸』である。

相手を殴れば殴るだけ、そしてダメージを受ければ受けるだけ、どんどんと呼吸が研ぎ澄まされ、理性を無くしていく代わりに膨大な力を生み出す特殊な呼吸法。

死に迫れば迫るだけ鬼の如き力を、否、鬼そのものへと至っていくのだ。

そして武丸のその呼吸法は相手への攻撃最適解を導く。

武丸は荒々しい攻撃をしているように見えながら、その実、全ての攻撃が最短で相手へと叩き込まれている。

相手の認識の隙間を縫うタイミングをその呼吸法で無意識的に取得しているのだ。

これによって菩薩の拳と同等の効果が得られている。

故に、シェーンコップは武丸の攻撃を認識できず、結果、両者相撃つ事態へとなっている。

 

 

このままだと、引き分けになるようにも見えるが、実際不利なのはシェーンコップの方であった。

 

 

武丸はダメージを蓄積すればするほど呼吸法が冴え渡り、力を増す。

だが、シェーンコップはそのような特殊能力を持たない普通の人間である。

これ以上攻撃を受けると、菩薩の拳を維持することも難しい。

 

 

悔しいがこのままでは勝てぬ。そう悟ったシェーンコップ、武丸の攻撃を受けた反動を利用し、大きく後ろへと飛んで間合いをあける。

 

 

「ぬう、一体どうしたもんか。奴のタフネスは尋常ではないな」

頭から流れる血を拭いながら苦悶の表情のシェーンコップ。

 

「武丸のタフネスさは特殊な呼吸法によってその身に特殊な力の流れを形成していることです。その流れを解除しなければ倒すことは出来ませんよ、シェーンコップさん」

 

「どこから湧いてでたユリアン・ミンツ」

 

武丸の力についてアドバイスするユリアン・ミンツ准尉。そしてその唐突さに驚きを隠せないシェーンコップ。

 

「いつもニコニコあなたの隣に這い寄る従士、ユリアン・ミンツ、です」

 

なにそれ怖い。

 

「武丸の力を浄化するにはアレしかありません。シェーンコップさん、コレを持って私に合わせてください」

 

シェーンコップはユリアン・ミンツから折りたたみ携帯電話を渡される。

いきなりなんのことやら戸惑うシェーンコップの手をユリアン・ミンツが握る。

そして二人は繋いでいない方の手を空へと掲げ叫ぶ。

 

「「デュアル・オーロラ・ウェーーーーーーブ!!!」」

 

「って俺は何を言ってるんだ」

自然と口から出た言葉に戸惑うシェーンコップ。

だが、すぐに変化が訪れる。

シェーンコップとユリアン・ミンツを包むように虹色の光の柱が現れる。

柱の中でいつの間にか裸になったシェーンコップとユリアン・ミンツ。

その身を包むようにシェーンコップには黒の、ユリアン・ミンツには白の、それぞれ可愛らしいドレスが装着される。

渡された折りたたみ携帯電話はそれぞれの腰のポーチに収納され、そして変身が完了する。

 

「な、何が起こっている!」

眩い光に武丸は戸惑いの声を上げる。

 

「光の使者!キュアブラック!」

可愛らしい黒いドレスを纏ったガチムチのシェーンコップが名乗る。

 

「光の使者!キュアホワイト!」

こちらも可愛らしい白いドレスを纏った中性的なユリアン・ミンツが名乗る。

 

そして二人は寄り添いながらポーズを決め、

 

「「ふたりはプリキュア!」」

 

「闇の力のしもべたちよ!」

「とっととお家へ帰るがいい!」

 

ユリアン・ミンツ、そしてシェーンコップが武丸を指差しながら宣告する。

 

ここに銀河の黒歴史がまた1ページ。

 

 

「な、なんじゃこりゃー!!!!」

正気に戻ったシェーンコップが頭を抱えて叫ぶ。

 

その横でユリアン・ミンツことキュアホワイトは、

「さぁ読者の皆。マジカルライトでプリキュアを応援するクポ!プリキュアー頑張れーー!」

と明後日の方向に向かって何やら手を降っている。

 

さぁみんな、シェーンコップを応援するんだ。

 

プリキュアー!頑張れー!

負けるな!プリキュアー!

 

がーんばれーがーんばれー!

 

もっとクポー、もっと必死に応援するクポー!

 

ぶりきゅあああああああああああああがんばれええええええええええええ!

まけるなあああああ銀河の平和はおまえにかかってるぞおおおおおおおお!

 

 

その言葉が届いたのか、ふらりとシェーンコップ、いやキュアブラックが立ち上がる。

キュアブラックの目はなんだか虚ろになっていてトランス状態だ。

 

「キュアブラック、やっと正義の心に目覚めましたね」

キュアホワイトは優しげな瞳でキュアブラックを迎える。

 

そして二人は再び手をつないで叫びを上げる。

 

「ブラックサンダー!」

「ホワイトサンダー!」

二人のもとに黒と白の雷が降り注ぐ。

 

「プリキュアの美しい魂が!」

キュアホワイトが叫ぶ。

 

「邪悪な心を打ち砕く!」

それに負けじとキュアブラックも力強く叫ぶ。

 

そして二人の力が合わさり、絶大な浄化の力が顕現する。

 

「「プリキュア・マーブル・スクリュー」」

 

技名を発すると同時に、その力の奔流が武丸を飲み込む。

 

「ざけんなああああああああああ」

 

あまりの意味不明な展開に武丸の叫びが響く。

 

数瞬後、シェーンコップが正気を取り戻すと共に、武丸を包み込んでいた浄化の光が消える。

 

そこに立っていたのは

 

 

 

「"魍魎"の"武丸"だよぅ」

 

 

 

ちょっとだけ綺麗な武丸だった。

 

 

「なんと、アレを受けても生き残るなんて、なんてしぶといんでしょうか」

慄くユリアン・ミンツ。

いや、殺しちゃうのかよプリキュア・マーブル・スクリュー。

 

お互い、正気を取り戻したシェーンコップと武丸が再び向かい合う。

 

「なんだか分かんねぇがちょっとスッキリした。こうなったらよ、お互い走りで勝負決めようじゃねぇか」

ちょっと綺麗な武丸が、シェーンコップに最後の勝負を挑む。

 

「走り、というとチキンランで良いのかな少年よ」

昔ちょいワル武勇伝でヤンチャしてたシェーンコップが答える。

 

「勝負は、あの五重塔まで。どちらか先にブレーキを踏んだほうが負けだ」

武丸は自慢の単車に跨がり、五重塔の扉を指差す。

 

「良いだろう、来いっ!"悪魔の鉄槌(ルシファーズ・ハンマー)"!!」

呼ばれてどこからともなく現れる"悪魔の鉄槌(ルシファーズ・ハンマー)"に颯爽と跨るシェーンコップ。

ちなみに格好は未だにミニスカートのキュアブラックなので、後ろから見ると締まりの良いガチッとしたケツが丸見えだ。きっと読者サービスなのだろう。読者の皆、ここが今回の抜きどころだ。ユリアン・ミンツもそれを見て顔を少し赤くしている。

 

 

いつの間にか肉の仕入れが終わった行商人が側に立って合図役を担当してくれる。

 

「お互い、準備はいいかね?カウント………5、3、2、スタートッ!」

なんと素数カウントだ。

 

慌てて飛び出す二人。

 

両者とも迷わずアクセル全開。頭のネジがゆるゆるなので。

そして走る最中、お互い相手のブレーキレバー目掛けて無数の拳を繰り出す。

先程までの死闘で力を消耗している二人は菩薩の拳も不良の呼吸もままならず、だがそれでも常人離れした速さのパンチを放つ。

だがどちらも負けじと必死のハンドルさばきで互いの攻撃を避ける。

そうこうしているうちに元々五重塔まで距離が短いためすぐにゴールが見えてくる。

お互い覚悟を決め、ブレーキのタイミングを図る。

 

バイクの速度は今や200キロを超えている。

 

扉激突まで、20メートル。通常ならこの時点で手遅れだが、両者の技量ならまだ大丈夫。

 

 

15メートル。ブレーキと共に後方へと全力で引けばなんとかなるか。

 

 

10メートル。いやいや、もうバイクは諦めて飛び降りれば。

 

 

5メートル。あれ?これ死ぬんじゃないか?

 

 

1メートル。もう無理だ!武丸はブレーキと同時に車体を横へと倒し、地面へと蹴りを放ち、足を大地へと埋めることにより何とか静止に成功する。

 

0メートル。シェーンコップはノンブレーキで突き進む。

 

 

 

 

 

シェーンコップと"悪魔の鉄槌(ルシファーズ・ハンマー)"は五重塔1階の扉を突き破った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ・・・意識が少し飛んでいたか」

 

 

扉を突き破り、派手に転倒したシェーンコップは数瞬意識を失っていたが、何とか立ち直る。

"悪魔の鉄槌(ルシファーズ・ハンマー)"は少し離れた場所で轟々と音を立てながら燃えていた。

 

とりあえず私の勝ちで良いのかな。そう考えつつ、周りを見渡す。

 

どうやらここは五重塔の中のようだ。

 

四方を険しい山に囲まれ、地面は硬い石で覆われ、部屋の中央には石の床に4本の支柱とロープで正方形に区切られたリングが設置されてあった。

シェーンコップはリングへと入り、四天王とやらが現れるのを待つ。

 

 

『ほほう、どうやら外のコロシアイを生き残った挑戦者のようだな』

 

 

部屋に響いた声にシェーンコップは辺りをすばやく探る。

声の主は正面の山の上にいた。

 

ローブを被っていた1階の四天王だ。

 

 

『今までは手ぬるい奴らばかりで飽き飽きしていたのでな。少しは長生きしてくれることを期待しているぞ』

 

 

四天王は纏ったローブを脱ぎ捨てる。

 

その下から現れた姿。

 

それはまさに奇怪としか言えなかった。

 

岩?いや山?それに柔道着をまとわせたような姿だ。

更に身の丈3メートル近い巨漢である。

ただの人間ではありえないその姿にシェーンコップは数歩後ずさる。

 

 

「あいつは!」

「知っているのか雷電!」

 

 

リングの脇にあるテーブル席に座った司会と解説の男が四天王を指差し声を上げる。

 

 

 

「やつは7人の悪魔超人の1人だ!」

解説の雷電が叫ぶ!

 

 

 

「そうよ!俺様が四天王が一人、悪魔超人!ザ・魔雲天様よ!喰らえ!マウンテンドローーーーーップ!!」

 

 

 

名乗りと同時にザ・魔雲天が天高く飛び上がりキュアブラックことシェーンコップへと飛びかかるのだった。

 

 

 

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間36分。

プリキュアと悪魔超人。正義の戦士と悪魔の戦士の宿命の戦いが始まるのだった。

 

 

 

 

 




次回はもう少し早く書き上がれば良いなぁ。
でもそろそろ中間テストが…。


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第十八話 伝説の頂点

この話を書いている途中、中間考査のテスト勉強をそろそろしようかと思ってた矢先、
とある無料FPSゲームにハマってしまいましてね。
日々戦い抜いていたら、いつの間にかテスト用紙が帰ってきてね。
チェックマークって正解ってことだよね、すべてチェックマークだから満点だよね。
テスト合格の○マークが赤く大きく書かれてるから大勝利だよね?
そう考えていたら何故か毎日補習授業を受けることになっていました。
解せぬ。


 

 

 ザ・魔雲天の必殺技マウンテンドロップ。

 

 

 それは空高く飛び上がり全体重をかけて相手へとのしかかり押しつぶす、言ってみればただのフライングボディアタックである。だがそれを身長285m、体重1000キロもの巨漢、そして体が岩石で出来ているザ・魔雲天が繰り出せば、それ即ち必殺の技へと変わる。狭いリング上にいる敵に向かってその巨体の両手足を広げ飛び掛かることで逃げ場を無くすことができる、また、その頑丈なボディ故にスーパーアーマー効果が発生し、相手が昇竜拳などの対空攻撃繰り出してきても迎撃されることなく確実にダメージを与えれるのだ。さらに試合開始直後にいきなりこの技を出された相手は態勢を整える間もなく防御を固めることしかできず、仮にその攻撃に耐えれたとしてもその後の攻撃のイニシアティブはザ・魔雲天へと握られることになるだろう。

 

 

 ただ、今回の相手は百戦錬磨のシェーンコップ。

 

 

 マウンテンドロップは迫力満点の必殺技ではあるが、落下速度の変化が乏しく、途中で落下起動を変えることもできない。つまり、技の始動を見れば、落下位置から着弾タイミングまで容易に予測可能だ。

 シェーンコップは慌てることなく直撃する瞬間に合わせて前方回転受け身を行う。そして前方回転受け身で発生する無敵時間でその巨体をすり抜けたシェーンコップはリングに叩きつけられ技硬直状態のザ・魔雲天へとお返しとばかりに怒涛のラッシュをかける。

 リングで倒れているザ・魔雲天、その巨大な顔面に向けて基本のワンツー、踏み込みながら頬を抉る音速ブロー、そして菩薩の拳を発動させデンプシーロールで攻め立てる。シェーンコップはそのまま3分後、第一ラウンド終了のゴングが鳴るまで無酸素運動でデンプシーロールによってザ・魔雲天の顔面を強打し続けていた。それを食らい続けたザ・魔雲天の頭部は見るも無残なまでに削れ果て、セコンドへと向かう彼は千鳥足となりフラフラで今にも倒れてしまいそうだ。

 

 

「菩薩の拳を維持したままのデンプシーロールは賭けでもあったが、それに見合うだけのダメージを与えれたな。あの様子だと第二ラウンドまでに回復するのは無理だろう。このまま勝負を決めてしまうべきだな」

 

 

 ザ・魔雲天の様子を見て、勝利を確信していたシェーンコップ。

 だが、どこからともなくバタ臭い女の子が大きな岩を担いでリングへと駆け寄ってきて、「ザ・魔雲天!新しい顔よ!」と叫び、ザ・魔雲天へとその岩を投げつける。その岩がザ・魔雲天の頭部へと直撃すると、削れきった顔が取れ、なんと新しい岩がザ・魔雲天の顔へと早変わりしたではないか。ザ・魔雲天は今までの疲労困憊した様子が嘘のように軽快な足取りへと変わり、スキップをしながらセコンドへとたどり着く。

 

 

 結果、体力満点へと回復したザ・魔雲天と、3分間菩薩の拳を維持し無酸素運動を続け疲弊したシェーンコップと形勢がひっくり返る。

 

 

 1分間のインターバルの間、ユリアン・ミンツによるマッサージで少しでも疲労回復を試みたが、予選でのバトルロイヤルからの連戦により、思った以上に体力を消耗していた。超人強度が50万パワーもあるザ・魔雲天と、ただの人間であるシェーンコップではそもそもの体のつくりが違う。そもそも本来ならIS国家代表選手選抜に人間が参加するなど想定されてはいないのだ。ここに至っては致し方ない、シェーンコップは死をも覚悟して臨む。

 

 

「ユリアン君、アレを頼む」

 

「本気ですか?アレをやって正気を保てた人はいませんよ」

 

 

 シェーンコップの言葉にユリアンは思わず問い返してしまうが、彼の覚悟を決めた険しい顔を見て本気なのだと悟る。ユリアンはその覚悟に応えるべく、全身全霊の小宇宙(コスモ)を練る。上空ではユリアンの守護星座である牡羊座がユリアンの小宇宙(コスモ)に呼応して激しく輝いていく。更に、変化は彼の体にも及ぶ。彼の嫋やかな細い体、一見、少女のようにも見えるプリキュアドレスに相応しい美しい体。そんな彼の体が小宇宙(コスモ)の増大に応じて、次第に筋肉が膨張していき、ヘラクレスもかくやというべきな見事な逆三角形へと変化していく。

 リングサイドでは「いいよ!デカイ!キレてるキレてる!」「ナイスカット!」「大胸筋が歩いてる!胸がケツみたい!」「上腕二頭筋ナイス!チョモランマ!」などと、ユリアンの筋肉を見るためにわざわざ銀河帝国オーディン星からやってきた追っかけファンが恒例のコールをあげている。

 そんな彼らに見事なポージングで応えながら小宇宙(コスモ)を練り上げたユリアンは、シェーンコップの背後に立つ。覚悟を決めた男の背中。一本の指に全小宇宙を乗せて、その背中の中心にある秘孔を貫く。そしてその秘孔へと膨大な小宇宙(コスモ)を流しこむ。

 

 

  奥義・心霊台

 

 

 膨大な小宇宙(コスモ)を背中から流し込まれ、全身を駆け巡る。これは成功すればありとあらゆる死を克服し、絶大な力を得ることができる。だが効果が表れるまでに「死よりも辛い激痛」が被術者に襲い掛かる。

 実際、シェーンコップは今まで感じたこともない壮絶な痛みに声を上げることもできず目を見開き口に泡を吹く。しかし、しかしシェーンコップはそれに耐える。目を真っ赤に血走らせ、口を引き結び、拳を握りしめ、大地を強く踏みしめて耐え抜く。

 

 

 痛みに耐えること三日三晩。

 

 

 四日目の朝、ようやく痛みが引き、彼の全身には未だかつてない活力が沸き上がっていた。

 シェーンコップは、溢れ出る力をゆっくりと噛みしめ、その場に座り込む。彼はおもむろにスカートの中からバスケットを取り出す。バスケットの中に入っていたのは特大のタッパとバナナ、そしてペットボトルのコーラであった。特大のタッパの中にはおじやが入っており、うめぼしも添えられていた。シェーンコップはそのおじやを大口をあけて掻き込んでいき、バナナを飲み込むがごとく口に放り込む。最後にペットボトルを激しく上下に振り、コーラから炭酸を一気に抜いてから飲み干す。

 その光景に観客たちは唖然としている。

 

 

「おいおい、これから第二ラウンドだっていうのに、なんであんなに食べてるんだ」

 

「そんなに食ったらボディに一発で地獄だぞ。死んだなあいつ」

 

 

 彼の行動を測り兼ね、観客たちはヤジを飛ばすが、「さすがだな」と一人の男が感心する。

 

 

「炭酸の抜いたコーラというのはエネルギー効率が極めて高いのですよ。それに特大タッパに入ってたおじやとバナナも速効性のエネルギー食です。さらに梅干しを添えてあるので栄養バランスもいいだけじゃなく、四日前に作った弁当でも腐敗が抑えられています。そしてそれをあれだけ食べきれる消化力も常人離れしていますね。つまり彼は極めて高いレベルのカラテ家ということです」

 

 

 そう、シェーンコップはこの短いインターバルで一気に回復するためにこの速効性のエネルギー食を食べたのだ。

 更に1時間ほどかけてストレッチを行い入念に筋肉を解きほぐしていく。

 

 

「そろそろ次のラウンドか」

 

 

 リングの対面コーナーを見やると、ザ・魔雲天もゆっくりと立ち上がり、体をほぐしている。

 両者がリングの中心へと歩み寄り、互いに挨拶とばかりに左腕を伸ばし、お互いの拳を全力で打ち抜く。その衝撃に両者の左手が弾き飛ばされたところで第二ラウンドのゴングが鳴り響く。

 

 両手で顎を守るピーカブースタイルで前後左右に首を振って相手の隙を、そして飛び込むタイミングを伺うシェーンコップ。

 対して、王者の貫禄を見せつけるように、両手をだらりと下げ、胸を張って微動だにしないザ・魔雲天。

 

 一見、ザ・魔雲天のその態度はまさに打ってくれとばかりに隙だらけに見える。

 だが、それに反してシェーンコップには飛び込むことができずにいる。

 その理由は両者の対格差にあった。

 先ほどはマウンテンドロップによってザ・魔雲天がリングへとうつ伏せで倒れていたから顔面を攻撃することができた。しかし今回のザ・魔雲天は仁王立ちしている。するとどうだろう、その巨体はまさに聳え立つ富士の山。

 今、シェーンコップが全力で攻撃しても、彼の拳はザ・魔雲天の踵までしか届かない。シェーンコップの頭の高さはザ・魔雲天の踵の高さと同義。なぜならザ・魔雲天とは富士の山が膨大な魔力により超人化して動き出した存在なのだ。つまりシェーンコップは富士の山を前にして、その山を拳で倒そうとしているようなものなのだ。

 

 

「なるほど、この対格差はちょっと想定外だ。だがまだ勝機はある」

 

 

 シェーンコップは空間転移を行い、ザ・魔雲天の右足の外側へと回り込む。

 

 

「菩薩拳!10倍!」

 

 

 以前までと違い、心霊台を乗り越えた彼の体は菩薩拳の10倍をも軽く耐えれるほどに強靭になっていた。そして感謝の正拳突きをザ・魔雲天の右足、その小指へと叩き込む。正拳突きは彼の身長より大きな小指の中心部を貫き。クレーターのような痕を作り出す。

 

 

「~~~~~~っ!」

 

 

 ザ・魔雲天は小指で発生した痛みに悶絶する。

 人体には鍛えられない場所というものも存在する。その一つが小指である。タンスなどの角に足の小指をぶつけてしまい痛い目にあったことはないだろうか?それが菩薩拳によって数兆倍の痛みとなって発生したのだ。

 

 

「感謝の!正拳!突き!オスオスオスオスオスオスオス!」

 

 

 効果ありと見るやシェーンコップは小指へと感謝の正拳突きによる連続ラッシュをかける。菩薩の一念岩をも通す。如何に堅牢な岩肌だろうが同じ箇所へと何度も何度も殴りつけられれば耐えきれるものではない。鍛え上げられた菩薩の拳により、ザ・魔雲天の小指は根元から砕け折れてしまう。小指は人体バランスを支える重要なセンサーである。ここを損失するとまともに歩行することはできなくなる。特にザ・魔雲天は山形の太くて巨大の体をしている分、その巨体を支える足が弱点になる。従って、ザ・魔雲天の体が大きく傾げ、膝をついてしまうのも当然の帰結だ。こうなればもう後はシェーンコップの思うがまま。ザ・魔雲天の胴体部に飛びつき、一気に標高285mの斜面を駆け上る。100mを15秒で走り抜ける彼の健脚を持ってすれば1分も掛からずにザ・魔雲天の頭部へとたどり着く。

 

 

「大男総身に知恵が回りかね。つまり君のことだ。何事もデカければいいというものでは無いのだよ」

 

 

 シェーンコップは拳を高く振りかぶる。その拳にプリキュアの正義の力を集約していく。今はまだこちらが有利。だが長期戦になればバタ臭い女の子の援護がある分、シェーンコップが不利になっていくだろう。だからこそこの一撃で決める。歴代の先輩プリキュアたちの想い。今までの悪との戦いの日々。ひよっこ同然の自分を守り、そして導いてくれた。そしてそんな自分を生かすために志半ばで散っていった先輩プリキュアたち。彼女たちから受け継いだ正義の心がシェーンコップの拳へと集まっていく。今シェーンコップの妄想力は爆発的な勢いで回転していく。回転。すなわち螺旋。螺旋は力を加速させすべてを穿つドリルとなる。シェーンコップは今まさに新たなステージへと昇りつめていた。

 

 

「喰らえ。螺旋垂直瓦割り」

 

 

 シェーンコップの体重は85キロ。その握力は250キロ。いつもより振りかぶる高さは2倍。そして溜め時間は3倍。菩薩拳が10倍。プリキュアの想いで更に10倍。そして螺旋の力が加わり全ての力は冪乗する。

 その力を数値で表すならば85^250^2^3^10^10キロ。

 すなわち超人強度50万を遥かに超える力が放たれるのだ。計算が面倒なわけではない。ノリと勢いというのは大事なのだ。それだけの勢いの拳がザ・魔雲天の脳天に突き落された。その力はザ・魔雲天の頭部を粉砕させ、胴体部を貫き、なお力を失わせずリングをも貫き大地を穿った。すると五重塔第一階の床が崩れ、大地の底へと飲み込まれていく。これにはシェーンコップも驚き、何とか逃げようとするが、第一階の全ての床が崩れているので到底逃げれるものではなかった。その崩壊はシェーンコップだけでなく、ザ・魔雲天、ユリアン・ミンツ、司会と解説、そして多くの観客たちを巻き込み、全てを飲み込んでいった。

 もはやこれまでか。シェーンコップは落ち行く我が身を不甲斐なく思い、胸元から取り出した短冊へと俳句を詠もうとしていたが、その時一気に視界が開かれる。そこはとてつもなく広い空間だった。なんと果てが全く見えない。そしてその空洞の下には大きな島とそれを囲む海が見えた。シェーンコップは今、その島に向かい降下していた。見える限り、その島には森があり、谷があり、川が流れ、湿地帯もあれば砂漠地帯もある。そして集落のような家々が各所に見られた。それに近代的な航空基地や砲台もあるではないか。

 ふと周りを見れば、そこには五重塔第一階にいた者たちも同じように降下している。すぐ近くにはユリアン・ミンツの姿も見える。シェーンコップはスカートの中のショーツを脱ぎ、子種袋を両手と両足で掴み、広げることによりムササビの如く風に乗ってユリアン・ミンツの側へと移動する。そしてユリアン・ミンツを背中に乗せると、とりあえず島の端に見える航空基地へと降下することにした。

 航空基地の滑走路に降り立ったシェーンコップは近くにあったコンテナを開けるとそこに近代的な銃と鎧、そして弾丸を見つけた。鎧をすばやく着込み、銃を手に取り、一緒にあった弾を懐へと入れると、側のコンテナで同じように物資を漁っていた青山テ○マ似の少女の頭部へと狙いを定め、一気に撃ち抜いた。哀れ少女はこちらに気づくことなく頭部をザクロのように弾けさせて絶命する。見ればユリアン・ミンツも軽機関銃を周りの人々へと乱射している。それを受けて、それらの人々も漸く状況を理解したのか、それぞれ落ちている武器を手に取り、一気に乱戦へと発展した。

 シェーンコップは一種のパニック状態になっている群衆の中、冷静に一人ずつ狙いを定め、確実にヘッドショットを決めていく。彼が手に入れたのは高精度で威力の高いスナイパーライフルだったようだ。鎧を着込んだ相手だろうが2発も当てればノックアウトだ。たまにこちらへと撃ち返して来る奴もいたが、シェーンコップは狙いを定めさせないように左右へと体を動かしながら応戦する。これはレレレ撃ちと呼ばれるベテランの技法であるが、彼にとっては誰に教わることもなく自然と体が会得していた。なぜならこれもカラテであるからだ。カラテとはすなわち武器を選ばない万能の武術であるのだから。

 やがてシェーンコップとユリアン・ミンツ以外に動くものがいなくなった航空基地。そんな死体とおびただしい血で彩られたそこで、二人は死体から物資を集めつつ、現状について考えていた。

 

 

「一体ここはなんなのだ。地下にこれほどの空間があるなど、士官学校では習わなかったぞ」

 

 

 まさに混乱の極み。二人共これからどうすれば良いのか途方に暮れていた。だが、そんな二人へと声がかかる。

 

 

「ようこそ、真のIS国家代表選手選抜試験へ。ここは"王者の渓谷"だ。地球空洞説というものを聞いたことがあるだろう。ここはかつてコーディネーターの赤服共が訓練として使っていた地下島だ。プラントが消滅した今は我々が管理して試験会場として活用している。つまりここで生き延びたものが五重塔第二階へ向かう権利を得るのだ」

 

 

 航空基地監視棟の屋上に立っていたその人物、ザ・魔雲天が逆行に照らされながら宣言する。

 

 

「お前ら二人とそして私の3人がこの航空基地で生き残った。この3人は分隊(スクワッド)となる。そして共に協力しあい、他の全ての分隊(スクワッド)を殲滅したとき、チャンピオンとして第一階試験の合格となるのだ」

 

 

 その言葉にシェーンコップは不敵に嗤い、ユリアン・ミンツもまた暗い笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間34分。

 まさに急展開。波乱に満ちた第一階試験が幕を開けたのだった。

 



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第十九話 皇帝崩御

シェーンコップが地下でバトルロワイアルに励んでいる頃。

宇宙でも事件は起きていた。

 

 

 

ラインハルトの心臓をぐりぐりっと抉っていた黄金の矢。

それは刺されてから24分以内にレジェンダリー・カラテ・絶対・マスターを倒さねば心臓を貫通する呪いの矢。

ラインハルト軍の旗艦ブリュンヒルトでは蜂の巣を突いたような大騒ぎが起きていた。

力自慢のオフレッサーが黄金の矢を必死に抜こうとするがピクリとも動かず、逆に時間経過とともに深く刺さっていく。

ただ、本来なら最も動揺して然るべき男、ジークフリート・フォン・キルヒアイスだけは一人冷静に時がたつのを待っていた。

騒然とする艦内に来客を告げるチャイムの音が鳴り響く。

キルヒアイスはやっと来たなと呟き、隔壁ハッチを開く。

艦の外にはマントを羽織った偉丈夫が立っていた。

 

「患者はどこだ。もう大丈夫。私が来た!!」

 

その男はマントを翻し、筋骨隆々に鍛え上げられた肉体をこれでもかと誇示しつつ艦内へと躍り出た。

 

「私がスーパードクターYKKだ!」

 

彼こそが日本の埼玉県春日部市の中でだいたい3番目ぐらいの名医と名高いスーパードクターYKKなのだ。

 

「YKKさん、よく来てくれた。予定通りラインハルト様が呪いの矢で死んでくれ、いや死にそうになっているのだ。今すぐ治療を頼む」

 

キルヒアイスはこの事態を予め予測していて先月から出張治療の予約を取っていた。

それを聞いていた兵たちはさすがキルヒアイス様だ。お貴族様は凄い。と感心しきりである。

すぐさまラインハルトは手術室へと運び込まれていく。

 

スーパードクターYKKはラインハルトに刺さった呪いの矢をじっくりと検査する。

 

「ふむ、これは摩訶不思議なマジカルパワーで固定されているために無理やり心臓から抜くのは不可能だ」

 

「そんな!それではラインハルト様は助からないんですね!そんなことなんて・・・本当に助からないんですね!」

 

スーパードクターYKKの言葉にキルヒアイスは何度も強く確認する。

 

「だが、私にかかれば大丈夫。ラインハルトの体から矢を抜く方法はすでに思いついた!」

 

「な、なんだってーーー」

 

キルヒアイスは悲痛の叫びをあげる。よほどラインハルトが心配なんだろう。顔が脂汗でびっしりになっている。

 

スーパードクターYKKはすぐさまオペを開始する。

彼のメスさばきは目にも止まらぬ早業で、一振りするごとに光が煌めいていく。

 

「逆転の発想だよ。矢が心臓から抜けないのなら―――――――心臓の方を体から抜いてやればいい!!」

 

そしてスーパードクターYKKは呪いの矢が刺さったラインハルトの心臓を抉りだし、頭上高く掲げたのだ。

 

「ラインハルトの体から呪いの矢を抜くという依頼。確かに完遂した。依頼金5千円は全て5円チョコにしてスルガ銀行の貸金庫に送付してくれ」

 

心臓を抜かれてビクンビクンと死後痙攣しているラインハルトを置いて颯爽と去るスーパードクターYKK。

彼は依頼完遂率99%の凄腕ドクターである。得意教科は国語だ。

果たして今回の依頼は99%の方だろうか、それとも…。

 

 

 

 

 

その後、通夜、告別式などで忙しなく時は過ぎ3日経った。

 

結果はともかくラインハルトの矢を抜くという偉業を達成したキルヒアイスはその功績をもって永世元帥を名乗り、ラインハルト軍を掌握していた。

 

「ぐふふ。目障りなラインハルトが居なくなった今、宇宙を滑っている覇者はこの私、新皇帝キルヒアイス様のみよ」

 

なんとキルヒアイスは実はラインハルトのことを疎ましく思っていたのだ。

 

「思えばラインハルトはいつも傲慢で、俺のことを親友と言いながらパシリ扱いしやがって」

 

 

―――キルヒアイス!サッカーやろうぜ!当然ボールはお前な!だってボールは友達だもんな!!

 

幼年学校時代、アニメを見てサッカーにハマったラインハルト少年は蹲るキルヒアイスを何度も蹴り続けた。

 

―――姉さまにもらったホームランバー、半分こしろって言われたからな。半分だけやるよ!

 

アンネローゼ様が貧しい生活の中で買ってくれた1本のホームランバー。半分といいながら棒の部分だけを渡して、アイスはラインハルトが全部食べた。

 

 

思い出すだけでもはらわたが煮えくり返る屈辱の日々だ。

だがもう憎きラインハルトはもういない!

今からは俺が皇帝を名乗るのだ!

 

 

「新皇帝キルヒアイス様。まずはどうしましょう。どうぞご命令を」

 

キルヒアイスの前にはオフレッサー、ロイエンタール、メルカッツ、アッテンボロー、オーベルシュタインといった幹部たちが勢ぞろいして平伏していた。

 

キルヒアイスはオフレッサーの頭に足を乗せながら、そうだなぁと命令するべき事柄を考える。

家臣の頭とは足を置くためにある。ゴールデンバウム王朝ではそう決まっている。古事記にも書いてある。

 

「とりあえず、この艦の名前を変えるぞ。前から思ってたんだ。ブリュンヒルトって名前がダメダメなんだよ。なんだよドイツ語って、中学生かよ。もっと強くてカッコいい名前をつけてやる、ホリー!」

 

キルヒアイスが名前を呼ぶと、艦橋スクリーンに女性の顔が現れる。彼女はこの艦のコンピュータ・ホリーである。

 

「ホリー、今日からこの艦の名前はレッド・ドワーフ号。宇宙船レッド・ドワーフ号だ。どうだ、カッコいいだろう」

 

「了解しました。艦名変更完了です」

 

満足げに頷くキルヒアイス。

 

これで彼、キルヒアイスの下克上は成功したかのように見えた。

 

だが、艦名変更した直後、アラームが鳴り響く。

 

「何事だ!」

 

「艦名変更により、予約されていた特別プログラムを実行中。実行中。プログラム起動完了」

 

ホリーが淡々と状況を説明する。

 

すると艦橋になんとラインハルトが現れたではないか。

 

「おお!ラインハルト様!生きていらしたのですか!」

 

アッテンボローが嬉しさのあまり滝のように涙を流しながらラインハルトに抱き着こうとする。

 

だがそのアッテンボローの巨体はラインハルトの体をスルリとすり抜ける。

これにはみんなびっくりして腰を抜かす。

 

「もしや!これはラインハルトの幽霊か!この化けて出やがって!主砲!目標ラインハルト!ファイエル!!」

 

キルヒアイスの命令に呆然としていた艦橋スタッフが自分の仕事を思い出し、ラインハルトへと照準を合わせ主砲を斉射する。

 

ブリュンヒルト改め宇宙船レッド・ドワーフ号の主砲が3斉射され、あたりは舞い上がった爆炎で覆われる。

 

「いかな亡霊ラインハルトといえど、480ミリ三連装砲の徹甲弾を3斉射もされれば塵も残らぬであろうよ」

 

だが現実は無常である。

 

土煙が晴れた先には無傷のまま立っているラインハルトの姿があった。

 

「ははははは!愚かなりキルヒアイス!この体はホログラムでできているので物理的な攻撃など痛くも痒くもないわ!」

 

なんとラインハルトはホログラム人間だった。

 

「キルヒアイスよ!そなたが何やら地球の者と通信を行っていたこと、俺が気付かないと思ったのか!貴様がなぜ俺の隣の部屋に配置されていたか気づかぬとはな。指揮官室の壁は意外に薄いのだ。壁に耳を当てれば隣の部屋の音など筒抜けなのだよ。お前がエネマグラで毎晩喘いでる声だって高音質で録音できたぐらいだ」

 

艦橋にキルヒアイスの艶めかしい嬌声が流れる。

 

その声に艦橋にいた者たちはつい前かがみになってしまう。

 

「貴様がこの俺をはめようとしていたことは分かっていたのでな。もしお前が俺を排除したらまずはこの艦の名前を変更するだろうと予測してプログラムを仕込んでおいたのだ。俺の全記憶をバックアップしてホログラムで復活できるプログラムをな」

 

勝ち誇った顔で高笑いをあげるラインハルト。

キルヒアイスは絶望し頭を抱える。

 

「貴様の陳腐なクーデターもこれで終わりだ。ホリーよ、全権限を俺に戻せ。そしてキルヒアイスを元の階級に戻すのだ」

 

「ネガティブ。権限移譲は実行できません」

 

ホリーは淡々とした口調で拒絶する。

 

「現在のラインハルト様を自称する貴方はプログラムによるホログラム投影であって、ラインハルト様本人ではありません。ラインハルト様は既に死亡されています。ですので現在の全権限者はキルヒアイス様のみになります」

 

「な、なんだと・・・。まさかそんな盲点があったとは」

 

「ちなみに先ほど流された音声により全権限者のキルヒアイス様の名誉が毀損されたため該当プログラムによるシステムアクセス権限を制限いたします。貴方はこれから外部プログラムの実行に著しく制限がかかります」

 

斯くしてラインハルトはホログラム投影されておしゃべりするぐらいしか出来なくなったのだった。

 

 

 

 

 

 キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間32分。

 キルヒアイスによるクーデターはこうして意外な展開を含みつつも成功したのだった。

 

 



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第二十話 帝国の悪意

 

 

物資集積所。

それはこのゲームでの弾薬や各種薬品などが詰め込まれたコンテナが集まっている場所である。

そこを制圧できたものはこの戦いで大いに優位に立てるが、それ故に、そこは激しい攻撃に晒される可能性が非常に高い。

 

20人ほどのグループで構成された集団が占拠しているこの場所もその一つであり、現在狙撃手の攻撃に一人、また一人と倒されているところだ。

 

 

「くそ!相手はどこだ!よく探せ!」

「身を隠す場所なんてないはずなのに一体どこに隠れてやがる!」

 

 

男たちがいる物資集積所があるのは地平線まで遮蔽物がない草原地帯。

生えている草も踝あたりまでしかなく、伏せていてもすぐに分かるはずだ。

なのに一向に狙撃手の姿が見つからず男たちは右往左往している。

そんな彼らを嘲笑うようにまた銃声が聞こえた後、一人の眉間が撃ち抜かれる。

相手が見えているならこちらからも見える位置にいるはず。常識的に考えればその通りなのだろう。

だがそれは相手が同じ体格という前提の上でのことだ。

高台も何もない場所の彼らは4キロ先を見通すのが限度。

だが実は狙撃手は遥か彼方にいたのだ。

 

 

 

仁王立ちしたザ・魔雲天は無表情に構えていた狙撃銃のボルトを引き、次弾を装填する。

 

「これで3人目だ、やつら、こっちの姿が見えずに慌てふためいてやがるぜ。まぁ見えるはずなんてないんだがな」

 

それもそのはず、ここはキルゾーンとなっているやつらから遠く離れている。

一般的に水平線が見える距離は4キロほどである。つまり相手と同じ高さからの狙撃では4キロ先までしか見えないのである。

だがザ・魔雲天の身長は285m、平均的な成人の約170倍である。

つまり4キロの170倍、680キロ先まで視認して狙撃可能なのだ。

その限界ぎりぎりの680キロ地点からザ・魔雲天は延々と狙撃していた。

 

 

相手からはこちらを見えず、こちらからは狙い放題。

ザ・魔雲天はその体格を活かした狙撃技術でこの銀河でもムウ・ラ・フラガに次ぐ凄腕スナイパーとして活躍していた。

もちろんMS操縦技術もすさまじく、M1アストレイで敵戦艦の艦橋だけを正確に撃ち抜くというスゴ技でヤキンドーエの戦いで大活躍していた。

ただし、彼の乗れるサイズのM1アストレイは特注品で製造コストが高いため、1機しか製造されなかったが。

それでもキラヤマトたちのサポートとしてエターナルに乗り込み一緒に戦い抜いた猛者ではある。

 

 

ザ・魔雲天は黙々とそのまま狙撃を続け、10人ほどを撃ち抜いた頃には、残り少ない敵は恐慌状態に陥り、せっかくの物資をそのままに逃走に移った。

だが、そのまま逃がしてやるほど彼らは甘くない。

 

「シェーンコップ、ユリアン。敵の掃討を任せた。俺は漁夫が来ないか周りを警戒する」

 

「まかせろ!薔薇騎士の力を見せてやる」

「アララララーーーーッイ!!!」

 

シェーンコップは勇ましく走りぬけ、それに続いてユリアンも雄たけびを上げながら突っ込む。

彼等の健脚は長い軍人生活で鍛え上げられており、元々娯楽として参加していた一般人の彼らの足では到底逃げることも叶わず、すぐに追いつかれることになる。

 

容赦なく弾薬を逃げる奴らにプレゼントしてやり、逃げ出して数分後には全員地に伏せることになった。

二人は生き残りがいないか用心しながらも彼らの弾薬ポーチや武装を奪っていく。

 

「うへぇ、シェーンコップの旦那。まだ10歳にもなってないガキまでいやがるよ、マジでイカれてやがるなこのゲーム」

「どうせ家族サービスとかで来た観客だろう。こうなったのも親の責任だ」

 

ユリアンは動かなくなった小さい遺体を足で転がして上向かせ、それが年端もない少女だったことに嫌悪感を示し唾を吐き捨てる。

それでも弾薬ポーチや所持品を取ることには躊躇わない。

軍人として鍛えられている鋼の精神である。

そんな時、ターンと乾いた銃声が響く。

 

「アブねぇ!もう少しで頭吹っ飛ぶところだった!」

 

ユリアンは少女の服の下にチョコバーが隠されていることに気づき、屈みこんで少女の服の下をまさぐったタイミングだったため、奇跡的に銃撃を避けることができた。

すぐさまユリアンは銃声の元へと走りこみ、蹴りをお見舞いする。

蹴り飛ばされたのは先ほどまで遺体だと思っていたひとつ、こちらもまだ10歳にもなっていない少女だった。

先ほどの少女と瓜二つなのでどうやら双子らしい。

 

「お姉ちゃんの…お姉ちゃんの仇…」

 

その少女は左足が銃撃で吹き飛び、逃げることも叶わず伏していたのだろう。

幸い、ユリアンは状態からして死んでいると思っていたので、そのまま死体の振りをしていれば生き延びることもできただろう。

だが双子の姉が足蹴にされているのを見てカッとなって銃で撃ってしまったのだ。

 

 

「かわいそうに、これもこのゲームの犠牲者というわけか」

「旦那、このままにしてたら無駄に苦しめちゃうだろうし、一思いに楽にさせてやったほうがいいんじゃないですか」

「そうだな、もし日本の軍人に見つかったら性の奴隷として拉致されてしまうだろう。彼女の尊厳を守るためだ。仕方ない、悪く思うなよ」

 

 

シェーンコップは苦しまないようにとテルミットグレネードで彼女に死を賜ることにした。

激しい炎に包まれた彼女の断末魔に、この世の無常を感じ、ホロリと涙を流してしまう彼らを軍人として軟弱だと誰が責められようか。

 

 

「おのれ、銀河帝国の貴族どもめ!このような悪辣なことがいつまでもまかり通ると思うな!いつか俺が世界を革命する!」

 

若き心を義憤に燃やすユリアンをシェーンコップは頼もし気に見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間30分。

ユリアン・ミンツは嘗てないほどの激しい戦闘で倒すべき敵を改めて認識するのだった。

 



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第二十一話 ヤン艦隊前進せよ!

ショーンコップが戦っている同時刻

 

ヤン艦隊は地球連合軍との戦いの真っ最中であった。

 

「レーザー水爆あるだけ持ってこい!どんどん打ち込むんだ!」

 

艦橋に雄々しく立ち、サーベルを抜き放ちモニターに映る地球へと突きつけ声を張り上げるヤン・ウェンリー提督。

彼に付き従う15000隻の宇宙戦艦は地球を包囲し、主要都市へとレーザー水爆を連射する。

それを阻止せんと連合軍のMSが主要都市から出撃し、レーザー水爆をビームサーベルで切り払い、返す刀で戦艦へと襲い掛かる。

迎撃しそこねたレーザー水爆が都市を焼き、それに歓声を上げる戦艦クルーの目の前にMSが現れ、ビームサーベルで戦艦が真っ二つにされ、火球となり墜落する。

また、戦艦から出撃した無数の単座戦闘艇スパルタニアンに纏わりつかれたMSが払いのけようとするも、サイズが違いすぎるために数十機ものスパルタニアンに機体の周りに肉薄され、さながら蜂の大群に襲われた人間のような状態になってしまい、四方八方からミサイルを食らい爆散していく。

 

大地が吹き飛び、海が蒸発し、山が割れ、まさに神話の戦いのような光景が地球全土で繰り広げられる。

 

「このような資源豊かな星を帝国に占領されるわけにはいかないよね。これも議会で決まったことだし、民主主義の犬と呼ばれようが憎き地球人どもには消えてもらわないと」

 

艦橋のメインモニターにはレーザー水爆の炎で焼かれ泣きながら母親の名前を呼ぶ小さな子供の姿が映っていた。

ヤンはそれを見ながら「可哀そうに、地球になんて生まれてくるから」と戦争の悲惨さを痛感しながらも、攻撃続行の命令を下す。

その少女は2発、3発とレーザー水爆の直撃を食らうたびに右腕が、次は左腕が、と一つずつ四肢を失いながら苦しみながら泣き叫ぶ。

艦橋でモニターを見ていた女性士官はもう一思いに殺してあげて、と半狂乱に泣き叫びながら発射トリガーを引き続ける。

まさに戦争とは地獄であるのだ。

 

 

「地球連合軍本部発見しました!」

 

 

地球をスキャンしていた索敵兵が一つのビルをモニターへと映し出す。

そのビルの窓から中にいる人が見える。

その映像を拡大し、中にいるのが地球連合軍総帥だと分かる。

他にも連合軍の大幹部や親衛隊らしき戦闘員などの姿が見える。

 

 

「でかした!これより地球連合軍本部を強襲する!総員我に続け!」

 

 

ヤンは窓ガラスを突き破りビルへと一直線に落下する。

副長や切り込み隊長もそれに続く。

ヤンは降下しながらビームブラスターを抜くと、窓ガラスから見える幹部たちの頭を連続で撃ち抜く。

 

「銃の腕が悪いって言っても流石に動かない的ならなんとかなるか」

 

運よく敵が棒立ちだったため、恥をさらさずに済んだヤンは安堵のため息を付きながら、窓ガラスをライダーキックで突き破り、さらに近場にいた驚きすくむ兵士たちをサーベルで切り捨てる。

そのヤンに続いて次々と窓から侵入するヤン艦隊の兵士たちに地球連合軍本部は数分で制圧される。

 

最後に残った総帥は、さすがに支配者の器だけあってか玉座に座って頬杖を突いたまま鷹揚と眺めているだけだ。

 

「ふむ。此度の戦、あっぱれなり。その功績をもって我が臣下として迎えてやらんこともない。跪け」

 

その言葉に一般兵はすくみ上り慌てて跪いて首を垂れるが、ヤンと数人の幹部は鉄の意志でその言葉にあらがう。

 

「さすが地球の王。威圧感がすごいや。だが僕たちも使える主がいるんでね。二君に仕えぬという信念ぐらいはあるんだよ。悪いけどあなたにはここで死んでもらう」

 

ヤンは毅然とした態度で答える。

 

「是非も及ばず。それもまた世の理。だが我を倒そうと第二、第三の地球連合軍総帥が現れ、いずれ貴様らを地獄へと引きずり落とすだろうよ」

 

「其のたびに僕たちは正義の剣を持って切り払って見せるさ、今回みたいにね」

 

ヤンはその言葉とともにサーベルを切り払い、総帥の首が宙を飛ぶ。

 

こうして第一次地球連合戦争は終結した。

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間28分。

まさに電光石火の出来事であった。

 



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【バレンタインデー企画】ラブ and ベリー大作戦!

朝、目が覚めると夜だった。

ここは地球の裏側。ブラジルだ。だから朝は夜だ。

 

「ふむ、もう朝の7時か。南半球は昼夜が反転しているから時差惚けで大変だ」

 

皇帝キルヒアイスは布団からモゾモゾと這い出ながらあくび混じりにぼやいた。彼の傍らには布団からはみ出した白いお尻があり、キルヒアイスはたわわな桃を連想させるそれを見て目を細め、大きな手で揉みしだく。

 

ひゃん、と可愛らしげな声が布団の中から聞こえた。

 

キルヒアイスは怒張をその可愛らしい桃へと宛てがい、ふんぬと息を荒立たせながらねじ込む。

 

その衝撃で桃の持ち主の体が布団の中で跳ね上がる。

 

ようやく布団から出てきたその愛らしい顔の少年兵をキルヒアイスは抱き寄せた。

 

「ふふふ。あのゲイ野郎。侍従兵の趣味はなかなか良いじゃないか」

 

少年兵は先日死した皇帝ラインハルト付の侍従兵だった。ラインハルトは重度のゲイで、可愛らしい少年を見つける度に自分の愛妾として弄んでいたのでいたのだ。

 

「お前もラインハルトの無駄にデカいナニでケツを掘られて苦労したんだろう。俺もそうだ。毎晩毎晩何度許しを請うたことか。何がキルヒアイスは俺の半身だ。ただのオナホール扱いしていただけじゃないか」

 

キルヒアイスは少年の頭を優しく撫でながら、ラインハルトの所業をあげつらう。

 

「俺は奴とは違う。お前のことをいつまでも大事に扱ってやるぞ。ほら、俺のは柔らかくて細長いから奥まで届いて気持ちが良いだろう」

 

堅くて太いだけが自慢のラインハルトとは違うと優しく愛撫する。

 

「閣下、懲罰艦隊の準備が整いました」

 

そう言ってきたのはミッターヤイヤー将軍だ。

 

疾風のごとき早さで艦隊の準備を整えた彼は、少年兵の痴態を見て羨ましそうにしながら敬礼する。そんな彼のズボンは大きく膨らんでいた。

 

「そうか、ならば俺は出撃するぞ。よし、褒美だ。こいつを好きにして良いぞ」

 

白く汚れた少年兵をミッターマイヤー将軍の足下に投げ捨て、彼はガウンを羽織り、艦長席に座る。途端にミッターマイヤー将軍が少年兵を抱えて部屋の奥へと消えていった。

 

「忠勇たる帝国軍の諸君よ!見よ!私が新たなる皇帝、キルヒアイス様だ!」

 

艦長席に優雅に座り、両手を広げ、慈愛の精神を象った端正な笑顔を見せる。

その美しさに、部屋に集まって待機していた10億の帝国兵達が感動しながら一斉に敬礼する。

 

「其方達は強い。なぜなら私の兵士達だからだ」

 

帝国軍は進む。日本を目指して。

 

すべての始まりの地。約束された大地。終遠のヴィルシュ。今、まさに聖戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

日本。国会議事堂。その周りには無数のデモ集団が集まっていた。

 

彼らは日本の悪辣なる政府に振り回された哀れな羊たち。

 

与党である自演党の党首。海田総理は総理官邸の窓からそれを見下ろし、呆れたような顔で嘆息する。

 

「やれやれ、愚民どもにも参った物ですな」

 

総理に声をかけたのは執事セバス・チャン。国会に潜入している自由同盟軍のスパイだ。彼は自演党に潜り込んで日本を影から支配していた。

党首である海田総理も日本崩壊後は自由同盟軍の名誉市民として亡命できる手はずになっている。

 

「あれは…千葉選挙区の住人ですな」

 

セバス・チャンは脳内に埋め込まれた電子チップから住民名簿をスキャンしてデモ集団の所属を看破した。

 

「千葉か…確か支持率が落ちていたな…だとしたらアレだ」

 

「はい、アレですね」

 

セバス・チャンは総理の指示を聞いて、壁のスイッチを押す。

 

壁が左右に分かれ、大きなモニターが現れる。そのモニターには日本列島が詳細に表示されていた。そしてそのモニターの下には操作パネルが添え付けられている。

 

セバス・チャンが操作パネルを操作すると日本列島の千葉県が赤く表示され…「諸元データ入力完了。ではよろしいですね?…始めます」セバス・チャンは海田総理が首肯したのを確認してエンターキーを押す。すると千葉県が黒へと変化した。

 

『とてもおいしいお饅頭ですね。やはり水が違うんですね。のどごしが爽やかです…えっ!ここで臨時ニュースです!千葉県全土で震度10の地震が発生。千葉県全住人は死亡しました!』

 

グルメリポートが流れていたテレビでいきなりの災害ニュース。これが偶然などはあり得ない。

 

自演党は戦前から100年以上日本を支配していた与党だ。日本各地に人工地震発生装置を設置してあり、支持率の悪い地域は地震が起きてみんな死ぬのだ。そして総理が危険を顧みずに現地へと慰問を行うことで支持率は大幅に上がる。そういう出来レースがもう1世紀近く行われているのだ。

みんなは疑問に思ったことはないだろうか?なぜこうもあちこちで道路工事がひっきりなしに行われているか。それは人工地震を発生させるための爆弾を設置していて、そしてそのメンテナンスも兼ねているからだ。

だから仙台で大地震が起きたとき、自演党はすぐさま現地に視察に迎えたのだ。なぜなら当時の自演党党首が起こした人工地震だからだ。

あれで、当時ガス抜きで与党にして貰った民事党が地震の責任を取り、自演党がまたもや政権を取り、確固たる支持を得ることになったのだ。

なのに日本国民は誰も気づかない。

なぜなら奴隷根性が染みついているからだ。

資本主義に毒されて、愚昧な民主政治などに夢を見て現実と戦おうとしない愚かな国民達。早く目を醒ませ。

ヤンウェンリーは悲しい気持ちに涙した。

 

なので自由同盟軍は日本人を解放するために、日本を自由同盟軍の管轄にするべきと活動していた。

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間26分。

血のバレンタインが再び幕を開けるのは、もう間もなくだ。

 

 

 



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第二十二話 勝利の栄光を君に

深夜二時。千葉県九十九里浜。闇夜が広がる海原に音もなく無数の黒い影が浮かび上がる。

それらは全身を黒い甲冑に身を包んだ異形の戦士達。帝国軍が誇る黒色槍騎兵だ。

遙かブラジルにある帝国軍本部から懲罰艦隊本隊に先駆けて海を渡ってきたのだ。

彼らは闇に住まう住人。音を立てずに誰にも気づかれず、敵陣へと一番槍を遂げる益荒男である。その形相は正に歴戦の鬼。毛むくじゃらで厳つく、見るもおぞましい傷だらけの顔を誇らしく隠すこともない。年端もいかない少女が見れば悲鳴を上げて失神するであろう。そんな奇怪な兵隊達が数万と群れをなし、だが物音一つ立てずに徘徊しているのだ。その手にもつはこれまた機械な兵器達。人類の悪意を凝縮したかのような破壊的魔力を感じさせる大きな銃。それを男達は大事そうに抱えている。それらこそ彼らの愛すべき伴侶である。彼らはその銃と共に生き、そして銃と共に死すのだ。銃が喜びの銃声を轟かせるときは彼らも凶相を喜びに歪めて笑い声をあげ、そして銃がガラクタとなり地に落ちるとき、彼らの命もまた地獄の底へと墜ちていく。その絆の深さたるや、まさに深淵の如く。故に彼らの愛は薄っぺらな神の教えよりも遙かに尊いのだ。

彼らは今日もその愛を腕に抱きしめ、死を振りまくためにこの地へとやってきた。

 

彼らは無言で闇を駆け、手近な家々に忍び込む。そして眠りに落ちた無垢の民を永久のヒュプノスへと誘っていく。百万都市と言われた銚子の町は瞬く間に死の都へと姿を変えていく。だがその事実に誰も気づかない。誰も気づけない。彼らの姿を誰も見ることも出来ずに黄泉路へと旅立っていくのだ。遙か銀河の先からやってきた這い寄る混沌からは仏陀ですら逃れられないだろう。それが弱肉強食の恐ろしさだ。この千葉の地では黒色槍騎兵こそが食物連鎖の頂点に君臨する怪物であるのだ。そして彼らの王、猛将フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトは皇帝より賜ったペットの王虎、ケーヒニス・ティーゲルに跨がり、その侵略に愉悦を感じていた。巨躯の彼の手には哀れにも捕まった幼子が胴体を捕まれている。ビッテンフェルトはその幼子の頭を大きな口に入れると首から上を囓り取り、一口で頭まるごと食してしまった。バリッ…ボリッ…。沈黙が墜ちる死の都にビッテンフェルトの咀嚼する音だけが響いている。ここが現世に現れた真なる地獄ではないか。仮にこの光景を見ている者がいたならば、まさしくそのように思っただろう。死者が見ることができたのならばだが。

 

だが、そんな無敵かと思われた彼らも、日の光を見ることなく潰えることになった。

 

突如と起こった震度10の大地震が彼らを襲ったのだ。

 

こうして千葉の住民と共に、帝国軍の先鋭である黒色槍騎兵と猛将フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトは歴史の闇へと消えていくのだった。

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間24分。

海田総理の鬼謀により、千葉を巡る戦いは一夜のうちに終わりを遂げた。

 



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第二十三話 野良より怖い者は無し

瞳と瞳が合う瞬間好きだと気づいた。

 

ムウラフラガ少佐はセンチネルの6倍率スコープで、こちらを狙う狙撃手と瞳が合った瞬間、全身が焼けるように熱くなるのを感じた。

 

これが恋か。

 

向こうも燃えさかる心を抑えきれないとばかりに身を捩る姿が見える。

リングの安全地帯まであと僅か、そんなときにばったりとあったスナイパー同士。

銃口を向け合うことにより素直な心に気づくとはなんたる皮肉。赤く染め上がる視界。

未だに身体の熱は静まることを知らない。

だが、お互い、この地獄のようなApexで戦い合う定め。

恋などと言う邪念に心乱されるわけには行かない。

もっと冷静になれ、ムウラフラガ。

ボディーシールドは未だ無傷。シールドバッテリーも6本ある。

ラウンド3が始まる音がする。

だが貴様の最終ラウンドはここだ。

俺のセンチネルが恋心と共に貴様を撃ち抜く。

そんな想いとは裏腹に、俺と奴は互いを見つめ合ったまま時が止まるのを感じていた。

熱い…なんて熱さ…恋とはこんなにも身体を苛むのか。

結局お互い見つめ合ったまま、俺も、奴も、赤い世界に身を横たえる事になった。

インカムからは野良で知り合った仲間の罵る声が流れてくる中、デスボックスへと姿を変えていった。

 

 

 

「糞がっ!何が俺は連合の鷹だ!ただの馬鹿野郎じゃねーか!そりゃ恋じゃなくて単なるリングダメージだっての!だからいつまでも芋ってないで動けって言ったのに!ファッキンスナイパーが!」

 

悪態を付きながらロイエンタールはフラットラインを抱えて名古屋の郊外を走り抜ける。

 

名古屋城のシャチホコの上に陣取った馬鹿なスナイパーは迫り来るリングに飲まれて死んだ。

もう一人の野良仲間はドロップシップ降下時から激戦区にソロ降下して開始10秒で箱になりやがった。しかも延々とシグナル鳴らして糞うざかったし、Fワード盛りだくさんな罵倒もしてきたので、速攻ミュートとブロック入りだ。

ランクマは遊びじゃねーんだよ!ガキはオフゲーでもやってろ!マジで野良Apexは地獄だぜ。

 

ラウンド3にもなると安全地帯が狭まり、敵とのエンカウント率が高まる。ちょっとでも不用意に物陰から飛び出せばあっという間に蜂の巣だ。郊外の廃屋の合間を見つからないように駆け抜け、次のリング内までなんとかたどり着いたときは緊張と疲労で汗だくになっていた。でもここから先は遮蔽物が少ない。次のラウンドでどうリングが収束するか、それによっては難易度が跳ね上がるだろう。

残りの部隊数はまだ12部隊。しかも残り人数は12部隊で34だ。つまり俺の部隊以外は3人フルで残ってやがる。俺のロールはサポートで、ソロで戦えるようなアビリティは持ち合わせていない。だが、本来サポートは仲間がやられても、レプリケーターが有ればバナーをクラフト出来て蘇生させることが出来る。

だが、今まで常に後手後手で逃げ回っていたせいでクラフトポイントは全く貯まっておらず、クラフト素材がある場所はリングの反対側。それに加えて危険を冒してまで、さっきのアホ二人を蘇生させるメリットが全く見えない。

今シーズンはキル数より最終生存順位が高い方がポイント配布の量が大きくなるように調整されている。なのでここはやはり隠密が一番だろう。

仲間のキャラアイコンの横に有るボイスマークには最初に死んだ馬鹿が未だに罵ってきているであろう点滅がひたすらしている。だがミュートした俺には関係ない。

 

とここで、俺のフレンドからメールが届く。

 

 

「くそがああああああああああああああ!!!!」

 

 

そのメールを見るや、俺は雄叫びを上げた。

 

どうやら馬鹿がリアルタイムで配信をして俺のことを『味方を見捨てて隠れているどうしようもない地雷』だと吹聴しているらしい。

しかも顔と声が良いらしく、女性信者が熱心に賛同していて、しかも俺のツブヤイターアカウントを特定して絶賛炎上中らしい。

 

どうしてこうも踏んだり蹴ったりなんだ…。

 

もう何もかもが嫌になって、俺はPS4の電源をそっと押した。

 

「ロイエンタール閣下、出撃のお時間です」

 

ちょうど良く侍従が声をかけてきた。

この恨みはリアルな名古屋を灰燼にすることによって晴らすしかあるまい。

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間22分。

ロイエンタールは熱く燃える怒りを胸に出撃するのだった。

 

 



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第二十四話 ちゃんと選挙に行こう!

月の影に秘密裏に艦隊が集結していた。

真っ赤に塗装された全長三千五百メートルに及ぶ巨大な船体に無数の砲塔。

更には上下左右それぞれ四レーンずつ、合計十八レーンも備えられたMSカタパルト。

艦橋には赤い軍服に身を包んだ兵士達が蠢いている。

その数、実に五千億隻。

ザフトが連合との最終決戦の為に月の裏側に隠していた赤服エリート兵による秘密艦隊だ。

連合の月面艦隊の妨害に遭ったため、最終決戦に間に合わず、ザフト再起の時を期して地球から見えない位置に駐留していた彼らだが、銀河帝国軍の悪辣なる所業に反撃の狼煙を上げるべく、今こそ出撃をするのだ。

 

 

「勇ましきザフトのエリート達よ!聞け!今日こそ我らの青き清浄なる星を取り戻す時だ!母なる大地を汚す蛆虫どもを蹴散らして我らの優秀さを世界に轟かせるのだ!」

 

秘密艦隊隊長のイザーク・ジュールは旗艦の艦橋に立ち、兵士達を鼓舞する。

その絢爛さに兵達の死期は上がり、次々と地球に向かって発艦していく。

 

「一番槍をあげた者には報酬を賜るぞ。そして敵将の首をあげた者には望むがままの褒美が得られることを約束しよう!」

 

『目標!地球の日本!全砲門解放せよ!ファイエル!!!』

 

戦艦から放たれた無数のメガ粒子砲が日本全土を飲み込んでいく。もはや虫の子一匹もの生かしておくかという執念が感じられるほどの周到な砲撃で、もはや日本に着弾していない場所などひとかけらもありはしなかった。

 

 

この光景を見たザフト兵は後に語る。

私はこれでもザフトでは古参の兵でして。

開戦初期の一週間戦争はもちろん、ルウムでの艦隊決戦にもザクに乗って戦ってたよ。

あのときの砲撃戦は今でも夢に見るぐらい恐ろしいものだった。

だが今回のこれはそれを遙かに上回る圧倒的な破壊だったんだ。

何しろ当時の数倍の艦隊が出撃して、しかも弾よ尽きよとばかりの大盤振る舞いだ。

あのときばかりは私はザフトの兵で良かったと思いましたよ。

流石にこれなら日本に展開した帝国軍は壊滅した。

そう思っていた時期も私にはありました。

 

 

すべてを灰燼と化したと確信を持ったザフト艦隊は無造作に日本上空へと降下を開始した。

だが、次の瞬間、艦隊を濃密な対空砲火が襲いかかった。

 

「なんだと!!日本はもう消滅したはずだ!一体どこからの攻撃だ!」

 

イザーク隊長は驚きのあまり隊長席から転がり落ちて叫ぶ。

 

なんと日本には猛烈な風が吹いて、砲撃は全部海へと反らされていた。

 

「こ、これは・・・神風か・・・」

 

日本は猛烈な山岳地帯だ。高い山から低い地へと常に強い風が吹いているのだ。しかも上空から砲撃を受けると、砲弾の熱でとてつもないダウンバーストが発生する。そしてその風によって砲撃はすべて反らされてしまうのだ。これが大陸から攻め込んだ蒙古軍すら打ち破った神風なのだ。

 

「こうなったらMS戦だ!全MS出撃せよ!」

 

秘密艦隊の大型戦艦は一隻当たり三個大隊のMSを搭載可能だ。それらが一斉に降下中の戦艦から出撃する。

それは夜空に大量の流星群が現れたような光景であったと後の歴史書には記載されている。

 

しかし帝国軍も負けてはいない。ブラジルから海を渡ってやってきた帝国軍は水陸両用の武装を持っているのだ。

陸地だけではなく、広大な太平洋からも迎撃攻撃が殺到する。

 

特筆すべきは帝国軍の核ライフルだ。

通常の歩兵用ライフルと同サイズだが、なんと銃弾がすべて超小型の核弾頭を搭載している。指の先ほどのサイズの核弾頭だが、広島型原爆と同等の破壊力があるのだ。なので、歩兵銃でありながら、MSを撃破可能な威力を有していた。

射程こそ五百メートルも離れれば狙うのは難しいが、歩兵は遮蔽物に身を隠しながらMSに接近できるので、距離を詰めるのも容易い。がれきの間を縫うようにMSに近づき、足下から胴体へと核ライフルを斉射すると、たちまちキノコ雲を伴う強烈無比な爆発がMSを襲う。そしてMSはたった数発で粉微塵となってしまう。

 

「へへ、一発一ドルのライフル弾で一機1万ドルもするMSを撃破されるんだ。ザフトの経済力がどれだけ高くてもあっという間に破産だぜ」

 

帝国兵は顔をニヤけさせながら、戦果を誇らしげに語る。

 

だがその核爆発の中、無傷で疾走する小隊がいた。

 

「だ!だめだ!核ライフルが効かねぇ!しかも爆発を受ける度にエネルギーを吸収していやがる!」

 

それは三機の突撃用MS、ドムだ!

 

ドムは他のMSと違い、核動力を搭載しているのだ。

つまり、核攻撃はドムへと核エネルギーを供給させてしまうのだ。

 

しかも、そのドムは全身を黒く塗装していた。

 

「あの、黒いドムは!黒い三連星だ!」

 

そう、彼らこそ、ザフトのエリート中のエリート。なのに頑なに赤い服を着ようとせず、改造した黒軍服に身をまとった偉丈夫三人組、黒い三連星だ。

 

そして狼狽える帝国軍に黒い三連星の必殺技が襲いかかる。

 

「ガイア!オルテガ!マッシュ!ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!」

 

「おうよ!ガイア様の力!ここで見せてやる!」

 

「オルテガもいるぜ!」

 

「やれやれ、二人とも血の気が多過ぎですよ。冷静なのはこのマッシュ様だけですね」

 

「「「「ジェットストリームアターーーーック!!!」」」」

 

三機のドムが一列に並び、縦横無尽に戦場を駆け抜ける攻撃だ。

その威力たるやとてつもなく、あっという間に敵軍団を二分してしまう。

 

核攻撃の帝国軍、核動力MSを主軸に立て直すザフト軍。

一進一退の攻防が続く中、日本の自衛隊も出撃を始めようとしていた。

 

 

国会議事堂。

特別臨時会議。

 

「日本は今や戦場です!今ここで自衛隊を出さねばいつ出すというのか!」

 

自演党の海田総理は熱弁を奮う。

だが、よく考えて欲しい。日本はアメリカと安全保障条約を結んでいる。そして日本は憲法で戦争をなくすと明言しているではないか。自衛隊は違憲なのだ。だが海田総理はこれを期に無理にでも自衛隊を戦場へと立たせ、名実ともに日本軍へと変えて、自分の私兵として日本を制圧する気なのだ。なぜなら海田総理は自由惑星同盟の傀儡なのだから。

それに気づいた野党は当然猛反対してアメリカ軍を出撃させるべきだと主張した。

 

だが海田総理が指を鳴らすと、扉から自衛隊がなだれ込んできて、野党を全員射殺してしまったのだ。

 

「くくくっこれで邪魔な野党は消えた。これからは俺が自由惑星同盟の派遣代官として日本を征服するのだ」

 

海田総理はなんと、すべて計画的な犯罪だったのだ。これが自演党の党名の真の意味である。

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間20分。

こうして日本は自由惑星同盟の植民地となった。



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第二十五話 今日も野良は糞

ミッターマイヤーは今日もApexで味方が糞だったことを毒づいていた。

彼は常に疾風のごとき早さで前線へと戦うことを神髄としていて、今日も船から最速で激戦区となる場所へと飛び出していった。

なのに味方は無謀だの危険だの臆病風に吹かれてこちらに付いてこようとせずにコソコソと隠れているばかり。

スナイパーの方はまだいい。名古屋城の天辺から堂々と敵を殺して回っているので男らしいと感じるが、衛生兵の方はダメだ。

逃げ回ってばかりで、こちらが倒れても一向に助けに来ずに、蘇生させるための行動すら取らない。

お前はなんで衛生兵をやっているのかと罵倒するも何も返事もしない。

挙げ句の果てに途中墜ちしやがった。マジでランクマをなんだと思っているんだよ。

戦いもしないで何でプレデターになれると思っている。

本気で正気を疑ったね。

しかもキャラ名が愛の狩人と来た。何も狩ってないじゃないか。

俺の方がよほど愛を振りまいているね。

何しろいろいろな戦場に行くたびに子種を蒔いて回ってるからな。

惜しむらくは男同士では子供が出来ないって事だ。

もし同性で出産できる技術が出来たら俺の子供は億を超えるね。

ホモを隠すために偽装結婚した嫁は子供が欲しいとねだってくるが、女相手におっ立てるのはキツいものがある。

毎回医務室からかっぱらってきた興奮剤をナニに注射して相手をしている俺の身になって欲しい。

俺に相手をして欲しければもっと筋肉を付けるんだな。そんなだらしなくブヨついた尻じゃ興奮なんてしないんだよ。

もっとキュッと締まった逞しい尻をなで回したい。

さりげなく筋トレジムのチラシを嫁の目につくところに置いているんだが、鈍いあいつは何も気づこうとしない。

いい加減頭が痛くなってくるぜ。早く皇帝キルヒアイス様が帝国を掌握して同性愛を義務化してくれることを祈ってるぜ。

 

 

それはそうとロイエンタールの奴も今日はなんだか苛ついていたな。名古屋を燃やし尽くすと息巻いてやがった。

おかげでナパーム弾はからっけつになってしまったぜ。

肉の焦げる匂いが艦内にまで匂ってきそうな盛大なバーベキューを名古屋でやったおかげで、向こう一週間は肉が食えそうにない。

食材調達班は肉がいっぱいで大喜びしてコンテナに焼けた肉の塊を詰め込んでいたが、それは一般兵用だよな?

まさか将校にそんな肉食わせるわけじゃないよな?

若鶏は肉が柔らかいから高級ですよとか言って赤子ぐらいの大きさのほどよく焼けた肉を大事に持ってたけど、それは鶏肉だよな?

俺は他の野蛮な奴らと違ってナイーブな人間だから同族を食べたりはしないぜ。

いくら帝国領から遠く離れた太陽系で補給がままならないからと言ってカニバリズムは勘弁してくれ。

シェーンコップの旦那にそういうのは全部任せたわ。

 

 

さて今日もApexを頑張るぜ!

あと少しで念願のシルバーだ!

 

 




キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間18分。
ついイラッときたので勢いで書いてしまった。


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第二十六話 ビルマ攻防戦

地球での戦いは更に苛烈さを増していきます。
今回は自由軍サイド、つまりヤン・ウェンリーの話です。


「艦隊が壊滅だって? 本当かい?」

 

 日本で激しい攻防が開始された翌年、ヤン元帥にとある凶報が届けられた。

 

 それは日本攻略戦の予備兵力として本国から呼び寄せ、衛星軌道上で軌道爆撃の準備をしていた第十七艦隊が壊滅したという報せだった。

 

「たしか、第十七艦隊は最新鋭の戦艦が配備されていたはずだよね。それが碌な反撃も出来ずにかい?」

 

 第十七艦隊はシドニー司令が地球連合軍との長引く戦争に終止符を打つために計画したミリオン艦隊計画で編成された最新艦隊の一つである。その計画で作られた艦隊に配備されている戦艦は攻防共に非常に高い性能を誇り、特に装甲は最高級の新型炭疽菌クリスタル装甲を採用している。これは通常の炭疽菌クリスタルとは違い、発掘が非常に難しい最高級品である。そのため、ローゼンリッター軍の中でも選りすぐりのエリートの斧にのみ使用されていた。自由軍の呪力戦艦の主砲トールハンマーの直撃を10発は耐えられる設計になっている。

 そのような頑丈な戦艦をミリオン、つまり100万隻揃えた艦隊を100万作るのがミリオン艦隊計画である。そのミリオン艦隊計画17番目の艦隊が第十七艦隊である。つまり強いのだ。

 それがたった一撃で壊滅したと聞き、ヤンは自分の耳を疑った。

 

「残念ながら本当です。昨夜、日本からはるか東の空が赤く染まったのが観測され、その直後に艦隊が消滅しました」

 

「日本からはるか東・・・つまりミャンマーか!」

 

 日本の対岸、アジアにはミャンマーがある。そしてそこから衛星軌道にある第十七艦隊が攻撃されたのである。

 

「そんなことをするのはザフトだ!おのれ、ザフトの残党どもめ!我ら同胞の仇、目にもの見せてくれる!」

 

 ヤンは怒りの形相で軍刀を抜き放ち指令席から飛び出すと立ちふさがる者を次々と斬り捨ててワルキューレに飛び乗る。そして止める間もなく遥か東の空へと一目散に飛び立った。

 

 

 

「ウサギ美味しい鹿野山。小鮒釣り師鹿野川」

 

 子供たちの楽し気な歌声が聞こえるここはミャンマーの田舎町にある寺院。そこでは一人の僧が子供たちを集めて歌を歌っていた。その僧は貧しい家の子供に教育を施して生計を立てていた。

 

「アンナ、なかなかいい声だ。これなら裕福な家の旦那様に目をかけてもらえるぞ」

 

 その僧の元に寺の小僧が足早にやってきて、何やら耳打ちをすると僧の顔が険しい物になる。

 

「そうですか。昨夜のアレはやはり・・・。これは私がなんとかせねばなりませんね」

 

 僧は背中に背負った軍刀を抜き放った。その軍刀は古びているが、それでも刃は今まで何千という人の生き血を吸ってきたのが分かるほど禍々しい妖気を帯びていた。

 

「まさか私が再びこれを抜く日が来るとは。そのツケ、払って貰いますよ」

 

 僧は抜き身の軍刀を手に、一人、寺を出て行くのだった。

 

 

 ミャンマーの首都にあるネピドー空港に着陸したヤンは、現地の住民相手に情報収集を行っていた。ヤンは知能派軍人なので、帝国軍と違い何も考えずに突撃などしないのだ。

 

「敵を知り己を知れば百戦危うからずってね。そう言うわけでザフトの秘密基地の場所を教えるんだな」

 

 ヤンは首都に点在するたばこ屋のおばちゃんにお金を掴ませて基地の場所等を聞いて回っていた。たばこ屋は現代の社交場。どんな悪党だろうがタバコを吸うときは口が軽くなるのだ。おかげで数時間の内にザフトの計画は丸裸になった。だが、そんなヤンを黙って見ているほどザフトはお人好しでは無かった。路地裏に入ったヤンはバールのような物でしたたかに頭部を殴られてしまう。激しく血飛沫が舞う中、ヤンは犯人の姿を確認する。それは己の頭から迸る血流よりも赤い軍服。そう、犯人はザフト兵だったのだ。少しでも気を抜くと途絶えてしまいそうな己の意識をなんとかつなぎ止め、ヤンはズボンのポケットからブラスターを引き抜く。ヤンは自分が銃のセンスがないことを知っていたため、今回持参した銃は特別製だ。たとえ当たらなくても余波だけでも敵を吹き飛ばせるようにレーザー水爆マグナムブラスターを装備してきたのだ。それを犯人に突きつけブラスターのトリガーを引く。残念ながらエイミングが苦手なヤンだけあって、銃口は犯人とは全く違う方向に向いていたが、吐き出されたレーザー水爆がヤンの構えた銃口から扇状にすべてを焼き払う。ザフト兵も油断してたため、モビルスーツを出す暇も無く瞬時に蒸発してしまう。後に残ったのはずいぶんと見通しが良くなった街並みと、遙か彼方に見えていた山が円形の跡を残して消え去ってしまった光景だ。だが、これを見たザフト兵はより危険を再認識し、一斉に襲いかかってきた。

 

「この宇宙人が!仲間の仇!再充填までの1分でお前を殺すなど容易いことだ!」

 

 ヤンは再充填中のレーザー水爆マグナム以外の武装はしていないため窮地に追いやられてしまった。このままでは銀河英雄伝説は完結してしまう。ヤンは作者に悪態を付きながらこの状況を打破すべく知恵を回すが妙案はやはり全速力で走るだけだろう。えっちらおっちらとヤンは路地裏を走り回るが、土地勘は向こうの方が上、10分もすれば袋小路に追い詰められてしまった。ヤンはこうなっては最後、後は自分の身体だけが頼りだと、ブラスターを投げ捨て、ファイティングポーズを取る。シャドーボクシングをしつつ屈伸を何度もすると、相手も勝負を受け入れて武装を投げ捨てファイティングポーズをとる。ザフト兵は3人、多勢に無勢だが、格闘戦は士官学校でみっちりたたき込まれている。真面目な生徒だったとは言えないが、ここは仏陀の神様が眠るビルマだ。奇跡だって起こりうると前向きに考えるヤンであった。ところがそこに機関銃による機銃掃射が行われ、ザフト兵は無惨な肉塊に早変わりしてしまう。

 

「水島上等兵、助けてくれてありがとう」

 

「初めてお会いする、ヤン元帥。あと上等兵はやめてください。今では出家して僧侶の身です。水島尊師とお呼びください」

 

 なんとヤンを助けたのは旧日本軍の兵士であった水島上等兵であった。彼は第二次世界大戦後に原隊復帰を断り、出家してビルマで僧侶として現地の人々を導く仕事をしていたのだ。水島は構えていた軍刀を鞘に収めてヤンへと自己紹介をする。

 

「ヤン元帥もやはりアレを調査に来たのですか?」

 

「ああ、旧日本軍が残した超大型戦略兵器。アレが先日、衛星軌道に居たうちの艦隊を吹き飛ばしたのは知っているでしょう?」

 

「ええ、私が厳重に封印していたのに、ザフトの残党軍が掘り起こしてしまったようなのです。おかげで、ほら。大戦中に犠牲になった兵の怨霊が騒いできていますよ」

 

 ヤンと水島が振り向いた先で、地面からボコボコと怨霊が湧き出てくる。彼らは第二次世界大戦中に犠牲になった兵の成れの果て、怨霊兵である。彼らは何度も悲劇を繰り返そうとする生者達を憎み、地獄から舞い戻ってきたのだ。

 

 ひたり、ひたりと、怨霊兵はこちらへと近づいてくる。

ヤンは怨霊兵へとレーザー水爆マグナムを向けて発射しようとする。だが、水島がヤンの肩を掴み止める。

 

「止めなさい。霊にはそのようなものは効きませんよ」

 

 水島上等兵は怨霊兵を睨みつけながら、両手を眼前で組み合わせる。

 

「オン アビラウンケン ソワカ」

 

 そして真言を紡ぎながら指を奇妙に絡み合わせて印を組んでいく。そしてカッと目を見開き、「サー・ター・アンダ・ギーーーー!」祝詞と共に軍刀を一閃する。哀れ怨霊兵の首が宙を舞った。

 

「ゾンビは首を切らないと倒せません。銃では頭を何発も撃つことになって時間の無駄です。それにその銃、一発撃つと再充填に1分かかるので、ゾンビ一体倒すのに時間がかかりすぎますよ」

 

 ヤンは危ないところだったと冷や汗ものだ。水島上等兵には後ほど勲章を渡さねばと忘れずにメモするほど感謝していた。

 だが自体はまだ解決していない。これもそれも全部ザフト残党軍が元凶である。水島によるとザフト残党軍が今回用意したのはなんと旧日本軍の戦略級殲滅兵器である『ビルマの竪琴』である。

 それは遙か太古、100億年前の遺跡から見つかった兵器で、旧日本軍が現地住民数億人を生け贄に捧げることで作り出した怨霊兵器である。一度起動すれば100万隻の艦隊ですら一撃で消滅させる威力を持っている。ただし、封印解除後にろくなメンテナンスをせずに使用したため、再充填に時間がかかっていると連絡が来たのだ。そして水島上等兵はビルマの竪琴の開発者としてザフト残党軍からメンテナンスを依頼されたが、断ってしまった為に、僧侶として出家して身を隠すことになったのだ。

 

 「僧侶として暮らしている間、私は酷い苦痛の中にいました。私が犠牲にしてしまったビルマの住人。彼らと同列扱いされる日々。遙か日本が恋しくて何度枕を濡らして眠ったか。それもこれも憎きザフトのせいだ」

 

 義憤に燃える水島の目には涙がこぼれんばかりに貯められていた。

 

 

 こんなにも純粋な青年が何故こうも酷い目に遭わねばならぬのか。

 キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間17分。

 ヤンは改めてザフトこそ悪の権化だと再認識した。



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露伴と酔っ払いと初ライブ!

このSSもなんとか初ライブまでこぎ着けました。
露伴ファンのみんなに支えられている・・・。
でもこのペースだとSIDEROSが出てくるまで何話かかるのだろうか。


 ミャンマーの地下5000キロにザフト残党軍の隠し基地が存在する。

 

 地上にあったザフト基地は地球連合との戦争終盤にブルーコスモス部隊による数ヶ月に及ぶ執拗なまでの核攻撃によって廃墟と化してしまった。だがザフト軍は核攻撃を逃れるために地下へ、更に地下へと基地を広げていき、現在まで生き延びていたのだ。現在の地下基地は地盤貫通攻撃型の核弾頭でも被害を逃れることが可能だ。ここには未だ革命に燃える精強なるザフト残党軍10億人が隠れ住み、朝に夕にと激しい訓練に明け暮れている。

 

 

「ザァフトォォォォーーー!」

 

 響き渡るような掛け声をあげた少年兵が連合兵を模した藁人形へと銃剣突撃をする。目を血走らせて狂ったように叫びながら何度も執拗に銃剣を突き刺す。その様は正に狂気。それは彼だけでは無く、訓練所の広場を見渡せば至る所に同じ情景が広がっている。倒れた藁人形に馬乗りになり狂ったように髪を振り乱しながら何度も何度も手に持ったナイフを振り下ろす少女。中には藁人形の首を引きちぎり、高く掲げて雄叫びを上げている者までいる。見たところまだ10歳にもなっていない少年少女達が何故こうも憎悪に燃えるのか。それは彼らが血のバレンタインをはじめとする連合軍による虐殺からの生き残りであるからだ。核攻撃に晒されて、目の前で両親が消し炭になって消滅したのを目にすることになった少年。苦悶の表情を浮かべた両親の生首の前で連合兵達に三日三晩輪姦された少女。中には面白半分で両親の死体に何度もナイフを刺すことを強要された者もいる。彼らにとって連合軍とは悪鬼羅刹であり、存在することすら許せない悪なのだ。彼らはいつの日か来る革命に備えて日夜その刃を研いでいるのだ。

 

 それをザフト軍エリート高級将校である証の赤服を着たイザーク・ジュール上級特務大佐が視察していた。

「なかなか有望そうな兵達ではないか。彼らを見ていると私も若い頃を思い出して心が洗われるようだ。耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、泥水をすすり汚濁の中を這ってまで敵兵の喉笛に食らいついたあの地獄のような戦場を思い出すよ。私も彼らのようにただただ革命の為に命を擲って戦ったものだ。あの日、共に戦った戦友達の多くは志半ばで倒れていったが、彼らの革命魂は今も若人達に受け継がれて紡がれているのだな。すべては約束された栄光のため。革命は永遠なり。革命万歳!」

 それを聞いたザフト兵は一斉に革命万歳と何度も何度も声を上げる。その声は周囲にどんどんと波及していく。少年兵も、畑にて鍬で耕していた老人も、炊飯所で鍋をかき混ぜていた中年の女性もみんな狂気を宿した目で腕を天へと突き上げて革命万歳と、真なる革命をと声を上げ続ける。

 

 ザフト軍ビルマ地下基地は革命の精神によって一つになっていた。イザークはこの光景に涙を堪えきれず男泣きをしながらも負けじと革命の声を上げ続ける。ああ、なんと素晴らしいのだ。クルーゼ隊長、見ていますか。貴方の革命精神は今もここで燃えています。あの日、場末の酒場で貴方と真なる革命、真なる平和について語った日々。腐りきった連合の資本主義を打倒して、真なる平等なる共産世界を迎える日は遠くないと私は今確信していますよ。この光景を見ているならヴァルハラに先に逝ったこと、勿体ないと悔やんでいるでしょう。

 

 

 

 イザーク・ジュールは過酷だった自身の人生を振り返る。

 

 ザフトのコロニーにから少し離れたスラム街、違法移民の両親の子として彼は生を受けた。地方星系の農奴だった両親は星系貨物船のコンテナに潜り込み密航、ザフトに移民してきた。当時、連合との開戦を見越して大々的に移民を受け入れてきたザフトだったが、移民に与えられた職は前線の捨て石になる兵士であった。彼の両親もそのためにろくに訓練もされず型落ちのライフルだけを持たされて最前線送りになった。ここで戦果でも上げられればまだ彼らの境遇は変わっていたのだろう。だが現実の戦争というのはそんなに甘い物では無かった。まだ当時のザフトはモビルスーツを開発できていなかったため、戦力は歩兵だけ。しかも当時のザフトは連合の棄民政策で出来た国だったため、碌な兵器技術など無かった。歩兵の武装は火縄銃やマスケット銃などの単発銃ばかり。しかも宇宙コロニーに存在する国のため鉱物も取れないため、密貿易で少量手に入る鉄は貴重で銃身だけなどに少し使われる程度。殆どはプラスチックと木で出来たおもちゃのような銃であった。戦車や飛行機なども無く、民生の車に廃棄コロニーの外壁などを貼り付けて荷台やサンルーフなどに大砲を設置した簡易装甲車が頼りの綱であった。

 

 そのため、イザークの両親もその例に漏れず、軍服すら与えられず薄汚れたカーキ色の移民服のまま、唯一支給されたライフルだけを頼りに戦場へと赴くことになった。結果、父は地雷で両脚を吹き飛ばされ、母は焼夷弾に全身を焼かれ、連合兵の姿を見ることすら叶わず、三日と持たずに再起不能として後方送りとされた。

 

 そんな両親に待っていたのはザフト移民権の剥奪とコロニーからの強制退去命令。使えない人間など優秀たるザフトには不要とされたのだ。彼らはザフトのコロニーから放り出され、あてどなく彷徨ったあげく、コロニーから程近くに違法移民達で自然形成されたスラム街にたどり着いた。廃棄コロニーから取ってきたトタン板や廃材など、または布で雨避けだけ施された粗末な住居。そんな中でイザークは産まれることになった。真面な医療も受けられず、野良ネズミなどを捕って飢えを凌ぐ劣悪な環境でイザークは育ったため、当然真面な教育など受けることすらできなかった。そもそも生きているだけで奇跡である。スラム街で産まれた子供が成人するまで生き延びられる可能性は僅か一割であった。

 

 彼の少年時代。両脚が無くなり日がな一日酒浸りになり母や自分に暴力を振るう父。売春で僅かな日銭を稼ぎ、性病によって日々やつれていく母。そんな中、同じ境遇のストリートチルドレンと共に過ごした日々暴力と悪徳にまみれた青春。ザフト軍の備蓄倉庫に潜り込んで食料などを盗んだり、金持ちの変態に身体を売ったことすらあった。もちろん見つかれば無事には済まず、憲兵に袋だたきにされて生死の境を彷徨った経験は数え切れない。尻の穴などとっくにガバガバで軍へ入隊後直ぐに人工肛門化している。そんな中、正規市民である金持ち達の悪行を街で見ることも多かった。人目も憚らず幼女を買い付けに来るブタなどまだ良心的な方だ。金すら払わずに無理矢理車に押し込めてレイプなどは金持ちの子供達の特権で娯楽の一つであった。他には違法移民達の排除という名目で銃を乱射して街の人間を無差別に殺していくこともあった。そんな酷い光景を見続けていた少年時代。金を持っていれば人を殺しても罪には問われず、逆に金のない貧乏人は真面に生きていく事すら否定される。こんな世の中は間違っている。彼の革命魂はそんな環境で少しずつ育まれていった。

 

 イザークはスラム街育ち故に真面な教育など受けることなど出来なかった。そしてスラム街に真面な求職などありはしない。男なら日雇い肉体労働(それも賃金すら払われずに殺されることすらある)やスラム街のギャング団や海賊団などのアウトローに。女に至っては強制的に売春婦だ。誠実的な金持ちに買って貰えることを夢見て少しでも見た目を整えようと涙ぐましい努力をすることしかできない。

 

 ただ唯一正規市民への道が開かれているのが軍人だった。両親と同じ道だ。イザークは同じストリートチルドレンと連れだってザフト軍の門を叩いた。入隊後の扱いはそれは酷い物だった。イザークは他の仲間と同様、スラム育ち故に言葉など喋れないし当然読み書きも出来ない。猿同然だ。何故ならスラムでは野生動物同様で言葉など生活に必要ないのだから。意思疎通など表情と拳と鳴き声だけで十分取れる。そんな猿に言葉を教えるのに必要なのは優秀な教師では無く棍棒による暴力だ。何をすれば殴られて、何をすれば褒められるのかを痛みと共に身体に教え込まれる日々。覚えられなければ死ぬだけだ。その選別にも似た教育で一緒に入隊した仲間は全員死に、生き残ったのはイザークだけであった。イザークはまだ両親が言葉が喋れる(ただし片言)だったのでそれを思い出しながらなんとか発声することが出来た。他の仲間はウッキーとかウホウホと鳴き声を上げるので精一杯だった。言葉を使用しないまま何世代も過ごしていたスラム住人の大半は声帯が退化しているため言葉を発する事が物理的に不可能な場合が多いのだ。それでも読み書きや命令を聞く知能が有ればまだ銃を持って突撃できるので肉壁として採用されることもあるが、残念なことにイザークの仲間は脳味噌も退化して縮小しており、言葉という概念を理解することが出来ずに殺処分されてしまった。

 

 初期教育が完了して二等兵して入隊したイザークは辺境星系の最前線に送られた。木星星系の惑星エウロパに降り立ったイザークはその中でも一番の激戦区であるカラニッシュクレーターの基地であった。ここでは石炭が豊富に取れる炭鉱があり、ザフトのエネルギー資源を支えている重要拠点であった。

 

 炭鉱内ではスラム街から連れられてきた違法移民達が発掘作業に従事していた。フンドシだけを身につけたほぼ裸でツルハシを担いでヨロヨロと炭鉱に入っていく移民達は炭鉱夫と言われてイメージするような筋骨隆々な姿とは遠く離れた矮躯で、食事すら殆ど与えられていない事が分かる骨と皮だけの姿。眼下は落ちくぼみ、頬もやつれて何時死んでもおかしくないような死相が浮かんでいた。ザフトにとって移民などは死んでもどんどん無限に沸いてくるゴキブリのような物。死んだらまた代わりを連れてくればいいので、餌や休みなど与えることなど不要なのである。そんな悲惨な環境でも移民達はそれが当たり前の事なので何も疑問に思うこと無く死ぬまで炭鉱を掘るのだ。

 

 見回っている警備兵が先ほどから倒れたまま呻いている炭鉱夫に近づき、頭部に拳銃を突きつけて発泡する。それだけで炭鉱夫はもう動かなくなり、それを見ていた周りの炭鉱夫達がその遺骸を担いでねぐらへと運んでいく。死んだ人間というのは彼らにとって貴重な食料なのだ。ザフト市民が配属して初めてこの光景を見ると揃って嘔吐してしまうが、イザークにとってはスラム街でもよくある光景だ。自分も弟や妹、近所の住人の遺骸を何度も食べている。特に妹は肉質が柔らかくてとても美味だったと思い出し、口の中によだれが貯まっていくのを自覚する。妹を食べてから美食を知ったイザークは今でもたまにそれを思い出して無防備に出歩いているスラム街の少女を頂いていた。それほどまでにスラム街というのは地獄のような世界なのだ。

 

 これらすべての悪徳は金持ち共による拝金主義によってもたらされている。イザークは軍でクルーゼ隊長に会い、共産主義の素晴らしさを教えられるまでそれが当たり前の事だと世界を変えるなど考えることなど無かった。今思えばなんたる怠慢。悪しき金銭などに溺れて、それを持たぬ者は人間とは考えない思想。そんなものがまかり通るこの世界は間違っている。真なる平等を齎すために世界を正さねばならない。それが革命である。規律を正し自己批判を通して真なる革命戦士として闘争への精神を養い、共産世界を実現せんが為にすべてを捧げるべきなのだとクルーゼ隊長に教わったのだ。

 

 そのような理由でイザークはクルーゼ隊長を肉親以上に慕っていた。彼の子供時代に無意識下で形成された劣等感はクルーゼ隊長に与えられた共産思想にのめり込む下地となり、強固な革命戦士として覚醒することになる。クルーゼ隊長の夢見る共産世界を実現すべく徹底した自己批判と自己統制により厳しい訓練に明け暮れ、スラム出身としては異例の赤服隊に入れるまで成長したのだ。その後、クルーゼ隊に配属になり、アスランを初めとするクルーゼ隊の仲間達と出会うのだが、彼らは上級階級のお坊ちゃま揃い。資本主義の豚共であった。ザフト議長である親の力でアイドルを許嫁にしたというのに、それを自分の力だと思い込み疑うことすらせずに自慢するアスラン。親に甘やかされて何不自由なく育ってきたというのにそのありがたみも理解せずに親の反対を振り切り危険な戦場に出てきた夢見がちなニコル。女をとっかえひっかえして遊び回る快楽主義なプレイボーイのディアッカ。そんな俗物とイザークの相性はまさに水と油。甘い考えの彼らに対し、イザークはことある毎に怒声をあげる事になった。だが共産主義は資本主義世界では弾圧対象であった。もし自分だけでなくクルーゼ隊長まで革命戦士だという事が知られれば共産世界への芽は潰えてしまう。表面だけでもなんとか彼らと友好を保とうと苦労したものだ。その後、連合との戦争を繰り広げる中、少しずつ同士を集め、秘密裏にこのビルマ基地へと革命戦士を集結させていったのだ。

 

 ここビルマに移っても資本主義による弾圧は続いた。戦争を食い物にしていた軍産複合体であるロゴスは共産革命戦士がこのビルマに集結していることを知ると、自身の手駒であるブルーコスモスを操って執拗なまでに核攻撃を加えてきた。この攻撃により犠牲になった同士達の嘆きが今でもイザークの胸の中に響いている。徹底的な総括により精強を誇った革命戦士がたった一発の核爆弾で容易く吹き飛ぶ様は筆舌に尽くし難い光景だった。だが、そんな苦しみもこれまでのこと。追い詰められ地下へと逃れたイザーク達革命戦士は、地下深くで遙か太古の遺跡を発見したのだ。そしてその遺跡の祭壇に祭られていたのが旧日本軍が作り出した『ビルマの竪琴』である。壁画に掘られた古代文字を解読し、その兵器の力を知ったイザークは、これこそが神々が共産世界を実現すべくザフトに齎した福音だと感じ、深々と頭を垂れたのだった。

 

「それで、例の開発者の捕縛はどうなっている?」

 

 ザフト軍はビルマの竪琴を発掘後、碌なメンテナンスが出来なかった。技術体系が全く違う物で、遺跡に書かれている伝承などを元に推測に推測を重ねてなんとか起動出来た物の、その直後暴走するかのように発射シークエンスが開始されたのだ。大慌てでなんとか標準を衛星軌道にいる宇宙人の艦隊に向ける事を間に合わせるので手一杯であった。その後、百万隻の宇宙人の艦隊が跡形も無く吹き飛ぶ様をザフト軍人達は呆然と見上げることになった。中にはようやく宇宙人共に一矢報いた喜びにさめざめと涙を流す者すらいた。だが、発射後、ビルマの竪琴は動作不良で停止してしまった。説明書によると毎秒一万発を発射できるとあるが、メンテナンス不足の為に砲身が逝かれたしまったようだ。そこでイザークは開発元である日本の四菱重工に連絡を取ると、当時の開発スタッフは戦後脱走した一名を除いて機密保護のために処刑されているとの回答だった。ただ、脱走した一名は現在もビルマに潜伏しているとの情報を得ることが出来た。その者こそが、ビルマの竪琴の製造開発の全面指揮を執っていた水島上等兵だった。彼はビルマの竪琴の情報をすべて独占して居るため、帰国すると権利を剥奪されかねないと考え、ビルマにて出家して僧侶になったのだ。僧侶だと俗世を離れているため、ミャンマー政府が引き渡すことはないのだ。だがザフトは国際問題など懸案することはない。すぐさま水島上等兵確保のために兵士を派遣した。

 

「申し訳ありません。あと一歩の所まで追い詰めたのですが・・・」

 

「仕方あるまい。奴は日本軍の将校。つまりサムライ。剣術の達人だ」

 

 日本のサムライと言えば今でも恐怖の代名詞。日本刀一本で数百の兵を斬り殺す悪鬼羅刹である。ザフトも戦時中は何度も煮え湯を飲まされたものだ。特に将校に配られた軍刀はモビルスーツの装甲すら容易く切り裂く斬鉄剣だ。かつて乗っていたガンダムが日本軍将校の居合い切りで真っ二つにされたことはイザークにとっても苦い経験である。その時に付けられた顔の傷は彼自身の戒めとして未だに痕を消しては居ない。

 

「砲身は精錬方法が不明の玉鋼という金属で出来ているため修復は不可能でしたが、モビルスーツに組み込むことで発射することが可能になりました。・・・・・・残念ながら強度不足のため本来の毎秒一万発は再現できませんでしたが」

 

  イザークがビルマの竪琴についての報告を聞いていると突如激しい地響きと共に非常事態を告げる緊急アラームが基地に鳴り響く。イザークは倒れそうになるのを堪えつつ、何事だと誰何する。血だらけになりがら伝令兵が駆けつける。伝令兵の傷口からはかすかに放射能の匂いがする。核攻撃を受けたのではとイザークは訝しんだ。伝令兵は息も絶え絶えで今にも息絶えそうであるが、それでも最後の力を振り絞り、首都近くの山に駐屯していた物見部隊が首都からの急な核攻撃を食らい、山ごと蒸発したとのことだ。この兵士もその部隊に居て、ヘルメットがなければ即死だったそうだ。だが傷だらけの身体で治療もろくに受けておらず、大量の放射線で被曝したために最早虫の息。掠れる声でこちらに重要な情報を告げてきた。なんと水島上等兵が自由軍のヤン・ウェンリー将軍と手を組んでいたという驚愕の事実を。そのヤンは水島上等兵を監視していた部隊に気付いていて攻撃してきたのだ。何という知将。昨日艦隊を吹き飛ばしたばかりだというのに直ぐにこちらの情報を掴んでいるとは。だが読めてきたぞ。おそらく水島上等兵がビルマの竪琴を土産に自由軍の庇護下に入ろうという気なのだろう。自由軍は悪しき拝金主義の国。女子供を売り飛ばしている水島上等兵にとっては金がすべての自由惑星同盟は正に天国。ビルマの竪琴の情報を売りさばいて我が世の春を謳歌しようとしているのだ。さながら我らは自由軍の前に積まれた供物の羊なのだ。我らが暴走した結果、実戦証明されたビルマの竪琴の価値はうなぎ登り。帝国軍と交戦中の彼らにとっては喉から手が出るほどのお宝に違いない。知将ヤン・ウェンリー将軍が直々にビルマまで来たことからその重要性が理解できる。このまま我らが自由軍の動向に気付かずにいたらたちまち自由軍の攻撃で屍を晒すことになっていただろう。だが、ここからは勝手にはさせん。そう息巻いていた頃に更に驚愕の事態が発生する。

 

「大変です! システムに侵入者です! ハッキングを受けています!」

 

 次から次へと舞い込む凶報にイザークは頭を抱えることになった。

 

 

 

 首都から追っ手を逃れて路地裏を走り抜けること3時間、ヤン達はマンダレーに辿り着いていた。マンダレーはミャンマーの中では第二の規模を誇る都市である。ヤンは繁華街にあるネットカフェへと入る。受付にいた少年が何やら分からない言語で止めてくるので頭をサプレッサーで音を消したレーザー水爆マグナムで消し飛ばす。

 

「全く、銀河共通語もまともにしゃべれないなんて教育水準が低すぎるね。発展途上国はこれだから困る」

 

 肩をすくめておどけるヤン。とりあえず頭部の消えた遺体は見つからないように受付カウンターの下に押し込んでおく。その際、カウンター奥のスタッフルームも確認したが店番は彼一人のようだ。これでザフト軍に通報される恐れは無くなった。ヤンは店で一番スペックの良いパソコンを見繕って電源を入れる。ガリガリとハードディスクの削れる音がして、ジャジャーンとウインドウズが立ち上がる音が鳴り響く。これを聞くとインテリになった気がしてヤンはテンションが上がる。こんな発展途上の国なのでまともなパソコンがおいているのか懐疑的だったがどうやら奇遇だったようだ。最新のOSが軽快な動作で動いている。CPUもインテルの最新モデル。メモリもなんと32メガも積んでいた。軍の事務パソコンより高性能では無いか!帰ったら経理部を締め上げて情報機器の一新を図らねばなるまい。ヤンは心のメモ帳に記載した。ヤンは早速ネスケを起動してヤフーニュースをチェック。どうやら先ほどまでのザフト軍との戦いはガス爆発で処理されていた。典型的な隠蔽工作だ。ヤンはニュースの投降に注目した。隠蔽記事ということはこれを投稿したのはザフト軍ということ。つまり、この記事を調べればザフト軍のアイピーが判明する。ヤンは慎重に記事のページを右クリック、震える指を堪えながらソースを表示する。どうやらブービートラップは無かったようだ。ヤンは記事のソースを解析する。難解なHTML暗号を読み解き、アイピーの記載を発見。

 

「192の168の・・・・・・確かにザフトのアイピーだな。これでザフトのネットワークにアクセスできる」

 

 ヤンはExcelを起動して先ほどのアイピーを打ち込む。ピーガガガーピーと激しい音が鳴り響きダイヤルアップが立ち上がる。水島上等兵はこの音に気付いてこちらを訝しげに見やる他の客を何でも無いから戻れと追い払う。ヤンはこれでも軍大学の出だ。ハッキングについても仕込まれている。

 

「よし、先ずはエックスルックアップ関数でビジュアルベーッシクを起動。ファイヤーウォールをダミーデータで欺瞞し回避。くそっ!C言語か。やっかいだな。だがこの程度なら・・・よし、コマンドプロンプトでなんとかなった」

 

 ヤンは目にも留まらぬ早さでキーボードを打ち続ける。モニターには複数の黒い窓が開いては凄い早さでハッキングコードが流れては閉じて、また違う窓が開くのを繰り返している。

 

「流石は軍のコンピュータだ。なかなかの防壁を組んでいるね。でもVB言語では処理が遅いよ。何しろ僕が使っているのは最速のアセンブリ言語だからね。処理能力が段違いだ。おっと、ここで攻勢防壁か。甘い甘い。そんなのキルスイッチで一発さ。ダミーで欺瞞情報を流してる間に、ほらあっさり解除さ。さて、これでメインサーバーのルート権限を奪取完了。アドミニストレーターでログインして、各種防壁を解除。これでザフト軍の今晩のメニューから軍の最重要機密まで全部丸裸さ」

 

ものの数分でヤンはザフトの全システムを掌握してしまった。これがザフトと自由軍の技術レベルの違いである。

 

「ザフト基地の監視カメラの映像を出すよ」

 

ネットカフェのモニターにザフト軍基地の様々な場所のカメラ映像がリアルタイムで映し出される。想像通り、ザフトの基地は大混乱だ。

 

「よし、ネカフェを選んで正解だな。普通の家だとプロバイダ経由だからアイピーが分かると誰がアクセスしているか分かってしまうが、ネカフェだと匿名だから向こうはどこからアクセスしているか知ることは出来ないからね。向こうが混乱しているうちに必要な情報はすべてもらっちゃおう」

 

 ヤンはザフト軍基地の住所と入り口、内部の地図をプリンターで印刷する。他にもビルマの竪琴に関する研究資料やモビルスーツの設計データなども見つかったので、ネカフェ内の売店からフロッピーディスクを拝借してパソコンのAドライブに挿入。流れるような熟練の手つきで保存していく。それをみて水島上等兵は先ほどから感嘆の息をついている。

 

「まったく、時代の進化という者は凄いな。俺が戦っていた頃は通信なんて伝令兵か伝書鳩、あとは精々狼煙か手旗信号ぐらいだったもんだ。コンピュータなんてかけらも存在しない概念だったからね。戦場では爆撃の中を命がけで電話線を引いて前線から司令部に電話を繋げてたのに、今ではこんな箱で世界とやりとりが出来るのだからな。戦争のやり方が全く違ってしまったな」

 

 第二次世界大戦を生き抜いた古参の水島上等兵は初めて見た電子戦という新時代の戦い方に驚愕の思いだ。ソロバンと紙と物差しで研究開発していたあの時代に、これがあればどれだけの人間が救えただろう。ビルマの竪琴ももっと完璧な兵器として仕上げることが出来たのではないか。歴史にifは存在しないが、そう思ってやまない水島上等兵であった。

 

 

 たった二人の反抗戦は未だ序盤。

 キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間16分。

 だが戦況は少しずつヤン側へと傾いていくのだった。

 



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