残念なパパスの爆殺記 (ぱぱさん)
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お父さんって強いや!

 突然だけど、僕のお父さんは物凄く強く、頼りになる。

 

「ピキー!」

 

 だって、目の前にいるスライムの群れが、まるで空気の如く意にも介されず切断されていくのだから。

 

「大丈夫か? リュカはまだ小さいから、一人で表に出るのは危険だ」

 

 そう言ってホイミで僕の怪我を回復してくれる。元はといえば僕の不注意が原因だったというのに、お父さんは怒鳴りもせず優しく諭すのだった。

 

「ごめんなさい。でもお父さんはやっぱり強いや!」

 

「わははっ。なに、リュカもこれから強くなるだろう」

 

 そしてお父さんは道中の大きな魔物も一太刀で倒してしまい、更にその背中の大きさを間近で感じた。

 

 強いだけじゃなくて優しいお父さんは優しく、でもやっぱりその根底には何者にも負けない強さがあるんだ。

 

 だから思ったんだ。僕は一生この人の側で食っちゃ寝していれば困ることはないって。

 

 

「やあ、パパスさんではないか! 実に2年ぶりだろうか……いや! こうしちゃおれん、皆に知らせなくては! パパスさんがっ、パパスさんが帰ってきたぞぉっ!」

 

 そう、こんな辺境の村の民からも絶対的な信頼を得ている僕の父の名は――パパスと言った。

 

 

 

※sideパパス

 

 

 あー、痛い怖い。魔物とはなぜあれほど奇妙な動きをするのだろうか。

 

「お帰りパパスさん。剣の達人と謳われたあんただが、俺にとっちゃいい喧嘩仲間だった。いざいなくなると寂しくてよぉ」

 

 私が全身の痛みを引きずりながら歩いていると、武器屋の主人が肩を叩いて泣き始めた。泣きたいのはこちらだというのに。

 

 剣の達人? 冗談じゃない。私の戦い方は何とも惨めで痛く、恐怖に(私が)怯えるものなのだ。

 

 まあ、爆発の威力に任せて内部から魔物を破壊するという点では、何物にも代え難い高度な技なのかもしれんが。

 

 しかしこうして村へ帰る行為も3桁を迎え、数を増やすごとに魔物と対峙することへの恐怖感は膨らんでいく。いっそのこと、この家の地下にでも籠もって余生を送りたいほどだ。

 

 思い出すのは剣を振るうと同時に巻き起こる爆発。魔物を一瞬で葬り去る威力と引き換えに、私の命を削っていく。

 だが度重なる爆発に、私の体質はどうやらおかしくなってしまったらしく、痛みのみしか残らなくなった。

 

 きっかけは、国の王子が誘拐され息子と共に助けにいくことになったある時。無事王子を白日の下に連れ出すことができたと思われた、その時、ゲマという輩に彼らを人質に取られてしまったのだ。

 

 なすすべもなく、私は黙って炎に焼かれる。近づくだけで身が焦がれる真っ赤な火球であった。

 

「ぬわーーーーっ!!」

 

 私は叫んだ。

 

 溶けるほどの灼熱の中、自分だけは失ってはならないと必死で叫んだ。声が枯れるほど、力の限り。

 

 しかし気がつけば、別の場所へと私は移動していた。

 

 あとから聞けば、どうやら膨大な魔力というものは稀に時間への干渉を起こすらしく私は数日前へ飛ばされていたらしい。

 

 そして驚くべきことに、そこには私がもう一人いた。私は気が動転していたのもあり、それを背中から斬り伏せた。

 パパスは既に亡き者、それを騙る人物がいてはあらゆる人々が混乱に招かれる。そう考えての行為だった。

 

 しかし、それは過去の私自身だったことを、同じく魔力の時間干渉を教えてくれたラインハット城のデモンズ氏に聞くこととなる。

 

 デモンズ氏はその事実に、タイムパドラドックスなる現象を危惧し、今いる私の存在を気兼ねしたがどうやら問題はないらしい。

 なにやら今の私がいる世界は一つのパララルルワールドらしく、平行的かつ並行的に時間を進む数々の世界のうちの一つだと言っていた。

 

 そうして私はゲマに何度も焼き尽くされた。奴は王子をいくら匿おうと必ず見つけ出す訳のわからない人物だった。

 

 そして自ずと私はまた数日前へと戻る。そこで始めに目にしたのは、私が背後から私を殺す様だった。過去に行われた行為が再び目の前で繰り広げられたのだ。

 私は慌て、さらにその背へと回り剣で斬った。彼は私の姿を見れば同様に殺害を決意するに違いなかった。だから先に手を打ったまでだ。

 

 そして今日では私の死体は山のように、数にして142人。冥福を祈るばかりだが、これが全て私だと思うと胸に痛みが走らずにはいられない。

 

 しかしそれは私がどれほど時間の移動を繰り返したかの指標にもなり得る。これだけの回数を重ね、私はついに今の体質を手に入れたのだ。

 それは高威力の魔力を受けたからか、時に干渉し過ぎたためなのかは分からない。が、これならばあのゲマも一度に葬り去ることができるやもしれない。

 

 自身の精神力を犠牲にするものの、まるで身を挺して爆発を巻き起こす「メガンテ」のような技に、私は己の最後に放った武勇溢れる雄叫びを誇って――

 

 それをヌワンテ、と呼ぶことにした。

 

 この、一太刀で生者を墓地に送るほどの爆発を得たパパスの、一太刀で死に至るほどの痛みを覚える、スライムにも死の恐怖を覚え怯えるような一人の父がどこまで抗えるものか試してみようじゃないか。




パパスはカタカナ弱そうなイメージ。

拙作は人は誰しも裏を持つ、といったテーマを持っています。勇者の父として見本となるはずの主人公でさえヒモ気質という、素晴らしい外道っぷりです(褒め言葉)

とはいえ、内面を表に出すことはけしてなく、見かけ上は原作と変わらず動きます。そんなおかしなドラクエ5をお楽しみください。


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