暗殺教室~アサシンW~ (ほにゃー)
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Wの探偵/生徒で暗殺者

Wを見たら書きたくなった


一年前のあの夜。

 

潮田渚は大切な物を失った。

 

『伯父さん!?』

 

渚の伯父、鳴海荘吉は私立探偵だった。

 

父と母が別居し、母の歪んだ愛情によって自分自身を出せないでいる中、伯父は渚にとって唯一自分を見てくれる存在だった。

 

そんな伯父に付き従い、探偵としての仕事を手伝う内に、渚は探偵という仕事に関心を持つようになっていた。

 

そして、あの日の夜、荘吉はとある依頼人から、人の救出依頼を頼まれた。

 

首尾良く、救出対象がいるビルに潜入し、対象の少年を救出したまではよかった。

 

だが、逃げる途中、何者かが撃った銃から二人を庇い、背中を撃たれた。

 

渚は肩を貸していた少年を乱暴気味に下ろすと、慌てて荘吉に駆け寄り、体を揺する。

 

荘吉の着ている白いスーツが徐々に赤く染まり、顔からも生気が失われていく。

 

荘吉は震える手で、自身が被っていた白いソフト帽を渚の頭に被せる。

 

『あの子と……この街を頼んだぞ……渚……』

 

そして、笑うとそのまま息を引き取った。

 

『伯-』

 

息を引き取った荘吉に再び声を掛けようとした時、いくつもの光弾が渚と、少年の周りに当たる。

 

『アハハハハハハハハ!!』

 

炎の中、何者かが笑っていた。

 

女性の声だった。

 

しかし、炎の中で揺らめくシルエットは人間じゃなかった。

 

女性の上半身と芋虫のような下半身が宙を舞い、再び光弾を放つ。

 

渚は光弾を回避すると、急いで少年の手を掴む。

 

その際、荘吉の遺体を見るが、荘吉の言った言葉を思い出し、少年と共に階段の陰に隠れる。

 

謎の存在は、光弾を辺り一帯に打ちまくり、渚たちを燻り出そうとしていた。

 

『どうしたら………!』

 

『ねぇ……君』

 

突如、少年から声を掛けられ、渚は少年の方を向く。

 

『悪魔と相乗りする勇気は……あるかい?』

 

そう言って少年は手にしたアタッシュケースを開け、中身を渚に見せる。

 

そして、次の瞬間、二人は閃光に包まれ、やがてその光の中から強烈な暴風と共に現れた人影は一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起立!礼!」

 

日直の合図と共に、一斉に銃が撃たれる。

 

銃と言っても、エアガンの様なもので、撃っている弾もBB弾の様な弾。

 

そして、このクラスの全員が銃口を向けている相手は、このクラスの担任。

 

黄色いタコのような生物だ。

 

「出席を取ります。名前呼ばれた人は返事してください。それと、銃声でうるさいので大きな声でお願いします」

 

一人一人の名前が呼ばれ、一人一人が返事をする。

 

30人近い人数に、一斉に撃たれたらひとたまりもないが、この生物はマッハ20で動くことのできる存在。

 

エアガン程度のスピードしかない銃では当てるのは難しい。

 

出欠を取り終えるころには、全員の銃の弾が切れていた。

 

「はい。一名を除き、全員出席ですね。少々悲しいですが、授業を始めましょう」

 

そう言ってその生物は授業を始めた。

 

ここ、3年E組ではあることが行われている。

 

それは、担任の暗殺だった。

 

この生物は、月の7割を破壊し、来年の3月に地球を破壊することを宣言した。

 

そんな生物を最も近くで殺せるのが、E組だった。

 

謎の生物は、3年E組で担任をすることを要求しており、尚且つ暗殺されることも容認している。

 

その生物の暗殺に成功すれば、報酬として100億円が支払われる。

 

生徒たちはそれにより、()る気を出しており、毎日暗殺を繰り広げていたが、誰一人として成功した者は愚か、かすり傷を負わせたものもいない。

 

授業が終わり、昼休みになると、生物は中国に麻婆豆腐を食べに出かけ、他の生徒たちも昼食を食べ始める。

 

「おい、渚。ちょっと暗殺の話をしようぜ」

 

そう言って渚に話しかけたのは、寺坂だった。

 

粗暴な性格をした刈り上げが特徴の大柄な男子生徒で、その後ろには、そんな彼とつるんでいる村松と吉田がいた。

 

「あ、うん」

 

渚は三人に付いていき、校舎裏に来る。

 

「それで、あのタコの観察しとけって言ったよな。できてるか?」

 

「一応ね。でも、あまり参考にならないかも。余裕な時は緑の縞模様。問題の解答を生徒が間違えると、暗い紫で、正解だと明るい朱色。それと、昼休みの後「俺は知らなくていいんだよ」

 

渚の報告も聞かず、渚は対先生ナイフを向ける。

 

「作戦がある。あいつが一番油断してる時、お前が刺しに行け」

 

「え?僕が?」

 

「いい子ぶんなよ。おれったいはE組だぜ?勉強についていけなかった脱落組。通称“エンドのE組”。そんな落ちこぼれの俺たちがここを抜け出すには、こうする以外ねぇだろ」

 

そう言い寺坂は、渚にある作戦を伝えた。

 

「………悪いけど、断るよ」

 

「はぁ?」

 

作戦内容を聞くと、渚は断った。

 

「そんな危険な作戦飲むわけにはいかない。だって、その方法だと、他の皆も巻き込む可能性がある。悪いけど、従えない」

 

「てめー、この状況で断るっていい度胸してんな」

 

もう一度、対先生ナイフを向け、寺坂は笑う。

 

「テメーが「はい」って言うまで、殴り続けてもいいんだぜ?」

 

「……それが、出来たらね」

 

その瞬間、寺坂の手からナイフが消えていた。

 

「あ、あれ?」

 

ナイフだけでなく、渚も寺坂の視界から消えていた。

 

「な!?いつの間に!?」

 

「じゃあ、寺坂君。僕、もう行くね?早くお昼済ませないと」

 

そう言い残し、渚は校舎へと帰っていった。

 

後には、呆気に取られる村松と吉田。

 

そして、軽くあしらわれた寺坂だけがいた。

 

五時間目が始まると、先生は古典の授業を始めた。

 

短歌について説明すると、短歌を作るようにと指示してきた。

 

全員が短歌を作る中、生徒の一人が声を上げる。

 

「先生、しつもーん」

 

「なんですか?茅野さん?」

 

「先生の名前ってなんて言うの?」

 

「名前ですか?特にありませんね。なんでしたら皆さんでつけて下さい。それより、今は課題に集中ですよ」

 

「はーい」

 

その直後だった。

 

寺坂が急に立ち上がり、そして、勢いよく、先生に切り掛かった。

 

だが、ナイフは先生に届かず、先生は触手を使い、寺坂の体を抑える。

 

「寺坂君、正面から勢いよく言っても意味がありませんよ。もっと工夫を」

 

先生がアドバイスをしようとした瞬間、寺坂が笑う。

 

「!?皆、伏せて!」

 

渚は、寺坂が何をしようとしてるのか察し、全員に伏せるように言う。

 

その直後、寺坂と先生の間で爆発が起きる。

 

寺坂はオモチャの手榴弾に対先生弾を詰め込み、火薬で威力を上げた物を、自爆と言う方法で暗殺を行おうとした。

 

対先生弾が飛び散り、火薬の匂いが充満する。

 

渚が寺坂に聞かされた作戦と同じだった。

 

ナイフで気を逸らさせ、爆弾で仕留める。

 

村松と吉田も、まさか寺坂が自ら決行するとは思ってなかったらしく、驚いていた。

 

渚は、寺坂の安否が気になり、慌てて駆け寄る。

 

「寺坂君!無事!?」

 

教室の前につくと、そこには、何かの膜に包まれた寺坂がいた。

 

「実は、先生は月に一度脱皮します。脱皮したてなら、爆弾の威力を殺せるぐらいの強度があります。言うなれば、月一で使える奥の手です」

 

そう言う先生の顔色は、真っ黒だった。

 

「ですが、寺坂君。君は自分を大切にしなかった。そして、一歩間違えれば他の皆に危害を加えかねない方法も取った。そんな生徒に暗殺する資格はありません!…………ですが、発想自体は素晴らしかったですよ。ですから、次からは人に笑顔で胸を張れる暗殺をしましょう」

 

叱りつつも、フォローを忘れない。

 

先生として、この生物は優秀だった。

 

「そして、寺坂君だけじゃない。此処にいる君たち全員、それができる力を秘めた暗殺者です。先生からのアドバイスです」

 

先生からのその言葉に、渚は嬉しくなり笑った。

 

だが、次の瞬間だった。

 

「ふざけんじゃねぇ!人を見下しやがって!」

 

寺坂は、今の発言を、自分のことを見下していると取られ、キレていた。

 

「こうなりゃ、奥の手だ……本当は取っておきたかったが。関係ねぇ!」

 

そう言い寺坂はあるものを取り出す。

 

それは全長10cmほどのUSBメモリ型の何かだった。

 

「それは!?」

 

渚がそれがなんなのか気づき、声を出す。

 

『MAGMA』

 

メモリから音声が流れる。

 

「それを使っちゃダメだ!」

 

渚の静止も聞かず、寺坂はそれを自身の右腕に刺す。

 

その直後、寺坂の体は流れる溶岩と燃え上がる炎のような身体へと変わる。

 

「くっ!?」

 

先生はすぐに寺坂の異常事態に気づき、素早く、体を絡めとり、外へと放り出す。

 

「皆さん!今の寺坂君は危険です!早く逃げてください!」

 

先生はそう言うと、外に出て、寺坂と対峙する。

 

「わ、私、烏間先生呼んでくる!」

 

委員長の片岡がそう言うと、このクラスの副担任で防衛相に努めている烏間先生を呼びに行く。

 

「おいおい!寺坂の奴、どうしちまったんだよ!?」

 

「USBメモリみたいなのを体に刺したら、変わっちまったぞ!」

 

生徒たちが遠巻きに、先生に襲い掛かる寺坂だった生物を見つめる。

 

「あれはドーパント。ガイアメモリって呼ばれる生体感応端末を使ってなる怪人だよ」

 

そんな疑問に、渚が答えた。

 

「ドーパント?」

 

「ガイアメモリ?」

 

聞いたことない単語に、全員が思わず聞き返す。

 

「このままだと寺坂君が危ない。行ってくる」

 

渚はそう言い、寺坂の方へと移動する。

 

「何やってんだよ、渚!戻れ!」

 

友人の杉野が戻ってくるように言うが、渚は大丈夫だからと言ってあるものを出す。

 

左右にスロットのついた何かを取り出し、それを下腹部に当てる。

 

すると、ベルトが伸び、渚の腰に装着される。

 

「フィリップ、聞こえる?」

 

『ああ、聞こえるよ、渚。どうやら、ドーパントらしいね』

 

「うん。使用してるメモリはマグマ。でも、完全には使いこなせてないみたい。暴走してる」

 

『それは危険だね。すぐに倒そう。それにしても、渚の周りはいつも何かしら問題が起きてるね』

 

「あはは、本当に困りもんだよね」

 

渚は苦笑し、頭の中に聞こえる声と会話する。

 

「行くよ、フィリップ」

 

『OK』

 

そして、渚はあるものを出す。

 

それは寺坂が使用したガイアメモリとは違う形の、表面に「J」と書かれた黒いガイアメモリだった。

 

『JOKER!』

 

『CYCLONE!』

 

渚の持つガイアメモリと、頭の中で響く別のガイアメモリから音声が流れる。

 

すると、渚の腰のベルトの右のスロットに、表面に「C」と書かれた緑色のガイアメモリが突然現れる。

 

そして、渚は黒いガイアメモリを左のスロットに刺し、二つのガイアメモリを深く刺し込む。

 

『「変身!」』

 

その言葉と共に、二つのメモリの入ったスロットを左右にに開く。

 

それは「W」の形に酷似していた。

 

『CYCLONE!』『JOKER!』

 

光と風が起き、渚を包む。

 

すると、渚の姿が変わった。

 

右側が緑色、左側が黒色のスーツを纏い、顔は同じように二色の仮面で覆われ、首にはマフラーが靡いていた。

 

「な、渚君……その恰好は……」

 

「先生。隠していてごめんなさい。これが僕のもう一つの姿なんです」

 

そう言い、渚はマグマ・ドーパントになった寺坂の前に立つ。

 

「寺坂君、今助けるからね」

 

『それじゃあ、あのセリフを言っとこうか、渚』

 

「うん」

 

仮面の戦士となった、渚は、左手の親指と人差し指だけ伸ばし、左腕の肘は少し曲げた状態で、マグマ・ドーパントに向ける。

 

「『さぁ、君の罪を数えろ!』」



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Wの探偵/二人で一人

「はっ!」

 

仮面の戦士になった渚はマグマ・ドーパントになった寺坂に接近し、蹴りを繰り出す。

 

相手の動きを翻弄し、攻撃を当て、自分に来る攻撃は全て躱す。

 

その動きに、先生だけでなく、他のE組の生徒も驚いていた。

 

お世辞にも、渚のE組内における暗殺の成績はそこまで高くはなく、クラス内でも平均と言った具合。

 

しかし、今の渚の身体能力は他の生徒と比べる事すら馬鹿に思える程高かった。

 

蹴りと拳を巧みに組み合わせ戦っている、二色の仮面の戦士が渚だとは到底思えなかった。

 

『ヴォオオオォォォ!!』

 

すると、突如マグマ・ドーパントは雄叫びを上げる。

 

そして、全身から真っ赤なオーラが現れ、そして背中から大量のマグマの塊が打ち出された。

 

「くっ!」

 

襲い来るマグマの塊を打ち消しながら防御する。

 

「熱い……!それに、数も増えてきた……!このままじゃ後ろの皆にも………!」

 

『こういう時は、このメモリだね』

 

すると、渚の意思に反して右腕が動き、右側のスロットから“サイクロンメモリ”を抜き、新たに黄色いガイアメモリを取り出した。

 

『LUNA!』

 

新たなメモリ、ルナメモリを右側のスロットに挿す。

 

『LUNA!』『JOKER!』

 

緑色だった部分が黄色に変わると、右腕は伸びてぐねぐねと曲がり、縦横無尽に動いてマグマの塊を打ち消した。

 

「な、渚の右腕が伸びたぞ!?」

 

「それだけじゃない!先生みたいにぐねぐねしてる!」

 

クラスの皆も驚きを隠せず叫ぶ。

 

「フィリップ……また勝手にメモリを変えて………」

 

『ダメだったかい?』

 

「……いや、助かったよ」

 

渚は仮面の下でふっと笑う。

 

全てのマグマの塊を打ち消すと、今度は右腕を伸ばしマグマ・ドーパントを絡める。

 

「『はっ!』」

 

そのまま右腕を引き、マグマ・ドーパントを回転させ地面に倒す。

 

「フィリップ!」

 

『ああ、メモリブレイクだ!』

 

『CYCLONE!』

 

『CYCLONE!』『JOKER!』

 

“ルナメモリ”を抜き、再び“サイクロンメモリ”を挿すと、更に左側のスロットから“ジョーカーメモリ”を抜く。

 

そして。今度は右側の腰にあるスロットに挿す。

 

『JOKER!マキシマムドライブ!』

 

竜巻が発生し、その力でWが宙に浮き上がる。

 

「『ジョーカーエクストリーム!』」

 

体が真ん中で分割され、そのまま時間差で左脚と右脚の蹴りが炸裂する。

 

『ぐああああああああああああ!!?』

 

マグマ・ドーパントは爆発と共に、断末魔を上げ倒れる。

 

そして、マグマ・ドーパントの中からマグマメモリが飛び出し、マグマ・ドーパントは寺坂の姿へと戻った。

 

マグマメモリはそのまま小さな火花を出して砕け散る。

 

それを確認し、渚も変身を解く。

 

「渚君、寺坂君は無事なんですか?」

 

先生は寺坂に駆け寄り、渚に尋ねる。

 

「一回の変身なんで体への影響もないはずです。メモリブレイクも派手に見えますけど、寺坂君の体へのダメージはそんなにありません。まぁ、暫くは体が痛むだろうけど」

 

「そうですか。それは良かった………ですが、渚君。先生は君に聞かなければならないことがあります。いいですか?」

 

「それは…………」

 

「こうなっては仕方ないだろう」

 

すると、渚の背後に立つように烏間先生が現れた。

 

「烏間さん………」

 

「君の正体が知られた以上コイツにも、そして彼らにも説明の必要がある」

 

そう言い、烏間先生が指さす方にはE組のメンバーが未だに信じられないと言った表情で居た。

 

「それに、俺と君たちが危惧する暗殺にガイアメモリをしようすると言う事態が起きてしまった。これ以上、このようなことが起きる前に彼らにも伝えるべきだ」

 

「……分かりました。先生、全てをお話しします。もちろん皆にも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、寺坂は鳥間先生の部下が病院へと運び、渚は先生を含む3年E組全員をある場所へと案内した。

 

「さぁ、入って」

 

渚は建物の鍵を開け、皆を招き入れる。

 

「ようこそ、鳴海探偵事務所へ」

 

そう言って、渚は皆の方を向く。

 

「鳴海探偵って、まさか、ここって鳴海壮吉の事務所!?」

 

すると、不破が大声を上げた。

 

「鳴海壮吉ってあの名探偵の?」

 

「うん!どんな依頼も引き受け、全てを完璧に熟すハードボイルド探偵!」

 

「流石は不破さんだね。その通り、ここは探偵、鳴海壮吉の事務所だよ」

 

渚は鞄を置き、そう言う。

 

「鳴海壮吉は僕の伯父なんだ。そして、僕は一応伯父さんの一番弟子なんだ。まだ見習いだけどね」

 

渚は困ったような笑みを浮かべて言う。

 

「さて、それじゃあ説明をって言いたい所なんだけど、まず何処から説明すればいいやら………」

 

「とりあえず、まずは僕たちのことを説明するべきなんじゃないかな?」

 

すると、いつのまにか部屋の隅に居た少年がそう言った。

 

本を持ち、髪の毛をクリップで止めた変わった少年だった。

 

「そうだね。まずは、紹介するよ。彼はフィリップ。僕の相棒」

 

「やぁ、椚ヶ丘学園3年E組の諸君。君たちの事は既に検索済みだ、よろしく頼むよ」

 

挨拶するフィリップに、E組は各々挨拶をする。

 

「そして、貴方が月を破壊した超生物ですね。非常に興味深い」

 

フィリップは背後で、雑な変装をしていた先生に近寄り上から下まで嘗め回す様に見る。

 

「な、渚!?こいつに、先生の事話したのか!?」

 

すると、委員長である磯貝が渚に問い質した。

 

先生の存在は国家機密で、E組の表向きの担任は烏間先生で、E組で行われている暗殺も秘匿されてる。

 

無論、自分たちの家族にもそのことは話せない。

 

「違うよ。フィリップには隠し事が通用しないんだ。なんせ、“地球(ほし)の本棚”で検索できるからね」

 

「“地球(ほし)の本棚”?」

 

「地球の記憶の全てが存在するアカシックレコードのような精神世界。フィリップは、そこにアクセスが出来るんだ。だから、フィリップが気になったことは全て調べられるんだ」

 

「でもよぉ、そんなの信じられねぇよ」

 

岡島がそう言うと、フィリップは岡島の肩に触れる。

 

「岡島大河。6月9日生まれ。身長は168㎝、体重57㎏。得意科目は保健体育で、苦手科目は数学。趣味は情報収集。クラスでの座席は前から3列目、窓側から4番目。当たってるはずだよ?」

 

「ど、どうして………!」

 

「付け加えると、君のベッドの下には「うわああああああああ!!それ以上言わないてくれ!」

 

個人情報以外に、誰にも話したことのない秘密を暴露されそうになり、岡島は慌ててフィリップの口をふさぐ。

 

「そう言うことだよ。フィリップは僕がE組に落ちたことを知ると真っ先にE組のことを検索して、そこから芋づる式にクラスメイトの情報を検索したんだ。先生の暗殺の事も、真っ先に知られたよ」

 

「一応隠すつもりでは居たんだけどね」っと渚は困ったように笑う。

 

「あ、それじゃあさ。先生の正体とかも分かるの?」

 

「にゅや!?ふぃ、フィリップ君!どうか、先生の正体については内密に!?」

 

自分の正体をバラされる危機となり、先生は慌てる。

 

「残念だけど無理だよ」

 

「暗殺の事を知った直後、僕も真っ先に検索を掛けた。だが、彼に関する情報は何一つヒットしなかったんだ。どれだけ検索しても答えが見つからない超生物。………ゾクゾクずるねぇ」

 

フィリップは面白そうに笑う。

 

「そ、それで!ガイアメモリってなんだよ、渚?」

 

今度は杉野がそう聞いてくる。

 

「あらゆる「地球の記憶」を収めたUSB型の生体感応端末。スイッチを入れることでメモリに封じられた「地球の記憶」を起動し、人体に挿入することで使用者をドーパントへと変身させ、本体に収められた「地球の記憶」をその場で「再現」し、超常的な力を使用者に与える。それがガイアメモリ」

 

「だが、どんな力にもリスクは存在する」

 

今度は烏間先生が話し出した。

 

「超常的な力を得る代わりに、使用者はメモリの有害毒素に徐々に侵食され、感情・精神が次第に歪んでいってしまう。その為、使用者がメモリ自体に依存性を示すようになることもある」

 

「そ、それじゃあ寺坂は!?」

 

「見た限り一回の変身だから、毒素の影響は少ないはずだよ。一応の検査は受けてもらうけどね」

 

「だが、今回の一件は俺と渚君が危惧していたことでもある。暗殺にガイアメモリを使用する。確かに、あの力があればあの超生物とも渡り合うことが出来るだろう。だが、使用者に害を与える物を使用させる訳には行かない。君たちの戦闘訓練を担当する者としても、人としてもだ」

 

「だから、皆には分かって欲しいんだ。ガイアメモリの危険性を」

 

渚の言葉に加え、寺坂の暴走を目の当たりにしている皆は重々しく頷いた。

 

「あれ?そう言えば、渚が使ってたアレ。アレは何?見た感じガイアメモリっぽいけど」

 

「あれもガイアメモリだよ」

 

「そ、それって危ないんじゃ…………」

 

「大丈夫。よく見て」

 

そう言って、渚は“ジョーカーメモリ”を見せる。

 

「ん?寺坂が使ってたのと形が違う?」

 

「ああ、本当だ」

 

真っ先に、村松と吉田の二人が、メモリの違いに気づいた。

 

「うん。これは毒素という毒素を可能な限り排除して純化したメモリなんだ。それに、ドライバーと組み合わせることで身体への悪影響は発生しないんだ。…………今、この町ではガイアメモリによる犯罪が増えてるんだ」

 

粗方の説明をすると、渚はそう語りだした。

 

「一年以上前からニュースでも話題になってるよね。原因不明の殺人事件や傷害事件なんかが」

 

「そうか……それらの殆どがガイアメモリ関連なんだな」

 

「うん。伯父さんは、この町でガイアメモリが出回り始めてから、ずっとガイアメモリ絡みの事件を追って、メモリをバラまいてる存在を暴こうとしてたんだ。大好きなこの町を守る為に…………でも、伯父さんはもういない。僕は伯父さんみたいな探偵にはなれない。でも、この町が大好きな気持ちは伯父さんと同じ。だからこそ、この町を脅かす存在が許せない。だから、僕は戦うことを決めたんだ」

 

「僕はじゃなくて、僕たちは、だろ?」

 

すると、フィリップが横から口を挟んでそう言う。

 

「うん、そうだね。僕たちだった」

 

そう言って渚も笑う。

 

「………仮面ライダー」

 

「え?」

 

不破が漏らした言葉に、渚が反応する。

 

「仮面ライダー。都市伝説として囁かれてる噂だよ。何処からともなく現れて人々を救う仮面の戦士。なんかそれみたいだな~って」

 

「そんな噂が流れてたの?知らなかったな………でも、少し違うかな。あの変身は、僕の体にフィリップの精神を憑依させてるんだ。僕とフィリップ、二人で変身するから、僕だけが仮面ライダーってのは違うよ」

 

「二人で変身する仮面ライダー………あっ!仮面ライダー(ダブル)!」

 

突如、茅野が声を上げ、皆が茅野に注目する。

 

「仮面ライダーみたいなんでしょ?渚のは、フィリップ君と一緒の変身だから、二人の仮面ライダー。二人はダブル。だから、仮面ライダーW」

 

「Wか………いいね、僕は気に入ったよ」

 

フィリップは嬉しそうに手を叩き、そう言う。

 

「……うん、そうだね。それじゃあ、今日から僕たちは仮面ライダーWだね」

 

こうして、渚とフィリップ。

 

二人で一人の探偵である彼らは、この町の涙を拭う二色のハンカチ。

 

仮面ライダーWとなった。

 



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