アイドルマスターバーニング!!! ( ゆ え す)
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第1話 ドイツ系美少女降臨

処女作




公園にいる妖精そんな噂を同僚がしていた。アイドルに負けず劣らずの容姿を持つ外国人女性。

そんな女性をスカウトするためにやってきた彼は驚き固まっていた。

 

なぜなら公園のベンチに雪の妖精が座っていたからだ。

 

彼の職場に所属する神崎蘭子と同じように日傘をさしていた妖精は彼女と真反対の真っ白だった。

靴や服から髪の毛やまつ毛まで、白。

いわゆるアルビノというやつだろうか。

その視線の先には砂場で遊ぶ親子。

五、六歳くらいの女の子が服を泥まみれにして砂の城を作っている。

父親も手伝ってなんともまあ心温まる光景だ。

 

慈愛に満ちた表情。まるで天使。

職業柄美しい女性や可愛い女の子に耐性のある彼ですらそのあまりの美しさに可憐さに時が止まっていると錯覚しじっと彼女のほころんだ顔を見ていた。

 

 

「ねぇ、さっきから私を見てるあなた」

 

 

まるで天上の音楽のようなその声で彼は現実に引き戻される。

 

「私に何か用でもあるの?」

 

母国語は日本語ですといってもいいほどの流暢な日本語。

 

 

考えるよりも先に声が出ていた、

「アイドルに興味ありませんか」と。

 

名刺を受け取った彼女はコロコロと笑い

「それって楽しいの?」

と奏でた。

 

 

そこからはあまりくわしく覚えていないが

とにかく必至に勧誘したことだけは覚えている。激しく身振り手振りをするスーツの男というのはさぞ滑稽に彼女の青い瞳に映っただろう。

そんなこと御構い無しに勧誘した。

もっともその場で決めることはできないと言われてしまい解散となってしまったのだが。

 

 

 

 

 

それから一月ほど音沙汰なく

もうすっかり諦めたある雪が降る金曜日のこと。

 

ふと時計を見るともうすでに九時をすぎている。

そろそろ帰ろうと思いパソコンの電源を落とし縮こまった体を伸ばす。

バキバキと

骨の音が小気味良い。

そんな幸福のひと時を破壊する不逞の輩の声。

 

「蒼木!なんかお前に会いたいってすっごい綺麗な子が来たぞ!」

「綺麗な子?」

 

誰だろうか、この駅前でスカウトした子だろうか、それとも居酒屋で意気投合した女性だろうか。

 

 

彼の後ろから優雅にキャリーケースを引く音。

そう雪の妖精が

 

「来たわよ。プロデューサー。

おっと自己紹介がまだだったわね。

私はテロメア・ウェルナー。十七歳。よろしくね」

 

降臨した。

 

完全に諦めていた、もう縁はないだろうと、だが来た。あの時公園でスカウトした彼女が。テロメアが。

白一色で統一した服に身を包み

白いロングヘアに青い瞳を爛々と輝かせここにやってきた。

 

 

 

 

 

「俺の名前は蒼木宗佑。皆からは蒼木プロデューサーと呼ばれている。これからよろしくな。」

蒼木は手を差し出す。テロメアはそれを見てきょとんとしていたが、合点がいったのか バシッと強く握り握手を交わした。

 

「よろしく蒼木プロデューサー」

 

 

 

「それにしてもテロメアそのキャリーケースは何だ?」

 

「あーコレ?寮あるんでしょ?そこに入るから自分の荷物持ってきたんだけど、あれだけの事務所のアピールポイントとして力説してたんだからさぞすごいとこなんでしょう?さ、部屋に案内して」

 

驚いたことにこの娘は電話もなしに今日から寮に入るつもりだったらしい。

そのクールな風貌に似合わず直球というか無鉄砲なところがあるようだ。

 

泊めてやりたいのやまやまだが

あいにく寮は今改装工事中である。

誰かの家泊めようにもこの場にいるのは、二十五歳未婚の男性プロデューサーと二十六歳の事務員の男性のみ。デビュー前とはいえアイドルが男性と二人っきりでそれも一つ屋根の下で一晩過ごすというのはかなりまずいだろう。年齢で言えば女子高生、こんな夜更けに男の家に泊まるのは流石に犯罪といっても過言ではない。もちろん逮捕されるのは蒼木達。

時間的にもこの辺りのホテルの部屋はうまっているだろうし唯一泊めることができそうなこの部署唯一のコスプレ好きな女性アシスタントはすでに帰宅している。

蒼木の背中に嫌な汗がながれる。口がカラカラになる。

 

「申し訳ないけど、えと普通書類とか審査とかあるから今すぐには寮に入ることはできないんだ。無理やりってこともできるが残念なことに今寮は改装工事中でね。その様子じゃホテル取ってないんだろ?困ったな、この時間じゃ流石に、、、」

 

「だったら私はどこに泊まればいいのよ!ねぇ、なんかないの?」

 

 

その問いに答えるものはいない。

空気が重い。

気まずい雰囲気。

 

そんな静寂を切り裂き幸運の女神が降臨した。

 

 

「困った時の〜」

 

 

「な、茄子さん!」

 

「ナスじゃくてカコですよ〜」

 

 

鷹富士茄子。蒼木の担当アイドルの一人で大人の女性でもある。

それに持ちネタも決まりドヤ顔だ。

咄嗟のネタ振りに対応できる蒼木は伊達に長く担当を務めていない。

 

「テロメアさん?うちに泊まりに来ませんか?泊まりに来るなら車についてきてくださいね」

 

「お願いするわ」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

「ここが茄子さんの家?大きくて立派ね。それに親元離れてるんでしょ若いのに家持ちなんてすごいわ」

テロメアは目の前の武家屋敷を見て感嘆の声を漏らした。

都内の武家屋敷。それは決して安くない。

売れっ子アイドルというのはそれほど稼ぐのだろうか。

車内での雑談から目の前の女性鷹富士茄子は二十歳でアイドル歴一年ということは知っているがそれにしてもたった一年でコレである。卒業旅行でやってきたこの日本。そんな場所で得た普通の生活を送っていたら決してできないであろう職業。アイドル。たとえそれご短い淡い夢だとしても未来に希望が持てる職業。

そんな非日常に飛び出す不安は遠い異国の地で出会った見ず知らずの自分を後輩だからと泊めてくれる女性鷹富士茄子が打ち払った。

 

 

 

「たまたま宝くじが当たって、そんな時にたまたま助けた老人がここの家の人で屋敷を手放すからと安く譲ってもらっただけですよ」

 

「豪運ってやつですね」

 

ただの旅行で職を手に入れた自分と並ぶ豪運である。

 

茄子がドアを引くとガラガラと独特の音を鳴った。茄子はそんなテロメアの腕を引っ張り、お茶目に「ようこそ我が城へ」と言った。そんな茄子に思わず笑みが溢れた。

 

電気はついていない。そんな暗い廊下を茄子を先頭に歩く。 ここはかなりいい家。少し歩くだけでわかった。こんなに広いのに掃除が行き届いているし、なにより空気が良い。ドイツで寝泊まりしていたラボとは大違いだ。あそこは本当にダメな場所だった。そんなことを考えながら歩いた。

ひらけた場所、リビングだろうかそこに可愛らしいパジャマの女の子が腕組みして立っていた。

 

 

「あら芳乃ちゃん」

 

 

この可愛らしい子ご依田芳乃というらしい。車内で聞いた。

 

「おそいのでして。そしてその隣の女性はだれですか?わたくしは依田芳乃でして〜」

 

「テロメア・ウェルナーよ。よろしくね。えーと芳乃?」

 

「はいテロメアさん」

 

「ねぇねぇ芳乃ちゃん、周子ちゃんと紗枝ちゃんは?もしかしてもう寝ちゃった?」

 

コクンと頷く芳乃。

「昨日芳乃ちゃん達三人で夜遅くにまで映画を見てましたから仕方ないですね。芳乃ちゃんも休んだらどうかしら?」

 

「ではお言葉に甘えまして」

 

「おやすみなさい」

 

芳乃は襖の奥の暗闇へ消えていく。

 

「たくさん人がいるのね。この屋敷」

「こんな広い屋敷に一人だったら寂しくて死んでしまいますよ。それでは部屋案内しますからついてきてください」

 

前を歩いていく茄子。

 

「そうね、一人は寂しいわよね」

「ん?テロメアちゃん何か言いました?」

「なんでもないわ」

 

窓の外を見れば雪がまだしんしんと降っていた。

 

 

 

 




テロメアの容姿はイヴさんとイリヤスフィールを混ぜてを全体的に小さくした感じです。


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第二話 人生何があるかわからない

人はどこまで自分の人生を決められるのか


「テロメアちゃん!君のママが倒れた!」

 

「え?」

 

パパの部下が青い顔してやってきた。

 

「ママは大丈夫なの?」

 

「車に乗って!早く行くよ!」

 

「うんわかった」

 

「パパ?ママは大丈夫なの?」

 

「大丈夫パパに任せて」

 

 

それから数日経ってもママの姿はない。しびれを切らした私は

 

 

「ねーパパ?ママは?」

 

そう尋ねたが、返答は私が望むものではなかった。

 

「ごめんなテロメア、パパは力が及ばなかった、ママを助けられなかった」

 

私を抱きしめながらパパは顔をくしゃくしゃにして泣いていた。私も泣いた。

 

ママは二十五歳という若さで亡くなった。

 

 

 

 

 

また懐かしい夢を見たものだ。

微睡みながらそう思う。

この夢を呼び水に頭の奥から記憶が湧き上がってくる。

 

 

子供の頃の私は死を知らなかった。

人間はいつか死ぬということは知識として知っていたがそれがどういうことかは理解していなかった。自分も周りの人もなんとなくいつまでも生きているそう思っていた。

 

 

ママが亡くなったときハンマーで頭を殴られたような衝撃が全身を駆け巡った。永遠なんてないってことを学習した。

 

 

医者を目指す要因に家族の死がある。

パパも幼い頃の姉と妹の病死をきっかけに自分と同じ思いをする人がいなくなるようにと医者を目指したと言っていた。

ママが亡くなったと聞かされとき

パパに抱きしめられながら私は

[もし、もしパパがママと同じ病に倒れたら誰が治すのだろうか。]

と思ってしまったから医者を目指した。

 

 

なのだがそれが今アイドルデビューしようとしてるなんて笑ってしまう。

 

もちろん理由はある。

 

医者にならいつでもなることができるが

アイドルには今しかなれないからだ。

年齢的にもビジュアル的にもだ。

だから日本ですこしだけアイドルとして過ごしてから医者になることにしたのだ。

パパは辛くなったらすぐに帰ってきなさいと温かな言葉をくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慣れない日本でナイーブになっているから昔のことを思い出したりするのだろうかと自嘲する

ふと窓の外を見れば雪は止んでいた。

昨夜は三月にしては季節外れの積雪だったと茄子が言っていたことを思い出す。

 

そんな朝五時半。

隣の布団では茄子が寝息を立てている、

 

空いている部屋で寝たはずでは?

という諸兄の意見もあるだろう。

もちろん私が一人で寝るのが嫌だったからというわけではない。

空いている部屋に暖房器具が置いていなかったということ。それが理由だ。

私の故郷のベルリンより暖かいとは言え暖房なしは流石に十七歳の未熟な体に負担がかかりすぎる。

 

 

 

 

 

 

茄子の寝息と時計の針が時を刻む音が静かな部屋に響く。

 

 

暇だ。布団を片付けながらそう思った。

 

そういえば私は自分が所属する事務所のことを全く知らなかったなと思いキャリーケースからパソコンを取り出し

『八八八プロダクション』とはと検索した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

八八八プロダクション。

構成人数 アイドル九名

プロデューサー三名 事務員二名

 

創設者 黄瀬川宗次郎(きせがわそうじろう)

プロデューサー兼社長。

 

プロデューサー職

蒼木宗佑 (あおきそうすけ)

桃園南 (ももぞのみなみ)

 

事業支援

卯月神愛 (うづきかんな)

財務経理

千川ちひろ(せんかわちひろ)

 

所属アイドル

鷹富士茄子 依田芳乃 道明寺歌鈴

藤原肇 塩見周子 小早川紗枝

アイドル候補生

神崎蘭子 日野茜 一ノ瀬志希

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

方針

 

和を育み雅な日本の象徴となるアイドルを育成しきらめく笑顔を届ける。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

新人発掘オーディション

定員二名

性別 女性

年齢 十三〜二十三歳

 

この事務所に新たなる風をコンセプトにしておりますので個性が被らなければどのような人でも大丈夫です。

歌やダンスの経験は問いませんので、是非ご応募ください。

合格された方は必要となる基礎レッスンを受け、準備が整いましたらライブ活動を中心に展開していき、後々は舞台、メディア露出、番組出演など、本人の目標に沿って活躍の場を広げていきます。

 

※八八八プロのトップを走る

鷹富士茄子依田芳乃道明寺歌鈴が審査員として出席します。

落ちた方にはこの三名手作りの合格祈願のお守りをプレゼント。

 

応募は十二月八日〜二月八日まで

オーデション日程は追って連絡いたします。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

この事務所を選んだのは間違いだっただろうか。爪を噛みながらそう考える。

 

この事務所のコンセプト。

雅さ。つまり風流。グッズコーナーには扇子やお守り、湯呑みと言ったものまである。つまりthe Japan、という感じだ。

 

 

対して私は異国の地からやってきたアルビノ系美少女。ここに新しい風を呼び込むにはうってつけの異分子。

おそらく候補生の蘭子や茜、志希は私とともにデビューするのだろう。

オーデションの狙い通りこの三人は自己紹介文から見てすでにデビューしているアイドル達と異なると推測できる。

古語か方言だろうまだ日本語の勉強が足りていない私には理解できない謎言語の蘭子、エクスクラメーションマークいっぱいの茜。たった一言「フツーのjk」とだけ書いてある志希。

 

 

 

 

先ほど間違いといったのは

この事務所は雅さを中心に活動していて

新しい試みとなる私達の活動がもしかしたら失敗するかもしれないと不安に感じたからだ。失敗して時間を無駄に使ってはいられない。

そんな時、

 

 

 

 

「茄子さーんお腹すいたーん」

と勢いよく扉が開く音。思考の奥底に潜っていた意識が急に現実に引き戻された。パソコンの画面から視線をずらすと銀の少女と目が合った。蛇に睨まれた蛙の気持ちがよくわかる。

 

 

 

「あなたは誰?」

 

まるでナイフのように鋭い声。

 

銀の狐は白の妖精を睨みつける。

 

 

 

私は立ち上がり両手を挙げ無害アピールしようとするが

 

「動かないで」

鋭い声で制止される。

 

「私は決して怪しいものではないよ、昨夜こちらきた君の後輩になるテロメア・ウェルナーだよ、よろしくね。塩見周子ちゃん」

 

 

塩見周子の警戒は解けない。

 

どうしよう。

自分だって朝起きて友人の部屋に行ったら知らない人が居た場合警戒するのは当たり前だし私から畳一枚挟んでとなりに茄子が寝ている。いつでも人質に取れる距離だ。

 

 

たとえ私が人間離れした美しさを持っていたとしても何の気休めにもならない。見てくれが良くても変な人はやばい人はそれなりにいるからだ。

 

 

時計の針の音だけが二人の間に流れる。

 

 

 

 

 

そんな一触触発の白と銀の視察戦は起き抜けの女神によって収められた。

 




なにかおかしなところがあったら教えてください。


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第三話 終わりが見えてた方が頑張れる

蘭子語が難しすぎる。


河川敷を走る小さな二つの影、二つの息遣い、一つは激しくもう一つは余裕そうに。

 

 

 

「メアちゃん!なかなか体力ありますねー!でも私も負けませんよ!」

 

自分の目の前を走る赤いジャージ。リュックを背負った小さな背中。

すでに河川敷を走り始めてかるく二時間以上経過している。しかし安定して十五キロ前後の速度を維持する熱血少女。日野茜。そのスタミナにまったく底が見えない。小柄な体のどこにそんな力を隠しているんだろう。本当に人間だろうか。この娘。

 

もしこのマラソンに終わりが見えるのならペース配分もしやすいのだが残念なことに終わりが見えない。惰性で走っている。だから本当に辛い。

そもそも蒼木プロデューサーが

「テロメアがどのくらい体力あるか測る、とりあえず底が見たいからで茜と一緒に走ってこい、どのくらい走るかは茜に任せる倒れない程度でよろしくな」

なんて言いやがったからこんなことになったんだ。もちろんなるべく負担を軽くしようと足掻き

 

「私は見ての通り紫外線に弱いから外で長時間行動するの無理なんだよね被れちゃうの。 最大でも一時間?かなー」

 

このように最大一時間が限界になるだろうと伝えたのだが

 

「にゃははー!はいこれ志希ちゃん特製紫外線カットクリーム。副作用とか大丈夫だから安心して使っていいよーたぶん」

 

「たぶん!?」

「ほーらすこし腕に塗って確認しよーぬりぬりー」

 

明らかに普通でないjkがつくった特性クリームにより逃げ道が塞がれた。

 

 

 

あれよあれよとジャージに着替えさせられ

 

「いってらっしゃーい」

「汝にブリュンヒルデの加護を」

 

気の毒そうな顔をした蘭子と満面の笑みを浮かべた志希にそう見送られた。

 

 

 

 

しかしながらやはり走っている時というのは考え事をしてしまう。

「むむ、少しペース落としますね!

あとこれ水です!少しだけ飲んでください!決してゴクゴクっと一気に飲まないでくださいね!」

「あ、ありがとう」

リュックからすこし暖かいペットボトルを渡してくれた。

暖かさが五臓六腑に染み渡る。

 

あのリュックにはそれが入っていたんだ重いだろうにすごいな。やなりアイドルというのはみんなこんなに体力があるのだろうか、歌って踊るにはこれほど体力が必要なのか正直アイドルを舐めていたな。

うむ、もつかな体力。景色も変わり映えしないしいま自分がどこにいるかすらわからない今の自分はさながら日野茜という親鳥に必死についていく雛のようだ。

 

 

そこからさらに一時間の時が流れた。

未だにわたしは走っている。

日差しもそれほど強くなく気温は涼しいというのに体中汗でビチャビチャだ。

 

 

 

 

あ、すこし意識が朦朧とする。視界が狭まる。だめだ限界が近い。

「あ、あかねち、ゃん、もう、あ、あるいて、い、い、」

「あとすこしでゴールですよ!頑張ってください!ここから少しずつペース落とすので息を整えてくださいね」

「は、は、はひ」

「ほら見えてきましたよ!ゴールです!」

 

えっ、あそこってうちの事務所?

河川敷をぐるりと回ってきたってことかな?あぁそういえば橋渡ってましたね、はぁ、なんか、疲れちゃった、でも倒れるのはゴールしてからかな、途中リタイアはしたくないし、だが事務所の駐車場に入ったあたりで意識が曖昧になる。

 

あれは、肇さん?あははもうダメなんか頭がフワフワする視界もキラキラしてきたし

 

そして世界が斜めになるそして柔らかい何かに包まれたそこで私の体から力が抜けた。

 

「メアちゃん!!」

 

う、動けん。体が鉛のように重い。

「コフッ」

肇ちゃんビチャビチャな私を抱きとめてくれてありがとう。

 

 

あ、茜ちゃん、酸素缶有難いでふ。

「ゆっくり口から吸ってください!」

「コーホー」

はーふーはーふー。

「ねぇ志希ちゃんこれ大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫大丈夫、これ軽い貧血と酸欠だからねー、このまま安静にしてればすぐによくなるよ」

 

 

 

 

☆☆☆

 

「もう私も落ち着きましたし話進めていいですよ」

肇さんの膝の柔らかさを感じながら、蒼木プロデューサーにそう投げかける。

 

「よし、テロメアが復活したところで重要事項の発表をするぞよく聞いとけよ!まず志希、茜テロメアの三人のユニットでデビューしてもらう。そして新人アイドルの祭典 smiling sparkle 通称S.Sでの優勝を目指してもらう。蘭子お前はソロデビューだ。こちらも新人アイドル発掘企画Vortex Starsでの優勝を目指していくぞ。

ちなみに優勝すれば、サマーライブと夏休み特別番組への出演が決定するからな。がんばろうな!審査は二回に分かれていて四月の終わりと六月の終わりだ。まずは四月の終わりを目指して一日一日大切にレッスンしていくぞ」

 

「おー」

「はい!」

「ほーい」

「せいぜい私の力にその身を焼かれないよう気をつけることね」

 

 

「でもテロメアと茜は走ってたし蘭子と志希は肇とダンスの練習したしで疲れただろう?なので今日は解散!」

 

 

 

一日一日を大切にするとか言いながらもう解散か、まあ確かにスタミナがない状況でレッスンしてもパフォーマンスが落ちるから妥当か。

 

「みなさん!新しくメアちゃんがこの事務所に加わったことですし一緒にご飯を食べて親睦を深めましょう!」

 

 

「いいよー」

「いいですね」

「甘美なる響き」

「いいね」

 

 

みんな各々の賛成の意を表明する。

「ではメアちゃん!何が食べたいですか?」

 

うーん、悩むなぁやっぱり焼肉かな?でも天ぷらもいいしそれにトンカツも捨てがたいなー。

 

でもやっぱり日本といえば

「寿司かな」

「いいですね!寿司!ではプロデューサー!車お願いします!」

 

 

☆☆☆

 

某回る寿司屋。

 

「では、改めて自己紹介をば、私の名前はテロメア・ウェルナー。歳は十七。出身はドイツのベルリン。ベルリン大学卒業。好きなことは新しいことに挑戦すること。では何か質問ある人ー?」

 

十七歳で既に大学卒業というのはやはり異常なのだろうか、周りは珍獣を見るような目をしている。しかし志希だけ満面の笑み。

 

「はいはいはーい、メアちゃんってギフテッド?」

「多分そうかなー」

 

周りは志希という前例が居たためあまり驚いていない。むしろまだ大卒とカミングアウトした時の衝撃が尾を引いているようだ。

 

「私もギフテッドなんだよねーおそろーい。それで何に特化してんの?私はケミストリーだよ」

薄々そんな気がしてたけど志希ちゃんってやっぱり普通のjkじゃないじゃないか。化学特化ね、紫外線カットクリームとか作ってたし多彩な才能持ってるな。

「私は基本的に何でもできるけど、生物とくに人間特化かな?大学では細胞系学んでたよ」

 

 

「君はやっぱりいいーね!面白い匂いもするしますます興味がそそられちゃう」

 

やっと衝撃が抜けたのか肇ちゃんすこし手を上げながら口を開く。

 

「あのその髪の毛は地毛ですか?」

「うん、地毛だよ。なんか私生まれつき色素が薄いんだよね。肇ちゃんはこういうの嫌いかな」

「いえ、肌も髪も白くて綺麗でいいと思います」

 

肇ちゃんの質問を皮切りに次々と放心状態から回復していくメンバーたち。

「嫌いなこととかありますか!」

「時間を無駄にする人とか事が嫌いかなー」

「なるほど!ありがとうございます!」

 

「汝の旋律で我が魔道書に新たなる記述を、我が奏でる音色その楽譜に刻まれているか?」

「うーん六割くらいかな、まだ解読はできないよ。推測で話してるけどあってる?」

「共に時を重ね汝に瞳を授けん」

「うんよろしく」

「じゃ、俺から1つなんでスカウト受けてくれたんだ?」

「新しい事だったから、それに有名になってみたいし」

「意外と俗っぽい。そうそう、一ヶ月も音沙汰無かったの本当に不安だったからな、来るの来ないのかどっちなんだって感じで」

「あははごめんね、荷物まとめたりビザ発行とか飛行機とかで時間がかかっちゃってね」

 

質問は終了したのを見計らってマグロをパクリと食べる。

生で魚を食べるモノと聞いた時は自殺志願者かな?と思ったがこれは本当に美味しいな。

うむ。

 

志希ちゃんがプロデューサーの寿司にワサビを仕込んだり、蘭子ちゃんがむせたり、茜ちゃんがうどんを食べたりとみな和気藹々としている。 私は肇ちゃんに陶芸の素晴らしさについて語られていた。

興味深い、粘土をこねるが大事で疎かにすると焼いた時に割れやすくなるとか。

それにしてもこんな姿だし馴染めるかすこしだけ不安だったけど仲良くしててくれて良かった。

それに私よりも個性が強い子もいるしね。

なんかやる気出てきたわ。

よっし、アイドル頑張るぞー。

目指せS.S優勝!




投稿頻度おちます。ちなみに大会の名前はシャニマスのwingを参考にしました。



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第四話 何気ない日常は本当に素晴らしい

 

 

 

うちのユニットメンバーの三人中二人がギフテッドだ。価値が下がったような気がするが両名とも文句の一つもつけられないほどにアイドルとしての能力が高い。ずば抜けて本当に高い。蒼木も社長も同意している。だがそんな彼女たちにも欠点はある。まず志希は集中力がないことと残り二人に比べて体力がないこと。テロメアはせっかちな所と熱しやすく冷めやすいつまり影響されやすくて飽き性な所。

一応レッスンは完璧に仕上げてるつもりらしいのでいいのだがもう少し振り回されるまわりのことを考えて欲しい、

 

さらに二人に共通する欠点それは突然いなくなること。まあテロメアは志希に影響されてなのだけれども。

初めてそれを茜から二人がいなくなったことを伝えられた時は血の気が引いた。

テロメアに支給していたスマホのGPSでなんとかなったから良かった。しかしあまり心臓に悪いことをしないでほしいと懇願した所次からは連絡入れた後に失踪するねと言われてしまった。そういうことを言ってるのではないのだが、仕方ないと割り切るしかないのだろう。

 

 

そんな問題児たちに比べて茜は本当に欠点がない。要領も良いし体力もあるさらにはビジュアルも申し分ない。そしてなにより元気が良い。そう元気が良い。

心地の良い元気の良さだ。パワーをもらえる。

 

今目の前で遊んでる二人の隣で健気にトレーナーとともに練習しているのを見て涙が出る。

「うぉぉぉぉ!すぐに二人に追いつきますよ!!」とか

「ここに居ないみなさんに自分の成長したところを見てもらいますからしっかり撮ってくださいね!」と息巻いているのもまた涙を誘う。

 

 

蒼木くんと社長は他の子達の仕事の付き添い出払ってていない。

今この場にいる大人はカメラを片手に立っている私こと桃園南とトレーナーさんくらいだ。ちひろちゃんと卯月くんは事務所だ。ちなみに卯月くんは名前で呼ばれるのを嫌がっているから苗字呼びなのだが神愛でカンナって読むのは結構イカす名前だと思うのは私だけだろうか。ところが橘呼びを強要するアイドルのありすちゃんもいるから自分の名前にコンプレックスを持つということはありふれたことなのだろう。

 

 

「桃ちゃーん構ってー暇ー」

思考を飛ばして遊んでいると急に後ろから抱きつかれる。

 

「志希ちゃん、桃園さんカメラ撮ってるから後にしない?志希ちゃんも人に邪魔されるの嫌でしょ?ね?」

 

志希と同じギフテッドでも比較的常識のある娘、テロメア、線が細く儚げに見えるがパワフルな少女。

自宅で志希に私と同じギフテッドの子が新しく入ってきたんだよねー

と聞かされた時は志希レベルの問題児が増えるのかと戦慄したがこう見ると杞憂のようでなにより。常識あると言っても突然志希と一緒に失踪したりするけど。ギフテッドというのは失踪するものなのだろうか、と一度志希に聞いてみたことがある。

私はすでに変化を望んでいるから 新しい場所を探して、新しい楽しみを探して失踪するのはなんらおかしなことではないと言われた。常に変化を望む彼女。

対して私は停滞を望んでいる。

中学も高校も大学の時もそして今もこの楽しい時間が永遠に続けばいいと思っている。

おそらく凡人はみなこう願うと思う。

ギフテッド、天才は常に変化を望み続ける、予想がつく事態が長く続くより、びっくり箱のような予測不可能な日常を願う。

やはり彼女らギフテッドは凡人の脳では押し計れない、わからない生き物だ。 だが、それを理解しようとする事を放棄してはいけない、常に彼女を理解しようと努力しなければならない。それがプロデューサーとしての、そして桃園南という一個人としてのできることなのだから。

 

 

 

「そうだぞー志希、ていうか家で散々構ってやってるだろうが、うーん仕方ないなこれが終わったら遊んでやるからもう少し我慢せい」

見かねたトレーナーさんが手をパチンと叩

く。

「よし、茜もかなり仕上がったことだし

三人で合わせるから準備しろ、 プロデューサーはそれを撮ってあげてください」

 

「まっかせてー」

「よし、やりますか」

 

空気が変わる。静かになる。トレーナーさんがラジカセのボタンをカチッと押す。

 

 

いや、やはりスイッチが入るとこの二人は凄まじい、圧巻、その一言に限る。

これがまだアイドル候補生でデビュー前というのは新手の詐欺か何かだ。

【元ダンサーがアイドルデビュー!?】という煽り文をつけても遜色ないレベルだ。

 

茜はさらに凄まじい。二人に食らいついている。考えてレッスンするというのは思いの外体力を使う。それをぶっ通し休憩無しに大体六時間。それでも疲れた様子はない。茜はその無尽蔵と言えるスタミナを十全に発揮し全てをつぎ込み天才二人に迫っている。その辺の有象無象なら力の差を感じ諦めて腐っても仕方ないレベルの差を腐らず着実に埋めていくその化け物じみた精神性は賞賛に値する。

笑顔も絶やさない、ほら!できてます!私追いついてみせました!見てくださいプロデューサー!という喜びの感情がひしひしと伝わってくる。

 

いやぁ本当に茜は完璧だ。彼女を世話してて本当にそう思う。目に入れても痛くないくらいだ。

 

 

ババンっと最後のポーズも決まる。センターの茜の笑顔が眩しい。

やはり彼女らは完成している。

あとは舞台を借りてちゃんとした衣装を着るだけで一次審査に送る用のムービーが撮れるだろう。

 

「じゃあ、今日のダンスレッスンは終わり!お疲れ様」

トレーナーさんの挨拶に三人娘がありがとうございましたお疲れ様でしたとお礼と労いの言葉を言う。

 

 

 

「よし遊びいこーすぐいこー」

「私行きたいところあるんだけどいいかな?志希ちゃん」

 

「んーどこ?」

「えーとまって、」

おばあちゃんのようにあたふたとゆっくりとスマホを操作するテロメア。

やっとお目当ての画面に移動したのかパッと顔が明るくなる。

 

「ココ」

 

そこに写っていたのは遊園地、

だいたいここから数十分で着く位置にある。

 

「よしそれじゃ行こうか」

私のその一言に皆が続いた。

 

 

☆☆☆

 

 

ガタンガタンと

電車に揺られる。

 

 

 

志希ちゃんは桃園プロデューサーにべったりして微笑ましいです。

私より少し背の高い少女。

メアちゃんは隣でワクワクを隠しきれずにウズウズしていますね。

 

「遊園地楽しみなんだよね。色々乗り物がある、例えばこのウォータースライダーとか!あーそう茜ちゃんは苦手な乗り物とかある?」

「特にはないですね!それにしても遊園地!楽しみですねっ!」

かくいう私も少しワクワクしています。

 

 

第一印象は儚げで消えてしまいそうな少女のメアちゃん。

体力テストの日野スペシャルでは正直五キロほどで根を上げるかと思いましたがだいたい六十キロほどの距離でも息絶え絶えながらも付いてきたそのパワフルさ根性はそんな印象を拭ってくれました。その熱さが嬉しくなってペース配分を間違えてしまって倒れさせてしまったのは本当に申し訳無く思ってます。

しかし!彼女は茜ちゃんについていきたいと私の日課のトレーニングのランニングに参加するようになりました。嬉しいです。

まだ二週間と少ししか経っていないのに

かなり仲良くなった気がします。メアちゃんはみんなと仲良くなるのが上手くて、テロメアからメアちゃん呼びになるまでそんなに時間がかかりませんでした。そして一番最初にメアちゃん呼びしたのが私です。もはや一番仲良いのでは?

こう思っているのが自分だけでなければいいんですけど。

 

そうこうしているうちに目的の駅に着きました。

建物を出てすぐのところから大きな観覧車がよく見えますね。

 

「アレ!あれだよ!あそこの遊園地!

うわぁおっきいね観覧車!」

 

「そうですね!おっきいですねっ!」

 

手を引っ張られて一緒に走り出す二人。

 

 

「遅いよー二人ともー!はやくはやくー」

手を振りながら笑顔を振りまく彼女。

 

 

同い年の割に大人っぽいと思ってた彼女が実は遊園地を目の前にはしゃぎ回る可愛らしい幼児のようだったと周子ちゃんにいったらどんな顔をするでしょうか。

ほんまにー?とか疑ってかかってくるに違いないと思います。観覧車から始まりジェットコースター、ウォータースライダーと次々に乗っていく彼女は常に楽しそうで、それはそれはいい笑顔でした。

かくいう私も叫びぱなしで桃園プロデューサーに元気が良すぎると苦笑されてしまいました。志希ちゃんも割と楽しんでいたようで何よりですね。

ギフテッドの二人はあまり遊園地に来たことがないらしく未知の出来事に驚いてばっかりでした。桃園プロデューサーと私はそんな二人を見て微笑ましい気分になりましたね。しかしながらジェットコースターにドはまりして五回も乗ることになるとは思っても見ませんでしたけどね。

 

 

 

帰りの電車。

メアちゃんは何やら手帳に記録をつけています。

気になります!

 

「それはなんですか?」

「あーこれ?死ぬまでにやっておきたいことを書いてる手帳かな?今日は友達と遊園地に行くという目標を達成したからね。よし、今日は楽しかったですっと」

「ふむ、私のトレーニングノートみたいなものですね!」

「そんな感じだね、でも親に孫を見せるとか、いい墓を買うとかかなりかなり未来のことについても書いてあるよ。」

手帳を広げて見せてくれる。殆どがドイツ語で読めませんが、最近書いたと思われるところは読めますね。

「おぉ!肇ちゃんに陶芸を教えてもらうってのもありますね!こっちには歌鈴ちゃんの実家の神社を見に行くとか!やりたいこといっぱいですね!」

「そう、やりたいことまみれだよ」

 

 

 

ちらりと隣を見ると桃園プロデューサーは志希ちゃんに寄りかかれて大変そうです。

いやー楽しかった。また一段と皆さんと仲良くなれた気がしますね!

 

 

 

 

 

 




しばらく投稿できませんが、じわじわ書いてるので安心して待っててください。 エタることはないと思います。


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