俺の異聞帯(暫定) (あすとろん)
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その1

「諸君。問題が発生した。」

 

「「「⁉」」」

 

地球を漂白し終え、各自の異聞帯にて王や自身のサーヴァントと共に空想樹を育てるクリプター達。

そんな彼らがそれぞれの進捗を報告しあう何度目かの会合。

それはキリシュタリアのそんな一言から始まった。

キリシュタリアはいつもの余裕と自信に溢れる笑顔のまま、起きた問題の詳細を他のクリプター達に説明する。

 

「『異星の神』すらも想定外の8人目のクリプター、そして異聞帯が出現した。クリプターの名前はアシュトン・レイナード。マスター候補生の一人であったがカルデア襲撃の際、予期せぬ特異点が出現した。」

 

「特異点だって?アレは言うなれば魔術王による過去への干渉によって出来る人類史のシミのようなものだろう?そもそもあの時点で人類史自体が漂白されていたのに発生するものなのか?」

 

「良い質問だカドック。その疑問に答えるのならあの時人類史は漂白されていたが完全には漂白されてはいなかった。おそらく漂白され切っていないほどの昔、恐らく紀元前に起因した特異点だったのだろう?」

 

「へえなるほどねえ。問題はその特異点が何でできたか?そして今はどうなったのか、よね?」

 

「ああそうだよ。ペペロンチーノ。」

 

「アシュトンなんてヤツいたっけか?Aチーム以外はあまり面識ないんだよな俺。」

 

「そもそもベリルは興味のない人間など覚えていないでしょう?確か・・・彼は能力だけならそこそこ高かったはずだけど意識が低いとうか、レイシフトを疑問視してしたのでAチームには選抜されなかった人物よ。人格的には…よく知らないけど。」

 

「・・・興味ないわ。」

 

「彼は現代魔術科、それもあの名高いエルメロイ教室に在籍している魔術師でね。血筋も中々に古い家系だ。家は錬金術を主としていたようだが彼自身は先ほど言った通り現代魔術科で様々分野に手を出していて・・・あまり実家との折り合いはよくなかったはずだ。

まあ今となってはそんなこと関係ないだろう。」

 

キリシュタリアが一度間をおいて他のクリプター達が注目するのを待つ。

 

「問題なのは彼が特異点発生の場にいて、しかも想定外の事象を観測した『異星の神』と交信した際に空想樹の苗木と我々クリプターの情報を奪い取ったうえで新たな異聞帯を発生させてしまったことだ。我々や『異星の神』とも異なる思惑でね。」

 

「あらあら」

 

「キリシュタリア様に弓引くなど・・・」

 

「へえ!『異星の神』相手にカマすとはなあ!アシュトン、アシュトン・レイナードねえ!覚えたぜ!それでキリシュタリア、アシュトンはどうするんだ?」

 

「そうだね。出来れば我々と志を共にして貰いたいな。アシュトンの異聞帯がどんなものなのか分からないが、神霊を3柱も擁する私の異聞帯が負けることはあり得ないだろう。しかし異聞帯が多ければ多いほどそれを勝ち進んだ異聞帯は多様性に富み、強く成長する。だから諸君も一度は彼に声をかけてくれないか?」

 

「・・・めんどくさいわ」

 

「キリシュタリア様。もしもそれの応じない場合は?」

 

「・・・残念だが彼の異聞帯は潰すことになるだろう。」

 

「「「・・・」」」

 

それぞれの映像が映し出されている会議場に沈黙が下りる。

 

「僕はそろそろ皇帝が起きるころだからね・・・。これ以上話がないなら戻らせてもらう。」

 

「ああカドック期待しているよ。」

 

中空に映し出されていた、クリプターの一人、カドックの映像がそのセリフと共に掻き消える。

そしてそれを皮切りに他のメンバーの映像も消えていく中、最後まで残っていたオフィリアは今にも消えそうなキリシュタリアに向かって声をかけた。

 

「キリシュタリア様・・・」

 

「うん?なんだい?」

 

「アシュトンの件大丈夫でしょうか?」

 

「確かに『異星の神』を出し抜くとは油断ならない相手だろう。だが私の異聞帯の成長も順調だし、君のところの王、また最悪は炎の巨人すらいるのだ。彼の異聞帯に仮に神性がいたとしても五分と五分以上とならないはずだ。心配はいらないよ。」

 

「・・・そうですね。わかりました。」

 

「ああ。オフェリア君には期待しているよ。最終的に残るのは私か君だろうからね。」

 

キリシュタリアの映像が消える。

 

「キリシュタリア様、私の目にはアシュトンがクリプターになる可能性など少しも観ることが出来なかった。私の目も万能ではないけれど・・・コレはどういうことなのかしら・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おっす俺アシュトン。

一応魔術師やってるピチピチの17歳だ。

まあこの前までカチカチの冷凍食品見たくなってたけどネ!

 

さて今から俺という人間を取り巻く状況を簡潔に説明するので聞いてほしい。

・俺氏(1.5部までプレイ済み)心臓発作で死亡(特典付き)

・神様転生的な何かで型月世界の魔術師の家系に転生。

・そこそこの才能でエンジョイしてたらカルデアのマスターの一人になる

・レフによる爆破(前世を思い出す)

・FGO第一部~第1.5部(冷凍中)

・Aチームを除いて最後に蘇生。カルデアに滞在してたら第二部(多分?)開始

・黒づくめのヤバいやつに襲撃されたり凍死しかけながらも逃げてたらぐだ達に置いて

行かれて途方に暮れる。(←今ここ)

 

「っということで誰か助けてくれええ!あと・・・寒いぃぃ!?」

 

へへ、へへへ。

これでも俺は特典付きの転生者。

本気出せば無差別の凍結程度対処できるのサ!

まあ英霊の攻撃なんで防ぎきれてないから閉じ込められて凍死寸前ですけどね!!

 

「畜生。なんかよく分からんがAチームのエリートども裏切りやがって。特にキリシュタリアは偉そうにイキってるしカドックの野郎なクール系美少女侍らして冷凍してくるし。ぐだ達はぐだ達で俺のことを置いてくし・・・いや分かるよ?緊急避難ってことくらい。でもあんなどこかで見たような嫌味な新所長助ける暇あったら俺とかせめて他のスタッフを助けろよ!?いやすいませんやっぱり嘘です。助けてください。俺のことを超助けてください!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

チクショウ!!主人公とか期待してなかったさ!敵役もな⁉でもせっかく生まれ変わったなのに選択の機会すらなく死ぬってなんだよ!?しかも特に物語と関係もなく!!モブどころか背景レベルだってのか俺は!?ふざけるな!!タダで死んでたまるか!!こんなところで死ぬくらいならぐだ達の敵にしっぽを振ってでも生き延びてやる!!」

 

現実逃避のために文句を垂れ流してたらあまりの理不尽な境遇に怒りが湧いてきた。

俺はその怒りのままなけなしの魔力を使って氷に閉ざされたカルデアの奥へと向かう。

 

 

 

 

 

「やっちゃったよ・・・やっちゃった・・・」

 

あれからいくばくかの時間が経過していた。

ただし先ほどとは異なり、今俺の手にはいくつもの聖杯がある。

そう聖杯だ。

ぐだ達がこれまでの冒険で集めた聖杯たち。

これがゲームなら聖杯転輪待ったなしだが此処は現実。

特定のサーヴァントのみ使用するわけにもいかず厳重に封印されていたコレら。

それが今俺の両手で持ちきれないほどあるのだ。

因みに厳重な封印は冷凍攻撃で綻んでいたこともあり俺の全力で破壊できた。

初めてまっとうに使った特典が強盗のためとか笑えない。

 

「死にたくないんだ。だから・・・誰か、誰か俺を助けてくれ!!」

 

俺は聖杯に願った。

願って、願って、ただひたすらに願って、

俺の大義も何もない願いにこたえる声があった。

 

「―――おいで―――」

 

聖杯に灯が灯りどんどん端から砕けていく。

世界がガラスのように割れ、黒い泥が溢れ、かつて魔術王の築いた特異点を足掛かりに、新しい異聞帯を作り上げる。

どこかで驚いたような声が聞こえた気がした。

俺はなけなしの意地を振り絞り、そちらへ手を伸ばし其処からナニカを奪い取る。

 

「異星の神とか、使いつぶされる未来しか見えないんだよっ・・・!空想樹だけ貰っていくんで・・・さっきまで俺のことなんぞ認識すらしていなかったくせに調子いいんだよ!ざまあ!!」

 

俺は急に「異星の神」なる存在から交信を受けたが、それを無視してクリプターなる存在の力と情報だけ奪って黒い泥にダイブする。

コイツはどう考えても俺のことをどうでも良いと思ってるだろうし、なんとなく「騙して悪いが・・・」と使い潰される未来しか思い浮かばない。

 

「―――いっしょ―――いこう―――」

 

此処に本来存在しないはずの第8の異聞帯が生まれる。

 

 

Lostbelt番外 混沌創成大海ティアマト(意図から外れし大地)

B.C.2655 異聞深度:A

 



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その2

此処はかつてウルクと呼ばれていた場所。

この異聞帯において旧人類と呼ばれた存在が黄金の賢王と人類最後のマスターに率いられ、偉大なる母神と戦い、終焉を迎えた地である。

そんな場所に立つと、元カルデアのマスター(前世)だった俺としては些か複雑な気分になってしまう。

だが現在進行形で俺のメンタルに継続ダメージを与えているのはウチの異聞帯の王様にそろそろ三桁目に達しそうな回数の説教しているからだろう。

 

「だからティアマトちゃん何度も言ってるっしょ!?その場のノリで新しい種族とか生み出さないでって俺言ったよね?せっかく上手い事ビースト引退したんだから元に戻らないように注意するって約束したよね⁉」

 

「A…Aa-----------------」

 

「泣き声あげて誤魔化さない!今いる人々、貴方の子供たちが迷惑するんで止めてください。というか前も同じ事やったせいで子供(神々)からフルボッコにされて世界の裏側にポイされたんでしょ!?」

 

「AaAAAAAAaaaaaaa!」

 

「だ・か・ら‼もう勝手に合体魔獣キングラフムとか作らないでね!怖いから!本当に怖いから!」

 

「A…」

 

さて色々やらかして俺の目の前で正座しているティアマトちゃん。

彼女こそ俺の恩人にしてこの異聞帯の王である。

まず『異星の神』から逃走した俺のこれまでを説明するとしよう。

 

あの時、氷に閉ざされたカルデアで俺は聖杯を使用した。

複数個使用して出来上がったのは一時的に俺が避難するには十分な特異点だった。

内部の環境は特に意識していなかったのだがかつての日本のような田園風景が広がっていた気がする。

俺は特異点が出来上がると同時に身を刺すような冷気から逃げるかのように特異点へと足を踏み出そうとしたのだ。

だが幸か不幸かあまりに潤沢すぎる聖杯によりカルデアという場所自体と縁のある存在、世界の裏側に眠るティアマトちゃんと繋がってしまったのだ。

そのあとは『異星の神』の干渉をはねのけて空想樹やら令呪を奪い取って特異点を異聞帯へと変質させて、既存の漂白化された地球を書き換えたのだ。

この異聞帯はかつての第七特異点から分岐した新しい可能性。

『カルデアが破れ、ティアマトによる新人類が生まれた世界』である。

尚、此処はそもそも剪定の対象となるのかすら未だ評定中の全く新しい選択肢の世界であるため厳密には異聞帯ではないのかもしれない。(便宜上異聞帯と呼ぶが・・・)

 

この異聞帯の特徴は

① ティアマトが何故かビースト引退(共に霊基の変質を確認)

② 空想樹がケイオスタイドによって変質してよく分からなかったものが更によく分からないものになった。

③ かつての第七特異点に存在したものは全てケイオスタイドに溶け込んでおり順次サルベージしている。

④ この世界の人類とは紀元前2655年ころにラフムとウルクの民をベースにティアマトが創造した新人類のこと。シュメールっぽい文明を構築している。

⑤ 一般人のスペックも馬鹿みたいに高いがそこらへんにいる怪物たちはそれらを遥かに凌ぐ強さを誇る。そのため文明レベルが未だ低い。

⑥ 俺とどこぞの鬼っ娘が駄々をこねて料理が急速に発展しだした。

 

である。

 

まあ異聞帯のサーヴァントこそ未だ召喚できないものの不便はない。

何故かというと協力してくれる英霊は実はかなりいるからだ。

どんな奴かというと・・・

 

「フハハハ!まさかあのティアマト神のこのような姿を見ることになろうとは・・・この我も見通せなかったな!!故に面白い!!」

 

「「「主殿元気を出してください!元気が出るように何か立派な獣の首を持ってきましょうか!?」」」

 

「ああ義経殿あんなに楽しそうに・・・」

 

今のセリフから分かる通りサルベージしたかつて第七特異点に存在した英霊たちである。

皆のトラウマ牛若丸(オルタ)が多数に弁慶。

他には今此処にいないがエレシュキガルにイシュタルや茨木童子、ゴルゴーン、キングゥなどの英霊たちもいる。

ただし皆通常の霊基ではなく、ティアマトにより再誕された際に本来いたはずの神々の代替として神性やら権能を付与されてこの異聞帯の神となっている。

分かりやすく言うと第6特異点の円卓の騎士(ギフト付与)の超強化版と思ってくれればいいだろう。

あとは残念ながらカルデアが来た時点で消えていた巴御前はサルベージ出来ず、賢王ギルガメッシュは自力で泥から生えてきた。

ギルガメッシュが現れた際俺はひどく動揺した。

だって神々の時代に幕を引き人の世界を始めた張本人だし、なんだかんだ人理をはるか未来まで見守ってるような英雄なのだ。

そんな彼が神代逆戻りのこの異聞帯を見てどうするか?

俺は激怒して即アーチャー化してからのエヌマエリシュの流れだと思った。

しかし実際は

 

「本来あり得ない流れからの新たな可能性。未だ剪定もされぬ世界だというのならば尚のこと興味深い。よいだろう。我のこの目でこの行く末を見定めてやろう!」

 

とか言って妙にノリノリで俺に協力してくれている。

正直意図が読めずに不気味なことこの上ない。

千里眼で何か見たのだろうか?

 

「まあ!とにかくティアマトちゃん勝手に世界楽に滅ぼせそうな怪物をポンポン作らないでね!俺とか皆が頑張って狩ってるからどうにかなってるけどあんま調子乗ってたら剪定されちゃうから!?OK!?」

 

「AA-----------------(OK)」

 

「よーしよしよしよし!偉いぞティアマトちゃん!偉いから今日はもう眠っちゃおうね。出来るだけ速やかに眠ってもう変な魔獣生み出さないでね!マジで!俺と賢王が過労死しちゃうから‼」

 

ティアマトちゃんにエールと夕飯を食べさせて寝かしつけた後めちゃくちゃ仕事した。

 

 

 

混沌創成大海ティアマト

『カルデアが破れ、ティアマトによる新人類が生まれた世界』

厳密には未だ剪定されていない世界でこれからの100年で決まる。

基本アシュトンや英霊たちがストッパー役として自由奔放なティアマトちゃんを宥めて新種族が生まれないよう調整したり、現代の知識を広めて文明を活性化させたり法整備したりしている。ある意味異聞帯を発展させることが本来の目的であるクリプターとしては主人公が一番まっとうに働いている。

 

戦力

ティアマト

牛若丸(オルタ)

ギルガメッシュ(キャスター)

武蔵坊弁慶

ゴルゴーン

キングゥ

ケツァル・コアトル

茨木童子

レオニダス一世

イシュタル

エレシュキガル

ジャガーマン

魔獣多数

兵士たくさん

ラフムうじゃうじゃ

キングラフム

 




アシュトンは諸葛孔明を召喚したいと思っている。
・・・だって文官として有能(白目)そうだし。


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その3

さて地球を漂白してからしばらくの時が経過しており、7人のクリプター達は各々忙しい時を過ごしていた。

ある者は協力的ではない異聞帯の王を排除しようと、ある者は慕う男のため己が異聞帯の統治を粛々と行うもの、ある者はかつて慕ったものの影と在ることを、または異聞帯を維持することだけでも至難な状態なものも、理由に違いはあれど7人とも状況は同じであった。

そんな中、前回から割と短い期間で今回の会合が設けられることとなった。

 

議題は2つ。

1つ目はかつての古巣、カルデアの残党出現の予知。

これについては虚数空間に潜行している彼らにとって、漂白されたこの世界において唯一「縁」があるカドックの異聞帯に出現するだろうと考えられ、その対処もカドックに一任する、ということで決まった。

尚もう一人カルデアと縁を持つ者がいるのだが、これについてはカルデア側がそもそも存在を認知していないため可能性が薄いということで決着した。

 

次に2つ目の議題がキリシュタリアから発表されることでにわかに動揺が広がる。

 

「2つ目の議題だがアシュトンが作り上げた第八の異聞帯、其処と此処の連絡手段を用意できた。」

 

「本当ですかキリシュタリア様⁉」

 

「お!これでアシュトンってやつの顔を拝めるってわけか!」

 

「何度も言うけど一応顔は合わせてるはずよ?ベリルが覚えていないだけで。」

 

「しかしキリシュタリア。どうやってあそことの連絡先を用意したんだい。」

 

「何簡単なことだ。どういう理由かは分からないがあそこの空想樹は変質してしまった。だが根本は我々の空想樹と同一、後は波長の調整さえしてしまえれば映像などの送受信については問題ないだろう。後は彼方が受け取ってくれるか次第だが…とりあえず1回目は向こうも想定していないはずだから自動で繋がるだろうね。2度目からは分からないが。」

 

「なるほど。後はアシュトンに降伏勧告を行うというわけか?」

 

「降伏勧告ではないよデイビット、協力を要請するだけさ。おそらくアシュトンにも彼なりの思惑があって我々とは異なる立ち位置に立っているのだろう。だが逆にその思惑によっては同志にとして協力できるはずだからね。」

 

「…そうか。まあ敵対するにしろ情報は多いほうが良いからな。それに失うものもないのだから試して見るのは賛成だ。」

 

それからキリシュタリアとデイビットの会話も終わり、他のクリプター達も敵対するにしろしないにしろ情報収集は大事だろうと通信をつなげることに賛成した。

一部興味ない者もいたが概ね全員、以前より自分たち以外の、しかも『異星の神』の思惑を超えたアシュトン・レイナードとはどんな人間なのか興味を抱いていたのだから。

 

「さて意見の統一も出来たことだし早速通信をつなげるとしよう。急な通信で都合が悪いかもしれないが次の会合のアポイントメントでも取れれば御の字だからね。」

 

「まあもしかしたら見られたら不味いことをやってるかもしれないけどね。」

 

声のした画面を見ると、アナスタシアや言峰神父を伴ったドックが皮肉を口にしていた。

それというのも以前急な用件で繋げた際、オフェリアがストーカー(セイバー)に愛を囁かれていたり、ベリルが血みどろでR18Gな感じになっている場面を見てしまい後悔した経験があるからだ。決してアナスタシアとアオハル的なことをしてイチャイチャしてるところをペペロンチーノに見られたからではない。

 

「さあ・・・第8の異聞帯に繋がるぞ!」

 

先ほどまで黒く染まっていた投影に光が灯る。

クリプター達が注目していると徐々に人影のようなものが見えてきて、次の瞬間クリアな映像と共に向こうの音声も響き渡る。

 

『うわ~ん⁉マッ!マ“マ”アァァァァ‼』

 

映し出された映像にはアシュトン・レイナードと思われる人物が大きな角の生えた女性の胸に顔を埋めて泣きじゃくっているいる映像だった。

 

 

 

 

 

 

 

沈黙。

 

 

 

 

 

 

 

 

余りに想定外の映像にクリプター達は動揺したり、停止したりする。

尚終始アシュトンに興味を持ってなかった芥ヒナコですら二度見していた。

 

『ティアマトママアアア!働いても働いても書類が減らないよおお!!もう嫌だああ⁉』

 

『A…Aa-----------------』

 

映像の中では、ティアマトがいい歳してマジ泣きしてるアシュトンの頭を抱き締めながら背中をトントン叩いていた。

その場面だけ見ると、正に大地母神そのものである。

 

『都市や人口は増えるし、いつもの魔獣退治は減らないし、空前の料理ブームでいろいろと問題が発生して法整備しないといけないし、ルチャしてケガ人出すし、賢王が逃走しようとするのを捕縛してシドゥリさんと執務席に縛り付けたり…忙しすぎるんだよお!?お願いだようマッマ!内政99くらいの有能な文官型の魔獣をダース単位で生み出してよぉ!?』

 

内政99の魔獣とは一体?

この時オフェリアの脳内で魔獣の定義が乱れる。

 

『好きな人がいた。暖かくて、やさしくて、誰よりも幸せになってほしくて。みんなのためなら命さえ惜しくない。そう思ったから』

 

『今日まで仕事にも耐えて』

 

『耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて耐えて来たのだから!!』

 

『否定されていいわけが、許せるわけがない!嘘だ嘘だ嘘だ!!』

 

『俺には間違いなく好きな人が、間違いなく、確かに俺にはいるんだから!!』

 

『俺は何のために、誰のせいで!死ぬぐらいなら、いっそ…!!』

 

『A…A…♪A…♪』

 

割と重大な情報を垂れ流し続けながら、どこぞの蟲おじさんムーヴで嘆くアシュトン。

そしてそれをご満悦顔で受け取め、優しく頭を撫でるティアマト。

やはりこの場面だけ見るとティアマトマジ女神である。

だが忘れてはいけない。

彼女自身がアシュトンを追い詰める要因の一つであることを。

 

『賢王殿⁉賢王殿がいるか⁉アシュトン殿がご乱心ですぞ⁉』

 

『ふむ…どうするべきか…。よし!我がケイオスタイドに再び漬かり牛若のように増えれば仕事など一瞬よ!』

 

『駄目だ!賢王どのも故障しかけている⁉衛生兵を⁉誰か衛生兵をぉ⁉』

 

勤労の獣爆誕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…すまないがアシュトン・レイナード少し話を良いだろうか?」

 

アシュトンの醜態(赤ん坊プレイ)を見て、珍しくキリシュタリアがどもってしまった。

ヒナコとオフェリア、そしてアナスタシアはゴミを見るような冷たい目で、その他男性陣は何か痛ましいものを見るかのような顔で映像の中のアシュトンを見つめる。

言峰神父はアシュトンの某蟲おじさんムーヴの嘆きにほっこり(愉悦)している。

 

ピタッ

キリシュタリアの呼びかけに映像の中のアシュトンの動きが止まる。

そしてギギギッと音が聞こえそうな動きでこちらを向く。

 

「ヒッ⁉」

 

振り向いたアシュトンの瞳をみてオフェリアが短い悲鳴を上げる。

其処には知っているものならばケイオスタイドを連想させるような濁った瞳だったからだ。

アシュトンは静かにティアマトから離れて一度映像を切る。

それから数秒・・・賢王が執務席からいなくなりラフム人形が置かれ、身なりを整えたアシュトンが再度映像に浮かび上がる。

 

『やあ君はキリシュタリアだな?他のメンバーも知っている。俺がアシュトン・レイナードだ。』

 

「「「無かったことにしてる・・・。」」」

 

クリプター達は先ほどのことを見なかったことにした。

彼らは気遣いのできる人間だから。

 

 

それから1時間もの会話の末、お互いの情報交換と立場の明確化を行った。

その結果、『異星の神』を信じるクリプター達と信じないアシュトンの対立は避けられず、ただカルデアに対しては協力するという曖昧なものとなってしまった。

 

『ところで一つ聞きたいんだが…』

 

長い話の末、少し気まずそうな様子でアシュトンが問うてくる。

 

『あ~君たちの異聞帯はその忙しくないのか?その~仕事とか?』

 

「統治などのことか?私のところはそこまで仕事はないし、あってもオリンポスには最低限文官がいるしな。」

 

「ワタシのところもかしら?」

 

「私のところには穏やか過ぎて仕事がない。あっても異聞帯の王が元々皇帝だからその辺の人材も揃ってる。」

 

「「そもそもそういう仕事がない。」」

 

「私のところもそういう仕事は少ないかしら?あってもワルキューレたちがいるし。」

 

「・・・僕のところはヤガたちから税を納めたり再分配するのは皇帝、というかその部下たちがやってくれるしなあ」

 

それぞれの回答を聞いて加速度的にアシュトンの目が死んでいく。

あれ?こんな忙しいの俺のところだけなの?

っていうか他の異聞帯にもやっぱり文官がいるんだあ。

ふ~ん・・・ふ~ん・・・ふ~ん・・・。

といった感情が透けて見えている。

 

『・・・君たちのところは忙しくないんだな。まあ今日はもう遅い。正々堂々と言っていいのか分からないが戦おう。カドックは・・・無事カルデアの残党を倒してくれ。』

 

「・・・分かってる。カルデアの残党が来たところでオプリチニキたちで対処できる。大丈夫だ。」

 

この日のクリプター達の会合はそのセリフを最後に終了した。

 

 

 

 

「普通に考えればカドックの言う通りカルデアの残党に勝ち目などない。だが…彼らは腐っても世界を救った連中だ。舐めていたら勝てない」

 

「ふむ。やっと正気の戻ったかアシュトン。してどうする?正直この異聞帯ではカルデアは敗れたからな。お前の心配は杞憂な気がするが・・・。」

 

「賢王殿も正気じゃなかったじゃん。・・・まあやることは決まってる。」

 

「ほう?」

 

「カルデアに助力してこのまま他のクリプター連中をかき乱してもらおう。流石に他全ての異聞帯に組まれてはいくら此処の異聞帯に神級が多くても不利だ。カルデアには悪いが鉄砲玉に成って貰うとしよう。それに彼らは甘いからな・・・最後までカルデアが生き延びるなら外道な手を使ってでも始末するさ。なにより・・・」

 

「・・・なにより?」

 

「壊れかけの異聞帯なら大手を振って文官を保護(拉致)出来るじゃないか。」

 

「クククッ!クハハハ!ハーッハハハハ‼良かろう!われがティアマトを押さえつける。その間お前はなんとしても保護(拉致)してくるが良い!人員は好きに使え!」

 

「ああ必ず保護(拉致)してくるさ‼」

 

アシュトン・レイナードと賢王ギルガメッシュの瞳は外宇宙の神性と繋がっている某幼女の鍵穴位濁っていた。

 

翌日アシュトンは急いで人員を整えロシア異聞帯へ出陣した。

 

 




保護(拉致)人員
・無駄にスペックの高いスーパーウルク人:多数
・みんなのトラウマ牛若丸(オルタ):多数
・BETAにしか見えないラフム:超多数


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その4

オフィリアではなくオフェリアだったのか・・・。
教えてくれてありがとうございます。
次からは注意します。
これまでのはちょいちょい合間を見て直していきたいと思います。

あと今回は会話が多いです。


其処は見慣れぬ部屋だった。

自分が覚えている限りあの皇帝が支配するロシアは常に吹雪が吹きすさび、このような青空が広がる暖かな場所ではない。

少し気温が高い気もするが湿気も少なく気持ちのいい風が時折吹く此処は居心地がいい。

カドックは内心自分の担当する異聞帯の過酷さに辟易した。

なぜなら己の記憶と、自分の目の前に立つ男を見て自分の現状を理解したからだ。

 

「やあ!カドック君傷の手当などは済んでいるのだけど体調はどうかな?」

 

「・・・問題ない。初とりあえずは初めましてかな?アシュトン・レイナード?」

 

「ああすまない。こちらこそ初めましてだ、カドック君。」

 

今カドックの目の前には以前の通信で醜態を晒した、もといカルデアの捕虜となった自分を奪取したラスプーチンから更に奪取した第8の異聞帯のクリプターが立っていた。

 

カドックは内心ひどく慌てながらもその頭脳を働かせて今の自分の状況を考える。

自分は清潔なベッドに寝ており、目の前にはロシアでは見る機会のなかった本物の花を抱えたアシュトンが立っている。

空の花瓶があることから、もしや自分のためにこの男は花を飾りに来たのだろうか?

正直彼のシュワルツネッガーみたいな見た目に全くそぐわない。

 

「説明は必要かな?」

 

「ああ宜しく頼むよ。正直記憶が曖昧なんだ・・・最後の記憶は・・・確か・・・ラスプーチン神父がRPGを構えてて・・・そうだ!何か『人類に敵対的な地球外起源種』みたいな見た目の怪物に神父がフクロにされてたんだ!」

 

「フクロ・・・。ま、まあその認識は間違っていない。カルデアの捕虜となった君はラスプーチン、言峰神父によって回収された。其処を今度は俺と俺の手勢が襲撃して君を奪取したんだ。今此処は君たち正規のクリプターが第8の異聞帯と呼ぶ場所だよ。」

 

「なるほど・・・。それで僕を回収してどうするつもりなんだ?今無事目を覚ましている時点で僕の命が目的ではない。なのにどうして僕を回収した?何を考えているんだ?」

 

そうだ。

ただ始末するだけならば今僕がこんな丁重な扱いを受けている理由が分からない。

きっとアシュトンは何かしら僕に価値を見出しているのだろう。

一体何が目的なんだ?

考えろカドック!

こんな所で意味もなく死んでしまっては僕を助けてくれたアナスタシアに申し訳ない。

 

「ふむ。其処まで警戒しなくてもいい。君を助けた理由については大した理由はない。ただ君にこの異聞帯のために協力してもらいたいだけなんだ。」

 

「協力?自分のサーヴァントを死なせて異聞帯すら滅ぼしてしまった役立たずに何の協力をしろっていうんだ。大令呪でも使わせようっていうのか?」

 

「大令呪。『異星の神』から授かった不可能な事象すら捻じ曲げる特大の令呪か。まあ興味がないと言えば嘘になるが、俺が君に求めているのは君自身の力だ。」

 

「僕自身の力?ますます分からないな。僕なんて魔術師としても普通だし特別人より秀でた特技があるわけでもない。他のクリプターに比べれば僕なんて必死に追いついていくだけの凡人だ。そんな僕に何を望むっていうんだ?」

 

アシュトンの言葉が本当なら、それこそ本当に意味が分からない。

『異星の神』すら出し抜き、僕たち・・・キリシュタリアとも対等に渡り合うような奴が僕に何を求める?

 

「そう自分を卑下しないでくれカドック君。俺にはそういう君が必要なんだ。今この異聞帯は急速な発展の途中でね。正直文官、というか人を動かせる人間が急遽必要なんだ。単純にそういう能力を持った人材をそろえるだけなら可能なのだけど、自分で考え動ける人間となると難しい。それに・・・優秀な人間も必要だが今俺の異聞帯には君のような・・・一般的な感性を持つ人こそ必要なんだ。」

 

「?ますます分からない。僕程度の人間なんてこの異聞帯にだってたくさんいるだろう?」

 

「まあ能力だけ見るなら多くいるな。だが現代の地球という多様性に満ちた・・・ある意味汎人類史という正解を知っていて、かつどん欲に上を目指す人間と言うのは俺にとって心底必要なんだ。無論タダとは言わない。協力してくれないか?」

 

正直魔術師としての能力を求められていないことについては非常に不愉快ではある。

だがそれを除いても僕自身を求める理由は理解できないこともないし嬉しくもある。

だが一つハッキリさせないといけないことがある。

 

「・・・分かった。今のままでも何も僕にはすることがないんだ、協力するよ。ただ一つ確認したい。僕への対価ってのは何なんだ?」

 

僕の答えを聞いてアシュトンが破顔する。

意外と人懐っこい笑みだ。

 

「本当か!いやあ助かるよ!因みに君への対価だが・・・少し待ってくれ。」

 

アシュトンはその言葉と共にどこかへ念話を飛ばしているようだ。

一体どこへ連絡しているんだろう?

 

「じゃあほいっと!」

 

しばらくして話がついたようだ。

僕の目の前の中空に映像が投影された。

 

『—――カドックッ!?カドック無事なの⁉』

 

映し出されたのはロシアで僕を守って散ったアナスタシアだった。

 

「アナスタシア⁉君はあのアナスタシアなのか⁉どうして・・・君は確かに消えたはずじゃあ⁉」

 

『分からないわ。でも私はそこにいるアシュトンという男と此処の異聞帯の王によって再生させられたみたいなの・・・正直貴方にまた会えるなんて思わなかった。・・・嬉しいわ・・・。』

 

「ああ・・・僕もだ・・・。」

 

「カドックは現状について理解してる?」

 

「一応はね。といってもアシュトンから聞いた情報がすべてだけど。」

 

『そう。その男が私たちに本当は何を求めているのか正直分からない。でも今の私たちはカルデアに敗れた敗残兵。扱いも悪くないし素直に従うべきだわ。』

 

「アナスタシア・・・。」

 

僕には何となくわかる。

彼女は間違いなくあのアナスタシアだ。

異聞帯だからこそ出会えた彼女。

本来の汎人類史では決して会うことのない彼女。

ふいに視界がにじむ。

 

「あれ俺なんかボロクソ言われてない?」

 

ああ二度と会えないはずの彼女と共に居られる。

僕にとってなんて効果的な、優しい対価なのだろうか。

一度カルデアに敗れて折れてしまった僕に、再び彼女を見捨てるなんてことは出来ない。

 

「まあネタバレするとだね。君らが破れてすぐにロシアの異聞帯に俺と俺の手勢が侵入したんだ。そこで霊核を砕かれてほとんど消えていた彼女を見つけてね。普通ならそんな状態の彼女を救うのは無理だが運よくこの異聞帯の王は大地母神ティアマトその人なんだ。彼女の権能を利用してアナスタシアを取り込み再び生みなおした。」

 

ティアマト。

古代メソポタミア神話に登場する原初の大地母神にして、人類悪の一つ。

なるほど。

正しく彼女の権能を活用できるのならばアナスタシアを生みなおすことも出来るのだろう。

知らず僕は汗をかいた。

 

(そこまで強大な王がいて、そんな存在を従わせるこの男。キリシュタリア、こいつは君が思うほど容易い男じゃあないぞ!)

 

「とりあえず元気そうな彼女だが、まだ蘇ったばかりで霊基が不安定だから安静にしておいたほうが良い。カドックもとりあえず一休みしてお互い元気になってから直接会うと良い。」

 

「・・・そうねカドック少し疲れたわ。休んだら今度は直接会いましょう?」

 

「ああ。また。」

 

「また。・・・アシュトン・レイナード。」

 

「何か?」

 

「まだ貴方のことは信用していない。もしも私やカドックに何かしたら例えこの身が消えようともあなたを殺す。」

 

「ええ・・・(何でそんなに警戒されとるん?)」

 

「でもまたこの私がカドックに会えると思わなかったわ。ありがとう。」

 

アナスタシアの映像が消える。

気のせいかアシュトンが落ち込んでいるようだった。

少ししてアシュトンが僕に話しかけてきた。

 

「他にも崩壊した都市のど真ん中でピアノを弾いていた中年ホストやデンジャラス・ビーストの亜種みたいな痴女、後は彼らの周りにいたヤガと呼ばれる獣人も幾人か確保している。」

(※アシュトンは1.5部までしか知りません。)

 

「サリエリやアタランテもいるのか!?」

 

「え、あの痴女アタランテなの!?」

 

「え?」

 

「え?」

 

沈黙が痛い。

この男思うほどこちらの状況を把握していないのか?

 

「と、とりあえず予想以上にカドック君が協力的でよかった。流石にこの異聞帯に入れた手前断るようなら始末するか、外道な手を使ってでも従わせる他なかったから。」

 

聞き捨てならない。

 

「・・・因みに協力的でなかったらどうするつもりだったんだい?」

 

「ん?ああ・・・気を悪くするかもしれないけどもし敵対的だったら・・・そうだな。アナスタシアと君をお互いを人質にとって使い潰してたかな?君には内政として・・・アナスタシアは戦力としても、それこそ慰安目的でも使える。」

 

「⁉・・・へえ存外余裕がないんだな。そこまで此処が切羽詰まっているようには見えないけど?」

 

「?何を言っているんだカドック君?」

 

アシュトンは心底不思議そうな顔をする。

 

「何を・・・・?」

 

「・・・ああ。俺と君の間には認識が大きく食い違っているのか。なあカドック君、君はカルデアの残党をどう思う?」

 

「カルデア?そうだな・・・。思った以上に力があると思う。僕の力が及ばなかったし雷帝との協力関係を構築出来なかった隙をつかれてしまっ「何を言っている?」何?」

 

「カドック君それは他のクリプターの連中もそういう認識なのか?」

 

「何を言っている?」

 

アシュトンは上を向き目元を手で覆う。

その姿はまるで神に己の罪を懺悔する聖職者のような印象を僕に与えた。

 

「そうか、そういう認識か・・・。そうだよな普通は。」

 

しばらくしてアシュトンは顔を下ろし、僕を静かに見る。

 

「思うにカドック君。君や他の連中はもしかして自分たちが勝てると思ってるんじゃないか?」

 

「なんだと?」

 

「俺の経験から考えて、今のお前たちには足りないものがある・・・。それは危機感だ。」

 

「危機感?」

 

「そう危機感だ。俺も他人事ではないがお前たち程度がなぜカルデアのマスターを見下している?」

 

「どういうことだ。僕も負けた手前大きな口はきけないが彼らの戦力は少ない。現地のサーヴァントを除けば戦力はマシュ・キリエライト一人。その彼女もデミサーヴァントで本物の英霊には及ばない。そんな戦力で強大な異聞帯のサーヴァントや王を相手に勝ち目などないだろう?」

 

「だがその二つがそろっていたロシアは敗れただろう?」

 

「!?それは・・・。」

 

痛いところを突く。

コイツは僕の至らない部分を認めろというのか。

 

「カルデアは同じように圧倒的に何もかも足りない状況で、名だたる英霊たちを、魔神柱を、魔術王を‼そしてティアマトを滅ぼして世界を救った存在だぞ!?たかだか『異星の神』におんぶにだっこで力を得た俺たちよりもはるかに格上の存在だ!切羽詰まっている?当たり前だ!お前たちこそ危機感がなさすぎる。お前たちや俺の相手は人理を救った本物の英雄だぞ⁉全力で立ち向かわなければ生き残れるわけがないだろう‼」

 

頭を鈍器で殴られたような気がした。

 

「・・・俺の所見だがカルデアは、人類最後のマスターは『主人公』なんだよ。どんなに不利な状況でも幸運に守られて、味方が現れて、必ず勝つ。」

 

「『主人公』?」

 

「ああ。そしてそれに対するは人理を漂白し『異星の神』の手先として侵略者の片棒を担ぐ悪の魔術師たち、お前たちクリプターだ。『敵役』は『主人公』に絶対に勝てない。だから俺の目的は生き残るために彼らの『敵役』にならないようにすることだ。」

 

「どういうことだ?」

 

「幸運にも此処は本来あり得ない異聞帯、いやそもそも未だ剪定されるかすら決まっていない未確認の世界だ。此処ならある程度可能性を広げれば汎人類史の一つとして存続することが出来る。後はこの世界から分岐さえ出来れば『敵役』にならなくて済む。まあそこから剪定対象にならないよう頑張る必要があるんだけどな。」

 

「・・・それは、いやでもそんな・・・。」

 

「此処は元々在ったのに可能性がないと打ち切られた世界じゃあない。魔術王が作り上げた特異点が無ければそもそも存在しない世界、『カルデアが破れ、ティアマトによる新人類が生まれた世界』だ。なあ?この場合、本来あり得ないのは『カルデアが破れること』それとも『ティアマトによる新人類が生まれること』のどちらが要因であり得ない世界なんだと思う?」

 

あり得ないはずなのにロシアの異聞帯でのことを思い出すと否定することができない。

僕はよく分からない台本に乗せられて最初から勝ち目のない舞台に立ったのだろうか?

ならばすでに舞台を降りた僕には意味などなく・・・

 

「俺にはティアマトに大きな恩義があるし、生き残って余生を悠々自適に暮らしたいと思っている。だから俺が考える通りもし彼らが『主人公』なら俺たちは完全に倒されるべき『敵役』だ。危機感だって持つし必要なら外道すら手を染める。それに此処が消えればアナスタシアも今度こそ消える。それは君も望むことじゃないだろう?」

 

「・・・」

 

「だから俺に協力してくれないか?カドック君?」

 

「・・・・・・少し考えさせてくれ。」

 

僕には俯いてそう答えることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

没ネタ

 

「えっと今からカドック君には今から馬車馬のように働いてもらいます。」

 

「なんでだよ!?」

 

「俺と賢王の負担を減らすためです。まずはカドック君に此処から彼方までの書類の山を処理してもらいます。」

 

「これは山じゃなくて山脈っていうんだよ!」

 

「煩いです。あまり駄々をこねると脳みそだけ取り出してラフムに搭載して仕事しかできないマシーンにしちゃうぞ☆」

 

「ファ⁉」

 

「もしくはアナスタシアちゃん背徳寝取られルートに行きます。」

 

「ぶっ殺すぞてめえ(真顔)」

 

「ヒェッ・・・しょうがないからカドック君には事務仕事を手伝ってくれる美人秘書を用意しております。」

 

「美人秘書?(まさかアナスタシア?スーツ姿もいいかもしれないな!)」

 

「美人秘書の登場です。どうぞぉ‼」

 

(ワクワク)

 

「呼ばれて飛び出てニャッニャニャーン!美人秘書!つまりは出来るキャリアウーマン!といえば私!ジャガーマンだニャー‼」

 

「」

 

没ネタと本編が違い過ぎる?

細かいことは良いんだよ!

 

 




尚、最後にカドック君が俯いているときアシュトンはレジスタンスのライダーみたいな顔をしています。

「ささやかでも、一歩ずつでもいい。諦めずに前に進んでる、ってことが大事だ。
 そうすりゃ、必ず目的地に辿り着ける―― そういうもんだ。」


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その5

これはロシアの異聞帯がカルデアによって攻略されてしばらくした頃の話である。

 

 

遥か遠方に霊峰エビフ山を望む新築の王宮、その一角にある執務室にてこの異聞帯のクリプター、アシュトンはいつも通り執務に励んでいた。

つい最近までは地獄の餓鬼のような様相で働いていたが、一応の対処法が見つかり、一応人並みの生活を取り戻したのだった。

 

「――――そういえばアシュトン、前から一つ聞きたいことがあったんだけど・・・。」

 

アシュトンに話しかけたのはロシアの異聞帯のクリプターであったカドックである。

現在彼は王宮の文官の一人として精力的に働きながら恋人(予定)とイチャイチャしたり、

ロックという音楽ジャンルをこのシュメール文明っぽい異聞帯に根付かせようと布教している。

 

「ん?何を?カドック君。」

 

「あ~まずカドック“君”は止めてくれ。言われ慣れないから違和感がある。アナスタシアも同意見らしいし。」

 

因みに当初からアシュトンに対し警戒心バリバリであったアナスタシアであったが、とあるトラブルを解決した際、和解を果たした。

 

「そう?じゃあ特に拘りがあるワケじゃないし、次からはカドックとアナスタシアと呼ぶとしよう。それで?」

 

「いやロシアから連れてきた他の連中はどうしてるのかなって思ってさ。この前何人かのヤガにはあったけど他のヤガやサーヴァントたちはどうしてるのかと思って。」

 

「なるほど~。」

 

そういえばティアマトのお着きとして出歩いていたアナスタシアはともかく、カドックはこの異聞帯に来てからずっと此処で自分と一緒に終わりの決まっていないデスマーチに参加していた。

故に他の連中がどうなっているのか知らないのだろう、とアシュトンは考えた。

 

「まずロシアの異聞帯からマアンナのワープ機能を使って彼らや有用そうな資材を輸送した。するとこの異聞帯の北に本来あり得ないはずの雪山地帯が拡張された。それは分かっているな?」

 

「ああもちろん。そのせいで一時帰宅がおジャンになって、お前が急遽調査部隊を編成、僕がその分しわ寄せを喰らったからな。」

 

「因みに賢王の仕事は通常時の倍となってエレキシュガルと週一であっていたそうだ。」

 

「本当、今の彼は生身でなくてサーヴァントでよかったと思うし、敬意を抱くのに十分すぎるよ・・・。」

 

「でだ。ヤガにはその雪山地帯の調査や狩りなどを担当してもらっている。一部は試験的にこちらで働いているが体質的に難しい部分も多いから雪山地帯やその境目担当となるだろう。」

 

「体質って?」

 

「まずヤガはその見た目通り寒さに強いが、そのせいでこの温暖なシュメールの気候に適応できていない。先ほどの試験的にこちらへ住まわせているヤガは体毛を刈り取らせてもらってこちらに働いてもらっている。まあ逆にウルクの民は寒さに弱いから住み分けというヤツだな。」

 

これはアマンナを使用してロシアの異聞帯に保護(拉致)しに行った際に判明したことであるが、無駄にスペックの高いスーパーウルク人は寒さに弱かった。

致命的ではないがやはり気候に対応できずいつものパフォーマンスは発揮できなかったのだ。

 

「ウルク人だからその程度で済んでいるんだと思うよ。普通零下100度の吹雪の中に半裸同然で行ったら死ぬから。」

 

尚、腐っても受肉した英霊にして神性を与えられた牛若丸、あとサイレントヒルから来たような造形のラフムには一切影響もなかったので保護(拉致)作業には一切影響はなかった。

その為俺とウルク人はカマクラを作成しておでんパーティーをしながら待機していたのだ。

 

「アタランテは元々オルタ化してたからケイオスタイドによく馴染んだな。神性も与えられて今はヤガやウルクの子供たちのために色々と働いてもらっている。ただ・・・基本脳筋のため書類仕事に向かない。」

 

「致命的だけど古代ギリシャで王族や賢者以外はそんなものだろう?ホラ、あの神話体系の神も英雄も基本アレだから。」

 

「酒!暴力!S〇X!が基本だからな。」

 

アシュトンはロシアでスカウトしそこなったベオウルフが、自分の国を最後まで統治しきった王様であることを知った際、血涙を流し、怨嗟を吐いた。

半裸なのに!バーサーカーなのに!ベオウルフなのに!内政出来ると思わないだろう!

その時、特に理由のない八つ当たりが茨木童子を襲った!!

 

「サリエリは音楽を広めていてそれ関係の書類にはついては此方が引くレベルでやってくれる。これに関しては多様性が広がることから俺も推奨している。なのでそのままだ。」

 

「僕も彼に関してはよくロックの普及をする際に意見を聞いているからよく知っている。アマデウスじゃなくて良かったと本気で思うよ。」

 

「ああ、アマデウスは天才だけどそういう方面のこと絶対し無さそうだし、基本人間性は底辺だしな。」

 

「ああマーリンよりはマシっていうレベルだからね。じゃあサリエリに関しては基本放置で。」

 

「「・・・」」

 

会話が無くなり、しばらくは書類を書く音だけが続く。

時刻はそろそろ昼時、アシュトンはカドックを伴い食堂にでも行こうかと腰を上げた。

 

「カドックそろそろ昼飯でも食べに「お邪魔します。カドックはいるかしら?」行かないか?はい?」

 

執務室の扉が開く音がしたので振り向くとそこにはアナスタシアが立っていた。

今はこのシュメールの気候に合わせて白色のワンピースを着ておりどこかの令嬢、実際に皇女であるが、のように可憐であった。

アシュトンも一瞬見とれてしまう。

 

「近くまで偶々来たから昼食を誘いに来たのだけど・・・お仕事は大丈夫?」

 

「ああ大丈夫だよ。アシュトン悪いけどアナスタシアと食事行ってくる、午後1時までには戻るから。」

 

「ああ今日は仕事にも余裕があるしゆっくりしてきて大丈夫だぞ、アナスタシアもゆっくり食事を楽しんでくれ。」

 

ぺこりとアナスタシアが一礼をして、カドックと二人並んで仲睦まじく執務室を出ていく。

 

「・・・」

 

それを見たウルク兵士、そしてアシュトンはチベットスナギツネのような名状しがたい表情で静かに食堂へと向かった。

彼は出来る上司なのだ。

例え部下が「来ちゃった♡」と職場に来た奥さんとイチャイチャ食事へ出かけても気遣いを見せることができる。

 

後日、独身のヤガとウルク人男性(T-800っぽい男性も居たという証言有り)数名によってカドックが無理矢理アツアツの大根を口に詰め込まれるという痛ましい事件が発生したのはきっと関係ない出来事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはとある日の出来事である。

場所はいつもの執務室。

終わりの決まっていないデスマーチの真っ最中である。

カドックはいつも以上に青白い顔色でエナドリを飲んでいる。

アシュトンは最近常時浮かべているチベットスナギツネのような表情。

ギルガメッシュは週一の冥界巡礼に旅立った。

他の文官たちも既にキマッてしまい、カドック所有のロック音楽を大音量で掛けながら一心不乱に事務仕事の真っ最中である。

 

「主殿!」

 

そんな空気最悪の場所に魔獣の討伐から帰還したばかりの牛若丸(オルタ)がオッコトヌシみたいな魔獣の首を持ってくる。

流石に書類の置いてある机に置くという愚は起こしていないが、(以前一度やった)己の成果をアピールするために両手で首を頭上に持ち上げて駆けてくる。

その際カドックの書類上によく分からない液体が垂れて駄目にする。

 

こうか は ばつぐんだ!

 

カドックは気絶した。

 

「そうか・・・。牛若丸よくやった。だけど執務室に首を持ってくるなと言わなかっただろうか?」

 

「?はい!書類を書いている机の上に置くな!と言われましたので手に持っています!」

 

アシュトンは机の下で胃を抑える。

そろそろ色々なものが限界だろう。

 

「そうか・・・次からは持ってこなくていい。汁が垂れて書類が汚れるからな」

 

「そうですか・・・せっかくの手柄ですので主様に見てもらったのですが・・・分かりました。」

 

「分かってくれたならいい。やはりどんなに注意しても生首だとどうしても書類が汚れるからな・・・。」

 

「ですがどうして書類がこんなに多いのでしょうか主様。」

 

「いやあ最近は色々な仕事が多くてな、比例して書類もどんどん多くなって・・・」

 

「いえそれは知っているのですがどうして書類を多くするのですか?」

 

「どういうことだ?」

 

「いや書類を作ったり読む時間が勿体ないですし、保管するのに場所もかさばります。ですからなんで書類を作るのかと・・・覚えてしまえばいいではないですか。」

 

アシュトンの口の中に鉄の味が広がる。

これは吐血?いや歯を食いしばった際に少し切っただけだ。

 

「そうかそうか。すべて覚えれるなんて牛若丸は凄いなあ。でも皆は全部覚えることな・・・」

 

「凄いですか!?いやあ私天才ですから楽勝ですよ!」

 

アシュトンの右手に力がこもる。

尚、偶然だがアシュトンの令呪も右手である。

 

「そういうとこだぞ~牛若丸。」

 

「?何がですか主様?」

 

『自害せよ牛若丸。』

 

「リフジン!?」

 

牛若丸の突然の切腹にカドックと文官たちが全力のスタンディングオベーション。

テンションMAXである。

後日カドックに手作り弁当を持ってきたアナスタシアは

『うす暗い部屋の中で割腹自殺する少女の周りを囲んで狂喜乱舞する男たち(カドック含む)』という光景を見てSAN値チェックに失敗して寝込んでしまった。

 

「ひどいではないですか主様」

 

しばらくして当たり前のように入室してくる二人目の牛若丸。

一人目の遺体は泥と化して消えていく。

 

「あ~~牛若丸ってもしかして書類出来る?」

 

「?ええまあ。兄上と合流してから将を任せれられたりもしたので色々と書類を作って報告などしておりましたが・・・しかし先ほどの主様の目!まるで幕府を開いた直後の兄上のようでした・・・。懐かしい。」

 

「ティアマトママ~?牛若丸1ダース追加発注で!!」

 

牛若丸の思い出話?カットだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ティアマトに頼んで牛若丸(オルタ)を1ダースほど文官として働かせてみた。

お仕置きのつもりだったのだが、書類作るの面倒くさいなどブツブツ言いながらも精力的に働いて無事アシュトンたちの負担を緩和することに成功したのだった。

アシュトンはひどく複雑な表情をしていたが、牛若丸の活躍によって社畜から卒業できた事は事実。

彼女らを代表して一人の牛若丸を褒めて甘やかした。

具体的には膝枕してナデナデしつつ「流石俺の牛若丸!」「可愛い!」「有能!」「ずっと力になってくれ!」「美乳!」「下着を隠せ!」など甘い言葉を耳元で囁き続けた。

牛若丸は顔を朱に染めながら喜んで、より精力的に文官としても働くようになった。

後、服装が牛若丸(アサシン・オルタ)に変わった。

 

「主様!本日の仕事が完了しました。また褒めてください!」

 

 

今日も異聞帯は平和です。

 




アシュトン「負けたらギャグ要員」

カドック&アナスタシア「「!?」」


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その6

あけましておめでとうございます。
年末は体調を崩して、年始は仕事が忙しいです。
あととある温泉宿で舌切り雀助けるために働いたりしていたので更新が遅くなりました。


私の名前はアナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ。

正史ではない打ち切られた人類史、異聞帯のサーヴァントだ。

私はマスターであるカドックと共にカルデアと戦い、破れ、死んだ。

本来なら私はそこで終わり。

異聞帯のサーヴァントだから例え再び召喚されても、その私はワタシではない。

正直カドックを助けれて嬉しかったけどあの後カドックの行く末が気になっていた。

だけれどどういう運命のいたずらかワタシはワタシのまま再びこの世に現界することが出来た。

そしてカドックともう一度会うことが出来た。

カドックは信じられないと表情をしていたけど涙を流してワタシとの再会を喜んでくれた。

彼は認めてくれないけどあの時の彼は涙や鼻水で顔がグチャグチャだった。

我慢したけれど、人目が無ければきっとワタシも同じような表情をしただろう。

 

ワタシを蘇らせたのはこの第8の異聞帯の王ティアマト神、そしてイレギュラーのクリプター、アシュトン・レイナードだった。

 

「おはようアナスタシア君、早速だが君を蘇らせたのは俺たちだ。」

 

彼は見た目からして威圧感のある外見だった。

でもそれ以上に外道ではないけど、逆に必要ならどんな汚い手も平然と行える男だった。

 

「遠回しなのは苦手なんだ。端的に言うけど俺たちに協力してくれないか?対価は君とカドックの命だ。」

 

ワタシに否を言うことは出来なかった。

だってワタシと再会したカドックは本当に嬉しそうで、彼と再会したワタシは彼との生活を失うことがとても怖かったから。

 

 

 

しばらくの間この異聞帯で時を過ごした。

此処はロシアと違って暖かくて食べ物も多く、民はロシアから一緒に来たヤガも含めてみんな笑っていた。

ヴィイは暑すぎて嫌だと言っていたけれどワタシは雪の白色しかない前の異聞帯よりも好きになってしまっていた。

カドックも仕事が大変で文句ばかり言っていたけどロシアの時よりも気楽そうだった。

正直、この異聞帯に来てワタシ達は以前よりも幸福だったと思う。

でもワタシにはこちらに来た当初からワタシ達に対して、ワタシ達お互いを人質にとるアシュトン・レイナードへの不信を拭うことが出来なかった。

 

「君にある重要な仕事を任せたい。」

 

「どうせ拒否権なんてないのでしょうけど、どういうつもりかしら?」

 

この異聞帯でのカドックとの生活も慣れてきて手放すには難しくなってきたころ、ワタシはアシュトンのもとへ呼び出された。

彼もワタシが自分に対して不信を感じていることは知っているはず。

彼の話が本当ならばそんな重要なことをワタシに任せるなんてどういうつもりだろう?

 

「ふむ。言葉の通りだよ。俺に君の力を貸してほしいんだ。人手不足でね。」

 

「そうじゃない。ワタシが貴方に対していい感情を持っていないことは分かっているでしょう?そんなワタシを排除するならまだしも重要な案件を任せるなんてどういうつもり?」

 

「・・・う~ん。初対面の時の態度が悪すぎたか?言い訳になるがあの頃も今と同様仕事に忙殺されててね。San値が足りなかったんだ。俺は・・・そう、臆病でね。カルデアのマスターのように対面して大した時間も経過していない存在を信じることなんて出来やしない。だから俺は絶対的な枷を用意することにしているんだ。誰が相手でもね。」

 

「君やカドックに関してはお互いの存在がお互いの枷だ。まあ・・・分かっているだろう?一度失うはずのモノをもう一度得た君は・・・二度失うことは耐えられない。」

 

「⁉・・・。」

 

アシュトンは昏く嗤う。

 

「そんなわけだから、キッチリカドックという枷を付けることのできた君は裏切らないだろ?だから信じることが出来るようになった君に任せたい仕事があるんだよ。」

 

アシュトンはその厳つい外見から豪快な人物に見られることが多い。

アシュトンはそのノリの良さから臆病さとは無縁の人物と思われることが多い。

だが一度死んで、さらに爆殺により死の淵を味わった人間が無条件で他者を信じることが出来るほど能天気だろうか?

答えは否。

解凍されて蘇ってから、彼は他者に対してまず自分を裏切らないように保険を設けるようになった。特に自分の力では対処しようのない相手、サーヴァントに対しては。

尚、これの対象外は無条件に己を救ってくれたティアマトか、縛るべき枷がない癖に勝手に泥から生えてきて協力してくるギルガメッシュだけである。

 

「ああどうしてワタシが貴方を警戒していたのかよく分かったわ。同族嫌悪なのね。」

 

ワタシはやっと理解した。

生前自分と家族の幸せは処刑により幻のように唐突に終わった。

だからワタシもアシュトン同様、本質的に易々と他者を許容できなくなっているのだ。

だから自分にとって心許せるカドックのような存在がアシュトンにとってのティアマトであり、それを理解しているからこそアシュトンはワタシが自分を裏切らないという確信を持ったのだ。

 

「やっと少しは貴方を理解することが出来たわ。でも似ているだけね。ワタシはカドックを待っているだけだった。でも貴方は枷を付けるという酷く後ろ向きな方法だけれど他者を信じようとしているのね。」

 

「・・・う~んそうなのか?ただ腹黒いだけのような気もするけど・・・。」

 

「ええきっとそうよ。」

 

アシュトンは相変わらず厳つい顔で首を傾げている。

彼は間違いなく私たちが裏切れば冷酷に私たちを切り捨てるだろうし、自分やティアマトを守るためでもそうするだろう。

だけどそうでなければきっと彼は私たちに応え続けてくれる。

何故かそんな気がした。

 

「?ま、まあよく分からないが好感度が上がったのはいいことだ。最近は好感度が足りないとBADENDまで一直線だったりすることも多いしカドックがいるからヤンデレルートもないはず・・・だよね?」

 

「ちょっと何を言っているのか分からないわ。それで?」

 

「え?」

 

「それでワタシに何をさせたいの?内容にもよるけど協力するわ。」

 

「ええ・・・。態度が変わり過ぎて不安なんですけど。とりあえず俺が君に任せたい仕事は大したことじゃない。それは・・・」

 

「それは?」

 

「皇女である君に頼むのもアレだがティアマトの侍女、というか彼女の相手をして上げてほしいんだ。」

 

「?・・・ああ!つまり仕事の忙しいあなたの代わりに彼女が寂しくしている。それが心配だからワタシが彼女を慰めればいいのね!?」

 

「はあ?何故だ?」

 

「?」

 

コテンと首を曲げて、小鳥のように可愛らしいアナスタシア

 

「?」

 

コキリと首を曲げて、これからジャングルの奥地でプレデターと戦い始めそうなアシュトン。

 

「どういうこと?」

 

「ティアマトが寂しがってるから相手をするというのは合っている。だが彼女が寂しがってメソメソして病むようなタマじゃあない。彼女の場合、寂しさを紛らわせるために新種族生み出して俺と賢王とカドックのライフポイントをガリガリ削って、ついでに世界がアカンことになって剪定待ったなしになるんだ。」

 

「元人類悪は伊達じゃないのね・・・。」

 

「ああ本当に伊達じゃないんだ・・・。俺超頑張ったんだ。」

 

「・・・ちょっと用事を思い出したから席を外すわ。」

 

ワタシはスキルにないはずの直感を感じた。

何か嫌な予感がしたのだ。

その場で180度回転して部屋から脱出しようとしたのだが、振り向くとソコには扉の前で無言で宝具を展開しているスパルタ兵。

しまった!謀れた!

 

「逃げるつもりか?世界を救う偉業だぞ?カドックだったらきっと人類裏切ってストレスで目の下に隈作ってでもきっとヤルぞ?」

 

ソレはロシアで半ば病んでた頃のカドックまんまじゃない!?

 

「こんなの偉業じゃないわ、ただの罰ゲームよ!?」

 

「だったらゲームを楽しめばいいだろ!?」

 

翌日からワタシはティアマトの侍女として彼女が暇を持て余さな、いや寂しがらないよう全力で彼女と接した。

放っておくとロクなこ、じゃなかった余計、いや暇を持て余す神々の遊びをし始めるので超頑張った。

 




そろそろ北欧にいきたい。
けれど大令呪なしでスルトって倒せない気がしてならない今日この頃。

オフェリアの死亡フラグ +1


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その7

冷静に考えると大地母神のティアマトって世界絶対滅ぼすマンのスルトと相性最悪なんじゃないかなと思った。
逆に始皇帝は初期は姿が丸見えだから、ティアマトはもちろん、エヌマエリシュ一発で終わりそう。



地球が漂白されて数か月が経過した今日この頃。

一時期完全に労働の暗黒面に堕ちていたアシュトンは、アナスタシアの献身により問題(新種誕生)の低減に努め、またオルタ牛若丸システムによってマンパワーを得ることで人間らしい生活を取り戻していた。

ここ最近など相変わらず残業しているがなんと休日を確保出来ているのだ。

ただ余りに久しぶりの休暇に、その前日にアシュトンが成人男性のガチ泣きを披露して茨木童子から菓子を恵まれるという心温まるエピソードがあったほどだ。

まあそんなこんなで余裕が出てきたアシュトンは更に仕事を円滑に進めるためにも久しぶりに人員のスカウト(拉致)をしようと考えた。

尚、行先はビビッと電波を受信して北欧の異聞帯、つまり他のクリプター達の中で一番常識人っぽい(事務処理能力の高そうな)オフェリアの管轄するエリアである。

決して他の連中がヤバそうだとか、仕事でき無さそうとか、真っ当な魔術師過ぎて酷い目に合いそうだとか、そんな理由ではない。

 

「そんなわけで北欧の異聞帯にスカウト(拉致)に行こうかと思うんだけど誰か着いてきてくれないか?」

 

アシュトンは己の異聞帯に存在する英霊たちにそう声をかけた。

その結果英霊たちによる熾烈な話し合い(物理)の末、以下のメンバーが今回北欧へいくこととなった。

 

アシュトン

ギルガメッシュ

エルキドゥ(キングゥ)

小太郎

天草四郎

武蔵坊弁慶

レオニダス

 

むさ苦しい、そして汗臭いメンツだ。

しいて言うならキングゥが紅一点になるのだろうか?

なんともfateに有るまじき女子率の低さであるが、これは話し合い(物理)と比較的バビロニアを離れても業務が滞らないメンツを集めたら何故かこうなっただけである。

 

「じゃあイシュタルさんや俺たちを北欧まで飛ばしてくれ。目印は・・・この前此処に来たコヤンスカヤの反応を辿ってくれれば行けると思う。確か次は北欧に行くって言ってたし。」

 

「分かったわ。最速で飛ばしてあげるから感謝しなさいよ?」

 

「フン我一人ならばヴィマーナで行けるのだがな。」

 

「ギルガメッシュ気持ちは分かるけど僕たち以外はそんな速度で動けないのだから一応形の上でも感謝しておこうよ。」

 

(ピキピキ)

 

イシュタルが愛の女神がしちゃいけないような顔をしているが気にしない方向で準備を進めるアシュトン。

 

「マアンナよ!こいつ等をかの地へ飛ばしなさい!」

 

女神の船によりアシュトン達一行(スカウト隊)は金星経由で北欧の地に降り立った。

 

同時刻

 

「そ、れは…まさか…!」

 

「真名シグルド!かのジークフリードと並ぶ、北欧最強の英霊の一騎!」

 

「竜殺しの英雄…!」

 

一瞬の浮遊感の後、アシュトンは一面の銀世界に立っていた。

先日のロシアに比べれば暖かいが念のために防寒具を着てきてよかったと思った。

唯の人間にとっては十分脅威だ。

北欧=寒いというイメージだけで用意してみたがドンピシャである。

アシュトンは己の予想に満足しながら改めて周囲を見回した。

 

「…なんか巨人がいるな。この異聞帯では普通に巨人がいるんだな。」

 

「そうだね。でも見る限りそこまで上位の存在とは思えないし服装から見ても技術があるようにも思えない。」

 

「うむ。だがキングゥよ、我やお前と違い、並みの英霊では負けることはなくともそこそこ手古摺る程度には頑健そうだ。」

 

「…そうですね。確かに宝具を除けば火力のない私には少し厄介ですね。悪霊ならば洗礼などで得手なのですが。」

 

「僕もです。斥候や工作方面でアシュトン殿のお役に立ちましょう。」

 

「逆に拙僧やレオニダスとは相性がいいでしょうな。見る限り物理は効きそうです。」

 

「そうですね。ところで巨人と戦っているのはマシュ殿ではないですか?良い盾捌きです。」

 

「本当だ、此処でカルデアと会うとは思わなかった。とりあえず今のところ敵対はするつもり無いんで注意してくれ。…なんかごっつい武装になったなあ。ホームズも戦ってるし。」

 

「あの女は…?ほう!あれはぐだ男の同位体のようだぞ!」

 

「へえ?こちらの世界では女性なのですね。性別の違いとは…些細なことかもしれませんが其処が第七特異点の明暗を分けたのでしょうか?」

 

(男女の違い…。男性が失敗、女性英霊、う、頭が…!?…まさか主人公の女性関係が第七特異点の明暗分けたとかだったら嫌だな。…ないよね?)

 

アシュトンはふと嫌な予想が浮かぶ。

だが史実でも色恋沙汰で英雄や権力者がその命を落とすことは珍しくない。

ある意味それも人理だろう。

まさか…そんなことないよね…?

アシュトンは脳裏に浮かんだ残酷な予想を振り払う。

 

「少し距離を置こう。」

 

 

十分後、危なげなくカルデア勢は巨人たちを打倒した。

その間、アシュトンは小太郎を残し距離をとった。

そしてギルガメッシュの出した『人類最古のテント』なる宝物で拠点を作成、隠蔽する。

 

『アシュトン殿、巨人は打倒しましたが続いて何か強大な存在が接近してきています!おそらく大英雄クラス!僕だけでは撃退は難しいですがどうしますか?』

 

「ギリギリまで隠れるんだ。危なくなったら救助して恩を売ろう。倒されるなら…問題ないな。彼らは『主人公』でなかったということが分かっただけで特に問題ない。みんなもそれで構わないか?特にギルガメッシュ。」

 

「うむ構わぬ。今の我はお前とあの異聞帯の行く先が気になるだけの見届け人だ。物語に読み手が過剰に干渉するものではないだろう。貴様の好きにせよ。」

 

「…唐突に怒ってエヌマ・エリシュしない?」

 

「くどいぞ!たわけめ!それに今の霊基ならばエヌマ・エリシュではなく『の号砲(メラム・ディンギル)』だ!」

 

「大丈夫。イザとなったら僕が『人よ、神を繋ぎとめよう(エヌマ・エリシュ)』で止めるから。僕も君に死なれてあの異聞帯が無くなるのは困るしね。それに母さんもあの異聞帯での生活が気に入っているみたいだしね。」

 

「ゴルゴーンか…。そういえば俺は最近彼女を見てないんだが何してるんだ?」

 

「母さんはサルページした幼年期時の霊基を取り込んですこぶる機嫌がいい。ランクは低いけど神性を取り戻し、何より母さん的には理想的だった少女時代の姿にもなれるようになって毎日鏡の前でポージングしてるよ。」

 

「…へ、へえ。」

 

(我のセイバーがすべての同位体(プロト・アーサーは除く)と合体すれば最強ではないか?)

 

アシュトン達が世間話をしていると小太郎から情報が届き、同時にテントの中心に据えられた謎アイテムによりその情報がスカウト隊に共有される。

 

「シグルドってあんな近未来的な鉄仮面してる逸話あったけ?」

 

「無い、と思いますが異聞帯ですからそういう変化もあるのでは?私の真名看破により彼は間違いなくシグルドです。」

 

「しかしさすがは大英雄。凄まじい強さです。しかもあの車両をひっくり返す腕力。相当鍛えたのでしょう!健全なる魂は健全なる筋肉にこそ宿るのです!」

 

映像の中では鉄仮面を付けた不審人物が腕力のみで大きな車両を投げ飛ばしている。

朧げな記憶だがカルデアから脱出した際にのっていた車両だろう。

一瞬空間に溶け込むように姿が薄くなったがシグルドが力ずくで引っ張り出すと普通の姿に戻った。

 

「今のは…?」

 

「アレは文字通り世界から消えようとしたのだろう。仕組みは分からんがカルデアは世界から消えたり現れたりすることで嵐の壁を乗り越えているのだ。我らのように多種多様な宝具や権能を持っているわけではないのに良くやるものよ。」

 

「さすがはカルデアといったところか。ティアマトに敗北したとはいえ第七特異点までたどり着いたんだからね。」

 

「キングゥ殿。拙僧牛若丸様に討たれたためカルデアの敗北を目にしておりませぬ。ですがあのカルデアは人理修復を成し遂げたカルデアです。残党とはいえマスターが生存している以上警戒を引き上げるべきでしょう。」

 

「確かに。アシュトンの言っていた通りあの第七特異点を勝利した彼らは油断ならないね。慢心してはいけないね。」

 

キングゥの発した慢心という言葉を聞いて全員がギルガメッシュを見る。

 

「…何故全員我を見る。」

 

だってねえ?

 

『カルデアとシグルドが交戦。ホームズが負傷、致命傷ではないですがいつ消えてもおかしくないです。…シグルドは社内に侵入し、マスターも追って言った模様。どうしますか?』

 

どうするべきか。

 

「…とりあえず罠仕掛けて隠れておいてくれ。シグルドが出てきて罠で動きが止まったら、俺たちで正々堂々と大勢でフクロにするから。もしシグルドを逃がした場合は、小太郎がこっそり追跡してくれ。」

 

『了解。もしカルデアが出てきた場合は?』

 

「普通に接触して。後は高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応しよう。」

 

『つまり行き当たりばったりということですね、分かります。』

 

 

 

 

 

 

 

 




書くにあたって武蔵坊弁慶のスキルを調べたけど、組み合わせ次第で凄く悪用できそうな気がする。

武蔵坊弁慶の企画段階宝具
八つ道具
対戦相手の英霊が持つ宝具を、七ツ道具の8つめとして奪い取る。
こうして奪い取った宝具は、初めて見る武器でも使いこなすことが可能で、数ラウンド後には【持ち主のマスターに投げ返してダメージを与える。】
宝具を手放す理由は能力的な制限というより、しばらくすると彼がその宝具の使い心地に飽きることにある。

八つ道具、魔剣グラム、オフェリア…うっ頭が…


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