猟犬の首輪 (ノムリ)
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曾孫救出

 片手にペラペラのメモを持ちながら、スラム街を歩く少年が一人。

「何が、君なら直ぐに見つけられるだろうだ。いくら俺がスラム出身だからって、こんな広い街から少女一人を見つけるなんて簡単な訳がないだろ」

 足元に転がっていた空き缶に八つ当たりして蹴飛ばすが、気分は晴れない。

 自分の上司に、報酬こそでるが、ある少女の確保を頼まれた。少女の名前は峰・理子・リュパン。世界的のも有名な怪盗リュパンの曾孫で、数日前まで監禁されていたらしい。

 俺の上司、教授とも呼ばれているが、本名はシャーロック・ホームズ本人である。そのシャーロックは異常な推理力によって未来予知とすら言える推理『条理予知(コグニス)』によって算出されて未来によれば、このスラム街に息を潜めているそうだ。

 

「それを俺に頼むかよ」

 メモにはリュパンの曾孫の特徴がいくつか書かれている。

 金髪、青い装飾のついた十字架を持っている、痩せている。

「十字架以外はマトモな情報じゃないな」

 メモをグシャグシャにしながら上着のポケットにしまい。手当たり次第に道を進んでいく。 

 

 道に散乱する食べかけや泥のついたボロ布。

 これらは街の出したゴミであり、同時にスラムに住む子供や老人にとっては無くてはならないものでもある。

 路地を進む度にボロ布を纏って地べたに座り込んでいる子供が無数におり、その目には生気はなく。ただゴミを漁っている生きているだけ。いや、生きているといより、ただ死んでいないだけ、と表現するべきかもしれない。

 

「足掻かない限りは此処から抜け出すこともできないって言うのによ」

 それは過去の自分。スラムで生まれ育ち、拾ったナイフと己の拳一つで世界に名を連ねる人外ランキングに名を記するほどに実力をつけた。

 

「んな、ことより、リュパンの曾孫を探さないとな。スラムに来て数日しか経ってなくて、雨露しのげる場所…ならら、あそこか」

  

 

 

 

 

 スラムでゴミを集めて自分の家を作らずに雨露をしのげる場所は街の構造にもよるが、そう多くはない。その一つは、トンネルだ。本来は車が通るのが普通の場所だが車が通ることは滅多になく、スラムに生きる者たちのたまり場になっている。

「居るなら此処と、あとは~っと。お!金髪発見!」

 視線の先には、頭からボロ布を被っているが、泥のついた金髪が僅かながらにフードから覗けた少女。

「なあ、君」

「…なに」

「君ってさ。峰・理子・リュパンって名前じゃないかな?」

 そう口にした瞬間、少女はいきなり立ち上がると、走り出そうとした。俺が歩いて追いつけるような速さで左右に揺れながら必死に走り、そしてドシャッと前のめりにこけた。

 シャーロックは監禁されていた、と言っていたからもしかしたら思っていたけど、やっぱりまもとな食事はしてないみたいだな。体力が無さすぎる

 

「ぅ……ぅぐ…に、逃げ」

 近くまで行くと、起き上ろうとしているようだが、体は上がっておらず起き上がることすらできないようだ。

「取って食おうって訳でもないんだから話しぐらい聞けよ」

 地面に倒れいるリュパンの曾孫を持ち上げ、子供を抱くように胸に抱え込む。

「よっと。まずは、飯だな。御粥なら出している店があったし、そこで話をしよう」

 リュパンの曾孫を抱えたまま裏路地を抜け、表通りで営業していた御粥を一杯購入し、リュパンの曾孫に手渡した。

「食いながらでいいから話は聞けよ」

 リュパンの曾孫は首を縦に振ると、御粥をゆっくりと口に運んだ。

「俺は上司の依頼でお前の確保を頼まれた。別に危ない事なんて特になし、大丈夫だと思うんだけどって、聞いてる?」

 器を傾けて、ゴクゴクと御粥を飲み干していくリュパンの曾孫。

 うん、聞いてないね。

 

「このまま連れていった方が早いか」

 ポケットからスマホを取り出し、シャーロックに電話をかけようと思っていると画面が変わり。電話が来た―――シャーロックからだ。

 

 電話に出ると第一声が、

『無事に見つけられて見たいだね』

「一言目がそれですか、この野郎」

『ご苦労だったね、では、早速だが連れて帰ってきてくれと言いたい所なのだが。峰くんを監禁していた犯人がその街に向かっているようでね。その人物に僕は会いたいと思っているんだ。今からメールする座標まで上手く誘導してくれ』

 プチ、と言いたいことだけ言って電話は切られ、メールが届いた。メールを開くと衛星から撮影した写真と、北緯と経度も乗っている。

 随分と近いな。これなら数十分もかからないな。

 

「あの迷惑探偵は何時になったら死んでくれるのだろう」

 スマホの電源を切り、ポケットにしまう。向かい側の席に座るリュパンの曾孫に視線を移すとリュパンの曾孫は俺の後ろの”何か”を指さしていた。

 俺もそれにつられて、後ろを振り返ろとそこに居たのは狼だ。しかも一匹ではない、まるで狩りをする狼のように数十匹の群れを成してそこに居たのだ。

 

「曾孫!掴まれ!」

 リュパンの曾孫と口にする時間する惜しい。

 机を倒し、曾孫を抱えて走り出すと、後ろの狼の群れも同時に走り出した。

「ガゥ!」

「…理子を追ってきたんだ…ブラドが来てるんだ」

 俺の上着を強く握りしめながらそう口にする曾孫。

 

「リュパって長いな。おい、理子。そのブラド?って奴の事を教えろ。俺の上司がこっちに向かってるから時間稼ぐぞ」

 

「わ、わかった!ブラドは吸血鬼なの」

「吸血鬼!?んな、漫画じゃあるまし」

「本物の吸血鬼なの!見れば一目でわかるよ」

 100年は生きた名探偵の次は、吸血鬼とかありですか。



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化け物狩り

 右手で理子を抱え、左手で脇のホルスターから抜いたマカロフを撃ち、弾が無くなれば直ぐに銃倉を入れ替えて、間髪入れずに撃ち続ける。とにかく撃ち続けているが一向に狼の数は減る様子がない。

 

「ブラドって奴は猛獣使いの仕事でやってるのかよ!」

 

 前方を歩いている人たちは、俺の後ろの狼の群れを見て慌てて避けて道を開けていく。この街では、銃の撃ち合いなんて別に珍しくもないが、狼の群れは珍しいようだ。

 

「撃っても無駄だな。無駄弾を使うより、こっちの方が効果的か」

 店先で掴み取った料理酒の入った瓶を狼たちに向かって投げつけ、大鍋を加熱していた薪を掴み取みとった。理子は俺の行動を見て、素早く頭を胸に埋めている。

 

「狼の丸焼きってな!」

 薪をアルコールを被った狼の群れに投げつける。文字通り、狼たちは炎に包まれ。熱に暴れる狼が隣の狼に衝突して引火、それをネズミ算に繰り返していく。あっという間に群れは火だるまとなり、息絶える狼も出てきた。それでもやはり、殺しきれぬ狼も出てくる。

 体に火傷を負いながら未だに、俺と理子を追うことを諦めない狼の群れ。

 

「倒すより、目的地を目指した方がいいな。っよ、っほっと」

 再び、走り出す。

 屋台を足場に家屋の屋根を上がり、後を追って来ようとウロチョロしている狼の群れを放置して目的地へと向かう。屋根を伝い、地上を移動するよりも早く移動していく

 

「ねぇ!ねぇってば!狼が追ってきたよ」

「あ?」

 後ろを振り返ると、俺と同じように屋台を足場に無理やり壁を登ってきたようだ。

 目的地は走っていける距離だが、狼の群れを引き連れていくわけにもいかない。いや、シャーロックなら何とかするだろうが、理子が危険だ。

 

「しゃーないが、シャーロックに任せるとするか」

 無駄弾による出費と理子を守りながら戦うという危険を避けるために、シャーロックに丸投げすることを選択した。

 

 

 

@@@

 

 

 

 途中で見知らぬ人から奪い取ったバイクで郊外を独走していく。

 目的地は既に見えている。問題はやはり後ろに追ってくる狼の群れだ。

 此処に来るまで何度も妨害をし、量は減らしたがやはり、理子を守りながら戦うのは無謀でしかない。

 

「ねぇ、あの建物じゃない?」

 バイクを運転する為に右腕から左腕に抱えている理子が指さした先にあったのは廃れた教会。

「到着だ!居てくれよシャーロック!」

 体重を体を移動させてスライディングしながら速度を落とす。バイクは地面に擦れて火花を散らし、傷だらけになっているが俺のじゃないから問題ない。

 

 バイクを乗り捨て。閉まっていた扉を開ける手間すら惜しみ、蹴って開ける。中に飛び込むと中には20代後半の若い見た目の男性が立っている。

「シャーロック!」

「来たようだね、シアンくん」

 

 後ろの開けた扉から狼の群れは教会の中になだれ込み、あっという間に俺と理子、シャーロックを囲んだ。

「ブラドの手下だね。手を出さない所を見ると、ブラドが来ているようだね」

「ゲババババ!その通りだ!俺様はもう居るぜ」

 妙な笑い声を上げながら天井から降ってきたのは、毛むくじゃらの化け物。

 

「吸血鬼ってより、狼男だろ」

 そう一人でツッコミを入れていると、腕の中でプルプルと震えている理子に気が付いた。震える理子を隠すように着用していたマントを脱いて理子を包み込む。

「そんなに怖がるなよ。俺が守ってやるからさ」

「……うん…」

 小さく頷いた理子。

 

「ゲババババ!そんな出来損ないを守るだって!四世にはな、リュパンの遺伝子なんて受け継がれていない。ただ欠陥品だ!」

 大口を開けながら高笑いしているブラドに向かって、マカロフを素早く抜き口の中に銃弾を撃ち込んだ。

「ゲバッ!?クソが、何しやがる」

 赤い目で睨んでくるブラドに向かって、鼻で笑いながら返した。

 

「っは!大口開けてたから撃ってほしいのかと思ってよ!」

「人間風情が!一滴残らず血を抜いて壁に串刺しにしてオブジェにしてやるぜ!」

「理子、降りろ。シャーロック、あいつは俺が潰す。理子を見ておいてくれ」

 抱えていた理子を下ろし、シャーロックに預けると、シャーロックは了解してくれた。

 

「…帰ってこなきゃやだよ」

「大丈夫だよ、ちゃんと帰ってくるからさ。んじゃ野郎か、コウモリ野郎」 

 腰に左右に下げたケースからマチェットを抜き、左右の手に握る。

 

 

 

 こうして、数年後に猟犬(ハウンド)と呼ばれるようになる殺し屋とブラド(吸血鬼)との闘いが始まった。 

   



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グレンデルの少女

「~~っ!難しいよ!シアン!」

「違う違う、そうじゃない。腕で衝撃を緩和してたら腕を痛めるだろ。全身で衝撃を緩和するように撃つんだよ」

 

 射撃レーンに立ち。拳銃の練習をしている理子の間違った姿勢を正してやる。

 理子が使っているのはワルサーP99。稀に耐久性に問題がある欠陥品が売られる事があるが、銃を買ったイ・ウーに出入りしている武器商人のココに通常の1.5倍の値段を払っていいやつを売ってもらった。

 

 弾倉を切り替えて、発砲していく理子。 

 ブラドとの闘いは俺の勝利で幕を下ろし、理子は俺の庇護下に入ることでブラドから守られている状態にある。

 イ・ウーに正式に加入した理子は、まともな衣、食、住が与えられ。人並の生活を送っている。問題があるとしたら、イ・ウーに居た夾竹桃という奴のせいで、理子がオタクとなったくらいか。

 

「見て、見てよ!当たったよ!」

「これが俺と同い年か。理子が小さいのか、俺がデカいのか」

シャーロックが言うには俺と理子は同い年らしいが、まともな食事を与えられなかった理子はスラム育ちの俺より背は低い。

 ねぇ、ねぇ、服を引っ張り構ってもらえない事に不安を感じている理子の頭に手を乗せる。

 理子は、頭を傾け、疑問符を浮かべている。

「なに?」

「十字架の金属の事は誰にも話すなよ。ピンチの時以外は絶対に使うな、基本はナイフと銃で対処しろ」

 わかった、と頷く理子。

 理子のもっていた親の形見の十字架についたいて蒼色の金属は色金と言い、超能力を所有者に与える力があるそうだ。シャーロックに直接聞いたから、確かな情報だろう。

 

「そんじゃ、次はナイフだな」

「理子、ナイフは苦手だよ」

「まあ、普通に使える位になればいいよ。自分にとって何が必要で、何が必要じゃないか。何が得意なのか、何が不得意なのか。自分で自分を見極めておくといいぞ」

 

 

 

 

@@@

 

 

 理子がイ・ウーに所属して数年。

 シアンが仕事でイ・ウーの移動基地である原子力潜水艦ボストーク号にはおらず、理子、ジャンヌ、夾竹桃の三名によってプチ女子会が開かれていた。

 

「ねぇ、二人はシアンと仲いいの。」

「急にどうしたの理子。仲が良いのは貴方でしょ、一緒の布団で寝てることもあるじゃない」

 黒髪のストレートに黒いセーラー服、左手には白い手袋をつけて、煙管を口に咥えている夾竹桃が、理子にそう返した。

 そうなのか!と一人銀髪を高い位置でポニーテールにしているジャンヌ・ダルクの子孫、ジャンヌは驚いているが二人には無視され、話が進んでいた。

「それはさ、理子が寂しくなったり、勝手に潜り込んでるだけだよ。シアンは自分の事話してくれないから二人は理子より付き合い長いでしょ」

 理子は膝を抱えて、憧れであり、同時に異性として好意を寄せる人物の事を少ししか知らない事を、少しばかり思うところがあった。

 

「そうね。私が知っていることは、シアンがスラム出身という事かしら」

「そうなの!」

「それは、私も初耳だ」

「スラムで盗みをしながら、ナイフの使い方を我流で学習してその後は安い金で殺し屋をしていたそうよ。だから戦う時は銃より愛用のマチェットか素手が多いでしょ。あとは、その名残なのか毒にも強いし、食べ物を無駄にすると怒るくらいかしら。それにお金の無駄遣いも嫌みたいね、報酬の大半は貯金しているそうよ」

 机に置いてあった紅茶を口に運びながら話を区切った夾竹桃。

 

「確かに模擬戦の時はマチェットかナイフを使っている事が多いな。二刀のマチェットは相手にするのが厄介だからよく覚えているぞ。だが、理子の服の大半はシアンが買ったではなかったか?」

「うん、銃もナイフもそうだよ。服以外にも靴とかも」

「それは、大事にされているってことでしょ」

 理子は大事にされているという言葉に顔を赤くしていた。

  

 夾竹桃のシアン情報が終わり、必然的にジャンヌの番へと移った。

「次は私か。私が知っている事か…あいつに部下が居る程度か」

「「部下?」」

 理子と夾竹桃は初めての情報に同時に聞き返してしまった。

 

「ああ、セーラや私と同様に英雄や戦士の子孫や忍者、軍人、暗殺者など多くの部下が居るらしい。詳しくは知らないがな」

 新しい情報は部下について。

 それも偉人の子孫の部下。イ・ウーでは理子やジャンヌ、セーラなどは勿論。ジェヴォーダンの獣の血を引くリサ・アヴェ・デュ・アンクのような特異な存在もいる。

「それは誰から聞いたのジャンヌ」

「リサが言っていた。どうもリサの知り合いにベオウルフの物語に出てくるグレンデルの血を引く少女が居て、シアン経由で友人になったと言っていた」

 この際、グレンデルの血を引いてるという情報は置いておくとして、シアンの部下が少女であるという事が問題だ。

 好意を抱いている人の傍に顔も名前も知らない女が居れば嫉妬するのは必然であり、シアンに心酔している理子ならば常人の抱く嫉妬より一層、濃度の濃い嫉妬を抱くことだろう、と夾竹桃とジャンヌは考えていたが予想に反してはそんな事はないようだ。

 

「そっか、シアンにも背中を任せられる部下がいるんだ」

 そう静かに口にした理子。

 その顔はまさに恋する乙女の顔だ、と夾竹桃とジャンヌは口には出さなかったがそう思った。

 

 

@@@

 

 

「へっくしゅ!」

「シアン、風邪?」

 

 ビルの屋上の端っこに座りながらビルの最上階に陣取っているマフィアの為だ。

 

 横に居るのは、同時刻別の場所で件の会話に出ていたグレンデルの血筋の少女―――リュカ・アーデル。

 濃い茶髪にキリっとした目尻、金色の瞳と首に付けたピンク色の首輪、両手に専用の爪が仕込まれて籠手に腕を通りながら俺の心配をしてきた。

 

「風邪はないだろ」

「だよね~♪そんな厚着してるんだし」

 半袖の上からノースリーブのジャケットにハーフパンツにミリタリーブーツ、という冬にはたって寒そうな服に対して俺は、口元まで隠すくらい高い襟の防弾性の黒のマウンテンパーカーと昔ながらの多機能ゴーグル。

 

「お前は薄着すぎないか。いくら冬国生まれって言っても限度があるだろ」

 薄着というより、腕は肩から指先まで丸見え。ブーツも長いとはいえ防寒対策なんてしていない。着用している本人よりも見ているこっちの方が冷えてくる。

 

「大丈夫だよ。仕事着は今、発注してるから。これは私の私服だしね♪」

 ニシシ、と尖った犬歯を見せながら笑うリュカ。

 いつ見ても太陽のようにま眩しい笑顔だ。

 

「さて、仕事を始めようか」

「ん~、りょうか~い!」

 そう言いながら、体操をしてストレッチをん~、と少しとヒョコ!と頭から獣の耳とお尻に当たりから獣の尻尾が出てきた

 っふ、と目を離すと数秒前に居た立ち位置にリュカの姿はなくなっていた。下からいっちば~ん!、と大声が聞こえてくるから恐らくは飛び降りたのだろう。対した問題じゃない、リュカには、とうよりグレンデルの血の力なのか。”闇にに紛れる”という能力を所持しているからだ。

 

 ブラドの娘のヒルダも地面や壁を移動したりできるが、あれは超能力だ。恐らくは此方も超能力なのだが実体はさっぱりだし、リュカに聞いても感覚で行っているらしく。こーやって暗闇を泳いでるような感じだよ、と説明をしてくれた。

 

「元気なこって」

 俺も屋上にあった鉄柱にワイヤーを結び付け、ビルの壁を伝いながら最上階の部屋に繋がっている窓まで近づいてく。中を覗くと、男たちは酒盛りをしているようだ。ワインやビールをラッパ飲みしながらゲラゲラと笑っている姿が見える。

 ふと、部屋の隅の影に視線を移すと、鈍く光る金色の瞳が一つ。リュカのものだ。すでに暗闇を通じて中に侵入しているようだ。

 

 仕事が早いな。

 ハンドサインで俺が先に動く事を伝えると僅かに上下した金色の瞳。

 目だけを動かして敵の数を確認していく。1、2、3、4、全部で30か。

 

 両足で壁を蹴り反動で振り子の要領で窓ガラスにドロップキックをかました。勿論、窓ガラスは砕け、部屋に中に突入。部屋の中にいた男たちは数秒ほど固まっていたが、すぐに机の上やショルダーホルスターから銃を抜くが、それよりも早く動く影があったリュカだ。

 獲物を駆る獣の如く。二脚だけではなく二腕を器用に移動と方向転換に使い部屋を縦横無人に駆け回る。

 リュカの武器は籠手。

 メリケンサックやガントレットとは違い、攻撃よりも敵を殴る手の甲や腕の部分を防御する事をメインとした防具。

 リュカの籠手は特別性で軽くて丈夫なのは勿論、両方とも収納可能な爪が仕込まれている。だが、いまは殴ったり蹴ったりしているだけだ。

 

「こっちも働かないとな」

 腰にホルスターからマチェットを抜く。

「おっと」 

 顔目掛けて飛んできた銃弾をマチェットの側面で逸らし、左手に持ったマチェットを投げた。

 回転しながら飛んで行ったマチェットは見事に男の頭にグシャッ!と効果音がなるような感じで突き刺さった。頭にマチェットが突き刺さった男は膝から崩れ落ち、周りにいた男たちも数歩下がり、逃げようとしるも背後からリュカに殴られて背骨が折れたのか豪快にくの字に折れ曲がった。

 

 うっわ、あれ折れてるよ…絶対、折れてるよ。

 速度と体重の拳は凶器となりうる。もちろん、リュカの体重は軽い、けど、速度がそれ補っている。

 背骨の折られて男(死体)は、リュカに片足を掴まれると、まるで棍棒の如く振り回しながら周りいた男たちを死体で殴り倒していく。

 

 俺も死体に突き刺さったままのマチェットを引き抜き、一振りして血を刃から払う。

 

 敵は一人残らず倒したいた。倒したのは主にリュカだが。

 

「リュカ、全員倒したぞ。教授に連絡するから帰る準備しろよ」

「わふー、手洗ってくる」

 片手に持っていた上半身があらぬ方向を向いた死体を投げ捨て、手を洗いに行ってしまった。

 

 俺も金とか銃とか抜いて帰らないと。

 マフィアの財布にはどうやって手に入れたのか聞きたくもないお金と人を殺すのに使っていたであろう銃を持ってきたリュックにとにかく突っ込んでいく。

 財布から抜き取ったお金は勿論。銃も武器商人に売ればお金になって返ってくる。

 

 拳銃や刀剣、防弾性の服は特にお金が掛かる。それこそ質のいい拳銃を買うのはそれなりに決意がいる。

「結構な臨時収入も入ったし、リュカに何か旨いものでも奢るか」

 大量の札束を財布に入れて、手を洗っているであろうリュカに大声で質問した。

 

「リュカー臨時収入が入った。好きなもの奢ってやるぞー」

「わふっ~!クレープ!」

 雄たけびが聞こえてきた。

 質問をして10秒ほど間が空いて返ってきた返答は予想していたものだ。

 

 



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人口天才との対決

 あの狸ジジイ(シャーロック)!なにが簡単に仕事だよ!

 後ろから迫ってくる弾丸を新体操選手さながらのムーンサルトで躱し、着地と同時にショルダーホルスターからマカロフを抜いて素早く8発の弾丸を発砲して、走りながら弾倉を入れ替える。

 

 後方をから追ってくるのは、アメリカの機関ロスアラモスが遺伝子操作で作り上げて人口天才(ジニオン)の一人―――GⅢ(ジーサード)とその部下たち。

 

「逃げるなんて非合理だよ!」

 ボブカットに手に握られた先端科学兵装(ノイエ・エンジェ)である単分子振動刀(ソニック)と体の周りに付き従うように飛んでいる磁気推進繊盾《P・ファイバー》。

「待て!お前を捕まえてジーサード様に褒めてもらうのだ」

 その隣を走る、頭からリュカ同様に獣の耳が生えている少女―――九九藻(つくも)。その手にはP90が握られており、躊躇なく引金を引いて連射してくる。

 

 最初はもっと居たのだが、長い逃走の間に何人かは妨害して走れなくすることが出来た。だが、今回の目的のGⅢは兎も角、部下のGⅣと九九藻はなかなか追ってくることを辞めない。

「一対三は流石に無茶がある。そこらの有象無象ならいいが、人口天才が二人にリュカの同類の人間?が一人。弾倉は残りが銃に入っているのも入れて四つ。マチェットが二本。流石に分が悪いか」

 室外機や給水塔を乗り越えながら戦闘に適した

 

 数分進んだ丁度よさそうなヘリポートに通りかかった。

 ここ妥当か

「なんだ、逃げるのは辞めたのか」

「目的はお前だけど、オマケが多くてね」

 帰ったら絶対にシャーロックに文句言ってやろう。

 

 

@@@

 

 ガン!ギン!

 GⅢの義手と俺の持つ二本のマチェットがぶつかる。

「良くそんな壊れかけの武器で戦えるな!」

 GⅢの言った通り、俺の使っているマチェットにはよく見なければ分からないが数本の罅が走っている。義手の固さに加えて、異常な威力で襲ってくる拳はそれだけで凶器だ。そんな攻撃を幾度も防いできたマチェットにも限界が近づいてきている。

 

「ブッ壊れやがれ!」

「舐めんなよ!」

 ヴォン!風邪を切るような音が聞こえてくる凄まじい速度の拳が顔面目掛けてとんできた。その拳に向かってワザと罅の入ったマチェットをぶつける。

 マチェットは勿論砕け散り、刀身の破片が宙を舞った。両手の中に残っているのは柄と歪な形に折れた刀身の成れの果てだけだ。

 

「世話になったな」 

 

 壊れたマチェットの破片を捨て、両手を手刀の形にして構えをとった。

 GⅢの構えは、俺の知識に該当するものはない、我流なのか、それともアメリカが新しい生み出したものなのか。

 俺は中国拳法とCQCなどを混ぜ合わせた我流。

「ッハ!オモチャにばかり頼っていると思っていたが、格闘も出来るのか!」

 武器での戦いではなく、拳を使った戦いが嬉しいのか笑うGⅢ。

 

 

 拳と蹴りの高速戦闘。

 顔、胴体、脇腹、鳩尾をとにかく狙ってラッシュ。

 GⅢの攻撃は威力をメインとした攻撃。対して俺は八卦掌と至近距離の大砲とすら表現される一撃必殺の八極拳の混ぜもの。独特な動きに掴み技や投げ技は勿論。無理やり相手との距離を開ける事ができる技もある。

 

「げふ!」

 殴られて肋骨からミシミシという音が聞こえてくる。感じる痛みからして折れてたか。呼吸度に痛みが走る。

 

「流石に俺の流星(メテオ)は効果ありか」

 流星ね。原理は見たら理解できた。体の各所連動させて威力の強化をしてる。

「俺も同じようなものを使えるぜ。ッハ!」

「ッガぁ!……げほ!げほ!」

 手の平をGⅢの横っ腹に接触したさせ一拍の間を開けた瞬間、GⅢの体は一人でに3~5メートルほど吹っ飛んだ。

 はたから見れば、一人でに吹っ飛んでいるようにも見えるが違う。俺が手の平を接触させた状態で衝撃を与えたのだ。

 

「…なんだ、今のは流星…違う。先に触れてたはずだ」

 膝をつき呼吸を整えながら、GⅢは自分の受けた攻撃を分析していく。

衝弾(インパクト)だ。面白いだろ、相手に触れた状態でも使えるんだぜ」

 衝弾の原理はGⅢの流星と極めて似てる。

 左足から体を少しずつ内側に捻りを加え、衝撃を蓄える。そして、触れている手から放つ。簡単に説明するなら衝撃が弾丸で、弾丸の回転を俺の体で起こして威力のアップを図ってるだけの話だ。この技は手だけじゃない。足や肩からも衝撃を文字通り”撃てる”という所がいい。最初は漫画を面白半分で再現しようとしいただけなのだが、予想に反して使い勝手が良かったのでアレンジを加えて完全にした技だ。

 

「はぁ、はぁ、クソが!こっちもあばらが2、3本折れたか」

「いい加減、辞める、引き分けって選択肢は無いのかよ」

 衝弾を使った事で悪化した脇腹を抑えながら、GⅢに問いかける。

 

「バカ言うなよ。俺とまともに殴り合える相手だぞ、逃がすわけないだろ!」

 地面を殴り、立ち上がるGⅢ。

 その顔は、少年が新しいゲームを始めようとしている顔と表現するべきものだろう。

 こりゃ~、どっちかがぶっ倒れるまで付き合うしかなさそうだま。

「ッチ!こうなったら最後まで付き合ってやるよ!」

 感じる痛みを痩せ我慢して再び、構えをとる。それを見たGⅢは満足そうに笑いながら構えた。

 

 

 

@@@ 

 

 

「いい加減、くたばれよ!お前!」

 もはや、体の何処が痛いのかすら分からないほどに攻撃を受け所謂虫の息だ。そして、GⅢも俺と同様に虫の息だ。

「人口天才と張り合えるなんて、お前も相当化け物だな」

 額からから流れる血を袖で拭いながら、不適に笑うGⅢ。

 

「当たり前だ。お前相手に素で戦えるほどに俺は強くねえよ。お前はHSS(ヒステリア・サヴァン・シンドローム)使ってるみたいに、俺も使ってんだよ」

 

 神経完全操作(ナーヴ・アブソリューション・コントロール)通称―――NAC。簡単に言えば、五感を含め、脳のリミッターを自由に操作できる技だ。使いすぎると頭痛になるし、使っている最中はカロリーが凄まじい速度で減っていくから多様は出来ない。

 今、使っているのは、味覚と聴覚と色彩認識を切って代わりに、視覚情報の処理にリソースを回している、つまりそうしなければ、いまの体の状態では戦えないということだ。NACが切れてしまえは俺は立つことすらできなくなるだろう。

 

「へぇ、お前も俺と似たのが使えるのか」

「使わないと、お前なんかと渡り合えるわけないだろ」

 相手は、アメリカの最先端技術が創り上げて人口天才。

 俺は、親も分からない貧民街育ちの殺し屋。

 月とスッポンどころか、月と鼠が良いところだ。

  

 互いに地面を蹴り、激突した。

 飛んでくる拳を躱して、蹴りをいれ。蹴り返されて、殴り返す。

 血反吐を吐いて、攻撃を食らって、攻撃を当てて、

 

 

 

 ―――そして、互いに膝をついた。



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理子とデート

 GⅢとの戦闘は結果、引き分けという形で終了。歩くどころか立ち上がることすらできない俺とGⅢは、互いの部下に救出されて言葉も交わす事なく別れた。

 長年、愛用してきたマチェットは粉々、服は擦り傷だらけで、多機能ゴーグルも砕けた。装備は銃を除いて調達と整備が必要となった。

 

「んじゃ、ココ。頼むぞ」

 目の前にいる小学生位の身長の少女―――ココに念を押す。

 『藍幇(ランパン)』という上海に本部を置く秘密結社の一員で『イ・ウー』に出入りしている武器商人でもある。俺の装備のココに調達してもらう事が多く。今回は壊れたマチェットの代用品の注文をした。

「了解ネ!シアンは値引きしないから良い客ヨ」

「リサに随分と値切られたみたいだな」

 ココはリサの名前を聞くと、苦虫を噛みつぶしたような顔をしながら頷いた。

「リサと交渉すると損する率の方が高いヨ。それでマチェットなのにナイフと同じ位の刃渡りで本当にいいのカ?」

「ああ、短剣としてじゃなくてナイフとして欲しいからな。そろそろ素手をメインに鍛えようかと思ってるから」

 GⅢ戦で素手をメインに戦って気づいた。俺が素手の方がやり易い。暗殺は武器があってもいいが、正面きっての戦闘なら素手の方が戦い安い、ならそれに沿った装備を揃える所から始めないとな。

 

「まあいいヨ。お客の注文に対応するのが商人の仕事ネ」

 そう言って、ココは軽い足取りで帰って行った。

「支払いの時に吹っ掛けられないようにしないとな」

 そんな独り言に誰かの言葉が返ってきた。

「そうだよ!ココに払うお金があったら、理子にプレゼントでも買うといいよ」

 後ろを振り返ると存分にフリルがあしらわれて可愛い服を着た理子がそこには立っていた。

 

「ふむ………んじゃ、デートでも行って好きなもの買ってやるよ」

「……ふぇ?」

 理子の何気ない一言は自分の意中の相手とのデートをするというイベントへのフラグを立てる事となった。

 

 

 

 

 

@@@

 

シアンside

 

 日本にあるオタク文化の街―――秋葉原。

 その中を金髪のロリ巨乳に可愛い服を着た理子と身長167にして灰色の髪に緑の目という稀有な目を持つシアンがカップルように手を繋ぎながら歩いていれば、非リア充の巣窟である秋葉原で目立つのは必然である。

 

「やっば!あの子超可愛くね」

「あの男、羨ましすぎるぜ」

 男性陣はシアンに対して嫉妬視線を送り。

 

「ねぇねぇ!あの人、カッコ良くない?」

「ほんとだ!髪とか灰色だしあれって地毛だよね。背はちょっと低いけど、彼女さんの荷物を持って上げてる所はポイント高いね」

「いいな~、私もあんな彼氏欲しよ!絶対、大事にしてくれそうじゃん」

 女性陣は理子に羨ましいという視線を送っていた。

 

 

 まさか、ここまで目立つとは。

 こうも視線を向けられると無意識に警戒をしてしまう。

「やっぱり、シアンは目立つね。あ!次はあのお店が見たい!」

 俺の手を引っ張りながら女性服専門のお店へと入っていく。

 必然、お店の店員やお客含めて、女性ばかりだ。そこに彼女に連れられて入ってきた彼氏は目立つ。もちろん、出ていけ、みたいな感じではないが心地いいものじゃない。

 そんな俺とは関係なく。手当たり次第に服を鏡で合わせては戻し、新しい服を手に取ってはを繰り返していく理子。

 

「最初に会った姿が嘘みたいだな」

 自然と笑みを零れてしまう。

 妹のように娘のように可愛がっていた理子が”女の子”として成長してことに。

 

「どっちが良いかな?シアン!」

 理子が両手には、俺から見て左側が白いワンピース。右側がTシャツに白いスカートのセットになったものが持たれていた。

 

 頭の中で想像する。それぞれを着用した理子の姿を―――ワンピースかな。

「ワンピースかな。理子はフリルとかが付いてるの多いからさ、少し大人しめなのも似合うと思うよ」

「う、うん」

 顔を赤くしながら理子は、ワンピース持って静かに更衣室に入って行った。

 

「ん~あのワンピースは良いけど、肌が見えすぎだな」

 外を少し歩くいただけでも、理子は人の目を引いた。もしかしたら俺と一緒に歩いていたからかもしれないけど、やっぱり他人に舐めるように理子が見られるのは好きじゃない。

 理子が着替えている間に、白いワンピースに似合う上から軽く羽織れる上着を探し始める。

 

 

 

 

 

 

理子side

 

 

「はぁ~、シアン……」

 鏡に映る自分自身の下着姿。

 背こそあまり伸びなかったけど、胸なら大きくなった。食生活も気にしてお肌やくびれにだって気をつかっている。

 胸に手を当てれば、シアンの事を考えた分だけ肌が熱くなる。

 シアンだって可愛いって言ってくれるけど、何回も隙を見せたって襲い掛かってくる様子も見せない。やっぱり、シアンは理子の事、女の子として見てないのかな?

 好きな人に振り向いて欲しいという恋する乙女として普通の感情を胸にひっそりと

 

 

 壁にかけてあった、シアンが選んでくれたワンピースに袖を通す。

 ハニーゴールドの下着は透ける事はなく、丈も丁度いい。少し肌が見えすぎる気もするけど、上着でも買えばいいかな。って、うわ!高!9800円もするよこれ!一人で来たなら買わない、を選ぶけど、シアンが選んでくれたやつだものな……欲しい。

 

 よし!まずはシアンに見てもらわないと!

 

 勢いよく更衣室の幕をスライドさせる。

「シアン、どう!」

「ああ、よく似合ってるよ」

 やた!シアンが似合うって言ってくれた!

 心の中がガッツポーズをしている理子。

 

「うん?」

 手渡されて薄いピンク色の服を受け取り、広げると少し薄めにカーディガンだった。

「流石に肌が見えすぎだから、使うと良いよ。さて、会計を済ませてデートの続きと行こうか」

「///うん」

 結局、シアンがお金は出してくれた……合計で14800円。シアンはお金持ちだ。

 

 

 購入した服に着替えて、次は理子がどうしても行きたかったお店。ギャルゲーの売っているお店だ。

 デートで来るのはどうかと思うけど、シアンは理子のそういうオタクの部分も理解してくれているから行くことに抵抗は無い。まあ、男のオタクからリア充が爆ぜろ!みたいな思念は感じたけど。

 

「おぉ~~!これは、理子が探していたやつ。こんな所で見つかるなんて、流石はオタクの街秋葉原だよ」

 ギャルゲーを掲げてテンションマックスで喜ぶ理子の隣で、理子に似た女の子がパッケージになっているギャルゲーを手に取っているシアン。

 

「なに~、シアン。理子とそんな事がしたいの~」

 理子似のキャラが乳首を腕で隠し、口にコンドームを加えているイラストが描かれている。

 ニヤニヤ、しながらシアンの顔を覗き込むと、シアンは無言でギャルゲーを棚に戻した。

「…そりゃ俺も男だからな。女を抱きたいっていう欲求はあるよ」

「シアン、ストレート過ぎだよ」

「誰かを好きになったり、愛し合いたいっていうのは生物としては当たり前の欲求と感情だと思うけどな」

「…理子はシアンのこと好きだよ。家族としても好きだけど、女としても好きなの。好きなんだよ」

 

 あ~、言っちゃった。しかもなんでギャルゲー売ってるお店で告白とか一体何考えているの理子!確かに、お客さんはいないけどさ、だからってムードとかあるじゃん!

 早く何か言ってよ、シアン。

「えと、ありがと?でいいのか……やっぱり、好きって言われると照れ臭いな。―――俺も理子の事好きだぞ」

 顔を少し赤くしながらもシアンはしっかりと口にしてくれた、好きだって。

 胸の中に広がる心地よさ。無理に言葉にするならぶわっー!って感じかな、熱くてでも心地いい。

 これが誰かを好きになるって事―――恋なのかな。



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聖歌の歌い手

 私は歌を歌うのが好きだった。

 病気だった母も私の綺麗な声で歌を奏でた時は、笑いながら頭を撫でてくれた。

 いつだった働く事の出来ない私は、道端で歌ってお金を恵んでもらっていた。運がいい時はそれだけで、母の薬を二日分稼げることだったあった。

 

 街で有名になった私は、街の酒場で夜にだけ歌を歌う仕事を貰っている。

 お客さんが歌を気に入ってくれればチップも貰えて、お客さんが増えれば酒を頼む人も増えて、お店も繁盛する。店主とはウィン!ウィン!な関係を築けている。

 

 でも、そんな時に事件があった。

 酒場で歌を歌った帰り道に酒によって若い人たちに襲われた。

 その時、人生で初めて大声を上げた。

 

 私には、『音響』という超能力が備わっていたらしく。叫び声は音響兵器の如く周囲を破壊した。

 木材の家屋は勿論。私の手足を抑え込んでいた若い人たちは吹き飛んで行った。

 

 この事件が原因が私は街での居場所を失い。母も遂には息を引き取った。

 

 その後、私は私の噂を聞きつけたマフィアのボスに連れられて、生まれてから一度も出た事のない街を出る事になった。街の外は色んな初めてで溢れていた。

 

 捻るだけで水が出てくる金属の口。

 入れたものが冷たくなる箱。

 向こう側になにも無いのに、知らない場所が映し出される板。

 

 運の良い事はマフィアのボスは歌が好きらしく。マフィアのボスの好きな歌を歌う代わりに私に身は守られる。

 それも、もしかしたら今日までかもしれない―――だってマフィアの人たちの心臓の音が次々に消えていっているのだから。

 

 

 

@@@

 

 

 

 シャーロックから超能力を持つ少女―――シレーネ・リューナの保護を依頼された。

 こんな仕事を頼まれるのは、理子を保護して以来だ。

 

「超能力の担当はジャンヌだと思ったけど、確かにジャンヌにマフィアの殺害はキツいはな」

 ジャンヌは世界中で超能力に秀でた者を『イ・ウー』に加入させる、という仕事をシャーロックから頼まれている。ただし、それは勧誘をするだけだ。他人を殺す事をジャンヌは未だにした事がない。

 基本的に、『イ・ウー』の問題事は俺が解決する傾向にある。元からそういう(人を殺す)仕事を数えきれない程にしてきたから、良いんだけど。金を稼げるから、っとそろそろ到着か。

 

 

 

 

 少し古びた街にある外見こそホテルに見えるが、そこに住んでいるのはマフィアの一団。

 街の住人から護衛費だと言って、金品を巻き上げる。まあ、マフィアが街に居る事で街を盗賊なんかが襲わないという事もあるのだろうが、彼らはその役目を果たせてはいない。といか、街には自警団があるらしくそっちの方が仕事をしている。それでも武器を持つマフィアを潰すのは難しいそうだ。

 トボトボ、と街を進み目的の進んでいく最中に、家の中から窓越しに俺を見つめる視線をいくつも感じた。恐らく街に住人だろう。

 

 

 さて、仕事を始めようか。

 ガチャ、とホテルの巣窟の扉に手を掛け、扉を開けると入って直ぐの所に男たちが四人が椅子に座ってジャンブルをしていた。

 

「あ?なんだ、このガキは」

「クソガキ、ここはホテルじゃねえぞ」

「確かに外見はホテルだもんな」

「そんのほっといて続けようぜ」

 俺の姿を見て、それぞれが違う反応しめす。

「ここってさ、マフィアのアイデクセのアジトであってる?」

「合ってるぜクソガキ。分かったらとっとと帰りな」

「ありがと、教えてくれて。だからさもう、用済みだよ」

「は?」

 

 

 ―――スパッ!

 

 

 黒人の首がボールのように、トランプを広げていた机の上を転がる。

 

 腰に下げた左手で抜けるようにくっつけたホルスターから刃渡り20センチのトレンチナイフ―――黒爪を素早く引き抜き、黒塗の刀身は血によって赤黒く染まり。黒人の首をたやすく切り落とした。

「カルー!カルーの首が!」

「このクソガキが!」

「あぁー!首が!首がっ!」 

 カルーという名前の黒人の首を見て、残っていた三人が大声で叫んでしまい。上の階に居たマフィアたちにも俺の存在がバレてしまった。

「うじゃうじゃ、出てきたよ」

 無数の銃口が俺に照準を合わせる。

 

「撃て!撃ち殺せ!」

 リーダーらしく男が叫んだ。

 

 ダダダダダダダ!

 

 

 先に目の前の敵を片付けるほうが先決か。

 強く床を蹴りつけ、抜き身となった黒狼を素早く動かして残った三人の胴体を一閃。命を奪うような攻撃ではない、激しい行動を不可能にするような軽めの攻撃だ。

 

「三人もいれば壁として十分だな」

 先ほど斬りつけた三人の男たちの服を引っ張り、即席の壁とする。壁の影に隠れ、雨のように降り注ぐ弾丸から身を守る。ドスドス!と音と衝撃が壁を通じて伝わってくる。

 アイツら三人が死んだと思っているのか、仲間なのに躊躇ないな。

「撃つのをやめろ。おい!死んだか確かめろ」

 リーダーが階段近くにいた部下に命令を下す。部下は警戒しながらゆっくりと階段を下りてくる。

 

 んじゃ、狩りを始めようか。

 ッダ!と壁の代わりにしていた三人の死体の影から飛び出し、俺が死んだかどうかを確認する為に近づいてきた二人の男を狙いマチェットを振る。

 二人の男を切り裂くと、男たちは膝から崩れ落ちるなか、引金に指かかっていたままAKはあらぬ方向に銃口を向けながら発砲された。壁や天井、果てにはマフィアたちに銃弾を飛ばす。

 

「うぉ!?」

 あぶな!

「おい!大丈夫か」

「あの、役立たずが!」

 上の階にいた、マフィアたちは焦りながら屈み銃弾から身を守り。

 

 受けた攻撃に放心している間にマチェットは腰のホルスターにしまい、床に落ちているAKを拾い上げる。

「弾代は節約しないとな、ほいっと」

 

 ダダダダ

 

 目の前の男二人に向かって躊躇なく引金を引き、撃ち殺す。血しぶきをまき散らしながら絶命する男二人。

 仲間が殺される光景を目の当たりにしたマフィアたちは叫びながら、再び引金に指をかけた。

 

  

 

 階段を駆け上がり。目につく敵を片っ端からAKで撃っていく。勿論、全弾が当たるわけでもないし、避けられたりすることもある、けれど問題ない。今、重要な事は敵に反撃をさせないということだ。室内、という戦場の中では一対多数というのは勝率を左右する重要なものだ。

 

 弾倉が空になったAKを本体ごと敵に投げつけ、死体となったマフィアの手の中にあるAKを拾い上げて構え……撃つ。

 

 

 

@@@

「なんだ、あのガキは!」

 マフィアのリーダーは悪態をついた。

 なにせ、相手はたった一人、それもガキが一人だ。なのに、次々と仲間は殺されていく。ガキに死の物狂いで反撃をしていくが、今の所数発当たっただけで血すら流れていない。

 弾を撃ち尽くしたAKを落としホルスターからグロックを抜き取り、銃口を突進してくるガキに向ける。

 

 ガキが俺を見る目は……あれは、肉食動物が獲物を狙っている目だ。

 普通の人間が生きて死ぬ間で感じる事のない感覚―――狩られる恐怖だ。

 

「ひぃ!死ね!死ね!」

 ガチガチと歯を鳴らし。

 震える手でガキを撃った。

 

 ダン!ダン!ダン!ダン!

 

  

 ガキは器用に飛んでくる弾丸をAKを盾にして防ぎ。AKを投げ捨てると腰から素早くマチェットを抜いた。

 鈍く光るマチェットの光が死の恐怖を加速させる。

 

 グシャ

  

 皮膚を突き破り、肉を裂き、心臓をマチェットが抉った。

「か…ぁ……」

 俺は、ここで死ぬのか、その声に返事をする人はおらず。静かに鼓動とともに消えていった。

 

 

@@@

 

「これでラストっと」

 リーダーの胸からマチェットを抜き、死体となった目の前の男の服でマイェットの血を拭い。ホルシターに戻す。

「あとは、ボスだな」

 

 

 上層を目指して階段を上がっていく。やはり、先の戦いでボスを除いて敵は全員倒してしまったらしく。敵に出くわすことなくすんなりとボスの居る一室まで行くことが出来た。

 

「騒ぎの原因は貴様か、小僧」

「マフィアのボスなんて、てっきり性格の悪そうなジジイかと思っていたけど案外そうでもなさそうだな」

 革製のデスクチェアの腰を掛けている年寄りはただの老人という気配ではなく、退役した軍人という感じだ。

 

「その年で分かるとは相当な修羅場を抜けてきたようだな。ワシも年よりだ、激しい運動は控えたいが」

 老人はゆっくりとチェアを後ろに引き、机の引き出しを開け。そのから二丁の銀色の拳銃を取り出した。

「やはり、ベッドの上で死ぬよりも、死ぬならば戦場で死にたいものだ。小僧、悪いがジジイの我儘に付き合ってもらうぞ!」

「ッハ!俺に老人の気遣いなんて期待しないでもらいたいもんだ!」

 

 左手にマチェット

 右手にマカロフ

 一剣一銃を構え、老人の我儘に付き合うこととなった。命をかけてだが。



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懐かしき温もり

 ダン!ダン!ダン!ダン!

 

 右二発。左二発。交互に撃たれる拳銃。

 このジジイ、避ける先を予測して次弾を撃ってきやがる!

 走り回るには狭すぎ、近接戦闘をするには微妙に広いこの部屋。その中を右に、左に、的にならないように避けるが、避けた先で当たるように微妙にタイミングをずらして次弾が発射される。

 

「逃げ回れ!ネズミの如くな!」

 チェアに座っていた時とは違い。若返ったと思えるほどに元気に拳銃をブっ放している老人。若い時は、常時このテンションだったのか?しかもあのジジイ、立ってから一歩も元いた場所から動いてねえぞ。どんな腕してんだよ。

 

 椅子や机を巧みに壁や足場としながら銃弾を嵐を避ける。

 デカイ机が邪魔でマチェットが届かない。弾倉の交換の隙を突くにしてもリスクが高すぎる、けどしないと攻撃に移れないか。

 いっちょ、賭けに出るか。

 

「老人はさっさと土の下に帰れよ」

 脚で椅子を器用にサッカーブールのように老人に蹴飛ばし、その後ろをついてく。

「ネズミの考える事はどいつも一緒だな」

 椅子の影から飛び出してきたのは、両手に拳銃を構えた老人の姿だ。

 カチャ、と二つの銃口が俺に向けられた。

「うおぉ!」

 驚きの声を上げながら右手をジジイの方に向けマカロフを発砲しようとするが、老人は動じる気配もない。変わらずに二丁の拳銃を俺に向けたまま―――発砲してきた。

 

 

 ダンダンダンダン

 

 

 急所にあたる部分に飛んできた弾丸を狙い引金を引く 

 

 

 ダンダン

 

 

 数こそ少ないが胸や脇腹に弾丸を当たる。

「っつ!」

 走る痛みに歯を噛みしめて耐えジジイに目を向けると、

「弾丸を弾丸で弾くとはな、やってくれるじゃないか!」

 弾を使い切った弾倉を床に捨て、不適に笑いながら新しい弾倉をポケットから取り出し拳銃に入れていた。

 弾丸の当たった箇所をさする。

「老人の癖に動きが軽やか過ぎるだろ!」

「歳よりは人生経験からの予測が出来ると知らんのかね」

 腹立つなこの老人!最初は立ったままだったのは、動けないと思わせる為か。確かに人生経験からの手段だわな。

 

「けど、手が届く範囲に来てくれたのはありがたい。斬り殺してやるよ!」

「やれるものならやってみろ小僧!」

 大声の宣言。

 

 

 

 

 付かず離れずの状態で間髪を入れず連続で発砲してくる。

 飛んでくる弾丸をマカロフとマチェットで弾き、近づこうとするもバックステップで離れられてしまい近接にまで持ち込むことが出来ない。

 ……やりずらい、弾も切れそうだ。一つ試しにやってみるか。

  

「どうしたネズミよ、っうぉ!」

 老人は顔面目掛けて飛んできたマチェットを素早く躱す―――それが囮だとも知らずに。

 思わず後ろに飛んでいくマチェットを目で追ってしまった。一分、一秒が生存を左右する実践の中で敵から視線を外すのは自殺行為だ。だが、これはスポーツや手品にも応用される”ミスディレクション”という技術だ。

 バスケやサッカーなどボールを扱う競技では、意識をしない限り選手ではなくボールを目で追ってしまう。実践なら銃やナイフを目で追う。俺がやったのは意識を集中させて、マチェットを当たるか当たらないかの所を狙って投げ、老人は避けた。そしてその後を目で追ってしまった。

 

 つまり、俺という敵から視線を外した。

 

 マカロフを宙に投げ、両手をフリーに。

 脚を広げて構えた。衝弾(インパクト)とは違い距離の離れた相手に使う蹴り技。

「これでも、くらえ!」

 右足を軸とし左回りに体を回転させながら上への後ろ回し蹴り。

「がぁ!」

 マチェットに視線を向けていた老人は、避けるどころか防御することもできずにまともに受け、体は僅か浮き上がり、踏ん張ることすらも出来ず一発目の蹴りに続く二発目も蹴りも受ける事となる。

 左に回転する体を素早く止め。左足を軸に変え、右脚による蹴りで、浮いている老人の蹴り飛ばす。

「どりゃ!」

 老人の体はボールのように蹴飛ばされ、壁に激突してズルズルと床に落ちた。

 壁に刺さったマチェットを引き抜き、立ち上がりもしない老人に近づく。首に手を当て、脈を図ると既に鼓動を感じることは出来なかった。

 老人にあの衝撃は強すぎたか。

「さて、目的の人物に会いに行くか」

 マカロフとマチェットをホルスターにしまう。

 部屋を移動……する前に老人の持ち物を物色しておくか。

 

 

@@@

 

 

 豪華な掘り込みをされた扉を開けて部屋に中には入ると、中にはベッドと机にソファがあり。生活に必要な最低限なものがあるだけの部屋だ。

「本すら無いって、暇すぎるだろ。この部屋」

「知っていますよ。そんなこと」

 

 俺を警戒する様子もなく、当たり前のようにベッドに腰を掛けているマシュマロブラウンの髪の少女。恐らく彼女がシャーロックの連れてきて欲しいと言っていたシレーネ・リューナだろう。

「知っていると思いますが、私はシレーネ・リューナと言います」

 ベッドから腰を上げ、ワンピースの先をつまみ上げて挨拶をするシレーネ。

 

「てっきり、マフィアを殺した俺に罵詈雑言でもあるかと思ってたけどないんだな」

「特には。マフィアたちはあくまで私のクライアントのようなものです」

 なんつーか、ドライなやつだな。表情は無表情に近いけど、どっちかというとジト目に下がった眉毛がどこかゲームキャラなどがする困った表情に見えなくもない。それに性格も暗そうだし。

「あっそ、んじゃ。俺がお前を連れていくことには抵抗しなのか」

「はい。私には生きる目的も、理由も既にありませんので」

 静かにそう口にした。

 ま、イ・ウーに居れば嫌でも揉まれることになるから大丈夫だろ。

 

 

 

 寄り道することなくボストーク号に帰り。直行でシャーロックの所へ案内して、俺はさっさと部屋を出る。

「どーん!」

 背中にムニュ!というやわらかい感触と馴染み深い重さが体に乗っかる。

「理子」

「流石、未来の旦那様だね!胸の感触で理子って分かるなんて」

 俺の腰に足を絡ませて背中に乗っかり、耳元に顔を近づけてくる。

「フゥー……シアン、いまビクッ!ってしたでしょ!ってこんな事してる場合じゃなかった。シアン、また新しい子拾ってきたでしょ」

 耳が早いな。

 理子の背に乗せたまま、自室に着替えに向かう。

 

 部屋に入り。ベッドに理子を下ろし、躊躇なく着替え始める。

 理子に裸を見られるのは初めてなわけじゃないし、てか、デートした日にホテルまで行ってやってしまったから今更恥ずかしがる理由もない。

 

「いつ見ても良い肉体美だね、シ・ア・ン♡」

 再び、理子が裸のままの俺に抱き着く理子。

「久々にイチャイチャターイムだよ!」

 確かに、最近は仕事やらでなかなかゆっくりする時間が無かったから丁度いいか。

 抱き着いてきた理子を抱きしめ返す。

 腕の中にある温もり、人の温かさ。

「暖かいな、理子」



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