ふぇいと/ぐっちゃんおーだー 項羽様を求めて (朕始皇)
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項羽様を求めて

「あのね、よくもまぁ抜け抜けと……

 よりにもよってお前が私を召喚するなんて……て、あれ、なんかちょっと違わない?」

「あの、芥ヒナコさんですよね?Aチームのメンバーの、もしかして貴女もデミサーヴァントだったんですか?!」

「え、もしかしてマシュの知り合い?挨拶したほうがいい?」

「知り合いも何も同じAチームのメンバーですよ!所長の話を聞いている時先輩と同じ列にいました」

恨み言を言おうとした虞美人=芥ヒナコは目の前にいる二人の敵意、警戒感のなさに戸惑った。

つい先日、異聞帯で彼女を破った二人ではありえない。藤丸立華の手にはまだ令呪しか刻まれておらず、数多の特異点や異聞帯での傷跡はない。

マシュ・キリエライトの言葉からは純粋な興味や心配などしか感じられない。様々な要因が1つのことを指し示している。戸惑い、狼狽えながらもヒナコは周囲を見渡した。

 

ここは「カルデア」だ。

 

異聞帯で乗り回していたシャドウボーダーでもなく、他のクリプターの話に出てきた彷徨海でもない。

 

これらが示す結論はただ1つ、芥ヒナコは過去に、人理修復中のカルデアに召喚されてしまったという事だった。

 

◇◆◇

 

「じゃあ、詳しい話を聞かせてもらってもいいかな?」

 

そういったのはヒナコの感覚からすると故人である筈のロマニ・アーキマンだ。マスターとしてカルデアにいたとき以上に胡散臭く感じてしまう。警戒されているのを感じ取ったのかロマニは慌てて言葉を付け足した。

 

「別に、根掘り葉掘り聞きたいってわけじゃないんだ。わからないことはわからないでいいし、言い難いことは言わなくてもいい。ただいくつか確認しておきたいだけなんだ」

「……仕方ないわね、何が聞きたいのかしら?」

 

渋々といった様子でヒナコが応じるとロマニは心底ホッとしたように続けた。

 

「ありがとう。じゃあ、まずは、君のパーソナリティから確認しよう。君の名前は芥ヒナコで間違いはないかな?」

「そうね、付け加えると8人いるAチームのマスターでもあるわ」

「でも、今はサーヴァントになっている。それは間違いないかな?クラスやどんな英霊として現界しているのかとかも言える範囲で教えてほしい」

「ええ、私はサーヴァント、アサシン。でも、これ以上は何も言えないわよ。ただ、もとが私だから戦闘に向いているとは思わないほうがいいわよ」

「ありがとう。戦闘向きではなかったとしても君が戻ってきてくれたことが嬉しいし、何より有り難いんだ。今は所長も居ないし、マスターも藤丸君しかいなかったからね。人理修復にはどうしても人手が足りない。というわけで、ここからが本題なんだ」

 

ロマニの顔が一層険しくなる。ヒナコはいよいよ答えにくいところを聞かれるのかと身構えたが、ロマニの言葉は彼女の予想を遥かに超えたところにあった。

 

「ヒナコちゃん、君はまだ、マスターとして人理修復に加われるかい?」

「は?何言ってんの?今言ったじゃない。私はサーヴァント、アサシン。マスターじゃないわ」

「うん、そうだけど、カルデアには今致命的にマスターが足りていないんだ。サーヴァントに関してはマシュに、レオナルド、英霊召喚システムフェイトもうまくいっている。今後も召喚するチャンスはあるだろう。でもさっきも言ったようにマスターは元一般人の藤丸君しかいない。Aチームメンバーのヒナコちゃんがマスターになれたらすごく助かるんだ」

「つまり、それは、もしかして、私の意志を聞いているのかしら?私がサーヴァントを召喚して人理修復をする気があるのか、と聞いているの」

「ああ、君はAチームのマスターだ。マスター適性も高く魔術的にも優秀だ。もちろんサーヴァントとして人理修復に勤しんでもらうことは当然としてもその上でマスターとしての道を模索する気が有るのか、それに挑戦してくれるのかを聞きたいんだ」

 

ヒナコの言葉が詰まる。もし、仮に、それが可能ならばヒナコ自身が最愛の存在を呼び戻せるということだ。自分が英霊となった以上項羽は座にいるはずだ。

自分が彼を呼び出せるなら、そしてふたりで過ごせるのなら、それはなんと甘美なことだろう。

何も言えなくなったヒナコにロマニはダメ押しの一言を付け加えた。

 

「君のマスター権である令呪は今凍結されてコフィンの中にあるはずだ。十分なリソース準備が整えばすぐにでも君が再び令呪を得ることも不可能ではないと思う。どうかな、やってみる価値はあると思うんだけど?」

 

答えは決まっている。

再びあの人と会えるのなら、逝ってしまった貴方を呼び戻せるのなら、幾千もの年月の中で最も幸福だった日々を取り戻せるのなら、あらゆる苦渋、あらゆる困難、あらゆる障壁を超えられる。

決断が早いのがヒナコの美点でもある。

 

「やるわ。私はもう一度、マスターになる、なってみせる」

「じゃあ、早速始めちゃおうか!コフィンにある凍結された令呪の摘出とカルデアの魔力でサーヴァントを維持するためのパス作り、限界するための楔になれるように器も作った方が良いかな。あとは、何があるかなぁ⁉︎創作意欲が湧いてきたぞう‼︎」

 

脇で盗み聞きをしていたらしいダ・ヴィンチが飛び出してきてからは瞬く間に計画が立てられていった。令呪の獲得、楔としてのマスター権の獲得、魔力供給用のパスの形成、いずれも一朝一夕でできることでは無いが、ここには人類史上最高の天才と最高クラスのマスター適性の持ち主がいる。不可能では無いし、そもそもどれも方法自体は確立している。

令呪の移植は聖杯戦争中には手間がかかる以外は当たり前の技術だし、カルデアからの魔力供給はすでに藤丸立華に対して行われている。

最も厄介な現界するための楔としての機能は依り代があれば良いのだ。実際にレオナルド・ダ・ヴィンチが己のマスターと言い張る人形に楔としての役割を持たせているし、どこぞの聖杯戦争では寺の門をマスターとしたサーヴァントも居たという。

 

僅か1週間後にはコフィンで冷凍保存された肉体を依り代とし、カルデアからの魔力供給で令呪を形成するマスター権を持つ芥ヒナコが出来上がっていた。

ここまで来て仕舞えばもはやすることは単純だ。

 

項羽を召喚する。

 

感動の再会になるには背後で見ているロマニとダ・ヴィンチが邪魔ではあるが瑣末な問題だ。今は再会への期待の方が遥かに優っていた。

背後でロマニが今後のことを説明しはじめる。ヒナコは話半分に聞き流し集中し、魔力を高めていく。

 

「じゃあヒナコちゃん、召喚に成功したらサーヴァントに事情を説明したらそのままレイシフトしてもらうことになる。レイシフトしてからはすでにオルレアンで先行しているマシュと藤丸君に合流して協力してことに当たって欲しい。準備は良いかな?」

「当然よ。今すぐにでも」

 

ヒナコの決意は固い。ロマニが頷いたのを確認すると彼女は呪文を唱え始めた。

 

素に銀と鉄。

礎に石と契約の大公。

祖には我が大師シュバインオーグ。

 

ーー己の原点とも言える日々を思い出すーー

 

降り立つ風には壁を、

四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

ーー自分からすればほんの少し前に過ごした異聞帯での日々が脳裏を過ったーー

 

閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

繰り返すつどに五度

ただ、満たされる刻を破却する。

 

ーー追憶から現在へ、再び出会うために前を向き魔力を励起させるーー

 

告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に、

 

ーー己の最大の理解者、自身の全てを預けた相手をーー

 

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

誓いを此処に

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ

 

ーー自身が英霊となることで座に刻みつけた存在を呼び覚ますーー

 

圧倒的な光とともに無機物とも有機物とも取れる奇妙な物体が現れる。

懐かしい仙術によって動くものの気配だ。

 

頬が赤くなるのを抑えられない。とっさに呼びかける声が口をついて出てくる。

 

「項ーー、」

 

光が収まり、その中から呼び出されたものが現れた。

 

「はっはっはっはっはっは! まあいるであろうとは思ったが。しかし、ふむ、なにやら厄介な行き違いがあったか。今はただルーラーのサーヴァント、始皇帝としてだけ心得ておくがいい」

 




冷静に考えてぐっちゃんの方のガチャ引いてたら項羽様じゃなくて朕が来るよね


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