NARUTOー蛇眼の忍ー (ニラ)
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プロローグ

 

 私が『あの方』………大蛇丸様に出会ったのは偶然だった。

 だが、その偶然は私の精神を昇華させ、喜びと共に更なる高みへと導いてくれた。

 

 何故なら当時の私は、日がな一日精神を腐らせ続ける小さな存在でしかなかったからだ。

 医療忍者として忍びの里に飼われ、常に人間の可能性に関して思考を巡らせながらもソレを試すことが出来ない鬱屈とした毎日を送る。

 

 正直、どれほど頭が可怪しくなるかと思い悩む日々の連続だった。

 毎日毎日、里の上層部の馬鹿馬鹿しい命令を聞き、ただただ代わり映えのない私の澱んだ人生を、大蛇丸様が変えて下さったのだ。

 

「貴方、其の知識、技術、能力を私のために使いなさい」

 

 衝撃的な一言だった。

 だが、この人について行きたいと思わせる何かを、その当時の私は感じとったのだ。

 此の方の元ならば、私は自身の追い求める人間の進化を追求することが出来る。

 そう思えたのだ。

 

 大蛇丸様に誘われるままに里抜けをした私は、あの方の隠し拠点の一つを任されるようになった。

 其処で一つの研究、初代火影である千手柱間の細胞を使った実験をするように言われてのことである。

 

 千手柱間―――

 

 かつて、忍の神とまで言われた初代火影。

 後世の木の葉隠れの者達は、初代火影の類稀な能力を惜しんで其の能力を受け継ぐ者を作り出そうとしたようである。

 

 大蛇丸様はどうやら其の実験の更に先を目指しており、其のための研究を私に一任して下さったのだ。

 

 とは言え、其の研究とやらは木ノ葉隠れの里では既に中止に追いやられた物となっている。

 理由としては人道的に―――といった意味も有ったのだろうが、最大の理由は初代の死体から培養した『柱間細胞』を制御することが出来なかったからだ。

 

 何十人にも及ぶ、身寄りのない子供を対象に行われた柱間細胞の移植実験。

 木ノ葉隠れの里で行われた其の実験は、どうやら尽くが失敗したらしい。

 移植された柱間細胞の力に、移植者側の方が耐えられないのである。

 これが移植された細胞側ではなく、移植者側のほうが耐えられないと言うのが柱間細胞の恐ろしい所だ。

 

 これらの理由が拒否反応に依るものだというのであれば極端な話、免疫抑制剤でも作れば良いのかもしれないが、そんな物を使っていて果たして実験の成功と成るかと言えば答えは否であろう。

 

 私はより完璧な、柱間細胞の適合者を作り出さなければならないのだから。

 

 

 ※

 

 

 最初の実験は、木の葉隠れの里での失敗を踏まえて行うことにした。

 簡単に言えば、既に一つの生命体として存在しているモノに対して柱間細胞を植え付けようとするから拒否反応が出る―――と、そう仮説を立てて行った実験だ。

 

 つまり、胎の中の子供に柱間細胞を埋め込めば、結果が変わるのではないだろうか?

 そう、思い至っての実験である。

 幸いにして戦争中だということも相まって、戦場から拉致してきたくノ一の数は多い。

 非人道的(そういった)実験をするにあたって、実験体の数に関しては困ることはない。

 

 そうして適当に見繕った相手に、柱間細胞を埋め込む実験を数回に分けて行ったのだ。

 が………結果は見事なまでに失敗であった。

 

 第一、第二、第三と数回に分けて実験を行うも、其の全てが母体ごと柱間細胞に取り込まれてしまい、物言わぬ樹木へと成り果ててしまったのだ。

 柱間細胞の持つ、何とも恐ろしいエネルギーに驚きを隠せない。

 

 だが、失敗だったと言っても何の成果も無かった訳ではない。

 妊娠後から時間を置いた者程、柱間細胞の拒否反応がより早く顕著に表れたのだ。

 ソレはつまり、私の仮説が間違いではない可能性が濃厚ということだろう。

 

 しかし、その後に続けて行った実験は尚も失敗。

 母体への着床直後の受精卵へ柱間細胞を埋め込むことも行ったのだが、最終的には母体の方が耐えられなかったのだ。

 

 新たな方法を次々と平行して行い、其れ等が次々と失敗していく。

 そういった度重なる幾つかの失敗例を元に、私はもう少し踏み込んだ方法を試すことにした。

 

 母体のほうが柱間細胞に耐えられないのならば、その母胎の元と成る胎盤を柱間細胞で作ってしまえば良いのでは無いだろうか?

 

 優秀な才能を持つ者達の遺伝子を掛け合わせ、柱間細胞を組み込んだ受精卵を柱間細胞で作り上げた揺り籠で育て上げる。

 ………元々が男である千手柱間の細胞から胎盤を作り上げるなんてのは、正直ゾッとする話だ。が、しかしコレこそが最適解なのではないだろうか?

 

 そう結論づけた私は、早速母親側の遺伝子提供者に『うずまき一族』の女を選び、父親側の遺伝子提供者として『大蛇丸様』を選ぶことにした。

 

 大蛇丸様は血継限界を持っては居ないが、それでも術を操る才能という意味では稀代の天才である。

 チャクラの全属性、そして隠遁に陽遁をも使いこなす御方だ。

 上手く行けば、うずまき一族が持つ生命力と大蛇丸様の術を操る才能。

 そして千手柱間が身に付けていた木遁忍術と、更には千住一族の膨大なまでのチャクラを受け継いだ子供が産まれる筈である。

 

 

 ※

 

 

 待ちに待った子供が誕生した。

 理論構築後にも幾つかの失敗を重ねたが、それでも遂に一人の赤子が無事に誕生することが出来た。

 

 コレで私の研究も一つの節目を迎えるのだろう―――と、そう思っていたのだが、残念ながらそうも行かないようである。

 

 誕生した子供は酷く弱々しかったのだ。

 うずまき一族の血を引いているとは思えないほどに、その身体は弱いものであった。

 

 このままでは、折角の成功例をむざむざ死なせてしまう可能性が出てくる。

 なんとか、何とか出来ないものか……。

 そう思い、悩み、ありとあらゆる方法を一月程行っていたのだが。

 ある日、遂に其の赤子の心音が停止した。

 

 そう、確かに『彼』はこの時に一度死んだのだ。

 

 心臓は止まり、呼吸も停止した状態を私は確認している。

 だが暫く後に、『彼』は自発的に息を吹き返したのであった。

 

 私は何もしていない。

 『彼』が自ら息を吹き返したのだ。

 

 この時の私は単純に、『唯一の成功体が持ち直してくれたか。良かった』程度にしか考えていなかった。

 

 だが、恐らくはこの時が『彼』にとっての変化の瞬間だったのだろう。

 その日を境に、『彼』は今までの弱々しさが嘘だっかたのように力強く活発に動くようになった。

 

 終始寝たきりだった身体を忙しなく動かすように成り、みるみるその活動能力を高めていく。

 手足をバタつかせていた子供がいつの間にか床を這うようになり、そして立ち上がって歩くようにも成った。

 もっとも、流石にこの頃になれば私も事の異常さに気付き始める。

 余りにも早いからだ。

 

 幾ら優秀とは言え、コレほどまでに成長が早いというのは可怪しくはないだろうか?

 

 『彼』は一度死んだあの日から僅か一ヶ月ほどで立ち上がり、そして二本の足で歩くまでになってしまっている。

 多少の優秀さでは説明がつかない成長を、『彼』は私の目の前で披露しているのである。

 

 この時、私は初めて『彼』に対して一つの恐怖を感じた。

 

 ちょうどこの頃に、『彼』は大蛇丸様から名前を与えられた。

 古い物語に出てくる、祟り神の一種から名付けられたのだろう。

 仮にとは言え自身の血を引いている者に付ける名前ではないと思うが、しかし大蛇丸様にとっては自身の野望成就のための駒の一つでしか無いのかもしれない。

 

 『彼』が順調に成長している或る日のことだ。

 備え付けられているベッドの上で、唸るようにしていた『彼』に気が付いた。

 体調が悪い訳ではない。

 本当に『彼』には驚かされる。

 

 最初は解らなかったが、何度も見せられれば嫌でも理解が出来てしまう。

 アレはチャクラを練っていたのである。

 いや、解っている。

 チャクラは感覚的な部分が強いので、幼少期から強いチャクラを発する例が無いという訳ではない。

 だが違うのだ。

 

 『彼』はソレを意識下で行っている。

 信じられるか?

 少し前までハイハイをしていたような赤子が、何を考えてチャクラを練ろうなどと考えるというのだ?

 

 そう、一体何のために?

 

 

 ※

 

 

 『彼』の成長を見続けていると、大抵のことは『まぁ、『彼』なら仕方がないか』といった感想が浮かんでしまう。

 

 赤子の頃にチャクラを運用し始めたことを皮切りに、地味では有るが普通ではない事を『彼』は行ってきた。

 それはチャクラの性質変化だったり、妙に正確で範囲の広い感知能力であったりと様々である。

 

 時折に『彼』が呟く言葉を拾うことで理解出来たのだが、『彼』は研究所内で働いている職員の場所や行動、そして事細かな動きさえも把握しているような素振りが有る。

 

 また大蛇丸様の命令の元に行われた忍術の習得訓練では、一度見た術を即座に再現―――とまではいかないまでも、多少の時間を於けば覚えてしまう。

 一度だけ、『彼』に直接確認をした時に言われた言葉は、

 

『視て、感じて、ソレを再現すれば忍術の習得自体は難しくはない』

 

 とのことだった。

 この辺りのセンスは大蛇丸様の血筋を感じさせる言葉だった。

 木の葉隠れの里には天才忍者と呼ばれた白い牙の息子………はたけカカシが居るが、『彼』の才はソレを優に超えるものが有るだろう。

 

 今の私は、日々が幸福に包まれている。

 自らの手で、最高の天才を作り上げることが出来た喜びに、身も心も震えているのだ。

 

 いずれ、そう遠くない未来に『彼』の力は大蛇丸様を超えるだろう。

 そしていずれは忍の神とまで言われた、あの千手柱間すら超えると私は信じている。

 

 今現在、私は数年間に及ぶレポートを大蛇丸様に提出し、その評価を待っている最中だ。

 ただの研究者でしか無い私が『彼』に御教え出来ることは、既に殆ど残っていない。

 今後のことを考えれば、正式な忍者に『彼』を預けるべきなのだろう。

 そういう意味では、私の仕事は此処で一応の区切りとなる。

 今後は別の研究所で、新しい研究を―――

 

「良いわね。この子」

 

 ―――と、現実に引き戻すように、大蛇丸様の声が耳に届く。

 相変わらず脳の奥に染み込むような声を発する方だ。

 だが、そうか。

 そうだとは思っていたが、やはり御褒めの言葉を頂けるのは嬉しいものだ。

 

「数年間、待ってみた甲斐があったわね。まだまだ見えてこない部分も有るけれど、少なくとも術を操る才能に関しては十分過ぎる程に合格だわ」

「は、はい。大蛇丸様。私は忍としては大した才も無い男ですが、しかし『彼』は違います。いずれ初代火影である千手柱間をも超えて―――」

「初代を超えて、ね。そんなに簡単な相手じゃないのだけれどねぇ。でもまぁ、良いでしょう。……この子は私が貰っていくわよ」

「はい。それは勿論」

 

 元々、私は大蛇丸様の命令で研究を行っていたのだ。

 大蛇丸が研究結果を認め、そして合格だというのならば私の方から文句など出るわけもない。

 

「実はね、私はほんの少し前に木ノ葉隠れの里を抜けてきた所なのよ。コレから暫くの間は闇に潜むため、大蛇丸という忍の痕跡を消さなくちゃならない。その始末も兼ねて此処に来ているのだけれど………此の子は私の予想以上の逸材かもしれないわ」

「……? え、っと、ありがとうございます」

 

 なにやら良く解らない言い回しをされる大蛇丸様に、私は首を傾げる。

 一体何を言おうとしているのだろうか?

 その言葉の意味が、どうにも理解しかねる。

 

「一度は諦めた研究だったけど、貴方の働きで光明が見えたわ。ありがとう」

「いえ。大蛇丸様の為に働けたことは、私にとってこの上ない幸運でした。今後も今まで以上に―――」

「―――あぁ。ソレはもう良いわ」

「もう、いい?」

 

 何がもう良いのだ?

 『彼』は確かに凄まじい才を持っているが、しかしその出生に関しては不安定なものだった。

 次なる研究では、その不安定さを無くして行かなければならないのに。

 

「言ったわよね、私? 大蛇丸という忍の痕跡を消すと。だから此の研究所は廃棄、そしてソレに関わったモノも全て廃棄することにしたのよ」

「廃棄……? この施設を?」

「やれやれ。コレだけの成果を出した人間にしては、存外に鈍いわねぇ。つまりは―――貴方はもう要らないのよ」

 

 大蛇丸様が幾分表情を険しいものへと変化させて、此方に向かって一歩足を踏み込んだ。

 そして次の瞬間には腕を横薙ぎに一閃させ、私の視界は意思とは無関係にクルクルと回転していったのだった。

 

 

 

 



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01話

 

 

 

 木ノ葉隠れの里。

 火の国と呼ばれる国に居を構える、忍の里の中では図抜けて大きな力を持っている里の一つである。

 木ノ葉隠れの里を筆頭に、霧隠れ、雲隠れ、岩隠れ、砂隠れの計5つを忍び五大国と呼ぶこともあるらしい。

 いやはや、何とも大仰な名前だ。

 きっとこの手の呼名を考えた人は、随分な厨二的感性の持ち主だったに違いない。

 

 いや、悪くはないと思うよ?

 厨二的感性ってのは、心を豊かにしてくれると思うし。

 そういった夢を育むっていうの? 俺は必要な物事だと思うね。

 

 かく言う俺だって、何だかんだでそういったノリは嫌いじゃない。

 ただまぁ、今現在の俺はそんなことにキャッキャウフフと喜んでいられる状況ではない訳だが。

 

夜刀(やと)くーん。また明日ねぇ~♪」

「うん。また明日ね」

 

 ニコヤカな笑みを浮かべて声を掛けてきた同学年の女子に対して、コレまた笑顔を貼り付けた表情で返事をする。

 すると「きゃー♡」なんて声を上げながら女子は連中は騒ぎ出す。

 

「またね」

「帰り道に気をつけてね」

「明日まで会えないのは寂しいな」

 

 などの言葉を、相手を変えるたびに口にしていく。

 もっとも、俺からすると声を掛けて来てるのが誰なのか殆ど理解していない。

 興味が無いからだ。

 此方に声を掛けてくる面々に。

 

 言っただろ。キャッキャウフフとしていられる状況じゃないって。

 俺はそんな青春真っ盛りの様な物事にかまけている余裕なんて無いんだよ。

 

 人間、余裕が無ければ他の事を楽しむことなんて出来ないってことだ。

 だから言ってしまえば、コレから語るのは愚痴みたいなものだ。

 他人のマイナス面なんて知りたくもないよって奴には申し訳ないけどな。

 

 俺の名前は夜刀(やと)

 名前だけで名字はなし。

 年齢は恐らくは12歳程。

 

 ―――と、俺が自分自身について判っていることは非常に少ない。

 コレは数年前、木ノ葉隠れの里に保護された時から記憶が無いことが原因である。

 

 忍の里のほど近い森の中で意識不明の状態で発見され、木の葉の病院で目覚めたのが最初の記憶。

 ソレよりも前のことは何も覚えちゃいないのだ。

 

 唯一覚えていた記憶が、自身の名前が夜刀だということ。

 しかしまぁ、自分で言うのも何だが、こんな怪しい人間を忍の里によく招き入れる気になったものだよ。

 

 そりゃ怪我をしてる子供を善意で助けてくれたんだろうが、それでも色々と甘いんじゃないの?

 勿論、助けられた当初はありがとう―――ともなったが、忍の世界を渦巻く状況を考えるとチョットな………。

 どうしても甘すぎるんじゃないのか木ノ葉隠れの里ってやつはっ?

 

 もっとも、だからと言って完全に善意だけという訳でもない。

 寧ろ此処からが話の主題なのだから。

 

 病院で退院を間近に控えた俺は里側の人間からある提案を提示された。

 内容は『忍者学校に通って忍にならないか?』という話である。

 

 突拍子もない内容だったが、俺はソレを受けざるを得なかった。

 何故ならその話を断った場合、病院での治療にかかった医療費を一括返済するように脅されたからだ。

 

 冗談みたいな話だが、しかしマジである。

 

 行き倒れの上に記憶もなく、当然のように身寄りもない子供になんという仕打ちだろうか。

 もっとも、忍者学校に通って忍を目指すのであれば当面の生活費は里側が用意してくれるし、医療費に関しては下忍になってからの忍務達成報酬からの天引きにしてくれると言うのだ。

 そりゃ、俺からすれば忍者を目指すしか無いわけだ。

 

 色々とブラック感漂う木の葉の里だが、コレでも他所の里よりもマシだというのだからマジで笑えない。

 

 知ってるか?

 他の里じゃ、学校の生徒同士を殺し合わせるような所もあったらしいぞ。

 え、結構有名な話だって?

 あぁ、そう。

 

 まぁ、兎に角だ。

 周りの子供達と比べても精神性が可怪しい俺だが。

 そんな俺が聞いてもゲッと成るような状況が、この忍者の世界ということなんだよ。

 

 だが正直な所、実技の面で俺は他の生徒達に自慢出来る様な成績を修めていないのである。

 言ってしまえばギリギリ及第点の落ちこぼれよりもマシ程度だ。

 

 チャクラを練るといった単純な作業一つとっても調整が上手くいかず、術を発動しようとすると構成が上手くいかなくなる。

 体術に関しては訓練を積めば多少の変化は出るのだが、体が慣れてくると不思議と同じ動きが急に出来難くなってしまう。

 

 当初は呪われてるんだろうか? なんて考えて、里内の神社に厄払いをして貰いに行ったくらいだ。

 まぁ、残念ながら厄払いの効果は出ていないのだが。

 

 しかし、だからこそ自主練を休む訳にはいかないのである。

 

 

 ※

 

 

 演習場に到着してから俺がすることは、とにかく体力を作ることだ。

 とあるゲジゲジ眉毛の忍者から授かった根性バングルを両手足に巻きつけ、根性ベストを身に着けてから広い演習場の中をひた走る。

 

 一歩一歩がドスン、ドスンと音を鳴らし、ちょっとした足跡を作ってしまうのだが、この重量感を周囲へ漏らさないようにすることが最初に行うことだ。

 そうすることで体力だけではなく、より上手く体を使う方法が解るのである。

 

 1時間ほど走り回った後は日によってマチマチだ。

 忍術の練習だったり手裏剣術の練習だったりと、その日に依って内容は変えている。

 残念ながら対人戦闘の訓練が出来ないので、ソレが少しだけが不満だといえるな。

 もっとも、俺は自主的なボッチなので、その辺りは仕方がないだろう。

 

「ハブられてるんじゃない。自分で孤独になってるだけだから」

 

 益体もない強がりを口にしつつ次の訓練へと移行する。

 この日は忍術の訓練に時間を割いたのだが、やはりチャクラのコントロールが上手くいかない。

 どういう訳か途中で乱されるような、そんな感覚が身体の中に走るのだ。

 それでも同じことを続けていれば微妙な精密操作を経て安定はする。

 

 ………結構努力を重ねてる筈なんだが、それでも俺は及第点ギリギリの落ちこぼれ寸前。

 他のクラスの連中は放課後には遊び回って居ることを考えるに、俺は才能と呼べるものが無いのだろうな。

 

 何だかんだで、血継限界を持ってる奴等や秘伝忍術を継承している連中はズルい。

 写輪眼のうちは一族、白眼の日向一族、猪鹿蝶と呼ばれる山中家、奈良家、秋道家。

 他にも犬塚一族、油女一族、猿飛や志村なんてのも居る。

 同じ学年は不思議とそんな連中が集まっていて、中にはメガネが本体と成っているような奴も居る。

 

 俺もそういった家に生まれていれば、こんなにも苦労をすることはなかったのだろうか?

 いや、まぁ、その場合は医療費の返還なんて話が無いだけで、どのみち忍者になる道は決められてるか。

 

 それに、そもそも俺が悩んでるのは才能の話だもんなぁ。

 優れた術が有っても使う人間がヘボでは意味がない、か。

 

 訓練の最後に―――と考え、俺は体中の重りを外し、足下にチャクラを集めて木の木登り業を行ってみる。

 

 速い!?

 

 身体が軽く、まるで羽のようだ!!

 地面の上を走るように樹を駆け上がる事が出来ている!

 オリンピックに出れば金メダルは間違いない!

 ………木登り競技なんて聞いたこと無いけどなっ!

 

「―――あっ」

 

 余計なことを考えていたからだろう。

 足下に溜めたチャクラが強すぎて、身体が弾かれるように吹き飛ぶのであった。

 

「よっ!」

 

 声を出し、空中で姿勢を整えながらスーパーヒーロー着地をする。

 そして()()()に、周囲をチャクラ感知で調べた。

 

「……大丈夫だったか」

 

 小さく呟いて肩の力を抜く。

 全くもって困ったことだが、コレは俺にとって安全確保のために身についた習慣である。

 

 どういう訳か、俺はチャクラを操る才能よりもチャクラ感知の方に才能が偏っているようで、周囲数百mの範囲ならばどんな人間が居て何をしているのかを事細かに把握できるのだ。

 

 単純に感知能力を『範囲内に何が居るか?』に限定すれば、有効範囲を里の半分ほどに広げることも出来る。

 だが、それを行えるように成ってからが問題だったのだ。

 チャクラ感知能力を使い初めて周囲を調べてから今日に至るまで、俺の周りには何人かの人間が付かず離れずに見張りをしている。

 

 ある程度の一定の距離を保つように、俺のことを監視しているのだろう。

 

 何だかんだで、外から入ってきた身元不明な人間を完全に信用していない。そういう事なのだ。

 だから俺が何かしらの怪しい行動に出れば即座に始末できるように、監視役の人間が付いているのだろう。

 連中からすれば、俺が広範囲のチャクラ感知能力を有しているとは思っても居ないはずだ。

 

 なにせ、この能力のことは誰にも言っていない。

 『誰にも言ってはいけない』といった、強い意志を自分の中に感じたからだ。

 

 実際、ソレに従ったのは正解だったと言えるだろう。

 御蔭で監視役の人間が居て、俺という人間を常に見張っていることが分かったのだから。

 

 だが―――なにか可怪しい、今日は。

 いつもは二人は居る筈の監視が、今日は一人しか居ない。

 もしかして、里の中で何かが有ったのだろうか?

 

「………今日は帰るか」

 

 諸々を考えた結果、今日は早めに帰ることにする。

 もしも本当に里で何かが起きていた場合、俺が人目のつかない場所で一人で居るというのは問題ではないかと考えたからだ。

 

 演習場を抜けて街へと戻ると、表面的にはいつもと同じだが街のあちこちで何人もの忍が動き回っているのが感じられる。

 恐らくは最低でも中忍、でなければ上忍クラスの人間が駆り出されているのだろう。

 

 こういう部分を感じてしまうと、この世界が生き死にの出やすい世界なのだと実感させられる。

 

 道すがらの商店で適当な弁当を買い、自分の城であるボロアパートに向かって歩いていく。

 一応は里側で部屋を用意してくれるのだが、『賃料を安く済ませる分、借金の医療費に回してほしい』との建前で築30年のコーポ山梨を借りているのだ。

 

 まぁ、建前を必要とした理由はもう分かるだろ?

 監視対策だよ。

 

 民間の建物なので余計な工作はしにくく、またプライベートを護るという名目で四方を封印式で囲っても文句は出ない。

 大家がOKを出せば取り敢えずは問題ないからだ。

 これが里の用意した部屋ではそうもいかず、恐らく里に申請を出しても却下されていただろう。

 

 まぁ、そういった事をした所為で、俺が外出している内に勝手に部屋に侵入している監視役が偶に居るのだが、ソレもまた仕方がない。

 見られて困る物は置いては居ないし、それで里側が納得してくれるのなら此方としても文句はないからだ。

 

 だが、今日の監視役は少し鈍いような気がする。

 俺が部屋に戻ろうとしているのに、未だに部屋の中に居るのだから。

 

 まぁ、流石に玄関を開ければ退散するだろう。

 

 そう考えてドアを開けたのだが―――

 

「なっ!?」

 

 瞬間、駆け出すように迫ってきた仮面の人物に驚き、声が漏れる。

 対処をしようと腕を動かすが、相手の動きは早く対処が間に合わない。

 

 相手は俺の腕を無遠慮に掴み、引っ張り込むように部屋へと引き込むとチャクラを込めた掌を額へと押し当ててくるのだった。

 

 

 



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02話

 

 

 初めて目が覚めた時、自分は唯の赤子だった。

 殺風景な鉄張りの壁が周囲を囲む部屋で、保育器の中に入って寝かされていた。

 

 当然のように軽いパニックにも成ったが、しかしソレも一眠りすることで落ち着くことが出来た。

 考えても、自分自身を思い出すことが出来なかった事が良い方へと働いたのだろう。

 

 簡単に言えば、1+1=2の意味は解っても、ソレを何処で覚えたのかが解らない状態と言えば良いだろうか?

 知識はそこそこに揃っているのだが、そのルーツが解らない。

 そのため、当然だが自分に関しても解らない。

 

 解らないことは、幾ら悩んでも解らない。

 

 そう考え、俺は悩むことを止めたのだ。

 だが身体が赤子だからといって何もしないで日々を寝たきりで過ごすのは面白みに欠ける。

 

 少しでも出来ることが増えるようにと、せっせと体を動かし始めた俺は僅か数日で首が座り、身体を支えて立ち上がることが出来るまでに成長していった。

 

 正直、自分でも首を傾げる自体であったが、ソレよりも恐ろしいことを同じ時期に体験をしてしまった。

 

「上手くいきそうね、コレ」

 

 或る日のことだ。

 青白い顔をしたロン毛のオネェ言葉を話す人物が、キョロっとした眼を向けながら俺の顔を覗き込んでいた。

 

 突然の事に驚き息が詰まりそうに成るが、その男は身体を引いて覗くのをやめる。

 

 なんだ?

 誰だ?

 

 そんな疑問を持った状態で居ると、俺の世話をしていた一人が言ったのだ。

 

「はい。未だに楽観視は出来ませんが、この調子なら『大蛇丸様』の提示された基準を大きく上回るかと」

 

 妙にペコペコした態度とか、そんな事はどうでも良い。

 奴は先程なんて言った?

 大蛇丸、とか言わなかったか?

 

 自身の聞き間違いを期待して自体を起こし、保育器から顔を出すように視線を向ける。

 

 空中で視線が打つかってしまった。

 

 イメージに沿った、凄まじく似ているコスプレと考えられなくもないが………。

 アレは駄目だ。とてもそうは思えない。

 アレは間違いもなく、本物だと。

 

 俺は、俺の体全体がそう理解してしまったのだ。

 射竦められるように脚の力が抜け、ストンと座り込んでしまう。

 そして現在の自分の状況がどの様なものなのか、ソレが解った。

 

 つまり、自分は大蛇丸が持っている研究所の一つに囚われている。そしてその理由は実験体としてに違いない、と。

 

 いずれ、このまま何もしなければ俺に待っているのは実験体としての無残な末路だ、と。

 

 ―――やるしかない。

 そう、殺るしか無いのだと決意をした。

 

 俺が自由に成るにはこの状況を打破しなければならない。

 強くならなければならない。

 いずれは、あの恐怖を打倒できる存在へと至らなければならない。

 

 俺は震える脚に力を込めてもう一度立ち上がった。

 そして奥歯を噛み締め再び大蛇丸へと視線を向ける。

 

 いずれ、自分が打ち倒す相手を頭の奥に刻み込むために。

 

「―――フフフ、面白いわね。気に入ったわ」

 

 再び視線をぶつけ合った俺に対して、大蛇丸は舌舐めずりをして口元をニヤリと歪めてきた。

 それでもジッと視線を逸らさずに居ると、奴はこう続けて言ったのだった。

 

「この子に名前を付けてあげましょう。―――そう、夜刀。貴方の名前は夜刀よ。精々強くお成りなさい」

 

 まるで俺の決意を見透かすように、奴は此方を見据えながらに言ってきた。

 あぁ、良いさ。

 強くなってやるさ。

 

 アンタが手を出せないくらいに、作ったことを後悔するくらいに。

 

 

 ※

 

 

 大蛇丸との初めての邂逅から、俺の行動は修行と呼べる物へと変化することに成った。

 以前が身体を使うためのヨチヨチ歩きだったとすれば、歩行器付きの訓練と言ったところか。

 

 頭の奥にある知識を引っ張り出し、チャクラを練るといった行動に出てみたのだ。

 精神エネルギーと肉体エネルギーの融合という、良く解らないモノではあるが、それでもこの身体は思いの外に優秀なようだ。

 

 チャクラの生成、そして運用を試みた結果、上手く身体がソレを再現してくれる。

 もっとも、幼児期の赤子に出来ることなんてたかが知れている。

 只管身体を動かせるようにするための運動と、チャクラの生成ばかりをしていた訳だが、ある日ふと思ったのだ。

 

 術を使うための印は兎も角として、チャクラの形質変化は練習できるんじゃないか?と。

 

 とは言え、だからといっていきなり『螺旋丸』が出来ましたなんて突飛なことにはならない。

 何事にも段階が必要だろう。

 先ずは視認できるレベルのチャクラを練ることから始める。

 そしてチャクラとは何なのかを確りと見て判断できるようにする。

 その後はチャクラを少しづつ形を変化させるように、ちょっとづつ動かしていく。

 そうやって試行錯誤の日々を送るうちにグニャグニャと動くチャクラは次第に寄り集まり形を変え、感覚とコツを掴むに至った。

 その後も次々と考えを巡らせて出来ることを増やすべく修行に励んでいったのだ。

 

 チャクラを上手く扱うにはチャクラを知る必要が有ると考えて感知能力を高め、感知能力で微細なチャクラの動きから対象の動きを理解するように精度を高め、把握したチャクラの動きを真似ることで術の構成を理解して模倣する。

 

 数年も経った頃、研究所の中で行われていることならば俺は何でも知ることが出来るように成っていた。

 もっとも、コレは研究所の職員が大したレベルの忍ではないことも理由の一つでは在ったのだろう。

 

 当時の俺の師に当たる人物は研究所の職員だった。

 彼らから体術を学び、術を学び、知識を学んでいた俺だったが、次第に彼らは俺に何かを教えることが出来なくなっていった。

 

 あぁ、ひどい話だ。

 

 どうしようもなく、変えようもないほどに、才能の差というやつが出て来てしまっていたからだ。

 

 優れた肉体が彼らの動きを凌駕して打撃を加え、膨大なチャクラは同じ術でも桁違いの効果を生み出す。

 数えで5つになる頃には、周りに対等に戦える人物など一人も存在しなくなっていたのだった。

 

 もっとも、それでも俺の行動範囲は研究所から離れることはなかった。

 表に出ることが許可されても、精々が徒歩で30分圏内の範囲だ。

 しかもタイムリミット付きで。

 

 時間内に戻らなければ体につけた呪印が反応して身体を燃やし尽くす―――といったモノが刻まれている。

 とは言え、呪印を刻む瞬間を目撃した此方としては、いつでも解除することも出来るのであるが。

 

 だが一つの転機が起きた。

 

 俺に研究所の職員とは別の師匠が出来たことだ。

 その人物は今までの忍と比べると桁違いに強く、桁違いに術の道理を知った忍だった。

 

 ………まぁ、大蛇丸だったんだが。

 

「今日から私が直々に鍛えてあげるわ」

 

 と。

 

 大蛇丸が言うには研究所は閉鎖が決まり、痕跡を残さずに処分することに成ったらしい。

 ソレに伴い俺も研究所から表に出され、暫くの期間を大蛇丸と共に多くの国へ足を伸ばした。

 

 そして忍として必要な心得を教え込まれ、更に高度な術式と体術を身体に刻み、8つになる頃には百では利かない数の人間を殺していた。

 

 優れた素質とソレを鍛えるための鍛冶場。

 自分で言うのも何だが、そういった言葉が当て嵌まるように、俺は着々と力を付けていったのである。

 

 もっとも、それも一つの任務を言い渡されるまでの間だった。

 その任務とは。木ノ葉隠れの里への潜入任務である。

 

 

 



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03話

 

 

「気分はどうだい、夜刀くん」

「最悪な気分ですよ。()()()さん」

 

 術の後遺症に依るものだろうが、少しばかり痛む頭を抑えながら返事をする。

 相手は眼鏡を掛けた優男、薬師カブトだ。

 大蛇丸の部下。

 俺にとっては一応の()()となる人物だ。

 

「其処は勘弁してもらいたいな。記憶を封印した状態が続いていたんだ、多少なりとも違和感は出るよ」

「別に文句がある訳じゃありませんよ」

 

 多少の違和感が残るのは折込積みだったのだ。

 ソレくらいのことは術の概要を聞けば理解は出来ていた。

 

 大蛇丸の命令で木ノ葉隠れの里に潜入してから早数年。

 封印術式と催眠でそこそこ真面目な子供を演じてきた訳だが、それを解除したということは、

 

「ところで―――父上が俺の身体を欲しがるには、この身体は未だに成長が足りないと思うんですが?」

 

 不屍転生の器に俺を選んだということだろうか?

 俺は現在のアカデミーの同期と比べても3歳ほどは年上だ。

 同学年のくのいちにそこそこの人気があるのも、『物腰穏やかで若い時の大蛇丸に似てクール系イケメンの顔をしている年上の男』と言うのが理由に成っているのだろう。

 

 だが年齢のため同学年のアカデミー生と比べればそこそこに成長をしているとも思うが、ソレは年相応と言えるレベルでしか無い。

 

 大蛇丸が自身の体に今直ぐと考えるには早すぎるだろう。

 まぁ、もっとも大蛇丸と言えど人間だ。

 何処でどんな考え方をするのかなんて、完全に予想を付けることは出来ない。

 もしも身体を奪うために、俺の記憶を呼び起こしたというのなら何としてでも逃げ出さなければ成らないだろう。

 

「いや、安心して良いよ。なにも次の肉体に君を選んだわけじゃない。流石に君の身体はまだ子供だからね。

 それに最近、大蛇丸様は急遽不屍転生が必要になってね。既に新しい肉体へと生まれ変わられたよ」

「………あぁ、成る程」

 

 木の葉の里の中枢がどんな事を企んでるのか?

 ソレをリアルタイムで知ることは出来ないが、時系列を考えれば恐らくは暁に潜入した『うちはイタチ』に返り討ちにでもあったんだろう。

 

 けど、ソレなら良かった。

 

 大蛇丸は基本的に天才側に属する人間だからな、大抵の人間は自分よりも格下だと考えている。

 自分と同じ三忍と呼ばれる、自来也や綱手のことすらもそう思っていそうだからな。

 

 だがコレで、興味の対象がうちは一族の写輪眼へと移るだろう。

 写輪眼の様な肉体へと変化を及ぼす血継限界は、術を扱う才能だけでは追い付けない部分が有るからな。

 

「なら音隠れの里が、ある程度の軌道に乗ったということですね?」

「そのとおり。………もっとも、一応は形になったと言うだけで本来の目的を行うにはまだまだ足りない。

 準備は勿論だけど、才能のある人材も、ね」

「それなら、俺も音の里に行くんですか? ………この里で、俺はまだ何もしてませんが」

「ソレをし始めるために記憶を戻したのさ。確か、君は影分身を使えるんだよね?」

「えぇ、まぁ」

 

 自分が未だに大蛇丸と行動を共にしていた頃、俺は奴から数多くの術を覚えさせられた。

 その中の一つに影分身の術がある。

 

「コレを見てくれ。これは口寄せ契約をしてある札だ。今後、僕が定期的にこの札と予定表を君に渡す。君はその予定表に沿って、影分身に札を持たせて大蛇丸様の下へ向かうことに成る」

「影分身を父上のもとに?」

「音隠れの里を作った真の目的のためには優れた人材が不可欠。

 大蛇丸様が、方々で様々な忍をスカウトしているのは知っているだろう?

 君にはそんな者達を束ねるために、力を付けて欲しいんだと思うよ」

 

 確かに、此処数年はマトモな師が居なかったため修行も停滞していた。

 精々が地力を上げるための修行しか出来なかったことを考えると、大蛇丸から修行を受けられるのは嬉しい限りでは有る。

 

「ですが、俺は元々木ノ葉隠れで工作をする予定でしたよね? そっちは良いんですか?」

「本来はその筈だったんだけどね………。その役目は急遽僕が代わることに成った。

 君は同学年に居る、うちは一族の子供の動向を報告するようにとのことだよ」

「うちは……サスケですか」

「流石、詳しいね」

「一応は同じ学年ですからね」

 

 大蛇丸は方々の国々から、特殊な才能を持った人間を老若男女問わずに収集している。

 だがそんな血継限界たちを見比べても、それでもなお写輪眼は手に入れたいモノの一つのようだ。

 

「でも、そうか。父上(おろちまる)が直接、何か騒ぎになるような事をこの里で起こしている最中なんですね」

「うん? どうしてそう思うんだい?」

「だって、里の忍―――中忍以上の範囲ですけど、随分と慌ただしいじゃないですか。

 言ってはなんですが木ノ葉の里の忍がこれだけ慌ただしくなるような事態となると、現在の音隠れの忍の中では父上が直接動くしか無いのでは?

 まぁ、俺が居ない数年の間に凄い人材が入ったと言うなら解りませんけど」

「………いや、確かに君の言うとおりさ。現在、この里には大蛇丸様が潜入している。目立つように痕跡を残しながら、ね」

「成る程」

 

 頷いて、その理由に納得をした。

 大蛇丸ほどの忍が本気を出せば、並の連中では気付くことも出来ない。

 ソレを態々目立つように動いているというのは、常に俺を監視している暗部の視線を逸らすためのモノなのだろう。

 

 とはいえ―――

 

「他にも理由、有りますよね?」

 

 流石にソレだけの為に、大蛇丸が態々出張ってくるとは思えない。

 そりゃ、写輪眼のうちは一族を監視させたいというのも理由にはなるだろうが、ソレだけでは少し弱い。

 恐らくは、『何かのついで』に俺の封印を解くことにしたのだろう。

 

「つくづく、君は凄いな」

「………?」

「大蛇丸様が、君を特別扱いする理由が少し解るよ。

 まぁ、コレは言っても問題がないことだから言うけれど、ちょっとした実験をすると言っていてね。

 多分、最近になって開発された呪印を使う実験をなさるんじゃないかな」

 

 呪印?

 ………あぁ、強制的に仙人化させるアレか。

 という事は、みたらしアンコに呪印が刻まれるということか。

 成る程な。『術の実験と封印解除を一緒にやっておくか―――』なんて理由か。

 それなら、まぁ、納得もできる。

 

「君が卒業するまでまだ暫くは時間が有るだろう? その間に、君にはうちはサスケについての報告を定期的に行って貰う。

 性格や人間性、チャクラの性質に大凡の実力など、分かる範囲で纏めておいてくれ。

 そしてソレと並行して、音隠れの里で修行を行って貰う。

 次代を担う音隠れの若い忍達を、君に統率してもらうと言うのが大蛇丸様の狙いのようだからね。君は、随分と大蛇丸様に大事にされているようだ」

 

 大蛇丸の狙い………か。

 確か究極的な話で言ってしまえば、『全ての術を扱えるようになる』というのが目的だったか?

 結局のところ、大蛇丸が俺を気にしているのは器としての成熟度だろう。

 

 例えばの話だ。

 今現在の大蛇丸は不屍転生を行ったそうだが、元の体と比べてその能力は低下しているだろう。

 何故ならば今までと勝手が違う肉体だからだ。

 

 筋肉の付き方は勿論、チャクラの身体への馴染み。

 遺伝的に使い易い術の違い。

 そういった諸々が変わってしまう。

 

 転生して直ぐの頃ならば、大蛇丸の基本能力は大きく低下してしまっているのだ。

 だが、それが俺のような大蛇丸の血を引いた上位互換ならばどうだろうか?

 自身の扱う術と同じモノを、自身の受け継いでいる才能と同じモノと更にプラスされたモノを、そして若い肉体を―――

 

 大蛇丸が俺に求めているのはそういったモノの訳だ。

 当然だが、そんな事を俺が受け入れるわけがない。基本的には自分の命は大切だ。

 大蛇丸自身が俺の考えを理解しているかどうかは解らないが、少なくとも存在価値が在り従順にしている間は問題はないだろう。

 だから今回、大蛇丸の注目が俺からうちはサスケに移ってくれたのは有り難いことだ。

 もしかしたら、流れを無視してサスケではなく俺を器に選ぶのではないか? などと心配もしていたが………取り敢えずは安心しても良いだろう。

 

 うちはイタチに、一方的に敗北したのが余程に堪えたようだな。

 

 まぁ、俺は写輪眼と直接に戦ったことがないので何とも言えないのだが、ソレほどまでに万能な能力ならば、うちはマダラは千手柱間に負けなかったと思う。

 要は、『便利な道具』程度の認識で居るべきだろう。

 そもそも、万華鏡写輪眼に開眼しなければ物をよく見える程度の能力でしか無く、そのうえ仮に万華鏡に至ったとしても失明する可能性があるモノなど俺は欲しくはないな。

 

 手に入れるのなら、もっと手軽で有用なモノが良い。

 

 自身の地力を高めるのは、俺の目標である大蛇丸の驚異の排除にも繋がることだからな。

 

 



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04話

 

 記憶が戻って最初に俺が行ったことは、報告書の作成―――ではなく、自身の身体に仕込まれていた封印術の調整である。

 肉体への負荷を増やし、チャクラを乱す効果のある封印術式と言えば理解してくれるだろうか?

 俺が普段から実技に於いて、然程優秀ではなかった理由が其処にある訳だ。

 俺は目立ってはいけないのだから。

 

 潜入任務で一番に大切なことはなにか? それは『洗浄』だ。

 つまり、自分の所属を見えなくさせて潜入地に溶け込む必要が有るのだ。

 だからこそ、自身の動きを制限するための枷が必要だったのである。

 当然、記憶が有れば其のあたりの調整も上手くやれただろうが、その場合は記憶を読む術を使われれば、俺が大蛇丸の配下だとバレてしまう。

 

 『記憶が無い、身元不明な子供』だからこそ、木ノ葉の里に在籍が許されているのだ。

 

 もっとも、封印術式を解除して動けるように成ったからと言って調子に乗ってしまってはソレこそ意味がないものと成る。

 俺は、目立ってはいけないのだから。

 

 しかし、誤解をしないでいただきたい。

 修行を疎かにする訳でもないし、封印術式で縛られていたことが全くの無駄というわけでもない。

 

 そもそもだ。この身体に施されていた封印術は、チャクラの強さに合わせて発動するモノだった。

 チャクラの強さに合わせて対象の筋肉へと付加を掛け、そしてチャクラの合成を阻害する様に働く仕組みだったのである。

 写輪眼や白眼などで常時見張られていればバレる可能性もあっただろうが、基本的にそういった血継限界持ちは貴重だ。

 俺を監視するためとは言え、そういった優秀な忍びは使わないだろう。

 

 つまりだ。

 余程に変な行動さえ取らなければ、俺に与えられた忍務はさして問題のない簡単なモノとなるはずだ。

 

 ―――いや、だった。

 

 アカデミーの教室へ到着し周囲を見渡すと、同学年の者達が既に何人か到着していた。

 流石に全員が既に登校済みとは言わないが、俺が心の奥で溜め息を吐きたくなる『理由』は登校していた。

 

 それは木ノ葉の里に存在する名家と呼ばれるモノが理由である。

 初代、二代目と火影を生んだ千手一族を筆頭に、うちは、志村、鎌土、日向、犬塚、油女、奈良、山中、秋道と、これ以外にも数多くの一族が木ノ葉には存在している。

 

 だが、この中で問題となっているのは日向と呼ばれる、血継限界『白眼』という瞳術を伝えている一族のことだ。

 俺の視界の中には、色白の肌と特徴的な瞳をした日向一族の人間が二人居る。

 一人は大人しい印象を与えてくる、オドオドとした様子のオカッパ頭の日向ヒナタ。

 対して、目付きが強く見る者に活発な印象を与える、短い髪の毛を頭の後ろで軽く縛っている日向ハナビ。

 

 どういう訳か、俺の視界には日向一族宗家の姉妹が一緒に居る。

 しかも同じ年齢として。

 本来ならば、確か4つか5つは年の差が有るはずの二人が、何故か双子としてこの場に居る。

 

 なんでだ?

 

 コレが俺が起こしたバタフライ・エフェクトだと言うならば理解も出来る。だが俺自身が何かをした結果として双子が生まれたなんて、どうすれば想像が出来る?

 

 コレは、まぁ、そういう世界なのだろうと判断するしか無いだろう。

 実際問題として、大蛇丸の陣営に俺のような人間が居ること事態、十分におかしな話なのだから。

 

「―――おはよう、夜刀」

 

 眼の前の二人をどうやって躱すかを悩んでいると、背後から見知った声に挨拶をされた。

 これ幸いと後ろを向くと、はて?

 

「ふむ。声はすれども姿は見えず……か」

「ベタなことするなよっ! 下だよ!下!」

 

 言われて視線を下方向へとずらすと、そこには顔に掛かったメガネが一つ。

 

「眼鏡がメインみたいに言うの止めてくれない……っ! 朝から不愉快な思いにさせるの、本気で止めてくれないっ!?」

 

 頭2つ分ほど小さな体躯をしたメガネくんが、此方に向かって睨みを効かせてくる。

 おぉ、怖っ。

 

「おはよう、鎌土君。君は、相変わらず元気でちんまいね」

「ちんまいは余計だろうが! 妙な言葉を挟むな!」

 

 笑顔でかけた挨拶に対し、頭2つ分ほど背の小さい同級生―――鎌土ナツネが吠えるように声を上げた。

 俺はそんな鎌土くんに、思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「だってさ、俺は確かに年上の人間だから多少は皆んなよりも背が高いよ? けども、頭2つ分も背の低い相手を年相応に背が高いね―――なんて、そんな嘘はつけないよ。もしもそんな事を言う奴が居たら、俺はそいつに視力検査を進めなくちゃならない」

「そうじゃない! 礼儀の問題だろ!」

「礼儀……か。礼儀ってのは社会の決まりにかなう、人の行動・作法のことだ。

 だから、小さい子を大巨人と表現できないって事の方が、そういう意味では礼儀にかなった行動じゃないのかな?」

「いちいち僕の心を抉るのは、礼儀正しいって言えないだろうがっ!」

 

 成る程。どうやら思いの外に知恵をつけたようだ。

 しかし、声を掛けてくれたことに関しては感謝をしたい。

 お蔭で、日向姉妹を見ないでおくことが出来る。

 

「―――まぁ、確かに俺が悪かったよ。おはよう、ナツネ」

「お、おぅ。なんだか、急にそう返されると調子が崩れるな」

「そうか? 寧ろ、普段の俺はこんな感じじゃないかな?」

「いや、まぁ、そうなんだけどさ」

 

 ブツブツと言葉を小さくさせる鎌土君に、俺は小さく笑みを浮かべた。

 この鎌土君という人物が何者なのか? と言うと、里の中で一定の忍を排出している一族の人間らしい。

 得意な戦闘方法は暗器術。

 ……何処か一学年上のテンテンを思わせるが、それほどに警戒する相手でもない。

 

 少なくとも、秘伝忍術や血継限界を受け継ぐような連中程には見る必要もないだろう。

 それに俺は元々『話をする相手』程度には、この鎌土君と接点を持っていたようだからな。

 と、脳内で勝手な一人語りを展開していると、ドタドタと騒がしい足音が廊下から聞こえてくる。

 

 あぁ、どうやら奴が来たらしい。

 

「―――ギリギリっセーフだってばよ!」

 

 ガーンと音を立てて扉を開き、金色の髪をした喧しい少年が教室へと入ってくる。

 ソレを眼にした者達の反応は様々で、表情を顰める者、面倒臭そうにする者、興味なさそうにチラリと視線を向けただけの者、嬉しそうに笑顔を向ける者とそれぞれだ。

 

 俺は、何方かと言えば興味のない側になる。

 

 理由としては、今の俺が率先して関わるべき相手ではないからだ。

 

「ナルト君。相変わらず元気だね」

「ソレしか取り柄がないからだろ。今のアイツには。俺も見習わなくちゃ成らないとは思う」

 

 なにせナルトは、実技も座学もドベという落ちこぼれ。

 しかし持ち前の明るさも手伝って、馬鹿にする奴はいても嫌う奴は居ない。

 処世術なのかどうかは兎も角として、ナルトのお蔭で俺は成績最下位等という事に成っていないのだ。

 有り難いことである。

 

(うずまきナルト……九尾の人柱力)

 

 これからも関わるべきではない人物なのだろうが、注意をする必要も有るだろう。なにせ、コイツは意外性№1というのが売りだったのだから。

 何処で接点を持つことになるか、解ったものではない。

 

「どうしたの、夜刀?」

「……なにが?」

 

 不意に鎌土君から妙な質問をされてしまった。意味の分からない内容に、俺は素で返答をする。

 

「いや、なんだか少しだけ、()()感じがしたからさ」

 

 眼をパチクリとさせて驚いてしまう。

 まさか、そんな事を言われるとは思わなかった。

 表情に出ていたのだろうか? だとしたら気をつけなければならない。

 

「怖い、か。また少し、目付きが悪くなったのかもしれないな」

 

 と、俺はそう言いながら眉間に手を当ててグイグイと揉み解すような仕草をした。

 

「いや、ま、確かに目付きは悪いよね」

 

 大きなお世話だ。クソッ。

 

「―――おーい、全員揃ってるか!」

 

 と、鎌土君と話をしている間に良い時間になったようだ。

 担任教諭の、うみのイルカが扉を開けて入ってきた。

 

 俺は鎌土君に軽く声を掛けてから指定の席へと移動する。

 今日も何事もなく、上手く里での生活をしたいものだ。

 

 ちなみに、この日の実技訓練は手裏剣術。

 当然のように、うちはサスケがトップの成績を叩き出して鎌土君が二位。

 俺はナルトよりもマシだが、自慢できるような成績ではなかった。

 

 ……鎌土君、君って普通にモブキャラだよな?

 

 

 



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