DQ4 転生者と導かれし者たち (かいちゃんvb)
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第1章 王宮の戦士と転生者
第1話 何か転生しちゃったんですけど


〜〜で挟まれてる部分はナレーション。その他は特に指示がない限りは主人公目線です。


2019年1月24日未明、1人の男子大学生が息を引き取った。死因は一酸化炭素中毒。彼が下宿していたアパートが火災に遭ったのだ。眠っている間の出来事で、本人は苦しみを感じていなかったという。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

はい、というわけで俺、岡本伸一19歳は気が付いたらいつのまにか死んでいて、マジで絵に描いたような閻魔大王の前に引き出されてました。

 

「はい、君が岡本伸一君ね。若くして殺してゴメンね〜。一応運命で決まってたんだけど、やっぱり若者殺すのは忍びないね〜。」

 

いや〜、そういうセリフは殺す前に言って欲しかったし、何なら思い止まって欲しかったんだけどな〜。

 

「はいじゃあ生前のプロフィール確認ね〜。岡本伸一君。1999年2月26日神奈川生まれ、2019年1月24日、下宿先の京都で火災に遭い死去。享年19。中学、高校は野球部に所属、大学は一般の入学試験を受けて京都の有名私立大学に進学。興味本位で合気道のサークルに入り、下宿先近くのコンビニでバイト。アニメとパワプロと映画が好き。嫌いなものは口うるさいババァ。あっ、女友達は多いけど彼女ができないのが悩みだったんだね〜。ご愁傷様。」

 

こいついっぺんぶっ殺していいですか?

 

「さてさて、まあ君文学部だったんだよね?だったら薄々勘付いてると思うんだけど、僕の後ろでグルグル回ってるコレ、輪廻の輪。」

 

あっ、そうなんだ。てかデケーな。普通にみなとみらいの巨大観覧車ぐらいはあるわ。

 

「ということで、今から転生してもらいまーす。」

 

どの辺が"ということで"かはわかんねーけど、転生か………。何か楽しそうだな。今度こそ彼女欲しいな〜。

 

「前世はフツメンだったけど、今度はそこそこなイケメンに転生させてあげるよ。彼女作り頑張ってね〜!」

 

うおっ!何か猛烈な勢いで下に引っ張られる〜!!!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あれからちょうど20年経った。こっちで付けられた名前はユリアン。パッと思い浮かんだのは銀○伝とウルトラ○ン80だね。閻魔の言葉に偽りなし、身長は180センチくらいあってまあまあなイケメンフェイスに生まれました。髪の毛はミンツ君みたいな亜麻色じゃなくてフ○デリカみたいなくすんだ金髪を適当に整えてる。ちょうどどこぞのマヨラーな副長くらい。(V字にはなってねーからな!)こっちの世界の親父もお袋も早いこと亡くして8歳で天涯孤独になった時はどうなることかと思ったけど、ご近所さんの手も借りつつ何とか自立もできて何とか収入も安定してる。職業は………万事屋。

 

いいじゃん!?やりたかったんだもん!!某漫画の主人公みたいに自堕落な生活を送るつもりは無いけどさ、かっこいいじゃん!"困ったことがあったら金さえ積めば助けます"ってさ!

 

ウッフン!……んでもってここはどこかというと、バトランドって王国の王城の城下町らしい。何か中世ヨーロッパみたいな世界観なんだけど、城下町の外には魔物とかいう未確認生命体がウヨウヨいて、魔法なんてもんもある世界。俺はちょっとだけ魔法の才能があるらしく、回復呪文のホイミってやつを使える。回復呪文っつっても自然治癒力を爆上げして痛みを和らげる感じ。怪我したらちゃんと休まなきゃならんのは前世もこっちも変わんねーな。

流石にこの世界に"和"な要素はほぼ皆無なようで、俺は基本的に裾の長い白っぽいローブっぽい服に(語彙力)紺色のマントを付けて、腰には樫の木をチマチマ削ってヤスリでピッカピカに磨いた木刀を腰に挿してる。まあ木刀って本当に便利なんだよね。高いとこの物届くし、もちろん武器になる。某イチゴ牛乳大好きな主人公が愛用するのもわかるってもんだよ。最初は完全にパクリでこのスタイル始めたけど、もう離れられねーわ。

業務内容は基本は雑用ばっか。やれあれを届けてくれ、やれ無くし物を見つけてくれ、やれどこどこの修理をしてくれ……。あとたまに魔物退治。まあそんなこんなで色々降りかかってくる依頼を片付けてたらこの前は王宮の壁面のペンキの塗り直しなんかもやっちゃった。んでこう見えても俺って結構几帳面だから、その仕事ぶり王様に直々に褒められても〜有頂天っすよ!王とパイプできたのはでかいよね。報酬弾むし!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

〜そんな春のある日、ユリアンの元に王宮からの呼び出しがかかった。〜

 

「さてユリアンよ、この前の壁のペンキ塗りの仕事は実に見事であったな。」

 

「ありがたきしあわせ。」

 

目の前にいる王様にとりあえず恭しくしておく。まあ何か国家間での揉め事とかは無いみたいだし、民衆が困ってる的な話も聞かないから、暗君ではないんだろう。

 

「そこまで硬くならずとも良い。してそなた、近頃イムルの村で子供が次々と行方不明になっとるという事件を知っておるか?」

 

じゃあお言葉に甘えてちょっと崩すか。

 

「はあ。確かに耳にしました。」

 

そういやこの前城下町共用の井戸でおばちゃん達がそんな話してたの聞いたわ。怖いよね。誘拐とかだったら胸糞もんだね。

 

「誠に由々しき事態じゃ。何としてもこの事件の原因を究明せねばならん。そうは思わんか?」

 

「はあ、そうですね。」

 

「そこでわしの勇敢な兵士たちが捜索に向かったわけだが、まだ手がかりらしい手がかりも掴めておらんようだ。そこで、追加で人員を派遣することになった。」

 

「なるほど。」

 

「その中にライアンというこの城随一の屈強な戦士がおって、奴もそれに加えたいと思うたのだが、なにぶん口下手でな。城の兵士達はその事を知っておるから問題は無いが、調査のために他の民たちと言葉を交わすこともあろう。その時に苦労するのではないかと思ってな。実績は申し分ないだけに外すのも惜しい。そこでだ………。」

 

「え〜、美人なねーちゃんならともかく、むさいおっさんと二人旅なんて願い下げですよ〜。」

 

要するにあれだろ、コミュ障のおっさんのために通訳になれって事でしょ?そのために2人で旅に出ろって事でしょ?ギブミービューティフルレディーズ!!

 

「2000ゴールド出すと言ってもか?」

 

「はい!喜んで引き受けさせていただきます!!」

 

ゴールドっていうのはこの世界の通貨で、だいたい1ゴールド=100円くらいの価値だ。つまりざっと20万転がり込んでくる計算になる。電化製品っていう金食い虫が無いこの世界においては軽く3ヶ月は食っていけるくらいの大金だ。

 

「そうか、引き受けてくれるか。ではライアンをここへ。」

 

〜そしてライアンと呼ばれた戦士が進み出た。鍛え上げられつつも引き締まった肉体。顔には青くてゴツいヒゲが蓄えられている。他の兵士とは違って赤く塗装された皮の鎧と兜をかぶった見た目年齢45歳だが、実年齢は33歳という男性である。〜

 

「では、2人で事件を何とか解決してくれたまえ。期待しておるぞ。」

 

〜そう言って王はユリアンに金貨の入った袋を渡した。〜

 

「前金の500ゴールドじゃ。残りの1500は成功報酬ということにさせてもらう。」

 

「りょーかい!!」

 

〜そしてユリアンはライアンに向き直り、手を差し出した。〜

 

「まあ、とりあえずヨロシコ。」

 

「………。」

 

〜ライアンは期待半分、不安半分という表情でとりあえず出されたユリアンの手を握り返した。

 

こうして、後に天空の勇者伝説と呼ばれる物語の幕が、バトランドの地から幕を開けたのである。〜




ユリアン
Lv.3 HP26 MP7
呪文 ホイミ
性質としては(戦士+武闘家)÷2+ちょっぴり賢者って感じです。


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第2話 情報を蔑ろにする奴は損をする

ライアンと一緒に王の前から解放された俺たちは、とりあえず城にいる人間に片っ端から声をかけて情報収集に勤しんだ。(もちろん主に俺が。)まあ王様も言ってたことだけど、目立った情報は集まらなかった。連れ去られた子供の母親にも話を聞いたが、遊びに行ったら帰ってこなくなったってことくらいだ。これは発生地であるイムルの村に行くしかねーかな?

城を出た俺たちはとりあえず俺の家に戻った。旅支度しないとな。

 

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「ささ、どうぞ上がってください。」

 

ユリアン殿に促され、私、ライアンは彼の家の敷居を跨いだ。二階建ての普通の家の一階部分は彼の仕事部屋であるようだ。入り口を入ると正面はカウンターになっていて、その奥には本棚や工具箱があった。そして彼は普段依頼人を座らせているであろうカウンターの前の椅子に私を座らせ、紅茶を淹れてくれた。

 

「あー、気が急いている所悪いんですけど、出発は明日にします。今日は城下町で情報集めて終わりになろうかと思います。」

 

私もそうするつもりだった。了承の意を伝えるために頷いておく。最初は軽薄なだけの男かと思っていたが、彼と僅か2時間行動を共にしただけでその認識を改めざるを得なくなった。

まずこの男はなかなか強い。一見ひょろっとしているが、適度に筋肉のついた引き締まった良い体をしてる。実際の戦闘を見たわけではないので実力自体は未知数だが、少なくとも私の足を引っ張るということはなさそうだ。それに、人の話を聞くのが上手い。まあ私が下手だからというところもあるのだろうが、初対面の相手でも臆せず話しかけ、巧みな話術で相手の心を掴んで次々とく情報を引き出す様子は、私には魔術のように見えた。

どうやら少し女好きでズボラで面倒くさがりなところがあるようだが、この男とはうまくやっていくことができる、そんな気がしている。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一服した俺たちは早速城下町に繰り出して情報収集に努めた。手始めに声をかけた爺さんがヨボヨボの足腰で「付いていきたい」とか吐かしやがったが、「隠居(ハウス)!」の一言で黙らせてやった。

しばらく街を散策していると、街の娘のフレアがえらく憔悴した様子でウロウロしていた。結構な美人なんだが残念ながら人妻で、旦那のアレクスは「冒険王に俺はなる!」ってどこぞのワンピの主人公みたいなこと吐かしてしょっちゅう家を空けている。その旦那の外出中に家の掃除などで今まで何度か依頼を受けているというわけだ。

 

「フレアさん、えらく慌ててますがなんかありました?」

 

「ああ、ユリアンさん!実はアレクスが家に戻らないんです!!」

 

「おいおい奥さん、あの野郎が家開けるなんざいつものことじゃねーか。とぼけてもらっちゃあ困りますよ。」

 

「いえ、もうあの人が出て行ってから2ヶ月になるのに全然手紙も寄越さなくて………。」

 

「2ヶ月?そいつはちーっとばかし長すぎるな………。」

 

「はい。今からちょうどアレクス探しを依頼しようとしてたところで………。」

 

「悪いが今ちょうど依頼受けてるところでだな………。」

 

そう言って俺はライアンの方を振り返った。するとライアンは鋭い目つきで睨み返してくる。何だ?あれか?受けろってことか?まあ俺も美人さんの頼みには弱いからなぁ〜。

 

「旦那どこ行くって言ってました?」

 

「確か、湖に囲まれた塔の謎を解く!って言ってイムルの村へ………。」

 

「分かりました。ちょうど今やってる依頼もイムルに用があるんで、何か分かったらお伝えします。成功報酬で200ゴールドで良いですかね?」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

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夕方まで歩き回ってみたが、ほとんど有益な情報は得られなかった。どちらにせよイムルに行くしかねーわな。

 

〜そもそもバトランドは、東西と南の三方を山に囲まれており、北側には大河が流れている。形成されている平野は東は広く西は狭い。その平野の東側の川から少し離れた地にバトランド城とバトランド城下街が広がっている。

そして、大河を挟んだ対岸の草原地の真ん中にポツンとあるのがイムルの村だ。そのイムルの村の西には湖に囲まれた陸地に塔が建っている。しかし地上部には入り口がないため、様々な言い伝えや伝説が残っており、それこそアレクスのような冒険家がその謎を解こうと躍起になっているが、この塔の中に立ち入ったものは未だいない。イムルの村の南東には鬱蒼とした森が広がっており、大人でも近寄るものはまずいないという。

そして、バトランドからかなり西にはイムルのある対岸へと渡るトンネルが掘られている。〜

 

ライアンとは明日の朝イチに城の前に集合するように話をつけ、取り敢えず家に戻って明日の支度をする。とは言っても、まあ日用品を詰め込むくらいだ。ライアンは鎧と兜つけて盾持ってるけど、あれってものっそい重いんだよね。

あれよ?1番安くて軽い皮の鎧でも8キロくらいあるからね?着とくだけなら余裕だけど、あれ着て素早く動き回れるかと言われるとノーと言わざるを得ない。まあ、魔物の攻撃も当たらなければ良いわけで、全力で回避すれば何とでもなるというのは何回かの戦闘で学んだ。もちろん当たったらエゲツなく痛いけど。

そういや初めて魔物と戦ったのは3年前だっけか………。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

3年前、バトランドからイムルに渡るトンネルが改修工事で立ち入り禁止になったから、その間だけイムルに渡るためにバトランドから1番近い大河の岸辺から渡し船が出ていた時期があった。そして俺は、イムルから作物を売りに来た商人をその船着き場まで護衛する仕事を250ゴールドで請け負った。船着き場までは歩いて2時間程度、魔物は人里の近くはあまり好まず、平野の西側に多く生息しているから、運が良ければ魔物には出くわさない距離である。

しかし、その日はツキが無かったのか、商人を船着き場に届けてバトランドへ帰る時に、スライム2体とはさみくわがた(何かちょっと鬼みたいな形相な上にちびっ子くらいのデカさある。)1体に出くわした。

 

「わーお、こいつスライムじゃねーか。んじゃあここはあれか。ドラクエの世界観なのか。齢17にして初めて知ったぜ。」

 

ドラクエなんてやったことはないが、流石に青くてプルプルした玉ねぎに愛くるしい顔が付いてりゃあ察しはついた。俺は腰に挿してた木刀をゆっくりと引き抜いて肩の力を抜き、上段の構えをとった。

すると、スライムが1匹ものすごい勢いで突進して来た。俺はスライムの突進の軌道から体を少しずらし、タイミングを合わせて木刀を振り抜いた。スライムは木刀に弾き飛ばされて3回地面にバウンドして動かなくなった。

次にはさみくわがたが襲いかかって来たが、これも木刀を振り抜いてはさみくわがたのツノを叩き折る。そしてそのまま地面に落下したはさみくわがたの頭に木刀を突き立てて仕留めた。

そこへもう1匹のスライムが突進して来た。はさみくわがたの脳天にぶっ刺さった木刀を引き抜こうとするが間に合わず、背中にまともにタックルを受けた。その衝撃で2歩よろめく。

 

「おいおい、可愛い顔してなかなかパワフルじゃねーか。」

 

俺ははさみくわがたの脳天から木刀を回収すると、今度はこっちからスライムに飛びかかり、そのまま脳天を叩き割った。

辺りに他の魔物がいないことを確認して、手拭いで木刀についた汚れを落とす。その時、魔物の死骸が微量の光を放って消滅して、後にはゴールドが残された。

 

「ふーん。なるほどね。」

 

散らばったゴールドを回収すると、8ゴールドになった。スライムが1匹2ゴールド、はさみくわがたが1匹4ゴールドだった。

 

パパパパッパッパッパ〜!!

 

急に俺の脳内に謎のラッパ音が流れた。すると、脳内に

 

「ユリアンは、レベル2に上がった!

最大HPが3、最大MPが2あがった。

ちから+1 すばやさ+1 みのまもり+2

かしこさ+1 うんのよさ+0」

 

という謎の文字群が現れた。

 

「レベル、上がったわ………。」

 

こうやって俺の初の戦闘は終了した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ってなんか昔のこと思い出しちゃったな。まあ明日も早いし早くなるか。

俺は布団を敷いて眠りにつく。腹が減っては何とやらとは言うけど、やっぱり何より寝るのが大事だからな………。



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第3話 戦士と転生者は征く

そして次の日の早朝、俺とライアンは城の前で落ち合った。ライアンは俺を物凄く不思議そ〜な眼差しで見つめている。うん、分かるよ。旅人にあるまじき軽装だもん。

 

「んじゃ、行こっか。」

 

「…………。」

 

ライアンは俺の格好が不安なのか、まるでブリキ人形のようなぎこちない動きで頷いた。それでも取り敢えず、男2人のむっさ〜い旅が始まった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

バトランド城下町を出た俺たちは取り敢えず大河沿いを西に進んで対岸へと渡るトンネルを目指す。正直言って俺はイムルに行くのも、トンネルを通るのも初めてだ。ライアンの様子を見る限りではライアンも同様に初めてなようでちょっと不安である。

戦闘は基本的にライアンに丸投げする。ライアンは訓練では強かったようだが、三方を山、残りの一方を大河に囲まれたこのバトランドは外敵に攻められることも少ないために実戦経験が乏しい。しかも聞くところによるとライアンは近衛兵としての勤務が長く、城から出ること自体が少なかったそうだ。

それを自分も承知しているからこそ、魔物に出くわすと進んで戦おうとする。そして俺は楽ができる。うん、完璧!

 

そんな感じで突き進んでいたが、昼下がりになってトンネルが見えてきた頃、手強めな魔物達に囲まれた。おおみみず2匹とエアラット3匹である。

おおみみずは読んで字の如く全長2メートルで口には牙がついているどデカいミミズである。なんかぬらぬらしてるし、正直言って初見の時は引いた。対してエアラットは、まあ、耳を羽代わりにパタパタ飛んでる青いウサギだ。ただ、尻尾が長くて鞭のような材質でできている上に、先っぽには針が付いている。そして何より厄介なのはウサギらしくボッチが苦手なようですーぐ仲間を呼びたがる。マジで黙って孤独死してろ。

ライアンも流石に不味いと思っているのか、額には汗が滲んでいる。俺もバトランドを出て初めて腰に挿した木刀を引き抜いた。

 

「おいおいライアン、お前なかなかの疫病神だな。こんなにVIPな奴らに大勢囲まれるなんてなかなかレアな経験だぜ?」

 

"そんな冗談を言っている場合ではないだろう!?"とでも言いたげな視線をこっちに投げてきた。せっかく緊張ほぐしてやろうと思ったのに。

おっと、ライアンのマジな目見てたらこっちまで緊張してきちまった。俺だって他のネット小説のようなチートキャラなんかじゃあ全然ない。間違っても女のくせにサイコロステーキ量産したり、ハーレム作った挙句にラスボス戦で死んだフリしたり、原作知識を総動員して先回りして処理したりはできない………ってあれ?何言ってんだ俺。そんなネット小説知らねーぞ?

 

「ライアンはあのローショ○プレイなうなミミズども頼むわ。俺はこっちのボッチ寂しいウサちゃん相手にする。」

 

今度はライアンも素直に頷く。俺たちは魔物達に飛びかかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一時間後、俺たちは満身創痍な状態で木陰で休憩していた。エアラットの寂しがり屋どもが仲間呼びまくって大変だったが、その度に「ぶるるるるあ!!」ってどこぞのセ○よろしく叫び回って木刀振り回して呼び声をかき消してやった。なお、ライアンはそんな俺を見てちょっと引いてた。間違っても戦闘狂じゃねーかんな!?それこそ○ルじゃねーんだから。

5分も休んで少し上がった息が落ち着いてきたところでライアンと自分にホイミをかけた。そして放ったらかしにしてた金貨も回収する。ライアンはまだ息が上がりっぱなしだったので、取り敢えず俺が持ってきたリュックの中から水筒取り出してライアンに渡した。

 

「ん?か〜たじけなぁい。」

 

「うぉっ!?喋った!!てか若○ボイス!?」

 

おいおい、もちろん初めて喋ったことにも驚いたが、まさか声も喋り方も○本規夫とは!道理でさっきからセ○のことしか頭をよぎらないわけだ。(←こじつけ)

 

「なぁ〜に言ってるかは知らんがぁ、物心ついた時にはこの口調でなぁ〜、人にはよく笑われたもんだぁ。」

 

しかもナチュラルボーンだよ。そのあまりにもの再現度に盛大に噴き出しそうになりながら確認を取る。

 

「じゃあ無口な理由って…………。」

 

「んあぁ、人に笑われるのが怖くてだなぁ。」

 

おい、ロ○エンタールにしろ松平片栗○にしろセ○にしろ○ーリックにしろ、こんな弱気な若本さんは初めて見たぜ。てかその声なんだったら俺が「ぶるるるるあ!!」言った時に引いてんじゃねーよ!!モロてめーのキャラじゃねーか!!

 

「それにしてもぃ、この声を聞いて笑わなかっのはお主がは〜じめてだぁ。」

 

ごめんなさい、心の中では盛大に笑ってます。ほんとすんません。今もだいぶ表情筋ピクついてると思うけど、ライアンが下見てるからギリ耐えてる。

 

「ちょっと失礼。」

 

ライアンに一声かけてライアンから少し距離を取った。そしてライアンからは見えないように、聞こえないように、盛大に噴き出してしばらく腹抱えて大爆笑した。無理、マジで耐えらんねー。しかもこいつとしばらく旅続けんだろ?さらにライアン俺に気ぃ許しちゃったからこれからは多分もうちょい頻繁に喋りかけられるようになるんだぞ?こいつは思ったより過酷な旅になりそうだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

この男と巡り会えたのは運命かもしれない。洞窟が間近に迫った時に現れたおおみみず2匹とエアラット3匹を見て、私は緊張に呑まれてしまった。しかし、ユリアンはいつもの様に自然体で、さらに気を紛らわせようと冗談を言ってくれた。

そしてこの戦いで初めて、ユリアンは腰の木刀を抜いた。その戦いぶりは決して派手ではないが、しっかりと相手の動きを読み切った上で効果的な一撃を叩き込む、外連味のないものだった。エアラットが仲間を呼ぼうとする度に意味不明な叫び声を上げていたが、それが呼び声を相殺して追加のエアラットが現れることはなかった。

それでもこれほどの敵を一度に相手取ることはユリアン自身も初めてだったのか、戦い終えた時にはあちこちに傷を作っていた。そして消耗も激しかったのだろう、散らばっているゴールドを無視して木陰に座り込んだ。ユリアンは素早く息を整えると、私と自身にホイミを掛けた上で、ちょうど喉が渇いていた私に水筒を投げ渡した。その優しさに、常日頃は喋らないように心掛けていたが、感謝の言葉が口に出てしまう。

笑われはしないかと冷や冷やしたが、彼は特に気にはしていないようだった。彼は少し席を外したが、すぐに戻ってきた。

 

「まあ、何かあったらすぐ言ってくれ。んじゃあ、トンネルに潜りますか。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

木陰での小休止を終えた俺たちはついにトンネル攻略に乗り出した。とは言っても、魔物の強さは外と変わらないし、入り組んでいるとは言ってもそんなに複雑な構造でもないので、隅々まで探検してもわずか一時間ほどで反対側の出口に辿り着いた。途中で「これからイムルの村に行くところなのだ」と言いながらおんなじ所グルグル回ってる、明らかに道に迷った極度な方向音痴の兵士を見つけたが、俺は性格が悪いので出口の方向は教えてやらなかった。ライアンにはジト目で見られたけど気にしない。

そしてまあこういうファンタジー世界にはあるあるなんだろうけど、道中に宝箱なんて落ちてたりするのよ。俺が開けるのに躊躇してたらライアンが横から何のためらいもなくガバって開けやがった。

 

「おいおいおい、そんなの勝手に開けて大丈夫なのか?後で持ち主に訴えられたりしない?」

 

「なぁ〜にを寝ぼけたことを言っておるのだ?宝箱が落ちてたら中を検めるのが常識ではぁないかぁ〜。」

 

うん、その声で言われると「グラサン掛けてるやつは大体殺し屋だぁ」ってセリフ思い出して嘘っぽくて不安になるから本当にやめてほしい。ちなみにトンネル内には宝箱は2個あって、中身はそれぞれホイミと同じ効果を持つ薬草と40ゴールドだった。思ったよりショボかった。そりゃ取っても怒られねーわな。

 

まあそんなこんなで洞窟を出て、北東に進むこと2時間強くらい、ちょうど夕暮れ時に俺たちは取り敢えずの目的地であるイムルの村に到着した。



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第4話 相手の目線に立たなきゃ分かることも分からない

まあトンネルを出てからの道のりは平坦で良かったんだが、少し魔物が強くなった。きりかぶおばけとバブルスライムである。

きりかぶおばけはマジで見たまんま、切り株に顔がついてて、何か"そんな木の根元に枝なんか生えるか?"ってとこから生えてる枝を伸ばして攻撃してくる。そしてこいつの枝に生えてる葉っぱは薬草らしく、たまにこれ使って回復しやがってなかなか厄介だ。

バブルスライムは理科の実験で作ったスライムを床に叩きつけた残骸みたいな姿した緑色のスライムの亜種で、そのベトベトな身体ぶつけて攻撃してくるんだが正直キモい。その上に毒持ちで身体に入れば体力を奪われ続けるというのも相まってマジで近寄りたくない。でもゴロゴロいるし草原の中だと目立たないからマジで草原ごと焼き払いたい。誰か巨○兵持ってきて下さーい。

 

そして運悪くもその毒を身体に受けてしまい、高熱が出てしまった俺はライアンに負ぶわれてイムルの村の宿屋に入った。

 

「おーい、大丈夫か〜ユリアンん。」

 

「ああ、早く毒消し草頼むわ。」

 

ライアンが猛スピードで毒消し草を買って来て、すり潰して俺に飲ませてくれた。体から毒素がすぅっと抜けていく感覚がする。

 

「サンキュー、だいぶ楽になったぜ。」

 

「あぁ、そいつはぁ良かったぁ。」

 

うぉー、いま「血の色を誤魔化せるなぁ」って幻聴聞こえたよ。思っクソポプテピピ○ク思い出しちゃったよ。

 

「して、ユリアン。聞き込みは明日にするか?」

 

「そうだな。ちょっとまだ体怠いしな。」

 

「ところでさっき妙〜な話をぉ聞いたんだが。」

 

「何?」

 

「ここの宿屋の風呂、覗き魔がいるらしぃ。」

 

「何だって?そいつは羨まけしからん!今日この宿に女泊まってんのか?」

 

「あぁ、美しいシスターがひとぉり、隣の部屋にいるぅ。」

 

「よし、口説こう。」

 

「おぉい待てぃ!どこをどう考えたらそうなるのだ?ご婦人を守るのが先決でぇあろう。」

 

「じ、ジョークだよぉ、何?俺が本気で口説こうとしてたとか思っちゃってるぅ?」

 

「そうでないなら額から今流れ出した汗は何の汗だろうなぁ?まさか昼間の毒のせいだとはぁ言うまいなぁ。」

 

「ま、まあ取り敢えずは疲れを癒しながら夜を待とうぜ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夜、仮眠を取って疲れを癒した俺たちは取り敢えず宿屋のシスターを不埒な輩から救うべく、見張りを開始した。シスターはこの宿に2連泊しているようで、昨日も視線を感じていたらしい。50ゴールドで調査を引き受けた。

 

「うーん、ますます羨まけしからん。」

 

いやぁ、体型を隠す修道服着ててもボッキュッボン目立ってたもんな。ライアンの視線も釘付けよ。ほんまええ身体じゃったのう。

 

「そろそろ昨日不逞な輩が目撃された時間だぁ。」

 

もう、俺がさっきから下ネタかまし過ぎるせいでライアンちゃん拗ねちゃったよ。全然俺の話に反応してくれねぇ。流石に「縦筋とか見えたのかなぁ?」はマズかったか?でもこいつ顔赤くしてたからな?中坊かこいつは!?

しかしそうこうしているうちに宿屋に向かって30代くらいの男が周りをキョロキョロと見回しながら歩いてきた。

 

「あいつ怪しいな。」

 

「あぁ、間違いないだろう。」

 

男は宿屋の温泉の裏の茂みに身を潜め、枝を掻き分けて中が見えるようにしている。俺とライアンは気付かれないように気配を消して忍び寄り、男の肩に手を掛けてそのまま後ろに引き倒した。そのまま俺は木刀を眉間に突き立てる。

 

「お〜い、あんちゃん。俺の目のつけてた女の裸覗こうなんざぁいい度胸じゃねえか。」

 

「ひ、ひぃ〜!!」

 

俺は渾身の若○さんのモノマネを炸裂させて詰め寄る。ついでに情報収集もやっとくか。

 

「バトランド城に引き渡されたく無けりゃあ、この村について知っていることを今すぐ吐け。3秒以内に吐かねぇとドタマ、ブチ抜くぞ。はーい1!」

 

そのまま俺は木刀を頭に叩きつけようとする。男はすんでのところで躱した。勿論○魂の松平片栗○のネタである。

 

「2と3は!?」

 

「知らねぇなぁ、そんな数字ぃ〜。男はなぁ、1だけ覚えときゃあ生きていけるんだよぉ〜。」

 

「さっき自分で3秒って言ったじゃねーか!」

 

ライアンはさっきからツッコミもせずに成り行きに任せている。何か言うだけ無駄だと悟ったんだろうな。

 

「んで?何か教えてくれないの?」

 

「わ、分かったよ。この村の地下牢にパンを万引きして捕まった余所者の男がいるんだが、どうも幼児退行を起こしてるらしいんだ。」

 

「他には?この村で頻発してる子供の失踪事件についてとか。」

 

「俺も聞き齧りなんだが、どうやらガキどもが居なくなるのは決まって放課後らしいぜ。」

 

「なるほどね。もう2度と覗くんじゃねーぞ。」

 

俺は男を解放してやった。

 

「野放しにして良いのかぁ?」

 

「まあこの村の奴だしな。ここで下手にチクったりしたら村八分にされちまう。情報ももらったし、チャラにしてやろうぜ。さーてシスターの依頼も完了したし、風呂入って寝よーぜ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝、早速俺たちは街に繰り出して情報収集を始めた。しかし目立った情報は集まらない。子供たちの年齢もバラバラで、強いて言えば全員この村出身の男の子というくらいしか共通点もなさそうだ。気持ちは分からんではないが、消えた子供の母親のヒステリーに付き合うのもそろそろ飽きてきた。

 

「なかなか上手いこと行かぬものであるなぁ。」

 

「そだねー。」

 

「もう粗方聞き尽くしてしまったなぁ。」

 

「いや、まだあるよ。」

 

「何処だ?教会も商店も村人にも聞いて回ったが。」

 

「ガキのやる事を1番知ってるのはだーれだ?」

 

「…………?」

 

「だからライアンはあいつに"ノロマ"とか言われるんだよ〜。」

 

あいつと言うのは俺らより先にこのイムルの村に到着していたライアンの同僚の兵士で、ライアンのことを小馬鹿にしていた奴だ。

 

「ガキは放課後に遊んでる時に居なくなったんだろ?なら一緒に遊んでるガキに聞くのが一番じゃねーか。」

 

「しかし子供の言うことを真に受けるのは……」

 

「ガキっていうのは純粋なんだ。見たまんまを言ってくれるさ。だがまだ言葉足らずだから何言ってるか分からん時があるだけなんだよ。」

 

「子、子供かぁ………。」

 

「なんだライアン、お前ひょっとしなくても子供苦手だな?」

 

「ま、まあなぁ。」

 

「ま、俺に任しとけって。」

 

そして俺たちは村の子供たちが通う学校に向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そこでは、20歳になる青年が子供たちと一緒に遊んでいた。子供が苦手な私は、一歩引いたところで校長と立ち話をしている。昨日は余りにも下品な事を言うものだから何度殴ってやろうと思ったか知れないし、多分私のモノマネであろう口調で覗き魔を問い詰めていた時は剣に手がかかりそうにもなったが、今の子供と無邪気に戯れている彼を見ればそんな気持ちも吹っ飛んでしまいそうだ。

 

「ふぃー、疲れた。坊主、元気だなぁ。」

 

彼は一緒に遊んでいた男の子の頭を撫でてその場に腰を下ろした。

 

「お前、ププルとは仲良しだったのか?」

 

ププルというのは行方不明になった子供の名前である。

 

「そうだよ。」

 

「そうか。心配だよなあ。実はな、お兄ちゃんはププルを探してくださいって頼まれてんだ。何かププルについて知ってる事教えてくれないか?」

 

「うーんとね、ププルがいなくなった日はね、ププルは秘密基地に行くって言ってたよ。」

 

「秘密基地?」

 

「ププルは僕以外にも仲良しのお友達が沢山いるんだけど、そのお友達たちと一緒によくその秘密基地で遊んでたんだ。」

 

「坊主は秘密基地知らないのか?」

 

「うん。今度教えてくれるって約束したんだけど、僕風邪ひいちゃって寝込んでたんだ。その日はアレクスおじさんと遊びに行ったんじゃないかな?」

 

「アレクスおじさん?」

 

「うん、"冒険王に俺はなる!"って言うおじさんだよ。」

 

「思わぬところで繋がっちまったなぁ。」

 

「どうしたの?」

 

「いいや、こっちの話だ。それで?」

 

「ププルが居なくなったのはその日だよ。その次の日にアレクスおじさんパンを盗んで捕まっちゃったんだ。」

 

「ちょっと待てよ坊主。ひょっとして他にいなくなった子供たちってみんなププルの友達なんじゃない?」

 

「そうだよ。」

 

「よし、わかった坊主。貴重な情報ありがとな。ププルも他の子供たちもみんなまとめて俺が連れて帰ってきてやる。」

 

「ほんと?」

 

「ああ、任しとけ。じゃあな、お兄ちゃんは仕事のお時間だ。」

 

「バイバーイ!」

 

ようやく私にも事件の概要が見えてきた。

 

「ライアン、待たせたな。とりあえず、牢屋に向かおうか。」

 

私は1つ頷くと、彼の後に付いて牢屋に向かった。



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