仮面ライダーエグゼイド×魔法少女まどか☆マギカ [改編]翻転のstory (柳川 秀)
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Characterの紹介

宝生永夢/仮面ライダーエグゼイド

聖都大学附属病院小児科医にして電脳救命センター(以下CR)ドクターにして天才ゲーマーM。

マイティノベルXの事件を経て自身の過去と向き合い、他者に心を開くようになった。

異世界であっても患者の笑顔を取り戻すという姿勢は変わらない。

・マイティアクションXガシャット

・マイティブラザーズXXガシャット(物語開始時点ではバグで使用不可)

・マキシマムマイティXガシャット(物語開始時点ではバグで使用不可)

・ハイパームテキガシャット(物語開始時点ではバグで使用不可)

・ドクターマイティXXガシャット(ゲムデウスウイルス抑制用なので使い道がない)

・マイティクリエイターVRXガシャット(VR空間用なので使い道がない)

・マイティノベルXガシャット(こちらの世界には持ち込めていない)

檀黎斗/仮面ライダーゲンム

天才ゲームクリエイターにして全ての元凶。

ガシャコンバグヴァイザーⅡに収納できるのでバグスターだが、本人曰くレーザーXにゲームオーバーにされた直前の状態で、残りライフは1らしい(ホントか?)。

明らかに怪しいが、ガシャットを修理できる唯一の存在なのでドクターたちは頼らざるを得ない。

・プロトマイティアクションXガシャット×2

・デンジャラスゾンビガシャット(物語開始時点ではバグで使用不可)

・プロトマイティアクションXガシャットオリジン(物語開始時点ではバグで使用不可)(嘘)

・ゴッドマキシマムマイティXガシャット(こちらの世界には持ち込めていない)(嘘)

・マジックザウィザードガシャット(物語開始時点ではバグで使用不可)

・ブランクガシャット(隠し持っている)

鏡飛彩/仮面ライダーブレイブ

聖都大学附属病院天才外科医にしてCRドクター。

マミとは甘い物の趣味が合うと同時に、その脆さにも薄々気付いていく。

・タドルクエストガシャット

・ガシャットギア デュアルβ(物語開始時点ではバグで使用不可)

・タドルレガシーガシャット(物語開始時点ではバグで使用不可)

花家大我/仮面ライダースナイプ

花家ゲーム病クリニックの開業医。

ニコと杏子がよく一緒にいるため、ニコとチビニコ2人を同時に相手するという悪夢に似た状況に置かれる。

・バンバンシューティングガシャット

・ガシャットギア デュアルβ(物語開始時点ではバグで使用不可)

・バンバンタンクガシャット(変身用ではない)

九条貴利矢/仮面ライダーレーザー

CRドクターにして牛のケツから岩塩を採取するハワイの仙人の息子。

何故か復活した黎斗の監視役をしつつ、魔法少女たちやこの世界の内情を監察している。

・爆走バイクガシャット

・ギリギリチャンバラガシャット(物語開始時点ではバグで使用不可)

・2本目の爆走バイクガシャット(物語開始時点ではバグで使用不可)

パラド/仮面ライダーパラドクス

永夢に感染している原初のバグスター。

黎斗以上にまどかにしつこく契約を迫るキュゥべえを怪しんでいる。

・ガシャットギア デュアル(物語開始時点ではバグで使用不可)

ポッピーピポパポ/仮野明日那/仮面ライダーポッピー

聖都大学附属病院看護師にしてCRナース。

何故か復活した黎斗にポパピプペナルティを加える役はいつも通り。

・ときめきクライシスガシャット(物語開始時点ではバグで使用不可)

西馬ニコ/ライドプレイヤーニコ

天才プロゲーマーNにして幻夢コーポレーション筆頭株主。

ゲームセンターでの一件以降、杏子とは気が合うようになる。

 

その他のゲーマ召喚ガシャットもあるが、複数のライダーで使い回すためここでは省略。

 

 

鹿目まどか

見滝原中学2年生。

自分のしたいことやなすべきことを模索しているような心境の時、魔法少女と仮面ライダーに出会う。

ほむらとは夢の中で逢ったような……?

黎斗の開発したゲームでは、可愛い女の子が沢山出てくるのでときめきクライシスが好き。

暁美ほむら

見滝原中学2年生の謎の魔法少女。

まどかに意味深な言葉を残したりキュゥべえを攻撃したりと謎な言動が多く、何故か魔法少女に関する様々な事情に詳しい。

そもそもどうやってキュゥべえと契約せず魔法少女になれたのか……?

ゲームに興味はないと言って黎斗にキレられた。

巴マミ

見滝原中学3年生のベテラン魔法少女。

ドクターとまどかたちは彼女と会ったことで魔法少女について知り、物語が動き出す。

杏子が去った後はひとりで戦い続けており、頼れる人物のように見えるが……?

黎斗の開発したゲームでは、激しい操作があまりいらず頭を使うのでバンバンシミュレーションズが好き。

美樹さやか

見滝原中学2年生。

魔法少女と契約について知っても、命をかけて叶えたい願いについて悩んでいる。

幼馴染で想い人の上条恭介は事故でヴァイオリンを弾けなくなっており、現在の医療では治せないと聞いて……?

黎斗の開発したゲームはどれも結構好きだが、一番はみんなで遊べる爆走バイク。

佐倉杏子

中学2年生だがアウトロー状態の魔法少女。

かつてはマミと一緒に他者のため戦っていたが、ある事件を機に考えを変えた。

自分のためだけに動き、魔女や使い魔が人を襲うことも気にかけない姿勢についてドクターたちは……?

黎斗の開発したゲームはどれも結構好きだが、一番はやっぱりドレミファビート。

※※※※※(美国織莉子)

存在した、しかし本来は存在しなかった白い魔法少女。

予知の魔法によってドクターとまどかたちの未来も視ている。

ドクターたちが現れるより前に、檀黎斗のデッドコピーと戦い勝利し……?

ゲームに興味がない訳ではないが、そもそもプレイしたことがほぼない。

※※※※(呉キリカ)

存在した、しかし本来は存在しなかった黒い魔法少女。

願いの影響で人格が歪んでいるものの、織莉子に対する愛は本物。

デッドコピーにバグスターウイルスを感染させられており……?

ゲームは好きだけどギリギリチャンバラだけはもうプレイしたくない。

※※※※(千歳ゆま)

存在しているが、本来は魔法少女になるハズだった少女。

ゲームは全部好きー!

 

その他のまどマギ世界の登場人物については多すぎるため省略。




character(きゃらくたー):性格。語源は刻み込むという意味のχαράσσω。
マイティノベルXのキャラクター紹介ページのシルエットは何故かエグゼイドではなくゲンム。
紹介(しょうかい):知らない人同士を引き合わせる。
モルモット港でブゥン!する直前の檀黎斗のポーズは介に見える。


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プロローグ『彼方からのdream』
STORY 00-00 (from:ending-?.?.)


灰色の空の下、崩れいく街の中。

たったひとりで強大な存在に挑む少女を、君は心配そうに見ている。

 

どれだけ彼女が多くの火器と多くの策を以てしても、倒すことはできないだろうね。

古から幾度も現れ、人々には自然災害として認識されている程の存在。

ひとりで倒すことができるなら、既にそうした者がいるハズさ。

 

過去には彼女より秀でた者もたくさんいた。

けど、その誰もがアレには敵わなかった。

足掻き、挫け、絶望し、悲劇のための舞台装置に組み込まれていった。

彼女もまた、ここで敗れて呑まれる運命だ。

 

愚かで脆弱な人間には絶対に届かない運命というものがある。

「ひどい!」「こんなのってないよ!」と嘆いても、今の君にこの運命を変える力はない。

ひとつの契約を結ばない限り……。

 

君にも避けようのない滅びの結末をひっくり返すだけの奇跡を起こすことができる。

だから僕と契約して、魔法少女に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいや、待ってもらおうか。

しかしその契約には君の知らない真実がある。

これから君が始めようとしている物語は、その真実に直面する物語だ。

 

この世界のありとあらゆるものにはストーリーがある。

1人の人生にも、1つのゲームにも。

生まれた意味、込められたメッセージ……それを探る過程こそストーリーだ。

 

もちろん、ネタバレなど到底許された行為ではない。

もし君がその真実を知りたいのであれば、君自身の手で物語を進め、君自身の目でエンディングを見届けなければならない。

その結果君がどのような悲劇に陥ったとしても、ノークレーム・ノーリターンであることをご了承願おう。

 

 

それとも……「()()()()()()()()」か?

下手な真実なら知らないくらいがいいということもある。

これはゲームではない。

君にこの物語を進めることは強要しない。

だから今ここで問おう。

君はこの物語を始めるか?

 

 

YES……次の段に進むがいい。

NO……このタブをそのまま閉じろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君は「YES」を選んだか。

真実など知りたくもないハズだが、それでも追い求めずにはいられないとは……。

つくづく人間の好奇心というものは理不尽だと感じるな。

 

もはやこれ以上の前置きは必要ない。

さぁ、物語の始まりへと進むがいい。

 

ただし1つだけ忠告しておこう。

運命を変える力はそう安く手に入るものではない

奇跡や魔法は夢幻の如く人間には遠いものであり、掴むためには相応の対価を求められる。

 

そして、その夢幻を――滅び急ぐ世界の理を破壊するのは他でもない。

白やマゼンタの悪魔でもない。

この私だッ!

ヴェーハーッハッハッハッハッ!!

 

 

 




彼方(かなた):遠くのあちら。離れた過去や未来も意味する。
復讐の彼方へ辿り着くには全てを振り切る速さが必要らしい。
dream(どりーむ):夢・希望。喜びや楽しみを意味するdrēamが語源と考えられる。
幻の夢は覚めない悪夢でもあるらしい。


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ステージ1『Parallel worldに来ちゃった、ような……』
STAGE 01-01 (side:doctor-H.E.)


前置が終わる。物語が始まる。


「うわっ!? ハァ、ハァ……なんだ、夢か」

 

跳び起こした上半身をソファに戻して目を閉じる。

なんだかとても暗いような怖いような、イラつくような夢を見た気がするけど、ハッキリとは覚えていない。

 

「夢だけど夢じゃなかったかもよ?」

「うわぁ!?」

 

急に耳元でした声に再び跳び起きた。

 

「やっと起きたみたいだな、永夢」

 

すぐ右にいたのは貴利矢さんだ。

いつも通りのアロハシャツの上から白衣を着ていて、サングラスで目は見えないけど口は思いっ切りニヤっとしている。

 

「永夢、大丈夫か?」「エム、大丈夫?」

 

左側から心配そうな顔をしたパラドとポッピーが同時に聞いてきた。

何のことだろうと思っていると、また次の人が声をかけてくる。

 

「目覚めたのはお前が最後だ、小児科医」

 

飛彩さんだ。

前方の少し離れた椅子に腕を組んで座っている。

隣には白衣のポケットに手を突っ込んで鼻を鳴らしていそうな大我さん。

さらに隣には同じポーズ(マネしてるのかな?)をしたニコちゃんもいる。

一昨日くらいにゲームの大会があるとかで帰国していたんだった。

 

「あれ?」

 

そこでやっと僕は自分が知らない場所にいることに気付いた。

このメンバーが集まるとすればCRかいつものお好み焼き屋のハズだけど……。

 

灯りの点いていない室内は薄暗く、木製の壁も床も少し気味悪く見える。

大きなテーブルを挟んで僕がいるのとは別のソファ。

オフィス用の棚には医療関係の本やファイルが詰まっているし、壁に付けられたデスクには顕微鏡とかの器具があるし……。

下への階段もあるから、古いけどちょっと大きめのクリニックの2階かな?

 

「で? どういうことか説明してもらおうか、()()()

「うえっ!?」

 

驚いて貴利矢さんの声が向けられた背後へ振り向く。

会議とかに使われる長机に置かれたコンピューター。

そのキーボードを一心不乱に叩き続ける、黒いスーツを着崩した男。

間違いない、黎斗さんだ!

 

「なんで……あなたは、消滅したんじゃ!?」

 

ゴッドマキシマムマイティXの解析はまだ途中で、僕たちは消滅した患者さんたちの復元に至っていない。

マイティノベルXの事件ではクロトピーが現れたけど、最初は黒いバグスターでゲームにより黎斗Ⅱの姿を手に入れていた。

だから、()()()()()()()()()姿()()()()()()がいるなんておかしい!

 

「今調べている」

「とぼけんなよ。いつかの時みたいに、自分のバックアップがいるゲームの中に俺たちを引き込んだんだろ」

 

モニターに視線を向けたままの黎斗さん(?)にパラドが詰め寄る。

そうか、ゴライダーの事件みたいにこの世界がゲームの中だとしたら、僕たちが知らない場所にいることも全部納得がいく。

 

「もっともな推理だがハズレだ。……よし、できたぞ」

 

勢いよくエンターキーが押されると、天井から下がっていたプロジェクターが起動して壁に大きく投影した。

黎斗さん(?)が立ち上がってそこの文や画像を指しながら話し始める。

あ、ニコちゃんがビクッとして大我さんにくっついた。

 

「今私たちがいるのは見滝原市の鏡総合クリニック。

 数年前、鏡先生を中心にここにいるドクターが集まって設立されたことになっている」

 

飛彩さんが院長か……って、そうじゃない。

 

「おい、見滝原なんて地名聞いたことねぇぞ。

 ここまで発展した都市なら少しくらい有名なハズだろ」

 

大我さんが見ている窓の外は、産油国の首都にあるような近未来的で特徴的な建物が並んでいた。

僕たちがいた聖都よりも発展しているように見えるけど、日本にこんな場所があるなんて知らない。

 

「さすが花家先生。そう、ここは地球で日本だが私たちの知る世界ではない。

 ゲーム病・バグスター・仮面ライダークロニクル・幻夢コーポレーション……その全ての検索ワードが引っ掛からなかった。

 だがその他の情報も歴史も私たちが知る世界と同じであり、今採取したデータ的に物理法則や構成物質なども含め――」

「もぉ~~~っ、ピプペポパニックだよ~っ!」

「……つまり、ここは異世界だ

 

黎斗さん(?)は騒ぎ始めたポッピーに説明を続けるのを諦めたらしい。

 

「異世界って……それこそゲームでもよくある設定ですけど、本当に……?」

「永夢、まだ疑っているようだな。

 いいか? 既に復活し自由に動ける時点で、もう君たちを騙す必要はないんだよ。

 だから知り得たことを説明しているに過ぎない。

 それに、何が起きているか不明な今、現状を把握するのは私にも意味のあることだ。

 それとも……私が他のライダー全員を同時に相手するとでも思っているのか?

 だとしたら考えなしにも程がある」

 

たしかに……自分の才能を何よりも大切にする黎斗さんは、自分の身が脅かされる可能性があるなら僕たちと共闘してきた。

今回もそうだと言いたいのか。

 

「君たちが異世界に来たことを信じないのは勝手だ。

 だが私たち全員の前に、誰が現れたことがあると思う?」

「桐生せんt「万丈だ」

 

……なんかそれ言いたかっただけな気がする。



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STAGE 01-02 (side:magica-K.M.)

「ふ、ふわっ!? ……はうぅ。夢オチ?」

 

がばっと跳び起きて手を伸ばし、けたたましい音を出す目覚まし時計を止めます。

なんだかとても暗いような怖いような、ちょっとムッとするような夢を見た気がするけど、ハッキリとは覚えていません。

 

出窓を開けて朝の光と風を浴びて、下を見てみれば小さな家庭菜園にエプロン姿のパパ。

 

「おはよー、パパ」

「おはよう、まどか」

「ママは?」

「タツヤが行ってる。手伝ってやって」

「はぁーい」

 

タツヤはわたしの弟で、三才で、とっても元気でかわいい子です。

手伝ってってパパが言ったのは、我が家の毎日の恒例行事。

 

「マ~マっ! あ~さ、あ~さっ! おきてぇ~!」

 

廊下を駆けて、寝ているママとその上でポカポカ叩いてるタツヤがいる部屋のドアを勢いよく開けます。

カーテンを全開にして、タツヤに退いてもらって、掛け布団を掴んだら……今日もやるぞーっ!

 

「おっきろ~~~!!」

「ヴェア~~~ア~~~ア~~~ァ~~~ゥゥゥ……あれっ?」

 

一気に布団をひっぺ返して大きく一言!

ママはいつも面白いリアクションで跳び起きてくれます。

でも、なんだかその叫び方は聞き覚えがあるような、ないような……。

多分気のせいです。

 

 

 

「――で? 昨日なんか相談がどうとか」

「うん。あのね、仁美ちゃんにまたラブレターが届いたよ。今月になってもう2通目!」

「へー。今でもあるもんなんだー」

 

ママと並んで歯を磨いています。

 

仁美ちゃんはわたしの友達で、上品なお嬢様。

スタイルも良くてモテモテで、ちょっとうらやましいな、なんて。

 

「それでね、どう返事したらいいのか悩んでて……ママに聞いてみてほしいって」

「直にコクるだけの根性もねぇ男はダメだな」

「アハハ……」

「あと、自分の夢とか仕事にしか目がいかない男もダメ」

「ふぅん」

「素直じゃなくて悪ぶっててポエミーな男もダメ」

「うんうん」

「嘘吐きでサングラスかけててアロハシャツ着ててレザージャケット羽織ってる男もダメ」

「うん、うん……?」

「自信家で才能溢れてる男は突っ走るから特にダメ!」

「ええ……」

「やっぱ優しくて温かくて穏やかな男が一番だな」

 

それってパパのことじゃん……。

 

「ああ、和子のヤツはどう?」

 

わたしの担任でママの高校時代からの友達、早乙女和子先生は34歳の華の独身なのです。

 

「先生はまだ続いてるみたい。ホームルームでノロケまくりだよー。

 今週で3ヵ月目だから記録更新だよね」

「さぁどうだか。今が一番危なっかしい頃合いだよ。

 本物じゃなかったら大体この辺でボロが出るもんさ。

 まぁ、乗り切ったら1年はもつだろうけど」

 

本物――。本物って何だろう?

本物の恋人、本当の友達……。

どこまでが知り合いで、どこまでが友達で、どこまでが恋人なのかな?

わたしは、誰かの本当の友達になれてるのかな?

 

「完成♪」

 

そんなこと考えてる内に、ママはもう女優さんみたいに綺麗にメイクを完成させていました。

母娘なのにどうしてこんなに要領の良さが違うんだろう……。

わたしはやっと顔を洗って、なんとか寝癖を直して、茶色と赤色のリボンを手にして固まってしまいます。

 

「リボンどっちかなぁ?」

「こっち」

「赤? 派手過ぎない?」

「それぐらいでいいのさ。女は外見でナメられたら終わりだよ?」

 

髪に結んで鏡を見てみるけど……なんか派手過ぎな気がする。

でもママはにっこりと微笑んでいるのでした。

 

それから、キッチンでパパの準備してくれた朝ごはんを食べました。

 

「コーヒー、おかわりは?」

「あぁ、いいや」

 

パパに聞かれて軽く答えたママは、新聞を畳んでコーヒーを飲み干して……。

家を出る前にタツヤのほっぺにキス、パパとキス、わたしとはハイタッチ。

 

「おっし! じゃあ行ってくる!」

「「いってらっしゃーい!」」

 

いつかわたしもママみたいにかっこよくなれるのかな?

 

「さぁ、まどかも急がないと」

「え? うわ、遅刻しちゃうよぉ~!」

 

 

 

「おっはよ~ぅ!」

「おはようございます」

「まどか、おそーい!」

 

通学路でわたしを待っていてくれたのは、仁美ちゃんと小学校から一緒のさやかちゃん。

 

「おお? 可愛いリボン!」

「そ、そうかな……派手過ぎない?」

「とても素敵ですわ!」

 

そう言われるとちょっと安心できちゃいます。

そのまま3人で歩き始めました。

仁美ちゃんが照れくさそうに昨日の相談について聞いてきたので、わたしはママに言われたことを伝えます。

 

「――でね? 直に告白できるようでなきゃダメだって」

「やっぱり、そうですよね……」

「あと、えーと、自分の仕事にしか目がいかない人とか、素直じゃなくてポエミーな人とか、アロハシャツの人とか、突っ走っちゃう人もダメだって」

「はい?」

「相変わらずまどかのママはかっこいいなー。美人だしバリキャリだし、ホント憧れちゃうよ!」

 

さやかちゃんが憧れるくらい、ママはかっこいいけど……。

ママが褒められれば褒められる程、わたしにはちょっとプレッシャーにもなってしまうのでした。

ママは自分の考えをすぐ言えて、すぐ行動に移せて、迷わず進めるのに。

わたしは大事な決断だと思うと、うじうじしてしまって真っ直ぐ進むことができなくなります。

 

「しっかし、羨ましい悩みだねぇ~」

「わたしももらってみたいなぁ、ラブレター……あっ」

 

考え事をしていたからかわたしは思わず呟いてしまいました。

さやかちゃんは聞き逃すハズもなく、ニヤニヤしながらにじり寄って来ます。

 

「ほーう? 仁美みたいなモテモテの美少女に変身したいと~?

 そこでリボンからイメチェンですかな~?」

「ち、違うよぅ! これはママが!」

「さてはママからモテる秘訣を教わったな~? けしからーんっ!

 そんなハレンチな子はぁ~こうだぁっ!」

 

逃げようとしたわたしを後ろから捕まえて、あちこちくすぐり始めるさかやちゃん。

 

「やッ、あんッ、ちょっと! さやかちゃん、やめっ……きゃはははは!」

「うへへへ、可愛いヤツめ。

 でも男子にモテようなんて許さんぞー! まどかはあたしの嫁になるのだぁー!」

「いやーっ」

「……コホン」

 

仁美ちゃんの咳払いで、やっとわたしたちはたくさんの生徒たちに目を丸くして見られていることに気が付くのでした。



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STAGE 01-03 (side:doctor-H.E.)

「この世界にはスカイウォールの情報もない。

 財団Xは存在するようだが……確信もない中手を出すのは得策ではないな」

 

平行世界移動装置エニグマを使った最上魁星の所属していた謎の組織、財団X。

死の商人であるその存在はドクターとしても許せないけど……。

あの火野映司さんたちでも全貌が掴めていないようだし、慎重にならなきゃいけない。

 

「うーん……ゲームならミッションとかあんでしょ?

 それクリアしたら元の世界に戻れるって感じの」

「フン。そんな単純な話だと楽なんだがな」

「なにそれ!? バカにしてんの!?」

「イッテ!」

 

ニコちゃんにお尻を蹴られ、大我さんが小さく悲鳴を上げた。

 

「イチャイチャすんのは後にしてね~」

 

はやし立てる貴利矢さん。

彼が2人から同時に睨まれることも無視して、飛彩さんが冷静に黎斗さん(?)へ話の続きを促した。

 

「私たちのいた世界にはなかった事件も、少なくともバグスターやパンドラボックスレベルのものはない」

「ノーヒントということか」

「ヒント程ではないかも知れないが、気になる点ならある」

 

黎斗さん(?)がコンピューターを操作して、プロジェクターの画面を切り替える。

壁に出された表には、日付・地名・人数が並んでいた。

地名の欄には見滝原市の他に風見野市・あすなろ市などもある。

 

「近隣の事件か事故の一覧、ですか?」

「ああ。ここ数年で見滝原市周辺に限定しても、これだけの原因が明らかでない事件や事故が起きている」

「原因が明らかでない……?」

「予兆なしの失踪や自殺、唐突な発狂による殺傷などだ。

 報じられているものに限るし、何らかの機関が隠蔽していることも考えられる。

 いくら私でも、この短時間では省庁のサーバーをハッキングできないからね」

 

時間があればできるらしい。

衛生省のガサ入れは把握できていなかったけど。

 

人口が増えればそれだけ母数が増えるから、原因不明の事件や事故が多くなるのも当然だ。

でも、数年間だけで起きた件数にしてはどう見ても多すぎる。

 

「パッと見綺麗な街かと思わせて、実はすっごく治安悪いってこと!?」

「それか、そこにこの世界特有の異常があるってことか……」

 

アッチョンブリケ(古い)するポッピーと、窓の外を睨むパラド。

 

「省庁のサーバーをハッキングするにしてもリスクがある。

 どこまで情報が得られるか不確かで、目を付けられる可能性もあるからね。

 これ以上は実際に探索してデータを取る方が早く確実だ」

 

言葉からして黎斗さん(?)自身が出歩いて調べるということか。

怪しい感じもするけど、ほんの僅かな戦闘の間にビルドのデータを取ってガシャットを開発した彼なら、何かと遭遇した時そこから把握できることは多いのだろう。

 

「だが注意しなければならない。

 この世界に呼ばれた時のバグの影響か、ガシャットの殆どが使えないようだ

「「えっ!?」」

 

ハイパームテキガシャットとマキシマムマイティXガシャットを取り出してスイッチを押してみるけど、カチッと言うだけで起動しない!

他の皆(大我さんを心配そうに見るニコちゃんを除く)も同じように自分のガシャットのスイッチを押しては、起動しないことに驚いていた。

 

……待って。それだけじゃない!

 

「ない、ないっ! マイティノベルがなくなってる!

「ちょっと! またアンタが何か仕掛けたんじゃないの!?」

 

大我さんを盾にしながらニコちゃんが黎斗さん(?)を責める。

すると彼は徐に白いガシャット……デンジャラスゾンビを構えた。

けど、それも(まだ人間だった)黎斗さんの適合をリプログラミングで初期化した時と同じように、起動していない。

 

「この通り、私のガシャットも起動しない。この世界に持ち込めていないガシャットもある」

 

僕のマイティノベルXと同じで、ゴッドマキシマムマイティXは持ってないようだ。

そしてデンジャラスゾンビも使えないということは、僕たちと同じ状況下にあるということ。

 

「どうやら、使えるのはレベル1に変身できるガシャットだけみたいですね」

 

僕のマイティアクションX。

黎斗さん(?)のプロトマイティアクションX。

飛彩さんのタドルクエスト。

大我さんのバンバンシューティング。

貴利矢さんの爆走バイク(1本目)。

パラドとポッピー(とニコちゃん)は変身できない。

 

「え? じゃあ自分、ゆるキャラかバイクってこと?」

 

黎斗さん(?)の眉間に皴が寄ったのを見て、貴利矢さんは何か言われるより先に手を打つ。

 

「で? もちろん修理することはできるんだろ、神の才能を以てすれば」

「当然だ。時間はかかるがな」

「……アンタ、()()()()()()()()()なんだ?」

「九条貴利矢、君にゲームオーバーにされた直前さ

 

今度は貴利矢さんの眉間に皴が集まった。

そのセリフが嘘か本当か図りかねている。

本当だとすれば、黎斗さん(暫定。以下普通に黎斗さん)はゴッドマキシマムでゲームを作ることもできないけど……。

 

「――まっ、そういうことにしといてやるか。

 そんじゃ、しばらくはここに住むんだろうし、現地調査のついでに買い出ししますか」

「そうですね……。食糧とか、服もないみたいですし」

「え゛」

 

次に眉間の皴を濃くしたのはニコちゃんだ。

 

「ふ、服はアタシたちが買ってくっから! ほら、大我!」

「あ? 服なんざお前がテキトーに買ってくりゃいいだろ」

「荷物持ちが必要でしょ!」

「だったら他の奴m「うっさい!」

 

またお尻を蹴られる大我さん。

蹴られ過ぎてお尻固くなってそう。

 

「ここまで発展した都市に中心部と言える場所などないが、かなり巨大な複合商業施設があるな。

 人と物が多い場所なら、得られる情報も多いハズだ。

 そことは別方向に衣料品店の集まるショッピングモールがある。

 かさばるし、花家先生とニコちゃんにはそちらへ向かってもらおう」

「二手に別れるのか。なら、俺も複合商業施設の方へ行こう」

 

飛彩さん、もしかしてスイーツ専門店を探したいんじゃ……。

 

「(その2人だとなんか不安なんで)僕も行きます」

「俺は永夢に付いて行く」

「んー。この拠点が狙われるって可能性もあるし、自分は大人しくお留守番しとくか。

 判明してることをまとめとく必要もあるしな。この中ならそーいうのは自分の領分っしょ」

「じゃあ、ポッピーはキリヤのお手伝い!」

 

分担が決まったところで、ポッピーが僕にガシャコンバグヴァイザーⅡを渡してくれた。

 

「クロトが何かしそうになったら、これでポパピプペナルティだよ♪」

「……」

 

ポチッ。

 

「ヴェァァァァァ!」

 

あ、吸い込めた。

黎斗さんがバグスターであることは間違いないようだ。

 

「オイ! ココカラダセ! ソトニイナイトデータヲトレナインダゾ!」

「動作確認をと思って」

「エムゥゥゥゥ!」

「ウエッ。マジキモ!」

「シラけるぜ……」

「ピヨる……」



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STAGE 01-04 (side:magica-K.M.)

「鹿目まどか。あなたは自分の人生が貴いと思う? 家族や友達を大切にしてる?」

 

「今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないことね」

 

「さもなければ全てを失うことになる……」

 

「あなたは鹿目まどかのままでいればいい。今まで通り、これからも――」

 

 

 

「ええっ!? なにそれ、あの後アイツにそんなこと言われたの!?

 文武両道で才色兼備かと思いきや実はサイコな電波さん……。

 くーっ! どこまでキャラ立てすりゃあ気が済むんだあの転校生は!?」

 

放課後。駅前のショッピングモールのファーストフード店。

わたしはさやかちゃんと仁美ちゃんに、今日転校してきた暁美ほむらちゃんに言われたことを話していました。

保健室に行きたいと言うほむらちゃんに保健係のわたしが付き添っていると、急にそんなことを言われたのです。

 

ほむらちゃんはとても綺麗な子で、頭も良くて運動もできて。

目はなんだか怖いけど、落ち着いていて大人びていて、そして――

 

「夢の中で逢った、ような……」

「「……」」

 

……あ、あれっ?

 

「っきゃはははははww」

「っふふふふふふふww」

「すげーwwまどかまでキャラが立ち始めたよwww」

「ひどいよぅ! わたし真面目に悩んでるのにぃ!

 街が滅茶苦茶になってて、大きな怪物がいて、ほむらちゃんがひとりで立ち向かってて――」

「あーもう決まりだ。それ前世の因果だわ。

 あんたたち、時空を超えて巡り合った運命の仲間なんだわぁ!」

 

お腹を抱えて、椅子から転がり落ちそうな勢いで笑うさやかちゃん。

わたしがほっぺを膨らましてむーっとしていると、仁美ちゃんが目尻の笑い涙を拭きながら言います。

 

「でも、本当は暁美さんと会ったことがあるのかもしれませんわ」

「え……?」

「まどかさん自身は覚えていないつもりでも、深層心理には彼女の印象が残っていて、それが夢に出てきたのかもしれません」

 

そんなことって、あるのかな……?

 

 

 

「ああ、まどか。帰りにCD屋寄ってもいい?」

 

お茶のお稽古がある仁美ちゃんと別れてから、さやかちゃんがそう聞いてきました。

 

「いいよ。また上条くんの?」

「えへへ。まーね」

 

男勝りなさやかちゃんが、普段は見せない照れくさそうな顔を見せる時。

それは決まって上条恭介くんのことなのです。

 

さやかちゃんと上条くんは幼稚園の頃からずっと一緒で、家も近所で、よく家族ぐるみで遊んでいました。

上条くんはその頃からバイオリンがとても上手で、全国大会にも何度も出ていて、みんなから将来を期待されていて――。

でも、今年の春に交通事故に遭ってしまって、今は左手が麻痺しているんです。

 

それからいつも、さやかちゃんは自分のお小遣いで彼が喜びそうなCDを買っては、お見舞いの時一緒に聴いているみたいです。

きっとそれはただの同情なんかじゃなくて、もっと素敵であたたかい気持ちがあるんだと思います。

 

「んじゃ、まどかは好きなとこ見てて」

 

CDショップに着いてクラシックコーナーに行ったさやかちゃんに手を振って、わたしは新譜CDの試聴コーナーに来ました。

丁度大好きなアーティストの新譜があったので、タッチパネルを操作してヘッドフォンを付けます。

この人、顔はそんなにかっこよくないけど、歌声が綺麗でダンスもすごい上手なんだよね。

 

「~~~♪」  ソートウエキサイエキサイターカーナール

『助けて!』

 

……えっ?

この曲、セリフ入りだったっけ?

 

『助けて! まどか!』

「えっ、えっ!?」

 

ヘッドフォンを外してみてもその声は聞こえて、しかもはっきりとわたしの名前を呼んでいました。

けど周りには誰もいなくて、なにより声はわたしの頭に直接聞こえてくるようなのです!

 

「誰……? 誰なの?」

 

声の主を探して、その声に導かれてショッピングモールの奥へどんどん進みます。

やがて、暗くて誰もいない改装中のフロアにやって来ました。

剥き出しのコンクリートとあちこちに転がる工事用機材……。

怖いけど、とても辛そうに助けを求める誰かを放っておくことなんてできません。

 

「どこにいるの?」

 

尋ねた瞬間、すぐ真上のエアダクトの蓋が外れて何かが転がり落ちてきます。

 

「きゃあっ!」

 

びっくりして尻もちをついたわたしの目に映ったのは、真っ白で柔らかそうな、耳からまた長い耳を伸ばした不思議な生物でした。

背中には元々赤い模様があるみたいだけれど、それ以外にも体中に付いている赤は……血!?

 

「あなたなの!? 大丈夫!?」

 

慌てて近付いて抱きかかえると、わたしの腕の中でその不思議な生物は痙攣を起こしていました。

まるで今にも死んでしまいそうな程、弱っているようです。

 

「誰か――誰かいませんか!?」

 

わたしじゃどうにもならない……!

そう思って叫んだ時、

 

「大丈夫ですか!?」

 

4人の男の人が走ってきました。



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STAGE 01-05 (side:doctor-H.E.)

「不可解な周波数が観測された」

 

駅前の複合商業施設に来た後、飛彩さんに率いられて何件かスイーツ専門店を回ってから、黎斗さんがそう呟いた。

詳しくはわからないけど、周波数といっても電磁波などではないらしい。

ヒントがようやく見つかったということで、ともかく僕たちは黎斗さんに案内されるまま施設の奥へ進む。

 

「立ち入り禁止と書かれている……」

 

改装中のフロアの入口で止まった飛彩さんを

 

「緊急事態ですから」

 

と促して中へ。

コンクリートの壁や柱が剥き出しになり、鉄材や土嚢や工事用機材があちらこちらに置かれている。

真っ暗で埃っぽく、非常口の緑と消火栓の赤のライトが不気味に光るだけで、とても誰かがいるとは思えなかったけど――

 

「誰かいませんか!?」

 

その緊迫した女の子の声に、僕たちは迷わず駆け出した。

医療に関わって数年、何度も聞いてきた()()()()()()()だ。

 

「大丈夫ですか!?」

「あなたたちは……?」

「(半分は)ドクターだ」

 

見つけたのは制服を着た中学生くらいの女の子と……その腕の中で痙攣している、見たこともない白い生物。

 

「……」

「怪我をしてるのはソイツか? お前は大丈夫か?」

「は、はいっ」

 

パラドの質問に頷いた女の子から、飛彩さんが慎重に白い生物を受け取る。

 

「わかるんですか?」

「母は奇跡の獣医と称されている。俺もかじったことはある、が……」

 

彼もやっぱりこんな生物見たことない様子だ。

この世界では普通に生息しているのだろうか?

 

「……ソイツから離れて」

「ほむらちゃん!?」

 

いつの間にか近くに、黒と白と灰色でデザインされた不思議な服を着た女の子が立っていた。

こっちの子のクラスメイトかな?

ゲームに出てくる変身ヒロインみたいな格好だけど、これも普通?

 

「動物虐待とは、感心できないな」

「そ、そうだよ! ひどいことしないでっ!」

「あなたたちには関係ない」

 

……いや。中学生の女の子がこんな冷たい目をしてるなんて、絶対におかしい!

 

「だって、この子わたしを呼んでた!

 聞こえたんだもん! 助けてって!」

「……あなたたちは?」

「僕たちはこの子が助けを呼んでたから来た、ドクターだけど――」

 

その時、僕はほむらちゃんという子の手に拳銃が握られているのに気付いた。

血の気が引く。それは、子どもには絶対に持っていてほしくない物のひとつだ。

 

ボフン!

 

急にほむらちゃんが白い煙に包まれた。

これってもしかして、消火器!?

 

「こっち!」

「さやかちゃん!」

 

声がした方には最初の子と同じ制服の女の子がいて、消火器を思いっ切り噴射している。

チラッと飛彩さんの抱える生物を気にしてから、最初の子がさやかちゃんと呼んだ子の方へ走って行った。

意外にも黎斗さんがそれに続いて、遅れて僕たちも走り出す。

 

「消火剤に人体への害はないが……」

「言ってる場合じゃないでしょ!」

 

飛彩さんに反論し、さやかちゃんは消火器が空になってからそれを勢いよく投げ捨てた。

 

「走れっ!」

 

 

 

「なによアイツ! 今度はコスプレで通り魔かよ!?

 つーかなにそれ! ぬいぐるみ、じゃないよね……生き物!?

 オジサンたちお医者さん? その子、大丈夫なの?」

「俺が……オジサン……」

「(半分は)ドクターだ」

 

ほむらちゃんから逃げてしばらく走った後、僕たちは白い生物を診るために積まれた鉄材の陰にいた。

さやかちゃんたちもこの生物のことは知らないようだし、ほむらちゃんのこともわからないみたいだ。

まさか、彼女があの原因不明の事件の犯人とかじゃないよね……。

 

「出血しているということは生物で間違いない」

「呼吸もしていますね」

「ああ。しかし、どういう体なのかまではわからない……」

 

飛彩さんと連携してとりあえず止血を施す。

 

「急いで近くの獣医に「いや、ダメだ」

 

立ち上がってすぐ、それまで黙っていた黎斗さんに止められた。

 

「何を言ってるんですか!?」

「私としたことが……その生物の監察に集中するあまり、周囲の警戒を怠ったか」

「「!?」」

 

ハッとして辺りを見回す。

コンクリートの壁に不気味な何かが重なってはブレて消え、また別の何かが映る。

薔薇、蝶、目、柵、看板、それに……人?

 

「どんどん景色が変わっていく!? 永夢、気を付けろ!」

「やだっ! 何かいる!?」

「まどか、あたしたち悪い夢でも見てるんだよね!?」

 

最初に会った、まどかちゃんに白い生物を任せる。

彼女とさやかちゃんを四方から庇うようにして僕と飛彩さん、パラド、黎斗さんが立った。

なにがなんだかわからないことだらけだけど、この子たちを危険に晒す訳にはいかない。

 

そして、何度目かのブレが収まると景色は一変していて、僕たちは既に囲まれていた

 

まどかちゃんたちと同じくらいの身長で、綿みたいな頭にカイゼル髭。

頭から生える手と体は細長く、下は蝶で、ユラユラとしながら何か歌っている。

丸い目と青紫色の唇は、僕たちのことを嗤っているようだ。

黎斗さんの作ったゲームのキャラとは違って、もっと気味が悪い。

 

「パラドと黎斗さんはまどかちゃんたちを頼みます!」

 

僕と飛彩さんがゲーマドライバーを装着して、それぞれガシャットを構える。

 

 

≪マイティアクションX!≫

≪タドルクエスト!≫

 

「「変身!」」

 

≪ガシャット!≫

≪Let's Game!≫

≪Meccha Game!≫

≪Muccha Game!≫

≪What's Your Name?≫

 

 

「あなたたちは……?」

 

驚くまどかちゃんの目に、僕たちの背中が映った。

 

 

≪I'm a Kamen-Rider≫

 

 



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STAGE 01-06 (side:magica-K.M.)

「仮面ライダー……?」

 

不思議な生物を診てくれていた2人のお医者さんが、ベルトみたいな物とゲームカセットみたいな物で、白い別の姿になっていました。

それは本当に変身としか言い様がないのです!

大きいけれど三頭身で、ゲームのキャラのようにも見えるけど――

 

「ゆるキャラ?」

「ゆるキャラではない、仮面ライダーだッ!」

 

さやかちゃんと同じことを呟こうとして、黎斗さんのキッとした顔に思わず口を押さえます。

 

「ソイツらはバグスターユニオンでも、バグスターでもなさそうだぞ!」

 

パラドさんと呼ばれた人が2人に叫びましたが、黎斗さんの言うことも含めてわたしたちが知らない言葉だらけ。

でも変身した2人にはわかるようで、彼らはベルトのレバーみたいな物を引きました。

 

 

「大変身!」

「術式レベル2、変身!」

 

≪ガッチャーン!≫

≪レベルアップ!≫

 

≪マイティジャンプ!≫

≪マイティキック!≫

≪マイティマイティアクションX!≫

 

≪タドルメグル!≫

≪タドルメグル!≫

≪タドルクエスト!≫

 

 

すると今度は、人型の何かが映る(畳みたいな)パネルが被さって、普通の身長と横幅の姿になりました!

ピンクと水色が基調になっていて、ハンマーみたいな武器と剣みたいな武器を持っています。

 

「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」

「不明生物切除手術を開始する」

 

仮面ライダーがわたしたちを囲む不気味な生物を攻撃し始めて、それが当たる度にピコッなどのゲームの効果音が出ました。

すごい! お医者さんなのに、戦うことに慣れてるみたいです!

けど、2人にとってそれは思っていたのと少し違ったようで……。

 

「なんで……エナジーアイテムもないし、ステージセレクトもできないッ!?」

「俺たちの攻撃も、いつもより効いていないぞ!?」

「少し修正が必要になったか……」

 

わたしたちのことを(パラドさんとは違って一応?)庇いながら、黎斗さんが呟きました。

渋い顔をしているようにも見えて、嬉しそうにも見えて、ちょっとわたしこの人ニガテかも……。

彼があの変身できるベルトとかゲームカセットとかを作ったのかな?

 

こっちに近付くのを優先しつつ2人の仮面ライダーが戦い続けて、何体か倒すことができても、まだまだ数は減りません。

 

「これじゃジリ貧!?」

 

さやかちゃんが不安げに叫んだ直後、

 

「上から来るぞ! 気を付けろ!」

 

周りがあたたかく輝いて円陣が現れ、上から光が降り注ぎました。

それは不気味な生物だけを弾き飛ばして、わたしたちのことを守ってくれたみたいです。

 

「危なかったわね。でも、もう大丈夫」

 

落ち着いた優しい声のする方を振り向くと、見滝原中学校の制服を着たスタイル抜群の女の人。

手の中に黄色く光る宝石みたいな物を大事そうに抱えて、歩み寄ってきます。

その微笑みは包み込んでくれるようで、まだこんな所にいるのに安心できてしまうのです。

 

「キュゥべえを助けてくれたのね。ありがとう。その子は私の大切な友達なの。

 あなたたちも見滝原中の生徒みたいね。2年生かしら? ……あの人たちは?」

「お医者さんで、か、仮面ライダーって……」

「仮面、ライダー……? 自己紹介が必要ね。でも、その前にっ!」

 

その人は片足で弧を描くようにしてステップを踏んで、黄色い宝石を両手で持ち直しました。

そこからまた黄色い光が溢れて、リボンみたいなそれが彼女の体を包みます。

 

「ちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら」

 

気が付けば、その人の姿は黄色を基調にした、不思議だけどなんとなくほむらちゃんのそれに似たデザインに変わっていました。

変身……? でも、お医者さんたちの仮面ライダーとは全然違います。

 

「その子たちをお願いします」

「えっ? あ、ああ!」

 

飛び上がった黄色い人に呆気に取られていた仮面ライダーの2人が、わたしたちを慌てて端へ連れて行きました。

その間に、再び群がり始めた不気味な生物の上では、たくさんの銀色のマスケット銃が召喚されています!

一斉に撃ち放たれた弾丸が容赦なく不気味な生物を吹き飛ばしました!

 

「なんだアレは……!?」

 

圧倒されている内に、急速に辺りの景色が元いた場所に戻っていきます。

帰ってこれたとほっとしたけど、まだ黄色い人の表情は険しいまま。

 

「魔女は逃げたわ。仕留めたいならすぐに追いかけなさい」

 

視線の先には、頬をぎゅっと締まったほむらちゃんが立っていました。

 

「私が用があるのは――」

「呑み込みが悪いのね。見逃してあげるって言ってるの。

 お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

「……」

 

ほむらちゃんは仮面ライダーとわたしの腕の中にいる白い生物(キュゥべえ?)を少し見てから、すっと立ち去っていきます。

視線を逸らす直前に、冷たかったその瞳がぎゅっとなって哀しそうに見えた気がするけど……。

 

≪ガッシューン≫

 

ピンチも去ったみたいで、仮面ライダーがベルトからゲームカセット(?)を取り出すと、元の2人の姿になりました。

わたしがさやかちゃんと顔を見合わせていると、黄色い人はそっと手を伸ばして、キュゥべえに優しい光を当てます。

見る見るその傷は消えていって、お医者さんたちが巻いたガーゼがはらりと落ちました。

 

「まるでタドルレガシーの回復魔法だ……」

 

水色の仮面ライダーに変身していたお医者さんがそう呟きましたが、意味まではわかりません。

 

『ありがとうマミ。それにドクターの人たちと、鹿目まどか、美樹さやか。僕の名前はキュゥべえ』

「なんであたしたちの名前を!?」

『僕、君たちにお願いがあって来たんだ』

「お、お願い……?」

 

 

 

 

 

『僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キュゥべえが微笑んだその時。

わたしと魔法少女たちと仮面ライダーたちの物語が始まった瞬間。

 

「……」

 

もしかすると、()だけはその先のストーリーを予感していたのかもしれません。

 

 

See you Next story

 


 

次回、翻転のstory!

 

僕は、君たちの願い事をなんでも1つ叶えてあげる

スイーツとはこうして食す物だ……

意味ねーんじゃねーか?

願い事って?

ゲームの面白さ(だけ)は保証できるな

付き合ってみない?

本気で言ってんの?

頑張ってる貴利矢さんを応援したい

ポパピプペナルティ、退場

ちょっ、待って、やめて、やめろーーーッ!

 

 

それはとってもhappy(嬉しいこと)だなって

 

 

 

私が開発したガシャットにも、魔法を扱える物はあるんだよ

マジックザウィザード!

 

 

 




parallel world(パラレルワールド):並行世界。paraの語源は~の側にという意味のπαρά。
異世界を旅して散りばめる願いに気付いてほしい。
来ちゃった(きちゃった):来る+してしまった。
ゲンムのやべーやつがぁ~? 異世界にぃ~? 来るぅぅぅ~~~。


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ステージ2『それはとってもhappyだなって』
STAGE 02-01 (side:doctor-K.H.)


採取が終わる。反撃が始まる。


「魔法少女……まさか実在するとはねぇ。まっ、今更驚かねーけど。

 しっかし、なーんで自分がそのまとめだけじゃなく、経理の仕事までやらされてるかねー?

 大先生今日だけでいくつスイーツ買ってんの。これ全部経費で落とすとか職権乱用だろ……。

 ア~~~メンドクセ~~~~~」

「……」

「永夢か。どうした?」

「頑張ってる貴利矢さんを応援したい」

「おー。手伝ってくれんの? ノリがいいじゃない」

「でも、自分の力で成し遂げないと」

「大先生?」

「意味ねーんじゃねーか?」

「白髪先生?」

「それなら、届け!」

「「元気ハツラツパワー!」」

「キャラ違わない?」

「レベルアップだ!」

「え、何飲ませようとしてモゴッ!」

「ビタミンC!」

「ビタミンBも!」

「着色料・保存料0!」

「一緒なら、何でもできる!」

「カハッ、ゴホゴホ。悪ノリが過ぎる、ぜ……」

「「元気ハツラツ! オロナ●ンC!」」

「ちょっ、待って、やめて、やめろーーーッ!」

 

 

 

「やめろーーーって! あっ? 夢かよ!?」

「いや、喧しいな監察医」

 

鏡総合クリニックの3階、階段を上がって左の大部屋。

今は男部屋として使われているそこに、本来は患者を寝かせるためのベッドが6台。

その1つから跳び起きた監察医を注意して、俺は再び横になった。

 

ドクターたる者、いつ何時でもベストコンディションでいなければならない。

当然、質の良い睡眠をとることは大切だ。

 

小児科医・開業医・パラド・檀黎斗は起きていない。

残りライフが1つでは過労死もできないだろうと言うと、檀黎斗は意外にも素直に眠りに就いたな。

ポッピーピポパポの視線が厳しかったのも影響していたようだが。

 

小児科医はお泊り会みたいだとパラドと共に心を躍らせていて、中々寝ようとしなかった。

俺の場合親父の助言で何回かは家に友人を泊まらせたこともあるが……。

小児科医には過去の様子からしてそんな思い出もなく、こんな歳になってからではするのも恥ずかしいだろうからな……納得もいく。

 

さて、夜も明けていないが再び眠るにはまだ時間がかかりそうだ。

睡眠の導入代わりに、俺は昨日の出来事をぼんやりと思い返すことにした。

 

 

 

「――改めて自己紹介するわね。私は巴マミ。見滝原中の3年生。

 そして、キュゥべえと契約した魔法少女」

 

俺たちはあのショッピングモールから巴マミの住むマンションに案内されていた。

中学3年生と言ったが、ひとり暮らしか。

この世界では珍しくない可能性もあり、無暗に詮索する気もないが、小児科医の件もあったことだ。

留意はしておこう。

 

「あ、わたしは鹿目まどかです。2年生です」

「あたしは美樹さやか。同じ2年生!」

「鏡飛彩。……鏡総合クリニックの院長だ」

「俺はパラド。そこのお手伝いみたいなもんだ」

「僕は同じクリニックの小児科医で、宝j「宝生永夢ゥ!」

 

小児科医、またチベットスナギツネのような顔になっているぞ。

檀黎斗、女子中学生たちを驚かせるな。

 

「私は檀黎斗。理由あってそのクリニックにいる、天才ゲームクリエイターさ」

「ゲームクリエイター? あの仮面ライダーというのを作ったのも、あなたですか?」

「君は察しが良いな。……今は()()()()()()()()()()()という説明に留めておこう」

 

白々しいと感じるが、こいつのことだ。

何か考えあって詳しく説明しないのだろう。

手札を公開せずいくつもの切り札を用意する。

敵に回すと恐ろしいが味方につけると(腹立たしくも)頼りになる男だ。

 

「今度君たちにも私のゲームをプレイさせてあげよう!」

「ゲームの面白さ(だけ)は保証できるな」

「……先にこちらの事情から説明させたいようですね。

 キュゥべえに選ばれた以上、鹿目さんと美樹さんにとっても他人事じゃないし……」

「うんうん、何でも訊いてくれたまえ」

「さやかちゃん、それ逆」

 

巴マミは微笑み、話が長くなるからとティーポット・カップ・ケーキ・フォークを用意した。

小さなテーブルを囲んでいる鹿目まどか・美樹さやか・巴マミ自身・俺の物はティーポットとセットのカップだ。

小児科医・パラド・檀黎斗はダイニングテーブルの方に座っており、そちらは別のカップだ。

 

「すまないが、メス……ナイフも出してもらえるか?」

「ナイフですか?」

「きっと面白い物見れるよ」

 

見世物ではないが、まぁいい。

ナイフを受け取ってケーキを手際よく切ると、女子中学生たちから感嘆の声が漏れた。

 

「スイーツとはこうして食す物だ……」

 

また微笑んで(少し違うように見える気もするが)、巴マミが変身などに使っていた黄色い宝石を取り出す。

 

「これがソウルジェム。キュゥべえに選ばれた女の子が、契約によって生み出す宝石よ。

 魔力の源であり、魔法少女であることの証でもあるの」

「契約……?」

『僕は、君たちの願い事をなんでも1つ叶えてあげる』

「願い事って?」

『なんだって構わない。どんな奇跡だって起こしてあげられるよ。

 でも、それと引き換えに出来上がるのがソウルジェム。

 この石を手にしたものは、魔女と戦う使命を課されるんだ』

 

それで女子中学生に過ぎない巴マミが魔女と戦っていたのか。

 

「魔女とは何だ? 放っておくことはできないのか?」

『願いから生まれるのが魔法少女だとすれば、魔女は呪いから生まれた存在。

 しかもその姿は普通の人間には見えないからタチが悪い。

 不安や猜疑心、過剰な怒りや憎しみ、そういう災いの種を世界にもたらしているんだ』

「理由のはっきりしない自殺や殺人事件は、かなりの確率で魔女の呪いが原因なのよ。

 形のない悪意となって、人間を内側から蝕んでいくの」

 

なるほど、檀黎斗が調べ上げた事件・事故の原因は魔女。

繋がったというやつだな。

 

「そんなヤバイ奴らがいるのに、どうして誰も気付かないの?」

『魔女は常に結界の奥に隠れ潜んで、決して人前には姿を現さないからね。

 さっき君たちが迷い込んだ、迷路のような場所がそうだよ』

「結構、危ないところだったのよ。

 あれに飲み込まれた人間は、普通は生きて帰れないから」

 

巴マミ、そしてキュゥべえの視線がチラッと檀黎斗に向く。

 

「どんな願いも叶えられる代わりに命懸けの戦いへ挑むことになる、か。

 永夢、ドクターとして認められるかい?」

 

しかし、気付いてないとでも言いたそうな顔で檀黎斗は話の流れを変えさせなかった。

この件は開業医が聞いても真っ先に止めに入るだろうな。

 

「そんなの、認められる訳ない……。

 でも、マミちゃんが命を懸けてまで叶えたかった願いって……?」

「それは――また今度お話しします。

 さて。提案なんだけど、2人ともしばらく私の魔女退治に付き合ってみない?」

「「えっ!?」」

「魔女との戦いがどういうものか、その目で確かめてみればいいわ。

 その上で、危険を冒してまで叶えたい願いがあるのかどうか、じっくり考えてみるべきだと思うの。

 もちろん安全は私が保障するし、()()()()()()()()()()も助けてくれますよね?」

 

巴マミの優しい目は檀黎斗にだけ鋭く向く。

だが奴は彼女に対し、いつもの不敵な笑みを返すだけだった。

 

……いや、今ならわかる。

その時奴の目は別の存在を捉えていた



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STAGE 02-02 (side:magica-K.M.)

「あの転校生、あんたのこと狙ってんじゃないの?」

『学校の方が安全だと思うな。マミもいるし』

「この程度の距離ならテレパシーの圏内よ」

 

 

 

魔法少女と仮面ライダー、そして魔女を初めて見てから次の日。

わたしは昼休みにさやかちゃんと屋上でお弁当を食べていました。

 

転校生のほむらちゃんがキュゥべえを襲っていたのは、新しい魔法少女が生まれるのを阻止するためのようです。

魔女を倒すと(まだ詳しく知らないけど)見返りがあるそうで。

魔法少女みんなで協力できればいいのに、実際は競争になってしまうことが多いのだとか。

 

キュゥべえはテレパシーを中継することができて、今はそれでマミさんが見守ってくれています。

 

「ねぇまどか。願い事、何か考えた?」

「ううん。さやかちゃんは?」

「あたしも全然。なんだかなー。いくらでも思いつくと思ったんだけどなー」

 

青空に向かってひとつ伸びをするさやかちゃん。

 

「欲しい物もやりたいこともいっぱいあるけどさ。

 命懸けってところで、やっぱ引っ掛かっちゃうよね。

 そうまでする程のもんじゃねーよなーって」

「そう、だよね……」

 

口には出さないけれど、わたしたちの頭の中には永夢先生の顔が残っていました。

仮面ライダーに変身している間はちょっと不思議な感じがしたけど、ずっと優しそうな雰囲気で、小児科医って聞くとピッタリだなぁと思えて。

でも、あの一瞬……黎斗さんに契約を認められるか聞かれた時、その目は怒りとか哀しみとか、よくわからないけどすごく怖かったのです。

いつも命に真摯に向き合っているドクターだから、だと思うけど――。

 

「まぁきっと、あたしたちがバカなんだよ。幸せバカ。

 別に珍しくなんかないハズだよ。命と引き換えにしてでも叶えたい望みって。

 そういうの抱えてる人は世の中には大勢いるんじゃないのかな」

 

ゆっくりと目を閉じて想像してみます。

たとえば、救えなかった命を取り戻したい? いつかの友達を引き止めたい? 過去をやり直したい?

 

「だから、それが見付からないあたしたちって、その程度の不幸しか知らないってことじゃん。

 恵まれ過ぎてバカになっちゃってるんだよ」

 

ドクターの人たちが願い事を叶えられるなら、患者さんを治すとか病気を失くすとか願うのかな?

 

「……なんで、あたしたちなのかな? 不公平だと思わない?

 こういうチャンス、本当に欲しいと思ってる人は他にいるハズなのにね……」

 

その言葉で、さやかちゃんが上条くんのことを言っているのだとようやく気付きました。

 

たしかに彼の苦しみや辛さに比べれば、わたしたちなんて幸せバカなのかもしれません。

さやかちゃんはそこまで真剣に悩んでいるのに、わたしは何も言ってあげられなくて、こんな時ママなら気の利いたことを言えるのかな……。

さっきまで教室で、もし魔法少女になったらと衣装を想像してラクガキしていた自分が情けなくなります。

 

「……あっ」

 

屋上への階段を上がる足音が聞こえて振り返ると、そこにはほむらちゃんがいました。

スタスタと歩き寄ってくるその目は、わたしのことを真っ直ぐ見ていて。

責められているような気持ちになって、わたしは思わず目を逸らしてしまいます。

 

「大丈夫」

 

隣の校舎の屋上にいたマミさんからのテレパシー。

その手の中のソウルジェムが黄色く光ったのを横目に見ながら、ほむらちゃんは少し近くで立ち止まりました。

 

「昨日の続きかよ?」

「いいえ、そのつもりはないわ」

 

キュゥべえを抱いたわたしを庇うように立って、喧嘩腰なさやかちゃん。

臆する様子もなくほむらちゃんはキュゥべえを睨みつけます。

 

「ソイツが鹿目まどかと接触する前にケリをつけたかったけれど、今更それも手遅れだし……。

 で? どうするの? あなたも魔法少女になるつもり?」

 

それはさやかちゃんにではなく、ハッキリとわたしに聞いていました。

どうしてわたしだけ……?

 

「わ、わたしは――」

『僕は強制してないよ。まどかたちも今、迷ってるところだ』

「どっちにしろ、あんたにとやかく言われる筋合いはないわよ!」

 

2人の言葉も無視して、もうひとつほむらちゃんがわたしに尋ねます。

 

「昨日の話、覚えてる?」

「……うん」

 

自分の人生が貴いと思ってるか。

家族や友達を大切にしてるか。

今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思っちゃいけない。

でないと全てを失うことになる……。

 

「ならいいわ。忠告が無駄にならないよう、祈ってる」

 

あの時は意味がわからなかったし、今でも真意はわからないけど……。

でも、彼女がわたしを本気で魔法少女にしたくないということだけは、わかります。

 

「あ……ほむらちゃん」

 

踵を返して去って行くほむらちゃんが数歩のところで振り向いた時、その長い黒髪が風に舞いました。

 

「あなたは、どんな願い事をして魔法少女になったの?」

 

命を懸けてまで叶えたい願い。

それが何なのかわかれば、ちゃんとひとりひとり話し合えば、魔法少女みんなで協力して魔女と戦える……。

そんな甘い考えがこの時のわたしにはありました。

 

「……!」

 

けれどそれは、ほむらちゃんが見せた瞳の冷たさと揺らぎに、一瞬で崩れました。

 

わたしが衝撃を受けたのは、まるで自分が彼女を傷付けてしまったように感じられたからなのです。



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STAGE 02-03 (side:doctor-K.H.)

小児科医がハンバーガーを食べている姿を見ると今でも少し心に来るものがある。

いや。いくら父子家庭だったことが要因とはいえ、当の本人は好んで食しているのだ。

俺が何か感じる必要はない。

ジャンクフードに食生活が偏っている訳でもないだろう。

 

今日は見滝原中学校の放課後から巴マミの魔女退治に付き合うことになっている。

こちらのメンバーは昨日と同じ小児科医・パラド・檀黎斗・俺だ。

 

俺にとっては幼い頃から親父やドクターが憧れの対象だ。

しかし、一般的にはフィクションのヒーローやヒロインが子どもの憧れの対象となりやすいことは知っている。

だから、女子ゲーマーにも付いて来るかと尋ねたのだが、

 

「魔法少女とか、本気で言ってんの?」

 

と睨み返されてしまった。

俺も開業医のように臀部を蹴り飛ばされるかと構えたが、特に攻撃はされていない。

 

ポッピーピポパポは見たいと跳ね回っていたが、既に顔を知っている方が話が早いということで今のメンバーになったのだ。

それを提案したのがあの檀黎斗だから、何か思惑があると予想できる。

 

鏡総合クリニックは17:00が閉まる時間になっていた。

目覚めた時にいた2階にはカルテもあったが、今日来たのは初診の患者ばかりだ。

クリニックの存在と同じく、俺たちがこの世界に来た時に辻褄合わせに設定された物なのだろう。

それからこうして、待ち合わせ場所である駅前のショッピングモールのファストフード店に来たという訳だ。

 

巴マミは先に着いており、オレンジジュースを飲んでいる。

小児科医とパラドはダブルチーズバーガーセット、檀黎斗はアイスコーヒー、俺はホットケーキセット。

友人に呼び止められ遅れて来た鹿目まどかと美樹さやかは、それぞれチーズバーガーセットとがっつりバリューセットを頼んでいた。

 

そういえば、メニューが届く間に檀黎斗は携帯型ゲーム機を渡していたが、昼間に

 

「起動したらゲーム病になったりしねぇだろうな!?」

「ポパピプペナルティ、退場」

「待てッ! これはただ彼女たちに私のゲームを楽しんでもらうために作っただけだ!!」

 

という騒がしいやりとりの後、監察医とポッピーピポパポが事前に調べていた。

返されたということは、本当に罠は仕掛けられておらず安全に遊べる物のようだ。

 

美樹さやかは大いに喜び、鹿目まどかも嬉しそうに笑い、奴にゲームの内容を聞くなどしていた。

巴マミは一瞬驚いた後、警戒しながら鞄にゲーム機を入れたな。

 

携帯型ゲーム機には、爆走バイク・ときめきクライシス・バンバンシミュレーションズが収録されている。

 

「その前にガシャットを直せ!」

 

と、作業中に開業医が詰め寄ったが、コイツに命令したところで聞くハズもなく……。

クリエイティブな時間を邪魔するな、私に命令するな、と跳ね除けれらていた。

 

「これから魔女退治に行く割には、緊張していないのかな?」

 

檀黎斗が、俺たちにではなく女子中学生たちに尋ねた。

俺たちからしてみれば煽っているようにも聞こえるが、まだこの男の本性を知らない彼女たちからすると違うのだろう。

 

「緊張してない訳じゃないけど……一応、準備はしてきました!」

 

そう言って美樹さやかが、持っていたハンバーガーを口に突っ込み、机の下から何かを取り出した。

 

「き、金属、バット……?」

「体育倉庫から借りてきました! 何もないよりはマシかと思って」

 

小児科医が一瞬トラウマを抉られ怯えたように感じたが、気のせいか。

魔女に対し金属バットが役に立つかはわからないが……心意気はあるらしい。

 

「まあ、そういう覚悟でいてくれるのは助かるわ」

「俺たちでも少しは戦うことができる。それは明日にでもきちんと返すんだな」

「はぁーい」

 

気怠そうに返事をしながらも、美樹さやかはバッターボックスに入った選手のような構えを止める。

 

檀黎斗は携帯型ゲーム機を作るのと同時進行ではあったが、ガシャットの調整も行っていた。

しかし狂喜の声を上げていなかったため、まだいつものような力は発揮できないようだ。

 

「まどかは何か持ってきた?」

「えっ? えっと、わたしは……」

 

渋々というように鹿目まどかが鞄から取り出したのはピンク色のノート。

 

「作戦でも考えたのか?」

 

パラドの声を筆頭に全員が注目して、机に置かれたノートが開かれるのを待つ。

だがそこに書かれていたのは、フリルで飾られた衣装を着た少女の三面図や細かい設定の数々だった。

 

「これは一体……?」

「ッハハハハハハハwwww」

「ッフフフフフフフwwww」

 

首を捻っていると、美樹さやかと巴マミが盛大に笑い出す。

小児科医も苦笑しているようで、パラドは目を丸くしていた。

 

「とっ、とりあえず衣装だけでも考えておこうと思って……」

「素晴らしいデザインだよ」

 

ここまで微笑ましくない微笑みを、俺は檀黎斗以外見たことがない。



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STAGE 02-04 (side:magica-K.M.)

「これが昨日の魔女が残していった魔力の痕跡。

 基本的に魔女探しは足頼みよ。こうしてソウルジェムが捉える魔女の気配を辿って行く訳」

 

昨日わたしたちが出会った、同じショッピングモールの改装中のフロア。

そこでマミさんが取り出したソウルジェムは、時々光の強さを変えて点滅していました。

それに導かれてショッピングモールを出て、商店街を抜け、住宅街へ入ります。

 

マミさんのすぐ後ろにわたしとさやかちゃんと永夢先生。

そのまた後ろに飛彩先生とパラドさん。

黎斗さんは一番後ろだけど、途中で現れたキュゥべえがわたしの肩に乗ってからは、みんなより少し離れています。

 

永夢先生が変身する仮面ライダーエグゼイド、飛彩先生が変身する仮面ライダーブレイブ。

両方とも黎斗さんが作ったそうで、今は何か問題があるからできないけど、彼とパラドさんも変身できるみたいです。

 

ただ、マミさんは皆さんを……というより黎斗さんを信用していません。

わたしとさやかちゃんにも彼の動きに注意するようテレパシーを飛ばしてきました。

 

見たことないゲームだってくれたし、わたしの絵も褒めてくれたし、悪い人じゃないと思うんだけどなぁ。

背も高いし、脚も長いし、スラっとしていてゲームを作れるくらい頭も良いし……。

 

「光、全然変わらないね」

「取り逃がしてから一晩経ってしまいましたから。足跡も薄くなってるわ」

 

永夢先生の言葉に足を止めて辺りを見回すマミさん。

わたしは申し訳なくなってしまいます。

 

「あの時、すぐ追いかけてたら――」

「仕留められたかもしれないけど、あなたたちを放っておいてまで優先することじゃなかったわ」

 

出会った時と同じような柔らかい微笑み。

あんな怖い魔女相手にずっとひとりで戦い続けていて、誰に褒められることもなく人々を助け続けていて、ちゃんとした判断ができて……。

なんだかママに似ていると思いました。

 

そして、もしわたしもママやマミさんみたいになれたら……。

誰かに褒められるためとかじゃなくて、本当にその人のことを思って動けて、自分の考えをしっかり持てて、それを迷わずに言えたら。

そんなかっこいい人になりたいと、思うようになっていくのです。

 

「うん! やっぱりマミさんは正義の味方だ!

 それに引き換え、あの転校生ホントにムカつくなぁ!」

「本当に悪い子なのかな……?」

「少なくともキュゥべえを狙い新しい魔法少女を生み出させまいとしていたのは確かだろう」

 

冷静にわたしの疑問に返したのは飛彩先生。

わたしは諦めきれずに言葉を続けます。

 

「でも……もしかしたら何か目的があるのかも……」

「お前には何か心当たりないのか?」

 

キュゥべえが顔をくるっと後ろのパラドさんに向けました。

 

『僕にもよく分からないんだ』

「じゃあ、アイツの願い事って?」

『それもわからない』

「えっ? ほむらちゃんもキュゥべえと契約して魔法少女になったんでしょ?」

『そうとも言えるし、違うとも言える』

「どういうこと――」

「今は彼女について話している場合じゃないだろう」

 

急に、それまで黙っていた黎斗さんがパラドさんの声を遮りました。

 

「今こうしている間にも新たな犠牲者が出る可能性がある」

 

わたしもさやかちゃんも、永夢先生も飛彩先生もパラドさんもハッとしました。

そう、今大事なのは昨日逃がしてしまった魔女を探し出して倒すことなのです。

 

「魔女の居場所の目星くらいは付けられないのかい?」

 

マミさんはやっぱり不信感のあるようでしたが、彼の質問に答えます。

 

「魔女の呪いの影響で割と多いのは、交通事故や傷害事件ですね。

 だから大きな道路や喧嘩が起きそうな歓楽街は優先的にチェックします。

 もし病院とかに取り憑かれると最悪です」

「弱っている患者から生命力が吸い上げられ、目も当てられなくなるということか……」

 

飛彩先生の指摘に永夢先生の拳がぐっと固く握られるのに気付いて、わたしは少し驚いてしまいます。

 

「あとは、自殺に向いてそうな人気のない場所……」

「それなら私に心当たりがある」

 

さっきとは違って先頭をスタスタと行き始めた黎斗さん。

慌ててわたしたちも続きます。

 

いつしか周りもだいぶ薄暗くなっていて、わたしたちは工場跡地の多い所へ来ていました。

ここは再開発の時に放棄された地帯で、危ないから近付くんじゃないよ、とママに言われたことがあります。

どの辺りかは知っていましたが、わたしは行き方を知らなくて、黎斗さんには土地勘があるのかな……?

 

「間違いない。ここよ」

 

マミさんのソウルジェムの点滅が速く強くなっていました。

そこは廃ビルの入口で、ふと見上げてみると

 

「マミさん! あれ!」

 

屋上にスーツ姿の女性が立っていて、ふわりと空に足を踏み出して……!

 

「きゃあああ!?」

 

目を背けると同時にマミさんが高く跳び上がります。

恐る恐る開けると、彼女は昨日と同じ黄色の魔法少女に変身していて、魔法のリボンで女性を受け止めていました。

 

「魔女の口づけ……やっぱりね」

 

マミさんが指差す女性の首元には、蝶と茨とリボンを組み合わせたような形の痣が刻まれています。

 

「……気を失っているだけだ。他に異常はない」

 

すぐに飛彩先生が脈を測るなどして診察し、わたしはほっとしました。

永夢先生も首元をじっと見ています。

 

「この痣が呪いの印!」

「はい。……急ぎましょう!」

 

ビルの中に入ってマミさんが少し辺りを見回すと、さっきの痣と同じ模様のあるゲートが現れました。

きっとこれが魔女の結界への入口……。

 

「今日こそ逃がさないわよ……!」

「術式レベル2、変身!」

「大変身!」



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STAGE 02-05 (side:doctor-K.H.)

魔女の結界の中はやはり悪趣味な空間だった。

歪んだビルの鉄骨に昨日と同じ綿のような使い魔が並び、こちらを嗤いながら薔薇の花を運んでいる。

階段を上り、人物画の飾られた高い壁の迷路を足音と歌声に追われながら彷徨う。

 

俺も小児科医も仮面ライダーに変身しているが、やはりステージセレクトもできずエナジーアイテムも出現しない。

だが、

 

「ハァ!」「ハッ!」

 

使い魔へ与えられるダメージは上昇していた。

やはりHITのエフェクトは出ず音だけだが、撃破までに必要な攻撃数は半分程に減っている。

もし檀黎斗が携帯型ゲーム機を作らずガシャットの調整に専念していれば、ということは考えても仕方ないな。

 

綿の使い魔の歌は耳障りだが、襲ってくるのは別の使い魔だ。

コーンタイプのアイスクリームに蝶の羽とカイゼル髭、複数の目が付いている。

 

俺にはゲームキャラクターのデザインに関する知識も興味もないが、檀黎斗のデザインとは異なることはわかった。

……それ自体が奴による罠ではないか、という疑問は失わないよう気を付けている。

 

「邪魔しないで!」

 

巴マミがマスケット銃を大量に召喚すれば、それは訓練された兵隊のように陣形を取り、一斉射撃で使い魔を掃討した。

 

「永夢! 上だ!」

「ああ、任せろ!」

「わっ!? 来んな!」

「きゃっ!?」

「手は出させない!」

 

先頭で彼女が道を拓き、パラドが庇う鹿目まどかと美樹さやかを後方の俺と小児科医が守る。

 

「……」

 

檀黎斗は女子中学生たちの近くにいながらも、いつものように腕を組んで使い魔との戦闘を観察していた。

 

「数が増えてきたな」

「最深部に行く程敵が強く多くなる……ゲームのダンジョンと同じってことか?」

「ええ。足を止めれば囲まれるかもしれません」

 

魔女さえ倒してしまえば使い魔も結界も消滅する。

帰路のことは考えなくていい。ただ前進あるのみだ。

 

「どう? 怖い、2人とも?」

「なっ、なんてことねーって!」

 

どこか躍起になって叫ぶ美樹さやか。

怖い時には怖いと素直に言えばいい。

虚勢を張る必要なんて子どもにはない。

 

だが、そうして背伸びをすることも成長における大切な過程だ。

虚勢が崩れた時、その子を受け止める大人が近くにいること。

結果的に挫けても支えてくれる人がいる安心感を抱けること。

それを理解することは、患者の私情に踏み入らない俺の信念と矛盾しない。

 

「怖いけど、でも……」

 

しかし、俺は鹿目まどかと美樹さやかのことは見えていたのに――。

また()()()()()()()()()()大切なことを見落としていた。

 

 

 

『あれがこの結界の魔女。薔薇園の魔女だ』

 

開けたドアの下に広がる、異様な壁で構成されたドーム状の空間。

中心部で鳴いている巨体……あれが魔女か。

胃のような体に数本の脚と蝶の羽、泥が垂れたような顔、複数の薔薇の目が付いている。

 

厳密に言えば、起立した状態のように食道から繋がる噴門が上で顔が付いているのではなく、十二指腸へ繋がる幽門部を首として顔が付いていて……。

失礼。今はそんな話はどうでもいい。

 

『造園の使い魔と警戒の使い魔を従え、誰も住まぬ廃墟を好み、その性質は不信を司るんだ』

「不信を司る……? お前、妙に詳しいな?」

『僕には魔法少女をサポートする役割もあるからね』

 

魔女の周りでは綿の使い魔(おそらく造園の使い魔)が忙しなく動いており、薔薇を整えていた。

 

「正にここは奴の、奴のためだけの薔薇園ということか」

「うっ……グロい……」

「あんなのと、戦うんですか……?」

「大丈夫。負けるもんですか」

 

鹿目まどかの震えた声に、巴マミはいつもの微笑みを返してふわりと薔薇園に降りる。

続いて小児科医が降りようとしたが、

 

「ここは私に任せてください」

 

彼女自身に止められた。

その目には油断ではなく自信の色が灯っている。

 

「けどっ!」

「大丈夫」

 

巴マミが魔女にカーテシーをすると、摘ままれたスカートの中からマスケット銃が落ちた。

魔女は自らの台座を投げるが、彼女はそれをヒラリとバク宙しながら迎撃する。

その間に魔女は壁に沿って飛び回り始めた。

 

「アイツ意外に動く!」

 

ベレー帽から召喚した多数のマスケット銃を、撃つ度に投げ捨てては代えてまた撃つ巴マミ。

だが魔女の動きは大きさの割に素早く、捉えることができていない。

 

「足元だ!」

 

小児科医の叫びも間に合わない。

その隙に足元から黒い蔦が生え、巻かれた彼女は宙へ逆さ吊りになった。

負けじと両手のマスケット銃を放つが、弾は地面に撃ち込まれるだけだ。

 

「あっ!?」「マミさん!?」

 

小児科医がガシャコンブレイカーを構える。

 

「大丈夫よ」

 

しかし、再びその微笑みに止められた。

 

「未来の後輩に、あんまりカッコ悪い所見せられないものねっ!」

 

先程までに弾が当たった地面や壁から一斉に黄色のリボンが伸びる。

気付いた魔女は酷く狼狽し、顔をアメーバのように潰し開いて黒い茨とハサミを現した。

それに切られるよりも早く、今度はリボンが魔女を縛り上げる。

 

「惜しかったわね」

 

巴マミが胸元のリボンを解くと、それは鋭く固くなり蔦を切除した。

そのままリボンは銀の巨大な銃となり――

 

「待て」

 

誰もが決着を予感した瞬間、奴はそれを許さなかった。



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STAGE 02-06 (side:magica-K.M.)

「少し、試させてもらえないかな?」

 

シュワワワというノイズみたいな音が鳴ったかと思うと、近くにいたハズの黎斗さんがいつの間にか薔薇園に立っていました。

その腰には、永夢先生や飛彩先生と同じベルト……ゲーマドライバーが巻かれています。

 

「アイツ……!?」

「何をする気だ!?」

「俺たちでは魔女を倒せないハズだろ!?」

 

3人とも強い口調で叫ぶので、わたしは何が起きようとしているかわからず怖くなってしまいました。

 

「……鏡先生の言う通りでは?」

 

マミさんも明らかに厳しい目で黎斗さんのことを見ています。

でも、黎斗さんは気にしていないというように腕を組んだまま歩き始めました。

 

「ああ。たしかに、魔女や使い魔に有効なダメージを与えるには魔法性が必要だ。

 だからこそ私自ら君と彼らの戦いを近くで観ていたのさ。

 今の戦闘のおかげで、必要なデータは得られた……!」

「必要な、データ……?」

 

横を通り過ぎて魔女に近付き続ける彼を、マミさんは睨みながら目で追います。

 

「データがあってもガシャットにはできてないだろ……!?」

「ゴッドマキシマムマイティは持ってないんじゃなかったのか!?」

 

仮面ライダーに、エグゼイドに変身すると永夢先生は少し性格が変わってしまう(パラドさんと近くなる)っていうのは聞いたけど……。

今にも降りて黎斗さんに襲い掛かりそうなその勢いに、わたしは思わずさやかちゃんの服にしがみつきます。

 

「私が開発したガシャットにも、魔法を扱える物はあるんだよ」

 

黎斗さんが取り出したガシャットに、3人が息を呑む音が聞こえました。

 

 

≪マジック ザ ウィザード!≫

 

「グレード2、変身!」

 

≪ガッチャーン!≫

≪レベルアップ!≫

 

≪シャ・シャ・シャバドゥビタッチで変身!≫

≪プリーズ!≫

≪マジック ザ ウィザード!≫

 

 

黎斗さんの変身したその仮面ライダーは、エグゼイドやブレイブとは違って目がなくて。

黒と紫を基調にした体に、腰からは裏地が赤いロングコートの裾があって、胸のアーマーと顔(背中の方も)も赤です。

ヒラリとコートを手で翻す姿は、見惚れてしまうような素敵さがあります。

 

「それは……!?」

「私は、仮面ライダーゲンム・ウィザードゲーマーレベル2……」

 

縛られている魔女を心配するように集まっていた使い魔たちが、ゲンムに一斉に襲い掛かりました!

けど、ゲンムは片足を軸にして大きく回るように蹴り飛ばし、その後も軽やかな足技で使い魔たちを倒していきます!

長い脚しか使わないのに余裕のある戦い方は華麗で、その度になびくコートが美しくて、わたしは目が奪われてしまいました。

 

 

≪ガシャット!≫

≪キメワザ!≫

 

「さぁ、フィニッシュタイムだァ!」

 

≪マジック ザ クリティカルストライク!≫

 

 

炎の魔法陣の纏われたキックが、薔薇園の魔女に決まって――。

 

 

 

飛び降りた女性は目を覚ますと、自分がしたことにショックを受けて、しばらく泣いていました。

マミさんと永夢先生がそれを優しく受け止めて、飛彩先生が少し診察しました。

 

魔女を倒すと手に入ることのある、魔女の卵……グリーフシード。

濁ったソウルジェムに使うことで消耗した魔力を回復することができます。

マミさんが言っていた見返りとはそのことだったのです。

 

今回の魔女で手に入ったグリーフシードを、後1回くらいは使えるとマミさんは隠れていたほむらちゃんに渡しました。

でもほむらちゃんはそれを受け取りませんでした。

マミさんはほむらちゃんを味方にできないと確信したんだと感じて、わたしは胸がキュッとなりました。

 

そして今。その日の夜。

ノートに描いた魔法少女に色を塗りながら、わたしはそんな2人のことや永夢先生たちに責められた黎斗さんのことを考えていました。

 

どうして黎斗さんの行動に永夢先生たちが怒っているのか、わたしにはわかりません。

マミさんも黎斗さんやほむらちゃんと仲良くできればいいのになぁ、なんて感じてしまいます。

 

それは、わたしがまだ色んなことをわかっていないから?

鈍くてうまく自分を表せない子どもだから?

 

それでも――人助けのために頑張るマミさんやドクターの皆さん、魔法少女と仮面ライダーの姿は、とても素敵で。

叶えたい願い事とか、わたしには難しすぎてすぐには決められないけれど。

こんなわたしでも、あんな風に誰かの役に立てるとしたら……それはとっても嬉しいなって、思ってしまうのでした。

 

 

See you Next story

 


 

次回、翻転のstory!

 

体が軽い!

裏切ったってこと!?

心が躍る!

ゲンム!?

重い荷物がなくなっちゃったみたい!

檀黎斗!?

こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて!

何をしてるんだ!?

ひとりぼっちじゃないもの!

わたしなんかで、良かったら

 

 

もうno fear(何も恐くない)

 

 

 

白いエグゼイド、だと……?

 

 

 




happy(ハッピー):嬉しい。語源は幸福という意味のhap。
運命を覚悟した者は幸福だと思います。ウンメイノー。
とっても:とてもを強調した言い方。
英語の解説はともかく、日本語の解説は早くもネタギレだと思います。


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ステージ3『もうno fear』
STAGE 03-01 (side:magica-T.M.)


孤独が終わる。絶望が始まる。


「ティロ・フィナーレ!」

 

 

 

棘の付いた頭を持つ黒猫の姿をした使い魔。

撃ち抜けば結界は崩れ、辺りは夜の公園に戻る。

 

「や、やった!」

「やっぱマミさんってカッコイイねぇ!」

 

私の魔女・使い魔退治に魔法少女候補の2人と仮面ライダーの2人、パラドさん、……檀黎斗さんが付いてくるのも、もう何度目か。

鹿目さんはまだ足が震えているようだけど、美樹さんは慣れてしまったのか跳ねて喜んでいた。

 

「もう……見世物じゃないのよ」

「危ないことをしているという意識は忘れないでおくべきだ」

「はぁーい」

 

私と鏡先生が諫めても美樹さんはどこか楽し気に返すだけ。

 

宝生先生の変身するエグゼイドも鏡先生のブレイブも、以前とは違って魔女たちとまともに戦うことができていた。

エナジーアイテムという物はまだ出現させられていないらしいけど……。

それも全て、あの檀黎斗さんがマジックザウィザードガシャットで成したこと。

 

薔薇園の魔女を倒した次の日から彼はまだ変身していない。

エグゼイドとブレイブが戦うから変身する必要がないのか、変身を禁じられているのか、それとも――。

 

「グリーフシード、落とさなかったね」

 

変身を解いた宝生先生がふと呟いた。

この人も、変身すると性格が変わるというのが気になるけど……。

それ以外の時に見せる優しさは本物だと感じるし、檀黎斗さんよりは余程信頼できる。

 

『今のは魔女から分裂した使い魔でしかないからね』

「魔女じゃなかったんだ……」

「なんか、ここんとこずっとハズレだよね」

「だが、使い魔でも結界を張り呪いをかけられる以上、放置することもできない」

「ええ。成長すれば分裂元と同じ魔女になりますし」

「ウイルスみたいだな」

 

鏡先生は真面目で冷静なドクター。

パラドさんは素性は窺い知れなくても、変身できなくても鹿目さんと美樹さんを庇ってくれる。

……やっぱり、私には独善的な檀黎斗さんだけが信用できなかった。

 

「……さぁ、行きましょう」

 

公園を後にして帰路に着く。

今日は少し探し出すのに時間がかかり、遅くなってしまった。

私はひとり暮らしだからいいけど、家まで送るとはいえ鹿目さんと美樹さんはあまり遅過ぎると家族に心配をかけてしまう。

 

「2人とも、何か願い事は見つかった?」

「んー……まどかは?」

「うーん……」

「まぁ、そういうものよね。いざ考えろって言われたら」

 

苦笑いを浮かべながらも、内心で考えているのは別のこと。

私の場合は考えている余裕さえなかった。

だから、せめてこの子たちにはしっかりと考える時間をあげたい。

 

「マミさんはどんな願い事をしたんですか?」

「っ……」

 

聞いてすぐ、鹿目さんはハッとして自分の口を手で塞いだ。

前に宝生先生に聞かれて私がはぐらかしたことを思い出したらしい。

 

「いや、あのっ! どうしても聞きたいって訳じゃなくてっ!」

 

そろそろ彼女たちに話してもいいと思い始めていた、けど……。

 

「私の場合は――」

「ああ。ポッピーに買い物を頼まれていたんだった。私は先に失礼するよ」

 

チラッと見た途端、檀黎斗さんはそう言って歩き去った。

白々しい嘘だというのは宝生先生たちも見抜けているハズ。

私に気を遣った? 貸しを作らせた? 警戒心を解かせるため?

 

「マミさん……?」

「……。家族でドライブに出かけた帰りだったわ。

 反対車線の車が横転してぶつかって……。

 気が付いたら、私はシートに挟まれていて、血を流した両親はもう動いていなかった。

 割れた窓ガラスから青空に手を伸ばして……そこに、キュゥべえがいたの」

 

今でもハッキリと覚えている。

あの澄み渡るような青と、ガソリンの匂いと、涙の味を。

 

「……契約をするしか、なかったんだな」

「後悔している訳じゃないんです。あそこで死んじゃうよりは、余程良かったから」

 

下を向いて何も言えない鹿目さんと美樹さん。

複雑そうな面持ちで拳を握り締める宝生先生とそれを見つめるパラドさん。

鏡先生も悲痛な思いが顔に溢れ出ている。

 

……ここに檀黎斗さんがいたら、一体どんな顔をするのかしら?

 

「ねぇ、マミさん。願い事って自分のための事柄でなきゃダメなのかな?」

「え?」

「たとえば、たとえばの話なんだけどさ。

 あたしなんかより余程困ってる人がいて、その人のために願い事をするのは――」

「それって上条くんのこと?」

「た、たとえ話って言ってるじゃんかぁ!」

 

そういえば、春に交通事故に遭って入院している2年生がいると聞いたことがある。

その子の名前もたしか上条だったけど、彼を治したいということ?

 

『別に契約者自身が願い事の対象になる必然性はないんだけどね。前例もない訳じゃないし』

「でも、あまり感心できた話じゃないわ。

 他人の願いを叶えるのなら、なおのこと自分の望みをハッキリさせておかないと。

 美樹さん、あなたは彼に夢を叶えてほしいの? それとも、彼の夢を叶えた恩人になりたいの?

 同じようでも全然違うことよ、これ」

「……その言い方は、ちょっと酷いと思う」

「ごめんね。でも今のうちに言っておかないと。

 そこを履き違えたまま先に進んだら、あなたきっと後悔するから」

 

彼女の瞳は揺れていた。

 

「永夢先生と飛彩先生は……もし願い事が叶うなら、ドクターなら怪我や病気を治すとか失くすとか願うの?」

 

突き付けられた素朴な質問に、2人のドクターは顔を見合わせることもなく答える。

 

「ううん。多分、願わないよ」

「俺もノーサンキューだ」



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STAGE 03-02 (side:doctor-K.H.)

「クロト! そろそろ休まないとゲームオーバーになっちゃうよ!」

 

鏡総合クリニックの2階。

一心不乱にキーボードを叩き続ける檀黎斗に、まるで母親のようにポッピーピポパポが注意する。

 

そもそも椅子に座る姿勢が悪い。

それでは下肢のリンパと血の流れが悪くなり、血栓が出来てエコノミークラス症候群になる可能性が――。

 

「私のクリエイティブな時間を邪魔するなァ!」

「……ポパピプペナルティ、退場」

 

ポチッ。

 

「ヴェアアアアア!」

 

ガシャコンバグヴァイザーⅡへ吸い込まれていく檀黎斗。

 

「マダガシャットノチョウセイハオワッテナインダゾ!」

 

中からでこの大きさということは、奴が表で本気の声量を発揮するとどうなるのか。

 

巴マミの戦闘データを採取しウィザードゲーマーで戦えることが証明されてから1週間程。

檀黎斗は朝から晩までデータを取る時以外、基本的にガシャットの調整を続けている。

 

マジックザウィザードガシャット以外にその性質を加えるには手間がかかっているようだ。

本来魔法を扱うガシャットではないためだろう。

タドルクエストガシャットは剣と魔法のファンタジーRPGであったためか、最初に調整が終わった。

次に小児科医のマイティアクションXガシャットが済み、今はバンバンシューティングガシャットに取り掛かっている。

 

「命あっての物種ですよ」

 

小児科医の言う通りだ。

俺としては正直檀黎斗は疎ましい存在だが、ガシャットの調整を行える人材は他にいない。

開業医も(一発殴らせろとは言っていたが)概ね同じ意見で、監視しつつ利用するという、いつかに似た状況でもある。

 

「それじゃっ! お夕飯までバイバーイ♪」

「マッ

 

プツンと、ガシャコンバグヴァイザーⅡの電源が落とされて声が聞こえなくなる。

 

この世界で共同生活を快適かつ円滑に送るために、俺たちはいくつかのルールを設けた。

その中で毎日の家事を分担・当番制にすることが決まり、今日は監察医と女子ゲーマーが夕食を作る当番だ。

 

「自分、実家が洋食屋だからな」

「言ってなかったっけ? 父親が板前だって」

「母親がイタリアンレストランのシェフでさ~」

 

監察医の料理はどれもまあ美味だが、一々出てくるセリフの真偽は定かではない。

 

ちなみに……女子ゲーマーが当番の日は、開業医は当番ではない日でも手伝わされている。

パラドは同じ部屋で小児科医と、檀黎斗が女子中学生たちに与えた物と同じ携帯型ゲーム機で遊んでいるところだ。

 

「大我、意外と野菜とか肉とか切るの上手だよね」

「お前が下手なんだよ」

「ハァ!? アタシだって料理くらいできるっつーの!」

「どうせ家庭科の授業でやった程度だろ……」

「バカにすんな!」

「イッテ! 包丁持ってんのに蹴んな! 危ねぇだろうが!!」

 

今日も相変わらず騒がしいが、食欲をそそる香りが漂ってきていた。

 

――巴マミは、ちゃんと食べているだろうか?

不意にそんなことが思い浮かぶ。

 

しっかり者の彼女のことだ。偏った食生活をしているとは思わない。

家でジャージのままダラダラ過ごしたりダイエットしようとして独り焼肉でリバウンドしたりなど考えられない。

 

だが、巴マミがまだ中学生であることは事実だ。

まだ精神的に揺らぎやすい段階であり、子どもであることにも変わりはない。

たとえどれだけ過酷な人生を過ごしていようともそれは当てはまる。

 

……いや、だからこそか。

小児科医があの雨の日の事故の真相や家族のことを話さなかったように。

巴マミもまた、そんな運命を辿って巡ってきたからこそ、気丈に振る舞っているのかも知れない。

 

背伸びをするという、成長における大切な過程。

虚勢が崩れた時、その子を受け止める大人が近くにいること。

結果的に挫けても支えてくれる人がいる安心感を抱けること。

 

巴マミ……お前は、誰かに寄りかかることができるか?

 

「飛彩さん?」

 

険しい顔をしていたつもりはないのだが、小児科医が心配そうに顔を覗いてきた。

 

「ご飯、出来たみたいですよ?」

「ああ。……小児科医、お前は「早く来い! 私を焦らすなァァアアア!!」

 

――お前は今、ちゃんと俺たちに背を預けてくれているか?

そう問おうとしたのだが、ガシャコンバグヴァイザーⅡから出されテーブルで待つ檀黎斗に遮られた。

台無しだ。

 

「はいはい、すぐ行きますよ! ……飛彩さん?」

「いや……。今日のメニューを聞こうとしただけだ」

「中華料理みたいですけど……」

「そうか。辛そうな香りだな」

「あれ? 大先生、辛いのダメだった?」

「苦手という程でもないが……何を使った?」

「ああこれ? 辛味噌ゥッ!」

 

……なんだその発音は。



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STAGE 03-03 (side:magica-T.M.)

「わざわざこんな時間に呼び出して、何の用かしら?」

 

夜、そろそろお風呂に入ろうかと考えていた時。

私は暁美さんに近くの公園へ呼び出されていた。

辺りには誰もおらず、霧で街灯の光がぼやけている。

 

「……鹿目まどかと美樹さやか、あの2人をいつまで連れ回す気?」

 

ソウルジェムで探知していたにも拘らず、一瞬の間に背後へ現れていた暁美さん。

 

「わかっているの? あなたは、無関係な一般人を危険に巻き込んでいる」

 

淡々とした彼女に驚きを悟られないよう、落ち着いて振り向く。

 

「彼女たちはキュゥべえに選ばれたのよ。もう無関係じゃないわ」

「選ばれただけで契約は済ませていない。

 その先の選択にあなたが干渉するべきじゃない。

 なのに、あなたは2人を魔法少女になるよう誘導している」

「私は考える時間をあげてるだけよ」

「――それは、あなたには考える余裕さえなかったから?」

「っ!」

 

キュゥべえから聞いたとは考えにくい。

あの時、暁美さんは問いも脅しもなくキュゥべえを狙っていた。

なのに、この子、どうしてそのことを知っているの……!?

 

「迷惑よ。特に鹿目まどか」

 

動揺に足が震えていたけど、幸いにも彼女の方から話題を戻される。

 

「……ふぅん。そう、あなたも気付いてたのね、あの子の素質に」

「彼女だけは契約させる訳にはいかない」

「自分より強い相手は邪魔者って訳? イジメられっ子の発想ね」

 

反撃の意も込めてそう返すと、暁美さんの目はさらに鋭くなった。

 

もし鹿目さんが契約すればおそらく私や暁美さんよりも強力な魔法少女になることができる。

願い事にも依るけど、それだけの魔法的素質を彼女は持っている。

自分ではどうにもならないライバルが現れるという恐れが図星だったのだ。

 

「……1つの街に魔法少女は1人で充分よ。今ここに2人いるだけでも多過ぎる」

「同意しかねる言葉だけれど、あなたの前だと頷きたくなるわね」

 

私は畳み掛けるように、最初にあのショッピングモールで暁美さんの姿を見た時から思っていたことを口にする。

 

「少し前、この近くで魔法少女が殺される事件があったのを知っているかしら?」

 

ビクッと、初めて彼女の血の気が引く反応を見た。見逃さなかった。

 

「キュゥべえが見つけたのだけど、魔女にやられたにしてはまだ意識も身体も残っていた。

 そして、殺された子が遺したのは一言。()()

「……あなたは戦いに向いていない。身を退くべきよ」

 

私はすぐにソウルジェムを構える。

 

「ハッキリしたみたいね」

「あなたとは、戦いたくないのだけれど」

「……なら、二度と会うことのないよう努力して」

 

一触即発の空気の中。

踵を返して立ち去ろうとするのは、少し勇気が必要だった。

 

「話し合いだけで事が済むのは、きっと今夜で最後だろうから」

 

 

 

『あまり感心できないね。

 もし彼女があの場で襲い掛かってきていたら、どうするつもりだったんだい?』

「……もちろん、応戦して返り討ちにしていたわ」

 

帰宅後。

キュゥべえにブラッシングをしてあげながら話している。

 

魔法少女殺しの犯人は、残念だけどきっと暁美ほむら。

あの場でさらに追い詰めなかったのはまだ決定的な証拠がないことと、彼女の魔法がわからないこと。

そして、戦いたくないと言った彼女の目が揺れて見えたことがあったから。

私にはその感情まで推し量ることができなかった。

 

『犯人だと気付かれたと思っているなら、暁美ほむらは君を放ってはおかないだろう。

 もちろん、君と繋がっている鹿目まどかも美樹さやかも、ドクターたちも、檀黎斗もね』

「――檀、黎斗」

 

チラッと、鞄から取り出して放置していた携帯ゲームを見た。

 

「今は人類を救うためのゲームという説明に留めておこう」

 

ゲームによる仮面ライダーへの変身システムの開発・改良。

 

「今の戦闘のおかげで、必要なデータは得られた……!」

 

魔法に並ぶ技術による戦闘データの採取。

 

「ゴッドマキシマムマイティは持ってないんじゃなかったのか!?」

 

ドクターたちからも、まるで監視され警戒されているような人物。

 

「私は、仮面ライダーゲンム・ウィザードゲーマーレベル2……」

 

檀黎斗が変身する、()()仮面ライダー

 

「まさか――!」

 

繋がりかけていた糸が解け、別の結び目になる。

 

『どうしたんだい、マミ?』

「檀黎斗がいつから鏡先生のクリニックにいるか、わかる?」

『……さぁ? でも、ひとつだけ言えることがあるよ』

 

キュゥべえの赤い瞳が輝いた。

 

『ドクターたちはともかく、檀黎斗という男には何か得体の知れない目的があるらしい』

「目的? 人類を救うこと?」

『別のことかもしれないよ。

 だって、人類を救うためならわざわざゲームである必要があるのかい?

 僕も何人かの魔法少女に付き添ってきて、その家にお邪魔して。

 何度か彼女たちがゲームで遊んでいる姿を見たことがある。

 でも、それはあくまで娯楽だ。楽しむための物だ。

 それに君も見ただろう? マジックザウィザードガシャットを構える彼の、嬉しそうな顔を』

 

檀黎斗は、ゲームのために――遊ぶために、魔法少女の戦いを楽しんでいる?



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STAGE 03-04 (side:doctor-K.H.)

「さやかちゃんと上条くんは幼稚園の頃からずっと一緒で、家も近所で、よく家族ぐるみで遊んでいました。

 上条くんはその頃からバイオリンがとても上手で、全国大会にも何度も出ていて、みんなから将来を期待されていて――。

 でも、今年の春に交通事故に遭ってしまって、今は左手が麻痺しているんです」

 

昨晩美樹さやかを送った後で鹿目まどかからその話を聞いた俺は、彼女たち・キュゥべえ・小児科医・パラドと見滝原市立病院へ来ていた。

この待合室に美樹さやかはおらず、先に上条恭介に話をしに行っている。

ああ、何故か付いて来て売店にコーヒーを買いに行った檀黎斗を忘れていたな。

 

病院へ来た理由は3つ。

ここまで発展した都市の病院の設備や医療を見学し、今後に活かすこと。

その病院でさえ治せない上条恭介のカルテを見せてもらえないか、交渉すること。

もし可能であれば俺自らが執刀医としてオペを行うこと、だ。

 

鏡総合クリニックにはドクター全員の医師免許証(開業医は放射線科)とポッピーピポパポの看護師免許証があった。

しかし、本来俺たちはこの世界に存在していない。

経歴などにどの程度粗があるかもわからず、どの程度この世界の医療機関に関われるかもわからない。

カルテは重要な個人情報だ。そう簡単に不確かな者へ見せられるものではない。

 

それに、俺は医療関係者全般を信頼している。

当然俺は世界一のドクターだが、この世界にも元の世界にも優秀なドクターはたくさんいる。

今は治せなくともいつかきっと治療法が見つかるだろう。

まぁ、全てはカルテを見なければ判断できないことだが。

 

「はあ……お待たせ」

 

美樹さやかが帰ってきたが、明らかに浮かない様子だ。

 

「上条くん、会えなかったの?」

「なんか今日は都合悪いみたいでさ……。

 永夢先生たちも、わざわざ来てくれたのにごめんなさい」

「ううん。謝ることないよ」

「カルテを見ていないので断言はできないが……。

 麻痺が残っているなら安静にしておくべき日もあるだろう。

 容態に悪化がなくとも大事を見て、な」

「また都合の良い日に来ればいいだけだ」

「……ですねっ!」

 

コロッと表情が明るく変わった美樹さやかが先頭となり、俺たちは病院を後にする。

檀黎斗のことは本気で忘れて置いてけぼりにしていた。

 

「あっ、この前買ったCDさ。渡した時、恭介のヤツすごい喜んでた!

 ネットでも手に入らないレアなヤツだったみたい」

「へぇ!」

「クラシックはスピーカーで聴くのが一番だと記憶しているが、院内ではどうしている?」

「え? えっと、それは、イヤホンを半分こして……」

「ダメですよ飛彩さん。デリカシーのない質問しちゃ」

「なっ、俺は単純に気になっただけだ!」

 

モジモジしながら赤くなった顔を逸らす美樹さやか。

その足が急に止まり、遅れて俺たちも歩みを止める。

彼女が目と口を大きく開けて指差す先、自転車置き場の柱にこびりついている黒い物体は――

 

『グリーフシードだ! もうすぐ孵化する!

 病院でかなり生命力を吸ったみたいだ。4人掛かりでないと倒せないかもしれない!』

 

脈でも打つようにグリーフシードの周りの闇は黒く蠢いていた。

闇の範囲は徐々に広がり、柱を呑み込もうとしている。

 

「黎斗さ……あ」

「ゲンムは俺が探す!」

 

パラドが走り出し、角を曲がった所でバグスターがワープする時の音が薄っすらと聞こえた。

まだ正体を明かしていない女子中学生たちに対し、それを目撃させる訳にはいかなかったのだろう。

 

「マミさんの携帯、聞いてる?」

「ううん……」

「じゃあ、まどかはマミさんを呼びに行って。あたしが残れば、テレパシーで連絡できるでしょ」

「そんな! 危ないよ!」

「放っておけないんだよ! こんな場所でっ!!」

 

握り締められた美樹さやかの拳が震えている。

大切な人の身に危険が迫っている時、居ても立っても居られなくなるのに、大人も子どもも関係ない。

 

「大丈夫。僕たちが絶対に守るから」

「ああ。だがなるべく早く頼む」

「……はいっ!」

 

鹿目まどかの背を見送ってゲーマドライバーを装着する。

 

「問題は檀黎斗がどうするかだな」

「……前からちょっと思ってたんですけど、黎斗さんも仲間なんですよね……?」

「そう思い込みかけた時期もあったが、結局奴は俺たちを利用していた」

「それって、裏切ったってこと!?」

 

グリーフシードを睨みながら、口が滑ってしまったと感じた。

巴マミが檀黎斗を怪しんでいるのが明らかにも拘らず、不信感を抱かせる発言は控えるべきだった。

 

「飛彩さん……」

「……オペにおける最大の魔物は己の感情。今は俺の私怨などどうでもいい。

 しかし、檀黎斗の動向には常に注意を払うべきだ。小児科医」

 

そもそも檀黎斗のいない状況でタイミングよく(悪く?)魔女の卵が見付かること自体不自然だ。

それでも、たとえ仕組まれた筋書きだったとしても、俺はこの事態を切り抜けてみせる。

Say and Do.口にして行動する、ただそれだけ。

 

 

「俺に切れないものはない」

 

 

グリーフシードが光を放ち、生まれた魔女の結界が展開された。



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STAGE 03-05 (side:magica-T.M.)

「言ったはずよね。二度と会いたくないって」

 

マンションまで息を切らしてやって来た鹿目さんに案内されて。

美樹さんたちが呑み込まれた結界に飛び込んで。

キャンドルで両側を飾られた道を、テレパシーで彼女たちを探しながら進む途中。

魔女は自分の獲物だと言ってきた暁美ほむらを、私はリボンで拘束していた。

 

「バカっ! こんなことやってる場合じゃない! 今度の魔女はこれまでの奴らとは訳が違う!」

「大人しくしていれば、帰りにちゃんと解放してあげる」

 

その忠告を出まかせと思い込み、私は鹿目さんの手を引いて先へ進む。

後ろからはまだ引き止める声が続いていたけど、鹿目さんが見ていない隙に口も塞いでしまえば静かだ。

 

「あっ、マミさん。あの……!」

 

動揺していた彼女は途中で立ち止まり、私の手を離した。

 

「願い事、わたしなりに色々と考えてみたんですけど……」

「決まりそうなの?」

「はい。でも、あのっ、もしかしたらマミさんには考え方が甘いって怒られそうで……」

「どんな夢を叶えるつもり?」

 

それまでモジモジとしていた彼女は、ゆっくりと話し出す。

美樹さんたちのためにも先を急ぎたかったけど、さっきの暁美ほむらのことが要因となったのか、鹿目さんは今話したいようだった。

 

「……わたしって、昔から得意な学科とか人に自慢できる才能とか、何もなくて。

 きっとこれから先ずっと、誰の役にも立てないまま迷惑ばかりかけていくのかなって。

 それがイヤでしょうがなかったんです。

 でも、マミさんやドクターの人たちと会って、誰かを助けるために戦ってるの見せてもらって。

 同じことがわたしにもできるかもしれないって言われて。

 何よりも嬉しかったのはそのことで……。

 だからわたし、魔法少女になれたらそれで願い事は叶っちゃうんです。

 こんな自分でも誰かの役に立てるんだって胸を張って生きていけたら、それが一番の夢だから」

 

鹿目さんの目には強い意志が宿っている。

それはどんな嘘偽りでも欺けないような、覚悟の光だ。

 

「大変よ? 怪我もするし、恋したり遊んだりしてる暇もなくなっちゃうのよ?」

「でも、それでも頑張ってるマミさんに……わたし、憧れてるんです」

「憧れる程のものじゃないわよ、私……」

「えっ?」

「無理してカッコつけてるだけで、恐くても辛くても誰にも相談できないし、ひとりぼっちで泣いてばかり。

 いいものじゃないわよ? 魔法少女なんて……」

「マミさんはもう、ひとりぼっちじゃなんかじゃないです!」

 

――2回目だった。

憧れを抱かれて、一緒に戦いたいと言われるのは、これで2回目だった。

 

最初のあの子に離れられた時、あれだけ辛かったのに。

けれど、私はもう一度誰かの手を取りたくなって――。

誰かに寄りかかりたくなっていた。

 

早く楽になりたかったのかもしれない。

 

「本当に……これから私と一緒に戦ってくれるの? 傍にいてくれるの?」

「はい。わたしなんかで、良かったら

「参ったな……まだまだちゃんと先輩ぶってなきゃいけないのになぁ。やっぱり私、ダメな子だ……」

 

溜まった涙が零れ落ちそうになるのを必死に堪えて、私は無理に笑みを浮かべる。

 

「でもさ。せっかくなんだし、願い事は何か考えておきなさい」

「せっかく、ですかね。うーん……」

「億万長者とか素敵な彼氏とか――じゃあ、こういうのはどうかしら?

 この魔女をやっつけるまでに願い事が決まらなかったら、キュゥべえに最高に贅沢なご馳走とケーキを頼みましょう!

 それで、みんなでパーティするの。私と鹿目さんの、魔法少女コンビ結成記念よ!」

「わ、わたし、ケーキで魔法少女に?」

「イヤなら自分で考えるっ!」

 

ええ……と苦笑いする鹿目さんの手を、私は再び引いて駆け出した。

 

「今日という今日は速攻で片付けるわよ!」

 

 

 

 

 

「お待たせ!」

 

巨大なドーナツやケーキ、フルーツ、フォークとスプーンが散らばるカラフルな空間。

物陰に身を隠していた美樹さんとキュゥべえ、すぐ近くで使い魔たちと戦っている仮面ライダーの2人と合流する。

でも、無事再会できたことを喜んでいる暇はない。

 

『本体が出てくるよ!』

 

欧米風のシリアルケースを突き破って現れる姿は、キャンディみたいな頭を持つ小さなぬいぐるみ。

 

飛び出した私は、その魔女が座る高い椅子の足をリボンで壊した。

そのまま、落ちてきた所をマスケット銃で思いっ切り殴り飛ばし、壁にぶつかった魔女を追って連射を始める。

 

『性質は執着。生前大好きだったお菓子を司る魔女だ! 気を付けて!』

「大丈夫よ。だって――」

 

鹿目さんの目を見て微笑めば、彼女は照れたように微笑み返してくれた。

 

だって、今なら何でもできるような、そんな気分だから。

 

「せっかくのとこ悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ!」

 

体が軽い!

 

「巴マミ! ひとりで出過ぎるな!」

 

心が躍る!

 

「力を合わせないと!」

 

重い荷物がなくなっちゃったみたい!

 

「なんか、変じゃない?」

 

こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて!

 

「マミさん……?」

 

ひとりぼっちじゃないもの!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう何も恐くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

魔力が銀の砲を作り出す。

弾丸が魔女のお腹を貫く。

その口から別の顔が伸びて。

黒い体が迫って来て。

大きな口が、開いて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、警告音が響いた。

 

 

 



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STAGE 03-06 (side:doctor-K.H.)

≪⚠DANGER⚠≫

≪⚠DANGER⚠≫

≪DEATH≫

≪THE CRISIS≫

≪DANGEROUS ZOMBIE≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巴マミに魔女本体の巨大な口が迫った、と思った瞬間。

頭部を噛みつかれかけ、両腕でそれを防いでいたのは、ゲンム――デンジャラスゾンビだった。

 

「檀黎斗!?」

「ゲンム!?」

「何をしてるんだ!?」

 

変身音の後からワープで現れたパラドも、俺と共に使い魔と戦っていた小児科医もその行動に声を上げる。

しかし、俺たちよりも驚いているのは助けられた巴マミと物陰から見ている女子中学生たちだ。

 

「白いエグゼイド……?」

「白いエグゼイド、だと……? 私は、仮面ライダーゲンム・ゾンビゲーマーレベルX(テン)だァ!」

「テンって、10? 3から9すっ飛ばして、いきなりレベル10!?」

 

俺たちからしてみれば、何故レベルがX(エックス)ではなくX(テン)なのか。

何故ガシャコンバグヴァイザーではなくゲーマドライバーで変身できているのか疑問だが、今はそれどころではない。

 

「ヴェーエエエッ!」

 

魔女の顔を殴り飛ばし気味の悪い動きで戦い始めた檀黎斗と、それを追う小児科医。

パラドに女子中学生たちを任せ、その間に俺は尻餅をついて固まった巴マミへ駆け寄る。

 

「無事か!?」

「あ、ああ……」

 

その体は恐怖に震え、大きく見開かれた目からは涙が零れ落ちていた。

 

「鹿目さんが、一緒に戦ってくれるって聞いて、浮かれて、それで……」

 

――俺は、患者の私情に深入りすることを禁物だと考えている。

今から救おうとする患者が誰か、何を感じ生きてきたのかなど関係ない。

オペにおける最大の魔物は己の感情なのだから。

 

依然として私情を詮索することはしていない。

他者の心に土足で踏み込むなど以ての外だ。

だが、マイティノベルXの一件で何も思うことがなかった訳ではない。

 

「浮かれてしまうことは誰にでもあることだ。それでピンチに陥ることも。

 しかし、辛い時は辛いと言っていい。泣きたい時には泣けばいい。

 抱え込めば抱え込む程、溢れ弾けた際の勢いは激しくなる……。

 強がって自分を奮い立たせることも時には必要だろう。

 涙を仮面で隠し、孤独と戦いながら進むことも。

 それでも、その仮面が重くなった時には外して誰かに寄りかかってもいいんだ」

「鏡先生……」

「もっと周りをよく見ろ! お前のことを大切に思っている人間は、たくさんいるだろう!?」

 

ただひとりで生きていける程、俺たち人間は強くない。

だからこそ人間は協力するし頼り合う。

手を伸ばせば握り返してくれる誰かがいるし、そうしていけば自分の腕はどこまでも届く。

 

小児科医の過去……いや。

俺が周りをよく見ていなかったせいで消滅した小姫のことが、その考えを与えてくれた。

 

「そうだよ! マミさんは今までだって、これからだってひとりじゃないっ!」

「あたしこんなだけど、愚痴でも何でも聞くから! だからもっと話してよっ!」

 

鹿目まどかと美樹さやかも、堪らず泣きながら走ってきて巴マミを抱き締めた。

 

「鹿目さん、美樹さん……。そう……こうすればひとりぼっちじゃないってわかったのね」

「ヴェッハアアアアアアア!!」

 

台無しだ。

 

≪ガッシューン≫

 

魔女と戦っていた檀黎斗の体に紫の電が走り変身が解除される。

同時にゲーマドライバーからデンジャラスゾンビガシャットが弾き出された。

死のデータを克服できていないからなのか、バグが修正し切れていないからなのか。

ともかく単体では変身にかなり負荷があるらしく、檀黎斗は前のめりに地面へ倒れ込んだ。

 

魔女は小児科医のエグゼイドとまだ戦っているが、かなり消耗している様子だ。

さすがレベルX(テン)と小児科医の、天才同士のコンビだけはある。

キュゥべえに4人掛かりでないと倒せない可能性を指摘された魔女をたった2人でここまでにするとは。

 

「……よくやった、檀黎斗」

 

あの瞬間、デンジャラスゾンビで助けに入らなければ巴マミは魔女に食われていただろう。

お前もやはり仮面ライダーなのだな。

信用はしないが。

 

「もう少しなのに……!」

「……」

 

決定打を与え切れずにいる小児科医だが、魔女にはどこからともなく現れた暁美ほむらの援護射撃が加わった。

彼女は一瞬こちらを見ていたが、俺はそれに気付かず、そして魔女の隙の方は見逃さない。

 

 

 

≪ガシャット!≫

≪キメワザ!≫

 

「もう涙はノーサンキューだ」

 

≪タドルクリティカルフィニッシュ!≫

 

 

 

橙色と水色の炎が纏われたガシャコンソード。

放たれた斬撃は魔女を一閃する。

裂けた体は爆散し、結界は崩壊を始めるのだった。

 

 

See you Next story

 


 

次回、翻転のstory!

 

何が目的だい?

全部明かすのか?

魔法少女が殺された!?

絶対アイツだって!

遺言は黒い、か

どうしてあなたまで……

遊びでやってるんじゃねえんだよ!!

ほむらちゃんが犯人!?

ポッピーだよ♪

悪ノリが過ぎるぞぉ!

 

 

奇跡もmagic(魔法)も、あるんだよ

 

 

 

私のガシャットを返してもらおうか

 

 

 




no fear(ノーフィアー):恐くない。口語的には逆にダメだという意味もある。
「もう何も恐くない」と「もうダメだ」のダブルミーニングになっているかも。
愛の前に立つ限りは前者の意味になるのかも。
もう日本語の方の解説は諦めたのかも。
d←古代ローマで満足できる・納得できる行動をした者にだけ与えられる仕草。


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ステージ4『奇跡もmagicも、あるんだよ』
STAGE 04-01 (side:doctor-H.T.)


苦悩が終わる。悲劇が始まる。


「魔法少女である巴マミのピンチに、あの檀黎斗が助けに入った……。

 しかもデンジャラスゾンビに変身して、か。

 自分の爆走バイクも白髪先生のバンバンシューティングも放って調整してたのか?

 ゲーマドライバーで変身したのはバグヴァイザーがないからだとして……。

 だったらなんでプロトマイティオリジンと2本差しにしなかった?

 先にそっちを調整するべきだ。なのにそうしなかったってことは――」

「こんな夜更けまでまとめとは……精が出るな、九条貴利矢」

「……へぇ。噂をすれば影って? 何の用だ、檀黎斗」

「どうだ? 休憩しないか?」

「休憩?」

「労いのプレゼントをあげるよ」

「ガシャットは調整中じゃなかったのかよ……てかそれデンジャラスゾンビじゃねーか!」

「このガシャットの試用をしてもらいたい」

「いやノらねーから! って、自分いつの間にゲーマドライバー付けた!?」

「踊れ」

「この身体が勝手に動かされるの覚えがあるぅーッ!」

「ガシャットをドライバーに挿入」

「悪ノリが過ぎるぞぉ!」

「君は知り過ぎた……。真実と共に、闇に追放してやるゥ!」

「死のデータが!? やめろーーーッ!」

 

 

 

「やめろーーーって! あっ? また夢かよ!?」

「いや、喧しいぞレーザー!」

 

鏡総合クリニックの3階、階段を上がって左の大部屋。

今は男部屋として使われているそこに、本来は患者を寝かせるためのベッドが6台。

その1つから跳び起きたレーザーに怒鳴って、俺は再び横になった。

 

医者の不養生なんて言葉がある。

昔は碌に眠れないことも多かったし別にそれで構わなかったが、今ではしっかり7時間睡眠だ。

 

ブレイブ・エグゼイド・パラド・ゲンムは起きていない。

ゲンムにはまだ聞きたいことが山程あったが、頑なに答えようとしなかった。

結局ポッピーピポパポに割って入られ、就寝となった。

 

ハッキリ言って、大人数で泊まるってのは好きじゃない。

質の良い睡眠は静かな環境で深く眠ることで手に入る。

ニコがゲーム病クリニックから去った後は落ち着いて眠れる日が続いたんだが、まさかコイツらと同じ屋根の下に住むことになるとはな。

 

さて、夜も明けていないが再び眠るにはまだ時間がかかりそうだ。

睡眠の導入代わりに、俺は昨日の出来事をぼんやりと思い返すことにした。

 

 

 

エグゼイドたちが帰ってきたのは、レーザーがトゥーフーとか呟きながら絹ごし豆腐を切り分けている時だった。

泣き腫らした目の女子中学生3人も一緒だったから、最初は何事かと思ったもんだ。

すぐ話に聞いていた魔法少女とその候補だってのはわかったが。

 

それより驚かされたのは、ゲンムがデンジャラスゾンビに変身してマミを助けたことだ。

その場で俺たちのガシャットは後回しかと掴み掛かりたかったが、いくら俺でも子どもの前で荒っぽいマネはしない。

……ニコの前は例外だ。

 

「それで、全部明かすのか?」

 

クリニックの2階。

大テーブルのソファに座った女子中学生たちを見ながらパラドが俺たち全員に聞く。

ブレイブがマミに信頼しろと言った手前、こっちの事情を隠しておく訳にもいかない。

 

「僕たちのことをもっと信じてもらうためにも、明かした方がいいと思います」

「ああ。それで何か支障が起きることもないだろう」

「確かに。必要ない嘘ってのは、なるべく吐かない方がいいもんなぁ?」

「アタシたちの話の方を信じられるかはわかんないけどね」

「魔法があるんだし、きっと信じてもらえるよ!」

 

レーザー・ニコ・ポッピーピポパポ(仮野明日那の姿)も了承している。

俺もわざわざ反対する気はない、が――

 

「テメェはどうなんだ?」

「私も異論はない。魔法に関するデータは充分得られたからね」

 

懸念の対象だったゲンムも賛成のようだ。

今までは怪しまれずデータを収集するために猫を被ってたってことか。

幻夢コーポレーション社長だった頃といい、やろうとすれば外面を良くすることもできるらしいしな。

 

「じゃあ、僕から説明するね」

 

エグゼイドが置いてけぼりだった3人に説明を始める。

俺たちが異世界からこの世界に召喚されたこと、元の世界でも戦っていたこと、ガシャットの修正、バグスター……。

 

「コンピューターウイルスが人体に感染するなんて……」

「まぁそうなるよね。あ、ちなみにこのパラドが僕に感染してる、世界で最初のバグスターだよ」

 

パラドがエグゼイドの中に入ってみせると、女子中学生たちは目を丸くする。

 

「ええ!? ちょっ、大丈夫なんですか!?」

「良性のバグスターもいるし、パラドやポッピーはそうだからね」

「ポッピー……?」

「コスチュームチェンジ~! 明日那っていうのは偽名で、私がポッピーだよ♪」

 

今度はポッピーピポパポが普通の人間から姿を変えたのを見て、さらに仰天している。

 

「あとは、ポチッと」

「ヴェァァァァァ!」

「「!?」」

「この通り、黎斗さんもバグスターなんだ」

「ワザワザヤラナクテモイイダロ!」

「うえ……。アタシたちのことは信じてもいいけど、コイツは絶対悪性だから気を付けてね」

「不信感煽ってどうすんだ。悪性だとは思うがな」

 

というかエグゼイド、お前もしかしてそれ少しハマってないか?

 

そこから、俺たちとバグスターの戦い、仮面ライダークロニクルのことを説明した。

細かいことまで語ればキリがないから、要点をまとめてだ。

 

ただ、エグゼイドはマイティノベルのことを――あの雨の日の事故についてを話さなかった。



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STAGE 04-02 (side:magica-M.S.)

黎斗さんが助けてくれなきゃマミさんは死んじゃってた。

だから彼には感謝しなくちゃいけない、んだけど……。

 

まず、永夢先生たちは異世界から来た。

それはもうそうなんだって感じ。

魔法があるんだし、信じられないような話じゃない。

 

次に、バグスターっていう人に感染するコンピューターウイルスが向こうにはいて、それと戦ってたこと。

パラドさんが永夢先生に入るのとか見たし、それもへえーって感じ。

ゲーム病とかのことも聞けば、なんでドクターの人たちが戦ってるのかもわかった。

 

で、肝心なのがその後。

永夢先生が世界で初めてバグスターウイルスに感染したのも。

大我先生の患者で飛彩先生の恋人がゲーム病で消滅したのも。

貴利矢先生が消滅したことがあるのも。

()()()()()()()()()()()

 

……いやいやいやいや、全ての元凶ってヤツじゃん!!

 

一度人間だった時にパラドさんに倒されて消えて。

バグスターとして蘇った後は協力してた時期もあるけど。

結局大勢の人を巻き込んだゲームを始めて、貴利矢さんに倒された。

でもガシャットを直せるのが黎斗さんだけだし、今は大丈夫そうだから協力してる。

 

……う~~~~~ん。

なんでそんな人がマミさんを助けてくれたのか全っ然わっかんない。

みんなが問い詰めても答えてくれなかったし。

 

だから、黎斗さんにはマミさんもあたしたちも素直にお礼を言えなかった。

 

 

 

「何を、聴いてるの?」

 

その次の日。

あたしがいつもと同じように恭介に面会に来ると、彼はもうイヤホンをしてCDを聴いていた。

 

「亜麻色の髪の乙女」

「ああ! ドビュッシー? 素敵な曲だよね!」

「……」

 

そういうことは今までだってよくあったけど。

でも今日はずっと窓の方に顔を向けていて、なんだか違う雰囲気がする。

 

「あ、あたしってほら! こんなだからさ!

 クラシックなんて聴く柄じゃないだろってみんなが思うみたいでさ。

 すごい驚かれるんだよね! 意外すぎて尊敬されたりしてさ!」

 

普段なら、あたしが来たら顔をこっちに向けて挨拶してくれて。

それからイヤホンを半分こして、一緒に聴こうって言ってくれるのに。

今は彼の左腕に巻かれた包帯に、どうしても視線が向いてしまう。

 

ああ……なんで恭介なのよ?

あたしの指がいくら動いたって、恭介みたいに人を魅了する音楽を奏でられることも、ドクターみたいに誰かを治すこともできないのに。

なんであたしじゃなくて恭介が事故に遭うの?

 

もしもあたしの願い事で恭介が治ったとして、それを恭介はどう思うんだろう?

ありがとうって言われて、それだけ? それとも、あたしはそれ以上のことを言って欲しいの?

 

……あたしってイヤな子だ。

マミさんのピンチとか見て、どれだけ魔法少女になるのが大変なのかわかったつもりなのに。

マミさんに自分の望みをハッキリさせておかないとダメだって言われたのに。

まだ奇跡や魔法なんかにすがろうとしてる。

 

……ううん。きっと大丈夫。

ドクターの人たちは患者のために一生懸命頑張ってる。

永夢先生や飛彩先生たちの話を聞いて、医療のことを信じ始めていた。

だから、きっと恭介の腕だって治るし、またバイオリンを弾いてくれる。

 

そんな風に思っていた、のに――

 

「恭介が教えてくれなきゃ、こういう音楽ちゃんと聴こうと思うきっかけなんて、多分一生なかっただろうし……」

「さやかはさぁ」

「ん、なぁーに?」

「さやかは、僕をイジメてるのかい?」

「……えっ?」

「なんで今でもまだ、僕に音楽なんか聴かせるんだ? 嫌がらせのつもりなのか?」

「だって、恭介、音楽好きだから――

「もう聴きたくなんかないんだよッ!

 自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて!!

 僕は……僕はッ!!」

 

恭介が、あれだけ大事にしていたプレイヤーを左腕で叩き割った。

CDとプラスチックの破片が皮膚に突き刺さって、白いシーツに真っ赤な血が飛び散って。

 

「あっ、ああ……あっ!!」

 

構わず振りかざされる左腕を、あたしは慌てて押さえ込む。

恭介の左手からは赤い血が、目からは透明な涙が流れ落ちていた。

 

「動かないんだ……もう痛みさえ感じない! こんな手なんて……ッ!」

「大丈夫だよ……きっとなんとかなるよ! 諦めなければ――

「諦めろって言われたのさ」

「っ!」

「もう演奏は諦めろってさ。先生から直々に言われたよ……()()()()()()()()()って」

「で、でもっ! 今は無理でも、きっといつかは――」

「いつかっていつだよ!? 気休めを言うなッ!!」

 

それは、銃で撃ち抜かれたような鈍痛があたしの頭に響くようだった。

 

そうだ。どれだけドクターが頑張っていても、どれだけ医療が発展しても。

今苦しんでいる人は今でなければ救えない。

来るかもわからない未来を待ち続けることなんてできないんだ。

そんなの信じ続けられる余裕なんか持てるハズがないんだ。

 

「僕の手はもう二度と動かない! 奇跡か魔法でもない限り治らない!!」

「……あるよ」

「えっ?」

 

 

「奇跡も魔法も、あるんだよ」

 

 

窓のサッシに座るキュゥべえの、赤い瞳があたしを捉えていた。



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STAGE 04-03 (side:doctor-H.T.)

「暁美ほむらってのはお前か?」

 

工場跡地が並ぶ地区の廃墟の屋上。

そこに佇んでいた女子中学生に俺は声をかけた。

隣にはニコもいる。

 

「……よくここがわかったわね」

「フン。後ろめたいことがある奴ってのは、こういう場所で考え込むもんだろ」

 

夕闇に呑み込まれつつある街を、今日の終わりを迎えつつある街を見渡せる場所。

そこに他者の存在は必要ない。

隣に誰も置かずただ遠くから喧噪の中にいる人々を眺める。

そうしていると、より自分が世界から除外されているのを実感できる。

 

いや、俺が自ら世界を拒絶したんだ。

そのことを忘れないために繰り返し孤独を確かめ――

 

「はいはい。どうせポエミーな奴同士、発想が同じだけでしょ」

「おい」

「ポエミー……?」

「心の中で詩人になるタイプって本題まで時間かかるんだよね」

「おいッ」

「詩人……」

 

コホンと咳払いして、これ以上ニコに何か言われる前に本題へ入ることを決めた。

 

「お前が魔法少女殺しか?」

 

 

 

家で一日じっくり休んで心を落ち着かせた方がいい。

エグゼイドにそう言われたにも拘らずマミがクリニックに来たのは、17時を過ぎたついさっきのことだ。

 

「黎斗さんには、秘密にしたいんですけど……」

 

早々に、ゲンムの見張り役を負ったレーザー・ポッピーピポパポを置き、他の5人とマミで近くの公園へ場所を移す。

 

俺もゲンムのことは信頼していない。

今もガシャットの調整をしているようだが、そこに何の意図や思惑があるかはわからない。

昨日マミを助けたってのにも裏があるに決まっている。

 

「そんな……魔法少女が……!?」

 

だが、マミの口から聞かされたのはそのことについてではなかった。

 

エグゼイドが声を上げずにはいられなかった話……俺たちがこの世界に来る少し前、近くで魔法少女が殺される事件があった。

キュゥべえが見つけたその魔法少女は、魔女にやられたにしてはまだ意識も身体も残っていた。

肝心なのは、

 

「遺言は()()、か」

「ゲンムは第一容疑者だな」

「絶対アイツだって! どうせまたゲームのためでしょ!」

 

ブレイブ、パラド、ニコが即座に口にする。

そうだ。推定無罪なんて言葉もあるが、アイツの前科は多過ぎる。

 

「でも、その時はまだ黎斗さんもこの世界にいなかったんじゃ……?」

「永夢、それを確かめる手段はないだろ?」

「キュゥべえも、皆さんがいつからいるのかはわからないみたいでした」

 

俯いていたマミが謝るように頭を下げた。

 

「助けられたのは事実でも、どうしても怪しくて……」

「あっ! 黎斗さんが犯人なら、あんなに体張ってマミちゃんを助けるのは変ですよ!」

「都合の悪い情報を掴まれ襲ったが、まだ他の魔法少女は利用する気かも知れない」

「信じさせるためのブラフか。ゲンムならそのくらいやるだろうな」

 

ブレイブの言葉に賛同するパラドだが、エグゼイドだけはまだ違った。

 

「でも――」

「いい加減にしろ」

 

その胸元に手を伸ばしかけたが、なんとか自制する。

 

「アイツのゲームにお前が付き合うのは勝手だ。それが治療だってんならな。

 俺は付き合う気なんかねぇ。これ以上ゲームは――アイツに誰かが傷付けられるのは、ごめんだ」

「大我さん……」「大我……」

 

エグゼイドの過去もゲンムの過去も、マイティノベルでの覚悟も知っている。

だが、俺やブレイブに奴を恨む気持ちがないと言えば嘘になる。

 

「……もう一人、怪しい人がいます」

「ほむらだな?」

「パラド、何を言って!?」

「キュゥべえを躊躇いなく撃てるんだ。可能性は否定できない、残念だが……」

「飛彩さんまで! そんなこと……!」

 

 

 

俺だって子どもがそんなマネをできるなんて信じたくはない。

だが、もし本当にほむらが魔法少女殺しなら一刻も早く止めなければならない。

子どもの命を、子どもの笑顔を守るのは俺たち大人の義務、だろ?

 

……俺はひとりで探すつもりだったし誰にも言わずに出たが、ニコは勝手に付いて来た。

 

「私がノーと言えば、あなたはわたしを信じるの?」

 

もちろん、馬鹿正直に聞いてもハッキリとした答えが出ないのはわかっている。

俺の狙いはほむらの口からイエスかノーか聞くことじゃない。

 

「信じてほしいのか?」

「私は誰に信じられなくても構わない」

「まどかって子にもか?」

「っ……」

 

図星って反応だ。

 

マミから聞いた話だとほむらはまどかのことを妙に気に掛けていた。

そこを突いていけばその真意も探れるハズ。

 

FPSの対戦ゲームではボイスチャットで相手を煽り、ミスを誘うようなプレイヤーもいる。

そんなことをエグゼイドが語っていたのを思い出した。

 

「殺人犯なんかに思われたくないんでしょ!?」

「ほむらちゃんが犯人!?」

 

そして、そういうプレイヤーこそ痛い目に遭うことも。

 

「まど、か……!?」

 

俺たちが振り返ると、柱の陰にまどかの姿があった。

その目には驚きや哀しみの色が浮かび、ごちゃ混ぜになっている。

 

「なんでここにいるッ!?」

「そんな……そんなのって……!」

 

走り去るまどかと入れ替わりに現れたキュゥべえが、追おうとした俺とニコを遮った。

コイツが……、ほむらが犯人だと思わせるために、コイツが連れて来たのか!

 

「テッメェ!!」

『何か勘違いをしていないかい?』

「アアッ!?」

『僕は魔女の出現を、近くにいた魔法少女……暁美ほむらに知らせに来ただけだよ』

 

レーザーと違って俺には嘘を見抜く特技などないが、ゲンムの白々しいセリフなら見抜ける。

しかし、なんだコイツは?

アイツと同じ白々しさだけじゃない……もっと不気味なものを感じる!

 

『急がないと、既に結界が開いている』

「そんな! 早く行かなきゃ!」

 

ニコの言う通りだ。考えていても仕方ない。

だが、ほむらはその場で固まったまま動けないでいる。

 

「行くぞ」

「でもっ!」

『ひとりで勝てるとは思えない相手だ』

「……それでも、やるしかねぇだろ」

 

手の中のバンバンシューティングは、昼に調整が終わったばかりだ。



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STAGE 04-04 (side:magica-K.M.)

嘘だって、すぐに言えませんでした。

そんなことする人じゃないって、すぐに言えませんでした。

ほむらちゃんを信じられない自分が、すごくどうしようもないダメな子に思えたのです。

 

どうしてわたしなんかが生まれてきたんだろう。

どうして一番いいと思えることが、みんなが当たり前にできることができないんだろう。

こんなわたしが誰かの本当の友達になんてなれる訳ないのに……。

 

「……あれ?」

 

泣きながらどこへともなく走って、呼吸の限界がきて立ち止まった時。

人影の少ない公園を歩いている仁美ちゃんを見つけました。

もう日も落ちたのに……不思議に思って、ごしごしと涙を拭って話しかけます。

 

「仁美ちゃん! 今日はお稽古事は――」

「あら、鹿目さん。ごきげんよう」

 

いつもと同じおしとやかで上品な挨拶。

けど、顔はわたしの方を向いているのに、仁美ちゃんの目はわたしを見ていないようで。

なによりその首筋にはブラウン管テレビみたいな痣が……魔女の口づけがあったのです。

 

「ど、どこに行こうとしてたの!?」

「どこって、それは……()()()()()()()()()()()()ですわ」

 

カクカクとした動きで、虚ろな目でまた歩き始める仁美ちゃん。

 

「仁美ちゃん! 待って!」

 

今度はわたしの言葉も届いてないみたいでした。

 

「マミさんを……っ」

 

携帯を取り出して住所録を開いて、やっとマミさんの電話番号を聞いていなかったことに気付きました。

それに、昨日あんなことがあったのに……。

マミさんにはまだ戦ってほしくないな、と感じたのです。

 

そんな間にも仁美ちゃんは歩き続けていて。

わたしはまた工場跡地の方にやって来ていました。

 

近くには大我先生も、ほむらちゃんもいるだろうけど……。

呼びに行くことは――彼女と今会う勇気を、わたしは持てませんでした。

 

「俺はダメなんだぁ」「居場所がない」「苦しい」

「えっ!?」

 

暗い霧の中から仁美ちゃんと同じようにカクカクとした人たちが見えてきます。

おじさん、おばさん、若い人もいて。

十数人くらいがひとつの廃工場へ進んでいました。

 

仁美ちゃんに続いて、最後にわたしもその中へ入ると、後ろにあったシャッターがガシャンと落とされます。

 

「なに、なんなの……?」

 

灯りがなくて、埃を被ったなにかの機械や道具が少し散らかっている中。

集まった人たちは下を向いたままブツブツと独り言を繰り返しています。

 

「そうだ、病院に電話すれば!」

 

わたしは携帯でインターネットを開いて鏡総合クリニックを検索しました。

もうとっくに閉まっている時間だけど、あそこに住んでるって言ってたし、誰かは出てくれるハズ!

でも、トップに表示された番号に急いで電話を掛けようとすると

 

「どうしました?」

 

仁美ちゃんがいつの間にか顔をすぐ隣まで寄せてわたしを見ていました。

 

「ひっ!」

 

怯んでいる内に仁美ちゃんはわたしから携帯を取り上げてしまいます。

 

「かっ、返して!」

「今はこんな物、必要ありませんわ」

 

わたしが取り返そうとするのを片手で抑えて、携帯をポイっと後ろに投げる仁美ちゃん。

携帯は地面にガンッとぶつかって割れてしまいました。

これじゃあ助けを呼ぶこともできません!

 

「楽になりたい」

 

誰かのそのセリフを合図にしたみたいに、みんなの呟きが止まりました。

中心に一人のおばさんがよろよろと歩いてきて、持っていたバケツを置いて、何かを注ぎ始めます。

 

「あれって……トイレ用の洗剤?」

 

そこにもう一人、おじさんが小さなポリタンクを持って近付いていました。

書かれていた漂白剤の商品名と混ぜるな危険の警告文。

わたしは前に、スパゲティで汚れたタツヤの服を漂白するママに言われたことを思い出します。

 

「いいか、まどか?

 この手の物には、扱いを間違えるととんでもないことになる物もある。

 混ぜちまったら猛毒ガスであたしら家族全員あの世行きだ。

 絶対に間違えんなよ?」

 

「ダメ……それはダメっ!」

「邪魔をしてはいけません。あれは神聖な儀式ですのよ?」

 

飛び出そうとしたわたしのお腹を、仁美ちゃんが片手で押さえて止めました。

 

「だって、あれ危ないんだよ? ここにいる人たちみんな死んじゃうよ!?」

「そう。私たちはこれからみんなで、素晴らしい世界へ旅に出ますの。

 それがどんなに素敵なことかわかりませんか?」

 

彼女は、それはもうとても嬉しく楽しそうな顔をしています。

 

()()()()()()()()()()()()()()ですわ。

 鹿目さん、あなたもすぐにわかりますから」

 

パチパチパチパチ。

廃工場に響くまばらな拍手。

 

「放してっ!」

 

力づくで仁美ちゃんから逃げて、人々の間を走り抜けて、バケツを奪って、投げて。

洗剤ごとパリンと窓ガラスを突き破って、バケツは外へ。

 

「ああ」

 

肩で大きく息をしているわたしに人々が詰め寄ってきました。

まるでわたしに傷付けられたと責めるように、恨みのこもった目で。

 

「あ、あぁ……!」

 

怯え声をあげながら、咄嗟にすぐ近くにあったドアへ入って鍵を掛けます。

ドンドンドンと外から殴りつける音に、わたしは耳を塞いでへたり込みました。

 

「ど、どうしよう……どうしよう……」

 

その時、積み上げられていたブラウン管テレビに砂嵐が映し出されて。

気味の悪い声といっしょに、天使のような小人が現れて。

わたしは魔女の結界の中へ連れて行かれます。

 

「あっ……イヤっ……誰か、助けて――」



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STAGE 04-05 (side:doctor-H.T.)

「第弐戦術、変身」

 

≪ガッチャーン!≫

≪レベルアップ!≫

 

≪ババンバーン!≫

≪バンババーン!≫

≪イェア!≫

≪バンバンシューティング!≫

 

 

まどかの体にしがみついていた片翼の天使を撃ち落とし、彼女を抱えて地面に降りる。

恐怖と驚愕に染まった顔をしているが、外傷はないらしい。

まだ自力で立てないであろうその体を隣のニコに預けて、俺は辺りを一瞥した。

 

「随分とクラシックだな」

 

フィルムとメリーゴーラウンドが回る、水に満たされたような螺旋状の空間。

馬はCRTモニターを乗せていて、同じモニターが顔になっている天使もいる。

俺のトラウマでも抉りたいのか、そこには百瀬小姫や牧治郎の姿が映されていた。

 

実際に魔女の結界ってのを見たのは初めてだが、ホラーではなくグロ寄りだ。

俺にはゲームキャラクターのデザインに関する知識も興味もないが、ゲンムのデザインとは異なることはわかる。

……それ自体がアイツによる罠じゃないか、という疑問は失わないよう気を付けているがな。

 

「クラシックつーか古臭いって! 液晶と有機ELの時代だっつーの!」

 

CRTモニターに向かってあっかべんーをしているニコ。

口にはしていないが、表情はマイティノベルで過去の大会へ行った時と同じだ。

この魔女(使い魔か?)は個人のトラウマを見せつけて楽しむ、イイ性格してやがるらしい。

 

コイツは何もわかってない。

確かに消せない罪ってのはあるし、俺もその過ちを犯した愚か者の一人だ。

だが、それでも前に進んで行くことしかできないし、俺はもう覚悟を決めている。

戦場の砂漠の中でも十字架を背負いながら一歩一歩進んで行けるのが俺たち人間の――

 

「ハイハイ。ポエミーな時間は終了ー」

「おいッ!」

「ニコさんと、大我先生……?」

 

やっと声を出せるようになったまどかが俺のことを丸い目で見ている。

そういえば、まだエグゼイド・ブレイブ・ゲンム以外のライダーは知らなかったな。

 

「そっ! この黄色前髪がアタシの主治医、仮面ライダースナイプ!」

「引っ張んなッ! 照準補正がダメになったらどうする!」

 

少しは落ち着いた様子でさらに訪ねてくるまどか。

 

「あっ、ありがとうございます! ……ほむらちゃん、は?」

「ええっと……」

「来てねぇよ。言っとくが、まだほむらが魔法少女殺しと決まった訳じゃない。

 カマ掛けただけだ。……誤解させて悪かった」

 

ゲンムが魔法少女殺しである可能性については言葉を呑み込んだ。

真っ黒だがあくまで疑惑の段階。

まどかの不安をこれ以上煽るのは悪手だろう。

 

「大我……」

 

何か言いたげなニコもそれを呑み込む。

 

キュゥべえには1人だとキツイと聞いた。

ブレイブからも昨日の魔女は一段と強かったと聞いた。

 

今のところハンドガンモードのガシャコンマグナム3発程で倒すことができている。

既に20体以上を撃ち抜き、片翼の使い魔の残りは数体にまで減っている。

単なる思い過ごしなのか、それとも……。

 

「油断しないでよ! こういうのはザコ全滅させてからボス戦だから!」

 

そんなガンシューティングみてぇに――。

いや。エグゼイドの話では、今までの結界はダンジョンのように最深部に魔女がいた。

探索型でなくともザコを先に大量に投入してくる戦術は似ている。

……やっぱこれは、()()()()()()()()()()()なんじゃねぇか?

 

「バァン!」

 

最後の使い魔を討つ。

すると、一回り大きな片翼の使い魔2体に連れられ、上からさらに一回り大きいCRTモニターが降りてきた。

羽のようなツインテールを生やしていて、アハハハと嬉しそうな笑い声を上げている。

 

「フン。さしずめ、ボスとその取り巻きのパーティか」

「回復やバフしなければ――って、大我いつの間にかゲーム詳しくなったよね」

「誰かさんのせいでな」

「おかげ、だっての!」

 

ニコにケツを蹴り飛ばされると変身中でも痛ぇと思ってしまうのは何故なんだ。

 

「来るよッ!」

 

飛んできた3体の内まず左右の使い魔に狙いを付ける。

ニコの言った通り、本体の魔女をサポートされると厄介だ。

 

「チッ」

 

だが3体とも意外と素早く、向かって右の奴には3発撃ち込めたが左にはかわされる。

ダメージを負いつつも倒れている訳ではない右に、すぐにもう3発撃って消滅させた。

 

「これならどうだ!」

≪ズ・キューン!≫

 

ガシャコンマグナムのAボタンを押し、ハンドガンモードからライフルモードに変形させる。

連射はできないが、多少かわされても爆風に巻き込めるハズだ。

 

しかし、左にいた使い魔をロックオンした時、俺の動きは一瞬止まった。

視界の端にいた魔女本体のモニターの映像に、気を取られた。

あれは……グラファイトにやられた俺の近くで怯えている、ニコ?

 

「きゃああああああっ!?」

 

再び湧いた小さな使い魔たちがその隙にまどかを攫っていく。

左の奴に弾を直撃させて銃口をそっちへ向けるが、ハンドガンモードにしてもまどかを誤射しかねない!

 

「やめろーッ!」

 

まどかの四肢を四方へ引きちぎろうとする使い魔たちに走り出した。

 

「ッ!?」

 

だが、先に別の存在が切り離して彼女を助ける。

俺は最初、色のせいかソイツをブレイブと誤認した。



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STAGE 04-06 (side:magica-M.S.)

「さやかちゃん!?」

 

まどかを襲っていた、あたしの攻撃で少し距離を取った4体の使い魔。

あたしは白いマントを翻してそこへ飛び掛かった。

 

「ハアアアアッ!」

 

怯んでいる隙に1体、2体と切り伏せていく。

 

「どうなってんだ!?」

 

その間に残りの2体は仮面ライダーが撃ち落としていた。

隣にはニコさんがいるから、大我先生?

紺色の体に黄色いスカーフ(マフラー?)をしていて、黄色い前髪みたいなのもある。

 

「本体が!」

 

ニコさんの声で本体の魔女へ向きを変える仮面ライダー。

飛んできた弾を避けた魔女を、近付いたあたしが剣で切り飛ばす。

 

まどかのピンチを教えてくれたキュゥべえからのテレパシーだと、性質は憧憬。

古いモニターにはなにかが映し出されているようだけど、高速で動くあたしにはよく見えなかった。

 

「大我先生! トドメをっ!」

「ッ!」

 

 

≪ガシャット!≫

≪キメワザ!≫

≪バンバンクリティカルフィニッシュ!≫

 

 

ライフルのような武器から放たれた弾が魔女を撃ち抜く。

奇声と血しぶきを上げて魔女が消滅していく。

結界は水が蒸発するみたいに、上から崩壊していく。

 

「あっ!」「お前たち!」

 

戻ってきた廃工場では、丁度永夢先生と飛彩先生とマミさんがやって来たところだった。

キュゥべえに聞いて来たのかな?

 

「さやかちゃん、その格好は……!?」

 

まだ気絶して倒れている仁美たちを診察しながら、永夢先生が目を丸くする。

まどかも仁美を診察する飛彩先生に近付きながら、チラチラとあたしを見ていた。

 

「ん? あー……アハハ。まぁなに? 心境の変化って言うんですかね」

「どうしてあなたまで……」

 

マミさんは自分のソウルジェムをぎゅっと胸で握り締めて、かなしそうで、不安そうで。

 

「大丈夫ですって! 初めてにしちゃ上手くやった方でしょ、あたし?」

「でも……」

 

たとえ仮面ライダーが元の世界に帰っちゃっても、もうマミさんはひとりじゃない。

あたしまだなったばかりの新米だけど……これで本当に、いっしょに戦える仲間ができたんだよ。

 

≪ガッシューン≫

 

後ろで聞こえた、仮面ライダーが変身を解いた音。

振り向くと、大我先生が今にも掴みかかってきそうな顔をしていた。

 

「ふざけんなッ! 俺たちは遊びでやってるんじゃねえんだよ!!

 魔女と戦うのがどんなに危険か、その目で見たんだろ!?」

「っ! 遊びなんかじゃない!!」

 

勢いに反発して思わず叫び返す。

さらに叫び返してきそうな大我先生の腕を、ニコさんが引っ張って止めた。

 

「上条恭介のことを願ったのか」

 

飛彩先生の目を、今は真っ直ぐ見ることができない。

 

「……ごめんなさい。でも、あたしにできることってこれしかなかったから」

 

そう、あたしにはこれしかなかったんだ。

他人任せにして気長に待っても彼を救うことはできなかった。

あたしが動けば……たった一つあたしが願いさえすれば救えるんだから、そうしただけ。

 

「あたしの運命は、あたしが切り開く」

 

見つめ返された飛彩先生も、永夢先生もハッとした顔をしていて。

マミさんとまどかは泣き出してしまいそうな顔をしていて。

大我先生はギリリと歯を食いしばっていて、ニコさんがそれを心配そうに見ていた。

 

 

 

 

 


 

「――ここまでは筋書き通りという訳か?」

『僕の筋書きからは少し外れつつあるようだ。……主に君のせいでね』

「フン。それで? 口止めにでも来たのか? 私が魔法少女や魔女、そして君について知ったことの」

『へぇ。そこまで知れたのかい?』

「非常に難解なプロテクトだったが、神の才能を持つ私の手に掛かれば不可能はないッ!

 君に直接的な戦闘能力がないことも、その体内に何があるのかもわかっているゥ!」

『僕に注意していたのは、怪しんでるからだけじゃなかったんだね。

 でもまさか、僕を解析してみせる人間がいるなんて。いや、君はバグスターだったっけ?』

「ほう。マミたちがここに来て永夢から話を聞いていた時、君はいなかったハズだが?」

『僕も君を真似てみたのさ。他者のデータを採取し解析する。

 そしてその結果、君がバグスターであることも、君たちがこの世界の住人ではないこともわかった』

「深淵を覗く時深淵もまたこちらを覗いているのだ、か。

 私のプロテクトを抜けるとは、やるじゃないかァ……」

『――やはり君は、()()()()()なんだね』

「……ヴァハハハハハハハ!!

 さて、私が魔法少女殺しの犯人だと、永夢やまどかたちに言う気か?」

『そうしてもいいけど、聞いておきたいことがあるんだ。一体君は、何が目的だい?』

「……その答えはただ一つ」

 

 

「私のガシャットを返してもらおうか」

 

≪DANGEROUS ZOMBIE≫

 

 

See you Next story

 


 

次回、翻転のstory!

 

ドクターは神じゃない

誰かさんと同じじゃん

かなしいよ……

心は誰にも止められない

自分で選んだ運命か

俺たちにできることは何だ?

私のせいね……

それでも僕は

後悔なんて、あるわけない

ウゼェ、超ウゼェ!

 

 

わたしが、resolution(覚悟)を決める時

 

 

 

謝罪するようなことなど、した覚えがない

 

 

 




magic(マジック):魔法。語源はマグスの技術という意味のmagikēらしい。
マグスの複数形がマギで、神官……即ち「神」に仕える者を意味するらしい。
奇跡(きせき):常識では起こりえないとされること。
特に、「神」が起こすものについて言われる。


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ステージ5『わたしが、resolutionを決める時』
STAGE 05-01 (side:doctor-P.D.)


弾奏が終わる。不和が始まる。


「美樹さやかがキュゥべえと契約して、魔法少女になった……。

 願いは、幼馴染の天才少年ヴァイオリニスト上条恭介の腕を治すこと。

 ドクターは神じゃない。だーが、苦い味ってのは感じちまうなぁ。

 ……契約で生まれるソウルジェムは一体何なんだ?

 魔力の源って話だが、なんで魔女の卵(グリーフシード)で回復できる?

 魔力を吸ってるってことなのか?

 なんでキュゥべえが使い終わったグリーフシードを回収する?

 もし濁ったままソウルジェムを放置すれば、どう――」

『こんな夜更けまでまとめとは、精が出るキュゥ……九条貴利矢』

「うおっ!? ビビったぁ~~~。……キュゥべえか。

 写真では知ってても、直接会うのは初めて――キュゥ?

 え? そんなマスコットキャラみたいな語尾付いてたっけ!?」

「何言ってるエグ?」

「永夢!?」

「誰だって付けてるパラ」

「パラド!? ……あー、いつものヤツだなコレ!」

「騒がしいスナ」

「何があったブレ?」

「似合わねーな」

「貴利矢、何か変ポピ?」

「なんでアンタだけ語尾ないニコ?」

「ナシでもねーな」

「神の恵みを受け取るブゥン!

「いやそうはならねーだろ」

「エグエグ」「パラパラ」「スナスナ」「ブレブレ」

「ポピポピ」「ニコニコ」「ブゥンアハァー」『キュゥキュゥ』「ジオジオ」

「語尾をやめろーーーッ!」

 

 

 

「やめろーーーって! あっ? 夢かレー!?」

「いや、喧しいぞレーザー」

 

鏡総合クリニックの3階、階段を上がって左の大部屋。

今は男部屋として使われているそこに、本当は患者を寝かせるためのベッドが6台。

その1つから跳び起きたレーザーに(永夢みたいに)怒って、俺は再び横になった。

 

バグスターである俺とポッピー……とゲンムに、睡眠は必ず要るってものじゃない。

でも、疲れを取るための手段としてはご飯と風呂に並んで最適解だ。

宿屋で回復するのは小まめなセーブと同じくらい大切だしな。

 

永夢・ブレイブ・スナイプ・ゲンムは起きていない。

ゲンムは、今日は珍しくポッピーに言われる前にベッドに入っていた。

ちなみに今日の夕飯はカレーではなくハヤシライス。

 

こうして大人数で夜も一緒にいるとお泊り会みたいで、俺も永夢も心が躍る。

本当は徹夜でゲーム(永夢とたまにする)もしてみたいが、ブレイブとスナイプとポッピーが多分許さない。

そこは白けるけど、なんだかんだグラファイトたちといた頃のようで楽しい。

 

さて、夜も明けていないが再び眠るにはまだ時間がかかりそうだ。

睡眠の導入代わりに、俺は昨日の出来事をぼんやりと思い返すことにした。

 

 

 

「あたしの運命は、あたしが切り開く」

 

俺が永夢たちのいる廃工場に着いた時、さやかは真っ直ぐな目をしていた。

 

「……それがお前の、自分で選んだ運命か」

「ひとりでどうにかしようとして、ひとりで背負って……誰かさんと同じじゃん」

 

ニコの言葉に、スナイプの眉間に皴が集まる。

でも、その時永夢の心も揺れていたことは、俺の心には伝わっていた。

 

「あたしはひとりじゃない……!

 これからはマミさんと一緒にみんなを救っていくんだよ!

 マミさんは? 喜んでくれないんですか!?」

「それは……」

 

答えられないままただソウルジェムを握り締めるマミに、

 

「……行こう、まどか」

 

と、さやかはまどかの手を引いて去って行く。

誰もそれを止めることはできなかった。

 

 

それから、魔女の口づけを受けた人たちを救急隊に引き継ぎ、警察から事情を聞かれ、誤魔化した後。

鏡総合クリニックに帰ってポッピーたちにさやかのことを話すと、場は重い空気に包まれた(ゲンム以外)。

レーザーの作ったハヤシライスはおいしいのに、スプーンを持つ手の動きは鈍い(ゲンム以外)。

 

「大切な人のためにがんばるのって、すっごくステキなことだし……。

 上条くんが元気になったのは嬉しいけど……でも、かなしいよ……」

「君がそれを言うのか」

 

全員がゲンムに何か言いかけて、全員が代わりに溜め息を吐いた。

 

「人間が生死や不自由を全部コントロールできるってのは、おこがましい考えなんだろうぜ」

「だが……俺たちはドクターだ。俺たちにできることは何だ?」

 

監察医であるレーザーと、世界で一番のドクターであるブレイブ。

永夢たちの手伝いをすることもあるけど、まだ俺はその2人が何を考えているかまではわからなかった。

適材適所って言うヤツなんだろう。

だから、俺も自分が考えられることを考えよう。

 

……そういえば、キュゥべえはどうした?

さやかも魔法少女になったんだから、それを理由にまどかに誘いを掛けそうなもんだが。

魔女を倒してから姿を見せていないし、グリーフシードの回収もしていない。

あれだけしつこく契約を迫っていたのに、妙だ。

 

アイツの正体もわからないし、そういう所は元々違和感がある。

でも、もし何かあったとすれば容疑者はひとりしかいない。

 

「ゲンム、お前また何かやったのか?」

「謝罪するようなことなど、した覚えがない」

 

まるで荒唐無稽な疑問だとでも言うように嗤うゲンム。

だが、この時既に……いや。

最初から全部コイツの手の平の上に俺たちはいたのかも知れない。



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STAGE 05-02 (side:magica-M.S.)

「昨夜は、病院やら警察やらで夜遅くまで……。

 なんだか私、夢遊病っていうのか……それも同じような症状の方が大勢いて。

 気がついたら、みんなで同じ場所に倒れていたんですの。

 お医者様は集団幻覚だとか何とか……。

 今日も放課後に、精密検査に行かなくてはなりませんの。

 本当になんともないですし、今までもそんなことなかったですし、私は平気なのに……。

 学校を休むと、それではまるで本当に病気みたいで、家の者がますます心配してしまいますもの。

 はぁ……面倒臭いわ……」

 

 

 

珍しく授業中眠たそうにしていた仁美に、さり気なく大丈夫だったか探りを入れて、無事を確認してから。

放課後、あたしは恭介の病室にお見舞いに来ていた。

もちろん、彼の腕が治ったって報告には知らなかったフリをして、驚いたり喜んだりしてみせた。

 

……まだマミさんと話せてないのは少し気がかりだけど、きっとそれもすぐどうにかなる。

 

「――そっか、退院はまだなんだ」

「足のリハビリがまだ済んでないしね。ちゃんと歩けるようになってからでないと」

 

左手をグーパーしながら、恭介は何度も本当に動くようになったことを確かめているみたい。

 

「手の方も、一体どうして急に治ったのか、全く理由がわからないんだってさ……。

 だから、もうしばらく精密検査がいるんだって」

 

そりゃあ、今の医学じゃ治せないってなってたのにいきなり治ってたらビックリするよね。

なんでそうなったのか調べなきゃってなるだろうし、リハビリとかも必要になるんだろうし。

退院までもう少しかかるのも仕方ないかぁ。

 

……魔法のおかげでした! なーんて、絶対にわかるハズないから。

ヘタすると思ったよりまだ時間かかるのかも……。

 

「あっ……恭介自身はどうなの? どっか体におかしなとこ、ある?」

「いや……なさ過ぎて怖いっていうか、事故に遭ったのさえ悪い夢だったみたいに思えてくる。

 なんで僕、こんなベッドに寝てるのかなって。さやかが言った通り、奇跡だよね、これ……」

 

そこで恭介は気まずそうに視線を下に向けた。

 

「どうしたの?」

 

またなにか思い詰めているんじゃないかと思って、あたしは心配になる。

 

「さやかにはひどいこと言っちゃったよね……。いくら気が滅入ってたとはいえ――」

「変なこと思い出さなくていーの!

 今の恭介は大喜びして当然なんだから! そんな顔しちゃだめだよ?」

 

謝ってほしくてやったことなんかじゃ、ないんだもの。

 

「うん……。なんだか実感なくてさ」

「まぁムリもないよね」

 

あたしだって、自分の目で見るまでは魔法の存在なんか信じられなかったし。

魔女とか魔法少女とか異世界とか人に感染するコンピューターウイルスとか、人類を救うためのゲームとか……。

今はもう、多少の出来事だとビックリしない自信があるけどね。

 

「……そろそろかな」

 

腕時計を見て約束の時間が近付いていることを確認し、あたしは恭介に提案した。

 

「恭介! ちょっと外の空気吸いに行こう?」

 

不思議そうな彼を車椅子に乗せて、それを押してエレベーターに向かう。

あたしがパネルを操作して屋上行きにすると、やっぱり不思議そうな顔で聞かれた。

 

「屋上なんかに何の用?」

「いいからいいから♪」

 

エレベーターから降りて、少し進んで、屋上へのドアを開けると。

そこには恭介の家族はもちろん、主治医の先生や看護師さん、病院のスタッフの人たちがいて。

 

「みんな!」

 

パチパチパチパチ――。

彼のことをあたたかい拍手が出迎えた。

 

「本当のお祝いは退院してからなんだけど……。足より先に手が治っちゃったしね」

「恭介……」

 

進み出てきた恭介のパパは、バイオリンケースを持っていた。

 

「そ、それは……」

「お前からは処分してくれと言われていたが、どうしても捨てられなかった……私は」

 

パパが手を震わせながら差し出してきたバイオリンを、恭介も同じように震える手で受け取る。

父親でもあるしバイオリンの先生でもあるから、きっと余計辛かったんだ……。

 

「さぁ、試してごらん。怖がらなくていい」

「……」

 

恭介は最初不安そうにしていたけど。

やがてバイオリンを肩に乗せて、弦に弓を当てて、恐る恐る弾き始めた。

 

ラフマニノフのヴォカリーズ。

とても悲しい雰囲気だけど、でもどこか情熱的なイメージもある曲。

段々と熱を帯びていくのは、元のメロディがそうだからだけじゃなくて、恭介の心も重なっているからだと思う。

 

ドクターも、看護師さんも、恭介のパパもママも……みんなその演奏にうっとり聴き入っていた。

弾き続ける恭介の頬には嬉し涙。

あたしもぐっと何かが喉にこみ上げてきて、堪らず澄んだ青空を見上げる。

 

「あなたは彼に夢を叶えてほしいの? それとも、彼の夢を叶えた恩人になりたいの?

 そこを履き違えたまま先に進んだら、あなたきっと後悔するから」

 

他の人のために願い事できるか聞いた時、マミさんにそうピシャリと言われた。

その時は狼狽えちゃったけど……CDプレイヤーを叩き割った恭介を見て思ったのは、ただ彼を救いたいということだけ。

 

だから――後悔なんて、あるわけない。

あたし今、最高に幸せだよ……!

 

「ダメだなぁ……。レッスン、サボりすぎちゃったから……全然なってない……」

「これからはまたいくらでも練習すればいい……。何度でも、繰り返しやり直せばいいんだ」



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STAGE 05-03 (side:doctor-P.D.)

一日経ってもマミはまださやかと話せないでいた。

俺は学校に行ったことがないし、クラスメイトや先輩もいなかったけど。

なんとなく気まずくてお互い何も言えないでいるんだろう、と推測はできる。

 

駅前のショッピングモールのファストフードショップ。

少し前まで……ゲンムがマミを助けた日まで、魔女探しの前の集合場所にしてた店。

ダブルチーズバーガーとポテトMとオレンジジュースMのセットを俺と永夢が食べていると、学校を終えたマミがやって来た。

 

本当はブレイブも来る予定だったが、閉める直前にちょっと大きな怪我をした患者が来て、そっちを優先している。

 

「……昨日、夕飯ちゃんと食べた?」

「えっ?」

 

マミが注文して席に持ってきたのは、グレープフルーツジュースS。

さやかやまどかとは違ってドリンクだけの注文なのはいつものことだけど、確かに少しやつれて見える。

目の下に隈もできていた。

 

「うん……食欲なくなっちゃうよね。でも、だからこそ食べないと。

 僕も飛彩さんもまどかちゃんも、さやかちゃんも……。

 元気で笑顔なマミちゃんでいてほしいから」

 

差し出されたフライドポテトを1本取って、マミはちょびっとそれをかじる。

2、3口噛んで、残ったポテトを全て口に含んで食べ切った。

それから、ゆっくりと詰まりながら声を零し出す。

 

「私、昔一緒に戦っていた魔法少女がいたんです。

 私のことを先輩って慕ってくれて、一緒に魔女と、ずっと……。

 その子もこんな風によくお菓子を勧めてくれました。

 でも、これからはもう自分のためだけに魔法を使うって言われて、喧嘩して……」

「その魔法少女、今はどうしてる?」

「わかりません。多分、隣の風見野を縄張りにしています。無事なら……」

 

俺の質問に答えたマミのグレープフルーツジュースの紙容器が、少し凹んだ。

 

「私のせいね……」

「マミちゃん……」

「あの子にも、色んなことがあったのに、私気付いてあげられなかった。

 なのに鹿目さんに慕われてまた調子に乗ってしまった。美樹さんも止められなかった!

 こんなの、先輩失格よ……!!」

 

テーブルに突っ伏して、喉を引きつらせて泣き始めるマミ。

永夢はそっとその背中をさすってやる。

しばらくそうしながら考えた後、語り聞かせるように話し始めた。

 

「元いた世界で、僕は大きな病院で小児科医をしてる。

 毎日毎日色んな患者さんが来るし、その子たちの笑顔を守ろうと一生懸命頑張ってる。

 けど――助けられなかった笑顔もあった」

「助けられなかった、笑顔……」

 

永夢と暮らして数年が経つ。

その間に永夢やポッピーが、ドクターや病院スタッフが苦悩する姿もたくさん見た。

患者自身が苦しむ姿も、患者の家族が悩む姿もだ。

 

「僕はドクターのみんなを、医療を、自分を信じてるよ。

 それでも僕は、自分のことを全知全能の神様だなんて思わないし、思っちゃいけないんだと思う」

 

ハッと顔を上げたマミは、下瞼を赤くしているが永夢のことをしっかり見ている。

 

「僕はドクターで仮面ライダーだけど、人間なんだ。

 たくさん後悔してたくさん傷付いて、それでも生きていく。

 それこそが全ての人が持つ運命を変える力だ!

 君も、魔法少女だけど人間でしょ?

 

マミの目から再び涙が溢れ出した。

だが、少し俯いてももう顔を隠そうとはしていない。

頑張って踏ん張って、受け入れようとしているみたいだ。

 

「自分で決めたなら、心は誰にも止められない。

 お前にできるのは支えることだろ? ……先輩として」

「できるのかしら、私に……」

 

俺に向かって自信なさげな表情を見せるマミ。

 

「やってみせればいい」

 

現れてそう言ったブレイブは、白衣のままで息を切らしていた。

 

「Say and Do」

「口にして、行動する……?」

「そうだ」

 

フーと深呼吸してから服を整え、マミの隣に座るブレイブ。

チラッと俺のことを見てから呟く。

 

「まさかお前に教えられるとはな」

 

俺たちにできることは何だ? への答えをって意味か。

言い方は上から目線のように感じるが、褒められているようにも思えて、あまりイヤじゃなかった。

 

「親父が言っていた。人という字は人が支え合う姿を表している」

「院長が……!?」

「実際の成り立ちは違うらしく、おそらく昔のドラマの受け売りだが」

 

何故だ、ブレイブの親父が向こうの世界でクシャミしているのがわかる。

 

「俺は当然世界一のドクターだが、俺一人がいたところで患者は救えない。

 他のスタッフがいて初めて適切な治療ができる。

 自分を奮い立たせることも、誰かに寄りかかることも、両方必要だ」

 

戦い始めたばかりの永夢・ブレイブ・スナイプを思えば、あの頃だと言わなさそうなセリフだ。

お前もレベルアップしてるな、と勝手に上から目線を返してみる。心の中だけ。

 

「仲間と協力することや友人と遊ぶこと……。

 今までひとりで気張ってきて、できなかったこともたくさんあるんだろう。

 誰かに頼ることも含め、これからやってみればいい」

「そう……ですね。恋愛なんて考えられなかったし、部活をしてる暇もなかったし」

 

ブレイブとマミの言葉に、あの時と同じように永夢の心が揺れた。

 

「遠足もゆっくり楽しめなかったし」

「遠足に行っても魔女退治か……」

「ええ、あすなろ市で――。あの時の子も元気だといいけれど」



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STAGE 05-04 (side:magica-S.K.)

見滝原市の空気を吸うってのは、いつぶりになるんだっけか。

元からコロコロ姿を変える街だったけど(再開発とかなんとか)、また随分と変わった。

行きつけだった駄菓子屋のばあちゃんも、ボケて施設に入ったって聞いたし。

 

そう、本当はもうこの街にアタシの居場所なんかないんだ。

それどころかこの世界のどこにもありゃしない。

自分の手で失くしたんだ。

 

……あーヤメヤメ。

こんなところでンなことウジウジ考えるなんて性に合わない。

孤独拗らせたポエマーかよってんだ。

 

あむっとクレープを頬張るアタシが座ってるのは、送電塔の上の方の鉄骨。

下校時間なのか、下には制服を着た子たちがグループで喋りながら歩いているのが見えた。

 

クリーム色の服に赤いリボンと黒のスカート。

見滝原中の制服。何度も見たことがある。

今は見るだけで少しイラっとしちまう。

 

クレープをもう一口食って、視線を魔法で強化した双眼鏡に戻した。

覗く先、病院の屋上にいるのはバイオリンを弾く男と、それを囲う大人。

そして見滝原中の制服を着た女。

……ふーん。アレがこの街の新しい魔法少女ねぇ?

 

巴マミに後輩の魔法少女ができたってキュゥべえから聞いたのは、昨日の夜のことだ。

いつもはグリーフシードの回収にやって来るくらいで、後はどこぞの魔法少女が死んだって報告だけなのに。

わざわざそんな話されちゃあ気になるのも仕方ない。

 

アタシはてっきり、マミの奴はとっくに魔女に殺られちまってると思ってたけど。

魔女以外にも()()()()()()()()()()()()までいるって話だし。

 

所詮魔法少女なんざグリーフシードを狙うライバル同士。

助け合おうとしたって足を引っ張り合うのがオチ。

同業者潰しに走る奴がいたって不思議じゃない。

どっちかってんなら、まだマミみたいな甘ったるい考えの奴が生き残ってたってことが不思議だ。

 

 

 

「アタシは佐倉杏子。隣町の風見野で魔法少女やってるんだ。

 さっきは本当に助かったよ。アンタが来てくれなきゃやられてたね……」

「どういたしまして。私は巴マミ。助けることができて良かったわ」

 

あの時マミは、巨大な斧を持つ魔女の幻惑魔法に引っかかったアタシの前に現れた。

 

「あの魔女、アタシが魔法少女になって初めて戦った相手でさ。

 一度ヘマして逃げられちゃったんだ。

 他の子の縄張りに踏み入るのは行儀悪いと思ったんだけど。

 どうしても自分で落とし前つけたかったからさ……。

 結局アンタに迷惑かけちゃったよね」

 

キュゥべえに決められた訳でもなく、魔法少女同士は縄張りを越えないことが暗黙のルールになっていた。

 

「いいのよ。大事なのは一人でも多くの命を守ることなんだもの。

 魔法少女同士で縄張り争いなんて、本当ならすべきことではないわ」

 

珍しく優しい魔法少女だな……なんて思いつつ、アタシはお礼を言って去ろうとする。

 

「おかげで魔女も倒せたし、それじゃあ……」

「待って! あなたも魔力を消耗したでしょう?

 ソウルジェムの濁りを浄化しておかないと」

「? でも、それは今日のアタシがもらう資格――」

 

被っても先に魔女を倒した方にグリーフシードを手にする権利がある。

誰かに助けられたら、相手に譲るのがマナーだ。

 

「ふたりで倒した成果よ。魔法少女は助け合いでしょ?」

「いいの?」

 

ニッコリとした笑みで返され、ふたりでグリーフシードの浄化を分け合って。

その後アタシはマミの家に招かれた。

 

「どうぞ召し上がって? 特性のピーチパイよ。

 焼き上がるまでお待たせしちゃってごめんね」

 

スイーツショップで売られている、プロのパティシエが作ったみたいなピーチパイ。

 

「ちょーおいしいっ!」

「まだまだあるから遠慮しないでね。ひとりじゃ食べ切れないから」

 

夢中になって頬張ってたアタシは、そんな自分に気付いて恥ずかしくなる。

 

「あっ、えっと……助けてもらった上にパイまでご馳走になっちゃって……。

 なんだか図々しいよね、アタシって」

「招待したのはこっちなんだし、気にしないで。

 私も魔法少女の子とお茶ができて、とても嬉しいもの」

「アタシの方こそ……マミさんと会えてよかったな。

 アタシ、魔法少女としてはまだ半人前だし、なにも考えずただ闇雲に戦ってたし。

 色んなこと教えてもらって勉強になったよ」

 

ピーチパイが焼き上がるまでの間。

これまでの戦いを自己分析したり魔法の使い方を研究したりしたノートを読ませてもらった。

 

「心構えもしっかり持ってて、実戦でも強くて頼りになる。

 こんなにすごい魔法少女がいたなんて、アタシ驚いたんだ」

「そんな、私なんて……」

 

照れくさそうに紅茶を一口すするマミ。

 

「だから……その、マミさん、お願いっていうか、図々しいついでっていうのもなんだけど――。

 アタシをマミさんの弟子にしてもらえないかな?」

「で、弟子!?」

「そう! 迷惑じゃなかったら……ダメかな?」

 

丸くなっていたその目が一度下に向けられる。

 

「弟子とは違うかもしれないけど……。

 ずっと前から私も、魔法少女の友達がいてくれたらなって、実は思ってたの。

 私にできることなら、先輩としてアドバイスさせてもらうわ」

 

 

 

アイツもあの時のアタシと同じこと思ってんのか?

他人のために魔法使って、後悔しないわけがない。

 

マミの後輩、魔法少女殺し、あれから全く現れないキュゥべえ……。

おまけに暁美ほむらや仮面ライダーとかいうイレギュラーまでいるって話だ。

フン、上等じゃん?

ブッ潰しちゃえばいいんでしょ? ぜーんぶ。



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STAGE 05-05 (side:doctor-P.D.)

「いいよね。バーガーに入ってるピクルス」

「ええ! ピクルスだけならお家でも作れそうだけど、多分バーガーだからのおいしさね!」

 

ショッピングモールからマミの家に送っている途中。

久し振りに食べたというチーズバーガーに、マミは少し興奮気味だった。

 

でも言ってることはすごくよくわかる。

なんで1個につき1枚(ダブルバーガーなら2枚、トリプルなら3枚)しか入ってないんだ、と思うこともあるが。

1枚しか入ってないからこそ……あのバンズとパティとの黄金比でこそ、そのピクルスがうまく感じるんだろう、とも思う。

人間の生み出した食文化の極みだ。

 

「すいません、奢ってもらって」

「平気平気! 全然気にしないで!」

 

まぁ、元々毎月(廃)課金できるくらい給料いいし。

今は鏡総合クリニックでお金は共有だし。

その管理してる(そして頭を抱えている)のはレーザーだけどな。

 

「ちょっと大先生ぃー、今どこにいんのよ? 今日夕飯当番っしょ?

 せっかく自分が市場で10分値切って買った()()なんだぜ?

 ()いてくれる約束だったろ? ポッピーとニコちゃんが楽しみに待ってんだ。

 なんなら自分が――いや()()じゃなくて()()だから。

 え? 俺にサバけないブリはない? どっち???」

 

マミがチーズバーガーを頼む前、レーザーからの電話を受けてブレイブは一息つく暇もなく先に帰った。

今夜は魚か……骨除いといてくれないかな……。

 

「マミさん! 先生っ!」

 

そんなこと考えてると、向こうの路地裏からまどかが走ってきていた。

 

「ブーーーンwwブーーーーーンwwww」

「ヤケにハイテンションな声出してるな……」

「うん……いやアレまどかちゃんの声じゃないって!」

 

駆けるまどかの後ろから、路地裏の壁に落書き模様が浮かんでいく。

 

「使い魔の結界!?」

「まどかちゃん!」

 

慌てて路地裏の結界に突入し、マミが息を切らせ崩れ落ちそうになったまどかを抱き支えた。

 

「ハァ……見つけて、誰か呼びたかったけど、ハァハァ……携帯、昨日壊れたばかりで……」

「もう大丈夫だよ! ゆっくり、大きく呼吸して」

「「ブーーーーンwwwブブブーーーーンwwwww」」

 

壁を走り回る使い魔は5体。

車・船・飛行機などに三つ編みおさげした奴が乗っていて、クレヨン画みたいな見た目。

大きく飛び出た舌は、いわゆるラリってるようだ。

 

「マミちゃんはまどかちゃんをお願い」

「でも……」

「大丈夫。黎斗さんが直してくれた、新しいガシャットが使えるから」

 

考えていることが伝わってきて、俺は一度実体を解いて永夢の体の中に潜り込む。

 

「行くぞ、パラド!」

「任せとけ、永夢!」

 

永夢の目が赤く光り、向かい風が髪をなびかせた。

 

 

≪ダブルガシャット!≫

≪ガッチャーン!≫

≪レベルアップ!≫

≪マイティブラザーズ!≫

≪ふたりでひとり!≫

≪マイティブラザーズ!≫

≪ふたりでビクトリー!≫

(エッ)(クス)

 

≪ガッチョーン!≫

 

「だーい変身!」

 

≪ガッチャーン!≫

≪ダブルアップ!≫

≪俺がお前で♪≫

≪お前が俺で♪≫

≪ウィーアー!≫

≪マイティ≫

≪マイティ≫

≪ブラザーズ!≫

≪ヘーイ!≫

≪X(ダブルエ)X≫(ックス!)

 

「「超協力プレイでクリアしてやるぜ!」」

 

 

「ひとりになって……」

「ふたりになった……」

「うん……そういうものなんだ。仕様上」

 

仮面ライダーエグゼイド・ダブルアクションゲーマーレベルXX。

オレンジ色を基調にした俺のXX Rと、水色を基調にした永夢のXX L、ふたりのライダー。

 

さっさとガシャットギア デュアルを直せばいいのに、ゲンムは何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()マイティブラザーズXXを修復した。

同じ不正でも、マキシマムマイティXならムテキに必要だから直すのもわかるんだが。

まぁ、魔法性を付与しやすいガシャットから逐次投入しているだけかも知れないな。

 

「まだゲームエリアが展開できないし、エナジーアイテムも出てこない……」

「縛りプレイってことだろ? 心が躍るなぁ!」

 

グーにした右拳をパーのままの左手に何度か打ち付けて。

俺は左隣の永夢の顔面にその拳を放った。

 

「「っ!?」」

 

まどかとマミはビックリしているが、永夢はスッと右に半歩ステップして避ける。

そのまま俺の拳は永夢の後ろに回り込んだ使い魔を殴り飛ばした。

 

「よっと!」

 

ステップから着地してすぐ今度は永夢が俺目がけて上段蹴りを繰り出す。

それを俺が屈んで避ければ、永夢の足は俺の背中に飛んできたクレヨンロケットを弾いた。

 

「そらっ!」

 

屈んだ姿勢から永夢の両足首をそれぞれの手で掴み、一気に上へ投げ飛ばす俺。

 

「おりゃあ!」

 

真上にいた使い魔を叩き落とし、俺にクレヨンロケットを撃ってきた使い魔にぶつける永夢。

 

「す、すごいっ!」

「どうなってるの……!?」

「俺は永夢のバグスター。考えてることも見えてるものも全部わかる。

 これが最強のコンビネーションだ!」

 

永夢の着地を狩ろうとした使い魔を蹴って、ピヨってるさっきの2体の方へ。

その隙を狙った、最初に俺が殴った使い魔は、永夢が掴んで同じ方にブン投げた。

 

「ブーーーーンwwww」

「それっ!」

「イハァ!」

 

1体だけ先に逃げようとしていた使い魔も、現れたさやかに切り飛ばされる。

 

「フィニッシュは!」

「必殺技で決まりだ!」

 

永夢がゲーマドライバーのレバーを一度閉じて、一塊になった使い魔たちに必殺技を――。

 

「ちょっとちょっと、なにやってんのさアンタたち?」



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STAGE 05-06 (side:magica-K.M.)

永夢先生とパラドさんが急に襲ってきた何かを弾き返しました。

それは顔くらいの大きさの矛先で、ヌンチャクのような物が長く連なっていて。

意思を持っているみたいにシュッと引いていきます。

 

「誰だッ!?」

「あれは――!」

「見てわかんないの? ありゃ魔女じゃなくて使い魔だよ」

 

使い魔と仮面ライダー、使い魔とさやかちゃん、仮面ライダーとさやかちゃん。

それぞれの間に、邪魔するように張られる鎖のバリケード。

 

「グリーフシードを持ってるわけないじゃん」

 

さやかちゃんの後ろから路地裏に歩いて現れたのは、赤い魔法少女でした。

左手の大判焼きを一口食べて、ニイっと八重歯を見せて笑っています。

ヌンチャクは鎖の部分を縮めて繋がって、彼女の背より少し長い槍にまとまりました。

 

「だって、放っといたら誰かが殺されるのよ!?」

「だからさー、4、5人ばかり食って魔女になるまで待てっての。

 そうすりゃちゃんとグリーフシードも孕むんだから。

 アンタら、卵産む前の鶏シメてどうすんのさ?」

 

わたしを支えていたマミさんの手がブルブルと震えていたけど。

その子の言葉がショックで、わたしは気付けません。

 

「どうしてそんなこと言うの!? あなただって、魔法少女なんでしょ!?」

「魔女に襲われる人々を、見殺しにしろって言うのか!?」

「仮面ライダー……アンタ、たしかドクターなんだっけ?

 ドクターってのは自分のこと神様とでも思ってんのか?」

「そんなこと――」

「食物連鎖ってあるよねぇ? 人間様だけは特別って? 笑わせんな。

 弱い人間を魔女が食う。その魔女をアタシたちが食う。

 これが当たり前のルールでしょ。そういう強さの順番なんだから」

 

違う! と叫びそうな永夢先生に遮られる前に。

赤い魔法少女はさやかちゃんの方に向いて、バカにするように言います。

 

「まさかとは思うけど、やれ人助けだの正義だの……。

 その手のおちゃらけた冗談かますためにアイツと契約したわけじゃないよね、アンタ?」

「だったら、なんだって言うのよ!」

 

怒りを爆発させて、地面を蹴って斬り掛かるさやかちゃん。

赤い子はその一撃も片手で持った槍で防いでいて。

余裕を見せつけるかのように、あむあむと大判焼きを食べます。

 

「さやか!」「さやかちゃん!」

「ふたりは使い魔を追って! コイツはあたしが足止めするッ!」

「そーそー。外野に遊び半分で首突っ込まれるのってさ、ホントムカつくんだわ。

 ただ覚えときな。アンタらのガシャットとかいうのも、いつか寄越してもらうよ」

 

永夢先生とパラドさんはそれでも少し躊躇っていました。

でも、この間に誰かが襲われることや、目の前に張られたバリケードのことも考えて。

 

「ケガするなよ!」

「ふたりともね!」

 

と叫んで、逃げた使い魔を追って走り出します。

 

「……フン、トーシロが。ちったぁ頭冷やせっての」

 

ふたりが去ったのを確認してから、赤い子は僅かに体を捻らせて、剣を払い除けて。

くるりと回転すれば槍はまたバラバラになって、鞭のようにさやかちゃんの体を何度も叩きました。

 

「ルーキーがアタシとタイマンなんて、無理に決まってんじゃん」

「さやかちゃんっ!」

 

地面に倒れ込んださやかちゃんに背を向けて、歩き去ろうとする赤い魔法少女。

でも、さやかちゃんは苦痛に顔を歪めながらだけど、すぐ立ち上がってまた剣を構えます。

 

「……おっかしいなぁ。全治3ヶ月ってぐらいにはかましてやったハズなんだけど」

「さやかちゃん、平気なの!?」

 

上条くんを()()という願いだったから、回復魔法が得意なのか。

さやかちゃんの傷が青く発光して、どんどん治っていました。

 

「自分の損得勘定ばっかりで、他人の命がどうなろうと構いもしない……!

 アンタみたいな魔法少女が、マミさんみたいな優しい人をひとりぼっちにするんだ!!」

「ッ……他人のために戦ったって、一文の得にもなりゃしないってのに!

 言って聞かせてわからねー、殴ってもわからねーバカとなりゃあ……後は殺しちゃうしかないよねぇ!!」

 

バンッ!

すぐ隣でした発砲音に、わたしはビクッとしてしまいます。

 

「……なぁんだ。てっきりぼーっと眺めてる腰抜けになったもんかと思ってたよ、()()()()?」

「その子は私の()()()()()なの。これ以上妙なこと吹き込む気なら――」

 

変身していたマミさんの銃口が、赤い子に向けられていました。

その子は、あの時のほむらちゃんと同じようにとても傷付いたという顔を一瞬だけして。

すぐにギィッと八重歯を見せて、マミさんを睨みます。

 

「ウゼェ、超ウゼェ!」

 

さやかちゃんに槍を向けて、怒りをぶつけるように攻撃を始める赤い魔法少女。

マミさんは次々に銃を出して撃っていきます。

 

「どうして!? どうして、魔女じゃないのに……どうして味方同士で戦わなきゃならないの!?」

 

わたしはまた、ただ見ているだけ。

目の前で起きている争いを、目を逸らすこともできずに、でも止めることもできずにいました。

魔法少女になれば、そうすれば鈍くてうまく自分を表せない子どもから、わたしも変身できるのかな……?

 

「今が……わたしが、覚悟を決める時

「それには及ばないわ」

 

マミさんの弾が赤い子に当たる、と思った瞬間。

いつの間にか彼女は元いた所から少しだけズレた場所にいて、すぐ傍には――

 

「暁美さん……あなたは誰の味方なの?」

「私は冷静な人の味方で、無駄な争いをするバカの敵。

 巴マミ、美樹さやか、それに佐倉杏子。あなたたちはどっち?」

 

その言葉にみんな固まって、名前を呼ばれた赤い子も彼女の登場に驚いた表情をしています。

 

「ほむらちゃん……」

「あなたは関わり合いを持つべきじゃないと、もう散々言って聞かせたわよね?

 一体何度忠告させるの? どこまであなたは愚かなの?」

 

いつもは氷のような目なのに、今は怒りの炎が揺らめているようで。

ほむらちゃんが本気で怒っていることが伝わってきて。

だけど、それはただわたしを責めているだけではないようにも思えました。

 

「愚か者が相手なら、私は手段を選ばない」

 

 

See you Next story

 


 

次回、翻転のstory!

 

お前だけは絶対に許さない!

君たちはいつもそうだね

そんなに悔しいか?

事実をありのままに伝えると

本当の友達、か

決まって同じ反応をする

ひとりぼっちに戻っちゃった

わけがわからないよ

魔法少女になろうなんて考えるな

どうして人間はそんなに

 

 

わたしのhero(ヒーロー)だよ

 

 

 

ゾンビだな

 

 

 




resolution(レゾリューション):覚悟。語源は再びを意味する接頭辞reと解くを意味するsolvere。
運命を覚悟した者は幸福だと思います。ウンメイノー。
日本語の方の解説はもうネタがないです。
敢えて言うなら大判焼き。
今川焼きなど呼び方は様々ですが、私は祖父母の家の向かいのおばあちゃんが焼いていたのが大判焼きだったので、この呼び方で。


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ステージ6『わたしのheroだよ』
STAGE 06-01 (side:doctor-H.T.)


団結が終わる。崩壊が始まる。


明らかな異変が起きていた。

魔女と使い魔がどんどん増えている。

 

1回の外出・パトロールで1回は確実に発見する。

俺たちがこの世界に来たばかりの頃、魔女の存在を認知した当初はそんなことなかった。

魔法少女と違い、自分から魔力の痕跡を追って探すことができないのにこれだけ遭遇するなら、数が増えているとしか考えられない。

さやかが契約してから――キュゥべえが姿を見せなくなってからだが、関連は不明だ。

 

 

 

で、だ。

今日もついさっき使い魔をぶち抜いたばかりで、それなりに疲れてるんだが。

 

「大我さぁ……スパコン無しでアタシの勝ちとか、超つまらないんだけどぉ~?

 あっほら、夜戦突入して」

 

俺はニコに引っ張られてゲームセンターに来ていた。

 

「プロゲーマーに敵う訳ねぇだろ!

 いつからあんな複雑になったんだ。……探照灯か」

「まあ複雑化には賛否両論あるし、ビギナー向けじゃなかったかもね。

 ちょっと! そこ着弾地点だから!」

「回避ボタンは――」

「そういうゲームじゃないからこれって、アア!? 大和中破したじゃん!」

「イッテ! 蹴んなッ! ……脱げるのか」

「ヘンタイ」

「ハァ!?」

 

今は艦隊(を模した装備の女キャラたち)を操って敵艦を殲滅するシミュレーションゲームをやらされている。

ボロ負けにされた格闘ゲームに比べればわかりやすいが、初めての操作にすぐ慣れられる程俺は器用じゃない。

 

もう日も暮れる時間だが、店内はキャラグッズを身に付けた奴らや会社帰りのサラリーマン、学校帰りの高校生たちで賑わっていた。

未成年でも、16歳以上ならまだ遊んでいられる時間のハズだ。問題はない。

問題があるとすれば、そんな喧噪の中で俺とニコだけ浮いているように感じることだ。

 

「いいでしょ息抜きくらい? アタシだってたまには幻夢以外のゲームしたいよ。

 永夢とパラドも、パトロールの途中とか後によく行ってるっぽいし」

 

あれから数日……腰を据えて話すこともできず、マミとさやか・俺たちの間には溝が生じつつあった。

ちょっと予定が、と遠回しに避けられ、杏子の情報を聞くこともまともにできずにいる始末だ。

日中はクリニックの仕事があることや魔女と使い魔の増加があったことは、言い訳に過ぎないか。

 

その重い空気をニコも感じていて、ここらで気分転換したいと思ったんだろう。

そもそもお前が俺のパトロールに付いてくる必要はないんだがな。

 

「終了? おい、まだクレジット残ってんだろ。いいのか?」

「いいって。なんか大我やらしー目してるし」

「してねぇ」

 

んなこと言うくらいなら、女キャラの服が破けて露出増えるゲームをやらせんな。

 

「次行こ、次っ!」

「まだ何かやらせんのか……」

 

また俺の腕を引っ張り始めるニコ。

ゲーセンで何円使ったかは考えちゃダメですよ、と前にエグゼイドがすげぇ目つきで語ってたのを思い出した。

 

「? 大我、アレ……」

「~♪」  エキサイエキサイターカーナール

 

急に立ち止まったニコが指差す先、Dog Drug Reinforcement.という有名なダンスゲーム。

4方向のパネルの上で軽快な動きで、棒型のお菓子を咥えてプレイしている、明らかに中学生くらいの背丈の少女。

 

「店員に言ってくるか」

「そうじゃなくて! アレってあの魔法少女じゃない?」

 

水色の長袖パーカーに青色のショートデニム。大きなポニーテールに黒いリボン。

確かによく見れば、ゲンムが監視カメラをハッキングして入手したらしい画像の格好に一致している。

 

「……お前、佐倉杏子か?」  アイムオンザミションライナウッ

「……ふーん。アンタらも仮面ライダーか。デート中かい?」  エキサイエキサイコーターエーハ

 

断じてそんなんじゃねえが、俺もニコも咄嗟に距離を取った。

 

「て、ていうかプレイ中に物食べんなよ!」  ススムベキライフ

「……フン」  イキテクダケー

 

杏子がタンッと最後にステップを決めれば、画面には点数が映る(おそらく高得点)。

 

「へぇ。やるじゃん」

 

対抗心を燃やしたのか、澄まし顔で降りる杏子と入れ替わりでニコがパネルに上がった。

どうやら選択したのも同じ曲で、お手並み拝見というように杏子は俺の隣に立つ。

 

「……家族が心配するぞ」  ヘタナシンジツナーラー

「いないよ。ドクターってのは患者の私情にズケズケ踏み入ってくるのか?」  シラナイクライガイイノニ

 

どういうことなのか。帰る場所はあるのか。

マミとの関係も含め聞きたいことは元から山程あり、新たな疑問も次々湧いてきたが。

そのセリフに俺はしばし言葉を失い、それらを聞ける雰囲気ではなくなっていた。

 

「……。魔女と使い魔が増えてるのは、気付いてんのか?」  エキサイエキサイコーコーローガ

「そうらしいねぇ。ちょいと多過ぎるくらいさ」  ミーチビークアノバショーヘ

「協力する気はねぇのか?」  カーケヌーケテークダーケ

「ある訳ないじゃん」  アイムオンザミションライナウッ

「……。魔法少女殺しのことは?」  アイムオンザミションライナウッ

「ああ……。()()()()、ねぇ。正体を掴んでるのか?」  エキサイエキサイコーターエーハ

「いや。怪しい奴なら身内に1人いるんだがな」  コノテノナカー

「……随分とベラベラ話すね」  ススムベキライフ

「敵対する気はないからな」  イキテクダケー

 

タンッ。

ゲーム画面には先程の上を行く点数と、PERFECT・NEW RECORDの文字が堂々と映った。

それを見て、くるりと後ろへ向き杏子は立ち去ろうとする。

揺れたポニーテールがぶつかりかけて、俺は思わず身を退いた。

 

「負けたのがそんなに悔しいか?」

「ハァ? こっちは話しかけられて気が散ってたんだ。

 子ども相手にマジになるなんざ、ちったぁ大人になれっての」

 

マイティノベルでチビニコに会った時のことを思い出す。

そして絶対にコイツとニコを同時に相手してはいけないと、本能的に察知した。

 

「まっ、ナメられたままってのも癪だしね。その内借りは返させてもらうよ」

「……なら、それまでは無事でいるんだな」



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STAGE 06-02 (side:magica-S.K.)

ムカつく、ムカつく。

帰り際に丁度魔女と出くわしたのは好都合だった。

歯応えのない奴だったけど、ストレス発散にはなったから問題なし。

問題があるとすれば、その時たまたま巻き込まれたガキを助けちまったことだ。

 

「お前の親を殺したのは魔女っていうバケモンさ。アタシはソイツらと戦う魔法少女ってヤツ」

「魔女……魔法少女……? ()()()()()()は、正義の味方なの?」

 

おねえちゃん、おねえちゃん、おねえちゃん。

――モモのことさえ思い出さなければ、放っておけたのに。

 

「……そんないいモンじゃないよ」

 

7歳くらいのこのガキは、親の死体の前でも泣き喚かなかったクセして、ヤケに腹を空かせていたようで。

食うかい? と近くのベンチで塩パンを与えてやれば、バクバクと平らげやがった。

 

「愛と勇気に溢れてる訳でも、救いがある訳でもない。

 壊されたモンも殺されたモンも戻ってきやしない。

 だから食い物だって、これからはお前ひとりで――」

「ゆま」

「アン?」

()()じゃなくて、()()

 

このガキ……。

 

「ひとりなんてムリだもん……だってパパもママも死んじゃったもん!

 わたしもうどこにも行くところないもん!!

 おねえちゃん、だってわたし……ひとりじゃ……、だって……」

 

ここで泣き始めるのかよ……ああクソッ、なんでだ。

 

「――ったく、マジでしょーがないガキだね。

 アタシは()()()()()()じゃない。()()()()だ」

「キョーコ?」

「ひとりで生きる術ならアタシが教えてやる」

 

 

 

「ゆま、ホテル初めて! すごいすごい! ベッドふかふかっ!」

「あんまり騒ぐなよ。目付けられるからね」

 

「迷子のフリしてともかく泣いてな。気が取られてる隙にアタシが盗む」

「う、うえーん、うえーん。ママぁどこー?」

 

「シャンプー目に入ったぁ!」

「死にゃあしないよ。我慢しな」

 

「ご、ごめんなさい。次は上手にやるから……失敗しないから……」

「背伸びすんな。一人前になるまで、一人で勝手に動くんじゃないよ」

 

「おいこらっ! 枕取るな!」

「だってー、キョーコの髪の毛鼻にかかってムズムズするんだもん」

 

「キョーコ! ちゃんと全部食べたよ!」

「ハイハイ、ゴクローさん。……まぁ、こういうのも悪くないかな」

「なに? なにが悪くないの?」

「なんでもないよ。ほら、口拭いてやる」

 

 

 

「ゆま! 大丈夫か!?」

「う、うん……」

 

魔女を殺った後駆け寄るとゆまの顔面に血が付いていた。

慌てて拭くが、ただ魔女のが散って付いただけだったらしい。

 

「なんだ、ビックリさせやがって――」

 

一瞬ホッとして、でもすぐに前髪で隠されていた額の傷を見つけ、息を呑む。

魔女にやられたケガじゃない。火傷――タバコを押し付けられた跡、か?

 

「……親か?」

 

その一言でゆまはアタシが何に気付いたのか察して、両手をギュっと胸の前で握って。

カタカタと全身を震わせ始める。

初めて会った時、ひとりで生きていけって言った時と同じ……急な反応だ。

 

「……話したくなけりゃ、聞かないけどさ」

 

よく知らないけどPTSDとかいうヤツなんだろう。

無理に聞き出そうとしても、多分トラウマを抉るだけになる。

 

「――わたし、ホントはパパもママも好きじゃなかった」

 

けど、しばらく黙り込んでから、ゆまはゆっくりと声を絞り出した。

 

「パパとママはケンカばっかり。パパは家に全然いないし、ママはゆまにイジワルするの。

 生まなきゃよかったって、すごくイジワルするの」

「……親に裏切られる気持ちなら、わからなくもないよ。アタシも似たようなもんさ」

 

世知辛い話だ。

子は親を選べない。なのに親は子を平気で否定するし、そのクセ誰かに託そうともしない。

捨てられないように媚びて、突き放されて、でも他に居場所を知らないから逃げ出せない。

 

「ねぇ、キョーコが強いのは魔法少女だから? ゆまがイジメられるのは、ゆまが弱いから?

 わたしは強くなりたいっ! 魔法少女になって、変身したい!!」

「ゆま……。魔法少女になろうなんて考えるな

「……なんで? なんでダメって言うの? キョーコも、ゆまのこと役立たずだって思ってるの!?」

 

パニクったのか、頭を押さえながら唸り始めるゆま。

 

「ゆまっは……! 役立たず……ない……。役立たずなんかじゃないっ!!

 キョーコの役に立つ! 言うことなんでも聞く! 好き嫌いだって言わない!

 だから――ゆまをひとりにしないで

 

ああ、なんでそんな泣いてんだよ。なんで怖がってんだよ。

 

「バカだなぁ……他人のために魔法少女になんかなったって、何にもなりゃしないのに……」

「うっ……? キョーコ、泣いてるの?」

「バーカ。泣いてなんかないよ。……ゆま、よーく聞きな」

 

 

「誰かのためにいい子になる必要なんかない」

 

 

「誰かに好かれるために我慢ばかりしたって、自分が辛くなるだけだ。

 もしゆまがアタシに好かれるために魔法少女なっても、ゆまは我慢し続けることになるし、そんなのアタシは嬉しくない。

 自分のことが嫌いでも……ゆまはゆまのまま、なりたい自分に変身すりゃあいい」

「ゆまのまま……」

 

それは、アタシにはできなかったことだから。

 

「……キョーコ」

「ん?」

「キョーコは正義の味方じゃないって言ったけど……。

 でもキョーコはぜったい――わたしのヒーローだよ



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STAGE 06-03 (side:doctor-P.D.)

明らかな異変……魔女と使い魔が増えてることは、ドクターも魔法少女も気付いている。

お互いの間に溝が出来つつあることもわかっている。

そして、しつこくまどかに契約を迫っていたキュゥべえがパッタリ現れなくなったことも、少なくとも俺は気付いてる。

 

 

 

だが、まどかは依然として魔女や使い魔に遭遇することがあるようで、そのこと自体への疑問も浮かんだが――。

ともかく、今俺と永夢は使い魔から助けたまどかと一緒に、いつもの(だった)ファストフードショップに来ていた。

 

ダブルチーズバーガーとポテトMとオレンジジュースMのセット、も久し振り。

まどかもアップルジュースMとホットケーキのセットを頼んでいる。

旨い物を食べている間は、リラックスできて話しやすくなる効果もある。

 

「すごいよね、見滝原。ここまで発展した街に来たの、初めてだよ」

 

永夢は何気ない会話から始めようとしたけど。

これまでの間に溜まっていた思いを早く吐き出したかったのか、まどかは徐々に零れ出すように喋り始めた。

 

「わたし、見滝原に来たのは小学5年生の春なんです」

 

永夢の心が揺れる。

 

「知らない街で、まだ友達もいなくて……。

 パパとママも生まれたばかりのタツヤに取られちゃった気がして、さみしくて。

 そんなある日の、学校に行く途中に――」

(永夢)

(……大丈夫)

「転んで、膝を擦り剥いちゃって。おっちょこちょいだから……。

 ランドセルをちゃんと閉めれてなくて、中身が水溜まりに全部飛び出しちゃったんです。

 お気に入りの筆箱も、新しい教科書も、パパの作ってくれたお弁当も、全部……。

 その時助けてくれたのがさやかちゃんでした。

 水溜まりから拾い上げた物を、迷いもせずハンカチで拭いてくれたんです。

 乾かせば大丈夫だから、お弁当も中は平気だからって……。

 わたし、ランドセルの色を見るまで男の子と勘違いしてたけど」

 

ふふっ、と思い出し笑いをしてジュースを一口すするまどか。

 

「我慢できなくなって泣くわたしを、大丈夫大丈夫って励ましてくれました。

 同じクラスの子だって、わたしは最初わからなかったけど、さやかちゃんの方はわかってて。

 それからは、さやかちゃんにくっついてればひとりぼっちにならなかったし。

 さやかちゃんの友達を分けてもらうように、わたしの友達も増えていきました。

 お互いの家でお泊りもたくさんしたし、その度にベッドで色んなことをお話ししました」

「そうしていく内に、恭介のことも知ったのか」

「はい! ハッキリとは聞いてないけど……。

 さやかちゃん、ベッドに入ってからもずっと喋りっぱなしだったから。

 いつも、さやかちゃんが5個話す間にわたしは1個くらいで――」

 

まどかの顔から笑みがふっと消えて、憂い気な表情になる。

アップルジュースの紙容器が、少し凹んだ。

 

「どうした、まどか?」

「……わたし、さやかちゃんに助けてもらってばかりだなって。

 遊びに誘ってくれて、イジワルから守ってくれて、友達も……。

 せめて対等でいなきゃって思う程、空回りしちゃって……。

 上条くんが事故に遭った時、さやかちゃん見たこともないくらい取り乱してて。

 しばらく学校もお休みしてたし、来るようになっても笑顔を見せてくれなくて。

 でもわたし、何もしてあげられなかったんです」

 

対等でいなきゃ、というのがよくわからなかった。

MMORPGなんかでは、最新の装備を揃えてない奴やレベルに追いつけてない奴を爪弾きにするチームもある。

でも、友達っていうのはそういうもんなんだろうか。

本当の友達、か……それはもっとラフな関係だと思う。

 

「このまま一生隣にいただけの誰かで終わるのはイヤ。

 誰の役にも立てないまま迷惑ばかりかけていくなんてイヤ。

 だからわたし魔法少女になろうとして、マミさんのことがあってやめて……。

 けどさやかちゃんは、ひとりで悩んでひとりで決断して、キュゥべえと契約して……。

 わたしやっぱり役立たずなんだって――!!」

「お前にとって本当の友達ってのは、自分の役に立つ奴のことなのか?

 役立たずに……利用できなくなったら、お前は友達をやめるのか?」

 

諭したいなんて考えはない、ポロっと出た単純な疑問の言葉。

 

「っ! それは違うよ!!」

 

だがそれは思いも寄らない効果を呼んだらしい。

 

「だったらその友達を助けに行こうぜ?」

「貴利矢さん!」

 

柱に手を突いてカッコつけてるが、汗ダラダラで息を切らしている。

行きながら話すと言うレーザーに促され、俺たちはさっとトレイやゴミを片付けて外へ向かった。

 

「あの2人、決着でもつけるつもりらしい!」

「さやかちゃんと杏子ちゃんが!?」

「ああ! 遠くから見つけただけだが、ガチって雰囲気だ!

 自分のガシャットまだコレしかないからな……!」

 

そう言いながらレーザーが取り出したのは1本目の爆走バイクガシャットだ。

形態も相まって、レベル1でも2でも本気の魔法少女2人を止めるのは難しいだろう。

 

「それで俺たちを呼びに来たのか」

「大先生たちにも連絡してある。()()()()()()()()、名人!」

「……乗る?」

 

ショッピングモールを出て少し走り、周りに人のいなくなったところでレーザーがゲーマドライバーを巻いた。

 

 

「2速、変身!」

 

≪ガッチャーン!≫

≪レベルアップ!≫

 

≪爆走! 独走!≫

≪激走! 暴走!≫

≪爆走バイク♪≫

 

 

「うぇっ!? 貴利矢先生、体、どうなって!?」

「あー、そこツッコんじゃう?」

「喋った!?」

「パラド!」

「ああ!」

 

バイクの3人乗りは禁止、というか流石に中学生くらいの大きさだと物理的に無理だ。

だから俺は永夢の中に潜る。

 

「まどかちゃん、乗って!」

「は、はいっ!」

「飛ばすぜ! ちょっと安全にな!!」



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STAGE 06-04 (side:magica-M.S.)

「何よ、話ってのは?」

「しばらく使い魔を狩るのをやめてほしい」

「ハァ?」

 

見滝原中の屋上にあたしを呼び出してそんなことを言ってきたのは、あの転校生だった。

 

「佐倉杏子と衝突してほしくない」

「ふぅん、やっぱりね。アイツと手を組んだんだ?」

「……近い将来、どうしても彼女とあなたたちの力が必要な展開になる。

 あなたと巴マミ、佐倉杏子、仮面ライダー……それまで余計な争いは避けてほしい」

「なにそれ? あんたたちが誰にも邪魔されずグリーフシードを集めるためでしょ。

 そんなのにノせられると思う?」

 

わざとバカにしたように言ってみせても、彼女の顔は変わらない。

その表情の変わらなさはお面でも被っているみたいだ。

 

「あたしが目障りだってんなら、アイツと2人がかりで掛かってくりゃいいでしょ。

 逃げも隠れもしないわ。受けて立つわよ。マミさんだって、きっと」

「……あなたたちとの対立はまどかを刺激してしまう」

「ああ、そう……そういえばライバルは増やしたくないんだったっけ?」

 

やっと効果的な返しができたみたいで、転校生は少し言葉に詰まる。

まどかのことは巻き込みたくない。コイツに目を付けさせたくない。

 

「もう少し冷静に考えて。あなたが意地を張れば張る程、傷付くのはまどかなのよ」

「まどかは関係ないでしょ」

 

でも、あたしもあたしでしばらくまどかと話していないのは確かだった。

……上手くいかないことが続いて、それを溜め込んでることもわかって、すごくイライラしてくる。

 

「あたしってバカだからさ、あんたみたいに口が上手い奴には何度か騙されたことがあるの。

 やり口を見てれば大体わかる。あんたは自分の都合だけしか考えてない奴だ。

 周りの人間は全部そのための道具としか思ってない。多少の犠牲は止むを得ないと思ってる。違う?」

「……何もかも、あなたのためを思って忠告してるのよ。

 あなたを助けたいだけなの。どうして信じてくれないの」

「どうしてかな……ただなんとなくわかっちゃうんだよね、あんたが嘘吐きだってこと。

 何もかも諦めた目をしてる。いつも空っぽな言葉を喋ってる。()()()()()()()()()()()

「っ……!」

「今だってそう。あたしのためとか言いながら、ホントは全然別なこと考えてるんでしょ?

 誤魔化しきれるもんじゃないよ、そういうの」

 

暁美ほむらの目が揺れるのを、あたしは初めて見た気がした。図星だったんだろう。

 

「まどかまどかって、あんたの方こそ――」

「あなたって鋭いわ」

 

今までで一番冷たい視線と声に固まるあたしの隣を、彼女は通り過ぎていく。

 

「全てはまどかを守るためよ」

 

 

 

最近は魔女と使い魔が増えているみたいで、あたしはソイツらを一匹でも多く倒さなくちゃいけなくて。

毎日のようにお見舞いに来ていた恭介の病室だけど、足を運んだのは久し振りで。

でも恭介は昨日退院していて……。

彼の家の前まで来たはいいけれど、聴こえてくるバイオリンの音色に、邪魔しちゃいけないと回れ右する。

その時、

 

「会いもしないで帰るのかい? 今日一日追いかけ回したクセに?」

「お前は……っ!」

 

服装は魔法少女のソレではないけれど、でもその顔はハッキリと覚えていた。

人を使い魔の餌としか見ていない魔法少女、佐倉杏子だ。

 

「何の用?」

「知ってるよ。この家の坊やなんだろ? アンタがキュゥべえと契約した理由って」

 

キュゥべえはあれからずっとどこかに行っているようで、この街にはいない。

あたしのことを聞いたとすれば、その相手は暁美ほむら以外に考えられない。

 

「まったく……たった一度の奇跡のチャンスをくだらねぇことに使い潰しやがって」

「ッ! お前なんかに何がわかる!」

「わかってねぇのはそっちだバカ。

 魔法ってのはね、徹頭徹尾自分だけの望みを叶えるためのもんなんだよ。

 他人のために使ったところで、ロクなことにはならないのさ。

 先輩とか言っておきながら、巴マミはそんなことも教えてくれなかったのかい?」

 

わざわざマミさんのことを引き合いに出してきたのは、挑発だってわかってた。

だからあたしもお返ししてやろうとしたのに、その前に追撃を加えられる。

 

「惚れた男をモノにするならもっと冴えた手があるじゃない。せっかく手に入れた魔法でさぁ?」

「……なに?」

「今すぐ乗り込んでいって、坊やの手も足も二度と使えないぐらいに潰してやりな。

 アンタなしでは何もできない体にしてやるんだよ。そうすれば今度こそ坊やはアンタのもんだ。()()()()()()ね」

 

何をバカらしいことを、なんて限度はもう超えていた。

ただイラ立ちだけが溢れ返ってくる。

 

「気が引けるってんなら、アタシが代わりに引き受けてもいいんだよ?

 同じ魔法少女のヨシミだ。お安い御用さ。アンタが使い魔を狩らなくなるなら、タダでいい」

 

ふざけるな……そんなこと、ふざけてでも言うな!

 

「お前はッ……! 絶対に! お前だけは絶対に許さない!! 今度こそ必ず……!!」

 

ニヤリとした八重歯が、余計にあたしをイラつかせた。

 

「場所変えようか? ここじゃ人目につきそうだ。

 ちょっと待たせてる奴がいるからね。さっさと終わらせて帰らせてもらうよ」



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STAGE 06-05 (side:doctor-H.T.)

「紅茶でよろしいですか?」

「疲れているんじゃないか? 俺が淹れよう」

「いえ……こうしている方が、気が楽ですから」

 

ブレイブの申し出を断り、慣れた手つきでティーポットとカップを用意するマミ。

部屋の中は一見すると綺麗に整理されていて、掃除も行き届いているようだが。

これは――この異様な清潔感は

 

「ねぇ、大我……」

「……ああ」

 

戦場の砂漠の中のオアシス。傷を癒せる唯一の居城にして、世界から隔絶された砦。

ここはマイティノベルで訪れたエグゼイドの部屋と同じ空気に満ちていた。

 

ゲームで言えば進行不能バグ。

何か新しい情報を掴める訳でもなく、魔女と使い魔の増加以外の変化もなく、ひたすら診察と戦闘を続ける日々。

所謂落ちゲーでゲームオーバーにならないよう足掻いている状況と言った方が近いかもしれない。

 

連続して永遠とも思える戦いに挑むのなら、何度かのパンデミックで経験済みだ。

だが、断続的にってのはどうしても緊張の糸が緩む瞬間が出て、むしろ精神的にもキツい。

 

それは魔法少女の方も同じだったようだ。

パトロール中だった俺とブレイブ(とニコ)は、2体の魔女相手に疲弊してたマミを先程助け、やっと話す気になったらしい彼女の家に招かれていた。

この部屋の空気を感じればその葛藤も窺い知れる。責めるつもりはない。

無意識でもコミュニケーションを避けていたのは、おそらくこっちも同じだろう。

 

「単刀直入に聞こう。佐倉杏子のことについてだ。後輩だったらしいが?」

 

長居をするつもりは俺もない。

淹れられた紅茶を一口飲んで、ブレイブがそう切り出した。

 

「……。宝生先生とパラドさん程ではなかったけど、私たちいいコンビだったと思います。

 呑み込みも早かったし、教え甲斐もあったし……部活の先輩後輩のような。

 彼女が住んでいたのは風見野だったけれど、この家にもよく来てくれて。

 こうしてお茶したり、パイをご馳走したり、もちろん一緒に魔女や使い魔とも戦って……。

 いつしか、2人でならワルプルギスの夜だって倒せるとさえ思い始めていました」

「なに、ワルプルギスの夜って?」

「あっ、魔法少女たちの間で噂されているとても強力な魔女のことです。

 その力は果てしなく、他の魔女とは比べ物にならないとか、簡単に1つの街を滅ぼせるとか……。

 強過ぎる魔力で、結界が現実世界を侵食するとも聞きました。

 局地的な自然災害として報じられる中に、ワルプルギスの夜の被害が隠されているとも……」

 

……ワルプルギスの夜という名称は、マミが名付けた訳ではなく魔法少女間での通称なのか。

ドイツ辺りの祭りの名前にそんなのがあった気がするが、何か関連があるのか?

 

何より気になるのは、現実世界を侵食する結界ってのがゲムデウスやプロトマイティオリジンのゲームエリアと似ていることだ。

レーザーに倒された直前の状態での復活、魔法に関するデータの収集、黒い魔法少女殺し、姿を消したキュゥべえ……。

不気味な程怪しい匂いしかしない。

 

「そんなのが来ても目じゃない、本当に世界を救える。あの子もそう言ってたのに――」

 

少し冷めつつある紅茶の香りが鼻をくすぐった。

 

使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 グリーフシードを落とさない使い魔を狩ったところで魔力を無駄に消耗するだけ。

 ……そういう考えの魔法少女は、他にもたくさんいました。

 グリーフシードが手に入らなくなったらあなたのせいにしてもいいのか、とか。

 立派な考えだとは思うけどそこまでする意味はない、とか。

 ただ善意で戦い続けることなんかできない、とか……」

「……大人でも利他的になるのは難しいだろう。まして己の命が懸かることなら」

「ああ。お前の考えが間違ってる訳でもなければ、その魔法少女たちが悪という訳でもない」

「……。この子は他の魔法少女とは違うって思ったんです。

 魔法少女同士でそんなにもわかり合えるなんて思わなかったし……。

 心の奥底で密かに求めていた、本当の仲間にやっと私は巡り会えたんだって。

 でも、彼女もそう言って――!!」

 

一度溢れ出した涙は、そう簡単には止められない。

 

「もう二度と誰かの幸せや命のために戦うつもりはないって!

 これからはもう自分のためだけに魔法を使うって!

 引き留めようとしたけど、でも私、あの子を撃てなくて――。

 またひとりぼっちに戻っちゃったって感じて……っ!!」

「……。佐倉杏子は何故急に――」

 

プルルルル。デフォルトの着信音が、ブレイブのスマホから流れてきた。

 

「失礼。監察医? 急患か!?」

 

ピッ。

 

「今どこ!?」

 

スピーカーモードでもないのに聞こえてきたレーザーの大声。

なにやらかなり切羽詰まっているらしい。

 

「マミの家だが、何があった? ――そうだ、3人で来ている。

 ――決闘だと!? さやかと杏子が!?」

「えっ!?」

「ああ、ああ。――わかった。こちらもすぐに向かう」

 

電話を切って、ブレイブは説明する必要もないだろうと立ち上がった。

それに続いて俺もニコも動いたが、座って俯いたままのマミに気付いて全員止まる。

 

「……さやかはお前の後輩だが、アイツもそうなんじゃねぇか?」

「――Say and Do」

 

顔を上げたマミの目に、覚悟の光が灯っているのを見た。

 

「私が2人を止めます」



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STAGE 06-06 (side:magica-T.M.)

「ここなら遠慮はいらないよね。いっちょ派手にいこうじゃない」

 

九条先生が見かけた場所からさらに移動していた美樹さんと佐倉さん。

2人を発見して、同時に宝生先生・鹿目さん・九条先生(最初バイクだった)と合流したのは、夜の歩道橋の上だった。

もう話し合いで解決する気はないのね……っ!

 

「ダメだ、さやかちゃん!!」

「2人ともやめなさい!!」

 

美樹さんが少し躊躇いを見せたけど

 

「話が違うわ」

 

突然の暁美さんの登場に、キッとした表情に戻ってしまう。

 

「あんた、やっぱグルだったのね!」

「私は――」

「さやかちゃん、ごめんっ!」

 

反論しようとした暁美さんに美樹さんが気を取られている隙を突いて。

彼女の手からソウルジェムを奪い取る鹿目さん。

 

「なっ!?」

「えぃ!」

 

投げ捨てた!?

あ……丁度通りかかったトラックの荷台に……。

いえ、それでほっとするのもどうかと思うけれど。

 

「ッ!」

「……ほむらちゃん?」

 

その瞬間に暁美さんが姿を消したのには、宝生先生だけが反応できていた。

でも、彼の注目もすぐ美樹さんに戻ることになる。

 

「まどか! あんたなんてことを!」

「だってこうしないと――さやかちゃん?」

 

鹿目さんが急に倒れてくる彼女を抱き留めた。

その力がふっと抜けていく様は、操り人形の糸が切れたようで。

 

「なに……?」「なんだよ……?」

 

何が起きたのかわからず、私も佐倉さんも固まってしまう。

 

『今のはマズかったよ、まどか』

 

暗闇に浮かび上がる真っ赤な目。

欄干に座っていたのは、あの白い体は……キュゥべえ?

 

『よりにもよって友達を放り投げるなんて、どうかしてるよ』

 

その間に花家先生と鏡先生が鹿目さんに駆け寄って、彼女から美樹さんを引き受けて。

そっと抱えて呼吸や脈、そして瞳孔を確認する。

 

「ッ――!」「これは――!」

 

言葉を呑み込んだ2人のドクター。

でも、宝生先生と九条先生への目配せは、何だって言うの……?

怒りと哀しみで壊れそうな、その目は――!!

 

「そんな……!?」

「何がどうなってやがんだ……オイッ!」

『君たち魔法少女が身体をコントロールできるのは、せいぜい100メートル圏内が限度だからね』

「100メートル!?」

「なんのことだ!?」

「どういう意味だ!?」

 

西馬さん、九条先生、パラドさんがそれぞれに声を荒げてもキュゥべえの様子は変わらない。

 

『普段は当然肌身離さず持ち歩いてるんだから、こういう事故は滅多にあることじゃないんだけど』

「何言ってるのよキュゥべえ!? 助けてよ! さやかちゃんを死なせないでっ!!」

『はぁ……。まどか、そっちはさやかじゃなくてただの抜け殻なんだって』

「えっ?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「な、なんだと!?」

 

佐倉さんが胸の赤い宝石に手を当てる。

 

「どういうこと……!?」

 

無意識の内に私も自分のソウルジェムを握り締めていた。

 

……怖い! 逃げたい! 聞きたくない! ()()()()()()()()

 

『ただの人間と同じ壊れやすい身体のまま魔女と戦ってくれなんて、とてもお願いできないよ。

 君たち魔法少女にとって、元の身体なんていうのは()()()()()()でしかないんだ。

 本体としての魂には、魔力をより効率よく運用できるコンパクトで安全な姿が与えられている。

 魔法少女との契約を取り結ぶ……僕の役目はね――君たちの魂を抜き取ってソフトフェアに変えることなのさ

 

その一言から、ほんの僅かな間。

世界から色と音が消えたように感じた。

 

「それがソウルジェム!!」

「テッメェ!!」

 

鏡先生が真実を理解する。花家先生が怒りに震える。

 

『便利だろう? 心臓が破れても、ありったけの血を抜かれても。

 その身体は魔力で修理すればすぐまた動くようになる。

 弱点だらけの人体よりも、余程戦いでは有利じゃないか』

()()()()()()()()()()()()()()ってか!?」

「ふざけるなッ!!!」

 

九条先生の指摘の後、血走った目の宝生先生が掴み上げても、キュゥべえの顔はいつもと同じまま。

動揺どころか元々感情なんて持ち合わせていないかのよう。

 

魔法少女になる契約のせいで、生きたいという願いのせいで、ソウルジェムが生まれて――。

本当は、私はあの事故で……青空とガソリンの匂いの中で死んでいたの?

今震えている足も、肩も、手も、全部全部入れ物なの!?

そんなの……この身体は、もう生きているなんて言えないじゃない!!

 

「嘘よ……嘘よッ!!!」

『君たちはいつもそうだね。事実をありのままに伝えると、決まって同じ反応をする。

 わけがわからないよ。どうして人間はそんなに、魂の在処に拘るんだい?』

 

「君も、魔法少女だけど人間でしょ?」

 

あの時の先生の言葉が頭の中で反響して、私の心をじわりと抉っていく。

 

「それじゃアタシたち、まるで――」

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

See you Next story

 


 

次回、翻転のstory!

 

騙してたのね

本当のクリア条件

図ったのか?

何が起きてやがる!

使い魔がたくさん

やっつけてやる

もうやめてっ!

あなたこそ黙っててください

その気になれば痛みなんて

こんな浮かばれない最期があるか?

 

 

Fellow soldier(仲間)なんていないんだぞ

 

 

 

有限の生命など陳腐だ

 

 

 




hero(ヒーロー):英雄。語源は神話の中の英雄を意味するηρωσ。
「もしこの世界にヒーローが存在するとすれば、彼らのことを言うんだろう。
 どんな逆境でも決して諦めずに立ち向かい、人の命を救う。
 そんなヒーローに僕たちは守られている」

I don't wanna know(アイ ドント ワナ ノウ):僕は知りたくない。
下手な真実なら知らないくらいがいいということもある。
「これから君が始めようとしている物語は、その真実に直面する物語だ」


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ステージ7『Fellow soldierなんていないんだぞ』
STAGE 07-01 (side:doctor-K.K.)


友情が終わる。堕落が始まる。


「うっ、ああ……またこの手の……。

 え……誰……、なに……つまんねぇギャグ……。

 いつまで続け……、本気で……笑うまで……?

 ソイツはムリゲー……。仮面ライダーゲンムズってなに……。

 やめて……やめろーーーって! あっ? 夢かよ!?」

「黙れええええええ! 私の睡眠を邪魔するなぁああああああああ!!!」

「うるさいッ!! うるさい! あなたこそ黙っててください」

「…………」

「……怒られちゃった」

 

鏡総合クリニックの3階、階段を上がって左の大部屋。

今は男部屋として使われているそこに、本来は患者を寝かせるためのベッドが6台。

うなされて跳び起きた自分と続いて叫び起きた檀黎斗と、すっごい目をした永夢。

一通りの流れをやってから、自分たちはスッと再び横になった。様式美っておそろしいね。

 

ドクターってのはどんな世界、どんな場所にいても過酷な仕事だ。

他の職でも学生でも変わらないが、苦しい人間は大抵些細なほのぼのを大事にする。

時にはバカになったりムリして持ち上げたりしてでも。

 

生真面目だしひとりで背負い込む人が多いからねー、このクリニック。

ま……そんな自分でも、特に永夢からすればお前が言うなって感じなんだろうぜ。

 

さて、夜も明けていないが再び眠るにはまだ時間がかかりそうだ。

睡眠の導入代わりに、自分は昨日の出来事をぼんやりと思い返すことにした。

 

 

 

ポッピーとニコちゃんが買ってきた、なんか可愛いキャラ柄のエプロン。

永夢とパラドはともかく、大先生や白髪先生が着けてるともう腹筋崩壊モノだが。

ダントツで似合わねぇのは檀黎斗だ。

 

洗い物は当番制のままで買い出しも自分たちがパトロールついでに行く。

けど、魔女と使い魔が増えていることもあって、最近の夕飯作りは変身できないポッピーとニコちゃんに任せきりだ。

檀黎斗はガシャットの修正作業を続けていて、他のことはしようともしないし、誰もそこら辺は期待してない……ハズだったんだが。

帰ってきてみればエプロン着て鼻歌歌いながら、指揮するように鍋を混ぜていて、ポッピー以外の全員目が点になった。

 

「どういう風の吹き回しだ?」

「ポッピーがどうしてもと言うからね。私のカレーを存分に味わうがいいィ!」

「どうしてもなんて言ってないけど!

 お夕飯作らなきゃなー、でも疲れてるなーって呟いたら、クロトが作ってくれるって言うからぁ」

「スパイスにも拘りたかったが、私の手に掛かれば市販品で極上のカレーを作り出すことなど容易い!

 さあ、中辛の恵みを受け取れェィ!」

「いや喧しいな神」

 

急な上機嫌っぷり……作業に集中し過ぎたせいでとうとう狂ったかと思ったが。

腹立たしいことにカレーはそんじょそこらのチェーン店よりも上を行く美味さだった。

市販のルー使ってここまでできるかよフツー……。

大先生・白髪先生・ニコちゃんも最初は怪訝な顔だったが、一口目でもうその味を認めざるを得ないという感じになった。

 

当たり前と言えば当たり前のハナシ、死んだらもう何も食べられない。

ロコモコもビーフストロガノフもイチゴリゾットも、二度と。

他の何かを喰らうってのは生きてる奴だけの特権であり、それが生命の円環だ。

 

だが、そんな生を感じられる場でも、時には惨い現実の話をしなきゃならない時がある。

 

「そんな……酷いっ!」

 

魔法少女・キュゥべえとの契約・ソウルジェム……耳を塞ぎたくなるような真実。

ポッピーのスプーンはしばらく止まっていた。

 

「キュゥべえ……可愛い子だと思ってたのに! 魔法少女だって、可愛いし夢があるなって……。

 なのに、どうしてそんな酷いこと――

「わけがわからないな」

 

やれやれと溜め息を零し、檀黎斗がマグカップをソーサーに置く。

 

「何故君たちはそんなに魂の在処に拘る? キュゥべえの理屈を否定したがる?

 ただの人間と同じ壊れやすい身体のまま戦わせる訳にいかないのは当然だ。

 君たちが仮面ライダーに変身して戦うのと変わりない。

 しかも身体は魔力で修理すればすぐまた動くようになる……実に効率良く便利で安全じゃないか」

「神、お前――

有限の生命など陳腐だ。

 魂を抜き出されても、日常生活には何の支障もなかったんだろう?

 あの身体……ゾンビになることのどこに問題がある?」

 

パシンッ……。

ほんの僅かな間、世界からその残響以外の音が消えたように感じた。

 

振り抜いた平手――肩から上全てをプルプル震わせて、今にも泣き出しそうなポッピーと。

激昂する訳でも赤くなった左頬を押さえる訳でもなく、ただ不服という表情でそれを見上げる檀黎斗。

 

「本気で、そう思ってるの?」

「ああ」

 

即答。

ポッピーはもう一度手を振り上げて、それでも変わらぬ目で自分を見つめてくる檀黎斗に

 

「……っ!」

 

涙を一粒残して、女子部屋に駆けて行った。

 

「「ポッピー!」」

 

慌ててニコちゃんとパラドが後を追う。

永夢も一歩だけ動いたが、流石に女子部屋には入れない。

 

「チッ」

「ッ……」

 

舌打ちして男部屋に戻る白髪先生と、やるせないという顔で続く大先生。

 

「「……」」

 

テーブルには睨む永夢と腕を組んだまま視線を返す檀黎斗、2人を見ている自分。

そして空になった7人分の食器と、まだ3口分くらいあるポッピーのカレーだけが残っていた。



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STAGE 07-02 (side:magica-T.M.)

「騙してたのね、私たちを……」

 

部屋の電気を点ける気力もない。

……むしろ、今はなんだか明るい方が苦しくなってしまいそう。

 

『僕は魔法少女になってくれって、きちんとお願いしたハズだよ?

 実際の姿がどういうものか説明を省略したけれど』

 

ソウルジェムをテーブルに転がして、責めるように……呪うように言っても。

床に座るキュゥべえは悪びれる様子もなく淡々と言葉を返してきて、それが余計に私を逆撫でする。

 

「どうして教えてくれなかったの!?」

『聞かれなかったからさ。知らなければ知らないままで何の不都合もないからね』

 

なにをわかりきったことを一々聞いてきてるんだ。

そんなことまでわざわざ聞くなんて、エネルギーを無駄に消費するだけだよ。

そうとでも思っているとしか感じられない。

自分のした行為を悪と考えていない、合理的なものだという態度。

 

『そもそも君たち人間は、魂の存在なんて最初から自覚できてないんだろう?

 脳は神経細胞の集まりでしかないし、胴体は循環器系の中枢があるだけ。

 そのクセ、生命が維持できなくなると人間は精神まで消滅してしまう。

 そうならないよう僕は君たちの魂を実体化し、手に取ってきちんと守れる形にしてあげた。

 少しでも安全に魔女と戦えるように、ね。

 ドクターが仮面ライダーに変身して戦うのと変わりないよ』

 

私たちが魔法少女になることが、仮面ライダーに変身するのと同じ?

いいえ……違う、違うっ!

彼らは仮面ライダーになっても、ガシャットさえ抜けばまた元の身体に戻ることができる。

私たちはもう、戻れない……!

 

『良かったじゃないか、有限の生命という概念から脱出できて

「大きなお世話よ! そんな余計なこと……」

『はぁ……。君に甘いところがあったのは知ってたけど、戦いに関しては違うと思ってたよ』

 

キュゥべえはわざとらしく溜め息を吐いて、テーブルに上がり、ソウルジェムに近付くと

 

『例えばお腹を銃で撃ち抜かれた場合、肉体の痛覚がどれだけの刺激を受けるかって言うとね』

 

前足でそれを踏みつけた。

黄色い光が漏れて、そして

 

「あッ……うう、アアっ!」

 

お腹を激痛が襲う。

あまりの衝撃に私は立っていられなくなって、床に崩れ落ちた。

 

『これが本来の痛みだよ。ただの一発でも動けやしないだろう?

 君がこれまで戦っていられたのは、強過ぎる苦痛がカットされていたからさ』

「やめて……お願いっ」

『君の意識が肉体と直結していないからこそ可能なことだ。

 おかげで君は多くの魔女を討ち、生き延びて人々を救うことができた』

「やめ、てぇ……!」

 

キュゥべえが前足を退ければ、光も痛みも治まった。

それでも涙が溢れるのは、痛かったからもあるし、怖かったからもあるけれど。

一番はキュゥべえに助けを請うしかなかった自分の醜態が、情けなく悔しかったから。

 

『やろうと思えば完全に痛みを遮断することもできるよ。

 もっとも、それはそれで動きが鈍るからあまりオススメはしないけど』

 

アドバイスのつもりで言葉を続けるキュゥべえが、ひどく憎い。憎い……。

 

「なんで……どうして、私たちをこんな目に……っ」

『どうしても何も、君が自分で選んだんだろう?』

 

嗚咽で辛くなる息が、ヒッと止まってしまった。

 

『君たちの人生は一本道じゃない。喩えるなら木だ。

 スタートである地面からその幹を登っていくけど、やがて枝分かれに出会う。

 その中から一本の枝を選んで、さらに進んで、また枝分かれ……。

 そうして辿り着いた先から見える景色が必ずしも見晴らしのいいものとは限らない。

 でも、間違いなくその景色は君が選択して手に入れた運命そのものだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕と契約して、魔法少女になってよ』

 

≪はい≫  ≪いいえ≫

 

 

 

 

 

≪はい≫

 

 

 

 

 

 

 

 

私が、選択して手に入れた。

私が自分でこうなる運命を選んできたのが悪いって言うの……!?

 

『戦いの運命を受け入れてまで、君には叶えたい望みがあったろう?

 それは間違いなく実現した。君が手に入れた運命じゃないか』

 

――家族でドライブに出かけた帰り。

反対車線から横転してぶつかってくる車。

呼び続けても、ピクリとも動かない両親。

割れた窓ガラスの先……澄み渡るような青と、ガソリンの匂いと、涙の味と、私を見つめる真っ赤な目。

 

もしたったひとつの願い事をやり直せるとしたら、迷わず家族の命を繋ぎ留めたいと祈るだろう。

こんなことになった今でも、私はそう思ってしまう。

 

『あくまで生物種として生まれながらに持ち合わせた身体に拘るなら……。

 人間からバグスターになった彼、檀黎斗も否定するのかい?』

 

どうして黎斗さんのことを……?

パラドさんとポッピーさんもバグスターだけど、それは元からそうなのであって、確かに彼だけは――。

 

……戦うための変身。前科の多さ。()()仮面ライダー。そして、デンジャラス()()()

 

『ああそうだ。ついでだから誤解を解いておこうかな』

「誤解、ですって……?」

『僕は以前、ゲームについて娯楽としての価値しか見出せなかった。でも今は断言できるよ』

 

まただ……。また、真っ赤な瞳が私を映している。

 

 

『檀黎斗のゲームは、人類を救うための物だ』

 

 



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STAGE 07-03 (side:doctor-K.K.)

今日は午後休診の曜日だ。

昼飯を食べ終えた後、出掛けた白髪先生とニコちゃん以外の自分たち6人がいるクリニックの2階は、重たい空気に包まれている。

 

「図ったのか?」

 

切り出したのはパラドだった。

問われた檀黎斗は余裕の表情で、微塵も動揺していないけどな。

 

「さて? 何のことを言っているのかわからないな」

「惚けんなよ。魔法少女の在り方は、お前の理想の()()()()()ってヤツだろ?」

「だから私が作ったシステムだと? それは論理の飛躍だろう」

「……多分、契約のシステムはキュゥべえが作ったもんだ。

 そのキュゥべえがいない間に魔女と使い魔は増えた。

 お前とキュゥべえは、繋がってるんじゃないのか?」

 

自分も気になってた点だが、それは嘲笑で否定される。

 

「それこそこじつけだ。少なくとも、私はアレと手を組んではいない」

「……監察医、お前の見解を聞こう」

「自分もサッパリだ。嘘を吐いている様子はないが、隠し事がないって感じでもない」

「そうか……埒が明かないな。口を割らせるには、相当の労力が必要になりそうだ」

 

鋭い目を向ける大先生だが、檀黎斗はやれるもんならやってみろとでも言うような態度のまま。

それを見て、別の方向性で鋭い目をしてた永夢が口を開いた。

 

「事実がどうかを聞くのは難しいかもしれません」

「ほう? 君にしては随分諦めがいいな」

「だから、元の世界に戻る条件について()()()()()()()()()()()()()()を教えてください」

 

客観的なことを聞いてもはぐらかされるなら、主観的なことを聞いて探るって寸法ね。

 

「本当のクリア条件……そもそも存在するのか?」

「パラド、最初に言ったと思うが、この世界は私の作ったゲームの中ではない。

 何かをクリアすれば脱出できるという保証はない。

 しかし、だからといって魔女と魔法少女について見過ごすこともできないだろう?」

「……。クロトは、マミちゃんたちのことも救おうと思ってるの……?」

「私のゲームは必ず人類を救うよ」

 

それが人類にとっては有難迷惑でも、独り善がりでもか。

 

ハゼッタァーーーーー♪

おっ、買い出しに行った白髪先生からの着信音(永夢と選んで設定した)。

だが、スピーカーモードで通話を押すと、聞こえてきたのは

 

「大我、左上! 次電柱の奴ッ!

 もしもしレーザー? なんかヤバイくらい使い魔がたくさん出てんだけど!?」

 

ニコちゃんの声だ。サポートしながら電話してるらしい。

 

「何が起きてやがる!」

 

少し離れてはいるが、白髪先生の焦った声も聞こえた。

 

「今どこ!?」

「来たことないからわかんないけど、多分風見野と逆側のバイパス!

 結構移動しながら戦ってて、かなり散ってるからそっち追って!」

 

ブツッと電話が切られたが、おそらく戦況把握と指示出しに集中するためで、心配はない。

ニコちゃんには白髪先生の隣が世界一安全な場所だからな。

 

「開業医! どうやら尋問している場合ではないようだな……!」

「ああ! コイツはとんだエマージェンシーだ!」

「早く行かなきゃ!」

 

修正されたばかりのときめきクライシスとガシャコンバグヴァイザーⅡを持って駆け出そうとしたポッピー。

不敵な笑みを一瞬零して、続けて立ち上がる檀黎斗。

 

「待ってください!」

 

それを慌てて永夢が止めた。

 

「……私だけ残って作業を続けろと?」

「今あなたをひとりにして目を離すのはきっと危険です。ポッピーと一緒に行ってください」

 

つまり保護者同伴。

 

「僕とパラドも一緒に出ます」

「協力プレイの方が力を発揮できるからな」

「使い魔は大量に発生していて、しかも広範囲に転移している。なるべく手分けするべきだ。

 小児科医とパラド・檀黎斗とポッピーピポパポ・監察医・俺に分かれてオペを行おう」

「院長が様になってきたじゃない。ノってやるぜ、その案!」

「でも、魔女も使い魔もどんどん強くなってるし……ヒイロもキリヤも、タイガだってひとりじゃ……」

 

確かに、自分と大先生と白髪先生はレベル2までしか変身できない。

というか自分は、バグスターユニオンと感染者との分離能力が取り柄のゆるキャラか、移動速度が取り柄のバイクの二択。

だが、

 

「鏡先生、これを。こちらは花家先生に」

 

檀黎斗が懐から取り出した2つのガシャットは、ドレミファビートとジェットコンバット。

そんなこったろうと思ってた。

どうやらまだガシャットギアデュアルは修正途中らしいが。

これだけの期間があって、しかもマイティブラザーズとときめきクライシスが修正済みとくれば、最初の10本もできていて当然だ。

 

「なるほど、使い慣れたガシャットという訳か」

「さーて、自分は何をプレゼントしていただけるんでしょうか、神様?」

「……これををあげるよ」

 

――ギリギリチャンバラ。

 

てっきりゲキトツロボッツ(使ったことはないし使える仕様かも知らないが)かシャカリキスポーツを渡されるもんと。

なにせ自分たちにとってこのガシャットは因縁を象徴する代物だ。

10本のガシャットを出さなかったのも、単に修正できていないからかコイツが含まれているからかと考えてた。

 

「……いいのかよ?」

「このガシャットなら君も使い慣れている。ドラゴナイトハンターZは荷が重いだろう。

 だがくれぐれも気を付けてくれ。ギリギリチャンバラは()()()()()()()()()ゲームだからね」



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STAGE 07-04 (side:magica-S.K.)

「こんな所まで連れて来て、なんなのよ?」

 

学校サボって部屋でショボくれてるボンクラを呼び出して、風見野までやって来て。

ゆまも入れたアタシたち3人がいるのは、廃墟となった教会の中。

 

当然会ってすぐゆまについて聞かれたから、道すがら説明もした。

普段なら何かうるさく言ってきそうなのに、そう、としか返してこなかったのは、それだけ落ち込んでるってことなんだろう。

不思議だけど幸いなことに、道中は魔女にも使い魔にも出くわさなかった。

 

「ちょいとばかり長い話になる」

 

持っていた紙袋からリンゴを取り出して投げ渡す。

 

「食うかい?」

「……っ」

 

キャッチはしたが、美樹さやかはそれをゴミでも捨てるかのように床に転がしやがった。

テメェ、ふざけ――

 

「てぇーいっ!」

 

ベローンとゆまに捲られる美樹さやかのスカート。

 

「きゃあーっ!?」

 

思いっ切り見えたパンツ。

 

「なっ、なにすんのよぉ!?」

「食べ物を粗末にするとダメなんだよ! そんな悪い人はゆまがやっつけてやる!」

「お、おう……ゆま、ちょっと大人しくしてような」

 

ポンポンとゆまの頭を撫でて宥めて、リンゴを拾いに行かせて。

ふぅ、とアタシはひとつ息を吐いてから昔話を始める。

 

「ここはね、アタシの親父の教会だった」

 

ギョッとしたように美樹さやかは辺りを見回した。

割れたステンドグラスが散らばってるし、床の木だってカビが生えてる。

 

「正直過ぎて優し過ぎる人だった。毎朝新聞を読む度に涙を浮かべて、真剣に悩んでるような人でさ……。

 新しい時代を救うには新しい信仰が必要だって、それが親父の言い分だった。

 だからある時、教義にないことまで信者に説教するようになった。もちろん信者の足はパッタリ途絶えたよ?」

 

「あの人、とうとう本部からも破門されたんだってな」

「ただの胡散臭い新興宗教に成り下がっちまった」

「テロリスト紛いのことでもやらなきゃいいが……」

 

「親父は間違ったことなんて言ってなかった。ただ、人と違うことを話しただけだ。

 5分でいい、ちゃんと聞いてくれれば正しいこと言ってるって誰にでもわかったハズなんだ。

 なのに、誰もあの人の言葉に耳を傾けさえしないのが我慢できなかった。悔しかった。許せなかった。

 一家揃って食う物にも事欠く有様でも、アタシは裕福になりたいとは願わなかったよ。

 ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って願ったんだ」

 

拾ったリンゴを拭くゆまも、泣き出しそうな顔をまたしていて、でもそれをぐっと堪えていた。

 

「次の日から怖いくらいの勢いで信者は増えた。アタシはアタシで、晴れて魔法少女の仲間入りさ」

「……マミさんは、あんたの願い知ってたの?」

「ああ。みんなの幸せを守りたいって思いは同じ、アタシもそうバカみたいに意気込んでたよ。

 親父とアタシたちで、表と裏からこの世界を救うんだって。

 ……でもね、ある時カラクリが親父にバレた。ここに結界を張った魔女を倒した後、見つかっちまったんだ。

 大勢の信者がただ信仰のためじゃなく魔法の力で集まってきたんだと知った時、親父はブチ切れたよ」

 

「全部お前が生み出した幻じゃないか。

 信仰を踏みにじり人を惑わし嘲り笑う……悪魔に魂を売ったんだろう?

 それすらの自覚もなく嬉々として語るお前の姿を、魔女と呼ばずに何と呼ぶんだ

 

「笑っちゃうよね。アタシは毎晩、本物の魔女と戦い続けてたってのに。

 それで親父は壊れちまった。酒に溺れて、頭がイカれて。

 とうとう家族を道連れに無理心中さ。アタシひとりを置き去りにしてね」

 

天罰か、運命か。……いや自分で自分に掛けた呪いだ。

叶えた願いを無意識に拒絶しちまって、それからアタシは自分特有の魔法が使えなくなった。

 

「キョーコ……キョーコはもう、ひとりぼっちじゃないよね?」

「……そうかもな。でも、奇跡ってのはタダじゃないんだ。

 希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。

 そうやって差し引きをゼロにして世の中のバランスは成り立ってるんだよ」

「……。なんでそんな話をあたしに?」

「アンタも誰にどう思われようが気にしなきゃいいのさ。

 さっさと開き直って、好き勝手に自業自得の人生を生きればいい」

「……それって変じゃない?

 あんたは自分のことだけ考えて生きてるハズなのに、なんであたしやその子の心配してくれる訳?」

「……アンタも昔のアタシもゆまも、他人のためっていう間違いから始まった。

 でも、アンタはもう対価としては高過ぎるもんを支払っちまってるんだ。

 だからさ、これからは釣り銭を取り戻すことを考えなよ。

 それは普通のことだし外野に否定する権利はない。

 アタシは弁えてるが、アンタは今も間違い続けてる。見てられないんだよそいつが」

 

汚れの落とされたリンゴをゆまから受け取って、美樹さやかに改めて差し出す。

 

「マミの場合は――アイツは他人のために戦うことそのものを生き甲斐にしてる。

 だからこそ多少の無茶なり融通なり利かせられる。あんなの例外だ。

 普通はそうじゃない。聖人君子で居続けるとしたら、ソイツが特別なだけさ。

 むしろそっちの方が強迫的だし、よっぽど病気だよ」

「……アンタも特別になれなかったから、マミさんから離れたの?」

「……そうさ。マミはアタシを止めようとしたけどな」

 

こんな相棒幻滅だろ? 一緒になんか戦えないだろ?

そう言ったのに、マミはアタシの手を掴んで、アタシはそれを振り解いた。

マミならきっといい仲間が見つかるとも思ってたのもある。

 

あの時、マミが容赦なく撃ってきてたのは本当だ。意外と脳筋みたいなところもあるし。

でも、それはあくまでもアタシを()()()()()の攻撃。

その甘さのせいでマミはアタシを止められなかった。アタシはマミを拒むことができた。

逆に言えば、マミがもし本気で殺しにきてたら――。

 

「……あんたのこと色々と誤解してた。そのことはごめん、謝るよ」

 

よかった。ようやくわかってくれたんだ。

って思った、のに

 

「でもね、あたしはあんたみたいに割り切れる程器用じゃないんだ。

 恭介のために祈ったことを後悔だなんて思いたくない。その意思を嘘にしたくない。

 だから、利益のために使い魔を野放しにするような身勝手な魔法少女にはなりたくない」

 

美樹さやかはリンゴを手に取ろうとはしなかった。

 

「それからさ、あんたそれはどうやって手に入れたの? お店で払ったお金はどうしたの?」

「これはゆまが、おばちゃんの気を引いて――

「ならあたし、そのリンゴは食べられない。貰っても嬉しくない」

 

何も言い返せずに黙り込んだゆま。

後ろの出入口に向いて歩き去って行く美樹さやか。

声は出ていなかったけど、その口はごめんねの形に動いていた。

 

「バカヤロウ! アタシたちは魔法少女なんだぞ!? 他に仲間なんていないんだぞ!!

「あたしはあたしのやり方で戦い続けるよ。

 それがあんたの邪魔になるなら前みたいにこ――掛かってくればいい。

 あたしは負けないし、もう恨んだりしないよ」



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STAGE 07-05 (side:doctor-K.K.)

「3速、変身!」

 

≪ガッチャーン!≫

≪レベルアップ!≫

 

≪爆走! 独走!≫

≪激走! 暴走!≫

≪爆走バイク♪≫

≪アガッチャ!≫

≪ギリッ! ギリッ!≫

≪ギリギリチャンバラ♪≫

 

 

ブーン、ブブブーン、ブーンブンシャカブブンブーン。

バイクの音じゃない。人と蜂を足して2で割ったような黒い使い魔の羽音だ。

1匹や2匹じゃない。20以上はいるし、オマケに本体の魔女らしいビッグサイズもだ。

六角形が連なった結界の壁や床も、蜂の巣を模してるってとこか。

 

この量の使い魔が一ヵ所にいてくれて、むしろ好都合だと思った。

他のライダーが相手してるのは別の魔女の使い魔かもしれないが……。

少なくとも、ここで自分が駆除しちまえば、コイツらの被害はこれ以上広まらないんだからな。

 

 

≪キメワザ!≫

≪ギリギリクリティカルフィニッシュ!≫

 

 

だが、弓モードのガシャコンスパローでいくら射抜いても、次から次へと巣から出てきやがる。

 

「キリがねぇな。本体を叩かなきゃ意味がなさそうだ!」

 

≪ス・パーン!≫

 

ガシャコンスパローを鎌モードに変えて、一気に距離を詰めた。

デカイせいなのか、見かけに依らず本体の魔女の動きはトロい。

そんなんじゃ自分の速さにはノれねぇぜ!

1体だけなら、魔女とタイマン張っても負ける気はしねぇんだよ!

 

――と、いうところまではイイ感じだったんだが。

 

「……もしかして自分、フラグ回収しちゃった?」

 

後少しで首を狩れるって瞬間、足元から生えてきたハエトリグサのような触手。

結界の景色が歪んで混ざって、ツリガネソウみたいな頭と針山みたいな巨躯の白い魔女が現れる。

()()()()()()なんて考えたくもないが、ソイツの物であろう甘い匂いの蜜の()が降ってきた。

 

「ノせられてたのは自分の方かッ!」

 

蜂と花、針と針山。共生型の魔女なのか?

まるで姉妹のような巧みな連携だ。使い魔も触手も、手数が多過ぎる!

 

……手数が、多過ぎる?

 

「くれぐれも気を付けてくれ。ギリギリチャンバラは()()()()()()()()()ゲームだからね」

 

使い魔にガシャコンスパローを刺し飛ばされ、触手に体を締め上げられ。

 

「マジか」

 

2体の魔女の攻撃で地面に叩きつけられ、仰向け大の字で動けなくなる。

ライダーゲージの残りが少なくなったことを知らせる、警告音が響いた。

 

 

 

監察医として、いや、それを志した時には既に自分は死を身近にあるものと感じていた。

簡単に死ぬって言うと語弊があるが、人間の身体的構造は決して完全無敵とは言えない。

細菌、ウイルス、毒、事件、事故……死はいくらでもその辺に潜んでる。

遺体と出会う度にそれを再認識したし、ゼロデイで藍原淳吾が死んだ時は言うまでもない。

 

「真実と共に、闇に追放してやる」

 

だが、初めてハッキリと自分自身の死を確信したのも、こんな()の中だった。

その前にもボコボコにされたけど、入院で済んだからな、一応。

デンジャラスゾンビで変身した檀黎斗に自分はギリギリチャンバラで挑み、ゲームオーバーにされた。

人間・九条貴利矢としての生命はそこで終わった……ハズだった。本来は。

 

「私とこの世界諸共、滅びるがいい」

 

次に死を確信したのは、ゲームの世界の中だ。

檀黎斗のバックアップが絶望のエネルギーを集めて現実世界に復活するために始めたゲーム。

そこに呼び出された死者の中に自分も含まれていた。

厳密に言うと、その時は最終的に自分から死に飛び込んだってことになる。

 

「生き残るのは私だ!」

 

その次は、バグスターとして復活した後、ドクターマイティを作ってる最中。

ゲムデウスウイルスの蔓延したゲームエリアで檀黎斗と戦ってた時だ。

どっちかが抗体を完成させられれば良かったし、先にアイツが完成させた時はこれでお役御免かと思ったが。

神の恵みのつもりだったのか、自分はアイツの手で命を救われた。

 

檀正宗、ジョニー・マキシマ、最上魁星……その先も色々あった。

だが、このままじゃ死んじまう、ではなく、あっ自分死んだわ、とまで思ったのはあの時――。

 

淳吾のことも、人間としても、死者としても、バグスターになってからでも。

ミステリアスなことに、自分の死の確信には檀黎斗という男がいつも付いて回る。

 

「この時代の倫理が、私を拒絶するならば――。

 次に生まれた時……時代は、私に追いついているか?」

 

あの時も()だった。

脱獄に成功し、ゴッドマキシマムマイティを生み出し、ゾンビクロニクルを始めた檀黎斗。

それを止めるために自分は白衣を捨てて、このギリギリチャンバラで変身して戦った。

 

ゴライダーやドクターマイティの時なんかと同じで、自分は捨て身の覚悟だった。

神殺しに挑むんだ、当然っちゃ当然だろ?

だが、檀黎斗は自分にリプログラミングを仕組んでいて、自分は死ぬどころか人間としての復活まで遂げた。

 

「これ以上、マイティノベルXは攻略させない」

 

最後の死の確信は、これまた檀黎斗が作ったマイティノベルの中で、洗脳された永夢と戦った時。

なにせハイパームテキで手加減なしだったもんなぁ? アレは冗談抜きでキツかったぜ?

 

……なぁ、永夢。また()だ。

ゲムデウスウイルスから檀黎斗に助けられ、バグスターウイルス化からポッピーに助けられ、お前から大先生と白髪先生(とニコちゃん)に助けられた自分だが。

今は、また()が降ってるんだ。

 

「こんな浮かばれない最期があるか?」

 

運命の時が訪れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪キメワザ!≫

≪ガッチャーン!≫

≪マイティダブルクリティカルストライク!≫

 

 

 

 

 

――るのは、もう少し先の話らしい。



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STAGE 07-06 (side:magica-M.S.)

「何かあったんじゃないかと心配していましたの。

 ここのところ物騒なニュースばかりですし、私もつい最近……」

 

風見野に行ってる間に仮面ライダーが戦ってたって聞いた、その翌日の放課後。

あたしは仁美に呼び出されて、ファストフードショップに来ていた。

 

ちょっと前まではみんなでよく来てたし、後に控えてる魔女との戦いは怖くても、仲良く喋ってたのに。

なんだかすごく久し振りにやって来た気がする。

つい癖でホットドッグセットを頼んじゃったけど……。

対称的に仁美がドリンクしか頼んでいないのは、マミさんもいつもそうだったのを思い出させた。

 

……話がしたかったけど、マミさんは昨日も学校を休んでいたらしい。

昨日どうしていたかもよくわからない。

 

「ごめん、心配かけちゃって」

「お友達を心配するのは当り前ですわ。

 でも、ごめんなさい。今日はそのことではなくて……恋の相談ですの」

「……」

「私ね、前からさやかさんやまどかさんに秘密にしてきたことがあるんです」

 

冗談なんかで言ってるんじゃない。鈍感なあたしでも、仁美が真剣だってことは察せた。

 

「ずっと前から、私、上条恭介くんのことお慕いしてましたの」

「っ……そ、そうなんだー」

 

動揺を誤魔化そうとして、余計に声が上ずってしまう。

 

「あはは、まさか仁美がねぇー。恭介の奴、隅に置けないなぁー」

「さやかさんは、上条くんとは幼馴染でしたわね」

「あー……まぁその、腐れ縁っていうかなんていうか……」

「本当にそれだけ?」

 

やめてよ……そんな風に綺麗な目で、あたしのこと見ないでよ。

 

「私、決めたんですの。もう自分に嘘は吐かないって。

 あなたはどうですか? 自分の心に嘘を吐いていませんか? 目を背けてはいませんか?」

「な、何の話をしてるのさ……」

「あなたは私の大切なお友達ですわ。だから、抜け駆けも横取りもしたくないんですの」

 

いつか自分もしていたような気がする、真っ直ぐな目。

ハッキリと見るものを絞ることができているということでもあるし。

逆に、見えていないものとか知らないものとか、その存在すら眼中にないということでもある。

でもそれは魔法少女や魔女のことを知らないんだから当たり前だって、自分の心に言い聞かせた。

何度も何度も、脅迫するみたいに言い聞かせた。

 

「上条くんのことを見つめていた時間は、私よりさやかさんの方が上ですわ。

 だから、あなたには私の先を越す権利があるべきです」

「先って――」

「私、明日の放課後に上条くんに告白します。

 丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは後悔なさらないよう決めてください。

 上条くんに気持ちを伝えるべきかどうか」

 

――()()()()()()()()()()()()

思ったのはほんの一瞬だけ。けどあたしはそんな自分の心が許せなくて、とてもとても憎かった。

 

 

 

仁美は、恭介には勿体ないくらいいい子だ。

告白されたら多分……あたしなんかよりお似合いで……。

部屋の中にいてもずっと2人のことを考えてしまう。

 

身勝手な魔法少女にはならない、そう誓った。

それを胸に、これは気分転換だなんて思いを否定して、夜の街にパトロールに出る。

 

「役には立たないかもしれないけど……さやかちゃんをひとりぼっちにしたくないから」

 

一昨日のことや、昨日休んだこと、今日の学校での様子から心配して家まで来たまどかが、そう言ってついてきてくれた。

嬉しいけれど、その優しさが今のあたしには眩し過ぎて、痛い。

 

すぐに発見した魔女の本体は、髪が長い少女のような姿で手を組んでいて、まるで祈りを捧げ続けているかのよう。

人の生命と笑顔のために祈って戦ってるのはこっちの方だってのに……ふざけるな。

 

「うあぁぁぁッ!」

 

木の枝みたいな触手が伸びてきて、あたしの身体をどれだけ切り裂いて突き刺しても、あたしは止まらない。

構わずどんどん前に進んで、傷付いて、血を流して、ただ魔女を仕留めに向かう。

 

「さやかちゃん、何してるの!? 痛くないの!?

 危ないよ……死んじゃうかもしれないんだよ!?」

「あたし、もう死んでるもん。ゾンビだもん。

 こんな身体で抱き締めてなんて言えない。キスしてなんて言えない。

 魔女を殺して人を救うためだけの存在に……特別な聖人君子になってやろうじゃん。

 強迫的でも病気でも、どうでもいい!」

「ダメだよっ!!」

 

まどかは悲痛な声であたしに叫び続けた。

 

「そんなやり方で戦ってたら、さやかちゃんのためにならないよ!」

「……だったらあんたが戦ってよ」

 

ああ、でもダメだ。真っ黒で醜い気持ちが、言葉が溢れてきて止まらない。

 

「キュゥべえから聞いた聞いたわよ。あんた誰よりも魔法少女としての素質があるんでしょ?

 あたしみたいな苦労をしなくても、簡単に魔女をやっつけられるんでしょ?」

「わたしが……?」

「あたしのために何かしようって言うんなら、まずあたしと同じ立場になってみなさいよ。

 ひとつしかない命張って、必死に戦ってみなさいよ。

 無理でしょ? 当然だよね。ただの同情で人間やめられる訳ないもんね!?

 何でもできるクセに何もしないあんたの代わりに、あたしがこんな目に遭ってるの!

 それを棚に上げて、知ったようなこと言わないで!!」

 

……バカだ。

頭ではそんなこと言ったって仕方ないってわかってるのに、心は誰にも止められない。

自分でも、吐き出さないとやっていけなくて。あたし、壊れちゃったのかな。

 

「あはは……! その気になれば痛みなんて完全に消しちゃえるんだ……!!」

 

このまま身体の痛みごと、心の痛みまで壊れて消えてしまえばいいのに。

 

「やめて……もうやめてっ!」

 

何度も何度も、どれだけ反撃を喰らっても返り血を浴びても、剣を振り続ける。

先に壊れたのは、魔女の方だった。

 

 

See you Next story

 


 

次回、翻転のstory!

 

お前は本当に檀黎斗なのか?

ラスボス前のザコラッシュ

あたしたち魔法少女って

これも才能の旅か?

人は死ぬよ、いつか必ず死ぬ

みんな死ぬしかないじゃない!

どうして目を逸らすの?

魔法少女と呼ぶべきだよね

さやかああああああああああああああ!!!!

無限の生命なんて認めません

 

 

Real heart(本当の気持ち)と向き合えますか?

 

 

 

コンテニューしてでもクリアする

 

 

 




Fellow soldier(フェロウソルジャー):戦友。soldierの語源は金貨を意味するsolidusらしい。
タイトルとしての由来はVシネマ『仮面ライダーブレイブ&仮面ライダースナイプ』の主題歌。
慣れ合うという感じでもなく、しかしただの仕事仲間という訳でもなく……愚直で不器用な彼らには「戦友」がとても的を射てるなと思いました。


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ステージ8『Real heartと向き合えますか?』
STAGE 08-01 (side:magica-K.M.)


試練が終わる。叛逆が始まる。


もしこの世界にヒーローが存在するとすれば、ああいう人たちのことを言うんだと思います。

どんな逆境でも決して諦めずに立ち向かい、人の命を救う。

そんなヒーローにわたしたちは守られています。

 

わたしもそんなヒーローに憧れていました。

大事な決断だと思うと、うじうじしてしまって真っ直ぐ進むことができなくなる自分から、変身したい。

自分の考えをすぐ言えて、すぐ行動に移せて、迷わず進めるようになりたい。

 

でも――あなたならどうですか?

憧れ続けていたものがやっと見つかっても、それが夢幻のように儚く砕けてしまったら。

自分の中で疼く不安や絶望……本当の気持ちと向き合えますか?

 

わたしは、何もできずにただ泣いています。

 

 

 

「……ママだ」

 

午前二時過ぎ。丑三つ時。

玄関が開く音、控えめな足音、シャワーの音が聞こえてきました。

しばらくしてから、ベッドを抜けて部屋を出て涙をゴシゴシ拭って、わたしは階段を降ります。

キッチンのテーブルには

 

「お疲れ様。冷蔵庫にポテトサラダあります」

 

という、パパの書き置き。

 

「おっ、まどか? ただいま。眠れないのかい?」

「うん、おかえり。……ちょっといい?」

「もちろん」

 

すぐにそう返してくれたママはバスローブ姿で、タオルで髪を拭いています。

書き置きを見て微笑むと、冷蔵庫からポテトサラダと氷とリンゴジュース、棚からウイスキーとグラス2つを出してくれました。

 

「……お疲れ様」

「お疲れ様」

 

静寂と月明りと、少しの眠気。

お酒とジュースがそれぞれ注がれたグラスが合わさって鳴る、軽くて高い音。

母娘水入らずの晩酌は、いつもは話せないことでも話せてしまう、そんな不思議な雰囲気があります。

 

「……友達がね、大変なの。やってることも言ってることも多分間違ってなくて。

 なのに、正しいことを頑張ろうとすればする程、どんどんひどいことになっていくの」

「よくあることさ」

 

アッサリと言われてわたしは少し驚いてしまいました。

 

「悔しいけどね、正しいことだけ積み上げてけばハッピーエンドが手に入るって訳じゃない。

 寧ろみんながみんな自分の正しさを信じ込んで意固地になる程に、幸せって遠ざかってくもんだよ」

「間違ってないのに幸せになれないなんて……ひどいよ」

 

うん、と静かに頷くママ。

 

「わたし、どうしたらいいんだろ……」

「そいつばかりは、他人が口を突っ込んでも綺麗な解決はつかないねぇ」

 

友達は、他人なのかな?

それとも、友達になれてないから他人なのかな……?

 

「たとえ綺麗じゃない方法だとしても、解決したいかい?」

「――うん」

「なら間違えればいいさ」

「え……?」

 

理解できなくて困惑するわたしの頭を、ママは撫でて微笑みます。

 

「正し過ぎるその子の分まで誰かが間違えてあげればいい。

 ずるい嘘吐いたり怖いものから逃げ出したり……。

 でもそれが後になってみたら正解だったってわかることがある。

 本当に他にどうしようもない程どん詰まりになったら、いっそ思い切って間違えちゃうのも手なんだよ」

「それがその子のためになるって、わかってもらえるかな……?」

「わかってもらえない時もある。特にすぐにはね。言ったろ、綺麗な解決じゃないって。

 その子のこと諦めるか誤解されるか、どっちがマシだい?」

「……」

 

答えられませんでした。どっちがマシか、まだわかりませんでした。

でもそんな時、マミさんやさやかちゃん、ドクターのみんなの姿が浮かんで。

そしてどうしてか、ほむらちゃんもその中に……。

 

「まどか、アンタはいい子に育った。嘘も吐かないし、悪いこともしない。

 いつだって正しくあろうとして頑張ってる。子どもとしてはもう合格だ」

 

ママはわたしの頭から手を離して、お酒を一口飲みます。

わたしも真似するようにリンゴジュースを口にして。

褒められた嬉しさと、まだ合格じゃないって言いたくなる思いがせめぎ合うのを受け入れようとします。

 

「だからさ。大人になる前に、今度は間違え方もちゃんと勉強しておきな?」

「勉強、なの?」

「若い内は怪我の治りも早い。上手な転び方覚えといたら後々きっと役に立つよ?

 大人になっちゃうとね、どんどん間違うのが難しくなっちゃうんだ。

 背負ったものが増える程ヘタを打てなくなってく。

 ひたすら正しくあろうとして、空っぽの自分を隠そうとする奴だっている」

 

人を救うためだけの存在、特別な聖人君子。

 

「それって、辛くない……?」

「生きてりゃ誰だって辛いのさ。

 でも、気軽にやめたいなんて思うんじゃないよ? 大事なのは続けることだ」

「……うん!」

 

……少し酸っぱくて、けど甘い。

わたしはそこでやっとリンゴジュースの味を感じられました。

いつの間にか目からポロポロ涙が零れていたことにも気付きました。

 

この溢れてくる気持ちはきっと、無視したり止めたり、捨てたり壊したりしちゃいけないものなんだ。

素直のままで素顔のままの、わたしの本当の気持ち。

 

運命をひっくり返すだけの奇跡を起こす力がわたしにあるなんて信じられないけど。

もし本当に夢や幻を掴む力があるなら、わたしは――



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STAGE 08-02 (side:doctor-K.K.)

「これも才能の旅か?」

 

17時過ぎの鏡総合クリニック2階。終業から夕飯までの間のパトロールに出る前。

ガシャットギア デュアルを受け取ったパラドが、作業机の椅子に座る檀黎斗に問う。

大先生と白髪先生もβを1本ずつ手にしていて、永夢はマキシマムマイティX、自分は2本目の爆走バイクを渡された。

 

「はぁ~、まだ私のことを疑っているのか。何度言わせれば気が済むんだ?

 この世界は私の作ったゲームの中ではないし、私は魔法少女の契約に携わっていない。

 そして魔法少女や魔女のことを看過する気もない」

 

微塵の動揺も見せない。余裕の態度を崩さない。あと嘲笑。この前と同じ。

 

「でも、神の才能を持つ黎斗さんなら、僕たちがまだ知らないことにもとっくに気付いてるんですよね?」

「見え透いた挑発だな。……魔女と使い魔が急増している」

「そんなことは俺たちでも知っている」

 

早く結論を言えと言いたそうな大先生。

 

「ではその理由は?」

「! テメェ、知ってて黙って――」

 

詰め寄る白髪先生を檀黎斗は腕を伸ばして制止する。

 

「焦る気持ちはわかるが、人の話は最後まで聞いてもらおうか。

 もっとも、私は()ではないが。魔法少女と同じようにね」

「……ゴチャゴチャ勿体つけないで早く教えてくれませんかねぇ、()()?」

 

今度はフンとふてぶてしく鼻を鳴らして腕を組み直した。

 

「この説で間違いないという確証はないが、考えられる理由は多くない。

 私が特に疑っているのは、より強力な魔女の接近に()()()()()()()可能性だ」

「ワルプルギスの夜……今のコレがラスボス前のザコラッシュってこと!?」

 

自然災害とまで認識されるようなヤベーイ魔女。話には聞いていた。

なるほどソイツが近付いてきてる影響なら合点がいく、が

 

「まるでゲームの最終ステージみたいだなぁ?」

「やれやれ。そう言われると思って黙っていたんだ。

 私に隠し事があるのは事実だが、君たちも私に伝えていない情報がたくさんあるだろ?

 そのワルプルギスの夜の話も、私は聞いていない」

「テメェにベラベラ話す訳ねぇだろ」

 

しまった、という感じのニコちゃんを透かさずフォローする白髪先生。さっすが~。

 

「情報の共有は生存戦略における鉄則と、ドクターの君たちならよく知っているハズだが?」

「お前に情報渡したら、それこそ致命傷を招くだろ」

「パラドの仰る通りだわ」

「ワルプルギスの夜について心当たりはあるんですか?」

「……ヨーロッパで4月から5月に変わる夜に行われる祭りの名前だ。

 意味合いは様々だが、基本的には魔女たちの宴――サバトが行われるとされる」

 

檀黎斗の手の上でクルクル回されるマジックザウィザードガシャット。久し振りに見た気がする。

 

「Ich denke doch, das war recht klug gemacht:

 Zum Brocken wandeln wir in der Walpurgisnacht, Um uns beliebig nun hieselbst zu isolieren.*1

 ゲーテのファウスト内でも描写され、創作物でもよくモチーフにされているね」

 

ガシャットを弄ぶのを止めて立ち上がったその行く手は、大先生が阻んだ。

 

「お前のウンチクも出撃もノーサンキューだ。

 強力な魔女が近付いているというのなら、ハイパームテキガシャットの修正が最優先だろう。

 夕食作り兼監視役のポッピーピポパポと残り作業を続けろ。……これは院長命令だ」

 

やれやれと椅子に戻る檀黎斗。浮かない顔のポッピー。

階段を降りていく大先生に白髪先生とニコちゃん。

何か考えてからそれに続く永夢とパラド。

 

「――最後に1つだけ答えろ」

 

ついて行くフリを一瞬して、自分は振り返る。

 

お前は本当に檀黎斗なのか?

「……()()()()か。難しい質問だな」

「あ?」

「母親の胎内から産まれたそのままの存在は既にいない。パラドに消滅させられたのだからね。

 だがデータはプロトガシャットに保存されていて、私はバグスターとして復活を果たした。

 システムは完璧だ。消滅者の人格は完全に保存されている。最近で言うところの魂か。

 しかし、器に拘る君たちからすれば、復活した私を()()()()と呼べるのか?」

 

当たり前と言えば当たり前のハナシ、死んだらもう何も食べられない。

ロコモコもビーフストロガノフもイチゴリゾットも、二度と。

それと同じくらい当たり前のハナシ、死んだ人間は生き返らない。

だがその常識は、たったひとりの男によって揺らがされてしまった。

 

「君も同じだろう、九条貴利矢?

 私のリプログラミングで人間に戻ったが、君は本当に九条貴利矢なのか?

 

監察医の自分が、不可逆な死への叛逆を一番近くで経験する。

皮肉にしてはあまりにも残酷過ぎだ。

 

グーパーしようとすればできるし、ちゃんと触感もある。

この目は手を見れているし、話は聴こえるし、消毒液の匂いがしてるのもわかる。

口の中も、さっき飲んだ砂糖たっぷりのコーヒーの味が少し残ってるような気がする。

 

この身体と感覚、心は確かに自分のものだ。

あの雨の日のことも、単なる記憶じゃなく明確な実感がある。

死んだ実感はあるのに、今自分は生きている。

 

「私の場合、さらに引っ掛かりとなる点がもう1つある。

 君にバグスターとしてもゲームオーバーにされたハズなのだからね。

 にも拘らず今ここにいる私を()()()()と呼べるかとなると、一概には答えられない。

 ……だか、それでもハッキリと答えておこう」

 

 

「間違いなく私は檀黎斗だ」

 

 

 

 

 

それは神の名を捨てたという明言だったのか。

それとも、自分たちへの宣戦布告だったのか。

*1
だが随分気の利いたやり方だと思うよ。ワルプルギスの夜にブロッケン山へ来て、勝手にこんな方角へ避けてしまうとは。



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STAGE 08-03 (side:magica-S.K.)

「ここで会うのも久し振りね」

 

18時前。人気のない公園。

いつかどっかの誰かさんとやり合った場所。

 

「なんだよ、学校サボったのか」

 

その誰かさんは、制服ではなく私服を着ていた。

見滝原中からここまではちょっと距離がある。

下校中や一旦帰宅してからだとしたら不自然だ。

 

「……その子は?」

「ゆまはゆまだよ。こんばんわ」

「……こんばんわ。私はマミよ」

 

いつもと違う不器用な笑みをゆまに返して、マミは視線をこっちに戻した。

 

「説明してもらえるかしら?」

「話しかけてきたのはそっちだし、こっちの質問には答えてないのにか?」

「……」

 

コイツ、本当に巴マミか?

そりゃあメンタル弱いことくらい知ってるけどさ、ここまで生気のない目は初めてだ。

 

「美樹さんを探しているの。知らない?」

「また質問返しかよ」

「さやかおねぇちゃん? 知らないよ」

「そう……」

 

何かあったのか、って聞いてもフツーに答えてくれそうにないねぇ。

アイツもかなり弱ってるだろうけどさ……。ここはちょっと突いてみるか。

 

「過去の後輩なんざどうでもいい。今の後輩が可愛くて仕方ないってか?」

「……あなた、自分を私の後輩とか友達とか思ったことないんでしょう?」

「っ!」

 

 

「マミさんは、友達ってのとはちょっと違うっていうか……」

 

 

古い記憶が蘇った。

 

「ええ、そうよ。あなたのことなんかどうでもいいの。

 美樹さんのお友達が、彼女の想い人に告白するって鹿目さんから聞いて。

 今日学校に来てないって連絡を受けて、一応先輩らしく心配してみてるけど。

 本当は私、美樹さんのこともどうでもいいのかもしれない」

「お、オイ……マジでどうしたんだ?」

「こんな先輩幻滅でしょう? 一緒になんか戦えないでしょう?

 でも仕方ないわよね。なれないクセに正義の味方を気取って。

 あなたたちを欺き続けたのも、私の選択した運命だもの」

「いい加減に――ッ!?」

 

すっと見せてきたソウルジェムは黒く染まっていて、形もなんだか歪んで見えた。

 

「少し前、この近くで魔法少女が殺される事件があったのを知っているかしら?

 あなた、他の魔法少女を……特に美樹さんや私みたいな子を邪魔に思ってたわよね?」

「お前……本気で言ってんのか?」

「……あなたは後輩でも友達でもないけれど。

 でも、戦い方を教えた身として、私があなたを止める」

 

黄色い光が溢れてマミを包んで、目が眩んでる間にいくつもの銃が召喚されていた。

アタシもソウルジェムを取り出してすぐに変身して、一気に駆け出す。

 

「キョーコ!」

「離れてろ!」

 

走れ、跳べ、ともかく動け。小回りの利く速さならアタシが上。

マミの銃は構えてから撃つまでに少し間がある。

当たらなければどうってことない、けど……!

 

「面白いモン作れるようになったじゃんか!」

 

範囲攻撃ならアタシの得手だったハズなのに。

張り巡らされたリボンが槍の行方とアタシの動きを邪魔する。

 

「大したモノじゃないわ。素早い子にはこっちの方が効果あるもの」

「ただでさえ手数で勝負のアンタが、いつまで魔力が持つかねぇ?」

 

変だ。確かにアタシには有効な戦術だろうけど。

マミのソウルジェムも濁ってんのに、こんな燃費の悪い方法を採るか?

 

「まさかマミ、――ッ!」

 

何を狙ってるか気付いた時、ショックで反応が遅れた。

弾丸に頬を掠められてさらに少し動きが鈍る。

 

「終わりにしましょう」

 

これだけのフリーズでも動き回ってたアタシに銃をぶっ放すには充分のハズだ!

マズイ、どうする……!?

 

「ダメっ!」

 

ゆま。今のアタシにいる家族。

 

 

「佐倉さんも、不得手な治癒魔法をカバーできさえすれば、右に出る者はいないくらいに成長すると思う」

「そ、そう?」

「そうよ! だから自信を持って?

 こんなに優秀な子が友達になってくれて、私も鼻が高いんだから!」

「……ねぇマミさん。アタシのこといつも友達って言ってくれるけどさ。

 アタシにとってのマミさんは、友達ってのとはちょっと違うっていうか……」

「……どういうこと?」

「えーっと、変な意味じゃなくてさ。その――ううん、やめとく!」

 

 

ああ、そうだ。マミはアタシの――

 

「えっ!?」

 

マミが捉えたアタシの姿が、ほんの僅かな間歪んで消えた。

 

「ハアアア!」

 

標的を失った銃口が動けない隙に、矛先がマミを叩く。

 

幻惑の魔法。幻で信仰を踏みにじり人を惑わし嘲り笑う魔法。

無意識に拒絶して封じてしまった、アタシの願い。

 

「使えるように……?」

「わかってんだろ。こんなの一瞬感覚が戻っただけさ。

 けど、アタシを本気で殺すつもりのないアンタには充分だったね」

 

変身を解くと、地面に転がったマミは呻くように返してきた。

 

「あなただって……私を、本気で、殺しにきて……ない、じゃない」

「アタシも魔法少女だ。()()()()()ノせられないよ」

 

まっ、戦い始めた時点でちょっとノせられてるけど。

魔法少女殺しの被害者の遺言は()()

フツーに考えりゃアタシじゃないし、マミだってわかってたハズだし。

だからって、自分の命を投げ出す選択なんかしてほしくなかったけれど。

 

「……美樹さやかはアタシが探し出してやる。行くぞ、ゆま」

「でもっ!」

「行くんだ!!」

 

子ども相手にマジになるなんざ、アタシも大人げない。

けど、早くしないと――追い詰められたアイツはきっと自滅するだけだ。

希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。

優し過ぎる奴が最後にどうなるかは、アタシはよく知ってる。今も見た。

 

「ねぇ、佐倉さん……。私はあなたの、何なの……? 私は、何になれると言うの……?」

「……もしアンタが本気で撃つ必要を感じたなら、アタシはそれを受け入れる。

 そのくらいには、まだ信じてるんだ」

 

アタシたち、友達にも家族にもなれないかもしれないけどさ、それでも――



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STAGE 08-04 (side:doctor-P.P.)

お料理をするのは楽しい。誰かと一緒に作ってるなら、もっと楽しい。

クロトとカレーを作っていてすごく楽しかった。

でも、今日は私がひとりでご飯を炊いて、お味噌汁を作って、おかずを用意して……。

みんな、ごめんなさい。今晩だけはおいしくできたって自信がない。

 

鏡総合クリニックの2階。大きなテーブルがあるから、私たちの食卓にもなってる場所。

クロトはハイパームテキをコンピューターに繋いで、ずっとキーボードを叩いてる。

突っ伏してみんなを待ってるけど、まだ誰も帰ってこない。

カタカタって音だけしか聴こえない。

 

「――私たちがこの世界に来る少し前、近くで魔法少女が襲われる事件があったんだって」

 

みんな、ごめんなさい。私もう我慢できない。

 

「その子が遺した言葉はね、()()だったの」

「…………」

「クロトじゃない……よね? クロトは、魔法少女も救おうとしてるんだよね……?」

「…………」

 

何も言ってくれない。何も応えてくれない。

ねぇ……聴かせて、心に秘めた気持ちを。

 

「どうして目を逸らすの? どうして黙ってるの?」

 

教えてよ……その心はどこに向かっているの?

 

「ポッピー、君は私の母(檀櫻子)ではないよ」

「っ……」

 

そんなこと、わかって――

 

「ポッピー! 救急箱を!」

 

叫びそうになった時、下の階からエムの声が聞こえてきた。

大変! 誰かケガしたの!?

 

「こんな身体、手当てする必要なんか……」

 

慌てて降りてみると、エムが肩を貸していたのはマミちゃんだった。

待合室のイスに座らせてあげるけど、なんだかすごく元気がなくて、それはケガをしてるからじゃなくて……。

 

「……。手当てって、()()()()()って書くんだ。

 手を当てられるだけで心が落ち着くこともある。

 オカルトな意味じゃなくて、身も蓋もない言い方をすれば思い込みだけど。

 でも……僕の気持ちが、こうしてれば、ほんの少しでも伝わらないかな……?」

「あ……っ」

 

消毒して包帯を巻きながら、エムが優しく語り掛ける。

下唇を噛んだマミちゃんの目から、涙がポロポロ零れてくる。

仮野明日那の姿でお手伝いする私も同じ。

 

その様子を少し離れてクロトが見ていたことは、その時には気付けなかった。

 

「何があったのか、聞いてもいい?」

「……私、佐倉さんに自分を殺してもらおうかなって思ったんです」

 

エムの手が一瞬止まって、でもすぐ動き出す。

 

「キュゥべえが言ってました。こんなことになる運命を選んだのは、私自身だって」

 

また止まりかけて、なんとか動かし続ける。

 

「ずっと色んなことを考えてました。

 願い事をやり直せるとしたら、迷わず家族の命を繋ぎ留めたいと祈るとか……。

 それが辛くて……だから、もうやめたいなって……。

 なんてこと考えるんだって、きっと怒ってますよね。ドクターだもの」

「そんなこと、これっぽっちも思わないよ……。僕には特別な何かもなかったけど、でも……」

「えっ……?」

「それで? 佐倉杏子はどうした?」

「檀、黎斗さん……」

 

エムの呟きに驚いていたマミちゃんだけど、クロトに話しかけられると体がピクッとした。

もう。せっかく少し落ち着いてきてたみたいなのに、また緊張に戻っちゃったじゃない。

 

「やれやれ、この期に及んでまだ私を警戒しているのか。

 少なくとも私は、君よりは命の尊さを理解しているんだが?」

「……人類を救うためのゲーム、ですか?」

「そうとも。私の渡したゲームはプレイしたか?」

「……始めてすぐゲームオーバーになって、やめました」

「なるほど。君はコンテニューしなかったんだな」

 

腕を組んで、ゲームを続けなかったことに怒ってるのか、何かわかって納得してるのか、よくわかんない顔。

 

「あの、ごめんくださーい。……マミさん!?」

 

エムが帰ってきた時ロックを外した自動ドアから入ってきたのは

 

「まどかちゃん? どうしたの、こんな時間に?」

「あ、えっと――」

 

――まどかちゃんの話とマミちゃんの言ってたことをまとめると。

お友達がさやかちゃんに、キョースケくんに告白するって宣言してきて。

さやかちゃんは自分の身体がああなってるから、どうしようもないって思い詰めちゃって。

そのことを相談されたマミちゃんも追い詰められてて、わざとキョーコちゃんを挑発して、やめようとした。

 

ああ、どうして色んなことのタイミングが重なってしまうんだろう?

今はキョーコちゃんがさやかちゃんを探しているみたいだけど……。

 

「私たちも探さなきゃ! ヒイロたちにも連絡しないと!」

「うん。……黎斗さんなら、すぐに探し出せますか?」

 

エムの目はクロトを脅しているような――ううん、信頼してるの……?

 

「もちろん。彼女たちの魔力の波長は記録している。

 ここでも方角程度ならわかる。正確な位置は、近付けばわかるだろう」

「なら、行きましょう」



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STAGE 08-05 (side:magica-S.K.)

「さやかああああああああああああああ!!!!」

 

ゆまの手を引いて走りながら名前を叫び続ける。

なんでこんな必死になってんのかな、アタシ。

でも――

 

「さやかおねぇちゃああああああああん!!!!」

 

最後に愛と勇気が負けるストーリーなんて、そんなのアタシが許さない。

人のために頑張った奴がなんで傷付かなきゃならないんだ?

そんな世界おかしいじゃん。神様……父さん!

 

「キョーコ! アレ!!」

 

ゆまが指差したのは、やっと見付けたのは駅のホームのベンチだった。

 

「ゆま、コレで好きなジュース選びな」

「……うん」

 

100円玉を2つ渡してちょっと離れた自販機に行かせ、アタシはベンチに座るさやかに歩み寄る。

 

「よぉ。聞こえてたんなら、返事くらいしろっての」

「……悪いね、手間かけさせちゃって」

「なんだよ。らしくないじゃんかよ?」

「別にもう、どうでもよくなっちゃったからね……。

 何が大切で何を守ろうとしてたのか……もう何もかも訳わかんなくなっちゃった」

「オイ――ッ!?」

 

すっと見せてきたソウルジェムは黒く染まっていて、形もなんだか歪んで見えた。

 

「希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって、いつだったかあんた言ってたよね。

 今ならそれよくわかるよ。確かにあたしは何人か救いもしたけどさ。

 だけどその分、心には恨みや妬みが溜まって、一番大切な友達さえ傷付けて……。

 誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。

 あたしたち魔法少女って、そういう仕組みだったんだね。

 こんなあたしが本当の友達や恋人になんて、なれる訳ないのに……」

「そんなことないよ!!」

「わぁ!?」

 

声に驚いたゆまが、100円玉を落としかけてなんとか転がる前にキャッチする。

自販機の近くの階段を上って現れたのは、鹿目まどか……さやかの友達。

あと、白衣のドクターとピンクのナースと、黒いスーツの男(檀黎斗か?)と……マミだ。

 

「わたしが間違えた時はさやかちゃんが助けてくれたでしょ?

 わたしたちはマミさんに助けられたし、マミさんは仮面ライダーに助けてもらった。

 杏子ちゃんだって、今さやかちゃんを助けようとしてる!

 間違い合って助け合って、また足を引っ張り合って……。

 きっとそれが本当の友達だから……だから――!」

 

次の瞬間、アタシたちは映画館にいた

 

「これってまさか、今!?」

「魔女の結界!?」

 

照明が落とされて、スクリーンカーテンが開いて。

ノイズ混じりに映されるカウントダウンが、5、4、3、2、1――

 

 

「君にゲームオーバーにされた直前さ」「あんたたち、時空を超えて巡り合った運命の仲間なんだわぁ!」「エナジーアイテムもないし、ステージセレクトもできないッ!?」「あなたは、どんな願い事をして魔法少女になったの?」「お前は今、ちゃんと俺たちに背を預けてくれているか?」「あすなろ市で――。あの時の子も元気だといいけれど」「黒い――」「汚い手で触るんじゃない!!」「生まなきゃよかったって、すごくイジワルするの」「あなたを助けたいだけなの。どうして信じてくれないの」「ゲムデウスやプロトマイティオリジンのゲームエリアと似ていることだ」「魔法少女の在り方は、お前の理想の無限の生命ってヤツだろ?」「許して……許して……! ごめんなさい! 助けて!!」「逆に言えば、マミがもし本気で殺しにきてたら――」「今のコレがラスボス前のザコラッシュってこと!?」「貴方の名前……教えて?」「お前は本当に檀黎斗なのか?」「貴方が、本物の檀黎斗の――「私はこのまま運命を受け入れなくてはいけない」「どうして目を逸らすの? どうして黙ってるの?」

 

 

青空と草原に変わる世界。辺りをフィルムがジジジジと回り続ける。

どれが誰のでいつのかもわからないが、色んなシーンがバラバラに入っていた。

結界の中央にいる魔女は――

 

「グロ……ッ!」

 

巨大な脳みそが柔らかそうな膜に覆われていて、根っこ(セキズイ?)が地面に伸びている。

魔女の姿を美しいなんて思ったこと一度もないし、どれもキモイ奴ばかりだったが。

コイツは今まで出遭ったどの魔女よりもキケンな感じがする!

 

『……忘却の魔女か。性質は復讐』

 

唐突に現れたキュゥべえが解説を始めた。

 

『僕と魔法少女を忘れ去るために、わざわざ地球までやってきたんだね』

「復讐……?」

「地球まで……?」

「ほう、別の星から来たか」

 

個々に反応を見せるドクター、ナース、檀黎斗。

 

「アイツの正体なんかどうでもいいだろ! さっさと倒すぞ!」

 

仮面ライダーがガシャットを構える。アタシもマミもソウルジェムを手にする。

今のさやかじゃ多分戦えない。アタシたちの魔力もギリギリだ。

でも、グリーフシードの必要ない奴が3人もいるんだ。

どう見たってヤバイ相手だけど、なんとか倒して魔力を回復することくらい――

 

『警戒するべきはその魔女だけじゃないよ。そろそろ美樹さやかも()()するところだ』

「は……? 今何つった? 何になるってんだ!?」

『ああ、そうか。まだ伝えていなかったんだね』

「……」

『けど、ソウルジェムを持つ君たち自身も、薄々と気付いているんだろう?』

 

殆ど真っ黒に濁り切った3つのソウルジェム。

希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。

希望の塊だったこの宝石に宿る絶望の色を、アタシたちは知ってる。

 

『この国では、成長途中の女性のことを()()って呼ぶんだろう? だったら――』

 

 

 

 

 

『やがて魔女になる君たちのことは、魔法少女と呼ぶべきだよね』

 

 

 

 

 

 



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STAGE 08-06 (side:doctor-P.P.)

キュゥべえの言葉が理解できなくて……理解したくなくて。

私はパニックになるどころか、フリーズした。

 

まるでゲーム病に罹った患者さんが、ストレスで悪化してゲームオーバーになるみたいに。

負の感情を溜め込んでソウルジェムはグリーフシードに変わる。魔法少女は魔女になる。

 

「じゃあみんなは何故戦ってきたの!? 何のために祈りを捧げてきたの!?」

『誤解しないでほしい。僕らはなにも人類に対して悪意を持っている訳じゃない。

 全てはこの宇宙の寿命を伸ばすため――究極の救済のためなんだ』

「これのどこが救済なの!? バカ言わないで!!」

「お前……」

 

すごいこわい顔をしてエムがキュゥべえに近付いた時、黄色い光が一瞬辺りを包んだ。

 

「ソウルジェムが魔女を生むなら――」

 

キョーコちゃんの胸のソウルジェムに、静かに銃口を向けるマミちゃん。

 

「みんな死ぬしかないじゃない!」

「マミ――。いいよ、撃ちなよ。アンタの気が済むようにやればいい」

「ダメだ!!」

 

ギリギリで間に割って入ったエムに指が止まった。

さやかちゃんは、自分の手の中のソウルジェムを見てガクガク震えている。

 

「ひどい! こんなのってないよ!」

 

みんなただ奇跡を――運命をひっくり返す希望を祈っただけなのに!

最初からバッドエンドしか用意されてないなんて、こんな物語……!!

 

「君たちはその程度で絶望するのか?」

 

私の目から溢れ出る涙を止めたのは、クロトの冷たい言葉だった。

 

「生へ執着する気持ちはそんなレベルなのか?」

「え……?」

 

固まるまどかちゃんの隣を過ぎていくクロト。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その程度に自分の生を捉えているのだろう? まるで生命の冒涜者だな

 

さっきまでお金を握り締めていた小さな子が、クロトの横にトコトコと走って立った。

 

「……ゆまはね、ママにイジメられてた時いつも考えてたよ。()()()()()()()()()()って。

 でも魔女に襲われた時、ゆまは必死に生きようとしたんだ。

 人は死ぬよ、いつか必ず死ぬ。魔女にならなくてもみんないつか死ぬ。

 ゆまのいつかは今じゃないよ。キョーコたちは、本当に今死ぬの?」

 

真剣な顔のその子の頭を優しく撫でて、

 

「この子の方が余程わかっているじゃないか」

 

クロトは魔女に向かって歩み出る。

 

「目の前に闇が広まった時、諦めるなら追い求めていた光や抱いた覚悟はそこで終わる。

 だが、どんな手を使ってでも立ち上がれるのなら、私はいくらでも続けてみせる!

 バグスターになろうがゾンビになろうが関係などないッ!

 ここに在る限り何度でも繰り返しやり直せばいい!

 そうまでしても掴みたい夢……そしてそれを実現させる神の才能が、私にあるのだからなア!

 私に絶望は訪れない! もう何があっても挫けない!! 即ち――

 

 

 

「コンテニューしてでもクリアする」

 

 

 

「……やっぱり、あなたは本当に檀黎斗さんですね。相変わらず」

「フン。ようやく私を認めたか?」

「誤解しないでください。無限の生命なんて認めません。

 ただ、苦しくても続けることが大事っていうのは賛成です」

 

 

 

≪ガシャット!≫

 

「マックス大――」「グレード0――」

「「変身」」

 

≪ガッチャーン!≫

≪レベルマックス!≫≪レベルアップ!≫

 

≪最大級のパワフルボディ!≫

≪ダリラガーン!≫

≪ダゴズバーン!≫

MAXIMUM(マキシマム) POWER(パワー) (エックス)

 

≪マイティジャンプ!≫

≪マイティキック!≫

≪マイティ≫

MIGHTY(マイティ) ACTION(アクション) (エックス)

 

 

 

マキシマムゲーマから出てきたレベル99のエムと、レベル0のクロト。

プロトマイティアクションXガシャットオリジン、いつの間に使えるように――。

って、それどころじゃない! これって……ふたりのマイティ!?

 

 

「私が信じないでどうするの? 私が愛してあげなくてどうするの?

 黎斗は私の誇り。この世に生まれてくれた奇跡なのだから」

 

 

不意にサクラコさんの記憶がピューンと頭を過った。

希望も絶望も無かったエムと、彼から希望と絶望の両方をもらったクロト。

永遠に幻みたいな夢を追い求めて、才能の旅を続けていくふたり。

 

「こんなバッドエンドなんて認めない」

「ここでゲームオーバーなど認めない」

 

クロトが命を粗末に考えたことなんか一度もなかった。

この時代の倫理が……私たちの価値観が彼のそれと違うだけ。

本当は誰よりさみしいんだよね。

 

 

CRITICAL(クリティカル) FINISH(フィニッシュ)!≫

 

 

マミちゃん、さやかちゃん、キョーコちゃん、ほむらちゃん……魔法少女のみんなを救いたいっていう気持ちは同じ。

だから、今度こそ最後まで一緒に鏡総合クリニックの仲間として解決していける。

そう思っていた、のに――

 

 

See you Next story

 


 

次回、翻転のstory!

 

あたしって、ほんとバカ

ひとりぼっちは、さみしいもんな

それで殺してくれるの?

安らかに絶望できる!

私の世界を守るためよ

この街を助けよう

終わらない、終われない

繰り返しのゲームのように

僕と契約して、魔法少女になってよ

わたし、魔法少女になる

 

 

もう誰にもdisbelieve(頼らない)

 

 

 

時を止めて時を戻し、何を知る?

 

 

 

 




Real heart(リアルハート):本当の気持ち。realの語源は実在するという意味のrealisらしい。レアリス? リアレイス? リアライズ?
タイトルとしての由来はVシネマ『仮面ライダーパラドクスwith仮面ライダーポッピー』の主題歌。
ポッピーピポパポ役の松田るかさんが歌っています。

忘却の魔女ことItzliはゲーム『魔法少女まどか☆マギカポータブル』の裏ボスとして登場した魔女です。
スロット『魔法少女まどか☆マギカ2』にも新規アニメで登場しているらしく、「他の魔女やその手下を召喚する」「あらゆる場所と時代の魔法少女を観察した」などをキュゥべえが語るそうです。
私自身はスロットをプレイしないので、某お方のブログからの情報ですが。


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ステージ9『もう誰にもdisbelieve』
STAGE 09-01 (side:magica-A.H.)


The First Round


「はーい、それじゃあ自己紹介いってみよー」

 

黒板の前に立てばクラス中の視線が私に集まる。

怒られてる訳じゃないのに、同じように喉がキュッと閉まって声が上手く出せなくなる。

 

「あ……あのっ、ああ暁美、ほっほむらです……。

 その……どうか、よろしくお願いします……」

「暁美さんは心臓の病気でずっと入院していたの。

 久し振りの学校だから色々と戸惑うことも多いでしょう。みんな助けてあげてね」

 

最初から私の代わりに言ってくれればいいのに、と少し恨めしくなった。

もちろん早乙女先生に悪気なんてないのはわかってる。

彼女は黒板に私の名前を5文字丁寧に書いた。

 

暁美ほむら――私は私の名前が嫌いだった。

漢字にすれば焔。一昔前の不良グループや暴走族みたい。

今時三つ編み眼鏡の私にとって、嫌がらせのようにも思えることがあった。

 

「ほむらってすごい名前だね」

 

それにほら、ホームルームが終われば早速私はクラスメイトに囲まれて、質問攻めに遭う。

 

「前はどこの学校だったの?」「部活とかやってた?」「毎朝編むの大変じゃない?」

「あの、私、その……」

「暁美さん。休み時間には保健室でお薬飲まないといけないんでしょ?

 みんなごめんね。わたし保健係だから、案内しなくちゃ」

 

誰からも恨みを買ことなくその場を収めて、私を教室から連れ出してくれたのは。

春の陽だまりのような心に染み入る笑顔の少女だった。

 

「ごめんね。みんな悪気はないんだけど……転校生なんて珍しいからはしゃいじゃって」

「いえ! その……ありがとうございます」

「そんな緊張しなくていいよー。クラスメイトなんだから。

 わたし、鹿目まどか。まどかって呼んで」

 

鹿目まどか――まどか。まるいとか穏やかな様子を意味する名前。

その微笑みは私の心の壁を擦り抜けて、優しく輝きを放つかのよう。

 

「わたしも、ほむらちゃんって呼んでいいかな?」

「私、あんまり名前で呼ばれたことってなくて……すごく変な名前だし……」

「え~? そんなことないよ。

 なんかさ、燃え上がれー! って感じでカッコイイと思うなぁ」

「……名前負け、してます」

「そんなの勿体ないよ。せっかく素敵な名前なんだから――。

 ほむらちゃんもカッコよく変身しちゃえばいいんだよ」

 

 

 

「君は休学してたんだっけな。友達からノートを借りておくように」

「準備体操だけで貧血ってヤバイよね」

「半年もずっと寝てたんじゃ仕方ないんじゃない?」

 

 

無理だよ……私、なんにもできない。

得意な学科とか人に自慢できる才能とか、なにもない。

 

どうして私だけこんな身体なんだろう?

どうして私だけこんなに苦しい人生なんだろう?

人に迷惑ばっかりかけて、恥かいて、どうしてなの?

私、これからもずっとこのままなの?

 

「だったらいっそ、死んだ方がいいよね」

「死んだ方がいいかな……」

「そう、死んじゃえばいいんだよ」

「死んでしまえば――はっ!?」

 

橋の上を歩いて帰っていたハズなのに、私はいつの間にか別の空間にいた。

赤い空には雲が斑に混じっていて、地鳴りと共に巨大な石造りの門がそびえる。

そこから下書きのような線で出来た人型が現れて、よろよろと私に近付いてきた。

 

「いやあああああああっ!!」

 

死を覚悟して叫んだ瞬間、私は光に包まれていることに気付く。

 

「間一髪ってところね」

 

目の前には黄色を基調にした衣装の少女と

 

「もう大丈夫だよ、ほむらちゃん」

 

ピンクを基調にしたフリフリで可愛らしい衣装の、小柄の少女。

その笑顔は包み込んでくれるようで、まだこんな所にいるのに安心できてしまう。

 

『彼女たちは魔法少女。魔女を狩る者たちさ』

 

見たこともない真っ白な生物が隣に座っていて、口も動かさずそう言う。

 

「いきなり秘密がバレちゃったね」

 

ピンクの魔法少女は――鹿目まどかさんは、照れたように微笑んだ。

 

「クラスのみんなには、内緒だよっ!」

 

 

 

灰色の空の下、崩れいく街の中。

たったひとりで強大な存在に挑もうとしている少女を、私は心配して見ている。

 

「じゃあ、行ってくるね」

「そんな……巴さん、死んじゃったのに……!?」

 

どれだけ彼女が多くの火器と多くの策を以てしても、倒すことはできないだろう。

古から幾度も現れ、人々には自然災害として認識されている程の存在。

巴マミさんですら敗れてしまったのに、ひとりで倒すことができるハズない。

 

「だからだよ。もうワルプルギスの夜を止められるのは、わたしだけしかいないから」

「無理よ! ひとりだけであんなのに勝てっこない! 鹿目さんまで死んじゃうよ!?」

「それでも……わたしは魔法少女だから。みんなのこと、守らなきゃいけないから」

「ねぇ、逃げようよ……。だって仕方ないよ……。誰も鹿目さんを恨んだりしないよ……」

「ほむらちゃん。わたしね、あなたと友達になれて嬉しかった。

 あなたが魔女に襲われた時、間に合って。今でもそれが自慢なの。

 だから……魔法少女になって本当によかったって、そう思うんだ」

 

春のような温かい笑みが、冷たく凍り付いた世界に一凛だけ咲いた。

 

「さよなら、ほむらちゃん。元気でね」

 

 

 

愚かで脆弱な人間には絶対に届かない運命というものがある。

「ひどい!」「こんなのってないよ!」と嘆いても、今の私にこの運命を変える力はない。

ひとつの契約を結ばない限り……。

私にも、避けようのない滅びの結末をひっくり返すだけの奇跡を起こすことができるなら――

 

 

 

 

 

『僕と契約して、魔法少女になってよ』

 

 

 

 

 

「私は、鹿目さんとの出会いをやり直したい。

 彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい」

 

次の瞬間、私の意識がプツリと消えた。



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STAGE 09-02 (side:magica-A.H.)

The Second Round


「はーい、それじゃあ自己紹介いってみよー」

 

黒板の前に立てばクラス中の視線が私に集まる。

喉がキュッと閉まって声が上手く出せなくなる――その前に。

私は春色の笑みに向かって飛び出してしまう。

 

「鹿目さん! 私も魔法少女になったんだよ! これから一緒に頑張ろうね!」

「うぇっ!? ええと、う~ん……」

 

初めて自分から人の手を取る。

出会った時と同じ……ちゃんと温もりが伝わってくる。ここに確かに彼女は生きている。

その実感が嬉しくて、私は泣きそうなまま、ただ困惑する鹿目さんの手を握り締めていた。

 

 

 

放課後、巴さんも含めて事情を説明した。

私が滅びの未来から遡ってきたこと、ワルプルギスの夜と私も戦うこと。

 

「それじゃ、行きます!」

 

そして今私は、黒と紫の魔法少女になって、能力を2人に見せようとしていた。

河川敷にはドラム缶。私の手にはゴルフクラブ。

左腕の小盾に触れれば、鹿目さんと巴さんの動きも、川も風も止まる。

時間操作。それが私の魔法。

 

「わぁぁぁぁぁぁ!」

 

ボコスカボコスカ。

精一杯とにかくクラブでドラム缶を殴り続ける。

当たる度にちょっとずつ凹んで宙に浮いて。

しばらくしてカチリと小盾が鳴ると、ドラム缶はガンっと地面に倒れた。

 

「はぁー、ふぅー……」

「……どう思う、マミさん?」

「うーん、時間停止ねぇ……。確かにすごいけれど、使い方が問題よね。

 一方的に攻撃できても、威力が不足していては効果が薄いわ。

 それに、暁美さんが触れた物は静止が解除されるのよね?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()ってことはないかもだけど……。

 接近戦ではカウンターを許してしまう恐れがあるわ」

 

魔法の力なのか、前みたいにすぐ動悸が激しくならないけど。

喧嘩なんてもちろんしたことないし、戦うことのイメージがあまりわからないでいた。

遠距離から攻撃できて、しかも一発で魔女を倒せる火力……。

 

それで手製の爆弾という発想に至ったのは。

魔法少女になって鹿目さんの助けになれて、ちょっと浮かれてたからだと自分で思う。

インターネットは便利で……怪しいサイトを辿って巡って、連日連夜試作に没頭した。

同時に、戦術についても多くのことを独学で身に付けていった。

 

時間を停止するにも魔力は消費する。

鹿目さんの弓矢で魔女の気を引いて、巴さんのリボンで束縛して道を作って。

ある程度近付いたら時を止めて、落ち着いて距離を測って爆弾を投げる。

それが私の、私たちの基本戦法になった。

 

『委員長の魔女。結界の空に自分だけの学園を作り、日常を繰り返し、性質は傍観を司るんだ』

 

黒のセーラー服姿で、頭がなく腕が4本ある巨大な魔女。

結界の中には学校机や椅子が飛び交っていて、白いセーラー服が干されている。

なんだかとても異様な姿に少し狼狽えても、作戦は決まっている。

時を止めて投げて、3、2、1……。

 

「お願い……!」

 

解除と同時に轟音と白煙と熱風が魔女を葬り去った。

火薬が多過ぎたのか爆弾の数が多過ぎたのか、想定より派手になっちゃったけど。

 

「お見事ね」

「すごい! すごいよ、ほむらちゃん!」

 

鹿目さんに抱き着かれると、そんなこと忘れてしまうくらい天に昇る気持ちになる。

やった……私、役に立ったんだ。これからは私も誰かの――鹿目さんの助けになれるんだ。

 

 

 

灰色の空の下、崩れいく街の中。

先に敗れて瓦礫の中に横たわる少女の身体を、私は横目で見ている。

救えなかった。弓矢で気を引くこともリボンで束縛することもできず、巴さんを……。

 

どれだけ私たちが多くの火器と多くの策を以てしても、倒すことはできないの?

古から幾度も現れ、人々には自然災害として認識されている程の存在。

ううん……そんなことない。諦めるのはイヤだ。

 

鹿目さんも涙を堪えて矢を放ち続ける。

私はあるだけの爆弾を全て投降する。

 

いつどのタイミングでか、ハッキリと覚える余裕はなかった。

見滝原は壊滅状態で、巴さんも犠牲になってしまったけど、ともかくワルプルギスの夜は倒せた。

でも、仰向けで手足を投げ出す鹿目さんは――

 

「どうして……あああああああ!!」

 

そのソウルジェムは、春色を失い真っ黒に染まっていた。

希望の塊だったこの宝石に宿る絶望の色を、私は知ってる。

 

『この国では、成長途中の女性のことを()()って呼ぶんだろう? だったら――』

 

疑問、失望、憤怒、悲哀、憎悪……。

私の視線を嘲笑うこともせず、いつもと変わらない顔のまま、真っ赤な瞳がこちらを見ている。

 

 

 

 

 

『やがて魔女になる君たちのことは、魔法少女と呼ぶべきだよね』

 

 

 

 

 

……伝えなくては。

この時間軸は多分ここで終わる。

でも、あの真っ白な悪魔の存在を……過去の鹿目さんに伝えないと!

 

次の瞬間、私の意識がプツリと消えた。



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STAGE 09-03 (side:magica-A.H.)

The Third Round


「あのさぁ……キュゥべえがそんな嘘吐いて、一体何の得がある訳?」

「それは……。私にもよくわからなくて……」

「あたしたちに妙なこと吹き込んで、仲間割れでもさせたいの?

 まさかあんた……ホントはあの杏子とかいう奴とグルなんじゃないでしょうね?」

「ち、違うわ!」

「さやかちゃん……それこそ仲間割れだよ」

「はぁ……どっちにしろ、あたしこの子とチーム組むの反対だわ。

 いきなり目の前で爆発とかちょっと勘弁して欲しいんだよね。

 2人は飛び道具だから平気だろうけど、あたし何度巻き込まれそうになったことか……」

「美樹さんの話にも一理あるわね……。暁美さんには爆弾以外の武器ってないのかしら?」

「……ちょっと、考えてみます」

 

 

 

 

 

「大丈夫、美樹さん?」

「あ……う、うん……」

「後は()()()()に任せてちょうだい!」

「……うん」

「あ、オイっ!?」

(体が軽い!)

「マミ、ひとりで出過ぎだぞ!」

(心が躍る!)

「巴さん、力を合わせないと!」

(重い荷物がなくなっちゃったみたい!)

「なんか、変じゃない……?」

(こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて!)

「……マミさん?」

(ひとりぼっちじゃないもの!)

 

 

「もう何も恐くない」

 

 

 

 

 

「マミさんが死んじゃった時、仁美と恭介のことで頭がいっぱいで、ボーっとしてたんだ。

 しっかりしてれば、マミさんを助けることくらい本当はできたんだ」

「なんで……なんでお前が自分を責めなきゃならないんだよ……?」

「誰も悪くなんかないよ! マミさんが死んじゃったのはすごく悲しいけど……。

 でもそれはさやかちゃんのせいじゃないよ!」

「……まどかは優しいよね。

 いつもフォローしてくれるのは嬉しいけど、そういうの時々ちょっとつらいっていうかさ。

 こんなあたしでもま一緒に組めるって言うなら、あんたたちのこと幻滅するかも」

「っ! 美樹さん、そのソウルジェム――」

「どうなってやがんだ……!?」

「希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって、いつだったかあんた言ってたよね。

 今ならそれよくわかるよ。確かにあたしは何人か救いもしたけどさ。

 誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。

 あたしたち魔法少女って、そういう仕組みだったんだね」

 

 

「あたしって、ほんとバカ」

 

 

 

 

 

「テメェ一体何なんだ!? さやかに何しやがった!?」

「さやかちゃん、やめて! お願い、思い出してっ!

 こんなこと、さやかちゃんだってイヤだったはずだよ!? ああっ!!」

「鹿目さん! しっかりして、ねぇ!?」

「――一度くらい、幸せな夢見させてよ」

「佐倉さん……?」

「行きな。コイツはアタシが引き受ける」

「で、でも――」

「アンタにとって、よっぽど大事なお友達なんだろ?

 だったら行きなよ。ただ一つだけ、守りたいものを最後まで守り通せばいい。

 ……ハハハ、なんだかなぁ。アタシだって今までずっとそうしてきたハズだったのに。

 それに……不出来な先輩が――家族が一因のことだ。尻拭いくらい、任せてくれ」

「っ……。ごめん、なさい……」

「――心配すんなよさやか。ひとりぼっちは、さみしいもんな」

 

 

「いいよ、一緒にいてやるよ……さやか」

 

 

 

 

 

灰色の空の下、崩れいく街の中。

私たちは結局ふたりだけで強大な存在に挑む。

 

多くの火器と多くの策を以てすれば、必ず倒すことができる。

古から幾度も現れ、人々には自然災害として認識されている程の存在。

一度は倒したことのある相手だ。対策だって立ててきた。

 

鹿目さんが涙を堪えて矢を放ち続ける。

私はあるだけの爆弾を全て投降して、残弾も全て撃ち切る。

 

いつどのタイミングでか、ハッキリと覚える余裕はなかった。

見滝原は壊滅状態だけど、ともかくワルプルギスの夜は倒せた。

でも、寄せ合った手の平のソウルジェムは、2つとも濁り切っている。

 

「わたしたちも、もうおしまいだね……」

「……グリーフシードは?」

 

首を横に振る鹿目さん。

 

「そう……。ねぇ、私たちこのままふたりで怪物になって……。

 こんな世界、何もかも滅茶苦茶にしちゃおっか……?」

 

その視線が自分に向いたことがわかって、私は言葉を続ける。

 

「嫌なことも悲しいことも、全部無かったことにしちゃえるぐらい壊して、壊しまくってさ。

 それはそれで、いいと思わない?」

 

辛いことの多い人生を送ってきた。

弱い心臓のせいで普通の子と同じように生きてこれなかった。

普通の子たちの笑顔が憎く見えてしまうことさえあった。

そしてその度に、そう考えてしまう自分を嫌いになった。

 

そんな極寒の私の世界に、あなたは春の陽だまりを注いでくれた。

もし終わる運命が避けられないとすれば、その瞬間はあなたと一緒に終わりたいと、そう思ってしまうのだ。

 

「え……?」

 

コツンと、何かが私のソウルジェムにぶつかる。

隣を見れば、嘆きの種の向こうに春のような温かい笑みが一凛咲いていた。

 

「さっきのは嘘。1個だけ取っておいたんだ」

「そんな……なんで私に!?」

「わたしにはできなくて、ほむらちゃんにできること……お願いしたいから。

 ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね?

 こんな終わり方にならないように、歴史を変えられるって、言ってたよね?」

 

零れ落ちた涙が頬を伝う。

握り締めた手から、少しずつ温もりが消えていく。

 

「キュゥべえに騙される前のバカなわたしを、助けてあげてくれないかな?」

「……約束するわ。絶対にあなたを救ってみせる。

 何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる!」

「よかった……。もう一つ、頼んでいい? わたし、魔女にはなりたくない。

 嫌なことも悲しいこともあったけど、守りたいものだってたくさんこの世界にはあったから。

 たとえここで終わる時間でも、わたし、この世界を破壊したくなんてないから……」

「っ……まどか!」

「ほむらちゃん、やっと名前で呼んでくれたね。嬉しいな……」

「ああ! うっ……うわあああああああああああああ!!!!」

 

黒く濁っていくまどかの水晶を、私は撃ち砕いた。



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STAGE 09-04 (side:magica-A.H.)

The ※※※※ Round


「どうして自分勝手な私が生き残って、誰かのために戦ったあの子たちが死んだの……?

 本当に救われるべきだったのはあの子たちの方じゃない……。

 いっそあの子の手で終わらせてくれた方が、ずっと幸せだったのに……」

「……そんなに死にたいの?」

「その銃で殺してくれるの?」

「っ! 冗談じゃない!!

 私は――ある人と約束を交わした。果たすまで彼女に救われたこの命は無駄にしない。

 巴マミ、あなたにも佐倉杏子と交わした約束があるのなら、最後まで足掻いてみせなさい!」

「……」

「不思議な感じ。あなたにいつも教わっていたのは、私の方なのに」

「えっ……?」

「いえ、なんでもないわ。明日もう一度尋ねるから、協力するか決めておいて」

 

 

 

 

 

灰色の空の下、崩れいく街の中。

たった3人で私たちは強大な存在に挑む。

 

巴マミが私の手を取ることはなかった。

巴マミの言動が鹿目まどかの契約を誘発し、彼女は魔法少女となった。

 

ほんの少し似通った境遇に見えたからといって、迂闊に心を許した私が愚かだった。

私には理解者なんて必要なかったのだ。

まどかさえ生きていてくれれば、私は――

 

「大丈夫だよ、ほむらちゃん。わたしね、マミさんと約束したの。

 絶対にみんなを守るって。だから――」

「それじゃダメなの……」

 

美樹さやかが魔女になる運命も結局変わらなかった。

魔女化した彼女と心中しようとする巴マミを佐倉杏子が止めて――。

佐倉杏子が本当に巴マミのソウルジェムを浄化したのか、幻惑の魔法で誤魔化しただけなのかはわからない。

だが結局、巴マミはまどかに後を託し、自らのソウルジェムを砕いたのだ。

 

古から幾度も現れ、人々には自然災害として認識されている程の存在。

できるだけ多くの火器と多くの策を用意したけど、きっと準備不足で倒すことはできない。

 

「今からでも遅くない……あなただけでも逃げてほしい。

 ワルプルギスの夜と戦ってしまったら、あなたは――」

「なにをショボくれてんのさ、ほむら!

 一番先輩のあんたが弱腰でどうすんのよ?」

「美樹さやか……」

 

志筑仁美の上条恭介への告白。

動揺した美樹さやかは、志筑仁美が魔女に魅入られているのを見逃してしまい、自らを責めて魔女化した。

でも、彼女はまどかの願いにより魔法少女として帰ってきて、今ここにいる。

 

美樹さやかが魔法少女にならない時間軸、巴マミが死なない時間軸、佐倉杏子と共闘する時間軸……。

全く同じ時間を繰り返している訳ではないのに、どうしてもあの未来に行き着いてしまう。

まどかは魔法少女になってしまうし、ワルプルギスの夜に対し私たち5人が揃うこともない。

 

「そんなにあたしが頼りないってか?

 そりゃあ、マミさんや杏子よりはそーかもしれないけどさぁ……」

 

握手を求めて手を差し出してくる美樹さやか。

 

「協力すればなんとかなるって!」

 

その手を取ったのか、もう私には思い出せない。

 

「まどかを守りたいって気持ちはあたしも同じ。

 まどかのおかげで魔女に殺されずに済んだし、溜め込んでたこと吹っ切ることができたんだ。

 まぁ、助けられた時のことはよく覚えてないんだけどさ……。

 とにかく、あんたにも一度助けられた借りがあるからね。必ず返すよ」

 

あれは……あなたのためを思って、あなたを助けたいと思っての行動じゃなかった。

美樹さやかが死ねばまどかが悲しむ。

そういう打算的な考えで、私の心は空っぽなのに、あなたには水晶にでも見えているの?

 

「……わかった。行きましょう。まどか、あなたは必ず私が守るから」

「まどかを守るのはこのあたしだ!」

「……2人とも、行くよ!」

 

 

 

 

 


 

「来るがいい、最悪の絶望」

 

()()()()()()()()()という、変化の中でも特にイレギュラーな存在もいたことがある。

予知魔法で未来を知った美国織莉子は、呉キリカを利用して魔法少女殺しを行い、まどかの守護者である私の正体を探っていた。

全ての準備を終えた彼女たちは、見滝原中に直接乗り込んできたのだ。

 

「私は何になっても決して織莉子を傷付けはしない。

 むしろキミを守ることができるのなら、私は――

 

 

「安らかに絶望できる!」

 

 

その時間軸では美樹さやかは魔法少女にならず、当然魔女にもならなかった。

私が言わないのだから、最後まで悟られずにいけると思っていたのに。

あろうことか呉キリカは、私と一緒に立ちはだかった巴マミと佐倉杏子の目の前で、自ら魔女化してみせた。

 

「人は死ぬよ、いつか必ず死ぬ。魔女にならなくてもみんないつか死ぬ。

 ゆまのいつかは今じゃないよ。キョーコたちは、本当に今死ぬの?」

 

だけど、もう1人イレギュラーの魔法少女がいた。

()()()()。佐倉杏子が拾った、親から虐待を受けていた子ども。

 

「この街を助けよう」

 

魔法少女の真実を知っても、千歳ゆまの言葉で彼女たちはそれを受け止めることができた。

呉キリカから生まれた魔女は倒され、彼女の遺体を庇った美国織莉子も私の銃口が捉える。

 

「撃たないの?」

「撃つわ。……一つ答えて。あなたは何故こんな戦いを挑んだの?」

 

このイレギュラーだらけの時間軸が、私の旅を終わらせる奇跡を起こしてくれる――

 

 

「私の世界を守るためよ」

 

 

そんなのは夢幻だった。

 

呉キリカの遺したカケラを手にした美国織莉子の、最後の一撃。

キュゥべえの首を撥ねるために放ったものだと誤認した、最後の祈り。

 

奴の体はただの端末で、いくら殺してもすぐまた次が現れるだけ。

せめてもの恨みを晴らすためかと思い込んだ私に、美樹さやかの悲痛な叫びが届く。

 

『やってくれたね、織莉子は。彼女が最後に狙ったのは僕じゃない。

 後ろの壁の向こうにいた鹿目まどかさ




『[裏技] 仮面ライダーゲンムVS魔法少女おりこ☆マギカ ロンリー・プレイヤー』(https://syosetu.org/novel/178743)


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STAGE 09-05 (side:doctor-P.P.)

時を止めて時を戻し、何を知る?


今日のお夕飯はおいしくできたって自信がなかったのに。

 

「ダメですよ飛彩さん。確認なしに唐揚げにレモンかけちゃ」

「ヘタすりゃそれだけで戦争が起きるぜ?」

「そういうものか……。すまない、これは俺が適切に処理しよう」

「ゆまはねー、マヨネーズがいいーっ!」

「その前にお口の周りを綺麗にしましょうね」

「よーし! さやかお姉ちゃんが拭いて進ぜよーう!」

「おい、あんまり甘やかすなよ?」

「ウェヒヒwなんだか親子みたいww」

「塩コショウも美味いぞ?」

「大我それ……ケチャップかけてんの?」

「……? 普通じゃねぇのか……!?」

 

みんな集まって一緒に食べれば、とってもおいしく感じちゃうんだ。

マミちゃんとキョーコちゃんとゆまちゃんと、お家の人にマミちゃんの所で食べて帰るって言ったさやかちゃんとまどかちゃん。

作っておいたのだけじゃ足りないからスーパーでお惣菜も買ってきた。

これが結構おいしくて、ちょっと妬けちゃう。

 

……ずっとドタバタしてて気付かなかったけど。

こうして……クロトも入れたみんなでニコニコご飯を食べるのって、私の夢だったんだ。

 

 

 

「コンテニューしてでもクリアする」

 

何回転んでも関係ない。どれだけ傷を負っても諦めない。

その度に立ち上がってやり直すだけ。この手の中、進むべき命を生きていくだけ。

クロトとエムの姿を見て、魔法少女たちは元気を取り戻した。

 

「生きます、私。ただ泣いて投げ出すなんてもうしません。

 魔女になる未来が待ち構えていても、最後まで足掻いてみせます」

 

マミちゃんは絶望に立ち向かう覚悟を決めて、

 

「諦めちゃうなんて、ちょっとあたしらしくなかったかもね……。

 自分のこともみんなのことも、恭介のことも、全部全部欲張ってやろうじゃん!」

 

さやかちゃんは不安と向き合う勇気を抱いて、

 

「マミさんは、友達ってのとはちょっと違うっていうか……家族だと思ってたんだ。

 アタシたち、友達にも家族にもなれないかもしれないけどさ、それでも――仲間にはなれるよね?」

 

キョーコちゃんにはみんながもちろん! と力強く返した。

 

 

 

『魔法少女システムは宇宙の救済を成すためのものなんだ。

 君たちはエントロピーっていう言葉を知っているかい?』

 

忘却の魔女の遺したグリーフシードでソウルジェムを浄化した後、キュゥべえはそんなことを話し始めた。

 

『語弊を恐れずに説明してあげるよ。

 エネルギーの往来は外部からの介入がない限り徐々に緩やかになり、やがて静止する。

 冷凍庫に入れた水は氷になるけど、再び熱を与えて温めない限り独りでに水へ戻ることはない。

 規模を拡大して考えれば、いずれ宇宙内でエネルギーの往来が完全に静止するのがわかるかな?

 それこそがエントロピーの飽和、熱的死だ。

 たかだか100年しか生きられない君たちには、他人事としか思えないだろうね。

 でも、この宇宙にどれだけの文明がひしめき合い、エネルギーを消耗しているかわかるかい?

 だから感情をエネルギーへ変換しエントロピーを凌駕する技術を生み出したんだ。

 ところが生憎、当の僕らが感情というものを持ち合わせていなかった。

 そこで、最も効率良い料として目を付けたのが君たち第二次性徴期の少女の絶望さ。

 君たち人類だって、いずれはこの星を離れて僕たちと同じレベルにまで達するだろう。

 その時になって宇宙の終末が迫っていても困るよね?

 長い目で見れば、君たち魔法少女の絶望は究極の救済をもたらしているんだ

 僕も地球人と過ごす中でラーニングしたよ。

 君たちはこういうのを尊い犠牲と呼び、神聖視するんだろう?』

 

煽るつもりでも、難しい言葉を並べて言い包めるつもりでもない。

キュゥべえは本気でそれが最高最善の道だと言っているのが、私にもわかった。

それがどれだけ独り善がりで傍迷惑でも関係ない。確信しているんだ。

 

「語らないで……あなたがわたしたちの絶望を、語らないで!!!」

『……。もうすぐワルプルギスの夜が来る。魔女たち(魔法少女)の宴、サバトが始まる。

 君たちが力を合わせたところでひっくり返せる運命じゃない。

 滅びの結末が訪れた時には……まどか、君が魔法少女になるしかこの世界を救う方法はない』

「まどかちゃんの運命は――魔法少女の運命は、僕たちが変える」

 

 

 

エム、パラド、まどかちゃん、ヒイロ、マミちゃん、タイガ、ニコちゃん、さやかちゃん、キョーコちゃん、ゆまちゃん、キリヤ、クロト……。

この世界を守りたいっていう気持ちはみんな同じ。

だから、私たちはチームにまとまって解決していける。ほむらちゃんだってきっと。

 

そう思っていた、のに――。

 

 

 

「やめろ――って、あっ? 夢じゃない!? ちょ、全員起きろッ!!」

「喧しいよキリヤ! こんな夜中に、どうしたの!?」

「どうせいつもの悪夢でしょー?」

「いなくなってる……! ゲンムがいないぞ!?」

「やっぱり、アイツが全部仕組んでたんじゃねーか!!」

「俺たちは……また騙されていた!?」

「……」

 

その夜、クロトは私たちの前から姿を消した。



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STAGE 09-06 (side:magica-A.H.)

The Previous Round


灰色の空の下、崩れいく街の中。

たったひとりで強大な存在に挑む私を、あなたは心配そうに見てくる。

 

どれだけ私が多くの火器と多くの策を以てしても、まだ倒すことはできないの?

古から幾度も現れ、人々には自然災害として認識されている程の存在。

ひとりで倒すことができるなら、既にそうした者がいるハズだと言うの?

 

過去には私より秀でた者もたくさんいただろう。

けど、その誰もがアレには敵わなかった。

足掻き、挫け、絶望し、悲劇のための舞台装置に組み込まれていった。

私もまた、ここで敗れて呑まれる運命……。

 

『愚かで脆弱な人間には絶対に届かない運命というものがある』

「ひどい! こんなのってないよ!」

 

ソイツの言葉に耳を貸しちゃダメ!!

 

『そう嘆いても、今の君にこの運命を変える力はない。

 ひとつの契約を結ばない限り……』

 

騙されないで! ソイツの思う壺よ!!

 

『君にも避けようのない滅びの結末をひっくり返すだけの奇跡を起こすことができる』

 

 

 

 

 

『だから僕と契約して、魔法少女になってよ』

 

 

 

 

 

「わたし、魔法少女になる」

 

 

 

 

 

『――本当にものすごかったね、変身したまどかは。

 彼女なら最強の魔法少女になるだろうと予測していたけれど……まさかあのワルプルギスの夜を一撃で倒すとはね

「その結果どうなるかも、見越した上だったの……?」

『遅かれ早かれ結末は一緒だよ。彼女は最強の魔法少女として最大の敵を倒してしまったんだ。

 もちろん、後は最悪の魔女になるしかない。今のまどかなら、おそらく十日かそこいらでこの星を壊滅させてしまうんじゃないかな?

 まぁ……後は君たち人類の問題だ。僕らのエネルギー回収ノルマはおおむね達成できたしね』

「そう……そういうこと……」

『? 戦わないのかい?』

「いいえ。私の戦場はここじゃない」

『――暁美ほむら、君は一体何者だい?』

 

 

 

 

 

同じ時間を何度も巡り、たった一つの出口を探る。

あなたを絶望の運命から救い出す道を。

まどか――たったひとりの、私の友達。

あなたのためなら私は永遠の迷路に閉じ込められても構わない。

 

終わらない、終われない。繰り返しのゲームのように。

ポーズして、リセットして、リスタートして、コンテニューする。

こんなバッドエンドなんて認めない。ここでゲームオーバーなど認めない。

 

目の前に闇が広まった時、諦めるなら追い求めていた光や抱いた覚悟はそこで終わる。

でも、交わした約束は忘れない。闇を振り払ってでも私は進む。

どんな手を使ってでも立ち上がれるのなら、私はいくらでも続けてみせる。

 

運命を変える力はそう安く手に入るものではない。

奇跡や魔法は夢幻の如く人間には遠いものであり、掴むためには相応の対価を求められる。

そんな世界の理なんか破壊してみせる。彼女以外の全てを、私自身も犠牲にして構わない。

そうまでしても掴みたい夢……そしてそれを実現させる祈りが、私にあるのだから。

 

繰り返す時が私の心を研ぎ澄ませる。

無駄なものを全て捨てて、ただひとつの目的のために魂の灯火を焔へと変えていく。

 

 

 

 

 

「もう誰にも頼らない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが本当に正しいのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

もし避けようのない滅びの結末をひっくり返すことができるならば。

運命をリセットする契約を結べるなら……時を止めて時を戻し、何を知る?

 

黄の魔法少女【巴マミ】なら、家族の命を繋ぎ留めると願い直すかもしれない。

青の魔法少女【美樹さやか】なら、想い人への接し方を変えるかもしれない。

赤の魔法少女【佐倉杏子】なら、家族とのすれ違いを改めるかもしれない。

 

しかしその契約には君の知らなかった真実がある。

これまで君が歩んできた物語は、その真実に直面する物語だった。

 

この世界のありとあらゆるものにはストーリーがある。

1人の人生にも、1つのゲームにも。

生まれた意味、込められたメッセージ……それを探る過程こそストーリーだ。

 

だが――ここからはまた一味違う物語を始めよう。

運命を変える力はそう安く手に入るものではない。

奇跡や魔法は夢幻の如く人間には遠いものであり、掴むためには相応の対価を求められる。

そんな世界の理をひっくり返す物語を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはゲームではない。翻転のstoryだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

See you Next story

 


 

次回、翻転のstory!

 

何故君がキュゥべえと契約せずに

皆さんには、愛する人がいますか?

魔法少女に変身できたのか

自分の無力を嘆いたことはありますか?

何故秘められた事情に詳しいのか

世界は危機に陥っています

何故時に関する魔法を司るのくわァ!

しかし私は戦う……!

その答えはただ一つ……

来るがいい、最悪の絶望

アハァー♡

 

運命の連鎖をjust reset(断ち切る)

 

 

 

暁美ほむらゥ!

 

 

 




disbelieve(ディスビリーヴ):信じない。believeの語源は神を信仰するという意味のglaubenらしい。
タイトルとしての由来はVシネマ『仮面ライダーゲンムvs仮面ライダーレーザー』の主題歌『Believer』。

「絶対に読んでいなければわからない」というのは避けますが、次回は『[裏技] 仮面ライダーゲンムVS魔法少女おりこ☆マギカ ロンリー・プレイヤー』(https://syosetu.org/novel/178743)から繋がります。


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ステージ10『運命の連鎖をjust reset』
STAGE 10-01 (side:doctor-H.E.)


予知を壊せ、運命を変えろ。


約3000000000秒。

一人の人間が95歳くらいまで生きられる時間の長さだ。

僕で言えば残り2000000000秒。

意外と短く感じるかもしれないし、まだ2/3あると長く感じるかもしれない。

2500000000秒生きられるかもしれないし、1000000000秒で終わるかもしれない。

でも確実に言えることがある。∞じゃない。

 

僕にも、まぁ全く予定はないけど、子どもが生まれるかもしれない。

()()()()家庭じゃなければ、僕が死んだ後でも子どもは僕のことを覚えていてくれるかもしれない。

その子の子どもやさらにその子どもに僕を語り継いでくれるかもしれない。

でも、僕のストーリーはそれ以上新しいページへ進むことはない。

 

僕だけじゃない。きっと君も同じだ。

僕らはみんないずれ来る終焉の時に向かって生きている。

 

ある時、そんな有限の生命を認めない人間が現れた。

彼の名前は檀黎斗。

誰よりも才能に溢れ、誰よりも嫉妬深く、誰よりも独り善がりで、命を尊ぶ男。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そんなことを本気で考えて実行した、天才ゲームクリエイター。

 

ドクターとして……たった一つしかない命を生きる者としてそんなの認めることはできない。

けど、全く理解できなかったり一ミリも共感できなかったりする訳じゃない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そんな風に気軽に人生を捨てようとした、僕は生命の冒涜者だったから。

 

宝生永夢()檀黎斗()はとてもよく似ている。

命を尊び、独り善がりで、ひとりで遊び相手(Player)を求め祈り(Prayer)続ける悲しさを抱く。

だからこそ、黎斗さんは僕が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろ――って、あっ? 夢じゃない!? ちょ、全員起きろッ!!」

「喧しいよキリヤ! こんな夜中に、どうしたの!?」

「どうせいつもの悪夢でしょー?」

「いなくなってる……! ゲンムがいないぞ!?」

「やっぱり、アイツが全部仕組んでたんじゃねーか!!」

「俺たちは……また騙されていた!?」

 

 

 

黎斗さんが姿を消して一夜明けた朝。

鏡総合クリニックの3階、階段を上がって左の大部屋。

今は男部屋として使われているそこに、本来は患者さんを寝かせるためのベッドが6台。

その内、抜け殻になったベッドが1台。

 

……どうして黎斗さんは、就寝時間だけはしっかり守っていたのだろう?

僕はふと彼が使っていた枕を退けた。

 

「そうか……これがあったからなんだ」

 

下には綴じられた3枚のメモ用紙が、今このタイミングでわざと見付かるよう隠されていた。

起きた貴利矢さんが慌ててポッピーとニコちゃんを呼んでくる。

 

「それってまさか、クロトが残していったの!?」

 

説明書は読まないプレイングスタイル……とも、表紙に()()()()()()()とわざわざ書かれてたんじゃ言ってられない。

みんながギュウギュウに顔を寄せ合って覗き込む中、僕がそれを代読し始めた。

 

 

 


 

医療マニュアル

 

 

ドクターの君たちへ。

まず初めにちゃんとこれを読んでくれていることに心から感謝しよう。

そして、私を自由にさせていたことにも感謝する。

 

私はかつてレベル0マニュアルを記したが、それはあくまでゲームのマニュアルだった。

再三言ってきたようにこれはゲームではない。よって便宜上医療マニュアルとした。

もちろん魔法少女に関しての、だが、治療マニュアルではない。

彼女たちを治療する方法は――どうせ君たちが探すのだろう。

 

正しく記すならこれは予防マニュアル、もとい、単なる私のメモだ。

最低最悪のエンディングを避けるための攻略手順を書き留めた。

信じて動くかは君たち次第。

 

 

①ガシャットに魔法性を付与する。→ ハイパームテキで完了

②魔女の発生原因を探る。

③魔法の理屈を探る。

④キュゥべえからガシャットを回収する。

⑤マギ

 ※ ↑②~⑤は修正前なので無視すること。

②魔女と使い魔の増加の原因を探る。→ ワルプルギスの夜の接近

③隠れている魔法少女の動向を探る。→ 忘却の魔女のフィルムデータ

④プロトマイティアクションXガシャットオリジンの動作を確認する。→ No Problem

⑤クリニックから逃走し、状況を把握させる。

⑥レベル1への変身を確認する。

⑦鹿目まどかを殺そうとする魔法少女を止める。

⑧真実を明かす。

⑨ワルプルギスの夜を倒す。

 


 

 

 

「まどかちゃんを殺そうとする魔法少女!?」

「ちょっと! これ急がないとヤバイんじゃない!?」

「まどかを狙うなら……見滝原中か!」

「今日は臨時休業だ! 佐倉杏子も呼べ!」

「レーザー! レベル1用のガシャットは!?」

「プロトマイティ以外は残ってる!」

「行きましょう! みんなの笑顔を守るために!!」

 

――黎斗さんの本当の気持ち(Real heart)を知ることは、僕らには難しい。

共闘することはあっても、彼が僕らを仲間(Fellow soldier)と感じているかはわからない。

 

それでいい。

僕はゲーマーで、あなたはゲームクリエイター。

僕はドクターで、あなたは患者さん。

 

たとえ人間として復元される時が来たとしても、きっとあなたは死ぬまでゲームを作り続けるでしょう。

だから僕もあなたの心療を続けます。

死ぬまで攻略し続けます。

あなたが作るゲームを――僕らが編むストーリーを。

 

そしていつか、あなたの本当の笑顔を見させてもらいます。



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STAGE 10-02 (side:magica-M.O.)

『僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ』

 

「私は、私が生きる意味を知りたい」

 

 

 

かつて私はそう祈り、確かに願い事は叶えられた。

私の行く末は予知能力によって示された。

でもそれは絶望の未来。

 

ワルプルギスの夜さえ凌ぐ力を持つ魔女。

ピンク色の魔法少女が変身した、世界の破壊者の誕生。

終末を避けたければ……あの少女が死ねばいい。

同時に、再び悪事を成す恐れのある()()()を排除しなければならない。

 

異世界から仮面ライダーが来訪することも予知していた。

巴マミの死、美樹さやかの魔女化、佐倉杏子の脱落……。

私の予知夢とはかなり異なった運命を歩んできたことも知っている。

あの男が逃走したことも。

 

 

 

「檀黎斗ォ!

 何故貴方が宝生永夢たちの、その後の物語を知らないのか。

 何故その程度のゲームしか思いつかないのか。

 何故キュゥべえ如きに敬服するのかァ!

 その答えはただ一つ……ハァハァ。

 檀黎斗ォ!

 貴方が! 本物の檀黎斗の、Dead Copyだからだぁー-ーッ!!」

 

プロトマイティアクションXガシャットオリジン。

ドクターたちが来訪する前にこの世界へ流れ着いた異物。

そのバグから生まれた檀黎斗の非正規模造品(デッドコピー)浅古小巻(青い魔法少女)と行方晶をゲーム病によって消滅させた。

美国織莉子()と呉キリカは遊び手(Player)として彼のゲームに挑み、祈り(Prayer)を遂げた。*1

 

キュゥべえにプロトマイティアクションXガシャットオリジンを拾わせたのはわざとだ。

結果、檀黎斗は彼に注意を向け

 

「ゴッドマキシマムマイティは持ってないんじゃなかったのか!?」

「私が開発したガシャットにも、魔法を扱える物はあるんだよ」

 

仮面ライダーに魔法性を与えることに成功し

 

≪DANGER DANGER≫

≪DEATH THE CRISIS≫

≪DANGEROUS ZOMBIE≫

 

巴マミの死を回避し

 

『一体君は、何が目的だい?』

「……その答えはただ一つ。私のガシャットを返してもらおうか」

 

キュゥべえからガシャットを回収し

 

「私のゲームは必ず人類を救うよ」

 

魔法少女の真実を知って

 

「私に絶望は訪れない! もう何があっても挫けない!!

 即ち――コンテニューしてでもクリアする」

 

美樹さやかの魔女化と佐倉杏子の脱落を防いでみせた。

 

「……アンタ、どの時点での檀黎斗なんだ?」

「九条貴利矢、君にゲームオーバーにされた直前さ」

 

終末の未来を、神の才能を持ち命を尊ぶあの男ならどうにかできるかもしれない。

愚かで脆弱な人間には絶対に届かない運命を、ひっくり返してくれるかもしれない。

そう少しは思っていた、のに――檀黎斗はドクターたちの前から姿を消した。

 

仮面ライダーと魔法少女の物語は、結局あの男によって水泡に帰するのか。

あの少女のエンディングは、インキュベーターの筋書き通りとなってしまうのか。

そんなことは許さない。許せない。

だから、ずっと息を潜めていた私たちは今こうして再び動き出した。

 

 

全ては私の世界を守るために――今度こそ鹿目まどか(あの少女)を殺そう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市立見滝原中学校は中世西洋風の外観とガラス張りの現代的な内装が合わさった、とても美しい場所だ。

血で染めるのは心が痛むけど、やめはしない。

もちろん生み出す犠牲は最小限に留めるつもりだけど。

 

「ヨシ! この先生、ちゃんと気絶してるよね?」

「教師に暴力を働いたなんて知れたら、休学は免れないわね」

「ハハ! 織莉子、そういう冗談も言えるんだ!

 私たち、これから鹿目まどかを殺すんだよ?

 それに……この先生、前からちょっと気に入らなかったし」

「あらあら」

 

私の右腕――友達のキリカが見滝原中の生徒で良かった。

予知の魔法を使うまでもなく中へ侵入し、朝礼前の放送室を占拠できた。

 

「準備はいい?」

「まさか。こんなこと、心の準備なんてできっこないわ。

 たとえ世界を救ってもきっと赦されない」

「織莉子は誰に赦されたいの?」

「キリカ……貴女、結構イジワルよね」

「と、友達の扱いっていうのに慣れてないんだよー!」

「……ごめんなさい」

「……私もキミも赦されないが、それでもやるんだろう?」

「ええ。今のが、私が口にする最後の懺悔」

 

放送ボタンに手を伸ばすと、そこにキリカの手が重ねられた。

これから失われるそのぬくもりを、今はそっと覚えておこう。

 

「皆さんには、愛する人がいますか?」

 

もしこの世界にヒーローが存在するとすれば、私の行いを認めはしないだろう。

 

「家族、恋人、友人……心から慈しみ、自らを投げ打ってでも守りたい人がいますか?

 そして、その人たちを守るに至らぬ自分の無力を嘆いたことはありますか?」

 

どんな逆境でも決して諦めずに立ち向かい、人の命を救う。

 

「世界は危機に陥っています。

 絶対的な悪意と暴力、それが形成した者が降りようとしています。

 しかし私は戦う……! 私の世界を守るために!!」

 

そんなヒーローが予知すら超えた未来にいるとしても――

 

 

 

「来るがいい、最悪の絶望」

 

 

 

私たちはこの手で、運命の連鎖を断ち切る。

*1
『[裏技] 仮面ライダーゲンムVS魔法少女おりこ☆マギカ ロンリー・プレイヤー』(https://syosetu.org/novel/178743)



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STAGE 10-03 (side:doctor-H.E.)

杏子ちゃんとゆまちゃんに合流して見滝原中へ着いたのと、()()は同時だった。

 

「来るがいい、最悪の絶望」

 

校内放送での宣戦布告が終わった途端、学校中を異様な空間が侵食する。

僕にとってそれは非常に見覚えのあるものだった。

 

「魔女の結界……違う、ゲームエリア!?」

 

チェス盤のような白黒チェックの床に何かが蠢く背景は、これまで見た魔女の結界と似ている。

でも所々がピクセル化してブレていて、なにより

 

「バグスター! なんで!?」

「なんだコイツ! 使い魔か!?」

 

ニコちゃんと杏子ちゃんが驚く先には、ガスマスクをもっとデフォルメしたような顔、標準のヒト型。

ベースが黒で黎斗Ⅱに近いけど、ラインの色はただの紫ではなく青紫だ。

使い魔なのかバグスターなのか判別できないけど、大量発生していても動きは遅い。

 

「なんなのこれ!?」「キモイ!」「体育館へ、早く!」「焦らず落ち着いて!」

 

避難し始めてる生徒や先生たちに害は出なさそうでも、放っては置けない。

 

 

≪デュアルガシャット!≫

 

「応急処置だ。術式レベル50、変身!」

 

≪ガッチャーン!≫

≪デュアルアップ!≫

≪タドルメグルRPG!≫

≪タドルファンタジー!≫

 

 

ファンタジーゲーマーに変身したブレイブが魔法使い型バグスターをありったけ召喚した。

命令を受けて彼らは使い魔(バグスター?)たちと戦闘を始める。

 

「数には数だ!」

「すごいすごい!」

 

手を叩いて喜ぶゆまちゃん。けど、

 

≪ガッシューン≫

 

「あ、あれ?」

 

30体くらい召喚したところで変身が解除されてしまった。

 

「っ、何故だ!?」

「多分MP切れです!」

「魔法性を付与された影響で、いつもよりすぐ切れたんだ!」

「そんな……どうしよう!?」

「つっても召喚された奴は残ってるぞ!」

 

ポッピーが慌てて、杏子ちゃんが指をさす。

ニコちゃんは大我さんの腕にしがみ付いて、でも強気でいた。

 

「アイツらノロマだし、こんだけいれば大丈夫でしょ!」

「ああ。問題はこれを引き起こしてる魔法少女だ!」

「原因を断った方が早いぜ!」

 

使い魔(バグスター?)たちは生徒や先生たちを本気で襲う気がなくて、追い払ってるだけにも見える。

だったら大我さんや貴利矢さんの言う通り、まどかちゃんを狙ってるっていう魔法少女を止めるのが先だ!

 

 

 

「――私の魔法は予知。貴方たちが現れることは()()()()()()わ。

 はじめまして、異世界のドクター。私は美国織莉子」

「私は呉キリカ。織莉子の一番の友達だよ。

 短い付き合いになるけどヨロシクね!」

 

中心部でほむらちゃんに庇われるまどかちゃんを見付けた時。

既にマミちゃんとさやかちゃんは2人の魔法少女と対峙していた。

特徴的なハットの白い魔法少女と、右目に眼帯をした()()魔法少女。

 

「どうしてこんなことするの!?」

 

ポッピーの問いかけに、織莉子ちゃんは静かに答える。

 

「もうすぐワルプルギスの夜が来るからよ。

 貴方たちは敗北し、鹿目まどかは稀代の魔法少女になり。

 ワルプルギスの夜さえ凌ぐ最低最悪の魔女になる。それが私の視た運命」

「わ、わたしが……!?」

「心が滾る……キュゥべえがしつこかったのはそれが狙いか!」

「そんな運命、僕たちが変える!」

「宝生永夢……。そう、かつて貴方も()()()()()()()()()ものね」

 

まさか……元の世界での僕たちのことだけじゃなくて、マイティノベルのことまで知って――。

 

「貴方が自ら運命を変えたように、私たちも私たちの手で運命を変える。

 さぁ行きましょう。最後の戦いよ」

「うん。ずっと一緒にいてくれてありがとう、織莉子。大好き」

「……私も大好きよ、キリカ」

 

キリカちゃんがソウルジェムを……ほとんどグリーフシードに成り果てた水晶を構えて、その闇を溢れ出させた。

 

「私は何になっても決して織莉子を傷付けはしない。

 むしろキミを守ることができるのなら、私は――安らかに絶望できる!」

 

ハットを被り、巨大な女性の体が3つ連なっているような黒い姿。

 

「自分から魔女に……!?」

 

マミちゃんが驚愕する。

 

「あのヘンテコな奴らもこの結界も、コイツの仕業か!」

 

杏子ちゃんが警戒する。

 

「でもそれじゃ、織莉子って奴も危ないんじゃ……」

 

さやかちゃんが疑問を口にする。

 

「キリカの願いは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 侮らないで。絶望如きが彼女を操れる訳がない」

 

両手の黒煙で出来た鎌は、抱き締めるように織莉子ちゃんを守っている。

同時に、体中の至る所が周期的にピクセル化してブレていた

 

「だから⑥があったんだ!」

 

()のマニュアルを理解するポッピー。

僕たちドクターはゲーマドライバーを装着する。

飛彩さんはタドルクエスト。

大我さんはバンバンシューティング。

貴利矢さんは爆走バイク(1本目)。

僕はマイティアクションXを構えて、()に変わった。

 

「これよりバグスター兼魔女切除手術を開始する。やれるな、開業医?」

「当然だ。ここにいるのは最高の医療チームだからな」

「ッシャ。ノせられてやろうじゃない! 行くぜ、名人!」

「ああ! ……ひとっ走り付き合えよ、ってな!」

「ヒュー!」

 

 

「「俺たちに切れないものはない」」

「「ウイニングランを決めるのは、俺たちだ!!」」

 

≪ガシャット!≫

 

「「変身!」」

 

≪Let's Game!≫

≪Meccha Game!≫

≪Muccha Game!≫

≪What's Your Name?≫

 

≪I'm a Kamen-Rider≫

 

 

「……私の知ってる姿に比べて随分とかわいらしいこと。

 そんなふざけた格好で私たちを止められると、本気で思っているの?」

「いいや、レベルが全てじゃない!」

「強い装備使うだけが攻略じゃないってこと!」

 

パラドとニコの言う通りだ。

たくさん敵を倒して経験値やゲーム内通貨を稼いで、レベルを上げたり強い装備を手に入れたりするのも大切。

けど、そんな単純作業ばかりじゃ()()()()()()()()()って言われるのがオチ。

 

ケースバイケースって言葉があるだろ? ゲームも医療も同じさ。

敵や症状に合わせて戦い方を変えてこそ、攻略だ!

 

「キリカは俺たちに任せろ!」

「わかりました! 美樹さん、佐倉さん!」

「オッケー! 予知だろうとなんだろうと、やってやるっての!」

「……ほむら、アンタはどうするんだ?」

「私は――まどかさえ守れれば、それで構わない」

 

4人の魔法少女と4人の仮面ライダーが並び立つ。

 

キリカの変身した魔女はバグスターユニオンと混ざってる

きっと()()()()()()()()がゲーム病に感染させたせいだろ。

トリガー(切っ掛け)が限りなく似ていることを利用したに違いない。

わざわざそんなことした理由は……俺たちが何をすべきかってのは、ちゃーんとわかってるぜ?

 

 

「バグスターと患者を分離させるのは、レベル1じゃなきゃできないの!」

 

 

⑥レベル1への変身を確認する。

⑦鹿目まどかを殺そうとする魔法少女を止める。

 

 

 

 

 

「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!」

 

 

 

 

 



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STAGE 10-04 (side:magica-A.H.)

「流石ね。()()()()なのかしら?」

 

魔法を使って近付いたのに、銃弾をかわされてすれ違う瞬間、そう耳打ちされる。

 

 

――私が経験したどの時間軸よりもイレギュラーだらけだった。

 

これまでに遭遇したことのない、仮面ライダーという存在。

異世界からの来訪者とキュゥべえから聞けば、空き地だったハズの場所に鏡総合クリニックが出現していたのにも納得がいった。

どういう経緯でこの世界に……この時間軸にやって来たのかは本人たちにもわからないらしい。

ただ、予想通り彼らは私たちに深く関わり続けてきた。

 

仮面ライダーでも魔女を倒せるようになった時は、驚きはしたけど檀黎斗への警戒心の方が勝った。

巴マミが魔女に殺されなかった時は、安堵もしたけど檀黎斗への疑問の方が勝った。

美樹さやかは魔法少女になってしまったし、協力を呼び掛けた佐倉杏子も彼女と衝突してしまったけど、2人とも脱落せずに済んだ。

その時も檀黎斗だ。彼の言葉が切っ掛けとなって巴マミも美樹さやかも佐倉杏子も踏み留まった。

 

いえ……もう1人、千歳ゆまがいた影響も大きい。

千歳ゆまはキュゥべえの気を鹿目まどかから逸らすために、()()に唆されて魔法少女になるハズだった。

それが魔法少女にならないままなのだから、千歳ゆまを唆す存在はいないと思っていた。

 

なのに、この時間軸には美国織莉子までいるというの……!?

 

 

「暁美ほむら、貴女は時を止めることができる」

 

佐倉杏子と美樹さやかにそれぞれ左右から斬り掛かられても。

美国織莉子は体を少し逸らせただけでいともたやすく避け、カウンターを仕掛けてみせる。

 

彼女の武器は浮遊する宝石。

飛ばしてぶつけてくることも、刃を生やすことも、魔力を過剰に込めて小規模な爆発を起こすこともできる。

その爆発を2人は寸での所でギリギリ避け、次の攻撃が来る前に飛び退いた。

 

「アイツ……通りで動きが読めなかったワケだ!」

「なんであんたが知ってんのさ!?」

「私が視たのは、1つの未来だけではない」

 

まどかに向かって放たれた3つの宝石の内、1つを私が、1つを巴マミが撃ち落とす。

もう1つは赤い仮面ライダーになったパラドが弾き返した。

彼は強過ぎるが故に魔法()()である美国織莉子に手を出せず、まどか(と隣の千歳ゆま)の前で防御に専念している。

同じく変身したポッピーピポパポはレベル1たちのサポート、西馬ニコは彼らへの指示出しをしていた。

 

「予知なら時止めも攻略できるか……!」

「魔法を酷使しすればどうなるか、あなたもわかっているでしょう!?」

 

パラドと巴マミの言う通りだ。

ただでさえ多量の魔力を消費する予知を、彼女は後先考えずに使い続けている。

私と巴マミが何発撃っても的確に防いでいる。

佐倉杏子と美樹さやかは宝石に阻まれて接近することも難しい。

 

「運命を変えられるなら、私たちは尽きても構わない。

 未来を恐れてばかりの貴女たちとは違う!」

 

呉キリカの能力、速度低下によって動きを遅くされてるせいで、私たちは余計に美国織莉子を捉えられない。

もっと強力な爆弾を用いればなんとかなるかも知れないけど、ここにはまどかもいる。

この妙な空間が崩れれば巻き添えになる恐れもあるし、なにより……彼女の()()()()()()()にも警戒しなければならない。

 

「わ、わーるきすのよる? に、みんなで戦えないの!?」

「そうだよ! 魔法少女だけじゃない、仮面ライダーだっているよ!?

 織莉子ちゃんもほむらちゃんも、みんなで協力すればきっと――

「仮面ライダーを生んだ檀黎斗は、既にドクターの前から姿を消した。

 彼が何をしでかしてきたかは貴女たちも知っているでしょう?

 あの悪魔さえ止められなかったドクターに何ができるというの!?

 それに――。オラクルレイ!」

 

美国織莉子が、全ての宝石に刃を付与して高速で飛び回らせる大技を放つ。

 

「っ!!」

 

まどかと自分への刃を弾くので精一杯。

佐倉杏子も美樹さやかも巴マミも体中を斬り裂かれて倒れていく。

何度も耐えてきたパラドも、千歳ゆまを庇った結果変身が解除され膝を突いた。

 

「美国……織莉子……!!」

 

いつかの時間軸で戦った際は、私・巴マミ・佐倉杏子・千歳ゆまだけでも勝つことができた。

何故こんなにも苦戦を強いられるの? 同じように決死の覚悟でも、まだ希望を捨てていない?

彼女たちはこの戦いの先に何かを期待している?

 

「それに――これからこの世界を滅ぼす運命の貴女に、何を言う資格があるの?」

「そ、そんなこと言われても……だってわたし、まだ何も……」

「まどかはっ……ずっとあたしたちが、仲良くなれるって、信じてくれた……!」

「そんなこの子を、手に掛ける資格が……あなたにはあるの……!?」

「アンタの、ただ一つだけ……最後まで成した遂げたいものは、本当にこれかよ!?」

「っ……。私は――」

 

呻く3人の言葉に美国織莉子が返そうとしている間に

 

 

≪クリティカルストライク!≫

 

 

ドクターたちのキックが魔女(?)に炸裂する。

相打ちも同然で、彼らは爆発に吹き飛ばされ地に伏せた。

 

≪ガッシューン≫

 

両腕の鉤爪が砕け散って、巨体がピクセル化して崩れていって

 

「ポッピー!」

「任せてニコちゃん!」

 

中から落ちてくる呉キリカをポッピーピポパポが受け止める。

その傍には、殆ど真っ黒になったままのソウルジェムも一緒にあった。

 

「キリカ!?」

 

パン、パァン。

美国織莉子の両肩を1発ずつ撃ち抜く。

以前は体だけになった呉キリカを庇って隙を晒した彼女だけど、今回はほっとしたせいか。

でも関係ない。私は近付いて、彼女の胸のパールのようなソウルジェムに銃口を突きつける。

その手が鉤爪のカケラを拾っていたことも気付いている。

 

「撃たないの?」

「撃つわ」

 

ダメだ、やめろ。

必死に止めようとする全員の声を無視して、私は最後の問いを投げかけた。

 

「一つ答えて。あなたたちは何故こんな戦いを挑んだの?」

 

無意味だということくらい、予知できていたでしょうに。

 

 

 

「私たちの世界を守るためよ」

 

 

 

 

 

呉キリカの遺したカケラを手にした美国織莉子が、最期の一撃をまどかに放つ、その前に。

私は引き金を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\フッハッハッハッハハハハハハハ!!!/

 

「っ!? ……っっ!!?」

 

私と美国織莉子の間。

不愉快な笑い声のした足下を見れば、いつの間にか紫色の土管があって。

そこからなんとも気の抜ける効果音と共に檀黎斗が生えてくる

 

≪テッテレテッテッテー≫

 

「は?」

 



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STAGE 10-05 (side:doctor-H.E.)

≪テッテレテッテッテー≫

 

「は?」

 

バグスターワープを応用した奇をてらう行動に、呆気に取られるほむらちゃん。

その隙に黎斗さんはサッと銃を奪い取り、腰に巻いたゲーマドライバーを見せつけた。

 

「今私はいつでもハイパームテキを発動できるようセットしている。

 このガシャットは文字通り無敵だ。あらゆる攻撃を一切無効化する。

 もちろん魔法性も与えた。時止めも通じない。無駄な抵抗は止すんだな!」

「なん、ですって……?」

 

ほむらちゃん以外の子たちも驚いているけど、僕以外が使えるのは10秒間だけ、とは言わない。

 

「檀黎斗……」

「美国織莉子……私は君たちが相手していた()ではない。

 しかし引き継いだ者として、君にクリア報酬を授けよう!」

 

黎斗さんの手から差し出された2枚のエナジーアイテムを、織莉子ちゃんは怪しみつつも受け取った。

 

≪回復!≫

 

片方を自分に使い、まだ睨んでくるほむらちゃんを彼に任せ、

 

≪回復!≫

 

ポッピーの所へ走って行ってもう片方をキリカちゃんに使う。

 

「ん、むあ……」

「よかった! 目がさめぐあっ」

「織莉子ぉー! ありがとう織莉子!!

 試合には負けたけど勝負には勝ったってヤツだね!

 私たちの愛は不滅だぁーーーっ!!」

 

キリカちゃんはポッピーの腕から飛び出して織莉子ちゃんに抱き着いた。

織莉子ちゃんは、子どもをあやすようによしよしとキリカちゃんの髪を撫でている。

まだソウルジェムは予断を許さない状態かもしれないけど、一先ずピンチは去ったようだ。

 

「ったーく、色々とやってくれるじゃないの。

 ぜーんぶキッチリ説明してもらうぜ、檀黎斗神?」

「……私が君たちと同時にこの世界へ現れたのは嘘じゃない。

 しかし、何故かプロトオリジンだけは先に流れ着いていた。

 そこから生まれた私の非正規模造品(デッドコピー)が魔法少女殺しの正体だ。

 呉キリカが過失で殺してしまった、と思い込んでいた魔法少女に、彼はゲーム病を感染させた」

()()……遺言は、間違いではなかったのね」

 

納得するマミちゃんに次いでポッピーが喜び出す。

 

「じゃあその子は……!」

「ああ。他の消滅者と同じく、プロトオリジンの中に保存されているよ。

 やがて彼は全ての真実を知り、魔法少女システムをゲームに利用しようとし。

 最終的に、目を付けていた美国織莉子と呉キリカに倒された。

 プロトオリジンをキュゥべえに回収させたのは――」

「ええ、わざとよ。貴方はキュゥべえに注意を向け、未来は徐々に変わった」

「織莉子の筋書き通りにいったね!」

「プロトオリジンを取り戻した私は彼の記憶を吸収し、メモを書き直した。

 最低最悪のエンディングを避けるための攻略手順に、ね。

 悩みの種だった彼女たちの動向も、忘却の魔女のフィルムデータで知ることができた。

 宇宙からずっと魔法少女を記録していたのかも知れないが……定かではない」

「あの気持ち悪い脳みそ魔女ね……」

「あ、オリコたちも映ってたかも!」

 

さやかちゃんの言う通り異形な魔女だったけど、ゆまちゃんはその中で織莉子ちゃんたちを見付けていたらしい。

 

「なんで急に事を起こした?」

「もうすぐワルプルギスの夜が来るからさ」

 

黎斗さんは当たり前というように大我さんの質問に答えた。

 

「私の作ったハイパームテキさえあれば敗北など有り得ない!

 だが敵は自然災害級。優秀なドクターが数人いても手が足りないだろう?

 誰も落とさず、しかも更なる戦力を得る必要があった」

「初めから協力してって言えばいいじゃん!」

「見滝原・風見野・あすなろ……他にも魔法少女がいるだろ?」

「下手に真実を語れば一気に絶望が加速しかねない。

 噂話として広まれば、誇張が加わり混乱を招く恐れもある」

 

ニコちゃんとパラドの言うこともわかるけど、黎斗さんの返しにも一理ある。

 

「それに、私が頻繁に単独行動していれば君たちが黙っていなかったハズだ。

 だから鹿目まどかと出会い、自ずと真実を知る魔法少女に絞った。

 美国織莉子はもちろん、呉キリカと佐倉杏子も優秀な戦力だよ」

「裏があるとは思ってたが……アタシたちは駒扱いかよ」

「院長として聞く。デッドコピーとやらはこうなることを予測していたのか?」

「敢えてゲーム病に感染させ、レベル1で魔女の成分ごと切り離させ、戦力にする……。

 彼がこの未来を予知していたかは不明だ。

 私の姿をしただけの他人と言っても過言ではないのだからね。

 2人の動向を探り、万全の準備をし、襲撃と妨害のタイミングを調整したのはこの私だ!」

「……僕たちに黙ってたのはどうしてですか?」

「君たちに邪魔されず自由に動くため、というのもあるが……。

 一番の理由は、暁美ほむらにさとられず彼女の魔法を解明するため。

 美国織莉子と戦わせ、彼女の魔法に関するデータを集めるためさ」

「ほむらちゃんの魔法って……時を止める魔法?」

 

まどかちゃんの呟きの後、ほむらちゃんから少し距離を取る黎斗さん。

 

「時を止めると一口に言っても理屈は様々だ。

 喩えるなら、時間の流れは走り続ける車。

 エンジンを破壊する、ブレーキを掛けさせる、パンクさせる……。

 タイヤを止めるという結果は同じでも過程は異なる。

 暁美ほむらは何をしているか……確証を得るまで苦労した甲斐はある。

 彼女の魔法では時間の流れる力に変化はない。タイヤは止められていない。

 走り続けようとする車を、魔法という腕を使い無理矢理押し止めている。

 では――止めるに留まらず()()()()()()()()()()としたら?」

「そんなことしたら、車は後ろに――」

 

自分の言葉に、仮面ライダークロノスの姿が……檀正宗の姿が脳裏を過った。

 

「君の隙のなさは本当に私を手こずらせてくれたよ……」

 

黎斗さんがほむらちゃんを真っ直ぐに指差す。

かつて僕がゲーム病であることを暴露した時のように。

 

「「ッ!!!」」

 

あのセリフを知っている人は全員が身構えた。

様子の変化に気付いて、魔法少女たちとまどかちゃん、ゆまちゃんも疑心に満ちた目を黎斗さんに向ける。

けど僕は――。

 

「鹿目まどかを魔法少女にさせない……君はそう動いていた。

 今こそ君の旅が終わる時だ。その真実を、明かす!」

 

 

 

宝生永夢()檀黎斗()はとてもよく似ている。

命を尊び、独り善がりで、ひとりで遊び相手(Player)を求め祈り(Prayer)続ける悲しさを抱く。

 

 

 

 

 

だからこそ、黎斗さんは僕が――僕が信じなきゃ(I gotta believe)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暁美ほむらゥ!

 何故君がキュゥべえと契約せずに、魔法少女に変身できたのか。

 何故秘められた事情に詳しいのか。

 何故時に関する魔法を司るのくわァ!」

「っ、それ以上言うな!」

「その答えはただ一つ……」

「やめなさい!」

「アハァー♡ 暁美ほむらゥ!」

「ッ!!」

「君が! 時間を押し戻し、

 鹿目まどかを救おうとしている少女だからだぁーーーッ!!

 ハハハハハッ!!

 ヴェーハッハッハッハッハッハッハ!!!」

「ほむらちゃんが、時間を……!?」

「わたしを救おうとしてる!?」

「……もう、全て話す時よ」

 

 

 

ポーズ、リセット、リスタート、コンテニュー。

膝から崩れたほむらちゃんが明かすのは、彼方からの(dream)

友達を救うために運命へ叛逆した少女の物語。

 

 

 



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STAGE 10-06 (side:magica-K.M.)

もしこの世界にヒーローが存在するとすれば、彼や彼女たちのことを言うんだと思います。

どんな逆境でも決して諦めずに立ち向かい、誰かの命を救う。

きっと忘れちゃいけないんだと思います。

いつもどこかで誰かが、わたしたちのために戦ってくれていることを。

そしてそれを覚えている限り、わたしたちはひとりぼっちじゃない。

 

なのに――

 

 

灰色の空の下、崩れいく街の中。

たったひとりで強大な存在に挑むほむらちゃんを、わたしは心配そうに見ている。

 

――ごめんね、ほむらちゃん。わたし、忘れちゃってたんだね。

 

 

抱き締めようと思って彼女に腕を伸ばした、その時

 

『本当に君は厄介だよ、檀黎斗』

 

いつの間にかそこにいたキュゥべえの真っ赤な目が、彼を見つめていました。

 

『マジックザウィザード、デンジャラスゾンビ、マイティアクションXオリジン……。

 君が生んだガシャットは悉く僕の筋書きから事を外していった。

 確かに君のゲームは人類を救い、()()()()()()()()()()()()()

 

いつもキュゥべえの顔は同じです。ちょっと瞼を閉じることもあるけれど。

でも今は目を開けているのに、彼には感情がないって聞いたのに。

苛立っているようにも嘲笑っているようにも見えました。

 

「お前との契約のせいで、ほむらちゃんたちは――

『僕たちは有史以前から君たちの文明に干渉してきた。

 数え切れない程大勢の少女がインキュベーターと契約した。

 祈りから始まり呪いで終わる。これまで数多の魔法少女たちが繰り返してきたサイクルだ。

 中には歴史に転機をもたらし、社会を新しいステージへと導いた子もいた。

 僕たちがこの星に関わっていなければ、君たちは今でも裸で洞穴に住んでたんじゃないかな』

「ッ……!」

『どんな希望も条理にそぐわないものである限り、必ず何らかの歪みを生み出すことになる。

 やがて災厄が生じるのは当然の節理だ。そんな当たり前の結末をバッドエンドだと言うなら。

 そもそも、願い事なんてすること自体が間違いなのさ

「もし脈絡なく 0+1=2 にできるとすれば、そこに理屈など存在しない。

 純然たる理不尽さを孕む魔法……そんなものは有り得ない。

 だから魔法少女システムは対等の契約であり究極の救済である、と?

 見事だよインキュベーター。しかし、見事過ぎて気に入らないな」

『……。もうすぐワルプルギスの夜が来る。彼女に勝てた時間軸の話は聞いただろう?

 たとえワルプルギスの夜を倒せたとしても君たちのソウルジェムは限界を迎える。

 回復のエナジーアイテムは一時凌ぎ。激しい戦いでの消耗には追い付けない。

 そうなったら……まどか、君が()()()()()()と願って魔法少女になるしか方法はない。

 そしてその時にはきっと、この時間軸もまた無為にしてほむらは戦い続けるだろう。

 何度でも性懲りもなく、この無意味な連鎖を繰り返すんだろうね』

「98回ゲームオーバーになっても、コンティニューし続けた先……。

 99回目にクリアできればエンディングだ。そんなことも知らないのか?」

「ここがほむらちゃんの99回目だ!」

『そうして希望を抱き続け、諦めなかった結果がワルプルギスの夜と鹿目まどかだ』

 

わ、ワルプルギスの夜と……わたし?

 

『全ての悲劇は彼女たちから始まった。

 繰り返される時間の中で循環した因果の全ては、元凶である彼女たちに集約した。

 遂には異端の魔法少女どころか、異世界の存在さえ絡み付けてしまった。

 結果、ワルプルギスの夜の力は途方もなく肥大化し、鹿目まどかは果てしない素質を得た

 この星を破壊できる程に……君たちが力を合わせたところで敵わない程にね。

 希望を押し付け、因果を束ね、彼女たちを極限まで高め、絶望の結末を導くのは他でもない。

 暁美ほむら、君だ』

 

真っ青になるほむらちゃん。

わたしはなんとかフォローしなきゃと思って、でもなんて言ったらいいかわからなくて。

真っ先に言い返したのは、まるでこれから捨てる生ゴミに向けるような嫌悪と侮蔑の目をした永夢先生でした。

 

「ふざけるな……。希望を抱くこと、友達を救おうとすることは間違いなんかじゃない!!

 何度だって言ってやる!! 運命は、僕たちが変える!!!」

 

――ああ、どうしてわたしはまだこんなままなんだろう?

 

 

「本当に他にどうしようもない程どん詰まりになったら、いっそ思い切って間違えちゃうのも手なんだよ」

 

 

人を救うためだけの存在、特別な聖人君子。

こんなわたしでも誰かの役に立てるなら。

運命をひっくり返すだけの奇跡を起こす力があるなら。

自分が生み出す絶望すら塗り替えちゃう魔法が使えるなら――。

 

ねぇ、ママ。

わたしが間違っちゃっても、ママはまたわたしのこと抱き締めてくれる?

 

 

See you Next story

 


 

次回、翻転のstory!

 

ワルプルギスの夜が訪れる前

僕たちは束の間の休息を過ごす

幼馴染、恋のライバル、先輩、後輩

家族、父と子、憧れ、友達

全てのすれ違いはひとつに紡ぎ直される

可愛い女の子が沢山出てくるときめきクライシス

激しい操作があまりいらず頭を使うバンバンシミュレーションズ

みんなで遊べる爆走バイク、やっぱりドレミファビート

どれだけ大きな絶望が待ち受けているとしても

彼のゲームをプレイしている時

 

 

僕らの心はexcite( 高鳴る )

 

 

 

ラスボスを倒して、ハッピーエンディングだ

 

 

 




just reset(ジャストリセット):状況を変えるために今ここで一旦断ち切ること。justの語源は正義という意味のjusteらしい。
タイトルとしての由来は仮面ライダークロノスのテーマソング『justice』から。
内容がとてもほむらに合ってる気がします。


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ステージ11『僕らの心はexcite』
STAGE 11-01 (side:magica-K.K.)


このゲーム――最後に勝つのは


「きゃ~~~~!!!」

 

普段静かな美国邸に大きな声が響いた。

私にはわかる。織莉子のソレは悲鳴ではなく歓声だ。

 

「やったわ! 初めてスポンジが上手くできた!

 ふかっふかっ。ふっかふかよ!!」

 

ただ、その感謝が向けられるのが私ではないということには少しムッとしてしまうね。

 

「ありがとうポッピーさん!」

「私もケーキを焼くのは初めてだったけど、大成功だね!」

 

まるで母親みたいな優しい目でそう言ったのは、えっと、ポッピーピポパポ。

噛んでしまいそうな名前の、檀黎斗と同じバグスター。

 

私と織莉子が見滝原中を襲って、魔法少女と仮面ライダー……檀黎斗に阻止された次の日。

学校が急遽休みになったので、全員でワルプルギスの夜(ラスボス)に挑む前に親睦会が開かれることになったのだ。

織莉子とポッピーは2人してキッチンで料理を準備している。

 

「お母様がよく作ってくれていたのだけど、ずっと上手くできなかったから……本当にうれしい」

「そっか……どうしても今日、成功させたかったんだね」

「おい、手が止まってるぞ」

 

あと、パラドっていうバグスターもテーブルの準備とか(私もその係だけど)で屋敷の中にいた。

 

「うるさいなー。私にとっては織莉子が最優先なんだ。邪魔しないでもらえるかな?」

「俺たちはその織莉子の協力者だぞ」

「ム。その言い方はズルいね」

 

織莉子以外のなにもかもがどうでもいいのは本当だ。

でも、たしかに彼ら彼女らは織莉子の()()()()()って願いのために必要不可欠な要素。

悔しいけど、私だけじゃ手が足りないんだからゾンザイにもできない。

 

「わかったよー。働かざる者食うべからずとも言うしね」

 

テーブルクロスの皴を伸ばす伸ばす。丁寧に伸ばす。

聞き耳は立てたままだけど。

 

「もっと早く出会えて、もっと早くお話できてたら……なんて、言わない方がいいのかな」

「私は……暁美ほむらと同じ。それがたった一つの道だと信じ込んでいた。

 鹿目まどかを殺すことで全てが解決する、と……。

 そんなことに協力してくれる人が簡単に見つかるハズもないとわかっていた。

 だから誰に頼ることもできなかった。しなかった」

 

唯一私を除いて。

 

「そういえば……予知夢を介してなのかしら?

 何度も何度も、繰り返し私を問い質す声が聞こえていたの。

 ()()()()()()()()()()()() と……。

 あの声はデットコピーのものだったのか、それとも……」

「クロト……?」

「わかりません。今となっては確かめる手段もありませんし……。

 今の彼は、()()と呼んでいいんですか?」

「う~ん。クロトピーみたいなバックアップでもないし、そう、なのかなぁ……」

「貴女でもそれはわからないもの?」

「クロトのこと理解するのってすっごい大変なんだよ!」

「フフ、そうでしょうね。

 不思議な人……未だに、本当は何を考えて何を成そうとしているのかわからない」

「うん……。でもきっと、今は私たちの味方って言っていいと思う」

「――なぁ」

 

椅子を並べながらパラドが再び私に話しかけてきた。

 

「まったくぅ。まだなにか用? 今はちゃんと手を動かしてるだろー?」

「お前が殺したと思ってた奴がゲンムの――デッドコピーの手でガシャットにデータが保存されてるって知った時、どう感じた?」

「……なんだい、その質問?」

 

一瞬だけ手を止めて私を真っ直ぐ見つめると、パラドは働くのを続けつつ語り出す。

 

「俺は元の世界で人を殺した。ソイツらのデータもガシャットの中にある。

 コンティニューできない命の意味を俺はわかってなかった。

 永夢に自分がしでかしたことの大きさを、命の重みを教えられたとき……心が震えた」

「……。だから、私も同じなんじゃないかって?」

「お前が織莉子第一なのはもうわかった。でも、俺たちはチームだ。

 織莉子じゃない、お前自身の気持ちを聞きたい」

 

そんなもの――

 

「決まっているだろう? 嬉しかったさ」

「それは……相手が織莉子の友達だったからか?」

「遠慮もなにもないね君……。一番にあるのはたしかにそうだね。

 けど、それだけじゃない。……織莉子の中には迷いがあった」

 

世界を救うことに対してではなく、そのために何を見捨て何を壊すかに。

その迷いにデッドコピーなのかそうじゃないのか、アイツがつけこんでいた。

 

「誰も犠牲にせず世界を救えるならそれが最高に決まってるだろう?

 もしあのまま互いに心を壊しあって事を進めていたら、私は第二の()()()()()()になっていたかも。

 そうならなくてよかったと心から思うよ。……この答えで満足かい?」

「……ああ」

 

手が差し出された。

握手を求めてくるのが一人、私の前にいた。

 

「君たちは向こうの世界を救ったヒーロー様なんだろう?

 いいさ。私たちが手を組めばきっと不可能なんてないからね!」

「任せとけ! 協力プレイで、決着をつける!」



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STAGE 11-02 (side:doctor-H.T.)

「キョーコ、がんばれー!」

「クッソ、プロゲーマーだなんて聞いてねぇぞ!」

「手を抜いたらどうせ文句言うでしょ!」

 

このゲームセンターは余程店員たちにやる気がないのか。

こうして真っ昼間から子どもが騒がしくしていても、なにも注意を受けることがない。

 

「はい小足見てから対空余裕ぅ~!」

「だああああクッソ!」

 

昔ながらの対面配置の格闘ゲーム。

俺が見ていたニコの画面にはデカデカとYOU WINの文字が表示された。

 

「いつまでやってんだ。そろそろ行くぞ」

 

俺たちは遊びに来てる訳じゃない。

大量の人数に似合っただけの大量のお菓子を買い出しに来ている。

ニコに杏子にゆま、この面子ならちょうどいい……なんて思っていたんだがな……。

実際は真っ先にゲーセンに走って来てこのザマだ。

 

「負けたままで終われっか! もう1回だ!」

「もーいっかい! もーいっかい!」

「そうそう。こんなんじゃアタシの方がぜーんぜん楽しめてないし~」

「おい」

「言ったな!? じゃあ次は向こうので勝負だ!」

「しょーぶ! しょーぶ! キョーコは次こそ勝ーつ!」

「望むところだっての! 次もボッコボコにしてやんよーだ!」

「おい……」

 

杏子に左腕、ゆまに右腕を引っ張られながら、ニコに背中を押されて次の台に連行される。

 

杏子は中学生、ゆまは見た目よりは少し大きくて小学生。

ニコは……成人済みとはいえ女子高生と言われてもそうだとしか思えない感じだ。

そんなのに囲まれて大の大人の俺がいるんだから、周囲にはどう見えてんのか……。

チラチラと周りを気にしていればむしろ挙動不審。

俺は逆に堂々と、しかし嫌々とコイツらに付き合わされている。

 

「大我! ほらお金出して!」

「買い出し用の金をいくら使う気だ!」

「えー! お菓子少なくなるのやーだー!」

「ケチケチせずに自分の財布から出しなよ。カレシさんの役目だろ?」

「そんなんじゃない!」「そんなんじゃねぇ!」

「は!? 違うのか!? だってアンタらいつもベタベタ引っ付いて……。

 デキてないってんならなんなのさ!?」

「「それは……」」

 

顔を見合わせたニコと視線がぶつかる。

なんだ、その赤らんだ顔は。

 

「あ、アタシの主治医ってだけだし!」

「そ、そうだ! 主治医が傍にいて何が悪い!」

「いやどう考えてもおかしいだろ……。聞くだけ野暮ってもんか?」

「ヒューヒュー」

 

厄介だ。厄介すぎる。

自覚はあまりなかったが、俺は子どもってかなりニガテなのかもしれない。

いや、なんとなくそう呟くとレーザーあたりに()()()と冷やかされそうだ。

 

「う、うっさいうっさい! 大我早くしてよ!」

「……これでラストだぞ」

 

お菓子代としてレーザーから渡された封筒ではなく、自分の財布から100円玉を取り出して筐体に入れる。

Dog Drug Reinforcement.俺たちが初めて出会った時に杏子がプレイしていたダンスゲームだ。

ステージに描かれた上下左右のマークを、曲に合わせて流れてくる指示に従って踏みながら得点を競う。

 

「アタシの方が年上だから、年下のアンタに曲は選ばせてあげる」

「ンだよその些細な仕返しは……。遠慮なく決めさせてもらうよ」

 

足をダンダンさせて杏子が選曲する。

コネクト……。テレビで流れていたから俺でも知っていた。

たしか、杏子くらいの年齢の女性2人組ユニットが歌っている曲だ。

 

「え!? これもう入ってたの!? アタシまだ譜面知らないんだけど!?」

「ハッ。ザマーないね! 精々無様なステップ見せな!」

「ス、スマホの音ゲーなら初見フルコンだってたまにできるし! ナメんなよ!」

 

曲が始まる。指示のマークが落ちてくる。

 

「キョーコがんばれー!」

 

ゆまと違って、俺は声を出してニコのことを応援しない。

 

ゆまは……近くには住んでいないが、父方の祖父母がいるらしい。

この戦いが終わったらそこに届けると杏子が約束した。

 

「お前自身はどうするんだ?」

「アタシは……だって今さらあんなトコ(親父の教会)にも住めないし。

 今までと同じで、根無し草で生きていくさ」

「ダメよ、それは」

 

俺の問いに返した杏子にそう言ったのは、マミだった。

 

「あなたは私のことを、かつて家族のように思ってくれていたんでしょう?

 だったら……一緒に住まない? 一緒にご飯を食べて、一緒に学校に行くの!」

「でも……いいのかよ?」

「いいに決まってるわ! 細かいことは魔法の力でチョチョイのチョイよ!」

 

聞いていた何人かはええ……ともなったが、そのたまに見せる思い切りもまたマミらしいところなのだろう。

 

「そっか……ゆまもおじいちゃんおばあちゃんのとこで新しい人生を送るんだもんな。

 アタシはアタシで、子どもらしい人生のコンテニューだ!」

 

実際のとこ、ワルプルギスの夜を倒したからといって俺たちが元の世界に戻れる保証はないんだが。

 

「だああああ負けたああああああああ!!」

「よっしゃ勝ったああああああ!!」

「キョーコおめでとう!!」

 

ただまぁ……コイツらのその後を少しでも見てみたいと思う気持ちがないと言ったら、嘘になる。

 

「おい、もういいだろ。そろそろ行くぞ」

「わーったよ。うっさいおじさんだな」

「おじさん……」

「お、あっちにプリクラあるけど、撮ってかないのお二人さん?」

「はぁ!?」

「い、いっぺん勝ったくらいで調子に乗るなよ!!」

「でも……みんなで揃った写真、ゆまは持って行きたいな」

 

それもアリかもななんて思いつつ、これ以上面倒なことになる前に俺はゲーセンから一早く脱出した。



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STAGE 11-03 (side:doctor-K.K.)

「これはこっちでいいのか?」

「ええ、お願いします」

 

巴マミの家では、大先生、マミちゃん、さやかちゃん、自分でティーカップ(や茶葉)を包装して三国邸へ運ぶ準備をしていた。

といって、自分とさやかちゃんはお茶に詳しくないので、他の2人の指示通り動いているだけだが。

 

「そういえば……一つさ、聞きにくいが聞いておきたいことあるんだけど、いい?」

「? なんですか?」

 

手を動かしたまま近くのさやかちゃんに問う。

 

「上条恭介くん。たしかお友達が告白するって……どうなったのかなーって。

 いや、言いたくないならいいんだけどさ」

 

美樹さやかのソウルジェムが黒く濁り始めた大元。

自分が助けた友達と、幼馴染を巡っての恋のバトル。

ヘタに突っ込むのもどうかと思ったが、なにせ自分はマイティノベルの一件を経験してる。

言いたくないことは言わないままでも、できるだけ腹を割って話すべき時もあるもんだ。

 

「ああ、それなら」

 

そうやってかなり気を遣って聞いたが、さやかちゃんは意外にもアッサリした感じで答えた。

 

「あたしも告白しましたよ」

「へぇー、そうなんだー。……ええっ!!?」

 

持っていたカップを落っことしそうになって面白可笑しく慌てふためく自分。

ちょっと離れたところではマミちゃんも同じようになっていて、大先生だけが冷静なままだった。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「ああうん! 落とさなかった! セーフセーフ!

 ……じゃなくて! え、コクったの!?」

「え、そんなに驚きます?」

「驚くでしょーそりゃあ! で! で!? どうなったワケ!!?」

 

アニメみたいなことは現実には起きないが、それでもマミちゃんの片耳が大きくなっているように見える。

 

「それが……。なんか、友達としか思ってなかったって」

 

あ……フラれちゃった……?

 

「同じこと仁美にも言ってたみたい。なんで僕が急にモテてるんだ!? って慌てちゃって。

 結局、今はなにより音楽を優先したいからそういうの考えれないよ! ってハグらかされちゃいましたー」

「おー、おーう……」

 

なんともまぁ肩透かしな展開と言いますか。

いや、事故のせいで途絶えていた夢の続きが追えるようになった男子中学生なら、恋よりそっち優先してもおかしくはないか。

 

「仁美ちゃんは、さやかちゃんがコクったってこと……」

「知ってますよ」

 

知ってるんだ!?

 

「お互いアイツを振り向かせるのには苦労しそうだね、って……。

 へへ。恋のライバルってヤツですかね!」

 

照れくさそうに笑ってみせるさやかちゃん。

俺が杏子ちゃんとの決闘を止めに行ったときとはえらい違いだ。

この顔がこの子の持つ本来の心なんだろう。

 

「今思えば、なんでこんなことでウジウジしてたんだろうあたしってなっちゃう。

 思い切って踏み出してみれば、案外どうってことないことだったのに」

「そういうもんかもねぇ。

 でも、後からすればなんてことなくても、その時にはマジで自分の世界を揺るがすくらい大きなことに感じられたのは間違いないんだろうぜ?」

「うん……。あの時、一瞬でも()()()()()()()()()って思っちゃった自分が憎く感じた。

 けど、そう思ったのは嘘じゃないし。今()()()()()()()()()()()って思うのも嘘じゃない」

「……吹っ切れたみたいだな」

「……貴利矢先生は?」

「ん? 自分?」

「最初に聞いた時からずっと不思議だったんです。黎斗さんのこと……。

 永夢先生のゲーム病も、飛彩先生の恋人で大我先生の患者さんも。

 貴利矢先生が一度消滅したことがあるのも……全部黎斗さんのせいだって。

 でも、今はみんな味方として戦ってるし、黎斗さんを頼ってる風にまで見える。

 どうして、ですか? 黎斗さんも一度消滅してるから? 貴利矢さんに倒されたから?」

「あー、う~ん……」

「私も――」

 

答えに詰まっているとマミちゃんも参戦してきた。

 

「私も不思議です。何故あの時私のことを身を挺してまで助けてくれたのか……。

 織莉子さんも指摘していたけど、檀黎斗さんは信用の置ける人なんですか?

 いえ、疑ってるというか……純粋に不思議なんです」

「そーねぇー……」

 

大先生と顔を見合わせる。

お互い何と言っていいかわからないって顔だ。

 

「信用は――ぶっちゃけしてないな。むしろ常に疑ってかかってる。

 なんせある日急に脱獄して人類巻き込んだゲーム始めるような()()だからねぇ。

 ただ、アイツしかガシャットを修正できなかったし、アイツだけが突破口を開くカギになれた。

 自分たちはドクターだ。命最優先。そのためだったら()()だろうと()()だろうと手を組む」

「こんなことを決戦前や懇親会の前に言いたくはないが、奴の才能を認め頼ってはいる。

 それは小児科医や開業医も同じだろう」

 

さやかちゃんは目をパチクリさせていた。

 

「なんか、大人って感じ。そういうとこ割り切れるのすごいなーって思います」

「まっ、今さらアイツを改心させるって方がムリあるし?

 せいぜい利用して、なんかやらかしたら懲らしめに行く。

 そういう付き合い方しかないってワケよ」

「ほんと、織莉子さんの言った通り()()というわけね」

「触らぬ神に祟りなしとも言うが、檀黎斗はこちらが触れなくとも勝手に祟りを撒き散らす。

 全くはた迷惑な奴だ。きっと今もまだ何か企んでいるに違いない」

「キュウべえはワルプルギスを乗り越えられないとか乗り越えても魔力の限界がーなんて言ってたが。

 もしかしたらラスボスは檀黎斗になるかもしれないぜー?」

「やだ……脅かさないでくださいよ!」



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STAGE 11-04 (side:doctor-H.E.)

「まさか……本当にこれだけの量の火器を街中で使うつもりだったのか……?」

 

珍しく黎斗さんが引いている。

街中に大量のゾンビを放った人が言うことかと思いつつ、僕も似たような感想を抱いていた。

 

休診日の鏡総合クリニックの2階。

僕が最初に目を覚ました場所。

あの時と同じように、天井から下がっていたプロジェクターが壁に大きく資料を投影していた。

そこに書かれているのは、

 

「人智を超えた災害級の魔女、ワルプルギスの夜……。

 私は可能な限り手を尽くしたけど、これでもまだ足りないかもしれない」

 

ほむらちゃんが準備していた武器……というより兵器の数々だ。

 

「爆弾は手製、銃器は暴力団からとまでは予想していたが」

 

アサルトライフル、サブマシンガン、ロケットランチャーが暴力団からゲットできること自体もう大分とんでもない話だけど。

 

「まさか自衛隊から対艦ミサイルをに留まらず、米軍からトマホークまで盗み出すとは……」

 

富士総合火力演習とかで見るような、あるいはそれでも見ないような物まで並んでいる。

 

「この国で他に武器が手に入る場所なんて、わからなかったから……」

「君の思い切りの良さと行動力には敬服するよ。

 形跡を残さず盗み出されたとは言い出せないしね」

「けど、こんな物を街中で使ったら危ないとかいう話じゃ済まないんじゃないですか?」

「一個小隊かそれ以上の規模だ。危ないとかいう話じゃ済まないだろうな。

 そもそも、元々はこの地点に誘導し大規模爆破によるトドメを想定していたようだ」

 

黎斗さんが資料の地図の一点を指した。

 

「当然、市街地への影響は甚大ではない」

「それでも避難所への影響は絶対に出さないようにしているわ。そこにはまどかがいるから」

「わたし、が……」

 

今までの分もほむらちゃんの傍にいたい。

そう言ってまどかちゃんは付いてきていた。

 

「……もちろん、見滝原に住む多くの人々も」

「うん、そうだよね……」

「それで? 無論、使うつもりはないんだろう、永夢?」

「当たり前です。今は僕たちもいる。必要ないよね、ほむらちゃん?」

「ええ。他の魔法少女や仮面ライダーの動きを制限してしまう。

 それに……ドクターのあなたたちが認めないでしょう?」

「理解してくれてありがとう」

 

話してみれば素直な子だ。

ただちょっと人に頼るのがニガテになっているだけ。

 

僕も――頼っていなかった訳ではないけれど。

マイティノベルの一件があるまでみんなに見せていない、見せられなかった部分がある。

自分の過去を洗いざらい見られたというのは不思議な気分で、すぐにそこから大きく周りとの関りを変化させるのも無茶な話だ。

 

それに、もうほむらちゃんが焦る必要はない。

繰り返すことのない時間の先で、まどかちゃんたちといつまでも仲良く暮らすことができる。

たとえ一周目とは違っても、まどかちゃんとほむらちゃんはまた最高の友達になれる。

そう僕は信じている。

……全てワルプルギスの夜(ラスボス)を倒した後の話だけど。

 

「改めて確認するが、出現箇所はこの辺り、進行方向はこっちだな?」

「その点はこれまでもずっと同じだった。体の大きさは30階建てのビルの2倍くらいよ」

「300m、ゲムデウスの15倍以上といったところか」

「そ、そんなに大きいの……!?」

「たしかに……1人じゃとても手が足りないですね……」

「だろう? 前にも言ったが、ハイパームテキは文字通り無敵だ!

 たとえワルプルギスの夜だろうが終末の魔女だろうがダメージを負うことはない!

 私の作ったハイパームテキさえあれば敗北などありえない!! しかし、だ永夢」

 

黎斗さんが、一応魔法性を付与したというドクターマイティXXガシャットを手に持った。

 

「魔法少女は基本的に回復魔法も使用できる。もしワルプルギスの夜もそうだったら?

 私がワクチンを生み出す前のゲムデウス戦の苦労は覚えているだろう?

 これほどの巨体に回復までされたのでは、この人数がいなければ避難所までで被害を食い止められないハズだ」

 

だから私の行いは間違っていなかっただろう、どうだ永夢!

そう続けそうになっている黎斗さんを僕は遮る。

 

「ハイハイ、その通りですね。それで、何か策があるんですか?」

「私たちはまとまって日が浅い。連携訓練をしている暇もない。

 基本的には各自が奮闘するしかないが……ある程度の役割は決めておこう」

 

プロジェクターの映す画面が、魔法少女と仮面ライダーの一覧に切り替わった。

 

「タドルレガシーと美樹さやかは回復に優れていながら近接戦闘を得意とする。

 ワルプルギスの夜の使い魔を撃破しつつ最前線で他のメンバーの回復を担当してもらう。

 エナジーアイテムを使えるようになったパラドも同様だ。

 呉キリカと佐倉杏子の魔法はどの程度通じるかわからない。攻撃に専念させる。

 機動力が売りのレーザーと共に遊撃隊にするか。

 バンバンシミュレーションズと巴マミ、暁美ほむらはワルプルギスの夜への砲撃担当。

 美国織莉子の予知魔法はこれ以上使用させない方がいい。あとポッピーは、まぁ……砲撃班の補助にでも。

 そして肝心のワルプルギスの夜本体への直接攻撃は、もちろん君だ、永夢」

「……黎斗さんは?」

「私も前線で使い魔を相手しつつワルプルギスの夜の弱点を探る」

「……。わかりました」

「さて、作戦会議(カンファレンス)もこの辺にしよう。そろそろ懇親会も準備が済む頃だろう」



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STAGE 11-05 (side:doctor-H.E.)

振り返ってみれば、楽しいと言い切れる日々だった。

 

明らかにそれが最後だとわかるダンジョンに入る時、最終章と書かれたチャプターに進む時。

待ち受けるラスボスと物語の終焉に高揚する。

もうこれで終わりなんだと思ってさみしくなる。

 

この世界に、見滝原に来てからの日々は――色んなすれ違いを重ねたし悲しくなるようなこともたくさんあったけど――とても楽しかった。

 

最初に、まどかちゃんの所へ駆け付けることができて嬉しかった。

マミちゃんと一緒に、まどかちゃんとさやかちゃんを守り続けることができて嬉しかった。

マミちゃんのピンチを黎斗さんが救ってくれたことが嬉しかった。

 

マミちゃんから魔法少女殺しの話を聞いて、かなしかった。

さやかちゃんが医療を信じられず魔法少女になってしまって、かなしかった。

杏子ちゃんとさやかちゃんが衝突し続けてかなしかった。

 

魔法少女の真実を知って怒りが込み上げた。

キュゥべえに対して強い強い強い強い怒りが込み上げた。

 

黎斗さんがその絶望を否定してくれて、嬉しかった。

織莉子ちゃんとキリカちゃんを止めることができて嬉しかった。

 

僕らはみんないずれ来る終焉の時に向かって生きている。

色んなことがあって色んな感情を動かされたこの日々も、終わりを迎えなければならない。

僕たちには帰るべき世界があって、そこで待ってる人たちがいる。

だから――さみしくても、終わりにしなきゃいけない。

 

 

 

「これ……本当に黎斗さんが作ったゲームなんですか……?」

「えへへっ。そうだよ! 私だってクロトが作ってくれたんだもの!」

「聞けば聞くほどあの人のことがわからなくなってくるわ……」

 

まどかちゃんとポッピー、ほむらちゃんがプレイしているのはときめきクライシス。

 

「まるで一つ一つ別人が作っているみたい……」

「しかし、どこかに檀黎斗らしさという特徴が――ああっ!」

「ああ! コントローラーはそんな激しく動かさなくていいんだよぅ!」

「俺も慣れない頃はよくそんなことをしていた……」

 

マミちゃん、織莉子ちゃん、キリカちゃん、飛彩さんが別のモニターでプレイしているのはバンバンシミュレーションズ。

 

「助けてもらっといて言いたかないけど! クリエイターの才能だけ発揮しとけばよかったんじゃない!?」

「触らなくても祟り起こすタイプの神なもんでねウチのは!!」

「それができるような奴じゃないからこうなってんだ!」

 

さらに別のモニターで爆走バイクで争っているのは、さやかちゃん、貴利矢さん、パラド。

 

「で? なんでまだゲーセンの延長戦してんだ。決着ついたんじゃなかったのか!?」

「うっさい! 負けたまま終われるわけないじゃんっ!!」

「上等だよプロゲーマー! こっちでも叩きのめしてやる!」

「やっちゃえやっちゃえー!!」

 

またさらに別のモニターでドレミファビートで争っているのは、ニコちゃんと杏子ちゃん。

応援に大我さんとゆまちゃん。

 

最高に贅沢なご馳走とケーキによるパーティの後、美国邸ではゲーム大会が起きていた。

 

「いいんですか、黎斗さん? 好き勝手言われてますけど?」

「うるさいぞ永夢ゥ!! 私とのゲームに集中しろォォォ!!!」

 

僕たちも僕たちで、2台のゲームを並べてマイティアクションをどちらが先にクリアするか競っている。

 

「コンテニューしてもクリアはできますけど、タイムは落ちますよ?」

「ワンミスを恐れて慎重になり、動きが鈍いんじゃないかァ?」

 

少しでもわざとらしく体を揺らせば肩がぶつかる距離に彼がいる。

このゲームたちの創造主にして、神になろうとした男。

ここにいるたくさんの人の運命を大きく動かした男。

 

どうってことない。

今この瞬間だけは、天才ゲーマーMに挑んできている、ただひとりのプレイヤーだ。

そしてここにいる全員が、やがて来る絶望の塊に対峙する戦士ではなく、ただ娯楽に興じるだけのプレイヤーだ。

 

「ウェヒヒヒヒ。次はこの娘攻略しようよ!」

「あれ? もしかしてほむらちゃん、妬いてる?」

「なっ……そ、そんなことない!」

 

「ここは大事な局面ね。戦力を揃えて一気に叩きましょう!」

「そう? 裏を突いて速攻を仕掛けるのも手だとは思うけど?」

「織莉子が言うならそっちが正しいよ、うん!」

「思考する時間はある。こういう時こそ私情を捨て冷静に事を成すんだ!」

 

「だああああ!? こんな終盤でそんな妨害アリ!?」

「へへーん。ノせられちゃっあああああああ!?」

「油断大敵だぞレーザー!! ウイニングランを決めるのは俺だ!」

 

「おい大丈夫か。追い込まれてるんじゃないか!?」

「大我それ応援になってないから! むしろ不安になるから!!」

「このまま連勝いただきってね!!」

「がんばれキョーコー!!」

 

可愛い女の子が沢山出てくるときめきクライシス。

激しい操作があまりいらず頭を使うバンバンシミュレーションズ。

みんなで遊べる爆走バイク、やっぱりドレミファビート。

どれだけ大きな絶望が待ち受けているとしても。

彼のゲームをプレイしている時……僕らの心は高鳴る。

 

「私は今度こそ君に勝つぞ、永夢ゥゥゥウウ!!!」

 

振り返ってみれば、楽しいと言い切れる日々だった。

そして今も楽しくて、楽しくて、ずっと顔が笑いっぱなしで。

だからこそ、絶対に

 

「負ける気がしない……!!!」



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STAGE 11-06 (side:doctor-H.E.)

「本日午前7時、突発的異常気象に伴い避難指示が発令されました。

 付近にお住いの皆様は速やかに最寄りの避難場所への移動をお願いします。

 こちらは、見滝原市役所広報車です。本日午前7時――」

 

 

 

 

 

 

 

灰色の空の下、まだ崩れていない街の中、見滝原を見渡せるビルの屋上。

僕たちはみんな揃って強大な存在に挑もうとしている。

 

「――いいわね? 練習した通りに、息を揃えて一斉変身よ!」

「ああうん、マミさんが楽しいならあたしはいいけどさ……」

「マミ……本当にやんなきゃダメか……? 必殺技もあるんだろ……?」

 

張り切るマミちゃんに対して冷め気味なのはさやかちゃんと杏子ちゃん。

 

「あら? 私はそういうの、結構面白いと思うのだけど?」

「織莉子も私も必殺技の名前くらい考えたけどなぁ?」

 

意外にノリ気なのは織莉子ちゃんとキリカちゃん。

 

「やれるんだったら必殺技考えるもんでしょ?」

「へへ、私もピプペポパワーって叫んじゃうなぁ」

「魔法少女といえば変身バンクと必殺技バンクだろ?」

 

理解を示すのはニコちゃんとポッピーとパラド。

 

「ったく……レジャーランドに行くんじゃねぇんだぞ」

 

呆れる大我さん。

 

「こういう時はノリのいい方が勝つってのがお約束だぜ?」

 

笑ってみせる貴利矢さん。

 

「この世界で最後のオペだ。これより、ワルプルギスの夜切除手術を開始する」

 

飛彩さんの言葉に、全員がまだ遠くにある巨大な()()を見つめた。

古から幾度も現れ、人々には自然災害として認識されている程の存在。

ほむらちゃんは何度これと対峙してきたのだろう。

 

「ここが私の旅の終わり。まどかのために繰り返した時間の連鎖を断ち切る。

 この仲間とならやれる。私は本心からそう信じられる!」

 

避難所から抜け出してきたのは魔法少女たちだけじゃなくて、ゆまちゃんとまどかちゃんもいた。

危険だと言ったけど、 

 

「お姉ちゃんたちを最後まで応援したいの!」

「……これはわたしの物語でもあるんです。

 わたしがちゃんと、自分の目で見届けたいんです」

「――わかった。でもニコちゃんと一緒に、絶対にここから離れないで」

 

このビルまで侵攻を許せばどのみち避難所にまで被害が及んでしまう。

ここが最終防衛ライン。見届け人の彼女たちはもちろん、誰の犠牲も出させない。

 

「ラスボスを倒して、ハッピーエンディングだ」

 

6つのソウルジェムと10個のガシャットが輝く。

風が吹き抜けて()の白衣をなびかせた。

 

「術式レベル100」「第伍拾戦術」「爆速!」

「マックス大!」「グレードX-0」「ハイパー大!」

「「ピュエラ・マギ・ホーリー・セクステット!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「変身!」」

 

≪ガッチャーン!≫≪パッカーン!≫

≪レベルアップ!≫≪デュアルアップ!≫≪バグルアップ!≫≪マザルアップ!≫

≪ムゥテェキィィイイイ!≫

 

≪辿る歴史!≫

≪目覚める騎士!≫

TADDLE(タドル) LEGACY(レガシー)

 

≪スクランブルだ!≫

≪出撃! 発進!≫

BANGBANG(バンバン) SIMULATIONS(シミュレーションズ)

≪発進!!≫

 

≪爆走バイク♪≫

≪アガッチャ!≫

≪シャカリキ! メチャコギ!≫

≪ホット! ホット!≫

≪シャカシャカ! コギコギ!≫

SHAKARIKI(シャカリキ) SPORTS(スポーツ)

 

≪ドリーミングガール♪≫

≪Woooo!≫

≪恋のシミュレーション♪≫

≪乙女はいつも≫

TOKIMEKI(ときめき) CRISIS(クライシス)

≪Woooo!≫

 

≪赤い拳 強さ!≫

≪青いパズル 連鎖!≫

≪赤と青の差≫

PERFECT(パーフェクト) KNOCKOUT(ノックアウト)

 

≪マイティアクションX!≫

≪アガッチャ!≫

≪DANGER DANGER≫

≪DEATH≫

≪THE CRISIS≫

DANGEROUS(デンジャラス) ZOMBIE(ゾンビ)

 

≪輝け!≫

≪流星の如く!≫

≪ 黄 金 の 最 強 G A M E R ≫

≪ハイパームテキ≫

EX-AID(エグゼイド)

 

 

 

 

 

See you End of story

 


 

次回、翻転のstory……最終話

 

神様でも何でもいい

今日まで魔女と戦ってきたみんなを

希望を信じた魔法少女を、わたしは泣かせたくない

それを邪魔するルールなんて壊してみせる

そんな世界の理、変えてみせる

本当に叶うんだとしたら

わたしだってもう絶望する必要なんてない

全ての魔女を生まれる前に消し去りたい

これがわたしの祈り

鹿目まどかが望む、最後の

 

 

 

彼方へのwish( 願い )

 

 

 

わたし、魔法少女に

 

 

 




excite(エキサイト):興奮すること。また、ゲームなどが白熱すること。語源は外を意味するexと動かすを意味するciere。
タイトルとしての由来は仮面ライダーエグゼイドOP『excite』から。


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ステージ12『彼方へのwish』
STAGE 12-01 (side:magica-K.M.)


彼女たちとの物語が終わりを告げても、あの世界は続いていく。


異形な使い魔たちの行進が届いてきて、空に影が見えてきて。

灰色の雲に切れ間が見えて、オペラカーテンが開いて。

ノイズ混じりに映されるカウントダウンが、5、4、3、2、1――

 

「「ッ!!?」」

 

回転する歯車と、その下に逆さ吊りでついている不気味なドレス。

それはビルでもタワーでもなく、()でした。

 

「どうなっている……300mという話のハズだが!?」

 

ゲンムがほむらちゃんに向かって、責めるように言います。

 

「し、知らない……こんなことは今まで一度もなかった!」

「私も予知夢で何度も見てきたけど、こんな姿見たことない……」

「倍だ……600m、いや、それ以上はある!」

 

織莉子ちゃんやエグゼイドが、みんなが見つめる先。

 

『舞台装置の魔女。通称、ワルプルギスの夜。

 性質は無力。君たちの言う所の、ラスボスだ』

 

いつの間にか現れていたキュゥべえも、その赤い瞳いっぱいに()を映していました。

 

「敵は自然災害級。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、か……!」

「一般的に約600m以上の物を山と呼ぶ。それが空から来るとすれば、まさに災害だ!」

「とんだハナシだぜ! 建築物の解体レベルを想定してたら、山を拓けってんだからな!」

 

パラドクス、ブレイブ、レーザーも、顔は見えないけど焦りが浮かんでいるのがわかります。

 

『繰り返される時間の中で循環した因果の全ては、元凶である彼女たちに集約した。

 結果、ワルプルギスの夜の力は途方もなく肥大化した。

 言った通りだったろう? 君たちはこの姿を見てなお諦めないと言うのかい?』

「あ、当たり前だろバーカ! こんなの見ちまったら、なおさら退くことなんかできるか!」

「ここで私たちが戦わなければ、たくさんの人々が命を落としてしまう!」

「図体だけデカくなったからなんだってのさ!!」

 

キュゥべえに向かって威勢を張る杏子ちゃん、マミさん、さやかちゃん。

もちろん、その手足は少しずつ震えていました。

 

「恩人、のオリジナルさん! 作戦に変更は!?」

「……ひとまずだ」

 

キリカちゃんに聞かれて、ゲンムはゲーマドライバーからプロトマイティオリジンを取り出して、そのボタンを押します。

 

「付け焼刃だが、アンチ魔女エリアを展開した。

 多少無茶な戦いをしても、街はある程度守られるハズだ」

 

まだずっと遠くにある避難所。

そこには、ママもパパもタツヤも、この街に住むたくさんの人たちがいて。

どれだけ大変な戦いであっても、たとえ災害が相手であっても、みんな退く訳なくて。

だから、わたしだって――。

 

『ウッフフフフフ!』

「笑ってる……」

「大丈夫だよ。あんなの、すぐみんなで倒してくるから!」

 

怯えるゆまちゃんをポッピーが慰めて

 

「的がデカくなっただけだっての! 大我! やっちゃいなよあんな奴!」

 

ニコさんに背中を押されたスナイプが構えます。

 

「先制攻撃だ!!」

 

バァーンと強烈な音を立てて、スナイプの腕から発射される弾丸。

マミさんとほむらちゃんも続けるようにして連射を始めました。

でもそれは、当たりはするけどワルプルギスの夜はビクともしていません!

 

『アハハハハハハハハ!!』

 

ワルプルギスの夜から黒い棘のような物が一瞬で伸びてきて。

 

「危ないッ!!」

 

ほむらちゃんを貫こうとしたそれを、エグゼイドが受け止めて。

そのまま遠くまで突き飛ばされてしまいました!

 

『『キャハハハハハハハハ!』』

 

棘は分かれて、人のような形に――ほむらちゃんの言っていた()()()()()()たちになります。

 

「聞いていたより数が多いな……攻撃の規模も威力も想定を遥かに上回る。

 作戦変更だ! 魔法少女の影の相手と街の防衛は私たち全員でする!

 突破口が見えるまでなんとしても本体を食い止めろ、永夢!!」

 

ガシャコンブレイカーを構えるゲンム。

 

「ああ!」

 

その後方から、エグゼイドが飛んで帰ってきました!

本体に向かって進む彼に、他のみんなもそれぞれに動き出します。

 

『すごいな……。まさか本当に無敵、一切のダメージを受けないなんて』

「ほら言ったでしょ!! いくら図体がデカくなったって負けやしないっての!」

 

ゆまちゃんとわたしをキュゥべえから庇うようにしながらニコさんが勝ち誇りました。

その手には1つのガシャットが――仮面ライダークロニクルが握られています。

 

もしどうしても自分で自分の身を、わたしたちを守らなきゃいけない時が来たら。

その時は仕方ないけれど使っていい。

そう言われて大我先生に渡されていた物です。

 

『負けはしない、か……。しかし()()()()()()()

 見てごらん? 魔法少女も仮面ライダーも、みんないい動きをしている。

 この世界を救うという強い意志が働いているのだろう。

 ハイパームテキ以外にも、ここにいる誰もが僕の予想を超えた存在だ。

 けれど、それだけだ。ある程度耐えしのぐことはできても、どこかで限界が来る。

 巨体を削り切ることがなくこの防衛ラインが突破される時間が来る。

 ムテキは確かに無敵だった。でも、タイムアップに打ち勝つことはできないだろう』

 

こんな時でも、今までと変わらない淡々とした口ぶり。

わたしたちのように動揺してる訳でもなくて、勝ち誇っている訳でもなくて。

ただ冷徹に現実を突きつけようとしてくる瞳。

 

『何度でも言うよ。まどか、君が魔法少女になるしか方法はない、とね』



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STAGE 12-02 (side:doctor-H.E.)

≪HIT!≫

 

ガシャコンキースラッシャーを幾度も幾度も振るう。

 

≪HIT!≫   ≪HIT!≫

 

その度にエフェクトが出て、確かに手応えも感じられて。

 

≪HIT!≫   ≪HIT!≫

    ≪HIT!≫   ≪HIT!≫

 

だが、同時にすぐワルプルギスの夜の傷口は塞がっていた。

 

「魔法少女は基本的に回復魔法も使用できる。もしワルプルギスの夜もそうだったら?」

 

ゲンムの危惧した通りだ。

ハイパームテキには攻撃判定を自動調整する機能がある。

その多段ヒットでさえ削り切れない。決定打を与えることができない。

 

ムテキは無敵だ。でも、もし欠点があるとすれば2つ。

強すぎて手加減しなきゃいけない場面では使えないこと。

ライダーの中でもトップクラスのパワーはあるけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()こと。

 

何か1つ切っ掛けがあれば。

全力で突破すべき1点が、ムテキの必殺技を叩き込んで崩壊させられる()が1つでもあれば!

 

「クッ……!!」

 

その突破口を作り出すために何度も俺はワルプルギスの夜に立ち向かうが、それだけに集中もできない。

同じくらい何度も襲ってくるあの黒い棘の攻撃を、仲間と街の分まで受け止めなきゃならない。

 

――いや、事態はゲンムの危惧よりヤバくなっていた。

 

作戦通りに、前衛でブレイブ・パラド・ゲンム・さやかが本体への攻撃を試みている。

中衛でレーザー・杏子・織莉子・キリカが、魔法少女の影を相手にしながら街を守っている。

後衛からはスナイプ・マミ・ほむらの援護射撃が届いているし、ポッピーはそれをサポートしている。

 

けど、ワルプルギスの夜の巨体に合わせて、魔法少女の影の数も本体の攻撃も予想を尋常じゃなく越えていた。

持ち堪えるのが精一杯。突破口を作る余裕なんか誰にもない。

 

 

 

そして、最初にやられたのはゲンムだった。

 

「ヴェハァッ」

 

元々紙耐久だからアテにもしていなかったけど、まだギリギリゲームオーバーにはなっていないようで。

鈍い音を立てながら、ワルプルギスの夜の棘に刺し飛ばされていく。

 

「黎斗さん! くそっ、回復が間に合わなかった……ッ!」

「ゲンムなら気にするなさやか! 自分のこと、目の前の敵に集中しろ!」

「そうだぞ!」

 

杏子が、多節槍を駆使してビルの合間を縫ってさやかに近付いた。

 

「さやか! 下がるんだ!! もうソウルジェムが限界に近いだろ!?」

「でも! あたしがいなきゃ回復が……!」

「回復は俺のタドルレガシーで足らせてみせる!」

「今はエナジーアイテムだってあるんだ! いいから下が――避けろ!!」

 

パラドの忠告も間に合わず、さやかと杏子もゲンムと同じようにやられていった。

 

「コイツッ……!!」

 

≪マッスル化!≫

≪マッスル化!≫

 

「ナメんなァ!!」

 

激高したパラドの一撃。

それもワルプルギスの夜には通用しない。

反撃として鋭い棘をいくつも刺し出してくるだけだ。

 

「グッ……」

 

パラドは前の3人のように完全に後ろへ追いやられることはなく。

最初の屋上との中間地点にいるキリカと織莉子の所で止まった。

 

「ちょ、大丈夫かい!?」

「このままだと前線が……!」

「かま、え、ろ……」

「「!?」」

「構えろッ!!」

 

≪鋼鉄化!≫

≪鋼鉄化!≫

 

キリカと織莉子にエナジーアイテムを付与するパラド。

次の瞬間には3人を、ワルプルギスの夜が投げた巨大なビルが襲う。

 

「大先生!」

 

それを見ていたレーザーが、爆走バイクに乗ってブレイブの元へ走ってきた。

 

「前衛中衛はもう崩壊だ! 自分たちも街を守るのに専念するしかない!!」

「ッ……小児科医! 頼むぞ!!」

 

退いていくレーザーとブレイブ。

スナイプ、ほむら、マミ、ポッピーも瓦礫や魔法少女の影たちから街を守るために散り散りになっている。

 

『ほらね?』

 

キュゥべえのテレパシーは、わざと全員に聞こえるようにされていた。

 

『ハイパームテキ、君だけは絶対にダメージを受けないだろう。でも、()()()だ。

 他の仮面ライダーも、魔法少女も、街も、君とは違う』

 

そう、ハイパームテキの力があればワルプルギスの夜相手でも負けることはない。

けど、逆に相手を打ち負かすのも容易じゃない。

下手をすればこの()を削り切るのに何日か掛かるかもしれない。

でも、滅んだ街の中で自分だけが立っていても、そんなんじゃドクター失格だ。

 

『勝負に勝って試合に負ける。試合に勝って勝負に負ける。

 この場合だとどちらが正しいのかな?

 ともかく――守りたいもののあった君たちの負けだよ

 

ワルプルギスの夜から強力な黒い波動が放たれた。

俺も、残っていた仮面ライダーと魔法少女も吹っ飛ばされる。

その心は折れていなくても、どうしようもなく湧いてくる嫌な予感に蝕まれていく。

 

そして、奇しくもまた全員が最初のビルの屋上に這い戻ってきていた。

……違う、ゲンムだけがいない。

 

『愚かで脆弱な人間には絶対に届かない運命というものがある。

 どれだけ嘆いても、今の君にこの運命を変える力はない。

 ひとつの契約を結ばない限り……。

 君にも避けようのない滅びの結末をひっくり返すだけの奇跡を起こすことができる。

 神にだってなれる才能がある』

 

キュゥべえの真っ赤な目が、ただ他者の幸福を求めるだけの優しい少女を見つめている。

 



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STAGE 12-03 (side:magica-K.M.)

 

 

 

 

 

 

『だから僕と契約して、魔法少女になってよ』

 

 

 

 

 

 

 

「――神様でも何でもいい。

 今日まで魔女と戦ってきたみんなを、希望を信じた魔法少女を、わたしは泣かせたくない。

 それを邪魔するルールなんて壊してみせる。そんな世界の理、変えてみせる。

 本当に叶うんだとしたら……わたしだって、もう絶望する必要なんてない。

 全ての魔女を生まれる前に消し去りたい。

 これがわたしの祈り。鹿目まどかが望む、最後の願い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたし、魔法少女に     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいや、待ってもらおうか」

 

振り向くと、ボロボロになった黎斗さんが腕を組んで立っていました。

まだ……まだコンテニューする気でいるぞ、という顔で。

 

「その契約を結ぶのは他でもない。私だッ!!!」

「「は?」」

『……ソウルジェムはその名が示す通り魂の結晶だ。

 バグスターとはいえ、君に魂が――心があるなら契約は可能だ。

 いい所に気がついたね。僕が見える時点で少なかれ君たちにも素質はある。

 もっとも、世界を救う願いを叶えた瞬間、問題が君自身に移り変わるだけだけど。

 それで? この局面において今更、何を願うつもりだい?』

「私の願い事は至ってシンプルだ」

 

黎斗さんはわたしの隣に歩いてきて、わたしを抜き去って。

キュゥべえに向かって1つのガシャットを見せつけます。

 

「九条貴利矢に初期化(リセット)された力を復元し、()()を再び使えるようにしろ」

『たったそれだけ? 本当に無益な願いだね』

「さぁ、叶えてもらおうか。インキュベーター!」

 

わたしは、魔法少女たちは訳も分からずその様子を見ているだけで。

 

「「ッ!!!」」

 

けど、仮面ライダーたちにはひどい緊張が走っているのに気づきました。

 

黎斗さんの身体に光が纏って、その光が収まって、そして――。

……それだけ?

 

『それは……!?』

 

最初に言葉を発したのは、黎斗さんの願いを叶えてあげたキュゥべえ自身。

 

『それは!? ()()()()()()()()()()()()()()!?

 そんなエゴが許されるとすれば、それは因果干渉なんてレベルじゃない!

 概念そのものに対する叛逆だ!!

 君は本当に神になるつもりなのか!!?』

「神にはもうなった」

『なら――檀黎斗、君は一体何者だい?』

「……その答えはただ一つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

I'm a Kamen-Rider

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グレード1000000000(ビリオォォォォォォン)、変身!」

 

≪ガッチャーン!≫

≪フゥメェツゥゥウウウ!≫

≪最上級の神の才能!≫

≪クロトダーン!≫

≪クロトダーン!≫

≪ 最 上 級 の 神 の 才 能 ! ≫

 

 

 

GOD(ゴッド) MAXIMUM(マキシマム) (エックス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒いボディに、真っ赤な目。

黎斗さんの変身したゲンムは、永夢先生のマキシマムマイティを紫を基調にカラーチェンジしたような姿で。

あまりに唐突に現れたそれに、マミさんもさやかちゃんも杏子ちゃんも驚きを隠せません!

 

「ビリオンって、まさか!?」

「そう! 私のレベルは10億だッ!」

「数字なんてあんたの匙加減一つじゃん!」

「あらゆるスペックを自由に設定可能ッ!!」

「マジで匙加減一つかよ!」

『……ひとつの宇宙を作り出すに等しい希望が遂げられた。

 それは即ち、ひとつの宇宙を終わらせる程の絶望をもたらすことを意味「しないな」

 

ゲンムの大きな手の上にあったソウルジェムは、黒く濁り切って闇が溢れ出ていたのに。

その目が光ると、途端にピクセル化して消えてしまいました!

 

「言ったハズだ。ゴッドマキシマムはあらゆるスペックを自由に設定できる。

 呪いの蓄積、魂の穢れなど造作もない」

「どこまでもなんでもアリね……」

 

驚きを越して呆れるようなほむらちゃん。

その周りに、また魔法少女の影たちが迫っています。

 

「危ないっ!」

「ゾンビクロニクル起動」

 

片手を挙げるゲンム。

すると、地面から大量のデンジャラスゾンビが現れて、魔法少女の影たちを一斉に襲い出しました!

 

「ゴッドマキシマムは発想一つでゲームを生み出すことができる。

 今の私に敵うと思っているのか、ワルプルギスの夜?」

 

その時、()が動き出しました。

ゲンムの言葉を受けて、まるで逃げるみたいに、高く高く空に向かって、上へ上へと――

 

「頭が高いぞ舞台装置如きがァ!!!」

 

でも、ゲンムはそれを許しません。

 

「コズミッククロニクル起動!」

 

足からジェットを噴射して飛び立っていくゲンム。

そのスピードは凄まじく、ワルプルギスの夜さえ通り過ぎて、雲をも抜けて。

 

そして、再び姿を現したゲンムの手に掴まれていたのは――月です

 

「「えっ」」

 

山のような巨体なんて、月に比べたらちっぽけなもので。

ゲンムは月でワルプルギスの夜を殴り落としました。

 

「よ、予知夢ですらこんな酷い光景見たことないわ……」

「ハハ。私も大概だけど、コレは狂気すら逸してるね!」

 

わたしだけでなく、仮面ライダーだけでなく、織莉子ちゃんもキリカちゃんも。

あまりの状況に引き気味になっています。

 

『アアアアアアアァァァァァァァッッッ!!!!』

 

ゲンムの暴れ様と同じように、誰の目にもハッキリと()()は見えました。

ワルプルギスの夜に……ヒビが入っています!

 

「トドメだ、永夢!!」

「ああ!!」

 

エグゼイドも空へ飛んで行って、星の中に紛れて、そして――。

そして、一筋の光となって帰ってきました。



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STAGE 12-04 (side:doctor-H.E.)

≪キメワザ!≫

 

「これでフィニッシュだ!!!」

 

HYPER(ハイパー) CRITICAL(クリティカル) SPARKING(スパーキング)!!!≫

 

 

 

 

 

魔女に向かって一筋の光が突っ込んでいく。

それは、ソイツの()のような巨体に対してはあまりにも小さくて。

 

 

 

≪HIT!≫

 

 

 

ぶつかって、押し返されて、なおも進んで、貫いて、輝いて。

 

 

 

≪HIT!≫       

       ≪HIT!≫

 

 

 

そう……もっとだ。もっと激しく、強く、燦然と。

 

 

 

≪HIT!≫       ≪HIT!≫     

     ≪HIT!≫       ≪HIT!≫

 

 

 

この一撃を以て決着をつけるために!

ここまできた全ての願いを乗せて!!

 

 

 

≪HIT!≫    ≪HIT!≫    ≪HIT!≫

≪HIT!≫    ≪HIT!≫

≪HIT!≫    ≪HIT!≫    ≪HIT!≫

 

 

 

 

 

――輝け、流星の如く!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪HIT!≫ ≪HIT!≫ ≪HIT!≫

≪HIT!≫ ≪HIT!≫ ≪HIT!≫ ≪HIT!≫

≪HIT!≫ ≪HIT!≫ ≪HIT!≫

≪HIT!≫ ≪HIT!≫ ≪HIT!≫ ≪HIT!≫

≪ 究 極 の 一 発 ! ! ! ≫

≪HIT!≫ ≪HIT!≫ ≪HIT!≫ ≪HIT!≫

《≪HIT!≫ ≪HIT!≫ ≪HIT!≫

≪HIT!≫ ≪HIT!≫ ≪HIT!≫ ≪HIT!≫

≪HIT!≫ ≪HIT!≫ ≪HIT!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ 完 全 勝 利 ≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バカな……』

 

すっかりボロボロになった街に着地すると、おびただしい数のエフェクトを見上げる面子の中に、奴もいた。

雲の隙間から光が差す。穏やかな風が体を撫でる。邪悪な気配はもうそこにはない。

 

『ワルプルギスの夜を倒しただって……?』

 

鹿目まどかを契約に持ち込む切り札が潰えてどうするのかと思ったら。

奴の次のセリフは意外なものだった。

 

『素晴らしい……素晴らしいよ!』

「なっ……なにさその反応……!?」

「もうあなたに手は残っていないハズよ!」

「さっさと尻尾巻いて退いたらどうなんだ!」

 

さやか、マミ、杏子がまた緊張状態に戻る。

 

『そんな勿体ないことできないよ。檀黎斗の才能は本物だ。

 きっとそれは世界の役に立つ!』

「まどかを契約させることを、まだ諦めていないというの!?」

「予知を使わずともわかる。貴方の思い通りになる未来はない!」

「私が言うのもなんだけど、諦めが悪いのは嫌われるよ!」

 

ほむら、織莉子、キリカもなんとか構えを取る。

 

「忠告しておく。コイツの才能に関わるとロクなことにならない」

「ああ、制御可能と思ってるんだったら認識不足だ」

「触らぬ神に祟りなし。……もう神でもないみたいだが」

「大人しく手を引く気はないのか」

 

ブレイブ、スナイプ、レーザー、パラドの言葉も無視して。

奴は檀黎斗の方だけを向いていた。

 

『僕は初めて僕と同じレベルに立てる生命体に出会った!

 檀黎斗! これからはこの宇宙全体のために手を組もうじゃないか!

 双方にとってデメリットはない、むしろメリットだらけだ! そうだろう?』

「私が……君たちと同じレベル、だと?

 フ、フッハッハッ、ハッハハハハハハハ!!!」

 

――端から見たら、彼が自分の才能を外宇宙生命体に認められ嬉しくて笑っている、と思う人もいるかもしれない。

でもそれは大きな間違いだ。俺にはわかる。

 

「ふ゛さ゛け゛る゛な゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛!゛」

『え?』

 

地球の裏側まで、いや、宇宙の彼方まで届きそうな声でキレる人間なんて、彼以外俺は知らない。

 

「満たされない人々に夢と冒険を与える! それがゲームというエンターテイメントの使命だ!

 人生とは数多の試練をクリアしていくゲームであり、その先には恵みがなければならない。

 だが魔法少女システムはァ! 先に報酬を与え、後から代償を請求し続け!

 最終的には夢を奪うだけでなく、それまでの冒険すら全て否定している!!

 そんなクズのようなものと私のゲームを、同列に考えるなァアアッ!!!」

 

全く……だから信じられるんだ、この人は。

 

「遥か太古から君は! 少女たちの夢を喰らってきた……!

 彼女たちの物語を否定し、嘆きの種を孕ませてきた!!

 君は最低のインキュバスだァァァァァアアアアアアアッ!!!

『ッ!?』

「宝生永夢ゥ!」

 

ゲンムの手から1つの物が投げ出される。

空中でくるくると回転するその白いガシャットを、俺はパシッと受け取った。

 

「ピリオドを打て。このゲームにも満たない野蛮なプロジェクトに」

「……ああ。終わらせよう、このストーリーも」

 

≪ガッシューン≫

 

変身を解く。

 

「お前が本当に究極の救済を目指したことだけは認めるよ。でも――」

 

ひとつ大きく息を吸って、吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪マイティノベルX≫

 

「俺たちの運命は、俺たちが変える」

 

≪ガッチャーン!≫

 

「変身!」

 

≪レベルアップ!≫

 

≪マイティノベル!≫

≪俺の言う通り!≫

≪マイティノベル!≫

≪俺のストーリー!≫

(エックス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そ、それこそ今更だ。レベルXなんかで、何を――』

「すぐに終わらせる。お前はそこに座ってろ。あと、()()()

 

瞬間、俺が指差したインキュベーターの元へ何十か何百体のインキュベーターが現れて固まった。

 

「マイティノベルの能力はシンプル。

 未来を決める力だ。俺の言葉がそのまま未来になる」

 

この星全体を1体でカバーできるハズがないことはわかっていた。

だからここにこうして全部を集めた。

 

『そんな物がまだあっただって!? どうなってるんだ君たちの世界は!!?

 それで――僕に一体何を!!!?』

「インキュベーター……俺たちに倒された後、お前は二度とこの星に関われない

『なっ!!!!!!???』

 

運命を愚弄された者たちの代表として魔法少女が並び立ち。

その行いを認めない者たちの代表として仮面ライダーが並び立つ。

 

「行くぜみんな! フィニッシュは、必殺技で決まりだ!!」

 



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STAGE 12-05 (last:attack-X.X.)

 

「あなたにもらった希望も、絶望も忘れないわ。

ありがとう、さようなら」

「命の巡りの中で他を浸食する……正にこの世界の癌。

お前の存在はノーサンキューだ」

 

≪ティロ・リチェルカーレ≫

TADDLE(タドル) CRITICAL(クリティカル) FINISH(フィニッシュ)

 

 

「フン。テm「痛みも悲しみも捨てちゃいけない気がするんだ。

ゆまは、誰かの涙で幸せになんかなりたくない!」

「――だかr「誰だって本当は、ただ幸せになりたいだけだったんだ。      

アタシたちを利用した落とし前、つけてもらうよ!」

「――そn「なぁーにが宇宙のためだよバーカ! 本末転倒だっての!     

覚悟しな! アタシの主治医がアンタをブッ倒す!」

「……そういう訳でこの俺が始末してやる。ミッション、開始!」

 

≪ロッソ・ファンタズマ≫

BANGBANG(バンバン) CRITICAL(クリティカル) FIRE(ファイア)

 

 

「あんたのおかげで、自分のバカさ加減がわかったよ。

でもあたしは……この後悔だって乗り越えてみせる!」

「もう誰も魔法少女の契約にはノらせないぜ?

……この世界はお前の家畜小屋じゃないんだよ」

 

≪スクワルタトーレ≫

BAKUSOU(爆走) CRITICAL(クリティカル) STRIKE(ストライク)

 

 

「あの時の私の願い、ちゃんと叶ったよ。

私は織莉子の友達として、ずっと進化し続ける!」

「自分の人生を誰かに操られるなんて、誰だってイヤだよ。

みんなの笑顔は、仮面ライダーと魔法少女と……みんなで守る!」

 

≪ヴァンパイアファング≫

CRITICAL(クリティカル) CREWS―AID(クルセイド)

 

 

「私の祈りもちゃんと届いたわ。

繰り返した涙も過ちも、全てはみんなの世界を守るために」

「インキュベーター、お前は俺たちの心を滾らせた。

命の冒涜者に相応しいエンディングを見せてやる!」

 

≪グローリーコメット≫

   ≪PERFECT(パーフェクト) KNOCKOUT(ノックアウト)

CRITICAL(クリティカル) BOMBER(ボンバー)≫   

 

 

「もう絶望は繰り返さない。誰の笑顔も犠牲にしない!

私はまどかといっしょに、今日を生きていく!!」

「外宇宙存在とはいえ、所詮は私の才能も見抜けないレベル……。

君にコンテニューは認めない。魔法少女システムはァ、絶版だッ!!」

 

   ≪GOD MAXIMUM(ゴッドマキシマム)

CRITICAL(クリティカル) BLESSING(ブレッシング)≫   

 

 

「もう誰も絶望なんかさせない。笑顔を奪わせはしない!

キュゥべえ……わたし、魔法少女にはならない!!

「白紙の未来に思い思いの希望を描く。

それこそが全ての人にとっての、生きるというストーリーだ!!

 

NOVEL(ノベル) CRITICAL(クリティカル) DESTINY(デスティニー)

 

 

 



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STAGE 12-06 (side:etaoin-Q.B.)

数多の輝きが僕を貫いてくる。

なぜ? どうして? なんのために?

僕は削れていく別個体の中でひとり、目を大きく開いて彼女たちを見つめた。

 

 

 

 

 

僕と彼女を結びつけるためだけの役目!

先輩としての導きなんてひとつも期待なんかしてなかったのに!

 

『巴マミ……!』

 

ドクターをまとめるドクター!

あらゆる状況に冷静であり、それでいて情熱によりチームを支えた院長!

 

『鏡飛彩……!』

 

明日を生きようとする小さき命!

僕の用意した絶望すら、無邪気に跳ね除けて見せた幼子!

 

『千歳ゆま……!』

 

魔法少女同士の衝突を生み出す者!

不和を呼び、内部からの崩壊を呼び、彼女の覚悟を加速させるハズだったのに!

 

『佐倉杏子……!』

 

ドクターでもなく魔法少女でもないただのゲーマー!

だからサポートに徹し、しかし僕への牙を収めることのなかった少女!

 

『西馬ニコ……!』

 

最も大人としての行動を欠かさなかったドクター!

低いレベルにありながら、なおも前線において戦った男!

 

『花家大我……!』

 

ただ彼女を魔法少女にするためだけの存在だったクセに!

それ以上の価値もなく、あの場にいた魔法少女全てを絶望させるための存在だったのに!

 

『美樹さやか……!』

 

嘘を見抜く陰の功労者!

ドクターと魔法少女、双方のメンタルを管理した監察する者!

 

『九条貴利矢……!』

 

魔法少女殺しとして狂う魔法少女!

既に壊れ切った心をさらに砕き、白い魔法少女を追い詰める役割だったのに!

 

『呉キリカ……!』

 

母のような優しさと厳しさを持つバグスター!

純粋に魔法少女に寄り添うことのできた心を持つ存在!

 

『ポッピーピポパポ……!』

 

最も僕の邪魔となるハズだった魔法少女!

そして、最も僕の裏をかいて見せた魔法少女!

 

『美国織莉子……!』

 

最初から君をまず狙うべきだったのか!?

いいや、きっとそれでも君を消滅させ、彼の邪魔をすることは叶わなかっただろう!!

 

『パラド……!』

 

なにもかも君のせいで狂った!!

君がたった一度挫け、絶望し、悲劇のための舞台装置に組み込まれれば終わった物語なのに!!!

 

『暁美ほむら……!!』

 

神すら超越した存在!? 僕すら見下すその不遜!!

ゴッドマキシマムさえなければ!! ゴッドマキシマムさえなければあああ!!!

 

『檀黎斗!!!』

 

全ての始まりは――君から始まった物語だったハズなのに!!

君の夢によって全てが始まり、君の願いによって全てが終わるハズだったのに!!!

 

『鹿目まどかッ!!!』

 

そして――ドクター。命を尊び、命のために戦う者。

いずれ来る終焉の時に向かって生きる者!

なぜ? どうして? なんのために?

理解できない! 理解できない!!

君は!!! むしろそれを最も否定した者じゃないか!!!!

 

『宝生永夢ゥ!!!!!』

「インキュベーター!!!!!」

『!!!!????』

「最後に一つだけ教えてやる!

 今感じている怒り! 疑問! 悔しさ!!

 同じだってな!!

 いつか終わってしまう俺たちの抱く、一瞬の(ほむら)と!!

 それが心だ!! そして、命だ!!!」

『僕たちに心!? 命!!?

 君たち人類の感情は、利用するには危険すぎた!

 こんな途方もない力、僕たちには理解できない!! 制御しきれない!!!』

「だったら!!」

『ああ、だからこそここで!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「お別れだ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠とも無限とも言える宇宙の広がりの彼方。

その星には海と空と命があった。

そこに僕が赴くことは二度とない。

 

ああ……そうか。

この離別を君たちは「死」と呼ぶのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そこで少女たちと過ごした長くも短い日々のことを。

二度と戻れないそれを、「生」と呼ぶのか――。

 

 

 

 

 




彼方(かなた):遠くのあちら。離れた過去や未来も意味する。あるいは、別の世界線すらも。
wish(うぃっしゅ):願い、希望。愛するを意味するwenh₁-が語源と考えられる。


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エピローグ『P.S. 君へ』
STORY 13-00 (dear:ending-C.R.)


 ――そして気が付くと我々はCRに、花家大我と西馬ニコは花家ゲーム病クリニック戻ってきていた。

 我々があちらの世界で過ごした時間は数か月に及ぶが、こちらの世界では1秒も経っていなかった。

 

 ガシャットは、ゴッドマキシマムマイティX及びプロトマイティアクションXオリジンを含め全て同時に帰還。

 我々自身の身体についても検査において異常は見られず、あちらの世界における全員の記憶が一致していた。

 よって、我々は確かに異世界に召喚され、魔法少女と魔女、インキュベーターなる外宇宙存在と関わったものとみて間違いはないだろう。

 

 檀黎斗が仕掛けてきたゲームであれば新しいガシャットが残るハズだが、それも見られず。

 我々があちらの世界に招かれた理由や切っ掛けは未だ不明である。

 

 かつて最上魁星が平行世界移動装置エニグマを用いたように、またしても財団Xがなんらかの接触を試みてきたか。

 さらに別の何かとバグスターウイルスが反応し、予期せぬ事態を巻き起こしたのか。

 あるいは、ただ他者の幸福を求めるだけの優しい少女による、たったひとつの願いが奇跡を呼び寄せたのか。

 

 今となっては確かめる手段もない。

 

 我々としては、今回檀黎斗によって与えられた魔法性がまだ適用されているのかを含め、ゲーム病の治療のためにこれからもゴッドマキシマムマイティXを解析することにまい進するのみである。

 

202X年X月X日 九条貴利矢     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――とまぁ、報告書の最後はこんな感じでどうだ、永夢?」

「たったひとつの願い、か……。いい締めだと思いますよ」

「へへっ、だろ?

 しかしまぁ……別れの挨拶をする暇もなく戻されたってのは悔しいな」

「……。きっと、さやかちゃんは恋に一生懸命で、杏子ちゃんに茶化されて」

 

 

 

「あんな男のどこがいいんだか。

 まぁ、恋に恋する乙女ってのはそんなもんかねぇ~?」

「なっ! そ、そういうこと言う奴には!

 今日の宿題見せてやんないからなぁ!?」

 

 

 

「マミちゃんと織莉子ちゃんは気が合いそうだし、それにキリカちゃんが嫉妬してて」

 

 

 

「私ハーブティーが好きなの。

 カモミールティーを飲んでいる時なんて、心が休まるわ」

「わかるけど、夜にカフェインを摂りたくなくて……。

 オススメのノンカフェインはあるかしら?」

「それならほら! 私が探してきてあげるからさ!!」

 

 

 

「ゆまちゃんはおじいさんおばあさんの所で元気にしていて」

 

 

 

「ゆまね、いつか遊園地に行ってみたいの。

 ジェットコースター乗ってみたい!」

 

 

 

「まどかちゃんとほむらちゃんは――、きっと、きっと最高の友達になっています」

 

 

 

「あのね、ほむらちゃん。ちょっとやってみたいことがあるんだ。

 少しだけ目を瞑って?」

「? え、ええ……。あ! これって!!」

「そう! 私のリボン!

 ほむらちゃんの髪に、きっと似合うんじゃないかなって」

「これ……今日は付けててもいいかしら……?」

「もちろん! これからはお揃いで結んじゃおう!」

 

 

 

 

 

「……そうだな」

「でも貴利矢さん。その報告書、ひとつ大事な部分が抜け落ちてますよ」

「えっ? 嘘どこ!?」

「黎斗さんは、貴利矢さんにゲームオーバーにされた直前の状態で現れた。

 だったら、マイティノベルの能力を知ってるハズがないんです

「ッ!! でもアイツは、あの時それを明らかにわかっていて永夢に渡してきた!!」

「まんまと()()()()ちゃいましたね、僕たち」

「クソッ、アイツ! 一体何考えてやがったんだ!!」

「さぁ……。でも、その報告書にひとつだけ付け加えてほしいんです」

「……何をだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「檀黎斗も確かに、仮面ライダーだったって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

Dear You

 

 

 Don't forget.

 (忘れるな。)

 Always, somewhere, someone is fighting for you.

 (いつも、どこかで、誰かが君のために戦っている。)

 If there are heroes in this world, we would call them so.

 (もしこの世界にヒーローが存在するとすれば、彼や彼女らのことを言うんだろう。)

 Confront any adversity without giving up, save people's lives.

 (どんな逆境でも決して諦めずに立ち向かい、人の命を救う。)

 We are protected by such a hero.

 (そんなヒーローに私たちは守られている。)

 As long as you remember them, you are not alone.

 (彼や彼女らのことを忘れない限り、君はひとりではない。)

 Don't forget, don't give up, continue living for you and them.

 (忘れるな、諦めるな、彼や彼女らのために生き続けろ。)

 Life is beautiful, like a game, and it's your own story.

 (人生は美しく――まるでゲームのように――それは君自身のストーリーだ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 P.S.

    See you "Next game"!!

    VeeeeeeeeeeHAHAHAHAHAHA!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

DIRECTOR

  ????

 

CHARACTER DESIGN

  Kamen Rider EX-AID

  Puella Magi Madoka Magica

  Puella Magi Oriko Magica

 

SYSTEM DESIGN

  Dan Kuroto

  Incubator

 

CAST

  Kaname Madoka

  Akemi Homura

  Houjou Emu

  Kyubey

  Tomoe Mami

  Miki Sayaka

  Sakura Kyouko

 

CAST

  Kagami Hiiro

  Hanaya Taiga

  Kujou Kiriya

  Parado

  Poppy Pipopapo

  Saiba Niko

 

CAST

  Mikuni Oriko

  Kure Kirika

  Chitose Yuma

  ...and Others

 

SPECIAL THANKS

  ...and You

 

????

  Dan Kuroto (Origin)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九条貴利矢の報告書にはもうひとつ欠けているものがある。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

医療による収入、買った品々、そして……()の書いたメモも。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

①ガシャットに魔法性を付与する。→ ハイパームテキで完了

②魔女の発生原因を探る。

③魔法の理屈を探る。

④キュゥべえからガシャットを回収する。

⑤マギ

 ※ ↑②~⑤は修正前なので無視すること。

②魔女と使い魔の増加の原因を探る。→ ワルプルギスの夜の接近

③隠れている魔法少女の動向を探る。→ 忘却の魔女のフィルムデータ

④プロトマイティアクションXガシャットオリジンの動作を確認する。→ No Problem

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②魔女の発生原因を探る。

③魔法の理屈を探る。

④キュゥべえからガシャットを回収する。

⑤マギ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑤マギ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

次作……?

 

穢れを吸ったグリーフシードを

こちらの世界に現れる魔女たち

インキュベーター抜きで処理できるとしたら?

向こうでも何か起きているに違いない

真のラスボスが待ち構えている

僕たちは彼を頼るしかない

永夢、私のゲームに挑むか?

それは黎斗さんからの挑戦状

この幻夢ARで!

神が与えしたった一つのトライアル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も言えずにお別れだったからさ。こうしてまた会えてほんとに嬉しい!

 

縁で結ばれてるってヤツか? もう無関係じゃないんだ。精々頼らせてもらうよ!

 

これは私の予知にない物語。まだこの世界は、魔法少女は安定した訳ではない!

 

じゃあ、なにさ……。コレが本物のキリサキさん……!?

 

あなたたちは――! そう、あなたたちも魔法少女になってしまっていたのね……

 

私たちはワルプルギスの夜を乗り越えた。この暁すらどうってことない!

 

今なら私も戦える! 魔法少女まどか(まどか☆マギカ)として!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーエグゼイド

×

魔法少女かずみ☆マギカ

×

魔法少女すずね☆マギカ

 

[続編]ザ・プレアデス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は知っている。君がこのガシャットを知らないことを

 

 

 

 

≪ 幻 夢 無 双 ≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『writerの後書』


まさか3年10ヵ月も掛かるなんて、書き始めた当初は思いもしませんでした。
というか3年経っても「続き書いてほしい」と言ってもらえるなんて思いませんでした。
本当に申し訳なく、また、ありがたく感じております。

元々は有名なSS「岸辺露伴 見滝原へ行く」の、キュゥべえの意表を突いて見せた露伴のすごさとか。
ハーメルン小説「Fate/Game Master」の、檀黎斗の暴れ様とか。
「黎斗構文でほむらの正体バレしたら気持ちいいだろうなぁ」なんて思いとかから出来上がった物です。

書き始めた時点でその例のシーンの構想は出来ていて。
途中からおりマギも混ぜて本編と一層違った物語を書きたくなって。
で、大学8年生だったり大学9年生だったりになってここまでズルズル引き伸ばしになりました。

つまるところほぼほぼ檀黎斗でキュゥべえぶん殴りてぇ~から始まり終わった物です。
ここまで読んでいただいた皆様、感想を寄せていただいた皆様に深く深く感謝いたします。



ところで、その3年の間に、檀黎斗マジで公式で暴れすぎじゃないっすか?





2024/03/03追記:

檀黎斗また新しいフォーム生えてんじゃん!!?
ハイパー不滅ゲーマー!!!!????


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