提督は行方不明です (Firefly1122)
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提督が行方不明になりました。
ある日、突如として現れた艦艇により、人々は制海権を失った。その艦艇を、深海棲艦と呼んだ。
人々は制海権を取り戻すべく、人々は深海棲艦と互角に戦える兵器を作った。それが艦娘であった。そんな艦娘たちに指揮を与えているのが提督である。
「バーニングッ!ラアアブ!!」
「ここは譲りません」
戦艦金剛と正規空母加賀はサーモン海域北方で目まぐるしい活躍をしていた。
「さすがお姉さま!この比叡、お姉さまに負けないよう、がんばりますっ!」
「くっ……流石ね。でも、一航戦なんかに負けないんだから!」
それに次いで戦艦比叡、装甲空母瑞鶴も深海棲艦に砲撃し、轟沈させる。
「どうよ!一航戦!」
「あっ!瑞鶴!危ない!」
「えっ!?」
瑞鶴は敵を倒したことで一瞬油断した。だが、その一瞬が致命的だった。深海棲艦の戦艦、レ級の砲撃が瑞鶴に直撃した。
「もうっ!私がここまで被弾するなんてっ!」
衣服が破れ、飛行甲板がボロボロになる。大破だ。
「油断禁物よ、五航戦。いくら装甲空母でも大破したら活躍できないわ。下がってなさい」
「くっ……!分かったわよ!」
瑞鶴は翔鶴に庇ってもらいながら後方に下がる。残りの敵を加賀、金剛、比叡、霧島が沈め、S勝利を飾る。
「Oh……ボロボロネー……これは進撃は難しいですねー」
「一度撤退しましょうか。お姉さま」
「そうですねー。帰ればまた来られるねー!」
旗艦、金剛の判断で一度帰投する。提督にはすでに通信を送っている。瑞鶴大破により、帰投すると。
帰投すると、港に提督が待っていた。
「お疲れ様。瑞鶴、大丈夫か?」
「大丈夫よ!これくらい!入渠したらすぐ直るわ!」
「そうか。それならよかった。ドックは空いている。多少被弾している者も入渠してくれ。金剛、お前は被弾はしてないか?」
「大丈夫ねー!」
「そうか。なら後で報告に来るようにな」
「了解ねー!」
提督は出撃後必ず出迎えをしている。艦娘は兵器だ。そんな彼女らをわざわざ出迎えする提督はこの提督くらいだ。そんな彼の名は深陽という。
俺はブラブラと鎮守府を歩き回っていた。艦娘たちは非番の日は様々なことをして過ごしている。強くなるために訓練している者、縁側でゆっくりしている者、間宮さんと呼ばれる食事処で食事をしている者などなど。俺はそんな彼女らが兵器だとは思えなかった。だからこうして歩き回って非番の艦娘と交流をしているのだ。港に出ると、駆逐艦吹雪が、軽巡神通に監督をしてもらいつつ、演習を行っていた。
「お、頑張ってるな」
「あ、提督、お疲れさまです」
「吹雪の調子はどうだ?」
「はい。日々成長しています。最近では駆逐艦を2隻も沈めましたから」
「ああ、聞いているよ。素晴らしい戦果だな」
演習中の吹雪はこちらに気づき、演習を中止してこちらに向かってきた。
「提督!お疲れさまです!」
「吹雪もお疲れ様。すまないな、演習中に邪魔してしまって」
「いえ!ちょうど提督に見てもらいたいなって思っていたので」
「ああ、いいぞ。見せてくれ」
「ありがとうございます!」
吹雪はスタート地点に立ち、声を上げる。
「駆逐艦吹雪、行きます!!」
一気に加速し、最初は障害物を避ける練習だ。これは見事な身のこなしで避ける。そしてそのまま移動しながらいろんなところに出てくる的に砲撃を当てる。これも見事百発百中。最後は魚雷で大きな動くドラム缶を爆発させて終了だ。そして吹雪はこちらに帰ってきた。
「どうでした!?」
「ああ、上達してるな。次の出撃では期待してるぞ」
「はいっ!」
吹雪はニッコリと笑顔で返事をする。まるで兵器には見えない。俺はそんな彼女らが何故戦っているのか考えてしまうのだった。
ウウウウウウウウ!!
突如鳴り響くサイレン。サイレンは艦娘を呼ぶため、出撃の時、そして敵襲があった時になるものだ。艦娘を呼ぶため、出撃の時は必ず俺の指示だ。だが、敵襲は違う。敵が基地付近のレーダーに引っかかった時、自動でなる。今回俺は指示は出していない。つまり、敵が来ているということだ。
「敵襲か。吹雪、ちょうどいい。一緒に来てくれ。神通はすぐさま他のすぐ動ける艦を呼んでくれ」
「「はいっ!」」
神通は工廠の方に走っていった。俺は港を走り、海域を見渡せる防波堤の方に行く。吹雪は海上を走り、俺についてくる。
防波堤に着き、首にかけている双眼鏡で敵影を探す。
「レ級……」
「っ!!」
吹雪はレ級の強さを知っている。サーモン海域北方に行き、あの戦闘力を見たことがあるからだ」
「吹雪、足止めでいい。やれるか?」
「っ!!はいっ!」
吹雪は単艦でレ級に向かっていく。俺は吹雪の戦闘を見ることしかできない。吹雪がレ級に向かって行って間もなく、砲撃音が鳴り響く。吹雪は演習通り、動き、敵に的確に砲撃を当てる。だが、駆逐艦の火力ではレ級にダメージがあまり与えられない。しばらくすると、神通が金剛、榛名、航空巡洋艦利根、筑摩を連れやってきた。
「提督!艦隊、出撃準備ができました!」
「ああ、これより、鎮守府防衛作戦を開始する。敵艦はレ級、および複数の巡洋艦だ。これを殲滅せよ!」
「「「「「了解!」」」」」
神通達はレ級を倒すべく、出撃した。先に出撃していた吹雪と合流し、敵艦を沈めていく。
「吹雪さん。大丈夫?」
「はい、何とか」
「少しぶりねー!挨拶にバーニングラブねー!!」
「榛名も追撃します!」
金剛、榛名はレ級に砲撃を当てる。レ級は金剛、榛名の砲撃により大破炎上。あと一息だ。
「これで終わりじゃ!」
利根の砲撃により、レ級はそのまま沈んで行った。
「やりました!」
「ぶっきーが足止めしてくれたおかげねー!」
「作戦成功ですね。帰投しましょう」
艦隊はレ級とその他の艦を沈め、帰ってくる。
「作戦成功か」
俺は双眼鏡から目を離し、安堵した。と、突然足を掴まれる。
「っ!?潜水艦ッ!!」
俺はそのまま海へ引きずり込まれてしまった。
「長門、提督は一体どこへ行ったか分かる?」
「……最悪の事態だ」
「……同じことを考えてるのね」
神通達が防衛作戦を完遂し帰投すると、いつも出迎えをしてくれた提督の姿はなかった。最後に提督を見た防波堤の方に行ってみるが、おらず、いよいよ心配になり、艦娘全員で鎮守府を探す。提督が足を滑らせて海に落ちたのかと鎮守府周辺を探すが、提督は見つからなかった。
「誘拐されたか……」
長門は頭を抱えながら俯いた。
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テイトクが着任しました。
目を覚ますと、見知らぬ天井が目に入る。俺はゆっくりと体を起こし、窓の外を見る。窓の外は真っ暗だった。
「……夜か?」
そう思っている矢先、窓の外を横切る大きな長い体。銀色の体に赤いひげを持つリュウグウノツカイであった。
「……!?」
俺は一瞬思考が止まった。そして窓に張り付き、外を見る。よく見ると、様々な魚が泳ぐ海の世界だった。
「あ、あはは……これは夢だな。夢なんだな」
そう思い再びベッドに入ろうと振り向いた。そこには特徴的な帽子に銀色の美しい髪。黒いマントを羽織り杖を持った少女がベッドの向こう側にいたのだった。
「うえっ!?」
「ヲッ?」
彼女はどう見ても、空母ヲ級だ。
「なっなな!なんでヲ級が!?いやっ夢だ!これは夢だ!悪い夢なんだ!」
「元気そうですね」
ヲ級は普通に喋った。静かだけど透き通るその声が耳に届く。
「これは夢ではありません。現実を受け止めてください」
俺は薄々気づいていた。これは夢ではないと。だが、夢だと思い込まないと受け止められなかったのだ。
「と、とりあえず話が通じるようだな……」
「当たり前です」
「お前は空母ヲ級だよな?」
「はい」
「どうしてここにいるんだ?」
「ここは我々の基地だからです」
「どうして俺は連れてこられたんだ」
「それは私たちのことを知り、私たちの指揮をしてほしいからです」
「お前たちのことを?」
「はい。私たち深海棲艦は海を守るために……」
「待ってくれ。ちょっといろいろ整理させてくれ」
「……」
俺は頭の整理をした。
(ここは深海。リュウグウノツカイが泳いでる深海。目の前にいるのはヲ級。俺たちの敵。そしてここはこいつの基地。そして俺がここに連れてこられた理由はこいつらの指揮をするため……うん。全く理解できない)
俺は考えを放棄し、ヲ級にダメ元でお願いしてみることにした。
「俺を地上に返してもらえないか……?」
「構いませんよ」
「ほ、本当か!?」
「ただし、ここのことを知ったまま出て行ってもらっても困るから死んでもらいますが」
「それって素直にダメですって言わないか?」
「そうともいいますね」
俺は諦めてヲ級の話を聞くことにした。
「で、俺はどうしてここに連れてこられたんだ?」
「私たちのことを知ってもらって、私たちの指揮を……」
「それはもう聞いた。お前たちのことってなんだ?指揮って何をしたらいいんだ?」
「私たち深海棲艦は、海の生物たちの怨念とかつてあった戦争によって沈んだ船の怨念、また、それにより死んだ人々の怨念から生まれました。私たちは海を守るために、海を穢す地上の人々を追い返しています。しかし、突然現れた地上の棲艦が私たちを倒すべく攻めてくるのです。地上の棲艦を倒すのは至難の業です。その強さの秘密はあなた方テイトクと呼ばれる人間だと私たちの中で結論付けました。なので私たちもテイトクを手に入れ、艦娘に対抗することにしたのです。あなたは地上の棲艦に指揮をしていたように私たちにも指揮をして地上の棲艦を倒すのに協力してほしいのです」
「……なるほど。まず聞きたいことがある。地上の棲艦って言うのは艦娘でいいのか?」
「……?たぶん」
「なるほど。次にお前たちは怨念から生まれたって言ったな。海の生物の怨念、つまり人間を恨む気持ちがお前たちを生み出したってことでいいのか?」
「はい」
「じゃあなんで敵を指揮する俺にお前たちの指揮を任せたいんだ?」
「あなたが海を想う気持ちを持っているからです」
「海を想う気持ち?」
「はい。私たち棲艦は何度も偵察をしています。地上の棲艦の基地を。彼らの大半は海にゴミを捨てたり、海の物を取ったりしていました。しかしあなたは違います。海に捨てられたごみを拾ったり、海の生物が傷ついていれば治したりしていた」
俺は心当たりがあった。きれいな海が汚れているのが嫌で、よく海に浮いている物を網で掬ったり、艦娘には海に浮いているゴミは必ず拾ってくるようにと言っている。前に網でごみを掬っていたら、傷ついたウミガメがいたため、網で掬い上げて、治療し、海に帰してやったこともあった。おそらくそれのことだろう。
「あなたなら私たち棲艦の気持ちを分かっていただけるかと」
「まあ、海を汚すやつがいたら嫌だな。だが、なんで漁をしている人々を襲ったりしてるんだ?」
「私たちは人々を追い返しているだけです。殺したりなどはしていません。彼らは憎むべき相手です。ですが彼らも生き物です。なので殺さないという決まりが私たち棲艦にあります」
「そうなのか……」
「お願いします。私たちの指揮をしてくれませんか?」
「……少し考えさせてくれ」
「……わかりました。もうすぐお昼時ですね。食事を持ってきます」
ヲ級は立ち上がり、部屋を出て行った。俺は一人頭を悩ませている。もしここで深海棲艦を指揮するとしたら、艦娘達を裏切ることになる。だが、彼女ら深海棲艦が制海権を奪っている理由を聞いて、悪いやつだとは思えない。嘘を吐いている可能性もあるが、ヲ級の目は嘘を吐いているようには思えなかった。人間を裏切るか海を守るか。
考えを巡らせている間にヲ級が食事を持ってくる。
「どうぞ」
「あ、ああ。ありがとう」
食事はスパゲッティにサラダ、野菜ジュース。デザートにアイスだ。一見普通そうな食事だ。
「いただきます」
スパゲティを一口食べ、すぐに吐き出す。
「げほっげほっ!なっ何が入ってんだこれっ!げほっげほっ!」
「イカにヒラメのヒレ、それにカニ味噌を混ぜ込んで隠し味にボーキサイトです」
「なんてもん食わせてんだ!!イカにヒラメ、カニ味噌はおいしそうだがボーキサイトは食えねえよ!!」
「そうなんですか……でもボーキサイトおいしいですよ?」
「人間は食わねえの!全く……」
俺はサラダを口に運ぶ。バリバリっと硬い歯ごたえ。すぐに吐き出す。
「ぺっ!ぺっ!!なんだこれは!」
「サラダには深海鉄を混ぜ込みました」
「鉄っ!鉄ぅ!!鉄も人間は食べないの!!」
「そうなんですか。でも血には鉄が含まれるって聞きましたよ?」
「鉄分は直接取るんじゃないの!食物に含まれるものを摂取してるんだよ!」
「それでは今度からボーキも鉄も入れないようにします」
「そうしてくれ……」
俺は野菜ジュースを手に取る。が、さっきの流れから警戒する。
「これには何が入っている?」
「それは深海で作った野菜で作ったジュースです。17種類の野菜が入っています」
「野菜以外には入ってないか?」
「はい」
俺は警戒しつつ飲む。
「……あっうまい」
「よかったです」
俺は安心して野菜ジュースを飲み、デザートのアイスを食べる。
「お、このバニラも行けるな」
「それはこの前地上の棲艦の基地に潜入して奪ってきたものです。確か間宮アイスとか言ってました」
「お前らかあああ!!たまにアイスが無くなってるって報告来てると思ったら!!」
「あっはい」
「あっはいじゃない!……レーダーに引っかからない技術ってすごいな……」
「潜水艦の娘が頑張ってくれました」
「なるほどな。俺を誘拐したやつか」
「はい」
俺はヲ級と話しているうちになんだか深海棲艦を指揮してもいいような気がしてきた。食事も悪意があるわけではなく、自分たちがいつも摂っている食事をくれただけだ。だんだんと深海棲艦が敵ではないような気がしてきたのだ。
「深海棲艦の指揮もいいかもな」
俺はボソっと呟いた。するとずっと無表情だったヲ級が少し笑ったような気がした。
「……よかったです」
ヲ級が呟いたその言葉は本心からの言葉。そう思った。
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テイトクが名前を付けてくださりました。
食事を終えたのち執務室に案内してもらい、ついでに今ここにいる棲艦を全員集めるように言った。そして数分後、集まった棲艦に自己紹介してもらうことにしたのだが……
「……おいヲ級。今ここにいる棲艦ってこれだけなのか?」
「はい」
集まったのはヲ級と潜水艦の二人だけだった。
「……出撃とかしてたりはしないか?」
「してませんね」
「マジで二人だけかよ……」
俺はさっそく頭を抱えてしまった。深海棲艦の指揮官をやることにした以上、ここで悩んでも仕方がない。とりあえず二人に自己紹介をしてもらうことしにした。
「まずはヲ級、あー得意な戦闘と今後の意気込み。あと趣味とか言ってくれ」
「はい。得意な戦闘は艦載機での制空権を取ること、また空爆などです。意気込みは……またここをにぎやかにしたいです。趣味は特にありません」
ヲ級は無表情で自己紹介をすませた。おそらく表情があまり出ないのだろう。
「わかった。次、潜水艦のお前。クラスとヲ級が自己紹介したようなことを言ってくれ」
「ゴボゴボ潜水カ級。ゴボゴボflagshipです。ゴボゴボ敵に見つからずゴボボ魚雷を撃つゴボボ」
「待て待てそれ外せ。口につけてるそれ外せ」
「失礼しました。潜水カ級です。flagshipです。敵に見つからないように偵察、魚雷を撃つのが得意です。意気込みはまた間宮アイス……じゃなかった。鎮守府に貢献できるように頑張ります。趣味はつまみ……つ、爪楊枝を刺すことです!」
「間宮アイスだけが狙いかよ!今つまみ食いって言いかけたよな!百歩譲って違うことにしても爪楊枝を刺すってどんな趣味だよそして何に刺すんだよ!」
「ゴボボ」
「おい俺に聞こえないように酸素マスクつけて喋るんじゃねえ!」
自己紹介でいきなり疲れた。まあ、こいつは俺を誘拐するだけのステルス走行能力はある。間宮アイスもいくつか盗んで来たりしてるし。活躍はしてくれるだろう。
「とりあえずこれだけじゃ戦力が足りないよな。建造をしたい。やり方を教えてくれ」
「はい。では工廠の方へ案内します」
工廠へ着くと見たこともない機械がたくさんあった。タンクのようなものに大きな鍋のような物。そしてひときわ目を引く赤い渦を発生させる祭壇のような物。俺は一つ一つ説明してもらった。
まずタンクのようなものは怨念を集めるものらしい。怨念は海に漂っているため、海水を取り込み、怨念だけを吸収し、海水を破棄して集めるらしい。また、沈没船や生き物の死骸からも怨念は取れるそうだ。その場合も同じようにやるが、沈没船の資材はもったいないため怨念を吸収した後は鍋に送り、余分なものを取り除き、資材に戻すらしい。生き物の死骸は海の底に埋めたり、食べられるものであればそのまま食料にする。またタンクの中では特殊な方法で怨念を液体にしているようで、使用するのに器に流し込む必要があるらしい。
次に鍋は資材を取り出すのと別の使用用途がある。深海棲艦はなぜか怨念を含んだ資材しか使えないため、鉄等に怨念を込める。その時に使う。資材を一度鍋に溶かし、そこに適量の怨念を流し込むことでできる。できた怨念がこもった資材は特定の型に流し込み固めることで出来上がる。例えば弾薬は弾薬用の型があり、鉄と怨念を溶かしたものをそこに流し込むことでできる。ただ、そのままでは弾薬として使えない。弾薬の形になったものに火薬等を入れることで出来上がる。
最後に赤い渦を発生させる祭壇だ。これが造船所らしい。資材をその中に入れることで建造が開始され、時間が過ぎると棲艦が出来上がる。この辺は艦娘を建造するときと同じようなものだ。資材の投入の方法はモニターがあり、そこで量を計る。怨念は怨念タンクからつながるパイプの栓を開けることで流し込める。弾薬、鋼材、ボーキサイトは造船所にある蓋を開け、手作業で入れる。
俺はさっそく建造をしてみることにした。今の鎮守府内の資材は少ないが戦力はいたほうがいい。レシピもわからないし、今ある各資材1000の内の半分を投入することにした。怨念500、弾薬500、鋼材500、ボーキサイト500だ。建造可能な量の資材が入るとモニターの右下の建造開始のボタンが光る。それを押すことで始まる。建造が開始されたら赤色の渦は紫になり、モニターには建造終了までの時間が表示された。
「建造終了までの時間3時間か……」
俺は適当に投入したにしてはいいほうだと思いながら3時間を待った。その間この鎮守府内の施設についていろいろと案内してもらった。棲艦寮、提督室、伝達室、食堂、農場などなど。農場では地上で作られるような植物があり、電照などを行って作られているようだ。施設を一通り回り終え戻ってきたころには建造は終了したようで、紫色の渦が赤色の渦に戻っていた。モニターの建造終了を押すと、赤い渦から棲艦がその姿を現す。特徴的な帽子に青いヒトミ。無表情の顔……空母ヲ級だった。
「早速被ったぞ……」
「……はい」
「はいじゃない。これどうすんだ……呼びづらいし」
「……はい」
俺は二人のヲ級を眺めながら、対策を考える。
「……二人ともヲ級ってクラスだよな」
「はい」
「クラスなら名前とかないのか?」
「……名前……ですか?」
「ああ」
二人のヲ級は互いに顔を見合わせていた。
「名前はありません」
「なら名前を付けよう。その方が呼びやすいしさ」
「……はい」
「最初からいたお前は
「いい名前です」
「嬉しいです」
それから見た目が同じだからわかりやすいようにと初音には赤いリボン、二葉には青いリボンをつけさせることにした。これで間違えることはほぼないだろう。それからカ級にも
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テイトクが作戦を開始しました。
余った資材を数回に分け使い、駆逐艦3隻を建造した。駆逐イ級、駆逐ロ級、駆逐ハ級だ。駆逐艦はどうやらしゃべることができないようだが、人間の言葉は伝わるようだ。
「お手」
「イッ!」
「伏せ」
「ロッ!」
「ごろーん」
「ハッ!」
どう見ても犬だった。俺の指示に従いそれっぽい動きをする。俺はこの犬としか思えない駆逐艦たちに名前を付ける。イ級はイチ、ロ級はロッチ、ハ級はハッチだ。首輪替わりと布を首に巻いてやり、さっそく遠征任務に行かせることにした。
深海棲艦の燃料となる怨念は放っておくだけでも勝手に溜まるが、鉄とボーキは取りに行くしかない。幸いどっちも海の底にいくつかあるようだし、沈んだ深海棲艦からも回収できる。駆逐艦の3匹にそれらを回収するように命じた。
「イチ達は遠征で頑張ってもらうとして、問題は初音たちの練度上げだな……」
艦娘たちであれば深海棲艦を倒すことでレベルが上がるし、大破することはあっても、轟沈することはほとんどない。轟沈寸前に一度だけ自動で展開される浮き輪で轟沈を防ぐ。浮き輪も特別製で数回のダメージでは割れたりはしない。そのため艦娘たちは轟沈することなく帰ってこれるのだ。
しかし、深海棲艦は違う。深海棲艦は致命的なダメージを受けると大破轟沈してしまう。そのため艦娘と戦わせてレベリングするというのは危険極まりない。
「初音、お前たちってどうやって練度を上げてきたんだ?」
「私たちは怨念を消費することで少しずつ練度が上がっていきます。極度の緊張や危険に晒された時は特にレベルが上がります」
つまり、普通に生活しているだけで練度が上がる。そして極度な緊張や危険というのは、出撃や遠征に行ったときということだろう。海の生物を守る深海棲艦は戦うことを嫌い、そのように進化したようだ。
「なら別に急ぐこともないしのんびり訓練とかして、万全な体制で艦娘に挑もう」
「……そう簡単には行きません。私たちの仕事は地上の棲艦たちとは違い、”防衛”なのです。進撃してくる地上の棲艦たちを撃退するのが主な目的なので、こちらが望まない状況下で地上の棲艦が攻めてくることが多いです」
「なるほどな……今まで深海棲艦が攻めてきたことなんてなかったのはそういうことか。ならのんびりしてる暇もないのか……」
「もちろん私たちもそんな簡単に壊滅するつもりはありません。素早く態勢を整えられるように、一つの切り札を作りました」
「切り札?」
「今までの棲艦の経験を本に書くことで、他の棲艦に今までの経験を受け継がせ、練度を上げることができるというものです」
「なんだその装置」
「私たちは経験の書と呼んでいます。仕組みは怨念に込められた記憶をその棲艦に引き継ぐというものなのです」
「記憶を引き継ぐことで今までのような動きをできるという……あれ?それって同じ艦を復活させることができるってことじゃないか?」
「はい。例えば私の記憶の書を別のヲ級に使えば、私が二人できることになります」
「切り札と言っていたのはそういうことか……記憶の書は使わない方針で行こう。お前たちがたとえ同じヲ級でも、お前たちそれぞれに人生がある。一人の人生を生贄にもう一人を復活させるなんてできない」
「テイトクは優しいのですね。でも、決断しないといけないときが来たら迷うことなく使うべきです」
そういうと経験の書を一つ俺に渡してきた。
「これはこの鎮守府で最も活躍したヲ級の経験の書です。もし戦力が足らないとき、遠慮なく使ってください」
「お前の記憶を消してまで戦力増強はしたくない」
「……あ、いえ、記憶を”追加”するだけで今までの記憶は普通に残ります」
「残るんかい!!」
俺はツッコミを入れた後椅子に深く座る。
「まあ、使わないさ」
「え?」
「前のヲ級はおそらく辛い経験をしてきた。その経験を自分の経験として受け入れると、お前は辛い思いをするだろう。それに記憶のヲ級として過ごせばいいのか、初音として過ごせばいいのか迷うだろう?」
「でもすぐに強くなれるんですよ?」
「いいさ。すぐに強くならなくても。攻めてこられても失うものはその海上だけだ。深海で過ごしている俺達に気づかない」
「……いつかは気づかれます」
「一つ考えがあるんだ」
俺はヲ級にその作戦を話す。
「そんなことできるのですか?」
「ああ、おそらくな。それまで練度を上げることに専念しよう」
「……了解です。二葉や初海にもそう伝えておきます」
「ああ、頼んだ」
俺は記憶の書をそっと机の引き出しにしまったのだった。
あれから数日が経った。何度かレーダーに艦娘が映ったが、俺たちはひたすら無視した。艦娘たちは深海棲艦がいないことに困惑しながら帰っていった。棲艦たちの練度もそこそこ上がってきた。これだけ練度が上がればやれるだろうと判断し、一つ目の作戦に出る。それは俺の鎮守府に手紙を送るというものだ。
「これをできるのは初海くらいか。頼めるか?」
「ゴボボ(任せてください)」
「……よろしく頼むぞ。ただ渡すだけだ。危なくなったら逃げてくれ」
「ゴボボ(了解)」
「……(わからんっ!!)」
不安を残しつつ、初海を信じて出撃させた。
提督が行方不明となって数か月が過ぎた。私たちはいろいろな海域を探してみたが、見つかることはなく、この鎮守府を任せられる提督を探すことになった。しかし、最近はブラック鎮守府というものが多い。道具のように使われる艦娘たち。私たちも偵察等に行った際に、その光景を見た。絶対にあのような姿にはなりたくない。
「長門、新しい提督は見つからないの?」
「慎重にしないと、ブラック鎮守府になりかねない。あの提督のように優しい人を……」
「そのことなんだけど、ついさっき海岸にこんな手紙が置いてあったという報告があったの」
私はその手紙を読む。
『俺の鎮守府の艦娘諸君、元気にしているか?私は元気だ。実はひょんなことから深海棲艦の提督をやっている。そこで艦娘である君たちの力も借りたいと思ってこの手紙を送る。今更生存報告してくるくせにこのような手紙を送るのは虫が良いのは分かっている。が、どうか考えておいてほしい。もし力を貸してくれるというなら、サーモン海域北方に来てほしい。』
私はその手紙をぐしゃぐしゃにした。どう考えても罠だ。
「長門……」
「こんなの罠に決まってるっ!!……でも」
でもこの字は間違いない。深陽提督の物だ。私は一縷の望みを託して、そこに行ってみることにした。そしてサーモン海域北方に向かってもらう艦娘に指示を出す。
「編成は戦艦金剛、霧島、空母赤城、加賀、駆逐艦雷、電。目標はそこにいると思われる深陽提督の救出だ。罠の危険性もあるため、十分に注意すること」
「了解ネー!」
「司令官そこにいるのね!私が助けてあげるわ!」
「一航戦の誇りにかけて、救出してみせます!」
「第一艦隊旗艦金剛、出撃せよ!!」
こうして、深海棲艦と艦娘のそれぞれの作戦が開始された。
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