グリフィンドールの片隅で (モチコ)
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エロイーズ・ミジョンの独白

見切り発車とはこのこと。

転生モブ女子がハリーに恋しちゃうと大変だよねって話。いつかは幸せにしてあげたい。
私の中でハリーは、面食いだけど差別はしない、無自覚紳士君なので。





 

 

グリフィンドール。勇気ある者が過ごす寮。

 

名誉あるこの寮へ組分けられた。正直、前世でこの世界の物語を読んだことがある…なんて言ったら、今まで以上に浮いてしまう気がする。

 

そもそも私は多分、この物語にはほとんど登場していないはずだ。物語の中心となる人々とは、幼少期からも一切関わりがなかった。聞き覚えがあるのはダンブルドア校長やホグワーツについてのみ。

ハリーポッターという少年が、例のあの人を倒してから10年。私にもホグワーツから手紙が届いた。

 

しかし、前世で読んだ物語に登場する私は、どの寮だったのかすらわからなかったのだ。恐らくその程度の人物。物語にはほとんど関わっていないモブキャラクターというわけだ。

 

あれよあれよと準備は進み、私は遂にホグワーツへ入学することになった。

 

元々私の家は純血家系だった。だが母親は既に亡くなっており、魔法省の癒学管轄部で働く父と二人暮らし。特別裕福なわけでも、貧乏なわけでもない。

 

 

髪色はダークブラウン、普段はストレートのロングヘア。しかし髪が細い分痛みやすく、最近ではダメージが目立っている。瞳も同じダークブラウン、目鼻立ちは整っているが、視力が悪いため分厚い眼鏡が手離せない。

 

色白だった肌も、母譲りらしいデリケートな肌の影響で、昔からなんというか…「肌荒れしやすい女の子」だった。ニキビが顔に広がり始めてからは、広がりやすい髪の毛も常に垂らし、顔周りを隠そうと躍起になった。

清潔感を保つ為の努力は人一倍したし、スキンケアも10歳の子にしては異常なくらい熱心に取り組んだ。

それでも消えないニキビ達に対して、一定の諦めを持った私は、人と関わることが減っていった。

 

 

前世では日本という割と穏やかな人間社会に居たためか、外国の人々がどれだけ意思を主張するものなのか…つまり、どれだけ無神経に指摘してくるかということを理解できていなかった。

 

入学して早々に、グリフィンドールを始め多くの学生達から、「あのニキビ面はなんだ」「お気の毒な容姿」なとと後ろ指や陰口、揶揄の対象になってしまったのだ。

 

 

オブラートに包む表現とやらを知らない彼らの態度や言葉は、私にとって劇薬のような役割を果たした。

 

 

あんなにも憧れていた世界、行きたくて堪らなかった学校だったのに、まるで暗くて深い闇に閉じ込められたような感覚に陥るほど、私の心を蝕んでいった。

 

 

「おい、エロイーズ・ミジョンのニキビ面なんてお昼前に見るもんじゃないな。」

 

「全くだ、お陰で食欲減退さ…」

 

 

そう、見知らぬ学生達からの言葉は日常茶飯事なのだから。

 

 

 

 



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運命の出会い?

寝れないので連投。




1年生から、彼は学校中の注目を浴びていた。

 

入学してから今まで、彼らが仲間内で盛り上がる度、記事に名前が乗る度、彼が受けた罰則やクィディッチの結果まで。

誰が何のために細かい情報まで城中筒抜けにしているかはわからないが、物語の主人公であるハリーポッター、親友であるロンウィーズリー、ハーマイオニーグレンジャーはいつでもどこでも一緒だったから、恐らく目立ちやすいせいもあると思う。

 

その点私は、容姿に自信が無く、日本人気質が抜けずにルームメートとも打ち解けられず、これといった友人は居ない。女子生徒達からはあからさまな嫌がらせなどはされないし、ハーマイオニーなどは時々気にかけて声をかけてくれることもある。

 

しかしそういう時も私は、なるべく失礼の無いように対応し、一刻も早く周囲の視線から逃れたいと思ってしまうのだ。

 

優しさからの言葉であっても偽善であるように勘繰ってしまったり、外見だけでなく内面も醜くなっている自分が本当に嫌で堪らなかった。

 

自分が容姿や周囲の評価を気にしてばかりいる間に、ハリー達は賢者の石を守り、秘密の部屋の怪物を倒し、三年生の今はブラック探しに精を出している頃だろう。

 

ロンウィーズリーの肩に乗っているネズミを捕まえてしまおうか、かなり迷ったこともある。実際、五メートル位はロンの所まで近付いた。

 

「あらエロイーズ、どうかした?」

 

驚いたように声をかけてきたハーマイオニーの言葉に、ようやく我に返ったのだ。

 

その時、ハリーとロンも戸惑ったように私を見ていた。そりゃそうだろう。普段は会話もしない女子生徒が、彼らのお気に入りの場所である暖炉近くまで無言で近寄って来たのだ。

 

しかも、この三人で最も関わりが無いのはロンウィーズリーである。

 

 

流石にその時は恥ずかしさと愚かさでいつも以上に顔を真っ赤にして走り去ることしかできなかった。

 

 

 

実は言うと私は、ハリーポッターが大好きだ。

原作を読んでいた頃から、チョウやジニーが羨ましかった。王道の主人公過ぎるハリーを射止める、美しくて強い女性。

 

面食いなハリー、でも分け隔てなく愛情深い男の子。

ジェームズとリリーのまさに良いとこ取り。

 

同級生として、しかも同じグリフィンドール生として過ごせるとは思わなかった。

彼は私の容姿を面と向かって揶揄することもなかったし、目が合ってもあからさまに反らしたり避けたりしなかった。

 

かといって、挨拶や雑談を交わす程仲が良いわけではなかった。

 

少し無鉄砲だけど、謙虚で素直。ロン含むルームメート達とバカ騒ぎをしているときは、年相応の健全な少年だった。

 

友達もいない私は、ハリーと仲良く過ごすハーマイオニーを羨ましく思いながら、けれど自分からハリーに話しかけることも出来ずに過ごしていた。

 

 

このまま、エロイーズミジョンとして、周囲に疎まれつつ、モブとして彼らの冒険を見守っていくのだと、少し残念に思いながらも、ある程度は納得していたのだ。

 

 

それが覆ったのは、二年生の時。

 

ハリーが、スリザリンの継承者なのではないかと、学校中がその噂で持ちきりになっていた。

もちろん私は犯人がハリーではないことも、この誤解はいずれ解けることも知っていた。

だからこそ傍観していたのだが、

 

「キミも僕が怖いんだろう?さっさと出ていけば良いよ!僕を怒らせると蛇をけしかけてしまうかもしれないし!」

 

 

明らかに怒った様子で、談話室にたまたま一人残された私に振り絞るように声をかけてきたのは、ハリー本人だった。

 

何があったのか、今の噂が相当堪えているらしい。

普段は温和な彼が、ひどく悲しく歪んだ目で私を見て、普段の私のように人を寄せ付けようとしないオーラを放っている。

 

突然怒鳴られたことに関しては、完全にとばっちりだったのだが、いきなり主人公であるハリーに話しかけられたことで、いつもの対応方法がわからなくなっていたのだと思う。

 

モブであるはずの私は、あろうことか前世で日本女性だったときの記憶を元に会話してしまっていた。

 

 

「……私は、ハリーポッターが誤解されてるだけって知ってる。…蛇と話せるから、特別なの?私だってふくろうと話せるよ、多分…」

 

「…………あー、うん…」

 

「………私、なんか、変なこと…言ったかも…」

 

「いや…ごめん、こっちこそ急に怒鳴ったりして」

 

「ウィーズリーやハーマイオニー以外にも、貴方を信じてる人、沢山居ると思うけど。……わざわざ伝えたりはしないだろうね、この状況なら」

 

話している内、どんどん緊張してしまって、この場から逃げたくなってくる。

 

私今、どんな顔をしてる?二年生なんてまだ子供同士だけど、それでもやっぱり…

 

「エロイーズ…だよね?本当にごめん。そんなこと、言ってくれると思わなかったよ。あー…、えっと、ありがとう。」

 

真っ直ぐ私の目を見て、さっきとはまるで違う人懐っこい瞳で、少し照れたように微笑んで答えるハリー。

 

私も同じく微笑もうとして、分厚い眼鏡や下ろした髪の毛が邪魔をして、失敗した。

 

一瞬の間の後、もう一度ニコッとして男子寮へ駆けていった彼。

 

あまりにも主人公らしく、素直で明るい普段のハリーが戻って来たような気がした。そして何より、物語の主人公としてではなく、同級生として。

彼に恋をしてしまったような、気がするのだ。

 

 

 

((現実の主人公パワー、色々すごい…))

 

 

 

 

 




ハリー、無自覚人たらしの巻。

*誤字直しました。


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現状の立ち位置

そういえば、見る専だったので投稿は始めてです…
至らないところもありますが、頑張っていきます…




二年生のときに起こった、彼とのほんの一瞬の会話で、私は今まで以上に主要人物達の動向を気にかけるようになった。

 

もちろん、原作通りに進んでいるかの確認が大前提だけど、それ以上にハリーが気になってしまうから、ということも伝えておきたい。

 

まだ12かそこらの男の子に何言ってんだと思われるかも知れないが、海外男子は12歳でもかなり立派に成長しているものなのだ。

クィディッチ選手としての活躍も目覚ましく、真紅のユニフォームを着てチームメイトと談笑する姿は、学校中のあちこちから憧れの目で見られていることも多々ある。

しかし、彼は恐ろしいほど鈍感らしく、もしくは注目されることに慣れてしまっているのか、自分が同年代や年下の世代からどれだけ羨望の対象になっているか全く理解していないらしい。

 

ハーマイオニー辺りは気付いているが、生活に支障が出ないのであれば、本人へ伝える気は無いのだろう。

 

ハーマイオニーは親友として側に居ること、後にロンウィーズリーと結婚することを知っている私は、嫉妬するほどの感情は無い。羨ましいけど。

 

他の女子生徒は違うらしい。何故グリフィンドールの女子生徒より、ハリー達と過ごすのか。ハリーが有名で人気だから、自分も目立ちたいんだとか、独り占めしたいんだとか色々。

普段は話し掛けても来ないのに、こういう時だけは私にも同調するように会話に参加させようとする。

 

 

私はハーマイオニーよりジニーウィーズリーの方が、やはり気になってしまう。去年までは私のように、ハリーにはほとんど話し掛けられず、顔を真っ赤にして(私はニキビのせいで常に真っ赤だけど)逃げてしまう姿が多かった。

 

それがどうだろう。最近はハーマイオニーと共にハリーやロンと四人で過ごす時間も増えている気がする。

 

 

そうか、こうして彼女はハリーと親睦を深めていたのだなと、原作には描写されていない「日常」の強みを感じている。羨ましさしかない。

 

そして、今の私の現状はというと。

 

「お、おはよ。練習、頑張って。」

 

「やぁ。ありがとう。」

 

ふくろう小屋で時折遭遇するハリーに、挨拶程度の会話を自分からするので精一杯だ。

 

最初の内は驚いていたハリーも、ふくろう小屋に通い詰める(人間よりふくろうと過ごす方が安心するのだ)私が、自分のふくろうであるヘドウィグとも友好な関係を築いていると知ったらしい。

 

普段の関わりはゼロに等しいが、特に警戒する必要も無いと思ったのだろう。時折、ほんの時折だが、挨拶以上の会話も振ってくれるときがある。

 

「ふくろう小屋、寒くない?君、いつも見かける気がするよ。」

 

単純な興味だろう。今の質問にどう答えるのが無難かを必死に考えていると、

 

「ヘドウィグなんか、僕より君に懐いてるんじゃないか?男の僕より、同じ女の子の方が好きなんだよ、きっと…」

 

ヘドウィグを撫でながら、わざと寂しそうに話すハリー。雪のように美しい彼のふくろうに、特別な愛情を持って接してしまっていることは否定できない。

 

「…とっても、綺麗なふくろうだわ。貴方が羨ましいくらい。」

 

本当は、彼が気にかけ、大切にしているヘドウィグの方が羨ましいことは、黙っておこう。

 

 

「ハグリットが出会わせてくれたんだ…。幸運だったと思うよ、僕もね。」

 

にっこり笑ってヘドウィグをひとしきり可愛がった後、ふくろう用のおやつを置いて彼は去っていった。

 

 

ふくろう小屋はあまり人も居ないし、ほとんど二人きりのため、周囲の視線から逃れられるのはとてもありがたかった。彼はきっと、談話室で私が同じ事をしても同じ様な態度だろう。けれど、私にはそれをする勇気が無い。

 

寮生の驚きの視線、関わりがあったことなど誰も知らないのだから、ある程度の意外性をもって語られてしまうのがわかっているから。

 

恋をしたのだ。

私がいくら醜くても、憧れの目で見るくらい、時々二人で話すくらい、誰にも知られないようにしているのだから、許してほしい。

 

無謀な片想い。そんなことわかっている。彼は今後、沢山の人と出会い、多くの別れに傷付き、それでも立ち上がり、戦い続けるのだ。

 

この世界の結末を知る異物である私とは、極力関わらない方が良い。

 

主人公を支えるヒロインは、私ではない。私ではないことを、何より自分がよく知っている。

 

 

だからこそ、今この瞬間を、原作には描写されていない日常のささやかな交流を、心の底から大切にしたいと思うのだ。

 

 

 

 

 




うちのハリー君、爆イケに成長してほしい。

*誤字直しました。


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好きなタイプとは何か

 

 

ラベンダーブラウンの一言が、大広間で朝食を取るグリフィンドール生に瞬く間に伝染した。

 

いわゆる、「アナタの好きなタイプは?」

というとてもありふれた質問である。

 

彼女はハーマイオニーに質問した。

しかし、ウィーズリーの双子が面白がり、全寮生に広げて回ったのだ。

 

もちろん、ロンもハリーも答えさせられていた。

ロンは、「おしとやかな子」

ハリーは、「信頼できる子」

ハーマイオニーは、「…わからないわ」

 

とのこと。

ちなみにグリフィンドールの中でも特に目立つこの三人組の解答はとても注目されていた。

ロンのタイプはハーマイオニーに当てはまらないけど、ハリーはハーマイオニーがタイプってこと?

など、憶測が憶測を呼び、夕方頃には

 

「ハリーはハーマイオニーに片想い、ハーマイオニーはロンかハリーか迷ってる」

 

などという明らかにくだらない噂が確信めいた評判として広がってしまうこととなる。

 

 

今日も今日とて、私はふくろう小屋でのんびりと過ごしている。ひんやりした空気と、ふくろう達の羽音や鳴き声だけが響く場所。

 

最近彼は来ない。ブラックの件で、あまり手紙は出さないように言われているのだろう。

 

その分、ハーマイオニーが来ることが増えた気がする。

 

「あら。エロイーズ?本当に居るのね…」

 

「え、うん…」

 

「あ、違うの。ハリーがね、ふくろう小屋に行くと、毎回エロイーズに会うって言ってて。」

 

「…………」

 

「ほら、貴女って寮であまり見掛けないし、親しくしてる人も知らないし…謎っていうか…」

 

「謎……」

 

「まぁ、別に無理して仲良くする必要は無いわ。私も、一年中くだらない噂ばかりする子達と過ごすのはうんざりだもの。」

 

「あぁ…ハーマイオニーは、特にね…」

 

そう言うと、少し顔を赤くした彼女。

 

「私が男好きとか、弄んでるとか、いい加減にしてほしいわ!…最初に仲良くなれたのがハリーとロンだっただけなの。男の子とかそういうの関係なく、」

 

「……わかってるけど、皆羨ましいんだよ、きっと。」

 

「ど、どういうこと?」

 

「貴女達の、友情?っていうか、絆みたいな」

 

驚いたようなハーマイオニーは、じっと私の顔を見つめる。

 

「そんなの、親しければ誰でもあるでしょう…?」

 

「……そう?賢者の石を守ったり、秘密の部屋を調べたり…話題になること全て、三人で乗り越えてきてる」

 

「それは……」

 

「私達みたいな一般生徒からすると、すごく羨ましいのよ。だから、勝手にあれこれ言いたくなる。

…悪気は無いと思うし、だからこそ気にする必要も無いんじゃない?」

 

ホー、と近くに来たヘドウィグが鳴く。ハーマイオニーに気付いたのだろう。

 

ヘドウィグを撫で、少し考えたように沈黙した彼女は、すぐに顔をあげて脚に手紙をくくりつけた。

 

「…お願いね、ヘドウィグ。」

 

ハリーの代わりに手紙を出しに来たらしい。

 

彼女の指を甘噛みし、颯爽と飛び立った真っ白いふくろう。

 

「気にしてなんか、いないけど…」

翼を広げてどんどん遠くへ行く姿を見ながら、ハーマイオニーがポツンと呟いた。

 

「エロイーズ、貴女って少し…変わってるのね」

 

 

変わってる、って、褒め言葉では無さそうだ。

 

彼女が立ち去ってから、お節介に色々と慰めようとしたことに後悔していた私は、この後、例の三人組の中でどのような会話がされているかなど予想も出来ていなかったのだ。

 





ハーマイオニー「ハリー、貴方ズルいわよ」
ハリー「手紙ありがとう……って、何のこと?」
ハーマイオニー「あの子、すごく優しいのね」
ハリー「あぁ、エロイーズ?…だいぶ前から知ってたけど」

ロン「エロイーズ…って、あのニキビ面!?」
ハーマイオニー「ロン、今度あの子を馬鹿にしたら絶交だからね」
ロン「おいおいどうしたなにが」
ハーマイオニー「ねぇハリー、いつからあの子と」
ハリー「もういいから、夜ご飯行こうよ…」


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レパロの呪文

 

とある昼休み。

 

 

名も知らないスリザリンの生徒にぶつかった。大柄の男子生徒だったため、かけていた分厚い眼鏡は宙を舞い、ヒビがかなり目立つ部分にハッキリと残ってしまった。

 

とは言っても、替えの眼鏡も無く裸眼ではほとんど生活できない私は、元の眼鏡をかけ直すしかなかった。

 

ただでさえ笑い者なのに、こんな眼鏡で過ごさなきゃいけないなんて…。早く直して元に戻さなければ。

杖はあるが、眼鏡を元に戻す方法は呪文集で調べに行かなくちゃいけない。

 

そう思い、足早にグリフィンドール寮へ戻る塔の中、久しぶりにハリーと遭遇した。

 

いつも隣にいるロンがいない。ハーマイオニーもいない。塔の螺旋階段には今、私と彼だけがすれ違いで通過することになる。

 

ここはふくろう小屋でもないし、落ち着いて話せる環境じゃない。

そそくさと通り過ぎるべきか、挨拶くらいはするべきか悩んでいる内、目が合ってしまった。

 

(…今眼鏡割れてるのに…!なんでこんな時に会っちゃうんだろうか…)

 

 

恥ずかしさで消えてしまいたい位だったが、予想外に彼は足を止め、私の方へ向き直った。

 

「エロイーズ、その眼鏡…」

 

「あ…あの、さっき…ぶつかったら割れちゃって。」

 

慌てて説明しながらも、気まずくて顔が上げられない。

 

どうして、好きな男の子にこんなみっともない姿を見せなければいけないんだろう。

 

せっかく彼と久しぶりに会話が出来ているというのに、こんな状況だなんて憂鬱過ぎる。

 

「そっか。ちょっと、眼鏡を貸して?」

 

そう言うとハリーは、私の顔からいつの間にか取り外したひび割れ眼鏡に向かって、

 

「レパロ!」

 

と唱えた。

 

黄色がかった火花が散り、私の分厚い眼鏡は、ヒビがあったことがまるで嘘みたいに元通りになっていた。

 

レパロ…そういえば原作でも、よく出て来てた呪文だったのに。実際に魔法界に居ると、授業で習う呪文の習得で精一杯だから、その他の便利な呪文まで頭が回らないのだ。

 

「僕もよく壊すんだ。ハーマイオニーに教えてもらった呪文だよ。」

 

ハリーが言う。

 

「うわぁ、君、僕よりも目が悪いんだね。すっごく分厚いレンズだ。」

 

そう続けると、私に眼鏡をかけ直してくれる。

 

「あの…びっくりした、ハリー。わ、わざわざありがとう…。」

 

驚きと嬉しさ以上に、何気なくこれまでに無い程の距離まで接近していることに気付き、なんだかうまく息が出来なかった。

 

「どういたしまして。エロイーズの素顔、始めて見た気がするなぁ。レンズのせいで、いつもはよくわからないし…」

 

な、なんて無自覚な人たらしだろうか…。

主人公だからってこんなに…いや、もう何も言うまい。

とにかく上手く言葉も出てこないし、顔も火がついたように熱くなっている。

 

ハリー以外にこんな姿を見られたら、と思うと恐ろしさで少しは落ち着いたが、やはりこれ以上は心臓に良くない。

曖昧に笑みを浮かべつつ、彼にもう一度感謝を伝えてからは一目散に撤退した。

 

もう呪文集を探しに行く必要も無いし、眼鏡も元通りになった。けれど、彼と同じ方向へ戻る勇気も、心の準備も出来ていない。

 

何より、こんな真っ赤な顔と落ち着きの無い心臓をどうにかしなければ。

 

寮のベッドに顔を押し当て、ひんやりとした柔らかな感触を感じながら、たった今、塔の中で遭遇した彼とのやり取りを反芻する。

 

一体彼はどれだけ人たらしなのだろうか。

原作にはここまでの描写は無かったと思う。

むしろ奥手な印象だったのに。

 

この世界のハリーときたら、ジェームズも顔負けの振舞いばかりに思えるのは、私の気のせいだろうか……??

 

 

「すっごいドキドキした……本当、心臓に悪い…」

 

 

がらんとした寮の寝室の中、誰にも聞かれない位の音量で、エロイーズは一人呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 







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エロイーズの学生ライフ


よく考えたら原作手元に6と7巻しか無かった…
時系列むちゃくちゃだったらすみません。




 

エロイーズと言えば、どの生徒も真っ先に

 

「ニキビの子」と連想するだろう。

 

そして、恐らくその他に知られている特徴としては、

 

「女版ネビル・ロングボトム」が妥当だ。

 

 

転生したことを知った私は、無い頭を絞りに絞って、エロイーズ・ミジョンがどういうキャラクターだったのかを思い出そうとした。

 

ニキビの話題でよく登場した気がする。

それなら肌荒れしないように気を付けよう、そう思い努力したが報われず。

 

幼少期を過ごすなかでじわじわと感じていたことがもうひとつあったのだ。

 

それは何より、不器用さが抜きん出ている、ということ。

不器用という言葉に納めて良いものか。いささか疑問である。

 

入学前から常々感じてはいた。しかし、入学後、それは顕著に現れている気がするのだ。

 

学校では高確率で迷子になるし、うっかりドジなことをしてしまうことがとても多い。合言葉を忘れて、半日談話室に入れなかったこともあるくらいだ。

 

 

真面目な性格のため、一度失敗したことは繰り返さないように対策をとっていたものの、それ以上に様々な失敗は続いていく。

 

本人に悪気は無いため、罰則を受けるような問題児扱いはされていないが、時折小さな減点をされることもある。

 

元々が内向的であり、容姿にコンプレックスがある身としては、そういったことで注目を浴びてしまうことが本当にストレスだったのだが、三年生になってからはある程度の落ち着きを見せていた。

 

しかし、ペアでの作業が必要な授業では高確率で避けられる。決まった友人がいないことや、このドジな性格の影響が大きいと思う。

 

 

現在は占い学の授業中である。

トレローニー先生いわく、内なる目を持つ者ならば、紅茶の茶葉ですら未来が見えてしまうらしい。

 

この茶葉、アールグレイか…?ダージリンかな…?

 

そんなことを考えて過ごす内、恐らくペアになる必要がある時間だと気付く。

 

「まぁ貴女……お一人?」

 

トレローニー先生の声がかかる。

 

「えぇ、そうみたいですね…」

 

慌てて周囲を見渡すと、グリフィンドールの生徒達は、既に皆二人組になって座っていた。

 

ハリーは勿論ロンと座って、やたら彼への死の宣告をしたがるトレローニー先生とは絶対に目が合わないようにしているようだった。

 

ロンは既に暇潰しの方法を見つけたのか、ニヤニヤとハリーに何かを話しかけている。

 

ハーマイオニーに至っては、この時間がとても無意味な物だと、明らかに失望しているような表情ではあったが、しぶしぶネビルと共に着席していた。

 

ハーマイオニーはこういう時、大抵ネビルか私と組んでくれる。しかし、やはりネビルは私の上を行くドジ加減なので、基本的に寮の被害を防ぐために、ネビルと組むことが多い。

 

 

あぁ、私だけがペアを組損ねたのか…。前世ではここまで独りぼっちの経験は無かったなぁ、としみじみ感じていると、知らぬ間にラベンダーとパーバティが私のテーブルへ移動して来ていた。

 

 

「エロイーズ、いい加減仲間の一人や二人作っときなさいよ。」

「そうよ、一匹狼の女子生徒なんて、全然魅力無いわよ?」

 

席移動が面倒だったのか、溜め息をつきながら二人が話し出す。

 

「トレローニー先生に言われたから来たけど、この授業、ペアは固定なの。今年はずっと3人組で受けなくちゃいけないわよ…!」

 

「取り組む時間も3分割よ?すごく惜しくなっちゃうわ…私達、占い学って本当に素敵だと思うし」

 

「ごめん…なんか、ボーッとしてたら皆決めちゃってて」

 

とりあえず申し訳なさそうに対応しておく。

正直、この先生はかなり豹変した時しか才能は無いことを私は知っている。つまり、現状の姿のトレローニーを尊敬し、彼女達のように積極的に受講することなどできないのである。

 

 

「まぁ、良いわ。貴女とはあんまり話したことなかったし。これを期に、私達とも仲良くして頂戴?」

 

「そうね。貴女のその野暮ったい感じ、私達が少しはマシにしてあげられるかもしれないし…」

 

 

悪気は無いのだろう、しかし直球で失礼なことを言うお嬢さん達である。

 

 

 

 

 

 

 




ラベンダーとパーバティ好きです。



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ラベンダーパーバティ


ようやく友達…??


 

ラベンダーやパーバティとは、占い学を通して徐々に会話をする機会が増えた。

それはつまり、ペアになってくれていたハーマイオニーとの会話の機会が減ったということでもある。

 

相変わらず一人で過ごすことも多いが、ラベンダー達はことあるごとにエロイーズを今後どうしていくかについて話したがるのだ。

 

野暮ったい風貌が我慢ならないらしい。グリフィンドールの女子生徒として、ある程度のレベルは確保するべき、との意見だ。

 

「ハーマイオニーは別よ。前にそんなような話をした時、鬼みたいな顔をされたもの…!」

 

「まぁあの子は、頭も良いし、ハリー達と仲良くやってるし、仕方ないわよ」

 

「エロイーズ。貴女は違うでしょう?なんか…暗い上にドジだし、見ててイライラするのよ。」

 

言葉とは裏腹に、彼女達の私を見る目は優しい。

 

「うーん、なんて言えばいいの?…つまり、少し容姿をバカにされたくらいで、全てを諦める必要は無いんじゃないかってことよ!」

 

ラベンダーが熱く語り始める。

 

「貴女が普段から付けてる眼鏡も!髪型も!話し方も!…色々損してると思うの。その厄介な肌荒れに関しても、私には秘策があるわ!」

 

これまでほとんど親しくしてこなかった他人の容姿にここまで熱弁できるラベンダーにやや圧倒されている内、パーバティも楽しそうに会話へ参加し始めた。

 

「そうね。女の子は皆、磨かれて光るのよ!…私達がエロイーズを素敵な女の子に変身させてあげるの!絶対楽しいわ!それに、なんだか上手く行くような気が…」

 

「い、いやいや。どこから来たの…その自信…」

 

慌てて変な方向へ進もうとしている二人を止めようとする。

 

「何よ、別に嫌がらせしようって訳じゃないわよ。私達、これでもグリフィンドールの中ではお洒落に敏感な方なのよ?」

 

「そうそう、期待値が低い方が燃えるじゃない。腕の見せ所って感じで!」

 

 

「さっきから…なんか色々貶されてるような」

 

さっきからまるで私の言葉を聞こうとしない二人は、ワクワクした顔で私の全身を見渡している。

 

接近してきたかと思うと、いつの間にか眼鏡を外され、髪の毛や肌質の確認をし始めた。

 

「やっぱり一番は肌荒れね…貴女、ニキビのケアを途中で止めたでしょう?勿体無い。努力は必ず報われるものなの!魔法もそうやって発展したんだから…」

 

「髪もパサパサだわ…ちゃんとオイル使ってるの?あんまり痛むと切るしかなくなるんだから!」

 

口うるさい教師のように、二人の女子力講座は終わらない。

小一時間、私の容姿についてのダメ出しをしたあと、どう改善していくかについて、顔を付き合わせ真剣に話し合い始めた。

 

嵐のような展開に着いていけず、ひとまず解放された私は癒しのふくろう小屋へ避難することにした。

 

キラキラした同級生の女子力に圧倒されたからか、今は特にヘドウィグや森ふくろう達が恋しい。

 

エロイーズ・ミジョンとして生まれてしまった以上、無理な悪あがきはしたくない。悲しいことに最近は、入学当初と比べ、外見について揶揄されても受け流す耐性が付いてきている。

 

彼女達の発想や行動力には脱帽だが、これ以上何か起こして原作が変わっていくのも怖い。

私は私の役目を全うするのだ。

 

ニキビ面のドジで根暗だけど、心は優しいエロイーズ・ミジョン。

そんな、当たり障りの無い存在で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ハリー達とは近いようでかなり遠い学生生活です。


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トモダチ


お気に入り登録、皆様ありがとうございます。
感想頂けるなんて思わなくてその度に恐縮してます…
拙い話ですが、良ければお付き合い下さい。


 

ヘドウィグは最近狩に出ていることが多いから、今日はホグワーツの森ふくろう達とのんびり過ごそう。

 

 

そんな事を考えながらふくろう小屋へ向かう途中、なんとハリーがロンと共にこちらへ向かってくる姿が見えた。

 

 

 

ま、まずい…。

 

 

 

そう思い、慌てて方向転換しようとしたところで、残念なことにロン・ウィーズリーと目が合ってしまった。

 

 

「エロイーズだ」

 

 

親友の呟きにこちらへハリーも目を向ける。

 

「…あぁ、久しぶり。君もふくろう小屋?」

 

穏やかにハリーが問いかける。

 

「えっと……そのつもりだったんだけ」

 

「おいハリー、魔法薬学のレポートっていつまでだっけ?」

 

 

急に私の言葉を遮ったロンが、思い出したように立ち止まる。

 

「…はぁ、明日までだって。さっきハーマイオニーが言ってたろ?」

 

ハリーは呆れたように答え、肩をすくめている。

 

 

「嘘言うな。アイツの時間割は狂ってるぜ。正直あんなの信用出来ないだろ?」

 

「まぁね…。でも、僕も明日までってメモしてあったから、これは本当。ハーマイオニーは正しいよ。」

 

 

「それじゃあれか?二人して、僕にだけは課題の期限を黙ってたのか!!酷いぜ、おい…こんなの…裏切りだ…」

 

ブツブツ言いながら、ロンは足早に談話室の方へと戻っていく。

 

「ロンのやつ、昨日もチェスに夢中で聞こうとしなかっただけのくせに、全く…。」

 

ハリーは苦笑いでエロイーズの方を見る。

 

「…目的地は同じだし、一緒に行こうか?」

 

何気ない提案。この間眼鏡を直してもらって以来、初めての会話だった。彼はそれを、覚えているだろうか。

 

「えぇ、そうね…」

 

 

二人でふくろう小屋へ向かうこととなったのは良いが、突然のことで内心動揺が収まらない。

 

次に二人で話せるときがあれば、こんな話をしよう。どうやって声をかけよう。そんな風に悠長に考えている時間がどれだけ幸せだったか。

 

いざ憧れのハリーと並んで歩いてみると、どうやって進めばふくろう小屋へ着くのか、さっぱりわからなくなってしまうような、とにかくいつもの自分で居られない状態が続いてしまう。

 

時折彼が、何か言いたそうにしていたり、隣の私が何か言い出すのを待っているかのような気もした。

…気がしただけで、本当の所はわからないけれど。

 

ふくろう小屋への最後の階段へ向かう途中で、ようやくハリーが口を開いた。

 

「……最近、エロイーズもよく談話室に居るよね。」

 

「え、そうかな…?」

 

「そうだよ。ほら、ラベンダー達と一緒に。」

 

そう言われて、ようやく思い当たる節があることに気付いた。

 

つまり今日のような、談話室で突発的に開催される、強制参加の女子力講座を受講させられている姿について話しているらしい。

 

ハリー達は、ラベンダー達のお気に入りのソファーとはかなり遠い位置にある暖炉に居ることが多いが、そんな場所からでも視界に入るほど、私は浮いていたのだろうか。

そうだとしたらかなり落ち込む。

 

「友達とか、君は要らないのかと思ってたよ」

 

「………?」

 

下を向き、少し気まずそうにしているハリーの姿が見える。

 

「覚えてないかもしれないけど」

 

「去年、君と僕が初めて話をしたあと、本当は…」

 

少しの沈黙。

ふくろう小屋へ向かう二人の足はもう随分前から止まっている。

 

 

「君とも仲良くなれたら良かったのになって」

 

柔らかな日光とは真逆の、キンとした冷たい風。

室内とは言えない外階段の踊場。

上がればすぐに、癒しのふくろう小屋がある。

けれど、足は進まない。目の前の彼の言葉を、一つ一つ、聞き逃すまいとすることで精一杯だった。

 

「…あれから時々、思ってて」

 

「でも君は、友人を作るの…嫌がってるように見えたし」

 

「その、もし君が良ければなんだけど」

 

「僕達、友達に…なれたりする?」

 

 

友達…トモダチ…ともだち…

 

 

ハリーとこんなに長い間話したのは初めてで。

彼がこんなにそわそわしているのを見るのも初めてだった。

 

 

2年生の時、僕にはロンとハーマイオニーしか仲間が居ないと思った。

勝手に思い込んで、勝手にイライラして、周りを巻き込んだ。

あの時、君がくれた言葉が無ければ、後悔はもっと強く、苦しいものだったと思う。

 

 

黙ったままの私にも、そうして話してくれるから。

今まで知ることの無かった彼の気持ちを知った。

改めて、とても真っ直ぐな人だと思った。

 

私みたいに、変にひねくれたりしていない。

それがとても羨ましくて、眩しくて。

目の前に差し出された、この手を取りたいと強く願った。

 

 

「感謝してるってこと、いつか伝えたかったんだ」

 

私の方を見た彼が、焦ったように続ける。

 

「あー…!急に変なこと言ってごめん。困るよね。…そろそろ行こうか。」

 

少し悲しそうな表情で、階段を上っていく。

主人公だから、深く関わってはいけないとか、

脇役なのに、恋してしまったとか、

もうそんなこと、どうでもいい。

 

 

 

「…ハリー!違うのよ。色々混乱してて…」

 

「あの、私も…ハリーと友達に、なりたい」

 

「私で良ければ、だけどね…。」

 

 

 

驚いた様に振り向いた彼は、少し照れ臭そうにしてから、

 

 

「…じゃあ、今度は談話室でゆっくり話そう。…立ち話ばかりじゃ、悪いからね。」

 

 

そう言うと、ニヤッと笑って、今度こそ、目的地であるふくろう小屋の扉を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 








な、長くなってもうた


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