霊夢ちゃんのワンピース世界冒険録 (壁の苔寺)
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番外編
番外編 レミリア


 昔、レミリアの能力の考察をしてるときに書いた話をめちゃくちゃ簡略化したもの。本編に絡むのは空島編です

箸休め程度に


 

 

 私は怒っていた。憤慨と言ってもいい。敬愛するお嬢様が消え、美鈴さんも消えた。犯人も解らず、解決の目処も立たない。紅魔館始まって以来の一大事だ。

 にもかかわらず小悪魔はいつも通りだし、相変わらずパチェリー様だって何をしているのか解らない。さらに妹様にいたってはこの状況を楽しんでいる節すらある。解りやすく言えばお嬢様の心配をしているのは私だけなのだ

 

「あいつ経理とか意外と出来たのねー。最初はスカーレット乗っ取れたとか思って楽しかったけど、思ったよりつまんないや。あーあ、早くお姉様帰ってこないかなぁ~徘徊老人かっての」

 

 今私は、紅魔館の書類仕事を執務室でこなしている妹様……フランドール・スカーレット様の後ろで補助をしながら仕事をこなしている。そんな彼女はニコニコニヤニヤ笑いながら、お嬢様が散歩にでも出たような言い方で彼女を揶揄していた

 

「………………お嬢様が消えてもう半月になります。もう少し、心配してさしあげることは出来ませんか? 妹様のたった一人の肉親ですよ?」

 

 私はお嬢様に拾われた。貧民街で残飯と汚物にまみれながら死ぬだけだった私を救い上げてくださった。私の命はお嬢様の為のものだ。お嬢様がもしも……、万が一にでも帰ってこれないなんて事態になるなら、私に生きる意味は無くなる。私がお仕えしているのはお嬢様であってスカーレットではない。お嬢様の妹のフランドール様には勿論敬意は払うが、それだけだ。そしてその肉親である妹様はお嬢様が居なくなったのにいつもニコニコニヤニヤと……。私は自分で気が長い方だとは思っていないぞ?

 あぁ、どうして行ったのが美鈴さんだったのか。私の方がお嬢様のお役に立てるのに。この世界ではあちら世界に干渉する事が出来ない以上、お嬢様を補助できるのは美鈴さんだけになってしまう。年中寝ているあの人ではお嬢様のお役に立たないんじゃ無いだろうか? あぁお嬢様……咲夜はお嬢様が心配です。か弱いお嬢様が違う世界に投げ出されるなんて咲夜は………咲夜は心配で心配で………

 

「唯一の肉親って言えば聞こえはいいけど、あいつ私にとって敵だよ? 居なくなったなら居なくなったで都合いいことの方が私にとっては多いんだけど?」

 

「………っ。妹様!! お嬢様は…」

 

「それに………、あいつの事なんか心配するだけ損だよ」

 

 妹様はグチャリと笑いながら私を見る。妹様は感情の起伏が激しい方だ。どこに地雷が埋まっているか解らないが、そこを踏み抜けば途端に感情を爆発させる。そしてお嬢様の話は地雷原になっている事が多い、しくったと思ったが、それでも止まりたくなかったので私は、口を開いた

 

「妹様。今はお嬢様の……いえ、紅魔館の一大事です。当主代理として……」

 

「あぁ、そういうのいいよ。咲夜がお姉様にしか興味ないの知ってるし

 ………………………………咲夜ってここに来て何年だっけ?」

 

「…………7年です」

 

「そっか。そうだね、なら暇だし私とお姉様の昔ばなしをしてあげる。この話を聞いたらあいつの心配なんか馬鹿馬鹿しくなってくるよ」

 

「待ってください!! こっちの収支の確認書類がまだ……あれ?」

 

 終わっている。と言うか、今週中にやらなくてはならない事務が全部終わっている……

 

「うふふ? なにか言った咲夜?」

 

「…………………………いえ、申し訳ありません。私の勘違いでした」

 

 妹様は立ち上がり、地下室に向かって歩き始めた

 

「お茶をとお菓子をお願い。私の部屋で話しましょ? 少しだけ長い話になるわ」

 

 彼女は幼いその姿から想像できないほど妖艶な笑みを浮かべ、そう言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 レミリア・スカーレット、永遠に幼き赤い紅い月。彼女は化け物だ

 

 スカーレット家についての説明は今更、といった感じでしょう? 詳しく元をたどればかなり古い家なのだけれども、まぁ吸血鬼の名家と覚えていればそれでいいわ。今となっては地が途絶えていない以上の意味はないしね

 私が生まれるまで、つまり495年前までは普通の家………まぁ吸血鬼の一家に普通が有るのかどうかは解らないけれど、普通の家だった

 

 お父様は奇特な方だったらしいわ。厳格で、自分に厳しく、それでいて情に厚い、そんな人。

 特殊と言えるところは彼は吸血鬼特有の、人間見下す事をしなかったくらいかしらね? 同じ物とは考えていなかったけれど、共に歩む隣人程度には考えていたそうよ。あの頃の上位種に有りがちな人間を家畜としてみるような偏見はなかったらしいわ

 

 だからかしらね? 彼は人間の女を妻にとり、そしてその女だけを愛してその生涯を終えたわ。…………なによ? そうよ、私もお姉様もハーフよ? 知らなかったの? と言うか純血のヴァンパイアなんて極々低確率で自然発生する意外では基本的にいないわ。串刺し公がそうだなんて言われているけどどうなのかしらね? お姉様は詳しそうだけど、私はあまり興味がないの

 

 まぁそれはいいのよ。彼は人間と恋をして、彼と結婚した。そして生まれたのがお姉様。人より少し恐がりな彼女は温かくて優しい両親の元でスクスクと育っていきました。

 そして彼女が4歳のときに妹の妊娠が発覚して、その誕生を心待にする。そんな優しい優しいお姉様。

 そしてその待ちに待っていた妹が生まれたわ。優しくて温かくて日溜まりみたいなお母様の腹を‘ひきちぎって’ね

 

 即死だったそうよ。そしてその母の腹を裂いて生まれた悪魔は呆然としている父を破壊したわ。哀れなお姉様。大好きな両親が一夜のうちに死んでしまい、そのまま彼女は逃げ出したわ

 

 お姉様は知っていたそうよ。私がお父様とお母様を殺すことを。お姉様の能力って知っているわよね? そう、『運命を操る程度の能力』よ。その能力の真髄は未来視にある。生まれながらに保有していたその力は自分の両親の最期を見せていた

 

………………そして、お姉様は自分の最期も視た。十二年後、紅魔館で自分の妹に殺される。そう言う最期を

 

 逃げた先でも有りとあらゆる死に出会ってそれを視たそうよ。閉じた世界にいた彼女の未来視は二度しか発動しなかった。つまり両親ね。初対面の人間を視界に写すと、彼女の力が発動する。それはその人間の死を確定させる事だった。外に出て彼女はそれを知ったの

 お姉様にとって運が悪かったのは、両親が人格者だったことね。人間を家畜として見ているような人ならば彼女もそう言う風に思い、心を痛めることもなかったでしょう

 

 逃げた先で、家に泊めてくれた人のいいおじいさんは強盗に襲われて死ぬのが見えた。次の日にそうなった

 その強盗たちが軍隊に銃殺されるのが見えた。一週間後、ふらりと立ち寄った町で公開処刑にされていた。

 スラムで残飯を漁っていた時、食べ物を恵んでくれた優しい貴族のお嬢様は、部下に強姦され絞殺されるのが見えた。その数時間後、路地裏で首の折れたお嬢様を発見した

 その部下が拷問の末に殺されるのが見えた。半月後、お嬢様の父親を名乗る男に連れられて、悲鳴をあげる男たちを見つけた

 

 お姉様の能力は自分がその人間の結末を視るなら発動すると言うものだったらしいわ。お姉様がその人間の死を視るならば、その人間はお姉様の目の前で死ぬ。当時はそう言う能力だったらしいわよ。

 

 お姉様は死にたくなかったそうよ。当たり前ね。しかしその力、視た相手がいったいいつ死ぬのがなんとなく感覚で解るらしいの。紅魔館から逃げ出したお姉様は12年後、すなわち彼女は16の時に死ぬと自らの能力に宣告された訳だ

 

 それからお姉様は狂ったようにその力を振るい始めたわ。視た結末を変えるために、人間の人生に必死に干渉を始めた。

 

 

でも変えられなかった

 

 

 お姉様の感覚だと見殺しよ。死ぬと決まった人が目の前にいて、それを救うことが出来ないのだから。優しいお姉様は必死になって干渉した。予言者紛いの事をしてね。墓地で死ぬのが見えたならば行かないように忠告したりとか、あるときには実力行使もじさなかったらしいわ。結局、一人も救えなかったらしいけどね

 

 苦悩して、絶望して、人を自分を救えないことに発狂して、血涙を流して咽び哭いて。そんな優しいお姉様

 でも周りは勿論そんな風には見てくれない。レミリア・スカーレットに宣告された者は必ず彼女の前で死ぬ。そんな噂が広まって、いつしかお姉様は化け物扱いを受けていた。死神だと、悪魔の使いだと。まぁ死神はともかく悪魔はその通りなんだけれど

 

 そして誰も救えないまま、人間に絶望しきって12年の月日がたつ。そしてお姉様は紅魔館に帰ってきた

 

 お姉様は優しいから。こんな最悪の妹の為に帰ってきたんだ。なんでかって? 私が生まれたときに見えたんだって言ってたよ。私が自分の首を抉って自殺するところが

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、それで帰ってきたんだ。凄い凄い。いやー、お前は姉の鏡だね。愛してるよ殺してやる」

 

「……………………フランドール。この10余年、貴方にずっと聞きたかった事があるんだ」

 

「随分とあっためたねぇ。いいよ、最後だしなんでも聞いてよ?」

 

「……………貴方はなんで…………お父様とお母様を殺したんだ……ッ」

 

「……………しょーもな。決まってるじゃん。私を生むなんてふざけた事した奴は‘大罪人’でしょ? なら死んだ方がいいよ。それだけ」

 

「ッ………………………」

 

 姉は信じられないものを見る目をこっちに向けてきたあと、血でも吐くのかと思うような苦々しい顔で手に持った槍を構えた

 

「フラン」

 

「なぁに?」

 

「殺すわ」

 

「ええ、ありがとう。お姉様」

 

 妖力で炎の剣を作り出す。数瞬後、真っ赤な閃光が瞬いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 妹様は言葉を切って、紅茶を飲み干した。そして私に笑顔を向ける

 

「それで私がお姉様に半殺しにされて、おしまい。お姉様はそこから『運命を視る程度の能力』から『運命を操る程度の能力』へと自分の能力の名前をを変えて、私を再建した紅魔館の地下室に幽閉した。自殺しないように縛り付けてね。あの頃の私の目的はお姉様を殺して私も死ぬことだったから、そんな事しなくても死ぬつもりなんてなかったのにね。

 で、お姉様がパチェと出逢って私の危険思考とか、自殺願望とか殺戮衝動とかその辺のぶっ壊れた倫理を多少操る術を作ってくれるまで私は縛られたまま、身動きひとつ取れずに地下室で縛られていたわ。ざっと三百年くらいかしら?」

 

「………………」

 

 妹様は軽く語っているが、それがどれ程の物だったのか私程度に理解はできない。ケタケタ笑う妹様は楽しそうだけれど、瞳の奥のどす黒い光が見えた気がした

 

「で、咲夜。私が言いたいこと解った? なんでお姉様の心配なんかするだけ損かって」

 

「…………い、いいえ」

 

 妹様は笑みを深くして、口を開いた

 

「パチェの能力考察によればね、お姉様の能力は確定された運命を視ることなの。ちなみにそれはいまも変わってないないわ。そのお姉様は自分の死の運命を視て、私の死の運命を視た。そしてそれを覆したの。それからお姉様は何度も何度も運命を変えてきたわ。血を吐きながら、涙をこらえながら、苦しみながら、それでもお姉様きっとなにも諦めない

 

 

世界が変わったとか、力を無くしたとか、記憶を無くしたとか、その程度の事ででお姉様が死ぬとか有り得ないよ。アイツ、マジで化け物だもの」

 

 

 




 運命を操るの具体性を考えた結果、レミリアが根性系主人公になった話。ちなみにこれ、レミリア視点だと長いです。具体的には150000文字ちょっと。


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東の海編
ブロローグ


霊夢ちゃん可愛い


 

 

 聞いたことの無い不思議な音がする。擬音にすると《ザザーン》なんて音だ

 何か柔らかくて暖かくて湿ったものが私の頬を舐める………舐める? 

 

「ん………んん………?」

 

 私は呻き声を上げながら首を横に大きく振った。すると、真横から『キュ!!??』なんて鳴き声が聞こえてきて、顔の横にいた気配がどこかにいくのを感じた。目を開いて、辺りを見渡す。その時初めて私は砂の上に横になっている事に気がついた

 

「…………どこよここ」

 

 上半身を起こして周りをよく見る。そこは森の様だった。そして一番近くの木の上に、さっき私の頬を舐めたであろう小動物を発見する。狐の様な顔に、リスの体躯の変な動物がだった

 首をごきりと鳴らして立ち上がる。ここがどこか解らないが、見覚えは全くといっていいほどに無い、●●の●はもっと●気が蔓延してたし、●いの竹●には広葉樹はない…………

 

「……………………あれ?」

 

 私は今何を考えた? 何と比べて場所を判別しようとした? ここはどこだ? なぜ私はここにいる? 私にはやらなければいけないことが有った筈だ。それは●●と●●のバラ●スを守るために●●●の管●●の一人として

 

「お、おい!! お前誰だ!! 何処からこの島に入った!!??」

 

 壊れたと言うか、抜かれた?? そんな記憶を無理矢理ひねり出そうとしてる所に、そんな声がかけられる。そちらに目を向けると、凄まじく珍妙な男がそこにいた。なにやら宝箱の様な物から頭だけが飛び出している、ファッションのつもりならあまりよろしくはない。ドン引きの部類だ。そんな男が、銃を構えてこちらを見ていた

 

「………………いや、あんたが誰よ。つーか何よ?」

 

「人を物呼ばわりするんじゃねぇ!!」

 

「むしろなんて種類の動物か聞いてるんだけど?」

 

「もっとひでぇよ!! っち、こっちには銃が有るんだ!! 

この島に密猟に来た連中ならそうはいかねぇ………。すぐに出ていきやがれ!!」

 

「………………めんどくさいわね。ここはどこよ? こんな森………ってか島? 知らないんだけど、教えてくれない?」

 

「お前……、もしかして遭難者か?」

 

「かもしれないわね」

 

「オイオイ……随分と落ち着いてるな……。そんな他人事みたいに」

 

 そう言って、彼は銃を下ろした。

 

「随分簡単に信用するのね?」

 

「遭難する心細さは解ってるつもりだからな。警戒はさせてもらうが」

 

「ふぅん? で?ここはどこなの?」

 

「あぁ……ここは東の海の小さな島なんだが、………悪いな、20年もこの島にこもってるせいで、場所とかは解らねぇんだ」

 

「使えないわねぇ……」

 

「うぐ、つーか態度でかいなお前は。………そう言えば、名前は何て言うんだ?」

 

 名前……あぁ、名前なら解る

 

「私の名前は……………

 

 

博麗 霊夢よ」




スタートはルフィが海に出る直前くらいです。霊夢ちゃんの運命やいかに


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麦わら帽子の海賊

最近ワンピース面白くないって話を友人がよくするけど、ビックマム騙は文句なしで面白かったと思うんだけどなー。


「おーい霊夢ーーー!! パチュリーんとこに行こうぜーー」

 

 博麗神社、この幻想卿の基点で私の悪友の根城である。ちなみに人里の人間からは妖怪神社として恐れられている。本人は妖怪退治を生業にしているくせにだ。

 

「おーい? 霊夢ー?」

 

 返事がない。いつもならこの辺で機嫌がよければぶちギレ気味の怒声が、機嫌が悪いと霊弾が飛んでくる。そんなことしてるから人間の友人が殆どいないんだアイツは

 しかしそのどちらもないのは珍しい。いまは正午を少し過ぎたくらい。なんやかんやで早寝早起きが基本なあいつがこの時間まで寝てるなんて事は考えにくい。だがまぁもしかしたらってことはある。てなわけで

 

「じゃまするぞー。霊夢ーーー」

 

 もしも寝てたとしてもそれはそれで反応が面白そうだと思って、神社へと上がり込んだ。

 

「ってあれ?」

 

 しかしそこに霊夢の姿はなかった。私が見つけたのは赤と白で彩られた陰陽玉。そして

 

 その日を境に博麗霊夢は幻想卿から姿を消した

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ? 記憶喪失だと!!??」

 

「まぁそういう反応になるわよねぇ。普通」

 

 私こと博麗霊夢はイーストブルーと呼ばれる海の小さな島で自身の身の上を箱のオッサンに話していた。

 箱のオッサンの名前はガイモン。なんでも20年もの間、この島の変な動物を守り続けてきたらしい。変なオッサンが変な動物の守護者ってなんの喜劇だと笑ったら、すごい目で見られたので自重する。でも面白いオッサンが悪い

 

「しかし記憶喪失とは難儀な話だな。本当になにも覚えてねぇのか?」

 

「うーん………なんかを守るためにひたすらに掃除をしながら茶を煤って箱の中のお金を探す日々だったような気がするんだけどなぁ……」

 

「何をいってるのか全く解らねぇよ」

 

「大丈夫。私も解らないから」

 

 そういって、ガイモンが出してくれた酒を飲む。保存の関係でそれしかないらしいから仕方ない。中々に強い酒だが、甘くて飲みやすい

 

「お? なかなか行ける口だな? それ結構きつい酒なんだがな」

 

「甘くて美味しいわよ。まだあるなら飲みたいんだけど」

 

「あぁ待ってろ取ってくる」

 

 ガイモンは立ち上がって(起き上がって?)、酒を置いてあるであろう場所から瓶をいくつか取り出した。

 それを何本か空けたところで彼はおもむろに口を開いた

 

「それで? これからどうするんだ?」

 

「そうね…………。どうしようかしら。全く当てがないわ」

 

「まぁ記憶喪失だって言ってんだからそりゃそうだろな…………。まぁなんだ?しばらくはこの島にいねぇか?」

 

「この島に? そりゃ居させてくれるなら、そりゃありがたいけども、迷惑じゃないの?」

 

「正直な話、この島には人が全く寄り付かなくてな。少しばかり人恋しいんだよ。話し相手になってくれるだけでいい。いちゃくれないか?」

 

 オッサンは怯えるような、そんな顔をする。私としてはその話は願ったりかなったりなので、そんな顔をする必要がないって笑ってやろうと思ったんだが、まぁ止めておくことにした。わたしはその言葉に少しばかり考えるふりをしてから、頷く

 

「えぇ、お願いするわ」

 

 それを告げたガイモンの顔は、人好きするようないい笑顔だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 海

 目の前に広がる水平線。潮の臭い。何故か解らないが、無性に心引かれる物がある

 

 この島に来てから一月がたった、最近は果物集めや動物の世話が終われば海を眺めてる様な気がする  

 

「はぁ………全くなにも思い出せない」

 

 流石に一月もなにも思い出せないと心労が溜まる。自分が海に心引かれている事を考えると、もしかしたら私は漁師かなにかだったのかもしれない。そう思ってはみるけども、まったくしっくり来ない

 

『起こせ!! 起こしやがれ!!』

 

 そんなことを考えていたらガイモンのそんな叫びが聞こえてきた。あのオッサン、一度こけると自力では立ち上がることが出来ないって、だいぶん間抜けな性質を持っている。私が来るまではどうしていたかと聞くと、この島の動物たちに助けてもらっていたらしい。面白すぎて十分くらい爆笑してた。

 そんなことを思い出しながら声がした方に向かうと、麦わら帽子を被った惚けたような面の男とオレンジ色の髪をした女が立っていた

 

「えーと、あんた誰? うちの面白オッサンになんかした?」

 

「俺はルフィ、海賊王になる男だ!! オッサンは勝手に転けたぞ?」

 

「そう。私は霊夢、ちなみに海賊王って何よ?」

 

「世界で一番自由な海の王様だ!!」

 

「ふーん……偉いの?」

 

「偉くはねぇんじゃねぇか?」

 

「偉くはないの? 王様なのに?」

 

「そりゃ……なんせ海賊王だぞ?」

 

「そっか……」

 

「いや、あんたらなんの話よ」

 

 海賊王……海賊ねぇ。

 最後に入ったオレンジ髪女の言葉を軽く流して考える。その言葉に聞き覚えはない。でもなぜだか少し心引かれる物があった。記憶をなくす前は海賊でもしていたのかも知れないわね。そう思いながらじたばたしているガイモンを助け起こす。

 ルフィとナミ………ナミは協力者らしいが、二人は海賊をやっているらしい。自由な海を旅する冒険者。それがルフィの海賊だった

 この島には補給とあわよくば新しい仲間をっと思い立ち寄ったらしい。どう見ても無人島なこの島によく来るものだ

 

「何て言うか、随分と楽しそうねぇ……」

 

 そんな言葉が口から出る。ニコニコしてる惚けた麦わら帽子を見ながら面白い奴だなと思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、ガイモンがこの島にこだわり続けるもうひとつの理由が明かになり、ガイモンが涙を流すなんて一幕があった。出会ったばかりのこいつらには宝箱の話をするのかー。私は一ヶ月もいてなんの話もしてくれなかったのになー。なんて思うが、確かに私はこいつら以上に胡散臭いなと思い直して納得しておくことにした。ガイモンの『なんかお前は金にがめつそうな臭いがするから言えなかった』なんて言葉は、精神衛生上聞き流しておくことにする

 

 ルフィがガイモンと私を仲間に誘って、ガイモンが本当に嬉しそうにしながら断った。やっぱりこの島の動物が気になるらしい。相変わらず優しい男だなぁと思いながらなら私も断ろうと思って口を開いたとき

 

「なぁ麦わら。断っておいて難だけどよ、こいつは……霊夢は連れていってやってくれないか?」

 

「…………え? いやオッサン。アンタが行かないなら私は行くつもりは」

 

 ガイモンは私の言葉を遮るように続ける

 

「こいつは記憶喪失なんだ。少なくとも、この島の生まれじゃねぇ。もしかしたらこの島に流れ着いたのかもしれないし?何が理由でこいつがここにいるのか解らねぇ。でも、この島にいたらこいつはずっと記憶は戻らねぇ。それだけは解る」

 

「…………」

 

「それにこいつ、海が好きみたいだしな。暇があればいっつも海を眺めてやがるんだ。頼む麦わら!! こいつを海に連れていってやってくれ!!」

 

 ルフィはガイモンのその言葉に満面の笑みを浮かべ、大きく頷いた

 

「あぁ、いいぞ!!」

 

 ルフィは一瞬の躊躇いもなく答える。ナミはというと、こっちを心配そうに見ているが私にはそんな余裕はない。ガイモンの奴は私の事をしっかり見て、しっかり心配してやがったんだ。私が二十年ぶりに話す人間だってことも有るだろう。でも、彼はなんにせよ、見ず知らずの、記憶喪失なんて胡散臭さ塊みたいな女の事を真剣に心配していたんだ

 ルフィはガイモンのその思いを知ってか知らずか、こっちを向く。そして手を私の方に向けて大声で叫んだ

 

「行こうぜ!! 霊夢!!」

 

 あぁ、なんて気持ちのいい奴なんだか。この‘世界’の男ってみんなこんなやつばっかりなのかなぁ。それもとこいつらが特別なのか、解らない。それでも私は

 

「ここまで言われたら、行かないわけにはいかないじゃない。ありがとうガイモン

 

 

 

よろしくね、ルフィ」

 

 そう答える事に躊躇いは無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想卿に存在する洋館。この世界の町並みにそぐわないそれは、巨大な湖のそばに存在していた

 

 「由々しき事態よ。異変がどうだ、スペルカードがなんだ、なんて話じゃない位にはね」

 

 その紅魔館に引っ付くように存在している巨大な図書館。そこに集まっている面子をこの世界の住人が見れば、それだけで恐慌状態に陥ってもおかしくない。

フランドール・スカーレット、西行寺幽々子 八雲紫、八意永林、山の大天狗、古明地さとり、八坂神奈子など、幻想卿の有力者達が集まっていた

 

「私としては、あんたが招集をかけたことに驚きなんだけどね。神隠しだの行方不明だのはあんたの領分だろ?なぁ八雲紫?」

 

 神奈子のその言葉に同調するように、周りのもの他達が頷く。そんな周りの態度に中心の紫は涙を流しながら否定する

 

「なんでもかんでも私が悪いと思われては堪りませんわ。ゆかりん悲しい、ぐすん…………………。」

 

「そうやってすぐに泣き真似だのなんだのするから胡散臭さが際立つんだけどね。あんたの場合」

 

 そんなことをいっている時に、フランドールが声をあげる

 

「ねぇ咲夜? 私は八雲紫をドッカンすれば美鈴が帰ってくると思ってたんだけど? 違うの?」

 

「妹様、気持ちは解りますし、今すぐそのふざけた嘘泣きをめった刺しにしたい所ですが、少し落ち着きましょう。そしてお嬢様も消えています。名前を出して差し上げませんとお嬢様はまた拗ねてしまいますよ?」

 

「ぶーぶー。どうでもいいよあんな奴は。あいつが帰ってこないなら私が紅魔館の主でいいじゃん。クーデター成功? きゃっほう!!」

 

 そんな様子のフランドールを、頭が痛いといった様子で咲夜は見て、取り敢えず無視することに決めたらしい

 

「妹様………。紅魔館からはお嬢様と門番の美鈴が姿を消しました。取り敢えず皆様も、状況整理の為にも誰が消えたか教えていただけませんか?」

 

 紅魔館のメイドがそう言うと、各々の陣営の消えたメンバーを言っていく。

 今確認されているだけで、博麗霊夢、レミリアスカーレット、紅美鈴、魂魄妖夢、鈴仙・優曇華院・イナバ、洩矢諏訪子、火焔猫燐、その他妖精や、あまり人と行動しないような者達が姿を消していると報告された

 

「もしもこの中で、誰もこの事件を起こしていないのならば、一番の問題は洩矢のカエルが消えていることよ。神性を保持していても抵抗できない神隠しなんてふざけているわ」

 

 そして、どの陣営からも人が消えてる。それはまるで、‘どの陣営からも人が消えているから、どこも疑わないでくださいとでも言うように’

 

「このままもしも神隠しが起こり続けるなら洩矢の神様だけじゃない。私たちレベルでさえどうにかできる化け物が幻想卿を‘侵攻している’可能性がある……」

 

「ちょっといいかしら?」

 

 そこで声をあげたのはパチュリー・ノーレッジ。知識の名を持つ魔女だった

 

「茶番はいいわ。正直な話、答えなんて解りきっているようなものだから。それをほじくりかえすのも面倒だし、今すぐどうにかなる問題でもない。消えた連中に関しても軽く手を打ってるからそこまですぐにどうにかなる訳でもないわ。そんなことはすぐの問題じゃない。今すぐに必要なのは‘これ’よ」

 

 パチュリーは腕を軽く振ると、大きな木箱が何処からともなく飛んできた。それは机の上に乗ると、パチンと音をたてて開く

 中には、真っ紅な光る玉が二つ入っていた

 

「それは………」

 

「レミィの妖力と記憶よ。うちの玉座に浮いていたのを咲夜が発見したわ。博麗霊夢のも見付かったんでしょ? これが見つかったって事はすなわちこの幻想卿から消えているって事でいいと思うわ」

 

 それを見て、ハッとしたような顔をするのがほぼ全員。きっと覚えがあるのだろう。

 そしてその顔を見渡して、パチュリーは言う

 

「いい? これが無いってことは、消えた連中にとって最悪の事態に陥りかねないわ。この件の黒幕がすぐに誰かを殺すとは思えないけど、不慮の事故は起こりかねない。特に生まれながらの妖怪連中はそれが顕著よ。連中は力がない状態に成ったことは無いんだから」

 

 その言葉に黙る賢者達。その手の者達を発生から知っている訳じゃないが、この面子は力がなかった時の方が珍しいだろう。そう思えるような化け物達なのだから

 

「だから、と言っては難だけど、提案が有るわ。」

 

 魔女はレミリアの力と呼ばれた玉に手をかざす。するとそれは光を帯びて行き、どこかに向かって進もうとして、何もないところにぶつかる、といった事を繰り返した

 

「これは力がレミィに引かれてるから起きる現象よ。でも、このままじゃ届かない、もしくは力単体じゃ行くことのできない場所に向かっている。そこにレミィ達が居ると私は推測したわ。なによその顔は? あなた達が来る前に一通りの実験、検証は終わらせてるの。どうせあなたたちもそこまでは掴んでるんでしょ? 駆け引きなんて私としてはするつもりはないわ。そう言う政治ごっこは私のいない場所で勝手にやってちょうだい」

 

一息

 

「ここからが交渉よ。八雲紫の能力を貸してほしいの。あなたの力ならこの力が持ち主の場所にいけないという状況をある程度なら無視出来るかもしれない。私が出す見返りは、この本人から分離した力の塊を加工して使えるようにする事よ。すなわち、これをレミィ達がいる場所に送ることができる状態にする。心配しなくても全員分やってあげるわ。それで? 返答は?」

 

 そこまで一気に言い切ったパチュリー・ノーレッジを見て、小悪魔は呆れたようにため息をついたのだった

 

 




 東方の時系列は地霊殿までです。

 かなりご都合主義な上に無理がありますが、よっぽど無理しないと連中の能力取り上げなんて出来そうにないです。そして能力取り上げないと無双して蹂躙して終わりになってしまいそうです


 ちなみに霊夢が海を見ていたのは幻想卿には海が無かったから物珍しいってだけの話。それっぽく書くと伏線みたいに見える不思議

 取り敢えずアーロン編まではちゃっちゃか進めます


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狼少年

 東方の二次創作作品を読むとき、作者ごとにキャラの性格が色々違うのが面白いところだと思います。百合百合してるかぐやともこたんの話を読んだ後に、本気でドシリアスの殺し合いをしてる二人の話を読むとなんか変な笑いが出ます。楽しい

 それはともかく本編


 波に揺られる小舟の上、青い空に白い雲。うんざりするほどいい天気な空の下で、グランドラインに向けて船を進める四人がいた

 

「無謀だわ」

 

 ガイモンから分けてもらった果物をがっついているルフィと、特製の果実酒を飲んでいる霊夢とゾロ。そして海図を睨み付けるように見ていたナミ。各々が好きな時間を過ごしている四人におもむろに顔をあげたナミがそう言った

 

「何が?」

 

「このままグランドラインに入ること!!」

 

「確かにな!! おっさんから果物は分けてもらったけどやっぱ肉が無いと力が」

 

「食料の事を言ってんじゃ無いわよ」

 

「酒はあるわよ?」

 

「甘い酒も悪くねぇがそれだけってもつれぇ。それの事だろ」

 

「私は好きだけどね。辛いのも嫌いじゃないけど」

 

「飲食から頭を離せ!!」

 

 一通りのコントが終わり、ナミは言う。この世で最も危険な場所であるグランドライン。そこに向かうには余りにも準備不足だと。と言うか

 

「ぐらんどらい?って何よ?ツマミ?」

 

 ツマミが欲しいなぁ、と思いながらなら瓶を一本空けてから私は言う。ナミはあんぐりと口を開けた後に首を振って、呆れたような表情でこっちを見た

 

「アンタね………。あぁそう言えば記憶喪失とか言っていたよわね………………。ってアンタ私達とガイモンさんの会話聞いていたんじゃないの?」

 

「そんなの私が聞いてるわけないじゃない」

 

 なに言ってるんだこいつは? みたいな目で見るとナミは頭を押さえながら文句を言ってきた。一通りのお小言が終わるとこの世界の偉大なる海路(グランドライン)と呼ばれる場所についての説明をしてくれる。何だかんだでいいやつみたいだナミは

 

「つまりこの世界はくそデカイ大陸とその……グランドライン? ってやつで分けられているのね。そしてこの船の向かう先はそのグランドラインと呼ばれる海か………」

 

 そこでとても重要なことに気がついた。そのグランドラインとやらはここからとても離れている。そして私が気がついたのはイーストブルーの名も無い島である。すなわち、グランドラインなんかに入ってしまえば記憶の手がかりとか無いんじゃないかしら?と。その思考に至って私は

 

「………………………………………………まぁ、別にいいか」

 

 と答えを出した

 困ってる困ってないで言えばまぁ困ってるが。そこまで切羽詰まってるかと聞かれればそんなこともない。あの島で目覚めたより以前の記憶は殆んど無いが、逆に言えばそれのお陰で自分が焦らないでいれるのかもしれない。ポジティブは大事よ。のんびり屋なだけじゃとか聞こえてきたけど無視だ無視

 

「まぁ別に急ぐ旅って訳じゃねぇんだ。取り敢えず近くの島に寄って、仲間と食料、霊夢の記憶の手掛かりを探すのと、あわよくば船を手に入れようじゃねぇか」

 

 ゾロのその言葉に、私たちは頷いた

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はこの村に君臨する大海賊団を率いるウソップ!! 人々は俺を称え、さらに称え!!‘わが船長’キャプテン・ウソップと呼ぶ!! この村を攻めようと考えているのなら止めておけ!! この俺の八千万の部下が黙っちゃいないからだ!!」

 

 なんかスッゴい面白いやつが現れた。台詞も面白いが、その鼻の高さが面白さを際立たせている。なんだこいつは。

 ナミの航海の腕は素晴らしく、天候を操っているとしか思えないほどの読みと勘のさえで、食料に困ることなく、簡単に大陸につくことが出来た。アホ面の船長に、酒を飲むか寝るかしかしていない坊主頭のメンバーとしてはマトモすぎる人員だ。彼女がいなければこの小舟二隻が島から島に渡ることなんて、奇跡でも起きない限り無理だっただろう。ナミ様々だ

 そんなこんなで上陸した大陸で、私達は近くの小さな村で、補給と船と記憶探しの算段をしていた所に、ウソップを名乗る青年が現れたのだった

 

「いや、嘘でしょ」

 

「げぇ!! バレた!!」

 

「ほらばれたって言った…」

 

「ばれたって言っちまったぁ~!! おのれ策士め!!」

 

「はっはっはっは!!! お前、面白ェな!!」

 

 全面的に同意する。そしてナミはこの一団のツッコミ役としての地位を着々と確立していってるな。その調子で頑張ってほしい。どこを目指しているのかは知らないが

 

「ナミってたしか海賊専門の泥棒よね?」

 

「え? えぇ。そうよ? 急にどうしたのよ」

 

「いや……………ツッコミ芸人でも目指しているのかと思って」

 

「あんた達がボケ倒すからでしょうが!!」

 

 ゴスッと鈍い音がして私の脳天にナミのチョップが炸裂する。中々痛い

 と言うか心外な話だ、私は他の二人ほどボケてなんかいないつもりなんだけれど

 

「なに?海賊専門の泥棒? てめェら道化のバギー海賊団の一員じゃ無いのか!?」

 

「バギー? あいつならぶっ飛ばしたぞ?」

 

 バギーってのは確か、こいつらが私と出会う前に戦ったって言う、鼻が面白いって噂の海賊の事だった筈だ。この世界の人間ってのは、鼻が面白いか体が面白い(箱に入っている)奴しか居ないのか?

 

「ぶっ飛ばしたぁ!!?? じゃあなんだ? お前達、海軍だったりするのか?」

 

「うんにゃ? 海賊だぞ?」

 

「なんなんだよお前ら!!??」

 

 手に持っていたパチンコを地面に叩きつけながら彼は叫んだ。気持ちはわからなくもない。

 確かに、コイツらなんなんだと言いたくなる様な、変な面子だとは私も思う。そう思って自分の格好を客観的に考えてみる事にした。

 

 脇を大きく露出しているにも関わらず、肩から手首までしっかり袖があるゆったりとした着物の様な服。また、袖口は大きく開いており、その中にはポケットがいくつも縫い付けてあり、中に色々な物を忍ばせることができる形状になっている。そしてその中には、長さ5寸(約15cm)ほどの、そこそこ長めの針の様なものが収納されおり、出そうと思えば刹那の内に取り出すことが出来るだろう。ちなみに、ガイモンがいた島で何度が練習がてら的当てをしてみたら、百発百中と言ってもいい精度で投げることが出来た。私は曲芸師か忍者かなにかだったのだろうか?

 服は全体的に白と赤で纏められており、何となくこの色合いは落ち着く。その事から、この服を日常的に着ていたのだと予想して。なんとも物騒な話だと他人事みたいに考えた。

 

 それを踏まえた上で思う。麦わら帽子に剣士に泥棒に紅白。なんだこの集団?

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、仲間集めと船探し、そして記憶の手がかりを探していることをウソップに伝え、自分達は海賊ではあるが、略奪などの行為をする気は無いことも伝えた。

 それを聞いたウソップは、彼も海賊と言うものに憧れていたのもあり、ルフィとあっという間に仲良くなってしまった。

 そしてウソップからこの村にいるお金持ちの薄幸少女の話を聞いたのだった

 

「この村で船の事は諦めましょ。別の町や村を当たればいいわ」

 

「そうだな。急ぐ旅って訳でもねぇし!! 肉も食ったし、いっぱい買い込んでいこう!!」

 

「本当にすごい勢いで食べてたわねぇ……。どんな胃袋してんのよ」

 

 私達はいまウソップの馴染みの店とやらに来ている。安くて旨くて何より多いと彼は言っていた。実際、美味しかったが店の売りである量が私にはネックで、ルフィの1/10も食べることが出来なかった。と言うかルフィ食べすぎ

 

「なんだ霊夢。もう食わねぇのか? 全然くってねェじゃねぇか。貰っていいか?もぐもぐ」

 

「疑問系なのにもう食べてるわね?ってか、あんたが食い過ぎなのよ…………見てるだけでお腹いっぱいに成ってきた……うっぷ」

 

 私は机に突っ伏して、顔だけを前に向ける。目の前には鼻の長い嘘つき男だ。個人的には面白いから好きな部類に入る。そう言えばと思って私は口を開いた

 

「ねぇアンタ? 私の顔に見覚えはない?」

 

「んん? どう言う事………ってあぁ、そう言えばお前、記憶喪失だとか言ってたっけ? ……………それにしては落ち着きすぎじゃないか?」

 

「まぁ記憶なくしてすぐは慌てたけど、一月もたてばねぇ……。で、どうよ?」

 

 そう促すと、彼は私の顔をじっと見る。しかしすぐに頭を振って

 

「いや、覚えはねぇな。俺はこの村で育ってきたからこの村出身ならすぐにわかる。それにお前のその服、この辺りじゃ見かけない服だぞ。この村どころか、この大陸でも中々見ない類いの服装だ」

 

「あぁ、やっぱり? 私もなんか浮いてるなぁなんて思ってたのよ」

 

 ちなみにゾロとナミからも似たような事を言われている。ただ、ゾロからは師匠が似たような服を着ていたような気がすると言っていた。が、ゾロは帰り道が解らないらしい。なんでも適当に海に出て、用心棒とか海賊狩りだのをしながら海を渡っていたので、帰り道なんか考える余裕はないとの事だった。

 なんとなく嘘と見栄の気配がするが、流すことにして、そして機会があればゾロの生まれた島に行こうと思うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

  ………は生きてるわ。これは力が本人に引かれる所からも明らかよ。であるからして必要なのは個人の特定と世界の壁を越える方法、そして力を別の世界に拒否されずに使える形に加工する方法よ。次元を跨ぐといっても過言じゃないわ。次元を跨ぐ方法は八雲紫がいれはそこまで難しくはない、個人の特定については私に考えがあるわ。問題なのは加工方法だけれども、地底の鬼の力を借りることはできないかしら? 消えた連中の力は妖力だの霊力だの魔力だのだから、普通のやり方、つまり私達にとっての普通のやり方で加工してしまったらどうなるかわからないわ。最悪力の質自体が変化して本人に馴染めなくなってしまうかもしれない。だから地底にいる鬼の力を借りたいの地底の鬼連中の力は物理的な力よ。それならば変な反応が起こる心配はないわ。加工の形はそれぞれ本人の事を知ってる連中に任せるわ随時やってちょうだい。私は場所を把握する為の術式の準備を始めるわ。博麗結界については八雲の所の式が何とかしてくれると思ってるんだけども違うの? 最悪、新しい巫女を立てれば幻想卿の崩壊と言う事態は逃れられるはずよ。時間稼ぎが必要なら山に住んでる緑色の巫女を使えばいいわ。あれの能力なら修繕は出来ないでしょうけど維持なら出来るでしょう? 情報不足だけども私の計算なら3年は持つはずよ。もちろん、八雲の協力があってこそだけど。後は……」

 

 そこで私、パチュリー・ノーレッジは目の前に誰も居ないことに気がついた。目の前には要点だけまとめて紙に起こして各陣営に送れと言う文字が書かれたメモ帳だ。

 確かに説明中に回りは見ていなかったが、この仕打ちはあんまりではなかろうか。

 

「あ、パチュリー様。ようやく現世に帰ってきましたか」

 

「こあ、他の連中はどこにいったのよ。」

 

「皆さん帰りましたし、妹様は当主代理でやることが死ぬほどあるからってすぐに消えましたよ。ってか、皆さん帰られてから半日以上たってるのに今頃ですか」

 

「さっきようやく連中に仕事を振り分けようとしたところだったのよ。それで周りを見渡したら誰もいないんだもの。ぶちギレそうだわ」

 

「いや、目の前の人間………魔女が半日以上ぶっ通しで息継ぎもせずに喋ってたら普通は帰りますって。むしろあの協調性の欠片もない皆さんがよく持ちましたよ」

 

 こあと言う愛称の低級悪魔である彼女は、この図書館の司書だ。別名を雑用係の実験動物とも呼ぶ

 その彼女が、私の方を呆れたようなドン引きしたような目で見てくるので、私は軽く舌打ちをしてから指をパチンと鳴らした

 すると数枚の真っ白な紙が近くに飛んできて、ガリガリと音を立て始めた。音が収まった頃には各陣営への指示書が完成である

 

「こあ、これをあの連中に渡してきて」

 

「げ、声かけなきゃ良かった……」

 

 こあの失言を聞き流しながら、自分のやるべき事を頭のなかで整理する。思考の海に沈もうとしたところで、こあが私に声をかけてきた

 

「にしても今回の異変はいったいどういう事なんですかね? 各陣営の主要人物達が悉く姿をくらますなんて。それに博麗の巫女まで消えてしまうなんて、私には信じられないですよ」

 

「まぁそうでしょうね」

 

 今回の異変、神隠し異変と名付けられたそれが起きたのは今から4日前。以前に地底から温泉が沸いて怨霊が溢れかえる事件の解決に、魔理沙に魔導書を貸して遠隔操作などの協力をした事件から半年ほどたった日だった。ちなみに貸した本は当たり前のように帰ってきていない

 発覚は、霧雨魔理沙が博麗神社で紅白に輝く玉を発見した事だ

 博麗霊夢の消滅、そのニュースが天狗の新聞によって幻想卿中に広まった所、色々な陣営から誰々がいないだの、そいつが良く居るところから変な玉を見つけただのって報告が上がった。その辺で八雲紫が激怒、紅白巫女や他の連中がどこにいったのかを調べたした結果、違う世界に飛ばされたと言う結論が出たのだ

 

 その世界は異世界、つまりパラレルワールドとかのifの世界ではなく、完全な異世界だと八雲紫は言った。 場所さえ解れば、八雲紫の独壇場だと簡単に考えていたが、そう言うわけにはいかず、その世界は私達の世界とは違う物理現象や力が存在する世界で、問題なのはその世界では、我々の力は拒絶されてしまい、介入する事ができないのである。

 

「取り敢えず、この異変を起こした理由だとか起きた理由だのは置いておきましょう。さっき言った通り、時間的にはそこまで切羽詰まってる訳ではないわ。だけれども博麗の巫女が巻き込まれた以上は結界も危ないわ。この幻想卿が消えれば今の生活が無くなる。私はここがそれなりに気に入ってるのよ。それに……」

 

「………それに?」

 

「………………レミィが消えたのよ。こう見えても私、結構ムカついてるの」

 

 こことは違う世界とやらに興味はある。事が落ち着いたら調べてみたいしその世界の本を収集して、真理を究明したいとも考えている。普段の私なら、身内に手を出されていなければ、それこそ私は狂喜乱舞していただろう。 

 だが、相手はレミィに手を出したんだ。私の友達に手を出した。その相手を後悔させる事ができるなら、私は自らの研究の成果を惜しみはしない

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

「えーと、この島でいいのかな? 東の海も広いんだから何がなんだか……。て言うかスモーカーさんは人使いが荒すぎるんですよ、たしぎちゃんもいるのになんで私ばっかり……」

 

 正義と書かれた海軍の制服に身を包み、大きな溜め息をついた大柄な女性が、とある海軍基地の門をくぐった。そこはかつて、斧手のモーガンと呼ばれる海軍大佐が居た基地で目に余る暴走行為により、監査が入る事になっていた

 

「おはようございます!!」

 

「うん、おはよう。元気いいねぇ。元気は大事ですよー」

 

 床を掃除する新米と思わしきメガネの少年と挨拶を交わしながら、基地の所長室へと移動する。

 

(私、腹芸とか苦手なんだけどなぁ。監査官なんてもっと向いている人がいると思うんだけど…………いや、うちの部隊にはあんまいないなぁ。はぁもういいや、なるようになるでしょ)

 

 自らの所属する部隊の荒くれ具合を思い出して苦笑する。そして気を引き閉めて、扉を開いた

 

 

「海軍軍曹の紅美鈴です。監査官ですよー?大佐のモーガンさんってのは居ますか? お話を伺いたいのですが………」

 

 そして、紅美鈴(ホン、メイリン)は敬礼をしながら部屋に入った。そこで彼女は二人の海賊を名乗る青年の話を聞くことになるのだが、それはまた、別の話

 

 

 

 

 

 

 




 紅魔勢は使いやすい……。ついつい頼ってしまいます。あと、美鈴が好きです。でも、フランと美鈴の二人がもっと好きです。


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変な男

 霊夢についてですが、現在ほとんどの能力が使えません。具体的に言うと
 空を飛ぶ程度の能力、霊力の使用および操作、封印術の使用および操作、結界術の使用および操作、巫女としての能力、札の制作および使用
 が使えません。ただし幻想卿から持ち込んだ針はそれなりの量があります。巫女服の至るところに仕込んでいたって設定で。
 あと、わりとガバガバ設定と考察なのであんまり深く追求しないでくれると助かります

 それはともかく本編


 

 あの後、ウソップが時間だと言って嘘をつきにお嬢様とやらの所に行ったり、突然現れたウソップの子分をゾロが脅かしたり、ルフィが前言を撤回して船をお嬢様の所に貰いに行ったり、気の良さそうなお嬢様とメガネの性格が悪そうな執事に会ったり、ルフィがどっかに行ったりと色々あった。

 今はナミとゾロと、ウソップの子分三人とのどかな牧場でのんびりしているところだ。

 

「にしても、あんた達が言う海賊と、あのメガネの執事が言う海賊ってのにはずいぶんと差があるわねぇ。海賊じゃなくて、‘冒険家’とかに改名すればいいんじゃないの?」

 

「まぁ確かにね。ルフィの言っている海賊像は、どちらかと言うと、そう言う風味が強いと感じるわ」

 

 しかし、それに関してはルフィやウソップに直接聞かないと結論は出ないだろう。どちらにしろ、自分の記憶探しもあるし、私はこの船を降りる気は無かった。

 

「大変だーーーーーっ!!!! う、う、ううう、後ろ向き男だぁーーーーーーーー!!!」

 

 ウソップの子分二人が「あいつすぐにどっかにいっちまうんだよ」「そして大概大騒ぎして現れるんだ」と、たまねぎと呼ばれた少年の事を話していると、本当にその通りになった。友人に行動パターンを完全に読みきられてる。

 そんな憐れな少年は、何をそんなに大騒ぎしているのかと聞かれたところ

 

「変な人が後ろ向きで歩いてくるんだよ!!」

 

 との事だった。大騒ぎするほどの事だろうか? この世界で目覚めてから‘変な人’としか会っていない私としては、珍しい部分は後ろ向きで歩いてくると言う部分しかない。

 そして彼のいった通り、その変な人は後ろ向きで歩いてきた。ハート型のサングラスにロン毛にしましま模様の顎髭。見た目の変さはガイモンに匹敵する。私はドン引きで目線を向けた。

 

「おい、誰だおれを‘変な人’と呼ぶのは! 俺は変じゃねぇ!!」

 

「変よ、どう見ても」

 

「いや、ガイモンと比べたらマトモに見えなくも無いわ」

 

「変じゃねぇ。ちなみに全く興味はねぇし、参考までに聞くが、そのガイモンってやつの変っぷりはどんなもんだ?」

 

「宝箱にハマってる緑色のアフロをしたオッサン」

 

「スゲー変だなそいつ!!」

 

 なんか謎な感じでショックを受けてる。やっぱり変な奴だ。

 気を取り直したそいつは自分は通りすがりの催眠術師だと名乗り、ちびっこ三人に催眠術をかけて遊んでいた。その催眠術の結果、ちびっこを眠らせることには成功していたが、自分もそれに掛かって寝てしまうと言うお粗末な結果に終わる。私の中でこいつは変なやつからヤベー変なやつに昇格したのだった。

 

 そいつが目を覚まして、「じゃあな」と言いながら去っていく。本当になんだったのだろうかあいつは。

 

「ってか今更なんだけど、船ってそう簡単に譲ってもらえたりするものなの? 私はいまいち良くわからないんだけど、それってとんでもなく高いものじゃないの? てっきり私は、海賊らしく奪い取るものだと思ってたんだけどそう言うわけでも無いみたいだし」

 

「前から思ってたけど、アンタって結構過激な発言多いわよね」

 

「失敬な」

 

 話を聞くに、数千万ベリーは下らないとてもやはり高価な代物だった。ベリーと言う通貨がどれ程の貨幣価値なのか今一良くわからないが、ルフィが大金をもってる様には見えないし、ゾロも以下略。ナミはなんとなく溜め込んでそうだなーと、金の臭いを感じとるが、この一味のために船を買うような物好きには見えない。普通に考えたら強奪位しか手はないように思えるんだけどなぁ……

 そう思うが、キャプテンは全くそんな気がないようだし、私もわざわざ人のものを取ろうとは思わない。どうしても必要なら仕方ないかもしれないが、慌てるほど切羽詰まってる訳じゃない。そしてなにより乗ってきた小舟もそれなりに快適だ。そう思うと船なんか要らないんじゃないかなぁなんてかんがえてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャプテン・クロ。それはかつて東の海を恐怖のどん底に叩き込んだ海賊の名前だ。

 あの性格の悪そうな執事の正体がそのキャプテン・クロで、あの人の良さそうなお嬢様を狙っているらしい。そう言う‘嘘’をウソップはお嬢様に言った。そして村にはいつものように海賊が攻めてくると‘嘘’をついた。つまりそれは彼の、ウソップの覚悟だ。

 

「俺は嘘つきだからよ。はなっから信じてもらえる訳がなかったんだ。おれが甘かったんた」

 

 その日の夜の海岸。子分を追い払ったウソップは、襲撃の話を一緒に聞いていたルフィ、そしてそれを話してしまった私たちには隠すことは出来ないと、五人で作戦会議をしていた。

 

「甘かったって言っても事実は事実。海賊は本当に来ちゃうんでしょ?」

 

「あぁ、間違いなくやってくる。でもみんなはウソだと思ってる! 明日もまたいつも通り平和な一日が来ると思ってる……………!!」

 

 一息

 

 

「だから俺は、この海岸で海賊どもを迎え撃ち、この一件をウソにする!! それがウソつきとして!! おれが通すべき筋ってもんだ!!」

 

 

 私は少し目を開く。面白いウソつきのお調子者だと思っていたが、そんなことはない。いや、ウソつきのお調子者では有るんだろうけども。

 こいつは男だ。認めるべき、カッコいい男だ。私はそう感じた。

 

「俺はこの村が大好きだ…!! みんなを守りたい………!!」

 

「とんだお人好しだぜ。子分までつき離して一人出陣とは……!!」

 

 ゾロが溜め息をつきながら笑っている。私はみんなの顔を見て、全員が同じ気持ちだと思った。

 

「よし、おれ達も加勢する」

 

「言っとくけど、宝は全部私の物よ!」

 

「そのキャプテン・クロの海賊団にも、私を知ってるか聞かなくちゃいけないしね」

 

「え………。お前ら、一緒に戦ってくれるのか……?」

 

 ウソップの目には驚愕と同様と希望、そんなのをごちゃごちゃにしたような色が浮かんでいる。まさか加勢してくれるとは、でも巻き込むのは心苦しい、そんなところか?

 彼は強がりとまるわかりの台詞を叫ぶ、しかし脚の震えが全く止まらない。堪らず彼は自らの足を何度も殴り付け

 

「見世物じゃねぇぞ!! 相手はキャプテン・クロの海賊団だ!! 怖ェもんは怖ぇえんだ!! それがどうした!! 同情なら受ける気はねェ!! てめぇら帰れ!!」

 

 なんか見当違いな事を叫んでるウソップに、ゾロが「立派だと思うから手を貸す」と言い、ルフィが「同情なんかで命賭けるか!!」と、言った。そのままウソップは感極まって涙を流す。私はそれを見て、軽く鼻を鳴らした。

 

 海岸から村に入るルートは1つだけ、ならその一つを潰せばいい。簡単な理屈だ。

 つまりはその一つを抜かせない戦力、待ち伏せでもトラップでもなんでもいい。1つの海賊団を潰しきる事ができる戦力さえあれば問題ないのだ。

 

「お前ら何が出来る?」

 

 ウソップの疑問は当然だ会って半日、私達の事はなにも知らないと言っても過言じゃないだろう。本気で芸人の集団と思ってるかもしれない

 

「斬る」「のびる」「盗む」「刺す」

 

 上からゾロ、ルフィ、ナミ、私の順番だ。袖口に仕込んだ針を弄びながら言った。ってか私は戦えるのだろうか? こと戦闘に関しては、なぜか全くといっていいほど不安を感じないのだが。

 

「逃げる」

 

『お前は戦えよ!!』

 

 そんなコントをしていると、夜は更けていった………

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんの長鼻野郎!! 後で絶対殺す!!」

 

「あの女、殺す!!!」

 

 夜明け、ウソップが失策に気がついたのは北の海岸から地響きが聞こえてきたからだ。

 場所を、間違えるなんて致命傷レベルのミスだろう。舌打ちをしながら走ろうとしたところ、ナミがウソップのチョコザイな罠、すなわち坂に大量の油を巻くと言う罠に引っ掛かって滑り落ちそうになった。そしてナミがゾロをひっぱって事なきを得て、そのナミが気を抜いてウソップに引っ掛かり、体勢を崩したウソップが私にぶつかり、ぶつかった私はひっくり返って油に足をとられた。そしてゾロの真横に滑り落ちてしまった。

 ナミは北の海岸の小舟に積んである宝が危ないと、ウソップは村が危ないと大慌て、私達を一瞥するととっとと行ってしまった。マジでふざけんな。

 

「取り敢えず、この油の坂を突破しないと……。ってゾロ、あんた何を遊んでんのよ」

 

「遊んでねぇ!!」

 

 油で遊んでる様にしか見えない。ゾロは頑張って登ろうとしているのか、油坂を登ったり落ちたりしている。私が呆れたように見ていると、ゾロは睨み付けてきたので、睨み返す。それを見た彼は刀に手をかけながら言った

 

「海賊より先にテメェをのしてやろうか? あぁ?」

 

「結構よ。お互いそんな場合じゃ無いでしょ? 全く、あの長鼻野郎……」

 

 取り敢えず二人して顔を見合わせて、二人して同時に舌打ち。それに軽くイラっとしながら前を見る。油にまみれた坂で、マトモにやっても上れる気がしない。

 

「ッチ、仕方ねぇレイム、俺の肩に乗れ。そのまま上に押し出すから、飛び越えろ」

 

「それなら越えれそうだけれども………あんたはどうすんのよ」

 

「刀を地面に突き刺しながらならなんとか登れんだろ。早くしろ、ルフィの奴がマトモにたどり着つけるとは思えねぇ。そしてあの二人だけで1つの海賊団を足止めできるなんてのも希望的観測が過ぎるだろう」

 

「いいけど、私は?」

 

 多分戦えるだろうけど、その場になってみないと解らない。そんな意思をこめて聞くと、ゾロはなにも言わずに私を抱えた。

 

「さぁな? でもテメェ………」

 

 そのままおもっきり振り上げると、私はすごい勢いで投げ飛ばされた。油坂は簡単に越え、坂のてっぺんの辺りまで投げられたので、受け身をとってそのままゾロの方を向く。

 

「強ぇだろ?」

 

 ゾロは刀を2本抜いた所だった。私は軽く笑みを浮かべて走り出す。たしかウソップが言っていたのは北の海岸だったわね。

 

 

 

 なんか知らないけれど、耳を生やした、付けた?強面の男達がいっぱい来る。そいつらは皆、斧や剣やハンマーやなにやらの武器を持って怒声をあげながらが走ってきた。こいつらがウソップの言っていた海賊団だと思い、軽く舌打ちをする。袖口に仕込んだ針を取り出し、片手に3本、両手で6本のそれを取り出しながら流れでそれを投擲。

 

『封魔針!!』

 

 口からそんな言葉が出る、この針の名前だろうか? 何処と無くしっくりくる。投擲された針は目の前の男たちの足や腕を撃ち抜く。その間、約1秒ちょい。

 再び針を両手に構えて、その1秒の間に接近された海賊から振り下ろされた剣撃を片手で受け止めてそいつを蹴り飛ばす。それと同時に私の右隣の敵の集団もぶっ飛んだ。

 

「何よ、コイツらのこの手応えのなさ」

 

「知るか! これじゃあ気が晴れねぇ!!」

 

 いつの間にかいたルフィは、一撃で10人以上の敵を坂に叩き返した。その時にルフィの腕が伸びたり縮んだりしたのは気のせいだろうか? 私はそのルフィと軽口を叩きつつ、眼前のウソップの目の前の地面に向かって、針を投げつけた。

 

「うぉおおおお!!!! あぶねぇ!!! 何すんだレイム!!!」

 

「うるさい。今の一発で勘弁してあげるから黙っときなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お前ら、こんなに強かったのか………」

 

「うん。それにレイムも多分強いんだろうとは思ってたけど中々やるなー」

 

「ってか今なんか伸びなかった? ねぇ今あんた伸びなかった??」

 

「のびたぞ?」

 

 ほれ? とか言いながら去っていくルフィは自分の頬を引っ張る。常人では考えられないほど伸びるルフィの頬に、私は柔らかそうだなぁなんて感想を抱いたのだった。

 

「おい野郎ども。まさかあんなガキ二人相手にくたばったゃいねェだろうな?」

 

『………お………………お…ぅ……!!』

 

 明らかに無理をしてる声色で、ボロボロの海賊達が立ち上がる。遠慮なんかせずに急所に針を叩き込んでやった方が良かっただろうか? 針の残弾を手癖で数えていると、例の変な男がおかしな事をやり始めた。紐のついた丸いわっかを部下たちの前でゆらゆら降りながら声をかける……………催眠術だっけ? 

 

『ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーー!!!!!!』

 

「ッ!!??」

 

 敵の叫び声、音で空気が震えるような感触がするほど怒声にナミは驚きの声をあげる。正直私も驚いた、私が倒した敵は関節に針を叩き込んだのに、傷が完全に塞がって立ち上がったのだから。

 敵の一人が勢いに任せて崖を殴る。するとその崖が崩れ落ちた。あれをあそこにいる全員が出来るとなると、正直骨が折れそうだ。

 ナミとウソップを坂の上に移動させ、私は針を構える、ゾロの奴が来るまでは持久戦だなと針の消費を抑えながら戦う算段を立て軽い作戦会議の為にルフィに声をかけた

 

「ルフィ、取り敢えずゾロが来るまでは耐えるわよ。やってやれないことはないでしょうけど、これなら……」

 

 そこでルフィの様子がおかしいことに気がついた。ルフィは声も上げず、身動ぎひとつもせずにたっている。もう一度声をかけようとした時。

 

「うぉおおおおあああああああああーーーーー!!!!」

 

 ルフィから叫び声が聞こえてきた。っておい

 

「なんであんたまで催眠に掛かってんのよ!!!」

 

 私の叫びを切っ掛けにしてかそうでないか解らないが、彼は目の色を変えて敵に突っ込んでいく。そして

 

『ゴムゴムのっ!!!! 銃乱打(ガトリング)!!!!!!!!!』

 

 瞬殺と言う台詞はこの為に有るんだろうなと思うほどに清々しい瞬殺だった。ルフィはガトリングの名の通り、凄まじい連打の拳を敵の集団に叩き付けた。ってかやっぱ伸びてるわね。何よあれ。

 伸びた腕が縮む時の反動を利用して再び伸ばす。それを繰り返す事で拳をどんどん加速させていく技だろう。

 吹き飛んだ海賊に追い討ちをかけるべく、ルフィは飛び出す。彼は海賊達を追い抜いて、彼らの母船の船首に組み付いた。

 そしてそのまま船首をもぎ取って振りかぶり、海賊たちに叩きつけようとする。

 

「ワン・ツー・ジャンゴで眠くなれっ!! ワーン ツー ジャンゴ!!!」

 

 変な男はルフィに催眠術が効果的だと気がついたのだろう。ルフィは刹那の内に眠りこけてしまった。船首を振りかぶったまま。

 その状態で値からが力が抜けたらどうなるか? 海賊達に船首を叩きつけられ、そのままルフィもってヤバ!!!

 

「ルフィ!!」

 

 あの倒れ方だと、船首に踏み潰されてルフィも死ぬ!! 私はその前に間に合うかと走り出して、海岸に着く。体を船首にと地面にの間に滑り込ませるようにして滑り、ルフィの体を掴みそのまま地面を蹴った

 

「っはーーー!!! ビックリした」

 

 間一髪。なんとか事なきを得た私とルフィは、潰された海賊達を一瞥して、針を変な男に向ける。

 

「さぁ………まだやる?」

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 私、紅美鈴は困っていた。本来するべき監査の仕事がなにやら勝手に終わっていて、なんやかんやの後処理をひーこら言いながら終わらして、この辺の美味しいもの巡りでもしてから帰るかーと、美味しいと噂の海上レストラン、『バラティエ』にやって来ていた。

 そりゃ旨かった。ここ数年で食べたってか、‘この世界’で目が覚めてから食べた料理で一番旨かった。

 せめてその感動と感謝を伝えるべく、料理を作ってくれたシェフに挨拶しようとしたところ

 

「あぁ美しいお嬢さん。今日はなんていい日なんだ、こんな麗しい女性と僕は出会えるなんて最高の日だ!! 君のその美しい緋色の髪に僕の瞳は焼かれてしまいそうだよ!!」

 

「え、えーっと………あははー、恐縮です。」

 

「貴女と出会うために僕は生まれてきたと言っても過言ではない……。この出会いに祝福を……っ」

 

「あー、いやー、そこまで言われると照れますねー。でも本当に美味しかったですよ。いままで食べた料理で一番だったかもしれません」

 

 少なくとも、この世界で目覚めてからは一番だ。海軍のくそ不味いレーションをまたたべなくちゃいけないと思うと憂鬱になる程度には。

 私がその言葉を伝えると、金髪のグルグル眉毛のシェフは感極まってクネクネしながら目をハートに変えて

 

「あぁ、女神よ………、これほど嬉しい言葉をかけられたことがあっただろうか。よし、いいことを考えた。ここのお代は………」

 

 金髪コックがそこまでいいかけた時、後ろから現れた凄い髭のコックスーツの男が、彼の脳天に踵………いや、義足の先を叩き込んだ。

 

「女を口説くのもホドホドにしろ。早く仕事しやがれ色ガキが」

 

「何しやがるクソジジイが!!」

 

 その後、二人は喧嘩を始め吹き飛ばされた金髪コックは悪態をついて奥に帰って行った。私は軽く息を吐く、正直あんな風に迫られるのは慣れてないからビックリした。

 

「騒がしくして悪かったな、『紅髪のメイリン』」

 

 そこで残った凄い髭のお爺さんが声をかけてくる。私の髪の色からついた渾名を呼んだってことは私の事を知っているのだろう。有名になるようなことなんてしてないのになーなんて思いながら返事を返す。

 

「あ、あはは、驚きました。あんな風に言われたのは初めてでして、嬉しいとかよりも困惑が先に来てしまいまして」

 

「アイツの話は話半分にでも聞いてくれ。いや、無視しても構いやしねぇ。ただの色ボケのくそガキだからよ」

 

 自分の所のコックをそこまでこき下ろすかー。なんて思いながらひきつった笑いを浮かべる。ってかそれしか出来ない。

 そう言えば大尉のフルボディさんがこの店の予約をしたって話を聞いたっけ? それまでに会ったらとっても美味しかったですよーって言っておこう。私はそう思ったのだった。

 

 

 

 

 




 ちなみにゾロは迷ってます。むしろ原作で迷わなかった方がおかしい


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C・クロ

 始めといて難だけど、霊夢って一人称視点の主人公としては書きにくい部類だと思う。もう少し内面の出やすいキャラにすればよかったかもしれない。……………チルノ?


それはともかく本編


 

 

 残る敵は催眠術師の変な男だけ。後は死に体ばかりの烏合の衆。何本か針をぶっ刺してやれば、私達の勝ちだ。そう思っていたのに面倒なことになった。

 まだ船の中に敵がいた、それも二人。面倒なことに今の雑兵をすべて合わせてもこの二人の方が強いだろう。ここに来て増援なんて面倒なことこの上ない。

 ふざけた格好をしたニャーバン兄弟と名乗った二人組はデブと細マッチョの二人。しかしなにやら二人は戦いたくないようで、船長の変な男と揉めている。

 

「お前ーーー!! 覚悟しろーーーっ!! このカギヅメでひっかくぞーーーっ!!」

 

 べそをかきながら走ってくる細マッチョ、私はそんな3文芝居に付き合ってやるほどお人好しじゃない。振り下ろされたカギヅメを3本の針で受け止めて、もう片方の手に持っている針で相手を斬りつける。

 

「ッ!!??」

 

「何驚いてんのよ。糞みたいな芝居するならせめて殺気と戦意を隠しなさい」

 

 受け止めた方の針を引っ込めて、拳を作っておもっきり振る。しかし細マッチョにはかわされ、いとも簡単に腕を捻りあげられてしまった。

 

「あっ………ぐぅ……」

 

「なんだ? 猫かぶりを簡単に見破ってくるからかなりのやり手かと思ったが、そうでもねぇのか?」

 

「っ………。あんな三文芝居に騙される奴がいるなら、それは相当鈍いか間抜けな奴ね」

 

 体が重い。いや違う、体が覚えているほど動かないが正解だ。技術的な物は体が覚えているで何とかなる。針を狙ったところに当てるとかは殆ど何も考えなくても出来る。

 しかし、身体能力が単純に落ちている。頭に描いたビジョンは、向こうに反応される間もなく、細マッチョを殴り飛ばしていた。しかし現実は、私の認識よりも拳が遅い。これは記憶喪失だけじゃない、私は本来あるべき能力も失ってやがる。

 

「やれブチ!! 出番だ!!」

 

「がってんシャム!!」

 

 ブチと呼ばれたデブは、細マッチョの声を聞くと空高く舞い上がる。あの巨躯でなんつー身軽な。

 そこで相手が何をしようとしてるのか理解した。あのデブ、私を踏み潰す気だ。

 腕を掴まれて逃げれない私は、必死に抵抗するが逃げる術がない。 

 

『猫殺っ!! キャット・ザ・フンジャッタ!!!!』

 

 それが炸裂する瞬間、私とデブの間に一筋の光が差し込む。それが刀が太陽の光を反射した物だと気付いたとき、私は解放されていた。

 

「ッ!!」

 

 間に入ったゾロは、私を拘束しているシャムと呼ばれた男を斬りつけた。それをかわす為に私の拘束を解くしか無かったのだろう。

 

「っぅーーーーーっ!! おっそいわよゾロ!! 何してたのよ!!」

 

「うるせぇ!! 先々行きやがって!! ギリギリ間に合ったんだからいいだろうが!!」

 

 正直今のは危なかった。助かったのは事実だが、それを認めるのはシャクで、文句を言う。

 

「それに関しては感謝してるわよ」

 

 軽く舌打ちをしながら感謝の言葉を吐いて、針を構え直す。

 ともかくこれで2対2だ。自分の戦力を下方修正して、状況を考える。向こうの増援が最後ならこれで勝ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾロの参戦。呑気に爆睡中のルフィはともかく、あの二人組相手なら負けやしない。少し息を吐いて、体の力を抜く。どうにかしてルフィを叩き起こせないかなぁと思うが、立ち位置的に厳しいものがあるな。

 ニャーバン兄弟に押し込まれて、坂の中腹位まで戻されてしまった為にルフィを起こすためには二人と変な男を抜く必要がある。ルフィさえ起こせれば詰みなんだけれど、中々に難しい。

 そんな時だった。敵の集団が怯え始めたのは。

 

 振り返るとそこにいたのは見覚えのある執事服の男。昨日軽く会っただけで会話も交わしていない。その形相は本当に同一人物か疑わしい程に怒り狂っていた。

 

「何だ このザマはァ!!!!」

 

 なるほど、コイツは海賊だ。自分がウソップに語った海賊像と完全に一致している。

 

 

 キャプテン・クロがそこにいた

 

 

「まさかこんなガキ共に足止めくってるとは………、クロネコ海賊団も落ちたもんだな。えェ!!?? ジャンゴ!!!!!」

 

 声量だけで空気が震える。周りにいるだけの私が煩わしいと思うそれが、直接向けられるジャンゴやニャーバン兄弟はどんな思いだろうか? そんなもの連中の顔を見てみたらすぐに解る。脂汗にまみれながら蒼白な顔になっているのだから。

 

「だ、だがよ?! あんたあの時、その小僧は放っておいても問題ないって………、そう言ったじゃねぇかよ!!」

 

 勇気を振り絞ってと言った様子でジャンゴはキャプテン・クロに言葉を発する。

 

「言ったな。言ったがどうした? 問題はないはずだ。こいつが俺達に立ち向かって来ることくらい容易に予想できていた。ただ、てめェらの軟弱さは想定外だ」

 

 軟弱。その言葉に怒りをあらわにするニャーバン兄弟。ブランクのある相手に負けるほど落ちぶれちゃいない。そう叫んで私たちをそっちのけでキャプテン・クロに斬りかかった。

 それで終わりだった。音もなく、気配もなく、ただキャプテン・クロの姿だけがかき消える。‘抜き足’と呼ばれた高速の移動術を前にニャーバン兄弟は目覚めた反抗心を根本から叩きおられた。

 

「五分やろう。 五分でこの場を片づけられねェようなら、てめェら一人残さず俺の手で殺してやる」

 

 悲鳴を上げる海賊達。私とゾロを殺せば切り抜けられる。そう叫んでニャーバン兄弟は私たちに突っ込んできた。

 

「あの細いのは私がやる。デブは任せた」

 

 私の言葉にゾロは刀を構える。

 

「俺一人で十分だ」

 

 ゾロは両手に刀を構え、一本を口にくわえる。そうか、そこそこマトモかと思ってたけどこいつも変人枠か

 しかしまぁ一人でやると言っているなら任せるか。そう思って息を吐いた。少し疲れた。

 

『虎狩り!!!!!』

 

 一撃。二人に3本の刀を叩き込み、その一撃で二人は吹き飛んだ。

 ってか強いわね、特に顎の力が。あれ、歯とか折れないのかしら?

 

「せ、船長。俺に、俺達に催眠をかけてくれ!!」

 

 二人とも息があった。デブは厚い脂肪で致命傷に届かず、もう片方は目測を誤らせる為に着込んでいたであろう内張に阻まれて軽傷だ。しかし彼らは今のゾロの一撃で、力の差を理解してしまったのだろう。藁にもすがる様な様子でジャンゴに催眠をかけるように懇願していた。

 ………………あれ? やばくね?

 

「うぉおおおおあああああああああああああ!!!!」

 

 さっきかけた催眠術、パワーアップしてキズが治るあれだ。ゾロが斬りつけた痕は残っているが、そこそこ深い傷だったにも関わらず塞がっている。マジか、さっきの雑兵でも崖を砕くほどにパワーアップした催眠を、あの二人がするなんて。

 

「なんだぁ? ありゃ」

 

 さっきのを見ていないゾロは呑気にそんなことを言う。

 

「催眠よ。思ってるよりはバカに出来ないパワーアップだから気を付けて」

 

「パワーアップか、そりゃいい。あまりにも手応えがなくてどうしようかと思ってた所だ」

 

 二人とも仕留め損なったくせに偉そうな。そんな言葉が浮かぶが助けてもらったのも有るのでスルーすることにした。

 

「起きろぉ!!!」

 

 そんなことをいっている間に、いつのまにか走っていたナミがルフィの頭を踏んづけていた。

 

「ナミ危ない!! よけろっ!!!」

 

 ゾロが叫んだタイミングで私は手に持った針を投擲する。ナミがルフィを起こすために走っていったのを察していたジャンゴが、催眠術に使っていたチャクラムを投擲していた。

 気付いたのはギリギリ。正直、ゾロが叫んでいなかったら間に合わなかったかもしれない。投げた針はチャクラムに命中して弾かれ、地面に落ちた。

 

「ナミ!!よくも顔を踏んづけやがったな!!」

 

 そして顔面を踏まれたルフィは立ち上がり、戦線に復帰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆殺しまで、あと3分」

 

 ルフィの復活に悲鳴を挙げた海賊団は、その言葉に絶望の声を上げる。

 そんな時だった。件のお嬢様が現れたのは。

 

「クラハドーール!! もうやめて!!!」

 

 思わず舌打ちをしてしまう。最重要の護衛対象がなんでこんなところに……

 

「メリーから全部聞いたわ」

 

「ほぅ? あの男まだ息がありましたか。ちゃんと殺したつもりでしたが……」

 

「ッ!!??」

 

 お嬢様は‘クラハドール’に語りかける。もうやめてくれと、自分の持っている財産は全てあげるからと。

 しかしそれに対する‘キャプテン・クロ’は欲しいものはお金だけじゃない。欲しいものは平穏だと答えた。

 

「ここで3年をかけて培った村人からの信頼はすでに、なんとも笑えて居心地がいいものになった。その平穏とあなたの財産を手に入れて、初めて計画は成功する」

 

 お嬢様はその言葉に決意をしたような瞳で銃を構える。お嬢様はそれでも

 

「覚えていますか? 3年間いろんなことが有りましたね。あなたがまだ両親を無くし床に伏せる前から随分長く同じ時を過ごしました。一緒に船に乗ったり、町まで出掛けたり、あなたが熱を出せばつきっきりで看病を……。共に苦しみ共に喜び笑い、私はあなたに尽くしてきました。夢見るお嬢様にさんざん付き合ったのも………」

 

 一息

 

「それに耐えたことも……。全ては貴様を殺す。今日の日のためっ!!!」

 

 ウソップは激昂する。当たり前だ、端で聞いているだけの私でさえ胸糞が悪くなってくる話なんだ。お嬢様と同じ村で過ごして、仲良くしていたウソップは怒りで前も見えなくなってしまっている。そして実力差や恐怖なんて完全に頭から消え失せたのだろう。

 

「クロォオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 

 怒りで前が見えなくなったウソップは、キャプテン・クロに殴りかかる。しかし例の無音の移動術で簡単にかわされて、キャプテン・クロが手に装着した猫の手と呼ばれる長いカギヅメで彼を殺そうとした。

 私は再び針を投擲しようと構えたところで後ろから

 

「レイム!! そこを退け!!」

 

 そんな声が聞こえてきた。咄嗟に頭を下げるとそこに凄まじい速度で拳が飛ぶ。それはキャプテン・クロの顔面を捉え、ぶっ飛ばした。

 

「ちょっと!! 危ないじゃない!!」

 

「だから退けって言っただろ?」

 

「言ったけど、言ってから殴りなさいよ」

 

「それじゃあ間に合わねぇじゃねぇか」

 

 益体も無いことを話しながら、ルフィの腕を見る。伸びた腕はもう戻っている、まるでゴムみたいだな。この世界の人間はみんな伸びるのだろうか? いや、クロネコ海賊団の連中も驚いているし、そう言うわけではないのか。

 その直後、ウソップの子分が現れてキャプテン・クロの顔面をフライパンだのこん棒だので殴りまくる。しかしそれを意に介した様子もなく、興味深そうな目でルフィを見て、言った。

 

「随分と奇っ怪な技を使うもんだ。貴様、悪魔の実の能力者だな………!!」

 

「あぁ、俺はゴムゴムの実を食った、ゴム人間だ」

 

 その言葉に、海賊たちはまた悲鳴を上げる。あいつらあれしか出来ないのだろうか?

 にしてもゴムゴムの実ね。なんだそりゃって言いたいが、納得だ。ルフィの体はそれこそゴムのように縮むし伸びている。体質か何かかと思っていたが、変な食べ物を食べてそうなるとは。拾い食いは出来るだけしないでおこう。

 

「ジャンゴ!!! その小僧は俺が殺る。お前にはカヤお嬢様を任せる。計画通り遺書を書かせて殺せ」

 

 キャプテン・クロが叫ぶ。どうやらルフィと戦るらしい。ルフィなら多分問題ない。あいつならきっと何とかなるだろう。なら私の役目は簡単だ。

 

「ゾロ、お嬢様につきなさい」

 

「あぁ?」

 

「あの二人は私が足留めする。ルフィがあの鬼畜眼鏡を相手にするなら、私たちがやるべきはお嬢様を守ることよ」

 

 この戦いはお嬢様を守り抜く事が出来れば勝ちだ。そして、ジャンゴとキャプテン・クロを倒しきれば完勝だ。

 催眠でどれだけパワーアップしてるか知らないが、二人のうち片方でも行かれてしまえば負けは確実。ゾロがついていればジャンゴだけなら何とかなるはずだ。それに何より

 

「あの二人に集中させて。なら勝ってみせるから」

 

 自分の体のスペックは理解した。それなりに使ってしまったが、針はまだ残ってる。それになにより負けっぱなしはムカつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウソップが子分三人を促して、お嬢様を連れて森に入る。それを追いかけるジャンゴ、ルフィにかかりきりになっているキャプテン・クロは、ゾロを追いかける事が出来ずに、こちらのもくろみ通りゾロをお嬢様の護衛につけることが出来た。後は任せるしか無い。

 

「すぅぅーーーーーーー」

 

 息を大きく吐く。催眠で我を忘れているのか、常に激昂しているニャーバン兄弟が飛びかかってくる。

 

「ーーーーふぅ!!」

 

 息を吐き出して、目の前の敵に集中した。

 目の前のカギヅメを、両手に構えた針で受け止める。指の間に挟むやり方だと握力が足りないから、一本の針をおもっきり握りしめてだ。

 ギィンなんて音がして、カギヅメが止まる。バカみたいな力がかかって足元の地面に亀裂が入った。このままじゃ力負けする

 後ろに引いて、針を投擲。それは相手の掌を捉え、突き刺さる。

 

「ぐぅうううう!!!」

 

 針は貫通してそのまま地面に落ちた。デブの方の腕は潰した。これなら

 

「ブチィ!!!!」

 

「ッ!!??」

 

 気がついたら後ろにいたシャム。後ろから突撃してきたせいで私は体勢を崩した。そのまま私はシャムに押し倒され、体を固定された。

 

「ッ!!……この!!」

 

 動かない。膂力では完全に負けている。

 

『キャット・ザ………』

 

 気がついたら、ブチの方が飛び上がっていた。あの地面を割ったアレか。あれが頭に直撃すればさすがに死ぬ。しかし押さえられた腕はピクリとも動かない。頭に直撃するまであと一秒もない。

 どうにかしないとと思った所で頭のすぐそばでそれを見つけた。

 

『フンジャッ…………ッ!!??」

 

 それは私が投げ散らかした針だった。咄嗟に口でとって、地面と垂直に立てた。足の裏で私を踏み潰そうとしていたブチの足に針が突き刺さる。痛みでブチは技を解き、転げ回ってしまった。ってかあの針何でできてるんだろ? 始めから持っていたけど、あの地面を割るような攻撃を受けても折れないどころか突き刺さってるなんて。

 

「ブチ………がぁっ!!!??」

 

 ブチをやられて気が緩んだ隙に渾身の力でシャムの腕を振り払う。チャンスだ。

 袖口から針を取りだしながら体勢を立て直し、シャムの顔面に全力の蹴りを叩き込んだ。吹き飛んだシャムは転げ回り続けるブチの隣まで滑った。

 

『封魔ァ針!!!』

 

 針を取り出して投げる。一回の手の振りで3本、両手で6本。2回やれば12本。4回で24本。20回も繰り返せば100本を超える針の投擲。その全てがニャーバン兄弟に突き刺さった。

 

 

「よし………終わり!!」

 

 

 もはや剣山の様な見た目になってしまったニャーバン兄弟を見て、勝利を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「モンキー・D・ルフィ。名前を捨てて海から逃げるような海賊に俺が負けるか!! 海賊が名前を捨てるときは死ぬときだけで十分だ。俺の名前を一生覚えていろ。

 

 

俺は、海賊王になる男だ!!!」

 

 

 

 勝った。ルフィは勝った!! 信用していなかった訳じゃないけれど、あの速度で翻弄されたら負けても仕方ないかもしれない。仕方ないから加勢しようかと思ったが、ルフィに目線だけで止められた。『杓死』とか言う技を使われたときは危なかったくせに。調子いいやつめ。

 

 ゾロも無事、自分の仕事をこなしたらしい。最後はゾロの背に乗ったウソップが決めたそうだ。アイツも中々やるじゃないか。

 私は撒き散らした針を回収する傍らウソップの話を聞いている。この針無駄に頑丈だけど何で出来てるんだろう? 鉄っぽくもないし、なんだったら金属っぽくもない。

 

「ありがとう。お前達のお陰だよ。お前たちがいなかったら村は守りきれなかった」

 

 清々しい笑顔でウソップは言う。全く。

 

「なに言ってやがんだ。お前がなにもしなきゃ俺は動かなかったぜ」

 

「おれも」

 

「私も…………って、あ。あいつらに私の事知ってるか聞くの忘れてたわ…………まぁいいか」

 

「そうよ、どうでもいいじゃない。宝が手には手に入ったんだし♪」

 

 皆、私も含めて上機嫌だ。ナミに関しては即物的な理由みたいだけれども。

 針の回収が終わって、また袖口の中に入れる。最後の一本を収納したところでウソップは声をあげた。

 

「おれはこの機会に一つ、ハラに決めたことがある」

 

 彼はそんな言葉を、清々しい笑みで言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 お嬢様の計らいで、今回の一件の報酬と言うとあれだが、船をもらうことになった。型はキャラヴェルと呼ばれる帆船で、名前を『ゴーイング・メリー号』と言うらしい。

 立派な船だ。私たちが乗ってきた小舟なんか轢かれたら砕け散りそうだ。

 

 説明をナミが聞いている間に、待っていた奴がやって………転がってくる?

 

「ぎゃぁああああ!!!! 止めてくれェええええーーー!!!!!」

 

 大量の荷物のせいで転がっているウソップ。来るとは思ってたけど、ハデな登場のしかただわ。

 船に直撃すればせっかく手に入れたのに穴が空きかねない。そんな理由でウソップはルフィとゾロに足蹴にされて止められていた。せっかく立派な鼻もへしゃげている。

 

「お前らも元気でな!!またどっかで会おう!!」

 

 お嬢様との別れを済まして、私たちになにやら検討違いな台詞を投げ掛けてくる。全く何をいってるんだか

 

「何言ってんだよ。早く乗れよ」

 

「え?」

 

「いつまでも出港できないでしょ? その荷物こっちに移しなさい」

 

 その辺でウソップの顔に驚愕の色が浮かぶ。まさか本当に別々にいくつもりだったのだろうか? こいつは。

 

「俺達、もう仲間だろ?」

 

 その台詞でウソップは飛び上がった。世話のかかるやつめ。

 

「キャ……!! キャプテンは俺だろうな!!」

 

「ばかいえ!!俺がキャプテンだ!!!」

 

 そんなやり取りの後、船は出向する。荷物の整理をしていると、気が利くわね。酒もいっぱい積んであるじゃない。それをルフィ達にみせると、満場一致で宴が始まる。

 

『乾杯だーーーー!!!!!』

 

 私は珍しく、きっと本当に珍しく、満面の笑みを浮かべながら皆と一緒に叫んだのだった。

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

「私を呼び出すなんていい度胸しているじゃない? ねぇガープ?」

 

「ふん、たまにお前さんの所在を確認しとかんと何をしてかすが解ったもんじゃないからの。ほれ、付き合わんかい」

 

 シャボンディー諸島にある一件の酒場でモンキー・D・ガープは呼び出した相手と酒を飲みかわしていた。ガープの前に座る女はふわふわとした緑色の髪をしていて、特徴的なチェックの柄の服を着ている

 

「まぁこの酒に免じて許してあげるわ。それなりに長い付き合いだしね」

 

 そういって、刹那でグラスを空にする。

 

「早いわ!! もうちょっと味わって呑まんか!! お前を引っ張り出すためにかなりの金額を叩いたんじゃぞ?」

 

「だからこうやって来てるじゃない。で?何なのよ?まさか酒を奢ってくれる為だけに呼んだんじゃないでしょ?」

 

「全くお前さんは………。ワシを振り回すのは孫のルフィとお前さん位じゃわい」

 

「あら? あなた孫なんかいたの? そう言えば、あなたの息子にも、あったことないのよねぇ、私」

 

「ふん、あの時代の海を知るものも随分と減った。ワシは老いたが、お前さんはあの頃のままだの。え?幽香?」

 

「……………」

 

 その言葉を聞いた風見幽香は軽く息を吐いて、目の前のジジィの息の根を止める方法を考えたのであった。

 

 

 

 




 幽香りんかわいいよ幽香りん。東方からの参戦キャラは確定してる奴以外は地味に決まってない。減らすつもりはないけど増やすのは未定な感じです。

 今年も後僅かです。皆さん体調にはお気をつけください


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幕話

 説明回です。


 

 八雲紫。幻想郷の創始者にして管理人の一人。私はニコニコ(にやにや?)と胡散臭い笑みを浮かべているスキマ妖怪を目の前にしていた。

 

「さて、私がここに来た要件は理解しているかしら? 八坂神奈子」

 

「さぁね? 皆目見当もつきやしないよ、スキマ」

 

 その胡散臭い笑みにちゃぶ台を挟んで対するは、凶悪な笑みを浮かべている、私のお仕えする神様の八坂神奈子様。この御二人が睨み合っている様はどうにも心臓に悪いっす。

 白黒から、お前は心臓には毛がびっちり生えてそうだよなー、なんて言われたけれども、この光景を見たらアイツだって縮み上がるに決まってるっすよ。

 

 あ、申し遅れました。私、東風谷早苗って言うっす。 え? 誰に挨拶してるかって? そりゃ奇跡の向かう先っすよ。訳わかんないっすか? 大丈夫っす。私もよくわかってないっすから。

 

「…………………まぁいいわ。取り敢えず今は状況の説明に来たの。私としては必要が有るのか謎だけれども、あなたのところも消えている人はいるしね」

 

 そう言って、八雲紫はチラリとこちらを見る。いや、あれはチラリなんてものじゃないっすね。ギロリでした。

 ギロリと流し目で見るなんて、中々難しいことをやってのける人っすね。年を取ればそんな器用な真似を出来るように成るんでしょうか? あんまり使う機会のない技術だと思うっすけど

 

「まず、あの子達のいる世界について解っていることを言うわ。残されていた霊夢達の力の痕跡を辿ることで見つけることが出来たわ。星が違うとか次元が異なるとかそんなレベルではない異世界に霊夢達は飛ばされたの。

 理由については取り敢えず置いておきましょう、原因については究明中だしね。

 

 その世界は、星の殆どを海で覆われており、小さな島々が転々と存在する、そんな世界よ。

 そして問題なのがここから、その世界は幻想種がわりと普通に存在しているわ」

 

 私はその言葉に目を見開いてしまった。

 

「もちろんその世界でも伝説級の生き物はそう言う扱いを受けているし、本当に噂話程度の存在で、形を取ることが出来ない者達もいたわ。だけどあの世界なら、信仰心が存在に不可欠な神はともかく、‘妖怪連中なら問題なく存在できる’でしょうね。なんせその世界、ある場所では超常現象が当たり前のように存在しているんだもの。

 あの世界を見て笑ってしまったわ。あんなものが有るなら幻想郷を作る必要もなかったじゃないってね」

 

 八雲紫は言葉を区切ると、スキマを出現させる。そこからお茶と煎餅を取り出して、ついでの様に一つの果物を取り出した。

 それは何だかリンゴの様な見た目をしているが、すぐに違うとわかる。なんせ渦巻きの様な気持ちの悪い模様がびっしりと描いてあったのたから。しかも何だか気味の悪い力をその身から感じることが出来る。私の知ってるなかで一番近いのは魔力っぽいっすね。

 

「何っすかこれ? お茶請けにしては不味そうっすけど」

 

「実際不味いらしいわよ? これはリキリキの実って呼ばれてる向こうの世界の果実の一種よ。総じて悪魔の実って呼ばれているらしいわ。一つ失敬してきちゃった」

 

 てへ♪ と本人は可愛らしいと思っているのか、頭に握りこぶしを当てて舌を出してウインクをする紫。正直自分の年齢のうん百倍の存在がやってる様はなかなか心に来るものがあるっすね。正直キツいっす。

 

「こほん。この悪魔の実を食べると体に悪魔が宿って能力を一つ獲ることが出来るらしいわ。例えばこのリキリキの実を食べれば揚力を操る揚力人間に成れるらしいわよ? 同じところにあったこの悪魔の実図鑑とかも借りてきたんだけど読む?」

 

 スキマから中々分厚い本を取り出して聞いてくるので貸して貰うことにした。パラパラとめくってみたけれど意外と面白そうっす。

 

「白黒魔法使いみたいなことを言うね……。そんなことはどうでもいいんだ、私としてはこの異変に解決の目処がたっているのかいないのかが気になって仕方ないんだが?」

 

「あぁそうね。結論だけ言えば目処はたったわ。実行可能かどうかは置いておいてね。

 

 あの世界では私も力を大幅に制限されてしまうの。理由の検証はそう言うのが大好きな連中に任せるとして、そのせいで霊夢達を探すことが出来ないわ。精々帰還用の小さなスキマを少し開いたり、何かを取り出したりする程度の力しか使えなかった。概念の境界を弄るなんて全く無理ね」

 

 この妖怪、境界を操ると言うドン引きクラスの能力を持っている。何が問題かって言うと、操る事の出来る境界は概念的なものにも及び、かつての異変では昼と夜の境界を操って太陽と月が同時に登っていくなんて訳のわからない天候にしたこともあった。この能力、手加減して使えばスティッキィ・フィンガーズごっこも出来るんすかね? 出来るならやってみたいんすけど。

 

「ふぅん? 能力は多少でも使えたんだね? じゃあ妖力はどうだったんだ?」

 

「殆どは使えないわ。本気の妖弾はおろか、弾幕ごっこ用の弾でさえ使えなかったわ。ただし、殆どってのがミソね。

 幾つか検証してみたんだけど、個人の固有の能力なら多少は発動可能みたいですわ。ただし、大幅に弱体化してたけれども。そして魔力や妖力、霊力といったものは使おうとすることすら不可能でしたわ。まるで世界に存在することを許されないかの様にね。

 すなわち、と言うとあれなのだけれども、あの世界に存在するであろう神が認めた力なら使うことが出来るんじゃ無いかしら? 事実、あの世界特有の力も存在するみたいだし、その力なら私でも扱うことが出来ましたわ」

 

 もっとも、質が違いすぎて使いこなすことなんて出来ませんでしたが、と付け加えて紫は言葉をきった。

 

「……………肝心の方法を聞いてないよ? 言う気がないなんて言わないだろうね?」

 

 神奈子様は眉をひそめながら言う、その言葉に紫は鼻をならして答えた。

 

「勿論そんなつもりはありませんわよ? 

 あの世界において、私のスキマでは出来るのは目の前の人間を移動させるくらい。あの広い世界で指針もなく消えた連中の場所を特定するのは不可能に近いですわ。

 ただ、都合よくこちらの世界から向こうにいる人達の場所を知ることが出来るものがありますのそれが………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それがこれよ」

 

 冥界、白玉楼。霊魂達の楽園で、お茶をすする一人の亡霊がいた。

 そこで西行寺幽々子は親友である紫の言葉を聞いていた。

 

 ちなみに現在、亡霊とは思えない程大食漢であり、その食生活を賄っていた妖夢が消えたことによりとても困っていた。具体的にはやつれていた。

 

「なんでもいいわよ~。ようむ~。早く帰ってきてぇ~」

 

「はぁ……あなたね。もう少ししゃんと出来ないの? と言うか、その妖夢ちゃんを連れ戻すのに必要な情報だって言うのに」

 

「だってぇ~」

 

 ぐぎゅるるるる、と彼女のお腹から切ない音が鳴り響く。紫は小さくため息をつくとスキマを取り出してそこに向かって二、三言葉を発した。

 

「藍にご飯作るように言ったから少し我慢しなさい。出来るまで話を続けるわよ?」

 

「やぁよぉ~。妖夢のご飯がいいのぉ~。藍ちゃんがご飯作ったら油揚げ定食になるじゃない」

 

「あの子は人に作るときはちゃんとしてるわよ。ちなみに自分で自分のご飯を作るときは油揚げ定食じゃないわ。油揚げに油揚げを乗せてそれを油揚げで挟んで油揚げに詰めたものを料理と言い張って食べてるわ。ドン引きよ」

 

「それ、ただの油揚げじゃない」

 

 余りの衝撃に一瞬素に戻る幽々子。そこまで行ったら普通に油揚げを大量に食べてる方がマシな気がする。

 

閑話休題

 

 紫が取り出したそれを幽々子は手に取る。それは二振りの刀だった。そしてその形を彼女はよく知っていた。

 

「白楼剣と楼観剣? いえ、違うわね」

 

「えぇ、違うわ。これは妖夢ちゃんが残した霊力を、固めて打ち直したものよ。言ってしまえばその二振りのレプリカね」

 

 ちなみに本当の白楼剣と楼観剣は妖夢が残した霊力と記憶の塊の隣に落ちていたらしい。

 

「へぇ? あのこの力ってこの形に成れるのねぇ。面白いじゃない」

 

「面白がるのはいいけど、重要なのはそこじゃないわよ。向こうの世界では、霊力や妖力は存在しない。だからこうやって形を与えてしまえば向こうの世界でも使えるようになるって寸法よ。

 検証の結果は成功。私もスキマで似たようなことをしてみたけれど、思ったより上手く行ったわ。弱化は否めないけれど、普通に使うよりはマトモに能力が使える」

 

 紫はスキマを作り出すと、それを握り潰すように手に取る。

 手の中には一つの果物が出来ていた。

 

「向こうの世界での力の形の一つ、悪魔の実。それをモデルに私の能力を閉じ込めたものよ。コレを食べれば境界を限定的だけど操ることが出来るようになるわ。

 そうね、ケイケイの実とでも呼ぼうかしら? 食べたら境界人間に成れるわよ」

 

 不思議な模様がかかれた果物を弄びながら紫は言う。

 

「つまりそれを食べればあの悪趣味なスキマにいつも付きまとわれるのね。あぁ恐い」

 

「酷いわね。私の可愛いスキマちゃんに何て事を言うのよ」

 

 紫は自ら作り出した実を食べ、体を大きく震わせた。そして舌を出して眉を潜める。

 

「うえぇ……。これ、向こうの悪魔の実をモデルにしてるから共通する事象は変えられないのだけれども、本当に不味いわね。形容しがたい何かを感じるわ…。SAN値減りそう……」

 

「あなたどちらかと言えば減らす方でしょうに」

 

 幽々子はお茶を一口すすり、口を開く。

 

「取り敢えず、能力については理解したわ。消えた人達の力を刀や向こうの世界の能力に加工することで、あちらでも使える様にするって事ね。

 成る程、いい考えよ。でも紫? 肝心なことを忘れているわ。そしてこの肝心な事が解決すれば全ての問題が片付くの。解ってるでしょう?」

 

「ええ解ってるわ。そしてそれについての解決目処ももう少しでつきそうだし、上手くいけばすぐにでも解決しそうなの。

 でも今回の異変、巻き込まれた連中には悪いけど、中々使えると思ってるの。少し幻想卿の技術発展に利用させてもらおうと思ってね。あの連中の策に乗るのはシャクだけど、それ以上のメリットが有りそうだから私は乗ることにしたわ

 取り敢えず………………。」

 

 そこで紫は立ち上がる。そしてスキマからさっきのとは別の身の丈よりも長く、赤と白に彩られた刀を取り出して

 

「これを霊夢に届けなくっちゃね」

 

 そう言った。

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 「くしゅんっ…………!! はぁ、なにか渋みの有る温かいものが飲みたいわ……」

 

 

 




 説明回でした。難産な上にあんまり上手く説明できなかった……。解りにくかったらごめんなさい

 
 皆さんよいお年を~


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お茶

 後れ馳せながら明けましておめでとうございます。更新が遅くなって申し訳ありません。今年もよろしくお願いします

 誤字脱字の訂正ありがとうございます。助かってます!!


ウソップが仲間に加わり、なんやかんやで旅のメンバーも5人になった。めでたい事だ

 しかし私の記憶の手がかりは一向に見つからない。悲しいことだ

 

 偉大なる航路に向けて歩みを始めたゴーイングメリー号は、以前乗っていた小舟の比ではない速度で進んでいた。やはり大きな船だと進む速度も速いのだろうか? その辺あまり詳しくないのでよくわからない。今度ナミに聞いてみようか?

 

 私はそんなゴーイングメリー号の甲板の上で酒を飲んでいた。度数の高いウォッカをチビチビと飲んでいる。飲みながら「これじゃないなぁ」なんて思っているのはあしからず。酒しか飲むものが無いのが悪い

 

 さて、海賊旗も決まりウソップも狙撃手に落ち着いて、波も穏やか舵取りも暫くは真っ直ぐで必要ない。何時ものようにルフィとウソップが騒いでいるが、まぁ問題ないだろう。大砲を撃つのは正直やりすぎだと思うが

 

「コックねぇ……」

 

 そんなこんなで船内に集まって、全員で昼食を取っている。お嬢様が積んでいてくれていた食料を食べながら、船の旅にはコックが必須だと言う話をしていた

 しかしルフィは音楽家こそが海賊には必須だと言っている、そして周りから総ツッコミを入れられるまでが一連の流れだ。

 

 というかこいつ、私が言うのもなんだけど航海に必要なものを一切持っていないな。聞いた話だと仲間になった順番はゾロの方が先らしいし、こいつらナミが仲間になるまでどうやって海を渡っていたんだろうか?

 

「あら?」

 

 食後に何か飲み物でもないかと探していると、なにやら見覚えのある物があった。いや、見覚えと言ってもそれについて何か知っている訳では無いのだが。

 

 私の記憶喪失は色々よくわからない。この世界の一般常識は全く覚えていないのだが、生きるために必要な事、食べ物の食べ方とか箸の持ち方とか、そういった体に染み付いているような事は覚えている。さらに言葉は忘れていないみたいだし、食べられる野草とかも意外と覚えていた。いまいち自分の覚えている範囲がよくわからないなぁ

 

 しかし、今見つけた‘それ’は私の心をどうにも引き付けてやまない。まるで私の体の半身を見つけたような、そんな気分にさせられる

 

「ねぇ、ナミ。これってなにか解る? お嬢様が積んでいてくれていた荷物に紛れてたんだけど」

 

 困ったときの解説役のナミさんだ。ツッコミ役といい本人に許可のない称号が増えていく

 

「なによレイム………。ってただのお茶じゃない? 知らないの?」

 

「だから記憶喪失だっていってるでしょーが」

 

「あぁ……、あんたって、いつもふてぶてしい上にのんびりしてるから、そんな事言っていたの忘れてたわ。

 これはお茶よ。ただの緑茶」

 

「緑茶…………」

 

 目の前の茶葉と急須。あぁ、何故忘れていたんだろうか。思い出した。

 

 きっとこれは本来なら不可能なことだ。何故なら、私にお茶を飲んだ覚えなんて無い。その手の記憶は綺麗さっぱり抜け落ちている

 しかし‘その程度’で、私のお茶への愛を止めることなど出来やしない。当たり前だ。記憶がないから何だ? 覚えてなくとも体が覚えている。

 

「ナミ、それ貸して」

 

「え? ちょっとレイム………?」

 

 私は手に取った急須にお茶葉を入れ、お湯を沸かして少し冷ます。そのお湯を急須に注ぎ、待つ

 

「えっと………レイム?」

 

「黙って」

 

 茶葉が開いたら少し回して湯飲みに注ぐ。最後の一滴までしっかり絞り出してそれを啜った

 

 

「………………………………ふぅ」

 

 

 あぁこれだ、心に染み渡る。体が何を求めていたかはこれなんだ。口に残る苦み、素朴さ、私の魂に染み付いた原初の味だ。なんと言うか、あれだ。心の故郷的なやつだ

 

「美味しい………」

 

「いや、いったい何よ!!??」

 

 ちなみに記憶は戻りませんでした。多分お茶に関しては日常的に飲んでいたんだろうなぁって思ったけど

 

「ただのカフェイン中毒じゃないの? それ」

 

「失礼な」

 

 私は湯呑みに注いだお茶を、干し肉をお茶請けにしながらゆっくり味わっていた。二番煎じだがいい味だ。あのお嬢様は中々いい茶葉を用意してくれていたらしい

 

「それにしてもレイム、あんたって本当によくわからないわねぇ。

 変な格好してるし、記憶喪失とか言うし、いつもボーッとしてるかと思えば戦いになったら強いし、船の上では海ばっか眺めてるし。

 ってか、なんでその服って脇が空いてんのよ。寒くないの?」

 

「動きやすいからじゃない? 意外と寒くはない。

 ……………………まぁ確かに自分が怪しい奴ってのは認めるわよ。自分でもこれはないわと思う程度には」

 

 固い干し肉を食べて、乾いた喉をお茶で潤してから一息。私は音楽家の必要性に熱く語るルフィとそれに乗っかり出したウソップ、もう全部がめんどくさくなってきたのか大あくびをしたゾロを見て、ナミに視線を戻す

 

「でも、この面子と船が気に入ってるのは本当よ。勿論、アンタも含めてね」

 

 にぃっと、軽く口角を上げて私は言った。ナミは面食らった様な顔になった後に頬を照れたように掻くと

 

「まぁ私もこいつらの事は気に入ってるわよ。海賊を名乗ってることを勘定しても、ね」

 

 そんなことを言ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで二番煎じの茶を飲み終わり、三番まではなんとか味が出ると希望と絶望の狭間で葛藤しながら湯呑みに茶(薄く色の付いたお湯とも言う)を注ぎ入れ、口をつけようとした時だった

 

『出て来い海賊どもォーーーっ!!! てめぇら全員ぶっ殺してやる!!!!!!』

 

 そんな叫びと共に船を滅茶苦茶に荒らす男が現れたのは。

 そしてその大声に驚いたウソップが大きくのけぞり、私にぶつかる。結果としてその拍子に持っていた湯飲みを放り出してしまい、ウソップに熱々のお茶が掛かってしまった。

 

「うぉあっちゃっちゃぁぁあーーーーーーーっ!!!!」

 

 ウソップがなにやら大騒ぎしているが、そんなことは問題じゃない。せっかく淹れた私のお茶が無くなった、それがいま一番の問題だ

 

 取り敢えずぶつかってきたウソップの頭に拳骨を叩き込み、外に出ようとしていたルフィを押し退けて外に出る。野郎二人が文句の声を上げていたが知ったことではない。

 

 そこにはサングラスをかけたガタイのいい男がいた。巨大な刃の付いた剣を片手で軽々と持ち、顔に大きく‘海’と刺青を入れている。そんな男が怒りに顔を染めて甲板で大暴れをしていた

 

「……………………あんた、誰よ。いや、誰でもいいわ。この野郎」

 

 何をそんなに怒り狂っているのか、私は知らないし知ったことではない。いま重要なのは私のお茶が、折角再び巡り会えたお茶がこいつの大声のせいでお釈迦になってしまったって事だ

 

「てめぇ、人の相棒を殺しかけといて随分不敵な面構えしてんじゃねェか……。こちとら名のある海賊の首をいくつも落としてきてる。名もねェ海賊風情が…………、俺の相棒を殺す気かァあああ!!!!」

 

 男は剣を大きく振り上げて、怒りのままに私に突っ込んでくる。このままだと秒もかからずに私に剣は振り下ろされるだろう

 

「あんたの相棒なんか知らないし、興味もないわ。いま重要なのは…………」

 

 振り下ろされた剣を持っている腕を狙って足を振り上げる。爪先がタイミングよく剣の握りにぶち当たり、そのままカチ上げる。素早く接近して鳩尾に拳を叩き付け

 

「私のお茶を返せ」

 

 引き抜いて顎に拳を叩き付けた。俗に言うアッパーカットである

 

「が、ぁか、…紙一重………か」

 

 男はそんな言葉と共に中に浮き、そのまま甲板に叩き付けられた。何よ全く……

 

「まぁ………2発入れたしいいか。多少スッキリしたし」

 

 思えば三番煎じまで行くとお茶の味はしない。貧乏性を、こじらせてるなと自己嫌悪しながら私は船室に戻るのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 男の名前はジョニー、そして相棒の名前はヨサク、かつて、ゾロと一緒に賞金稼ぎをしていた仲間らしい。そしてその二人は今、ナミから治療を受けて、自らの名を名乗っていた。にしてもナミの奴は本当になんでもできるな。ツッコミに医者に航海士に解説係、一家に一台ならぬ一隻に一人のナミさんだ。

 

 壊血病、それがジョニーの相棒ヨサクの命を蝕んでいた病の名らしい。原因はある種の栄養失調、具体的にはビタミンC が不足することによって起きる。昔は原因も治療法も解らない絶望的な、しかし船に乗る人間には当たり前の病だった。

 

 そして今、ヨサクはライムの絞り汁を桶いっぱいに飲んだことで復活し、元気に跳び跳ねている。人間の体ってそんな風に出来ていたのだろうか?

 

「ブヘェ………ッ!!!」

 

「ぬあ!!?? 相棒ォオおおおおおおーーーー!!!!」

 

 いや、やはりそんなことはなかった。飲んですぐに体が治るわけもない。ヨサクは再び血を吐いて倒れこむ、その様子にゾロが一喝して船室に押し込むのだった

 

「これは教訓ね…」

 

 ヨサクが気絶するように眠ったのを確認し、騒動は一端の落ち着きを見せ、一息ついてるときにナミはそう言った。

 その言葉にルフィを含めて全員が賛同する。船旅には必須とも言える食材の管理や栄養配分をできる人材、すなわちコックが必要だと

 

「よし決まりだ!! ‘海のコック’を探そう!! なにより船で美味いもん食えるしな」

 

 人一倍食い意地の張っているルフィにとっては重要なのはそこらしい

 

「ルフィ、あんたって質より量じゃ無いの? 食べれたら何でもいい的な」

 

「お前失礼だな!! 何でもいいわけないだろ、肉だ!!」

 

「…………………ちなみに牛と豚と鳥が並んでたらどれを食べるのよ?」

 

 私のその言葉にルフィは一切の迷いを見せずに

 

「全部だな!!」

 

「やっぱりなんでもいいんでしょ、アンタ」

 

 それならと、ジョニーが言葉を発する。すなわち、海上レストラン。そこなら海のコックがいっぱいいる、海賊になりたいって物好きがいるかは解らないが、行ってみる価値は有るだろうと

 

 その台詞を言う時に、ゾロに何やら呟いていたが小さい声だったので聞こえなかった。しかしまぁ些事だろう

 

 かくして、装いを新たにした海賊船ゴーイングメリー号の次なる目的地は‘海上レストランバラティエ’に決まったのだった

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 …………………暑い

 

 暑い、暑くて暑くて堪らない。目が覚めて、辺り一面砂だらけ、空には光輝く太陽が辺りの砂を熱し続けていた。忌々しい

 

 どれだけ睨み付けても太陽は無くなったりはしない。いや、夜になれば消えて死ぬほど寒くなる。私はきっと、今太陽を忌々しく思ってることも忘れてそれを切望するんだろう

 

「ぁぁ……」

 

 道なんてない砂の地平を宛もなくさ迷い続けている。強いて言うならひたすらに真っ直ぐに歩けばいつかは何処かにたどり着くだろうと思い、真っ直ぐ歩いているだけだ

 

 なぜ私はこんなところに居るんだろうか? 思い出せない。目が覚めたとき、私が倒れていた横に一緒に転がっていた二振りの刀、それだけがきっと私の記憶の手掛かりだろう。他に覚えていることなんて後は自分の名前くらいのものだ

 

「…………………ぁ」

 

 ふとした拍子に、砂に足をとられて転げてしまった。砂が口の中に入るが、それを吐き出すのも億劫だ。口の中がジャリジャリと音を立てるのが解る。気持ち悪い

 

「………………」

 

 もう三日も歩き通しだ。飲まず食わずで刀を二本も背負って、もう限界だと思ってしまう

 そう思ってしまえばもうだめだった。あぁ、考えないようにしていたのに、もうかもう体が言うことを聞いてくれない。

 

 仰向きで倒れて砂が顔やお腹に張り付いて熱い。直射日光に背中が晒されて燃えそうに熱い。あぁ私は…………このまま死んでしまうのだろうか? なにかやらなければ成らないことが有ったような気がするのに

 

「こんなところでお昼寝? いい趣味とは言えないわね」

 

 そんな言葉が聞こえてくる。気力を振り絞って前を向くと、黒髪の女の人が私を覗き込むように屈んでいた

 

「……………ずを………み………を」

 

 それを聞いて女の人は懐から水の入った瓶を取り出す。私はそれを見て体に力が戻ってきた。我ながら現金なものだ

 

「あげるわ。でも、一気に飲めば体がビックリするわ。ゆっくり、ゆっくりと、ね」

 

 その言葉に従わず、と言うか従えず、女の人から受け取った水を一気に煽る。体に水分が染み渡っていくような感覚がした

 

「あ、あぁ………い、生き返りました。あ、ありがとうございます。もう本当にダメかと……」

 

「まぁ……あなた、運が良かったわ。こんな砂漠のど真ん中で人が通りかかるなんて有ることじゃないわよ。もっとも、そんな所で倒れてるなんてのもあんまり聞かないけれど。そんな格好で砂漠越えをしようとするのも聞かない話だしね」

 

 女の人はそう言うと、私のことを助け起こして肩を貸してくれた。ありがたい、正直もう体に力が入らなかったんだ

 

「あの…………お名前は?」

 

「フフ、それを聞くときは自分から言うのが礼儀じゃなくって?」

 

 あぁ、それはそうだ。なにも覚えてないけれど、それは覚えてる。よかった。命の恩人に礼を損ねずに済みそうだ

 

「妖夢、私は、魂魄妖夢と言います……」

 

 




 構想は出来ているのですが、いかんせん遅筆で………。東方キャラ同士で出会うまでいつまでかかるやら……。更新速度を上げねば!!


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海上レストランバラティエ

 そろそろ前書きで書くこと無くなってきました………。……………………………………

…………………………………………………………

………………………………………………………………………………………

それはともかく本編


 

 賞金稼ぎ。海軍と呼ばれる治安維持の軍隊から賞金をかけられた人間を殺して生計を立てる者達の事を言う。

 海軍が賞金をかけると言うことは、すなわち海軍がその相手の力を認めると言うことに他ならない。そんな賞金首を狩ってる賞金稼ぎはすなわち相応の実力が必要だ。

 

『か、紙一重………か……』

 

 そんな二人を赤子の手を捻るようにあしらうあのキザな男が強いのか、はたまた意気揚々と突っ込んで簡単にあしらわれたジョニーとヨサクが弱いのか、結論を出すと心が折れる奴がいそうなので止めておくことにしよう

 

 

「お前らやっぱすげェ弱いんじゃねェか?」

 

「やめたげてルフィ。それ以上は私も見てられない」

 

 ぼろぼろになった二人は「カミヒトエ……カミヒト…」と呟きながら力尽きた。口の近くに手を持っていくと息をしてるから生きてはいるみたいだけど

 

 いま、私たちは海上レストランバラティエの前まで来ている。偉大なる航路に向けた旅路の傍らコックを探すために立ち寄ったレストランだ。前評判はすこぶる良く、海の上で本格的なフレンチを食べれるとわざわざ陸からやって来る人もいるくらいだそうだ

 

 しかしそんなレストランの前に軍艦が在るもんだから私たち海賊にはたまったものではない。私達は懸賞金こそかけられていないが海賊旗を掲げたれっきとした海賊だ。二人が飛びかかる前にやる気がないみたいなことを言っていたが、どこまで鵜呑みにできるか解らない。軽くでも臨戦態勢をとっておいた方がいいとそんな事を思っていたときだった

 

『わー!!! フルボディさん待って待ってください!! 交戦なんかしたら始末書………じゃなくて、休暇が……でもなくて、あーーもーー折角食事に来たのにこんなところでまで仕事なんかしなくていいじゃないですかーーーーー!!!』

 

 そんな叫びが聞こえたと思ったら、砲弾が飛んできたってちょっと待てや!!

 

「ン任せろォオ!!」

 

 くそ海軍め、いきなりぶっぱなして来る奴があるか!! 折角手に入れた船が早くもお釈迦になるのかと頭を抱えていたら、ルフィが砲弾の前に飛び出した。流石に死ぬんじゃないかと思っていると

 

『ゴムゴムのっ風船!!!』

 

 ‘膨らんだ’

 

 比喩表現なしだ。めっちゃ膨らんだ。ルフィはおもっきり空気を吸い込んで、それによって自分の体を膨らませる。まさしくゴム風船だ。

 ゴム風船と化したルフィは飛んできた砲弾を柔らかく受け止める?すなわち、爆発しない

 

『なぬーーーーーーっ!!!!!???』

 

 ウソップ達が目玉を飛び立たせながら叫ぶ。正直私も彼らと一緒に叫びたい気分だ。もしも自分の体がゴムであの防御技を思い付いたとしても、‘やらない’

 当たり前だ、なにか間違えて体に触れているときに爆発したら普通に死ぬ。あと膨らみたくない。

 

「返すぞ!! 砲弾っ!!」

 

 ルフィは叫び、ゴムの張力によって砲弾は跳ね返る。跳ね返った砲弾はそのまま跳び、海軍の船を‘飛び越して’、件のレストランに跳んでいった

 

「どこに返してんだバカッ!!!」

 

 レストランの屋根は吹き飛び、なかに人がいたらきっと大ケガ程度では済まないだろう。ってか、良く考えたら寸分たがわすとばしてきた方向に跳ね返すなんて出来こっない。ナミの小さなため息が妙に耳に残った

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、コックスーツを来た強面の男達がやって来てあれをやったのは誰だと聞いてきた。私は海軍のバカが撃ってきやがったと言おうとしたのだが、その前にルフィは

 

『屋根を吹っ飛ばしたのは俺だ』

 

 と、鼻をほじりながら行ったためにその男達に連行されてしまった。アホである

 

「遅ェなルフィ……雑用でもさせられんじゃねェのか? 一ヶ月くらい」

 

「海軍のせいにしちゃえばよかったのに……。バカ正直なんだから」

 

「見に行くか!! メシ食いがてら!! な!!!」

 

「私、金ないからパスよ。自前の食料があるうちに外食なんて出来るわけ無いじゃない」

 

 私はお嬢様に積んでもらった食料を指差しながら言う。ルフィに食い荒らされて七割は消えたが、まだ残ってる

 ってかあのバカのせいで、保存食も含めて3ヶ月分くらいは有った食料が半月もしないうちに無くなりそうなんだけど

 

「貧乏性ねぇ。貸してあげよっか? 倍返しにするならだけど?」

 

 そんないい笑顔で言ったナミの言葉に、私は舌を出して威嚇する。ナミは心外そうな表情で「これでも譲歩してるんだけど?」なんて呟くが。こいつから金を借りたら高利貸で首が回らなくなる未来が容易に想像できるわ

 

「それに船に誰かいなくちゃいけないでしょ? こいつら二人じゃちょっと……いやかなり頼りないし」

 

「そりゃねぇっすよレイムの姉御!!」

 

 なんか二人が抗議の声をあげるがひと睨みで大人しくなる。また「カミヒトエ……」と呟き出すが知ったことか

 

「あと鬱陶しいからこいつらも連れていきなさいよ。お土産はよろしくね」

 

 私はそう言って、お茶を入れるためにお湯を沸かしに行くのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルフィの奴が騒ぎを起こさないわけがない。レストランから結構離れた位置にいるのに怒声とか悲鳴とか銃声とが聞こえてくる。買い出し用の小舟で無か向かおうとしていたウチのクルーの表情が曇るが、そのまま放っておく方がめんどくさいことになると踏んだんだろう。一瞬帰ってこようとして、そのままバラティエへ向かっていった

 

「さて」

 

 私は私でゆっくりしよう。お茶を用意して、ルフィに見つからないように確保していた饅頭をキッチンの奥から取り出す。なんか「ゆっ!!」とかしゃべった気がするが気のせいだろう。

 

 饅頭にかぶりついて、お茶を一口啜る。甘味が洗い流されて心地いい渋味が口の中に残る。はぁ、至福……

 海を眺めながらお茶を飲むのが最近の楽しみだ。そんな幸せに浸っていると、何やら甲板の上に降ってきた

 

「すいません、お邪魔しますよー」

 

 降ってきたのは髪の赤い長髪の大女だった。180はあるんじゃないだろうか? その服装は白く、まさに船員と言ったものだ。右手を頭の後ろに置いて、物腰低そうにペコペコしてる。顔には愛想笑いだ。めんどくさい

 

「邪魔するなら帰りなさい。今、私は寛いでるのが解らないの? 来客の相手をする気分じゃないの」

 

「あ、あははー。やっぱり機嫌悪いですよね? ウチの上官がすいません。いきなりぶっぱなしちゃって」

 

 そういう女に私はようやく注意を向ける。上官がとかぶっぱなしたって言ってると言うことは

 

「あんた海兵? なに? やるの?」

 

 私は袖の中の針を触りながら口を開く。ほらみろ、やっぱり見張りは必須じゃないか

 しかし女は慌てた様子で手を前に出して振る。自分が丸腰なのをアピールしてるらしい

 

「いや違いますよ!! いや、海兵なのは間違いじゃないですけど。

 ウチが大砲撃ったせいでなにやらめんどくさそうなことになってるじゃないですか。フルボディさん………上官なんですけど、あの人謝る気とか全く無さそうなんで、代わりに私が来たんですよ。いや本当にすいません」

 

 と、愛想笑いのまま頭を下げた。何やら苦労人のオーラが漂ってるなこいつ

 

「……………まぁ謝罪するってなら受け取っとくわよ。ってかいいの? その謝罪って独断でしょ? 怒られるんじゃ無いの?」

 

「あー、まぁそうですね。怒られるかもです。まぁ怒られるのには慣れてるんで大丈夫ですよ」

 

 そう言うことじゃないんだが……。本人がいいって言ってるならいいか

 私は再びお茶に集中するためにその女に背を向けて再びお茶を一口飲んでから口を開いた

 

「解ったから自分の船に帰りなさいよ。普通の海賊だったらあんた袋叩きよ。ルフィには私から伝えとくから」

 

 しっしっと手を降って追い返そうとするが、そいつは首を傾げたまま動こうとしない。いったい何の用かと振り返ると怪訝な表情でこちらを見ていた

 

「……………何よ?」

 

「えーっと色々疑問は有るんですけど、今一番聞きたいことを聞きますね?

 私たち、何処かで会ったこと…………」

 

「フォン軍曹!! クリークの手下が逃げ出して………それと大尉が大変なんです!!」

 

 そんな叫び声が聞こえてきた。聞こえた方をみると、ヘッドキャップを被った男が軍艦の上で叫んでいた。

 

「へ? フルボディさんがってってうわぁぁああ!!! なんでレストランに食べに行ってボロボロに成ってるんですか!!! ちょ、タンカーーー!!」

 

 赤髪女は叫ぶと自分の船に帰っていく。おぉ、凄い跳躍力ね、あいつ。

 

………………にしてもあの赤髪の長髪、何処かで見たことがあるような無いような………? もしかして無くした記憶に関係あるのかな? 

 そう思って立ち上がる。そいつは丁度、血まみれの男を介抱しているところだった。ってかあの男、ジョニーとヨサクをボコボコにした奴じゃない? あの二人がボコられてるのを遠目に見てたけど、あの鉄拳とか言う男、決して弱くは無かったぞ。この短時間でいったい何が有ったんだ?

 

………まぁいいや、そんなことより

 

「ねぇ赤髪女」

 

 少し大きく声をあげて、必死に鉄拳野郎の傷を縫い合わせてる大女に声をかけた

 

「何ですか!! 今ちょっと手が放せなくて」

 

「んな奴どうでもいいわよ。アンタ、名前は?」

 

「一応上官なんでどうでも良くないですよ?! 私はメイリン!! 紅美鈴です!!」

 

 ふむ、フォンね。聞き覚えは…………まるで無いわね。

 

「あっそ、じゃあいいわ。もう用はないわよ。頑張ってそこのオッサンの面倒を見てあげなさいな」

 

「言われなくても!! あーもー、この船じゃやれることに限界が有ります。近くの駐屯基地まで行きますよ!! え? クリークの手下? そんなこと言ってる場合ですか!!この人ほっといたら出血だけで死にますよ!! 出港準備いそげーーー!!!」

 

『イエス!! マム!!』

 

 息の合った水兵たちの叫びとともに、慌ただしくなる海軍の船。そしてそのまま3分もしないうちに何処かに行ってしまった

 

「慌ただしいわねぇ……………ふぅ、」

 

 あぁ……お茶が美味しい

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルフィはあの船で雑用一年に決まったらしい。アホらしい。私はこんなところで一年も足止め喰らう気はないぞ? 

 なんとか雑用期間を一週間にまけて貰うと意気込んでるルフィの頭にチョップを入れてから二日後の昼下がり、突如としてそれは現れた

 

「何よアレ」

 

 それは船だった。しかしそれは余りにも巨大な船。私達のゴーイングメリー号を何倍にしたらあのサイズになるんだろうか? それほどまでに巨大な船。しかしその船はボロボロだ。マストは折れ、甲板はぐちゃぐちゃ、で、船の象徴である船首は半分が砕かれている。そんな浮いているのがやっとと言ったような姿の船には海賊旗が掲げられていた

 

「アレは……まさか首領・クリーク(ドン・クリーク)の海賊旗じゃ……」

 

「クリーク? 有名な海賊なの?」

 

 ウソップとナミは目を見開いて足を震わせている。その様子を見るに、簡単な相手じゃ無さそうだ

 

「お前、知らねぇのか………っ!!?? あぁ、そう言えば記憶喪失だとか言ってたっけか?」

 

「なんでどいつもこいつもそのこと忘れてんのよ」

 

「オメェがいつも飄々とした態度だからだろうが!!

 

 首領・クリークと言えばこのイーストブルーじゃ最強にして‘最悪’の海賊だ!!50隻もの海賊船の船長を統括する首領!! あぁ、そんなことはどうでもいい、早くルフィを回収して船を出そうぜ!! 逃げた方が………ってゾロ!! テメェ何処に」

 

 ゾロは荒事の気配を感じ取ったのだろう。凶悪な笑みを浮かべて刀の様子を確かめながら立ち上がった

 

「どこ行くのよ?」

 

「決まってんだろ?」

 

 ゾロは更に笑みを深めて口を開く。バトルジャンキーめ

 

「仕方ない、私かウソップ、どっちか着いていくべきかしら?」

 

「い!!?? いや、俺は持病の海賊船に近づいてはいけない病が……」

 

「海賊が何言ってんのよ」

 

 何を日和ってやがるかこの長っ鼻は。ギャーギャー言ってるウソップの襟首を掴んで飛び降りようとした所でふと振り返る。

 

 今、私とゾロとウソップが向こう行ったら、この船の守りってヨサクとジョニーとナミだけになるのか。

 ………………………………頼りねぇ

 

「はぁ、仕方ない。ゾロ、ウソップ連れていきなさい。何かの役には立つでしょう。私はまた船番してるわ」

 

 折角だから件の海賊を見たかったなぁと思いながら言う。なんかここ数日、これしかしてない気がするわね、お茶飲めるからいいけど

 

 二人がルフィを連れ戻しに、まぁ連れ戻せるかはともかく行って、例の巨大帆船をボーッと見ていると、横から私の湯飲みを手渡された

 

「はい、レイム。お茶入ったわよ」

 

「あら? 気が利くじゃない。ありがと」 

 

 そう言って一口、手渡されたお茶を口に含む。いつもの渋い優しい味わいと苦味。ふむ? あんまり美味しくないわね。私は振り返って湯飲みを渡してきたナミに文句を言うことにした

 

「あなたお茶いれるの下手? なんか何時もより苦いんだけど」

 

「え!!?? あ、いやー。まぁ初めてだしね。あんまり美味しくないかしら?」

 

「ふーん?」

 

 何企んでんだか。その微妙なお茶を飲み干して、立ち上がる。何にせよ、不足の事態に備えて船を出す準備くらいはしといた方がいいだろう。私は大きくあくびをして、いつでも出港できる様に操舵室へと向かうのだった

 

 

 

 

…………………眠。

あれ? 眠い。なんかめっちゃ眠

 い

     な    にこ れ       ヤバ 寝る

       あ、くそ、盛られた

 

 

 

 

 




今回、ラストはうどんげのターンだったのですが、美鈴出したしいいやと思って飛ばすことにしました


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ココヤシ村

 バイオRE2が発売ですね。楽しみです。ワンピースのオープンワールドゲーも出るみたいですし、最近楽しみなゲームが多くてお財布がピンチっす。助けて…


それはともかく本編


 ……………………………頭いたい。ここどこ?? 私はいったい………

 

「あー、そうだ私……ッ」

 

 と、立ち上がろうとした所で気が付いた。私縛られてる

 見渡すと、ここ数日ですっかり見慣れてしまったゴーイングメリー号の甲板だ。私はそのメインマストに縛られている。

 

『早………になり……いよ………ベル………ルさん…………』

 

 風に乗ってナミの声が聞こえてくる。状況が読めないな

 私は十中八九、ナミの奴になにか薬を盛られたのだろう。じゃないとあんな急激な眠気に説明がつかない。きっと渡されたお茶に入っていたのだろう。

 ナミは海賊専門の泥棒だって言ってた。しかしこの船に積んである宝は殆どがナミ個人の物、この海賊の共有物で価値のあるものなんてこの船くらいのものだ

 

 ………………………つまりそう言う事だろう

 

 あぁもう面倒くさい。しかし話は簡単だ。‘ナミが裏切った’。その一言に限る

 

 戦闘力の高いルフィとゾロ、自分で言うのもなんだが、私もその辺の一般人に比べれば強い方だろう。その私達と一緒に来る事で、私達が戦う海賊から金目の物を盗む。その代わりにナミはマトモな航海術を持たないこの一味の航路を切り開く、そういう約束だった

 しかし私達がこの立派な船を手に入れたことによって、この一味にも盗む価値のあるものが出来てしまった。だからナミはそれを盗んだのだろう

 

 改めて私は自分の体を調べる。

 腕はガチガチに固定されていて、後ろに縛られている。そしてメインマストに背を向ける形で腹の辺りを何重にも縛られていると言う、ご丁寧な二重構造だ。ちょっと自力での脱出は難しそうだなこれは

 縛られているから武装のチェックは出来ないが、あの周到なナミの事だ。私の針は軒並み奪われたと見ていいだろう。

 

「はぁ………ちょっとーーー!! ナミーーー!!!」

 

 どうにもならない事を確認した私は、仕方ないので船の前の方にいるナミを呼ぶことにする。声が流れてきた方向的にきっと前だろう

 その予想は的中して、ナミは頭を出して歩いてきた。少し目が赤い、なんだ? 泣いてたのか?

 

「………………………」

 

「なに黙ってるのよ? 私の口を自由にしてるってことは、会話する意図があるってことでしょ? 私からはこの縄を解きやがれこの野郎ってことくらいよ。あ、あとあのカミヒトエの二人組は何処よ? 私と一緒で縛られてんの?」

 

 その言葉を受けて、ナミは少し眉を潜める。なんだ?なんでそんな顔をするのかしら? 演技にしては臭いわね

 

「………………随分と余裕そうね。あの二人なら海に突き落としたわ。アンタは毒でも盛らないとなんとか出来そうに無かったし、仕方ないから縛っておいたのよ。大人しくしていたら帰してあげるわ、勿論船ごとね」

 

「…………………ふーん?」

 

 船、返してくれるんだ。色々と思うところは有るけれど、もしかしたら前情報が間違えていたのかもしれない。

 

「にしても、レイム、アンタ本当に人間? あのお茶に入れた睡眠薬って象でも気絶するようなやつよ。流石に殺しちゃうかと思って薄めたけど、こんな短時間で起きる様な代物じゃ無いわ」

 

「オイ死ぬわ」

 

 これまでの会話で少しは読めてきたかな? もう少し突っ込んでみよう……。この状況で使えるのは口くらいだし

 

「ねぇナミ? ベルメールって誰?」

 

 私がその単語をいった瞬間、ナミの顔色が分かりやすいくらいに変わった。瞳に映るのは怒りと困惑かな? 聞かれてると思ってなかったのか?

 

「………………アンタ、本当にいつから起きてたのよ」

 

 ナミは小さく口を開く

 

「本当についさっきよ。

 ふぅん………? まぁいいわ。ぶっちゃけ興味ないし」

 

 私は小さくあくびをする。頭は起きたけど体にはまだ毒が残ってる様だ。眠い

 ナミは歯を割れる程に食いしばり、憎々しげな表情を浮かべる。そして呪詛の様にすら聞こえてくる言葉を吐いた

 

「本当にいつも飄々としてるのね? ねぇレイム? 今の状況解ってるの? アンタは今縛られていて動けなくて、そのアンタに薬を盛って縛り付けた張本人がここにいるの? 少しは焦ったらどうなのよ?」

 

「逆に聞くわよ? どこに焦る必要があるのよ? 私はあなたに薬を盛られて縛り付けられて、‘生きている’。殺すつもりが有るならとっくに殺してるでしょ? なんの理由かはともかく、あなたは私を殺すつもりはない。違う?」

 

 ナミは私の言葉を聞いて、表情を更に曇らせる。

 

 刹那、ナミの脚先が私の顔面を捉えた

 

「グッ……………ったいわね」

 

「いい? レイム? 何を勘違いしてるのか知らないけれど、安心してるなら大間違いよ。アンタの心臓は私が握ってるの。今は私の気紛れで生きているのかも知れないけれど、いつでも殺せるのよ」

 

 口の中に血の味が広がる。今の蹴りで唇を切ったわね……。

 舌を出して血舐める。少し沁みるがその程度だ。

 

「勘違い………ね。私、勘はいい方だと自負してるんだけど。」

 

「そぅ? ならその勘は外れよ。なんせ私はアーロン一味の幹部なの。アンタの勘は大外れ。アンタを生かしてるのここまでの旅の駄賃みたいなものよ。それ以上の物は無いわ」

 

 ナミはその言葉を告げると、操舵室の方に歩いていく。私は首をなんとか伸ばしてそっちを見るが、いかんせん首が回らない。早々にナミの姿を捉えるのは諦めた

 

「ねぇナミ」

 

「……………………………………なに?」

 

 姿が見えなくなったナミに向かって語りかける。意外と言うか、そうでもないかはともかく、返事は返ってきた

 

「あなたがそのアーロン?って奴の仲間だったとして、その程度でルフィが諦めると思う?」

 

「………ッ」

 

 息を飲むのが聞こえた。言葉は返ってこない

 

「アーロンとか言う奴のことは知らないわ。でもね、ルフィはきっとそいつより我が儘よ」

 

 私はきっと、呆れたような笑みを浮かべてるんだろう。ルフィが自分の航海士と思ってるナミを、なんの説得もしに来ない訳がない。大して長い付き合いじゃないが、それがわかる程度にはルフィの奴は解りやすい。

 私はきっと、その事を憎からず思っているのだろう。そして、それはきっとナミもだ

 

 ナミからの返答は無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、あれからやはり眠気に負けて時間がたった。気が付いたが状況に変化はない。しかしどこかの島に着いたみたいだ。

 

「さて…………どうしようかしらね」

 

 船に人の気配はない。ナミはどこかに行ってしまった様だ。縛られたままなのは問題だけど

 

 体の中の薬はあらかた抜けた。眠気は感じないし、怠さも殆ど無い。強いて言うならお腹が減った位だろう。あぁ、この前買ってきてもらった、バラティエのお土産のポトフは美味しかったなぁ

 思い出したら涎が出てきてお腹が鳴った。畜生め

 

 暇過ぎてもう一回寝ようかと思い始めた頃、船の周りがなにやら騒がしくなってきた。

 

『俺…………縄………どけバカ!!』

『何だあの船は…………ねェ船……』『……………………っ』

『ちょっと待てお前らァ!!!!!』

 

 ……………うん、ゾロの声だ。縄を解けとか聞こえてきたけどなに? アイツも縛られてんの?

 

 そのまま気配は遠ざかっていく。なんなのよいったい

 

 それから体感で30分くらいたった。空の太陽を見手も多分そんなもんだろう。あんまり動いてないし

 はぁ、暇な時間ってどうしてこう進まないんだろう

 

 何度めになるか解らない大きなアクビを噛み殺した所で船に誰かが入ってきた

 

「誰よアンタ」

 

 そこに立っていたのは女だった。右手の肩から肘にかけて大きな入れ墨を入れたおでこの広い女。気の強そうな目が印象的だ。その目がナミに似ている気がする

 

「そうね、ナミの仲間かしら?」

 

「ふぅん?」

 

 彼女はノジコと名乗りナイフを取り出した。そのナイフで私を、縛っている縄を切り始める

 

「っと……メチャクチャに固く縛ってるじゃない。刃物でも中々切れないわよ」

 

「まー、適当に縛ってるなら私抜けちゃうからね。こんなもんでしょ」

 

「なんで威張ってんのよ。……………っと、やっと切れた」

 

 ふっと体が軽くなる。かなりの長時間縛られていたから体がガチガチだ。あーあ、痕が付いちゃってる

 肩を軽く回したりジャンプしたりして体を慣らす。よし、感覚戻ってきた

 

「あー痛かった。ありがとね。ノジコ」

 

「……………ナミがアンタの事、かなり癖の強い奴だって言ってたけど意味がわかったわ。…………あの子の事をあんまり責めないであげて色々と事情があるの

 さて、今の状況についてどこまで理解してる?」

 

「理解もなにも……。私、今までここで縛られていただけなんだけど

 説明してくれるの? 今の状況とかナミのあれこれとか」

 

「えぇ、そのつもり。ただし、アンタのお仲間たちと一緒にね」

 

 ノジコは私に着いてくるように促すと船を降りる。私は軽く鼻を鳴らして後を追った

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、俺の名前はサンジ!! 遠くから眺めてたよ!! レイムちゃん!! これから一緒に仲良くやろうね!!!」

 

「あぁ……はい……、まぁよろしく」

 

 あまりの勢いにちょっと引き気味に成った私は悪くない。なんだ遠くから眺めてたって。ストーカーか? 

 ルフィがバラティエから連れてきたコックのサンジ。何気に初対面なんだけど、ぐるぐる眉毛が特徴的なナンパ男だった

 

 ちっちゃくて可愛いなぁ~なんて言ってくるサンジの頭にチョップを入れてから改めて自分の仲間連中に向き直る。私を蚊帳の外にしてる間に色々とやらかしていたらしい。いつの間にか全員集合だ

 

 なんでもウソップはナミに殺されかけたり、ゾロは噂のアーロンって連中の雑兵を斬り倒したり、ルフィ達は怪物を手懐けて船で空を飛んだりしたらしい。なにしてんだコイツら

 

「で? レイムは何してたんだ?」

 

「寝てたわ」

 

「ゥオイ!!」

 

 ウソップに聞かれたので正直に答えると怒られた。解せぬ

 

「はぁ、成る程ね、確かにあの娘には毒だわこの連中」

 

 そう小さく呟き私を解放してくれたノジコ。彼女は悲しそうな、それでいて慈しみを感じるような表情を浮かべながら口を開く

 

「お願いだからもうこれ以上この村に関わらないで。いきさつは全て話すから、大人しくこの島を出な」

 

 ノジコはそう言って、私達の方を向いた

 

「おれはいい。あいつの過去のになんか興味ねェ」

 

 ルフィはそう言ってノジコの言葉を突っぱねる。彼はそのまま散歩と言って歩いていってしまった。自由ねぇ……

 

「………………あいつは?」

 

「気にすんな、ああいう奴さ。話なら俺達が聞く。聞いて何が変わる訳でもねェと思うがね」

 

 そんなことを私達を代表してゾロは言う。そして話が始まる前に寝始めた。舐めてんなこいつ

 

「………俺は聞くぜ!! 理解してェ」

 

「俺も!!」

 

「………がー……ぐぅおーー……」

 

 上からウソップ、サンジ、ゾロだ。

 私はどうしようかしらね。正直な話あまり興味無いんだけれど。これ、状況に流されたら聞かなくちゃ成らない流れよね

 

「……………まぁいいか。私も聞こうかしら」

 

 ノジコはその言葉を受けて、小さくため息をつく。

 

「成程………。ナミが手こずる訳だ……」

 

 そしてノジコな語り始める。この村、ココヤシ村に何があったのかを……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ!!愛しきナミさんを苦しめる奴ァ!! この俺がぶっ殺してやるァ!!」

 

 …………………ハッ!! 寝てた!! サンジの叫び声を目覚ましに目を覚ます。そのサンジはノジコに拳骨を喰らっていた

 しかしやっぱあれね、興味ない話は寝てしまうわ

 

「それをやめろとあたしは言いに来たんだよ。アンタ達がナミの仲間だとここで騒ぐことで、ナミは海賊達に疑われ、この8年の戦いが無駄になる。

 だからこれ以上……あの娘を苦しませないで欲しいの」

 

 …………………ヤバイな。全く話を聞いてませんでした。もっかいって言える雰囲気じゃない。

 

 まぁいいか、もっかい聞いたところでまた寝ない保証はないし。

 私は立ち上がってルフィが歩いていった方に向かうことにする

 

「レイム?」

 

「取り敢えずルフィを追いかけましょう? 何をするにしても船長が居ないことには始まらないわ」

 

 取り敢えず未だに寝ているゾロを蹴り起こしてルフィの行った方に向かう。ゾロが何やら文句を言ってくるが無視だ無視

 

 方向的に、ルフィはココヤシ村に向かったのか。何を考えてるんだろうなアイツは。……………………なんも考えてないのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 村は騒然としていた。何やらナミの貯め込んでいたお金を奪われたらしい。村を支配から救うためのお金だとかなんだとか言っているが、話を聞いていなかった私とゾロは頭上にはてなマークを浮かべている。聞いていた組は目を血走らせて怒っているが

 

 その中心にナミはいた。話は解らないけど、ナミがこの村を救おうと必死になっているのは解った。村人を本当に大切に思っているんだ。そんな村の人たちと敵対してでも止めようと、彼女は短剣を持って立ちはだかる

 

「やめてよみんな!!!!! もう私………あいつらに傷つけられる人を見たくないの!!!!

 

死ぬんだよ……………っ!!??」

 

 ナミは泣いていた。涙は浮かべていないけれど、きっと泣いていたんだ

 

 風車を帽子にさした全身傷だらけのオッサンは前に出て、言う。

 

 

「知っている」

 

 

 オッサンはナミの短剣を握りしめ、それを放り捨てた。刃を握ったオッサンの手は血塗れだ。でも、彼は痛みなんて感じていない様な顔で叫ぶ

 

「いくぞ!!みんな!!! 勝てなくても、俺達の意地を見せてやる!!!」

 

 そして村人達は行ってしまった。後に残されたナミは崩れ落ち、呪詛の様に口を開く

 

「アーロン…………アーロン!!…………アーロン!!!!!!!!」

 

 叫びながらナミは自分の肩の入れ墨を刺した。そこにはなにやら鮫を模した入れ墨が入っている

 聞いているこっちが泣きそうになる悲痛な叫びは唐突に止まった。ルフィがナミの手を止めたからだ

 

「…………っ!!?? 何よ、 何も知らないくせに!!!」

 

「うん、知らねぇ」

 

「あんたには関係ないから、島から出てけって……行ったでしょう!!!」

 

「あぁ、言われた」

 

 ナミは必死にルフィに敵対する。砂を掛け、涙を流し、痛みに耐えてそして

 

 

「ルフィ………………助けて…………」

 

 

 ルフィはいつも被って大切にしている麦わら帽子をナミの頭に被せる。少し前に進んで大きく息を吸った

 

 

 

 

 

『当たり前だ!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 その大声は村中に響き渡る。本当にルフィは単純だ。だからきっと

 

「いくぞ」

 

『オオッ!!!!』

 

 きっとどこまでも強いんだろう

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 太陽だ。

 雲ひとつない晴天、それに反射的に飛び起きた

 

「っ!!??」

 

 体が焼かれるような錯覚をする。そして直後に錯覚だと気がついた

 

「わ、たしは…………?」

 

 自分の体を見る。薄い水色をしたふわふわとレースのついた服に、ナイトキャップ。そして‘背中にはコウモリの様な羽根’

 

 足元は固さなんて感じない柔らかな地面。……地面? それは真っ白で柔らかい。まるで雲のようだ。いや、雲は触れないけれど

 

 そこで気が付く。自分の記憶が無いことに

 

「あっ………あぁ…………っ!!??」

 

 恐怖だった。泣きそうだ。頭を抱えてうずくまる。怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!

 

「誰か………………」

 

 そこで、誰かが私のそば側に立って居るのに気がついた

 

「ひっ………」

 

 私は恐怖でそっちを見る。そこには小さな女の子が立っていた。彼女は不思議そうなものを見る目で私を見ている

 

「驚いた。アンタ急に現れたんだもん。誰よ? あ、私はアイサって言うんだけど」

 

「わ、私は……」

 

 その時、アイサと名乗ったら少女は私に近付いて、おっかなびっくりといった様子で私に触ってくる。そしてゆっくりと抱き締めてくれた

 

「大丈夫だよ。ゆっくりでいいから。」

 

 その言葉に私は安心してしまう。彼女から感じる暖かさが、恐怖を溶かしてくれるみたいだ

 

「私は………何も覚えてなくて………名前は……名前も……うぅ………あぁ……………」

 

「大丈夫………大丈夫だから……」  

 

 その声に、私は安心してしまう。あぁ、大丈夫なんだ。そう思って、ゆっくりと目を閉じて

 

 意識を失った




 東の海編の集大成とも言えるアーロンパーク編。話を書くのに読み返していたのですが、やはり最高ですね。この話の完成度は凄まじいの一言につきます。

 東方勢は美鈴以外はグランドラインに居るので、絡ますにはもうちょっとかかるなぁ………


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激突アーロンパーク1

 この話くらいから、霊夢のキャラ崩壊が酷くなってきます。原作のイメージを損ないたくない方は気を付けてください

誤字報告ありがとうございます!! 助かってます!!


 

 先に戦って、紙一重で負けたらしいヨサクとジョニーから手番を譲り受けて、私達5人はアーロンパークに突入した

 そこにいたのはどいつもコイツも魚の特徴を持った二足歩行の妖怪どもだった。涙を流すナミの姿とコイツらの姿形を見て、私は笑顔を浮かべてしまった

 

「お、おいレイム? 今から決戦だってのに何をそんな悪そうな笑いをしてんだ?」

 

「悪そう? ふ、ふふ。心外ね……。私はただ、人に迷惑掛ける妖怪はぶっ殺しちゃっても構わないと思ってるだけよ………ふ、ふふ、ふふふふふふ」

 

「お、おう? 程々にな?」

 

 ウソップが何やらヤベー奴を見る目で見てくるが気にしない事にする。失敬な

 

 そんなことを言い合っていると、頭に血がのぼってもう限界だったのだろう。ルフィが一番でかくて偉そうな、鼻の尖った妖怪を吹っ飛ばした

 

「うちの航海士を泣かすなよ!!!!」

 

 おお、あんなにキレてるルフィ初めてみた。視線だけで人を殺せそうね。

 

 ルフィが吹っ飛ばした奴がやはり親玉だったのだろう。兵隊達は激昂してルフィへと殺到する。

 しかし、サンジの凄まじい蹴りがそいつらを吹っ飛ばしてしまった。凄まじい蹴りねアイツ

 

「獲物を独り占めにするなっつってんだ」

 

 サンジはルフィの身を案じて飛び出したわけじゃないらしい。まぁそりゃそうか。クリークの海賊船との顛末は結局聞いていないが、ルフィの事だ。きっとそうとうな大暴れしたのだろう。

 

「そうか」

 

「お、…おれは別に構わねぇぞルフィ」

 

「…………たいした根性だよお前は……」

 

「全く……、ほらしゃんと立ちなさいよ」

 

 足が震えてしまっているウソップの尻を軽く蹴る。まぁ実際問題コイツはよく立ってると思うよ。

 さっきの蹴りを見て、サンジもかなり出来ると確信した。弱くない程度の戦闘力しかないウソップが、鉄火場に立ってよく逃げ出さないものだ

 

 妖怪達は口々になにかを言っている。長鼻は死んだはずだと言ったり、ゾロに敵対心を燃やしたり、何やら納得の表情を浮かべていたりと様々だ。

 

「いってぇなレイム!! 何すんだ!!」

 

「そんなガッチガチで何と戦う気よ。取り敢えず深呼吸でもしなさい」

 

 その言葉を受けて、この辺りの空気を吸い尽くす様な勢いで深呼吸を繰り返すウソップ。単純に鼻息の荒いルフィと違って恐怖をごまかすためのものだろう。強がり選手権なら一位だな

 

 ゴキゴキと指を鳴らすルフィ、片足を軽く上げて威嚇するサンジ、刀の鍔を鳴らゾロ、後ろの方で胸を張りながら震えてるウソップ、みんな戦闘準備は整ってるな。

 私も袖から針を取り出して…………………取り出して………………、あれ? 

 

「あーーーーーーッ!!!!」

 

 ヤバイ!! 私の針、ナミの奴に取られたままだった!! 私は後ろを振り返るがナミの姿はない。当たり前だ、さっきカッコつけて放っていったばかりだろうに

 

「お、オイどうした?」

 

 深呼吸と言う名の現実逃避の真っ最中だったウソップが、私の様子に気がついて声を掛けてくる。返答しようとするが、ギザっ鼻のアーロンに遮られてしまった

 

「つまりてめェらはハナっからナミが狙いだったワケ………、シャハハハ!!!たった5人の下等種族に何が出来る!!!」

 

 何もできません。とは言えないな………。丸腰の自分がどれくらい戦えるのかいまいち解らない。が、正直やりたくないと思えるこの感じ、多分あんまり戦えないぞこれ

 

「バカヤロォ!! お前らなんかアーロンさんが相手にするかァ!! エサにしてやる!! 出てこい!! 巨大なる戦闘員よ!! 出て来い!! モーム!!!」

 

 一人で『やべーやべー』言いながら頭を抱えていると、妖怪の1人のタコっぽい男がラッパを吹き始めた。

 すると辺りが騒然とし始める。何やらグランドラインから妖怪達が連れてきた怪物が現れるらしい。

 アーロンパークの中心に、海に繋がっているらしい水槽から水柱が立ち上る。そしてそこから

 

「………………は?」

 

 ボロッボロの巨大な妖怪が現れた顔面に青アザをつくり、頭には巨大なたんこぶが。なんだ? グランドラインってこんなやつばっかなのか?

 牛にヒレを着けて巨大化させた様な見た目のその怪物は、なにやらルフィとサンジに目を向けるやいなや帰っていこうとする

 

「なんだあいつか」

 

「魚人の仲間だったか」

 

 ルフィとサンジは何でもないように呟く。ボコったのはコイツらか

 

 モームと呼ばれた巨大な妖怪は、海に帰っていこうとするが、アーロンに呼び止められる。なにやら脅されているようだ

 震えるモームはその巨体をいかして私たちを押し潰そうとしてき、それと一緒に他の妖怪が殺到してきた。針はないけど仕方ない、殴るか。ゴキリと指を鳴らして心構えをしていると、相変わらす鼻息の荒いルフィが前に出て

 

「俺がやる。時間のムダだ!!!」

 

 そうルフィは言うと、妖怪達がたどり着く前にルフィは自分の足を地面に突き刺した。それも両足

 そしてそのままゴムの体をいかして体をなん十回も捻り、そんな間抜けな姿のまま腕を伸ばしてモームの角を掴んだ

 

「何をする気だあんにゃろ」

 

「いい予感はしねぇな……」

 

 ルフィは今、自らの体を捻ることで、相当な回転エネルギーを溜め込んでる。あのバカでかい妖怪を掴んで、そのエネルギーを解放すればどうなるか?

 

『ゴムゴムのォ………風車ァ!!!!』

 

 すなわち超範囲攻撃だ。普通に巻き込まれ掛けた。よし、あのバカ後でぶん殴る。いや、ぶん殴っても聞かないから刺すわ

 

 しかし効果は絶大だった。今ので雑兵は全滅、意識が残っているやつも完全に戦意喪失しているな。活きがいいのはアーロンと残り三人の妖怪だ。コイツらは幹部だろう、普通に強そう

 

「おれはこんな奴ら相手にしに来たんじゃねェぞ!! 俺がぶっ飛ばしてェのはお前だよ!!!」

 

「……………そいつは丁度よかった。俺も今、てめェを殺してやろうと思ってたとこだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 5対4。数の上ではこっちが有利だ。ルフィの脳天に拳骨を叩き込みながら指を鳴らす。そんなことをしてるとサンジが私の前に出て、なにやらキメ顔で口を開いた

 

「レイムちゃんは下がってて。安心してくれ、俺が守る!!!」

 

「めんどくさいから失せなさい」

 

「フグゥア!!!」

 

「うわバッサリいったよ」

 

 なにやらショックを受けた様子のサンジ。蹲って胸を抑えてる。

 

「ぐぅ、辛辣なレイムちゃんもかわいいなぁ」

 

 取り敢えず放っておこう。絡めば絡むだけめんどくさそうだ

 

「くらえ……っ!!」

『視界ゼロ、たこはちブラーーック!!!』

 

 タコの妖怪が蛸墨を口から発車する。成る程、見た目通りの事も出来る訳ね。結構厄介じゃないの

 前面にいた私とサンジとゾロはその飛んできた大量の蛸墨を避ける。幸いなことに距離は離れてるから避けるのはわけないわね

 

「あーーーーーっ!!!」

 

 ってオイ、この中だと瞬発力が一番ある筈のルフィがなんで喰らってるのよ。

 

「前が見えねェーーーーっ!!!」

 

 アホな技だが当たれば痛い。なぜか避けなかったルフィは必死に目を拭っている。

 しかしタコの妖怪は側に落ちていた自分の何倍もある岩を持ち上げてルフィに叩きつけようとしていた

 

「オイ、ルフィ!!! よけろォ!!!」

 

「うん、問題はそこだ。なんと動けねェんだが。見えねぇし」

 

 自分の顔面がひきつるのを感じた。さっき自分で足突っ込んで風車した影響だ。

 

「てめェ自分でつっこんだ足だろうが!!!!!!」

 

 ルフィの事、アホだアホだと思っていたが訂正だ。ドアホめ

 叩きつけられた大岩は、間に入ったサンジが砕いて事なきを得たが、今回みたいなのがまた続くと考えたら頭が痛い……

 

「まいったね。どーも俺は、とんでもねェアホのキャプテンについて来ちまったらしい」

 

「同感だ……」

 

 私は首を振って同意しておくことにする。ウソップだけ岩を砕いたサンジに驚嘆していたが、そんなことよりルフィのアホさ加減の方が重要だろうに

 

「だがまァ、レディーを傷つける様なクソ一味より、百倍いいか………っ!!」

 

 サンジはニヤリとニヒルな笑みを浮かべながら言う。その態度で普段からいればもうちょい女の子が着いてくると思うんだけどなぁ

 

 サンジが敵を威嚇している間にウソップがルフィの足を抜こうと必死になってる。そろそろ足が2メートルを越えるが『まだまだまだぜんぜんとれねぇ』らしい。なんで鼻ほじりながら余裕ぶっこいてんだアイツは

 

 そうこうしている間に、ゾロが例のタコを挑発する。サンジは肘からエラの伸びたガタイのいい妖怪だ。なら私は唇が特徴的なナンパな見た目の妖怪かな? しかしどうしようかしら。針ないし

 

 そう思っていると横からすごい勢いで何か………ルフィ? ルフィが飛んでいくってオイ。ウソップの奴手を放したのかよ

 ルフィはキレイに唇の妖怪に直撃する。ぶちギレてるわね

 

「…………………失敬」

 

 ウソップはそう呟くと凄い勢いで入っていった。本当にアイツ、逃げ足だけは速いわね。

 ぶつけられた相手は怒りに任せてウソップを追いかける。アイツもかなり速いわね。追い付かれるのも時間の問題よアレは

 

「ったく仕方ない。私がアレ追いかけるから、そこのアホ船長は何とかしなさいよ。放っといたら殺されるわアイツ」

 

「ったくどいつもこいつも………」

 

「レイムちゃんも気を付けて!!!」

 

 二人の声を聞きながら、私はウソップを追い掛けて走り始めた。全く、ルフィのアホめ

 

 

 

 

 

 

 

 

 随分と走ったわね。本当になんて逃げ足してんのよあのバカは。人気もなくなって、田んぼが並ぶ様な辺鄙な場所に出る。ってか、追いかける方向これで合ってるのかしら?

 そう思いながら走っていると、ようやく人影が見えた。特徴的な姿、間違いなくさっきの妖怪だ。そしてその奥には血塗れのウソップの姿……………ッ!!!!????

 

 私はそれを確認して速度をあげる。遅かった畜生め!!! 

 

「ん?」

 

「死ねクソ妖怪!!!!!」

 

 黙って奇襲すれば良かったと殴りかかってから後悔した。しかしそんなことはどうでもいい

 

 私の拳は妖怪の顔面を捉える。走ってきた勢いを乗せたそれは相当な威力が出たのだろう。相手を数メートル吹っ飛ばした

 

「ウソップ!!!!」

 

 私はウソップにかけよって呼吸と脈を確認する。大丈夫まだ死んでない

 

「チュッ……。随分と軽いパンチだなオイ」

 

「あんた………ウソップに何しやがった」

 

「チュッ、随分と手こずらされたぜ。ただ、所詮は人間、水鉄砲一発で即死なんてな」

 

 コイツ、ウソップが死んだと思ってるのか。丁度いい、ウソップも意識もないみたいだし、万が一私が負けても見過ごして貰えるかもしれない

 

「取り敢えず、半殺しじゃあ済まさないわ。クソ妖怪」

 

「チュッ………。それはこっちの台詞だ。そしてよくその小せぇ脳ミソに………チュッ…刻み付けろ下等種族。俺達は魚人だ。人間を超えた、至高の種族だ」

 

 舐めたこと言ってる妖怪に接敵する。拳が届く距離まで後5歩程度

 その間に相手は手に持った容器を口につけるそして

 

『水鉄砲ォ!!!』

 

 口から放たれた水は亜音速を超え、凄まじい勢いで私を貫く。それを認識できたのは肩口に走った激痛のせいだ。

 

「ツゥッ!!??」

 

「遅い」

 

 痛みで怯んだところに合わせて、拳が近付いてくる。頭を下げてなんとかかわし、鳩尾に向かって拳を叩きつけた

 

「どっちが!!!」

 

 低い打点ながらもおもっきり振り抜く。妖怪は空気が抜ける様な声を出して田んぼの方に吹き飛んでいった

 

「チュッ!! 下等種族にしてはやるなオイ………。だったらもう近づけさせねぇまでだ」

 

 田んぼ、水、………ヤバッ

 

 そう思ったときにはもう遅かった。妖怪は田んぼの水に口をつけ、照準をこっちに合わせてる

 

「死ね」『百発水鉄砲』

 

 頭のどこかで‘自機狙い’と言う言葉が浮かんだが、そんなものを気にする余裕はなくなった。

 連打だ。目に見えない速度の無数の水の弾丸の雨が飛んでくる

 

「こんちくしょうめ!!」

 

 針があれば相手の給水のタイミングを狙えば簡単に倒せるのに。この弾丸の雨じゃ近付くことすら出来やしない

 思わず悪態をつきながら勘と口の向いている方向でなんとかかわしていく。なんとかかわせているがいつまで持つか解らない。

 

 転がりながら側に落ちていた石を拾い上げ、針を投げる要領で石を投げる。しかしそんな小さな抵抗の投石は空中で打ち落とされてしまった。

 

「ッ!!!!」

 

 それだけじゃない。空中で砕けた石の破片が運悪く私の目に入ってしまう。くそ見えない

 

「これで終わりだな。チュッ」

 

 目を必死に拭っているが、ダメだ、見えない。瞼を切ったのか、視界が赤黒く染まっていやがる。しかし音だけが聞こえてきた。なにかを大量に吸い込むような音だ

 

『水大砲!!!!』

 

 大量に吸い込む。そして大砲。もしもあの速度で大量の水を発射されてしまったら? 

 その時、辛うじて目を開くことが出来た。視界に広がるのは自分の体の数倍はあろう質量の水だ。

 

 明らかな命の危機を感じ、今更避けきることが出来ないと悟った私は思わず手を胸の前で交差させ、死んでる自分の視界を塞ぎながらダメージを減らす選択をした

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

「おーい、エース!! エースってばー!!」

 

「ん? おぅリンか!! どうしたんだ?」

 

「どうしたじゃないって。何回呼んでると思ってるのさ。また寝てたとか言ったら引っ掻くからね」

 

「あー悪かったよ。ったく……。こんな旅にまで付いてきやがって」

 

「当たり前だよ!! サッチをやったティーチのバカはあたしだって許せないし、その敵討ちをしようとしてるエースのお目付け役もいるでしょ?」

 

「お前は俺の母親か!!」

 

「母親のつもりはないけど、保護者のつもりはあるよ? むしろ弟?」

 

「く、白ひげ海賊団に入ったのがほんの1日早かっただけで姉ぶりやがって………。先にあの船に乗ってたのは俺だぞ!!」

 

「にゃははー。うじうじ悩んでるエースが悪いのさー。で? 次の目的地はどこ?」

 

「あぁ、たしかドラム王国って国に現れたって情報があってな…………」

 

 

 

 

 




 取り敢えず、東方勢で諏訪子を除いて参戦させるつもりのキャラは全部出しました。諏訪子は事情が違うので今は出せません。ファンの方ごめんなさい

………………え? うどんげ?  彼女はきっと元気でやってますよ








本編の捕捉

 ウソップは原作通り死んだふりをしています。霊夢が来なければ原作通り勇気を奮い立たせてチュウを倒していました。今は霊夢が負けるわけないだろうと思いながら意気揚々と死んだふりをしています


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激突アーロンパーク2

 そろそろ独自設定先生が本気だします。注意です

 前回のあらすじ。レイムチャンガシンジャッター




それはともかく本編


 

 

 

 想像していた様な痛みが来ない。その辺りで視界が回復してきた。開けようと思えば開けることが出来そうだ

 

「…………………え?」

 

 最初に目に入ったのは誰かの背中だった。そいつは編み模様のバンダナをしていて、タンクトップを着ている。片手にはそいつの武器のパチンコだ。その男は大きく手を開いて、誰かを庇うように立っていた

 

「が………ぁ………はっ………」

 

 

 誰かをだと? ふざけるな。私をだ

 

 

「ウソップゥウーーーーーッ!!!!!」

 

 『水大砲』と呼ばれた、大質量の水を相手に叩きつける大技を正面から受け止めたウソップはその場に崩れ落ちる

 

「ふざけんな!! なにしてんだこのバカ!!!」

 

 今の一撃の衝撃は決して軽くない。ダンプカーの直撃にも匹敵するだろう。それを正面から受け止め、あろうことか私を庇うためにガードすらしなかった。

 死ぬ。本当にウソップが死んでしまう!!

 

 全身の骨が逝ってるとしか思えないウソップの体を抱き寄せる。心臓は動いてるし息もしている。ホッとするが、ウソップの自慢の長鼻はバキバキに折れてる

 ウソップの体を固定するためにギブスの代わりになるような物がないかと探した時、私の腕をウソップが掴んだ

 

「………ぁが………はぁ……れ………レイム………ぶ、じか……」

 

「無事だから喋んな!! なんであんた私を庇って……」

 

「俺ぁよ、ゾロやルフィ、お前みたいに強くねぇ……。今だってそうだ。お前が来て安心して、レイムに任せときゃあんな魚人なんか簡単に倒してくれると思ってたんだ。でも違うんだ……。そんなんじゃ………いけねぇんだ……」

 

 ウソップの体がビキビキと音をたてる。骨が軋む音だ。しかしその体に力が入る、いや戻る

 

「お前らがあの時、仲間に誘ってくれて本当に嬉しかった。コイツらといたら安心して俺は海賊が出来るって思ったんだ。いや、思っちまったんだよ」

 

 ウソップは血を吐いて、砕けた心を奮い立たせて、両の足に力を込めた

 

「今だってそうさ。こんな血ノリで誤魔化して、戦いもせずにレイムに戦いを任せっぱなし。きっと俺は、レイムが来なかったら、あのサカナ野郎を見逃していたんだ。それで負けた言い訳をきっと必死に考えてよ、凄まじい死闘だったぜ、お前らに見せてやりたかったよ何て言うんだ」

 

 そして私の手を離れて、ウソップは立ち上がる。その眼は敵の妖怪を捉えていた

 

「みっともねぇ………ッ!!!!!!!!!!」

 

 ウソップは叫ぶ。叫ぶと同時に口から血が吹き出すがそれでもなお立っている。

 …………敵わないなぁ。普段のビビりな姿を見ている分、なおのこと私はそう思う。この男を死なせてはいけない。絶対に守り勝つと

 

「チュッ…………確かにみっともねぇ姿だな、足は震えて体はバキバキ。よくそんなんでたってられるよ……チュッ……汚ねェ下等生物にはお似合い格好だぜ」

 

「ここで命を張れねぇ俺が、ここで死んだふりなんかしている俺が、ぶっ倒れたままの俺が、あいつらと同じ船に乗るしかくなんか有るはずねェ!!!! お前らと本気で笑いあっていい筈がねェんだ!!!」

 

 だから庇った。だから立った。だから叫んだ。ウソップはきっと、誘われたから仲間になったんじゃなくて、今自分の意思で仲間になったんだ。

 

 

     なら私は?

 

 

 まるで雷に撃たれたような衝撃を受けた。私はなんだ? コイツらみたいな物を持っているのか?

 記憶がないとか言って逃げるんじゃない。私は私に聞いているんだ霊夢ッ!!!!

 

 ウソップは震える腕で、しかししっかりとパチンコを構える。構えたそれから放たれた玉は妖怪に向かって寸分たがわず飛んでいく

 

「こんなもん効くか」

 

 火薬がつまったその玉は片手で簡単に弾かれる。そのまま妖怪は接敵してきて、拳を振りかぶる。ウソップは立っているのがやっとの状態だ。そんなので避ける力が有るはずがない

 

「やめろ!!!」

 

 私はウソップの前に立ちはだかって、その拳を両手で受ける。………くそ、コイツも膂力は私より上だ。ビキリと嫌な音がして体が吹き飛ぶ。私は辛うじて立っているウソップ巻き込んで吹っ飛んでいってしまった

 

「っぅ……」

 

 針が無ければ私はこんなものなのか? きっと戦闘のセンスは有る。しかし決定的に力が足りない、身体能力が届かない。でもだけど

 

「本当に………チュッ……その男が言った通りだ。みっともねぇ」

 

「ッ」

 

「なぁ人間の女? お前今の俺の『水大砲』を受けきれると踏んだんだろ? チュッ…実際、力を分散する様に受ければ受け流すことは出来なくてもダメージを減らすことは出来た。その男が割って入らなければ……チュッ……こんな状況にはならなかったんだ!!」

 

「黙れ……」

 

「これがみっともないと言わなければ何なんだ?チュッ……自分より強い女の足を引っ張って、それで呻いて喚いて結局なにも出来やしねぇ!! 流石は下等種族!! クソみてェな結末だな!!!」

 

「黙れって言ってんだろぅが!!!!」

 

 だけどそれでも。私はもう、ウソップを傷つけたこいつを許せない

 

 私はようやく、自分の中の熱が怒りだと理解した

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が降ってきた。そう表現するしか無いような事態が起きる

 

 私の目の前に突如、何か光耀く棒状のものが突き刺さった。それは徐々に輪郭を露にしてきて形をとる。事態が読み込めない私は目を白黒させたが、そこにあったものに目を見開いた

 

 

  それは刀だった

 

 

 抜き身の刃が地面に突き刺さっている。それは、太陽の光を浴びて鈍く輝く。白い刀身、赤い鍔。それは私は始めて見るにも関わらずそんな気が全くしなかった

 

「これは………」

 

 私のだ。この刀は私の物だ。私の力だ。感覚でその事を理解する。その刀を手に取れば、その感覚は更に強くなる

 

 いける。そう思えた

 

「ッシ!!!」

 

 突然降ってきた刀に何だと問いたいし、触ればなお理解できる自分の物だと言う感覚。そんな思いを全て無視して走る。刀の届く距離まで後3歩

 

「チュッ!!!!」

 

 相手も何が起こったか理解していないが、それでも私に武器が渡った事だけは解ったらしい。間合いが延びて、必殺の武器を手にした相手に距離を取るのは当然のことだ。バックステップで距離を開けようとして

 

 私に捕捉された

 

 何が起きたか解らないって顔をしてるな。私だって驚いている。この刀を手に取った瞬間から体が羽根のように軽い。今まで枯渇していた力が沸き上がるような、そんな気になる

 その認識はあながち間違っていないだろう。手に取った刀から何かが流れ込んでくる。そんな感覚が有るからだ。それは腕に足に力を与えてくれる

 すなわち身体能力が戻った、だ

 

 間合いに入った私は振り上げた刀を叩きつける。しかしその瞬間、相手は口をすぼめたのが見えた

 

「ッ………」

 

 刀は相手の肩に直撃する。しかし‘刃が付いていない’それは相手を吹っ飛ばすに留まった

 そして反撃も喰らった。『水鉄砲』が腹を貫通している。血が白い服を赤く染めていく

 

「チュッ!!………随分いい様だな。もう白いところなんて残ってねぇぞ紅白女」

 

「……………」

 

 血と一緒に何かが流れ出ていくのを感じる。体を満たしていた謎の力が抜けていく。しかし、ようやくこの戦い。

 

「私達の勝ちね。」

 

 ウソップが相手の背後にまわっていた。飛び掛かり、手に持った大きなハンマーを振りかぶっている。寸前で相手はそれに気が付いて回避を、いやカウンターを合わせようと拳を振り上げようとするが

 

『刀劇、………』

 

 私が小さく呟くと、相手の肩に紋章が浮かび上がり、その肩の動きを阻害する。

 

「チュッ………テメェまさか能力………」

 

 もう遅い。刀を腰だめに構えて地面を蹴る。図らずともウソップがハンマーを叩きつけるタイミングと一緒だった

 

 

『ウソップハンマァァアアーーーー!!!!!』

『二重結界!!!!』

 

 

 哀れ妖怪。頭にハンマーと腹部に金属の塊をぶち当てられ、意識を失った

 

「成敗」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウソップは思いの外軽傷だった。見た目こそ酷いが少し休めば歩けるようになるだろう。ただ、逆に言えばしばらくは歩けない。私もしばらくは動けそうにないわね。血を流しすぎた

 

「っはぁ………。じゃあ何よ? 最初のはあんた死んだふりだったわけ? 本当にちょこざいな事考えさせたら世界一ねあんた」

 

「へへっ、舐めんなよ。ちょこざいさと逃げ足に関しては俺の右に出るものはいねェ!!」

 

「うるさいわよ」 

 

 よし、私もウソップも粗方の止血は終わったわね。私は骨は異常なし。ウソップは肋骨とか色々折れてるが、きちんと対処すればなんとかなるだろう。この怪我じゃ戻ったところで助けになるとは思えない。

 

 さて、問題はこの空から急に降ってきたこの刀だ。なんだこれ?

 

「で? レイムよ? それなんだ?」

 

 ウソップがその刀を指差して問いかけてくる

 

「知らないわよ。……………たぶん」

 

 刀を持ち上げるとその刀身は鈍く光る。触っていても、さっきみたいに力がみなぎってくるとか言うこともない。本当になんだったんだろうあれは?

 

「ん? なぁレイム。その剣になにか着いてるぞ?」

 

 そう言われてウソップが指差した所を見る。鍔の部分に何かがくくりつけられていた。それはミニチュアサイズの本の様だ。

 私はそれを引きちぎって開くことにする。すると中にはびっしりと何かが書かれている。図形や文字やらなにやらだ。

 

 なんか解らないので捨てようとしたとき、自分の中から何かが吸われるのを感じた。電気が走ったように感じ、反射的に放り投げてしまったそれは二、三回程度転がり、光を放ち始める

 

「な、なんだぁ!!??」

 

 ウソップが驚きの声をあげるが、私だって驚いているし解らない。本はミニチュアから手に取れるくらいのサイズに変わると、ひとりでにページがめくられていった

 そしてそれにともない、何かが形をなしていく。ノイズがかかったようなそれは、本から投影される少女と言う形で落ち着いた

 

『ザー………える…ザー………ザ…………ザザ………えてる…ね………』

 

 本から投影された少女は寝巻きのような格好をしていて、口許に胡散臭そうな笑みを浮かべている。初見で胡散臭そうと断定されるとは相当な胡散臭さだ

 

『聞こえてる…………ね、………霊夢? もう、聞こえてるとして喋るわよ。これは通信じゃないわ。一方通行のビデオレターみたいなものよ。魔女いわく魔術で編んだパラパラ漫画みたいなものを送り付けているだけだそうよ。つまり私があなたに何を言ってもあなたはなにも言い返せないの理解したかしら? 私の可愛い霊夢? ふふふ何を………なによ。いいじゃない。少し位ふざけても

 

 取り敢えず時間がないらしいから簡単に説明するわね。記憶も能力もここに置いて消えてしまった博麗の巫女。取り敢えずこちらは貴方がいなくてもしばらくは大丈夫よ。結界の維持は私と藍でなんとかするわ。……ザザ……

 

………………ザーザ…………て、本題よ。霊夢、貴方がこのメッセージを見ているってことは、あなたは『染雪』を持っていると言うことでいいわね? その刀は貴方の本来の力をそちらの世界で使えるように加工したものよ。使い方次第ではかなり役に立つでしょうからうまく使いなさい

 

 最後に、もとの世界に戻る方法、ひいては記憶を取り戻す方法を伝えるわ。残念ながら、ザ……ザからの干渉は殆ど出来ないと思ってちょうだい。こちらからその世界にザ…………出来るのは………ザーザ…………回程度…れも強力な干渉は出来ないわ

 

 霊夢、偉大なる航路(グランドライン)を目指しなさい。

 

都合のいいことに、その世界には解りやすい終点が存在する。あなたたザ…員が………ザ……に到達したとき、わ…ザ…………ザー……帰………………ザー…………………ばりなさい、れい……………………………………………ザ………………………………………………』

 

 そして、映像は途切れた

 

 途中途中でふざけた言動のやつだったが、私の事を知っているような口ぶりだ。下手したら母親なのかもしれない 

 いや違うわ。考えただけで虫酸が走った。絶対違う

 

「なぁ霊夢。今の映像………」

 

「えぇ………どうやら私の記憶に関するものみたいね…………」

 

 まずはこの刀だ。話を聞くに、銘を『染雪』と言うらしい。まぁ刀身は真っ白だしそれっぽいと言えばそれっぽい

 そしてあの女は、この刀は私の本来の力を加工しただの世界に合わせて作っただの言っていたわね。どうにもその口調から、薄々感じていた‘違う世界’と言う突拍子もない事を事実と見なければいけないかもしれない。

 

「ねぇウソップ。私が異世界人かも知れないって言ったら信じる?」

 

「…………………まぁ普通の人間だって言われるよりは信じるな。俺も今の映像を見たんだ、信じるさ」

 

「…………よね、」

 

 そう、刀についてはそれでいい。問題はそこだ。

 

 私のルフィについていく一番の理由は自分の記憶探しだ。しかし私が異世界人で、この世界に記憶の手掛かりが無いならば、帰還の方法を探さなければならない。

 

 あの女はこの世界に終点があると言った。解りやすい終点が。

 それは偉大なる航路に存在するらしい。ちょうどいいじゃないか、ルフィはきっと、この世界全てを冒険するつもりだ。その中に終点もきっと存在する

 

「ふぅ、この事をルフィに伝えなくちゃね。信じてくれるか解らないけど」

 

「ってオイオイ、今はあの魚人達に勝つのが先決だろ? 向こうの状況次第じゃあ加勢に行かないと……」

 

 そこまで言ったとき、アーロンパークの方で噴水が上がる。オイオイ何やってんだアイツら……

 

「全く、ゆっくりしている暇は無いわね……」

 

「だな!! 急いで戻るぞ!! ところで相談なんだが霊夢、俺をおぶって行ってくれないか? 全身の骨が砕けてるんだ。10本くらい」

 

「折れた肋骨が肺に刺さって死ね」

 

「具体的にひでぇな!!」

 

 さぁ、私の目的とルフィの道は重なった。こうなった以上、もう東の海に未練はない

 

 ルフィ。早くアーロンなんかぶっ飛ばして、ナミを取り戻すわよ。こんなところでぐずぐずなんてしていられないわ

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 フルボディさんを近くの支部まで運んだら、スモーカーさんから直々に呼び出しを喰らってしまった。『いつまで道草くってやがる。早く帰ってこねぇとテメェが棚の奥に隠してる酒を飲んじまうからな』なんて脅されたので

 そして必死に道草を2回に抑えてローグタウン帰ってきたのに、あの人私の大事なお酒ちゃんをイッキ飲みしちゃうんです。

 酷いですよあんまりですよ、あのお酒、私が少ないお給料を必死に貯めて買ったのに……。チビチビ飲むのが仕事終わりの唯一の楽しみだったのに

 

「あ、美鈴軍曹……」

 

「たしぎちゃん!! 聞いてくださいよぉ~、スモーカーさんたら酷いんですよ。スモーカーさんに脅されて、大急ぎで帰ってきたのに、私のお酒、全部飲まれていたんですよ!! 酷いと思いませんか!! あのニコチンのオバケ!! 今度、あの人の備蓄してる葉巻を全部吸ってやりますよ!! ね!! たしぎちゃん!!」

 

「えーと、そんなことしてるから毎回毎回スモーカーさんと喧嘩になるんじゃ無いかと思うんですが? 前にもスモーカーさんが楽しみに取っていたって言う葉巻を捨てたりしてませんでしたっけ?」

 

「あ、あれは不可抗力です!! むしろ部下に自分の部屋を掃除させるのが悪いんですよ!! 横着なスモーカーさんが悪いんです!!」

 

「えーっと、ノーコメントで」

 

 たしぎちゃんの台詞に心を折られ、私は地面に突っ伏した。うぅ、私の天使が……

 

「あ!! 曹長!!軍曹!!ここにいましたか!! 町で海賊たちが暴れています!! 応援を!!」

 

 この傷心の私になんですとぉ~? 基地の廊下の角から現れた兵士は敬礼をしながら応援要請を出してくる

 

「うがーーーー!!! この怒りを無法者共にぶつけますよ!! 行きますよたしぎちゃん!!」

 

「あ、はい!!」

 

 私は怒りに身を任せて体から‘紅いオーラ’を撒き散らし、町の方にすっ飛んでいった




 Q、ウソップひとりでもチュウに勝てたのに、二人がかりでどうしてダメージ過多で辛勝なんですか?

 A、お互いがお互いに足を引っ張りあった結果です。タイマンなら針なしでも霊夢の勝ちですし、ウソップも原作通り勝ってます


 Q、なんで刀?

 A、巫女に刀ってええやん?
 

 Q、今回の話って、結局どう言うこと?

 A、最弱の海でいつまで遊んどんねん、はよグランドライン入れや



 また説明回です。
霊夢の能力が一部解禁されました。麦わらの一味の様に死線を越えて強くなっていくのではなく、彼女は力を取り戻す形で強くなっていきます


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激突アーロンパーク3

TRPG と言うのをやってみたいのですが、友人が皆冷たいです。暇だから作ったオリシナリオとか持ってるのにテストプレイすら一人でやってます。泣きそう

 ってか、激突アーロンパークとか言ってるのに霊夢が戦ってるのアーロンパークじゃない事に今気がついた

それはともかく本編


 感想と評価、ありがとうございます!! 


 

 

 結局、ウソップを背負い上げ、アーロンパークに戻っていく。走りながらこの後の算段をつけることにした。

 

「ウソップ、戻ったときにどんな状況になっているかは解らないわ。だからいつでも反応できる様にパチンコ用意しときなさい」

 

「わ、わかった!!」

 

 水柱が上がって数分程度、中の状態は解らない。なんとか村の野次馬連中が見えるところまで戻ってくることが出来た。そこにはアーロンが、ゾロの首を片手で絞めながら持ち上げ、その体に巻いた包帯を引きちぎった所だった

 

「ッ!!??」

 

 なんだ………あれ。大怪我なんて言葉じゃ生ぬるい程の傷が、ゾロの肩口から腰の辺りまで延びている。その傷は素人が処置したかのように無茶苦茶な治療が施されていた。

 適当に縫い合わされた傷からは明らかに致死量としか思えない程、血が流れていた

 

「ウソップ!! 火薬!!」

 

「お、おお!!」『必殺!! 火薬星!!』

 

 私が叫ぶと、ウソップは私の背中でパチンコを構えて、打つ

 それを確認した私は、ウソップを捨てて走り始める。身軽になり、速度が上がって、接敵まで残り10歩強

 後ろからウソップの文句が聞こえてくるが、無視しながら刀を振りかぶり、ジャンプしながらあと1歩のところにまで届いた

 その位の時にウソップの『火薬星』が炸裂する。目眩ましには完璧だ

 

「レイム!?」

 

 ゾロが私の姿を見て、驚きの声をあげる。いや、驚きたいのはこっちだ。この傷でなんでこいつ生きてんのよ

 

 ゾロを掴んでいるアーロンとか言うやつの腕に刀を叩きつける。ビキ、と音がしたが、アーロンは平然としていた

 

「何かしたか?」

 

「これからすんのよ。せっかちね」

 

 刀に力を込める。刀が触れているアーロンの腕に紋章が浮かび上がり、アーロンの動きを拘束す……

 

「邪魔だぁ!!!」

 

 ガラスが砕ける様な音がして、紋章が砕け散る。なんだこの力は。単純な腕力で腕の封印を破りやがった

 アーロンはゾロを持った腕でゾロごと私をぶん殴る。ふざけてるなこの力。人間のそれとは次元が違いすぎる

 

 私はかろうじてゾロ掴むことに成功して、吹き飛ぶ拍子にゾロを救出する。

 

「ガッ………てめェレイム………。もうちょい丁寧に助けやがれ!」

 

「うるさい!!そんな余裕なないわよ!!」

 

 衝撃で馬鹿げた量の血を吹き出しながら、叫ぶゾロ。案外余裕あるわね。

 ………っ、クソ。今ので私も傷が開いた。これ以上血を無くしたらマジで死ぬわね。

 

「オイ、レイム。なんだその刀、ちょっと見せろ」

 

「あとで見せてやるから黙ってなさい。本当に死ぬわよ」

 

 刀をアーロンに向けて威嚇する。今この場で戦える人間は私しかいない。血がこぼれ出す。それを地面に吐き捨てて笑みを浮かべた

 

「シャハハハハ!!! なんだ? 随分とボロボロじゃねぇか、とっとと死ね」

 

 刹那、私の体は再び宙を舞う。何に吹き飛ばされたのかも理解できないまま、目の前が赤く染まった

 

「が、あぁ!!!???」

 

「種族の差も理解できず、調子に乗った人間は……」

 

 吹っ飛びながら視界の端にそれを見る。アーロンは水を掬って掌に乗せる。それを私に向かって投げた

 刹那、全身をとんでもない衝撃が襲う。力任せに水を投げつけるだけでこれだと? 洒落になって無いぞ

 

「這いつくばって無様に死ね」

 

「レイム!!!」

 

 なんとか受け身は取ることができたか体に残るダメージで目の前が霞む。痛みが走る腹部に手を当てると血のヌルリとした感触がした。

 

 今、私の名前を呼んだのってナミの声だったなと思いながら、首を鳴らして前を向いた

 

「くそ……」

 

 アーロンが近付いてくる。揺れる体に活を入れて立ち上がろうとしたところで、アーロンの拳が私の鳩尾に突き刺さった

 

「カッ………ハ……ッ!!」

 

 呼吸が止まる。体が浮く。くそ、この妖怪マジで強ェ……

 アーロンは私の胸ぐらを掴み、持ち上げると反対の拳を振り上げた。あれを顔面に喰らえば死ぬわね。高所からトマトを落としたみたいになりそう

 現実逃避はその辺にして、マジでヤバイ。右手に持った刀を力任せに叩き付ける。くそ、この妖怪何で出来ているんだ。明らかに生物を殴った感触じゃないぞ

 

 それでも何とかしなくちゃならない。刀に力を込め、再びアーロンを拘束しようとするが簡単にほどかれてしまう。

 

「終わりだ」

 

 アーロンの右手が振りおろされる。くそったれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 その刹那、聞き覚えのある声が辺りに響いた

 

「ったく………姿が見えないと思ったら……」

 

 死んじゃいないとは思っていたが、姿が見えなくて心配したのも事実だ。

 小さくため息をついてうしろを向いた

 

「戻ったぁああァーーーーーっ!!!!」

 

「ゴム野郎……」

 

 アーロンが殺意を込めて呟いたそれが耳に届いた時、急に背中を掴まれた感覚がした。見ると見慣れてきた伸びる特技のバカの腕が見える。おい、ちょっと待て

 

「レイム!!」

 

 ルフィのバカが何をしようとしているのか考えたくない。今の私はさっきの戦闘で全身の色んな所に穴が空いてるんだ。今アーロンと戦ってその傷が片っ端から開いて、ついでに傷が増えて、打撲とか骨折とか結構してるんだ。お前と違ってゴムじゃないから痛いもんは痛いんだぞ? ってか本当に死んじゃう

 

「おいバカマジでやめろやめてダメだってふざけんなおま……」

 

「交代だ!!!」

 

 そんな言葉が聞こえてきて、私は後ろに吹っ飛ばされた

 

 

「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーー!!!!!!」

 

 

 どんどん姿が小さくなっていくルフィとアーロン。この風をきって空を飛ぶ感覚にどこか懐かしいものを感じながら数秒後に地面に激突した

 

「…………あいつ、コロス………」

 

 我ながら頑丈に出来ていると思いながら、意識を失った

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラックアウトから回復すると、目の前に麦わら帽子を被ったナミの顔が見えた。私は何やら柔らかいものを枕にしている。あぁ、膝枕されてるのか

 

「起きたの?レイム…………」

 

「っん……………。私どれくらい寝てた?」

 

「ほんの数分よ。えっと……大丈夫?」

 

「死ぬほど痛いくらい。わりと大丈夫よ」

 

「それって大丈夫って言わないじゃない」

 

「うるさい。で? 状況は?」

 

 そこまで言ったところで立ち上がろうと力を込めた所でナミに押し戻されてしまった。

 なんであんたが泣きそうな顔してんのよ、その顔を止めさせたくて頑張ってるのに

 

「…………何すんのよ」

 

「いいから寝てなさい!! これ以上動いたら本当に死ぬわよ!!」

 

「寝たし大丈夫よ」

 

「そんなわけあるか!!! 全くもう……せめて横になってなさい。今から行ったところで何も出来ないでしょ?」

 

「…………………」 

 

 残念ながらナミの言葉には一理ある。あのアーロンとか言う妖怪を結局殴れていないのが心残りだが、仕方ないか。

 

 アーロンとルフィが戦ってるのが遠目に見える。一見、ルフィが優勢に見えるが、アーロンはルフィの攻撃がほとんど効いていないみたいだ。

 

「あ、そだ。ナミ、私の針返して」

 

「……………うん」

 

 ナミは背負っている鞄を地面において開ける。そこには私の『封魔針』が大量に入っていた。

 返してもらったのはいいけれど、服に仕込み直すのは無理ね。起き上がるか座らないとやりにくいし、ナミに押し止められているから起き上がれない。いやまぁ正直、体は限界だ。

 袖に2.3本を仕込むかと思って手に取り、中に入れる。引っ掻けるところがついているのでそこに針を止めて脱力した

 

 お、ルフィがアーロンの歯を砕いたぞ。アイツはアイツで人間やめてるわね

 ルフィは拾った剣を振り回して、それを囮にしてアーロンの歯を砕くことに成功した。その剣を放り投げて叫ぶ

 

「俺は剣術を使えねェんだコノヤローーー!!! 航海術も持ってねェし!!!料理も作れねェし!!ウソもつけねぇし!!針を狙ったところに投げれもしねェ!!!

 俺は助けてもらわねェと生きていけねェ自信がある!!」

 

 いや、針とウソはどうなのよ。いや、剣術もだ。生きるのに必要ない。だが、そんなことじゃないんだルフィが言いたいことは。ナミの顔を見れば小さく笑みを浮かべている。きっと私も似たような表情をしているんだろう

 

「シャハハハハ………、てめェのフガイなさを全面肯定とは、歯切れのいい男だ。てめェみてェな無能な男を船長に持つ仲間達はさぞ迷惑してるんだろう。なぜてめェの仲間は必死にテメェを助けたんだかなァ……

 そんなプライドもクソもねェてめェが一船の船長の器か!!?? てめェに一体何ができる!!??」

 

 

「お前に勝てる」

 

 

 ルフィは満面の笑みでそう言った。ぶっ殺してやるからちゃんと生きて帰ってきなさいよ。ルフィ

 

 

 

 

 

 

 

 

 一進一退の攻防が続く中、ルフィがアーロンに大きいのを入れた所でアーロンはキレた。もはや原型が無いほどボロボロになったアーロンパークからとんでもなくでかいノコギリ、『キリバチ』を取り出した所で戦況は一変する。

 ルフィはアーロンの猛攻に絶えかね、アーロンパークの上へ上へと逃れ、その中に逃げ込んだ

 

「測量室だ……」

 

 ナミがそう呟いて暫くすると、その測量室から机が飛び出してくる。次は棚、本、そして大量の紙。砕けた家具と共に舞うその紙には地図が書かれていた

 気がつけばナミは泣いていた。泣きながら、ルフィに礼を言っていた。ならきっと、ルフィがやっているのはそう言うことなんだ。あの男、なんで海賊なんて名乗っているのかね?

 

 その時、アーロンパークの屋根が吹き飛んだ。見れば見覚えの有るルフィの足。それが凄まじい勢いで戻っていき、アーロンパークに亀裂を入れ、アーロンパークは崩壊した

 

「ルフィーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 ナミが悲痛な声をあげて叫ぶ。中にいたルフィはどうなったのか、あの惨状を作り出したのはルフィだ。それに巻き込まれて死ぬとか間抜けすぎるだろう。アイツらしいと言えばらしいが

 

 その時、崩れたアーロンパークのてっぺんで動きがある。あの背格好、ルフィだ。全身ボロボロで血を流し、今にも倒れてしまいそうだ。だけどルフィは立っている。あのアーロンを倒して立っているんだ

 

「ナミ!!!!」

 

 ルフィが叫ぶ。ナミに向かって、きっとこの男はそれだけを叫ぶためにここに来たのだろう

 

 

「お前は俺の仲間だ!!!!!!」

 

 

「………………………うん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、後日談と行こうか。

 アーロンとルフィが戦っている間に体は動くようになった。いつまでもナミに膝枕してもらうわけにもいかないだろう。起き上がろうとしたところでそいつは現れた

 

「そこまでだ貴様らァ!!!」

 

 なにやら喚いているえーと海軍のネズミ大佐?とやらがここにある全ての金は俺のものだぁ!! とか言い出した。なんかよく解らないけどこの雰囲気のなかでよくそんなこと言えるものだ

 ゾロがそこネズミ大佐をボコボコにしてる間に頭をあげて立ち上がる。あぁ、やっぱ血を無くしすぎた。力入らないわ

 

 せっかくなので戻ってきた針を一本取り出して兵士の一体に向けて投げつける。加勢が要る感じでもないからそれだけにしておいたが

 

 結局、ゾロが刀も使うことなく素手でボッコボコにして、最後にナミがよく使っている長めの棒でネズミ大佐の顔面を強打。海軍はナミの要求、と言うか本来海軍ならしなければならないことをすると約束して逃げていく。その時になにやら喚き散らしてルフィに復讐するとか言っていたが、あいつが何をどうやっても無理だと思うのは私だけだろうか?

 

 ゾロと私とウソップは医者の治療を受けた。ウソップはあばらが何本か折れていて、打撲が多数。幸いなことに足などの太い骨には問題はなかった。何だかんだで頑丈ね。ちなみに鼻の骨は私が見たときはジグザグに曲がって折れているように見えたのに異常無しだったそうだ。本当に人類かあいつ?

 私もウソップと似たようなものだ。ウソップと違って打撲よりも裂傷、と言うか弾痕の様なものが多い。それでも数ヵ所を縫って、安静にしておけば問題ないそうだ。

 

 そしてゾロ。なんと全治2年の大怪我だそうだ。私が薬を盛られてココヤシ村に向かっている最中、なぜか世界最強の剣士と出くわして戦ったらしい。その時についた傷がそれだ。今回の件と関係ないじゃん

 肩口から腰の辺りまで袈裟斬りにされており、内蔵もズタズタに引き裂かれていた。それを縫い合わせて一命を取り止めたが、本来なら即死する様な傷である。なんであいつ動いて戦ってんのアホじゃないの?

 

 アーロンパークは滅び、島は……いや、東の海は救われた。最近は昼夜を通して祭りをやっており、戦いの中心で暴れていた私たちは救世主扱いだ。微妙に照れ臭いが、ウソップなんかはノリノリで楽しんでいる。今日もウソップの歌がどこからか聞こえてくるぞ。結構上手いのがムカつくな。あぁ、良いこともあるわよ。ご飯がただで食べられるわ。

 

 ルフィは生ハムメロンを探し求めて消えていった。あの食い意地は真似出来ないわね。ゾロはもう酒を飲んでいる。傷ももう殆んど塞がったらしい。アホじゃねぇの? 本当に人間かこいつは。サンジは楽しそうに料理をしている。本当にこいつは料理が好きなんだなぁと思って、アイツが作った料理を食べる。あぁ旨いわね

 

 ちなみに私の目的と異世界人だって事について皆に話した。反応は「へー」「そうか」「レイムちゃんの思うようにすればいいよ~!!」だ。誰が誰の反応かは言わないでおこう。解るし

 そしてその事を言いにナミの所に向かっているところだ。ナミは入れ墨を消しに行っている筈だ。あんな趣味の悪い入れ墨をいつまでも入れていることも無いだろう

 

「ナミー? いるー?」

 

「んー、レイム? ちょっと待って」

 

 ナミがらいると思わしき診療所の前に行って声をかけると中から声が帰ってくる。数分待つと、ナミが中から出てきた。

 自分の目的と異世界のあれこれについでに話すが、反応はやはり薄いものであった

 

「…………何て言うか、どいつもこいつも反応が淡白すぎて困るんだけど? もうちょっと仰天したりとかそう言うの無いわけ?」

 

「って言ってもねぇ。もともと良くわからなかったった貴女が追加でさらに良くわからなくなったって位の印象しか無いのよ」

 

「まぁそれもそうか」

 

 言われて納得する。確かにその通りだ

 

「…………………ねぇレイム」

 

 私が自分の事を客観視して仰天していると、ナミは目を伏せながら口を開く

 

「ごめんなさい。私、あなたに酷いことをしたわ」

 

「…………………随分としおらしいのね。珍しいものを見た気がするわ」

 

「ッ、レイ………いだぁ!!」

 

 私はナミに間合いをつめて、ナミのおでこにでこぴんをする。わりと本気でだ

 

「これでチャラよ」

 

「……………レイム」

 

 ナミはおでこを押さえながら小さく私の名前を呼ぶ。全く

 

「それでも気にするならなんかで返しなさいよ? こう見えて私、貸し借りにはうるさいの」

 

 貸し借りで思い出したけど、ルフィのやつぶっ殺すの忘れてたわ。後で探さないと

 ルフィを探すために歩き始めたとき、ナミが後ろから声をかけてくる

 

「レイムッ!!…………………ありがとう」

 

「…………ん」

 

 ……………ふぅ、さてと、ルフィはどこにいるかな? 私は近くの立食飯をとって食べながら、我らの船長を探すのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルフィを見つけて半殺しにしたりとか船の整備とか食糧の追加とかナミがミカンの木を植えたりとかなんやかんやしていたら、結構な時間がたった。これ以上この島に用はないし、私たちの全員の傷は癒えた。そんなわけで出港することになった朝

 

「あっしらはまた本業の賞金稼ぎに戻りやす。兄貴たちにはいろいろお世話になりやした」

 

「ここでお別れっすけど、またどっかで会える日を楽しみにしてるっす」

 

 なんやかんや旅をして来たヨサクとジョニーと別れることになった。そりゃそうだ。賞金稼ぎがいつまでも海賊の船に乗ってるわけにもいくまいて。なんやかんやでグランドラインまでついてくると思ってたんだけどな

 

「前から言おうと思ってたこと有るんだけどね、紙一重でも負けは負けよ」

 

 私のそんな言葉には地面に突っ伏す二人組。そんな別れを経て、ナミが来るのを待っていた

 

「来ねェのかナミさんは!!??ォオ!!??」

 

「お前な!! 生ハムメロンどこにも無かったぞ!!」

 

 会話かこれ? サンジとルフィの掛け合いを見ていると、ナミの声が聞こえてきた。結構遠くだな

 

「船を出せってよ。とにかく出すか」

 

 船長の号令もかかったことだし準備をするか。錨を上げて帆を張る。風も有るし晴天だ、順調に船は出航する

 

 ナミは見送りに来た村人の間を縫うように走っていく。まるで素早い猫のようだな。捕まえようとする人をうまくあしらって、港に立って大ジャンプ。ゴーイングメリー号に乗り込んだ

 

 そしてナミは手にしていた大量の財布を地面に落とす…………ん?

 

「みんな、元気でね!!」

 

『や、やりやがったあのガキャーーーーーーーッ!!!!!!!!』

 

 おーすげー。あの村人全員から財布をパクってやんの。

 

「おい、変わってねェぞコイツ」

 

「またいつ裏切ることか……」

 

「ナミさんグーーーーッ!!」

 

「あっはっはっはっは」

 

「本当、流石よねぇ……」

 

 呆れた。本当になにも変わってないじゃない。そう思って乗り込んできたナミの顔を見る。

 いや、そんなことは無いか。楽しそうに笑ってるんだから

 

「この泥棒ネコーがァーーー!!!」「戻ってこォい!!」「サイフ返せェ!!」「この悪ガキィーーー!!」「いつでも帰ってこいこらァ!!」「元気でやれよ!!!」「お前ら感謝してるぞォ!!!」「小僧!!約束を忘れるな!!!」

 

 ………………………………さて、船の様子でも見に行きますか。他の連中もスタスタと歩いていく。

 

 

「じゃあねみんな!!! 行って来る!!!」

 

 

 そうして、ナミの故郷ココヤシ村での一件は決着し、ナミはこの麦わらの一味の正式な航海士になったのだった

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 フラワーランド。グランドライン前半に存在するある島の名前だ

 そこは春島の中でも取り分け穏やかな気候の島で、花が咲き誇るまるで楽園のような島だ。厳しき気候の多いグランドラインではさらにそう見えるだろう

 

 そんな島に海賊が現れた。この大海賊時代、珍しくとも何ともない。略奪と陵辱、全てを奪うために現れた海賊達

 

 そんな彼らの命運は港に自生していたタンポポを踏み潰した事で決まってしまった

 

「あっ……………がっ………た、す………け」

 

「口を開くな。花が腐るわ」

 

 ぐしゃ、とサッカーボールでも蹴るように船長の頭を蹴り抜く。男はそれきり動かなくなった

 この海賊船には運がなかった。それはフラワーマスター幽香が、この島を拠点にしてると知らなかったことだ。

 

 

 

 彼女は日傘をさして、自らの住みかに帰る。道中には額に汗を浮かべ、しかしいい笑顔を浮かべた島民達が畑を耕していた。

 彼らは幽香の姿を見つけると、作業を止めて手を振ったり笑顔を浮かべ、歓迎する。それに幽香は困った表情を浮かべながらも許容していた

 

「私も丸くなったものね……」

 

「えっと………本日の夕食は少な目にした方がよろしいですか?」

 

 家の茶室で、メイドと共に紅茶を飲んでいた幽香はその言葉に苦笑しながらそのメイドの頭を撫でる。

 そのメイドは熱に浮かされたような表情をして、「し、失礼します!!」と叫びながら行ってしまった

 

「ほんと、丸くなったものね」

 

 その呟きと同時に新聞を運んでくるニュース・クーが新しい手配書を運んできた

 そこには最近見た顔。と言うか酒に酔ったガープに散々見せられた顔が写っていた

 

「そう……ガープの孫が海賊ね……」

 

 面白いと思うと同時に少し興が乗ってきた。グランドラインに入ったら少し相手をしてやろう。もしもこの島を通らないルートを通っても知ったことか

 

 幽香は近々来るであろう楽しみに、小さな笑みを浮かべるのであった




 最後のキャラエピソードは時系列は関係なしで書いてるので、どこがどこだか解らなくなってきそうです。1回霊夢意外の東方キャラだけの話とか書いて整理するべきか……


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船上にて1

 一段落したのでなにも考えずに霊夢と麦わらの一味の絡みを書きます。

 評価バーに色が付きました!! ありがとうございます!!


 

 

 青い空、白い雲。メインマストの上の見張り台の上でアクビをしながら心地のよい陽気に身をさらしている。あぁ、眠い………

 ナミの故郷を出港し、暫くたったある日、見張り当番を任された私は必死に眠気と戦っていた

 

「平和ねぇ……」

 

 下ではルフィがナミのミカン畑に強襲をかけ、サンジがミカン泥棒と熱く下らない死闘を繰り広げている。

 ウソップはいつのまにか出来ていた工房で何か怪しい調合をしている。あ、爆発した

 ゾロはいつもの様に寝ている。あいつ寝ているか鍛えているかどっちかしかしていないわね。他にやること無いのかしら

 ナミはどこから持ち込んだのか、ビーチパラソルとビーチチェアを使って寛いでいる。サンジに作って貰ったと思わしき甘味を食べているわね。ふむ

 

「ねぇサンジーーー!! ナミが食べてるのなにー? 私も食べたいんだけどーーー!!」

 

「ぐ、てめ!! ナミさんのミカンは絶対に渡さねェ!!  あ、レイムちゃん!! もうちょっと待ってくれる!!?? いまこのクソゴム野郎をのしてから……」

 

「オラァ!!! ミカンよこせぇーーー!!!」

 

「ぐ、てめェクソゴム野郎が!! 本気で殴りやがったな!!!」

 

 うわー、目の色をミカンに変えたルフィがサンジを吹っ飛ばしてるよ。

 これはあれね、最初にナミが皆にミカンを渡したのがいけなかったわね。かなり美味しかったから。理性が無いルフィは毎日のようにミカンを狙って突撃している。食欲に取り憑かれたルフィは見境無いってのが良くわかる一幕だ

 

 仕方ない。私の甘味のためだ。そう思って見張り台から飛び降りる。その時に袖から針を取り出して勢いに任せて投擲。三本投げたそれはルフィの服を貫き、甲板の上に縫い付けた。

 

「全く、そんなに食べたいならナミに頼めばいいじゃない。ナミだって鬼じゃ無いんだから食べさせてくれるでしょうに。ねぇナミ?」

 

 私がそう言いながらナミの方を向くと、ナミは呆れた様な視線を向けて言った

 

「そうよルフィ。私にとってあのミカン畑はとっても大切で、亡きお母さんの形見で、大切な姉との絆で、船に積む事の問題を解決するのに必死に村のみんなで知恵を出しあって何とか植えたミカンでも、この船の船長なんだから食べていいわよ。ちゃんと私に言ってくれればね」

 

「ごめんなさい」

 

 うわぁ、追い込み方がヤクザのそれよ。甲板に縫い付けられた姿勢のままルフィのやつ泣いてるじゃない。

 もう暴れないだろうと算段をつけて、針を回収する。まだ余裕があるといえ、補充できないんだ。大切に使わなくちゃ

 

「で?なに食べてるのよ」

 

「パフェよ。ミカンと木苺のパフェ。食べる?」

 

「ミカンじゃねーか」

 

 閑話休題

 

 

 さて、サンジにパフェとやらを作って貰って舌鼓をうっていると、いつのまに起きたのか、ゾロが後ろに立っていた

 

「あら? あんたも食べる? 美味しいわよ?」

 

「いらねぇよ。そんなことよりその背中に背負ってるもの見せろ」

 

 ゾロが指差す先には例の『染雪』。そう言えばアーロンと戦ってる時になんか何か言ってたわね。私は背負った刀を手にとってゾロに渡そうとした

 

「ってお前!! 抜き身で背負ってるのかよ!! 危なねェだろが!!」

 

「いや、まず鞘が無いし。どうせ斬れないんだからいいでしょ?」

 

「斬れない?」

 

 ゾロは受け取った刀の刃を少し触る。乱れ刃がうっすらと見える程度の真っ白な刀剣、それに刃はついていない。ぶっちゃけこれ、金属の棒だ

 

「なんだこれは。こんなんじゃ何にも斬れねェじゃねぇか」

 

「だから言ったでしょ? だから鞘とか無くても大丈夫よ」

 

「見た目に危ねェ」

 

 ふむ。言われてみれば。私は船から布切れを取り出して巻いていく。それなりに長さがあって悪戦苦闘しながら巻き終わったのでゾロに見せた

 

「コレなら文句無いでしょ」

 

「いやまぁ、別に最初から文句があるわけじゃねェんだけどよ。

 にしてもその刀、見れば見るほど意味わからねぇな。きちんと刀として打たれているように見えるのに斬ると言う機能だけが欠落している。なんだコイツは?」

 

 そんなこと言われても困る。一応、この刀が私の力を固めて作ったものだって胡散臭いババアが言っていたと伝えているのだが、なにやらブツブツ言っている。

 まぁいいかと思ってゾロに刀を預けて私はお茶を淹れに食堂に向かった

 

 道中でウソップに出くわす。さっき爆発してたけど大丈夫かしら?

 そう思って覗き込むが、何一つめげた様子もなく何かの粉の調合をしてた。指をプルプルさせてるからよっぽど繊細な調合なのかしら?

 

「ウソップ」

 

「ぅおあ!!!」

 

 後ろから声をかけたら方を肩を震わせて手に持ったそれを放り投げる。と、同時にそれは真上に飛んでいき、ウソップの頭にかかってしまった

 その数瞬後、青ざめるウソップの顔が爆発を起こす。おお、なかなかの火力ね。頭から煙をあげ、アフロヘアーになったウソップは床に突っ伏した後、起き上がって私に詰め寄ってきた

 

「何すんだレイム!! 俺の『超火炎星』のプロトタイプがおま!! あーーー!!!」

 

「うるせェ」

 

 頭にチョップを入れて落ち着かせる。ゴロゴロ転げ回るがそんなに強く殴った覚えはないぞ。小さくため息をついてその場を通り過ぎて食堂に入った

 

 そこにはサンジがいて、村から貰ってきた魚を捌いている所だった

 

「手伝おうか?」

 

 お湯を沸かしながら私はサンジに言う。どうせ沸けるまでの間は暇なんだ。そう言いながらサンジの近くによると、彼は目の形をハートに買えてくねくねしながら、口を開いた

 

「その心遣いだけで僕の胸はいっぱいさ………ありがとう……。是非ともそこに座っててくれ。今すぐに美味しい緑茶を入れて見せよう!!!」

 

「うざい」

 

 私がそう言うと、サンジはムンクの叫びの様な表情をして浮かべて絶望している。それでも包丁は手際く動いているあたり流石だなと思うけど

 サンジが持ってきた自前の包丁とは別の船に最初から積んであった包丁を手にとって魚を捌き始めた。それを見て、絶望から立ち直ったサンジは言う

 

「中々慣れている手つきだね。レイムちゃん」

 

「んー、なのかな? この辺は体に染み付いてる感じだから何も考えなくても出来るんだけど」

 

 しゃっしゃと腸を抜いて水洗い。これは干物にするのね。航海には必須の保存食を作るために紐に通していく

 

「もしかしたらレイムちゃんも料理関係の仕事をしていたのかもな。まさか運命の糸で結ばれて……」

 

「はいはい、ちゃっちゃと手を動かせバカ」

 

 二人でやれば速度は二倍、いやまぁ流石にサンジの速度には勝てないが。それでも終わらしてお茶を入れる。ついでに他の皆の分も入れて、サンジと一緒に持っていくことにしたのだった

 

 表に出ると鳥に何か文句を言っているナミの姿が見えた。なにやら新聞を運んで来る鳥に値下げ交渉をしているらしい。鳥は困った表情を浮かべているから人間の言葉を理解しているのだろう。そっちに持っていく分のお茶はサンジの強い希望によって彼が持っていくことになった

 

「ほらルフィ、お茶よ。たまには落ち着け」

 

「お? ありがとなレイム」

 

 ルフィは私が持ってきたお茶に手をつけて、一口飲む

 

「あ~、茶が旨めぇ~」

 

「そりゃよかった。これを機会に少しは船長としての落ち着きを発揮してほしいわね」

 

「あ~、落ち着いてるよ俺は~」

 

「……………うん、まぁ頑張れ」

 

 私はその隣に正座してお茶を一口啜る。うん、美味しいわね

 

 その時、少し強めの風が吹き、ナミの方から何かが飛んでくる。それはチラシの様なペラペラの紙で、海の向こうに消えていきそうな所をキャッチした

 内容が目に入り、少し驚きながら納得する。あぁあのネズミとか言う海軍の仕業かしら?

 

「ルフィ、ほれ」

 

「ん~、なんだぁ~………………あ!!!!」

 

 それは手配書だった。満面の笑みを浮かべた麦わら帽子のよく知る顔の男が載っている。これって写真よね?いったいいつ撮られたのよこれ。モンキー・D・ルフィは先の一件で賞金首になったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 お尋ね者になったルフィは喜んで、大声で笑い始めた。まぁこれでようやく一端の海賊だと認められた様なものだ。私にはわからない感覚だけどきっと嬉しいのだろう

 

 話を聞き付けた船員たちが集まってきて色んな反応をしている

 

「なっはっはっはっは!! 俺達はお尋ね者になったぞ!! 三千万べりーだってよ!!」

 

 と上機嫌なルフィと肩を落とすナミ。写真の後ろの方に後頭部が写っていてテンションを上げるウソップと拗ねるサンジ。ルフィとナミはともかくお前らそれでいいのか?

 

「この額ならきっと‘本部’も動くし強い賞金稼ぎにも狙われるわ………」

 

 疲れきったナミの様子に三千万べりーがどれ程の金額か気になるところだ。あの様子を見るにかなりの額なのだろう。と言うことはルフィを海軍につき出せば大金持ちになれるのかしら?

 

「おいレイム、悪い顔してるぞ」

 

「ハッ!! 私は何を!?」

 

 ついつい針に手をかけてしまった。お金は人を狂わせるわね。危ない危ない。ウソップに言われなければルフィをめった刺しにするところだったわ

 

 さて、この額の海賊がいつまでも東の海に居るわけにはいかない。そう言うわけで偉大なる海路への道をいそぐことになった。その為に最後の補給がてら近くの島に向かうことになった。

 

 その島にはある有名な町があるそうだ。『ローグタウン』。別名、‘始まりと終わりの町’。この大海賊時代の火付け役であるゴールド・ロジャーが生まれ、処刑された町があるらしい

 

「大海賊時代って?」

 

「そこから!!??」

 

 知らないものは知らない。私はこの世界とか世界情勢とか全く知らないのだ。興味ないのもあるし

 

 この世界にはとんでもない海賊がいたらしい。その海賊はこの世界の全てを手にしたと言われるほど世界を荒らしまくり、冒険し尽くした。彼は最後に海軍に捕まり、そして処刑の寸前に叫んだ

 

 

『俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやる。探せ!!この世の全てをそこに置いてきた!!』

 

 

 その言葉は世界の人々を海へと駆り立てる。そのゴールド・ロジャーの宝を、海賊王の宝を手に入れるために。それがこの大海賊時代

 

「なるほど。つまり海軍に捕まった負け犬の最後の遠吠えってわけね。アホらしい」

 

「うぉい!! 言葉を選べこのスットコドッコイィ!!!」

 

 暴言を吐いたウソップのこめかみにアイアンクローを決めながらため息をつく。死に際の言葉に踊らされたアホ共がいったいこの海にはどれだけいるのだか。

 大海賊の宝。それを見付けることが出来ればきっと凄まじいものだろう。私だって有るなら見てみたい気もする。しかしこの大海賊時代が始まって20年以上たっていると言う話じゃないか。

 ならもう見つかっていて、見つけた誰かがなにも言わずに自分のものにしているとか、最初から無かったとか、有ったとしても海の底の底に沈んでいるから見付けることが絶対に出来ないとか、そんな可能性の方が高いだろう

 

ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)ね。有ればいいなとは思うけど、正直面倒と言うのが正直な話ね」

 

「なんだ? レイムお前バカだな」

 

 黙って聞いていたルフィが私の言葉に反応する。バカにバカと言われると思いの外傷つくわね

 

「………………なんでよ?」

 

「ワンピースが有るかどうかは問題じゃねェんだ。それを探すのが楽しいんじゃねェか。それが冒険だろ!!??」

 

 ルフィの言葉に私は目を丸くする。なんとも、分かりやすい言葉だ。流石だなと思う

 

「そうね。その通りだわ」

 

 私は小さく微笑んで、そう言った

 

「ぅっし!! 野郎共!! 行くぞぉ!!! 島だーーーー!!!」 

 

 ゴーイングメリー号は進む。ローグタウンへ、そして偉大なる海路へ

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 ムシャガブゴグゴクムシャムシャガリブチゴグズルムシャムシャムシャムシャムシャ…………………ゴクンッ

 

 い、

 

「生きてる…………ッ!!!!」

 

 死ぬかと思った、本当にもうだめだと思った。行けども行けども砂しか見えない地獄を5日も飲まず食わずでさ迷い歩いて幻覚を見たのも一度や二度ではない。サボテンを食べて毒に当たって腹の中の物を胃酸含めて全て吐き出した時は生きることを諦めたりした。あぁ生きているって素晴らしい………ッ

 

 砂漠のど真ん中で拾われて、安心感で意識を失って、目が覚めると建物の中でベッドに横になっていた。過度の疲労と栄養失調と脱水。意識を失っている間、点滴で生きながらへ、意識を取り戻してからも流動食しか食べることを許されず、そして目が覚めてから三日目の今日。ついに固形物を食べることが出来たのだった。

 

「フフ、少しは落ち着いたかしら? コンパクヨウムさん?」

 

「あ、この度は本当にお世話になりました。見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません。何分久しぶりの食事でして……

 危ないところを……本当に危ないところを助けていただいて。このご恩は一生忘れません」

 

 地獄に仏とはまさにこの事を言うのだろう。目の前の帽子を被った妖艶な黒髪美女が目の前を通らなければどうなっていたか……。いや、まず間違いなく死んでいただろう

 彼女と会うのは目が覚めた時に一度だけ軽く挨拶をしたくらいで、今日久しぶりに面会することが出来た。ご飯を食べる許可が出たのでついでとばかりに一緒に食事をすることになったのだ

 

「それで? あんなところで何をしていたの? あの辺りは町もなければオアシスもない、本当に危ない地帯だったのよ?」

 

「それが…………。あの、命の恩人にこんなことを言うのは本当に心苦しいのですが、私はその………殆んど何も覚えていないんです。せいぜい名前くらいのもので」

 

 私がそう言うと、目の前の彼女は訝しげな表情を浮かべる。まぁそりゃそうだ。急に記憶喪失なんて言っても信じてもらえる訳がない

 

「記憶喪失ね。ふむ、少し頭を見せて貰ってもいいかしら?」

 

「え? あ、はい。どうぞ」

 

 彼女は私の後ろにまわって後頭部を覗き込む。髪を掻き分けられる感触に擽ったさを感じながらも我慢していた。

 

「ふむ、外傷はないわね。頭部を強く打った一時的な記憶の欠損かとも思ったのだけれど。違うとなれば強い精神的な苦痛を味わった防衛本能か、それとも薬物による一時的な記憶の欠損かしら?」

 

「えっと…………信じてくれるんですか?」

 

「あら? 嘘をついているの?」

 

 私は大きく首を振る。本当に何も覚えていないんだ。あ、でも

 

「私の刀ってどこにありますか? 何かとても大切な物だった。そんな気がするんです」

 

「刀………。あの花が刺してある二振りのあれね。あれなら私が持っているわ。でもごめんなさい。返すわけにはいかないの」

 

「ええ、わかっています。有るのなら構いません。こんな素性も知れない相手に武器を持たせてはいけません」

 

 少し笑みを浮かべながらそう言うと、彼女は驚いたような顔をして、少し考えるような素振りを見せる。そのまま数分がたって、その空気に耐えられなくなってきた私は口を開いた時、彼女から言葉が発せられた

 

「ねぇあなた。どれくらい強いのかしら?」

 

 




 今回は短め。次回くらいで山上れたらいいなぁ


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ローグタウン

 書き始めてみて解る霊夢ちゃんの書きにくさ。何考えてるかわかりにくくて仕方ない。せめて一人称視点やめればよかった。ええ、泣き言です泣き言ですとも

それはともかく本編


 

 ローグタウン。始まりと終わりの町。そんな風に呼ばれた町に降り立った私達。そこには見渡す限り人人人、人だらけ。私が目を覚ましてからこれほどの人だかりをみたのは、それこそ戦闘の時に見たくらいのものだ。いや、それよりは多いな

 

「…………………なに? 今日って祭りか何かなの?」

 

 そう思ってしまうくらいには人間に溢れていた。別に人が嫌いとかそう言う訳じゃ無いのだけれど、これだけ目の前にいたら辟易するわね

 

「なに? レイム人混みは苦手?」

 

「…………なんでちょっと嬉しそうなのよ」

 

「いや別にそんなつもりないわよ。ただ、あなたにも苦手なものって有ったのねって思って」

 

「趣味悪いわよ」

 

 これだけの広い町だ。各々やりたいことが有るようなので自由行動となった。ルフィは件の死刑台の見物、ナミは新しい服が欲しいらしく服屋に、ウソップは装備を整える為に雑貨屋やスーパーに、ゾロは折られた刀の代用品を手に入れるために武器屋へと向かっていった

 

 さて、私はどうしようかしらね。ナミが一緒に行こう何て言ってくるが、めんどう事の気配がするのでパス、取り敢えず茶屋でも探してのんびりするかと思って散歩することにした。

 

「あっ」

 

「ん?」

 

 そんなとき、どこかでみたことのある髪の赤い大女とバッタリ出くわした。その女は口に大量に物を詰め込んでいて、手には大きな紙袋を持っている。その女は不味いところを見られたっ!!?? みたいな顔をして、固まっている。

 特に私からなにか言うこともないので、そいつの顔をじっと見ていると、なにを勘違いしたのか、苦虫を噛み潰した様な顔で

 

「た、食べますか?」

 

 と、手の中の肉を差し出してきた

 

「いらないわよ」

 

「く、賄賂では屈しませんかッ……。仕方ない、かくなる上は……」

 

 と、何やら拳を握り始めたので逃げることにした。めんどう事はごめんだ

 

「わー!! ちょっと待ってください!! なにが望みですか!! 出来ることならするんでサボりをバラさないでください!! 肉が嫌なら甘いものとかどうですか!!? そこに美味しいお団子出す店が有るんです!!」 

 

「……………」

 

 その言葉に足が止まる。そして大女に詰めよって

 

「奢りなら。手加減しないけど」

 

 と言った。大女は冷や汗をかいていたが

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、紅美鈴の財布の中身を食い荒らし、隣で半べそかきながら財布を見ている美鈴。今は店内でお茶を啜っている所だ

 

「本当に手加減なしなんですね……えーっと……」

 

「霊夢よ、ご馳走さま。美味しかったわ美鈴」

 

「あ、ははー。ならよかったです霊夢さん。はぁ……」

 

 意気消沈中の美鈴を横にそ知らぬ顔でお茶をもう一口。いい茶葉つかっているわね。

 さて、いったい何を勘違いしたのか、海軍であるこの女が私にお茶を奢ってくれる理由なんか無い筈なのに。

 

「こ、これでどうにかスモーカーさんにチクるのだけは勘弁してくれませんかね? これ以上サボってるのバレたら今度は3等兵からやり直させる何て言われてまして………」

 

「なんでその事を海賊の私に言うのよ」

 

「…………………………え?……………………………え?」

 

 なんか凄い顔をしている美鈴。随分と顔に考えが出るのね。言葉にすると『いやいやそりゃねーよジョニー』だ。ジョニーって誰よ

 

「いやいや、そりゃね無いですよジョニー。ってジョニーって誰ですか!!!」

 

「最近までうちにいた紙一重の片割れかしらねぇ」

 

 美鈴は頭を振り回して、自らの過ちに気が付いたみたいだ。本当に何を勘違いしてたのだろう

 

「うぅ、そう言えばそうでした。私の交遊関係って海軍の上官か同僚か部下しか居ないんで、なんか勘違いしてましたよ…………。どうにも貴女は他人な気がしないもので………」

 

「奇遇ね、私もよ」

 

 お茶を飲み干して小さく息を吐く。それなりに盛況しているみたいだし外に出た方がいいだろう。店に迷惑だ

 そう思って立ち上がり、外に出ようと歩き出す。外に出ると少し肌寒く感じた。お茶で暖まったからかしら?

 

「待ってください!! 今のは演技、つまりお茶とお菓子で油断させ、不意を打つ為の演技です!! そうそれだ!! てなわけで覚悟!!!」

 

 そんな悲鳴にも似た声が聞こえてきて、後ろを見ながら仰け反ると、目の前に拳が通過する。ってあぶな!!

 反応が一瞬でも遅れれば直撃していたであろう拳、それを間一髪でかわせて、その勢いのまま後ろにバックステップ。見えたのは茶屋の入り口で拳を構える美鈴の姿だった

 

「っと、危ないわね。何すんのよ」

 

「うるさーーーーーい!!! 散々賄賂を渡しておいて、その相手が海賊だった時の私の気持ちがわかりますかーーーー!!!! もうこうなりゃ自棄ですヤケクソですよ!! ブタ箱突っ込んでやりますから覚悟してください!!!」

 

「んな滅茶苦茶な……………ッ!!!!」

 

 速い。

 かなりの距離を取っていた筈なのに一瞬で距離を詰められた。知覚できない速度じゃなかった筈なのに

 

「ハッ!! セィ!!! チョアッ!!!」

 

「く、この野郎……」

 

 思ったよりも鋭い拳打が飛んでくる。一撃でも良いのを貰えば意識を刈り取られるぞ

 いなし、かわし、受け流す。ほんの少し出来た隙に1歩半距離を取って、背中の『雪染』を引き抜きながら叩き付けた

 しかし美鈴はその降り下ろしに対して拳で迎え撃つ。完全に合わせられ、刀の腹を横殴りにされて弾かれてしまった

 

「は、ハァ!!??」

 

『崩拳』

 

 がら空きの胴に入り込まれ、腰だめに構えた拳を腹部に打ち付けられる。肉体を内から破壊するような衝撃を喰らい、私は吹き飛ばされる

 内蔵をシェイクされるような感覚に口から乙女が出してはいけないものが出そうになるが耐え、刀を持つ反対の手で針を投げつけた。一息に6本、狙いはあの凶悪な拳だ

 

「そんなもの!!!」

 

 投げつけた針を完全に見切り、その側面を殴って撃ち落とす。それを確認して、舌打ちをしながら受け身を取った。

 

「ケホ、ったいわね。…………あんたあの時、軍曹とか言われてなかった? 海軍の軍曹ってこんな強いの?」

 

 正直、あの鉄拳とかネズミとか言うやつが大佐をやっている組織がそんなに強くないと思っていた。しかしどうにもそんなことはないらしい。階級と戦闘力は関係ないのね

 

「ふ、自慢じゃないですが、こう見えて私は戦闘力だけで中尉まで行った、全海兵の憧れ的な存在なのですよ!!」

 

「……………いや、もっかい聞くけど軍曹とか言われてなかった?」

 

「なのですよ!!!!!!!」

 

 あぁ、聞くなって事らしい。この世界ってアホなやつほど強いのかしら?

 

「にしても私の『崩拳』を喰らって立ち上がるとは………これは私も本気を見せるしか有りませんね」

 

 美鈴は大きくゆっくり息を吐くと、今までとはまるで違う目付きでこちらを睨み付けてきた。っ、凄い殺気ね

 彼女の体から真っ赤な蒸気の様なものが沸き上がり、重心を低くして、いつでも飛び込んでこれる姿勢を取っている。これは迂闊に隙を見せたらヤバイわね

 

 仕方ない。相手がその気ならこっちもやるまでだ。刀を正眼に構え、いつでも迎え撃てる様に相手に意識を集中する。

 刀に巻かれた布は多分さっき弾かれた時にだろう破れ散ってしまっている、むしろちょうどいい

 相手との距離は1メートル弱だ。間合い的にはこちらが有利だが、安心できる要素には成りはしない。チリチリと肌を焼くような殺気に身を焦がしながらその時を待った。

 

「あ、美鈴さ………」

 

 その声がどこから聞こえてきたのか、誰の声だったのか、そんなことを気にする余裕はなかった

 美鈴は黙視できる限界速度で移動し、私の間合いに入ろうとする。刀を合わせられなけれず、拳の間合いに入られたら手数で負けてしまう。私が刀を振り下ろしたその時

 

「スモーカーさんが怒ってましたよ。次はねェって」

 

 ガチン、なんて音がした。いや、気がしただけだ。あれだけ滑らかに動いていた美鈴は、私の間合いに入るギリギリで動きを完全に止めていた。

 そしてたっぷり10秒ほどかけて、ギリギリと首を声がした方に向ける

 

「……………た、タシギチャン?」

 

「はい。私的にもサボりすぎだと思ってましたし、そろそろ1回本格的にスモーカーさんに絞られてください」

 

 その言葉を聞いた瞬間、美鈴は私の方なんか見向きもせずに走り出す。無論、たしぎと呼ばれた女と逆方向にだ

 

「あっ!!! ちょっと美鈴さん!!! 普通ここで逃げますか!!?? 逃げてもどうしようも有りませんよ!!!」

 

「嫌だーーーーー!!! あのモクモクで窒息はいやーーーーー!!!」

 

「美鈴さん!!! ちょっと本気で逃げないでください!! 減俸じゃ済みませんよ!! スモーカーさん本気で3等兵からやり直させるって言ってますよーーーー!!」

 

「減俸もいやーだーーーーーーー!!!!!」

 

 さっきまでのあの殺気と存在感は何だったのか、彼女は耳を両手で押さえて首をいやいやと振りながら走っていってしまう。凄いな、ウソップとタメはれるぞあの逃げ足

 

「美鈴さん!!!!」

 

「いーーーーーやーーーーーーーー!!!!!!」

 

 そしてそのまま二人は走っていってしまう。あの様子だとたしぎって子は追い付けそうにないわね………。

 二人の姿が見えなくなって、いつのまにか集まっていた野次馬も解散し始めた頃、刀を背中に背負い直しながら小さくため息をついた

 

「なんだったのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 茶屋の一件で他の海兵とかに囲まれる恐れが有りそうだ。そう思ってフラフラと歩いていると、迷った。まぁ適当に歩いていればボスの所につくだろう。

 そう思って歩いていると、大通りにも関わらず少しずつ人が減ってきた。どこか嫌な予感がして、歩みを進めると、大きな広場に出て

 

「お」「あ」「ん」「ありゃ」

 

 ルフィを除く他の連中とバッタリ出くわした。全員、目当てのものは買えたらしいわね

 

 そしてその場にいない奴の話になって、死刑台を見に行くと言っていた話を思い出す。そして騒ぎになっている広場の中心にはその死刑台だ。そしてそこには体を固定されて殺されかかっているルフィの姿があった。あっはっはっはふざけんな

 

「あの赤っ鼻だれよ。なんかめっちゃ騒いでんだけど」

 

「道化のバギーって海賊よ。アンタに出会う前にちょっと揉めたの

 あぁ、もうどうしてアイツは……………。いちいち騒ぎを起こさないと気がすまないわけ?」

 

「ごめん、今回はルフィに文句言えない」

 

 ここに来る前に海兵と一戦やらかした私は、あの状況のルフィに文句を言うに言えない。いや、殺されそうには成ってないからやっぱルフィの方が悪い

 私の言葉に訝しげな顔をしながらもツッコミを入れてる暇はないと思ったのだろう。彼女は焦った顔を浮かべて言う

 

「取り敢えず、戦闘出来るゾロとサンジくんとレイムはあのバカの救出。流石にあの状況じゃ殺されてもおかしくないわ。私とウソップは船の確保。説明してる暇はないけど、急がないと危ないの」

 

「危ない?」

 

「説明してる暇はないって言ってるでしょ!! 急ぎなさい!!」

 

 そう言うとナミは走り始める。冗談半分な事態じゃ無いみたいね

 

「ゾロ、サンジ」

 

「あぁ」

 

「ったくしかたねぇなあのくそ船長は」

 

 私達が走り始めたタイミングで死刑台で動きがある。赤っ鼻がなにやら呟いた後、ルフィが大声で叫んだんだ

 

 

『おれは!!!! 海賊王になる男だ!!!!!!』

 

 周りがどよめき始める。なにかのショーだと思っていたのだろう、その台詞には野次馬達からも失笑が漏れる

 そんなことは知っているんだ。なのになんでそんなところで捕まってるんだよあのバカは

 

「その死刑待て!!!」

 

 私達の姿を認めたバギーとやらの手下たちが襲い掛かってくる。くそ、邪魔だ!!

 針でサーベルを振り下ろそうとしているバギーを狙って投げる。距離が遠いが狙えないことはない。

 投げた針は寸分たがわずバギーの脳天を捉えた

 

「よし、これで………」

 

 そう口に出した時、嫌な予感がした。何故か解らない、だけど今の攻撃は効かない、そんな確信だ

 

「ダメだ!!! 死刑台を狙え!!」

 

 ゾロの叫びにハッとする。突き刺さった筈の針はバギーを素通りして、彼はそれを全く気にせずに笑みを深くしていた。くそったれが!!!

 

「くそ野郎!!! 勝負しろォ!!!!」 

 

「………………………………!!!!!」

 

 雑兵に足止めされ、近付けない私達。針じゃ死刑台を崩せない………ッ!!!! なんとか近付いて殴り倒せば……………!!!

 

 その時、喧騒が一瞬消える。そして何故かルフィの声だけが嫌にハッキリと聞こえてきた

 

 

『ゾロ!! サンジ!! レイム!! ウソップ!!! ナミ!!!

 

 

わりぃ、おれ死んだ』

 

 

 っ、ざけんな!!!!! 

 バギーのサーベルが振り下ろされる。

 なにを綺麗な顔して笑ってやがる。お前はこんなところで死ぬ男じゃないだろうが!! 海賊王になるんだろうが!!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が満ちた。その時、なにが起きたか私には理解できなかった。気が付いたら死刑台は崩れ落ちていた。その残骸の中心でルフィは落ちた麦わら帽子をかぶり直して口を開く

 

「なははは、やっぱ生きてた。もうけっ。あーよかった」

 

 そこでようやく私は、どしゃ降りの雨に気が付いた。雷があの死刑台に落ちたのだ。

 

「おい、お前。神を信じるか?」

 

「バカ言ってねェでさっさとこの町から出るぞ。もう一騒動ありそうだ」

 

「同感。取り敢えずの障害は消えたんだから走るわよ」

 

 海軍の連中が包囲しているのを感じる。まだ穴はあるわね。今なら逃げられる

 勘で道を選ぶ。この道なら多分敵は少ないだろう

 

「逃げろォ!!!」

 

 皆を先導しながら走り始める。さっきの光景を見て、何となく理解した。ルフィの道にはきっと困難が満ちているだろう。険しい旅になるだろう

 

 

だけどきっと、ルフィは海賊王になる男なんだ

 

 

 




 今回はうどんげのターンだったのですが、ルフィが死にそうだったのと、美鈴出したしいいやと思って飛ばすことにしました


あれ? 今回で山越えるつもりだったのに。まだローグタウンだ


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伝説は始まった

 パチェの説明回で彼女が剪定事象と言っている描写がありました。何の気なしに使ってしまいましたが、あれって型月の専門用語だったのですね。誤字報告で教えていただきました。ありがとうございます。修正しました。月姫リメイク、死ぬまでにはやりたいなぁ。あと、ps4版でメルブラやりたい……。FGOが売れてる内は無理か。


 ワンピース関係無さすぎるので、本編


 追い掛けてくる海兵達。逃げる私とルフィとゾロとサンジ。さっき雷が落ちる寸前くらいまでは晴れていたのに、今や雨粒に重さを感じるほどのどしゃ降りだ。風も強い

 包囲を突破したのはいいが、振り返ればとんでもない数の敵が押し寄せてきている。10や20じゃきかないわね。

 

「しつこいなあいつら。止まって戦うか?」

 

 ルフィの言葉に頷きたくなる衝動に耐える。雑兵を相手にする分には問題ないが、もしもあの中に紅美鈴が居ると面倒だ。戦って負けるとは思わないけど、確実に逃げれるかと聞かれれば頷きかねる

 

「向こうに手練れが混じっていたら面倒よ。ここに来るまでに戦った美鈴って奴はかなり出来るわ。あれと戦った後に包囲された雑兵を相手にしてたらいつまでたっても逃げきれないわよ」

 

「レイムちゃんの言う通りだぜ、キリがねェ。それにナミさんが早く船に戻れっつったんだ」

 

 あのナミが何もないのにそんなことを言うはずがない。私も早くこの島を出ないとまずいと何かが警鐘を鳴らしている。ますます強まる雨足と風と雷。それが予‘勘‘を裏付けている様だ

 

 隣でナミの姿を思い出したのか、突如としてクネクネし始めるサンジに軽蔑の眼差しを向けながらため息をつく。ふと、嫌な気を感じて前を見たら二人組の女がそこに立っていた

 

「ロロノア・ゾロ!!!!!!」

 

「霊夢さん!!!!」

 

 げ、あの女。待ち伏せしてやがった。頭に巨大なたんこぶをこさえているが、さっきの大女、紅美鈴だ。それに横にいるのは美鈴を追いかけていた女海兵じゃないか?

 

「あなたがロロノアで!!海賊だったとは!!! 私をからかってたんですね!!許せないっ!!!!」

 

「そーです!!許しません!!!あなたのせいで私は3ヵ月減俸ですよ!!! 絶対に許しませんからね!!!」

 

 なんかしょーもない恨みを買ったみたいね……。隣にたっている黒髪メガネの女は静かに刀を構えているのに、美鈴は鼻息荒く口から煙を吐いている

 

「ご指名よ? ゾロ」

 

「あぁ、みてェだな。どうする?」

 

「私的には逃げたい」

 

 あれを相手にするのは精神的にも肉体的にもめんどくさい。しかし逃げ込める路地も無いこの一本道、後が詰まっている以上、倒して進むかかわして進むかの2択だ

 

「お前!! あの娘達に何をした!! 事と次第によっては…………」

 

 サンジがゾロに対して怒りを向ける。ってか達って、片方は明らかに私の名前を呼んでただろうに

 

 敵は二人、片方はゾロをもう片方は私が目当てだ。仕方ない

 メガネの女と軽口を叩いているゾロに目配せ。ゾロは頷いてメガネの剣士に斬りかかった

 

 私は私で美鈴に刀を構えて突っ込む。なにやら喚いているサンジはルフィに任せて、すれ違いざまに腹部に刀を叩き込んだ。しかし腹筋だけで止められる

 

「私のお給金の敵です!! 二度と朝日を拝めると思わない事ですね」

 

「私怨にまみれ過ぎでしょあんた………っ」

 

 なんつー腹筋してんだこの女。鉄板でも仕込んでるって言われた方がまだ納得出来るぞ

 

「もはや欠片の慈悲もありません。本気です!!」

 

「ッ!!!!???」

 

 突如として美鈴の体から赤い蒸気の様なものが沸き上がる。ルフィやさっきのバギーってやつと同じ様な能力者かと思って距離を取る。しかし美鈴は離されてたまるかとでも言うように近付いて来た。くそ、離せない

 

「っの、」

 

「貰いました!!」『紅砲ッ!!!!』

 

 ミシリ、と骨が軋む音が自分の中から聞こえてきた。内蔵を揺らされ、肋骨に大きなダメージが入る。だけど大丈夫だ、折れていない

 隙の少ないショートアッパーで助かった。体は少し浮くような威力の一撃だが、見た目ほどのダメージはない

 

「舐めん…………なっ!!!」

 

「んな!!??」

 

 意識を刈り取ったつもりだったのか、私の肘は美鈴の脳天に直撃する。地面に降りて、足払いを仕掛けるが転ばせる所か仕掛けたこっちの足が痛んだくらいだ

 

「そんなもの………ッ!!??」

 

 ならもういい、肉弾戦はやめだ。手に持った刀に力を込めて、それを美鈴に向ける

 美鈴の腹部に紋章が浮かび上がり、それが美鈴の体を拘束する。くそ、全身の動きを止めるのはキツいわね………

 

「そんな、能力者……っ!!?」

 

「おかしな実は食べてないけどね………ッ!!!!」

 

 アーロンの時と違って、私の体調は万全に近い。それが関係あるのか解らないが、あの時より長い時間止めることが出来ている。これなら………

 

『刀劇、二重結界!!』

 

 一発目で相手を拘束し隙を作り、本気の二発目で相手を沈める。二発目に全開の封印を施すことで相手を完全に封じ込める技だ。相手を拘束する力は込めた力に依存する

 

 二発目の必殺を喰らった美鈴の周囲に、彼女の腹部に浮かんでいるのと同じ様な紋章が浮かび上がり、美鈴を拘束する。よし、これでなんとかなるだろう。とっとと勝ち逃げしたい

 

 その時、ギィンと何かが弾かれるような音がした。メガネの剣士の刀が吹っ飛ばされ、ゾロに刀を突きつけられている。向こうも決着ね

 

「終わった? なら早く行くわよ」

 

「あぁ、随分と苦戦してたみたいだが大丈夫か?」

 

「してないわよ。どこ見てんのよ」

 

 周りにいる海兵はざわついているだけで向かってこない。この二人は向こうにとってかなりの戦力なのだろう。『たしぎ曹長が……負けた!!??』とか『美鈴軍曹が負けるなんて…………抜けてるから結構逃げられはしてるけど、あの人』とか言われてる。結構言われたい放題ねあいつ

 

「なぜ斬らない!!! 私が女だからですか………女が男よりも腕力がないからって、真剣勝負に手を抜かれるなんて屈辱です。いっそ男に生まれたかったなんて気持ち、あなたには解らないでしょうけど

 私は遊びで刀を持ってる訳じゃない!!!!」

 

 そこまで聞いたところでゾロが切れた。うんまぁ正直泣き言にしか聞こえない。そんなのどうでもいいって言い切れるくらい強ければいいんだから。

 

「てめェの存在が気に食わねェ!!!」

 

「なっ!!??」

 

 二人して子供みたいなことを言い合って喧嘩している。傍から聞いているとゾロの言い掛かりも甚だしいわね。

 

 さて、ぐだぐたしてる暇もないだろう。いつまでもこんな所にいたら本当に捕まってしまう。そうゾロに言おうと口を開いたとき、地響きの様な音が聞こえてきた

 

「………………………ォ………ォォ………」

 

 違う、声だ。その声はさっき封印したばかりの美鈴から聞こえてくる。そちらの方を見ると、地面に膝をついた状態で唸り声を上げている。口から息吹を吐き出しながら、彼女は四肢を黒く染めていった

 

「っ、なんかヤバイわね………。ゾロ、早く逃げるわよ」

 

「ったく……」

 

 美鈴の拘束が弱まっていっているのを感じる。もう、十秒も押さえてられないわね。今のうちに倒せばいいのだろうが、いまここにいる全員とやりあうのは不味い。具体的には遅れてナミに怒られる的な意味で

 

「あっ!! 待て!!!ロロノア!! そこの剣士も!!」

 

「待てと言って待つ奴がいるかっ!!」

 

 私とゾロは、動けない美鈴がいて動くに動けない女剣士を放って走り始める

 

「……ォ…オオオオォオオオオオりゃぁあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 そんな美鈴の叫び声と、地面が砕ける様な音がしたのはもう、彼女たちが見えなくなった時だった

 

 

 うわ、怖。一瞬地震でも来たのかと思ったぞ

 

 それはともかく、ルフィと合流できた。風も雨もとんでもなくなってきている。このままだと港は封鎖されてしまう

 

 ようやくルフィ達の姿が見えたところで、凄まじい突風が吹き荒れる。追いかけてきていた兵士や、白い煙、あと私やルフィも吹き飛ばされてしまう

 

「うわわわわ!!!」

 

「レイム!! ったくしかたねェな!!」

 

 体重が軽い私じゃこの風には対応できない。バランスが取れなくて転げそうに成ったところをゾロに担がれる。ちなみに肩にだ。荷物みたい

 

「もうちょっと丁寧に運びなさいよ!!」

 

「うるせぇよ!!」

 

「このくそ野郎!!! レディーの扱いが成ってねぇよ!!」

 

 転がっているルフィも回収して港まで走り抜ける。見えた、ゴーイングメリー号だ。

 船の上にはウソップとナミの姿がある。出港の準備は出来ているみたいだ

 

「急げ急げ!!!! ロープが持たねェ!!!」

 

 ウソップの叫び声。ナミの怒声。転がり込む私達。息つく暇もないとはこの事だ。

 全員が乗ったのを確認して、帆を開く

 

「出港ォーーーーーーー!!!!!」

 

 ルフィの叫び声と共に、私達はローグタウンを、後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 どしゃ降りの雨と凄まじい風、島を抜けてもいっさい手加減してくれない天候に、空を仰ぐ

 

「うっひゃーっ船がひっくり返りそうだ」

 

 まさしくだ。こんな雨の中じゃお茶も飲めやしない。しかし海軍に捕まると言う、取り敢えずの危機は去った。そしてなんやかんや言いながら、次の目的地である偉大なる航路。その入り口がもう目の前まで来ていた

 

 その時、ナミが口を開いてある場所を指す。ナミが指差す方向に光が見えた。そこには灯台があって、その名前を‘導きの灯’と言うらしい

 

「あの光の先に偉大なる航路の入り口がある。どうする?」

 

 答えなんか決まっている。ウソップは少し足を震わせていたが、それでも笑顔を浮かべていた

 

「よっしゃ!! 偉大なる海に船を浮かべる進水式でもやろうか!!」

 

「進水式ってそういうのだっけ? よく知らないけど」

 

 いつものようにウソップがひよってなにか言っているが、まぁアイツはやるときはやる男だ。いざってときには震えてなんかいないだろう

 

 サンジが持ってきた大きな酒樽。それを甲板の上において、彼は雨で火が消えてしまったタバコをくわえながら、その上に脚を乗せた

 

「おれはオールブルーを見つけるために」

 

 ルフィはその横で、サンダルをはいた脚を乗せる

 

「おれは海賊王!!!」

 

 ゾロは笑みを浮かべて堂々と

 

「おれァ大剣豪に」

 

 ナミは普段見せないような挑発的な笑みで

 

「私は世界地図を描くために!!!」

 

 ウソップは震えながら、それでもしっかりとした足取りで

 

「お、お……おれは勇敢なる海の戦士になるため!!!」

 

 私はその横に立って、足袋をはいた足を酒樽の上に乗せる。きっと私は笑顔を浮かべているんだろう

 

「私は記憶を取り戻すために!!」

 

 全員の脚が乗ったところで、一瞬顔を見合わせる。そして

 

 

『いくぞ!!!偉大なる航路(グランドライン)!!!!!!!』

 

 

 全員の脚が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 山に突撃するらしい。この船きっての常識人であるナミが言うんだからきっとそうなのだろう。うん

 

「ナミ、疲れてるのね。仕方ないわ。いつもいつもこの常識はずれのアホ共の相手をしてるものね。大丈夫、私がついているわ」

 

「常識はずれの度合いで言えば、あなたもわりとどっこいどっこいな事理解してて言ってるのよね」

 

「っ!!??!!??!!!??!!!!????!!!!????」

 

 この連中と一緒にされた………ッ!!?? あまりの事態に半ば放心しているが、ナミの説明は続く。なぜわざわざ入り口から入らなければならないのかとか、どうやったら山に船で上れるのかとか

 

 何時ものようにルフィがボケはじめてコントが始まった時、ウソップが声をあげる

 

「おい!! 嵐が突然やんだぞ!!!」

 

 そのセリフに血相を変えたナミ。今すぐに嵐が吹き荒ぶ場所に戻せとの事だ。

 

「嫌よ、せっかく船も揺れなくなってお茶も落ち着いて飲めるのに」

 

「なんでアンタはこの一瞬でそこまで落ち着けるのよ!!!」

 

 最近、船で見つけた座布団に正座して、淹れたお茶を一口。はぁ、ここしばらく忙しかったから染みるわー……

 

 他の皆も、いやサンジだけはナミの言う通りさっきの場所に戻そうとしてるわね。それ以外の全員はなにもしていない。人の事言えないけど協調性の欠片もないわねぇ

 

「偉大なる航路はその海域を、さらにその2本の海域に挟み込まれて流れてるの。それがいま私達がいるこの無風の海域、凪の帯!!」

 

(カーム)ね、どうりで風がねェ。で? それが一体………?」

 

「要するにこの海は………ッ」

 

 その時、船が大きく揺れる。それはさっきまでの嵐で転覆しそうなものではなく、そこからさらわれている様な………

 

 

「海王類の…………巣なの………大型の………」 

 

 

 ‘なにか’の上に乗っていた。私達の船はその意味のわからないサイズの海王類とやらの頭の上に乗っている。その海王類のサイズたるや、私たちの船はそいつの小指程度しか無いだろう

 自分でも状況が全く意味がわからない。ウソップなんか泡吹いて倒れてるし、私も開いた口が塞がらない。なに食べたらこんな巨大な生物になるんだよ。

 

 私たちは帆船でオールもち、この船を持ち上げている海王類が海へ帰る瞬間を待った。あぁ確かにナミの言う通りだ。こんなところ命がいくらあっても足りない

 

 突如、その海王類は私たちを振り落とし、転覆の危機にさらされる。そしてなによりヤバイのがその衝撃でウソップが船から放り出されてしまったことだ。

 そのウソップを食べようとしてるのかなんなのか、これまた意味のわからないサイズのカエルが跳んでくる。お前のサイズだとウソップ一人食っても何の栄養にも成らないだろうに

 

「ウソップ!!!」

 

 ルフィが腕を伸ばしてウソップを救出する。私は針を構えてカエルの目玉に向けて投げつけた。どれだけ大きな生物でも、目玉なら効くだろう。

 針が突き刺さった瞬間、カエルは大暴れを始める。そのカエルのサイズはこの船の数十倍だ。それと同時にゴーイングメリー号は海へと着水する。幸いなことに誰も死なずに生きている

 

 さて、船の数十倍ものサイズのものが大暴れをすればどうなるか、そんなもの風呂に入ったことがある人間なら誰でも解る。

 

「……………………てへ?」

 

「てへじゃね………うわあぉあああああああ!!!!」

 

 船が流された。正直そんなことまで頭回ってなかった。大波に飲まれそうになるのを必死に堪えるゴーイングメリー号。今日のMVPは間違いなくお前だ

 

 しかし運が良かった。その流された方向がもとの嵐が吹き荒れる場所。あれが反対側とかだったりしたら命がなかった。マジで

 

「レイム………お願いだから後と先を考えて行動して………死んじゃう」

 

「今、身をもって体験したところよ……。あぁどしゃ降りの大嵐最高……」

 

 さて、戻ってきた以上遮るものは無い。あの海域を抜けるくらいなら山でも何でも登ってやる。

 

 

 ナミは偉大なる航路の入り口であるリヴァース・マウンテンを登る理屈について話している

 つまりはあの不思議山はなんかイロイロ難しい理屈があって、不思議な冬島だから失敗すれば海の藻屑らしい。うん解った

 

「ははーん、要するに‘不思議山’なんだな?」

 

「ねぇナミ。自分の理解度がルフィと同レベルなことに危機感を感じた方がいいと思う?」

 

「そうね、レイムは今度暇なときに勉強でもしましょうか」

 

 少し落ち込んでナミに教えを請うことにした。くそぅ

 取り敢えず今は、上手いこと海流に乗って山に登らないと死ぬってことだ。さすがは世界で、もっとも偉大な海。入り口からふるい落としに来るわね

 

 その時、それが見える。あきれるほど巨大な大地の壁。雲をぶち抜くほどとんでもなく高い壁だ

 そしてもうひとつ。ナミが言っていることは正しかった。海が山を登ってる。不思議で不可思議で、それでもそんな光景に心を奪われている自分がいる。はは、面白い!!

 

「お、おい!! ずれてるぞ!! もうちょっと右、右!!」 

 

 もうこの船は海流に乗ってしまっている。船が出る速度ではあり得ない様な速度でゴーイングメリー号は疾走している

 ルフィが叫んだ声を聞いて、私とサンジで舵を取る。右ってことはこっちね。

 

「お、おいレイムちゃん!! 面舵だ面舵!! それだと左に……」

 

「え?」

 

 だって私から見て右じゃないの。サンジは手前に、私も手前に力を込めていた。

 ちなみにこの船は結構古い。そして私はあの『雪染』を手に入れてから自分の身体能力をある程度強化できる。バカ力だ。サンジは言わずもがな。そんな二人が反対方向に古びた木で出来た舵を引っ張りあったらどうなるか、

 

 折れた

 

「あっ………」

 

 今日の私ダメだ。もう止まれない。ゴーイングメリー号はその速度のまま支柱に向かって突っ込んでいく!!

 

『ゴムゴムの風船っ!!!』

 

 ルフィが膨らんだ。

 膨らんだ、ルフィは船と支柱の間にはさまってクッションの役割をする。それでゴーイングメリー号は正規のルートに戻ることが出来た。

 

「ルフィ!!! 手を!!!」

 

 私のせいでルフィに面倒をかけた。せめて引っ張りあげないと気がすまない。空中で置き去りにされたルフィは腕を伸ばす。その手を私は掴むことが出来た

 

 もう障害はない。この船は偉大なる海路へと突き進む。そして山の頂上を越えて、偉大なる海路に飛び込んだ

 

 

 

 

 私はそれを確認して、倒れてしまった。あれ? 力が入らない………………?

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 気が付いたら、私はテントの様な建物の中で、ベッドに寝かされていた。泣きつかれ眠ってしまったらしい。

 私は腕で自分の体を抱きしめる。寝て覚めても私は何も思い出せないでいた

 

「う、うぅ…………」

 

 視界が滲む。止めようとしても涙が止まらない。心細くて寂しくて、せめて温もりを痛みをと思って抱きしめる力を強くした

 

「あ、起きたんだ。」

 

 その時、小さな羽の生えた女の子がこのテントに入ってくる。手にはお盆だ。上には美味しそうな匂いのするお粥

 

「ミルク粥だよ。食べれる?」

 

 体は正直なもので、お腹からくぅ~と間抜けな音を立てる。私は顔を真っ赤にしてから俯いて、こくりと頷いた。恥ずかしい……

 

 

 

 空腹から解放された私は少し落ち着くことが出来た。相変わらず何も思い出せず、その事を意識してしまうと泣きそうになってしまうが

 

「あ、ありがとう。美味しかったわ……」

 

「そう、それはよかったわ。それで………やっぱり名前も思い出せない?」

 

「うん………。」

 

「名前も思い出せないんじゃ不便ね。ふふん、じゃあお姉さんが名前をつけてあげる」

 

「お姉…………さん?」

 

 口角を上げたアイサは自信満々と言った表情で自分を指差している。

 

「あなたをここに居れるように、長に掛け合ってあげたんだ!! ………………まぁ実際に交渉してくれたのはラキだけど」

 

「えっと、ありがと。嬉しいよ。アイサお姉様」

 

「え? なにその響き。堪らない」 

 

 アイサがなにやら恍惚とした表情を浮かべているが大丈夫だろうか? 取り扱い苦笑しておくことにする

 

 それにしてもお姉様か。お姉様………なんで姉さんとかおねぇちゃんとかじゃなくてお姉様なんだろう。そう思ったとき、頭の奥がズキリと痛む。何か、本当大切ななにかを忘れてる。忘れちゃいけないのに

 

『お姉様…………どうして、お姉様……………?』

 

「う、あぁあ…………」

 

 ぐちゃりと歪む顔。引き裂かれる肉の音。内側から弾ける骨。死、死、死、死。

 目の前の山のような死体を認識して、意識がここじゃないどこかに持っていかれていると理解する。でも止められない。フラッシュバックで頭が割れそうに痛い

 

「フラン………………フラン……………あぁ、アアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

 帰らなきゃ。帰らなきゃならない。なぜ? どうして? 望郷? 違う、そんなことじゃない。私は早くあの娘を止めないと…………ッ

 

 その時、体を強く抱き締められた気がした。違う、気じゃない。

 

「大丈夫だよ。落ち着いて。ここには怖い人はいない。顔が怖い奴とか性格がダメな奴とかは居ても、あなたを傷つけるものなんかいない」

 

「あっ…………」

 

 戻ってこれた。心は落ち着いている。さっきまで見えていた、金髪の女の子。でも顔は思い出せない

 特徴的な宝石のような物が吊るされた翼。全てを呪う様な笑顔。そんなものだけを漠然と思い出すことが出来た

 

「…………アイサに助けられるのは2度目だ」

 

「ううん。……………あ、お姉様って呼びたかったら呼んでいいよ!! 今みたいになられたら困るけど………

 ところでさ、名前ないのって不便だよね!! それで………それでね!! あの、セキって名前どうかな!? 可愛くない?」

 

 勢いに押されて目を丸くしてしまう。でも、名前が無いのも不自由だし、確かにかわいい気がする。うん。

 

「ありがとうアイサ。これから私は記憶が戻るまでセキだよ」

 

 そう告げた時、アイサは元喜いっぱいに跳ねたのだった

 

 

 




 セキはセキレイから。アイサが鳥の名前なんで。自分と同じ様に、鳥のから名前をとろうと、鳥図鑑を必死に眺めてるアイサを想像すると萌える



 なんかお気に入りとかUAとか評価バーとか凄いことに…………嬉しい以上に驚きが勝ってます。ですが本当に嬉しいです!! ありがとうございます!! そして誤字脱字報告の有りがたさと自分のチェックの甘さに泣きながら喜んでます。


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アラバスタ編
クロッカス


 これ書いてるときにインディードのCMを見たんですけど、麦わらの一味のコスプレのチョッパーで不覚にも笑いました。なにか負けた気がする。くそぅ

それはともかく本編


 目を覚ますと、見慣れた船内で見慣れた自分のベッドに寝かされていた。頭が痛くて体が怠い、体に力も入らない。目も霞む

 

「ぁ…………ぅ……」

 

 声を出したが掠れてしまっている。喉がいたい。なんなのかしら、これ。

 ボーッとする体に活を入れて起き上がろうとするが、どうにもダメだ。諦めて横になるがちっとも楽にならない

 

 その時、部屋の扉が開いて誰かが入ってくる。そっちを見ると、見慣れたオレンジの髪と見たことのない変な頭のオッサンがいた。

 

「…………ぁ……………ミ……?」

 

「起きたのね、レイム。取り敢えずこれくわえなさい」

 

「ん? むぅ~」

 

 くわえさせられたのは体温計だった。それは数分後、38.6の数字を指した体温計を見たナミは少しため息をついた

 

「風邪よ。ローグタウンを出てからなんだからしくないと思ってたけど、原因はこれね。

 ……………これは私のミスね。あなたに無理させ過ぎたわ」

 

「ケホ、ケホ……無理?」

 

「ローグタウンで嵐の中を走り通して大暴れ、その前だって魚人相手に戦ってるし、ひとつの海賊団を相手に大立ち回り。普通の人間なら体にガタが来てもおかしくないわ」

 

「でも他の連中は……」

 

「あのねぇ、アイツらとレイムは別の人間でしょ!!?? 合わせて無理をする理由にはならないの!! 

 ……………正直、アイツらと一緒で規格外の化け物と思ってたふしはあるけど、そうよね。あなた私よりも年下の女の子だものね」

 

「む、確かに身長は一番低いけど、年下かどうかは解らないじゃない。もしかしたら500歳くらいのお婆ちゃんかもしれないわよ」

 

 そう言ったとき、なぜか背中に蝙蝠の羽つけた幼女がくしゃみをする幻覚を見たが、私はそこまで弱っているのだろうか?

 

「はいはい、そうだったら面白いわね。

 取り敢えず外の事は気にしなくていいわ。他の連中は騒がしいからこの部屋には入れない。早く治して顔見せてあげなさい。ルフィなんか泣きながら倒れたあなたの体を揺さぶっていたんだから」

 

「……………うん」

 

 容易に想像できるな。そして『悪化するからやめい!!』なんて言いながら、ナミがルフィを殴るのまでが一連の流れだ

 そこまで言ったところで、隣にいたオッサンが口を開いた

 

「ふむ、私はクロッカス。灯台守兼医者だ。口を大きく開いて喉の奥を見せろ」

 

「その二つの職業の関係性が見えないんだけど………あー」

 

 取り敢えずナミが連れてきていると言う事は敵じゃ無いだろう。素直に従っておく。

 開けた口に、金属の器具でイロイロ覗かれたり、心音を聞かれたりする。彼はナミの見立て通り、暴れ過ぎの所に雨で体が弱り、その時に感染したのだろうと言った。咳と熱で、話半分にしか聞くことが出来なかったが

 

 彼が差し出した薬をのみ、後は温かくして寝ていればじきに良くなる、そう言ってくれた。

 そんな彼に、ナミは思い出したように話しかける

 

「ねぇ、クロッカスさん。この子、記憶喪失なの。どうにか治せないかしら?」

 

「なに?」

 

 出ていこうとしていた彼は、その言葉を聞いてこちらに戻ってくる。なによその顔。

 彼は私の頭や瞳孔の開き具合とか色々問診やら、さっきの診察ではしなかったことを一通りして、彼は最後に言った

 

「さて、答えたくなければ答えなくてかまわん。お前、赤いハキを使えたりせんか?」

 

「……………なによそれ」

 

「自覚症状は無しか。それならそれで構わん。だが覚えておけ、お前を待ち受ける運命は、想像より過酷な物になる。その記憶喪失を修復する方法は私よりも自分がわかっているはずだ」

 

 そういって、クロッカスは部屋の外に行ってしまった。

 

「………あいつ私の事何か知ってるのかしら」

 

「みたいね。でもあの感じじゃ聞いても答えてくれそうにないわよ」

 

「よねぇ……。ケホ…ケホ、ゴホッ……」

 

「あぁ、もう。無理しないで寝てなさい」

 

「うん………。ありがとうナミ」

 

 ナミはそのまま扉から出ていく。そして部屋には私一人になってしまった。

 ……………そう言えば、一人って凄い久しぶりな気がするわね。最近はずっとみんながいるし、目が覚めた時にはガイモンのオッサンがいた。その前は……ずっと……………りで……。

 

 薬が効いてきたのだろう。熱に浮かされる体はそれに抗うことは出来ず、思考は闇に溶けていく。最後に魔女の格好をした金髪の女の子を見たような気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか凄い音がするわね。具体的にはマストがもげるような音とか、なにか巨大な生物の鳴き声とか。

 言っといてなんだけど、そりゃないわ。マストがもげたら航海できないじゃない

 

 そこそこ眠っていたので、体が楽になってきた。歩けそうね。

 そう思って外に出ると、マストが無くて、ルフィが暴れてた。うわぁ……、病み上がりにこの光景は堪えるわぁ……

 

『ブォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』

 

『なにやっとんじゃお前ぇええええええーーーーーーーーーーー!!!!!!』

 

 ルフィがなんかバカデカイ鯨と戦ってる。そりゃまぁあのサイズの鯨と戦おうと思ったら、そりゃ船のマスト位要るわ。うん、自分でも何考えてるのか解らなくなってきた

 

『引き分けだ!!』

 

 そうこうしている内に、決着がついたらしい。いや、ついてないのか? ルフィは鯨にまた戦おうって語りかけている。ルフィが話し終わったら、鯨は涙を流して叫んでいた。伝わったらしい

 

「おーい、ルフィーー。相変わらずとんでもないことしてるわねー」

 

「レイム!!! よかった!! 治ったのか!!!???」

 

「まぁそれなりにはね。ってか何よこの状況。ウソップがブチギレるわよ?」

 

「んー、まぁなんとかなるだろ」

 

 ルフィは私の姿を認めて、ホッとした様子だ。後ろの方でナミが何やらジェスチャーをしている。あれは『早く寝ろ』のそれね。薬飲んで寝たから大丈夫だってのに

 

「レイムちゃーーーん!!!」

 

 サンジがくるくる回りながら降ってくる。手には何かお皿を持ってるわね

 

「食欲はあるかな? お粥を作ったんだけど食べれる?」

 

「あー、ありがと。確かにお腹は減ってきてるわ」

 

 彼の料理は絶品だ。きっと今の体調でも食べられるだろう

 食堂で、サンジの作ったお粥をいただく。病人の為の食事だから味は薄味だけど、ほのかに感じられる魚介の旨味が食欲をそそる。隣には薬味のネギと鰹節と梅干しだ。万全とはいえないこの体で、二杯も食べれてしまうあたり流石だわ

 

「ふぅ、ありがとう。本当に料理の腕は一流のそれよねぇ」

 

「少しお腹を休ましたらすぐに寝るんだよ。しばらくはこの港にいる予定だしね」

 

「……………………」

 

 なんだろう、いつものサンジと違ってやりにくい。なんか普通にカッコいいぞ?

 

「ん? どうかしたかな?」

 

「いや、今はわりと普通に紳士ねと思って。普段はめんどくさいのに」

 

 紳士と言ったら喜んで、めんどくさいと言ったら崩れ落ちた。やっぱり普段のサンジね。

 少しくすりと笑ってしまった。そのままサンジに微笑んで

 

「ありがとう。美味しかったわ」

 

 それを聞いたサンジは、心臓を押さえて倒れ込んでしまった。いや、なんでそこで崩れ落ちるのよ。

 

「微笑んだレイムちゃん……なんてプリティなんだ……」

 

 あぁ、もういいや。心配した私がバカだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ルフィが鯨の頭に絵を描いたり、ウソップがマストや船首を修理したりしてる間に結構な時間が過ぎた。

 私と言えば、殆んど体は治ったので偉大なる航路の海を眺めている。今までいた海と何か違うのかと聞かれたら、あまりよく解らないな。船でこうしているとウソップとかナミとかサンジとかが寝ろ寝ろうるさいから、今は灯台もすぐそばだ

 

 自分で淹れたお茶を啜りながら、花みたいな見た目をしたオッサン、クロッカスに話しかける

 

「ねぇ、さっき言ってたのどういう事?」

 

「答える気は無い。と言うか寝とかなくていいのか?」

 

「あいつら皆、大袈裟なのよ。もう治ったわよ」

 

「んな簡単に治るか」

 

 確かにまだ熱っぽい感じはするが。まぁ誤差だ誤差

 

「………………………そうだな。どうしても知りたいのならフラワーランドと言う島にいる、ユウカと言う女を訪ねろ。命がけになるが、私の紹介と言えば邪険には………、しそうだな。やはり命がけだ」

 

 会うだけで命がけってどういう事よ。そんな言葉を視線に込めてそちらを見ると、クロッカスはため息をついた

 

「少々性格に難がある女でな。基本的に身内と花以外に興味がない。少しでも気に入らないことがあれば暴力で解決しようとする。話が通じない訳ではないのだが、地雷を踏めば反射的にその相手を島ごと吹き飛ばそうとするなど、まぁあまり誉められた人間ではないのだよ」

 

「難のレベルが少々のそれじゃねぇ……」

 

 せっかく来た記憶の手がかりだが、相手がめんどくさいの極みみたいな奴らしい。ついつい頭を抱えてしまう。

 お茶をもう一口飲んで、小さくため息をつく。そうだ、このオッサンなら知っているかもしれない

 

「ねぇ、この世界には解りやすい終点ってあるの? そこに私の記憶の手がかりがあるはずなんだけれど」

 

「…………………なるほど、やはりか」

 

 オッサンはそういって、この偉大なる航路について教えてくれる。島々が帯びる特殊な磁気、それを辿るログポース。そして最終目的地である‘ラフテル’。その事を

 

「お前‘達’がどこから来たのかは知らん。だが、ある時からこの海には記憶喪失で不思議な力を操る者達が現れる様になった。そのもの達は皆、そのラフテルを目指していると聞く」

 

「……………………私以外にもいるの?そういうやつ」

 

 クロッカスは首を縦に振る。そうか、なら本当に私の道はルフィと重なったわけだ。

 お茶を飲み干して、海を見つめた。そうか、この先に………

 

「あーーーーーーー!!!」

 

 その時、後ろから大きな声が聞こえてくる。その声はナミの物だ。彼女はたしかこの編の海図とか描きながら航海計画を立てていた筈だぞ?

 

「コンパスが……………ってレイム!!! あんたなんで起きているのよ!! 寝てなさいって言ったでしょ!!」

 

「げ、首突っ込むんじゃ無かった」

 

 そして私は無事捕獲され、出港するまでの間、一度も外に出ることを許されなかったのだった

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 時は戻る。エースがお父さんの制止を振り切って、ティーチを追いかける為にストライカーをだし、その姿が水平線に消えようとしていた

 

「あぁ、もうエースのバカ」

 

「……………なぁリン、今回はどうにも嫌な予感がしやがるんだ。エースを、俺のバカ息子を追い掛けてやってくれないか?」

 

 メラメラの実を動力とするストライカーの速度はかなり速い。飛び出したエースを捕まえられるのは私くらいのものだ。

 

「任せて!! 行ってくるけど、お父さんは呑みすぎちゃダメだよ!! 私がいないからってはめ外しちゃダメなんだからね!!」

 

 ネコネコの実、モデル火焔猫。私が食べた悪魔の実に名前をつけるとしたらそれだ。

 猫の姿に変身できて、焔を操る。ロギアじゃないからエースみたいに物理無効とかは無いけれど、エースみたいにストライカーに乗ることが出来る。

 私は船の下につけてあるストライカー2号機の上に乗って黒猫の姿に変身する。そして全身に焔を纏ってフルスロットルでエースを追いかけた




 短い上に駆け足な上に説明回です

 お燐は火車だよ。火焔猫って苗字じゃねーかって言われそうですけど、語呂いいんですもの、火焔猫。好きなんです、火焔猫って響きが

 ちなみにこの作品の霊夢ちゃんは数えで15歳の設定。紛れもなく最年少です

 今回の一件で、ナミにとってレイムは手のかかる妹的な存在にランクアップしました。ランクアップとはいったい………

 ちなみに各々から見た霊夢の評価は

ルフィ
 フワフワしててなんかおもしれーやつ

ゾロ
 なに考えてるか解らないが、悪い奴じゃ無さそうだ

ナミ
 気が付いたらどこにいるか解らなくなりそうな、妹分

ウソップ
 あの針を少し別けて分けて欲しい

サンジ
 可愛い

 な感じです。感情のままに行動してるので、結構疑り深いゾロも霊夢にはそれなりに警戒を解いています。


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ウィスキーピーク

 本編の最後につけている、他の連中が何をやっているのか、何をやっていたのかは美鈴➡幽香➡妖夢➡うどんげ?➡レミリア➡お燐の順番で回してます。ですが本編の状況次第で変えたりします。


「よし、全快」

 

 体が軽い。しっかり寝たおかげで以前よりも調子がいいくらいだ。今なら空も飛べそうだ

 

「いや、人間が空飛べるわけないじゃない」

 

 自分で自分にツッコミを入れて、船室を出る。ナミとの相部屋なのだが、彼女はここ数時間帰ってきていない。暇があればここか食堂で海図を描いているのだが、その道具一式もこの部屋に置きっぱなしだ。どうしたのだろう

 

 取り敢えず外に出て、様子を見る。ポカポカ陽気の気持ちのいい空だ。そして船の上ではゾロが大あくびをしていて、他の皆はダウンしていた。ってか知らないやつがいるんだけど

 

 取り敢えずへばっている連中を無視して食堂でお茶を淹れ、甲板の上でお茶を一口。ふぅ、美味しい

 

「…………おいおい、いくら気候がいいからって全員ダラけすぎだぜ? ちゃんと進路はとれてんだろうな?」

 

「ダラけてるっていうか死んでるように見えるんだけど」

 

 へばって誰も返事ができそうにないので、仕方なしに私が答えた

 

「お、レイム。もう大丈夫なのか?」

 

「全快よ。これ以上寝てたら逆に病気になる」

 

 急須に残ってるお茶を見せながら、飲むかと聞いたらイエスと答えたので、食堂に向かってゾロの湯飲みにお茶を注ぐ。それをゾロに渡そうと持っていくと、頭にたんこぶを量産していた。後ろには般若の形相のナミだ。逃げた方がいいかしら?

 

「レイム!! あなたまた……っ。寝てなきゃダメじゃない!!」

 

「なんで俺は殴られてソイツは心配されてんだよ!!」

 

「アンタは病気でも何でも無いでしょうが!!!」

 

 取り敢えず、ゾロがお茶を飲まないようなのでその分も飲むことにした。

 自分の航海術に自信を持っていたナミは、この海の怖さを理解したと言ってる。自分の航海術が通じないのだから偉大なる航路だと。自信があるのか無いのかよくわからないわね。

 

 お茶を飲みながら海を眺めていると、巨大なサボテンみたいな物が見えてきた。なにかしら、あれ

 

「ねぇ、ナミ」

 

「何よ!! あんたは早く寝なさ………」

 

「島、見えたわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 見知らぬ二人はそのまま名前も知らないままに行ってしまった。何だったのかしら、あいつら

 

「ほっとけ!! 上陸だーーーーっ!!!」

 

 相変わらず元気なルフィね。まぁいいけど

 

 島の名前をウイスキーピーク。記念すべき、偉大なる航路の最初の島だ。

 

「バ、バケモノとかいんじゃねェだろうか………!?」

 

「可能性はいくらでもある。ここは偉大なる航路だ」

 

「そしたら逃げだしゃいいだろ」

 

「妖怪なら倒せばいいしね。そんでナミ、本当に大丈夫だから。もう治ったって」

 

 無理矢理寝かしつけようとしてくるナミをなんとかいなしながら、ウソップの問いに答える。

 ちなみに逃げ出すことは出来ないらしい。この海のルールとして、記録指針(ログポース)にこの島の磁力を記録しなければ、次の島への道が開けないらしい。これのせいで世の海賊達は中々先に進めないのかね?

 つまりすぐにでも逃げ出したい化け物妖怪悪鬼羅刹のはびこる島でも何日も居なければならない事もあるらしい

 

「そしたらそん時考えるってことで、早く行こう!! 川があるのに入らねェなんておかしいだろ!!?」

 

「どの辺がどうおかしいのか」

 

 ルフィは早く島に入りたくてウズウズしているようね。目が輝いている。

 まぁいいでしょう。その辺のことで頭を悩ますのはルフィの役目じゃない。ルフィは楽しそうに先に進めばいい

 

 ウソップが『島に入ってはいけない病』とやらを発症していたが、誰一人その事に耳を貸すものはいなかった。

 そしてメリー号はウイスキーピークに上陸する

 

 その瞬間、歓声が響き渡った

 

 島からのびていた川に侵入し、船を走らせているが、その両脇で沢山の人々が手を振り、口々に歓迎の言葉を叫んでいる。

 可愛い女の子に感激するサンジと、歓声に気を良くしたウソップとルフィがもろ手を上げて叫んでいた

 

 

 上陸を果たし、ウイスキーピークの町長を名乗るイガラッポイと面会する。この町は偉大なる航路に入ってきた海賊達を歓迎し、もてなすことを誇りとする町だそうだ。

 

「自慢の酒なら海のようにたくさんございます。あなたがたのここまでの冒険の話を肴に、宴の席をもうけさせては頂けま"ぜ、ゴホン。マーマ~まー♪。いただけませんか………?」

 

『喜んで~っ!!!』

 

 我らが一味が誇るお調子者三人組、ルフィ、ウソップ、サンジは肩を組みながら踊って叫んだ。少しは警戒をしろ、海賊を歓迎するような町があるわけないだろう

 言っても聞きそうにないのでため息をついて無視しておくか

 

 ナミがこの島のログがいったいどれくらいで溜まるのかと聞いていたがはぐらかされている。どう考えても怪しい。それに何か不穏な気配がするし

 

「さァみんな、宴の準備を!!! 冒険者達にもてなしの歌を!!!」

 

 まぁもてなしてくれるって言うなら食べて飲もうかしら。毒なんか入ってなければいいのだけれども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウソップが語り、ゾロは飲み、ナミも飲み、私も飲み、ルフィは食らい、サンジは口説く。状況が意味解らないが、このカオスっぷりが宴と言うものだろう

 

「うっぷ」

 

「どあーーーっ、凄いぞ10人抜きだァ!!!」

 

 ゾロが飲み比べで10人目をダウンさせたらしい。

 

「うわーーーっ、こっちのねーちゃんは12人抜き!!! 何という酒豪達だァ!!!」

 

 その隣でナミがアホみたいに飲んでる。まったく、私みたいにゆっくり飲め無いのかしら?

 そう言いながら倒れ伏した15人を跨いでツマミを食べる。

 

「ぬあーーーー!!! こっちの変な服のねーちゃんは15人抜きだぞ!! 島の酒が無くなっちまうぜェ!!」

 

「度数が低いのよ。こんなのいくら飲んでも酔いっこないじゃない」

 

 嫌いじゃないが、好みでいうなら私は度数の高めのウォッカとかが好きだ。あの手の強めの酒をツマミを片手にチビチビやるのが好き

 

「なによ~、レイム。病み上がりがそんなに飲んでいいと思ってるのぉ~」

 

「病み上がりだから飲むのよ。体の菌を消毒しないと」

 

 ジョッキ入った少なくなったビールを煽る。その隣で勝手にペースを合わせて飲んでいたオッサンがひっくり返ってしまった

 

 さて、と

 

 

 ゾロが13人目を倒したところで倒れ込み、ナミがシスター服の女性を相手にしながら寝てしまい、食べまくって体積が元の倍近くになったルフィは寝てしまい、酒にそこまで強くないウソップと、女達に進められてペースが早かったサンジも落ちた。そうね、私も寝た方がいいのかしら

 

「ちょっとお手洗い」

 

 寝る演技をしてもいいけど、見破られる気しかしないので止めておく。私は席をたってそとに向かった。厠の場所は今いる小屋の裏手だ

 立ち上がってそこへ向かおうと扉にてをかけて、外に出ると、10人ばかりの男達が私の頭に向けて銃を向けていた

 

「あら? 歓迎会はお仕舞い?」

 

「いいや、ここからが本当の歓迎会さ」

 

 にやついてる男達はいっせいに銃を撃つ。そのタイミングでしゃがめば簡単に同士討ちしてくれた。

 悲鳴をあげている男達を蹴り飛ばして外に出ると、そこには大量の、武装した敵達が。うわ、この数は骨が折れそう

 

「なんだレイム、寝なかったのか」

 

「それはこっちの台詞なんだけど?ゾロ」

 

 屋根の上、刀を抜いた姿でゾロがそこにいた。戦闘準備は万端って所ね。ってかいつのまに登ったのよ。煙とバカはってやつかしら?

 

「なァに、剣士たる者いかなる時も、酒に呑まれる様なバカはやらねェモンさ」

 

「伊達男ねぇ」

 

 この町は賞金稼ぎの巣、意気揚々と偉大なる航路へやって来たルーキーをカモにして生計を立てている町だ。ルーキー狩りは何処の業界でも盛んに行われているらしい

 

「賞金稼ぎ、ざっと100人ってとこか。相手になるぜ、‘バロックワークス’」

 

 ゾロからその名前が出た途端、賞金稼ぎ達の顔が強ばる

 

「昔、俺も似たような事をやってた時にお前らの会社からスカウトされた事がある。当然ケったけどな。

 社員達は社内で互いの素性を一切知らせず、コードネームで呼び合う。もちろん社長の居場所も正体も社員にすら謎。ただ忠実に指令を遂行する犯罪集団‘バロックワークス’」

 

 なんとまぁ秘密結社じみた組織もあったものだ。色めき立つ賞金稼ぎ達も戦闘準備を整えていく。

 

「また一つ、サボテン岩に墓標が増える………」

 

 私も背中の『染雪』に手をかける。病み上がりだが体は万全だ。口角を上げながら戦う準備をしていたが、目の前にゾロが降り立った。

 

「わりィ、レイム。こいつら譲ってくれ。新入り達の試し斬りをしてぇ」

 

「………………………………チッ、貸し1つよ」

 

 刹那、私達が喋っていた場所に大量の弾丸が飛んでくる。バックステップと宙返りを繰り返して勘と目測で避けながら、さっきゾロがいた屋根の上におりたった

 

 さて、ここからゾロの戦いでも眺めてるかね。お茶とお菓子でもあればいいんだけど

 

「下で淹れてこようかしら」

 

 それはそれで面倒臭いなぁと思っていると、ゾロが捕まって顔面をおもっきり殴られていた。気を抜いてるからよ

 そっちに気をとられていると、後ろに回り込んでいた賞金稼ぎの一人が銃を向けてくる。気づかれていないと思ってるのか、ゆっくりとした動作ね。

 それに向かって針を投げつけ、悲鳴をあげるそいつを地面に叩き落とした所でゾロの姿を見失ってしまった

 

「あれま、見物すらさせてもらえないか」

 

 このまま下で待つのも面倒ね。ちょいちょい手練れがいたけれど、あの程度の連中ならゾロの敵でもないでしょうし、私は私で船でも守りに行こうかしら

 よし、そうと決まれば善は急げだ。地面に降りて、メリー号を止めてある川辺へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 息があって襲ってくる賞金稼ぎを倒しながら、船のある川辺へと歩いていると、モジャモジャ頭のサングラスの男、レモンが描かれたワンピースを着た女性、そして銀髪のおかっぱ頭の少女とすれ違った

 

「止まれ、そこの紅白」

 

「……………………?」

 

 銀髪はそのすれ違い様にそう言った。紅白と言えばやはり私かしら

 

「Mr.5、ミス・バレンタイン。お前達は先に行け、私はこの女に少し用が出来た」

 

「あァ?……新入りが誰に向かって指図してるんだ? オォ?」

 

「キャハハハ、マジでふざけてるよね。ミス・ハッピーバースデー。なにぽっと出のアンタが…………」

 

「ぽっと出だろうと何だろうと、私はお前達より強い。それだけの話だ。解ったら早く行け」

 

 明らかな怒気を込めたその言葉に、モジャモジャとレモン女は青ざめる

 

「………チッ」

 

「この、覚えておきなさいよ………」

 

 その二人が見えなくなった頃、銀髪の女が口を開く。

 

「さて、どういうことか解らないが。なんにせよ」

 

 体が頭で考えるよりも先に動く。背中の刀を引き抜いて布をほどく。布を棄てて銀髪を刀越しに構えた所で彼女は、腰の刀を抜いて襲いかかってきた

 

「斬れば解る」

 

 頭の上から叩き付けられた刀を『染雪』で受け止める。ガリガリと音をたて、火花が散った

 

「あん、た、賞金稼ぎかなんか………っ?」

 

「いや? 私は‘バロックワークス’のエージェントよ。ところであなた、何処かで私と会わなかったかしら?」

 

 つばぜり合いになっている状況じゃまともに会話もできない。相手の女の腹を蹴り飛ばし、無理矢理距離をあける。その開いた距離なら針の方が楽ね

 刀を左手だけで持ち、右手で袖に仕込んだ針を取り出して投擲する。しかしそれは彼女の腰に携えた、もう1本の短刀に阻まれてしまった

 

「ったくどいつもこいつも、最近戦うやつは、なんでみんな弾を叩き落としてくるのかな。反則よそれ」

 

「戦いにそんなものは無いわ。ふざけているの?」

 

「一番ふざけてるのは辻斬りもかくやと襲いかかってきたあんたよ。何が斬れば解るよ。ぶっ飛ばすわよ」

 

「やってみろ」

 

 彼女は短い方の刀を腰の鞘に納め、もう片方の長い方を腰だめに構えたまま飛び込んできた。横薙ぎに払われたそれを『染雪』で受け止め、軽く後ろに下がりながら刀をいなす。振りきったのを確認して、今度は私が相手の懐に飛び込んで、『染雪』を叩き付ける

 そこで気が付く、懐に跳び込まさせられたと。彼女はいつのまにか片手を話しており、その手は短い方の刀へとのびている。あそこから縦に振り払われたら逃れるすべはないだろう

 それでも気付けた。とっさに『染雪』を捨て、小刀に合わせて腕を持っていく。ギィンと金属と金属が当たる音がした

 

「ッ!!??」

 

 腕、と言うか袖には大量に針を仕込んでいる。とっさの防御に使えると思い付きだったがなんとか出来た。ガードした反対の腕で拳を作る。相手は刀を2本とも振りきっており、止めるすべはない

 

「まっ、」

 

 私の拳が女にめり込むのと、手を離した『染雪』が地面に落ちるのは殆ど同時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「みょんなぁ~」

 

 私の拳は上手いこと彼女の脳を揺らし、脳震盪を起こさせた様だ。銀髪の女はふらふらと謎の言葉を吐きながらバランスを保てないでいる。私は彼女の脳天に踵を叩き込み、その意識を奪った

 

「さて、と」

 

 取り出す謎の人物をのしたのはいいけれど、こいつなんか‘バロックワークス’のエージェントとか言ってなかったかしら? なら素通りさせたあの小物っぽい二人もそうなのかしら。放っておいても問題はないのだろうけれど、気になる所よね

 

 戻るか、ゾロがどうなったのかも気になるし、あの寝てる連中もそろそろ起こさないと。私が戦ってるのにグーすか寝られてるのもムカつくし

 

 気絶している銀髪の女を近くの川辺に捨てて、私は元の場所へ戻るために歩き始めた

 

 

 そして戻ろうとしたところで、すごい速度で何かが走ってくる。鳥に乗った女に、モジャモジャに、女か。なんだこれ

 

「く、あの緑髪の仲間か……」

 

 そのいく手を遮るように、ナミが最後に飲み比べをしていた女が現れて、殴りかかってくる。それを避けて、後ろに下がると女は追撃をかけようと私に向かって来ようとして、止めた

 

 その女は舌打ちをひとつして、あの謎集団に突っ込んでいく。そいつは先頭の鳥だけを素通りさせて、他の二人に突っ込んでいった。よく見たらさっきの銀髪の隣にいた奴じゃない

 

 その女はモジャモジャ男に吹き飛ばされた。凄まじい爆発と共に

 

「俺は全身を起爆することのできる爆弾人間。このボムボムの実の能力によって遂行できなかった任務はない!!」

『鼻空想砲!!!』

 

 そいつは鼻くそをほじって飛ばす。汚いやつね。

 

 ボムボムの実の爆弾人間と言ったかしら? つまりあの鼻くそは爆発するわけね。巻き込まれたらたまらないと避ける。その鼻くそは寸分たがわず鳥に乗った女に向かっていった

 

「ハナクソ斬っちまった!!!!」

 

 その横から飛び出してきたゾロは、女に当たりそうになっていた爆発する鼻くそを真っ二つに斬り、その女を守った。そしてその手段にすごいショックを受けているわね

 二人はなにやら問答をしている間に、モジャモジャ男とレモン女が話しかけてきた

 

「さっきの紅白女か………。ミス・ハッピーバースデーはどうした?」

 

「ん? アイツなら海に浮かべといたわよ。なんかまずかった?」

 

「キャハハハハハハハ、なによあのちび女。口だけじゃない、こんな弱そうな奴に負けるなんて。やっぱりあんな奴、オフィサーエージェントにふさわしくなかったのよ」

 

 めんどくいわねぇ。ログはまだたまらないのかしら。早くここから出ないと相当面倒な事に巻き込まれる気がしてならないのだけれど

 

「さて、そこの後ろの剣士ね。この町の平社員達を斬りまくってくれたのは」

 

「そいつがなぜアラバスタの王女をかばう?」

 

「おれにもいろいろ事情があるんだよ。ってかレイム、なんでこんなところにピンポイントでいやがる」

 

「私だっていたくていてるわけじゃないわよ」

 

 さて、状況はいまいち飲み込めないが、王女とか聞こえてきたわね。ますますもって面倒事の気配がするわねぇ……

 モジャモジャ男とレモン女の、戦い前の前口上も終わり、さぁ、いざ蹴散らすかと思っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた

 

「ゾローーーーーーーー!!!! レイムーーーーーーーーーー!!!! おれはお前らを許さねェ!!! 勝負だ!!!!!」

 

『はァ!!??』

 

 私とゾロの台詞が重なった。あぁもうめんどくさいわねぇ!!!

 

 




 都合により、美鈴の出番は今度です。スモーカーさん達と一緒に出したいので。なので最近の出番のなかったうどんげにスポットを当てようと思ったのですが、まぁいいかと思ってとばしました


 キャラがいまいち定まっていない妖夢ですが、今回は辻斬り妖夢として頑張って貰います


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バロックワークス

 イガラムの髪に仕込んでいた大砲とかってどうなっているんですかね? 装填とか

それはともかく本編


 

 

 何をトチ狂ったのか、食べ過ぎで腹が凄いことになっているルフィが血相を変えて私とゾロに向かって怒りの言葉を叫んでる。凄まじく状況が読み込めないんだけれども、ゾロはこの状況を理解しているのかしら?このアホ面からして、理解してないわね。

 

 状況を整理しよう。私達の後ろにはアラバスタの王女と呼ばれた女、この道をまっすぐ行けば海に出る事が出来る。そして私とゾロがポカンとした顔で立っていて、爆発するモジャモジャサングラスと全身をレモン一色で染めたテンションの高い女、そしてルフィが奥にいる。

 そしてルフィが突然現れて私とゾロをぶっ飛ばすと言い出したのだ。全く意味が解らない

 

「てめェはまた何を訳のわからねぇ事を言い出すんだ!!」

 

「これはあれでしょ? ゾロ、あんたルフィの目の前の肉を取ったとかそんなんでしょ? バカバカしい………」

 

「うるせェ!!!! お前らみてェな恩知らずは俺がぶっ飛ばしてやる!!!」

 

 おおっと? なにかよく解らない単語が出てきたぞ。恩知らずってなんのことよ。

 

「俺たちを歓迎してうまいもんいっぱい食わせてくれた親切な町のみんなを一人残らずお前らが斬ったんだ!!!」

 

 あぁ、そう言う………頭いたい。取り敢えず開いた口が塞がらない。ゾロが白目をむきながら『いや、そりゃ斬ったがよ………』と小さく呟いたのがなおさら頭いたい。

 

「あのさルフィ。私は殆ど何にもしてないわよ?ってかアイツら全員……」

 

 

「言い訳すんなぁ!!!!!」

 

 

「ちょっ!!??」

 

 ルフィが私の言葉を遮って突っ込んでくる。その拳はまっすぐ私の顔面に向かっていた。

 舌打ちをしてからそれを辛うじて避ける。ギリギリだったそれは頬をかすめ、拳の先にあった建物は粉々に砕け散った。あれ喰らえば死ぬわね

 その勢いのままゾロに向かって蹴りを放つルフィ。ゾロも避けるがやはりそれは必殺の威力を誇っている、よしふざけんな

 

「殺す気かぁ!!」

 

「あぁ、死ね!!」

 

「私はやってないって言ってんでしょうがこのバカが!! やるならゾロだけにしなさいよ!!」

 

「てめ、なに俺を売ろうとしてやが……」

 

「うるさーーーーい!!!」

 

 ルフィの拳が連続して飛んでくる。一発一発がバカみたいに強い威力のそれにため息をつく暇もない。幸いな事に、ルフィは今は食べ過ぎで、体積がメチャクチャに増えてる分速度がそこまででもない。しかしこんなのいつまでも避けきれる物じゃ無いわよ。

 なんだかもうムカついてきた。勘違いの元凶のゾロはともかく、私は最初に鉛玉をぶちこもうとして来た奴と、あと一人雑兵しか倒してないぞ。なのに何故こんな目に合わなければならないのか

 

 遠くから何かを喋っている声が聞こえてくるが、そんなことより目の前のバカだ。もう怒った。全力の拘束封印でも叩き込んで大人しくさせてやる。そう思って刀に手をかけた時

 

「いい加減にしろてめェ!!!!!!!!」

 

 ルフィを挟んで反対側からゾロの声が聞こえてきた。そしてそのまま巨大化したルフィに撥ね飛ばされる。轢かれると言ってもいいだろう。ついでになんか一緒に二人ほど撥ね飛ばされたが。

 おそらくルフィは、キレたゾロに蹴り飛ばされでもしたのだろう。あのバカはお互いの位置を把握できないほど頭に血がのぼっていたのかしらね? 遠く方でゾロが小さく「あっ」とか言ってるのが聞こえてきたが、取り敢えず知ったことじゃない

 ルフィとその他二名と一緒に建物に突っ込んで、そのまま壁に叩き付けられた私は地面に落ちた。そして寝転がりながら、なんでこんな痛い思いをしないといけないのか考えた

 

……………………………………………………………………ブチ

 

 そして、私の中から何かがキレる音が聞こえてきた。轟音と爆音と共に飛んでいった女と、ボコボコに殴られまくっている男。その死に体を引き摺って、私に止めのつもりなのか、大きく拳を振り上げたルフィの腹に向かっておもっきり蹴りを叩き込んだ

 

『昇天脚ゥ!!!!』

 

「うおぉ!!!」

 

 取り敢えず、ルフィに打撃が効かないとかこの先の事とか知ったことか。蹴りで怯んでる間に全身のバネを使って体をカチ上げる。その勢いのままルフィの顎めがけてサマーソルトキックを叩き込んだ

 空中に大きく吹っ飛ばされたルフィは建物の天上をぶち抜いて飛んでいく。その衝撃で捨てられたモジャモジャ男を苛立ちのままに殴り飛ばした

 そいつから潰された蛙みたいな悲鳴が上がり、元いたと思わしき場所に戻っていく。辺りには土煙が舞っていた

 怒りが収まらないので、ルフィが開けた大穴から戻ってゾロを見据える。ゾロは私の姿を見つけると、顔面を強張らせながら小さく口を開いた

 

「わ、わりィ」

 

「殺す」

 

 針を両手に構えて、6本の針を投擲する。それと同時にゾロに向かって走り始めた

 ゾロは手に持った刀を器用に操って針を叩き落とすが、その間に接敵に成功する。間合いまで後2歩、届いた。

 振り下ろした『染雪』をゾロは2本の刀で受け止め、つばぜり合いが発生する。取り敢えず怒りのままに力を込めた

 

「待て待て待て待て!!!これ以上話をややこしくするなって、な!!」

 

「煩い。黙って死んどきなさい」

 

 金属が擦れる音がして、私とゾロは距離をとった。片手に『染雪』、片手に針を構えて間髪いれずに走り始める。ゾロが苛ついた様子で口に刀をくわえたところで手数の勝負が始まった

 二刀流に口の刀を加えた三刀流。歯が折れるとしか思えないバカげた行為のそれも、ここまで旅をしてゾロの武器の1つだと理解している。しかしまともにぶつかってみてこんなにも面倒だとは思わなかった

 まず、意識していない所からいきなり刃物が飛んでくる。右と左の刀を『染雪』と針で受け止めても上段から叩き付けられるそれのせいで攻勢に移りづらい。かといってそれに注意を向けすぎれば両手の刀の餌食だ

 針を投擲したところで、叩き落とされて陽動にも使えない。仕方ないので超近接武器として使うが握りもなにもないこれじゃあ単純に力負けしてしまう。

 

『ゴムゴムの銃乱打!!!!!』

 

 何度目かのつばぜり合いをしていると、上からいつもの体型に戻ったルフィが飛んでくる。そう言えばさっき蹴り飛ばした時にはもう痩せていたわね。本当に人間と同じ仕組みの生物なのかアイツ

 目の錯覚で手が何十本にも見えるそれの範囲から逃れる。避ける拍子に建物が2棟くらい崩壊していたが些事だ

 

「くそ!! レイムだけでもめんどくせェってのに!!もぅ手加減出来ねェ、殺す気で行くぞてめェら!!!」

 

「上等だぁーーー!!!」

 

「こっちは最初からそのつもりよ」

 

 『染雪』を背中に背負い直して、両手に針を構える。片手に3本、計六本だ。そして私が走り始めたタイミングは奇しくも他の二人と同時だった

 

『ゴムゴムのバズーカ!!!』『鬼・斬り!!!』『封魔陣!!!』

 

 針6本をカギヅメに見立てて、目の前の空間を指定し、その場所を切り刻む。私が今使える技のなかでは殺傷能力極高のそれは、片手をゾロに刀で止められ、もう片方の手はルフィに手首を捕まれて止められた。全くもって忌々しい

 

「ちょうどいい、この際この中で誰が一番強ェのか……」

 

「おォ!! ハッキリさせとこうじゃねェか!!」

 

「上等ォ………」

 

 いったん距離を取り、六本の針を投擲。ゾロはそれを弾き‘返し’て来て、ルフィは避けながらカウンターを合わせるように拳を伸ばして殴ってきた。

 返ってきた針を掴んで捨てて、ルフィの拳を薄皮一枚で避けながら背中の『染雪』を引き抜く。銀髪の辻斬りの時から布を巻き直してないそれは鈍く輝いた。

 そうしている間にルフィの拳が戻り、そのままゾロに殴りかかる。ゾロが対応している間に接近して横凪ぎに二人まとめて斬りつけた

 二人は空中に逃れながらゾロはルフィに向けて刀を振り、ルフィは後ろに腕伸ばしている。私は地面に『染雪』を突き立てて、ゾロに向かって『昇天脚』、つまりサマーソルトキックを叩き込んだ

 

「ぐぁ、!!」「がぁ!!」「ゴフッ!!」

 

 蹴りはゾロの脇腹に突き刺ったが、避けきれなかったルフィの拳が私の鳩尾にめり込んだ。呼吸が止まり目の前が暗くなる。吹き飛ばされながらルフィがゾロの斬撃を受けてぶっ飛ばされているのが見て取れた

 建物を破壊しながら突っ込んで、中で辛うじて止まる。ダメージはそれなりだ、戦闘続行は可能。呼吸を整えてから立ち上がり1拍おいてから再びさっき殴りあっていた地点に向かって走り始めた

 

『どおりゃあああああああああ!!!!!』

 

 中心で再び激突する。拳が、刀が、針が、突き刺さり、切り刻み、叩き付ける。服の白いところが赤く染まり、打撲で内出血で赤黒く皮膚が染まり、痛みと腫れで目の前が見えにくい。

 知ったことかと拳を握ってゾロを殴り付け、そのゾロの刀が皮膚を切り裂く。ルフィに『染雪』の封印を施して針を突き刺すが、力業で解除されて彼の拳が私の顔面を捉える。

 

 自分の血と相手の血がどれがどれだか解らなくなってきた頃、なんか文句を言ってくる二人組がこちらに突っ込んできた。余裕も無いし、鬱陶しい。今は違う何かを相手にするつもりなんか全くない。

 

『ゴチャゴチャうるせェな………ッ!!』

 

 勝負に水を差されて血管がキレそうだ。ちらっと見えたルフィとゾロの顔面に青筋が浮かび上がっていた事から、きっと思いは同じだろう。と言うか私も同じような顔をしている自覚がある

 

「はッ……!?」「ひ……」『勝負の…………』

 

 構えたままの『染雪』を片手で持ち、悲鳴を上げる二人組を見る。なんだこいつらは、何の用があって私達の間合いに入っていやがる。ぶち殺す

 

 

『邪魔だア!!!!!!!』

 

 

 ゾロの刀が、ルフィの拳が、私の『染雪』が二人組を捉える。よく見たらさっきのモジャモジャとレモン女か。どうでもいい

 3人分の攻撃を受けた二人は悲鳴すら上げることなく見えないほど遠くに飛んでいってしまい、凄まじい轟音と大量の土煙を撒き散らしながら撃沈した。

 

「何だあいつら」

 

「うざってェ…」

 

「知るか」

 

 羽虫のせいで邪魔が入ったが、そんなことはどうでもいい。今は目の前のバカ共に集中だ、気を抜いたら一瞬でやられる

 

「さあ決着をつけようか」

 

「おお……」

 

「……………」

 

 『染雪』を握り直して二人を睨み付ける。動きがしたのは同時だった

 ルフィとゾロと私の武器と拳が唸りをあげて相手にぶつかる。体も限界に近い、この一撃がラストだ。そう思って渾身の力を込めて『染雪』を振り下ろした

 

「やめろっ!!!」

 

 そして突然現れたナミに、ルフィとゾロは吹き飛ばされたのを見て、私は攻撃を途中で止めた。いやいったい何処から現れたのよ。

 そのナミは今は手をチョップの形に変えて私の頭に向かって叩きつけた。痛い

 頭を押さえてうずくまる私。バランスを崩されてひっくり返るルフィとゾロ。怒り心頭のナミと困惑する青髪の王女さま。

 ナミがゴチャゴチャ言っているが、そんなことよりバカ二人と決着をつけなくちゃならない。そう思って二人と素手で取っ組み合いを始めると、もう一発頭にいいのを貰ってしまい、続きをやる感じじゃ無くなってしまった。解せぬ

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、大笑いしながら自分の勘違いを認め、それを踵落とし一発でチャラにした。全く堪えてないのが腹立つけど

 

「それはムリ、助けてくれた事にはお礼をいうわ、ありがとう」

 

 アラバスタ王国の王女、ビビ。それが私達が結果的に助けることになってしまった女の名前だ。ゾロはともかく、私とルフィはそこにいたことすらちゃんと認識していなかったけれど。

 その女に10億べりーと言う大金を吹っ掛けるも、正面から切って捨てられてしまったナミは怪訝な表情を見せた。

 

「なんで?王女なんでしょ?10億くらい……」

 

「10億を‘くらい’って言えるナミが凄いわ。うちの家計簿はいつも真っ赤っかなのに」

 

「うるさい!! それでどうなのよ?」

 

 まだ若干イライラが残ってて、取り敢えず噛みついてみるが煩いの一言でスルーされた。解せぬ

 

「アラバスタという国を?偉大なる航路有数の文明大国と称される平和な王国だったの。昔はね」

 

「昔は?」

 

 王女様…………ビビは小さく頷いて続ける

 

「ここ数年、民衆の間に‘革命’の動きが現れ始めたの。民衆は暴動をおこし、国は今乱れてる

 だけどある日、私の耳に飛び込んできた組織の名前が‘バロックワークス’」

 

 ふぅん? そこに繋がるわけだ。だからと言って王女様がここにいる理由には成らないと思うけど

 

「どうやらその集団の工作によって民衆がそそのかされている事がわかった。でもそれ以外の情報は一切閉ざされていて、その組織に手を出すこともできない。

 そこで小さい頃から何かと私の世話をやいてくれているイガラムに頼んだの」

 

 イガラムと言うと、この町の町長を名乗ったイガラッポイの事ね。ルフィがちくわのおっさんと言っているが、どの辺がちくわなのか解らない。あの巻き毛か?

 そしてビビはその‘バロックワークス’に潜入して情報を探っていたらしい。ゾロが威勢のいい王女だと称したが、まったくその通りだ。王女自ら潜入捜査とは中々に肝が座ってる

 ナミは何処から仕入れた情報なのか、‘理想国家’建国と言うバロックワークスの目的を話すが、それは違うとビビは言った

 

B・W(バロックワークス)の真の狙いは‘アラバスタ王国の乗っ取り’。早く国に帰って真意を伝え、国民の暴動を抑えなきゃB・Wの思うつぼになる」

 

 そこまで話してビビは一息ついた。ナミも内乱中の国には金はないかと納得している。ゾロは一応話は聞いてる風で、ルフィはアホ面だ。話を理解しているんだろうか?

 

「おい、黒幕って誰なんだ?」

 

「社長の正体!!??それは聞かない方がいいわ!! 聞かないで!!それだけは言えない!!」

 

「はは、それはごめんだわ。なんたって国を乗っ取ろうなんて奴だもん。きっととんでもなくヤバイ奴に違いないわ!!」

 

 

「ええそうよ。いくら貴方あなた達が強くても、王下七武海の一人‘クロコダイル’には決して敵わない!!」

 

 

「言ってんじゃねぇか……」

 

 うん、言ったわね。ビビは口を押さえて白目を向いて、ナミは見たことも無いような顔で絶望している。ゾロは呆れた様な表情だ。ルフィだけは目を爛々とさせて喜んでいるが

 そんなことを言ってると、何だろうかアレは? 鳥とラッコ? なんかそいつらが顔を見合わせて飛んでいってしまった。うん、チクられたわね。

 

 これからやって来るであろう災難を想像して小さく息を吐いたのだった

 

 

 

 

 




更新遅れました。三つ巴のシーンを3回くらい書き直してまして………


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イガラム

 実はこの前書き、本文書き終わった後に書いてます。前書きとはなんなのか。後で書いても前書きなのか、前にあるから前書きなのか、前書きだから前書きで前書きの前書きが…………………


それはともかく本編


 ナミが無駄な抵抗を試みて、泣きながらビビの頭をガンガン振っている。諦めて楽しめばいいのに

 

「ねェルフィ。シチブカイって何よ?」

 

 ゾロとルフィが嬉しそうにそのシチブカイ?とやらについて話している。この二人が嬉しそうでナミが泣きそう、と言うか泣いてる名前となるとロクなものじゃ無いだろう

 

「んー? えっとあれだ。七人いるつー強ェ海賊」

 

「りょーかい」

 

 まぁそんな感じだろう。ナミがキレながらあっちに行ったりこっちに行ったりウロウロしている。あのラッコもどきが私達の顔の絵を描いていたのを見て戻ってきた所だ。かなりの完成度で、アレならB ・Wとやらは問題なく私たちを手配できるだろう。その鳥とラッコが完全に飛び立って行き、見えなくなった頃に、ナミが私の針なら撃ち落とせたかもしれないことに気が付いて絶望していた

 

「ちなみに無理よ」

 

「何でよ……」

 

 えぐえぐと嗚咽を漏らし続けるナミに私は袖の中身を見せる。うん、最近考えなしに使いすぎたわね。特に今回キレたのは痛かった。今回投げて弾かれて何処かに行ったのが多く、回収出来た針は僅か2本。それをも含めて残り8本しか残ってない。このよく解らない素材のじゃなくてもいいけど、おんなじような長さで多少の強度がある針をどこかで仕入れてこないといけないわね

 

「てなわけで、ガチの時以外使いたくないのよ。一応、ウソップにくれてやったのが2、3本あるけど、それが正真正銘のラストね」

 

「あ……あ………あ…………」

 

 その説明が終わり、その間に布を巻き直した『染雪』を背中に背負い直していると、ナミが体を震わしてその後爆発したように大声を出した

 

「あんたはバカかぁああーーーーー!!!! 自分のメイン武装をなんで仲間割れで消耗しつくしてるのよ!! しかもこれから七武海に狙われるってときにィ!!!」

 

 ナミはさっきビビにやっていたときのように私の首を掴んでガクガク振り回してくる。おおぅ、結構堪えるわね

 

「まぁ落ち着きなさいよ。最悪無くなってもその辺の石でも拾って投げればいいんだし」

 

「あんた、それで前に失明寸前になったってウソップに聞いたんだけど」

 

「………………うん、まぁ、そんなことも有るわね」

 

「懲りろ!!!」

 

 ナミはそう言うと脱力してしまった。大きくため息を吐き、そっぽを向いて体育座りをしている。拗ねたわね

 

 さて、今後の方針をどうするか考えなくてはならないわね。七武海と衝突するにしろ、逃げ回るにしろ海に出なくては話にならない。そして私達のログポースは行き先は決まっている。違う島にいくにも余りにも運頼みになってしまうため得策じゃないだろう。

 なんとなく私が舵をとれば逃げ切れる気がしないでもないが、それを言うとナミがまた騒ぎ出すしルフィも文句を言うだろう。最終決定権はルフィが持ってるから強いやつの所に行こうとするに決まってるのに

 

「取り敢えず、これでおれ達4人はB ・Wの抹殺リストに追加されちまった訳だ……」

 

「なんかぞくぞくするなーー!!!」

 

「めんどくさい以上の感情が浮かばないんだけど……」

 

「…………………………」

 

「わ……私の貯金、50万ベリーくらいなら……」

 

 半泣きで拗ねるナミと、それをあやす王女様。嬉しそうなゾロと楽しそうなルフィ。それぞれ特徴的な行動をしているわね。ウソップは震えるだろうしサンジならナミの周りで踊ってることだろう。

 

 さて、そんなことをしているとイガラッポイ改めイガラムが現れた。珍妙な格好で

 倒置法を使いたくなるくらい珍妙な格好、つまり女装をした姿はなんと言うか……、うん。有り体にいって気持ち悪かった

 

「ダイ、ゴホ!! マーマ~マ~~♪ 大丈夫!!! 私に策がある!!!」

 

「その策にその格好が使われないなら私はあんたの封印処理に全力を注ぐわよ。変態」

 

「いいやそんなことないぞレイム!! これは絶対にウケる!!」

 

「なんの話よ………」

 

 ナミが小さく「もうっ、バカばっかり…」と呟くのを無視する。私はその中に入っていないだろうな?

 気をとり直してイガラムの話を聞くことにした。B ・Wのネットワークならすぐにでも追手がかかるとの事だ。Mr.5ペアの陥落となればなおのことらしい。誰よそいつ

 

「参考までに言っておきますが、七武海である彼に賞金は懸かっていませんが、B ・Wの社長‘海賊クロコダイル’にかつて懸けられていた賞金額は8千万ベリー」

 

 おおぅ、最近2千万とか3千万とか数字を聞いていたけど一気に額が上がったわね。なんだか金銭感覚が麻痺してきたわ。8千万か、倒したら何を買おうかしら。最高級のお茶っ葉とか欲しいわね

 

 幸せな想像に頬を緩ませている間にも話は進んでいく。ビビをアラバスタ王国に連れていくと言う、明らかにクロコダイルに対する敵対行動をルフィは二つ返事で承諾し、ナミが吠えた。あーうん、アーロンの4倍って聞くとかなり強そうね。

 エターナルポースとか言う、ログポースの永久保存版をイガラムがビビから受け取る。彼はこれからそのエターナルポースを使って、アラバスタ王国に直接帰還するらしい。ビビに成り済ました………成り済ませてるかはともかく、成り済ました彼とダミー人形4人分を連れていく事で囮になるつもりらしい

 このウイスキーピークからログを辿れば2、3島で辿り着く。なるほど、件のアラバスタ王国にはそこまで離れていないのか

 

「では………王女をよろしくお願いします」

 

「おっさん、それ絶対ウケるって!!」

 

「誰にだよ」

 

 どこのツボに入ったのか、女装イガラムに謎の執着を見せるルフィ。彼は最後の挨拶をビビとしているところだ。彼はビビと固い握手をして、帆船に乗り込んだ。そして船は出航する。

 にしても、こんな大事を海賊に頼むなんて、よっぽど楽観的なのか余裕がないのか………。まぁきっと後者なのでしょうね、王女自ら潜入捜査と言うのも、敵の虚をつくと言うメリット以上にデメリットの方がはるかに大きい。なんせ王将が敵の真ん中に隠れて入り込むんだ。バレてしまえばこの戦いは負けになる。ひいては国が滅んでしまうんだ。それほどまでに追い詰められた国の王女を運ぶ海賊船なんて、本当にこの一味には退屈しないわね

 

「行っちまった、最後までおもろいおっさんだったなー」

 

「あれで結構頼りになるの」

 

 船は水平線に消えようとしていた。もう声をかけても届かないだろう。ビビの横顔を見れば、今の言葉の通り頼りにしているのだろう。相手を信頼しているような、いい笑顔を浮かべていた

 

「…………………………ねぇビビ、そんなにあのイガラムって変態は頼りになるのかしら?」

 

「えっと……、ええ、頼りにしてるわ。あの格好は別に本人の趣味って訳じゃないと思うから、変態呼ばわりは撤回してあげられないかしら?」

 

「まぁ次あったときにあの格好してなかったらね」

 

 そうか、この娘は一人で国と言う重しを背負っている訳では無いんだな。人を素直に頼りにしていると言える事、なぜかそれが少し、ほんの少しだけ羨ましく思えた

 

 

轟音が響き渡る

 

 

 その音はさっきまで見ていた海の上、振り返れば海は真っ赤に燃えていた。その中に船の姿は見えない。いくらなんでも早すぎる………。B・Wのネットワークは優秀と言う言葉を思い出して、そいつらが仕出かしたとなれば私は相手の戦力を見直さなければならない

 

「立派だった!!!」

 

 ルフィは大声でイガラムを賞賛する。ええ、その通りだ。彼はきっとこの事も覚悟の上で行ったのだから

 私たちに出来ることは、彼の覚悟と犠牲を無駄にしない事。真っ赤に染まる海を見て、立ち尽くすビビを連れてアラバスタ王国に行かなくちゃならない。

 

「そいつを連れて来い!! 船を出す!!」

 

「私もいく、船の準備を急がないと」

 

 踵を返して船に向かって走り始める。その時にビビの横顔が見えた。彼女は絶望なんかしていない、前を見て、痛みを飲み込んで、戦おうとしている眼だった

 

「大丈夫!! あんたをちゃんと……アラバスタ王国へ送り届ける!!! あいつらたった5人でね…!! 東の海を救ったの!! ‘七武海’なんて目じゃないわ!!!」

 

 ナミのそんな言葉が後ろから聞こえてきた。仕方ないか、めんどうだけど頑張ろう。あんなものを見せられた以上、私はきっとビビを見捨てられない

 

 

 

 

 

 

 

 

 船について、出港準備を整える。ゾロが錨を上げて、私は舵と帆の点検だ。ここに来るまでの航海で随分と馴れてしまった。よし、問題はないな

 さて、出港準備は整った。いつでも出せる。問題は………

 

「この船の非常食に生きた鳥とかいたかしら………?」

 

「クエッ!!??」

 

 なにやらショックを受けた様子の鳥。なにかしら………、バカでかいカルガモ?

 いつの間にか船内に入り込んでいたそいつはふてぶてしい様子で座っていた。その鳥はなにやら身振り手振りで何かを伝えようとしてくるが、全く何を言ってるのか理解できない。なんなのかしらコイツ

 

「まぁいいか、サンジならなんでも美味しく料理してくれるでしょう」

 

「クエーーーーーーッ!!!!!!」

 

 私がそう言ったとき、その鳥は奇声を上げながら襲いかかってきた。カウンターぎみに腹の柔らかい部分に拳を叩き込む。そいつは小さく鳴くとダウンしてしまった。なんだコイツ

 

「カルーーー!! どこなのーーーー!!??」

 

 そうこうしているうちに騒がしくなる。他の連中が続々とやって来たからだ。急がないと追い付かれてしまうかもだ

 寝てる間にルフィに引きずられて来たらしいウソップとサンジを船に投げ入れて、私は船から顔を出す

 

「どうしたのよ?早く行かないといけないんじゃないの?」

 

「カルガモがいないのよ!! いつもは口笛で来るはずなのに!!」

 

「…………………………それってあんたのペットか何か?」

 

「私の相棒なの!!小さな時から一緒にいる大切な友達で……………」

 

 ふむ……………………。足下を見ると、さっき殴り倒したカルガモが小さく「クェ…………クェ……」と切なげな響きで鳴きながら痙攣している。赤の他人ならぬ他カルガモだったりしないかしら?きっとしないわね。

 

「何をグズグズしてんだ? ってなんだこの鳥………グフゥ!!!」

 

 近寄ってきていらんことを言おうとしたゾロの鳩尾に全力で拳を叩き込む。ゾロは口から泡を吐いて倒れ伏した。やっぱりノーガードのところに鳩尾は効くわね

 私は気絶しているカルガモを掴んで船の下で右往左往しているビビに見せる

 

「ねぇいま、Mr.武士道が凄い声を上げて倒れなかっ………カルーー!!?? どうしてそんな姿に………」

 

「あぁ、私達二人が戻ってきたときに居たわよ。それでゾロが捌いて食べようとしてたから私が気絶させておいたわ。うん、その時に倒れたんじゃないかしらね、きっとそうよ。そうに決まってる」

 

「そんな…………ありがとう!! あなたはこの子の命の恩人よ!!」

 

「あぁ、うん、感謝されると良心の呵責で心が痛むから止めて、マジで」

 

「………………?」

 

 さて、若干の誤解もあったが無事に全員集まることが出来た。ルフィの号令のあと、メリー号は出港する。さぁ目指すはアラバスタ王国、妥当B ・Wだ!!!

 

「てめェ……覚えてろよレイム………」

 

「うっさい死んでろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ましたウソップとサンジにこの島の真実を伝えたら、ショックで撃沈した。その傍らで私はゾロと熱い殴り合いを繰り広げ、再びナミに止められるまで戦うはめになってしまった。その時にナミに殴られた頭が一番痛い

 そんなこんなで無事に出港することが出来た。結局この島でしたことと言えば食料を食い荒らして島民を虐殺したくらいよね。まさしく海賊だ、調子が出てきたじゃないか

 

「船を岩場にぶつけないように気を付けなきゃね。あー追手から逃げられてよかった♪」

 

「そうね。まぁその辺はナミが上手いことやってくれるでしょう」

 

 取り敢えずは落ち着いたので、私はさっそくお茶を淹れて飲んでいる。茶菓子はこの町でかっぱらった煎餅だ。

 一口飲んで小さく息を吐く。そして柵に腰かけている女に声をかけた

 

「んで、あんた誰よ」

 

「ふふ、いい船ね」

 

『ッ!!??!!??』

 

 船に誰か知らない女がいた。そいつは真っ黒な帽子を被った妖艶な美女で、怪しげな微笑みを浮かべている

 

「なんであんたがこんな所にいるの!!?? ミス・オールサンデー!!!」

 

 ビビが悲鳴のような大声を上げる。そのミス~ってやつはさっきも聞いたわね。たしかモジャモジャ男とレモン女に指示を出していた奴。アイツの名前がミス…………えっとオードブルだっけ? まぁそんな感じの。と言うことは敵か。

 イガラムを殺したのはこの女かしら? それならなんと言うか……………、そうねムカつくわね

 

「Mr.0、つまり社長のパートナーよ。実際に社長の正体を知っているのはこの女だけ。だから私達はこいつを尾行することで社長の正体を知った………!!」

 

 ビビがそこまで言うと、ミス・オールサンデーは笑みを深くする

 

「正確に言えば、私が尾行させてあげたの……」

 

「何だ、いいやつじゃん」

 

 相変わらず呑気で単純なルフィの言葉を無視してビビは叫んだ

 

「そんなこと知ってたわよ!!そして私達が正体を知ったことを社長に告げたのもあんたでしょ!!!??」

 

「何だ、悪ィ奴だな!!」

 

「ルフィ、もうちょい脳みそを通してから言葉を発しなさいよ」

 

 相変わらずなルフィに構っている余裕なんて無いのだろう。目の色を変えてビビは叫ぶ。

 

「あんたの目的は一体なんなの!!??」

 

「さァね……、あなた達が真剣だったから……つい協力しちゃったのよ……

 本気でB ・Wを敵に回して国を救おうとしてる王女様が……あまりにもバカバカしくてね………!」

 

「ッ…………………ナメんじゃないわよ!!!!」

 

 ビビが吠えるのと同時に私は『染雪』を抜いてミス・オールサンデーに突きつけた。ゾロは刀を抜いて、ウソップはパチンコを構え、ナミはいつも使っている棒を手に取っている。なにもしていないのはルフィとサンジ位のものだ。

 ちなみにサンジは相手が女と言うことに気がついて謎の葛藤をしている

 

「あぁ、愛しのミス・ウェンズデーか妖艶なミス・オールサンデーか………こんな美人二人が敵対するなんて……俺はどうしたら…………ッ!!??」

 

「知るか、邪魔よ」

 

 私が注意をサンジのアホに向けたとき、私は何かに押された様な感覚と共に柵から突き落とされる。この船の二階部分にあたるそこから落とされて、その拍子に『染雪』を落としてしまった

 

「っ、悪魔の……」

 

 空中で針を取り出してミス・オールサンデーに投げようとするが、腕が何かに掴まれたように動かない。そこを見るとなにか肌色の物が一瞬見えた

 

「ぐ、」

 

 私と一緒にウソップも落とされていた。空中で体勢を整え損ねたせいで受け身もとれずに無様に落ちてしまった。

 彼女はルフィの帽子をさっきの謎の力で引き寄せて、自分の手に取る

 

「フフフ、そう焦らないでよ。私は別に何の指令も受けていないわ。あなた達と戦う理由はない。

 あなたが麦わらの船長ね、モンキー・D・ルフィ」

 

「お前、帽子返せ!!! 喧嘩売ってんじゃねェかコノヤローーー!!!」

 

「相変わらず激昂ポイントずれてるわねあんた……」

 

 ミス・オールサンデーはルフィから盗った帽子を自分の帽子の上に被る

 

「不運ね、B ・Wに命を狙われる王女を拾ったあなた達も、こんな少数海賊に護衛される王女も………

 そして何よりの不運はあなた達のログポースが示す進路。その先にある土地の名は‘リトルガーデン’あなた達はおそらく私達が手を下さなくても、アラバスタへもたどり着けず……!そしてクロコダイルの姿を見ることすらなく全滅するわ」

 

「するかアホーーーッ!!! 帽子返せ!!!!コノヤローーー!!!」

 

「コノヤローーがお前はーーーアホーーー!!」

 

「ガキか……」

 

 さて、この自信に溢れた態度、何かあるのかしら?ログを辿ればすぐにつくはずのアラバスタに辿り着くことが出来ないとか、私達が手を下さなくてもとか。それほどまでに過酷な島なのか、それとも何か別の理由が有るのか

 

 彼女はルフィに帽子を返し、ついでにビビに向かって何かを投げつけた。それはさっきビビがイガラムに渡していたエターナルポースと呼ばれる物だった

 ミス・オールサンデーによれば、それはアラバスタ手前の‘何もない島’を指すものらしい。いったい何のつもりかしら?ワナに嵌めるなんて面倒なことをする位なら、兵隊を集めて私達を襲えばいいだけの話なのに、ならばこのエターナルポースは本物なのかしら?

 そんなことを考えている間に、ルフィがビビの持っているエターナルポースを奪い取って砕いてしまった。そしてナミに殴られている

 

「この船の進路をお前が決めるなよ!!!」

 

「ぶれないわねぇ……」

 

「アイツはちくわのおっさんを爆破したからおれはきらいだ!!」

 

 ミス・オールサンデーはその様子を見てルフィに微笑みかける。威勢のいいのは嫌いじゃないと言って彼女は乗り飲むときに使ったのであろう一人乗りっぽい巨大な亀に乗った

 

「あぁ、そうそう。そこの女剣士さん?」

 

 女剣士? この船に乗っている剣士と言えばゾロだけど、女? アイツにはゾロが女に見えているのかしら?それなら間違いなくあの目玉は飾りね。

 他に剣を使っている奴がいたかとキョロキョロと船を見渡すがやはり居ないわよねぇ。もしかしてビビかしら?

 

「…………ふぅ、あなたよ。不思議な服を着た女剣士さん。背中のそれは飾りかしら?」

 

「ん? あぁ私か。何よ?」

 

 そう言えば背中のこれって刀だったわね。なんか便利な棒としか扱ってないから忘れていたわ

 

「ミス・ハッピーバースデーを倒したのはあなたね?」

 

「????」

 

「…………………銀髪のおかっぱ頭の二刀流の剣士よ」

 

「あぁ……、そう言えば」

 

「あの娘から伝言よ。『次は必ず斬る』ですって。ふふ、可愛いでしょ、あの娘」

 

 そう言えば、攻撃が単純過ぎたから、カウンターでなにもさせないままに封殺したんだったっけ?

 

「なら私からも伝言。『二度と会いたくないから来んな』」

 

「あらつれない……。私からはそんなこと言えないわ。可哀想だもの。自分で伝えなさい」

 

 そう言って、ミス・オールサンデーは巨大な亀に乗って行ってしまう。そのまま水平線の向こう側に行ってしまった

 

「………………………それ、自分で伝えたら意味無いじゃない」

 

 私の呟きは、誰の耳に届くのともなく消えていった

 

 




 妖夢のコードネームは案を貰えて、ミス・ハッピーバースデーに変更しました。混乱させてしまい、申し訳ありません


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リトルガーデン

ジャンプフォース買うかどうか悩んでる………。お金無いからなぁ

それはともかく本編


 

 

「唐突だけどウソップ、この前にあんたにあげた針を量産出来ないかしら?」

 

「本当に唐突だなオイ」

 

 ウソップ工房。いつの間にかメリー号に出来ていたウソップが毒にも薬にもならない物を作る場所だ。よく爆発したり自分の発明で飛んでいったりしている。この前は感電していたっけ

 

「もう在庫がないのよ。あそこまで固くなくていいから、長さが同じくらいの針が欲しいの」

 

「あの針か。俺もあれを色々な弾に使いたかったから調べたんだがよ……」

 

 ウソップはガラクタ入れの中を漁って私がウソップにあげた針を取り出す。別に構わないけど、人から貰ったものを雑に扱わないで欲しいんだけど……

 

「っと、あったあった……。調べた結論を言えば、明らかに既存の技術で作られたもんじゃないな。と言うか技術かどうかすらわからねェってのが本音だ。これ、材質を色々調べてみたんだけど、たぶん紙なんだよ」

 

「紙?」

 

「あぁ、紙を何重にも折っていけば固くなるだろ?たぶんそれを万力でも使ってやったのがこれじゃねェか?水に濡れても溶けねェし、鉄より固い理由はわからねェけど」

 

「ふーん…………で?結局作れそうなの?」

 

 私の質問にウソップは目をそらす。うん、まぁ知ってた

 

「使えないわねぇ……」

 

「うるせェな!!!」

 

 仕方ない。暫くは『染雪』一本で行くしかないか。遠距離が無いのは辛いわねぇ……。私って、これだけだとしっかり強い奴には勝てない気がするのよねぇ

 

「まぁ待て」

 

 仕方ないからお茶でも飲むかと食堂に向かおうとしたところでウソップに呼び止められる

 

「何よ?」

 

「この針そのものを量産は無理だが、劣化品や代用品なら作ってやれないことも無いぞ」

 

「本当?」

 

 ウソップは腕を私の前に上げて人差し指と中指を立ててピースの形を作る。

 

「代案の一つはこれと同じように紙で作ることだ。だが正直お前の使用に耐えうる物が作れるとは思えない。と言うわけでこれだ」

 

 ウソップが取り出したのは銀色に光る、先端の尖ったそれ。形は私の持っていた針にそっくりだが材質がまるで違う。明らかに金属だ

 

「アルミで作ったもんだが、割りとうまく出来たと思ってる。これなら量産も簡単だし、軽くて使いやすいんじゃねェか?」

 

 ウソップから受け取った針を手に取る。私がいつも使っている針よりも倍以上重たい。そして折り曲げたら曲がってしまった。うん、使えない

 

「やり直しね」

 

「オイ!!」

 

 と言うわけで、補充の目処は立たなかったわ。残念ね

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ミス・オールサンデーが海の向こうに消えて、船の進路はログポースに従って次の島へ。ウイスキーピークで寝てたサンジとウソップは騒動を完全に無視してしまい、サンジは残念がってウソップは安堵していた。

 相変わらずサンジはナミと私に絡みに来て騒がしいし、ウソップはルフィの手配書をビビに見せて悦に浸っている。ルフィは呑気に雪が降らないかなーなんて言ってるし、ゾロは眠そうだ

 

「本当にこの船の面子は緊張感が足らないのよねぇ……ズズ」

 

「いやお茶のんでリラックスの真っ最中のあなたが言う!!??」

 

 ビビの悲鳴のようなツッコミが入り、気を抜きまくっている船員に対してこの偉大なる航路をナメてはいけないと注意を促す

 だがまぁそんなものを聞く様な殊勝な奴がこの船にいるわけがない。サンジはいつ作ったのか、美味しそうなドリンクを船の皆に配っている。スーパーリラックスタイムだ。うん、美味しい

 

「いいの!!?? こんなんで!!!」

 

「いいんじゃない? シケでも来たらちゃんと働くわよあいつらだって……、死にたくはないもんね。はい、あんたの」

 

 いつの間にか馴染んでいた鳥と共に私達はサンジのスペシャルドリンクを飲む。ちなみにあの鳥は私の顔を見るとプルプル震え出してビビに泣きつくのだが、まぁ些事だ。うん

 ビビの様子を見ると、さっきまでの張つめた様な表情じゃなくなっていた。まぁこんな船にいたら気も緩むか。こいつらは緩みすぎだけど

 

「悩む気も失せるでしょ、こんな船じゃ」

 

「…………………………………ええ、ずいぶん楽……」

 

 ビビが笑っているのを見てホッとした。こういうのは向かないからね、私。

 イガラムが海に消えてしまって、その直後に敵の副社長の襲来だ。緊張をずっと維持していたビビだけど、このまはまじゃそのうち潰れていたかもしれない。そう思えばコイツらのバカさ加減にも使い道が有るものだと思うのだった

 

「おい、みんな見ろよ!! イルカだぜ」

 

「おお!!」

 

「わあっ可愛い…」

 

 本当だ。イルカなんて始めてみた。なくした記憶の中に有ったのかもしれないけれど、私にとってこれは始めての経験だ。

 イルカが跳ねる。それは小さなイルカが水平線上に見えて、うん? 見えて跳んでくる? うん、どんどん大きくなるわね。遠近法で遠くのものが小さく見えるあれかしら?

 

『デカイわーーーーーーーーっ!!!!!!』

 

 このメリー号を優に5倍はあるバカデカいイルカ。ってかイルカかあれは。凪の帯にいた海王類とか言う連中の仲間じゃ無いだろうな?

 

「逃げろーーーーーーーーっ!!!!」

 

 楽しそうなルフィの号令がかかり、私達は走り始める。あんなのの隣にいたら船が転覆してしまう。ってか船ごと一口で食べられてしまうだろう

 ナミが風を読んでそれに従って船を操る。あぁもう忙しないなぁもう!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 リトルガーデン。それが私達が踏み入れた偉大なる航路二番目の島の名前だ。そこは木々が生い茂り、島全体が森に覆われる密林だった。火山の噴火するような音が鳴り響き、鳥が喚き声を上げ猛獣が我が物顔で闊歩している。そしてなによりも特筆するべきは恐竜だ。偉大なる航路の島々は、その航海の困難さゆえにそれぞれ独自の文明を築いている。そしてこの島はまさに今、恐竜時代の島なのだ。………………ってナミが言ってた

 

 ルフィがそんな島を前に耐えられる筈もなく、弁当片手に行ってしまい、護衛対象であるビビまでついていってしまった、例の鳥と一緒に。本当にアグレッシブな王女様ねぇ。

 ゾロとサンジはいつものように喧嘩して、売り言葉に買い言葉で狩り勝負に出掛けてしまった。別に仲良くしろとは言わないけれど、周りに迷惑かけるのだけはやめて欲しい

 まぁ何が言いたいのかと言うと、今この船には私とナミとウソップしかいないと言うことだ。

 

 ミス・オールサンデーが私達はこの島から出ることが出来ないと言っていたのは、島の過酷な環境が原因なのかしら? 正直この程度の困難ならばさして問題にはならないのだけれども

 

「レイム、お茶のおかわりはいかが!?」

 

「そそそそ、それに煎餅も饅頭もあるぞ!!あ、後はあれだ!!サンジが作りおきしてくれてるカレーとかもあるぞ!!」

 

「それにあれよ!!お酒!!美味しいお酒もあるわ!!」

 

 それはともかく、なぜか甲斐甲斐しく世話を焼いてくるナミとウソップ。入れ替わり立ち替わりで色んな物を目の前に置いてくるのでうっとおしい

 

「……………………………………あんたら、何のつもりよ」

 

『レイムにまで行かれたらこの船に取り残される!!!』

 

 うん、まぁそんなことだろうと思ってた。私は小さくため息をついて、二人に声をかける

 

「いったい何をそんなにビビってるのよ。こんなのうるさいだけでなんともないじゃない。

 ……………………あぁ、もう解ったからその情けない顔をやめなさい。はなっから何処にも行く気なんて無いわよ。めんどくさい」

 

 その言葉を聞いてあからさまにホッとしたような表情になる二人。この前のナミの頼れるお姉さん感は何処に行ったんだ、全く

 二人ともいざという時はカッコいいし頼りになるのに普段はどうしてこうなのかしら

 

 さて、そんなどうしようもない二人の相手をしていると、にわかに森が騒がしくなる。木々がメリメリと音をたて、鳥が色んな所から飛び立つ。まるで何か巨大なものが近付いてくるみたいだ。

 訂正だ。まるで、ではなくそのものだ。巨人がそこにいた

 

「おおぅ………デカイ……」

 

「いやぁあああああああああああああっ!!!!」

 

「ギャぁあああああああああああ!!!!!」

 

 巨大、大きい、デカイ。人の形をした巨大な生命体が私達の前に姿を現した。

 いやにしても本当にデカイわね。こんなのがいるなんて世界は広いわ。顔だけてメリー号くらいあるんじゃないかしら?

 

「ここに人間が来るのは久し振りだな!!ガババババババババ!!!!

 お前達、酒を持っていないか? 久し振りに飲みたくてな!!」

 

「あるにはあるけど、その体型で酔おうと思ったら樽じゃ足らないでしょ?」

 

「そうか、持っているか。なぁに問題はない、酒は味だけでも楽しめるものだ。ガバババババババババババババ!!!」

 

「っ……。うっさいわねぇ。大声で叫ぶなっての」

 

「おぉ!! すまんすまん!! ガババババババババ!!」

 

 だからうるさいっての。そしてそこのびびり二人、自分よりちっちゃい女の背中に隠れて恥ずかしくないのか。

 非難の意を込めて二人を睨み付けるが、二人とも泣きながら首を横に振っていた。まったく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、巨人の名前はブロギー。彼と酒と肉を物々交換して、今はそのブロギーに家に招待されたので行くことにした。二人は泣きながら拒否していたが、私が行くと言い張ったら渋々といった感じで着いてきた。そんなに嫌なら大人しく船にいればいいのに

 さて、招待された家についたのだけれど、その家はとんでもなく大きな骨を家と言い張ってるだけみたいだ。まぁ雨風は凌げそうね

 

「さァ焼けたぞ!!食え!!」

 

「アホか。自分より大きな骨付き肉とか食いきれる訳ないじゃない」

 

「ちょっとレイム!!あんまり刺激しないで!!本当にやめて!!!」

 

 肉を焼いて塩を振っただけの簡単な料理を私は千切って食べる。素手で行儀が悪いが、まぁとやかく言う奴は誰もいないので良いだろう。あ、意外と美味しい

 ナミとウソップがこの世の終わりみたいな顔をしながら泣いている。意外と美味しいから食べれば?と進めたが断られてしまった。

 

「ブロギーさん………1つ、質問してもいいですか………?」

 

「ん?どうした娘」

 

 ブロギーは私10人分くらいの肉にかぶり付きながら答える。今の一口だけで私なら一週間は持つわね、ルフィなら……………あいつならこの肉1食で食べきるか? いやいくらルフィでもそんな事はないか

 

「こ、……この島のログは……どのくらいでたまるんでしょうか?」

 

「一年だ」

 

 それを聞いてショックでずっこけてしまう二人。そうか、1年か、……………………ヤバイわね。具体的には国が

 

「何とかする方法とか無いかしら?」

 

「ログを何とかする方法は知らんなァ……。一応エルバフと言う村へのエターナルポースならあるが、それは俺達のものでな。奪いに来るなら返り討ちにしなけりゃならん」

 

「負けやしないけど、要らないわよ。私達は次の島に行きたいのよ………………達?」

 

 それを聞いて彼は答える。エルバフと言う村とそのルール。百年にも及ぶ決闘の歴史を

 彼らは互いに引けぬ闘いを始め、その勝者がエルバフへと帰還する。エルバフの神は常に正しき者に加護を与え、正しい奴を生き残らせる。その決闘の舞台がこの島と言うわけだ。それを100年、途方もない戦いだ

 

「アホなんじゃないの?」

 

「ガババババババババ!!!!まぁ人からみたらそんな風に思うかもしれないな!!」

 

「な、なんでそんなに戦ってるのよ!! 100年も戦っていたらどんな怒りも薄れるものでしょう!! 何が理由で戦ってるのよ!!」

 

「理由か……忘れたなァ、ガババババババババ!!」

 

 復活したナミが理由を問うが、ブロギーは豪快に笑う。

 そんなときに島の中央にあると思わしき、一際巨大な火山が噴火した

 

「おっと、合図か………」

 

「合図?」

 

「あぁ、いつしかあの火山の噴火は決闘の開始の合図と成っていたんだ」

 

 噴火した火山の向こうで、ブロギーと同じくらい大きな巨人が立ち上がるのが見えた。成る程、あいつがブロギーの喧嘩相手って訳だ

 ブロギーは雄叫びを上げながら相手の巨人に向かって突っ込んでいく。その姿をウソップは感極まったように眺めていた

 

「どうしたのよ、随分と静かね」

 

 二人の巨人は地形が変わってしまうような闘いを繰り広げている。あのサイズの人間が100年も暴れてこの島、よく原形を留めているわね

 

「すげぇ……理由もねェのにこんな闘いを………」

 

「はた迷惑なケンカよね……」

 

「まぁ人に迷惑かけないならいいんじゃない?」

 

「バカ野郎!! これが真の男の闘いをってもんなんだよ!!」

 

「…………?なにそれ?」

 

「例えるならあの二人は自分の胸に‘戦士’という旗を一本ずつかかげてる……、それは命よりも大切な旗なんだ!!

 それを決して折られたくねェ、だからその旗を守るために今まで100年間もぶつかり続けてきたんだ

 わかるか!!??これは紛れもなく‘戦士達’の‘誇り高き決闘’なんだよ!!!!」

 

 ふぅん? 成る程ね、私はあの巨人二人のケンカに興味はないけれど、ウソップは違ったらしい。誇り高い決闘、誇り高い戦士、あぁウソップが好きそうな言葉だ。勇敢な海の戦士に成るために海へ出たウソップにとって、この二人はそれを体現する存在なのだろう

 事実ウソップは、二人の闘いを羨望の眼差しで見ている。全ての攻撃が急所狙いの相手を殺すための闘い、しかし二人は笑いながらそれを続けている。この1撃で終わってくれるなと、死んでくれるなと願いながら殺し合いをしている。

 

………………………よし、

 

「レイム、あんたなにしてんの?」

 

「別に何って訳じゃないわ。踊るの」

 

「ハァ!!??」

 

 ナミの叫びを聞き流して、私はゆっくりと腕をあげる。小さく息を吐いてから一つ大きく拍手を鳴らし、目を閉じる。その時、風が大きく木々と私の服を揺らした

 

「ぉ………え………?」

 

 別にこの巨人達に共感したわけじゃないし、なんだったら傍迷惑な喧嘩だと思っている。だけどそれでも1世紀もの間戦い続ける二人の喧嘩だ。エルバフとか言う知らぬ神といえ、届くように祈る位のことはしてやろう

 

『ー高天原ニ神届マス………』

 

 ゆっくりと目を開けて、体に‘おろす’。自分の体の主導権をそれに引き渡し、口から祝詞を唱えながら舞う。大きく、出来るだけ大きく、知らない神に届けるための舞なんだ。全霊を込めなければきっと届かない。だから祈りを込めて舞う

 

『…………畏ミ畏ミ白ス………』

 

 そして巫女舞が終わり、体におろしていた者に帰って貰う。体力が凄まじいくらい消耗しているが、悪い気分じゃなかった

 

 いつしか、二人の闘いは相討ちにて終わっていた

 

 




今回短め。他のキャラのエピソード入れづらくて困ってます


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決闘の結末

 今回、霊夢が神様の存在について少し話している部分が有ります。賛否両論あると思いますが、あまり本編に絡まないのでスルーしてくれると幸いです


それはともかく、本編


 

 

 さて、巫女舞も終わって倒れ伏している二人の巨人。私は使った精神力を回復させるために肩で息をしながらへたりこんだ

 体が熱い。慣れないことをするものじゃないな。………いや、そうでもないのかしら?私の体は違和感なく動いたから日常的にこういうことをやっていたと思うのだけれども

 そんなことを考えていると、ナミが私の顔を覗き込むようにしながら口を開いた

 

「ねぇ………今の、何?」

 

「何って………ただの巫女舞よ? 祝詞でてきとーにその辺の神様呼んできて、後はそれを静める為に戦いと舞いを納めたの。それだけよ?」

 

 私がそう言うと、ナミは頭を押さえて目をつむってしまった。頭痛に苦しんでいるみたいに

 ウソップの様子を見ると、口をポカンと開けてこっちを見ている。なんなのよいったい

 

「取り敢えずね、レイム。あなたって悪魔の実の能力者じゃないのよね?」

 

「食べた記憶は無いわよ?ガイモンのオッサンの所にいた頃、何回か泳いだし」

 

「そう…………、はぁ頭いたい」

 

 頭を押さえながらナミは語る。私が踊っている間、その周囲を小さな光が煌めき、風は渦を巻くほど強くなり、私の体からはなにやら赤いオーラが沸き上がっていたらしい。なんだそりゃ

 

「それはなんと言うか………変な話ねぇ……」 

 

「あなたは他人事みたいに全く………。ってか、あんた記憶戻ってるでしょ? 違うとは言わせないわよ?」

 

「ん?……………あー、かもしれないわね。実はこの『染雪』を手に入れたときに少しだけ記憶が戻ったのよ。自分の事とか、必要なこととか。……その思い出した中にあったのが、自分が‘巫女’だって事よ」

 

「巫女?」

 

「神様の声を聞いて、それを伝えるのが主な仕事。後なにか色々してたような気がするんだけど、それについては思い出せないのよねぇ」

 

 その言葉を聞いて神妙な顔になるナミとウソップ。ウソップなんかは震えているわね。なんでよ

 

「な、なぁレイム? てことは今の躍りは神様と交信してたってのか? ってか神様ってのは本当にいるのかよ!?」

 

「さぁ?」

 

『さぁ!!??』

 

 いちいち反応がうるさいなぁ。体力も回復してきたので体を起こして立ち上がる。裾についた泥を払いながら二人に向かって話し掛ける

 

「私、神様を信じない人に説法する気はないの。信じてる人にもする気ないけど。いるから幸せになれるとか、いないから不幸だとか、極楽浄土とか信じないなら救わないだとか、馬鹿馬鹿しいと思わない?」

 

 ウソップとナミが、私のことを違うものを見るような目で見てくる。体におろした影響かしら? まだ変な物が体に残っているのかも

 

「なぁ……………レイム……………。お前には…、いったい何が見えてるんだ?」

 

 

「はぁ? ナミとウソップだけど?」

 

 

 他には相討ちで倒れているブロギーのオッサンとか、密林とかかしら? 私がそう言うと、二人はあからさまにホッとしたような表情をする。私なにかしたかしら?

 

「だよなーーーー!!! あービックリした!!なんか急にレイムが違う世界の人間みたいに見えてよ!! ハッハッハッハ!!!」

 

「いや違う世界の人間なんだけど!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブロギーが相手の巨人に私達が上げた酒を渡し、そして帰ってきたブロギーに向こう側にはルフィとビビが居ることを聞いた。世間は狭いわね、うん意味が違う

 ウソップはブロギーの事を師匠と呼んでいた。彼にとってブロギーは生き方の師匠そのものなのだろう。まぁブロギー自身は巨人族になりたいのか?なんて惚けた問いをしていたが

 

「エルバフの戦士の様に、誇り高く生きていきてェとおれは思ってる!!」

 

 誇り、か。私はそんなこと考えた事も無かったわね。名誉ある死とか、誇り高く生きるとか。くだらないとか言うつもりはないけれど、私はきっとそんな風には生きることは出来ないんだろうな。私はウソップを少し羨ましく思いながら見つめていた

 

 にしてもこの島は煩いわね、あっつこっちで、火山が噴火してるし、猛獣や怪鳥はギャーキャー鳴いてるし。ほら、いまだってどこかで爆発音が聞こえてきた。こんな島じゃ落ち着いて寝ることなんて出来そうにないわね……

 

 そんなとき、再び中央の火山が噴火する。なによ、またやるのあれ。

 

「ガババババババババ、決闘の合図か…………!! 今日は景気がいいな!!!」

 

「行くのかよ!! さっきの傷は……」

 

「なに……お互いに条件は同じだ!! ガババババババババ!!! 情け容赦ない殺し合いに言い訳などしては名が腐るわ!!!」

 

 こんな闘いを1世紀か、本当に頭が下がるわ。真似できない。ナミがムダゲンカと評すそれに、私としては同感だ。しかしウソップの気持ちも解らなくはない。なんと言うか、ウソップに共感しきれない自分がもどかしいわ

 私達は船に戻るかそれともルフィ達と合流するかという話し合いだ。どちらでもいいけれど、早く決めてくれないかしら?

 ブロギーは行ってしまい、その中心で再びドリーと向かい合う。ここからでも一触即発と言った空気が感じられる

…………………………………………???

 

「なんで?」

 

 私は走り出す。巨人達の歩幅は非常に大きく、普通に歩いているだけにも関わらずその速度は非常に速い。あの戦いの場に着くまで全力疾走しても数分はかかるだろう。

 

「レイム!!??」

 

 後ろからナミとウソップの声が聞こえてくるが、構っている暇はない。早くあの二人の所にたどり着かないと……

 

 

 ジャングルを抜けて、開けた場所に出る。そこは二人が戦い続けて出来た場所だろう

 

「どうしたドリー!!!歯切れが悪いぞ!!」

 

「なに………いつも通りさ……」

 

 やっぱりおかしい。さっきみたこの二人の戦いじゃない。ブロギーはともかくドリーは何故かダメージ喰らっている。それも甚大な、生命に関わるレベルの

 私は大きく息を吸って『染雪』を取り出しながら叫ぶ。こんなもの認められるか

 

「その決闘、まっ…………!!!!????」

 

 私の声が巨人二人に届く前に、後ろから何かが近付いてくる。とっさに横に跳んでかわすと、私がいた場所に白い何かが出来上がった

 

「まったく……、無粋な真似をしようとしてくれるじゃないカネ?」

 

 そこにいたのは変な格好の男だった。シマシマ模様に蝶ネクタイの服を着て、趣味の悪い眼鏡をかけている。そしてなにより特徴的なのは髪型だ。3である。他になにも言えないくらいに清々しいほど3だ

 

「私の描いた絵に泥を塗ろうとするなんて、抹殺指令を受けている以上殺すことは確定だが、それ以上に苦しめて殺したくなってしまう」

 

「なによ変な頭」

 

「うるさいガネ!!」

 

 ちらっと横目で巨人達を見る。やはりドリーの動きは悪い。粘っているがそう長くは持たないだろう

 

「………………………あんたか?」

 

 何をとは問わない。問う必要はないだろう。私はその事に興味はない。こいつが何をしたのかとかも知ったことか。だけど私はこの二人の戦いを認めて、この戦いを二人の神に捧げるために尽力した。自分の努力を台無しにされたような、単純な怒りだ

 3男はニィ、と笑みを濃くする。それが答えなのだろう。『染雪』の布を破り捨てて私は男に向かって走り出した

 

『‘カラーズトラップ’闘牛の赤』

 

「ッ!!??!!??」

 

 気が付いたら、私は3男の側にかかれた謎のマークを切りつけて、そして全力の封印を施していた。こんなに力を込めるつもりはなかったのに

 そして全力で攻撃をしたと言うことは、その分大きな隙が生まれると言うことだ。3男は私に手をかざすと小さく呟くように言った

 

『キャンドルロック』

 

 両手を封じられた。なんだこれは、蝋燭? 蝋燭が固まって私の手を手錠の様に拘束されてしまった

 

「っの!!」

 

「おっと、危ない危ない」

 

 仕方ないので蹴りを叩き込む。しかしなぜか攻撃が大雑把になってしまって、簡単に避けられてしまった。そのまま距離を取られてしまったので、地面に落ちている石を全力で蹴る。

 

「なっ!!??」

 

 それは3男の眉間に直撃する。よし、これなら………

 

「この、」『キャンドルロック!!!!』

 

 もう一撃叩き込むために足を大きく上げたところを狙われた。片足に腕についている物と同じ物がつけられてしまい、私はバランスを崩す。そのままその場に転んでしまった

 

「く、そっ………!!」

 

「ふん、手こずらせてくれたカネ。この女も抹殺対象だ。こいつも私の美術作品にしてやろう。有り難く思うがいいガネ!!」

 

 油断したつもりは無かった。しかし何かがおかしい。そうだ、あの木に描かれた模様を見たときから体が何かに誘導されているような感じがする

 

「さぁミス・GW!! この女を見張っておけ!! 私はあの巨人共の戦いに決着をつけさせる」

 

 男はドリーの足元に向かってなにかドロドロとした物を流し込む。あれは蝋燭の蝋か?悪魔の実の能力者ってやつか

 

「やめろブロギィイー!!!!!」

 

 私の叫びは届かない。蝋で体勢を崩したドリーに向かってブロギーは追撃をかける。ダメだ、あれは致命傷になる

 

 

「1世紀………………永いーーー……戦いだった…………!!!」

 

 

 かくして、二人の巨人の闘いは決着する。無粋な男の手に操られる形で

 

「……………っち殺してやる」

 

「ははははは、負け犬がなにか言っているよガネ?」

 

 手の拘束はまるで溶ける気配がない。とんでもなく固いなこれは。両手と両足を拘束されて芋虫の様にモゾモゾとしか動くことのできない私は吠えることしか出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 涙を浮かべるブロギーが捕まるところを黙ってみていることしか出来なかった。彼は私を捕まえている蝋で全身を覆われて拘束されてしまっている。

 少し時間がたって、敵に捕まったと思われるビビとナミとゾロが連れてこられた。なによ、あいつらも捕まったのか。モジャモジャサングラス男がルフィを始末したとか言っていたが、こいつじゃ逆立ちしてたとしても勝てないだろうに。

 

 ビビがドリーの酒に爆弾を仕込んだと叫び、ネタバラシを憤る3男。なんでもあいつはMr.3と言う、バロックワークスのエージェントらしい。なるほど、だから3なのか

 私とナミとビビとゾロは何やら巨大なケーキの様な蝋燭にセッティングされる。なにかしらこれ。

 

「ってかなにあんたまで捕まってんのよ。ウソップは?」

 

「レイムが行っちゃうからでしょうが!!!!」

 

 さて、この巨大な蝋燭は上の方が回っている。その遠心力を使って蝋の霧を降らし続けることで私たちをろう人形に変えようと言うつもりらしい。なんとも趣味の悪いことだ

 

 ナミはブロギーに向かって吠える。このままじっとしていてろう人形にされるのを待つのかと。それに答えたのはMr.3だ。ブロギーは相手の傷にも、気づいてやれずに100年戦い続けた深憂を自分の手で斬り殺して勝ち誇ったのだと。

 

「わかっていた……… 。一合目を打ち合った瞬間から………、そこの小さな人間の声を聞いた時から………ドリーが何かを隠していることぐらい………!!!」

 

「んんん? フハハッわかっていただと?ウソをつけ!!ならばなぜ戦いをやめなかった? あの豪快な斬りっぷりには同情の欠片も見当たらなかったぞ……?」

 

 バカにしたようなMr.3にブロギーは答える。怒りか、憎しみか

 

「…………………‘決闘’のケの字も知らねェ小僧に涙の訳など解るものか。お前などに何がわかる?弱っていることを隠し、なお戦おうとする戦士に恥をかかせろと………!?

 

 そうまでして決闘を望む戦士に!!!! 情けなどかけられるものか!!!!!!」

 

 あぁくそ、こいつら二人とも大バカ野郎だ。救えない。

 気迫でMr.3を怯ませて、ブロギーは鉄に匹敵すると言う蝋を砕こうとする。しかし………モジャモジャ男の爆弾を無抵抗で顔面に受けて、ブロギーは力を失ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Mr.3はブロギーの腕と足に蝋で出来た巨大な剣を突き刺す。それで完全に拘束されたブロギーは苦悶の表情を浮かべている。

 その間に蝋の霧はどんどん増えていき、肺のなかに入ったそれで息苦しくなってきてしまった。苦しい

 

「……………………ねぇブロギー」「オッサン、まだ動けるだろ?」

 

 私とゾロはブロギーに、同時に話し掛けた。タイミングがあまりにも同時だったので少しイラッとするが、ゾロの方を見ると方をすくめる。先に言えって事かしら

 涙を流しているブロギーに私は問いかける。あれは死への恐怖の表情ではない。不条理に対する怒りの表情だ

 

「あんたらの神を私は知らないわ。信仰心や願いで何が変わるなんて事はない。それに救われるのは、祈るだけものじゃなくて、祈るために戦うものよ」

 

 私は鼻をならしてゾロを見る。彼は小さく笑って刀を引き抜いた

 

「なぁオッサン、その両手両足ブッちぎりゃあ……死人よりは役に立つはずだ。

 俺も動ける。足、斬りおとしゃあな。一緒にこいつらつぶさねェか?」

 

 あぁ、こいつはこいつでぶっ飛んでるわね。この顔ははったりでも何でもないわ。マジだ

 

「……………………なに見てんのよ? 私はやんないわよ?」

 

「ここにいたらそのまま死ぬだけだぜ? どうだ?」

 

「……………………」

 

 まぁ、仕方ないか。このまま無抵抗で殺されるくらいなら暴れて殺された方がマシだ。幸いなことに腕の拘束は解かれているから痛いのを我慢すれば戦えるだろう

 

「ガババババババババ!!!!小生意気な小僧達だぜ…………!!! 俺としたことがもう、『戦意』すら失っちまってたようだ………。付き合うぜ、その心意気!!!」

 

 さぁ、戦闘再開だ。斬る能力のない『染雪』だが、取り敢えず構えるだけ構えておく。ゾロが足を落としたら、すぐにこっちを斬るように言った

 

「待って!! 私も戦うわ!!!!」

 

 ビビも話に乗るつもりらしい。本当に肝の座った王女様だ

 

 ゾロの刀がその主人の足に突き刺さり、ブロギーが自らの四肢を引きちぎるために力を込めたその時だった

 

 

「おりゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! お前らァ!!! ぶっ飛ばしてやるからなぁあああああ~ーーー……………………」

 

 

 そんな叫びと共に、ルフィが参戦してそのままフェードアウトしていった。もうちょいまともに登場してくれ……まったく

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 気がつくと、私は海の上でロビンさんとパンチと呼ばれる亀の上にいた

 

「あら? 気が付いた、ヨウム」

 

「ロビン……さん? わ、たしは………」

 

 そこで思い出す、私はあの紅白女に1蹴にされて負けてしまったことを。それもあんなに簡単に、単純な手で

 

「そうだ、私は………負けたんだ……」

 

「相手にもされてなかったわね。ふふ、任務は失敗、Mr.5のペアもその紅白と共に一味やられたみたいよ。中々に面白い子たちね」

 

「…………………」

 

「ねぇ、どうして急にあの娘に喧嘩を売ったのか教えてくれる?」

 

 そうだ、私の本来の任務はアラバスタ王国の王女であり、バロックワークスのスパイであるネフェルタリ・ビビの抹殺。個人的には王女自らの潜入すると言う?大胆不敵な行動に感心していたが、任務は任務だと割りきって、能力バカの弱いMr.5ペアの援護についてきたつもりだった

 しかしあの紅白女を見た瞬間、それは頭から消えた。理由は…………そうだ、

 

「なにか、ひっかかったんです。あの女見覚えが有る気がして。それで斬ってみればわかるかと思ってしまって………。申し訳ありません。任務失敗の責任は全て私が………」

 

「問題ないわ。Mr.3ペアに任務が行ったの。彼なら失敗は無いでしょう。もしも失敗するようなら…………ふふ、面白いことになりそうね」

 

「えっと…………はい」

 

 Mr.3、私はあの人が苦手だ。目的のためになら何をしてもいいと言う悪党なのだが、その行為がどこか小ズルいのだ。しかしそれで最大級の戦果をあげるのだから、認めざるを得ない。剣士であり、真っ向からの殺し合いこそが手っ取り早いと思っている私としては、あまり理解出来ない相手だ

 

「私はこれからあの麦わら帽子の船長さんに挨拶にいくけれど………、あなたはどうする?」

 

「…………………では、紅白に伝言だけお願いします『次は必ず斬る』と」

 

 鍛え直さなければならない。体が覚えている戦いの技術だけでは足りないのなら、私はそれ以上に強くなる。軽く刀を、『楼観剣』に触れて、決意をあらわにした

 

 

 




2万UA突破、お気に入りも200を越えました!! ありがとうございます!! これからもよろしくお願いします!!


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エルバフの戦士

 そうだ、前書きを書かないと言う選択肢だって有るはずだ!! 
 そうと決まれば前書きなんて書いてやるものか!! よーし、前書きなんて……書くのじゃよ……はっ!! 誰だ!! ワシはお前の中の前書きじゃ。いかに書くことのない書くことを思い付かない前書きだとしても書かねばならぬのじゃ。なんでだよ!! 前書きを書いてない作者さんだっていっぱいいるじゃないか!! 仕方なかろう。お主は前書きを書くことを苦しんでいるのと同時に、前書きを書かないことにも苦しんでおるのだから。そ、そんな……なら、……俺はどうしたら!! 書くのじゃよ………書き続けるのじゃ……。お、俺の中の前書きさん!!待って!! まだ聞きたいことが………。ふぉふぉふぉ……、書くのじゃよ……書くのじゃよ………止まるんじゃねぇぞ………。前書きさん!!前書きさーーーーーーん!!!!
 
↑なんも考えないとこんなことになります。人間、脳みそ通して考えるのが一番大事ですね

それはともかく本編


 飛び込んで来たルフィとウソップと鳥………カルーだっけ? 彼らは勢いのままに突っ込んでその勢いのままぶちギレていた。

 

「やるぞ!! ウソップ!! 鳥ィ!!!」

 

「オオ!!!」「クェーーーーーー!!!!」

 

 はぁ………。全く、来るなら来るでもう少し早く来なさいよ。非難の意を込めて睨み付けるが全く堪えた様子もない。ナミが泣きながら彼らの名前を呼んでいる。個人的には怒るところだと思う

 

「もうそいつらホントにもう原型なくなるくらいボッコボコにして、どっか遠くへぶっ飛ばしちゃって!!」

 

「あぁそうするさ!!! こいつら巨人のおっさん達の決闘を汚したんだ!!」

 

 さて、ルフィが飛び込んできた事で状況は変わった。なんにせよ、この場にルフィを倒せるやつはいない。後は私達がろう人形になるのが早いか、ルフィがこいつらをぶっ飛ばすのが早いかだ

 刀が突き刺さって大量の血を足から流すゾロ。ルフィにピンチだったのかと問われてそれに対して強がりを見せる。ナミはルフィに今の状況を伝えて柱を壊すように言った

 

 さて、お茶を飲みながら煎餅をかじっているミス・GWと呼ばれた女を羨ましく思いながらゾロを見ると、刀を構えてかっこいいポーズをとっていた。何してんのよ

 

「固まるならこのポーズがいい」

 

「…………………アホじゃねぇの?」

 

 ビビがふざけている場合じゃないと言うが、全くその通りだ。あぁお茶飲みたい

 

 ナミとゾロがアホな会話をしている横で、ルフィがMr.3と戦闘を開始する。その余波でブロギーの腕の傷を抉りに抉ったり、私達を殺しかけたりした。

 具体的に言うと、ルフィが相手の蝋燭を利用して、この蝋で出来たケーキの柱を壊したとき、降ってきた巨大な蝋燭に押し潰されそうになった。よし、後でルフィ殴る

 

「危ねーなー。お前ら何で逃げねェんだ?」

 

「動けないのよ!!!」

 

「あぁ、もぅ嫌だ……」

 

 ってか、あの巨大な蝋燭が近くに降ってきたせいで、余計に固まる速度が速くなってんるじゃないか。

 

「フハハハハハ!!!ロウソクが近づいて固まる速さが加速したのだ!! バカめ!!さっさとろう人形になるがいい!!」

 

「おい!!お前らろう人形になるのか!!??」

 

「さっきからそう言ってんでしょ!!」

 

「このセットをとにかく壊してルフィさん!!」

 

 ふむ、これだけ近ければ回っているロウソクに封印喰らわせて止められるかと思ったけど無理ね。もう体が固まっちゃってる。本気で動けば動けないことも無さそうだけれど、色んな所が切れそうで嫌だなぁ……

 

 さて、そんなことを思っている間にルフィがMr.3をぶっ飛ばしていた。まぁあの程度の奴なら相手にもならないか。本人は直接戦闘苦手そうだし

 と言うか、なんでさっき私はアイツに負けたのよ。普通にやればあんなやつに負けるなんてあり得ない。それこそ催眠にでもかかったみたいに行動が制限されて…………

 

「どうしよう、おれ、お前ら助けなくねェ……」

 

 ………………あっ。ルフィの足元に、あの時にあった変な模様が見える。なるほど、そう言うことか

 

「最悪…………、下手したら死ぬわよこれ」

 

『カラーズトラップ、裏切りの黒』「黒の絵の具に触れたらどんなに大切な仲間の言葉でも裏切りたくなるの」

 

「あの時、私の行動を強制させたのはそれか………」

 

 Mr.3と戦ったときに聞こえてきた呟くような声は、ミス・GWの声と同じだ。隙の大きな攻撃を強制されたのもあの能力って訳だ

 

「能力者か何かなの?」

 

「いいえ、彼女は感情の色さえもリアルに作り出す『写実画家』彼女の洗練された色彩のイメージは絵の具を伝って人の心に暗示をかけるの」

 

「暗示だと!? そりゃまずい……。暗示だの催眠だのって類いの力はあの単純なバカには必要以上に効いちまうんだ」

 

 ゾロはそこで焦ったように言った。あぁ、マジでヤバイわね。取り敢えずルフィのアホ面は後で殴る

 ビビが機転を利かせてルフィを黒い絵の具の描かれた場所からどかす事は出来たが、今度はルフィは大笑いを始める。黄色の絵の具の暗示で爆笑し始めたのか。なんでもありね。

 おいかけっこをしているモジャモジャとウソップとカルー。爆笑しながらカルーに轢かれるルフィ。ヤバイわね、意味わからない

 私がかけられた「カラーズトラップ闘牛の赤」を見せられたルフィは、私以上に攻撃を誘発されて、地面に攻撃していた。あれはあれで間抜けな姿だから面白いとは思う。

 Mr.3はぶっとばせても、こういう相手じゃルフィは手も足も出ないのか……。私もそれなりに喰らってしまったけれど、相性が悪すぎる。と言うか、最強クラスの能力じゃないかしら?

 最後には背中に緑色の模様を描かれたルフィ。その場であぐらをかいてお茶を飲み始めてしまった。あのやろう

 

「私にも寄越しなさいよ!! 喉乾いたのよ!!」

 

「ソコなの!!??」

 

 さて、もう体はピクリとも動きそうにない。ゾロがポーズとっときゃよかったろ? なんて言ってくるがそんなことは無いだろう。はぁ、全く………これで最期か。目の前が黒く、いや白く染まっていく

 

 …………………………………ルフィが海賊王になるところ、見たかったなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 暑い………いや、熱いわね。もうちょっと火力を緩めてくれないかしら? 寝れないじゃないの。まぁいいか…………ぐー……………

 

「レイムさん!! レイムさんてば!! なんで、ろうは溶けたのに………」

 

 ビビの声が聞こえてくるわね。なによ、私はまだ眠いのよ。海賊なんだから朝に起きなくてもいいじゃない

 

「あぁ、大丈夫だビビ。こいつの口にちょいちょいっと………」

 

 ウソップの声がして、私の口を無理矢理開けられる様な感覚がする。ムカつくのであの長っ鼻をへし折るが、口になにか入ってきた……………、ん………んー?んーーーー!!??!!??

 

「辛ぁ!!! ゲホゲホ!! ゴホ!!」

 

 辛い。口の中が焼ける様に熱い。口に詰まった真っ赤な液体を全部吐き出すが、口の中の熱は取れない

 

「いってぇ!!! てめレイム!! よくも……」

 

「ウソップ……あんたか…………私の睡眠を邪魔するのは……」

 

 指をバキバキと鳴らしながらウソップに迫る。殺す。ぶち殺す

 

「ま、待て!! お前が起きないのが悪いんだろ!!?? つーかなんであの炎の中で平然と寝れるんだよ!!」

 

「知るか!! ぶっ殺す!!」

 

「ぎゃあぁあーーーー!!!!」

 

 ウソップをボコボコに殴り倒している間に、ルフィとカルーがMr.3のペアを倒して戻ってきた。カルーもなかなかやるじゃないか

 ドリーは何故か生きており、今の今まで気絶していただけだそうだ。はよ起きろ

 

「お前だけは早く起きろなんて台詞を言うんじゃねェ……」

 

「うるさい」

 

 さて、再びドリーとブロギーが喧嘩を始めたり、ウソップを半殺し程度でビビの仲裁が入ったで止めたりしていると森の奥からサンジが姿を現した。

 

「っはーーーー!!! ナミさーーーーーん!! ビビちゃーーーーーん!!! レイムちゃーーーーーん!!! 後オマケども。無事だったんだねーーーーっ!!!!よかったーーーーーっ」

 

「よーサンジ!!」

 

 呑気に今頃出てきたサンジ。あのニヤケ面を見てると無性に殴りたくなるわね。

 彼は今の今までMr.0。すなわち社長と話をしていたらしい。サンジをMr.3と思い込んで、アラバスタへのエターナルポースを渡す間抜けなオチもつけて。と言うか、通信とか出来るのねこの世界。

 サンジはMr.3に成り済まして私達が死んだことにしたらしい。なるほど、ファインプレーだ。アラバスタへのエターナルポースも有る今なら、妨害される事なくアラバスタへ行くことが出来る。その上隠密行動を心掛ければ敵の不意をつく事も出来るかもしれない

 

「仕方ない、殴るのは勘弁してやろう」

 

「おれ、なんかレイムちゃんの不興買ったか!!??」

 

 これでこの島に用はない。アラバスタへの航路を急がなくちゃいけないわね。

 ルフィやウソップが二人の巨人に別れの挨拶を済ませ、私たちは船に乗り込む。その時にゾロとサンジが揉めていた。なんでも狩り勝負でどっちが大きいか比べているらしい。おんなじくらいだからどっちでもいいだろうに。なんでも勝負に引き分けは無いそうだ。アホらしい

 

 獲物を切り出して食料を積み込み、島から出る。そこには二人の巨人が立っていた。

 

「お!! あれおっさん達だ!!」

 

「見送りに来てくれたんだな!!」

 

 二人の巨人はその問いには答えない。マントをはためかせて立っているだけだ。そしておもむろに口を開く

 

「この島に来たチビ人間たちが……」「次の島へ辿り着けぬ最大の理由がこの先にある」「お前らは決死で我らの誇りを守ってくれた」「ならば我らとて…いかなる敵があろうとも」「友の海賊旗(ほこり)は決して折らせぬ………!!!」「我らを信じてまっすぐ進め!!例え何が起ころうともまっすぐにだ!!」

 

 二人はなにか決意を固めた様子で立っていた。ルフィはそれに頷いて、まっすぐに進み続けると誓う

 

「お別れだ」「いつかまた会おう」「必ず」

 

 二人がその言葉を言った直後、目の前の海が持ち上がる。そこから現れたのふざけたサイズの出目金だった。なんだこれは、いままでいたリトルガーデンすら食べてしまいそうな大きさだぞ

 ナミが大慌てで舵をきるようにウソップに叫ぶ。しかしウソップは震えながらも覚悟を決めた様子で叫んだ

 

「ダメだ!! まっすぐ進む!!!そ………そうだろルフィ?」

 

「うん、もちろんだ」

 

 このまままっすぐ進めば食われてしまう。巨大出目金は口を大きく開けて私達を船ごと食べようとしていた。ナミはミス・GWから奪った最後の煎餅を泣きながらかじっている。最後の晩餐のつもりかしら

 

「ねぇレイムもなにか言ってよ!! お茶なんか飲んでないで!!」

 

「私、今回は何の役にも立たなかったからねぇ。頑張った二人が覚悟を決めたなら従わざるを得ないのよ。それはともかく、煎餅半分ちょうだい、お茶請け欲しいのよ」

 

「バカァ!!」

 

 ウソップとルフィがまっすぐ、まっすぐといい続けている。メリー号はもう食べられてしまい、空は真っ黒に染まっていた。

 

 

 刹那、凄まじい衝撃と共にゴーイングメリー号は空をとんだ

 

 

 出目金は体に大穴をあけて沈んでいく。海ごと出目金を斬った二人の巨人に感動しているウソップと、ルフィ。そうね、大きいわ。体だけじゃない、心意気とその力の全てが大きい戦士たちだった

 

『さァ!!行けェ!!!!!!』

 

「ゲギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!!」「ガバババババババババババババババババババババ!!!!!」

 

 二人の大きな笑い声が聞こえてくる。その全てが凄まじい二人の巨人、彼らのいる島の事をきっと私は忘れないだろう

 

 エルバフか。ウソップとルフィが騒いでいるけど、私も行ってみたいわね。あんな男たちがいる島ならきっと気持ちがいいでしょうに

 

 かくして、ゴーイングメリー号はアラバスタへ直線ルートを獲得し、最短距離で向かうのだっ………

 

「みんな!!来て!!! 大変!!!」

 

 …………ビビが叫んでる。ゾロは早速筋トレを始めてるし、ルフィはいつも通り何かを食べている。なにか問題でも有るのかしら?

 私は食堂でお茶を飲みながらサンジの作ったお菓子を食べていたのだが、取り敢えず甲板に出てみることにした

 

 そこでは、この船の心臓とも言えるナミが倒れていた

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

「なんて見事な皆焼………良業物‘花州’!! さすがは偉大なる航路、入って早速こんな名刀に出逢えるなんて……」

 

 うっとりとした表情のたしぎちゃん。うーん、私としては刀なんてどれも一緒に見えるんだけどなぁ

 筋トレをしながらたしぎちゃんと一緒に寛いでいる。なんやかんや言って、たしぎちゃんとはもう結構な付き合いになりますね。

 私が目覚めてガープさんに拾われて海軍の門を叩き、そのままスモーカーさんに拾われて今ですから。女の子が少ない海軍で貴重な可愛い枠の彼女は、私とあまり共通点は有りませんがどこか気が合うので楽しいです。

 

『たしぎィ!!! メイリン!! 聞こえねェのかこの刀バカと、筋肉バカっ!!!』

 

 突如として大声が聞こえてきた。ビックリして甲板に出ると般若みたいな表情を浮かべたスモーカーさんがいた。わりといつもの事だった気がしますね

 

「なんですかスモーカーさん。コーヒーなら自分で入れてくださいよ」

 

 私がそう言うと、スモーカーさんは右腕を煙に変えて私の頭をおもっきり殴ってきた。痛い!!

 

「な、何するんですか!! 戦争ですか!!??戦争ですね!! いいですよ!! 今日こそそのモクモクをぶん殴って………あだぁ!!!」

 

 に、二度もぶちましたね……っ!! もう怒りましたよ!! そのモクモクだって腕を黒くしながら殴ったら殴れるんですからね!! 覚悟をしやが……た、たしぎちゃん!! なんで後ろから羽交い締めに……え? 話が進まないから早くしてください? そんなぁ……

 

 しぶしぶ私とたしぎちゃんは甲板に降りたってスモーカーさんの前に立つ。モクモクの実を食べたスモーカーさんは自分の体を煙に変えることの出来ると言う能力を持っている、私の直属の上司だ。偉そうでヘビースモーカーで子供や市民には優しい彼は私にとても厳しいのです。ちょっとサボっているだけですぐに殴ってくるし

 

「何か言ったか?」

 

「いーえ、なにもー」

 

「……………ったく。よく聞け、黒電伝虫が傍受した、二人の男の会話だ。あァ、メイリンは別に聞かなくて構わねェ。アホだから聞いても無駄だ」

 

「なにおぅ!!??」

 

「メイリンさん、どぅどう!!」

 

 羽交い締めにされたまま傍受したと言う会話を聞く。殆んど何を言っているのか聞こえなかったが、何なのだろうか?

 

「殆んどザザーとかガガーとかしか聞こえないじゃないですか。スモーカーさんもこんなのに興味持つなんて……いだい!! またぶったぁ!!」

 

「お前は少しは頭を使え。王女ビビ、麦わら、Mr.0、指令状。これだけキーワードがあればこの前に捕まえたMr.11とやらと繋がりが有ることが解るだろ」

 

「????」

 

「あぁ、もういい」

 

 な、なんだかアホの子扱いされてませんか私!!?? たしぎちゃんも生暖かい目で見てくるし。

 捕まえたMr.11とやらをスモーカーさんは姑息な手で引っ掻けて、犯罪組織とやらの存在を明白にする。ふん、そんなことしなくても殴って脅せば吐いたんですよ

 

「そこのアホは放っておくぞ

 ビビ王女、これは確かアラバスタ王国の行方不明になっている王女の名だ」

 

「アラバスタ王国と言えば今クーデターのまっさいちゅう。まさかそこに犯罪組織と麦わらの一味が絡んでいると?」

 

「………解らん」

 

「なーんだ、スモーカーさんも解らないんじゃないです……ストマックゥ!!!!??」

 

 胃におもっきり、拳をぶちこまれ、呼吸困難に陥って膝をついてしまった。痛いです。泣きそうです

 

「取り敢えず、麦わらの居場所の手懸かりはこれだけだ。おい、本部と連絡をとってエターナルポースを手に入れろ。行ってみようじゃねェか……。砂の王国アラバスタへ」

 

 私たちの船はアラバスタへと舵をとる。そうでした、私は霊夢さんに一撃ぶちこまないと気がすまないんでした!!

 

「うおーーーー!!! 絶対に捕まえますからねーー!!霊夢さん!!!!」

 

「……………全く」

 

「あ、はは……」

 

 二人から生暖かい視線を向けられるも気にしない!! 今日も紅美鈴は元気です

 

 




 前半は難産でした。美鈴は書きやすいので後半はスラスラ書けました。いっそ海軍編をメインで書くか………?

 いつも感想や評価ありがとうございます!! そして誤字報告も助かってます!! いやほんと


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最高速度

ミス・GWとか、ジャンゴとかの、本人の戦闘力で勝敗が左右されない能力が好きです。誰かジャンゴが主人公の小説書かないかなぁ……

それはともかく本編


 

 

 突然だが、人の平熱は36度前後だと言われている。人によって多少の前後はするが、大きく逸脱することはない。風邪を引くなどして体に異常をきたしたとしても、せいぜ1度変わるか変わらないか程度だ

 

 何が言いたいかと言うと、40度を超える様な病気が普通の風邪な訳がないと言うことだ

 ナミが倒れて、船室で私たちはゾロを除いてそこに集まっている。船の上の警戒や進路を見る人が一人もいないのは問題だからだ

 

「ナビざん死ぬのがなぁ!!?? なァビビぢゃん!!!」

 

 泣きながらハンカチを噛んで煙草をくわえると、中々に高度な事をしながらサンジはビビに問い掛けた。

 

「おそらくーー、気候のせい。偉大なる航路に入った船乗りが必ずぶつかると言う壁のひとつが、異常気象による発病………!!

 どこかの海で名を上げたどんなに屈強な海賊でも、これによって突然死亡するなんて事はザラにある話。ちょっとした症状でも油断が死を招く。この船に少しでも医学をかじっている人はいないの?」

 

 ビビの問いかけに、私たちはナミを指差す。この船にナミ以外のマトモな航海の知識を持ってる人間はいやしない。その事にサンジは涙を拭っていた

 本当にナミに頼りっぱなしなのねこの船の船員は。私、ウソップ、ルフィは言わずもがな、ゾロは刀と戦うことしか頭にないし、多少は頼りになりそうなサンジも‘看護’の領域でしかなにもできない。ここまで酷い発熱になれば医者の知識は必須だ

 

「でもレイムの時はすぐに治ったじゃねェか。ならナミもメシ食えば大丈夫だろ?」

 

「私の時は運が良かったから。クロッカスが医者だったでしょ? ぶっ倒れてすぐに治療を受けれた」

 

「今だって倒れてすぐじゃねェか?」

 

「医者がいないっつってんでしょうが!!」

 

 泣き止んだサンジは、私とビビとナミの食事には、野郎の100倍気を使っているから、栄養摂取という面での問題は起こさないと豪語する。食料の管理や栄養配分を完璧に行い、それが原因で倒れることは有り得ないと

 

「ナミさんとビビちゃんとレイムちゃんには新鮮な肉と野菜で完璧な栄養配分。腐りかけた食料はちゃんと野郎共にくれてやっている」

 

「オイ!!」

 

「それにしちゃうめェよなァ」

 

 今のこの瞬間、ナミの病気の原因は解らない。わからない以上それに対する対策をとることが出来ない。解ったとしても対処することが出来るかどうかも解らない。八方塞がりだ。

 ビビがナミの病気が命に関わるものかもしれないと言い出す。実際、それだけの高熱になるような病気がただの風邪なんかじゃあり得ないだろう。ルフィ、ウソップ、サンジの三人が泣きながら叫んで取り乱し、ついでにカルーも場の流れにのって暴れてる。うるさい

 ビビが叫んで私が殴って場を収拾する。やっぱりこいつらを仮とは言え病室に入れるもんじゃない

 

「医者を探すぞ!!!! ナミを助けて貰おおオオオ!!」

 

「解ったから落ち着いて!!! 病体にひびくわ!!」

 

「取り敢えず黙れお前ら!!! 叩き出すぞ!!!」

 

 打撃の効かないルフィを『染雪』でぶん殴って封印する。口は自由だからやっぱりうるさいが、取り敢えず埃はたたなくなったわね。他の連中にも切っ先を向けると首を縦に振って大人しくなった。まったく……

 

「……………だめよ」

 

「ナミ?」

 

 騒ぎに起きてしまったのか、ナミがベッドで上体を起こす。ルフィが治ったとか騒いでいるがそんなわけあるか。案の定ウソップにツッコミを入れられている

 

「私のデスクの引き出しに新聞があるでしょ? それを取ってきて………」

 

「わかったから寝ときなさいよ。辛いんでしょ」

 

「大丈夫よ。こんなの少し休めば良くなるわ」

 

「…………」

 

 ビビがナミの机の新聞を取り出す。そこにはアラバスタ王国の記事がかかれていた。

 それは王国軍の兵士が反乱軍に寝返ったと言うものだった。元は王国軍が優勢の戦いが、戦力の差がひっくり返ってしまったと言う記事。暴動を押さえる筈の戦いで、押さえる側の戦力が足りない。そんな戦いがどうなるかなんて火を見るより明らかだ。そんな悲報が三日前の新聞だと言う。くそったれめ

 

「ごめんね……。あんたに見せても船の速度は変わらないから、不安にさせるよりと思って隠してたの」

 

 ビビの顔が泣きそうに歪む。ルフィは何となくで戦況を理解したらしい。大変だと言うことさえわかればまぁいいだろう

 ナミは強がって、立ち上がる。赤い顔のまま甲板に向かっていった。アラバスタへの航路を急がなくちゃ、ビビの国がめちゃくちゃになってしまう。もう一刻の猶予もない。だからナミは強がっているし、ビビも苦悶の表情で苦悩しているんだろう。

 

「もう……無事に帰りつくだけじゃダメなんだ………一刻も早く帰らなきゃ。間に合わなきゃ、百万人の国民が無意味な殺し合いをすることになる………」

 

 百万人か………途方もないな。そんな国の王女がどんな気持ちなのか私には想像もつかない。彼女の肩にはいったいどれだけのものがのし掛かっているんだろう。それを隣で持つ人ももういない。私は船の天井を見上げて、なにも出来ずに死んだ男の事を思い出して唇を噛んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナミからの指令を受けて、ゾロが号令を出す。真正面から大きな風が来るから、それを避けるために船の進路を曲げるためだ

 やっぱりこの船にはナミがいないとダメだ。野郎は役に立たないし、ビビだって基本的な知識しか持っていないから航海士の真似事は出来ない。船を動かす事に関して、彼女がいないとどうしようもないんだ

 

 それがわかっているからだろう、皆が口々にナミを心配する。私は取り敢えずナミを休ませるために無理矢理気絶でもさせようかと手刀の素振りを始めるが、ナミにジロリと睨まれて止めた。

 

「………………お願いだから船を止めないで。無理はしないから」

 

「ナミ……」

 

 この娘は……。私は頭押さえながら、取り敢えずナミの背中を押す。

 

「ちょ、ちょっと……」

 

「指示は出したんでしょ? 無理しないって言うなら寝てなさいよ」

 

 私じゃナミを止められない。私は人が意思を通そうとするのを止めようとは思えないんだ。どこか冷めてるから、ナミを心配する気持ちがあっても、彼女の意思を無視して止めようとは思えない。自分が冷たい人間だとは思っていたけれど、なんでだろう。それが少し苦しい

 

 ナミを船室に押し込もうとすると、そこからビビが出てきた。彼女はなにかを覚悟したような顔をしている。

 

「皆にお願いがあるの。船にのせてもらっておいて……こんなことを言うのも何だけど。今、私の国は大変な事態に陥っていて、とにかく先を急ぎたい。一刻の猶予も許されない!! だから……これからこの船を‘最高速度’でアラバスタ王国へ進めてほしいの」

 

「当然よ! 約束したじゃない」

 

 ナミがビビの言葉に笑顔を浮かべる。そんな無理をしているのが丸わかりな表情で笑ってんじゃないと言いたい。でもナミがそう言うのなら私は………

 

 

「だったら、すぐに医者のいる島を探しましょう!! 一刻も早くナミさんの病気を治して、そしてアラバスタへ!!! それがこの船の‘最高速度’でしょう!?」

 

 

 ………………へ?

 

「そおーーーさっ!! それ以上のスピードは出ねェ!!」

 

 笑顔で言うルフィ

 

「いいのか? お前は王女として、国民百万人の心配をするべきだろ」

 

「そうよ!! だから早くナミさんの病気を治さなきゃ!!」

 

 ウソップの問いに堂々と答えるビビ。彼女の顔には覚悟はあっても迷いは無いように見える。本当に彼女はナミを助けてアラバスタ王国も救う気だ

 

「…………………ビビ、いいの? それで間に合わなくなるとか、致命的な判断ミスだとか考えないの? ……………ナミを犠牲にアラバスタを救えるかもしれないのよ?」

 

「レイムさん。私の答えは変わらないわ。ナミさんの病状はマトモじゃない。なにもしなくても治るなんて思えないわ。それにナミさんがいなくなれはこの船の速度は確実に低下する。いいえ、アラバスタにつけもしないかも知れない。国の事を考えて、私は確実にアラバスタにつかなくちゃならないの」

 

 ビビはそういって、微笑みを浮かべる

 

「それにナミさんが死んでほしくないもの。レイムさんだって気持ちは一緒でしょ?」

 

「っ……………。そうね、その通りよ」

 

 ナミはビビの言葉を聞いてへたりこんでしまった。やっぱり限界だったのだろう。私とビビはナミを背負って船室に戻る。その時に巨大なサイクロンが、少し前の進路に出現し、やはりこの船にはナミが必要不可欠だと認識した

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。晩飯時になり騒がしい連中を黙らせてからキッチンに入る。そこではサンジがナミのための病人食を作っていた

 

「サンジ」

 

「ん? レイムちゃん? ごめんね、もう少し待っていてくれ。先にナミさんの飯を作っているんだ」

 

「その事で頼みがあるの」

 

 私は少し照れ臭くてサンジと視線を合わせられない。不思議そうな目で見てくるサンジだが、少しずつその目に不埒なものを感じるてきた

 取り敢えず一発殴って、少し落ち着く。うじうじしてても仕方ない。決めたんだから早く言おう

 

「サンジ。ナミの飯なんだけど、私にも手伝わせてくれない?」

 

「レイムちゃんに? そりゃ構わねェけどなんで…………あぁ」

 

「そのしたり顔止めろ!!」

 

 サンジの顔に笑顔が浮かぶ。うう、顔が熱い。思ったより恥ずかしいわね

 

「前にレイムちゃんに作ったのと同じお粥を作るつもりだから、レイムちゃんは薬味を頼む。ネギは冷蔵庫の下だ」

 

「解った」

 

 ネギを取り出して、食べやすいように出来るだけ細かく刻んでいく。他には鰹節にだし醤油を染み込ませた物や、種を抜いた梅干しだ。サンジはその間に手早く卵粥を作っていた。病人で無くとも食べたくなる様な黄金の輝きを放っている。卵でコーティングされ、魚介のだしで着込まれた米からは食欲をそそるいい香りがした。

 

「完成ね」

 

 私は小さく息を吐いて、手を洗う。熱々の鍋に入れられた粥は蓋をされ、お盆の上に置かれて後はナミの所に持っていくだけになった。

 私はそれを見届けて、甲板に出ようとする。いつもならお茶を入れるところだが、少し顔が熱いので外に出て涼もう。ちょうど寒くなってきたことだし

 

「あー、しまった。他の連中の飯を用意するのを忘れていた。早く作らねェと野郎共が理性を無くしてその粥にたかりに来るな」

 

 扉に手をかけた所でサンジのあからさまな棒読みが聞こえてくる。私は無言で振り返ると、いい笑顔を浮かべたサンジが私に粥の乗ったお盆を差し出した

 

「悪ィなレイムちゃん。これナミさんに持っていってくれないか?」

 

「……………………いつもなら絶対に自分で行く癖に」

 

 サンジはなにも言わずにそのお盆を私に押し付けた。そして話も聞かず料理の続きを始める。ちゃっかりビビのだけはお粥を作りながら作っていた辺り流石だ

 キッチンを出るときに、その量が明らかに1食分ではなく、さらによく見ると取り皿が二つに食べるためのスプーンが二つ、取り分けるためのスプーンがひとつ置いてあるのに気が付いた

 

 小さくため息をついて、その場をあとにする。あの野郎めと思いながら、ナミの病室となっている部屋に入った

 

「ナミ、飯よ」

 

「レイム? サンジ君が来ると思ってたんだけど……」

 

「ついでに体拭いてあげようと思って。汗だくで気持ち悪いでしょ?」

 

「あら………、そうね。お願いするわ」

 

「先食べてからだけど」

 

 お盆を置いて、鍋の蓋を開ける。ナミのためにお粥をよそって、彼女に手渡そうとする。しかし彼女はいいイタズラを思い付いたと言ったような顔でお皿の受け取りを拒否した

 

「…………あー、なんだか私、熱で腕があがらないわー。ねぇレイム、食べさせてくれない?」

 

「熱で腕があがらないって何よ……………あぁ、もう……口開けなさい」

 

 いいさ、今日はとことんやってやる。毒を食らわば皿までだ。手に持ったままの皿の粥をスプーンで掬って、彼女の口に近づける。

 

「ほら、食べなさいよ。冷めるわよ」

 

「こう言うときのお約束ってあるでしょ?」

 

「……………………あんた治ったら覚えときなさいよ

 

 

………………………はい、あ、あ~~ん」

 

 

 あぁくそ。顔が熱い。顔から火が出るなんて表現があるけど、今まさにそんな気分だ。ナミはようやくお粥を口に入れて、咀嚼する

 

「薬味は?」

 

「ん、ネギと梅干し」

 

 ナミはお粥を私の手から順調に食べ進める。しかしやはり辛いのだろう、何度かむせたり咳き込んだりする。食欲もないのだろうが、それでもお茶碗一杯分はなんとか食べさせることが出来た

 

 私も残った分のお粥を食べて、お盆を片付ける。そして湿らせたタオルでナミの体を拭いていく。

 彼女の息は荒く、触れる体も熱を帯びて熱い。なにかを言おうと口を開くが、言葉にならなかった。彼女の体を拭き終わり、食器を片付ける。さっきよりは少しだけましな表情になったと信じたい

 

「ねぇレイム。あなたは貴方らしくしてればいいのよ。個人的には可愛いあなたを見れて満足だけど」

 

「うっさい。似合わない事してる自覚はあるわよ。……………でも、前に言ったでしょ。私、貸し借りには煩いの」

 

 偉大なる航路に入った時、私は風邪を引いて寝込んだ。ひとりでも大丈夫だっただろうとは思うけど、それでもナミが隣にいて看病してくれたのは嬉しかったんだ。すぐに治ったけれど、その理由はきっと側に誰かが居てくれたからなんだから。………………あぁもう、恥ずかしいなぁ

 

「ほら、もう寝なさい。寝るまではここにいるから」

 

「………………うん」

 

 彼女の手を握り、天井を見上げる。お茶でも持ってくれば良かったなぁ。

 

「………………レイム。いる?」

 

「ん?なによ?」

 

「ううん。なんでも………………………ありがと」

 

「……………………そう思うなら頑張れ」

 

 ナミは少し笑って、そのままゆっくりと寝息をたて始めた。

 

 私は、他の連中が心配してこの部屋に入ってくるまでナミの手を握り続けた。それで少しでも彼女が元気になると信じて




ツンデ霊夢とかへた霊夢とか色々あるけど、この霊夢ちゃんってなんになるんだろう。………デレデ霊夢? 言うほどデレてないか


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夢を見る

何度も言いますが、この作品は霊夢のキャラ崩壊が著しいです。原作のイメージを大切にしたい方は申し訳ありません。閲覧注意です


 

 

「…………………どこ? ここ」「暗い場所、なにもないわね。真っ暗で目の前も見えない………………」「ん? なにかしら、あれ。光?」

 

「あなたはだれ?」

 

「……………………………………???」「私?」「なんで私が突然目の前に現れるのよ」

 

「私は博麗霊夢。あなたはだれよ?」

 

「奇遇ね」「私も霊夢よ」「なんで私と同じ格好してるのよ」

 

「お前は……………違う。お前が博麗霊夢の筈がない」

 

「はぁ」「?」

 

「記憶を無くした程度で、力を無くした程度で、そんなにも弱くなるなどありえないわ」

 

「……………………」「…………ッ!?」「あんた、空を飛んで…………!?」

 

「思い出せ」

 

「ガッ…………首を……くそ、」「なんで体が………」「動かな…………」

 

「思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ」

 

「ぐぅ…………く………」「はな………せ………」

 

「思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思思」「思思思思思思思思思思」「いいいいいいいいいいいい」「思思思思思」「思い」「出せ」

 

「くそ……お前、邪………魔だぁあ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 飛び起きると、目の前にはすっかり見慣れてしまった天井。メリー号のナミとビビと私の部屋だ

 

「はっ!!?? はぁ………はぁ………夢?」

 

 側には呼吸の荒いナミが眠っている。部屋の床には心配してやって来たルフィとウソップとサンジとビビ。ゾロは見張りだろうか、そこにはいなかった

 ………………眠ってしまっていたらしい。随分と嫌な夢を見た。とても暗い場所で自分と全く同じ姿の人間に首を絞められるとかどんな悪夢よ。いや、悪夢なんて総じてそんなものか

 

「んん……………、レイムさん……?」

 

「あ、ビビ。起こしちゃった?」

 

「ううん、私もナミさんの看病してて寝ちゃってたみたいだから………………。あれ? レイムさん、それどうしたの?」

 

 ビビは私の首を指差す。あいにくと自分の首は鏡を見ないと見ることは出来ないから、何を言っているのか解らない。

 

「首のところ、手みたいな痕がついているわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ビビがナミの為に医者のいる島を探す決意をしたところで一日が過ぎてしまった。ナミの容態はなんとか安定しているように見える。しかし熱は相変わらず下がらないし、呼吸も荒い。このままじゃろくなことに成らないのは目に見えている

 私とサンジとビビは船室でナミの看病している。冷たい布を絞ってナミの額にのせてやると少しだけ寝顔が安らかになるから調子にのって替えまくっていると、ビビに体温を下げすぎてもいけないと怒られてしまった……

 

「はぁ………、私あんまり看病とか向いてないわ。お茶いれてくる、二人はいる?」

 

「ええ、お願い」

 

「レイムちゃんがお茶を淹れてくれる…………ッ!!??」

 

 サンジがまた過剰反応をするのを無視して私は甲板に出た。

 首のところに違和感を感じてそこを撫でると、少しピリピリとした痺れを感じる。夢の中で首を絞められた所と寸分たがわぬ場所についた痣は、あれから半日以上たった今でも消えていなかった

 多分この痣、ろくなものじゃない。ビビが島と医者を見つけたらナミと一緒に見てもらうべきだと言うが、この痣はきっとそういうものじゃない。どちらかと言うと私の専門分野だろう。と言ってもこれがなんなのか、いまいち良く解らないけれど

 

 外に出た瞬間、船を大きな揺れが襲った。船の上で地震は有り得ないから、誰かが舵を急激にきったとか海王類が水中から浮上して大きな波が襲ってきたとかかと思ったのだか、そういうわけじゃないらしい。

 船だ。バカでかい船。なんでこの世界の人間は船を大きくしたがるのよ。威嚇のつもりか?

 潜水していたらしいそれは、よく見ると海賊旗を掲げている。海賊船かよ、今にもナミが死んじゃいそうなこの面倒なときに………

 

 海賊船から何十人もの兵隊がメリー号に流れ込んでくる。そして最後にとても偉そうなカバのような見た目をした大男がのっそりとやって来た。そいつはナイフについた肉を頬張りながら私達に話しかけてくる。っておい、あいつナイフごといったわよ。すごい音させながら食ってるんだけど

 

「おれ達は‘ドラム王国’へ行きたいのだ。エターナルポース、もしくはログポースを持ってないか?」

 

 豪華な装飾の施されたナイフの柄を彼はバリバリと噛み砕く。ルフィでもあそこまで悪食じゃないわよ。骨付き肉の骨くらいは食いそうだけど

 

「持ってねェし……。そういう国の名を聞いたこともねェ」

 

「ほら、用済んだら帰れおまえら」

 

 騒ぎを聞き付けていつの間にかやって来たサンジと、最初から普通にいたルフィが諭すように言う。ナミの為に急がなくちゃならないときに面倒だ。

 

「もう面倒だしぶっ倒しちゃわない?」

 

「まてまてまて!!騒ぎが起きて、万が一ナミに戦闘の余波が飛んでいったらどうする!!?? 穏便に帰っていただく方がいいに決まっているだろ!!」

 

「…………足震えて無かったら納得できた台詞なんだけれどねぇ」

 

 そんな会話をしている後ろで、ナイフを食った大男は全く意に介す事なく動き出す。ルフィ並みに自由なやつね。

 そいつはそのまま大口を開けて船にかぶりつき、そのままムシャムシャと食べ始めた。木造の船だからすなわち木を食べてる。そのまま錨を船にくくりつけるための錨つなをうどんのようにズルズルと飲み込んでいく。…………………はぁ?

 

 そこまでカバ男がやったところで、ルフィがキレた。敵の戦闘員相手に殴りかかったのだ。うん、まぁルフィがやらなかったら私がやってた。背中の『染雪』に手をかけ、それを構える。サンジやゾロも戦闘態勢だ

 

「ウソップはどうする………っていないわね」

 

 遠目に這うように逃げ出してるのを見つけて軽くため息。まぁいつもの事か

 飛んでくる銃弾を半身で避けて、撃ってきた奴に接近して『染雪』で殴り飛ばす。飛ばされたそいつは二、三人巻き込んで海に落ちた。ウソップ特製の針を取り出して左手に構え、投擲。いつのもに比べれば重いし柔らかいが、投げるだけなら使えるだろうと貰っておいたものだ。それは敵の手首や足首を貫いて相手を戦闘不能に追い込んでいく。投げた数は6本で、倒した相手は4人だ。合計多分七人目

 

 他の連中も調子よく敵の数を減らしていく。ルフィは敵の親玉のワポル様と呼ばれた男と戦い始めようとしていて、そしてそのまま食われてる。何やってんのよあいつ。

 よく見ると、ルフィは食われた口から両手を伸ばしているわね。あれはよく見るルフィの大技かしら?

 あら? ビビがタイミングよく顔を出したわね……。ワポルとか言うやつの顔を見て驚いたような表情を浮かべてる。

 

「吹き飛べェーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」

 

 ルフィはワポルに伸ばして反動をつけた腕を叩き付ける。マトモに喰らったワポルは哀れにも水平線の彼方へ飛んでいってしまった。おー、よく飛んだわね

 

「ワ、ワポル様ぁあーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

 飛んでいってしまったワポルに、彼の部下は悲鳴を上げる。数十秒とかからずに彼等は自分の船に帰っていき、速攻で船を出した。その時にアフロの奴がワポルを『おカナヅチ』だと言っていたが、普通にカナヅチの事でいいのかしら? ってことはやっぱりあいつも能力者か。当たり前と言えば当たり前だけど、偉大なる航路に入ってからその手の連中と会いすぎじゃないかしら? 体がゴムになるとか、超雑食になるとか変な能力ばかりね……悪魔の実。腹へって死ぬ寸前とかにならない限り私は絶対に食べないわよ。

 

「貴様ら憶えていろ!!! 必ず報復してやる!!!」

 

「リメンバー・アス!!!!!」

 

「憶えていろーーーーーー……………………っ」

「プリーズ・リメンバー・アス……」

「憶えて……ろ………プリ………バー……ス……」「ろー…………………アス………………」「…………………………………バー……………………ー……」

 

 そのまま船はフェードアウトしていった。ワポルが飛んでいったと思わしき方向へ消えていくわね。あのまま沈んでしまえば楽なのになぁ……

 

「………………………なにあれ?」

 

「さぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、なんとか船に積んであった木材と鉄板で船を修復して航海を続ける。昼は船を進ませるだけだからなんとかなると島を探す。道中、ルフィが『水とか……ぶっかけたら………熱、ひかねェかなぁ……………』とか、わりとマジなトーンで言ったときは殺してやろうかと思ったわね。殴る前にサンジの蹴りとビビのパンチが炸裂していたからもういいやと思って流したけれど。

 

「にしても寒いわね………。最近寒すぎないかしら?」

 

「腋を隠せ腋を。寒いのはそれが原因だ」

 

「…………………………えー」

 

「なんでそんなに不満そうなんだよ!! 見てるこっちが寒くなってくるからなんか着ろ!!」

 

 ウソップが煩いので仕方なしにマフラーを巻いて上から赤いジャンバーを着ることにした。暖かい

 

「………………下、白いズボンないかしら? コレだと色のバランスが悪いわ」

 

「お前のその紅白に対する並々ならぬ拘りはなんなんだよ………。ナミが大量に服買ってたから借りてこいよ」

 

「ナミのじゃ少し大きいのよ。これも借り物だけど袖が余ってるし」

 

 ちなみに元の服の袖は着脱式になっている。とって中に仕込んだ針をポケットに突っ込んで暫くは過ごすことにした。手持ちは4本、残りは船に置いておく。

 

「いや、でもレイムちゃんの言う通り、安定して寒いのは確かだぜ」

 

「まぁそうだな……。こういうところもまた気まぐれなんだろな。この海は……」

 

 しかし会話に参加してきたビビが言うには違うらしい。なんでも気候が安定するのは島が近い証拠だとか。冬島があるらしい

 

「えーとなんか聞いたことあるわね。たしかリバーシバル・マウンテンがそれだっけ?」

 

「リヴァース・マウンテンね。あの山は色々特別だから参考にはならないわ。偉大なる航路の島々は4種類に分類されるの。『夏島』『春島』『秋島』『冬島』そしてそれぞれの島にはだいたい『四季』がある」

 

 すなわち、この海の航海を続けるためには16種類の季節を克服することが最低条件と言うわけだ。ビビもそのように続けた。それ以外の特殊な気候だってたくさん存在するらしい。雷の雨でも降り注ぐ島とか有ったら恐いわね、流石にそんなのがあったら人が生きてはいけないと思うけど

 

 つまり島の影響を受ける、周囲の海の気候が安定することは島が近いことを示すらしい。そしてその通り、サンジが島を発見する。巨大な円柱形をした山が特徴的な島だ。そして其の島に近づけば近付くほど寒くなっていく。うわ、真っ白ね。一面の雪景色

 島と聞いていてもたっても居られなくなったらしいルフィが、ナミの部屋から飛び出してきていつも彼が陣取っているメリー号の船首に座る。ってかお前、ナミの看病はどうした。やりたいって言ってたのお前だろ

 しかし、島が見えてテンションが上がりまくっているルフィにそんなことを言っても無駄だろう。さらに彼は雪を見て瞳を輝かせている。あの様子だと、もうナミの病気の事とか、ビビの国の事とか頭にないわね、ほんとにもうどうしてやろうかしら

 

 ウソップが島に入ってはいけない病を発症したり、ルフィがマイナス10℃の気温に気付かないほど鈍かったり、冒険に目を輝かせたり、まぁいつもの流れをしている所でそいつらはやって来た

 

「そこまでだ。海賊ども」

 

 船をつけようとしていた海岸に、何十人もの人が銃を構えて立っている。取り敢えず人がいない島という可能性が消えたのはよかったけれど、随分と殺伐とした雰囲気ね……

 

「おれ達、医者を探しに来たんだ!!」

 

「病人がいるんです!!!」

 

 

「そんな手にはのらねェぞ!!! ウス汚ねェ海賊め!!!!」

 

 

 島民達は銃を構えて威嚇してくる。……………虚勢ね、声が震えているわ。それに彼等はどうにも服に統一性がない、この国の軍隊と言う訳じゃなさそうだ。そんな彼等は精一杯の大声で私達に退去するように言ってくる。さもなくば船を吹っ飛ばすとの事だ。見たところ大砲とかも見えるから、はったりじゃない可能性だって有るわけだ

 

 サンジがボソッと文句を言ったとき、彼らの一人がその緊張に耐えかねてか銃を撃った。それはサンジの足に向かって飛んでいき、それを簡単にサンジはかわすことが出来たが、反射で彼は島民を睨み付けてしまう。そのままサンジが飛び出そうとしたとき、ビビが叫び声をあげて彼を押し留めた。流石はビビ、懸命ね。これだけ警戒されているなか、暴力沙汰を起こせば医者なんか絶対に見つからない。すぐにでもナミを医者に見せなくちゃならないのに騒ぎなんて起こせば………

 

 

ドゥん!!!!!

 

 

 一発の銃弾がビビの腕を傷つけた。数センチずれていたらビビが死んでいたかもしれない。それを見た瞬間、私の頭は真っ白になってしまった

 

『お前らあ!!!』

 

 私とルフィが叫ぶのは同時だった。ルフィが走りだし、私は針を構える。他の連中もおのおの構えをとった。怒りに任せてそれを投擲しようとしたとき、ビビは走り出したルフィを体当たりで止めて、私の射線上に立ちはだかった

 

「ちょっと待って!! 戦えばいいってもんじゃないわ!!! 傷なら平気。腕をかすっただけよ」

 

「…………………ビビ、あんた……ッ」

 

 彼女はルフィと私が止まったと理解すると、頭を床に擦り付けて土下座をする。そしてそのままの姿勢で島民に向かって上陸はしないから医者を呼んでくれと頼み込んだ。身分を隠しているとはいえ、一国の王女が銃を撃たれ、血を流し、それでもなお土下座してナミを救おうとしている

 

「あなたは……船長失格よルフィ。無茶をすれば全てが片付くとは限らない。このケンカを買ったら…………ナミさんはどうなるの?」

 

 ビビの目線はルフィを見て、そして私を見る。その目に浮かぶのは怒りだ、憤怒と言ってもいい。彼女はいつも私たちの名前の最後に『さん』をつける。それを無くしてルフィの名前を呼ぶほどに、彼女は怒っているんだ

 

「……うん、ごめん。おれ、間違ってた。

 

 医者を呼んでください。仲間を助けてください」

 

 ルフィもビビを見習って、土下座の姿勢をとり、頭を地面に擦り付けて懇願する。あぁ、くそ。どいつもこいつも………

 

「お願い…………します。私の……私達の大切な仲間が病気で苦しんでる………います。助けて………ください………」

 

 敬語なんて使った事なかったからこれで正しいのか解らない。いや、丁寧語だっけ? 解らないなんだったっけ? こんなの記憶を無くす前から使った事なんてきっとなかったぞ。それでも……私も正座をして、頭を下げた。ちっぽけなプライドなんかどうでもよかった。頭を下げてナミが助かるならそれで

 

 時間が流れる。音は水面が揺れる音だけだ。数秒が何時間にも感じられて、それでも私達は頭を下げ続けた

 

「村へ……案内しよう。ついて来たまえ」

 

 彼らのなかで、一際大きな男がそう言ってくれた。あぁ、よかった……………本当によかった。

 

「ね、わかってくれた」

 

 ビビがこっちを見て、笑みを浮かべている。かなわないなぁ……

 

「うん、お前すげェな」

 

 頭を床につけたまま、ルフィはビビに賛辞を送る。私からしてみれば、ルフィだって凄い。あの場で頭を下げれるなんて、間違いをすぐに認めて仲間の為に頭を下げれるなんて、本当にルフィは…………凄い

 

「あんたも凄いわよ。本当に、凄いわ」

 

 私はビビがいなければ、ルフィが頭を下げなければ、きっとなにもしなかった。問答無用で針を投げていた。ナミの為になんて事、あの瞬間には頭から抜け落ちていたんだから。………………………………………本当にかなわないなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

『思い出せ』

 

 なぜかその言葉が、頭の奥にこびりついて取れなかった

 

 

 

 

 




誤字報告、感想、評価、本当にありがとうございます!!!


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名もなき国

 すいません。更新遅れました……。

それはともかく(ともかくとか言うな)本編


 

 ……………寒い

 

 なんでこんな目に合わなくちゃいけないのか、なにか悪いことしたかと記憶を巡らすが思い当たらない。山道ですれ違った熊に挨拶をしなかったくらいじゃないか。

 目の前にはその熊がいる。モコモコの毛並みが暖かそうなね、剥ぎ取って着れば暖かいかしら? しかし雪の上に正座をさせられていて、足が凍ってきているために、もはや感覚はない。それを実行するにも不可能なのが現状だ。しかし今もその熊が、言語にならない言葉を延々と私に聞かせ続けているからたまらない。

 

「……………………あのさ、私先を急いでるのよ。お願いだからそろそろ勘弁してくれな……」

 

『ベア!!!』

 

「……………はぁ」

 

 雪の上で正座をさせられている私の横で爆笑しているルフィとウソップ。あいつらは後で殴る

 

 この国はかつてドラム王国と呼ばれ、ほんの少しまえに数人の海賊達の手によって滅びた国らしい。海岸で私達に対する過剰な反応はそれが理由だったそうだ。私達にそんなつもりがないと解ってくれたのか、ビビを撃った男は彼女に謝罪をした。ビビはそれを受け入れたから、これ以上は私たちがとやかく言うのは筋違いだろう。

 この国にいる医者は一人だけ、その医者は船よ上からでも見えたあの巨大な山のてっぺんに住んでいるらしい。その医者は時おりそりに乗って、麓の町までやって来ては病人怪我人を探して治療し、その家の金品を略奪して行くと言うとんでもない人物だそうだ

 

 さて、この国の現状を理解したところで、今、私が置かれている状況を整理しようか。

 この旧ドラム王国の現状を聞きながら山道を歩いていると、そに二足歩行の熊が現れた。海岸にいたこの国の人々とルフィとビビとサンジは普通に挨拶をして、ウソップは死んだフリをしてそいつの横を通り過ぎた。ちなみにゾロとカルーは船番だ。そして私はと言うと、あくびをしながら通った為にその熊に捕まってしまった。そしてかれこれ五分くらい冷たい雪の上に正座をさせられて説教をされている。そいつの言い分はたぶん、山のマナーは守れってことだろう。

 

「……………………取り敢えずあんた達は先に行きなさい。私はもうちょっとかかりそ………痛ッ!!?? 殴んなくてもいいでしょうがこの野郎!!!」

 

『ベアァ!!!』

 

「何言ってるのかわかんねェっつっでんでしょうが!! ぶっ飛ばすわよ!!」

 

『ベアベアァア!!!!』

 

 もー怒った。つーか何をばか正直に説教を受けていたんだ私は!! このくそ熊はもう許さない。ぶっ殺してやる

 

「おーい、レイムーー。先にいってるぞーーー」

 

「解った!!!」

 

 私は立ち上がり、背中の『染雪』を抜き放つ。村人一行と一味達はなんか言っているが、取り敢えずは知ったことか。目の前の熊を暖かいコートにしてやる!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が‘ビッグホーン’と呼ばれる村に着いたのは熊吉と死闘を初めてから一時間ほどたった頃だった。いやー熊吉の奴、話してみれば意外といいやつね。何いってるか解らなかったけど。

 結局、決定打はお互いに与えることは出来なかった。実力があまりに拮抗していたからかしら? 私は戦いが好きと言う訳ではないけれど、中々に楽しい時間だったわね。バトルジャンキー共の気持ちも少しはわかる気がするわ。熊吉の棒術のキレ、ゾロの剣術に匹敵するほどだった。お互いに再戦を誓い合って別れたけれど、次に会うときにはもっと強くなってるでしょうね。私も強くならないと……………ッ

 

「……………………ってか、あいつらどこにいるのよ」

 

 まぁ何にせよ今はナミだ。彼女は件の医者に見てもらうことが出来たのだろうか? 私が辺りを見渡していると、見慣れた長っ鼻と青髪の姿が目に写った。それと一緒に暖かそうな甲冑をつけたドルトンの姿が見える。こいつが私達をこの村に案内してくれたのよね、私は途中で離脱したけど

 

「あぁ、いたいた。あんたらこのくそ寒い中、なんでこんなところでつっ立ってるのよ。風邪引くわよ」

 

「レイム!! 大丈夫だったか!!??あの熊はどうしたんだ?」

 

「仲間に誘ったんだけど、妻と子供がいるから無理だって。あと十年若かったらって惜しんでいたわ」

 

「あの熊話せたのかよ!!??ってか誘うなよ!? 何してたんだてめェ!!」

 

「いや? 熊が話せるわけないじゃない。何言ってるのよ?」

 

「何言ってんだよ!!!」

 

 相変わらずよく解らないウソップをいなしながらビビから状況を聞く。ウソップじゃ話にならないわ

 苦笑をしながらビビは今の状況を説明してくれる。山の頂上にいる医者は、たまにしか麓にやって来ない上にこっちから連絡をとる手段が無いらしい。なんとも身勝手な事だ。

 その医者の元へルフィとサンジはナミを背負って向かって行ったらしい。ナミを、背負って、向かったらしい

 

「…………………取り敢えず、ルフィはぶん殴るとして、サンジまで何やってるのよ。あのバカ」

 

「ナミさんも承知の上なの……………。私のせいね、私が無理をさせている……………解ってるけど、私は…………」

 

 ビビは俯いて唇を噛み締めている。瀕死と言っても過言じゃないナミが、彼らに背負われて山に登る事を了承した理由はきっとビビの為だ。じっとしていられないルフィがナミを背負って山を登ると言い出すのは目に見えていたけれど、普段のナミならそんな無茶はしないだろう

 

「………………はぁ、気にするなとは言わないけど、もう少し肩の力を抜きなさい。アラバスタまでまだかかるのに、今からそれじゃあ潰れるわよ」

 

「…………………そうね、ありがとう」

 

 本当に解ってるのかね、この娘は。私は彼女の顔を見て、小さくため息をついた

 

 

 さて、取り敢えず追いかけるとするか。ナミを背負っている分あいつらは無茶を出来まい。なら追い付ける余地は十分にある

 膝の筋を伸ばして準備運動。さっきの熊吉との死闘の傷と消耗も癒えたから全力で走って大丈夫だろう

 

「じゃあウソップ、ビビ、行ってくる」

 

「ねぇ本当に行くの? もしかしたら会えなかったり通りすぎちゃったりするかもしれないのよ?」

 

「あー、大丈夫でしょ。その辺私は‘勘’が働くから。適当に走っていれば会えるわよ」

 

 私はビビにそう言葉をを残し、身体能力の強化も使って全速力で走り始めた

 

「雪山にはラパーンと言う肉食の兎がいる!! 気をつけたまえ!!!」

 

「ん、解ったわ」

 

 後ろからドルトンの忠告が聞こえてくる。私はそれに片手を振り上げながら声をあげて了解の意を示した

 肉食の兎ねぇ。肉食って言っても兎でしょ? ならなんとかなるでしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 取り敢えず勘で山を登る。方向は勘で決めて、あの二人の事だから騒がしい所を探せば見つかるだろう

 

「にしても寒いわね…………。雪、やみそうにないわ」

 

 この島に上陸したくらいから降りだした雪は少しづつ強くなっていっている。吹雪とは言わないけれど、顔に当たる風が少し痛いくらいだ

 しかし見渡す限り雪雪雪、真っ白だ。かき氷やり放題ね。冬島って言っていたけれど、年から年中こんなにも寒いのかしら? こんなくそ寒い雪山を、背中に背負われているとは言え、あの体調で登ろうって言うんだからメチャクチャね。ナミの奴、登りきるまでに死んだりしないだろうな…………

 

 

「………………あ、見えた」

 

 見覚えのある麦わら帽子と金髪の後ろ姿が遠目にだが見つけた。ルフィの背中にはナミと思わしき膨らみが彼に背負われている。

 って何よあれ、2メートルを超える巨大な白い兎耳の生えたゴリラみたいな見た目の妖怪に襲われているのかしら?

 

「ルフィーーー!! サンジーーー!! あんたら何遊んでるのよ!!」

 

「レイムちゃん!!?? 来てくれたんだね!!??」

 

 『染雪』を抜いて、二人に殴りかかろうとしていた兎ゴリラの拳を止める。全身の筋肉がビキビキと音を立てる気がした。アホみたいな力してるわね

 

「レイム!! わりぃ、おれナミを背負ってるから殴れねェ!!」

 

「あぁ了解。状況は理解したわ。私とサンジに任せてあんたは山を登ることに集中しなさい」

 

 大方、ルフィがこの兎ゴリラを攻撃すればその反動でナミが死ぬとでも言われているのだろう。実際ナミが限界なのは確かだ。衝撃は少ない方がいいに決まっている

 『染雪』を下段に構えて地面を蹴りながら全速で相手の後ろに回り込む。その勢いのまま『染雪』を横凪ぎに振り抜いて、兎ゴリラを吹き飛ばした。封印も多分に込めてやったから、数分は動けないだろう。

 

「しかしキリがないわねぇ……何体いるのよ」

 

 目に映るだけでも20体は確認できる。マトモに殴られたら内臓まで抉れそうなパンチを撃ってくる妖怪がこれだけだ。しかもルフィに背負われたナミを守りながらとかハードモードにも程がある

 しかもサンジの主な攻撃………と言うか、全ての攻撃は蹴りだ。踏み込みと軸足が命の蹴りはこの深雪の中では十分に威力を発揮しない。サンジの鉄板でもぶち抜いてしまいそうな凄まじい蹴りは見る影もないような状態になっているハンデ多すぎでしょ

 ちなみに私はあんまり問題はない。剣術も踏み込みや脚運びが重要だから戦力低下するんじゃ無いかと思うかもしれないけれど、私の場合は剣術とかじゃなくて金属の棒を力任せに振り回しているだけだ。剣術もくそもない、あとは勘

 

「あの数をマトモに相手にしてられないわ!! ルフィは無茶出来ないし………。私とサンジで一点突破、その間をルフィが抜けるってのでどうよ?」

 

「乗った!!」

 

「しか無いな……」

 

 上からも下からも横からも追いかけてくる兎ゴリラ。向かう方向は上なので、そっちに向かって走る

 

「サンジ!! 刀に乗って!!」

 

「レイムちゃん………!? いや、解った!!」

 

 サンジは空中に飛び出して、私は腰だめに『染雪』を構えて振る。そのタイミングでサンジが上から落ちてきて、『染雪』でサンジを打ち出す

 

「えーっと」『人間大砲!!』

 

「そんまんまか!!」

 

 ルフィの叫びを後ろで聞きながら、サンジは兎ゴリラ達に向かって跳んでいく。その勢いのまま、サンジはボーリングの玉みたいに連中を弾き飛ばした

 

「うぉおおおおおお!!! おれとレイムちゃんの愛の必殺技!!」『ラブリーハリケーンショット!!!』

 

「どっから愛が来たのか!!??」

 

 取り敢えず道は開けた。そこに向かって私とルフィは走り始める。これでなんとか包囲網を突破することは出来た。しかし後ろから相変わらず兎ゴリラ共が追いかけてきている。あぁ、もぅ面倒くさい!!

 

「あんたらいったい何したのよ!! ってかさっき見たときよりあの兎ゴリラ増えてない!!??」

 

「知らねェよ!! 先にちょっかいかけてきたのはあいつらだ!!」

 

「レイムちゃん、あいつらはラパーンって肉食の兎だってドルトンが言っていた奴だ!!」

 

「あー、なんか言ってたわね…………。うさぎ要素殆ど無い!!」

 

 耳か? あの耳か? あの耳がうさぎ要素か? 可愛いげの欠片もない見た目してやがるわね。少なくともぶん殴っても良心が痛まない

 

 さて、必死になって逃げるが、全く逃げ切れそうにない。私達の足は、一般的に見てかなり早いと自負できるが、今は雪に脚をとられて走りにくい。さらにナミを背負っているからあまり衝撃を与えることは出来ないのでルフィは全速で走ることが出来ずにいた。そして相手は普段からこの雪山で生活している連中だ。はなっから相性が悪すぎる。

 

「ダメだ!! このままじゃ追い付かれるのは時間の問題だぞ!!」

 

「追い付かれても撃退は出来る………だけど万が一があったら洒落にならないわよ……………………。仕方ない。使い時でしょ!!」

 

 ポケットから針を取り出す。距離にして数メートルほど離れたラーバンに向かって投げつけた。手持ちの4本のうち3本を投げてラパーンの一体をぶっ飛ばす。そして残りの一本を見せつけるように構えて見せた

 ここまでのあいつらの行動で、このラパーンって生き物はかなり高い知能を持っているのが解る。だから遠距離攻撃があるのを見せつければ追ってこないだろうと言う寸法だ。残弾が少ないのがバレたらこの作戦に意味がないので、手持ちに1本だけ残して見せつける。簡単な話、ただのブラフね

 

 そして案の定、連中は脚がすくんだ様に動かなくなり、そのまま散り散りに逃げていった。あいつら、本当に頭がいいわね………。まぁこれでどうにかなったでしょう。後は急いで山を登るだけ……

 

「あっ!! あいつら上の方に現れやがったぞ!!」

 

 ラパーン達が逃げて、しばらく登っていると、さっきよりも数を増やした連中が山の上の方で暴れていた。何やってんのかしら、あいつら。

 

「何やってんのかしら………。あんな集団で翔んだり跳ねたり」

 

「…………………い、や、ちょっと待て!! あいつらまさか…………!!??」

 

 サンジがラパーン達の様子を見て、冷や汗を流しながら口にくわえていたタバコを落とす。私も辺りの寒さとは違う、寒気を感じていた

 

 音がする。聞いたこともないような音だ。ただただ轟音と言うことしか解らない。しかし嫌な予感がする。致命傷にすらなりえる、くそったれな事態が起きるようなそんな予感

 

「やりやがった、あのクソうさぎ共………嘘だろ……」

 

「おい、サンジ。どうしたんだ?」

 

 サンジが何かに気が付いて震えている。珍しく本気で泣きそうになるほど声も上ずっているし

 

「レイムちゃん!!ルフィ!! 早く逃げるぞ!!」

 

「なんでよ?」

 

「ってかどこに逃げるんだよ? こんな場所じゃ逃げる所なんて……」

 

 そのルフィの言葉を遮って、サンジは叫びながら私の手をとって走り始めた………ってちょっと!!何を……

 

「どこへでもいい……!! どっか遠くへだ!!

 

 

 雪崩が来るぞォおおおお!!」

 

 

 ラパーン達の姿はもう見えず、変わりに絶望的な質量の雪が、山の木々を食らい尽くしながら滑り落ちてきていた

 

 

 




 ハイキングベアとバーソロミュー・くま。夢の対決を私はいつまでも待っています。(ねぇよ)


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死なせてたまるか

遅くなりました。レミリアの過去編とかにうつつを抜かしていました……。よければ見てください

それはともかく本編


 

 雪崩。雪が崩れると書いて雪崩。自然災害の中では小規模な物であるが、やはり人を殺すには十分すぎる力を持っている。つまり何が言いたいのかと言うとだ

 

「あれに潰されたら流石に死ぬわね」

 

「おれ、ゴムだからたぶん平気だ」

 

「寒さで死ぬでしょ。あと背中のナミも死ぬ」

 

「あっ!!そうか!! やべェ!!」

 

 大量のラパーンが引き起こした雪崩はその速度を加速させながら私達の背中を追ってきている。

 頑張って逃げてはいるものの、明らかに雪崩の方が速度は早い。どう考えても麓につくまで逃げ切れるわけがない

 

「どうしたらいい!!?? どうしたらいいんだサンジ!!レイム!!」

 

「知るかよ!!とにかく1にナミさん2にナミさん。3にナミさん4にナミさん5にナミさんだ!!! 解ったか!!死んでも守れ!!」

 

「その方法を考えてんでしょーーーが!!!! マジでこれ詰んだんじゃないの!!?? あーもーー!! どうすんのよこれぇーー!!」

 

 その後すぐにサンジが切り立った崖を見つけ、取り敢えずそこに避難することになった。少しでも高ければ生存の確率も上がるしなによりも考えてる余裕がない。私たちはなんとかそこに間に合うがその崖も高さが足りずに結局巻き込まれてしまった

 

「うわあぁああーーー!!!」

 

 雪崩に弾き飛ばされた私達。ルフィの方を見ると、なんとかナミを死守しているのが見えた。そしてそのまま雪崩に巻き込まれて滑っている木に乗ってスノボーみたいに滑り出している所だった

 ルフィのを視て私もと思い、すぐそばに流れてきた木をつかんで乗る。よし、これで沈まない

 

「雪には沈まねェけど………………このままじゃ一直線に山を降りちまうんだ!!!」

 

「それで済むのならまた登ればいいだけなんだけど………そうは問屋が卸さないらしいしいわよ」

 

 雪崩を起こしたラパーンが追ってきている。彼らも雪崩によって折れた木々に乗りながら雄叫びを上げて迫ってきていた。

 

「仕方ない。私がなんとか足止めする!! 二人は麓まで逃げて、それからもっかい登ってこい」

 

 そう言いながら『染雪』を抜いて、乗っている木を操ってブレーキをかけようとしたとき、横からサンジが飛び出してくるのが見えた。

 

「サンジ!!??」

 

「わりィなレイムちゃん。その役はおれに任せてくれ」

 

 空中のサンジは先頭を滑っていたラパーンに蹴りを当てる。そのままラパーン共はドミノ倒しのように倒れていった。しかし雪崩のなか躍り出たサンジも一緒に雪崩の中に沈んでいく。

 

『サンジィイーー!!!』

 

 私とルフィの叫びに、サンジは右腕だけ出してサムズアップをして答えた。そう言うことじゃねぇよバカが!!

 ラパーンの追撃を逃れることは出来た。しかしこのままだと雪崩に飲まれたサンジはあの大量の質量で潰されて死んでしまう。それでなくても雪の中で窒息死だ。

 

「ルフィはナミをしっかり守ってて!! サンジは私が……」

 

「レイム!! ナミと帽子を頼む!!」

 

「ちょっ!!?? あぁもぅ、どいつもこいつも人の話を聞かねぇ!!!」

 

 並走する様に滑っている私達。ルフィは背負っているナミに自分の麦わら帽子を被せてを私に向かって放り投げてくる。衝撃を与えんなって言ってるのに……っ。

 ナミと帽子をキャッチした頃にはもうルフィの姿は見えなかった。あぁもう……。くそったれめ。

 

「絶対すぐにまた登るから!!! あのえんとつ山をサンジ連れて登ってなさい!! いいわね!!!」

 

 聞こえたかどうかは定かではない。しかしそうと信じるしかない。私とナミはせっかく登ってきた山をすさまじい勢いで滑り落ちるはめになってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、登り始めた地点まで戻されてしまった。怒りと焦りで頭をガリガリとかくが、そんな事してても状況は好転しない。ナミの様子を見ると、苦しそうに呼吸を荒げていた。

 

「ナミ。悪いけれど、ちょっと無茶するわよ」

 

 『染雪』を手に持ち、ルフィの麦わら帽子を頭に被って紐で固定する。意識を集中させ、体の力を集めて奥に眠っている力を無理矢理起こす

 

「よし、」

 

 そして私は、ナミに負担をかけないギリギリの速度で走り始めた。

 雪崩の影響で、踏む場所全てが深雪になっており、雪が必ず膝したまで来てしまう。寒くて冷たいが、背中で苦しんでいるナミの事を考えたら多少の冷たさは何のそのだ

 

 ルフィは無事にサンジを見つけて、山をあのえんとつ山を登ることが出来ただろうか? 凍死なんてしていないだろうな?

 この速度でナミは大丈夫だろうか? 負担はかかっていないか、たどり着くまでに死んだりなんかしないだろうか……? そんな後ろ向きな事ばかりが頭のなかをぐるぐると駆け巡る。あぁもぅ……、こんなの私らしくない!! 

 偉大なる航路に入ったばかりの頃、私は風邪を引いて寝込んでしまった。その時に看病してくたのはナミだ。別に頼んだ訳じゃないし、放っておかれても治っただろう。それでもあったかくてポカポカして、熱で頭がやられる中でその存在が心強かったのを覚えている。

 なら今度は私の番だ。あの時の借りを返す為にも私はナミを守り抜いてあの山のてっぺんへ行かなくちゃならないんだ。

 

 

 十分も走っただろうか? 後ろから凄い速度で何かが迫ってくるのを感じる。またラパーンが喧嘩を売りに来たのかと思って辟易した。後少しでえんとつ山の麓までたどり着けたのに……。この山を登るやつには邪魔が入るみたいな呪いでも掛けられてるんじゃ無いだろうな?

 

「見つけたぞ麦わらぁ~!!!」

 

 嫌な予感がして、横っ飛びでその場から飛び退く。すると、私がいた場所に、正確には頭があった場所に矢が飛んできた。マジかアイツら

 

「ワポル様!! よく見てください!! あれは麦わらを被っている女です!!」

 

「いえ、しかし見覚えが有ります!! こいつもあの麦わらの一味のひとり!! こいつを半殺しにすれば麦わらの居場所も聞き出せるというものです!!」

 

 飛び退いた隙に回り込まれ、行く道を塞がれた。そこにいたのはラパーンではなく、ワポルとか言う海の上で出会って、メリー号を食べやがったカバみたいな見た目の大男だ。横に変な格好をした男が二人、そしてそいつはなにやら大きなカバに乗っていた。カバに乗るカバとはこれいかに。

 

「………………なんのつもりよあんたら」

 

「ん~? なんだその口の聞き方は。王に向かって無礼だぞ?」

 

「…………………」

 

 こんなのに関わっている暇はない。無視して進むことにした。

 

「新しい法律を思い付いたぞ!! 『王を無視した人惨殺』

 その一番無視してやがるその背中の女から殺してやれ!!! お前たち!!」

 

 ふざけた台詞が後ろから聞こえてきた。舌打ちと共に振り返ると、目の前にはトゲ付きのグローブを構えたアフロの男が拳を振りかぶっているのが見えた

 とっさにそれを避けて戦闘体勢を取ろうとするが、背中の重みがそれを引き止める。こんな状態のナミを背負っているのに戦いなんて出来るか!! ナミに戦闘の影響が少なそうな針での攻撃も後一回しか出来ないし

 

「ふざけんなくそが!!! お前らいつか絶対殴る倒してやる!!!」

 

 捨て台詞を吐いて逃亡なんて、そんな経験するはめになるとは思ってもみなかった。しかしそれでも逃げる意外の選択肢は存在しない。なぜなら仮にナミを雪の上に置いて戦ったとしてもそっちを守りながら戦える自信なんかなかったからだ。

 しかし敵は非情にも後ろから矢を射ってきた。逃げる敵の背中を射つとか糞にも程があるだろうが!! 

 辛うじてかわすが、その先には大口を開けたワポルの姿が見えた。彼が口を閉じる寸前に気が付いて、『染雪』をつっかえ棒にする形でなんとかその口撃も逃れることに成功する。しかしつっかえ棒にした『染雪』は手元から離れてしまった

 体勢は崩れ、武器も手元にない。その隙を見逃してくれるほど甘い相手ではなかった。雪の中からワポルの部下二人が現れ、それぞれ拳と弓を構えている。狙いは背中のナミの様だ。

 

「く……そ……ぉおおおおおお……ッ!!」

 

 なんとかナミだけは守らなくちゃと、背負っているナミを無理矢理手前に引き戻して庇う。今のナミがマトモに攻撃なんて受けたら即死だ。少しでも彼女への衝撃が和らぐならと体を盾にする

 

 

『ゴムゴムのォ……バズーーーーカァアーーーーー!!!!!!!』

 

 

 背中に走る何かが突き刺さる様な痛み。貫通はしていないが、矢が刺さったのだろう

 そして聞き覚えのある声。目線を前に向けると、そこには激怒と言う表情が相応しいルフィがアフロの男を叩き潰していた所だった

 

「麦わらァあああああああああ!!!!」

 

 ワポルの奴が何やら激昂している。取り敢えずピンチは凌いだか

 

「ルフィ!!」

 

「レイム!! 大丈夫か!!??」

 

「ちょっと痛いけど、ナミは無事…………ではないけれど、まぁ傷は無いわ」

 

「お前がだよ!!」

 

 矢はわき腹辺りに刺さっており、多分肋骨で止まっている。くっそ痛いけど、死にはしないだろう。まだ無茶は効く

 

「ってかサンジはどうしたのよ。アイツ生きてんの?」

 

「あぁ!! あのえんとつ山のてっぺんにいた魔女の婆さんに渡してきた。そのまま飛び降りて、お前を迎えに走っていたら、戦ってるのが見えたんだ」

 

「あの山往復したの!? どんな運動能力してんのよ」

 

 取り敢えずこれでなんとかなるか。痛いは痛いけれどなんとかなる範囲。こっちの戦力はルフィだけだけど、足留めに徹してもらえれば大丈夫だろう

 

「ルフィ、足留めお願いできる? 私は、急いであの山登るから」

 

「あぁ!!任せろ!! でもその背中のやつ抜かなくて平気か?」

 

「抜けば今度は血が足らなく成りそうだからね……。取り敢えずこのままで行くわ」

 

「そうか…………死ぬなよ!!」

 

「うっさい」

 

 力強いルフィの言葉に背を向けて走り始める。後ろでワポル達の怒声や戦闘音が聞こえてくるが、私はいっさい振り返らずに、えんとつ山へ向かって走った

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルフィに足留めを任せている間に、ついにえんとつ山の麓に到着した。しかしこれからが本番だ。この傾斜角度90度に近い、ほとんど円柱型の山をよじ登らなければ成らない。

 背中に受けた傷がジクジクと痛み始める。矢が突き刺さったままにしていると、ナミを背負う事が出来ないと思い、仕方なく鏃から少し出たところまで残して、矢をへし折った。下手なやり方をすると、出血で体力が失われて死んでしまう

 

「ぐっ……」

 

 結果、今の私の背中には小さな折れた木の枝が生えている様な状態になる。相変わらず激痛だが、これでナミを背負えるようになった

 ナミを抱っこしている状態からおんぶの状態に背負い直す。背中に回した時に、ナミの体が残った矢に触れて痛むが、取り敢えず無視だ。自分が着ていたジャンバーで、ナミの体をしっかりと固定する。これならちょっとやそっとで落ちはしないだろう。寒いけど

 

「ふぅ…………行くか」

 

 そう言ってえんとつ山を登り始める。意外と壁は持つところが多く、技能と体力さえ有れば登るのに苦労はしないだろう。問題は先が見えないほどこの山が高いことだが

 

 

 足袋と手袋が邪魔で捨てたのは何時間前だっただろうか? 一時間? 二時間? それとも数十分も経っていないのだろうか? 体を動かしているから暖かいかと思っていたが、体の外から蝕むように寒さが浸透してくる。発熱するにも限界があるわ

 指がかじかんで、足が震えて、落ちそうになったのも何度か解らない。

 そしてさらに問題なのは背中の矢だ。やはり無理が祟ったのだろう、出血が激しくなってきた。矢が蓋の役目を果たして最初の方はそうでもなかった出血も、少しずつ激しくなってしており、下半身は自分の血で真っ赤だ

 

「もう少しだから………大丈夫……だから…」

 

 それをナミに言っているのか、自分に言い聞かせているのか解らない。しかしそれでも止まるわけにはいかないから。止まってしまえばナミが死ぬし私も死ぬ

 あぁくそ、貧乏くじを引かされたなぁ。ナミをルフィに任せて、私が足留めをすればよかった。そうすればアイツらを殴れたし、しんどい思いもせずに済んだのに。

 

「………ハァ…………ハァ…………ハァ……」

 

 ふと、後ろを向くと、息の荒いナミの顔があった。すさまじい高熱と、ここまでの戦闘でナミの体はもう限界に近いのだろう。彼女に意識は無く、目をつむって病の苦しみに耐えていた

 

「……………………」

 

 それを見て、四肢に力が戻るのを感じた。諦められない。諦めてたまるか。

 登り続けて、いつの間にか指が切れていたのだろう、血が出ていた。それでも知ったことかと登ることが速度を緩めない。口から血を吐いて、矢が内臓に到達していたと理解するが、止まる気にならない。

 

 苦しくても、辛くても、痛くても、しんどくても、そんな理由でナミを死なせてたまるか

 

 

 

 

 そして私はえんとつ山を登りきった。とても美しいまっ白な城を目の当たりにする

 

「ハァ……ハァ………ハァ………。ここで、合ってるのよね………」

 

 まだ終わっていない。私は登りきった事の安心感で座ってしまっている。立ち上がってあの城に入らないといけない。そう思って力を込めたが、そのまま倒れ込んでしまった

 なぜなら見覚えのあるぐるぐる眉毛が見えたからだ。アイツも怪我してるのに待ってたのか、このくそ寒い中で。泣きそうな面をしているサンジが走ってくるのを見て、私は意識を失った

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 結局、ドラム王国………いや、旧ドラム王国でティーチのめぼしい情報を手に入れることは出来なかった。強いて言うなら、アイツが‘黒ひげ’なんて名乗っている事が解ったくらいのものだ。本当にアイツは人の神経を逆撫でするのが得意な奴ね

 今はストライカーを並走させながらアラバスタ王国へ向かっている所だ

 

「あのねぇエース、取り敢えず食い逃げしようとするのやめなさいよ。別にお金ないわけじゃ無いでしょ?」

 

「いや、俺だって食い逃げしたくてしてる訳じゃねェんだぜ? 何て言うかな、いっつもタイミングが悪くてよ」

 

「全く………まぁいいや。エースの弟くんのルフィって子、アラバスタに来ると思う? ティーチの奴を探す傍らで、色んな国に伝言を預けてきたけど可能性としては低い方よ?」

 

「来るさ」

 

「なんでそう言い切れんのよ?」

 

 エースは一瞬ためて、人好きするいい笑顔を浮かべてこう言った

 

「なんせ俺の弟だからな!!」

 

「……………ま、いーけどね」

 

 理由にはなっていない。ただまぁエースの弟君ならきっと運も良いだろう。なら上手く伝言を聞けるかもしれない

 エースの顔をみると、もうアラバスタの料理について頭が行ってしまっているようだ。私は猫の姿のままため息と言う器用な事をしながら先を目指すのだった




 本編の補足

 ルフィはすぐにサンジを見つけ出して、えんとつ山に高速で登りました。その間、一時間弱。
 原作は3時間ですが、ナミの消耗を考えなくていいことと、頑丈かつ、原作ほど大怪我をしていないサンジなら多少無茶をしても大丈夫とルフィは考えて大急ぎで登ったようです。その後、ドクトリーヌにサンジを投げつけて、ゴムの体をいかして飛び降りました


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Dr. くれは

 予定は未定。何が言いたいかと言うと申し訳ないです。
 仕事覚えるのに必死すぎて書く時間ががががが……。気が付いたら1月以上も開けてしまいました。なんとか書く時間を確保してちょこちょこ書くので、不定期更新になってしまいそうです

それはともかく本編


 

◆◆◆

 

 

 

 

「ぎゃああああぁあああぁああああああぁあぁあああぁあぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………………ッ!! ふざけんな!?」

 

「うるさいガキだね!! 早く気絶しちまいな!!ぶち殺すよ!!」

 

「てめ!! それが医者の台詞………痛ぁ!!?!!?? 適当にひっこ抜くな!!死ぬほど痛い……やめ!! なによそれ!! 刺すな!!痛いから!!怪我人に何すんだ!??? あ、くそ。なんか眠くなって来たんだけど…………あ…やば、落ち……きゅう…………」

 

 紅白の服を着た人間の女はドクトリーヌの麻酔を受けて、そのまま意識を失った。とても頑丈な人間だ。

 この女の仲間だと言う、金髪の人間の男はこの山を登りきった彼女を見て号泣を始め、ドクトリーヌに泣きついた。仲間だから助けてくれと

 

 女は背中から矢を受けていて、その矢は肋骨をへし折って内臓を抉っていた。マトモな人間なら痛みで一歩も動けないほどの、致命傷と言ってもいいレベルの大ケガだ。そんな大怪我をしながら、この紅白の色の服を着た女は標高5000メートルもあるドラムロックを登りきったらしい。背中には重病の女を背負ってだ

 

 その女は致死性の病に侵されていた。ケスチアと呼ばれる虫が持つ猛毒で、感染すると、五日間宿主を苦しめ続けてその最後にはその人を殺す。そう言う毒だ。たしか100年ほど前にドクトリーヌが絶滅させたって話を聞いたことがあったと思う。偉大なる航路の他の島にはまだ存在していたのか………。

 

「まったく、なんて頑丈なガキだ。背中の矢傷は胃を抉って、中身が外にはみ出してたってのにピンピンしてやがる。しかも全身凍傷で半死半生もいいところだ。地獄の痛みだっただろうに、よくやるよ」

 

「………………」

 

「チョッパー。この娘はお前がオペをしな」

 

「うん、わかった」

 

 そう言って、ドクトリーヌは処置室の外に出ていってしまった。おそらく彼女が背負ってきた女の様子を見に行ったのだろう。

 彼女の元に弟子入りしてかなりの年月が立ち、オペを任せてくれる事も多くなった。その事に嬉しさを感じながら自分の体を人間形態に変化させる。

 

「よし!!」

 

 ドクトリーヌが打った麻酔はよく効ている。苦しげながらも静かな寝息を立てる少女の治療を始める

 

「………………………ナミ…………………」

 

 少女が小さく言った寝言が、妙に頭に残った

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ます。空は見えないし暖かい。どうやら室内のようだ。私はいったいどうなったんだったっけ? たしかあのえんとつ山を登りきったらサンジの姿が見えて、誠に遺憾ながら安心してしまって気絶して………、なんか不穏な空気を感じて飛び起きたら、妖怪みたいなババアが医者を名乗って殺しにかかってきたから返り討ちにしてやろうとした所までは覚えているんだけど………。

 いやちょっと待て、なんのために私は死ぬ思いをしてあのアホみたいに高い山を登ったんだっけ…………

 

「…………………ナミ!!!」

 

 状況を思い出して飛び起きる。そうだ!! ナミの病気を治してもらうのに山のてっぺんに住んでるって言う医者に見せなくちゃならなかったんだ。

 

 それを思い出して飛び起きたが、全身に有り得ないほどの激痛が襲いかかる。悲鳴をあげるのはなんとか耐えたが、小さく丸まってしまったのは無理のない話だと思う。

 

「…………おや? もう麻酔が切れたのかい? 薬や毒が効きにくい奴ってのはそれなりに見てきたが、あんたはその中でも上位に入るそれだねぇ」

 

「ってぇ…………なによこのババア」

 

 私がそう言った瞬間、頭の近くの枕に包丁が突き刺さって羽毛が舞う。弱ってるとはいえ、全く反応できなかったんだけど

 

「口のきき方には気を付けな。あたしゃまだピチピチの130代だよ」

 

「ババアの極みじゃない」

 

 そのババアは鼻を鳴らして私の腹部にわしづかみにしてくる。その瞬間、脇腹の辺りから激痛が昇ってきた。元から全身が痛みで身動きも取れなかったのに、更に痛みが追加されてついに悲鳴を上げてしまった

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いって!!! ちょっとマジで洒落になってなッ!!」

 

「ふむ、36.4。傷口も熱を持ってないし、大丈夫そうだね。あぁうるさいよくそガキ、次に私をババアなんて呼んだらその口を縫い合わすからね」

 

「解ったから放せくそババ…ぎゃああああぁああ!!!! もう言わない!!言わないから放しやがれ!!! マジで洒落になってないからぁ!!」

 

「ヒーーーッヒッヒッヒ。1度診た患者の体調は私が1番よくわかってるよ。この程度なら痛いだけで全くダメージなんか無いから安心しな」

 

「むしろ質が悪い!!」

 

 そこまで言って、ようやくクソババ……もといクソお婆さんは私の腹から手を離した。すると、嘘のように身体の痛みが引いていく。目覚めた時に痛かったのも含めてだ。

 私は肩で息をしながらせめてもの抵抗にと睨み付ける。すると鼻で笑われてしまった

 

「Dr.くれは。ドクトリーヌとそう呼びな。まだ暫くは動けやしないだろうから大人しくしてな」

 

 Dr .くれはと名乗ったババアは枕に突き刺さった包丁を引き抜くと、自分の懐に仕舞い込んだ。こいつ、服に包丁仕込むとかなに考えてんのよ。いや、針を服の袖に仕込んでた私が言うことじゃないかもしれないけどさ

 

「……………ナミは? あとルフィの奴……頬に傷跡がある伸びる短パン男を知らない?」

 

「へぇ、起きてすぐに仲間の心配かい? 聞いていた話とは随分と違うね」

 

 聞いていた話? その言葉に違和感を覚えるが、口を挟む余地もなく、くれはは言葉を続ける

 

「アンタが背負ってきた橙髪の女は大丈夫だよ。随分と特殊な毒にやられてたが、たまたま特効薬を持っていてね。3日で完治、経過を10日程度見て問題なければ晴れて退院さ」

 

「10日………」

 

 それはまた……随分と致命的な日数だ。ナミの命には代えられないといえ、そんなにも時間をかけてしまえばビビの国がどうなってしまうか解らない。今だって余裕がある旅じゃないのに……

 

「それと短パンの小僧だったね、あの小僧ならお前さんが来て暫くたってから登ってきたよ。全く、アンタらの体はいったいどうなってるんだい? 簡単に、マトモな装備もなく登れるような山じゃないよここは」

 

「別に大した事でもないわよ。撃たれてなくて、一人なら10分もかからないわ」

 

「あぁそうかい」

 

 くれははどこからとのなく酒瓶を取り出してらっぱ飲みを始める。ゴクゴクと喉を鳴らして数秒、空気が抜ける音と共に彼女は中の酒を飲み干した

 

 取り敢えず、今すぐの心配の種は一応は消えたわけだ。ナミは治るらしいし、ルフィも帰ってきた、サンジは居ることを確認している。問題は残っているが、今すぐになに、と言う事はなくなった

 

『やめろォ!!人間!!! おれはお前らなんか嫌いなんだ!!!』

 

『逃げるな肉!!』

 

『ルフィ、まだ食うなっつってんだろ!!』

 

 くれはとそんな会話をしていると、となるの部屋くらいからそんな会話が聞こえてきた。ルフィとサンジの声と………聞いたことのない声ね。

 にしてもあいつらは少しは大人しく出来ないのかしら? 心配して損した

 

「全く騒がしいね。息の根を止めてやろうか……」

 

 そう言いながらくれははさっきしまったと思わしき包丁を取り出しながら部屋の外に行ってしまう。あいつ本当に医者かよ。

 

「はぁ…………どっと疲れた」

 

 暫く寝るか………。寝て起きたら状況も好転しているかもしれないし。

 私はそう思って布団を被り直す。その時にふと窓の外を見ると、ルフィとサンジの姿が見えた。無事を聞いてはいたが、姿を見るとやっぱり安心する。

 二人は何やらぎゃーぎゃー言い合って、すぐに建物の中に入ってしまった

 

「……………あー、そう言えばあのカバみたいなやつどうなったのかしら………、ルフィがぶっ飛ばしてたらいいんだけど……」

 

 あのカバ、そこそこ強そうだった。マトモにかち合えば負ける気はしないけれど、状況は3対1だった。ルフィなら負けやしないとは思うけれど、逃げられた可能性はある。面倒なことにならなければいいんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟音が鳴り響く。それはなにかが爆発した様な轟音だった。

 

「うっさいなぁ……」

 

 その音のせいで目が覚めてしまった。いったいなんの騒ぎよ。気持ちよく寝てたのに。

 窓の外を見ると、さっきのカバの大男と取り巻き二人が立っていた。………いや、あれさっきの奴か? なんか変形してない?

 

「まぁなんでもいいわ」

 

 私はベッドから立ち上がり、身体の調子を確かめる。関節をほぐし、首を回して軽くストレッチ。背中の傷は痛むが、まぁ動けないほどじゃないだろう。

 壁に掛けてあった自分の服に着替えて、髪の毛を愛用のリボンで纏める。最後にルフィから預かった麦わら帽子を被って完成だ。うーん、山登ってるときは余裕なかったからなんとも思わなかったけど、リボンが邪魔で帽子は被りにくいわね

 首をバキバキならして部屋を出る。部屋の外は雪が積もっていてくっそ寒いが、そこそこ着込んでいるから問題はないわね。

 そのまま私は下に降りていく。寒さの原因と思わしき開けっぱなしの正門を潜ると、そこでは変な生き物とさっきのワポルの手下が肩車した変なのが戦っていた。

 それを見た私は拳を握りながら走り始める。そしてそのままワポルの手下'sを殴り飛ばした

 

「なっ!!??」

 

「死ね!!」

 

 殴り飛ばして吹っ飛ばしたそいつに追撃をかける。全速で移動して後ろに回り込みながら相手の脇腹に全力の拳を叩き込んだ

 

「ぐぇええ!!??」

 

 当たったのは肩車の上にいた奴で、そいつはたまらずに転げ落ちる。

 

「よし、すっきりした」

 

「っておい!!??なにしてんだお前!!??」

 

 私に暴言を吐いてきたのはこいつと戦っていた変な生き物だった。そいつは…………えっと、本当になにかしら? 角が生えたタヌキ? タヌキって鼻の色青かったかしら?ってか喋ったわね。今時のタヌキって喋るの?

 

「…………何よあんた? タヌキ?」

 

「タヌキじゃねェよ!! よく見ろ!!角はえてるだろ!!」

 

「じゃあ角が生えたタヌキ?」

 

「違うっつってんだろ!! トナカイだ!!

 ってかお前なに動いてるんだ!!?? 死んじまうぞ!?」

 

「もう治ったわよ」

 

「治るか!!」

 

 私の傷の事を知っているって事は、この城の医者かしら? あのババア以外にもいたのね。

 しかしなにかしらこの状況。ルフィとサンジは例のワポルと戦ってる……戦ってるのかしら? ルフィがなんかキラキラと目を輝かせながら私の側にいる自称トナカイを見ているし、サンジは私の方を見てクネクネしてる。気持ち悪い

 

「レイムちゅあ~~ん!! 良かった!! 目が覚めたんだね!!」

 

「まぁうん。てか何よこの状況? こいつらなんでここにいるのよ? こいつらも怪我してあのババ……お婆さんに診てもらいに来たわけ?」

 

「ふざけるなぁ!! この国はおれの国!! そしてそこの城はおれの城だぁ!! おれが留守の間に勝手に住み着きやがって、あろうことかあのバカ医者の墓だとぬかしやがる!! お前たちは全員死刑だ!!」

 

「………………あぁ、了解。だいたい理解したわ。全く病み上がりの上に『染雪』もどっか行っちゃったってのに………」

 

 取り敢えず現状は門の前にはくれは、崖の近くにワポルと部下二人の合体(笑)。ワポルはルフィとサンジが抑えてて、自称トナカイはワポルの部下と戦っている最中ね。ルフィの奴はいつも通りボロボロで煤まみれになっている。ってか、アイツが来ている服ってナミのやつじゃ無いの? 後でナミに殺されるわよ

 さて、それはともかく今手元に武器がない。取り敢えず殴ればいいかと拳を握ったところで、脳天に凄まじい衝撃が襲って来た

 

『ドクターストップ!!』

 

「グハァ!!!」

 

 あまりの痛みに悶絶していると、後ろからくれはが近付いてきて、私に関節技をキメ始める。

 

「痛い痛い痛い!! キマッてるから!! 完全にキマッてるから!!」

 

「ヒーーーッヒッヒ!! あんたは戦うんじゃないよ。人間やめてるとしか思えない回復力だが、それでも下手すりゃ死ぬさね。戦闘行為は禁止だよ」

 

「うるせぇクソババ…ぎゃぁああああ!!! 折れるから!! 関節はそっちには曲がらないから!!」

 

 人体を完璧に理解している医者の関節技。それを私に抜ける術はなかった。私はそのまま押し倒されて、雪の上にうつ伏せに押さえ込まれることになってしまった

 

「………冷たい。戦わないからのいてくれない?」

 

「ふん、あんたがそんな玉じゃ無いって事は見りゃわかるよ。信用できる訳があるかい

 ………まぁ安心しな。あんたが加勢しなくたってそこまで悪いことにはなりゃしないよ。やるときゃやるんだよウチのトナカイは」

 

 くれはの信頼と確信を含んだ笑みを見て、もうなにも言う気力は失せた。まぁなんとかなるだろうと思い、観戦モードに切り替える。はぁ、お茶とお菓子が欲しい




くれはがケスチアを絶滅させたとかは独自設定です。なんとなくやってそう位の気持ちで書きました



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雪上の城戦

土下座


こそこそ


誰か見てる?

…………こそこそ



ここ、置いときますね、(最新話)




こそこそ



こそ


一年半もほったらかしにしてすんませんしたぁぁあああああああああああああああああああ!!!!後書き(いいわけ)につづく


 今の戦局は3対3、ルフィとサンジがワポルを相手に戦い、鼻の青い狸だかトナカイだかの妖怪が、もっと妖怪じみた姿になった肩車の二人と戦っている。そして私は冷たい雪の上でババアの下敷きだ。私が一体何をした。

 

『ランブル』

 

 この世の理不尽について嘆いていると戦況が動き始めた。トナカイ擬きは自分の懐から取り出した謎の薬を口に放り込んで噛み砕く。彼はコロコロと姿を変えながら合体をしている二人の攻撃を全ていなし始めた。さっきまでは防戦気味だった戦況が狸擬きへと傾き出す。

 

「バカな!! 動物ゾオン系の変形は3段階が限界のハズ!! てめェ一体……」

 

 驚いた様子の二人。そいつが大声で叫ぶが、トナカイ擬きは何でもないように口を開いた。

 

「‘ランブルボール’は悪魔の実の変形の波長を狂わせる薬さ。5年間の研究でおれはさらに4つの変形点を見つけたんだ!!!」

 

 それを聞いて隣でワポルと戦闘していたルフィが目をキラキラさせて余所見。そのせいで大砲の玉の直撃を喰らって吹っ飛ばされているが、些事だろう。ぶっ飛んで壁に激突しながらもまだ姿を追っているし。

 

「アンタのところの船長は一体どうしちまったんだい?」

 

「大方、七段変形って単語を聞いて嬉しさの限界を突破したんでしょうよ。見なさいよあの間抜け面。大砲の球喰らってんのにキラキラ目を輝かしてるわよ」

 

 ってかあの様子だと、あのトナカイも仲間に誘いそうなんだけど。いや別に構いやしないんだけれど、ウチの船にどんどん人外が増えていく。何て言うか、なくした記憶にそんな光景が有ったような無かったような、取り敢えず微妙な気持ちになるのだけれども。

 

「でさクソバ……もといクソお婆さん。あいつの言ってる動物系? って何よ。悪魔の実の種類?」

 

「あんたそれで誤魔化してるつもりかい?全く……

あぁその通りさ。悪魔の実は大きく分けて三種類。そしてアイツはその内の動物系ヒトヒトの実を食べたトナカイ。人間トナカイさ」

 

 ………………………やっぱトナカイだったのか。狸じゃなくて。後、謝るから関節を逆に曲げないで、痛いし冷たいし寒いから。

 さて、肩車の二人とトナカイの戦闘は、ランブルボールとやらを使ってからは決まったも同然だった。肩車二人の攻撃は全て空を切り、力の差は歴然としてしまっている。トナカイが最初の小さな姿に変化して、肩車をしているせいで死角になってしまった懐に潜り込む。その直前に大きく飛翔していた為に二人はトナカイの姿を完全に見失ってしまっていた。そして

 

『刻蹄……桜ッ!!!!!』

 

 ガゴッと、固いものと固いものがぶつかり合った音がした。腕力強化と呼ばれた形態から繰り放たれた凄まじい突き。それは拳先の固い蹄と組合わさり、とんでもない威力になった。肩車の二人は顎に蹄の跡………どこか桜の花びらの形に見えるそれを残し数メートルも中に浮く。そしてそのまま、二人は沈黙した。

 

「三分」

 

 トナカイはそう呟いて、元の狸の様な姿に戻る。あぁそう言えばドーピングする前にあの薬の効果は三分だとか言ってたわね。副作用とかは有るのかしら。

 しかし悪魔の実が変なのか、その効果を弄れる薬が凄いのか悩み所ね。

 

「やったーーー!!トナカイーーーーー!!!!」

 

「てめェルフィ!!! お前いい加減に戦え!! さっきから戦ってるの俺だけじゃねェか!!」

 

「なめやがって。そうだ!! 新しい法律を考えたぞ。王様をなめたら死刑」

 

 

 っと、トナカイの方に集中しすぎた…………。ってルフィの奴何やってんのよ。完全に観戦モードに入っていて、座り込んで両手を振り回している。たまに飛んでくる砲弾とかが直撃しているがお構い無しだ。ゴムだからって限度があるだろうに。

 ルフィが戦闘に参加しないものだから、サンジがワポルとタイマンをしている状態になっている。しかもここにも雪が降っており、足が埋まるほどとは言わないまでも、蹴りを放つ時の妨害になっていることは間違いなく、威力の高い蹴りを放つことが出来ずにいた。しかしサンジの戦闘能力はかなりのものだ。ワポルの放つ砲弾や銃弾は全て完全に見切って回避してしまう。つまり二人の戦いはお互いに決定打に欠ける状態になっており、千日手の様相を醸し出していた。

 

「………………ルフィが参戦したら秒で片がつきそうなんだけど」

 

「なるほど。あんたんとこの船長はアホなんだね」

 

 否定できない。する気もないけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし実際問題アンタらはワポルを舐めすぎさね」

 

 直後、キレたサンジがルフィの頭を蹴り飛ばし、無事に正気に返ったルフィは二人でワポルを追い詰めていく。サンジが前線でワポルの足を止め、ルフィが後方からゴムゴムの技で着実にワポルの体力を削っていっていた。このままいけば確実に勝利できるだろうと思ったところで、私の上に乗っているくれはが口を開いた。

 

「舐めすぎ? まぁ確かにあのカバ男は強いは強いけれどもあの二人に勝てるほど強いとは思えないんだけれど」

 

「このままいけば、だろう?」

 

 くれはは懐から酒瓶を取り出して歯で蓋を外し、そのまま口をつけて其のまま一気に飲み干して、大きなため息を吐いた。私にも寄越せ。

 

「ワポルのふざけた政策も権力も、言ってしまえばそれを為す力がなければ出来やしない事さね。そしてそれをしてしまえるだけの能力がワポルの奴にはありやがったのさ。

ワポルの持つバクバクの実の能力は究極的には、‘万能’の能力。あれの能力の真髄は食ったものを自分の力にすることでも部下にふざけた合体を施すことでもない。食ったものを自分の中で組み合わせて改造できる事さ」

 

 くれはがそういった直後、凄まじい爆音がその場に轟き、辺りが雪煙に包まれた。

 その音を私は最初、またワポルが自分の体を大砲か何かに変えてぶっぱなしたのかと思ったが、様子が違う。断続的に、延々と聞こえ続けてくるのだ。

 直後、ルフィとサンジが全身を爆風で焦がしながら煙の中から出てくる。その顔に浮かんでいるのは焦りだった。

 

「やべェぞなんだありゃ!! あんなのありかよ!!」

 

「かっけーーー!! なぁサンジ!! この島の人間は皆変形できんのかな!!」

 

「なわけあるか!!」

 

 訂正。焦った様子だったのはサンジだけだったわ。ルフィはいつも通りだ。

 

「あんたら何遊んでんのよ。私いい加減に寒いし冷たいから部屋に戻ってお茶飲みたいのよ。はやく倒しなさいよ」

 

「ってレイムちゃん!!?? 逃げるのに必死で城の方に来ちまったのか………」

 

 その時、雪煙が晴れ、その中からワポルが姿を現した。

 その姿は私がさっきから見ていたものとは大きく違っている。まず右腕だ。能力で変化をさせていたであろう大砲は根本から枝分かれし、五つの砲門をつけている。形状から見るに同時に発射することが出来るのかもしれない。左腕は刃物を大量に引っ付けた、随分と名状しがたい物となっていた。パッと目につくだけで刀、ダガー、長刀、軍刀、丸鋸、そしたその根本にはワイヤーの様なものが見てとれる。背中から生えているのであろうライフルは、何丁もの銃を無理矢理合体させたような歪な形になっている。それはワポルの肩の上に乗っており、銃口はこちらを捉えていた。

 

「…………………なによあのキモいの」

 

 ボソッと呟いた瞬間、下手くそな粘土で作った様なキメラ銃の銃口がこっちを向く。

 

「王に向かってキモいだと!? カバめ!! 状況が理解出来ていない様だな女ぁ!!」

 

 発砲音が7つ。それがほぼ同時に響き渡り、弾丸が空気の壁を引き裂きながら飛んできた。弾は横から伸ばされたサンジの足に阻まれて叩き落とされる。

 

「レディに物騒もん向けてんじゃねェよ。おろすぞ」

 

 サンジが血管を浮かび上がらせながら、ワポルに目を向けると、そこには大砲を城に向けている様子が目にはいった。

 ワポルは口角を歪めながら弾を放つ。その刹那、大きな爆発音と共に城壁に巨大な穴が空いていた。

 

「なんだァあいつ。自分で自分の城を壊したぞ?」

 

「あの場所は……………ッ! ガキ共!! 急いでワポルを止めな!! 取り返しがつかなくなっちまうよ!!」

 

 

 城壁に空いた穴に向かってワポルは駆け出していく。その様子を見たくれはは大声を上げてルフィとサンジに警告を放つ。

 

「お、おう? なんかよくわからねェけとわかった。『ゴムゴムのォピストル!!』」

 

 ルフィが放ったゴムの拳はワポルの顔面に突き刺さり、そのまま数mの距離を吹き飛ばすした。

 いったい何があるのかと思ってワポルの向かっていた城の中を見てみると、そこには大量の武器や兵器が並んでいるってマジか。

 今のワポルの姿を見て、その大量の武器の意味がわからないほど私は耄碌していない。ワポルのバクバクの実、言ってしまえば食べたものを自分の好きなように改造して体を変化させることの出来ると言う能力だ。銃を食えば自分の体を銃に出来る。そして二丁食べれば銃口が二つついた銃に改造した上で体を変化させることが出来る様だ。究極的な話をすれば金属の塊と火薬を食べればそれだけで大砲を作ることが出来るなんて能力だ。

 それがあれだけ大量の武器を食べてしまえばどうなるかなんて考えるまでもない。文字通りの一個軍隊が出来上がってしまうだろう。

 

「この、クソ麦わらァ!! 王様の顔をボコボコ殴りやがって!! 絶対に殺してやるぞ!!」

 

「へ! お前が王様だとか偉いとかそんなことは関係ねェ王様だろうと神様だろうと。なんせ俺は······」

 

 そこまで言ってルフィは走り始める。そしてワポルの数m手前で大きく上に跳んだ。

 

「カァーーバめェ!! 空中じゃあ避けようがねェだろうが!! 自分の頭の弱さを呪いながら死にやがれ!!!」

 

 ワポルは両腕のキメラ兵器を空中のルフィに向ける。ガチャガチャと音を立てて変化したそれは大砲の弾を10発強、小刀数十本、そして弾丸に至っては数え切れないほど大量に、もはやまともな人間が喰らえば跡形すら残らないであろうそれを数瞬の内にぶちかました。

 ワポルの両腕から放たれたそれを目視で確認し、幾らなんでも数が多すぎると私は汗を流す。それにルフィは物理攻撃はゴムの体で殆どを吸収するが、切断系には弱い。小刀だけでも何とかしなければとババアに関節技を決められていない方の腕を動かして、最後の一本の針を袖から取り出して狙いを定める。

 頭の奥から変な音がする。ギャリとかギュルとか、そんな擬音にも表現できないような音が。たった一本の針で高速で飛んでくる小刀数十本を撃ち落とさなくてはならないのだ。並の集中で出来ることじゃない。鼻の奥から血の匂いがこみ上げてくるが、それでも私は口角を吊り上げて、凶悪な笑みを浮かべながら針を撃ち出した。

 

 空中で小刀達は私の封魔針に撃ち抜かれピンボールの様に跳ね回り、その全ての小刀は地面に落ちた。

 

 刹那、その横から飛び出していたサンジが大砲のに向かって雪の弾を蹴り飛ばす。それは半数以上の弾を打ち落とし、さらにサンジ本人が残り全ての大砲の弾を受け切っていた

 

「な、……、にぃ……ッ!?」

 

 銃弾に関しては問題ない。たとえこの倍の弾丸がルフィの体を射抜こうとも。否、’射ぬけず’とも、単純な物理攻撃などルフィには効きやしないのだから。そして案の定、全身に銃弾を受けたルフィはそれでも一切怯みもせず、全ての弾丸を弾き飛ばす。

 空中のルフィは両手を後ろに伸ばし、ある程度の距離で止める。そして空中の勢いを乗せた両手をワポルに叩き込んだ。

 

『ゴムゴミのォ、バズーーーカーーーー!!!』

 

「ボゴォアァ……ッッッ!!!!????」

 

 空中から下に向けて叩き込まれたそれはワポルの顔面に突き刺さり、雪の地面に吹き飛ばす。バチンと音を鳴らして体を戻し、小さく笑って前に出る。そのまま転がっているワポルの懐に入り込んで言った。

 

 

「なんせおれは、おれは海賊だからな!!!!」

 

 

『ゴムゴムの昇天脚!!』

 

 ルフィは回転しながら蹴りを放つ、いわゆるサマーソルトキックを伏しているワポルの腹に向かってぶちかます、ってかあのやろ私の技を。ゴムのしなりがついて、私のそれより幾分か火力の増した昇天脚はワポルを大きく空中へと浮かび上がらせる。それを見たルフィは『ガトリング』の

時の様に腕を大きくゆすり張力を溜めていく。

 

「や、やめろ!! おれを殺すことがどういうことかわかってるのか!!?? ドラム王国は世界政府の加盟国でおれはその王!! それを……」

 

「だから、それも関係ねェんだよ。これはおれの喧嘩だからな」

 

「このォ、クソ麦わらァ!!」

 

 刹那、ワポルの姿が再び変わる。口を大きく開き、そこから現れる超大口径の大砲。そして全身を堅牢な城壁へ。その姿はさながら小さな王国だった。

 

「死ね!!『ロイヤルバクバク大砲!!!!』

『ゴムゴムの攻城砲!!!!!!!!!!』

 

 奇しくも共に大砲キャノンの名を持った技を互いに放つ。しかして膠着は一瞬だった。ミシリとルフィの放った大砲がをワポルのキャノンを貫通する。

 

「や、やめ、わわかった!! お前に地位と勲章を……」

 

「何の覚悟も持ってねェ奴が」

 

 ワポルの体を覆う城壁が悲鳴をあげる。全身にヒビが入り、今にも割れてしまいそう………あ、割れた。

 

「いや副王様の地位をやるぅぁああああああああああああああ!!!!」

 

「人のドクロに手ェ出すなァああああああああああああ!!!!!」

 

 ルフィの攻城砲の直撃を受けたワポルは、そのままほんの数瞬の内に豆粒のような大きさになってしまい、そのまま見えなくなってしまった。最後まで何かを叫んでいたわね。

 

 さて、こっちの損害はこの戦闘においては殆どなし。私の傷が悪化した云々は考えたくないから無視すれば完全勝利と言っていいだろう。さて、と。

 

「お茶飲みたいからさっさと帰りましょう」

 

「あんたはこのまま集中治療室いきだよ。アホ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、恒例の後日談といこうか。

 と言っても私はあの後すぐにDr.くれはから拷問(あれが治療だって? 鼻で笑うわ)を受けて気を失っていたのでその場に居合わせることができなかったのだが、例の………なんだっけ。最初に会った四角い奴。あいつが自爆覚悟でワポルを倒しに来たり、その彼とトナカイが一悶着あったり、ウソップがいつもの様にいつもの如くいらんことを言ってそのトナカイを怖がらせたりでそのトナカイを逃してしまったらしい。

 そうしている内に夜もふけ、地の利もないルフィ達がそのトナカイを見つけることもできずに探し回っていたところ、……まぁなんやかんやあって説得されたらしい。

 

 

「うるせェ!!!! いこう!!!!」

 

 

「オオ゛!!!」

 

 

 そんな大声が城全体に響き渡り、かくしてトナカイ。もといトニートニー・チョッパーは麦わら海賊団の船員になったのだった。

 そして私もそのタイミングで目が覚めた。いやルフィの声がうるさいのなんのって。気持ちよく寝てた所でルフィの大声で起こされるの何度目よ私。そのうちぶっとばしてやる。

 

「あーーー、全身痛い」

 

「当たり前さね。寧ろなんで起きてられるんだい? ‘幻想郷’って所から来た連中はどうしてそんなにタフなんだ?」

 

 病室で椅子に腰掛けて酒瓶を煽っているくれははこちらを見ようともせずにその言葉を口にする。

 

「………幻想郷ね」

 

「おや? こりゃまた意外な反応だね? 知らないわけじゃないんんだろう」

 

「…………私は記憶喪失なんだよ。そんな単語、知ってるわけないんだ。だから………今もあいつらと旅をしてるんだよ」

 

 私の言葉にどんな当たりを付けたのか、くれはは小さく笑っていた。そして彼女の座っている椅子の横の机に置いていた刀を手に取って渡してくるってそれは。

 

「それ、私の刀」

 

「あぁ、別にとりゃあしないよ。こいつはいつの間にかあんたの横に置いてあったのさ。なんともまぁ不思議なこったねぇ」

 

 私は鼻をならして『染雪』を受け取る。刀身には歯こぼれ一つ付いておらず、そして相変わらず刃は付いてるのに切れない妙な刀だ。

 

「さ、もう行きな。あんたのお仲間達ももう支度は終わった頃だろう。完治していない患者を帰すのは忍びないが、残りはチョッパーが見てくれる。この後全裸で寒中水泳でもしない限りは死にゃしないだろうさ」

 

「いやしねぇよ?」

 

 巫女服に袖を通し、いつもの格好に落ち着く。ジャンバーは破れたから仕方ないから放っておくとして、ルフィの大事な帽子を結局預かったままだ。トレードマークの大きなリボンを結んでその上から麦わらら帽子を被り、やっぱり収まりが悪いとため息をついた。

 

「じゃあね、また縁があったら」

 

「ヒーヒッヒ、あんたみたいなジャリはもうごめんだよ。早く元の場所に帰っちまいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイム!! あんたもう動いても大丈夫なの!?」「レイムちゃん!! だいじょう!?むりしていない!?」

 

「うん、もう大丈夫だし二人して来んなだしナミに至ってはこっちのセリフだし」

 

 心配性の二人をいなしながらルフィの方を見る。そして頭の麦わら帽子を投げ渡した

 

「ほら、大事なもんなんでしょ? 簡単に人に託したりしてんじゃないわよ」

 

「おー、預かっててくれてありがとなレイム。でも簡単になんか託してねェぞ? レイムだから託したんだしな」

 

「…………あっそ」

 

 なんだろう、ルフィの顔が正面から見れない。なんか顔あついし。話題変えよ。

 

「ってかなんの集まりよこれ。トナカイは仲間にできたんでしょ? 早く行きましょうよ」

 

「チョッパーくんね。医者が付いてきてくれるなんて本当によかったわ。これでナミさんの病気の事も安心だし、それにこの船のみんなは生傷が絶えなくて、そういう意味でも安心できるしね」

 

「王女様のオブラート厚くて心地いいわぁ」

 

 そんな事を言い合っていると城内の方が一際騒がしくなる。何事かと思って覗いてみると、トナカイ形態になったトナカイが……チョッパーがすごい勢いで走ってくるではないか。

 

「みんな!! ソリに乗って!!山を降りるぞ!!」

 

「待ちなァ!!」

 

 そしてその後ろから般若のような形相を浮かべたくれはが、包丁を大量に投げつけながら追いかけてくるではないか。うん、さっきとの落差でどうにかなってしまいそうだ。私たちはチョッパーの言うソリに乗り込み、……いささか定員オーバーな気もしないではないが、それでも乗り込み、逃げるように山を降る。最後に見えたくれはの表情が、なんとも言えない苦味にみちていた。

 

 

 

 

 大砲の音が響き渡る 

 

 

 

 

 山をほとんど降り、後は船に戻るだけといった場所。そこで深夜にそぐわない爆音に振り返る。

 

 

 

 

  煌々と照らされる桜色に色づいた散雪たち

 

 

 

 

 チョッパーは泣いていた。彼の涙の意味を私は知らない、知れない、知ろうとも思わない。だけども私はその感情を

 

 

 

 

    遠目からは巨大な木の幹に見えるドラムロックを依代に、巨大で大きな幻想的な雪の桜がそこに咲いた

 

 

 

 

 私は綺麗だと思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドルトンと花見酒を楽しみ、町民の一人が彼らの船長の手配書を持って来る。そしてDの意志を継ぐものがいた事を小さく飲み込みながら、酒を呷ろうとすると、それを後ろから取り上げられてしまった。

 

「こんなに飲んでたら体に毒よ? いったい何瓶目なの」

 

「ッ!!??」

 

 ドルトンは弾けるように跳び、自らの体を野牛に変化させ、臨戦態勢をとった。そして

 

「お、オオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 彼は決死の覚悟で飛び出したのであろう。雄叫びが、眼がそう物語る。そして彼は自分がなぜ、何を、攻撃しているのかさえ分からなかった内に、その決死はことも無げに止められた。

 

「…………あんまり真面目な青年をからかうのはいい趣味とは言えないね、ユウカ」

 

「ふふ、最近はこんなことをしないのよ? でもね、今はとっても気分がいいから」

 

「相変わらず話が通じないねェ」

 

 いつの間にそこにいたのか、来たのか、その名前を聞いただけで自決を選ぶなんて逸話を持つ、風見幽香。その女がここにいた。

 幽香はドルトンの頭を少し撫でると、小さく微笑みかける。ドルトンは目線を私に向けててきたので小さくため息をついた。

 

「大丈夫だよ。話は通じないが言葉の解らない奴じゃない。気分がいいって言っていたんだからその通りなんだろうさ」

 

「えぇ、今私は誰も傷つけるつもりはないわ。だってこんなにも綺麗な‘桜’をみれたんだもの」

 

「……あんたにとってもこれは‘桜’なのかい?」

 

 幽香は妖しく扇情的な笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

 

「ええ!! これは綺麗な綺麗な、桜。いいえ、本物よりも美しい‘サクラ’よ!! 本当は違う目的があって来たのだけれども、あぁ私は幸運だわ。こんなにも‘思いがこもった造花’に出会えるなんて。本当に、あぁ本当にこの世界は美しい!!」

 

 私ゃてっきり造花なんてものは嫌いだと思っていたんだがね、とそう口に出そうとしてやめた。なぜならそこにいた幽香が本当に本当に嬉しそうで、小さな子供に余計な茶々を入れる老人になった気分になると、そう思ったからだ。だから代わりにこう紡ぐ。

 

「そりゃよかったね、よかったついでに私の酒返しな」




以下いいわけリスト。箇条書き

仕事(ブラック飲食)
病気(いろいろ)
遅筆(ワポルの能力強化入れすぎて現状戦力で倒せなくなったからめちゃくちゃな回数書き直して嫌になったとか言えない)
時間(ひねり出せ)
モンハン(オイ)
オーバーウォッチ(オイ!!)
ポケモン剣盾(待てって!!)
アーランドのアトリエ(待てって言ってんだろうが!!)
FGO(ゲームじゃん!! 途中からゲームばっかじゃん!!ってかこれに至ってはソシャゲ!!)
後はオーバーウォッチとかOverWatchとかOWとかやってたせいで遅れました(全部一緒ぉぉおおおおおおお!!!!)

………………本当に申し訳有りません。楽しみしてくださっていた皆様方がいるという状況に甘えておりました。仕事で崩れた精神的なゆとりを持ち直すことが出来ずに時間だけが過ぎていき、これではいけないと思いながら日々惰性を貪っておりました。なんとか執筆、更新の時間を取れるように邁進していきます。

出来る事なら、これからも霊夢ちゃんのワンピース世界冒険録をよろしくお願いします


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