儚き恋に喝采を (Slurve)
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開幕

自身初の投稿となります!ご指摘あればよろしくお願いします


「お前は将来芸能界で生きていけ!」

それが親父の口癖だった。俺、黛純也は小さい頃から子役へと養成され、見事芸能界入りすることができた。しかし、俺は嬉しくとも何とも思わなかった。只々親に敷かれたレールの上を歩いている気がしてならなかった。それからの俺には、役どころかエキストラの仕事すら来なくなった。そして母親の説得もあり、早くも芸能界を引退することとなった。あの時の親父の顔は二度と忘れないだろう。とても悲しそうにしていた。しかし強制的にやらされても意味がないため、仕方がない。少々罪悪感があったものの、自分のやりたいことをやっていこうと心に決めた。

そんな俺も、今日からは羽丘高等学校2年生だ。クラス替えもなんとか友人と同じクラスになることができた。

「よお純也!今年もよろしく頼むぜ!」

 

「っと、なんだ祐樹か。ビビらすなよ。」

こいつは相川 祐樹。中学からつるんでる友人だ。今年こそは彼女作るとか到底無理そうなことを言っていた。いや、あいつじゃ彼女作れるんじゃないか?まあ先を越されても大丈夫だろう。俺もゆっくり作っていけばいいさ。焦らずにいこう。そろそろ教室に行かないとまずいな。

「祐樹、早く行かないと怒られるぞ。」

「やべ、もうそんな時間!?今年はどんな可愛い子がいるか楽しみだぜ!」

全くいつもうるさいなこいつは。まあいつものことだからもう慣れたけど。ちなみに言っとくが、この羽丘高等学校はつい最近までは女子高だったが、共学制になったらしい。それにしては男子が意外と多く、男女の比は4:6ほどだ。彼女を取り合う戦争をたまに目にするが仕方がないだろう。そんな気持ちで教室に入った。すると…

「じゅーんやくーん!」ガバッ

「うわ!なんだ日菜か。いきなり抱き着いてくるなよ。」

「だって今年も同じクラスだから嬉しいんだもん!とってもるんってきた!」

こいつは氷川日菜。出会いはこの高校が初めてだが、去年から何かと絡むことが多かった。周りからはたまにカップルだと勘違いされることも多いが、断じて違う。俺自身、こいつと絡むと疲れる。そんな光景を目の当たりにしていたクラスの男子から鋭い視線を浴びていた俺は、後々尋問を受けたのは言うまでもない。まあ暴力はされなかった分よかったが、めっちゃ怖かった。まあ笑い話として捉えてくれればいいだろう。多分。しかしそんな中、男子とは別の人物に鋭い視線を浴びていたのは今の俺には分からなかった。

 

 

 

 

 

 

そして始業式も終わり、それからはクラスごとの時間となった。

「はーい皆注目。今年1年このクラスで過ごしていくわけだが、やはり初対面の人と同じクラスになった者もいるはずだ。なのでこの時間はクラス全員に自己紹介をしてもらう。じゃあ最初は相川。お前からだ。」

「えー!?何で俺からなんだよー!?」

「お前が出席番号1番だからだよ。まあ1発目しっかり頼むぞ。」

祐樹の苗字は相川だからな。これが定めというものなのか。

自己紹介は着々と済んでいき、10人目となったところで、誰もが困惑したであろう人物の自己紹介が始まった。

「私の名前は瀬田薫だ。演劇部で活動をしている。私の華麗なる演技が見たい子猫ちゃんたちはいつでも見に来るといいよ。じゃあこの1年間よろしく頼むよ。」

うん、なんていうかその、この人には、ついていけないと思った。ん?しかし女子からは黄色い歓声が上がっていた。何故だ?透かさず隣の人に聞いてみた。

「お前瀬田薫知らないの?口調はあんな感じだけど、部活となると別人のように人が変わるんだぜ。噂には聞いていたけど、やっぱすげーな。」

だから人気があるらしい。なるほどな。瀬田薫、ねぇ。だが、演劇部と聞いて、嫌な思いがこみ上げてきた。そう、幼い頃の出来事である。あの頃はほんとに辛かったな。やめよう、もう思い出さないようにしよう。気が付くと、瀬田は自己紹介が終わったのにも関わらずその場にいたままだった。それも俺を見つめたまま。俺何かしたっけ?

「?瀬田どうした、早く席に着け。」

「…おっと、失礼しました。」

瀬田が席に着いた。ほとんどの男子は未だ何が起きたのか分かっていないだろう。そりゃそうだ。いきなりあんな自己紹介を聞いて、驚かない訳がない。

そして程なく自己紹介が終わり、後は自由時間となった。所々で話に花が咲いている。俺にも初対面の男子がいるからな。一応挨拶だけしておくか。

 

 

 

 

 

 

そして自由時間も終わり、部活に行く人、帰る人など、段々と教室から人が出ていく。

「俺もそろそろ帰るか。」

バッグを持って、席から立ち上がろうとすると、誰かが近づいてきた。それはすぐに分かった。自己紹介で度肝を抜いた瀬田薫だった。

「えっと、俺に何か用?」

「君、確か黛君だね。少し話したいことがあるんだがいいかな?」

おいおいマジかよ。瀬田は顔が整っており、美人だ。しかも背が高い。俺が174センチくらいだから、瀬田は170センチくらいか。女性にしてはかなり高い方だ。そんな人と一緒にいたらよからぬ噂が立ってしまうじゃないか。しかもこんな人となれば尚更だ。手短に終わらせよう。

「いいけど手短にな。」

「ありがとう。助かるよ。」

そういうと瀬田は真っすぐな瞳で俺にこう言った。

「君、昔子役だっただろう?」

「え…」

ちょっと待て、なんでこいつがそんなこと知ってるんだ。もう10年も前のことだぞ。マズい、このことが広まってしまったら俺は有名人だ。そんなのこりごりだ。俺は思いがけない一言に呆然としていた。

「フフッ、やっぱりそうだったか。でも勘違いしないでくれ。私はそれを誰にも言うつもりはない。気楽に話を聞いてくれ。」

よ、よかった。根は優しいやつなんだな。ん?まだ話があるのか?もう帰りたいんだが。

「よかったら演劇部に入らないかい?」

さらに衝撃的な一言に俺はその場で立ち尽くした。俺は「演じる」という行為に嫌悪感を抱いている。そんな俺が入るはずもない。すぐに断ろうとすると、

「返事はいつでも待っているよ。それじゃあ私は部活があるから失礼するよ。」

そう言い、颯爽と教室を出て行った。なんなんだあいつは… すると祐樹が駆け寄ってきた。

「じゅーんやくーん?瀬田さんと何を話してたんだい?」

「祐樹…」

笑いながら俺を見ている祐樹に俺は真剣な眼差しでこう言った。

「今年は波乱の1年になりそうだ。」

これが俺と瀬田薫の最初の出会いだった。

 




いかがだったでしょうか。楽しんでいただけたら幸いです。
投稿ペースは1週間に1本、2本上げていこうと思います。


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各々

小説書き始めて思いましたが、楽しいですね。
それでは本編をどうぞ!



私が初めて彼を見た時、確信した。名前までは分からなかったが、あの瞳は本物だっただろう。早速声をかけてみたが、正直いつでも見に来てくれればいい。今はあの状態だが、いつか蘇らせてみせる。彼の「演じる」ことへの思いを。

 

 

 

 

 

 

「さて、どうしたもんかな。」

俺は盛大にため息をついた。俺が元子役であることを知っているやつがいるとはな。まあ小学校低学年までは学校中に知られていたが、小3の時に転校したからな。当時の俺を知る奴はいないと思っていた。だが、演劇部である瀬田薫に知られてしまった。彼女は口外しないと言ってくれたが、まだ安心はできない。彼女の気に障ることとかを言ってしまえば、口外される可能性もある。………一応注意しておくか。

「純也、さっき瀬田さんと何話してたんだ?」

「あぁ、なんか演劇部に見学に来ないかって言われてさ。」

「ふーん。それで?行くの?」

「まあ、見るだけならな。あ、俺が演劇部に入るとかそういうことはないからな?」

「わーってるよ。このことは誰にも言わないからさ。息抜き程度に行くってのもアリだと思うぜ。」

「そうだな。」

そう言い、俺と祐樹は別れた。でも色々と面倒だ。よりによって演劇部かよ…でも誘われて行かないってのも悪いし、さっさと行って終わらせるか。今日は無理だから、明日行ってみよう。……にしても引っかかるな。瀬田薫、どこかで見たことがあると思うんだが気のせいか?帰ってちょっと調べてみるか。

 

 

 

 

 

 

[…この辺じゃ有名人だな。」

羽丘は言わずもがな、花咲川でも有名人だな。瀬田ってひょっとしてすごい人なんじゃないか?道理でクラスでもあんなに人気なんだな。でもなんか違う。瀬田薫がこの辺で有名人だからというわけではなく、もっと昔に聞いたことのある名前だったんだが。うーん。悩んでも仕方がない。…寝るか。そして俺はいつもより早い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

「もしもし、千聖かい?」

「はぁ、何よ薫。私仕事終わりだから疲れているのだけれど。要件があるなら手短にね。」

「あぁ、分かったよ。じゃあ率直に言うが、…君が昔から言っている黛君。覚えているだろう?」

「もちろんよ、彼は凄かったものね。今は何をしているのか分からないけど。」

「その彼なんだが、今日から1年、同じクラスメイトとして過ごしていくことになってね。私も正直驚いたよ。」

「嘘でしょ?黛純也君よ?彼は羽丘に通っていたのね。」

「こんなチャンスは二度とないよ。私が演劇部に入部させてみせるよ。」

そう言い、私は電話を切った。やはり間違いない。彼は昔、私たちと会ったことがある。昔の彼は本当にすごかった。女優の千聖が賞賛するんだからな尚更だ。運命というのは時に粋な計らいというものをしてくれる。明日が楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

「えへへ~今年も純也君と同じクラスだ~。」

今日からまた学校というのもあり、多少体が疲れているが、彼のことを思うと明日も頑張ろうって思える。去年は彼に色々助けてもらったしなあ。自慢じゃないんだけど、私って一度見たものは何でもできてしまって、友達と喧嘩してしまうこともたまにあったんだよね。でも彼はそんな私をいつも助けてくれた。おかげで今ではみんなと仲良くやっていけてる。いつかお礼をしないとなあ。

「日菜、早く寝なさい。」

「わかったよお姉ちゃん。」

明日からまた楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

「な、なんでだ。」

いつも通りの朝のはずだった。軽い食事を済ませ、家を出たら、瀬田とばったり会ってしまった。そして今、彼女と一緒に登校している。周りからの視線が痛い。

「やあ子猫ちゃんたち、おはよう。」

歓声が上がる。そしてさらに視線が集まる。はあ、早く学校に着いてほしい。すると、瀬田が話しかけてきた。

「少しいいかい?」

「…何?」

少し不機嫌そうに答えた。こうすれば多少は対応を変えてくれるだろう。正直あまり関わりたくない。一緒にいるだけで疲れてしまう。

「…こういうことを聞くのは変だが、黛君は私といることに抵抗を感じているかい?」

「まあ、多少はな。」

意外な質問だった。なぜそんなことを聞くんだ?

「フフッ、そうかい。私は「演じる」ことが好きでね。昔からこんな感じなのさ。」

口調こそは明るかったが、目はどこか寂しげだった。過去になにかあったのだろうか。あえて言及しなかった。聞かれたくないこともあるのだろう。しかし、このまま学校に行くのもなんだか気まずい。演劇部について聞いてみた。

「そういえば、今日は演劇部の練習あるの?」

「もちろんさ。もしかして来てくれるのかい?」

「まあ暇だしな。」

そういうと彼女はさっきの表情とは一転、明るい笑顔になった。ああ、眩しい。

「じゃあ、16時からあるから。私と一緒に行こうか。」

まじか。場所さえ言ってくれれば一人で行けるのに。まあいいか。気づけばもう学校に着いていた。教室に入るなり、瀬田は女子に、俺は男子に囲まれた。瀬田は楽しげに話しているが、俺は昨日と同様、尋問が行われた。地獄だろこんなの。それが終わると、一人の女子に話しかけられた。

「やっほ~純也、おはよう。」

「リサ?なんでお前がここに?」

「え~それひどくない?私もこのクラスの一員だよ?まあ昨日は体調崩して来れなかったからわからなかったのも仕方ないか。今年もよろしくね!」

こいつは今井リサ。小学校の頃からの付き合いでよく話す数少ない女友達だ。去年も俺と同じクラスで、日菜と同様、扱いが少々疲れる。まあまだリサの方がましか。そんなことを思っていると、授業開始のチャイムが鳴った。今日からまた、長い一日が始まるのだった。




いかがだったでしょうか。楽しんでいただけたら幸いです。ここから主人公の本音をどんどん出していこうかと思います。


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本音

投稿遅れてすみません!これからは0時を目標にしていこうと思います。
それでは本編をどうぞ!


授業とは退屈なものだ。理解できているものを何故繰り返すのか。不思議で仕方がない。そんなことを思っていると、こちらに笑顔を向けている瀬田と目が合った。普段の言動とは程遠い光景だった。そして授業が終わる。これの繰り返しだった。祐樹もそれに気づいていたようで、俺に話しかけてきた。

「お前さ、瀬田さんとなんかあったの?」

「なにもねえよ。にしても授業中何度か目が合ったけど、笑顔だったな。」

「こういうこと言うのもなんだけどよ、お前と瀬田さんのちょっとした噂が立ってるぜ。」

「はあ?別になんもねえよ。」

「聞く話によると、瀬田さんってあの容姿にもかかわらず一度も彼氏がいたことないらしいぜ。そんな噂が立つのも仕方がないってことよ。」

「はあ、マジかよ。」

これからどう過ごしていけばいいんだよ。まあいつかは誤解も解けるだろう。…このあとは演劇部の見学か。早めに行こう。すると、案の定瀬田に呼び止められた。

「さあ、黛君、行こうか。」

やべー、周りの視線が痛すぎる。祐樹にしては笑ってるじゃねえか。あとでジュース奢ってもらうか。そして、本日の活動場所と思われる大きめの教室へと案内された。

「実は今日ちょっとだけ通してみようと思うんだ。正直でいいから感想とか改善点とかを聞かせてもらえるかい?」

俺に評価?劇が嫌いなのに?彼女から何度も聞かされる演劇。それに段々と嫌気がさしてきた。

「…本当に正直に言っていいんだな?」

「ああ、よろしく頼むよ。」

そして劇が始まった。まだ完成していないので、本番さながらのようにするのは無理だろうが、それ以前に、自分と瀬田の決定的な違いがわかった。それは、彼女は楽しんでいるということだ。そして、ある一つのことを思い出した。瀬田薫。そう、彼女は昔、俺と同じオーデションを受けたやつだった。当時と全然変わらない。演技だった。結果、オーデションは落ちたが、それでもなおこうして続けていると思うと、いらいらしてきた。それに比べて俺は表面上は楽しんでいるように装っていたものの、内心まるで興味がなかった。それが、彼女との決定的な差だ。そんなことを思っていると、一通り通した劇が終わった。今の俺は、どうかしていたんだろう。演劇部は、今日はもう練習が終わったらしく、各々に帰っていった。もちろん、瀬田以外は。

「一通り通してみたがどうだったかい?感想を聞かせてほしいよ。」

俺は正直に言った。思っていることをすべて。吐き出すように。

「当時と全く変わっていないな。」

「フフッ、ようやく思い出したかい?あの時私と君は…」

笑顔だった瀬田の顔が俺の言葉によって豹変した。

「まるで演技になってないな。いいか。演技にはな、自分の感情はいらないんだよ。どうやって相手に演技者の思いを伝えるかが大事なんだよ。俺にははっきり伝わったよ。瀬田は演じることが楽しいんじゃない。演じている自分を評価されていることに生きがいを感じているんじゃないか?」

つい本音を言ってしまった。でもここまで言えば落胆して俺に関わらなくなるだろう。そう思い瀬田の表情を伺うと、怒りと悲しみに覆われた顔で俺を睨んでいた。そして次の瞬間、俺は壁までものすごい勢いで飛ばされた。そう、彼女に強烈なビンタを食らったのだ。

「…君になにが分かるっていうんだ!私の努力がここまで侮辱されたのは初めてだ!君は才能があったから受かったんだ!私は受からなかったショックで努力を積み重ねてきたのに、もういい。帰ってくれ!二度と話しかけないでくれ!」

そう言って瀬田は出て行った。今思えば俺はとても最低なことを言ってしまったのかもしれない。気づけば、顔が段々と濡れてくるのが分かった。泣いていたのだ。何故だ?酷いことを言ったから?違う。もっと大事なことなんじゃないか。今の俺には到底分かるはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

教室に帰ると、誰もいなかった。瀬田のバッグもなかった。すぐ帰ったんだな。そう思うと、胸が締め付けられるのが分かった。こんな俺を、ほかの誰にも見せたくない。早く帰ろうと教室を出たら、リサとばったり会ってしまった。当然、俺の顔を見た彼女は、不安そうに聞いてきた。

「純也、何があったの?」

「い、いや、何でもないよ。」

「…ちょっとどこかに寄ろうか。」

「…」

何故俺は断らなかったのだろう。きっと誰かに救いを求めていたんだと思う。程なくして、リサの支度も済み、近くのコーヒー店に寄ることにした。

「で?何があったの?」

俺は先ほどあったことを全て話した。俺が元子役だったことも。

「へ~、まさか純也がね~。」

にやけながら言ってきた彼女の目は、真っすぐで親身になって聞いてくれていたとわかった。

「まあそれは純也が悪いけどさ、それを通してなんか得られたものがあるんじゃない?」

「…なんだよそれ。」

「それは自分で気づいてほしいな。それがわかったとき、純也の中で何かが変わると思うよ。」

「…そうか。なんかスッキリした。ありがとな。」

「うんうん。あ、薫には明日ちゃんと謝っときなよ?」

「わかってるよ。」

そう言い、ケーキを食べ終えたら、しばらく雑談をした。恋愛とか恋愛とか恋愛とか…。気づけば辺りも暗くなり、帰ることにした。

「じゃあ純也、バイバイ。」

「おう。じゃあな。」

帰り道に目にした夕日は、どこか儚げなかった。




いかがだったでしょうか。楽しんでいただけたら幸いです。進展はいつかな~。


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謝罪

今年最後の投稿となります
それでは本編をどうぞ!


俺はたまに昔の出来事がフラッシュバックする。その度に頭痛や吐き気、そして人格が変わってしまう。幼い頃のトラウマなどはこれほどきついものなのかと再認識させられた。今日は休日だからよかったものの、明日からはまた学校だ。嫌でも瀬田に会ってしまう。もちろん先日の件については謝るが、それでも彼女に会うのに抵抗を感じてしまう。言葉とかも色々考えておかないといけないかもな。今日はゆっくり休もう。祐樹に遊びに誘われたけど断っとくか。しかし、なにかあったかと問われればそれはそれで面倒だ。返信するか。

「すまん、今日は別の用事があるから今度な。」

「おう、じゃあ今度な。」

ふう。休むと言ったとはいえ、何もしないわけにはいかないか。漫画でも読もうかな。ベッドから体を起こした時、インターホンが鳴った。家には俺しかいないため、俺が出るしかない。どうせ通販とかそんなものだろう。玄関を開けると、すぐさま俺の体は床にたたきつけられた。

「純也くんおはよー!どこか遊びに行こーよー!」

そう、日菜にすごい勢いで抱き着かれたのだ。いや、決して恋人とかじゃないぞ?この光景をクラスの男子に見られたら間違いなく処刑だな。しかも、俺の顔には柔らかい感触があった。

「日菜、ちょっとどいてくれ…。」

「あーごめーん!今日暇でしょ?どこか出かけよ!」

なんで暇な前提で話すんだよ。実際は暇だけど。…でもこんな日菜を見てるとこっちもなんだか元気が湧いてくるな。今日はゆっくりしようと思ったけど、別にいいか。

「まあいいけど、どこに行くんだ?」

「んー、色々!」

こいつは相変わらずだな。そんな彼女がどこか可愛げに見えた。身支度も終えた俺は、笑顔な日菜と街に出かけた。

 

 

 

 

 

 

「ところで何で俺なんだ?クラスの女子でもいいだろ?」

俺はふとそんなことを聞いた。日菜も1年の頃とは違い、随分友達も増えた。なのになんで俺なんだろうか。

「んー?純也くんといると楽しいからかなー?」

そういうことか。俺といると楽しいか。男子からはたまに言われるが、女子から言われたことはないな。そんなことを思っていると、文房具店についた。

「明日からまた授業始まるでしょ?ノートとかファイル買っとこっかなーって思ったからさ。純也くんも何か買うものあるー?」

「そうだな。俺はシャーペン買っとこうかな。ボロボロになってきたし。」

「そうなんだ。じゃあこんなのは?可愛いよ!」

「いや、さすがにこれはなあ。」

それは黄緑色のシャーペンだった。女物ではないが、少し派手だ。そういえば、日菜の目の色、よく見たら黄緑色だ。だから黄緑色にしたのかな。気づけば俺たちは、文房具店だけで1時間過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

時というもは速いもので、もう夕方の5時だ。文房具店のあと食事、そのあとはショッピング、最後に公園という流れだった。日菜もそれなりに楽しんでくれただろうか。それなら俺は満足だった。しかし、まだ日菜は帰ろうとしなかった。何かを言いたそうに。

「純也くん、」

何故か日菜は恥ずかしそうだった。お?ひょっとして告白か?

「こ、これからは純くんって呼んでもいい?」

なんだ、そんなことかよ。ちょっと期待した自分が殴りたくなった。そりゃそうだろう。1回のお出かけで告白とか甘すぎなんだよ。

「ああ、構わないぞ。」

「ほんと!?ありがとう!じゃあ今日はもう時間だから帰るね。またね純くん!」

「気を付けて帰るんだぞー。」

そういい、日菜は猛ダッシュで帰っていった。さて、帰ったら何しようかな。…そういや明日、瀬田に謝らなければいけないんだった。やべー、どうすっか。何も謝ること考えてねえよ。そして暗い道の中を小走りしながら家に向かった。

 

 

 

 

 

 

「あー緊張したー!でも1歩前進した感じだからよかった!」

純くんには他の人とは違った、特別な感情を持っていることに、私は前から気づいていた。でもそれは、何を表しているのかはまだ分からない。

「明日からまた学校かー。よし、今日は早めに寝て明日から頑張ろう!」

そして寝る前に、今日お世話になった彼に返信した。

「今日はありがと!るるん!ってきちゃったよ!また遊びに行こうね!」

 

 

 

 

 

 

 

「やべえ、何も考えてなかった…。」

青々と澄みきった朝、俺は絶望のどん底に落とされた。さすがに何も考えていないのはナシだろ。でもちゃんと謝らないとな。食事を済ませ家を出ると、祐樹に会った。

「おう純也!おはよう!」

「朝から声でけえよ。」

「なんだよつれないな~。」

そう言いヘラヘラする祐樹。そうだ、こいつになら聞いてもいいかな。なんせ中学からの付き合いだ。それなりの信頼は置いている。

「なあ祐樹。」

俺は先日あったことを正直に話した。

 

 

 

 

 

 

「なるほどな。まあ、自分が間違ってるってことを素直に認めてしまうのが早いんじゃねーか?」

「んなこと言ったってなあ。」

「いや、今回の件はお前が悪いぞ純也。」

「…そうだな。ちゃんと謝るよ。」

そんなことを話していれば、学校についた。教室に入った途端、日菜が駆け寄ってきた。あ、これダメだわ。殺される。

「純くん、昨日はありがと!楽しかったよ!」

「あー。」

俺は教室を見渡した。案の定、男子から殺意の目が向けられていた。後ろからは、祐樹の怒りの声が。

「ちょっと純也君、屋上行こうか。」

ホームルームまではだいぶ時間がある。ああ、俺は自由を失ったのか。近くではリサに笑われていた。バイバイ、皆。こうして俺は3度目の尋問を喰らったのであった。

 

 

 

 

 

 

やはり時というものは速い。尋問から今に至る時間がとても速く感じた。

「純也~?ちゃんと薫には謝ったの?」

リサだ。朝は散々笑ってくれたな。今度ケーキ奢ってもらうか。

「いや、まだだ。今から行くよ。」

「そ。ちゃんと謝るんだよ?隠し事なしでね?」

「そうだぞ純也。ちゃんと謝れよ。」

「お前は黙っとけ祐樹。朝は散々詰め寄りやがって。すげー疲れたんだからな。」

またリサが笑ってる。そんなに面白いかよ。これからも尋問はありそうだな。逃げ道でも確保しとくか。そんなことを考えていると、瀬田が教室を出ようとしていた。もう時間がない。俺は走った。

「…瀬田。少しいいか?」

「なんだい?もう話しかけるなと言っただろう?」

「いいから。」グイッ

「…え?」

俺は無意識に瀬田の手を引っ張っていた。

「「「「「いいぞー純也!」」」」」

クラスの男子から歓声を浴びた。朝とは大違いだ。

そして俺は、先日演劇部の活動場所だった教室まで瀬田を連れてきた。

「一体どういうつもりだい黛君、君は私を馬鹿にした。そして私は君とはもう関わりたくない。それでいいじゃないか。」

「すまなかった!」

俺は大きな声で謝った。向こう側に見える生徒に見られた。それでも構わない。今は謝ることが先だ。

「お前のことを考えて言ってればこんなことにはならなかった。俺にできることはなんでもする!だから頼む、許してくれ!」

今までの人生でこれほど本気で謝ったことはないだろう。数十秒は頭を下げたままだった。

「…分かった。今回は許すよ。その代わり。」

瀬田の瞳は真っすぐで、そしてどこか悲しげのある様だった。

「…私の過去の話を聞いてくれるかい?」

含みのある言い方でそう言った。

 




いかがだったでしょうか。それではよいお年をお迎えください!


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過去

新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
それでは本編をどうぞ!


 人には誰にも知られたくない過去というものがあるだろう。その中でも幼い頃の出来事は根強く残りやすい。俺もその一人だ。幼い頃から子役を強いられた。それが今、嫌悪感として残っている。それが原因で一人の女性を傷つけてしまった。彼女は許してくれるとは言ったが、その傷は深いはずだ。俺に協力できることは何でもしようと思った。

 

 

 

 

 

 

 ここはとある公園。瀬田は先生に呼び出され、先に行っとくようにと言われた。にしても平日にしては人が少ない。てか誰もいない。いつもは子供や老人でいっぱいだが、今日は誰もいない。まあこっちとしてはありがたい。人がたくさんいれば、瀬田も話しにくい部分があるだろう。そんなことを思っていると、向こう側から彼女がやってきた。

「遅れてすまないね。」

「いや、いいんだよ。元はと言えば俺が悪いんだし。」

口調は何故か明るかった。相変わらず顔は寂しげだが。瀬田は俺の隣に座り、その全て語り始めた。親に演技を強いられたこと。幼い頃中々人に馴染めなかったこと。それが原因で今の「瀬田薫」になったこと。そして、

「本当の自分というものを忘れてしまったんだ。」

本当の自分というものを忘れてしまったこと。それはすなわち、今のこいつは仮面をかぶっているということだ。

「いつ頃だったかな。自分を見失ったときどれだけ絶望しただろうか。小学校に入りたての時だったかな。それから今のような口調や態度になってしまったんだろうね。」

そう。自分を見失うということは、それだけ自分に変化を与えてくれるものなのだ。だが、残念ながら俺にはどうすることもできない。本当の「瀬田薫」がわからないのだから仕方がない。

「そういえば、君は私に演じることが好きじゃないと言ったね?その通りだよ。それも偽りの私なのさ。でもね、演じること全てが嫌いというわけじゃないのさ。それを見てくれる人は、各々に思いを抱くだろうが、最後に私は評価される。それがどんなものでもいい。ただ、次もたくさんの人に今の私を見てほしいといつも思うんだ。だから私は演劇部に入ったんだ。」

そういう思いもあるのか。俺は納得した。そして俺は分かった。彼女にできることはそれをサポートすることなんじゃないかと。すると、俺は彼女の異変を感じた。瀬田薫は泣いていたのだ。

「うぅ、私はこれからどうしていけばいいんだ…こんな状態で演技をしても誰にも感動を与えることができないじゃないか…くっ…。」

こんな彼女を初めて見た。知り合ってすぐだから当たり前だと思うが、そこにはまさにどん底と思われる彼女がそこにはいた。…俺も鬼じゃない。慰めることぐらいはできるだろう。俺は彼女を抱きしめた。

「…ふえっ…?」

俺だって恥ずかしい。慰めるとはいえ抱きしめるまではしなくてもいいんじゃないか。しかしこうでもしないと慰めることはできないと思った。彼女も強く抱きしめてきた。

「純也くんっ…」

次第に俺の肩は濡れてきた。彼女の涙で。俺はいつまでも抱きしめた。通行人の目など気にせず、ただただ彼女を支えていきたいという思いで。

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの時間が経っただろうか。辺りは薄暗くなっていた。彼女も泣き止み、自我を取り戻していった。

「今日はすまないね。私の身勝手に付き合わせてもらって。」

「構わないよ。これからも相談があるときはいつでも言ってくれ。」

「ありがとう。それと…」

彼女の様子がおかしい。顔が真っ赤だ。熱でもあるのか?

「これからは純也と呼んでもいいかい?黛君だとちょっと他人のような感じがするからね。」

「いや、俺らは他人だろ。」

「いいや違う。同じような過去を持っている同士じゃないか。まさに運命共同体そのものだろう?」

「わかったよ。好きなように呼べ。」

よかった。いつもの瀬田に戻ったようだな。

「じゃあ純也。今日はありがとう。また明日会おう。」

「待てよ。」

俺は瀬田の手を掴んだ。彼女は小さな声を上げる。

「こんな暗い中じゃ危ないだろ。家まで送ってやるよ。」

「まったく、君という人は。」

そう言いながらも嬉しそうな彼女だった。

 

 

 

 

 

 

 家に帰り着いた俺は、これからについて考えた。彼女の過去を知った今日、俺は選択を迫られていた。彼女のサポートをするのか、影ながら応援するのか。俺にも過去のことがあるからできるだけ演劇部には関わりたくない。しかし、このまま瀬田を放っておいてはいけない気がする。…あいつに相談してみるか。

「なあリサ。ちょっといいか?」

「んー?どしたの純也。」

「ちょっと相談したいことがあってな。」

「いいよー。じゃあ放課後また言ってね。」

了承した俺は、疲れからかすぐ寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 そして放課後。集合場所であるコーヒー店に到着した。まだリサは来ていないようだった。そこで俺はこの高校の演劇部について調べていた。羽丘高等学校演劇部では、毎年実力のある人材がいるものの、結果はイマイチ。つまり普通なのだ。数分後、リサが到着した。

「ごめーん。待った?」

「数分前に来たな。」

「いやいや、そこは今来たとか言うでしょ。」

笑いながらリサは席に着いた。

「んで?相談とは何でしょうか?恋ならあんまり力にはなれないよ~。」

「…実は瀬田の件についてなんだが。」

そこからの俺はすべて本心で語った。隠し事なしに。するとリサは笑い出した。嘲笑ではなく安心したかのように。

「答え出てるじゃん。あんまり気にしない方がいいよ。純也はほんと優しい少年だな~。」

「からかうなよ。結構考えたんだぞ?」

「ごめんごめん。まあ、これからはその道で頑張りなよ?」

「おう。」

そこからの俺らは雑談をした。恋愛とか恋愛とか恋愛とか…。恋愛ばっかじゃねーか。

時間も時間なので、俺らは帰ることにした。その帰宅途中、瀬田に会った。

「なあ瀬田、」

「純也じゃないか。どうしたんだい?」

俺はこの場で決心した。いや、リサに相談する前にできていたのかもしれない。俺は真っすぐな瞳でこう言った。

「俺を演劇部に入れてくれ。」

 空は夕日で橙色に澄みきっていた。

 

 

 




いかがだったでしょうか。今年も皆様に楽しんでいただけるように頑張っていきます。
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変化

今気づいたけど黛と薫って字が似てますね
それでは本編をどうぞ!


 突然の出来事だった。何故ならあの純也が演劇部に入れてほしいと言ってきたからだ。しかし私の心はどこかモヤモヤしていた。許したといえど、あんなにも酷いことを言ってきた人を入部させることに違和感を感じていたからだ。仮に入部させたとしても彼に何が出来るのだろうか。恐らく実力は私以上だろう。しかしそれ以前に、これから先、もしもあのようなことをまた言われたらと考えると、恐怖しか感じない。だから、

「すまない、もう少し考えさせてくれ。」

そう返すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「しかし、俺が入部したところで何ができるんだろうか。」

 瀬田を支えていくと誓ったとはいえ、具体的に何をすればいいのだろうか。そこまでは考えていなかった。結果的には保留ということになったが、もし入部したとなると周りに迷惑はかけられない。…最悪役として出るかもしれないな。あまり悩んでも仕方がない。今日は夜更かししよう。なにかと最近は早めに寝すぎだ。今日ぐらいは大丈夫だろう。そして俺はスマホに手を伸ばし、夜通し歌を聴き続けた。

 

 

 

 

 

 

「やべえ!」

 澄みきった青空。そんな中で俺は絶望していた。今日は現代文の小テストの日だった。俺の最も苦手としている教科だ。筆者の最も伝えたいことは何ですかとかさらさら興味がない。考えるだけ無駄だろ。テストで赤点を取るほどではないが、小テストごときで追試を受けるのだけは勘弁だ。猛ダッシュで学校まで走り、授業が始まるまで死ぬ気で勉強したーーー。

-不合格-

 放課後に渡されたプリント。無情なる現実。必死に勉強したにも関わらず、あと1点を取れなかったせいで追試。担任には教室で待機しておくようにと言われたが、いつまで経っても来ない。職員室に行こうと席を立つと、同じタイミングで誰かが入ってきた。

「おや、純也じゃないか。君もかい?」

「瀬田も追試か。」

「そうさ。そういえば先生は会議で来れないから終わったら職員室の机に置いておくようにと言っていたよ。」

「そうか。プリント持ってきてくれたのか。すまなかったな。」

「いいさこれぐらい。」

そう言い瀬田は俺の隣に座った。今気づいたけど瀬田ってほんと美人だな。オーラが違う。見とれてしまいそうだ。

「そういや瀬田は現代文はどれくらいできるんだ?」

「い、いや。全くできないというわけじゃないのさ。今回は凡ミスが多かっただけで…。」

すると彼女の手からプリントが落ちた。授業で使用した小テストのプリントだ。そこには2という数字。15点中2点ということを表している。

「なにが凡ミスだ。間違えすぎじゃねえか。瀬田は現代文が苦手なのか。」

「フフッ、純也には全てお見通しということだね。君には敵わないよ。」

「いや、誰が見てもそう思うだろ。合ってるとこ記号だけじゃねえか。これ勘で書いたろ?」

「…すまないね。」

「ったく、仕方ねえな。俺はあと1点で合格だったんだけどな。俺が教えれる範囲なら教えるぞ?」

「うぇ!?」

いや、そんなに驚くことじゃないだろ。でも教えるならちゃんと理解してもらわないとな。自分のが優先だけど。

ーーーーーーーーーーーーー

 ふう、やっと終わった。先生がいなかったからちょっとは楽だったけどその分内容が難しすぎる。そういや瀬田は何も言ってこなかったが一人で解けたのか?隣を見ると幸せそうな顔で寝ている瀬田の顔があった。…可愛い。普段は凛々しいが、今は子供のような感じだった。いかんいかん。まだ時間は大丈夫だが、一人で寝させるのは気が引ける。…起こすか。

「おい瀬田、起きろ。」

「んん…」

「…お前全然終わってねえじゃねえか。」

彼女はまだ夢の中だ。このままだと帰る頃には真っ暗になってしまう。実力行使といくか。俺は瀬田の脇腹をつついた。

「ひゃうん!?」

物凄い勢いで起きた瀬田は、真っ赤な顔で俺を睨みつけてきた。

「…私の寝顔見たのかい?」

「ああ、バッチリとな。可愛かったぞ?」

そう言うと、さらに顔を真っ赤にした。

「もういい!早く教えてくれ。このままだと君も帰れないよ。」

目つきがマジだったので、仕方なく付き合うことにした。言いだしたのは俺だから。仕方ないが。30分ほどで終えた。幸いまだ周りは明るい。余裕をもって帰れそうだ。すると、

「純也。まだ明るいし、どこかに寄らないかい?今日は世話になったからね。礼をさせてくれ。」

別にいいのに。礼をされるようなことをした覚えはない。…そういやさっきはからかいすぎて申し訳なかったな。ここは乗っておくか。

「そうか。ありがとう。どこに行くんだ?」

「そうだね。近くにいい店があるんだ。そこに寄ろう。」

「分かった。じゃあさっさと行くぞ。」

そう言い、俺は瀬田の手を引っ張った。

「…全く。」

そんな彼女は笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 ここに来るのは何度目だろうか。リサに相談に乗ってもらうときはいつもここだったな。空いた席に移動し、コーヒーを頼んだ。

「私もコーヒーで頼むよ。」

なんだかこの感じ、カップルみたいだ。別に俺は瀬田に恋愛感情は抱いていない。だが、他の女子より抱いている感情が違うのは明白だった。俺は冗談で、

「なんだか俺たちカップルみたいだな。」

と言った。もちろん冗談だ。しかし瀬田は、

「わ、私たちが恋人!?そんなわけないだろう!」

今日何度目かの赤面でそう言ってきた。冗談のつもりだったんだがな。

そこから俺たちは色々話した。主に勉強のことだ。瀬田は、国語系の教科はさっぱりらしい。俺もだ。周りも暗くなってきて、帰ることにした。

「そういえばお互い連絡先を交換していなかったね。」

瀬田は小さい紙を渡してきた。帰って登録しておくか。

「ありがと。帰ったらしとくよ。」

「じゃあ私はこれで。」

「家まで送っていくぞ?暗いし危ないだろ。」

「…ああ、頼むよ。」

何故か帰り道は二人とも黙ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 家に帰り着いた私は、最近の気持ちの変化を考えていた。今までに抱いたことのない感情。これは何なのだろう。すると、スマホの通知音が鳴った。彼からだった。

「今日はありがとな。現代文ちゃんと勉強しとけよ?」

余計なお世話だ。

「ああ、勉強しとくよ。今日はありがとう。また何かあったらよろしく頼むよ。」

返信を終えると、ベッドに倒れこんだ。…実は前から薄々気づいていたのかもしれない。私の抱いていた感情。

それはーーー

 

 

「これは参ったね。」

 

私は彼に惹かれたようだ。人生初の"恋"だった。

 




いかがだったでしょうか。
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決断

 さて、いきなりの報告ですが…
 ぽぽろ@明天さん、初のご感想ありがとうございます!作品拝見させてもらっています。やっぱりヤンデレっていいよね!(殴
 本題に入りますか。投稿日時についてですが、基本的には木曜日と日曜日の0時にしています。たまに曜日は変わることはあると思いますが、0時投稿は実行します。(多分)
 それでは本編をどうぞ!



 気づけば梅雨の時期。毎日のように雨が降り、どんよりとした空気が続く。そのせいか、ここ最近クラスに元気がない。いつもはうるさい祐樹でも、梅雨が原因であまり気が出ないのだろう。ただ、一人を残しては。

「純くーん!今日一緒に帰ろう!」

そう。氷川日菜だ。もうすぐでテストということもあり、今は勉強に集中したいところだ。こいつと帰れば寄り道などで自分の時間を潰されてしまう。テストが終われば待つのは夏休み。これを乗り越えさえすればあとは天国なんだ!だから赤点とか取って居残りになったら面倒だ。最悪の場合、夏休みまで居残りが延長されるかもしれない。

「悪い日菜。もうすぐテストだから勉強しないとヤバいんだ。だから今度な。」

俺みたいな清純?な男子高校生はこんな可愛いやつと帰れるだけで天国なもんだ。しかし居残りは地獄と同等。俺なら天秤にかけるまでもないが。

「…ダメ…?」

上目遣いは反則だ。今日は日菜と帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

「ここはこうやってー。」

 俺は今、日菜と勉強している。本来は帰り道までのはずだったが、日菜がどうしてもというので仕方なく一緒に勉強しようと思った。日菜曰く、一度やったことは完璧にできるそうで、勉強に困ることはないという。だからこうして教えてもらっている。…にしても、

「おい日菜。ちょっとくっつきすぎじゃないか?」

「えーそんなことないよー?ひょっとして純くん照れてるー?」

互いの息遣いが聞こえてくるほど近い。男子高校生にとっては少し危ない状況だ。こんな可愛いやつが近くにいるだけでさぞ満足だろう。程なくして勉強が終わると、日菜がとんでもないことを聞いてきた。

「純くんはさー、好きな人とかいるのー?」

「今はいないな。そんなこと聞いてどうするんだ?」

「へー、そうなんだ。」

なんだか嬉しそうな日菜。それを無視して時計に目をやる。もう18時を過ぎていた。そろそろ暗くなってくる頃だろう。

「日菜、そろそろ帰るか?」

「そうだね。そろそろ帰ろうかな。今日はありがとね!」

「俺もだよ。勉強教えてくれてありがとな。」

笑顔な日菜を玄関まで送り、部屋に戻ろうとすると、一通のメールがきていた。

「時間あるかい?近くの公園に来てほしい。」

さて、結論が出たようだ。結論次第では俺の高校生活が大きく変わることになるだろう。

 

 

 

 

 

 

「待たせて悪かったな。」

「いや、私も今来たところだよ。」

 そこには優しく微笑む瀬田の姿があった。夕日に照らされなお美しく見える。

「それで、答えが出たんだろ?俺は覚悟ができてるぞ。」

「その前に少し聞きたいことがあるんだがいいかい?」

「…なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 彼がまだ公園に来るまで、私はまだ迷っていた。自分の出した答えが本当に正しいのだろうか、と。私だって強力な助っ人が来れば嬉しい。しかし、彼となると話は別だ。部員とは話したが、少し恐怖を覚えている人も少なくなかった。私は次期部長として、正しい判断を迫られていた。しかし、中々いい答えが出てこない。…そうだ。彼に入部する理由を聞けばいい。それで決めよう。

 

 

 

 

 

 

 いやーそうきたか。俺は内心少し焦っていた。勿論覚悟はできている。だが、入部に至った理由を聞かれてしまった。俺は以前瀬田に心ない発言を言ってしまった。それに罪悪感がある。そして、瀬田の口から聞いた過去。俺より過酷なものだった。そして決めた。こんな俺でも瀬田を支えられることができるんじゃないだろうか。演技のアドバイスなどは極力するつもりだ。自分が役をするのは御免だが。これが入部に至った理由だが、これを言うとなると恥ずかしい。しかも本人の前でだ。さて、なんて言おうか。適当に言っておくか。

「なんだかまた劇に興味を持ち始めてな。入部しようかなーって。」

「そうかい。」

ほっ。納得してくれたか?

「純也。嘘は褒められたものではないよ。正直に言ってごらん。」

いや、バレてるじゃねえか。どうしたもんか。支えたいのは本心だ。何が俺をそうさせているのかは分からないが。いっそのこと正直に言うか?その方が瀬田も納得はしてくれるだろう。入れるかどうかは別として。

「…瀬田を支えたいと思ってさ。」

俺はあまりの恥ずかしさに下を向いてしまった。しばらくの間訪れる沈黙。俺はそれに耐えかねたのか、顔を上げてしまった。そこには、ぽかんと口を開けたまま佇んでいる瀬田がいた。それに、少し顔が赤かった。

「…本気だぞ?」

あー恥ずかし。さっさとこの場を立ち去りたい。すると、やっと瀬田が口を開けた。

「ふふ、あははは!」

笑い出す瀬田。そんなにおかしいことを言っただろうか。まあこんな俺がそんなことを言うのはおかしいか。

「純也。君は本当に興味深いね。分かった。君の入部を許可しよう。これから共に頑張ろうじゃないか。」

すると、瀬田は抱きついてきた。

「うぉ!?」

俺は状況が呑み込めなかった。だっていきなり女子に抱きつかれるんだよ?こんなこと滅多にないだろう。

「おい瀬田、離せっ。」

「君はこの前私に抱きついてきたじゃないか。これはその罰だよ。」

「ったく。」

 俺たちは日が暮れるまで抱きあっていた。そして今日、俺は正式な演劇部の部員となった。

 

 

 

 

 

 

 家に帰り着いた私の顔は、中々元に戻らなかった。ずっと赤くなったままなのだ。純也にずっと抱きついていたので仕方がない。…好きな相手となるとなおさらだ。

「さて、これからどうやって接していこうか。」

今日は中々眠れなかった。ずっと彼のことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

「おいお前ら席に着けー。ホームルーム始めるぞー。」

眠い目を擦りながら俺は先生に目を向けた。何故か俺の方を見ている。

「まあ小さなことなんだが…黛が演劇部に入部することになった。皆にはあまり関係ないことかもしれんが、この時期に部活に入るのは珍しいことだからな。皆も応援してやってくれ。」

とんでもないことを暴露された俺は思わず立ち上がってしまった。皆は俺の方を見ている。演劇部に入部することなど知られたくなかったのに。おい先生。あんたやってくれたな。

「黛くん頑張って!」

「お前の舞台、いつでも見に行くぜ!」

そんな声が上がる。まあ入部した以上、気を引き締めないとな。瀬田は俺の方を見て微笑んでいる。祐樹は爆笑している。こいつはあとで説教だな。何故か日菜はジト目でこちらを睨んでいる。怖い。

 

 

 さて、俺の高校生活はこれからどうなってしまうんだろうか。

 




いかがだったでしょうか。薫のキャラ崩壊が激しい気がする…
次回ほどには告知もあります。
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突然

 前回言ったにもかかわらず、0時投稿をしない自分が惨めになってくる… 
 それは置いといて、那智海斗さん、ご感想ありがとうございます!調べてみましたが
 瀬田がメインの小説って少ないんですね。意外でした。
 次に、告知についてですが、活動報告&この小説でお知らせしようと思います。
 友人に聞けば、活動報告は見てもらえないことも多いそうなので、まあ念のためですね。
 いつ出すかは分かりませんが、この「突然」の次に出す話は本編とは関係ないので、
 ご了承ください。
 最後に、今回は改行に手間を加えました。読みづらかったら報告お願いします。
 時間があれば修正しておきます。
 それでは本編をどうぞ!


 時は夏休み。俺は今、校内を走り回っている。別に誰かから逃げているという

わけではない。劇の小道具を

 運んでいるのだ。10月には文化祭がある。そこで演劇部は、文化祭の締めくくりとして、劇をすることに

 なったのだ。主役は勿論瀬田だ。3年生でもよかったのだが、受験に集中したいということもあり、

 各々にアドバイスをするくらいしかできないという。まあ俺は希望により、裏方となったのだが、それでも

 結構きつい。資料は作るは小道具を運ぶはアドバイスをするはでとてもハードなのである。

 劇のジャンルは恋愛だ。高校生と言えばこれだろう。小道具を運び終わった俺は、役者にアドバイスを

 しに行った。設定では主役の彼氏、といったところか。俺が本番でするとなったら相当きついだろうな。

 夏休みは毎日これの繰り返しというわけではない。本番は10月なので、9月に入ってからは忙しくなるだろう。

 遊びも必要だし、勉強もやらないといけない。新学期早々のテストで赤点取って補修になったら皆に迷惑を

 かけてしまう。まあそんな中でも1つだけ言えることは、今までの人生で1番忙しい夏休みとなるだろう。

 「純也、ちょっといいかい?」

 「ん?どうした瀬田。」

 「君も知っているだろうが、私は今度の劇で主役をするんだ。来年の文化祭は、恐らく受験勉強でできないと

  思うんだ。」

 「そうだな。先輩は皆勉強しているもんな。」

 「だからその…純也にアドバイスをしてほしいんだ。後悔したくないからね。お願いできるかい?」

 さて、どうするか。俺は今、一人の役者にアドバイスをしている。つまり、瀬田のお願いを聞けば、二人に

 教えないといけなくなる。これは中々難しい話だな。でも、それでも俺は言う。

 「ああいいぞ。その分きつく指導するからな?俺も瀬田には後悔してほしくないからな。」

 「君ならそう言うと信じていたよ。じゃあこれからよろしく頼む。」

 もうあの頃のようなことはしない。瀬田が成長できるような指導をするんだ。

 「純也!頑張ってるか!?」

 「なんだ祐樹か。今忙しいから後にしてくれないか?」

 「相変わらずつれないな。部活終わった後みんなと遊ぶんだからな?体力残しとけよ!」

 最近は祐樹以外の男子とも絡むようになってきた。絡んでみるとみんな面白く、打ち解けることができた。

 元々クラスの男子はそれほど多くなく、10人程しかいないが、部活などで来れないやつを除くみんなで遊びに

 行くことになっている。実際、俺も早く遊びたい。なので俺は、急いで今日の分の仕事を終わらせた。

 

 

 

 

 

 

 そんな充実していた夏休みも終わり、2学期。これから文化祭まで、恐らく休む暇などないだろう。放課後や

 休日も学校で過ごすことになる。俺たち演劇部は絶対に成功させる思いで日々の活動に取り組んだ。

 「皆気合入ってるな。まああと1か月もないし当然のことだけどな。」

 「まあな。てかお前台詞全部覚えたのか?」

 「…当たり前だろ。」

 「今の顔と間がそれを物語っていないな。さっさと練習するぞ。」

 「嫌だ~。今日くらいは休ませてくれ~!」

 こいつ才能はあると思うんだけどな。練習すればもっと伸びるってのに。ああ、こいつは俺が担当している

 主役の彼氏を演じる二宮だ。練習が終わればすぐ帰らないといけない。暑い季節とはいえ、もう9月だ。

 前と比べれば辺りも段々暗くなってくる。しかし、

 「純也、このあと暇かい?ちょっと付き合ってほしいんだ。」

 やれやれ、そういえばこいつの担当にもなったんだったな。俺は瀬田と並び、夕日が照らす道を歩いた。

 行き先はコーヒー店だ。

 「もう本番まで3週間か。時間って早いな。」

 「そうだね。君も演劇部に入部してもう3か月も経つのか。」

 「最初のうちはほんとに迷惑かけたな。不甲斐ない俺のせいで。」

 「そんなこと言わないでいいさ。入部したばかりだから分からないことがあっても仕方がない。寧ろ私は

  感謝している。」

 「え?」

 「君がいると、何だか気が引き締まるんだ。私は君を尊敬しているんだ。もう辞めたとはいえ、あんな才能を

  持っていたんだからね。おかげで私も成長したと実感できるよ。」

 「…そうか。俺もそう言ってもらえると嬉しいよ。」

 「ああそうさ。だからこれからも頑張ってくれ。」

 「そうだな。ってかそろそろ帰らないとやばくないか?」

 腕時計は19時をとっくに過ぎている。

 「そうだね。じゃあ帰ろうか。」

 俺たちは店を出て、それぞれの帰路に向かおうとした。しかし、それを瀬田は止めた。手を握ってきたのだ。

 「文化祭、必ず成功させよう。」

 「…ああ。」

 これで何回目か分からないが、いつもと変わらず瀬田と帰った。

 

 

 

 

 

 

 -そして本番2週間前-

 昼休み、俺は祐樹と飯を食っていた。すると、一人の女子生徒が息を切らしながら俺を呼んだ。

 「純也くん!早く来て!」

 顔が強張っていた。そんなに重大なことが起きたのか?

 「分かった。すぐ行く。」

 「彼女か?」

 「違うわ。すぐ戻ってくる。すまないな。」

 「おうよ。」

 俺は急いだ。これから起こることで俺の高校生活が変わることも知らずに…

 

 

 

 

 

 

 場所は階段だった。教師や生徒など、ギャラリーが多かった。嫌な予感しかしなかった。

 「おい二宮!しっかりしろ!」

 教師が叫ぶ。どこかで聞いたことのある名前。それが誰か、俺はギャラリーを掻き分け確認した。

 そこには俺の担当している役者である二宮が足を抑えて苦痛の表情を浮かべていた。

 「おい二宮!大丈夫か!」

 俺は駆け寄る。階段から落ちたんだろう。とりあえず保健室だな。すると、二宮が口を開く。俺はこいつが

 口にするのが大体予想できた。

 「黛か。すまないな。今度の文化祭、出られそうにない。」

 そう、足を怪我したため、当然舞台に立つこともできない。軽い捻挫なら間に合うだろうが、こいつは多分

 骨折している。だから劇には出られない。するとそこに、瀬田もやってきた。

 「…二宮くんはもう無理だ。仮にやらせても怪我が悪化したら、元も子もない。」

 二宮は教師に肩を借られ、保健室へと移動した。ギャラリーも減り、俺と瀬田だけになった。

 「瀬田、二宮がいないんじゃ、劇ができない。…どうするんだ?」

 「…どうしたものか。彼がいないと劇が成り立たない。」

 するとそこにリサがやってきた。

 「階段から落ちた人がいたんだって!?大丈夫なの!?」

 「リサ…。その人は今度の文化祭の劇で私のパートナーになる人だったんだ。だから彼がいないと劇が…。」

 「代役がいないってことか。…薫、その人に指導した人とかっている?」

 「ああ、純也が彼の担当だったはずだよ。」

 「なるほどねぇ~。」

 しばらく考え込むリサ。すると、何かを閃いた顔つきで、2人を見た。それも何だかにやけている。

 (こいつ…絶対ろくなこと考えてないな。)

 次のリサの言葉は、俺と瀬田の度肝を抜いた。

 「それってさ…純也が代役務めればいいんじゃないの?」

 薫&純也「「はあ!?」」

 本番までの2週間、俺にとってのこの2週間は忘れられないものになるだろう。

 




 いかがだったでしょうか。そろそろこの1年のクライマックスに入ってきました。
 先に言っときますが、最終回はまだまだ先ですのでご心配あらず。(多分) 
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