ポケットモンスター -暗躍のウルザード- (ポケポケ)
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第1話 旅立ち

「……朝か」

 

特徴的な青髪を触りながら少年は寝ぼけながら目を覚ます。

小さくそう呟き、少年……【ナギサ】は窓から差しかかる朝の光を浴びる。

ナギサはカレンダーを見て今日がその日だと気が付く。

 

そう、ナギサがポケモントレーナーとして旅立つ日なのだ。

 

「さてと、行くか、リオル」

 

ナギサは相棒であるリオルを呼ぶ。

すると、瞬時にナギサの前に出現し、彼の隣に立つ。

身長はナギサよりも小さいながらも謎の威圧感がある。

普通はポケモンはトレーナーになる前は持てない決まりがある。

制御出来ずに、命令無視したりして怪我をする恐れがあるからだ。

 

しかし、このナギサのリオルは別だった。

 

(心得た、だが、ナギサ……時間は大丈夫なのか?)

 

(安心しろって、まだ研究所に行くまで30分はある)

 

(……ナギサの大丈夫はあてにならないからな)

 

(な、なぁ!? 大丈夫だっていざとなったらリオルに【チェイン】をかけてぶっ放すから)

 

こうやってリオルとナギサは心の中。

つまりは波動で通じ合っているのだ。

コミュニケーションがしっかりとれているため、研究所の人や周りから認められている特別な例。

 

それ以前にこのリオルとナギサは仲がいいのだ。

 

「ナギサ、いよいよ今日なのね」

 

「ああ、そうだね」

 

身支度をしてリビングに行く。

するとそこには朝食を既に作り終えたナギサの母親の姿があった。

表情は何処か険しい。

それもそのはず、まだナギサ自身の年齢は14歳。中学二年生に相当する。

 

そんなまだ未熟な子供が広大な地方にたった一人で旅に出るのだから。

心配しない理由がない。

そして、ナギサの母親は静かに口を開く。

 

「父さんは帰ってこなかった、あの人と同じ道を……行ってしまうのね」

 

「いや、これは俺自身、父さんを探しに行く旅でもあるよ」

 

ナギサは真っ直ぐな黒い瞳で自分の母親の顔を見る。

 

ナギサの父親はまだナギサが五歳の頃に急に姿を消した。

警察などが必死に捜査したが、手掛かりがなく見つからなかった。

それからというものの、ナギサからも。そして、母親から笑顔が消えた。

 

特にナギサの母親はしばらく立ち直れなかった。

 

ナギサ自身も父親からは様々なことを学んだ。

ポケモンのこと。自分の力のこと。そして、戦い方など。

 

「このまま何もせずにいても父さんは帰ってこない……だから、俺とリオルで父さんを見つける」

 

「……そう」

 

「それに俺は父さんみたいに突然消えたりなんかしない! 安心しろよ、俺、強いから」

 

冷静だが内なる闘志で溢れているナギサ。

それを聞いてナギサの母親もふっと息をつく。

ここまで言われたらもう黙って送り出すしかない。

 

「分かったわ、だけど、辛くなったら戻って来なさい……あなたの帰る場所はここなんだから」

 

「うん、ありがとう、それじゃあ……行ってくるよ」

 

これがナギサとリオルの旅立ちの始まりであった。

果たして二人に待ち受ける運命とは。



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第2話 チェインと新たな出会い

広大な自然に囲まれているここメルデ地方。

三年前に発見された地方で、その頃から各地の人々がここに移住してきた。

まだまだ人口は少ないが、三年前と比べたら格段に増えた。

 

(本当の良かったのか? あんな別れ方で)

 

(いいんだ、あまり話し込むと別れるのが辛くなる)

 

(ドライな性格をしているのだな)

 

(余計なお世話だ、それよりも研究所が見えてきた)

 

家から出た後、ナギサはリオルと波動の力で何気ないことを話していた。

別れは辛い。だけど、長くなればなるほどそれはもっと辛くなる。

胸が痛みながらもナギサは前へと歩き続けることにした。

 

「ねぇ、大丈夫? イワンコ」

 

そんな時だった。ナギサは女の子と地面に倒れているポケモンを発見する。

犬型のポケモンのイワンコ。なかなかの新種のポケモンだ。

どうやら、足を怪我しているらしく女の子は困っている様子。

ナギサはそれを見てゆっくりと近付いて行く。

 

「怪我をしているな」

 

「え? あの……」

 

「ちょっと待ってな」

 

ナギサは困惑する少女を押しのけてイワンコに触る。

集中力を高めて、こう口に出す。

 

「【チェイン】【ヒール】」

 

緑色の光がイワンコを包み込む。

すると、足の怪我がみるみるうちに治っていく。

イワンコは尻尾をふりながら少女に飛びつく。

 

「これでもう大丈夫だ」

 

「あ、あの……ありがとうございます!」

 

「全然、それよりもポケモンを大事にしてあげなよ」

 

ナギサはそう言って少女から離れて行く。

これがナギサだけが使える不思議な力【チェイン】。

このようにポケモンの傷を治したり、ポケモンの攻撃力を上げたりと。

応用出来て、これによってナギサはリオルと共に様々な苦難を乗り越えてきた。

 

ただ、これに弱点がある。

 

(よかったのか? 貴重なチェインを使ってしまって)

 

(なに、一日に数回しか使えないと言っても別にこれぐらいは問題ない)

 

(うーむ、ナギサがそう言うならいいんだが)

 

チェインは一日に使用回数に限界がある。

それにこれは人には効果がない。ポケモンにしか適用されないということだ。

 

「これは父さんから教えられて、与えられた力……俺はこの力を信じてる」

 

ナギサは力強くそう言って研究所の前へと着いた。

いよいよ、ここから始まるんだと。

胸に手を当てて、ナギサは研究所に入って行った。

 

 

「はいはーい! いらっしゃい! 待っていたわよ、ナギサ君」

 

研究所に入るなり、出迎えてくれたのは【コアライ】博士。

美しく長い茶髪をかきあげながら、座っていた椅子から立ち上がる。

 

「久しぶり、コアライちゃん」

 

「な、なぁ! コアライ博士よ! たく、まだ若いからってなめないでよ」

 

「いやいや、だってコアライちゃんが博士なんて、笑っちゃうよ」

 

「むきー! その言葉二度と言えないようにしてあげるわ!」

 

そう、ナギサとこのコアライは小さい時からの知り合いだった。

年こそ、離れているが泣き虫だったコアライのことをおちょくる仲なのだ。

ただ、コアライの博士としての実力は確かなものであり、その点はナギサも信用している。

 

間を開けた後、コアライ博士はナギサに説明をする。

 

基本的なこと。トレーナーとしての心得などなど。

 

そして、最後にいよいよ、ナギサはコアライからポケモン図鑑を受け取った。

 

「これでいよいよナギサ君も正式なポケモントレーナーだね」

 

「まあね」

 

「それでポケモンなんだけど……」

 

「ああ、それなら別にいい、俺はこいつと旅に出ると決めているからさ」

 

ナギサはちらっとリオルの方を見る。

もうこれは決めていたこと。

リオルも分かっていたようで、相槌をうつ。

 

「ふーん、確かに私からポケモン用意するより長年のパートナーと冒険した方がいいかもね」

 

「まあね、それでまずは街に向かってそのジムリーダーを倒せばいいんだろ?」

 

「大まかな目的はそうだね! でも、ナギサなら大丈夫! あたしが保証する」

 

「……ほんと?」

 

「疑ってるの!? むきぃー博士の私が言うことは間違いない……」

 

 

「すいません! お、遅れました!」

 

ナギサとコアライが話している中。

とても慌てながらこの研究所に入って来る少年の姿があった。

黒髪の普通の顔と言った感じか。身長はナギサより少し高いぐらいだが。

だが、トレードマークのメガネがななめになっており、よっぽど急いでいたのだろう。

 

「だ、大丈夫よ! だから落ち着いて、キョウヤ君」

 

「……誰だ、こいつ」

 

ナギサはその少年を見て無表情でどうでもよさそうに見ていた。



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第3話 傷を受けたラルトス

「グッドタイミング! ちょうど君と同じで今ポケモントレーナーになった子がいるよ」

 

「な、なんとか間に合いました……」

 

「……ふーん、お前もトレーナーになるのか」

 

息切れをしながら慌てている少年は安堵の息をつく。

コアライは少年を落ち着かせ、ナギサはリオルと共にその少年を見ていた。

そして、コアライは棚から大きめの鞄をこちらに差し出してくる。

 

「この中にあなたのパートナーとなるポケモンがいるの!」

 

「はい! そのモンスターボールの中に入っているんですよね?」

 

「そうそう、よく分かっているわね」

 

コアライが言うには、ここ数年で各地のポケモンがこの【カイロ地方】に移住しているとのこと。

そのため、初心者用の【御三家】と呼ばれるポケモンも、各地の研究所から支給されている。

 

「えっとね、本来なら三匹の中から選んでもらうことになるんだけど……まだ、このカイロ地方はトレーナーになる人自体が少ないの」

 

「ほほう、選べる種類が豊富ということか」

 

「ナギサ君の言う通り、さてと、君はどうする? キョウヤ君」

 

キョウヤ。どうやらこれが彼の名前なのだろう。

ナギサはそれだけ頭に一応入れて、コアライの話に聞く。

すぐに決まると思われたが、キョウヤはとても深く考える。

それもそのはず、これから長い旅を一緒に乗り越えていく仲間。

 

ナギサが特殊なだけあって、本来ならこれが普通の光景だろう。

 

カント―地方、ジョウト地方、ホウエン地方……数々の地方からポケモンが集められている。

種類も多く、魅力のあるポケモンが多いためやはり簡単に選ぶのは難しいか。

 

しかしそんな時だった。

 

「ん? コアライちゃん、あのポケモンは?」

 

ナギサが気になり、指を指した方向にいたポケモン。

モンスターボールの中に入っておらず、リオル同様に常時外に出ている。

しかし、その場から一歩も動かず、何やら怯えているようにナギサには見えた。

 

それはリオルも察知したようで。

 

(あのポケモン弱っているな)

 

(ああ、身体的にも、いや、どちらかと言うと精神的にきているのか)

 

(あれではチェインでも治すのは無理そうだな)

 

(だな、悪いけどあの状態じゃ戦えないな)

 

波動の力でナギサとリオルは互いの意見を伝え合う。

言い方は違うもの、思っていることは同じだった。

あれでは、選ぶトレーナーもいない。

 

そのポケモンとは……。

 

「決めました! 僕はあのラルトスにします!」

 

「え!? で、でもあのラルトスちゃんは」

 

「……へぇ」

 

これはナギサにも予想外だった。

とてもじゃないがあの状態のラルトスでは先は長くはないと思う。

今まで父親とと共に様々なポケモンを見てきたナギサにとってそれは分かること。

リオルも何処か悲しそうな表情で見ていた。

 

でも、そんなナギサの考えとは裏腹にキョウヤは違っていた。

 

「僕も、トレーナーになる決心をする前はあんな感じでしたから」

 

「……はっきり言うけど、キョウヤ君の力量からしてあのポケモンを扱うのは難しいわよ、あのラルトスちゃんは過去に心の傷を受けてしまったの」

 

「心の傷? どういうことコアライちゃん?」

 

「使えないからと言ってトレーナーから酷い虐待を受けていたの、その後は転々として最終的にここにたらい回されたということ」

 

(なるほど、見立て通りにあのラルトスの心身はボロボロという訳か)

 

(ああ、言っちゃ悪いけどこのキョウヤという奴からは強みが感じられない)

 

(このラルトスを扱うには資質や覚悟が必要だということか)

 

(多分、俺でもそれは難しいと思う、過去に受けた心の傷は簡単に拭えるものではないからな)

 

父親が居なくなった時の心の傷。いや、心の穴と言った方が正しいか?

とにかく今のキョウヤにこのラルトスを扱うのは難しい。

 

でも、それでもキョウヤの意志は固かった。

 

「無謀かもしれません、だけど、僕がなんでトレーナーになろうかと思った時に……心の閉ざしたポケモンを救いたい! 目の前で苦しんでいるポケモンがいるのに、それを見捨てる訳にはいけないと思うんです!」

 

「分かったわ、キョウヤ君がそこまで言うならこのラルトスを君の最初のポケモンとして認めるわ、だけど……やっぱり」

 

「いいんじゃない? そいつの目と言葉は本気みたいだし、俺はいいと思うよ」

 

「ナギサ君まで……」

 

「よく分かんないけど、そのラルトスの受けた傷はこのまま立ち止まっていても治らないと思う、何かきっかけを作らないと」

 

ナギサは淡々と言っていたが、的は得ていた。

確かにこのまま道のど真ん中で止まっていても進むことは出来ない。

先の道は霧が立ち込めているように。ずっと先が見えないだろう。

ナギサとキョウヤがここまで言ったらコアライも認めざるを得なかった。

 

結局、最終確認をしてからコアライはキョウヤにポケモン図鑑を渡した。

喜びながら、キョウヤもナギサと同様にポケモントレーナーになった。

弱弱しいラルトスをモンスターボールに入れて、キョウヤは心の中で誓った。

 

必ずこのラルトスを一人前にして見せると。

 

何気ない出会いだったこのナギサとキョウヤ。

ただ、この偶然の出会いが後々の運命に大きく関わっていくのだった。

 



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第4話 謎の少女

これはナギサとキョウヤがポケモン図鑑を貰って、一人のポケモントレーナーになって数時間後の話。

コアライが資料を整理しながら、休憩しようとした時だった。

 

「失礼します」

 

「えぁ!? ああ、ごめんごめん! 別にサボってた訳じゃないの! あははは……」

 

「別にいいです、ポケモンを貰いに来た【ルキナ】です」

 

黒を基本とした服装。スカートも黒色。動きやすい恰好である。

整った顔立ちと落ち着いた雰囲気。

そして、コアライはまず注目したのが胸の大きさだった。

 

(うう、年頃の女の子に負けてる私って一体……)

 

気付かれないぐらいにため息をつく。

気を取り直して本題を入ろうとした時だった。

 

「それじゃあ、ポケモンを選んでね! とは言ってもすぐには……え?」

 

「ゼニガメ……個体値、普通、努力値、初期状態、性格……」

 

「えぇ、何を言っているの?」

 

コアライにとってルキナの言っていること。

それは理解出来なかった。

博士にとってまだそんなに日が経っていないコアライ。

それで言い訳は出来るが、致命的までに知識も経験も不足している。

 

自分の力量の無さをコアライは痛感しながら、目の前の少女をただ見ているだけしか出来なかった。

 

その後も、次々とモンスターボールからポケモンを出してはこの作業を続けていた。

 

そして、ルキナはある一匹のポケモンに焦点を定める。

 

「アチャモ、個体値〇、性格〇、良い感じね」

 

「あ、あの……それって」

 

「コアライさん、もういいです、私はこのアチャモにします、正直言って他のポケモンは駄目みたいなので」

 

「だ、駄目って! 何でそんなこと」

 

思わずコアライは声をあげてしまう。

きっぱりとそう言ってルキナはコアライと向き合う。

思ってみればここまで、ルキナはポケモンを見ていなかった。

見ていたのは数値化された謎の能力。

 

ただ、一般の人には分からないだろう。

 

その証拠にポケモンの強さとは信頼や愛情と信じていたコアライ。

それは博士となった今でもそれが真実だと思っている。

しかし、ルキナの行動はそれを全否定されているようだった。

 

そんなコアライにルキナは冷たくこう告げた。

 

「知らないんですか? ポケモンも人間と同じで、ある程度の才能が決まっているんです……もしかして、愛情とか信頼とそんな不覚的要素なパラメーターで決まると思っていたんですか?」

 

「……っ!? でも、それだけじゃないはずよ、ポケモンにも人間にも心があって」

 

「でも、それは強さには関係ありませんよね? さてと、こんな無駄な話をしている時間はないので、私はこれで失礼します」

 

「あ……ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

ポケモン図鑑を奪うようにルキナは持って研究所を後にした。

呆然と立ちすくし、コアライは何も的確なことを言えない自分。

そして、ルキナの歪な考え方と言動に気持ち悪さを感じていた。

 

「分からない、あの子の考えていることが、何なのよ」

 

知らない単語。自分とはかけ離れた考え方。

どちらにせよ、ルキナにポケモンと図鑑を渡したのは失敗だったのか。

 

様々な葛藤に悩まされながら、コアライはパソコンの前へと座る。

 

「調べないと……あの子が何を言っていたのか」

 

そして、同時にナギサとキョウヤのことを思い出す。

 

二人の顔を思い浮かべながら、コアライはこう強く願った。

 

「二人はあの子みたいにならないでね、絶対に」



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第5話 初戦闘

「本当にそのポケモンでよかったのか?」

 

コアライの研究所を出て行った後。

ナギサはお節介ながらキョウヤに付いて行った。

初めはどうでもいい存在だった。

 

ただ、あの時のキョウヤの発言と行動。

トレーナーなら必ず強いポケモンを欲するはず。

それも何も知らないトレーナーなら不安もある。

 

自分のことを守ってくれるポケモンがいいはずだ。

なのにこのキョウヤという少年は違った。

 

「ところで君は一体?」

 

「ああ、まだ名前も言ってなかったな、俺はナギサ! それで、こいつが俺の相棒のポケモンリオル」

 

「あ、ああ……僕はキョウヤ、宜しく! でも、なんで僕なんかに構ってくれるの?」

 

「別にそんなんじゃないよ、今のままだったらお前は確実に危険な目に遭う……だから、しばらくは俺が一緒に付いて行ってやろうと思って」

 

「は、はぁ……?」

 

初対面なのにズバズバとナギサはキョウヤに様々なことを言い放つ。

上から目線だが的を得ている指摘にキョウヤは無言で頷く。

 

最初の街である【カイロタウン】から少し離れた最初の草むらを歩きながら。

ここから本格的に野生のポケモンが出現する。

だからこそ、ナギサは今の状態のキョウヤが危険だと判断した。

 

ほぼ戦闘不能のラルトスにトレーナーとして未熟のキョウヤ。

 

とてもじゃないが、戦える状態ではない。

 

「まぁ、俺といてキョウヤも別に損じゃないだろ? お互い、まだトレーナーとして成り立て何だし、一緒に行動した方がいいだろ?」

 

「いや、僕とは行動しない方がいいよ……だって」

 

「あれ? おいおい、お前ってあの【ノロマでグズなキョウヤ】じゃねえか?」

 

「あ、ほんとだ! あははは、あんたもポケモントレーナーになったんだ! 何にも出来ない癖に」

 

「【マユミ】に【ケンタ】!? なんで……」

 

キョウヤを草むらの茂みの中から見つけるとケラケラと笑いながら現れた人物。

腕を組みながらピッタリとくっついている。

カップルなのだろうか? そして、その二人を見た瞬間にキョウヤの顔が険しくなる。

同時に体の震えが止まらないようで、本能でモンスターボールを取り出すが、その手はおぼつかない。

 

「なんでってトレーナーだからに決まってんだろ? にしても、勉強も運動も友達もいないお前がトレーナーになるなんてな」

 

「ほんとっにマユミも驚いてるぅ! でも、なるのはそんなに難しいことではないんじゃない?」

 

「そうだなよなぁ……トレーナーが目と目があったらやることは一つ! てめぇも分かってるよな? グズ野郎」

 

すると、マユミとケンタはモンスターボールを取り出し、地面に投げる。

慣れた手つきで二つの投げられたモンスターボールからポケモンか現れる。

 

「お前がポケモントレーナーなんて生意気なんだよ」

 

「うちらの毒タイプのポケモンでまたあんたを虐めてやるわ」

 

「【ベトベター】に【ドガース】か……見たことはあるけど、あまり知らないポケモンだな」

 

(ふむ、どちらもカントー地方のポケモンだ、幸いにもラルトスにとって相性はいい……だが、問題は)

 

「やるしかないか、いけ! ラルトス!」

 

ナギサとリオルが心の中で話し合う中。

キョウヤも二人に立ち向かうためにポケモンを繰り出す。

しかし、場に出たラルトスは怯えており、二体のポケモンを前にしても背を向けているだけだった。

 

戦えない。やはり、今のラルトスには酷なことだった。

 

キョウヤはそれを見てラルトスを抱き抱える。

 

「駄目だ! 僕の都合でラルトスにもっと傷を受けさせる訳には……」

 

「はぁ? トレーナーもグズならポケモンもグズ? どうしようもねえな」

 

「だったら、ポケモンの代わりにあんたがうちらの攻撃を受けるんだね!」

 

「おいおい、こいつら……流石にそれはないな」

 

二人は指示を出し、毒タイプ特有の技を繰り出す。

出した技は【ヘドロばくだん】という強力な技。

くらえばひとたまりもないだろう。

 

(ナギサ!)

 

「ああ、分かってる! リオル【はどうだん】」

 

それに対応するようにナギサはリオルに命令する。

両手に力を溜めて波動の力で攻撃する格闘タイプの技。

それは球体となって相手に迫っていき、当たればこれもただでは済まない。

 

そして、ナギサには奥の手もある。

 

「さらに、【チェイン】【ダブル】!」

 

チェイン。放たれた一つのはどうだんは分裂する。

しかも同じ威力で。これは単純にもう一つの攻撃をコピーするというもの。

今回の場合、最初に放たれたはどうだんをそのままコピーをした感じだ。

 

ヘドロばくだんとはどうだんは相殺し、空中で爆発する。

 

「はぁ?」

 

「何が起こったの?」

 

ケンタとマユミは何が起こったか分からないという表情だった。

 

「一つのはどうだんが二つになった? 一体どうして……」

 

(まずはピンチは凌いだな、後は敵を倒すだけだ)

 

「ああ、リオル【フェイント】」

 

「ち! くるぞ! ベトベター」

 

「二体一の状態なら勝てるはずよ! ドガース頼むわよ」

 

ナギサはリオルに指示を出した直後。

同時にマユミとケンタも自分のポケモンに命令する。

しかし、明確な指示は出さず、的確にナギサとリオルに攻撃を合わしてくる。

 

暗黙の了解。どうやら、事前にある程度の攻撃パターンは決まっているようだ。

二匹の連携がこのトレーナーの基本戦術。

 

しかし、そのことはナギサもリオルもいち早く気付いたようで。

 

(こいつらは連携で畳崩してくる! つまり、人数的に不利なこちらはチェインをうまく使わないと勝てないぞ)

 

(分かってる、さっきのヒールと今のダブル……使えるチェインはもう少ないからな! 一気に決める!)

 

波動の力で相手に知られないように会話を続ける。

だが、フェイントをかけようとした時。

リオルに向かって毒ガスが集中する。

 

二匹同時で毒ガスを発生させているため、まともに吸えば猛毒になってしまう。

 

嫌らしく、近距離では戦えない。

 

普通だったら。

 

「【チェイン】【スピード】【アタック】」

 

しかし、チェインの使えるナギサは別だ。

残っているチェインを全てリオルにかける。

素早さと攻撃力を飛躍的に上げるものだ。

目にも見えない速さで毒ガスを振り払い、攻撃力を上げた状態で相手に近付く。

 

「リオル【でんこうせっか】」

 

手数を増やし、何度もベトベターとドガースに攻撃をいれる。

レベルは違う。先に旅を初めているこの二人の方が上だと思う。

 

ただ、積み重ねてきた戦闘経験、知識、戦術。

そして、何より手を抜いていない。

この二人にはナギサに対してもキョウヤと同じ通り油断をしていたはずだ。

 

リオルの攻撃を受けたベトベターとドガースは戦闘不能となり、地面に倒れる。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

「こ、こんなの有り得ないわ!」

 

「速い、それにあの威力……一体どうなって」

 

「さてと、こいつらどうする? キョウヤ」

 

流れを切るようにナギサは二人の元へと近付く。

無表情のまま、今にもどうにかしてしまいそうな雰囲気だった。

 

「トレーナーは勝ったら負けたトレーナーからお金を貰うんだろ? いや、この場合は全財産貰っても構わないよな? キョウヤを……トレーナーを攻撃しそうだった訳だしな」

 

「ぜ、全額?」

 

「そ、そんな無茶苦茶な話……通じる訳」

 

「黙れ、お前たちに断れる理由なんてないだろ」

 

(落ち着け、確かにこいつらは許されないが……何もそこまで)

 

(いや、父さんだったらこいつらを殺してるな)

 

(ナギサが旅をしていた時とは状況も違う、あまり目立つ行動はしない方がいい、まだ、私も完全な存在ではないからな)

 

リオルに諭され、ナギサは一息つく。

後はキョウヤの判断に任せることにしようと思った。

 

「分かった、ただ、今度こいつに何かしたら……俺が容赦しない」

 

「「す、すいませんでした!」」

 

一目散にマユミとケンタはナギサたちから逃げて行った。

結局、妥当なお金だけ置いていった。

ナギサは不満もあるが、ここは落ち着くことにしようと思うのであった。

 

「ごめん、ほら……この通り、僕といると君の評価まで下げることになってしまう」

 

「なるほど、勉強も運動も友達もいないから虐められているのか、お前」

 

「は、はっきり言うな……その通りだよ、そんな弱い自分を変えたくて僕はトレーナーになろうと思ったんだけど、はは! 今からでも引き返してやめた方がいいかな」

 

キョウヤは弱弱しい声でナギサに自分の気持ちと目的を伝える。

やっと理解出来た。ナギサにもキョウヤのことが少しだけ。

ただ、ナギサにとってうじうじしているキョウヤにイラつき始めていた。

 

「そんな小さな理由でトレーナーをやめるのか?」

 

「小さな理由って……君には分からないよ! 僕の気持ちなんて」

 

「分かるとか分からないという問題じゃなくて、お前の意志はその程度だったのか?」

 

「え?」

 

「あの時、研究所で言ったお前がやりたかったこと、目的を果たすためには……こんなことぐらいで立ち止まってどうすんだって話だよ」

 

珍しくナギサが感情を少しだけ込めてキョウヤにズバズバと言いたいことを言う。

核心をつかれたようで、キョウヤはうろたえる。

 

「それに、勉強とか運動は分からないけど、友達がいないのはすぐに解消できる問題だ」

 

「すぐに解消できる?」

 

「だって俺らが友達になればいいだけの話だろ?」

 

「……っ!?」

 

まだ信用したわけじゃない。

ナギサにとっても何故ここまで今日知り合った人間にここまで肩入れする理由は分からない。

だけど、ナギサにとってキョウヤから悪い感じはしなかった。

むしろ、旅を続けていく上で大切なのは信頼出来るパートナーを見つけること。

 

ポケモンであり、人であり。

 

その積み重ねで豊かな旅にしていくと。これはナギサが父親から学んだことだ。

 

「まあ、俺が勝手に決めたことだし本気にしなくていいよ」

 

「あ、ああ……ありがとう! 凄く嬉しいよ」

 

「そんなに感激することか? 友達なんて簡単に切り捨てられる関係みたいなもんだろ? 利害の一致、違いで簡単に崩れる関係……」

 

「それでも、まともにこんなに話せる人が出来たことがない僕にとって君はこんなに話してくれる……それだけでもう」

 

「……はぁ、はやく次の街に向かおうぜ、俺はジム戦とやらに興味があるからな」

 

(言葉は厳しいが随分とこの少年のことを思っているようだな)

 

(別に、ただ、旅をするうえで人は多い方がいい)

 

(まあ、私はナギサが考えることに賛同する、私もナギサにとって相棒だからな)

 

(分かってるよ、これからもバンバン頼むぜ)

 

こうしてナギサとキョウヤはしばらく同行して旅をすることにした。

そして、最初のジムがあると言われる【エルフェタウン】へと向かうのであった。

 



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