東方酒迷録【完結】 (puc119)
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プロローグ~迷い人~

 

 

 それはしとしとと嫌らしく雨が降り続ける梅雨の時期には珍しく、晴れの日だった。桜なんかはとっくに花びらを散らしてしまい、今はただ青々と葉をつけているだけ。

 そんな季節だ。

 

 最近どうにも実験が上手くいかない。魔法の森から取って来た化け茸を煮詰め、乾燥させ、混ぜ合わせるけれど、どうにもいい感じの魔力が発生しなかった。

 

 試行錯誤に暗中模索。

 

「うーん……気晴らしに霊夢のとこにでも行くか」

 

 そんな気分だ。

 

 

 

 

 博麗神社。

 幻想郷の東の端にボロっちい神社がある。そこにはぐうたらな巫女が一人。

 

「おーい、霊夢~。魔理沙様が遊びに来てやったぜ」

 

 お気に入りの帽子といつもの箒を持ってその神社に来たわけだけど……霊夢がいない。

 いつもなら縁側で緑茶でも飲んでるはずなんだけどなぁ。

 

「寝てるのかな」

 

 境内の掃除は毎日しているらしく、それなりに綺麗な敷地内。

 

 ――桜は綺麗でいいのだけど、掃除が面倒臭いのよねえ。散らない桜とかないのかしら?

 

 なんてアイツの言葉を思いだす。

 

 勝手知ったる人の家。お邪魔します。

 

 しかし母屋にも霊夢はいなかった。てか、鍵くらいしてけよ……

 まあ、盗まれる物なんてないか。

 

 縁側に出て、空を見上げる。さっきまで晴れていた空には、灰色の雲が覆っていた。これはひと雨来そうだ。

 

 う~ん、どうしよう。なんだか今日は上手くいかない。

 

「……帰るか」

 

 帽子を深めにかぶり、箒に跨り地面を蹴った瞬間、手の甲にポツリと一粒の雨。急ぐとしよう。

 

 

 博麗神社と自分の家とちょうど半分位。

 雨は本格的に降り始めた。

 

 ホント上手くいかない日だ。

 

 そんな時、ペチリと自分の顔に何かが当たった。

 うん? 何だ? 桜の花びらか? この時期に?

 

 よく見るとこの場所だけ空から花びらが降ってきている。しかも雨はやんでいた。

 

 上を見ても切りがないから下を見る。其処にはぽつねんと佇む白い鳥居。

 ん~、こんな所に鳥居なんてあったかな? いや、多分なかった。

 

 好奇心から地面に降りて鳥居を観察。どうやらこの鳥居を中心にして、花びらが降っているらしい。

 

 何なんだこの鳥居は?

 

 

 なんとなく白い鳥居をくぐった。

 

 その瞬間――世界が黒一色に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと、見慣れない景色が見えてきた。

 麦畑に、田んぼ、それにあれは……蒲萄か?

 

 そして、洋風な家と大きな倉庫があった。

 

 雨は降っていない。洋風な家に近づいてみると、家の中からは楽しそうな声が聞えてくる。

 

『OPEN』

 

 ドアにはそう書いた木の板が吊り下げられている。

 

 

 私には少し重いドアを開けた。

 そして、カランカランと鈴の音が響き――

 

 

 

「紫! なぜ、そこでスタンプをするのさ!?」

 

「ごめーん」

 

「何という棒読み……わざとか? わざとなのか? あっ、ちょっ、霊夢、散弾連射やめて! 何もでkギャー死んだー!」

 

「何、死んでるのよ」

 

「ホント、情けないわねぇ」

 

「いや、お前らのせいでもあるからね……」

 

「あ、倒した」

 

「うわ……絶対、剥ぎ取り間に合わないじゃん」

 

「やた、宝玉きた」

 

「売れ、売り飛ばせ」

 

 

 ……何だこれは。

 

 家の中では霊夢と、あれは……妖怪賢者か? それと知らない少年がそれぞれ小さな機械を持って遊んでいた。

 

「あら、魔理沙じゃない。どうしたの?」

 

 霊夢が私に気づいて聞いてきた。

 

「おろ、お客さんか珍しいね。いらっしゃい、ようこそカフェ『迷い人』へ。ゆっくりしていってね」

 

 少年も私に言ってきた。どうやらここは少年の家らしい。

 

「ここって、カフェだったの? 居酒屋の間違えじゃなくて?」

 

 霊夢が少年に尋ねた。

 

「お前らがお酒しか頼まないからだろ……ちゃんと珈琲とかあるよ。むしろお酒はおまけなんだけど」

 

 えと……この状況に頭がついて来ない。結局ここってどこなんだ? あと、『こーひー』ってのは何だ?

 

「いい感じで混乱してるわね。初めまして霧雨魔理沙。私は八雲紫。妖怪賢者なんて言われているわね」

「なんだ、紫も初対面なのか。初めまして魔理沙ちゃん。俺は黒。この店のマスターやってるよ」

 

 え? 何で妖怪賢者が私の名前を?

 

「お、おぅ、初めましてだぜ」

「ほいほい、よろしくね。魔理沙ちゃんも何か飲む? 初めてだしサービスしとくよ」

 

 黒と名乗った少年が私に聞いてきた。

 

「ああ、じゃあ適当に日本酒でも頼むよ」

 

 あ、『こーひー』とかのが良かったのか?

 

「あ、ずるい。私にもサービスしなさいよ」

「いや霊夢、溜まってるツケをどうにかしてから言ってくれ」

「お賽銭が溜まったらね」

「払う気ないじゃん、それ……てか魔理沙ちゃんも結局お酒ですか、そうですか……はぁ、冷、常温、熱燗どれがいい?」

 

 私の返答に黒は落ち込んでいた。

 

「ある意味、空気読んだわね」

 

 霊夢のつぶやきが聞こえる。

 

「『こーひー』なんて知らんしな。常温で頼むよ」

「かしこまりました」

 

 出された日本酒は美味しかった。

 

 






あ、ども
お久しぶりな方もそうでない方も、こんにちは

かなり短めですがとりあえず投稿です
次からはもう少し長くします
更新は時間が空いた時にちょこちょことする予定

唐突なモンハンネタでしてが、これから先登場することはありません

さてさて、ここからどうやって物語を進めていきましょうか?


感想・質問など何でもお待ちしております


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第1話~はじまり、はじまり~

 

 

『そうだ、名前をつけようよ!』

 

『名前? 今までのやつじゃいかんの?』

 

『あれじゃあただの数字だもん。つまんないよ。貴方の名前はそうだね……』

 

『あ、君がつけるんだ』

 

『くろ! 今日から貴方は黒って名前ね!』

 

『安直だな、おい……う~ん黒、か。いいかもね』

 

『じゃあ、次は私の名前を黒がつけてよ』

 

『ん? ん~……じゃあ、しろ。白だな』

 

『フフッ、安直だね』

 

『うるせぇ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 前の日がどんなに辛かろうが楽しかろうが、生きてさえいれば次の日に朝は必ず来る。大昔に弟を恐れたどっかの神様が引きこもったせいで、日が登らなくなったけれどそんなことはもうないだろうさ。

 愛して離してくれない布団と別れ、起床のお時間です。早起きして3文の得をする。たった100円ちょっとでも、俺には大切なのだ。

 あの貧乏脇巫女がツケを払ってくれたらいいんだけどね。まぁ、無理だろう。

 

 人生あきらめが肝心。きっときっとそういうこと。

 

 

 顔を洗って、歯を磨く。

 

 さて、今日も頑張って掃除でもすっかなと思って母屋から、店の方へ行くとすでにお客さんがいた。自称、閑古鳥の似合うお店No.1だというのに珍しい。因みに『閑古鳥』と言うのは、『カッコウ』のことらしい。本物のカッコウがどんな鳥なのかは知りません。

 

「あら、やっと起きてきたのね。おはよう黒」

 

 紫だった。

 紫って確か朝、弱かったよね。どうしたんだろうか?

 

「おはよう紫。昨日ぶり。まだ朝早いのに珍しいじゃん」

 

 昨日、あれだけ騒いだというのに元気なことで、流石妖怪さんだ。俺みたいなおじちゃんには朝早いってのは辛いんです。

 

「藍に起こしてもらったわ。最近は特に朝が辛いのよ」

 

 なんだよ、自分で起きたんじゃないのか。あと、最近じゃなくてずっとな気がする。

 

「朝辛いねぇ……更年期障害か? 今度から養命酒出してあげるよ」

「ぶっ飛ばすわよ?」

 

 や、やだな~、冗談じゃないですか。

 

 

「紫、なんか飲むか?」

 

 俺は、ホットコーヒーでも飲もうかな。アラビカ種のいい豆も手に入ったことですし。

 

「日本酒、冷で」

 

 紫が答えた。

 

「……朝から日本酒かよ。緑茶でも飲んでなさい」

 

 朝から日本酒とか藍に怒られるぞ。主に俺がだけど……

 

 

 

 

 自分と紫の飲み物を用意して一息。

 

 さて、そろそろ本題に入りましょうか。

 

「んで、紫は何しに来たのさ?」

 

 早起きしてまで来たんだ。ただ、遊びに来たってわけじゃないだろう。

 

「きちゃった」

 

 紫が言った。

 

「歳考えろよババア」

 

 俺が答えた。

 

「おい、カメラ止めろ」

 

 紫がキレた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~テイク2~

 

 

「んで、何しに来たんですか?」

 

 ユカリコワイ。

 せっかくのホットコーヒーが冷めてしまった。

 

「貴方に頼みたいことがありますの」

 

 そう言って紫は笑った。

 ……そんな笑い方してるから、霊夢達から胡散臭いって言われるんだろうなぁ。

 

「紅魔館」

「ん?」

「黒は紅魔館を知ってるわよね?」

「……まぁ色々あったし、今でも偶にだけど遊びに行くよ」

 

 遊ばれてるってのが正しいかもしれない。

 

「で、その紅魔館がどうしたのさ?」

「貴方は知らないでしょうけれど、昨晩から紅魔館を中心に紅い霧が発生しだしたのよ。今はそこまで被害がないけれど、その内幻想郷中に広がるわね」

 

 

 ――つまり、異変よ。

 

 

 そう、紫は言った。

 

 冷めたコーヒーが口内の傷に沁みた。

 

 

 

 

 

「ん~、紅魔館の奴らが異変を起こしたってのはわかったけれど、それが俺に関係あるの?」

 

 嫌な予感。

 

「そろそろ、霊夢が異変解決に動き出すわ。昨日の魔法使いも動くでしょうね」

 

 警鐘、警報、警告の意が響き渡る。

 

「黒」

「何さ?」

「貴方が解決しろ、とは言わないわ。どうせ、貴方じゃ紅魔館組には勝てないでしょうしね。むしろボコボコにされるわ」

 

 ……いや、わかっちゃいるけど言い方ってものがですね。もしかしてまだ、怒ってるのかな?

 

「手伝って来なさい。この異変解決を」

「拒否権は?」

「あると思うの?」

 

 ですよね。

 わかってた。わかりきっていた。

 

「どうして俺が異変解決に行かんとならんのさ? 霊夢だってもう一人で大丈夫だろ?」

 

 昨日会ったばかりの魔理沙ちゃんの方は知らんけど。

 

「霊夢の強さくらいわかっているわ。ただ、この異変がスペルカードルールを導入して初めての異変だからよ。どうしても失敗したくない。それに、紅魔館にはあの子がいるじゃない。流石に大丈夫だとは思うけれど、不安はあるわ」

 

 そんなに心配なら紫が行けばいいとは思わなかった。紫の立場的に、この程度の異変じゃ動けないのだろう。

 なんとも面倒なことだ。

 

「つまり、盾になれってこと?」

 

 

「そう、霊夢のため……いえ、もしもの時は幻想郷のために」

 

 

 ――死になさい。

 

 

「……了解」

 

 

 コーヒーは血の味がした。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ紫。今度、バーボンの入っていた樽を持ってきてくれないか?」

 

 帰ろうとしていた紫を引き止める。

 

「樽? 何に使うの?」

「ウイスキーを熟成するのに使うんだよ。まぁ、飲めるようになるまで早くても3年はかかるけどさ」

 

 あ~あと、新しい酵母も欲しいかも。

 まぁ、そっちはいいか。

 

「わかった。用意しておくわ」

 

 バーボンなんて幻想郷じゃ絶対に飲めないしさ。

 ん~ケンタッキー州だけ幻想入りしないかな? いや、流石に無茶か。

 

「他にいるものはある?」

「いや、ないよ。あっ、そうだ。ちゃんと藍を労わってやれよ? アイツここに来るたんび紫様が~、紫様が~って愚痴言ってるし」

「フフッ、そうね。善処しますわ」

 

 そう言って紫は消えてしまった。

 

 異変、紅魔館ねぇ……

 

 紅魔館って目が痛くなるから長居はしたくないな。ま、明日にでも行ってみようかね。

 

 偶には外に出てみようじゃないか。

 

 






と、言うことで第1話投稿です

文字数が少なく見えるのもきっと気のせい

先日、世界一のウイスキーを作った方のお話を聞かせていただく機会がありましたが、とても勉強になりました
お酒作りは奥が深い!!

実はウイスキーが嫌いだなんて口が裂けても言えませんね

では、次話でお会いしましょう

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第2話~ちょっと昔のお話~



この物語は、シリアスラブコメアクションハートフルストーリーです




 

 

 お酒の話をしよう。

 

 

 別に、このままじゃタイトル詐欺になるとか思ったわけじゃない。たまたま……そう、たまたまお酒について語りたくなっただけだ。きっと誰だって一度は通る道だ。

 

 

 準備はいい? 始めるよ?

 

 

 一般的に、お酒はアルコール1%以上を含む飲料のことで……

 日本酒・ワイン・ビールなどの醸造酒。

 焼酎・ウイスキー・ブランデーなどの蒸留酒。

 リキュール・梅酒などの混成酒がある。

 

 と、まぁただ単にお酒と言って沢山の種類があって、奥も深い。人類はお酒の発展と共に、成長してきたのかもしれないね。

 

 いや、知らんけどさ。

 

 さてさて、もういいでしょ。お酒の話は。続きは、また今度ね。

 

 

 それじゃあ、次のお話に移ろうじゃないか。紫は帰っちゃったし、掃除なんてとっくに終わっている。俺だって暇なのだ。

 

 これは、可愛い吸血鬼の少女とカッコ悪い男のお話。

 最初に言っておくと、このお話にオチはない。男と少女が出会って、男が少女に遊ばれて、男は少女に殺されて、男が少女と仲良くなる。たった、それだけのお話。美談でも悲劇でも喜劇でもない、そんなよくあるお話。

 

 

 

 ――確かあの日の天気も雨だったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 最後のお客さんが来てから、どれくらい経っただろうか。毎日掃除をしているおかげか、綺麗に見える人のいない店内はやたらと寂しく見えた。

 

 外は夜。

 良い子は寝ている時間だろう。

 

 今日も今日とて、我が家の閑古鳥は元気です。

 

「はぁ、閉めるか」

 

 そんな独り言が溢れ落ちた時だった。来客を知らせるベルが幾日振りに鳴いたのは。

 

「いらっしゃいませ」

 

 満面の笑みを加えながらお客さんに挨拶。

 スマイルゼロ円です。

 

「え? だれ、あなた?」

 

 開口一番、お客さんのセリフです。あら奇遇ですね、俺も同じこと思ったよ。

 ドアを開けて入ってきたのは、金髪でヘンテコな帽子を被って、背中から何だかわからんのが生えた少女だった。

 何それ? 羽? なんか宝石が吊り下がっているけど……

 

 人間……ではないよな。

 

「俺か? 俺は……パブロ・ディエーゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・ブラスコだよ。よろしくな」

 

「え? え? ぱぶ……なに?」

 

「ああ、パブロ・ディエーゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・ブラスコだよ。よろしく」

 

「長いよ……」

 

 リアル寿限無だものね。

 そりゃ長いか。

 

「ん~、じゃあ『黒』でいいよ」

「うん、それなら大丈夫。よろしくねクロ」

「はい、よろしく。それでお嬢ちゃんは何ていう名前なのかな?」

 

 こちらの自己紹介は終わり。

 次は貴方の番ですよ。

 

「私はフランドール。フランドール・スカーレットよ」

 

 スカーレットか、どっかで聞いたような気がする。ん~と……どこだったかな?

 

「ん~長いな。長いから『フランド』でいい?」

「なんかヤダ……『フラン』のがいい」

「そっか、それじゃあ、よろしくなフランちゃん。まぁ、とりあえず座りなさいな。んで、フランちゃんはどうしたのさ?」

 

 まぁ、迷子だと思うけど。

 うん、迷子だな。

 

 ――それがね。

 

 なんて言ってフランちゃんは話し始めた。

 

 

 

 フランちゃんの話をまとめると、外に出てみたかったけれどフランちゃんの姉が、それを許してくれないそうだ。

 理由は二つ。

 外は危険ということと、フランちゃん自身が不安定だということ(それを本人言うのはどうかと思うが……)。だいたい不安定ってなんだよ。

 それでも、フランちゃんは諦めきれず、日が沈んだ頃にこっそりと出てきたらしい。そしたら、雨が降って来てしまい身動きできなくなった。帰ることもできず、どうしようか迷っているといつの間にか白い鳥居があって、しかもそこだけ雨は降っていなかった。

 そして、気がついたら此処に着いたらしい。

 

「なるほど……ってか、フランちゃんって妖怪だよね? なんの妖怪なの?」

「吸血鬼だよ」

 

 妖怪最強種じゃねーか。勘弁してください。

 吸血鬼か、ん~……吸血鬼って雨ダメだったかな? 流水はダメとか聞いたことあるけど。雨って、流水なのかね?

 

「ねーねー、クロって人間なの?」

 

 吸血鬼について考えていると、フランちゃんが尋ねてきた。

 

「ん? ああ、人間だよ」

 

 ギリギリだけどね。

 まぁ、嘘ではない……はず。

 

「じゃあ、クロもいきなり消えたり、現れたりできるんだ!」

 

 あれ? 人間のハードル高くない? 俺の知っている人間はそんなことできないはずだけど。

 

「……いや、それはできないかな」

「そうなの? でも、咲夜はできるよ。じゃあ、何もないところからナイフとか出したりは?」

 

 できねーよ。

 それに誰だよ、咲夜って。あとそれ人間じゃないだろ……

 

「えと、それもできないかな」

「ふ~ん、クロって変わってるのね」

 

 あ、変わってるのは俺の方ですか。違うと思うんだけどなぁ……

 

「じゃあ、作品によって胸の大きs「はい、ダメー! それ以上はダメです」……? 私、咲夜以外の人間を見るのが初めてだからよくわからないの」

 

 ふぅ、危なかった。

 う~ん、多分咲夜って人、人間じゃないと思うけど……まぁ、いいか。人間を見るのが初めて……ねぇ。どうにもあまり良い雰囲気じゃない。

 ま、そんなことを考えても仕様が無いか。

 

「そだ、フランちゃん。何か飲む?」

「うん、いっぱいお話したから喉が乾いちゃった」

 

 そんなに話したかな?

 さて、何を出そうか。お酒は倫理的にあれだから、ホットミルクでいっか。

 

 

 

 温めた牛乳とハチミツ、そこに少量のラム酒を加える。あ、低脂肪牛乳はオススメしませんよ。

 これが意外と美味しいのだ。

 

 できたホットミルクをフランちゃんに渡す。

 

「ほい、熱いから気をつけてね」

「ありがとう」

 

 うん、お礼の言える良い娘だ。

 そう言って、ホットミルクを一口飲んだあとフランちゃんは不思議そうな顔をした。ありゃ、口に合わんかったかな?

 

「これ不思議な味がするのね。美味しいけど」

 

 ん? あ~、あれか。多分、フランちゃんがいつも飲んでいるのには血液でも入っているんだろう。吸血鬼だし。とはいえ、流石に血液は用意できんよ。まぁ、美味しかったのならいいのかな。

 

「んで、フランちゃんはこの後どうするの? お家に帰らないとだよね?」

 

 もう良い時間だ。ん? 吸血鬼にとってはそうでもないのか。

 

「うー、でもお外は雨だし、帰ったらお姉様に怒られる……」

 

 まぁ、雨は仕様が無いとしても、後半の理由は可愛いな。

 

「でも、早く帰らないともっと怒られるよ?」

「わかってるけど……そうだクロ、私と一緒に行きましょう」

「え? 嫌だよ」

 

 何で吸血鬼の家になど行かなければならんのだ。勘弁してください。

 

「あれ? 台本にはここでクロが了解するって書いてあるけど……」

「おい、カメラ止めろ」

 

 ちょ、ちょっと待ってね。

 台本なんてないからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~テイク2~

 

 

「じゃあ、クロも一緒に謝ってくれるってことでいい?」

「……はい、問題ありません」

 

 世の中には力の差というものがあり、また越えられない壁は存在する。いつだってそうだ。この世界は弱者にばかり厳しい。

 

「でも、お外はまだ雨だよね……どうしよう」

 

 あ~そっか。雨ダメだったね。

 

「まぁ、雨は良いとして、フランちゃんの家って何処にあるの?」

 

 雨くらいならどうとでもなる。

 

「紅魔館」

「うん?」

「私のお家。紅魔館って言うところだよ」

 

 紅魔館……ああ、思い出したわ。フランちゃんの姉ってあの吸血鬼異変を起こしたやつか。

 

 いや、勘弁してくれ……

 

 






お酒の話をもっと書きたいのですが、どうしても説明口調が増えてしまうので、また今度

今回出てきた長~い名前は有名な画家さんの名前ですね
調べてみたら私の知っていたのとは若干違いました
どちらが合っているのかわかりませんが、ネットを信じることに


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第3話~まっかな、まっかな~

 

 

 フランちゃんと手を繋いだまま店の外に出る。

 一見、俺が逃げないよう捕まえているだけに見えるがきっと気のせい。わーい、可愛い女の子とデートだ。

 

 当たり前だけど、店の外は真っ暗。今晩も星が綺麗です。

 

「ねぇ、クロ。どうやったら元の場所に戻れるの?」

 

 フランちゃんが聞いてきた。

 

「このまま真っ直ぐ進めばいい。そうすればあの鳥居の場所に着くよ」

 

 小さいながらも立派に育ってくれた、米・麦畑の脇を通ってまっすぐ進む。頼る明かりは月明かり、ここから先は修羅の国。

 な~んてね。

 

 道を進むと見慣れた景色から黒一色に。んじゃあ、行きましょうか。

 

 

 

 

 

「ん~、こっちに来るのも久しぶりだ」

 

 雨はまだ止んでいなかった。例のごとく、鳥居周辺だけは雨の代わりに花びらが降っている。

 

「どうしよう。雨止んでない……」

 

 ポソリと溢れたフランちゃんの言葉。

 

 目を閉じて少しだけ集中する。

 今回はでっかい規模でやったろうじゃないか。初回限定のサービスです。

 

 自分の中にある能力を使用。ま、こんな時くらいしか使えないしね。

 

 ザーザーと鳴っていた音が消え、代わりにベンゾ‐α‐ピロンの良い香りが鼻を突き抜ける。

 夜桜ってのも良いもんだ。

 

「うわぁ……綺麗」

 

 全ての雨粒を桜の花びらに変える。たったそれだけの能力。

 これだけの規模でやってしまったんだ。明日はきっと紫に怒られるだろう。ま、フランちゃんは喜んでくれたみたいだしいいかな。ハイリスク、ハイリターン。収支はトントンってところ。

 

「よしっ、行こうかフランちゃん。紅魔館って湖の方だよね?」

 

「うん、行きましょう」

 

 可愛い女の子と二人きりで夜のお散歩。

 ゆっくり楽しもうではありませんか。

 

「あれ? 飛ばないの?」

 

 ……普通の人間は飛べません。

 

 

 

 

 

 

 

 紅魔館。

 霧の湖の畔にある、真っ赤な真っ赤な館。正直、この色はどうかと思います。

 

 紅魔館が近づくに連れ、俺の手を握るフランちゃんの力が強くなっていった。あの、もう少し優しく握ってもらえれば嬉しいのですが……

 

 

 そして、そろそろ右手の感覚がなくなる辺りでやっと、紅魔館へ着いた。

 紅魔館ではチャイナ服の女性が、せっせと花びらのお掃除中。ご、ごめん……

 

「妹様は帰ってこないし、綺麗だけど花びらは鬱陶しいし、何なんでしょうか今日は……」

 

「ただいま、美鈴」

 

 俺の手を握ったまま、フランちゃんが美鈴と言う女性に話しかけた。

 あの娘も妖怪なのかな?

 

「あっ! 妹様! もう、何方へ行かれていたのですか? 心配したんですよ」

 

 美鈴と呼ばれる女性が俺達に気づいて声をかけてきた。

 

「それは、貴方が? それともお姉様が?」

 

 握られた手の痛みが強くなる。

 

「あ、その……」

 

「……ごめんね、嫌なこと聞いて。クロ、行きましょう」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。そちらの方は?」

 

「私の友人よ。じゃあね、もう行くわ」

 

「あ~、門番さん? この花びらだけど朝になれば消えるから、掃除はしなくて大丈夫だよ」

 

「えと、はい。わかりました……」

 

 門番さん(でいいのかな?)と別れを告げフランちゃんと紅魔館の中へ。既に雨はやんでいる。けれども雲行きは怪しい。

 

 立派な庭を抜け入った紅魔館は中も紅かった。まぁ、名前通りですね。

 

 エントランスを抜けロビーへと進む。紅魔館の中は見た目以上に中は広く、これじゃあ掃除するのも大変だよな。とか思った。

 

 そして――

 

 

 メイドさんが現れた。

 

 おおー、これはすごい。本物のメイドさんとか、初めて見た。

 

「お帰りなさいませ、妹様。そちらの方は?」

 

 うわっうわぁ、すごい!『お帰りなさいませ』だって! 俺にも言ってくれないかな?

 

「私の友人よ。お姉様はどこ?」

 

「友人……ですか。分かりました。お嬢様は私室です」

 

「そう、ありがとう。わかったわ」

 

 そう言って、フランちゃんは俺の手を引っ張る。あの、さっきから空気が重いのですが……正直、もう帰りたい。

 

 バカみたいに広い真っ赤な廊下を進む。窓はなかった。まぁ、主が吸血鬼だしそりゃそうか。

 

 そして、とある部屋の前でフランちゃんは立ち止まった。たぶん、この部屋の中にお姉様はいるのだろう。

 

 フランちゃんはノックもなしに勢い良くドアを開けた。

 

「……あら、フランじゃない。やっと帰ってきたのね」

 

 中には青みがかった髪の大きな黒いツバサを持った少女が優雅に何かを飲んでいた。

 ……今、一瞬ビクってなってたよね。その服についたシミ飲み物を溢したからだよね。いきなり人が入ってきたらビックリしちゃうよね。仕方無いね。ま、まぁそんなこと言えないけれどさ。

 

「勝手に出て行ってごめんなさい。お姉様」

 

 そう言ってフランちゃんは素直に謝った。

 頭は下げていなかったけれど、誠意は十分に感じられる謝罪。

 

「そう。別に気にしてないわ」

 

 と、フランちゃんのお姉様は言った。

 それだけだった。

 それだけしか言わなかった。

 

「……それ、だけ?」

 

 フランちゃんの小さな声が聞こえた。

 ……こりゃあまた面倒なことになりそうだ。

 

「え? 何か言ったかしら?それで……そこの人間は誰?」

 

 どうやらフランちゃんの声はお姉様に届かなかったらしい。

 

「……私の友人よ。私に付き合ってくれたの」

 

「そう、それはご苦労ね。もう行っていいわよ」

 

 その声を聞いてフランちゃんは無言で部屋をあとにした。握られた手の感覚なんて、とっくに無くなっている。

 

 

 

 

 

「ありがとね、クロ! 一緒に来てもらって」

 

 フランちゃんは無邪気に笑う。

 中身なんてない空っぽの笑顔だ。

 

 

 ――ホント反吐が出る。

 

 

「ん、いいよ。気にすんな」

 

「クロはこの後どうするの? 帰る?」

 

 手は繋いだままフランちゃんが聞いてきた。空っぽの笑顔をその顔面に貼り付けて。

 

「ん~、せっかくだしもう少しフランちゃんに付き合うよ」

 

「ホント? じゃあ、私のお部屋に行きましょう!」

 

 このまま帰るなんてできなかった。

 偽善。

 エゴ。

 何とでも言ってくれ。

 

 

 

 

 フランちゃんに連れられて紅魔館の地下へと進む。此処まで来てしまったんだ。もう後戻りはできないだろう。

 

 可憐な少女の部屋には似合わない重苦しい扉を開けて中へ。中には大きなベットがあるだけで、伽藍堂と言ってもいいレベル。

 

 キモチワルイ……

 

 フランちゃんはベットに腰掛け言った。

 

「お話をしましょう」

 

「……何のお話かな?」

 

 俺は聞いた。

 

「一人の吸血鬼のお話。バカな吸血鬼のお話」

 

「…………」

 

 俺は何も言わなかった。

 言えなかった。

 

 ――その吸血鬼はね。

 

 なんて言葉を落として、フランちゃんは話し始めてくれた。

 

「その吸血鬼はね、色々とおかしかったの。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』そんな能力を持っていて、『きゅっとしてドカーン』ってするだけで、みーんな壊れちゃう。そんな危ない能力。でもね……んー、だからかな。その吸血鬼は皆から怖がられちゃったの。実の姉からもね……苦しかったな~だって、みーんなその吸血鬼のことを壊れ物みたいに接するんだもん。まぁ、確かに壊れてるけどさ……」

 

 フランちゃんは話し続ける。

 感覚を失った俺の手を握ったまま。

 

「だからさ、その吸血鬼は篭っちゃったんだ。皆から受ける視線が、態度が、扱い方が嫌だったから。500年位引き篭ってたかな~。でもさ、他にやることもなかったし、一人でいると色々考えちゃうでしょ? どうすれば皆から嫌われなくなるのかな~とか。なんで、こんな能力を持っちゃったのかな~とか……

 

 

 ――私って死んだ方がいいのかな~とか、さ。

 

 

 フランちゃんはそう言った。

 

「それでね。次にその吸血鬼は自分で死ぬ方法を考えたの。最初は自分の爪で心臓を突き刺したりしたの。でもね、ダメだった。吸血鬼ってなかなか死ねないんだね。だから方法を変えて日光に当たるとか、雨の中に飛び出すとか、銀のナイフを心臓に突き刺すとか。でもね、いざやろうとすると体が動かないの。バカだよね~たぶん自分で死ぬ覚悟が足りなかったんだろうね」

 

 フランちゃんは笑いながら話してくれる。

 俺は何も言わない。

 

「その吸血鬼は考えたの。何で死のうとするのかって……理由は簡単だった。今死ねばまだわからないまま死ねるから。本当は愛されていたんだって思いながら死ねるから。でもね、できなかった。だから……だから最期の賭けをしてみたの。私が消えればたった一人の家族は心配してくれるんじゃないかっていう賭け」

 

 吸血鬼は『私』へと変わっていた。

 これは困ったことになってきた。何が可愛い女の子とデートだよ。

 

 はぁ……しゃーない、腹、括るか。

 

「でもね、ダメだった。帰ってきた私にお姉様は何も言わなかった。怒って欲しかった。心配して欲しかった。本当はさ……本当はわかってたんだ。紅魔館を出て少したった辺りから。私が紅魔館を出たあとに降った雨は、お姉様がパチュリーに頼んだからだと思う。つまり私に帰ってきて欲しくないっていう意思表示」

 

 今ここで『そんなことない!』って言ったらこの娘は救われるのだろうか?

 まぁ、ダメなんだろうなぁ……きっとそんな単純なお話ではないのだから。

 

「たった、少し。本の少しでいいから愛されたかったな~。…………一人ぼっちは、さみしいよ」

 

「ねぇ、クロ。私、どうやったら死ねるのかな?」

 

 そう言ってフランちゃんは下を向いた。

 いつの間にか手は離されていた。

 

 愛されたい。

 死にたい。

 愛されたい。

 死にたい……

 

 

 

 ホント

 

 

 全くもって

 

 

 心の底から

 

 

「……反吐が出る」

 

「え?」

 

「愛されてるのか、愛されていないのか……んなもん直接聞けよ!」

 

 自分のことは棚に上げて叫ぶ。

 

「でも、それでダメだったら……」

 

「そしたらここを出て、自分を愛してくれる場所でも探せ!」

 

 自分にはそんな勇気もないくせして、少女に言葉を叩きつける。

 

「そんな場所ないもん」

 

「ある! もし見つからなかったら、俺の所へ来ればいい! 全力で愛してやるよ」

 

 えと、一応言っておくけど俺はロリコンじゃないからね。

 

「たった500年しか生きてない餓鬼が世界を語るな!」

 

「……ありがとう」

 

 そう言ってフランちゃんは漸く顔を上げでくれた。

 しかし、その顔には笑顔が……黒い、どす黒く染まった笑顔が。

 

「ありがとう、クロ。希望が、少しだけだけど希望が持てた。でも、もういいんだ。疲れちゃった。それにこの希望だけでこれから先も生きていける。ねぇ、クロ最期のお願いを聞いてもいい?」

 

 

 さて、漸く本番だ。

 

 

「……何でも来いや」

 

 

「殺し合いをしましょう?」

 

 

 ここから先は修羅の国。

 

 虚勢を張って胸を張れ。

 

「かかってこいや、引き篭り初心者が。この業界の厳しさを教えてやるよ」

 

 






なかなか進まない物語
読み返す度に見つかる誤字脱字
頑張ります


感想・質問何でもお待ちしております


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第4話~愛して、愛され~

 

 

 この勝負に勝てないことくらいわかっている。

 

 相手は妖怪最強種の鬼。こちらはただの人間。

 

 

 これは意地。

 自分の思うことを通そうとする心。

 

 胸張って、虚勢を張って意地を張る。いつだってそうやって生きてきた。

 

 意地の張り合い。

 八つ当たり。

 

 一矢を報いるために賭けるは己の命。ハイリスク、ローリターン。つまり、いつも通りだ。

 

 

 

 

 

 フランちゃんの部屋じゃ殺し合いをするのに狭すぎた。それでロビーへ移動することに。

 その間はお互いに無言。流石に手は繋がなかった。

 

 ロビーに着きお互いに向き合う。

 

「はい、クロにあげる」

 

 そう言って、フランちゃんが一本のナイフを差し出してきた。

 

「えと、これは?」

 

「銀のナイフ。不公平でしょ? だってクロは人間。私は化物だもの」

 

 銀のナイフか。

 

「ん~、そのナイフはいらんよ。もう持ってる」

 

 懐から一本のナイフを取り出す。

 肌身離さず持ってる大切な相棒だ。

 

「あはっ。な~んだ、そうなんだ……クロはこうなることわかってたんだね」

 

「いや。このナイフは常に持ってるんだよ。未来なんて誰にもわからんさ」

 

 俺には珍しく嘘偽り無い本音です。

 

「ふ~ん。そう……じゃあ、始めましょう?」

 

 そう言ってフランちゃんは飛び上がった。

 さて、地獄の始まりだ……

 

 

 

 

 

 飛び上がったフランちゃんから色鮮やかな大量の妖弾。いきなりですか……

 

 なけなしの霊力で身体強化。

 

 致命傷になりそうな弾だけを避ける。雑魚は無視。

 こちらからも霊弾を放ってみるがフランちゃんのそれと比べて、速度は半分、密度は十分の一ほど。

 悲しいけどこれが俺の出せる限界なんだよね……霊力なんてほとんどないし。

 

 こちらの手持ちカードは2枚。

 あちらは無限大。

 正に絶望的だ。

 

「すごい! すごい!! クロってば飛べないのに避けるのが上手いのね!!」

 

 無邪気に笑うフランちゃん。

 楽しそうで何よりだよ此畜生……

 

 

 そして、笑っていたフランちゃんの姿が一瞬ぶれた。

 

 反射的にナイフを盾にする。

 瞬間、ナイフ越しに届いた衝撃は体を突き抜けた。

 受けきれず吹っ飛ぶ体。

 

 勘弁して欲しい。何をされたのかすらわからん。

 頭の奥がチリチリと痛む。霊力の限界も近い。

 

「これも避けちゃうんだね……」

 

 いや、直撃でしたよ?

 胃から迫り上がってきた血を吐き出す。

 

 フランちゃんは再び飛び上がり妖弾を放ってきた。密度は今までのよりもずっと濃い。

 

 

 参った……これは、避けきれん。

 

 

 今か? 今使う時か?

 

 いや……まだ、まだ耐えられる。

 

 残り僅かな霊力を使って体を無理やり動かす。脳が熱い。

 避けきれない弾は左腕でガード。左手はフランちゃんの愛の証で握力なんて残っていない。そんな腕、あって無くても同じだ。

 

 

 その結果、酷使した左腕は肘から先が無くなった。

 

「ーーーっつ!!」

 

 歯を噛み締め声を押し殺す。

 砕けた奥歯は溜まった血と一緒に吐き出した。

 

 

 こちらは満身創痍。

 あちらは無傷。

 

 何だよ……この差は何だ? 種族? センス?

 いくら努力しても、どんなに頑張ろうと埋まらないこの差は……

 

 

「すごいね……本当にクロってすごいね。まだ生きてるんだ。ごめんね、その腕、痛いよね。次はできるだけ痛くないようにする。一瞬で終わらせるから……」

 

 血が止まらない。

 止血をする暇はない。

 

「ありがとう、本当にありがとう、クロ。貴方と会えて心の底から嬉しかった」

 

 フランちゃんのキューティーボイスが上手く聞こえない。片方の鼓膜も破れたらしい。

 立っているのも辛い。

 

「ホント、勝手なことを言ってくれるよ……」

 

 フランちゃんから放たれ降り注ぐ弾幕。

 

 

 ……集中しろ

 

 とっくに限界なんて超えている。それでも、やらなきゃならんのだ。

 ありもしない霊力を搾り出す。既に脳は焼き切れる寸前。

 

 けれども、まだ張れる意地くらいなら残っている。

 

 時の流れが遅く感じた。

 極限状態。

 フランちゃんの飛んでいる位置を確認。

 

 

 ――さぁ、反撃開始だ。

 

 

 

 2枚のカードの内、1枚目。

 能力を使用。

 

 降り注ぐ弾の全てを、桜の花びらへと変える。結果、視界は薄桃色で染まった。

 

 『降りかかる物を桜の花びらに変える程度の能力』それが俺の能力。

 

 もちろん、フランちゃんはこの能力を知らない。精々、雨を桜の花びらに変える位にしか思っていないだろう。

 

 

 そして2枚目。

 

 両足に力を込め()()()()()

 

 そりゃあ、お前らみたいに長く早く飛び続けることはできないさ。

 ただ……一瞬だけ、瞬間速度だけなら天狗にだって負けない。

 

 一瞬だけならお前らと並べる。

 一瞬だけならお前らを抜ける。

 

 それだけの努力はしてきた。

 それだけの悪あがきを続けてきた。

 

 先ほど確認したフランちゃんの位置まで一直線。桜の花びらを押しのけ突き進む。

 俺が近づいて来ているのをフランちゃんは気づいたらしく、炎を手に纏い始めた。でも、それじゃあ間に合わない。

 

 ナイフを握った右手に力を込める。

 胸骨から指2本分上。目指すは相手の心臓。

 

 

 渾身の力を込めてフランちゃんにナイフを突き立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 な~んてね。

 

 シャコっと間の抜けた音がナイフから響く。

 

 ナイフの刀身は柄の中へ。

 

 このナイフじゃ、紙だって切れるか怪しい。そもそも刃もないしね。

 

 殺す?

 フランちゃんを俺が?

 無理無理、できるわけがない。だいたい俺がフランちゃんを殺す理由なんて何もないしな。

 

 

 わはは、どうだ! どうよ? 吸血鬼から一本取ってやったぜ。

 

 

 

 

 と、ここで勝負が終われば俺にとって完璧だったのだろう。まぁ、終わるわけがない。

 

 驚いた顔をしたフランちゃんの右手が俺に迫る。

 その手には、炎の剣。

 

 ソイツが俺の左肺を貫いた。

 

 

 

 

 全身に衝撃が走った。

 当たり前か……地面に撃ち落とされたのだから。

 

 落ちた衝撃で肺の中の空気は押し出された。空気を吸おうとしても上手く吸えない。

 声も出ない。

 何も聞こえない。

 痛みすらも感じない……

 

 ぼやけた視界にフランちゃんが映る。

 

「ーーーっ! ーーーーっ!!」

 

 あ~、悪い。

 何言ってるのか、わかんねーや。

 

 触覚なんてないはずなのに寒気を感じる。

 

 もう、ダメっぽい。視界が黒へと変わり始めている。

 

 少しだけ……少しだけ休むとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

『もう、もうダメなのか?』

 

『う~ん、そだね。これは厳しかも。あはは~』

 

『なんで……なんで自分じゃなくて、俺に能力を使ったんだよ』

 

『それを聞く? だってさ私より黒に、貴方に生きていて欲しかったんだもの。その理由も言おうか?』

 

『……いや、それはいい』

 

『ねぇ、黒』

 

『何さ、白』

 

『最期のお願い。私が私でいられる内の最期のお願いを聞いてもらっていい?』

 

『ああ、何でも』

 

『ありがと。じゃあさ――

 

 

 

――――――――

 

 

 泣き声が聞こえた。

 

 最初に戻ったのは聴覚。

 続いて口内に残る血の匂いと味を感じ、嗅覚と味覚が戻ったのがわかる。さらに、黒一色の景色から一変。可愛らしい少女が映る。視覚も帰ってきた。

 温もりを感じられたのは最後だった。

 

 フランちゃんは俺の頭を抱いているらしい。

 

 あんまり強くしないでね? 頭がパーンとかなるの嫌だからね?

 

 

「あの、フランちゃん? そろそろ離してくれない?」

 

 声は普通に出た。

 本当はもう少し続けてもらっても構わないのだが、やっぱり怖い。

 

「ふぇ……?」

 

 泣き声は止まり、そんな可愛らしい声が聞こえた。

 

「ど、どうして? なんでクロは生きているの?」

 

 涙声。

 フランちゃんが聞いてきた。

 

「ちょっと昔に色々あってさ、不老不死になったんだ。それだけだよ」

 

 昔、昔の物語です。

 

「なぁ、フランちゃん。例えお前が皆から嫌われたとしても、俺は嫌わない。むしろ、さっき言ったように全力で愛してやるよ。だからさ……簡単に死ぬなんて、死にたいだなんて言わないで欲しいかな。生きていたって仕様が無いかもしれんけど、死んだって仕様がないだろ? それに、人生捨てたもんでもないんだぜ」

 

 月並みのセリフ。

 よくあるセリフ。あ~もう、恥ずかしい。

 

 俺のセリフを聞いてなのかはわからないが、フランちゃんはまた泣き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 泣き疲れたのか、フランちゃんは俺の頭を抱いたまま寝てしまった。

 さて、そろそろ起きるとしようか。

 体は元通り。ホント便利な体質ですよ……

 

 

 寝てしまったフランちゃんをどうしようか悩んでいると、奥の方からお姉様とメイドさんが現れた。

 

「ちょうど良かった。メイドさん。フランちゃんをお願いしてもいい?」

 

 ナイスタイミングです。

 

「十六夜咲夜」

 

 メイドさんが言った。

 

「?」

 

「私の名前です。気軽に咲夜とお呼び下さい。あ、さっきゅんでも構いませんよ?」

 

「……フランちゃんをよろしく、咲夜さん」

 

「承りました」

 

 咲夜さんの声が聞こえ、気づいた時にはフランちゃんの姿も消えていた。

 

 か、変わった性格のメイドさんですね。

 

 そか、あれがフランちゃんの言っていた咲夜って言う人間か。突然消えたのは何かの能力だろう。

 

「レミリア・スカーレット。フランの姉で一応この紅魔館の主をやっているわ。貴方は?」

 

 お姉様――レミリアが聞いてきた。

 

「黒、フランちゃんの友人で一応カフェのオーナーをやているよ」

 

「カフェねぇ……今度、暇なときにでも行ってみるわ。……さて、黒。フランの姉としてお礼を言うわ。あの娘と遊んでくれて、ありがとう」

 

 ん? あれ?

 なんかお礼を言われたぞ。これはどういう……もしかして俺が勘違いしていたのか?

 

「な、なぁ、レミリア。質問してもいいか?」

 

「咲夜には『さん』付けで私は呼び捨てなのね」

 

 いや、だってお前みたいなちっこいのに『さん』付けは似合わんだろ。まだ『レミリアちゃん』のがしっくりくる。

 

「『さん』って付けた方がいい?」

 

「別に付けなくてもいいわよ。それくらいで怒るほど私の器は小さくない。それで、質問だったわよね? いいわよ答えてあげる」

 

「レミリアってフランちゃんのこと嫌いなの?」

 

 ど真ん中のスレート。直球勝負。

 まどろこしいのは嫌いなのだ。

 

「は? 私がフランのことを? そんなわけないでしょ。フランは私にとってたった一人の家族なのよ? むしろその逆よ」

 

 ん?

 んん?

 よくわからなくなってきた。

 

「いや、だってせっかくフランちゃんが帰ってきたのに、レミリアの反応は滅茶苦茶冷たかったじゃん」

 

「あれは……その、ほら……姉としての威厳を妹に見せたかっただけよ」

 

 ポソリとレミリアが呟く。

 ……え? ええ?

 

 

「妹様が出て行ってしまったときは大変でした」

 

 いつの間にか咲夜さんが戻ってきていた。ビックリするからいきなり出てくるのはやめてほしい。

 

「ん~……どういうこと?」

 

「はい、外は雨だというのにお嬢様は『フランを探しに行く!!』と言って大暴れ。終いには、パチュリー様に泣きながら雨を止めてくれと頼んでいました。正直あの姿は主としてどうかと……」

 

「こ、こら咲夜! 黙りなさい!! 仕方ないじゃない。フランのことが心配だったのよ」

 

 待て、待ってくれ。頭が追いつかない。

 

「うわー……部屋がぐちゃぐちゃです! せっかく門番の仕事が終わったのに……」

 

 今度はエントランスの方から門番さんが現れた。

 

「あ、門番さん。門番さん。さっきさフランちゃんに質問されたとき答えにくそうにしたじゃん。あれって何で?」

 

 最後の疑問。

 もう答えはなんとなくわかっているけど。

 

「あ、妹様の御友人の方ですね。紅美鈴です。えと……あれは、お嬢様が正直どうかと思うくらい暴れ狂っていたことを妹様に言うのは流石にと……」

 

「美鈴!」

 

 顔を真っ赤に染めて怒るレミリア。

 

「えっ? す、すみません! まさか、お嬢様がおられるとは思わなくて、つい……」

 

 はぁ、なんだかなぁ……

 

「……なあ、レミリア。フランちゃんのことは愛しているか?」

 

 最後の質問。

 

「当たり前じゃない。例えフランが私のことをどう思っていようが、胸を張って言えるわ。私はフランを愛しているわ」

 

 即答。

 そっか。

 そういうことなんだな。

 

 

 結局は、ただのすれ違いだったのだ。ちょっとした勘違いの連続。

 

 一方は勝手に嫌われていると思い。

 一方は愛情表現が上手くできなかっただけ。

 

 お互いに愛し合っているはずなのに……

 

 愛と言う字を解いてみると、糸し糸しと言う心。言葉にしなければ伝わらない。

 

 どっかの誰かが歌ってた。

 壊れるほど愛しても三分の一も伝わらない。

 

 詰まる所、そんなものなんだろう。

 

 

 はぁ、結論的に俺がただ空回りしただけだった。これじゃあとんだピエロだ。

 

「レミリア」

 

「なに?」

 

「言葉にしなきゃ伝わんないぜ?」

 

「……それくらいわかっているわよ。ただ、ほら……恥ずかしいじゃない」

 

 どちらかが、もう少しだけ勇気を出していれば起こり得なかった問題。まぁ、これから頑張ればいいよ。たった500年の溝なんてすぐ埋まる。

 

「ん~、じゃあ、俺は帰るよ」

 

 エントランスに向かってゆっくりと歩き始める。

 

「フランが目を覚ましたとき、貴方がいなかたら悲しむわよ?」

 

 後ろから声がした。

 

「また来るって伝えといてくれ。それでも悲しむようなら、レミリアがなんとかすればいい。ま、頑張ってくれや。お姉様」

 

 

 

 

 

 

 レミリア達と一方的な別れを告げ紅魔館を後に。

 いつの間にか雨は止み、東の空は赤くなり始めていた。

 あ~、眠い。大きなあくびを一つ。

 

 

「『死にたいだなんて言うな』だったわよね? フフッ、自分のことは棚に上げてよく言えたわね」

 

 神出鬼没。

 紫現る。

 

「ずっと見てたのか?」

 

「さあ、どうでしょう? ただ、夜更かしした甲斐はありましたわ」

 

 そう言って紫は笑う。さいですか。

 

「……また死ねなかったのね。実はあの吸血鬼の能力に期待していた?」

 

「さあ、どうだろうね? なあ紫。家まで送ってくれ。今日はちょっと疲れたわ」

 

「フフッ。わかりましたわ。スキマツアーに御案な~い」

 

 

 ……ホント、俺はいつになったら死ねるんだろうね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 以上でこのお話は終わり。

 オチなんて何もない。

 

 それから俺は、紅魔館へ偶にだけど遊びに行くようになった。フランちゃんと遊んだり、レミリアで遊んだり、咲夜さんに遊ばれたり、美鈴と駄弁ったりする。

 図書館にいる魔女さんとの絡みはあまりないかな。彼女も彼女で無口だしね。

 

 フランちゃんとレミリアの仲は、まずまずと言ったところ。まぁ、焦る必要なんてないさ。

 

 後日談はこんなものだろうか。

 

 明日はその紅魔館へ。

 スペルカードルール……ねぇ。一枚くらいは考えておかないとかな。

 

 

 






……お酒の『お』の字も出やしませんでしたね
書きすぎました
猛反省中です
しかも次から紅魔郷スタートとか……
閑話でも書こうかな


別に隠していたわけでもありませんが、主人公の能力と秘密を公開

では、次話でお会いしましょう


感想・質問何でもお待ちしております


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第閑話~日本酒を語ろう~



~注意!!~

本編とは何の関係もありません
イラッ☆っときたらブラウザバック推奨

メタ発言、キャラ崩壊、時系列無視が含まれます
他にも色々あるかもしれません
読んでくれると作者が小躍りします

では、始めます




 

 

「第一回!! 黒さんのお酒講座~inカフェ迷い人~」

 

 ドンドンパフパフー。

 今回はテンション高めで行くぜ。

 

「……なんか始まったわ」

 

 

「と、いうわけで、本日のゲストを紹介。んじゃあ、一人ずつどうぞ」

 

「私から? 博麗霊夢よ」

 

 はい、まずは一人目は霊夢です。

 いつも気怠で貧乏腋巫女。どうでもいいからツケ払え。

 

「なんか馬鹿にされた気がする……んでこっちの奴は誰よ?」

 

「ん? 私かい? 私は星熊勇儀だ。種族は鬼で、山の四天王の一人」

 

 今は山にいないけどな。

 そんなことで、二人目は皆大好き勇儀姐さんでした~

 

 本日のゲストは以上です。

 

「はい、質問がある人はどうぞ」

 

「はい」

 

「お、どうした勇儀?」

 

「何で私が呼ばれたんだ? ほら、普通なら萃香とかだろ?」

 

 

 むぅ、答えにくいことを・……

 

 

「いやね、最初は霊夢と萃香にしようと思ってたんだけどさ、ほら萃香はその内出番が来るじゃん。萃夢想とかさ。でも、ほら勇儀は……な?」

 

 頼むこれでわかってくれ。

 伝われこの思い。

 

「ん~……うん? さっぱりわからん」

 

 ですよね~。以心伝心って難しいんだな。

 

「だって勇儀って地霊殿まで出番ないだろ? つまり出番が合ったとしても、だいぶ先なわけだ。んで、俺の予想だと作者は風神録辺りで力尽きる。つまりこの作品に勇儀の出番はなし。オーケー?」

 

「ぶっちゃけたわね」

 

 黙らっしゃい霊夢。

 そんな体力なんてないんだ。タグに『作者逃亡予定シリーズ』とか付けようかな。

 

 いや、冗談ですよ?

 

「つまり、私は同情されて呼ばれたのか……」

 

「いや、純粋に作者が勇儀のことを好きなだけかもしれんよ?」

 

 知らんけど。

 

 さてさて、気を取り直して。

 

「んじゃあ、始めるぞ。まずは日本酒の歴史から。日本酒の起源には諸説あるんだけど、一般的に言われているのが、今から約1300年前だな」

 

 それよりも昔にもお酒はあったが、それが日本酒だったのかどうかはわからない。っていうのが一般的な意見らしい。

 記述として残っているので、一番古いのがその辺の時代なんだとさ。

 

「いや、もっと昔からあったぞ?」

 

 

「ああ……うん、勇儀が言うならそうなんだろうな」

 

 これだから年配者は……話が進まないから勇儀の意見はスルーで。

 

「んで、その1300年前に作られた日本酒ってのは2種類ある。1つは現在も使用されている米麹によるもの。もう1つは口噛み酒だ」

 

 口噛み酒が日本酒かどうかと言われると怪しいところではあるけど。

 

「口噛み酒? なにそれ? 噛むの?」

 

「そう噛むの。やり方は色々あるけど、ようは原料を噛んで吐き出す。その後、放置しておくと酒になるっていうやり方だよ」

 

 ようは、唾液中のアミラーゼが糖を分解してお酒にするってこと。

 

 飲んだことないから、どんな味なのかは知らん。あと、そんな酒飲みたくない。

 

「なんか汚いわね」

 

「まぁ、そんなもんだろ」

 

「う~ん、私はそんなやり方見たことないけどな」

 

「そりゃ、お前ら鬼は酒虫使えばすぐお酒ができるし、そんな方法は知らなくても問題ないからな。因みにだけど、勇儀たち鬼が飲んでる酒は日本酒じゃないぞ」

 

「え? じゃあ何なのさ?」

 

 何と言われても困るんだけど……

 

「え~とな、日本酒っていうのは主な原料に米と米麹と水を使って作られ、アルコール分が22度未満のものだ。でも、お前らが作っている酒の原料は水とよくわからん虫のエキスだろ?しかもそれ、アルコール何%だよ……つまり日本酒と言えないってわけ」

 

 やろうと思えばアルコール分50%近くのやつもできるんだが、分類的にはリキュールになる。

 補足だけど、日本酒に使われる米は酒米と呼ばれ、コシヒカリなどの一般米とはちょっと違う。品種で言うと、山田錦や五百万石なんかが有名。特徴は一般米と比べ、粒が大きくタンパク質や脂肪分が少ないこと。

 

「まぁ、私は飲めれば何でもいいけどねぇ」

 

 勇儀はまぁ、そうだろうな。そんな性格っぽいし。

 

「んじゃあ、次に日本酒の種類だな。本醸造酒、純米酒、吟醸酒とかあるけれど、幻想郷で作られているのは純米酒だから、それの分類の仕方だな。純米大吟醸とか聞いたことあるだろ?」

 

 純米酒っていうのは、原料が米・米麹・水だけの日本酒のこと。本醸造酒や吟醸酒はそれに加えて、味を整えるために醸造アルコールを入れる。

 

「まぁ、聞いたことくらいわあるわね」

 

「その名前の付け方だが、精米歩合ってわかる?」

 

「ん~私はわからんよ」

 

「私も知らないわ」

 

 まぁ、そうだわな。

 てか、幻想郷って精米してるのかな?

 

「んじゃあ、そっから。精米歩合ってのは簡単に言うと『白米の重量/玄米の重量』つまり、搗精。一般的には精米した量のことだね」

 

「その精米歩合でお酒の名前が変わるの?」

 

「うん、そういうこと。精米歩合が50%以下のもを『純米大吟醸酒』60%以下のものを『純米吟醸酒』それ以外が『純米酒』だな」

 

 材料は米と米麹と水のみ。

 因みに、勇儀の星熊杯は注がれた酒を純米大吟醸にするらしい。工業エタノールとかでもなるのだろうか?

 

「それで……その精米歩合で何が変わるのさ?」

 

「発酵の時間なんかも変わるけど、ぶっちゃけると値段かな。精米歩合が低いほど値段が高くなる。まぁ、精米すればするだけ材料が減るんだから当たり前だけど」

 

「味に変わりはないの?」

 

「う~ん……一般的に言われるのが、純米大吟醸は純米吟醸と比べて香りが穏やかで、味わい深くなるそうだ。俺には違いがわからんけど」

 

 よし、こんなもんでいいでしょ。

 

「日本酒の作り方の説明はめんど……じゃなくて、長くなるから飛ばすぞ」

 

 3段仕込みや、酵素のはたらきや種類なんかの説明もしたいけれど本当に長くなる。具体的に言うと、一万文字くらいになるから省略です。

 

「適当にやっても作れるものね」

 

「そうだな」

 

「……勇儀はいいとしても、霊夢はおかしいからな?」

 

 なぜ霊夢は、適当にやって美味しい日本酒を作れるのか謎だ。

 

 いや、ホント。大変なんですよ? 日本酒作りって。

 

「まぁ、純米だとか大吟醸だとか言っても味なんて結局は人の好みだからね。自分に合った日本酒が一番だよ」

 

「ふ~ん、で。黒はどんな日本酒が好きなの?」

 

「俺は日本酒より麦酒のが好きだ」

 

 答えになってない気もするが、日本酒はちょっと……日本酒の緑茶割とかは好きなんだけどねぇ。

 

「また、ぶっちゃけたわね」

 

 こまけーことはいーんだよ。それにお酒と言ったら日本酒だろ? 麦酒やワイン・焼酎のお話はまた今度。

 

 さてさて、そろそろ終わらせよっか。

 

「日本酒の原料はほとんどが米だ。つまり米に合うものなら日本酒に合う。日本酒が苦手な人もいると思うけれど、日本酒の種類や飲み方なんて沢山あるんだ。自分に合った日本酒を、自分に合った飲み方で飲んでみると日本酒の印象ってのはガラリと変わるかもな。そこに美味しいおつまみなんかも一緒にね。以上、黒さんのお酒講座でした」

 

 

 

 

 

「誰に対して言ってるのよ?」

 

 画面の向こうの皆にです。

 

 

「なぁ、なぁ、どうでもいいから酒を飲もう」

 

「いいわね。私も飲みたいわ」

 

「いや、霊夢。ツケをどうにかしてから……」

 

「最近、お賽銭が少ないのよ」

 

「元から少ないだろ……」

 

 

 







全くもって本編とは関係ありませんでしたが、少しでもお酒の話を書いておかないと、作者の豆腐メンタルが崩壊するので書きました
本文でチラっと書いたように、本当はもっと長くなる予定でした
発酵とか仕込みのお話ですね
しかし、軽く一万文字オーバーしてしまったので大幅にカット
結局、日本酒の表面的なお話しかできませんでしたし、実はかなり適当なことを言っているかもしれません
そのような箇所があれば、教えていただけると嬉しいです


質問・感想は特にお待ちしておりませんが、書いていただければ作者が踊ります



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第5話~親子みたいなもんです~

 

 

 パッチリと目を開ける。腕を伸ばしてグーパーを2回。

 うん、五体満足だ。

 

 えと、今日は……そっか、紅魔館に行くんだった。どっかのスキマ妖怪とは違い、寝起きはしっかりしている方だと自分で思う。

 まぁ、自分で思っているだけだけどさ。

 

 とりあえず時間を確認。

 

 時計は12時を示していた。

 

 ……完全に寝過ごした。

 

「ま、まぁ、こんなこともあるよな?」

 

 何が『寝起きはしっかりしている方だ』そりゃ、こんだけ寝たのだからしっかりもするはずだ。

 

 顔を洗って歯を磨く。飯は食べない。それぐらいじゃ死んだりはしないし。

 

 やや急ぎながら店を出る。ドアにかけてある看板は『CLOSED』のままに。どうせお客さんなんて来ないだろうけれど、念の為にね。

 

 米・麦畑を突っ切り外の世界へ。

 行き先は博麗神社。

 

 霊夢のやつ、まだ行ってないと良いけど……なんて考えていると、視界が黒一色へ変わった。

 

 ここまで、起きてから15分といったところ。

 頑張りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと」

 

 少しバランスを崩しながらも博麗神社に到着。今回は博麗神社の鳥居を使わせてもらいました。

 

 天気は晴れ――なはずだけれど、どこか怪しい。

 太陽は出ているが何処か薄暗い。

 

 それなりに綺麗な境内を進み母屋の方へ。

 

 

 そして其処には霊夢がいた。

 てか縁側に腰掛けて、のんびりとお茶を飲んでいた。

 

 ……俺が言うのもアレだが、それで良いのか博麗の巫女。仕事しなさいよ。

 

「あら黒じゃない、珍しいわね、あんたが来るなんて。どうしたの?」

 

 俺に気づいた霊夢が声をかけてきた。

 

「まぁ、ね……なぁ、霊夢。この空を見て何か思わなかった?」

 

「ん? そうね……ちょっと暗いかしら? お洗濯物が乾きにくそうだわ。あと、何か嫌な感じがする」

 

 霊夢の中では、お洗濯物>嫌な感じ。ということだろうか? 洗濯物以下とかレミリア泣くぞ。

 とは言うものの、何かがおかしいことには気がついているっぽい。

 

 さて、どうやってこのぐうたらな巫女を動かすか……

 う~ん……ま、普通に言えば良いのかな。

 

「異変が起きたんだよ。紫が解決して来いってさ。んで、俺はその付き添い」

 

「面倒臭いわね。大丈夫よ。ちゃんと解決するわ」

 

 ――ちょっとお昼寝した後にね。

 

 なんて霊夢は言った。

 

 そして大きなあくびを一つ。そのまま縁側に寝転んでしまった。

 

 大丈夫か? 幻想郷。

 

 ま、確かに心地よい天気とは言えないが、お昼寝にはいい気温。だから、俺もお昼寝することに。

 そんな気分なのだ。

 

「あら、黒もお昼寝? じゃあ腕を貸して」

 

 霊夢の隣に寝転び腕を差し出す。

 そして枕にされた。所謂、腕枕。

 

「黒も小さくなったわね」

 

 人の腕を枕にしながら霊夢が言った。

 

「霊夢が大きくなったんだろ」

 

「そうかしら? 実感がわかないわ」

 

「いや、昔と比べたらかなり大きくなったよ」

 

 ただ、まぁ、一部を抜かしてだけどさ。霊夢の小さな胸を見ながら、そんなことをふと思った。

 

 

「おい、カメラ止めろ」

 

 霊夢がキレた。

 

 あ、あっれ~? 声に出してないんだけどな……

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

『はい、これ黒にあげる』

 

『ん? 何これ? ナイフ?』

 

『そ、ナイフ。ただちょっとだけ特殊なナイフだよ』

 

『特殊ねぇ。ありゃ、刀身が引っ込むじゃん、これ。何に使えばいいのさ?』

 

『さぁ』

 

『さぁってお前……しかもこれ、刃がないぞ』

 

『はがない?』

 

『確かに、俺は友達が少ないけどな……って何言わすんじゃ』

 

『…………』

 

『…………』

 

『……ごめん』

 

『頼むから謝らないでくれ。よけいに悲しくなる……』

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぎゃ」

 

 顔面にかかった重しのせいで起こされた。

 

「いつまで寝ているの。ほら、そろそろ行くわよ」

 

 重しの原因は霊夢の足。お凸を踏まれていた。

 

 女の子としてその行動はどうなんだ?

 

 そして、スカートの中がチラリ。

 

 

「ふむ……白kびゃぁぁあああ、痛い!!」

 

「…………」

 

 無言で霊夢に蹴られた。ここで少しでも恥じらってくれれば可愛げもあるというのに……

 

 

 

 辺りは暗く、もう夜と言ってもいい時間だろう。なんとなく空気が重い。なんとも嫌な感じ。

 仄暗い空にぽっかりと浮かぶ満月が異様に不気味だった。

 

 流石に寝すぎたな……枕にされた腕はしびれてるし。

 

「それで、私は何処へ行けばいいのかしら? 黒は知っているんでしょ?」

 

「ん~、まぁ、知ってるけど教えられないかな。自力で頑張ってくれ。俺は霊夢について行くよ」

 

 霊夢ならきっと勘だけでたどり着くことだろう。

 

「何よ、ケチくさいわね」

 

 ……霊夢にだけは言われたくないセリフだった。

 

 

 

 博麗神社を飛び立ち少しすると、異変のせいか興奮した妖精たちの手厚い歓迎が待っていた。

 

 けれども、そんなことはお構いなしに突き進む霊夢さんは次々と妖精たちを蹴散らしていく。

 

 ん? 俺ですか? 霊夢について行くだけで精一杯ですよ?

 能力を使わなければ5分でピチュる。情けないけれど、俺の実力なんてそんなものなんだよね。

 

 霊夢は紅魔館へほぼ一直線と言っていいくらいに進んでいる。コイツの勘は絶対おかしい。

 

 暫く進むと、急に妖精たちの攻撃が緩くなった。

 

 そして目の前には――

 

 

「何かしら、あれ」

 

 霊夢が言った。

 

「闇……かな?」

 

 目の前にフヨフヨと浮かぶ黒い球体。

 

 おやおや? 闇の中から女の子が出てきましたよ。

 

「何で手を広げているんだ?」

 

「私に聞かれても知らないわよ。まぁ、変な奴であることは確かね」

 

「変な奴って誰のこと?」

 

 その女の子が聞いてきた。

 

「あんたのことよ」

 

「失礼ね。確かに……ちょっと変かもしれないけれど、ちょっとだけよ。えと、夜にいる人類は食べてもいいんだっけ?」

 

「今日はダメらしいわよ」

 

「そーなのかー」

 

「で、邪魔なのよ。あんた」

 

「目の前の人類は取って食べれる人類?」

 

「目の前の妖怪は退治しても良い妖怪であることは確かね」

 

 会話の終わりは弾幕ごっこの始まり。さてさて、俺は先に進むとするかな。

 

「あ、黒。何処へ行くのよ」

 

 霊夢が聞いてきた。

 

「ゴールで待ってるよ」

 

「ずるい! ちゃんと順番通りに進まないとダメよ?」

 

「安心しとけ、このお話の主人公はお前だ」

 

 モブキャラはモブキャラに徹するさ。

 

「どう言う意味?」

 

 さぁ? どう言う意味だろうね。

 

「夜符『ナイトバード』!」

 

 女の子の声が聞こえた。

 ここからは弾幕ごっこ。花々しい女の子には似合うけれど、俺のような歳食ったおっさんには似合わんよ。

 

 霊夢を置いて先へと進む。でも、霊夢なら大丈夫。

 だってアイツ、ずるいほど強いしな。

 

 

 

 

 

 

 紅魔館に近づけば近づくほど景色は紅く染まっていった。どうやらレミリアも頑張ってるらしい。

 

 地面スレスレを飛びながら紅魔館へと進む。

 上から降ってくる妖精たちの弾幕は能力で桜の花びらに。ちょっとずるいけれど、まぁ許してほしいかな。

 

 ポッカリ浮かんだ満月の明かりに照らされた霧の湖も真っ赤な霧で覆われ、いっそう不気味さを増している。

 

 月は紅かった。

 

 

 水面スレスレを飛んで湖を突っ切る。

 ようやっと紅魔館に到着です。

 

 ん? 何か飛ばした? おてんば恋娘?

 

 その娘の登場はまだまだ先です。大丈夫。きっと忘れることなんてないから。

 

 

 紅い霧に覆われた紅魔館はさらに赤く、紅く染まっていた。

 

 紅魔館の門では例のごとく美鈴が……倒れていた。

 

「えへへ……もう駄目だ。また咲夜さんに怒られる。減給かなぁ。もしかしたらクビかも……生まれ変わったらお花屋さんになりたい」

 

 ……非常に声をかけづらい。

 だ、大丈夫ですか?

 

「あ、あの~美鈴?」

 

「あ、黒さん。お久しぶりです。情けない姿をお見せして、すみません。今日はどうしたんですか?」

 

 流石と言うべきか、俺の声を聞くと美鈴はスッと立ち上がり返事をした。切り替えの早さがパない。

 パないの!

 

「ん~、紅魔館の様子見かな。入って行っても大丈夫?」

 

「はい、ちょっと慌ただしいと思いますが大丈夫ですよ。妹様も喜びます」

 

 ありゃ、フランちゃんも起きちゃってるのか。まぁ、吸血鬼にはいい時間だしなぁ。

 

「そか、そりゃ良かった。んで美鈴はどうしたの?」

 

「先ほど現れた白黒の魔法使いにやられました……武術なら負けませんが、弾幕ごっこはどうにも苦手で」

 

 ――また咲夜さんに怒られます。

 

 なんて美鈴の悲しそうな声が響いた。

 

 白黒の魔法使いって言うのは魔理沙ちゃんのことなんだろう。俺は知らなかったけれど、実はけっこう強いんだね。

 

「そっか、苦労してるんだな……たぶんもう少ししたら、紅白巫女が現れると思うけど、まぁ、頑張ってくれ」

 

「そう言ってくれるのは黒さんだけです……はい、頑張ります!」

 

 

 美鈴と別れ庭を進む。

 そして重苦しい扉を開けて紅魔館の中へ。

 

 鬼が出るか蛇が出るか。

 

 運命なんて誰にもわからないけれど、今回出てくるのは鬼で間違いなさそうだ。

 

 






霊夢さんと主人公の関係はこんな感じ
仲は良い方……なのかな?

愛すべきあのキャラクターの登場はもうちょっと先になりそうです
前回の作品では出してあげれませんでしたので、今回はちゃんと出します
出させます
たぶん……


感想・質問何でもお待ちしております


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第閑話~ワインを語ろう~



~注意!!~

本編とは何の関係もありません
イラッ☆っときたらブラウザバック推奨

メタ発言、キャラ崩壊、時系列無視が含まれます
他にも色々あるかもしれません
読んでくれると作者が小躍りします

では、始めます




 

 

「第二回! 黒さんのお酒講座~inカフェ迷いヒト~」

 

 テンションやや高めでお届けします。

 

 

「いつも、こんなんなのか?」

 

「前はこんな感じだったわね」

 

 

「はい、本日のゲストを紹介していくよ。はい、じゃあ一人ずつお願い」

 

 

「霊夢よ。只酒を飲みに来たわ」

 

 はい、まずは一人目。前回に引き続き霊夢です。正直でなによりだ。コノヤロー。

 

 そして何より……

 

「そろそろ、ツケを払ってくれ」

 

 ただでさえ売上が少ないというのに……

 

「……ごめんなさい、こういう時どんな顔すればいいのか、分からないの」

 

「払えばいいと思うよ」

 

「はいはい。また今度ね」

 

 今度っていつさ……

 

 さてさて、気を取り直して。

 

「んじゃあ、次の方どうぞ」

 

 

 

「魔理沙だぜっ」

 

「フランだよー」

 

「「二人合わせて!……」」

 

 

「なんだ?」

 

「なんだろうね?」

 

「最後まで考えておこうよ……」

 

「最後までやったほうが良かったか?」

 

 いや、やめてください。

 

 と、いうことで残りのゲストは魔理沙ちゃんと……あれ?

 

 

「なんでフランちゃんがいるの? 俺はレミリアを呼んだはずだけど」

 

 おろ、間違えてたかな。

 

「お姉様は用事があって来れなくなったの」

 

「いやでも、レミリアのやつかなり楽しm「来れなくなったの」あ、うん。わかった」

 

 うん、それなら仕方ないよね。別に二人で来ても問題なかったんだけどな。

 

 ……今度レミリアに会ったら優しくしてあげよう。

 

「ねーねー」

 

「ん? どったの、フランちゃん?」

 

「本編は進めないの?」

 

「……また今度ね」

 

「むぅ、私の活躍シーンがあるのに」

 

 いや、たぶんそんなシーンないぞ? それに、フランちゃんは前の話で活躍したでしょうが。俺のことボコボコにしたじゃん。

 

「私の活躍シーンはあるのか?」

 

「……も、もちろん」

 

 たぶん、きっと、おそらく……うん、ないかな。

 

「どもるなよ」

 

「いや、だってどうせあれだろ? 魔理沙ちゃんは魔女さんと熱戦を繰り広げ、俺が咲夜さんにボコボコにされ、霊夢がレミリアのカリスマ(笑)をブレイクして終わりだろ?」

 

「レミリア泣くぞ? そんな扱い方じゃ……」

 

 俺の扱われ方も同じくらい酷い気がする。

 

 

「それで、今日はなんてお酒が飲めるの?」

 

 閑話休題。

 閑話の閑話はお仕舞いです。

 

「……一応、これってお酒を学ぶことが目的だからね」

 

 此処まで来ると、いっそ清々しいね。

 

「わざわざ来てあげたのだからいいでしょ?」

 

 呼ばなくてもお前来るじゃん。

 

「なんだ? 霊夢はいつも呼ばれてるのか?」

 

「いつもと言っても、まだ2回目だけど皆勤賞だね。んじゃあ、問題です」

 

 そう言ってから、ガラス瓶に入った赤い液体を皆の前に出してみた。

 

「この中に入っている液体の名前は?」

 

 

「葡萄酒かしら?」

 

「血液」

 

「ワインだろ」

 

 

「うん正解。ブドウを原料に、ビールや日本酒なんかの複発酵じゃなく、単発酵によって作られた醸造酒のことで、ワイン・葡萄酒と呼ばれるお酒だね」

 

 酒税法では果実酒に含まれるらしい。

 

「おい、一つおかしな答えがあったぞ?」

 

「ワインの歴史はお酒の中で最も古いとされていて、1万年前には飲まれていたらしいよ」

 

「無視か? 無視なのか?」

 

「見事にスルーしたわね」

 

 アーアーキコエナーイ。

 

「と、いうことで今回のお酒はワインだ。だから魔理沙ちゃんとレミr……じゃなくてフランちゃんを呼んだってこと」

 

 フランちゃんに睨まれた。マジ怖い。

 

「ん? でも私はワインに詳しくないぜ?食事も和食派だし」

 

「ありゃそうなんだ。イメージ的に西洋っぽいから詳しいのかと」

 

「自称、東洋の魔女だからな」

 

 そりゃあ、あれだ。バレーボールが強そうですね。

 

「私もお酒は飲まないよ?」

 

「うん、まぁ。フランちゃんはそうだろうね」

 

 だからレミリアを呼んだんだけどね。口には出さんけど。きゅっとしてドカーンされるのやだもん。

 

「私は何で呼ばれたの?」

 

「ん~、霊夢は……なんとなく、かな?」

 

 特に理由はないや。

 

「ワインだったらアリスとかのが良かったんじゃないか?」

 

「いや、あの娘まだ出てきてないじゃん」

 

「でも、勇儀は前回いたわよね?」

 

「あれは、ほら特例だよ」

 

 たぶんだけど勇儀の出番もうないんだから、あんまり触れないであげて……

 

「妖怪賢者は呼ばないのか?」

 

「俺が呼びたくない」

 

 紫はないだろ。

 

「咲夜は?」

 

「雑談だけで終わりそうだから、咲夜さんはちょっと……」

 

 美鈴ならいいかも。

 さて、そろそろ進めましょうか。

 

「んじゃあ、ワインの種類について話そうか。白ワインや赤ワインってのは聞いたことあると思うけど、ロゼワインってのは知ってる?」

 

「私は知らないわ」

 

「私も聞いたことないぜ」

 

「私も」

 

「了解。んじゃあ、そのことも含めて、白・赤・ロゼワインの説明からだね。まずは白ワインから。見た目は透明~黄緑色に近い感じで、白ブドウの果汁のみを使うんだ。甘口~辛口まで幅広く、完全に発酵を終了させると辛口に途中で停止させると甘口になる。苦味は少なくて、酸味の強いものは魚料理に合うかな」

 

 クセが少ないから飲みやすい。

 

「なんで、発酵を途中で止めると甘くなるの?」

 

「ん~と、簡単に言うと発酵するのに糖分を使うからだね」

 

 ほとんどのお酒に言えるけど、発酵は原料に含まれる糖分をアルコールに変えることで行われる。だから、発酵を途中で止めれば、原料の糖分が残ったままとなって甘くなるってことだね。

 

「んじゃあ、次は赤ワインについて。見た目は名前通りの赤色で、白ワインと違って赤ブドウや黒ブドウを原料に使い、また果汁だけでなく果皮なんかもまとめて発酵させるんだ。そして、綺麗な色と濃厚な香りにつながる。手法のせいで辛口しかなく渋みやクセが強いけれど、一般的には肉料理に合うって言われているね。また、白ワインよりも長期保存できるっていうメリットがあるかな」

 

 ただ、白ワインと違って人によっては猛烈な頭痛を引き起こすことがあるから、注意が必要。あと、渋いし苦いから俺はあまり好きじゃない。肉料理には合うと思うけどさ。

 

「それだけ聞くと白ワインのが美味しそうに聞こえるな」

 

「ん~まぁ、好き嫌いが別れやすいのは事実だと思うよ」

 

 あと、補糖、後発酵(マロラクティック発酵のこと)やおり引きなんかもあるけど面倒臭いから飛ばすね。

 

「最後にロゼワイン。白ワインや赤ワインに比べると知名度は低め……かな? 見た目は白ワインと赤ワインの中間。つまりピンク色だね。だからピンクワインとも呼ばれるみたい。作り方は色々あって、単に白ワインと赤ワインを混ぜたものや、赤ブドウを白ワインの作り方で作ったもの。白ワインを着色したものなんかがあるよ。だから味もワインによって全然違うかな」

 

「つまり、中途半端なワインてことね」

 

「……いや、まぁ、うん。そうなのかな?」

 

 違うと思う。

 てか、違う。ロゼにもロゼの美味しさがあるのです。

 

 

 さてさて、こんなところかな。

 

「なんか質問ある?」

 

「30年もののワインとか聞いたことがあるけど、やっぱり放っておいたワインの方が美味しいの?」

 

「放っておくって……熟成といいなさい。熟成と。ん~と、単純に熟成させれば良いってわけじゃないかな。ワインによってはできてから早く飲まないと劣化してしまうものもあるしね。ただ、長時間熟成できるワインはブドウの渋みや酸味を薄くしてまろやかな味わいにしてくれるんだ。まぁ、つまり熟成させるほど美味しくなるってこと。ただし、熟成途中でワインは減っていくし、長時間熟成されたワインは多くないから、どうしても総数は少なくなるよね。だから値段も高くなっちゃう」

 

 因みにあの有名なボルドーワインの中には50年もの熟成を耐えることができるワインがあるとか。

 

「つまり、値段の高いワインは美味しいってことか?」

 

「全部が全部そうとは言えないけれど、一般的には美味しいんだろうね」

 

 自信ないけど……

 

「他に質問はある?」

 

「はい」

 

「はい、フランちゃんどうぞ」

 

「ボジョレーヌーボーって何?」

 

「ああ、毎年100年に一度のできになるアレか」

 

「さ、流石にそれは言い過ぎだけど、あの評価は有名だよね……ボジョレーワインの中で毎年11月の第3木曜日に解禁され、その年の新酒がボジョレー・ヌーボーって呼ばれるんだ。フランスのボジョレー地区で作られるもので、赤ワインが主だけど白ワインもあるみたい。マセラシオン・カルボニックっていう独特の酒造方法で炭酸ガスが良いはたらきをしてくれる。赤ワインでも渋みが少なくフレッシュな味が特徴で冷やして飲むのと美味しいって言われてるね」

 

 また、早飲みタイプのワインだから長時間の貯蔵には向かない。飲みやすく、ワインが初めての人でも美味しく飲める……かも。

 そしてなにより値段が良心的です。ボージョレ・ヌーボーとかボジョレー・ヌヴォーとか色々な呼び方があるけどどれが正しいかは知らん。フランス語とかわかんないし。因みにBeaujolais nouveauというらしいよ。

 うん、読めん。

 

「ようは、安くて美味しいワインってことか?」

 

「そんな感じでいいと思うよ」

 

 詳しいことはよくわかんないんだよね。

 

「んじゃあ、ついでに貴腐ワインも説明するね。聞いたことは?」

 

「名前だけなら聞いたことあるぜ」

 

「私は知らないわ」

 

「まあ、幻想郷じゃまず飲めないだろうしそんなもんか。貴腐ワインってのは白ワイン用のブドウが貴腐化したもの、つまり腐ったブドウを使ったワインのこと」

 

「お、美味しいのか、それ?」

 

 飲んだことないから味は知りません。

 高いんだよ、あれ……

 

「正式には腐ったわけじゃなく貴腐化で、見た目は……まぁ腐ったようにしか見えないんだよね。けれども見た目からは想像できない濃厚な香りと味を含むんだ。ワインの帝王とか王様とか呼ばれるくらい凄いワインなんだよ」

 

 デザートワインとして飲まれて、ハンガリーのトカイワインが有名。

 

「へ~、一度飲んでみたいわね」

 

「紫に頼んでくれ。流石に貴腐ワインは作れんよ……」

 

 さて、次は……

 

「あれ? さっきからフランちゃんが静かだけど」

 

「ボジョレーの説明辺りで力尽きたぞ」

 

 ……まぁ、興味なければそうだよね。

 

「何しに来たんだろう……」

 

「あんたと遊びに来たんじゃない?」

 

 それはそれで嬉しいけど、なんだかなぁ。ちょっと悪いことをしちゃった気分だ。

 

「それじゃあ、飲みましょうよ」

 

「やっとか、長かったぜ」

 

 コイツら……

 

「フランちゃんはどうする?」

 

「起こしても良いけれど、絶対に『私も飲む!』とか言うわよ。それで酔っ払ったら……私は逃げるわ」

 

 うん……寝かしておこう。

 そうしよう。

 

 さてさて、本日はここまでかな。

 

「ワインの歴史は古い。だから種類も様々だ。ワインだからといって嫌いになってしまうのではなく、色んなワインを飲んでみて、自分に合ったワインを探すってのも良いかもな。以上、黒さんのお酒講座でした」

 

 

 

 

 

 

 

「誰に対して言ってるんだ?」

 

「画面の向こうの人たちらしいわよ」

 

「なんだそりゃ?」

 

 

 

「それよりも、閑話を入れるの早すぎない? 最近にもあった気がするのだけれど……」

 

「作者のリハビリを兼ねてるんだってさ」

 

「どう言う意味?」

 

 さあ? 俺にはわかりません

 

 






だいぶ間が空いてしまいましたが、やっとこさ更新です
閑話ですけど……もう、こっちを本編にしようかな

私はワインを全くと言っていいほど飲まないので、こんな感じとなってしまいました
ワイン好きの方がいてワインのどこが好きとか教えてもらえると嬉しいです


質問・感想は特にお待ちしておりませんが、書いていただければ作者が踊ります


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第6話~こんなに月が~

 

 

 扉を開けて真っ赤な館の中へ。お邪魔します。

 

 紅魔館の中は、外見からは予想できないほど広い。咲夜さんが色々と頑張っているらしいけれど、どういう原理かはわからん。時間を司るということは4つ目の次元を司るということ。もしかしたら、26次元目まで見えているかもしれないけれど……

 まぁ、高次元を司る咲夜さんにとって低次元の操作などたやすいのだろう。きっとそんな感じ。低次元に存在する俺には想像もつかない。彼女にこの世界はどう見えているんだろうね?

 真っ赤に見えるこの館だって彼女にとっては違うのかもしれない。

 

「いらっしゃいませ。黒様。本日はどのような要件で?」

 

 うおっ、びっくりした。噂をすればというのだろうか、メイドさんの出現。

 

「様子見かな。んと……レミリアは私室?」

 

「承知しました。レミリアお嬢様は外でモケーレごっこをしております」

 

 んん? モケーレ? モケーレ・ムベンベのことかな。ず、ずいぶんと変わった趣味をしているんだね……

 

 てか、絶対嘘でしょ。咲夜さんのジョークは難しい……

 

「何で外に?」

 

「外にいることでカリスマ度が3割増しになるそうです」

 

 いや、ならんだろ。

 

「そ、そうなんだ……えと、白黒のキュートな魔法使いちゃんが来たと思うけど、その娘は今どうしてるかわかる?」

 

 レミリアの所へは行っていないみたいだけど。

 

「真っ先に地下へと向かい、今はパチュリー様と妹様が対応中です」

 

「咲夜さんは行かないの?」

 

「私は……ほら、裏ボスですし」

 

 ……前から思っていたけどこの人ってかなり自由だよね。

 

 そっか、いきなりフランちゃんの所へ行っちゃったのか。魔理沙ちゃん大丈夫かな?

 

「せっかく来られたのですし何かお出ししたいのですが……ああ、そうだ。最近、良い福寿草が手に入ったのですが紅茶はお飲みになります?」

 

 良い福寿草ってなんだよ。福寿草に旬もなにもない気がするけれど……強いて言うなら3月なのかな? でも花が咲くってだけだしなぁ。

 そもそも、福寿草の紅茶とか飲みたくない。

 

「いや、遠慮しとくよ……」

 

「そうですか、ではお嬢様に飲んでいただくとします……っと、門番がやられたようなので庭の方へ向かいますわ」

 

 ――また、減給ね。

 

 なんて咲夜さんのつぶやきが聞こえた。

 

 多分、霊夢が来たんだろう。戦っていない俺とほぼ変わらないスピードで来やがったよ。理解はできるが納得いかん。

 

「裏ボスなのにもう行くの?」

 

「序盤に現れた敵が、実は裏ボスって設定とか素敵ではありませんか?」

 

 ああ、うん……素敵滅法ですね。いってらっしゃい。

 

 労いの声をかける前に咲夜さんは消えていた。便利な能力なことで……俺のと交換してくれんかな?

 

 ん~、俺はどうすっかね。とりあえずレミリアの所にでも行こうか。

 

 そんなことを思った時だった。

 

 

「あ、クロがいる」

 

 本当の裏ボスが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 うー、まだ体が冷えている。それもこれも全部あの氷精が原因なんだろう。さっさと終わらせて、私は暖かいお茶が飲みたいっていうのに。

 あ、黒に熱燗をもらうのもいいわね。これだけ頑張っているのだから、それくらいの褒美があってもいいはず。

 

 半泣きになった門番曰く、お嬢様っていうのがこの異変の原因らしい。ホント面倒臭いことをしてくれたものだ。

 

「あー、お掃除が進まない。お嬢様に怒られるじゃないー」

 

 赤い館(紅魔館とかそんな名前)に入ろうとすると、えと……なんだっけ? めいど……だったかしら? が現れた。

 

「なんで棒読み?」

 

しかも掃除をしていたようには全く見えない。

 

「マニュアル通りにやったまでよ」

 

 いったい何のマニュアルよ……

 

「そう、この鬱陶しい霧を消してもらいたいのだけれど、あなたを倒せばいいの?」

 

「それはお嬢様に言ってもらえる? 私だけではどうしようもないわ」

 

 勘だけれど、このメイドならなんとかできる気がする。

 

「そ、じゃあそのお嬢様の所へ案内してちょうだい」

 

「ちょうだいだなんて、ケチくさいわね。案内すると思う?」

 

「じゃ、案内させてあげるわ」

 

 ――奇術『ミスディレクション』。

 

 そんなメイドの声が届いた。

 

 全く面倒臭いわね。

 

「霊符『夢想封印』」

 

 さっさと終わらせて次に進みましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイドを倒して、館の中へと進むと黒と……えと、アレは誰かしら?

 

「お話ねぇ……ん~と、じゃあ記憶をなくした変態が可愛い女の子にぶん殴られるお話をしようか」

 

「それって面白いの?」

 

「10段階評価で8位の面白さらしいよ」

 

 何の話をしているのよ……

 

「おろ、霊夢じゃん。もう来たのか」

 

 どうやら黒がこちらに気づいたらしい。こちらは必死に……ではないけれど、それなりに働いているというのに、黒は少女と呑気にお喋り中。後で、2,3回は蹴っておこう。うん、それくらいは許されるはずだ。

 

「あなたは、だあれ?」

 

 見知らぬ少女が聞いてきた。

 

「博麗霊夢よ。それで? あんたがお嬢様なの?」

 

「私はフランドールよ。んー、レミリアお姉様のことかな? 私は違うわよ」

 

 つまり、お嬢様の妹ってことね。

 

「あんたも私の邪魔するのかしら?」

 

「なんて霊夢は言っているけれど、フランちゃんも弾幕ごっこする?」

 

「私はいい。クロとおしゃべりしているわ」

 

「だってさ、霊夢。俺はフランちゃんと遊んでいるから後はヨロシク」

 

 ……5回は蹴りを入れておこう。

 

「そ、わかったわ。その変わりこれでツケは帳消しね」

 

 元々払う気はなかったけれど、ちょうど良い機会だから言っておいた。黒と妹君を置いて先へと進む。

 

 ――え? ちょっ! 待って!! それは流石に……

 

 後ろから何か聞こえたけれど気のせいだと思う。そういうことにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒と別れてから群がってくる妖精を蹴散らしながら進んだ。多分、こっちであっていると思う。

 

 なんとなく気になってバルコニーから外へ。

 

 そして、紅い月を見上げるとソイツはいた。

 

 

「やっぱり3段笑いのがいいかしら? でも、3段笑いって小物っぽいわよね……紅茶でも飲みながら待つとか……いえ、外で紅茶はおかしいか。腕を組んで仁王立ちじゃバカっぽいし。いっそ紅魔館の中で、足を組んで座っているとか。でも、咲夜は外にいた方がカリスマっぽいって言ってたし……うー。こんなことなら決めポーズでも考えておくべきだったわ」

 

 ……なんだろう、元々やる気はなかったけれど、帰りたくなった。ああ、熱い緑茶が恋しい。

 

「あんたがお嬢様?」

 

「……いつからそこに?」

 

 やっとこちらに気づいたらしい。

 

「そんなこと、どうでもいいでしょ? さっさと終わらせましょう」

 

「ふふふ、終わらせるねぇ。今日はすごく良い天気なの。そうだと言うのに、直ぐに終わらせるなんてもったいない。それにこの霧があれば、私も昼間にお外へ出られるの。素敵だと思わない?」

 

 やっぱりコイツがこの異変の元凶で間違いなさそうだ。

 

「鬱陶しいのよ。この紅い月も紅い霧も。どうせ昼間は寝ているんでしょ? だったらこの霧も意味ないじゃない」

 

「私は早寝早起きが自慢なの」

 

「だったらもう寝なさいな。良い子は寝る時間よ」

 

「たまには悪い子ってのもいいかもしれないわ。それじゃあ始めましょ?」

 

「だから終わらせるのよ」

 

 

「ふふっ、こんなに月も紅いのに?」

 

「こんなに月が紅いからよ」

 

 そして、相手の妖力が膨れ上がった。

 ……どうやら、少しばかり舐めていたみたいだ。ただの箱入りお嬢様ではないってことね。

 

 ――天罰。

 

 声が届いた。

 

 はぁ、永い夜になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

「それで、その変態はその後どうなったの?」

 

「なくした記憶をまた拾い集めに行ったんじゃないかな。まぁ、どうせまた馬鹿やってぶん殴られるんだろうけどさ」

 

 霊夢にやられたはずなのに、いつも通りだった咲夜さんが用意してくれた紅茶とケーキを食べながら、フランちゃんと談笑中。流石に福寿草のお茶ではなかった。ホント、何者なんだろうね、咲夜さんって。

 

 フランちゃんがケーキの交換をしようと言ってきたけれど、丁重にお断りした。流石に血液入りのケーキは……ねぇ?

 俺の分のケーキは食べさせてあげたけどさ。

 

 その後もフランちゃんとお喋りしていたら、視界の端にフヨフヨと飛んでくる紅白が見えた。

 

 どうやら霊夢が帰ってきたらしい。

 

「お帰り霊夢。どうだった?」

 

「流石に疲れたわ。さっさと帰りましょ」

 

 珍しく少しだけだがボロボロになっていた。うむ、レミリアもかなり頑張ったんだな。

 まぁ、流石のレミリアでも弾幕ごっこで霊夢に勝つのは無理か。

 

「お疲れ様。そだね、帰ろうか」

 

「え~、もう帰っちゃうんだ……今度はいつ来れるの?」

 

「ん~、いつ来られるかはわかんないけれど、まぁ近いうちにまた来るよ。咲夜さんに美味しかったって伝えておいてもらえる?」

 

 あ、美鈴にもお疲れ様って言わないとだな。

 レミリアは……まぁまた今度、異変について色々と話さないとだし、その時でいいかな。紅魔館で宴会でも開いてもらうとしよう。

 

 フランちゃんに別れを告げて紅魔館から帰宅。

 

 帰る途中、霊夢からグチグチ言われ、ゲシゲシと蹴られた。異変解決は巫女の仕事でしょうが。

 

 

 後から聞いた話だけれど、魔理沙ちゃんは図書館で魔女さんとお喋りしていたそうだ。同じ魔法を使うもの同士、何か通じるものはあるんだろう。

 それで、暇になったフランちゃんが俺の所へ来たみたい。

 

 帰る途中で魔理沙ちゃんを見かけたけれど、なぜかパンパンになった大きな袋を担いでいた。深くは考えないようにしよう。頑張れ魔女さん、強く生きるんだ。

 

 そんなこんなで博麗神社に到着。

 

「もう夜も遅いのだし、うちに泊まっていけば? 黒の布団もまだ残っているわよ」

 

「いや、自分の家に戻るよ」

 

 博麗神社からなら直ぐに帰ることもできるし。

 

「そ、じゃあお休み」

 

 ん、お休み。

 

 それだけ言うと霊夢は母屋の方へと帰って行った。

 簡単な会話。

 これくらいがちょうど良い。

 

 

「お疲れ様。と言いたいけれど、実際は何もしてないわね」

 

 良いタイミングで紫が出てきた。なんだ、ずっと見てたのか。

 

「珍しいね。紫がこんな時間まで起きているなんて」

 

「流石の私でも異変が起きた時くらいは寝ないわよ」

 

 実は藍に起こしてもらっていたりしてね。

 

「冬に異変が起きたらどうすんの?」

 

「その時は……まぁ、なんとかなるわよ。それに貴方が起こしてくれれば良いじゃない」

 

「いや、冬眠中のお前とか絶対起きないじゃん。起こしたら起こしたで怒りそうだし」

 

 紫の寝てる部屋とか加齢臭キツそうだし。

 なんて思った。

 思っただけだった。口には出さなかった。俺だって成長するのだ。

 

 

「ふふふ……ぶち殺すぞ?」

 

 ごめんなさい、ホントすみません、全力で謝ります。

 

 あ、カメラさん待って、止めないで。

 死んじゃう。

 俺、死んじゃうから。

 

 良い匂いです。紫さん、ホント良い匂いですから!!

 

「それは、それで気持ち悪いわ……」

 

 

 

 

 これで、紅い霧と吸血鬼のお話はお仕舞い。

 振り返ってみると、俺何もしてないね。

 

 まぁ、これくらいがちょうど良いのかもしれない。脇役は脇役に徹するのが一番だしね。

 

 きっとこれから先もこんな感じなんだろう。

 

 暇潰し程度にはなりそうだ。

 

 

 







次元のお話をちょろっと書きましたが、物理学はさっぱりなので聞かれても答えられません
時間軸とか意味わかりません

ここから暫くは日常編となりそうです

では、次話でお会いしましょう

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第7話~迷いの里~

 

 

「助けて……」

 

 天気は雨。

 視界は最悪。

 

 夏の終わりが見え始め、秋が近づいてきている季節。そしてザーザーと降る雨は私の体温と、気力を奪い続けた。

 

 ちょっとした好奇心だった。

 

 山菜を取りに村の外へ。村を出る頃はまだ天気も良く、いつもより少し遠くへ出かけた。

 

 次第に天気は崩れ始め、雨へと変わった。

 

 そんな時だった――目の前にフヨフヨと浮かぶ黒い球体が現れたのは。

 

 宵闇の妖怪。

 その妖怪のことは聞いたことがある。

 

 曰く、人喰い妖怪。

 つまり、あちらは捕食者。こちらは、ただのエサ。

 

 逃げなきゃ……逃げなきゃ駄目だ。

 

 私は震える足を無理やり動かし逃げた。何処へ向かっているのかもわからず逃げた。

 

 なんで? どうしてこうなってしまったのだろう。改めて現実の無常さを感じる。

 

 足が縺れながら、転びそうになりながらも仄暗い道を必死で逃げた。

 

 神様、助けてください……

 

 

 

 そんな願いが通じたのかわからないけれど、目の前に真っ白な鳥居が現れた。

 

 後ろからはまだ、妖怪の気配を感じる。

 

 鳥居? 夢? 現実?

 

 様々な思考が頭の中を交差する。そして私は、どことなく優しさを感じたその鳥居をくぐった。

 

 一転、視界が暗転。

 

 どうか、どうか、生きて帰ってこられますように……

 

 

 

 

 

 

 

 そして、鳥居の先は田んぼと麦畑があった。

 天気は晴。

 

 思考が追いついて来ない。ここが天国……という場所なのかな?

 

 田畑の先には洋風な建物が見える。霧の湖に建つ洋館には、恐ろしい吸血鬼が住んでいると聞いた。あの家もそうなのかな?

 でも、人が住んでいるかもしれないし……

 

 興味半分、恐怖がもう半分。

 

 少しだけ休ませてほしいな。駄目かもしれないけれど。

 

 洋風な家の扉には木の板が吊り下げてあって『OPEN』と書いてあった。

 

 う、うん……読めない。外の世界の言葉かな?

 

 

 重みのある扉を開け中へと入るとカランカランと鈴の音が響いた。

 

 そして目の前の机に――男の子が気持ちよさそうに寝ていた。

 

「えと……」

 

 男の子の見た目は、私と同い年からちょっと下くらいだと思う。妖怪ではないんじゃんかな。……たぶん。

 

 どうしよう、なんて声をかければいいんだろう。

 

「あ、あの……」

 

 聞きたいことが沢山あった。

 ここは何処なのか。

 貴方は誰なのか。

 

「んむぅ……っと……ありゃ、寝ちゃってたか。おろ? お客さんかえ? いらっしゃい。ようこそ、カフェ迷い人へ」

 

 男の子が起きた。

 どうやらここは「かふぇ?」という場所らしい。

 

「えと……その……」

 

 言葉がうまく出てこない。なんだっけ? 何を聞こうとしたんだっけ?

 

「ん~何か混乱しているみたいだね。とりあえず手とか顔とか洗ってきな。美人さんが台無しだよ? 洗い場は外に出て左手の方にあるからさ」

 

 ――あ、これ手拭いね。

 

 なんて言って男の子が枕に使っていた手拭いを渡してくれた。

 そして、どうやら汚れていたみたいだ。ちょっと恥ずかしい……

 きっとそれだけ必死だったのだろう。

 

 

 

 

 

 汚れていた手や顔を洗うと、漸く気持ちが落ち着いてきた。手拭い汚れちゃったな。洗って返さないと、でも、またここに来られるかわかんないしなぁ。

 

 それにしてもここって……

 

「どこなのかしら?」

 

 う~ん、まぁ考えてもわかんないか。

 

 建物の中へと戻ると、男の子は机の反対側に立っていた。

 

 

「うん、やっぱり顔を洗ったほうが美人さんだね。改めて、いらっしゃいだね。迷子さん。あ、何か飲む?」

 

 『美人さん』と『迷子さん』という言葉に苦笑い。恥ずかしいな、もう。そしてどうやら、かふぇというものは、お茶飲み屋さんみたいなものなのかな。

 

「……すみませんが、今持ち合わせがないので遠慮します」

 

 財布は屋敷に置いてきてしまった。たぶん持ってきていたとしても、逃げる途中で落としただろうけれど。不幸中の幸い。

 あ、ついつい敬語で話してしまっているけれど、彼の見た目は私と同じくらい。敬語じゃなくてもいいのかな?

 

「ありゃ、そうなんだ。ん~まぁ、いいや。初回限定のサービスしとくよ。さ、座って座って」

 

「えっ、そんな悪いですよ。あ、手拭いは今度洗って返します」

 

 匿って(?)もらい、さらにお茶までもらうなんて流石に図々しい。確かに喉はカラカラだけれど……

 

 私がそう言うと、彼は少し驚き――珍しくいい娘だ……。なんて呟いた。

 

 いや、普通だと思うけれど……今の言葉は聞かなかったことにした方が良さそうだ。ちょっと、涙ぐんでるし……それは流石に引きます。

 

「さっきの様子じゃあ、外で大変なことでもあったんでしょ? 遠慮なんていらないよ。ホットミルクでいい? あ、お酒のがいいかな? あと手拭いはあげるよ。高いもんでもないし」

 

 ほっとみるく? また知らない言葉が出てきた。あとお酒はいらないかな。こんな昼間から飲むのはちょっと……

 

「えと、手拭いいいんですか?」

 

「うん、いいよ。……もしかして、臭かった?」

 

「えっ、いえ。そんなことありませんでしたよ。はい」

 

 石鹸の良い香りでした。

 

「そかそか、それなら良かった。もう一度聞くけれど、ホットミルクでいい?」

 

「は、はい。それじゃあご馳走になります」

 

 ほっとみるくが何なのかわからないけれど。

 

「了解。ちょっと待ってね今作るから。ま、そこの椅子に座って待っててよ」

 

 彼はそう言うと調理に取り掛かった。

 

「それで、今日はどうしたの? 外は雨みたいだけれど。妖怪にでも襲われた?」

 

 調理しながら私に尋ねてくる彼。

 

「それが人里の外へでかけたら、急に雨が降ってきて宵闇の妖怪に襲われ、逃げていたら此処に……」

 

「宵闇の妖怪? ああ、あの黒フヨフヨか。そっか、そりゃ災難だ。ま、生きているんだからそれだけで十分だね」

 

 ご尤もです。

 

 それからも彼と話を続けた。彼の名前は黒と言い、ここは幻想郷と外の世界との間にある場所らしい。

 どうして、こんな場所にいるのか聞くと黒さんは――

 

「ん~……ほら。俺って人混みが苦手なんだよ」

 

 と笑いながら言った。

 むぅ、誤魔化された。

 

 それから私のことへと話は移り、私が稗田家で奉公させてもらっていることを言うと

 

「えっと、今の御阿礼の子は……ああ、阿求ちゃんだっけ? 確か九代目阿礼乙女だったよね。直接会ったことがないから自信ないけれど」

 

 と黒さんは言った。その言い方だと、まるで前代の稗田家当主には会ったことがあるみたいだ。

 不思議な人。

 

「そっか御阿礼の子……か。ま、今の幻想郷は昔より妖怪と人間の距離は縮まっているから、彼女達のことを覚えている奴らも増えるよ。俺もちゃんと覚えておくしね」

 

 そう黒さんは言って笑った。その時の私は、黒さんの言葉の意味がほとんどわからなかったけれど、優しい言葉だということだけはわかった。

 

 貴方は何者なの?

 

 その後、ほっとみるくをいただいた。さらに、香草の香りが仄かにする焼き洋菓子まで出してもらい、美味しくご馳走になってしまうことに。甘いほっとみるくに焼き洋菓子は良く合った。

 美味しかったです!!

 

 黒さんは黒さんで、真っ黒な飲み物を飲んでいた。一口いただいたけれど、この世の物とは思えないほど苦かった。

 

 私が渋い顔をしていると黒さんに――

 

「お子ちゃまにはまだ早かったね」

 

 と言って笑われた。

 貴方には言われたくない。

 

 さてさて、あまりのんびりもしていられない。私もそろそろ帰らないと。

 

「あの、帰りはどうすればいいですか?」

 

「んと、人里で良いんだよね? うん、来た道を真っ直ぐ戻ってみて。そうすれば人里に着くよ」

 

 どういう仕組みなんだろう?

 半信半疑。不安が頭の中を過ぎるけれど、大丈夫な気がする。自信ないけど。

 

「このお返しをしたいのですが……」

 

 こんなに、もてなしてもらって何もしないのは流石に気が引ける。

 あ、でも黒さんって人里に来ないのかな?

 

「別に気にしなくてもいいのに。ん~そだね。今度、人里に行くからその時、稗田家に寄らせてもらうよ。そこでお茶でももらおうかな」

 

 と言って黒さんはまた笑った。ふふっ、ちょっと奮発して高いお茶を用意しておこう。

 

「はい! お待ちしております。じゃあ、行きますね。本当に……本当にありがとうございました」

 

 ほっとみるくも洋菓子も美味しかったです。

 

「ん、じゃあね。今度は迷子にならないように気をつけてね。あと若いからって無茶しちゃダメだよ?」

 

 耳が痛い……

 でも貴方だって十分若いでしょ?

 

 

 黒さんと別れて帰路に着いた。言われた通り、来た道を真っ直ぐと戻った。

 すると、また視界が暗転。

 

 

 そして、再び視界が戻ると人里の門の前に立っていた。

 なんだか化かされた気分。

 

 雨は止んでいて、雨上がりの独特な匂いが鼻の奥まで届いた。

 そっか私、生きてるんだ……

 

 ただいま、戻りました。

 

 山菜を持ち帰ることはできなかったけれど、気分は上々。まるで夢のような体験だったけれど、黒さんからもらった手拭いとほっとみるくと洋菓子の味が、あの体験が現実だったことを教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷に戻り、阿求様に黒さんのことを話すと――

 

「ええ! 迷いの里に行ったのですか!? いいな~私も行ってみたいです」

 

 迷いの里?

 

「はい、そう呼ばれています。曰く、普通には行くことができず、何かに迷った人だけが行ける特別な場所だそうです。私はまだ行ったことがなくて……羨ましいなぁ」

 

「あの、阿求様は黒さんのことを知っているのですか?」

 

「ええ、私はまだ会ったことがありませんが、代々私達がお世話になっているそうです。人里にも来るそうですが、なかなか会えないんですよね」

 

 えっ……え? 黒さんって何歳?

 

 その後、黒さんが今度この屋敷に訪ねてきてくれることを教えると、阿求様はとても喜んでいた。ふふっ、ちゃんと御洒落しないとですね。

 

 う~ん、お返しはどうしようか。

 私もまた会えるのが楽しみです。

 

 






こんな感じのお話がもう少し続きそうです
続かないかもしれませんが……


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第8話~前が見えない~

 

 

「ほい、日本酒24本。麦焼酎12本。あと葡萄酒……まぁ、洋酒だね。これを4本。これで全部だよ」

 

「はいよ。確かに受け取った。お金はちょっと待ってくれ。今持ってくるから」

 

 ということで、ただ今人里の酒屋に納品中です。どっかの腋貧乏巫女が溜まりに溜まったツケを見事に踏み倒してくれたおかげで、所持金が全くないのです。

 まぁ元々所持金なんて、ほとんどなかったけどさ……

 

「ほら、代金だよ。それにしても黒も小さくなったねえ」

 

「いや、俺は変わってないけど……店主こそ随分と歳食ったな。おい」

 

「そりゃあ、そうだわ。俺は人間だからな」

 

 俺だって人間ですよ? たぶん、きっと……ギリギリ。

 

「んで、店主は跡取りとかは決めてんの?」

 

「一応、息子がやってくれるそうだが……どうなるかねえ」

 

 息子……か。

 

「まぁ、この店とは長い付き合いだし、これからもよろしく頼むよ」

 

「ああ、こっちこそ息子共々、よろしく頼むわ」

 

 百年を越えた付き合い。時の流れは速いねぇ。たまにはゆっくりしろってんだよ。

 

 そんな感じで店主とのんびり雑談してから別れることに。

 んじゃあね、また会いましょ。どうかそれまでお元気で。

 

 ん~と、今日は……そっか稗田家に行かないとじゃん。しまったなあ、何も持ってきてないや。流石に団子くらい持っていかないとだ。

 

 団子屋を探して人里をブラブラと歩く。

 季節は秋も中頃。収穫祭も近いのか人里皆はどこか楽しそう。そんな印象だった。

 

 うん、良いことだ。

 

 そんな感じで歩いて、ようやっと団子屋を見つけた。そして、その団子屋の前には先客が一人。

 

 銀髪に黒いリボンを付け、その少女の側には大きな白いのがフヨフヨと何かが浮いているけれど、はてさてアレはなんだろうか。

 

「すみません。御手洗団子を50本いただけますか?」

 

 う~ん、あの白いやつ見たことあるな。何だったかな?

 

 って、え? 50本ですか? そりゃあ流石に食べ過ぎじゃあないかい?

 

「えっ……え? 50本ですか? えと、今すぐ用意はできないので少々お時間がかかりますが、よろしいでしょうか?」

 

 ま、まぁそりゃそうだわな。いきなり50本なんて言われても用意できていないだろう。こりゃあ、団子屋さんも大変だ。

 

 ん、ああそっか。思い出したわ。

 確かあの半人半霊の堅物男があんな感じの白いのと一緒にいたと思うぞ。ん~、じゃあこの娘も半人半霊……なのかね?

 

 あの堅物男は今も元気でいるだろうか? まぁ、あの亡霊姫の方は元気だろうけどさ。

 

「はい、お願いします」

 

 少女は注文を終えると、店の前に用意してある椅子にちょこんと座った。

 

 さてさて、どうすっかな。

 俺も団子が欲しいけど、こりゃあちょいと待たないとだよね。

 

 とは言え、一応、聞いてみるとしよう。

 

「あの、俺も団子が欲しいのだけど、やっぱり待たないと?」

 

「すみませんが、今すぐには用意できません……」

 

 ですよね。

 

「了解、んじゃあ。俺も待つとするよ。御手洗団子10本お願い」

 

「はい。わかりました」

 

 忙しいだろうけど、稼げると思って頑張ってくださいな。

 

「すみません……私のせいで」

 

 座っていた少女が謝ってきた。

 

「ん? 別にいいよ。急いでいるわけじゃないし。それにしても……沢山食べるんだね」

 

 うん、まぁ良いことだと思いますよ? まぁ、あれだ、育ち盛りだもんね。

 

「え? あっ、違いますよ! 私が食べるわけじゃなく、幽々子様が食べるだけで……」

 

 んん? 幽々子?

 

「幽々子様って西行寺幽々子のこと? 白玉楼の?」

 

「はい、そうです。えと、幽々子様とはどんな関係でしょうか?」

 

 ん~……どんな関係ねぇ。

 

「友人……かな」

 

 ここ数百年会ってないけれど。

 

「そうでしたか! 私は魂魄妖夢と言います。今は、白玉楼で庭師などをやっています」

 

 ああ、魂魄家の娘だったんだね。それでその白いのが付いてるのか。

 

「俺は黒って言うんだ。今は、お酒を作ったり、カフェ……まぁ、茶飲み屋みたいなことをしてるよ。ああ、そうだ。妖忌は元気にしてる?」

 

「えと、お師匠……じゃなくて、祖父はもう隠居しました。今どこにいるかわかりませんが」

 

 ありゃ、そっか。もういないのか……う~ん、そりゃあちょっと淋しいね。

 

「そっか、幽々子は……まぁ、元気だよね?」

 

「はい、幽々子様は変わらず元気ですよ。でも、白玉楼に訪れる人がいないので、淋しそうにしています。紫様や騒霊がたまに来られますが」

 

 元気のない幽々子とか想像つかんしな。生前は元気なかったけど、あれは別。

 

 そんな感じで、団子が来るまで妖夢ちゃんと雑談。

 そして、いつの間にかこれから俺が幽々子と会うことになってしまっていた。

 

 阿求ちゃんのことは後になって思い出した。ごめん。

 まぁ、あれだよ、歳取ると忘れっぽくなるんだよ。

 

 な~んてね。

 

 

 

 

 

 

 俺の分も合わせて計60本の団子を持ち、妖夢ちゃんと一緒に白玉楼へ。ホント何年ぶりの再会だろうか?

 

「お帰り妖夢。っと、黒じゃない。また、珍しいのが訪ねてきたわね」

 

 雲の上にある白玉楼へようやっと到着。

 もぅマヂ無理……飛べなぃ。

 

 着いた先には、以前と全く変わらぬ姿の幽々子がいた。

 

「や、久しぶり。淋しそうにしてるって、妖夢ちゃんが言ってたから会いに来たよ」

 

 やべぇ、喋るのも辛い。自分の体力のなさに泣きそうになる。紅葉した桜の木が綺麗なのだが、まともに見ることができない。

 

「ホント、久しぶりね。でもいいの? 冥界に来ると映姫様に怒られるわよ?」

 

 ああ、忘れてたわ。

 やだなぁ、映姫の説教って妙に心へくるんだよね。俺の豆腐メンタルがボロボロにされる。

 

「まぁ、いいよ。ちょっと我慢してれば終わるし」

 

 忘れてたとは流石に言えない。

 

「そう、それなら良いわ。妖夢、お茶の用意をお願いね」

 

「わかりました」

 

 そうして、お茶会が始まった。

 漸く呼吸も落ち着き、紅葉を見ることができるように。赤、黄色とりどりの桜の木は綺麗だった。

 

 

 ただ、1本の木を除いて。

 

 

 そんな見事な桜があるものだから、会話は弾む。

 弾んで転がり飛んで着地した先には、俺と妖夢ちゃんとの決闘が待っていた。

 

 

 ……どうしてこうなったよ。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 幽々子様と黒さんの会話には、昔のことを中心に花が咲いた。私はほとんど、会話に参加できませんでしたが……

 あと、いつものことだけど幽々子様食べ過ぎです。流石にちょっと恥ずかしい。

 

 幽々子様の話や、紫様、お師匠様の話。そして話題はいつの間にか私のことへと移っていきました。

 

「全く、妖夢にも困ったものだわ。いつまでたっても半人前で」

 

 山盛りのお団子はすでに大量の串へと変わっています。お団子は、幽々子様がほとんど食べてしまい、黒さんは1本だけ。

 私は……3本いただきました。

 

 美味しかったです!

 

「半人前ねぇ……妖夢ちゃんの実力は知らんけど、まだ若いんだし焦らなくてもいいんじゃない?」

 

 黒さんはそう言いましたが、毎日修行をしても、本当に強くなっているのかわからない。

 先は……長いです。

 

「そうだ、黒。妖夢と手合わせしてみない? 貴方ならいくら妖夢が本気を出しても死ぬことはないでしょう?」

 

 幽々子様はそう言いました。

 え? 私と黒さんでですか?

 

「……馬鹿言うな。俺と妖夢ちゃんじゃ話にならんよ。時間の無駄だろ」

 

 話にならない、時間の無駄……

 

 そんな黒さんのこの台詞が頭きた私は――

 

「私からもお願いします。一度手合わせお願いします」

 

 確かに私は半人前だ。

 でも、私だって毎日努力してきた。

 先の見えない道を歩んできた。それだけのことは、してきたつもりでした。

 

「ほら、妖夢もそう言ってるし、黒ならすぐに終わるでしょ?」

 

 どこか楽しそうにしながら言葉を落とす幽々子様。

 

「幽々子……お前、わかって言ってるだろ? そりゃすぐ終わるけどさ……」

 

 黒さんの実力はわかりませんが、強者であることは間違えなさそうです。

 

 そんな人と闘ってみたい。

 そうすればきっと何かが見えてくる気がする。

 

「お願いできませんか?」

 

「……わかったよ。んじゃあ、やろうか」

 

 面倒臭そうに黒さんは言いました。

 いくら私が半人前だろうと、此処は下がっちゃいけない場面。全力でいかなきゃいけないときなんだろう。

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、始めましょ。ルールはお互いの実力差が分かるまで、ってことにしましょうか。もちろん全力でやらないとダメよ? 妖夢は楼観剣を使うとして、黒は……あ、そう言えば短刀を持っていたわよね? それを使いなさい。あ、もちろん刀だけじゃなく、霊弾もどんどん撃っていいわよ」

 

「……了解」

 

「わかりました」

 

 庭にてお互いに向き合う私と黒さん。

 

「さて……と。始めよっか」

 

 そんなどこまでも余裕そうな表情で黒さんが言葉を落した。

 あまり……舐めないでください!

 

 片膝を立て、腰を浮かす。

 先手必勝。自分にできる最大限の速さで居合抜き。

 

 そして――楼観剣を黒さんの鼻先一寸で止める。

 

 そんな私のこの行動に黒さんは、一歩も動きませんでした。

 

 

「なんで……どうして動かなかったのですか?」

 

「まぁ、動く意味がないからかな」

 

 私が止めるとわかっていたようですね……

 修行が足りない。

 

 飛び上がってから霊力を込めた霊弾を。しかし、黒さんは飛ばず地面にいる状態で私の弾を避け、どうやってかはわかりませんが次々と霊弾を打ち消していきました。

 

 ……飛ぶ必要すらないということですか。

 

 そんな黒さんは私の弾を避けながら、反撃してきます。

 その量は私の10分の1以下。

 

 そうだと言うのに、その霊弾は1発1発が私の隙をついてきました。

 

 そして避けきれず一発の霊弾が顔の前に……

 

「しまっ……!」

 

 ガードも間に合わず直撃。

 しかし、パンっと軽い音がしただけで衝撃は全くないのです。

 

 

 どこまで……どこまで私を馬鹿にすればっ!!

 

 

 自分の不甲斐なさに、実力のなさに涙が止まらない。

 

 くそっ、涙、邪魔! 前が見えない!!

 

 

 その後もできる限りの霊弾を放ちましたが、黒さんには避けられ続けました。最初は短刀も使っていましたが、それも使わなくなり、霊弾すら出さなくなるように。

 

 ああ、これが……これが実力の差ですか。

 毎日あれだけ修行した成果が、この程度の物なのですか……

 

 

 地面に降り、再び黒さんと向き合ってから言葉を一つ。

 

「黒さんの実力はわかりました……これで最後にします」

 

 自分の実力はよくわかった。けれども――

 

 負けたくない。

 諦めたくない。

 私の中のちっぽけな誇りが火をつけた。

 

 ただ、突っ込んだけでは捌かれるだけ。

 落ち着け、冷静になれ。

 

 まず突きを黒さんの喉に、そして後ろへ下がり最速で楼観剣を叩きつけるんだ。

 頭の中で想像すればいい。

 ただただ勝利する自分を。

 

 後は、考えるな。

 

 体を動かせ!

 

 足に力を入れ、一気に距離を詰める。

 まずは喉へ一突き。

 

 サクッという音がした。

 

 そして後ろへ下がり、最速で楼観剣を振り抜……あれ? サクっ?

 

 

 黒さんが倒れた。

 

 

 えっ……えっ?

 

 何が起きたのかはわかりませんでしたが、幽々子様がお腹を抱えて笑っていることだけは、よくわかりました。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「そうだ、黒。妖夢と手合わせしてみない? 貴方ならいくら妖夢が本気を出しても死ぬことはないでしょう?」

 

 幽々子が言った。

 いや……無茶言わないでくださいよ。

 

 死ぬぞ?

 俺が。

 

 不老不死だって死ぬんです。そのあと生き返るけどさ……

 

「……馬鹿言うな。俺と妖夢ちゃんじゃ話にならんよ。時間の無駄だろ」

 

 俺なんかと闘うくらいなら、素振りでもしてた方がマシだって。

 

「私からもお願いします。一度手合わせお願いします」

 

 え? 何? 妖夢ちゃん本気?

 いじめカッコ悪い……

 

「ほら、妖夢もそう言ってるし、黒ならすぐに終わるでしょ?」

 

 おい、こら。お前は何笑いながら言ってるんだよ。

 

「幽々子……お前、わかって言ってるだろ? そりゃすぐ終わるけどさ……」

 

 そりゃすぐ終わるさ。

 だって俺、弱いもん。

 

 妖夢ちゃんの実力は知らんけど、俺より強いことは確かだ。

 闘いたくない。

 未来が真っ黒だ……何も見えやしない。

 

「お願いできませんか?」

 

 妖夢ちゃんが言った。

 そんな風に言われたら、断ることもできやしない……

 

「……わかったよ。んじゃあ、やろうか」

 

 はいはい、これは終わったね。

 もうどう仕様もないね。

 

 

 

「それじゃあ、始めましょ。ルールはお互いの実力差が分かるまで、ってことにしましょう。もちろん全力でやらないとダメよ? 妖夢は楼観剣を使うとして、黒は……あ、そう言えば短刀を持っていたわよね? それを使いなさい。あ、もちろん刀だけじゃなく、霊弾もどんどん撃っていいわよ」

 

 あ、俺はこのナイフなのね。この切れないナイフでどう戦えと?

 ま、まぁ他の武器を使ったところで一緒か……

 

「……了解」

 

「わかりました」

 

 庭にて俺と妖夢ちゃん、お互いに向き合った。

 ふっ、一瞬で終わらせてあげるよ。

 

「さて……と。始めよっか」

 

 俺がそう言うと妖夢ちゃんの姿勢が低くなった。

 そして、気がつくと目の前に楼観剣と呼ばれる刀が。

 

 あかん……何が起きたか全くわからない。一歩も動けない。反応すらできなかった。

 いや、霊力で強化してない俺の実力なんて、こんなもんなんだって。

 

「なんで……どうして動かなかったのですか?」

 

 妖夢ちゃんが言った。

 

「……動く意味がないからさ」

 

 とカッコつけて言ってみたものの、ヤバいです。

 ちびりそう……

 ちらっと幽々子を見ると、盛大に笑っていた。あの……もう、やめませんか?

 

 そして、飛び上がった妖夢ちゃんは霊弾まで放ってくるように。

 

 え? 俺は飛ばないのかって?

 

 ……飛べないんです。白玉楼に来るので、もう限界なんです。足とかプルップルだよ?

 

 なけなしの霊力で身体強化。

 けれども、妖夢ちゃんの撃ってくる弾を全部避けることはできなかった。

 避け損ねた珠は、ずるいけれど能力で打ち消すことに。できるだけバレないようだけど。

 俺だってカッコつけたいんです!

 

 そして、反撃のために俺も霊弾を撃つ。

 と、言っても霊力なんてほとんど残っていないから、中身がスカスカのやつを。あれだ、高速で飛ぶシャボン玉だと思ってくれればいい。

 

 その高速シャボン玉が運良く妖夢ちゃんに当たった。

 まぁ、当たった瞬間はじけて消えたけど……もちろんダメージは0です。

 

 その後、妖夢ちゃんの弾幕はさらに密度が高まった。

 ムリムリ! ムリだって!!

 

 死ぬ。俺死んじゃう。

 

 

 この非常な現実に、いじめにしか見えない闘いに涙が止まらない。

 

 

 くっそ、涙、邪魔! 前が見えない!!

 

 

 最初はナイフも使って防いでいたけれど、握力がなくなった。

 力が入らない。

 もう……限界です。霊弾を撃つ霊力もなくなり、能力を使いまくってなんとか耐える。

 ……これが実力の差ってやつだろう。まぁ、わかってたけどさ。

 

 妖夢ちゃんが地面に降りてきた。

 終わりか! 終わりなのか!?

 

「黒さんの実力はわかりました……これで、これで最後にします」

 

 はい、ダメでしたー

 

 死にたくない。

 痛いの嫌い。

 俺の中のちっぽけなプライドは跡形もなく消え失せた。

 

 

 

 上を見ると今日も良い天気だった。

 

 そして、目の前が真っ暗に。最後に見えたのは、苦しそうに笑っている幽々子の姿だった。

 

 厄日だ……

 

 

 






いつもより長くなってしまいました
う~ん、もっと短くできただろうに……

次回は白玉楼からスタートになりそうですね
書いていて、ちょっとだけ主人公が可哀想に思いました
まぁ、思っただけですが


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第9話~死にたくなるくらい~

 

 

「本当に申し訳ございませんでした!!」

 

 目を覚ますと、妖夢ちゃんが謝ってきた。全力の謝罪、土下座である。

 土下座をしたことは何度もあるけど、やられるのは初めて。なんだろうか……普通に引くね。

 

「あ~、そんな謝らなくてもいいよ。断りきれなかった俺も悪かったし」

 

 だって、カッコイイとこ見せたかったんだもん。

 

「しかし……」

 

 俺の言葉に納得できないらしい妖夢ちゃん。うん、良い娘だ。

 

「黒もそう言ってるのだから、気にしなくてもいいわよ」

 

 いや、原因の6割以上は幽々子のせいだからね?

 残りは、妖夢ちゃんが1割、俺が3割と言ったところだろう。

 

「お前が言うな」

 

「何よ、身長だけじゃなくて心も小さい男ねえ」

 

 コラ身長のことは言うな。最近、霊夢にも抜かれそうで割と気にしているんだから。仕様が無いじゃん、伸びないんだもん。成長止まってるんだもん。

 

「まさか、黒さんがあんなに弱いとは思わなくて……本当にすみませんでした」

 

 あれ? 俺、馬鹿にされてね?

 謝る振りして、暴言吐かれてない?

 

「ん~、ホントそんな気にしなくていいんだけどなぁ。それでも気になるなら、そだね……今度、団子でも奢ってよ。それで手打ちにしよう」

 

 今度がいつになるか分からんけどさ。

 

「はい。じゃあ、これでこの話はお仕舞い。妖夢、御夕飯の準備をお願い。もう、お腹がペコペコだわ。あ、黒。今日は泊まっていきなさい。久しぶりにお酒でも一緒に飲みましょ」

 

「うん、じゃあお言葉に甘えて一晩お世話になるよ。と言うことで、よろしくね妖夢ちゃん」

 

 飛んで帰る体力も霊力もない。悲しいけれどこれが俺の実力なんです。

 

「は、はい。わかりました。腕に縒りをかけ作ります」

 

 妖夢ちゃんはまだ納得していなかったみたいだけど、それじゃあ話が進まない。ま、悩みながら生きてくださいな。

 

 

 その後、大量の料理が出てきた。

 こんなに食えんだろ……何人前ですか? え? これでいつも通り?

 

 エンゲル係数とかすごそうですね……

 

 

 

 

 

 

 

 

「時が経つのも早いものね」

 

 縁側に腰掛け、幽々子と酒を飲みながらお話中。辺りは暗く星明かりに照らされ、紅葉が微かに見える程度。

 

「アイツら止まるってことを知らないからな」

 

 夕飯をあれだけ食べたはずなのに、幽々子は休まずお酒を飲んでいる。どうなってんだよ……

 

「秋も秋で紅葉が綺麗だけれど、やっぱり春が一番ね。ここの桜は何度見ても飽きないわ。ねぇ……黒は西行妖が花を付けている姿を見たことがあるのよね?」

 

 葉すら付けることがなくなった木を見ながら、幽々子が聞いてきた。

 

「まぁ、ね」

 

 1000年以上も前のことだけど。

 

「どんな感じだったの?」

 

 どんな感じ……か。

 ちょいと昔のことになってしまったけれど、今でも鮮明に思い出せる。

 

「……綺麗だったよ。すごく、綺麗だった」

 

 ホント――死にたくなるくらい綺麗だった。

 

「そう……黒は知っているかしら? あの木の……いえ、なんでもないわ」

 

「ん? あの木が何なのさ?」

 

「やめておくわ……ほら器、空いているじゃない。どんどん飲みなさいよ」

 

 あ、ちょ、やめなさい。

 そんなにお酒強くないんだから。

 

 

 

 たぶんこの時、俺がもう少ししっかりと聞けていたら、あの――終わらない冬は訪れなかったのだろう。

 

 気づいた時にはもう遅い。

 この人生そんなことばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしゃ、そろそろ行くわ。じゃあね、幽々子。妖夢ちゃん」

 

 次の日の朝。

 幽々子と妖夢ちゃんに別れを告げる。お世話になりました。

 

「はい、いつでも来てください。お待ちしております」

 

「今度は春に来なさいよ。今でもお酒を作っているんでしょ?」

 

「うん、作っとるよ。そだね。今度は桜の咲く時期に」

 

「ふふっ、楽しみだわ。次の春は盛大にお花見しましょうか」

 

 あんまり、はしゃぎすぎるなよ……

 

 そんなこんなで冥界を後に。今度は紫も誘ってやるか。

 なんて珍しくそんなことを思った。

 

 

 冥界からの帰りは行きと違い、ほぼ落ちるだけ。物理法則万歳。

 

 その後は人里に寄り、すっかり忘れていた阿求ちゃんの所へ。ちゃんと団子も買っていきました。

 そして、あの時の迷子さんも加えて雑談とお茶会。

 

 阿求ちゃんが幻想郷縁起の英雄伝に、俺のことを載せたがっていたけれど、それは丁重にお断りした。なんか、ほら……照れるじゃん。

 

 

 随分とのんびりしていたせいか、稗田家を出る頃には太陽が沈み始めていた。遠くの方からヒグラシの声がする。夏も終わり、すかっり秋になったというのにね。時の流れについて行けてないのだろう。

 まるでどっかの誰かみたいだ。

 

 人里で新米や南瓜・茄子・椎茸なんかの野菜。そして兎肉を買って飛び立つ。向かう先は博麗神社。

 

 どうせ、いつものように腹を空かせているだろう。たまには保護者面をするのも悪くない。

 そんな気分なんだ。

 

 

 

 

 博麗神社に着くと、霊夢はいつものように縁側に腰掛けお茶を飲んでいた。

 むぅ、ちょっと買いすぎたな。結構疲れたわ。

 お日様だって既に半分以上隠れてしまっている。日も短くなってきたねぇ。

 

「あら、こんな時間に珍しいわね。素敵なお賽銭箱ならあっちよ……って、え? え? その手に持っている大量の食料は何?」

 

 俺に気づいて霊夢が声をかけてきた。

 そして、何かを期待するように俺の方をチラチラと見てくる。

 

 何これ、楽しい。

 

「ん? たまたま通りかかっただけだよ。ちょっと霊夢に自慢しようと思ってな。よし、んじゃあ帰るわ。また……おいこら。どっからその針とお札を出した。待て! 構えるな、落ち着きなさい! 嘘、嘘だって。ちゃんと霊夢のために買ってきたやつだよ」

 

 ちょっと、からかうとこれだよ。これが反抗期ってやつだろうか?

 

「初めからそう言いなさいよ。それで?この後、黒はどうするの? 帰ってもいいわよ」

 

 お礼くらい言いなさいよ。まぁ言われたら言われたで、どう反応していいのかわかんないけど。

 

「たまには外食も悪くないな」

 

 昨日も外食だったけど。

 

「そ。じゃあ手伝って。ほら行くわよ」

 

 霊夢はそう言って、母屋の中へ入って行った。

 しっかりと食料を持っていくあたりは流石である。

 

 人里で聞こえていたヒグラシの声はなくなっていた。これも時の流れってやつなのかねぇ?

 たまには逆らってみろってんだよ。

 

 今年も、あの姉妹神が頑張ってくれているおかげか豊作と、綺麗な紅葉が期待できる。紅葉狩りとかしたいけど、あの山は天狗が五月蝿いんだよなぁ……

 

「黒、早く。作り始めるわよ」

 

 霊夢の声がした。

 

「今行くよ」

 

 まぁ俺は、のんびりと行かせてもらおう。

 

 

 






⑨話にしたかったですが、ちょっと書いて諦めました
無理です


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第10話~日常とかそんな感じ~



視点がいつもとは違います
ちょっとメタい発言があるかも……
それでもよければ読んであげてください
作者が喜びます

飛ばしてもらっても本編とはそこまで関係なさそうです




 

 

 時刻は朝……というにはちょっとだけ遅いかな。

 それくらいの時間。とある少年が目を覚ました。

 

 寝起きが良い方ではないのか、起きたのにどこかボーっとしている様子。昔から朝、弱かったもんね。

 

 ん? 私ですか? 私はほら、あれだよ。天の声みたいなやつだと思ってくれればいいんじゃないかな。

 

 と、いうことで黒の日常はじまりはじまり~

 

 

 黒は、10分くらいして漸く行動を始めた。顔を洗ってから、店内の方へ移動。まだ、眠いのか目蓋が垂れ気味。

 だらしないなぁ……

 

 朝御飯をどうしようか悩んでいる黒。

 けれども結局、水出し珈琲一杯で朝御飯を終わらせた。もう……いくら必要ないからって朝御飯はしっかり食べないと身体に悪いよ?

 

 そういえば、黒って今はカフェをやっているんだっけ? じゃあ、さっき黒が飲んでいた水出し珈琲の作り方でも喋ろうかな。

 水出し珈琲と言えばダッチコーヒーが有名だよね。今回黒が飲んでいたのは、そんな難しいのじゃなくてお茶のパックに挽いた豆を入れて、水の入った瓶へポン。

 それで一晩置いておいた物。豆は多めに入れて、深煎りの細挽きにしたのが良いみたい。

 まろやかでサッパリとした味で夏にオススメだよ。

 

 ん~こんな感じでいいのかな? よくわかんないや。

 

 朝食(?)を終えてまた、ボケーっとしていると店のドアが開きお客さんが来た。

 おお、来るんだね。お客さん。

 

 ドアを開けて中へ入ったきたのは、小さな女の子だった。薄茶色のロングヘアーで2本の長い角、何故か両手首からは鎖が。そして大事そうに持っている大きな瓢箪。

 名前は……えと、伊吹萃香ちゃんだね。見た目通り種族は鬼。

 

「いらっしゃい、萃香。今日はどしたの?」

 

 黒が萃香ちゃんに聞いた。

 

「外も寒くなってきたからねぇ。暖かいものでも、もらおうと思って来たんだよ」

 

 秋も終わりが見えてきたもんね。

 季節はそろそろ冬。炬燵に蜜柑が恋しい季節ですね。

 私は食べたことないけど……

 

「そかそか、それで? 何飲むの?」

 

 最近は妖怪も珈琲とかを飲む時代なんだね。私がいたころは、喋る妖怪すらいなかったのに。

 う~ん、時の流れは早いですなあ。

 

「じゃあ、熱燗と適当におつまみを頼むよ」

 

 萃香ちゃんが言った。

 

 酒 か よ ! ! カフェで酒かよ!!

 

「了解。ちょっと待ってて準備するから」

 

 黒もなに了解してるのさ!

 いいのか? それでいいのか?

 

 はぁ……なんだかなあ。

 

「おつまみは、枝豆と胡瓜の浅漬けでいい?」

 

 徳利を燗しながら、黒が萃香ちゃんに聞いた。

 なぜカフェに枝豆と漬物がある? え? ここカフェだよね? 居酒屋じゃないよね?

 

 どうでもいいけど、枝豆って未成熟の大豆なんだってね。

 私は知らなかった。

 

「なんでもいいよ。塩とかでもいいし」

 

「塩って……お前……」

 

 塩でお酒を飲むとは……随分と渋いチョイスだ。まぁ、でも塩とお酒って合うよね。私は嫌いじゃあない。

 

「そう言えば、萃香って今はどこに住んでるの?」

 

「私? いろんな場所にいるよ」

 

「何だよ、いろんな場所って……」

 

 黒と萃香ちゃんが談笑していると、またドアが開いた。

 カランカランという音がし中へ入ってきたのは――あ、この女の子は知ってるぞ。確か八雲紫ちゃんだ。

 よく黒と一緒にいるもんね。

 

 ってか、女の子しか出てこないじゃないか。

 男の人は人里にある酒屋の店主くらい? もっとほら、筋肉ムキムキのお兄さんとか出てきてもいいじゃん。

 男同士が拳で語り合うシーンとかないの?

 

 これじゃあハーレムだよ。

 妬けるな~。

 

「こんにちは黒。って萃香もいたのね」

 

「……いらっしゃい」

 

「や、紫。久しぶりだね」

 

 あ、黒がちょっと嫌そうな顔をした。何でそんなに紫ちゃんのことを嫌うんだろうね?

 あれか、ツンデレってやつか。男のツンデレとか需要ないよ?

 

 紫ちゃんは本日、二人目のお客さん。なんだ普通にお客さん来るじゃん。閑古鳥どこいったよ。

 

「んで、紫は何飲むの?」

 

 あ、飲み物はちゃんと出してあげるんだね。まぁ黒だってそこまで子どもじゃないか。

 

「そうね。私も熱燗をお願い」

 

「はいよ。ちょい待ってね」

 

 ……突っ込まない。

 もう突っ込まないぞ。

 

 どこがカフェなんだか……今までだってホットミルクしか出したことないじゃん。居酒屋に変えなよ。そっちのが合ってるって。

 

「もうそろそろ冬だけど、紫は冬眠しなくてもいいのか?」

 

 うん? 紫ちゃんって冬眠するの? 熊の妖怪には見えないけどな~。

 でも熊だって食料さえあれば冬眠しないんだよね。ん~紫ちゃんはそういう体質なのかな?

 

「ええ、そろそろ寝るつもりよ。だから何かあった時は藍にお願いね」

 

 え~と、藍ちゃんっていうのは紫ちゃんの式神……だったかな? なんとも記憶が曖昧です

 

「まぁ、そんな大きなことが起こるとも思えんけどな」

 

 はい、フラグ立ちました~。

 これ絶対、大きなこと起こるね。

 黒がボコボコにされるシーンを簡単に想像できる。

 

「ちょっと前に幽々子の所へ行ったんだけどさ。幽々子が春になったらお花見しようだって」

 

「花見? いいね~私も行こうかな。お酒飲みたいし」

 

「あまり冥界に行くと、映姫様にまた怒られるわよ?」

 

「あ~映姫か……いや、映姫だってそのくらいなら……ダメかもな。ま、そん時はそん時で」

 

 適当だなぁ……

 ホント、昔と変わってないね。

 

 そんな感じで3人は夜まで話していた。昔の話や、最近の話。同窓会みたいで羨ましいな。

 それに3人ともすごく楽しそうだった。もしかしたら、私も此処にいられたのかも。

 

 な~んてね。

 

 でもたまには、私のことも思い出してくれたら嬉しいかな。私のことを覚えている人は、もう君だけなんだしさ。

 

 

 

 

 

 

 

 夜も深くなって、萃香ちゃんと紫ちゃんはすでにいない。

 昼間の騒ぎが、嘘だったかのような静かな店内。そんな店内はどこか薄暗く感じた。

 

 片付けを終えた黒は、珈琲をまた飲んでいる。珈琲好きなんだね。

 

 そして黒は懐からナイフを取り出し眺めていた。

 おお、私があげたやつじゃん。私が言うのもアレだけど、何に使えるんだろうね。あのナイフって。

 

 長く使い込んだ道具には魂が宿る。

 所謂、付喪神。

 万を軽く超える年を過ごしたあのナイフはどうなんだろうか?

 

 私はもう黒を見守ることしかできない。だからさ、ナイフさん。私の代わりに、黒を守ってあげてくれないかな?

 何も切ることはできないのだから、何かを守ってやるくらいしてくれても良いでしょ?

 

 あっ、これはフラグ立ったね。

 私のあげたナイフが黒を救うフラグが立ちましたよ!

 

 ん? でも黒って不老不死か……ま、まぁいつか約に立つ場面は来るはず。

 たぶん、きっと。

 

「ふあ~……ん~そろそろ寝るか」

 

 大きな欠伸をしながら、黒が呟いた。珈琲をあれだけ飲んでおいて、よく寝られるよね。

 

 季節はもう冬と言っていい頃合。

 それは風花舞う幻想的な季節。

 寒いのは苦手なんだよな~。

 

 よし、それじゃあ私も寝ようかな。

 

 

「ああ、忘れてたわ……おやすみ、白」

 

 そんな黒の呟きが聞こえた。

 

 へへーん。そんな所に私はいませんよーだ。

 

 ふふっ、バーカおやすみ、黒。

 

 






といことで更新です
彼女視点という名の第三者視点でした
べ、別に彼女のことを忘れていて、思い出したから書いた。
というわけではありませんよ?

次回は冬のお話です
何も考えていませんが……

質問・感想はそこまでお待ちしておりませんが、書いていただければ作者が踊ります



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第11話~終わらない冬~

 

 もう4月となり、いつもなら雪なんてとっくに溶けているはずの時期。ここ幻想郷では、いまだに雪が降っていた。

 これじゃ秋の終わりから、春に向けて力を蓄えていた桜たちも救われない。

 

 異変……なのかな? ん~、決め付けるにはまだ早いか。春告精が訪れるのはもう少し先だろうけれど、ここまで冬が長いのは初めてだ。

 

 寒いのは嫌いなんだよね。

 

 冬の時期は人里の人間も篭ってしまうため、迷い人に来るお客さんも少ない。開店休業状態。

 つまり、いつも通り。

 

 ……暇だ。人が来ないから、すごく暇だ。

 う~ん、どうしようか。紅魔館はこの前行ったし、白玉楼もそのうち行くしなぁ。

 

 よしっ、決めた。

 霊夢の所にでも行くとしよう。

 

 いつもより厚着をし、数本のお酒を持って家を出る。

 これだけ持っていけば邪険に扱われることもない……はず。

 

 あ、おつまみも持っていけば良かったなか。まぁ、また戻って来ればいいか。

 

 

 

 

 

 

「んっと」

 

 博麗神社の鳥居に転移。空は晴れているはずなのに、ハラハラと雪が舞っている。冬って、曇っていた方が暖かいよね。

 晴れの日は寒いです。

 

 てか、此処雪かきしてないじゃん。まぁ、鳥居があるのは神社の裏側だし問題ないのかな。

 人、来ないもんね。博麗神社自体に人が来ないだけな気もするけど……

 

 膝くらいまである雪を押しのけ進む。

 むぅ、歩きづらい。

 

 飛べば良かったことには後で気づいた。

 

 

 そんな博麗神社の母屋の方からは楽しげな声が聞こえてきた。ありゃ、誰か来てるのかな?

 

「おしっ霊夢。かまくら作ろうぜ。かまくら」

 

「私は嫌よ。寒いもの。ほら戸を閉めなさい。風が入ってくるでしょ」

 

 どうやら魔理沙ちゃんが来ているらしい。

 元気そうで何よりだ。

 

「おっす。こんにちは、霊夢。魔理沙ちゃん」

 

「また喧しいのが増えたわね……」

 

 失礼な。仕様がないでしょ、暇だったんだもん。

 

「こんにちは、だぜ」

 

 おう、こんにちは。

 

「ちょうど良い所に来たな。かまくら作ろうぜ黒」

 

 かまくら、ねぇ……

 それはまさに雪遊び。

 

 

「任せろ、滅茶苦茶でかいの作るぞ」

 

 雪遊び大好きです。

 

「……勝手にやってちょうだい。私はお茶を飲んでいるわ」

 

 なんだよ、完成しても入れてあげないぞ?

 

 

 

 

 と、言うことで魔理沙ちゃんとかまくらを作ることに。まずは雪を集めて雪山にする。

 連日連夜降り続いてくれたおかげで、雪の量には困らない。

 

 俺がせっせと雪を集めている間、魔理沙ちゃんは違うものを作っていた。いや、手伝ってよ……

 

「えと……これは何なの魔理沙ちゃん?」

 

 かなり適当な雪の柱を真ん中に立て、その周りに歪な形の雪玉が二つ。

 

「浪曼砲だ」

 

 魔理沙ちゃんが言った。

 ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか、完成度低いなオイ。

 

「甘い……浪曼砲はこんなもんじゃない。作り直すぞ! 魔理沙ちゃん、水を持ってきてくれ。できれば塩水で」

 

「え? お、おう」

 

 かまくら作りは止め、浪曼砲の制作となった。

 ソイツを全身全霊で作る。男にはやらなきゃならん時があるんだ。

 

 

 2時間を超える制作時間のすえ、終に完成。直径1米の完璧な球を二つ。真ん中にあの独特な柱。横幅3米、縦1米、高さ4米の浪曼砲。

 

 それを目立つよう、博麗神社の参道の真ん中にぶっ立てた。

 

「で、できた……完璧だ」

 

 我ながら、かなりの完成度だと思う。

 

「これが……これが本当の浪曼砲か……」

 

 魔理沙ちゃんと二人で完成を喜び合う。ハイタッチとかしたりした。

 

 

 その後、霊夢に『そんな変な物作るな!』と言って、叩き壊された。

 俺は泣いた。魔理沙ちゃんは笑っていたけど。

 

 

 雪遊びを終え、家の中で談笑中。

 

「手、手の感覚が……」

 

 2時間以上も雪を触り続けていたせいで、手がとても冷たい。炬燵に手を入れ必死に温める。

 むぅ、一人用の炬燵じゃやっぱり狭いね。

 

「馬鹿なことやっているからよ」

 

 俺たちが遊んでいる中、霊夢はずっとお茶を飲んでいた。

 自由だなぁ。

 

「魔理沙ちゃんは手、大丈夫なの?」

 

 魔理沙ちゃんだってあれだけ雪を触ったのだし、ヤバそう。

 

「私は魔法で温めていたから大丈夫だよ」

 

 何それ、ずるい。いいなぁ、魔法。

 俺も一応、使えることは使えるけど、如何せん魔力がほとんどないからなぁ。

 

「それにしても、今年の冬はやたらと長いわね。そろそろ薪や炭がなくなりそうだわ」

 

 なんだ、霊夢も今年の冬が長いってことは気づいていたんだ。

 ん~、やっぱり異変なのかね? だとしたら、誰が起こしているのやら……

 

「それに、こんなに雪があったら参拝客だって来ないじゃない」

 

「つまり、いつも通りか」

 

「いつも通りだな」

 

 俺と魔理沙ちゃんのセリフが被った。

 雪がなくたって人来ないでしょ。

 

「でも、妖怪は来るんでしょ? レミリアとか」

 

 よく遊びに行くって言ってたし。

 

「アレが来ても仕様がないでしょ?」

 

 アレとか言うなよ……かわいそうでしょ。

 

「んじゃあ、逆に霊夢が紅魔館に行けば?」

 

 歓迎してくれるんじゃない? レミリアも喜ぶぞ。

 

「嫌よ。面倒臭い」

 

 そんな性格だから人が来ないんだろうね。

 

「紅魔館か……私はよく遊びに行くけどな」

 

「いや、魔理沙ちゃんは……遊びっていうのか?」

 

「ああ、ちょっと本を借りにな」

 

 本を狩りに行ってるの間違えだろう。

 

「図書館の魔女さん困ってたぞ? この前なんて、スカスカになった本棚を悲しそうに見つめて、むきゅむきゅ言ってたし」

 

「むきゅむきゅは言ってないだろ……ちょっと借りてるだけだって、そのうち返すよ」

 

 早めに返してあげてね。

 

「そう言えば、黒の能力でこの雪を消せないの?」

 

「降ってくる雪なら消せるけど、積もってるのは無理だよ。あと、俺が能力を使っても暖かくはならないよ」

 

 そこまで便利な能力じゃないのです。

 

「なによ、使えないわね」

 

そんなストレートに言わないでくれ……

 

 

 

 

 

 

 そんな感じでダラダラと喋っていたから、すっかり夜になってしまった。

 日が長くなったとは言え、いまだ冬。夜は冷え込む。

 

 と、言うことで。

 

「鍋やるべ」

 

 冬の定番。

 冬と言ったら、やっぱり鍋だよね。温めたお酒が美味しい季節です。

 

「なんで訛るの? あと家に食材はないわよ」

 

 うん、だろうとは思ってた。

 

「いいよ、俺が家から持ってくる。霊夢と魔理沙ちゃんは準備してて。お酒は持ってきてあるから燗もお願い」

 

 そんなこんなで、鍋を作ることに。具材は、白菜や葱などの野菜と兎肉。

 それと、魔理沙ちゃんがなぜか持っていた干し茸。……これ、毒茸じゃないよね?

 

 寒い冬の日に鍋と熱燗。最高です。

 霊夢と魔理沙ちゃんは気づいていなかったけれど、いつの間にか萃香も一緒に鍋を食べていた。萃香ってどこにでも現れるね……

 鍋の具材を持ってくるついでに、お酒も持ってきたけれどすでに空。いや、どんだけ飲むんだよ。

 

 俺が持ってきたお酒はなくなったから、萃香のお酒を飲むことに。それでも霊夢と魔理沙ちゃんは、萃香に気づかなかったみたいだった。

 もしかして、ただ酔ってるだけなんじゃ……

 

 その後、流石に鬼の酒は強かったのか、二人とも寝てしまった。

 俺はまだ飲めたので、簡単に酒瓶や鍋を片付け萃香と二人で飲むことに。

 

「博麗の巫女もだらしないねぇ。もう寝ちゃったのかい?」

 

 萃香が酒を飲みながら言った。

 人間基準ならこれでもおかしいけどね。十分飲み過ぎです。

 

「人間と鬼を比べるなよ……それと鬼の酒は人間には強すぎる」

 

「私にとっては人間の飲む酒が弱すぎると思うけどね。これも嫌いじゃあないけど。それに黒はまだ飲めるんでしょ?」

 

 歳の差ってやつかな。それにそもそも、普通の人間とは体の作りも違うんだろうね。

 

「俺は別。萃香、一杯くれ」

 

「はいよ、どんどん飲みな」

 

 伊吹瓢からお酒をもらい喉へ流し込んだ。

 高いアルコール度数が喉を焼きながら、体に染みていく。いやー、キッツい、滅茶苦茶キツいけど……

 

「やっぱり美味いな」

 

「私はいい加減飽きてきたけどねぇ。まぁ、美味いことには変わらない」

 

 伊吹瓢いいな~羨ましい。

 酒虫ってもう捕まえられないのかな?

 

 そう言えば、萃香はこの長すぎる冬をどう思っているんだろうか?

 

「なぁ、萃香はこの終わらない冬をどう思う?」

 

 萃香なら何か知っている気がする。

 

「私はさっさと春になって、お花見しながらお酒を飲みたいんだけどね。まぁ、もう暫くは雪見酒で我慢するよ」

 

 どこかズレた答え。

 でもそれは萃香らしい答え。酒ばっかだね。お前は。

 

「そうだねぇ……どうやら、亡霊の姫君が春を独り占めしようとしているみたいだけど、その辺りはあんたらに任せるよ。異変解決は人間のやることなんでしょ?」

 

 萃香が言った。

 ん? 亡霊の姫君って幽々子のことだよね? 春を独り占めって、春度でも溜め込んでるのか?

 何をしようってんだよ。

 

「はぁ、やっぱり異変か……」

 

 どうしようか、紫を起こした方がいいのかな。何を企んでいるのかわからないけれど、どうにも良い予感はしない。

 

「異変だね。咲かない桜を咲かせようとしている。ま、私は咲かない桜ってのも良いとは思うけど」

 

 咲かない桜……西行妖か。あれだけ念入りに封印したのだし、あの桜が咲くとは思えないけれど……

 う~ん、俺も異変解決の手伝いをするか。それなら紫も起こさなくて大丈夫だろ。冬の間、ずっと篭っていたのだし、たまには運動するのも悪くない。

 

「情報ありがと。今度お酒を持ってくよ」

 

「そりゃあ嬉しいね。今度は雪の上じゃなくて、桜の下で飲みたいかな」

 

 了解。

 また春になったら一緒に飲もう。

 

 その後も萃香と喋りながら飲み明かした。

 

 終わらない冬はもう少しだけ続きそうだ。

 

 






溶けていく雪だるまを見ると妙に悲しくなりますよね

と、いうことで春雪異変スタートです


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おまけ~迷子の迷子の~



~注意!!~

本編とは何の関係もありません
閑話ですらないオマケの話です
イラッ☆っときたらブラウザバック推奨

メタ発言、キャラ崩壊、時系列無視、オリキャラ祭が含まれます
他にも色々あるかもしれません
読んでくれると作者が小躍りします

では、始めます




 

 

 暖かなとある朝の日のこと。

 それは朝日が心地よいの日だった。さぁ、今日も今日とて元気に農作業だ。

 

 と、言ってもほとんどやることなんてないけどさ。育てている作物は稲や麦ばかり。割と暇なのだ。

 

 育てているのは、おつまみ用の枝豆やその他野菜周りの草取りくらいかな。

 ああ、そう言えば、倉庫の中の樽も動かさないとだな。重いから嫌なんだよね、あれ。

 

 そんな日だった。

 不思議な不思議な二人の迷子さんが訪れたのは。

 

 

 

 

「へい相棒……今度は何処に飛ばしたのさ?」

 

「え? いや、今回は知らんぞ? たぶんあの白い鳥居が原因だと思う」

 

「これ帰れるの? 帰れるんだよな? 帰りが遅いとまた映姫に怒られる……何が『旅行へ行こう』だよ。次元を超えての旅行とか常識の範囲超えてるだろ」

 

「いや~照れるな」

 

「ハッ倒すぞ、ちんちくりん」

 

「ちんちくりんとはなんじゃ! 背のことは言うな! お主がロリコンじゃからいけんのだろうが!!」

 

 賑やかな声。

 仲良さそうですね。

 

 なんか関わりたくない人達。

 と言うか関わっちゃいけない人達……

 最初の印象はそんな感じだった。

 

 まぁ、この印象は最後まで変わらなかったけど。もう少し静かに暮らしたいです。

 

「えと、お二人さん? いらっしゃい……かな? 良かったらお茶でも飲んでいく?」

 

 やめとけばいいのに二人に声をかける。

 無視できるほど心は強くないですし。

 

「ん? 此処の人かなお邪魔します。お茶はありがたいけど、えと……此処ってどこ?」

 

 少年の方が声をかけてきた。年齢は16くらいかな。

 もう一人は、緑の着物を着た女の子だった。年齢は12くらい。

 

 んで、その少年は何故か女の子の両頬を引っ張っていた。やめてあげなさいよ。ムグムグ言ってて可哀想でしょ。

 

「そだね。皆からは『迷いの里』って呼ばれているよ。迷子の人だけが来られる不思議な場所。んで、俺はここでカフェのマスターのやっているんだ。ようこそ迷子さん。歓迎するよ」

 

 いつものセリフ。

 どうやら今日は閑古鳥さんがお休みらしい。

 

「なんじゃ、お主はまた迷子なのかえ?」

 

「いや、9割はお前のせいなんだよ?」

 

 ホント仲良いんだね。兄妹だろうか。あまり似てないけど。

 兄妹、か。ちょっとだけ羨ましいかな。

 

 

 挨拶も終え、店に向かって歩いている時、畑を見ながら少年が言った。

 

「季節的におかしいのがあるけれど、色々育ててるんだね。いいな~俺もまたやりたいよ」

 

 またってことは今はやってないのかな?

 

「昔はやっていたの?」

 

 少しだけ気になって聞いてみる。

 

「ん~まぁ、ね。今はちょっとできないけど」

 

 なんて言って少年は笑った。

 

「わしも昔は育てていたぞ!」

 

 そう女の子が言った。

 意地を張ってるみたいで、見ていて微笑ましい。

 

 ――昔? なんて少年が声を漏らしたけれど気にしなかった。

 

「へ~、何を育ててたの?」

 

 こういう平凡な会話は久しぶりだ。でも平凡万歳。争いごとは嫌いなんだ。

 

「主にオオイヌノフグリとヒメオドリコソウじゃな」

 

 雑草じゃねーか!!

 それ畑じゃねーよ。

 

「へ、へ~すごいね」

 

 これ以外どう言えと?

 

「おい、相棒。昔ってどういうことさ? 俺の畑はちゃんと残っているのか? おい、コラ。顔を背けるな。こっちを見なさい」

 

「えと、畑は消えた。か、悲しい事件じゃった。あ、待って! ほっぺた引っ張るのやめて」

 

 少年がまた女の子の頬を引っ張り始めた。

 また、ムグムグ言ってる。

 

 いや……もう、何も言わないさ。

 

「う~、痛い。最近わしの扱い酷くないか?」

 

「お前の行動が酷いからだろ」

 

「もういい、怒った! 今度、幽香や諏訪子の前でお主に乱暴されたって泣いてやる!!」

 

「おい、バカ! やめろ!! 俺が殺される」

 

 ん? 幽香に……諏訪子? 幽香はまだわかるとしても、諏訪子ってあの諏訪子だよな……どういうことだ?

 色々と聞きたいことはあったけれど、聞かなかった。多分、それが正解だと思う。

 それにしてもなんだろうか? このどこかフワフワした感じは。

 

 これじゃあ、まるで現実ではないみたいだ。

 

 

 そんな感じで、歩けば1分もかからない道を10分以上かけて進んだ。

 なんか、もう疲れたよ。

 

 そして、少しばかり重い扉を開けて店内へ入る。

 

 店の中へ入ってからはカウンターの向こう側へ。

 

「いらっしゃい。ようこそカフェ『迷い人』へ。ご注文は?」

 

 改めてそんな挨拶。

 

「おおー、カフェっぽい。すごいな! メニューとかはないの?」

 

「これが『かふぇ』か初めて入ったわ。なんか良い感じじゃ」

 

 二人とも店内の様子には、満足してくれたようです。

 ありがとね。

 

「メニューはないよ。限界はあるけれど好きに頼んで」

 

 あ、日本酒を燗してないや。

 う~ん、ま、頼まれてからでいっか。

 

「んじゃあ、俺は砂糖とミルクたっぷりのゲロ甘いエスプレッソで」

 

「わしは抹茶ラテ」

 

 二人が注文した。

 

「え……?」

 

 お酒じゃない……だと……?

 

「ん? ありゃ、エスプレッソは無理か。ん~じゃあホットコーヒーのブラックで」

 

「抹茶ラテは無いのか?」

 

「あ、いや……エスプレッソできるよ。あと抹茶ラテね。かしこまりました」

 

 いかん、いかん。

 ちゃんとした注文なんて本当に久しぶりだったから、少し慌ててしまった。

 

「わし、変なこと言ったか?」

 

 作業をしていると後ろから声が聞こえてきた。

 大丈夫、それで普通なはずだから。それが普通のはずだから。

 

「ん~、そこまで変じゃないと思うけど。てか前に抹茶を飲んだ時、『こんな苦いやつ飲めるか』って怒ってたのに、抹茶でいいの?」

 

「だから、抹茶ラテにしたんじゃよ。それにほら、わしのイメージカラー緑だし」

 

 ……なんていう会話をしているんだよ。

 

 飲み物を用意しながらクッキーも序でに焼いてみる。今回の甘さ控えめで。

 

 クッキーの焼けた匂いと、コーヒーの香りが店内に広がった。抹茶なんて普段飲まないから、傷んでいたかもしれないけれど、無視して出すことに。決してミルクを多めにして誤魔化してなんていない。

 

 まぁ、そんな抹茶ラテだったけれど女の子も美味しいって言っていたし、良かったと思う。

 

 そして飲みしな、食べしな雑談中。

 俺は、適当にホットコーヒーを飲んでいます。

 

「いや~、普段来るお客さんは、お酒しか頼まないから焦っちゃったよ」

 

 カフェなのにね、ここ。

 

「ん~? 『かふぇ』ってお酒も飲めるのかえ?」

 

 女の子が聞いてきた。

 

「いや、アルコール入りコーヒーとかあるけれど、カフェで飲むのもじゃないと思う」

 

 なんて少年が言った。

 その通りです。

 

「いや此処に来る人って、日本酒や麦酒しか頼まないんだよ」

 

 カフェなのにね、ここ……

 なんで、お酒の方が種類が多いんだろうね? カフェだよね、ここ。

 

「じゃ、わしらも頼んでいいのか?」

 

 女の子が嬉しそうに聞いてきた。

 えと、まぁ頼んでもいいけれど

 

「いや、君みたいな女の子にお酒を出すのは……」

 

 流石にその体じゃ代謝系も弱いでしょ?

 

「だってさドンマイ。んじゃ、俺はエールビール常温で頼むよ」

 

「あっ、ずるい! ずるい! わしも日本酒の冷で」

 

「えっと……」

 

 どうしよう、せっかく注文してくれたのだから出したいのだけど、う~ん……ほら最近は倫理委員会とか五月蝿いし。

 

「店主さん、店主さん。このちんちくりんなら大丈夫だよ。人間じゃないから」

 

 え? そうなの?

 

「えと、じゃあ君も人間じゃないのかな?」

 

「ん~、俺は……」

 

「いつも通り言えば良いじゃろ『ポケモン』じゃって」

 

 えと? ぽけもん? それは知らない単語だ。

 

「まぁ、人間ではない……かな」

 

 と少年は少しだけ悲しそうに笑った。

 その表情がやけに印象的だったことをよく覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人がお酒を飲み始めて数時間。

 

 ヤバい、まじヤバい。この女の子おかしい。すでに飲み終えた日本酒を5升を超える。

 少年の方は麦焼酎をチビチビ飲んでいるだけだが、女の子が止まらない。日本酒をジョッキで飲む奴とか初めて見たわ。

 

 あれ? 日本酒ってこうやって飲むのもだっけ?

 いやいや、絶対違う……

 

 そして、店内の様子は――

 

 

「へい、マスターこのタバスコをあちらの女性に」

 

 どっからそのタバスコ出したよ、おい。

 

「わぁ、この枝豆おいしいのう!」

 

 とか言いつつ、日本酒をガブ飲み。

 たぶん、カオスってこういう状態なんだろうね。

 

 

 

 二人に聞いてみたところ、慰安旅行中らしい。

 少年は女の子に、拉致されたって言っていたけれど、きっと気のせい。

 

 んで、適当に旅行をしていたら、迷子になったんだって。どこを目指していたのか聞くと、二人揃って――

 

「「さあ?」」

 

 って言われた。

 大丈夫かよ……

 

 朝から飲み始めて、すでに夕方。女の子が飲んだ日本酒の量は途中で数えれるのを諦めた。

 

 お代は初回サービスにしようと思っていたけれど、流石にこれは……

 これじゃあお酒のストックが尽きそうです。

 

 

「ありゃ、もう夕方じゃん。そろそろ行こうぜ」

 

「むぅ、もうちょっと飲みたかったがそうじゃな」

 

 女の子は人間ではないから、良いとして(全然良くないが)、少年の方もかなりの量を飲んだはずなのに、まだまだ余裕そう。

 

 どうなってるんだ……

 

 

「へい、マスター、御会計をお願い」

 

 良かった、お金は払ってもらえるらしい。

 

「はい、えと……二人一緒で?」

 

「「こいつが払う」」

 

「は?」「え?」

 

「いやいや、お前のが飲んだ量多いだろ。お前が払えよ」

 

「いや、だってわし、お金なんてほとんどないぞ? 此処はお主が払うべきじゃろ」

 

 ……ああ、ダメなやつだわコレ。

 

「是非局直庁なめんな、給料なんてほとんど無いに等しいんだぞ。え? 何? お前、お金はあるの?」

 

「親切な人や紫からお小遣いをもらっておるが、わしはお金の価値とか知らんからな。どれくらいあるのかわからん」

 

「「「…………」」」

 

 どうすっかな、おい。

 

「よ、よし、とりあえず。二人の有り金を全部出すぞ。でも、どうせ足りないだろうから……んと、店主、何か手伝えることとかある? 本当に申し訳ないけど、それで手を打ってもらえないかな?」

 

 ま、まぁ、お金がないなら仕様がない……のか?

 

「えと……じゃあ畑の水やりと、酒樽の移動を手伝ってもらえる? それで足りない分はチャラってことで」

 

「ごめんな。ありがと」

 

 そう言って少年は、また笑った。ホント、よく笑う人だ。

 

 はぁ、此処は割り切るしかないだろう。ちょうど、人手も欲しかったし。酒樽って重いんだよね。

 うん、仕方無い、仕方無いんだ。

 

 

 

 

 店の外に出ると、太陽が真っ赤に染まっていた。

 つまり、夕方。今日は忘れられない一日になりそうだ。

 

「んじゃあ、ここの水やりを頼むよ。井戸は正面から見て店の左側で、そこに如雨露もあるから」

 

 畑と言っても、200平方米位の小さなもの。三人でやれば一時間もかからないだろう。

 

「ありゃ、そんなに大きくないんだね。あ、如雨露はいいや。10秒くらい、雨を降らせれば十分でしょ」

 

 そう少年が言った。

 

 うん? 雨? 今は見事な晴天なんだけど……

 

 

 瞬間――少年の姿が変わった。

 赤い線の入った青色の服、背中から2本の鰭。

 そして降り始める雨。

 さらに、少年からは巫山戯ている程の力。

 

 ちょ、ちょっと待ってくれ。は? え? なんだよ……この力。

 立っていることすら辛い。

 強い雨。意識が飛びそうになる。

 

 

 時間にしてはたった数秒。

 気持ちにしては数時間。

 

 気がつくと少年の姿は元に戻っていた。所々にできた水溜り。

 

「このくらいでいい?」

 

 少年が聞いてきた。

 

「あ、ああ、うん。十分だよ」

 

 なんとか答える。

 なんだと言うのだ……

 

「何レベルにしたのじゃ?」

 

 久しぶりに女の子が声を出した。

 

「100。う~ん、ちょっと頑張りすぎたわ」

 

 ――たまには良いかもね。

 

 なんて言って少年はまた笑っていた。

 

 不思議なことだけど、あれだけ雨が降っていたのに、何故か服は濡れていなかった。

 

「えと、次は酒樽の移動だっけ?」

 

「あ、うん、そっちも手伝ってほしいかな。一人じゃちょっと重くてね」

 

 

 

 3人で倉庫へ移動。

 ウイスキーを作るために、少しスペースが欲しいのだ。もうちょっと考えて樽をおけば良かったよ。

 

 小さな樽でも40升。

 一人ではちと、キツい。大きな奴は1t近いし。

 

 

「おお、すごいな。酒蔵とか初めてだ」

 

「え? これ全部お酒なのかえ?」

 

 ごちゃごちゃしていて、少し恥ずかしい。

 

「んで、どの樽を何処へ動かすの?」

 

「えと、此処に並んでいる樽を少しづつ奥へ詰めて、スペースを作りたいんだ。一人じゃできなくてね」

 

「了解。んじゃあ、後は任せたよ相棒」

 

 少年が言った。

 

「任されたよ、相棒」

 

 女の子が答えた。

 

 さらに、女の子が手を挙げると、お酒が詰まった樽が一気に動いた。

 そして、樽二つ分位のスペースが。

 

「これでいいのか?」

 

 女の子が聞いてきた。

 

 頭が追いつかない。

 この状況を理解しようとしてくれないのだ。

 

「あ、ありがとう。これで大丈夫だよ」

 

「他にやることはある?」

 

 そう言って少年が尋ねてきた。

 

「ん、いや……これで終わりかな。ありがとう、お疲れ様」

 

「なんじゃ、もう終わりかえ? わしらのことなら気にしなくてもいいぞ? ほら国一つ壊滅させて欲しいとか、色々あるじゃろ?」

 

 い、いや、十分です。ホントにこれ以上は特にないんだ。

 あと、何その物騒なお願いは。

 

「う~ん、他にやってもらうこともないしね」

 

「そっか。んじゃあ、俺たちは行くとするよ。帰りはどうすればいいの?」

 

「ああ、倉庫を出て右手に麦畑と田んぼが見えるから、その間を真っ直ぐ進めば帰れるよ」

 

 どこか、ボーっとして頭が働かない。

 未だ夢見心地。

 

「了解。色々ありがと。ご馳走になったよ。おい相棒、金出せ」

 

「もうちょっと柔らかく言えんのか……はいよ」

 

「あら? 結構持っているんだな。これならもしかして足りたんじゃ……ま、いっか。マスター、お代は此処に置いていくよ。よしゃ、そんじゃ行くか」

 

「またな~、機会が合ったら来るよ」

 

 二人が言った。

 

「ああ、また会える時を楽しみにしているよ」

 

 多分だけれど、もうこの二人と会うことはないのだろう。

 そんな気がする。

 

 そしてその予想はきっと間違いではないと思う。

 

「お主、右ってわかるか? お箸を持つ方じゃぞ?」

 

「張り倒すぞ。てか、ここから出た後、元の場所に帰れるよな?」

 

「た、たぶん」

 

「おい、こっちを見て言いなさい」

 

 外からはまだあの二人の声が聞こえる。

 あ、名前聞かなかったな。ホント、何者なんだろうね……

 漸く働き始めてくれた頭。けれども体は未だ動こうとしない。

 

 

 二人の声が聞こえなくなって暫くすると――

 

「ご機嫌よう、黒」

 

 紫が現れた。

 

「今晩は、紫」

 

 たぶん、ずっと見ていたのだろう。そう言えば、あの女の子が紫から、お小遣いをもらっていると言っていたけれど……

 

「なぁ、紫。あの二人って……」

 

「知らない、私は知らないわ。あんな化物二人。少なくともここの幻想郷の奴ではない」

 

 そっか。

 

 『ここの幻想郷』……ね。

 

「女の方は力が強すぎて、境界を操れない。男の方は壊れすぎていて、境界を操れない。あの二人がいたら、この幻想郷はもっと変わっていたでしょうね」

 

「いなくて良かったか?」

 

「わからないわよ。そんなこと……」

 

 紫にしては、珍しい発言だった。

 

 さてさて、動くとしますか。

 二人が置いていったお金を確認。

 

 ありゃ?

 

「どうしたの? お金じゃなくて、小石だった?」

 

 紫が笑う。

 

「いや、ちゃんとお金だけどさ。予想よりずっと多くて」

 

 てか、明らかに多いぞ。あちゃー、申し訳ないことしたな……

 

「いいじゃない、もらって置きなさいな」

 

「うん、そうするよ」

 

 結局、あの二人が何者だったのかはわからない。

 

 頭の奥では理解しているのだと思う。けれど、答えは出ない。出してはいけない。そんな気がする。

 

 珍しいお客さんが訪れた。

 今回のお話は、たったそれだけことだったのだろう。

 

 

 







と、いうことで閑話ですらないオマケの話を投稿です

『前の作品のキャラの話を読みたい』とメッセージを頂いたので、書かせていただきました
メッセージありがとうございました

本編も少しずつ更新していく予定です


質問・感想は特にお待ちしておりませんが、書いていただければ作者が踊ります



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第12話~雪猫迷える七色魔法使い~



先日、友人がトラクターに轢かれました





 

 

『反魂蝶 -八分咲-』

 

 視界を埋め尽くすほどの弾幕――と言うよりは弾壁かな。蝶弾、大玉、レーザーと何でもありだ。

 

「え……なに、これ」

 

 幽々子の驚いたような声が聞こえた。

 ああ、そっか。そう言えばこんな仕掛けだったね。

 

「何よ、まだ続くの? 面倒ね」

 

 続いて聞こえたいつも通り気だるそうな霊夢の声。頑張って、これでラストだから。

 

 咲き誇る桜は、散るからこそに美しい。

 じゃあ、散ることのない桜と咲くことのない桜、美しいのはどっちだろうね?

 

 満開になりかけの妖怪桜を見ながら、他人事のようにふと思った。

 

 春の訪れまで、あと少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 例年ならば春が訪れ、桜が咲きお花見でも楽しんでいる頃。

 そうだと言うのに未だ春は訪れない。

 

 雪がやまず、気温は上がらず、そんなんだからお客さんも来ない。

 終わらない冬、訪れない春。

 

 さて、そろそろ動かないといけない頃なんだろう。

 

 決して、あの子鬼が毎日俺の店に来ては暴れているからではない。『お花見したい。てかお酒飲みたい』とか言って暴れまわって、手がつけられないからではない。

 違うったら違うのだ。

 

 

 こんな中でも頭の中春満開の、あの巫女は動かないだろうし。

 ん~、面倒だけど今回は俺も手伝おうかな。

 

 紫を叩き起こすってのもありだけど、あの桜を封印したの俺だしなぁ……ま、頑張るとしよう。

 

 そろそろ逢魔が時、異変解決にはちょうどいい時間だ。

 

 出かける準備をして店を出る。マフラー暖かいです。行き先は博麗神社。

 どうせ霊夢はまだ動いてないだろうけれど、急ぐとしよう。

 

 

 

 

 

 

「っと」

 

 降り積もった雪のせいで、バランスを崩しながらも着地成功です。

 博麗神社の裏。あいも変わらず雪かきはしていなかった。

 

 天気は雪。

 此処まで続くと流石に飽きちゃうね。

 

 雪を押しのけ進むのは面倒だから飛んで移動。

 それにしてももうちょっと雪かき頑張ろうよ……雪下ろしとかちゃんとやってるのかな?

 思っているより、雪って重いんだよね。

 

 母屋の方へ行くと、ちょうど霊夢が出かけるところだった。

 良いタイミング。どこかへ出かけるのかな?

 

「や、霊夢。どっかに行くの?」

 

「あら、ちょうど良いわね。これからこの異変を解決しに行くから手伝って」

 

 おろ?

 霊夢が自分から動くとは……ちょっとだけ感動した。

 

「霊夢が自分から動くなんてどうしたのさ?」

 

「薪と炭が切れそうなのよ。こんなに雪があったら、拾いにも行けないし。それに、そろそろ雪も見飽きたわ」

 

 うん、まぁ、そんなもんか。

 人里の方も薪や炭はそろそろ厳しいだろうし。

 

 桜が恋しいね。

 花びらだけじゃなくて、俺は咲いている桜が見たいよ。

 

「よしゃ、そんじゃ行こっか」

 

「それで……今回は何処へ行けばいいの?」

 

 ん~……どうしようか。

 今回は教えてもいい気がするけれど……ま、霊夢なら一人でも辿り着くか。信頼しているよ、博麗の巫女。

 

「あ~申し訳ないけど、今回も自力で目的地を見つけてくれ」

 

「はぁ、まあいいわ。行きましょ」

 

 簡単な会話。

 単純な掛け合い。

 通常運転。

 

 さぁ、春を取り返しに向かおうか。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば霊夢。屋根の雪下ろしは、ちゃんとやってる?」

 

 霊夢と一緒に飛びながら聞いた。

 因みに、異変で興奮した妖精は、霊夢が全部蹴散らしてくれる。霊夢さんマジパネェっす。

 

「親切な妖怪がやってくれたわよ」

 

 ……ああ、そうですか、無理やりやらせたのか。てか、いつも通りの巫女服だけど、寒くないのかね? マフラーとか手袋くらいつければ良いのに。

 

 暫く進むと、あれは……雪女か? そんな一人の少女が居た。

 

「げっ、あの時の巫女」

 

 その妖怪がこちらに気づき言葉を落とした。うん? あの時?

 

「な、なにさ。また私に雪かきをさせに来たの?」

 

 ……ああ、なるほど、被害者さんでしたか。

 

「霊夢……お前」

 

「何よ? 雪の妖怪だし、自分で黒幕とか言ってるから倒しただけよ。雪下ろしは善意でやってくれたわ」

 

「いや、無理やりやr……ちょい、待って! 戦う気はないから。そりゃあ、私だって冬が長いのは嬉しいけれど、季節の移り変わりくらい受け入れるているわ。それに春を奪うほどの力はないし」

 

「だってさ霊夢、進もうぜ」

 

「う~ん、やる気のない相手と戦っても体は暖まらないしね。行きましょ」

 

 ――じゃあね、妖怪さん。

 

 と言ったけれど見事に無視された。

 ま、こんなもんか。それじゃ、来年の冬にまた会いましょ。

 

 

 

 雪の妖怪さんと別れてから暫く。フワフワ飛びながら妖精を蹴散らす霊夢に、必死でついて行く。

 今回はちょっとばかし、霊力を増やしてきたから、紅い霧の異変の時よりはマシだけど、やっぱりキツい。

 いや、霊夢がおかしいんだよ? ホントに人間かよ、この巫女……

 

 

 そして、開けた場所へたどり着いた。

 

 

「あら? こんな所に家なんかあったっけ?」

 

 ありゃ……ここに来ちゃったか。

 あの娘はいるのかな?

 

「よく来たわね、人間!」

 

 あ、いたわ。

 今日も元気だったわ。

 

「誰?」

 

 名前は橙。紫の式神の式神です。幻想郷では数少ない、俺の癒し要素です。

 

「迷い家にようこそ。ここに迷い込んだら最後!二度と帰れないよ!!」

 

 そんなことないけどね。

 普通に帰れるけどね。

 

「迷い家? 迷い家って、あの物を持ち帰れば幸運になれる迷い家?」

 

 それは、やめてあげて……

 

「うん。そうだよ」

 

 橙も素直に答えなくていいんだよ?

 

「さてと、軽い日常品でも探そうかしら」

 

「あ、待って! ダメ!! 帰れ!!!」

 

「二度と帰れないんじゃなかったの……」

 

「もう! 仙符『鳳凰卵』!」

 

「はぁ、随分と元気な奴ね。でもこれで少しは暖かくなるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃー……」

 

 弾幕ごっこはかなり一方的な試合になった。

 うん、まぁ、流石に橙と霊夢じゃ、ね……

 

「お疲れ、橙」

 

 うつ伏せに倒れ込んでいる橙に声をかけてみる。

 

「にゃ、黒様! お久しぶりです!」

 

 パッと起き上がりこちらを見る橙。

 可愛いなコノヤロー。

 

「うん、久しぶり。元気にしてた?」

 

「はい、元気です! 冬の間は藍様も忙しく、なかなか来てくれませんが……」

 

 あ、耳がたれた。

 寂しかったんだね。まぁ、冬の間の藍は忙しいから仕方ないよな。

 

「あら、ずいぶんと親し気なのね」

 

「よく、遊びに来てたからね。ごめんな橙。今日はマタタビを持ってきてないんだ。今度来る時は持ってくるよ」

 

「いつでも来てください! 楽しみにしています!」

 

 あ、耳が戻った。

 

「それで、お椀とかはどこ?」

 

「あんたはさっさと帰れ!!」

 

「だから、二度と戻れないんじゃ……」

 

 何も持ち帰らせなかったから、ブーブー文句を言う霊夢を連れて、迷い家を出る。

 

 お茶でも飲んでいってくれと、橙が言ったけれどそれも断った。ごめんな、また来るからそんなに落ち込まないで。

 じゃ、また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷い家を出て、元の森へと戻る。

 雪は降り続いたままだ。

 

「ねぇ、黒。あなたの能力でこの雪を止めてよ」

 

「ん~やってもいいけど、もう雪を見ることがなくなるからなぁ。そう思うとちょっと、もったいなくなるんだよ」

 

 どれだけ憎らしい奴でも、最期は愛しくなるそんな感じ。

 

 そんな会話をしている時だった。

 彼女と再開したのは。

 

 

「あら?」「ん?」「おろ?」

 

「暫くぶりね霊夢に黒」

 

「や、久しぶりアリス」

 

「ん~……うん?」

 

「どうしたのよ霊夢。私のことを忘れた? まぁ、どうでもいいけれど」

 

「覚えているけれど、前にあった時はもっと小さかったような」

 

「……成長期なのよ」

 

 俺からはノーコメントで……

 てか、魔法使いに成長期とかないだろ。

 

「んで、あんたは何やっているの? もしかしてこの終わらない冬の異変を起こしたのってあんた?」

 

 いや、アリスは関係ないぞ。

 まぁ、どうせ言っても遅いんだろうけどさ。

 

「ああ、やっぱりまだ冬だったのね。そして、私じゃないわよ。どこかの誰かが春度を集めているんじゃない?」

 

「春度?」

 

「そ、春度」

 

「何よ、それ。じゃあ、あんたは関係ないの?」

 

「はぁ、あるわけないでしょ」

 

「じゃ」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! せっかく旧友と会ったのだから、もっと何かないの?」

 

「いや、あんたみたいな七色魔法莫迦とは『友』ではないでしょ」

 

「フフッ、所詮は二色。そんな力じゃ私の二割八分六厘にも満たない」

 

 じゃあ、俺は一割四分三厘にも満たないな。

 意味わからんが。

 

「操符『乙女文楽 -Lunatic-』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、春度ってのはなんなのよ?」

 

「いたた、相変わらず莫迦みたいに強いわね……雪に混じって桜の花びらが降ってきているでしょ?」

 

 霊夢がこっちを見てきた。

 

「いや、俺は能力使ってないぞ?」

 

 無罪です。

 

「黒も教えてあげればいいじゃない」

 

「いや~その内気づくかなと。はいよ、霊夢これあげるよ」

 

 道中でこっそりと集めていた花びらを霊夢に渡してあげた。

 

「なにこれ、暖かい……って、ずるい! 黒は一人だけ温まってたのね!」

 

 プリプリ怒る霊夢ちゃん。

 ごめん、ごめん。

 

「あとは、わかるでしょ? この異変を起こしている奴の場所が」

 

「……上ね」

 

 雲で覆われ、風花舞い散る空を見上げる。

 

 冬はまだ、終わらない。

 

 

 







因みにサブタイトルに意味はありません

次の話で妖々夢も終わりそうですね
さて、作者は騒霊三姉妹を書き分けることができるのでしょうか

多分、無理ですね


次話では少しだけ主人公が頑張る予感
まぁ、私の予感はなかなか当たりませんが



感想・質問など何でもお待ちしております

轢かれた友人は無傷でした


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第13話~雲の上の桜の木の下~

 

 

 雪を降らせ続ける分厚い雲を抜け、空へ。

 

「あら、雲の上は随分と暖かいのね」

 

 霊夢が言った。

 多分だけれど、ここまでは春が来ているのだろう。

 

 仄かに香る桜の気配。白玉楼まで後少し、かな。

 

「うん? なんかこっちに来るな」

 

 弾幕をまき散らしながら近づいてくるのが一つ。

 

「何かしら? あれ」

 

「春告精じゃないかな?」

 

 どうやら、ここ雲の上はすでに春らしい。

 

「鬱陶しいわね。ちょっと倒してくる」

 

 あんまり苛めないでね。彼女は春だって伝えたいだけなんだから。

 まぁ、それが迷惑なんだけどさ……

 

「お、黒じゃん。お前も異変を解決しに来たのか?」

 

 霊夢が春告精と闘っているのを、ボーっと見ていたら後ろから声がした。魔理沙ちゃんだった。

 

「今晩は、魔理沙ちゃん。俺は霊夢の付き添いだけどね。魔理沙ちゃんはどうしたの?」

 

 異変を解決しに来たのかな?

 君も物好きだねぇ。

 

「冬なのに桜の花が舞っていて、それを追いかけて来たら此処に着いたんだ」

 

 そかそか、んじゃあまぁ、一緒に行こうか。

 

「雲の下は猛吹雪だっていうのに、その上は暖かいのね。素敵すぎて涙が出そう」

 

「今晩は、咲夜さん」

 

「はい、今晩は。黒様」

 

 咲夜さんも登場です。

 

「咲夜さんも異変を解決しに?」

 

「ええ、紅魔館の燃料が尽きそうでしたので。そんなことより、この異変の原因は……貴方ですか?」

 

 え?

 

「いや、違うけど……えと、なんで俺だと?」

 

 とりあえず、そのナイフを閉まって下さい。怖いでしょうが。

 

「桜」

 

「ん?」

 

「ここまで、桜の花びらを追いかけて来ました。桜と言ったら貴方の能力でしょ?」

 

 ああ、そういうことか。まぁ、そう思うのも仕方がないのかな?

 とは言っても、俺じゃあ春を止めることなんてできない。無罪です。

 

「なんだ、じゃあ黒を倒せばいいのか?」

 

 良いわけないでしょ。なんてことを言うんだ。

 

「ちょっ、待ちなさいって。とりあえず、ナイフと八卦炉を下ろして」

 

「私は黒の能力なんて知らなかったけれど、そう言われると黒って怪しいよな」

 

「何やってるのよ……」

 

 あ、霊夢。

 春告精は倒したのかな?

 

 ああ、なんか下の方になんか落ちていった……

 雲の下は滅茶苦茶寒いけど、春告精は大丈夫だろうか?

 

 それは良いとして……助けて、この二人が俺をいじめようとする。

 

「黒に異変を起こすだけの力があるわけないでしょ? その辺の妖精にだって負ける程度の力しかないんだし」

 

 フォロー……だよね?

 

「確かにそうだな。黒、弱いもんな」

 

 あれ、雨か?

 頬を伝うこの液体は一体……

 

「私はわかっていましたが」

 

 じゃあ、何で言ったんだよ!?

 

「んじゃあ、本当のラスボスは誰なんだ?」

 

 ん~そろそろ教えてあげてもいいのかな。

 

「今まで通り、桜を追いかけて行けば待ってるはずだよ。ラスボスが。ま、後少しだから頑張って」

 

 今頃は半人半霊のあの娘と一緒に、お花見の準備でもしているのだろう。

 

「ずいぶんと、あっさり教えるのね。なんか黒って魔理沙に優しくない?」

 

 いや、そんなつもりはないけど……

 ん~別に、霊夢に厳しくしてるってことはないと思うんだけどな。ま、この異変を解決したら、お酒でもあげようかな。

 

 

「そんなことないさ。じゃ、そろそろ行こうか」

 

 そろそろ物語が動いても良い時間だ。

 

 

 

「ちょっと姉さん待っててば」

 

「雲の上は暖かいね~」

 

 おろ? また増えた。

 

「ん? 誰だ?」

 

 あれは……騒霊三姉妹か? どうして此処にいるのかは知らないけど。何の用だろうか。

 

「あんたらは何者?」

 

 霊夢が聞いた。

 

「私達は騒霊演奏隊だよ~。お呼ばれで来たの」

 

「宴の時間~」

 

「あなたたちは?」

 

「風上を目指していたらここにたどり着いただけの者よ」

 

「4対3か……どうする? 一人ずつやるか?」

 

 ありゃ、戦う気満々ですね。

 

「んじゃあ、俺は先に行ってるわ。これでちょうどいいだろ?」

 

「あ、ずるい! また一人だけ」

 

「俺は一応お呼ばれしてるからね」

 

 『春に来なさいよ』だったっけかな? ああ、でもお酒持ってきてないわ。

 

 ん~また今度でいいか。

 

 んじゃあ、後は任せたわ。どうか頑張ってくださいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢達を置いて先へと進む。

 そして、白玉楼へと続く長い階段が見えてきた辺りで、見えない壁にぶつかった。痛い……

 

 結界か、こんなのあったね。この前に来た時は、妖夢ちゃんと一緒だったから普通に入れたけど……う~ん、どうすっかね。壊しても良いけど、壊したら紫の奴怒るよな。

 

 仕方がないから、ギリギリ通ることができるくらいの穴を開けた。

 これくらいなら、俺にだってできます。

 

 

 白玉楼へと続く長い長い階段。春度でも俺の能力でもない、普通の桜の花びらがハラハラと舞い散っていた。結界を抜け、白玉楼に向かう途中妖夢ちゃんと遭遇。

 

 何やってんの?

 

「あ、黒さん。いらっしゃいです」

 

「や、妖夢ちゃん。こんな場所でどうしたの?」

 

「プリズムリバー三姉妹を待っているところです」

 

 ああ、なるほど……でも、たぶん来ないと思うよ。

 

「そっか、幽々子は白玉楼にいる?」

 

「はい、満開ではありませんが、西行妖も花を付けこれからお花見です。どうぞ、ゆっくりして行ってください」

 

 はぁ、やっぱりあの化け桜咲きやがったか……

 満開ではないってことは、封印は機能しているみたいだね。とりあえずは一安心と言ったところ。

 

「おう、じゃあ先に行ってるよ」

 

 軽く言葉を交わして妖夢ちゃんと別れる。

 てか、俺は別に正式に呼ばれているわけじゃないんだけど……良いのかな?

 

 

 長い長い階段を登り終えると、満開となった桜達がまっていた。

 ホント、綺麗だな……

 

「いらっしゃい、黒。来てくれるとは思っていなかったわ」

 

「お邪魔するよ、幽々子」

 

 一際目立つ咲かないはずの桜の下に幽々子はいた。

 

「こんなに綺麗なのだから、もっと早く咲かせれば良かったわ。満開になったらもっと、すごいのでしょうね」

 

 今は八分咲きと言ったところ。

 

 残念だけどさ、幽々子。

 お前が満開の西行妖を見ることは……絶対にないんだ。

 

 

「あ~幽々子? 招待してもらっておいてあれだけど、お酒持ってくるの忘れたんだよね」

 

「あら、そうなの? それは残念ね。まぁ仕方がないわ。それじゃあ、今日は楽しんでいってちょうだい……って、下の方が騒がしいわね。招かれざるお客さんかしら?」

 

 霊夢達も着いたみたいだね。確かに妖夢ちゃんは強いけど、霊夢に勝つのは無理だろう。

 霊夢の強さはちょっとおかしいと思うんだ。

 

 

 

 騒がしい声が近づいてくるのがわかった。

 

「ちょっと待ちなさい! これ以上踏み込んで、お嬢様に殺されても知らないわよ!!」

 

 どうやら、到着らしたらしい。

 いや『殺される』って妖夢ちゃん、流石に幽々子でも能力使ったりはしないだろ……あ~妖夢ちゃんも派手にやられたみたいだね。

 ドンマイです。

 

「あら、本当にここだけ春のようね」

 

「おおー、すごいな。桜が綺麗だ」

 

「あ、黒と……誰?」

 

 三者三様の驚き方。

 まぁ、下の世界は未だに冬が続いているもんね。

 

「それはこちらの台詞よ。私は西行寺幽々子。ここ白玉楼の主で亡霊をやっているわ。それで、貴方達は? 招待した覚えはないけど?」

 

「私も招待された覚えはないな。春を返してもらいに来たぜ。桜が恋しくてね」

 

「それなら、ここの桜を見ていけばいいじゃない。綺麗でしょ? ここの桜は」

 

 さっき招待してないって言ってたのにね。

 あ、ごめんなさい。何でもないです。そんな睨まないでよ……

 

「私はうちの神社でお花見がしたいのよ。さっさと返してもらえる?」

 

「物騒ね。あと少し、あともう少しで西行妖が満開になる。そうすれば封印が解けるのよ」

 

「封印されているのだから、解かない方がいいんじゃない? で、その封印が解けるとどうなるのよ?」

 

「すごく満開になる」

 

 ……いや、うん。まぁ、そうだけど。えっ? 何、幽々子そのためだけに幻想郷の春を集めたの?

 

「と同時に何者かが復活するらしいわ」

 

 ありゃ、そこまで気づいていたのか……

 はぁ……どこで知ったんだか。

 

「封印されている奴なんて、禄な奴じゃないでしょ……どうでもいいから、さっさと春を返して」

 

「ふふっ、貴方達から春を奪えば、西行妖も満開になるかしら?」

 

 

 

「これ以上奪われるわけないでしょ? さっさと花の下に還るといいわ、春の亡霊!」

 

「ふふっ、花の下で眠るといいわ、紅白の蝶」

 

 

「亡郷 『亡我郷』」

 

 さてさて、弾幕ごっこの始まりです。

 

 

 

 

 

「魔理沙ちゃんと咲夜さんは闘わないの?」

 

 弾幕ごっこが終わるまで、二人と雑談。妖夢ちゃんは端っこで倒れてます。ゆ、ゆっくり休んでね……

 

「私はジャンケンで負けたからなぁ。最初は霊夢に譲るよ」

 

「私は春さえ取り戻せればいいので」

 

 異変の解決は、誰にやってもらっても構わないけれど、やっぱり霊夢には頑張ってもらいたいかな。

 そんじゃ、頼んだよ、博麗の巫女。

 

「そっか、まぁ霊夢なら幽々子にも勝てるだろうし、のんびり待つとしようか」

 

「黒はあの亡霊姫と知り合いなのか?」

 

「まぁね、昔からの友人かな」

 

 亡霊になる前だって友人だったと思うよ。まぁ、彼女がどう思っていたかは知らないけどさ。一応、1000年前からの付き合いだね。

 

 そんな感じでのんびりと雑談。

 我ながらのんきなものだ。

 

 

 

「桜符『完全なる墨染の桜‐開花‐』」

 

「霊符『夢想封印』」

 

 勝負も終盤。

 流石の霊夢もちょっと疲れ気味かな?

 

 飛び交う色とりどりの弾幕。

 

 

 そして――霊夢の霊弾が幽々子に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

「あいたた……貴方本当に人間なの? ちょっと強すぎない?」

 

「失礼ね。ちゃんとした人間よ」

 

 わりと怪しいけど、人間なんだよね。

 

「おお、流石霊夢だな。じゃあ、春を返してもらおうぜ。博麗神社でお花見しようお花見」

 

「私も帰ろうかしら? 紅魔館も心配だし」

 

「あ~疲れた。それで、春はどうやって返してもらえるの? ……あら? あの桜なんかおかしくない?」

 

 

 

『反魂蝶 -八分咲-』

 

 視界を埋め尽くすほどの弾幕……と言うよりは弾壁かな。蝶弾、大玉、レーザーと何でもありだ。

 西行妖がそんな弾幕を放ってきた。

 

「え……なに、これ」

 

 幽々子の驚いたような声が聞こえた。ああ、そう言えばこんな仕掛けだったね。

 

「……何よ、まだ続くの? 面倒ね」

 

 続いて聞こえた、いつも通り気だるそうな霊夢の声。頑張って、これでラストだから。

 

 と、言っても流石の霊夢でもこれは厳しいか。

 お疲れ様。ここからは俺がやるよ。

 

「ちょ、ちょっと黒! 危ないわよ!!」

 

 霊夢の声が聞こえた。

 大丈夫だよ。今日はこのために来たんだ。

 

 

 ――能力使用。

 

 近づいて来る弾幕全てを桜の花びらに変えた。

 

 えっ? ずるいですか?

 まぁ、許してよ。耐久スペルとかやってられんもん。

 

「これは……すごいな」

 

 魔理沙ちゃんの声も届く。

 

 弾幕の代わりに視界を埋め尽くした、舞い散る桜。

 散る散る桜は美しい。

 

 西行妖に近づき手をつけてみる。

 

 ありゃ……無理やり春度を入れたせいかな? 封印がボロボロだ。もしかして割とギリギリだった?

 

 封印するための結界を再構築。

 

 陽陰の八卦を組み合わせて六十四。

 そこへ、木火土金水の五行を重ねる。

 

 陽の八卦で結んで、五行で縛り、陰の八卦で閉じる。

 掛けて合わせて三百二十。

 

 仕掛け自体は前回と同じ。これで1000年くらいは大丈夫かな? 申し訳ないけれど、彼女にはまだ眠っていてもらおう。

 

 封印完了と共に、西行妖が付けていた花が一斉に散った。

 

 お休み。

 まぁ、ゆっくり休んでくださいな。

 

 

 

 

 

「っと……」

 

 ふぅ……終わったか。

 

 あ~駄目だ、滅茶苦茶疲れた。前回の封印よりは楽とは言え、霊力はすっからかんだ。

 

 目蓋が重い。今日は白玉楼に泊まって行こうかな。これから帰れる気がしない。

 

「―――?――――っ」

 

 霊夢たちが何か言ってる。

 ゴメン、全然聞こえないわ。ちょっと休ませて。

 

 意識が途切れる寸前に見えた桜は、やっぱり綺麗だった。

 これだけ見ても全く飽きない。

 

 ホントお前はずるいねぇ。

 

 

 

 






桜と聞くと『ソメイヨシノ』が有名ですよね
このソメイヨシノですが、自家不和合性であるため、自家受粉では実をつけません
じゃあ、どうやって繁殖しているかと言うと、挿し木や接木によってのみです
つまり無性繁殖ですね
そのためソメイヨシノは全てクローンだと言えます

雑学にもならなそうな話でしたね


と、いうわけで13話でした
八卦だの五行だの書きましたが、作者は理解していません
なんかカッコイイから書きました
これで幽々子さんが復活したら私のせいですね


次話は妖々夢エピローグっぽいです



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第14話~桜と酒と~

 

 

 死にたくなるくらい綺麗な桜の木の下で、少女が倒れていた。

 

 周りは赤く染まり、少女の手には一本の小刀。

 

「黒……幽々子をお願い」

 

 紫が泣きそうな声で言った。

 

 落ち着け。

 こなることくらい十分予想していたはずだ。

 

「わかってる。紫、幽々子が成仏しないように頼む」

 

「もう、やっているわよ。急いで」

 

 ここからは時間との闘い。幽々子の体から魂が離れたら終わり。急げ。とにかく急ぐんだ。

 

 幽々子と西行妖結び付ける。

 そのために、大量の霊力が必要になるが……

 

「紫、今の俺の霊力じゃ全然足りん。ちょっと霊力を返してくれ」

 

「うん、わかった。つなげるわ」

 

 紫が境界を弄ったのだろう。

 体が熱くなる感覚。中に霊力が染み込んで来るのがわかった。

 ちょっと前まではこれが普通だったのに、なんとも変な感じだ。

 

 木の下に掘った穴へ、幽々子を丁寧に埋める。

 

 慌てるな、急げ、落ち着け。

 昔嫌になるくらい叩き込まれた封印術を必死に思いだす。

 

 そして、幽々子と西行妖を結ぼうとした時だった。

 猛烈な寒気と倦怠感が俺を襲った。

 

 むぅ、これは……キツイな。

 どうやら死に誘われているらしい。面倒臭い、少しぐらいおとなしくしていてくれ。

 

「紫、少しの間この桜を抑えられないか? 鬱陶しくてやってられん」

 

 ヤバい、頭が回らん。くっそ、集中なんてできやしないじゃないか。

 全く……不老不死だろうと関係なしですか。

 

「無理よ、自分と幽々子で精一杯だわ!」

 

 指先が震える。

 しっかりしろ、時間がねーんだ!

 

 このままじゃ続けられん……どうする? どうすればいい?

 

 どんどんと死が近づいて来る。

 

 

 ああ、そっか――死ねば良いのか。

 

 幽々子、ちょっとその小刀借りるぞ。

 

 

「え? く、黒? ……なにを、するのよ?」

 

 死が俺にたどり着くまでの時間も惜しい。だったら、こちらからも迎えに行くだけ。

 

 そして、小刀を自分の喉に突き立て掻っ切った。一瞬だけ視界が真っ白に、でもすぐに戻る。

 

 リザレクション。ホント便利な体質なことで。

 

 さてさて、作業再開だ。

 

 

 

 

 

 自決で五回、霊力切れで二回の計七回の死を乗り越えての封印。封印には、西行妖が莫迦みたいに溜め込んだ春度と、俺の霊力を使った。

 

 吸い込んだ春度は封印の維持に、吸い込みすぎた春度は弾幕に変わるように。ガチガチに固めるのではなく、ある程度ゆとりも持たせた。

 

 一時間にも満たない時間だったと思う。

 

 頭が痛い。

 体もフラフラする。むぅ、霊力の使いすぎか。

 

 そして、封印を終えた瞬間、西行妖の花が一斉に散った。

 

 ……この桜吹雪を忘れることは、一生ないだろう。それほどに綺麗で――何よりも悲しく見えた。

 

 さらに桜の花びらが一箇所に集まり、塊が出来始めた。

 その塊は人型となり、見覚えのある姿にまで。

 

 よかった……どうやら上手くいったみたいだ。

 

 そして俺は、生まれ変わった幽々子の声を聞くことなく、その場に倒れ込んだ。今回は本当に疲れたんです。

 

「ありがとう、黒。お疲れ様」

 

 意識の途切れる直前に紫の声がした。

 うん、おやすみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 目が覚める。

 えと、昨日は……ああ、西行妖を封印したところで倒れたのか。情けないなぁ。

 最初に封印した時は、昨日の何十倍もキツかったと思うけど……俺も歳かねぇ。

 

 んで、だ。

 

「ここは……どこだ?」

 

 周りを見る。障子を通して入り込む朝日。

 畳のよい香り。

 立派なお座敷。

 綺麗な布団。

 

 うん、少なくとも博麗神社ではないだろう。普通に考えたら、やっぱり白玉楼なのかな?

 

 そんなことを考えている時だった。

 

「あら、やっと起きたのね」

 

 幽々子が部屋に入ってきた。

 

「おっす、おはよう幽々子」

 

「おはようって貴方……もう日が沈むわよ」

 

 ありゃ、朝日じゃなくて夕日だったのか。いや、やたら赤いな~とは思ったんだよ?

 

「そっか、一日近く寝てたのか」

 

「二日よ」

 

「うん?」

 

 はい?

 

「だから一日じゃなくて二日近くよ」

 

 ……マジで? おいおい、いくら紫から霊力をもらっていなかったからって、流石に弱くなりすぎだろ。

 

「うわー、悪いな。迷惑かけた」

 

「私は何もしてないから別にいいわよ。あと博麗の巫女には、ちゃんとお礼をするのよ?」

 

 ん? 博麗の巫女って霊夢のことだよね。

 

「どうして?」

 

「もう帰っちゃったけど、あの娘、今日の昼までずっと貴方のことを看ていたのよ」

 

 ――優しいところもあるのね。

 

 なんて幽々子が言った。

 

 霊夢がねぇ……裏がありそうな気もするけど、そんなこと考えちゃ失礼だよな。

 

「わかった。今度会ったら、お礼を言っておくよ」

 

「ふふっ」

 

 幽々子がいきなり笑った。

 なんですか? まさか顔に落書きでもされてる?

 

「どしたのよ?」

 

「いえ、黒や紫と最初に会った日のことを思い出して。黒ってあの時も寝ていたでしょ?」

 

 よく覚えてるね……

 

「あの時も疲れてたんだよ。色々あってさ」

 

 

「そうだったの? なんか、あの日と似てるな~ってなんとなく思って、ね」

 

 

 こりゃあまた……随分と勘の良いことで。本当のことなんて言えるわけがない。

 

「そうか? 今日は紫もいないし、全然違うと思うけど」

 

 なんとか表情には出さなかったと思う。

 どうにか誤魔化せたんじゃないかなって思う。

 

「だからなんとなく、よ」

 

 そんな感じで幽々子と喋っていると、妖夢ちゃんが来た。

 

「あ、幽々子様。こちらにいましたか。って黒さんも起きたのですね」

 

「や、妖夢ちゃん。久しぶり」

 

「は、はい、お久しぶり? です」

 

 俺の言葉に首を傾げる妖夢ちゃん。

 可愛らしいです。

 

「それで、どうしたの? 妖夢」

 

「えと、お食事の準備が出来ましたので呼びに」

 

 おろ、ちょっと早い気もするけれど、そんな時間なのか。

 

「黒はどうするの?」

 

「帰ろうかな。流石に食事までもらうわけにはいかないし」

 

 てか、俺の分の食事なんて用意してないよね。俺の答えに幽々子は、少しだけ考えるような仕草をして言った。

 

「そうねぇ……妖夢、食事を持って博麗神社まで行くわよ」

 

 へ?

 なんで博麗神社?

 

「わかりました。でも一人で全部を運ぶのは流石に……」

 

「黒も一緒に運んでくれるわ。いいでしょ?」

 

 幽々子が聞いてきた。

 

「いや、まぁ手伝うのはいいけど、なんで博麗神社なのさ?」

 

「お花見よ。たまには、ここじゃない場所でやるのも良いと思ってね」

 

 ああ、そっか。もう春になったんだもんな。

 

「了解。んじゃあ行こっか」

 

 そして、大量の重箱と少量のお酒を持って神社へと向かった。

 

 お酒を取りに、一度自分の家に戻っていたこともあり、俺が博麗神社に着いた頃にはすでに夜となっていた。

 

 あれだけ積もっていた雪はどこかに消え、代わりに現れた満開の桜。博麗神社では、多くの妖怪妖精、そして少しの人間が飲めや歌えやの大騒ぎ。空では弾幕が飛び交い、地上では酒と料理が沢山。

 

 ちゃんと桜見てる? こいつら宴会なら、なんだって良いんじゃ……

 

 レミリア、咲夜さん、魔女さんの紅魔館組。どうやら美鈴とフランちゃんはお留守番らしい。

 魔理沙ちゃん、アリスの魔法使い組。

 

 よく見ると萃香もいた。

 

 皆楽しそうで何よりです。

 

 萃香と一緒にお酒を飲みながら、満開の桜を見ていると、さっきまでレミリアと弾幕ごっこをしていた霊夢が近づいてきた。

 

「なに一人で飲んでいるのよ?」

 

 一人じゃないけどね。やはり霊夢には萃香が見えてないらしい。

 

「いや~、桜が綺麗だなと思ってさ」

 

「やっぱりお花見はうちでやるのが一番ね。ちょっと騒がしいけど」

 

 満開になった桜を見ながら霊夢が言った。

 

「ありがとな、霊夢」

 

「なにが?」

 

 キョトンとした顔で、霊夢が聞いてきた。

 

「ずっと看ててくれたんだろ?」

 

「別に気にしなくてもいいわよ」

 

 そんな霊夢の答え。

 少しぐらい照れてくれたっていいんだぞ?

 

「まぁ、そう言うなって。霊夢のためにお酒も持ってきたし。飲もうぜ」

 

 ああ、コラ萃香。

 それは霊夢のためのお酒だからまだ飲むな。

 

「……妙に優しいわね。何か企んでる?」

 

 ジト目で霊夢が聞いてきた。企んでなんていません。

 ちょっと傷ついたじゃないか。

 

「たまにはな。ま、生きてる人間の中では、霊夢が一番大事だしな」

 

「……? どういう意味?」

 

「さあ? 自分で考えな」

 

「生きてる人間、ねぇ……まぁ、どうでもいいか。とりあえず飲みましょ」

 

 そんな感じで言葉を交わした後、霊夢と二人でお酒を飲んだ。

 萃香はいつの間にか消えていた。

 

 そんな大宴会の中での小さな宴会は、霊夢が『もうちょっと静かに騒げ!』と周りに怒るまで続いた。

 

 

 良い季節になりました。

 

 






あれ? お酒の話が出てこない……

はい、と言うことで第14話でした
主人公が喉を掻っ切る場面がありましたが、R‐15タグは必要でしょうか?
必要があれば修正します
血の表現などはカットして、それなりに抑えたつもりですが……

掻っ切る場面なだけにね(ドヤァ)



なんだこれ


次話は未定です


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第15話~流れているのは~

 

 

 終わらない冬が終わってから、一月ほど。あれだけ見事に咲いていた桜も葉をつけ、お花見するには物足りなくなった。

 一気に咲いたせいか、今年はチルノも早かった。

 

 それだというのに、博麗神社での宴会は定期的に続いている。どうにもお祭りムードがなかなか抜けない。

 

 楽しそうで何よりです。どっかの子鬼も俺の店で暴れなくなったし平和な毎日。

 

 先日は、いつまで経っても起きてこない紫を叩き起し、萃香も一緒に白玉楼でお花見をした。お酒を飲み交わし、昔話に花が咲く。

 

 そんな良い雰囲気の中だった、あの閻魔が現れのは。

 

 紫と萃香は逃げた。

 すぐ逃げやがった。

 でも俺はダメでした。

 捕まりました。

 畜生め。何であいつは、休みの日まで説教し歩いてるんだよ……

 

 そんなことがあってから、数日。今日は紅魔館へお出かけです。目的は咲夜さんに頼んでおいた、お酒の回収。

 あ、久しぶりにフランちゃんとも会っていこうかな。フランちゃんはちょっと怖いけど、幻想郷の癒し要素。大切な存在です。

 レミリアは……まぁ、別にいいか。

 

 時刻は夕方。良い時間だ。

 

 どうしようか……博麗神社から行ったほうが近いかな? 普通に出ると、何処に出るのかわかんないんだよね。

 妖怪の山とかに出て、天狗に会うと面倒なんだよなぁ。ん~、まあいっか。今度、紅魔館とも繋げてもらおう。

 

 少しのお酒と洋菓子を持ち、田畑の間を抜け真っ直ぐ進む。

 一転、暗転。

 

 

 

 

 

 視界が戻ると、目の前に人がいた。

 

「あら? この鳥居、黒のだったのね」

 

 アリスだった。

 ということは、ここは魔法の森かな? 良かった。それなら紅魔館とも近い。

 

「や、アリス。何やってるの? 迷子?」

 

 お散歩ですか? こんな時間に。

 

「そんなわけ無いでしょ。暇つぶしに出歩いていたら、見かけない物があったから調べていたのよ」

 

「ああ、そうなのね。この鳥居を抜ければ俺の店に着くけど、行っても今は誰もいないよ」

 

 ちょっともったいなかったね。貴重なお客さんだったかもしれないのに。

 

「別にいいわよ。行く気もないし。それで? 貴方は何処かへお出かけ?」

 

 なんだ、そうなのか。

 それは残念。

 

「ちょっと紅魔にね」

 

「ふ~ん。じゃあ、私も行こうかしら」

 

 おろ? まぁ別に良いと思うけど。

 

「なんか用事でもあるの?」

 

「あの莫迦みたいに大きな図書館から、本でも借りようと思ってね」

 

 莫迦みたいとか言うなよ……きっと一生懸命集めたのだろうから。

 

「ちゃんと返してあげなよ?」

 

「どっかの魔法使いと一緒にしないで。私はちゃんと返すわよ」

 

 魔理沙ちゃん、まだ返してないんだろうな……

 

「んじゃ、一緒に行くか」

 

 その後もアリスとお話しながら、のんびりと紅魔館へ向かっていたせいで、着く頃にはすっかり夜となっていた。

 この夜も随分と暖かくなったねぇ。一月前の寒さが嘘のようだ。

 

 

「黒さんに……いつかの人形遣いさんですね。ようこそ紅魔館へ」

 

 紅魔館の入口で美鈴と会話。今日はちゃんと仕事をしているみたいです。

 

「今晩は、美鈴」

 

「はい、今晩は。人形遣いさんは、今日もパチュリー様のところに用ですか?」

 

「ええ、そうよ」

 

 ――了解しました。ではお入りください。

 

 と言ってから美鈴は門を開けてくれた。

 それじゃ、お邪魔します。

 

 アリスとは紅魔館のエントランスで別れた。

 さて、咲夜さんを探さないとだけど……ここで待ってれいば来る気がする。

 

「いらっしゃいませ、黒様」

 

 ほら来た。

 

「や、今晩は。この前渡したお酒だけど、できてる?」

 

 ちょっとずるいけれど、ウイスキーの入った樽を咲夜さんに頼んで、熟成してもらった。

 

「はい、20年ほど進めておきました」

 

「おお、ありがと。これはお礼ね」

 

 お礼として、咲夜さんにはロゼワインと洋菓子を渡した。ふふっ、これで20年物のシングルモルトウイスキーの完成だ。

 飲むのが楽しみだぜ。

 

「ありがとうございます。妹様が貴方と会うのを、楽しみにしていたので是非会って行ってください。私はお茶の用意をしてきます」

 

 咲夜さんはそう言って消えてしまった。お茶を飲んでいけってことかな? じゃあ、ゆっくりさせてもらおう。

 

「あ、ホントにクロがいる。久しぶり!」

 

 奥の方から声がしたと思ったら、フランちゃんだった。

 

 ててててっとこちらに走ってきて、そのまま俺に体当たり。

 フランちゃんの頭が鳩尾に直撃した。息が止まる。

 

「カハッ……お、おう久しぶり」

 

 なんとか笑顔を作る。

 でも、この黒、少し泣いています。

 

「ねぇねぇ、今日はどうしたの?」

 

 フランちゃんがこちらを見上げて聞いてきた。

 

「ちょっと用事があったのと、あとはフランちゃんに会いに来たんだよ」

 

「ホントに!? じゃあ、今日はゆっくりしていけるのね! お話しましょ、お話~」

 

 う~ん、こうやってお話しているだけなら、可愛いんだけどな。たまにブッ飛ぶからな……こういう風に純粋な可愛さは貴重なんです。

 霊夢だって昔は……いや、昔からあんなんだったな。

 

「お話ねぇ……どんな話が聞きたい?」

 

「うー……なんでもいい!」

 

 そっか、なんでもいいか~。

 

「そうだね……じゃあこの前、家に来た不思議な迷子の二人組のお話でもしようかな」

 

 そんな感じで、のんびりとフランちゃんとお話。

 ああ、平和だ。

 

「妹様、黒様。お茶の準備が出来ました。お嬢様もお待ちです」

 

 咲夜さん登場。

 もう、なんか慣れたわ。

 

 その後、仲良くフランちゃんと手を繋いで食堂まで行った。フランちゃんのお手々ちっちゃいね~

 

 食堂に着くと、すでにレミリアが待っていた。でも、魔女さんとアリスはいなかった。実験が忙しいのかな?

 用意されていたのは俺が渡したワインと洋菓子、それと一つだけ別の飲み物。たぶん、フランちゃん用だと思う。

 

「いらっしゃい、黒。歓迎するわ」

 

 レミリアが言った。

 頑張ってカリスマっぽく見せているけど、涎掛けにしか見えない前掛けが全てをぶち壊していた。うん、いつも通りだね。

 

「や、お邪魔してるよ。今日はレミリアもワインを飲むの?」

 

「いいえ、私は……咲夜」

 

「はい、かしこまりました」

 

 と言う声が聞こえ、いつの間にか咲夜さんが隣に来ていた。

 

「あの……その手に持った空のワイングラスとナイフは?」

 

「失礼します」

 

 咲夜さんはそう言って、俺の腕をナイフで切った。

 ですよねー。吸血鬼だもんね。まぁ、これくらいなら別に気にしないけど。

 ちょっと別の問題が……

 

「貴方の血は飲んだことがなかったからね。ちょっといただくわよ」

 

 切る前に言いなさいよ。

 ある程度グラスにワインが溜まったと思ったら、腕に包帯が巻かれていた。このくらいならすぐに治るのに。

 

 う~ん、俺の血はやめておいた方が良いと思うけど……

 

「フフっ、綺麗な色ね。それじゃあ、いただきましょうか」

 

「あ~、お姉様だけずるい! 私も飲みたい!!」

 

 酷い会話だ……俺って客だよね? 食料じゃないよね?

 

「フランもあとでもらいなさい。香りは、普通ね……って、これ」

 

 あ~……やっぱりダメか。

 まぁ、そりゃあそうだよな。

 

「どうしたのお姉様? 飲まないなら私が飲むよ?」

 

「やめておきなさい、お腹を壊すわよ。咲夜、これは片付けておいて」

 

「……飲まないのか?」

 

「私は人間の血しか飲みたくないわ。詳しくは聞かないけれど黒、貴方って……」

 

「昔にね……色々あってさ」

 

 もう、何年経っただろうか? 昔過ぎて、思い出せもしない。

 

「貴方は本当に人間なの?」

 

「血液以外はね」

 

 DNAとかはちゃんと人間だと思うよ。

 

「そう、まぁ別にいいわ。咲夜、私にもワインを」

 

「え? え? なんだったの?」

 

 フランちゃんがついていけてない。大丈夫、別に知らなくても問題ない話だよ。

 

 お茶(お酒)を飲み終わった後は、レミリアも加え三人で朝まで談笑していた。姉妹の仲もかなり良さそうだった。

 そんな二人の様子を見ることができて嬉しいよ。

 

 

 レミリアから、紅魔館と俺の家を繋げる許可ももらい、日が昇ってすぐ帰ることに。

 

 

 

 ん~こんな形でバレるとは……まぁ、別に隠していたわけでもないけどさ。

 

 人間と妖怪。

 どこまで人間で、どこからが妖怪なんだろうね?

 血液以外は人間。半人半妖とは……違うと思う。

 

 あ~よくわからん。徹夜のせいか頭も回らない。

 

 いつかきっと、答えを出さなければいけない日が来るかもしれない。

 嫌なことは後回し。まあ、その時に考えればいいでしょ。

 

 明日は博麗神社で、また宴会。

 もう、今日は寝よう。

 

 

 ウイスキーを持って帰り忘れたことは、寝るとき直前に気づいた。

 

 






DNAとか出てきましたが、妖怪にはDNAなんてあるのでしょうか?
タンパク質の合成にDNAは不可欠ですが、そもそも妖怪の代謝系がわかりません
細胞があるのかすら怪しいです


と、いうことで第15話でした
本編3行目は誤字にあらず

な~んてね


春雪異変も終わり、そろそろ萃夢想っぽいです
でも、違うかもしれません

では、次話でお会いしましょう



感想・質問など何でもお待ちしておりますが、若干諦めています


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第16話~香りを萃めて百鬼夜行~

 

 

「ホント、嫌になっちゃうよね。なんだって今年はあんなに宴会が少ないのさ?」

 

 季節はすでに初夏、時間の流れは早いねぇ。

 そして俺の店で、プリプリ怒る萃香ちゃん。とても良い迷惑です。

 

「まぁ、今年は桜の咲いている時間が短かったし、仕様がないんじゃない?」

 

「私は、もっとやりたかった!」

 

 いや、そんなこと俺に言われても……

 文句は幽々子に言いなさいよ。

 

「また来年になったらお花見するだろうし、それまで我慢しなよ」

 

「来年か……遠いなぁ~」

 

 萃香はそう言ってまたお酒をグビりと呷った。

 

 

「そんなに宴会がしたいのなら、自分で企画すればいいじゃん」

 

 口が滑ったとしか言い様がない。ホント迂闊だったと思う。

 

「んん? あっそか、そうだね。萃めちゃえばいいのか」

 

 気づいた時にはもう遅い。

 今回の異変の始まりは、こんな会話からだった。

 

 酒、弾乱れてお祭り騒ぎ。

 

 登場人物全員怪しい。誰も彼もが疑心暗鬼で暗中模索。

 異変の犯人が、この小さな鬼だと皆が気づくのは、もう少し先のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 終わらない冬が終わり、短い春が過ぎてから少し。幻想郷のお祭りムードも、漸く抜けようとしていた。

 そして、短い春のせいで宴会が少なかったと怒る子鬼が一匹。そいつが、毎日のように俺の店に来ては、暴れている日々です。

 来てくれるのは嬉しいけれど、萃香って来ても自分のお酒を飲むだけで、店のお酒はあまり飲まないんだよね。売上が上がらんよ……

 流石に毎日のように、来て同じ話をするばかりだったから、ついつい口が滑ってしまった。

 そして、始まる三日置きの百鬼夜行。幻想郷のお祭りムードは、まだまだ抜けそうにない。

 

 

 

 

 

 

「なあ、なあ、なんで私たちは宴会をやっているんだ?」

 

 隣でお酒を飲んでいた魔理沙ちゃんが俺に聞いてきた。

 あ、コラ。そのお酒、結構良い奴なんだからちゃんと味わって飲んでよ。

 

「魔理沙ちゃんが、幹事をやって集めているからじゃないの?」

 

「いや、まぁそうなんだけどさ。だってそろそろ夏だぜ? だのに、どうして私たちはお花見なんてやっているんだよ? 桜なんてとっくに散ったっていうのにさ」

 

 しかも、三日置きの超ハイペースでの宴会。いくら飲みたがりで、お祭り大好きな連中が集まっていると言っても流石におかしいよね。

 

「じゃあ、宴会を開かなきゃいいんじゃない?」

 

 俺がそう言うと、萃香が俺の背中をバシバシ叩いてきた。痛い、痛いって。

 んもう、冗談だよ。

 

 因みに魔理沙ちゃんは、やっぱり萃香に気づいてないみたい。

 

「ん~そうなんだけどさ……上手く言えんけど、なんか宴会をしなきゃいけないっていうか……やっぱり良くわからんな」

 

 つまり、どっかの子鬼の我が儘があって、俺達はそのしわ寄せでこんな宴会を……強いられているんだッ!

 

 ……いや、一度言ってみたくてさ。なんかゴメンね

 

 う~ん、これだけ宴会が続いちゃうと、流石に怪しいよね。まぁ、今回は君たちだけで頑張ってよ。

 

「ま、皆楽しそうだし良いんじゃない?」

 

「う~ん、いいのかなぁ」

 

 何処か腑に落ちない様子の魔理沙ちゃん。さてさてこの異変は、あとどれくらいバレずに済むのかな?

 ねぇ萃香、君はどう思う?

 

 

 そして、そんな会話をした宴会の日からまた三日が経った。今晩も博麗神社でお花見です。

 あれ? お花見って何だっけ?

 

 ななしのお花見。

 まとめて、お葉見。

 ……くだらねぇ。

 

 神社の境内には薄らと怪しい霧。前回の宴会よりもその濃度は、濃い。

 さてさて、何人が気づいているのかな?

 

 周りを見ると、今日も今日とて皆楽しそう。

 

 あ、コラ妖夢ちゃん。酔ったまま刀を振り回したら危ないよ? 幽々子も笑ってないで止めなさいよ……

 魔理沙ちゃんはレミリアと弾幕ごっこ。さっきから、弾だの星だの飛んできて危ない。紅魔館の魔女さんは、端っこで本を読んでいた。何しに来たんだよ、あんた……あら、レミリアの流れ弾が直撃した。

 咲夜さんとアリスは談笑中。珍しい組み合わせだね。咲夜さん、咲夜さん魔女さんが倒れてるけどいいの?

 

 えと、萃香は……ああ、神社の屋根の上にいるわ。

 んで、霊夢は……おろ?

 

「…………」

 

 何かを考えてる様子の霊夢。珍しく、お酒にもあまり手をつけていないみたい。

 

「どうしたのさ霊夢。お酒飲まないの?」

 

「なんかね……こう、モヤモヤしてるっていうか……これだけ妖怪が集まっているのだから、妖気を感じるのもおかしくはないけど。霧が、ね。まるで、誰かに操られているみたいで気持ち悪いのよ」

 

 ――よくわからないけど。

 

 と霊夢は首をかしげた。

 

「ん~、宴会は嫌いか?」

 

 少しだけ恍けてみせる。頑張って、ここまで来ればゴールは近いから。

 

「嫌いじゃないわよ。でも……」

 

 と、霊夢は何かを言おうとしたが、その言葉が続くことはなかった。屋根の上を見る。

 萃香と目が合った。宴も闌……というには少し遅いかな? まぁ、そろそろ潮時かもね。

 

 

 

 そして次の日、萃香にそろそろバレちゃうかもね。ってことを伝えようと、博麗神社まで来た。

 時刻は昼。多分、ここにいるはず。まぁ、アイツはどこにでもいるんだけどさ。

 

「あら、貴方の方から来てくれるとは、思わなかったわ」

 

 そんな声をかけられた。

 

「や、魔女さん。君がこんな昼間から外に出るなんて、随分珍しいね。どうしたの? 俺に用があるみたいだけど」

 

 ま、どうせこの異変に関してなんだろうね。まさか、魔女さんが動くとは思わなかった。てか、動かない大図書館なんじゃなかったっけ?

 

「ゆっくり本は読めないし、流れ弾は当たるし、いいかげんこの宴会にもうんざりよ。さっさと終わらせてちょうだい」

 

 ……とんだとばっちりだった。

 全く、この魔女さんも鋭いのか鈍いのかわからんね。

 

「それなら、いつものように引き篭ってればいいのに……てか、俺は知らんぞ?」

 

「お酒と言ったら貴方でしょ? この鬱陶しい妖気を何とかして」

 

 萃香に言ってよ……俺はちょっとしか関係ないよ?

 

「いや俺、人間だよ? 妖気とか出せないし」

 

「ダウト。レミィと咲夜から聞いたわよ。貴方のことを。それに随分と猫を被っているらしいわね?とにかく、貴方が怪しいのは確かよ」

 

 むぅ……やっぱり、前回バレちゃったのは失敗だったね。まぁ、どうしようもなかったのだけどさ。

 

「はぁ……研究者ってのは、どうにも頭でっかちになっていけないねぇ。もっと広い視野を持とうぜ? 理論だけじゃあ、この幻想郷で生きていけんよ?」

 

「もう少し、気の利いた挑発はできないの?」

 

「急激な運動は体に悪いよ?」

 

「たまには体を動かすのも悪くないわ」

 

 はぁ、逃がしては……くれんよね? 弾幕ごっこか……アレ苦手なんだなぁ。

 

 ま、これも萃香のためだと思って、できるだけ頑張ってみようじゃないか。

 

 ふぅ……

 

「Bring it on!」

 

「……Go-ahead. Make my day」

 

 それじゃ、精一杯踊ってみせようか。

 

「日符『ロイヤルフレア』」

 

「酒符『迎え酒』!」

 

 弾幕ごっこの始まりだ。

 

 物語は一気に動き出した。きっかけなんて些細なのもだ。

 

 動かない図書館は、迷える店主の元へ。

 紅白の巫女は、白黒の魔法使いの所へ。

 人形遣いは紅魔の館へ。

 紅魔のメイドは冥界へ。

 半人半霊は切り歩き、妖怪賢者は酒を盗み渡る。

 

 それらを見て笑う一匹の鬼。

 

 一見バラバラの11人分の物語。やがて萃まり、繋がる物語。

 

 今年、最後のお花見まで後二日。

 

 






最近、一本5000円の日本酒を飲ませていただきました
純米大吟醸です
米と水しか使っていないはずなのに、フルーツのような香りがしました
そして何より、飲みやすい!
とても美味しかったです


と言うことで第16話でした
第16話と言っても、早いものでこれが20話目となります

では、次話でお会いしましょう
次話は、萃夢想解決……までいけるかな?



感想・質問など何でもお待ちしておりますが、最近書いて頂いたので私は満足です


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第17話~それでも俺はやってない~

 

 

「……よわっ」

 

 目の前に広がる、雲一つない完璧な空。

 ああ、今日も良い天気だ。

 

「さっきの勝負、本気だった? 全く手応えがなかったけれど……この程度じゃ、あの氷精にだって勝てないわよ?」

 

 風も心地よい。自然だけはいつだって俺に優しくしてくれる。

 

「話には聞いていたけれど、まさかここまで弱いとは……」

 

 おや? 雨かな?

 おかしいな……さっきまで綺麗に見えていた空が、ぼやけて上手く見えない。

 

「ねぇ、ちょっと聞いてる?」

 

 あーもう!

 

「聞いてます! はいはい、あんたは強い強い!」

 

「いや、私が強いんじゃなくて、貴方が弱いだけじゃ……それもビックリするくらい」

 

「それ楽しい!? さっきから人の心抉って楽しい!?」

 

「事実を言っているだけじゃない」

 

 それが! 俺の! 心を! 抉るんだよ!!

 

 

 この会話でわかると思うけれど、俺と魔女さんの闘いは終始一方的だった。一言で言うと『下は大火事、上は洪水コレな~んだ?』

 そんな感じだった。

 

 接近戦なら勝てるだろうと思い、勝負が始まってすぐ一気に近づこうとした。足元が爆発した。もう笑うしかない。

 地面は炎で覆われ、仕方がないから飛ぶ。そしたら、飛んでくるありえん数の水弾。

下から来るせいで能力も使えない。

 必死で考えた俺のスペルカードによって放たれた霊弾は、全て魔女さんの水弾に打ち消され、水弾はそのまま俺に近づいてきた。

 あ、これ終わったわ。

 とか人ごとのように考えているうちに、地面へと叩き落され、さらに追撃を食らった(鬼か!?)。

 この間10秒くらいです。

 

 さらに魔女さんは、弾幕ごっこによる外側の破壊だけでなく、精神攻撃による内側の破壊まで試み始めた。俺が何をしたって言うんだよ……

 

「妖気が無くならない……じゃあ、この異変は貴方が原因じゃないのね?」

 

「だから最初から言ってたじゃん……」

 

 ――そう。じゃあ、次に怪しいのは……あの亡霊ね。

 

 なんて言って魔女さんは飛び立って行った。亡霊というのはたぶん幽々子のことだろう。忙しい人だ。

 

 ああ、空が綺麗だなぁ。

 

「黒も随分と弱くなったねぇ。本当にあれが全力かい?」

 

 いつの間にか萃香がいた。

 なんとか体を起こしてみる。うわっ、コイツまたお酒飲んでるよ。

 

「今の俺じゃ、あれが本気なんだよ」

 

 悲しいけど現実なんだよね、これ。

 

「紫に貸したままなんだろう? 返してもらえばいいじゃないか」

 

「ん~別に必要じゃないしなぁ。いいよ」

 

 それに、あの体が熱くなるような感覚嫌いなんだよね。

 

「まあ、あんたがそう言うなら私は何も言わないよ。さっきの奴に私のことを教えなくて良かったのかい?」

 

 魔女さんのことかな?

 

「いいよ。俺はこの異変を解決したいわけじゃないんだし」

 

 それに今回はどちらかと言うと、異変を起こした側の立場に近いしね。萃香を裏切ってしまうようでどうにも。

 

「黒は異変を解決する側じゃないの?」

 

「時と場合によるかな」

 

 幻想郷が危ないのなら、俺も動くけど今回の異変は……ねえ。

 

「そうか、そうかわかったよ。これから忙しくなると思うけど、まぁ頑張って」

 

 と言うと、萃香は消えてしまった。ん? 何を頑張るって言うんだ?

 

 ま、考えてもわからんか。せっかく来たのだから、とりあえず霊夢に会っていこう。

 

 そんなことを考えつつ、霊夢がいつもいる縁側へ。

 

 あら? いないな。そもそも、あれだけ境内で騒いでいたのに、霊夢が出て来ないっていうのもおかしい。

 ついに霊夢も動き出したのかな?

 

 ん~、霊夢がいないんじゃ仕様がない。疲れたし、今日はもう帰ろう。明日また来てその時にでも話を聞けばいいか。

 

 

 そして次の日から、頑張りだけではどうにもならない地獄が始まった。

 わざわざ博麗神社になんて行かずに家にいれば良かったのに。

 

 

 

 

 

 

 次の日。時刻はお昼を少し過ぎたくらい。

 今日も、博麗神社に来たわけだけど……霊夢がいない。境内にもいつもの縁側にも、母屋の中にも霊夢はいなかった。

 どうしたんだろうね? どうしよう、萃香も消えているみたいだし暇になっちゃったな。

 

「よう黒、昨日から探してたぜ」

 

 後ろから声がした。

 嫌な予感。

 

「や、魔理沙ちゃん。どしたの?」

 

 逃げることは……できないか。

 

「霊夢のやつは違うって言ってたけどさ。やっぱり黒って怪しいよな。うん、少なくとも私よりは絶対怪しい」

 

 なんだろう、少しだけ逆恨みっぽい匂いがする。

 

「いやいや、俺はこの異変を起こしてなんていないよ。だいたい魔理沙ちゃんだって、俺の実力くらいわかっているでしょ?」

 

「そうだな。あの妖怪桜を、簡単に封印できるくらいの実力だってことはわかっているぜ」

 

 簡単じゃなかったよ? その後倒れてたじゃん……

 

 

「……見逃してはくれないかな?」

 

「見逃してはやれないな」

 

 ――恋符。

 

 魔理沙ちゃんの声が届いた。

 

 さあ、今日の天気はどうだろうね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よわっ」

 

 目の前には広大な雲一つない空

 ああ、今日も良い天気だ。

 

「さっきの勝負、本気だったか?もう少しぐらい強いと思ってたんだけどなぁ」

 

 俺、何か悪いことしたかな? 日頃の行いだってそこまで悪くないと思うけど……畜生、涙で前がよく見えない。

 

「う~ん、妖霧が消えないな……黒じゃなかったか」

 

 だから、言ったのに俺はやってないって……

 

「じゃあ、やっぱり紅魔館のやつらが原因か?」

 

 残念、紅魔館は関係ないよ。

 

「なあなあ、黒は知っているんじゃないか? この異変を誰が起こしているのか」

 

「……知ってるけど教えない。あ、ちょっ、マスパはやめて!」

 

 やめてください、死んでしまいます。

 

「なんだよ~教えてくれても良いじゃないか」

 

 うるせー、人をボコボコにしたくせに。

 

「明日の宴会になればきっとわかるよ。それまでは自分で頑張って」

 

「そうかい、そうかい、それじゃ私は行くよ。また明日の宴会で会おうぜ」

 

 そう言うと魔理沙ちゃんは飛び立って行った。うん、じゃあね。

 ああ、本当に空が綺麗だ。

 

 魔理沙ちゃんとの一方的な闘い(いじめ)が終わった後、清々しい青空の下で眠りについた。もう、疲れたよ。

 

 そしてその日の夕方、博麗神社の様子を見に来た紅魔のメイドにボコボコにされ、『……よわっ』と言われた。

 なに? その言葉、流行っているの?

 

 身も心もボロボロにされ、博麗神社で不貞腐れていると新たな来客。『妖霧は妖霧でも、私は関係ありません!!』とか言っている妖夢ちゃんと闘うことに、いや知らねーよ、そんなこと……

 

 俺をボコボコにした後、流石に悪かったと思ったのか、妖夢ちゃんは謝ってくれた。隣にいた幽々子は笑っていた。

 博麗神社の屋根の上を見ると、いつの間にか帰ってきていた萃香の姿。その場所、気に入ったのかな?

 軽く手を振ると、こちらに気づいた萃香がブンブンと手を振替してくれた。のんきだね、お前のせいで俺はボコボコにされているんだぞ?

 まぁ、別に怒りはしないけどさ……

 

「新茶の香りってすぐに消えてしまうわよね」

 

 幽々子が話しかけてきた。妖夢ちゃんは、だいぶ荒れてしまった博麗神社の掃除中。ありがとね。

 

「まぁ、そりゃあそうだな」

 

 何の話だろうか?

 何かの比喩?

 

「でも、本当は消えてなんかない。ただ広がって薄くなって感じなくなっただけ」

 

 ああ、なるほど。そういう話ね。もう少しストレートに言ってよ。

 

「で、今はどうなの? その香りは感じる?」

 

「少しだけね。でも香りだって物質よ。広がりもすれば萃まりもする。ここはその香りがよくするわ」

 

 萃香も最初の頃と比べると、割と手を抜いているしね。無意識なんだろうけど、やっぱり妖気が濃くなっている。

 

「幽々子は見えていないの?」

 

「普通は見えないわよ……感じられる程度。私は黒ほど器用じゃないの。それに、見えている黒の方がおかしいのよ?」

 

 これ以上薄くなられたら、俺も見えなくなるけどね。

 

 妖夢ちゃんが掃除をし終わると、二人は帰って行った。

 

 二人が帰って暫くすると、フヨフヨと飛んでくる一つの紅白。漸く霊夢と会えた。

 

「あら、黒じゃない。どうしたの? こんな時間に」

 

「や、お帰り霊夢。異変解決の様子見かな。解決できそう?」

 

 どうやら、今回は霊夢の勘も冴えないらしい。

 

「う~ん、なんか今回は上手くいかないわ。とりあえず思いつくやつは全員倒したけれど、皆ハズレだったし。あと、残っているのは紫と……」

 

 

 ――貴方だけよ。

 

 

 霊夢がこちらを真っ直ぐ見て言った。

 

「俺は違うんじゃなかったのか?」

 

「わかっているわよ。そして、紫でもない。あと少しで分かりそうなのだけど、見えてはいるけど見えてないみたいで……モヤモヤしてるっていうか……う~ん、この霧のせいかしら?」

 

「ヒントいる?」

 

「いらない。たぶん明日になればわかると思うし」

 

 だってさ萃香、どうする? どうやら明日で終わりっぽいよ。

 屋根の上の萃香を見ると、お酒を呷りながら笑っていた。

 

「それよりお腹が空いたわ。おゆはんにしましょ。黒も食べて行くでしょ? 手伝って」

 

 そう言って霊夢は母屋の中へ。

 明日の宴会は楽しくなりそうだ。さてさて、萃香は本当にただ宴会をやりたかっただけなのかな?

 

 たぶん本当は……ま、考えても仕様が無いか。

 霊夢が俺を呼ぶ声がした、本日も晴天なり。明日も晴れるといいね。

 

 






お茶の香気成分は100種類を超えるらしいです
たぶんですが、テルペン類やアルコール類とかが主じゃないでしょうか?
知りませんが

と言うことで第17話でした
萃夢想終わりませんでしたね
書いている途中で、『あ、これダメだわ。終わらんわ』とか思いましたし……

次話では終わると思います
では、次話でお会いしましょう


感想・質問何でもお待ちしております


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第18話~本当の気持ち~



他の作者さんの作品を読めせていただいて気づきました

作者さんのテンションが高いと感想も多い。ということを
それを私も見習って、今回の後書きはテンション高めにしたいと思います

では、本編をどうぞ




 

 

「こら、いい加減起きなさい!」

 

 うがっ。な、なんですか? もうちょっとゆっくり寝たいのだけど……

 

 疲れていたということもあり、昨日は夕飯を食べた後そのまま博麗神社に泊まった。う~……まだ、寝たい。

 

「もうっ相変わらず、朝に弱いわね。ほら顔を洗って来なさいよ」

 

「……うん」

 

 のそのそと布団から出てなんとか動き出す。朝ちゃんと起きられるって人、すごいよね。

 俺には無理です。

 

 フラフラと覚束無い足で、なんとか井戸まで移動。もう夏だと言うのにしかっりと冷えた井戸水で顔を洗う。

 ……冷たい。太陽が眩しい。

 

 顔を洗ったおかげか、少しだけ目が覚めた気がする。行きよりもしっかりとした足取りで戻る。

 

 あ痛っ。

 柱にぶつかった。んもう、なんでこんな所に柱があるのさ?

 

 どうやら、まだ寝ぼけているらしい。

 

「何やってるのよ……朝食の準備はできてるから早く食べましょ」

 

 霊夢はえらいな。ちゃんと朝早く起きて朝食まで作ったのか。

 

「黒が朝に弱すぎるだけでしょ」

 

 そう?

 いつもは起きてから行動するまで、かなりの時間をかける。う~ん、ちゃんと食べられるかな?

 

 

 川魚の干物、味噌汁、ご飯と少しの漬物。それほど多くはない量の朝食を、一時間近くかけて食べた。

 途中で寝そうになった俺を霊夢に何度か叩かれながら……霊夢はとっくに食べ終わっていて、お茶を飲んでいる。流石に目は覚めた。

 御馳走様でした。

 

 食器などを洗って、食後のお茶の時間。

 

「この後、黒はどうするの? 家に帰る?」

 

 霊夢が聞いてきた。

 

「俺はこのまま博麗神社にいようかな。霊夢は? また出かける?」

 

「私もここにいるわ。もう全員倒したし」

 

 もしかして昨日、俺がボコボコにされたのって霊夢のせい?

 なんかそんな気がする。

 

「もう行かなくていいの?」

 

「多分だけど、ここにいるのが正解な気がするのよ」

 

 うん、それで正解だよ。流石です。

 

 そんな会話をした後は、布団を干したり母屋の掃除をしただけで、午前中は終わってしまった。こまめに掃除はしているらしく、最初からかなり綺麗だった。なんだ、ちゃんとやってるんだね。

 

 お昼を食べた後は、お茶を飲みながら二人で日向ぼっこ。ああ、暖かな日差しが心地良い。

 う~ん、眠くなってきた。隣にいる霊夢を見ると、欠伸をしていてやはり眠たいらしい。考えていることは同じだ。

 暖かな日差しと優しい風がなんとも良い感じ。お昼寝するのにはもってこい。

 

「霊夢、ちょっと寝るわ」

 

「ふあっ……私も寝ようかしら。黒、腕」

 

 また、枕ですか? 痺れるんだよね、腕枕って。まぁ、いいけどさ。

 

 意識はすぐに夢の世界へと旅立った。今日は朝早かったもんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

『なっ、体が、動かない?』

 

『「神便鬼毒酒」っていうらしいな』

 

『なにさ、それ?』

 

『……毒だよ。それもとびっきり強いやつ。まぁ、鬼に対してだけなんだけどさ。ほらこれでも飲んどけ』

 

『おい、貴様!! 何をしている!?』

 

『何って……友人を助けているだけだ。いくら正面から勝てないと言っても、このやり方はちょっとどうかと思うよ?』

 

『……貴様は本当に人間か?』

 

『少なくとも鬼ではないだろうね。んで、どうするよ人間の四天王さん方。いくら1対4だと言っても、あんたらみたいなただの人間なら俺一人で倒せるよ?』

 

『くっ……この罪は重いぞ?』

 

『これくらいの罪どうってことないさ。友人が殺されるよりはマシだよ』

 

 

 

 

 

 

 

『ああ、やっと帰ってくれたか。ん~「神便鬼毒酒」ってあまり美味しくないね。これなら俺の作るお酒の方がよっぽど美味しい』

 

『……助かったよ黒。本当にありがとう』

 

『ん、どういたしまして。それにしても流石は萃香だね。他の鬼は皆、気絶しているっていうのに……あ、勇儀も起きてるっぽいか』

 

『私たちは――騙されたのかい?』

 

「まぁ、そう言うことだね。別にさ、わかってやれなんて言わないけれど、彼らだってこうするしかなかったと思うよ。鬼と人間じゃ差がありすぎる』

 

『そっか……うん、この恩は必ず返す。私たちが生き続ける限り、この恩を絶対に忘れないことも此処に誓うよ!』

 

『ふふっ、良いって別に、また一緒にお酒を飲もうよ。それだけで俺は十分だからさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「なに仲良く二人で寝ているのよ」

 

 む、誰かの声がする。

 って、紫か。ふあ~、ん~良く眠れた。

 

「ん……あら、紫じゃないの。まだ宴会には早いわよ? というか紫って呼ばれてた?」

 

 霊夢も起きたらしい。うー、腕が痺れる。今度お昼寝する時は枕を用意しよう。

 

 太陽は赤くなり始め、そろそろ夕方かな。風も穏やかだ。

 

「あら、呼ばれていたわよ」

 

 絶対に呼ばれてないな。呼んでくれる人いないもんね。友達少ないもんね。

 

「そこ、黙りなさい」

 

 紫が睨んできた。何も言ってないじゃん……

 

「それで? 霊夢はこの異変の犯人がわかったかしら?」

 

「わからないわよ。紫が犯人?」

 

「フフッ、私は関係ないわ。これは全部あいつの遊び」

 

「誰よ『あいつ』って」

 

「あら、黒は教えていなかったの?」

 

 うん、まあね。霊夢もヒントはいらないって言っていたし。

 

「そうね……じゃあ、私に弾幕ごっこで勝てたら教えてあげる。大丈夫、しっかりと手を抜いてあげるわ」

 

「相変わらず、何考えているのかわからないけれど、食事前の運動にはちょうど良さそうね」

 

 

「それじゃあ始めましょ、博麗の巫女」

 

「終わらせてあげるわ、妖怪の賢者」

 

 

「境符『二次元と三次元の境界』」

 

「神霊『夢想封印』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、あいつって誰? 教えて」

 

 紫も手を抜いていただろうけれど、弾幕ごっこは霊夢が勝った。滅茶苦茶強いな……

 

「う~ん、ここまで強いとは……少し驚いたわ。はぁ、しょうがないわね。ほら。貴女にも見えるようにしてあげる」

 

 紫はそう言うと、持っていた扇をフワリと振った。

 

 

 

「……あんた、誰?」

 

 神社の屋根を見ながら霊夢が言った。

 

「あっれ~? もしかして見えてる? 何やってるのさ紫。黒も止めてよ」

 

 残念、バレちゃったね。

 

「なに? 黒とも知り合いなの? よくわからないけど、あんたがこの異変の犯人ね」

 

「さあて、どうかな?」

 

「いや、今更惚けたってダメだろ……うん、そこにいる小さな妖怪が犯人だよ」

 

 ――小さいって言うな!!

 

 何か聞こえたが知らん。

 

「ふーん。じゃあ、あんたを倒せばいいのね」

 

「もう、黒も紫も勝手だなぁ……う~ん、もっと宴会をしたかったんだけど仕方ないか」

 

「あんたは宴会にいなかったでしょ? 見たことないもの」

 

「私はずーっといたよ。あんたらが見えていなかっただけ」

 

「見えていないのなら、いないのと一緒よ。妖怪なら退治するだけ。さっさと始めましょ?」

 

「はっ、私を退治する? 面白いねぇ。今代の巫女は血の気も多い。そういうのは、嫌いじゃあないよ。見せてあげるよ鬼の力を!」

 

 

 ――萃符。

 

 萃香の声がする。

 

 忘れられた鬼退治。

 弾幕を放つ萃香は本当に楽しそうだった。

 

 

 って、おいコラ萃香。その大岩は誰が片付けるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、ごめん!」

 

 ハッハッハと笑いながら萃香が言った。立派な二本の角の間には大きなたんこぶ。

 皆の前で一言謝罪。それだけで十分かな。皆も特に気にしていないみたいだしね。

 

 そして、いつものように宴会が始まった。

 今年、最後のお花見だ。

 

 最後と言っても、普段と変わりはあまりない。新しい仲間が一人増えたってだけ。

 

 レミリアや魔理沙ちゃんは弾幕ごっこをしているし、妖夢ちゃんは酔って刀を振り回している。だから、誰か止めてあげなよ……

 魔女さんは相変わらず端っこで本を読んでいた。また、流れ弾が当たるよ?

 そんないつもと変わらない宴会。

 

 もう皆から見えるようになったというのに、相変わらず屋根の上にいる萃香の所へ。そんな萃香は、皆が騒いでいる姿を楽しそうに見つめていた。

 

「や、萃香。宴会は楽しい?」

 

「そりゃあ、楽しいさ。毎日でも良いくらいだね」

 

 それはやめてあげて……

 

「やっぱり一人は寂しかった?」

 

「ん~? なんのこと?」

 

 お酒を飲みながら萃香が聞いてくる。

 あ、俺にもそれちょうだい。

 

「他の鬼たちに帰ってきて欲しかったんでしょ?」

 

 うがっ、やっぱ鬼の酒は強いな。薄める物を持ってくれば良かったよ。

 

「……まあね。そりゃあ帰ってきて欲しかったけど、仕様が無いとも思ってるよ。地底も地底で良い所だしね」

 

 あ、おつまみも欲しいな。

 

「ここは、好きじゃない?」

 

「好きだよ。黒や紫が必死になって作ってくれたこの場所は好きさ。だから私もここにいる」

 

 そっか……うん、それなら良いんだ。

 

 ――黒ー! そんなとこで飲んでないでこっちに来いよ!!

 

 そんな魔理沙ちゃんの声がした。

 どうやら弾幕ごっこは終わったみたい。

 

 萃香の手を取る。

 

「萃香も行こうぜ?」

 

「ん~、私は見ているだけで十分だよ?」

 

 そんなこと言うなって寂しいじゃん。

 

「お酒は皆で飲んだほうが楽しいよ?」

 

「まぁ、そりゃあ……そうだけど」

 

「恥ずかしいの?」

 

「……少しだけね」

 

 そう言って萃香は照れくさそうに笑った。

 

 萃香を抱えて屋根から飛び降りる。何かギャーギャー聞こえたけど、無視。

 

 皆で飲むお酒はやっぱり楽しいな。ねぇ萃香、君もそう思うでしょ?

 

 






イヤッッホォォォオオォオウ!
おひょひょおおおおおおおおおおおおおお
ひぃゃやっっはーーー!!
カキフライ! カキフライ! カキフライ! カキフライぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
さいきんビールをぜんぜんのめてないよおおおおお!!



と言うことで第18話でした
萃夢想も終わり、次は永夜抄ですね
まぁ、その間に色々入ると思いますが……

では、次話でお会いしましょう

感想・質問何でもお待ちしております



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第19話~小さきの者の大冒険~



ほとんどがオリキャラ視点です

読まなくても問題は……少しだけあるかもしれません
でも、読まなくても大丈夫そうです

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では、始めます




 

 

「転生っ! 転生っ!!」

 

 はぁ、また貴女ですか……

 ここ最近、私を悩ませ続ける一つの種。

 

「だから何度も言っているように、私の力だけでは貴方を完全に転生させてあげることはできません。それに貴女ほどの力のある者が転生してしまうと、パワーバランスも崩れかねませんし……もう少し待っていてください」

 

 転生させてあげたいとも、思ってはいるのですが……

 

「何でさ~、私はもう十分すぎるくらい待ったよ。そのことは映姫ちゃんだって、知ってるでしょ? それに、上のやつらだって少しくらいなら良いって言っていたしさ」

 

 『ちゃん』つけで呼ぶのはやめてもらえないでしょうか? まぁ、言っても聞いてくれないことも知っていますが……

 

「はぁ……また、上の方々の所で暴れたのですか?」

 

 私の肩身が狭くなる。とは言っても、この女性の位は本来ならば私よりもずっと上。たかが閻魔程度では、反論は許されない。本当はとても偉い方なはずなのですが……

 

「別に暴れたわけじゃないよ? ちょっと私の意見を聞いてもらっただけ」

 

 こんな性格ですから、どうしても敬う気持ちにはなれません。それでいて仕事もでき頭も良い。

 不思議な方です。

 

「わかりました……」

 

 この後に書かなければいけなくなる始末書のことを考えると頭が痛い。

 

「本当! 転生できるの!?」

 

「はい、手配しておきます。しかし、転生と言っても体は用意できませんので、どのような姿で転生するかはわかりません。おそらく妖精の体に入ることとなりますが……それと、転生できる時間は一日だけです。申し訳ありませんがこれ以上は……」

 

 本当は、ちゃんとした姿で転生させてあげたいのです。貴女がこれまで過ごしてきた時間には、それ以上の価値がありましたし。

 

「十分! 十分だよ!! 一日ってことは24時間だよね? いや~ありがとう映姫ちゃん!!」

 

 目の前で本当に嬉しそうに燥ぐ女性。どうか、この転生がこの方にとって素敵な物になりますように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 目が覚めた。

 いつもと違う景色。ここは……どこ? えと、んと、確か映姫ちゃんに転生してもらって……うむ、全くわからんな!

 

「大ちゃん? どうしたの?」

 

 目の前には小さな女の子。大ちゃん? なんのことだろう。

 

「というか、君は誰?」

 

「え、ええ? あ、あたいだよ? チルノだよ?」

 

 ふむ、チルノちゃんか初めて見たかな。

 種族は……妖精かな? とりあえず、柔らかそうなチルノちゃんのほっぺを摘みながら、周りの様子を確認。

 

「ふぁ、ふぁい!? ふぉうふぃふぁふぉふぁいひゃん!?」

 

 おお、柔らかい、モッチモチだね~。それで、ここは……霧の湖、かな? と言うことは多分近くに紅魔館もあるはず。

 チルノちゃんのほっぺから手を放す。名残惜しいけれど、しょうがないのだ。

 

 そう言えば、今の私ってどんな格好なんだろう? 水に映った、自分の姿を見てみる。そこにはかなり幼い顔立ちで、緑色の髪をサイドテールでまとめている少女の姿。

 

 おお、可愛いじゃん!

 

 ま、まぁ私の元の姿には負けるかな(震え声)。

 

「ねぇ、チルノちゃん。黒って人知ってる?」

 

 私が摘んでいたほっぺを、摩っているチルノちゃんに聞いた。ゴメンね、今度はもっと優しく触るよ。

 

「黒? あたいは知らないよ?」

 

 そっか~知らないか~。

 う~ん、どうしようかな……そもそも黒の場所って、普通には行けないよね。じゃあ、黒の行きそうな場所に行くしかないか。黒がよく行く場所って言ったら……まぁあの神社だよね。

 よしっ、それじゃ行こうかな。

 

「あれ? 大ちゃんどっか行くの?」

 

 私が飛び立とうとした時、チルノちゃんが聞いてきた。

 

「ちょっと神社に行ってくるよ」

 

「え? 神社ってあの怖い巫女がいる所? や、やめておいた方がいいよ。この前なんて、ちょっといたずらしただけで……」

 

 震えてるけど、何をしたのさチルノちゃん……

 

「大丈夫だよ、いたずらをしに行くわけじゃないからね」

 

 じゃあね、チルノちゃん。

 また会えるといいね。

 

 時間も限られているし、さ行こっか。ふふっ黒に会ったらなんて言おうかな~楽しみだ。

 

 

 

 

 

 慣れない体だったせいか、かなりの時間がかかっちゃった。神社の場所も、詳しくは知らなかったし……

 そして、漸く神社へ到着です。

 でも、できれば春に来たかったなぁ。桜が綺麗なんだよね、ここって。

 

 お、霊夢ちゃん見っけ。

 どうやらいつも通り縁側でお茶を飲んでいるみたい。

 今日も良い天気だもんね~。日向ぼっこにはちょうど良さそう。黒は……いないかな。残念。

 

「あら? 妖精がうちの神社に来るなんて、珍しいわね。何か用でもあるの?」

 

 霊夢ちゃんがこちらに気づき、声をかけてきた。なるほど、私はやっぱり妖精だったか。

 霊夢ちゃんは、相変わらず眠そうな目をしていた。本当に眠いのかな?

 

「ちょっと黒に用があってね~。霊夢ちゃんは黒がどこにいるか知らない?」

 

「あんた、随分と慣れ慣れしいわね……まぁ、別にどうでもいいけど。黒なら、さっきまでうちにいたわよ。次は、幽々子の所へ行くって言ってたかしら」

 

 うへぇ、入れ違いになっちゃったのか~。残念。

 幽々子ちゃんは……冥界にいるんだっけ?う~ん、ちょっと遠いな。ま、仕方がないか。

 

「そかそか、ありがとね霊夢ちゃん」

 

 よしっ、飛ぶか!

 

「はいはい、どういたしましてって……もういないし。変な妖精」

 

 やっと、この体にも慣れてきた。

 できるだけ早く飛ぶ。速度だけなら、天狗と同じくらいは出ているんじゃないかな?

 

 うっすらと見える雲を突き抜け、さらに上へ。そして、漸くあの長い階段が見えてきた。

 むむ、これは……

 

「結界、かな?」

 

 面倒だなぁ、そんな複雑なやつでもなさそうだし、いっか。

 

 ぶっ壊そう。

 

 どうせ直ぐに張り直せるし。

 

「えいっ」

 

 術と術を繋合わせている間に、霊力(今は妖力なのかな?)を送り込む。パリンッと甲高い音がして、結界が崩れ落ちた。

 よしっ進もうか。

 

 長い階段を飛んで一気に駆け上がっていくと、半人半霊の……えと、ああ、妖夢ちゃんか。妖夢ちゃんと出会った。

 

「あ、コラ。妖精がこんな所に来ちゃダメでしょ!」

 

 普通は死者しか来ないもんね、ここ。良い場所なのにな~もったいない。

 さてさて、そんなことはどうでもいいのだ。

 

「ねぇ、妖夢ちゃん。黒は今どこにいるのかな?」

 

「え、何で私の名前を? って、ああ黒さんなら幽々子様の所に……「黒ならもう帰ったわよ~」あ、そうですか。帰ったそうです」

 

 幽々子ちゃんが現れた。また、入れ違いか……黒も、もうちょっとゆっくりして行ってよ。

 

「じゃあ、黒は今どこにいるの?」

 

 むぅ、日が沈み始めている。

 時間が……減っていく。

 

「確か、紅魔館へ行くって言っていたかしら」

 

 え~、また戻らないとじゃん。

 

「はぁ、ありがとね。幽々子ちゃんと妖夢ちゃん。それじゃあ私は行くよ」

 

 う~、テンションが上がってこない。

 頑張ろう。

 

「あれ、そう言えばお前はどうやって此処に来たんだ? 結界が……ってもういないよ。ん~んんっ! ゆ、幽々子様!! 先日、直してもらった結界が!!」

 

「あらあら、綺麗になくなっているわね。フフッ何者かしら? あの妖精」

 

 

 

 

 

 紅魔館に着く頃には、すでに真夜中となっていた。今日は満月か~、ん? でもあの満月……まぁいっか。まだ、満月ではあるみたいだしね。

 

 心が折られそうになりながらも、なんとか到着。紅魔館の門の前には美鈴ちゃんがいた。

 

「美鈴ちゃん、美鈴ちゃん。黒は? 黒はここにいるよね!?」

 

 美鈴ちゃんに詰め寄る。

 

「え、えっと、いつも氷精と一緒にいる妖精ですよね。もう夜も遅いですし危ないですよ? あと、黒さんならすでに帰られました」

 

 

 …………

 

 

「……かげんに」

 

「えっ? 今なんて?」

 

「いい加減にしろやぁあああ!!!」

 

 

 ――うるさっ。

 

 耳を抑えた美鈴ちゃんの姿が見えた。

 

「なに? なんなの!? さっきから入れ違いばっかじゃん!! もうわざととしか思えないんだけど!!?」

 

 なにこれ? おかしくない!?

 

「美鈴~、さっきから五月蝿いけど、何かあったの?」

 

「あ、お嬢様お散歩ですか? その、この妖精が……」

 

 レミリアちゃんが出てきた。

 

「へ~、随分と元気の良い妖精ね。どう? うちで働いてみない?」

 

 レミリアちゃんが良い笑顔で聞いてきた。

 

「やだよ、レミリアちゃんのお世話とか。ほら、咲夜ちゃんが心配するよ? さっさと戻りな」

 

 それにこの体は、私の物じゃないしね。どっちにしても断るしかない。

 はぁ、どうしようか……黒の家ってどこにあるんだろ?

 あら? レミリアちゃんが笑顔のまま固まってる。どうしたのやら。

 

「フフ、フフフ……この私も随分と舐められたものね。今日はこんなにも良い月が出ているのだし――本気で殺してあげる」

 

「お嬢様、流石にそれは大人気ない……あ、いえ何でもありません」

 

 なに? やるの? 今の私の機嫌は、良くないよ?

 

「随分と久しぶりだから、上手く手加減はできないよ? それでもやる?」

 

「ホント……どこまでも巫山戯た妖精ね! 実力の差を見せつけてあげる!!」

 

 ――神槍『スピア・ザ・グングニル』!

 

 レミリアちゃんが叫んだ。

 その手には真っ赤に輝く、赤い槍が。

 

「知ってた? 妖精ってさ、自然そのものみたいなもんなんだ。レミリアちゃんじゃあ、まだまだ自然には勝てないよ?」

 

 ああ、そう言えば湖があったっけ。んじゃあ、ちょっとお水を借りるね。

 

 湖から水を呼び寄せる。そして、大きな大きな龍の形に。

 おお、流石は妖精だ。すごく扱いやすいよ。

 

「えっ……ちょ、ちょっと、何……それ? 大きすぎない?」

 

 ああ、そう言えば吸血鬼って水が苦手なんだっけ? ゴメンね、最初に言ったけど手加減はちょっとできそうにない、かな。

 

 ま、君達はまだまだ若いんだ。これからもっともっと強くなるよ。

 だからさ、今だけは負けてくれないかな。

 

 そして、私は水をレミリアちゃんにぶっぱなした。水の勢いはレミリアちゃんに当たった程度では止まらず、そのまま門を破壊し、紅魔館の庭を半分ほど抉ったところで漸く止まった。

 

 黒に会えない……どうしよう。

 これじゃあ、何のために我が儘を言ってまで来たのかわかんないよ……

 

「お、お嬢様!!」

 

 美鈴ちゃんがレミリアちゃんの元へと向かう。大丈夫だって、流石にあのくらいじゃ死なないよ。

 

 はぁ、このまま黒に会えないで終わっちゃうのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ、なに? 何があったの? どうしてこんなに荒れてるのさ?」

 

 後ろから声がした。

 それは聞きなれた声。

 でもそれが何処か懐かしくて、私の心を大きく揺さぶる。

 後ろを振り返る。

 そこには見慣れた姿。

 

「ばっ、ばっかやろうぅーーー!!」

 

 私は黒に飛びつき、黒に抱かれたままワンワン泣いた。ああ、懐かしいなコノヤロー! ずっと会いたかったよチクショー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。

 見慣れない景色。

 あ、黒、黒はどこ!?

 

「あ、起きたんだね。おはよう妖精さん。まぁ、おはようって時間じゃないけどさ。ゴメンね、寝ちゃったみたいだったから勝手に連れてきたよ。なんか俺を探していたみたいだし」

 

 そう言って黒はクスクスと笑った。うわぁ、懐かしい。ホンモノだよ、ホンモノがいる! って……え? 『おはようってじかんじゃない』だって?

 

 ……冷や汗が溢れ出す。こりゃあ、まずいぞ。

 

「黒! 今何時!?」

 

「ん? あと少しでちょうど12時だよ。どうかしたの」

 

 なん……だと……?ヤバい、マジヤバい、時間がない。えとえと、なんだ? 何を話せばいいんだっけ!?

 本当は、本当はもっとゆっくり、お話して、お茶を一緒に飲んで、お散歩して、お酒も飲んで、それで、それで……

 

 どうして? なんで? どうして上手くいかないの?

 ……涙が止まらない。

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて。どうしたのさ? って、え? 君、足が……」

 

 自分の足を見る。

 徐々に薄くなってきていた。どうやら時間らしい……

 

「ねぇ、黒……」

 

 最後に一言、一言だけ。

 

「うん?」

 

「大好きだ、このばかやろぅ!!」

 

 ポロポロと零れ落ちる涙が止まらない。

 こんなの、あんまりだよ……

 

「……ありがとう。俺も大好きだよ……白」

 

 ーーーっつ!! くっそ、涙、止まれ!

 ほら、黒は笑ってるじゃん! 泣いてどうするんだよ!! 笑え、笑うんだ私!! 今、笑わないでいつ笑うんだよ……

 

「また、来るね黒!」

 

「また、来な白」

 

 最後の瞬間だけは、ちゃんと笑えていたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「ただいま~」

 

 う~ん、上手くはいかなかったけれど、黒にも会えたし良しとしよう。あ~、疲れた。

 一眠りでもしようかな。

 

「ちょっと待ってください。昨日から、恐ろしい量の始末書の請求が届いているのですが……貴方はっ! 何をっ! したのですかっ!!」

 

 ありゃ、映姫ちゃんが怒ってる。

 

「思い出話はまた今度ね。私はちょっと寝てくるよ。ああ、始末書くらいなら後でやっておくから置いといていいよ~。んじゃ、おやすみ~」

 

 ふふっ、今度はいつ会いに行こうかな~

 その時が楽しみだ。

 

 






書いている途中でなんとなく、シンデレラを思い出しました
そう言えばシンデレラって魔法は解けても、ガラスの靴は残りますよね
あれは魔法で作られたってわけではないのでしょうか?


と、言うことで第19話でした
まさにオリキャラ無双
一度やってみたかったです
うちの主人公じゃできそうにありませんしね
レミリアさんが見事な噛ませ犬でしたが、この作品の中でも彼女は決して弱くありませんよ
むしろ強い方です


では、次話でお会いしましょう
次話も未定です


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第20話~冷酒は後から来るから気をつけろ~

 

 

 冬が終わって、春が過ぎ、季節は夏。

 サンサンと降り注ぐ太陽光は、今日も俺の体を焼き続ける。

 

「あ~暑い……」

 

 外の世界ではクーラーと言う随分と便利な物があるけれど、当然俺の店にはない。窓を開け放ち、風を通す。それでも篭もり、篭った熱気は抜けてくれない。

 夏だもんね、仕様が無いね。

 

 こんなに暑くては、何もする気が起きない。何処か涼しい場所は、ないのかねぇ。

 ああ、一瞬だけ北極に行きたい……

 

 そんな莫迦みたいな事を考えている時だった。カランカランと鈴の音。店のドアが開き、久しぶりのお客さんが来た。

 

 そして中に入ってきたのは――

 

 

 

 

「おや? 黒じゃないか。随分と久しいね」

 

 長い白髪に真っ白なカッターシャツ、そして赤いもんぺ。

 おろ、随分と珍しいのが来たものだ。

 

「や、久しぶり。もこたん」

 

「もこたん言うな」

 

 う~ん、本当に久しぶりだ。少なくとも数百年は会ってなかったと思う。

 

「と言うか、もこたんも幻想郷にいたんだね。知らんかったよ」

 

「いや、だから、もこたんはやめろよ」

 

 人里では見かけたことなかったしなぁ。

 

「ねぇ聞いてる? 私の話ちゃんと聞いてる?」

 

 今はどこに住んでいるんだろうか?

 

 

「それで今日はどうしたの? もこた「おい、カメラ止めろ」あ、ちょっ、ごめっ……」

 

 

 もこたんがキレたん。

 

 

 

 

 

 

 

~テイク2~

 

 

「それで? 妹紅が来るなんて珍しい……ってか初めてだよね。どうしたの? 迷子にでもなった?」

 

「あの……とりあえず、その鼻血を止めないか? いや、私のせいだけどさ」

 

 グーだった。パーじゃなくてグーだったよ……容赦ないね。

 

 霊力を治癒力に回し、とりあえず止血。流れていた鼻血は手拭いで拭く。

 う~、鼻が痛い。全く、乱暴なんだから。

 

「改めて聞くけど今日はどうしたの?」

 

 本日、三回目のセリフです。

 

「適当に歩いていたら、変な鳥居があってそしたら此処に着いた」

 

 なんだ、迷子じゃなかったのか。

 ま、妹紅なら迷子になっても、心配はないと思うけどさ。

 

「そかそか、俺はここで茶飲み屋みたいなことをしているんだ。どう? 何か飲んで行く?」

 

「へ~、今はそんなことをしてるのか。酒を作っているだけじゃないんだな。あと、残念だけど遠慮するよ。お金なんて持ってないしさ」

 

「ん~、お金はいいよ。妹紅とは知り合いだし、初めてのお客さんにはサービスするようにしてるから」

 

 例外もいたけどね……そう言えば、あの二人組は元気だろうか?

 まぁ、元気じゃないところが想像できないけどさ。

 

「そうか? それなら悪いけどご馳走になるよ。それで、こういう店って普通は何を頼むものなんだ?」

 

「普通の店は抹茶とかなんじゃない? まぁ、うちは基本的に何でもありかな」

 

 抹茶なんて頼む人はほとんどいないけど……ま、まぁこの店は一応カフェだしね。

 

「んじゃあ、冷酒で」

 

「はいよ~冷酒ね」

 

「あ、冷酒もあるんだ……」

 

 うちのメインはお酒なんです。ホント、どうしてこうなったんだろうね?

 

 

 

 枝豆や漬物など適当におつまみも出し、俺も一緒にお酒を飲む。俺は麦焼酎のロックです。美味しいよね、麦焼酎。

 熱くなった体に冷たいお酒が染み込んでいく。夏も夏で良いものかもしれない。

 

 

「さっきは聞きそびれちゃったけれど、妹紅はいつ幻想郷に来たの?」

 

 あ、妹紅が嫌そうな顔をした。

 自分のことを喋べるのは、相変わらず苦手らしい。

 

「……よく覚えてないけど、300年位前だったかな。フラフラとなんとなく旅をしていたら、いつの間にか此処にいた。今は迷いの竹林に住んでいるよ」

 

 そう言ってから妹紅は冷酒を一気に呑んだ。

 ああ、あの人里近くの竹林か。そう言えば、竹林の中に入ったことはなかったな。人里に住めば良いとも思うけど、妹紅って人と接するのは苦手だし、何より不器用だもんね。

 仕方がないのかな。

 

「む、何だよその目は。別に私がどんな生活をしていようが勝手だろ?」

 

「まぁそりゃあ、そうだけどさ。知らない仲でもないし、どうせだったら良い生活していてもらいたいかな。ちゃんと飯は食べてる?」

 

「え? ……ああ、まあな」

 

 ああ、食べてないのか。

 はぁ……

 

「ダメだよ、ちゃんと食べなきゃ。いくら、食べなくとも平気って言ってもお腹はすくでしょ? 何でも良いから楽しみは見つけないと……俺達みたいな不老不死者の一番の敵は、暇なんだしさ」

 

 死なないからと言って、食事も何もしなくなる。暇に押しつぶされるよ? アイツら容赦ないし。

 

 ん~、なんか説教っぽくなっちゃったな。俺のキャラじゃない。

 

「ああ、それなら大丈夫だよ。だいぶ前から、ちょうど良い暇潰しがあるし」

 

 おろ? そうなの? それなら良かったよ。

 

 妹紅が自分のことは話したがらないせいで、その後は最近起きた俺の話をした。真っ赤な霧に覆われた話。終わらない冬と妖怪桜の話。不思議な二人組みの迷子さんの話。三日置きの百鬼夜行の話。

 

 そんな話を続けていると、夜になってしまった。二人だけでかなりの量のお酒を飲んだと思う。

 珍しくもなく、妹紅以外のお客さんは訪れなかった。

 

 

「それじゃあ、私は帰るとするよ」

 

 妹紅が言った。

 外は真っ暗、深夜と言える時間だろう。大丈夫? ちょっとフラフラしてるよ。ちょっと呑み過ぎたかな。

 

「ん、気をつけて帰りなよ?」

 

「大丈夫だよ。それに死にたくても、死ねないしな」

 

 はぁ……また、そんなことを言う。

 

「……ありがとな、黒」

 

 こっちを真っ直ぐ見て妹紅が言った。

 

「別に気にしなくていいよ。初回限定のサービスだし」

 

 あ、でも、今度来る時はお金を払ってもらうよ?

 

「ああ、いや、そっちも感謝してるけど……そうじゃなくて、さ」

 

 頭を掻きながら、視線はどこか上の方。じゃあ、なんのことだろうか?

 

「黒にはさ。色々と教えてもらったじゃん。陰陽術とか生き方とか……だから、さ」

 

 ありゃ、こんな素直な妹紅は珍しいね。

 

「もしかして、酔ってる?」

 

「茶化すなよ。こっちは真剣なんだし。それに酔ってなきゃ、こんな恥ずかしいこと言えるか」

 

 顔を真っ赤に染めながら妹紅が言った。その赤いのはお酒のせい? それとも……

 

「ふふっ、どういたしまして。うん、妹紅とも会えたし今日は楽しかったよ。今度は、妹紅の家に寄らせてもらおうかな」

 

「そりゃあ、いいな。いつまでも待ってるよ。私も黒と会えて良かった。今日は久しぶりに楽しかったよ」

 

 最後に妹紅は笑ってくれた。

 良い笑顔だ。

 

「ん、じゃあね。もこたん」

 

「だから、もこたんはやめろって……」

 

 店の外へ出て妹紅を見送る。

 多少はフラフラしていたけれど、しっかりとした足取りで彼女は帰って行った。

 

 不老不死……か。これから、妹紅とは永い付き合いとなるのだろう。それこそ永遠と言っても良いくらい。

 

 霊夢や魔理沙ちゃんみたいな人間はもちろん、幽々子やレミリアのような人以外の奴らとだって別れは来る。あの紫とですら、いつか会えなくなる日が来る。

 

 出会いがあれば別れがあって、その時、俺は……いや、考えるのはやめておこう。

 

 嫌なことは後回し。

 長い時を生きるのには、大切な考え方だと思う。

 

 

 






なんと、登場人物が二人だけ
こんなんで良いのかな?

最後の方がなんとなく悲しい雰囲気となってしまいましたね
私は不老不死ではないので、主人公がどんな思いなのかはよくわかりません


と言うことで第20話でした
どうでも良いですが、本日5月14日は私の誕生日だったりします
ああ、ビールが飲みたい
次話は……どんな話になるんでしょうね?

では、次話でお会いしましょう


感想・質問何でもお待ちしております


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第閑話~紫とデート(笑)~



本編と直接関係することはありません
飛ばしても大丈夫っぽいです

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では、はじめます




 

 

「けほっ」

 

 重い空気、澱んだ風、そしてどことなく湿ついている。やはりこの匂いは慣れない。

 この感じは、たぶん外の世界だと思う。ほとんどの時間を、幻想郷で過ごして来たからな~

 外の世界は久しぶりだ。

 

 さて、さてさて……

 

「なんで、俺は此処にいるんでしょうね?」

 

 昨日は確か……珍しくお客さんが来たと思ったら紫で、仕様が無いけど一緒にお酒を飲んで……えと……ああダメだわ、そこから記憶がない。

 なんだろう? 何があったのだろうか?考えても思い出せない。

 仕方がないね。

 

 周りを見渡す。目の前に建つ、石でできた立派な鳥居と、山の上へと続く一本の道。どこかの参道の入口かな?

 そして、『諏訪大社』と鳥居の横にそう書かれた碑があった。ああ、諏訪だったのかここ。

 

「ご機嫌よう。黒」

 

 いつの間にか紫が後ろにいた。

 

「や、紫。なんで俺はここに?」

 

 ま、コイツのせいだよね。

 それくらいわかっていた。

 

「昨日、言ったでしょ? それに黒だって快く協力してくれるって言ったし」

 

 クスクスと笑いながら紫が答えた。あの、昨日の記憶がないのですが……

 しっかし、協力ねぇ……何を手伝うんだか。

 

「ホントに俺そんなこと言った?」

 

 荒事は嫌ですよ?

 

「ええ、言いましたわ」

 

 紫はまだクスクス笑っている。

 

「神に誓って?」

 

「神に誓って」

 

「ん~……萃香に誓って?」

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

 おい、コラ。

 俺、言ってないんだな? 言ってないんだろ。無理やりか? 無理やり連れてこられたのか……

 

「それで、ここには何の用事があるのさ?」

 

 どんな、用事なんでしょうね。

 とりあえず、昨日の俺が断る程度の用事ではあるわけだけど。

 

「何って……デートに決まっているでしょ?」

 

「…………」

 

 そりゃあ、断るわけだ……すごく、帰りたいです。

 なにこれ。何の罰ゲーム?

 

「……何よ、その顔は」

 

 ジト目の紫が言った。ジト目で見られても嫌なものは嫌なのだ。「どうせだったらフランちゃんとか、魔理沙ちゃんとかもっと若くて可愛い娘とデートがしたかった。それだのに、何だって紫なんかとデートをしなければならないのか、勘弁して下さい」

 

「おい、途中から口に出てるぞ」

 

「ハンッ。鼻で笑うとは正にこういうことを言うのだろう。デート? 紫が? 笑わせてくれる。しかし、こういう時に限って紫は鋭い。少しでも顔に出したらカメラが止まる。落ち着け、落ち着くんだ、俺。まずは冷静n「おい、カメラ止めろ」……冷静に今日の天気でも確認しておこうか」

 

 誰だよ、「」付けた奴……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~テイク2~

 

 排気ガスなんかの科学物質で覆われているとは言え、外の世界の空も綺麗だった。何時だってそう。

 コイツらは誰にだって平等だ。

 

 

 パーだった、グーよりはマシだと思っていたけど、そんなことはなかった。

 

 季節は夏。紅く染まった一枚の葉。小さな秋の兆しは俺の頬で見つかった。

 

「ほら、いつまでも寝てないで行くわよ」

 

 むう、もう少しこの大自然を満喫したかった。まぁ、のんびりしていても仕様が無い、そろそろ行くとしよう。

 

「フフッ、だらしないわね。ほら手を貸してあげるから起きなさい」

 

 そう言って紫が手を出してきた。

 おお、ありがと。紫の手を掴んで起こしてもらう。

 すまないねぇ、婆さんや。

 

「……今度は左側ね」

 

「じょ、冗談だって、ほら、進もうぜ?」

 

 話だって進めなきゃ行けない。いつまでも入口にいるわけにはいかないのだ。

 

 手を掴んで起き上がると、そのまま紫に腕を組まれた。

 

「……暑いんだけど?」

 

「ホント、失礼な男ね。こういう時、男は黙っていればいいの」

 

 むぅ、そうなの? それなら、ここは我慢するとしよう。

 

「んで、ここには何しに来たの?」

 

「だから言ったでしょ? デートよ」

 

 と言って紫は笑った。

 ……なんだかなぁ。

 

 

 

 

 

 山の中の参道を歩くこと数分。漸く拝殿が見えてきた。昔と比べると、かなり小さくなっちゃったね。これも時代の流れなのかな。それは少し悲しいな。

 

「それじゃあ、ここからは少し自由行動にしましょ」

 

 ――バーイ、また後で。

 

 なんて言って紫は消えてしまった。

 

 ……え?

 これ、俺が来る意味あった?

 

 紫が消え一人ぼっち。う~ん、どうしよう……とりあえずお参りくらいはしておこうかな。

 

 拝殿までポテポテと歩いて行き、幻想郷のお金で申し訳ないけどお賽銭を入れ、鈴を鳴らす。

 そして二礼二拍、美味しいお酒が作れるようにお願いしながら、最後に一礼。

 

 お参りを済ませ後ろを振り返ると、巫女さんがいた。おお、本物の巫女さんだ。

 

「こんにちは、お参りですか?」

 

 巫女さんが聞いてきた。緑色の髪、年は霊夢より少し上くらいかな。

 

「はい、こんにちは。そだね、美味しいお酒が作れるようにね」

 

 俺がそう言うと『お酒?』と言って巫女さんは首を傾げた。ああ、そ言えば、外の世界は二十歳未満は飲酒禁止だっけかな。

 もったいないね、お酒美味しいのに。

 

 さてさて、この後はどうしようか。う~ん、せっかくだし神奈子や諏訪子に会いたいな。

 

「巫女さん巫女さん。ここの神様たちが今はどこにいるかわかる?」

 

 本殿の中とかだったらどうしようか。流石に入れてはくれないよね。

 

「ふふっ、神様でしたら貴方がいると思う場所におられますよ」

 

 ああ、いや……そういう話じゃなくてさ。ん~もしかしたら、この巫女さんには見えていないのかな? 流石にそれはないと思うけど……あの二柱かなりの力があったし。

 

「そかそか、んじゃあ探してみるよ」

 

「えっ? あっ、はい。お気を付けて」

 

 どこにいるのかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神様を探して、フラフラと歩いていると、湖に着いた。そっか……こんなのあったよね、懐かしい。

 

 湖に近づくとヘンテコな帽子を被った一つの人影。

 

「はい、整列してー、あ、コラちゃんと並んで……って、待て待て、逃げちゃダメだよ。あーうー、ケロケロだけじゃ何言ってるのかわかんないよ」

 

 ……蛙相手に何やってんだコイツは。諏訪子に近づき、肩を叩いて声をかける。

 

「何やってんの?」

 

「うひゃぁっ、え? え? 私に触れ、え?」

 

 滅茶苦茶、驚かれた。何を混乱しているんだろうか?

 

「って、あれ? う~……もしかして、黒?」

 

 諏訪子が聞いてきた。

 

「うん、そうだよ。久しぶり」

 

「わぁーー、ホントに久しぶりだねっ! え? え? どうしたの今日は?」

 

 嬉しそうに燥ぐ諏訪子。

 

「デートらしいよ」

 

「何それー、意味わかんないね」

 

 そう言って諏訪子はケロケロと笑った。うん、俺もよくわかんない。

 

 その後は諏訪子と仲良くお話。俺は幻想郷のことを、諏訪子は外の世界のことを話した。

 俺がお酒を作っていることを言うと『飲ませてっ!』と目を輝かせながら言う諏訪子。ごめんな~、今日は持ってきてないんだ。

 

 千数百年ぶりの出会い。全てを語りきってしまう前に終わりの時間は来た。

 

「あら、ここにいたのね。そろそろ帰るわよ」

 

 紫がいきなり現れて言った。

 

「ええ? もう帰っちゃうの? 今日は泊まって行けば?」

 

 神奈子にも会いたいし、俺はそれでもいいけど、なんて思いながら紫を見る。

 

「大丈夫。また、すぐに会えるようになりますわ。ですので、今日は帰りましょ」

 

 と、紫が言った。ん? どういう意味? 諏訪子も紫の言葉に首を傾げていた。

 

「う~ん。よくわかんないけど、また会えるのなら、また来るよ」

 

「そっか~、まぁ残念だけど待ってるよ。あ、今度来る時はお酒もお願いね」

 

「おう、任せろ、一番美味しいのを持ってくる。じゃあな諏訪子。また」

 

 俺はそう言って諏訪子に手を振った。

 

「うん、またね!」

 

 諏訪子はそう言って俺に手を振ってくれた。

 

「では、また」

 

 紫はそう言って、俺ごとスキマの中へ。次はいつ会えるのかね? うん、楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 紫のスキマから出る。

 空気は未だに重いままだった。

 

「おろ? 幻想郷に帰るんじゃなかったの?」

 

 隣にいる紫に聞いた。

 

「せっかくのデートですし、ちょっと呑んで行きましょ? 外の世界のお酒も美味しいのよ」

 

 デートって言う設定はまだ続いてるんだね……

 

「まぁ、それはいいけど俺、外の世界のお金なんて持ってないよ?」

 

 そりゃあお酒は呑みたいけどさ……

 

「それくらい知っているわよ。私が払うから大丈夫。さ、中へ入りましょ」

 

 え、マジで? いいの? 奢ってくれるの?

 わー、ありがと!

 

 

 最初はどうなるかと思ったけれど、たまにはデートも悪くないかも。

 

 

 なんてね。

 

 






永夜抄、飛ばしていいですか?


と、いうことで閑話でした
第21話にしても良かったのですが、なんとなく閑話に

永夜抄とか書ける気が……頑張ります


では、次話でお会いしましょう
次話はようやっと、終わらない夜が始ま……らないかもしれません



質問・感想は特にお待ちしておりませんが、書いていただければ作者が踊ります


10000UAありがとうございました
お気に入りの数も増え、嬉しい毎日です
これからも頑張っていくので、読んで頂ければ嬉しいです



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第21話~きゅっとしてドカーン~

 

 

 とある夏の夜。空には丸い月が浮かび、真っ暗な世界を仄かに照らす。

 いつもなら、月見酒といきたいところ。

 いつもなら……だ。

 一見すると綺麗な満月。よく見ても綺麗な満月。しかし、何かがおかしい。何かが足りない。

 

 人間の俺が感じるんだ、夜の世界を生きる妖怪にとっては死活問題だろう。

 たぶん……異変なんだと思う。しかし今回は困ったことに、俺もこの異変の犯人がわからない。満月になると、困ることがあるって事なのだろうけど、誰が困ると言うのだろうか?

 

 考えてもわからない。まぁとりあえず霊夢の所へ行こうかと思い、博麗神社へ。

 

 しかし、そこに霊夢はいなかった。すでに異変解決へ出た後らしい。置いていかれた……

 

 一人で行ってもやられるだけだから、一緒に行ってくれる人を探すために紅魔館へ。魔理沙ちゃんでもいいけれど、魔理沙ちゃんの家は知らないからやめた。咲夜さんとか、一緒に行ってくれないかな?

 

 そんなことを思いながら、紅魔館へ来たわけだけど……

 

「ねぇ、ねぇ。これ、この本読んで」

 

 フランちゃんに捕まっちゃいました。

 

 紅魔館の中へ入り、咲夜さんを探していると、ててててっとフランちゃんが右から走ってきて俺に体当たり。

 今日は、鳩尾じゃなくてレバーだった。朦朧とする意識の中、フランちゃんに連れられて図書館へ。

 そして、現在にいたります。

 

 日に日に体当たりが強くなってきている気がする……

 

「いらっしゃいませ、黒様。妹様の分のお飲み物もこちらに置いてきます」

 

 フランちゃんを膝の上に乗せ、本を読んでいると咲夜さんが現れた。フランちゃん、そんなにくっついて暑くない?

 

「おお、ありがとね。ああそうだ咲夜さんはこの後、暇?」

 

 フランちゃんには悪いけれど、この異変もどうにかしないと。

 

「デートのお誘いですか?」

 

 クスクスと笑いながら、咲夜さんが聞いてきた。

 

「そうだって言ったら、乗ってくれる?」

 

「フフッ、素敵なお誘いですが、遠慮させていただきます。この後、お嬢様と出かけなければならないので」

 

 レミリアと、ねぇ。

 

「異変の解決にでも行くの?」

 

「はい。お嬢様は一人で行くと言っていますが、心配ですし」

 

 ああ、つまり子守りってわけね。

 

「咲夜ー。そろそろ行くわよ。って、あら黒が来ていたのね」

 

 レミリアも登場。

 珍しく図書館が賑やかだ。

 

「こんな大きな異変が起きているのに、黒が動かないなんて珍しいわね。今日は霊夢と一緒じゃないの?」

 

 ……霊夢には置いて行かれました。

 

「まぁ、色々あってね。それでなんだけど、俺もついて行っていい?」

 

「ん? 別にいいわよ? ああ、邪魔だけはしないでね」

 

 おお、ありがと。助かるよ。

 

「と、言うことで、ゴメンなフランちゃん。ちょっと用事があるから行かないとなんだ」

 

 フランちゃんの頭を撫でながら言った。綺麗な髪してるな~この娘。

 

「え~! 皆でお出かけするの? ずるい!!」

 

 まぁ、お出かけと言えば、お出かけだけど。

 

「また、来るからさ。今日は魔女さんにでも本は読んでもらいな」

 

 ――私は読まないわよ。

 

 そんな魔女さんの声がした。

 あ、この会話聞いてたのね。

 

「うー……じゃあ……私も行く!」

 

 え?

 

 ……え?

 

「だ、ダメよ! フラン!! ほら、お外は危険がいっぱいなのよ!?」

 

 レミリアが慌てたように言った。

 

「でも、私この中で一番強いよ?」

 

 いや……まぁ、そうなんだけどさ。どっちかと、言えばフランちゃんの相手のが心配なんだよね。

 

 その後、俺とレミリアで必死に説得しようとしたが、フランちゃんが折れることはなかった。

 

 その結果、レミリアが折れ、フランちゃんもついて行くことに。

 

 

 

「いい? フラン。もし、きゅっとしてドカーンってやりたくなっても我慢するのよ?」

 

「うん、わかった」

 

 う~ん……大丈夫だよね? フランちゃんだって、そこまで子供なわけじゃないし。

 

「もし、きゅっとしてドカーンってどうしてもやりたくなったら、黒にやるのよ?」

 

 おい、コラ。

 

「うん、わかった」

 

 いや、それはわかっちゃダメだよ。

 

 そんなどうにも締まらない空気の中、ようやっと出発。この間、魔女さんはずっと一人で本を読んでいた。

 自由だね、君……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嘘っぱちの満月が浮かぶ空の中を四人で飛ぶ。本物の月を取り返すために。いつものように、異変が起きたことに興奮した妖精が襲ってくるわけだけど……

 

 

「あはっ! すごい、すごい!! 倒しても倒しても出てくるのね!」

 

「このっ! 妖精がっ!! 妖精ごときがっ!!」

 

 ……吸血鬼無双です。

 何コレ? あ、あんまりやりすぎないでね? てか、フランちゃんは良いとして、レミリアは妖精に嫌な思い出でもあるの?

 この姉妹のおかげで、俺と咲夜さんはすることがほとんどない。いや、楽だから良いんだけどさ。

 

 

「蛍って食べられるのかしら?」

 

 咲夜さんの声がした。いきなり、何を言ってるんだ、この人は……

 

「いや、普通は食べないと……って咲夜さん、その手に持っているのは何?」

 

「蛍です」

 

 ず、ずいぶんと大きな蛍だね……静かだとは思っていたけど、何やってんだか。

 

「ちょ、ちょっと放してよ。もう、攫ったりなんてしないからさ」

 

「咲夜ー、それなあに?」

 

 フランちゃんが聞いた。

 

「新しいおもちゃですよ」

 

 いやいやいや、それはやめてあげて。たぶん、耐久力とかそんなにないよ?

 

「ホント!? ねぇねぇ、お姉様。これはきゅっとしていいの?」

 

「え? ああ、いいんじゃないかしら?」

 

 いや、ダメだって、あんた出発前に自分で言ってたこと忘れたのかよ。

 

「ひぃっ。やめっ……む、虫なんて食べても美味しくないよ?」

 

「ん~? おもちゃを食べたりなんてしないわよ?」

 

 どこか、ズレた答えのフランちゃん。名も知らぬ妖怪さんが、こちらを見てくる。

 

「た、たすけて……」

 

 流石に可哀想に思えた。

 

「咲夜さん、放してあげなよ……それにフランちゃんも別におもちゃはいらないでしょ?」

 

「うん、クロがいるし」

 

 あれ? 俺ってもしかしておもちゃ扱いだったの?

 

 その後、妖怪が咲夜さんから放されると、すぐに飛んで逃げて行ってしまった。ホントにあれって、蛍だったのかな?

 外の世界には、黒くてツヤツヤしたもの凄い速さで動く虫がいるらしい。たぶんだけど、今の妖怪みたいな感じなんだろうな。

 なんとなく、そんなことを思った。

 

 そんなこともあったけれど、相変わらず吸血鬼姉妹の無双は続いた。流石の妖精たちも何かを感じ取ったのか、途中から襲ってくる要請はほとんどいなくなった。やっぱ怖いよね、この人達。

 そして、さっきからレミリアの妖精に対しての異常な執着心は何だろうか?

 

 

「ちょっと、待ちなさい。そこの人間と蝙蝠。特に人間の方」

 

 新たな、犠牲者さんの気配。今のこの人たちに関わるのは、やめておいた方がいいよ?

 

「誰よあんた。こっちは急いでいるんだ。さっさとどいてくれない?」

 

「お嬢様、こんな雑魚は無視して進みましょう。時間もありませんし」

 

「随分と失礼な奴らね。夜に飛ぶ鳥を恐れた事は無いのかしら?」

 

「ハッ、私がお前みたいな餓鬼を恐れる? 笑わせてくれるわね」

 

 なんだろう、今日のレミリアはかっこいいな。いつもこの調子ならカリスマ(笑)とか言われないのにね。

 

「ねぇ、ねぇ」

 

 レミリアが新たな妖怪と話をしていると、フランちゃんが俺の服を掴んで聞いてきた。

 

「ん? どうしたの?」

 

「これはドカーンした方がいい?」

 

「ん~、これもドカーンしちゃダメかな」

 

「うん、わかった」

 

 と言うか、ドカーンは禁止ね。

 

 

「雀は確か食べられたわよね」

 

 だから、咲夜さんは何を言ってるんだ。別に食料に困ってはないでしょ?

 

「いえ、たまには変わり種をと」

 

「雀は小骨が多いらしいよ」

 

「では、じっくりと煮込む必要がありますね」

 

 うん、でも食べる必要はないと思うよ?

 

 

「さ、次に進むわよ」

 

 そんな会話をしていると、レミリアが俺達に言った。おろ? さっきの夜雀は……ああ、地面で倒れてるわ。

 

「てか、レミリアは何処へ行けば良いのかわかってるの?」

 

 このまま進むと、人里なんだよね。流石に人里へ入るのは、まずいかな。

 

「妖気を辿って行けば良いだけでしょ? それくらいわかるわよ。ちょっと薄いから、気を付けないと見失いそうになるけれど」

 

 おろ? そうなの? 俺は全くわかんないけど。

 んじゃあ、ここはレミリアに任せようかな。

 

 嘘っぱちの月明かりの下、四人は進む。

 

 月……ねぇ。

 正直、月にはあまり良い思い出がない。

 

 どことなく、胸がざわつく。そう言えば昔から、嫌な予感だけはよく当たる。

 

 今夜は長い夜になりそうだ

 

 

 






蛍は食べたことがありませんが、昔、御当地グルメで「ほたる丼」と言うものなら食べたことがあります
なかなか美味しかったです
雀ですが、伏見稲荷神社の近くのお店で食べました
こちらも、なかなかに美味しかったです

と言うことで第21話でした
紅魔館組が勝手に動くせいで、話がなかなか進みません
終わらない夜の終わりは、まだまだ先っぽいです

では、次話でお会いしましょう
次話は未定です



感想・質問など何でもお待ちしております



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第22話~はじめまして~

 

 

「はぁ、今度は悪魔か……ここには何も無い。さぁ帰ってくれ」

 

 人里の入口の前に立って、よくわからないことを言っている女性。

 何やってんの、慧音?

 

「あら? 人里が消えてる……」

 

 咲夜さんが言った。え? どういうこと? 目の前にあるじゃん。

 

「どうせ、そこの半獣が何かしたんでしょ? せっかく燃料補給しようと思ったのに」

 

 ん? ああ、そういうことなのね。慧音が歴史を食べたのか。

 ってレミリア、ダメだよ? 人里で事件を起こしちゃ。

 

「フランちゃんは何か見える?」

 

「ん~、何もないよ?」

 

 ふむ、フランちゃんにも見えていないのか。

 

「なあ、慧音。この異変を起こした奴って誰だかわかる?」

 

「なんだ、黒もいたのか。さっさと帰ってくれないか? 今回、人里は関係ない。異変の原因なら、竹林に行けばいい。たぶんあいつの仕業だろう」

 

 慧音はそう言って、竹林を指差した。竹林か行ったことないんだよなぁ。

 あ、そう言えば妹紅が住んでるんだっけ? じゃあ、この異変の犯人は妹紅なのか?

 いや……それはないか。

 

「ねぇ、咲夜。こいつフランの家庭教師に良いんじゃない?」

 

「うちにはこれ以上、知識人は要りませんわ……」

 

「でも家の知識人って、あまり役に立たないじゃない。本を読んでばっかだし」

 

「知識だけならあるんですけどね」

 

 酷い言われようだ……まぁ、確かに魔女さんもどっか抜けてるところあるよね。

 

 さて目的地もわかったことだ、そろそろ行くとしよう。

 

 

「幽々子様! 人里が消えています!」

 

「何言ってるのよ妖夢、私には見えているわ~」

 

 出発しようとした時、なんとも愉快な二人の声が届いた。

 

「あら? 黒と紅魔の主従コンビに……貴女は初めて見る顔ね」

 

 フランちゃんを見ながら幽々子が言った。

 

「私? 私はフランドールよ」

 

 フランちゃんが自己紹介をすると、一瞬だけ幽々子が固まった。あ、やっぱりまずかった?

 

 幽々子がこちらを見てくる。

 俺は目を反らした。し、仕方ないじゃん。

 

「ま、まぁ行き先もわかったんだし、進もうぜ?」

 

 ――紫に怒られるわよ?

 

 幽々子が俺の耳元でポソリと言った。

 ですよね……

 

 幽々子たちも加え、計六人で異変解決へと向かうことに。見慣れない人が二人も来たせいか、フランちゃんは緊張してるみたい。

 さっきから、俺の服をずっと掴んでるし。え? 手握りたい? まぁ俺は別にいいけど。

 

 そんな俺とフランちゃんの様子を、妖夢ちゃんは何か言いたげに、幽々子はクスクスと笑いながら見ていた。

 

 

 人里を抜け、竹林を進むこと数分。

 

「レミリア、まだ妖気は感じられてる?」

 

 それにしても、すごいなこりゃ。同じ景色ばかりで、どっちに進んでいるのかわかりゃしない。

 

「ダメね。見失ったわ」

 

 あら、そりゃあ困ったな。

 

「黒ならわかるんじゃないの?」

 

 幽々子が聞いてきた。いや、今回はちょっと、ね。

 

「皆が夜を止めるために色々やってるせいでさ、混ざっちゃって全くわからないんだよね」

 

「へ~鼻が効きすぎるのも問題ね」

 

「なに? 貴方達も夜を止めているの?」

 

 咲夜さんが聞いた。

 

「あの歪な月を沈めるわけにはいかないもの」

 

 皆、考えることは同じっぽい。あとは、どうせ紫あたりもなんかしているんだろう。

 

「ま、とりあえず進もう……っと、なんか前の方が騒がしいね」

 

 

 

 

 

「恋符『マスタースパーク』!」

 

「っと、邪魔しないで魔理沙」

 

「それは無茶ってもんだぜ。今回は私が解決してやるから、霊夢こそ引っ込んでな」

 

 眩しい弾幕、広がる爆音。魔理沙ちゃんと霊夢が弾幕ごっこをしていた。

 

 あ、よく見ればアリスと紫もいるわ。

 

「あら、黒に幽々子じゃない。貴方達も来たのね……って、黒。貴方どういうつもり……?」

 

 紫がフランちゃんを見つめる。

 

「仲間外れは可愛そうだろ?」

 

 俺がそう言うと紫は『はぁ』とため息をして

 

「問題だけは起こさせないでね」

 

 と言った。

 うん、できるだけ頑張るよ。

 

「紫、俺と繋げておいてくれ」

 

「……いいけど、黒から言うなんて珍しいわね」

 

 紫はそう言って、扇をフワリと振った。

 体の芯が熱くなる。随分と久しい感覚。

 

「ん、霊夢ちょっと待て。新しいのが来たから一旦止めよう。……こりゃあ随分と大人数になったな」

 

 弾幕ごっこを止めて、魔理沙ちゃんが言った。

 

「なんだ結局、黒も来たのね」

 

 霊夢が俺を見ながら言う。

 お前はなんで俺を置いて行ったのさ……

 

「それで、どうするの? 仲良く全員で行く? それとも……」

 

 アリスが言った。

 まぁ、そりゃあ……

 

「それともの方だな」

 

「手間が増えたわ」

 

 臨戦態勢に移る、白黒魔法使いと紅白巫女。

 この面子なんだ。そりゃあ、そうなるだろう。

 

「よしっ、フランちゃん俺たちは先に行くか」

 

 俺の手を握っているフランちゃんに言った。

 

 

「あ、ずるい! またそうやって一人だけ。ちょっと待ちなさい! っと……何するのよ、レミリア?」

 

 レミリアが霊夢に対して妖弾を放った。

 

「何って、可愛い妹の手助けをしたまでよ。ほら、黒はさっさとフランを連れて行きなさい。咲夜、やるわよ。せっかくなのだし全員倒してあげる」

 

「かしこまりました、お嬢様。では妹様、黒様はお気を付けて」

 

 紅い槍を構える吸血鬼と、ナイフを取り出すメイド。

 

「ホント、面倒ね」

 

 気怠げな巫女は御札を握り。

 

「アリス、私たちもやるぞ」

 

「ええ、わかっているわ」

 

 白黒の魔法使いは八卦炉を、七色の魔法使いは人形を。

 

「妖夢、私たちも混ざりましょ?」

 

「わかりました」

 

 亡霊姫は扇子を、幽人の庭師は刀を構える。

 そうして、絶対に混ざりたくない戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランちゃんと仲良く手を繋ぎ、二人で進むこと数分。

 

「どうして、さっきから真っ直ぐ歩かないの?」

 

 フランちゃんが聞いてきた。

 

「ここの地面ってなんでか知らないけど、罠だらけなんだよね」

 

 壊して行ってもいいけど、それだと時間かかるし。

 

「そうだったの? 全然気づかなかった」

 

 この感覚、懐かしいな。

 

「昔にね、随分といたずら好きな兎がいてさ」

 

「兎? 月の?」

 

「いや、あいつは地上の兎かな。それで、その兎に何度も罠にハメられたんだよね」

 

 そのおかげで、こういう罠にはかなり敏感になった。あの腹黒兎は今も元気だろうか?

 

 そんな会話もしながら、のんびりと進行中。たぶん場所は合っていると思う。まぁ、罠を辿っているだけなんだけどさ。

 

 そして、漸く目の前に立派な建物が現れた。

 

 ん~でもなんか変だな。歪んで見えるっていうか……

 

「う~……ぐにゃぐにゃする」

 

 フランちゃんが言った。

 あ、やっぱりおかしいよね。なんだろう? ここからじゃよくわからない。

 

 そして、門を開け建物の中へ入ろうとした時だった。

 

「よっしゃ、一番乗りだぜー!!」

 

 箒に乗った魔法使いが恐ろしい勢いで、通り過ぎていった。そして、後ろの方からも賑やかな声。

 

「……俺たちも行こっか」

 

「うん」

 

 建物の中へ入ると違和感がさらに強くなった。むぅ、なんかの封印かな? うっすらと何かが見える。

 

「フランちゃん。目の前の扉見える?」

 

「扉? う~……あ、ホントだ、扉がある」

 

「ぶっ壊していいよ」

 

「きゅっとしてドカーン?」

 

「うん、やっちゃって」

 

 多分、一つ壊せば全部壊れるはず。

 

「えいっ」

 

 フランちゃんが右手で何かを握ると、パリンッと高い音が響いた。

 

「あ、ぐにゃぐにゃがなくなった」

 

 屋敷のどこかから、騒がしい音が響く。魔理沙ちゃん以外も着いたのだろう。

 

「よし、フランちゃん俺たちも行こっか」

 

「うん」

 

 さっきよりも鮮明になった扉へ進む。屋敷の中はお祭り騒ぎ、こうなったら楽しんだもん勝ちだ。

 

 

 

「待ちなさい。はぁ……貴方達ね、封印を破壊したのは。そこから先へは進ませないわ」

 

 女性の声がした。

 後ろを振り返る。

 長い三つ編みにした銀髪。左右で分かれた赤と青のツートンカラーの服。

 

 ドクンと心臓が跳ねる。

 

 ああ、そっか。そうか……今回は月の異変なんだ。

 予兆もあった、フラグは立っていた。

 

「ク、クロ? どうしたの?」

 

 フランちゃんの声がした気がする。

 女性をもう一度見る。その姿は、遥か昔に見たものと変わらない。

 

「ちょっと、聞いてるの?」

 

 女性が言った。

 上手く聞こえない。

 

 待て、待てって俺。このまま、何もなかったように終わらせよう。

 そして、その後はここの人達も加えて、宴会をして、お酒を呑んで、楽しく話して……

 止まれよ、止まれって。この人は関係ないだろう?

 やめろ、口を開くな。その言葉を出すな。あれは、仕様がなかったことなんだ。何度も何度も何度も、考えたじゃないか。俺達は不幸なんじゃなかったって、有り余る時間を使って、理解したじゃないか。

 

 

 ああ、ああ……この大馬鹿野郎が。

 

 

「はじめまして、八意××さん」

 

 

 






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昔話~名も無き~



~注意!!~

東方キャラは出てきません
イラッ☆っときたらブラウザバック推奨
会話多め、本文短め
本編と関係ありますが、読まなくとも気合でどうにかなりそうです

では、始めます




 

 

 流れ出る赤。それはやがて広がり、大きな水溜りとなった。

 

 目の前で静かに眠る女性。そんな彼女が起きることは……二度とない。

 

「おい、クロ! シロは大丈夫なの……か……」

 

 聞こえてきた声はNo.02のものだった。

 

 俺達に名前はない。名前の代わりとして、たった二桁の数字が与えられただけ。別にそのことを不満に思ったことはないけれど、やっぱり少しだけ寂しいかな。

 

「そっか……ダメだったんだな。……悪いな、嫌な役目をしてもらって」

 

 気にすんな、汚れ役なら慣れてる。

 

「状況は?」

 

「最悪だよ。大量の妖怪どもが襲ってきてるそうだ。今は無人兵器が頑張っているが、まぁ無理だろうな。結界だってすぐに壊れる。上の奴らは妖怪を舐めすぎだ」

 

 最悪、ねぇ。

 それじゃあ、俺たちはもう助からないってことなんだろうなぁ。

 

「おっさん……施設の研究者達は?」

 

「もう逃げたっぽいよ。無事だと良いけどねぇ」

 

 こんな俺達を育ててくれた人達だ、普段は反抗してばっかだったけど、感謝はしている。そんな人達まで失ってしまうのはやっぱり悲しい。

 

「俺達の分の船は……まぁ、ないよな」

 

「そりゃあ、そうだろ。俺達なんて、上のやつらが大好きな穢れの塊だぜ?」

 

 あ~あ、嫌になっちゃうね。どうやったって、生き残れそうにない。とんでもないことになってしまったものだ。

 

 そんな状況になってしまったわけだけど……こうなってしまったのなら、やることなんて決まっている。

 そんじゃ、ま。

 

「行くとしますか」

 

「どこへ行くってのさ?」

 

 んじゃな、白。

 どうかゆっくり眠ってくれ。

 

「俺たちの死に場所を探しにさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 施設の中の一番大きな広間へ行くと、そこに皆がいた。総勢95人。一つ屋根の下で暮らした、大切な家族達のような存在。

 

「おお~、02と96じゃん~。お帰り~」

 

 間延びした声でNo.18が言った。

 

「46は? 彼女はどうなったの?」

 

 No.80が聞いてくる。そんなNo.80の顔は珍しく不安そうに見えた。

 

「俺が殺したよ」

 

 全員が黙り、痛いほどの沈黙が続く。

 

 

「それで……これからどうするの? せっかく46が命を懸けてまで助けてくれたと言うのに、このままじゃ全員死ぬわよ?」

 

「いっそ、妖怪側に回るか? 結界とかもぶっ壊してさ」

 

「やめろよ、おっさん達がまだ逃げてないかもしれんだろ」

 

「妖怪と戦う? 瞬殺されると思うけど」

 

「ですよね……私達も実戦経験はありませんし」

 

「どうするのクロ?」

 

 全員の視線が俺へ集中した。

 普段からリーダーなんてやっているわけじゃないけれど、こういう時ばかり何故か俺が中心にさせられる。

 

 ま、流石に慣れたけどさ。

 

「……白の、彼女の弔い合戦をしようと思う」

 

 どうせ俺たちは皆死ぬ。けれども死に方ぐらいは選ばせてもらおう。それくらいしか今の俺たちにできることはないのだから。

 

「まぁ、それが一番妥当だよね~」

 

「うわぁー、あの世で46に怒られそう」

 

「あはは、『なに死んでるのっ!?』とか言って怒りそうだね」

 

「初めての実戦演習~lunatic~」

 

「なにそれ怖い」

 

「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ……」

 

「いや、君は結婚できる相手がいないでしょ」

 

「んで、勝利条件は? 妖怪の全滅は無理だぜ?」

 

「5分持てば、まだいい方だね」

 

「最後の船が、打ち上げられるまでってとこかな?」

 

「よしゃ~、それで行こう~」

 

 話がポンポン進む、こんな時だってのに楽しそうだね。

 

「リーダーとか決めようぜ」

 

「じゃあ、この前の試験で点数が一番……低かった人ね」

 

 おい、待てコラ。リーダーにされるのは構わんが、その決め方は納得いかんぞ。全員でこっち見んな。

 

「黒か」「96だね~」「クロだな」「んじゃあ、よろしく頼むよ96」

 

「上等じゃねーか、この野郎共が。よし、お前ら全員自爆特攻な」

 

「……戦場における士官の死因の二割が、部下に殺されたものらしいですよ」

 

「いや、確か96って実験成功したんだろ? だったら不老不死なんじゃないか?」

 

「一回、殺ってみるか……」

 

 何勝手なこと言ってんの!? 本当にやめてください。

 

「不老不死とか、絶対なりたくないよね……ドンマイ96」

 

「なんで、クロだけ成功したんだろうね? 後は、み~んな失敗だったのに」

 

「いや~、あんな実験は二度勘弁だな」

 

「妖怪の血液を無理やり注入。そんなの拒絶反応が起きるに決まってるじゃん」

 

「……シロに感謝」

 

「だね」

 

 さてさて、皆さん。お喋りはそのくらいにして、そろそろ逝きましょうよ。いつもみたいにのんびりしている時間はないんだからさ。

 

「リ~ダ~、作戦をお願い~」

 

「結界組と迎撃組に別れよう。結界組はボロボロになった結界の修復を、迎撃組は妖怪と遊んでこい」

 

「了解~、最期に一言どうぞ~」

 

「さあ、逝け! 安心して死んでこい。骨だけは拾っておいてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 何百、何千、何万年より昔の物語。

 

「ありゃ……こりゃあ、数がやばいな」

 

「帰りてー、すっごく帰りてー……まぁ、帰る場所なんてないんだけどさ」

 

 誰にも語り継がれることはなく。

 

「上から来る弾幕は~96よろしくね~」

 

「まだ、慣れてないんだけどなぁ。まぁ任せとけ。んじゃ、能力使うぞ」

 

 誰も語ることはなく。

 

「おお、すげー、これが桜吹雪ってやつなのかな? テンション上がって……は来ないな」

 

「そこは無理にでも上げとけよ……」

 

「まぁ、やるしかないよね。また、あの世で会いましょ」

 

 静かに終わった物語。

 

「無人兵器は壊滅~、結界はボロボロ~、撤退も不可能~……状況は最高だ。これより反撃開始」

 

「おっ、やあっと、結界が戻ったのね」

 

「何が何でも、結界を守り続けろ! これが破られたら俺達の負けだ」

 

 

 

 

 

 95人の命を犠牲にして。

 

「ねぇ……あれ見える? 船が……」

 

「いや~、もう視力がないんだわ。でもさ、声は聞こえる。皆の喜ぶ声が。そっか……そうか、俺達勝ったんだな」

 

「ありゃ……結界が壊れた。ま、よくここまで耐えてくれたよ。お疲れ様」

 

「じゃあ三時間後~、あの世で集合ね~」

 

「ふふっ、96だけ仲間外れ……って、あら? 96の奴、寝てるよ」

 

「頑張ってたもんな。じゃ、また会おう。皆……お疲れ様。悪いな黒。俺たちは先に逝っているけど……まぁ、お前はのんびりしてこい」

 

 名も無き一つの戦いが終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雲一つない空の下。

 荒れた大地の上で

 

「ん~……これから、どうすっかね?」

 

 一人ぼっちになった少年が、ぽっかりと浮かぶ、まん丸の月を見ながら呟いた。

 

 






地の文が少なくてごめんねー
状況がかなり伝わり辛いかと思われますが、頑張って読んで下さい
こういう話はもう書かないと思います

と、言うことで昔話でした
人妖大戦のお話っぽいですね
ですから、主人公の年齢は1億歳くらいでしょうか?
本当は2,3話に分けても良かったのですが、結局バットエンドですのでサクッと終わらせました
飛ばしすぎた気もしますが……
有る事、無い事、それなりに設定も考えているので、質問して頂ければネタバレしない範囲で答えます
ああ、ほのぼのしたお話が書きたい

では、次話でお会いしましょう
次話は永夜抄解決だと思います


質問・感想は特にお待ちしておりませんが、書いていただければ作者が踊ります



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第23話~そんな未来も~

 

 

「はじめまして、八意××さん」

 

 あ~あ……言っちゃったよ。

 

 遠い昔の記憶が蘇る。誰にも語ったことはないし、誰も語ることはなかった物語。とっくの昔に吹っ切れたと思っていた。

 結局、俺の中のどこかで引きずっていたんだろう。全く、女々しいねぇ……

 

「……何故、貴方がその名を?」

 

 八意さんの目つきが鋭くなる。これが、殺意ってやつなのかな? 怖いったらありゃしない。

 

「何故って、そりゃあ貴女有名人でしたし」

 

 逆に知らない人の方が珍しいんじゃない?

 まぁ、あの頃の人達限定だけどさ。

 

「そう……それで? 貴方は月人なのかしら?」

 

 

 はい? ……月人? 俺が?

 

 ああ……そっか、そうか、そうだよな。

 

 そういう未来だってあったはずなんだよな。皆と月に行って、そこでもまた一緒に暮らして、いつものように馬鹿やって。幸せを噛み締めながら……皆と一緒に生きることだってできたはずなんだよな!

 それだのに、なんだこれは? どんな茶番だよ?

 駄目だわ、笑いが止まらない。

 

 

「あはっ」

 

「ク、クロ? どうしたの?」

 

「あははっ、俺が月人? なんだそれ、なんの冗談だってのさ? お前たちが! 俺たちを見捨てて行ったんだろ?」

 

 穢れた感情が止まらない。止まれって……彼女は関係ないだろ。なあなあのハッピーエンドで終わらせれば良いじゃないか。シリアスなんていらない。

 そうじゃなかったのかよ……

 

「そりゃあ、俺達なんてただの実験動物だったよ。でも……それでも、俺達は必死に生きてた! 何が不老不死の実験だよ? そして、実験に失敗したら捨てられる」

 

 支離滅裂。

 だから俺は何を言っているんだ。

 

「…………」

 

 八意さんは黙って俺の言葉を聞いていた。

 

 はぁ……もう、どうでもいいや。

 どうせ皆、好き勝手やっているんだ。考えるのも面倒臭い。

 

「なぁ、教えてくれよ。違いはなんだ? 俺達とお前達との違いはなんだ? お前達だって、俺達と同じ人間なんじゃなかったのかよ……」

 

 久しぶりに全力を出すのも悪くない。妖力が溢れ出す。頭が痛い。全身が焼けるようだ。

 

「ねぇ、クロ? さっきから変だよ?」

 

 声が聞こえた。

 何を言っているのかはわからない。

 

 そうだなぁ、手始めにここら一帯を穢れで満たしてやろうかな。

 

 さぁ、始めましょうか。

 

「神酒『ネクタール』」

 

 俺がそう言った時だった。

 目の前に紫が現れたのは。

 

 

 そして――紫が俺の頭を吹き飛ばした。

 

 

「貴方は何をやっているのよ? そんな莫迦なこと止めて。そのまま頭を冷やしなさいな。って、フフッ。頭はなくなってるから冷やしようがないわね」

 

「貴様! クロに何をする!!」

 

「落ち着きなさい吸血鬼。それに貴女だって黒を殺しているでしょ? はぁ、繋げるべきじゃなかったわね。私だって本調子じゃないのよ? 誰が貴方を止めるの……ほら、いつまでも寝ていないでさっさと起きなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔から、どんなに努力を続けても、俺の霊力が増えることはなかった。

 それだのに、ただ生きているだけで俺の妖力は増え続けた。

 

 才能って言葉が嫌いだ。

 努力って言葉はもっと嫌いだ。

 

 

 ホント、何やってんだろうね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。あれだけ溢れていた妖力は消えていた。ああ、紫が切ってくれたのか。

 

「おはよう黒。気持ちの悪い夜ね」

 

 紫が言った。

 

「あ~、すまんな。迷惑かけた」

 

 むぅ、また紫に貸しができちゃったな。なんとか踏み倒せないかな?

 

「ク、クロ? もう大丈夫なの?」

 

 フランちゃんが聞いてきた。うん、もう大丈夫だと思うよ、ゴメンね心配させて。

 フランちゃんの頭をポフポフ叩いてみる。おお、やっぱ綺麗な髪してるな。

 

 

「……結局、貴方は何者なの?」

 

 八意さんがこちらを真っ直ぐ見て言ってきた。

 

「さあ、何者なんでしょうね? 逆に俺が聞きたいですよ」

 

 月人でないことは確かだけどさ。

 

 ねぇ、この話やめない? 昔のことなんて忘れて、ちゃんと今を生きようぜ。

 

 

「さてさて、黒の話なんてどうでも良いでしょ。貴女がこの異変の首謀者ですわね? こんな所にいていいのかしら。今頃、霊夢達がお姫様をボコボコにしていると思うけれど」

 

 うん? お姫様? 誰ですかそれ。

 

「はぁ……封印が壊された時点で、私たちが負けることくらい知っているわよ。いくら頑丈とは言え姫に乱暴をするのはやめてもらえるかしら?」

 

 いや、だから姫って誰だよ。フランちゃんは知っているのかな?

 

「フフッどうかしらね? まぁ、死ぬことはないと思いますわ」

 

 なんか、さっきから俺とフランちゃんは蚊帳の外だね。どうしようか、お散歩でもする?

 

 

 

 

 その後も紫と八意さんは二人だけで話し続けていた。

 口を出せる雰囲気ではない。隣にいるフランちゃんを見ると、欠伸をしていた。そろそろ夜も明ける。良い時間なんだろう。

 

「フランちゃん」

 

「なあに?」

 

「帰ろっか」

 

「うん」

 

 難しい話なんて俺にはわからないし、正直ここにはあまりいたくない。いつか、向き合わないといけなくなる日が来るのかねぇ? そりゃあ、何とも憂鬱な気分だ。

 

 フランちゃんと一緒に屋敷の外へ出ると、レミリアと咲夜さんがいた。

 

「お帰りなさいませ、妹様、黒様」

 

 咲夜さんが言った。おおー、『お帰りなさいませ』だって! ついに言ってもらえた。

 

「咲夜さんとレミリアは行かなくて良いの?」

 

「私は月さえ取り戻せれば、それで良いの。異変解決自体に興味はないわ」

 

 そっかそっか、皆から集中砲火を喰らって、動くことすら厳しいってわけじゃないんだね。

 随分とボロボロな姿をしているけれど、それは関係ないんだね。うん、じゃあ俺は何も言わないよ。

 

「お姉様……」

 

 フランちゃんがレミリアを見ながら呟いた。それ以上は口にしちゃダメだよ。泣くぞ、レミリアが。

 だから、その哀れみの視線はやめてあげて。ほら、レミリアのやつ、上を向いてるじゃん。あれ絶対、涙を堪えてるって。

 

「咲夜さんは?」

 

「私は膝に矢を受けてしまったので」

 

 そ、そうですか……

 たぶん、レミリアを一人にさせない為だと思うけれど……

 

 

「さ、それじゃ帰りましょ。私も眠いわ」

 

 どこか鼻声のレミリアが言った。目の端から溢れ落ちた涙なんて見ていない。

 

 

 その後、帰り道の途中で俺は紅魔館組と別れた。フランちゃんはもう少し一緒にいたかったみたいだけど、時間も時間だしなんとか納得してもらった。むぅ、随分と懐かれちゃったね。

 

 家に戻ってからは直ぐに寝床に倒れ込んだ。何もする気にならない。

 

 うっわ~~……なんか一人で恥ずかしいことしちゃったな。先ほどのことを思い出すと、恥ずかしさがヤバい。

 

「もう、いっそのこと引き篭ろうかな……」

 

 あうあう、言いながら転がっていると、壁に頭をぶつけた。痛い。

 

「何をやっているのよ貴方は……」

 

 聞きたくない声がした。

 

「や、紫。さっきぶり」

 

 うつ伏せのまま、紫に声をかける。今はちょっと放っておいてくれませんか?

 できれば10年くらい。

 

「異変なら解決したわ。今度、博麗神社で宴会があるから黒も来なさい。まぁ、無理矢理連れて行くけど」

 

 え~~、すごく行きたくないのですが……

 てか無理矢理連れて行くのはやめてください。

 

「行かないとダメ?」

 

「ダメ」

 

 そうですか……

 

「八意さんも来るんだよね?」

 

「ええ、もちろん」

 

 だよね……どうしようか。会いたくねー。ホントに会いたくねー。

 

「ねぇ、黒」

 

「何さ?」

 

 憂鬱だ。すごく憂鬱だ……

 

「貴方がどんな過去を生きてきたのかなんて、別に私は気にしないわ」

 

「…………」

 

「ただ、この幻想郷に貴方は必要なの。貴方が救ってきた命は、貴方が考えているよりもすっと多いってことを忘れないように」

 

「その命も背負えってこと?」

 

「はぁ……それくらいは自分で考えなさいな。では、宴会で」

 

 紫はそれだけ言うと消えてしまった。仰向けになって天井を見る。

 救ってきた命……ねぇ。

 

 どういう意味なんだろうか? 今度、あの説教好きの閻魔にでも聞いてみようかな。

 

 

 






と、言うことで第23話でした
文章診断ではオールAでしたが……うん、こんなものかもしれません

シリアスっぽいのは苦手です

次話は未定です
では、次話でお会いしましょう


感想・質問何でもお待ちしております



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第24話~お説教~



友人がよく傘を盗まれるそうで、アニメキャラがでかでかとプリントされた傘を使い始めました

傘は失わなくなったそうですが、大切な何かを失ったように思えます




 

 

 あれから、色々と考えた。どうすれば……どうすれば宴会に参加しなくて済むのかを。

 

 

 ……いや、だって仕様が無いじゃん。会いたくないものは、会いたくないのだ。だいたい、どんな顔して会えば良いってのさ?

 

 異変の邪魔をして、暴言吐いて帰ってきたんだよ。向こうにとっては俺ってただの迷惑な人じゃん。

 

 絶対、八意さんだって俺には会いたくないよ。

 

 そして今晩にその宴会がある。

 

 だから決めたのだ。全力で逃げようって。

 

 

 このまま家に引き篭っていても紫に拉致される。だから、何処かへ隠れたいわけだけど……

 

 とりあえず宴会会場の博麗神社はありえない。紅魔館じゃ紫に見つかる。白玉楼は……まぁ、無理だろう。幽々子を説得できれば良いけれど、まず無理だ。

 

 そうなると、いよいよ候補が減ってくる。外の世界は行き方がわからないし、妹紅の家も場所を知らない。

 

 だいたい、紫の能力がチートすぎるんだよ。幻想郷の中にいたら何処だろうと見つかる。

 

 と、なるとだ。俺が思いつく場所は一つしかない。たぶん、そこなら紫も来ないはず。

 そしてその場所へ向かって歩いているわけだが、どうにも気が乗らない。いや、背に腹は代えられんけどさ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼岸花に埋め尽くされ、真っ赤に染まった道を歩く。

 再思の道。そう呼ばれている場所だ。其処は死にたくなった者が生きる気力を取り戻せる場所。

 

 な~んて言えば聞こえは良いけど、外来人にとっては地獄へと続く一本道。そう考えると、これだけ美しく咲いている彼岸花も怖く見える。

 

 この先にある無縁塚には、春になると紫色の花をつける桜がある。 俺はあまり好きじゃないんだよね、あの桜。見ていると何故か無性に悲しくなるから。

 

 さらに無縁塚を越え暫く進むと、何とも重苦しい雰囲気な川が見えてきた。その川は三途の河なんて呼ばれている。

 俺には縁のない場所なんだけどねぇ。

 

 

 さてさて、あの三途の水先案内人はちゃんと仕事をしているのかな?

 

 彼女が仕事をしているところとかほとんど見ないけど。

 

 

 

 

 

 

 フラフラと暫く歩くと、川を渡るための船の近くに彼女はいた。

 てか、寝ていた。仕事しなさいよ……これじゃあ幽霊たちも成仏できないじゃん。

 

「おい、小町~。起きろって」

 

 お昼寝中の死神に声をかける。

 

「ん、むぅ? あ~……あ? なんだい黒じゃないか。ついにお前さんも死んじまったのかい?」

 

 大きな欠伸をしながら小町が聞いてきた。

 

「いや俺、死ねないんだけど……」

 

 君も知ってるでしょうに。

 

「そういやぁ、そうだったね」

 

 なんて言って小町はからからと笑った。

 

「それで、今日は何の用だい? あたいは仕事中で忙しいからあまり構ってはあげられないよ」

 

 どの口が言いやがりますか。

 

「仕事しないで、寝てたじゃん……」

 

「ん? していたよ。ほら、あたいの仕事は船を漕ぐことだし」

 

 何ドヤ顔で言ってんだ。ぶっ飛ばすぞ。漕ぐどころか、完全に沈没してたじゃねーかよ。

 

「ちょっと川の向こう側に行きたいんだけど、乗せてくれない?」

 

「おや、映姫様に用事かい? 黒にしては随分と珍しいじゃないか」

 

 俺だけじゃなく、誰だって映姫に会おうとは思わないだろうね。

 

「あ~、映姫に用事があるわけじゃないんだ。ちょっと匿って欲しいていうか……」

 

 宴会に出たくないから逃げてきた。だなんて恥ずかしくて言えない……

 

「そうかいそうかい詳しくは聞かないが、ま、色々あるんだろうね。ん~でもなぁ。まだ生きている奴を渡すってのはな~」

 

 やや、棒読みでこちらをチラチラと見ながら小町が言った。はぁ……わかった、わかりましたよ。こちらも只で渡ろうとは思っていなかったし。

 

「……今度、良いお酒を持ってくるよ。それで、どう?」

 

「3本」

 

「2本で」

 

「じゃあ、間を取って2.5本でいこう。ん? 切りが悪いな。じゃあ死者五入で3本かな。いや~、悪いね気を使わせちゃって。まぁ、その分しっかりと働いてあげるよ」

 

 ……恐ろしい速さで交渉が打ち切られた。鬼か。いや、死神か。

 

「さぁ、タイタニック号に乗っておくれ」

 

 はい?

 

「タイタニック号? このボロ船が?」

 

「そうだよ良い名前だろ? あとボロ船なのは仕様が無い。お金無いんだもん」

 

 もう少しマシな名前にしなさいよ……

 

「ほいじゃあ、一名様ご案な~い」

 

 

 

 

 そして、タイタニック号(笑)に乗り、小町がそう言った時だった。

 

「案内する必要はありません」

 

 閻魔が現れた。

 

 

「「げっ」」

 

 小町と俺の台詞が被る。

 

「くそっ見つかったか。よし小町、お前は良いから先に行かせろ」

 

「すまない! 後で必ず行くから此処は私に……ってあれ? さっきの台詞おかしくないかい? 普通ならあたいが逃げる側なんじゃ……」

 

 ダメか、誤魔化し切れなかったか。

 

「何をやっているのですか……二人ともこちらへ来て正座しなさい」

 

 あ、ツンだわ。

 

「「はい……」」

 

 どうやら俺と小町の相性は割と良いらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小町は後で良いとして、黒貴方はどのような用事でここへ?」

 

 さぁ、始まりました。皆大好き映姫ちゃんの説教の時間だよ。料金は無料。心に突き刺さる閻魔の言葉プライスレス。

 

「ちょっと観光に……」

 

「私の前でそのような嘘が通るとでも?」

 

 ですよねー。この閻魔は、答えの分かっていることを何で聞くんでしょうね……

 

「もう一度聞きます。何故貴方はここへ?」

 

 小町の方を見ると、諦めろとでも言うように首を振っていた。

 

「その……宴会に参加するのが嫌で、に、逃げて来ました」

 

 俺の答えを聞き、映姫は何も言わなかった。小町は笑っていた。

 

 あの……なんか言ってもらえませんか?

 

 

 

 

 

「……私が貴方を裁くことはないでしょう」

 

 そりゃあそうだろ、俺不老不死だし。

 

「しかし、貴方は多くの罪を犯している」

 

 んなことは、知ってるよ。

 

「取り返しのつかないほどの多くの罪を。何度も言いましたが、生きるというものは、それだけで罪な事です。それだのに貴方は何年生きていますか?」

 

 さぁねぇ? 一億年とかじゃない?

 

「いや、仕様が無いじゃん死ねないんだし」

 

「そして、その生き方も悪い」

 

 なにこの人、俺の話を聞いてくれない……

 

「何より……」

 

 ――自殺だなんて以ての外。

 

 ちょいと心が痛いねぇ……

 

「生きることも死ぬことも駄目と?」

 

「その生き方、死に方に問題があるのです。嫌なことからすぐ逃げるくせに、自ら進んで罪を被る。背負いきれないのなら初めから止めなさい。そう、貴方は少し不器用すぎる」

 

 映姫の説教は続く。

 

「貴方は不老不死。その事実から逃げることはできません。昔よりは良くなってきていますが、まだまだです。しっかり自分と向き合い、他人を思いやり、今を大切に生きなさい」

 

 もう何度目かもわからない、いつもと同じ説教だった。成長してないってことなんかねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は小町も加え二人とも説教された。映姫の説教は途中から話がずれていき、最後の方なんてただの愚痴だった気がする。俺のせいで大量の始末書を書かされた。とか言っていたけど、何のことだよ……

 

「全く、あの方のせいで毎日振り回されっぱなしです! どうにかしてください」

 

「いや、だから誰のことだよ」

 

「それもこれも、貴方が悪いのです。貴方がもっとしっかりとしていれば……」

 

 そんな感じでとばっちりを喰らい続けた。ぽっぽこ怒る映姫。大変だってことはわかったけど、やっぱり俺、関係ないよね……

 

 

 

 

 映姫の説教を受け続けること数時間。すでに辺りは暗い。正座し続けたせいで足の感覚はなくなった。これ、足が痺れて絶対立てないよね……

 

「さて、そろそろ良い時間ですね」

 

 映姫が言った。

 

「え? 何のこと?」

 

「あ、小町にお酒を渡さなくとも良いですよ。その代わり私がもらいます。ふふっ、まずは目の前の課題から解決しましょうか。では、頑張ってきてください。私はいつでも貴方を応援していますよ」

 

 なんて映姫は笑いながら俺に言って、小さく手を振った。

 

 いや、だから何のことさ。と言おうとした時だった。足元が消え、下に落ちた。結局、逃げ切ることはできなかったらしい。

 こりゃじゃあただの怒られ損だけど、人生なんてそんなもんだ。

 

「またお会いしましょう。お酒楽しみにしていますよ」

 

 最後に映姫の声が聞こえた。

 うん、また来るよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキマから吐き出されると、目の前に驚いた顔の八意さんがいた。

 

 逃げることはできないっぽい。

 

 

 






何も進まなかった話のような気もします
今度はお説教をしない映姫さんが書けたら良いな~とか思っています

と、言うことで第24話でした
これでちょうど30話目となります

あと何話続くんでしょうね?

次話は永琳さんと主人公の話でしょうか?
なにも考えてませんが


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第25話~いつかきっと~

 

 

 スキマから吐き出された先には八意さんがいた。ホント、どうすっかね……

 

「あ、ども。こんにちは。今日も良い天気ですね。八意さんもお元気そうで何よりです。では、楽しんでいってください」

 

 それじゃ、またいつか。

 

 さて、挨拶も済んだし他の奴の所にでも行こうかな。

 

「ちょっと、待って」

 

 八意さんに腕を掴まれた。ダメか、行かせてくれないのか……

 

「えと、何か?」

 

 どこか困ったような表情の八意さん。怒られるのかなぁ。怒られるんだろうなぁ。

 こっちは、さっき説教されたばっかなんだけど……

 

「聞きたいことがあるの」

 

 それまた今度じゃダメですか? ほら、皆こっち見てるじゃん。今はやめておこうよ。

 

「貴方は……あの施設の?」

 

 どの施設のことかは聞かなかった。八意さんが何を指しているのか、それくらい俺にだってわかる。

 

 あの施設……ねぇ。

 

「そうですよ。町外れにポツンとあったあの施設の者です」

 

「おい、見ろよ霊夢。黒が敬語を使ってるぜ」

 

「明日は雨かしら?」

 

 ……失礼な。こっちのことなんか放って置いて酒でも飲んでなさい。

 

「そう……貴方は不老不死って聞いたわ。つまり実験は成功してしまっていたのね」

 

 そうなのかな。

 あれで成功だったんかな。

 

「あの頃の研究者として、謝らせてもらえるかしら?」

 

 漸く八意さんが俺の手を放してくれた。こちらを真っ直ぐと見てくる。俺は目を逸らした。

 

「別に構いませんが、俺達は誰も恨んでなんかいませんでしたよ。施設の研究者達にも感謝していましたし。だからできれば謝罪はやめてほしいです」

 

 そりゃあ、幸せではなかったかもしれないけど、不幸なんかじゃなかった。もしここで八意さんに謝られたとしたら、あの頃の俺達が否定される。そんなちっぽけなプライドがあった。

 

「…………」

 

 八意さんがまた困ったような顔をした。むぅ、そんな顔されても……

 

「じゃあ、月人を代表してお礼をさせて。あの時、妖怪から船を守ってくれて本当にありがとう。貴方達のおかげで、沢山の人が助かったわ」

 

 そう言って、八意さんが頭を下げた。

 

 

 あ~~~……そうきますか。

 

 

「あの……その、えと……」

 

 言葉が出てこない。いつもなら、別にあんたらのために闘ったわけじゃないとか、そんな言葉が出るはずなのに。

 

 95人の仲間達の顔が頭の中に浮かんだ。

 ああ、これは駄目だ。溢れ出る感情が止まらない。鼻の奥がツーンとして鳥肌が立つ。頬を何かが流れた。

 

 八意さんに背を向けて上を見上げる。星空がぼやけて見えない。どうやら今日は曇りらしい。

 

 誤魔化す様に咳払いを一つ。

 

「まぁ、ずうっと昔のことですしそんな気にしなくても良いですよ。それにあいつらだって……」

 

 どこか鼻声。

 

「とりあえず、今日は宴会を楽しみましょうよ。湿っぽい話はまた今度でさ」

 

「ふふっ、そうね」

 

 ――ありがとう。

 

 八意さんのそんな声が静かに響いた。

 

 

 

 

 

 その後、八意さんと別れて一人でプラプラと神社の中を歩いた。

 今はなんとなく一人で飲みたい気分。

 

「なあに、湿っぽい顔しているのさ。せっかくの宴会なんだからもっと楽しみなよ」

 

 いきなり現れた萃香に言われた。どうやら一人にはさせてくれないらしい。

 

 もうなんか色々と限界だったから萃香に抱きついてみた。

 

「……なにやってんの?」

 

「……お酒くれ」

 

「ん、はいよ」

 

 萃香から伊吹瓢を受け取り、口の中へ流し込んだ。喉が焼ける。

 

「ああ……やっぱり美味いな」

 

 色々と思うことはあるけれど、今は考えないようにしよう。いつかきっと、向き合わなければいけない日が来るまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 私達月の民が、まだ地上にいた頃。あるプロジェクトが進められた。

 

 その題材は不老不死。

 それは爆発的に科学技術が進歩し、それでも残された最後の命題。

 

 候補に残ったやり方は二つ。

 一つは、寿命の原因である穢れを完全に取り去る方法。もう一つが、逆に穢れで満たしてしまう方法だった。

 

 妖怪の血液を人間に入れる。そんなやり方が許されるはずもなく、後者は議会で否決され、前者が進められることとなった。

 

 たった一つの研究グループを抜かして。

 

 その研究グループは公から姿を消し、研究を進め続けた。最後の最後まで。誰にも気づかれないように。

 

 結果は失敗だったと聞いている。被験者は拒絶反応で全員死んだ。そう記録に残っていた。

 

 だから被験者たちは誰にも気づかれることなく、ひっそりと消えていったはずだった。

 

 

 そして、私たちが月へと旅立つ日のこと。上層部の勝手な判断で、かなり強引に月への旅立ちが行われた。

 その結果、三隻の船が旅立つ前に防衛ラインは崩壊。最悪の結果となった。

 

 そんな時だった。一台のカメラが、妖怪と闘う者たちを映したのは。

 

 彼らは崩壊した結界をたった数十人で修復し、妖怪達の進行を完全に止めた。

 

 私は船の中でその映像を見ていたけれど、誰もがその映像に釘付けとなった。彼らが誰なのか目的は何か、知っている人間はいない。それはまるで映画のワンシーンのようだった。

 

 けれども一人、また一人と彼らは倒れていった。それでも彼らは妖怪を食い止め続けた。どれだけボロボロになろうが、彼らは闘い続けた。

 

 そして最後の船が月に向けて旅立った時、ギリギリで保っていた結界は崩壊した。

 

 それまで闘い続けていた彼らは空を見上げ、歓声をあげ地面に倒れ込んだ。そして妖怪の波に飲み込まれていった。

 映像はそこで途絶えてしまった。

 

 

 

 月に着いてすぐに議会が開かれることに。内容はもちろん彼らについて。

 

 しかし、誰も彼らのことは知らなかった。だって、ずっと隠されていたことだったから。

 

 結論が出ないまま議会が終わろうとした時、長い間議会を離れていた研究者が口を開いた。彼らのこと、研究のこと、そして自分達だけが逃げてきたことを。

 

 研究者には厳しい処分が言い渡された。

 

 その後、名前のない96基の墓が建てられた。彼らのことを忘れないように、二度とこのような事件が起きないように。

 

 そんなずうっと、ずうっと昔のお話があった。

 

 

 

 

 そして、私の視線の先にはその彼らのうちの一人がいる。沢山の妖怪や人間に囲まれ、お酒を飲まされ、後ろから抱きつかれたり蹴られたりと随分と楽しげな様子。

 

 名前は黒。あの研究者のレポートにあった、一番の問題児№96というのが彼なのだろう。あの研究の唯一の成功体。つまり不老不死。詳しい研究の内容は知らないし、きっと彼も話してはくれないだろう。

 

 

 私たちが月へと旅立った日から、彼は長い間ずっと一人で生きてきた。想像もしたくないほどの期間を。死ぬことも許されず、たった一人きりで。

 

 彼には聞きたいことが沢山あって、謝らなくてはいけないことも沢山あった。それでも彼は謝罪を受け取ってはくれず、お礼だってちゃんと受け取ったのかわからない。そして私のことはどうやら苦手らしい。

 

 そのことが少しだけ寂しく思える。

 

 いつか、私も彼の周りで笑える日が来るのだろうか? そんな私らしくないことを、ふと思ったのはなぜだろう。

 

 いつかきっと、この感情が何なのかわかると良いけれど。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 やたらと人に酒を飲ませようとしてくる萃香や、敬語を使っていたことを馬鹿にする魔理沙ちゃん、珍しく宴会に参加していたフランちゃん、無言で人を蹴り続ける霊夢達から逃げ、また一人でプラプラと歩く。

 

 映姫には怒られるし、八意さんは何考えているんだかわからんし、今日だけで俺のメンタルはボロボロです。

 

 たぶん、皆なりに励ましてくれているんだろうけどさ。

 

 

 一人で歩いていると、博麗神社の端で一人お酒を飲んでいる奴を発見。親近感が湧くじゃあないか。

 近づいてみると妹紅だった。

 

 ん~なんで妹紅がいるんだ?

 

「や、もこたん。一人で酒盛りなんてしてどうしたの?」

 

「だから、もこたんはやめろって……なんか、ほら難しいだろ?」

 

 皆と一緒に騒ぐことがだろう。妹紅って人見知りだもんね。

 

「そかそか、それじゃあ、一人で寂しく飲んでいるんじゃつまらんだろうし、俺が一緒に飲んであげよう」

 

「ただ、逃げてきただけでしょ?」

 

 何ですか? 見てたんですか。そんなことを言いながらも妹紅は酒瓶を渡してくれた。全く、このツンデレさんめ。

 

 

 相変わらず、妹紅は自分のことを話したがらないから、俺の話をしていると、いつの間にか膝の上にフランちゃんがいて、萃香が隣で酒を飲んでいた。

 

 さらに人は増え、結局静かにお酒を飲むことなんてできなかった。八意さんは笑顔でお酒を注いでくるし、なんか怖いんですけど……妹紅も最初は、どうしていいのかわからないみたいだったが、最後の方は楽しんでいるように見えた。

 

 いつの間にか、空は晴れていて星空が綺麗だった。

 

 

 






更新をしたものの、話は全く進みませんでしたね

と、言うことで第25話でした

次話も特に進まなそうです


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第26話~理由なんてない~



二日酔いになった時は、もう二度とこんなに飲まないようにしようと思いますが
何故かまた馬鹿みたいに飲んでしまいますよね




 

 

 頭が痛い……

 

 流石に飲み過ぎた。飲まされたって言う方が正しい気もするけれど。

 

 二日酔いになると何もする気が起きない。今日は一日ボーっと過ごそうかな。どうせお客さんだって来ないだろうしさ。

 

 今日も今日とて、店の閑古鳥は元気です。

 

 

 何とか店の方まで行き、そこで力尽きカウンターに伏せ眠くなり始めていた時だった。店の入口のドアに付けられた鈴が騒がしく鳴り響いた。

 

「お邪魔するぜー!」

 

 本当にお邪魔だった。元気な声が店の中に響く。あの、あんまり大きな声を出されると頭が痛いのですが。

 

「……いらっしゃい魔理沙ちゃん」

 

 顔を伏せたまま声をかける。

 

「なんだよー、せっかく来てやったんだから、もっと歓迎してくれよな」

 

 来てくれたことは嬉しいけれど、タイミングがなぁ。明日にしてくれませんか?

 

「二日酔いで頭が痛いんだよ……絶不調です。一歩も動きたくない」

 

「情けないな~。永琳から薬でももらえばいいだろ?」

 

 お前らが無理矢理お酒を飲ませたんでしょうが。

 

「いや、俺あの人苦手だし。んで、今日はどうしたの? 魔理沙ちゃんが一人で来るのって初めてだよね」

 

 前に来た時は霊夢と紫がいたしね。

 

「暇になって、家の外に出てみたらちょうど鳥居があったから、遊びに来たんだぜ」

 

 ああ、そうですか。

 

「そかそか、んで、何か飲む? お茶漬けでいい?」

 

 俺は蜆の味噌汁が飲みたい。

 

「ん~、それよりも外へ行こう。お酒はその後、帰ってきたらもらうよ」

 

 話聞いてた? 動きたくないんだけど……

 

 その後、行きたくないから必死で抵抗したけれど、結局無理矢理外へ連れ出された。

 

 ああ、太陽が眩しい。

 

 

 魔理沙ちゃんに手を引かれ、田畑の間を抜けると景色が変わった。

 

 日光が地面まで届かず、ジメジメとした空気が流れる。魔法の森、妖怪からも避けられる化茸の楽園。太陽が照らし続ける先ほどまでの場所と比べると、この森は俺にとっては心地良い。

 

「ん~お散歩も十分したし、俺は帰ろっかな。じゃあね、魔理沙ちゃんまたいつか」

 

「まぁ、待てって。もっと楽しんで逝こうや」

 

 ニヤニヤと笑う魔理沙ちゃんに止められた。ダメか、まだ帰っちゃダメなのか。

 

「はぁ、わかったよ。んで、何処へ行くのさ?」

 

 あまり、遠い場所は嫌だよ?

 

「この前の夏にな、面白い場所を見つけたんだ。そこへ行こう」

 

 面白い場所、ねぇ。のんびりできる場所だと良いけれど……

 

「よし、じゃあ出発しようか……っと、黒はその調子じゃ飛べないよな。ん~、仕様が無い。私が箒に乗せてやるよ。ちょっと待ってて、箒を取ってくるから」

 

 どうして、魔理沙ちゃんはそんなに楽しそうなんだろうね? 俺は嫌な予感しかしないんだけど……よしっ、じゃあ俺は帰ろうかな。

 

 そんなことを思った時だった。魔理沙ちゃんが振り返って俺に言った。

 

「なんか、逃げそうだな……黒も一緒に来い」

 

 ジト目だった。帰らせてもらえなかった。

 

 また、魔理沙ちゃんに手を引かれ霧雨邸へ。鳥居から魔理沙ちゃんの家まではかなり近く、すぐに到着した。洋風の洒落た家だった。

 

 玄関に立てかけてあった箒を取り、魔理沙ちゃんが言った。

 

「よしっ、それじゃあ出発だぜ。しっかり掴まってくれ」

 

 箒に跨り、魔理沙ちゃんに抱きついた。

 

「きゃああああ!」

 

 可愛い悲鳴が聞こえたと思ったら、お腹に衝撃が響いた。

 ……痛い。

 

「な、な、ななにをする!?」

 

「何って……魔理沙ちゃんがしっかり掴まれって言ったんじゃんか……」

 

 二日酔いにこの腹のダメージはキツい……

 

「箒に掴まれって意味に決まってるだろ! それくらい分かれバカ!!」

 

 真っ赤な顔をした魔理沙ちゃんに怒られた。じゃあ、最初からそう言ってください。

 

 

 その後も、黒はデリカシーがとか、女心がわかってないとかグチグチと言われながら、出発した。安全運転でお願いします。

 

 魔理沙ちゃんの箒に乗せてもらって、魔法の森を飛び立った。妖怪の山とは反対方向へ。ん~、何処へ行くんかね? 博麗神社ではなさそうだけど……

 

 人里を越え、幻想郷の奥へ。少しずつ嫌な予感が大きくなる。

 

 そして、ついにすり鉢状の草原にたどり着いた。たどり着いてしまった。

 

 ……マジかよ。

 

 え? え? 面白い場所って此処?

 

「ん~、漸く着いたぜ。ありゃ、流石に枯れちゃったか」

 

「えと……魔理沙ちゃんが言ってた面白い場所って此処のこと?」

 

「ああ、そうだよ。この前来た時は向日葵でいっぱいだったんだけどなぁ。もう枯れちゃったみたいだ」

 

 冷や汗が止まらない。落ち着け、この時期ならアイツはいないはずだ。大丈夫、きっと大丈夫だ。

 

「ん? どうしたんだよ黒。顔色が悪いぜ?」

 

 コロコロと笑いながら魔理沙ちゃんが聞いてきた。

 

「ああ、二日酔いだしね……何も無いみたいだし違う場所に行かない?」

 

「もうちょっとゆっくりして行こう。何かあるかもしれないし」

 

 何かあったら困るから早く行きたいんですけどね……

 

 大丈夫……だよね? 今は夏じゃないし、此処に花は咲いていない。アイツが来る理由なんてないんだし。

 

「あら? 随分と懐かしい顔と、少しだけ懐かしい顔ね」

 

 後ろから声が届いた。

 懐かしい声が。

 

 マジかよ……笑えねぇ。なんで此処にいるんですか?

 声をかけてきた人物は片手に傘、緑髪、昔と全く変わらぬ姿だった。

 

「ん? 誰だお前?」

 

 魔理沙ちゃんが聞いた。逃げてー、すっごく逃げたい。

 

「フフッ、貴方は忘れてしまったのね。まぁ、良いけれど。黒、貴方は覚えているかしら?」

 

 今度はこちらに聞いてきた。

 

「……久しぶり、幽香」

 

 あまり会いたくなかったかな。

 

「なんだ? なんだ? お前らは知り合いなのか?」

 

「まぁ、そんなところね」

 

 笑いながら幽香が言った。

 

「今日は、あの胡散臭い妖怪がいないのね……そう言えば、私と黒の勝負はまだ決着が着いていなかったわよね?」

 

 幽香がこちらを真っ直ぐ見て言ってきた。ちょっ、勘弁して下さい……

 

「弱いやつには興味がなかったんじゃなかったっけ?」

 

「貴方は別。今日は逃げないでね」

 

 瞬間、幽香の霊力が膨れ上がった。そして、持っていた傘の先端をこちらに向ける幽香。無意識に舌打ちが出た。

 

「魔理沙ちゃん!」

 

「わかってる! 随分と好戦的な奴だな」

 

 ――恋符『マスタースパーク』!

 

 魔理沙ちゃんのミニ八卦炉から極太のレーザーが放たれ、幽香の放ったレーザーと衝突した。視界が煙で埋め尽くされる。

 

 視界が晴れる前に、箒と魔理沙ちゃん手を掴んで飛び上がった。

 

「ちょっ、黒。どうしたんだよ?」

 

 少ない霊力を振り絞る。全力で飛んだ。

 

 幽香が見えなくなり、少し飛んだところで俺の霊力は切れた。落下が始まると、魔理沙ちゃんに拾い上げられた。

 

 おお、ありがとう。

 

「別に逃げなくても良かったんじゃないか?」

 

「いや~、どうにも幽香は苦手でさ。悪いね、無理矢理連れてきちゃって」

 

 箒に跨り直し、魔理沙ちゃんに言った。

 

「まぁ、良いけどさ……んで、アイツは何者なんだ?」

 

「ちょっとだけお茶目な花の妖怪……かな」

 

「なんだそれ?」

 

 コロコロと笑いながら魔理沙ちゃんが聞いてきた。

 

 来年は60周期の年。きっと春になれば幽香には嫌でも会えるよ。

 

「それにしても、黒ってあんなに速く飛べたんだな。私よりも速いじゃないか」

 

 ブスーっとした顔で魔理沙ちゃんが言った。

 

「持って1分だけどね」

 

 すごく燃費が悪いんです。今だってフラフラなんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、人里によってお茶屋さんで一服。

 そこには何故か霊夢がいて、魔理沙ちゃんと霊夢の分のまで支払いをすることになった。

 

 霊夢曰く――

 

「ただでお茶を飲めるような気がしたから来た」

 

 ということらしい。……お前の勘おかしくないか?

 

 そのままお開きになるかと思ったが、そうはならず俺の店で飲むことに。昨日あれだけ飲んだにも関わらず、二人はちょっとやめてほしいほどのお酒を飲んだ。

 代金はツケらしい。俺は泣いた。

 

 

 

 二人が帰った後、一人きりとなった店内でボーっと考え事。そっかまた、あの花々が狂い咲く季節が来るのか……小町のやつちゃんと働いてくれるかなぁ。

 ……まぁ、無理か。

 

 あ、そう言えば、映姫にお酒を持っていく約束してたっけかな。う~ん、行かないと怒られるよな。

 

 ま、どうせ行っても怒られるんだろうけどさ。

 

 






二日酔いの日はしょっぱいものが恋しくなります
あと、お酒を飲んだあとはしっかりと水分を補給すると良いですよ

と、言うことで第26話でした


今回は魔理沙さん回でしたね
幽香さんもちょこっと登場
たぶんまた、出てきます

次話は未定ですが、異変はまだ起きなそうです

では、次話でお会いしましょう



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第27話~たまには~

 

 

 綺麗に色付いた葉も散り始め、風は冷たくなった。秋も終わり、冬が近づいてきている。

 

 あの秋を司る姉妹もきっと、憂鬱な時を過ごしていることだろう。

 

「お邪魔するわ」

 

 人里では収穫祭も終わり、皆いそいそと冬に向けて篭る準備を始めていた。今年もまた、眠りの季節がやってくる。

 

 暑いのも苦手だけど、寒いのも苦手だ。ずっと春なら良いのにね。

 

 そんな風にうだうだと考えていても、冬が来ないということはないし、受け入れるしかないのだろう。

 

 冬になってしまうと、ただでさえ少ないお客さんが激減する。何とも悲しい季節だね。

 

「ちょっと聞いてるの?」

 

 はぁ、全くこの現実から逃げたいよ。

 

 何なんだろうか? そりゃあ、俺だってお客さんには来てもらいたいけれど、来てもらいたくないお客さんだっているわけだし……

 

『世の中に 人の来るこそ うれしけれ とはいふものの お前ではなし』

 

 今度そうやって書いた紙を入口に張っておこうかな。効果ない気もするけど。

 

「……ねぇ」

 

 だいたい、なんでこの店には人間が来ないんだよ? あれか? 呪われているのか?

 

 さっきから騒いでいる声の主を見る。はぁ……ため息が溢れた。

 

「ほんっと、貴方は失礼な男ね」

 

 ぶすっとした顔で言った。風見幽香が俺の店に来やがった。

 

 

 

 

 

 

 

「それで? ここは何の店なの?」

 

 帰ってくれないかなー。無理だよなー……

 

「いらっしゃいませー、悪いけれどもう店仕舞いなんだ。また今度来なよ」

 

「ふふっ、店ごと吹き飛ばすわよ?」

 

 心の底からやめてください。何で、コイツらはすぐに暴力に訴えるんだろうね?

 争いは何も産まないというのに……

 

「もう一度聞くわ。ここは何の店なのかしら?」

 

 どうしようか、家電量販店です。とか言ってみる?

 たぶんカメラが止まると思うけど。

 

「一応、カフェだよ。何か飲む? お茶漬けでいい?」

 

「お茶漬けは飲み物じゃないでしょ……」

 

 早く帰れって意味です。

 

「そうね、とりあえず。お酒が怖いわ」

 

 はいはい、お酒ね。

 カフェって言ったんだけどなぁ……

 

「常温? 熱? 冷?」

 

「冷酒でお願い」

 

 かしこまりました~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 今日は何をしに来たの? お帰りは後ろの扉だよ」

 

 適当に漬物とお酒を出して、幽香と喋る。

 

「そんなに私と闘いたいの?」

 

 そんなわけないでしょうが。はぁ、どうしてこうなったんだか……

 

「フラフラと歩いていたら、此処に着いたのよ」

 

 幻想郷のためにも引き篭っててくれませんか?

 

 

 

「ハロー、黒。藍達と一緒に遊びに来たわって……うっわ」

 

 目の前にスキマができたと思ったら消えた。

 

 逃げやがったよアイツ。

 

「あら? どうしたのですか紫様? 早く行ってくださいよ」

「ちょっ、ちょっと藍押さないで!」

 

 再びスキマができて紫が落ちてきた。そして、そのまま紫は床に叩き落とされた。べちん、なんて音をたてながら。

 

「「…………」」

 

 幽香と俺は何も言わなかった。

 何やってんだコイツは……

 

 倒れていた紫はスッと立ち上がり――

 

「フフッ、久しぶりですわね。風見幽香」

 

 パサっと扇子を開き口元を隠しながら、紫が言った。紫の鼻は赤かった。鼻血、出なくてよかったね。

 

 幽香は紫を見ることもなく、静かにお酒を飲んでいた。

 

 何か言ってあげなよ、可哀想でしょ。

 

「お久しぶりです。黒様」

 

「お久しぶりです!」

 

 紫に続いて、藍と橙も出てきた。いきなり賑やかになっちゃったね。

 

「や、久しぶりだね。藍に橙。まぁ、ゆっくりしていきなよ」

 

 ちょっと怖いお姉ちゃんがいるけれど、いきなり暴れたりは……しないよね?

 

「とりあえずお酒を常温で三ついただけるかしら?」

 

 紫が言った。あら、橙も飲むんだ。

 

「了解、ちょいと待ってて。すぐ用意するよ」

 

 漬物や干し肉、そしてお酒を大量に持ってくる。いちいち、取りに行くのも面倒臭いしね。

 

 

 

「それで? どうして貴女がここにいるのかしら?」

 

 紫が幽香に聞いた。

 

「別に私がいても良いでしょう? 暴れたりはしないから安心して。黒、お酒がなくなったわ」

 

 幽香の器にお酒を注ぐ。ホント、暴れないでね……

 

 橙は幽香が怖いらしく、ずっと藍にくっついていた。藍も藍でそのことが嬉しいらしく、まぁ、あれはあれでいいのかな?

 

 俺はいきなり日本酒を飲む気にもなれず、冷やしておいた麦酒を飲んでいた。

 

「黒様、それ何ですか?」

 

 橙が聞いてきた。麦酒って綺麗な色してるもんね。気になったのかな?

 

「これもお酒だよ。飲んでみる?」

 

「はい! いただきます」

 

 コップを渡すと、少しだけ匂いを嗅いだ後に、橙はぐびりと飲んだ。

 

「うげっ……う~、苦いです……」

 

 渋い顔をした橙が言った。あ~、苦いのは嫌だったか。ふふっ、じゃあ甘いお酒を持ってくるね。

 

「それにしても、皆して来るなんて珍しいね。今日はどうしたの?」

 

 橙に果実酒を渡しながら、藍に聞いた。

 

「そろそろ、紫様も冬眠しやがりますので、その前に。と、言うことらしいです」

 

 おい藍、口調がぶれてるぞ。まだそんなに飲んでないと思うけど、疲れてたのかな?

 

 冬の間は藍一人で色々とやらないとだし、それを考えると気が重いよね。

 

「まぁ、この冬は俺も手伝うし、何とか頑張って」

 

 しかも、来年って60周期の年だよね……はぁ、結界も緩むし面倒だなぁ。

 

「ありがとうございます。本当に助かります」

 

 冬の間の藍って死にそうな顔してるもんね。それくらいは手伝うよ。本当は紫が冬眠をしなければ良いんだけど、まぁ、無理か。

 

 

 

 その後ものんびりとお酒を飲みながら談笑。幽香を怖がっていた橙も、お酒が入ってその緊張は抜けたみたい。

 流石に仲良くお話をするということはなかったけれど。

 

「さて、藍、橙そろそろ帰るわよ。私はもう少し残るけれど、二人は先に帰りなさい」

 

「わかりました。さ、橙帰ろう」

 

 藍が言った。その顔は珍しく赤くなっていた。

 

「黒様、今日はありがとうございました。今度は迷い家にも来てください」

 

 そう言って元気よく橙は言ったけれど、どこか眠そう。

 

「うん、今度行かせてもらうよ。藍もまた来な。いつでも待っているよ」

 

 色々と大変だろうけれど頑張って。

 

「はい、また来ます。では、また」

 

 そう言って二人はスキマの中へ消えていった。うん、またね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒、焼酎と何か料理をお願い」

 

 紫が言った。

 まだ飲むのかよ。しかも焼酎ってお前……

 

「麦? 米? ああ、あと芋もあるよ」

 

 収穫したばかりの馬鈴薯を使って一応作ってみた。残念ながらできはイマイチ。

 

「麦、水割で」

 

「了解。幽香は?」

 

 それまで一人で静かに飲んでいた幽香にも聞く。

 

「それじゃあ、ウイスキーをお願いできるかしら?」

 

 二人とも流石は大妖怪というべきだろうか、あれだけ飲んだのにも関わらず、顔色は全く変わっていなかった。ウイスキーなら、咲夜さんに作って20年ものの、シングルモルトがあるし、ちょうどいい。

 

「水割? ロック? ストレート?」

 

「ロックで」

 

「かしこまりました~」

 

 ロック用の氷あったかなぁ。

 

 

 料理は簡単に兎肉と卵の炒りつけと川魚の干物を出した。

 

 俺の分の飲み物は変わらず麦酒。橙は嫌っていたけれど、やっぱり麦酒って美味しいよね

 

「フフッ、たまにはこういうのも良いわね」

 

 紫が言った。数少ない癒し成分の橙も帰っちゃったし、俺は胃が痛いけどね。

 

「そうね」

 

 カランっと氷とガラスがぶつかる音がして、静かに幽香が同意した。

 

「幽香も随分と丸くなったね。昔なら問答無用でレーザーをぶっぱなしてただろうに」

 

「あら、今からやっても良いのよ」

 

 だから、やめてください。

 

「やめておきなさいな、貴方じゃ私と黒には勝てないわよ?」

 

「……わかってるわよ」

 

 拗ねた様に幽香はお酒を飲んだ。

 まぁ、俺単体だったら瞬殺だけどね。

 

「おかわり」

 

 むぅ、そのお酒を作るの大変だったんだから、大事に飲んでよ?

 

 

 時がゆっくりと流れる。会話なんてほとんどないが、沈黙が痛くない。

 

 ホント、たまにはこういうのも良いかもね。

 

「また、あの年が来るのね」

 

 久しぶりに幽香が口を開いた。花々が狂い咲き、行く宛のない霊達が舞い踊る年。

 

「楽しみ?」

 

 幽香に聞いた。

 

「そうね」

 

 幽香が答えた。花の妖怪としては、きっと嬉しいイベントなんだろう。

 

「あんまり問題は起こさないでくれよ?」

 

「さあ? どうかしらね」

 

 クスクスと笑いながら幽香が答えた。こうやって笑っているだけなら、美人だし良い妖怪なんだけどなぁ……

 

「貴方とも決着をつけないとね。この前だってすぐに逃げちゃったし」

 

「ま、また今度ね」

 

「そう。楽しみにしているわ」

 

 そう言って幽香はまた笑った。楽しみにされても困るんですが……

 

「黒、貴方はどうするの?」

 

 紫が聞いてきた。

 

「あ~、博麗大結界の緩みでも直してようかな。紫だけじゃ大変だろ?」

 

 あと、小町の所に行ってちゃんと仕事をさせないとだな。幽霊だらけになっちゃうし。

 

 あっ、映姫のこと忘れてたわ……ヤバい、絶対に怒られる。うわー、また説教されるのか。

 

「何、顔を青くしてるのよ……」

 

 三人だけの静かな宴会はその後も続き、結局朝まで飲み続けた。

 

 後半は記憶が曖昧だが、まぁ、楽しかったと思う。

 

 

 






と、言うことで第26話でした
今回も本編的に何も進んでいません
こんなんで良いのかな……

次話もまたこんな感じのお話になりそうです
ラブコメとか書いてみたいですね
まぁ、書けませんが
そもそも、このお話にメインヒロインっているのでしょうか?

では、次話でお会いしましょう


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第28話~年が変われば~

 

 

 季節は完全に冬となり、雪が散らつく日も増えてきた。

 

 今日は大晦日。きっと今頃は皆、年越しの準備でもしている頃だろう。

 

 僅かに残っていた年籠りの習慣も、ここ数十年で完全になくなった。まぁ、わざわざ博麗神社まで行くのも大変だもんね。だいたい、あの神社って誰を祭ってあるんだろう? 俺は会ったことがないけど……

 

 しかも博麗神社も今頃は、妖怪が蔓延っているだろうし、普通の人間には危ない。霊夢は人間の参拝客が来ないと怒っていたが、半分は霊夢自身のせいだと思う。

 

 俺はそんな場所に行く気にもなれず、代わりに静かに年を越せる場所へと向かっていた。静かに越せると良いのだけど……

 まぁ、約束していたし、ちょうど良いのかもしれない。

 

 

 

 

 再思の道をゆっくりと歩く。大量のお酒を背負って。

 あれだけ見事に咲いていた彼岸花も枯れ、代わりに葉が伸びていた。

 

 少しだけ肌寒い。

 まぁ、冬だもんね。仕方が無いね。

 

 三途の川に近づくと、ゆらゆらと立ち上る煙が見えてきた。

 

 どうやら小町が火に当たっているらしい。仕事はしていないけれど、寝てはいなかった。

 ……寒いのなら、その服装をやめれば良いのに。是非曲直庁の制服なのかな?

 

「や、小町。久しぶり」

 

「おや? 黒じゃないか。こんな日にどうしたんだい? 随分と大きな荷物を持っているみたいだけど」

 

「この前の約束しただろ? お酒を持って来るって」

 

 俺がそう言うと、小町はう~んと考えるような仕草をして――

 

「ああ、そんな約束もしていたね。すっかり忘れていたよ」

 

 と言って小町は笑った。

 

 持ってきたのは純米大吟醸と純米吟嬢を4本ずつ。それと米・麦焼酎を数本。合計約20瓩すごく重いです……あと残念だけど、このお酒は小町の物じゃなくて、映姫の物なんだよね……

 

 まぁ、たぶん一緒に飲むことになると思うけれど。年越しと言うことで大奮発です。

 

「映姫は仕事?」

 

「映姫様かい? ん~、今日、明日は非番だと思うよ」

 

 じゃあ、待っていれば来るのかな? 二人で勝手に飲み始めたら映姫の奴、絶対拗ねるよな。

 そしてどうせ説教が始まる。

 

「あっ、お摘み忘れたわ。小町何か用意できない?」

 

「摘みか~、三途の川の魚でも釣る?」

 

「……それ、食べても大丈夫なやつ?」

 

 三途の川に魚いたんだ。

 

「海竜やゴンベッサで良いなら」

 

 海竜って……あと、ゴンベッサってシーラカンスのことだよね? あれ、ビックリするくらい美味しくないぞ。油が多すぎてお腹壊すし。

 

「普通の魚は釣れないの?」

 

「あたいは見たことがないねぇ」

 

 小町が見たことないのならいないのだろう。

 う~ん、どうするかな。海竜でも釣って食べてみるか?

 

 

 

「三途の川の生き物を食べることはやめてください」

 

 映姫が現れた。

 

「や、久しぶり映姫。約束通りお酒を持ってきたよ」

 

「……随分と遅かったですね」

 

 あ、ほっぺたが膨らんだ。どうやらちょっと拗ねているっぽい。

 

「いや~、なかなか忙しくてね」

 

「忘れていただけでしょう?」

 

 おっしゃる通りです。

 

「まぁ、持ってきたんだから良いだろう? んで、映姫は何か摘める物ある?」

 

「帰れば干し肉と干物、あと漬物くらいならあります」

 

「うん、それだけあれば充分でしょ。んじゃあ、ちょっと持ってきて」

 

「わかりました」

 

 映姫がお摘みを取りに戻っている間、俺と小町で準備。焚き火をもう少し大きくし、適当に椅子の代わりの丸太を持ってくる。こういう時は小町も働いてくれるんだね。いつもこうなら映姫だって楽だろうに。

 

 そして、丸太を持ってきたところで映姫が戻ってきた。

 

「随分と沢山持ってきたね」

 

「年越しですし、今日くらいは豪快にやりましょう」

 

 珍しくテンション高めな閻魔様。毎日のお仕事お疲れ様です。

 

「やあっと飲めるよ。さ、はじめよう」

 

 小町が言った。

 

「このお酒は私の物のはずですが……まぁ、今日くらいは良いでしょう」

 

「んじゃあ、始めよっか」

 

 ――乾杯。

 

 あの世に最も近いそんな場所で、三人の声が響いた。

 

 世にも珍しい、三途の川の畔での宴会。

 

「いや~、仕事の後の一杯は美味しいね」

 

「…………」

 

 映姫が無言で小町を見つめた。

 

「え、映姫様今日くらいは説教なしで……」

 

「そうね。せっかく美味しいお酒もあるのだし。しかし黒は何故、大晦日なんかに来たのですか?」

 

「ゆっくり静かな所で年越ししたくてね。俺の店にいたら、絶対静かに年越しなんてできないし」

 

 酔っ払いどもが俺の店に襲撃してくることが、用意に想像できる。しかもアイツらどうせ、料金なんて払わないだろうし。

 

「そうですか、だからと言って生きている者が此処に来るのもどうかと思いますが、今日くらいは楽しんでいってください」

 

 どうもご機嫌な様子の閻魔様。いつもこんな調子なら、もっと遊びにだって来るのに。

 

 小町や映姫と最近あったことをのんびりと話しながら、宴会は続いた。

 夕方から始めて、辺りは既に真っ暗。

 

「そろそろ、年が変わりますね」

 

 映姫が言った。

 

「ん? もうそんな時間なんだ」

 

 今年も色々あったね。終わらない冬から、三日置きの百鬼夜行があって、懐かしい人物との出会いまで。

 う~ん、思い返してみると禄なことがなかった。年が変われば何かが変わるのかな。

 

 来年の俺はしっかりとやってくれるだろうか? まぁ、来年になってみないとわからんけどさ。

 

「年が明けますね、おめでとうございます。来年もよろしく頼むよ」

 

 俺が言った。

 

「今、日付が変わりました。明けましてあめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 

「今年もよろしく頼むよ」

 

 映姫と小町も言った。

 

 ま、年が変わったこところで、な~んもないんだけどね。

 

「年もかわったことだし、んじゃあ改めて」

 

 それぞれがコップを持つ。

 

 ――乾杯。

 

 本日二回目、三人の声が響いた。

 

「そう言えば、来年……じゃなくて今年か。今年は60周期の年だけど、小町しっかり働いてくれよ」

 

「げっ、もうそんな年なのか。嫌になっちゃうね。う~ん、まぁやるだけやってみるよ」

 

 ……ダメだろうな。

 映姫も小町を見ながらため息をついているし。

 

 あれだけ持ってきたお酒も残りはわずか。ホント、君達はお酒が好きだね。

 

 よく見ると、映姫の顔が僅かにだけど赤くなっていた。大丈夫?

 

「今日は少しだけ、飲みすぎました」

 

 目蓋は垂れ気味。眠いのかな。

 

 そのまま暫くすると、映姫はこてんと倒れて横になってしまった。

 スースーと寝息が聞こえてくる。

 

 お休み。どうかゆっくり休んでくださいな。

 

「寝ちゃったね」

 

「まぁ、映姫様も疲れていたんだろうね。今日くらいはゆっくりと寝てもらいたいよ」

 

 閻魔という立場のせいで誰にも弱みを見せられず、一人孤独に生きなければいけない。それはきっと、俺が思っている以上に大変なことなのだろう。

 昔はただの地蔵少女だったのにねぇ。

 

「黒は昔よりも随分と明るくなったね」

 

 そう小町が言った?

 ん~? そうかな。

 

「だって今は、自殺したいだなんて思っていないだろう?」

 

「……まぁ、そうだね」

 

 背負わなくてはいけない物も増えちゃったし。

 持っていたコップを傾けた。麦焼酎が喉を焼く。

 

「そりゃあ、良かった」

 

 そう言って小町はカラカラと笑う。

 

「あたいらはさ、生きている奴らとは仲良くできないだろう」

 

 焚き火の中に小枝を入れると、パチパチと音を立てながら勢いよく燃えていった。

 

「別にそのことを不満に思ったことはないけれど、やっぱり寂しいこともある。幽霊たちは基本的に何も喋ってくれないしさ」

 

 助けてあげたい、導いてあげたいけれどそれが許されない。

 

 だから映姫は必死になって説教をして歩き回るのだろう。直接手を出すことができないから。

 

「でも黒は死ぬことがない。だから私たちにとってはお前さんの存在は助かるんだ……っと一人で喋りすぎた。いや~、喋ることのない幽霊とばかり一緒にいたから、ついね」

 

 元々、小町は喋り好きだし今日みたいに会話ができるっていうのは、嬉しかったのだろう。

 

 すやすやと寝ている閻魔を見る。映姫だって喋るのは好きだしね。

 

「小町、最後の一杯だ。コップ出して」

 

 あれだけあったお酒も最後の一杯。

 名残惜しいものです。

 

 小町と自分のコップにお酒を注ぐ。

 

 そうしてから小町のコップと俺のコップをぶつける。キンっと高い音がして焼酎の香りが広がった。

 

 今年もよろしく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、簡単に片付けをして年越しの飲み会はお開きとなった。

 いまだ、気持ちよさそうに寝ている映姫を見る。

 

 ん~……

 

「小町、墨と筆ってある?」

 

「うん? ああ、なるほど。ちょっと待ってな、すぐ持ってくるよ」

 

 新年一発目のちょっとした、いたずら。

 

「持ってきたよ」

 

「よしっ、んじゃあ小町は左半分を担当な。俺は右をやるよ」

 

 ……酔っぱらいのテンションっておかしいよね。

 後で絶対に怒られるに決まっている。そんなこともわからず、本当に莫迦なことをしたと思う。

 

 

 後日、鬼の形相の閻魔様が俺の店に殴り込んできたけれど、それはまた別のお話。

 

 さて、今年はどんな年になるんだろうね。

 

 

 






と、いうことで第28話でした
年越しのお話です
ボケ担当がいないせいで、どことなくしんみりとしてしまいました

次話はもしかしたら異変が始まるかもしれません
でも、始まらないかもしれません

では、次話でお会いしましょう


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第29話~花咲いて幽霊乱れて~



ようやっと、花映塚スタートです




 

 

 ――そう、貴方は少し業が深すぎる。

 

 自ら閻魔と名乗った少女の声が響いた。

 

 ん……私はさっさと異変を解決したいのだけど、どうやら最後に厄介な奴が現れたらしい。

 

「このままでは、地獄にすら貴方は行けません」

 

「別に良いわよ。とりあえず、貴方を倒して花を戻してから考えるとするわ」

 

「紫の桜は、罪深い人間の霊が宿る花。その紫の桜が降りしきる下で、断罪しなさい。博麗の巫女よ!」

 

 目の前が弾幕で埋め尽くされる。はぁ……どうせなら、この弾幕も全部花へと変わってしまえばいいのに。

 

 狂い咲いた花の異変、解決まではもう少しかかりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「ありゃ? こんなに判りやすい異変が起きていると言うのに、なんで霊夢はのんびりしているんだ?」

 

 ――珍しいな。

 

 なんて縁側でお茶を飲んでいた私に言って、魔理沙は笑った。

 

 周りを見渡す。桜、向日葵、野菊、桔梗などなど……季節など全く関係なく、花々が咲いていた。

 

 う~ん、やっぱり異変なのかな? でも、何か違うような……

 それにもし、本当に異変だとしたら黒だって私の所へ来ると思うのだけど。しかし、ここ最近は黒の姿を見ていない。

 

「んじゃあ、私はこの異変を解決してくるぜ」

 

 そう言って魔理沙は飛び立って行った。何しに来たのだろうか?

 

 さてもう少ししたら、私も動くとしよう。せっかくこんなに花が咲いているのだし、見て回らなければもったいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 博麗神社を出たのは良いけれど、何処へ向かって良いのかわからない。

 勘が鈍ったかしら?

 

 う~ん、どうしようか。まぁ、色々な場所にでも行ってみよう。

 

 

 

 フラフラと霧の湖まで行く。

 

「流石に湖の上はいつもの春と変わらないわね」

 

 水面にだって咲く花はあるのに。

 

 紅魔館は……関係ないわよね。レミリアがこんなことをするとは思えないし。

 

 そんなことを考えていると、遠くの方から声が聞こえた。

 

 

「ちょっ、ちょっと大ちゃん待ってってば」

 

「さぁ、行くよチルノちゃん。う~ん、どうしようか。手始めに紅魔館に殴り込んで、レミリアちゃんでも連れて来る?」

 

「いや……それはやめておこうよ」

 

「やっぱり生身の体は最高ね。フハハハハ!我が世の春が来たぁ!! よしっ、今日は遊びまくるよ!!」

 

「うわーん。大ちゃんが壊れたぁ」

 

 氷精と……あれは、いつか神社で見た変な妖精だったかしら? なんだろうか、あまり関わりたくないわね。

 

 どうやら、この異変は私が思っている以上に大きなものなのかもしれない。

 

 あの妖精たちを見たせいで、紅魔館へ行く気にもなれずまた違う場所へ。

 

 そう言えば、一人だけで異変を解決するのは随分と久しぶりな気がする。萃香の起こした異変の時だって、最終的には黒と一緒だったし……

 

 全く、こんなことが起きているというのに、黒は何をやっているのだか。

 

 

 その後、迷いの竹林や冥界なんかにも行ったけれど、異変解決の手がかりは一切なかった。

 困った。今までこんなことはなかったのだけれど……こんなんじゃ駄目だ。次は普段行かない場所にでも行ってみよう。

 

 普段は足を運ばない山の方へ行くと、霧の湖と比べると小さいが大きな池があった。

 

「こんな所に池があったのね」

 

 独り言が出る。

 池は蓮の葉で覆われ、さらに蓮の花が満開だった。普通なら夏に咲くはずの花。今回は何とも不思議な異変だ。

 

「やっとのことで、巫女を発見。まさかこんな山奥にいるとは……さ、取材取材」

 

 そんな声が後ろから聞こえた。

 

「誰よあんた」

 

「あ、私のことは気にせず続けてください」

 

 天狗……なのかしら? そして手にはカメラを持っていた。

 

「続けるも何も、私はふらふらと飛んでいただけだし。取材って言っても何もないわよ。んで、あんたは誰?」

 

「私は射命丸文と言い、しがない新聞記者ですよ。文々。新聞を書いています。貴方達の行動は面白いですし、我々天狗の中では貴方も有名人ですよ」

 

 勝手に有名人にされても嬉しくない……

 文々。新聞、ね……う~んどこかで聞いた気がする。

 

「ああ、思い出した。あの新聞を書いていたのね。いつも助かっているわ」

 

「うん? 助かって……?」

 

「火種にちょうど良いのよ。あの紙」

 

「…………」

 

 あら、黙っちゃった。何か悪いことでも言ったかな?

 

「あ、そう言えば」

 

「どうかしましたか?」

 

 こんなところで呑気にお話をしている場合ではなかった。漸く怪しい妖怪を見つけたのだ。

 しっかりと退治しないと。

 

「今、妖怪退治をしている途中だったの」

 

「はぁ」

 

「と、言うことでとりあえず退治してあげるわ」

 

「全く、霊夢さんも随分と乱暴になりましたね。さあ、手加減してあげますから本気で掛かって来なさい」

 

 その言い方だと昔の私を知っているようだけど、私はあんたなんて知らないわよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あやややや。霊夢さんも強くなりましたね。う~ん、わかってはいたけれど、ここまでだとは……」

 

 本当に手を抜いていたのか、負けたのにも関わらずその表情は先ほどと変わっていなかった。なんとなくやりづらい。

 

「妖怪退治をしている私の前に、のこのこ現れる方が悪い」

 

「……ふらふら飛んでいただけではなかったのですか?」

 

 ふらふら飛びながら、妖怪退治をしていたのよ。

 

「はぁ、昔は『文お姉ちゃん。文お姉ちゃん』と私について来て霊夢さんも可愛かったのに……」

 

 え……何それ、そんなの私は知らないわよ。

 

「……嘘でしょ?」

 

「まぁ、半分は嘘ですね」

 

 じゃあ、残りの半分は何なのだろうか?

 

「そう言えば、あんたは新聞記者って言っていたわよね。じゃあ、この花の異変について知っていることを教えなさい!」

 

 新聞記者ならきっと情報通なはずだし、何か知っているはず。

 

「あら? 黒さんからは何も聞いていないのですか?」

 

 うん? 黒とも知り合いなの? まぁ、黒は顔も広いし今更驚きもしないけれど。

 

「何も聞いていないけれど……」

 

 この異変も黒が関わっているのだろうか?

 

「そうでしたか。う~ん、黒さんもしっかりと教えてあげれば良かったのに……そうですね、花以外にも気付くことはありませんか?」

 

 花以外?

 周りを見る。

 ああ、なんとなくわかった。

 

「うん、漸く目的地が見えてきたわ」

 

「それは良かったです。では、引き続き暴れていてください。今度はバレないように撮影しますので」

 

 別に暴れていたわけではなかったのだけど……あと、撮影するのなら少しくらいお金をもらえないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狂ったように一精に咲いたせいで、この花々にばかり気を取られていた。妖精がいつもよりも血の気が多いのは異変のせい。

 

 そして意識はしていなかったけれど――

 

「いつもより、絶対に幽霊の数が多いのよね」

 

 異常なほど幽霊が増えていた。幽霊なら冥界が原因な気もするけれど、あの場所は違った。それならば原因は……

 

「おや? 博麗の巫女がこんな所へ何の用だい? 一応、警告しておくけれどお前さんの持ち金じゃあ、三途の川を渡れないよ。帰った方が良いんじゃないかい?」

 

 大きな鎌を持った少女が話しかけてきた。

 たぶん、これだ。

 

「別に渡ろうとなんて思っていないわよ。それに、お金がないことだって知っているし。それで、あんたは誰?」

 

 私のことは知っているらしいけれど。う~ん、もしかしたら私って結構有名なのだろうか? こちらは知らないのに、あちらが知っているとは。やっぱりあまり嬉しくない。

 

「あたいは小野塚小町。死神でこの三途の川の水先案内人だよ。生きた人間を渡すことはあまりないけれど、お金さえ払ってもらえれば運んであげるよ」

 

 いや、だから渡らないって。

 

「そんなことはどうでも良いの。私はこの異常に咲いた花と、増えた幽霊を調べに来ただけ」

 

「うん? 花と幽霊が増えた? ん~幽霊ねぇ……おお、彼岸花もこんなに咲いちゃって……あれ、彼岸花? あ、ヤバい紫の桜まで……み、見なかったことにしよう」

 

 急に慌てだした死神。

 何これ、すごく怪しい。

 

「どうやら、何か知っているみたいね」

 

「ちょ、ちょいと待ちな。あたいは仕事があるからこれで失礼するよ」

 

 本当に当たりだったらしい。でも、黒幕って感じはあまりしないのよね。

 

「待ちなさい、幻想郷が幽霊だらけなのはあんたがサボっているからね? ちゃんと仕事をしなさいよ!」

 

「い、いや、私は自分のペースで仕事をしていただけだ、別にサボっていたわけだはない。私の仕事くらい、私のペースでやらせてよ」

 

 それをサボっていたと言うのでしょうが。そして何故、逆ギレしているのだろうか。

 

「とにかく、あんたが原因なのね」

 

「私の仕事を邪魔するのなら容赦はしないよ?」

 

 全く、仕事くらいちゃんとやりなさいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、さっさとそのボロ船で幽霊を運びなさい」

 

「いたたっ。全く、巫女は乱暴なんだから。だいたい、あたいを倒したってこんな量の幽霊運びきれないよ。明らかに許容オーバーだ」

 

 知らないわよ、そんなこと。あんたが、ちゃんと仕事をしてこなかったからでしょうが。

 

「何をやっているの小町」

 

「げっ、映姫様」

 

 また新しい声が聞こえた。声のした方を見ると、映姫と呼ばれた者と霧の湖で見た変な妖精――そして黒がいた。

 

「俺があれだけ言ったのに、小町は結局働かなかったのか……」

 

 黒が言った。

 

「い、いや~すっかり忘れていtあ、ちょっ、映姫様待って、すみません。すみません!」

 

 ポコポコと叩かれる死神。

 

「まぁ、小町ちゃんだし仕方がないよね。や、霊夢ちゃん久しぶり」

 

 変な妖精が私に挨拶をしてきた。

 なんで、私の名前を? あと、妖精がなぜこんな所に?

 

 

 






主人公の出番がほとんどありませんでしたね
そして、オール霊夢さん視点
こんなんで良いのかなぁ……

と、言うことで第29話でした
かなり飛ばし気味でしたね
次話は主人公視点か、変な妖精さん視点となりそうです
ですので時間が少し戻ります

では、次話でお会いしましょう


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第30話~小さき者と大冒険~



ほとんどがオリキャラ視点です

読まなくても問題は……けっこうあるかもしれません
でも読まなくても、なんとかなるかもしれません

イラッ☆っときたらブラウザバック推奨

では、始めます





 

 

「……ずるい」

 

 むすっとした表情で目の前にいる女性が言った。

 

「あ、いえ、そう言われましても……」

 

 失敗だった。

 最初はただの雑談だったけれど、いつの間にか年越しの話となり、つい口が滑ってしまった。

 

「どうして私も誘ってくれなかったのさ。いいな~、私も黒と一緒に年越ししたかったよ……」

 

 そんなことを言われても、年越しのためだけに貴女を転生させるわけにもいきませんし……それにもし、私が黒と一緒に年越しをすると言ったら、この方は絶対についてくる。その後のことを考えると……

 白様だって、簡単に転生できないことは知っているはずなのだけど、どうしてここまで食いついてくるのやら。はぁ、できればバレずに終わらせたかった。流石に後ろめたさは感じているけれど。

 

「ん~じゃあさ、今度また転生させてよ」

 

 ああ、なるほど。

 本命はこれか。

 

 もしここで断れば……いや、考えないようにしよう。

 

「……わかりました」

 

 今度はお願いですから、冥界の結界を壊したりしないでくださいよ……まぁ、始末書のほとんどは白様がやってくれたけれど。

 

「やた。転生、楽しみだな~」

 

 クルクルと笑う白様。ふふっ、今度の転生はちゃんと黒と会えると良いですね。

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「大ちゃん、大ちゃんってば、どうしたの? いきなり倒れて」

 

 声が聞こえる。

 目を開くと私の顔を見つめる可愛い顔。おおー、チルノちゃんじゃんか、久しぶりだね~

 

「や、チルノちゃん久しぶり」

 

「え? うん……久しぶり?」

 

 キョトンとした顔でチルノちゃんが言った。

 周りの様子を確認。たぶん、霧の湖なんだろうけれど、湖畔は花々で溢れかえっていた。

 おおー、綺麗だね。菖蒲、向日葵、時計草、などなど何でも有りだ。

 

 湖の上は……流石に何も無いか。

 

 手を動かし、足踏みをする。うん、しっかりと動く。空を見上げて少しだけ飛んでみる。

 湖の上まで移動して、水に映った自分の姿を確認。やはり前回と同じ姿だった。この娘には大きな借りができちゃったな、少しの間、また体借りるね。

 

 体が軽い。

 今なら、何だってできそうだ。

 

「ちょっ、ちょっと大ちゃん待ってってば」

 

 チルノちゃんの声がする。珍しく霧も出ていないみたいだし、うん、今日も良い天気だ。

 湖の向こう側には紅魔館が見えた。

 

「さぁ、行くよチルノちゃん。う~ん、どうしようか。手始めに紅魔館に殴り込んで、レミリアちゃんでも連れて来る?」

 

「いや……それはやめておこうよ」

 

 そうだね、昼間にレミリアちゃん連れ出したら蒸発しそうだもんね。

 

「やっぱり生身の体は最高ね。フハハハハ!我が世の春が来たぁ!! よしっ、今日は遊びまくるよ!!」

 

「うわーん。大ちゃんが壊れたぁ」

 

 失礼な、別に壊れてないよ。さて、まずは何処へ行こうかな?

 

「チルノちゃん。今日は何処へ行く?」

 

「え? う~ん……いろんな場所に行こう!」

 

 色々な場所か~どこだろうね。幻想郷の地理はそこまで理解していないから、とりあえずはチルノちゃんについて行けばいいのかな?

 

 

 

 楽しげに花々を凍らせては進んでいくチルノちゃんについて行く。

 あんまりやりすぎちゃダメだよ。幽香ちゃんとかに見つかったら、怒られそうだし。

 

 ここまで花が狂い咲いているのは、幽霊たちが花に憑依しているせい。小町ちゃん、しっかり働いているのかなぁ。ダメなんだろうなぁ……

 

 チルノちゃんと一緒に遊びながら進むと、竹林に着いた。確か、迷いの竹林って呼ばれているんだっけ?

 鬱蒼としている竹林を見つめる。

 

 ありゃ、珍しいね竹の花が咲いてるじゃん。確か竹って、種類によっては花が咲くと枯れちゃうんだよね。この竹達は大丈夫かなぁ。

 

「どうにも冷えると思ったら、いつかの氷精か。妖精がこんな所へ何の用だ?」

 

 竹林の奥から出てきた少女が言った。

 おお、魔理沙ちゃんじゃん。

 

「初めましてだね、魔理沙ちゃん。私たちは遊んでいただけだよ」

 

「おう、はじめましてだぜ。う~ん、なんだかお前は妖精っぽくないな」

 

 魔理沙ちゃんが言った。まぁ、中身は人間だもん。ああ、いや、もう人間ではないのかな?

 

「魔理沙ちゃんは何をやっていたの?」

 

「幻想郷中で異変が起きているからな。片っ端から回っているんだ」

 

 幻想郷中で異変かぁ。

 う~ん、やっぱり小町ちゃんが少しサボっているっぽいね。映姫ちゃんにまた怒られるよ?

 私と魔理沙ちゃんがお話をしている間、チルノちゃんは竹の花でドライフラワーを作っていた。冷凍乾燥法ってやつなのかな。そして、できたドライフラワーは私にくれた。

 うん、ありがとう。でも、竹の花ってあんまり綺麗じゃないんだよね……

 

「チルノちゃん、そろそろ違う場所に行こうよ」

 

 どうせだったら、色々な場所に行ってみたい。今回の転生も制限時間はあると思うし。

 そしてこの竹林には彼女がいる。私は別に恨んではいないけれども、やっぱりあまり会いたくはないかな。

 

「うん、わかった。それじゃあ行こっか」

 

 じゃーねー、魔理沙ちゃん。

 また会えるといいね。

 

 魔理沙ちゃんと別れて、チルノちゃんと二人で飛び立った。今度はどこに行くのかな? そんなワクワクが止まらない。

 

 

 

 竹林を抜け、フラフラと飛んでいると向日葵畑にたどり着いた。

 

「すごい! すごーい! 見て見て大ちゃん。まだ、春なのにひまわりが満開だよ」

 

 嬉しそうにチルノちゃんが燥ぐ。おおー、本当に満開だ。

 

「ひまわり、ひまわり、お日様逃げる~」

 

 楽しそうにチルノちゃんは歌った。なるほど、ここが太陽の畑って呼ばれている場所なんだね。

 じゃあ、きっとあの娘もいるんだろう。

 

「あら、可愛い妖精たちね」

 

 ほら、やっぱりいた。

 

「えへへ~、まあね」

 

 照れくさそうにチルノちゃんが笑った。周りを見ると向日葵が皆こちらを向いている。う~ん、流石にこれはちょっと怖いかな。

 

「さて、いたずら好きな妖精がここへ何の用?」

 

「ん~。あたいたちは、花を凍らせて遊んでいるだけだよ」

 

 あ、幽香ちゃんにそのセリフはダメだよ。

 

「……へ~、この向日葵たちも凍らせるのかしら?」

 

「うんっ!」

 

 元気いっぱいのチルノちゃんが言った。

 ああ、もう……私だけ逃げようかな。

 

「フフッ、妖精とは自然そのもの、向日葵たちの下で自然に還るといいわ!」

 

 あらぁ、めっちゃ怒ってるよ。幽香ちゃんがこちらに傘の先端を向けて来た。

 

 そして、私のすぐ横をレーザーが通り抜けていった。うわぁ、きれいだなぁ……

 レーザーはそのままチルノちゃんに直撃。

 

 ……うん、一瞬だったね。一発でピチュッたね。次にチルノちゃんと会うのはいつになるのかなぁ。

 

 

 

 

「さて、次は貴方の番ね」

 

「私は別に向日葵を傷つけようとは思っていないよ?」

 

 ただ狂い咲いたこの花々を楽しんでいただけ。幽香ちゃんだってそうでしょ?

 

「私は静かにしていたいの。そこに騒がしい妖精がいたら邪魔でしょう?」

 

 逃がしては……くれないよね。

 全く、喧嘩っぱやいんだから。

 

 けれども、そう言うのも――嫌いじゃない。

 

「手加減はできないからね……」

 

「ふふっ、元気な妖精ね。貴方もさっきの妖精と同じ場所に逝かせてあげる」

 

 向日葵たちが傷つかないように空へ。幽香ちゃんが傘を構えて、さっきと同じ攻撃をしてきた。

 

 結界を張り、レーザーを受け止める。

 

「えっ?」

 

 幽香ちゃんの驚いた顔が見えた。

 さぁ、次は私の番だ。

 

 ここには水も火もないし、土を使ったら向日葵畑を荒らしてしまう。

 だから風を使う。風はあんまり得意じゃないんだけどさ。

 自分の体を結界で保護。体に風を纏って幽香ちゃんに突撃。

 

 そして、頭からお腹に突っ込んで、幽香ちゃんを吹っ飛ばした。

 

「なっ……」

 

 うわーちょっとだけフラフラする。頭から突撃するのはやめた方がいいかも。

 

 

「……そのでたらめな強さ。貴方、何者?」

 

 幽香ちゃんが起き上がり、私に言ってきた。

 

 ん~……私たちって何者なんだろうね? 私が聞きたいよ。

 

「黒の友達だよ」

 

「そう……あの黒のね」

 

 どうするのかな、まだ続けるの?

 

「……たぶん私では貴方に勝てない。それでも、最後までやらせてもらうわ!」

 

 幽香ちゃんが飛び上がってきて、花の形の弾幕をぶつけてきた。密度がかなり濃い、さっきのレーザーよりも厄介そうだ。

 

 

 

「はい、そこまで~」

 

 そして、その弾幕全てが桜の花びらへと変わった。

 

「……邪魔しないで、黒」

 

「いや、だってこのまま続けたらここの場所が更地になるだろ」

 

 いつの間にか隣に黒がいた。

 おお、おおー、久しぶり!!

 

「よしっ、逃げるぞ。白」

 

 がってんだー。

 黒に背中から抱きつく。

 

「逃がすと思う?」

 

 幽香ちゃんが言った。

 

「白のスピードは俺の本気より速い。幽香の速度じゃ追いつけないよ。まぁ、こんなに花も咲いているんだし、色んな場所に行って幽香も楽しんで来なよ。じゃ、またいつか」

 

 そのまま太陽の畑から飛び立った。幽香ちゃんが追って来ることはなかった。

 

 

 とりあえず博麗神社まで飛んで、そこで降りる。

 私から会いに行く予定だったけれど、黒から来てくれるとはありがたい。ふふっ、久しぶりに黒と二人きりだ。前回の転生の時は、ほとんど話せなかったから、今回はいっぱいお話してやる。

 そして、これからどうしようか聞こうと思って黒を見ると――

 

 

 黒が気絶していた。

 

 いや、頑張ってよ主人公……

 

 

 






時計草は3つに分裂した雄しべが、それぞれ「長針」「短針」「秒針」のように見えるから、そう呼ばれているそうです
しかし、名付けられたのは江戸時代らしく、その時代の時計には秒針がなかったそうです
現代では時計が3つの針を持っているのは普通ですが、当時は違ったのですね
それでも「時計草」という名前をつけたのは、時代を越えた最適のネーミングですね


と、言うことで第30話でした

次話は久しぶりに主人公視点となります

では、次話でお会いしましょう


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第31話~白と黒~

 

 

 外界から幽霊が溢れ、花々が狂い咲く60周期の年。

 この年にしか咲くことがない、竹の花を見るために迷いの竹林へ。

 

 そして、今――

 

「あははっ、何やっているのさ。黒」

 

 竹の花に見とれていたせいで、地面なんか全く気にしなかった。そして、落とし穴に落ちた。

 

 穴の中からこんにちは。

 どうも、主人公の黒です。

 

「ねえ、ねえ、今どんな気持ち? どんな気持ち?」

 

 肩の少し下くらいまでは完全に埋まってしまい、身動きが全くできません。そして、俺の目の前でひたすら煽ってくるイタズラ兎が一匹。

 

「あの……てゐさん?」

 

「あ~、笑いすぎてお腹が痛い。どうしたのさ?」

 

「ここから出してはくれませんか?」

 

「え~、どうしよっかなぁ」

 

 ニヤニヤと笑いながらそうてゐが言った。

 

 あ、ダメだわこれ。絶対に出してくれないやつだ。お前も昔と変わらんねぇ。

 

「いや~、懐かしいね。何年ぶり?」

 

 ん~、数万年ぶりくらいじゃない?

 

「懐かしむのも良いけれど、とりあえず出してくれませんか?」

 

 俺が出ないと話が進まないでしょうが。

 今度、人参あげるから出してはもらえないだろうか?

 

「せっかくの再会なんだし、もっと楽しもうよ」

 

 コロコロと笑いながらてゐが言った。この状況でどう楽しめば良いのだろうか……

 

 

 

 

「おや? いつかの兎と……黒は何をやってるんだ?」

 

 穴に埋まったままてゐと雑談をしていると、魔理沙ちゃんの声が聞こえた。

 

「黒がね。埋まってみたいって言うから、埋めてあげたんだよ」

 

 てゐが言った。

 言ってないし、思ってすらいない。

 

「黒……お前……」

 

 魔理沙ちゃんの顔は見えないけれど、どんな顔をしているのかは想像がつく。

 

「いや、俺はそんなこと言ってないからね。このイタズラ兎に落とされたんだよ。魔理沙ちゃん、助けてくれませんか?」

 

「ああ、なんだ。そうだったのか。ん~……あ、そうだ。助ける代わりに今までのツケは帳消しにしてくれ」

 

 え……マジで? 魔理沙ちゃんって、霊夢の次にツケが溜まっているんだけど……

 

「どうする? 早く決めないと私は何処かへ行っちゃうぜ」

 

 てゐは出してくれないだろうし……どうすっかね。

 なんだか、てゐと魔理沙ちゃんがグルに思えてきた。

 

「はぁ、わかったよ。帳消しにするから、とりあえず出してもらえる?」

 

 俺がそう言うと、魔理沙ちゃんが『やたっ』と小さくガッツポーズをして穴から出してくれた。

 その間ずっと、てゐは笑っていた。

 

 俺を引き上げると、魔理沙ちゃんは――

 

「じゃあ、またな」

 

 なんて言ってすぐに飛んで行ってしまった。忙しい人だ。

 

「てゐは昔と変わらんね」

 

 服についた土を叩き落としながら、てゐに言った。

 あーあ、汚れちゃったじゃんか。

 

「そう言う黒は昔と変わったね」

 

 ん~、そうなのかな?

 

「そう?」

 

「うん、昔よりも明るくなったかな」

 

 へ~、自分じゃわからんけど、てゐがそう言うのなら、そうなのかな。小町にもそんなことを言われた気もするし。

 

「あー、やっと見つけた!」

 

 声のした方を見る。ウサ耳をつけた少女が飛んで来た。

 

「げげっ、もう見つかっちゃった。ちょっと黒と遊びすぎたかな」

 

「ん? 前に見た顔ね。まぁ、どうでも良いけれど。さあ、てゐ帰るわよ。まだまだ仕事が沢山残っているんだから」

 

 ウサ耳少女は俺を一瞥だけして、てゐに言った。

 そして地面に降りた瞬間、落とし穴に落ちた。

 

「えっ? ちょっ、なにこれ? ちょっとてゐここから出して!」

 

「「…………」」

 

 さて、竹の花も見られたし、俺も違う場所へ行こうかな。

 

「んじゃあね、てゐ。また会える日まで」

 

「あら、もう帰るの? うん、いつでも遊びに来な待っているよ」

 

 てゐと軽く挨拶をして別れる。ん~、次は何処へ行こうかな。

 

「あ、黒。ちょっと待って」

 

 飛び立とうとした時、てゐに呼び止められた。

 

「おろ? どったの?」

 

「ちょっと手を出して」

 

 手? 何かくれるのかな?

 そして、俺が手を出すと、その手にてゐが手を重ねてきた。

 

「何やってんの?」

 

「再会を記念に少しだけ幸運をあげるよ」

 

 はい? 幸運ですか?

 

「ん~良くわかんないけど、ありがとう。んじゃあ俺は行くよ。またね」

 

「うん、また」

 

 ウサ耳少女がキャーキャー騒ぐ中、懐かしい友人と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 特に行き先も決めず、ふよふよと花々を見ながら飛ぶ。これだけ盛大に花が咲いているのを見ると、どうやら小町はちゃんと働いていないらしい。

 はぁ、ちゃんとやれって言ったのに……

 

 そんなことを考えながら飛んでいると、俺のすぐ横を極太のレーザーが通っていった。

 うお、危なっ! な、なんなのだろうか?

 

 

 んで、ここは……ああ、太陽の畑か。春にも関わらず満開になった向日葵が見えた。じゃあ、今のはきっと幽香のレーザーなんだろう。

 

 よく見ると、幽香と誰かが闘っていた。

 うん……近寄らないようにしよう。

 

 とは、思ったものの幽香と闘っている奴が気になって観察してみる。

 

 

 幽香と闘っていたのは、一匹の小さな妖精だった。

 

 そしてどうやら、妖精がかなり優勢っぽい。すごいな……あんな妖精もいたんだ。

 

 って、あら? あの妖精……ああ、そう言えば映姫が言ってたね。近いうちに転生させるとか、なんとか。そりゃあ、あの妖精が強いわけだ。

 

 まさか、こんなところで会えるとは運が良かったのかね。

 

 

「……たぶん私では貴方に勝てない。それでも、最後までやらせてもらうわ!」

 

 妖精の近くまで飛んでいくと、幽香はそう言って視界を埋め尽くすほどの弾幕を放ってきた。ちょっ……おまっ……

 

 この場所と自分の安全を守るためにも、弾幕を全て桜の花びらへ変えた。

 

「はい、そこまで~」

 

 視界が薄桃色で埋まる。その先には俺を睨む幽香の姿。

 

「……邪魔しないで、黒」

 

 幽香が言った。そんなに睨まないでよ、怖いじゃん。

 

「いや、だってこのまま続けたらここの場所が更地になるだろ」

 

 そして何より俺が死ぬ。強いもの同士が戦う時は場所を選んで下さい。

 んじゃあ、さっさと逃げさせてもらおうかな。

 

「よしっ、逃げるぞ。白」

 

 俺がそう言うと、白が後ろから抱きついてきた。移動は任せたよ、親友。

 

「逃がすと思う?」

 

 未だ桜の花びらが舞い散る中、幽香が言った。

 

「白のスピードは俺の本気より速い。幽香の速度じゃ追いつけないよ。まぁ、こんなに花も咲いているんだし、色んな場所に行って幽香も楽しんで来なよ。じゃ、またいつか」

 

 幻想郷で白より速い奴っていないんじゃないかな。

 コイツは才能の塊みたいな奴だもん。羨ましい……

 

 じゃあね、幽香。

 

 そして、白に抱きつかれたまま太陽の畑から飛び立った。

 

 

 あの、白さん? ちょっと速いです。いや、待て。かなり速いです。ああ、駄目だわこれ……意識が……

 

 気絶しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、黒~。いい加減起きなよ」

 

 目が覚める。

 声が聞こえ、顔をペシペシと叩かれた。

 

 ん……視界の先には一匹の妖精。

 

「よっ、久しぶり白」

 

「やっ、久しぶり黒」

 

 笑いながら白が言った。

 ここは……博麗神社か。霊夢はいないのかな?

 

 神社の境内も花が咲き誇り、そして幽霊が溢れていた。

 

「やっと黒に会えた。探したんだよ? まさか黒から来てくれるとは思っていなかったけれど……私が転生してるって知ってたの?」

 

「いや、知らなかったよ。フラフラと飛んでいた先に、たまたま白がいたんだ」

 

「ふふっ、それは運が良かったね」

 

 運か……ああ、なるほどこれが幸運ってやつなのかな。少しだけ、あのイタズラ兎に感謝。

 少しだけだけどね。

 

 さて、この幽霊たちも何とかしないとだ。

 

「よしゃ、じゃあ行くか」

 

「うん? 何処へ行くの?」

 

 彼岸花と紫の桜がある場所かな。名物として、働かない死神もいるらしいよ。

 

「ちょいと向こうまで」

 

「デート?」

 

「そ、デート」

 

「わかった。んじゃあ道案内はよろしく~」

 

 白の手を掴み二人で飛び上がる。白と話したいことは沢山あるけれど、とりあえず目の前の課題から何とかしていこう。

 

 






漸く物語が動き始めそうです
と、言うか花映塚も終わりが見えてきましたね

と、言うことで第31話でした
久しぶりの主人公視点
異変が起きているのに、この主人公は全く戦いませんね
まぁ戦っても負けますが……

次回は未定です
もしかしたら花映塚も終わるかもしれません

では、次話でお会いしましょう


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第32話~やっぱり桜が一番だよね~

 

 

 あちらを見ても、こちらを見ても花だらけ。綺麗だとは思うけれど、この無秩序感はあまり好きじゃないかな。これなら60年に一度くらいでちょうど良いのかもしれない。

 

「そう言えば、黒って映姫ちゃん、小町ちゃんの二人と一緒に年越しをしたんだよね」

 

 二人でのんびりと飛んでいると、白が声をかけてきた。

 

「うん、そうだよ。前から約束していたしね」

 

 年越しになったのは、たまたまだけど。

 

「いいな~、何で私も誘ってくれなかったのさ?」

 

 いや、だってお前死んでるじゃん。

 

「どうやって誘うんだよ……流石に三途の川は渡れないぞ?」

 

 小町に頼めば何とかなりそうだけど、俺みたいな不老不死が三途の川を渡るのはちょっと……

 

「大丈夫だよ。私が許す」

 

「お前に許されたって仕様がないでしょうが」

 

 しかも、もし行ったとしたら絶対映姫に怒られる。

 

「むぅ……たまには黒の方から遊びに来てよ。私からだと黒の家とかわかんないから、せっかく転生しても会えないかもしれないじゃん」

 

 だったら早く、ちゃんと転生できるようになりなさいな。それまで俺は、ゆっくりと待っているからさ。

 

「そう言っても、俺だってどこと繋がっているのかわかんないんだよね」

 

 昔、鳥居を抜けた瞬間、崖から落ちたこととかあるし。

 

「商売する気ないじゃん……なんだかなぁ」

 

 良いんだよ、俺だってお店の売り上げは諦めている。それに元々あの店は、悩みを抱え迷えた人々が訪れるだけの場所だしね。

 

 最近は、悩みなんて欠片も無いような奴らばかりが訪れるけど……

 

 

 

 

 

 そんな感じでお喋りをしながら飛び、漸く目的地までたどり着いた。

 その場所は真っ赤な色をした満開の彼岸花で埋め尽くされている。幽霊溢れる地獄に咲いた、葉見ず花見ず、死人花。正に名前の通り。

 

「春なのに彼岸花も満開かぁ~綺麗だね」

 

 白が言った。

 膝の少し上くらいの高さまで伸びた彼岸花を見てみる。まぁ、確かに綺麗だ。

 地中は毒で大変なことになってそうだけど……一応、彼岸花の鱗茎もしっかりと水洗いすれば、食べられるんだけどね。食べたことないけど。

 

 さて、小町を探さないと……おろ?

 

「あれ? 映姫ちゃんがいる。やほー映姫ちゃん。こんな所で何やっているの?」

 

 今日なんて幽霊が多くて仕事が大変そうだけど、映姫は休みなのかな。

 

「こんにちは白様、黒。白様も黒と会えたのですね。良かったです。私はいくら待っていても、幽霊が私の所へ来ないので小町の様子を見に来ました」

 

 わかってはいたけれど、小町は今日もサボっていたのか……ため息が出る。

 

「はぁ……とりあえず、小町の所へ行こうか。このまま幽霊が溢れていても困るし」

 

 そして、遠くの方で光が見えた。たぶん、誰かが弾幕ごっこでもしているのだろう。一人は小町なはず。

 はてさて、もう一人は誰だろうね?

 

「それでは、行きましょうか」

 

 映姫について光の見える方へ。

 そしてそこには、小町と霊夢がいた。

 

「いたたっ。全く、巫女は乱暴なんだから。だいたい、あたいを倒したってこんな量の幽霊運びきれないよ。明らかに許容オーバーだ」

 

 弾幕ごっこに負けたらしい小町が言った。許容オーバーもなにも、まだ何にも運んでないでしょうが。幽霊が多いのはわかるけどさ。

 

「何をやっているの、小町」

 

「げっ、映姫様」

 

 小町がこちらに気づく。

 

「俺があれだけ言ったのに、小町は結局働かなかったのか……」

 

 どうやら、忘れられていたらしい。彼岸花が咲き、紫の桜だって満開だ。なんで気づかなかったのさ……

 

「い、いや~すっかり忘れていtあ、ちょっ、映姫様待って、すみません。すみません!」

 

 映姫が小町の所へ行き、小町をポコポコと叩いた。

 

「まぁ、小町ちゃんだし仕方がないよね。や、霊夢ちゃん久しぶり」

 

 白が霊夢に言った。

 おろ? 白は霊夢と会ったことあるの?

 

「あの時の変な妖精ね。で、あんたは誰?」

 

 どことなく、むすっとした表情で霊夢が言った。機嫌悪いのかな?

 

「白、黒の妻です」

 

 いや、違うからね。

 

「えっ……」

 

 霊夢が固まった。

 違います。そんな関係じゃありません。

 

「何を言ってるんだお前は……白とはただの友達だよ」

 

 まぁ、友達というより、ほとんど家族みたいなものだけどさ。割と複雑な関係なんだ。

 ほら、霊夢も固まってないで何か言ってよ。

 

「……よくわからないけれど、この異変の原因はそこの死神ってことで良いの?」

 

 漸く霊夢が口を開いた。

 

「小町だけが原因じゃないけれど、まぁ、ここまで幽霊が増えたのも、小町がサボっていたからではあるよ」

 

 この年は結界が緩むからね。どうしても、外界からの幽霊が増えちゃうんだ。元々の原因はそれかな。

 

「さっきから死神を叩いている奴は、あの死神のボス?」

 

「そうだね。幻想郷の閻魔をやっていて、名前は四季映姫」

 

「じゃあ、あれを倒せば良いのね」

 

 え……なんでそうなるの。別に映姫は悪いことしてないんだけど。

 でもどうせ、言っても聞かないよなぁ……

 

「はぁ、小町を最初に見た時は、もっと真面目だと思っていたのに……さて、小町の説教は後でやるとして博麗の巫女、貴方には言わなければならないことがあります」

 

 映姫が霊夢を真っ直ぐと見ながら言った。

 

「あ~、映姫ちゃんの説教が始まっちゃったね。まぁ、私たちはゆっくりしてよっか」

 

 そだね、ゆっくりと観戦でもしていよう。

 こんなことになるなら、お酒でも持ってくれば良かった。

 

「私はさっさと、あんたを倒してこの異変を終わらせたいのだけど」

 

「貴方は大した理由もなく大勢の妖怪や、妖怪では無い者も退治してきた。さらに巫女なのに神と交流をしない。時には神にさえも牙をむく事もある」

 

 ――そう、貴方は少し業が深すぎる。

 

 映姫が言った。

 そんな映姫の言葉を霊夢は珍しく黙って聞いていた。

 

「このままでは、地獄にすら貴方は行けません」

 

「別に良いわよ。とりあえず、貴方を倒して花を戻してから考えるとするわ」

 

 それは、霊夢らしい答え。

 

「紫の桜は、罪深い人間の霊が宿る花。その紫の桜が降りしきる下で、断罪しなさい。博麗の巫女よ!」

 

 満開となった紫の桜を見てみる。

 確かに綺麗ではあるけれど、やっぱり好きにはなれそうにない。桜はあの薄桃色が一番似合う。

 そう思うんだ。

 

 

 それにしても、暇ですね。

 

「さあ、始まりました。映姫ちゃんのお説教のお時間です。解説は私、白と特別コメンテイターの」

 

「私、黒でお送りさせていただきます」

 

「あの……少し黙っていてくれませんか?」

 

 白とふざけていたら映姫に怒られた。だって、暇だったんだもん。

 

 ――罪符「彷徨える大罪」。霊符「夢想封印」。

 

 映姫と霊夢の声が重なる。

 

 そして、狂い咲いた花々に負けないほどの綺麗な弾幕が視界を埋めた。

 

 

 

 

「おおー、すげー。これが『弾幕ごっこ』ってやつなんだね。生で見るのは初めてだよ」

 

 膝の上に白を乗せ、こちらに飛んで来た弾を花びらへと変えながら雑談。

 

「白は弾幕ごっこやらないの?」

 

「スペルカード考えてないもん。当分はやらないかな。それに私は何も考えず全力でぶっぱなす方が好きだし」

 

 物騒だなぁ……

 必ず逃げ道があるように作り、かつ美しく。難しいよね。俺もほとんど考えてないし。

 

 弾幕ごっこは激しさを増し、そろそろ終盤と言ったところ。

 

 

 ――審判「ラストジャッジメント」。霊符「博麗幻影」。

 

 

 二人のラストスペルが唱えられた。

 

 再び、視界が埋まる。

 

 そして霊夢の姿がブレ、気がついたら映姫に弾が直撃していた。

 ……今、瞬間移動しなかった? 相変わらず人間やめてるな……

 

「おっ、霊夢ちゃんが勝ったみたいだね。いや~流石、博麗の巫女は強いね」

 

 コロコロと笑いながら白が言った。博麗の巫女の中でも、霊夢は飛び抜けているけどね。

 

「あ~、疲れた……それじゃあ、幽霊たちはあんたらで何とかしなさいよ」

 

「まさか、私が負けるとは……はぁ、わかりましたが貴方も私の言ったことは、しっかりと反省してくださいよ」

 

「はいはい、わかっているわよ。じゃあ、私は帰るわね。それで……黒はどうするの? 一緒に帰る?」

 

 霊夢がこちらを向いて、どこか不安そうに言ってきた。

 う~ん、帰っても良いけれど、白がいるしなぁ。もし白が、すぐに帰ってしまうのならもう少し一緒にいたい。

 

「今回、白はいつまでいられるの?」

 

「ん~、私はわかんないよ。映姫ちゃん、どうなの? また一日だけ?」

 

「申し訳ありませんが、そろそろ時間です。それにこの後、恐ろしい量の仕事が待っています。ですが、近いうちにまた、転生させてあげられますよ。ですので、今日は戻りましょう」

 

 映姫がそう言うと白は喜んだ。

 そして、映姫が軽く腕を振り、白の体が消え始めた。

 

「じゃあね、黒。また近いうちに遊びに行くから、目立つところにいてよ?」

 

 目立つところってどこだよ……

 

「了解、まぁ、のんびりと待っているよ。じゃ、またな白」

 

「じゃ、またね黒」

 

 白はそう言って俺に手を振りながら消えていった。

 うん、次に会えるのが楽しみだ。

 

「では、私も小町にもう少しだけ説教をしたら帰ります。またいつか、一緒にお酒を飲みましょう」

 

 そして、映姫とも別れた。

 満開に狂い咲いた花が、一気に戻ることはないけれど、これからゆっくりと戻って行くだろう。

 

「っと、待たせたね、俺たちも帰ろっか霊夢」

 

「そうね……ねえ、黒」

 

 霊夢がこちらを見ないまま言った。

 どうしたんだろうか?

 

「どうしたの?」

 

「今日は久しぶりに博麗神社に泊まっていきなさいよ」

 

「うん? まぁ、良いけど、いきなりどうしたのさ?」

 

「なんとなく、かしら」

 

 ――私もよくわからないけれど。

 

 なんて、霊夢は続けた。

 

 ん~何なのだろうか? ま、たまには神社に泊まるのも悪くはない。

 

「了解、これだけ花も咲いているんだしお花見でもするか」

 

 季節の違う花々も悪くはないけれど、やっぱり博麗神社の桜が一番好きだ。今日は、ちょっとだけ良いお酒を飲むこととしよう。

 

 






この作品の文章類似作品を探していたら、私の前作が見つかり少しだけ笑ってしまいました
まぁ、同じ作者が書いているのですから、当たり前なのかもしれませんね

と、言うことで第32話でした
相変わらず、この作品の主人公は動きませんね
今回なんて、彼女とずっと喋っていただけだし……

今度は戦わせてあげようかな

次話は特に決めていません
そろそろ閑話を書きたい気分です

では、次話でお会いしましょう


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第33話~風と桜と小さな奇跡~



閑話でも良かった気がします
つまり、読まなくても何とかなりそうです

読んでもらえると作者が喜びます





 

 

「どうして貴方は、傘なんかを差しているのですか?」

 

 季節は夏。

 風が強い。

 雨の日でも、晴れの日でもないのに唐傘を差していた少年に私は聞いた。

 

「俺が何処にいるのか、すぐわかるようにだってさ」

 

 傘をクルクルと回し、遊びながら彼が言った。やっぱりその傘は少年の体に対して、少し大きく見えた。

 

「えと……どういう意味でしょうか?」

 

「さあ? アイツの考えなんて俺にはよくわかんないし。まぁ、たぶん目印なんだろうね」

 

 傘がクルクルと回る。

 彼の言葉の意味はよくわからない。

 

 そしてこれは、私たちが幻想に消える前に出会った不思議な少年と、小さな奇跡のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジメジメとした梅雨が開け、季節はすっかり夏となった。これから続く暑い日のことを思うと少しだけ嫌になる。

 

 

 そして学校からの帰宅途中、その少年と出会った。

 そんな彼は、晴れの日にも関わらず大きな唐傘を差していた。あれは……日傘、でしょうか?

 

「こんにちは」

 

 目があったので、とりあえず挨拶。年は私と同じか、少し下くらいかな?

 

「おろ? こんにちは。ちょいとお嬢さん、聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」

 

 私が彼に声をかけると、彼は少しだけ驚き、私に訪ねてきた。

 ナンパ……には見えないか。見た目の割に、随分と落ち着いた話し方だなんて思った。

 

「はい、どうされました?」

 

「守矢神社……いや、諏訪大社かな。まぁ、その神社を探しているんだけど、どこにあるのか知らない? この辺りの土地は詳しくなくてさ」

 

 どうやら彼は、家の神社に用があるみたい。

 

「それでしたら、私も行きますので御案内しますよ」

 

 境内の掃除だってしなければいけないし。やらなければいけないことが、沢山ある。

 

「おお、そりゃ助かるよ。ありがとね」

 

 そう言って彼は笑った。

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

 

 雑談をしながら神社へと進む。

 

「参拝の方ですか?」

 

 さっきは気づかなかったけれど、彼は大きなリュックを背負っていた。その中から、ちゃぷんちゃぷんと微かに水の音。何が入っているのでしょうか?

 

「ん~、参拝というか……社会見学?」

 

 いや、私に聞かれても……

 

「なんかさ、3日ほど外の世界に行って来いっていきなり言われて、叩き出されたんだよ」

 

 ん~……どういう意味でしょうか? 何かの比喩?

 

「お、ようやっと、見覚えのある所まで着いたね。いや~助かったよ。君はこの神社にどんな用事があるの?」

 

 彼が尋ねてきた。どうやら、彼は一度守矢神社に来たことがあるらしい。それなら、私とも会ったことがあるかもしれませんね。

 

「私は守矢神社で風祝をしている、東風谷早苗と言います」

 

「おろ? そうだったんだ。そりゃあ運が良かった。そう言えば前に来た時、君がいた気もするかな。あ、俺は黒って名前だよ」

 

 黒さんですか。

 名前……だよね。苗字っぽくはないし。

 

「それでは行きましょうか」

 

 黒さんとのんびり参道を歩き、守矢神社へ到着。

 

「知っていると思いますが、拝殿はあちらです。私は着替えてきますので、どうぞゆっくりしていってください」

 

 お茶ぐらいは、出したほうが良いよね。それなら準備をしないと。

 

「了解」

 

 そして黒さんは傘をクルクルと回しながら、拝殿の方へ歩いて行った。

 

「おかえり早苗。誰か来たの?」

 

 母屋へ行くと諏訪子様が声をかけてきた。

 

「はい、ただいまです。参拝の方が来ていますよ」

 

 私がそう言うと諏訪子様は――

 

「へ~、どんなやつだろうね。ちょっと見てくる」

 

 なんて、言って出て行った。

 あまり、いたずらはしないでくださいね。普通の人に諏訪子様は見えないのだし。

 

 着替えを終え、境内に戻ると黒さんは背負っていたリュックを脇に置き、木陰に腰掛けていた。

 

「おお、本物の巫女さんだ」

 

 私に気付き声をかけてくる。

 一方、黒さんの傍にいる諏訪子様は、黒さんのリュックをじっと見つめていた。

 

「ねえ、ねえその荷物は何?」

 

 諏訪子様が言った。

 

「えと、黒さんの持っていたリュックには何が入っているのですか?」

 

 諏訪子様の代わりに私が尋ねる。

 

「お酒だよ。ここの神様たちにも飲んでもらおうと思ってね」

 

 笑いながら黒さんがそう言うと、諏訪子様が――

 

「ホントー!」

 

 と、言って黒さんのリュックへ猛ダッシュ。

 黒さんに怪しまれないように、なんとかそれを止める。ちょ、ちょっと落ち着いてください。

 

「何をする!?」

 

 諏訪子様こそ何をやっているのですか……

 

「それで、頼みたいことがあるんだけどさ」

 

 黒さんが言った。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「二日ほど、ここに泊めさせてもらえないかな? 他に行く場所もないし」

 

 え?

 

「私は良いよー」

 

 諏訪子様が言った。

 てか諏訪子様は、お酒を飲みたいだけな気がする……

 

「えと、私だけでは決められないので、ちょっと待っていてください」

 

 神奈子様にも聞いてみないと。

 

「私も構わないよ」

 

 後ろから声がした。

 いつの間にか、神奈子様が来ていた。び、びっくりしたぁ。

 

「あ~、その……やっぱり大丈夫です」

 

 自分だけでは決められないと言ったのに、このセリフはおかしいよね。怪しがられないかな?

 

「そりゃあ、良かった」

 

 そんなことも思ったけれど、どうやら黒さんは気にしていないみたい。

 良かった。怪しまれてはいない……のかな?

 

「今夜は酒盛りだ」

 

 諏訪子様と神奈子様の喜ぶ声が聞こえた。

 全く、この神様たちは……

 

 でも、黒さんはどうやってお酒を手に入れたのかな? 明らかに未成年だと思うんだけど……

 

 そんなことをしていると、すっかり夕方となってしまった。

 黒さんは、夕飯の準備を手伝ってくれると言ったが、諏訪子様たちの分も作らないといけない。そのことを見られたら怪しまれるので、お断りした。

 

 そして、お客さんということで、先にお風呂へ入ってもらうことに。

 

「じゃあ、私も一緒に入ろうかな」

 

 諏訪子様が言った。

 何を言ってるんだこの神様は……お願いですからやめてください。

 

「……それは、俺も遠慮してもらいたいかな」

 

 黒さんが何かを言った。

 あれ? 今、何て?

 

 それから――私も一緒に食べる! とブーブー文句を言う、二柱を何とか説得し黒さんと二人で夕食を食べた。

 そう言えば、異性と二人きりで食事は初めて。あ~……うん、あんまり考えないようにしよう。

 

 黒さんは私の料理を褒めてくれたけれど、夕食の味はよくわからなかった。

 

 

 

 洗い物は黒さんに任せ、お風呂を済ませ出てくると、黒さんが縁側に腰掛け何かを飲んでいた。

 その両脇には、諏訪子様と神奈子様。

 

 む、お酒の匂い。

 

「コラ、黒さん! 未成年がお酒を飲んじゃダメですよ」

 

 置いてあったお酒を取り上げる。

 

「あ~私のお酒」

 

「早苗、黒なら大丈夫だから返してよ」

 

 諏訪子様と加奈子様が言った。

 大丈夫じゃありません。黒さんがいる間は我慢してください。

 

「えと……一応、俺も二十歳は超えてるんだけど」

 

 黒さんが言った。

 

「貴方が二十歳なら私は三十路です!」

 

「いや、意味わかんねーよ」

 

 私だって、わかりません!

 

 そして、黒さんの持ってきたお酒を全て没収し、その日は床に着いた。いくら夏とは言え、風が吹けば涼しく、寝やすいはず。

 それなのに、その日の寝付きは良くなかった。

 

 

 

 

 

 

 次の日、朝食の準備をし、黒さんを待っていたが、なかなか黒さんが起きてこない。仕方がないから、先に朝食を食べることに。

 

 食べ終わっても、黒さんはまだ来なかった。

 

 まだ寝ているのでしょうか?

 そろそろ私も出発しないと、遅刻しちゃう。

 

 黒さんを起こそうと思い、少しだけ緊張しながら、黒さんの泊まった部屋の中へ。

 

 中へ入ると、黒さんは起きていた。けれども、どこかボーっとしていて、布団に腰掛けたまま動こうとしない。

 

「あの、おはようございます」

 

「ん……おは」

 

 私が声をかけると黒さんが返してくれた。

 朝、弱いのかな?

 

「顔を洗ってきたらどうですか?」

 

「うん……わかった」

 

 そう言って、黒さんは立ち上がり動き出そうとして、一歩目で躓いて転けた。

 

「……いたい」

 

 何やってるんですか……

 

「あははっ、黒は昔っから朝が弱いね。早苗、そろそろ行かないと遅刻しちゃうよ」

 

 諏訪子様が言った。

 え? 昔から? って、そうだ時間がないんだった。

 

「朝食は用意してありますので、しっかり食べてくださいね。では、行ってきます!」

 

 細かいことは帰ってきてから聞くことにしよう。

 

 結局、学校には少しだけ遅刻しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、学校を終え、正門に足を運ぶと黒さんがいた。

 えと……な、なんでここに?

 

「やほー、早苗ちゃん。迎えに来たよ」

 

 風が強く、天気は曇り。

 そうだというのに持っていた、傘をクルクルと回しながら黒さんが言った。

 

「え? その人誰? 早苗の彼氏?」

 

 一緒に帰ろうとしていた、同級生に聞かれた。

 

「ち、違いますよ」

 

「ふ~ん……じゃあ私は一人で帰るね…………爆発しろ」

 

 そう言って、彼女は帰って行ってしまった。今度会ったとき、何を言われることやら……

 

「んと、来ない方が良かったかな?」

 

 少しだけ困ったような顔をして、黒さんが言った。

 

「あ、いえ。大丈夫です。少しだけ寄りたい所がありますが、帰りましょうか」

 

「そかそか、それなら良かった。んで、何処へ寄って行くの? 買い物とか?」

 

 はい、お買い物です。

 そして、お話は漸く冒頭へ。

 

 

 

 

 買い物へと向かう途中、黒さんに傘のことを訪ねた。

 

「さあ? アイツの考えなんて俺にはよくわかんないし。まぁ、たぶん目印なんだろうね」

 

 傘を回しながら、黒さんが言った。

 

「そうですか……黒さんは今、何をされているのですか?」

 

 学校には通っていなさそうだけど。

 

「今はカフェで働いているよ。まぁ、俺がいないからお店はお休み中だけど。むぅ、風が強い、傘壊れないかなぁ」

 

 そう思うのなら、傘を持ってこなければ良かったのに……

 それにしても、その年でもう働いているんですね。素直に尊敬します。

 

 

 その後、スーパーで買い物をしたわけだけど、何故か黒さんのテンションがやたらと高かった。何がそんなに楽しかったのかな?

 

 買い物を終えると、日は沈み始め人影も減ってきた。黒さんは右手に傘を、左手に買い物袋を持ち、私の数メートル前を嬉しそうに歩く。

 

 神社へ向かってゆっくりと進む。

 人影は私達以外にはいない。その途中には壊れかけた家があり、夕方ということもあって、何故か無性に悲しく感じた。

 

 

 そんなことを思った時、突風が吹いた。

 

 黒さんの頭上には、壊れかけの家から大量の瓦が。

 

 

「あぶないっ!!」

 

 

 思わず叫んだ。

 時が遅く感じられる。

 

 マズい、私の風では間に合わない。

 

 

 

 そして、目の前が桜一色に染まった。

 

「へっ?」

 

 何が起きたのかわからない。

 

「あぶなっ。ビックリしたな、もう。早苗ちゃんは怪我とかしてない?」

 

 黒さんが聞いてきた。

 

「わ、私は大丈夫でしたが……あの、今は何が?」

 

 ひらひら、ひらひらと桜の花びらが舞う。

 

「奇跡でも起きたんだろうね。いや~、傘持ってて良かったよ。あのままだったら桜まみれだったし」

 

 傘をクルクルと回し、コロコロと笑いながら黒さんが言った。

 

「さ、帰ろっか」

 

 何事もなかったかのよう、に黒さんが言った。

 これは色々と、聞かなければならないことがありそうだ。

 

 






と、言うことで第33話でした
早苗さん視点にする意味は、あまりありませんでしたが、なんとなくしました

次話は主人公視点で、また外の世界のお話っぽいです

では、次話でお会いしましょう


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第34話~お酒は二十歳になってから~

 

 

「えっ、じゃあ黒さんは初めから神奈子様達が見えていたのですか?」

 

 いくら夏とは言え、日は沈み始め風も出てきた。まだまだ、暑いけれど過ごしやすい気温。

 縁側で神奈子と一緒にお茶を飲んでいると、早苗ちゃんが聞いてきた。

 

「うん、初めから見えていたよ」

 

「ど、どうして言ってくれなかったんですか?」

 

 いや、だって早苗ちゃんが隠したがっていたから、気を使って見えないフリを……

 それに、諏訪子を必死に止めている姿とか、見ていて面白かったし。口には出さんけど。怒られるのやだし。

 

「別に隠しておく理由はなかったけど……まぁ、なんとなくかな」

 

「はぁ、そうですか……じゃあ黒さんって、何者なんですか?」

 

 俺に聞かれても困るんだけど。

 神奈子の方を見てみる。

 

「ん~、何者なんだろうね。ただの友達ってことで良いんじゃないかい?」

 

 お茶を飲みながら、神奈子が言った。

 まぁ、そんなところだろうね。

 

「黒さんも神様なのですか?」

 

「いんや、違うよ。ちょっとだけ長生きな人間だよ」

 

 ――どこがちょっとなんだか……

 

 そんな神奈子の声が聞こえた。

 

 仕方がないでしょうが、なかなか死ねないんだし。

 

「う~ん、良くわかりません……」

 

 そう言って、早苗ちゃんが首を傾げた。

 

「おや? 二人とも帰ってきていたんだね。おかえり」

 

 ヘンテコな帽子を被った、小さな神様が走ってきた。

 ただいま。どうせ湖でまた蛙と遊んでいたんだろう。昔からそうだったもんね。

 

「うん? なんだ、見えないフリをして早苗をからかうのはやめちゃったの?」

 

 あ、コラ。

 余計なことは言っちゃダメでしょうが。

 

「か、からかっていたんですか!?」

 

 まぁ、ちょっとだけね。

 

「じゃあ、今日からは一緒にお酒が飲めるんだね!」

 

 昨日だって、寝ている俺を叩き起して飲んだじゃん。

 諏訪子を見ると、ウインクをしてきた。黙ってろってことですか。そのせいで、朝起きられなかったんですが……

 今日の昼だって、無理矢理遊びに付き合わされるし。まぁ、楽しかったけれどさ。

 

「あまり飲みすぎないでくださいね」

 

 ため息をしながら早苗ちゃんが言った。

 

「早苗ちゃんは飲まないの?」

 

「私はまだ未成年ですし……」

 

 別に良いと思うけどな~

 まぁ、飲みたくないのなら仕様が無いけれど。お酒は無理して飲むものなんかじゃないし。

 

 夜になり、お待ちかねの酒飲みのお時間。

 お酒を飲むことはないけれど、早苗ちゃんも参加してくれた。4人仲良く縁側に並ぶ。

 

「それじゃあ、乾杯しようか」

 

 神奈子が言った。

 

 ――乾杯。

 

 夏の夜に4人の声が揃った。

 

 おチョコを傾けながら空を見上げる。濁った空気の向こうに僅かに光る星明かり。

 

 う~ん、星空を見るなら幻想郷の方が良いかな。

 

「こっちの空も汚くなっちゃったね」

 

 この神社から見る夜空は好きだったのになぁ……

 

「向こうの空はまだ綺麗なのかい?」

 

 神奈子が聞いてきた。

 

「汚す奴もいないしな~」

 

 前に紅い霧を出した奴とかいたけど、別に汚したわけでもない。

 

「うんっ、お酒が美味しい! これは全部黒が作ったやつなの?」

 

 ああ、もの凄い勢いでお酒がなくなっていく。

 俺の純米大吟醸が……結構良いやつなのに。

 

「そうだよ、前に持ってくるって約束したしね」

 

 おかげで倉庫の中のストックが切れかかっている。こんな調子で秋まで持ってくれるのだろうか。

 

「そう言えば、黒はどうやって帰るんだい?」

 

「たぶん、迎えが来ると思う」

 

 いきなり外の世界へ連れて行かれたから、わかんないけど……何考えてるんだろうね?

 

「いっそ、こっちで暮らせば? 神社なら部屋も空いているよ。私も嬉しいし」

 

「いや~、遠慮しとくよ。向こうでやらないといけないこともあるし」

 

 昔みたいに、フラフラと出歩くことも少なくなったかな。

 

「そっかぁ、まぁいつでも遊びに来なよ。待ってるからさ」

 

 そう言って、諏訪子は笑った。

 

「黒さんは、今どちらに住んでいるのですか?」

 

 幻想郷って言ってもわかんないだろうしなぁ……

 

「う~ん……まぁ、かなり遠いところかな。電気も録に通っていないような田舎だよ」

 

「なるほど、それであんなに燥いでいたのですね」

 

 ありゃ、見られていたんだ。ちょっと恥ずかしい……まぁ、幻想郷じゃ見ない物ばかりだしなぁ。でも、スーパーとか凄いよね。テンション上がります。

 

 そんな感じでゆっくりと始まった飲み会は、ゆっくりと終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 中途半端にお酒を飲んでしまったせいで、なかなか寝られず、寝床を抜け出して外へ出る。

 微かに見えていた、星明りは消え分厚い雲が空を覆っていた。湿っぽい匂いが鼻の奥まで届く。明日の天気は悪そうだ。

 

 持っていた煙管と刻み煙草を取り出して一服することに。

 煙草も随分と久しぶりだ。

 刻み煙草を指で軽く掴み、固める。それを煙管の中へ。霊力で火を起こし、煙草に火をつける。

 そして、煙を口に含み味を楽しんだ。

 

 うん、久しぶりに吸うとやっぱり美味しいね。

 

「煙草は体に悪いよ?」

 

 諏訪子の声が聞こえた。

 それくらいわかってはいるよ。

 

「たまにだけど、吸いたくなるんだ。それに煙草くらいで壊れるような体じゃないし」

 

 燃え尽きた灰を落とし、花びらへと変える。

 

「黒はまだ寝ないの?」

 

「次はいつこっちに来られるのか、わからないからさ。もうちょっとだけ見ておこうと思って」

 

 空気は重いし、空も汚い。

 それでも最後となると、やっぱり寂しくなる。

 

「おや? なんだ二人とも起きていたのか。それならちょうど良い」

 

 お酒を片手に神奈子が出てきた。

 

 その後、結局朝まで飲み続け、三人まとめて早苗ちゃんに怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 休日なのに、どんよりとした曇空。

 今日の天気は悪そうです。

 

 いつもより遅く起きると、三人が縁側で仲良く寝ていた。本当に仲が良いんですね。

 その周りには酒瓶や樽が沢山。

 

 ……とりあえず、説教だ。

 

 

 

「いや~ちょっと飲みすぎたね」

 

 ご機嫌な様子で神奈子様が言った。

 

「……頭痛い。あれのどこが、ちょっとだよ。樽一気とか考えられん……おい、諏訪子も起きろって。ああ、もう、抱きつくな。暑苦しい」

 

 何をやっていたのですか……

 そして、黒さんに抱きつくようにして寝ている諏訪子様。いつもの帽子は何故か黒さんが被っていた。

 

「あーうー。あと、ちょっと……」

 

 黒さんが一生懸命諏訪子様を離そうとしていたが、あーうー言ってなかなか離れない。

 見ていて和む。

 

「それで、黒はいつ帰るんだい?」

 

 そう言えば、黒さんとも今日でお別れ。

 寂しくなります。

 

「昼くらいだと思うよ。あんまり自信ないけれど」

 

「朝食はどうされますか?」

 

「俺は遠慮しておくよ。あまり固形物を入れたくないし」

 

 だから、飲みすぎです。

 

「私も今日はいらないよ。諏訪子もいらないと思うから、悪いけれど朝食は早苗だけで済ませておくれ」

 

 わかりました。

 

 

 

 朝食を食べ終わり、3人のためにお茶を持っていくと、諏訪子様も起きていた。

 

「あうー、帽子を返してよー」

 

「はっはっはー。悪いがこの帽子は幻想行kぶぅっ……おまっ、今、腹はダメだって……」

 

 諏訪子様にお腹を殴られ、倒れこむ黒さん。

 あの……神社を汚すのはやめてくださいね。

 

「お茶をお持ちしました」

 

「雨か……」

 

 外を眺めていた神奈子様が言った。

 ああ、降ってきちゃったか。

 

「おお、ありがとね。早苗」

 

 倒れ込んだ黒さんの背中に乗りながら、諏訪子様が言った。

 お行儀が悪いですよ?

 

「なあなあ、諏訪子降りてくれないか?」

 

「だめっ。もう一泊していくのなら良いよ」

 

「そうだよ。黒だってもうちょっとゆっくりしていけば良いじゃないか」

 

 諏訪子様と神奈子様が言った。この二柱は、私以外の人間と関わることができない。それってきっともの凄く寂しい事なんだろうな。

 

「そう言ってもらえる嬉しいけれど、帰らないとだしなぁ。んで、そろそろ降りてくれ重いんだけど……」

 

 黒さんがそう言うと――

 

「重いとはなんだー!」

 

 と、楽しそうに諏訪子様が言った。

 本当に、黒さんとはどんな関係なんでしょうか?

 

 シトシトと降っていた雨がポツポツへと変わり、お昼ころには土砂降りの雨となった。

 黒さんたちはその間、ずっと縁側でお喋り。

 

「おお、これが夕立……じゃないから昼立ってやつなのかな?」

 

 雨が凄い、まるで滝みたいだ。

 最近はゲリラ豪雨ってよく言いますね。

 

「黒は朝立でしょ?」

 

 クスクスと笑いながら諏訪子様が言った。

 

「おい、やめろバカ」

 

 黒さんはその言葉に怒っていたけれど、どういう意味だろうか?

 

 

 

「さて、そろそろかな」

 

 傘を手に持ち、黒さんが言った。

 

「もう行っちゃうの? また会えるよね?」

 

「いつでも来な。待っているからさ」

 

 諏訪子様と神奈子様が言う。

 

「え……この雨の中、帰るのですか?」

 

 いくら傘があっても流石にこれじゃあ、意味がないと思う。

 

「ま、大丈夫だよ。んじゃ、またいつか会おう」

 

 そう言って黒さんが豪雨の中へ入って行く。

 雨音と一緒に、12時を知らせる鐘が微かに響いた。

 

 そして――また目の前が桜で埋まった。

 

「……すごい」

 

 ここまで見事な桜吹雪は初めて見た。傘を差し、桜吹雪の中を黒さんがゆっくりと歩く。

 

 その先には、金髪の女の人が僅かに見えた。

 

 気がつくと黒さんは消えていた。

 そして、黒さんが消えた瞬間、桜が雨に戻った。今のは……本当に現実だったんでしょうか?

 

「ねえ、神奈子。どういう意味だったと思う?」

 

 諏訪子様が、黒さんの消えた方を見ながら言った。

 

「来いってことだろうさ」

 

「やっぱりそうだよねぇ……まぁ、そのことは神奈子に任せるよ」

 

 何の会話でしょうか?

 

 黒さんと別れたことは寂しいけれど、不思議とまた会える気がした。

 小さな奇跡の続きは、きっとすぐ。

 

 






と、言うことで第34話でした
神奈子さん出番少なくてごめんねー

煙管は肺に入れると大変なことになりますよね
やはり紙煙草が一番な気がします

次話は未定です
まだ風神録には入らないと思いますが、どうなることやら……

では、次話でお会いしましょう


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第35話~そりゃ焦げるわ~

 

 

 外の世界から帰ってきて数日ほど経った。

 日本酒のストックがほとんどありません……

 とは、言ってもお米はまだ収穫できないから、日本酒は当分お預けかな。薩摩芋も収穫できたし、芋焼酎でもまた作ってみよう。前回作ったやつは、あまり美味しくなかったし。

 今度は焼き芋で作ってみようかな。甘い香りとかしそうだし。

 

 あ~お腹が減ってきた。焼き芋でも作りたいけど、落ち葉とかないよね。まだ藁とかあったかなぁ……

 

 確認のために店の外へ出ると、緑色っぽい髪に、黄色のリボンをつけた帽子を被った少女がいた。

 どこかで見たことがある姿。ん~……誰だったかな?

 

 その少女は俺に気づくこともなく、どこかボーっとしてプチりプチりと草を抜いていた。

 ……この少女は何をやっているんだろうか。

 

 ああ、思い出したわ。

 古明地こいしちゃんだ。喋ったことはほとんどなかったしなぁ。そりゃあ忘れるはずだ。

 

「や、こいしちゃん。久しぶり」

 

 俺が声をかけると、こいしちゃんが漸くこちらを見てくれた。

 あれ? そう言えば、古明地姉妹は地底にいるって映姫から聞いていたけど……何かあったのかな?

 

「お兄さんは誰? どこかであった気もするけれど」

 

 ありゃ、やっぱり覚えてないか。まぁ、俺も忘れていたからお互い様だね。

 

 う~ん、覚の妖怪と話すのも久しぶりだ。こうやって考えていることも、向こうには全部伝わっているんだよね。まぁ、会話をしなくて良い分楽っちゃ楽だけど。

 それで、ここへは何をしに来たのかな? ただの迷子ってことも考えられるけどさ。

 

「……何か喋ってくれないとわかんないよ?」

 

 こいしちゃんが言った。

 あら? こいしちゃんは覚じゃなかったっけ? そんなことはないと思ったけど……

 

 よく見ると、こいしちゃんの第三の目が閉じられていた。ああ、それで俺の心を読めなかったのか。

 

「俺は黒って名前だよ。こいしちゃんとも会ったことがあるけれど、忘れちゃったっぽいね。んで、今日はどうしたの?」

 

「私は、なんとなく歩いていたら此処にいただけだよ」

 

 なんとなく、ねぇ。

 あまり、フラフラしているとお姉さんが心配するよ。

 

「そかそか、何か冷たい物でも飲んでいく?」

 

 こいしちゃんはお酒とか飲むのかな?

 あまり想像できないけれど。

 

「うん、じゃあいただきます」

 

 

 

 店の中へ入り、こいしちゃんにはアイスティーをあげた。こいしちゃんから話を聞くと、いつも何処かへフラフラと放浪しているらしい。

 話をしていて思ったことは、目の前にいるはずなのに、こいしちゃんの存在を忘れそうなるというか……う~ん、例え辛い。昔はこんなことなかったと思うんだけどなぁ……

 

「第三の目がずっと閉じているけれど、何かあったの?」

 

 俺の心を読めなかったのは、そのせいだと思う。

 

「心を読むのが嫌になったから、閉じちゃった」

 

 アイスティーをちょびちょびと飲みながら、こいしちゃんが言った。

 そっか……人の心を読むっていう感覚がわからないけれど、たぶん色々と大変だったんだろう。じゃあ、お姉さんの方もあの目は閉じちゃったのかな? 優しいし、気も利くし性格は良いけれど、種族のせいで嫌われていた。

 なんとも悲しいね。

 別に心を読まれるくらい、良いと思うんだけどなぁ……

 

 って、こいしちゃんがいないし……

 

 飲みかけのアイスティーだけが、カウンターに置いてあった。

 

 店の外へ出るとこいしちゃんがいた。

 いつの間に出て行ったんだか……

 

「まだ、飲み物が残っているよ?」

 

「あれ? そうだっけ?」

 

 う~ん何を考えているんだろう。この様子じゃ、お姉さんも苦労していそうだ。今度、地底にでも行ってみようかな。

 ちょっとどんな様子か気になるところ。

 

 こいしちゃんと店の中へ戻ると、そこには萃香がいた。

 君も君で、神出鬼没だねぇ。

 

「お邪魔しているよ。って、古明地のとこのこいしちゃんじゃないか。随分と珍しいね」

 

「あー、見たことある」

 

「そうだろう、そうだろう。私も有名だからね」

 

 無い胸を張って萃香が言った。

 ふむ……こいしちゃんにも負けてるね。まぁ、なんだ、頑張れ萃香。

 

「おい、カメラ止めろ」

 

 萃香がキレた。

 覚妖怪が嫌われる原因が、少しだけわかった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~テイク2~

 

 

「それにしても、黒はよくこいしちゃんを見つけられたね」

 

「まぁ、店の前にいたし誰だって気づくでしょ」

 

「いや、それが難しいのさ」

 

 ん? どういうこと?

 こいしちゃんの様子を確認すると、萃香の角をじーっと見ていた。なんだろう、触りたいのかな?

 

「第三の目と心を閉ざしてさ、『無意識を操る程度の能力』だったかな。その能力で相手の無意識を操るから、こいしちゃんの存在を認識できないんだ」

 

 ありゃ、そうだったんだ。ああ、さっき感じていた違和感の正体はそれか……

 あっ、萃香俺にもお酒をちょうだい。

 

「それにしても覚妖怪が『無意識』を、ねぇ……なんとも皮肉な能力だ」

 

 むしろ、覚妖怪だからなのかな?

 神様の考えることはわからんけれど。

 

 もう一度こいしちゃんを見ると、ついに萃香の角を触り始めていた。えっ? これは流石に萃香も気づいているよね?

 

 つまりこいしちゃんがフラフラと放浪をしているのも、無意識に行動しているからってことなのかな?

 ちょっと想像するのが難しい。

 

「ああ、そうだ」

 

 忘れていた、萃香もいるしちょうど良い。

 

「ん? どうしたのさ」

 

「焼き芋しようぜ。焼き芋。こいしちゃんもやる?」

 

「うん」

 

 萃香の両角を掴みながらこいしちゃんが言った。いや萃香、それは流石に気づきなよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷いの里には落ち葉なんてないし、藁でやるのもつまらないから、博麗神社へ移動。

持ってきたのは薩摩芋と玉蜀黍。焼き玉蜀黍美味しいよね。

 こいしちゃんとは見失わないように手を繋ぎました。

 

「んじゃあ、萃香はちょっとそこら辺から落ち葉を集めて」

 

「はいよ~それにしても、よくこの時期に芋なんてあったね」

 

 まぁ、普通は秋に収穫する作物だもんね。

 俺もあの場所の気候は良くわからん。

 

 萃香が集めてくれた落ち葉に火をつける。こいしちゃんはその様子をじっと眺めていた。

 あんまり近づくと危ないよ?

 

 あ、新聞紙を持ってくるの忘れた。

 どうしよう。

 

「あんたたちは神社で何をやっているのよ……」

 

 霊夢が出てきた。どうせ、参拝客だって来ないんだし良いじゃん。

 

「焼き芋。霊夢、新聞紙持ってない?」

 

「まぁ、あるけれど」

 

「じゃあ、ちょっと持ってきて。霊夢にも焼き芋食べさせてあげるから」

 

 霊夢が持ってきた新聞紙で薩摩芋を包み、たっぷりと水に濡らして焚き火の中へ。ついでに、玉蜀黍も皮がついたまま入れるのだけど……

 

「これって、どれくらい入れておけば良いの?」

 

 実は、落ち葉で焼き芋を作るの初めてなんだよね。

 焼き玉蜀黍はやったことがあるんだけど。

 

「私は知らないわよ」

 

 霊夢が言った。

 

「こいしちゃんは?」

 

「知らなーい」

 

 萃香の方を見る。

 

「……秋姉妹でも連れてくるか」

 

 やめて差し上げろ。お前が妖怪の山へ行ったら混乱しちゃうでしょうが。それに秋姉妹絶対泣くぞ。

 

 とは言うものの、どうしようか……失敗する未来しか見えない。そうなると、焼き玉蜀黍だけになっちゃうんだよなぁ。

 

「じゃあ、私は猪でも捕まえてくるよ。それなら失敗しても大丈夫でしょ?」

 

 萃香はそう言って、姿を消した。了解、血抜きまでちゃんとやっておいてね。

 

「俺もお酒を持って来ようかな。こいしちゃんはどうする?」

 

 残しておいても仕方がないし、残っている日本酒を全部持ってくるか。余ったら博麗神社に置いておけば良いし。

 

「私はここにいるよー」

 

 焚き火を小枝でつつきながらこいしちゃんが答えた。探すの大変だから、どっか行っちゃったりしないでね。

 

「で、この娘は誰なの? 初めて見る顔だけど」

 

 霊夢が聞いてきた。

 

「私は貴方を見たことあるよ。ここにはよく来るし」

 

 こいしちゃんがそう言うと霊夢は

 

 ――そうだったかしら?

 

 と言って首を傾げた。

 

「じゃあ霊夢はこいしちゃんを見ていてくれ。目を放すとすぐに何処かに行っちゃうから気をつけてね」

 

 最初はただの焼き芋をするはずだったのに、なんだか随分と盛大になってきちゃったね。

 

 

 

 

 

 自宅からお酒を取り博麗神社に戻る頃には、空は暗く始めていた。暗い景色な中で焚き火はよく目立つ。

 

 そこには、霊夢とこいしちゃん、それと魔理沙ちゃんなんかも来ていた。そしてなぜか、こいしちゃんの額には御札が。

 どこのキョンシーだよ……

 霊夢に聞くと、こうでもしないとこいしちゃんを認識できないと言っていた。でも、別に額に貼らなくても……

 

 御札が気に入らないのか、こいしちゃんは少しだけ不機嫌そうに見えた。

 

 日が完全に沈む頃に、大きな猪を持って萃香が帰ってきた。最初に見た時は、絶対に食べきれないと思ったけれど、もしかしたらこれだけじゃ足りないかもしれない……

 最初は三人だけだったけれど、紅魔館組や白玉楼組なんかも来て大宴会となっている。今宵の博麗神社はお祭り騒ぎです。

 

 こいしちゃんを見ると、そわそわしていて、どこか落ち着かない様子。あ、御札は可哀想だから剥がしてあげました。

 

「どうかしたの?」

 

「こんなに大勢になるのは久しぶりだから、なんか……」

 

「楽しくない?」

 

「わからないけど……悪くないかも」

 

 そかそか、それなら良いんじゃないかな。

 こいしちゃんが心を閉ざした詳しい理由はわからないけれど、またいつの日か元に戻れる日が来ると良いね。

 なんて、そんな自分勝手なことを思った。

 

 こいしちゃんの手を掴む。

 

「?」

 

 こいしちゃんが不思議そうに見てきた。

 

「焼き芋食べようぜ」

 

 1つの焼き芋をこいしちゃんと半分こ。

 

 まぁ……食べた焼き芋の味は言わないでおこう。

 

 こいしちゃんが、むすっとした表情で俺を見てくる。ごめん、ちょっと焦げてたね。

 

 そして、いつの間にかこいしちゃんは消えていた。お家に帰ったのかな?

 また会える日が来ると良いんだけどねぇ。

 

 

 その日の宴会で、日本酒のストックは完全になくなった。

 う~ん、これからどうすっかね?

 

 






アルミホイルなしで焼き芋は難しいですよね
私がやった時は真っ黒になりました

どう見ても炭です。本当にありがとうございました

猪肉は昔食べたことがありますが、ほとんど豚肉と変わりませんでした
たぶん、しっかりと臭みを抜いてくれたからだと思いますが

と、言うことで第35話でした
次話は未定です

では、次話でお会いしましょう


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第36話~もみじがり~

 

 

「えっ? 妖怪の山に新しい神社?」

 

「そう、どうやら外の世界から移ってきたらしいわ。いったい、どこの誰でしょうね?」

 

 クスクスと胡散臭い笑を浮かべながら紫が言った。何を隠しているのやら……

 

 それは店の中で、のんびりくつろいでいる時のこと。

 いつものようにいきなり紫が現れ、そのことを教えてくれた。新しい神社ねぇ……しかし、なんで妖怪の山なんかに立てたんだか。あんなとこ、普通の人間には博麗神社より行きづらいのにね。天狗も五月蝿いし。

 

「そろそろ霊夢も動く頃だわ」

 

「うん? 霊夢が? 別にその新しい奴らが、異変を起こしたわけではないんでしょ?」

 

 ただ移ってきただけじゃなく、他にも何かやったのかな?

 

「どうやら、その新しく来た神社の巫女が、霊夢に博麗神社の営業もやめるように言ったみたい。どうせ、幻想郷の信仰を独り占めしようとか、考えているのでしょう。つまり、これは異変よ」

 

 営業も何も、あの神社に信仰なんてほとんど集まってないと思うけど。

 とは言え、博麗神社を止めにかかるとは……一見、ズレた考えだけど、幻想郷の中心はあの神社なのだし、正しい考えではあるかもしれない。それに、そんなことを言われたら、霊夢だって怒るだろうなぁ。

 異変か、全く……面倒なことを。

 

「んで、俺は何をすればいいのさ?」

 

 紫がそんな世間話をするためだけに、此処へ訪れたとは考えられない。

 

「あら、随分と察しが良いわね」

 

 そりゃあ、これでも長い付き合いだし……

 

「特に黒に、やってもらいたいことはないけれど……そうね、ちょっとその新し

い神社の様子でも見てきたら良いんじゃない?」

 

 つまり、行けってことですか。

 

「了解。まぁ、のんびりと妖怪の山でも見てくるよ」

 

 秋、実りと紅葉の季節。

 天狗は鬱陶しいけれど、紅葉狩と洒落込みましょうかね。

 

 ――あっ、そうだ紫。頼みたいことがあるんだけど。

 

 さてさて、今回はどんな人との出会いがあるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 全く、今思い出しても腹が立つ。いきなり来たかと思ったら、神社を明け渡せとか、信仰心をもらうだとかなんとか……だいたい、うちの神社に信仰心なんてほとんどないわよ。

 

 信仰心、か……どうにかもっと楽に、お賽銭が集まらないものかしら? うちにお賽銭が集まらないのも、信仰心が少ないからだろうか。

 

 そいつがいる場所へ向かう途中で倒した神や妖怪によると、何故か黒はもう既に此処へ来ているらしい。

 行くのなら、私と一緒に行けば良いのに……

 

「あやややや。侵入者がいると聞いて来てみれば、貴方でしたか」

 

 妖怪山を進んでいると、いつかの新聞記者天狗が現れた。

 

「私は天狗に用はないのだけど。この山に新しく来た神様に用があるだけ」

 

「ああ、あの神様のことね……」

 

 何か知っているらしい。

 まぁ、この山に住んでいるのだから、知っているに決まってそうだけど。

 

「この山を自分の物にしようとして、ひたすら信仰心を集めているってうわさよ。けれどもそれは、私達天狗がなんとかするから、貴方も黒さんも行く必要はないわ」

 

 折角ここまで来て、帰るわけがないでしょうに。

 

 それにしても――

 

「黒は今どこ?」

 

「今頃、頭でっかちで真面目な白狼天狗が、対応しているはずよ。残念だけど、黒さんじゃ勝てないでしょうね。天魔様なら、きっと黒さんがこの山に入ることを拒まないはずだけど、黒さんを嫌う大天狗も多いし」

 

 ――ホント面倒臭い。

 

 天狗の独り言が溢れた。

 

 対応ねぇ……

 

「……そいつって、あんたより強いの?」

 

「まさか。けれども、流石に黒さんには負けないわよ。どうしてあの人は、あんなに弱いのか……」

 

 なんだろうか、少しだけ心がざわつく。

 確かに、普段の黒は弱い。ちょっと驚いてしまうくらい弱い。けれども、きっと今の黒なら……

 

「じゃあ、黒が勝つわよ」

 

「……う~ん、貴方だって黒さんの実力はわかるでしょ? それに私は、貴方よりもずっと昔から、黒さんのことを知っている。貴方が思っているよりも、私と黒さんの仲は近いわよ」

 

 天狗の言葉に、チクリと体の何処かが痛んだ気がした。

 なんだって言うのよ……

 

「さて、無駄話はこれくらいにして……面倒だけど私は貴方を、あっさりと通すわけにはいかないの。さあ、前みたいに手加減してあげるから、本気で掛かって来なさい」

 

 どことなくモヤモヤした感じ。

 けれども、何故か調子は悪くない。それなら、本気でやってあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 紅葉を楽しみながら、歩いてゆっくりと妖怪山を進む。

 どうかどうか、天狗に見つかりませんように。

 

 季節は秋本番、赤や黄色に色付いた葉がとても綺麗だった。

 俺の能力も、花びらだけじゃなくて、紅葉とかにも変えられたら良かったのになぁ……良い加減、あの花びらも飽きた。

 

 

 自分では隠れるように進んでいたつもりだったけれど、道中では色々な奴らと出会うことに。焼き芋の香りがしたと思ったら秋姉妹の妹さんだった。

 

「や、久しぶり。今年も豊作だったっぽいよ」

 

「そうでしょう、そうでしょう。ま、私の力があればあのくらいは余裕ね」

 

 テンション高いなぁ……冬になると、ちょっと見ていられないほどのテンションになるのに。

 

「お姉さんにも、今年の紅葉も綺麗だったって伝えといてね。そうだ、今度焼き芋の作り方教えてよ」

 

 そんな感じで雑談をし、最後に紅白の巫女が現れたら、気をつけるように言って別れる。

 

 その次は厄神との出会いだった。

 

「ちょっ、お雛さんストップ、ストップ!」

 

 クルクルと回りながら近づいくるお雛さん。自分からお雛さんに話題を振るのはタブーだけど、これは仕方がないよね。

 えんがちょ、えんがちょ。

 

「あら? 黒じゃない。久しぶり。そして相変わらず貴方は厄を溜め込んでいるわね」

 

 あ、やっぱり? なんとなく、わかってた。

 

 厄を払ってもらいお雛さんと別れた後、河童なんかにも出会い、巫女には気をつけるように言っておいた。異変の時の霊夢は容赦ないからなぁ……

 

 

 そして、もう少しで目的地に着くと言うところで、犬走椛と名乗る白狼天狗に見つかった。

 これならさっさと、飛んで行けば良かったね。

 

「止まれ、そこの侵入者」

 

 いかにも天狗です。と言うような口調。

 お堅いねぇ。そういうのはあまり好きじゃないんだけど。

 

「別に天狗たちには、用ないんだから通してくれないかな?」

 

「それはできない。大天狗様からお前を通すなと言われている」

 

 はぁ、大天狗ねぇ……まぁ、あの天魔が言うとは思えないけどさ。

 

 仕方がないか、たまには頑張ってみようかな。

 

 

 さあ、もみじ狩の時間だ。

 

 ……いや、流石にちょっと酷いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「いくら真面目に戦わなかったと言っても、やっぱり強いわね。これなら、あの厄介な神様だって……」

 

「じゃ、その神様の所まで案内して」

 

 黒のことは気になるけれど、大丈夫な気がする。それはただの勘でしかないけれど、多分間違いではない。

 

 それにしても、初めから勝つ気がないのなら、さっさと通してくれれば良いのに。

私がそのことを聞くと

 

「私が貴方をさっさと通したら、見回りをしている天狗が納得しないでしょ。組織に属すると言うことは、自分の意思だけでは動けなくなると言うことなのよ」

 

 面倒な種族なのね。私は天狗じゃなくて良かったわ。

 

「う~ん、なかなか報告が来ないわね。そろそろ来るはずなんだけど」

 

「報告? 何のよ?」

 

 また、新しい天狗が来るのだろうか? そうだったら面倒ね。

 

「黒さんを倒したら、私の所へその報告が来るはずなのだけど……何をやっているのか」

 

「あんたは黒のことを過小評価しすぎよ。そいつ、黒に負けたんじゃない?」

 

「流石にそれは……」

 

 天狗がそう言った時だった。楽しげな黒の声と、明らかに棒読みな少女の声が聞こえた。

 

「よしゃ、それ行けワンコ。目的地までもうちょっとだぞ」

 

「……わんわん」

 

 その声のした方を見ると、見知らぬ少女の背中に黒が乗っていた。

 ……なにやっているのよ。

 

「えっ」

 

 間の抜けた天狗の声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 大天狗様から命令を受け、山に侵入した、黒という人間を追い払うことに。大天狗様曰く、その人物はまともに飛ぶことすらできないらしい。そんな奴、放っておいても勝手にやられそうだけど……

 しかし、上の命令には逆らえない。どこかの烏天狗は、上の命令をちゃんと聞かず、自分勝手にやっているそうだが……

 けれども、私はそんなことはしないし、やろうとも思わない。

 

 

 私の能力を使って、目的の人物を確認。

 力の無い者に此処は危険だと言うのに、そいつはのんびりと紅葉を見て、神々や河童とお喋りをしながら進んでいた。何を考えているのだろうか? これ以上進まれても困るから、黒と呼ばれる奴の場所まで行き声をかける。

 

「止まれ、そこの侵入者」

 

 舐められないよう、できるだけ低いトーンで。

 

 

「別に天狗たちには、用ないんだから通してくれないかな?」

 

 そうはいかない、こちらだって仕事なのだ。

 

「それはできない。大天狗様からお前を通すなと言われている。犬走椛、白狼天狗。お前は?」

 

 私がそう言うと黒は――はぁとため息をついて言った。

 

「黒。少しだけ長生きの人間」

 

 そして、黒が小さなナイフを構えた。

 そんな物で私とやるつもりなのか? なんとも間の抜けた人間だ。

 

「通してはくれないんだよね?」

 

 当たり前だ。

 

 さっさと終わらせるために、妖弾を何発か放つ。

 気絶されたら運ぶのが面倒だけれど、此処は仕方がない。

 

 しかし、そいつは飛ぶこともなく妖弾を躱した。

 あれ? もしかして、意外と速い?

 

 その後、何発も妖弾を放ったが黒には当たらず、その周りの木や地面ばかりが抉られていく。

 あーもうー、ちょこちょこと鬱陶しい。

 

「狗符『レイビーズバイト』」

 

 本当は、こんな奴相手に使いたくはなかったけれど、これ以上続けたくもない。

 

 弾幕と砂埃が視界を覆った。ちょっと、やりすぎちゃったか?

 しかし、晴れた視界の先には黒が立っていた。何だか嫌な予感がする。

 

「……原酒『ハッジ・フィルズ・テペ』」

 

 黒がスペルを唱えると、飛んでいた私に、赤、白、桃色の大弾と小弾の混ざった弾幕が襲ってきた。

 

「っ! 速い!」

 

 完全に舐めていた。

 それは普通なら避けることのできた弾幕。慢心、油断、用意されている逃げ道には、間に合わない。

 

 大きな霊弾だけを避け、小さな霊弾は盾を使ってやり過ごす。

 それでも、何発か受けてしまった。威力はそこまでないが、頭がふらつく。

 

「山窩『エクスペリーズカナン』!」

 

 黒のスペルカードが終わった瞬間に叫んだ。

 どういうことだ? 聞いていた話と違う。そんなこの状況を頭が理解しようとしてくれない。

 

「舞符『さくらさくら』」

 

 黒の声が小さく響くと、私の放った弾幕全てが花びらへと変わった。

 

 再び視界が埋まり、黒を見失う。

 ど、どこへ行った!?

 

 そして目の前に、あの小さなナイフが構えられていた。

 きっと、最初からこの勝負に私は負けていたのだろう。

 

「……参りました」

 

 ここから、生涯忘れることのないような、地獄の時間が始まった。

 

 

 






主人公の貴重な勝利シーンでした
たぶん、もうないです

と、言うことで第36話でした
椛さんの口調にひたすら迷いました
敬語を喋らせれば良かったです

次話は、主人公と椛さんのその後あたりでしょうか?

では、次話でお会いしましょう


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第37話~犬にでも~

 

 

「あっ、そうだ紫。頼みたいことがあるんだけど」

 

「なに?」

 

「ちょっと俺と繋げておいてくれない?」

 

「……ダメよ。この前にやったことを忘れたの?」

 

「あ~……まぁ、でも今回は大丈夫だと思うよ。妖力を霊力に変換して使うだけだし」

 

「そんなことできるの?」

 

「この前、白に教えてもらった」

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはできない。大天狗様からお前を通すなと言われている。犬走椛、白狼天狗。お前は?」

 

 俺の頭上を飛び、椛と名乗った少女が言ってきた。

 

 術式を展開、有り余る妖力を霊力に。

 体の調子を確認。調子はいつもより、ずっと良い。

 

 霊力への変換率は、良くても3%。それでも、俺の霊力は3倍近くにまで増えた。

まぁ、元が少ないしね。

 体が軽い、こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて。

 

「黒。少しだけ長生きの人間」

 

 そう言って俺がナイフを構えると、椛ちゃんは弾幕を放ってきた。

 いつかのフランちゃんの弾幕と比べると、密度は薄いし弾速も遅い。これくらいなら、能力を使うまでもないかな。

 

 どうやら、相手は俺のことを舐めてくれているみたい。大天狗から何を教わったのか知らないけれど、それなら好都合です。

 

 砂埃が立ち上り、地面は抉られ、木片が飛び散る。たぶん、一発食らったら終了だろう。

 

「狗符『レイビーズバイト』」

 

 なかなか当たらない俺に、痺れを切らしたのだろうか。椛ちゃんの声が響く。

 

 前後から、大量の弾幕が襲いかかってきた。けれども躱せない弾幕ではない。

 

 う~ん、やっぱり舐められているのかな?

 

 砂埃のスキマから、椛ちゃんと一瞬目が合う。

 

 さてさて、それじゃあ今度は俺の番です。

 

「……原酒『ハッジ・フィルズ・テペ』」

 

 赤白ピンクの弾幕をぶちまけた。

 何故か、椛ちゃんのスタートは遅れ、さらに運良く一番弾幕の濃い部分にいてくれる。

 このスペカって実は、小さな弾の方が強いんだよね……大きいのは中身スカスカで、当たってもダメージなんてないだろう。流石に霊力が足りませんでした。これは、そんな子供騙しのスペルカード。

 

 何発か椛ちゃんに当てることはできたけれど、倒れてはくれなかった。

 まぁ、そんなもんか。

 

「山窩『エクスペリーズカナン』!」

 

 椛ちゃんが叫んだ。

 

 その弾幕を避けようとした時、体に異変が起き始めた。ゆっくりと霊力が消えていく感覚。

 えっ……制限時間短くね? ヤバいヤバい!

 慌てて椛ちゃんの位置を確認。テンパりながらも、なんとかスペルを唱える。

 

「舞符『さくらさくら』」

 

 上から襲ってくる弾幕全てを、桜の花へ。足に力をこめ、桜を押しのけ、さっき確認した椛ちゃんの位置まで飛び上がる。

 

 そして切れないナイフを突きつけた。

 

 残りの霊力は、ほぼゼロ。

 ……お願いですから、これで降参してください。

 

「……参りました」

 

 制限時間ギリギリ、作戦は穴だらけ。それでも勝てたのは運が良かったからなのかな?

 お雛さんには感謝です。

 

 そして、あんまり人間を舐めちゃだめだよ? まぁ、俺が人間かと聞かれるとちょっと怪しいけれどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 椛ちゃんと共に地面へ降りたが、足の震えが止まらない。疲れも一気に襲ってきた。

 どこかに良い、乗り物ないかな~そんなことを思いつつ、椛ちゃんを見つめる。

 

「……なんですか?」

 

 すごく不機嫌そうな椛ちゃん。

 うん、良い表情じゃないか。

 

「ねぇ、犬なんとか椛ちゃん」

 

「その悪意しか感じない呼び方はやめてください!」

 

「じゃあ、犬ちゃん」

 

「もっとダメだよ!! ブッ飛ばすぞ!?」

 

 おおー、椛ちゃんがキレた。

 う~ん、ずっとからかっていたいけれど、これ以上はカメラが止まる。そろそろ話を進めるとしよう。

 

「ちょいと、新しくできた神社まで乗せてってくれない?」

 

 もう、歩くのも面倒だし、椛ちゃんと一緒なら他の天狗も襲ってこない。正に一石二鳥。

 椛ちゃんのメリットは皆無だけど。

 

「嫌です。なんで私が……」

 

 ほほー、そんな反抗的なことを言って良いのかな?

 

「じゃあ、俺みたいな弱い奴に、椛ちゃんは手も足も出ずボコボコにされたって、これから合う天狗全員に言いながら進むよ」

 

 俺がそう言うと、椛ちゃんはビクっと体を震わせた。

 

「えっ、それは……」

 

 ……なんだろう、こんな反応されると、俺の弱さを見せつけられているようだ。

 えっ? 俺ってそんなに弱いって思われていたの?

 

「わかりました……案内します」

 

 肩と犬耳を落としながら椛ちゃんが言った。さて、じゃあどうやって乗せてってもらおうかな?

 

 ん~……

 

「よしっ、ほら四つ這いになれ」

 

 それは、本の冗談で言った言葉。けれどもその言葉を受け椛ちゃんは、ギリギリと歯を噛み締め俺を睨みつけながら、地面に手を置いた。

 

 ……えっ、マジで?

 

 どうしよう……今更冗談でした。とも言えないし……

 

「ほら、黒。さっさと乗ってください!」

 

 めっちゃ怒ってるよ。ん~ここまで来たら、徹底的にやった方が良いのかな?

 

「黒? 黒さん。だろ? ああ、ご主人様でも良いよ?」

 

 おお、何かテンション上がってきた。

 

「っーー!……乗ってください、黒さん」

 

 椛ちゃんが凄い表情になった。

 あれ? ちょっと泣いて……み、見なかったことにしよう。

 

 

 

 

 椛ちゃんの背に乗り、神社へ向かう途中も椛ちゃんで遊び続けた。呼び方をワンコに変えたり、「わんわん」と言わせてみたりなどなど。なにこれ楽しい。

 そんな俺を乗せながら何かを呟く椛ちゃん。

 

 ――コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル……

 

 ああ、うん。聞かなかったことにしよう。

 

 

 

「よしゃ、それ行けワンコ。目的地までもうちょっとだぞ」

 

「……わんわん」

 

 目的地までもう少し。椛ちゃんは反抗するのも諦めたらしい。

 彼女はちょっと真面目すぎるかもね

 

 そして、視界に霊夢と文が映った。霊夢にはいつの間にか抜かされていたっぽい。ちょっと遊びすぎたね。

 

 文が俺たちに気づくと――

 

「えっ」

 

 と、間の抜けた声を出した。

 椛ちゃんも文たちに気づくと、俺を振い落し、俺は地面に叩きつけられた。……痛い。

 

「えと……どうして黒さんと貴方が?」

 

 そんなことを文が聞いてきた。

 椛ちゃんの方を見ると、下を向き肩を震わせていた。

 

 ……ふむ。

 椛ちゃんの頭に手を置き、文へ伝える。

 

「ただ椛ちゃんに案内してもらっただけだよ」

 

 ――えっ。

 

 なんて声を出し、椛ちゃんが俺を見てきた。

 ごめんね、ちょっと意地悪しすぎたな。

 

「……そうですか。まぁ、また後で詳しく聞かせてくださいね」

 

 納得していない様子の文。

 それはやめてもらいたい。俺は喋んないよ? 文に捕まると面倒だし。

 

「神社はすぐそこですので、私は仕事へ戻ります。では、また」

 

 と言い、ものすごい速さで文は飛んで行ってしまった。

 

「んじゃ、行くか」

 

 霊夢と椛ちゃんに言う。

 

「勝てたの?」

 

 霊夢が聞いてきた。

 

「うん」

 

 そして、俺がそう言うと霊夢は――

 

「そう」

 

 とだけ言った。

 たったそれだけの言葉だけれど、何故か霊夢の機嫌は良さそうに見える。

 

 

 

 

 それから、神社へ続いていると思われる道を、三人でゆっくりと進んだ。

 

「そう言えば黒は、ここの神社の奴らとも知り合いなの?」

 

「いや、今回はわかんないよ。全く何処の誰がこんなことをしたのか……」

 

 しかし、外の世界から神社ごと移すってことは、相当力があるんだろうね。話の通じる相手だと良いけれど……

 

 そんなことを考えつつ、紅葉なんかを見ながら進んでいると、頭にコツンと何かが降ってきた。

 

「おろ? ああ、ドングリか……霊夢、食べる?」

 

「バカにしないで、流石に今はそこまで飢えてないわよ。そんなの犬にでも食わせておきなさい」

 

 今はってお前……

 それにしても、ふむ、犬にでも、か。

 

「はい、じゃあ椛ちゃんにあげるよ」

 

「だから、私は犬じゃありません!」

 

 怒られた。

 別に犬でも良いと思うけどなぁ。

 可愛いじゃん犬。俺は猫派だけど。

 

「ほら、バカなことやっていないで、さっさと進むわよ」

 

 いかんな、幻想郷には珍しいツッコミ要因がいたからつい……

 

 

 

 

 

 参道を上り終え、立派な鳥居をくぐり漸く神社に着いた。

 

 って、あら? この神社にこの気配……

 

「フフッ、まさか貴方の方から山に入るとは、今すぐうちの神様を……って、えっ?」

 

 早苗ちゃんがいた。

 ……なんだこれ。

 

 

 






クヌギなんかのドングリはあくが多くて抜くのが面倒ですが、結構美味しいですよね
あくが少なく、水に沈むような新鮮なドングリは生でも美味しいですよ

と、言うことで第37話でした
ツッコミ要因は大切ですね
主人公も、ちょっとだけ強くなったっぽいです
どのくらいの強さかよくわかりませんが

次話は守矢神社からですね

では、次話でお会いしましょう


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第38話~巫女と蛙と御柱~

 

 

「えと……黒さんですよね?」

 

 早苗ちゃんが言ってきた。

 この状況はなんだろうか……つまり、新しく来た奴らってのは諏訪子や神奈子たちだったってことだよね。

 

 どうしよう、他人の振りしようかな。

 

「なるほど、黒さんは幻想郷の方だったのですね。それなら納得です」

 

 あの、早苗ちゃん? 少しだけ俺のことは放って置いてくれない? さっきから、隣の人の視線が怖いです。

 

「……やっぱり、知り合いじゃない」

 

「あ~いや、本当に今回は知らなかったんだよ」

 

 なるほど、紫が俺に行けと言った理由はこれか。そりゃあ、俺だって諏訪子たちと会えるのは嬉しいけどさ。

 

「そう」

 

 俺の言い訳に対し、霊夢はそれだけ言った。

 まずい、めっちゃ不機嫌になってる……さっきまで機嫌良かったのに。

 

「あの……私はどうすれば?」

 

 椛ちゃんが聞いてきた。

 ああ、ごめん。すっかり忘れていたよ。

 

「ここまで案内ありがとね。もう帰って良いよ」

 

「あ、はい。わかりました。その……」

 

 おろ? どうしたのかな?まさか、復讐しようとかですか?

 ……土下座で許してくれるかな。

 

「ど、どうしたの?」

 

「えと……いえ、何でもありません。では、私も任務に戻ります」

 

 うん? なんだったんだろうか?

 まぁ、何もないのならそれで良いけど。また会えると良いね。

 

 

 

「えと、話を戻しますね。ここは守矢神社。忘れ去られた過去の神社です。貴方の方から来たということは、今すぐうちの神様n「見て見て、神奈子! 黒が来たよ!!」……話をさせてください」

 

 早苗ちゃんが話始めたと思ったら、神社の方から元気な声が聞こえてきた。

 

「ちょっ、ダメよ。諏訪子。あんたはまだ奥にいなさい」

 

「別に私は良いじゃん。今日は出番ないんだし」

 

 ……あの神々は何て言う会話をしてるんだよ。

 本当にやめてください。

 

「まぁ、それもそうか」

 

 お願いだから、神奈子も納得しないで!

 

「じゃあ、私も行こうかな」

 

 来んな! お前は湖で待ってなさい。

 

「随分と人気なのね」

 

 霊夢が言った。

 あの霊夢さん? 目つきが怖いんですけど……

 

「やほー、久しぶり黒」

 

 神社の中から諏訪子登場。

 

「あ、うん。久しぶりだね」

 

「うん? どうしたの? 反応が薄いけど」

 

 反応しづらいことを、お前らがしてくれたからかな。

 

「諏訪子様まで……はぁ。とにかく、貴方の神社を頂き、ここ幻想郷の信仰心は全て私達の物にします。幻想郷の為にも、失われた信仰心を取り戻します」

 

 別に博麗神社をもらったって、信仰心なんてほとんど増えないと思うけど。あの神社、神様が祭ってあるのかもわかんないし。

 

「信仰心くらい私の力で、何とか戻すわよ」

 

 霊夢にできるかなぁ……

 

「神を祭る人間が祀られる事もあります。つまり、巫女が神になるということ。 貴方にはその覚悟がありますか? 私たちは貴方の神社を救うためにも言っているのですよ」

 

 人間でありながら神。

 所謂、現人神。神様になる覚悟、ねぇ。

 

「神になろうが、なるまいが関係ないでしょ? 私は自分でやるから、別にあんたたちの力なんていらない」

 

 霊夢があの神社をどう思っているのかは、わからないけれど、これを機会に少しだけ考えてくれると嬉しいかな。

 

「そう言えば、どうして諏訪子たちは幻想郷に来たの?」

 

「……色々あってね。まぁ、お茶でも出すから、ちょっと母屋で話そうよ」

 

 俺が諏訪子と一緒に歩き始めると、早苗ちゃんと霊夢の弾幕ごっこが始まった。

 それじゃ任せたよ、博麗の巫女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ~、お茶どこだっけ? う~ん、いつも早苗が用意してくれたから、わかんないや」

 

 戸棚をゴソゴソとやりながら諏訪子が言った。

 部屋の中にある、多くの家電製品。……全部使えないけど、これからちゃんと生活していけるのかなぁ。

 

「まぁ、お茶は良いよ。そこまで喉が渇いているわけでもないし」

 

 本当は、もうくたくたでお茶が怖いです。

 

「そう? 今度早苗に聞いておくよ。ああ、幻想郷に来た理由だったね」

 

 そして、諏訪子がポツポツと話し始めてくれた。

 

 

 諏訪子の話をまとめると、外の世界では科学の進歩もあり、どんどんと神々への信仰が薄れているらしい。

 そして、そのままだと自分たちが神として存在することができなくなる。諏訪子はそれほど気にしなかったらしいけれど、神奈子はこれに焦り、未だ神々への信仰が忘れられていない幻想郷へ移ってきた。

 それで神奈子が幻想郷で山の神として、やっていくために妖怪の山に。山の妖怪たちからだけ信仰を集め、神徳を与えると幻想郷のパワーバランスが崩れる。だから麓の信仰を集めるためにも、博麗神社が欲しいそうだ。

 諏訪子は、そう説明してくれた。

 

 でも、これじゃあ諏訪子は……

 土着神なのに諏訪地方を離れ、信仰は減り、神力も昔と比べてかなり落ちただろう。そんなことくらい、わからないはずがない。

 いつも無邪気に笑っているが、その奥ではきっと……

 

「あら、どうやら早苗は負けちゃったっぽいね」

 

 早苗ちゃんの強さはわからないけれど、まぁ、弾幕ごっこで霊夢には勝てないでしょ。あの神奈子だって霊夢には勝てないと思う。

 

「あ、諏訪子様に黒さん。こちら居られたのですね」

 

 や、早苗ちゃん、お疲れ様。

 

「ちょうど良かった。早苗、お茶出して」

 

「はい、わかりました」

 

「これから毎日、黒のお酒を飲めると思うと幻想郷に来て正解だったね。暮らしはちょっと不便になっちゃったけど」

 

 ケロケロと笑いながら諏訪子が言った。

 

「いや、毎日は飲めんぞ?」

 

 それに今は日本酒ないし。

 お米は収穫できたから、発酵中です。あと、2,3日くらいでできるから、もう少し待っててね。

 

 

 

「お待たせしました、粗茶ですが一服どうぞ」

 

 あ、どうも、ありがとです。

 

「すごいね、あの巫女。神奈子と互角に戦ってる。いいな~、私も今度やってみようかな」

 

 まぁ、あの巫女、人間やめてるし。でも、弾幕ごっこは俺以外の奴とやってね。

 

「霊夢さん……でしたでしょうか。何者なのですか?」

 

 何者と聞かれても困る……俺だって、どうして霊夢があそこまで強いのか、わかんないんだ。

 

「楽園の素敵な巫女さん……かな? 弾幕ごっこなら、幻想郷で一番強いと思う」

 

 俺の答えに、早苗ちゃんは首を傾げた。

 霊夢も小さな頃から、今までの博麗の巫女と比べて変わっているとは思っていたけど、ホントどうしてだろうね? 修行だってろくにしてないのにさ。

 

「黒は弾幕ごっこやらないの?」

 

 諏訪子が聞いてきた。

 

「俺はさっきやったからいいや。もう霊力だって空だし」

 

 本当はさっさと帰って休みたいのです。

 

「相変わらず、霊力は少ないね~あっ、神奈子たちも終わったみたい」

 

 よくわかるね、流石は神様です。

 

「どちらが勝ったのでしょうか?」

 

 まぁ、霊夢だろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 守矢神社の境内へ行くと、霊夢がふよふよと飛びながら戻ってきた。

 

「お疲れ様」

 

 弾幕ごっこを終えた霊夢へ労いの言葉を一つ。

 

「なんだか、今日はいつもより疲れたわ。早く帰ってお茶が飲みたい」

 

「神奈子たちには何も言わなくても良いの?」

 

 もう少しで博麗神社を取られるところだったのにさ。

 

「そういう細々とした話は遠慮するわ」

 

 いや、霊夢の神社でしょうが。もっとちゃんと、考えてあげなさいよ。

 

「ねぇ、黒」

 

 少しだけ真剣な表情をして霊夢が聞いてきた。

 

「うん? どしたの?」

 

「うちの神社って誰を祭ってあるの?」

 

「ん~……俺も知らないんだよね」

 

 いつの間にかあの場所にあって、いつの間にか大切な場所になってた。たぶん、紫もわからないんじゃないかな。

 

 それにしても、こういうことを霊夢から聞いてくるとは珍しい。今回の異変で、色々と思うところがあったのかな。そうだと嬉しいけど。

 

「そう……じゃあ私は帰るけれど、黒は?」

 

「俺はもうちょっとだけ残るよ。神奈子たちに、言わなきゃいけないこととかあるし」

 

 幻想郷で守ってもらいたいこと、山の妖怪との和解、あと異変を起こしたのだし、宴会も開いてもらわないと。ああ、ついでに俺の家とも繋げてもらおうかな。そうすれば天狗に見つかることもないし。

 

「……それなら私ももう少し残るわ」

 

 うん? そう? まぁ良いと思うけど、珍しいね。

 どうしたんだろうか?

 

 そして、なんとなく、霊夢の頭に手を乗せてみた。

 

「なによ?」

 

「いや、霊夢も大きくなったと思ってさ」

 

 ちゃんと成長してるんだな。そんなことを思った。

 

 それにしてもヤバイな、もしかして俺って霊夢より小さい? 八意さんなら、背が伸びる薬とかくれないかな。八意さんからもらうのは、ちょっと怖いけど。

 

「じゃ、行くか。お茶でももらおうぜ」

 

 こうやって、霊夢と話すことがなくなる日が来るのだろう。だから、もう少しだけ大切にしてみようと思った。

 

 な~んてね。

 

 






最初にこの38話を書いたときは、何故か霊夢さんがヤンデレになってしまったため、慌てて書き直しました
その残りが少しだけありますね


と、言うことで第38話でした
サブタイトルに意味はありません
ノリでつけました
次話は博麗神社で宴会っぽいです

では、次話でお会いしましょう


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第39話~だから違うと言ってるでしょうが~

 

 

「それじゃ、新しい仲間と、これからの幻想郷に……」

 

 ――乾杯っ!

 

 博麗神社にそんな元気な声が響き渡った。

 日も沈み、妖怪たちが騒ぎ出す時間。博麗神社の周りも、漸く葉たちが色づいてきている。

 

 守矢神社、紅魔館、白玉楼に永遠亭の皆さんも交えての大宴会。それにしても……開く度にメンバーが増えてない? 俺の持ってきたお酒だけじゃ、絶対足りないよね。

 

 ただ、今年のお米は粒も大きく良いできだった。きっと日本酒も美味しくできたと思う。

 

「なんだか、ここは不思議な場所ね」

 

 神奈子が言ってきた。

 人間や妖怪、亡霊なんかもいる。きっとそれは外の世界じゃ考えられないこと。

 

「悪くない場所でしょ?」

 

「まぁね。外の酒だけど飲むかい?」

 

 む! 諏訪のお酒ってこと? それならいただきます。

 酒処諏訪。諏訪のお酒って美味しいんだよね。

 

 神奈子からもらった酒に口をつけてみる。

 芳醇な香りや深い味があるわけでもない。それでも……

 

「おいしい」

 

 軽く喉を焼きながら体に染み渡っていく。

 とにかく美味しい。香りや味がどうでもよくなるほどに美味しい。どうやったら、こういうお酒が作れるのかね?

 

「これ、高かったんじゃない?」

 

 きっと純米大吟醸だろう。

 

「最後だったしね。全部のお金を使ったのよ」

 

 いかんな、口当たりが軽いせいかどんどん飲んでしまいそうだ。外の世界にも、こんなお酒が残っていたのか……

 

 萃香のお酒でも飲んで、一回落ち着かないと。

 

「私は黒の作ってくれたお酒も好きだよ」

 

 そりゃあ、嬉しいね。そう言ってもらえれば、作ったかいもある。

 

 

 周りを見ると、早苗ちゃんが一人でポツンとしていたのを見つけた。

 

「早苗ちゃんは飲まないの?」

 

「その、私はまだ未成年ですし……」

 

 同じ未成年仲間の、霊夢や魔理沙ちゃんは飲みまくってるけどね。

 

「ここは幻想郷。外の世界とは違うから、未成年とか気にしなくても大丈夫だよ」

 

 とは、言うものの今の早苗ちゃんじゃ、美味しくお酒を飲めやしないだろう。お酒を飲んだこととか、なさそうだもん。

 

「でも、今までお酒なんてちゃんと飲んだことがないですし」

 

 あ、やっぱり。

 いきなり、鬼のお酒とか飲んだらどうなるのかな? ちょっと見てみたい気も……

 

 今ここにあるお酒は全部、アルコール度数が高い。初めて飲むには厳しいかもね。

 

 そんなことも考えて、ちゃんと用意してきたんだ。

 

「ちょっと待っててね」

 

 

 博麗神社の母屋まで行き、準備をする。そして、できた物を早苗ちゃんに。

 

「はい、どうぞ」

 

「えと、これは?」

 

 梅酒とレモンティーを1対1で割った物。お酒の香りもあまりしないから、飲みやすいと思う。

 

「あ、おいしい」

 

 恐る恐ると言った感じで飲み、早苗ちゃんが言った。そかそか、そりゃあ良かった。

 

「せっかくの宴会なんだしさ。色々な奴らと話をしてみれば? 宴会中のあいつらは結構楽しいよ」

 

 俺がそう言うと早苗ちゃんは――

 

「はい、そうしてみます。飲み物ありがとうございました」

 

 と、言って騒がしい方へ向かって行った。

 

 

 ああ、逝ってしまったか……たぶん、助からないだろうな。

 早苗ちゃんの最期を見届けていると、後ろから声が聞こえた。

 

 

「わー久しぶりー!」

 

 声のした方を向くと、フランちゃんがお腹へ突撃してきた。

 体に衝撃が走る。息が止まった。

 

「こ、こひゅ……あふ……や、やあ久しぶりフランちゃん」

 

 飛びそうになった意識を何とか捕まえて、フランちゃんに話しかけた。

 

「最近は全然来てくれないけど、どうしたの?」

 

 そう言えば、最近紅魔館へ行ってなかったね。単純に忘れていただけです。うん、じゃあ、今度遊びに行くよ。なんて、フランちゃんに伝えようとすると、また声が聞こえた。

 

「わー黒だー!」

 

 諏訪子が頭から、俺の横腹へ体当たりをしてきた。

 レバーへもろに入った。

 

「ちょっ……おまっ……」

 

 やばい、上手く声が出ない。

 

「わー! わー!」

 

 また声がした。

 萃香だった。

 

 ちょっと待って! 無理! 萃香は無理!!

 角刺さるから! 案外簡単に刺さるから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「わーっ、黒が倒れた!」

 

「えっ? これ生きてる?」

 

 宴会らしい賑やかな声が博麗神社に響く。

 

「……息してない」

 

 うん、いつも通りだ。

 

 そんないつも通りの宴会、いつも通りの博麗神社に見慣れないものが一つ。そいつは鳥の巣箱のような形をしていた。

 

「なあ、霊夢。神社の隅の方にある鳥の巣箱みたいなやつはなんだ?」

 

「巣箱じゃなくて神社よ」

 

 霊夢がお酒を飲みながら答えた。

 

 霊夢の視線は、倒れている黒の方。気になるのなら行けば良いのにな。

 

「神社? こんなに小さいのにか?」

 

 しかも、どうして新しい神社なんて作ったのか。

 

「詳しく言うと、神奈子の分社よ。試しに建ててみたの」

 

 こんな小さな神社で効果があるのか? と思ったが、どうやらこれだけで十分らしい。神社ってのは、随分と融通が利くな。

 きっとこの分社がこんなに小さいのは、霊夢のちょっとした意地なんだろうな。そう考えると、少しだけ笑える。

 

「……何笑っているのよ、魔理沙」

 

 おっと、表情に出ていたらしい。コイツはやたらと聡いし、気を付けないとな。

 

「いや、なんでもないよ」

 

 しかし、こんなもので神社になるとは……今度私も作ってみようかな。

 

 霊夢はこの分社を建てたことで、人間の参拝客(お賽銭)を期待していたが、たぶん無理だろう。分社云々の前に、此処へ蔓る妖怪を何とかしないと。

 

 

 周りを見る。

 沢山の妖精や妖怪。そしてその中に、新しく来た早苗とか言う巫女が、境内の真ん中で倒れていた。

 アレ、大丈夫なのか? どうやら巫女にも色々な種類があるらしい。

 

 

 

「全く、静かにお酒も飲ませちゃくれない」

 

 黒が片手にお酒、腰に萃香をつけてこちらに来た。

 と、言うか逃げてきただけだろうな。逃げきれてないけど。

 

「や、魔理沙ちゃん」

 

「よ、黒」

 

 とりあえず、黒からお酒をもらう。それは最近作ったばかりのお酒らしい。細かい味なんて私にはわからないけど、まぁ、美味しいことは確かだ。

 

 私はお酒に詳しくないけれど、美味しく飲むことができれば十分だと思う。

 

「なあ、黒。信仰ってなんだ?」

 

「ん~……何かを信じるってことじゃないかな。一般的には神様をなんだろうけど、魔理沙ちゃんの場合は魔法とかでも良いんじゃない?」

 

 ――詳しいことは神奈子にでも聞いてくれ。

 

 と、黒はそう答えた。

 へ~、そういうもんなのか。

 

 

 ああ、そうだ、黒に聞かなきゃいけないことがあった。

 

「黒ってロリコンなんだろ?」

 

 ロリコンの意味は知らないが。

 

「えっ」

 

 あら、固まった。

 

「え? え? 魔理沙ちゃん、それは誰から?」

 

「この前、紫から聞いた。んで、ロリコンってどういう意味?」

 

 ――あのババァ……

 

 そんな黒の独り言が聞こえた。

 

 んなこと言うと、また怒られるぞ。私は知ったこっちゃないが。

 

「ロリコンっていうのはねー。私みたいに小さな女の子が好きな人を言うんだよ。へ~、黒ってロリコンだったんだ」

 

 ニヤニヤと笑いながら、守矢神社のもう一柱の神様である、諏訪子が言った。つまり、さっきフランドールや萃香に絡まれていたのも、黒にとっては……

 

「へ、変態だ」

 

「いや違う! 違うからね!?」

 

「へ~そうだったの」

 

 霊夢の声が聞こえた。うわっ、めっちゃ不機嫌になってる。いったいどうしたのだろうか?

 

「れ、霊夢さん? なんでそんなに怖い顔を?」

 

「べつに、なんでもないわ」

 

 オロオロしている黒と、ツーンとしている霊夢。なんだか見ていて微笑ましいな。

 

 

 宴も闌。

 うんっ、お酒が美味しい季節だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 魔理沙ちゃんには引かれるし、霊夢は機嫌が悪いしと、なんだかなぁ……別に俺は悪いことしてないと思うんだけど。

 

 せっかくの宴会。

 色んな奴と話さなければもったいない。

 

 勇気を振り絞って、八意さんに背の伸びる薬はないか聞いてみた。すると、八意さんがとても良い笑顔で、今度永遠亭に来いと言ってくれたけれど、何をされるんでしょうね?

 その笑顔がひたすらに怖いよ……

 

 酔っ払って刀を振り回している妖夢ちゃんを宥め、倒れた早苗ちゃんを神社へ運び、姉妹仲良くお話中のスカーレット姉妹の所へ。

 

 少し昔と比べると、この姉妹もかなり仲良くなったと思う。この前、紅魔館へ遊びに行ったときは、レミリアが――

 

「たーべちゃうぞー!」

 

 とか言いながら、フランちゃんと鬼ごっこをしていた。流石に、それはどうかと思う。

 

 レミリアに最近の調子を聞くと、ロケットを作って月へ行くらしい。

 ……逝ってらっしゃい。

 えっ? 俺もついて来い? 勘弁して下さい。

 

 

 

 騒がしかった宴会も、日が昇り始める頃に終わった。後片付けも済ませ、お茶を飲んで一服。

 あ~眠い。

 隣でお茶を飲んでいる霊夢も、眠そうにしていた。お疲れ様。

 そして、霊夢の機嫌も元に戻ってくれたらしい。良かった、良かった。

 

 お茶も飲み終わり、帰る準備を始める。俺も流石に眠いです。

 

 ふむ……

 

「なあ、霊夢。今度どこかへ遊びにでも行くか」

 

 人里でもブラブラとさ。

 

「二人で?」

 

「二人で」

 

「……逢引?」

 

 んなわけないでしょうが。

 

「まぁ、別に良いけれど……」

 

 そかそか、それなら良かった。

 

 さてっと、帰ろっかな。

 

「じゃ、また」

 

 茹だるような暑さも終わり、過ごしやすい季節。食欲、実り、読書、紅葉、行楽と見境なしの秋。

 

 そんな季節、何からやってやろうかね?

 

 

 






諏訪のお酒と言えば真澄!
純米大吟醸、夢殿とか一度で良いから飲んでみたいです
諭吉を飛ばせば飲めますが……

と、言うことで第39話でした
目標の風神録もこれで終わりです
やっと失踪する準備ができましたね

とは言え、一応もう少し頑張る予定です

感想欄に書くのはNGだそうです


では、次話でお会いしましょう


感想・質問何でもお待ちしております


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第40話~月へ~



ワインを買ったのですが、コルク抜きがありませんでした
そこで、ネットに書いてあった瓶の底を叩いてコルクを抜く方法を試しました

瓶、割れました




 

 

 2回深くお辞儀をしてから、パンパンとまた2回手を叩く。所謂、二礼二拍。

 

 そんな神社への参拝の仕方をしてから、魔女さんは言った。

 

「アーメン」

 

 どうしよう、どこから突っ込んで良いのかわからない……

 妖精メイドたちも、魔女さんに習って同じことをしている。なんですか、コレ。

 

「えと、あれは何の宗教だ?」

 

 魔理沙ちゃんが言った。

 知るかよ。

 窓にコツンと何かが当たる。どうやらお賽銭も投げているらしい。いや……もう、何でもありですね。

 

「お賽銭は神社でするもんだろ?」

 

「別に、神社ってのはあの建物じゃなくても良いの。神様の宿る器さえあれば神社になる。つまり、このロケットは空飛ぶ神社よ」

 

 霊夢はそう言って、何かを唱え始めた。神降ろしが始まったってことだろう。

 さてさて、流石にもう逃げることはできなさそうだ。まさか、本当に月へ行くことになるとはねぇ……

 一億年遅いってんだよ。

 

 月旅行へのきっかけなんて些細な物なんだろうけれど、考えずにはいられない。ホント、どうしてこうなった……

 

 色々と考えてみたけれど、最初はあの兎の妖怪さんが始まりなんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 それはまだ、妖怪の山のあの神々が幻想入りしていない、夏の日のこと。その日はたしか、満月だったと思う。

 

 暇でも潰しに博麗神社へ行くと、霊夢が綺麗な布を持っていた。その布やたら高級そうだけど、どうしたのかな

 

「や、霊夢。その手に持ってる布はどうしたの?」

 

「昨晩、うちの神社で倒れていた妖怪の近くに落ちていたから、拾ったのよ」

 

 へ~、じゃあその布は妖怪さんのやつってことか。

 

「良い拾い物をしたわ」

 

 いや、返してあげなさいよ……

 

 霊夢とそんな話をしていると、ウサ耳の少女が出てきた。

 おろ? 霊夢のやつ、珍しく助けてあげたのか。ウサ耳を付けてるところを見ると、永遠亭の兎なのかな? どうしてこんな所にいるのかわかんないけど。

 

「あっ、私の羽衣」

 

 ウサ耳少女が言った。

 

「残念だけど、これは私が拾ったものよ」

 

「いや、返してやれよ」

 

 可哀想でしょうが。ブーブー文句を言う霊夢を宥め、ウサ耳少女に羽衣を渡す。

 うおっ、やたら軽い。この羽衣、重さが全くないぞ。ん~……普通の羽衣ってわけではなさそうだ。

 

「あ、ありがとう」

 

 どういたしまして。

 

 

 

 

「んで、君はどうして博麗神社へ来たの?」

 

 お茶と持ってきた洋菓子を出し談笑。霊夢は昨日寝ていないらしく、お昼寝をしています。

 迷子なのかな? それなら俺の店に来そうだけど……

 

「ちょっと三寸級のスペースデブリにぶつかっちゃって」

 

 はい? スペースデブリ? どういうことですか?

 

「えっ? 君って宇宙とかから来たの?」

 

「あっ、えと。な、なんでもないわ」

 

 う~ん、何を隠しているのやら。

 

 ウサ耳、重さの無い羽衣、スペースデブリ……ふむ。

 

 

「まぁ、よくわかんないけど、とりあえず八意××さんの所にでも……」

 

「えっ? ど、どうしてその名を発音できるの!?」

 

 おおっ、釣れた。

 なるほどなるほど、やっぱり月から来たのか……しかし、穢れ溢れるこの地へ、何しに来たのでしょうね。

 正直、あんまり関わりたくはないかな。

 

「ここから、南西の方角へ進むと莫迦みたいに広い竹林がある。そこに八意さんがいるから訪ねてみれば?」

 

「八意様が此処に……うん、わかった。行ってみるわ」

 

 そう言うと、ウサ耳少女は『ありがとう、ありがとう』と何度も頭を下げながら行ってしまった。

 ああ、今日もお茶が美味しい。

 

 その日の夜。

 夜空には、登る流れ星が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 それが、今から三ヶ月と少し前にあったお話。きっとあのウサ耳少女も、今は月で餅でも搗いているだろう。

 

「そう言えば、ロケットの下に敷いてあった、赤い線は何なんだ?」

 

「俺も詳しいことはわからないけど、どうやら赤道を模しているみたいだよ。赤道から発射させればより少ないエネルギーですむみたい」

 

 地球の自転が、どうのこうのとか言っていたけれど、俺にはよくわからなかった。魔術はさっぱりなんです。

 

 このロケットは、外の世界のロケットを真似したらしく、三段式になっている。それも綺麗な形ではなく、一段一段がズレていて、いくつかの窓とその窓にカーテンや煙突がつけられていた。

 宇宙なめてんのか! と思うような形だけれども、ここは幻想郷。魔力と神力で飛ぶこのロケットには、そんな形なんて関係ない。

 俺は不安で仕様が無いんだけどさ……今からでも降ろしてもらえませんか? ダメですか? ダメですよね……

 

 乗組員は俺、霊夢、魔理沙ちゃん、咲夜さん、レミリアと3匹の妖精メイド。かなりの人数だけど、咲夜さんの能力のおかげで、ロケットの中は見た目よりもかなり広い。

 そして、魔女さんは地上に残るそうだ。

 地上からサポートする人が必要と言っていたけれど、ようは逃げただけだよね……

 

 

 終にガタガタと揺れ始めるロケット。いよいよですね。

 窓から外を見ると、妖精メイドたちが紐を引っ張り、天井を開けていた。

 てか、なんでレミリアは防災頭巾なんか被ってるんだよ。アンタ、この中で一番頑丈でしょうが。

 

 そして、ロケットが空に浮かんだ三日月を追いかける為に飛び始めた。

 

 飛んだ瞬間バラバラにならなくて良かったね。どうやら、ギャグで終わらせるつもりはないらしい。

 

 さて、月に着くまで時間はたっぷりとある、のんびりと考え事をするのにはちょうど良い。

 魔女さん、八意さんとの会話を思い出す。面倒くさい事にどうやらこの月旅行は、俺たちの裏で色々なことが起きているらしい。

 

 それは、今から半月ほど前の出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 紅魔館の図書館に作られたロケットを見上げる。

 

「何と言うか、あれだね……随分と可愛らしいロケットですね」

 

 えっ俺、これに乗って月へ行くの? 勘弁して欲しい。明るい未来が全く見えてこない。

 

「形はできた、魔術の仕掛けも終わり、推進力も見つかった。あとは飛ばすだけよ」

 

 魔女さんが言った。

 見つかった推進力と言うのは、霊夢の神降ろしによる住吉さんの力のことらしい。住吉さんと言うのは、上筒男命、中筒男命、底筒男命の三柱の航海の神様のこと。三柱併せて住吉さん。

 ロケットは空を飛ぶ船。三段構成のロケットに、この三柱は推進力としてちょうど良い。

 

 それは、できすぎているほどにちょうど良い。

 

「ねぇ、魔女さん」

 

 しかしねぇ、どうにもこれって……

 

「はぁ、言われなくても分かっているわ。長い間、全く進まなかった計画が、ここに来て一気に進んだ。たまたま新しい情報がどんどんと入ってきて、たまたま霊夢も神降ろしの準備が終わっていた」

 

 なんだ、やっぱり気づいていたんだ。

 最近になって、急に霊夢が神降ろしの修行を始めた。いったい、誰に言われたんでしょうね。まぁ、そんなことを言う奴は一人しかいないけどさ。

 

「どうせ、あの妖怪が裏で色々と手を回したのでしょうね。あのレミィだって、私たちが踊らされていることくらいわかっているわ。だからこれはレミィの我が儘。それでも私は魔法使いとして、未知の領域に進むことができるこの計画は楽しいわ」

 

 面倒な種族だね、魔法使いって。

 ま、皆楽しそうだし、これはこれで良いのかな。

 全く、紫も何を考えているんだか……俺は行ってないけれど昔、月へ攻めに行った時あれだけボコボコにされたくせにさ。忘れたのかねぇ? 月から、半泣きになって帰ってきた紫を馬鹿にしたらカメラが止まったから、俺はよく覚えているけど。

 

「それで、貴方は何をしに月へ行くの?」

 

「いや、お前らが無理矢理連れて行こうとしてるんだろ……」

 

 行かないって言ったら、どっかのメイドさんが首にナイフを突きつけ、『すみません、よく聞こえませんでした。もう一度お願いします』とか言って脅された。

 鬼ですか。

 

「少しくらい正直になったら?」

 

「なれないから、困ってるんだよ」

 

「そう。それじゃあ、ロケットの説明をしないとだし、私は霊夢の所へ行ってくるわ」

 

 そう言って魔女さんは行ってしまった。

 いや、まぁ……何ていうの? 難しよね、素直になるって。本当に、そこまで月へ行きたいと思っているわけじゃないんだよ?

 なんて、自分に言い訳してみたり。

 

 

 一人になって、ボーっとロケットを眺めていると、人の気配がした。なんとなく隠れる。

 

 そこに現れたのは、八意さんとウサ耳の少女だった。どうやら隠れて正解だったらしい。

 どうかどうか見つかりませんように。

 

 耳をすませ、様子を伺うと、永遠亭のウサ耳少女はロケットを見て――

 

「あはは、こんなロケットで月に行くって」

 

 と、笑っていた。

 まぁ、普通はそう思うよね。俺だってそう思うもの。

 

 しかし、八意さんは――

 

「……完璧ね。これなら間違いなく月まで辿り着く」

 

 なんて言った。

 えっ、マジですか? こんなんで良いの?

 

「えっ? ど、どうしますか? 今のうちに壊します?」

 

 それは、やめてあげて。そんなことしたら、魔女さんとレミリアが泣くぞ。

 

「そうね……私は工作をしていくから、ウドンゲ、貴方は先に帰りなさい」

 

「あっ、はい、わかりました」

 

 はて、どうすっかな。

 やっぱり、八意さん的には月へ行っては欲しくないってことなんだろう。それを俺に止められるかなぁ。無理だろうなぁ。

 

「さて……隠れてないで出てきて」

 

 ヤバっ、バレてたのか。

 うわ~、こんなことになるんだったら、さっさと帰れば良かった。むぅ、仕様が無い腹を括るとしよう。

 

「ども、こんにちは」

 

「貴方も月へ?」

 

 惚けても無駄だよね。なんとか穏便に終わらせられないものか。

 

「まぁ、そうですね」

 

「……そう」

 

 八意さんはそう言って、一枚の布切れをロケットの先端に貼り付けた。あれは……月の羽衣か? そんな物をなぜ?

 

「どうして、羽衣を?」

 

「これでこのロケットは、余程のことがあっても月まで行けるわ」

 

 うん? 余計にわからないぞ。どういうことだろうか。

 

「月の都を守るため、黒幕を見つけ出すためよ。それに、貴方だって月へ行きたいでしょ?」

 

 ……まぁね。

 

「私にできることは、あの姉妹が頑張るよう願うだけ」

 

 あの姉妹? スカーレット姉妹のことではなさそうだけど。

 

「じゃあ、夜になる前に私も帰るわ。貴方たちが月へ辿り着けるように、願っておいてあげる」

 

 そう言って八意さんは笑った。いったい何を考えているんでしょうね? 賢い人の考えとか、俺にはわからん。

 

「ああ、そうだ。また永遠亭に遊びに来なさいな。私はいつまでも待っているから」

 

 そうだね、暇な時にでも行かせてもらうよ。いつになるか知らんけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 ロケットの底の段が切り離され、二段目へ移動。

 多少狭くなったとは言え、充分広い。やっぱり咲夜さんの能力便利すぎじゃない?

 

 冷暖房、水道完備。快適な生活です。

 

 とは、言うものの窓の外は変わらず青一色。流石に飽きた。

 

 月に着いたら何をしようか。賢い人たちが何を思っているのか知らんけど、俺は好きにやらせていただこう。

 

 さぁ、一億年越しの墓参りだ。

 

 






儚月抄編スタートですね
たまたま立ち寄った本屋さんに売っていたので、漫画版は手に入れることができました
小説は無理でした
密林に行かないと見つかりません

と、言うことで第40話でした
お酒の話がゼロでしたね
私は気にしないことにしました
最初は儚月抄飛ばそうかな~とか思っていましたが、運良く漫画を手に入れることができたので、書くことに
たぶん、儚月抄はあと1,2話で終わります

次話は月でのお話っぽいです


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第41話~宇宙にも空気はあるそうです~

 

 

 地上を飛び立ってから一週間ほど。底の段が切り離され、現在は二段目です。

 

 

 紅魔館のワインや、俺の持ってきた日本酒で毎晩宴会が開かれているが、それまでは非常に暇だ。

 

「ねえ、黒。なにか面白いことでもやりなさいよ」

 

 レミリアが俺に言った。

 無茶振りも良いところである。

 

「じゃあ、フランちゃんと鬼ごっこをしていた時のレミリアのモノマネ。ぎゃおーたーべちゃうzゴバァ」

 

 レミリアに殴られた。

 なんだろう、似てなかったのかな?

 

「や、やめなさい!」

 

 レミリアが、面白いことをやれって言ったんでしょうが。

 

「もういい、咲夜今日の紅茶を」

 

 自由だなぁ、流石はお嬢様。咲夜さんも、毎日こんな我が儘を聞いているのかな?

 

「それが、底段のロケットに油のストックを置いてきてしまったので、お湯が沸かせません……」

 

「相変わらず抜けてるな~」

 

 なんてカラカラと笑いながら魔理沙ちゃんが言った。

 あら、それって結構ヤバくないですか? 火ぐらいなら俺も出せるけど、疲れるからやりたくない。

 ん~、ああ、魔理沙ちゃんのミニ八卦炉を使えば良いのか。

 

 煙草の火種から、マスパまで幅広く使える火炉。便利だよね。俺も魔力の勉強もしてみようかな……

 

 

 

 

「なんか、日に日に紅茶の味が変わっていくわね。これはこれで良いけれど」

 

 咲夜さんの作った紅茶をいただく。紅茶も良いけど、緑茶が飲みたくなってきた。

 

「どうもお湯の沸点が下がっているらしくて……」

 

 まぁ、気圧も落ちてるしね。圧力鍋でもあれば良いんだろうけれど。

 

「おいおい、それってロケットの空気が漏れているんじゃないか?」

 

 流石にそれは、大丈夫だと思う。もし、漏れていたらそれくらいじゃ済まなそうだし。

 

「あら、窓の外にも空気は普通にあると思うわよ」

 

 いや、空気は無いでしょ。

 

 そして、咲夜さんが窓に手をかけた。あっ、ちょっ、あけちゃダメだよ!

 

 窓が開いた瞬間、突風が吹き抜けた。部屋の中が大変なことに。

 

 ……あら? でもなんともない。えっ? 外にも空気があるの?

 

「宇宙に空気がないってのは、都市伝説だったのか。そう言えば重力だって変わってないな」

 

 魔理沙ちゃんも冷静に考えてないで、窓閉めるの手伝ってよ。

 

「もうっ、集中させろ!」

 

 霊夢に怒られた。

 いや、ごめん。

 

「もうすぐこの段も切り離すから、上に上がる準備をして」

 

「おろ? もうそんなに来たの?」

 

 窓の外の景色はあまり変わってないけど。ちょっと色が薄くなったかなってぐらい。

 

「上筒男命が退屈だから、そろそろ変われって言ってるのよ」

 

 ……せっかちな神様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上を飛び立って早12日。八意さんの羽衣のおかげか、今のところは順調。

 

 そろそろ、着いてくれませんかねぇ。レミリアとのチェスも、魔理沙ちゃんとの将棋も飽きてきた。だって、勝てないんだもん。レミリアにチェスで負けた時は、かなりショックだった。

 飽きてきているのは、他の奴らも同じらしく、レミリアなんてずっとそわそわしている。お願いだから、ここで暴れないでね。

 

 運動不足になるとか言って、レミリアと魔理沙ちゃんがじゃれ始めた時だった。いきなり、窓の外の景色が変わった。

 

「お嬢様! 外を……」

 

 咲夜さんが言った。

 あ、コラ、レミリアそんな窓にべったりくっついたら、俺が見えないでしょうが、もうちょっと端へ寄ってくれ。

 

 レミリアを少し退かし、外の景色を確認すると、青い海が広がっていた。あれ? これって本当に月なの? 月に海なんてあったかな?

 実は月じゃなくて地上へ戻ってきただけでした。とかだったらどうしようか。まぁ、それならそれでも良いんだけどさ。

 

「さあ、仕上げよ!」

 

 霊夢が言った。

 そう言えば、このロケットって着地はどうするんだ? 魔女さんからは何も聞いていないぞ。

 

 霊夢を確認。

 柱にしがみついていた。

 

 ああ、なるほど。このまま突っ込むのね……

 そりゃあ、魔女さんが来ないはずだわ。

 

 そして、ロケットは頭から海へ突っ込んだ。

 

 帰り、どうすんだろ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「海だ」

 

「これが海ねぇ」

 

「……海だな」

 

 黒、霊夢と一緒に砂浜に座って海を眺める。

 

 ロケット? 大破したよ。今頃は海の底だろう。食料も無いし、これからどうするか。

 

「ロケットは砕け散ったけど、帰りはどうする?」

 

 黒が言った。

 ホント、どうすれば良いのやら。

 

「私は知らないわよ」

 

「私も知らないぜ」

 

 なんだろうか、やっとの思いで月へ着いたと言うのに、あまり喜べない。生まれて初めて見る海も、これじゃなぁ……

 

「黒も海を見るのは初めてなのか?」

 

「いや、地上の海なら見たことあるよ。月の海は初めてだけど。月にも海があったんだね」

 

 そうなのか。

 ん~、そう言えば黒って何歳なんだ? 話を聞いていると、かなりの年齢だと思うけれど。

 てか、黒の奴がちゃっかりお酒を持ってやがる。そんなに飲みたかったのか?

 

 そうだ、レミリアや咲夜たちは無事だろうか? 特にレミリアは水に弱いのだし、溺れていそうだけど。

 まぁ、咲夜もいるし大丈夫か。

 

 

 

「考えていてもしょうがない。釣りでも始めようかしら」

 

 霊夢が言った。

 そうだな、それに海には大きな魚がいると聞くし。月の海はどうだか知らんが。

 

「おろ? 釣竿とかあるの? それに、魚なんているのかな」

 

「手づかみで良いだろ。他にやることもないしな」

 

 うん? 手づかみで魚を取ったら釣りじゃないな。

 まぁ、良いや。

 

「残念だけど、豊かの海に生き物は棲んでいません」

 

 知らない声がした。

 どうやら、この海は豊かの海と言うらしい。生き物のいない海のどこが豊かなんだか。

 

「あ、やっぱりそうなんだ。んで、君は誰?」

 

 黒が聞いた。

 

「私は綿月依姫。月と地上を繋ぐ者たちのリーダーです。住吉三神を呼び出したのは貴方?」

 

 依姫はそう言って、霊夢に長物を突きつけた。

 おいおい、随分と物騒な奴だな。

 

「ええ、そうよ」

 

 霊夢がそう答えると、依姫が長物を地面に突き刺した。その瞬間、地面から刀が生えてきて私達を囲んだ。

 

「女神を閉じ込める、祇園様の力」

 

 こりゃあ、困ったな。何もできない。

 

「よ、依姫様!」

 

 ウサ耳を付けた少女が依姫に駆け寄り、何かを伝えた。ウサ耳やら、服装は永遠亭のあの兎とそっくりだ。

 

「三人とも情けないわね。そんな奴に捕まるなんて」

 

 日傘を差したレミリアが、咲夜と妖精メイドを連れて現れた。なんだ、無事だったのか。海で溺れているのも期待したんだが。

 

「咲夜。三人を助けてあげなさい」

 

「かしこまりました」

 

 レミリアと咲夜がそう言うと、いつの間にか依姫が突き刺した長物が抜かれ、私達を閉じ込めていた刀が消えていた。

 そして、さらに咲夜は依姫にナイフを突きつけていた。おお、助かったぜ。

 

「その能力……」

 

 依姫の驚いた顔が見えた。

 まぁ、最初は驚くよな。私も最初に咲夜の能力を見たときは驚いたものだ。

 

 けれども、急に依姫の腕が燃え始めた。

 慌てて後ろに下がる咲夜。なんだ? 何が起きたんだ?

 

「何やっているのよ咲夜! そんなちんけな炎なんて、どうってことないでしょ?」

 

 いや、無茶言うなって。あの炎かなり凄そうだぞ?

 

「小さく見えても、これは全てを焼き尽くす愛宕様の炎。地上にこれほど熱い炎はないでしょうね」

 

「愛宕様? それに祇園様の剣って……」

 

 霊夢の呟きが聞こえた。

 私にはさっぱりわからんが、どうやらよろしくない状況らしい。

 

「私も貴方のように、神々を身に降ろしてその力を使うことができる。そして、貴方がいろいろな神様を呼ぶせいで、私が謀反の疑いを……まぁ、その疑いも今日晴れる」

 

 そう言って、依姫がまた剣を地面に突き刺した。今度はレミリアたちも拘束。

 

 まずいな、これはちょっと勝てそうにないぞ。明らかに霊夢よりも強いだろうし、何より隙が全くない。

 

 霊夢はやる気がなさそうで、レミリアは余裕そうだが絶対にただの虚勢だ。咲夜も隙を伺っているっぽいが、それも厳しい。

 んで、黒は……あれ? 黒の奴どこいった? さっきまで、いたよな? いつの間に逃げ出したのか……

 

「もう一度聞きます。貴方たちの目的は……あれ? もう一人いなかったかしら? えっ、どこへ!?」

 

 あっ、バレた。

 さて、まともに戦っても勝ち目はない。逃げるにしてもロケットは壊れている。

 

 どうしたものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 なんか、あっさり逃げられた。

 これには自分でも驚いている。

 

 いや~、びっくりしたね。いきなり祇園様とか、冗談じゃない。

 たぶん霊夢と同じ神降ろしの力なんだろうけど、レベルが違う。霊夢でもあの人相手に勝つのは難しいだろう。世界は広いんだね。

 

 そして、目の前には一面に広がる桃畑。

 月人ってのは桃しか食べないのかね? 昔はこんなことなかったと思うけど。まぁ、ほとんどを施設の中で過ごしたから、詳しくは知らないけどさ。

 

 その桃畑を抜けると、漸く建物が見えてきた。見た目は、中華と日本のお城を足して二で割ったような感じ。

 もっと、高層ビルだらけだと思っていたけれど、そうではないっぽいです。これが、月の都なのかねぇ。

 

 道行く人々のほとんどは、何故か頭にウサ耳を付けていた。

 何それ? 流行ってるの?

 

 のんびりと、月の都を観光しながら目的の場所を目指す。八意さんの話なら、見ればすぐにわかるはずなのだけど……

 

 そして、人影少ない都の外れにそいつはあった。

 

 姿はあの頃と、ほとんど変わっていない。

 よくもまぁ、見事に再現してくれたものだ。ん~でも、ちょっとだけ綺麗になってるかな。

 

 入口まで行き、扉に手をかける。

 ああ、懐かしいな。ホント、何年振りだろうか。

 

「その建物は特別な場所。この月の都で唯一穢れがあり、最も神聖な場所。貴方じゃ入れないわよ。侵入者さん」

 

 後ろから声をかけられた。

 やはり、上手くはいかないっぽい。

 

 

 






儚月抄は紫さん、永琳さん、綿月姉妹の考えが交差し合ってこそのお話ですので、この作品のように、主人公視点を主としてしまいますと、ただの月旅行ですね
きっと今頃、紫さんが土下座をし終わり、捕まっている場面じゃないでしょうか


では、次話でお会いしましょう


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第42話~名のない墓標に一握の花を~

 

 

「その建物は特別な場所。この月の都で唯一穢れがあり、最も神聖な場所。貴方じゃ入れないわよ。侵入者さん」

 

 最後まで上手くいくとは思っていなかったけれど、なんだかな~。ホント、昔からこんなんばっかだね。

 

 それにしても、唯一穢れが残り最も神聖な場所ねぇ。そんなところに墓なんて作るなよ。

 

 後ろを振り返る。

 腰ほどまで金髪を伸ばした女性が立っていた。

 

「貴方は?」

 

「私は綿月豊姫。今は、月の都の防衛と地上の監視をしているわ。はぁ、まさか黒幕がもう一人いたとはね……」

 

 綿月……ん~ああ、なるほどさっきの人のお姉さんか妹さんか。きっとこの人が、八意さんの言っていた姉妹の一人なんだろう。たぶん、もう一人はさっきの莫迦みたいに強い人。

 

「俺は黒。あと、黒幕じゃなくてここへは観光に来ただけなんだけど」

 

 豊姫さんの言っている黒幕ってのは、たぶん紫のことだと思う。名前は黒だけど、俺は黒幕じゃないです。

 

 ……いやなんか、ごめん。

 

「そんなこと信じられるわけないでしょ。どの道、貴方はその建物には入ることができないけれど」

 

「やってみないとわからないよ?」

 

 墓参りくらい簡単にさせて欲しい。

 まぁ、ここにあいつらはいないんだけどさ。

 

「はぁ、じゃあ試してみなさいな。網膜認証システム。貴方たちにとっては違うでしょうけれど、私たちにとっては遥か昔のシステム。それでも、部外者を入れるほど脆いシステムじゃないわよ」

 

 網膜認証、か。

 なんだ……昔と変わってないんだね。

 

 扉に取り付けられたカメラに目を合わせてみる。

 

『ACCEPT No.96』

 

 無機質な声が響き、カチャリと何かが開く音がした。

 

 おお、この感じ懐かしいね。毛細血管パターンが変わっていたらどうしようとか、そもそも俺のデータが入っているのかとか思ったけれど、どうやら中へ入ることはできるらしい。

 

 いや~、良かったね。もし、これで開かなかったら恥ずかしくて死ねる。まぁ、死ねないんだけどさ……

 

 それにしても、いったい誰が俺のデータを入れてくれたんでしょうね?

 

「えっ……ちょっと待って! どうして、地上の者である貴方が? それにNo.96って……いえ、貴方が誰であろうと中へは入れさせないわ」

 

 そう言って、豊姫さんが俺に扇子を突きつけてきた。別に中に入って、いたずらをしようとか思っているわけじゃないんだけどなぁ。

 

「その扇子は?」

 

「全ての物質を素粒子レベルで浄化する風を起こす扇子よ」

 

 ……何て言うもんを持っとるんだ、このお嬢ちゃんは!? おちおち落ち着けって、やめてください。死んでしまいます。

 

 ん? でも、そんな扇子を使ったらこの神聖な建物(笑)も浄化するんじゃない?

 あ、豊姫さんが少し苦い顔をした。ははーん、豊姫さんって実はどこか抜けているっぽいね。

 

 ……さて、こちらは別に争うつもりはない。

 

「ねぇ、豊姫さん。別に俺は危害を加えようとしているわけじゃなくて、本当にただ観光に来ただけなんだ。もし変なことをしたら殺してくれても良いからさ、中へ入らせてもらえないかな?」

 

「…………」

 

 豊姫さんは何も言わなかった。

 沈黙は肯定として受け取らせていただきます。

 

 

 

 そして、昔よりも軽く感じられた扉を開け、中へ入った。

 

 こんな時、何て言えば良いのかわからないけれど……まぁ、ただいま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 建物の中の様子は、流石に昔のそれとは違った。

 床の部分は土で、そこにいくつもの石の柱。神聖な場所の割には随分と寂しい場所だね。

 あいつらには賑やかな場所の方が似合うってのにさ。

 

 さてさて、俺のお墓はどれなのかな? お土産として持ち帰ってみたい。

 自分のお墓なんだし、それくらいは許されるよね。ダメですか? ダメだろうなぁ。

 

「それで、貴方の本当の目的は?」

 

 一緒について来た豊姫さんが言った。

 

「お墓参りだよ」

 

 結局地上では、あいつらの骨を拾ってやることはできなかったし。唯一残ってしまった家族として、これくらいはやらないと。

 

「貴方は……」

 

 いくつも立てられている石の柱の中で、一番奥のやつの所へ。その石の柱にはNo.01とだけ書かれていた。

 

「こいつはさ、数字のせいか皆から『お姉さん』とか呼ばれていたんだ。俺には姉なんていなかったけれど、No.01はいつも優しくて……もし、俺に姉がいたらこいつみたいな奴だったらいいなとか思ってた。まぁ、怒ると滅茶苦茶怖いんだけどさ」

 

 一つ隣の石の柱の前に立つ。

 そこにはNo.02という数字。

 

「こいつは、すっげーお堅い奴でさ、本当に真面目な奴だったよ。んで、成績も優秀だったけど結局最後まで一番にはなれなかった。そして、いつも他人に気を使ってばかりで自分のことは二の次。ホント、不器用だよな」

 

 百年、千年、一万年なんて軽く超えた昔々の話なはずなのに、何故か思い出がすらすらと口から溢れた。

 俺が一人で喋っている間、豊姫さんは何も言わなかった。

 

 一人一人の思い出を語っていく。こいつらの思い出話をできるのは、この世ではたぶん俺だけなのだろう。ああ、懐かしくて涙が出そうだ。

 

 

 

 No.45の話を終え、隣へ。

 No.46と書かれた数字。

 

「こいつは……」

 

 あれだけ饒舌だった俺の口が、いきなり止まった。

 

「……この方は? どう言う人だったの?」

 

 豊姫さんの声が聞こえた。

 

 全身が震える感覚。

 

「あ、ああ。こいつは、誰よりも明るくてさ。何が楽しいのか知らんけど、いっつもニコニコ笑ってた。んで、誰よりも成績が良くて最後まで一番だったな。それなのに……、結局こいつが一番最初に死んじゃったよ。95個の命を救うためにさ」

 

 ホント、アイツは何を考えてたんだろうね?

 

 

 その後も話し続け、漸く最後の柱となった。

 

「あ~……こいつはさ、誰よりも成績が悪くていつも一番下だったよ。それなりに努力はしていたっぽいけれど、その努力が報われることなんてなかった。でも、何故かコイツだけが最後の実験に成功したらしく、不老不死とか言う意味わからん存在になったらしいよ」

 

「それが……それが貴方なのね?」

 

 豊姫さんが言った。

 

「……そうらしいね」

 

 あ~あ、何が楽しくて自分の説明なんかしているんだか。全く、恥ずかしいったらありゃしない。

 

 どれくらいの時間、話し続けていただろうか。俺はもう喉がカラカラです。

 

「……私などが言うのは失礼かと思いますが、月人を代表してお礼を言わせて下さい」

 

「お礼はいいよ。もう貰ってる」

 

 以前、八意さんから受け取っているしね。これ以上は持ちきれない。

 

「敬語もいらない。その変わりさ、ここでお酒を飲んでも良い?」

 

 わざわざ地上から持ってきたんだ。これくらいは許して欲しい。

 

「……ええ」

 

 ありがとう。

 

 本当なら、こういう場面では乾杯じゃなく、献杯とか言うんだろう。しかし、しみったれた言葉はアイツらに似合わない。

 だから俺はいつものように言った。

 

 

「乾杯」

 

 

 たぶん、この時に飲んだお酒の味を忘れることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、お墓まりも済ませたしそろそろ帰ろうかな。残ったお酒はどうしようか……このままじゃ荷物になるし、ん~。

 

「豊姫さん。このお酒いる?」

 

 困ったから、押し付けることにした。

 

「え? ああ、じゃあいただくわ」

 

 それにしても、お墓なのに花一つ無いなんて寂しいものだね。

 

 ……ふむ。せっかくここまで来たんだ、最後くらいは花々しくしてあげよう。

 

「神酒『ネクタール‐VERY EASY‐』」

 

 施設の天井からそこそこの量の弾幕が降る。

 

 紫とは繋げたままでいるものの、距離がかなり離れている。そんな今の俺にはこれっぽっちの小さな弾幕が限界。

 

「っ! 何をして!?」

 

 大丈夫だよ、すぐに変えるから。

 

 ネクタールってのは神々が飲む不老不死の霊薬。自然の雨から作られるそれを模した嘘っぱちの弾幕。

 

 そして、その弾幕を桜の花びらへ。

 

 君たちが普段見ているであろう桃の花も確かに綺麗だけれど、やっぱり俺はこの花が一番好きかな。

 

 土の床に薄桃色の絨毯を。色褪せ始めた思い出に一つの色を。あのバカヤローたちに一握の花びらを。

 俺にはこれくらいが限界です。

 

 

「ここで何をしている?」

 

 

 そんなことをし終わると、入口の方から男性の声が聞こえた。

 声のした方を見る。

 

 そこには見覚えのある姿が。

 

 ……ああ、そうか。そうだよな。俺達はこの人達の為にも戦ったんだもんな。あの日、空へ飛び立つ船に乗っていたはずなんだ。

 

「豊姫様がいながら、この場所でこんなことをして……お前はいった……い」

 

 男性の声が小さくなる。

 

 

「や、久しぶり。おっさん。ちょっとだけ老けたね」

 

 

 あの施設の研究者の一人がそこにいた。

 

「え……あ……どうして?」

 

 大の大人がまごまごするなよ、気持ち悪い。夢に出たらどうしてくれる。

 

「どうやら、おっさん達の実験は成功してたっぽいよ。おかげで俺は元気です」

 

 あ、別に皮肉を言っているわけじゃないからね。

 

「No.96……なのか?」

 

「うん」

 

 俺がそう言うと、おっさんが膝と手をつき、土下座をしようとした。

 

 俺はおっさんの顔面を蹴り上げた。

 

 本当にやめてください。心の底から気持ち悪いです。あんたにゃそんな行動似合わないでしょうが。

 

 なんだかな~昔みたいにギャーギャーと怒っても良いのに。これじゃあ、調子が狂うじゃないか。

 

 あんたら研究者達が何を思っているのか知らんけどさ、一億年も前のことだよ? そんなの気にすんなって。

 ……まぁ、ちょっと難しいかもしれないけどさ

 

「なあ、おっさん。俺達はさ、一人もあんたらを恨んでいる奴はいなかったよ。むしろ育ててくれたことに感謝してるし」

 

 俺みたいな問題児もしっかりと面倒を見てくれた。感謝しきれないほどだ。

 

「私達はお前達を見殺しに……」

 

 はぁ。だから、恨んでなんかないっての。なんとか、わかってくれないかねぇ。

 

「あの日、俺達が必死になって戦ったのはさ。白の弔い合戦って意味もあったけれど、おっさん達に無事月まで行って欲しかったってのもある。俺達が必死に戦っているところだって見てたんだろ? 最後に全員が空を見上げたのは、おっさん達の乗った船が飛び立てたからなんだぜ」

 

 俺の言葉が、おっさんへどこまで伝わったのか分からないけれど、俺がそう言うとおっさんは大声をあげ泣き始めた。

 

 育て親とも言って良い存在が大声を上げて泣くとか……トラウマになりそうな光景だった。頼むから夢には出ないでください。

 

 全く……どうして、こう月人ってのはすぐに謝ったりお礼を言ったりするのだろうね。どうせ貰えるのならお酒とかの方がよっぽど嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未だ泣いているおっさんを残して、施設の外へ。色々と話たいこともあったけれど、今はちょっと時間をおこう。

 

 あ~あ、おっさんの泣いている姿を見ていたせいか、こっちまで泣きそうだよ。

 

「黒、貴方……」

 

 後ろからついて来た豊姫さんが言った。

 

 ……わかっているから、それ以上は言わないで。

 

 視界がぼやける。頬を何かが流れた。

 

 

「ホント……おっさんが生きてて良かった……」

 

 

 これだけで俺達は救われた気がする。俺達がただ死んだだけではなかったって、初めて実感できた。

 

 






豊姫さんの持っている扇子は『森を一瞬で素粒子レベルで浄化する風を起こす』としか書いてありませんが、この作品ではそれを全ての物質に対して、としました
森限定でしか使えなかったらすみません
そんな最新兵器はどうかとも思いますが……

と、言うことで第42話でした
一握どころか、両手でも足りないほどの花をぶちまけましたね

お酒の起源は、パンにたまった雨水(ビール)であったり、木の虚に木の実がたまりそこへ雨水が入ってできた物(果実酒)な~んて言う説があります
神酒『ネクタール』はそんな説を元にした弾幕です
今考えたわけではありません
違うったら違います
そして、なんとなく寂しい感じのお話となってしまいました
結局、儚月抄も終わらなかったし……

次話はこの続きか閑話となります

では、次話でお会いしましょう


感想・質問何でもお待ちしております


アトガキナガクテ、ゴメンネー



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第43話~お酒が飲めれば何だって良い~

 

 

 お墓参りも無事に終了。結局、自分のお墓を持ってくることはしなかった。

 そんなことができる空気じゃなかったんです。俺だって空気くらい読めます。

 

 これで月には何の用事もないわけだけど、さてさて、どうやって月から帰れば良いのだろうか。

 

 宙を見上げると、青い星がぽっかりと浮かんでいた。遠いなぁ……それに、霊夢たちがどうしているのかも気になる。

 レミリアとかが暴れてなきゃ良いけど。

 

「ねぇ、豊姫さん」

 

「何かしら?」

 

「俺以外の侵入者が、今どうしているかわかる?」

 

 たぶん、俺が勝手に逃げ出したことに怒っているよなぁ。会いたくないなぁ。

 

「一人以外は全員地上へ返したわ」

 

 おろ、一人以外? それに、そんな簡単に帰らせられるものなの? 流石は月ですね。

 

「漸く見つけた。こんな所にいたのですね」

 

 声のした方を向くと、莫迦みたいに強い人と霊夢がいた。

 うん? でも、なんで霊夢が一緒に?

 

「や、先ほどぶり」

 

 んで、霊夢はやっぱりこの人に勝てなかったっぽいね。霊夢も人間なんだな。少しだけ安心。

 

 豊姫さんが依姫さんの所へ駆け寄って、何かを話し始めた。

 

 

「勝てなかった?」

 

 霊夢に聞いた。

 

「…………」

 

 霊夢は何も答えない。

 ありゃ、珍しく落ち込んでいるのかな?

 

 ふふっ、いくら霊夢でもそう言うこともあるってことだね。

 

 そっと霊夢の頭に手を乗せてみる。

 

「ん……なに?」

 

「ま、お前はまだまだ小さいんだ。これからだって充分成長する。だから、そんなに気にしなくても大丈夫だよ」

 

「……うん」

 

 ん~、なんだかやけに素直だな。いつもこれくらいなら可愛げもあって良いのに。

 

「って、そう言えば黒。あんた、また一人で逃げ出したでしょ!」

 

 むぅ、ちゃんと覚えていたのか。良い感じの話をして、何とか誤魔化せないかと思ったがダメか。

 仕様がないでしょうが、お前らと一緒にいたら、お墓参りができそうになかったのだから。

 

 

「あの……本当に貴方は、あの施設の?」

 

 霊夢にポコポコと叩かれていると、依姫さんが聞いてきた。豊姫さんが依姫さんに伝えたのだろう。

 

「うん、まぁ」

 

 なんとなく恥ずかしくなったから曖昧に答えた。

 

「貴方たちは、私たち月の民にとって英雄で、玉兎たちにとっては憧れの存在なのよ。だって貴方たちのおかげ多くの命が救われたんだもの」

 

 豊姫さんが言った。英雄? 憧れの存在? なんじゃそりゃ。それに俺たちは……あ~うん、まぁいっか。

 

「そうだったの?」

 

 霊夢が聞いてきた。

 いんや、英雄だのなんだのは初耳です。

 

 しかし、英雄で憧れの存在か……実物を見たら、さぞがっかりするだろうね。白のような莫迦みたいに強い奴だったら別なんだろうけれどさ。

 俺にはなんとも居心地の悪い場所だ。

 

「それで、どうして霊夢だけ残ってるの?」

 

「月に残って神降ろしを見せろって言われたのよ」

 

 おろ? どうしてそんなことをするんだ?

 

「彼女が神々を降ろしていたせいで、私が謀反の疑いをかけられているからです。それで、黒さんはこれからどうしますか?できれば月で暮らしていただきたいのですが……」

 

 それは全力でお断りします。それに、俺は穢れで溢れているし月の人たちも迷惑だと思うよ。

 

 んで、謀反の疑いってのはなんでしょうね? まぁ、詳しくは聞かないけれど。

 

「できれば地上に帰りたいかな。あいつらのお墓だって見ることができたし。あと、霊夢はどのくらいで帰らせてもらえるの?」

 

 代変わりしたわけでもないのに、あんまり長い間幻想郷に博麗の巫女がいないと困る。問題とか起きてないと良いけれど。

 

「そうですか……それは残念です。彼女は数日ほどで返すことができますよ」

 

 数日か……面倒だな。

 

「ねぇ、霊夢。俺は先に帰ってm「だめ」……そうですか」

 

 やっぱりダメか。

 まぁ、数日くらいなら良いけれど。

 

 しかし月にいる間、俺はどこで暮らせば良いんだ? 野宿はやだな~。文化的な生活を送りたい。

 

「霊夢がいる間、俺も月にいようと思うけれど、何処か住んでも良い場所ってある?」

 

 ああ、あの施設で暮らすってのはダメかな? 寝られる場所くらいなら流石にあるだろうし。

 

「それなら私達の家にいれば良いわ。貴方とお話したいこともあるもの」

 

 豊姫さんが言った。

 

 ありゃ、良いの? それじゃ――

 

「数日間よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから綿月家での生活が始まったわけだけど、事件が起きたわけでもなく、平和な日々が続いた。

 豊姫さんとお話をしたり、おっさんと一緒に飲みに行ったり、玉兎の訓練を見に行ったり、サインをくれと玉兎に追いかけられたり、とそんな平和な日々だった。

 

 サイン考えておけば良かったかな。

 な~んてね。

 

 それは良いとして……まぁ、あれだ。泣き上戸って面倒くさいね。何が楽しくて泣いたおっさんと酒を飲まなきゃいけないんだか。

 

 あと、やたら幽々子と妖夢ちゃんに似ている二人組と出会ったけれど、きっと別人だったんだろう。そう思うことにした。

 

 何やってんだよアイツら……

 

 

 

 

 

 霊夢も、最初のうちは月の技術に興味を持っていたけれど、すぐに飽きたっぽい。うん、霊夢らしいね。

 

 飲ませてもらった月のお酒は、雑味が一切なくすっきりとしていて美味しかったけれど、なんだろう……俺は地上のお酒の方が好きかな。少しだけ、地上のお酒を恋しく思った。

 

 きっと、俺の中のどこかで月を認めていないんだろう。

 そんな気がする。

 

 

 

 そして漸く地上に帰る日が来た。

 

 うん、月での生活も楽しかったよ。お土産にお酒も沢山いただいた。それだけでも俺は幸せです。

 

「いつでも来てください。待っていますので」

 

 依姫さんが言った。

 

「いや俺はそんな簡単に、月とか行けないからね。それだったら今度はそっちが来なよ」

 

 いやでも、俺も紫に頼めば行けるのかな?

 

「はい、では今度行かせていただきます」

 

 えっ……マジで? もしかしていらんこと言った? も、もし来てもあんまり暴れないでね。

 

「それじゃ、そろそろ送るわね」

 

 豊姫さんが言った。帰りは豊姫さんの能力を使い、一瞬で帰ることができるらしい。

 

 便利ですね。羨ましいなぁ……

 

 綿月姉妹以外にも、見送りに何匹かの玉兎が来てくれ、俺たちに手を振っていた。それに手を振り返す。

 あんまり訓練をサボりすぎるなよー。

 

 うん、こういうのもいいね。

 

「何ニヤついてるのよ」

 

 霊夢に蹴られた。

 そりゃ、可愛い娘に手を振ってもらえるってのは、やっぱり嬉しい。嬉しいものは嬉しいのだから仕方がない。

 

 

「では、また」

 

 豊姫さんの声が聞こえ、視界が歪み、その歪みが直ると見慣れた景色だった。

 

 冷たい風が体に当たる。

 季節は冬、そこは博麗神社境内。うん、綺麗すぎる月の空気よりも、こちらの少し穢れた空気の方が心地良い。

 これも、俺が穢れている証拠なのかねぇ。

 

 あ、外の世界の空気は流石に嫌だよ? あれはやりすぎ。

 

 

 

 

 

 

 う~ん、これからどうすっかね。このまま帰るのもアレだし……

 

「この後、霊夢は何かする?」

 

 あまりに適当すぎる質問だけど、せっかく帰ってきたのだし何かやりたい。

 

「そうね……お酒が怖いわ」

 

 了解。

 ま、それくらいしかやることないしね。

 

 空を見上げると、うっすら月が見えていた。あそこまで行って帰ってきたのか。あまりに遠すぎて実感が湧かない。

 

 そして白く小さな物が降ってきた。

 

「雪、か」

 

 これからまた、あの寒い季節がやってくる。

 

 

「こんにちは、黒、霊夢」

 

 母屋へ行こうとしたら、幽々子と妖夢ちゃんが現れた。

 

「や、こんにちは。んで、どしたの?」

 

「ちょっと良いお酒が手に入ったから、一緒にどう?」

 

 酒瓶をフラフラと揺らしながら幽々子が聞いてきた。そのお酒って……いや、まぁ気にしないでおこう。

 

「私も混ぜてもらおうかしら」

 

 紫が現れた。なんか久しぶりだね。そろそろ冬眠する時期だろうし、春まで会わないと思ってた。

 会わなくても良いと思ってた。

 

「……相変わらず貴方は失礼ね」

 

 紫に睨まれた。だからその勝手に人の心を見るのやめてもらえませんか?

 

「フフッ、最近は良いことがなかったけれど、久しぶりの大勝利。今日はパーっと飲みましょ!」

 

 年甲斐もなく、紫が燥ぎながら言った。よくわかんないけれど、何か良いことがあったらしい。

 大勝利ねぇ……きっと幽々子と、幽々子の持っているお酒が関係あるんだろう。まぁ、せっかくの飲み会なんだ、細かいことは良しとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、どこから嗅ぎつけたのか知らないけれど、紅魔館や永遠亭、守矢神社勢なんかも来て一緒に飲むことになった。

 最初は霊夢と二人で飲む予定が、結局いつもの宴会へ。

 

 雪も降って寒いってのに皆元気だね。

 

 のんびりと雪見酒。月では見ることのできない、地上を生きる者達の特権。あれだけあった、月のお酒はすぐになくなり、いつも通り俺の作ったお酒を飲むことに。

 今年はなくなるのが早そうだ……しかし、お酒が美味いのだから仕様が無い。相変わらず憎いことで。

 

「それで、月はどうだったの?黒の故郷みたいなものなんでしょ?」

 

 紫が聞いてきた。

 

 ……故郷、ねぇ。今の俺にとっては、幻想郷の方がよっぽど故郷っぽいかな。

 

「別に、なんもなかったよ」

 

 色々とあったけれど、少しだけ惚けてみせる。

 

「ふふっ、ひねくれもの」

 

 まあね。

 

 






と、言うことで第43話でした
ただ月から帰ってきただけのお話でしたね

さて、これからどうしましょうか?

緋想天どうしよう……
そう言えば霊夢さんとデートの約束もありましたね
ホント、どうしましょうか


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小昔話~前編~



霊夢さんと主人公の出会い前編です

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メタ発言、キャラ崩壊、メタ発言、時系列無視、メタ発言が含まれます
他にも色々あるかもしれません
読んでくれると作者が小躍りします

では、始めます




 

 

 たしか、桜が咲いていた季節だったと思う。

 あの日も俺は、博麗神社の縁側でのんびりとお茶を飲んでいた。そんな時だった。

 

 俺が博麗霊夢と初めて出会ったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「いや~、今年の桜も綺麗だね」

 

 満開となった桜の木を見ながら一服。数十年前に植えた桜は、立派に育ってくれた。

 紙煙草を取り出し、吸う方を下にして、二回ほど叩く。煙草の先に火をつけ、煙を口に含んでから煙草を離し、息を吸い込む。

 お茶も美味しいし、至福の一時です。

 

 

「本当にここの桜は綺麗ですね。そして未だに煙草の煙の匂いは慣れません。本当に美味しいんですか? 体に悪いと聞きますが」

 

 隣にいた文が言った。

 まぁ、不味いのなら吸わないわな。先代の巫女さんも、俺が吸っているところを見つけると、体に悪いと怒った。

 俺だってわかってはいるんだけどねぇ。

 

「それにしても、神社から巫女の姿消えて数ヶ月。そろそろ新しい巫女を探さなくても良いのですか?」

 

 いや、まぁ探さないとなんだけどさ。

 

「そろそろ紫が連れて来ると思うよ」

 

 何処から拉致してくるのかは知らないけどさ。

 

 そして、だ。

 

「なんで文がいるの?」

 

 俺がそう言うと文は『えっ』と言い、驚いたような顔をした。いやいや、なんでさぞここに居るのが当たり前みたいな感じなんだよ。お前はそんなに神社へ遊びに来ないでしょうが。山に帰ってください。

 

「ほら、第29話と第36話の伏線を回収するためにですよ」

 

「おい、バカ! やめろ!!」

 

 いいよ、そんなの誰も覚えてないんだし。

 

「全く……予想外にお気に入りの数や読者数が増え、本当は永夜抄で完結させるはずが、ついつい続けてしまい終わらせづらくなったのも分かりますが、もう良いじゃないですか」

 

「あの……何のお話ですか?」

 

 本当に勘弁して下さい。文字数が無駄に増えるでしょうが。

 

「ですからここはもうさっさと、文さんルートに入って終わらせましょうよ。ほら、今なら霊夢さんだっていないんですし、チャンスd「おい、カメラ止めろ」

 

 説教だ!

 

 あと、そんなルートはありません。……たぶん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~テイク2~

 

 

「んで、文はどうしているのさ?」

 

「暇でしたので遊びに来ました」

 

 初めからそう言いなさいよ。

 さぼってたって天魔にチクるぞ。

 

 ん~新しい巫女か……今度はどんな人なんだろう。それは少しだけ楽しみ。

 先代の巫女は真面目で優しい娘だった。ちょっと五月蝿いところもあったけれど、次の巫女もそういう優しい性格だったら嬉しいな。

 

「はぁ、ちゃんと妖怪の山の警備しなよ。てか、帰れ」

 

 話が進まないでしょうが。これじゃあ、タイトル詐欺になる。

 

「むぅ、随分と冷たいですね。別に私がいなくなったところで、何かが変わるわけでもないでしょうに」

 

 いやまぁ、そうなんだけどさ。たぶん、そろそろ動く頃なんだと思う。あいつは来て欲しい時か、来て欲しくない時にしか来ないし。

 

 

 そして――桜の木の前が歪んだ。

 

 

「ハロー、黒と烏天狗」

 

 ほら来た。

 紫、登場。そして紫の傍には、小さな女の子が一人。

 

 タイミングは完璧。多分、この女の子が次の巫女なんだろう。

 

「や、紫。その女の子は?」

 

 全く、どこから拉致してきたのやら。

 

「幻想郷の端で、倒れている所を見つけたのよ。面白そうだから連れてきちゃった」

 

 幻想郷の端ねぇ……ってことは、外の世界から来たのかな?

 

「その女の子が次の巫女に?」

 

「ええ、そのつもりよ」

 

 そんな言葉を落としてから、その女の子の様子を見てみる。

 ふむ……急に知らない場所へ連れて来られたはずなのに、その女の子はボーっと遠くの方を見ていた。まだ生まれてから数年もしていないくらいだろう。喋ることはできるのかな?

 

「キャー! 何ですか? この娘? めちゃくちゃ可愛いですね!」

 

 隣が騒がしい。

 もういいからお前は帰れよ。この女の子の教育に悪いでしょうが。これで妖怪恐怖症とかになったらどうするんだ。

 

「名前とかは決まっているの?」

 

 飛びかかろうとしている文を押さえつけながら紫に聞いた。もう、少しは落ち着きなさい。

 

 

「ええ。霊夢……博麗霊夢と名付けます」

 

 ふむ。霊夢、か。

 雨強請る巫女の夢。

 

 うん、良いんじゃないかな。

 

 霊夢と名付けられた女の子の傍まで行って、その女の子の目線に合わせる。透き通るような赤みがかった黒い目。

 

「よろしくな、霊夢」

 

 そしてそんな言葉をひとつ。

 

「それではいつも通り、巫女が妖怪退治ができるようになるまでの世話は任せるわ」

 

 紫が言った。

 わかっています。

 

「了解。と、言うことで……文、お前は帰れ」

 

「はぁ、わかっていますよ。これでまた、黒さんの光源氏計画が始まるんですね」

 

 コラ。何が『また』だ。そんな計画一度もありません。

 

「では、霊夢さんがもう少し成長したらまた遊びに来ます」

 

 そう言って文は飛び立って行った。

 うん、また。

 

 そして、いつの間にか紫も消えていて霊夢と二人だけに。まぁ、紫はちょくちょく顔を見せに来るだろう。心配はいらない。

 

 あ~暫くは煙草ともお別れだね。こんなことなら、もっと味わって吸えば良かった。

 

 霊夢は変わらずボーっと何かを眺めていた。その視線の先には満開の桜。気に入ってくれたのかな? そうだと嬉しいな。

 博麗の巫女として、大変なことが色々あるだろうけれど、これからよろしく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 朝になって目が覚めた。

 隣で寝ている黒と言う人は、いつも通りまだ起きていない。寝ている黒の頬を軽く触っても、黒は『むぅむぅ』言うだけで起きることはない。

 私よりも年上なはずなのに、朝は弱いし、今では空だって私の方が速く飛べる。黒は私が少しおかしいと言っていたけれど、そうなのかな?

 

 私には両親の記憶がない。でも、そのことが不幸だと思ったことはないし、別にこれで良いんじゃないかとも思う。

 

 私の中にある一番古い記憶は、既に博麗神社でそこに黒はいた。その他には、たまに現れる紫と呼ばれる妖怪がいるくらい。

 

 それだけが私を囲んでいる世界の全て。

 

 朝起きて黒を起こし、一緒に朝食を食べて、お茶を飲んだり掃除をしたりする。お昼を食べた後は、またお茶を飲んでお昼寝をして、たまに空を飛ぶ練習、結界を張る練習、霊弾を出す練習。そして夕食を食べてお風呂に入って寝る。

 そんな毎日。

 

 霊弾の密度も、弾速もたぶん私の方が黒より上だと思う。結界だけは、未だに黒より上手く張ることはできないけれど。

 

 博麗の巫女として私は生きているわけだけど、そのことが私の足枷となっているわけではないし、きっと私が博麗の巫女でなかったとしても、私は変わらないと思う。

 

 博麗の巫女。

 

 人と妖怪のバランスを取るための存在。それがどの位重要なのか私にはわからない。

 

 けれども毎日黒と一緒に、のんびりと過ごすこの生活は結構好きだと思う。

 

 平凡な毎日。

 平和な日常。それだけで充分。

 

 どうせ黒はまだ起きないだろうから、布団を畳んで外へ出る。

 

 桜の葉が色づき始めた秋の朝は、少しだけ肌寒かった。また寒い季節がやって来る。そう考えると、少しだけこの季節を愛おしく感じられた。

 

 

 

 そして境内に出て、ボーっとしているとソイツが現れた。

 

 

 ソイツは牛のような体で、曲がった角と大きな牙と爪をつけていた。

 ソイツを見た瞬間理解できた。たぶん、これが『悪い奴』だ。それは私が退治しないといけない存在。

 

 頭ではわかっている。

 でも、体が動かない。

 

「×××ーーっ!!」

 

 ソイツが何かを叫んだ。

 

 まずい、今の私ではコレに勝てない。

 逃げなきゃ。

 

 動こうとしない体を何とか動かし横へ。転びながらもギリギリでソイツの攻撃を避ける。

 

 でも、次の攻撃は避けられない。

 

 

 ああ、私、死んじゃうな。

 

 

 時が遅くなり、ソイツの大きな口が開くのが見えた。

 

 そっと目を閉じる――さようなら。

 

 

 

 そして、パンっと何かの弾ける音がした。

 

「おいおい、博麗神社で博麗の巫女を襲うってのは最大の禁忌だってのに何やってんのさ?」

 

 声のした方を見ると黒がいた。私はまだ生きている。

 

「ーーーっ! ××ー!」

 

 ソイツが叫ぶ。

 やっぱり何を言っているのかはわからない。

 

「いや、人間の言語使ってくれないとわからないから……んで、お前さんは饕餮か? 落ちるところまで落ちたねぇ」

 

 とうてつ? コイツの名前なのかな。

 

 黒の手には一本の小刀。いつも黒が持っている切れないやつとは違う。

 

 そして、ソイツが黒へ襲いかかった。

 

 






大輪のひまわりも首を垂れるほどの炎暑の日々ですが、皆様はお元気お過ごすでしょうか

お盆休みを私にください

と、言うことで小昔話でした
このお話は霊夢さんと主人公の出会い前編です
たぶん後編もあります
ここまで書いたところで力つきました

序盤は文さん無双です
やりたい放題ですね

主人公の未来が真っ黒ですが、どうなることやら

後編は近いうちになんとか……


感想・質問は特にお待ちしておりませんが、書いていただけると嬉しかったりします



~ボツネタ~

 そして、桜の木の前が歪んだ。

「ハロー、黒と烏天狗」

 紫、登場。紫の傍には小さな女の子が一人。

「なあ、紫。いくら若い女の子を食べたって、別にお前が若くなるってことh「おい、カメラ止めろ」


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小昔話~後編~



前話の続きとなります

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では、はじめます




 

 

 朝、感じたことのない妖気に気付き目が覚めた。

 

 隣を見ると霊夢は既にいない。妖気は境内の方から感じる。嫌な予感が止まらない。

 

 お守り変わりのナイフと、気持ち程度の小刀を持って外へ飛び出る。

 

 そして境内には、霊夢と――ソイツがいた。

 ソイツから感じるちょっと勘弁して欲しいほどの妖気。牛の体、曲がった角と大きな虎の牙と爪。

 

 饕餮――魔すら喰らう落ちた竜の子供。

 

「×××ーーっ!!」

 

 饕餮は何かを叫び、霊夢に襲いかかった。容赦なしですか、何を考えているんでしょうね。

 霊力で身体強化と霊弾を一発放ち、饕餮にぶつける。

 

「おいおい、博麗神社で博麗の巫女を襲うってのは最大の禁忌だってのに何やってんのさ?」

 

 ルールを知らないってことは、最近になって幻想郷に入って来たんだろう。ホント、面倒なことで。

 

「ーーーっ! ××ー!」

 

 饕餮がまた何かを叫んだ。

 

「いや、人間の言語使ってくれないとわからないから……んで、お前さんは饕餮か? 落ちるところまで落ちたねぇ」

 

 博麗の巫女を喰らったところで、お前が竜になれるなんてことはない。おとなしく、魔物でも食べていて欲しい。

 

 そして、饕餮が俺に襲いかかってきた。

 勝てっかなぁ……まぁ、無理だろうな。やるだけやって、霊夢と一緒にさっさと逃げるとしよう。

 

 まず右に避けるフェイントをかけてから左へ飛ぶ。フェイントに誘われた饕餮の攻撃を避け、渾身の力を込めて小刀を饕餮の脇腹へ突き立てた。

 

 しかし、ガキン――と鈍い音がして、小刀が折れた。

 

 うわぁ……なにこれ、かったーい。

 

 マジかよ……

 

 

 そして、怯みすらもしなかった饕餮に薙ぎ払われ、吹き飛ばされた。とっさに左腕でガードはしたものの、左腕の感覚がない。

 勘弁して欲しい。わかっちゃいたけどレベルが違う。

 

「黒っ! 大丈夫!?」

 

 霊夢が駆け寄り声をかけてくれたが、返事ができない。胃からせり上がってきた血反吐を吐き出し、立ち上がる。

 大きく空気を吸い込み、力を入れる。

 

「……あっ、あ~、よしっ。逃げるぞ霊夢」

 

 右手で霊夢を抱え飛び上がった。

 昔よりは成長したのかな。しっかりと霊夢の重さを感じられた。

 

 流石に饕餮に勝つのは無理。とにかく今は逃げないと、霊夢が殺される。朝もまだ早いせいで紫も起きてないだろうし、なかなかに絶望的な状況だ。

 

「逃げるって何処へ?」

 

 霊夢が聞いてきた。

 特に決めてはないけれど、とにかく遠くの方へ逃げよう。

 

 流石に俺よりは速く飛べないだろうけれど、後ろを振り返っている余裕なんてない。とりあえず今は逃げないと。

 

 

 全力で飛べばきっと逃げきれると思った。

 思ってしまった。

 そんな少しの油断。弱者が最もしてはいけないことを俺はした。

 

 

 そして、ザクリと何かが俺の腹を貫いた。

 

 ヤバっ失敗したっぽい。逃げるのが遅れた。何をやっているんだか……

 

「霊夢……ちょっと先に逃げてろ」

 

 霊夢から手を離す。

 流石は竜の子だ……いくら落ちたといっても空くらいは飛べるか。

 

「黒っ!!」

 

 霊夢の声が聞こえ、俺は地面へと落ちていった。

 全身に響く衝撃。これは……ちょいとマズイな。血が止まらない。これじゃあきっと死ぬだろうな。

 紅魔館でフランちゃんと遊んだ時のことを思いだす。もうちょっとだけ俺が強ければ、こんなことにはならなかったのにね。

 

 饕餮の姿を確認すると、自分の爪に付いた血を舐めていた。どう? 俺の血は美味しい? 美味しいのなら、最初に狙うのは俺にしてくれんかね。

 

「ねえ! 黒!! 大丈夫!?」

 

 霊夢が降りてきて声をかけてくる。

 いや、もう大丈夫じゃないんでさっさと逃げてくれませんか? 起き上がることもできんよ。

 

「××××っ!!」

 

 饕餮がまた何かを叫んだ。

 これは、どうっすかな。どうすれば良いかな……

 

 まぁ、仕様が無いか。

 たまには頑張ってみることにしよう。

 

 開いた右手をゆっくりと挙げ、饕餮に向ける。

 ん~、フランちゃんは何て言ってたっけかな。

 

 ――ああ、思い出したわ。

 

 上空から饕餮が襲いかかってくるのが見えた。

 

 紫、ちょいとばかし大量の妖力を使うけど許してくれ。使いたくなんてなかったけれど、霊夢のため幻想郷のためだ。

 しゃあない。これで、当分は寝たきりの生活かな。

 

 

「……きゅっとして、ドカン」

 

 

 右手をゆっくり閉じた。

 

 そこで、俺の意識は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 視界を埋め尽くす薄桃色。黒がぽそりと何かを呟くと、襲いかかってきた饕餮が花びらへと変わった。

 

 何が……起きたの?

 

 そうして、黒の挙げていた右手が地面へと落ちた。

 黒から流れ出る血は止まらない。

 

 どうすれば良いの? だってこのままじゃ……このままじゃ黒が……

 

 ――死んじゃう?

 

 いやだ、そんなの絶対にいやだ。

 とにかく血を止めないと。医者に見てもらって、でも血が、血が止まらない……

 

「ちょっと黒! 莫迦みたいな量の妖力がいきなり消えたけど……って、あら?」

 

 たまに神社へ来る紫と呼ばれていた妖怪が現れた。誰でも良い、誰でも良いから黒を助けて。

 

「紫! 黒がっ!!」

 

「なるほど、そういうことね。だいたいわかったわ。ふふっ、霊夢に名前で呼んでもらったのはこれが初めてね」

 

 そんなことどうでも良いから黒を何とかして。

 だって、このままじゃ黒が……

 

「血が止まらないの! このままじゃ死んじゃう」

 

「落ち着きなさいな霊夢。黒ならもう死んでいるわよ?」

 

 

 ……えっ……う、うそ、でしょ? 黒が、死んだ?

 

「その慌て方を見ると、黒から何も聞いていないってことね。はぁ……黒はどうして伝えなかったのよ。大丈夫よ霊夢。黒なら大丈夫だから落ち着きなさい。とりあえず黒を母屋へ運びましょう。傷は私の方で消しておくわ」

 

 大丈夫って、どういうこと? だって、血がこんなに……よくわからない。頭がついていかない。

 

 

 

 

 

 それからのことは、よく覚えていない。確か、全く動かなくなった黒を母屋へ運び、布団に寝かせた。

 

 紫の話によると、黒は不老不死と言う存在で死ぬことはないらしい。いつもなら死んでもすぐに目を覚ますのだけど、今回は霊力と妖力? を使い果たしてしまったせいで、起きるのには時間がかかる。

 

 

 そして――日が完全に沈み、真夜中になったころ漸く黒が目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 目が覚めると見慣れた天井が見えた。どうやら、博麗神社の母屋の中らしい。霊夢が運んでくれたのかな?

 

 全身が怠く体が重い。こりゃあ、とうぶんは霊夢の世話になるかな。

 

 なんとか頑張って首を動かし、隣を見ると霊夢がいた。霊夢は無事らしい。いや~良かった。

 

「起きたの?」

 

 霊夢が言った。

 もしかしてずっと傍にいてくれたのかな? いや、あれから2,3日は経っているだろうし、それはないか。まぁ、それでも今ここにいてくれるってのは、なかなか嬉しいものがある。

 

「や、おはよう。霊夢」

 

 俺がそう声をかけると、霊夢が抱きついてきた。

 おろ? 珍しいな。どうやら、かなり心配させてしまったらしい。

 

 ごめんね。

 

 

 多分、霊夢もそうとう疲れていたんだろう。そのまま寝てしまった。

 

 頭くらい撫でてあげたいけど、上手く体が動かない。

 情けないなぁ……

 

「ごきげんよう。黒」

 

 せっかく良い場面だったんだから、出てこなくて良いのに。

 紫、登場です。

 

「……失礼なこと考えてるでしょ?」

 

 さあ? どうでしょうね。

 

「んで、どれくらい俺は寝ていたの?」

 

「まだ一日も経ってないわよ」

 

 はい? 本当ですか? 二日は目を覚まさないだろうと思っていたんだけど、ん~何でだ?

 

「私が貴方に妖力を送ったからよ。それにここまで運んだのも私なのよ?」

 

 おろ、そうだったんですか。そりゃあ、迷惑かけたね。

 

「そっか、ありがとう」

 

 純粋に感謝します。今度お酒でもおごるよ。

 

「どういたしまして、全く……いきなり妖力が消えたから、かなり驚いたわよ?」

 

 仕方ないでしょうが、ああでもしなければ二人まとめて食われていたのだから。それに、どうせ消えた妖力だって元々は俺のだろ? たまには俺にも使わせてください。

 

「久しぶりね。黒が生き物に対して能力を使うなんて」

 

「……まぁ、普段は使わないようにしてるしなぁ。それに、これからだってその考えは変わらないと思うよ」

 

 輪廻転生さえ許さず、問答無用に散りへと変える。やっぱり多用する気にはなれない。

 できれば二度と使いたくないかな。これも、エゴなのかねぇ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなできごとから数年後。霊夢もかなり大きくなり、一人でも十分やっていけるようになった。

 

 ちょっと十分すぎるくらい強くなってしまった気もする。きっと歴代の巫女の中でも一番の実力だろう。

 

 時刻は夕方。沈みかけの太陽が赤く染まっていた。どうやら、そろそろお別れの時間だ。

 

「よしゃ、そんじゃそろそろ俺は行くとするよ」

 

 見送りに来てくれた霊夢に言う。ちょくちょく帰ってはいたものの、長い間我が家を留守にしてしまった。

 とりあえず、掃除しないとかな。

 

「そう……この神社も少しだけ寂しくなるわね」

 

 そうかもしれないね。参拝客は相変わらず来ないし、ここも静かな場所になるだろう。

 

「俺がいなくなったからって掃除とかはサボるなよ?」

 

「わかっているわよ。黒も朝はちゃんと起きなさいよ?」

 

 あ~……善処します。

 

 そんな簡単な言葉を交わして、霊夢と別れる。それじゃ、博麗の巫女として頑張って。

 

「黒」

 

 歩き出したところで霊夢に呼び止められた。

 

「うん?」

 

「えと……いつでも遊びに来なさいよ!」

 

「ああ、了解」

 

 その時の霊夢の顔が、わずかに赤くなっているように見えた。

 たぶん夕日のせいなんだろう。そう思うことにしておいた。

 

 ゆっくりと鳥居の場所まで歩いて行き、我が家へと帰る。

 

 これからこの幻想郷がどうなっていくのかわからないけれど、きっと霊夢なら大丈夫。

 そんな気がした。

 

 






お酒の『お』の字も出てきやしねえ
そんなお話でしたね

と、言うことで小昔話~後編~でした
珍しく主人公が頑張ったっぽいです

小刀を持たせた意味あったんでしょうか?
私はなかったと思います
もしかしたら何かの伏線だったり……もなさそうですね

次話は未定です
霊夢さんとデートするお話も書かないとですが、霊夢さん続きとなってしまうので違う話かもしれません


感想・質問は特にお待ちしておりませんが、書いていただけると嬉しかったりします


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第44話~取材ってなんだっけ~

 

 

「えっ? 取材?」

 

 季節は冬。寒い日々が続きます。日が沈むのもかなり早くなってきた。

 ただ、太陽光の幸せを感じるのには、良い季節だ。

 

 どうせ、今日もお客さんなんて来ないんだろうなぁ。とか思いながらボーっと店の中で過ごしていると、入口の鈴が久方ぶりの来客を知らせた。

 

「はい、黒さんの記事は何故かやたらと人気がありますので、今日は一日密着取材でもしようかと」

 

 首にカメラをぶら下げ、メモ帳とペンを手に持ちながら文が言った。

 ただ、よくこの場所に来られたね。普通ならなかなか見つけられないはずなんだけど……妖怪の山に入口ができていたのかな?

 

 それにしても面倒だなぁ。帰ってくれないかなぁ。

 それに、取材も何も今日は一日店の中にいる予定だったし、記事にするには面白くないと思う。

 

「ちゃんと山の警備とか仕事しなさいよ」

 

「それは心配ありません。天魔様に黒さんの取材をすると言ったら、二つ返事で許可がおりましたので」

 

 ……それで良いのか天狗社会よ。

 相変わらずあの天魔も何を考えているのかわからない。何も考えてない気もするけど。

 

「ああ、あと天魔様が『結婚しよう』とも言っていました。ひゅ~黒さんモテモテですね」

 

「俺の代わりにぶん殴っといてくれ」

 

 やっぱり何も考えてなさそうだ。とうぶんは、あの山に近づかないでおこう。そうしよう。

 

「無茶言わないでくださいよ……」

 

「んで、取材って何するの? 今日は何もないと思うよ?」

 

 本当に今日は何の予定もないのだけど……どうせ取材をするのなら紅魔館とかに行けば良い。あのボケ集団の所ならネタだって尽きないだろうし。

 それに、文といると色々と危ない。だって、コイツすぐ危ない発言するんだもん。できれば閑話だけの登場にしてもらいたい。

 

「大丈夫です。取材と言っても、黒さんは普通に過ごしてもらっていただきます。まぁ、私の方からいくつか質問をしたりするとは思いますが」

 

 おろ? そうなの? んじゃあ、まぁ、普通に過ごさせてもらおうかな。外は寒いし、今日は家の中でのんびりとさせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまんない……」

 

 お茶を飲みゆっくりとしていたせいか、眠くなり始めていた時だった。文がぽそりと呟いた。

 

 いや、お客さんなんて滅多に来ないし、こんなもんだからね。あと、眠いので寝ても良いですか?

 

「何ですかもう。もっとほら何か事件が起きたりとかはないんですか?」

 

 そんな簡単に事件が起きてたまるか。

 むしろ何もない日の方が多いわ。

 

「だから、今日は何もないって言ったじゃん。んで、眠いから寝ても良い?」

 

「流石に何もなさすぎですよ! こんなんじゃ記事にも小説にもできませんよ! 読者を舐めてるんですか!?」

 

 それって新聞のお話だよね? 他に意味なんてないよね?

 

「そんなこと言ってもなぁ」

 

 ないものはないのだ。もう今日は諦めて帰ったら? この後もお客さんは来ないだろうし。冬になると皆外に出ないせいか、迷子になる人なんてほとんどいない。

 

「むぅ、これは困りましたね……そうだ、どこかへ行きましょうよ。そうすればきっと何かが起こるはずです」

 

 コラ、無駄にフラグを立てるな。それに出かけるとしても、外寒いじゃん。すごく行きたくないです。

 

「外寒い。やだ」

 

 冬の間は大人しく家でのんびりしてようぜ?

 

「まぁまぁ、そんなこと言わずに行きましょうよ。そうですね、人里にでも行きましょう」

 

 なんで、こう俺の周りの奴らは人の話を聞かないんでしょうね?

 

 そして、結局連れ出されることに。はぁ、平和に過ごしたい……

 

 

 簡単に出かける準備をして外へ出る。マフラー暖かいです。首元が暖かいと、妙に安心するよね。

 迷いの里はまだ暖かいけれど、ここから出たら寒いんだろうな。嫌になる。

 

「ほい、これ貸してあげるよ」

 

 文にもマフラーを渡した。妖怪にはいらないだろうけれど、まぁ、あって困ることではないだろう。

 

「あ、どうも。ありがとうございます。ふふっ、これでお揃いですね。――あっ、ちょっ外さないでくださいよ」

 

 変なことを言うな。恥ずかしいでしょうが。

 とは、言うものの背に腹は代えられない。寒いのは嫌いなんです。

 

 そして文が腕を組んできた。あの、動きづらいんですけど……放してもらえませんか?

 

「どしたの?」

 

「ほら、今日は密着取材ですし」

 

 たぶん、密着の意味が違うと思う。

 

 今は何も育てていない田畑を抜け文と一緒にまっすぐ進む。そう言えば、人里へ行くのも随分と久しぶりな気がする。何も起こらないと良いけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思っていた通り外は一面の銀世界だった。雪に反射した太陽光が眩しい。

 そして、凍てつくような寒さが身体を冷やした。マフラー持ってきて良かったね。

 

 何をしようか考えながら、文と二人で人里をぶらぶらと歩く。冬だと言うのに、人里の様子は今日も活気で溢れていた。皆元気そうで何よりです。

 昔と比べてここも良い里になったと思う。

 

「あ、黒さんじゃないですか。今日はどうしたのですか?」

 

 急に声をかけられたと思ったら、阿求ちゃんといつかの迷子さんがいた。こんな寒い中、阿求ちゃんは出歩いても大丈夫なのかな? 体は大切にしなよ。

 

「隣にいる天狗に無理矢理連れ出された」

 

 流石に文も面倒になったのか、腕は組まず手を繋ぐことになった。それじゃあメモなんて取れない気がするが、良いのかな?

 

「えと……逢引ですか?」

 

 いつかの迷子さんが言った。

 んなわけないでしょうが、ただ暇を潰しに来ただけ。

 

「違う違う、ただの取材らしいよ。それでこんな寒い日に阿求ちゃんたちはどうしたの?」

 

「いいな~私も取材したい……えと、私たちはこれから知り合いの貸本屋へ行こうと思っていたところです。黒さんも行きますか?」

 

 取材って、幻想郷縁起の英雄伝のことだよね。そっちは勘弁です。

 貸本屋か……ん~もう少しぶらぶらしたいし、今日は良いかな。

 

「俺は遠慮しておくよ。んじゃ、またいつか」

 

 そう言って、阿求ちゃん達とは別れた。正直に言うと、本にはあまり良い思い出がないんだよね。紅魔館で一度大変なめにあったし。いやホント、なんであんな本があるんだよ……

 

 その後も適当にぶらぶらと歩いていると、沢山の出会いがあった。酒屋の店主や慧音をはじめ、買い物に来ていた咲夜さんや妖夢ちゃんなどなど。歩くのも疲れたし、一休みしようと団子屋へ立ち寄ると、何故か映姫が小町に説教をしていた。

 人里で何やってんだよ……

 

「どうして貴方はすぐにサボるのですか!?」

 

「すみません、すみません。ちょっと休憩しようと……」

 

 上司と部下仲良しコンビのいつも通りの掛け合いが冬の人里に響く。

 今日は映姫も休みの日だったのかな? 休みの日くらい説教なんてしてないで、ゆっくりしていれば良いのに……まぁ、すぐにサボる小町がいけないんだけどさ。

 

 ガミガミと怒り続ける映姫。これじゃあ、団子屋にも迷惑だろうに。

 いや、逆に人は集まって来るのかな? 咲夜さんファンクラブとかあったし、映姫ファンクラブとかもありそう。

 

 映姫の側まで行って、人差し指を伸ばした右手で映姫の肩を軽く2回叩く。

 

「はい? なんでしょ……」

 

 映姫がこちらを振り向くと同時に、人差し指で映姫の頬をプニっと押した。

 

「…………」

 

「…………」

 

 お互いに無言。

 そこに言葉なんていらなかった。

 

「よしっ、逃げるぞ文」

 

「何やってるんですか……しかし了解です」

 

 全力で逃げ出した。もうすでに日は沈み始めているもし逃げなかったら、お説教は夜まで続くだろう。

 これで小町の説教も終わるだろうし貸し一つといったところ。

 

「ちょっ、待ちなさい! またそうやって貴方は!!」

 

 映姫が何かを言っていたけれど、無視して逃げた。流石にこれだけで、俺の店にまで説教をしには来ないよね?

 

 

 

「全く、閻魔相手に貴方は何をやっているのですか?」

 

 映姫から完全に逃げ切ったところで、文が言った。場所は人里の外れ。随分と遠くまで逃げてきてしまったものだ。

 いや~どうも映姫をみるとからかいたくなっちゃってさ。仕様がないよね。

 

「ま、逃げ切れたんだし良しとしようよ」

 

「はぁ……それにしても、黒さんと話した方はほとんど女性でしたね。男性と話をしたのは酒屋の店主くらいじゃないですか? なるほど、黒さんは女たらしと……」

 

 コラ、変なことを言うな。

 そんなこと記事にしないでよ。仕方がないでしょうが、男の知り合いって何故か少ないんだから。

 

 さてさて、これからどうするかな。もうすぐ夜になるだろうし、帰っても良いけれど……あ~お酒が飲みたいな。

 そう言えば、夜雀のやっている屋台があるって聞いたことがある。行ってみようかな。

 

「なあ文。ちょっと行きたい場所があるんだけど、行っても良い?」

 

 でも、何処にあるのかはよく知らないんだよなぁ。人里の近くにあるとは思うけれど。

 

「こんな人里の外れで行きたい場所ですか……はっ、人気のない場所で私を襲うつもりですね! 流石は女たらしです」

 

 違うわっ! それに俺じゃお前には勝てないでしょうが。まぁ、勝てても襲わないけどさ。

 

「莫迦なことを言うな。ちょっと夜雀がやっている屋台ってのに行ってみたいだけだよ」

 

「なんだ、そうでしたか。それは良い案だと思いますよ。私もあの屋台は好きですし」

 

 おろ、文は行ったことあるのか。

 それなら都合が良い。

 

「んじゃあ、案内してよ。俺はまだ行ったことがないから、何処にあるのか知らないんだ」

 

 八目鰻が有名って聞いている。八目鰻のあの独特な風味が結構好きだったりします。お酒に良く合うし。今は冬だしちょうど旬な時期だ。

 

「了解です。とは言え、あそこは移動屋台ですので、何処にあるのかは私も知りません。まぁ、適当に歩いていれば見つかるとも思いますが」

 

 移動屋台ねぇ。

 なんだろう、少しだけ親近感が湧く。俺も移動屋台とかやってみようかな。

 

 雪が多く、歩くのは面倒だったから適当に飛んでいると、目的の屋台は直ぐに見つかった。本当に人里の側にあるんだね。

 

 屋台へ近づくと、蒲焼の良い匂いがしてきた。

 ああ、熱燗が飲みたい。

 

 下へ降り、暖簾を押しのけ屋台の中へと入る。こういう場所って『マスターいつもの』とか言いたくなるよね。まぁ、此処へは初めて来たんだけどさ。

 

「いらっしゃい、ご注文は?」

 

「熱燗と八目鰻の蒲焼で」

 

 うん、こういうのも良いかもしれない。

 

 季節は冬。

 熱燗が身体へ良くしみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、ご馳走様でした。すみません、お金も払ってもらって」

 

「ん、いいよ別に。そんなに使うこともないし」

 

 自分のためには滅多に使わないしなぁ。だから貯めていても仕様が無い。使ってあげなければお金がかわいそうだ。

 

「んで、今日のことは記事になりそうなの?」

 

 なんだか、普通に遊んでいただけな気がする。こんなんで良いのかなぁ。

 

「え? あ~……そうですね。うん、まぁなんとか書いてみます」

 

 忘れてたなコイツ……別に無理して書くものでもないと思うけどね。書きたいことを書きたいように書けば良いと思う。

 そんなものだろう。

 

「そか。ま、頑張ってくれ。んじゃ俺は帰るとするよ。うん、たまには外出も悪くないかもね」

 

「はい、私も楽しかったです。機会があればまた取材に行きますね」

 

 取材ってことは変わらないんだ。普通に遊びに来れば良いのに。

 

 それだけ言うと文は飛んで行ってしまった。

 ホント、忙しい奴だ。

 

 あっ、マフラー返してもらうの忘れてた。ん~ま、いっか。

 

 

 うん、冬って言うのも意外と悪くはないかもしれない。

 

 な~んてね。

 

 

 

 後日、『女たらしの店主に迫る』と書かれた文々。新聞を握り締めた良い笑顔の霊夢がお店に来たけれど、それはまた別のお話。

 

 






暑い日々が続きます
キンキンに冷えたビールが美味しい季節ですね
最近、全然飲めてませんが……

と、言うことで第44話でした
自分はお酒を飲めていないのに、主人公がのんびりとお酒を飲んでいる場面を書くと無性に悲しくなります
だらだらな感じのお話となってしまいましたが、私の作品はだいたいこんな感じです
そして、このお話のせいで霊夢さんとのデートで書く事がなくなりました
何やってんでしょうね

次話は……どうしましょうか?


感想・質問何でもお待ちしております



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第45話~看板を作るのだって大変なんだ~

 

 

 シャリシャリと音を立てながら雪の上を歩く。相も変わらず一面は銀世界だけど、漸く雪も溶け始め、少しだけ春の訪れを感じられた。

 

 木々の新芽は出始め、桜咲くあの季節がもうすぐやってくる。嬉しいね。どうやら今年は普通に春が来てくれそうだ。

 

 チャプチャプと背中に背負ったリュックから液体が揺れる感覚。中身はみんな大好き、日本酒と麦焼酎です。あとは少しのおつまみと言ったところ。

 

 外の世界には桜を使った日本酒があるらしい。一度飲んでみたいものだ。たぶん桜の香りとかはしないと思うけれど。

 

 少しばかり重くなった雪を踏みしめ向かう先は、妹紅の家。以前に行くとか言っておきながら結局行ってないしね。

 

 鬱蒼と竹が生い茂っているせいで、非常に迷いやすい場所だから、妹紅の霊力を頼りにゆっくりと進む。

 

 所々で見られた竹の焦げた跡は気にしないことにした。

 

 できればやめてもらいたいけれど、それが妹紅とあのお姫様の生きがいになっているのだから、どうしても止めにくい。

 それにしてもあの二人は仲が良いのか悪いのかわからん。俺には子供がじゃれている様にしか見えないけれど……

 

 昼過ぎに出発し、のんびりと歩いていたのにも関わらず、今だに日は高いままだった。日も長くなったねぇ。

 

 そして漸く、一件の平屋が見えてきた。

 軒先には干し柿や魚が吊るしてあり、周りは一応雪かきをしているらしい。

 

 しかし……言っちゃ悪いけれどあばら家にしか見えない。もう少し良い家に住もうよ……冬とか絶対寒いじゃん。いくら春が近づいていると言え、とても寒そうです。

 

 玄関と思われる入口まで近づき、何とも頼りなさそうな扉を二回叩く。もし妹紅が居なかったらどうしようか。待っていても良いけれど、やはり肌寒い。

 

「はいよー、何方さんだい?」

 

 そんな声がした。そして立て付けが悪いせいか、ガタガタと変な音を立てながら妹紅が出てきた。

 

「やほー、もこたん「ぶっ飛ばすぞ」……ご、ごめんなさい」

 

 妹紅さん超怖い。そろそろ『もこたん』呼ばれるのも諦めれば良いのに……それに暴力は反対です。

 

「それで、今日は何しに来たの?」

 

 何処か不機嫌そうな妹紅。

 不機嫌になる理由がわからない。

 

 なんてね。

 

「今日は一日暇だし、いつか遊びに行くって約束したから来たんだけど」

 

 まぁ、約束してなくても遊びに行くことはあると思う。

 

「ん~約束なんてしたっけ? 覚えてないけど……まぁ良いかとりあえず上がりなよ」

 

 そう妹紅に言われ、家の中へ。お邪魔します。

 

 家の中の様子は、真ん中に小さな囲炉裏があるくらいで、家具なんかはほとんどなかった。布団も見当たらないし、どんな生活を送っているんだろうか。

 

「悪いけれど座布団は無いんだ。まぁ適当に座ってよ」

 

 リュックを置き、言われた通り適当に座る。見た目の割に家の中は暖かい。結界でも張ってあるのかな?

 

「はい、とりあえずお酒ね」

 

 リュックから一升瓶を四本取り出し妹紅へ渡す。日本酒は純米吟醸だし、たぶん美味しいんじゃないかな。

 

「おおーありがとう。お酒も久しぶりだ」

 

 お酒だけじゃなくて、ちゃんと食べてる?見たところ食材とかほとんどないけど……これじゃあ慧音も心配するはずだ。

 

「まだ日は高いけどもう飲み始める?」

 

 他にすることもないし。

 

「そうだね。飲み始めるか」

 

 そんな感じでのんびりと二人だけの飲み会が始まった。たまにはこういう雰囲気も悪くない。

 

 

 

 

 

 

 囲炉裏で干し魚を焼き、俺が持ってきた野沢菜の漬物を食べながら、ちびちびとお酒を飲んでいく。漬物は良い塩梅で漬かってくれたらしく、お酒も進む。干し魚の方は、竹串に刺し妹紅の持っていた炭を使って囲炉裏でじっくりと。

 

「……もこたんのもくたん」

 

 そんなことをぽそりと呟いたら叩かれた。

 痛い……あと、木炭ではなく竹炭だそうです。

 

「それにしても、よく私の家の場所がわかったね」

 

 ポリポリと野沢菜を食べながら妹紅が聞いてきた。

 

「まぁ、妹紅の霊力を辿って来ただけだけどね」

 

 途中途中に霊力の残りがあったせいで、ちょっと面倒臭かったけれど、割とスムーズに来られたと思う。

 

「普通はそれができないんだけどな……」

 

 大丈夫、長生きしてればすぐにできるようになるよ。

 

「それにこれからは今回よりも簡単に来られると思うよ」

 

 おっ、そろそろ魚も食べられそうだ。魚から油がにじみ出し、良い匂いがしてきた。

 

「ん? どういうこと?」

 

 これって塩とかかかっているのかな?

 

「来る途中にもこた……じゃなくて『妹紅の家こちら』って看板をいくつか立てといた」

 

「何やってんの!?」

 

 もこたんが吠えた。うわっ、いきなり大きな声を出さないでよ。ビックリするでしょうが。

 

「何って今度から簡単に来られるようにしただけだよ」

 

 焼き魚にカブリつきながら言った。うん、ちょっと薄味だけど油も乗っていてなかなか美味しい。こりゃあ、お酒が止まりませんねぇ。

 

「そんなことしたら、他の奴らも来るじゃん!」

 

「え……まずかった?」

 

「はぁ……まぁ、いいよ。これで迷子になる人が減ると考えるさ」

 

 うん、妹紅ならそう言ってくれると思ってた。それに嫌がることも知っていたけれど、これで少しでも妹紅の人見知りが治るのなら良いのかなとも思っていた。

 

 妹紅も、もう少しくらい人里に顔を出さないとダメだよ?

 

 

 

 

 

 

 そんなお話や、俺が月に行ってきたお話なんかをしながら、ゆっくりお酒を飲んだ。二人で飲むのにはちょっと多いかな、と思っていたお酒も残りわずかに。

 

 まぁ、妹紅もお酒はよく飲むしこんなものなのかな。たぶん、外はすでに真っ暗だろう。まぁ、帰ってもすることはないし、のんびりしていようかな。

 

 そんなことを考えていると、玄関の扉を叩く音がした。

 

「うん? 慧音かな。ちょっと出てくるよ。はいよー、今行くよ」

 

 そう言って妹紅は扉の方へ。あら、野沢菜もなくなっちゃったか。干し柿でももらおうかな。焼酎には合いそうだし。

 

 ん~、もしお客さんが増えるとしたら絶対にお酒が足りないよね。どうしようか。

 

「今晩は妹紅。暇だから遊びに来てあg」

 

 妹紅が扉を開け、誰かの声がしたと思ったら、勢いよく扉を閉める音がした。

 

 え……何? 何があったの?

 

「えと……誰だったの?」

 

 妹紅の様子から慧音ではなさそうだけど。

 

「家を間違えたそうだ」

 

 いや、でもさっきの人確かに『妹紅』って言ってたよ? それにその言い訳はちょっと無理があると思う。

 

 そして、また扉を叩く音がした。

 さっきよりも乱暴な感じだった。

 

「黒。私が合図をしたら全力で横へ飛べ。そしてたらヴォルケイノするから」

 

 やめなさい。

 なるほど、来客は永遠亭のお姫様でしたか。

 

「こんな日くらい喧嘩するな。向こうだって喧嘩しに来たわけじゃないんだろ?」

 

「まぁ、確かに今日は戦う日じゃないけれど、アイツのことだし何をするか……」

 

 日にちとか決めてるんだ……仲良いですね。口に出したら絶対否定されると思うけれど。何時まで経っても妹紅ってばお子様なんだから。

 

「んじゃあ、俺が話を聞いてみるよ」

 

「……任せた」

 

 了解。全くもこたんも世話が焼ける奴だ。ここは一つ大人の対応ってのを見せてあげよう。

 

 立ち上がり、今だに叩かれ続ける扉を開けた。

 

 そしてその扉を開けると、永遠亭のお姫様と八意さんがいた。

 

「あら、貴方もいたのn」

 

 俺は扉を閉めた。

 

 

 ……いや違う、違うんだ。言い訳をさせてくれ。お姫様は良いんだ。でも八意さんはダメだ。まだその時期じゃないんだ。

 

「……何やっているのさ?」

 

 妹紅の視線が痛い。

 し、仕方が無いじゃないですか……俺だって苦手な人はいるのだから。

 

「あーもう、鬱陶しい! お邪魔するわよ!!」

 

 そう言ってお姫様が入ってきた。

 もちろん八意さんもだ。

 

 うわー、帰りてー。

 

「あら妹紅の家にあの半獣意外がいるなんて珍しいわね」

 

 お姫様が言った。

 

「……それで、何しに来たのさ?」

 

 途端に不機嫌になるもこたん。見ていて微笑ましい。

 

「最初に言ったでしょ? 暇だったから永琳と一緒に遊びに来たのよ」

 

 一人で来てください。心の底からそう思った。

 

「久しぶりね」

 

 八意さんが俺に言ってきた。

 

「え、あはい。そうっすね……」

 

 八意さんから目を反らし、自分でも分かるくらいぶっきら棒に答えた。なんとかこの場所から逃げることはできないだろうか。

 

「ん~、お酒もなくなったし俺はそろそろ帰ろうかな」

 

「お酒なら持ってきたわよ」

 

 八意さんが言った。

 余計なことを……

 

「えと……ああ、そうだ帰ってやらなきゃいけないことが」

 

「さっき、今日は一日暇だって言ってただろ?」

 

 意地の悪い笑を浮かべながら、妹紅に言われた。

 

 仕返しか!? 看板立てたことの仕返しなのか!?

 

 はぁ……どうやら逃げることはできないらしい。仕方が無い……のかな?

 

「いつ来てもこの家は狭いわね。座布団とかないの?」

 

「無いから帰れ」

 

 ギャーギャーと仲良く騒いでいる妹紅とお姫様。

 

「結構良いお酒を持ってきたのだけど、どう?」

 

 そして、八意さんは俺にそう言ってきた。む、良いお酒ですか?

 

 ふむ……お酒に罪はないのだし此処は素直にいただくとしよう。

 

「いただきます」

 

 まぁ、八意さんにも罪なんて無いんだけどさ。

 

 いただいたお酒は香草の良い香りがする、すっきりとした味わいのハーブ酒だった。焼酎はまだあるし、今度俺も作ってみようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人数が倍に増え、一気に賑やかな飲み会となった。賑やかなのは主に妹紅とお姫様だけどさ。

 

 俺は八意さんと二人で静かに飲んでいました。ホント、何を考えているんだろうね、この人。

 

「黒って言ったかしら?」

 

 そう言ってお姫様が声をかけてきた。

 

「そうだけど、どうしたの?」

 

 そう言えば、このお姫様と会話をするのは始めてかもしれない。まぁ、俺がほとんど永遠亭に行ってないからだけど。行ってもてゐとぐらいしか話せない。

 

「うちで暮らしてみない?」

 

 いきなり凄いことを言われた。

 手に持っていたコップを落とさなかっただけでも褒めてもらいたい。

 

「えと……どうして?」

 

 てか、普通に嫌です。永遠亭で暮らすとか、心が擦り切れます。

 

「貴方と喋っている永琳が楽しそうに見えたからよ。部屋も余っているし。永琳だって別に良いでしょ?」

 

 お姫様はそう、俺と八意さんに言った。あれで楽しそうだったのか? 俺にはよくわかんないけど……

 

「まぁ、私は構わないけれど」

 

 俺を見ながら八意さんも言った。

 いやいや、勘弁して下さいって……

 

「今住んでいる所も大事だし、悪いけど断らせてもらうよ」

 

 もし永遠亭と紫の家どちらに住むかと聞かれても、俺は永遠亭を選ばないと思う。俺だって色々と複雑なのだ。

 

「そう。もし暮らしたくなったのならいつでも言いなさい。それに遊びにくらい来なさいよ?」

 

 お姫様が言った。

 そう言えば永遠亭に遊びに行く約束あったっけ。すっかり忘れていた。

 

「ま、そのうちね」

 

 ここの4人は時間だけはあるのだし、のんびり行かせてもらおう。これから永い付き合いにもなる。焦る必要はないのだから。

 

 

 

 

 

 

 そんな会話をしながら、不老不死者達による飲み会は朝まで続いた。

 

 お姫様はすでに寝ている。妹紅も妹紅で何処か眠そうだ。八意さんは変わってないけど。

 

 簡単に片付けをして、妹紅に別れを告げる。

 

「んじゃあ、そろそろ帰ろうかな。また遊びに来るよ」

 

「ん、待ってるよ」

 

 そんな簡単な会話をして外へ出る。冷たい空気がお酒で火照った体によく沁みた。

 

 吐き出す息は白くなり、まだ冬なのだと感じさせられる。

 

 隣に立っている八意さんの背中には、気持ちよさそうに寝ているお姫様。俺が背負って行こうか? と聞いたら丁重にお断りされた。

 

「それで? うちにはいつ来てくれるのかしら?」

 

 八意さんが聞いてきた。

 

「えー、まぁ……そのうちでしょうか?」

 

 俺がそう答えると、八意さんは小さくため息をした。吐き出される息はやはり白かった。

 

「貴方は少し気にしすぎ。あまり来ないようなら、私の方から行くわよ?」

 

 え……マジすか?

 

「まぁ、今の所は冗談だけど、そろそろ来なさいよ? 別に一人で来いとも言っていないのだし」

 

 あ~じゃあ霊夢でも連れて行こうかな。

 

「わかりました。近いうちに遊びに行かせてもらいます」

 

「そう、それなら良いの」

 

 そう言って八意さんは帰って行った。相変わらず何を考えているのかは分からない。

 

 嫌いってわけじゃないんだけどな……どうにも、ね。もう少し器用に生きることができれば良いんだけど……

 

 

 さて、俺も帰るとしようかな。

 流石に寒くなってきた。

 

 春が恋しいです。

 

 






今回、主人公さんは妹紅さんの『霊力を辿って来た』とか言ってましたが、妹紅さんの力って妖力なんでしょうか?
妖術を使うのでそのエネルギー源はやっぱり妖力なのかな
とも思いましたが、一応彼女も人間ですので霊力としました


と、言うことで第45話でした

最近急に寒くなってきたので、ビールから麦焼酎にシフトしました
結局冷たいままで飲むので意味はあまりありませんが……

次話は未定です
完結までのビジョンが全く見えません
どうしたのもか……

では次話でお会いしましょう


感想・質問何でもお待ちしております


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第46話~言葉にしないと伝わらない~

 

 

「春だ」

 

「春ね」

 

 満開に咲いた桜を見ながらぽそりと俺が呟くと、隣に座っていた幽々子は静かに同意した。降り積もった雪は溶けてなくなり、待ちに待った季節がやっときた。

 

 春。

 うん、やっぱりこの季節が一番好きかな。

 

 お土産に持ってきた大量の団子は既になくなり、今は串の山へと変わっていた。食べ過ぎです。

 

「しかしねぇ。こうも毎年桜を見続けると流石に飽きてくるな」

 

 ああ、今日もお茶が美味しいです。

 

「嘘でしょ?」

 

「嘘だよ」

 

 俺がそう答えると、幽々子はクスクスとどこか楽しそうに笑った。

 未来なんて誰にもわからないけれど、この桜を見飽きることなんてないんだろうな。そんな気がする。

 

「そう言えば今日だったわよね?」

 

 どこかを見ながら幽々子が言う。その視線の先には、あの咲かない桜の木。

 

「うん? 何が?」

 

「博麗神社でお花見」

 

 ああ、そう言えばそうだった。すっかり忘れていたよ。

 

「忘れていたでしょ?」

 

 ジト目の幽々子さん。

 

「歳のせいか忘れっぽくてね」

 

 俺がそう言うと幽々子はまた笑った。

 

 けれどもお花見と言う名の宴会まではまだまだ時間はあるのだし、もう少しゆっくりさせてもらうとしよう。

 

「あの木も以前より元気になった気がするわ」

 

 幽々子が言った。視線の先は変わらずその木に向けられている。

 

「そうなのか? 俺には違いがわからんけど」

 

 どう見ても枯れ木だもんね。俺には枯れ木の違いとかわかりません。

 

「また咲かせてみようかしら。そうすればもっと元気になりそうだし……」

 

 お願いですからやめてください。

 

「ふふっ、冗談よ。封印されている人は気になるけれど、私はそれでも良いと思っているし」

 

 どうか、そのままの気持ちでいてくださいね。封印するのだってなかなかに疲れるんだ。

 そして、もしあの封印が解けてしまったら今の幽々子に会うことはできなくなるだろう。それは少し悲しいかな。

 

「それに……」

 

「うん?」

 

「咲かない桜って言うのも風流だと思わない?」

 

 そう言って幽々子は笑った。

 うん、そうかもしれないね。

 

「俺は咲いている桜の方が好きかな」

 

「ひねくれ者」

 

 そういう性格なんです。

 

 

 

 そんな感じで妖夢ちゃんの淹れてくれたお茶を飲みながら、のんびり幽々子と雑談をしていると、視界の端にふよふよと此方へと近づいてくる紅白が見えた。

 

 おろ、どうして霊夢が? 宴会まで時間はまだあると思うけれど。

 

「あら? お迎えが来たみたいよ」

 

 ん~、俺に用があるのかな? 時間はまだお昼過ぎ。宴会に来るメンバーのほとんどは夜からが本番なのだし、流石に早すぎるでしょ。

 

「やっと見つけた。ここにいたのね」

 

 俺たちの目の前に降りて、霊夢が言った。どうやら俺に用があるらしいです。

 

「や、霊夢こんな時間からどうしたの?」

 

 もう少しのんびりしていたかったんだけどなぁ。

 

「お花見の準備をするから来て。それに萃香や紫は飲み始めてるし、レミリアも来てるし……」

 

 はええよ。今、何時だと思ってるんだ。そして何でレミリアが昼間からいるんだよ。

昼間はちゃんと寝てなさい。フランちゃんは……流石に来ていないよね?

 

 なんだかなぁ。

 皆、春になって浮かれているんですかね?

 

「了解。んじゃあな幽々子。また博麗神社で」

 

「ええ。また」

 

 そんな簡単な会話だけをして霊夢と一緒に飛び立った。

 

 お酒も持って来ないとだし、忙しくなりそうだ。ホント、ゆっくりさせてくれやしない。

 ただ、白玉楼の桜も嫌いではないけれど、やっぱり博麗神社の桜が一番。自分で植えたってのもあるんだろうね。まぁ、このお花見も心の底ではかなり楽しみだったりします。

 

 春の風に乗り、桜の香りに誘われて向かう先は博麗神社。花より団子と言う言葉があるけれど、できることならどっちもいただきたい。

 

「そう言えば黒」

 

 飛びながら、と言うよりは落ちながら博麗神社へ向かっていると、こちらを見ないまま霊夢が聞いてきた。

 

「どしたの?」

 

「この前、今度何処かへ二人で遊びに行くって言っていたけど、いつ行くのかしら?」

 

 ……うん?

 そんなこと言ったかな? 覚えていないんだが。

 

 あら、ヤバい。霊夢さん不機嫌だ。えと……どうしようか。忘れていたとか言うと絶対怒られるよね。

 ただ、上手い言い訳なんてできるわけがない。

 

「忘れてたの?」

 

 漸く霊夢がこちらを見てくれた。

 俺は目を反らしたけれど。

 

「え~……まぁ、その……はい」

 

「……そう」

 

 いつもと変わらないように見えたけれど、何故かその声は悲しそうだった。もしかしたら楽しみにしていてくれたのかな。

 

 ごめんな。

 今度は忘れないようちゃんと覚えているよ。

 

 

 

 

 それからは会話もなく、どことなくギスギスとした雰囲気のまま博麗神社へと着いた。

 

 淡い桃色の花びらを付けた木々が博麗神社を春一色に染め上げ、なかなかに見事な風景。その桜の下では萃香と紫がお酒を飲んでいた。

 

 てか、紫は呼ばれてないでしょうが。なぜ此処にいる。呼んでも出てこないくせに、呼ばないと出てくる割と困ったちゃんめ。

 

「おー、やっと黒も来たんだ。こっちに来なよ」

 

 俺に気付いた萃香が言った。

 

「あら……霊夢が不機嫌そうだけど何かしたの? どうせ貴方が原因でしょうけれど」

 

 紫が言った。おっしゃる通りで返す言葉もございません。

 

「何をしたのかわからないけれど、ちゃんと謝っておきなさいよ? 言葉にしなきゃ伝わらないこともあるのだし」

 

 紫に俺自身が誰かに言ったセリフを言われた。

 

「……わかっているよ。俺はちょっとお酒を取ってくるからもう少し待っててくれ。皆がそろう前に飲み過ぎるなよ?」

 

 どうせダメだろうけれど、一応言っておいた。霊夢は博麗神社に着くと早々に母屋へと行ってしまった。たぶん宴会の準備をするんだろう。

 

 店に戻り、のんびりと準備をしていたせいで博麗神社へまた戻ってくる頃には宴会が始まってしまっていた。遅れたのは、早苗ちゃんのためにライスワインを探していたりしたせいです。

 

 

 紅魔館組をはじめ、白玉楼、永遠亭、守矢神社に妖精などと賑やかな声が神社に響く。

 

「遅いよー。何やっていたのさ?」

 

 片手にいつもの瓢箪を持ちながら萃香が言ってきた。

 

「のんびりしていたら遅れちゃったんだよ。まぁ、お酒はちゃんと持ってきたから良いだろ?」

 

「おおー、それなら良い。久しぶりに黒のお酒も飲みたいしね」

 

 お前は最近店に来てたでしょうが。あと、お花見なんだからちゃんと桜も見なさいよ。

 

「わー黒のお酒だ!」

 

 声のした方を見ると守矢神社の神様がいた。お前らのせいで日本酒のストックが既になくなりかけてるんだけどね。毎日のように俺の店に来ては大量のお酒を飲んでいきやがった。どうやって店へと続く入口を見つけているのやら。

 

「あ、諏訪子。このお酒は早苗ちゃん用だから渡しておいてあげて」

 

 5合ほどのお酒が入れられた瓶を諏訪子に渡す。

 

「何これ?」

 

 ライスワインとか言われるやつ。日本酒の発酵を途中で止めることで、甘く飲みやすいお酒になる。

 

「甘い日本酒って感じのお酒かな」

 

 持ってきたお酒は適当に回りながら皆へ渡していく。

 

 魔理沙ちゃんは珍しく来ていた橙と弾幕ごっこ。酔っ払った妖夢ちゃんはいつものように剣を振り回し、それを見て笑っている幽々子。妹紅と慧音は、端の方で桜を見ながら静かにお酒を飲み。永遠亭のメンバーは紅魔館組と一緒にいた。月に言った時のことでも話しているのかな。

 

 賑やかな空気。

 楽しげな雰囲気。

 

 しかし、何かが足りない。

 

「なあ、紫。霊夢は?」

 

 いつの間にか隣にいた紫に尋ねる。

 

「母屋で休んでいるわよ。珍しく飲み過ぎたみたいね」

 

 へぇ、そりゃあ珍しいな。鬼のお酒でも飲んだんだろうか。飲みやすい割にアルコール高いしね、あのお酒。

 

「行ってあげなさいな。一人にしてはかわいそうでしょ?」

 

 まぁ、それもそうだね。元気になるとも思えないけれど、一人じゃ寂しいもんな。

 

 そんな会話を紫として母屋へと向かう。その途中で八意さんに捕まった。なんですか? もう。

 

「巫女のところへ行くの?」

 

「ええ、まあ」

 

 心配と言えば心配だし。

 

「じゃあこれを持って行きなさい」

 

 そう言って八意さんが紙に包まれた物を渡してくれた。

 

「……これは?」

 

「酔いの為の薬よ」

 

「ども、ありがとうございます」

 

 助かります。それ俺にもくれないだろうか?

 

「……いくらあの巫女が人間離れしているとは言え、あの娘はまだ子どもよ。身体も……心もね」

 

 それだけ言って八意さんは騒がしい方へと戻っていった。

 

 ……子どもねぇ。そんなこと俺が一番わかっているはずなのにな。

 

 

 そしていつもの縁側に霊夢は座っていた。うん? 思っていたよりと大丈夫そう?

 

「あら? やっと、来たのね」

 

 こちらをまっすぐ見ながら霊夢が言った。ちょっと遅れちゃったけどね。まぁ、きっと間に合ったんだろう。

 

 てか、すごく酒臭いぞこの巫女。どんだけ飲んだんだよ。

 

「珍しいね。霊夢が飲み過ぎるなんて」

 

「……なぜか飲みたい気分だったのよ」

 

 おっさんみたいな奴だな。口には出さんけど。怒られるのやだし。

 

 そんなことよりだ。

 

 

 霊夢の機嫌は治ってくれたのかな?

 

 

 ああ……いや、違うか。

 

 紫に言われたじゃないか。口に出さなきゃ伝わらないって。

 

 あ~、やだな~、恥ずかしいったらありゃしない。まぁ、でも言わなきゃいけないんだろう。

 

「……ごめんな」

 

 そっぽを向き、ぽそりと言った。

 

「……文とは遊んでたくせに」

 

 すねたような口調で霊夢が言った。

 

 あれは無理矢理連れて行かれたんだけどね。そんな言い訳が口から出かかる。ただ、それでは話が進まない。

 

「すっかり忘れたんだ。だからその……ごめん。今度はちゃんと覚えておくし、ちゃんと俺の方から誘うからさ」

 

 だから機嫌を直してくれませんか?

 

「うん……楽しみにしているわ」

 

 霊夢もどうやらかなり酔っているようで珍しいくらい素直だった。

 

 

 その後も霊夢を置いて騒がしい方へと戻る気にはなれず、八意さんからもらった薬を渡し、お茶を飲み、夜桜を楽しみながらのんびりとした時間を過ごした。その時どんな話をしたのかなんてのは……まぁ、別に言わなくても良いとしよう。

 

 

 結局その日、お酒を口にすることはなかったけれど、こういう日も良いかもしれない。

 

 な~んてね。

 

 

 さてさて霊夢とのお出かけは……ホントどうしようか。

 

 






先日、日本酒の講演会があり行ってきました
決して試飲会が楽しみだったわけではありません
ええ、違いますとも

そこで本文でも出てきたライスワインを初めて飲んだのですが非常に美味しかったです
日本酒が嫌いと言う方でも美味しく飲めるかと思います

お値段は高いですが……


と、言うことで第46話でした
間が空きましたが私は元気です
ラブコメっぽいの書きたいな~とか思いながら書いたらこの有様だよちくしょー

次回は漸く霊夢さんとのデート……を書けたら良いと思っております


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第閑話~たまには二人で~



このお話を書くのに四ヶ月かかりました

なんとなくの閑話です
本編とは何の関係もありません

イラッ☆っときたらブラウザバック推奨です

それでは始めます




 

 

 暖かな日差しに眠気を誘われながら、博麗神社の縁側に座ってゆっくりとした時間を過ごす。今だ桜は満開のままで、何とも幸せな気分です。

 

「ああ、平和だ」

 

 毎日がこんな感じなら良いのに。最近は守矢の神々が、しょっちゅう店に来ては騒いでいるせいで、こんな時間はなかなか過ごせない。

 

「……年寄り臭いわね」

 

 隣に座って一緒にお茶を飲んでいた霊夢が言った。実際、年寄りだしね。仕様が無いね。

 

 

 時刻はまだお昼前。

 珍しく朝に目を覚ましそのまま博麗神社へ。

 

 さてさて、それじゃ……

 

「よし、そろそろ行くか」

 

 随分と遅れてしまったけれど、いつまでも待たせるわけにはいかない。

 

「えっ……どこへ?」

 

 きょとんとした顔で霊夢が聞いてきた。

 

「一緒に出かけるって約束を果たしにさ」

 

 まぁ、何処へ行くかは決めてないのだけど。とりあえずは人里でお昼でも食べようか。その後何処へ行くかは……まぁ、のんびり考えるとしよう。

 

 

 飲んでいたお茶を片付け、霊夢の準備を待ってから二人仲良く出発。

 

「歩いていくの?」

 

 霊夢が聞いてきた。

 

「たまにはこういうのも良いだろ?」

 

 決して、時間を稼ぎたいだとか、人里以外に行く予定がないとかそんなことは思ってない。

 

「まぁ、良いけれど」

 

 うん、それじゃあ、春でも探しながらのんびり行きましょうか。

 

 

 

 

 

 

 獣道にしか見えないような道を歩きながら、人里を目指す。

 

「この道も荒れてるなぁ。ちゃんと整備しないと参拝客が来ないよ?」

 

 石や倒れた木なんかで道はボコボコ。歩き辛いったらありゃしない。昔はここまで酷くなかったと思うけど……

 

「それは困るけれど、面倒臭いわね」

 

 そんなんだろうと思ったよ。このやろー。

 

 守矢神社はちゃんと立て看板もあって整備されていると言うのに……まぁ、あちらも人間の参拝客は少ないそうだが。

 

「てか、霊夢はまたその服なんだな」

 

 おめでたい色したいつもの巫女服。

 

 なんだよその袖。どうやって止めてるんだよ。

 

「これしかないもの。そういう黒だっていつもと同じ金色の洋服じゃない」

 

「そんな服着てねーよ。いつも通りの黒色の和服だわ」

 

 読者が誤解するでしょうが、今まで積み上げてきた俺のイメージが壊れるでしょうが。

 

 全く……ん~、それにしても霊夢がそんなボケを言うなんて珍しい。俺が思っているより機嫌は良いのかな?

 

「……なによ。そんなに人の顔を見て」

 

 いつもと変わらない仏頂面。きっと初対面の人から見れば、機嫌が良いとは思わないんだろうな。

 

「いんや、何でもないよ」

 

 自然と笑が溢れた。やっぱり楽しみにしていてくれたのかな。そうだったら嬉しいよ。

 

 な~んてね。

 

 

 

 

 

 楽しそうに遊び周る妖精や、いつか見た黒色の球体何かを横目に、霊夢と雑談しながら歩き、漸く人里に着いた。

 山を降りるだけだし、思っていたよりは早く人里へ着けたと思う。けれども、まぁ帰りは飛んで帰ることにしよう。

 今の時刻は正午と言ったところだろう。お昼の時間です。

 

「お昼にしようと思うけど、霊夢は何か食べたいものある?」

 

「別に何でも良いわ」

 

 むぅ、何でも良い、か。どうせなら春っぽいものを食べたいけれど、春っぽい食べ物ってなんだろうね。

 

 

 行く宛てもなくフラフラ歩いていると、山菜蕎麦と書かれた看板が目に付いた。

 

 山菜か……うん美味しいそうです。

 

「ちょうど目の前にあるし蕎麦でも良い?」

 

 お蕎麦の季節ではないけれど、新緑の季節に山菜は良いかもしれない。

 

「ええ、良いわ」

 

 了解。

 

 霊夢の返事を聞いてからお店の中へ。お昼時と言うこともあってか、中の様子を賑やかだった。

 

 ちょうど空いていた二人がけのテーブルに座ると、店員の人がお茶を持ってきてくれた。

 お茶からふわりと蕎麦の香りがする。む、蕎麦茶ですか? 大好きです。

 

「いらっしゃい……ってなんだい、黒じゃないか。あんたは相変わらず成長しないねぇ」

 

 そんな声を店員さんがかけてきた。

 

「おろ、久しぶり。今はここで働いているの?」

 

 あと、成長しないのは仕方がないんです。そういう体質なもので。

 声をかけてきた店員さんだけど、昔は団子屋にいたと思った。何年も前のことだけどさ。

 いや~、貴女も歳をとりましたねぇ。

 

「10年ほど前から看板娘をやってるよ」

 

 看板詐欺も良いとこですね。

 

「それにしても黒は見る度、違う女の子と一緒にいるねぇ。今度は巫女さんかい? ちょいと前は違う巫女さんだったし、天狗の娘とも一緒だったらしいじゃない」

 

 コラ、その話はやめなさい。霊夢さんの機嫌が悪くなるでしょうが。

 

「そ、その話はいいから。俺は山菜蕎麦で。霊夢は」

 

「……私もそれで」

 

「はいよ。山菜2つー!」

 

 そう店員さんは厨房の方へ叫んだ。

 

「それで……黒はいつになったら籍を入れるんだい? あんた何歳さ。もう良い歳なんでしょ? どうせなら私が紹介してあげようか?」

 

 ま~た嫌な話を……早く何処かに行ってくれませんかね? 居心地が悪いったらありゃしない。全く、これだから人里は……

 

「する予定はないよ。これから先もね」

 

 俺がそう答えると、店員さんは――

 

「もったいないねぇ」

 

 とだけ言って違うお客さんの所へ行ってしまった。はぁ、やっと行ってくれたか。

 

「えと……そんなに俺を見つめてどうかしましたか?」

 

 そしてさっきから霊夢の視線が痛い。

 

「……早苗のことは知らなかった」

 

 だって言ってないもん。言えるわけがないもん。

 

「い、いや、別にあれだぞ? ただちょっと早苗ちゃんに人里がどんなところか教えていただけで、そんなやましいこととか」

 

「何慌ててるのよ」

 

 ホント何慌てているんでしょうね。

 

 出された山菜蕎麦の味はよくわからなかった。

 

 

 

 

 

 蕎麦屋を出たあとは、人里をぶらぶらしながら大道芸や出店を冷やかしたり、天ぷら用に山菜を買ったりしながら歩いた。ちゃんと味わって山菜をいただきたかったんです。

 けれども霊夢の服が目立つせいか、何処へ行っても

 

『おい、ま~た黒が違う女の子連れてるぞ』

 

 とか

 

『前の女の子とはどうなったんだい?』

 

 とか主に大人達から言われ続けた。

 

 放って置いてもらえませんかねぇ……何? 俺って意外と有名だったの? 霊夢の機嫌の方は……どうなんだろうか、よくわからなかった。

 

 

 

 

 

 身も心も疲れ、とりあえず団子屋で一休み。お腹が減っているわけでもなかったから、7本出された団子は1本を残してあとは霊夢にあげた。

 

「知ってはいたけれど……」

 

 霊夢がぽそりと呟いた。

 

「うん?」

 

「黒って本当に知り合いが多いのね」

 

 まぁ、そりゃあ長く生きているしね。人里も広いわけではないから、自然と顔も覚えてくる。

 

「霊夢ももっと人里に顔出したら?」

 

「嫌よ。遠いもの」

 

 相変わらずだな~。気持ちはわからんでもないけどさ。

 

「……本当に黒は籍を入れたりしないの?」

 

 おろ、霊夢にしては珍しい質問じゃないか。

 

「うん、入れることはないと思うよ。何より相手がいないしね」

 

 それにほら、俺って不老不死だから相手が可哀想でしょ? な~んて言い訳してみたり。

 

「そう……私もいつか結婚するのかしら?」

 

 そう言った霊夢の表情は少しだけ真剣に見えた。

 

「さぁ、それは霊夢次第じゃないか? まぁ、歴代の巫女でも結婚したのは……あ~、まぁ、ほとんどいないけどね」

 

 そのせいか紫が俺に毎度毎度、愚痴を言っていた。次代の巫女を探すのが面倒なんだと。俺に言うなよ。

 

「誰のせいだか……」

 

 霊夢からそんな言葉が聞こえた気がした。

 

 博麗の巫女と言う役のせいで、人里の女性と比べれば、異性との出会いはかなり制限されてしまうだろう。今まで途中で巫女をやめたりする人はいなかった。幻想郷のため犠牲となってもらってきた。

 

 歴代の彼女たちは――どんな思いだったんだろうね。

 この霊夢だって……。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな会話をした後は、今までどんな巫女さんがいたのか、なんて昔の話をした。いくら日が長くなり始めているとは言え、流石にのんびりしすぎたせいか、日は沈み始めている。

 

「そんじゃそろそろ帰ろっか。酒飲もうぜ。酒」

 

 暖かいお酒が飲みたいです。

 

「そうね。寒くなってきたし。それで何処で飲むの? うちにはお酒がほとんどないわよ」

 

 宴会があったばかりだしね。まぁ、それなら俺の店で飲めば良いさ。

 

「俺の店でって……」

 

 そこでふと、霊夢の髪が気になった。

 

「うん? どうしたの?」

 

「随分と髪伸びたんだな」

 

「あ~、そう言われれば最近切ってなかったし、これじゃあ邪魔ね」

 

 邪魔呼ばわれとは……髪は女の命とも聞いたことがあるけど……

 

「ああ、ちょうど良いか。ちょいと待ってて」

 

 そう言えばさっきの出店にあったよね。

 

「なんなのよ……」

 

 霊夢をあまり待たせすぎないようにしつつ、急いで先ほどの店へ。店仕舞いを始めていたけれど、なんとか買うことができた。

 そして買ってきた物を霊夢へ渡す。

 

「なあにこれ?」

 

「髪紐かな。せっかく綺麗な髪なんだし切るのはもったいないだろ」

 

 桜の装飾品が付いた桃色の髪紐。俺には女性のおしゃれとかはわからないけれど、気に入ってくれれば嬉しいです。

 

 霊夢も最初はよくわからなかったみたいだけど

 

 

 ――ありがとう。

 

 

 そう言って霊夢は笑ってくれた。

 だからたぶん、悪くはなかったんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 その後、人里から俺の店へと移動して、茹でたコゴミやふきのとうやタラの芽の天ぷらなんかをお摘みにしてお酒を飲んで夜を明かした。外は明るくなり始めている

 

 むぅ……流石に眠い。霊夢なんか今にも寝そうだ。

 

「流石に眠いし。そろそろ帰るわ」

 

 お酒もなくなり、ちょうど良い頃合。

 

「了解」

 

 朝日を浴びながら霊夢を博麗神社へ続く道まで送る。

 

「ああ、そうだ。どうだった今日は?」

 

 一応聞いておかなければいけないんだと思う。これで、つまらなかったとか言われたらショックだけど。

 

「そうね……黒がどんな生活を送っていたのかわかった気がするわ」

 

 むぅ、なんか言葉に棘があるんですが……

 

「けれども……うん……楽しかったわ。それに髪紐も嬉しかったし」

 

 そんな言葉を落とし、俺を見ながら霊夢は笑ってくれた。

 

「そっか。それなら良いんだ。いつになるかわからないけど、また遊びに行こっか」

 

「そうね。楽しみにしているわ。それじゃ、また」

 

「うん、また」

 

 そう言って霊夢は帰って行った。

 

 なんだ、仏頂面ばかりかと思っていたけれど、ちゃんと笑っているじゃないか。きっと、俺が気づいていなかっただけなんだろう。

 

 最初はどうなるかと思っていたけれど、霊夢は笑ってくれたし良かったんじゃないかな。そう思います。

 

 






漸く……漸く書くことができました
一応こんなんでも霊夢さんとのデートをさせているつもりです

これ以上のクオリティは無理です
だってデートとかしたことないもん

鼻で笑ってあげてください


と、いうことで第閑話でした
なんとなく閑話にしましたが特に意味はありません

それでは次話でお会いしましょう
次話は相も変わらず未定です


感想・質問はそれほどお待ちしておりませんが、書いていただければ作者がにやけます


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第47話~始まりに向けて~



漸く終わりが見えてきました




 

 

 時刻は日付が変わろうとしている当たりと言ったところだろうか。満開に咲いていた桜も散り始め少しばかりの寂しさを感じる季節。一年中咲いている桜とかあれば良いのにね。

 

 いや……散るからこそに美しいのかな。秋に咲く桜も見たことはあるけれど、何と言うか綺麗だとは思えなかった。

 やっぱり春に咲くからこそ良いのかもしれない。

 

 

 さてさてと……そろそろ動き始めるとしましょうか、いつまでも止まっているわけにはいかない。

 終わらせないといけないのだから。

 

 

 

 お店の戸締りを確認してから外へ。

 

 最初に目指す所は紅魔の館。ああ、今日は忙しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「や、今晩は美鈴」

 

 半分に欠けた月を見ながら今日も元気に働いていた門番さんに挨拶。いつもご苦労様です。

 

 いつ来ても美鈴が門番をやっている気がするけれど、ちゃんと休みとかあるのかな?

 

「はい、今晩はです黒さん。今日はどのようなご用件で?」

 

 体は大切にね。

 

「ちょっとレミリアに用事があってさ」

 

 本当は俺の力だけでできれば良いのだけど、俺弱いしなぁ……

 

「う~んお嬢様起きていますかねぇ……了解しました。それでは中へどうぞ」

 

 うん? まだ寝ているってことなのかな? そりゃあ随分とお寝坊さんだ。人のこと言えんけど。

 

「いらっしゃいませ。黒様。本日はどのうような御用件で?」

 

 紅魔館に入るとすぐに咲夜さんが登場。

 そう言えば咲夜さんと会話をするのも久しぶりな気がする。月に行って以来? まぁ、正直なところ咲夜さんと話し始めると、無駄に文字数が増えるからアレなんだよね。

 

「今晩は咲夜さん。レミリアに用があるんだけど、今起きてる?」

 

 もう既に日付は変わっただろうし、起きてはいるよね? 人間で言えばもうお昼過ぎだ。

 

「お嬢様なら既に御就寝されましたが……」

 

 え? ……えっ? 何? もう寝ちゃったの? いや吸血鬼でしょ? 何で夜に寝てるんだよ。

 

「最近は健康のために早寝早起きがブームらしいです」

 

「昼夜逆転してるじゃねーかよ。不健康極まりねーよ!」

 

 それで良いのか、妖怪最強種……起こしてもらうってのは流石にできないよね。

 

 むぅ、初っ端から予定が崩れた。どうしよう、紅魔館は後回しに……でも他の奴らも寝ているだろうし……これは困ったな。

 

「妹様ならいらっしゃいますが、呼んできましょうか? 会いたがっていましたし。と言うか貴方がなかなか来ないせいで、妹様の機嫌が悪くなりやがりまして妖精メイドも困っています」

 

「おい、口調。口調。ブレ始めてるぞ」

 

「そうですね。それが良いですね。ちょうど良いですし溜まりに溜まったストレスを発散していただいて……うん、それが良い。少々お待ちください」

 

 お前が待て。

 

 いや、お願いします。待ってください。死亡フラグしか感じないのですが。あれ? え? この手錠と足枷は何ですか? やめてください、死んでしまいます。

 

 おい、この扉開かないぞ、どうなってんだ! 責任者呼んでこい

 

「わーっホントにクロがいる! フフッ本当に久しぶりね。やあっと来てくれたンダ。マッテタンダヨ」

 

 やめろー! 死にたくない! 死にたくない!! 死にたくn……ああ、ダメだわこれ。

 

「それでは私は紅茶を用意してきますので、ごゆっくりどうぞ。あっ、すみませんが、カメラは止めておいてください」

 

 

 ……すみません、テイク2で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~テイク2~

 

 

「それで、今日はどうしたの?」

 

 膝の上に座り、楽しそうな表情でフランちゃんが聞いてきた。この娘もどうしてここまで懐いてくれたんだろうね?

 まぁ、これはこれで嬉しいけどさ。

 

「ちょっとレミリアに用があったんだ。でも、もう寝ちゃったらしいしなぁ」

 

 どうしたもんだか……

 

「ねぇ、さっきから五月蝿くて寝られないんだけど、何を騒いでいるのよ」

 

 そんな声が聞こえた。そちらの方を見るとピンク色のネグリジェを来て、眠そうに目を擦っているレミリアが立っていた。おお、起きてきてくれたか。

 

「や、今晩はレミリア」

 

「なんだ黒が来ていたのか。それで、何の用なの? 私は眠いんだけど」

 

 ……君、本当に吸血鬼かい? 威厳が微塵も感じられないんだけど。

 

「ちょっと頼みたいことがあってさ」

 

 聞いてもらえれば嬉しいです。

 

「真面目な話?」

 

「うん、真面目な話」

 

「へぇ……わかったわ。ちょっと待ってなさい。準備をしてくるから」

 

 そう言ってレミリアは自室の方へ戻っていった。

 

「私は聞かない方がいい?」

 

 不安そうな顔をしたフランちゃんが聞いてきた。

 

「いや、フランちゃんにも協力してもらうかもしれないし、大丈夫だよ」

 

 まぁ、どうせ俺が頼んだって言うことは、忘れちゃうんだろうけどさ。

 

「うん、わかった」

 

 

 

 

 

「それで、何の話しなの? これでどうでも良いような話だったら……殺すわよ?」

 

 いつもの私服に着替えてきたレミリアが言った。怖いなぁ。きっと寝起きだから機嫌が悪いのだろう。

 それに、どうでも良いかなんて俺にはわからんよ。

 

 

 そして俺は頼みたいこと、やってもらいたい事を二人に説明した。

 

「……何をすれば良いのかはわかったし、面白そうではあるけれど、そんなことをしたらあの妖怪賢者に怒られるんじゃない?」

 

 どうやらお気には召してくれたようです。

 

「大丈夫だよ。紫の了承は得ているからさ」

 

 と言うか、アイツも俺が話したらノリノリだったよ。お酒が入っていたからかもしれないけど。

 

「そう……それにしても何とも他人任せな異変じゃない。情けないわね」

 

 むぅ、そう言われると何も言い返せない。仕方無いじゃないですか。一人で異変を起こすだけの力なんてないんだから。

 

「それで、その異変はいつ起こせば良いの?」

 

「次の満月の日にお願いするよ」

 

 多分、一週間後くらいだと思う。その頃には桜も完全に散っているんだろうなぁ。

 

 それにしても、レミリアならもう少しごねると思ったけれど、よく聞いてくれたね。意外です。

 

 そのことを俺が聞くと――

 

「黒には色々と借りもあるしね。恩を返さないほど器は小さくないつもりよ」

 

 そう答えてくれた。

 情けは人の為ならず。と言ったところでしょうか。

 

「クロは何処かに行っちゃうの? 帰ってくる?」

 

 フランちゃんが聞いてきた。

 

「ちょっとだけいなくなるけど、まぁ直ぐに戻ってくると思うよ」

 

 だからそんな不安そうな顔はしないで。

 

「他人に頼まれて異変を起こすってのは癪だけど、了解したわ。まぁ、せいぜい黒も頑張りなさい。それで、黒はこの後どうするのかしら? せっかく来たのだし、ゆっくりしていきなさい」

 

 なんだか今日のレミリアはかっこいいな。寝起きだからだろうか。流石に失礼か。

 

「そうだね。どうせ朝にならないと起きないだろうし、朝までお邪魔させてもらうよ」

 

「ホント!? それじゃ鬼ごっこしましょ。鬼ごっこ。お姉様もやる?」

 

 フランちゃん嬉しそうだなぁ。鬼ごっこは良いけれど、フォーオブアカインドは禁止ね。あと鬼ごっこはSearch&Deathするゲームじゃないけど大丈夫? 以前鬼ごっこした時の記憶がないんだけど。

 

 ああ、やっぱり鬼ごっこはやめてもらおう。さっきから身体の震えが止まらない。

 

「残念だけど私は寝るわ。それじゃあね。黒。またいつか会いましょう」

 

 うん、寝ているところを起こして悪かったね。異変のことは頼んだよ。可愛い吸血鬼さん。

 

「ねぇ、フランちゃん。今日は鬼ごっこじゃない遊びをしない?」

 

 レミリアが戻るのを見送ってからフランちゃんに提案。できれば生死に関わらない遊びが良いです。

 

「え~っと……じゃあ、探偵ごっこでいい?」

 

 うん? 探偵ごっこ?

 

「まぁ、良いけれど。その探偵ごっこって何をするの?」

 

 別に事件とか起きてないと思うよ。

 

「えっとね。咲夜の変化する胸の秘密を暴くの!」

 

 そんな無邪気なフランちゃんの声を聞いたところで、俺の記憶は途切れた。

 

 

 

 

 そんなことがあった次の日の朝。

 

 なんとも複雑な顔をした美鈴に起こされた。世の中には、知らない方が良いこともあったりするのだろう。

 

 






……あれ?全然話が進まなかった
おかしいですね
予定では白玉楼や永遠亭にも行くはずだったのですが……

と、言うことで第47話でした
久しぶりにフランドールさん登場
元気そうで私も嬉しいです

この調子ですと最終話まではまだまだかかりそうです
今年中には完結させたいですね

それでは次話でお会いしましょう
次話は白玉楼か永遠亭っぽいです


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第48話~気づかなかったけど~



ボジョレー解禁しましたね!

皆さんは飲みましたか?

白を飲んだ方がいらっしゃれば是非感想を




 

 

「あ、えと……おはようございます」

 

 そんな声が聞こえそちらを見ると、何とも複雑な顔をした美鈴がいた。

 

「や、おはよう。美鈴」

 

 お世辞にも清々しくはないし、気持ちの良い朝でもない。

 

「えっと、その昨晩は……あ~、大変でしたね?」

 

 記憶ないけどね。大変だったらしいね。

 

「いやそんな、無理してフォローしなくて良いよ……」

 

 何があったのかわからないけれど、あまり優しくされると逆に悲しくなる。他の場所でもこんな目に会うのだろうか、そう考えるとなんとも欝になりますね。

 けれども、やるって言っちゃったしな。もう戻ることはできない。他人を巻き込んだんだ。最後までやらなければいけないのだろう。Alea jacta est.多分、そういうこと。

 

 まぁ、まだ投げてはいないのだけどさ。

 

 さてさて、次の場所に行きましょうか。

 

「それじゃあ、そろそろ行くわ。お世話になったね」

 

 次に会うのはきっと宴会だろう。その日までお互い元気なままだと嬉しいね。

 

 

 

 

 

 色々あったけれど、漸く先へと進める。

 自宅に戻ってから飛んでも良いのだけれど、まだ日が登り始めたばかりだ。ゆっくり考えながら向かうとしよう。

 

 目的地は白玉楼。先日行ったばかりだけれど、まぁ、仕様が無いね。紅魔館とは違い、白玉楼はきっと何事もなく終わると思う。

 

 でもその次は永遠亭だ……むぅ、気が重い。

 

「ご機嫌よう。黒」

 

 そんなことを思いながら飛んでいると、声をかけられた。

 

「おはよう。紫。こんな時間にどうしたのさ?」

 

 まだ朝早いと言うのに珍しい。いや、紫だって妖怪だ。もしかしたら、まだ起きていただけなのかもしれない。

 

 ん~……そう言えば普段、紫ってどんな生活をしているのだろうね。昼間に現れることも、夜に現れることもあるからよくわからない。

 

「これから白玉楼に向かうのでしょ? それなら代わりに私が行くわ」

 

 うん? 俺の代わりに? まぁ、それは有難いけれど……なんだか裏があるような気がしてならない。

 

「……なによ。その目は」

 

 だってねぇ。

 

 普段の紫と言ったら俺の嫌がることばか……あれ?

 

 ん~、もしかして、そうでもない?

 

 

 ……いや待て! よく考えるんだ俺。

 

 最近だって、終わらない夜の異変では殺された……のは俺を止めるためか。えと、ああそうだ、無理矢理外の世界に連れて行かれて……お酒をおごってもらったっけ……

 

 ……あら? あらあら? むしろ、助けてもらっていることの方が多い?

 

 ……いやいや、落ち着けって。落ち着くんだ。

 

 え? え? 実は紫が良い奴とか? そんな、まさか……ねぇ?

 

 

 ……マジで?

 

 

「何を考えているのよ? 流石に無視をされたら傷つくのだけど……」

 

「えと……いや、その……うん」

 

「どうしたの?」

 

 

「……ありがとう」

 

 

 ヤバい、これはヤバい。恥ずかしくて紫の顔を見ることができない。

 

「えっ……な、なによ。今日はやたら素直ね」

 

「何と言いますか……今回の異変もそうだし、紫には助けられてばかりだな~って……だから、その普段はアレですけど、感謝していると言うか、何と言うか……」

 

 

 なにこれ? なんだこの流れ……

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 お互いに無言。

 

 ど、どうしましょうか。な、なんで無言なんでしょうね? もしかして紫さん怒ってる?

 

「……ばか」

 

 そんな声が紫から聞こえた。

 

「それじゃあ、黒は永遠亭にでも行ってきなさいな。私は幽々子の所へ行くから」

 

 俺に背を向けながら紫はそう言った。

 

 そんな紫の耳は赤かったけれど、たぶん、きっと……気のせいなんだろう。

 

 うん……ありがとう。

 

 あ~、これは調子が狂うな。俺のせいなのだろうけれど、こういう空気は苦手だ。

 

 そんじゃ、ま、白玉楼は紫に任せて、永遠亭に向かうとしましょうか。

 

 

 あ~あ、全く……まだ顔が赤いよ。

 

 羞恥心に効く薬とかもらえないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな間の抜けたことを考えながら、永遠亭の門の前までたどり着いたわけだが……

 

「どうすっかなぁ」

 

 全くもって気が進まない。たぶん、協力してはもらえると思う。

 

 きっと俺が考えすぎているだけ。向こうは何とも思っていないだろう。

 頭ではわかってはいる。でも、身体が動かない。

 

 もういっそ、永遠亭は良いんじゃないかな? 守矢の神様達もいるのだし……

 

 うん、よし。永遠亭はやめておこう。そうしよう。

 

 そんな恥ずかしいことを考え出した時だった。

 

「あら、やっと来てくれたの? 門なら開いているわよ?」

 

 そんな声がした。

 

 きゃあああああああ!

 

 身体が跳ねた。本当に驚いた。

 

「何を驚いているのよ……とりあえず入りなさいな」

 

 八意さんだった。この人っていつもタイミングが悪いよね。わざとなんじゃないだろうか。

 

「あ~その……じゃあ、お邪魔します」

 

「ふふっ、いらっしゃい」

 

 たぶん、逃げることはできないだろう。

 

 

 

 

 

「それで……今日はどうしたのかしら? 貴方のことだし、何の用事もなく来たわけではないでしょ?」

 

 和式の立派な客間に通され、八意さんが聞いてきた。新しい畳の匂いがする。

 

「えと、お願いがありまして……」

 

 さてさて、ここからどうやって話を進めていこうか。

 

 うわーい、空気が重いぞー。

 やっぱり永遠亭はやめておくべきだったね。

 

「お茶になりま~す」

 

 うだうだ悩んでいると、てゐが入ってきた。ああ、そう言えば此処にはお前がいたか。すっかり頭から抜けていた。

 

「おお、ありがとう」

 

 ほとんど話していないはずなのに、喉はカラカラ。そんな今の俺にはありがたいです。

 

 何故かやたらとニヤニヤと笑っているてゐから湯呑をもらい、口をつけようとした時だった。

 ツンとした刺激臭が鼻を抜けた。湯呑の中身を確認。

 

 お茶の色をしていなかった。

 

「あの……てゐさん? これは?」

 

「新茶だよ」

 

 最高の笑顔で教えてくれた。へ~、お茶には詳しくないけれど、お茶って赤い色をしているんだな。

 

 ……ふぅ。

 ……さて、この兎どうしてやろうか。

 

「ちょっ、ちょっと黒。腕を放してよ!」

 

「ああん? ふざけんなこのやろう。何が新茶だ。お前が飲め」

 

「ま、待ってって。えと、ほら私って兎だから人参しか食べないから」

 

 何か言い出したぞこの兎。

 

「それなら色も一緒だしちょうど良いな!」

 

「ちょっ、ダメ! 死んじゃう!」

 

 死ぬの!? なんてもんを客に出しやがるんだよ!

 

 

 

 

 結局、てゐには逃げられた。ちくしょう、絶対仕返ししてやる。

 

「……私のお茶で良ければ飲む?」

 

 おろ、しまった。すっかり八意さんのことを忘れていた。

 

「お気遣いは嬉しいですが遠慮します」

 

 緊張は解れた。口も回る。酷い目にあったけれど、あの兎のおかげなのだろう。

 

 もしかして、てゐも……いや、流石に考え過ぎかな。

 

「そう、それじゃあ話を戻しましょう。貴方のお願いは?」

 

 これで漸く話が進む。お願い事も大変だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、わかったわ。貴方の頼みなのだし、やらせてもらうけれど……記憶はどうやって消すのかしら?」

 

 一通り説明をし終わると八意さんが聞いてきた。良かった、協力してもらえるらしい。

 

「そこは、紫に協力してもらって、幻想郷全体に結界を張ります。まぁ、一日程度しか効果は続かないと思いますが」

 

 幻想郷全体に仕掛ける結界なのだし、そこは仕方ないね。ま、一日だけのお祭りとでも思っていてくださいな。

 

「結界ねぇ……そう、わかったわ。話を聞く限り、貴方が最後のトリなのでしょ? 頑張りなさいよ」

 

 そうなんだよねぇ……俺が最後とか……ま、まぁ、できる限り頑張ります。

 

「それでは、次に行く所がありますので、そろそろ失礼します。協力本当にありがとうございます」

 

「気にしないで。でも、そうね。今度は、何の用事もない時に来てもらえれば嬉しいかしら」

 

 ……善処します。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、漸く次の段階へ。

 

 永遠亭から飛び立ち、身体を伸ばす。いや~肩が凝りました。

 

 けれども、一番の難所はこれで終わり。後は守矢だけなのだし、思っていたより順調……かな?

 

 まぁ、どうせ上手くはいかないんだろうけど、楽しませてもらおうじゃないか。

 

 

 俺の起こす、最初で最後の異変まで、あともう少し。

 

 

 






次話は守矢ですね

ボジョレーってすごく美味しいわけではないですけど、何故か飲みたくなりますよね?


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第49話~最後の挨拶~



ここって何を書けば良いんでしょうね?




 

 

 時刻はお昼を少し過ぎたくらいと言ったところ。永遠亭の前でうだうだ悩んでいたこともあり、かなりの時間が流れてしまった。けれども、紫が白玉楼へ行ってくれたのだし、予定よりは早く進んでいる。

 

 さて、次はいよいよ最後の目的地である守矢神社なわけだけど、やっぱり妖怪の山を通っていくのは気が進まない。まぁ、守矢神社とは繋いでもらってあるわけなのだし、人里から行かせてもらうとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 守矢神社に到着すると、早苗ちゃんが掃除をしていた。偉いね、どっかの巫女さんの掃除をしている姿とか見たことないのに。

 あの巫女も境内は綺麗なのだから、掃除はしているはずだけど。

 

「こんにちは、早苗ちゃん」

 

 そろそろ幻想郷での生活にも慣れてきた? あの神様達の世話は大変だろうけど、まぁ、頑張ってください。

 

「あ、黒さん。はい、こんにちは。今日はどうされました?」

 

 俺が声をかけると、こちらに気付いた早苗ちゃんが言った。

 

「ちょっと、ここの神様達に用事があってね。今あの二柱っている?」

 

「え~と、神奈子様なら母屋にいると思いますが、諏訪子様は……どうでしょうか」

 

 ああ、また湖で遊んでいるのかな? あいつの好きな蛙も冬眠から目覚めた頃だろうし。良い歳して遊ぶ相手が蛙って言うのもあれだが……いっそ人里に言って子ども達と遊んでくれば良いのに。

 いや、そっちの方がダメか。諏訪子が子どもと遊んでいても、違和感はなさそうだけど。

 

「了解。それじゃあちょっとお邪魔させてもらうよ」

 

「はい、ごゆっくりどうぞ。後でお茶もお出ししますね」

 

 ありがとう。結局、永遠亭ではお茶を飲むことはできなかったし、純粋に嬉しいです。

 

 

 拝殿の傍を通り、母屋へと向かい中へ。勝手知ったる他人の家。

 

 お邪魔して、居間へと進むと。

 

 二柱がだらしなく寝ていた。……思っていた以上に早苗ちゃんも大変そうだ。

 

「おや? 黒じゃないか。どうしたのさ?」

 

 仰向けに寝たまま神奈子が言ってきた。

 

 威厳なんて微塵も感じられない。きっとこの姿を写真に写して、妖怪の山にでもバラ撒けば信仰はガタ落ちするだろう。

 まぁ、でも自分の家くらいのんびりしていても良いのかな?

 

 ちょっとのんびりし過ぎな気もするが。

 

 因みに諏訪子は俺に気づくこともなく、気持ちよさそうに寝ていた。

 

「や、神奈子。ちょいとお願いがあって来たんだけど……」

 

 諏訪子寝ちゃっているしなぁ。

 起こすのは少し可愛そうだ。

 

「へぇ、黒からなんて珍しいわね。真面目な話?」

 

「まぁ、真面目な話かな」

 

 100%俺の私用だけど。

 

「了解。ほら、諏訪子起きな。黒が来ているよ」

 

 そう言って神奈子は諏訪子の顔をぺしぺしと叩いた。

 

「あーうー。何さ? もう少し寝かせてよぉ」

 

 いつもこんな感じなの? 昔はもう少し神様っぽかったと思うのは気のせいだろうか……

 

「……むぅ、わたったよ。起きるって。ん~黒じゃん。今日はどうしたの?」

 

 寝ぼけ眼の諏訪子が聞いてきた。

 

「私たちにお願いがあるんだってさ」

 

 まぁ、君たちだけじゃないけどね。

 

「お願い? どんな? まぁ、黒の頼みならだいたい引き受けるけど」

 

 紅魔館や永遠亭もそうだったけれど、なぜか皆ちゃんと聞いてくれるよね。なんだろうか、もしかしたら意外と俺って皆からの好感度高いのかな?

 別に媚や恩を売ってきたわけでもないんだけどなぁ。

 

 まぁ、信頼されているってことなのかねぇ。それなら嬉しいかな。

 

「ちょっと異変を起こそうと思う。それで、俺の力だけだとほとんど何もできないから、それの手伝いをお願いしたいんだ」

 

 異変って言っても、そこまで真剣に考えているわけじゃないから、小さなお祭り程度にしかならないと思うけど。

 

「まぁ、今の黒って弱いんもんね。手伝うのは良いけれど、どんな異変を起こすの?」

 

 自分で言うのもアレだけど、今も昔も弱いです。

 

「皆から俺の記憶を消すってことしか決まってない。まぁ、後は好きに暴れて良いよ。たぶん、紅魔館はまた紅い霧を出すんじゃないかな? 俺は適当に桜の花びらをばらまくけど」

 

 お酒を飲みながら俺と紫でなんとなく決めた異変だし。

 

「適当だなぁ。そんなんで良いの?」

 

 諏訪子が言った。そこはノリと勢いでなんとかなるって信じてる。

 

「それ、黒への記憶を消す意味はあるのかい? 別に消す必要を感じないけど」

 

 うん、俺も最初はそう思ってた。

 でも――

 

 

「ほら、謎の悪役とか憧れるじゃん」

 

 

「……」

 

「……」

 

 二柱が黙った。

 黙ってしまった。

 

 ご、ごめん。

 

「ま、まぁ、そういう理由もあるけど、記憶を消さないと異変を起こした瞬間霊夢にぶっ飛ばされると思うんだ。霊夢の記憶だけ消しても良さそうだけど、紫がいっそ全員の記憶を消した方が面白いって言ってそうなった」

 

 紫さんノリノリでした。

 

 霊夢の勘はすごいからなぁ。記憶を消した程度でどうにかなるのでしょうか?

 

「なるほどねぇ。それで、黒はラスボスってこと?」

 

 何かを言いた気な神奈子。

 

 うん、言いたいことはわかります。どう考えても、ラスボスより道中の敵の方が強いもんね。満月のスカーレット姉妹とかヤバいもんね。

 

 なんとも締まらない異変になるだろうけれど、たまにはこんな異変も良いんじゃない? 楽しければそれで良いと思うんだ。

 

「ま、異変が終わった後は宴会しようぜ」

 

「なるほど、そっちが本番か」

 

 違います。

 

「宴会楽しみだね~」

 

 異変も楽しんであげてください。

 

 

 

 

 

 

 無事、協力してもらえることもわかって一安心。

 

 その後は早苗ちゃんが出してくれたお茶を飲みながら、どんな異変を起こすのか夜まで雑談。神奈子が空から御柱を降らせまくろう。とか言っていたけれど、全力で止めておいた。もう少し優しめにしてください。

 

 

 完全に日が沈んだ頃、守矢神社をあとに。なんとも適当な感じの異変になりそうだけど、まぁ異変を起こす本人が俺なら仕方無い。

 

 きっと異変が終わったら霊夢に怒られるんだろうな。映姫にも怒られるだろうし、終わった後も大変だ。

 

 けれども、まぁ、やるだけやってみようじゃないか。

 

 自分の実力くらいわかっている。

 

 プライドだって残ってはいないけれど、張りたい意地くらいは残っている。

 

 

 異変まであと数日。

 ん~、最後に霊夢のところにでも寄っていこうかな。宣戦布告とまではいかないだろうけれど、何も言わないってのも寂しいもんね。

 

 そんじゃま、最後の挨拶と行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「こんばんは、霊夢」

 

 半分の月に照られた、今年最後の桜たちを見ながらお茶を飲んでいると、黒の声がした。

 

 これで今年の桜も見納めなのかな。それは少しだけ寂しい。

 

「あら、どうしたの? こんな時間に」

 

 一緒にお酒を飲みに来たという感じには見えない。なんだろうか。

 

「ん~、これで今年最後になるだろうし、ここの桜が見たくなってさ」

 

 詳しくは知らないけれど、ここの桜は黒が植えたものだと思った。

 

 黒にとってこの季節はきっと……

 

「これで、また一年後ね。桜は綺麗で良いのだけど、散らない桜ってのはないのかしら? 掃除が面倒で仕方ないわ」

 

 掃いても掃いても落ちてくる。いっそのこと、全てが桜で埋まってしまえば良いのに。

 

「霊夢の掃除をしている姿ってあまりみないけどな」

 

 む、失礼な。

 

「ちゃんとしているわよ。黒が来るときしていないだけ」

 

 私がそう言うと黒は何も言わずに笑った。

 

 

 

 それから、会話も特になく私は座ってお茶を飲みながら、黒は立ったまま桜を見ていた。

 

「さて、それじゃそろそろ帰ろうかな」

 

 どれくらいの時間が経っただろうか。久しぶりに春夜空の下、音が響いた。

 

 そっか、本当に桜を見に来ただけだったんだ。それは少しだけ、寂しい……のかな?

 

「そう、私はもう少し見ているわ」

 

 たぶん、私は不器用なんだろう。

 

 思っていることを素直に伝えることができないくらい。これじゃ、友人であるあの魔法使いだって莫迦にできない。

 

 

 ――もう少しだけ一緒にいて

 

 

 たったその一言が口から出ない。

 

 もし、私がその言葉を口にしたら黒はどうするだろうか。たぶん、黒なら言葉通り一緒にいてくれる。

 

 けれども、やっぱり私の口から言葉は出ない。

 

 黒の後ろ姿が小さくなってきた。

 

「あっ、待って黒」

 

「うん? どしたの?」

 

 その時、何故かこのまま――桜と一緒に黒が消えてしまいそうだったから。

 

 このまま行かせてはいけない気がしたから、出ないと思っていた声が出た。

 

「えと……」

 

 引き止めたのは良いけれど、なんて声を出せば良い? 引き止めたのだから理由がないと。

 何かを言わないと。

 

「また来なさいよ」

 

 結局、私の口から出たのはそんな言葉だった。

 

「ふふ、うん。また来るよ」

 

 そう言って黒は闇の中へと消えていった。たぶん、自分の家に帰ったんだろう。

 

 

 そして、あの巫山戯た異変が起きるまで黒と会うことはなかった。

 

 もしかしたらここで、私が何かを言えていれば、あの異変は違うものになっていたのかもしれない。私たちは遅すぎるんだ。

 いつだって。

 

 

 いつか私も素直になれる日が来るのかな。

 

 






『最後の挨拶』と聞くと、100年前に書かれたあの物語を思い出しますよね
私はあの物語は好きです

そして、なかなかお酒の話が出てきませんね
どうなってんでしょうか

と、言うことで第49話でした
次話でちょうど50話らしいです

区切りがよいので最終回に……はならないと思います
次話は異変が始まる前のお話になりそうです

なんともグダグダな異変が計画されていますが、どうなることやら

では、次話でお会いしましょう


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第閑話~はじまり、はじまり~

 

 

「あ~……」

 

「どうしたのさ? ボーっとしちゃって」

 

 店の中でこれから起こる異変のことを考えていると、萃香に言われた。どうやら声に出てしまっていたらしい。

 

 異変が起きるまで、もう一日もない。

 

「いやさ。異変を起こすのなんて初めてだから、どうすれば良いのかな~って思って」

 

「黒は最後なんだから、ドーンと構えていれば良いんじゃない?」

 

 まぁ、それで良いとは思うけどねぇ。どうにも……

 

「最後が貴方じゃ、なんとも締まらない異変になりそうね」

 

 クスクスと笑いながら紫が言った。

 んなことは、わかってます。

 

「じゃあ、紫がラスボスやってよ。俺は道中の雑魚敵役になるから」

 

 異変解決時の霊夢に俺が何秒持つだろうか。文字通り瞬殺される未来しか見えない。

 

 今頃になってやめたくなってきた。まぁ、もう後戻りはできないのだけど。

 

「それじゃあ、意味がないでしょ。貴方が最後だから意味があるのよ」

 

 そうなの?

 そもそもこの異変自体、酒に酔った勢いで決めたやつじゃん……本当に大丈夫だろうか。

 

 いっそ白に頼んでラスボスをやってもらおうかな。いや、流石に無理か。

 

「ねぇねぇ」

 

「うん? どったの萃香?」

 

 うんうん悩んでいると萃香につつかれた。

 

「さっきから紫と目を合わせてないみたいだけど、どうしたのさ? 紫も黒の方を向こうとしないし」

 

 あっ、やっぱり気になります?

 てかなんだ、紫も俺の方を見ていなかったのか。

 

「喧嘩でもしたの?」

 

「いや……そうじゃないけど」

 

 先日の出来事のせいで、どうにも紫を見ることができない。そんな初心な性格ではなかったはずなんだけど……

 

「ま、まぁ、その話は良いでしょ? それより、そろそろ始めようと思うけれど、大丈夫かしら?」

 

 慌てたように紫が言った。

 

「うん……そうだね。そろそろ始めようか」

 

 俺がそう答えると、紫は持っていた扇子を軽く振った。そして床に八卦の図像が。

あ~、なんか緊張する。

 

 いよいよなんだね。

 

 その中心まで移動し軽く深呼吸。

 

「それじゃ、よろしく頼むよ」

 

 どうか、無事成功しますように……

 

「それじゃあ、始めるわ」

 

 紫はそう言って、また扇子をふわりと振った。

 

 その瞬間、光が俺を包んだ。

 

 うおっ、これはすごいな。

 

「そう言えば紫。私も黒の記憶は消えちゃうの?」

 

 萃香が何かを話しているのだろうけれど、声がよく聞こえない。

 

 あれ? これ本当に大丈夫? なんか結界から嫌な音が聞こえるんだけど。

 

 確か、呪い返しってこんな感じだった気が……き、気のせいですか?

 

「この場所は結界の範囲外だから、貴方の記憶は消えないはずよ」

 

 おやおや、何故か頭が痛くなり始めましたよ? ちょっ、ちょっとまずくないですか? 声も出ないし。

 ね、ねぇ一旦これ止めません? 嫌な感じしかしないのだけど。

 

「へ~便利なものだねぇ」

 

 あ、ヤバい。身体も動かない。

 

 意識が……飛びそうだ。

 

「さて、そろそろ終わるはずだけど、どう? 調子の方はって……あれ?」

 

 ああ……ああ、どうか、何事もなく平和に終わりますように……

 

 そんなことを思いながら、俺の意識は薄れていった。

 

 後は頼んだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「さて、そろそろ終わるはずだけど、どう? 調子の方はって……あれ?」

 

 紫の声を聞いて黒の様子を確認。莫迦みたいに輝いていた結界はなくなり、その中心で黒が倒れていた。

 情けないなぁ。

 

 紫の言葉は引っかかるけれど、私の記憶が消えていないと言うことは成功したってことで良いのかな?

 

「何倒れているのさ黒。ほら起きなって」

 

 黒の側まで近寄り声をかける。

 

「失敗……したの? どうして? 繋がりが切れている」

 

 紫の呟きが聞こえた。繋がり? なんのことやら。

 

 そして、ぺしぺしと黒を叩いてみたもののなかなか起きない。

 

「まずい! 枷が外れて……っ! 萃香! 黒から離れて!!」

 

 うん? 枷? さっきから何を言っているのさ。って、おお、漸く黒が動い……んなっ!

 

 黒が起き上がったと思った瞬間吹き飛ばされ、店の壁に叩きつけられた。ガードは間に合ったけれど、腕の感覚がおかしい。

 

 何に飛ばされた?

 まさか黒……に?

 

「あ~……頭が痛いや。身体も怠いし、フラフラもする。でも、気分は悪くないかも」

 

 黒が言った。しかし様子がおかしい。

 

 そして、黒から巫山戯ているほどの妖気が溢れ出した。

 

 身体が震える。

 ちょ、ちょっと待て、何だって言うのだ。

 

 この妖力は……黒から?

 

「……黒。私達のことがわかるかしら?」

 

 紫の震えているような声がした。

 

「知らないよ。知らないけれど、今は一人になりたい気分なんだ。だからさ……」

 

 

 ――消えてくれないかな?

 

 

 紫の舌打ちが聞こえた。

 ちょーっと、まずいかもね。

 

「萃香! 時間を稼いで。黒をスキマに押し込むから!」

 

 無茶な要求をしてくれる。流石の私でもアレとは戦いたくないと言うのに。

 

「わかったよ。ごめんね黒。手加減はできないから」

 

 手加減をする余裕なんて、ない。

 

 身体を疎にして黒の後ろへ。動かない右手の代わりに左手を使い、黒の首へ全力で叩き込んだ。

 

「……一瞬だけ消えてって意味じゃないんだけどね」

 

 空を切る拳。

 

 あっ、ヤバい。ちょいとばかし、次元が違う。

 

 そして、背中から激痛が走り、床へ叩きつけられた。

 

「萃香っ!」

 

 息が上手く吸えない。

 

 紫、お願いだから早くして……これは無理だよぉ。

 

 顔を上げると黒が拳を振り上げているのが見えた。能力を使う暇はない。

 

 最近は生ぬるい生活を送っていたしなぁ。もう身体が動かないや。

 

 そんなことを考えていると、拳が届く直前に黒は消えていった。どうやら間に合ってくれたらしい。

 

 紫の姿を確認すると、膝を床につけ呼吸は荒くなっていた。たぶん、いろいろと無茶をしたのだろう。

 

 

 呼吸を整え、なんとか立ち上がって紫の方へ。身体中が悲鳴を上げている。うわ~、フラフラだ。

 こんなの何年振りの感覚か……

 

 

「ねぇ、紫。何が起こったの?」

 

 本当は黒ってあんなに強かったんだね。うん、できれば二度と戦いたくないかな。

 

「……はぁ。何故か幻想郷を囲うように張った結界が跳ね返って来たのよ。中心にいた黒へ。それで、黒の記憶が飛び、封印していたはずの妖力が出てきた。私とも切れてしまうし、このままだと博麗大結界も……」

 

 紫の息が荒い。詳しいことはよくわからないけれど……

 

 

「つまり?」

 

 

「最悪の状況ね」

 

 

 なるほど。

 さて……どうやってアレを止めようか。

 

「とりあえず、博麗神社に人を集めましょう。私たちだけでは、どうしようもできないわ。それに時間がない。萃香、各勢力への呼びかけをお願い」

 

 どうやら紫は相当辛いみたい。

 

 私もかなりキツいんだけどね……休んでいる場合じゃない。まぁ、了解したよ。

 

 時刻はもうとっくに夜となっている。残された時間は、少ないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 時は少しばかり戻って、舞台の場所は紅魔の館へ。

 

「良かったのですか、お嬢様?」

 

 紅魔館のメイドである咲夜がレミリアに聞いた。きっと昨晩にした、黒からのお願いのことだろう。

 

「別にあれくらい構わないわよ。霊夢とまた戦える、と言うのも悪くはないしね」

 

 朝食に好物の納豆を食べたおかげか、何処かご機嫌な様子のレミリア。

 

 本当に妖怪最強種である吸血鬼なのか怪しいけれど、気にしてはいけない。夜の帝王(レミリアの場合は女王か)なのに何故、朝起きているのか気にしてはいけない。

 

「確かに黒だけじゃなく、妖怪賢者に良い様に使われているのは気に食わない。けれども黒の頼みだしねぇ」

 

 フランドールの件もあるだろうが、黒の好感度はやはり高いらしかった。

 

「そうですか」

 

 何処か納得していない様子の咲夜。と、言うかこのメイドはいつ寝たのやら。昨晩も黒に私刑を行っていたのにも関わらず、その顔に疲れは見えない。

 いくら時間を止めようが、この様子は真似できる物ではないだろう。流石はプロと言ったところか。

 

「まぁ、私も良い様に踊るつもりはないけれどね。咲夜、パチェを呼んできて」

 

 レミリアが言った。

 さてさて、何を企んでいるのでしょうか。

 

「はい、かしこまりました」

 

 

 

 

 

「どうしたのレミィ? 私は今から寝ようと思っていた所なのだけど」

 

 咲夜に連れられてパチュリー登場。いつもに増して眠そうな顔。

 

「ちょっとお願いがあってね。どうやら、妖怪賢者が私達の記憶を消す結界を張るらしいから、それを防いでもらいたいの」

 

 良い様に踊るつもりはないと言っていたが、どうやらそういうことらしい。それはきっとレミリアなりの反抗なのだろう。

 

「妖怪賢者の結界? だとしたら妖術でしょ? 防げるかどうかわからないわよ」

 

「魔術だろうが呪じゅちゅだろうが、防ぎさえすれば構わないわ。できないとは言わせない。やりなさい」

 

 今、噛んだよね。

 呪術って言えなかったよね。

 

「信頼しているわよ。パチュリー」

 

「……御意に」

 

 そして紅魔の図書館が動き出した。

 

 

 さらにどうやら、紅魔の館だけではなく亡霊少女や月の頭脳、山の上の神々だって、何もせず異変を迎えるつもりはないらしい。

 

 一匹の蝶の羽ばたきが嵐を引きこす様に、わずかな差が大きな結果を引き起こす。

 

 

 きっと今回は、たまたまそれが悪い方へと転がっただけなのだろう。

 

 






なんとか更新です

少女を全力で殴る主人公とか……ま、まぁ、きっと今回だけでしょう


と、言うことで第閑話でした

三人称視点が入ったので閑話に
最初はレミリアさん視点でしたが、書いていて『こりゃダメだ』と思い書き直しました
違和感パないですが……

完結までもう少し
あと少しだけお付き合いいただければ私は幸せです

では、次話でお会いしましょう
次話は誰視点になるのやら


感想・質問何でもお待ちしております


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第50話~笑いながら~

 

 

 もう深夜と言って良い時間。そうだと言うのに、どうにも境内の方が騒がしい。

 

 一つや二つ程度の声ではないし……今日は宴会だったかしら? そんなことはないと思うけれど。

 

 

 このままじゃ静かに寝ることもできないだろうし、寝巻きからいつもの巫女服へ着替えて外へ。そこには、レミリア達紅魔館組をはじめ多くの人や妖怪などが集まっていた。紫までいるし……

 え? なにこれ宴会? 私は何も聞いていないのだけど。

 

「あら、霊夢も起きてきたのね。それならちょうど良いわ」

 

 紫が言った。その顔は珍しく苦しそうだった。

 

 何か嫌な感じがする。

 

 そう言えば黒の姿が見えない。こういう集まりにはいつもいるのに。

 

「どうしたのよ、こんなに集まって。宴会ではなさそうだけど」

 

 私がそう聞くと、何故か皆目を反らした。いや、説明してもらわないとわからないのだけど。

 

「異変が起きたのよ……」

 

 漸く紫が口を開いた。やはりその顔は辛そうだった。

 

「異変ってどんなのよ? 特に変わったことはなさそうだけど」

 

 天候が変わったわけでもないし、妖精たちも騒ぎ出していない。引っかかることと言えば、黒がいないと言うだけ。

 

「少し長くなるけれど、今から説明するわ」

 

 紫が言った。

 そしてさっきから続く、この何とも重たげな雰囲気はなんなのだろうか?

 

 

 

 

 

「あれ? 皆して集まってどうしたのさ?」

 

 そんな声が神社に響いた。声のした方を見ると、黒と仲の良いいつかの変な妖精がいた。名前は確か白って言ったと思う。

 

「うっ、あの時の妖精……何をしに来たのよ」

 

 そんなレミリアの声がした。どうしたのだろう。白とレミリアの間で何かあったのかしら?

 

「おっ、やほーレミリアちゃん。久しぶり。私は黒と遊びに来ただけなんだけど……何かあったの?」

 

 

「ちょうど良いわ。貴女も聞いていって。黒とこれからの幻想郷に関わる重要なことなの」

 

 それにしても、どうして紫はあんなに苦しそうなのかしら? いつも感じる余裕が全く見られない。

 

 ――それじゃ、今の状況を説明するわね。

 

 そう言って紫は話始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 紫の話をまとめると、どうやら私には内緒で黒が中心になって異変を計画していたらしい。

 異変の内容は皆から黒に関する記憶を消し、各勢力は好き勝手に暴れる。そんな何ともよくわからないような異変。

 

 そして、黒に関する記憶を消すときに問題が発生。呪術や魔術、妖術や陰陽術などを用いて、各勢力は記憶が消されないように対応した。それらの術が組み合わさり、偶然が重なって記憶を消すはずの術が黒に跳ね返った。

 その結果、黒自身の記憶が消えてしまい、よくわからないけれど、黒の中にあった枷が外れた。さらに、黒の力を借りて張られていた博麗大結界も危ない状況に。

 萃香と紫の二人でなんとか黒の暴走を止めようとしたが、スキマの中に入れるのが精一杯だった。このままだと幻想郷が危ないから各勢力を集め現在に。紫が辛そうなのは、博麗大結界をなんとか維持しているからしい。

 

 私に内緒で異変を起こそうとしていたのは腹が立つけれど、この重苦しい空気の原因は理解できた。きっと全員が全員後ろめたいのだろう。それが偶然の結果だとしても。

 

「……どういう状況なのかはわかったけれど、これからどうするの? 時間もないんでしょ?」

 

 萃香と紫の二人がかりでも倒せないって……どれだけ強いのよ。

 

「それを今から話し合うところなの。けれどもかなり厳しい状況だわ。黒の妖力が大きすぎて、立っているのも辛かった。私や萃香ですら黒には歯が立たなかったもの……」

 

 そう言うことらしい。

 話が飛びすぎていてわからないけど、黒ってそんな力を持っていたの?

 

「神奈子様なら……なんとかなりませんか?」

 

 早苗が言った。

 その言葉に神奈子は何も答えず、代わりにもう一柱である諏訪子が答えた。

 

「無理だよ。アレは無理。全盛期の私と神奈子が二人がかりでも無理だったもの。今の私たちじゃ話にならない。純粋に妖力もおかしいけれど、あの再生力が巫山戯てる。負った傷はすぐ再生するし、黒の能力のせいでこちらは飛ぶこともできない。もしあの時、黒が正気に戻っていなかったらきっと私たちは此処にいない」

 

「そう……ですか」

 

 じゃあ、どうすれば良いのか? 諏訪子や神奈子達でも勝てず、並の力では黒の前に立つことすら許されない。

 

 沈黙が続く。

 

 これはごっこ遊びじゃないんだ。失敗したら全てが消えてしまう……

 

「……先に言っておくけれど、このまま黒を止められないようなら……私の存在ごと黒も一緒に消すことになるわ」

 

 長い沈黙を破り紫が言った。

 

 

 黒を――消す?

 

 

 ちょっと待って、そんなこと……

 

 

「そんなこと私が許さないよ。黒のいない世界なんて意味がないもん。そんな世界ぶっ壊す。全部、みんな、残らず、跡形もなくぶっ壊すよ?」

 

 あの妖精が言った。

 全員の視線がそこに集まる。

 

 

 そして、その瞬間空気が震えた。

 

 

「……っ。お願いだから、その殺気を収めてもらえるかしら? 貴女の気持ちはわかる。それでも私は……幻想郷のためにやらなければいけないの」

 

「っと、ごめんごめん。ちょっと感情的になっちゃった。ん~……それなら私が黒を止めに行くよ。黒にかかっている術を解けば良いんでしょ?」

 

 前から思っていたけれど、本当にただの妖精なの? 嫌な感じはしないけれど、この妖精の底が全く見えない。

 

「……貴女は死んでも良いの?」

 

「良いよ。黒のためなら笑いながらだって死ねる……まぁ、もう死んでるんだけどさ」

 

 そう笑いながら妖精が答えた。その言葉に何故か心がズキリと痛む。

 

 私はいまだ白と黒の関係をよく知らない。白は黒のことをどう思っているのか。そして、黒は白のことをどう思っているのか……

 

 ただ、もし今の白と黒の状況が逆だったとしても、黒は白を止めに行ったと思う。それだけは、なんとなくわかった。

 

「それじゃ、ちょっと行ってくるよ。紫ちゃんお願い」

 

「一人で行くの? 流石の貴女でも、それは厳しいと思うわよ」

 

 白の強さは知らないけれど、紫と萃香でもダメだったのにどうして一人で行こうとするのか、私にはわからなかった。

 

「それなら私もついて行くわ。簡単には死なない体質なのだし」

 

 永琳が言った。確かに、永琳みたいな不老不死ならば今回はあっている気がする。

 

「あ~、えと……まぁ、それは嬉しいけど……」

 

 永琳の言葉を聞いて戸惑う白。どうしたのかしら?

 

「貴方は止めておいた方が良いと思うよ?」

 

「……何故?」

 

「いや、その……貴方が行くと、余計に黒が壊れそうだし……」

 

 うん? どういうこと? 確かに黒は永琳を避けていた気がするけれど、そこまでのことだったっけ?

 

「そうね……私も貴女が行くのには賛成できないかしら。以前のこともあるし」

 

 紫がそう言うと、永琳は『そう、わかったわ』とだけ言い、黙ってしまった。その顔には少しだけ憂いの色が見えた。

 

「それじゃ、今度こそ行ってくるよ。ちょっと様子を見てダメっぽかったらすぐに帰ってくるから、紫ちゃんお願い。私も時間は少ないしね」

 

 白がそう笑いながら言うと、紫は持っていた扇子を軽く振り、白はできたスキマの中へと入っていった。

 

「ねぇ、紫。あの妖精って黒とどう言う関係なの?」

 

 本当は白に直接聞けば良いのだろうけれど、何故か聞きづらかった。

 

「私も詳しくは知らないけれど、昔からの友人だそうよ。ずっとずっと昔からのね」

 

 昔からの友人。

 

『私は、貴方よりもずっと昔から、黒さんのことを知っている。貴方が思っているよりも、私と黒さんの仲は近いわよ』

 

 いつかの天狗が言った言葉が頭の中に浮かんだ。

 

「一緒にいた時間なんて関係……ないのに」

 

 独り言が溢れる。

 私は昔の黒を知らない。紫や白と違って、たった十数年の思い出しかない。

 

 ないものは……ないのだ。

 

 どうしてか、そんなことばかり考えてしまう。たぶん、きっと、純粋に私が黒を助けに行けないからなのだろう。私に黒を助けるだけの力が無いせいで……

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの時間、そんなことを考えていたのかわからないけれど、スキマからボロボロになった白が現れた。

 

 状況は思っていた以上に深刻だ。

 

「どう、だったの?」

 

 結果はわかっている。それでも聞かずにはいられなかった。

 

「……なにアレ?」

 

 帰ってきた白が言った。いや、私は知らないわよ?

 

「ちょっと強すぎない?」

 

 顔は笑っているが、服の所々に付いた赤い染みを見ると、私は笑えなかった。

 

「そう、貴女でも無理だったのね……」

 

 落ち込んだような紫の言葉。

 

「最初はいけるかな~って思ったんだけどね。躱せない攻撃でもなかったし。とりあえず動きを止めようと思って、足の骨を折ってみたんだ。でも直ぐに戻っちゃって……首をハネても一瞬で戻るし。妖弾は消されるし、一発の攻撃が巫山戯てるくらい重いし……どうしろって言うのさ! ん~まぁ、私一人じゃちょっとアレは無理かな。術を解く暇がないもん」

 

 所々で物騒な言葉が聞こえたが、黒の強さは相当なものらしい。

 白一人では無理。

 

 でも、少しだけ希望が見えてきた。

 

「そうね。それなら……」

 

 紫の呟きが聞こえる。

 

 萃香や神奈子達でも敵わない。紫も厳しいだろうし、永琳もダメっぽい……

 残っているのは……レミリア?

 

 いや、不安しかないか。

 

 

「霊夢。貴方がいきなさい」

 

 

えっ?

 

 






きっと次話が最終話


では、次話でお会いしましょう


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最終話~そうやって生きてきた~



(゚∀゚)o彡゜かんけつ! かんけつ!

まぁ、あと2話は続きますが……




 

 

 夢の中で寝てはいけない。

 

 何も見えない闇の中、どこまでも落ちていく感覚になるから。地に足はつかず、飛ぶこともできない。感覚なんてないだろうに、自分が落ちていると言うことだけはわかる。

 

 これは夢だ。

 

 そんなことわかっている。

 しかし、落下は終わらない。

 

 不安に押しつぶされそうになるこの感じが嫌いだ。さっさと目覚めてくれないもんかねぇ。

 

 今だって体は寝ているはずなのに、眠気が収まらない。

 

 けれども、寝てはいけない。

 夢の中で夢を見て、その中でまた夢を見る。終わらない連鎖。

 

 そろそろ目を覚まさないと。

 

 そんなこともわかってる……

 

 でも、すごく眠いんだ。

 

 

 ――そして俺は、また次の夢の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「霊夢、貴方がいきなさい」

 

 えっ? 私が?

 

「萃香や紫でも勝てない相手なのに、私にいかせるのは何故?」

 

 それならレミリアにいかせた方が、まだ良い気がする。

 

 そりゃあ、私だって幻想郷が消えるのも、黒が消えるのも嫌だけど。

 

「たぶん、黒は寝ているだけだと思うの。この中で黒を一番起こし慣れているのは貴方でしょ?」

 

 なによ、それ。そりゃあ、確かに黒を起こしたことは何度もある。一緒に暮らしていたのだし。

 

 水でも持っていってかければ良いのだろうか? いや、そんな起こし方は……うん、まぁ、そんなにしなかったけれど。

 

「そう言う問題なの?」

 

「そう言う問題なのよ」

 

 そう……なのかなぁ。正直、意味がわからない。

 

 それでも、私なら黒を助けることができるかもしれない、って言うのは悪い気もしない。うん、ちょっとだけやる気が出た。

 

「はぁ、わかったわよ。私とそこの妖精とで行ってくれば良いんでしょ?」

 

 この異変が終わったら、絶対黒には何かしてもらおう。そうでもしないと、割に合わない。

 

「任せたわよ。博麗の巫女」

 

 うん、できるだけやってみる。

 

 

 

 

 

「それじゃ、私たちはお酒でも飲んで待っているよ」

 

 神奈子が言った。

 なにそれ、ずるい。

 

「ちょっと、お酒なんて飲んでないで待ってなさいよ。こんな時なのだし」

 

 こっちはこれから、地獄のような場所に行くと言うのに。

 

「こんな時だからだよ。それに私たちに出来ることもないしねぇ。これで最後になるかもしれないんだ。最後くらい、お酒を飲みながら笑っていたいでしょ?」

 

 むぅ、理解はできるけれど、納得できない。

 

 

「ちゃんと……」

 

「うん?」

 

「ちゃんと私の分のお酒も残しておきなさいよ!」

 

「……ああ、もちろん。それじゃあ、あとはお願いね。博麗の巫女」

 

 さて、そろそろ行かないと。なんとも間の抜けた雰囲気になってしまったけれど……うん。

 

 これでいい。

 

 これがいい。

 

 

「それじゃ、紫。お願い」

 

「わかってるわ。白、霊夢のこと……よろしくお願いします」

 

 そう言って、紫は白に頭を下げた。

 

「まぁ、任せなさいって」

 

 その言葉に白は笑って答えた。

 

「それじゃあ、行ってきなさいな。貴方たちが無事帰ってこられることを、心から願っているわ」

 

 そう言ってから紫は扇子を振り、できたスキマの中へ私たちは入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入ったスキマの中は黒く、しかし暗くない空間がどこまでも続いていた。そう言えば、スキマの中に入るのは初めてな気がする。

 

 そして、その空間の中、私たちの30間ほど先にソイツがいた。黒く、どす黒く染まった妖気がはっきりと見えた。

 

 アレが……黒?

 

「気をつけてね霊夢ちゃん。たぶん、霊夢ちゃんなら黒の攻撃を躱せると思うけれど、絶対に飛んじゃダメだよ。消されるから。もし飛んじゃっても、下に降りようともしないで。それで2,3秒でも黒の動きを止められれば術は解けると思う。ま、頑張っていこー」

 

 『降りかかる物を桜の花びらに変える程度の能力』だったかしら。そんな厄介な力だったのね。

 

 そして、そんなことより……

 

「貴方、誰?」

 

 たぶん、白なんだろうけれど、先ほどまでの妖精の姿とは全く違っていた。

 

「うん? ああ、白だよ。最後だしね~少しだけ妖力を使ってあの時の姿に戻してみた。あっ、べ、別に少しだけ胸を大きくとか、背を伸ばしたりとかはしてないからね。あの頃と変わってないからね!」

 

 そんなこと言っていないのに、何を慌てているんだか……

 

 真っ白な着物と長い白髪。透き通るような白い肌と赤い瞳。同性の私から見ても文句なしの見た目。

 胸の大きさは……言いたくない。うん、そんなに私と変わらないと思う。

 

「よっし、それじゃあの寝坊助を起こすとしようか」

 

 白の元気な声が真っ黒な空間に響いた。向こうは、とっくにこちらに気づいているだろう。

 

 黒がゆっくりと、こちらに歩いてくるのが見えた。近づいて来るに連れ、空気が重くなるのを感じられたけれど、立っていられないほどではない。

 

「や、黒。さっきぶり」

 

「よ、さっきの……おろ? なんか雰囲気変わったね」

 

 禍々しい感じはあるけれど、いつもの黒と変わらない?

 

 ――気をつけてね。急に来るから。

 

 そう白がぽそり私に伝えた。

 

「私も女の子だからね。ちょっと合わなきゃすぐ変わっちゃうんだよ」

 

「いや、俺の知っている女の子は、人の足を折ったり、頭を吹き飛ばしたりしないんだけど……」

 

 黒が言いそうな、いつものようなセリフ。なんだか気が抜ける。スキだらけなんだけど……本当に強いのかしら?

 

「んで、そっちの女の子は誰?」

 

 そんな抜けた空気の中、黒が聞いてきた。

 

 そして目の前に黒色の妖弾が見えた。まずっ! これは間に合わない。

 

 しかし、妖弾は私の顔に当たる直前で弾けた。どうやら、白が弾いてくれたらしい。

 

 体中の血液が抜けたような感覚。

 一瞬の油断。

 

「大丈夫?」

 

 ありがとう、助かったわ。何を抜けたことをしているんだ、私は。

 ただ、これで――

 

「大丈夫、スイッチ入ったから」

 

「やっぱり君、強すぎない? 俺は本気で撃ったんだけど……」

 

 黒の動き一つ一つに集中。

 

「黒が弱すぎるだけでしょ?」

 

 これ以上、足を引っ張りたくはない。

 

「結構、努力はしたと思うんだけどなぁ」

 

 そんな言葉を言いながら、黒がまた妖弾を放ってきた。それも巫山戯ている量を。たださえ黒い空間がさらに黒く染まる。

 

 私の作る結界程度じゃ、抑えきれない。霊弾を放ち、できるだけ相殺させてから躱す。

 ただ、白の言っていた通り、躱せない攻撃ではないかな。

 

 けれども、空を飛べないことがこんなにも辛いとは思わなかった。避けるので精一杯。攻撃をする余裕なんて全くない。

 

 白はどうやってこの巫山戯た弾幕の中、黒に攻撃したって言うのよ。白の様子を確認すると、妖弾は一切交わさず、拳で妖弾を弾きながら黒へと突き進んでいた。

 

 ここまで、すごいとは……本当にただの人間なのかしら? そのまま突き進んだ白が、黒の頭を吹き飛ばした。

 一瞬、弾幕が消える。

 

 しかし、直ぐに真っ黒な弾幕が襲いかかってきた。

 

「ホント、乱暴だね。俺だって痛みは感じるんだよ?」

 

 そんな言葉を口にしながらも、弾幕が薄くなることはなかった。全くもって攻撃できない。

 想像以上。せめて、空を飛ぶことができたら……

 

「いい加減、目を! 覚ませ!!」

 

 そう言って白が叫びながら、蹴りを黒へと叩き込んだ。その瞬間、また弾幕が止まり――ガキン、と硬い何かを叩いたような音が響いた。

 白の動きは止まっている。

 

「あ、あれー、黒ってこんな結界張れたっけ?」

 

「練習したんだよ」

 

 そして、白が吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

「いっつー……聞いてないよ、あんなの」

 

 力なく垂れる右腕。これは、ちょっとまずい。

 

「……どうしてかわからないけど、君たちには負けたくないんだ。ここまで積み上げてきたものが、無駄なんかじゃなかったって証明したいんだよ。もがいて、足掻いて、進み続ければ、種族や才能にだって勝てることを証明したい」

 

 きっとこれが黒の本音なんだろう。弱いと言われ続け、自分でもそのことを理解して、それでも足掻き続けてきたこと。修行なんて嫌いだし、それでも弱いなんて言われたことがない私には、絶対に分からない感情。

 

 

 まぁ、そんなの知ったこっちゃないけれど。

 

 知らないものは知らないもの。

 

 

 ああ、もう。

 飛んじゃダメとか、降りちゃダメとか面倒くさい。

 

 決めた。

 

 私は私の好きにさせてもらう。

 

 

 だから私は、真っ黒な空へ向かって()()()

 

 

「ちょっ! 霊夢ちゃん? 何やってるのさ!?」

 

 白の声が聞こえる。

 

「うるさい。私はこんな異変さっさと終わらせて、お酒が飲みたいの」

 

 私の返事に訝しげな顔をする白。黒は、私たちの様子をクスクスと笑いながら見ていた。

 

「う、う~ん、まぁ、飛んじゃったものはしょうがないし……大丈夫かなぁ?」

 

 大丈夫、なんとかなる。

 自分の思うように、やりたいようにやる。

 

 いつだって、そうやってきた。これからだってそうやっていく。

 

 とりあえず、黒の頭上からできる限りの霊弾を放つ。が、何もなかったかのように、霊弾は桜の花びらへと変わった。

 まぁ、そりゃあそうか。

 

 真っ黒な空間に薄桃色はよく映える。まるで他人事のように、少しだけこの景色に見蕩れてしまった。

 

 空を飛べるようになったおかげか、視界が広がり、黒の弾幕もさっきまでみたいに、圧倒されることもない。

 

 やっぱり、こっちの方が性に合う。白もなんとか動けるようになったらしく、右腕は使えないようだが、黒へ反撃を始めていた。

 

 それでも……戦況は一進一退ともいかなかった。私も反撃できるようになったけれど、上からだと何もできないし、片腕が使えない白もかなり厳しそう。

 

 まずいなぁ、白はどうかわからないけれど、私はそろそろ霊力が危ない。このままじゃ。ジリ貧だ。

 

 私は下に降りることはできず、このまま戦況が良くなるとは思えない。どんどん、高度も上がってきているし。

 

 もう、いいかな……このまま続けたってどう仕様もない。それなら、サクッと終わる方が私らしい。

 

 自分が桜の花びらへ変わるって言うのは、どんな感じなんだろう。

 

 私は不器用だ。

 他人に合わせることなんてできない。

 

 大きく息を吸い、気持ちを入れ替える。

 

 よしっ、行ける。

 

 自暴自棄だろうが、なんだろうが決めたこと。どうせ最期になるのなら、自分の思うようにやりたい。

 

 残り少なくなった霊力で身体強化。

 

 

 そして私は、まっすぐ黒に向かって上空から飛び降りた。

 

 

 一瞬だけ黒と目が合う。

 白の声が聞こえた。

 

 ごめんね、言うこと聞かなくて。

 

 弾幕は続いたままだけど、何故か当たる気がしない。いつ自分が消えるのかわからない。

 けれど、まっすぐ進む。

 

「あれ? 消せない……?」

 

 黒の呟きが聞こえる。

 でも、今は無視。

 

 

 そして、私は全力で黒をぶん殴った。

 

 

「えっ? 何? なんで? どういうこと? ……って、おろ、動けない。あ~これは」

 

 私の攻撃を受け吹き飛んだ黒が言った。

 そして、黒を中心に結界が展開。

 

「何が起こったのかよくわからないけれど、やっと捕まえた。ふふっ、また私の勝ちだね。黒」

 

 白がそう言うと、黒を結界から出た光が取り囲んだ。

 

「はぁ……人生どうにも上手くいかないもんだね。……悪いな。迷惑かけた」

 

「ん、いいよ。気にすんな親友でしょ? じゃ、またね。黒」

 

「ああ、またな……白」

 

 そんな言葉が聞こえた後、黒を取り囲んでいた光が消え、そこには黒が倒れていた。

 

 終わった……の?

 

「うーなー……いやぁ、流石にこれは疲れたね。お疲れ様、霊夢ちゃん。貴方のおかげでなんとかなったよ」

 

 そう言えば、どうして私は黒の能力で消されなかったのかしら? 黒が能力を、使わなかったとも思えないし……

 

「って、白。足が……」

 

 今まで、はっきりと見えていた白の体が薄くなり始めていた。

 

「まぁ、かなり無理したからね。しょうがないよ。たぶん私はもう、霊夢ちゃんが生きているうちに会うことはないと思う。でも死後の世界なら会えるから、待っているよ。これでも私かなり偉いんだよ?」

 

 そう言って白は笑った。

 てか、胸を張るな。嫌がらせか。

 

 

「……貴方って、黒とはどう言う関係なの?」

 

 どうしても聞いておきたかった質問。最後の最後で漸く聞くことができた。

 

「ん~ん? 嫉妬?」

 

 違う!

 と、思う……

 

「ふふっ、安心して、私と黒はただの友達同士だよ。ずうーっと昔、一緒に生活していたけど、友達以上の関係なんかにはなってない。だから大丈夫だよ」

 

 何を安心で、何が大丈夫なんだろうか。

 

「さてさて、そろそろ時間かな。黒が起きたらよろしく言っておいてね。あと、私の代わりに一発……は良いか、あれだけやったし」

 

 これで、もう白と会うことはなくなる。それは、やっぱりちょっと寂しいかな。

 

「さようなら、白。そうね……あの世でまた会いましょ」

 

「うん、じゃあね霊夢ちゃん。あっ、そうだ」

 

 突然思い出したかのように白が言った。

 なんだろうか。

 

「どうしたのよ?」

 

 

 

 

「恋愛に、歳の差なんて関係ないんだぜ!」

 

 

 

 

 そう言って白は笑い。

 結局、そのまま消えていってしまった。

 

 最後まで笑顔のまま。

 

「……余計なお世話だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 白が消えたから、私と黒の二人だけに。そう言えばどうやって元の場所へ帰れば良いのかしら?

 

 まぁ、とりあえず黒を起こすとしよう。寝ている黒の側までいき、様子を確認。

 

 すぅすぅ聞こえる静かな寝息。さっきまでの戦いなんてなかったかのように、気持ちよさそうな顔で寝ていた。

 そんな黒の様子に少しだけ腹が立った。こっちは大変だったと言うのに。

 

 起こすために、とりあえず顔面を蹴ってみる。

 

「いったー! 何? 何事!?」

 

 あら、思っていたより簡単に起きるのね。

 

「って、なんだ。霊夢か。ここは……紫のスキマの中か? ん~記憶が曖昧なんだけど何があったの?」

 

 うん、どうやら無事元の黒に戻っているらしい。一安心。

 

「黒の記憶が消えて暴走したから、私と白の二人でその暴走を止めたのよ。覚えてない? 白はもう帰っちゃったけど」

 

 ホント、大変だったんだから。

 

「あ~、ん~……いや、やっぱり記憶が曖昧だ。何かと戦っていた気はするけど」

 

 のんきなことで。

 はぁ、それにしても疲れた。黒も起きたことだし、さっさと帰りたい。今は、とにかくお酒を飲みたい気分。

 

「詳しいことは紫が教えてくれるわよ。ほら、いつまでも寝ていないで起きなさい。帰りましょ?」

 

「いやぁ、それがね……」

 

「なによ?」

 

 なんだろうか? もしかしてまた何か問題が……

 

「全く体に力が入らないんだ。ちょっと起こすの手伝って」

 

 ……うん、いつも通りの黒だ。

 情けないなぁ。

 

 黒の腕を掴み、上半身だけ起こさせる。

 

「おお、ありがとう。何でこんなに疲れているのかわからないけれど、助かるよ。んで、どうやって帰れば良いの?」

 

 私は知らないわよ。

 

 紫だって気づいているとは思うけれど。黒から妖力も感じられないし……

 

 そんなことを考えていると、何故か黒が私を凝視しているのに気づいた。

 

「なに?」

 

 

 

「ありがとな、霊夢」

 

 

 

 そう言って黒は笑った。

 

「……どういたしまして」

 

 そう返事をし、私は黒に背を向けた。

 

 こんな顔見せられるわけがない。……不意打ちも良いところだ。

 

「それじゃ、帰ろっか。おーい、紫ー。聞こえてるー?」

 

 黒がそう叫ぶと、足元にスキマができ私たちは落ちていった。さっさと帰らせてくれれば良かったのに。

 

 でも、まぁ……うん、少しだけ待ってくれた紫には少しだけ感謝しようと思う。

 

 今日のお酒は美味しく飲めそうだ。

 

 

 






……疲れた

ちょっと長かったですね
もう半分くらいで良かったかもしれません
この話の文字数も、この作品の話数も

な~んてね


と、言うことで最終話でした
最終話と言いつつ名前だけの最終話です

ほぼ、霊夢さん視点で主人公視点がほとんどないとか、流石にまずいですし

ですので、もう少しだけ続く予定です


次話はいよいよビールのお話!
何を書こうかな
楽しみです

では、次話でお会いしましょう


感想・質問なんでもお待ちしております


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第閑話~ビールを語ろう~



~注意!!~

本編とは何の関係もありません
イラッ☆っときたらブラウザバック推奨

メタ発言、キャラ崩壊、時系列無視が含まれます
他にも色々あるかもしれません
読んでくれると作者が小躍りします


それじゃ、いってみよー




 

 

「第三回黒さんのお酒講座~inカフェ迷い人~」

 

 過去最高のテンションで御送りいたします。

 

「霊夢よ」

 

「早いよ! まだ、何も言ってないでしょうが」

 

 順番はちゃんと守ってください。お願いします。

 

「だって、どうせこの後は自己紹介なんでしょ? それなら一緒じゃない」

 

 いや、まぁ、そうなんだけどさ。久しぶりのお酒講座なんだから、ちゃんとやりたいじゃん。

 

「久しぶりなのはわかるけど、これで最後でしょ? 最後くらい好きにやりたいわ」

 

 心を読むな。てか、いつも好き勝手やってるじゃん。いやもう慣れたけどさ……

 

「じゃあ、次の方どうぞ~」

 

「最近出番のなかった魔理沙だぜ」

 

 コラ、やめなさい。

 ごめんって。仕様が無いでしょ、出しづらかったんだから。

 

 ってなわけで、本日は、この二人をゲストとして始めます。

 

「何で私が呼ばれたんだ?」

 

「魔理沙ちゃんだと口調が違うからわかりやすいんだよ」

 

 と言う理由もあるけれど、まぁ、最後はやっぱりこの二人が一番。

 

「黒って閑話になると、途端にブッ込んで来るな……」

 

 ストレス溜まってるんです。

 

「じゃあ、文とかでも良かったんじゃない? 黒に対しては敬語だし」

 

 文がいると、貴方が不機嫌になるでしょうが。ギスギスした空気とかやだもん。もしかして自覚ないのかな?

 

 

「はい、この話はお仕舞い。そろそろ本題に入るよ。ってことで、今回のお酒はビールです」

 

 大本命。

 いや~、ここまで長かったね。日本酒、ワインがきて醸造酒の最後にビール。シードルとか馬乳酒とかもあるけれど、有名な醸造酒と言えば、日本酒・ワイン・ビールの3種だと思う。

 発酵方法も、単発酵、単行複発酵、並行複発酵と分かれているし。因みに、ビールは単行複発酵です。

 

「おお、今日は麦酒が飲めるのか、そりゃあ良い」

 

「おつまみは……やっぱり枝豆かしら?」

 

 ……話も聞いてくださいね。

 聞いてもらわないと、俺が寂しい。

 

「と、言うことで、いつも通り歴史から。ビールの歴史は、ワインと同じようにかなり古い。紀元前4世紀頃にはあったと言われているんだ」

 

 エジプトのピラミッド建築では、ビールが報酬になっていた。って言う有名な話があるよね。

 ビールは世界で最も飲まれているアルコール飲料だったりします。

 

「ずいぶんと古くからあるんだな。それって、今のビールと一緒なのか?」

 

「いや、違うかな。大麦を使っていたことは一緒だけど、今のビールみたいにホップは使われていなかったらしいよ」

 

 因みに、ビールにホップが使われるようになったのは、11~15世紀だそうです。

 

「よく聞くけど、ホップってなんなの?」

 

「植物だよ。それでビールには、そのホップが作る花を使うんだ。ホップを入れることで、ビールの苦味と香味を引き出して、さらに抗菌作用もあるよ」

 

 もうちょっと詳しく言うと、ホップは和名でセイヨウカラハナソウって名前。意外かもしれないけど、雌雄異株の多年草植物。それで、ビールに使われるホップは雌株のみ。

 さらに、その雌株の作る雌花……まぁ、毬花って言うんだけど、その毬花にルプリンと呼ばれる黄色い粒がついていて、それがビールの味や香りを作っている。

 

 本当にどうでも良いけど、ホップの雌株にエチレン処理をすることで、雄花を形成させることもできるよ。

 

「と、言うことでとりあえずホップなしのビールをどうぞ。おつまみとしてホップの天ぷらも用意してみた」

 

 天ぷらは塩を振っただけの簡単なやつ。香りがよく、なかなかに美味しい。

 因みに、ホップなしビールのスタイルはラガーです。スタイルの説明は後ほど。

 

「ん~、なんかあれだな。パンのような香りがするんだな」

 

 まぁ、ホップを入れてないからね。材料は麦芽と水だけなのだし、正直あまり美味しくない。これでビールにはホップが必要、って思ってもらえれば良いかな。

 

「うっ、この天ぷら苦すぎるわね……最初は美味しいと思っていたけど、噛んでいると苦味がすごい」

 

 うん、まぁ、そんなもんだよね。この苦味がクセになるんだけど。

 

「ホップを使ったお茶もあるけど、飲む?」

 

 一週間ほど、乾燥させたホップの毬花にお湯をかけただけの簡単なやつ。

 

「私は遠慮するわ」

 

「私もそれはいらないぜ」

 

 それは、残念。

 好きな人は好きな味なんだけどね。

 

 俺は嫌いだけど。

 

「じゃあ、次にビールの分類を説明するよ。まず、ビールは大きくエールとラガーの2種類に分けられるんだ。これは醸造方法で分けた場合だね」

 

 その分類をスタイルとかタイプって言う。たぶん、スタイルの方が一般的。あと一応、自然発酵ビールなんかもあるけど、日本ではあまり一般的ではないかな。

 

「そしてさらに、エール・ラガービールはそこから色々な種類に分けられる。って感じかな。何か質問ある?」

 

 エールは上面発酵によって作られて、ラガーは下面発酵によって作られるよ。歴史的にはエールビールの方が古いけれど、ラガービールより作るのが簡単。

 でも、世界で多く飲まれているのは、ラガービールです。日本でも、ほとんどのビールがラガーだったりします。

 エールはラガーと比べて、高い温度で発酵させるんだ。日本において、エールビールはあまり飲まれないけれど、地ビールではエールビールの方がよく作られているイメージ。

 作るのが簡単だからかな? ただ、お値段は高め。

 

「その、エールとラガーって味はどう違うんだ?」

 

「う~ん、エールやラガーの中にも沢山の種類があるから、一概には言えないけど……一般的に、エールは香りと味が深く、フルーティーって言われるかな。ラガーはエールほど香りや味が強くないけれど、切れの良い苦味があってマイルドって感じ」

 

 あと、エールは常温で飲まれることが多いよ。温めて飲むエールビールもあるらしい。

 飲んだことないけど。

 

「黒ビールってなんなの?」

 

 俺が作ったビールです。

 嘘です。

 

「一言で言えば黒いビールだよ」

 

「いや、それはわかるけど……」

 

 納得しない様子の霊夢さん。だって、本当に黒いビールってだけなんだもん。一応、黒色は麦芽を使わなければいけないって定義もあるけど。

 

「まぁ、色々あるんだけど、1つの例として、ビールを作る過程で麦芽の焙燥ってのをするんだよ。その時、長い時間焙燥すると、よく見る小金色じゃなくて黒色になるんだ」

 

 あと、カラメルを入れて黒色にする場合もあるよ。その場合は、仄かに甘みを感じるビールになるかな。

 因みに、黒ビールはエールだろうがラガーだろうが、色が黒ければ黒ビールって呼ばれます。まぁ、さっきも言ったように、濃色の麦芽を原料の一部に用いた色の濃いビールでなければいけないけどね。

 

 あと麦芽だけど、これは大麦に吸水させて4~8日置くことで発芽。そして発芽した大麦を麦芽って呼ぶ。その後、麦芽を焙燥させ、その時間が短いと黄金色に。長いと黒色になる。

 それで、苦味を持つ麦芽の幼根を除去して4~5週間貯蔵。ビール造りはそんな流れです。

 

 発酵方法とかは長くなるから、今回も省略。

 

「へ~、わりと適当なんだな」

 

 黒ビールの定義はね。作る方は大変だけど。味もかなり強いやつもあれば、弱いのもある。美味しくないやつだと、醤油みたいな味をするし、黒ビールは難しいけどね。

 

「ウィスキーってのはビールを蒸留したやつなのか?」

 

「正確ではないけど、まぁそうだね。ただ、ウィスキーはホップを使わないし、泥炭を燃やして香りを付けるって言う工程があるよ」

 

 今回はビールのお話だから、詳しくは説明しません。

 

「発泡酒ってのもビールなの?」

 

 む、答えにくい質問がきた。

 

「厳密に言うとビールではないかな。ビールって言うのは、麦芽、ホップ、水、そして副材料であるコーンやデンプンによって作られたものを言うんだけど……ビールの定義で水を抜かし、材料中の麦芽比率が67%以上じゃないといけないってあるんだ。それで、発泡酒ってのは、その麦芽比率が67%未満のものを言うよ」

 

 まぁ、麦芽比率が67%以上でも、副材料として認められていないフルーツやハーブを入れてしまうと、発泡酒になっちゃうんだけどね。

 

 ビールの定義を示した法律として、ドイツには『ビールは、麦芽・ホップ・水・酵母のみを原料とする』の内容で知られる、ビール純粋令がある。この法律は、現在でも有効な世界最古の食品法律だったりします。今から、500年も前の法律なのにすごいよね。

 

「へ~、味はやっぱりビールのが美味しいのかしら?」

 

「そうだね。よく言われるのが、発泡酒はビールと比べて苦味や味が薄いって言われるかな」

 

 ついでに説明しちゃうけど、第三のビールってのは、材料に麦芽をいっさい使っていないやつのこと。どうして、発泡酒や第三のビールができたのかと言うと、ビールを売るとき酒税がかかるんだけど、その酒税が麦芽比率によって決められているから。そのため、安くビールっぽい飲み物を提供するために、発泡酒や第三のビールが開発されたんだ。

 第四のビールなんかも出てきたけど、それは説明しなくても良いかな。

 

 まぁ、ここ幻想郷では酒税とか関係ないんだけどさ。

 

「んで、ビールに合う食べ物ってなんなんだ?」

 

「ん~……そこは人の好みとしか言えないけど、味の濃い食べものなら合うと思うよ」

 

 逆に白米のみとか合わないかもね。

 

 ワインなんかとは違って、食材を選ばないお酒だと思う。俺は甘いものでも合うと思うし。

 

「それじゃ、そろそろ飲みましょうよ」

 

 まぁ、そうだね。

 本日はこの辺でやめておこう。

 

 

「ビールは、あの炭酸や苦みが嫌いな人も多いと思う。そんな人は一度ちびちび飲むのではなく、ぐいっと一気に飲んでみると、ビールのイメージが変わるかもな。何が言いたいかと言うと……ビールは美味しいよ! 以上、黒さんのお酒講座でした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、霊夢。ま~た黒が謎の電波、受信してるぞ」

 

 放っておいてください。

 

「私はもう慣れたわ。黒、お酒」

 

 はいはい、今用意しますよ。

 

「なぁなぁ、私ってまだ出番ある?」

 

「……今までお疲れ様。魔理沙ちゃん」

 

 またいつか会えるといいね。

 

 

「えっ? ……マジで?」

 

 






最近は第三のビールばかりです
ビール飲みたい

と言うことで第閑話でした
私の同僚が某ビール会社と連携しホップの研究をしており、ホップも育てています

そんなこともあり、ホップの天ぷらを食べさせてもらったわけですが……
口に入れた瞬間ホップの良い香りが広がり、ほど良い苦味と塩味がよく合い、とても美味しかったです
ただ、4,5回ほど噛むと猛烈な苦味が広がり……まぁ、うん
好きな人は好きかもしれませんね

ホップのお茶はもう二度と飲みたくありません

黒ビールのお話で好き勝手書いていますが、実際は焙燥の仕方などかなりの技術が必要だそうです
お酒造りは奥が深い

では、次話でお会いしましょう
次話はエピローグの予定です


感想・質問は特にお待ちしておりませんが、あれば嬉しいです


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エピローグ~お酒と仲間と~

 

 

 賑やかな声が境内に響く。

 俺と霊夢が戻ってきた時には、既に宴会が始まっていた。待っててくれても良かったのにね。

 

 

 情けないけれど、自分では動くことができないから、霊夢の手を借りて神社の縁側まで移動。手はなんとか動くようになったものの、足には全く力が入らない。こりゃあ、当分は霊夢の世話になりそうだ。

 

 まぁ、仕方ないのかな。お世話になります。

 

 桜なんて散ってしまったし、見る物と言えば、楽しそうに騒いでいる者達だけ。酒の肴には少々甘すぎる。

 贅沢だろうか。

 

「この場所も随分と賑やかになったね」

 

 隣に座っている紫に言った。それにしても、紫にはまた借りができてしまった。返しきれるだろうか。

 

「そうね。でも貴方は賑やかな方が好きでしょ?」

 

「静かな場所も嫌いじゃないけどな」

 

 そんなことを俺が言って、持っていた盃を差し出すと、紫はお酒を注いでくれた。

 ありがと。

 

 お酒を口に入れながら、もう一度境内を見る。

 神、人、妖怪なんて関係なく、皆楽しそうに騒いでいた。

 

 数十年前には考えられなかったこと。これも霊夢のおかげなのかな?

 

 何故か霊夢の周りには人が集まる。それが、霊夢の能力だったりするのだろうか? そうだとしたら、消すことしかできない俺と大違いだ。

 

 ――『人を集める程度の能力』

 

 うん、よい響き。紫に分けてあげれば良いのに。

 

「また、失礼なことを考えているでしょ?」

 

 ジト目の紫さん。

 良い勘をお持ちなことで。

 

「まぁ、もう慣れたから良いけど……それより、身体の方は大丈夫なの?」

 

 おろ、随分と優しいじゃないか。

 カメラが止まるくらいは覚悟していたのに。

 

「ガタガタでボロボロだよ。自力で立つことだってできないし」

 

 ここまで酷くなったのは、神奈子達との戦い以来じゃないかな。いや、あの時より酷いかも。

 

「博麗大結界の方は大丈夫?」

 

 繋がりは戻っているっぽいけど、切れている時間も短くはなかったと思う。まぁ、ここで紫がのんびりとお酒を飲んでいるってことは、大丈夫ってことだろう。社交辞令みたいなものです。

 

「妖力はもう空だし、一時は諦めかけていたわ。それでも、今はもう大丈夫よ。供給源も戻ったし。ホント、妖力だけは莫迦みたいにあるのね」

 

 一時は諦めかけたって……思っていたよりやばかったのかな? ま、まぁ、とりあえずは一安心です。

 御迷惑をおかけしました。

 

「さて、流石に私も疲れたから、そろそろ帰るわ。それじゃ、またね黒」

 

「うん、またな紫」

 

 そう言って別れの挨拶を告げると、紫は消えていった。むぅ、お酒を注いでくれる人がいなくなってしまった。自分では動けないし、由々しき事態である。誰か来てくれませんかね?

 

「隣、良いかしら?」

 

 そんなことを考えていると、八意さんが声をかけてきた。

 片手にお酒を持って。うっわー、貴方ですか。できれば咲夜さんとかが良かった。

 とは言っても、断ることも、逃げることもできない。まぁ、仕方がないのかな。

 

「……はい、どうぞ。ちょうど今、空きましたし」

 

 ホント、この人は良いタイミングで現れるよね。ストーカーなんじゃないだろうか? いや、流石にそれはないか。

 

「……随分と間があったわね」

 

 そう言いながら、八意さんは俺の隣に座った。心の中で激しい葛藤があったんです。あと、ちょっと近くないですか? できれば、もう少し離れてもらいたいです。

 

「白って言ったかしら? あの娘は……貴方と同じあの施設の?」

 

 そんなことを八意さんは言って、お酒の入った瓶をこちらに向けてきた。あ、どうも、ありがとうございます。

 

 へ~、白と会ってたんだ。

 白だって、八意さんのことは知っていただろうし……会話とかしたのかな? ちょっと気になる。

 

「はい、そうですよ。一緒に暮らした仲間です」

 

 あれから何年経ったんだろうね。自分で言うのもアレだけど、人生経験は豊富な方だと思う。八意さんには負けそうだけど。

 

「そう。あの娘は、今も生きて……」

「いえ、死んでいますよ」

 

 ああ、ホント懐かしいな。八意さんと会話をすると、あの時のことばかり思いだす。

 

 

 

『最期のお願い。私が私でいられる内の最期のお願いを聞いてもらっていい?』

 

『ああ、何でも』

 

『ありがと。じゃあさ、黒の手で私を――』

 

 

 まぁ、思い出すものが良い物ばかりじゃないってのは、ちょいと問題かな。楽しい思い出だって沢山あるんだけどね。

 

「じゃあ、何故あの娘は此処にいたのかしら?」

 

「俺がまだ、生きているからだと思います」

 

 俺の答えに八意さんは首を傾げた。白と俺の関係は、色々と複雑なんです。

 

 理由はそれだけじゃないと思うけれど、白がいつまでたっても消えないのは、それが一番の理由なんだろう。ま、あいつも楽しそうだし、これで良いと思う。

 

 いつかこの問題も解決しなきゃならないのかねぇ。そろそろ時効になっても、良い頃だと思うけど。

 

 むぅ、なんだか湿っぽい雰囲気になってしまった。これじゃあ、酒の肴に辛すぎる。

 

 八意さんからいただいたお酒を一口飲んでみる。香草とアルコールの香りが鼻を抜け、仄かな甘味を残しながら喉を流れていった。

 うん、なかなかに美味しい。

 

「あややや、ここにいましたか。探したんですよ黒さん」

 

 そんなことを言いながら、文が此方に近づいてきた。ちょうど良いタイミング。八意さんと話すこともないし、こういう時、空気を読まない文みたいな存在は助かる。こういう時以外は勘弁してもらいたいけど。

 

「探してたって、どしたの? ってか、文は異変参加組じゃないよね。何故此処にいる」

 

 何処から嗅ぎつけたのやら。

 流石は自称新聞記者。

 

「そうですよ、どうして私を誘ってくれなかったんですか? 私と黒さんの仲でしょうに」

 

 いや、そんなに仲良くないでしょ。たまに会って話すくらいじゃん。

 それに、普段文がいる場所とか知らんもん。あと、天狗が五月蝿いし、天魔は何考えているのかわからんし、妖怪の山はあまり行きたくない。

 あ~でも、椛ちゃんにはまた会いたいな。会ってくれなそうだけど。

 

「っと、話が反れました。天魔様からの伝言ですが、婚約の準備はできているそうですので、後は黒さんが来るだけだそうです」

 

「死ねって伝えといて」

 

 決めた。

 妖怪の山は二度と行かん。

 

「いや、だから私の立場的に無理ですって……」

 

 文だって、俺が断るくらいわかっているでしょうに、これが社会って奴なのかねぇ。面倒なことで。

 

「一途に貴方のことを想い続けること数百年。もう良いじゃないですか黒さん」

 

「良くねーよ。ただ、ただ気持ち悪いわ」

 

 いい迷惑にもほどがある。

 勘弁して下さい。

 

「永い人生なのだし、一度籍を入れてみるのも良いんじゃない?」

 

 お酒を飲みながら、八意さんがぽそりと呟いた。

 むぅ、人事だと思って……

 そもそも、前提がおかしい。八意さんは天魔を知らないのかな? 知っていて、この発言だったら困るけれど。

 

「あの……天魔、男ですよ」

 

「えっ?」

 

 ああ、やっぱり知らなかったか。そりゃあ、俺だって女性にここまで言い寄られていれば嬉しいよ。

 しかし、アイツは男だ。恐怖しか感じない。

 

 ――貴方ってそっちの気が……

 

 八意さんの口から何かが聞こえた。

 

 おい、待て。どうしてそうなる。

 

「種族を超えての恋愛とか素敵じゃないですか?」

 

 性別を超えての恋愛とか素敵じゃないですね。

 心の底からやめて下さい。

 

「まぁ、私もこのままの方が、黒さんを理由に仕事をサボれるので助かりますが」

 

 すごくナチュラルにサボるって聞こえたな。ちゃんと仕事しなさいよ。まぁ、どうせ言っても無駄なんだろうけどさ。

 

 騒がしい文を流しつつ、勘違いしたままの八意さんの考えを訂正しながら、ゆっくりとお酒を口に含む。

 今だ静まることのない、楽しげな声。

 

 

「ホント、この場所も賑やかなになったねぇ」

 

 

 それはきっと良いことなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれだけ騒がしかった境内も、東の空が明るくなり始める頃には、普段の静けさを取り戻した。

 宴会の片付けも終わり、神社にいるのは俺と霊夢だけに。片付けの間も、俺は縁側に座っていました。片付け手伝えなくてごめんね。

 

「あ~、疲れた」

 

 そんなことを言いながら、霊夢が俺の隣に座った。

 

「お疲れ様」

 

 宴会は良いけれど、その後の片付けとか大変だよね。片付けをせず、そのまま寝ちゃったりすると、次の日ものすごく後悔する。

 

「まぁ、今日は妖夢や咲夜が手伝ってくれたから、まだマシだったわ。そう言えば、黒ってこれからどうするの?」

 

 いつもなら妖夢ちゃんとか酔っ払ってて、手伝うとかできないもんね。今回は、無事生き残れたみたいだけど。

 

「一人じゃ、まともに生活できないからなぁ。申し訳ないけど、霊夢の世話になるかな。それでも良い?」

 

 これでダメって言われたらどうしようか。まぁ、紫に頼むくらいしかないんだけどさ。

 

「別に良いわよ」

 

 毎度毎度、お世話になります。

 

「あっ、忘れないうちに言っておくけど、白からよろしく伝えといてって言われたわ。なんか、当分来られなくなるそうよ」

 

 ありゃ、それは残念。

 ん~、当分ってどのくらいなのかな? 数百年とかかねぇ。

 あいつも、もう少しゆっくりしていけば良いのに。寂しいじゃん。

 

 

「ふっ、んーっと。それじゃあ、私はそろそろ寝るけれど、黒はどうするの?」

 

「俺はもう少し此処にいようかな。お疲れ様、お休み霊夢」

 

「ん、お休み。黒」

 

 そう言って、霊夢は母屋の方へ向かって行った。

 

 

 

 

 これで、また一人。

 

 あっ、霊夢がいなくなったら俺って移動できなくなるじゃん。

 ……ま、まぁ、眠くなったらここで寝れば良いか。

 

 何処を見るでもなく、ボーっとしてみる。

 

 ん~……こうしていると、昔のことばかり考えてしまうね。何とも年寄りくさいことだ。

 

 たった一人だけ地上に残された時から、いくつの年月が流れたのだろうか。何年も何年もの間を一人で過ごし、神々や鬼たちみたいに人間じゃない奴らとも沢山出会ってきた。

 

 出会いがあって

 別れがあって

 再会があって

 また別れがあって……

 

 人生って難しいよね。

 上手くいかないことばかりだ。

 

 

 けれども、まぁ……笑いながら一緒にお酒を飲む仲間がいるこの人生、思っているよりは幸せなのかもしれない。

 

 

 な~んてね。

 

 






と、言うことでエピローグでした

これで東方酒迷録は完結となります
書き始めて一年……長ったですね

ここで、この作品を書きながら考えていたことを書いても良いのですが、長くなりそうですので、そのうち活動報告に書かせていただきます
今後の予定とかもそちらに書きます

長い間更新が止まってしまったりしたこともありましたが、なんとか完結できたのも読者の皆様のおかげです


ありがとうございました


またいつか、お会いできることを楽しみにしております


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第恋章~おまけ~
第恋話~霊夢ルート~前編




時系列的には、エピローグの続きですが
本編とは関係ありません

ifのお話です

ですので

読 ま な く て も 大 丈 夫 で す





 

 

 目の前には、悩みなんてないような顔をして黒が眠っている。

 わずかに聞こえる寝息。

 

 

 黒の起こした異変から三日。

 あの宴会の日、一眠りしてから縁側へ向かうと、そこで寝ている黒を発見。きっと黒だって、相当疲れていただろうし、仕方無いと思いつつもとりあえず黒を起こしてみる。

 しかし、声をかけても、身体を揺すっても黒が起きることはなかった。

 

 

 とりあえず、眠ったままの黒は布団に寝かせた。それから三日。まだ黒は起きない。

 

 きっと疲れて寝ているだけ、そうだとは思うけれど……いつまでも寝ている黒を見ると、少しだけ心がざわつく。

 

「良い加減起きなさいよね……」

 

 また黒と一緒に生活ができるのは楽しみだった。

 どうしてなのか、自分でもわからないけど。

 

 寂しいのかな?

 

 ん……何か違う気がする。良い答えが見つからない。

 

 はぁ、とりあえずお茶でも飲もうかしら。

 

「こんにちは、博麗の巫女」

 

 そんな声が聞こえ、声のした方を見ると、永琳がいた。む、せっかくお茶を飲もうとしたのに、邪魔が入った。

 

「あら、どうしたの? 黒ならまだ……と言うか、あれからずっと寝たままよ」

 

 たぶん、黒に用事があるのだろう。昔に色々とあったらしいし。詳しいことはわからないけど。

 

「聞いているし、知っているわ。妖怪賢者から念の為、看ておいてと頼まれたから来たのよ」

 

 ああ、そう言うことね。そう言えば紫の姿を見ないけれど、紫は大丈夫かしら? あの時はかなり辛そうに見たけど。

 

「そう、それじゃあよろしく」

 

 ふむ、ここはお茶くらい用意した方が良いのだろう。私も飲みたかったわけなのだし、ちょうど良い。

 

 

 

 お茶の用意をして、再び戻ってくると、何故か永琳は黒をじっと見つめていた。何をやっているのよ……診察は終わったのかしら?

 

「どう? 黒の様子は? ああ、あとお茶ここに置いておくわね」

 

 お茶と急須を台の上に置き、お茶を啜りながら聞いた。うん、今日もお茶が美味しい。

 

「あら、ありがとう。思っていたより気が利くのね」

 

 失礼な。そういうことは口に出さないものでしょうが。

 それに、そこまで常識が欠けてはいないわよ。

 

「この子なら大丈夫よ。呼吸も脈も正常。たぶん、ただ疲れて眠っているだけだと思うわ」

 

 それなら良かった。けれど、少し寝すぎじゃない? あれから三日も経ったというのに。

 

「……私たちみたいな不老不死者はね、怪我や病気には強いの。けれども、疲労なんかはどうしようもないわ。治せるようなものではないし。まぁ、安心しなさいな。そのうち目を覚ますわよ」

 

 わずかに聞こえる、黒の寝息。

 不老不死、か。

 黒の見た目の歳は、私とほとんど変わらない。それでも、一億年以上もの年月を生きてきている。

 ちょっと想像ができない。私にとっての一生は、黒にとって一瞬だなんて……

 

「ねえ、永琳。黒って昔からこんな感じだったの?」

 

 私の淹れたお茶を飲んでいる永琳に聞いてみる。これで昔はやんちゃだったとかなら面白いかも。ちょっと想像ができないけれど。

 

「……いえ、私は知らないのよ。確かに私はこの子と同じ時代を生きていたけれど、この子の存在だって知らなかったのだし」

 

 あら、そうなの? てっきり、昔からの知り合いだと思っていた。

 ああ、そう言えば月に行った時、黒が英雄だとかなんとか言っていたような……その辺りのことと関係あるのかしら?

 

 ふふっ、今さらだけど、黒が英雄って似合わないわね。

 

「へぇ、そうなのね。じゃあ、何で黒は永琳を避けているのよ? 昔、会ったことがないんでしょ?」

 

 私がそう聞くと、永琳の顔が少しだけ厳しくなったように見えた。聞かない方が良いことだったかしら? まぁ、そんなこと知ったことじゃないけれど。

 

「はぁ……そんなこと私が聞きたいわよ。貴方からも言っておいてもらえる? 私はいつまでも待っているから、良い加減来なさいって」

 

 いつまでも、ねぇ……

 私にはできないことだ。どんなに頑張ろうと、絶対に。

 

「わかった。覚えていたら言っておくわ」

 

「そう、お願いね。それじゃあ私は帰るわ。お茶ありがとう、なかなか美味しかったわよ」

 

 それは良かった。

 でも私は黒が淹れたお茶の方が、好きよ。あの味には、なかなか勝てない。

 

 

 永琳のスタスタと歩いて帰る姿をなんとなく、ぼーっと見ていると、急にこちらを振り返った。あら、どうしたのかしら?

 

「ああ、一言忘れていたわ」

 

 突然思い出したかのように永琳が言った。

 なんとなく、嫌な予感。

 

「なによ?」

 

 

 

 

「恋愛に、過ごした時間の長さなんて関係ないわよ」

 

 

 

 

 微笑みながら永琳はそう言って、帰って行った。そういえば最近、誰かにも似たような言葉を言われたっけ。

 

「……だから、余計なお世話だって」

 

 全く、どうして私がこんなことを言われなきゃ、いけないんだか……

 きっと、それもこれも全部黒が悪い。

 

 黒の側まで行き、頬をつついてみる。けれども、やっぱり黒は起きない。ホント、いつまで寝ているんだか。

 

「早く起きなさいよ」

 

 黒の淹れたお茶も飲みたいし、お酒だって飲みたい。それに、このままじゃまた誰かに変なことを言われそうだ。

 

 そんなことを考えていたせいで、せっかく淹れたお茶は冷めてしまっていた。はぁ、淹れ直しだ。

 

 

 

 

 

 そんなことから、二日後。

 漸く、黒が目を覚ました。

 

 お昼を食べ終わり、食後のお茶を飲んでいる時だった。黒が上半身を起こしているのが見えた。

 

「おはよう、黒」

 

 おはようと言う時間でもないけれど、とりあえず声をかけてみる。

 

「んっ……ん~。おはよう、霊夢」

 

 そう言って黒は返事をしてくれた。身体の方はもう大丈夫なのかしら?

 

「んと、俺ってどのくらい寝ていたの?」

 

「五日よ。全く流石に寝すぎじゃない?」

 

 無意識にため息が出る。ホント、のんきなことで。

 

「えっ? 五日も? うわぁ、そりゃあ迷惑かけたね。すまん」

 

 寝ていただけだし迷惑はかかっていないけれどね。ただ、黒のせいで変なことを言われたのは確か。

 でも、まぁ漸く起きてくれたのだし、これからその借りは返してもらおう。

 

「身体の方は大丈夫なの? もう一人で起き上がれる?」

 

「うん、だいぶマシにはなったよ。霊力は空だけど生活はできる……かも」

 

 なんとも曖昧な答え。

 情けないなぁ。

 

「だから、できればもう少し此処に居させて欲しいのだけど……ああ、別に帰った方が良いならそうするよ。あまり世話になるのも申し訳ないし」

 

 そっか、そうだよね。

 いつかまた、黒も帰っちゃうんだ。

 

 ……なんだろうか、心がざわつく。

 

「別に良いわよ。元の状態に戻るまで此処に居ても」

 

「おお、そりゃあ助かるよ。ありがとな」

 

 そう言って、黒は笑った。これで、また暫くは黒と一緒の生活が続く。そんなことを考えると、自然に笑が出た。

 どうしてなのかは、やっぱりわからない。

 

「どういたしまして。それじゃあ、私はお茶を淹れてくるけど黒も飲む?」

 

 とりあえず、お茶でも飲んでゆっくりしよう。

 

「うん、お願いするよ」

 

 

 

 

 

 お茶を用意して、黒のいた場所まで戻ると、何故か黒はいなかった。

 何処へいったのよ……目を離すと直ぐに何処かへ行ってしまう。今度から縄とかで縛っておこうかしら?

 

 そんな、自分でも何を言っているのかわからないことを考えながら、黒を探していると、縁側に座っている黒を見つけた。

 そう言えば、いつも此処にいる気がする。その場所が好きなの?

 

「全く、お茶を淹れてくるって言ったのだから、ちゃんと待ってなさいよ。黒っていつもその縁側にいるけれど、その場所が好きなの?」

 

 

 

「うん、好きだよ」

 

 

 その言葉に、何故か私の心はまたざわついた。

 自分でもわかるくらい、脈が速くなる。ホント、最近の私はどうしたって言うのだろうか。

 

「此処は、俺のお気に入りの場所だしなぁ。昔からここで、ゆっくりお茶を飲むのが好きだったんだよ。最近は霊夢に取られっぱなしだけどさ」

 

 そう言って黒は何が面白いのかわからないけれど、くすくすと笑った。取られるも何も、二人で座っても十分すぎるくらい、空きはあるでしょうに。何を言っているのだか。

 

「別に取ったわけじゃないわよ。はい、お茶」

 

 黒にお茶を渡し、隣に座る。

 いつもの黒と私。

 安心できる距離間。ずっと、ずっとこのままだったら良いのに……

 

「ねぇ、黒はいつ帰るの?」

 

「えっ? え、えと……早く帰れってことかな? うん、じゃあ、あと2,3日くらいで帰ろうかな」

 

 そんなこと言ってないでしょうが。なんだろう、不機嫌に見えていたりするのかしら?

 そんなつもりはないのに。

 

 別に、ずっと此処にいてくれても良いのに……

 

 

『恋愛に、歳の差なんて関係ないんだぜ!』

 

 

 誰かの言葉。

 

 

『恋愛に、過ごした時間の長さなんて関係ないわよ』

 

 

 いつかのセリフ。

 

 そんな言葉たちが、私の頭の中でクルクル回る。クルクル、クルクルと回る。

 最近、こんなことばかり考えてしまう。いまだ、心はざわついたまま。

 

 ――どうして?

 

 ボーっと遠くを見て、お茶を飲みながら考えてみる。

 

 そして浮かんだ一つの答え。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、そっか

 

 

 

 私は黒のことが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 好きなんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 好き、か……そっか。

 

 そんな答えがわかると、今までざわついていた心が急に静かになった。心の底へ、すとんと何かが落ちた感覚。

 

 うん、この感覚は悪くない。

 

 いつからそうなのかは、わからない。

 

 でも、きっと間違った考えでもない。

 

 

「ねえ、黒。ちょっとこっちを向いて」

 

 

「うん? どったのっっ!!?」

 

 

 そう声をかけてから、私は黒の唇にそっと自分の唇を合わせた。

 

 

 






ここまで書いて心が折れました
前編と言うことは、後編もあるわけで……

できるだけ早く書けるようにはします

次話は主人公視点の予定です



感想・質問はとくにお待ちしておりませんが、励ましの言葉をいただけると嬉しかったりします


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第恋話~霊夢ルート~後編



前話の続きです


読 ま な く て も 大 丈 夫 で す 






 

 

 口の中に、お茶の味とわずかに甘い香りが広がった。

 目の前に見える、目を閉じた霊夢の顔。キス、接吻、口づけ……色々な呼び方はあるけれど。

 

 え? え? なにこれ? どういう状況?

 霊夢が……え?

 

 寝起きってこともあると思うけど、頭の中が意味わからないことに。

 

 

 突然だった。

 

 

 不意打ちだった。

 

 

 ちょ、ちょっと待ってよ。どうして霊夢が俺に……? いまだ頭の中はパニック。

 時間にしては一瞬だったと思う。けれども、霊夢の唇が離れるまでかなり長く感じた。

 

「あら? お茶がもうないわね。ちょっと淹れてくるわ」

 

 何事もなかったかのように、そう霊夢は言い、急須を持ってこの場を離れた。な、な、なんだったんだ? 本当に意味が分からない。

 

 一般的な口づけの意味くらい、俺だってわかっている。それに、そのことを霊夢が知らないとも思えない。嫌われていたとかは思っていなかったけれど……霊夢が俺を?

 

 そんな思考がぐるぐると頭の中を回る。

 いや、だってあの霊夢だよ? 夢? 幻想? 答えとしてはそっちの方がまだしっくりくる。

 じゃあ、唇に残っているこの感触は?

 

 ……ダメだ、さっぱりわからん。

 こんなこと初めてだから、本当にどうすれば良いのかわからない。これでも、長い人生を歩んできたはずなんだけどなぁ。そっち方面のことはさっぱりなんです。

 

 と、とりあえず、お茶でも飲んで一回落ち着かないと。

 

 

 お茶に口をつけ一息。

 ああ、熱いお茶は今日も美味しい。

 

 ……うん?

 そう言えば、まだ全然お茶を飲んでいなかった気がするけれど、もうお茶がなくなったのか? 霊夢だってそんなに飲んでいなかった気が……ん~、気づかいないうちに飲んでいたのかね。

 まぁ、いっか。そんなこと気にしても仕様が無いわけですし。

 

 しっかしなぁ、どう霊夢に聞けば良いのか……

 現実だよね、これ。どうして、霊夢があんな行動をしたのか聞きたい。もしかしたら、ただ俺が勘違いしているだけなのかもしれないし。

 そうだったら、恥ずかしくて死ねる。でも、これって聞いても良いことなのかな? それを聞くのって滅茶苦茶失礼な事なんじゃ……ん~、どうしたもんかなぁ。

 そして、情けないことに自分から聞く勇気も無いってのもある。苦手なことから、逃げてばかりの人生でしたし。

 

 ホント、どうっすかな。

 

 ただお茶を淹れてくるだけのはずなのに遅いな、なんて考えていると漸く霊夢が戻ってきた。

 何かあったのかな?

 

 しかし、霊夢は何も言わずに俺の隣に座った。霊夢の顔を見てみる。いつもと変わらぬ仏頂面。

 さとりちゃんでもいれば、霊夢が何を考えているのかわかるのだけど……いや、それは流石に情けないか。

 

 ……これはいかんね。さっきから、この状況を逃げようとしてばかりだ。

 

 お茶を持ったまま、そっと目を閉じてみる。微かに聞こえる風の音。冬が過ぎ、桜が散って過ごしやすい季節になってきた。

 

 ……うん、漸く落ち着いてきた。

 

 霊夢が俺にした行動ってのは、そう言う意味なんだと思う。

 そしてその考えは、たぶん間違っていない。はぁ、どうして俺なんかを……

 性格や見てくれが良いわけでもないし、何より俺は不老不死だ。普通の人間じゃ……ない。

 そんな俺をどうして?

 

 また風の音がした。

 

 まぁ……きっと、理屈じゃないんだろう。

 きっかけなんて、そんな物だ。

 

 

 

「ねぇ、黒」

 

 霊夢の声。

 心臓の鼓動が速くなるのがわかった。

 

 風の音は――もう聞こえない。

 

 

「貴方が好き。だからずっと私の側にいて」

 

 

 霊夢の声だけが響いた。

 直球。

 ど真ん中のストレート。いかにも霊夢らしい。

 

 さて、ここまで言われてしまったんだ、何か返事をしないといけない。閉じていた目を開け、手に持っていたお茶を一口。

 そして、また目を閉じて考えてみる。

 

 霊夢と初めて出会ってから、十数年。初めて出会った時は確か、桜が綺麗な季節だったかな。

 それから、霊夢は博麗の巫女として、俺はそれを育てる者として一緒に暮らした。霊夢が一人でも大丈夫になってから別れたけれど、その後も此処へはよく訪れた。

 

 

 ――何故?

 

 

 目を閉じたまま、またお茶に口をつける。いまだ心臓の音が五月蝿い。

 

 博麗の巫女は俺にとって娘のような存在。

 

 

 じゃあ博麗霊夢と言う、一人の人間としての存在は?

 

 

 

 

 意味もなく博麗神社へ何度も訪れた。

 

 

 理由もなく霊夢に会うために訪れた。

 

 

 答えなんてわかっている。

 

 

 

 

 

 きっと俺は霊夢のことを――

 

 

 

 

 

 

 閉じていた目をゆっくりと開け、残っていたお茶を喉へ流し込む。

 

「俺は不老不死者だよ?」

 

「そんなの関係ない」

 

 お互いに向き合うこともなく、言葉を交わす。

 

「毎朝のように俺を起こすことになるよ?」

 

「毎朝でも叩き起こしてあげるわよ」

 

 二人の声だけが響く、静かな空間。今まで、逃げてばかりの人生だったけれど、そろそろ向き合う時が来たのだろう。

 

「霊夢以外の女の子とも仲良くするかもよ?」

 

「そしたら、力づくでも私の方を向かせるわ」

 

 強引だなぁ……

 霊夢の言葉に自然と笑が出る。

 

 そっか……うん、だいぶ時間がかかってしまったけれど、漸く覚悟ができた。一度、静かに深呼吸。

 

「霊夢」

 

「なに?」

 

 

 

 

 

 

「好きだ。だから俺のずっと側にいてくれないかな?」

 

 

 

 

 

 

「……はい、喜んで」

 

 俺の言葉に、霊夢はそう返事をし笑った。

 漸く、二人が向き合う。

 

 きっといつか、この言葉を後悔する日が来るのかもしれない。

 けれども、まぁこの永い人生、自分以外の誰かのために尽くしてみるって言うのも、悪くはないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 そんな出来事から一ヶ月ほど。

 つまり、まぁ、霊夢とまた一緒に暮らし始めてから一ヶ月。

 

 此処、博麗神社では今日も今日とて、楽しそうな声が響いていた。

 

 人、神、妖怪が混じった大宴会。どうして宴会が始まったのかは知りません。

 

 幻想郷ってのは、俺が思っている以上に狭いらしく、俺と霊夢が一緒に暮らすようになったという噂は、恐ろしい勢いで広まっていった。別に隠していたわけでもないから、良いんだけど……なんだかなぁ。

 できれば、もう少し静かにしていてもらいたかった。まぁ、それはもうほとんど諦めている。

 

 毎日のように、お祝いに人や妖怪は訪れるし、祝いの品物もかなりいただいた。

 

 霊夢はお賽銭が増えたと喜んでいたが、俺は疲れました。喜ぶ霊夢の姿は可愛かったけど……

 

 

「それで? 黒さんは霊夢さんになんと告白したのですか?」

 

 メモ帳を片手に、文が楽しそうに聞いてきた。俺が疲れている原因その1です。全く、楽しそうに燥いじゃって……そう言う話が好きなのかな?

 

「さあ、俺は忘れちゃったよ。霊夢に聞いてみたら?」

 

 だいたい、そんなこと恥ずかしくて答えられるわけがないでしょうに。それに、もしここで答えたら新聞にされ号外とか言って、バラ撒かれるんだろ?

 どんな公開処刑だよ、それ……

 

「むぅ、またそうやって誤魔化す。じゃあ、良いです。想像して書きますから」

 

 いや、全然良くないから。

 むしろ悪いわ。

 

「ふむ、まさか本当に霊夢さんに手を出すとは……黒さんにとって、娘のような存在でしょう?」

 

 うっ……ま、まぁそうなんだけどさ。

 

「仕様が無いだろ、好きになったんだから……」

 

 理屈じゃないのだから。

 

「あっ、その言葉良いですね。使わせていただきます」

 

 しまった、いらんこと言った。

 んもう、早くどっかに行ってくれないだろうか。まぁ、どうせ文がいなくなっても、違う奴が来るだけなんだろうけど。

 

「それにしても、これで私の言った言葉は正しくなりましたね。流石は私です」

 

「うん? 文の言った言葉? いつのやつさ?」

 

 そんなこと言ってったっけ?

 全く記憶にないのだけど。

 

「ほら、小昔話~前編~で言った『これでまた、黒さんの光源氏計画が始まるんですね』ってやつですよ」

 

「だから、そういうのはやめなさい」

 

 また、その話だけUA数が伸びちゃうでしょうが。

 

「はっ、じゃあ、次は文さんルートになるわけですね! きゃー、ど、どんな告白をされるのか楽しみです」

 

「もう帰れよ」

 

 だから、そんなルートないって。少なくともこの世界では。

 

「全く、仕様が無いですねぇ。それに、このまま黒さん相手に話し続けていると、霊夢さんにも怒られそうですし……では、違う場所に行くとします」

 

 もう、なんで文はそう言う発言ばかりするのやら……疲れるので勘弁してもらいたい。

 

「ああ、忘れていました」

 

 うん? 何さ?

 

 

「おめでとうございます」

 

 

 それだけ言って、文は離れていった。

 

 ……ありがとう。

 

 

 

「文とはどんなことを話していたの?」

 

 文がいなくなって、暫くすると霊夢がやってきた。見ていたのかな?

 

「あ~、その、俺が霊夢に何て告白したのか、とかそういうことを聞かれただけだよ」

 

 少々恥ずかしい。

 でも気持ちを伝えてきたのは、霊夢からなんだよなぁ。今でも信じられないけど。

 

「浮気?」

 

 ジト目の霊夢。今の会話からどう解釈したらそう言う結論に至るのでしょうかねぇ。

 

「んなわけないでしょうが」

 

 そんなことしたら、霊夢だけじゃなく他の奴らにも殺されるわ。どうせ、幻想郷中が俺たちの関係を知っているのだろうし。

 

「ふふっ、わかっているわよ」

 

 そう言って霊夢は笑った。

 

 ん……霊夢ってこんなに笑う奴だったんだな。最近になって気がついた。それはたぶん、良いことなのだと思う。

 

「二人で仲良くしているところ、悪いのだけどちょっと良いかしら?」

 

 そんな言葉をかけながら紫が現れた。そう言えば、紫と会うのも久しぶりだ。もう体は大丈夫なのかな?

 

「うん? どしたの?」

 

 あ~、もしかして怒られるのかな? 博麗の巫女のサポートをしなければいけない俺が、一人の巫女とこんな関係になってしまったのだし。

 

「特に用事はないわよ。ただちょっと様子を見に来ただけ」

 

 そう言って、紫はお酒を俺たちに渡してくれた。

 何ですか、それ? せっかく霊夢と二人きりだったのに……邪魔をしに来たようにしか見えない。ほら、霊夢だって機嫌が悪くなって……はないな。むしろ、お酒をもらったから嬉しそうだ。

 

 ふむ、しかしまぁ、紫には相手なんていないのだろうし、此処は俺が、慰めてあげるべきなのだろう。

 あっ、演出家さん。『紫』の文字に『行き遅れ』ってルビお願いします。

 

「……ちょっと、調子に乗りすぎじゃない?」

 

「だから、心を読むな。冗談だって。んで、紫的には俺と霊夢がこんな関係になったわけだけど、大丈夫なの?」

 

 まぁ、ダメと言われたところで、どうしようもないけれど。

 

「別に問題ないわよ。むしろ、こうでもならなければ黒って何処かへ行ってしまいそうだし、ちょうど良かったわ。爆発しろ。それに、これで次代の博麗の巫女は探さなくても大丈夫そうね」

 

 一瞬、心の叫びが聞こえた気がするけれど、まぁ聞かなかったことにした方が良さそうだ。

 別に急に消えたりはしないと思うけどねぇ。放浪癖があるわけでもないし。そして、後半の発言に対してはノーコメントで。

 

「式をあげる時は、うちの神社でよろしくね~」

 

 そんなことを言いながら、諏訪子が近づいてきた。

 

 式ねぇ。やっぱり、そういうのはやった方が良いのかな? 俺は別にやらなくても良いと思うけど……

 

 霊夢はどう思っているんだろうか?

 

「おお~、そりゃあ良いわね。それで? いつやるのさ?」

 

 神奈子も来た。ああ、やることは確定なんだね。俺の意見とかは聞かないんだね。いつも通りだね。

 

 その後も、俺と霊夢の意見なんて聞かず、式の予定について二柱は盛り上がっていた。

 

 何処へ行ってもこんな話ばかり。

 もう俺は疲れたよ……

 

「これからは博麗神社で生活するのよね?」

 

 紫が聞いてきた。

 

「まぁ、そうだね。お酒を作るとき以外は戻らないと思うよ」

 

 お店の方も当分は閉店かなぁ。霊夢に追い出されない限り……

 

 もういっそ、博麗神社にお店を作ってもらおうかな。神社にカフェとか聞いたことないけどさ。

 

 まぁ、そういうことはこれからのんびりと考えていけば良いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして始まったのかわからない宴会も終わり、漸く霊夢と二人きりに。今回はちゃんと片付け手伝いました。

 

 いつもの縁側に座って、いつものようにお茶を飲む。うん、幸せだ。

 

「はぁ、疲れた……」

 

 無意識に言葉が溢れる。

 

「相変わらず年寄り臭いわね。はい、お茶」

 

 仕様が無いでしょうが、こういうことは経験したことがないのだし。

 霊夢は疲れていないのかな? 魔理沙ちゃんとか早苗ちゃん、咲夜さんあたりから質問攻めされていたようだけど。

 

「ん、ありがと」

 

 もらった、熱いお茶に息を吹きかけ冷ましていると、隣に座っていた霊夢が俺の肩に頭を乗せてきた。それは他に人がいる時は、絶対やらないような行動。

 

 まぁ、悪い気はしないけど。

 むしろ、嬉しかったりして……

 

「ねぇ、黒は何で私が好きになったの?」

 

 俺の肩に頭を預けたまま、霊夢が聞いてきた。ま~た、答えにくい質問を……

 

「答えないとダメ?」

 

「ダメ」

 

 恥ずかしいったらありゃしない。それに、何でって言われても……

 

 探そうと思えば、いくらでも見つかる。

 

 冷たいように見えて実は優しいところとか、たまに見せてくれる笑顔が可愛いところとか……

 けれども、どうにも答えとしてはしっくりこない。

 

 だから、一番しっくりくる応えは――

 

 

「なんとなく……かな」

 

 

 きっかけなんて覚えていないし、そもそも、いつからそうなのかもわからない。ただ、恋愛なんてそんな物なんじゃないのかな。

 

「何よ、それ」

 

 俺の答えに霊夢はそう言った。

 僅かに肩が揺れる。顔は見えないけれど、たぶん笑っているんだろう。

 

 ああ、もう恥ずかしいな。

 さっきから顔が熱い。

 

「じゃあさ、霊夢はどうしてさ?」

 

 自分だけこんな思いをするのは、気に食わん。霊夢にも恥ずかしい目にあってもらわないと。

 

 しかし、俺の質問に霊夢は――

 

「……教えない」

 

 としか言わないかった。

 

 むぅ、何それずるい。これじゃあ、俺の一人負けだ。何と戦っているのかわからんけど。

 

 また肩が揺れる。

 ホント、よく笑うようになったね。

 

 

「別に良いじゃない。理由なんて。それに、こうして黒と一緒に居られるのは幸せよ。私はそれだけで十分だと思うわ」

 

 まぁ、それもそうか。

 

 

 

 お茶を一口飲んでから縁側に置く。

 うん、今日もお茶が美味しい。

 

「ねぇ、霊夢。ちょっとこっちを向いて」

 

 俺がそう声をかけると、霊夢は頭を上げ此方を見て、そっと目を閉じた。どうやら意図は伝わってくれたらしい。

 

 何だかんだで、一ヶ月振り。

 まだ二回目。

 

 

 そして俺は、顔を近づけ目を閉じてから、霊夢の唇にそっと自分の唇を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、霊夢に酒臭いと怒られたりもしたけれど、まぁ、俺は幸せだったりします。

 

 






うわあああぁぁぁああああ! こういう恋愛してみてええええぇぇええええ!!!!
もうすぐクリスマスだよおおおおお!! なんも予定ないよおおおおぉぉおぉおお!!!!


と、言うことで第恋話~霊夢ルート~でした
なんでしょうね、疲れました

うわー、うわー言いながら書きました
バットエンドにしてやろうかとも思いました
失踪ってのも悪くないんじゃないかと思いました

それでもなんとか投稿です
いかがでしたでしょうか?

次話は……私のメンタルが治り、書ける気力があれば書きます
できるだけ頑張ります


感想・質問などあればなんでもどうぞ


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第恋話~文ルート~



作者も全く考えていなかった文さんルートです

霊夢さんのお話と比べて、糖分はきっとひかえめだったりします





 

 

 気怠そうな顔をしながらも、しっかりと私の話を聞いてくれる目の前の男性は――

 

 

 鈍い。

 

 

 それも絶望的なほどに。

 いくら此方からアプローチをしても、本人には届かず、軽くあしらわれ何もなかったことにされてしまう。確かに、私も直接アプローチしているわけではないけれど、普通なら気づくと思う。

 

「んで、文は何をしに来たのさ。また取材? 最近よく来るけど」

 

「はい、そんなところです。あっ、天魔様の許可は頂いているので、決してサボっているとか、そういうのではありませんよ。これも仕事です」

 

 この男性は気づかない。お店の場所を探すため、私が毎日のように幻想郷を飛び回っていることを。それだけ探しても、お店への入口を見つけることができない日の方が多いと言うことも。

 取材と言う体の良い理由をして、此処に訪れる。そんな私の心を。

 

「それで、良いのか天狗社会……」

 

 ため息をしながら男性が言った。

 ため息をしたいのは此方の方だと言うのに。

 

「それで、黒さんはいつになったら山へ来ていただけるのですか? そろそろ来ていただかないと、天魔様が暴れだしそうなのですが」

 

 実際はそこまで危ない状況ではないけれど、話のネタに使わせてもらう。

 自分のことを話す勇気がないから。そんな自分が少しだけ嫌になる。

 

「嫌だよ。行きたくないもん。それにたまにだけど、天魔も俺の店に来るよ。この前も一緒にお酒を飲んだし」

 

 あら、そうでしたか。

 そう言えば以前、天魔様がいない時があった。なるほど、黒さんの所へ行っていたのね。それにしても、よく黒さんは一緒にお酒なんて飲もうと考えたものだ。私なら絶対断るのに。

 まぁ、お二人の仲は良いそうだけど、身の危険とかは感じなかったのかしら?

 

「なんと、そうでしたか。つまり近いうちに式を挙げられると言うことですね?」

 

 いつものように軽口をたたく。そんな言葉しか私の口から出てはくれない。

 

「んなわけないでしょうが。天魔とは今までもこれからも、ただの飲み仲間だよ」

 

「面白みがありませんねぇ。では、黒さんは誰と結婚されるのですか? そろそろ身を固める時期でしょう?」

 

 躍けながら、心の底の感情を隠しながら聞く。少しだけ――心が痛む。

 

「いや、誰ともしないよ。時期だったらとっくに過ぎているし」

 

 私もかなりの歳を生きてきたけれど、それでも黒さんから見れば、まだまだなのだろう。

 不老不死。私には想像もできない時間を生きてきている。私と黒さんの間にある壁は、予想以上に厚い。

 

「もったいないですねぇ。相手なら沢山いるでしょうに。ほら霊夢さんとか」

 

「莫迦なことを言うな。霊夢は娘みたいなもんだぞ?」

 

 まぁ、貴方から見ればそうでしょうね。霊夢さんがどう思っているかはわかりませんが。黒さんを見る霊夢さんの視線がおかしい時とかありましたし。

 

 ……はぁ、ライバル多いなぁ。

 

「じゃあ、あの妖怪賢者はどうですか?」

 

「ないだろ」

 

 即答された。

 そこまで早いと逆に怪しく見える。

 

「じゃあ……はっ、もしかして私ですか!?」

 

 いつもの冗談。本心を必死で隠し、悟られないよう、気づかれないよう、冗談で言っているように見せる。

 気づいてもらいたいと言う想いと、気づいて欲しくないと言う想いがぶつかり合って、矛盾した感情を曝け出す。言葉と行動と態度を、何枚も何枚も重ねて自分の心を隠し、冗談のような本音を落とす。

 

「だから何故そう言うことになる。違うと言ってるでしょうが」

 

 いつもの返事。

 けれども、その言葉は私の心を傷つける。そんなことも、この男性は気づかない。

 

 心が、痛い。

 

 いつも通りのやり取り。

 進展しない状況。

 

 ホント何をやっているのかしら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お茶をいただき、茶番にしか見えない会話をして黒さんと別れる。取材をするため訪れたのにも関わらず、真っ白なメモ帳。そんなものを見て、思わずため息が溢れた。

 

 いつから彼に惹かれてしまったのかはわからない。

 なんとなく、気になって。

 なんとなく、話すようになって。

 いつの間にか好きになっていた。

 

 彼と会話をする時は幸せに感じるけれど、私の冗談に見せかけた本音をあしらわれる度、私の心に影ができる。

 

 いっそ、誰かとくっついてもらえれば諦めもつくと言うのに……

 

 気づいて、気づかないで、気づいて……

 そんな矛盾した感情が止まらない。

 

 最近はこんなことばかり考えてしまう。

 

 彼と会わない時間が長ければ、寂しさが増し。

 彼と会ってしまうと、悲しさが増す。

 

 あれだけ好きだった新聞作りも、今はあまり手をつけられていない。ホント、どうしたものでしょうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 帰った、か。

 文のやつ最近はよく来るけど、絶対取材じゃないよな。メモ帳とか全く使ってなかったもん。

 素直に遊びに来たって言えば良いのにね。俺だって別に嫌っているわけではないのだし。

 

 俺の起こした異変も終わり、漸く自分の家に帰ってくることができた。

 

 異変を起こしたからと言って、特に何かが変わったわけでもない。強いて言えば、文がよく訪れるようになっただけ。まぁ、昔からちょくちょく来てはいたけど。

 

 それにしても、毎度毎度よく店の場所を見つけられるよね。椛ちゃんとかに頼んでいるのかな? あの二人、あまり仲が良さそうには見えなかったけど。

 

 

「今日もあの天狗は来ていたんだ。最近よく見るねぇ」

 

 萃香登場。

 久しぶりだ。

 

「や、いらっしゃい萃香。文なら今さっき帰ったところだよ」

 

 萃香の言葉を聞くに、コイツ見てやがったな。別に出てきても良かったのに。

 う~ん、妖力は感じなかったんだけどな。滅茶苦茶薄くなっていたのかね。

 

 実は窓の外からこっそり見ていた。とかだったか面白いのに。

 一生懸命背伸びをして、窓から中の様子を見ようとする萃香とか可愛い。

 

「ああ、角が見えちゃうからダメか」

 

「うん? 何を言っているのさ?」

 

 いんや、何でもないよ。

 

 身体の調子は大丈夫なのかな? 結構、酷くやられたと聞いた。やったのは俺らしい。信じられん。

 

「最近、萃香を見なかったけど。此処に来たってことは、もう体は大丈夫なの?」

 

 一ヶ月振りくらいの再会。

 萃香は、一番此処に訪れるお客さん。因みに、次によく来るのは紫で、その次が文あたりかな。

 

「うん、全快だよ。いやぁ、流石に私でもあの時は諦めていたけどね」

 

 そりゃあ、良かった。

 

「俺は覚えていないんだけど」

 

 なかなかにすごかったらしいが。店の中がぐちゃぐちゃだったし。

 

「まぁ、いいや。とりあえずお酒お願い。今日は焼酎をもらおうかな」

 

 かしこまりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、黒はどう思っているの?」

 

 お酒と摘みを渡すと、いきなり萃香が言った。

 うん? 何のお話でしょうね?

 

「何がさ?」

 

 いや、もうちょっと詳しく言ってもらわないとわからないのですが……

 

 なんとなく、嫌な予感。嫌な予感だけは当たるのだ。いつだって。

 

「あの烏天狗のことを、だよ」

 

 渡したコップを傾けながら萃香が言った。

 アルコールの匂いがふわりと広がる。

 

「……たまにぶっ飛ぶけど、愉快な友達だとは思っているよ」

 

 嘘ではありません。

 

「それだけ?」

 

 そう萃香が言った。

 

 むぅ、これは困った。これが紫相手とかだった良いのだけど、萃香相手だと嘘もつけないし……

 どうやって誤魔化したものやら。

 

 今日も今日とて、文の奴が随分と居座ってくれたおかげで、もう日は沈んでいるだろう。そろそろ良い子は寝る時間だ。

 

「何を聞きたいのかな?」

 

「なあなあの関係のままズルズルと生きていく。そういうのが良いって奴もいるけどさ。やっぱり私はサクッと、スッキリとした方が良いと思うんだ。黒だってそうでしょ?」

 

 ああ、これはダメな奴だ。

 逃げられない。

 

「何が言いたいのかな?」

 

 

 

 

「好きなんでしょ? あの娘のことが」

 

 

 

 

 人の少ない店内に、萃香の声はよく響いた。

 

 否定は、しません。

 

「伝えてあげれば良いじゃん」

 

 いや、まぁそうなんだけどさ。

 自分から言うのは……ほら負けた気がするでしょ?

 

 

「恥ずかしいの?」

 

「……少しだけね」

 

 本当は滅茶苦茶恥ずかしいです。

 

 いつかの会話を思い出す。あの時の仕返しかコノヤロー。

 

「情けないなぁ」

 

 仕様が無いでしょうが。恥ずかしいものは恥ずかしいのだから。

 だってねぇ、文の奴、絶対俺の気持ち知らないぜ? アイツが軽口を叩く度に、俺がどんな思いをしていたのとかさ。

 

 全く、鈍感なのはどっちの方だって言うんだか。

 

 

 

 その後も、萃香から意気地無しとかチキンとか暴言を吐かれ、怒られ続けた。何でこんな小さい子に怒られなきゃならんのだ。

 

「小さいって言うな!」

 

 言っていません。

 思っただけです。

 

 仕舞いには――

 

「あーもう! じゃあ私が代わりに伝えてくるよ!」

 

 とか言い出した。

 本当にやめてください。

 

 わかった、わかったよ。うん……流石にこれ以上は粘れない。思いを伝えるきっかけが、萃香に言われたからと言うのはなんとも情けないけれど、まぁ、これ以上引き伸ばすつもりはない。

 ちょうど良い機会なんだと自分に言い聞かせる。

 

「文が今どこにいるのかわかる?」

 

 自分の家とかだったらどうしようか。まぁ、行くと決めたのだし、何処だろうと行ってやるけれど。

 

「おおー、漸く素直になったね。んと、ちょっと待ってね……ああ、今は夜雀の屋台に一人でいるよ」

 

 ありがとう。

 夜雀の屋台ねぇ。確か人里の近くだったよな。

 どうやら、妖怪の山へは行かなくてすみそうだ。それは一安心。

 

「了解。ん~それじゃあ行ってくるよ」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

 ホント、良い友達に恵まれたものだ。これが終わったら、萃香にお酒を渡さないとかな。

 

 そんじゃま、行くとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 店を出ると辺りは暗く、もう真夜中と言っても良い時間になっていた。

 

 頭が少しだけ重い。どうやら飲みすぎたみたいだ。店主に愚痴を聞いてもらいながら、ついつい飲みすぎてしまった。

 

 そう言えば、以前この店に黒さんと二人で来た時があったっけ。私が無理矢理連れ出して、人里へ行き、最後にここで一緒にお酒を飲んだ。

 

 あの時は楽しかったなぁ。

 

 またいつか、一緒に来られる日が来るのだろうか。

 ああ、あの時貸してもらったマフラー、まだ返していないや。でも、もういっそ、もらってしまっても良いのではないだろうか。

 うん、それくらいは許されるはず。私の想いに気づかない黒さんがいけないんだ。

 

 新聞作りにも身が入らないし、どうにも上手くいかない日々が続く。困ったものです。

 

 はぁ、帰ろうかな。

 

 

 そうして、帰路に着こうとした時だった。

 

 

「や、今晩は文。さっきぶりだね」

 

 

 本日二度目の黒さんとの出会いがあったのは。

 

「えっ……どうして貴方が?」

 

 間の抜けた声が口から溢れる。

 ドクリと心臓が大きく跳ねた。

 まずい、全く心の準備ができていない。もう、何でこの人はこうタイミングの悪い時に現れるのか。

 

「ん~……文に会うため、かな」

 

 黒さんの声が聞こえた。

 はい? えっ……今、何て?

 

 私に会いに?

 

「え、えと……」

 

 予想外の黒さんのセリフのせいで、言葉が上手く口から出てこない。驚きと嬉しさと不安と期待と恐怖と……様々な感情が私の中から溢れ出しそうになる。

 だって、こんなこと今まで一度も……

 

「こんな時間に、ですか? はっ……も、もしかして夜這いですか!?」

 

 本当の感情が溢れないよう、必死で言葉を繋ぎ合わせいつもの冗談を口にする。ツギハギだらけの薄っぺらい言葉で、溢れようとする感情を止める。

 

 けれども――長くは持ちそうにない。

 

「だから、そんなわけないでしょうが。全く、人の気持ちも知らないで……」

 

 いつも通りのやり取り。

 でも、黒さんの言葉で私の中の何かが――破れた。

 

 

「気持ち、ですか……」

 

 人の気持ち。

 知らないのは、分かってくれないのは……貴方の方じゃないですか。

 

「黒さん」

 

「うん? どうしたの?」

 

 ああ、これはまずいなぁ。

 もう、止めようがないかな。

 

 黒く染まった感情が溢れ始めた。頭の中がぐちゃぐちゃになる。

 

 今まで溜め込んでいたものが、押さえ込んでいたものが混ざり合って――

 

 

「貴方のことが嫌いです」

 

 

 最悪の言葉が溢れた。

 

 その溢れ出た感情は、本当の感情と真逆の物だった。これは、冗談で終われない。

 

 だって、きっとこの人は私の本心に気づかない。

 

 鈍くて、鈍感で、そしてどこまでも優しいこの人は気づかない。その言葉のまま受け止めてしまう。

 

「貴方のことが嫌いです。貴方の態度が嫌いです。貴方の性格が嫌いです」

 

 視界がぼやける。

 頬を何かが流れた。

 

 ぼやけた視界の先にいる黒さんは何も言わず、私の叩きつけるような言葉を聞いていた。

 

「その黒髪が嫌いです。透き通るような瞳が嫌いです。鈍感な貴方が嫌いです。誰にでも優しい貴方が嫌いです。楽しそうにお酒を飲む貴方が嫌いです。喋りかけてくる貴方が嫌いです。私の気持ちに気づかない貴方が嫌いです。貴方の……全てが嫌いです……」

 

 呼吸が荒くなった。汚い言葉と、目から流れ落ちる涙が止まらない。

 

 どうして……どうしてこうなってしまったのだろうか。黒さんは悪くないのに。私が一方的に想っていただけなのに。

 

 

「そっか……ごめんな文」

 

 

 黒さんの優しい声が聞こえた。

 これ以上はもう聞きたくない。

 

 これでもう、この人と会うことはできなくなる。

 それは嫌だなぁ。自業自得ではあるけれど、こんな現実は辛すぎる。

 

 

「でもさ」

 

 

 また声が聞こえた。

 耳を両手で塞ぎギュッと目を瞑る。けれども、音は聞こえてきてしまうし、この現実から目を反らすこともできない。

 

 

 

 

 

 

「俺は文のことが好きだよ」

 

 

 

 

 

 

 両手で塞いでいたはずの耳から、黒さんの言葉ははっきりと聞こえた。

 はっきりと聞こえたはず、けれども頭がその言葉の意味を理解してくれない。

 

 だって、今黒さんは、私のことが――

 

 

 好きだって。

 

 

 閉じていた目を開け、黒さんを見る。

 視界は今だぼやけたまま。

 

「今、貴方は……あのっ、もう一度……もう一度言ってもらえますか?」

 

 だって、だってこんなの都合が良すぎる。

 確証が欲しい。現実だと教えて欲しい。

 

「あ~その、何度も言うのは流石に恥ずかしいんだけど……言わないと駄目?」

 

 ぼやけた視界の先に、上の方へ顔を向け、頭を手で書きながら言葉を溢す黒さんが見えた。顔はよく見えない。

 

 涙を袖で拭い、黒さんを見て私は言った。

 

「はい、ダメです。言ってください」

 

「わかったよ……」

 

 はっきりと見える黒さんの顔。

 その顔は珍しく、頬が赤く染まっていた。

 

 

「好きだよ、文」

 

 

 さっきよりもはっきりと聞こえた言葉。

 今度は頭も理解してくれたらしい。

 

 そしてまた、涙が溢れ始めた。

 だから私は黒さんへ飛びついて、顔を見られないようその胸で泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 泣き疲れたのか、寝てしまった文を背負ってとりあえず自分の家へ帰宅。

 本当は文の家へ送って行った方が良いのだろうけれど、文の家は知らないし、絶対五月蝿い天狗共に絡まれるから止めておいた。

 

 店へ戻るとそこには萃香がまだいて、文を背負った俺の姿を見ると何も言わず、笑いながら消えていった。腹が立つほどの良い笑顔だった。

 

 別に居てくれても良かったのに。変な気を使わせてしまったね。

 

 とりあえず文を寝床へ移したものの、どうにも落ち着かない。俺の想いは伝えたものの、文の想いは聞いていない。

 いや、思いっきり『貴方が嫌いです』とか言われたけど、あれはノーカンだと思う。

文の本心ではないはず。たぶん、きっと、そのはず……だよね?

 

 一世一代の告白をしたせいで、今だに心臓はバクバク。俺もかなり疲れました。

 

 寝床は文が使っているので、俺の寝るところがない。仕方が無いから、その日はカウンターに突っ伏して寝ることにした。

 

 これからどうなるんかねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、いつまで寝ているんですか? 良い加減起きてください」

 

 文の声がした。

 むぅ、カウンターで寝たせいか体中が痛い。よだれとか垂れていないよね?

 

「もう昼ですよ? はぁ……聞いてはいましたが、本当に朝が苦手だったのですね」

 

 こればっかりはなぁ。

 どうしようもないんです。

 

「や、おはよう文」

 

「はい、おはようございます黒さん」

 

 むぅ、なんだか気恥ずかしいな。文の方もどこかそわそわしているし。どうやら昨日のことはしっかりと覚えているらしい。

 

「えと、それで……昨日のことですが」

 

 珍しく歯切れの悪い文。

 昨日のことって言うと……まぁ、やっぱりあのことだよね。

 

「あの時の言葉は本当ですか?」

 

 顔を下に向けてはいるものの、赤く染まった耳が見えた。

 

 ふむ……どうだろうか。

 ここで『実は嘘でしたー(*ゝω・)てへぺろ☆』とかやってみようか。たぶん、殺されるけど。

 カメラが止まる程度ではすまないだろう。

 

「うん、嘘偽り無い本心だよ」

 

 うむ、巫山戯るのはやめておこう。

 命は大切なのだから。

 

「……そう、ですか」

 

 相変わらず、顔は下を向いたまま。

 そしてお互い無言に。おい、どうすんだよこの空気。

 

 

 

「あの……昨日あんなことを言いましたが私も――「やほー黒。今日も遊びに来たよ」わた、私も……」

 

 文の顔が上がり、漸く何かを言ってくれるかと思ったら、萃香が現れた。萃香の後ろにはに紫までいる。

 空気読みなさいよ。いや、もしかして読んだ結果か?

 

「ふふっ、もしかして御邪魔だったかしら?」

 

 いつものような胡散臭い笑を浮かべながら紫が言った。こいつら絶対見ていただろ……あまりにもタイミングが良すぎる。

 

「えっと……あ~、しゅ、取材の御協力ありがとうございました。それでは私は帰りますね」

 

 真っ赤な顔をした文はそう言って、ものすごい勢いで店を飛び出していった。あ~あ、帰っちゃったじゃん。

 結局、文の気持ちは聞けなかった。はぁ……まぁ、また会えるか。

 

「んで、二人はこんな昼間からどうしたのさ?」

 

 まぁ、俺で遊びに来ただけなんだろうけど。

 

「紫と一緒に黒の様子を見ていたんだけどさ、良い雰囲気になって腹が立ったからぶち壊しに来た」

 

 正直なのは良いことだけど、最悪じゃねーかよ。ここまでくると、いっそ清々しいわ。

 

「だってねぇ、黒ばかり良い思いをするのはダメでしょ?」

 

 紫も言った。

 ダメではないでしょうが。たまには俺だって良い思いくらいしたい。

 

 

「なるほど了解したわ。ちょっとお前らそこに座れ。封印解くから」

 

「「それはやめて!!」」

 

 

 たぶんだけど、二人だって本気で邪魔をしに来たわけではないと思う。長い付き合いなのだし、それくらいはわかる。

 

 どうにもこうにも、俺の周りはひねくれ者ばかりだから勘違いしてしまう時がある。素直になれないだけ。

 全く誰に影響されたのやら……

 

 確かにタイミングは悪かった。まぁ、でもあの雰囲気を壊してくれた二人には感謝している自分もいます。

 

 少しだけだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことがあったのがもう一ヶ月ほど前

 

 その後、文と一緒に生活するようになったとか、そういうことは別にない。

 ただ、毎日この店に文が訪れるようになっただけ。どうやら、紫が文の家とこの店とを繋いでくれたらしい。あんなことを言っておきながら、紫もちゃっかりしてるね。

 うん、紫には感謝です。

 

 文の様子はと言うと、結局向こうから気持ちを伝えてもらったことはまだない。言ってくれそうにもないし……

 むしろ言わせた者勝ちとでも言うのか、店に来ては俺が気持ちを伝えたことをからかってくる。顔を赤くしながらだけど。恥ずかしいなら言わなきゃ良いのに。

 

 そんな姿は見ていて可愛らしいから黙っておくことにします。

 

 後は、文の店へ訪れる理由が取材から遊びに来たに変わった。

 カメラは相変わらず持ったまま。たまに二人で写真を撮ったりも……たまにだけどね。

 

 

 一度俺が――

 

「俺が文に好きだって言ったことは記事にしないの?」

 

 なんて聞くと。

 

「そ、そんなことできるわけないじゃないですか!バカっ!」

 

 と、顔を真っ赤に染めながら怒られた。ご馳走様です。

 他人のことなら良いけれど、自分のことは流石に恥ずかしいらしい。まぁ、俺も恥ずかしいから記事にするのはやめてもらいたいけど。

 

 文からの返事はまだ聞けていなし、隣に文がいることは今だ慣れない。けれども、まぁ時間はあるのだし俺はゆっくりと文が気持ちを伝えてくれるのを待つとしよう。

 それに文が隣に居るって言うのも、いつの日か自然なことになると思う。

 

 そんな未来のことを考えると、自然と笑が溢れた。

 

 

 

 






最初は二人がもっとキャッキャウフフな感じにする予定でした
文さんをヤンデレな感じにしようとも思いました
けれども、まぁ、このくらいがちょうど良いのかもしれません


と、言うことで第恋話~文ルート~でした
結局この二人の関係はあまり変わりませんでしたね

別に、作者のメンタルが壊れたとかそういうのではなく、成り行きでこうなっただけです
実は書き直しまくっているとかそんなことはありません

次話は……あるかもしれません
ルートが二つだけだと寂しいですし
未定ですが……

では感想欄か、もしあれば次話でお会いしましょう


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第恋話~幽香ルート~



こっそりこっそりと書いた幽香さんルートです

久しぶりに書くのも悪くはないかもしれませんね




 

 

 理由はなんだ? とかきっかけはなんだ? なんて聞かれると少し困ってしまう。

 ただまぁ、一つ言えることは咲いた花を見つめる彼女の顔が好きだった。ってことじゃないかな。普段のドSっぷりからは全く想像できないあの顔が、俺は好きだったと思うんだ。

 優しげに、そして嬉しそうに自分で育てた花を見つめる彼女の顔が好きだった。そんな彼女の顔がいつから好きになってしまったのかなんて、俺には思い出せないんだけどさ。

 なんとなくから始まって、なんとなくで止まっている。でもまぁ、それで良いんじゃないかな。なんて俺は思うのです。

 

「相変わらず湿気た顔ね。せっかく来てあげたのだから、もう少しまともな顔はできないの?」

 

 ため息を零しながら、目の前の人物がそんな言葉を落とした。

 すみませんねぇ、どうにもひねくれた性格ですから。

 

 素直な気持ちなんて出せるはずもない。

 

「んで、今日は何をしに来たの? お帰りは後ろの扉だよ」

「ぶん殴るわよ?」

 

 心の底からやめてください。

 別に俺はマゾヒストってわけではない。違うったら、違います。

 

「じょ、冗談だって」

「ホント、減らない口ね。冷酒で」

 

 さてさて、花を見る彼女の顔が好きだとか言葉を濁していたけれど、そろそろちゃんと言葉にしてみよう。どうにも臆病な性格をしているけれど、自分にくらいは素直になれたいしね。

 

 まぁ、つまりアレですよ。

 

 

 どうやら俺は彼女――風見幽香のことが好きらしい。

 

 

「かしこまりました」

 

 しっかし、どうしてそんなことを思うようになったのかねぇ。人生わからないことだらけだ。ホント、どうしたものやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の季節は夏。茹だる様な暑さが続きはするけれど、夏だからこそ楽しめるものもある。照りつける太陽に向かって花を開く、あのヒマワリだってこの夏にしか楽しむことはできない。

 

「今年もヒマワリは咲いているの?」

「ええ、元気に咲いてくれたわ」

 

 出した冷酒を傾けながら、嬉しそうに幽香は言った。

 おお、そりゃあ良かったよ。それなら今度俺も見に行こうかな。ちょいと暑いだろうけど、ヒマワリを見ながら飲むお酒だって悪くはないはず。

 

『幽香も一緒にどう?』

 

 な~んて誘っては見たいけれど、相変わらず俺にはそんな勇気がありません。ホント、臆病な性格をしてくれたものだよ。

 はぁ……どうせ幽香の方から誘ってくれることはないだろうし、難しいものだね。なんだって、こんな奴を好きになってしまったのやら。

 

「……失礼なこと考えているでしょ?」

 

 ジト目の幽香。

 鋭い勘をお持ちなことで。別に失礼なことを考えていたわけじゃないけどさ。

 

「いんや、考えてないよ」

「嘘でしょ?」

「ホントです」

「嘘ね」

「嘘だけどさ」

 

 俺がそう言うと、クスクスと幽香は笑った。

 思わず見とれてしまいそうな笑顔だなんて思ってしまったのは、やっぱり俺が幽香のことを好きだからだろうか? はぁ、ホント面倒なことになってしまいましたね。

 

 永い人生を生きてきた身ではあるけれど、恥ずかしながら恋愛ごとはさっぱり。どうして良いのか全くわからない。まさか、こんなにもモヤモヤさせられるとは思わなかった。それならいっそ此方の気持ちを伝えれば……な~んて思いはするけれど、やっぱり俺にはそんな勇気がないから、あともう一歩が踏み出せなかった。

 お酒で酔った勢いに乗り言ってしまうのも良いかもしれないけれど、それじゃあ情けない。じゃあどうするのか。それがわからなかった。

 

 はぁ、ホント、どうすれば良いのか誰か教えてくれないものでしょうか?

 

「今年はあの子たちを見には来ないの?」

「ああ、行かせてもらうよ。毎年の楽しみだしさ」

 

 幻想郷一危ない場所ではあるけれど、あの一面に咲いたヒマワリたちが創り出す景色はやはり見事なもの。一度くらいは見ておかないともったいない。

 きっと今年も綺麗に咲いてくれているのだろうし。

 

「そうじゃあ、いつでも来なさいな。ああ、でもあの子達に乱暴したら許さないから」

 

 そんなことできるわけがないし、するはずもない。あのヒマワリはあの場所で咲いているから良いのだ。

 

「この季節、幽香はあの場所にいつも居るの?」

「まぁ、そうだけど……むぅ、私が居ない方が良いってこと?」

 

 また睨まれた。そんなつもりはないんだけどなぁ。むしろ居てくれた方が……ああ、ダメだ。いつもの調子じゃない。全く、俺は何を浮かれているんだか。

 自分が素直じゃないことくらいはわかっている。わかってはいるけれど、どうにも不器用で天邪鬼なこの性格。そんな性格だから、自分の思っていることとは全く違う言葉が出てきてしまう。

 

 ホント、損な性格だよなぁ……

 

「いやまぁ、だって幽香がいたらゆっくりできないだろ? ヒマワリくらいゆっくり見たいし」

 

 いつも通りの軽口。俺の口から出てくるのはそんな言葉ばかりだ。

 今までもそうやって生きてきたからなぁ。いきなり変えるなんてことはやっぱりできなかった。少しは素直になってみろってんだよ。な~んて他人事のように思うばかりです。

 

「…………」

 

 無言で睨まれた。

 もし此処で、素直な気持ちを言葉にすることができていたら……してしまっていたら、どうなっていたんだろうか。後悔ばかりの人生です。

 

 

「…………ばか」

 

 

 うん、知ってる。

 

 小さくぽそりと落ちた幽香の言葉。でもそんな小さなものは、俺に深く突き刺さった。

 小さいからこそ突き刺さった。これじゃあ上手く抜けそうにはない。

 

 

 それから俺と幽香の間に会話なんて特になく、静かな時が流れるだけだった。

 このままじゃダメだよなぁ、とは思う自分と、このままでも良いんじゃないかと思う自分がいて……まぁ、つまるところ俺が臆病だってだけなんだけどさ。

 

 結局、今日も幽香に俺の気持ちを伝えることはできなかった。

 

 何をやっているのやら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 幽香が帰り一人きりとなった店内。

 何をするでもなく、ボーっと天井を眺めてみる。幽香が好きと言うこの気持ちに偽りはない。けれども、それからどうして良いのかがわからなかった。

 

 なんとなしに煙草を取り出し吸ってはみたけれど、あまり美味しいとは感じられない。煙草の先から上る煙は天井へ着く前に消えてなくなる。いっそ俺の気持ちも、この煙のように消えてなくなってくれれば良いのにな。

 な~んて、情けない感情が溢れた。

 

 

「随分と濁った空気ね」

 

 吸っていた煙草を指で弾き、桜の花びらへと変えると突然、紫が現れた。

 

「煙草を吸っていたしな。そりゃあ空気だって濁るさ」

 

 どうせお客さんなんて来ないだろうと、店内で吸っていたけれど外で吸えば良かったね。はぁ、窓開けるか。

 

「いえ、煙草の煙みたいな綺麗な濁り方じゃないわよ。もっと湿ったようなドロドロとした濁り方」

 

 ……見てたんですか? クスクスといつもの胡散臭い笑を浮かべながら紫に言われた。ホント、お前は覗き見が好きな奴だね。

 ああ、もう。恥ずかしいったらありゃしない。

 

「莫迦でチキンで臆病で情けない奴だとは思っていたけれど、まさか此処までだったとはねぇ」

「仕方無いだろ? どうして良いのかわからないんだし」

 

 正解を教えて欲しい。

 

「正解なんてあるわけないでしょ? でも、そうねぇ。今の黒の状況が正解でないことは確かかしら」

 

 まさに言われたい放題。実に楽しそうな顔の紫。

 俺のハートはボコボコです。メンタルだって強い方じゃないんです。

 

「別に、貴方たちがどんな関係になろうと私は知らないけれど……まぁ、精々酒の肴になる程度は頑張りなさいな。その程度の方が黒には似合っているわよ?」

 

 他人の恋次が酒の肴とは……はぁ、まぁでもそんなものなのかな? 俺が難しく考えすぎているだけで。それができたら苦労はしないんだけどさ。

 

「もし、俺がフラレたら紫が拾ってくれる?」

「鼻で笑ってあげるわ」

 

 ……それは心が折れそうですね。せめて慰めてくれても良いだろうに。

 

 うん、でも少しだけやる気にはなれたかな。紫には少しだけ感謝をしておこう。長い付き合いなんだ。鈍感な俺でも、紫が何をしようとしていたのかくらいは流石にわかる。

 まぁ、言葉には出さないけどさ。素直じゃないもんな。お互いに。

 

 そんじゃま。腹、括るとしますか。

 少しくらい素直になってみようじゃないか。

 

 

「なぁ、紫。今からでも間に合うと思う?」

「レーザーの2,3発ですむくらいじゃないかしら?」

 

 そのくらいで済めば良いけどねぇ。

 幽香が俺の気持ちに気づいているのかなんてわからないけれど、随分と遅れてしまった。今までだってのんびり生きてきたしなぁ。これも仕様が無いのかね。

 

「さっさと行きなさいな。遅いよりは早い方が良いに決まっているのだから」

「うん、行ってくるよ――いつもありがとう、紫」

 

 そんな言葉は予想以上にすんなりと俺の口から溢れてくれた。素直になってみる練習です。ああ、もう。ホント恥ずかしいたらありゃしない。

 

「っ……フラレちゃえ、ばか」

 

 その時はよろしくお願いします。

 鼻で笑ってあげてください。

 

 さてさて、決して足取りは軽くなんてないけれど、進むとしようか。例え、足取りが重くとも空を飛ぶことはできるのだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻はもう夕方。

 沈みかけの太陽が真っ赤に染まる時間。そんな真っ赤に染まった世界の中で、ヒマワリたちが見事に咲いていた。

 

 視界いっぱいに広がるヒマワリ畑。いつ来ても、いつ見ても壮大な景色。すごいよな。幽香はこれを一人で育てているのだから。

 ヒマワリかぁ、花言葉はなんだったかな。

 

 一本のヒマワリに近づき、ゆっくりと観察。太陽は西で輝いているけれど、ヒマワリのその大きな顔は東を向いたまま。幽香が能力を使わない限り、花の向きはもう変わらないだろう。

 

 

「私が居ない時、ゆっくりと観察するんじゃなかったの?」

 

 そんな声を上からかけられた。

 声のかけられた方を向くと、空へ浮き傘の先端を此方に向けている幽香の姿があった。

 どうにも良い雰囲気じゃない。幽香から漏れ出した妖力がピリピリと肌に刺さる。

 

「どうしてもヒマワリを見たくなってさ。それで来たんだよ」

「そう……でもね、私は今、貴方と会いたくなかったの」

 

 

 ――だから、消えてもらえないかしら?

 

 

 瞬間、幽香の構えていた傘からぶっといレーザーが放たれた。

 はぁ、ホント君は容赦無いね。

 

 能力を使用し、上から放たれたレーザーを花びらへと変える。ヒマワリ畑に薄桃色の花びらがひらひらりと舞い散った。

 う~ん、桜の花びらも悪くはないけれど、今はヒマワリだけを楽しみたいんだよなぁ。

 

「……何の用なの?」

 

 どうにも機嫌の悪い様子の幽香。眉間に皺とか寄っちゃってるもん。

 まぁ、それもこれも俺が悪いんだけどさ。

 

 いつもの軽口が口から出そうになる。けれども必死にソレを飲み込んで、なんとか抑えてみた。だって流石にこれ以上はマズイしな。

 

 とは言うものの……さてさてなんて言えば良いのやら。

 な~んも考えずに家を出てきてしまったから、言葉なんて用意していない。相変わらずの行き当たりばったりな人生だ。

 

「なぁ、幽香。ヒマワリの花言葉ってなんだっけ?」

「……『あなただけを見つめている』よ」

 

 ああ、そう言えばそんな感じだったな。あなただけを見つめる。ねぇ。俺にそんなことができるだろうか? こんなひねくれた性格をしている俺でも、そうやって生きることができるだろうか。

 

 ま、できないわな。だって俺はヒマワリではないのだし。

 

 真っ赤な夕日に照らされた幽香はやっぱり綺麗だった。

 莫迦みたいに心臓が暴れて、呼吸だってうまくできない。なんだってこんなに苦しいってんだよ。たった一言を伝えるだけなのにさ。

 

「なぁ、幽香」

「さっきからなんなの? 私は黒の顔を見たくはないのだけど」

 

 随分と辛辣な言葉。

 いや、ごめんって。どうにもこうにも、俺には勇気がないからさ。

 

 

「私の気持ちも知らないで、馬鹿にしたような言葉ばかり。いつもいつも、貴方はそうやって……」

 

  

 いや、うん。申し訳ないとは思っています。

 

 素直になるって難しいよね。

 でも良い加減、そんな言い訳ばかりを言っている場合じゃない状況だ。

 

 言い訳や嘘ばかりのこの人生。少しばかりの本音を落としてみよう。

 

 

 

 

 

 

「貴女のことが好きです」

 

 

 

 

 

 

 

 たったの一言。そんな11文字の言葉出てくれるまで、随分と時間がかかってしまった。

 けれども、やっと言葉が出てくれたんだ。良しとしようじゃないか。

 

 

「それだけをさ。伝えたかったんだ。ん~……そんじゃ俺は帰るとするよ。幽香にも伝えられたし、ヒマワリだって見ることもできたし」

 

 自分の中にあった、重い重い何かが無くなったような感覚。

 うん、これは悪い感覚じゃない。

 

「えっ……あっ、ちょっ、ちょっと待って。そんないきなり……だって貴方」

 

 そんな幽香の様子は珍しく慌てているように見えた。

 でも、もう限界です。情けないことだけど、これ以上此処には居たくない。夕日に照らされた俺の顔はきっと真っ赤だろう。

 

 だから俺は、逃げるようにその場を離れた。

 この時、ちゃんと返事を聞いておけば良かったなぁ。な~んてこの先、後悔することになるんだけどさ。ま、やっちゃったものは仕様が無いよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「チキン」

 

 はい、おっしゃる通りで……

 

「臆病者」

 

 返す言葉もございません……

 

「ドM」

 

 いや待て、それは違うぞ。誤解です。そんな趣味、俺にはこれっぽっちもない。

 

 自分の店へ戻ると、紫、幽々子、萃香の三人が何故か居て、お酒を飲んでいた。お願いですから一人にしてください。今は放っておいてください。

 

「どうして返事を聞いてこなかったのさ? まぁ、黒らしいっちゃらしいけど」

 

 お酒を飲みながら萃香に言われた。

 どうやら当たり前のように、俺の行動は見られていたらしい。どうなってんだ。

 

「そうね、黒だし仕方が無いんじゃない? それよりもお腹が空いたから摘める物を何か……ああ、どうして黒があの花妖怪を好きになったのか教えてくれるのも良いわね」

「あら、それは良いわね」

 

 良いわけあるか。どんな公開処刑だよ。

 帰ってくれないかなぁ。帰ってくれないんだろうなぁ。

 

 何? 皆して俺を虐めて楽しいの? 人の不幸は蜜の味とか言うけれど、蜜じゃあお酒には合わないでしょうが。

 全く、此処ぞとばかりに人のことを馬鹿にして……もう地底にでも引き篭ってやろうかな。そして、さとりちゃんに慰めてもらおう。それくらいは許されるはず。

 

「それじゃあ、とりあえず乾杯でもしましょうか」

「おおー、そりゃあ良いね。何に乾杯するの?」

 

 俺のことを無視して盛り上がる紫と萃香。

 幽々子はそんな二人を見て笑っていた。

 

「生き遅れた紫の取り返しがつかない人生に乾杯」

 

 紫にぶん殴られた。

 いや、流石に理不尽じゃないですか? 弱肉強食なこの世界が恨めしい。弱者はいつだって虐げられる。

 

「黒も変わらないねぇ。そんなんだから逃げてきちゃうんだよ」

 

 殴られた頬が痛い。それ以上に心が痛い。

 

「いや、関係……あるのか?」

「そりゃあ、あるさ。そんじゃ幻想郷と黒の幸せな未来に――

 

 

 乾杯。

 

 

 そんな幸せな未来が来ると良いんだけどねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「そう言えば、アレから幽香とは会ったの?」

「いんや、会ってないよ。だから返事ももらっていない」

 

 一世一代の告白をしてから既に一週間。未だ幽香は訪れてくれない。俺の方から聞きに行っても良いけれど、どうにもそんな気は起きなかった。

 決して俺に聞く勇気がないとか、そう言うことではありません。かと言って、これで幽香と会えなくなるのは嫌なんだよなぁ。

 

 そんななんともモヤモヤした感情を持ったままこの一週間は過ごしました。その間、紫、幽々子、萃香の三人は代わる代わるこの店へ訪れてくれた。んで、今日は紫の番らしい。

 何? お前ら暇なの?

 

「聞きに行けば良いじゃない」

「俺からは伝えちゃったしなぁ。返事をしてくれるかわからないけれど、まぁ、のんびり待つことにするよ」

 

 それに幽香に伝えることができたおかげで、以前よりもモヤモヤは少なくなっている。そりゃあ返事をもらいたいところではあるけれど、別にこのままでも良いのかなぁ。なんて思うのです。

 

「それは黒が臆病なだけでしょ?」

 

 そうなのかねぇ。もう俺にはよくわかんないや。

 

 

「あら? ふふっ、どうやら漸く臆病者が動いたらしいわね。それじゃあ、邪魔者は消えることにするわ」

 

 そう言って紫はスキマの中へ消えていった。まぁ、つまりはそう言うことなんだろう。

 臆病者、か。人生それくらいの方が良いと、俺は思うんだけどねぇ。

 

 

 紫が消えてから直ぐ、カランカランとドアに着いた鈴が音を出した。

 

 その扉を開けたのは――

 

 

「……お、おじゃまするわ」

「や、いらっしゃい幽香。今は誰も居ないし、まぁ、ゆっくりしていきなよ」

 

 白色のカッターシャツに赤のスカートとベスト。そしてあの緑色の綺麗な髪。いつも通りの姿。一週間ぶりの再会。

 

 幽香にしては珍しく、少しばかりおどおどした様子でいつもの椅子に腰掛けた。目の下にはクマのようなものもある。

 

「ご注文は?」

 

 全く、来るのならもっと早く来てくれれば良かったのに。何をしていたのやら。

 

「……冷酒で」

「かしこまりました~」

 

 自分でも驚いたが、予想以上に心臓は暴れなかった。もうアレだね。きっと今まで緊張し過ぎたせいで、心臓だって暴れるのが疲れてしまったんだろう。

 

 雪冷えにした冷酒と御猪口。それと簡単な浅漬けを一緒に出す。漬物と日本酒ってやたらと合うよね。

 

 そうやって出した日本酒と浅漬けだけど、幽香はなかなか手をつけようとはしなかった。どうしたと言うのやら。

 

「飲まないの?」

「はぁ……これじゃあ一人で莫迦みたいね」

 

 うん、俺もそう思う。

 やーい、ばーかばーか。とか言ってみようかと思ったけどやめておいた。そんなことをしたら絶対怒られる。

 

「でもね、私だってその……こんなことは初めてだから、どうして良いのかがわからないのよ」

 

 おろ、そうなの? まぁ、俺だって初めてだったしなぁ。

 

「黒は本当に私のことを……でも、どうして?」

 

 いや、どうしてって言われても……なんとなくとしか言いようがない。

 でも、それじゃあ納得してくれないよなぁ。

 

 

「幽香の花を見つめる顔が好きだったからかな」

 

 

 俺がそう伝えると、ガンっと幽香はカウンターに自分の顔を叩きつけた。

 この人、何やってんだろう……

 

「よ、よくそんなことが言えるわね……」

 

 もごもごと口篭りながら言葉を落とす幽香。何この人超可愛い。

 そりゃあ俺だって恥ずかしいけれど、俺の気持ちはもう伝えちゃったしなぁ。今更こんな程度のことで怯むことはない。

 さてさて、こんな調子で返事をもらえることはできるのかねぇ。

 まぁ、俺はのんびりと待つだけなんだけどさ。

 

「返事、した方が良い?」

 

 漸く、カウンターから幽香が顔を上げてくれた。その鼻と頬を真っ赤に染めながら。

 

「そりゃあ教えてくれれば嬉しいけど、別に今もらわなくても良いよ。俺はいつまでも待っているからさ」

 

 俺だって幽香に気持ちを伝えるまで、かなりの時間をかけてしまったんだ。幽香にだけ急がせるってのは違うだろうさ。お互いに臆病者同士。のんびりやろうじゃないか。

 

 ああ、でも一つだけ教えて欲しいことはあるかな。

 

「嫌だった?」

「……それくらいわかれ、ばか」

 

 ふふっ、それだけ聞ければ充分さ。

 さてさて、せっかく来てくれたんだ。お酒を飲まなきゃもったいない。今ばかりは、辛口の麦酒を喉へ流し込みたい気分なんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからの俺と幽香だけど、流石は臆病者同士とでも言えば良いのか進展なんてほとんどなかった。

 ただ、幽香が俺の店へ来ることが増え、俺が幽香の所へ行くことが増えた程度。そんなことをずっとやっていたからか、紫には何度もからかわれた。絶対に仕返ししてやる。

 

 そんな臆病者同士がちゃんとお互いの気持ちを伝えあったのは、数年後のとある夏の日のことだった。

 

 






いったい、何人の方が読んでくれているのかわかりませんが……読了、ありがとうございます

前々から書こうと思っていた幽香さんルートです
ギャグ色が強め……でしょうか?

新しいお話を追加するのは嫌でしたので、文さんルートを一つにして幽香さんルートを追加しました
この方法を使えばあと二人追加できますね
いつか書くかもしれません

では、またいつかお会いしましょう

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第恋話~紫ルート~前編



きっと最後の第恋話です





 

 

 目が覚めると、目の前に紫の顔があった。

 

 

 ……え? 何ですか、これ。本当にわけがわからない。

 と言うか、昨日の記憶がほとんどない。白玉楼にて俺、紫、幽々子、萃香の4人でお酒を飲んだことは覚えている。一緒に乾杯して……まずい、そこからの記憶がほとんどない。

 

 嫌な汗が全身から吹き出た。

 

「ん……あっ、おはよう黒」

 

 混乱した頭を必死で整理していると、紫の声がした。

 ちょ、ちょっと近いですよ。もう少し離れなさいよ。

 

 寝起きの紫の様子は、何処かそわそわしていて、珍しく顔も赤くなっていた。本当に意味が分からない。

 

「えと……その昨日のことだけど……これからもよろしくね、黒」

 

 真っ赤に顔を染めながらも、笑顔で紫はそう言った。

 昨日の飲み会で何があったんだよ……これからもよろしくってどういうこと!?

 

 見覚えのある天井だから今、自分が白玉楼にいることはわかる。しかし、今の状況が全く分からない。

 もう少し考える時間が欲しい。

 

「……ああ、よろしく」

 

 何がよろしくなのかは全く分からないが、とりあえず紫に返事をしておく。なんとなく、どういうことが起きたのかはわかる。

 けれども、頭がそのことを考えてはくれない。いや、これは無理だって。

 

「あら、もう起きていたのね。全く、朝から見せつけちゃって」

 

 布団から出ようとした時だった。

 幽々子が声をかけてきた。見せつけるってお前……えっ、何? 俺と紫ってそういう関係なんですか? 嘘でしょ?

 

「ちょっ、からかわないでよ幽々子!」

 

 慌てた様子の紫。

 ああ、うん、なんだか一周回って冷静になってきた。

 

 酔っ払っただけで、俺と紫がそう言う関係になるとは思えない。それに、二日酔い特有の頭痛や気怠さも感じない。

 

 と、言うことはだ。

 

「……薬か」

 

「えっ? 何か言った?」

 

 紫が聞いてきた。

 いんや、何でもないよ。

 

 幽々子に視線を向ける。

 目を反らされた。どうやら、正解らしい。

 

「ま、まぁ、今日は二人でのんびりしていきなさい」

 

 慌てたように幽々子はそう言って、逃げるように出て行った。これは、ちょいと面倒なことになった。

 

「二人でって幽々子……」

 

 恥じらうように言った紫の声。いやお前、さっきからキャラ変わりすぎだろ……

 

 

 その後も、紫と昨日何があったのか探ろうと頑張ってはみたがどうにも上手くいかない。紫も頼むからいつもの調子に戻ってくれ。どうして良いのかわからん。ホント、昨日何があったのやら……

 

 

 

 

 このままではどう仕様も無いから、とりあえず帰ることに。

 紫は残念がっていたけれど、また明日会おうと言ったら納得してくれた。なんだろうか、此処まで紫が素直だと本当に調子が出ない。

 俺と紫はそう言う関係ではないのだ。お互いに冗談や悪口を言い合って、たまに協力する。

 そんな関係なんだ。

 

 白玉楼を去る時、幽々子に何があったのか聞こうとしたが、妖夢ちゃん曰く、どうやら何処かへ行ってしまったらしい。逃げられた。

 

 と、なるとだ。

 話を聞けるやつは、残り一人しかいない。しかし、俺では見つけることはできたとしても、あの鬼を捕まえられない。

 捕まえさえすれば、嘘は言えないのだし喋ってくれると思うけれど。

 

 そんなわけで、白玉楼から博麗神社へと飛んだ。困ったときは博麗の巫女に頼るのが一番だしね。

 

 どっかの天人が一度ぶち壊し、その後萃香が立て直してくれたため、現在は新築の博麗神社。まぁ、新しくなったと言うだけで、間取りとか変わっていないけど。

 

 いつもの縁側へ行くと、今日も今日とて呑気に霊夢はお茶を飲んでいた。

 

「あら、黒じゃない。今日はどうしたの?」

 

「ちょっと頼みたいことがあってさ」

 

 鬼退治の手伝いをしてもらいたいんだ。俺の力だけでは、どうしても萃香を捕まえることはできないから。

 

「頼み? まぁ、良いけど……それで、何をすれば良いの?」

 

 自分の中にある溢れる妖力を、できる限り霊力へ変換。集中力を上げ、萃香を探す。どうせ萃香のことだから、俺の様子をお酒飲みながら見ていることだろう。

 

 キリキリと痛む頭を抑えながら、萃香を探す。

 そして、いつもの屋根の上にお酒を飲んでいる萃香を発見。

 

 見つけた。

 

「霊夢。屋根の上に悪さをする子鬼がいるから、御札を投げてくれない?」

 

 萃香に自分の姿が見つかったことがバレないよう、小さな声で霊夢に伝える。これで逃げられたら面倒だ。

 

「それって萃香のことでしょ? 良いの?」

 

「大丈夫。全力でやって良いよ」

 

 俺がそう言うと、霊夢は御札を5枚ほど取り出し、詳しい萃香の位置は伝えていないのにも関わらず、萃香に向かって真っ直ぐ御札を飛ばした。

 流石は博麗の巫女。霊夢の奴また、強くなったんじゃないか? ホント何処まで強くなるのやら……

 

「あたっ、えっ? 何コレ? あっ、まずい……えと、もしかして見えてる?」

 

 うん、バッチリ見えています。

 

 鬼を捕まえると言う、何とも不思議な鬼ごっこはどうやら俺が勝ったらしい。まぁ、ほとんどやったのは霊夢だけどさ。

 

 

 体中に御札を貼り付けられた萃香のいる屋根へ、ふわりと飛んで移動。

 

「や、萃香」

 

「や、やぁ黒。え、えと、何の用事……なのかな?」

 

 落ち着かない様子の萃香。

 目は合わせてくれない。

 

 やはり、コイツも噛んでいたか。

 

「昨日のことで聞きたいんだけど、何があったの?」

 

「え~、あ~……」

 

「鬼は嘘をつかないんだよな?」

 

「うぅ、そりゃあ、そうだけど……」

 

 悪いことをした自覚はあるのだろう。これではまるで、萃香をいじめているように見えるが、実際の俺と萃香の実力は天と地ほどの差がある。

 いじめにはならないだろうさ。

 

 それにしても、なかなか喋ってくれないな。多少ごねるとは思っていたけどさ。

 

「あら、捕まっちゃったのね。まぁ、いつかはこうなると思ってはいたけど」

 

 幽々子の声がした。

 萃香と幽々子、どっちが主犯なのやら。

 

「それで? 昨日は何があったの?」

 

「……黒の飲む酒に媚薬入れて、紫へ告白させた」

 

 顔を下に向けたまま、萃香がぽそりと呟いた。

 

 いや……何をやっているんですか。

 はぁ、じゃあ今朝、紫の言っていた『これからもよろしく』と言うのは……まぁ、そう言うことなのか。

 

 どうすんだよ、これ。

 

「何やってんのさ、お前ら」

「良いじゃない、黒だってそろそろ身を固める時期でしょ?」

「とっくに過ぎてるわ、そんな時期!」

「だって、このままだと紫一人ぼっちで可愛そうだし」

「おい、俺の感情はどうなる」

「あら、紫じゃない。あんたもお茶飲む?」

「だって、貴方枯れているし、絶対協力してくれないでしょ?」

「相手が悪いわ、相手が」

「ああ、もう何を嫌がっているのさ。ほら、紫もそんな所に立って…ないで……えっ? 紫?」

 

「えと、これはどういうことかしら?」

 

 紫の声がした。

 空気が、凍った。

 

「今日もお茶が美味しいわ」

 

 いつもと変わらない霊夢の声が静かに響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「そう、つまり私が一人で勘違いしたってことなのね……」

 

 幽々子と萃香の説明を聞いた紫が言った。

 薬は八意さんに作ってもらったそうだ。

 

 なんだか俺まで申し訳なくなってくるけれど、今回は俺も被害者だよな。記憶とか全くないし。

 

「その……ごめん紫!」

 

「ごめんなさいね。紫」

 

 あたふたした様子の萃香と、此方も珍しく慌てた様子の幽々子が紫に謝罪した。あの……俺はまだ謝ってもらっていないのですが。

 この紫と俺との対応の差はなんだろうか。

 

「はぁ、別に良いわよ。黒にも迷惑をかけたわね」

 

 そう言って紫は悲しそうに笑った。そんな紫を見て心がズキリと痛んだ。

 

「それじゃ、私は帰って寝ることにするわ。バーイ」

 

 いつものように紫はそう言って、スキマの中へ消えていった。どうにも心がざわつく。

 

 これで全部元通り。

 今までのような俺と紫の関係へ戻る。

 

 ――なんてことは流石に思わない。

 

 確かに、事件を起こしたのは幽々子と萃香だ。けれども、これは俺と紫の問題。知らぬ存ぜぬでは終われない。

 はぁ、どうにも気は重いけれど、ここからは俺がやらなければいけないのだろう。ホント、面倒なことをしてくれたよ。

 

「どうして、あんなことをしたの?」

 

 何も考えずやったとは思えないし、軽いいたずらってわけでもなさそうだ。何か理由があるのだろう。

 

「紫と黒にくっついてもらいたかったのよ。そうすれば、この幻想郷だってこれからも大丈夫だろうし」

 

 はぁ、俺は別に紫とそういう関係にならなくても、この幻想郷を捨てたりなんかしない。

 紫だってそうだろう。

 

「それにさ」

 

 幽々子に続いて、萃香が言った。

 なんだろうか。

 

「見ていてモヤモヤしたんだよ。黒は枯れてるし、紫は奥手だし、だから……それに、黒だって紫のことは嫌っていないでしょ?」

 

 ……そりゃあ、嫌いじゃないさ。紫のことは信頼もしているし。

 

 それにしても、他に方法などいくらでもあったでしょうが。

 

「どうして薬を使ったのさ?」

 

「あの月の医者がくれたのよ。黒に使えば面白いんじゃない? とか言って」

 

 何やってんですか八意さん……

 頭が痛い。ホント、あの人は何を考えているのかわからん。

 

「はぁ、とりあえず俺も今日は帰るわ。紫だって子どもじゃないんだ。大丈夫だろうし。それじゃ、また」

 

 とりあえず、家に戻ろう。

 

「黒」

 

「うん?」

 

「「紫のことお願い」」

 

 幽々子と萃香が口を揃えて言った。

 何かをするなんて言ってないんだけどなぁ……

 

 

 けれども、まぁ……もう被害者面するつもりもない。

 

 できる限りはやってみようと思う。

 

 

 全く……紫には友達がいないとか言っていたけれど、そんなことないじゃないか。自分のことをちゃんと考えてくれる奴が、少なくとも二人はいるのだし。

 

 それだけいれば十分だろう。

 

 






一話にまとめようかとも思いましたが、文字数が多くなりますので結局わけました

では、後編でお会いしましょう


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第恋話~紫ルート~後編



ってなわけで後編いってみよー





 

 

 一度自分の家へ戻り、紫から借りたままだったあの傘を持って家を出る。紫曰く、俺が何処にいるのか分かる目印だったかな。

 

 紫の住んでいる場所なんて俺にはわからないし、行くこともできない。だから、向こうから現れるのを待つだけ。

 

 行儀は悪いけれど、紙煙草を口に加えながら、ゆっくりと再思の道を歩く。秋になれば、真っ赤な花を咲かせた彼岸花で埋め尽くされてしまうが、今は夏。所々、茎の伸び始めた彼岸花も見えるけれど、花が咲くのはもう少しほど後だろう。

 

 煙草から落ちる灰は花びらに変えながら、のんびりとお散歩。

 別に此処へ訪れる意味なんてないけれど、ゆっくりと一人で考え事をするのにはちょうど良い。

 それに、俺が一人だけでいた方が紫も出てきやすいだろう。アイツのことだ、今だって俺のことを見ていると思う。

 

 さて、紫と会ったら何て声をかければ良いのだろうか。

 確かに今まで長い付き合いではあったけれど、紫とそう言う関係になるとか、そんなことは考えたこともなかった。紫がどう思っていたのかは分からないが。

 慰めるのは違うだろうし、謝るのも違うだろう。

 

 ……まぁ、なるようになるか。

 

 吸いきった煙草をピンと指で弾いて飛ばす。

 放物線を描いた煙草を花びらに変え、傘をクルクル回しながら進む。

 

 

 そして目の前に現れた一人の女性。

 

「や、紫。さっきぶり」

 

「こんにちは、黒」

 

 うっわ、本当に現れやがったよ。

 ヤバい、まだ何の準備もしてない。……どうすっかね。

 

「少し、歩きましょうか」

 

 紫は静かにそう言った。

 その紫の隣に立ち、ゆっくりと歩を進める。流石に邪魔となるから傘は閉じた。

 

 季節は夏なはずなのに、空気は何処か冷たく何ともよく分からない感覚。

 

「黒は昨日のことどれくらい覚えているの?」

 

「ん~……何も覚えてないよ。4人で乾杯して気がついたら朝だった」

 

 それで目が覚めると、紫の顔が目の前にあり滅茶苦茶驚いた。何事かと思った。

 

「えと……昨日の俺って紫に何言ったの?」

 

 あまり、聞きたくはないけれど気になった。変なことを言っていないと良いが。

 

「『いつもはつい冷たく接しているけれど、本当は好きだ。だから、ずっと俺の隣に居てくれると嬉しい』……そんなことを言っていたわね」

 

 滅茶苦茶、変なことを口走っていた。

 

「いや、お前……それは、絶対おかしいって気づくだろ」

 

 なんということを口走っているんだ。聞いているこっちが恥ずかしくなる。

 

「だって……確かにおかしいとは思ったけれど、それよりも嬉しくて……」

 

 顔を赤くした紫。その目は薄ら潤んでいるようにも見えた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 そして、お互い無言に。全く、八意さんはなんということをしてくれたんだ。どうすんだよ、この空気。

 

 

「あー! もう! 何だか腹が立ってきた。どうして私がこんな目に合わなきゃいけないの。黒。あの医者の所へ行くわよ。何か仕返しをしないと気がすまない」

 

 突然、紫が吠えた。いや、もう俺のことは放って置いて……ああ、ダメですか、そうですか。

 

 そして、俺はスキマの中へ飲み込まれていった。

 俺、もう疲れたよ。

 

 

 

 

 

 スキマから吐き出されると、驚いた顔の八意さんがいた。

 どうやら、お茶を飲んでいたところらしい。お邪魔します。

 

「えと、何か用かしら? 確かに遊びへ来いとは言ったけれど、こんな形で来るとは思わなかったわ」

 

 うん、俺もこんな形で会うことになるとは思わなかった。そして、別に遊びに来たわけではないです。

 

「文句を言いに来たのよ。貴方でしょ? 萃香と幽々子に妙な薬を渡して黒に飲ませるよう言ったのは」

 

 俺に続いて現れた紫が叫ぶ。

 

 これって俺が来る意味あったのかな。

 できれば、帰りたいのですが。なんとなく嫌な予感がするし。嫌な予感ほどよく当たる。

 

「確かにそうだけど、何かあったの?」

 

 お茶を飲みながら八意さんが聞いた。

 貴女って存外マイペースですよね。

 

「何かって貴方……あの薬のせいで黒があることないこと言ったから、私が無駄に恥をかいたの!」

 

「うん? あること……ないこと?」

 

 あっ、ヤバい。

 なんとなく落ちが見えてきた。

 

 こ、これは逃げる準備をしなければ。だ、大丈夫、まだきっと逃げられるはずだ。

 

「何を考えているのか知らないけれど、どうしてあんな薬を渡したのよ」

 

「……なるほどね。なんとなく状況が分かったわ」

 

 八意さんと目が合う。

 優しく微笑まれた。

 

 流石月の頭脳。頭の回転はやはり速い。

 

 ……大ピンチだ。

 

 

「何か勘違いしいるみたいだから言っておくけれど、あの薬に相手を好きにさせる効果なんてないわよ。その人が思っていたことを、ただ口にしやすいようにするだけ。あれはそう言う薬よ」

 

 

 

「……えっ」

 

 

 八意さんの言葉を聴き終える前に、その場から俺は走り出した。惚けたような紫の声が聞こえたが、今は無視。

 

 走り出してすぐ、足元にスキマが開いた。

 それくらいは予想済み。

 スキマへ落ちる前に飛び上がる。

 

 そうすると、上から弾幕が降り注いできた。その弾幕は自分へ当たる直前に花びらへと変える。

 

 薄桃色で埋まった視界を全力で飛んだ――先にもスキマがあり自分からそこへ飛び込んでしまった。

 

 三段じこみの罠とかどうしろと……

 はっはっはー敵ながら天晴だぜ。

 

 全く笑えないが。

 

 まぁ、どうせ逃げられなかっただろうけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキマから吐き出された先は、何処かの部屋の中だった。

 見覚えはない。幻想郷にあるような部屋と言うよりも、どちらかと言えば外の世界の部屋に近いと思う。

 逃げることはできなさそうだ。

 

 ここが、紫の家なのかねぇ。長い付き合いではあるけれど初めて来たよ。

 

「此処は?」

 

 スキマから現れた紫に聞いてみる。

 

「私の部屋よ。藍も入ることはできない、私だけの部屋」

 

 予想は当たっていたらしい。

 なるほど密室か。殺人事件が捗りますね。

 

 しかし、まっずいっすな~……どうするよこれ。紫と目を合わせないよう下を向く。まるで判決をくだされる被告人になった気分だ。

 そんなの、なったことないけど。

 

「……何か、私に言わなきゃいけないことがあるんじゃない?」

 

 漸く、紫が喋ってくれた。

 圧倒的に不利な立場。も、黙秘権を行使します。弁護士呼んでください。

 

 はぁ、どうにかして、逃げられないものか。

 

 だいたい、今更なんて言えば良いんだよ。もっかい言えと? 素面であの恥ずかしい台詞をもう一度言えば良いのか?

 

 そ、それはちょっと、勘弁して下さい。

 

 本当なら、そろそろ紫をいじってやろうとか思っていたのに、どうしてこうなったよ。

 一発逆転にも程がある。

 

「何か喋ってくれないと分からないわよ?」

 

 紫が言った。

 きっと、とても良い笑顔なのだろう。見たくはないが。

 紫の言葉に俺は顔を背け、断固拒否の姿勢を示した。もう、お家に帰りたい……こんなに恥ずかしい思いをしたのは初めてだ。

 

 

 ――はぁ。

 

 なんて紫のため息が部屋に響いた。

 

 

「私は嬉しかったわよ」

 

 

 二人しかいない空間に紫の声は広がった。

 

 

 

 

「いつも私のことを莫迦にするけれど、本当は私のことを思って言ってくれているのは知っていた。たまに腹が立つこともあったけれど、本当に私が困っているときはいつも助けてくれた。最初に月へ攻め込んだときも、幽々子のときも、幻想郷を作るときも……いつだって助けてくれた。だから昨日は黒の気持ちを聞いたときは本当に嬉しかったの…………ねえ」

 

 

 

 

 ――貴方のことが好きよ。黒。ずっとずっと昔から。

 

 

 

 

 紫はそう言った。

 恐る恐る紫の顔を見ると、顔は真っ赤になっていたが優しい顔をしていた。それは見蕩れるような笑顔だった

 

 ずっと、ずっと昔から……か。

 

 紫と出会ってから、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。俺にとってはそれほど昔ではないけれど、幻想郷の中では一番付き合いの長い存在だろう。

 

「だからもう一度、貴方の気持ちを教えてくれると嬉しいのだけど……」

 

 不安そうな顔をして紫が言った。

 

 ……うん、大丈夫。

 これ以上は逃げるつもりもない。随分と情けない形にはなってしまったけれど、そろそろ俺も口に出さないといけないのだろう。

 たまには素直になるのも、悪くはない。

 

 いい加減、自分へ正直になってみよう。

 

 

 

 

「好きだよ紫。何百年も昔からずっと。だから……俺の隣に居てくれると嬉しいかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 そんなことから数日ほど。

 とりあえず、紫とそんな関係になったことを萃香と幽々子へ報告することに。

 

 萃香に報告すると――

 

「えっ……黒もしかして、まだ薬抜けてないの?」

 

 なんて、本気で心配された。大丈夫です。薬の効果はもうなくなっています。

 

 その後、スキマの中へ萃香は消えていったけれど、まぁ、どうせまた直ぐに会えるだろう。

 

 幽々子へ報告した時は――

 

「あら、そうなの。それはおめでとう」

 

 なんて言われて、普通に祝福された。

 なんだか調子が狂う。

 

 多分だけど、幽々子はあの薬の効果を知っていたんじゃないかと思う。何を考えているのか分かり辛いけれど、幽々子はかなり聡明なのだし。どうせ萃香は知らなかっただろうが。

 

 

 

 一通り報告をし終わり、俺の店で一休み。

 移動は紫のスキマを使った。ホント便利なものだ。

 

 まだ二人にしか教えていないけれど、どうせ俺と紫が一緒になったという噂は直ぐに広まるだろう。そう言う話が好きな奴らばかりだし。

 

 そんな未来のことを考えると、無意識にため息が出た。

 

「どうしたのよ? ため息なんてついて」

 

 いんや、何でもないよ。

 

「ああ、そうだ。何か飲む?」

 

 まだ、昼間ではあるけれど、昼間から飲むお酒というのも悪くはない。あの背徳的な気分がなかなかに心地良い。

 

「そうね……じゃあ、お茶でもいただけるかしら?」

 

「おろ? お酒じゃなくて良いの?」

 

 紫にしては珍しい。

 どうしたのだろうか。

 

「だって、酔ってしまったらもったいないでしょ? せっかく貴方と二人でいるのだし」

 

 クスクスと笑いながら、ものすごいことを言われた。相変わらず顔は真っ赤だったが。

 紫ってすぐ顔赤くなるね。口にすると怒られそうだけど。

 

「いきなり変なことを言うなよ」

 

「口、にやけているわよ?」

 

 何処か楽しそうに紫が言葉を落とす。うっさい、分かってるわ。

 

 全く……あ~、顔が熱い。

 

 

 

 

 たぶん、これからもこんな関係が続いていくのだろう。お互いに冗談を言い合って、助け合って……そんな関係。

 

「ほい、お茶」

 

 一見すると今までとそれほど変わっていないように見えるけれど、お互いの距離はあの日からかなり近くなったと思う。

 

「ありがとう」

 

 この関係がいつまで続くのかは分からない。

 

「どういたしまして」

 

 けれども、まぁ大切にはしていきたい。

 

「ああ、そうだ。黒、ちょっとこっちに来なさいよ」

 

 な~んて思ったりします。

 恥ずかしいから口には出さないけどさ。

 

 

 

 さて、俺と紫のお話はこんなところだろう。

 

 ずっと見守ってきてくれたカメラさんにも感謝です。本当にお疲れ様でした。

 

 だからいつもように、俺は言った。

 

「おい、カメラ止めろ」

 

 ここから先は、また別のお話なのです。

 

 

 






カメラ止めて何をしたんですかねぇ(マジギレ)


と、言うことで第恋話~紫ルート~でした
疲れました
本当に疲れました

前編の前書きにも書いたように、これで東方酒迷録は終わりにする予定です
長かったですね~
お酒のお話をもっと書きたかったですが、わりとやりきった感はあります
と言うか疲れました

皆さんの感想がなければ失踪していたことでしょう

ここまで読んでくださった読者の皆さんには感謝しております
ありがとうございました

では、またいつかお会いしましょう


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