ハリー・ポッターと鷲寮の少女 (有栖川八重)
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不死鳥の騎士団
ノエル・ガーネット


こんにちは。ハリー・ポッターにもう一人の友達がいたら? と思い書いてみました。ぜひ読んでみてくださいね。


 ホグワーツの5年生には刻々とOWLが近づいてきて、大量の宿題をこなすことに明け暮れていた。ノエル・ガーネットはというと、宿題は溜めずにもうとっくに終わらせていたが、古代ルーン文字の教室で、分厚く難解な闇の魔術に対する防衛術の本と格闘していた。ノエルはレイブンクローの五年生で黒くてしなやかな髪の毛を肩まで伸ばしていた。レイブンクローの中でも秀でた頭脳を持っていて魔法薬学を中心に学年トップレベルの実力の持ち主だ。けれど、ノエルは杖を使って実際に魔法を使うことが非常に苦手だった。筆記試験や魔法薬学などの教科は学年一位のハーマイオニー・グレンジャーと引け目をとらないほどに成績が良い。だが、魔法を使う教科となると散々な成績ばかりをとっていたのだ。

 

「おはよう。ノエル。今日も早いわね」

 

「あ、おはよう。ハーマイオニー。あのクソババアの授業じゃ何にもならないからあの授業で無駄にした分を勉強しなきゃって思って。あの授業、杖は使わなくてただ、教科書を読むだけだから暗記が得意な私は成績優秀だけどこのままじゃOWLが相当ヤバいの」

 

「私もそう思うわ。あのクソババア、滅茶苦茶に性格悪い体罰教師よ。この前だってハリーが罰則を受けたんだけどすごく痛そうだったわ」

 

「うわ、最悪ね。こんな大事な学年にあいつが当たっちゃうなんて最悪だわ。ロックハートと同じくらいひどいわ。ロックハートってレイブンクローのOBなのよ。恥ずかしいわ」

 

 ハーマイオニーは一瞬顔をしかめた。

 

「えーと、でも、忘却術は素晴らしいわ」

 

「自分の記憶が全くなくなっちゃうくらいね」

 

「ロックハートの話はもういいわ。あのガマガエルに話を戻すわね。私も闇の魔術に対する防衛を学ぶ必要があると思うの。そこでね、私とハリーとロンで話したんだけど、ハリーを先生にして闇の魔術に対する防衛術を自習するのはどうかって思っているの。ほら、ハリーって守護霊を創ることもできるのよ」

 

「へえ、それはいいわね。確かにハリーはルーピン先生の時の闇の魔術に対する防衛術のテストは一番だったものね。私は最悪だったけど。あ、ルーピン先生は素晴らしい先生だと思うわ。私の努力をしっかり見てくれたもの」

 

「次のホグズミードの時にホッグズ・ヘッドまで来てもらえるかしら? そこで話し合いをしたいと思っているの。他にこれに興味のある友達がいたら連れてきてもいいわ」

 

「わかった。ホッグズ・ヘッドね。絶対に行くわ」




原作を読んだ方はわかると思いますがこれは不死鳥の騎士団の時系列です。次回はホッグズ・ヘッドのシーンからです。


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ホッグズ・ヘッドで

二話目です。ノエルはそんなに出てこないです。内容のほとんどが原作の内容を要約した感じです。


「本当にここでいいのかい? ハーマイオニー。こんなヤギ臭いところ、いったい誰が来るんだよ」

 

 ロンが鼻をつまんだ。

 

「私達が来ます。三本の箒でスリザリンの連中に聞かれるよりもよっぽどいいでしょ」

 

 ハリーとロンとハーマイオニーの三人が一番広いテーブルに腰かけた。

 

「注文は?」

 

 バーテンの爺さんが聞いた。

 

「バタービールを三本」

 

 ハーマイオニーが答えた。バーテンは誇りを被った汚ならしい瓶を三本テーブルに置き、

 

「六シックルだ」

 

と言った。ハリーが三人分を支払った。

 

「それで、今日は誰がここに来るんだい?」

 

「何人か呼んだわ。ジニーとかネビル、ルーナもね。私が直接呼んだのはほとんどあなたと面識がある人だわ」

 

「ほとんどは、と言うと?」

 

 ハリーが聞いた。

 

「そうね。ノエル・ガーネットとかよ。レイブンクローの。古代ルーン文字と数占いで一緒なの」

 

「あの、ノエル・ガーネットかい!?」

 

 ロンがすっとんきょうな声をあげた。

 

「ノエルがどうしたの? そんな変な子かしら?」

 

「あいつの両親はどっちも魔法省で働いてるんだ。母親は神秘部で父親は闇祓いだ。シリウスを一番最初に取り押さえたのはあいつの父親だぞ」

 

「だから何なの? ノエルは関係ないでしょ。

 あっ、来たわ」

 

 ハーマイオニーが言うとバブのドアが開いた。

 

「えーと、ハーマイオニー? 僕は数を数えるのが苦手だからかもしれないけれど、これは何人かというレベルじゃないとおもうよ」

 

 ハリーが言った。ハーマイオニーは嬉しそうな顔をしていた。

 

「えー、皆さん、集まってくれてありがとう。私達がここに来た理由は適切な自己防衛を学ぶためですよね。私達はそれを学ぶ必要があります」

 

 ハーマイオニーは唾を飲み込んだ。

 

「なぜなら、ヴォルデモート卿が戻ってきたからです」

 

 何人かが体をびくつかせた。そして、全員の目線がハリーに注目した。

 

「でもさ、例のあの人が戻ってきた証拠なんてどこにあるんだ?」

 

 ブロンドのハッフルパフのクィディッチの選手が言った。

 

「誰だっけ? 君」

 

 ロンが聞いた。

 

「ザカリアス・スミスだよ。クィディッチに出てるだろ?」

 

「知らないや」

 

「僕は君にその話をするためにここに来たんじゃない。そのために来たなら出て行ってくれる?」

 

 ハリーが言うと黙った。

 

「それで、私達はハリーを先生に防衛術を学びたいと思います」

 

 ハーマイオニーが上ずった声で言った。

 

「ねえ、あなたって有体守護霊を創りだせるって本当?」

 

 ハッフルパフのスーザン・ボーンズが聞いた。

 

「あー、うん」

 

「それに、バジリスクを殺したんだろ?」

 

「一年生の時は言者の石を守ったよ」

 

「ネビル、賢者よ」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「それに、去年はたくさんの課題をやり遂げたわ」

 

 テーブルの周りでみんなが感心してざわめいた。

 

「聞いて、僕は一人でそれを全部こなしたわけじゃないんだ」

 

「でも、僕は……」

 

「じゃあ、皆に聞くわね。ハリーに教えてもらうことに賛成する人」

 

 ハーマイオニーが聞いた。すると全員が手を上げた。

 

「皆、賛成でいいのね。じゃあ、次に何回集まるかを決めましょう。週に一回は集まらないと意味がないと思います」

 

「待って、クィディッチの練習があるわ」

 

 アンジェリーナが言った。すると、他のクィディッチの選手達も頷いた。

 

「きっと、何日か皆の都合の良い日があるはずよ。場所も決まっていないから、一回目の集まりの日時と場所が決まったら皆に伝えるわね。

 あと、この羊皮紙に名前を書いてくれるかしら? ここに名前を書けば、この事を誰にも言わないことを約束したことになるわ」

 

 ハーマイオニーが羊皮紙を鞄から出して、全員が記名した。そして、全員ホッグズ・ヘッドから散っていった。

 

「ハーマイオニー。今日はありがとう」

 

 ノエルがハーマイオニーに近づいた。

 

「ノエル。私も来てくれて嬉しいわ。こっちが、知ってると思うけど、ハリー。それでこっちがロンよ。ロン・ウィーズリー」

 

「はじめまして。私はノエル・ガーネットよ」

 

「君はこういうのに参加しないタイプだと思ってたよ」

 

 ロンが言った。

 

「あら、私、あなたと話したことがあるかしら?」

 

「僕の父は魔法省で働いてるんだ。君のお父さんについてはパパから聞いてるよ。権力に絶対に従うんだろう?」

 

「そうね。私のパパはね。でも、それも賢い生き方だと思うわ」

 

「ロン。やめなさい」

 

「いいのよ。間違っていないもの。でも、例のあの人が戻ってきていても、戻ってきていなくてもこれを習うことは必要だと思うわ。まず、アンブリッチの授業じゃOWLをパス出来ないもの。じゃあ、私はここで」

 

 ノエルはハーマイオニーに手を振って、バブから出ていった。

 

「君に似てるかもね。試験が大好きなところとか」

 

 ハリーが言った。




ノエルの家のガーネット家はは聖28一族に親戚が多く、ブラック家、マルフォイ家、ウィーズリー家とも血縁関係にあります。特に、ブラック家の血は濃く、ノエルはけっこう美人さんです。


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ダンブルドア軍団

ついにDA始動です!


「ノエル! 決まったわ! 今夜の八時に八階の『バカのバーナス』がトロールに棍棒で打たれている壁掛けの向かい側よ。レイブンクローの子に伝えておいてもらえるかしら」

 

「わかったわ。でも、そんなところに部屋なんてあったかしら……?」

 

 ノエルが不思議そうな顔をした。

 

「来てみればわかるわ! じゃあ、あとでね」

 

***

 ノエルは言われた通り、八時に八階へやって来た。

 

「あ、ルーナ。こんばんは」

 

「ノエルだ。あんたもハリー達の所にいくんだよね」

 

「そうよ。でも、あんな所に部屋なんてあったかしら?」

 

 ノエルはピカピカに磨きあげられた扉を指差した。

 

「私は初めて見たな。でも、階段が動くホグワーツだもン。教室がいきなり現れても不思議じゃないよ」

 

 ノエルは扉を叩き、ドアを開けてみた。そこには広々とした部屋が広がっていて、もうすでにほとんどの人が到着していた。

 

「えー、これで全員よね。

 私、このグループに名前をつけるべきだと思うの」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「反アンブリッジ同盟とか?」

 

「MMMは? 『魔法省はみんな間抜け』さ」

 

「それじゃあ、外で話さなきゃいけないときに目的がまるわかりよ」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「うーん。なら『ラブリーなアンブリッジ先生愛好会』なんかどうかしら? これなら許可されるかもしれないわ」

 

 ノエルが言った。

 

「そんな名前の団体に入ってると思うと気分が悪くなるよ」

 

 ロンが顔を歪ませて言った。

 

「防衛協会ってどうかしら? 頭文字をとってDA。これなら誰にもわからないでしょ」

 

 チョウが言うとジニーが頷いて、

 

「いいと思うわ。でも、ダンブルドア軍団の頭文字のDAの方がいいわね」

 

と言った。すると、賛成する声があがった。

 

「DAに賛成の人!」

 

 ハーマイオニーが言うと全員が手を上げた。ハーマイオニーは満足そうにうなずくと名簿の羊皮紙に大きくダンブルドア軍団と書いた。

 

「それじゃあ、練習を開始しようか。まず最初に『エクスペリアームス 武器よ去れ』だ」

 

 ハリーが言うとザカリアス・スミスは眉をしかめた。

 

「もし、君にはこれはレベルが低すぎるなら出て行ってもかまわない」

 

 誰もそこから動かなかった。

 

「オーケー。じゃあ、二人一組になって練習をしよう」

 

 ハリーが言うと全員、組を作った。ノエルはネビルと組んでいたようだ。

 

「ネビルとノエル……。最悪の組み合わせね」

 

 ハーマイオニーがぼやいた。

 

「なんでだい? 彼女は頭がいいんだろう?」

 

 ロンが尋ねた。

 

「そうよ。でも、ノエルは……」

 

「いいかい? 三つ数えたら言うんだ。いーち、にー、さーん」

 

「エクスペリアームス!」

 

 全員が叫んだ。しかし、成功した人はほとんどいないらしく、弱い呪文が部屋を飛び交い部屋を滅茶苦茶にしていた。ネビルとノエルのペアに至っては何も変化がなく、ただただ顔をびくつかせながらたっているだけだった。

 

「本当だ。ひどいや。ネビルレベルだよ」

 

 ロンが言った。

 

「でしょう。二人とも自信がないのよ。特にノエルなんて難解な理論とか全部理解してるのにあれよ。あれを理解していれば完全な呪文が使えるはずなのに、相当自信がないのね」

 

「エクスペリアームス」

 

 ネビルが叫んだ。すると、ペアのノエルは無視して、その奥にいたザカリアス・スミスの杖が飛んでいった。

 

「やった! これは成功でいいの?」

 

「すごいわ! ネビル! 成功よ」

 

 すると、ひょっこりフレッドとジョージがやって来た。

 

「マグルの避雷針って知ってるかい?」

 

「この前、パパが言ってたんだ。雷は避雷針を選んで落ちるって」

 

「それで、僕たちはこれを貼った人を選んで呪文がかかるシールを作ったのさ」

 

 二人は自慢気に言った。この後も練習を続けたおかげで二人はコツを理解してノエルは百発百中で、ネビルも五回に一回は必ず成功するようになった。

 

「うわあ、ノエルはすごいね」

 

「ありがとう、ネビル。ネビルもすごいわ。私、理論を完璧に理解した呪文じゃないと緊張して、自信がなくなって全く使えないのよ」

 

 二人が話しているときにハリーがホイッスルを吹いた。

 

「今日は終わりにしよう。次の練習は水曜日の八時だ」

 

 ハリーが言うと、全員、帰る準備を始めて準備ができた人からハリーの指示で部屋から出ていった。帰り道で、ノエルはハリーがチョウ・チャンに気があることに気づいて少しニヤニヤした。




ノエルの記憶力はとんでもなくて、多くても三回くらい見れば完全に覚えることができます。次回はクィディッチの試合です。


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ライオンと蛇

 四回目の会合で、ハーマイオニーが一人一枚のガリオン金貨を渡した。

 

「この偽金貨には次の集会の日付とその時間がかかれています。変化したときに熱くなるからポケットに入れておけばきっと気づくわ」

 

 ハーマイオニーが説明した。

 

「すごいわ。それ、『変幻自在術』でしょ。NEWT試験レベルよ」

 

 ノエルが言うとハーマイオニーは顔を赤くしながら……けれども嬉しそうに、

 

「そうよ。ありがとう」

 

と言った。

 

「それじゃあ、もう今日は解散にしよう」

 

 ハリーが言うと、いつものようにハリーの指示で部屋から出ていった。私はDAですっかり仲良くなったルーナと一緒にいた。

 

「ハリー、ロン! そろそろスリザリン戦ね。頑張って」

 

「あたしはグリフィンドールを応援するよ。今、獅子の頭の帽子を作ってるんだ。蛇を噛み砕かせるんだよ」

 

「ありがとう。ノエル、ルーナ。じゃあ、おやすみ」

 

 ノエルとルーナはレイブンクロー寮に戻っていった。

 

***

 試合の日がやって来た。ノエルとルーナが大広間にやって来ると、いつもよりも活気に溢れていた。

 

「ハリーだ。ロナルドもいるよ」

 

 言った通り、獅子の頭の帽子を被ったルーナがグリフィンドールのテーブルを指差した。

 

「ほんとだわ。ロンったらあんなに大きな体をちっちゃくして、緊張してるのね。ルーナ、行きましょう。あなたを見たら、ロンの緊張も和らぐと思うわ」

 

「それってどうして?」

 

 ルーナは夢見るようなぼーっとした声で聞いた。

 

「えーっとね、ほら、ルーナの帽子を見れば、グリフィンドールが私達からも応援されていることがわかるでしょう?」

 

 ノエルが言い終わらないうちに、ルーナはグリフィンドールのテーブルにフラフラと歩き始めていた。

 

「おはよう」

 

 ルーナがハリー達に声をかけた。そして、帽子に手を伸ばし杖で軽く叩くと、獅子がカッと口を開けて吠えた。

 

「すごいでしょう? でも、時間がなくて蛇が作れなかったんだ。がんばれぇ。ロナルド!」

 

 ルーナはノエルの所に戻ってきた。

 

「ロナルドの緊張はおさまった気がするよ。だって、表情がさっきとぜんぜん違うもン」

 

 ノエルはロンを見た。訳がわからないものを見たような顔をしていた。

 

***

 試合が始まった。スリザリン側の観客席とスリザリンの選手は全員、『ウィーズリーこそ我が王者』と刻んである銀色の王冠型のバッチを着けていた。

 

「あら、趣味の悪いバッチ」

 

 ノエルが呟いた。隣にいたハーマイオニーはため息をついて、

 

「ロンが真に受けていなければいいのだけど……。何かしら? この歌は」

 

♪ウィーズリーこそ我が王者 ウィーズリーこそ我が王者~

 

「最悪な歌ね。ロンは大丈夫かしら……」

 

心配そうに言った。

 

「ところで、ハーマイオニー。チョウってハリーのことが好きなのね。ハリーがチョウに興味があるのは気づいていたけれど」

 

「ハリー! 頑張って! ハリー!」

 

「ちょっと、チョウ! 恥ずかしいわ。やめて」

 

 観客席の下の方ではチョウが大声で応援していた。チョウの友達でDAのメンバーのマリエッタはチョウを落ち着かせようと奮闘していた。

 

「そうよ。ノエル。あの女狐ったらハリーに気があるのよ」

 

 ジニーが言った。

 

「あ! ハリーが急降下し始めたわ。マルフォイも。スニッチを見つけたのね」

 

 ハーマイオニーが叫んだ。チョウの応援もさらに白熱したものとなった。

 

「チョウはあんなにグリフィンドールを応援してるんだ。この帽子、貸してあげようかなぁ」

 

 ルーナはぼーっとした声で言った。

 

 ハリーとマルフォイは手をスニッチに伸ばした。しかし、ハリーの方が近かったらしく、マルフォイの爪はハリーの手の甲を引っ掻いた。そして、ハリーはスニッチ取った。ハリーが安堵に表情になった瞬間にブラッジャーがハリーの腰に直撃した。スリザリンのクラッブが打ったブラッジャーだった。

 

「なによ! あのくそゴリラは!」

 

 チョウは今にも観客席から飛び出しそうなのをマリエッタに取り押さえられていた。

 

「あれ? ハリーがフレッド? それともジョージ? を掴んでるわ。あ、離した。うわー、マルフォイが殴られてる」

 

 ノエルが言った。ハーマイオニーは目をおおっていた。

 

「ジョージね。フレッドは取り押さえられてる。マルフォイはざまあみろね」

 

 ジニーは鼻で笑った。マダム・フーチが『妨害の呪い』でハリーとジョージを吹き飛ばした。マダム・フーチはなにやら怒鳴っているようだ。クラッブはケタケタ笑っていた。

 

「二人とも城に戻り始めたわね。大丈夫かしら……。罰則は免れないわ」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「でも、手をあげたのは彼らだもの。仕方がないわ。けれど、この状況で笑ってるクラッブって本当に脳みそがないのかしら」

 

 ノエルが呆れた目でクラッブを見た。

 

「その事はみんな諦めてるんだよ。だって、誰もその事について先生達は何も注意しないもン」

 

***

「ねえ、ノエル。あの話、聞いた?」

 

 レイブンクローの談話室で勉強をしていたノエルにチョウが話しかけた。

 

「どの話よ?」

 

「あのね、アンブリッジがハリーと、双子のフレッドとジョージをクィディッチを終身禁止にしたの」




とりあえず、アンブリッジ死ねですね。私は原作を初めて読んだときにここで、心が折れそうになりました。
もっとルーナを活躍させたいです。


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ハリーとチョウ

 クリスマス休暇前の最後のDAに、ノエルはいつも通りルーナと一緒に寮を出た。そして、『必要の部屋』に入るとハリーは一人でへんてこなクリスマスの飾りを片付けていた。

 

「きれいだね。あんたが飾ったの?」

 

 ルーナが尋ねた。ノエルはぎょっとした顔をした。

 

「違う。屋敷しもべ妖精のドビーさ」

 

「でも、ヤドリギは素敵ね。誰かとキスでもする予定でも? 例えば、レイブンクローのシーカーの女の子とか」

 

 ノエルが茶化すように言った。

 

「たぶんこの部屋にナーグルがいると思うよ。ヤドリギはナーグルだらけのことが多いもン」

 

「そんなこと考えてないよ。なんでそう思うんだい?」

 

「パパが言ってたよ。ナーグル特集の時の『ザ・クィブラー』、今度あげるね」

 

***

 今夜は今までやったことの復習をした。ノエルは『失神の呪文』はまだ、完成していないが、『妨害の呪い』は完璧に出来るようになった。ネビルも一番最初よりもずっと成長して、『失神の呪文』では狙いを定めていた相手ではないが、一応、失神させることができたようだ。

 

 そして、一時間後、ハリーはホイッスルを吹いた。

 

「みんな、とっても良くなった。休暇明けは大技を始めようと思うんだ。たとえば、守護霊とか」

 

 みんなが興奮でざわめいた。いつものように部屋から出ていくときにチョウはマリエッタに

 

「先に帰ってて」

 

と言っていた。

 

「チョウってわりと大胆にいくのね」

 

 ノエルはクスクス笑ってハーマイオニーに言った。

 

「女の子なんてそんなものよ。でも、ハリーはそんなに鈍感じゃないのね。ロンだったらこんなにアタックされてもきっと気づかないもの」

 

「なんか言ったかい?」

 

 クッションを片付けながらハリーに話しかけているロンが言った。チョウはウズウズしながらハリーの後ろ姿を見ている。

 

「ロン。帰るわよ。あとはハリーにお願いしましょう」

 

 ロンの返事を待たずにハーマイオニーはロンを引きずって『必要の部屋』から出ていった。

 

「じゃあ私達も。二人とも、メリークリスマス」

 

「じゃあね。メリークリスマス」

 

 ノエルとルーナは静かに『必要の部屋』のドアを閉じた。

 

「あぁ! やっぱりあの二人はキスをするのね! ヤドリギの下なんて素敵だわ。それにクリスマスよ。羨ましいわ」

 

「やっぱりナーグルがいると思うなぁ」

 

「ルーナの守護霊ってたぶんナーグルよ」

 

 ノエルが言った。二人は静かに広くて寒い廊下を歩いていった。窓の外では雪が降っていた。

 

***

 

 次の日の朝食に、ハリーとウィーズリー兄弟は顔を出さなかった。




ノエルはラベンダー・ブラウン並みに乙女な性格だと思います。でも、恋愛には内気かなって感じです。まだノエルには好きな人はいないけど。


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閉心術

 クリスマス休暇が終わった次の日、ノエルとパドマ・パチルは一緒に教室移動をしていた。

 

「あら、ハリー、ロン、ハーマイオニー! 休暇はどうだったかしら?」

 

 ノエルが聞いた。

 

「楽しかったよ」

 

 ハリーが言った。

 

「それは素敵ね。ところで次の会合はいつかしら? 早速今日なんてどう? 今日はどこのチームもクィディッチの練習はないようだし」

 

 パドマが聞いた。すると、ハリーはばつの悪そうな顔で、

 

「ごめん。今夜は出来ないんだ。実は僕、えーと、『魔法薬』の補習で……」

 

「『魔法薬』の補習? 私、よく自習するのにその教室にいるけど補習の人なんて一度も見たことがないわ」

 

 ノエルが言った。すると、ロンが驚いた顔をした。

 

「君、『魔法薬』の自習をあの教室でしてるのかい? よくスネイプが許可したね」

 

「えぇ、そうよ。実際に大鍋で作ってみた方がしっかり理解できるもの。本当に許可してくれるとは思わなかったけど、『魔法薬』での成績は優秀だったから許可してもらえたわ。もしかしたらスネイプの初恋の相手は『魔法薬』が得意だったのかもね」

 

「とにかく、まだ日程は決まっていないんだ。決まったらすぐに金貨で連絡するよ」

 

「わかったわ。補習、頑張ってね」

 

 ノエル達とハリー達はそこで別れた。そして、ハリーを追いかけて走っているチョウ・チャンとすれ違った。

 

「ハリーとチョウはまだくっついていないの?」

 

 パドマは興奮しながら言った。

 

「うーん。私の勝手な予想だとキスはクリスマス休暇の前にしたんじゃないかな? ほら、最後のDAの時にヤドリギがあったでしょ? その下できっとキスをしたのよ!」

 

「ノエル。恋愛小説の読みすぎよ」

 

***

「あなたが言いたいのは、『例のあの人』が探している武器が魔法省の『神秘部』にあるってこと?」

 

 人気の無い談話室で、ハリー達三人が話していた。

 

「うん。間違いない。ロンのパパが尋問の時に連れていってくれた時にその扉を見たんだ。おじさんが守っていたのは絶対に同じ扉だ」

 

「そうなんだわ」

 

 ハーマイオニーがため息混じりに言った。

 

「スタージス・ポドモアは魔法省のどこかの扉から忍び込もうとした……きっとその扉だったのね」

 

「いったい『神秘部』には何があるんだい? おじさんがなにか言っていなかったかい?」

 

 ロンは顔をしかめた。

 

「そこで働いている連中を『無言者』って呼ぶんだけど、何をやってるのかは誰も本当のことは知らないんだ。武器を置いとくには変じゃないかい?」

 

「変じゃないわ。魔法省が開発してきた極秘事項なのよ」

 

「そういえばノエルのお母さんは、その『無言者』だってこの前ロンが言ってたっけ」

 

 ハリーが言った。

 

「ウェンディ・ガーネットだろ? 変人で有名だよ。しかもすごく優秀なんだ」

 

「ルーナみたいな感じかしら? そういえばノエルがお母さんはレイブンクローって言ってたわ。レイブンクローって変人を多く排出する寮なのかしら……」

 

「ノエルに頼んでお母さんに聞いてもらうのはどうだい?」

 

 ハリーが言った方。するとロンは肩をすくめた。

 

「それは無理だと思うな。機密主義だぜ」

 

 ロンが言い終わるのとほぼ同時に、ハリーは額に激痛を感じた。耳の中で狂ったような笑い声が鳴り響いた。

 

「どうしたんだ?」

 

「やつが喜んでいるんだ」

 

 ハリーはそのままソファに倒れこんだ。




ガーネット家の家族構成
(父)カルヴィン・ガーネット 闇祓い、スリザリン
(母)ウェンディ・ガーネット 無言者、レイブンクロー
(兄)ルイス・ガーネット 魔法省勤務、レイブンクロー
(妹)シャロン・ガーネット ハッフルパフ


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ザ・クィブラー

「うわ。最悪だわ……」

 

 朝食の時間に配達された『日刊予言者新聞』を見て呟いた。

 

「どうしたの?」

 

 ルーナが新聞を覗きこんだ。新聞には九人の魔法使いと一人の魔女の写真が載っていた。

 

「アズカバンで集団脱獄ですって。きっとシリウス・ブラックの手引きよ」

 

 それを聞いたレイブンクローのテーブルの何人かがノエルの方を向いた。

 

「アントニン・ドロホフ……。ギデオン・プルウェットとファビアン・プルウェット……ロンのお母様の兄弟よ。を虐殺したの。ベラトリックス・レストレンジはネビルのご両親を拷問して廃人にしたの。

 彼らは本当に闇祓いを手こずらせたらしいわ。パパはまだ訓練期間だったというのにデスイーター達の捜索に駆り出されたらしいわ」

 

 グリフィンドールの机でもハーマイオニーが『日刊予言者新聞』を見て悲鳴をあげていた。

 

「これってさ、もしかして、ポッターとかダンブルドアの言っている通り『例のあの人』が帰ってきたってことなのかな……」

 

「やだなぁ。シリウス・ブラックの時みたいにホグワーツに入ってきちゃったら」

 

 レイブンクローの生徒達が口々に呟いた。

 

***

 次の朝、寮の掲示板には新しい教育令が貼り出されていた。

 

「自分がお給料をもらって教えていること以外は教えてはいけないのですって」

 

 ノエルがルーナに言った。

 

「へぇ。じゃあ、授業中に雑誌を読んでも怒られないね。だって、雑誌について教えている先生はいないもン」

 

「そうね。まあ、強いて言えばマダム・ピンズね」

 

 ルーナと同じことを考える生徒は珍しく多かったらしく、グリフィンドールのリー・ジョーダンは、『闇の魔術に対する防衛術』の時間にフレッドとジョージが『爆発スナップ』カードゲームをやっているのを注意しようとしたアンブリッジに

 

「先生、『爆発スナップ』は『闇の魔術に対する防衛術』と関係ありません! 先生は注意することは出来ません!」

 

と指摘したらしい。

 

***

「ネビル! すごいわ! 『盾の呪文』も成功させるなんて。まだ、ハーマイオニーしか成功させてないのよ」

 

 呪いを跳ね返されたノエルが言った。最近のネビルは一番に『必要の部屋』に来て練習を始めていて、誰よりも練習を頑張って、すごく上達している。

 

「あー、うん。ありがとう。

 あのさ、ノエルはお父さんが闇祓いだから、そのさ、僕のパパとママについて知ってるでしょ? アズカバンで集団脱獄があって、なんか僕……」

 

「闇祓いは寝ずに探し回っているみたい。でも見つからないってことは、やっぱり『例のあの人』は復活していてその庇護下に脱獄犯はいるのだと思うわ……。

 さあ、練習に戻りましょう。もう一度『盾の呪文』をやってもらえるかしら? 私、全然コツを掴めないの」

 

***

 ある月曜日の朝、ハリーとルーナの元に同じふくろうから配達が来た。

 

「パパからだ。ハリーを『ザ・クィブラー』でインタビューしたんだぁ」

 

「そういえば言ってたわね。バレンタインのホグズミード行きの時でしょう? 見せてくれる?」

 

 ノエルが言うと、ルーナは、雑誌を一冊渡して

 

「あげるよ」

 

と言った。

 

「マルフォイの父親ってやっぱりデスイーターだったのね。ホグワーツに四人もデスイーターの子どもがいるじゃない。やだわぁ、一応マルフォイ家とも親戚なのよね」

 

 ノエルが言った。ルーナは

 

「ハリーの所に行かない?」

 

と言いフラフラとグリフィンドールのテーブルに歩いていった。

 

「昨日出たんだよ。ほら、読者からの手紙だよ」

 

 グリフィンドールのテーブルでルーナは言った。

 

「ハリー、開けてみてもかまわないかしら?」

 

 ハーマイオニーが聞いた。

 

「いいよ。自由に開けて」

 

「男性からだ。君がいかれてるってさ」

 

 ロンが言った。

 

「こっちは女性ね。聖マンゴを受信しなさいって」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「どっちつかずの人もいるみたいね。ハリーの言ってることは嘘だとは思えないけど、信じたくないって。まあ、気持ちはわかるわ」

 

 ノエルが言った。

 

「でも、説得された人もいるわ!」

 

 ハーマイオニーが興奮して言った。

 

「あぁ、この人は、君が頭が変だって。でも、こっちは君に説得してる。君が真の英雄だってさ。……うわー!」

 

 ロンがいきなり大声をあげた。ロンの後ろを見るとアンブリッジがニタニタしながら立っていた。ガマガエルのような目は、テーブルの上の手紙を眺め回していた。

 

「この中にはハエはいないよ。先生」

 

 ルーナが言った。

 

「ルーナ! 何を言っているの!? 朝食の途中よ。戻りましょう」

 

 ノエルはルーナを引っ張ってレイブンクローのテーブルに戻っていった。アンブリッジがグリフィンドールを減点し、ハリーに罰則を言い渡した声がレイブンクローのテーブルまで聞こえた。

 

***

 その日の昼には学校中に新しい教育令が掲示された。

 

「『ザ・クィブラー』を持っていたら退学ですって。ルーナのお父様に対する営業妨害ね」

 

 ノエルが言った。

 

「そんなことないよ。ハーマイオニーが言ってたよ。禁止にされたってことは、みんな気になって読みたくなるんだもン。パパに他の雑誌に偽造して配達できるように頼んでおこうかな」

 

 その通りに、たちまちホグワーツの全員が『ザ・クィブラー』を読み、増刷が決定した。



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トレローニー先生の解雇

昨日、やっとファンタビを観てきました~! 控えめに言って最高です! 謎が沢山です。


 ノエルが夕食を早めに切り終えて、図書館で勉強をしていると玄関ホールの方から甲高い悲鳴が聞こえた。

 

 --私ったら勉強のしすぎでついに幻聴まで聞こえるようになったのかしら……。

 

 ノエルは勉強を再開しようとした。しかし、それはノエルの幻聴ではなかったということに気づいた。図書館の中がざわついて、あのマダム・ピンズでさえも悲鳴が気になったらしく、誰も注意をしようとしなかった。ノエルは勉強道具を急いで鞄に詰めて、玄関ホールへ向かって走った。

 

***

 玄関ホールは満員の状態だった。そして、ホールの真ん中にはトレローニー先生が立っていた。ノエルは『占い学』をとっていなかったし、トレローニー先生が大広間に来ることはなかったので見るのは始めてだったが、ルーナから聞いた通りの姿をしていたのですぐにわかった。しかし、始めて見るノエルから見ても完全に様子がおかしかった。彼女は怯えた表情で濃いピンクの服を着てニタニタ笑うアンブリッジを見ていた。

 

「ここは……私の家です! 出ていくことなんて出来ませんわ」

 

 トレローニー先生が泣きわめいた。

 

「教育令第二十三号をご覧になったのかしら? ここは、家だったのよ。一時間前に魔法大臣が『解雇辞令』に署名なさりました。出て行ってちょうだい」

 

 アンブリッジは少女のように甲高いが、冷たい声で言った。そして、トレローニー先生が泣いている姿を舌なめずりして眺めていた。

 

「ハエでも見つけたのかなぁ? 自分の頭の上にいつも乗っているのに」

 

 気づいたらルーナが隣に立っていた。ルーナはアンブリッジの頭の上に乗っている黒いリボンを指差した。

 

「シビル。落ち着いて。あなたはホグワーツを出ることにはなりませんよ」

 

 マクゴナガル先生がトレローニー先生に歩み寄ってハンカチを手渡した。

 

「マクゴナガル先生? あなたにそのような権限がおありで?」

 

 アンブリッジが毒々しい声で言った。

 

「それがわしの権限じゃ」

 

 正面玄関のドアが大きく開き、そこからダンブルドアが現れた。

 

「あなたは教師達を解雇する権限をお持ちじゃ。しかしのう、この城から追い出す権利はまだわしが持っているのじゃよ。さあ、マクゴナガル先生。シビルを上まで連れていってくれるかの?」

 

 マクゴナガルは頷いて、トレローニー先生の片腕を支えた。すると、スプラウト先生がトレローニー先生のもう片方の腕を支え、フリットウィック先生が杖を上げ、トランクを宙に浮かせた。アンブリッジは悔しそうな表情でその様子を見ていた。

 

「さすがダンブルドアね。あのゲコゲコうるさいガマガエルを黙らせるなんて」

 

 ノエルが言った。その後、ダンブルドアは新しい『占い学』の教師として、ケンタウルスのフィレンツェを任命したのだった。



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破られた秘密

あけましておめでとうございます。


 DAではついに『守護霊』の練習を始めた。周りのみんなは杖から銀色の煙が少し出るくらいまでは進歩したが、ノエルの杖からは全く何も出てこなかった。

 

「ノエル。何か幸福なことを考えるんだ」

 

 ハリーが指導した。

 

「わかっているのよ。でも幸福って何かしら? 嬉しいことは人生で沢山あったけれど、特に何も覚えていないのよ。一応、大好きなお菓子を食べている時のことを考えてみているけれど……」

 

「想像でもいいんだよ。例えば、アンブリッジがクビになることとか……。君ならOWLで全教科Oを取る想像でもいいんじゃないのかな?」

 

 ハリーが言い終わるのと同時に『必要の部屋』のドアが開いて、閉まった。ドアの前には、毛糸帽子を八段重ねに被り妙な格好をした屋敷しもべ妖精が立っていた。

 

「やあ、ドビー」

 

 ハリーが挨拶をしたが、妖精は恐怖で目を見開き、震えていた。

 

「ハリー・ポッター様。あの女の人が……」

 

「アンブリッジかい? あいつがどうしたんだい?」

 

 ドビーはがっくり膝を床に着いてしまった。

 

「あの女が来るのかい?」

 

 ハリーが聞くと、ドビーは静かにうなずいた。

 

「みんな、逃げるんだ! 速く!」

 

 全員が出口に向かって突進した。

 

「ドビー。君は厨房に戻るんだ。絶対に僕の所に来たことを言ってはいけない」

 

「わかりました。ハリー・ポッター」

 

 ドビーはキーキー言うと一目散に走り去った。

 

「ノエル! 君も早く逃げるんだ!」

 

 まだ必要の部屋にいるノエルにハリーが叫んだ。

 

「大丈夫! 私、アンブリッジの授業の成績は最優秀で信頼されているし、あいつの取り巻きのスリザリンの連中とも仲は悪くないわ。私が足止めをするわ。早く遠くまで逃げて!」

 

 ノエルはハリーを『必要の部屋』から追い出した。

 

--この名簿が見つかったらまずいわね。

 

 ノエルは羊皮紙を壁から引き剥がそうとした。しかし、急いでいたせいで、『ダンブルドア軍団』と書かれた部分だけが残ってしまった。ノエルはポケットに羊皮紙を丸めて入れて、『必要の部屋』の外に出た。そして、みんなが出ていった方向とは正反対の足音が沢山聞こえる方向へと向かった。

 

「あら? ミス・ガーネット。こんなところで何を?」

 

 アンブリッジがノエルに尋ねた。

 

「アンブリッジ先生! ハーマイオニーかルーナを見かけませんでしたか? 私、勉強で聞きたいことがあってずっと探しているんです。ほら、ハーマイオニーは頭が良いですし、ルーナは普通の人には考えつかないようなことを考えるじゃないですか」

 

「私達は、ミスター・ポッターを探しているのですよ。ミス・ガーネット。きっと、ミス・グレンジャーも一緒にいるでしょう。一緒に探しましょう」

 

 アンブリッジが大きな口を開けて笑った。これはきっと優しい表情のつもりなのだろう。

 

「一緒に探してくださるのですか!? 嬉しいです。行きましょう。私、まだ図書館を探していないので一緒に行きませんか?」

 

 ノエルはアンブリッジとその取り巻き達を連れて、ゆっくりと図書館へ向かった。

 

***

 ハリーは逃げた先の男子トイレの個室であることに気づいてしまった。名簿の羊皮紙を『必要の部屋』忘れてきてしまったのだ。あれが見つかってしまえばDAのメンバーは全員、退学になってしまう。アンブリッジに信頼されているノエルでさえあの名簿に名前がある時点で退学だ。ノエルが持っていってくれたかもしれないがそんな余裕があったとは限らない。ハリーはそっとトイレから出て、必要の部屋に戻ってしまった。そして、部屋に入ろうとした時に、何かに踝を掴まれ、転倒してしまったのだ。

 

「『足すくい呪い』だ。ポッター!」

 

 マルフォイが言った。

 

「せんせーい。ポッターを捕まえました! アンブリッジ先生!」

 

 マルフォイが叫んだ。すると、アンブリッジがとんでもないスピードでやって来た。ゆっくり歩いていたせいでそこまで遠くに行っていなかったし、体力も有り余っていたのだ。そして、少し遅れてノエルとアンブリッジの取り巻きのスリザリンの生徒達が現れた。ノエルは別に拘束されているような様子はなかった。

 

「よくやったわね。ドラコ。スリザリンに五十点! あら? この部屋は何かしら?」

 

 アンブリッジはハリーの腕をつかみ、『必要の部屋』にずんずんと入っていった。

 

「あら? これは破けた羊皮紙ね……。ダンブルドア軍団ですって!?」

 

 アンブリッジは壁に張ってある破けた名簿を見た。『ダンブルドア軍団』と書いてある部分に画鋲が刺さっているのでそこだけ破けずに残ってしまったのだろう。

 

--ノエルは名簿を破いておいてくれたんだ!

 

 ハリーは一瞬ホッとした。しかし、ハリーが捕まってしまったのと、ダンブルドア軍団が存在がばれてしまったという事実は変わらないのだ。

 

「さあ、皆さん、ポッターの仲間を探してくるのです。きっと息が切れている人でしょう。ミス・ガーネットも手伝ってくれますよね?」

 

「え、あ、はい」

 

「そして、ポッター。一緒に校長室に行きましょう」

 

 アンブリッジは柔らかい声でハリーに言った。




ノエルが守護霊を創れる日はいつ来るのでしょうか!?そのシーンはもう決めているのですがどの動物にするのかが全く決まりません……。


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密告者

 ノエルは、アンブリッジの取り巻きの何人かと図書室に入った。図書館の奥には息を切らして、今にも倒れそうなネビルが立っていた。

 

「ねえ、あのグリフィンドールのロングボトム、怪しくないかしら? 完全に息が切れているわ」

 

「違うわ。最近、ネビルはよく図書館で勉強しているの。でも、彼、あんまり勉強が得意じゃなくて、息が切れてしまうから一時間に一回くらいはこうやって奥で休んでいるのよ。それに、あなた達が追いかけてきてから相当時間が経っているわ。もう寮に帰ってしまったのじゃないかしら?」

 

 ノエルが言うと、取り巻き達は納得した表情で図書館から出ていって、ノエルは安心した。しかし、こんな適当なことを言われても納得してしまう様子を見て、魔法界の将来が少し、不安になった。

 

***

 ロンとハーマイオニーは『必要の部屋』からは遠く離れた階段にいた。

 

「よかったわ! 捕まっていないのね」

 

 ノエルは二人に言った。

 

「ハリーは無事かい? 最後までいたじゃないか」

 

「……いいえ。アンブリッジに捕まってしまったわ。それに『必要の部屋』もばれてしまったの。ハリーは校長室に連れていかれたわ」

 

「そんな! ハリー、大丈夫かしら……」

 

「それに、あの部屋には名簿もあるじゃないか! うわー、ママに何て言われるんだろう……」

 

「あ、その事なら大丈夫よ」

 

 ノエルはポケットからくしゃくしゃになった羊皮紙を取り出した。

 

「ごめんなさい。思い切りとったせいで画鋲が貼ってあった『ダンブルドア軍団』って書いてあるところだけ残ってしまってアンブリッジに見られてしまったの」

 

「よかったわ。……でも、アンブリッジ--というか魔法省の人たちなら『ダンブルドア軍団』というだけで、ダンブルドアが反魔法省の軍団を作っていると考えかねないわ……」

 

「ねえ、ノエル。君、密告者じゃないの?」

 

 ロンが言った。

 

「違うわよ。なんでそう考えるのかしら?」

 

「だってさ、君のお父さんはスリザリンだし、君自身スリザリンの連中との仲は悪くないだろ?」

 

「ええ、そうね。でも、それだけじゃ理由にならないわ」

 

「君さ、わざわざ『ダンブルドア軍団』の文字だけを残して破いたよね。そりゃそうだ、自分が入ってるってバレたら困るもんね」

 

 ロンが言うと、呆れたようにハーマイオニーがため息をついた。

 

「ロン、迷推理お疲れ様。でも、違うわよ。私、名簿を作ったときに言ったわよね? 裏切り者がいればエロイーズ・ミジョンのニキビでさえ、かわいいソバカスに見えてしまうような呪いをかけたって。

 ニキビもソバカスもないノエルよりもソバカスのあるあなたの方がよっぽど怪しいわ」

 

「あー、そうかい。ごめんよ、ノエル」

 

 ロンが謝った。

 

「いいのよ。今日のDAにはいつもと変化があった人はいなかったわよね? じゃあ、今日参加していない人かしら?」

 

「うーん、誰だっけ? チョウ・チャンは来てたっけ?」

 

「チョウはいつも通りハリーに熱い視線を送っていたわ」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「待って! マリエッタはいたかしら? マリエッタ・エッジコム! レイブンクローのチョウと仲が良い子よ!」

 

「うーん。僕は見ていない気がする」

 

「私もよ……。少なくとも名簿に書かれている彼女以外のメンバーは今日、見たような気がするわ」

 

「あの子、元々DAに乗り気ではなかったし、彼女のお母様は魔法省で働いてるアンブリッジに協力的なエッジコム夫人なのよ」

 

 ノエルが言うと、ロンは納得のいかなそうな顔をした。

 

「僕のパパだって魔法省で働いている! 君の両親もだ!」

 

「あなたのお父様はそんなにファッジに肩入れをしていないじゃない。……私は、反抗期よ。パパと私の洗濯物は一緒に洗いたくない年頃よ」

 

 ノエルが言った。すると、下から足音が聞こえてきた。

 

「ずっとここにいるのはあまり良くなさそうね。寮に戻りましょう」

 

 ハーマイオニーが言った。三人は寮に帰っていった。



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尋問官親衛隊

 その日のうちに談話室は魔法省令は貼られていた。アンブリッジを校長にするという内容だった。ダンブルドアは逃亡し、その時にダンブルドアは闇祓いを二人、高等尋問官、魔法大臣、その補佐官を倒したという話が一夜にして広まった。

 

「やあ、ノエル」

 

 次の日の朝、マルフォイがノエルに声をかけた。彼とノエルは親同士が友人で幼い頃からよく会っていたのだ。マルフォイの胸の監督生バッチの下には『I』の形をした銀色のバッチがついていた。

 

「おはよう。ドラコ。あら? そのバッチはどうしたの?」

 

「これは『尋問官親衛隊』のバッチなんだ。魔法省を支持する学生をアンブリッジ先生が選び任命してくれたんだ。監督生を減点する力もあるんだ」

 

 マルフォイは気取りながら言った。

 

「それはすごいわね。おめでとう、ドラコ」

 

「ありがとう。それで、アンブリッジ先生は君も『尋問官親衛隊』に任命したいとお考えなんだ」

 

「まあ、嬉しいわ。でも、みんなスリザリンじゃないの? 私なんかが入っていいのかしら?」

 

 ノエルが尋ねた。

 

「君のお父様は魔法省に協力的だ。それに、君もアンブリッジ先生の授業で素晴らしい成績を修めている。アンブリッジ先生はノエルのことを非常に評価しているんだ。寮は関係ないよ」

 

 マルフォイが言った。今日の彼は妙に饒舌だった。

 

「さあ、アンブリッジ先生の所に行こう。アンブリッジ先生がお待ちだ」

 

 マルフォイは歩き始めたのでノエルは仕方がなくその後を着いていった。ノエルはあまり彼のことが得意ではない。むしろ、少し苦手だ。けれど、父がマルフォイとは仲良くするように、と言うので仕方がなく仲良くしているのだ。ノエルはマルフォイの後を着いて、校長室まで着いた。

 

「おはよう。ミス・ガーネット」

 

 アンブリッジは甘ったるい少女のような声で言った。

 

「おはようございます。アンブリッジ先生」

 

「ミス・ガーネット、お話はミスター・マルフォイから聞いたかしら?」

 

「えぇ、聞きました」

 

「なら、あなたを『尋問官親衛隊』に任命しますわ」

 

 アンブリッジはノエルのローブにマルフォイと同じバッチを着けた。

 

 --え! いきなり!? 私、承諾していないんだけどな……

 

「光栄ですわ。アンブリッジ先生」

 

「ミスター・マルフォイから聞いていると思いますが、あなたには減点する力が与えられるわ。監督生もね。私のために働いてくださることを望むわ」

 

 アンブリッジはノエルの肩を叩いた。

 

「さあ、戻ってもいいわよ。ミスター・マルフォイもありがとう」

 

「失礼します。アンブリッジ先生」

 

 ノエルとマルフォイは校長室から出ていった。

 

「ねえ、ノエル」

 

「どうしたの?」

 

 ノエルが聞いた。

 

「あのさ、うん、君とこうやって二人で話すのって小さい時ぶりだって思って」

 

「そうね。ホグワーツに来てからは二人でいることなんてなかったもの。……あ、私、行かなきゃ。バイバイ」

 

 ノエルはさっと駆け出していった。

 

「待って……」

 

 マルフォイの声はノエルには届かなかった。

 

***

「--バカなばばぁね。権力に取りつかれた……」

 

「おーや、最後まで言うつもりかい? グレンジャー?」

 

 マルフォイがクラップとゴイルを従えて、話していたハリー、ロン、ハーマイオニー、そして、アーニー・マクミランの前に現れた。

 

「あれ? マルフォイ、君、機嫌悪い? 女の子にでもフラれたのかい?」

 

 アーニーが言った。

 

「うるさい! まだ決まっていない! ハッフルパフから十点減点だ」

 

「監督生同士は減点出来ないのよ。ご存じないのかしら?」

 

「アーニーの顔を覚えていないんじゃないかい? 記憶力が悪いんだよ。記憶力お化けのノエルが鼻で笑うぜ」

 

 ロンが笑った。

 

「グリフィンドール、十点減点」

 

「一体なんなんだよ……。とにかく、僕も監督生だぜ。減点は出来な--。ハーマイオニー? 何を見ているんだい?」

 

 ロンがハーマイオニーに聞いた。ハーマイオニーは寮。点数を記録した砂時計を見ていた。ハリーとロンとアーニーも同じ方を見た。

 

「さっき見た時よりも減ってないかい?」

 

 ハリーが言った。

 

「うん。ビリを独走していたハッフルパフも減っている気がするよ。多分、誰も気にしないだろうけどね」

 

「今朝までグリフィンドールとレイブンクローが接戦だったのよ」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「やっと気づいたようだね。たしかに監督生同士は減点できない。それに、君たちが監督生という事ぐらい覚えている。でも、『尋問官親衛隊』なら……」

 

「なんだい? それは?」

 

 ロンが即座に聞いた。

 

「魔法省を支持する少数の学生グループさ。アンブリッジ先生の選り抜きだよ。そして、僕たちは減点する力を持っているんだ。

 --グレンジャー、アンブリッジ先生に対する無礼な態度で五点減点。マクミランは癪に障ることを言ったから五点減点。ウィーズリーもだ。あと、シャツもはみ出しているからもう五点減点だ。ポッターはなんだか気に食わないから五点減点。そうだ、グレンジャーは穢れた血だ。だから、五点減点」

 

 ロンは杖を抜いた。ハーマイオニーはロンから杖を奪い取り、止めた。

 

「賢明な判断だな。グレンジャー。クラップ、ゴイル、行くぞ」

 

 三人は笑いながら去っていった。

 

「マルフォイの野郎……。あんなこと言いやがって。次こそとっちめてやる」

 

 ロンが言った。

 

「別にいいわよ。一年の辛抱よ。そんなことよりもマルフォイの面白い弱みを握った気がするわ」

 

 ハーマイオニーは満足そうな表情で言った。

 

「それは、なんだい?」

 

 ハリーが聞いた。

 

「そうね。考えてみるといいわ。アーニーが最初に言ったことに対するマルフォイの返事は『まだ』って言ってたわよね?」

 

「あいつ、好きな女子がいるんだ!」

 

 アーニーが言った。

 

「誰なのか分かれば最高なんだけどな」

 

 ロンが言った。

 

「あら? わからなかったかしら? あなた、ノエルに恋愛小説を借りたほうがいいわよ。--あのね、きっとマルフォイはノエルのことが好きなのよ。お父様同士が親しくて昔から知り合いだって、ノエルが言っていたわ」

 

「そういえば、ロンがノエルのことを話した途端に減点したっけ。さっき何かあったんじゃないかな?」

 

 ハリーが言った。

 

「面白いことを聞いたな。相棒」

 

「ああ、そうだな。マルフォイ坊っちゃんの初恋か。いや、初恋はママかな?」

 

 上から声が聞こえてきた。その声の主はフレッドとジョージだった。二人は階段から降りてきた。

 

「僕たち、さっきあいつに五十点位減点されたんだ」

 

 ハリーが怒りながら言った。

 

「僕たちもさっきモンタギューのやつに減点されそうになった」

 

 ジョージが言った。

 

「『しようとした』?」

 

 ロンが聞いた。

 

「最後まで言い終わらなかったのさ。俺たちが『姿をくらます飾り棚』に突っ込んでやったんだ」

 

 フレッドが言った。ハーマイオニーはショックを受けた顔をした。

 

「それ、相当まずいわよ」

 

「モンタギューが現れるまで大丈夫さ。

--とにかくだ、俺たちは問題に巻き込まれることをもう気にしないのさ」

 

 フレッドが言った。

 

「確実に問題を引き起こしている方だと思うけどね」

 

 ロンが言った。

 

「でも、一度も退学になっていないだろ?」

 

 ジョージが言った。

 

「僕たちは常に本当の大混乱を引き起こす前に踏みとどまったんだ。

 

 だけど、ダンブルドアはもういない」

 

 フレッドが言った。

 

「ちょっとした大混乱こそ」

 

 ジョージが言った。

 

「まさに、親愛なる校長にふさわしい」

 

 フレッドが言った。

 

「君たちは昼食を早めに食べた方がいいぜ。そうすれば疑われずに済むからな」

 

 ジョージが言った。そして、その後にノエルがやって来た。

 

「あぁ、探したわ。私、よくわからないけれどアンブリッジに『尋問官親衛隊』に選ばれちゃったのよ」

 

 ノエルはポケットからマルフォイが着けていたのと同じバッチを取り出した。

 

「あんなババアの親衛隊なんて信じられないわ! きっと何かが起こる度に呼び出されるのよ!」

 

「君は今すぐに仮病を使って医務室に籠るべきだな」

 

 フレッドが言った。 

 

「どうして?」

 

「あのね、これからフレッドとジョージが騒ぎを起こす予定なのよ。きっと処理に駆り出されるわ」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「でも、私、仮病なんて出来るかしら……?」

 

 ノエルが言うと二人はお菓子の箱をノエルに渡した。

 

「真面目な君は知らないだろうけどこれは『ずる休みスナックボックス』だ」

 

 ジョージが言った。

 

「これを食べるといろいろな症状が--これなら高熱だな--が現れるんだ。まあ、使い方は箱に書いてある」

 

 フレッドが言った。

 

「ありがとう。でも、もらってもいいのかしら? あなたたちが作ったのでしょう?」

 

 ノエルが聞いた。

 

「ああ、『尋問官親衛隊』の任命祝いだ」

 

 ジョージが言った。二人は大広間の人混みに消えていった。

 

「じゃあ、私も医務室に行ってくるわ。二人にもう一回お礼、言っといてもらえるかしら?」

 

 ノエルは医務室に向かっていった

 

「じゃあ、僕も『変身術』の宿題を終わらせてくるよ」

 

 アーニーは図書館に向かった。すると、アーニーと入れ替わりにフィルチがやって来た。

 

「ポッター、校長がお呼びだ」

 

「僕がやったんじゃない」

 

 ロンがハリーの足を蹴っ飛ばした。ハリーは大人しくフィルチの後を着いていった。



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双子の暴走

 ノエルは二人からもらった『ずる休みスナックボックス』を開けた。中には二つの袋が入っていて、一つは症状を出すとき、そしてもう一つは症状を止めるときに使うものだった。ノエルは一つを噛った。すると、体が重くなって熱が出たときと同じ症状になったのだ。ノエルは二人に感心しながら医務室に入った。

 

「すいません、熱があって……。少しここでおやすみしてもいいですか?」

 

 ノエルはマダム・ポンプリーに尋ねた。すると、マダム・ポンプリーはベッドに案内してくれた。そして、薬を渡して、安静にしているようにと言った。ノエルは薬の代わりにもう一つを食べて、症状を止めた。ベッドに入って少しすると大きな音がして、部屋の床が揺れた。大広間の方からは走り回る音や悲鳴が聞こえた。おそらくフレッドとジョージお手製の花火を爆発させたのだろ。アンブリッジとフィルチ、そして、尋問官親衛隊たちが花火と格闘している様子が声だけでわかった。

 

***

 その日の最後の授業はノエルの苦手な『呪文学』だったのでその時間から授業に参加した。すると、例の花火が教室に入ってきた。

 

「あぁ、どうしよう。花火を退治することは私でも出来るけどそんな権限があるかどうかわからない。校長先生を呼んできます。みなさんは『失神呪文』の練習をしていてください」

 

 フリットウィック先生はキーキー声で言った。すると、生徒たちは花火に向けて『失神呪文』を何回も使った。ノエルは今まで全く出来なかった『失神呪文』が出来るようになった。

 

 フリットウィック先生がアンブリッジを連れて戻ってきた時には教室中が花火だらけになっていた

 

「あなたたち、『失神』させようとしましたね? フリットウィック先生? なぜ、生徒にその事を言わなかったのですか?」

 

「この事は『呪文学』と一切関係のないことですから。校長先生、お願いします。さあ、授業に戻りますよ」

 

 その後、アンブリッジが花火と格闘しているのを眺めながら授業が続けられた。結局、アンブリッジは終業ベルが鳴る少し前までボロボロになりながら花火と格闘して、なんとか追い払うことに成功したようだった。ノエルはフリットウィック先生がにっこり笑って今にも噛みつきそうな表情のアンブリッジの鼻先で教室のドアをピシャリと閉めるのを見た。

 

「やあ、ノエル。僕たちの『ずる休みスナックボックス』はどうだったかい?」

 

「アンブリッジの様子じゃあ『ウィーズリーの暴れバンバン花火』も観れたようだ」

 

 うしろからフレッドとジョージがやって来た。

 

「ええ、素晴らしかったわ。あ、花火だわ。『ステューピファイ』。私、今までこの呪文使えなかったのに使えるようになったのよ」

 

「そりゃあいいや。『失神呪文』の練習に買わないかい? 『基本火遊びセット』が五ガリオンで『デラックス大爆発』が十ガリオンだ」

 

「考えとくわ」

 

「それから、イースター明けの午後五時頃に騒ぎを起こす予定だ。アンブリッジに巻き込まれたくないなら人気のない高い所にいるといいと思うぜ」

 

 フレッドが言った。

 

「出来れば玄関ホールが見える場所がいいな」

 

 ジョージが言った。そして、二人は行ってしまった。

 

***

 イースター明けの午後五時前、ノエルは一人でふくろう小屋で本を読みながら、玄関ホールの方を眺めていた。いきなり大きな音がなり、その音は何回も続いてなった。

 

「一体ノエルはどこに行ったのよ! あの子、一回も仕事をしていないわ」

 

 パンジー・パーキンソンが叫ぶ声が聞こえた。そして、フレッドとジョージが玄関ホールまで出てきて、その後、アンブリッジと尋問官親衛隊たちが玄関ホールに出てきた。そして、大勢の生徒がそれを取り囲んだ。フレッドとジョージの頭上ではピーブズがひょこひょこと浮いていた。

 

「それじゃ、あなたたちは学校の廊下を沼地に変えたら面白いとお考えなのね?」

 

「相当面白いね。あんたの顔くらい」

 

 フレッドが恐れる様子もなく言った。

 

「そうですか。なら、わたくしの学校で悪事を働けばどうなるかを思い知らせてあげましょう」

 

 アンブリッジが言った。

 

「それが、思い知らないんだ。ジョージ、俺たちは学生稼業を卒業しちまったようだな」

 

「あぁ、俺もそう思うよ」

 

 二人は同時に杖を上げて、同時に唱えた。

 

「アクシオ! 箒よ、来い!」

 

 フレッドとジョージの箒はとんでもない勢いで二人のもとに飛んできた。何人かの生徒は間一髪でかわしたようだった。

 

「またお会いすることもないでしょう」

 

「ああ、連絡もくださいますな」

 

 二人は箒にまたがった。

 

「さっき実演した『携帯沼地』のお求めは、ダイアゴン横丁九十三番地の『ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ』までお越しください」

 

「我々の商品をこのガマガエルババアを追い出すために使うと誓ってくれた生徒には特別割引をいたします」

 

「ガマガエルですって!? 二人を止めなさい!」

 

 アンブリッジは叫んだが、双子はもう空中にいた。そして、フレッドはピーブズに

 

「俺たちに代わってあのガマガエルをてこずらせてやれよ」

 

と言った。すると、なんとピーブズは帽子を脱ぎ、敬礼をしたのだ。二人はそのままふくろう小屋の前まで飛んできて、ノエルに手を振りながらホグワーツを後にしたのだった。



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ふ・く・ろ・う

学校がついに始まりました。冬休み中は十時間睡眠だったのにいきなり六時間睡眠になるとキツいです。


 残念ながら、グリフィンドールのロンの活躍によりクィディッチにレイブンクローは敗れてしまった。そして、六月になり、ホグワーツの五年生にはOWLが確実に近づいてきた。五年生たちは毎日、狂ったように勉強をして、何人かはおかしな行動をとりはじめていた。アーニー・マクミランは誰かまわず捕まえて勉強の質問をするという癖がつき、みんなをイライラさせた。

 

「ノエル、一日どのくらい勉強してる?」

 

 ノエルが図書館に向かおうとしているときに、同じく行こうとしていたマクミランが尋ねてきた。

 

「え? 十一時間位かしら。寝てるとき以外はずっと勉強しているわ。あなたは?」

 

「あー、うん。それよりほんの少し短いくらいかな。うん。君も12OWLを目指しているのかい? 君のお兄さんのルイス・ガーネットは12OWLを取ったって聞いたことあるんだ」

 

「いいえ。私、『魔法生物飼育学』と『占い学』と『マグル学』は取っていないもの。12OWLは私の母も取ったわ」

 

 ノエルが言った。するとアーニーはノエルにたくさんの質問を投げかけてきた。そして、質問に疲れきった頃に図書室に着いて二人は別れた。

 

***

 レイブンクローの談話室でのことだった。ノエルが教科書を読んでいると六年生のエディ・カーマイケルが話しかけてきた。

 

「やあ、ノエル。僕が去年、九科目もOを取れたことは知っているよね?」

 

「え? 知らないわ」

 

 ノエルが言った。

 

「あぁ、そうかい。でも、君も九教科でOWLを受けるし、すべての教科でOを目指している。そうだろう?」

 

 少し残念そうな顔をしながらもカーマイケルは話し続けた。

 

「そこでだ、君にこの『バルッフィオの脳活性薬』を紹介したいんだ。僕はこれのおかげで9OWLがとれた」

 

 ノエルが呆れた顔をしたがカーマイケルは話し続けた。

 

「もちろんただでとは言わない。でも、君は同じレイブンクローの生徒だ。OWLでよい成績をとれると考えたらほとんどただのようなものだ。--十二ガリオンでどうだい?」

 

 ノエルはカーマイケルから瓶を奪い取り中身を窓の外に流してしまった。

 

「こんなの役に立たないわ。本物は役に立つかも知れないけど、それ、ドクシーの体液よね? あなた、ドクシー好きなの? ハーマイオニーから聞いた話だと、ドクシーの糞も売っていたとか……」

 

***

 試験の日はすぐにやって来てしまった。二週間にわたって行われる試験の最初は『呪文学』の理論だ。理論はノエルの得意分野なので午後に行われる実技の練習を行っていた。DAのおかげでノエルには自信が着いてきて、OWLレベルの魔法なら難なくこなせるようになっていた。

 

 午前の理論が終了したあと、ハーマイオニーはノエルの元にプルプル震えながらやって来た。

 

「あぁ、どうしようかしら……。『元気の出る呪文』は十分に答えられたのか自信がないの。しゃっくりを止める反対呪文は……」

 

「ハーマイオニー、終わった試験をいちいち復習しても意味はないわ。それよりも次の試験に備えながら昼食をとりましょう」

 

 ノエルがハーマイオニーを落ち着かせながらグリフィンドールの机に連れていき、すぐにレイブンクローの机に戻るとパンを咥えながら杖を振り回していた。昼食を終えると五年生は大広間の脇にある小部屋に移動して、実技試験に呼ばれるのを待った。ノエルはハーマイオニーと一緒に名前を呼ばれた。

 

「お互い頑張りましょう。ノエル」

 

「そうね。私たち今まで一番頑張ってきたもの」

 

 二人はそれぞれの試験官のところへ行った。特に失敗もなく安定して全ての呪文を成功させることができた。ハーマイオニーもしっかり出来ていて終了後は、不安だと言いながらも少し、嬉しそうだった。

 

 次の日は『変身術』だった。午前の理論はいつも通り完璧だった。『変身術』は以前ほどではないが、ノエルの一番苦手な教科で少し、失敗してしまったが訂正したら、完璧な様子になったし、理論は良くできたので成績はそれほど悪くないだろう。

 

 水曜日の『薬草学』は前日の二教科よりも良くできた。

 

 木曜日は『闇の魔術に対する防衛術』だった。

 

--これで、杖を使う教科は最後だわ。

 

 ノエルはそう思いながら試験に臨んだ。実技の防衛呪文は成功したものの、弱々しいものになってしまった。ただ、理論は『変身術』同様、良くできたので、そこまで問題はないだろう。

 

 金曜日はノエルの得意教科の一つの『古代ルーン文字』だった。終了後、ハーマイオニーが不安そうな顔でノエルに近づいてきた。

 

「ねえ、ノエル……。エーフワズって……」

 

「終わった試験を復習するのはやめましょうよ」

 

「でも、これだけ聞かせて。エーフワズは防衛って意味よね?」

 

「エーフワズは協同じゃないかしら? アイフワズよ。防衛は」

 

 ノエルが言うとハーマイオニーは酷くショックを受けたような表情になった。

 

「大丈夫よ。そんな少しの間違いなんて。そんなの気にしていたらキリがないわ。特に実技の私はね」

 

「そうかしら……。あら? アンブリッジじゃないの。ニフラーに噛まれてる?」

 

 ハーマイオニーが校長室の方を指差した。そこではアンブリッジが顔を歪めて暴れていた。

 

「痛い! ハグリッドね、きっと!」

 

 アンブリッジはものすごい剣幕で叫んでいた。二人は見なかったふりをしてそれぞれの寮に戻った。

 

***

 月曜日は『魔法薬学』だった。ノエルの一番得意な教科だ。正直、ノエルはこの教科は筆記、実技ともに満点をとれたのではないかと思った。スネイプを毛嫌いしているグリフィンドールの生徒も落ち着いて調合が出来ているような気がした。

 

 水曜日は『天文学』だった。午前にいつも通り、筆記を行い、夜に塔のてっぺんっで実技を行った。ノエルは問題を解き終えて、少しだけ目を休めようと、外を見ると、五つの影が芝生を歩いているのが見えた。よく、目を凝らして見ると、その影はアンブリッジと魔法省の人だった。彼らは森の方へと向かっているように見えた。ひとまず、ノエルは試験に戻ると、次は吠え声が聞こえてきたのだ。何人かが窓の外を見始めた。アンブリッジたちはハグリッドの小屋の前にいた。ハグリッドが小屋の戸を開けると五人はハグリッドをめがけて杖から細く、赤い光線を出した。『失神』させようとしているのだ。しかし、不思議なことに光線はハグリッドの体で跳ね返されているようだった。すると、もう一つの細長い影が現れた。マクゴナガル先生だった。マクゴナガル先生がその場に走って行くと、四本の『失神光線』がマクゴナガル先生に向かって発射されたのだ。マクゴナガル先生は仰向けに倒れてしまった。試験官のトフティ教授も含め、もう、全員が試験のことを忘れている様子だった。アンブリッジはハグリッドを捕らえようとしたが、校門へと走り、逃げてしまった。そこで、トフティ教授は、

 

「あと五分ですぞ」

 

と告げた。しかし、誰も試験に戻ることができず、ついさっきの出来事で放心状態となってしまっていた。



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校長室へ

 ノエルは『数占い』も『魔法史』も終えて、ルーナと廊下を歩きながら話をしていた。すると、ハリーの声が教室から聞こえて、ジニーが不思議そうな顔をして入っていくのが見えた。ルーナもジニーについて教室に入っていったので、ノエルもその後に続いた。

 

 ハリーはルーナに悪態をついていた。

 

「ねえ、三人とも。手伝ってもらえる? ハリーはアンブリッジの部屋の暖炉を使いたいの。だから、人を寄せ付けないようにしてほしいの」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「ちょっと待って! シリウスは今、拷問されているんだ。今すぐ、行かないと!」

 

 ハリーが言った。

 

「お願い。ハリー。もし、家にいなければ私たち、一緒に行くから。だから、お願い! それに、ヴォルデモートの罠だったらどうするの?」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「シリウスってあのシリウス・ブラック?」

 

 ノエルが怪訝そうな顔をした。

 

「スタビィ・ボードマンだよ」

 

「あのね、ノエル。シリウスは無罪なのよ。信じられないかも知れないけれど、私たち、何回も会っているのよ」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「うーん。信じられないけど、あなたたちが『服従』されている様子はないし……。うん。私、協力するわ。OWLの実技でしっかりできたのもハリーのおかげだもの」

 

 ノエルが言った。

 

「私もやるわ」

 

 ジニーが言った。ルーナも頷いた。

 

「オーケー。じゃあ、早くしないと。いったいどうするんだい?」

 

 ハリーが言った。

 

「僕がアンブリッジを『変身術』の部屋まで連れていくよ。ピーブズが滅茶苦茶にしてるとか言ってね」

 

「わかったわ。そして、残った私たちは他の生徒もあの部屋から遠ざけるの。私はアンブリッジの部屋の中で見張っているわ。ジニーとノエルとルーナは……」

 

「廊下に立つわ。誰かが『首絞めガス』を流したとでも言っておくわ」

 

 ジニーが言った。

 

「どうせなら、本物を流してしまいましょう。さっき、フレッドとジョージから注文していたのが届いたのよ」

 

 ノエルは持っていた包みからスプレーの缶を取り出した。

 

「面白い商品だって思って買ってみたの。ルーナとジニーが人を遠ざけたらガスを流すわ」

 

「あ、みんな、ありがとう」

 

 ハリーが言った。

 

「じゃあ、ハリーは透明マントを取ってきて」

 

 ハーマイオニーが言った。ハリーはすぐに戻ってきた。

 

「じゃあ、そろそろ始めましょう。ノエル、お願いだから私たちがアンブリッジの部屋に入る前にガスを流さないでちょうだいね」

 

「わかってるわ。みんな、頑張りましょう」

 

 五人は各々の役割を果たしに動き始めた。

 

 ノエルは人がいなくなって、ハリーとハーマイオニーが部屋に入ったのを確認すると、口と鼻をしっかり覆ってガスを流した。そして、そっとその廊下から出ていった。

 

 ジニーの方に行くと何人かの生徒が不満でブーブー言っていた。

 

「僕は急いでいるんだ! 通るからな!」

 

 スリザリンの男子生徒が廊下に歩いていってしまった。しかし、すぐにその場に苦しそうに倒れてしまった。

 

「ほら、言ったでしょ? 他の廊下を通った方がいいわ。他の人にも言っておいて」

 

 ジニーがそう言うと、みんな諦めて廊下からいなくなった。

 

「上手くいったわ。もう誰もいないわよ」

 

 ジニーは上機嫌そうにノエルに言った。そして、ジニーの後ろからはマルフォイがやって来た。

 

「ノエル。アンブリッジ先生の部屋に何かが入り込んだらしいんだ。犯人を探そう。アンブリッジ先生はきっとポッターの奴が犯人だと思っているけどね」

 

 マルフォイが言った。

 

「そうなのね……。ジニー? ハリーがどこに行ったかは知らないかしら?」

 

「え!? し、知らないわ。検討もつかないわね」

 

 ジニーが言った。

 

「私も最後に見たのは三、四十分前に教室の方で見たっきりだわ」

 

 ノエルが言った。

 

「そうか……。じゃあ、一緒に探しに行かないか?

 ……あ! アンブリッジ先生! どうしたんですか?ん? それはウィーズリー?」

 

 アンブリッジが奥の方からやって来た。ワリントンがロンを取り押さえていた。

 

「犯人は確実にポッターです。この、ウィーズリーが私を『変身術』の教室へと誘き寄せようとしたのです。きっと、ミス・ウィーズリーも共犯でしょうね」

 

 アンブリッジが言った。すると、二人の大柄なスリザリン生がルーナとネビルを取り押さえてやって来た。きっと、ネビルはルーナと廊下で会い、協力していたのだろう。

 

「こいつらも犯人です!」

 

「ありがとう。さあ、みなさん、校長室へ行きますよ」

 

 アンブリッジが言った。

 

「待ってください! 『首絞めガス』は本当みたいです。ここに転がっているスリザリンの人、ここを通った途端に苦しそうに倒れたんです。だから、ガスの効果がなくなるまで待った方がいいと思います」

 

 ノエルが言った。

 

「あら、そうなの。わかったわ」

 

 アンブリッジは杖を取り出し、呪文を唱えた。

 

「これで大丈夫でしょう。教えていただきありがとう。ミス・ガーネット」

 

 アンブリッジはそのまま廊下を進んでいった。ガスはアンブリッジの呪文によってなくなったらしい。

 

***

 ノエルが一番最後に校長室に入った。その時にはアンブリッジはすでにハリーとハーマイオニーを捕まえていた。そして、程なくしてスネイプがやって来た。マルフォイが呼んできたのだ。

 

「お呼びですか? 校長?」

 

「ええ、『真実薬』をいただきたいの」

 

「わかりました。一ヶ月のうちに準備をしましょう」

 

 スネイプが言った。すると、アンブリッジの顔が真っ赤になった。

 

「一ヶ月!? 私は今すぐ必要なのです! --結構です。私の部屋から出て行ってください」

 

 アンブリッジが言うと、スネイプは部屋から出ていこうとした。すると、いきなりハリーが叫んだのだ。

 

「パッドフットが捕まった! あれが隠されている場所だ!」

 

 --パッドフット? シリウス・ブラックのことかしら? そして、あれって……? 神秘部に何があると言うの?

 

 スネイプは一瞬、ドアノブに手をかけて静止したが、訳がわからないという顔をして、出ていってしまった。



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セストラル

「ポッター、何をしていたのか吐く気は無いのですね。わかりました。--『磔の呪い』なら舌も緩むでしょう」

 

 アンブリッジは落ち着かない様子で杖を取り出した。

 

「それは違法です! アンブリッジ先生!」

 

 ハーマイオニーが叫んだ。

 

「コーネリウスが気づかなければ問題ありません。夏に、私が吸魂鬼を差し向けたように」

 

 アンブリッジがすらすらと言った。

 

『クル……』

 

「やめて!」

 

 ハーマイオニーが叫んだ。

 

「白状しましょう! どうせ、この人はあなたから無理やり聞き出すわ!」

 

 ハーマイオニーは泣き出した。

 

「みんな、ごめんなさい……。でも、私、我慢できないわ」

 

 アンブリッジはハーマイオニーを自分の椅子に座らせ、

 

「さあ、教えなさい。ポッターは一体誰と連絡を取っていたの?」

 

と優しく聞いた。

 

「ハリーは、ダンブルドア先生と話そうとしていたんです。--あれが、--武器が完成したって」

 

 ハリーたちは耳を疑った。あのルーナでさえも驚いた顔をしていた。

 

「なら、武器の所へ案内しなさい。あなたと私と、ポッターで行きましょう」

 

 アンブリッジはハーマイオニーを立たせた。マルフォイが、

 

「誰か親衛隊の者が一緒に……」

 

と言った。

 

「私は魔法省の役人です。杖を持たない十代の子ども二人くらい一人で扱いきれます。あなたたちは他の連中が逃げないようにしていなさい」

 

 アンブリッジはそう言うと、ハリーとハーマイオニーを連れて、校長室から出ていった。

 

「私がこの人たちの杖を持っておくわ」

 

 ノエルが親衛隊のメンバーに言った。取り押さえるのに精一杯な彼らはノエルに、ハリー達から奪った杖を渡した。そして、全部の杖を回収したノエルは、校長室のドアの方まで行った。そして、笑顔で呪文を叫んだ。

 

『エクスペリアームス!』

 

 親衛隊たちの杖は持ち主の手から離れて宙を舞った。そして、それに驚いて捕まっていたロンやルーナたちを離してしまった。ノエルはそれぞれに杖を返した。親衛隊たちが自分の杖を拾い終わる前に、彼らはノエルたちにボコボコにされてしまった。ハリーに鍛えられた呪文が役に立ったのだ。

 

『ブラキアビンド』

 

 最後にノエルが唱えた。すると、親衛隊たちは縛り上げられた。

 

「私たち、よくやったわよね?」

 

 ノエルが言った。

 

「ええ、もちろんよ。……ところで、ネビルはどこから沸いて出てきたの?」

 

 ジニーが言った。

 

「ルーナが親衛隊に捕まりそうになっていて、助けようとしたらなぜか捕まったんだ。一体何がなんだか……」

 

 ネビルが言った。

 

「とりあえず、ハリーたちの所に行かないかい? 禁じられた森の方が騒がしい。きっと、そっちにいるんだ。ネビルは行くときに話すよ」

 

 ロンが言ったので、全員頷いて禁じられた森の方へ向かった。

 

***

「ハリーは名付け親のシリウス・ブラックと話したくてアンブリッジの部屋に侵入したんだ。でも、シリウスは神秘部で拷問されている」

 

 ロンが言った。

 

「え!? シリウス・ブラックだって! しかも、ハリーの名付け親? 僕が見たときは恐怖でしかなかったんだけどな……」

 

 ネビルは顔をしかめながら言った。

 

「若干ネビルのトラウマになってるみたいね……」

 

 ジニーが言った。

 

「大丈夫さ。シリウスは家に落ち着いてから、見違えるほどハンサムになったから」

 

 ロンが言った。

 

「そういう問題じゃないと思うのだけど……」

 

 ジニーは誰にも聞こえないように呟いた。

 

「あ、セストラルだ」

 

 ルーナが指を指して言った。そこには、いつも馬車を引いている生物がたくさんいた。

 

「ほんとだわ。ルーナ、あなたも見えるのね」

 

 ノエルが言った。ルーナは手を振りながら森のもっと奥へと進んでいった。すると、ハリーとハーマイオニーが見えた。

 

「ハリー! シリウスはどうだったんだ!?」

 

 ロンが聞いた。

 

「いない。やっぱり神秘部にいるんだ。一体どうやってロンドンに行けばいいんだろう」

 

 ハリーが答えた。

 

「それなら簡単よ。ほら」

 

 ルーナが今までで一番冷静な声でセストラルを指差した。

 

「ルーナ。そこには何も……」

 

 ハーマイオニーが言いかけた。

 

「それだ! セストラルに乗っていけばいいんだ」

 

 ハリーが言った。

 

「ロン、ハーマイオニー。急ごう」

 

「ちょっと待って。ハリー」

 

 ジニーが言った。

 

「私も行くわ」

 

「君はまだ……」

 

「だって、賢者の石をあなたが守った時よりも三つも上よ」

 

「それは、そうだけど……」

 

「DAは『例のあの人』と戦うためじゃなかったの?」

 

 ネビルが言った。

 

「そうだよ。もちろんだ」

 

 ハリーが言った。

 

「なら、私たちも行かないと。それに、DAじゃなくても私たち、もう友達でしょう? もし、あなたがそう思っていなくても、私はそう思っているんだから助けるわ」

 

 ノエルが言った。

 

「私も。……友達だもン」

 

 ルーナが言った。

 

「どちらにしろ、ここにはセストラルは三匹しかいない。全員は連れていけないよ!」

 

 ハリーが言った。四人はまだ、強い眼差しでハリーを見つめていた。すると、傷痕が強く疼いた。これ以上抗議している暇はないのだ。

 

「わかったよ。もう勝手にしてくれ。セストラルを用意できるのならね」

 

「来ると思うよ。だって、あんたたち、血まみれだもン」

 

 ルーナが言った。すると、ルーナが言った通り、大量のセストラルがやって来た。

 

「しかたがない。どれかを選んで乗ってくれ」

 

 ハリーが言った。



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神秘部

 日が落ちた頃、七人のホグワーツの生徒はロンドンの電話ボックスの前に立っていた。

 

「ここに入って」

 

 ハリーがみんなを急かした。

 

「みんな入った? 誰かダイヤルして! 62442!」

 

 ロンは不思議そうな顔をして、腕全体を曲げながら数字を回した。すると、電話ボックスからは女性の声が聞こえた。

 

「魔法省へようこそ。お名前を用件をおっしゃってください」

 

「ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャー、ジニー・ウィーズリー、ネビル・ロングボトム、ルーナ・ラブグッド、ノエル・ガーネット……ある人を助けに来ました!」

 

「ありがとうございます。外来の方はバッチをお取りになり、ローブの胸にお着けください。魔法省へ外来の方は……」

 

「早くしてくれないか!?」

 

 ハリーが大声を出した。しかし、話すのは止まらず、話し終わると電話ボックスがガタガタと揺れ、電話ボックスは地下へと降りていった。

 

「魔法省です。本夕はご来省ありがとうございます」

 

 ドアがパッと開いた。魔法省にはもう、誰もいなかった。ハリーはエレベーターまで行き、ボタンを押した。誰もいないためすぐにエレベーターは来た。そして、九階のボタンを押した。

 

「神秘部です」

 

 女性の声がして、エレベーターは開いた。ここにも誰もいないようだった。

 

「行こう」

 

 ハリーが先頭になって歩いていった。扉を開けると、真っ暗な円形の部屋が広がっていた。すると、突然部屋が回り始めた。

 

「見て、沢山扉があるでしょう? どの扉から入ってきたかわからないようにするものなのよ。ママが昔、言っていたの」

 

 回転が止まったときにノエルが言った。

 

「じゃあ、どうすればいいんだ!?」

 

 ハリーが叫んだ。

 

「静かに。大丈夫よ。とりあえず一つ一つ探してみましょう。入ったドアには印をつけておけばいいわ」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

 七人は最初の部屋に入った。その部屋には机が数卓と、大きな水槽があった。水槽には半透明の白いものがいくつも浮いていた。

 

「アクアビリウス・マゴット、水蛆虫だ!」

 

 ルーナが言った。

 

「違うわ。脳みそよ。一体何のためかしら……?」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「私のママ、こんな気持ち悪い研究してるのかぁ」

 

 ノエルが呟いた。

 

「ここじゃない。違う部屋を探そう」

 

 ハリーがそう言ったので、七人は部屋を出た。そして、ハーマイオニーは部屋の扉を閉める前に鋭く言った。

 

『フラグレート!』

 

 ハーマイオニーが空中に×印を描くと扉には『×』が記された。そして、ドアを閉めると、もう一度部屋は回転した。

 

 次の部屋は広い、長方形の部屋だった。中央が窪んでいて、それに向かって大きな石段があった。そして、中央には石の台座が置かれ、石のアーチが立っていた。

 

--ママが何か言ってたような……。何かしら……。でも、ここにもシリウス・ブラックはいないから関係ないわね。

 

 七人はこの部屋も後にした。次に選んだ部屋には鍵がかかっていた。

 

『アロホモーラ!』

 

 しかし、扉は開かなかった。だから、いったんこの部屋は諦めることにした。

 

 次の部屋には時計が沢山あった。

 

「タイムターナーを管理している部屋よ」

 

 ノエルが言った。ハーマイオニーは少し苦そうな顔をした。

 

「こっちだ!」

 

 ハリーは正しい方向を見つけた様子だった。そして、部屋にあるもうひとつのドアへ進んだ。

 

「これだ」

 

 ハリーは全員を見回した。みんな杖を構えた。そして、ハリーは扉を押した。扉は開いた。その部屋には棚がズラリとならんであり、そこにはガラス球がびっしりと置かれていた。

 

「九十七列目の棚だ!」

 

 ハリーが言った。どんどん目的の棚へと近づいてきたが人の気配は全くしなかった。そして、九十七列目の棚の奥まで行った。しかし、誰もいなかった。争った跡すらなかった。

 

「あら? これ、ハリー・ポッターって書いてあるわ」

 

 ノエルが埃を被った小さなガラス球を見て言った。

 

「ほんとだ。なんか書いてある」

 

 ロンがそれを覗きこんだ。

 

「僕の名前?」

 

 ハリーはキョトンとした顔をした。そして、手を伸ばそうとすると、ハーマイオニーはハリーの腕を押さえた。

 

「触らない方がいいと思うわ」

 

「でもこれは僕に関係のあるものだろう?」

 

ハリーはそれを手に包み込んだ。

 

「戻した方がいいわ。こんなところ、ロクなものないわ」

 

 ハリーは離そうとしなかった。その時、後ろから誰かに似ている気取った声が聞こえた。

 

「よくやった、ポッター。さあ、これを私に渡すのだ」

 

 七人は後ろを振り向いた。そこには死喰い人たちがいた。声の主は、ルシウス・マルフォイだった。




次回で私が一番書きたかったところが書けると思います!


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予言

前回の後書きに書いた、書きたかったところは書けませんでした……。


「さあ、予言を渡すのだ」

 

 ルシウス・マルフォイは片手を突きだし手のひらを広げ、息子と似た気取った声で言った。

 

「シリウスはどこにいるんだ?」

 

 ハリーが聞いた。すると死喰い人たちが笑い始めた。

 

「シリウスはどこなんだ!」

 

 ハリーが叫んだ。すると、黒髪の女性が出てきた。

 

「ベラトリックス・レストレンジだ」

 

 ネビルが囁いた。

 

「ちいちゃな赤ちゃんは夢を本物だと思いまちた」

 

 ベラトリックスは赤ちゃん声で言った。

 

「何だって?」

 

 ハリーが言った。

 

「もう現実と夢との違いがわかってもよい歳だろうな、ポッター」

 

 マルフォイが言った。

 

「予言を渡せ。さもないと杖を使うことになるぞ」

 

 マルフォイが言うのと同時に死喰い人もハリーたちも杖を構えた。

 

『アクシオ 予……』

 

『プロテゴ!』

 

 ベラトリックスが呪文を言い終わらないうちに叫んだ。

 

「やめろ! あれを壊すな!」

 

 マルフォイが言った。

 

「なら、あの小娘を拷問するのを見せたら渡すだろうね。一番小さいのを捕まえな」

 

 ベラトリックスが言った。すると、みんなはジニーの周りを守るように固めた。

 

「もし、僕らのうちの誰かを襲えば、これは粉々になるぞ。ご主人様はあまり喜ばないだろ?」

 

 ハリーが言った。ベラトリックスはただ、ハリーを睨み付けた。

 

「それで、これは何の予言なんだ? どうしてヴォルデモートがこれを欲しがるんだ?」

 

 ハリーが言った。すると、ベラトリックスは鬼のような形相をした。

 

「お前の汚らわしい唇であの方の名を呼ぶな! 『ステューピファイ!』」

 

 ベラトリックスの呪文は棚に直撃した。マルフォイが予言に当たりそうだったのを屈折させたのだ。

 

「私たちに小細工は通じないぞ。ダンブルドアはお前がその傷痕を持つ理由が神秘部にあると教えていないわけがなかろう」

 

 

 

 マルフォイが言った。ハリーは眉をひそめた。そして、口を動かさないようにして、合図をしたら棚を壊すように言った。

 

「なるほど、だからお前はもっと早く来なかったのか」

 

「つまり、あいつは僕にそれを取りに来てほしかったんだ。どうして自分の手で取りに来ないんだ?」

 

「闇祓いの前に自ら闇の帝王の姿を見せる?」

 

 ベラトリックスが言った。そのあと、ルシウスが話始めた。そして、ハリーは

 

「いまだ!」

 

と叫んだ。

 

『レダクト!』

 

 六つの呪文がそれぞれの方向に飛んでいった。

 

「逃げろ!」

 

 ハリーが叫んだ。棚などが頭上に落ちてきた。逃げ続け、みんなは九十七列目まで来た。そして、無我夢中で走った。そして、ノエル、ロン、ジニー、ルーナは別の部屋に死喰い人に追い込まれた。四人はとりあえず、隠れることにした。

 

「この部屋は何かしら……? 星?」

 

 ジニーが言った。

 

「ええ、惑星よ。私のママ、五年くらい前はこの部屋で働いていたの。ほら、木星が見えるわ」

 

 ノエルが言った。

 

「あ! やめて! やめてよ!」

 

 いきなりジニーが叫んだ。死喰い人の一人がジニーの足を捕まえたようだった。

 

『レダクト!』

 

 ルーナはその死喰い人の目の前で冥王星を粉々にした。死喰い人は倒れたがジニーの足から『ポキッ』と音がした。

 

「ジニー! 私に捕まって。……ロン? どうしたの?」

 

 ノエルがジニーを引き寄せながら言った。ロンは木星を眺めていた。

 

「『臭い星』だ」

 

「は? 『ステューピファイ!』 どうしたのよ」

 

 ノエルは残りの死喰い人に攻撃をしながら言った。

 

「『モー・クセー』だ」

 

 ロンが言った。

 

「変な呪文がかけられてるんだと思うよ」

 

 ルーナが言った。

 

「大丈夫かしら……。とりあえずこの部屋を出ましょう。こんな暗闇で攻撃されたらたまったもんじゃないわ。ルーナはロンを引っ張って来て」

 

 ノエルはジニーを背負い、ルーナはロンを引っ張りながら部屋を出た。すると、出た先にはハリーとハーマイオニーとネビルがいた。ハーマイオニーとネビルはもう、大怪我をしていた。ネビルはまだ動けていたが、ハーマイオニーはもう、動けないようだった。




次こそずっと書きたかった話を絶対書きたいです。絶対書きます。


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アーチとシリウス・ブラック

「ロンは一体……」

 

 ハリーが言った。

 

「おかしな呪文をかけられたのよ。ネビルにハーマイオニーはどうしたの?」

 

「ぼぐは大丈夫」

 

 ネビルが言った。

 

「ハーマイオニーも脈はある。さあ、とりあえず違う部屋に言った方がいい」

 

 ハリーが言った。そして、違う部屋に入った。すると、ベラトリックスが部屋に向かって走ってきた。

 

「『コロポータス!』扉から入ってきちゃう! みんな、閉じて!」

 

 ノエルが一つのドアを塞いだ。しかし、ドアはまだいくつかあった。

 

 動ける、ハリー、ノエル、ネビル、ルーナで手分けをしてドアを塞いでいった。しかし、その途中で扉を破り五人の死喰い人が入ってきた。ルーナは呪文が当たったらしく、宙を飛び、机にぶつかり動かなくなってしまった。

 

「あぁ! ルーナ! ジニー、ルーナの様子を見て!」

 

 ノエルはジニーに言った。

 

「大丈夫。脈も息もあるわ。ちょっと、ロン。やめてよ」

 

 ロンはジニーに悪絡みをしているようだった。

 

「見ろよ。ジニー。脳みそがあるぜ。ハハハ。『アクシオ! 脳みそ』」

 

 ロンは水槽に杖を向けて唱えた。すると、水槽からは一つの脳みそが飛び出てきた。そして、ロンが脳みそをつかんだ。すると、脳みその触手がロンの体に絡みつき始めた。

 

『ディフィンド!』

 

 ノエルと、ハーマイオニーの杖を使ったネビルが一緒に叫んだ。すると、触手は断ち切れた。しかし、ロンは気絶していた。

 

「大丈夫。ルーナと一緒で脈も息も……」

 

 ジニーはその場に倒れてしまった。死喰い人が放った赤い光線--つまり、『失神呪文』が直撃したのだ。

 

『ステューピファイ! ステューピファイ!』

 

 ネビルは死喰い人に杖を振った。しかし、何も起こらなかった。

 

「私がやるわ。『ステューピファイ!』」

 

 ジニーを『失神』させた死喰い人に、ノエルの杖から出た赤い光線が直撃した。まだ、戦えるのはハリーとネビルとノエルだけだった。それに、ネビルはもうすでに怪我をおっていた。ハリーは予言を追いかけてくる死喰い人から逃げようとして違う部屋に逃げていったようだった。ネビルもそのあとを追っていった。

 

「ごめんなさい。ハーマイオニー、ルーナ、ジニー、ロン。きっと戻ってくるから待っていて」

 

 ノエルは部屋を出た。ハリーたちがどの部屋にいるのかはすぐにわかった。一つだけ開きっぱなしになっているドアがあるからだ。ノエルはそのドアに入ろうとした。すると、一番最初に入ってきたドアから五人の姿が現れた。全員の顔をノエルは知っていた。三年生の時に『闇の魔術に対する防衛術』を教わったルーピン先生。父と同じ闇祓いをしているムーディ、トンクス、キングズリー。そして、あまりにも新聞で見たときよりも印象が変わりすぎて気づくのが一番遅かったが、シリウス・ブラックだ。

 

「あれ? あなた、ノエルよね? ガーネットさんのところの。どうしてここに?」

 

 派手な格好をしたトンクスが聞いた。

 

「あなたたちは、ハリーを助けに来たんですよね? 私もハリーに着いてきたんです! ハリーはあの部屋に。ネビルと、死喰い人たちもいます」 

 

「ネビルか。ロングボトム夫妻の息子さんだね。わかった。ありがとう」

 

 キングズリーが言った。そして、五人は部屋に入っていった。そして、ノエルもそれに続いて部屋に入った。アーチのある部屋だった。もうすでに戦いが始まっていた。シリウス・ブラックはベラトリックス・レストレンジと戦っていた。シリウスはアーチに背を向けていた。

 

--シリウス・ブラックはハリーの言う通り、悪人ではなかったのね。

 ……シリウス・ブラック、危険だわ! そうよ、ママが言っていたわ。あのアーチに入ってしまうと……。

 

 シリウスはもし、少しでも倒れたらアーチに入ってしまう状態だった。

 

--そう、アーチをくぐると、死んでしまうわ!

 

 ノエルはシリウスの方へと足が動いた。ハリーは予言を持ち、ネビルを引っ張り、外に連れていこうとしていた。すると、ローブから予言が落ち、そのまま割れてしまったのだ。ネビルはすまなそうな顔をしたが、すぐに驚いたような表情をした。ノエルもネビルが見ている方向を見た。すると、そこにはダンブルドアがいたのだ。

 

--これで、ひと安心ね。でも、なんだろう。嫌な予感がするわ……。

 

 そう思ったとき、シリウスがギリギリ、ベラトリックスが放った赤い光線をかわすのを見た。

 

--こんなの当たってしまったらアーチに入ってしまう!

 

 ノエルは走り出した。そして、ベラトリックスがもう一度、光線を放ったとき、ノエルはシリウスのすぐ近くにいた。そして、シリウスは咄嗟のことで呪文から避けきれそうになかった。ノエルは渾身の力でシリウスを引っ張った。光線はアーチに入っていった。突然の乱入者に驚くベラトリックスにノエルは

 

『ステューピファイ!』

 

と叫んだ。ベラトリックスは呪文に当たり、倒れてしまった。ベラトリックス以外の死喰い人はダンブルドアを見て逃げ出してしまったようだ。

 

「とりあえず、この部屋から出よう。この魔女はたった一人でも、目を覚ませば危険だ」

 

 ルーピンが言った。ムーディがベラトリックスを縛り、宙に浮かせた。そして、部屋にいたみんなはエレベーターに乗った。

 

「他のみんなは……、あと四人いるんです」

 

 ノエルが言った。

 

「大丈夫。私たちが助けておこう。神秘部はもう安全だ。とりあえず、君たちを安全な場所に避難させなくては。シリウス、君はノエルにお礼を言っておくんだ。ノエルがいなかったら君は死んでいただろうね」

 

 ルーピンが言った。

 

「それは、どういうことだ?」

 

 シリウスが言った。

 

「私の母は、神秘部で働いていて、それで聞いたことがあるんですけど、あのアーチをくぐってしまうと、あのまま死んでしまうんです。死体も残さずに」

 

 ノエルが言った。

 

「じゃあ、ノエルを連れていかなければ……」

 

 ハリーが言った。

 

「私は死んでいた、ということか……。ありがとう。えっと、ノエル……?」

 

 シリウスが言った。

 

「ノエル・ガーネットです。あなたを捕まえたカルヴィン・ガーネットの娘よ」

 

 ノエルが言った。そして、その時、アトリウムにエレベーターが到着した。ムーディはベラトリックスを床に置いた。

 

「そうだったのか。でも、本当にありがたい。命の恩人だ」

 

 シリウスは笑った。

 

--うわっ、この人めちゃくちゃハンサムだわ。なんで、あんなに新聞に出てたのに、このハンサムさに気づかなかったのかしら……。ロックハートよりずっと素敵だわ。

 

 ノエルは照れながら呑気なことを考えていた。しかし、いきなりハリーが額を押さえて、

 

「痛い!」

 

と叫んだのだ。前を見ると、背が高くて痩せた黒いフードを被った、例のあの人が立っていた。蛇のような顔は蒼白で落ち窪み、目は縦に裂けたような真っ赤な瞳孔があった。例のあの人はハリーに杖を向けていた。




ノエルがシリウスを助けるのは一番最初に思い浮かんだアイディアです! あと、二人です。増えるかもしれませんが。


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「あの人」が恐れた唯一の人物

「お前が俺様の予言を壊したのだな」

 

 ヴォルデモートはひどく冷たい声で言った。ノエルは倒れそうになった。例のあの人がすぐそこにいるのだから。しかも、近くにいるハリーに杖を向けているのだ。

 

『アバダ ケダブラ!』

 

 ヴォルデモートが叫んだ。ノエルは見ていられずに目をつぶった。しかし、ノエルが聞いた音は人が倒れるよりも、もっと大きいものだった。恐る恐る目を開くと、ハリーとヴォルデモートの間に黄金の像が現れ、ハリーを護っていたのだ。

 

「ダンブルドアか?」

 

 ヴォルデモートが言った。ノエルは後ろを振り返った。すると、金色のゲートの前にダンブルドアが立っていた。そして、ダンブルドアとヴォルデモートの戦いが始まった。こんな高度な呪文をノエルは今まで見たことがなかった。ノエルはその決闘に目を奪われてしまっていた。そして、ヴォルデモートは負けを覚悟したのだろうか。逃げてしまった。すると、いきなりハリーはその場に倒れて額を押さえてもがき始めた。メガネは落ちてしまった。

 

「ハリー? どうしたの!?」

 

 ノエルはハリーを覗きこんだ。ダンブルドアがすぐそこに来た。ノエルはそこを退いた。ハリーはもう落ち着いていた。アトリウムには人が増えていた。

 

「あ! ベラトリックス・レストレンジが逃げた!」

 

 トンクスが叫んだ。

 

「ほんとだわ。ご主人様と一緒に逃げたのね。あら、ファッジまで。……やば、ハリー、透明マントを貸して」

 

 ノエルが顔を真っ青にしてハリーに言った。

 

「持ってないよ。なんで?」

 

「パパがいるのよ! ファッジのすぐ後ろ!」

 

 ノエルは後ろの方へ隠れた。マントの下にパジャマを来たファッジはダンブルドアを見て飛び上がった。ノエルの父のカルヴィン・ガーネットを含む何人かは杖をかまえた。

 

「ノエルか?」

 

 カルヴィンが驚いたような表情をした。ノエルは知らんぷりをした。

 

「あれほどハリー・ポッターだけとは関わるなと言ったというのに……」

 

「でも、例のあの人は復活したのよ。パパも見たでしょう? なんなら下の神秘部に何人か拘束されてるから尋問してはいかが?」

 

 ノエルがすましたように言った。

 

「ダンブルドア! それは本当なのか!?」

 

 ファッジが聞いた。

 

「もちろんじゃ。記憶力の優れたミス・ガーネットが言っておるのだから間違いはないじゃろう」

 

 ダンブルドアが答えた。ファッジはノエルを見たあと、カルヴィンを見た。

 

「ガーネットだと?」

 

「あ、私の娘でございます」

 

 カルヴィンが言った。

 

「そうか。ドーリッシュ! ウィリアムソン! ガーネット! 神秘部に行って確認してこい。--そして、ダンブルドア。お前は--君は何が起きたかを正確に話さねばならない」

 

 ファッジが言った。

 

「それは、ハリーとミス・ガーネットをホグワーツに戻してからじゃ。『ボータス』」

 

 ダンブルドアは壊れた像の頭部に杖を向け、唱えた。

 

「ダンブルドア! 君にそれを作る権利は……」

 

 ファッジが言った。ダンブルドアは毅然とした目でファッジを見つめた。

 

「君には三十分後に三十分だけ、わしの時間をやろう。さあ、二人ともこの移動キーに乗るがよい」

 

 ハリーとノエルは像の頭部に手をのせた。

 

「いち……に……さん」

 

 臍の裏側がぐっと引っ張られるような感覚がした。そして、たどり着いたのは、アンブリッジのいた時とはすっかり様子が変わった校長室だった。



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五年生の最後

『不死鳥の騎士団』最終話まで来ました。


「あぁ、私たち、帰ってきたのね」

 

 ノエルは深呼吸をした。

 

「うん。君がシリウスを救ってくれたんだよね。あのままじゃあシリウスはそのままアーチに突っ込んでいたよ」

 

「私、やっと役に立てたわ。ところで、あなたとシリウス・ブラックってどういった関係なの? シリウス・ブラックが無実っていったいどういうことなの?」

 

 ノエルが聞いた。

 

「僕の名付け親なんだ。僕の父さんの親友だったんだ。そして、真犯人はピーター・ペテグリューなんだよ」

 

 ハリーが答えた。

 

「あの、マーリン勲章を与えられた!? 知らなかったわ……。でも、大丈夫よ。きっとシリウス・ブラックは『真実薬』を飲まされるわ。それで無実が証明されるわ」

 

 ノエルが笑った。すると、火の気のない暖炉にエメラルドの炎があがった。そして、ダンブルドアが暖炉から姿を表した。

 

「二人とも、よく無事じゃった。他の生徒もいつまでも残るような障害を受けた者は誰もおらん。全員、医務室で眠っておる。じきに目を覚ますじゃろう」

 

「よかった」

 

「よかったわ」

 

 二人は同時に安堵の声をあげた。

 

「ミス・ガーネット。君は寮に戻って休むのじゃ。わしは少し、ハリーに話をしなければならない。もし、体の不調があればすぐに医務室に行くのじゃ」

 

「わかりました」

 

 ノエルは校長室を出た。そして、寮に戻った。当たり前だがもう、誰もいなかった。そして、ソファに座って自分が埃まみれだということに気づいた。シャワーを浴びるべきだが、体は鉛のように重くて動けなかった。しかし、色々なことが起こりすぎたのか眠ることもできずに日が高く上るまでずっとソファに腰かけたままボーっとしていた。

 

***

 朝食が始まる少し前にルーナが医務室から帰ってきた。もう元気な様子だった。

 

「ルーナ! 無事なのね。よかったわ!」

 

 ノエルはルーナに抱きついた。

 

「うん。他のみんなも大丈夫だよ。ロンとハーマイオニーはまだ入院が必要みたいだけど」

 

 ルーナが言った。

 

「じゃあ、あとでお見舞いに行きましょう。さあ、朝食よ」

 

 ノエルとルーナは大広間に降りていった。その途中でフリットウィック先生がフレッドとジョージの沼を消しているのを見た。そして、一ヶ所だけ残して、ロープで囲んでいた。

 

「これはとってもよい魔法ですからね」

 

 フリットウィック先生はいつも通りのキーキー声で言った。

 

「やっぱり出来るじゃないの。ところで、アンブリッジはどうしたのかしら? ハーマイオニーとハリーと一緒にどこかに行ってから見ていないわ」

 

「アンブリッジはあの時、ケンタウルスに捕まったの。でも、ダンブルドアが連れて帰ってきたよ。今は医務室にいるよ」

 

 ルーナが答えた。

 

「そう。……ところで、あなたは何を持っているの?」

 

 ノエルはルーナの持つたくさんの紙に目を止めた。

 

「そろそろ今年度は最後だから、なくしちゃったのを返してもらいたいんだ。だから、掲示板に貼るんだ」

 

 ルーナはノエルに紙を見せた。紙には本や洋服のリストが書いてあった。中にはルーナがお気に入りだと言っていた物まで入っていた。

 

「毎年、四年間ずっとやっているの?」

 

「うん。でも最後の日にはちゃんと寮に戻ってくるから」

 

「寮に戻ってくるって……。と言うことは、犯人はレイブンクローの人じゃないの」

 

 ノエルが言うと、ルーナは肩をすくめた。

 

「うーん。そうかもね。だから、一応、寮の掲示板にはよく見える場所に貼るようにしてるんだ。どうしたの? ノエル」

 

 ノエルはショックを受けたような表情をしていた。

 

「私、気づいていなかったわ。自分のことばっかりで、他のことを考えていなかった……。おかしいと思うべきだったわ。一人の人間があんなにたくさんの物をなくすわけがないもの」

 

「ありがとう。早く朝食に行こう。終わっちゃうから」

 

 ルーナが言った。そして、二人は大広間に入っていった。

 

***

「ハーマイオニー、ロン、具合はどう? ジニーの踵もネビルの鼻もすっかり治ったのね!」

 

 ノエルが医務室のドアを開けて言った。

 

「あら、ノエル。来てくれたのね」

 

 ハーマイオニーが『予言者新聞』から顔を出して言った。

 

「ルーナも一緒なのね? ほら、この記事を見て。『ザ・クィブラー』で載せた記事が載っているわ」

 

 ハーマイオニーがルーナを手招きした。

 

「しわしわ角スノーカック……? じゃないみたいだね。その記事はパパが売ったんだぁ。だから、そのお金で夏休みはスウェーデンに探検にいくんだ」

 

 ルーナが言った。ハーマイオニーは一瞬微妙な顔をしたが結局、

 

「素敵ね」

 

とだけ言った。

 

「君たちはもう、お昼じゃないかい? 僕たちは夜には合流できると思うから行ってこいよ」

 

 時計を見て、ロンが言った。ハリー、ノエル、ルーナ、ジニー、ネビルは医務室から出ていった。そして、玄関ホールでマルフォイ、クラッブ、ゴイルと鉢合わせた。

 

「ポッター、お前のせいで父上は……。でも、吸魂鬼はアズカバンを捨てた。父上たちはすぐ出てくるだろう」

 

 マルフォイが言った。

 

「そうね。でも、ちゃんとここに誰がいるのかを確認してからそういうことを言った方がいいと思うわ」

 

 ノエルがにっこり笑って前に進み出た。

 

「闇祓いの娘の前で、死喰い人たちの脱獄の話をしてはいけないと思うわ。もう、吸魂鬼がいないなら、闇祓いが捕まえるしかないもの」

 

「ノエル!」

 

 マルフォイが言った。

 

「軽々しく名前を呼ばないでちょうだい。マルフォイ。こんな人たちに構っていても無駄。みんな、行きましょう」

 

 マルフォイは声がでない様子だった。

 

「あぁ、そうだね。脱獄したとしても、少なくとも連中がどんなワルかってことは知れわたった--」

 

 ハリーが言った。マルフォイの手は杖の入っているポケットに飛んだ。しかし、ハリーの方が速く、ハリーはマルフォイに杖を向けていた。

 

「ポッター!」

 

 玄関ホールに声が響いた。そして、スネイプが現れた。

 

「何をしているのだ。ポッター?」

 

「マルフォイにどんな呪いをかけようか考えているところです。先生」

 

 ハリーが答えた。

 

「グリフィンドール十点減……」

 

 スネイプは壁の砂時計を見て言うのをやめた。

 

「どうやらグリフィンドールには点が残っていない。それならば、ポッター、やむを得ず……」

 

「点を増やしましょうか?」

 

 マクゴナガル先生が石段を上ってやって来た。

 

「マクゴナガル先生。これはこれは、聖マンゴをご退院で」

 

 スネイプが言った。

 

「ええ。さあ、クラッブ、ゴイル。これを私の部屋まで持って行ってください」

 

 マクゴナガル先生は二人に荷物を押し付けた。

 

「さて、そうですね。ポッターたちが世間に対し『例のあの人』の復活を警告したことで、それぞれ五十点! いかがですか? スネイプ先生?」

 

 スネイプの返事も待たずにマクゴナガル先生はそれぞれに加点していった。

 

「それでは、グリフィンドールはポッター、ウィーズリー兄妹、ロングボトム、ミス・グレンジャーに五十点。--それに、レイブンクローはミス・ガーネットとミス・ラブグッドに五十点ですね」

 

 グリフィンドールの全くなかった砂時計の下半分にたくさんのルビーが降り注いだ。レイブンクローにも、グリフィンドール程ではないがサファイアが降った。

 

「さて、ポッターから十点減点でしたね」

 

 グリフィンドールから少しだけルビーが減った。

 

「みなさん。今日は素晴らしいお天気なのですから、外に出るべきだと思いますよ」

 

 マクゴナガル先生が言い、去っていった。

 

***

 翌日のホグワーツ特急では、魔法省まで行った七人で同じコンパートメントに座った。途中でチョウ・チャンがマリエッタ・エッジコムと一緒に通りすぎた。マリエッタの顔は良くなってきていた。

 

「あら? マリエッタ・エッジコムの顔はもう治ってきているのね。あの呪いも治してしまうなんて、さすがマダム・ポンプリーだわ」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「私が治療薬を作ったのよ。私、二年生の時にニキビがすごくて、自分で治療薬を作ったのだけど、それを少しアレンジして作ってみたのよ。ハンドメイドよ!」

 

 ノエルが言った。

 

「あなた、それ、売り出すべきだわ」

 

 ハーマイオニーが呟いた。

 

「で、ハリー。君と彼女はどうなったんだ?」

 

 ロンが聞いた。

 

「どうもなってないさ」

 

「私、彼女は今、別の人と付き合っているわ」

 

 ハーマイオニーが遠慮がちに言った。

 

「そうだったわね。レイブンクローのマイケル・コーナーよ」

 

 ノエルが言った。すると、ロンはジニーを見た。

 

「あいつ、お前と付き合ってたじゃないか!」

 

「捨ててやったわ。クィディッチで、グリフィンドールがレイブンクローを破ったのが気にくわなかったらしいのよ」

 

 それを聞くと、ロンは満足げな顔をして、

 

「捨てて正解だな。次はもっといいのを選べよ」

 

と言った。

 

「そうね、ディーン・トーマスなんかどうかしら?」

 

 ジニーが言った。すると、ロンは、

 

「なんだって!?」

 

と大声をだし、立ち上がった。

 

***

 キングズ・クロス駅にはたくさんの保護者たちが迎えにやって来ていた。しかし、いつも通りノエルの父と母はいなかった。代わりに兄のルイスが来ていた。

 

「うわ、なんでよりによってお兄ちゃんだけなのよ……」

 

 ノエルは不満そうに言った。

 

「いいじゃないの。優秀なお兄さんなんでしょう? それに、とてもハンサムじゃない」

 

 ハーマイオニーはうっとりした顔でルイスを見つめた。

 

「えー、そりゃ中身も伴っている分、ロックハートよりもよっぽどいいかもしれないけど……」

 

 ロンがつまらなそうに言った。

 

「いいかもしれないけど、なによ? ロン、あなたには彼の欠点がお見えになるの?」

 

 ハーマイオニーがロンを睨みながら言った。

 

「いや、別にそういうわけではないけどさ」

 

「残念ながら、大きな欠点があるわ。パパとママがいないから歯止めが効かないと思うのよ」

 

 ノエルは苦笑いしながら言った。ルイスは周りのお母さんたちや、女子生徒たちから憧れの目で見られていた。しかし、次の瞬間でその目は、憧れの目から不審者を見る目に変わったのだ。特急から金髪を二つに結った女の子--ノエルの妹のシャロンが出てきたらすぐに、シャロンに抱きつき始めたのだ。

 

「あぁ、シャロン。無事に帰ってきてくれてありがとう。シャロンもノエルも居なくてお兄ちゃんはなんて寂しい思いをしたか。この一年で五キロは痩せたんだよ……」

 

「あー、なんか、すごいね。君のお兄さん」

 

 ハリーが言った。

 

「本当よね。黙っていればどこに出しても恥ずかしくない兄なのよねぇ」

 

「でも、良いと思う。家族って感じがして。僕のところは、ほら。あの人たちだからさ」

 

 ハリーはダーズリー親子の方を見た。

 

「あら? 私にはもっと素敵なあなたの家族が来ているように見えるけれど?」

 

 ノエルが言った。ハリーはノエルが見ているのと同じ方向を見た。そこには、ムーディにトンクスにルーピン、ウィーズリー夫妻とフレッドとジョージ。そして、シリウスが立っていた。

 

「パパに、今日の朝のうちに無罪を証明出来るようにお願いしたのよ。彼の担当はパパだから。『聞かなかったらお兄ちゃんとシャロンを引き連れて家出する』って言ってね」

 

 ノエルは微笑みながら言った。

 

「ノエル。ありがとう。本当に嬉しいよ」

 

 ハリーはノエルの手を握った。

 

「いろいろ教えてくれたお礼、でいいのかな? あ、お兄ちゃんに見つかったわ。そろそろ行かなきゃ。みんな、良い休暇をね! お手紙送ってね!」

 

 ノエルはハリーと握手をして、みんなに手を振りながら、兄の元へ走っていった。

 

「お帰り。ノエル。どうして、ここに僕がいるって気づいていたのに来てくれなかったの? 寂しいよ。お兄ちゃんは」

 

 ルイスは若干涙目になっていた。

 

「あー、ごめんなさいね。今日は、パパもママも来れないのね」

 

 ノエルが言った。

 

「そうだね。父さんはノエルの脅迫状のおかげで朝から仕事をしているよ。母さんはノエルたちが暴れまわってくれたおかげで後片付けに追われている」

 

「あー、それはごめんなさいね。とりあえず、帰りましょう。お腹が空いたわ。シャロンは何食べたい?」

 

 ノエルがシャロンに尋ねた。

 

「イタリア料理がいい! ピザとかスパゲッティー!」

 

 シャロンが元気に言った。

 

「いいかもね。ホグワーツはイギリス料理しか出ないもの。私もそろそろイギリス料理じゃないものを食べたいわ」

 

「そうかー。じゃあ、マグルの五つ星レストランにしよっか。お兄ちゃんの奢りだ!」

 

 三人は仲良く九と四分の三番線から出ていった。




『不死鳥の騎士団』は終了です。たくさんの方に読んでいただき、とても嬉しかったです。もちろん、ここで終わりません! 次回からは『謎のプリンス』です。ぜひ、読んでください!


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謎のプリンス
ダイアゴン横丁と夜の横丁


謎のプリンスに突入です!


親愛なるフラー

 

 イギリスに来たって聞いて驚いたわ! しかも、知らない間にいい男を捕まえて! あなたから送られてきた彼の写真を見たけど、とっても素敵だわ。それで頭も良いなんて、あなたにピッタリの方ね。絶対結婚式に呼んでほしいわ。

 ところで、イギリスの生活には慣れたかしら? 二年前にホグワーツに滞在していた時はフランス料理も振る舞われていたけれど、普通の魔法使いの家だから出てくるのはイギリス料理でしょう? 口に合わないかも知れないけれどしっかり食べるのよ! あなた、ただでさえ細いのだからしっかり食べないと体に悪いわ。それと、彼のご家族とは仲良くね。ちょっと心配だわ……。

 とりあえず、今度、絶対に会いましょうね。英語の勉強、頑張って! この夏休みにグリンゴッツからお金をおろしにいく予定があるからその時に会えたら会いましょう。いつも通り、返信、楽しみに待ってるわ。

        

               ノエル・ガーネット

***

親愛なるノエル

 

 ありがとう、ノエル。英語の勉強は大変だわ。ノエルはフランス語がペラペラだから、あなたには伝えたいことをしっかり伝えることができるけど、英語だと上手くいかないのよ……。早くあなたに会いたいわ! 土曜日にダイアゴン横丁に行く予定よ。そこで会えたら会いましょうね。それが無理だったら九月一日に九と四分の三番線で会いましょう。ハリーとか、ハーマイオニーとウィーズリー兄妹の見送りをするの。

 

               フラー・デラクール

 

***

(土曜日に会えるのね! 本当に久しぶりだわ。去年一年間はずっと文通で一度も会っていなかったもの。ハーマイオニーたちにも会えるわ。楽しみだわ……)

 

 ノエルはそう思いながら手紙を読んだ。しかし、すぐに違うふくろうがやって来た。

 

「ご苦労様。ホグワーツからね」

 

 ノエルは神妙な面持ちで封を切った。

 

“ノエル・ウェンディ・ガーネットは次の成績を修めた。

 天文学 優

 数占い 優

 呪文学 優

 闇の魔術に対する防衛術 優

 古代ルーン文字 優

 薬草学 優

 魔法史 優

 魔法薬学 優

 変身術 良”

 

 ノエルは羊皮紙をまじまじと見つめた。ほとんど『優』なのだ。正直、『呪文学』と『闇の魔術に対する防衛』と『変身術』以外は全部、『優』はとれると思っていた。けれど、その三教科までなかなか良い成績をとることができたし、『呪文学』と『闇の魔術に対する防衛』にいたっては『優』だ。

 

(あぁ! 本当に嬉しいわ! ハリーが教えてくれたおかげで防衛術だけじゃなくて、杖の根本的な使い方のコツがわかってきたのね。……ハリーだけじゃなくて、誘ってくれたハーマイオニーとか一緒に練習してくれたDAのメンバーのおかげよね)

 

(それに、しつこく質問に言っても丁寧に先生たちは教えてくれたわ。ルーナとかジニーは甘いものを差し入れてくれた。みんな、本当にありがとう)

 

 ノエルは微笑みながらふくろうを撫でた。

 

「ノエル。昼食にするぞー。で、終わったらダイアゴン横丁に行こう。お兄ちゃんとノエルとシャロンでデートだ」

 

 ルイスがノエルの部屋のドアを開けて言った。フリフリのエプロンも着こなしてしまうルイスだが、いつも通り残念な発言をしていた。

 

「お兄ちゃん、仕事は?」

 

「今日は休みだ。上司が家族旅行に行っちゃってやることがないんだ」

 

「パパとママは社畜の如く働かされているのにいいわねぇ。あと、ダイアゴン横丁には行かないわ。土曜日に行くの」

 

 ノエルが言うと、ルイスは目をパチパチさせた。

 

「もしや、男か? 男と二人で? 俺、死のうかな」

 

「違うわよ。やめて。もう、ご飯にしましょう。シャロンが待ってるわ」

 

***

 土曜日の朝、ノエルは父を含む何人かの闇祓いと漏れ鍋で言い争っていた。ハグリッドも一緒だ。

 

「ダンブルドアがおっしゃっていたでしょう! 彼だけで警護は十分よ。むしろ、あなたたちがいた方が邪魔よ」

 

「しかしですね、お嬢さん。『例のあの人』が狙っているのは紛れもなくハリー・ポッターであって……」

 

 若い闇祓いが言った。

 

「『例のあの人』がダイアゴン横丁を歩いているとでも? 本屋で立ち読みでもしているのかしら?」

 

「ノエル。実際にオリバンダーが居なくなった。子どもにはわからないだろうが何が起こるのかわからないだろう。お前は私たちを邪魔と言ったが、それは遊びの邪魔であって、もしもの時にはロクに呪文を使えない彼の方が役に立たない」

 

 カルヴィンは厳しい声で言った。

 

「私だって、ハリーが生き延びてくれることが一番だと思うわ。それに、ダイアゴン横丁に死喰い人がうろついてるかもしれない。もし、闇祓いに囲まれて歩いている子どもがいたら、それこそハリーがここに居るって言ってるようなものじゃない」

 

 ノエルは負けじと言った。闇祓いたちは顔を歪ませた。

 

「もう一度言いますけど、ダンブルドアが言いました。そうでしょう?」

 

「ああ、そうだ。ダンブルドアが言いなすった」

 

 ハグリッドが頷きながら言った。

 

「わかった。撤収する」

 

 カルヴィンが言った。

 

「去年、私たちはダンブルドアの言うことを信じずに痛い目にあった」

 

 闇祓いたちは漏れ鍋を出ていった。それと入れ違いにハリーたちがやって来た。

 

「ノエル!」

 

 フラーがノエルに飛びついた。

 

「久しぶりね。会いたかったわ」

 

 フラーはフランス語で言った。

 

「私もよ。元気そうで良かったわ」

 

 ノエルはフランス語で返した。

 

「みんなも久しぶり」

 

 ノエルは他のみんなを見た。ハリーにハーマイオニー、シリウス。そして、ウィーズリー夫妻とロンとジニー。そして、長い赤毛のイケメンはビルだろう。

 

「さあ、行きましょう。あまり時間はないわ。ロンもハリーもハーマイオニーもマダム・マルキンのお店に行く必要があるわ。それと、教科書も必要だわ。ノエルはマダム・マルキンのお店に用事はあるかしら?」

 

 ウィーズリー夫人が聞いた。

 

「あ、はい。ドレスローブを買わないと。でも教科書は大丈夫です。兄が全部揃えてくれました」

 

 ノエルが答えた。

 

「それなら、四人はハグリッドと一緒に行って、他の私たちは教科書を買いに行こう。それでいいかね?」

 

 ウィーズリーさんが言うと、夫人は少し迷った顔をした。安全のためには大人数で固まっていたいのだろう。しかし、時間の面を考えて了承した。

 

***

 マダム・マルキンのお店には四人だけで入り、ハグリッドは外で見張りをすることにした。ドアを開けると、プラチナ・ブロンドの青年が採寸をしているところだった。鏡にはハリー、ロン、ハーマイオニーの三人だけが映って、ノエルはほとんど見切れていた。

 

「母上、『穢れた血』が入ってきましたよ」

 

 ドラコ・マルフォイがいつもの気取った声で言った。しかし、振り向いた瞬間、慌てたようにすぐ、向きを戻した。

 

「私の店でそんな言葉は使ってほしくありませんね!

 杖を引っ張り出すのもお断りです」

 

 ハリーとロンは杖を構えてマルフォイを狙っていた。ロンに至っては口が半開きで、今にも呪文を唱えそうだった。

 

「やめて。……あいつにそんなことをする価値はないわ」

 

 ハーマイオニーが囁いた。

 

「学校の外で魔法を使う勇気はないくせに」

 

 マルフォイが笑った。

 

「あなたもでしょう? 少なくともハリーはここで魔法を使っても絶対に退学処分にはならないわ。魔法省はハリーを保護したいのだから。でも、あなたはどうかしら?」

 

 ノエルが言った。マルフォイは黙ったままで、代わりに口を開いたのはナルシッサ・マルフォイだった。

 

「それをおしまいなさい。私の息子を攻撃すればどうなるか、わかっていますね」

 

 ナルシッサは落ち着いた高慢な顔で言った。やはり、ブラック家なだけあり、美形だ。

 

「死喰い人のお友だちと一緒に、僕たちを始末しようと言うわけかい?」

 

 ハリーが言った。まだ、杖をおろしていなかった。

 

「それなら、やってみたらどうだい? もしかしたら、アズカバンの二人部屋を見つけてもらえるかもしれない」

 

 ハリーがからかいながら言った。マルフォイはハリーに掴みかかろうとしたが、採寸中の長いローブに引っ掛かり転んでしまった。ロンが笑った。

 

「よくも母上にそんな口の聞き方を!」

 

「もういいわ。この店からは、もう出ましょう」

 

 ナルシッサがマルフォイを制した。そして、二人は荒々しく店を出ていった。

 

***

「わあ! すごいわ。こんなにたくさん商品があるのね」

 

 ノエルは感激の声をあげた。ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ(WWW)には、若い二人だけで作り出したとは考えられない量の商品がところ狭しと並んでいた。

 

「本当ね! それに、どれも素晴らしい魔法だわ」

 

「よくぞ言った、お二人さん」

 

 二人の背後から声がした。後ろを振り向くと派手な格好をしたフレッドとジョージが立っていた。

 

「あら、二人とも久しぶりね。とっても大盛況ね。

--えっと、これは何かしら? 惚れ薬?」

 

 ノエルがピンクの瓶を掴んで言った。

 

「そうだ。一回で最大二十四時間の効果がある」

 

 フレッドが言った。

 

「僕たちの商品を他の物と偽造して配達するサービスもやっている。惚れ薬はもう、ホグワーツの女子生徒たちから注文され始めている」

 

「そうなの。悪用しなければ良いのだけど……。って、悪用以外に使い道ないわよね? これ。ノエル!? なんで買っているの!?」

 

 ハーマイオニーが叫んだ。ノエルは二人にお金を渡して、惚れ薬を受け取っていた。

 

「なぜって、とっても興味深いもの。これ、普通の惚れ薬と材料が違うわ」

 

 ノエルが嬉しそうに言った。

 

「ありがとな、ノエル。じゃあ、楽しんでいけよ」

 

 双子は他の客の所に向かっていった。

 

「あなたが嬉しそうなら、それでいいわ」

 

 ハーマイオニーが呟いた。

***

「あれ、マルフォイよね? 一人だわ」

 

 ハーマイオニーが窓を覗いて言った。

 

「母上を撒いたらしいな」

 

 ロンが言った。

 

 あの、息子を溺愛しているナルシッサがマルフォイを一人で歩かせるわけがない。それに、マルフォイだってもう子どもではない。無邪気な理由でナルシッサから離れたとは思えない。ハリーはそう思い、バックパックから透明マントを取り出した。

 

「入って。四人も入ったら足が見えるかもしれないけど、こんなに人がいればばれないよ」

 

 四人は透明マントに入ってマルフォイを追いかけた。マルフォイが入っていったのは『夜の横丁』だった。マルフォイはボージン・アンド・バークスと看板に書かれた店に入っていった。見るからに邪悪な物が売られている店だった。

 

「何を話しているのか聞こえればいいのに!」

 

 ハーマイオニーが言った。すると、ロンはどこからか『伸び耳』を出した。

 

「『邪魔よけ呪文』はかかってないよ。ほら、聞けよ」

 

 ロンが言った。四人は耳を近づけて耳をすました。マルフォイは店主に何かの修理方法を聞いているようだった。

 

「マルフォイは何をしに来たんだ? 恥ずかしくて持ち歩けないものってなんだろう?」

 

 ハリーが言った。少し声が大きすぎたようだった。ボージンは不審そうに四人がいる方向を見て、ドアの鍵を閉めてしまった。



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ホグワーツへ

 九月一日は、ハリーたちはグリモールド・プレイス12番地に滞在していたため、少し早く、キングズ・クロス駅についていた。また、ガーネット家もロンドンにあるため、同じ頃にノエルも駅についた。時間があったため、マグルのアクセサリー店を眺めることにした。どうやら、星をイメージしたアクセサリーがたくさんあるようだった。

 

「これはオリオン座のペンダント。これは、おおいぬ座の指輪ね」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「おおいぬ座の一等星はシリウスね! あなただわ」

 

 ノエルが言った。

 

「そうだね。買いなよ。シリウス」

 

 ハリーがシリウスに指輪を渡してみた。

 

「私には小さすぎる。これは女性用だろう? --私の家族の名前はみんな、星座や星にあやかっていたよ」

 

 シリウスが言った。

 

「へえ、そうなんだ。さすがブラック家だ。ウィーズリー家とは大違いだよ。このブローチはなんだっけ? あんまり輝いていない一等星だ」

 

 ロンが言った。ノエルはそれを覗きこんだ。

 

「しし座よ。一等星はレグルス。一番くらい一等星よ。この前まで必死に勉強していたわよね? どうして、せっかく一回覚えたのに忘れちゃうのかしら……?」

 

 ノエルが言った。

 

「だって、もうテストは終わったじゃないか。どうして覚えておかないといけないんだい?」

 

 ロンが言った。

 

「私も、『魔法史』とかは、テストが終わったあとは、すぐ忘れていたよ。本当に忘れたかったのは『天文学』だけどね。とても素敵な身内の名前がたくさん出てくるからね。ちなみに、さっき言ってたオリオンは父の名前、レグルスは弟のレギュラスの元になった名前だ」

 

 シリウスが言った。

 

「シリウスとレグルスって正反対ね」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「あぁ、似ていない兄弟だった。顔は似てたな。あいつの方が女々しい顔をしていたがね。--あいつは学生の時に死喰い人になって、すぐに『例のあの人』から逃げようとして死んだ。情けない弟だ」

 

 シリウスが言った。

 

「さあ、そろそろホーム行く時間ですよ。--闇祓いの方は到着していますよ」

 

 ウィーズリー夫人が店を覗きこみながら言った。店の外に出ると二人の黒いスーツを着た闇祓いが待っていた。一人はノエルの父だった。ノエルは知らんぷりをした。

 

 一行は柵に突っ込み、九と四分の三番線に無事、降り立った。ホグワーツ特急はすでに到着していて、たくさんの生徒が到着していた。

 

「さようなら、ノエル。良い学期を。あなたたちが卒業する頃に結婚式をしようと思っているの。絶対に来てほしいわ」

 

 フラーがノエルを抱きしめ、フランス語で言った。

 

「絶対に行くわ。フラーも頑張って。それと、お義母様とは仲良くするのよ」

 

 ノエルもフランス語で言った。他のみんなはフランス語を話せないのでポカンとした顔をしながら二人を見ていた。そして、みんなは口々に挨拶を言い、子どもたちは電車に乗り込んだ。

 

「私たちは監督生の車両に行ってくるわ。ハリーとノエルはコンパートメントを探していてちょうだい」

 

 ハーマイオニーが言い、ロンと二人で行ってしまった。

 

「行こう。ノエル--」

 

「ディーン・トーマスを探しに行ったようね。ジニーったら楽しそうだわ」

 

 ノエルは楽しそうに言った。

 

「君も相当楽しそうだよ」

 

 ハリーは少しイライラした声で返した。

 

「やあ、ハリー、ノエル」

 

 背後から声がした。振り返ると丸顔の男の子と、大きい朧な目をした長い髪の女の子が近づいてきた。

 

「ネビル、ルーナ!」

 

「元気だったかしら?」

 

「うん。いつも通りかな。席を探しに行こう」

 

 ネビルが言った。四人は人混みのなかを進んでいった。みんな、通り道を開けて見つめてきた。そして、空いているコンパートメントを見つけると隠れるように入った。

 

「緊張したわ。あなたっていつもこんな気分だったのね」

 

 ノエルはため息をつきながら言った。

 

「しょうがないよ。君たちも、あの時いて、新聞で散々報道されたからね」

 

 ハリーが言った。

 

「ところで、今年もDAの会合をするの?」

 

 ネビルが聞いた。

 

「もうアンブリッジがいないから意味ないだろう?」

 

 ハリーが言った。

 

「でも、あたしDA好きだったな」

 

 ルーナが『ザ・クィブラー』の付録の変な眼鏡を着けながら言った。

 

「また、まともな教師が来なかったらやってほしいな。今年は誰がなるんだろう?」

 

 ネビルが言った。

 

「スネイプは『闇の魔術に対する防衛術』をずっと志願しているらしいわね。もしかして、あの人だったりね。普通に考えて、『例のあの人』が復活した今、あの職を志願する人はいないわ」

 

 ノエルが言った。ネビルが顔を真っ青にした。

 

「変なフラグを立てないでよ……。あれ? あの人たち、なんだろう?」

 

 ネビルがコンパートメントの外を見て言った。そこでは四年生の女子たちがひそひそ、クスクスやっていた。

 

「あなたが行きなさいよ!」

 

「嫌よ、あなたよ」

 

「じゃあ、私が」

 

「なら、私が」

 

「私が行くわ」

 

「どうぞどうぞ」

 

「ジャパニーズマグルのお笑いってやつだわ」

 

 ノエルが言った。すると、大きな黒い目に長い黒い髪の大胆そうな女の子が入ってきた。

 

「こんにちは。ハリー。私、ロミルダ。ロミルダ・ベインよ。私たちのコンパートメントに来ない? この人たちと一緒にいる必要はないわ。変人のラブグッドに、落ちこぼれのロングボトム、ガリ勉の癖に成績はパッとしないガーネット。あなたに相応しくないわ」

 

 ロミルダは自信たっぷりに言った。

 

「僕、『薬草学』は『O』だったんだけどな……」

 

「私も『変身術』以外は『O』だわ……」

 

 二人は不満げに呟いた。

 

「この人たちは僕の友達だ。僕が好きで一緒にいる」

 

 ハリーは冷たく言った。

 

「そう。オーケー」

 

 ロミルダはドアを閉めて出ていってしまった。

 

「私、あーゆう女たち、大嫌い!」

 

 ノエルが言った。

 

「そんなことより、『変身術』以外『O』ってどういうことだい? つまり、9教科『O』ってことかい?」

 

 ハリーが聞いた。

 

「8教科よ。私、ハーマイオニーほどたくさんの授業はとっていないもの」

 

 ノエルが言った。

 

「それでも、相当すごいよ。僕、『変身術』をとるようにばあちゃんに言われてるんだけど、『A』しかとれなかったんだ」

 

 ネビルが残念そうに言った。

 

 少しすると、ロンとハーマイオニーが仕事を終えコンパートメントに入ってきた。

 

「お疲れ様。二人とも」

 

 ノエルは席をつめた。

 

「ありがとう。やあ、ネビル、ルーナ。ところで、聞いてくれよ。マルフォイが監督生の仕事をしてないんだよ」

 

 ロンが席に座りながら言った。

 

「去年はわざわざ私に『監督生になった』ってふくろうが送ってきたのに、どうしたのかしらね」

 

「監督生じゃ、満足がいかないんじゃないかしら? 『尋問官親衛隊』を相当お気に召していたようだから」

 

 ハーマイオニーが言った。その時、コンパートメントが開いて、三年生の女の子が入ってきた。

 

「ハリー・ポッターとネビル・ロングボトムとノエル・ガーネットに渡すように頼まれました。シャロン・ガーネットはどこにいるかわかります?」

 

 女の子が三人に巻き紙を渡した。

 

「シャロンはもっと前の車両にいるわ。ハッフルパフの子たちと大勢でいるはず」

 

 ノエルは巻き紙を受け取りながら答えた。女の子は転ぶようにコンパートメントを出ていった。

 

「なんだろう、これ。--招待状だ」

 

 ハリーが言った。ネビルとノエルも同じもので、スラグホーン教授から、ランチに参加してほしいという内容だった。

 

「スラグホーン教授? パパから聞いたことがあるわ。パパたちの時の『魔法薬学』の先生だったの」

 

 ノエルが言った。

 

「ああ、復職するんだ。僕はもう、ダンブルドアと一緒に会った。--でも、『闇の魔術に対する防衛術』だと思ってたよ」

 

「じゃあ、スネイプは『魔法薬学』から外れるってことだ! 僕、もっと『魔法薬学』を頑張っておけばよかった」

 

 ロンが言った。

 

「でも、なんで僕が呼ばれたんだろう? ハリーならわかるけど……」

 

 ネビルが不思議そうに言った。

 

「わからないな。でも、行っておいた方がいい」

 

 ハリーが言った。



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ホラス・スラグホーンのランチ

 ハリー、ノエル、ネビルは呼ばれたコンパートメントにやって来た。他にも何人かの生徒が呼ばれているようだった。その中には、まだ二年生で明らかに周りよりも小さなシャロンも混じっていた。

 

「ハリー、よく来た! そして、ミスター・ロングボトムにミス・ガーネット--姉のノエルだね。さあ、座って」

 

 三人は空いていた席に座った。

 

「三人はみんなを知ってるかな?」

 

 スラグホーンがハリーとノエルとネビルに聞いた。

 

「ブレーズ・ザビニは君たちと同じ学年だからもちろん知ってるね。こちらはコーマック・マクラーゲン。こちらは、マーカス・ベルビィ。そして、シャロン・ガーネット。君の妹だね。こちらのお嬢さんは君たちを知っているとおっしゃる!」

 

 スラグホーンはジニーを見て言った。ジニーはここがどこなのかさっぱりわからないというような顔をしていた。

 

「さあ、ナプキンを取ってくれ。ランチを用意してきたのだよ。ベルビィ、雉肉はどうかな?」

 

 ベルビィはぎくりとして、肉を受け取った。

 

「わたしは彼のおじいさんのダモクレスを教えさせてもらっていたのだよ。とても優秀な魔法使いで『トリカブト薬』を発明してマーリン勲章を受け取ってね。おじいさんにはよく会うのかね?」

 

 スラグホーンが聞いた。

 

「いいえ……。おじと僕の父はあまり仲良くなくて……」

 

 ベルビィは消えそうな声で答えた。スラグホーンは次に、マクラーゲンに話しかけた。どうやら、ここに招かれた客はジニーを除いて有力者や有名人と繋がりがあるらしい。

 

「ガーネット姉妹のご両親もとても優秀だった。お父さんは今は闇祓いで、お母さんは神秘部で働いているのだったね。お二人とも元気かね?」

 

「はい。両親から先生のことを聞いたことがあります」

 

 ノエルが答えた。

 

「それは嬉しいな。お父さんはスリザリンの首席だった。お母さんは12OWLを取っていた。噂だが、お兄さんも取ったとか」

 

「ええ。そうです」

 

「それは素晴らしいな。--さあ、パイを食べないか?」

 

 スラグホーンはニッコリしてパイを配り始めた。なぜかベルビィは抜かされた。

 

「さあ、今度はハリー・ポッターだ。『選ばれし者』と呼ばれている! 君は尋常ならざる力を持っているに違いない」

 

 ザビニが「それはどうかな?」と言うように咳払いをした。

 

「そうでしょうとも、ザビニ。あなたには格好をつけるという特別な才能があるものね」

 

 スラグホーンの背後から怒りの声があがった。ジニーのものだった。

 

「ブレーズ、気を付けた方がいい。こちらのお嬢さんはさっき、それは見事な『コウモリ鼻糞の呪い』をかけていたのですよ。私なら彼女には逆らわないね」

 

 スラグホーンは笑いながら言った。それからは永遠とスラグホーンの思い出話が続いた。そして、暗くなってきた頃にやっと解放されたのだ。

 

「終わってよかった。ジニーは誰に呪いをかけたの?」

 

 ネビルが言った。

 

「ザかリアス・スミスよ。ハッフルパフの。魔法省で起きたことを聞こうとしてしつこかったからやってやったの」

 

 ジニーが言った。

 

「ごめん。三人とも、先に行ってて」

 

 ハリーが突然反対方向に進み始めた。

 

***

「もう、着いてしまったわ。ハリーは着替えていないのに!」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「どうしたのかしら……。どこかのコンパートメントで呪いでもかけられたのかしら。とりあえず、駅にいる闇祓いに相談しましょう」

 

 ノエルが言い、みんな特急から降りた。

 

「あれ、トンクスだよね? あの人で大丈夫なのかな?」

 

 ロンがピンクの髪の毛を指差して言った。

 

「一応、闇祓いだし……。でも、私のパパとかお堅い人よりもよっぽどいいわ。トンクスー!」

 

 ノエルはトンクスに手を振った。トンクスは気づいたようでノエルたちを見た。

 

「おー、みんな。あれ? ハリーは?」

 

「いなくなってしまったの。着替えてもいないのよ!」

 

 ノエルが言った。

 

「わかった。私は、特急の中を探すよ。君たちは馬車に乗って行った方がいい」

 

 トンクスはそう言うと特急の中に入っていった。

 

***

 ハリーが戻ってきたのは、組分けが終わった頃だった。マグルの格好をして、血がついていた。そして、目一杯食事をしたあと、ダンブルドアが立ち上がった。片手が死んだように黒くなっていた。

 

「今年は新しい『魔法薬学』の先生をお迎えしているけどスラグホーン先生じゃ!」

 

 ダンブルドアがスラグホーンを紹介した。

 

「やったぜ! スネイプからはおさらばだ!」

 

「でも、スネイプはいるよ。何を教えるんだろう?」

 

 といった声がグリフィンドールから聞こえた。

 

「そして、スネイプ先生は『闇の魔術に対する防衛術』の教師となられる」

 

 広間中がザワザワとし始めた。ダンブルドアは静かになるのを待ち、城の警備が強化されたなど、死喰い人等への注意などを話し、そのまま終了となった。



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半純血のプリンス

 次の日は食事のあとに、時間割を確認する作業があった。ノエルは全ての授業の継続が許されたため、『変身術』をとるかは悩んだが、結局『呪文学』、『闇の魔術に対する防衛術』、『変身術』、『薬草学』、『数占い』、『古代ルーン文字』、『魔法薬学』をとることにした。一時間目の『古代ルーン文字』でハーマイオニーと会ったときに、全教科、同じだとわかった。

 

***

「「何よ! この量は!」」

 

 ノエルとハーマイオニーの声が教室中に響いた。宿題の量に関しては文句を言わず完璧に成し遂げてきた二人が騒ぐほど、大量の宿題だ。他の生徒は、もう言葉も出ない様子だった。

 

「次の時間はスネイプだわ。もっと宿題を出すに違いないわ」

 

 ハーマイオニーは嫌そうに言った。

 

***

 午後の授業は『魔法薬学』で、継続した生徒はノエルを含む十三人しかいなかった。教室には三つのテーブルが用意してあり、一つのテーブルに椅子が四脚か五脚置いてあったので、ノエル、ハリー、ロン、ハーマイオニー、アーニーの五人で席につくことになった。一番近くにある大鍋からは甘いベリーの臭いや、ハーブの匂いを思い起こさせた。

 

「二人は教科書をまだ持っていないね。届くまではこれを使いなさい。材料は貯蔵庫の物を使うといい」

 

 スラグホーンはハリーとロンに古い教科書を渡した。

 

「さーてと、今日は面白い魔法薬をいくつか煎じておいた。これが何かわかる者はおるかね?」

 

 スラグホーンはスリザリン生が座っているテーブルに一番近い大鍋を指差した。ノエルとハーマイオニーの手が同時にあがった。スラグホーンはハーマイオニーをさした。

 

「『真実薬』です。無味無臭で飲んだものに無理やり真実を話させるものです」

 

 ハーマイオニーが答えた。

 

「大変よろしい!」

 

 スラグホーンは嬉しそうに言った。

 

「さて、これはかなりよく知られている。誰か--」

 

 手をあげたのはまた、ノエルとハーマイオニーだった。次は、ノエルがさされた。

 

「『ポリジュース薬』です。変身したい人物の一部を入れると変色します。そして、飲んでから一時間、その人物と全く同じ外見になります。魔法省が注意を喚起するパンフレットを出していましたよね」

 

 ノエルが答えた。

 

「よろしい。次はこっちだが……」

 

 また、ノエルとハーマイオニーが手をあげた。さされたのはハーマイオニーだった。

 

「『魅惑万能薬』です。世界一強力な愛の妙薬です。何に惹かれるかによって、一人ひとり違った匂いがします。私は刈ったばかりの芝生や新しい羊皮紙やr……」

 

 ハーマイオニーは頬を染めた。

 

「最後は何よ……」

 

 ノエルは小声で呟いた。

 

「君のお名前を聞いてもいいかね?」

 

 スラグホーンが尋ねた。

 

「ハーマイオニー・グレンジャーです」

 

「グレンジャー? ヘクター・ダグワース・グレンジャーと関係はあるかね?」

 

「いいえ。私はマグル生まれですから」

 

 ハーマイオニーが答えた。すると、スラグホーンはにっこり笑ってハーマイオニーを見た。

 

「そうか。私の昔のお気に入りの一人にもマグル生まれだったが優秀な魔女がいた! 『魔法薬学』の天才だった。

 さあ、最後だ。そうだね。ミス・ガーネット。ご存じかな?」

 

 最後に、小さな黒い鍋をさしてスラグホーンは言った。

 

「はい。フェリックス・フェリシス--幸運の液体ですね。人を幸運をもたらすものです」

 

 ノエルが答えた。

 

「そうだ! 素晴らしい。レイブンクロー、グリフィンドールにニ十点をあげよう。

 これは、調合が恐ろしく面倒で間違えるとさんざんな目にあう。

 そして、これを今日の授業で一番上手に煎じた者に与えよう。--もちろん、これは競技や試験、選挙には禁止されている」

 

 全員が興味深そうに鍋を見つめた。

 

「『上級魔法薬』の十ページを開き、『生ける屍の水薬』に取り組んでいただこう。さあ、始め!」

 

 それぞれが『上級魔法薬』をめくって、取り組み始めた。

 

(『生ける屍の水薬』! 大丈夫。ちゃんと作り方は知っているわ)

 

 ノエルは落ち着いて取り組み始めた。

 

***

 教科書通りの淡いピンクになっているのはノエルとハリーだけだった。ハーマイオニーに薬はまだ紫色だった。

 

「ちょっと、ハリー! 何をしているの? 教科書には時計と半時計回りって書いてあるわ! ノエルも言ってあげて……ってあなたまで何をやっているの!?」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「確かに教科書にはそう書いてあるけど、違う本では七回撹拌するごとに一度時計回りを加えるって書いてあったし、前の学期でやった薬で似たような過程の薬は教科書にそう書いてあるのよ。

 みんなが同じ薬を作ってもつまらないじゃない」

 

 ノエルは楽しそうに言った。

 

「でも、ハリーみたいに綺麗な淡いピンクにはならないわ……。どうしてかしら?」

 

「『催眠豆』を小刀の平らな面で砕いたんだ。汁がたくさん出てきた」

 

 それを聞いたハーマイオニーが眉をつり上げた。

 

「その手があったのね。確かに、汁が少なすぎると思って豆をもう一つ増やそうか悩んだのよ」

 

 ノエルが納得した表情で言った。そんな話をしている向かい側でロンは鍋に悪態をついていた。ロンの薬は液状の甘草飴のようだった。

 

「さあ、時間終了。やめ!」

 

 スラグホーンはそう言って、ゆっくりとテーブルを回っていった。

 

「ミス・グレンジャーにミス・ガーネット。非常に良い出来だ。ミス・グレンジャーのはもう少し淡い色になるといいだろうね。しかし、初めてにしては上出来だ」

 

 ノエルとハーマイオニーの鍋を見てスラグホーンは満足げに頷いた。そして、最後にハリーのを見たとたん、信じられないという喜びの表情がスラグホーンの顔にうかんだ。

 

「素晴らしい! 何て素晴らしいんだ。君はリリーの才能を受け継いでいる! さあ、これが約束のフェリックス・フェリシスだ。上手に使いなさい」

 

 スラグホーンはハリーに金色の液体が入った小さな瓶をハリーに手渡した。ハーマイオニーは残念そうな顔をしていた。

 

***

「おめでとう。ハリー! あんなのが思い浮かぶなんて流石だわ」

 

 授業後、ノエルはハリーに言った。

 

「正確にはあなたの成果だとは言えないけれどね」

 

 ハーマイオニーは固い表情で言った。

 

「教科書と違う方法でやったことを怒っているの?」

 

 ノエルが聞いた。

 

「いいえ。ハリーの教科書を少し覗かせてもらったのだけど、そこに書き込みがあって、ハリーはそれにしたがってやっているように見えたわ」

 

 ハーマイオニーが答えた。

 

「じゃあ、僕がその教科書を使っていたかもしれないのになぁ。僕の教科書にはゲロしてあった」

 

 ロンが残念そうに言った。

 

「ちょっと待ってちょうだい」

 

 後ろから声がした。振り返るとジニーがいた。

 

「聞き間違えじゃないでしょうね? 誰かが書き込んだ本の命令に従っているなんて」

 

「でも、違うんだ。危険なものじゃない」

 

 ハリーは安心させるように言った。

 

「ジニーの言う通りだわ。おかしなところがないか調べる必要があると思うわ。『スペシアリス・レベリオ!』」

 

 ハーマイオニーか教科書の表紙をコツコツ叩きながら唱えた。しかし、何も起こる様子はなかった。

 

「ほら、何もないだろう?」

 

 ハリーはハーマイオニーから教科書をひったくった。その拍子に教科書は落ちてしまった。

 

「あー、落ちちゃったわ」

 

 ノエルはしゃがんで教科書を拾った。

 

「『半純血のプリンス蔵書』? 自分のことをプリンスって言うなんて、なかなか自信があったのねえ」

 

 ノエルは笑いながらハリーに教科書を渡した。



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クィディッチ 選抜

 二週目の土曜日の午前中、ノエルとルーナは息抜きにと、一緒に外を散歩していた。

 

「見て、ルーナ。グリフィンドールのクィディッチの選抜をやっているわ。たしか、ジニーとロンが応募していたわ」

 

 ノエルが言った。そして、二人は選抜を眺めることにした。客席にはハーマイオニーだけではなく、何人かの生徒が座っていた。

 

「ハーマイオニー。おはよう。今はどんな感じかしら?」

 

 ノエルとルーナはハーマイオニーの隣に腰をおろした。

 

「今、ビーターが決まったわ。ジニーはチェイサーよ!」

 

 ハーマイオニーは嬉しそうに言った。

 

「すごいわ。さすがジニーね」

 

「今年も応援しがいがあるなぁ」

 

 ルーナが言った。

 

「次は最後のキーパーよ。ロンの番だわ」

 

「あ、私、あの人知っているわ。コーマック・マクラーゲンでしょう? キーパーにはぴったりの体格ね」

 

 ノエルが言った。

 

「ロンだって、身長が高いわ」

 

 ハーマイオニーは少し怒ったように言った。もう、マクラーゲンは全部、ゴールを守っている。次で最後の一回だ。ハーマイオニーは隣にいるノエルにしか聞こえないくらい小さな声でブツブツ何かを呟いた。右手には杖を隠し持っていた。そして、最後の一回はマクラーゲンにはゴールを守りきることはできなかった。マクラーゲンはまるで『錯乱呪文』をかけられたような動きをしたのだ。

 

「ハーマイオニー? なんかした?」

 

 ノエルが聞いた。

 

「だって、ロンが……。違うわ! あんな人にチームに入ってほしくないだけよ! あぁ、次はロンだわ。頑張って……」

 

 ハーマイオニーは祈るように手をくんだ。

 

「がんばって!」

 

 女の子の声が聞こえた。声の主はラベンダー・ブラウンだった。

 

 ロンは五回続けてゴールを守った。キーパーはロンに決定だ。ハーマイオニーは競技場にかけ降りていき、ロンを褒め称えていた。

 

「ハーマイオニーの顔、すごい輝いてるよ」

 

 ルーナがボーッとした声で言った。

 

「そうね。アモルテンシア(魅惑万能薬)を嗅いだときの表情みたい」

 

 ノエルが優しく笑いながら言った。一方でラベンダー・ブラウンはブスッとした表情で競技場から出ていった。

 

***

「ねえ、ノエル。ケイティ・ベルの話、聞いた?」

 

 ホグズミードから帰ってきたあと、レイブンクローの談話室でパドマ・パチルがノエルに尋ねた。

 

「聞いたわ。ネックレスに触って、意識を失ったらしいわね。下手したら死んでていかも知れないのでしょう?」

 

「誰が、彼女を殺そうとしたのかしら? そんな、誰かの恨みを買うようなタイプでもなかったし……。スリザリンのクィディッチチームのメンバーかしら?」

 

 パドマが首をかしげた。

 

「さすがにスポーツだけのために殺人を犯す人なんていないわよ。そうね……、実はケイティ・ベル以外を殺そうとしていたのかもしれないわ」

 

「いったい誰が誰を殺そうと……。ホグワーツでそんなことがあるの……?」

 

「そんなの、例のあの人が復活した今なら十分にあるわよ。この学校にはハリー・ポッターと、投獄された死喰い人の子どもたちが生活しているのよ」

 

 ノエルが言った。

 

「じゃあ、ノエルはハリーが狙われているって考えているの?」

 

 パドマは恐る恐る聞いた。

 

「可能性としてはあり得ると思っているわ。あくまで、可能性よ。でも、ケイティが狙われたってことはあり得ないと思うわ」

 

 ノエルは静かに答えた。



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ハーマイオニーの憂鬱

 古代ルーン文字の授業だった。その日の課題をすでに終えたハーマイオニーは、同じく終えたノエルに話しかけた。

 

「ケイティは大丈夫かしら? もうクィディッチの初戦が迫っているのに退院の見込みがたっていないのよ」

 

「ケイティはグリフィンドールのチェイサーだったわね。素人の私でもとても良い選手だってわかるもの。グリフィンドールにとっては痛いわね。それに、たまに練習が塔から見えるのだけど、最近の練習はなんだかひどいわ。ハリーがかわいそうよ」

 

「ロンが最近あまり良くないの。ロンもそんなに悪い選手というわけではないのだけどね……。やっぱり精神的に弱いのよ。去年を見たでしょう? 良いときは素晴らしい選手になれるのだけど、悪いときがひどすぎるの」

 

 ハーマイオニーはため息をつきながら言った。

 

「私だってそうよ。自分に自信がない時とかは三年生レベルの呪文もあやしいのよ」

 

「それは相当ヤバイと思うわ……」

 

 ハーマイオニーは呟いた。

 

「ハーマイオニーはそんなにロンのことが心配なの?」

 

 ノエルはクスクス笑いながら言った。

 

「えっ、違うわ! ……そういうわけじゃなくて、ただ単に、グリフィンドールのチームが心配なのよ!」

 

 ハーマイオニーは慌てて言った。

 

「あら、そう? ……正直になればいいのに、私にはバレバレよ」

 

 ノエルは小さい声で言った。

 

「何か言ったかしら?」

 

 ハーマイオニーはキョトンとした顔で聞いた。

 

「何もないわ。忘れて。

 そういえば、スラグホーンのパーティはロンを誘うのでしょう?」

 

 ノエルが聞くと、ハーマイオニーは少し怒ったような、そしてショックを受けたような顔をした。

 

「さっきの時間、ハリーとロンの三人でその話をしたのだけど--ロンは馬鹿馬鹿しいって言ったの。それで--私はマクラーゲンと一緒に行くべきだって言われて……」

 

「マクラーゲンってあの大きな人ね。『スラグ・クラブ』の。確かに好きな人からそんなこと言われたらショックよねー」

 

「そうでしょう……。って違うわ。私、ロンのことなんか……」

 

 ハーマイオニーが言い終わらないうちにチャイムがなった。

 

***

 グリフィンドール対スリザリンの試合は晴れた良い日に行われた。ノエルは獅子の被り物を着けたルーナと一緒にグリフィンドール側のハーマイオニーの隣で観戦していた。

 

「ウィーズリーがセーブしました。ラッキーなこともあるでしょうね」

 

 解説のザカリアス・スミスがメガホンを通して言った。

 

「ラッキーなんて失礼ね。……あれ、ハーマイオニー、怒ってるの?」

 

 ハーマイオニーはイライラした表情で競技を見ていた。

 

「ねえ、フェリックス・フェリシスは試験や競技で使ってよかったのかしら?」

 

「え? もちろんダメよ」

 

「今日のロンはやたらとラッキーよ。ほら、また」

 

 ハーマイオニーが言った。客席には『ウィーズリーはわが王者』のコーラスが響いていた。

 

「でも、フェリックス・フェリシスをもらったのはハリーよ。それに、もし、ロンが作っていたとしてもあの授業からまだ、半年もたってないわ」

 

「でも、そうね。ハリーが今日の朝、ロンの飲み物に何か液体を入れたのは見違えじゃあなかったのかしら?」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「そんなことに、あの貴重な薬を使うかしら? 他の薬じゃないの? 精神安定剤とか」

 

「私、見たの。あれは絶対に授業で見た……」

 

「ハリーがスニッチを見つけたみたい!」

 

 ルーナが指を指して言った。そして、ハリーがスニッチを掴んだ。グリフィンドールの勝ちだ。大歓声の中、ジニーはなぜか解説者の方に突っ込んでいった。ザカリアス・スミスは壊れた演台の下で弱々しく動いていた。

 

***

 試合後、ノエルとルーナは一緒に城まで歩いていた。

 

「良かったわね。グリフィンドールが勝てて」

 

「うん。あれ、ハーマイオニーだ。泣いてる?」

 

 ルーナが見ている方向に目をやると、視力がそこまで良くないノエルには泣いているかはわからなかったが、確かにハーマイオニーがうつむいて歩いていた。

 

「ねえ、どうしたの? ハーマイオニー?」

 

 二人はハーマイオニーに近づいていった。

 

「ノエル、ルーナ……。私、勘違いで、ロンに酷いことを言ってしまったの……。これが初めてじゃないわ……。いつも、私の勘違いとお節介で喧嘩して……」

 

 ハーマイオニーは大粒の涙を落とし続けた。

 

「うん。ハーマイオニー。静かなところに行こう」

 

 ルーナは妙に冷静に言った。

 

「そうね。今日ならどの教室も空いているわ。ほら、こっちよ」

 

 ノエルはハーマイオニーの肩を優しく叩き、ルーナはハーマイオニーの横を歩いた。

 

***

「気のせいって怖いわね。病も気からって言うしね。私も大事な試験の前に誰かがフェリックス・フェリシスを入れたふりをしてくれないかしら……。あ、ごめんね。ハーマイオニー」

 

 ハーマイオニーはまた大泣きを始めた。

 

「でも、早く泣き止まないと。もう、遅いしグリフィンドールの皆が心配するわよ」

 

 ノエルはハーマイオニーの肩を優しく叩いた。三人の頭上には、一瞬落ち着いていたハーマイオニーが作り出した小鳥たちが飛んでいた。

 

「大丈夫だよ。この教室はグリフィンドール塔から一番近いもン。ほら、誰か来てくれたんじゃないかな?足音が聞こえる」

 

 ルーナが小鳥と戯れながら言った。耳を澄ますと確かに足音が聞こえた。

 

「ハーマイオニー?」

 

 足音の正体はハリーだった。

 

「ノエルにルーナも。あ、小鳥……とってもいいよ」

 

 ハリーが言った。

 

「ロンはどうしたの?」

 

 ノエルが聞いた。

 

「ロンは……。えっと、お祝いを楽しんでいるよ」

 

 ハリーは答えにくそうに言った。

 

「私が居ないことなんて気づかずに?」

 

 ハーマイオニーは今にも壊れそうな声で言った。その時、ドアが突然開いた。入ってきたのは糊でベッタリと貼りつけたかのようにひっついている、ロンとラベンダー・ブラウンだった。四人が部屋に居るのに気づいて急停止した。しかし、にやけ顔のままだった。ハーマイオニーはするりと座っていた机から降りた。そして、荒々しい表情でロンに杖を向け、

 

「オパグノ! 襲え!」

 

と鋭い声で言った。小鳥たちは群れになりロンに襲いかかっていった。しかし、ハーマイオニーは教室から出て行ってしまい取り残されたノエル、ルーナ、ハリーは襲われているロンと、それを助けようとするラベンダーをポカンとした表情で眺めていた。そして、教室からハーマイオニーが出ていくときにすすり泣いていたのを三人ははっきりと聞いた。



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クリスマスパーティ

 ノエルは図書室でハリーと一緒になり、向こうの方でイチャイチャしながら勉強しているロンとラベンダーを眺めていた。

 

「あーあ、ロンってあんなにデレデレするのね。見てるこっちが吐きそうだわ。二人ともお互いの顔を食べているみたい。私、女の直感的にロンはハーマイオニーが好きだと思っていたもの」

 

 ノエルが言った。

 

「僕もそう感じてはいた。でも、親友があんな感じになっているのを見るとは思ってもいなかったよ」

 

「そうよね。まだ、学生よ。でも、ジニーもよく男とベタベタしてるわね。……ハリー? どうしたの?」

 

 ノエルがハリーを見ると、ハリーは不機嫌そうな顔をしていた。

 

「いや、なんでもないんだ。ジニーは妹みたいなものだし」

 

「え? どういうこと?」

 

 ノエルは怪訝そうな顔で尋ねた。

 

「本当になんでもないんだ。あ、ハーマイオニーだ」

 

 ハリーは図書館の入り口の方に手を振った。

 

「二人とも来ていたのね。……あの人たちもいるのね」

 

 ハーマイオニーは嫌なものでも見るような目でロンとラベンダーを見た。

 

「そうだわ。さっき女子トイレに行ったのだけど、そこで女子が十人くらい集まっていたの。ロミルダ・ベインたちよ。あなたに気づかれずに惚れ薬を盛る方法を話していたわ」

 

「あの人たちに惚れ薬なんて作れるのかしら? 惚れ薬よりもっとひどい毒薬になりかねないと思うのだけど……」

 

 ノエルが言った。

 

「そうだよ。それに、どうして取り上げなかったんだ?」

 

 ハリーが言った。

 

「フレッドとジョージの店で買ったのよ。それに、トイレでは持っていなかったのよ」

 

「フレッドとジョージか……。たぶん効くわね。彼女たちはみんな、スラグホーンのクリスマスパーティに誘って欲しいんじゃないかしら?」

 

 ノエルが言った。

 

「正解よ。明日の夜よ。早く一緒に行く人を決めた方がいいわ。少なくとも、ロミルダ・ベインは本気に見えたわ」

 

「じゃあ、ハーマイオニー。一緒に行かないかい?」

 

 ハリーが尋ねた。

 

「ごめんなさい。私は別の人と行くの。……今になって少し後悔してきているけれど……」

 

 ハーマイオニーは申し訳なさそうに言った。

 

「一体誰と行くんだい?」

 

 ハリーが聞いた。

 

「本当に愚かな考えだと思うはずだわ! 聞かないで。私、もう行くわね!」

 

 ハーマイオニーは出したばっかりの荷物をしまってどこかへ行ってしまった。

 

「ハーマイオニーはいつも、どうして隠したがるんだ?」

 

 ハリーが言った。

 

「ザカリアス・スミスでも誘ったんじゃないかしら」

 

「まさかね。君はもう一緒に行く人は決めているの?」

 

 ハリーが聞いた。

 

「ええ。ネビルと行くわ。さっきちょうどネビルとその話になって一緒に行くことにしたのよ」

 

「へえ、そうか。誰か僕と行くのに良さそうな人は知らないかい?」

 

 ハリーが聞くと、ノエルは満面の笑みで頷いた。

 

「いるわ。ルーナよ。きっと喜ぶわ! 私もルーナとパーティで会いたいし」

 

「それはいいや。じゃあ、ルーナを見かけたら誘ってみるよ」

 

***

 パーティの当日。ノエルが寮でパーティの支度をしているとルーナがやって来た。

 

「あたし、ハリーにパーティに誘われたの! ノエルも行くんだよね」

 

 ルーナがとても嬉しそうな顔をして言った。

 

「良かったわね。ルーナ」

 

「パーティに誘われたことなんて一度もないもン。だから、準備をちゃんとしないと!」

 

 ルーナは楽しそうに準備をしに行った。

 

 ノエルは八時よりちょっと前に待ち合わせの玄関ホールに向かった。ノエルは淡い水色で、上品なレースのあしらわれたドレスローブを着て、長い黒髪はシニヨンにして玄関ホールでネビルを待っていた。一緒に待っていたルーナはスパンコールのついた銀色のローブを着ていて、それをクスクス笑う人がいたが、ルーナが着ればそれほど悪くなく、むしろ素敵だとノエルは思った。

 

 少し待つと、ネビルがハリーと一緒にやって来た。

 

「ごめん。待った?」

 

 ネビルが聞いた。

 

「いいえ。さあ、行きましょう」

 

***

 会場のスラグホーンの部屋には何人もの人がいて混み合っていた。

 

「ハーマイオニーが誰と行ったか知っているかしら? 昨日、聞いたときは誰か教えてくれなかったのよ」

 

「僕もわからないんだよ。あと、コーマック・マクラーゲンも誰と行くか、よくわからないんだ。マクラーゲンが準備しているのは見かけたんだけど。まさか、ハーマイオニーとマクラーゲンが一緒に行くなんてないよね?」

 

「ネビル。それは大正解だったみたいよ。見て」

 

 二人の少し前には二人の男女がいた。あの髪の毛はハーマイオニーのものだし、あの大きな体もマクラーゲンのものだろう。

 

「君は見ただろう? クィディッチの選抜の時のセーブを……」

 

 マクラーゲンは自慢気に自分の素晴らしいセーブについて話していた。ハーマイオニーは心底うんざりしたような顔をしていた。

 

「かわいそうに。だから、愚かな考えだって言っていたのね」

 

 ノエルが言った。すると、ハーマイオニーはノエルたちに気づいたようで後ろを振り返った。

 

「私、お手洗いにいってくるわ」

 

 ハーマイオニーは人混みに隠れながらノエルたちのところにやって来た。

 

「最悪よ。あの人。ずっと自慢ばかりで……。ザカリアス・スミスでもいいと思ったのだけど、やっぱり一番ロンが嫌がるのはマクラーゲンだと思ったのよ」

 

「ザカリアス・スミスだって? そんなことまで考えてたの?」

 

 ネビルが驚いた。

 

「そうよ。そっちの方がまだ、ましだったかもしれないわね。--あ、こっちに来るわ」

 

 ハーマイオニーはまた、人混みに隠れ、どこかに行ってしまった。



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ロンのひどい誕生日

 クリスマス休暇が明けた次の日の朝、談話室の掲示板には『姿現わし』の練習コースの告知が貼られていた。

 

「ノエルも受けるでしょう?」

 

 自分の名前を早速名簿に書いたレイブンクローの同級生がノエルに尋ねた。

 

「ええ、受けるわよ。でも、試験に合格する気がしないのよね……」

 

 ノエルは絶望的な顔をして呟いた。

 

***

 翌日の『魔法薬学』の授業では『ゴルパロットの第三の法則』についてで、課題の毒薬に対する解毒剤を調合するというものだった。残念ながらハリーの教科書には何も前の持ち主からの書き込みはなく、ロンやアーニーと一緒に苦戦していた。一方でノエルとハーマイオニーは平然とした顔で薬を調合していた。

 

「でも、これはわざわざ調合しなくても『ベゾアール石』で大丈夫だと思わない?」

 

 ノエルがハーマイオニーに言った。ハリー、ロン、アーニーはとんでもないことになっている大鍋に苦戦していて何も聞いていないようだった。

 

「そうだわ! 気づかなかった。でも、ベゾアール石はなかなか手に入らないものよ」

 

 ハーマイオニーが薬瓶に薬を分けようと苦戦しながら言った。その少し後、ハリーがいきなり立ち上がり、材料棚に向かった。そして、何かを握りしめて戻ってきた。

 

「時間だ。やめ!」

 

 スラグホーン先生が合図をして、それぞれの解毒剤を見てまわった。ノエルとハーマイオニーの解毒剤を見て、満足げに頷いた。そして、最後はハリーだった。しかし、ハリーの大鍋には何も入っていなかったし、瓶に分けた様子もなかった。ハリーはいきなり、スラグホーン先生に手を差し出した。手のひらには石が乗っていた。十秒間、沈黙が続いた。

 

「まさかとは思うけど、これってベゾアー……」

 

 ノエルが小声で言いかけた時、スラグホーン先生は大笑いを始めた。

 

「まったく、いい度胸だ! このベゾアール石はここにあるすべての魔法薬すべての解毒剤として効く!」

 

 スラグホーン先生は、石をみんなに見えるように掲げた。

 

「あなたは本当に一人で考えついたのね? そうよね!」

 

 ハーマイオニーは歯軋りしながら聞いた。

 

「生意気千万に対してグリフィンドールに十点! さあ、荷物をまとめて」

 

 スラグホーン先生は笑いながら自分の机に戻っていった。

 

「早くした方がいいわよ。私たち、次は『古代ルーン文字』だわ」

 

 ハーマイオニーはさっきのベゾアール石のことについてまだ怒っているのか、イライラした口調で言った。

 

「先に行っててくれ。僕たちは次は自由時間だから」

 

 ハリーが言った。ハーマイオニーは返事もせずに教室を出ていった。

 

***

 二月になり、『姿現わし』第一回練習が大広間で行われた。ノエルは憂鬱そうな顔で大広間に降りていった。

 

「あなた、どうしたの? ひどい顔よ!」

 

 パドマがノエルを見て、驚いた様子で言った。

 

「昨日、不安すぎて眠れなかったのよ。一応、今日は化粧をしてクマくらいは隠そうとしたのだけど無理だったみたい」

 

 ノエルは弱々しく笑った。

 

 魔法省から派遣された『姿現わし』の指導官のもと、練習は始まった。ノエルは心配していたバラけは起きずに安心したが、何も起こらなかった。しかし、何かが起きたのはバラけたスーザン・ボーンズだけだった。

 

***

 三月一日の朝、ノエルが大広間に降りるとハリーにいきなり呼び止められて人気のない階段まで連れていかれた。そこにはぼんやりとした顔をしたロンがいた。

 

「僕のロミルダ・ベインからのチョコを食べてこうなったんだ」

 

 ハリーはこそこそ言った。

 

「フレッドとジョージの惚れ薬ね……。私、まだ愛の妙薬は作ったことがないのよ。今は、他の薬を調合しているから。だから、解毒剤なんてもっての他だわ。スラグホーン先生に相談しましょう」

 

 ノエルが言った。

 

「どうやって?」

 

 ハリーが聞いた。

 

「私が説得するわ。--おはよう。ロン。良い朝ね」

 

 ノエルがロンに話しかけた。

 

「あぁ、そうだね。ロミルダ・ベインを見なかったか?」

 

「えっと、彼女なら『魔法薬学』の特別授業を受けているみたい。さっき、話しているのを聞いたわ」

 

「僕も一緒に受けられないか頼んでみようかな?」

 

「それはいいわね」

 

 ノエルとハリーはロンを連れて、スラグホーンの部屋に向かった。

 

「ウォン-ウォン! どうして先に行っちゃったの?」

 

 ラベンダーがロンを呼び止めた。

 

「ほっといてくれよ。僕はロミルダ・ベインに会いに行くんだ」

 

 ロンがイライラした口調で言った。ラベンダーはショックを受けたような顔になった。

 

「後でわかるはずだから! お願い、怒らないで! ほら、速く行きましょう」

 

 三人が行ってしまってもラベンダーは立ちすくんでいた。

 

***

 ハリーがスラグホーンの部屋のドアをノックした。ドアの中からは、まだ部屋着姿のスラグホーンが出てきた。なぜか、いつもハリーに接する態度よりもよそよそしい気がした。理由を聞いたスラグホーンは三人を部屋に入れ、解毒剤の調合を始めた。

 

「まだ、来てないんだね。今の僕、どう見える?」

 

 ロンが聞いた。

 

「とても男前だ」

 

 スラグホーンはロンに透明な液体の入ったグラスを渡しながら言った。

 

「これは、神経強壮剤だ。彼女が来たときに落ち着いていられる」

 

「すごい」

 

 ロンは疑いもせず、解毒剤を一気に飲み干した。しばらくの間、ロンはニッコリと笑っていたが、やがてそれは引っ込み、打ちのめされたような顔で、肘掛け椅子に倒れ込んでしまった。

 

「先生、気つけ薬ってありますか?」

 

 ノエルが聞くと、スラグホーンは飲み物でびっしりのテーブルに向かった。

 

「バタービールもワインもある。オール樽熟成酒は最後の一本だ。--ダンブルドアに贈るつもりだったが、ミスター・ウィーズリーの誕生祝いとしようかね」

 

 スラグホーンはそれぞれにグラスを渡した。そして、すぐにロンはそれを飲んだ。すると、ロンは、グラスをポトリと落とし、手足が激しく痙攣し始めた。口から泡を吹き、両眼は飛び出している。

 

「先生! なんとかしてください!」

 

 ハリーが叫んだ。しかし、スラグホーンは唖然としていた。

 

「ハリー! そっちの方で探して! 私はこっちを探すわ」

 

 ノエルは手当たり次第に薬が置いてある棚を漁りだした。ハリーも夢中で魔法薬学キットの材料を引っ張りだした。

 

「先生! ベゾアール石は使えますか?」

 

 ハリーが聞いた。スラグホーンはまだ唖然とした様子だった。

 

「大丈夫よ! 口に押し込んで」

 

 代わりに答えたのはノエルだった。ハリーは言われた通りにロンの顎をこじ開け、石を口に押し込んだ。ロンは、静かになった。



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医務室にて

 ノエルはすぐに外に飛び出て、マダム・ポンフリーとマクゴナガルを連れてきた。そして、ロンを医務室に連れていった。マダム・ポンフリーはロンは大丈夫だろう、と言った。そして、一週間は入院していなくてはならないとつけ足した。ノエルとハリーは、ほっと胸を撫で下ろした。

 

「私、ジニーとハーマイオニーを探してくるわ」

 

 ノエルが医務室から出ていこうとした。

 

「僕も行く」

 

 ハリーもそれについてきた。

 

「さっき、気になったのだけど、今日のスラグホーン先生はいつもとハリーと接する態度が違ったわ。何かあったの?」

 

 ノエルが尋ねた。ハリーは返答に困った顔をした。そして、

 

「実は、ある人に先生に聞きたい重要なことを聞き出すように頼まれているんだ。でも、先生は知られたくないみたいんだ。昨日、聞こうとしてこうなったんだ」

 

と答えた。

 

「そうだったのね。どうしても聞かないといけないの? 私、真実薬なら調合できるわよ」

 

「教授だよ。さすがに薬を盛ったらばれるよ。第一、どうやってスラグホーンに盛ったものを食べさせるんだい?」

 

「そうだったわ……。--なら、あなたが薬を飲めばいいじゃない!」

 

「僕が? どういうこと?」

 

 ハリーが怪訝そうな顔をした。

 

「あなたがまだ、フェリックス・フェリックスを使っていないのなら、あなたがそれを飲んでスラグホーンに近づけばいいのよ」

 

「それはいい考えだと思う。最終的に行き詰まったら使ってみるよ」

 

「それがいいわ。あなたは他に使うべき場面が山のようにあるでしょうから……。あ、ルーナ! ハーマイオニーとジニーを見なかったかしら?」

 

 ルーナを見つけたノエルが声をかけた。

 

「ジニーならグリフィンドールの寮に戻っていった。さっきまで一緒にいたモン。ハーマイオニーは図書室の方にいってた気がする」

 

 ルーナはいつも通り、ボーッとした声で言った。

 

「ありがとう、ルーナ。僕はグリフィンドール寮を探してくる。ノエルは図書室の方を探してくれ!」

 

 ハリーはグリフィンドールの寮がある方に走り出した。

 

「わかったわ」

 

 ノエルも図書室の方へ向かった。

 

***

「ハーマイオニー! 探したわ! 実はロンが……」

 

「ロンが私を探しているって言うの? 私、話したくないわ」

 

 ハーマイオニーは怒ったような表情で言った。

 

「違うわ--。毒を盛られて……」

 

「毒ってどういうこと!?」

 

 ハーマイオニーの顔は真っ青になっていた。

 

「落ち着いて。ロンは今、医務室にいるわ。マダム・ポンフリーが大丈夫だろうって言っていたわ」

 

 ハーマイオニーはフラフラと立ち上がって、本をもとの場所に戻さずに、図書室から走って出ていった。

 

「待って! ハーマイオニー!」

 

 ノエルはハーマイオニーを追いかけた。ハーマイオニーがたどり着いたのはやっぱり医務室だった。ロンはまだ、目覚めておらず、フレッドジョージがいた。そして、同じタイミングでハリーとジニーがやって来た。ハーマイオニーは声も出さずに涙をこらえていた。

 

「なんでここにいるの?」

 

 ジニーが聞いた。大きな包みを持ったジョージがそれをロンの枕元に置きながら、

 

「こいつを待ち構えていたんだ。驚かしてやろうと思って」

 

と言った。

 

「ゾンコの店を買収しようとしていたんだ。いったい何が起こったんだ?」

 

 フレッドが言った。ハリーは何があったのかを説明した。

 

「君たちがいてよかったなぁ。あの太った先生は唖然としているだけだったんだろう?」

 

「本当に、あの部屋にベゾアール石があって助かったよ。もし、無かったら……」

 

 部屋は静かになった。ハーマイオニーの口から漏れる音だけが部屋でなった。

 

「なんで、そのグラスに毒が入ってたんだ? ロンのグラスにだけ毒があったのか?」

 

 フレッドが聞いた。

 

「わからない。だけど、グラスに毒を入れてる様子はなかった」

 

 ハリーが言った。

 

「そうね。そういえば、その瓶はダンブルドアに贈る予定だって言ってたわ」

 

 ノエルが言った。

 

「それじゃあ、スラグホーンはダンブルドアを殺そうとしていたけど、君たちに毒を盛ろうとしていたってことかい?」

 

 ジョージが言った。

 

「なぜ、スラグホーンがダンブルドアを殺す必要があるの? 彼は死喰い人ではないと思うわ。授業で袖を捲ったときに刺青らしきものはなかったもの」

 

 ノエルが言った。その時、いきなりドアが開き、ハグリッドがやって来た。

 

「アラグゴの容態が悪くて一日中森にいた! それで、さっきロンのことをスプラウト先生に聞いた!」

 

 ハグリッドは走ってきたようで、息を切らしながら言った。

 

「信じられねえ……。最初はケイティ、今度はロンだ。グリフィンドールのクィディッチ・チームに恨みを持つやつがいるんじゃねえのか?」

 

 ハグリッドは心配そうに言った。

 

「その話、この前したわ」

 

 ノエルが言った。ハグリッドが誰かわからないという表情をした。

 

「あ。私、ノエル・ガーネットです」

 

「ルイスの妹か? あいつは面白いやつだった。よく、授業で使わねえ魔法生物を見せてほしいってせがみに来てた」

 

 ハグリッドは懐かしそうな顔をした。

 

「そうね。だけど、どちらも殺したかった人物には届いていないわ。スラグホーンもケイティも知らないうちに誰かに毒とかネックレスを贈ろうとしていたのよ」

 

 ずっと黙っていたハーマイオニーが言った。

 

***

「同一犯なのかしら? だとしたら、誰かがダンブルドアを殺そうとしているってこと?」

 

 医務室を出て、歩いているとき、ノエルが言った。

 

「誰が犯人にせよ、子どもが襲われてる。そうなりゃあ、次の理事会じゃあ学校を永久閉鎖する話をするに決まっちょる」

 

「まさか。秘密の部屋の時だってそうはならなかったわ」

 

 ハーマイオニーが心配そうに言った。

 

「殺人未遂が立て続けにだ。ダンブルドアが立腹されるのも無理はねえ。あのスネ……」

 

 ハグリッドは口を止めた。

 

「ダンブルドアがスネイプに腹をたてた?」

 

 ハリーが素早く突っ込んだ。ハグリッドはギクリとした顔をした。その時、アーガス・フィルチが現れた。

 

「こんな時間にベッドを抜け出しとるな! 罰則だ!」

 

 フィルチはゼイゼイ声で言った。

 

「俺と一緒だ! 早く行け」

 

 ハグリッドが怒鳴った。そして、それから話すこともなくそれぞれの寮に戻った。



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グリフィンドール vs ハッフルパフ

 クィディッチの試合の前日の夕方だった。図書館にいた、ノエルはいきなり誰かに肩を叩かれた。振り返るとマクゴナガル先生が立っていた。マクゴナガル先生は廊下に来るようにと、首を廊下に向けた。

 

「探しましたよ。ミス・ガーネット。きっとここにいるだろうと思いました」

 

 廊下に来るとマクゴナガル先生が口を開いた。

 

「この前の授業ですか? 私、相当酷かったですもんね。補習ですか?」

 

 ノエルは嫌なことを思い出すかのように言った。

 

「いいえ。あの授業は難易度の高いものでしたので、他の生徒も同じような出来でした。なので!次回の授業で復習をします」

 

「それじゃあ、何のお話ですか?」

 

 ノエルが不思議そうに聞いた。

 

「明日はクィディッチの試合だということは覚えていますね? その解説者についてです」

 

「ハッフルパフ対グリフィンドールですね。--ザカリアス・スミスが試合に出てしまうから解説者がいなくなってしまうんですね! でも、私はクィディッチはあまり詳しくありませんよ」

 

「いいえ。解説者は決まっています。--ミス・ラブグッドです」

 

 マクゴナガル先生が言った。

 

「ラブグッド? ルーナですか!? まさか!」

 

 ノエルは愕然とした。

 

「そうです。私も一緒に演台に立ちますが、私だけでどうにか出来るとは思えません。そこで、あなたも一緒に演台に立ちませんか?」

 

「わかりました。やります」

 

「よろしい。それならば、今日は早く寝た方がよいでしょう。ミス・ラブグッドは明日に備えて早く寝ると言っていましたから。それでは、明日」

 

 マクゴナガル先生は廊下を歩いていってしまった。

 

***

「クアッフルを手にしているのはハッフルパフのスミスです。ジニーがスミスに向かって飛んでいきました。あら、スミスがクアッフルを落としてジニーが奪いました。前回の試合で失礼な態度をとったことを今頃後悔しているでしょうね」

 

 ルーナは夢見心地の声で言った。そして、ハッフルパフからはブーイングが飛んだ。選手も観客もまさかルーナが解説を務めるとは思っていなかったらしく、演台を凝視した。

 

「今度は大きなハッフルパフの選手がジニーからクアッフルを奪いました。たしか、ビブルみたいな名前だったっけ」

 

「キャッドワラダーよ。全然違うわ」

 

 ノエルが言った。マクゴナガル先生は頭を抱えだした。観衆は大笑いした。

 

「あら、グリフィンドールの大きなキーパーが怒鳴ってる……。ジニーを批判してるのかな? ハッフルパフが一点入れました」

 

 ルーナはのどかに言った。

 

「マクラーゲンよ。覚える気あった? ハリーとマクラーゲンが口論しているわ」

 

 ノエルが言った。

 

「これはスニッチを見つける役には立たないと思うけど、戦略なのかもね。--見て、あの雲、とても面白い形してる。西の方だよ」

 

 ルーナは空を見上げながら言った。

 

「キャッドワラダーが入れました。これで、同点です」

 

 ルーナは、点数に興味が無い様子で代わりにノエルが解説を始めた。

 

「ザカリアス・スミスはボールを一分以上持てていないよ。多分、『負け犬病』だと思うな」

 

「七十対四十、ハッフルパフのリード!」

 

 マクゴナガル先生が叫んだ。

 

「もう、そんなに? ノエルは気づいてた?」

 

「当たり前よ……。あら? なんでマクラーゲンがビーターの棍棒を持ってるのかしら?」

 

 そして、マクラーゲンがブラッジャーを打ち、運が悪くハリーにブラッジャーが直撃してしまった。ハリーはそのまま箒から落ちてしまった。観客たちはざわめいた。マクラーゲンは棍棒を持ったまま呆然と落ちていくハリーを見ていた。グリフィンドールの選手のクートとピークスがハリーを捕まえた。

 

「速く! 速くポッターを医務室へ!」

 

 マクゴナガル先生が叫んだ。ハリーは何人かの先生に囲まれて医務室へと連れていかれた。マクゴナガル先生はとても心配そうに城の方を見ていたが演台から離れることは出来なかった。

 

「マクラーゲン! ゴールポストに戻るのです!」

 

 マクゴナガル先生が怒鳴った。マクラーゲンはそろそろとゴールポストへ戻った。そこから先が最悪だった。マクラーゲンはほとんどゴールを止めることが出来ず、チェイサーもハリーがいなくなった後は二〇点しか入れられなかった。グリフィンドールにはシーカーがいなくなってしまったため、もちろんスニッチも取れなかった。最終スコアは三二〇対六〇だった。試合終了後、ジニーがマクラーゲンのことを蹴りながら退場するのが見えた。

 

***

 次の月曜日の朝に、ハリーのお見舞いに行ったノエルとルーナは、もうすでに退院することの出来たハリーとロン、それとハーマイオニーに出会った。

 

「二人とも、退院おめでとう。さっき、ラベンダーが探していたわよ」

 

 ロンが生返事をした。

 

「そうそう、これをあんたに渡すように頼まれてたんだ」

 

 ルーナは羊皮紙を取り出してハリーに渡した。それから、朝食に向かった。

 

 ラベンダーは一応ロンの隣に座っていたが話すことはせず、ハーマイオニーは何度か笑みをレイブンクローのテーブルに向けてきた。

 

「ハーマイオニーは、もう元気みたい」

 

 ルーナが言った。



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スラグホーンの記憶

 ある日、ノエルは偶然ハリーと廊下で出会った。どうやら考え事をしているようだった。

 

「ハリー。荷物が落ちているわ。考え事でもしているの?」

 

 ノエルが尋ねた。

 

「あぁ、うん。ほら、スラグホーンに聞きたいこと……あ!」

 

 ハリーが突然声をあげた。

 

「そうだ! あの時君が言っていたようにフェリックス・フェリシスを使えばいいんだ!」

 

「悩み事は解決したのかしら?」

 

「あぁ、今日の夕方に試してみるよ」

 

 ハリーは颯爽と廊下を歩いていった。

 

***

「それじゃあ、あなたはこれを使うのね?」

 

 談話室の外でハーマイオニーが言った。

 

「うん。十二時間分もいらないから一口だけ飲むよ。いくよ」

 

 ハリーは慎重に飲んだ。

 

「よし、最高の気分だ。これからハグリッドの所に行こうかな」

 

 ハリーはニッコリ笑っていった。

 

「え、違うわ。あなたはスラグホーンの所に行くのよ」

 

「どうしたんだい? 確かに最近はあまりハグリッドの所に言っていないけど……」

 

 二人は唖然として言った。

 

「いや、ハグリッドの所に行くべきなんだ。行ってくるよ」

 

 ハリーは寮から出ていった。

 

***

「やあ、ハグリッド。なにをしているの?」

 

 ハリーがハグリッドに聞いた。

 

「おお、ハリー。アラゴグの看病をしとるんだ。もう歳で弱っちまって、全く良くならねえんだ。薬に詳しい誰かに一度見てもらいてぇな」

 

 ハグリッドは少し落ち込んだ様子だった。

 

「それなら、スラグホーン先生に頼むといいよ。僕が呼んでくる」

 

 ハリーはスラグホーンの部屋に向かった。スラグホーンの部屋のドアをノックすると、スラグホーンは動揺した様子で出てきた。

 

「こんばんは、ハリー。何の用かな?」

 

「先生。お願いがあるんです。ハグリッドの友達のアクロマンチュラを見てやってください」

 

「アクロマンチュラだって? イギリスでは未確認だと、ニュート・スキャマンダーの本には……。噂では聞いたことがあるが……」

 

「蜘蛛の名前はアラゴグでハグリッドの友達なんです。ハグリッドは、アラゴグの調子が良くなくて落ち込んでいます」

 

「わかった。出来ることはやってみよう。案内しておくれ」

 

 スラグホーンは小さなトランクを持った。

 

***

 ハグリッドの小屋に行くと、その中にはハグリッドは居らず、その代わりに小屋の裏にハグリッドと眠った巨大蜘蛛がいた。

 

「今は眠っちょる。見てやってくれねえか?」

 

 ハグリッドが言った。

 

「もちろんだ。なんと美しいアクロマンチュラだ……。それに大きい。素晴らしい量の毒を持ってるだろう……」

 

 スラグホーンがアラゴグに近づきながら言った。

 

「ホラス、あんたアラゴグの毒が欲しいのか? 元気になったらもらっておこうか?」

 

 ハグリッドが聞いた。スラグホーンは嬉しそうな顔をした。

 

「ぜひお願いしたいものだ。さあ、元気になってもらわなければ。

 --これは病気ではなく、老弱だ。この薬を飲ませておけばたちまち元気になるだろう。あと少し遅かったら助からなかったかもしれない」

 

 スラグホーンはアラゴグを一通り見たあと、ハグリッドに大きな瓶を渡した。

 

「ありがてえ、スラグホーン先生。お礼をさせてくれねえか? ハリーと一緒に小屋で待ってくれ」

 

 ハグリッドは瓶を持って、アラゴグの方に向かった。

 

 ハグリッドは、飲み物の瓶を大量に抱えて戻ってきた。

 

「これがお礼だ。たくさん飲んでくれ。もちろん毒味はされちょる」

 

 ハグリッドは大きな音をたてて瓶をテーブルに置いた。それから、ハグリッドとスラグホーンは飲み続けた。

 

「今回、アラゴグは無事だったが、ひどいもんで、いいやつは早死する」

 

 ハグリッドが言った。

 

「そうだな。ジェームズもリリーもそうだ。素晴らしい魔法使いだった。君はあの時のことは覚えていないのかね?」

 

 スラグホーンが言った。

 

「えぇ、まだ一歳でしたから。でも--」

 

 ハリーは言葉を続けた。

 

「どうやら父が最初に殺されたそうです。ヴォルデモートは僕に、母は死ぬ必要はなかった、逃げれば死ぬことはなかったと言いました」

 

「なんと……むごい……」

 

 スラグホーンがひっそりと言った。

 

「でも、母は動かなかった。母はヴォルデモートに哀願しました。--でも、ヴォルデモートは……」

 

「もういい! 十分だ!」

 

 スラグホーンは震えながら言った。

 

「先生は、母が好きだったんですか?」

 

 ハリーが聞いた。

 

「あぁ、そうだ。彼女を好きにならない者はいない。きっと、君も好きになっていただろう」

 

 スラグホーンの目には涙が溢れていた。

 

「それなのに、先生はその息子を助けてくれない。母は僕に命をくれたのに、先生は記憶をくれない」

 

 ハリーは静かに言った。

 

「しかし、そんな老人の記憶など役に……」

 

「役に立ちます。奴を殺すためには記憶が必要なんです」

 

 ハリーはスラグホーンの言葉を遮った。

 

「リリー・エバンズを殺したヴォルデモートを退治したくないのですか?」

 

「もちろん、退治したい。しかし、自慢の出来る記憶ではない。恥ずかしいのだ。私はもしかしたらとんでもないことを引き起こしてしまったかもしれない……」

 

「僕にその記憶を渡せば先生のやったことは帳消しになります。それはとても勇敢で気高い行為です。僕を命をかけた守った母--リリー・エバンズのように」

 

 スラグホーンは黙った。そして、ゆっくり杖と小さな瓶を取り出すと、杖をこめかみに当て、引いた。記憶の糸か杖先について出てきた。スラグホーンはそれを瓶に入れてハリーに渡した。

 

「ありがとう。先生」

 

「君の目はリリーと同じだ。お願いだ、私を恨まないでくれ……」



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ノエルとダンブルドア

「聞いて! ルーナ。私、『姿現わし』の試験に合格したわ! 私、まだ信じられないの」

 

 夕食の時間にノエルは嬉しそうに言った。

 

「すごいね。私も早く習得していろんな生物の探検にいきたいなぁ」

 

 ルーナが言った。

 

「あれ、ハリーが居ない。ロンとハーマイオニーはいるのに」

 

 ルーナがグリフィンドールのテーブルを指差して言った。

 

「本当だわ。あら、ロンはもうラベンダーとは座っていないようね。噂通り、別れたのかしら。--それに、ダンブルドアも居ないわ」

 

「ダンブルドアは最近よく居なくなってるよ。ハリーが居なくなることもたまにあるし、例えば今年の最初とか」

 

 ルーナは夢見心地の声で言った。

 

「じゃあ、また何か問題でも起きたのかしら? それとも罰則なのかしら……」

 

 二人は夕食を終え、寮に戻った。

 

***

 ハリーは弱ったダンブルドアを連れて城に戻ってきた。スネイプの処置のお陰でダンブルドアは話せるようになった。ダンブルドアはマクゴナガルを呼んで、

 

「ハリーを寮まで送り届けてほしい。そして、レイブンクローからミス・ガーネットを呼んでくるのじゃ。ミネルバなら、あの寮に容易く入れるじゃろう」

 

と言った。マクゴナガルは言われた通りハリーを寮まで送り、レイブンクローの寮に簡単に入り、ノエルの肩を叩いた。

 

「まだ、真っ暗よ……。パドマ……? マクゴナガル先生!?」

 

 ノエルはベッドから飛び起きた。

 

「静かになさい。他の生徒が起きてしまいます」

 

「そんなこと言われてもこんな時間に起こされるからですよ……。どうしたんですか?」

 

 ノエルは目を擦りながら言った。

 

「ダンブルドア先生があなたのことをお呼びになっています」

 

「私、ですか?」

 

「ええ、あなたです。支度をしておいでなさい」

 

 ノエルは適当にワンピースを来て、マクゴナガル先生と一緒に校長室まで向かった。

 

「タフィー・エクレア」

 

 マクゴナガル先生が合言葉を言って、校長室に入った。ノエルも着いていった。校長室にはぐったりとしたダンブルドアとスネイプがいた。

 

「セブルス、ミネルバ。席を外してくれんかの?」

 

 ダンブルドアは弱々しく言った。

 

「もしものことがあれば、しかるべき時に……」

 

 スネイプが言った。

 

「わしはまだ大丈夫じゃ」

 

 二人は校長室から出ていった。

 

「新学期のことじゃ。何があってもホグワーツに戻って来てほしいのじゃ。たとえ、ホグワーツが死喰い人の支配におかれてもじゃ」

 

「何があってもって……。まさか、ダンブルドア先生がいる限り、そんなことなんて……」

 

「儂はただの老いぼれじゃ。ヴォルデモートが復活した今、何が起こるのかわからぬ。それに、あの三人は新学期からはきっとホグワーツには戻らない」

 

「あの三人? 誰ですか?」

 

 ノエルは首をかしげた。

 

「まさか、ハリー、ロン、ハーマイオニーですか?」

 

 ダンブルドアは頷いた。そして、沈黙が訪れた。先に口を開いたのはノエルだった。

 

「わかりました。私は絶対に新学期からもホグワーツに戻ります。約束します。でも、なぜ……?」

 

 ノエルが聞いた。

 

「分霊箱を知っているかのう? もちろん、知っていたら大問題じゃ。分霊箱は殺人を行うことで魂を引き裂き、その断片を器に納め保存するものじゃ。分霊箱があるかぎりヴォルデモートは死ぬことはない。そして、ヴォルデモートには七つの分霊箱があるはずじゃ」

 

「七つ……」

 

 ノエルは顔をひきつらせた。

 

「そのうちの一つは儂が破壊した。そして、もう一つはハリーが破壊した」

 

 ダンブルドアは指輪と日記帳をテーブルに置いた。

 

「残りの五つのうち三つはホグワーツの創設者の品のはずじゃ。ヘルガ・ハッフルパフのカップ、ロウェナ・レイブンクローの髪飾り、サラザール・スリザリンのロケットじゃ。レイブンクローの髪飾りはレイブンクローの寮にあるロウェナ・レイブンクローの像がつけているじゃろう」

 

「あの髪飾りがそれだったんですね。聞いたことがあります。着けた者に知恵を与えるとか……。でも、髪飾りは例のあの人が生まれる何百年も前から行方不明なんですよ?」

 

「その通りじゃ。しかし、ヴォルデモートがそれを発見したという可能性は大いにある」

 

「そうですね。では、他は? ハッフルパフのカップとスリザリンのロケットは?」

 

 ノエルが勢いよく聞いた。

 

「ハッフルパフのカップは彼が若いうちにすでに手にしておる。そして、今夜、ハリーと儂で探しに行ったのがサラザール・スリザリンのロケットじゃ」

 

 ダンブルドアはテーブルにロケットを置いた。

 

「しかし、これは偽物じゃ。ハリーが持っているが、このロケットには手紙が入っておった。死喰い人が残していったものじゃ。彼、あるいは彼女は分霊箱を破壊しようとしていた」

 

「死喰い人が? 一体誰ですか?」

 

「わからぬ。ただ、R.A.Bという署名が残されておった。しかし、スリザリンのロケットがすでに破壊されているのかはわからぬままじゃ」

 

 ダンブルドアが残念そうに言った。

 

「そこで、本題じゃ。このロケットには、何か呪いのようなものがかかっておる。それを解いてほしいのじゃ」

 

「私が、ですか? あの、よかったら私の成績をご覧になっていただきたいんですけど……」

 

 ノエルは驚いて言った。

 

「それに、死喰い人のかけた呪いですよ? 最悪、私、死にますよ」

 

「大丈夫じゃ。きっと出来るじゃろう。しかし、何が起こるのかはわからぬ。新学期になってから『必要の部屋』でやるとよいじゃろう」

 

「そんなこと言われても私に出来るとは……」

 

 ノエルは自信なさげに言った。しかし、ダンブルドアはノエルにロケットを渡した。

 

「必要なのは自信じゃ。自信を持つのじゃ。さあ、もうそろそろで日が登り始めるのう。ルームメート達が心配する前に帰るのじゃ」

 

 ダンブルドアはノエルを帰るように促した。ノエルも不満そうな顔をしながら、しぶしぶ校長室から出ようとした。

 

「良いか? 必ずホグワーツに戻ってくるのじゃ」

 

 ノエルがドアに手をかけたときにダンブルドアが言った。

 

「わかりました。ロケットはわかりませんが、ホグワーツには絶対に戻ってきます」

 

 そう言ってノエルは校長室を出た。もう、空には日がのぼっていた。



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セクタムセンプラ

 ある日のことだった。レイブンクロー対グリフィンドール戦の数日前に、ケイティ・ベルは回復し、ホグワーツに戻ってきた。彼女は、ホグズミードの『三本の箒』でトイレに入ったことまでしか覚えていなかったと言う話はケイティが帰ってきた日の間に伝わった。もし、グリフィンドールが勝ったとしても、差を三〇〇点未満に抑えることが出来ればレイブンクローが優勝だ。グリフィンドールが三〇〇点以上の点差をつけて勝つことはとても難しいが、ロンもケイティも帰ってくる。レイブンクローは油断は出来ないだろう。

 

***

「ミス・ガーネット! ちょうどよかった。ミス・ラブグッドを知りませんか?」

 

 夕食前に、フリットウィック先生がノエルにキーキー声で話しかけた。

 

「知らないです。私が探してきますよ。自由時間ですし」

 

 ノエルが答えた。

 

「それは嬉しい。明日の朝にお菓子を何か送りましょう」

 

 フリットウィック先生は忙しそうにしながらどこかへ向かっていった。

 

--ルーナってどこにいるのかしら? 全く検討もつかないわね。私、夕食にありつけるかしら……

 

 ノエルはルーナが見つからないまま全く人気のない八階まで来た。

 

「クルー--」

 

「セクタムセンプラ!」

 

 女子トイレから声が聞こえた。どちらも男子生徒のものだった。最初の声はきっと『磔の呪文』だろう。二つ目は、全く知らない呪文だった。そして、二つとも、ノエルに聞き覚えのある声だった。

 

「何をやっているの!?」

 

 ノエルは女子トイレに入った。トイレは水浸しで、血まみれだった。そして、そこに居る二人の男子生徒はハリーとマルフォイだった。マルフォイは大量に出血をしていた。ハリーはがっくりと両膝を床についていた。

 

「と、とりあえず、止血をしないと。このままじゃ……」

 

 ノエルは震えた手で自分のハンカチに杖を向け、大きくした。それを、出血部分にきつく巻き付けた。マルフォイは苦しんだままだった。血も、止血の意味が無いのかどんどんあふれでていた。ノエルもハリーもマルフォイも血だらけだった。

 

「そんなことあるの? まさか、闇の魔術じゃ……。私、聞いたことないもの。ああ! どうすればいいの。しっかりしてよ……。ドラコ……」

 

 そこに、いきなりドアが開いた。入ってきたのはスネイプだった。スネイプはマルフォイの傷口を杖でなぞり、呪文を唱えた。傷口は塞がってきたようだった。スネイプはマルフォイを抱えあげながら立たせた。そして、ノエルとハリーに、

 

「ここで我輩を待つのだ」

 

と言い、マルフォイと一緒にドアから出ていった。

 

「ハリー。ここで一体何が……。あの呪文は何? どの本で見つけたの?」

 

 ノエルが聞いた。ハリーは少し黙っていたが、ゆっくり口を開いた。

 

「マルフォイが女子トイレに居るのを見つけて、僕は無言で呪いをかけようよした。もちろん、闇の魔術じゃないよ。そしたら、マルフォイが気づいて……」

 

「『磔の呪文』を唱えかけたのね。それで、あなたはあの呪文を」

 

「そうだ。プリンスの教科書で知ったんだ。どんな魔法かは知らない」

 

 ハリーが言った。

 

「プリンス? あの魔法薬学の教科書? なんで呪文まで書き込んでいるのよ? せめて、呪文学とかの教科書に書けばいいのに……」

 

 スネイプが帰ってきた。

 

「あの呪文はどこで知った? あの闇の魔術を。今すぐ、学用品の鞄の中身を全部持ってこい」

 

 スネイプが言った。

 

「でも、僕……」

 

「今すぐだ」

 

 スネイプはハリーの言葉を遮った。

 

「私は……?」

 

 ノエルが聞いた。

 

「--君もだ」

 

 スネイプは少し間を開けて答えた。

 

「男性教員が女子生徒の持ち物を見るのって大丈夫なんですか? アズカバン行きます?」

 

 ノエルが言った。

 

「教科書--『魔法薬学』の教科書だけで結構だ」



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セクタムセンプラ2

 二人はスネイプに教科書を渡した。スネイプは入念に--特にハリーの教科書を調べた。

 

「ポッター、これは君の教科書か?」

 

「はい」

 

「我輩の記憶がおかしくなければ、君の名前は『ローニル・ワズリブ』ではないはずだが」

 

「これはロンがふざけて僕の教科書に書きました」

 

 スネイプは瞬きもせずにハリーの目を見つめた。

 

(『開心術』だわ……)

 

「先生。生徒相手にそれはプライバシー的にまずいのでは? 誰にだって見られたくない個人的な悩みとか秘密はあるんですよ。先生だってありますよね?」

 

 スネイプは苦い顔をした。

 

「しかし、ポッターは隠し事をしているはずだ」

 

「理事に手紙を出しますよ。そうですね--生徒の個人的な情報を、自分の一方的な考えだけを根拠に無理やり聞き出そうとする教員がいるとか……」

 

 ノエルがすました顔で言った。

 

「もし、『開心術』を使えないのならば、ポッターが本当に嘘をついているのかが分からない。それこそ、一方的な考えで罰則を決めなければならない」

 

 スネイプが言った。

 

「僕、『開心術』よりも、罰則の方がいいです」

 

「ふむ、では土曜日の朝、十時から罰則だ」

 

(土曜日って、クィディッチの試合じゃないの! 分かっていて言っているのかしら)

 

「でも、土曜日は……」

 

 ハリーが絶望的な顔で言った。

 

「ポッター、君が望んだことだ」

 

 スネイプは去ろうとした。

 

「待ってください。先生」

 

 ノエルが言った。

 

「先生は最初から思い違いをしていると思います」

 

 スネイプは立ち止まった。

 

「思い違いとは?」

 

「だって、私ですもの。マルフォイに呪文をかけたのは」

 

 ノエルが言った。ハリーは驚いた顔をしたが、すぐに元の顔に戻した。

 

「そもそも、おかしくないですか? なんで男子二人がわざわざ女子トイレで?」

 

「その通りだな。説明するのだ」

 

「ええ、もちろんです。私、ルーナを探している途中にトイレに寄ったんです。もちろん本当ですよ。フリットウィック先生に頼まれたんです。そこで、男子が居ることに気づいて……。そしたら、いきなり彼は『磔の呪文』を唱えようとしました」

 

「『磔の呪文』だと?」

 

「はい。そこで、動揺した私はとりあえず、浮かんできた呪文を唱えました。いきなり、許されざる呪文を唱えられたら、そりゃあ動揺しますよね」

 

「それが『セクタムセンプラ』か」

 

 スネイプが即座に言った。

 

「はい。騒ぎに気づいたハリーが駆けつけてくれました。そこに、先生がやって来たんです」

 

 ノエルは口を閉じた。

 

「どこで、その呪文を知ったのだ?」

 

 スネイプが聞いた。

 

「二年くらい前に魔法薬学の教室に置いてある教科書で見つけました。調べても全くわからない呪文だったので、ずっと覚えていたんです」

 

「今はその教科書はどこに?」

 

 スネイプは二つ目の質問をした。

 

「わかりません。今年になって私も自分の教科書を買ったので」

 

 ノエルが言った。

 

「結構だ。罰則はなしだ」

 

 スネイプが言った。

 

「なんで。僕は罰則にしようとしたのに」

 

 ハリーは不満そうに言った。

 

「彼女は何があったのかを、君と違い話した。我輩も暇ではない」

 

 スネイプはトイレから出ていった。

 

「スネイプが女子トイレから出ていくところを誰かが見たら、どう思われるのかしらね。あんなキッパリ言うのって本当に緊張するわね」

 

 ノエルは楽しそうに言った。

 

「ごめん、ノエル。君が罰則になるかもしれなかったのに。君、一回も罰則受けてないんだろ?」

 

「そうよ。でも、一回くらい、いいじゃない」

 

「それに、僕が試合に出れなければレイブンクローは優勝できる可能性が高くなる」

 

「でも、私、あんまりクィディッチに興味はないのよ。レイブンクローのチームもあなたが居なくて勝ってもそんなに嬉しくないと思うはずよ」

 

「少なくとも私なら、そう思うわ。カンニングしてテストで良い点をとっても楽しくないもの」

 

 ノエルが付け足した。すると、ハリーは何かを思い出し、青ざめた顔をした。

 

「どうしたの? ハリー?」

 

「マルフォイを忘れていた。あいつがスネイプに本当のことを言ったら……」

 

「完全に忘れてたわ……。ハーマイオニーに頼んで『忘却術』でも……」

 

 ノエルは頭を抱えた。

 

「そんな簡単に医務室に入って、病人に何か出来ると思うのかい?」

 

「無理だと思うわ……。--でも、問題はないはずよ」

 

 ノエルはいきなりニッコリ笑った。

 

「何が? 問題だらけだよ!」

 

 ハリーは怒ったように言った。

 

「だって、私とハリーがやったことが逆なだけで、あとは全然嘘をついていないわ。私は無罪になったのだからあなただって無罪よ」

 

「でも、嘘をついたってことに変わりは……」

 

「スネイプはきっと気づいているわ。あなたが真犯人だって。でも、あなたを犯人とする証拠も、私が犯人ではないという証拠もないのよ。--さあ、早く帰りましょう。もしこのトイレに誰かが入ってきたら相当まずいわよ」

 

 二人はトイレから出た。

 

「じゃあ、お休み。ノエル」

 

 ハリーはグリフィンドールの寮の方に向かった。

 

「お休み。ハリー」

 

 ノエルもレイブンクローの寮に向かった。



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アイリーン・プリンス

 クィディッチの試合はすぐにやって来た。朝食の時間にノエルは不思議な被り物を被ったルーナと一緒にグリフィンドールのテーブルにやって来た。

 

「おはよう、みんな。ハリー、ロン、ジニーは頑張ってね。もちろん、レイブンクローが勝つに決まっているけどね」

 

 ノエルは得意気に言った。

 

「あら、そうかしら? 私はそうは思わないけどね。あなたがハリーを庇ったことを公開させてみせるわ!」

 

 ジニーが言った。

 

「そっか、じゃあ、頑張ってね。バイバイ」

 

 二人はレイブンクローのテーブルに戻った。

 

「スネイプってクィディッチの日にわざわざ罰則を受けさせようとしてたんだっけ。せっかくのクィディッチを見に行かないなんて、クィディッチ何か恨みでもあるのかなぁ」

 

 ルーナが言った。

 

「たしかにありそうね。学生の時は、クィディッチが上手な人を嫌ってそうだわ」

 

 ノエルが笑った。

 

***

 試合が始まった。序盤は接戦だった。しかし、グリフィンドールがどんどんシュートを入れていき、一四〇対三〇〇になっていた。このまま、グリフィンドールがスニッチを取ってしまえば、レイブンクローは優勝を逃すことになってしまう。レイブンクロー側もグリフィンドール側も応援は白熱していった。そして、とうとう、ハリーがスニッチを捕まえてしまった。

 

「あー、負けちゃったね」

 

 ノエルは残念そうに笑った。

 

「でも、良い試合だったと思うなぁ」

 

 ルーナが言った。レイブンクロー側からは残念そうな声が漏れた。しかし、グリフィンドールは喜びの歓声が響き渡っていた。

 

 箒から降りて、挨拶をしたあとジニーがハリーに抱きついた。そして、ハリーはジニーにキスをしたのだった。何人もの生徒たちがそれを見つめて、顔を真っ赤にする者から悔しがる者までいた。

 

「スネイプはこれを見て、無理にでもハリーに罰則を受けさせるべきだったって思ってるでしょうね」

 

 ノエルが笑った。

 

***

 それからハリーとジニーが付き合っているという話は瞬く間に広まり、特に女子の関心の的となっていた。ノエルもその話には興味津々だった。

 

「ロンはどうなの? 結構、ハリーとジニーは結構引っ付いている感じだけど」

 

 古代ルーン文字の授業でノエルがハーマイオニーに尋ねた。

 

「他の人の時よりもずっとましよ。許可は与えたって言ってたわ。ただ、撤回するとは言っていない、とも言ってたわ」

 

「ラベンダーとあちらこちらで絡まっていたくせによく言うわねぇ。でも、ずっと一緒にいるって言うのは難しいわ。ジニーはもうすぐO・W・Lでしょう? ルーナが最近、一生懸命勉強しているわ」

 

「ルーナって勉強するのね……。あんまり勉強をしているイメージはわかないわ」

 

「一応レイブンクロー生だもの」

 

 ノエルが言った。

 

「それでも、ハリーとジニーはお昼休みに一緒に過ごしたりしていて楽しそうよ。今まで、ずっと私とロンと過ごしてたからちょっと寂しいかも」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「それで、あなたとロンはどうなの?」

 

 ノエルはニヤニヤしながら言った。

 

「私とロン? な、何のことよ」

 

 ハーマイオニーは顔を真っ赤にした。

 

「だって、ハリーが居ないから二人なんでしょう?」

 

「何もないわよ! ロンだってあんなに鈍感だから私と二人でも特に何とも思っていないはずよ! ほら、残っているところ訳さないと」

 

 ハーマイオニーは辞書の適当なページをおもいっきり開いた。

 

「私、訳し終わってるわよ。あなたもね、ハーマイオニー」

 

 ノエルが言った。

 

「そうだったわ……。--そんなことより、授業の前にすごいものを見つけたのよ!」

 

 ハーマイオニーはポケットから古い新聞の切り抜きを引っ張り出した。それには少女の写真があった。お世辞には可愛いと言えない痩せた少女だった。そして、彼女の名は、『アイリーン・プリンス』だと記事に書いてあった。

 

「プリンス……?」

 

「そうよ。プリンスよ。もし、この子が半純血なら『半純血のプリンス』だわ」

 

「それはそうだけど、それすごく昔じゃない? その紙の古さだと私たちの親の世代よりも、もっと前だわ」

 

「でも、あり得るわ。私、この子について調べてみようと思うわ」

 

 ハーマイオニーが言った。



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喜ぶマルフォイ

「ルーナ。ルーナ。……やっぱりここには居ないのかしら?」

 

 ノエルは、いつまでたっても寮に戻ってこないルーナを探していた。

 

(もう遅いし、寮に戻ってるのかしら? 一度戻ってみた方がいいわね)

 

 ノエルは腕時計を見ながら歩いた。すると、誰かにぶつかって、しりもちをついてしまった。

 

「すいません。私、腕時計を見てて……」

 

 ノエルはぶつかった相手を見た。相手はマルフォイだった。ひどく顔色が悪かったが、少し喜んでいるようにも見えた。

 

「失礼するわ」

 

 ノエルは立ち上がってスカートの汚れを払った。そして、何かを言いたげな顔をしているマルフォイを置いてスタスタ歩いていった。次にすれ違ったのはシェリー酒の瓶を持った見たことのない先生だった。

 

(何でこの時間にシェリー酒を持ってここにいるの? て言うか、こんな先生見たことないわ)

 

 次に出会ったのがハリーだった。

 

「ハリー。ルーナを見たかしら?」

 

「うん。ついさっき、寮に戻っていくのに会った」

 

「そう、ありがとう。それで、あなたはどうしてこんなところにいるの?」

 

 ノエルが聞いた。

 

「うーん。君には話してもいいか。ほら、これを見て」

 

 ハリーは一枚の羊皮紙をポケットから出した。ポケットにはホグワーツの地図と、人の名前が書いてあった。

 

「この名前は居場所を表しているのね」

 

「うん。そうだ。それで、僕はマルフォイを追いかけているんだ」

 

「そうなのね。さっき見たわよ。いつもより顔色が悪かったわね。……でも、なんだか機嫌が良い感じだったわ……」

 

「あああーーーー!」

 

 いきなり女性の悲鳴が聞こえた。二人はその悲鳴の方向に走っていった。廊下にはさっきノエルがすれ違った先生が倒れていた。

 

「あ! さっきの先生だわ」

 

「トレローニー先生だよ。先生、どうしたんですか?」

 

 トレローニー先生はハリーの腕にすがって立ち上がった。

 

「あたくし--ちょっと個人的なものをあの部屋に置こうとしたら歓声が聞こえましたの。それで呼び掛けたら気づいたときには追い出されておりましたの」

 

 先生は興奮した様子で言った。

 

「歓声?」

 

 ハリーが眉間にシワを寄せた。

 

「誰が?」

 

「わかりませんわ」

 

「性別はどうでしたか?」

 

 ノエルが聞いた。

 

「多分、男でしょう」

 

「それは、校長先生に知らせに行くべきだと思います」

 

「まあ、それでしたら。--ダンブルドアに知らせておけば安心ですもの。もちろん、彼はあたくしのことを信頼なさっているでしょうけど」

 

 トレローニー先生は話続けた。

 

「最初の面接のことをよくおぼえていますわ。ホッグズ・ヘッドでおこないましたの。でも、その時、ちょっと変な気分になりまして--。そして、いきなりドアがパッと開いて、そこにはバーテンとスネイプが立っていたのです。きっと、私とダンブルドアの話を盗み聞きしていたのですわ!」

 

 トレローニー先生が言い切った。ハリーの顔色は真っ青になっていた。

 

「どうしたのですか? もう寮に帰った方がよろしいのでは? あたくしも本日は疲れたので、報告は後日にしようと思っていますわ。では、おやすみなさい」

 

 トレローニー先生は逆戻りしていった。

 

「ハリー。どうしたの? 顔が真っ青よ?」

 

 ノエルは心配そうにハリーを見た。

 

「何があったのかはわからないけど、先生の言う通り、今日は休んだ方がいいわ」

 

「いや、大丈夫だ。……それより、あれは絶対マルフォイだ。マルフォイが喜んでいただって!?」

 

「そうよね。絶対そうだわ。でも、何で? やな予感がするわ……」

 

 ノエルが不安そうな顔をした。

 

「すぐに寮に戻った方がいいかもしれない! マルフォイは多分死喰い人だ。何かを企んでるに違いない」

 

「あなたはどうするのよ」

 

「僕は寮に戻って、ロンとハーマイオニーに……」

 

「三人でマルフォイを止めるの?」

 

 ノエルがハリーの言葉を遮った。

 

「ああ、そうだ」

 

 ハリーが答えた。

 

「じゃあ、私も行くわ。きっと、ルーナも着いてくるわね。DAがなくなって寂しがっていたもの」

 

「でも、君たちにそんな……」

 

「去年はあなたの家族の問題だったけど、今回はホグワーツの問題よ。それに、一度死喰い人と戦った私たちがマルフォイ一人に負けるわけがないわ!」

 

 ノエルが言った。

 

「わかった。じゃあ、ネビルとジニーも呼ぼう。後で--出来るだけすぐにグリフィンドールの寮の前に来てくれ」

 

***

「これは、きっと使っても大丈夫……よね?」

 

 ノエルは大鍋に入った液体を瓶にうつしかえた。

 

***

 グリフィンドールの寮の前にノエルとルーナが着いた頃にはもう、ハリー、ロン、ハーマイオニー、ネビル、ジニーが待っていた。

 

「いいかい。僕たちはマルフォイを見張らないといけない。あいつは今、地図上には居ないから『必要の部屋』の中だ。それと、スネイプもだ。あいつはマルフォイとグルだ」

 

 ハリーが言った。

 

「マルフォイだけど、気をつけないといけないわね。何で喜んでいたのかもよくわからないもの」

 

 ハーマイオニーが言った。すると、その時、地図に『ドラコ・マルフォイ』という文字が現れた。

 

「出てきたな。マルフォイ」

 

 ロンが言った。そして、もう一言続けた。

 

「なあ、この学校に『ベラトリックス・レストレンジ』なんて居たっけ?」



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死喰い人の侵入

「ベラトリックス・レストレンジ? まだ出てくるわ。フェンリール・グレイバックってリーマス噛んだ狼人間じゃない」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「なんで死喰い人がこんなに? 『必要の部屋』に隠れていたのかしら?」

 

 ノエルが言った。

 

「それは無理よ。だって、ホグワーツの入り口という入り口が警備されているのよ」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「じゃあ『姿現し』かも……」

 

 ネビルが言った。

 

「それも無理よ」

 

 ハーマイオニーはピシャリと言った。

 

「じゃあ、どうやってあいつらは侵入したんだ。それにどこに向かってるんだ? 僕を殺したいなら方向は真逆じゃないか?」

 

 ハリーが言った。

 

「奴らはグリフィンドールの場所がどこなのかわからないんじゃないか? だって、全員スリザリン出身みたいな集団だぜ」

 

 ロンが言った。

 

「でも、わざわざ呼んだのに探すのっておかしいよ。マルフォイは城の中を自由に歩けるから、場所を見つけてから仲間を連れていけばいいもン」

 

 ルーナが言った。

 

「じゃあ、どこかに向かって歩いているっていうこと? こっちに何があるのかしら? スリザリンの寮とか? 後輩に挨拶しにいくのかもしれないわ」

 

 ジニーが言った。

 

「でも、先生たちを起こした方がいいかもしれない。僕たちが勝つには無理があるよ」

 

 ハリーが言った。

 

「そうね。じゃあこれを」

 

 ノエルは瓶を見せた。

 

「なんだい? これは」

 

 ロンが聞いた。

 

「あなたは授業で受けているはずよ」

 

 ノエルが言った。

 

「もしかして、フェリックス・フェリシス? でも、ちょっと違う気もするわ……」

 

「そうよ。ハーマイオニー。フェリックス・フェリシスの劣化版よ。フェリックス・フェリシス位の強さの幸運は無理だけど大量生産が出来たのよ。これを、皆で飲んで。あと、必要そうな人にもあげといてもらえるかしら?」

 

 ノエルは分けた薬を一人ずつ渡した。

 

「ウワー、これすごいや。本物だともっと幸せなんだろうな」

 

 ロンが言った。

 

「僕、『死の呪い』も怖くないや」

 

 ネビルが言った。

 

「良かった。効いたようね。……あれって例のあの人の……」

 

 ノエルは外を指差した。『闇の印』が外に浮かんでいたのだ。

 

 ハリーは、

 

「僕はあっちに向かうよ! 皆は先生たちに伝えて! この地図を使っていいよ」

 

と言い、一番近くにいたノエルに地図を渡し、走っていってしまった。

 

「とりあえず、私たちは先生に知らせた方がいいわね。六人いるから二つに分けましょう。一人での行動はやめた方がいいわ」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「ハリーは大丈夫かな?」

 

 ネビルが不安そうに言った。

 

「透明マントを持っていたから……。どちらにしろ私たちが行くよりもマクゴナガル先生とかフリットウィック先生が行った方がずっといいわ」

 

 ノエルが言った。

 

「なら、私はロンとネビルでこっちの方に行くわね。ハーマイオニーとノエルとルーナはあっちをお願い」

 

 ジニーが言った。そして、二手に別れて動き出した。

 

***

 ノエルとハーマイオニーとルーナが走っていると、マクゴナガル先生を見つけた。

 

「マクゴナガル先生! 緊急事態です。死喰い人が……」

 

 ノエルがマクゴナガル先生に言った。

 

「私もついさっき知りました。ダンブルドアに言われて今、何人かの不死鳥の騎士団を呼びました。あなたたちは危険ですから寮にお戻りなさい」

 

「でも、ハリーは塔の方に向かってしまいましたし、ロンたちも先生を呼びに回っているんです」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「見てください。この地図を」

 

 ノエルが『忍の地図』をマクゴナガル先生に見せた。塔には、死喰い人たちの名前、ダンブルドアの名前。下の階にはハリーの名前、そして、死喰い人と一緒にスネイプの名前があった。

 

「私は行きますが、あなたたちは危険ですからどこかに隠れていた方がよいでしょう」

 

 マクゴナガル先生はそのまま行ってしまった。そして、もう一度、地図を見た。すると、リーマス・ルーピン、シリウス・ブラック、ニンファドーラ・トンクス、ビル・ウィーズリーがいるのがわかった。

 

「四人だけじゃあ、ヤバイわ。ベラトリックス・レストレンジまでいるもの」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「そうね。私たちで追いかけた方がいいわ!」

 

***

 ノエルたちが到着したとき、四人は何人もの死喰い人に対して、対等に戦っていた。なので、三人は隠れた所からひたすらに呪いをかけていた。ノエルは、日々作り続けた薬が入った沢山の瓶を死喰い人に投げつけていた。

 

「誰だよ! こんな瓶投げつけた奴! 魔法よりたちが悪いじゃねえか!」

 

「知らねえよ! ……なんかお前の左手、めちゃくちゃでかくね?」

 

「痛そうねぇ。あら、あれマルフォイじゃないかしら」

 

 ハーマイオニーは奥の方を見て言った。奥の方にはマルフォイが一人で立っていた。そして、ベラトリックス・レストレンジはマルフォイに先に行くように指示した。

 

「ハリーはもう上の方にいるのかしら? 鉢合わせたら大変よ」

 

 ノエルが言った。

 

「地図を見せて。もう、ハリーは上にいるね。でも、大丈夫だよ。ダンブルドアも一緒だもン」

 

 ルーナが言った。地図から顔を上げると、フェンリール・グレイバックが誰かを襲っていた。あの赤毛はビルだろう。他の人は助けられない様子だった。

 

「最低ね。魔法使いなのだから杖を使いなさいよ。杖を」

 

 ノエルが言った。

 

「いや、瓶をさんざん投げてたあなたが言えないわ……」

 

「ルーナ、これ持ってて」

 

 ノエルはルーナに『忍の地図』を渡した。そして、放置してある何本かの箒の中から一本持ってきた。

 

「ちょっと、ノエル。何やってるの!?」

 

 ハーマイオニーの声を無視して、ノエルはグレイバックの後ろに飛び出した。そして、おもいっきり箒の柄でグレイバックに殴りかかったのだ。グレイバックはフラフラしたが、すぐに体勢を戻した。そして、次はノエルに襲いかかろうとした。

 

『アグアメンティ!』

 

 ノエルはグレイバックに杖を向けて叫んだ。すると、ものすごい水圧の水が飛び出したのだ。グレイバックはその場にびしょびしょになって倒れた。ノエルもあまりの水圧に尻餅をついてしまった。

 

「ノエル。大丈夫?」

 

 ルーナが出てきて、ノエルに手を差しのべた。ノエルは手を取って、

 

「いつものことだから大丈夫よ。ありがとう」

 

と言った。

 

「アミカス。グレイバックを起こせ」

 

 ベラトリックスが言った。ずんぐりとした小柄な女がグレイバックの元へ行った。そして、ベラトリックスはノエルに近づいた。ノエルは思わず後退った。

 

「良くやるねぇ。お嬢ちゃん。まさか、箒で狼人間を殴るなんてねぇ」

 

 ベラトリックスは小さい子に話すかのように言った。そして、杖をかかげ、

 

『クルーシオ』

 

と唱えた。そしてすぐに、ハーマイオニーが飛び出してきた。ノエルは一瞬持ち上げられる形になったがすぐに地面に落ちて、苦しそうに倒れてしまった。そして、何かを取り出した。すると、たちまち部屋は真っ暗になった。その時、誰かが新しく塔に入ってきて、通り抜けていった気がした。



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