ハリー・ポッターと異界の魔法使い (風船)
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プロローグ
そこは、穏やかな風が吹き抜ける静かな入り江だった。
昼は強い日差しに照らされ、夜は静寂と宝石を散りばめたかのような星空に覆われる。
海には色とりどりの珊瑚と魚、森には新緑の木々と鮮やかな鳥たち。
そして真珠のような艶を放つ砂浜。
その入り江にひとつの影がある。
烏の濡羽を連想させるかのような美しいローブをまとった男だ。
日差しによって虹色を帯びる白い長髪。
満足気に前方を見つめる唐紅の瞳。
男はとある戦争が終結したばかりの国を後にしてシンドリアの外れにあるこの場所へと戻ってきた。
伝統ある魔法学校の教師を務めた魔術師だったが、全てを見届けた直後、周囲の引き止めの言を全て受け流し姿を消した薄情者。
名を『リアン・ファルク』という。
リアンは軽やかに砂浜を歩いていく。
入り江の末端に近づけばそこには質素ながらも最上級の材質で建てられた小さな小屋があった。
慣れた手つきで錠を開け扉をくぐる。
途端、小屋の外見からは考えられないほど広々とした空間が広がる。小屋をしつらえた者が気を利かせて建物自体に魔法をかけてくれたのだ。
リアンは書斎に行き、部屋の中央に置いてある揺り椅子に腰をかける。視線を上に向けるとそこには宙に浮かぶ本があった。
『――――――の物語』
題名の一部が空白になっている本。
それには記憶を物語として綴る機能がある。
見聞きしたものを物語にし、蒐集する……いつしかそれはリアンの生命事由となった。
彼が最も好ましいと感じる……すなわち若者たちが己の力で未来を切り開く物語を紡ぐために行動してはいるが、そこに一個人への特別な思い入れはない。
だから物語のために多くの生に干渉してきた。
感謝、愛情、嫉み、怒り、恨み……結果多くの感情を向けられることとなったが、彼にとっては全て瑣末なことであった。
リアンは己が記憶を整理して、宙に浮かぶ本を手に取り回の物語はどこから始めるべきかを思案する。
そうだ。今回の物語の主役とも呼ぶべくハリー・ポッターと出会った日がいい――
彼と出会ったのはホグワーツ入学前、ダイアゴン横丁を訪れていた時だった。
ふと視線の端に写ったのは頭からすっぽりとフードを被り、全身を黒いローブで覆った姿。
ダイアゴン横丁では特に珍しくもない格好だがフードから見え隠れする白い髪は妙に目を引いた。
「どうかしたのかハリー……ってあれはリアンのやつじゃねえか」
「ハグリッドの知り合い?」
「ああ、あいつはホグワーツの教師だ。丁度いい、紹介してやろう。おーい!リアン」
ハグリッドの声音はどことなく弾んでいる。そして、声をかけられた本人は嬉しそうに近づいてくるから仲が良いのだろうということは察したよ。
「やあ、ハグリッド。君も新学期の準備かい?」
「まあな。それよりも、おまえさんに紹介したいやつがいるんだ。今年入学する……」
この時は説明の途中で勢いよく背中を押されて衝撃によろめきながら前へ出たっけ……ちなみに彼の第一印象は“優しそうな人”。
「ハリー・ポッターだ。情勢に疎いおまえさんでも名前ぐらいは聞いたことくらいあるだろう?」
自慢気に言っていたけど、このとき僕の気分はあまり良くなかった。押された背中は痛いし、ここにくるまで色々な人に熱烈な歓迎と覚えのない尊敬の念を受けて少し疲れていた。
またあんな歓迎を受けると思うと少し気が重い。悪気はないのは分かっているけど、少しは気持ちを汲んでくれてもいいのに、
とその時は思っていたが……
「ハリー?ええと、聞き覚えはあるのだけれど……ごめん、誰だったかな……?」
まさかのハリー・ポッターを知らないという反応を返された。
「まぁ、これから知っていけばいいか…はじめましてハリー、私はリアン・ファルク。
ホグワーツでルフ魔法の講師をしているんだ」
しかもマイペースに自己紹介を始めるものだから若干面食らった。彼の立場を考えれば僕のことを知らなくても不思議はなかったのだけれど。
「ルフ魔法というのはどんなことが出来るんですか?」
「簡単に説明すると様々な自然現象を操ることが出来る魔法だよ。元々は一部の国と地域独自のものだったのだけれど、文化交流の一環として数年前からホグワーツで教えるようになったんだ」
今思えば、嘘は一切ついていないけど色々と重要なことを省いた本当に簡単な説明だった……おそらく詳細を説明するのが面倒くさかったのだと思う。
「そうだ、少し早いけれどもここで会えたのも何かの縁だし、これを渡しておこう」
表紙に『ルフ魔法の基礎』と書かれた1冊の本を差し出される。
「私の授業で使う教科書だよ。興味があるなら読んでおくと良い」
「い、良いんですか?」
「ああ。どのみち1週間後には新入生全員の手元に届くし、ルフ魔法は知識よりも体力の方が大事だからね。入学後の1カ月間はブートキャンプだし」
「…………え?」
さらっととんでもないことを言われた気がして思わず彼の顔をじっと見た。
相変わらず笑顔ではあったけれど、どこか胡散臭さを感じさせるものだった。
「学校が始まる前に可能な限り身体を鍛えておくといいよ。私の授業を受けるのなら絶対に後悔しないからね」
彼の言葉は紛れもない真実だということをホグワーツ入学直後に知る。
いま思うとあの時に出会っておいて本当に良かったよ。
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はじめての授業
燦々と輝く太陽。
今の時期では珍しい快晴が、この日ばかりは非常に憎らしかった。
「はははは、みんなどうしたんだい?元気がないぞう!」
生徒全員がバテている、中には意識を保っているか怪しい者すらいるにも関わらず、太陽にも負けないほどのキラキラした笑顔を向けてくるリアン。どこか楽しんでいるようにも見える彼の顔を思い切り引っ叩いてやりたくなった。
「ぜぇ……ぜぇ……どうして、僕がこんな目に……」
息も切れ切れに不満を言うマルフォイ。
普段なら絶対同意なんてしたくない相手だが、今回ばかりはハリーも同意した。
最初に聞きはしたけれども、これじゃあまるで……
「ほらほら口より体を動かさないと、授業時間内に筋トレノルマ終わらないよ!」
新兵訓練。
そう、正にブートキャンプだ。
何故こんな目にあっているのか……
思えば、授業が飛行訓練場で行われた時点で怪しむべきだったのかもしれない。
ことの発端は授業冒頭まで遡る――
「あらためまして、私はリアン・ファルク。ホグワーツでは『ルフ魔法』の講師を担当する。これからよろしくね。
さて、堅苦しい挨拶は抜きにして早速授業に入らせてもらうよ」
飛行訓練場に集まったハリー達はリアンから軽い自己紹介を受ける。高くも低くくもない彼の声は聞きやすく、とても心地が良い。女子生徒の何名かはうっとりとした様子でリアンのことを見つめているほどだ。
「まず『ルフ魔法』のことを簡単に説明しよう。ルフが産み出す魔力を糧として人工的に様々な自然現象を引き起こすことができるもの、それがルフ魔法だ。
さて、ルフがどういうものか予習してきた者は……」
リアンが生徒に質問しようするのを察したハーマイオニーがすかさず手をあげた。
「ふふ、ではグレンジャー君に説明をお願いしようかな」
「はい!風、雷、雨などの自然現象を引き起こすエネルギーのことです。またルフは常に世界に溢れていて、生物の中にも存在しています。私たちは体内にあるルフに働きかけることによって、ルフ魔法を使用することができます」
「正解だよ。非常に簡潔にわかりやすくまとめてくれたね、よく予習しているようだ。
グリフィンドールに5点あげよう」
褒められたハーマイオニーは嬉しそうに頬を染める。
「さて、様々な自然現象を人工的に起こすのがルフ魔法だけど、最初に覚えるのは自然を操る魔法ではなく『ボルグ』という魔力で自身の周囲を覆う障壁を作り出す防御の魔法、だ。こちらでいう『盾の呪文』と似ているね」
「い、いきなり『盾の呪文』レベルの魔法から習うんですか?」
驚きのあまり声を上げるロン。
大人の魔法使いでも使えるものが少ない『盾の呪文』の名が出てきたことにより、生徒たちの顔に不安の色が浮かぶが、それに対してリアンは安心させるように優しく言う。
「そう不安がる必要はないよ。発動させること自体は『盾の呪文』よりもずっと簡単だ。
さて、まずはお手本を見せよう」
リアンが杖を構える。ハリーたちが使っている物よりずっと大きく、彼の身長と同じくらいある。
「ボルグ」
リアンが呪文を唱えると金色を帯びた透明な膜が彼の周囲に現れた。
「これが『ボルグ』だよ。ほとんどの物理的干渉および、ある程度の魔法的干渉を防いでくれる。発動中はマグルやスクイブにも視認できるので使いどころは注意が必要だ。
それじゃ、みんな実践してみようか」
その言葉を合図にみんなが一斉に呪文を唱えはじめる、がまともに成功したものはいなかった。ロンやシェーマスも呪文を唱えているのに発動の気配すらしないし、優等生のハーマイオニーでさえ杖から火花が出る程度だった。ハリーはというと成功こそしなかったが金色の靄がを発生させることができたので少し嬉しくなった。
「ふむ、例年通りだね……よろしい、一旦やめ!」
しばらく生徒たちの様子を眺めていたリアンは誰もボルグを発動できないことを確認するとパンッ……と手を鳴らしてみんなを止めた。
「さて、誰も『ボルグ』を成功させられなかったわけだけれど、それはキミたちに才能がないわけでも経験が足りないからでもない」
みんな、そんな風に言われてもにわかには信じられないと言いたげな表情をする。だって誰一人としてまともに発動させていないのだ。
「嘘じゃないよ。何人かは魔法発動の片鱗を見せただろう?それは何故かを今から説明しよう……突然だけど、ポッター君とグレンジャー君は普段から体を鍛えているんじゃないかい?」
突然名指しで質問され少し面を食らう。どうして自分たちが?とハーマイオニーとハリーは顔を見合わせる。
「ええと……はい。軽いランニングと筋トレメニューを朝晩でこなしているくらいです」
不思議に思いつつも素直に答える。ダイアゴン横丁でリアンからのアドバイスを聞いた後、一応トレーニングをしておいたのだ。
「私も軽くですが毎日運動しています。教科書に『ルフ魔法を使用する際に身体には負荷が生じる。体内のルフは魔法使用者の身体を負荷から守るため魔法の威力を抑える。そのため出力を上げるには身体能力の強化が必要不可欠』とありましたので」
ハーマイオニーの言葉に軽く目を見開く。そうか、だからリアンはダイアゴン横丁で身体を鍛えておけと言ったのだ。彼のアドバイスを素直に聞きいておいて良かったとハリーは思った。
「ふふ……グレンジャー君が全て説明してくれたね。そう、成功の片鱗を見せた子には他の子より体力があったんだ。ルフ魔法を使えるようになるため1番必要なものは『体力』だ。つまりルフ魔法を使えるようになるためにはキミたち全員が体力をつける必要がある。よって、最初は体力向上を目的とした鍛錬のみを行う。1ヶ月間己を信じ、鍛錬を耐え抜いた者にのみ、ルフ魔法の叡智を授けよう」
その後、軽いストレッチから始まりランニング、腹筋、背筋、懸垂、腕立て伏せ、スクワット等のトレーニングをすることになったのだが、かなりキツイ……だけどリアンの言葉が嘘でない事はハーマイオニーとハリーが証明してしまっているし、リアンもトレーニングに参加している。しかもみんなの倍のノルマをこなしているものだから面と向かって文句も言えない。精々トレーニング中に不満をこぼす程度だ。
「ほら、あとちょっとだよ!ノルマが終わった子から授業終了としていいから頑張って!それから、今日の夕食は出来る限りしっかり摂るように!じゃないと今後持たないよ!」
晴れやかな表情と声音なのにイラッとさせられる。そもそもぱっと見は華奢なリアンのどこにあんな体力があるんだろう?
ゆったりとしたローブを着ているから分かりにくいだけで、割と筋肉質なのかもしれない……などと思案する程度には余裕がある。そんな自分の状態に、入学前にトレーニングをしておいて正解だったと改めて思うハリーなのであった。
その日の晩、夕食を取るために大広間にきたはいいものの激しい運動のせいで食欲が出ず、夕飯を見つめたままハリーは椅子に座っていた。食べないと今後の授業についていけないことは分かっているが、正直なところ今日はこのまま寮で眠りたい。
「はあ……今日は散々な目にあったよ。こんなことならフレッドとジョージの言うこと聞いておくんだった。すっごいキツイから身体を鍛えておけって言ってたの嘘じゃなかった」
隣に座っているロンも食欲がないのか、食事には手をつけず、ゴブレットに入った果実水をチビチビ飲みながら独りごちている。
「仕方ないわ、ルフ魔法を使えるようになるために必要なことだもの。それと果実水だけでなく食事もしっかり摂らなきゃ、この先やっていけないわよ。先生も言ってたでしょう?」
向かいの席に座っているハーマイオニーも、あの授業は応えたらしく口ではそう言うもののいつもの覇気はないし、食事も口に運んではいるが正直キツそうだ。
「よお、ロニー坊や!元気がないな」
「その様子だとしっかり扱かれたようだな、人のアドバイスは聞くもんだぜ」
「うるさい、いつもからかってばかりのヤツの言葉なんか……」
突如背後から声が聞こえ、ハリーとロンが同時に振り向くとニヤニヤと笑っているフレッドとジョージが立っていた。
「おお、なんと言うことだ!可愛い弟の身を案じ、アドバイスをしたというのに肝心のロニー坊やに信じてもらえないとは!」
「仕方ないさジョージ、俺たちが普段からからかい過ぎたのが悪いんだ……だがいざという時に信じてもらえないというのは悲しいものだな」
ニヤニヤした表情のまま寸劇を始めるフレッドとジョージ。それを見たロンは顔を赤くし、声を荒げながら二人に怒りをぶつけた。
「うるさい!用がないならどっか行けよ。疲れてるんだ」
「つれないこと言うなよ、せっかくルフ魔法の魅力をを伝えに来てやったんだから!なあ、ジョージ?」
「ああフレッド、その通りだ!見てろよ……」
ジョージはフレッドの言葉にひとつ頷くとポケットから杖を取り出した。
「シャラール」
呪文を唱えると、ロンのゴブレットに入っていた果実水が球体となって宙に浮いた。
「これが何だって言うんだよ。物を飛ばすだけなら後で『妖精の魔法』の授業でも習うだろ」
ロンの言う通りだ。まだ習ってはいないけれども、物を飛ばす魔法はこちらにもある。だというのにどうしてこの二人はこんなに得意げなのだろうか?
「ふふん、飛ばすだけじゃないんだぜ!」
ジョージは得意げに杖を振るとただの球体だった果実水が馬や鳥の姿となって宙を駆け巡り、やがてラインダンスを始めた。
「どうだスゲーだろ?こんなのが1年生で習えるんだぜ」
ジョージの言葉にハッとし、こくこくと頷いた。
「更に学年末の試験なんて最高にエキサイティングだぜ!まあ、内容はその時のお楽しみってやつだから教えないけどな」
「なんだよ、勿体ぶらずに教えてくれたっていいじゃないか……」
「ごめんなロニー坊や、試験内容は話すなってファルク先生から言われてるんだ。それに黙ってたほうが面白いだろ?俺たちが」
本音は最後の一言なんだろう。試験内容は気になるけどこの様子だと教えてくれなさそうだ、と思いつつハリーは食事に手を伸ばし始める。まだ釈然としないところはあるけれど、目の前で見せられた魔法には心躍らされたし自分も覚えたい。そのためにはまずは体力をつけなきゃいけないから多少無理してでも食べよう。
ロンも触発されたのか口いっぱいに食べ物を詰め込み始めた。
「おえっぷ……」
急に詰め込んだせいで嘔吐いてしまったロンの背中を擦る。頼むからここで吐かないでほしい。
それはさておき、とにかく1ヶ月間は頑張ってみようと心に決めたハリーなのであった。
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副産物として腹筋が割れました
トレーニングを開始してからは怒涛のように毎日が過ぎた。
1週目は全身筋肉痛に悩まされ
2週目には筋肉痛が無くなった
そして3週目に差し掛かり体重がガタ落ちした頃(女子は喜んでた)、投げ出そうとした生徒が現れた。マルフォイとその取り巻きたちだ――
「ふむ、無理に引き止めはしないけど本当に良いのかい?」
リタイアしたいと自己申告してきたマルフォイに対し、リアンはいつもと変わらない様子で質問を投げかけた。
「勿論です。僕にはルフ魔法なんて必要ありませんから」
「いや、そういう意味じゃないよ。
例えばキミがリタイアして、キミのライバルもしくは気にくわない相手が続けた場合、1年生の終わり頃には相手方だけがルフ魔法を習得していることになる訳だけど、キミはそんな状況に耐えられるのかい?」
マルフォイはグッと言葉を噤んだ。その様を想像してプライドが刺激されたんだろう。
「それに鍛え続ければ必然的に身体能力は上がっていく。その場合スポーツ等でも遅れを取り悔しい思いをする可能性がある、例えばキミの好きなクィディッチとかでね」
マルフォイの肩が震え始める、よく見ると唇の端を噛んでいる。大好きなクィディッチを引き合いに出されて心が揺れ始めているのだろう。もしあの場に立っているのが自分だとしても同じ反応をする、とハリーは思った。
「まあ相手に遅れをとったり、馬鹿にされても良いのなら止めないよ。選択は個人の自由だからね」
「ぐっ……!やっぱり続けます……」
無言で肩を震わせていたマルフォイだが最後のリアンの言葉が追い打ちとなり、結局は授業に参加する意思を口にし渋々トレーニングへと戻った。
「それは良かった。チョロ……こほん、素直に聞き入れてもらえたようだ」
してやったりと言った表情のリアン。この先生は結構いい性格をしているのかもしれない……
そしてトレーニング開始から1ヶ月が経った。
その日はいつもの飛行訓練場ではなく、教室での授業だった。初めて見るルフ魔法の教室には見たこともない道具や本が置いてあり、床にはいくつもの魔法陣が描かれていた。
「今日はキミたちにこの1ヶ月の成果を見てもらおうか、みんな杖を持って!もう一度『ボルグ』を唱えてごらん?」
黒板の前に立つリアンに言われて、杖を構える。初回の授業以来試したことすらないから少しドキドキする。
「ボルグ」
意を決して呪文を唱えると金色の防壁が自分を覆った。やった、成功だ!……嬉しくて思わずあたりを見渡すと全員がボルグを成功させていた。みんな自身の周囲にある金色の防壁を見て驚いている。
「これでスタートラインに立てたね。
約束通りキミたちにルフ魔法の叡智を授けよう、これからは本格的な魔法の授業を始めていくよ」
リアンの言葉を聞いてみんな大喜びだった、だってここまで来るのは本当に辛かったのだ。トレーニングの間に腹筋が割れたという嬉しい副産物はあったけど何度投げ出そうと思ったことか……!ただもう駄目だと思った時に限って「その調子だよ」や「いいぞ」や「キミなら出来る頑張れ!!」などの励ましが入る上に、トレーニングが終了に近づくと「あとちょっとだ」、「あと1セット」など言われるのでなんだかんだで続けていた。しかしそれでもモチベーションを保つのは厳しかった。全員が乗り切ることが出来たのは奇跡だと言っても過言では無いと思う。
「早速だけど、キミたちがどのルフと相性が良いかを調べようか」
そういってリアンは口を開けた女性の胸像を取り出した。それは『八色魔選晶』という名で魔法使いが『炎』、『水』、『光』、『雷』、『風』、『音』、『力』、『命』のどの属性のルフと相性が良いかを判別できる道具らしい。
「誰か一番最初にやってみたい子はいるかい?」
一斉に生徒たちから手が上がる。みんな早く自分の属性を知りたくて仕方がないと顔に書いてある。
「それじゃあウィーズリー君」
当てられたロンは嬉しそうに前にでる。
「まずは手を触れて杖で魔法を使う時と同じように魔力を込めるんだ、すると……ってああ!」
ロンは最後まで説明を聞かずに八色魔選晶に触れ魔力をこめ始める、リアンは慌てて止めようとしたが、時すでに遅し――次の瞬間、胸像の口からロンの顔目掛けて炎が吐き出された。
「…………」
炎で顔を真っ黒にさせたロンは無言で立ち尽くしている。
「まったく、気持ちがはやるのはわかるけれど説明は最後まで聞くものだよ。グリフィンドール5点減点」
額に手を当てて苦笑いをしているリアン。
なんでもこの道具は魔力をこめた本人と最も相性の良い属性の事象を口から吐き出すから胸像の口を自分に向けたまま使用しない方がいいらしい。
「更に補足すると『八色魔選晶』により引き起こされる事象は見た目の派手さの割には威力が低いから、仮に胸像の口を自分に向けて使用してしまっても大きな問題は無いよ。けど服がびしょ濡れになったり、風で髪がボサボサになったり、炎で顔が真っ黒になったりするからそれが嫌なら自分に向けては試さないようにね。それじゃあ、どんどん属性判別をしていくよ!」
全員の属性判別が終わるとルフ魔法についてもう少し詳しい説明を受けた。
曰く、自然界でルフが起こす現象には決まった術式が存在している。術式は火を灯す、傷を癒す等の単一的なものもあれば複数のルフを組み合わせるものもある。基本的には組み合わせの量が多くなるほど高度の技量と多量の魔力が必要となり、ほぼ比例的に威力も増す。初期段階では個人が最も相性の良い属性の単一魔法から習得していくことがセオリーである――とそこまで説明されたとき、授業の終わりを告げる鐘が鳴った。
「おや時間切れとなってしまったから今日はこれまでだね。次回は実践的な授業を行うから教科書の『各属性と命令式について』の項目読んでおくように、それじゃ解散」
寮の談話室に戻る道中のおしゃべりはルフ魔法の話題で持ちきりだった。ようやく魔法らしい授業になってきた、早く派手な魔法が使ってみたい、とみんな期待に目を輝かせている。
「でも喜んでばかりもいられないわ、多分今後は魔法と体力トレーニングの授業を交互にやっていくことになるから」
水を指すように冷静な意見を述べるハーマイオニーにロンが食ってかかった。
「ちょっと待てよ、トレーニングってこれで終わりじゃないのかよ⁉︎」
「まさか!これからも続ける筈よ。だって体力は鍛えていないとすぐに落ちるし、ルフ魔法は身体への負担が大きいのよ?それに強力な魔法を使えるようになるためには比例して強靭な身体が必要に決まってるわ」
ふたりの会話を聞いて一気にテンションが下がった。あのブートキャンプ はこれからも続いていくのかと思うと少し気が重い。
ハリーが肩を落としたのと同時刻、授業が終わり生徒たちのほとんどが寮へと帰りガランとしたルフ魔法の教室の真ん中にはポツンと立ち尽くす生徒がいた。
「ロングボトム君、どうしたんだい?」
顔をうつむかせたまま、その場から動く気配の無い彼を不思議に思い声をかけた。
「……ファルク先生、質問があります。僕と相性のいい属性でもある『命』の魔法はどんな怪我や病気も治すことが出来るんでしょうか?」
意を決したように質問した彼の瞳には怯えと不安が宿っていた。
「その質問の仕方だと範囲が広すぎるから何とも言えないけれど魔法使いの腕次第では様々な病気や怪我を癒すことができるね」
「そ、そうですか……」
あからさまに肩を落としている。何故そんなにもがっかりしているのだろうか。
「誰か治療したい人でもいるのかい?」
「はい、でもきっと無理です。僕には才能がないから……」
「ふむ、なぜ自分に才能が無いとわかるんだい?本格的な魔法の授業は始まったばかりだろう?」
「だって僕はどの授業でも失敗してばかりだし……」
その話は少し聞いたことがあるな、と教師陣の話を思い起こす。確かにロングボトム君は色々な授業で失敗しており評価もあまり高くは無い。ただグリフィンドールの寮監でもあるマグゴナガル教授によれば彼の自信のなさによる萎縮が原因で、それさえ無ければ大いに成長する可能性を秘めた生徒らしい。なんとも勿体ない生徒だ……よし、せっかくだから自信をつけるための手助けをしてみようか、彼にはやりたいことがあるみたいだしね。
「私は他の教科の担当では無いから、ロングボトム君の才能の有無については何も言えない。けれどもこの1ヶ月を乗り切ることが出来た時点でキミは見込みのある生徒だと思う」
授業では言わなかったが、全員が乗り切るとは思っていなかった。それくらい厳しいものを課していた。
「ホグワーツ入学前に説明があったと思うけど、ルフ魔法の授業はあくまで文化交流の一環でしかないから受講を途中で辞めるのは自由だ。現に昨年と一昨年は最初の1ヶ月で何人か脱落者が出ている。でもキミはそれを乗り切ることが出来たのだから、諦めるのはまだ早いんじゃないかな?」
「…………そんな風に言ってもらえたのは初めてです」
目を瞬かせながら言葉を紡ぐロングボトム君の姿に少し面を食らった。驚かれるほど強く褒めたつもりはない。ということは、この子は今まで他人に褒められた経験がかなり乏しいのだろう。彼に自信をつけさせるのは結構骨が折れそうだ。
「今の言葉は紛れも無い私の本心だ。もう一度言うけどキミには見込みがあると思う。だから成し遂げたいことがあるのなら遠慮なく相談するといい、授業終了後に意を決して質問するほどには強い思いがあるのだろう?」
ロングボトム君は私の言葉を聞くと真剣な表情で考え込む。この様子だと何か深い事情がありそうだ。
「あの、僕には……どうしても治って欲しい人たちがいます。どのお医者さんにも無理だって言われたけど『命』の魔法なら治せるかもしれない。だからその、えーと……」
懸命に言葉をつむぐ様子は見ていて少しもどかしいけれど、自分から話しかけることはしない。
「もっと詳しく『命』の魔法、特に医療に関する魔法について勉強してその人たちを治したいです。あの……僕にできるでしょうか?」
正直に言って、死んでさえいないのならば大体の病気や怪我は『高度医療魔法』という類の魔法で完治させることができる。けれど彼の言う治したい人たちの症状がどんなものかわからない今は無闇に希望を持たせるようなことを言うべきではない。よってここは……
「それはやってみないとわからない。でもキミが医療魔法について学びたいというのなら協力はするよ」
今は可能性を示すことだけに徹しよう。
「だったら、その……僕に医療魔法を教えてくれないでしょうか?あの人たちを治せるかはまだ分からないけど何もせずにいるのは嫌なんです」
彼の言葉に自然と口元に笑みが浮かぶ。若者が自らの意思で道を踏み出そうとするのを見ると嬉しくなってしまう。
「いいとも、知識を求めるのならばそれに応えよう。と言ってもキミはまだルフ魔法について学び始めたばかりだから、最初は授業内容のおさらいと補講というシンプルなものから教えていくことになる。それでも構わないかい?」
「は、はい!むしろそっちの方がいいです。いきなり難しいこととかできないと思いますし……」
まだ若干緊張の色は見せつつも嬉しそうに頷くロングボトム君。ふむ、このくらいの年齢の子だったら少しはがっかりするものだけれど、こういう反応をするということ頭は悪くない子だね。自信のなさからくるものも大きそうだけど。
「それは良かった。なら来週からは週に一度個人授業の時間を設けようか。毎週この時間の後は1年生の授業はないはずだし……」
「あ、あの……今日からじゃダメですか?」
おやおや、思った以上に積極的だ。これは確かに自信をつけたら大成するかもしれないね。
「もちろん構わないとも!早速今日のおさらいから始めようか。分からないところはあったかい?」
「は、はい!えと、この『術式』というのは……」
分からなかったところを必死に理解しようとするロングボトム君の姿はとても微笑ましい。彼はこれからどんな風に成長していくか今から楽しみだ。
ネビルが原作より早熟するフラグが立ちました。
原作よりばかりだとかなり展開が早くなってしまうのでその時裏側ではみたいな話をちょいちょい挟んでいこうと思います。
何とか年内に書き上がってよかったです。
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ハロウィンと疑問
――最近ネビルが少し変わった。
おどおどしたり言葉につっかえたり、授業で失敗することが減った。そして失敗しても落ち込むだけで終わらず何が悪かったのかと分析するようになった。ただしハーマイオニーにアドバイスを求めるという形でだが……
特にルフ魔法の授業では変化が顕著だ。授業がある日はとても嬉しそうにしているし、授業中は積極的に質問をしたりしている。一体何がネビルを変えたのかが気になって直接聞いてみたのだが、本人には変わった自覚はないらしくキョトンとした表情を返されてしまった……とはいえルフ魔法の授業に関していえば、みんなそれなりに積極的にだったりする。
理由は魔法の実践練習が始まったからだ。
まだ自由自在に魔法を使うことは出来ないが、何もないところに水や風、電気を発生させたり操ったりするのは純粋に楽しいと思っている生徒が多い。ロンなんかは見た目が派手な『炎』の属性と相性が良いものだから、調子に乗ってみんなに自分の魔法を見せびらかそうとしてよくハーマイオニーに窘められていたる。
つい先日も言い合いをしていた。
「無闇に炎を出したら危ないわ。それに万が一魔力が切れたらどうするの?」
「なんだよ、小さい炎だし魔力切れなんて起こしてないんだからいいじゃないか」
「炎であることに変わりはないでしょう。あと魔力が切れてからじゃ遅いのよ。最悪命に関わるって先生が言ってたじゃない」
「うるさいな!」
そこまででリアンが間に入って喧嘩を止めた。ただ、あの件に関して言えばハリーはハーマイオニーの意見に同意していた。小さい炎とはいえローブに燃え移ったら大変だし、魔力切れが原因の死亡はリアンの世界ではそこそこある話らしく決して他人事では無いので自身の限界を知るまでは調子に乗って魔法を乱発しないようにとも言われた。
最初は話半分に聞いていたがルフ魔法の授業の後は、全力でスポーツをしたかのような怠さを感じるので、実感はわかないもののリアンの言っていることは本当なのだろうと思うようにもなった。だから一応魔力切れには気をつけたほうが良いかもしれないとロンに言ったのだが……
「なんだよ君まであいつの味方するのか?」
「違うよ、ロンが心配なだけだ。そりゃあハーマイオニーの言い方がムカつくのはわかるけど」
「大丈夫だって!今まで一度だって倒れたこと無いんだし、それに君は自分の心配した方が良いんじゃないのか?」
その台詞には腹がたった。実のところハリーは実践練習で苦戦していた……とはいえこれはハリーが落ちこぼれだからではなく、ハリーと相性の良い『力』の属性魔法が少し特殊だからである。
重力や衝撃といった『力』そのものを操る『力魔法』はコツを掴むのに少し時間がかかるのだ。実際にハリー以外の『力』と相性の良い生徒たちもみんな苦戦していて、つい先日やっと全員が『力』属性の基礎魔法をまともに発動させられるようになったばかりだ。
ロンは親友が苦戦している様子を間近で見ていたくせに、茶化すようなことを言ってきたのだ。それを受け流してロンを諭せる程ハリーは大人ではない。
「なら勝手にすればいいさ……いまに魔力切れで卒倒しても知らないからな」
「ご心配どうも、そんなことにはならないさ」
これは痛い目に遭わないと治らないなと思ったので自分のことに集中することにした。
ハリーには箒を使わず空を飛ぶという目標がある。実践練習を始める際に重力魔法のお手本として箒なしで空を飛ぶところをリアンに見せてもらったのだが、その姿は純粋にカッコいいと思った。箒で空を飛ぶのも最高に気持ちよくて好きだが、折角なら箒無しでも空を飛べるようになりたいのだ。ロンはあんなことを言ったが、リアンには「クリスマス頃には重力魔法を習得していると思うよ。ホグワーツの生徒の中では習熟ペースが早いね」と褒められているのだ。
見てろよ、早く空を飛べるようになってロンを驚かせてやる――
そう決心した数日後、フリットウィック先生の授業で物を飛ばす練習をすることになった。ルフ魔法でも同じことが出来るのにわざわざ習って何の意味があるのかと思ったのだが……
「ふん!こっちで覚えられなくても『ルフ魔法』の方で使えれば問題ないだろ!」
授業で上手く羽根を飛ばすことが出来ずに癇癪を起こしているロンもハリーと同じ考えだったようだ。
「そうだとしても、こちらの魔法の方が身体的な負担も魔力消費もずっと少ないのよ?同じことが出来るのならエネルギー消費量が少ない方を選ぶのは当然じゃない。あとロンの属性は『炎』なのだからルフ魔法の方が覚えるのは大変だと思うわ」
ぐうの音も出ないほどの正論を言われロンの機嫌は更に急降下し、授業が終わった後はずっとハーマイオニーの悪口を言っていたが、しまいにはハーマイオニーは泣いて女子トイレにこもってしまい、ロンはバツの悪そうな顔をしていた。
――ファルク先生の姿が見えない。
その日の夜、ハーマイオニーのことも忘れて大広間でハロウィンのご馳走に舌鼓を打っていると、ふと生徒の誰かが口にした。そう言われて職員席を見てみるといつもはハグリッドの隣で楽しそうに会話をしている見慣れた姿がそこにはない。ついでにいうとハグリッドの姿も見あたらない。
「そういえば日暮れ近くにハグリッドの小屋へ行くのを見たよ。ファルク先生ピリピリしていて少し怖かった……」
一緒になって職員席の方を見ていたネビルが言う。いつも穏やかな笑みを浮かべているリアンの姿からは想像が出来ないが、何か急ぎの用事でもあったんだろうかとその時、大広間を揺るがすような大きな音とともにクィレル先生が駆け込んできた。
「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思い……」
言い終わらぬうちにクィレルが倒れ込んだ瞬間にあたりは大混乱に陥ったが、ダンブルドアによってすぐに宥められ、その後は寮監の先導により各寮へと戻ることになったのだが……
「ハーマイオニーはこのことを知らないよ!」
ハリーとロンは大急ぎで女子トイレへと走った。
必死に廊下を走っていると悲鳴が聞こえ、やがて無残にも破壊された女子トイレと恐怖に縮こまっているハーマイオニー、そして巨大なトロールが今にも彼女に棍棒を振り下ろそうとしている姿が目に入った。
「こっちに引き付けろ!」
ハリーは言葉とともに床に散乱していた木片を力いっぱいトロールの頭目掛けて投げつけ、続いてロンが炎の弾をいくつも打ち込む。するとトロールは標的を変え、ハリーとロンに向かって歩き出す。
「やーい、ウスノロ」
挑発しながらも攻撃の手は緩めないロンだが大して効いていない。それどころか怒らせてしまったようだ。
トロールは憤怒の唸り声を上げて棍棒を振り上げる。ハリーは咄嗟にロンの前に出てボルグを展開し、トロールの攻撃を防いだ。
トロールはハリーたちが潰されていないのを確認すると一撃、二撃と連続で棍棒を振り下ろす。
その衝撃によって床がどんどんひび割れていく。このままじゃ床が陥没する!
そう思った瞬間、激しい閃光と共に大気を割くかのような雷鳴が轟いた。
「全く、今日はイレギュラーなことばかり起きるね」
視界が晴れると、ハーマイオニーの前で彼女を守るように立っているのリアンが目に入った。
「ファルク先生!?」
「ん?どうしてポッター君とウィーズリー君がこんなところにいるんだい?」
それはこちらのセリフだがそんなことを言っている場合ではない。攻撃を受けたトロールは激怒し、棍棒を振り回しながらリアンへ襲いかかる。
「危ない!」
棍棒が振り下ろされたと同時にリアンはハーマイオニーを抱えてその場から飛び退いた。
「やれやれトロールは乱暴だな……グレンジャー君、下がっていなさい。念のためボルグを展開しておくように」
ハーマイオニーに指示を出すリアンは相変わらず笑顔だ。ただいつもの柔らかい雰囲気のものとは違って、どこか刺々しい。
「は、はい……」
素直に指示を聞いて後ろへ下がるハーマイオニーの一方でトロールは激昂の雄叫びを上げ、覆いかぶさるかのようにリアンへと攻撃を繰り出す。
対するリアンは剣を構えるかのように杖を持つと、高く跳躍し、渾身の力を込めてトロールの横っ面に叩き込んだ。
骨と肉がすり潰されるかのような鈍い轟音。
直後、受けた衝撃が如何に激しかったかを物語るかのようにトロールは勢いよく地面へと倒れ伏した。
うつ伏せに倒れたトロールはピクリとも動かない。どうやら気絶したようだ。
「ひとまずこれでよし、三人とも怪我は……」
リアンが声をかけようとした時、急に複数のの足音が聞こえ、マグゴナガル先生、スネイプ、クィレルが駆け込んできた。
「これは……いったいなにごとですか?」
マグゴナガル先生は気絶したトロールを視界に入れると一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐに冷静さを取り戻してリアンに向き直った。
「私はハグリッドのところで用事を済ませて大広間に向かっていたところ、トロールに襲われている生徒を見かけたので助けただけですよ。むしろ何故トロールが校内に入り込んでいるのかを知りたいのですが……」
「そういえば、リアン先生はパーティーに遅れてくると連絡がありましたね。後ほど経緯は説明いたします。先に寮にいるべき貴方たちがここにいる理由を聞きましょうか」
マグゴナガル先生は生徒三人に向き直る。
ハリーは言い訳に困った。正直に話せば、それはそれで問題が起きそうだ。
「あ、あの多分二人は私を心配して探しに来てくれたんだと思います!私、トロールが入り込んだことを知らなかったから」
「ミスグレンジャー『知らなかった』とは?パーティーに参加していなかったのですか?」
「あ、いえ、その……」
その先の言い訳を考えていなかったのかしどろもどろになるハーマイオニー。
「マグゴナガル教授、この場所から推測するとその先は……」
言葉に詰まっているハーマイオニーに見兼ねたのかリアンは苦笑しながらフォローの言葉を入れる。するとマグゴナガル先生はあたりを見回したあと合点がいったかのように頷いた。
「そういうことでしたか、すみませんミスグレンジャー」
気まずそうに咳払いをして謝罪するマグゴナガル先生、対してハーマイオニーは少し顔を赤くして縮こまってしまった。二人ともどうしたというのだろうか……
「ですが、ポッターとウィーズリーは話が別です。グレンジャーを心配したのならば私たち教師に報告するべきでした。一年生だけでトロールに挑むなど危険すぎます。したがってグリフィンドール5点減点です」
マグゴナガル先生の言っていることは正論なので減点も仕方ないが、あの時は無我夢中だったので情状酌量の余地が欲しい。
「しかし、友人を助けたいと思ったその心、トロール相手に無傷で生還したことは評価に値します。グリフィンドールに10点あげましょう」
ハリーはマクゴナガル先生の言葉に思わず顔を上げた。まさか加点をもらえるとは思わなかった。
「貴方たちへの幸運に対してです。
さあ、怪我がないのなら寮に戻りなさい。生徒たちがさっき中断したパーティーの続きを寮でやっています」
そう言われてハリー、ロン、ハーマイオニーは急いで寮への道を進んだ。階をいくつか重ねるまで誰も口を開かなかった。
「リアン先生すごかったな。呪文が言わなかったってことは魔法を使わず倒したってことだよな」
やがて寮への入り口付近に差し掛かった頃、口を開いたロン。その言葉に深く頷く。まさか魔法を使わず杖だけでトロールを倒すとは……
「いえ、リアン先生は魔法を使っていたはずよ。だってトロールの顔と同じ高さまでのジャンプも杖で殴っただけでトロールを気絶させることも魔法を使わずにできるわけないもの」
しかしハーマイオニーはそうは思わなかったようて、ロンの言葉を否定した。
「え、でも先生はなんの呪文も言ってなかったよ」
「おそらく無言呪文よ。私見てたけど、トロールの気をそらすための魔法を使ったときも詠唱なんてしてなかった。だから倒したときも何かしらの魔法を使っていたはずよ」
思わず質問したロンに対しハーマイオニーは感嘆の混じり答えた……思い返してみると確かに最初の一撃では呪文は聞こえなかった。
「となると、何者なんだろうね。リアン先生って」
ハリーの呟きに二人も皆目見当がつかないといった風に首を振った。
プロットから書き直していたせいで思ったより仕上げるのに時間が掛かってしまいました。
主人公の立場的なこともあって現状あまりオリジナル要素入れてないんですが、オリジナル要素あった方がいいですかね?
例えばホグワーツ教師陣と主人公の関係性とか……
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