狂宴の寝所 (8周目)
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エイプリルフール作品

諸々は後書きにて。

世に平穏のあらんことを



 何故か突如Fate/zeroの蟲蔵に立っていた狩人様(上位者姿)

 

 

───……新しい悪夢か?

 

 

 取り敢えず鎮静剤を一気飲み。

 

 外…というか上から聞こえる老人の声と、幼子の声。

 念のために蟲蔵全体に神秘を散布し、様子を見る。

 杖をついたハゲと、怯えながらその後ろに続く幼女。説教でもされていたのかと思ったが、老人が何やら喋ったあと、幼女の背中を押し、先ほどまで自分が立っていた蔵の底を見せる。

 そこは、いつの間にやら気持ちの悪い蟲で床が埋め尽くされていた。

 

 これには宙に浮いていた狩人様もドン引き。

 

 小さな声で『嫌だ』『やめて』と言うものの、老人は呵々大笑しながら幼女を突き落とす。

 ちなみに床は石畳。頭でも打てば大怪我だ。

 狩人様は幼女が床に激突する寸前で抱きとめ、蟲が届かない位置まで浮き、老人を睨みつける。

 

 老人は困惑する。蟲に凌辱され泣き叫ぶ幼女見て愉悦するはずだったのに、肝心の幼女は目の前で宙に浮いているからだ。

 虚数魔術が開花したのかと思ったが、どうやら違うようだ。

 

 幼女も困惑する。何も見えないのに何かに抱かれている感触は感じる。自分の背と膝裏に、柔らかいが弾力のある物が触れている。

 興が削がれた老人は、蟲に幼女を襲うように指示する。

 

 すると、蟲達の背から翅が生え、まるで蝗害のように幼女へ群がった。ガチガチと小さな牙が生え揃った顎を鳴らし、幼女の柔肌を喰い破るために。

 幼女はあまりの恐怖から失禁し、声も出せずにただ泣いた。

 狩人様(上位者姿)は、より一層しっかりと幼女を抱きしめ、自分を中心とした半径5メートルに不可侵領域を形成。

 これにより蟲は狩人を中心とした球状の結界に触れた途端、塩になって崩れ落ちた。

 

 依然として幼女以外の物が認識できていない老人は、赫怒を露わにする。

 幼女は恐る恐る目を開き、そこで初めて目の前にいる孔の空いた顔を認識した。

 だが、不思議と発狂することもなく、自分を抱き締めているこの生き物が自分を守ってくれたのだと安心感を覚える。

 

 狩人は非常に怒っていた。

 

 

───薄汚い蟲風情が。

 

 

 幼女を片腕で抱き直し、空いた左手を老人に向ける。未だ何やら喚きながら蟲を嗾ける老人は、急に視界が歪み、尻餅をついてしまう。

 しばらくして老人の殻に魂が存在していないことに気付いた狩人は、この建物ごと潰そうとする。

 幼女と共に建物の上空へ転移し、建物に向けて神秘を行使した。

 建物に大量の血雨が降り注ぐ。それはこの世ならざるものの血であり、生命にとって何物にも勝る劇毒だった。

 

 葉に軽く飛沫が当たっただけで木が腐れ落ち、土は死に、建物の隙間から流れた血で残っていた蟲が蒸発する。

 老人は脱出しようと試みるが、今まであった筈の出入り口が無くなっていた。そこにはただ壁があるだけ。翅刃虫に壁の破壊を命じるも、壁に触れた途端に虫はその血肉を沸騰させながら死んだ。

 老人は恐怖した。何が起きているかわからない。理解が追いつかない。凌辱する筈だった幼女もいつのまにか消え、今や自分が死にかけている始末。

 

 ついに天井が崩壊し、そこから滝のごとく血が流れ落ちる。

 老人は絶望した。何故自分がこんな目に遭わなければならないのか。

 

 

「桜、降りてこい! 碌に魔術も使えん者がこの世界で生きていけると思うのか!? お前の父はさぞかし落胆するぞ! いいのか!? お前は儂のモノだ! さっさと戻って来なければお前の姉を殺すぞ!!」

 

 

 当然、聞こえるわけもない。

 狩人は血を操り、間桐邸を地盤ごと宙に浮かせる。

 

 

───ああ、長よ。無論、わかっているとも。蟲は潰す。そこに例外はない。人の淀みは消し去らねばならないのだから。

 

 

 そのまま狩人は、左手をゆっくりと握り込む。

 血が波打ち、徐々に間桐邸を包み込んでいく。屋根も壁も床も柱も、何もかもが砕け散り、凝縮され、全ては真っ赤な球体に成り果てた。

 狩人がその左手を完全に閉じると、直径50メートル以上はあろう球体は、一瞬にして5センチほどの玉に縮小した。蟲の他に2人ほど人間の命を握り潰した感触があったが、狩人には関係なかった。

 力を解くと、玉は更地となった地面に落ちる。

 幼女を再び両腕で抱いた狩人は地面に降り、ヒタヒタとその玉へ向かって歩く。

 

 一歩ごとに水音が発生し、足跡状に広がる粘液が月明かりに照らされ冷たい光を放っていた。

 玉の前で足を止めた狩人は孔の空いた顔でそれを一瞬間眺めた後、右足を玉に乗せ、躊躇いもなく踏み潰す。

 

 グリグリと暫く踏み躙ると、気が済んだのか興味が失せたのか、狩人は元間桐邸に背を向けた。

 

 

 

 

 ヌチ─────抱き締めるとそんな音があちこちからする。

 目の前にいるこの生き物は、私が6歳の頃に出会った。遠坂の家から間桐に養子として送られて、間桐の当主に酷い事をされそうになった時だ。

 当時のことは、あまりよく覚えていない。

 ただ、ひたすらに怖くて泣いていたことは覚えている。自分を抱き締めるこの生き物に必死に縋り付きながら、ずっと泣いていた。

 

 生き物は何も言わない。

 しかし、抱擁を解くことはしなかった。

 その時の影響なのか、今ではこのヌメついた抱擁を全身で感じていなければ眠れない。

 ひんやりとしているけど、決して冷たくない温もり。私だけが感じられる、この生き物の鼓動。

 あれから、お父様にも、お母様にも、姉さんに触れられても、ここまで気持ち良い感覚にはならなかった。

 自分が持っている熱を、ゆるゆると蕩かしてくれるこの温もりが、私は大好きだ。

 

 13歳になった頃、私はこの生き物にキスをした。

 唇に当たった感触は、やはりいつも自分を抱き締めているものと同じだった。そのあと無性に恥ずかしくなって、その時はそこまでで終わった。

 しかし、時が経つにつれて保健体育の授業などから自然と『性』に関する情報が入るようになり、私は徐々に『性』に興味を持ち始めた。

 当たり前だが身体も成長し、今や胸のサイズはお母様よりも大きくなっていた。

 

 そして、成長とともに私は、私を抱き締める生き物に更なる行為を行うようになる。

 キスは日常化し、生き物の肌に舌を這わせたり、身を捩って身体を擦り付けたりした。時には生き物の腕らしき箇所を掴み、股に挟むこともあった。

 我ながら性欲が暴走していたと思う。

 自慰行為を覚えてからというもの、自室や風呂、トイレ、ひどい時には学校でも生き物に『性』を求め続けた。

 この生き物は私の半身。この生き物がいなければ、私は私として成立できないとさえ思っている。

 

 理由はわからない。

 でも、知る必要もないと感じている。

 私はこの生き物を愛している。私を抱き締めて離さないこの生き物を愛している。

 まだ、全てがハッキリとは見えないけど、それでも目の前にいることはわかる。私以外は見えるどころか、触れることも感じることもできない生き物。

 この生き物から、私は沢山の大切なものを貰った。

 だから、私はこの生き物に、私が持っている1番大きなものをあげようと思う。

 

明日は私の16歳の誕生日。

 

今までありがとう。これからもずっとよろしくねって言うために。

 

私、遠坂桜は、一生分の勇気を振り絞ります。

 

 

「私は、あなたを愛しています」

 

 

 

 

「桜、今日は早いのね。わたしちょっとやることあるから、先に食べといて」

 

「はい、姉さん。でも、冷めないうちに戻ってきてくださいね」

 

「わかってるわよ」

 

 

 何気ない日々。姉と2人で送った、ちょっと寂しいけど幸せだった日常。

 

 

「桜、あんたやったじゃん!全国よ全国!」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「いやー、可愛い後輩が大躍進して私も鼻が高いよ」

 

 

 弓道で好成績を収めて、主将に褒められた日があった。ドサクサで胸を揉まれたけど。

 

 

「……どうしたんですか?」

 

『◼︎◼︎ ◼︎◼︎ ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ ◼︎◼︎』

 

「え、危険? 生理は終わったばかりなので妊娠するのはまだ先ですよ?」

 

『………◼︎………◼︎◼︎…』

 

「む、呆れている様子。私だって分別はあります。学生の間はちゃんと気を付けるつもりですよ」

 

『………………………………………………◼︎…………』

 

「え、そうじゃない…?」

 

 

 いつものように交わり身体中に精を浴びたあと、告げられた注意喚起のメッセージ。

 転換期は、まさにその時だったのだろう。

 ガラスの割れる音がした。

 

 

 

「おいっ……!あの女、何を引き連れてんだ…ッ!?」

 

「ば、化け物だ!なんだよ…何なんだよアレは!!?」

 

 

 ある日突然、学校へ向かう途中で異変に気付いた。誰も彼もが私を忌まわしい物のように見て悲鳴をあげ、逃げ惑い、時には石を投げつけられた。

 幸い、()が防いでくれたものの、危うく怪我をしそうになった。後に彼らの記憶は白紙になり、突発的集団記憶喪失として処理されることになる。

 

 

「……どうして、みんな私を拒絶するの。ねぇ、姉さん」

 

「桜、悪いことは言わないわ。今すぐソレから離れなさい……!」

 

「…………姉さんまで、みんなと同じことを言うんですね………イヤです。離れるなんて考えられません」

 

「桜………ッ……あんたね、今自分がどうなってるかわかってるの!?」

 

「わかっています。6歳の頃からずっと一緒だったんですから」

 

「なんでそんな冷静なのよ!そんなの……ッどこからどう見ても、()()じゃないッ!!」

 

 

 スラリとした腕や脚には隙間なく触手が巻きついており、膣や肛門には男根型の触手が常時挿入されている。みっちりと自分を埋め尽くし、愛液と腸液を啜られながら私は神秘の汁をお腹いっぱい吞み干すのだ。

 胸にはブラの代わりに触手が覆っており、時折何かを小さく吸引するような水音が鳴る。

 これの何がいけないのだろう。もうかれこれ10年くらいは()()()()だというのに。互いに互いの体液を交換し合っているだけなのに。

 

 

「それの何がダメなんですか…?」

 

 

 姉さんまで私を異常だと言い、みんなが彼を化け物だと言う。彼は私のヒーローなのに、彼は何もしていないのに、私は彼を愛しているのに……。

 どうして、拒絶されるのだろう。

 

 

「とっても気持ちいいんですよ。それに、私が安全に赤ちゃんを産めるように色々考えてくれているんです」

 

「……ッ」

 

「私、高校を卒業したら結婚して、()()()の赤ちゃんを産むんです。だから、姉さんやみんなとも、卒業したらお別れなんです」

 

 

 目の前で姉が宝石を構える。それを合図に触手たちが騒めき、私の膣と腸を刺激する。その動きで身体が愛液と腸液が分泌され、生き物は触手からそれを啜り始める。

 私から体液という魔力を取り込み、減った分は彼の粘液が私の中に吸収されて補われる。

 

 

『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ ◼︎◼︎◼︎…◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎』

 

 

 ああ、やはり。彼は10年前のように、あの時のように、私のことを身を呈して護ってくれているのだ。

 

 

 

 

 遠坂凛の目の前で、妹はナメクジかイソギンチャクのような化け物に()()()()()()

 同性からして尊厳を踏み躙られているとしか思えない姿。もはやまともに見えるのは頭部くらいだろうか。そこすら化け物に吸い付かれて見えなくなる時がある。

 気持ち悪かった。妹を貪っている化け物も、嬲られているのに心底嬉しそうにしている妹も。それを見ているのに平静を保っていられる自分も。

 

 『赤ちゃんを産む』?

 

 確かに女としての幸せには当てはまるだろうが、それでもコレは違うだろう。こんな動物としてすら認識したくない化け物の子供が自分の腹の中に収まるなど、考えただけで死にたくなる。

 

 

「…………その胸糞悪い夢から醒ましてあげる。歯ァ食いしばりなさい!」

 

「嫌です。夢でも何でもいいんです。だって、幸せだったじゃないですか」

 

 

 例え今が微睡みの淵で見ている夢だとしても、そこから醒める必要がどこにある。大好きな人と日常を共に過ごして、大切な家族と日々の生活を楽しみ、充実した学校生活や青春を謳歌する。

 

 素晴らしいじゃあないか。

 

 現に、遠坂桜は笑えているぞ。蟲に陵辱されることもなく、間桐の胎盤として調教されるわけでもない。何においても不遇な一生を歩むことなく、愛し愛され絡まり合う幸せを享受できている。

 

 

「こんなに幸せなのに、どうして壊そうとするんですか!」

 

「その化け物引っ剥がしたあとでいくらでも教えてあげるわよ!」

 

 

 

 生まれて初めての、本気の姉妹喧嘩。

 

 片や今までの当たり前を周囲に全否定され、駄々をこねる妹。片や化け物の贄になりながらも恍惚としている妹の目を醒まさんとする姉。

 飛び交う宝石と神秘の爆発。

 しかし、どう見ても残弾に限りがある遠坂凛が圧倒的不利な状況だ。

 

 

(どうする…! 考えなさい、この場を打破する方法を!)

 

 

 残る宝石は8個ほど。重力術式や炸裂術式を付与してはいるものの、ここから己を逃がすことすら難しいだろう。

 対する妹のリソースはおそらく無限。あまりにも不公平が過ぎないだろうか。おまけに、誰かに助けを求めようも人払いの術式が練られており、周囲には人どころか虫すらいない。

 土埃で汚れた上着を脱ぎ捨て、左手に宝石、右手にアゾット剣を持つ。下に格闘戦を補助してくれる礼装を着込んでいるが、役立つかは微妙なところだ。

 

 

「……いくらなんでも無謀よね……」

 

 

 この期に及んで、凛は1人で桜と相対している。

 だが、その選択も理解できないものではない。教会に救援を求めれば桜は間違いなく封印指定を受け、世界中の魔術師からその命を狙われるだろう。父の時臣も教会と繋がっている。どうしても、頼れなかった。

 

 

「でも……ッ!」

 

 

 四肢に身体強化を施し、距離を詰める。

 

 

「私はあんたのお姉ちゃんなのよッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れを背に、勝敗は決した。

 結果はまあ、予想通りだ。体液交換による無限リソースを振るう化け物と、たった1人で残弾も僅かな魔術師の戦い。瞭然も瞭然、子どもでも簡単に判断できる展開だ。

 気を失い、触手に縛り上げられた遠坂凛。目の前でプラプラと揺れる姉を見て良い笑みを浮かべる桜。

 

 

「フフフ…可愛いですね、姉さん。いつも猫被ってるところも可愛いですけど、こうして打ちのめされて無防備に揺れているのも可愛いです。こういうの、まな板の上の鯉って言うんでしたっけ?」

 

『◼︎◼︎……◼︎』

 

「どうするも何も、()()()()()()です。あの日、いっぱい取り込んだじゃないですか」

 

『◼︎◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎』

 

 

 宙ぶらりんの姉の頬を指で撫で、ニコニコと話しかける桜。粘液によって艶かしく濡れた手で触れているため、凛の顔は陽の光に妖しく照らされていた。

 

 

「大丈夫ですよ、姉さん。お友達もいっぱいいますから、寂しくなんてないですよ。姉さんは覚えていないでしょうけど、コトネさんも毎日愛して貰っているんです」

 

 

 ……そう。あの日、化け物に救われた桜は暫くの間家に帰ることもなく、所謂『悪い子』になって夜の冬木を見て回った。山の頂上、車のヘッドライトが行き交う大橋、繁華街とは別世界のような雰囲気を漂わせるコンテナ街……そして、下水道。

 もともとは、化け物がこの冬木を知るための散策だった。その一環で立ち寄った下水道。何故下水道など立ち入るのか聞いたが『豚はコロス』という物騒な思念が返ってきた。

 まあ、後々桜もその理由を理解するのだが。

 

 さておき、そこで出会った光景は悲惨の一言だった。咄嗟に神秘を注入されていなければ、桜は発狂してしまっていただろう。

 斬り刻まれた幼子、全て内側、粘膜を曝け出された地獄絵図。彼らの口と喉から漏れる音は、声なのか息なのかも判別がつかない。

 

 なんということはない。この現状を作り上げた下手人は、遊んでいたのだ。

 

 

『……◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎』

 

 

 己にしがみついている化け物は触手を伸ばし、子どもたちの遺骸を回収する。触手は子どもたちを巻き取ると、小規模の霧を生み出し、その中に沈んで行く。

 少女たちは上の階層へ、少年たちは下の階層へ、それぞれ損傷部位や欠損部位を治癒させるため、一旦は神秘の海に浸けられる。

 現実では死んでしまったが、夢の中で()()()()を提供される権利くらいあるだろう。

 

 さて………………

 

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎(豚はコロス)

 

「…………………うん…」

 

 

 そして、次の日。猟奇殺人犯の雨生龍之介が遺体となって発見された。十字架に無数の釘で貼り付けられ、己の千切れた右手に胸を貫かれた無惨な姿で。残った左手には、彼のキリングレシピが記されたノートがナイフで打ち付けられていた。

 

……

………

 

 

 

「認識阻害って便利ですよね……何で今更になってバレたのか納得はいきませんけど」

 

 

 遠坂凛を霧の中に回収すると、桜は元の学生服に戻る。これで遠坂凛はこの世界とは切り離され、もともと居なかった者として再認識される。時臣と葵の娘としても、言峰綺礼の教え子としても、穂群原学園の学生としても、魔術師としても、全てにおいて忘れ去られるのだ。

 今や遠坂凛を知っているのは桜と、時間軸と世界線を超えた先に存在する『遠坂凛を知る英霊』のみ。

 

 

「……まあ、今はいいです。記憶改竄と認識阻害をもう一度やり直すだけですから」

 

『◼︎◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎』

 

「そうですね……少しの間は()()()()。姉さんをイジメてあげないといけませんし、コトネさんもそろそろ出産日ですから」

 

『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ッ』

 

「…っんぉ゛……ぉぉ゛…っ…!」

 

 

 潜るための準備なのか背中の化け物は触手を桜の顔に張り付かせ、そのまま喉頭蓋をこじ開けて取り付き気道を確保する。軟体生物のように形を変え、頭から爪先まで隙間なく桜の体を覆う。

 霧の向こう側に行くには、彼の力が必要不可欠だ。

 そしてその間の光景は、彼自身が見せることを許さない。毎回彼の中身で喘がされ、気が付けば夢の中に足をつけている。

 何故そうするのかはわからない。

 だが、少なくとも自分に対して何かしらの配慮をしていることは理解できる。その程度のことは察せられる。桜は大人だからだ。

 

 ズブズブと霧の海を潜る。移動は全て化け物に任せ、己は淡い眠りに入った。

 

 

 

 

 かつて狩人の夢とされていた場所は、今ではヨセフカ診療所、カインハーストの城、実験棟、時計塔が増設され、さらには地下空間まで設けられていた。

 その敷地面積は昔の比ではなく、もはやこの夢は一国として扱える程度には巨大化している。

 清潔に一新した実験棟では毎夜の如く出産が行われ、赤子の数は万を優に超えていた。今もベッドに寝かされた養殖人貝、カインハーストの幽霊達が膨れた腹を撫でている。

 

 しかし、一見すると異様なその光景の中に、およそ普通と思われる女性達も多数居た。

 

 綺麗な白銀を放つショートボブヘアの女性が、赤子を腕に抱いている。口元のホクロが絶妙な妖艶さを醸し出し、薄いブルーの瞳は興味深そうに腕の中で眠る赤子を見つめている。

 その隣では悪夢の人形のように(ふし)のある身体の女性がいた。こちらは抱いた赤子に乳を与えているようだった。短く乱雑に切り揃えられた髪が揺れ、薄く肩口を撫でる。

 

 無機質などではない。彼女らは生きている。1人の生命として、1人を産んだ母として生きているのだ。

 2人の上官にあたる女性には実験棟の院長を務めてもらっている。600名を超える部下のナースを率いて、今日も健康管理をキッチリと行っていた。

 ここにあの少年はいない。楔として、終わった世界に留まったままだ。激情に振り回され仇の女を殺して、出口のない道を延々と歩き続けている。口の端からぶつぶつと、機械に対する憎悪を垂れ流しながら。

 哀れと言う他ないだろう。既に死んでしまった大切な仲間たちは、全員この悪夢に堕ちているというのに。

 死んだ先が終わりなどと誰が証明したのか。終わりの無い終わりを彷徨っているのは、いったい何方なのだろうか。

 

 まあ、死ぬつもりなど毛頭無い彼には、永遠に答えは出せないだろうが────

 

 少なくとも彼女らは、死んでから答えを得て、死んでから生きて、生きながら未来を作っている。絶望の表情など微塵もない。

 何故なら、彼女達は知ってしまったからだ。世界は1つではなく、自分たちが守ろうとしてきた人間が生きていることを。

 夢がなくなればそんな世界も見られなくなる。だから彼女達は実験棟で新たな任務を始めたのだ。人間の無事を確認するために、この夢を維持、成長させ、生きている限り守り通すことを。

 

 別に、あの化け物に惚れた訳ではない。

 だが、絶望の中で死ぬだけだった自分たちをあの化け物は掬い上げた。かつては記録でしか触れられなかった人間に引き合わせてくれた。それがどれだけの救いを彼女達に齎したのか、おそらく化け物は理解していないだろう。

 彼女達はその返しきれない大恩に報いるため、赤子を産み育てている。

 本来人間がどのような感情で愛を育み、子を作り、育てるのかを記録でしか知らないままに。

 

 

 

 

 赤子もいずれ成長し、自分たちの進む道を見出す。上の階層で狩人となり冒険する者、下の階層で苗床となり悪夢の種子を産み続ける者。主な選択肢はこの2つだが、時には現実世界に目醒める者もいる。

 しかし、赤子達が夢から離れることは永遠にできない。へその緒で悪夢と繋がっているからだ。

 それは切ろうと思って切れるものではない。物理学上に存在するものではなく、精神的に確認できるものでもない。

 もう繋がってしまっているのだ。断つことなど出来はしない。如何なる刃物、魔術をもってしても見ることすら叶わない。

 へその緒とはそう言うものだ。

 

 尤も、赤子も、その母も、化け物も、へその緒を断とうなど考える訳もないのだが。

 

 そうして悪夢に繋がるへその緒は木の根のように様々な世界に張り巡り、結果としてその世界と狩人との間に縁ができる。

 縁ができた世界には根を伝って狩人の神秘がじわじわと浸透し、世界のルールが上書きされる。選ばれた者は死後、悪夢に招かれるということだ。

 その意味ではあの悪夢は天国、或いは地獄と表現するのが正しいのだろう。たまに狩人自身が出張って直接引き摺り込むこともあるが。

 

 

「今の私みたいに、ですか?」

 

 

 揶揄うような口調で桜が言う。夢に帰ってきた化け物は再び桜にしがみつき、2人は一緒に凛のいる部屋に向かっていた。

 凛は現在、病室のベッドに寝かされている。服はナース達によって着せ替えられており、貫頭衣のような服を身に纏っている。

 

 

「あら…身体はもう大丈夫なのですか、コトネさん」

 

 

 ベッドの横には出産を終えて間もないコトネが座っていた。()()()()()疲労も負担も大きかっただろうに、彼女は自分よりも大きな凛の手を握っている。

 

 

「ねえ、桜ちゃん。どうして凛ちゃんを連れて来たの…」

 

「……嬉しくないんですか?」

 

「ううん、嬉しいよ。でも、ちょっとだけ嫌な気持ちなの」

 

 

 確かにコトネの表情は芳しくない。困惑に加えて、苦しそうな面持ちもある。

 幼い少女にとって、かつての親友が無事に成長していたことは喜ばしいのだろう。

 しかし、『ここ』にいるという事実が、何より少女を苦しめていた。

 

 

「私は、死んじゃったから此処に来たの。でも、凛ちゃんは生きてる。生きてるなら、此処にいちゃダメだよ」

 

「関係ありませんよ。生きているか死んでいるかなんて、この夢では何の意味もないんですから。此処は、まだ生きたいと思った人が集まるところ。例外はあっても、基本的なルールは変わりません」

 

「……」

 

「姉さんは、私に負けて『まだ』と思ったから此処に来られたんです」

 

 

 夢とは不思議な場所だ。気紛れに人を選び、気紛れに取り込み、いつの間にか抜け出せなくなって、気付いた時には故郷となっている。ましてそれが悪夢ならば、選ばれてしまった者たちはより深みに嵌るだろう。

 生前、或いは今際の際に残した未練を見初められた哀れなる落とし子。神秘に(まみ)え、未来を手にした希人。

 皆が皆赤子を孕み、産み、育て、親となって新たな価値観を持つ。その過程に拒絶はなかった。

 

 

「そろそろ戻ってあげたらどうですか。赤ちゃん、泣いちゃいますよ」

 

「うん……じゃあ、またね、凛ちゃん」

 

 

 ナースに連れられ自室に戻ることね。

 それを見送りながら、桜は釈然としない顔をする。

 

 

「……私、今のコトネさん好きじゃありません」

 

『◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎◼︎◼︎』

 

「だって…あれじゃまるで、()()()()()()()()と思ってるみたいだから」

 

 

 狩人は何も言わない。その真意は読めないが、己が口を出すことではないと考えているのかもしれない。

 

 

「私にとって、此処は天国なんです。好きな人と一緒にいられて、いつでも愛し合えて、怖い思いも痛い思いもしなくていい。でも、コトネさんは違うんでしょうか……」

 

 

 やはり狩人は答えない。触手を揺らし、桜に絡み付くことしかしない。桜は何かを確かめるように触手に舌を這わせ、舐め取った粘液を嚥下する。

 5分程だろうか、小さな水音を立てていた桜は触手の1本を手に持ち、目の前で眠る姉に向ける。

 そして、先ほどまでコトネが握っていた手に触手を握らせた。

 

 

「じゃあ、あとはお願いしますね。姉さんに、私の天国をたっぷり感じさせてあげてください」

 

 

 人はそれぞれ、大切なものを持っている。それが実体のあるものなのか目に見えないものか、手元にあるのか無いのか、多少の違いはあれど大切なことに変わりはない。

 桜にとっては自分を救った狩人がそれであり、コトネにとっては親友の凛がそうであるだけだ。

 

 まあ、それはそれとして狩人は身体を変質させていく。およそ生物とは考えられないほどに薄く広く身体を変えた。ぱっと見は大きめの布といったところだろうか、その裏側には余す所なく触手が生え蠢いている。

 狩人はゆっくり凛に覆い被さると、口と鼻の中に肉の管を通す。

 

「…ッ…ぉ゛、ごぇ…ぁ゛っ」

 

 そのまま頭の先から爪先までを包み込み、腋と股に対してスリットを作る。左右の手足を隙間なく包み込み、最後に背中側で肉の端と端を繋げる。

 全身が薄い肉膜に覆われ、まるでスーツを着ているようになった。全身の自由が効かず、己の意思ではなく狩人によって呼吸まで管理される姿に成り果てた凛。

 意識のない中、神秘の霧を肺に循環させられ痙攣を起こしている。スーツの中では穴という穴に触手が入り込んでいる。毛穴は勿論、涙腺や涙点といった極小の穴にまで触手が侵入し神秘を塗りたくっている。

 耳からは脳味噌にカレルを焼き付けるための触手が、女陰には神秘を植え付けるために、菊門からは内臓粘膜から神秘を吸収させるためにと、ありとあらゆる孔を冒涜的な方法で犯された。

 彼女にとってもう一つの命と言える魔術回路すら、今や神秘を循環させる道に過ぎない。魔術師としての遠坂凛は、既に終わっていた。

 

 しかし、彼女が目覚めることはない。

 遠坂凛は目覚めないままに常人から隔絶するだろう。此処の夢の住人どもと同じ、人の形をしたナニカに。当たり前だが彼女の意思は介在しない。この行為も、言ってしまえば改造手術だ。

 そして、次に目が覚めたとき、遠坂凛の未練は成就する。

『まだ死ねない』

『まだ桜と一緒にいたい』

『まだ──まだ────まだ─────……』

 

 桜の身を案じたゆえの愚かな好奇。その代償として、遠坂凛は自由を奪われた。赤銅の髪を持つ男との幸せも、白髪の髪と褐色の肌を持つ男との幸せも、()()遠坂凛には訪れない。

 桜の言う天国とは、在りし日の未来を捧げて停滞した幸福を深く味わうこと。

 

 彼女ら姉妹は、もはや誰もが想う()()()の中へは永遠に帰れない。

 薄ら明るい病室には、悍しい音がいつまでも響いていた。

 




お久しぶりです。
Fate/HFや就活やコロナショックなどが神秘的な交わりをもたらした結果生まれた話でござい。
あとはダクソ考察見て思考回路が変な軌道を取ったことから、『救い…救い、か??』となるような内容に。

このクソ長い自粛期間の慰めになれば幸いです。
では、またいつか。


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本編
狂宴の寝所


こんなん狩人じゃねー。
でもハッピーエンド(ファニーエンド)考えたら勝手に脳内ピンク色になってしまった。
あと人形ちゃんのえっちぃ作品が無かったのが悪い。

頭空っぽにして読んでね。


 

 

 

 

 ある日、狩人(全裸)はふと思った。

───オドンが羨ましい。

 一度考えてしまえば、持ち前の啓蒙の高さからオドンへの不満は止まらなくなった。

───そもそもアイツだけ姿見えないとかズルい。自分だって可愛い女の子や綺麗な女の子と、あーんなことやこーんなことしてみたかった。あとヤリ逃げするとかサイテー。やっぱりどうにかして殺しておけばよかったか。

 

 狩人(全裸)になってからこちとらエッチなイベントなど無いに等しいのに、あのヤリチン上位者め───と、ここまで頭の中で不満を垂れ流して、これまたふと思った。

───そうだ、アイツより先に全員自分のお嫁さんにすればいいじゃん、と。まったくもってアホである。

 だが、アホではあるが実力と経験だけは何者よりも優れているため、行動に移せるだけの力がこの狩人(全裸)にはあった。啓蒙の高いアホだ。脳筋よりよほどタチが悪い。

 

───思い立ったが吉日と言うし、早速試してみよう。まずは月の魔物をブチ殺して夢の主導権を握らなければ。

 狩人(全裸)はこれから自分が創り上げるハーレムマタニティパラダイスを思い浮かべ、股座をいきり立たせていた。

 すると、それを静かに眺めていた人形が、狩人(全裸)のいきり立った股間を見て、言った。

 

「狩人様、いつもよりお元気そうですが、何か良いことでもありましたでしょうか」

 

───……えっ、あー……コレ、ね。うん、元気だよ。良かったら、触ってみる?

 

 

 狩人は全裸のまま、ビキビキと勃起している剛直を人形の前に晒した。人形は、相変わらず無表情ではあるが、心なしか不思議そうにソレを眺めていた。

 そして、暫く眺めてから狩人を見上げる。

 

 

「狩人様…私には、コレが何なのかはわかりません。ですが、狩人様の一部であることはわかります……あの、触れてもよろしいでしょうか」

 

───ああ、構わない。むしろ触ってくれ。握ってくれ。優しくシゴいてくれ。

 

「わかりました。では、ご要望通り、優しく触れてみます。ですが…その……私はこの行為が何であるのかを知りません」

 

───大丈夫。自分が全部教えてあげる。

 

「わかりました。狩人様、その…よろしく、お願いします」

 

 

 

 

 

 

 狩人は人形の手を取り、こうやって触るんだと自分の剛直にあてがった。人形は無機質なはずの自分の手に熱が伝わる感覚に驚き、少しだけ剛直をキュッと握ってしまった。

 

 

───んぉ…っ。

 

「っ……狩人様、申し訳ありません。痛かったのでしょうか」

 

───へ?…ああいや、違う違う。人形ちゃんの不意打ちが気持ち良くて、つい声がね。

 

「申し訳ありません。その…私の手に、無機質なはずの手に、何か熱のようなものが伝わったのです」

 

───うん、大丈夫。人形ちゃんは何処もおかしくない。その症状は、むしろ良くなっていると言える。恐れないで、もっとその熱を感じてごらん。

 

「……わかりました」

 

 

 ゆっくりと、優しく、だがしっかりと狩人の剛直をシゴいていく。スリ、スリ、シュッ、シュッ、と、定期的なリズムで人形は手を上下に動かし、硬く勃起した剛直を解すように手を滑らせる。

 すると、しばらくして、剛直の先端から水滴のようなものがプクリと浮かんできた。人形はそれを見て、このまま続けていいのか狩人に尋ねた。

 

 

───ああ、このまま続けて。それと、左手はこっち。優しく触れて……っん、そう、気持ちいいよ、人形ちゃん。

 

 

 人形の右手は剛直をシゴき、左手はその下の精嚢を優しくモニモニと揉みほぐしていく。

 すると、人形は自分の手の中でどんどん熱くなる剛直を見て、自分の奥から何かが込み上げてくるような感覚を覚えた。

 しかし、それは苦しいものでも辛いものでもなく、むしろ甘い熱を持った優しい疼痛のように感じる。その熱に伴い、目の前の狩人とその剛直が愛おしくてたまらなくなっていく。

 そして、初めての衝動に少し混乱しながらも、人形はその流れに身を任せた。

 

 

───ッッッ……!んっお゛ぁ……っ。

 

 

 

 ムヂュル、と、狩人の剛直を咥えたのだ。なにぶん初めての行いゆえ勝手はわからないが、懸命に舌を動かし、口の中の存在を慈しむ。気持ちよくさせようとする動きではなく、愛したい、慈しみたいという気持ちを込めて、音が出るのも構わず舐めしゃぶっていく。

 

 

「むぢゅッ…んむぅぅっ、んじゅるるるぅぅぅ……っぱ……あむじゅるるっ、んっ、んっ、ぢゅうぅぅぅ、んじゅっ───ッッッぽん! はぁ、はぁ…狩人、さまぁ……は──んじゅるるるぅぅぅ…っ」

 

───くっ…は、激しいな人形ちゃん。でも、良いぞ、そうやって初めての感覚をこれからもっとたくさん覚えていこうね。

 

「ちゅる、ちゅぷ……ンはぁ……かりゅうど様…あぁ、かりゅうどさま……私は、私は…おかしいのでしょうか……ああ、でも…っ……んちゅるるるっ……」

 

 

 

 人形は未知の感情に混乱したまま、しかしその何倍もの愛情で泣きそうになっていた。狩人が愛しくて愛しくて、どうにも我慢ができない。自分で自分の制御ができない。

 そんな人形を見て、狩人は興奮を極まらせていた。何だこの可愛い生き物は、と。ただでさえ美しい相貌を、涙を浮かべた上目遣いでこちらを見る。その様子は迷子のようでありながら、歓喜の表情にも見えた。

 そしてその可愛い生き物は、今自分の肉棒を咥え、一生懸命にしゃぶっている。

 とてつもない優越感だ。新たな啓蒙が自分の脳内に広がり、何かがドバドバ分泌されていくのがハッキリとわかる。それと同時に、自分の肉棒もそろそろ我慢の限界が近づいていた。

 

 

───くぅ…っ、に、人形ちゃん…っ!

 

「狩人さま……じゅるっ、んむゅぅぅ……にゅじゅるるるるるぅぅぅぅッッッ……っぱ…はぁ、はぁ、はぁ……あぁ、狩人様…何か、込み上げて来るものが、私の内から何か、熱いものが……」

 

───ああ、そのままその熱に身を任せて。自分もっ、そろそろクるからッッッ。

 

 

 いつのまにか、人形の足元には透明な水溜りができており、今もポタポタと新しい蜜が降り注いでいた。本来ならば人形ゆえにあり得ぬ現象だが、事実人形は今『発情』していた。

 履いていたドロワーズは淫蜜が浸透しきり、下着の意味をなしていなかった。さらにその奥は語るまでもないだろう。

 

 

───ぐっ……これはっ、もう…出、る…っっ!

 

「ッ!?んんんん゛ん゛ん゛ん゛むむうぅぅぅぅぅ──っっっ!!」

 

 

 ついに決壊した精の奔流が、人形の口や喉にぶち撒けられる。そして、狩人が絶頂を迎えると同時に、人形の股からも潮のようなものが噴き出した。互いに体液を吐き出し合うその光景は、一種の芸術でありながら、禁忌そのものであった。

 人形は命じられるまでもなく、本能に従うように次々と出てくる狩人の精を嚥下していく。

 しかし、粘度の高い糊のような精液を上手く飲み込み続けるのは難しかったのか、口の端から数滴溢れた。

 狩人の精に内包されたエネルギーは凄まじく、血の遺志など比較にならないほどの物だった。人形は、自分の身体が内部から、大きく作り変えられていく感覚をはっきりと感じていた。今まで肉の身を持たなかった自分が、人形(無機質)でありながら生物として生まれ変わっていく。

 先ほどまで人形だった生命体は、形容できないほどの幸せから、微笑みが隠せなかった。

 

 

 

(ああ、私は、私の狩人様を……やっと、愛することができるのですね)

「んっ、んっ、こく……っはぁ……。狩人様、私に命を授けてくださり、ありがとうございます。その……これからも、よろしくお願いします」

 

───ああ、こちらこそ。とりあえず、上手くいったようで安心したよ。これからもよろしく頼む。

 

 

 

 

 

 この日、新たに上位者が生まれた。

 しかし、その者は何者よりも色欲にまみれており、獣らしいというか人間らしいというか、何にせよ他の上位者とは隔絶した別の存在とした方がいいだろう。

 そして、その者が持つ力は凄まじかった。その体液は、無機物を生命に変換し得るほどの神秘が濃縮されており、またそれは、別の生命体であっても何かしら影響が及ぶだろう。

 なまじ性欲から上位者へと至っただけに、繁殖能力は凄まじく、肉体から生やせる触手全てに射精能力が備わっており、一度その体液を取り込んだ身体は、全身が神秘エネルギーに満ち溢れて食事要らずとなる。

 理解しやすく言うならば、同じ生命体の上位互換となれるのである。

 青ざめた血などなく、そこにはただ、白くベタつく何かが大量にあった。

 

 

───やっぱり上位者は最高だ。……ん、あれ、どうしたの人形ちゃん。えっ、ちょっと、何でにじり寄って来て……っ!いやあの人形ちゃん目が!瞳孔がハートになってるんだけどおおおおおっほおぉぉぉぉぉぉッッ!!待って!待って!!流石に休ませていただきたく存じ───アッー!

 

 

 

 

 めちゃくちゃ搾り取られた。

 

 

 




お久しぶりですorはじめまして。
名前変わったんではじめましての方が9割以上でしょうが、何にせよ久しぶりの投稿です。そしてR-18への初挑戦です。
この作品は作者のムラムラがブラボの絶妙なエロスによって炸裂した結果生まれたものです。
エロい内容にすると、必然的にキャラ崩壊が起きますので、この後書きまで読んでくださった方は次話からお気をつけください。

質問や感想は大歓迎です。
狩人や人形はこんなんじゃねぇ!という批判はもっともです。作者自身も『頭空っぽにして夢詰め込んで書く』を念頭に書きました。

ブラボのえっちぃ小説流行れ…はやって…


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未知なる選択肢

これ需要あるんだろうか……


───さて、では今一度()()()()()か。獣狩りの夜を、醒めない悪夢を。

 

 狩人は白い花畑に佇み、月の魔物を待っていた。その胸中は、オドンへの嫉妬と殺意、そして女たちへの情欲が渦巻いていた。

 

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎……」

 

───ああ、待ちくたびれたぞ。

 

「◼︎◼︎ ◼︎◼︎◼︎◼︎ ◼︎◼︎◼︎」

 

───だが、悪いな。カットだ。

 

 

 悪夢100周マラソン完走の実力は伊達ではない。月の魔物がどれだけ攻撃しても当たらず、一呼吸の隙に都合7度は刻まれる。

 

 狩人は無心であった。いや、脳内はこの次の夢で予定している行為のための煩悩でいっぱいなのだが、それ故に迫力は凄まじかった。『テメェのような前座は早よ死ね』と言わんばかりに斬って斬って斬りまくる。

 

 ノコギリの刃が肉と粘液で滑るようになると、即座に別の武器に持ち替える。

 

 取り出したのはパイルハンマー。旧市街のデュラが使っていた浪漫武器である。ねじ込んでいる血晶石の質も非常に高い。パイルハンマーの性質を最大限に活かせるよう、厳選された物ばかりであった。

 

 

───さあ、もう終わらせよう。貴様を殺し、自分は夢の先へ進む。……まあ、()()()()()()()()()()()()()、それはこれから死ぬ貴様には関係のないこと。

 

『◼︎◼︎…ッ⁉︎ ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ァァァァァァ!!!!???』

 

───嘆いているのか? それとも憤っているのか? だが、もはや無意味だ。

 

 

 限界まで溜めた一撃。突き出された切っ先は、月の魔物の顔と思わしき部位を粉々に破壊し、青ざめた血と肉片の花を咲かせた。

 

 全身に血を浴びながら、狩人は自分の肉体がまた少し変質したことを感じた。幾度も繰り返したが、この一瞬間の幼体だけはあまり慣れない。

 

 しかし、それこそ狩人の目的に(かな)う形態だったのだ。

 

 今の状態では不十分、狩人は月の魔物を殺すたびにそう思うようになっていた。このまま(レベルカンスト)では、これ以上にはなれない。

 

 そんな時、脳に瞳を得すぎてもはや瞳が脳になった頭から、とある考えがはじき出された。

 

 

 ───そうだ、産まれ直そう。

 

 

 カンストを初期値にするという矛盾を孕んではいたが、人の超越、その幼体である今だからこそ、それを可能とすることができる。

 

 幸いにも、母胎となる生命体は自分の最も身近な存在だ。親和性も高く、無事に自分を新生させてくれるだろう。

 

 

───嗚呼、人形ちゃん、人形ちゃん……。

 

 

 ズルリ、ズルリ、ナメクジとイソギンチャクを足して2で割ったような物体が、這いずりながら動く。その先には、膝をついて両手を広げる人形の姿。

 

 しかしその姿は、いつもの服ではなかった。マタニティウェアと言うのだろうか、ワンピース型のゆったりとした服を着ていた。

 

 

「狩人様。ああ…狩人様。私の内に肉を持った心が出来てから、初めての役目があなたの母となること。ああ…ああ…来てください、狩人様。触れてください、私の中へ、どうか……」

 

 

 ズル、ズルリ…グチャ…ベチャ…。

 粘液を介した摩擦の音が静かに響き、幼体の狩人はゆっくりと、ゆっくりと人形の腕の中へ進んで行く。その光景は、まるで初めて立ち上がった赤子とそれを見守る母親のよう。微笑ましく、美しい。しかし2人の目的は、エロスと禁忌に満ち溢れていた。

 

 

───あ◼︎◼︎◼︎、も◼︎や時間◼︎がな◼︎。頭の中◼︎が…ッッグ…。

 

「狩人様、もう少し…はい、もう少しです。あと少しで、私はあなたの─────────」

 

 

 歩み寄るのは狩人、あくまで人形は迎え入れる側だ。しかし、一度触れれば決して離れることはない。

 

 絡みつき、絡まり合い、『離したくない』という意思表示のように、互いが互いを捕まえていた。

 

 そして、とうとう幼体の触角が、人形の指先を捕らえた。人形もそれに合わせ、幼体の身体を両手で包み込む。

 

 

「さあ、狩人様、私の中へお入りください。私を使い、身の内より産まれてください。この身はあなたの母となり、また女としてあなたを愛します」

 

 

 それは告白であった。狩人に対する愛を唱えながら、人形は幼体を自分の股の間へ持っていく。

 

 白い花が一面に咲く、儚く美しい庭で行われるそれは、まさしく神秘の交わりだった。

 

 

「……っ、ぅ…ぁ、ハッ、あぁっ……っんぅ…」

 

 

 ヌチヌチと人形の陰唇を広げる幼体。それに合わせ、人形も両手で持った幼体を己の中へ誘うように押し付ける。徐々に幼体の小さな身体が、人形の膣内へと埋没していく。

 

 小さいとはいえ、それでも人形の腕と同じくらいの太さを持つ身体だ。常人ならばその激痛から泣き叫ぶのだろうが、人形は違った。幼体が肉襞を擦る度に艶声をあげ、すでに秘所からはトロトロと淫蜜を溢れさせていた。

 

 

「あっ…んぅ……っ、ハァ…っあぁ!──か、りゅうど…さま…ッ…、もっと、もっ…と…来て……ぁっ…ください…っ」

 

 

 もはや幼体は言葉を発しない。その代わりに、幼体は未発達な触角で膣壁の凹凸を余す所なく掴み、グジュリ、グジュリと奥へ進む。

 

 人形は遂に地に両手をつき、身を襲うとてつもない快楽に身体を震わせる。花畑に淫蜜の溜まりを作り上げ、今なお自分の中をほじくる幼体に翻弄されながら、それでも人形は喜びの涙を流す。

 

 今まで、自分はほんのひと時しか寄り添えなかった。血の遺志によって狩人を強くしても、結局は協力者でしかあれなかった。狩人の苦痛も葛藤も後悔も憤怒も、何一つ共に支えてあげられず、目の前で車輪や血刀で自害する狩人を見ていることしかできなかった。

 

 しかし、今は彼の女であれる上に、これからは母としても彼を支えられる。女として彼を愛し、母として彼を愛す。自分を初めて孕ませた相手が彼であり、初めて身篭った子も彼となる。

 

 ああ、なんと()ばしきことか───

 

 

「───んぉっ…ぉ゛ぉお…、か、りゅうど…さまっ…ハッ、あぁぁ…奥、へ…あ゛あ゛ぁぁッ……ええ、子宮口(そこ)です…っ、そこが…アッ…いりぐち、っです」

 

 

 とうとう幼体は子宮(ゆりかご)への入り口を見つけた。最初こそ凝り固まっていたが、触角による丹念な愛撫と、全身から絶え間なく分泌される神秘を帯びた粘液によって、今や膣道も子宮もグズグズに蕩かされていた。

 

 人形の秘部より垂れ落ちる淫蜜は止まることを知らず、蜜溜まりを広げ、地面はテラテラといやらしく月光を反射させていた。

 

 人形が発する嬌声は次第に大きくなり、声音は完全に快楽に溺れている。

 

 

「ぁあ゛っ…ふぅぅ…ッ、ぉ、ぁ、ぉお゛お゛ぁぁぁッッ……、んっ…ぁ、あ、あ、んんっん゛ん゛ん゛あぁぁぁぁ…ッッッッ!」

 

 

 しとどに濡れた秘部から勢いよく潮を飛ばし、獣のような艶声をあげながら絶頂を極まらせる人形。幼体はその脈動と同時に子宮口をグパッと広げ、子宮の中へと到達した。

 

 

「ッッッッッ……っんぉ゛…!」

 

 

 もはや秘部より(したた)るのは蜜なのか潮なのか判別できない。快楽に相貌を歪ませ、悦びの涙を流し、弛緩からか唇から舌をのぞかせた人形はとても美しかった。

 

 艶熱により煮立った子宮は、幼体の身体でミッチリと埋め尽くされた。もう隙間らしい隙間もない。

 

 ふぅ、ふぅ、と深い絶頂から自我を戻すため、息をつく人形。少しずつ姿勢を起こし、膝をついて膨らんだ腹を優しく撫でる。今も動く感覚がある。その幼体の身じろぎひとつで途轍もない快楽の波が己を襲う。

 

 たまらず人形は(おとがい)を上に向け、自我を食いつくさんばかりの絶頂快楽に酔いしれていた。

 

 しかし、そこで幼体の様子が少し変化した。動きが鈍くなってきたのだ。今まで身を捻り、のたうつように子宮を内部から愛撫していたというのに、今では快楽こそあれど絶頂を極まらせるほどではなかった。

 

 

 「ふふっ、愛おしい狩人様…あぁっ…、ええ、んっ…感じます。あなた様が今、私の中に定着したことを」

 

 

 人形が浮かべるのは優しい微笑み。人形は知っていたのだ。この静まりは、幼体が自分の中にしっかりと定着した証拠なのだと。

 

 そしてこの静まりの後に、今までの快楽など比較にならぬほどの()()()が来ることも、人形は予感していた。

 

 

「さあ、来てください。私の中で、狩人様を(ほとばし)らせてください。私という器を満たし、来るべき日までお休みください。私は、狩人様のお目覚めを、ずっと、ずっと、待っています」

 

 

 人形は両手で腹を撫で、言い聞かせる。いつしか、子宮の中の幼体は、その身体にマグマのような熱を持たせていた。

 

 熱に反応した快楽神経が、人形の全身に、これから訪れる特大の快楽を知らせて回る。

 

 

「はい、ご存分に…来て、ください。さあ、さあ────」

 

 

 

 

 

 

 

 そして幼体は子宮の中で、溜めに溜めた神秘を決壊させた。その神秘は白く濁っており、ところどころプリプリと凝固している。粘度は糊のようで、子宮内はもちろん、粘膜という粘膜に張り付き侵す。あまりの膨大な量の神秘で子宮は膨張し、卵管をも拡張していく。

 

 

「ひぃ゛ッッッッ!?ぁあ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁあ゛ッッッ…ほぉお゛お゛ぉぉんん゛ん゛ん゛ぅぅぅぅ…っ、イッ、あぁ…がっ…ハッ、あ゛ぁ……ッッッ!!」

 

 

 幼体により念入りに解されていた子宮は、目に見えて大きくなり、あっという間に人形は臨月のような腹になった。

 

 言葉を発する余裕もなくなり、今はただ、叫ぶように艶声をあげる。

 

 

「んぅううう゛っ…ぅあ゛…ッ、んぁお゛っ……!ぁ、あ゛っ……づぅぅぅぅん゛ん゛ん゛ぅッッッ…ハッ、ふぅ…ふぅッう゛んんんんんッッッ……!!」

 

 

 波の余韻ですら今の人形には絶頂の着火剤だ。子宮の中で神秘が揺れるたびに小さな絶頂を極まらせる。

 

 しばらくして、絶頂快楽の奔流によって仰け反った身体は、波が引くと同時にパタリと仰向けに倒れた。いつのまにか周りでは使者たちが、不思議そうに自分を見ている。

 

 荒い息をあげ、人形はなおも自分の膨れた腹を撫でる。愛おしそうに、慈しむように、あなたを心底愛していますと伝えるように。

 

 

 

 

「狩人様、私はあなたを──────────

 

 




まさかの人形ちゃんママになる。
いやね、啓蒙高いと思いますよ自分でも。
人形ちゃんを母胎とした新生狩人様とか新しすぎる。こいつこそが再誕者だろう。

これからの話の方針↓
これより狩人様が強すぎてブラボが軽く無双状態になります。道中で救助活動を行い、隙あらばエッチな夢に女の子を連れ込みます。
あと狩人様は変身できます。触手量が増えた月の魔物です。触手全てに生殖能力があります。もちろん、ちゃんとオチンポもあります。つまり全身がオチンポ。
うちの狩人様最強だろこれ(白目)

読んでくれてありがとう!
感想・質問は大歓迎!


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密やかな生誕祭

年末年始の暴飲暴食はやめましょう(戒め)

前回の話で一気にアクセスが増えて、まさかの日間ランキングに載るという。
啓蒙高い狩人様たちがいっぱいだぁ。
ありがとうございます。

今回ちょっと急展開なんじゃよ。


 あれからどれほどの時間が経っただろうか。人形は、自分の身を襲った特大の快楽の波からなんとか復活し、えっちらおっちら歩ける程度にはなっていた。

 

 妊婦となった今、石畳の上で転けるなどあってはならぬことだが、そこは使者たちがあの手この手で上手いこと補助していた。その小さな身で寄り集まりながら、人形のバランスを真っ直ぐに保とうとする姿はとても愛らしかった。

 

 なぜ使者がこれほど人形に世話を焼くのかというと、使者も新しい自分たちの主人が誕生することを喜ばしく思っているからだ。

 今までは遺志や啓蒙を対価にアイテムを見繕ってやったり、別世界に残すメッセージを管理してやったり、何かにつけてサポートしてやっていた。

 

 しかし、狩人自身が完全なる上位者へと昇華した今、使者と狩人の立場は逆転した。

 今後、使者たちは狩人の邪魔をしない、機嫌を損ねないといったことに気をつけねばならなくなった。

 つまり、自分たちの生殺与奪はたった今からあの狩人になったわけだ。普通の者ならば危険を感じるのだろうが、使者は眷属ゆえに喜びをあらわにする。

 

 その姿は以前よりも少し、可愛く見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 オッス、オラ狩人。しゅみは惨殺とか啓蒙集め。殺した相手の血で作った酒でカンパーイ。最近ハマったのはゲールマンの前でマリアちゃんの話を延々とすること。

 それにしても人形ちゃんの子宮の中はとても気持ちいい。暖かくて永住したくなる。あれですね、あれ、狩人をダメにするゆりかごですわ。たまに子宮がキュンキュンするんで、少しばかり疲れることもありますが。

 

 しかしまあ、疲れる端から即座に人形ちゃんの温もりで回復するので、実際疲れたかどうかも微妙なところだ。それにしても人形ちゃんのアヘ顔が見られなかったのが少々残念ではある。あの時は人形ちゃんの子宮口に顔突っ込んでたから見えなかった。いやホント残念至極です。

 

 さて、現在私め狩人がどうなっているかと言いますと、人形ちゃんのお腹の中で眠っております。上位者の幼体になった直後に人形ちゃんの子宮に入って、即座に定着しました。いわゆる着床ですね。

 そして、全身から神秘という名のネバネバを噴射しまして、現在はそのネバネバが攪拌された人形ちゃんの羊水の中で寝てます。

 宇宙は子宮にある。

 

 これから私は暫く寝たままとなり、いずれは産まれます。新しい上位者として産まれ直し、あの悪夢をもう一度廻そうと思っております。

 で、道中出会った彼女らに私なりの救いを与えてやろうかなーなんて考えてますよ。

 自分を殺しに来た奴はどうするのかって? そんなん大歓迎です。くっころは私の大好物の1つでありますゆえ。ええ、丁寧に丁寧に屈服させてやりますとも(予定)

 

 あ、触角が触手に成長しつつある。やっぱり成長が早い。人形ちゃんパゥワーすごい。母嫁最強。

 

 今までなら幼体になると自我も薄くなって、気付いたらいつもの診療台で寝ていたというオチなのだが、今回は月の魔物を殺して夢の主導権を握った時点で、一旦夢を固定化してみたのよ。

 そして、私もただ寝ているわけではなく、()()()をどんな感じで展開しようか考えているのだ。

 今の私は上位者なので、夢を自由に創ることができる。そして、獣狩りの夜に狩人を誘い込むように、私の夢にも誰かを連れ込むことができる。

 

 そして、現在私が創ろうとしている夢は淫夢だ。

 そこ、114514とか言わない、野獣(けもの)が湧くだろうが。流石にあれは狩人でも対処できんぞ。

 私が創るのはあんなどどめ色の悪夢ではない。甘くていい匂いのするピンク色の夢だ。

 

 

 

 お、今度は身体が一回り成長したな。肋骨は露出しないのか、月の魔物だからてっきり剥き出しの状態になるかと思ったが。何やら薄い皮…いや、膜のようなものが張られている。

 まあ、これは僥倖とも言える。肋骨剥き出しで人形ちゃんにハグとかしてみろ、傷ついちゃうだろうが。許さんぞそんなの。

 

 あの悪夢を巡り直す時の目標は、自分にとってのターゲットを()い上げる予定でもある。当然無傷でな。母体を大切にしない上位者がどこにいる。

 あとあれだ、オドンは殺す。アイツだけは絶対にネギトロめいた死体に変えてやる。アリアンナをヤリ逃げした罪は重いぞ。あと透明で生殖能力があるとか何だそれ羨ましい。

 

 何はともあれ今は成長に専念せねば。嗚呼、人形ちゃんのゆりかごお風呂気持ちいい……。

 

 

 

 

 

 

 そして人形ちゃんを堪能すること約3ヶ月。ついに上位者としての身体が十分に成長した。人形の腹も最初の頃より少しだけ大きくなったように見える。最近では出産の予兆なのか、陣痛らしき痛みが時折身体を駆け巡る。

 

 

「んぅ、ハッ…あぁ……ッ。っ、ふふ、狩人様、もうすぐなのですね……あっ……もう、また───」

 

 

 しかしこの人形、陣痛の痛みなどものともしない。それどころか愛する男が産まれる予兆ということで、しっかり快楽に変換して受け止めている。なんとも禁忌に満ちた技術だ。

 

 現在人形は、使者たちが総力を挙げて作り上げたキングサイズのベッドに寝転んでおり、いつでも出産できる準備が整っている。

 人形は自分の腹を撫で、その中で時を待っている狩人に言葉をかける。当然相手には聞こえていないので、伝わっているわけではないのだが、それでも愛情が言葉となって口から零れるのだ。

 

 

 だが、その疼痛を堪能しているのもつかの間、ついにその瞬間が訪れた。子宮の奥から震えが襲って来たのだ。

 

 

「ぁ゛ひッッッ……お、ぁ……か、りゅあど、さま……ッ、つい、に…ついに、っ……ぁあっ……!」

 

 

 あまりに突然な快楽の波。これを感じたのは、自分の中に狩人を孕んだ時以来だろうか。

マタニティウェアの人形は、その波に耐えられず、潮を吹いた。その腹はうねるようにボコリボコリと蠢いている。

 それは、腹のなかの狩人が、完全に目を醒ましたことを如実に表していた。

 

 

「あ゛あ゛ッッッ!はぁ、ん゛あ゛あぁあぁぁぁぁっ……ぉ、お゛ほぉぉぉぉぁっ……!!」

 

 

 波は途切れることを知らず、次から次へと襲い来る。狩人が放った神秘によって、全身が開発されたような敏感さを誇る人形にとって、この快楽の連続はまさしく天国と地獄だった。

 

 

「あぅぅぅぅん゛ん…ッ!!お゛お゛あ゛ぁぁぁ……ッハ、ぁ、はぁ…ッんぉ゛…!!ああっ、し、きゅう、がッ…!!ぁあぁぁぁぁん゛んぅぅぅ……!!」

 

 

 子宮の震えは止まらず、腹のなかの狩人は産まれるために硬く閉じた子宮口へと触手()をかける。

 すると、破水した羊水が、狩人の空けた隙間から流れ出る。

 

 

「んぉあああぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁッッッ!!」

 

 

 子宮口の縁を噴出する羊水が撫で、狩人の触手が嫌というほど粘膜を擦る。一本手をかけられた子宮の口は、元の形に戻ろうとするが、勢いで空いた隙間に別の触手が差し込まれた。

 

 人形は自分を支えるように、ベッドのシーツを後ろ手に掴んでいる。しかしその手に力はなく、口も弛緩しているのか開かれていた。

 だが、それも仕方のないことなのかもしれない。今まで内側を圧迫していたモノが抜けていく感覚は、どこか排泄と似ていた。しかもそれが自分から出て行くのだから、力の込めようがないのだ。

 

 成体となった狩人は、そのサイズをほんの僅かずつ解放して行く。そうすることで、自分の身体を押し出すことのサポートにしていた。

 

 今や子宮口にかけられた触手の数は10本を超え、ミチミチと徐々に口をこじ開けていく。隙間が広がると、即座に触手が追加され、とうとう成人の頭がすっぽり入る程度にまで開かれた。

 

 

「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁぁぁッ…!!お゛ッ…カ……ッハァッッッ……!!あんっ…ん゛ん゛ん゛ぅぅぅぅ…ッ!!」

 

 

 人形は言葉を無くした。いや、発する余裕が無くなったと言うべきか。粘液に塗れ、ヌルヌルの狩人の身体が、少しずつ子宮から膣内全てを満遍なく擦り上げて降りてくる。

 不思議と痛みは無かった。子宮口を限界まで開かれてているにもかかわらず、人形を支配するのは深淵のような深い深い快楽絶頂だった。

 

 獣の如き鳴き声を、美麗な唇から垂れ流す人形。今や狩人の身体は子宮口から半分ほど外に出ており、その身を捻りながら産道を進む。

 狩人が身じろぎする度に人形は絶頂を極まらせ、尿道から大量の潮を吹き出した。

 

 

 

───ああ、そうだ、もう少しだ。

 

 

 狩人はここに来てやっと言葉を発せられるようになった。上位者になった直後は発声器官が無かったため、好きに喋ることができなかったが、成長を遂げた今は問題なく言葉を紡げる。

 

 

───さあ、今こそやるのだ。新生の幕開けだ、腹の底から叫ぶのだ…!

 

 

 ゴリゴリと人形の膣を抉りながら、とうとう狩人の触手は人形の鼠蹊部に手を掛ける。

 

 

「い゛ッひぃぃ…!あ゛ッあ゛ぁ゛ぁぁぁ……、がりゅうど…さまぁ゛ぁ゛ぁぁぁ…!!キて…ッ、ください゛っ…!いま、こそッ…んぉ゛ッ……!ん゛ぅぅぅぅッ…!!お゛、おうまれ…ッくださいぃぃぃ゛…!!」

 

 

 狩人の触手の先端が、次から次へと膣口から覗く。人形は限界まで股を開き、狩人が産まれやすいよう姿勢を整える。

 その腰は抜けたようにヘタり、時折襲う絶頂から揺れ動いている。

 

 

 そして、ついに狩人の顔が膣口から這い出して来た。

 

 

 

───待 た せ た な

 

 

 

 




修正点として、濁点をきちんとしたものにしました。
だ゛か゛ら゛こ゛ん゛な゛こ゛と゛も゛で゛き゛ち゛ゃ゛う゛の゛。

今回の話にやたらと『子宮』『ゆりかご』が登場するなぁと思ったそこのあなた。これの元ネタはEXTELLAのアルテラちゃんの子宮ベッドです。エロいぞ。能登さんやぞ。エロいぞ(2回目)

これからの展開はオリジナル要素マシマシになります。
それにしても1人目のターゲットから『自分を産ませる』とか、ハードル上げすぎた気が……これ以上啓蒙高いプレイあるのか?
あ、暴力とかリョナは無いです。
狩人様にとって母胎は大事。襲って来ても心を込めて丁寧に丁寧に屈服させます。

今回妊娠してから出産までを超特急で書きました。
展開早くてすまん。でも妊娠生活とか分からんのよ。人形ちゃんがひたすらボテ腹撫でてる光景しか浮かばない。

人形ちゃんにペニスマッサージされたいです。

読んでくれてありがとう!

質問・感想は大歓迎です!


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かわいそうなやつ

微エロ

人形ちゃんは暫くお休みです。


 人形の(はら)より新生を果たした狩人は、シーツが吸収しきれなかった羊水の中で、ゆっくりと身体を起こした。

 人形は出産のショックで未だにその肢体を痙攣させており、狩人を産んだ膣をヒクヒクと震わせている。

 

 狩人は自分の肉体が自由に変化することを確かめてから、人形の元へと近づく。左手を人形の後頭部に添えて、ゆっくりと軽く抱き起す。

 

 そして、右手のみを触手に変化させ、そちらは人形の秘部へとあてがった。触手が秘部へと触れた瞬間、人形はひときわ大きく震えたが、狩人はそれを意に介さず、ニチャニチャと優しく膣をほぐしていた。

 

 

「ぁっ…んぅ…ッ、んっ…ぁ…はぁっ……、あぁ…っ…!」

 

 

 あまりに深い絶頂を極まらせたため、意識が朦朧としていた人形を、まるで労わるように愛撫する狩人。

 そう、これは相手を絶頂へと導くものではなく、言うなればアフターケアである。

 

 襞と襞の隙間に触手の先端を沿わせ、陰唇を揉み、肉芽をブラシ状の触手で巻き取って優しく擦り上げる。あくまで優しく、慰めるような手つき。

 

 人形の意識を快楽の彼方から、ゆっくりと此方へ戻してあげるための愛撫。それでも出産時の影響か、人形は声にならない喘ぎ声を漏らす。

 

 狩人の触手は、通常の月の魔物とは少し違っていた。肌の色は、あの血の抜けたような青ざめたものではなく、逆に脈動的な血肉を思わせる(くれない)八塩(やしお)だった。

 

 触手の表面は粘り気の少ない粘液が滴っており、常にテラテラと艶めかしく光を反射している。

 その触手で人形の肌を撫で、自分を産んでくれた感謝と、それに対する労りの念を込める。

 すると、狩人の触手が薄ぼんやりと光を放ち、その光は人形の膣内へと流れていく。光は人形の子宮まで到達し、内部の至る所に染み込んでいく。

 

 これは、いわば回復の神秘にあたる。常人ならば到底産み落とせない大きさの存在を、この人形は産んだのだ。その出産による身体へのダメージは小さくなく、子宮口など未だに大きく開いたままだ。

 

 

───ありがとう、人形ちゃん。君のおかげで、私は生まれ直すことができた。

 

 

 狩人は礼の言葉を口にしながら、ゆっくりと抱えた人形をシーツの上に降ろした。いつのまにか人形は、出産の疲労からか、スゥスゥと静かな寝息をたてている。

 狩人(全裸)は、最後に人形の頬を撫で、そのままの格好でベッドを出た。使者を喚び出し、人形の世話を命じると、使者は手を揉みながら頭を下げた。

 

 その様は主人と使用人…否、王と奴隷だ。そしてそれは、正しく狩人は人ではなくなったということに他ならない。真の意味で『()()()()』になったのである。

 その身の肉は神秘の塊と化し、流れる血潮はまるで深淵の色のようだった。

 感覚を確かめるように己の手を握り、開く。それを何度か繰り返し、狩人は確信した。自分の力は、またスタートラインへ()()()のだと。今まではどれだけ獣を屠ろうが、どれだけ上位者を狩り殺そうが、今以上に成長はできなかった。

 だが、今は違う。今の自分ならば、彼女らを守ることができる。殺さずに捕らえることもできる。なにより、アレを殺すことができる。

 

 口角を吊り上げ、その内に渦巻く狂気溢れる笑みを浮かべる。

 そして狩人は、寝室を形作る夢の扉に手を掛け、かの古都へと足を踏み出した。

 

 

───征ってきます。

 

 

 今より狩人は、心身新たに獣が蔓延る夜に目醒める。

 赤子を求め、母体を求め、救いを与えるために、己の夢の完成のために、そして何より───オドンを殺すために。

 狩人は、再び悪夢を拓く。

 

 

 

 

 

 

「Oh , yes…Paleblood…」

 

 

 ああ、まただ。やはり、またここから始まるのか。まあ、貴様の顔も今回で見納めだろうがな。

 

 

「Well , you've come to the right place」

 

 

 それにしても、なぜ貴様は車椅子なのだ? この診療所は階段が多いから、さぞかし不便だろうに。

 

 

「Yharnam is the home of blood ministration」

 

 

 ああ、やめろ、あまり近寄るんじゃない。端的に言って貴様はひどく臭い。薬品と血の臭いがベッタリだ。

 

 

「You need onry unravel its mystery」

 

 

 だから近寄るな、臭い。あと、包帯で目を隠して自分から相手を警戒させるのはどうかと思うぞ。仮にも医者だろう貴様は。せめて白衣着ろ、白衣。

 

 

「But , where's an outsider like yourself to bigin?」

 

 

 ……どうやら、この男に思念は通じないらしい。啓蒙の低い奴め。前々から何者か気になってはいたが、結局は獣に成り果てる寸前の只人ということか。

 

 

「Easy , with a bit of Yharnam────……」

 

「ならば、もはやこの演出に用は無い。貴様の口臭にも限界だ」

 

「───……What ……ッッ!?」

 

 

 

───失せろ、用済みの役者に与える演劇などここには無い

 

 

 唖然とする車椅子の医者であろう老人。その目の前で、音も無く診療台から起き上がる狩人。その動きに人間味は無く、重力を感じさせなかった。

 老医師は慄く。なんだコイツは──否、なんだコレは!?…と。

 診療部屋の様相はいつの間にやら大きく変わっていた。診察台は消え、薬品を保管する戸棚も消え、挙げ句扉まで消えていた。

 自分は今どこに居るのか。そして自分は今、何と対面しているのか。目の前の人()()()モノは服の袖から触手を生やし、その触手の先端は自分の頸椎に添えられている。

 もうあと数センチ押し込めば、自分の命はここで尽きる。

 

 

───さようなら……いや、おはよう、か

 

「…You… fukin'god……」

 

 

 肉と骨を砕く音が響き、老医師の頭は床に転がった。

 辺り一面に血が飛び散り、それは意思を持つかのように狩人の肉体へと流れ込んでいった。

 それは、まさに血を啜る化け物と形容できるだろう。

 

 

───……ん、ッハァ。直接血を吸うのは、まだ慣れないな。

 

 

 血の遺志ならば、それこそ幾億と取り込んできたが、上位者となった身体は少し勝手が違っていた。

 相手の血液を残らず吸収し、我が物とする。直前まで脈動していた命を、血を媒介として取り込む。

 それは、命そのものを吸収するということに他ならない。

 

 

───血の用途は遺志による肉体強化だけではないらしい。まだ、いくつか私の知らない秘密がありそうだ。

 

 

 触手を元の形に戻し、命が増殖した感覚をしっかりと味わう。

 これは、今までで一番の禁忌だろう。それこそ油断すれば、かのビルゲンワースの如くこれに溺れるかもしれない。

 死なないという点において、狩人は誰よりも玄人だ。

 しかし、それは無敵というより、ただ生き返るだけのもの。斬り刻まれれば当然死ぬ。失血も毒も然り。肉体が木っ端微塵になるほどの衝撃を受けた場合も同じこと。

 悪夢を100周もすれば、感覚的に死んだことがわかるようになる。意識が一瞬間薄れ、気が付けば灯火(ともしび)の前だ。

 

 だがこれは違う。この命の増殖は、その場で蘇る。手脚を捥ごうが、毒に沈めようが、喰い殺されようが関係ない。

 その場で、死ぬ直前の姿で、蘇る。

 

 

───……これは、使えそうだな。

 

 

 扉を開け、階段を降りる。先ほどとは違った広い診察室。

 そして、何度も見た光景。目の前で獣が餌を喰らっている。

 一心不乱に、貪り、啜り、また齧り付く。かつては人だった獣。

 発達した医療技術が生み出した癌とも言える症状だ。罹患すれば最後、その者の人生は終わる。

 

 

───ぬんッ

 

 

 背後から近づいた狩人は、獣の首めがけて蹴りを放った。ギロチンめいたその蹴撃は、何の抵抗もなく獣の首から上を消し飛ばす。

 一呼吸置いて、まるで間欠泉のように血が噴き出した。

 狩人は全身でその血を浴び、その身に取り込んでいった。

 

 

───これで、また一つ……便利なものだな、積極的に使っていこう。

 

 

 

 

 

 これよりヤーナムに異物が混じる。上位者の肉を持ち、人外となり、しかし人の形を保つナニカ。

 本人でさえ、まだ全容を把握できていない新たな肉体。血を啜り、命を奪って手に入れる。遺志のみならず、魂すら取り込む狩人。

 

 

───あ…輸血液。

 

 

 いつもの癖か、敵の落としたアイテムは必ず拾うのであった。




ドーモ、みな=サン。8週目デス。

エロ少なめですまぬ。
ブラボで毎話のごとくエロエロするのも味気ないと思い、無謀にもストーリー性を持たせた次第でございます。

今回の狩人様の能力はアーカードがモデルとなっております。まあ、上位者だし、死んでもその場で蘇るくらいはできないと脅威度が低いのではないでしょうか。

とりあえず次で第2目標登場させられたらいいなーと考えてます。

【朗報】
狩人様方、ブラボのコミックが2月18日に発売されます。
俺は買うぞ。


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第四の未知

独自設定入ります


※修正してやるッ!!
ということで、サブタイトルを変えて、本編に少し加筆修正しました。ヨセフカルート忘れてどうすんだお馬鹿。


───……特に何かが変わった、ということはなさそうだ。

 

 

 狩人は門を開け、ヤーナム民を触手で張り倒しながら無事に最初の灯火に辿り着いた。

 仕掛け武器は少しの間封印した。早めにこの肉体を把握し切らねば、いかに上位者といえどいずれは殺されてしまうだろう。

 それについては、自分が何より保証できる。人の身で上位者や強大な獣を狩り殺していたのだから。

 

 コツコツと石畳を歩き、例のキャンプファイア地点が見えてきた。道中のアイテムやらドロップ品は全て回収済みだ。

 肉体が変質した今、何がどのように作用するのか分かったものではない。故に、狩人は全てを拾い上げた。

 たとえ石ころとて、立派なアイテムなのだから。

 

 

 

 

 

 慣れた足取りでキャンプファイアを突破し、狩人は、噴水近くのガスコイン宅前に立っていた。

 

……………………。

 

 

 逡巡し、窓格子に向かって声を掛けようとして、息を詰まらせる。

 さっきからこの繰り返しだ。幾度悪夢を巡ろうと、決して助けられなかった少女。母親の死を知らせ、泣き続けていつのまにか消えてしまったり、避難所を教えられても豚に喰われたり、人体実験の贄になってしまう。私の出来る全てを尽くして尚、助けられなかった娘。

 

 ……ああ、なるほどな。ようは緊張と不安か。この胸に燻るモヤモヤは。

 今までの結果が、今回も起きるのではないかという不安感が、この身を苛んでいるのか。

 上位者になろうと、持ち前の臆病さは変わらんらしい。()()()というものに対し、私は弱い。

 しかし、それでもやり遂げねばならない。私が怯えるだけで、もし彼女らが救えるのなら、それは実質ノーリスクと考えられる。

 

 ……ただ、やはり、声をかけるのは……いや、だが、言わねば始まらな……むぅ…。

 

 

 

 

 『…あなた、だあれ?』

 

 

 流石に気配で感づかれたらしい。まあ、豚のケツに、『リボンエンチャ』という謎の神秘を使った前立腺パンチをしたという考察もされた子だ。

 人の気配、あるいは、人ならざるモノの気配にも敏感なのだろう。

 

 案外、狩人に向いているのかもしれない。

 

 

───…私は、狩人だ。

 

『狩人さん?…あのね、狩人さんなら、お願いがあるの』

 

 

 来た。この娘の母親と、父親…ガスコインを探すこと。少女のお願いとは、つまりはもう一度家族に会いたいということになる。

 しかし、このお願いを私は叶えられていない。これまで100度悪夢を巡れども、私は一度としてこの娘を助けられなかった。

 母親の死を伝えれば、この娘は泣き崩れてしまう。故に今までは、ブローチを渡さずに嘘で偽りの希望を持たせていた。

 

 その希望も、下水道に居座る豚に食い荒らされてしまうのだが…。

 

 

『狩人さんって、獣狩りの人でしょう?あのね、お母さんを探してほしいの』

 

───お母さん…か。お母さんは何処へ?

 

『獣狩りの夜だから、お父さんを探すんだって…それからずっと帰ってこない』

 

 

 おそらく、その母親とやらはもう生きてはいない。獣に見つかり、殺されて、それを見つけたガスコインは最後の理性の糸を切らせてしまう。

 何度も私と対峙した人の姿をしている時の彼は、もう()()()()あとだったのだろう。

 

 母親は罹患する前に死にきってしまった。

 それは、生物的な弱さが幸いしたと考えるべきなのか。このヤーナムを含め、弱い者は死体になり、強い者は獣になってしまう。

 人の尊厳や、その名残、そういう人だった形跡を重んじるならば、()()()と死んだ方がマシというものだろう。

 

 だが、人だからこそ、()()()()()()()()()と考える者もいるだろう。ガスコインはおそらくそういう者だ。

 獣になってでも、獣を狩る。妻を殺した獣を、何が何でも根絶やしにしてやる、と。彼と戦っていると、何度もその憎悪が見えた。

 

 そして哀しくも、彼の頭に娘の存在は見えなかった。妻を殺された悲しみと憎しみ。末期(まつご)の言葉も妻のヴィオラを想ったものだった。

 この娘はずっと待っている。一人で親の留守を守っている。

 この娘にとって母親の安否は、最後の蜘蛛の糸なのだ。

 

 

───…ああ、わかった。

 

『本当?ありがとう!』

 

 

 …一つ、この選択がどう転ぶのか、試してみるか。

 なに、別段焦ることはない。私はこの夢を握っているのだから。大きな失敗はしないはずだ。

 

 だから…焦るな。

 

 

───ただ、私は君のお母さんを知らない。君が一緒に探してくれれば、何も問題ないんだが…。

 

『えっ…でも、お母さんが知らない人について行っちゃダメよ…って。それに、今夜は獣が多いから、外は危ないよ』

 

───それなら大丈夫だ。ここいらの獣は()()()()()

 

『そうなの?狩人さんって、強いんだね!』

 

 

 そう、一度たりとも死なず、戻らずにいたので、下水道を含めて周辺の獣は狩り尽くした。

 

 聖職者の獣はまだ戦っていない。踏み込みすぎなければ出てこない獣を、わざわざ引き摺り出す必要もないだろう。

 

 しかし、問題はこれからだ。前回とは違う受け答えをしたが、これからどうする。仮に連れ出したとして、目の前で両親の最期を見せるのか…?

 ガスコインが正気を取り戻す可能性もあるにはあるが、分の悪い賭けだろう──ただの狩人だった頃ならば。

 

 

『お母さん、真っ赤な宝石のブローチをしているの』

 

───ほう、真っ赤な宝石のブローチか……それは、()()のことかな?

 

『…ぇ、どうして、持ってるの?それ、お母さんのブローチ…』

 

───近くの下水道で拾ったものだ。下水道にこんなものがあるのは珍しくてね。気になって持っていたんだ。

 

 

 いつだったか、普段ならすぐに叩き割って血晶石にしているのだが、面倒くさくなってブローチのまま放っておいたことがある。今回はそれが幸いし、別の道を見つけることができた。

 

 ……まあ、また嘘を吐いたことに変わりはないのだが。

 助けたいのに騙さなければならない。偽らなければ、変わることすらない。今までどんなに当たり障りのない答えを返しても、結局この少女は救えなかった。

 

 思えば、この悪夢では真実こそが最も残酷だ。真実こそが、この悪夢で生きる者たちの心を砕いてしまう。

 かくいう私も、医療教会の闇や、ビルゲンワースの凶行や、メンシス学派のイカレ具合を目の当たりにした時、最初は歩む足が止まりかけた。

 実験棟の惨状に、漁村の秘密。狩って、殺して、見つけて、(あば)いて……叩けば叩くほど出るわ出るわ埃の数々。

 あまりに悍ましい、マッドどもの欲望の結末。

 

 これでは、シモンに顔向けできんな……。

 

 

───では、こうしよう。安全な避難先を知っている。せめて、そこまでは案内させてもらえないか。

 

『…うん、わかった!ありがとう、狩人さん。お父さんとお母さんと、お爺ちゃんの次に好きよ』

 

 

 なんとか、今までとは違う方向に転がったか……。

 私が同伴し、私の夢に取り込めば、まずこの娘は外的要因によって死ぬことはないだろう。豚の脅威も、正体不明の自称姉の手も、この娘を害するものにはなり得ない。

 しかし、この先は未知だ。慎重に事を運べ。

 灯火までの獣は狩り尽くしたとは言え、ここはヤーナムだ。何が起きるかわかったものではない。

 私はともかくこの娘は人間だ。か弱く儚い小さな命。今度こそ、守ってみせる。

 

 

───君の名前を、教えてくれないか。

 

 

 ガチャリと家のドアが開き、白いリボンがよく似合う可愛らしい少女が出てきた。

 その手には獣除けの香が入った筒と、あのオルゴールを持っていた。

 

 

「ヘレナ!私はヘレナっていうの。よろしくね、狩人さん!」

 

 

 ヘレナ…ヘレナ、か。初めて聞いたが、いい名前だ。

 情けない。

 これだけ悪夢を経ても、名前一つ聞き出すのにここまで気持ちが揺れるとは。

 何のために、上位者になったのか。

 動じるな、未熟者めが。

 

 

「ねえ、狩人さん。安全な場所って、どこなの?」

 

───私の家だ。ここからは少し離れているが、今は獣がいないからね。ちょっとした冒険と思えばいい。

 

 

 ああそれと、と狩人は獣狩りの松明+10をヘレナに持たせた。武器は危ないので渡せないが、松明程度なら大丈夫だろう。

 それに、薄暗がりを照らす火の色は、ささやかな心の支えとなってくれる。獣除けの香よりは役に立つだろう。

 

 

───その松明は獣に効く。仮に討ち漏らしが居たとしても、それを振り翳せば威嚇になる。

 

「ありがとう!」

 

 

 ヘレナは腰に香筒を取り付け、オルゴールをポケットに入れた。両手で松明を持ち、その初めての重みに興味津々の様子だ。

 

 狩人が歩み出すと、ヘレナも後を追う。松明が照らす影は、少女の横に這い寄る不気味な生き物を象っていた。

 

 

 

 

【狩人の寝所】

 

 

 あれから灯火を使い、ヘレナは無事に夢に入れた。

 そして、狩人は一つ確信を得る。

 ここに入れたということは、ヘレナにはやはり、狩人の適性があるらしい。

 ヘレナ自身はというと、灯火の前で意識が一瞬薄らいだと思ったら、全く違う場所に居て呆然と立ち尽くしている。

 無理もない。だが、慣れなければならない。彼女はこれから、そんな驚きを凌駕する初体験を色々と味わうのだから───

 

 

「───お帰りなさいませ、狩人様」

 

───む、人形ちゃん。もう動いても大丈夫なのか?

 

「はい。今の私にとって、狩人様の神秘は回復に相当します。ですので、出産によるダメージはそれほど重くありませんでした」

 

 

 そういえばそうだった。私の白くベタつく神秘の全容は、私自身も全てを把握できていない。

 繋がりを持つ相手に回復作用をもたらしたとしても、何ら不思議ではないのだ。

 

 視界の端に移るヘレナは、使者に被り物を選んであげている。使者はリボンを欲しがっているようだが、流石にダメらしい。ふんっ、と壺を被せてこちらに戻ってきた。

 

 

「ねぇ、狩人さん。この小さな人たちは誰なの?」

 

───彼らは【使者】。この家において、使用人のような存在だ。

 

 そして───

 

「初めまして、ヘレナ様。私は人形。この夢で、狩人様のお世話をしているものです」

 

「お人形さん…?」

 

 

 …やはり、認識もできているし会話もできるようだ。

 本来ならば啓蒙を得なければ人形はただの人形にしか見えないというのに、ヘレナはしっかりと人形を見上げている。

 つまりヘレナは、啓蒙を得ているということ。

 だが、どこで──……

 

 ………………─────まさか、私か?

 

 私という上位者を目にしたから、彼女の啓蒙が開かれたとでもいうのか。

 確かに私が初めて啓蒙を得たのも、橋の上で聖職者の獣を()()()()時だった。

 ……どうやら、存在の大きさは順調に人を外れているらしい。

 

 そんな感慨にふけっている間、人形とヘレナはなにかと打ち解けたらしく、工房の中へと入っていった。

 それを見て、思わず安堵する。これからここで過ごすのだから、不和など生じては堪らない。仲良きことは美しいのだ。

 

 さて──と、狩人は工房を背にし、墓石の前に立つ。

 とりあえず、最優先の課題は無事に片付けられた。行方不明になることもなく、無惨に豚に喰われることも、狂人の実験台にもされない、第四の道。保護成功。

 次は狩り…の前に一つ確かめるものがある。

 それは、橋の上の聖職者の獣。それの正体だ。剣の狩人証を持つ獣。剣の狩人証を持つ者の仕掛け武器は石鎚だ。

 そして私は、石鎚を振り回す教会の狩人を一人知っている───

 

 

───ヘンリエット……。

 

 

 もちろん確証は無い。

 ヘンリエットではないかもしれない。教会に所属していた有象無象の狩人が、たまたま聖職者の獣になった可能性もある。

 残滓とはいえ、共に戦ってくれた恩人だ。今の私がどれだけ役に立つかはわからないが、まあ無駄にはなるまい。

 

 

───さあ、恩を返しに行こうか。

 

 

 手加減はしない。

 もし本当にお前ならば、もう一度夢の中に引きずり込んでやるとも。

 私は掬い上げるぞ。

 今度こそ、私の手の届く限り、私の裁量が及ぶ限り、救うとも。

 

 

「狩人さん、行ってらっしゃい!」

 

「行ってらっしゃいませ、狩人様」

 

 

 ああ…守れた、というのは…やはり気分が良い。

 

 

───征ってくる。

 




待たせたな(;´∀`)
忙しかったのよ、すみません。

ヤーナムの少女はヘレナちゃんになりました。
名前の由来?聖釘のヘレナから取りました。
つまり将来的に6万パイル持つかもしれない。
ヤーナムステップでドヒャドヒャしながら、とっついてくる少女狩人とか怖すぎる。
俺なら逃げる。逃げられるかわからんけど。

質問等あったら感想にどうぞ。

ちなみにヘンリエットが聖職者の獣説は完全にオリジナルですので、真相は実際不明です。

ブラボのコミックは最高でした。
カバーイラストかっこよすぎて2分くらい見惚れました。

読んでくれてありがとう!


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Blood Core

諸々は後書きにて。
オリジナル設定が盛り沢山です。ご注意あれ。
最後に微エロ。本番は次回。

いやいや、ちょっとお手伝いをね!


 ヤーナムの中でも一際目立つ大橋。目の前には仕切り板のように大扉と高壁がそびえ立ち、周りには馬車の残骸やら獣の死骸やらが転がっていた。

 下手人は言うまでもなく狩人だ。ある確認と、少し試したいこともあったため、場を整えた。

 その両手には何も持っていない。素手だ。

 しかし纏う空気は既に人を超え、皮膚の下に青ざめた血が脈動する。石畳にはボタボタと粘液が滴り落ち、腕を徐々に触手の束で飾り始める。

 今や右腕は完全に異形と化し、まともな者がそれを見れば瞬く間に発狂してしまうだろう。

 

 

───そろそろか…。

 

 

 コツコツと石畳を踏みしめ、奥へ進む。最初訪れた時は、まさかあんな巨大な獣が存在するとは思わなかった。大きく、強く、そして()()()()()

 何故だろうか。診療所にいた獣も、罹患したヤーナムの住民にも、そんな感想は出てこなかったのに…。

 あの獣は、私の最初の蒙を啓いた存在だ。獣に堕ちて尚、アレは美しかった。荘厳…と言うのだろうか。

 全て人から離れた畜生の類だというのに、最初の私は刃を振り下ろせなかった。

 

 愚かにも、見惚れていたのだ。

 それこそ、間の抜けた痴呆のように。

 

 

 歩き始めてしばらく、大橋の奥までたどり着いた。

 すると、高壁の奥から一体の獣が飛び出してきた。全身は毛で覆われて、角はヘラジカのようだ。そこらの獣とは比べ物にならないほどに大きな顎門は、人など簡単に噛み砕けるだろう。

 強靭な体躯のあちこちには、チラチラと固まった血が確認できる。それが犠牲者の血なのか、獣になった者本人の血なのかは定かではない。

 

 しかし、今はそれよりも、確かめなければならないだろう。

 

 「◼゛️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ォォォォォォッッッ!!!」

 

 

 異様に肥大した左腕を掲げ、こちらへ突っ込んでくる聖職者の獣。以前までの己ならば迷わず回避行動を取り、極力間合いを詰められすぎないように動いていた。

 だが今回はそんなことをなぞるために来たわけではない。目的は確認と、試運転だ。

 

 

───痛みも苦しみもあるだろうが、お前ならば耐え得るだろう。アッサリ狩られてくれるなよ。

 

 

 ドンッ───と、地面にヒビが入る程に踏み込み、こちらも触手によって異形化させた右手を叩き込む。

 その拳打は獣の左肩を捉え、盛大な血飛沫と骨の音を響かせる。

 そして、狩人は触手の先端を傷口に刺し込み、体液を注入した。

 当然、獣も黙ってそれを許すわけではない。左肩に刺さっている触手を右手で千切り、それを握り込んだまま狩人を思いっきり殴りつける。

 あまりの衝撃で狩人の身体は『く』の字に曲がり、大扉に打ち付けられた。

 

 

───ッ…ハ……ぁっが…!

 

 

 ……少々、踏み込みすぎたようだ。

 

 まともに喰らった所為で呼吸が詰まる。たったの一撃で肋骨は砕かれ、その破片が内臓の各部に突き刺さっている。喉の奥から血がこみ上げて来ると、反射的に噎せて吐き出してしまった。

 青い血だ。そして少し黒ずんでいる。

 それを眺め、狩人の口角はマスクの下で緩やかに弧を描き始める。

 

 やはり、流石だ。

 石鎚を自在に振り回す尽力が反映されているのか、それとも自分の視野が狭くなっていたのか。

 どちらにせよ、彼女である可能性に確証が持ててきた。それに、起爆剤も仕込めている。

 

 己の体液、神秘の塊を体内に流し込んでやった。それもある意思を持たせた神秘をたっぷりと。

 目的を持った上位者の体液と、獣の血。どのような作用が起きるかは明瞭だ。

 進化か、破滅か。その二つしかない。どちらが勝っても今のままというのは有り得ない。

 

 そら、もう意識が混濁してきたのではないか? 

 彼岸の彼方に置いてきた人の意識を強制的に引き戻される気分はどうだ。私の神秘は、水を得た魚の如く貴様の体内を駆け巡るぞ。

 

 

───私を、見ろ。ヘンリエット。

 

 

 その言葉がトリガーとなったのか、獣は頭を抑えて悶え苦しみ出す。鋭利な爪で表皮をガリガリと搔きむしり、挙句苦しみのあまり片角をへし折った。

 その様子から、酷い頭痛か何かに襲われているであろうことがわかった。

 

 

「◼️◾︎…ッ──◼️◼︎◼︎◼︎◼️◾︎ァーッッ……!」

 

 

 自傷行為───極度のストレス、あるいはショックを受けた時に陥る症状のひとつ。流れる血によって生を感じたいのか、それとも生を思い出したいのか……。

 その傷は何のためのものだ、ヘンリエット。

 

 

 狩人は尚も攻撃の手を止めない。今度は触手を螺旋状に腕に纏わせ、その中央に凄まじい神秘を凝縮させる。

 その様はまるで砲身だ。凝縮に伴い、腕周りに紫電がチラつく。

 超新星爆発すら再現する神秘だ。そのエネルギーを撃ち放つことなど容易だろう。

 

 

───……ッぐ、ゥ!流石に、クるな…ッ!

 

 

 触手の隙間から覗く光は、下手に直視すると失明しそうなほど。

 凝縮されているエネルギーは、立っている地面が赤熱し、溶け始めるほどの熱量だ。

 正直、これは予想外だった。ある程度のフィードバックは覚悟していたが、右腕などもう感覚がない。

 おそらく触手の中で融解しているだろう。また生やすことはできるが、腕が溶けるという痛みは初めてだった。

 

 しかし、目の前のこいつのためにも、コレは叩きつけなければならない。腕の一本がなんだ、どうせすぐ治る。苦痛など、今まで飽きるほど味わってきた。

 今更自分の肉体の何かが欠けようが意味はない。保身など人を超えたと同時に捨て去った。

 悪夢に飲まれた彼女らに比べたら、幾度もやり直せる私のなんと手緩いことか。

 故に加減は無しだ。

 彼岸には届かんが、深淵の淵くらいからなら引き摺り出すとも。何をしてでも救わせてもらうぞ。

 

 まだ、礼すら言えていないのだからな。

 

 

 

 …

 ……

 …………

 ……………………

 …………………………………

 

 ……かつて私は、教会の狩人として獣を狩っていた。

 偉大なる狩人の先達に憧れ、最初は聖女として下積みをし、いつしか仕掛け武器を持つようになっていた。

 石鎚を振り、血を浴びて、もともと聖女であったなどと誰も予想できないような、そんな汚ならしい姿へ毎日なっていた。

 後悔はなかった、と言えば嘘になる。私とて一人の女。所帯を持ち、子をこさえて家庭を築くことを夢見たこともあった。

 ならばなぜ狩人の道を選んだのか。

 簡単なことだ。()()の程度が違ったからに過ぎない。女としての幸せと、狩人としての生き様と、天秤に掛ければ瞭然だった。

 私にとっては血を見る方が有意義であると、私自身が判断したのだ。

 加えてこんな街だ。まともな男などもはや存在しないだろう。少なくとも、私を満たしてくれる強さを持つ者は皆無だ。

 

 狩人になってからは、日々が凄惨に彩られた。獣を狩り、人モドキを殺し、もはや血の匂いなど体から取れなくなった。

 しかし、私の毎日は充実していた。獣狩りとは栄誉だ。無辜の民のために武器を振るい、獣になった者、その疑いを持つ者を叩き潰した。

 愉快だった。私の一撃で沈む獣の姿が、その有様が、どうしようもなく愉快だった。

 それにしても、私はもともと女らしさというものが欠けていたのかもしれない。何故かって?

 気持ちいいからさ。

 血の熱が、肉を斬る感触が、臓腑の柔らかさが、筋肉の弾力が、骨の硬さが───どうしようもなく心地イイ。

 石鎚は優秀だ。肉も骨もまとめて潰せる。プチプチグチュグチュと鳴る肉と、パキパキゴリゴリと響く骨擦りの快音……嗚呼、たまらない。

 

 

 いつしか、心の何処かに、仄かに燻る欲が巣食った。それは止め処なく、且つ確実に私の心を食い荒らしていった。

 

 

 ある時、私は大聖堂付近でボロ布を纏った奇妙な男と出会った。獣に襲われていたのか、身体は傷だらけで頭に巻いている包帯にも血が滲んでいた。

 このまま放置すれば、コイツはまた新たな獣として病原菌を振りまくだろう。さっさと始末してやらねば、民のためにもコイツのためにもならない───そう考え、私は男に話しかけた。

 殺すなら、確実に殺しきらねばならない。故にタイミングは慎重に計った。必殺の瞬間を、会話をもって油断させて作り出す。

 私は教会の者だと、知り合いの医者がいるのでそこで治療を受けないかと、今思えばあまりにも馬鹿馬鹿しい。客引きの娼婦でもあるまいに、私はどこか必死さを感じていた。

 

 男は従順だった。それもそうだろう、獣に襲われて、命からがら逃げ延びて、果てに出会ったのは医療教会の狩人だ。狩人証を首から下げている、信用のある狩人だ。相手の言うことをホイホイ聞き入れるのは当然と言うもの。

 促されるままに後をついて行き、道中の獣の処理を隠れて眺めるも、不思議と恐怖は薄かった。彼女の振り回す石鎚は獣の骨を砕き、脳漿を撒き散らせる。

 ああ、純粋に凄いと感じた。こんなに頼もしい人間が、自分たちの生活領域を目を光らせて守ってくれている。

 

「ありがとうございます…ありがとうございます……ッ」

 

 声高には言えない。獣をおびき寄せてしまう。

 しかし、それでも感謝の言葉が口から溢れる。ただひたすらありがとうと、口にせずにはいられない。彼女こそ、彼女らこそ自分たちの救世主。明けない夜は無いのだと…………

 

 

 …………そう、思っていた。

 思っていたのに…………!!

 

 

「すまないが、ここまでだ」

 

「何故だッ⁉︎ 何故貴女は…ッこんなことをするんだ……ッッ!!!」

 

 

 男は地面を這っていた。両脚は無残にも潰され、ドス黒い血が噴水のように撒き散らされる。

 男とヘンリエットは、教会の付近までは来た。そう、付近までは…。

 

「貴公は既に罹患している。ああ、気の毒だとは思うけれどね……しかし、私は狩人だ。手遅れになる前に役目を果たさねばならない」

 

「う、ウソだ……ッ、俺◼️()、俺が獣に◼️()るだって……⁉︎ ハ、ハハッ、ハハハハハッ…冗談だ◼️()、なあ!」

 

「あいにく、私は嘘が嫌いでね……君をここに案内したのも、せめて葬いくらいはキチンとできるようにという考え故だ」

 

「◼️ヤだッ…!イ◼️だッ……まだ、◼️ねないッ死◼️◼️◼️い……ッッ!!」

 

 

 泣き噦る男の体には、言葉とは裏腹に獣の病が症状として表れた。至る所から毛が伸び、瞳孔がドロリと蕩けていく。爪は物を斬り裂けるように長く鋭く成長し、犬歯は目に見えて肥大化する。もはや誰が見ても手遅れだった。

 骨格が徐々に変化していく、嫌な音だ。内側から人という皮を脱するような、虫の脱皮に似ている。

 

「あぁ◼️◾゛️◾️◾️◾️◾️あ゛あ゛◾️゛だぃ゛ぃ゛い゛◼゛️◼️◾️◾️ぁ゛ッ……ず、げで……っ!」

 

 

 常人ならば耳を塞ぎこむような呻き声を、ヘンリエットはそよ風のように受け流す。

 悍ましい光景だ。しかし彼女には苦痛の声など興味の外だった。昔の自分なら情が湧いていただろうが、今となっては『ああ、そうか』程度にしか感じない。

 むしろ狩人にとって獣とは手柄首と同じだった。狩れば狩るほどその功績は認められ、いずれは寝物語の一人として語り継がれるようになるのだ。こんな気分のいいことが止められるわけないだろう。

 

 さあ、私のために獣になってくれ。

 私の栄誉のために、充足のために。

 この世界と私を存分に恨みながら獣になれ。

 ああ、いい子だ。今、楽にしてやるからな。だからほら、あまり動くな───潰しにくいだろう…?

 

 

 

 そこからは、あまりにも一方的で、あまりにも残虐すぎた。獣を1匹潰し、つかの間の充足感に身を浸せば、また1匹また1匹と殺していく。

 彼女にとって狩りとは、もう麻薬に近かった。自分を満たしてくれる唯一の行い。しかしそれでも、少しの空白でまた渇いてしまう。

 ゆえに彼女は狩り続けた。ヤーナムの街に、恐ろしい女性の嗤い声が響き渡る。次第に民衆はその声に恐怖を覚え、誰も外に出たがらなくなった。

 

 

 もう、彼女を英雄として見る者は誰もいない。

 

 

 

「まだ、まだだッ。獣だ、獣だろうお前、なあ獣なんだろうお前ェ!私を、充たさせろ!ハハハハハハッ、ハハハハハハハハハハッッ─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────ぞぶり……

 

 

「ッッッ?!ぁ、ガ………ァ、ッハ!」

 

 

 当然の帰結…なのだろう。彼女の肉体は、度重なる獣狩りによって感染していたのだ。獣の病は聖職者を通常より強大な獣に変化させてしまう。彼女は以前、血の聖女として生きていたのだ。

 結果はまあ……想像以上である。

 

 

「ぐゥ…ッ、ク、ハ、ハハハ……あぁ…まぁ、そんな気はしていたさ……ゲホッ……◾️たしも、結局◼️……1匹の獣に◼️ぎな◾️ったと」

 

 

 獣の病は、発症までの特徴がHIVに酷似している。感染経路は血液感染や粘膜接触などだろう。そして感染してから一定期間は何も起きない。

 しかし、ある日を境に『獣』が突然顔を出す。一度そうなればもう終わりだ。今現在ではっきりとした治療法はなく、そもそも獣など病原菌以外の何物でもないので、片端から駆除していけというのが狩人の方針だった。

 

 彼女はたった今、狩られる側になってしまったのである。意識は薄れ、女の形をしていた肉体は頑強な獣の皮膚と毛に覆われる。体躯の肥大化とともに、人間だった頃の血が掻き出されるかのようにタイルを濡らす。

 かろうじて彼女だと判断できる物は、首元の血で固まった毛に絡む狩人証だけになっていた。

 

 

「◼゛️◼️◼️◼️◼️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ッッ!!!!!」

 

 

 彼女は充たされない。彼女を充たしきれる存在がいなかった。最初の狩りを思わせる充足感を、彼女は求め続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「◼゛️ァ◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️!!!ガ◼️◾️◾️◾️◾️ッッ!!」

 

───ようやく…言葉が戻ってきたか。

 

 

 であるならば、もうひと押しくれてやろう。オーバーキルというやつだ。

 

 右腕を砲身として、触手の銃口を獣に定める。もう十分に凝縮できたはずだ。1匹の獣を、覆い尽くして有り余るほどの神秘の塊だ。

 内でどうなるかは想像もつかんが、少なくとも人の身には戻れるだろうさ。

 

 

───さあ、終いとしよう……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放たれた神秘は、エネルギーの奔流となって獣の全身を飲み込んだ。辺り一帯を凄まじい光で埋め尽くし、大橋は真昼のように明るかった。

 まるで柱である。それとも宇宙に伸びる架け橋か。

 神秘の奔流はそれだけでは終わらない。空の果てまで伸びたと思われるその光の柱は、また流れ星の如く舞い戻ってきた。

 しかし、それは勢いも弱く、狩人の腕にスッポリと収まってしまった。

 いつのまにか生えた右腕と、特に被害の無かった左腕で、卵のような形をした光の球体を抱きかかえる。

 

 すると、徐々に球体の光は消え、ドロリと崩れていく。足元をベチャベチャと粘性の高い液体で汚しながら出てきたのは────

 

 

───貴公、どうやら…戻れたようだな。

 

「あ゛ッ……ッハ、ァ……んぉ゛ォ…っ」

 

 

 全身が白濁液でヌルヌルになった、全裸のヘンリエットであった。その顔は快楽に染まりきっており、穴という穴から白い粘液を垂れ流している。七孔噴液とでもいうのだろうか。

 おそらく、文字通り脳の奥まで犯されたのだろう。神秘の奔流を構成していた光るオタマジャクシの群れに。よく発狂しなかったものだ。いや、もしかしたら現在も発狂している最中かもしれない。

 

 

「ぉ゛…ッこ、の……ォ、ハぁ゛ッ……!ケダモノ、め…ッん゛ぅ……っ!」

 

───……一応獣とは相対的な存在なのだが……。まあ、何にせよ無事なようで何よりだ。

 

 

 誰がどう見ても大惨事なのだが、何をもって無事と判断したのかはさておき、狩人はヘンリエットを抱えたまま灯火へ移動する。

 狩人が歩く振動で、腕の中のヘンリエットがビクンビクン震えているのは仕方ないと言えよう。常識離れした快楽の群れに全身の穴から犯されたのだ。例えるなら、浸透する強烈な媚薬のプールに沈められたようなものだ。

 並の人間なら壊れている。

 

 

───貴公の獣性を、私の神秘で無理矢理上書きした。故に負担もそこそこだ、少し休むといい。

 

 

 

 そして狩人は、夢に帰宅するのであった。




はい、遅くなりましたがなんとか投稿できました。
遅くなりました、すまぬ。

さて、今回のターゲットはヘンリエットちゃんです。彼女が聖職者の獣説はあまり深く考えないでいただきたい。
次回でようやくエロです……なげーよ!どんだけ引っ張るんだよ!風呂敷広げすぎて草も生えない!しんどい、でも書いちゃう!
次回は早めに書けたらいいなー……気長にお待ちください。


【神秘の奔流】
ある上位者が使った技。
己の体液を媒体とし、片腕を犠牲に放つ禁術。
無数の星の子が、奔流となって撃ち放たれる。
食らった相手は発狂するか消滅する。
女性は大抵生き残る。男性は大抵消える。
それは恐らく、かの上位者の意思によるものだろう。


代償払って超火力。
これぞ男のロマン。


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妻は強し

最後の方は自分でもよくわからないまま書いてしまった感じがあります。
ご注意ください。
あと今回は好き嫌い分かれるシチュだと思われます。
最後にアンケートあり。

不明なユニットが接続されました。直ちに使用を停止してください


※2019/4/27…この話にのみ♡を加筆。
最初の人形ちゃんの喘ぎ声と比べて感想を書いてもらえると助かります。
反響次第では人形ちゃんにも♡を加筆します。


 さて……。

 狩人は思案する。なんとか彼女を人へ戻し、無事に連れ帰ることは出来た。目先の目標は達成したわけだ。

 しかし、目の前で腰砕けになり快楽のあまり痙攣している彼女に、それこそルパンダイブなどできようものか。鬼畜すぎるだろ流石に。

 神秘の奔流により、文字通り"漬け込まれた"女体は、見るもの全てを魅了するような光沢を放っている。正直『勃起が止まらん』状態だ。

 

 とは言え、早急に処置が必要なのも確かだ。獣性に大きく振れた人間性は、再び獣になってしまう可能性がある。

 つまり、上書きでは()()()()のだ。彼女は狩人だが、脳に瞳を得ていない。ある意味このヤーナムにおいて雛鳥と言える。

 

 本来、脳に瞳を得る方法は上位者と見え、その智慧を我が物とするしかない。そのためには、発狂を吞み下せるほどの啓蒙が必要になる。

 まあ…一番手っ取り早いのは上位者と繋がりを持つことだが。

 

 

───ふむ……。

 

 

 獣欲をコントロールできないなど上位者の名折れだ。

 ただ、時間があまり残されていないのも事実。

 ゆえに────

 

 

───理性の獣となればいい。

 

 

 ようは抱擁のカレルと似たようなものだ。獣化しつつも理性を保ち、獣を自身の制御下に置くのだ。

 狩人は上位者であるので、結局は思考次元の高さが問題になるのだが。

 まあ、弱っている女性を犯そうと言うのだ。あれこれ言い訳を重ねるより思う存分ブン殴られようではないか。

 

 そんな建前を考えつつ、狩人は己の姿を月の魔物とよく似たあの形態へ変える。全身から触手を伸ばし、胴は皮膜に覆われている。その中は不透明な液で満たされており、あまりよく見えない。

 腕や脚にも産毛の代わりに極細の触手がまばらに生えている。もちろん、全てが生殖器足り得る機能を有している。

 

 見るも悍ましい、冒涜を形にしたようなバケモノだ。この姿を常人が目にすれば、あまりの嫌悪感に発狂し、最後には己の眼を抉り出すだろう。

 しかし、だからこそそれを呑み下した者は啓蒙を得られるのだ。それが例え、智慧でなくとも…。

 

 

 

 

───さて、始めるか。

 

 

 ウニョウニョと触手を動かしながら、狩人はフワリと浮き上がった。重力を感じさせないそれは、まるで幽霊のようだ。

 ゆっくりと、眠っているヘンリエットに近づく。豊かな双丘は呼吸に合わせて上下し、男の生殖本能を刺激してくる。無数の触手に血液が巡り、肉と皮がミッチリと張る。

 残された処置の猶予はおよそ30分ほど。それを過ぎれば、また上書きから行わねばならない。狩人からすれば別に構わないのだが、その場合はヘンリエットの肉体と精神が保たない。

 

 処置の影響が落ち着くのも考えれば、約15分。

 

 

───先ずは、肺と脊髄だ。

 

 

 ▼手順は以下の通り▼

・肛門から数本触手を挿入し、肺まで伸ばす。

・肺へ到達してから触手を肺胞へ接続。

・気化した体液を血液に浸透させつつ、挿入した残りの触手と消化管を同化。

・同化した先から脊髄へ接続。

・定着を確認して、触手を切り離す。

 

 

 これを行えば呼吸するだけで神秘が血液に浸透し続け、脊髄からは無限に神秘が生産される。

 結果的に人を辞めることにはなるが、獣化することは永遠にないだろう。準上位者とでも言おうか。人型のままではいられると思うのだが、身体の内側は限りなく私に近い状態になるだろう。

 

 ともあれ、急がねばならない。

 触手を伸ばし、ヘンリエットの身体を包み込んでいく。仰向けからうつ伏せにし、両脚を広げる。汗ばんだ内股が、粘液の橋を伸ばしながら開かれていく。

 奥からは、発情し蒸れた女陰が顔を出し、トロトロと淫液を滴らせていた。肉芽は皮ごとピンと張り、時折小さく震えている。

 しかし、残念ながら、今挿入するべきは女陰ではない。そのすぐ後ろに位置する肛門だ。

 尻たぶをたわませながら、狩人は触手の先端で肛門のシワをなぞる。丁寧に丹念に、これから触手を咥え込むのだから、十分に解さねば傷ができてしまう。

 

「あっ♡ んぅっ…ッハ……ぁ♡ ひっ…!」

 

 ツプリと先端が肛門に挿入された。

 するとヘンリエットは身体を強張らせ、内側から括約筋を撫でられるたびに震えている。本来ならひり出すための筋肉を、逆流する物体の動きに撫で回されているのだ。彼女にとって、全く未知の感覚。

 口からは、息とも声ともとれぬ音が漏れ出ていた。

 

「んう゛ぅぅぅッ……あっ♡ ぁ゛っ♡ …ぅくっ……ぃ゛ひぃぃッッ♡♡」

 

 一本目が入ると追加でまた一本。それが入るとまた一本と、どんどん挿入する本数を増やし、肛門を拡張していく。もちろん、痛みを感じさせないように他の場所を責めるのも忘れない。

 胸は乳首に向けて触手で巻き取るように責め立てる。乳首そのものは先端に穴の空いた触手で咥え、甘噛みするようにやんわり捏ねていく。

 肉芽は糸のように細い触手で被っていた皮をひん剥き、根元の方に何重にも糸触手を巻きつける。血流を止めない程度の強さで肉芽を縛ると、その上から口の中にびっしりと絨毛(じゅうもう)のようなものがある触手で噛み付ける。

 それは、中で肉芽をまるでミキサーのように引っ掻き回し、容赦のない快楽信号を脳髄に叩きつけていた。

 

 もはやヘンリエットは尻の痛みなど感じられていなかった。それどころか、乳首や肉芽から快楽神経を肛門や腸壁に繋げられたので、腸壁を触手が進むたびに絶頂してしまうようになっていた。

 S字結腸を撫でられれば潮を吹き、小腸の絨毛に粘液が吸収されれば脳内麻薬がドバドバと分泌されていた。

 まるで一種の拷問だ。しかし、狩人だった頃の強靭な精神力が発狂することを許さない。いっそ狂ってしまえば楽だろうに、彼女はそれができなかった。

 

 疲労による微睡みなど、とうの昔に吹き飛んでいた。女は覚めていたが、目元を隠すように巻きつけられた触手で前は見えず、声も舌を噛まぬように突っ込まれた触手で出せずにいた。

 

「んお゛お゛ぉ゛ッッ♡ あ゛っ、んゲェぁぁぁぁ゛っ…!ひっ♡ ぃ゛イぃ゛ぃぃッ♡……んぶぅぅぅッ!!」

 

 訂正。喘ぎ声は延々と出続けた。今まで全く感じたことのなかった快楽。獣を狩る時も、血に塗れる時も、こんな脳味噌をかき混ぜられるような快楽は無かった。

 そうしている間に触手は胃を通過。そのまま胃壁や食道を擦りながらせり上がってくる。吐き気はあった。えづきもした。しかし気持ち悪さは感じなかった。

 ついには気管支に潜り込まれ、激しく咳き込む。苦しい、息ができない、だが不思議と酸欠にはなっていなかった。咳によって吐くことしかできていないのに、しっかり全身に酸素は巡っている。

 

 それは、狩人の触手がヘンリエットの肺胞にたどり着いた証拠だった。ミストのように肺の中に撒き散らされた神秘は、肺胞の表面を隙間なく覆い尽くし、その機能を進化させた。

 空気を取り込む必要がなくなったのだ。肉体のコンディションを最適に保つだけのガスを自ら生産する。染み込んだ神秘は血液に乗り、全身をめぐる。かつての獣性など、今の彼女の身体にはカケラも残っていないだろう。

 

───落ち着いたらどんな反応をするだろうか。

 

 ミンチにされる未来しか見えないが、構わず次の工程に移る。

 口を除いた消化管と、肛門からねじ込んでいる触手との同化だ。できれば血管と同化できればよかったが、流石にそこまでの長さを持つ触手はない。

 ゆえに次善策として、消化管から細胞を越えて脊髄にたどり着くという方法をとった。

 

 大小合わせると千を超える絶頂からまだ意識を取り戻していないヘンリエットに、新たな快楽地獄が訪れる。

 まずは肛門付近の触手にコブを作り、腸液すら漏れ出ないようにする。

 次に、喉元まで伸びている触手をジェルに変換し、粘膜を通して同化を開始。

 この時点でヘンリエットは白目を剥き、鼻水も垂れ流し状態だった。口端からは泡ぶくとなった唾液が溢れ、尿道からはチョロチョロと小便が漏れていた。

 

 そんなヘンリエットに興奮した狩人は、このままでは消化管内で暴発してしまうと考え、別の放出口を責め立てた。

 膣と子宮だ。

 つまり、倍プッシュだ。

 馬鹿であるこの上位者。

 

 とはいえ、既に全身の男根が臨戦態勢になっているのは事実。このまま腸内で暴発させようものなら、皮以外の全てが異形になりかねない。

 そして、おそらく今の彼女はそれを受け入れてしまう。それはいけない。

 

「ん゛むぅぅぅッ!ぉ゛っんもぉ゛お゛ッッ!!」

 

 脳がシャットアウトしていた快楽をまた別の神経から刺激され、彼女は無理矢理意識を引き戻された。なけなしの力でもがくもその動きで触手が肌に擦れ、指先まで電気が走ったかのように痙攣する。

 

───ふむ、食道から大腸まで同化は成った。

 

 尻穴に突っ込んでいる触手がぼんやりと光り、狩人は神秘を行使する。すると神秘に反応した直腸や胃などから、背骨に向けて光る根のようなものが伸びていく。

 細胞の中を掻き分けるように根は張られ、遂には念願の脊髄に届いた。

 それを感じ取った狩人は、脊髄に神秘をぶち撒けるべく射精を開始する。血液を生産する器官を、今度は神秘を生み出す器官へ塗り替えるのだ。

 脊髄が神秘で満たされれば、それはやがて脳に達し、彼女は獣の病を克するだろう。

 

───もう目隠しも猿轡も不要だろう。私の姿を見たところで、今の彼女が発狂することはない。

 

 ズルリと口内から引き抜かれた触手は、彼女の唾液で妖しげに濡れていた。目隠しを取っ払われた彼女は、焦点の定まらない目で辛うじて見える狩人を捉えた。

 無数の触手、穴の空いた顔、全身から滴る神秘の粘液……その様、まさに冒涜だ。

 だが、彼女はそれでも狂わなかった。ものの見え方が変わったからか、その姿を通して狩人の輪郭をはっきりと見つめていた。

 

「ふ、ふ…なんだ、その顔は。随分と、ッ…好き放題してくれたじゃないか、ん?」

 

 時折しゃっくりのように顔を出す快楽に言葉を詰まらせながら、彼女は笑みを浮かべた。

 全身が汗やら唾液やら潮や愛液、精液、挙句は小水まで。様々な汁に塗れながらも、彼女は毅然としていた。

 

 

───謝罪はしない……好きにするといい。

 

「ああ、変わらんな、貴公。謝罪は要らんさ。むしろ、私が礼を言うべきだろう」

 

───貴公は、もう人ではないのだぞ。

 

「フフ、そんなことか。構わんよ、私は気にしていない。それに、貴公のように姿カタチが異形になっているわけでもない」

 

───……あいも変わらず、強かだな。

 

「幾度も夜を繰り返し、挙句私のような愚か者を本当に救った貴公がそれを言うか」

 

 

 顔を撫で、手についた粘液をくちゃくちゃと手遊びながらヘンリエットは狩人を見上げる。

 

 

 「取り敢えず、尻に刺さっているモノを抜いてもらいたいのだが」

 

 

 怒涛の快楽のおかげで、すっかり体力を消耗してしまったので、彼女は自力でそれを抜くことができなかった。

 狩人もそれを察して、肛門から触手を引っ込めたのだが───

 

「あ゛ぉッッッ!!!?」

 

 ───彼女の感度はそのままだったらしく、ボチュッと音を立てて抜けた途端、背をエビのように反り絶頂した。

 力なく倒れ込んだ彼女の尻穴は、ちょうど男根触手一本分ほどの大きさに広がっており、腸液を垂らしながらヒクヒクと蠢いていた。

 狩人は『やってしまった……』とばかりに黙り込む。断続的に荒い息を吐きながら、ヘンリエットは目だけで睨む。

 

 

「こ、のぉ…やはりケダモノだ、貴公…ッ」

 

───…………すまん。

 

 

 これには言い訳のしようもなく、素直に謝った。

 しかし、かつて助力を請うた古狩人が、自分の目の前であられもない姿を晒しているのは、かなり湧き上がるものがある。

 その興奮に反応したのか、また触手がいきり立っていく。それを見たヘンリエットは、何を企んだのかニヤリと笑った。

 

 

「そういえば、貴公、確か私に『好きにしろ』と言ったな…」

 

───さて、どうだっ「言ったな?」

 

 

 体内器官の殆どを準上位者化した影響からか、異様に回復が早い。先ほどまで産まれたての子鹿のように脚を震わせていたくせに、今は自分の前で確と立っているではないか。

 

 おかしい。私は今上位者の姿で対峙しているはずなのに、妙に目の前の女性が大きく見える。

 

 

「女をここまで火照らせておいて、まさか終了などとは言うまいな」

 

───……獣化はもうしないはずだが。

 

「やかましい。この熱、褥で鎮めねば休むに休めん。安い言い方だが、責任を取ってもらうぞ」

 

 

 まるで獲物を見つけた肉食獣だ。『逃がすか』という気概をヒシヒシと感じる。

 なんとも懐かしい。喰われる側とは、こんな気持ちだったか。

 

 

 

 

 

 暗い夢、そのベッドの上から艶やかな嬌声が聞こえてくる。気持ちよさそうな濡れた声だ。全身を触手に責め立てられているというのに、その顔に嫌悪感は一切見られない。

 

「んぅ、ちゅ……ッハ、あっ…ぁあっ!ぃイ、いいぞッ、もっと私を壊してくれぇ…っぁはあぁぁぁッ!」

 

 穴の空いた狩人の顔を両手で挟み、必死にキスを求めるヘンリエット。それに応え狩人は口に相当する位置を押し付ける。互いの口内を丹念に舐め回し、唾液を交換する。

 粘液で照り輝く異形の腕は、しっかりと彼女を抱きしめる。この時ヘンリエットは触手に包まれ、外から見れば球体のようになっていた。

 肉壺には極太の触手が、その直ぐ近くには紐のような触手が尿道をほじくり、尻穴は美味しそうに3本も頬張っている。

 指先まで無数の触手に(ねぶ)られ、もはや汗腺まで犯される勢いだ。

 

 

「んぅ、ちゅるる……っぱ、ハぁ…ッあ、むちゅ、れる───ひィンッッッ♡」

 

 

 顎まで滴る唾液など御構いなしにキスの味を楽しむ。これでもかと舌を絡め合い、少し草臥れたと思ったその時、狩人は糸触手を使って肉芽を巻き取りシゴいた。

 僅かな痛みと強烈な快楽。肉芽の表面を擦る痛みすら、より気持ちよくなるためのスパイスにしかならない。

 

 

───ッ、そろそろ、射精るぞ。

 

「ん゛ぁッ♡ は、ぁ゛あ…ッ♡ ああっ、こい!射精せッ、私の──ぉあ゛ッ♡ 膣内にぃぃぃっ!」

 

 

 強すぎる快楽の波に耐え切れず狩人の首元に顔を(うず)め、腕と足を使ってガッチリと身体を固定し、押し付ける。まるで裸絞めの様に相手に貼り付き、その圧で膣や尻穴にも刺激が走る。

 挿し込まれた触手と粘膜の隙間から勢いよく透明な潮が吹き出し、シーツの上にいやらしい水溜りを形成した。

 

 そして、一足早く絶頂を迎えてグツグツと煮立った子宮へ、狩人は追い討ちを叩き込んだ。

 

 

───ふんッ。

 

「んぎぃぃぃいいぃぃぃッッ!!あ゛、がッ…ぁぁぁ゛あ゛ああぁぁぁあぁっ♡……は、ぃって、るっ!私の、子宮っ♡……んぉお゛っ……!あっ、まてっ、まって…!今はっ、だ、めだッ……ぁ゛ひっ♡……いま、射精されたら…あぁ……ッ!」

 

 

 絶頂快楽を溜めに溜めていた子宮に、男根触手を咥えこませたのだ。淫熱で柔らかくなっていた子宮口はすんなりと侵入を許し、子宮の奥は垂れ流される先走りの神秘で汚された。

 あまりの快感に脳はキャパシティオーバーを起こし、ヘンリエットの視界には火花の様な光が散った。

 そして───

 

 

「んぁぁあ゛あ゛あ゛、あぁーーッ!ぉ゛、ほぉぉお゛ぉ゛ぁ゛……ッッッ!!ぉ、くぅ……ぁっ♡ みたされ…ぇあぁ…っ♡ ク、んう゛ぅぅぅぅっ!!」

 

 

 音が外にまで聞こえそうな強烈な吐精。白い濁流が自身を埋め尽くし、溺れそうな感覚の中、ヘンリエットは歓喜に震えていた。

 

 

(ああ、素晴らしい。私を満たせる男、やっと見つけた。身体中に彼が広がる感覚がわかる……もう死んでいると思っていた、私の『女』としての本能。彼が呼び起こし、満ち溢れさせた。渇きもない、飢えもない、私の中には彼がいる。あぁ、愛しい……私は貴公がどうしようもなく愛しい。だから貴公、覚悟することだ。逃してなど、やらぬからな)

 

 

 ビュルビュルと管を脈動しながら噴出される神秘の精。勢いは凄まじく、まるで塊を吐き出しているかのよう。子宮、膀胱、大腸……あとは汗腺内部など、全身余すところなく神秘に塗れたヘンリエット。

 狩人もすぐに触手を抜くなどという野暮なことはせず、挿入したまま、まるであやすようにゆっくり身体を揺らしてやる。

 体内のあちこちに溢れ返らんとする精はその揺れに合わせて波を作り、彼女の体液とゆるゆる混ざり合っていく。波が肉壁を叩くたび彼女の身体は小さく痙攣し、淡い悦楽に蕩かされていることを如実に表していた。

 

 

 

 

 どれだけの間そうしていただろうか。妊婦のような腹はすっかり元に戻っていた。不思議と髪や肌に付着していた精も綺麗に消えていた。代わりに彼女の髪の艶は以前より美しくなり、肌の張りも格段に良くなっていた。

 未だ挿入したままだが、2人は互いを抱きしめながら事後の甘い余韻を楽しんでいた。ヘンリエットは狩人の胸を枕にし、ポツリと言う。

 

 

「貴公の体液は凄いな、まるで万能薬だ。これならばこの街ごと治すことも可能だろうよ」

 

───……全てを救うつもりはない。

 

「……ああ、わかるさ。()()()()()()()()()()()というのは、確かに存在する。私も辟易したものだ」

 

 

 それに対して零された狩人の本音。

 『全ては救わない』

 救うことは確かに可能だろうが、それをするつもりはないとはっきり否定した。救えないのではなく救わない。救いたくない輩もいるのだと、狩人は言う。

 

 

───あんな者たちを救うなど真っ平ごめんだ。私が救うのは、守りたくても守れなかった者達だけ……それ以外など、下水の豚畜生と何が変わろうものか。

 

「ふっ、ははは、言うではないか。豚畜生ときたか、ふふ」

 

 狩人らしからぬ感情を見せた発言に、クスクスと笑うヘンリエット。

 

───私は聖人ではない。

 

「知っているさ。しかし、私を助けてくれたのは貴公だ。改めて礼を言うよ、ありがとう」

 

 

 幸せそうな笑みに対し、照れ隠しなのか狩人は彼女に突っ込んでいた触手を引き抜いた。

「ん゛んッ……♡」

 予期せぬ刺激に思わず呻く。膣と腸壁を擦られ、身体は反射的に淫液を分泌し始める。

 しとどに濡れた女陰を、狩人は触手で労うように撫でる。

 

 

「っ、貴公……まるで獣だぞ」

 

───獣は貪るだけで、慈しむことを知らん。

 

「だから違うと?」

 

───思考くらいは、人のままでいたいだけだ。

 

 

 悍ましい光景を何度も見た。上位者に手を伸ばし、禁忌を犯した愚者どもの末路。それに巻き込まれた、ただただ不運な被害者達。

 かつて世話になった者達もそれに含まれる……。

 

 いくら上位者となり思考の次元を高めたとて、理解が得られなければ意味がない。でなければ、誰が異形の赤子など孕んでくれるだろうか。

 人間臭かろうが構わない。私は家族が欲しいのだ。互いに愛し、子どもを育み、何気ない幸福を噛みしめたいのだ。

 

 

───そのためなら私は……ッ

 

「シーッ……そこから先は言わなくていい。貴公の理想、この悪夢にとっては夢物語ではあるが、その家族とやらには私も居るのだろう?」

 

───当然だ。貴公は、私の恩人なのだから。

 

「なら、夫を支えるのは妻の役目だ。よろしく頼むよ──旦那様」

 

 

 …………本当に、貴女は強かな女性だ。

 不敵に笑う彼女に、狩人はこの先一生勝てる気がしなかった。

 

 

 




なんじゃこの尻切れとんぼ……。
多分、後々加筆します。

お待たせしました。
いやぁ、ヘンリエット難しいです。
キャラ付け出来るものが石鎚だけっていうね……。
とはいえ久しぶりのエロでしたが、どうだったでしょうか。

触手の寄生プレイどうでした?
ラブラブな異種姦寄生エッチとか個人的に大好物です。
あと、今回でヘンリエットは大幅に強化されたことになります。
例えるなら、今までが普通のACで、事後がネクストです。
ヘンリエットの振り回す石鎚がマスブレ並みの威力になります。
誰も勝てませんヾ(๑⃙⃘´ꇴ`๑⃙⃘)ノヒャー

お次は一旦戻って診療所の予定。
ではでは。


※2019/4/27…♡は多過ぎないように意識して加筆したつもりです。
要望次第では増えたり減ったりします。


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致命的な錯覚

エタってないエタってない。まだセーフ。
今回はエロではないのでご注意。
次で『お前も家族だ』。

ジェネレーター出力再上昇

オペレーション、パターン2



 

 最初に狩人として目覚めた場所。

 いや、失った場所だろうか。

 目元を包帯で隠した怪しい車椅子の医者、覚えのない自筆の走り書き。

 

 そう、全てはあの診療所から始まった。

 その後の冒険でわかることだが、あそこは2人の女性が管理していたと思われる。

 しかし、私は彼女らが一緒にいる場面を一度たりとも見たことがなかった。どちらか片方に住民を預け、見返りとして輸血液や感覚麻痺の霧などをもらう。私と彼女らは、いわゆるギブアンドテイクの関係だった。

 まあ、どちらともマトモとは言い難い人格であったが……。

 

 あの診療所の下には、夥しい数の屍が打ち捨てられている。白骨化しているものはもちろん、地下水と肉のある死体が混ざって湖のようになってもいた。

 どこから湧いたか肉をついばむ虫が水中を泳ぎ、獣の病の影響なのか巨人になり損なったモンスターまで存在した。

 恐ろしかった。いくらなんでも無茶苦茶だと思った。必死に走って奥へ逃げ込み、ボロボロのはしごを見つけた時は、あろうことか警戒することすら忘れていた。

 一刻も早くあそこから離れたい……そんな一心で、カビ臭いはしごを息を荒げて登り──

 

 そして、登りきった先で私は言葉を失った。

 

 

───………………ッ………………。

 

 

 そこは診療所の裏庭だった。しかも振り返ると、先ほど這い出た出口は暮石の真下だったのだ。

 意味がわからなかった。ここの医者はいったい何を行なっているのか。診療所という名が指す通り、ここでは死者が出るのだろう。それは理解できる。

 だが、数がおかしい。いったいあそこには何百人分の遺骸があったのか……声からして私が話したヨセフカという女医はまだ年若いはずだ。診療所の名も『ヨセフカ診療所』と、彼女の名がそのまま用いられている。

 

 

───確認、しなければならない…。

 

 

 彼女と話をしなければ。なぜ住民の避難先として診療所を私に教えたのか、なぜそれを生き残りに伝えるよう念を押してきたのか。

 走った。もしかすれば私は、とてつもない間違いをしてしまったのかもしれない──そんな焦りが私を苛む。

 

 

───…なぜ、ここにいる……ッ。

 

 

 目の前には脳喰らい。そして、あれはどう見ても獣ではない。体毛のないツルリとした肌、歩く毎にペチャペチャと濡れた音を立てる人型のナニカ。私の認識はそんなものだった。

 あれは名の通り脳を()()()。後頭部あたりから伸びる器官を頭に突き刺し、脳(瞳)をズルズルと吸い上げる。

 

 私は咄嗟に武器を変形させ、出来るだけ距離をとった。

 あれは危険だ。捕まれば最後、あの細腕からは考えられないほどの力で体を拘束される。どんな行動を起こされようが、確実に避けられる間合いを保たねばならない。

 

「ヴォィィイイイイイッ!」

 

───っ、ォオッ!

 

「ヴォィッ!」

 

 案の定両腕を広げて突っ込んできた。私は目の前に迫るイカ擬きを()()()()ようにステップで避け、鉈を大きく振りかぶる。

 

「…ヴォ?……ヴォイ??」

 

 空気を抱擁した腕をしげしげと眺め、脳喰らいはさっきまで目の前にいた獲物を探してあたりを見回す。

 その背中は、あまりにも無防備で───

 

 

───せァッ!

 

「ンヴォイッッ!?」

 

 

 狩人にとってはいい的だった。

 背中を深々と斬られ、その勢いから思わず膝をつく脳喰らい。

 それはもう、この勝負が決したことを示していた。鉈をその場に落とした狩人は、指を鉤爪のようにして背中の傷口を抉るように突き刺した。

 白濁した、どう見ても血液とは思えない体液を撒き散らせながら手に当たったハラワタをむんずと掴み、一部の骨ごと引き抜いてやる。

 

 脳喰らいは声すら出せず、空気の抜けるような音を出しながら倒れた。

 

 

───ハァ…ハァ…ッ

 

 

 情報の整理など御構い無しに、次々と面倒が舞い込んでくる。狩人といえど荒い息も吐きたくなるというものだ。

 とにかく、彼女らのもとへ向かわなければ。

 

 

 

 

 あれからどれほどの時が経っただろうか。

 私は彼女らを殺し、へその緒を奪い、取り込んだ。あれだけ理性的に会話できていた人物でさえ、上位者に手を伸ばせばあんな有り様になってしまう。

 やはり上位者どもは碌でもない、つくづくそう思った。

 しかし、同時に少し羨ましかった。根本的な人格にさえ干渉し、人間を意のままにできる力。自分がどれだけ努力しても変えられなかった彼女らの運命を、奴らは容易く捻じ曲げる。

 羨望もあるが、やはり嫉妬…なのだろう。醜い感情だ。助けたいと思った存在を端から掻っ攫われ、いつも一歩出遅れている。

 なにより、好意を持った相手を孕ませられたということが、私の心をドス黒く染めた。上位者との接触は、対象に少なくない狂気を齎す。結果、彼女らは1人残らず気を狂わせ、ただ壊れた笑いをこぼす抜け殻になっていた。

 

 狩人は石畳をコツコツと踏みしめ、診療所に通じる墓標の前に立つ。

 服装は、イジーを彷彿とさせる上半身裸。肌の色はほんのり赤黒く、粘液が薄く皮膚を覆っている。腕はそのままだが肩口からは数本触手が生え、デロンと垂れ下がっていた。半上位者といったところか。

 

「……流石の私でもその格好は気味が悪いぞ」

 

───……ああ。だが、念のためだ。

 

「念のため、か…何故そこまで?」

 

───強いて言うなら……出遅れぬために、だな。今度こそ、間に合わせるさ。

 

「そうか……無理はするなよ」

 

 

 ヘンリエットが呆れ半分、心配半分といったような表情で見送りに来た。

 彼女を抱いてから約3日、この夢の中で過ごした。ヘレナや人形とも打ち解けたようで、よく水盆の近くで何か話し合っていた。たまにクスクス笑う人形を見かけると、少しホッとした気分になる。

 

「貴公、何か私にできることはないか?」

 

───唐突だな。

 

「なに、家のことは任せろというやつだ」

 

───ふむ……では、ヘレナに狩人の(わざ)を仕込んでやってくれないか?

 

 

 狩人が前々から考えていたこと。

 それは、ヘレナに自衛手段を覚えてもらうことだ。これから彼女は自分の足で前に進まなければならない。寄り添うのもいい、立ち止まって休憩するのもいい。振り返るのも、時には泣くことも、人間には必要なものだ。

 しかし、背負われたままというのはいただけない。停滞は人生を灰色にしてしまう毒だ。

 幸いヘレナには狩人の適性があった。初めて啓蒙を得た時も、本人が自覚できないほど負担も少なく見えた。

 

 父親に合わせるとなれば、それなりの備えはしておかなければならない。

 

 

───ステップや立ち回りならあの歳でも可能だろう。

 

「あぁ、まぁ…構わないが……」

 

───あの娘はいずれ、あの景色と向き合わなばならなくなる……。

 

 

 そう、ヘレナと交わした約束。父と母に合わせること。

 だが、狩人は知っていた。自分が診療所で目覚めた時にはもう、彼ら2人は手遅れであることを。ゆえに、ヘレナが向き合うのは死んだ母親と、もはや人間性が消えかかっている父親だ。

 特に父親のガスコインは熟達の狩人。最低限の備えすらない状態で臨めばたちまち散弾で蜂の巣にされ、斧で頭から唐竹割りにされかねない。

 

 

───私はもう行く。

 

「ああ、任された。……ふふっ、今のは少し良いな。いってらっしゃい、旦那様」

 

───…………………………………………反応に困る。

 

「ははははっ、良いじゃないか、余裕があるというのは」

 

 

 どうやら、あの夜から彼女は自分の中で諸々を整理したらしい。人形とはまた一味違うが、私を夫として認識してくれている。

 嬉しい。今までとは全く違ったこの状況。これが俗に言う団欒というものだろうか……少しズレている気もするが。

 おそらく、今はまだ順調だ。踏み外していない。手探りではあるがそこそこ上手くいっている。この幸せを噛み締めていたいが、時間がない。

 

 

「理由はわからんが、貴公は助けたいのだろう?そして、その為に手段を用意した。ならば立ち止まっている暇などあるまい」

 

───ヘンリエット…。

 

「引きずり揚げてこい。このどうしようもない悪夢に、貴公の答えを示してやれ」

 

 

 彼女の強い言葉と手が、狩人の背中を押す。

 思いのほか強く押されたのか、よろめくように墓石に寄りかかる。それを使者たちは迎え入れ、狩人をヨセフカの診療所へと飛ばした。

 ヘンリエットは押した手のまま自分の掌を眺め、ふと笑う。

 

(どれだけ言い繕おうが、やはり貴公は人だよ。智慧を持ち、有り余る精力を子作りに注ぐ。何処にでもいる、一人の男だとも)

 

 その手は自然と腹を撫で、今も子宮で元気にビチビチ蠢く精子を感じる。

 暫くして、ヘンリエットは人形にヘレナのことを伝えるべく、裏庭の扉を開けるのであった。

 

 

 

 

 薄れた意識が次第に明瞭化し、気付けば診療所の灯火の前に立っていた。

 

 ()()、奴らの気配は感じられない。あの言葉にできない異物感。視界の端にチラつき、しかし決して直視することはできない異形の姿。

 それがこの診療所にはない。

 おそらく、彼女らの頭にはまだ、奴の印は存在していない。

 

───人は、言葉を使う……か。

 

 一瞬、扉をブチ破ってやろうかとも考えたが、それではあまりに乱暴すぎる。

 ましてや、今回は別に問い詰めに来たわけではないのだ。

 

 コツコツと階段を上り、扉越しに話しかけた。

 

「…まだ、何かご用ですか? でも、今の私にできることは、もうないのです」

 

───ヨセフカ女史、今回はそのことで来たのではない。

 

「では、どのような用件で?」

 

───見せたいものがあるのだ。

 

 

 人ならざる血色をした腕を、欠けたガラスの隙間から見せた。扉の向こうで息を呑む気配がある。

 しかし、悲鳴は聞こえない。

 ……10秒ほど経っただろうか。

 鍵を開ける音が聞こえ、今までどれだけ斬っても削っても殴っても爆破しても開かなかった扉が開いた。

 そして、その先には険しい顔をしたヨセフカが立っていた。

 

 

「聞きたいことが山ほどできたわ。さあ、入ってちょうだい」

 

 

 ランタンを持ったヨセフカに連れられ、狩人は診療所の二階へと進む。

 

「あなた、いったい何があったのですか?」

 

───上位者、という単語に聞き覚えはあるか?

 

「ええ、あるわ」

 

───そいつらを殺した結果がこれだ。

 

 

 あまりにもシンプルな理由。

 しかし、それはヨセフカが知りたい情報とは、少しだけ的が外れているものだった。彼女が知りたいのは『経緯の詳細』。狩人が話したのは、感覚に基づくものだ。

 なんとなく納得いかない顔をしていたヨセフカだが、しばらく考え込むと「まあいいでしょう」と言い、血液検査用の道具を持って来た。

 

 

───検査は必要ない。

 

「……では、何故ここに?」

 

───貴女()を保護するためだ。

 

「なにを、言っているのですか……?」

 

 

 

「この診療所には、私とあなたの2人しかいませんよ」

 

 





遅くなってしまい申し訳ない。
まあ、諸事情ありましてモチベが一度ゼロになってしまいました。
無事復活できてホッとしてます。
この話も2週間くらいかけてチビチビ仕上げたものです。

前書きのアレなんだよって?
作者が再起動したから書いた。深い意味はない。
何かいっぱいあとがきで書きたいことあったけど忘れました。
読んでくれてありがとう!
感想待ってます。


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首輪付き

タグにもあるけど独自設定盛りだくさんなんで、気を付けてね。
今回は好き嫌い分かれる内容です。割とハード(?)
個人的にヤり捨てとか斬り捨てるタイプなので、最後まで面倒見るからその辺は安心してください。


次回もエロ。


 

 

 狩人は、思わず全神経を使って周囲を警戒した。体液を粘菌のごとく診療所全域に張り巡らせ、自分たち以外の脈拍、体温、果ては床を踏む際の圧力にまで。

 しかし、確かに居ない。先ほど目の前のヨセフカが放った言葉は、現在のところ真実であるということだ。

 

───……信じ難いな。

 

「…何か、疑念を抱く原因でもあるのですか?」

 

───……………そうだな。今の貴女になら、話してもいいだろう。

 

 

 狩人はこれまで自分が歩んできた道のりを話した。狩人としての目覚め。死なず、老いず、しかし殺されたことは数知れず。誰を殺め、何を殺して今に至るのか。その全てを話した。

 ヨセフカはそれをじっと聞き、1つ質問をした。

 

「あなたの見た()()()()()()は、何を研究していたのかしら…」

 

───仮説の域を出ないが、おそらく上位者への変態が目的だったのだろう。上位者と(まみ)え、啓蒙され、裡に瞳を得る。だが、あれの試みは失敗した。

 

 

 そう。独力で上位者と接触した。ここまでは良い。むしろ偉業と言える。

 しかし、接触した相手が彼女と同じ思惑であるかと言えば、そうではなかった。現に彼女は脳にカレルを刻まれ、赤子を産む母胎として作り変えられていた。

 この期に及んで、彼女は見誤った。上位者どもの性質を、性根の腐れ具合を。

 

 

「そう……なら、早めに此処を離れた方がいいということね?」

 

───…そうだな。幸い正面の獣どもは一掃している。このまま───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【警告】

 

裏手

屋根

熱源

呼吸

圧力

感知

 

 

───……来たか。

 

「…予想はつくけれど、ナニが来たのかしら?」

 

───もう1人の貴女だよ、ヨセフカ女史。

 

 

 

 

 

 狩人はヨセフカを嘗て自分が寝ていた診療室に下がらせ、自分はその扉の外に立った。ヨセフカ本人にはロスマリヌスを持たせている。万が一すり抜けられても、多少の時間は稼げるだろう。

 狩人自身は、既に自分のテリトリーに入った偽フカを迎えるべく、診療所そのものを模様替えしていた。

 本来扉のある場所に階段を置き、戸棚のあった場所へ扉を置き、診察台や治療器具の位置も全ていじった。

 靴の音は、既に屋根を抜け、この診療所に入っている。

 

 

───袋の鼠だ。

 

 

 カツン、カツンと鳴る音は、徐々にこちらへ近づいている。

 診療所と同化させた端末細胞からは、常時相手の感知データが流されて来る。相手の位置は、残すところ部屋1つといったところか。

 当然ながら目の前の扉を開けて来るだろう。そうなるように細工を施したのだから。

 

 

「……あら、月の香り」

 

 

 ドアノブが握られ、蝶番の軋む音。

 

 ゆっくりと開けられた扉の向こうには、自分の後ろへ下がらせたヨセフカと瓜二つの顔があった。

 

 

───ようこそ、悪夢へ。

 

「……変わった香りがすると思ったら、面白い生き物がいるものね」

 

───ッハ、面白い、か。言い得て妙だな。怖いでも気持ち悪いでもなく、面白いと。

 

「……言葉が理解できているのは結構だけれど…退いてくれないかしら」

 

───断る…。退くつもりなどもとよりなく───

 

 

 部屋の中だというのに、柱や壁から肉の擦れる音がする。いつのまにか扉は消え、床は赤黒い肉に変わり、診療台や薬品は全て蠢く触手となった。

 偽フカは身構える。だがその頭は混乱で埋め尽くされ、正常な判断が不可能になっていた。

 天井からは粘性の強い白濁した液体がぼたぼたと滴り、白の教会装束を濁していく。

 

 

「……ッ…!? ぁ…な、なんだ…何だこれは……ッッ!?」

 

───私の腹の中だ。お前は、自ら喰われに来たということだ。

 

 

 そして

 

「……ヒッッ……!!?」

 

 グチャリと嫌な音がした。見れば、狩人の身体が溶け落ちている。顔に薄い笑みを浮かべたままドロドロと崩れ、床の肉に染み込んでいく。その場には履いていたズボンと下着のみが残り、他は全て消えた。

 

 すると、それと同時に部屋一面の肉塊や触手が蠢きのたうち始める。それだけではない。

 壁からは新しい触手が生え、天井と床はボコボコと隆起し始める。

 

「ッぃ、や──────きゃっ……!」

 

 足は床に捕まった。もう逃げるどころか動くことさえ出来ない。必死に仕込み杖を振り回すが、粘液により摩擦が薄れ、虚しくも切っ尖は肉壁を舐めるだけだった。

 

 

 

 どれ程の間、そうやって抵抗していただろうか……。

 杖は粘液と汗のせいで手から滑り落ち、足を捕まえた床はもう膝上まで迫っている。服など粘液に浸され過ぎてもはや重石のようだ。

 激しい動きを続けたからか周囲の酸素が薄くなり、身体は軽い酸欠状態。咄嗟に両手をついたが、当たり前のように肘まで飲み込まれた。

 

 必死に酸素を確保しようと、身体が過呼吸に陥る。意識も朧で、一瞬でも力を抜けばこの蟻地獄に全身が呑まれるだろう。

 

 

「……ッッッ……!……!!……ッ」

 

 

 涙、鼻水、唾液、果ては胃液で顔を汚し、筋肉に酸素が届かなくなったのか、弛緩した途端に溢れた尿。

 恥辱の限りを尽くされ、その悔しさすら考えられなくなった頃、また肉が蠢いた。

 

 頭上から一本の触手が伸び、偽フカの頭を包み込む。抵抗は皆無。肉体が動けるに足る酸素を、偽フカは持っていないのだ。

 失神し、眼球が裏返りかけ、鼻水を垂れ流し、舌が放り出された口。ひどい顔だ。とても理知的だった偽フカとは思えない。

 

 頭を包む触手の内側には白く濁った神秘がドボドボと注がれている。それは口や鼻から胃と肺に流れ込み、角膜から浸透した神秘は視神経を伝い、脳を侵し始める。

 

 

「ん゛ん゛ん゛う゛う゛う゛う゛ぅぅぅッ!?」

 

 

 意識は戻っていないが、脳に神秘が到達したため身体が無意識に痙攣する。

 しかし、四肢を固定されているせいか腰が動く程度であり、神秘が胃を満たした影響でその腹はぽっこりと膨らんでいた。

 重たくなった腹が床につき、それを肉は容赦なく捕まえた。脇腹寸前まで床に埋まり、頭部は触手の中で溺れ、突き出された尻からは胃腸の全てを満たし切った神秘が噴き出ている。

 そこにはもはや人の尊厳などない。

 

 

「ん゛ぶぉお゛お゛ぉ゛ぉ゛ぁ゛ッ…! あ゛ぁッ…ぁん゛ん゛ぅぅぅ……ッッ」

 

 

 いつしか身体に循環するのは空気ではなく、神秘1つになってしまった。尻から神秘が噴き出ると、また新しい神秘が頭上から流れ込む。

 神秘を肺と目から取り込んでいるため、脳は問題なく活動できていた。酸素の代わりに神秘を吸収し、脳を構成する水分の殆どが神秘に入れ替わりつつあった。

 脳だけではない。体内の粘膜という粘膜から神秘が吸収され、各細胞の中に一匹の光るオタマジャクシが寄生しつつあった。

 身体を構成する全細胞に極小のオタマジャクシが宿り切った辺りで、偽フカの意識は回復した。

 だが、果たしてそれが幸運だったかといえばそうではない。

 

 

「…ッん゛ゥ…!? ぉ゛ぁ゛…ッ…ッ!」

 

 

 脳も肉体も正常に機能している。赤血球をはじめ、身体の細胞が変異し、酸素を必要としなくなった。神秘そのものが発生させる成分を取り込み、栄養として吸収していく。

 ただ、今さっき目覚めた意識までは変異していない。今まで吸ったり吐いたりしていた行為を、突然肉体が()()()()()()()()()としても、直ぐに順応することは不可能だ。

 

 結果──────

 

「……ッ…が、ぁ゛…!」

 

 ─────再び溺れる。

 それは永遠に死ぬことのない処刑のようなものだった。肉体は以前より生き生きとしているのに、精神だけはそれを上手く認識できず、無限に窒息し続ける。

 

 

───……眷属になった気分はどうかな。

 

「が、バぁ゛っ……ぉ゛ぁあ゛あ゛ッ…ん゛ぶぅぅぅぁ゛……ッ!」

 

───ン……まぁいい。仕上げるぞ。こちらも最善を尽くす。狂ってもいいが、死んでくれるなよ。

 

 

 ザワザワと壁の触手達が動きだす。白の教会装束の裾を捲り上げられ、神秘が噴き出している菊門と愛液でしとどに濡れている膣口が露わになる。

 触手達は各々が形状を変え、容赦なく花園を蹂躙した。

 脳に神秘が寄生した今、感覚神経全てを操られ、()()()が何重にも付いた触手で犯されても痛みがなかった。

 それどころか、脳からの信号を操作し、愛液の生成量を倍に上げた。これによって床には大きな水溜りができ、触手の滑り具合も更に向上した。

 

 

 だが、追撃はまだ終わらない。

 

 

 頭部を包み込む触手から幅5ミリほどの触手が伸び、耳の中に侵入した。既に神秘で埋め尽くされているが、鼓膜から先には進めていなかった。

 しかし、この伸ばされた細い触手は外耳道を擦りながら鼓膜に張り付き、同化を開始する。

 すると鼓膜を構成する細胞量が飽和し、鼓膜から耳小骨へとその身を辿り着かせることができたのだ。

 

 

「あ゛あ゛ッあ゛あ゛あ゛あァァァァァ!? い゛やァッ! 私のながにィィ入ってくるなぁ゛ぁぁぁぁあ……ッッ!!」

 

 

 半狂乱になった偽フカは、そこで初めて声をあげた。グチグチと鼓膜を通じて頭の中で、蟲のようなナニカが蠢いている。

 気持ち悪さと、それを遥かに上回る形容できない気持ち良さ。神秘液が満たされる肉の中で、1人の女は忘れかけていた声を響かせた。

 

 たった1人で赴き、たった1人で相対し、たった1人で捕らえられた。助けなど来るはずもなく、女の絶叫に応える者は何処にもいない。

 

 

「ぃ、イヤだ…ッ! くるな……来るなァッ……来るなァァァァァ!! あ゛っ…殺され、るッ、壊されるッ…ぁひぃ゛ッ……! 誰かッ……誰でもいい…! わたしを…たすけて……ッッ」

 

 

 濁った白色が視界を覆う中、涙を流しながら助けを乞う偽フカ。じわじわと精神も蝕まれ、今や悲鳴の中に色香が混じる始末だ。

 依然として膣は犯され、尿道口からは出し切った尿の代わりに透明な潮を断続的に噴出された。肛門はもはや神秘を噴き出す蛇口となり、体内器官の全てにおいて神秘が媒介物になりつつある。

 

 それはもう、人間の肉体ではなかった。

 

 

───……あとは、私のカレルを刻む。それで彼女は、()()()()()

 

 

 すると、耳小骨を舐め回していた触手や膣を貪っていた触手が、更に奥を目指して動き出した。

 

 耳小骨の触手は蝸牛へと到達し、神秘液をぶち撒けながら分裂化し、聴神経に潜り込んだ。そのまま隙間らしい隙間のない神経の中をグチョグチョと掘削して行き、とうとう脳に触れた。

 神秘に満たされた脳を舐めながら、鼓膜と同様に細胞を部分的に飽和させ、脳梁にその先端を潜り込ませる。

 

 膣の触手は子宮口をガッチリと咥え込み、触手の中から新たな触手を子宮内に侵入させた。

 既に沸騰しそうな程蕩けている子宮はそれを拒めるはずもなく、本来赤子だけの部屋である禁断の領域を踏み荒らされた。

 しかし、そんなことを触手が構うはずもなく、子宮の天井にその先端をピタリとくっ付ける。

 

 

───ようこそ偽フカ、こちら側へ。歓迎しよう、盛大にな。

 

 

 

 

 ジュッ─────そんな音が聞こえた。

 

 

「────ぃ゛ぃ゛ぁ゛ぁ゛ぉ゛ぉ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁァァァァア…ッッ!!! ん゛ぎぃ、あ゛ッ……ひぃぃぃぃぃ゛ッッ、ぐぅぅぅゥ……!!」

 

 

 脳梁と子宮の天井に、狩人自身のカレル文字を神秘を媒体として()()()()()。実際に焼かれたわけではないが、これで何があろうとこのカレル文字は除けなくなった。

 例え他の上位者が自分の操り人形にしようと企んでも、このカレル文字がある限りそれは不可能になる。狩人からの永遠の加護と、刻まれた者を縛る永遠の首輪を綯い交ぜにした、最高(さいあく)の誓約だ。

 

 釣り上げられた魚のように痙攣を繰り返す偽フカ。その顔は喜悦に塗れ、今こそが人生の絶頂であると言わんばかりであった。

 

 

───あぁ……これで、また1人……。

 

 

 

 

 

 

 ようこそ、悪夢へ。

 

 

 




おまたへ。
レポートの山と戦ってました。なんだよ2週間で8個って、死ぬわ。
中には五千字超えないといけないものもあり、時間かかりました。

ハイまあそんな訳で、エロでしたが、どうでしたでしょうかね。
個人的にちゃんと一対一でヤって、快楽で溺れさせて、最後(生涯)まで面倒見るシチュだと陵辱モノもイケるクチです。捨てるとか論外。マワすのも論外。異論は認めるが許容はしない。

今回は対魔忍よろしく触手ヘルメットです。
肉体は活性化するのに精神が無限に窒息するとか意味わかりませんが、表現としてはなかなか良かったんじゃないかなと思ってます。

これにG・E・レクイエム加えたらエグいな。終わらない溺死(快楽)とか3000倍より厳しそう。

あと何書こうとしたんだっけか…忘れた。
※思い出しました
こんなシチュ書いた理由なのですが、bloodborneのいちプレイヤーとしての鬱憤を晴らしたかったからです。
少女とかアリアンナとかアデーラを青キノコに変えやがった恨みです。

最後まで読んでくれてありがとう!
感想待ってます。


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霧の向こう側

鈴原るるにハマった。

エロいけど今回はシリアス重視なのでご注意を。


……

………

…………

 

 目の前の扉。そこを開けば何かが起きている。

 しかし、それを予想するための情報があまりにも少ない。不気味なほどに静かで、扉一枚隔てた向こう側に生物がいると思えるような気配も感じられない。

 下がっていろと言われ、診療室に退避してからもうすぐ10分。隣の部屋の扉が開く音は聞こえたので、対面は終わっているはず。

 しかし、()()()()()()()。少なくとも会話くらい行われて然るべきだというのに、隣からは物音が一切聞こえない。

 

 

「……何か、おかしいわ」

 

 

 両手で狩人から借りたロスマリヌスを握りしめ、ヨセフカはゆっくりと扉に近づいて行く。僅かに震える手でドアノブを回し、扉の向こう側を見ようとした。

 そして、ヨセフカは闇を見た。辺り一面には一切光のない真っ暗な空間が広がり、重苦しいドロリとした空気が流れている。

 見てはいけないものを見てしまったような気がしたヨセフカは、開けていた扉を閉めようと一歩下がり、()()()()()()()

 

 

「きゃ──ぁああああああああああぁぁぁ……!!」

 

 

 いつのまにか部屋は消えており、ヨセフカが立っていたのは扉の枠である敷居だけとなっていたのだ。そこから一歩外へ出てしまったが故に、ヨセフカは入り込んだものと認識されてしまった。

 敷居の内と外は全くの別世界。皮肉にも、彼女の研究者としての側面が、不要な好奇心をかき立ててしまったのだ。

 

 闇の底から気泡が浮き上がっては弾けて消える。まるで誰かが呼吸をしているかのように。まるで、何かが沈んだかのように。

 

 

 

 

 

「ンボ……ッぉ…ご──ぉぁ゛、ん……じゅるるっ…! ぅぐ……ッは、ん…っ」

 

 

 ビクビクと痙攣し、身体の半分以上が肉に呑まれている状態で悶える偽フカ。僅かに覗くその肢体はしっとりと水気を帯び、非常に艶めかしい。

 頭を包む肉の中で気持ち良く溺れ、今や進んで神秘を吸い込み嚥下している。人体を構成する37兆2000億個もの細胞ほぼ全てに寄生した神秘は、偽フカの肉体にさまざまな変化をもたらした。

 

 まず、肉体の劣化を消した。コンディションを常に最盛期に保たせるという、不老を獲得させたのだ。

 次に、消化管にある内臓の機能の全てを快楽を伴うものに変化させた。特に、狩人の神秘を取り込んだ場合は、莫大な快楽とともに同量のエネルギーも生産できる。

 つまり、不眠不休で活動できるようになると言うことだ。

 

 これにより偽フカは、ほぼ永久に快楽を享受することが可能となった。

 

 

───……家族……家族とは、良いものだな。

 

 

 触手の化け物が独り言つ。目の前、あるいは腹の中で喘ぐ1人の女を誰よりも早く手に入れることができた達成感と、今までとは全く違う路線に進めているという緊張感を存分に堪能しながら。

 

 

───…………一度様子を見てみるか。

 

 

 狩人は化け物の姿のまま肉に降り立ち、ヒタヒタと現在進行形で全身を犯している偽フカに近づいて行く。

 距離が縮まるに伴い頭を覆っていた触手が離れ、女陰の触手は肉襞を大いに擦り上げながら抜かれて尿道から潮の残滓が弱々しく飛ぶ。

 しかし、四肢を拘束している肉はそのままで、偽フカは大の字で吊られた。

 

 見るも無惨。その一言に尽きる。しっとりと乱れた髪は顔や肩に。口は弛緩し、舌と唾液が垂れ出ている。豊満な乳や、引き締まったくびれと肉厚な尻は、全て粘液によりテラテラと輝き獣欲を誘う。

 

 

「ぁっ………ハ、ァァ…ッ…へぁ……ッひ…」

 

 

 息とも声とも取れぬ音を出し、身体中を駆け抜ける人智を超えた快楽の余韻を味わう偽フカ。

 狩人は、明らかに壊れてしまった偽フカを腕と触手を使ってゆっくりと抱きしめる。それは親愛からの抱擁だ。

 

 だが、抱かれる側はそんなことなど考えていられない。

 

 火照った体にひんやりとした腕が回され、股下から尻尾のようなものが肩口までぐるりと巻きつく。神秘液で膨らんだ腹は、狩人の勃起した肉棒と尻尾に挟まれ、その圧力により内容物を肛門から噴射させていた。

 孔の空いた顔に口元を覆われ、唾液を流し込まれたり啜られたりで幾度かえずいてしまう。

 

 

「んじゅルル…ッ、ぉ゛っ……ハ…ぁむ……れちゅ……ぢゅぷッ……ん、ぁ……っ」

 

 

 何も知らない者がこの光景を目にすれば、少なくともこれを愛撫だとは考えないだろう。どう見ても捕食されているようにしか見えないのだから。

 手足を拘束されているとはいえ、全身が弛緩して体重は全て狩人に預けている。力が抜けてぐったりしている女が触手に抱き締められているのだ。

 これが愚かな好奇の末路と言うならば、なるほど確かに恐ろしい死が必要なのかもしれない。

 

 

 

───…………………………ん……?

 

 

 偽フカの喉奥に突っ込んでいた舌を戻しながら、狩人は、自分の夢に外部から落ちてきた存在を感知する。

 腹の中とはいえ、ここは悪夢。()()()()()となれば、それは現実より何らかの原因で迷い込んだ者だ。

 

 後ろでぐったりとしている偽フカを一瞥して、少し休ませてやらねばと思考する狩人。タイミングとしても丁度良かったのかもしれない。

 亜空間に手を突っ込み、徴を取り出して偽フカの胸元に当てる。

 そのまま血の遺志を通わせると、偽フカの姿は陽炎のように不確かになり、狩人の夢に送られた。あとのことは人形や使者に任せても良いだろう。

 今の彼女は骨抜き状態。さらに夢にはヘンリエットもいるのだ。そんな圧倒的不利な環境で暴れようとするほど、彼女は愚かではない。

 

 偽フカを夢に送ったことを確認し、狩人はまた溶けた。薄く濁った液体になり、肉の中を巡って移動する。それは、まるで血液のようだ。

 ヨセフカが迷い込んだのは上層も上層。苗床から遠く離れた先だろう。今頃、訳もわからず彷徨っているに違いない。

 

 

───彼女のことだ。死んではいないだろうが……いや、私の夢において彼女が死ぬことはないな…。

 

 

 私を苗床として広がっている夢だ。どれだけ()から離れた末端であろうが、私が掬うと決めた存在を殺すことはない。精々が捕縛だろう。

 

 

───だが、急がねば。遅かれ早かれ彼女も保護する予定だった。要らぬ不和は起こしたくない。

 

 

 家族とは、愛でるものだ。愛し愛されるのが本質だろう。親しい隣人では、また守れなくなってしまう。

 そう、言い訳にも似た思い込み。

 

 

 

 

 だが、本人は気付いていない。家族を、その営みの一切を知らぬ者が、どうしてそれを定義できようものか。

 

 

 

 

 気がつくと、私は地面に倒れていた。どこかの街だろうか。ヤーナムとは、また少し趣の違う光景だ。離れたところから人間の声が聞こえ、獣除けの香の匂いもしない。それどころか、陽も暮れていなかった。

 あの、よくわからない空間に落ち、そこから辿り着いたのだろうが、私にとっては異様過ぎた。

 

 

「……ここは、何処?」

 

 

 手元には狩人から借りたロスマリヌスのみ。銀弾は20発。

 心もとない…正直、それに尽きる。戦闘経験が無いわけではない。患者が獣化したのを何度も処理したことがあるので、戦い方すら知らない未熟者でもないのだ。

 だが、ここでその経験が役に立つ保証はない。下手をすれば、罹患者に殺されてしまうかもしれない──否、可能性としてはそちらの方が高いだろう。

 

 

「それにしても、変な匂いのする街ね……」

 

 

 そう、先ほどから香ってくる甘くて青臭い異臭。甘いのに、青い…表現に困るが、まさにそんな匂いだ。ヤーナムでは血の匂いが漂っていたが、ここでは違うらしい。

 つまり、少なくともここはヤーナムではないということになる。

 

 

「とにかく、動きましょう」

 

 

 コツコツと石畳を歩き、建物の角から出て──唖然とした。

 

 

 

 

「ほおおっ、おほぉおっ…!」

 

「あ゛ぁ…ッひィィ、っグゥ……ッッ」

 

「ぢゅルルルル……っパ…ぁ、はぁ──む」

 

「あんっ…ん゛ん゛ん゛ぅぅぅぅ…ッ!!」

 

 

 

 街の至る所で喘ぐ女たち。彼女らは一同に何もない空間を咥えこみ、跨り、五体を晒していた。

 ある者の口から唾液に混じり、白く濁った粘液がダバダバと零れ落ちる。それに群がる他の女たち。二本ある足で歩くこともせず、ただその粘液を求めて這いずっていた。

 一体彼女らは何と向き合っているのか、ヨセフカは理解できなかった。なぜなら、ヨセフカには女たち以外に何も見えていなかったからだ。

 

 目の前で、女のみで行われている肉の宴。

 それは、最早交尾ですらなかった。女たちは、まるで飢えているかのように虚無を求め、肛門や膣がナニカによって押し広げられたら歓喜の涙を流している。

 この街にオスは存在せず、ただ、何処からともなく現れる女たちのみが粘液を目指して這いずり回っていたのだ。

 

 

「……わ、私は…何処に、来てしまったの……っ」

 

 

 鼻をつく匂い。延々と喘ぎ声を発して粘液を貪る女たち。見るに耐えず、目を逸らせば灰色の空と、先の見通せない霧の壁。

 ヨセフカは、思わずその場から逃げた。半分抜けた腰で、必死にあの地獄から離れようと走った。

 視界の端に流れる風景は、ヤーナムと似た造りの建物と、喘ぐ女の群れ。粘液が溢れてドロドロになっているタイルや、家の窓ばかりだった。

 

 

 

────────────

────────

─────

───

──

 

 

 ……どれほど走っただろうか。

 あの匂いが薄くなった辺りで体力が尽き、倒れこむように逃れた家々の隙間。荒い息を整え、取り敢えずあの奇妙な空間から距離を取れたことに安堵した。

 

 

「…あれは、いったい何なの」

 

 

 おそらく何かと交わっていたのだろうとは思うが、自分の目には何も見えなかった。彼女らは見えていたのだろうか。自分たちを犯している存在を。

 中には宙に浮いている女もいた。まるで吊り上げられたように宙ぶらりんの状態で、口を開け股を広げて揺れていた。

 彼女らは、確実に人ではないモノに狂わされている。否、彼女らですら、人ではないのかもしれない。そう、ヨセフカは思った。

 

 これだけ離れても、あの喘ぎ声はやまない。あれはもはや人間の声とは違う、別の生き物の鳴き声ではないだろうか。そう考えられるほどに、()()()()()()

 

 

「……ダメね、頭がおかしくなりそう───誰ッッ!」

 

 

 びちゃり、という音が、自分のすぐ近くから聞こえた。咄嗟にロスマリヌスを構え、すぐに戦える準備を整える。

 しかし、現れたのは自分の想像を遥かに超える存在だった。

 

 

「ッ…ぃ、ッ……!?」

 

 

 何とか悲鳴を飲み込んだヨセフカ。

 その目の前には、大量の触手が地面に刺さっていた。そう、生えていたのではなく、刺さっていたのだ。その触手は、あの街から伸びているらしく、根幹に何があるのかは見えなかった。

 触手の刺さる地面には水もないのに波紋が波打っており、時折何かを探るように掻き混ぜられている。

 すると、一本の触手が何かを釣り上げた。それは、白く細長いのっぺりとしたモノで、生きているのかビチビチと跳ねている。

 そして、それを見ていたヨセフカは気絶しそうになった。その白い物体が()()だったからだ。色もなく、脚も尾鰭のようで、背中や腹には内臓の一部なのか管のような物が浮き出ているが、顔はれっきとした人間の女性だった。

 

 自分も治験の過程で人を外れた生命体を見たことはあるが、あれは全く知らない存在だ。

 あれはいったい何だ。まるで海洋生物ではないか。そんなことを考えているうちに、触手は次々にイカ女を釣り上げている。

 その全ては触手に巻き取られながらあの街に連れて行かれており、その末路は容易に想像できてしまう。

 それにしても、数が凄まじい。既に50は超えたのではないだろうか。石のタイルや土の中から一本釣りされるその光景は、まるでイカ女たちが、あの街に喰われているようにも見えた。

 

 

 そこまで考えたその時、ヨセフカの頭が割れそうなほどの痛みを発した。悲鳴を抑えるために口元にあった手は頭に当てられ、思わず地面に倒れこむ。

 痛すぎる。頭蓋骨をカチ割られたかに思えるほどの痛み。頭の内側から滲み出てくるような激痛がヨセフカを襲った。

 

 

「あ゛ぁっ…痛、い……ッッぎ、ぁぁあああ…ッ!」

 

 

 叫ぶことしか出来ないその姿は、かつて彼女が治験していた患者と似ていた。

 聴こえるのは自分の悲鳴と、触手が蠢く水音……そして、いつの間にか自分を取り囲む女たちの微笑だった。

 

 

「クスクス」

「ああ、お可哀想に」

「本当、可哀想ね」

「知らないから、痛いのです」

「拒むから、見られないの」

「恐るから、逃げるから」

「せっかく落ちて来られたのに」

「フフッ、愚かなお人」

「これは救い」

「漸く訪れた御慈悲なのに」

「目を閉じるなんて、不敬ですよ」

「あのお方が」

「ええ、あのお方の」

「愛を疑うなんて」

「私たち、幸せなのよ」

「フフ、フフフッ」

 

 

 容姿はそれぞれ全く違えども、群がるは全て女だ。イカ女に加えて、半透明で手首を縛られた幽霊のような女。同じく半透明だが、首と胴が離れたデュラハンのような女。骨のような狩装束を纏う女狩人も其処に居た。

 誰も彼もがマトモではない。頭痛により抵抗できないヨセフカは、彼女らによって裸に剥かれた。

 頭を抑えていた手すら拘束されて、ヨセフカはやっとの思いで逃れたあの街に連れ戻される。

 

 

「ぃや、イヤぁぁぁぁあ!!離してッ、ぁあっ、痛い…!ぁ、頭が……ッ、や…だ、れか…………助けて……っ!」

 

 

 痛む頭に甘くて青い匂いが入ってくる。匂いに反応した触手が迫り、逃げようとするも女たちの拘束によって動けない。

 目の前にある触手は赤黒く、植物の根のように枝分かれしていた。それら全てが口を開き、ヨセフカの頭部に巻き付いていく。

 それだけでは終わらない。腕や脚に伸びた細い触手は、まるで輸血する際の針のように手首や内股の血管に突き刺さったのだ。

 

 

「これで、もう大丈夫です」

「ええ、もう痛くないわ」

「私たちと同じ」

「痛みなんて、苦しいだけよ」

「苦しいのは、もうイヤだものね」

「気持ちいいでしょう」

「それが幸せなのよ」

「幸せって、気持ちいいの」

「愛されるって、素晴らしいわ」

「あら、もう達してしまわれるの?」

「あらあら、直接神秘を打たれるなんて」

「羨ましいですわ」

「ウフフ、お汁でベタベタです」

「お尻の穴まで丸見えね」

「お乳も吸って貰いなさいな」

「クスクス、もっともっと溺れましょう」

 

 

 咥内を触手に犯され、胃や肺には大量の神秘を流し込まれた。眼はゲル状の触手に舐め回され、耳も隙間なくブチュブチュと犯し尽くされた。

 周りの女たちも各々が触手を頬張り、体液という体液を垂らしながら肉の宴を始めだす。

 

 それは、さながら生け贄の儀式のよう。

 一つの歓喜を共通意思として、無数の命が一つの命のように蠢き、のたうち、悦を味わいながら次の色を求め、増殖と漸増を繰り返しながら無限に愛を享受し続ける。

 その歓喜が『神』に対する信仰であれ、『獣欲』による満足感であれ、『上位者』という存在の一体であれ、彼女らは漸く同じものになれたということだ。

 なんとも素晴らしい。夢のようじゃあないか。

 たまたまゴースが打ち上げられた村に住んでいただけで頭蓋骨に穴を空けられた者。瞳を得るためなどと言われ、無理矢理寄生虫を埋め込まれた者。血族の関係者というだけで首を落とされた者。穢れというものを持つばかりに車輪に挽肉にされた者。

 それら全ての苦痛が、この触手によって除かれた。今まで無限に味わい続けていた痛みを、快楽に変えてくれたのだ。

 さらに、私たちを安全な夢の中に取り込み、守ってくれているのだ。対価は己の身体のみ。なんと慈悲深い方なのか。

 

 これを救世の神と言わず、何と言うのだ。

 だから彼女らは喜んでその身を捧げる。苦痛の沼より掬い上げてくれた感謝を込め、せめてもの対価として。

 孕むかもしれない?

 それこそ本望だろう。神の子を孕めるのだ。こんな名誉なことはない。いずれこの街は、神の伴侶と子で溢れ返る。

 おお、まさに理想郷ではないか。あのような地獄は遥か彼方にあり、もう二度と帰ることもない。永遠にこの甘い夢に浸り続けていればいいのだから。

 

 

───わかるか、ヨセフカ。

 

 

 ヨセフカを包む触手の繭に、滲むように出てきた狩人。彼女の虚ろな顔を撫で、憂いを帯びた表情で言葉を零す。

 

 

───この世界は、女たちの最後の足掻きだ。

 

「…ぁ……んぉっ…ぉ゛ぉお…、ぁあ゛っ…ふぅぅ…ッ、ぉ、ぁ」

 

───人の枷はもはや外れた。今や貴女も私の家族、守るべき一員だ。

 

 

 ヨセフカを腕に抱えて、狩人はフワリと宙に浮く。

 灰色の空はとても重く、まるで蓋のようだった。

 霧の中に広がる蓋をされた街。ある意味あそこは、行き止まりなのかもしれない。

 だが、それを嘆くものは一人も居なかった。

 理想の夢は似通えど、認識など人それぞれであるが故に。

 

 

 

 




お待たせしました。
鈴原るるにハマった(2回目)
あとは熱中症とか就活とかバイトとかが原因。

さて、今回はシリアス重視のエロ話を書いたつもりですが、どうでしたかな。
個人的には、もうちょい不気味な雰囲気にしたかった。
初めてデスサンタに拉致られたヤハグルみたいな感じにしてみたかった。
もうちょっと、こう…あるだろ!
まあ、振り返りはこんなもんですかね。

あ、鈴原るるにハマったんですが(3回目)
あの娘凄いね。破戒僧初見撃破は感心しました。
KOTAROのくだりは愉悦で麻婆とワインが止まりませんでしたな。
魔界村は自分がやったことないんで見てもアレでしたが、ブラボは凄い楽しかったです。
勢い余ってでびるるのアーカイブも見て、『ビッグダディ!?』で無事に爆笑しました。

では、最後まで見てくれてありがとうございます。
感想待ってます。


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精算

お久しぶりです。
人によっては若干の鬱展開なのかな、ドシリアス。
でも綺麗にするように頑張ったよ。


 もう何度、こいつを刻んだだろうか。

 

 既に事切れ、血も肉も内臓も全てぐちゃぐちゃに潰されている。原型などもってのほか、何人纏まっているのかさえ分からない血塗れの肉塊。

 ガスコインは、それでもなお、斧を振り下ろす手を止められなかった。

 ひたすらにこいつが憎くて、ひたすらに悲しかった。妻が目の前で殺されて、その死体に群がろうとしたこいつらが憎くて仕方がなかった。

 

 獣にかまけ過ぎて、肝心な守る存在を取り零した。間抜けもいいところだ。大切な妻1人守れなくて何が狩人だ。何が獣狩りだ、馬鹿馬鹿しい。

 よりにもよって、自分の中にある野生衝動と欲望にすら勝てなかったクズどもに自分の家族は殺された。

 

 ああ、憎い…ッッ。

 殺しても殺しても、悲哀と憎悪は煮え切らない。さっさとどちらかに傾けばいいものを、何をぐずぐずしているのやら。

 

 

「クソッ……」

 

 

 ブチブチと肉の繊維を引っ掛けながら、ひたすらに切り刻む。

 もはやこの頭と胸で渦巻く感情のせいで目も耳もおかしくなった。包帯を巻いた目は包帯越しにも光をとらえ、耳は異常なほど遠くの音を拾う。

 クソ喧しい上に視界は常時真っ昼間だ。勘弁してくれ。

 

 

「いつまで、やっているんですか…」

 

 

 女が、いた。

 肩を掴まれ、言葉を投げかけられた。それと同時に渾身の力を込め斧を振り切る。人語など喋りやがるな獣畜生が、とでも言わんばかりに。

 

 

「……ッッ…何だと」

 

 

 しかし、刃はその女の腕半ばで止まっていた。奇妙な感触だった。何かに食い止められているはずなのに、骨のような硬いものではない。ミチミチと肉のようなものに刃が噛み付かれているかのようだった。

 咄嗟に斧から手を離し、改造した散弾銃を至近距離でぶちかます。普通なら頭がザクロになるどころか、首から上が消し飛ぶだろう。

 

 

「ちィッ…!」

 

 

 だが、無傷。依然として軽傷だ。弾丸で風穴が空くどころか皮膚を突き破りもしない。

 目の前の狩人の肌に当たった散弾は、やがて勢いを失いポロポロと地面に転がった。

 

 ガスコインは焦った。腐るほど獣を狩り、その過程で頭がイカれた狩人を殺したこともある。

 その上での判断だが、こいつのような化け物は見たことがない。人の形をしているが、それだけだ。陽炎のように曖昧な癖に、視界の中からは決して外れない。

 

 

「………」

 

 

 女は何も言わない。得物も持たず、銃も腰に下げたまま、ただ淡々とこちらに歩み寄る。まるで交戦の意思などないと言わんばかりに。

 さらには腕に引っ掛かっている斧を外し、こちらに手渡してきた。

 その舐めた態度にもイラついたが、何よりガスコインを激怒させたのは、目の前の女から娘と同じ匂いがするということだった。

 少なからず血の匂いもする。変わり果てた自分の鼻が如実にそれを伝えてくる。

 

 

「貴様……誰だ」

 

「わかりませんか…」

 

 

 質問に質問で返してくるとは、まったく人間らしい。言外に察しろということなのか。

 だからこそ怒りを抑え、聞き出さねばならない。お前は誰で、娘と何の関わりを持った人物なのか。

 

 

「わかるものか。俺がわかるのは、貴様が狩人で、その体から俺の娘の匂いがすることだけだ。さあ、言え。貴様は誰で、その匂いを何処でつけたッ!!」

 

 

 虚偽は許さない。少しでも誤魔化そうとする気配が見られたら即座に叩き切ってやる。

 ガスコインは受け取った戦斧を目の前の女狩人に突きつけ、問うた。それに対して女狩人は幾ばくかの間目を伏せ、帽子と口元を覆う襟を解いた。

 

 ─────…………

 

 綺麗な顔だった。およそ血の味を知らないだろうと思えるほどに、艶やかな肌をしていた。月光を反射する金髪は後頭部で美しく整えられており、目は宇宙に輝く星空の如く鮮やかだ。

 

 

「……バカ、な──その顔は…っ」

 

 

 しかし、()()()()()()()()()()()。かつて自分と逢瀬を重ねたあの顔に。今や後ろで哀れにも物言わぬ屍になってしまったあの顔に。

 いつしか神父は突き付けていた斧を下げ、赫怒を鎮めていた。包帯を巻いた眼からは涙が滲み出し、現実として認めたくないのか脚が勝手に後退る。

 

 

「逃げないで」

 

 

 それを見て尚、女狩人はこちらに歩み寄る。その正体など半ば理解してしまっているにも関わらず、神父はその現実を受け止めきれずにいた。

 墓石が背中に当たり、やっとその逃げ腰が止まる。見てはいけないものを見た様な、底の見えない大海原に放り出された様な、そんな不快感と孤独感を感じていた。

 

 

「…あり得ん。その顔はヴィオラのものだ…ッ、娘の匂い、妻の顔、いったい何なんだ貴様は…!!」

 

「もう、わかっているはずよ……お父さん」

 

「ふざけるなッッ!!」

 

 

 震える手で、銃を構えた。今すぐにでも目の前の女を殺してやりたいのに、その女本人から漂う紛うこと無き娘の匂いの所為で体が勝手に拒否反応を起こしている。

 有り得ない。その言葉だけが神父の頭蓋を埋め尽くしていた。

 なぜなら神父が知る娘ヘレナは、まだ10歳にも満たない幼子だ。夜が来るだけで母親に甘えに行くほど臆病で、獣の鳴き声が聞こえようものなら腕の中で声を殺して泣いていた子だ。

 

 

「そうだ、俺の娘はまだ子どもだ!貴様の様に狩人になんぞなっていてたまるかッ!」

 

 

 もっともな叫びだ。事実ガスコインは、ヘレナが次の誕生日を迎える頃にヤーナムを()とうと決めていた。

 しかし、その日を迎えずして妻は死に、己もまた人の域を外れようとしている。その末路も、悍ましさも、この目で何度も見てきた。

 だからこそ、そんな危険極まる恐ろしい世界にヘレナが足を踏み入れる訳がない。あの臆病で泣き虫の可愛い愛娘が狩人になるなど有り得ない。

 

 事ここに至って、女狩人は武器を構えない。腰に仕込み杖と短銃を引っ提げ、既に間合いに入っているというのに。ただ静かに歩いてくるだけ。

 

 

「私は───

 

 

 やめろ。名乗るな。

 頼むから認めさせないでくれ。

 全てを諦めた今に至って希望など示さないでくれ。もはや自分に時間はない。救いなどない、その意味をなさない。

 

 だから、もう、やめてくれ。

 

 

 ───あなたの娘、ヘレナです」

 

 

 

 

 

「狩人の業を教える…ねぇ。まったく、無茶を言う」

 

「?」

 

 

 ヘンリエットは少しばかり頭を抱えていた。目の前の純粋無垢を体現しているような幼子に、獣を狩る技術を教えなければならなかったからだ。

 頼られた手前役割は果たすが、どうにも気乗りがしない。と言うのも、ヘンリエット自身が誰かに何かを教えるということが初めてだからだ。

 

 まあ、なるようになるだろう。とにかく武器を選ばねばならない。

 そう思い、狩人がやたらと多くの血晶を放り込んでいる棚を漁った。出てくる物は見慣れたアイテムや道具の数々。どれも丁寧に仕分けられており、それぞれ100個近く揃えられている。

 これだけで狩人がどれほどの時間を悪夢に費やしたか窺い知れる。

 

 

「ヘレナ、こっちに来なさい」

 

「なに?」

 

 

 子どもに武器を選ばせるなど本来ならば御法度もいいところだ。

 しかし、悪夢において法など意味をなさない。子どもであれ老人であれ、武器を取り戦わねば喰い殺されるだけだ。

 

 何故か血石を使用した形跡のない武器が大量に収められていた棚から、比較的軽い部類の物を幾つか取り出す。

 慈悲の刃、仕込み杖、落葉……寄生虫は論外。大体こんなところだろう。とは言え、この中で実用的な物を考えるならば杖だ。仕掛けを起動しても両手が塞がることもなく、射程が伸びる利点もある。何度も振り回す必要もないことからスタミナの消費も他に比べて少ない。

 

 

「……これが、今日からあんたが持つ得物だ」

 

「えもの…?」

 

「まあ、相棒とでも思っておけばいいさ」

 

 

 初めて握る自分と同じか少し小さい程度の金属製の杖。その辺の格好つけた紳士が持っていそうな平凡な見た目だ。

 しかし、その機構は至極実用的なものだ。金属製ともあり、そのまま鈍器としても用いられる。持ち手も握りこみやすく、先端は釘のように鋭い。ある程度の尽力と使い手の技術性が伴えば、獣の表皮を貫き、その骨肉に傷を負わせることも十分可能だ。

 仕掛けを起動すればあっという間に軽量の蛇腹剣に切り替わる。細かく分かれた刃はワイヤーによって連ねられ、まるでノコギリのように荒い傷を刻む。

 少し技術を多く必要とするものの、力の弱いヘレナにはノコギリ鉈や斧より手に馴染むだろう。

 

 

「……見ているんだろう。武器は決まった。私はどの程度で仕上げればいい?」

 

 

 すると、石畳の下からヨセフカと偽フカを担いだ狩人が生えてきた。担がれた2人は小刻みに痙攣しており、意識を失っている。

 狩人は2人を使者に預けながら、帽子と襟を解いた。

 

 

───期間は10年。夢の時間軸のみを固定して、他の悪夢から隔離する。

 

「10年…長すぎやしないか?」

 

───問題ない。アレを相手取るには、10年でも短いくらいだ。

 

 

 そう、ヘレナに狩りを教え、いずれ超えねばならない因果に相対させる。でなければアレも悪夢から抜け出せず、永遠にあの夜を繰り返すだけの人形のままなのだから。

 身内の死によって狂い果てたならば、同じ身内に刈り取られなければならない。そうすることで、アレはヘレナの中で『死んだ』と認識される。

 アレの存在は、妻を失った憎悪と悲哀の他に『娘が帰りを待っている』『娘に生きていると信じられている』という支えがあったからこそ。

 その支えを圧し折ってやらねば、アレは───ガスコインはこの悪夢から目覚めることは叶わない。

 

 

「……その間、私のことは放ったらかしか?」

 

───…いや、厳密に言えば、私がヘレナを拘束する期間が10年のうち8年。残りの2年を君が請け負う計算だ。

 

「それについては理解した。ただ、釣った魚には責任を持って餌をやれ。というか構え。肉の一片でも寄越せ」

 

 

 要は嫉妬らしい。まったく、抱きしめたいほど可愛らしい女性だ。

 しかし、ヘレナを8年かけて調整し、成長させるには狩人自らが付き添わねばならない。その間、肉体はともかく精神面では離れられない。

 必然、言葉も何もない、半ば陵辱のような営みになってしまう。

 獣の病を剋したヘンリエットは、己の獣欲を隠そうとしなくなった。獣を完全に制御下においた彼女は、今では人の身のまま欲に支配されるギリギリの線を楽しんでいる。

 その結果、彼女と交わらぬ日はなくなった。どれだけ忙しかろうと、最低でも寝て起きるまでの間は、常に肉棒を咥え込んでいる。腹の中で肉を頬張り精を飲み干し、時には人形も巻き込んで多淫な宴を楽しむこともあった。

 それは、もはや独占欲に近い。本人は自覚していないが、動物のマーキングのようなものだ。この男と最も多く交わっているのは私だと主張したいのだ。

 なまじ狩人が一度に無数の雌と交わる機能を有しているため、己のみを見続けさせることができない。最初の赤子も人形が産み落としている。

 ならば、せめて回数では頂点に立っていたかった。そんな願いの果てが、今の彼女だ。

 

 

「本当ならば貴公を子宮の中で飼っていたいが、流石にそこまで無理は言わん」

 

───……為すべきことを為したあとならば、私は一向に構わない。

 

「……冗談だ。だが、嬉しかったよ」

 

───もう一度言うが、8年だ。どうする。

 

「決まっているだろう。貴公の腹の中で過ごすとも。そうすれば8年などすぐだ。それに、新入り2人のことも知っておきたい」

 

 

 クスクスと悪い微笑みを浮かべながら、ヘンリエットは狩人の内へ沈んでいく。杖で遊んでいるヘレナを尻目に、女狩人は夢から消えるのであった。

 

 

───……聖杯を模したトラップダンジョン……ふむ、これなら8年経とうが飽きぬだろう。

 

 

 そして、相変わらず変な方向に智慧が働くのがこの変態上位者だ。簡易祭壇に聖杯を置き、捧げる供物は全て自分由来の肉と血と精液とし、内部の敵すら自分の欠片から作り上げた。

 聖杯そのものから悲鳴が聞こえた気がしたが、この狩人は止まらない。どうせならやり過ぎるくらいやってやろうと、宝箱からトラップまで、全てに自分と同じ生殖器官を取り付けた。

 紛うこと無き最低の所業だが、狩人自身の精神が伴わない陵辱だ。せめて()()()()()やらねば演出に欠けるというもの。

 そうして完成した『性杯ダンジョン』にヘンリエットとヨセフカらを送り込んだ。

 

 

───よし……あとはヘレナだな。

 

 

 

 

 

「ふざけるなッ、ふざけるなッ!お前がヘレナだと?()()()()で騙るか、この化け物め!!」

 

「そうよ。でなければ、私は此処に立てなかった。だから成ったのよ。この有り様に」

 

 …もっとも、望んで成り果てたのだけれど。

 

 

 

 繰り出されるは一撃一撃が必殺の斧。敵を叩きつけ、立ち上がらせることすら許さない重打。それに対してヘレナは杖で受け流す。

 杖の背や腹を沿わせ、タイルが砕けるほどの一撃を水流の如く流しきる。銃は依然として使わない。時に片手で、時に両手で杖を操る。僅かな隙を見逃さず、確実に傷を負わせる一手。ステップを組み合わせたそれは、まるで舞のようだった。

 

 これにはガスコインも攻めあぐねた。銃は効かず、斧の一撃も受け流される。今まで相手にしたことのない部類の敵だ。

 もう何時間戦っているだろうか。徐々に体力が消耗していく。重心を揺らがされ、ふとすれば膝をつきそうになっている。ゼェハァと耳障りな息切れは止まず、動悸に合わせて全身に負った細かな傷から血が流れる。

 そのせいで血が足りないのか、筋肉が痙攣して腕もうまく上がらないときた。今では斧を地に突き立てて何とか立っている状態だ。

 

 

「……満身創痍ですね。両ひざが地につきますよ」

 

「だ、まれっ…貴様に、話す…舌など──持たん……ッッ」

 

「そう、ですか……ッ───」

 

 

 ただ、杖を振るった。それだけでガスコインの斧が叩き折られ、膝どころか両手をつかされた。跪かされた拍子に帽子が落ち、包帯で覆った目元が露出する。

 ヘレナはその包帯を忌々しげに見つめた。

 

 

「───いい加減、現実を見なさい……!」

 

 

 包帯を引き千切り、そのままガスコインの頬を強かに引っ叩く。

 先程までの激闘に比べればダメージにもならないものだが、それは確かに巨体を倒れさせたのだ。

 自分が何をされたのか理解できないガスコイン。叩かれた頬を抑え、呆然としたまま、自分を張り倒した相手を見た。

 

 

「な……」

 

 

 それは、苦い顔をしていた。初めて肉眼で捉えたその顔はどのような感情を表現しているのか、見苦しい程にくしゃくしゃになっていた。

 これでもかと眉間に皺を寄せ、歯を食いしばっているのであろう口は固く引き結ばれている。

 指に絡んだボロボロの包帯を投げ捨てながら、彼女はなおもガスコインに詰め寄った。

 

 

「あなたは……あなたはいったい此処で何をやっているんですか!獣憎しでこんなくだらない夜に何度も何度もその人生を費やして!挙げ句の果てには家族を忘れて自分まで獣になり下がろうとしている!」

 

「…ぁ……」

 

「もう復讐は終わっているのに、あなたは今もそこで止まったままじゃないですか!私は…あなたの帰りをずっと、待っていたのに……ッ」

 

「お前、は…」

 

 

 女は涙を流しながら、男の首に手をかけた。人外の力で、ギリギリと気道を締め上げる。

 

 

「……ッ…もう、前に進まなきゃいけないんです。『仇を殺し続ける』…そんな夢からは、醒めないといけないんです」

 

「…ッガ、ハ…ァぁ゛…ギィ……ッ」

 

 

 事ここに至って、ようやく男は理解した。目の前の女が、正真正銘の愛娘であることを。もはや匂いや見た目など関係ない。他の誰でもない父親である自分が、そう自覚したのだ。

 

 ああ、この泣き虫で優しくて愛らしい顔は、間違いなく自分の娘だ──と。

 

 

「…ク…ッうぅぅぅ……!」

 

 

 苦しさなど、微塵もない。こんな優しい弔いがあろうものか。自分の子供にその死を嘆かれながら送られて、最期を看取られる。

 母親を守れなかった自分に、こんな贅沢が許されるのか。絶望のあまり人すら捨てようとした父親失格の男に……ああ、本当に過ぎた最期だ。

 

 

「…っお、とぅ…さ…ぁっ……!」

 

 

 まったく、立派に育ってくれた。自分を打ち負かすほどの力もそうだが、なにより誰かを想って涙を流せる人になってくれた。それが一番嬉しい。

 

 未練がましい父を許しておくれ。最期に一度だけ、触れさせておくれ。

 

 

「────ハハ…」

 

「っ……」

 

 

 

 

 ……生きろよ、ヘレナ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨が降った。

 

 ヤーナムの街に、血を洗い流すような雨が。

 

 タイルを叩く雨は、いずれ排水溝を伝い、下水道に流れ込む。

 

 汚物を流し、獣を濡らし、最後は底の見えない穴へ全てを流していった。

 

 ヤーナムの市民たちは困惑の極みにあった。雨のおかげで火が消えて、濡れた石のせいで鼻もあてにならない。

 

 玄関先に置いた獣避けの香は、雨と共に地面に流れ出た。騒いだ者から順に声を聞き取られ、殺されていった。

 

 

 

 ヤーナムに、これまでにない差異が齎される。

 




はぁい、改めてお久しぶりです。
もはや生活に色々ありすぎて元のキャラなんか忘れてしまった作者でごわす。
取り敢えず短めですが、ガスコインとその娘のエピソードはこれで区切りです。これからのヘレナの出番はエロをメインにしたものになると思われ。
まあ、おそらく気分で変わりますが。

兎にも角にも久々にガッツリとストーリー進めたのでちかれた。
本当なら父親締め殺す時に「泣くな。泣きたくないから化け物になったのだろう」とか言わせたかったけど、お前死に際で喋りすぎィ!と没になりました。
やっぱ死ぬなら潔くないとね。
あ、作者は別に鬱展開好きとか胸糞好きとかではないのでご安心を。
簡単に例えるなら「寝取る」は好きだけど「寝取られる」は殺意湧かすタイプ。「寝取らせ」に至っては宇宙ネコになるので無理。


次回はエロを予定。なんでヘレナ成長してるのー?とか、ヘンリエット何してるのー?とか書くつもりです。


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大人になるということ

お久しぶりです。
といっても瀕死ですが。
え、理由?

詳しくは伏せますが、
・大好きな漫画の未完決定。
・推しの引退。
追求はナシでお願いします。
察してくれ。

※後書きに怪文書あり。



 聖杯──それは力を求める狩人が住処にしている地下遺跡のことだ。

 血晶と呼ばれる強化アイテムを求め、数多の狩人たちは最奥にいる獣や上位者を日課の如く叩き潰している。

 構造は意外にも単純であり、その階層の何処かにあるレバーを見つけ、それで開錠した扉の奥にいるボスを倒す。あとはひたすら地下へ地下へと降って行き、ボス部屋から続く道がなくなれば踏破完了だ。

 簡単だが、これが聖杯だ。要は己を強くするための試練と思えばいい。

 

 さて、本来の聖杯がなんたるかを説明したところで、この狩人が作り上げた聖杯に移ろう。

 用意した聖杯の形はこれまた奇妙であった。正面から見れば人間の女性が持つ子宮を逆さにしたものだ。聖杯の口は膣道を模した管で繋がれており、陰唇のような形状をしている。

 金属、骨、石、いずれとも違う物質で構成されているようで、時折脈動するかのように赤らむ。

 手触りは柔らかく、弾力に富んだ物のようだ。聖杯が元来持つ骨董品のような埃っぽさはなく、逆に湿り気を帯びている。

 

 狩人はそれに己の血と肉と骨、さらに神秘液を供物として捧げた。

 血は地下遺跡の根を伝い、その構造を全く新しいものへと変貌させる。

 肉は精神の伴わない狩人のデッドコピーを作り上げ、あらゆる箇所に配置していく。当然、攻撃性を持たせた『敵』として。

 骨は各階層のボスを構成した。見た目や硬さは狩人が手ずから調整したものだ。初めて見るものも多く出るだろう。何せ彼女らを8年間飽きさせずに居させなければならないのだから。

 最後に神秘液。これは従来の聖杯で言うところの「落とし子」にあたる。呪いと言っても種類が違うため生命力が半減することはないが、代わりに聖杯の全てが上位者の意に沿う機能を持つ。

 すなわち「赤子を求める」ようになる。神秘液の持ち主である狩人の赤子を求めるために、聖杯は全力でもって探索者に襲いかかる。

 この聖杯は狩人の写し身と言ってもいい。外側はともかく中身は全て狩人由来の物質で満杯となっているのだ。

 

 そんな偉大な先人たちが激怒しそうな聖杯に挑むのはヘンリエット、ヨセフカ、偽フカの3人。

 見れば分かるがこの3人が仲良く連携することなど有り得ない。

 果たして彼女らは、無事に8年後を迎えることが出来るのだろうか…。

 

 

 

 

 3人が意識を覚醒させたのはほぼ同時だった。気が付けば壁や天井に根のような物が這う、やけに湿度の高い空間にいた。

 気温はさほど高くはない。湿度こそ高めでじっとりとしているが、汗をかくほどでもない。せいぜいが肌に湿気が纏わり付く程度だ。

 

 

「……普通、だな。これは」

 

 

 狩人に手篭めにされてから幾度となく潜った聖杯だが、今回の入り口もさほど大きな違いは見られなかった。地下遺跡特有のカビ臭さや、燭台から滴る溶けた蝋の匂い。

 取り敢えずヘンリエットは、手前にある灯火に火を点けた。

 

 

「…ここは、何処なのかしら。説明してもらえると助かるのだけれど」

 

「おや、これは珍しい。あなたにも知らないことはあるのだな、ヨセフカ」

 

 

 慣れているヘンリエットに対し、ヨセフカは聖杯の存在を知らなかった。正確には、中身を知らないと言うべきか。聖杯の存在は把握していたものの、実際に潜るのは初めてなのだろう。

 ヘンリエットは進みながら簡単に聖杯のことを説明し、最初の扉を開けた。そこには先ほどと同じ灯火があり、同様に火が点けられる。

 

 

「呆れたわ。供物で中身が変容するなんて、そんな不安定な物をよく使おうとしたものね」

 

「まぁ、確実性を好むあなたからすればそうだろうさ。実際、最後まで探索しても望んだ物が手に入るかは運任せだ」

 

 

 ひとまず、ヨセフカは聖杯の概要を理解したようだ。改めてこんなところで8年過ごす事など出来るのか疑問が湧いたが、それは今考えても詮無いことだった。

 

 さて、先ほどが全く喋らない偽フカはというと、壁に這う根を舐め回していた。

 女医という立場からして不衛生極まりない行為はどうかと思うが、現在の彼女にそんなことは関係なかった。

 つい数時間前まで狩人に全身を犯し尽くされ、余すところなく骨抜きにされたのだ。挙句、脳と子宮にカレルを焼き入れられ、人間の言葉を忘れかけるほどに神秘を注入され続けた。

 ヘンリエットとヨセフカも犯されはしたが、偽フカほど暴力的なことはされなかった。偽フカはこの中で唯一、元の人格が壊れるまで狩人の性欲に嬲られたのだ。

 よって、啓蒙が高まっている今の彼女には、2人には見えない物がハッキリと認識できている。壁は石材ではなく血の通った肉壁であり、根は全て狩人の触手なのだ。

 

 

「んぁ…ぁは、ぇ……れる…」

 

「………見るからに異常だが、これはここに置いていった方が彼女のためだろうな」

 

「少し複雑だわ……同じ顔がこんな痴態を晒すなんて…」

 

「ぁぁ…しんぴ……じゅるるるるぅぅ…っぱ、ぁむ……じゅるぅぅぅ…ぷぁ、はぁ……フフ、フフフフ…私のなかで、蠢いて…」

 

 

 この2人とて、啓蒙が低いわけではない。狩人によって肉体を変えられた時から、彼女らは存在が上位者側に傾いた。

 彼女らは枠組みとしては眷属に分類され、その瞳も血も、ビルゲンワースやメンシスからすれば喉から手が出るほど欲するサンプルとなるだろう。

 ゆえに、彼女らの啓蒙もまた高い。

 ただ、深みに呑まれていないだけなのだ。

 これはもはや信仰に近い。上位者を神として、その恩恵や天啓に歓喜を見出すものだ。神の赤子を授かり、神の鎖に繋がれて、その有り様に感謝を捧げる行為に他ならない。

 偽フカはこの深みに嵌まり、呑まれた。彼女の探究心や、それに伴う技術や知識は全て狩人のために使われるようになる。何故ならそれこそが歓びだからだ。

 神のために、その身を捧げる。己を贄として神に奉仕する。幸いその身体は女であり、子を欲する神を悦ばせることができる。神の血肉に舌を這わすことができるのだから、偽フカには十分な見返りであった。

 

 

「ん゛、ごッ……ぉ、ぼぇ………お゛ッッ…!」

 

「…まぁ、達者でな。8年後にまた会おう」

 

「…………では」

 

 

 ついには這う根を剥がして喉の奥まで飲み込んでしまった偽フカを見て、2人は先へ進んだ。特にヨセフカはこれ以上見たくないのか足早にその場を去った。

 2人が去ったその場からは、延々と壁や根を舐めしゃぶる水音が聞こえる。

 偽フカの目には、今にも自分を取り込まんとする無数の触手がはっきりと見えていた。

 入り口だったスペースはいつの間にかさらに拡張されており、2人が出ていった扉は消えた。

 

 

「………」

 

 

 2人の気配が遠ざかると、恍惚としていた偽フカの表情が素面に戻った。喉奥から触手を引き抜き、滴る神秘を掌に軽く搾り取るとジュルジュルと啜る。

 口の周りに付いた唾液や神秘を袖で拭い取ると、偽フカは立ち上がった。

 

 

「……やっと行ったわね。確かにこの体はあの狩人ありきの存在になったし、心の底から忠誠を誓っているけど……フフ、探究心まで失くしたわけじゃないのよ」

 

 

 偽フカは無手だ。杖も銃も持っていない。道具はなく、輸血液すら殆ど無い。本来なら引き返すべき状態だ。

 しかし、彼女は気にしない。あろうことか神秘で濡れ、重くなった白装束を脱ぎ捨てた。身に纏うのは局部を隠す最低限の布だけだ。

 

 

「本来ならこの服も重要なサンプルなのだけれど……此処だとただの荷物にしかならないわね」

 

 

 どうせこれから気も狂わんばかりの欲望の渦潮に巻かれるのだ。身を守る衣服が今更何の役に立とうか。己の感覚を鈍らせ、正確な分析が出来なくなるだけだ。

 偽フカは正気のままに狂っている。哀れにも捕らえられ、上位者に襲われ洗脳させられて、その身を隷属の首輪に繋ぎ止められても、彼女の根幹は変わらない。

 新たな知識、新たな見識、まだ見ぬ新境地。

 彼女が求めるのはそれだけだ。貪欲に智慧を求め、そのためなら己の身すら手段として使う。

 遍く上位者からすれば何と都合のいい存在だろうか。血の穢れを継ぎ赤子を孕める存在が自らその身を差し出してくるのだ。

 

 

「さあ……私に味わわせて。貴方の中身、その深淵は何を奏でるのかしら」

 

 

 壁を叩けばそこは幻と消え、新たな洞穴が出来ていた。何処かに通じているのか薄らと風が吹いており、それには濃厚な月の匂いが混じっていた。

 偽フカはまるで導かれるかのようにヒタヒタとその穴の中に入って行き、周囲に漂う神秘を全身で感じた。気付けば背後の穴は綺麗に閉じており、今やそこは光のない真っ暗な空間だ。

 

 ヌルヌルとした肉壁に沿って進んでいくと、行き止まりに辿り着く。何かが激変するわけでもなく、偽フカは感触だけで月の香りの源泉を探し始める。

 まだ違う。ここで終わりではない。そんな確信に似た思いが彼女にはあった。何故なら、あの脳味噌がドロドロに蕩けて新しく作り替えられるような、狂気的な快楽には届いていないからだ。絶頂の彼方から戻られなくなるような経験をしていたからこそ、彼女は止まらなかった。

 

 だからこそ、彼女がそこに気が付いたのは必然だったのだろう。

 端っこの床の一部が少しだけ盛り上がっていた。触ってみると、盛り上がりの中心に向かって幾重ものシワが寄っており、その先には小さいが新たな穴があった。

 

 

「………みつ、けた…………フフ、フフフフフフッ」

 

 

 両手をその穴に突っ込み、ぐっぱりと広げる。

 すると、中には1本の太い触手が生えており、先端からは咽せかえるほどの濃い神秘がドロドロと溢れていた。

 ここだ、と思わず垂れそうになった唾液を飲んだ。この触手の根本に源泉がある。その確信が偽フカを支配した。

 彼女は躊躇いもなくその触手に口をつけ、飲み込んだ。食道をゴリゴリと拡張しながら触手は消化管を進んでいく。偽フカ自身は己を襲う吐き気など物ともせず、ゴキュゴキュと触手と神秘を飲み下す。

 やがて触手が胃を過ぎて、それに伴い彼女の体は触手の生えていた穴に上半身の殆どを突っ込む形となった。

 

 果たして飲み込まれているのはどちらなのか。

 触手が消化管を埋め尽くすにつれ彼女の腹はボコボコと盛り上がり、内臓の形をくっきりと表していく。

 今や白目を剥き、それでも嚥下する事をやめない偽フカ。飲み込むと同時に飲み込まれ、彼女の肛門から触手がひり出される頃には、偽フカは床にあった小さな穴の中に完全に姿を消した。

 

 偽フカはゆっくりと降下していく。口から肛門まで触手に串刺しにされ、まるで玩具のようにゆっくり下層へ送られる。普通なら内臓に尋常ではないダメージが入り最悪死亡するような状態だが、今の彼女の脳内を埋め尽くすのは無限の快楽絶頂だった。

 あの日捕らえられてから凄まじいほどの快楽の渦中に叩き込まれた。その快感が忘れられず、わざわざ辿り着くまでの最短ルートを探し当て、今また偽フカは暴力とも言える快楽を味わっている。

 呼吸が必要ないと知られているからか、セメントのような重さと粘度を持つ神秘に串刺しのまま浸され、完全に感覚神経をショートさせられたりもした。

 時折、腹の中で触手を満たす神秘が弾け、粘膜吸収により内臓のどこを擦られても絶頂してしまう体にもされた。

 

 現状、世界で最も冒涜的な方法で、最も淫らな肉体に変えられている偽フカ。普通に考えてあってはならない事だ。

 だが、これこそが偽フカが真に求めたものでもあった。己の肉体を供物とし、上位者に接触し、更なる研究を推し進めようとする。今のところ、これらは全て叶っている。想定通りなのだ。

 

 偽フカは既に意識を失い、喉奥からあぶくが漏れるように呼吸の残滓を溢れさせる。

 ズリズリ、ズルズル…と、ゆっくり、ゆっくり肉の道を串刺しのまま、死んだカエルのように降りていく。

 口から肛門まで全てがぐっぱりと拡張され、触手の表面から滲み出る神秘を内臓の各地になすり付けていく。

 それにより空気が押し出され、いずれ真空のような状態になり、偽フカの脳内に弾ける光と相まって宇宙に放り出されたかのような感覚になる。

 尻穴からニチニチと内襞が少しずつ捲れていき、生理現象として括約筋が元に戻すように締め付ける。

 

 

「…ッッ……ぉ゛ぇ……っん、ろぉ゛ぉぉ……」

 

 

 音が響かない真っ暗な世界。自身を繋ぎ止めているのは貫いている触手のみ。

 その姿はまるで生贄の烙印の様だった。

 

 

 

 

 気狂いとなった偽フカを置き去り、2人は慎重に前へ進む。相変わらず薄暗い空間を、松明片手にヒタヒタと歩いて行く。

 カビなのかホコリなのか、よくわからないチリが空気の中を漂い、呼吸に伴い体内へ舞い込む。狩人の体内へ潜っていることは確実なのだが、2人の肌を撫でる不気味さは常に付き纏った。

 

 暫く探索すると、これまたよくわからない煙が充満している空間に辿り着いた。薄い紫色をした、霧のように目の細かいものだ。

 それは、壁にある根から滲み出ているようだった。一瞬警戒したヘンリエットだが、時すでに遅し。襟を加工したマスクをしてはいるが、隙間から入り込む気体まではどうにもならなかったのだ。

 

 

「……っ、咽せそうだな、これは」

 

「ケホッケホッ…!生ぬるいわね、これ……」

 

「そうだな。何やら腹に溜まるようで……っ、な、壁が……ッ」

 

 

 部屋の入り口で立ち往生していると、いつの間にやら背後からだんだんと壁が閉じ始めていた。

 石壁らしきそれは、まるで波のように、あるいは畝りのように脈動し、隙間もなく空間を閉ざした。

 閉じ込められたと分かったは良いが、どう行動するべきかは考えられないらしい。この聖杯そのものが、彼女らにそんな余裕を与えない。

 粘度を持つ霧が部屋を満たし、だんだんと体の動きが鈍くなる。立つことも危うくなり膝をつくが、その膝は地よりも先に質量を持った空気に受け止められた。

 まるでそれは石化のようだ。それは吸うにも吐くにも重く、鈍過ぎる空気だった。四方八方から圧力も加えられ、2人は中途半端な姿勢で固定された。

 なんとも不可解な空気だった。もはや水の重さも超えているだろうに、湿度を持つだけに留まっている。狩装束は自らを押し潰す重石と成り果て、脱ごうにもこの空間がそれを許さない。

 

 やがて空気は脈動し、2人の肉体を固めたまま空中をベルトコンベアのように奥へと運んで行く。先は壁だというのにお構い無しに送るため、2人は潰されることを覚悟した。

 しかし、壁が生物のように蠢いたと思うと、裂け目のようなものが出来上がった。まるで女陰のような形をしたそれは、中に極小の針を無数に備えている。

 まさかあの中に捩じ込まれるのかと身を捩る2人だが、狩人の性杯は容赦が無い。頭からアイアンメイデンのような肉壺に2人を押し込んだ。

 

 声ならぬ悲鳴。肉体の感度は既に最大限に高まっており、肉針が肌を引っ掻く刺激が2人の理性を握りつぶした。

 それなりにマトモであることを自覚していた2人だが、狩人の血肉が与える快楽には抗えなかった。聖杯であるからして踏破するつもりで臨んだが、実際は8年間暮らすための肉の蔵である。

 拒絶はない。もはや好物の味を占めた犬の如く、貪り返す勢いで肉壁や触手にかぶりつく。針が口内を刺そうが関係ない。体内に入った針が溶け、媚薬が全身を巡ろうが関係ない。

 女という生き物として、この愛は絶対である。

 狩人の絶望も、目指す先も、全て見たのだ。渡してなるものか。あんな変態どもに、彼の願いを渡してなるものかと、自らを楔に繋ぎ止めようとする。

 

 その執着は、家族愛とも言えた。

 さながら子を愛する母親だ。

 

 

「あ゛ァァ……っ───ぃ、ヒぃぃ……ッッグぅ……っ!」

 

 

 もっとも、母性より本能の方が優っているかもしれないが。

 彼女らは、まるで掘削するかの如く肉の中を貪り進む。上位者となった狩人の血肉を、文字通り食い漁りながら奥へ奥へと沈んでいく。

 地下迷宮の構造など関係ない。壁を嚥下し、床や天井を食い破り、彼女らは沈む。果たして底があるのかもわからない。そんな深淵を目指しながら。

 

 

 

 

───発ったか。

 

 

 鳩尾から臍あたりを摩る狩人。彼女ら3人は、今も元気(?)に腹の中をのたうち回っている。

 しかし、壁や床に()()()()()トラップを仕掛けはしたが、まさか掘り進められるとは思わなかった。せっかくの宝箱や素材が無駄になってしまった。

 ただ、思ったより早く彼女らは深みに辿り着こうとしてくれている。それも自主的に。それを鑑みるならば、むしろ自分があれこれ道標を置くのは無粋なのかもしれない。

 

 げに恐ろしきは、ヒトの持つ底なしの探究心と欲だろうか。私も彼女らも、第三者から見れば異常者に見えているに違いない。ヒトの枠から外れようとする我らは、ヒトの枠に収まろうとする彼らにとって忌むべきものだからだ。

 拒絶反応が強いヤーナムの民も、獣と人を狩る狩人は自分とは違う生き物だと思っている。だからこそ、彼らは他所者を嫌うのだ。

 

 

───……とは言え、それが殺さぬ理由にもならないが。

 

 

 既に狂い果てた街。何もしないなら無視するが、邪魔をするならば焼き払うまで。ましてそれが畜生ならば尚更に。

 

 

──まあ、今はいい。遅かれ早かれ、どのみち拾いきれば棄てるのだ。

 

 

 狩人はヘレナに向き直り、しゃがみ、目線を合わせる。改めて見るマスクを外した顔に、ヘレナは「わぁ……キレイなおめめ」と物珍しげに覗き込んだ。

 やはり啓蒙を得ているらしい。直視して尚、発狂しない。この素質は天性なのだろうか。

 

 

「狩人さん、お姉さんたちはどこに行ったの?」

 

──……………修行だ。

 

 

 嘘である。部分的に、だが。

 

 

──ヘレナ、君にもこれから修行をしてもらう。とは言っても、君が直接何かをするわけじゃない。

 

 

 ギチギチと音を立て、狩人は変身する。人を逸した異形の姿。ツルリとした肌に、全身から生える無数の触手。腕や脚などかろうじてヒト型を保っている箇所もあるが、常人は誰一人としてソレをヒトとは認識しないだろう。

 月の魔物へと変貌し、ヘレナを両手で優しく包み込む。当の本人は目の前の現実に驚き声も出せないらしい。怖がるとか逃げるとかではなく、信じられないという感情が彼女を埋め尽くしていた。

 

 かつての魔物と同じように、抱えた相手を眷属化する行為。へその緒が無ければ逃れることはできない契約の儀式。

 

 

──君はただ、耐えればいい。君の精神を、8年かけて鍛え上げる。いつか向き合わなければならないものの為に。

 

「……ぇ…ぁ、の………」

 

──………これは、君のお父さんの物語だ。

 

 

 

 抱え上げたヘレナを胸の膜の中へ押し込む。ゴポリと気泡が泡立ち、ヘレナはすぐにも眠りに落ちた。身体を小さく丸め、まるで胎児のように狩人の見せる夢に落ちる。

 彼女がここから出られるのは8年後。己の父親がどのような道を歩み、何を思って果てたのかを見せる。

 そう、狩人は見せるだけ。そこから何を感じ、選び取るかはヘレナ次第。

 

 次第に狩人の頭を形成する触手の中に、淡い霧のようなものが生まれた。まだ小さく未発達なそれは、ゆっくりと空へ上がり広がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 この日、少女は在りし日の未来を見る。

 




 表紙に触手を描いてるのに、中身のメイン竿役がおっさんだった時の萎え具合は果てしない。女の子と竿役の間でガイナ立ちしてマルチプルパルスぶちかましたくなる。
 触手と女の子の間に割り込むとか、百合の間に割り込むオス並みに許されないと思う。
 つまり触手を蔑ろにしている作品ではヌけないということである。
 あと、万能触手チンポに性能で勝てる肉棒とかこの世に存在しないのだ!!サイズはもちろん、形状変化や媚薬分泌まで自由自在。分泌液による摩擦軽減で膣内が擦り切れることもないので、セックス中の怪我も有り得ない。膣や肛門、クチのほか、穴という穴に入ることができるので、生物が享受できる最大限の快楽を味わえる。その気になれば神経系も思いのままなので、犯され過ぎても頭が馬鹿になることはない。
 なんなら、その気になればセックス中に女の子の体のメンテナンスを行うことも可能なのである。子宮や卵巣に異常がないかとか、ホルモンの乱れを治したりとか、生理不順を治したりとか、肌荒れとか鬱とかその他もろもろ遍く女の子が悩むであろう症状を全てに完璧に対応できるのだ。
 もう触手はセックスの究極体とも言えるのではなかろうか。全ての体位、全てのプレイに対応し、さらには出産の手伝いや産後のケアまで完璧に熟せるのだ。なんだこの完全生物チンポは、圧倒的ではないか。
 犯すことのみに特化したチンポなどただのチンポ。これまでのチンポの役割に従事したチンポではなく、新しく何が出来るかを追求したチンポこそ最良のチンポと言えるのではないだろうか。その点を突き詰めればただのチンポより機能性が圧倒的に高い触手チンポが史上最良のチンポとなることは確定的に明らか。古いチンポは淘汰され、これからはより優れたチンポが台頭する。股座から2、3本生えているとか最早粗チン。全身からチンポを生やしてこそ触手チンポ。言葉通り貪り、犯してこそチンポの本懐。
 だが忘れるなかれ。触手チンポと、何より女の子に対する尊びの念を。この2つを蔑ろにした時、その触手チンポは触手チンポではなくなると知れィ!!(自戒)


…………ふぅ(凄くやり切った顔)


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