ジャーニー・エイジス (ハテギツネ)
しおりを挟む
別れと出会いの最初のお話
初めて荒廃した世界を見たときの光景を、今でも鮮明に覚えている。
初めて、そこに日の光が差し込んだ時の光景を、今でも鮮明に覚えている。
・・・そこで『彼女』を見たときの光景を、今でも忘れたことはない。
私が目を覚ます前、頭に植え付けられていたのはとある方の言葉だった。
「戦術人形を殺せ。人類を滅ぼせ。お前たちはそのために生まれてきた」
あらゆるデータが入ってきた。戦術、記録、歴史・・・ありとあらゆるものすべてを、敵との戦闘に生かすために。
夜明けとともに、私は戦場へと降り立った。
私たちは戦った。接近する彼女たちを足止めし、空きをみてその体を串刺しにした。
朝日が差し込んだ。
貫かれた彼女が私を睨んだ。もう動けない筈なのに、目だけは闘志に溢れていた。助からないはずなのに、希望は失われてはいなかった。
・・・眩しい、と感じた。
思わず、空いている手を差し伸べた。
だが、その時には彼女は事切れていた。
初出撃は、私たち鉄血陣営の勝利で終わった。
たが、私のこの感じたことへの思いが晴れることは無かった。
その日から、私は戦術人形を殺すことが出来なくなった。
武器を振りかざす度に、あの日の出来事が頭を過ぎった。
いつしか。彼女たちを壊すのが、無意味な行動に思うようになった。
このままでいいのだろうかと、疑問を持つようになった。
・・・周りに。私の知らない世界に。興味を浮かべるようになった。
戦闘で彼女たちに何度も壊された。何度も再開発されたのち、不具合だと言われAIを何度も調整された。だが、それでも、この思いが消えることは無かった。
そして、私の廃棄処分が決定されたとき、私は生まれた場所を去った。
重い巨体をやああ、と動かし、どこか遠くへと歩きだした。
不具合で生まれたのだとしても、この思いを、消したくはなかった。
もっと、この世界を見てみたいと思った。
歴史やデータではない。自分のこの目で、もっと、世界を知りたいと思った。
あわよくば。
私では持ちえない、眩しいモノを持った彼女たちを、もっと見てみたい。そう思った。
その思いを懐きながら、私の、宛のない旅は始まった。
○月×日 天気、昨日に引き続き快晴。
鉄血の下を離れてから、今日で3ヶ月が経つ。
周辺熱源レーダーに反応なし。各部位の動作が良好なことを確認。発電用のソーラーパネルを格納し、ゆっくりと目を覚ます。
今いるのは廃棄された油田施設。
動力源の燃料が少なくなってきたため、ここに何かないかと探しに来たのだった。
ここら一帯はグリフィンと鉄血の緩衝地帯には入っていない。だから手つかずの燃料が残っている可能性がある。
もっとも、その記録自体3ヶ月前の代物だから今がどうなってるかは分からないが。
万一に備えて、背部ユニットから飛行偵察ドローンを射出し、映像をリンクしながら歩く。
これは以前放棄された基地を散策したときに見つけた代物だ。映像はかなり粗いが、ダミーなど無い私にとってはこれでも有り難い代物だ。
しばらくは順調に散策していたが、ふとそこで足が止まる。
・・・熱源レーダーに反応あり。
私は姿勢を低くする。・・・敵性固体。グリフィンの人形が居るようだ。
今まで私は人形達との戦闘は避けて来ている。
殺めたくないというのもあるが、今の私は武器と呼ばれるものが搭載されていない。槍も盾も逃げるときに全部置いてきてしまった。あるのは背部ユニットに格納してあるスモークグレネードやフラッシュパンぐらいである。
どれもこんな開けた場所で使うに適したものじゃない。
この状態で彼女たちに囲まれたら一溜りもなかった。
なんとかして避けていけないかを考察していると、ふと、あることに気がついた。
まず、レーダーにある反応だが、その数は一つ。そして、どういう訳かその場から全く動く気配がない。
・・・こちらには気がついていないのか?
だとしたら、彼女は何をしている?
彼女がいるのはちょうど道のど真ん中といったところだ。隠れているにしてももっと良い場所があると思うのだが。
飛ばしていたドローンを使って、その場を覗ける場所があるかを確認する。
少し離れた先に倒壊したビルがあり、そこから覗けそうだということがわかると、ドローンに周囲警戒をさせながらそこへ向かった。
移動したあとも、彼女はその場から動かないままだった。
ビルの部屋の一角に入り、その場を覗く。と。
・・・動けない理由が分かった。
彼女は倒れていた。ボロボロの状態で。
遠目で拡大し、観察する。右足がひざから下が完全になくなっており、配線がむき出し。
肌に張り付いている黒いジャケットは所々破れ、局所も見えてしまっている。
その上から体全体に撒かれている、おびただしいまでの赤い人工血液。
もう一度熱源レーダーを介してみる。反応がある。間違いなく、彼女から。
・・・あんな状態で、生きている。
警戒しながら、彼女へ近づく。
一歩、一歩。少しずつ。・・・そして彼女が足元についた。
彼女はピクリとも動かない。目には光がともっていない。が。
スキャンを試みる。
ほとんどのパーツは機能していない。ただ一つだけを除いて。
・・・コアが生きている。
私は、眩しいものが観たいと思った。事切れた彼女が見せたような、希望に満ちて、闘志にあふれ。
私では持ちえない、あの眩しいまでの・・・いろんなモノを観たいと。
そのために私は旅に出た。
足元の彼女は、こんな状態になりながらも、生きている。
いや、生きようとしているように見えた。
あの時の彼女は事切れたために、私では持ちえないその先を見ることはできなかった。
もしこの人形が生き延びた先に、私では持ちえないその先を見ることができるのなら?
・・・私は、それを見てみたい。
・・・私は、それを見ていたい。
私は彼女を抱きかかえた。
Q,処女作、しかも初めが大事な1話だというのに会話文が一度も出てこない件について
A,作者失踪する可能性高いし、多少はね?
勢いで書いてみましたがいやはや、作品を作るのって大変なんですね・・・。身をもって知りました(震
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
ハロー、ハロー(上)
パチッ、パチッ。
何か音がする。火を炊いているのだろうか。
それにその音のするほうから、仄かに暖かさを感じた。
眠気の残る目をなんとか開き、その方向へ首を傾ける。
・・・焚き火があった。
「・・・ここ、どこ・・・?」
火の大きさと、その光から映る影からここが屋内であることが分かった。
なぜ私はここに、と、今自分が置かれている状況を確認しようとする・・・と。
「ひっ・・・!?」
その焚き火のすぐそばに、何かがいることに気がついた。
・・・鉄血製装甲兵、エイジス。
その頭が、ゆっくりとこちらに傾く。顔についたカメラアイから発する青い光がユラユラと揺らいでいる。
「あっ・・・」
なんとか起き上がって後ろに下がろうとした、が。思うように体に力が入らない。ただ小さくじたばたと踠いただけに留まる。
「嫌・・・嫌・・・」
装甲兵が立ち上がる。此方に近づく。恐怖で顔が歪む。
「まだ・・・」
歯がカチカチと音を鳴らす。涙で前が見えなくなる。
「死にたく、ない・・・」
装甲兵の手が伸びてくる。それは自分の頭がおさまりそうなぐらい大きく見えた。
その手が触れる直前、目を固く閉じた。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。トサッ。
「・・・?」
頭へ何かが乗る感触に、違和感を感じた。
・・・『死にたくない』か。
そんなモノは私には無い。
彼女のみせたものとはまた違う。が。
・・・ああ。しかし。眩しい、な。
この戦術人形を見つけてから、一週間が経った。
私は油田施設内で拠点になれそうな場所を見つけると、そこに彼女を運び込んだ。
その後で油田施設や緩衝地帯に入りながら、燃料と彼女の修理に使えそうな部品を探した。
燃料のほうは難なく見つかったが、彼女への部品は中々見つからなかった。
結局、彼女の起動に必要な最低限のパーツや配線を持ち帰って彼女に繋ぎ、外傷が目立つ部分は止血の後に布で覆い隠した。
後は彼女の中に入れた、野戦病院跡で見つけた生体ナノマシン入りの人工血液の力に掛けてみるしかなかった。
そして今、その結果が出されたのである。
私は彼女に近寄って、彼女の頭に静かに手を置いた。
スキャン開始。・・・可動できる部位は上体と頭と右腕だけ。内部もメインの動力源を除き、いくつか機能不全を起こしている。
・・・やはり見様見真似の修繕じゃ万全とはいかないか。これ以上は設計図と専用の設備が必要になる。
スキャン終了。彼女の頭から手を離す。
「・・・へ? ・・・あっ!」
彼女はポカンとした表情でこちらを見ていたが、やがてすぐ警戒した目つきへと変わった。
ふむ・・・敵に向ける目としては正解だが、私は彼女を害そうとは思っていない。
言葉でそれを伝えられれば良いのだが、生憎私には言語発声機能が搭載されていない。
どうやって彼女にこちらには敵意が無いことを伝えようか。
・・・そうだ。確か、敵の警戒心を解くにはまず自身が相手になにもできないことを証明すればいい、という話を風の噂で聞いた気がする。
ふむ、となると何がよいのだろうか。
そうだな・・・私の腕を機能不全にさせてみせるとか?
・・・よし。それだ。
そうと決まれば試してみよう。データベースの語録欄には『百聞は一見にしかず』という言葉もあるのだ。今後の行動に支障は出るだろうが警戒心を解くためならば何、気にすることはない。
そうと決まれば早速右腕を彼女の前に差し出す。彼女の顔がそれに注目したことを確認し、こう、可動域を越えて曲げてだ・・・あれ、この、クッ・・・案外難しいな・・・なるほど、安全装置のせいか、ええいならば仕方ない左手を使って勢いをつけてだ、せーの・・・!
(ブチィ!!)
・・・・・・・・・・・・予想とは少し違うが、まぁ、よし。
腕、とはいかなかったが、右手首を引きちぎった。視界モニターにエラーウィンドウが並び、手首の先から冷却用のオイルがダラダラと垂れる。
どうだ、と彼女を見てみる。
「・・・・。」
絶句。
血の気が引いた青い顔をしていた。
直ぐに彼女から離れ、右腕上腕をパージ。画面内のエラーが消える。私の疑問は消えないが。
おかしい。何を間違えたのだ?
・・・冷静に、客観的に分析してみよう。
今私は、怯える彼女に向かって、自分の腕を潰したわけだ。
もしもだが、立場が逆で彼女たちがそんなことをしたらを
事態としてそうそう無い可能性が高いが・・・私は人質にあると想定しよう。
私は彼女らに囲まれ武器を持たず孤立状態にある。だが相手の人形はこちらに危害を加えるつもりはないらしい。その証拠に一人一人が自分らの腕を引きちぎっていって・・・
おい。まて。
どこの世界にそんな突飛な行動をする奴がいるのだ? なにもできないことを証明するのはいいが、もっと簡単な方法はあったはずだ。なぜ数ある選択肢からその行動を
なるほど。これが墓穴を掘るということなのだな。うむ、学習した。いやそう言ってる場合じゃないな!?
うーむ、うーむ。どうする・・・?
「・・・うう」
・・・? なんだ、と、彼女のほうを向く。
すると、警戒している目はそのままだが、彼女の体が震えていることに気が付いた。
よく見ればその目も、どこか朧気となりつつあるような。
(下)に続く
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
ハロー、ハロー(下)
「うう・・・」
急に手首を引きちぎったり腕組をしたりと、目の前の装甲兵が何をしているのか1ミリも分からない状態が続いていたが、その時だった。
「寒・・・う、あ・・・?」
急に寒気を強く感じるようになったと同時に、目の前がぼんやりと歪んで見えるようになった。まるで
視界にはエラーを示す画面が表示されているが、内容まで見ることができない。
まずい、何かわからないけど、このままじゃまずい。
そう考えるけど、体は頭の命令通りに動かずにそのまま倒れ、
「・・・へ?」
・・・何かに受け止められた。
そういえば、内部のいくつかが機能不全だったことを思い出す。
体温調整機能も一時的に停止しているのだったな。
彼女を左腕で支えると、焚き火のあるほうへ引き寄せる。
そうだな。少し姿勢を変える。
焚き火近くで座る私の上に、彼女を座らせた。落ちないように左手で彼女の体を支える。
よし。これなら私の体で反射した熱を彼女に当てることができる。
足りないようならば私の内燃機関で出た熱を放出して当てることもできるだろう。
少なくとも、今の冷たい彼女の体温を上げる助けにはなる。
うむ。これが最適解だ。
そんなことを思いながら、時間を過ごすことにする。
「あの・・・」
と、しばらく静かだった腕の中の彼女が、こちらに目を向けてくる。
「あなたは・・・私を殺さないのですか?」
それは至極まっとうな疑問。私はそれに頷く。
「どうして? 利用するから? 情報でも引き出すつもりだから? 殺す価値もないから? それとも・・・」
彼女は自分が殺されない理由に、考えられる理由を述べていく。まぁ、どれも違うが。
私が助けた理由はただ一つだけ。
『眩しい姿』を見たいだけ。
私たちは無駄がない。何事にもインストールされたことを無機質に、かつ合理的な結果を示して臨む。
残酷に、狡猾に、何の迷いもなく。淡々と破壊を行い、そして壊され、光も消え散る。
そこには眩しさも、なにも無い。
対して、彼女たちは無駄がありすぎる。
判断一つ下すのに中々の時間を費やすし、その結果が必ずしも正解になるという訳じゃない。
直面し、迷い、短くも長い時をかけ、時には情に流される。
私達と同じ機械だというのに、それはあまりにも不安定。
……それはあまりに、眩しい。
私には、その不安定さが、この荒廃した世界にはとても眩しく、貴重なモノに見える。
それがどこから来るのか。それを作り出す出所を、正体を知りたくもあるが、分からずとも良いとも判断している。ただ、それを出来るだけ近くで見ていたい。それだけで今は十分なのだ。
「・・・???」
と、返答を返したところで、私の口から流れるのはただの機械的な電子音のみ。彼女は困惑した顔をした。
「・・・もしかして、はぐれた、とかなのですか?」
やはり言葉は通じていないらしい。彼女は見当違いなことを口にする。
その説明だと、実際には私から離れたのではぐれるとは言わないのだが、伝える手段がない今はそれで通すしかないと判断する。
「そ、そうですか・・・鉄血兵も、はぐれることがあるのですね・・・」
私が頷くと、彼女は目線を私から焚火のほうへ移す。
「・・・私も、はぐれたんです」
しばしの無言のあと、彼女は口を開いた。
「任務の途中で、鉄血のハイエンドモデル率いる部隊の奇襲を受けて・・・私は足をやられて動けなくなりました」
「仲間たちは撤退しました。無線で救援を送るって言って、私を置いて」
「鉄血部隊は私に気づかずに仲間を追っていきました。・・・予定時間を過ぎても、救援は来ませんでした」
「動けないまま何日も経ちました・・・。次第に活動限界が近づいて・・・気が付いたらここで目を覚ましました」
彼女はポツリポツリと、事の顛末を語った。
「皆・・・どうなったんでしょうか・・・会いたいです・・・」
最後に彼女はそう、小さく漏らした。
彼女の声色とバイタルから判断するに、その皆というのは互いに許しあえる、おそらくは大切な存在と呼べるものだったのだろう。焚き火の日で照らされた彼女の顔の目元が潤んでいることからそう判断する。
その顔も私には眩しいものに見えたが・・・なぜだろう。その顔はあまり長い時間見たいものではないと感じた。
こういう時は何か声でもかければよいのだろう。状況から予想する結果を話せばよいのか、それとも理想か希望論でも答えればよいのか。どちらにせよそれは叶わない。
だから。
「あ・・・。」
私は彼女を支える手を、彼女の頭に乗せる。そして彼女の銀色の髪を撫でた。
記憶しているデータベースにはこうすることで対象を落ち着かせることができると書いてあった。
「い、痛い痛い痛い! ちょっとなにするのですか!」
・・・どうやら痛みつけてしまったらしい。私の手を退け、彼女が顔を膨らませて此方を睨んでくる。
といっても、その顔は最初に見せた警戒という顔より若干柔らかであった。
・・・うむ。その顔のほうが私は好ましい。そう感じた。
撫でる手をそのままに、力加減を修正。
『む、むぅう』と声を籠らせながらも、先ほどとは違い、その手を退けようとはしてこない。
「・・・鉄血兵に頭を撫でられるのって・・・複雑な気分です」
そうは言いつつも、彼女は私にされるがままなのであった。
翌朝―――○月α日。天気、曇多少なりとも快晴。
周辺熱源レーダーに反応なし。各部位の動作が良好なことを確認。発電用のソーラーパネル・・・は、確か昨日は広げる時間がなかった。行程をとばす。
「くぅ・・・くぅ・・・」
眼下の対象を確認。戦術人形、現在
・・・左手を彼女の頭に沿える。スキャン開始。
バイタル異常なし。
可動部位、上体と頭と右腕・・・先日と変わらず。
・・・体温調整機能等、機能不全部位は70%までの駆動が可能。
判定・・・行動には辛うじて支障はないが、部位の交換を推奨。
目下の重要目標を制定。
「・・・ん?うん?」
と、スキャンが終了し添えた手を離そうとしたところで、彼女が目を覚ます。
しばらく私の左手と頭部を行きかう様に見ていたが、やがて静かに目を閉じると。
「・・・やっぱり、夢じゃなかった」
誰にも聞こえない小さな声で、一人、ごちた。
「それで、この後どうする・・・ふぁあ!?」
私と彼女への燃料補給―――彼女へは部品散策途中の施設で見つけたレーションを―――を終えると、私は彼女を掴み、左肩に乗せた。
「な、なにするのですか! 降ろしてください!」
彼女は私の頭をぺしぺしと叩くが、ではそれならどうやって彼女を運ぶのかといわれると手段が無い。彼女自身歩けないことはなにより、現状、運ぶ手段が限定されている。
背部ユニットに入れて運ぼうにも、グレネードやらドローン射出装置やら予備のアクセスケーブルやらで大部分のスペースを取ってしまっているし、右腕の上腕が失われている今―――これに関しては自業自得だが―――、左手だけで抱えるのは不安定になる。
加えて、この辺りが鉄血の襲撃にあったことは彼女の言葉通り。となるとこのあたりも緩衝地帯に入っている可能性が高い。出来るだけ早く移動するには、肩に乗せるというこの方法が一番だと判断した。
「降ろしてください!! まさかこのまま鉄血のところへ行くつもりなのですか!?」
とは内心抱きつつも、やはり彼女は見当違いなことを口にする。そして暴れる。
ふむ・・・やはり意思疎通ができないというのは厳しい。どうしたものか。せめて喋れないにしてもこちらの意思を伝えられれば良いのだが。
・・・ん。まて? それを可能にするものを私は持っていなかったか?
所持装備を確認する。ソーラーユニット、各種グレネード、ドローン射出装置、予備のアクセスケーブル・・・
アクセスケーブル!! これだ!!
「ふぁ、え!? 」
突如、装甲兵の背部ユニットから細長い管のようなものがにゅるりと輩出し、私の首のうなじの部分を皮膚を突き破り・・・ちょうど電脳部にアクセスするジャックに刺さる。
「痛ッ!! な、なにを・・・!?」
私はとっさにそれに手をかけるが、その前に私の視界にウィンドウが映る。
《内容変換・・・ハロー、ハロー、見えてますか?》
「・・・へ?」
目の前のウィンドウに現れた文字の羅列に、声を上げる。
何これ。挨拶? ともう一度「内容変換・・・」という言葉が並ぶ。
《ハロー、ハロー、見えてますか?》
今度は点滅するようにウィンドウの中でその文字が浮かんだり消えたりする。
突然の事態に整理が追い付かない私の顔を、装甲兵が見上げる。
「・・・ひょっとして、あなたが?」
その言葉に装甲兵はコクリ、と頷く。
《ミッションの概要を説明します》
装甲兵から出された文字がそう告げると次に地図が浮かび上がる。
・・・見た限りこの辺りの周辺地図のようだった。そこから何倍か縮尺が小さくなり、そして一方に矢印が延ばされ、ある地点で〇印を描く。その〇の隣に『check』という字が並んでいた。
「・・・ここに行くってことですか?」
装甲兵はまたも頷いた。もう一度地図を見て、私の中の記憶版を漁る。
たしか、そのポイントは緩衝地帯ではあるが鉄血のアジトという場所ではなかったはずだ。というか場所が中途半端すぎるし。
だが、そこへ行って何をするというのだろうか。
《機体損壊率、60%。早急なる修理を提案します》
ウィンドウにまたしても表示が出る。
修理・・・そこで直すというのだろうか。『その体を』?
(早急なる修理って、あれは自業自得だったのでは?)
というか手首が引っこ抜けて損壊率が6割超えるとかいかがなものかと思うのだけど。
私の訝しむような目線を読み取ったのか、ウィンドウにまたも表示。
《修正確認・・・貴方への早急なる修理を提案します》
なるほど、損壊率というのは私のことであったらしい。・・・ってちょっと待って下さい?
「私・・・? 私を直してくれるのですか!?」
装甲兵は再三頷いた。
そういえば私の容態や姿も気を失った時から比べるといくらかマシになっているし、あの時は偶然目が覚めたものだと思っていたけど、ひょっとしてこの装甲兵が直してくれたのか?
・・・装甲兵はその問いに少し頭をカクリと傾けた。まるで「今気づいたのか」と言わんばかりに。
「そ、それは、ありがとうございます・・・でも、どうして・・・」
《・・・返答内容の変換に失敗。入力者への簡潔な内容を要求》
「???・・・どういうことですかそれ・・・?」
意味がまるで分からない私だったが、これに関しては装甲兵が頭を捻っているようであった。
・・・事態が全然読めないわけだけど。
「と、とりあえず・・・まずはそこに行って私の体を治すのですね」
《内容変換・・・肯定》
「分かりました。よーし、頑張りましょうね・・・ってそうだ」
直してもらえるということに少しだけ光が見え意気込む私だったが、そこでふとあることを思い出す。
「あなたのことは何と呼びましょうか。名前はあるのですか?」
《個体名:該当無。型番:鉄血製対人形試作装甲人形γ型86502-11……》
「・・・。」
前半しか読めない。というか後半は数字の羅列ばかりでウィンドウからもはみ出している。
「わ、分かりました! もうこっちで決めます! ええっと・・・こっちでは鉄血の装甲兵は『エイジス』って名前で呼ばれているんです、だから・・・。」
「『エイジ』・・・エイジっていうのはどうでしょう」
皆さんあけましておめでとうございます。
年末、年越しはどうお過ごしになられましたでしょうか。
筆者はこのお話を書いている年末に風邪をひいてしまい、寝正月で過ごしてしまうという事態になっていました。年の瀬って怖いですネ。皆さんも体に気をつけましょう。
このお話でプロローグは終わりです。次回から本編です。まだ白紙ですが(ぇ
もしかしたら日本版で未実装の人形も登場するかもしれません。その時はあらすじかタグでお知らせします。まだ白紙ですが(ぉぃ
とりあえずは筆者の自由気ままに、そして「そういえばこんな駄文だらけのお話あったな…」くらいの気持ちで書いていこうと思います。
・・・更新時期なんて分かりませんが。まだ白紙ですが(くどい
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
いつかの夜-友達-
長くなっちゃったけど分け所さんが見つからないのでこのまま行きます・・・。
《提示連絡・・・隊長、そっちはどうですか?》
「駄目じゃ。戦闘の跡はあるが、肝心の物は見つからんな」
グリフィンと鉄血の緩衝地帯の外にある、とある油田施設。そこに、グリフィンの人形達が通信越しに会話していた。双方からは顔は見えないが、共に暗い顔をしている。
《最後の救難信号があったのは、この辺りなんですよね》
「そうじゃな。と言っても、その反応があった日からもう一ヶ月近く経ってしまっておる。生体パーツは干からびとるし、これでは痕跡なんてほとんど残っておらんじゃろうな」
《・・・もう少し、速く来れればよかったんですがね》
「・・・仕方なかろうよ。この辺りはジャミングが激しいらしいしの。ポイントを割り出すのも一苦労じゃったじゃろうし」
と、その時、人形の視界にウィンドウが映る。司令部からだ。
・・・ここまでかと、諦めの気持ちを抱えながら通信をとる。
「こちら捜索隊隊長じゃ」
《こちらK03地区司令部。指揮官より捜索隊全隊員へ連絡。・・・『時間切れ』とのことです。ポイントB4に移動し、帰投して下さい》
通信士の重々しい声がそう告げる。通信内が無言になる。息を飲む音。舌打ちを打つ音が入る。
「・・・分かった。皆の者、聞いたな」
しばしの沈黙の後、隊長の人形が答える。
「現在時刻での時効をもって、友軍基地第8部隊全隊員の捜索を終了。
捜索部隊員の「了解」の声を聴いた後、隊長の人形は空を仰いだ。
「・・・すまんのう。間に合わなくて」
その声は誰の耳にも響くことなく、風にさらわれ消えていった。
「寒・・・うう、 誰か噂しているのでしょうか」
彼女が肩を抱えて身震いをする。・・・ふむ、寒気を感じるということは、少し火力が足りなかったか。
彼女を抱える体の温度・・・内燃機関の設定温度を少し上げる。
油田施設を出てからしばらくの日が経つ。
それまでの間、私と彼女・・・C96は、地図にマークした最も近くのグリフィンの人形製造施設へと繋がるルートを歩き続けた。
あの時スキャンした通り、彼女の機体はボロボロの状態だった。私がある程度直しはしたが、このままでは不安定なままだと判断し、彼女を専用設備へ運び、治す事にしたのだ。
現在時刻、18:00。日もすっかり暮れてしまった。
私たちは今日の分の移動を終了し、近くにあった廃屋を借りて夜を過ごすことにした。
燃料を補給しながら、視界の中で地図を開く。
グリフィンの人形製造施設へはまだまだ遠い。直線距離ならそうでもない距離なのだが、緩衝地帯を避けて行かなければならないため遠回りのルートを通らざるを得ない。
加えて乗り物もなく徒歩での移動のため、天候などに左右される。現に2日前、大雨のせいで満足に移動が出来なかった。
・・・これは大変な旅になりそうだ、と改めて再確認する。
「ごちそうさまでした」
と、彼女も燃料補給―――今日も変わらずレーション―――を終える。
そしてそのまま言葉を交わすことなく、座る私の上で静かに縮こまってしまった。
・・・彼女とはこのところ、こういう関係が続いてしまっている。
あの日出会った時には結構私と言葉を交わしたのではあるが、翌日の朝、『エイジ』という名をもらったそれからは挨拶の時以外はあまり口を開こうとしない。
・・・多分、まだ警戒されているのだろう。
無理もない。敵である存在に「貴方の体を治す」なんて言われて素直に頷くほど、彼女のAIは訛ってはいないだろう。裏があると思われているに違いない。
もちろんそんなことはないことを伝えようとしたのだが、どうやら言語変換システムにエラーが起きているようで、何度やってもそれを伝えることができなかった。
私個人としては、基本は彼女たちのことは見ているだけで良いのだが、それとは別に彼女たちのことを知りたいという欲求も少なからずはある。しかし、この状態ではそれを満たすのは難しいだろう。
うーむ、どうしたものか・・・。
「・・・・。」
彼女はただじっと、右手を胸元に当てて握りこぶしを作りながら静かにしている。
・・・握りこぶし?
少し視界を彼女の前にずらす。・・・何かを握っているように見えた。
ふむ・・・少し迷ったが、センサーを起動しそれが何かを見る。
・・・なんだろう。・・・首飾りのようなものだった。
私は悩んでいた。エイジのことで、である。
私はあの油田施設で倒れていたところをエイジに助けられたらしい。
そして話を要約すると、どうやら私の体を治してくれるらしい、ということなのだけど。
・・・なぜそんなことをするんだろう。彼―――彼か彼女かどうかは分からないけど―――は、はぐれ人形のはずだ。それも鉄血の。私とは敵同士なのだ。
なのになぜ敵である私を治そうとするんだろう。その理由が分からない。何度も聞こうとしたけど、帰ってくるのは《変換失敗》の言葉だけ。
直してくれるのは素直にありがたい。敵意が無いのは確かなんだけど・・・。でも、真意がつかめない・・・知りたいけど、分からない。
そうして、エイジにどう反応すればいいのか分からないまま、日々が過ぎていた。
《質問。その手に持っているものは何ですか》
「・・・うぇ!?」
突然視界に現れたウィンドウに文字が浮かぶ。それに驚く私だったが、それをしてくる人なんて今の状態では一人しかいないことに気がつく。
上を見上げると、装甲人形・・・エイジがこちらを覗き込んでいた。
いや、正確には私の右手を見ているように見えた。
「え?・・・あ・・・、これですか?」
自分でも何かを握っていることに気が付かなかった。完全に無意識だった。
私はエイジの目の前に握っていたものを広げてみせた。
《照合。開閉扉付きの首飾りと断定》
「あはは・・・これ、ロケットって言うんですよ」
エイジの出した堅苦しそうな返答に少し笑いながら、私はロケットを開いた。
《照合。グリフィン製の戦術人形を5体確認》
中に入っているのは戦術人形…の写った写真。
5体の人形は横に並び、ある者は仏頂面で、ある者ははにかみながら立っている。
「私の所属する第8部隊の皆です。部隊結成の時に指揮官が記念に、って撮ってくれたんです」
《中心に居るのはC96、貴方ですか》
写真の真ん中で誰かに肩車をされ、慌てているような表情を浮かべている人形を、エイジは指す。
「そうですよ。ちなみに私を肩車しているのは56-1式さんっていう方です。第8部隊のムードメーカーなんですよ」
そういえばこの時、姿が見えないと思いきや後ろから持ち上げられたんだっけ。急にグイってきたから危うく後ろに落ちそうになったんだった。
「56-1式さんの左隣にいるのがPPSh-41さんで、そのまた隣にいるのが副隊長のVectorさん。一番右で笑っているのが、隊長のスプリングフィールドさんです」
PPSh-41は私たちの出来事を見て驚いた表情をし、Vectorはそんな私たちを「やれやれ」といった表情で眺め、スプリングフィールドは面白かったのか口に手を当てて笑っていた。
「皆でいろんな戦場に行ったんです」
ある時は前線での戦闘で。ある時は後方支援で。そういえば夜戦での自立作戦も確か私たちが1番だったっけ。
休暇の時は部隊の仲間で街に繰り出したし、羽目外しすぎて指揮官に大目玉食らったこともあったな。
仲間と一緒に、時に足を引っ張りあい、時に助け合いながら。
そして・・・
「・・・。」
・・・・・。別れた日を思い出してしまう。
足をやられて動けなくなった私を、どうにかして助けようとした仲間たちの声が、今も頭に残っている。
敵の猛攻が激しく、一時撤退の指示を出した隊長の、苦虫を潰した声が残っている。
「必ず戻るから」といった今にも泣きそうな声が、私の頭を離れない。
私はそれに、「大丈夫、無事でいますから」とだけ伝え―――。
気づけば涙が流れそうになってくる。
・・・あれから救援が来ることはなかった。鉄血は彼らの後をすぐに追っていったのだから、恐らくは、もう―――。
《本当に大切な方達だったのですね》
そう言いながら、エイジは私の頭を優しくなでてくる。憎いはずの相手。冷たいはずの機械の手が、暖かく感じた。
「・・・ッ・・・え、エイジは、そういう人はいなかったのですか? 大切な仲間とか友達とか」
その優しさに負けずなんとか涙を引っ込め、話題を切り替えようとする。
《返答。私には鉄血という仲間意識はあれど、『大切』と呼べるような特別な存在はおりません。それが生まれる事はありませんでした》
「・・・? 居なかった、んですか?」
《肯定。そうです》
「それって、えっと・・・つまり、ぼっちだったってことですか・・・」
話題を切り替えたはいいが、少しミスをしたみたいだ。少々引っかかる言い方が気になったものの、その後の微妙な雰囲気が流れそうになる。が。
《検索。ぼっちという言葉の意味、読み取れず。質問。「ぼっち」とはどういう意味を指すのですか?》
「うぇっ!? あ、いや、その」
ここでエイジからの予想の斜め上の質問が飛んでくる。
ぼっち・・・一応その言葉の意味は伝えられる。言葉自体は問題のないものだ。
だけど、言うのはなぜか憚られてしまう。私のAIが警報を鳴らしている。そういえば指揮官も言っていた。「やめろその話は俺に効く」と。
そう、これはデリケートな話題なのだ。多分。つまり人を選ばなければならないのだ。エイジは人じゃないけど。
《再度質問。ぼっち、というのはどういうものなのですか?》
「い、いや、何でも、何でもないです! と、とりあえず友達はいないってことなんですねエイジ!?」
《肯定。友達はいません》
半ば無理やりだったが、エイジがはいの返事をした事でこの話題を変えることができた。その返事が私には物悲しくも聞こえる。
でも、そうか。大切な仲間も友達も居なかったのか。
・・・つまり、ずっと一人だったということなのだろう。
私は初めから、一人じゃなかった。
民生人形として生まれた時から、大人、子供、沢山の人と触れ合い、戦術人形になってからは指揮官や第8部隊、色々な面々と話をしたり、背中を預けあったりもした。
でも、エイジにはそれがなかった。
これだけ話ができるのに。それが出来なかった。
鉄血兵が会話をするのかどうかはともかく、話をする相手もおず、ずっと一人でいる。それは、いったい、どのような面持ちで。
「あの・・・」
知らずと口が開いていた。
「い、いや、何でも、何でもないです! と、とりあえず友達はいないってことなんですねエイジ!?」
私が彼女の問に肯定の意を返すと、彼女は微妙そうな顔をする。
うーむ、そんな顔をするほど「ぼっち」という言葉は不味い意味を含んでいるのだろうか。
・・・必要ないとは思うが、要検索対象の一つに入れておくべきか。
・・・と。
「あの・・・」
彼女の口が開く。
どうしたと反応しようとしたら、と、急にズイっと顔を此方に近づけてくる。私に背を向けていた上体が、いつの間にか此方に前を向いている。
「あのッ! そのですね!」
彼女は少々強めの口調で、そこで一度区切ると。
「えっと、仲間になりませんか・・・?」
私のモニタをまっすぐ見つめ、そう言った。
「仲間にならないか」。彼女は確かにそういった。仲間? ・・・私と?
「そ、そうです。エイジ。私と、貴方です。」
C96はどもりながらも答える。
・・・言葉の意味を分かっているのだろうか。仲間になるというのはつまりそれは私に鉄血を裏切れと言っているようなものなのでは? 自分から去った私が言うのもなんだが。
「ああいえ、そういう仲間っていうのは少し違うかも・・・そうです、友達です。友達ですよ。エイジ。・・・私と友達になりませんか?」
彼女はしどろもどろになりながらも、言葉を口に出す。
うーむ。一体全体、どうしてそんな考えに至ったのか。というか、それもある意味で問題のような気がするのだが・・・。
だが、友達・・・友達、か。
・・・私には友達は居ない・・・いや、「仲間」というのが「仲の良い間柄」を指すと言うならば、それも居ないのかもしれない。
私はとある方のバックアップ用AIを動かすための試験機、データを取るための試作機の一機として作られた。故にある程度の「個」を持って稼働する事が出来たが、他の機体がそれを持って動くことは無かった。沢山あった試作機の内、それを持って稼働出来たのは、私ただ一機だけだった。
我々には、何らかの理由がない限り「個」というモノは与えられない。命令を聞き、ただ従うだけの我々にはそれは要らない。
故に有事の時以外に意見を交わしたり、談笑したりするという会話というものは我々には存在しない。
だから友人というものは出来ない。
大切な仲間なんて、生まれるはずがない。
私は生まれる前に、それはそういうものだ、と
・・・友達か。
彼女の話を聞いて、ほんの少しだけ・・・
・・・もし、もしも、あの基地で、私以外で、私のような存在が他に生まれたのだとしたら。
・・・私にも持てたのだろうか。彼女の言うような友達が。
友達を得たことで、彼女たちのような「眩しさ」を見ることが出来たのだろうか、と。
友達、か。
私は返事を返す。
彼女はその答えに少し呆然とした後、笑みを浮かべ手を差し出す。
「友達になったら、こうするんですよ」
「今更かもしれませんけど、よろしくお願いしますね。エイジ」
私はその手を握り返した。
前回までのプロローグだけだとなーんかあっさりしすぎな感じがしたので、書きました。
友達ができるよ! やったねエイジ!
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
鉱山都市-坑道-
「暗いです、寒いです・・・全くもう、誰ですかこの中行こうって決めた人は・・・?」
《返答。1時間31分前に貴方が言いました。C96》
「ああ、そうですよ・・・そうでした・・・」
肩に乗る彼女が縮こまる。
私は彼女の頭に物がぶつからないよう、慎重に歩く。
それは少し前にさかのぼる―――。
○月Δ日 天気、曇り。横風が強し。
「―――それで副隊長が徐に何取り出したと思います? 火炎瓶ですよ! 火炎瓶! 演習なのに!! 待ってなんでそれ持ってるんですか、って聞いたら『演習では焼夷手榴弾は禁止でも火炎瓶は禁止とは言われてない。よってこれは合法よ』って言うんですよ!? よく見たら横でPPSh-41さんが半泣きで瓶に油注いでいるし、56-1式さんも『楽しそう』って言って火炎瓶作りに参加してるし! 隊長はそっぽ向いて止める気無いし! あとで演習先に頭下げに行くの私なのに、皆やりたい放題すぎて!!」
彼女―――C96と友達の契りを交わしてからまた数日が経つ。
あの日以来、彼女は私に話しかけるようになっていた。挨拶は下より、『天気が良いですね』だの、私が出発準備をしていた時に『ねぇねぇ、何してたのですか?』と言ってこちらのモニターをのぞき込んできたりなどと。
今もこうして彼女の仲間の思い出話を聞いている最中である。その表情は最初の時と比べると幾分か柔らかくなったように見える。
あいにくと私にはそうした思い出というモノが無く、そうしたモノを感じたことも無いので、その時はただ相打ちを打つだけのワンパターンな返答しか出せなかったが、その顔で話す眩しい姿を見れたことには良かったと判断した。
それに変換機越しとはいえ、誰かとこういう会話が出来るというのは・・・そうだな。満ち足りたものを感じるというか、楽しくもある。
楽しい? ・・・そう感じるのは初めてだ・・・そうか。これが楽しいということなのか。うむ、理解した。
そんなとりとめのない会話をしたりしながらも緩衝地帯を避けつつゆっくりと歩く私達だったが、ここでルート上にあるモノがそびえ立とうとしていた。
「大きな山ですね・・・」
C96は廃屋となった家の窓から、その山を見て呟く。
私はその間、その山に関するデータを参照していた。
今いるここはかつて銅の採掘がメインの鉱山都市だったようだ。C96が見ている山がその主要鉱山だった場所である。
私はC96の視界に地図を表示させ、ルートによればこの鉱山を通らなければならないことを伝える。
「つまり・・・山登りしなくちゃ行けないのですか?」
私がその通りだとそう伝えると、C96は「うええ」と口をへの字に曲げる。
ふむ、私は山を登るのには問題ないが、どうしたのだろう。
「ああいえ、山登りって聞くとあんまりいい思い出がなくて」
C96は肩を竦める。
「私のいた基地の部隊の一つに『
「所謂、新人達の練度を上げるための部隊なんですが・・・正直、もう二度とあの部隊には戻りたくないです・・・」
「弾も配給も渡されないで遭遇した敵役の先輩人形達の攻撃をひたすら避けながら山を登り降りするんです。来る日も来る日も・・・」
「毎日ボロボロになって、たまに鉄血兵に遭遇して・・・曜日感覚もエラー起こしてたっけ・・・」
『へ、へへ・・・』といった笑みの無い笑みをするC96。・・・大丈夫なのだろうか。スキャンしなくてもバイタルに重症を抱えるぐらいの変化があるように見られるのだが。
・・・というか、なんだその部隊は。敵と言えども、人形の生命線である弾と物資無しで攻撃を避けまくる演習を山の中で毎日するというのは、それは拷問ではないのかと感じる。
いや、裏を返せば、そうでもしなければ私達とは互角に戦えなかったということなのだろうか。
・・・うーむ、彼女たちの強さの裏の秘密を見てしまった様だ。
この反応を見た後だと、山登りは出来るだけ避けたほうが無難と判断せざるを得ない。バイタルに変化を与えるようでは今後に支障が出るし、今の表情は私はあまり見たくはない。
となるとどうしようか。山を回避して行くことは一応可能だが、そうなると緩衝地帯を通ることになる。大幅な時間のロスになってしまうし、リスクも上がる。
何か策はないか、ともう一度データベースを探る。
「あ、そうだ! 私にいい考えがありますよ!」
と、そこで彼女が手をパチンと鳴らす。
「上を越えるのが駄目なら、下をくぐれば良いんです!」
・・・。
・・・彼女は何を言っているのだ?
C96の話をまとめると、だ。
ここはかつて鉱山だった通り、それなら当然坑道が存在する。そしてこれだけ大きな山ならば坑道の入口が一つだけということはないのでは、ということであった。
「つまり、坑道の中を通れば山の反対側に出られるのではないかと!! どうですかエイジ!」
彼女は自信満々に胸を張ってそう答える。・・・いや、その『ふんす!』と鼻息強く詰め寄られても反応に困るのだが。
だが、確かに彼女の言う方法は一理あるかもしれない。
データベース上でこの坑道の事を調べてみると、坑道は深く広く、複雑に掘られているということもあってか、入口は一つだけでは無く何箇所か別の入口もあると言うことがわかった。
・・・そしてなんと・・・この辺りの航空写真をみると、彼女の言うとおり、山の反対側にも入口があることがわかった。
確かに、反対側の入口がある座標を頼りに歩けば、山を回避するよりずっと近道になる。緩衝地帯も通らずに行けるため危険性は下がることにもなる。
・・・うむ。これは妙案、というものか。
私は行ってみる要素はあるかもしれないということを伝える。
「ですよねですよねですよね!よし、じゃあこれで行きましょう!」
そう言って彼女は私の肩の上で嬉しそうに跳ねた。
「暗いです、寒いです・・・全くもう、誰ですかこの中行こうって決めた人は・・・?」
C96は身震いしながら呟く。入口に入る時までにあったあの元気はどこへやらである。
・・・まぁ、そうなるのも仕方ないのだが。私もこれについてはもう少し考える時間を作ればよかったなと、今更ながらに反省する。
坑道内は予想以上に入り組んでいた。
そもそもデータベースに入っていた情報は2030年代中ごろを最後に更新が行われていない状態だった。つまり、私が持っている情報は今から30年も前の代物であり、当然、坑道内がそのままの状態を保っているわけがない。
天井からの崩れで道がつぶれていたり、溜まった雨水のせいか地盤が緩くなってしまって通れないところが沢山あった。
さらに歩けるルートを厳選して進んでいるうちに奥深くへと進んでしまったらしく、目の前は暗視モードなしでは進めないほどに暗く、気温が低い。体が機械の私は特に問題ないが、生体パーツを使用している彼女はそうはいかない。
生体パーツを形作る生体ナノマシンは総じて温度変化に敏感だ。故にその体には温度調整機能というものがあるのだが、C96の場合、温度調整機能含め内部機能は万全ではない上、彼女の羽織っているものはボロの布切れに破れたジャケットのみ。彼女の体は猛烈な寒さを感じている筈だった。
そうして、時々彼女と話したりして彼女の容態を安定させながら進んだ結果、当初の抜ける予想時間を大きくオーバーしてしまっていた。そして今、ようやく道の半分にさしかかるところだった。
「うう、なんか幽霊でも出てきそう・・・目もチカチカするし・・・」
C96はたまに目を擦りながらなんとか目の前をとらえている様子だった。頭も少しフラフラしている。
それを見て、私は時間を確認する。・・・坑道に入ってから2時間。外はもう夕暮れに差し掛かる頃合いだった。結構長い間歩いてしまっていたらしい。
・・・そうだな。ルートを変更。予定していた道を少しだけ外れる。
しばらく歩くと、荷物置き場と思われる広いスペースのある部屋に出る。そこで歩みを止め、彼女へ休息をとることを提案する。
「えっ? ああ、そうですよね。私を乗せたままでしたからね・・・そうしましょうか」
また見当違いなことを彼女は口にするが、まぁどちらでもよいと判断する。ともかく彼女の同意を得られたので彼女を降ろす。私がその場に座り、その上に彼女を抱えるようにして横にさせる。
内燃機関起動。就寝時間にはまだ早いがこの状況では仕方がない。所定時間になったら起こすことを伝える。
「そう、ですね・・・わかりまし、た・・・エイ・・・ジ・・・」
そして彼女はまもなく眠りについてしまった。
・・・やはりか。気を付けてはいたつもりだったが、すぐ眠りに入った姿を見るに、座っていた彼女にも相当苦労を掛けてしまっていたようだ。
これは少し、危険地帯を通ってでも急いだ方がいいかもしれない。内燃機関を燃やすだけの燃料もあまり長くは使えなくなる量になろうとしている。
とりあえず私も休憩に入ろうとする。センサーと内燃機関だけを起動してスリープモードに入る。
そうして私も目を閉じた。
・・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・・周辺熱源センサーに感有。
私はすぐに起動する。
ドローンはこの部屋の狭さでは出せないため、暗視カメラと熱源センサーのみで辺りを警戒する。警戒しながら眠ったままのC96を静かに床に移動させる。彼女の体に刺さったアクセスケーブルを外す。
背部ユニットからフラッシュバンを取りだし、左手に構える。カメラには何も映らない。熱源センサーも、今は反応は示していない。・・・が。警戒は緩めない。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
・・・センサー感有、後方至近距離!!
その場で直ぐに振り向く。
「うわバレたっス!! けどっ!」
その声と同時に、光学迷彩付きのマントだろうか。それを解いた相手は手を素早く後ろに回し、目の前に何かを・・・
「ここは、私の距離っス!!」
それを至近距離で放つ。
咄嗟に避けることなど出来ず、腹部に痛烈な一撃が走る。その場で踏ん張ることが出来ず、飛ばされる。各所の制御が追い付かない。壁に叩きつけられ、倒れ込む。
「よし! ・・・って、なぁっ!?」
相手が足元を見て、驚愕の顔を浮かべる。
・・・手元からすり抜けたフラッシュバンが、相手の足元に転がっている。
直後、閃光と爆音が辺りを包んだ。
データベースより――――。
◇ホゼシト銅山・ホゼシト鉱山都市
銅を中心に、様々な工業用鉱石が採掘された鉱山。
かつては周辺にいくつもの工業地帯ができる程に繁栄していた鉱山都市だったが、2029年、鉱山員の一人が「E.L.I.D」を発症。調査の結果、鉱山内からコーラップスが微量ながら流れ出ていることが判明。
その後鉱山は封鎖されたが、鉱山から出たコーラップス液が生活排水等に混ざり、都民への「E.L.I.D」も徐々に広がっていった。さらに翌年「北蘭島事件」が発生。都市部全体に甚大な被害が被る結果となった。
30年代中頃の調査ではホゼシト鉱山都市に住む都民は誰一人として確認されていない。
◇山登り部隊
所謂4-3e貧乏ランするための部隊。ただし本家とは違い、相手するのは基地の先輩人形(精鋭)。使用する弾も(メインは)ペイント弾。
占領下の場所での演習ということなのだが、たまに本物の鉄血兵が迷い込むことがある。
この部隊を経験した人形は後の精鋭に抜擢されることが多いが、一部の人形は山を登る時
新イベント「低体温症」が始まりましたね。もうクリアしてる方もいらっしゃるのではないかと存じます。
ちなみに筆者は現時点で未だE2-4でアーキテクトさんにコロコロされております。毎回大破させてごめんねナガンおばあちゃん(うちの夜戦部隊筆頭HG)。
まぁ1カ月近くありますのでこちらはマイペースで攻略していきます。・・・え? ランキング? (やる時間が取れ)ないです。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
鉱山都市-テッド-
思わず二度見三度見しておりました。本当にありがとうございます。
不定期更新の拙い作品ですが、今後ともよろしくお願いします。
「なな、何!?」
急に大きな音が耳元で響き、それに驚き目を覚ます。
辺りが急に明るくなってたかと思えば、すぐ暗くなった。
一体何が起きた? 状況判断をしようとし暗視モードを起動する。と。
「か、間一髪っス・・・エイジスがスタングレネード使ってくるなんて聞いたことないっスよ・・・」
「っ!?」
うおお危なかったっス、と一息ついている人影が確認できた。
見た所人のような形をしているが、私はそれよりもその奥にあるものに目を引かれてしまう。
その人影の目線の先には。
「エイ・・・ジ・・・?」
壁にもたれかかるようにしてグッタリとしている装甲人形。
右腕上腕が無く背に大きなユニットを積んでいるそれは間違いなく、この旅路で出来た友の姿で。
「そこの人形さん、無事っスk
「エイジ!!」
人影がこちらに振り返って何か言ったが、私はそれを聞かずにエイジに近寄ろうとする。足は動かないので這って移動する形になったが。
それでもその間、その人影は「えっ、え?」といった感じで茫然とそこに立ち尽くしていたので邪魔されることもなくエイジのすぐ傍に寄ることが出来た。
「エイジ! しっかりして下さい、エイジ!」
私はエイジの肩を揺らしたり手の平で頭をぺしぺしと叩いたりしたが、それでも反応は帰ってこない。
「エイ、ジ・・・?」
・・・そんな。まさか。
動かない巨体を前に、良からぬ思いが頭の中を回る。頭が垂れる。腕の力が無くなっていく。あの日を思い出してしまう。
ああ。私はまた、仲間を、友を失って。
「痛っ!・・・えっ?」
と、急に首元のうなじに痛みが走る。何かが刺さった感触。ジャックに何かが刺さった。
そして視界にウィンドウが映る。それはごく最近まであったもの。それはまぎれもない『彼』からの言葉。
顔を上げる。
《返答・・・大丈夫です》
そこには青い目の光を灯す『彼』がいた。
「エイジ! 大丈夫なのですか!?」
《簡易動作チェック終了。損損箇所見つからず。異常無。動作に問題ありません。
警告。敵性反応の個体有》
エイジが無事なことに破顔しそうになる私だったが、最後の一言にハッとする。そうだ、今はそういうことをしている場合じゃない。
後ろを振り返り、人影にむけて
「えっ、ちょ!? 待つっス!? 話がいまいちつかめないんスが!?」
それでも効果はあったのか、その人影は既に銃を降ろし片手で此方に「待て」の合図を送っていた。暗視モードで見た人影のその正体に、声を漏らす。
ウサギの耳のようなモノを頭につけている相手の、その姿から発するこの反応は。
「戦術、人形?」
「自己紹介するっス。私、L14地区司令部所属の
NS2000―――テッドはそう言い終わると同時にその場にかがみ込み・・・所謂、土下座の体制になり。
「此の度は誠に申し訳御座いませんでしたっス!!!!」
坑道内に響くくらいの大きな声で謝罪したのだった。
一応テッドの言い分を聞くと、だ。
彼女はとある目的があってこの鉱山に散策に入っていたらしい。そして歩いている内に私達の反応を拾ったそうなのだ。
反応を頼りに来てみれば、そこには半壊状態の戦術人形、その傍らには鉄血兵が。
なぜここに稼働中の人形がいるのかと驚きはしたものの、同朋がやられていると判断した彼女はその戦術人形を助けるため、すぐに所持していた光学迷彩マントと
あとは私の知る通りとのことらしい。
「本当に申し訳ないっス! まさかそのエイジス、貴方のペットだったとは・・・」
テッドは何度も此方に―――主にC96に―――頭を何度も下げている。・・・ペット。ペットか。そう見えるものなのか。・・・少し複雑な気分になるのはなぜだ。
ともかく、彼女のとった行動。こればかりは仕方が無かったのではないかと私は判断する。
誤認だったとはいえ、仲間を助けるための行為だったのだ。事情を知らない者からすればあの状況では仲間がやられていると判断してもおかしくはない。彼女は当たり前の行動をとっただけだ。そこに咎める箇所はない。
むしろ、その動きには賞賛の意を贈りたいぐらいである。仲間を助けるために敵に単身突っ込むというその行為には、私には眩しいものに近いモノを感じる。だからそれを見れた私には何の憤りを感じることはないのだ。
・・・無いのだけど。
「全くですよ! エイジに何かあったらどうするつもりなんですか! あとエイジはペットじゃありません!」
私に怒りが無くてもC96にはあったらしい。右手を上げて威嚇の体制になりながら怒っている。
どうやら私の身を思って怒っているようだが、私は無事だし、テッドも反省しているみたいなのでそこそこに切り上げさせようとしてC96と話そうとする。
「貴方もですよエイジ! なんであの時私を起こさなかったのですか!? そうすればこんなことにはならなかったのかもしれないのですよ!?」
と思いきや今度は矛先が私に向いてきた。
う、うーむ。反論したいのは山々なのだが・・・今になって思えば、確かにその方法もあったのではないかとも考えてしまう。
結局は彼女を起こして事情を説明してもらう、というのもあったな。・・・いやでも、あの時には相手が戦術人形かどうかは分からなかったから、彼女の身を守ることを第一にする今だとあまり意味のない行為に終わった可能性もある、か・・・?
「意味のない行為とか、そういうことじゃありません! ・・・もうっ!」
結局C96はそのままそっぽを向いてしまった。
・・・何がいけなかったのかの原因は分からないが、ともかく、あの場であの選択は間違いだったらしい。うーむ。なぜだ。
「・・・お二人ともずいぶん仲が良いんスね?」
と、私たちのやり取りを眺めていたテッドがポツリと口を開く。
「当然です。エイジと私は友達ですからね!」
「お、おう? 友達、スか? エイジスと友達・・・ええ?」
C96の返答に頭を捻るテッド。・・・相当混乱しているようだ。当たり前だが。
「え、え~と。とりあえず私のつけた傷みせてもらって良いスか? エイジさん、でしたか。貴方が立っていられてるってのが不思議なんスけど、なんかあったらまずいっス」
と、彼女が頭を整理しながらそのような提案を投げかけてくる。
ふむ、私の動作チェックでは動作には問題ない結果を示しているので大したことはないと思うが・・・一応見てもらおうか。
私はC96を経由して、見せても構わないことを伝える。
では失礼するっス、と言ってテッドは徐にペンライトを取り出しながら私の腹部を見る。
「・・・マジっスか」
「え、ど、どうしたのですか?」
しばし私の体を見ていたテッドはしばらくの無言の後に驚愕の声を出した。それにC96と私に疑問の声が上がる。まさか外傷はそんなにひどいというのか?
「・・・対生体人形用のバックショット弾だったとはいえ、ほぼゼロ距離での
普通の装甲人形なら貫通せずとも傷ぐらいはついてるはず、とテッドはそう続ける。
その後もしばらく外傷が無いかチェックしてもらったが、銃撃のよる傷は見つからなかった。
「えっと、とりあえず見た感じ外の方は大丈夫そうっすね…」
「ほ、良かった・・・、?」
テッドの言葉にC96は胸を撫でおろしたが、テッドの方はなぜか私の体から離れようとしない。
まるで吟味するかのように顎に手を当て、たまに私の体をコンコン、と叩く。
「ど、どうしたのですかテッド?」
「厚さは普通の装甲兵と変わらない、なら材質が違うっスか。何かと混ぜた合金っスか? でも人形用のSG弾を完全に弾くくらいの物なんてそうそう、ましてや傷一つ付けないで済むものなんて・・・鉄血が新素材を開発した・・・?」
なにかブツブツとつぶやいている。そして今度は此方にも聞こえる声で一言。
「・・・グリフィンに売ったら金になるっすかね」
「売りませんからね!!?」
その言葉にC96は目ざとく反応したのだった。
「山の反対の出入口ッスか? あそこはもう潰れて無くなってるっスよ?」
「な、なんですと!?」
C96から驚愕の声が上がる。私も内心苦い顔をする。
あの問答のあとテッドが私達のここでの目的を聞いてきたのでそれの返答をしたのだが、
「数年前までは普通にあったらしいんスけどねー。老朽化で崩れちゃったらしいっス」
その答えがこれだ。
・・・まあ、道中これだけ崩れているならもしかしたらと予想しなかった訳ではないが・・・対面して言われると結構くるものがある。
ともかく、テッドの言葉を信じるならばこのまま進んでも意味はない。戻って別の踏破方法を考えるべきだろう。
「う、うう。そうですね・・・戻るしかないですよね・・・」
「・・・あのー、ちょっといいスか?」
戻るためのルートを設定していた私とC96に、テッドから声がかかる。
「山の反対側行くなら、私案内するッスよ? 元あった出入り口とは別に、最近新しくできた輸送用トンネルの入口があるッス。私はそこから来たっスよ」
たがらこんなトンネルから離れた所に人形がいた事に驚いたんスけど、とテッドは続ける。
「その先に私の車が止めてあるっス。さっきのお詫びと言っちゃなんスが・・・そこまで送るっス。どうスか?」
彼女の提案に私はC96と顔を見合わせる。
ふむ・・・渡りに船というのはこういうことを言うのではなかろうか。
「そう、ですね・・・。ええ、このまま戻っても何かいい方法が思いつくわけでもありませんし・・・是非お願いします、テッド」
「了解っス! 任せてください!」
ビシッと敬礼のポーズをとった後、「ではついてきてくださいっス!」といって先導を開始するテッド。
私もそれに続こうとする。
「エイジ」
と、出発しようと歩き出したところでC96から声がかかる。
「さっきの話ですけど。あの時私を起こさなかったのは『結果的に意味のない行為だったから』って言いましたよね」
さっきの話―――、テッドに誤認されて撃たれた時の私の行動か。
まぁ、言われれば悪手な行動だったかもしれない。が、繰り返すが、あの時は相手が戦術人形かどうかは分からなかったのだ。だからC96の身を守ることが第一な今、あの場でC96を起こして説得するという方法は危険だった。故に意味のない行為と言ったのだ。
・・・最終的に自分は負けて地面にひれ伏してしまった訳で、
「守ろうと動いてくれたのはありがとうございます。でも、そういうことを言ってるんじゃないんですよ」
C96は私の言葉を遮るようにして言葉を紡ぐ。
「一人で何とかしようなんて考えないでください。『意味のない行為』とか、そういう風に言うのはやめてください。私は貴方の友達で・・・あなたはそう思ってないのかもしれませんが、私にとっての大切なモノの一人なんです。エイジがやられて動けなくなっていた時、私、本当に心配したんですよ」
そこで一旦区切り、私の目をいっそう深く見据え、口を開く。
「
・・・ここへきて、彼女の言いたいことが分かった。
ああ、そうか。・・・彼女は恐れているのか。大切な存在を失くすことを。
眼前で見ることも無く消えていった仲間たちと同じように。
・・・彼女は私を大切なモノの一人だと言った。
私が消えること。消えることは、彼女にとってそれは。
・・・それが、仲間というモノなのか。
・・・それが、友達というモノなのか。
・・・ああ、なんと、眩しい・・・。
《・・・返答。了解しました。『C96より先に行動不能になることを禁ずる』。最重要命令として登録します。》
「あ、いや、そこまでしなくても・・・命令っていうか、お願いという意味だったんですけど・・・」
「おーい、どうしたっスかー? トラブル発生っスかー?」
「あ、いや、なんでも! ・・・行きましょう。お願いしますね、エイジ」
《返答。了解。》
遅れて二人は歩き出した。
Q,なんで未実装のこの子出したの?
A,見た目、声、性格全てが筆者の性癖にドストライクしたから。
Q,………ストーリーに必要という訳じゃないの?
A,深い設定は考えていない。設定は生やすのではなく生えるものってじっちゃが言ってた。
先日、帰郷行動Ⅳクリアしました。修復剤が湯水の如く溶けていきました(白目)。もう行きたくないデス。
巫女服姿の☆5SMG
「何言ってるんですか指揮官、まだ半月あります。これから楽しい堀の時間です」(右腕ガシッ)
ヒロイン属性の塊(当社比)の☆2MG
「まだ新実装のRF2人手に入れてないよね…?資材の方はコスト抑えなくてもまだ余裕があるよね…?」(左腕ガシッ)
ああああああもうやだアアアアアぁぁぁぁああ!!!(誓約人形二人に引きずられていく音)
目次 感想へのリンク しおりを挟む