着任先の新提督が色々とマトモじゃない。 (夏夜月怪像)
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0話:オープニング

全くの素人が、スマホに機種変したことで浮かれたその勢いに任せて始めた粗品です。

亀更新が可愛く思える、クロックアップで置き去りにされたような鈍足更新となりますが、それでも構わないと思っていただけたら幸いです。


追記 : 形式の統一をご指摘頂いたので、一部編集し直します。

追記2 : 文章の加筆修正をボチボチながら施行させていただきます。


とある世界―――そこでは、《深海棲艦》と呼ばれる謎の生命体が海の彼方より現れ、世界中のあらゆる海域へと侵攻・占領し、尋常ならざる脅威として怖れられていた。

 

この世界の日本の海域も例外ではなく、一時は海上自衛隊などが撃退しようと徹底抗戦した。

しかし‥‥深海棲艦の力は人類の想像を遥かに超える物であり、国際連合艦隊さえも呆気なく退けてしまい、日本のみならず、世界は完全敗北を喫してしまった。

 

 

だが、それで全てが終わった訳では無かった。

深海棲艦に唯一対抗出来る、特殊戦闘システム・通称《艤装》。

そして、艤装に対する高い適正を持ち、深海棲艦と戦うことを定められた少女たち《艦娘》。

 

これらが実戦投入された事により、両者はほぼ互角といえるほどに戦力差を縮めた。

 

 

‥‥だが、艦娘たちの生活拠点にして前線基地である《鎮守府》には、艦娘を指揮するための提督を始めとした、人員が圧倒的に不足していた。

 

主な理由として挙げられるのは、艦娘という存在を単なる兵器として見る風潮や男女差別。さらに、提督候補や志願者の少なさに加え、鎮守府内での暴力や無茶な進軍による大勢の艦娘の轟沈や、提督の資金着服や資材の横流しといった、ブラック鎮守府と呼ばれる存在の発覚と、それらによる提督業や艦隊その物に対するマイナスイメージの浸透であった。

さらに、邪な欲望を抱いた一部の人間による、艦娘に対する性的暴行や、そこから生じる提督と艦娘の軋轢といった、鎮守府の無法地帯化があとを絶たなかったのである。

 

 

そして今回、“彼”が新任の提督として着任することとなった《石ノ森鎮守府》も、そういった類の場所だった。辞令が下り、本部にて説明を受けた際も、そこにまつわる黒い話を嫌というほど聞いてきた。

 

 

「此処が……石ノ森鎮守府」

 

艦娘と切っても切れない存在……《妖精さん》と呼ばれる、手のひらサイズの乗組員の案内で、男は敷地内へと入った。

 

「艦娘の指揮官………俺に務まるだろうか」

 

男はその手に握りしめた、紹介状を改めて広げる。

 

差出人の欄には『香取』という名前と思しき二文字、そして送り先……つまり彼の名前に誤りが無いかを再度確認する。

 

 

『警視庁公安部 一条 薫 様』

 

「…………」

 

妖精は不安げに顔をしかめる一条に対し、言葉が通じないなりに懸命に伝えようとする。

 

『大丈夫!』

 

目の前の妖精のアピールに、一条は自然と笑みがこぼれた。

 

「考えても埒が明かない。今はとにかく、初期艦と対面し、基地内の現状を把握することが優先だな」

「!」

 

一条の言葉に、妖精は嬉しそうに頷く。

 

手紙を懐に仕舞い、一条は空を見上げる。

白い雲がちらほらと流れ、青空が広がっている。

 

この広い世界の青空の下、あいつは今、何処を歩いているのだろうか。

 

今のこの世界を知っているとしたら、きっとまた何処かで誰かを笑顔にしていることだろう。

 

ならば‥‥だからこそ、自分があいつの分まで力を尽くさねば。

 

 

あいつが、もう二度と戦う必要の無いように……。




プロローグ及びオープニングを書いてみました。

これから一歩を踏み出せるか破滅するだけか……
とりあえず、1・2話は書きあげられるように尽力致します!


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クウガ編 第一章
1話 : 着任


プロローグ書き上げただけで、この神経のすり減り具合………。

作家さんや当サイトの先輩方が戦い続けるしんどさを痛感すると共に、先輩たちすげぇ……と、ひたすら感心することしか出来ません(-_-;)


都内 国際空港 06:34 p.m.

 

 

空港敷地内の駐車場にて、一人の青年が愛車であるバイクに寄りかかっていた。

 

「―――いきなりだけど、俺さ?辛いときでも笑顔でいられる男って、カッコいいなって思ってる」

 

その、のほほんとした雰囲気や穏やかな顔つきが印象的な青年は、話を続ける。

 

 

「8歳の時に、ネパールって国のアンナプルナって山で遭難しかけたことがあるんだよ。死ぬかもしんなくて……怖くて泣きたくなった。でも、その時一緒に居た、現地の案内人の子供が、俺と同じくらいの歳なのに『大丈夫だよ!』って笑顔なんだよね!なんか、カッコいいなぁって……」

 

青年が話しかけていた相手。

 

 

「エーン、エーン……!」

 

それは、泣きじゃくっている小学生くらい男の子で、状況から推察するに迷子と思われた。

 

「んー……でも、まぁ…パパやママとはぐれたら、やっぱ心細いか……。よし!」

 

そう言って、何を思ったのか青年は野球のボールを3つ取り出し。

 

「ジャーン!よっ…ほっ……ほっ、ほっ、ホイ…ホイ……」

 

そのままジャグリングを始めた。

 

「エーン、エーン……?」

「ホイ…ホイ…ホッ…ホッ…」

 

ポンポン、ポン……と、ジャグリングをする音に気付き、子供はふと顔をあげる。

 

「…………」

「ホイ…ホイ、ホイ……」

 

子供の視線に気付き、ジャグリングを切りの良いところで終了。

 

青年は笑顔で親指を立てる仕草―――サムズアップをする。

それに対し、先程まで泣きじゃくっていた男の子は泣き止み、同じく笑顔でサムズアップを返した。

 

その笑顔に満足した青年は、ジャグリングに使ったボールの内1個をプレゼントして、男の子の頭を優しく撫でた。

 

すると、そこに男の子の両親と警備員が駆け寄ってきた。

 

 

「あっ!お父さんお母さん、居ましたよ!!」

「ああ、(なぎさ)!!」

「渚っ!!」

 

「もう!一人で行っちゃダメだって言っただろう!?」

 

我が子の無事に安堵しながらも、父親は叱りつける。

 

「良かったな」

「うん!」

 

青年の言葉に男の子は頷き、両親も改めて頭を下げた。

 

「どうも、息子がお世話になりました!」

「はぐれた時はどうなるかと……」

 

「いやいや」

 

「ほら、お兄ちゃんにお礼は?」

「ありがとう!」

「はい、どういたしまして」

 

「どうも、ご協力ありがとうございました!」

「いやいや、お務めご苦労さまですっ!」

 

家族を見送り、警備員にも挨拶をして、青年は一息つく。

 

 

「―――さて。俺も行くか!」

 

シルバーの車体にメタリックブルーのラインが美しい愛車に跨ると、青年は空港を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

大本営連絡基地 西東京支部 執務室 09:03 p.m.

 

 

全国各地に設置された鎮守府や、そこに在籍する提督や艦娘の情報を管理し、艦隊の練度や状況に応じた作戦を発令・評価するだけでなく、有事の際には、その権限を以て厳正に対処する事もある『大本営』。

 

その大本営と各鎮守府のパイプ役を担っている《事務艦》の一人が、大淀という名の艦娘だった。

 

「はい、こちら西東京支部の大淀‥‥はい、一条新提督は無事に石ノ森鎮守府へ到着したとのことです。こちらも、いただいた各資料に不備はありませんでした。履歴書を見た限りでは、とても問題を起こすような人物には見えませんが‥‥‥はい、万が一に備えて、本人にも伝えておきます。はい‥了解しました、元帥」

 

 

本部への連絡などの執務をテキパキとこなすその姿は、まるで大企業に勤める敏腕秘書のようだった。

 

「ふぅ‥‥。さてと‥」

 

 

 

しかし‥‥そんな彼女に、不審な影がジリジリと迫っていた。

 

その影は、極力音を立てないよう窓から忍び込み、資料の整理をしようと棚の方へ向かった大淀の背後に、そろりそろりと近付いて行く。

 

そして―――

 

「ウオオオォォー……」

 

静かに唸り声をあげながら、両手を振り上げ、飛びかかる様な素振りをした、その直後。

 

「久しぶりで言いたくありませんけど、窓から来ないでくれませんか?五代さん」

「‥‥‥いや、でも此処の兵舎って、いかにも『登ってくれ!』って感じしない?」

 

 

意外にも落ち着きのある大淀の一言に対し、窓から侵入して来た青年・五代雄介はよく分からない弁解をする。

 

「しません!まったく、毎度こんな変なことして……。怒られるのは私たち職員なんですからね?」

「ゴメンゴメン……。はい!コレ、ペルーの魔除けのお土産!」

 

先程まで被っていた赤鬼のようなお面を外し、大淀に見せる。

 

「……まぁた、ヘンなのが増えちゃいましたね……。お陰で、『お土産屋』なんてあだ名されてるんですからね?うちの部署」

「そうなの?」

 

小さく溜息を吐く大淀の言う通り、執務室の一辺の壁には世界各国の魔除けやお護りとされるお面のレプリカや置物が飾られており、妖精さんたちが小まめに掃除をしてくれているのだった。

 

「コーヒー飲みます?」

「いやいや、もうすぐ行くから。例の《第2の九郎ヶ岳遺跡》!」

 

大淀の誘いをあっさりと断り、お土産のお面を飾ると妖精さんたちとサムズアップを交わす。

 

「落ち着かない人ですね、相変わらず……ん?」

 

 

その時、大淀の机の電話が鳴り出した。




記念すべき第1話が、まさかの2000文字近くに行くとは………。

文才って、お裾分けして貰えないんでしょうかね?

次回、とんでもない事件発生!


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2話: 異変

明けましておめでとうございます。

年明け一発が小説第2話、そして文字数の最低ラインをどう越えられるかという重大な課題……

読者の皆さんの期待に添えられるものを書けるか、早速己に対する不信感が湧き始めております(-_-;)


「どうした?」

 

電話の着信に気付き、何事かと大淀に問いかける雄介。

 

「急な案件かもしれませんね……ちょっと失礼します」

 

 

受話器を取り、大淀は電話に出た。

 

「はい、こちら大本営連絡基地……もしもし?もしもし……?」

 

 

『もしもし、警察ですか!?こ、こちら長野の九郎ヶ岳で……ヒッ!?イヤ!!イヤァァ―――ッ!!!』

 

受話器の向こうの声は、何かを前にして酷く怯えている様子だった。

さらに、悲鳴と同時に、何かが破裂したような激しい音が受話器越しに響いた。

 

 

「もしもし!?もしもしっ!?…大変……!」

 

通話も切れてしまったことで、大淀は事態の深刻さは尋常ではないと見た。

 

電話の主は居場所を長野、それも九郎ヶ岳と言っていた。ならば、憲兵もしくは警察に連絡をして現場検証を頼むべきか?

いや‥‥それでは色々と後手に回り、最悪の事態も起こり得る。

 

しかし、自分はあくまで連絡係。下手に出しゃばれば、周りにどんな影響が出るか分からない。

とにかく、まずは連絡をと思い、妖精さんたちに指示を出そうと周りを見渡した、その時だった。

 

 

「俺、確かめて電話入れるよ!」

 

考えるよりもまず行動。思い立ったが吉日。

 

大淀の思案よりも早く、雄介は外へ飛び出して行った。

 

「……あっ!?(ひとえ)ちゃんまで付いていったの!?」

 

職員勤務の妖精さんの一人で、主に12cm単装砲の整備を担当している妖精・通称『単ちゃん』。

 

雄介が大淀や妖精さんたちとの交流を持ち始めて、最初に雄介と仲良くなった妖精さんでもあった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

単ちゃんを載せた雄介のバイクが長野に入った頃、時は既に夜中の3時を回っていた。

 

 

「………」

 

信号に捕まり、雄介はいつかの雨の日を思い返していた。

 

あの時も、こうして走ったっけなぁ‥‥

 

そんな事を考えていた、次の瞬間。

 

「!!」

 

山の方から激しい稲光が迸り、辺りに轟音を響かせる。

 

 

「……!?今のは………」

 

同じく現場へ向かっていた新任の提督・一条も、その放電現象を目の当たりにしていた。

 

しかし、それ以上に彼を驚愕させたのは、他でも無い雄介の存在だった。

 

 

同じ頃‥‥山中を歩く巨大な影は、溢れ出る力を岩や草木にぶつけながら、やがて拓けた地に辿り着く。

 

「レ・ザァ、レェ、ジョォ‥‥フゥアッ!!」

 

両手に込めた何かの力を放ち、影は姿を消した。

 

程なくして、そこから夥しい数の腕という腕が地中から伸び、不気味なうめき声を発しながら無数の影が姿を現したのだった………。

 

 

 

 

長野県 九郎ヶ岳遺跡 周辺 08:17 a.m.

 

 

西暦2000年。かつて、この地で見つかった古代の遺跡。

そこに関する出土品は、大体が回収され、厳重に管理・保存されているため、この地一帯に漂う焦げ臭い匂いの中に破損したものは幸いにして無かった。

 

 

「まさか、九郎ヶ岳にこの様な遺跡がまだあったとは‥‥‥。連絡は、確かに大本営の支部から?」

「はい!大淀さんからの伝令でした、司令官!」

 

一条の問いにハキハキと応えたのは、セーラー服の似合う中学生くらいの年頃と思われる少女だった。

 

彼女の名は「吹雪」。

艦娘の一人であり、一条が提督に着任した際、初期艦に任命した少女である。

 

 

「吹雪くん。立場上、そう呼ばれるのは仕方無いと思っているが……普通に一条と呼んでくれて構わないぞ?寧ろ、その方が性に合ってる」

 

「えっ!?でも、司令官は私たちの提督で、司令官と呼ぶべき人なんですよ!?」

 

実は、吹雪は一条と同じく石ノ森鎮守府が初めての着任であるため、基礎的な知識しか持ち合わせていなかった。

 

とは言え、一条が彼女を初期艦に選んだのは、同じスタートラインに立つ者同士、共に学んでいきたいという思いからだったのだが。

 

 

そんな会話をしつつ、調査をしていた頃。

雄介と単ちゃんも、ようやく遺跡に入ることが出来た。

 

「‥‥‥」

 

何かおかしな点は無いか、雄介は辺りを見渡した。

 

なるべく見落としが無いよう、じっくりと眺めていた……その時。

 

雄介の脳内に、異形と戦う『戦士』の姿が流れ込んできた。

 

「っ!?」

 

今のは何だ?

 

かつて、自分が初めて此処へ訪れた時も、今のようにして『戦士』が戦うイメージが頭の中に浮かんだ。

 

しかし、今見たイメージは何処かが違う。

 

『戦士』の姿は、間違いなく同じ物だ。

 

 

しかし、その『戦士』が交戦していた異形は、『奴ら』ではない気がする。

 

「………」

 

まさか‥‥

 

あそこには、まだ何かあるのか?

 

沸々と湧き起こる好奇心から、雄介は歩きだした。

 

 

「う〜……それじゃあ…一条司令官……」

「……まあ、お互いに会ってまだ日が浅い。これから時間をかけて、信頼関係を築ければそれでいいさ」

 

そこへ

 

「遅れて申し訳ありませんっ!もう、すぐ作業に掛かりますんで!」

 

当たり前のように挨拶をして、当たり前のように行こうとする一人の男の姿が。

 

 

「……待て!」

 

当然、一条 薫という男がこれを見逃す筈も無く。

 

 

「どういうつもりだ?」

「あちゃぁ……やっぱダメっスか?」

 

「……相変わらずだな、君は」

「はい!―――お久しぶりです、一条さん」

 

サムズアップ。

 

友との再会に、一条は笑みを浮かべる。

 

しかし、その一方で素直に喜ぶことの出来ない自分も居た。

 

彼が来たということは、恐らく……否、間違いなく今回も関わろうとするだろう。

 

しかし、それだけは絶対にあってはならない。

 

彼には、もう必要の無いことだから。

 

必要であってはならないのだ。

 

「あのぉ…司令官、この方は?」

「あ、初めまして!俺は一条さんの知り合いで……こういう者です」

 

 

「《夢を追う男》……《2000の技を持つ男》五代雄介?」

 

渡された名刺を見て、キョトンとする吹雪に対し、笑顔で答える男

 

―――我が友、五代雄介には。




急展開を期待した皆さん、ゴメンナサイ!

あまり長くなり過ぎるとだるくなると思い、また中途半端に切り上げてしまいました!

次回こそ……次回こそは、『中途半端』はしません!

きちんと書きますから!!


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3話 : 復活

古の闇より、目覚めしもの……

それは正義か、悪か……

今、“塗り変えられた伝説”が甦る____


※追記

誤字の指摘を受けたので、修正致しました。

※本日7月23日、新たに修正致しました。


「五代……雄介さん?」

「はい!」

 

渡された名刺に目を通し、不意に名を繰り返し呼ぶ吹雪と、それに対して笑顔で応える雄介。

 

 

「吹雪くん」

「は、はい?」

 

「少しだけ、席を外してもらっていいか?」

 

奇妙な間を変えたのは一条の一言だった。

小さく頷くと、吹雪は作業の手伝いに向かった。

 

 

「…まさか、こんな所で再会するとはな」

「ほんと、ビックリですよね。最初に会ったのと同じ場所で……なんて」

 

流れた月日の長さを実感しつつも、お互い変わり無いことに二人は嬉しさを感じていた。

 

 

「ところで…一条さんのその制服(カッコ)。ひょっとして、提督になったんですか?」

 

「ああ。石ノ森の鎮守府を任されることになったんだが……着任式が終わってすぐに、この騒ぎだ。勿論、基地内部にも解決すべき問題や課題は沢山あるんだが……かといって警察官(本来)の務めを疎かにする事は出来ないからな」

 

「そうですよね……。大淀さんも、その問題っていうのについてすごく悩んでました。艦娘のみんなや、提督になる人との関係を良くするにはどうしたら良いんだろうって」

 

 

すると、何かを見つけたらしい吹雪が一条を呼んだ。

 

「司令官!ちょっといいですか?」

「…すまない」

「いえ、今は仕事中だし」

 

話の中断を詫びる一条に、雄介はサムズアップで応える。

 

「どうした?」

「それが……」

 

 

そこへ、遺跡から何かを発見したらしい作業員が、ビニール袋に入れた出土品を手に、雄介とすれ違う。

 

 

それを目にした瞬間。

 

「!!?」

 

『あの時見たイメージ』に匹敵する、強いイメージが再び雄介の頭の中に流れ込んできた。

 

 

「隊長!!こんなものが…!」

「何だ…これは……?」

 

作業員が見つけた出土品──石板やその破片と思しきそれには、かつて発見された遺跡の出土品と同じ系統の古代文字らしきものが刻まれていたのである。

 

 

「…なんだ?今の………」

 

 

疑問に次ぐ疑問に、雄介は首を傾げるしかなかった。

 

 

長野県内 石ノ森鎮守府 12:20 p.m.

 

 

せっかくの再会ということもあって、雄介は一条らと共に石ノ森鎮守府へと赴いた。

 

さらに、情報共有のため、大淀も出向いた。

 

 

「すみません!!資料の準備に、少々手間取ってしまいました!」

「いえ、ご足労いただき感謝します」

「お出迎え、ありがとうございます……って、五代さん?」

「やあ」

 

 

まさか雄介が一条と合流しているとは思わなかった大淀は、戸惑いつつも一条らと共に、鎮守府の大会議室へ向かった。

 

 

 

「えっと……お茶をお淹れしましたので、宜しければ……」

 

会議室に入ると、石ノ森鎮守府の所属艦娘の一人である軽巡洋艦娘《神通》がお茶を用意してくれた。

……しかし、その態度は提督である筈の一条に対しても、どこか余所余所(よそよそ)しいものだった。

 

 

「これが、問題のカードです。惨劇の中、生き残ったのは……残念ながら、これだけでした」

 

そう言って、一条が出したのは一枚のSDカードだった。

 

 

「皆さん……亡くなられたんですか……!?」

 

動揺する大淀の言葉に、一条は沈黙で答える。

 

 

「……調査団8名、それから大本営より派遣された海軍将校と8人の憲兵で編成された護衛部隊9名。全員、ほぼ即死の状態だったようです……」

「深海棲艦の実態解明の手掛かりがあるかもしれないと、顔合わせをしたばかりだったのに……」

 

「……それで、それには何が記録されていたんですか?」

 

突然過ぎる訃報に対し、ショックのあまり俯く大淀の代わりに吹雪が質問をする。

 

「今からコピーしたものをお見せします。辛ければ、すぐ中止しますので」

 

 

妖精さんに合図を送り、映像を再生してもらう。

 

スクリーンに映し出されたのは、まるでエジプトにあるピラミッドの内部のような空間だった。

 

壁画らしきものが描かれたそこに、場違いともいえる巨大な影が姿を現し、調査団のメンバーを次々と殺していく。

 

 

『カィ…リイ……クウ、ガァ……フウゥアッ!!』

 

室内に轟く悲鳴。

 

そして助けを求め、泣き叫ぶ声………。

 

 

「こんな……こんなのって……ッ…」

「………」

そのあまりの惨たらしさに、吹雪は両手で顔を覆い、身を縮こまらせてしまっていた。

大淀も俯いたまま黙り込み、映像を見ようとしない。

 

「…………」

 

そんな二人を、雄介は悲しげに見つめていた。

 

 

やがて映像は終わり、妖精さんたちは室内の明かりを点け直した。

 

「…あの謎の影の正体は不明です。しかし……奴は最後に、まるで恨み言を発するかのように謎の言葉を残した。私には、それが漠然と気になるんです」

 

 

この時、一条は小さな嘘を吐いた。

 

謎の言葉……それが何を意味するのか、部分的にだが自分は知っている。

 

あの遺跡に関することを知る者なら………いや、()()()()を知る者であり、尚且つ関わった者であれば分かる言葉が含まれていたのだ。

 

「本来、遺留品の鑑定には手続きが必要なのですが……それは、こちらでどうにか済ませておきますので」

 

 

そう言って一条が出した物。

 

それは、雄介が見た石板だった。

 

 

「あーっ!!コレ、遺跡から出たやつですよね!?」

「ああ…そうだが?」

「だったら、俺が桜子さん所に持っていきましょうか?また東京に戻りますし」

「気持ちはありがたいが……宅配とは訳が違うんだぞ?」

「でも……」

 

雄介と一条の会話に付いて行けず、吹雪の頭が混乱し始めたその時だった。

 

 

「一条提督!!」

 

勢いよくドアを開けて入ってきたのは、長い銀髪を結った姿が印象的な軽巡洋艦娘《由良》。

 

軽巡洋艦の中では石ノ森鎮守府の着任が浅いためか、一条への態度もいくらか柔らかだ。

 

「失礼……。どうした、由良くん?」

「事件です。それが……」

 

報告を受け、一条は頷く。

 

「それはお預けしますので、よろしくお願いします!申し訳ありませんが、私はこれで……!吹雪くんは、その方たちをお見送りしてくれ!」

 

一礼すると、一条は吹雪と雄介たちを残し、行ってしまった。

 

「えっ?ええぇっ!!?」

 

初期艦にして、秘書艦である筈の自分が出撃から外されたと思った吹雪は、ガックリと肩を落とす。

 

 

「大淀さん……私って、そんなに司令官に信用されてないんですかぁ……?」

 

「それは…無いと思いますけど………」

 

 

秘書艦だからこそ、危険に晒したくないのではなかろうか?

 

大淀はそう考えるも、今の吹雪にそれを聞き取るだけの気力は無いようだ。

 

 

長野市 オフィスビル街 02:21 p.m.

 

 

通報を受けた警官隊や憲兵たちが現場に駆けつけ、怪奇現象を目の当たりにしていた。

 

「こちら憲兵隊第1班!謎の生物が、巨大な蜘蛛の巣を張って……!!」

 

 

それは、かつての事件を彷彿させる光景だった。

 

ビル伝いに極太な糸が張り巡らされ、巨大な蜘蛛の巣が形成されていたのだ。

 

 

「きっ、来ます!!」

 

憲兵の一人が無線機を通して報告している最中、“それ”は襲いかかってきた。

 

 

「フゥゥアッ!!」

 

糸を腹部に巻き付け、バンジージャンプの様に遥か上空から飛びかかると、憲兵と警官をそれぞれ両脇に抱え込み、一気に上昇していった。

 

「なっ!?」

「ウアっ!!?アァーッ!!」

 

「気をつけろ!!また来るかもしれんッ!!」

 

 

一人の刑事が周囲に呼びかけ、警戒するも……

 

 

これまた唐突に、その異形はパトカーの屋根の上に着地した。

 

「うわぁあっ!?」

 

 

それは、ハッキリ言って人間ではなかった。

 

人のような形をしていながら、頭部にある複眼や口の形状、身に付けた装飾品等から、全体的には蜘蛛を彷彿とさせる姿をしており、さらには(かじ)(いかり)舵輪(だりん)といった、船のような外装をも備えていた。

 

 

「ザボ・ゾロガ……」

 

「まさか……深海棲艦!?」

「馬鹿な!奴らは海の上にしか現れない筈だぞッ!!?」

 

「と…とにかく、撃て!!撃てぇッ!!!」

 

異形の怪物に対し、一斉に発砲する警官や憲兵たち。

 

しかし……銃弾は、怪物の身体に僅かにめり込むだけで貫通することはなく。

 

「フン…」

 

怪物が少し力むだけで弾丸は押し返され、バラバラとその場に散らばる。

 

「ヅギパザンボ・ボ・ヂサザバ?ヘェアッ!」

 

憲兵たちの手が止まったと見るや、次はこちらの番とばかりに怪物の蹂躙が始まった。

 

素手の殴打や爪による一撃。見せつけられるのは、単純明快な力の差。

 

一人、また一人と警官や憲兵たちは殺傷されていく。

 

 

「うわぁあ、あああぁあっ!!!」

 

 

最後の一人となってしまった警官は恐怖に耐えきれず、パトカーでの逃走を図る。

 

「フン」

 

しかし……それすらも、怪物から見れば無駄な抵抗に過ぎなかった。

 

怪物の吐き出した糸がパトカー後部を容易く貫き、警官の首をシートの枕ごと絞め上げる。

 

 

「ぅぐっ!?ぅぇ、げえあぁ‥ぁがハァ‥‥っっっ!!!?」

 

パトカーの走りに身を任せながら、糸を手繰り寄せていく怪物。

 

 

そして────

 

 

石ノ森鎮守府 門前 03:22 p.m.

 

 

吹雪に付き添われ、雄介と大淀は外へと歩いていた。

 

 

「はぁ……司令官、私の事どう思ってるんだろ……」

「そこまで心配する必要無いと思うよ?一条さん、良い人だし!」

 

「私としては、五代さんが提督とお知り合いというのが驚きですけど」

「そう?」

 

雑談をしながら正門へ向かおうとした、次の瞬間────!!

 

 

1台のパトカーが鎮守府に突っ込み、扉をぶち破ってきた。

 

「きゃああぁっ!!?」

「な、なんだッ!?」

「え!?えっ!!?」

 

 

突然の異常事態に、鎮守府内の艦娘や憲兵、さらに設備の点検に訪れていた作業員などが騒然となる。

 

停車したパトカーのドアが開き、中からゆっくりと出てきたのは、警官でもなければ人間ですらなかった。

 

 

「フゥゥァ……」

 

「ヒッ……!!?」

 

現れた蜘蛛のような怪物に、吹雪と大淀は怯える。

 

 

「ジャザシ・ギスグ・ゴセゼパ・バギバ・リント……」

「へっ?ぅえっ!?」

 

聞いたことの無い怪物の言語に、吹雪は困惑するばかり。

 

すると、怪物は不意に石板へと視線を移し。

 

 

「ボセパ・シグドン・カイリ…!!」

 

何かを知っているように、憎らしげに呟いたが、雄介や吹雪たちはそれに気が向くほどの余裕は無い。

 

さらに。

 

石板を目にした途端、またも雄介の脳内にイメージが流れ込んできた。

 

「……また…!何なんだ、いったい……!?」

 

 

「何事だ!!」

「っ!長門さん!!」

 

そこへ騒ぎを聞きつけ、石ノ森鎮守府の古参メンバーの一人である艦娘・戦艦《長門》が駆けつけた。

 

「っ!?……なんだ、あの怪物は!?」

 

「分かりません!でも……でも、あの怪物に殺された人たちが……!!」

 

吹雪の言う通り、多くの憲兵が怪物に応戦するが、拳銃による発砲は何の意味も為さず、怪物の殴打や爪の一撃で次々と討たれていく。

 

「くっ……!これ以上、この石ノ森で犠牲を出してなるものかッ!!」

 

艤装も身に着けず、長門は怪物に挑みかかった。

 

「ギゲギン・ギギ・ジャヅザ!」

「ほざけ!!」

 

 

石ノ森鎮守府所属艦の中でも戦闘経験豊富にして、対人格闘の心得もある長門は、相手が怪物でも人型である限りは遅れを取るまいと見ていた。

 

否‥‥実際、ほぼ互角に渡り合っていたのだ。

 

「ゴロギ・ソギ……」

「っ!?……はっ!?」

 

怪物の放った、錨に腕を絡め取られるまでは。

 

「フウウゥゥゥンッ!!」

「しまっ…!!う、うあああああぁぁっ!!?」

 

 

勢いよく振り回され、長門は床に叩きつけられる。

 

「がっふ……あ、ぐ…!!」

 

「長門さん!!どうしよう…長門さんが……長門さんまでやられちゃう……っ!!」

 

 

怪物に対する恐怖と長門への心配から、吹雪の目には涙が浮かんでいた。

 

 

この時、五代雄介は思考する。

 

相手は『奴ら』ではない。全くの未知の敵だ。

 

しかし……ここで立たねば、また多くの人が……

 

一人の少女が涙を流すことになる。

 

ならば

 

自分の出すべき答えは決まっている。

 

 

それが、自分の“納得出来る行動”だから────。

 

 

「吹雪ちゃん、大淀さん。隠れてて!」

「えっ……」

「なんとかしてみる!!」

「なんとかって……ちょ、五代さんっ!?」

 

「ンン?」

 

怪物と長門の前に飛び出した雄介は、包み込むような構えで自身の腹部に両手をかざし、意識を集中させる。

 

 

戦いたい、と。

 

 

その意思に応えるように、雄介の腹部からベルトが出現する。

 

神秘文字を刻まれたそれは、長い年月を感じさせぬほどに美しく、完璧なまでに復元されていた。

 

 

構え、伸ばした右腕を左から右へ、ゆっくりと動かしていく。

 

 

「変 身 !!」

 

 

伸ばした右腕を左腰へ振り抜き、雄介は怪物に殴りかかる。

 

 

一打、また一打と、拳や蹴りを繰り出すごとに

 

五代雄介の姿を

 

肉体を『戦士』へと変えていく────。

 

 

「…………!!」

「ご…五代……さん……?」

 

()()……なに……?」

 

 

吹雪と大淀、そして長門と怪物の前に立つ者。

 

それは、白い身体に短い角を持つ異形の戦士だった………。




短めにまとめるつもりが、結局4000文字……!!

もっとぼくを、ライターにしてよ……(切実)

※修正を重ねた結果、まさかの5000文字にグレードアップ(ヽ´ω`)


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4話 : 艦娘

クウガDVDを観返し、制作の糧にと試行錯誤をしております。

今回の戦闘シーンとクウガ本編1話の戦闘を見比べてみるのもアリかと。


()()……なに……?」

 

姿の変わった雄介に、吹雪は震えながら問いかける。

 

 

「ビガラ・クウガ!」

 

一方、蜘蛛の怪物は何かを知っている様子で、不気味な言葉に怒りのような感情を込める。

 

「…なんだ……アレは……?」

 

吹雪らと同じく、一般人と見ていた筈の雄介が異形に姿を変えたことに長門は驚きを隠せない。

 

 

白い『戦士』に変身した雄介は周囲の人々を巻き込まぬよう、そして怪物が能力を発揮しづらいようにと、開けた中庭へと誘導していく。

 

 

「フン!」

「フッ!ハッ!オァリャアッ!!」

 

怪物が振り上げてきた左腕を防ぎ、僅かに隙のある右脇腹へと蹴りを入れ、体勢を崩したところにパンチの連打を相手の懐に叩き込む。

 

「………!!」

 

しかし、相手を僅かに後方へ押し返しただけに過ぎず、ダメージを与えている訳ではなかった。

 

 

「…ゴン・デギゾバ?クウガ!」

 

お返しとばかりに、怪物は猛攻を仕掛けてきた。

 

しかも素手のみならず、手にした(いかり)を攻撃に織り交ぜてきた為、雄介はあっという間に劣勢に立たされてしまう。

 

 

「シャッ!」

「!!」

 

さらに。

 

怪物は蜘蛛の糸ではなく、漁船で用いられる網を吐き出し、雄介の動きを封じる。

 

「フウウゥゥゥアッ!!」

 

「うあああああぁぁあっ!!!」

 

そのまま勢いよくぶん投げられ、鎮守府の屋上へ飛ばされてしまい、屋根に叩きつけられてしまう。

 

「ぁぐっ!!ハァ…ハァ……ぐ…フゥ……っ!」

 

 

まさに間一髪。

 

屋根から落ちる寸前、雄介は屋根の縁に掴まり、なんとか屋上の広場へ這い上がる。

 

そこへ、余裕綽々と壁を登ってきた怪物が追いつき、獲物を逃すまいとジリジリと迫る。

 

 

「フウウ……」

 

手首の付け根に生えた突起が伸び、鋭い鉤爪となる。

 

 

「………!」

 

ゆっくりと近付いてくる怪物に警戒する雄介。

 

「ヘェアッ!!」

 

勢いよく鉤爪を突き出し、雄介を刺し貫こうと襲いかかる。

 

「!!!」

 

咄嗟に躱したものの、その鋭さと強さは凄まじく、雄介が躱した先の壁には爪によって生じた穴が二つ出来上がる。

 

 

「くっ!おおりゃあっ!!」

 

必死に応戦するが、怪物は怯む様子は無い。

 

 

「ぐぅうあっ!!なんで…!?なんで“白から変わらない”んだ…!?」

 

 

焦り、困惑。

 

そういった心の乱れから、徐々に追い詰められ始める。

 

 

「シャッ!」

 

糸を吐かれ、雄介は首を締め上げられ始める。

しかも角に追い詰められ、身動きを取れなくされてしまう。

 

「ゴパシ・ザ!クウガ!!」

 

鉤爪を突き付けられ、万事休すかと思われた…その時。

 

 

上空から、警察用のヘリコプターが飛んできた。

 

そこには、一条が乗っていた。

 

 

「あれは……『第4号』!?」

 

 

見知らぬ怪物に追い詰められている、白い異形を見て驚愕する一条。

 

しかし、今対処すべきは蜘蛛の様な奴だ。

 

 

一条は拳銃を構え、怪物の頭部めがけて発砲した。

 

3発放った内の1発が怪物の頭部に被弾するも、やはり致命的にはならず。

 

怪物は、口から吐いた糸を千切るのと併せて頭にめり込んだ弾丸を振り払い、新たに一条の居るヘリに向かって糸を吐き、向かっていく。

 

「!!」

 

せめて『第4号』が追いつくまでの時間稼ぎをしようと発砲するが、やはり効果は無く。怪物は鼻で笑いながら撃たれた箇所を撫でる。

 

お返しとばかりに、怪物が鉤爪を一条に向けて突き出すが、寸でのところで一条はこれを回避。

 

「フゥゥ……」

 

不満そうに唸ると、次は外さぬといった様子で振りかぶるが、そこに『第4号』こと雄介が背後から怪物に組み付き、一条から引き離そうと踏ん張る。

 

「ぐぅ…ううっ!!」

「フウウ!!」

 

その取っ組み合いから、ヘリも激しく揺れる。

 

 

「ぐあっ…!」

 

振り落とされまいと、一条やヘリのパイロットは踏ん張りを利かせる。

 

「うあぁっ!?」

 

怪物は凄まじい力で雄介を押し退け、地に落とそうとする。

 

「ぐぅ…!フン!でやっ!!」

 

そうした猛攻に懸命に抗い、雄介は怪物を振り払う。

 

「フウウ……!」

 

しかし、諦めたと見せかけ、怪物はヘリの底面を這い、一条の背後へと回り込む。

 

「シャッ!」

 

「っ!!?ぐああ、あぁ……!!」

「一条さん!!ぐぅっ…!!」

 

ヘリから引きずり落とそうとする怪物から引き離そうと、一条の両足を抱え込んで抵抗する雄介。

 

「ふん!であっ!!」

 

殴り、蹴り飛ばし、どうにか引き剥がすも、怪物は尚も諦めない。

 

 

と、その時だった。

 

「ッグォオ!?」

 

怪物を何者かの砲撃が捉え、ヘリから落とした。

 

「!?」

 

「ヌウウ、ウオオオォァッ!?」

 

廃屋に墜ちたのを最後に、怪物の姿は見えなくなった。

 

「………!!」

 

雄介と一条がその先に目を向けると、そこには長い黒髪をなびかせた美女の姿が。

 

 

「……長門…」

 

それは、高角砲を構えた長門だった。

 

「…………」

 

少し間を置き、一条と雄介は向かい合う。

 

「………」

「………」

 

サムズアップ。

 

その仕草に、一条は改めて目を見開く。

 

 

「………まさかお前は」

「じゃ!」

 

確認を取ろうとした時、雄介はヘリから飛び降り、走り去った。

 

 

「…………」

 

サムズアップを思い返し、一条の表情が険しくなる。

 

またか……

 

また、お前はこの道に踏み込むというのか………。

 

 

夕焼け空に浮かぶヘリの中で、一条は強く拳を握りしめるのだった………。

 

 




戦闘シーン、映像としては浮かぶのに文章に変換するとなると大変ですね(^_^;)


サブタイトルに不釣り合いな展開となって、今後ちゃんと描けるのかしら?ワタシ……


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5話 : 暗躍

いよいよ、本作の物語が本格的に動き出します

………タブン(←オイ)


石ノ森鎮守府が蜘蛛のような謎の怪物に襲われ、それに呼応するかのように白い怪物が現れて交戦し、それぞれが行方を晦ましたその日の夜。

 

とある港付近の廃倉庫に、男3人のグループが入ってきた。

 

 

「な?結構悪くない場所だろ?」

「へえ、艦娘用に使われてた倉庫って案外広いんだな?」

「へへ……確かにこんだけ広くて、しかも街から程良く離れてりゃ、女連れ込んでヤるには充分だな」

「だろ?だろ?」

 

そんな犯罪染みたことを話し、盛り上がっている連中を、ジッと見つめる不気味な影がそこにあった。

 

「ヅギパ・ガセババ……」

 

獲物と見なし、影はするすると近付いていく。

 

 

「それで?目星は付いてんのか?」

「一人は確定済みだよ〜ん♪金髪でメッチャ乳がすんげぇの!」

「ああ、分かる分かる!ありゃもう艦──」

 

「……へ?」

 

それが、彼らが交わした最期の会話だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

石ノ森市 ときわ町 07:47 a.m.

 

近くのファミレスにて、大淀と雄介、そして妖精の(ひとえ)ちゃんは滞在していた。

 

とは言え、雄介は熟睡中だったのだが。

 

 

ノートパソコンで、深海棲艦や昨日の怪物に関する情報を探っている大淀と、その手伝いをしながら朝食のパンを頬張る単ちゃん。

 

「……敵艦載機墜落現場に熊出現?どういう事……?」

 

その最中、あまりにも不自然な見出しの記事を発見。

いったい何事かと読み進めようとする大淀だったが。

 

「ふあぁ〜〜あ……」

 

ここでも、ある意味マイペースな雄介の欠伸と目覚めによって注意が削がれた。

 

 

「……あっかるぅ……」

 

「当たり前でしょ?ビーフステーキ2人前とカレー大盛りを平らげて、その後11時間も寝ていたんですから」

 

皮肉混じりに呟く大淀に対し、雄介は

 

「いやあ…ゴメンね?なんかこう、久々に体力を消耗したー!ってカンジで…。あ、スミマセーン!メニュー下さぁーい!」

 

平常運転であった。

 

「こっちは眠れませんでしたよ!あんなビデオを見せられて……深海棲艦とも違う変なのに襲われて。その上、五代さんまで姿が変わって!!大丈夫なんですか?あんな事になって……」

「んー……まあ、良いんじゃない?とりあえず死なずに済んだし」

 

「気楽過ぎです!変身したまま、五代さんでなくなるんじゃないかって、単ちゃん共々不安だったんですからっ!!」

 

大淀の言葉に、単ちゃんもプンスカしながら頷いて見せた。

 

塩を舐めるも、出しすぎたのかしょっぱい顔をした雄介は、おしぼりで手を拭う。

 

「なんかね?その気になると、あの戦う姿に変わるみたいなんだよ。……で、その気じゃなくなると元に戻るんだよ。分っかりやすいよね?ホントに……」

 

 

「どうぞ」

 

メニュー表を受け取り、朝ご飯を何にしようかと眺める雄介に、大淀は言い寄る。

 

「早く基地に戻りましょう?もうあんな事しなくて良いんでしょ?」

「んー……ただの冒険野郎に戻れれば良いよね。やっぱ好きになれないから、あの感触は……」

 

「あの感触……?」

「?」

 

雄介の言葉に疑問を持った大淀と単ちゃんは小首を傾げる。

 

それに対して、雄介は己の握りしめた拳を悲しげに見つめるのみで、答えることは無かった。

 

 

一方、こちらは石ノ森鎮守府。

 

昨日の戦いから、一条が信用するに値する人物であると判断した長門は、秘書艦の吹雪と共に一条の指揮する第一艦隊への編成・着任を志願。

 

有事の際は一条の代理として、そして先輩艦娘として吹雪の補佐をすることとなった。

 

「あの、長門さん!司令官!今朝方辺りから、妙な噂ばかり聞くんですけど、どういうことなんですか!?子供が神隠しに遭ったり、夜中に唸り声が聞こえたり!さらには、牛の血が抜かれていたなんて話も!なのに、どうして大本営や上層部(うえ)は正しい情報を公表しないんですかっ!?」

 

 

パトカーに乗りながら、吹雪は一条らを問い詰める。

 

 

「あの《揚陸強襲鬼(ようりくきょうしゅうき)》も未確認生命体第4号も、どちらも死体どころか行方すら確認されていない。いたずらに情報を公開して、周囲の混乱を招くべきではないと上層部が判断したんだろう」

 

「でもですね……!」

 

一条の言葉に食い下がろうとする吹雪に、パトカーを運転する長門がこれを(なだ)める。

 

「その代わり、我々の管轄の警備体制を強化してもらえる筈だ。例の《DPCS2018A》が実装されれば、優先的に石ノ森鎮守府(ウチ)に廻してもらえるという話もあるらしい」

 

「よ、よく分かりませんけど…スゴイ事なんですね!」

 

と、その時。

 

「!!」

 

長門と一条が何かに気付き、パトカーを停めた。

 

 

一条と長門が向かった先。

そこは雄介と大淀たちの居るファミレスだった。

 

「!」

 

外から窓をノックする音に気付き、カレーを頬張っていた雄介が顔を上げると、そこに一条と長門が。

 

 

「今、来れるか?」とジェスチャーする一条に対し「あ、はい!大丈夫、すぐ行きますんで!」と、同じくサムズアップで応えた雄介は残りのカレーをかき込むと外へ向かった。

 

 

「俺や長門くんの思い違いなら忘れてくれ。君は昨夜……」

「ハイ!あのクモみたいなのと戦いました!」

 

一条の問い掛けに、雄介は笑顔とサムズアップであっさりと認めた。

 

「……ではやはり、貴方があの《未確認生命体第4号》なのか…!?」

「艦娘さん、クウガを知ってるんですか!?いや、なんか照れるなあ……」

 

一条や長門の心境と裏腹に、照れ臭そうに頭を掻く雄介。

 

「五代雄介!何故、あんな真似をした!?」

「いや、成り行きってゆーか……あの遺跡でまた幻を見て…あとやっぱ、あの状況になったらやるしかないかなあって思って……やってみたら出来たんですよ!変身!でも…まだちょっと万全じゃなかったのか、変身する時とか戦ってる間、ずっと痛みはありましたけど。この辺がこう、ズキズキって……」

 

腹部をさすりながら、当たり前のように話す雄介。

 

「……いや、ビリっと?いや、ガツン!って感じもあったっけ?どれが良いッスか?」

 

いや、どうでもいい。

 

「馬鹿か、貴殿は!!何故そんな軽率なことをした!?」

 

 

案の定、と言うべきか。

 

一条に負けず劣らずの生真面目である長門は、雄介の暢気そうな雰囲気に声を荒げる。

 

「……求められた気がしたんです。あの怪物と戦えって」

「求められた……?」

 

 

長門の言葉に、雄介は小さく頷く。

 

「戦ってみて、やっぱりそうかって思いました。また、クウガの力が必要なんだなって」

「何ともないのか!?下手すれば、今度こそ取り返しのつかないことになるかもしれないんだぞ!」

 

「……?」

 

取り返しのつかないこと────。

 

一条の言葉に、吹雪はふと耳を傾ける。

 

 

「大丈夫!ただの勘ですけど」

「…貴殿は我々をおちょくってるのか?」

 

変わらず暢気そうな雄介の態度に苛立ち始めたのだろう、長門は額に青筋を浮かべていた。

 

「それより、一条さん。艦娘さん」

 

そんなことを知ってか知らずか、雄介は話題を変えてきた。

 

 

「あの未確認みたいなヤツ……どうなりました?」

「……もう貴殿には関係の無い事だ」

 

その素っ気ない長門の態度に、雄介はかつての一条を重ねた。

 

「……生きてるんですね?」

「関係無いと言っただろう!!……ええい、もう良い!一条提督!吹雪!さっさと現場検証に向かおう!!」

 

 

ズカズカとパトカーに向かう長門を、キョトンとした雄介と少々申し訳なさそうな一条が見届ける。

 

「……万が一ということもある。明日にでも、椿に診てもらえ」

「そう、ですね。そうします」

 

そして、雄介と一条らは別れた。

 

 

 

東京都 ときわ港 01:57 p.m.

 

 

一条たち3人が赴いた殺人現場。

 

そこには、若い男性3名の死体が転がっていた。

 

 

柳井(やない)さん!」

 

長野県警時代、一条の先輩であった海老沢刑事の元同僚にして捜査一課の刑事である柳井が先に来ていた。

 

「おお、スマンな…提督に着任して早々、警察(こっち)の手伝いに来てもらって」

「いえ…それで、状況は?」

「詳しいことは鑑識の結果待ちだが……被害者の首元、それも首筋辺りに吸盤の痕みたいな傷が一箇所。それ以外に致命傷は無い。しかも一晩で4人だ……。コレがただの殺人じゃあないってのは、俺にも判る」

 

柳井の言葉に、一条は犯人の正体を考える。

 

それに対し、柳井は問いかけた。

 

「昨夜の生き残り……って可能性はあるかね?」

「……揚陸強襲鬼も第4号も、明らかに人間や従来の生物と異なる形状をしていましたから、それはまず無いかと」

 

「そうかぃ………ってなると、残る可能性はあと一つ……」

「……新たな、未確認生命体」

 

「ッ!?」

 

一条の一言に柳井は静かに頷き、長門は目を見開き、耳を疑うのだった。




急遽、サブタイトル及び話の区切り方の変更をお許しください!


次回、次回こそは!!


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6話 : 変身

DX玩具のクウガライドウォッチ、ハッキリ言って反則ですよ……。

『古代のベルトで超変身!笑顔を守るライダーは………』

『クウガだッ!!!』


※一部修正、改良を施しました。


一条たちが港にて発覚した殺人事件を捜査している頃、こっそり後を()けて来た雄介は人だかりの中から様子を伺っていた。

 

(あの倉庫、たしか地元の漁師さんたちが使ってる倉庫の側だよなあ……)

 

 

 

一条たちが居なくなった後、雄介は独り戻ってきて、倉庫の中を探ってみることにした。

 

 

誰か居ないかと、戸を開ける。

 

「すいませーん……」

 

人気は無いとは言え、関係者以外立入禁止の仕事場。

 

一言挨拶をして、雄介は中に入った。

 

 

「………」

 

ジャリ、ジャリ…と雄介の歩く音だけが倉庫内で反響する。

 

 

こうした倉庫内で戦った経験はあるが、それ以外でゆっくり中を探索するのは何気に初めてだった。

 

 

薄暗い場所もあるため、無人の教会と同様、何とも言えぬ不気味さを漂わせている。

 

 

「……?」

 

と、物陰から誰かが覗き見ていた。

 

 

「……漁業組合の方、ですか?」

 

物陰にいた人物は、繋姿に長靴という出で立ちで、漁師と思われた。

 

 

「…………」

 

雄介の問いには答えず、男性はツカツカと近付いてくる。

 

「ちょっと、どうしたのかなぁって……」

 

しかし、屋根の割れ目から漏れた陽の光に男性は怯む。

 

「………っ……!」

 

「………?何も無いなら、良いんです。すいません、帰ります」

 

 

男性の様子が少し気になったが、長居するのも悪いなと思い、雄介は帰ることにした。

 

 

「ギ・ジャバ・ビゴギン・グスジャ・ヅザ……」

 

「?」

 

男性が何かを呟いたのを、雄介は耳にしたが。

 

男性の姿は、もう何処にも無かった。

 

 

「……?」

 

不思議に思いながらも、雄介は倉庫を後にした。

 

 

 

 

積み荷の影に放置された、全裸の死体には気づかぬまま。

 

 

 

 

 

「遅いッ!!!!」

 

ファミレスに戻ってきた雄介に対する、大淀の第一声がそれだった。

 

一条らに呼び出され、そのまま後を追いかけて行き、倉庫を探索して戻るまでに2時間近く経っていた。

 

 

「もう!!いくら24時間営業のファミレスでも、限度があるでしょうが!!私たちがどんな気持ちで待ってたか解りますか!?」

 

 

単ちゃんに至っては、雄介の頭をポカポカと叩いてくる始末。

 

「ホンっトにゴメン!」

 

手を合わせて謝罪する雄介に、大淀は溜息を吐く。

 

「……まぁ、今に始まったことではないですし?半分くらい諦めてますけど……」

 

単ちゃんもそれに合わせてウンウンと頷く。

 

 

「話は変わりますけど、今晩ちょっと遅くなるかもしれないので、宿探しを手伝ってもらえます?」

「ん?」

 

「例の調査団の春日中佐。今日がお通夜だそうですので、せめてお焼香だけでもと思って」

 

「そっか……俺も、ちょっと気になることがあるんだよね」

 

「え?」

 

 

もしかしたら………

 

確証は無いが、雄介はあの事件現場にはまだ何かあると感じていた。

 

 

 

 

石ノ森市 明日花町 07:51 p.m.

 

 

一条はパトカーを飛ばしていた。

 

演習からの帰り、突然の通報だった。

 

 

『大本営から各基地へ。未確認生命体が出現しました。巡回中のパトカーは直ちに現場へ急行して下さい』

 

 

「司令官!未確認生命体って、まさか昨日の!?」

 

「いや……恐らく、別の個体だ!」

 

「では、まさか……!!」

 

 

 

その頃。警官隊は、一条の推測通り、新たな未確認生命体と交戦していた。

 

 

その未確認は、昨日の揚陸強襲鬼と違い、艤装のようなものは身に着けておらず、簡素な出で立ちをしていた。特有の(ぬめ)りを帯びた皮膚とヒレ状の突起。そして吸盤のような独特の形状をした口といったその姿は、ヤツメウナギを想起させた。

 

細かく、鋭い牙を剥き出しにした口元は真っ赤に染まっており、倒れている警官の首筋に残った傷跡からも、吸血殺人の犯人である事は明らかだった。

 

 

「撃て!撃てぇッ!!」

 

手にした拳銃を発砲するが、通常の銃弾が未確認生命体に通用する筈も無く。

 

「ヘェェア……」

 

ニタリと笑いながら、怪物は体にめり込んだ弾丸を退けてしまう。

 

 

そこに一条と吹雪、長門が到着。

その直後、一条たちを追いかけてきた雄介が追い付いた。

 

 

「逃げろ!早く撤退しろ!!」

 

一条の掛け声に、生き残った警官たちは撤退する。

 

 

「一条さん!艦娘さん!!」

 

「帰れ!これは我々の仕事だ!!」

 

「でも艦娘さん!!」

 

「帰れと言ったら帰れッ!!」

 

 

前に出ようとする雄介を、長門は制して砲撃する。

 

「シャッ!」

 

しかし、未確認生命体は着弾する寸前にこれを回避。

 

「フウウ……ヘェア!!」

 

次弾装填をしようとした長門に接近、裏拳で殴り飛ばす。

 

「ぐっ……!!」

 

幸い、そこまでダメージは無かったものの、隙を作ってしまう。

 

「フゥゥウ……」

 

「長門さん!!」

 

「吹雪くん、止せ!!」

 

 

長門から注意を逸らそうと、吹雪は主武装である12.7cm連装砲を構えた。

 

「当たって下さいっ!!」

 

「っ!!」

 

 

完全に背後を取られていた未確認は被弾。

 

長門は吹雪の不意打ちに驚いた。

 

(演習の時は、まともに照準を合わせられなかったのに……。もしや、吹雪(コイツ)は実戦で本領を発揮するタイプなのか………?)

 

 

 

……ところが。

 

「……ッ!!危ない!!」

 

煙の中から未確認の腕が伸び、吹雪に襲いかかる寸前。

 

雄介は吹雪を突き飛ばし、身代わりとなって首根っこを掴まれ、そのまま持ち上げられる。

 

 

「…あっ!?五代さん!!」

 

「五代雄介!!」

 

一条が助けようと拳銃を構えた、その時。

 

 

雄介は未確認の腹を蹴り、拘束を振り解いた。

 

 

腹部に両手をかざし、ベルトを出現させ、構える。

 

 

「変身!!」

 

未確認の反撃を防ぎつつ、蹴りやパンチを交えながら白い戦士の姿に変身した。

 

 

「……変わった……!?」

 

物陰で雄介の変身を目撃した通りがかりの少女《秋雲》は、思わずそう呟いた。

 

 

「ビガラバ・クウガ?」

 

ヤツメウナギの様な未確認は、そう呟く。

 

「フン!フッ!おおりゃあっ!!」

 

敵の懐にパンチの連打を叩き込む雄介。

 

 

「どうだ………!?」

 

昨日の活躍を見ていた長門は、雄介の果敢な攻めに期待していた。

 

 

しかし、未確認は立ち上がった。

 

まるで、そんな物は効かないとでも言う様に。

 

 

「フン……。マンヂデ・デボパ・ボググ・スンザジョ!」

 

雄介の拳を嘲るように、未確認は雄介を殴り倒した。

 

 

「ぐあっ!!」

 

倒れはするが、雄介は必死に立ち上がる。

 

(なんで…!?なんで()()()()()()()()()!?)

 

 

初めて『力』を手にした時……あの時は、自分の気持ちが半端だったから力を引き出すことが出来なかった。

 

しかし、今回はそうした迷いを振り払って変身に臨んだ。

 

なのに、《白い姿》にしかなれない。

 

なぜ?

 

なぜ!?

 

 

その一瞬の混乱が、敵に追撃のチャンスを与えてしまった。

 

 

「フゥア!」

 

「あぐっ!!」

 

右フック、そして間髪入れずに膝蹴りを雄介の鳩尾に喰らわせる未確認。

 

「シャッ!」

 

「ぐあっ!!」

 

左ストレートが顔面に入り、雄介は再び地に伏せられ、変身が解けてしまう。

 

 

「五代!!」

 

トドメを刺そうと迫る未確認に、一条は左の側頭部を狙い撃つ。

 

 

銃声が響くも、未確認は直撃したにも関わらず、全く堪えていない様子だった。

 

 

未確認は、一条を鼻で笑いながら裏拳で吹き飛ばす。

 

 

「がっ!!……ぅぐ…ぁあ……!!」

 

「一条司令官!!」

 

 

一斗缶などの積み上げられた積み荷に叩きつけられ、一条は悶える。

 

 

「そん、な………」

 

吹雪はその場にへたり込み、立ち上がる力を失くしてしまう。

 

 

これは夢か?

 

もし夢だというなら、あまりにも質が悪過ぎる。

いや。いっその事、悪夢でも構わないから夢であって欲しいと思っていた。

 

 

人間でも、深海棲艦でもない。正真正銘の化物____。

 

 

「あ……れ……」

 

気付くと、吹雪は体が震えていた。しかも、涙まで溢れてしまっている。

 

 

(ダメだ………勝てっこない………)

 

吹雪は、完全に戦意を喪失してしまった。

 

 

すると、そこへ増援のパトカーが駆けつけた。

 

 

「っ!?ヒャア、ァア……!!」

 

到着したパトカーのライトに目が眩んだ未確認は、悲鳴をあげながら逃走した。

 

 

「あ!?一条さん!!」

 

一条の部下の一人である、亀山巡査がパトカーから降りてきて駆け寄る。

 

 

「……亀山……?」

 

「一条さん……!」

 

亀山の呼びかけに目を開け、一条は未確認の姿を見るが、既に逃げ去ったあとだった。

 

 

「………ハッ!?長門さん、司令官!!大丈夫ですか!?」

 

はっと我に返り、吹雪も一条たちのもとに駆け寄った。

 

 

 

「はぁ……はぁ………っ……」

 

今回、新たに出現した未確認___《港湾潜伏鬼(こうわんせんぷくき)》と名付けられた敵との戦闘結果は、完全な敗北に終わった…………。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

戦闘から引き上げ、一条と雄介たちは負傷者と共に病院に向かった。

 

 

「………」

 

 

一条らの診察を待っていた雄介や吹雪の前に、一条が出てきた。

 

 

しかし、一緒に出てきた看護師の女性が引き留めようとした。

 

 

「ダメですよ一条さん!ちゃんと検査しないと、骨折している可能性だってあるんですから!」

 

「良いんです。もう痛くありませんから」

 

 

それに対し、平然と応える一条。

 

「そんな筈ないでしょう!?」

 

しかし、医療従事者として見過ごすことは出来ない看護師は食い下がる。

 

「大丈夫ですッ!!」

 

強く言い放った一条の気迫に、看護師や側で聞いていた吹雪は驚き、一瞬固まる。

 

「……色々、調べたいことがありますので。失礼します」

 

一礼し、歩きだす。

 

 

「__すみません、一条さん!」

 

「……まだ居たのか」

 

 

駆け寄り、後を付いていきながら先の戦闘について謝罪する雄介。

 

 

「すみません!俺のせいで、また……」

 

「もう出しゃばるな。あくまで君は民間人なんだ」

 

「でも……」

 

 

「五代」

 

 

全く退こうとしない雄介に、一条は言い放った。

 

 

「君が今回、どんな思いで変身したかは理解しているつもりだ……。だが、だからこそ戦わせる訳にはいかない!これは、市民を守るという我々警察官の仕事であり……同時に侵攻してきている深海棲艦と戦っている、艦娘たちの仕事だ!これ以上、自分を犠牲にするなッ!!」

 

 

そう言い残し、一条は吹雪を連れてエレベーターに乗り込んだ。

 

そして……一条の言葉を受け、今回の自身の異常を考えながら、雄介は大淀たちの待つホテルに戻った。

 

 

石ノ森市 ビジネスホテル 08:31 p.m.

 

 

「五代さんってば……またこんな遅くまで、今度は何をしていらしたんですか?」

 

戻ってきた雄介に、大淀は問い質す。

 

 

「……クウガへの変身について、考えてた」

 

「クウガ?」

 

聞き慣れない言葉に、大淀は首を傾げる。

 

 

「昨日、俺が変身した戦士……クウガって言うんだけど、本来は赤い体をしてるんだ。でも、俺が今回なれたのは、白い体だった。本当は赤じゃないといけないのに……」

 

「赤……」

 

「初めて変身したときは、俺の気持ちが半端だったから…なりきれなかったんだ」

 

 

「五代さんでも、気持ちが半端になってしまうことがあるんですね?」

 

「……あるさ。そりゃあ……」

 

大淀の言葉に、雄介は苦笑いするのみだった。

 

 

 

それから、程なくして。

 

九郎ヶ岳の調査団の一員として護衛任務にあたり、殉職した春日久臣(かすがひさおみ)中佐の通夜に、大淀は雄介にバイクで送ってもらった。

 

「俺、外で待ってるよ。こんなカッコだし……」

 

「分かりました。じゃあ…行ってきますね」

 

「…うん」

 

 

遺族の咽び泣く声…そして夜の静けさが、辺りを包む。

 

 

「………」

 

遺影と棺の前でそっと手を合わせる大淀だったが

 

「ぐすん…うぅ…っ!!」

 

 

遺族と共に座っていた、小柄な少女が部屋を飛び出す。

 

 

その少女は、春日中佐が我が子のように可愛がっていた艦娘で、「雪風」という名の駆逐艦であった。

 

 

「……!」

 

玄関から出てきた雪風に気付いた雄介は、目の前の少女が泣きじゃくる姿を目にする。

 

 

「ぐすっ……しれぇ……。なんで……なんで、ですかぁ……っ…ひっく……くすん……ふええ……」

 

泣けども泣けども止まらない涙に、雪風は座り込む。

 

 

 

 

「………ッ」

 

まただ……

 

また、自分が頼りないばかりに多くの人が笑顔を、命を。

大切なものを奪われ、傷付き、涙を流す。

 

 

かつて、誓った。

 

誓った筈だった。

 

未確認生命体や今回の怪物たちのように、誰かの笑顔を奪うものたちからみんなの笑顔を守る……そう誓ったのに。

 

 

雄介は己の非力さに怒りを覚え、悲しみに胸を痛めた。

 

 

 

 

___いつの事だっただろう。深海棲艦と命懸けで戦う、艦娘と呼ばれる少女たちのことを知ったのは。

 

冒険家・五代雄介が初めて艦娘と出会ったのは、南の島のとある砂浜だった。

 

そこで出会った少女は、駆逐艦と呼ばれるタイプの艦娘で、引っ込み思案な面もあるが、直向(ひたむ)きでとにかく頑張り屋さんだった。

 

 

少女と友達になって間もなく、彼女たち艦娘を単なる兵器として扱う風潮を雄介は知った。

 

少女は言っていた。それは仕方の無い事だと。

 

幸い、彼女の司令官は艦娘を家族のように大切にしてくれているから、大丈夫とは言っていた。

 

 

しかし、世界はそんな彼女たちを裏切った。

彼女たちを鎮守府ごと捨て駒にしたのである。

 

 

指揮官は最後まで抗い、駆逐艦や練度の低い艦だけはどうにか避難させ、その身を犠牲にして護ったとの事だった。

 

その時の艦娘たちの涙を、雄介は未だに忘れられずにいた。

 

 

 

 

そして、今。

 

目の前の雪風と当時の光景が重なって見えたのだ。

 

 

 

石ノ森鎮守府 03:45 a.m.

 

 

夜が更けて、静寂がすべてを包んでいる頃。

 

一条は単身、工廠から銃器を持ち出そうとしていた。

目的はただ一つ、港湾潜伏鬼を討つためである。

 

 

「まったく……これまでの提督とは違った意味で世話の焼ける人だな?貴殿は」

 

 

そこには、分かっていたと言わんばかりに長門が艤装を纏って待ち構えていた。

 

 

「提督の腕は信じよう。しかし……提督一人を行かせてしまうのは、艦娘として本意ではない」

 

「……今後も、こういう面倒をかけると思うが大目に見て欲しい」

 

「保証はしかねる。私もその都度、貴殿に便乗するからだ」

 

 

お互いにフッと笑い、夜間の出撃をする。

 

 

 

「………!」

 

ときわ港の廃倉庫。

 

 

一条たちの足音に気付いた男性は、メキメキと不気味な音を立てながら、ヤツメウナギの様な未確認生命体……港湾潜伏鬼こと『メ・ギブナ・ギ』の姿へと変わった。

 

 

崩れた壁から忍び込み、一条と長門は主砲とライフルを構えながら捜索する。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

二人の息遣いが、倉庫の静けさを際立たせる。

 

 

 

………しかし、それは突如として破られた。

 

 

「シャッ!!」

 

「!!?」

 

 

滑りのある身体を活かし、ギブナは音も無く忍び寄り、一条に襲いかかったのだ。

 

「提督!!」

 

砲撃をしようと構えるが、ギブナの噛み付きから逃れようともがく一条に当たりそうで照準が定まらない。

 

 

「っ!……そうだ!」

 

奥に見えるドラム缶から微かに匂ったオイル臭……それに賭け、長門はドラム缶に向けて主砲を構えた。

 

 

「提督!動くなッ!!」

 

その大声に一瞬、気を取られたギブナを一条は蹴り飛ばし、その一瞬に合わせて長門はドラム缶を撃ち抜いた。

 

 

「ッ!!?グゥ……!!」

 

 

ドラム缶は盛大に爆発、轟々と炎を噴き出して倉庫内を赤々と照らす。

 

「フン……ラズゴ・グザグ・ヂゾグデ・デジャス……!」

 

やはり、熱を苦手としているのか。

 

長門に対して怒りと不快感を露わにしたような言葉を発し、迫ってきた。

 

 

「くっ……!!」

 

距離を開けることに成功した為、一条はすかさず発砲した。

 

 

「……効いて、いない……!?」

 

未確認生命体の肉体の強靭さを知らない長門は、一条の狙撃で間違いなく仕留めたと確信していたため、驚愕する。

 

 

「ボセゼ・リブグ・ビンザ!」

 

長門を手にかけようとした、その時。

 

 

 

 

 

倉庫の扉をぶち破り、バイクに乗った一人の人物が突入してきた。

 

 

「!!?」

 

ギブナを含めた一同は驚くも、一条はこの展開に覚えがあった。

 

忘れる筈も無い、あの日と同じ光景だ。

 

 

「一条さん!長門さん!」

 

 

一度こうと決めたら、テコでも動かぬ男……五代雄介だ。

 

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「何をしに来た!?」

 

突然過ぎる雄介の乱入に、声を荒げる長門。

 

 

 

「やっぱり戦います、俺!!」

 

「まだそんな事を!!」

 

 

この発言には、長門だけでなく一条も黙ってはいられない。

 

雄介を二度と戦わせないために、一条はこの仕事を引き受けたのだから。

 

 

しかし、雄介は言い放った。

 

 

「こんな奴らのために!!みんなのために戦ってる艦娘たちの涙を見たくない!!俺が守りたい『みんな』には、艦娘の子たちもいるんです!!だから見てて下さい!!」

 

 

「俺の!!変身ッ!!!」

 

 

 

かつて、みんなの笑顔を守ると誓い、戦った。

 

 

そして、今は深海棲艦という脅威と戦う艦娘という少女たちがいる。

 

 

しかし、五代雄介という人間にとっては、艦娘もまた、「守りたいみんな」の一部なのだ。

 

 

戦場に立つ、彼女たちの覚悟を踏みにじってしまうのではないか____。

 

 

雄介は、心のどこかで彼女たちを遠い存在に感じていたのかもしれない。

しかし……あの時出会った艦娘や、雪風の涙を目の当たりにした今なら分かる。

 

 

彼女たちもまた、自分たちと変わらない「人間」ではないか_____。

 

 

ならば、自分が成すべき事を果たすだけだ。

 

そう強く意思を固めたとき、雄介のベルト・アークルは、その内に収めし霊石・アマダムから炎の如き真紅の輝きを放ちながら姿を現した。

 

 

【邪悪なるものあらば 希望の霊石を身につけ 炎の如く 邪悪を打ち倒す戦士在り】

 

 

変身の動作を取り、ギブナと拳を交える雄介。

 

 

 

「フン!ハッ!!」

 

その姿は

 

 

「フッ!!でやっ!!」

 

 

今まさに、倉庫内で燃えたぎる炎のように

 

 

赤い戦士へと変わった。

 

 

「ぬうううぅぅぅあっ!!オリャアアアァァっ!!!」

 

 

投げ飛ばされ、立ち上がったギブナはその姿に慄いた。

 

 

「ビガラグ・バスビ・クウガ……!?」

 

 

「クウ、ガ……?提督、今の彼はクウガと言うのか!」

 

 

超古代より甦りし戦士……クウガ。

 

二度目の復活の瞬間であった。




このまま戦闘シーンに突入しようかとも思いましたが、ちょっと文字数越えそうなんでここで区切ります(-_-;)

世界中のみんな!オラに文才を分けてくれッ!!


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7話 : 戦士

戦闘シーンのBGMは、クウガ100%で脳内再生をお願い致します。


と言う訳で、クウガ編第1章クライマックスです。


炎に包まれた廃倉庫。

 

そこで相対するのは、二つの異形。

 

見守るは、二つの人影。

 

 

ヤツメウナギの特徴を持つ未確認生命体……『港湾潜伏鬼』こと『メ・ギブナ・ギ』と、金色に輝く二本の角を持った赤い戦士……『未確認生命体第四号』ことクウガ。

 

その対決が、今始まった。

 

 

「ケェエアっ!!」

 

ギブナのタックルをクウガはジャンプで躱し、着地と同時に、背後を取ろうと迫ったギブナに背を向けたまま足払いで牽制。

 

続けて、振り向きざまに右ストレートを顔面に叩き込んだ。

 

 

「グゥウ…!!」

 

直撃したことで怯んだ隙に、クウガは一条と長門を連れて倉庫を脱出する。

 

火の勢いは増し、ギブナは取り残されたかに見えた。

 

 

「シャアッ!!」

 

しかし、倉庫内が火の海になる直前。ギブナは追いつき、クウガに組み付いた。

 

そして、飛び出してきた勢いのまま、隣の空き倉庫に突っ込んだのである。

 

「五代!!」

 

「ちっ!往生際の悪い奴だ……!!」

 

怪我をしている一条を連れ、長門はクウガたちを追いかけた。

 

 

 

「ぐっ!」

 

「フゥゥゥ……!」

 

暗がりの中、クウガとギブナは間合いを取りつつ拳を交える。

 

「フン!ハッ!でぇえやぁっ!!」

 

タックルを押さえ込み、肘鉄や膝蹴りを何度も打ち付けて弱らせていく。

 

相手が空を飛べないタイプの能力の未確認であることを幸運と感じてしまうことに、クウガは内心複雑であったが、すぐその迷いを押し殺し、ひたすらがむしゃらに戦う。

 

 

その時だった。

 

「ヌウウゥゥアッ!!」

 

先日の揚陸強襲鬼が乱入し、いつかの時のような展開になってしまった。

 

「グムナ!」

 

「デゾ・ザグバ!ゴセグ・ジャス!!」

 

グムナと呼ばれた揚陸強襲鬼は、クウガを横取りするなとでも言うように制し、ギブナはそれを不服として、そのまま2対1の戦いとなった。

 

 

「ぐあっ……!!」

 

いかに戦闘経験があるとは言え、複数の敵を相手に立ち回るのは数える程しか経験が無いクウガは、徐々に劣勢となってしまう。

 

 

「フゥゥゥ……!」

 

「ギブグ・ギギ!クウガァ……」

 

 

絶体絶命の危機…と思われた、その時。

 

鋭い銃声が響く。

 

 

「!!」

 

倉庫の二階から、一条と長門がそれぞれ拳銃と単装砲を構えていた。

 

 

「ビガラ……!」

 

一条らに注意が逸れた、その一瞬が勝負を決めた。

 

 

「フッ!!」

 

クウガは力強いパンチで拘束を振り切り、ギブナに回し蹴りを叩き込んだ。

 

「ガァ…!?アア……ギァ……ァアッ!!」

 

気付けば、外は既に陽が昇っており、倉庫の壁の割れ目から陽の光が差し込んでいた。

 

 

「今だッ!!!」

 

 

戦艦・長門の全砲門がギブナを捉え、一斉砲火された。

 

 

「ガァ……ッグ、ギァア…アアアッ!!!」

 

 

「多くの命を(すす)ったその大罪……冥土にて、しかと(あがな)え……!」

 

この宣告を聞いていたかどうか定かではないが、ギブナは肉体を爆発四散させて絶命した。

 

 

 

一方。クウガと揚陸強襲鬼の決戦は、再びビルの屋上へと場を移していた。

 

 

「フウゥゥンッ!!」

 

揚陸強襲鬼の、蜘蛛の糸と網を織り交ぜた特殊な糸がクウガの体を絞め上げる。

 

「ぐぅあ……ふうぅ……!!」

 

目一杯力を入れて千切ろうと気張るクウガ。

 

しかし、なかなか切れない。

 

 

「ド・ゾレザ…!」

 

揚陸強襲鬼は腕の鉤爪を伸ばし、クウガの喉元を穿(つらぬ)こうと振りかぶる。

 

 

「!!!」

 

「ギベェ!!!」

 

 

「ふぅぅあッ!!!」

 

 

まさに間一髪。

 

これが最後だと言わんばかりに、クウガは渾身の力を込めて糸を引き千切り、迫り来る揚陸強襲鬼の腕を掴んで投げ倒し、起き上がった瞬間を逃さず、左アッパーで動きを止める。

 

「おぁりゃあぁぁッ!!!」

 

そして、間髪入れずに右脚でキックを決めた。

 

 

「ブゴァアッ!!」

 

蹴り飛ばされ、倒れる揚陸強襲鬼。

 

キックを決め、着地するクウガ。

 

それでも、敵は立ち上がった。

 

しかし……

 

 

その胸には、クウガの足裏にあるものと同じ印が刻まれていた。

 

 

「ラ…ラザザ!ゴセパ・ジャセス…ボソギ・デジャス……!ボッ…ボソグゥ!」

 

「………」

 

 

印が消えないこと。苦悶する敵の様子。

 

それら全ての意味を理解しているクウガは、静かに立ち上がり、見届ける。

 

 

「ジャデ・デジャスゥ…!!ク……クウガァァアアアッ!!!!!」

 

 

己を殺す敵への呪詛、とも言える断末魔を残し、揚陸強襲鬼は爆散。

 

炎に包まれ、肉体はバラバラに砕け散った跡には、血痕や装飾品などの破片が微かに散らばっていた。

 

 

「ハア……ハア……」

 

 

懐かしく、同時に痛みと哀しみを思い出させる右脚の熱気を、クウガは静かに見つめる。

 

 

そして____

 

 

「…………ん…」

 

疲れから、少しばかり眠っていた長門は目を覚ました。

 

 

「提督……」

 

「長門くん……よくやってくれた。我々の勝ちだ……」

 

目の前に立つ一条が、長門の活躍を労う。

 

「オハヨ、長門さん」

 

「五代……。何故、貴殿の肩などに……」

 

長門は、雄介の肩にもたれ掛かって眠っていたのである。

 

 

「まあ……良いんじゃないっすか?」

 

体勢が体勢なので、サムズアップは出来ないが笑顔で応える雄介。

 

 

そんな雄介たちを見て、昔を思い出して苦笑いする一条。

 

 

そして、長門は一言、こう呟いた。

 

 

 

「一生の不覚だ………」




クウガ編第1章……長かった!!

クウガ編はもうちょっと続きますけど、大体こんな感じで進んでいきます!!


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クウガ編 第二章
8話 : 提督


「着任先の新提督が色々とマトモじゃない。」を見るときは、部屋を明るくしてスマホの画面から離れて見て下さい(大嘘)


ここからが、クウガと艦これの物語の始まりとなります。


未確認生命体を撃破し、どれほど時間が経っただろう。

 

 

一条は、石ノ森鎮守府の中にある医務室のベッドの中で目を覚ました。

 

 

「…………っ……」

 

痛む体を起こすと、ベッドの脇に毛布で体を(くる)んで、座り込んで眠る吹雪の姿があった。

 

 

「…………」

 

着任して早々、心配をかけてしまった……。

起きたらちゃんと謝罪して、説教でも愚痴でも、全て受け止めよう。

 

吹雪の寝顔を見ながらそう考えていると、手元にある一枚のメモ用紙に気付いた。

 

 

手に取ると、そこには伝言が記されていた。

 

 

『一条さんへ。

 

大事な約束があるので、一度東京へ帰ります。

でも!夜にはまた戻ります。

 

俺、今度も『中途半端』はしません!

キチンと関わりますから!!

 

____五代雄介』

 

 

「…………」

 

 

 

18年前………『未確認生命体関連事件』として知られ、今や歴史の教科書にも掲載されている、九郎ヶ岳の遺跡より甦った超古代の種族《グロンギ》と、それに対抗すべく、グロンギと戦った古代の人類《リント》が生み出した戦士クウガ。そして、クウガと協力体制を取った警察による1年もの戦い……。

 

あの事件の終結と同時に、五代雄介は地獄の苦しみから開放された。開放されるべきだったのだ。

 

 

なのに……

 

彼は自らの意思で、再び『寄り道』することを選んだ。

 

こんな『寄り道』をさせないために、力を尽くすと決めていたのに………。

 

 

メモ用紙を握りしめる一条の表情は、険しくなっていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方。

 

雄介と大淀、そして単ちゃんは東京に着いた。

 

 

「うっわ〜〜〜……なんか東京の空気、スッゴイ久しぶりな気がする!」

 

「色々ありましたからね、石ノ森(むこう)で」

 

はしゃぐ雄介に反し、大淀は酷く気持ちが沈んでいた。

 

 

「あ。朝飯はどうする?基地の食堂で済ませればいっか?」

 

「行きませんよ、基地には。今日はもう帰って休みたい……」

 

 

そう返した大淀に、雄介はちょっと残念がる。

 

「そっかぁ……あの石版について、調べてくれる人を紹介したいんだけどなあ」

 

「お願い、勘弁して下さい……」

 

 

そう応えた大淀は、心底疲弊していた。

 

只でさえ、未確認生命体に襲われ、雄介が変身して…と大淀のキャパシティの限界値を容易く超えてしまう問題が立て続けに起こったばかりなのだから、無理もなかった。

 

 

それを察した雄介は、流石にそこまで我儘を言える人間ではない。

 

「そっかぁ……そうだね」

 

 

雄介が気を遣ってくれたことに、雄介の肩に乗っていた単ちゃんは嬉しそうに擦り寄るのだった。

 

 

 

 

 

東京 渋谷 10:18 a.m.

 

 

スーツ姿の公務員や制服姿の学生、その他にも沢山の人が交差点を行き交う。

 

 

その人混みの中を、色白の少女が歩いていた。

 

「………」

 

黒地に白い縁取りのフードパーカーを着込み、7部丈の黒いパンツに黒いスニーカーというコーディネートは、フードの下から覗く白い髪と、垢抜けたような白い肌が際立っている。

 

「………」

 

 

道行く人の話し声などを見聞きし、少女はニタリと笑いながら歩いていくのだった……。

 

 

 

東京 秋葉原 10:22 a.m.

 

白いポンチョを羽織り、少しウェーブのかかった白い髪をふわりとなびかせながら、小学生くらいの少女が走っていた。

 

 

「………」

 

何かを探しているようで、周りをきょろきょろと見回している。

 

 

「あらあら、おチビちゃんどうかしたの?お父さんお母さんは一緒じゃないの?」

 

それに気付いた、一人のお婆さんが声をかけた。

 

「………」

 

「もし、はぐれちゃったのなら、お婆ちゃんが一緒に探したげよっか?」

 

 

「……ル、ナ…」

 

「なぁに?」

 

「コッチニクルナ!!」

 

「ひっ!」

 

その大声にビックリしている間に、少女は姿を消してしまっていた。

 

「……あらっ?おチビちゃん……?おチビちゃーんっ!!」

 

 

懸命に呼び、探したものの、少女は見つからなかった………。

 

 

 

豊島区 わかば保育園 11:21 a.m.

 

 

「お前ら、元気だったか〜〜?」

 

わかば保育園___そこは、雄介の憩いの場であり、守るべき笑顔がある大切な場所の一つでもあった。

 

 

「あ!ゆーすけだ!!」

 

「ほんとだー!」

 

「ゆーすけーーーっ!!」

 

 

雄介に懐いている園児たちが一気に集まり、じゃれ付いてきた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「雄介さん、お久しぶりです♪」

 

雄介の来訪を出迎えたのは、当園で保育士を勤めている雄介の妹・後藤みのり(旧姓:五代)と、ボランティアで手伝いによく来てくれる艦娘・練習巡洋艦の「鹿島」である。

 

 

「久しぶり♪…あ!みのり、髪切った?」

 

「うん♪」

 

 

再会を喜び合い、室内に通された雄介は早速、号令をかけた。

 

「はぁ〜い、注目〜!」

 

「はーい!」

 

「今日は、まず〜…コレだ!ジャグリング〜〜!!」

 

園内のおもちゃ箱に入っていた、ボールなどを手に取り、雄介はジャグリングを披露する。

 

その技に、園児たちは笑顔で拍手する。

 

 

それは、雄介にとってもみのりたちにとっても、とても充実した時間だった。

 

 

 

 

その頃、一条は警視庁の鑑識課に赴いており、傍らには長門と吹雪の姿もあった。

 

 

「まさか、また未確認の事件を扱うことになるとは思いもしませんでしたよ」

 

「同感です」

 

今回、クウガが撃破した揚陸強襲鬼やギブナの体組織を採取し、血液検査や成分分析を依頼していた。

 

 

「あの……長門さん、私も来て良かったんでしょうか?」

 

「君は提督の秘書艦だ。(とも)に行動するのは当然だし、今回の事件に関わった艦娘の一人として知る権利がある」

 

 

「すみませーん!遅くなりました〜!」

 

白衣を小脇に抱えた、緑色の髪をポニーテールにした少女が出てきた。

 

「せっかくの休暇を邪魔してすまんな、夕張」

 

長門の謝罪に対し、白衣に袖を通す少女・軽巡洋艦「夕張」は笑顔で応える。

 

「いいえ!好きでやってるんですから、気にしないでください♪」

 

 

「夕張さん。先日行った、鑑定結果のファイルがコレです」

 

「あ、ありがとうございます」

 

鑑識課の職員に礼を述べ、揚陸強襲鬼の血液成分のグラフを見た夕張は顔を強張らせた。

 

「夕張さん?」

 

 

吹雪が尋ねると、夕張は椅子に腰掛ける。

 

「……これは、揚陸強襲鬼の血液の成分表です。そして、これによく似た生物の成分表が…コレです」

 

 

「………」

 

その表を見て、一条は黙り込む。

 

「確かに似ている……。蜘蛛の血か?」

 

 

長門の問いに、夕張は首を横に振った。

 

「蜘蛛の血液には、赤血球はありません………」

 

「え?じゃあ、何の血ですか?」

 

 

詰め寄る吹雪たちに、夕張は静かに告げた。

 

 

「これは………人間の血よ」




クウガ編、最初のターニングポイントに向けて動き出しました……!

次回、一条さんの提督としてのお仕事が本格化するかも?


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9話 : 駆逐

話を進めるにあたって、深海棲艦や鬼級・姫級のデータも確保しなきゃ………。

こういう時、ホントpixivなどの情報が助かります(^_^;)


リアルの私も、頑張って提督業を務めなきゃ……(;´Д`)


-追記-

一部、加筆修正致しましたm(_ _)m


揚陸強襲鬼の血液成分が、人間のそれに酷似している____。

 

それは、これまでの深海棲艦に対する認識からは信じられない検索結果であり、組織内でも衝撃を与えた。

 

 

「人間、か………フム…人間なぁ……」

 

 

『第2の九郎ヶ岳遺跡』にて、惨殺された調査団の遺したビデオの映像を見て、そう呟いたのは、急遽設立された『第二次未確認生命体関連事件及び深海棲艦侵攻対策課』通称『警視庁鎮守府』の本部長に任命された、大本営元帥・山県茂正(やまがたしげまさ)

 

 

「しかし、そう断定出来た訳でもあるまい?」

 

山県の問いに、と夕張ははい、と頷く。

 

「体組織や血液成分が似ている、というだけで同じ人間だと判断することは出来ません。しかし、この映像から見ても、人間に極めて近い存在である可能性は十分にあります」

 

「既に被害者は28名に及んでいる。さらに周囲の各県警からも、次々と情報が来ている。それも含めて、これまでの未確認生命体を、全員もう一度確認してくれ。では、始めてくれ」

 

 

山県の指示を受け、亀山はスライド写真を開示した。

 

 

「まず、《揚陸強襲鬼》。これは《未確認生命体第4号》と争って、死んだようです」

 

「第4号ねえ……」

 

 

懐疑的な言葉を漏らしたのは、柳井刑事。

 

「次に、こちらは《未確認生命体第2号》改め《未確認生命体第4号》の別形態とされる写真です」

 

 

「…っ………」

 

思わず声を出しそうになる吹雪だったが、長門の一睨みでギリギリ堪える。

 

「そして《港湾潜伏鬼》。これは4号と写っている画像ですが、報告では戦艦《長門》が討ち取ったそうです」

 

 

長門の名が出たことで、会議室内はオォ…と、どよめきだす。

 

 

しかし、山県の咳払いがこれを静める。

 

「続けてくれ」

 

「はっ、はい!では次に……」

 

 

次に出した画像は、画質が少々荒く、姿が不鮮明なものだった。

 

 

「次の画像は、非常に不鮮明ですが……これは岐阜県警から送られた、防犯カメラの捉えた謎の影」

 

薄茶の表面で細身である以外の特徴が分からず、詳細な報告は出来なかったとの事だった。

 

 

「これは、神奈川県警から送られた異形の画像です」

 

次に挙げられた画像は幾らかクリアに写っており、簡素な装飾品の他に、羽毛の織物らしきものを身に着けている様だった。

 

 

「報告は以上になります」

 

「ふむ………。ビデオの中のモノを、便宜上《九郎ヶ岳棲鬼(くろうがだけせいき)》と呼ぶとして……残る二件を認めるとすれば、だ。新たに出現した未確認生命体は、計5体存在することになる。無論、第4号についても《未確認生命体関連事件》の個体と同一であるとは限らぬ以上、楽観視は出来ん」

 

画像を消し、会議は結論に移る。

 

 

「関東管区検察局からの通達を伝える!未確認生命体及び、深海棲艦についての報道管制は、尚継続」

 

 

「極力、秘密裏に各生命体の捜査にあたり、発見次第、射殺せよ!!」

 

 

山県の言に、長門や吹雪はビクッと反応する。

 

 

 

今、元帥は何と言った?

 

第4号を発見次第、射殺しろだと?

 

 

吹雪たちは茫然となり、山県元帥の指示が頭に入らない。

 

同時に第4号(クウガ)の___雄介の笑顔がフラッシュバックした。

 

 

「私からは以上だ。諸君の健闘を、切に祈る!」

 

 

「や、山が」

「本部長!!いえ……山県元帥!!」

 

 

長門が言うより先に、声をあげたのはやはりこの男だった。

 

 

「なんだ?一条()()

 

 

 

《少佐》___。

 

それが、《石ノ森鎮守府の提督》としての一条 薫の階級だった。

 

「第4号は対象から除外すべきです!!」

 

「何故だ?」

 

「私を……そして、此処に居る長門と吹雪を危機から救ってくれました!」

 

 

その発言に、一同が騒然となる。

 

「明らかにそうだと言えるのか?」

 

「はい!言えます!!」

 

山県の問いに対し、長門が毅然と応える。

 

 

「こら!!元帥の許可無く、艦娘が意見を……!!」

 

「黙れ!!貴様には聞いておらん!」

 

長門の発言に対し、一人の提督が声を荒げるも、山県はこれを制する。

 

「吹雪……君はどうだ?」

 

 

「え?…あ、はっはい!!長門さんと同意見でありましゅっ!!」

 

予期せぬ問いかけに、噛んでしまう吹雪。

 

 

「では……それを証明出来るのか?」

 

 

「え……」

 

「っ………」

 

 

その一言に、三人は黙り込む。

 

 

「……それは………」

 

 

失念していた……

 

 

《未確認生命体関連事件》終結から、はや18年。

 

人員はだいぶ変わっており、当時対策班の本部長を務めた松倉貞雄警備部長も退職している。

 

 

つまり

 

第4号=五代雄介という事実を知る人間は、少なくともこの鎮守府内には…居ない。

 

 

信頼関係に限らず、提督として着任してからの実績といった、何もかもが足りない………

 

一条は、その現実を突き付けられ、悔しげに拳を握りしめるしかなかった。

 

 

 

会議の終了後、一条はスマホに登録している電話番号をかける。

 

 

すると

 

『ナマステ〜♪大変申し訳ありませんが、オリエンタルな味と香りの店☆ポレポレは、本日お休みです♪またの機会にお問い合わせ下さい♪それでは、サイナラ!サイナラ、サイナラ〜!』

 

「…………」

 

我ながら、何とも間が悪いなと思いつつ、一条はもう一人の知り合いに電話をかける。

 

 

幸い、こちらは出てくれたらしく。

 

「もしもし……一条です、ご無沙汰してます。五代くんに会ったら伝えて下さい」

 

 

「もう、石ノ森には絶対に来るな…と」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方。

 

雄介は園児たちが昼寝の時間になったのを利用して、みのりと鹿島にこれまでの事を大まかに説明した。

 

 

「そっか……また、大変なことになっちゃったね」

 

「ん……まあな」

 

みのりの言葉に相槌を打ちながら応える雄介。

 

「でも、まだ色々ありそうなんだよね」

 

「そう、ですか………」

 

 

みのりの友人であり、同時に自分の友人でもある鹿島にも、雄介は申し訳なさそうに話す。

 

 

 

「でもお兄ちゃんが決めたことなら、間違いはないよ!」

 

初めてクウガのことを話した時と変わらず、みのりは雄介の背中を押す言葉を贈る。

 

「……そっか♪」

 

 

そんな二人に、鹿島も微笑んだ。

 

「私にも、出来ることがあれば仰ってくださいね?これでも、私も艦娘なんですから♪」

 

「……うん♪ありがと」

 

 

「あ。でも、下着だけは毎日替えなよ?お兄ちゃん」

 

「あっ……うん、分かった」

 

まるで冒険への出発前みたいな会話を交わし、雄介は保育園をあとにする。

 

 

勿論、笑顔とサムズアップを忘れずに。

 

 

そんな雄介に、みのりと鹿島も笑顔でサムズアップを返し、見送ったのだった。

 

 

「………」

 

ほんの少し、不安を隠して。




さあ、一条さんサイドもいよいよ動きだしますよ?


次回、雄介や一条さんたちはどうなる!?


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10話 : 餓狼(がろう)

おかしい……

これは、あくまでクウガ2章の繋ぎにする予定だった筈………。

コレ、もうクウガ2章と呼ばなきゃヤバくねッ?!


未確認生命体及び深海棲艦の対策会議が終わり、一条はパトカーに乗り込んだ。

 

 

「………」

 

 

艦娘が意見するな___

 

 

会議中、中将と思われる胸章を着けた提督の言葉を思い返し、一条は何とも言い難い気持ちになる。

 

 

 

 

提督は指揮する者。

 

艦娘は戦線に立つ兵器。

 

 

見た目がか弱い女性であろうと、あどけない少女であろうと……武装し、人ならざるモノである深海棲艦と戦う力を持ち、『建造』と呼ばれる、艦娘の召喚・生成に必要な資材が、兵装と同じであるというたった一つの共通点が、多くの人々に艦娘=人外という認識を与え、深く根付いていた。

 

 

「外にも敵、内にも敵……か」

 

不意に、そう呟いたときだった。

 

「一条さん一条さん!!」

 

亀山が大急ぎで駆け寄ってきた。

 

 

「どうした?」

 

「いいから、早く来て下さい!!」

 

 

何事かと、急かす亀山の後を付いていく。

 

 

 

 

「___すぐに来い、と言うのは……コレの事か」

 

 

一条が手にしている、1枚のDVD。

 

ケースとディスクには、『ドルフィンチェイサー2018A取扱説明ビデオ』と記載されていた。

 

 

「そうなんです!トライチェイサーもスゴいですけど、これもスゴいんですから!!実車が届く前に、しっかり勉強しなくっちゃ!__あ、ほら!始まりますよ!♪」

 

 

DVDプレーヤーにディスクを入れ、ビデオを再生する。

 

 

カッコいいBGMと共に、大型の白バイと白バイ隊員の姿が映し出される。

 

 

『これは、《ドルフィンチェイサー2018A》の取扱説明ビデオです。このビデオをよく見て、あなたも街と海を守る風になってください!』

 

 

亀山はウキウキしながら画面を見つめているのに対し、一条は退室しようとする。

 

 

「あ…あれ?見ていかないんですか?」

 

「科警研で、開発の様子を何度も見てるからな」

 

「そうなんですか!?」

 

「試作車は水陸両用で、時速350kmで航行可能だそうだ」

 

「へえ〜、さすが一条さん……って、ああ!!もう、どうして行っちゃうんですかあ!?」

 

 

「提督の仕事が山積みなんでな!」

 

振り向くこと無く、一条はそう告げて部屋を出ていった。

 

 

エレベーターに乗り込むと、一条は苦しげに顔を歪ませる。

 

「…っつ……うぅ……」

 

 

無理もない。

 

この2日間、ギブナとの戦闘で負った傷もまともに癒えぬまま動いているのである。

 

倒れず、立っていることさえ奇跡に等しかった。

 

 

駐車場に向かうと、長門と吹雪がパトカーの傍で待っており。

 

 

「行こう、提督」

 

「今度は、私も忘れずに連れていって下さいね?司令官!」

 

 

一条に敬礼して、迎えるのであった。

 

 

 

 

文京区 ポレポレ 12:27 p.m.

 

 

五代雄介の下宿先兼主なバイト先である“オリエンタルな味と香りの店”『ポレポレ』。

 

 

保育園から帰ってきた雄介は、中に入ろうとポケットから鍵を出そうとした………が、しかし。

 

 

「………?ん?あれ?」

 

ある筈の鍵が無い。

 

 

しかし、雄介は即座に原因を思い出した。

 

今朝方、一条らを助けに突っ込んだ、火の海となり始めていたあの倉庫である。

 

「しまった……!鍵はあの時、失くしちゃったんだよなぁ……」

 

バイク自体は、クウガ専用車として当時の警視庁が開発された物なので、あの程度では壊れたりしないのだが、変身する前、敵の攻撃から逃れるために散々動き回ったため、気付かぬ間にポケットから飛び出してしまい、そのまま火の海に呑まれてしまっていたのだ。

 

普通なら、此処で諦めるところだが……

 

 

「ん〜…」

 

そうではない辺りが、五代雄介らしさと言うべきか。

 

 

二階を見上げ、微かに開いている窓を見る。

 

「よし!久しぶりにやるかぁ!」

 

 

 

そう呟くと、手を軽く揉みほぐし、店の脇に積んだ酒瓶用のカゴを踏み台に、ガレージを手すり代わりにして懸垂(けんすい)

 

ビルクライミングを始めた。

 

 

 

常識的に考えれば、完全に不法侵入行為である。

 

警察に通報されて当然なのだが………

 

 

「おぉ〜い!雄ちゃーん!」

 

ご近所の皆さんにとっては見慣れた光景。ポレポレの名物とも言えた。

 

「ガッハッハ!!久々だなぁ、窓から入るやつ(その光景)!♪」

 

買い物帰りらしい、自転車に乗ったおじさんは笑いながら雄介に声をかける。

 

「でも、また長野に行くんですよ〜!」

 

「そっか!土産は、野沢菜で良いぞぉ〜♪」

 

「わさび漬けも買ってきますよ〜!」

 

そんな他愛もない約束を交わし、雄介は窓から中へ入ったのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

石ノ森鎮守府 02:01 p.m.

 

 

「どう見る?今度の提督……」

 

廊下で、数人の艦娘が話し込んでいた。

 

 

一人は紫のスーツにタイトなスカート。白いタイツと少しヒールの高い黒靴、白い長手袋と肩にかかるほど長い、ウェーブのかかったダークブラウンの髪に眼光鋭い凛とした目をした艦娘が、同じような服装で艷やかな黒髪を膝辺りまで伸ばし、サイドテールに結った艦娘に尋ねる。

 

 

「どうって……まあ、これまでの連中と同様、初めは好印象を与えようとする物じゃないのか?足柄」

 

自分に尋ねてきた艦娘___重巡洋艦「足柄」に返答するのは、姉妹艦である「那智」。

 

 

「そうね………いずれ本性を見せる時は来るわ。その時は……いいえ、その時が奴の最期よ!」

 

 

 

 

重巡洋艦《妙高型》___。

 

 

全部で4姉妹であり、1番艦「妙高」から、2番艦「那智」3番艦「足柄」と並び、末に「羽黒」という4番艦がいた。

 

 

彼女たちが着任したのは、一条が着任する二代前の提督の頃だった。

 

その男は自尊心ばかり高く、指揮系統も脳筋としか言いようの無い散々なもので、「前進」か「後退」の二極論で鎮守府を運営していた。

否、運営しているつもりになっていたと言う方が適切かもしれない。

 

よほどの事でなければ、艦隊が大破していようと強行進撃は当たり前。旗艦の大破によって、撤退を余儀なくされれば、その旗艦を呼び出して罵倒し、無能呼ばわり。

入渠することも許さず、反抗すればさらに暴力を振るった。

 

 

それでも……腐っても司令官だと、妙高たちは耐え続けた。

 

しかし、そんな状況下にあって、足柄を怒りと憎しみの権化に変える悲劇が起きた………。

 

 

 

 

元々おとなしめで、控えめな性格だった羽黒を「男慣れする鍛錬だ」と称して、提督を含めた男数人で羽黒を汚したのである。

 

足柄が見つけたときには、羽黒は既に心を壊されており、それを目の当たりにした瞬間……

 

 

足柄は、羽黒を犯した人間たちを提督諸とも皆殺しにした………。

 

その日、遠征から戻った妙高と那智に対し、足柄はこう答えた。

 

 

「ああ……提督なら、殉職しちゃったそうよ?敵が提督に成り済まして、忍び込んでたみたい………」

 

 

この時、妙高と那智は全てを理解した。

 

理解したからこそ、それ以上問い詰めることは出来なかった………。

 

 

「姉さん……みんな…」

 

 

四姉妹の中で一番背が低く、小柄な少女___羽黒が呼びかける。

 

「羽黒………」

 

ショートヘアで背筋の真っ直ぐ伸びた、キャリアウーマンの様な雰囲気を持つ妙高が心配そうに呼びかける。

 

 

「大丈夫なのか?無理しない方が……」

 

「ありがとう、那智姉さん。今は落ち着いてるし……今度の提督さんは、たぶん大丈夫……」

 

「ダメよ羽黒!」

 

 

羽黒の言葉を、足柄は強い口調で遮る。

 

「過去の英雄だかなんだか知らないけど、所詮人間の男は醜いケダモノよ!!」

 

 

「深海棲艦も、未確認生命体も……全部、私が狩り尽くしてやるわ!この《飢えた狼》がね……!!」




まず、謝罪を。


こんなのクウガじゃねえ!!!と言われても、決して逃げずに受け止めます。


次回で、気持ちが晴れるような展開になったなら、分かってください……(何を?)


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11話 : 桜花

お気に入り登録者数が、まさかの30人超え!?

ワタシ、泣いてもいいですか!?


答えを聞く暇は無いですけどッ!!!(`;ω;´)


石ノ森鎮守府にて、自身の危険が迫りつつあることを知る由も無かった一条は、長門と吹雪に頼んで、未確認生命体に関する情報を集めるための聞き込みを進めていた。

 

 

「それは警察、もしくは憲兵に依頼すれば宜しいのでは?」と長門は意見したが、一条は首を横に振った。

 

 

「これは俺個人の判断だ。だから、俺自身の足で動かないとダメなんだよ」

 

 

この時、吹雪は一条の変化に気付く。

 

 

(あれ?司令官……今「俺」って言った?)

 

 

 

石ノ森市内 04:10 p.m.

 

 

聞き込みが一段落し、吹雪たちと合流しようと考えていたその時、一条のスマホに着信が入る。

 

 

「はい。……なんだ、神通くんか」

 

 

『すみません、提督………どうしても、急ぎで伝えなきゃいけないことがあって……』

 

電話越しでもヒソヒソと、か細い声で話しかけてくる神通。

 

 

「悪いが、今すぐには戻れそうにないんだ。伝言なら吹雪くんか長門くんに……」

 

『いけません!吹雪ちゃんや長門さんが知ったら、鎮守府が内部崩壊を起こしてしまいます……!!』

 

 

「……何があったんだ?」

 

神通の狼狽えように、一条は首を傾げる。

 

 

「とにかく、話を聞こう。なるべく急いで戻る」

 

『だ、ダメです!こっちに戻ったら…』

 

 

神通の制止を遮るように通話を切り、一条は歩きだす。

 

 

と、通りがかった一人の女性とぶつかってしまう。

 

 

「おっと!失礼……」

 

「ギジャバ・ビゴギザ……」

 

 

色白の肌に銀色の髪。そして、それらが引き立つ漆黒のドレスと黒い長手袋と、薄桃色のファー付きジャケットに身を包み、額に桜のタトゥを持つ女性は、何かしらの言葉を呟く。

 

 

 

 

 

 

「……!失礼、少しお話を伺っても宜しいでしょうか?今、なんと仰いました……?」

 

「………」

 

一条の職務質問に対し、女性は何も答えない。

 

 

「…何とか言いたまえ!」

 

 

少し強めに詰め寄ると、女性は一条を裏拳混じりに突き倒す。

 

 

「がっ!?」

 

未だ傷の痛む脇腹を殴られたため、痛みに耐えながら、一条は体を起こす。

 

 

 

「……っ、待て!!」

 

 

人混みの間を、まるですり抜けるように走り抜けていく女を、一条は全力で追いかける。

 

 

「待てッ!!」

 

 

 

角に差しかかり、一条も向かう。

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

しかし、突如現れた桜吹雪に視界を遮られてしまう。

 

 

「…………桜……?」

 

花弁を一枚拾い上げ、不審げに呟くも、桜のタトゥの女の姿をすぐに見つけた。

 

 

「……っ…」

 

ひょっとしたら、未確認生命体か新種の深海棲艦かもしれない………

 

己の直感を頼りに、一条は尾行を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪たちとの待ち合わせを忘れてしまっていることに気付かずに。

 

 

「……あれ?司令官?」

 

「おかしいな……確かに、一度合流しようと言っていたのに」

 

「うぅ……待ち合わせ場所、間違えちゃったかなあ……」

 

「まぁ、待ってみるとしよう」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

吹雪たちを待たせていることを忘れ、一条は《警察官》として桜のタトゥの女を尾行。

 

 

その末、とある廃墟に辿り着いた。

 

「………?」

 

 

 

一方で、桜のタトゥの女は廃墟の中に入ると声をかけた。

 

 

「ビデド……ジギリ。ゼデ・ボギ」

 

 

「エッエッエッエッ……」

 

物陰から現れたのは、コートや日除け帽で身を包んだ、不気味な笑い声をあげる初老の男と、斑模様の上着を羽織った、長身長髪の冷たい眼をした若い男だった。

 

 

 

「…………!!」

 

その様子を、息を殺して観察する一条。

 

 

 

 

「ジャサセダ・ゴグジョビ・グムナド・ギブナグ・クウガ」

 

クウガに関することらしい何かを、桜のタトゥの女は二人に伝える。

 

 

「クウ、ガ……?」

 

そう聞き返すのは長髪の男。

 

「エッエッエ………。ラダゼダ・グバヅバ・ギギバラゲ・ロボザバ?」

 

女の話に、愉快そうに笑い声をあげる初老の男。

 

 

すると、女は二人に桜の花弁を手渡した。

 

 

「リンバ・ガヅラデ・デギス。ギベビ・トー・キョウ」

 

「トー、キヨ…?」

 

 

今度は、初老の男が女にものを尋ねる。

 

「リント・ゾログ・ゴゴブ・グルドボソザ」

 

 

 

 

この時、一条は女の言葉に反応した。

 

 

(東京……それに、『リント』!?)

 

 

「ザグ……ギスン・ジャバギバグ・カイリ?」

 

 

長髪の男が、聞き慣れない単語を口にする。

 

 

(カイ、リ………?)

 

 

 

文京区内 05:37 p.m.

 

 

一方。都内にあるトンネルでは、とある男女4人が道の真ん中に集い、手にしている桜の花弁を見せ合う。

 

 

一人は黒フード姿の少女。

 

一人は薄茶色の肩掛けを身に着けた男。

 

一人は左上腕部にカバのタトゥを持つ体格の良い男。

 

そして、残る一人はボブカットのヘアに華奢な体躯で、タンクトップにホットパンツ、両手にはブチ模様のアームカバー。右足はハイソックス、左足はニーソックスに運動靴という姿で、小柄な少女だった。

さらに、露出させた右太腿(ふともも)には猫の顔に似たタトゥをしていた。

 

 

 

と、そこに1台のチョッパーバイクが通りかかった。

 

 

「オイオイオイ、オ〜イ!オレ様たちの道で、なぁにタムロってんだヨァアンっ?!」

 

後部座席に乗っていた、ヤンキー染みた男が集団に食ってかかる。

 

 

「………」

 

しかし、集団は睨みつけるだけで、退く素振りを見せない。

 

それどころか、黒フードの少女はあからさまに嫌そうな顔をしている。

 

 

「ぁんだあ?そのツラはよぉ?文句あっかゴラァ!!………お?」

 

男が集団にガンを飛ばしていると、猫顔のタトゥをした少女に目が付いた。

 

「オメェ、けっこーカワイイ顔してんじゃん?ええ?」

 

 

無遠慮に近付き、屈むと少女の脚にベタベタ触り始める。

 

その様子を、男の連れであるバイカーもニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。

 

 

「タトゥなんてしちゃってえ♪キャワイイねえ♡どぉよ?今から俺ん家に来ねえ?向こうにいるダチも紹介してやっからさあ、今夜は3人でナカヨク……」

 

 

ナンパの台詞は、最後まで決まることは無かった。

 

 

少女による膝蹴りが男の顎を捉え、トンネルの天井に叩きつけたのだ。

 

降ってきた男は、顔が潰れた状態で死亡。連れのバイカーは背筋が凍り付くのを感じた。

 

 

「うわぁ!!ああぁぁあああッ!!!」

 

恐怖した男は逃げ出したが、少女の眼はしっかりと男を捉えていた。

 

 

「……フン」

 

少女の姿は、細身ながらもしなやかな肉体を持つ怪物へと変化。

 

その面立ちは、まるでチーターの様だった。

 

 

「ビガギパ・ギバギ」

 

そのまま駆け出し、バイカーを追っていった。

 

 

 

 

 

場面は再び、一条側。

 

 

桜のタトゥの女たちの会話の端々から、大体の狙いを推理。

 

 

(先手を打つとしたら……今しかない!)

 

 

もっと詳しい情報を得ようとした、その時。

 

 

 

ピリリリリッ!ピリリリリッ!

 

 

「!!!」

 

一条のスマホが着信を報せるべく、高らかにベルを鳴らす。

 

 

「!!」

 

その甲高い音に気付き、桜のタトゥの女たちは一斉に振り向く。

 

 

気付かれた一条は、かくなる上はと銃を構えようとした。

 

 

しかし、そこに長髪の男が駆け寄り、一条の腕を掴み上げ、さらに首を絞め始めた。

 

 

「ぐっ……ぅああ……!!?」

 

 

「ジギリ!ジョガ・ブバ!」

 

一条を絞め殺そうとする男に、初老の男は言葉をかける。

 

 

「ガギデビ・グスバ・ギラパ!」

 

桜のタトゥの女も男を(いさ)めるような言葉を話し、男もそれに従うかのように一条を離すと、女たちと共に去っていった。

 

 

 

「っ……ゲホ…カハッ……!なぜだ……っ……」

 

咳き込み、息を調えようとしたその時。再び着信が。

 

 

画面を見ると、それは吹雪からだった。

 

 

「ハァ…ハァ……なんだ……?」

 

『なんだ?じゃないですよ!!いくら待っても司令官は来ないし!!電話してもすぐ出てくれないしッ!!!』

 

 

「っ……すまない…少々、問題が発生してな………」

 

 

弁解しようとした時、吹雪から長門に替わった。

 

 

『提督、こちらでも緊急事態だ!巡回中の憲兵から通報があって、謎の影が中央通りを爆走しているそうだ!!』

 

 

その報告から、一条は最悪の展開を確信した。

 

 

先程の奴らは東京に集まりつつある……

 

かつての未確認たちと同様に。

 

そうなれば、アイツは……五代はまた奴らと戦うことになる。

 

 

しかも、警官隊や憲兵と現場で鉢合わせれば、再び射殺の対象として狙われてしまう。

 

 

それだけは、何としても避けなければ……!!

 

 

「長門…吹雪……!直ちに、鎮守府へ帰投しろ……!俺もすぐ戻る……!!」

 

 

ボロボロな体を叩き起こし、一条は走り出す。

 

 

 

これ以上、五代雄介を戦わせないために。




がんばれば、もうちょい書けたかもしれないんですけど……本作のオリジナル怪人たちのシーンを考えるのにHP(体力)とMP(時間)がゴリゴリ削られました(泣)


次回、いよいよクウガvs未確認vs警視庁鎮守府の憲兵&警官隊の混成部隊による三つ巴!!


クウガの新たな名シーンまで、もうちょっと待ってね?


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12話 : 包囲

単なる自己満のために始めたこの作品……。
早くも多くの人に読まれているというのは、嬉しさと照れ臭さがけっこう込み上げて来ますね。


その喜びを感謝と執筆の力に変えてお返ししていけるよう、頑張ります(^_^)

ということで、12話目です。


「いや〜参った!すっかり遅くなっちゃったなあ」

 

 

バイクは現在、修理に出している為、雄介は電車で石ノ森へと向かおうとしていた。

 

 

 

 

「うわぁあああ……!!」

 

 

その時、何かが倒れる大きな音と悲鳴が聞こえ、雄介は振り返る。

 

 

「…なんだ!?」

 

 

何事かと、雄介は元来た道をUターンした。

 

 

 

 

 

 

「ああ…うああああぁぁっ!!」

 

 

チーターのような女怪人の一撃を喰らい、バイクから転げ落ちた男は、交通整理で使われるコーンなどが積まれた路地裏に追い詰められ、後退(あとずさ)りしながら手を振って、抵抗を試みる。

 

 

 

しかし、目の前の獲物に対し、情をかける狩人や獣は居ない。

 

 

トドメを刺そうと怪人が歩み寄ってきた、その時。

 

 

「おおおりゃあっ!!」

 

 

怪人の後ろから雄介が飛びかかり、注意を引く。

 

 

「ビガラ……!」

 

 

「ひっ…ひいいい!!」

 

 

これ幸いと、男はどうにか逃げだす。

 

 

 

その頃、一条は雄介と共通の友人である人物・沢渡という人物に連絡していた。

 

 

「もしもし、一条です!沢渡さん、五代くんは居ますか!?……ダメですか………!」

 

 

 

 

同じ頃。

 

大本営からの通達を受けて、警視庁鎮守府の警官隊が現場に向かっていた。

 

 

そこには、石ノ森鎮守府から出撃可能な艦娘たちも同行していた。

 

 

「相手は深海棲艦とまったく違う奴よ!大本営からは、鹵獲(ろかく)よりも射殺を優先するよう指示があったわ!気合入れてくわよ?」

 

 

艦隊の編成は、足柄を旗艦として、随伴艦のメンバーは神通、由良の軽巡洋艦2名。他は「(いなずま)」と「叢雲(むらくも)」、そして「夕立」の駆逐艦3名である。

 

 

 

「あの……神通さん。こんな事を尋ねるのは失礼かもしれないのですが……何かありましたか?」

 

浮かない顔をしている神通に対し、電は心配そうに尋ねた。

 

「え?……ううん、何でもないわ」

 

 

余計な心配をかける訳にはいかないと、神通はやんわりと答えた。

 

 

 

「戦場が……勝利が私を呼んでるわッ!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ぐあッ!!」

 

チーター型の怪人に押され、雄介はなかなか距離を開けることが出来ない。

 

 

 

 

「ハッ…ハッ……!!」

 

 

全力で走りながら、一条は呟く。

 

 

「早まるなよ、五代……!!」

 

 

 

 

 

「フウウ……」

 

 

「!!」

 

 

雄介に飛びかかろうと身構えた、その一瞬を逃さず、雄介は両手を腹部にかざし、アークルを呼び覚ます。

 

 

「?」

 

雄介の動きに、何事かと怪人は警戒する。

 

 

「…変身!!」

 

 

動作を終え、直後に怪人の体当たりを喰らうも、倒れた体を起こす勢いで蹴り飛ばし、怪人の手刀を受け止め、カウンターの肘鉄を決めながらクウガへと変身する。

 

 

 

「………ふん!」

 

「フウウ………」

 

 

因縁の戦士と認識し、怪人は改めて戦闘の構えを取る。

 

 

クウガも身構え、両者共に睨み合ったまま、距離を保っていた。

 

 

 

そして、いざ開戦____

 

 

と思われた、その時。

 

 

「!?」

 

「!」

 

 

両者を8台ものパトカーが包囲し、警官隊が拳銃を手に発砲の体勢に入る。

 

 

「見つけた!!奴らが標的ね?」

 

 

 

「……!?」

 

 

「複縦陣を展開!《陸上奇襲鬼(りくじょうきしゅうき)》と第4号、まとめて叩くわよ!!」

 

 

合流し、声を張り上げたのは、妙高型重巡洋艦・足柄。

 

 

彼女が率いる艦隊は、2列に並ぶ陣形「複縦陣」を展開。

 

 

 

 

艤装の主砲を構え、チーター型怪人だけでなく、クウガにも狙いを定める。

 

 

 

「…………ッ!?」

 

 

そして____

 

 

 

「撃てぇえええッ!!!」




足柄さん率いる艦隊の乱入、ちょっと無理矢理になってしまいました……(;´Д`)


もっとクウガのDVDを見返して、艦隊の出撃の流れを自然なものにしなきゃあ……(;´Д`)


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13話 : 抜錨

少女たちは、陸と海を駆ける。

戦士は、命を懸ける。


暁の水平線に勝利を刻み、誰かの笑顔を護る青空になるために____。


「第4号が射殺されたッ!!?」

 

 

 

警視庁鎮守府 対策本部 10:51 p.m.

 

 

鎮守府に帰還し、吹雪からの報告を受けた一条は愕然となる。

 

 

「愛知県警からの報告では……そうらしいと……」

 

 

「……ッ………」

 

「司令官………」

 

 

報せに対し、黙り込んでしまう一条たち。

 

 

 

「……ん?ちょっと待った!今、俺の所に届いたLINEによると、両方とも逃したそうだぞ?」

 

 

柳井の一言に、一条と吹雪、長門が詰め寄る。

 

 

「本当ですかッ!?」

 

 

「誤報じゃないんですね!?」

 

 

「…なんで、そんな嬉しそうなんだ?吹雪くんや長門くんまで」

 

3人の様子に、目を丸くする柳井。

 

 

「あっ……いえ、その………」

 

 

柳井の問いに、吹雪は口ごもる。

 

 

「寝耳に水で、東京だ。向こうも混乱してて、情報が錯綜してるんだろう」

 

 

そこに、山県元帥が入室してきた。

 

 

「皆、集まっているな?今、警視庁より届いた正式な報告を伝える!」

 

 

「8台のパトカーにより包囲した、未確認生命体第4号と陸上奇襲鬼は警官隊並びに石ノ森鎮守府より派遣された《第一次未確認生命体迎撃戦隊》が銃撃。陸上奇襲鬼は右眼に被弾、そのまま逃走。スピードがあまりに早く、パトカーによる追跡は困難。長野県警、石ノ森鎮守府はトライチェイサー2013A、ドルフィンチェイサー2018A を実戦導入されたし!」

 

 

「まぁ……わざわざ長野にまで戻ってくる…なんて事は無いと思いますがね?」

 

 

柳井の意見に、山県はうむ、と頷く。

 

 

 

「本日を以て、第2の未確認生命体改め《揚陸侵艦(ようりくしんかん)》は正式に攻撃指定された!改めて武装の見直しを徹底し、各県警、大本営との合同捜査本部が近いうちに設立されることになるだろう!」

 

 

 

 

 

報告が終わり、山県元帥は一条に声をかける。

 

 

「一条少佐!明日、東京へ行ってくれ」

 

「自分が、ですか?」

 

「対策本部の、今後の方針について話し合うことになったんだがな?誰か一人、代表をと言ってきとるんだ」

 

 

「すぐ、資料の準備にかかります!」

 

「ああ、それから!それに伴って、石ノ森の艦娘たちも鎮守府の異動や、本件の作戦への参加をしてもらう場合が起こり得るかもしれん。君の部下たちにも、よろしく伝えてくれ」

 

 

「分かりました!」

 

 

 

 

会議室を出た後、吹雪と長門が付いてくる。

 

 

「司令官!元帥の仰っていたのは…もしかして?」

 

「ああ……君たちにも、陸の上で仕事をしてもらう場合が増えると思う」

 

 

「私は構わないが……他の者たちが納得しないだろうな」

 

「だったら!私がみんなを説得しますよ!!」

 

 

長門の言葉を受けて、吹雪は気合十分といった風に張り切ってみせた。

 

 

「それは心強いな。頼りにしているぞ?」

 

 

そう言いながら、ふっと笑う一条の顔を、吹雪は再び声をかけられるまで、頬を赤らめたままボーッと見つめていたのであった。

 

 

「司令官……」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

都市部にある、用水路。

 

陸上奇襲鬼こと「ズ・ヂーダ・ダ」は被弾した右眼を押さえながら壁に寄りかかり、銃弾を抉り出した。

 

 

「ハァ……ハァ……ッグ……ウウ……」

 

怪人の姿から少女の姿へと変わり、横たわると、痛みと怒りに身を震わせるのであった………。

 

 

 

 

 

 

城南大学 沢渡桜子考古学研究所 08:07 a.m.

 

 

五代雄介の大学時代からの友人にして、超古代の戦士クウガに関する古代文字の解読などで協力してくれた沢渡桜子は、この研究室で働いていた。

 

 

「ふぁ……あふ……」

 

また徹夜だったのか、朝早くということもあって欠伸がもれる。

 

 

机に向かおうとした、その時。

 

 

「きゃっ?!」

 

何かに躓き、転けてしまった。

 

 

程なくして、その元凶が体を起こす。

 

 

「ふあ〜〜ぁ……おっはよ、桜子さん……」

 

 

戦士クウガの正体である、冒険家。五代雄介であった。

 

 

「おはようじゃないでしょお!?」

 

落とした資料を拾いながら、雄介の自由奔放さに怒る桜子。

 

「あ!ここの鍵、開いてたよ?不用心だから気をつけないと!」

 

「あんたが言うな、あんたが!」

 

 

その不用心な窓から頻繁に出入りする男に、桜子は鋭いツッコミを入れる。

 

 

「良かったぁ、元気みたいだね?」

 

「今のでまた寿命が縮んだわよ……!」

 

 

雄介の暢気過ぎる発言に呆れつつ、桜子は立ち上がる。

 

 

 

「あ!この前持ってきた、石版の古代文字の解読進められそう?」

 

「やりますよ、一条さんや香取さんからも頼まれちゃったし。……あ、そうそう!一条さんから電話があったよ?石ノ森にはもう来るなって」

 

 

桜子の言葉に、雄介は反応した。

 

 

「ちょうど良かった!実は俺、長野に行けなくなっちゃって!」

 

 

「え……また行くつもりだったのぉ!?」

 

「うん。でもさ、今度はこっちで出たんだよ!揚陸侵艦!!」

 

「えっ……東京に……!?」

 

 

驚きを隠せない桜子に、雄介は頷く。

 

 

「で……また変身して、戦いかけたんだけど………。なんか、またピストルとか艦娘さんたちの大砲で撃たれちゃって!チクチク痒くてタイヘンだったの!」

 

「ちょ…ちょっと待ってよ!!五代くん、それ昔と同じじゃない!!しかも艦娘にまで攻撃されたって……危ないよ!それ、下手すると死んじゃうところじゃない!!?」

 

 

 

あっけらかんと話す雄介に、桜子は声を荒げる。

 

 

しかし

 

 

「大丈夫!死ぬようなことしないから!」

 

相変わらず、この一言で返す雄介なのであった。

 

 

「ダメだよ、危ないよ!!」

 

「うん。だからさ」

 

桜子の説得を遮るように、雄介は桜子の肩を叩き、背中を押して机に向かわせた。

 

「そのためにも、桜子さんの力が必要なんだって!」

 

「ちょっと!」

 

「あの古代文字を解読出来れば、奴らとの戦い方も解ると思うんだよ!いくら奴らが未確認に似てるったって、クウガの力がどこまで通じるか判んないし!俺の野生の勘でも、すぐ限界来ちゃうだろうし」

 

 

「分かるけど………素直に良いよとは言えないな……」

 

 

 

 

 

その頃。

 

足柄たち「第一次未確認生命体迎撃艦隊」は、一条や吹雪たちと東京駅で合流した。

 

否、鉢合わせたと言うべきか……

 

 

 

長門と足柄は、鋭い眼光をぶつけ合い、火花を散らしていた。

 

 

「……どういう事か、事情を説明願おうか?足柄」

 

「あら、港湾潜伏鬼を撃破した戦艦さまが重巡ごときに何用かしら?」

 

 

 

「はわわわ……っ」

 

「えっと……神通さん、これは……?」

 

「ごめんなさい………上手く説明出来ないの………」

 

 

長門たちを見てオロオロする電。状況がいまいち飲み込めない吹雪とそれについて詫びる神通。

 

 

「私もあんまり詳しく知らないけど……足柄さん、提督のこと歓迎してないっぽい」

 

吹雪に簡潔に説明したのは、金髪よりも淡い黄金色の髪をした、どこかポワポワした雰囲気の駆逐艦娘「夕立」だった。

 

 

「足柄くん。未確認生命体第4号と遭遇したそうだな」

 

 

険悪な空気の中、一条は話を切り出す。

 

 

「それが何?逃しはしたけど、次は逃さ…」

 

 

「第4号は撃つな。これは、石ノ森鎮守府提督としての最初の命令だと認識してくれて構わない」




ついに、一条さんが『一条提督』デビューを……。

しかし、最初の仕事が「クウガを撃っちゃダメ」宣言……(;´∀`)

ザーボンさん、ドドリアさん!

文才を探してくださいっ!!(泣)


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14話 : 出撃

あれれ〜?おかしいな〜?

この小説は、作者の単なる自己満足で終わらせるだけの物のハズなのに………


UAが5000超え、しかもお気に入り登録者数が40人到達だとッ!?
私……どうしたら良いの…ッ!!


「第4号は撃つな……ですって……?」

 

 

一条の言葉に、駆逐艦「叢雲」は顔をしかめる。

 

 

「どういう意味よ?」

 

「言葉通りの意味だ。今、我々が討つべきは、陸上奇襲鬼のみだ」

 

 

叢雲の問いに、一条は淡々と答える。

 

 

 

「提督さん……何か知ってるんですか?」

 

 

次に尋ねたのは由良だ。

 

一条は向き直り、少しだけ俯き

 

 

「詳しいことは、まだ話せない……だが、決して悪いようにはしないと約束する」

 

 

吹雪と長門も頷くが……

 

 

 

「………はっ。やっぱりそうなのね」

 

足柄の乾いた笑い声が漏れる。

 

 

「あんたは権力に媚びて、それを餌に私たちを捨て駒にしろと言われた!そうでしょ!!」

 

「あ、足柄さん!?」

 

 

「だってそうでしょ!?私たちは艦娘……戦うためだけの道具!本来の戦場である筈の海ではなく内陸に呼び出されて、深海棲艦ではない怪物を狩れと言われたのに!掌を返して今度は撃つなって?これを権力に屈したと言わずに、何と言うのよ!!」

 

 

足柄の半狂乱な叫びに、長門は青筋を立てた。

 

「足柄!提督補佐艦として、今のは聞き捨てならんぞッ!!」

 

「なら何?気に食わないなら、さっさと『解体』なり殺すなり好きにしなさいよ!ああ、でもそこの提督もどきの夜伽の相手だけはまっぴらゴメンだけどねえ?」

 

 

自暴自棄とも言える足柄の言に、長門は足柄の襟を掴み上げる。

 

 

「いいだろう……そこに直れ!!提督を侮蔑するような愚艦は、この長門が始末してくれるッ!!!」

 

 

「止めて下さいッ!!!」

 

 

 

声を張り上げたのは、秘書艦である吹雪だった。

 

 

「吹雪………」

 

叢雲と夕立が吹雪を見守る中、吹雪は足柄に面と向かう。

 

 

 

「司令官は………一条 薫司令官は、貴女が思うような人じゃありません!!着任して、まだ日も経っていないのに………司令官と、ちゃんと話をした訳でもない艦娘(ひと)に、勝手な暴言をぶつける資格はありませんッ!!!」

 

 

 

それは、初期艦であり、石ノ森鎮守府一番の新入りとは思えぬほどに真っ直ぐな意見であり、吹雪の眼は足柄の眼を逸らさずにいた。

 

 

「吹雪さん………」

 

 

(あんなに足が震えて………。本当なら、怖くて仕方ないでしょうに……)

 

 

そんな吹雪の姿を、電や神通、由良は眩しげに見つめていた。

 

 

 

「…………ふんっ。その希望が絶望に変わったとき、後悔するわよ?自分の考えが、いかに甘ちゃんだったかをね!」

 

「構いません!!立ち止まって諦めることを後悔するくらいなら、走ってでも歩いてでも、転びまくりながら前に進む後悔を選びますッ!!!」

 

 

 

 

 

その言葉に、他でもない一条が一番感銘を受けていた。

 

 

 

似ている____。

 

自分に……そして五代(かれ)に。

 

 

 

「吹雪……あんた……」

 

「叢雲ちゃんも!それだけじゃない、神通さんや由良さん、電ちゃんに夕立ちゃんも!!今、私たちがしなきゃいけないことが何か、忘れちゃったの!?」

 

 

吹雪の言葉に、夕立たちは黙り込む。

 

 

そんな吹雪たちを見守っていた一条だったが

 

「……すまない、少し席を外す」

 

 

そう伝え、一条は桜子に電話をかける。

 

 

 

 

 

「もしもし?沢渡です……あ、一条さん?」

 

『実は、捜査の主体がこちらに移ったものですから……まず、それを伝えようと思いまして。五代くんは居ますか?』

 

「はい、今変わります……五代くん、一条さんから」

 

 

「ん___俺です」

 

 

『突然ですまないが、今から会えるか?』

 

 

「はい。場所は___」

 

 

待ち合わせ場所を確認し、通話を終える。

 

 

「っし!じゃ、行ってきまーす!」

 

「気をつけてね?」

 

「うん!じゃ、解読よろしくね?」

 

 

 

サムズアップ。

 

笑顔の雄介を、やんわりと微笑みながら桜子は見送り、石版の古代文字解読に取り掛かるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

昼間の市街地。

 

 

警邏(けいら)中の警官が、用水路付近を通りかかった時のこと。

 

 

「……ん?」

 

トンネルの入り口に、不審な染みを見つけた。

 

 

「!?な……なんだ、あれは……」

 

自転車を停め、慌てて近寄り、恐る恐る指先に取って舐める。

 

 

(……血だ…!)

 

さらに、血痕の中には銃弾が落ちており、警官はハンカチに取った。

 

 

 

と、その時。

 

何かが用水路の中を走り抜けた。

 

 

「…誰かいるのかっ!?」

 

 

懐中電灯を取り出し、慎重にトンネル内へと踏み入る。

 

 

 

漂う不気味な気配に臆しながらも、事件の可能性を考慮し、警官は灯りを照らし続けた。

 

 

 

しかし……

 

 

「……。ヒッ!!?」

 

 

ふと気配を感じ、灯りを向けると。

 

 

 

右眼に傷を持ったままのヂーダが立っていた。

 

「み…未確に」

 

「フゥッ!」

 

 

警官の首を掴み上げると、右手を軽く振るい。

 

 

 

鋭い爪の生えた指で、警官の右眼を刺し貫いた。

 

 

「ぎぇああぁぁあっ!!!!」

 

 

指を引き抜き、事切れた警官の遺体をその場に放棄して、用水路を後にした。

 

 

 

 

「…!」

 

地下通路に入り、程なくして。

 

 

ヂーダの前に、仲間と思しき集団と桜のタトゥの女たちが現れた。

 

 

「ヂーダ………」

 

 

カバのタトゥを持つ男が、静かに首を横に振る。

 

それは、まるでヂーダの行為を咎める…或いは諌めているような雰囲気だった。

 

 

「ヤバインジャナイカ?オマエノ“ヒョーカ”ニ、キズガツクゼ?」

 

そう呟いたのは、フードを被った色白の少女だ。

 

 

しかし、ヂーダは怒気を孕んだ声音で言い放った。

 

 

「ボンレンセ・ギゾグ・スザベザ!」

 

傷の癒えぬ右眼を指差し、再び走り出す。

 

 

 

「ヂーダ!ジャレソ!」

 

薄茶の肩掛けを羽織った男が腕を掴んで引き止めようとするが、ヂーダは振り払って行ってしまう。

 

 

「ヂーダ!!」

 

「ラデ!ログ・ギギ……」

 

 

追いかけようとした肩掛けの男に対し、桜のタトゥの女と同行していた初老の男が止めた。

 

 

そして、桜のタトゥの女は右手中指に填めた、錨を模した禍々しい形状の飾りのある指輪を見せながら宣言した。

 

 

 

「リジドンゾ・ザジレスゾ」




ハイ、またビミョーなラインで区切ってしまいました(泣)

長くしすぎては読者さんが疲れるかも?と思いながら、短すぎてもイライラしちゃうよね…と考えて進めているのに!!


ミナサン、どうか捨てないで!!


???「ルールはルールだ」

……ルールって、ナニ?(汗)


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15話 : 疾走

激動のクウガ編、第2章。


その決戦が、今。

陸と海を股にかける、“海豚(イルカ)”の銘を与えられた鋼の馬の目覚めによって始まる_____。


雄介が一条の呼び出しに応じ、桜子の研究室を後にしてからしばらく経った頃。

 

 

桜子のスマホに、一条からの着信が入る。

 

 

 

「もしもし、沢渡です。……はい、あの後すぐ出ていきましたけど………まさか、また……?」

 

 

 

 

「ええ………。陸上奇襲鬼が活動を再開したようで、既に4件の被害が出ているそうです」

 

 

受話器越しの桜子の声が不安げになり、一条に伝える。

 

 

『あの………五代くんが決めた以上、止めてくれとは言いません。ただ……戦うことで、五代くんの身に危険が降りかかりそうになったら、その時はまた支えてあげて下さい』

 

「勿論です!彼一人に背負わせることの無いよう、尽力します!」

 

 

桜子の懇願を、一条は即答する。

 

 

 

「それから………連絡基地の大淀さんにも、伝えてあげてくれませんか?」

 

 

「……なんと、伝えれば?」

 

 

 

「『五代くんは、絶対大丈夫』って」

 

 

 

その言葉の重みと深みに、一条はより意思を固めた。

 

 

「___はい!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その頃、ヂーダは自身を止めようとする警官たちを次々と攻撃。

 

 

 

鋭い爪で喉元を引裂き、地に叩きつけた警官の背中を強靭な脚で踏みつけ、骨を砕くなど、俊敏さと怪力で圧倒していた。

 

 

 

警官に包囲されれば全滅させて移動…を繰り返し、追跡する白バイ隊員を翻弄する。

 

 

「こちらTRCS04!陸上奇襲鬼は、現在六本木方面を逃走中!その速度は、推定時速300km!このままでは、振り切られますっ!!」

 

 

白バイ隊員からの無線を受け、一条は指示を送る。

 

 

「我々もすぐに合流する!無理はするな!!」

 

 

 

 

 

同じ頃。一条との待ち合わせ場所に向かっていた雄介はヂーダの走り去る影を目撃した。

 

 

 

「今のって……!!」

 

 

持ち前の勘の鋭さから、雄介は影の向かう先へ走りだす。

 

 

 

そして、白バイ隊員が交差点に入ったとき。

 

 

ヂーダは左腕に“連装砲”を装備し、白バイ隊員に向けて発砲した。

 

「っ!?う、うわあぁぁあッ!!?」

 

 

慌ててハンドルを切ったが、そのためにバランスを崩し、近くのコンビニの壁に突っ込み、転倒した。

 

 

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

慌てて駆け寄り、隊員に声をかける雄介。

 

 

「あ…ああ、なんとか………」

 

幸い、隊員に怪我は無く、トライチェイサー2013Aも問題無く使えそうだ。

 

 

「良かった〜!じゃ、コレちょっと借りますっ!!」

 

 

ヘルメットを取り、トライチェイサーに跨がると、雄介はヂーダを追うべく出発してしまった。

 

 

「えぇ!?ちょっ…ちょっと!?待って!!」

 

 

雄介の唐突過ぎる行動に、白バイ隊員は混乱しながらも追いかけようとするが、当然止められる訳もなかった。

 

 

 

 

 

 

ヂーダを見つけ、追いかける雄介。

 

その雄介に気付き、さらに加速するヂーダ。

 

 

 

(奴の左腕に付いてるのって……艤装だよな、やっぱり……)

 

 

揚陸強襲鬼の件といい、揚陸侵艦たちは深海棲艦や艦娘に似通った特徴があまりに多い。

 

 

 

 

「東京に、何しに来たんだ……!?」

 

 

丁字路を走り抜けるヂーダを雄介が追いかける中、曲がり角から入った一条と長門、吹雪は雄介を発見する。

 

 

 

「司令官!今の……!?」

 

「まさか………!」

 

 

 

 

 

入り組んだ道路を抜け、ヂーダは歩道橋へと入る。

 

 

「!」

 

 

後を追うべく、雄介はトライチェイサーを操って歩道橋に入ろうとした。

 

 

 

「フッ!」

 

「うあっ!!」

 

 

 

しかし、ヂーダの連装砲が火を噴き、雄介を足止め。

 

怯んだ一瞬を突いて、そのままヂーダは逃げてしまった。

 

 

 

そこに、ヂーダを追っていた別の警官が雄介に気付き、詰め寄った。

 

 

「君!!いったい何のつもりだ!?」

 

「スイマセン……。逃げられちゃいました…」

 

「何なんだ、君は!!」

 

 

 

 

そこへ、警官に詫びる雄介の右手を、一条の手錠が捕らえた。

 

「!?…あっ!」

 

「コイツは、私が連行します。あなたは揚陸侵艦を!」

 

「ハッ!!」

 

 

 

 

追跡を警官に引き継がせ、雄介をパトカーに乗せて一条たちは警視庁へ。

 

 

 

「提督……彼を逮捕して良かったのか?」

 

「…………」

 

長門の質問に、一条は答えない。

 

 

「スイマセン!もうちょっとで追いつけたんですけど………あとちょっとだったのに……」

 

 

悔しげに謝る雄介。

 

 

「五代さん……どうして、あんな真似を?」

 

 

「また変身して戦う気だったんだろう?」

 

 

雄介に尋ねた吹雪の問いに、一条が確認するように答えた。

 

 

「はい」

 

当たり前のように返事をした雄介に、吹雪も長門も呆気にとられる。

 

 

 

 

「……昔とは訳が違うんだ。今に撃ち殺されるぞ?」

 

 

一条提督の補佐艦として、民間人である雄介の身を案じる長門。

 

 

「だからって、止められます?」

 

「あ、あの……五代さんは、もっと自分を大事にするべきですよ!」

 

 

次に、吹雪が説得を試みる。

 

 

しかし

 

「してますよ!」

 

「なに?」

 

 

「だからこそ、自分が大切だと思うものを守りたいんです!」

 

 

 

にこやかな表情ながら、その言葉には一片の迷いも無い。

 

 

 

「一条さんもそうですけど…長門さんや吹雪ちゃんたちだって、そうじゃないですか?」

 

「っ………」

 

「……私は………っ……」

 

 

その一言に、今度は吹雪は黙り込み、長門は口ごもってしまう。

 

 

 

 

 

 

そうこうしているうちに、一条たちは地下駐車場へ到着する。

 

 

車から降りようとしたとき、無線が入る。

 

 

 

『こちら軽巡・由良!揚陸侵艦迎撃艦隊旗艦・足柄が、単騎で陸上奇襲鬼の追跡を開始!今、連れ戻すために後を追っています!』

 

『了解!陸上奇襲鬼との戦闘は、接近戦を特に注意されたし!!』

 

『了解!!』

 

 

 

無線から聴こえる状況___それは、ヂーダを見つけた足柄が、我先にと追跡を開始。

 

神通や由良たち随伴艦を置き去りに、単独行動に走ってしまったというのだ。

 

 

しかも、その先は港付近のコンテナ置場。

 

立体的な動きを得意とするヂーダを追い詰めるには、火力だけでは地形的に不利である。

 

 

実際、合流した警官隊は反撃の隙も作れずに、次々とヂーダに討たれ、遺体は足柄の砲撃を凌ぐ盾にされている。

 

 

如何に足柄が歴戦の艦娘であっても、万が一弾切れを起こせば、それが最期となる危険は充分に有り得る。

 

 

 

しかし……。

 

仮に神通たちが間に合ったとして、そこからまた逃げられたり、返り討ちにされるようなことがあれば、石ノ森鎮守府が大打撃を被ることにもなる。

 

 

 

「……一条さん?」

 

 

 

思案する一条の背中を、雄介たちは見つめる。

 

 

 

 

 

『中途半端』はしません____。

 

 

 

雄介の書き置きをポケットから取り出し、一条は静かに眼を閉じる。

 

 

そして、意を決した表情で向き直った。

 

 

 

 

「___五代雄介!」

 

「はい!」

 

「俺について来い」

 

 

 

一条の後を、雄介と共に吹雪と長門もついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一条に案内されたのは、地下ガレージだった。

 

 

照明が点いたことで、一瞬目が眩む雄介たち。

 

 

眼を開けると、そこには1台のオートバイが置かれていた。

 

 

車体その物はスマートで、船体を象った外装が前面と左右の両側面をカバーし、マフラー部には小型のジェットスクリューが搭載されており、第一印象は「タイヤ付きの小型モーターボート」と呼ぶべき姿をしていた。

 

 

 

「わぁ……!!カッコいい……!」

 

「一条さん、これって……?」

 

吹雪と共に、眼を輝かせる雄介。

 

 

「《ドルフィンチェイサー2018》。《トライチェイサー》や《ガードチェイサー》の実践データを基に開発された、改良型の試作機だ。普及型ではコストの都合上、切り捨てた性能が、コイツには全て備わっている!」

 

 

 

「スゴいじゃないですか!!」

 

「なんと……!!」

 

 

一条の説明に、雄介のみならず長門も興奮する。

 

 

「……あれ?司令官、これ右ハンドルが無いですよ?」

 

 

吹雪が指摘する通り、ある筈の右ハンドルが欠けていた。

 

 

しかし。一条も雄介も、それに関してはよく理解している。

 

 

「グリップはここだ」

 

そう言って、起動キーであるドルフィンアクセラーをアタッシュケースから取り出し、ドルフィンチェイサー本体にセット。

 

 

さらに、起動用の暗証番号を登録。

 

 

その番号は、雄介___クウガと共に戦い抜いた2大マシンと同様〈0318〉である。

 

 

暗証番号登録により、ドルフィンチェイサー2018は起動した。

 

スロットルを軽く吹かし、一条は最後にこう告げた。

 

 

「後から俺たちも行く!!」

 

 

雄介は小さく頷くと、腹部に両手をかざし、アークルを呼び覚ます。

 

 

「変、身!!」

 

 

構え、動作を終えるとベルトは赤い光を放ち、雄介はクウガへと変身する。

 

 

 

一条がシャッターを開けると、新たなマシンを得たクウガは、スロットルを全開にし、出発した。

 

 

 

「よし……。吹雪!長門!直ちに艤装を展開し、弾薬等の最終点検を!それが終わり次第、俺たちも出撃する!!」

 

 

それは、一条 薫の《提督》として最初の出撃命令であった。

 

 

「了解ッ!!!」

 

吹雪と長門は敬礼し、出撃準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

ドルフィンチェイサーは力強く、しかし軽やかな速さで道を走る。

 

 

マシンを駆るクウガの眼は、目指す先で待つ戦いへの覚悟と決意に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

ヂーダが逃げた先の港。

 

足柄や警官隊が、用心しながら姿を探していた…その時。

 

 

「フンッ!!」

 

白バイ隊員の頭上から、肩車をするように飛びかかると、両脚で首を挟み、小枝を圧し折るかのように殺害。

 

 

「揚陸侵艦……!!」

 

 

単装砲を構えるが、ヂーダは足柄の腕を払い除け、蹴り飛ばすと左腕の連装砲を構える。

 

 

「伏せろォォッ!!!」

 

その時、一人の若い刑事が、大声を張り上げながら足柄を突き飛ばし、ヂーダの凶弾を一身に受けて倒れたのである。

 

 

「………え?」

 

目の前で起きた光景に、足柄は頭が真っ白になる。

 

 

今、この男は何をした?

 

私を突き飛ばして……そして、今血まみれで倒れて、死んでいる………。

 

 

「わたし、を……かば……って……」

 

 

この瞬間、足柄は頭の中がグチャグチャになった。

 

 

人間は醜い。

 

自分さえ良ければ、周りなど何とも思わない連中。

 

艦娘を道具や欲望の捌け口程度にしか見ていない、下劣な存在ばかり____。

 

 

そう、思っていたのに。

 

人間を憎むことで、戦ってきたのに……

 

 

なぜ?

 

なぜ、この人間(ひと)は私を庇ってくれたの?

 

なぜ……

 

 

 

ワタシハ イキテイルノ……?

 

 

「あ……ああ……あぁぁあ……っ……!!」

 

 

突然溢れ出す涙にも、足柄は思考が回らない。

 

この人を殺したのは誰か?

 

目の前の揚陸侵艦か?

 

それとも……

 

 

「ビガラロ・ギショショビボ・ソギデジャスレ!!」

 

 

私………?

 

 

 

ヂーダの主砲が足柄に狙いを定め、発砲しようとしたその時_____!

 

 

稲妻のような爆音が轟き、1台のバイクを巧みに操る赤い戦士が現れた。

 

 

「ッ!!」

 

避けようとするヂーダの顔面に、バイクの車体後部を浮かせ、後輪を横凪に振るバイクテクニック「ジャックナイフ」を決める。

 

 

「グァウッ!?」

 

倒れ、怯んだ隙に赤い戦士___クウガは足柄の下に駆け寄る。

 

 

「ひぅっ!!」

 

昨晩の未確認だと気付き、足柄は殺されると思い、身体を強張らせた。

 

 

しかし、クウガはたった一言。

 

 

「大丈夫ですか、艦娘さん!?」

 

 

「___え?」

 

 

あまりに予想外過ぎて、足柄は泣いていたことも忘れてしまった。

 

 

「……クウガァ!!」

 

 

憎々しげに名を呼ぶと、ヂーダは海へと逃走。

 

 

クウガはすぐにドルフィンチェイサーに跨がり、海に向かって飛び出す。

 

 

コンソールのテンキーでモードを切り替え、水上バイクモードにして海域へと飛び出した。

 

 

 

「……………」

 

 

遅れて、ようやく追いついた神通たちに名を呼ばれるまで、足柄はクウガの向かった海を眺めていたのであった。




さあ!!

遂にきました、クウガの初・海上戦!!


次回、ヂーダとクウガの戦いが決着を迎えますっ!!


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16話 : 海戦

長かったクウガ編第2章、遂に決着です。


戦闘シーン、やっぱ考えるの難しいけど楽しいです♪


《鎮守府周辺海域》

 

 

海面を、まるで水溜りの張った路面を駆けるように移動する《陸上奇襲鬼》こと《ズ・ヂーダ・ダ》を、《未確認生命体第4号》こと『戦士』クウガが追跡する。

 

 

「っ!」

 

その道中、魚雷か魚のような不気味な姿をした深海棲艦《駆逐イ級》や《駆逐ロ級》、《駆逐ハ級》の駆逐艦隊と遭遇。

 

持ち前のバイクテクニックで、クウガは砲撃の雨を掻い潜る。

 

 

「ギェエンッ!!」

 

しかし、振り切ったと思っていた駆逐艦のうち1体が、クウガの背後から飛びかかった。

 

 

「ッ!!…フンッ!!」

 

喰らいつかれる寸前、クウガはドルフィンチェイサーのスロットルを吹かし、急加速することでこれを回避。

 

 

しかし、次から次へと深海棲艦は現れ、その数を増やしていく。

 

 

 

「クッ……!コイツらを何とかしないと……!!」

 

 

道を拓こうにも、ドルフィンチェイサーに砲塔や雷撃装備は無い。

 

かと言って、クウガは艦娘のように水の上に立つことは出来ない。

 

 

周囲を囲まれ、道を阻まれてしまった。

 

 

 

 

打つ手無しか……と思われた、その時。

 

 

敵艦が一隻、何者かに砲撃された。

 

 

「!?……えっ?」

 

 

 

振り返ると、その先に見えたのは、態勢を立て直した足柄たち迎撃艦隊の面々だった。

 

 

「神通!由良!左舷の方向に、軽巡ホ級1と駆逐ニ級2の計3隻を確認したわ!一隻足りとも、港に行かせちゃダメよ!!」

 

 

「はい!!」

 

「了解しました!!」

 

「叢雲!あなたは夕立と電の3人で、敵艦の追撃を!!あの赤い奴には、1発も当てちゃダメよ!!」

 

 

「え、わ…分かったわ!!」

 

 

「足柄さん、何かあったっぽい!?言ってることが昨日と正反対っぽいけど!」

 

「よく分かりませんけど……電もがんばります!なのです!」

 

 

足柄の指示の下、艦隊の協力もあってクウガは道が拓けた。

 

 

砲雷撃戦の中、電と目が合ったクウガは感謝のサムズアップを送り、ヂーダを追うべく、再び走りだした。

 

 

「!」

 

 

瞬間。

 

電は、そのサムズアップに懐かしさを感じた。

 

 

 

それは、一度として忘れたことの無い、電にとって大切な「恩人」のトレードマークだった。

 

 

 

 

「…………五代さん?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

名も無き離島、その沖合。

 

手付かずの島ということもあって、起伏の激しい岩場が浅瀬に広がっていた。

 

 

「フゥゥ……」

 

「………」

 

比較的穏やかな波の上で、両者は静かに睨み合う。

 

 

 

 

先に動きだしたのは、ヂーダだった。

 

 

クウガとの距離を一気に詰め、バイクから引きずり降ろそうと襲いかかった。

 

「ふんっ!」

 

陸上のバイクよりも大回りな動きながら、クウガはヂーダの攻撃を絶妙な間合いで躱していく。

 

 

 

そこに、長門や吹雪と共に、一条がボートで追いつき、艦隊を殲滅した足柄たちも合流する。

 

 

「あれね……!」

 

連装砲を構える叢雲に対し、吹雪は慌てて止めに入る。

 

 

「待って!叢雲ちゃん、撃っちゃダメ!!」

 

「はぁ!?吹雪、あんたまで何言ってんのよ!!」

 

「ダメなのはダメっ!!」

 

「叢雲!!……撃たなくていい」

 

 

揉め始めた叢雲と吹雪に、長門が一喝。

 

 

足柄は何も言わず、主砲を構える様子も無い。

 

 

 

 

それを瞬時に見抜いた一条は、静かに笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

「フゥッ!!」

 

「うああっ!?」

 

 

背後に回り込んだヂーダに、両脚で首を絞め上げられ、クウガは振りほどこうともがき、ヂーダ共々バイクから転倒。

 

浅瀬に落ち、戦場は再び陸地へ。

 

 

一条たちも陸へ上がり、戦いを見守る。

 

 

 

「シャッ!!」

 

クウガの肩を掴み、跳び上がると、その場で連続キックをお見舞いするヂーダ。

 

 

「ぐふっ!?がは…うあっ!!」

 

 

膝を着いた瞬間、畳み掛けるようにして膝蹴り、そして両腕で抱え込むようにして首を締め上げる、チョークスリーパーをかける。

 

 

「ぅぐっ…ぁ…がああぁぁ……ッ!!!」

 

腕力に押されながらも、クウガは肘鉄を繰り出して抵抗。

 

 

4度放ったうちの2発が、ヂーダの鳩尾に直撃。

 

怯んだところを逃さず、腕を振りほどき、左ストレートと右肘の一撃がヂーダの鳩尾を打ち抜く。

 

 

 

「ガァアアゥ……ッグウ!フウウ……フウウゥゥ……!!」

 

 

 

かなりのダメージを負ったらしいヂーダは、よろめきながらも怒りのこもった眼をギラつかせながらクウガを睨みつける。

 

 

 

それが、ヂーダの最期だった。

 

 

 

クウガは前転で勢いを付けながら、左腕で身体を跳ね上げてヂーダの腹部に右脚のキックを繰り出し、岩に叩きつける。

 

 

「グフゥ!?」

 

 

さらに

 

 

「オオリャアアアァァアッ!!!」

 

力を込めたキックをもう一発打ち込み、ヂーダの背面の岩ごと蹴り飛ばした。

 

 

 

「グゥア…アアアアアアァァッ!!!!」

 

 

海面に叩きつけられながら、ヂーダは爆死した。

 

 

 

 

「…………」

 

 

ヂーダの消し飛んだ先を見ていた一条や吹雪たち艦娘は、クウガの方へ視線を移す。

 

 

戦い終えたクウガの右脚には、先のキックの力を証明するように熱気が残っており、微かに湯気が立ち上っていた。

 

 

やがて、クウガは一条たちの方へ向き直る。

 

 

「………」

 

 

 

サムズアップ。

 

 

 

それを見た吹雪は、思わずサムズアップを返す。

 

 

「…………っ?」

 

 

しかし、長門と一条だけはフッと微笑むと、すぐに船の方へ歩きだした。

 

 

 

 

背中越しに、返礼のサムズアップをクウガにかざしながら。

 

 

 

それに対し、クウガは小さく頷くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

戦果報告____

 

 

《石ノ森鎮守府》

 

第1艦隊

 

旗艦 長門

随伴艦 吹雪

 

 

第一次揚陸侵艦迎撃艦隊

 

旗艦 足柄…小破

随伴艦 神通

    由良

    叢雲…損傷、軽微

    夕立…小破

    電

 

未確認生命体第4号の活躍により、陸上奇襲鬼の撃沈に成功。

 

判定……『勝利』




長かった……

長かったよぉ……。・゚・(ノД`)・゚・。


このシーンを書きたいがために、NEWマシンも必死こいて考えたのにゃ〜〜〜〜(ノД`)


という訳で、クウガ編・第2章は、とりあえず完結。

新章をお楽しみに(^_^)ノシ


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クウガ編 第三章
17話 : 接触


戦士クウガ……そして艦娘。


それは、出会う筈の無い者同士。

そして……

出会ってはならない者同士でもある………。


大本営連絡基地 西東京支部 08:13 a.m.

 

 

「…………」

 

 

大本営所属の艦娘であり、揚陸侵艦と命名された陸戦に特化した未知の深海棲艦に対処すべく設立された『警視庁鎮守府』とのパイプ役を任されることとなった大淀は、本庁からの報告書と、九郎ヶ岳遺跡から発掘された石版の画像を交互に眺めながら、深い溜め息を吐いた。

 

 

「どうして変身なんてしたのかしら……五代さん……」

 

 

 

そこに、一人の大人びた艦娘が入室してきた。

 

 

「おはようございます、大淀さん♪」

 

「あぁ……おはようございます、香取さん」

 

 

 

彼女の名は「香取」。

 

大本営直属艦隊の1人であると同時に、新任の艦娘や提督のスカウト並びに指導役を任されている練習巡洋艦である。

 

 

 

「今日はまた、早い出勤ですわね?」

 

「んぅ〜〜〜……。と、ゆーよりも……残業ついでに考え事をしてたら、いつの間にか朝になってたってカンジです」

 

 

うんと伸びをして、大淀は愚痴を零すように話す。

 

 

「まぁ……激務については、担当部署も艦種も、先輩後輩も関係ないわよ。気にしないで?」

 

 

そう言いながら、香取は大淀(後輩)に微笑みかける。

 

 

 

「それにしても……揚陸侵艦か……。未確認の件といい、大変なことになっちゃいましたね」

 

 

「____えっ?」

 

 

香取の一言に、大淀は身を乗り出した。

 

 

 

「え?ひょっとして……まだ知らなかったの?」

 

 

ちょっと意外そうに、香取は今朝の新聞を大淀に渡す。

 

 

 

 

 

「………『東京に揚陸侵艦、さらに未確認生命体第4号出現』……!?」

 

 

その新聞の第一面を飾っていたのは、ドルフィンチェイサーに乗って高速道路を走り抜けるクウガの姿だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

文京区内 ポレポレ 10:17 a.m.

 

 

雄介の下宿先であり、帰ってくる場所の一つに、一軒の喫茶店がある。

 

 

そこは「オリエンタルな味と香りの店」ポレポレ。

 

 

マスターの名は「おやっさん」こと飾 玉三郎氏。

 

 

カウンターには一人の客がコーヒーを飲みながら、ある人物を待っていた。

 

 

 

 

『昨日の夕方、陸上奇襲鬼に続いて出現した未確認生命体第4号は、港から沖の方へと逃走する陸上奇襲鬼を追跡。途中、出現した深海棲艦と交戦するも、石ノ森鎮守府より派遣された艦隊がこれに応戦。その混乱に乗じ……』

 

 

昨日のニュースに耳を傾けながら、玉三郎は苦々しい顔をする。

 

 

「ふんっっとに、嫌んなっちゃうねぇ……テレビも新聞も!どこもかしこも、揚陸侵艦とかゆー新手の未確認関連のニュースばっかり!」

 

露骨に嫌そうな顔をしながら、リモコンを手に取るとテレビを切る。

 

「ホント、政府も自衛隊もなーにやってんのかね?カンムスカンムスって……未確認みたいにヤバいのを女の子ばっかに押し付けちゃってまあ!悪いね?ここ最近、景気の悪いニュースばっかでさ」

 

 

「いえ……」

 

「しっかし、来ないね?雄介(アイツ)……。おねえさん、雄介とは大学時代のお友達か何か?」

 

 

玉三郎の問いに、女性客___長門は返答に困ってしまう。

 

 

つい先日、知り合ったばかりの上、今しがたニュースで呼ばれていた第4号本人がその雄介だとは言える筈もなかった。

 

 

「あ!それとも、冒険の仲間?いや、私もねえ!今でこそこんなだけど、昔はそりゃあ命知らずの冒険をしたもんですよぉ!名のある山はね、ほとんど制覇しましたからね?えっと…チョモ、ラン…マとかね!うん、よし…言えた…!」

 

 

 

 

何か勝手に語り出したが、その生真面目さ故に、話を中断するだけの度胸は長門には無かった。

 

「昔はさ…信じらんないだろうけど、居たんだよ。エベレストのことを、()()()()()…なんて間違える人♪そりゃね?『アルプスの少女ハイジ』で有名な、ヨーベルみたいに間違えにくい単語も勿論あるけども……」

 

 

 

長門の表情を見た玉三郎は、少しばかり気まずそうに話を切り上げ、お代わりのコーヒーをサービスした。

 

 

「しかし……来ないね、アイツ……。ん〜…じゃ、しょうがない!お耳汚しに、私の冒険の話を一つしましょっか!イカダでね……ん?」

 

 

話を始めようとした、まさにその時だった。

 

 

 

「おやっさん、ただいま〜!」

 

ただいま〜(てで〜ま〜)

 

「たっだいま〜!」

 

 

買い出しの荷物を抱えて、雄介と二人の艦娘が帰ってきた。

 

 

一人は雄介より頭一つほど低い背丈で、黒髪をお下げにしたのんびりとした雰囲気の少女で、名前は「北上」。

 

もう一人は北上よりももう一回り小柄で、ウサギの耳を模したリボンを頭に付けた長い金髪と、きわめて露出度の高い格好。そして小脇に抱えた人形が特徴的な少女で名前を「島風」といった。

 

 

「おお!雄介、北上(かみちん)島風(しまぷー)も!」

 

 

「やっと来たか……って、北上!?島風も!」

 

「んぇ?お〜!長門っちじゃん」

 

 

 

「……?3人とも、知り合い?」

 

長門と北上たちの間に沈黙が流れるも。

 

 

「……あ。おねえさん、私の冒険の話は?」

 

 

「失礼……またの機会に、お願いします……」

 

 

とりあえず、一行は外へ出ることに。

 

 

 

 

 

 

「長門さんがわざわざこっちに来たってことは……、ひょっとして事件ですか?」

 

雄介の問いに、長門は首を横に振る。

 

 

 

「一条提督に頼まれたんだ。貴殿には石ノ森の現状を知っておいてもらいたいから、一度連れてきてほしい……とな」

 

「石ノ森……?ああ!一条さんが提督として着任したってゆー?」

 

 

雄介と長門のやり取りを見ていた北上と島風だったが、北上が口を挟む。

 

 

「なになに〜?ゆぅちゃんの知り合いが、あの石ノ森で提督やってんの〜?」

 

「石ノ森って、あそこだよね?ブラック鎮守府の代表格」

 

 

島風の言葉に、さすがの雄介も驚いた。

 

 

「ブラックの代表格って……そんなに酷かったの?」

 

「少なくとも、今の提督が来る一代前まではね〜……ありゃあ、ヒドいなんてもんじゃなかったよ?下手すりゃ、ヤクザの方がかわいく見えるくらい」

 

 

「……この際だ。北上、島風。これから一緒に来て、石ノ森への復帰を検討してくれないか?」

 

 

「遅くならないなら良いよー」

 

「ん〜、行ったところで変わんないと思うけどなあ……今の仕事の方が気楽でいいし」

 

 

「………そうだ。五代、マスターにそれとなく伝えておいてくれるか?」

 

「はい?」

 

 

「……正しくは、ヨーデルだ」

 

 

「えっ?どーゆーこと…?」

 

 

突然の伝言に、戸惑う雄介であった。

 

 

 

 

雄介や長門たちが話し込んでいる頃。

 

店に電話がかかってきた。

 

 

「はい〜、オリエンタルな味と香りのポレ……おお、大淀(ヨド)ちゃん!___ん?雄介?」

 

 

呼ぼうとした、その時。

 

 

長門の運転するパトカーが北上と島風を乗せ、バイクに跨った雄介と共に出発した。

 

 

「あ、惜しいなぁ〜!今さっきだよ!ほんの1秒前!なんか、友達と石ノ森の鎮守府に行く…とか言ってたね?演習の見学会でもあるのかね?……ったく、相変わらず働かねんだよアイツ〜……かみちんとしまぷーまで付いてっちゃうし、誰か良い働き手は居ないもんかね?ねえ、ヨドちゃん……」

 

 

しかし、通話は既に切れていた。

 

 

「……アレ?いつ、切れてたんだろ……」

 

 

 

 

一方、大淀は玉三郎の言葉に疑念を抱いていた。

 

 

「…友達……?」

 

 

スマホを取り出し、長門のスマホに電話をかけてみる。

 

 

しかし、ドライブモードになっているらしく、電話に出ない。

 

 

居ても立ってもいられなくなり、大淀は部屋を飛び出したのであった。




はてさて、石ノ森鎮守府との交流が本格化しますよ〜?


次回、揚陸侵艦たちも本格的に行動を開始します!


そして、UA6000超えてしまったこの事態、どう受け止めるべきでしょうか!?(;´Д`)


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18話 : 来訪

登録者数が、とうとう50人超えてしまった!!


えっと……バギング・ズガギド・ズガギビン・ババ?


ヤベーイ……チョウヤベーイ…(;´Д`)


石ノ森鎮守府 11:19 a.m.

 

 

鎮守府に到着した雄介と長門たちは、門前で待っていた一条に出迎えられた。

 

 

「まさか、あの店で働いている艦娘が居たとはな……」

 

 

「俺も、冒険の合間に手紙を貰ったりして、二人の顔と名前は知ってたんですけど……いやあ、意外と分かんないもんなんスね?」

 

 

廊下を歩きながら、一条と雄介は北上と島風について話していた。

 

 

「へへ〜♪スーパー北上さまの潜伏スキルは、伝説の傭兵にも負けないぞ〜?ショータァ〜イム、なんてね〜」

 

 

「……?」

 

 

北上のゆるいノリとおふざけに、一条はキョトンとする。

 

 

「このカンジが、おやっさんと意気投合したんでしょうね♪見てて和みますもん、やっぱ」

 

 

北上のノリに対し、雄介はほんわかとした笑みを浮かべる。

 

「それより……提督の方こそ、どうなの?この鎮守府の今の状況は」

 

 

次に、島風が一条に尋ねた。

 

 

「現在、吹雪を秘書艦…長門を補佐艦として、執務と各艦娘のメンタルケアや武器弾薬などの資材管理・運用を手伝ってもらっている」

 

 

 

ある程度進むと、執務室の扉の前に来た。

 

 

 

「此処が、俺の仕事部屋だ」

 

「執務室ですか……なんか、緊張しちゃうなあ……」

 

 

ウキウキしている様子の雄介に、一条は苦笑する。

 

 

 

「ガッカリさせてすまないが……」

 

「はい?」

 

 

扉を開け、一条は雄介たちを中へ通した。

 

 

 

 

「『執務室』の名が残っているだけで、まだ整理も掃除も済んでいないんだ……」

 

 

 

 

 

 

そこは、一言で表すと『ゴミ溜め』だった。

 

 

壁や床はボロボロ、窓ガラスはひび割れ、壁際にはクモの巣が張られている。

 

 

そして何より、北上たち女性陣は勿論、雄介すら眉をひそめた最大の原因は、扉を開けた瞬間に放たれた異臭………『イカ臭い匂い』と共に、何かしらの香料が幾重にも混じって臭ってきた。

 

 

「着任してすぐ、清掃作業に掛かろうとは思ったんだが……すまない」

 

 

 

すると、雄介はポンっと手を叩いた。

 

 

「…よし!それじゃ、今から掃除をしよ!此処が使えないと、一条さんやみんなが仕事出来ないし!ね?」

 

 

 

これまた予想外の提案に、一条たちはポカンとする。

 

 

「ええ〜〜〜?ゆうちゃんマジでやんの〜!?」

 

あからさまに嫌そうな顔をする北上。

 

 

「だって!此処は北上ちゃんや島風ちゃんにとっても、想い出の場所なんだろ?いくら悪い提督が居たからって、そこに悪い想い出しかないって訳じゃないじゃん!」

 

 

そう言われて、北上と島風は黙り込んでしまう。

 

 

雄介の言うとおり、嫌な想い出はあくまで当時の提督に関することのみ。

 

艦娘同士や姉妹で過ごした時間は、悪いことばかりではなかった。

 

 

 

「大丈夫!」

 

 

サムズアップ。

 

 

雄介の笑顔に、頭を掻きながら唸る北上と俯いて考え込む島風。

 

 

 

 

 

 

 

東京都 某所 12:06 p.m.

 

 

無人の水族館。

 

敷地内のカフェらしき場所に、桜のタトゥの女とその仲間と思われる集団が集まっていた。

 

 

その片隅で、初老の男が声をかけてきた。

 

 

「ジュンヂパ・ドド・ボダダバ?」

 

それを合図とし、桜のタトゥの女は、1体の怪人に声をかける。

 

 

「ゴソゴソ・ザジレスゾ・ザビュー」

 

 

呼ばれたその怪人は、小顔で切れ長の眼を持ち、細く引き締まった薄茶色の身体にはマントのような皮膜を持っており、どこかムササビを思わせる姿をしていた。

 

 

「ビベン・グデギ・ファファグド・ムセギジャジャ・ザバ…ハハ!」

 

 

嬉しそうに笑い、桜のタトゥの女のもとへ歩み寄る。

 

 

「ドググ・ビヂゼ…バギング・バギン・ビンザ……」

 

 

桜のタトゥの女の言葉に怪人__ザビューが頷くと、女は右手中指に填めた錨型の飾りを付けた指輪を、腹部の装飾に押し当て、鍵を回すようにひねる。

 

 

すると、ザビューの身に“何か”が流れ込み、ザビューは歩きだした。

 

 

「ギ・ギバ?バギング・バギン・ビンザゾ?」

 

 

初老の男の言葉に対し、ザビューは肩掛けを羽織った若い男の姿に変わると、こう返した。

 

 

 

「ハッ…。サブショグ・ザゼ……」




雄介が、来たッ!!(オー○マイト並感)


クウガ第3章、ついに始動!

これから、石ノ森鎮守府との交流が多くなる予定です(^_^)


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19話 : 波紋

石ノ森鎮守府への訪問、そして揚陸侵艦たちの動きの変化。


静かに、しかし確実に物語は再び動きだす………。


石ノ森鎮守府 01:37 p.m.

 

 

雄介と一条、そして北上と島風の4人が鎮守府内の妖精さんたちと共に執務室の掃除を始めて、室内の約5分の1が片付いてきた頃。

 

 

 

「!」

 

 

工廠において、開発の中心的存在である妖精・通称「造花(つくり)ちゃん」が何者かの訪問に気付いた。

 

 

「どした〜?」

 

力強く丁寧に、そして手早く作業を進める雄介が尋ねる。

 

すると、扉が開き。

 

 

「はぁ…はぁ……」

 

 

息を切らしながら、大淀が立っていた。

 

 

「あ…やあ、大淀さん」

 

「どうも……」

 

 

「あれから連絡はありましたか?」

 

「あれから連絡、あった?」

 

 

 

見事なまでに雄介と一条の声が重なる。

 

 

 

そして、今の状況と2人の様子から、大淀は全てを理解した。

 

 

その上で、言い放った。

 

 

 

「何もありません!もう、ずっと無いかも……」

 

 

それは、大本営連絡係として、石ノ森鎮守府に対する作戦の通達や任務の指示を伝えるなどの責務を放棄すると宣言したも同然だった。

 

 

 

「なんで?大淀さんしか居ないのに!」

 

真っ先に首を突っ込んだのは、やはり雄介だった。

 

 

 

その行動に、北上は「あちゃ〜…」と呟きながら頭を抱えた。

 

 

「……五代さん。門前で見ましたけど、なんですか?あのバイク」

 

「あ、見た?カッコ良いだろ〜アレ!警察と大本営が開発した、秘密の試作車なんだって!一条さんがくれたんだ♪」

 

 

「一条提督が……?」

 

 

嬉々として語る雄介の話に驚きながら、大淀は一条の方を見る。

 

 

 

 

「どうしてそういうことになるんですか!?彼は民間人なんですよっ!!」

 

一条を厳しく問い詰める大淀に、雄介は一言。

 

 

「だってやるしかないだろ?俺、クウガだもん!」

 

 

かつて、自身の身を案じた桜子に対して応えたときと同じ言葉をかける。

 

 

「クウガじゃなくて、あなたは五代さんでしょ!!どうして、そんな気持ちになれるのよっ!?」

 

 

感情が昂ぶったあまり、敬語口調でなくなっていた。

 

 

「だから、俺しかいないなら、やるしかないだろ?」

 

説得する雄介に、なおも食い下がる大淀。

 

 

「だからって……命まで懸けることないじゃないッ!!」

 

 

「やりたいからやる、それだけだって!」

 

 

当然、雄介も思いのままを伝える。

 

 

 

やがて、大淀は黙り込むと。

 

 

「……帰る!!」

 

険しい表情のまま、大淀は執務室をあとにしようとした。

 

 

「あ、待って!送るよ…」

 

「いい!!一人で帰る……!」

 

 

雄介の厚意を跳ね除け、大淀は帰っていった。

 

 

 

「………」

 

「これ……ゆーすけと大淀さん、どっちが悪い………とか、じゃないよね?やっぱり……」

 

 

気まずそうにする北上と島風。

 

 

そして、一条が申し訳なさそうに声をかける。

 

 

「……五代雄介。俺は一旦、本庁へ戻るが……また会えるか?」

 

「はい」

 

「…何かあったら、また連絡する………」

 

 

そう伝えると、一条は独り警視庁鎮守府へ戻るのであった。

 

 

「……北上、島風。そろそろ送ろうか……帰りが遅くなっては、マスターも心配するだろう?」

 

「…ん」

 

「ありがと……」

 

 

 

そんな雄介たちの会話を、そっと見ている一人の艦娘が居た。

 

 

駆逐艦・電である。

 

 

「やっぱり………」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

警視庁鎮守府 総司令部 02:09 p.m.

 

 

一条を呼び出した山県元帥は、厳しい表情で一条を睨みつけていた。

 

 

 

「単刀直入に訊く。……DPCS2018Aの試作機を、第4号に渡したのは、何故だ?」

 

 

元帥が突き出した一枚の写真には、クウガと一条がクウガに託したDPCS2018___ドルフィンチェイサーが写っていた。

 

 

「彼は我々の味方です。そして、ああするより他に方法が無いと判断したからです」

 

 

それに対し、一条は毅然とした態度を崩すことなく説明した。

 

 

「君の管轄である、石ノ森からの増援部隊やその旗艦である足柄くんの報告から、事の顛末(てんまつ)は聞いている。結果として、その判断は正しかったかもしれん」

 

 

「………しかし。君が、第4号に関する詳しい報告を拒む以上……我々は未確認生命体或いは揚陸侵艦として、射殺の対象にせざるを得ない!」

 

 

「何かあれば、私が射殺します。当然、提督として取るべき責任についても覚悟は出来ています!」

 

 

 

即ち、提督の任を解かれても抗わず、受け入れるということ。

 

 

「……君を、合同捜査本部のメンバーから外したくないんだ」

 

 

「今は、とにかく信じて下さい!!」

 

 

どうにか情報を引き出そうとする元帥の言葉に揺らぐことなく、一条は訴えかける。

 

 

 

やがて、一条の熱意に偽りは無いと判断した山県元帥は一言。

 

 

「……良いだろう」

 

 

それを最後に、一条は総司令部をあとにした。

 

 

 

 

「一条!!」

 

 

そこに、一人の強面な中年刑事が声をかけてきた。

 

 

「杉田さん!ご無沙汰してます」

 

 

 

杉田守道。

 

彼もまた、《未確認生命体関連事件》の捜査に携わり、一条やクウガ___雄介と共に事件解決に尽力、そして文字通り命懸けで戦った刑事の一人である。

 

 

 

「……?足柄くん、なぜ……?」

 

ふと、杉田と共に駆け寄ってきた足柄に一条は尋ねた。

 

 

「何故もガーゼも無いわよ!提督が第4号の件で、元帥に呼び出しを受けたって聞いたから……杉田刑事と一緒に飛んできたのよ!」

 

 

「そうだったんですか……すみません、お忙しいところを……」

 

頭を下げる一条に、杉田は肩を叩いて労う。

 

 

「しかし……深海棲艦の襲撃が今朝方の一度きり、揚陸侵艦の奴らもあれ以来姿を見せちゃいない……」

 

「ほんと……これじゃ、4号の借りを返せないわ……」

 

 

不安げな杉田と、どこか欲求不満染みた様子の足柄。

 

 

「……そう言えば。提督は知ってるかしら?揚陸侵艦が居なくなった代わりに、奇妙な墜落事故が多発してるらしいの」

 

「墜落事故?」

 

 

一条が聞き返すと、杉田も頷いた。

 

 

 

「ああ………。これまでに、もう9件だ……」




いよいよクウガ本編の丸写しになってきたかしら?


文章の配分の仕方が複雑化してきたせいか、オラハラハラすっぞ!(by悟空)


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20話 : 速度

UAが遂に7000超えたーッ!!

喜んでいいの?喜んでいいんですかッ!?(;´Д`)ハワワワ


泣きますよっ!?喜びのあまりに!!


東京都 板橋区内 02:24 p.m.

 

 

「ハァ…ハァ……!!ハァ…ハァ…!!」

 

 

髭を伸ばし、汚れや汗でボロボロの衣服に身を包んだホームレスの男性が、荷物を抱えて必死の形相で路地裏を走っていた。

 

 

撒けたか……?

 

もう追ってきてはいないか……?

 

 

淡々と追ってくる“そいつ”から、男性は死に物狂いで逃げ続けていた。

 

 

やがて、体力も限界に達してきたこともあり、男性はビルとビルの狭い隙間に身を潜めることにした。

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ……!!」

 

 

息を切らし、恐る恐る様子を伺う。

 

 

来た道からは、追ってくる気配は無い。

 

 

 

(た……助かったぁ………)

 

 

やっと一息つける____

 

 

 

それは、瞬く間に幻想へと変わる。

 

 

「!!?ヒッ……!!」

 

 

“そいつ”は、男性の目の前に()()()()()

 

 

「ひぁ!?や、やめ……はな、離し……アアァァァアアッ!!?」

 

 

男性は首と胸ぐらを捕まれ、空高く連れ去られてしまう。

 

 

 

そして、ほんの数秒後……。

 

 

「……ぁああああああッ!!!!」

 

 

男性は落下。

 

地面に叩きつけられ、そのまま目覚めることは無かった………。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

石ノ森鎮守府 敷地内 03:01 p.m.

 

 

「あ……あの………五代…雄介さん……ですか?」

 

 

「ん?」

 

 

掃除を再開していた雄介に、電が恐る恐る声をかける。

 

 

「そうだけど………。あ!イナちゃん?」

 

「はい!(イナ)ちゃんなのです♪」

 

 

雄介に付けられたあだ名を呼ばれ、電は嬉しそうに敬礼した。

 

 

 

 

 

数年前。冒険を続けていた雄介は、とある島の浜辺で昼寝をしていた。

 

 

そんな時、彼女は声をかけてきた。

 

 

「あ…あの……こんな所でお昼寝をしてたら、お顔が真っ赤になっちゃいますよ……?」

 

 

 

 

 

この出会いが、五代雄介が艦娘という存在を知るきっかけとなった。

 

 

 

 

 

 

 

「ホント久しぶりだね〜!石ノ森(こっち)には、いつから?」

 

「えと………一条司令官さんが来る、1週間くらい前…なのです。此処へは、香取さんの紹介で………」

 

 

電の悲しげな表情を見て、雄介は少しだけ沈黙する。

 

 

 

 

かつて、艦娘への非道な扱いに反発し、深海棲艦のみならず、世界その物と闘った勇敢な提督が居た。

 

電は、そんな提督の下に集まった艦娘たちの一人であり、秘書艦を任されていた。

 

 

しかし、彼の鎮守府は当時の大本営によって、艦娘もろとも捨て駒にされた。

 

 

電や他の艦娘たちを妖精さんたちと共に避難させ、提督は襲撃してきた深海棲艦を道連れに自爆。

 

 

 

話を聞きつけ、雄介が駆けつけたときには既に手遅れだった………。

 

 

「……死なせないよ」

 

「!」

 

 

雄介の一言に、電は顔を上げる。

 

 

「イナちゃんも…一条さんも……他のみんなも、絶対死なせない」

 

 

不安げに瞳を潤ませる電に、雄介は一言告げる。

 

 

 

 

 

 

「俺は、クウガだから」

 

 

 

 

 

城南大学 沢渡桜子考古学研究所 03:21 p.m.

 

 

九郎ヶ岳の遺跡より発掘された、謎の石版。

そこに刻まれた碑文が、かつて解読してきたリントの象形文字に非常によく似ていたため、桜子は解読用プログラムで検索をかけ、ジグソーパズルを組み立てるかのように作業を進めていった。

 

 

 

「…………何?コレ……」

 

 

その過程で、桜子は今まで見たことの無い文字を発見した。

 

 

そこに書かれていたのは

 

 

《遥かなる 海原 渡る》

 

水底(みなぞこ)より (きた)る》

 

《邪悪なるもの》《打ち払い》《浄める》

 

 

《大いなる 水神》《祝福 与えられた》

 

《水源 御子(みこ)

 

 

 

「これって…………」

 

 

その現代語訳文を目にした桜子は、直感的に一つのワードが浮かんだ………。

 

 

 

 

 

杉並区 03:34 p.m.

 

 

 

「うああぁぁぁあああッ!!!」

 

 

ビルの上から、一人の男性が転落。

 

そのまま息絶えた……その直後。

 

 

薄茶色の肩掛けを羽織り、地肌の上から薄手のベストにジーンズ、革靴という異様な出で立ちをした少し癖っ毛のある黒髪の若い男が飛び降りてきた。

 

 

その男は、自身の左腕に着けた腕輪の勾玉を1つ動かす。

 

 

「バギング・ドググド・グシギ・ビンレ……」

 

 

すると、悲鳴を聞きつけた警官が駆けつけた。

 

 

「こ、これは!?」

 

「………」

 

「そこの君!!止まりなさい!!」

 

 

警棒を取り出し、男に待つよう指示したが……

 

 

男は警官の首を掴み、呟いた。

 

 

「バギング・ドググド・ズゴゴ・ビンレ……」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

電との想い出話も一段落し、掃除も続きは明日にして今日は帰ろう、としたその時。

 

 

ドルフィンチェイサーに無線が入った。

 

 

 

「__俺です!」

 

『五代雄介!揚陸侵艦と思われる、未確認生命体が杉並区に現れた!』

 

「杉並区!?」

 

『巡回中だった警官が、不審な人物に職務質問をしようとしたところ、その人物は未確認生命体に変わったそうだ!』

 

 

「奴らも変身するんですかッ!?」

 

 

 

 

状況説明を受け、雄介はドルフィンチェイサーを走らせる。

 

 

 

トンネルに差し掛かり、バイクを走らせながら、五代雄介は強く意思を表す。

 

 

 

 

その意思は、五代雄介を戦士クウガへと変えることで反映された。

 

 

 

クウガはそのまま、ドルフィンチェイサーのテンキーでナンバー《1720》を入力。

 

すると、トライチェイサーやビートチェイサー同様に搭載されたマトリクス機能によって、黒一色のボディが金色のヘッドとレッド&シルバーのボディに変化。

 

海上モードで船体の役割を持つガードには、『戦士クウガ』を表すリント文字が描かれていた。

 

 

 

 

東京都 杉並区 04:12 p.m.

 

 

 

「撃て!撃てぇッ!!」

 

 

増援が来るまではと、徹底抗戦する警官たち。

 

 

しかし、目の前の揚陸侵艦にピストルの弾丸は何の意味も為さず。

 

 

「フン…」

 

多少、めり込んだだけの弾丸は少し力んだだけで押し出され、その場に散らばった。

 

 

「そ…そんな………ッ」

 

 

「ヅラサン・ババ…」

 

退屈げに呟き、警官を一人抱えて跳躍。

 

 

ビルの屋上付近に着地すると……

 

 

「フン」

 

警官を突き飛ばした。

 

 

「ああ!!アアァァアアアアっ!!!」

 

 

このまま、地面に叩きつけられて終わり……

 

 

と、思われたが。

 

 

「………ん…ほぉわあぁっ!!?」

 

 

寸でのところで、クウガが受け止めたので助かった。

 

 

「ガギダ・バダダゼ・クウガ!キョグギンズ・サギジャジャ・ズ・ザビュー・ダザ!!」

 

 

ムササビに似た特徴を持った揚陸侵艦《ズ・ザビュー・ダ》はクウガに名乗りをあげる。

 

 

「……!!」

 

ザビューの様子に、クウガも身構える。

 

 

すると、ザビューはくっくと笑いながら親指で「付いてこい」と挑発。跳び上がり、滑空していった。

 

 

「ッ!!」

 

 

後を追い、クウガは遊園地へと辿り着いた。

 

 

「………」

 

 

ザビューの姿は見当たらず、クウガは警戒しながら辺りを見回した。

 

 

 

___と、その時だった。

 

「ヘェアっ!!」

 

「ッ!?うあっ!!」

 

 

メリーゴーランドの屋根の上からザビューが襲いかかり、力強いキックを浴びせてきた。

 

「ぐっう……!!」

 

すぐ立ち上がるも、ザビューは再び姿を隠してしまう。

 

 

「ハッハァ!!」

 

自分を探して、周りを見回すクウガを愉快そうに眺め、カフェスペースの入り口に移動したザビューは、腰に提げたボウガンのような機銃を取り出す。

 

「ッ!!」

 

「ゴゴ・ギバ……フン!!」

 

 

現代のマシンガンと遜色無い精度で、弾丸の雨を降らせる。

 

 

「ぐっ!?あぐ、うあああああぁぁッ!!!」

 

 

避けることも出来ず、クウガは大ダメージを受けてしまう。

 

 

「ぁぐ……フー!フゥ…っぐ……!!」

 

 

逃げる様子の無いうちにと、クウガは必死にザビューのもとへ向かう。

 

 

 

しかし……

 

 

「ゴゴグ・ギザゼ?クウガ!!」

 

先回りされてしまい、またもキックやパンチの連打を浴びてしまう。

 

さらに、そのまま捕まり、お化け屋敷コーナーであろう建物の屋根に連れ去られてしまう。

 

 

「ヒョグギ・ブベザバ?フゥン!!」

 

クウガの劣勢ぶりに、ザビューは不満げに呟き、クウガの上腕部と左大腿部にボウガンを撃ち込む。

 

 

「ぁぐ…!!?うぐぁ…ああああああッ!!!」

 

今しがた撃たれたばかりの脚を使って、ザビューを蹴って拘束を解くクウガ。

 

 

しかし、その場で膝を着いてしまう。

 

 

「ハァ……。ゴセビ・パバデ・バギ!フンッ!!」

 

ため息混じりにクウガを蹴り飛ばし、ザビューはボウガンをもう一つ取り出し、2丁拳銃のスタイルとなった。

 

 

 

「ギブグ・ギギ!」

 

 

 

ボロボロの身体を起こし、クウガは必死に立ち上がろうとする。

 

 

「もっと……速く………!!!」

 

 

 

「ギベェ!!」

 

 

ザビューのボウガンがクウガを捉え、弾丸が放たれる。

 

 

 

その寸前。

 

 

クウガの足首の装飾の玉が、赤から青に輝き、クウガに驚異の跳躍力を与えた。

 

 

「!!」

 

 

ザビューを飛び越し、青い姿に変わったクウガは着地する。

 

 

 

「ハァ……ハァ……。なんだ?コレ……!!」

 

 

 

しかし。

 

 

それは、かつての青いクウガではなかった。

 

 

姿その物に変化は無いが、左腕に小型の連装砲を盾のように身に着け、脚には3連装魚雷発射管を左右1基ずつ、計2基装備していた。




揚陸侵艦、とんでもないゲスさを見せてきやがりますねえ………。


次回、突然の変化に戸惑うクウガの運命やいかに!?

そして、大淀さんや電たちの想いは?


待て次回ッ!!


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21話 : 逃避

シーン短めですが、ついに「五代雄介のかかりつけ医」が参上です!


新たに出現した揚陸侵艦《ズ・ザビュー・ダ》。

 

陸も空も関係なく、縦横無尽に飛びまわり、クウガを翻弄。

 

 

かつてない程の窮地に立たされるクウガだったが、ザビューの速さに対抗すべく、赤い戦士から青い戦士へと変わる。

 

 

しかし、その姿は明らかに自分の知る「青い戦士」と異なり、艦娘と同様《艤装》を身にまとっていた……。

 

 

 

「……なんだ?コレ……!?」

 

 

自身の変化に驚き、クウガは戸惑う。

 

 

「ゴグザ!ゴグゼバギド・ゴロギソグ・バギ!!」

 

 

それに対し、ザビューは嬉しそうに笑う。

 

 

「ボギ!」

 

姿の変わったクウガの力を試すかのように誘い、彼方のビルへと飛び立つ。

 

 

クウガも「青」の力特有の身軽さとジャンプ力で追いかける。

 

 

「ギ・ギゾ……!」

 

 

2つ、3つとビルを飛び移っていき、4つ目に着地したビルの屋上でザビューはクウガに肉弾戦を仕掛ける。

 

 

「ふっ!!」

 

ギリギリで躱し、クウガは回し蹴りを繰り出して牽制。

 

 

ザビューが後退したところをすかさず、左腕の連装砲を構えた。

 

「当たれ…!!」

 

 

……しかし。

 

 

「フゥアッ!!」

 

クウガが撃とうとするよりも早く、ザビューはクウガにカウンターの一撃を喰らわせる。

 

 

「うあっ!?」

 

 

よろめきながらも、再度構え、発砲しようとするクウガだったが……

 

 

「っ!?」

 

 

「ゾグ・ギダ?クウガ!」

 

 

「うあっ!!……タマが…砲弾が出ない……!?」

 

 

艤装なのに、“砲弾が出ない”。

 

 

まったくの予想外。突然の変化に続く、原因不明のアクシデントだった。

 

 

 

「ビデギブグ・ミョグザバビ・カイリ……」

 

 

クウガを蹴落とし、アスファルトに叩きつけた。

 

 

そこに、一条と杉田、そして半ば強引に同行した足柄と、それを止めようと慌てて追いかけてきた妙高が駆けつけた。

 

 

「五だ……4号!?しかも青の4号だが……妙だな……」

 

拳銃を抜き、杉田はクウガの姿に違和感を覚える。

 

 

 

当然、その違和感は一条も同じだった。

 

 

 

「青い4号………何故、艤装が備わっているんだ……!?」

 

 

ザビューに羽交い締めにされたクウガを助けるべく、一条は拳銃を構える。

 

 

しかし、もみくちゃになっているせいもあって、狙いを絞り込めない。

 

 

「くっ……!足柄、妙高!俺が《滑空奇襲鬼》の注意を引く!その後君たちは、4号の救援にあたってくれ!!」

 

「4号の……?提督、いったい何を…」

 

 

一条の指示に疑念を抱き、真意を尋ねようとした妙高を足柄が遮る。

 

 

「了解!救援したら、そのままヤツを仕留めて良いくらいだわ!」

 

しかも、心なしかノリノリである。

 

 

 

「…頼むぞ!」

 

 

一条はザビューの背面に回り込み、空砲を撃って注意を引こうと試みる。

 

 

「ンン?」

 

 

そこを逃さず。

 

 

「主砲…撃てぇッ!!!」

 

「足柄、無駄弾を撃つんじゃないわよ?」

 

 

ハンドガン型の単装砲を構え、足柄が発砲。

 

 

「!?」

 

 

クウガをザビューから引き離すことに成功。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

妙高が駆け寄り、クウガに呼びかけるが。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

足柄はザビューの反撃を受け、ボウガンの雨を浴びてしまう。

 

 

「ハァ……ハァ……っぐ…!!」

 

 

「フン……ダガギン・バギ……」

 

 

「きゃ!?」

 

 

妙高を裏拳で殴り倒し、クウガを踏みつける。

 

 

「ヅギゼ・ゴパシザ……」

 

 

ボロボロのクウガを脇に抱え込み、跳び上がろうとした。

 

 

「ギベッ!!」

 

 

 

その時……

 

 

背中から吹いた風で、マントのような皮膜がなびいた。

 

 

 

「………ギボヂヂソ・ギギダバ」

 

 

クウガを離し、飛び立つとそのまま逃げ去った。

 

 

 

「ぐっ……!待ちなさい……!!」

 

「足柄!貴女も負傷してるじゃない!!」

 

 

 

追いかけようとする足柄を、妙高が止めたことで戦闘は終了した。

 

 

 

「………」

 

「一条。本部には俺が報告しておく………行ってこい」

 

 

杉田の言葉を受け、一条は倒れたクウガの元へ駆け寄る。

 

 

 

 

戦果報告____。

 

 

 

《石ノ森鎮守府》

 

第1艦隊

 

旗艦 足柄……中破

随伴艦 妙高…小破

 

 

 

転落事故を調査中、揚陸侵艦《滑空奇襲鬼(かっくうきしゅうき)》による殺人行為と判明。追跡中、未確認生命体第4号が出現し、これと交戦。

 

「青い4号」へと形態変化し、敵艦の敏捷さに対応していたものの猛攻を受けて敗北。

 

 

現場に到着後、当艦隊もこれに立ち向かうも、敵は想像以上に俊敏かつ強敵であった為、奮戦虚しく取り逃がしてしまい、撃破失敗。

 

 

判定……《戦術的敗北》

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

城南大学 沢渡桜子考古学研究所 08:47 p.m.

 

 

パソコンの画面を凝視し、碑文の解読に悪戦苦闘していた桜子のもとに、電話がかかってきた。

 

 

 

「はい、沢渡です……」

 

『もしもし…一条です』

 

「一条さん……?」

 

『突然すみません……。解読出来ている範囲で構わないのですが……今回見つかった石版の碑文に《射抜くものを手にした青い戦士》というような記述はありますか?』

 

 

一条の質問に、桜子は驚きを隠せない。

 

 

「『青い戦士』が……射抜くものを手に?」

 

 

『実は……五代くんが戦いの途中、青いクウガに変身したようなんですが……そのクウガは、艦娘とよく似た武装を纏っていたんです』

 

 

 

 

 

クウガが艤装を___?

 

 

 

あまりに唐突な報告に、桜子は一瞬呆けてしまう。

 

 

しかし、すぐに気持ちを切り替えて尋ねた。

 

 

「あの……ひょっとして、その事で五代くんの身に何か……!?」

 

 

しかし、電話の向こうは黙り込んでしまう。

 

 

 

「一条さん!!」

 

 

程なくして、一条は重たい口を開いた。

 

 

『かなりのダメージを負ったようで……今、関東医大病院に居ます』

 

 

 

 

 

それを聞いた瞬間、桜子の手からスマホが滑り落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関東医大病院 09:21 p.m.

 

 

大急ぎで病院に到着した桜子。

 

そこに、桜子よりも前に連絡を受けていたのであろう大淀が同着した。

 

 

「大淀ちゃん……!」

 

「沢渡さん!来てくれたんですね……!」

 

 

とにかく、まずは雄介の安否を確認せねばと二人は病院の中へ。

 

 

 

 

すると

 

 

「あ。やあ♪桜子さん、大淀さんも」

 

 

「五代さん……!」

 

「五代くん………。身体、大丈夫なの……?」

 

 

いつかの時の様に、いつもと変わらぬ笑顔で2人を迎えた雄介に、桜子は嫌な予感を抱いた。

 

 

「うん…ゴメンね、心配かけちゃって?」

 

 

「い…いえ、五代さんが大丈夫なら……」

 

 

ほっと胸を撫で下ろす大淀と、一方の桜子は素直に喜べずにいた。

 

 

「あっ…そうそう!せっかく来てくれたのに悪いんだけどさ。俺、明日店の仕込みが早いんだよね!たぶん、一条さんか妙高さんが送ってくれると思うから!じゃあ、お先!」

 

 

 

サムズアップ。

 

 

雄介は駐輪場へ向かった。

 

 

そのわずか数秒後……。

 

 

一条と妙高、足柄の3人と共に、白衣の男性が走ってきた。

 

 

 

彼は「椿 秀一」。関東医大病院の医師であり、『未確認生命体関連事件』では司法解剖を担当。被害者の共通点を探り出し、事件の解決に貢献した一人だ。

 

そして、一条の高校時代からの親友であり、「世界でただ一人の、五代雄介のかかりつけ医」を自負している男気のある人物である。

 

 

「沢渡さん!大淀さん!!五代くんは!?」

 

「五代さんなら、さっき………」

 

 

バイクのエンジン音が響き渡り、雄介が行ってしまったことを証明していた。

 

 

「バカ野郎が……!まったくアイツという男は……ッ」

 

 

そう吐き捨てた椿の言葉に、大淀は尋ねた。

 

 

「…そんなに、酷いんですか………?」

 

 

「全身打撲に加えて、銃の乱射までまともに喰らって……普通なら、銃撃される前にとっくに死んでるところです!強化された肉体で、どうにかなっていますが………それでも、通常で言うところの……全治3ヶ月の重傷には違いないんです!!」

 

 

「!?」

 

「そんなに……!?」

 

 

椿の診断を聞き、妙高と足柄は驚愕する。

 

 

「……五代くん………」

 

 

 

 

 

 

外に出て、しばらく経った頃。

 

 

「はぁ……はぁ………。っぐ、うぅ………」

 

 

痛む体を無理矢理動かして、雄介はポレポレへと向かうのだった………。

 

 

 

 

 

「申し訳ない!結局……また、彼を危険な目に遇わせてしまいました………」

 

 

桜子と大淀に対し、一条は深々と頭を下げる。

 

 

 

「……いえ………」

 

それに対し、桜子は小さく首を横に振る。

 

 

 

「提督………一つお伺いしても?」

 

「……何だ?」

 

 

「確かに、彼は戦えるだけの力はあるでしょう……しかし、力を持つ()()です。戦う義務は無いし、ましてや我々の領域に踏み込む道理は無いんですよ?」

 

 

 

妙高の問に、一条は静かに答えた。

 

 

 

「___似ているんです。五代(かれ)は私に……。だから………止めても無駄だということも、分かってしまう………」

 

 

 

その言葉に、妙高と足柄は勿論、大淀もハッとした。

 

 

そして、妙高と足柄は自分たちの中にある糸が、確信に変わった。

 

 

「……送ります」

 

 

「いえ………一人で帰ります。ありがとうございます……」

 

 

 

軽く一礼し、桜子と大淀は病院をあとにした。




相変わらず無茶をする男と、不器用な男のコンビは色褪せません………。


次回、大淀や妙高さんたちの胸に宿る一つの想いとは?


そして、クウガの新たな力の使い道とは!?


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22話 : 勇魚(いさな)

ついに、UAが7000を突破!

そしてお気に入り登録も60人以上に!!


ワタシ、歌ってもいいデスカ!!?

※興奮のあまり、言動がめちゃくちゃになっております。
どうぞ、生暖かい目で前書きを流し読みください。


雄介たちがザビューに敗れ、各自帰投していた頃。

 

 

ザビューもまた、アジトへ戻り、中間報告を済ませていた。

 

 

 

「ガド・バギング・ズゴゴド・ズゴゴ・ビンザ!ハハ!」

 

自身の行為の順調さに、喜びはしゃぐザビュー。

 

 

「カンムスノヤツラトモ、ヤリアッタッテ?“キカン”マデニくりあスンジャネーノ?」

 

 

「ドグ・ゼンザ!」

 

 

フードの少女に答えるザビューを、傍で見ていた桜のタトゥの女は冷ややかに忠告した。

 

 

「ガラブ・リバギ・ボドザ……」

 

「サブショグザ!ハハッ…ガベザ!ガベザ・ガベザ!!」

 

 

グラスに酒を注ぎ、ザビューはぐっと飲み干すのだった。

 

 

 

 

石ノ森鎮守府 08:11 a.m.

 

 

「おはようございます、司令官!」

 

「ああ、おはよう」

 

 

昨日、遠征に赴いていたため出撃が出来なかった吹雪に、一条は大まかに事情を説明した。

 

 

「そんな……五代さんが……!?そ、それで五代さんは!?」

 

 

「念の為、長門に確認の電話をしてもらっている」

 

 

 

 

一方。

 

長門から電話を受けた北上は、島風と共に雄介の様子を見てきた。

 

 

 

「いんや、ダメだね。押しても引いても、揺すっても叩いても!おやっさんのやりそうな起こし方は一通り試したけど、まるで効果無し。ゆうちゃんのこんな状態、私初めて見たよ〜」

 

途中、島風に替わると。

 

 

「長門……まさかと思うけど、ゆーすけ…このまま目を覚まさない、なんてコト……ない、よね……?」

 

「キュ〜…」

 

 

島風と共に、連装砲ちゃんも目を潤ませながら長門に尋ねる。

 

 

 

 

 

 

それに対し、長門は。

 

 

「………大丈夫だ!」

 

『…!』

 

 

「お前たち二人や、一条 薫提督の信じる五代雄介なら……絶対に大丈夫!!」

 

 

声を張り上げないよう抑えつつ、しかし力強く伝えた。

 

 

 

 

「………うん…」

 

 

小さく頷いた島風から受話器を取り。

 

 

「……えっと、長門っち。ウチのおやっさんから伝言があるんだけどさ?」

 

 

「ああ……なんだ?_____ハ?あ…いや、冒険の話は、また次の機会にとお伝えしてくれ!それじゃ……」

 

 

 

このとき、長門は痛感した。

 

 

提督も、マスターの相手は大変だったんだろうなあ………と。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

朝のゴミ出しを済ませ、さあ出勤の準備と思っていたみのり。

 

 

そこに、大淀が訪ねてきた。 

 

 

「大淀ちゃん?」

 

 

みのりは構わないと言って、大淀を連れてわかば保育園に。

 

 

「どうぞ?」

 

 

事情は本人から聞いた、という事で鹿島も同席。

 

お茶を淹れて、3人は椅子に腰掛けた。

 

 

「そうですか……お兄ちゃん、ムチャするから」

 

大淀から話を聞いていたみのりは、苦笑いしながらそう呟く。

 

 

「みのりさんは、平気なんですか?五代さんが、あんな事になって……しかも、18年前にも同じようなことがあったのに……」

 

「争いなんかしないで、話し合えたらそれが一番良いけど……それが出来る相手なら、そうしてるだろうし。それに、お兄ちゃんを信じてダメだったこと、一度も無いから♪」

 

「……そう、なんですか」

 

 

 

俯いたままの大淀に、鹿島は尋ねた。

 

 

「あの……大淀さん?どうかしました?」

 

「もしかして、お兄ちゃんが何か迷惑をかけちゃったとか?」

 

 

みのりも質問するが、大淀は首を横に振る。

 

 

「いいえ……その逆です」

 

「逆…?」

 

 

 

「私…………逃げちゃったんです」

 

 

「逃げた?」

 

 

「長野で、五代さんの秘密を知って…これまでにも、たくさん傷付いて……。だから、そんな五代さんを支えるために、私もしっかりしなきゃって……分かってはいるんです!でも……色んなことが重なって……怖く、なって………ダメですよね?艦娘が、『戦いを怖がる』なんて………っ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いんですよ♪」

 

いつの間にか、涙を滲ませながら震えていた大淀に、みのりはその一言ですべてを肯定した。

 

 

「……へ…?」

 

「普通に考えて、普通にすればいいんです!」

 

 

ほんわかと笑顔になり、みのりは大淀を見つめる。

 

 

そんな大淀に、鹿島はかつての自分を重ねた。

 

 

以前、務めていた鎮守府は老朽化し、提督も自分の限界を感じたとして退役。

 

 

去り際、彼女はたった一言。

 

 

『あなたが普通に考えて、良いと感じたことをしなさい。それはきっと、貴女の幸せの糧になるわ』

 

 

 

提督のその言葉をお守りのように、大事にして生きてきた。

 

 

そして、五代兄妹(この人たち)と出会えた。

 

 

「大淀さん。___大丈夫です♪」

 

 

サムズアップ。

 

余談だが、鹿島の「はにかみサムズアップ」は園児たちから「かわいい」と大好評である。

 

 

 

そこに、一人の園児が声をかけてきた。

 

 

「みのりせんせ〜」

 

「ん?どうした?」

 

「ゆーすけ、いつくるの〜?」

 

 

「さあ……いつかなぁ?」

 

「はやくこないと、かくれんぼのあいてしてやんないぞってゆっといて!」

 

 

言いたいことだけ言って、パタパタと走っていく。

 

 

そんな園児を見て、大淀は改めて理解した。

 

 

そうか。

 

五代さんが、あんな風に頑張ることが出来るのは

 

 

いつも「誰かの笑顔」のため___。

 

 

 

「みのりさん!鹿島さん!私、行きますね?」

 

「はい!」

 

「私が必要な時は、一声かけてくださいね♪」

 

 

“艦娘”としての言葉を受け、大淀は笑顔でサムズアップする。

 

 

みのりと鹿島も、笑顔とサムズアップで応え、見送った。

 

 

 

 

 

杉並区内 現場跡地 10:26 a.m.

 

 

吹雪と電、そして長門と妙高を連れた一条は、犯行の法則性は無いかと調査していた。

 

 

「ここで、戦いがあったんですね……」

 

「はわわわ……」

 

 

初の出撃である電は、ビクビクしながら辺りを見回す。

 

 

「ああ……だが奴は、4号にトドメを刺そうとした直前、まるで気が変わったかのように姿を消した……」

 

 

「その答え、或いはヒントが現場に残されているかも……ということですね?」

 

 

少しだけ間をおいて、妙高が質問してきた。

 

 

「提督………第4号とは、長いお付き合いのようですね?」

 

 

「…ああ、18年前の事件の始め辺りから、ずっと関わっていたからな」

 

 

「………本当に、それだけですの?」

 

 

その一言に、吹雪と長門は思わずビクッと反応した。

 

 

(な…長門さん……!)

 

(流石、石ノ森鎮守府の3大参謀……洞察力は侮れんな……!)

 

 

しかし、一条の意向で第4号=雄介の事実は当分の間伏せておくことになっている。

 

下手すれば、「人艦平等主義」を掲げているらしい妙高がどんな行動を起こすか分からない。

 

 

(し…司令官〜〜〜……!)

 

 

しかし……

 

 

「……みんなの笑顔のために。アイツが命を懸ける理由は、ただそれだけだ。これまでも……今回も。そして………これからも」

 

 

「司令官さん……」

 

 

「アイツは言っていたよ。自分が守りたい『みんな』の中には、艦娘たちもいる……。艦娘のみんなに、暁の水平線だけじゃなく、その先に広がる青空を見せたいと………」

 

 

名前は出さず、しかしその言葉を知る者には判る、彼の言葉を一条は語った。

 

 

「……なんだか、旅人さんを乗せた小舟に寄り添う、クジラさんみたいですね………五代さん……」

 

 

「あ……い、電ちゃん……!」

 

「ふえ?……あ!?」

 

 

慌てる二人を見て、妙高はクスリと笑う。

 

 

「ご心配無く♪提督が情報を伏せると仰るのなら、私もそれに従います。提督から公開の指示があるまでは、情報の漏洩が無いよう尽力致しますわ!」

 

 

敬礼。

 

 

妙高の姿に、吹雪と電は感動していた。

 

 

そして、その光景に長門も満足げに微笑んだ。

 

 

(五代雄介………我々は、お前の仲間だ……!)




次回、いよいよザビューとの決戦です!


そして、その後は前々から考えていた新展開を検討しようかと。

あー、でもその前に登場人物紹介もいいなあ……。


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23話 : 海神(わだつみ)

お気に入り登録者数が8000を超えた……




モチロン嬉しいんですが、ここまで輪が広がるとは夢にも思わなかったもので、歓喜のあまり気絶しそう…(ヽ´ω`)


文京区内 ポレポレ 11:57 a.m.

 

 

「ん〜〜〜〜〜………」

 

 

雄介は悩んでいた。

 

 

悩みの種は勿論、青いクウガの件だ。

 

 

以前、初めて青のクウガに変身した時も戦い方が分からず、苦戦した。

 

しかし、今回は戦い方が解るから上手くいくと思っていた。

 

 

「なんで、撃てなかったのかなぁ……」

 

 

ところが、だ。

 

今回『超変身』したとき、まったく覚えの無い武装が加わっていて、しかも艤装みたいな外見なのに、砲弾は出ず、まともに戦えなかった。

 

 

「やっぱり、いつもの青じゃないとダメなのかなあ……。でも、棒でリーチを補えても銃を乱射されたり飛び回られると反撃出来ないし………」

 

 

かと言って、赤いクウガでは追いつけない。

 

 

「ん〜〜〜………」

 

 

唸りながらテーブルに顔を伏せると

 

 

「ゆーすけ!」

 

島風が後ろから飛びついてきた。

 

 

 

「らしくないよ?ムズカシイ顔しちゃって」

 

 

「島風ちゃん」

 

 

遅れて、北上も顔を出す。

 

「聞いちゃった〜〜」

 

「北上ちゃんまで……どうした?」

 

 

「ゆうちゃんってさ?なぁんかズルいよね〜〜……全部独りで抱え込んだりしてさ」

 

 

 

北上の言葉に、雄介はちょっと戸惑ったような顔になる。

 

 

「もっと頼ってくれたっていーじゃん?あたしらだって、こんなだけど艦娘なんだし。ゆうちゃんが手を貸してくれってんなら、いつだって力になるよ?」

 

「私も!ゆーすけと一緒なら、どこまでだって走れるよ?」

 

 

「そ・れ・に……ゆうちゃん、クウガなんでしょ?」

 

 

「………」

 

「だいじょーぶ!♪」

 

 

 

サムズアップをする二人に、雄介は笑顔になる。

 

 

いつものんびりとしていて、マイペースながらも気配り上手な北上。

 

 

せっかちで「落ち着けない従業員」という、店のマスコット的な面が目立つ一方で、常に前を向いて頑張る努力家の島風。

 

 

そんな二人に、雄介や玉三郎は度々救われていた。

 

 

 

「__ありがと。北上ちゃん、島風ちゃん。なんとなく吹っ切れたよ♪」

 

 

「オー♪」

 

「えへへ…♪」

 

 

ガッツポーズをする北上と照れ笑いする島風に、雄介は微笑むのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「!」

 

 

捜査を続けていた一条のもとに、椿から電話がかかってきた。

 

 

「椿か。解剖の結果が出たのか?」

 

 

『ああ。被害者の遺体なんだが……ちょいと妙な点があったもんでな』

 

「妙な……?」

 

 

椿からの連絡を受けて、一条の表情が変わった。

 

 

「……なんだって!?」

 

 

 

 

「司令官さん?どうかしました……?」

 

 

一条の様子を心配し、尋ねる電だったが。

 

 

「__直ちに鎮守府へ帰投する!!」

 

 

「何か分かったんですか!?司令官!」

 

 

「詳しいことは後で話す!みんな、急げ!!」

 

 

 

一条率いる偵察部隊は、急遽警視庁鎮守府へと帰投した。

 

 

 

警視庁 合同捜査本部 12:08 p.m.

 

 

 

本部へ戻った一条は、本庁からの招集を受けて集まった刑事や長門たちと共に対策会議の場に居た。

 

 

「監察医からの報告では、昨日都内で発生した異常な墜落事故の死者に、不思議な共通点が見られるというんです。つまり…墜落外傷の特徴とでも言うべき、辺縁性出血(へんえんせいしゅっけつ)が、現場の高さから考えて、不自然なほど鮮明に表れている。これは、落下の始まる段階で、強い外力が加わったためです。また……左右の違いこそありますが、死者の片脚には銃器によるものと思われる、複数の貫通孔が見つかったそうです」

 

 

「奴らが関与しているのは、間違い無いな」

 

 

杉田の言葉に、一条は頷く。

 

 

「そして……それらの事件の共通点はもう一つ。『煙』と『風向き』です」

 

 

一条の合図を受け、妙高はパソコンのデータをアップする。

 

 

それは、《滑空奇襲鬼》ことザビューの殺人行為が行われた範囲と付近の工場から流れる煙の風向きをマップ化したものだった。

 

 

「事件は、一定の範囲内で発生していて、しかも工場の煙が流れてくる場所は見事に除かれています」

 

 

「その条件でいくと……ある程度、出る場所が特定出来ることになるな?」

 

「そうです。__局地的なシミュレーションを行った結果……今日の出現地点は…ほぼ、この範囲内に限定されました」

 

 

そのシミュレーション結果は、風向きは『東』。

 

煙の範囲は『北西から南西にかけて』と出た。

 

 

 

「よし!その一帯を固める!みんな、頼むぞ!!」

 

 

山県元帥の号令により、各刑事や大本営への連絡員として出席していた憲兵、そして吹雪たちが出動する。

 

 

「一条少佐」

 

「はい」

 

 

妙高と共に資料を片付けていた一条に、山県元帥が声をかける。

 

 

「高性能ライフルが配備されている。持っていけ」

 

「___はい!」

 

 

そんな一条の背中を、妙高は頼もしく感じるのであった。

 

 

(長門さんや足柄が信頼する訳ね……♪)

 

 

「妙高くん!行くぞ、出撃だ!!」

 

「了解!」

 

 

 

 

一方。

 

桜子のもとへ、大淀が妖精さんたちを連れてやってきた。

 

 

「大淀ちゃん?」

 

「あの……石版の碑文、見せていただいてもいいですか?」

 

 

「!」

 

「もしかしたら、妖精さんたちがヒントを見つけられるかもって。それに……私も、これ以上自分から逃げたくないんです!」

 

 

桜子は、大淀や妖精さんたちの気持ちを痛いほど理解していた。

 

 

「…うん!」

 

 

 

 

みんな、それぞれの場所で戦っている。

 

 

 

「重巡洋艦、妙高!抜錨します!!」

 

「ビッグ・セブンの力を甘く見るなよ?揚陸侵艦!」

 

「駆逐艦、吹雪!抜錨しますっ!!」

 

「電の本気を見るのです!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その頃、雄介は店前の掃除をしていた。

 

 

ちり取りに落ち葉や土埃を集めていると、ドルフィンチェイサーに無線が入る。

 

 

『こちら杉並1。現在異常は無い』

 

『杉並2、こちらも同じく異常ありません』

 

 

「!…一条さん?」

 

 

すると、一条の通信の次に長門の声が。

 

 

『こちら偵察隊長門。同じく、滑空奇襲鬼の姿は見当たらない』

 

「長門さんも?」

 

『了解、引き続き捜査にあたり……な、なんだ!?』

 

 

「!?」

 

『杉並3!?何が起きた?』

 

 

『こちら杉並3、滑空奇襲鬼が出現!これより、迎撃態勢に……う、うああぁぁあっ!!!』

 

『杉並3!応答せよ!繰り返す!応答せよっ!!』

 

 

 

無線越しに異常事態を確認。雄介は深刻さを察した。

 

 

「おやっさん、ゴメン!掃除はまた今度!!」

 

 

 

店の方で作業をしているであろう玉三郎に謝りつつ、雄介はドルフィンチェイサーに跨ると出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ってこいよ………雄介」

 

 

バイクのエンジン音を耳にした玉三郎は、小さくそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……あった!」

 

石版の古代文字を解読していた桜子と大淀たちは、遂に「青い戦士」に関する新たな碑文を見つけた。

 

 

 

そこに書かれていたのは

 

 

《水のように》《長いもので》《波が起こる》

 

《従えて》《邪悪を》《薙ぎ払う》《戦士クウガ》

 

 

 

 

 

「すぐに伝えにいきます!」

 

「待って!今、一条さんにも伝えなきゃ……!」

 

 

 

 

 

杉並区内 01:35 p.m.

 

 

「うああああッ!!!」

 

 

一条たちの読み通り、ザビューは現れた。

 

 

しかし、その力は凄まじく、先に遭遇し、交戦していた警官たちは次々と倒れていく。

 

 

「フン。チョソ・ギバ」

 

 

そこに、一発の砲撃が。

 

 

「見つけたぞ、揚陸侵艦!!」

 

 

妙高たち《揚陸侵艦殲滅艦隊》が到着した。

 

 

「命中させちゃいますっ!」

 

 

先に動いたのは、意外にも電だった。

 

(みんな頑張ってるのです!電も、負けずに戦わなきゃなのです!)

 

 

「照準、良し!全砲門、撃てぇぇぇッ!!」

 

次に妙高が連装砲や機銃を構え、一斉砲火。

 

 

「ッ!!グォ……!?」

 

 

ザビューの怯んだ様子に、一条は僅かながら手応えを感じる。

 

「いけるか……!?」

 

 

援護するべく、一条はライフルを構えた。

 

 

 

その時。

 

 

ピリリリリッ!

 

 

「!!」

 

一条のスマホから着信が入る。

 

 

「!」

 

着信音に一瞬気を取られた一条と艦隊一同。

 

 

それを好機と見たザビューは、機銃を2丁構え、コマの様に回りながら艦娘たちに発砲する。

 

 

「みんな!!」

 

ライフルを構え直そうとしたが、行動の速さはザビューの方に分があった。

 

「ぐあっ!?」

 

 

「ギブグ・ギギ…!」

 

蹴り倒した一条に、ザビューはパトカーをひっくり返して押し潰そうとした。

 

 

「司令官ッ!!!」

 

 

間に合わない___!!

 

 

そう、思われた。

 

 

しかし……。

 

 

「ふぅんッ!!」

 

 

一条にのしかかる寸前、妙高がパトカーを受け止めたのである。

 

 

「ビガラ……!」

 

 

「艦娘を……ナメんじゃないわよ、ネズミ面ァッ!!!」

 

 

押し返したことで、ザビューは後退。

 

狩場を変えるべく、移動した。

 

 

一方、桜子たちは一向に応答の無い一条にやきもきしていた。

 

「一条さん……!」

 

 

すると、ラジオのニュースに速報が入った。

 

 

『__はい。只今、揚陸侵艦に関する新しい情報が入りました。杉並区にて、警官隊と揚陸侵艦殲滅艦隊と交戦した滑空奇襲鬼は、複数の警官を攻撃した後に代々木2丁目へと移動。引き続き……』

 

 

 

「沢渡さん!私、行ってきます!!」

 

ニュースを聞いていた二人だったが、大淀が立ち上がった。

 

 

桜子は頷き、大淀は現場へ向かった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「うああああぁぁぁっ!!!」

 

 

ザビューの猛攻に、次々と倒れる警官たち。

 

 

「ザボ・ゾロガ……」

 

 

 

そこへ、ようやく駆けつけた雄介が、ドルフィンチェイサーで体当たりを仕掛ける。

 

 

「フン!」

 

「!!」

 

 

しかし、ザビューは片手でドルフィンチェイサーを押さえ込み、雄介の突撃を防いでしまう。

 

 

「ジャラ・ザ……フゥア!」

 

「うあっ!!」

 

 

バイクごと倒され、雄介はすぐさま起き上がるも、ザビューは姿を眩ませていた。

 

 

「……何処だ……!?」

 

 

まだ遠くへは行っていない筈と思い、雄介は噴水広場へと向かう。

 

 

「…………。はっ!?」

 

「フゥゥアッ!!」

 

 

上空から飛び蹴りを繰り出すザビューに気付き、寸でのところで雄介は躱す。

 

立ち上がると、腹部に両手をかざす。

 

 

 

雄介の意思に応え、ベルト・アークルが呼び覚まされる。

 

 

 

構え、雄介は己が意思を言葉にして、叫ぶ。

 

 

「変身!!」

 

 

「ギベッ!!」

 

ザビューが跳びかかるも、変身の所作を完了した雄介は横っ飛びに回避。

 

手すりを掴んだ先から、ザビューに反撃の一打を加えるまでに変身が完了する。

 

 

「!?…いきなり青か!」

 

 

しかも、それは昨日変身した時の「艤装をまとった青」の姿だった。

 

 

「フン……」

 

 

 

相対する、二つの異形。

 

 

一方は人に仇なす者。

 

一方は、人を護る者。

 

 

身軽さにおいては、どちらも譲らず。

 

 

「フゥア!」

 

「ふっ!」

 

 

しかし、単純な腕力などはザビューが勝っており、それに対抗すべく、クウガは左手の連装砲を使おうとするが、相変わらず砲弾を撃つことが出来ない。

 

 

「ぐあっ!……わ、わからない……!どうしたら良いんだ……!?」

 

 

 

 

クウガが悪戦苦闘している頃、大淀は自前のスクーターを飛ばしていた。

 

「!」

 

 

目指すべき道の先、そこは揚陸侵艦出現に伴って交通規制がかかっていた。

 

「ここから先は通行止めです!迂回して下さい!!」

 

「引き返してくださーい!!」

 

 

しかし、大淀は。

 

 

「私は軽巡洋艦、大淀です!緊急出動の為、強行突破させていただきますッ!!」

 

 

警視庁鎮守府より、無断で持ち出した連装砲を掲げた。

 

 

「うわあぁぁあっ!!?」

 

「かか、艦娘うぅっ!?」

 

 

大淀の気迫に圧されたのか、単に主砲に驚いただけなのかは定かではないが、とにかく大淀はその場を突破した。

 

 

 

 

「提督……提督!」

 

 

「……っ……妙高……長門…」

 

ザビューの攻撃と妙高の踏ん張りによる安堵からか、一条は少しばかり意識を失っていたようだ。

 

 

「司令官さん、大丈夫ですか?」

 

 

電も、心配そうに眼を潤ませている。

 

 

「みんな…すまない……。もう、大丈夫だ……」

 

 

正直、身体はまだ痛む。

 

しかし、それを言い訳にして後事を部下たちに任せられるほど、一条という男は器用ではない。

 

 

「行くぞ……!」

 

 

 

そして。

 

 

強行突破した大淀と単ちゃんは、今まさに追い詰められているクウガを発見したのだった。

 

 

「居た!!」

 

 

急ブレーキをかけるが、そのためにスクーターはバランスを崩し、大淀はスクーターから投げ出される。

 

 

「ったた……、五代さん!五代さんッ!!」

 

 

距離があるため、大淀は声を張り上げて伝える。

 

 

「ッ!大淀さん!?」

 

 

「《水の心の戦士 荒ぶる波を従えて 敵を薙ぎ払え》!!」

 

「なに……!?」

 

「分かった!?」

 

 

「水の心!?荒ぶる波を……薙ぎ払う?……薙ぎ払うって……」

 

 

一瞬、大淀に注意が逸れたことで若干弱まったザビューの拘束を振りほどき、クウガは態勢を立て直す。

 

 

薙ぎ払う___それは『青いクウガ』の戦い方だが、この姿でも通用するのか?

 

 

___否。

 

大淀の言葉で、クウガは直感した。

 

 

艦娘は、ただ砲撃したり魚雷を撃ったりする訳じゃない。

 

長門のように対人格闘で相手を打ち負かしたり、時にはアスリート顔負けの運動能力で戦局を逆転させることもある。

 

 

つまり、武器も艤装も、どちらも欠けてはならないのだと。

 

 

「そういうことかッ!!」

 

 

鉄製の手すりを蹴り上げ、棒に見立てて、振り回す。

 

 

すると、クウガの両手首にある腕輪の宝玉からエネルギーが注がれ、武器が生成される。

 

 

《眠れる水竜の棒》ドラゴンロッドを手にしたことで、クウガの連装砲に力が宿る。

 

 

 

青いクウガ・ドラゴンフォームの変異体、クウガ・トリトンフォームの完成である。




苦労に苦労を重ね、やっとここまで来ました……!!


次回、いよいよ決着!!


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24話 : 荒波

長らくお待たせしました。

クウガ編第3章、決着です!


揚陸侵艦という、新たな敵と対峙したことで目覚めたクウガの新たな力。

 

 

海の神の名を有する、クウガ・トリトンフォームはドラゴンロッドを巧みに振るい、ザビューに反撃を開始した。

 

 

「ボシャ・ブバ!」

 

 

手刀を繰り出そうとするが、クウガはドラゴンロッドでこれを防御。

往なして、すかさず突きを食らわせつつ、左腕の連装砲を構える。

 

 

「当たれッ!!」

 

 

連装砲は火を噴き、ザビューに命中する。

 

 

「グゥ…!ビガラァッ!!」

 

 

機銃を抜き、構えたところを再びロッドで打ち払われ、さらに顔面を殴られる。

 

 

それは一発、二発と打ち込まれ、反撃の暇すら与えない速さであった。

 

 

「オオリャアッ!!」

 

力一杯に殴られ、ザビューは勢いよく吹き飛ばされる。

 

 

「きゃっ!?」

 

 

ちょうど大淀の前に倒れたため、ザビューは大淀を仕留めようと立ち上がる。

 

 

しかし、そうはさせないのがクウガである。

 

 

素早く回り込んで、ザビューの足をロッドで払い、片膝を着かせて背中を打ち、さらに連装砲で追撃する。

 

 

「大淀さん!」

 

「あ…吹雪さん!一条提督に、妙高さんたちも……」

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「周りを心配するのは結構ですけど……提督はもっとご自分を大事にして下さいな」

 

 

大淀に声をかける一条に対し、妙高はまるで姉妹たちに接するかのような穏やかさで注意する。

 

 

 

「グッ…ウガアァァァ!!」

 

怒りに声を荒げ、2丁拳銃で機銃掃射を仕掛けるザビュー。

 

 

「っ!!!」

 

「危ないッ!!!」

 

 

「フンッ!!はああぁぁぁあああッ!!!」

 

 

ザビューが引き金を引くよりも速く、クウガは皆の前に立ち、ロッドを構えた。

 

 

そして、ザビューの機銃が放つ弾丸を全て弾き、一条たちを守り抜いた。

 

 

「ッ!?バン・ザド……!!」

 

 

 

驚愕するザビューに、本日何度目かの砲撃を浴びせる。

 

 

そして

 

 

クウガはドラゴンロッドを振るい、跳躍。

 

 

 

「ッ!!!」

 

 

「オオリャアアアアアァァァァッ!!!」

 

 

ドラゴンロッドによる鋭い打突・トリトンスプラッシュドラゴンがザビューの右胸に命中。

 

 

 

「グゥウウッ!!?ヌウウゥゥゥア……!!」

 

反撃しようとしたザビューから、クウガはバックステップで離れる。

 

 

ロッドを軽く振り、構え直して警戒を怠らない。

 

 

 

当然、艦娘たちも念の為に主砲を構えていたが。

 

 

 

「グゥ……ウグウウ……ゥァ…アアアア……ッ!!!」

 

 

必殺の一撃を受けたザビューの右胸には、クウガの必殺技が直撃した証である『鎮』の古代文字が刻まれており、そこからエネルギーが注がれ、身体に亀裂が走る。

 

 

「アアア……ガアァアア……!!」

 

 

やがて、ザビューの腹部の装飾品がひび割れた瞬間。

 

 

「アアアアァァッ!!!」

 

 

爆発。

 

炎に包まれながら、その身体はバラバラに砕け散った。

 

 

 

「………」

 

ドラゴンロッドを振り、構えを解くクウガ。

 

 

その右手には熱がこもっており、左腕の連装砲の銃口からも煙が微かに漏れていた。

 

 

 

 

変身を解き、雄介は一条と大淀たちの下へ駆け寄る。

 

 

「大丈夫だった?大淀さん」

 

 

雄介の問に、大淀は

 

 

「………♪」

 

にっこり笑いながら、サムズアップ。

 

 

「でも、お腹空いちゃいました♪」

 

 

その一言で、雄介も吹雪たちも笑顔になった。

 

 

それを見た一条も、満足げな笑みを浮かべながら先を歩きだす。

 

 

「あっ!司令官、待って下さいよぉ〜〜!!」

 

それを慌てて追いかける吹雪。

 

 

「あんまり走ると、転けるぞ〜?」

 

「あらあら、長門さん。それはフラグですか?」

 

 

吹雪に呼びかける長門を、妙高がクスクス笑いながら冗談を吹っかける。

 

「おわっ!?」

 

 

それは現実となり、吹雪はコケた。

 

しかも前のめりに転んだため、後ろにいる雄介や電たちにパンツを見られるという結果に。

 

「はわわわわっ!?五代さん、女の子のパンツを見ちゃメッなのですぅ!!」

 

 

「だいじょぶ!みてないなのですっ!」

 

慌てる電と、技の一つである声マネで電のモノマネをする雄介。

 

 

 

「あ〜あ……遅かったかあ」

 

そんな雄介たちを、離れた所から見ていたのは北上と島風。

 

 

「あれが今度の提督かぁ……」

 

「どうする?ゆーすけもかなり信用してるっぽいし……長門たちとも打ち解けてるみたいだし」

 

 

「ん〜〜〜〜……」

 

 

少し唸りながら、北上は空を見上げる。

 

 

 

「…………ん。悪くないんじゃね?」

 

 

 

 

____戦果報告。

 

石ノ森鎮守府

 

 

《揚陸侵艦殲滅艦隊》

 

旗艦 妙高…損傷、軽微。MVP

 

随伴艦 長門…損傷、軽微

    吹雪…中破

    電…小破

 

 

重巡洋艦妙高の勇戦により《滑空奇襲鬼》による被害増大を阻止、同時に未確認生命体第4号の新形態・通称《軽巡4号》の敢闘によって撃破成功。

 

 

判定___《勝利》。




今回で一旦クウガ編を中断しまして、次は別の仮面ライダーと艦娘の物語を見せていきたいと思います!


果たして、誰が来るのか!?

その前に、やっぱ登場人物紹介かなあ……(;´Д`)


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登場人物メモ
登場人物紹介①


一区切りの意味も含めて、本作を紡いでいく彼らを紹介していきます。


ダラダラな長文&自己解釈やオリジナル過ぎる設定がありますので、そこは了承願います。


五代雄介

 

冒険家。手製の名刺に書かれた肩書は「夢を追う男」そして「2000の技を持つ男」。

 

西暦2000年、長野県九郎ヶ岳の古代遺跡より甦った『未確認生命体』・超古代の戦闘民族《グロンギ》の殺戮の牙から人々の笑顔を守るために戦った戦士《クウガ》の正体でもある。

 

能天気といえるほどに明るく、前向きな性格で、ちょっとでも気になることがあると、首を突っ込まずにはいられないほど好奇心旺盛。

しかし、覚悟を決めた際には決して途中で投げ出したり、逃げたりしないという本当の強さを秘めている。

 

冒険の途中、駆逐艦・電と出会い、そこで初めて艦娘という存在を知る。

 

日本に帰国して間もなく、《揚陸侵艦》と呼ばれることになる第2の未確認生命体と遭遇。

かつて戦った相手とは別のものであっても、それを見過ごして良い理由にはならないとして、再び戦うことを決意。

 

こうして、彼は10数年振りの《寄り道》をすることになったのである………。

 

 

 

一条 薫

 

長野県警警備部所属、階級は警部補。現在は石ノ森鎮守府提督に着任、階級は少佐→中佐。

 

 

 

『未確認生命体第4号』ことクウガの正体が雄介であることを知る人物の一人であり、同時に『未確認生命体関連事件』解決に尽力した《未確認生命体事件の英雄》。

 

 

《深海棲艦》の出現に対し、対抗するための人員や設備の不足が悩まれる状況にある中、関東圏でも指折りのブラック鎮守府、石ノ森へと着任することになった。

 

ライフルによる狙撃や拳銃による銃撃は飛び抜けて優れており、さらに常人なら気絶してもおかしくないダメージを受けても、簡単には倒れないメンタルと肉体の強さ両方を備えている。

 

本来、提督に着任した際は指定の軍服を着用するよう義務付けられているのだが、「本来は一介の警察官に過ぎない自分に、提督の制服は勿体無い」として、着任式以降、使われる事無く執務室のロッカーに大切に保管されている。

 

艦娘の指揮を取る以上、女性に囲まれた生活を送ることになる訳だが、仕事一筋に生きているため、コミュニケーションを取る機会を作ることが出来ずにいる。

加えて、あらゆる面で不器用な性格のために多くの艦娘たちと打ち解けられずにいる。

 

また、相変わらず肝心な時に携帯をマナーモードに出来ない模様。

 

 

 

沢渡桜子

 

城南大学大学院在籍、考古学専攻。

グロンギの脅威から人々を守るために戦うことを決意した雄介を、遺跡から発掘された碑文を解読し、クウガの戦いをサポートした。

 

現在は、新たに発掘された石版に書かれた碑文を解読し、クウガや艦娘たちのサポートを引き受けている。

 

徹夜が趣味とのことだが、最近はとある艦娘から「夜戦しよう!」と誘われていて、どうしたものかと悩まされているとか。

 

 

 

吹雪

 

一条の秘書艦を任されている艦娘で、石ノ森鎮守府では一番の新参者。

 

 

明るく、前向きに取り組む姿勢を評価されてはいるが、その気合は空回りしてしまうことが多く、自爆して泣きを見ることがほとんど。

 

いわゆる「本番に強いタイプ」であり、揚陸侵艦との戦闘では天才ともいえる大立ち回りを見せ、戦線の窮地を何度か救った。

 

最近の悩みは、一条から「司令官と呼ばなくていい」と言われたこと。




次は、登場人物の紹介パート2です。


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登場人物紹介②

はい、引き続き登場人物の紹介です。


紹介を書くのも楽しいですね♪


長門

 

石ノ森鎮守府の古参メンバーの一人である艦娘。

一条が着任する3代前の提督の頃に着任し、ブラック鎮守府の有様を嫌というほど見てきた。

 

そのため、人間不信に陥ってしまい、艦娘たちを守るのは自分だけだと思いつめていたが、一条や雄介と交流、共闘したことにより、人間に対する認識は改善されつつある。

 

ポレポレに訪れた際、玉三郎の冒険の話について本能的に「聞いてはいけない」と感じたらしく、コーヒーは飲みたいが出来れば冒険の話は一切触れずに過ごしたいと思っているという。

 

対人格闘の心得があり、柔道・空手共に5段という武闘派。

そして、小動物や子供が好きという乙女チックな一面も。

 

 

 

大淀

 

大本営より派遣された、連絡基地西東京支部の連絡員を務める艦娘。

 

雄介とは連絡員に就任する前、トラック泊地にて起きた『鎮守府襲撃事件』の担当をしていた時に出会い、それ以来の仲。

 

クウガの話を知ってからは、雄介をなるべく戦わせないようにと考えを巡らせたものの、雄介の戦いを見守ってきた人たちの想いや雄介の意思に共感。全面的にサポートすることを決意した。

 

現在、石ノ森鎮守府への移籍を大本営に申請中とのこと。

 

 

 

妙高

 

重巡洋艦妙高型1番艦。提督という権限を振るって鎮守府を私物化し、さらに艦娘を肉奴隷のように扱う人間を徹底排除し、艦娘の権利を取り戻す「人艦平等主義」を掲げていたが、一条の決して慢心しない武士(もののふ)の精神を見抜き、この人になら背中を預けても良いと思えるようになる。

 

滑空奇襲鬼の事件にて艦隊の旗艦を務めた際、一条からクウガについての話を聞き、共に戦う意思を固めた。

 

重巡洋艦としての特性か、腕っぷしがかなり強く、揚陸侵艦相手でも押し合いならば負けない。

 

 

足柄

 

妙高型3番艦。別名《餓えた狼》。

末妹である羽黒が男に犯された事件をきっかけに、人間を憎悪し、抹殺を企てるがクウガ=雄介と接触し、一条と共闘したことから、人間をもう一度信じてみようと考えるようになった。

 

雄介を那智と羽黒にも会わせてみようかと考えているが、それが元で雄介を取られやしないかと不安になっているとかいないとか。

 

 

 

夕立

 

吹雪が石ノ森鎮守府に着任してすぐ、最初に仲良くなった白露型の艦娘。

語尾に「ぽい!」がよく付く。

一条に対しては真面目で頑張り屋という印象を抱いている。

 

 

神通

 

川内型軽巡洋艦2番艦。

石ノ森に着任する前に在籍していた鎮守府では、あまり戦果を上げることが出来なかったために「役立たず」と呼ばれていた。

 

《陸上奇襲鬼》の事件にて初出撃、一条から労いの言葉をかけられたことで、少しだけ自分に自信が持てるようになった模様。

 

 

叢雲

 

吹雪型駆逐艦。

少しキツめの性格だが、一条に対してはいくらか態度が柔らかくなった様子。

 

第4号については、本人曰く「ノーコメント」との事。

 

 

 

 

暁型駆逐艦4番艦。

雄介が初めて出会った艦娘であり、彼が艦娘を知るきっかけとなった心優しい少女。

 

前任の提督は、老齢ながら実力と理性を兼ね備えた人格者で、電や他の艦娘たちを我が子や孫のように可愛がり、慈しんでいたという。

 

しかし、当時の大本営によって切り捨てられてしまい、電は提督を死なせたのは自分のせいだとずっと責め続けたが、雄介のサムズアップと「大丈夫!」という言葉で立ち上がり、香取からの紹介で石ノ森鎮守府へと異動した。

 

雄介と再会出来たことが嬉しいあまり、抱き着いてしまったことを後になって恥ずかしがるなど、雄介に対して少なからず好意を寄せているらしい。

 

 

 

北上

 

島風と共にポレポレでバイトをしている、球磨型3番艦娘。

一見のんびり屋で、マイペースだが細かい所によく気が付く。

 

滑空奇襲鬼に苦戦し、攻略の糸口を掴めずにいた雄介に自分たちを頼ってくれと話す。

 

元は石ノ森鎮守府所属だったが、居心地が悪いとして退任していた。

 

しかし、一条たちの様子を見て戻るのも悪くないかなと思っている。

 

 

 

島風

 

北上と共にポレポレでバイトをしていた艦娘。

 

艦娘の武装である筈の艤装・連装砲は動物のように自立して動き、意思疎通も出来る。

 

速さ一番を信条としており、そのせっかちさから「落ち着けない従業員」のあだ名が付いている。

 

元石ノ森鎮守府所属の艦娘であるが、一条の3代前の提督に性的暴行を受け、逃げ出した過去を持つ。

雄介や玉三郎との交流を経て、今は克服している。

 

 

雄介や一条たちの戦いを知って、雄介のためなら鎮守府に戻るのも良いかなと思っている。

 

なお、雄介のことは甘えさせてくれる兄のように慕っている。

 

 

 

妖精さん

 

艦娘たちの艤装整備や傷の手当などを担当する、別名「乗組員」たち。

 

 

 

単ちゃん

 

読みは「ひとえ」。主に単装砲などの主砲の整備担当。

大淀の補佐をしたりしているが、時々雄介に付いていったりする。

雄介のことが大好き。

 

 

造花ちゃん

 

読みは「つくり」。

工廠における開発部門の責任者……というのが本人の弁。

石ノ森鎮守府を建て直すべく、他の妖精さんたちが身を隠す中、独りで作業を続けていた。

 

新提督として着任した一条や、一緒に掃除をしてくれた雄介のことは鎮守府の救い主だと確信している。




次は、揚陸侵艦の紹介です。

区切ってばかりでスミマセン(^_^;)


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敵艦紹介①

以下に記載しますは、本作にて登場した敵艦の紹介です。


揚陸侵艦(ようりくしんかん)

 

 

長野県九郎ヶ岳にて見つかった、新たな遺跡より甦った第2の未確認生命体。

 

人間とは異なる、異形の姿に加え、艦娘の艤装のようなパーツを備えた個体も確認されており、海上の移動能力も備えている。

 

 

 

ズ・グムナ・バ

 

別名《揚陸強襲鬼》。

クモ種怪人。投網漁船の戦力を備えた揚陸侵艦第1号。

 

その吐き出す糸は強く、しなやかで粘性も高く、漁船の網のように敵を捕らえ、動きを封じることも出来る。

 

鋭い鉤爪を用いて、白いクウガを追い詰めるも長門の砲撃を受けて一時退却。

港湾潜伏鬼と赤いクウガの交戦に割り込み、クウガを追い詰めるも長門と一条の連携によって失敗。さらにクウガの必殺キックを受けて爆死した。

 

 

 

メ・ギブナ・ギ

 

別名《港湾潜伏鬼》。

漁業組合の男性に化けて、吸血殺人を起こしたヤツメウナギ種怪人。

滑りのある、特徴的な皮膚は打撃を受け付けないが、その反面、熱には滅法弱い。

 

変身することに躊躇いを残していたクウガを圧倒するも、戦士として復活した赤いクウガの猛攻を受け、形勢逆転。

さらに、長門の一斉砲火を受けて撃破された。

 

 

 

ズ・ヂーダ・ダ

 

別名《陸上奇襲鬼》。

陸上、海上を問わず時速300kmで疾走する剛脚を持つチーター種怪人。

 

人間態は小柄な少女の姿をしているが、その力は他の未確認たちにも引けを取らない。

 

 

東京に集まった集団の中で、最初に殺人行為をした揚陸侵艦であり、クウガと戦闘になりかけたところで足柄の銃撃で右眼を被弾。

その恨みから暴走し、次々と警官たちを殺害。

 

足柄を仕留めかけるも、一条より託されたドルフィンチェイサー2018を操るクウガに追いつかれ、奮戦するも撃破された。

 

 

 

ズ・ザビュー・ダ

 

別名《滑空奇襲鬼》。

自らを『脅威のフライヤー』と呼ぶムササビ種怪人。

地上から高層ビルの屋上へと簡単に跳び上がれるだけの筋力と身軽さ、そして時速180kmの速さで滑空することの出来る皮膜と機銃を左右の腰に携帯している。

 

かつて、未確認生命体が行った殺人ゲームに酷似した殺人行為を開始し、一日で41人もの命を奪った。

 

その能力や武装、そして環境を利用したトリッキーな動きでクウガを圧倒、一時は追い詰めるも、その後新たな力の使い方を知ったクウガの猛反撃を受け、悔しさを抱いたまま爆発四散したのだった。

 

 

 

桜のタトゥの女

 

額に桜のタトゥを持つ、冷たい眼をした色白の美女。

彼女に遭遇した一条は、彼女が未確認生命体B1号に雰囲気が似ていると感じている。

 

 

 

《九郎ヶ岳棲鬼》

 

第2の九郎ヶ岳遺跡より、姿を現した不気味な影。

 

調査団を惨殺し、揚陸侵艦を復活させた元凶ともいうべき存在。

 

現在、その行方は分かっていない………。




以上、登場人物の紹介特集を終わります!


次回、本編再開でーす!


ちなみに、今度はクウガ以外のライダーにスポットを当てまーす!!


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登場人物紹介③

ハイ、では「龍騎編」に登場したメインキャラを紹介致します。


今後、彼らの活躍と次なる出会いは果たして?


城戸真司/仮面ライダー龍騎

 

 

ネット配信のニュース会社「OREジャーナル」の半人前記者。かつて、鏡の中の世界であるミラーワールドに巣食うミラーモンスターや他の仮面ライダーたちを相手に、激しいサバイバルバトルを繰り広げており、戦いその物を止めるために奔走し続けた過去を持つ。

 

その戦いは、全ての黒幕である神崎士郎と彼の代理人である仮面ライダーオーディンによって幾度となくリセットされてきたが、とある時間軸にて、その負の螺旋に終わりを迎えた。

 

今回の物語では、真司の前にオーディンと謎の少女・アリスが現れ、カードデッキを与えて戦いの記憶を蘇らせた。

 

 

 

青葉

 

 

青葉型重巡洋艦1番艦娘。元は関西に置かれた鎮守府に所属していたが、当時の提督を妬んだ者たちの謀略によって追いやられてしまい、結果として鎮守府その物を失い、提督もそのまま帰らぬ人に。

以降は、艦娘であることを隠しながらの生活を続け、記者としての手腕をOREジャーナル編集長・大久保に見込まれてからは、真司の後輩兼記者見習いとして行動を共にすることとなった。

 

ミラーワールドや仮面ライダーの存在を知ってからは、真司のために艦娘としての力を役立てたいと思っている。

 

 

 

仮面ライダーオーディン

 

 

神崎士郎が制作した「13のカードデッキ」の一つで、神崎士郎が選定した人間が変身した《最強の仮面ライダー》。

 

かつての戦いで、終結を見届けた後消滅した筈だったが、真司の前に現れた。

 

復活した理由や真司に接触してきた目的などは、全くの不明である。

 

 

 

アリス

 

 

真司の前に現れ、カードデッキを渡した少女。

仮面ライダーでないにも関わらず、鏡の中を往き来出来る力を持つ。

戦うか否かの選択権を委ね、それ以降姿を見せていない。

 

 

 

ドラグレッダー

 

 

仮面ライダー龍騎と契約し、力を貸し与えるドラゴン型のミラーモンスター。

摂氏6000度の火球を口から吐き、どんなモンスター相手にも容赦無く攻めかかる気性の荒さと狙った獲物は決して諦めない執念深さを持つ。

 

本来、ミラーモンスターは人間を襲う生物の筈なのだが、本作のドラグレッダーは真司や青葉に懐いており、構ってほしいのか時々ミラーワールドから顔を覗かせているようだ。

 

 

 

大久保大介

 

 

OREジャーナル創立者にして編集長。

真司は大学時代の後輩でもあるため、何かと気にかけている。

青葉が艦娘であることを知る数少ない人物であり、彼女の記者としての技量を高く評価している。

最近、胃腸が弱くなったのが悩み。

 

 

桃井令子

 

 

OREジャーナルの敏腕記者にして、真司の指導役も兼ねている。

最近、真司をようやく「半人前」と認め始めたが、青葉に手を出しやしないかと目を光らせている。




龍騎編のキャラ紹介、以上です。


次回、次なるライダーの章は……誰だろう?


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龍騎編 鏡面ノ彼方ノ龍
25話 : 半人前ジャーナリストと記者っ娘


さあ、ここからどんどん話と世界を広げて参りますよ?


ヒーウィ、ゴォ〜〜!!(マ○オ並感)


深海棲艦とも未確認生命体とも違う、未知の脅威《揚陸侵艦》。

 

 

世間は何処もその話題で埋め尽くされていた。

 

 

ちなみに、今俺が表現している「何処も」とは、単に地域の範囲を指している訳でもなければ、某ケータイ企業の販促狙いとかでは断じてない。

 

言うなれば、新聞やテレビのニュース等といったマスメディア……そしてSNSの類についてだ。

 

 

 

「ハァ〜〜〜……《未確認生命体第4号》か……。他のバケモノたちと大して変わらねえのに、なんで怖がられると分かってるハズなのに人助けが出来るんだろ?」

 

 

 

ネット配信の新聞社『OREジャーナル』。

 

そこの新入りにして、最近ようやく「半人前」扱いされるようになった、この青年の名は《城戸真司》。

 

その彼は今……

 

 

「せ〜んぱい♪」

 

とある新入りの「教育係」を任されていた。

 

 

(要するに、新入りが勝手なことをしないか見張る「お目付け役」じゃねえかよぉ……。編集長と令子さんめ、謀ったな………)

 

 

半人前から抜けきれていないが、自分だってジャーナリストの端くれだ。多少はショボいネタであっても、ちゃんと自分の眼と足で取材し、仕事をしているという達成感を味わいたい。

 

 

そんなモヤモヤした気持ちを、真司はこうしたニュースの記事を眺めて考察することで紛らわせていたのである。

 

 

「先輩?何か考え事ですか?」

 

 

「ん……?ああ、青葉ちゃんか……」

 

 

ただの世話係なら、真司は編集長のゲンコツを喰らう覚悟で反発したかもしれない。

 

 

しかし、相手が彼女―――青葉であったことが、真司の中で問題を複雑にしていた。

 

理由はただ一つ。

 

 

―――可愛すぎるのだ。あまりに。

 

 

見かけは高校生くらい、セーラー服の様なシャツとハーフパンツ、そしてニーソックスにローファーという学生風のファッション。

アイドルか、二次元から飛び出してきたようなその美少女ぶりに、初めて会ったときは眼を見開いて、しばらく魅入ってしまった程だ。

 

 

「先輩ってば!」

 

「おわぁ!?ご、ゴメン!」

 

 

顔を覗き込まれ、真司は慌てて飛び退いた。

 

 

「編集長からの指示、覚えてます?」

 

「あ…ああ、えっと……《揚陸侵艦の正体を探りつつ、それと並行して起こってる連続失踪事件を調査する》……だったよな?」

 

「はい!青葉、抜びょ…じゃなくて…突撃取材、開始しちゃいますっ!!」

 

 

よほど張り切っているのか、青葉が何かを言い間違えたようだが、真司は大して気にも止めなかった。

 

 

 

そう……

 

真司も青葉も、これが単なる取材で終わらず、とてつもなく大きな事件に発展するなど、夢にも思っていなかったのである………。




次のネタを考え始めると、なかなか出てこないもんですね(;´Д`)


そして、とうとうUAが9000に到達!!?


期待に応えなければ、生き残れないッ!!!


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26話 : 青葉のヒミツ

どうしよう……

テレビ本編、全話を把握してるのってほとんどねえよアタイっ!!


ファンブック頼りになっちまう……!

こうなれば、『タイムベント』で遡るしか……!!


真司が青葉を連れて、外に出た頃。

 

 

真司の先輩にして、目標である女性記者の《桃井令子》とOREジャーナル編集長にして真司の大学時代の先輩である《大久保大介》は近場の食堂で昼食を摂っていた。

 

 

「まったく……城戸くんは、もう少し賢くなるべきだと思うんですよね?単細胞でバカだし!仕事を覚えようって姿勢は認めますけどバカだし!!」

 

「令子…俺も大概アイツをバカ呼ばわりしてるけど、飯を食ってるときに言うのはどうかと思うぞ?」

 

 

令子の愚痴に苦笑いする大久保だったが、店に置かれたテレビのニュースを見る。

 

 

『引き続き、揚陸侵艦関連についてのニュースをお伝えします。江東区に出現した《水上潜伏鬼》は、未確認生命体第4号と交戦し……』

 

 

「第4号って……たしか、18年前に現れたヤツじゃないですか?それがなんでまた……」

 

 

「…………まぁ、俺らが追ってるヤマとは直接関係無さそうだな」

 

 

 

そう呟き、また黙々と箸を進めるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

荒川区内 12:10 p.m.

 

 

「………前から気になってたんだけどさ」

 

「はい?」

 

 

ふと、真司は青葉に尋ねた。

 

 

「青葉ちゃんは、どうしてウチの会社を受けたの?そんなに仕事熱心だったら、もっと大手の新聞社でも採用して貰えそうなのに」

 

 

 

それは、本当に素朴な質問のつもりだった。

 

「……もしかして、今の聞いちゃマズい質問だったりする?」

 

 

自分から聞いた手前、真司は冷汗が出るのを感じた。

 

 

こんなに真面目で、しかも可愛らしい娘がまさか……大学を受けずに高卒でこの業界に飛び込んだというのか?

 

 

そうだとしたら、他人にはとても打ち明けられない諸々な事情を抱えているのではなかろうか?

 

 

考えれば考えるほど、真司はいかがわしい想像をしてしまう。

 

(うああああぁぁっ!!ダメだダメだ!何を考えてるんだ、落ち着け俺!!)

 

 

しかし、焦れば焦るほど、考えないように意識すればするほど妄想は膨らんでいくばかり。

 

 

 

「先輩……」

 

「ごめん!!言いたくないなら良いんだ……!!」

 

 

「……良いですよ」

 

 

 

「…………え?」

 

 

青葉の一言に、真司はポカンとする。

 

 

 

「先輩になら………青葉のコト……教えちゃっても、良いです……よ?」

 

 

 

「青葉……ちゃん……?」

 

 

 

その台詞と表情に、真司は一瞬思考がフリーズした。

 

 

 

 

 

(え……教えるって……何を?青葉ちゃんが?俺になら話せるコト……って、ナニ?まさか……いやいや、そんなコト……)

 

 

「……も、もう……恥、掻かさないで下さいよ………」

 

 

少しだけ顔を赤らめ、モジモジする仕草に、真司は固まった。

 

 

(まさか…………本当にソッチの話なのか―――ッ!!?)

 

 

「先輩……私……」

 

「ち、ちょっと待って!?ばば、場所は選ぶべきだと思うよ!?」

 

 

しかし、青葉は告げた。

 

 

 

「私、青葉は…………《艦娘》なんです」




お気づきかと思いますが、龍騎編はカンペキオリジナルストーリーとなります。

クウガ編同様、テレビ本編終了後の新世界であるためです(ヽ´ω`)


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27話 : ガラスの向こうの黄金仮面

目が覚めると、お気に入り登録が90、UAが1万に到達していました(´゚д゚`)


神崎士郎、これもあーたの仕業ですか!?


「私、青葉は……《艦娘》なんです」

 

 

 

真司に対し、青葉はそう伝えた。

 

 

「青葉ちゃん……」

 

 

 

 

艦娘―――。

 

 

深海棲艦と戦うことの出来る、唯一の存在。

そして、一部の人間から深海棲艦と同様に人外扱いされ、虐げられながらも人々のために戦い続けている少女たちのことは、真司もよく知っていた。

 

 

 

「青葉ちゃんが……艦娘……」

 

「すみません!私……今まで騙してたことになりますよね……」

 

 

頭を下げる青葉を、真司はしばらく黙って見ていたが。

 

 

「青葉ちゃん……編集長たちは、この事を?」

 

「編集長にだけは話しました。社長さんですし……でも、他の皆さんには………」

 

 

そこまで言うと、青葉は黙り込んでしまう。

 

 

「………うん、分かった。令子さんや島田さんたちには言わないよ、絶対」

 

「!」

 

 

その一言に、青葉は驚いた様子で顔を上げた。

 

 

「き…聞かないんですか?」

 

「何を?」

 

「私が艦娘としての役目を果たさないで、人間みたいに仕事をしようとしてる事について、とか……!」

 

 

青葉に尋ねられ、真司は「あぁ…」と苦笑いをしながら頭を掻く。

 

 

「そりゃあ、青葉ちゃんみたいな娘がウチを選んだ志望動機は気になるよ?大手会社に比べたら規模は小さいし、顧客の信用は高いけど給料はあと一歩なカンジだし……」

 

「そ、そうでなくてっ!!」

 

 

肝心なことを聞きたい青葉だったが、その時。

 

 

 

「―――先輩!!」

 

「えっ……うぉわっ!?」

 

 

ショーウィンドウのガラス越し……否、()()()()()()()()に、鳥の様な姿をした黄金の仮面と鎧に身を包んだ怪人が映り込んでいた。

 

 

「な……なんだ!?この黄金バットの鳥バージョンみたいなヤツは!」

 

 

世代ではないにも関わらず、ネットで見ただけの黄金の怪人の名を思わず口にする真司。

 

 

 

 

しかし、その黄金の怪人を見て、真司は奇妙な既視感を覚える。

 

 

 

(…………あれ?)

 

 

俺は……

 

コイツを知っている……?

 

初めて見たハズなのに、なんで………!?

 

 

「仮面…ライダー……」

 

 

脳裏に浮かんだ言葉を、真司はポツリと呟く。

 

 

「仮面ライダー……?先輩、それって何ですか?」

 

 

青葉から質問され、真司は戸惑う。

 

 

「えっ?いや、それは………」

 

 

どう答えたものかと、怪人が映っているショーウィンドウに視線を移す。

 

 

 

「…………あれ?」

 

 

しかし、そこに怪人の姿は無かった。

 

 

「消えた……!?」

 

 

ちょっと目を離した、あの一瞬で姿を消すなんて……

 

 

「なぁ……青葉ちゃん。深海棲艦って、幽霊みたいなことが出来たりするヤツが居たりする?たとえば……壁をすり抜けたりとか」

 

「そんなの聞いたことありませんよ。大体、深海棲艦は海から来るんですよ?揚陸侵艦についてもよく分かっていないのに……そんなのが出てきたら、余計社会がパニックになりますよ!」

 

 

「そ…そうだよな、ゴメン……」

 

 

「さぁ、行きましょ?」

 

「う、うん……」

 

 

先程の現象に対する疑問を抱えたまま、青葉と共に歩きだす真司。

 

 

 

「目覚めの時は……近い……」




やっぱ、テレビシリーズを見ておかないとキャラやストーリーの掴みがダメだぁ……

楽しみにしてくれてる皆さんのためにも、頑張らねば……(;´Д`)


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28話 : カガミノムコウ

とうとう……

お気に入り登録者数が100人に……

吾郎ちゃん、タスケテェ……( ;∀;)


都内のとある工場の倉庫。

 

 

桜のタトゥの女と、その他の集団が集まっていた。

 

 

 

「バガリン・ジュグビング・ガサパ・セダゴグザ……」

 

桜のタトゥの女の報告に、集団は動揺を見せる。

 

 

「“ヤツ”ノイッテタ、アレカ?」

 

フードを被った少女が尋ねる。

 

 

それに対し、斑模様の上着を羽織った男が代わりに答えた。

 

「ギ・サブ。ザグ……ヂバ・グンパ・ダギバザド・カイリ」

 

「ギズセビ・ゲジョ……ゴロギ・ソブバ・スジョグザバ…エッエッエ……」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「え〜っと……此処、だっけ?」

 

「はい……聞き込みのメモと、同じ番号の部屋です……」

 

 

真司と青葉の二人が立っているのは、一軒のアパートの一室の玄関前。

 

表札には《榊原耕一(さかきばらこういち)》とあり、現在行方不明となっている住人の名である。

 

 

「言っとくけど、これは特別だからね?警察でもない、マイナーの新聞屋なんて本当ならお断りなんだよ?あたしゃ!」

 

 

アパートの大家である老婆のキツい言葉に、二人は頭を下げながら礼を述べ、部屋の鍵を開けてもらう。

 

 

「用が済んだら、さっさと帰っとくれよ?ただでさえ、家賃を滞納されてイライラしてんだから!ブツブツ……」

 

 

言いたいことだけ言うと、大家はさっさと部屋に戻っていった。

 

 

「さて……調査開始といきますか?青葉ちゃん」

 

「ラジャー!」

 

 

 

室内は、一般的な2DK。

独り暮らしには充分な広さだ。

 

しかし……

 

 

 

「何なんでしょう……この有様は……」

 

青葉が若干引いている、その理由。

 

窓や鏡の鏡面が、ガムテープで隙間無く覆われていたのだ。

 

 

これには、流石の真司も驚きを隠せない。

 

「何だよコレ……姿が映らないように、とにかく反射する物を避けてるような……」

 

 

ガムテープで埋め尽くされた窓ガラスに触れた瞬間、真司はまたもこの状況にデジャヴを感じる。

 

 

(まただ……。どうなってんだよ、一体……!?)

 

 

「先輩。コレ……思い切って、剥がしてみません?」

 

「え……?いやいやいやいやッ!青葉ちゃんいきなり何言ってんだよ!?さっき大家さんも言ってただろ!?これは、俺たち新聞記者が軽い気持ちで首を突っ込んでいいヤマじゃない!やっぱ警察に相談して……って、ああ〜〜!揚陸侵艦とかゆー奴らが出たせいで、もう色々とめちゃくちゃだぁ!!」

 

 

青葉の好奇心を思い留まらせようとする真司だったが、独りあれこれと思案している間に

 

「よい……しょっと!」

 

 

青葉はガムテープの一部を剥がしてしまう。

 

 

「あぁ〜〜〜〜〜ッ!!?」

 

 

真司は大声を上げ、咄嗟に青葉を突き飛ばし、覆い被さるように身を伏せた。

 

 

(………ん?俺……なんで、青葉ちゃんを突き倒して……そうだ、鏡から敵が飛び出してくる可能性が………え?敵……?敵って……何のことだ?)

 

 

「ひゃんっ……!」

 

「……ん?」

 

青葉の小さな悲鳴が聞こえたので、視線を落とすと

 

 

真司の右手は、青葉の左胸を触っていた。

 

 

「イヤアァァッ!!先輩の、スケベっ!!!」

 

「ごめんなそォイッ!?」

 

 

この時、真司は理解した。

 

艦娘のビンタは、編集長のゲンコツよりも痛い……と。

 

 

 

 

「………」

 

そんなドタバタ騒ぎをしている中、青葉の剥がしたガムテープの隙間から、謎の影がそっと様子を伺っていた。

 

 

 

「………ミツケタ」

 

 




なんか、後半が単なるラブコメタッチになってしまいました……(^_^;)


次回、次回こそはライダーらしい展開に!!


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29話 : 真司と鏡の国の魔女(アリス)

本作も次回で本編連載30回を迎えるでございますっ!!


文言の崩壊は、どうかお見逃し下さいm(_ _)m

青葉「何でもいいから、さっさと続きを書いて下さい!」

青葉、仕切らないでヨォ〜!


調査を終えたアパートから程近いハンバーガーショップ。

 

 

向かい側に座る真司をジト目で睨みながらドリンクを飲む青葉と、両手を合わせて頭を下げたままの真司がそこに居た。

 

 

「ほんっっとぉ〜〜〜に申し訳ないッ!!!」

 

 

「謝って済むなら、憲兵も警察も要らないんですよ!もう……なんで急にセクハラなんか………」

 

「だから、そのつもりは無かったんだって!」

 

 

己の感じた不安を、青葉が感じていなかった以上、いくら言葉で表現しても伝わらないだろう。

 

 

(でも……本当になんだったんだ?あの時の胸のざわ付きは……)

 

 

しかし。

 

真司が考え込んでいるのと同じ様に、青葉も考え込んでいた。

 

 

(青葉、やっちゃいましたぁ………!!せっかく、艦娘としての私を受け入れてもらえたのに……!いや、でもやっぱり人として守るべき最低限のモラルはありますもん!)

 

 

「ハァ……」

 

 

そのため息は、ほぼ同時に出た。

 

 

「……あ」

 

「えっ……えっと…」

 

 

またしても気まずくなる二人。

 

 

「……も、戻ろっか……」

 

「はい……」

 

 

会計を済ませ、二人は会社へ戻る。

 

 

 

 

 

 

そして。

 

それ以降は、これといった進展も無く、時間だけが過ぎたのだった。

 

 

「じゃあ、お先に失礼しますね?」

 

「おう、お疲れ〜!」

 

「痴漢とかには気をつけなさいよ〜?」

 

 

大久保、そして令子が青葉と挨拶を交わしたが、令子の一言に真司は一瞬、ビクッと反応した。

 

 

「真司くん、どうかした?」

 

 

先輩の一人で、プログラマーとして一流の腕を持つ島田が声をかける。

 

「い、いや!なんでもないッスよ、島田さん…!」

 

 

大久保の視線を躱しつつ、真司は仕事を程々に切り上げる。

 

 

「っし……今日はこんな所かな……。ハァ……明日どんな顔して会えばいいんだろ……」

 

 

ノートパソコンを片付け、デスクから立とうとした、その時。

 

 

“リュウキ”

 

「……ん?」

 

 

聞き覚えの無い声が、耳に入る。

 

しかし、辺りを見回しても誰も居ない。

 

 

「……な、何なんだよ……!?誰だ!!」

 

 

“コッチ……君の後ろ”

 

 

声がする方―――外側の窓ガラスに振り向くと

 

 

 

「うっ…うわあぁぁぁあッ!!?」

 

そこに映っていたのは、色白の肌に白いワンピースという姿をした、肩まで伸ばした金色の髪と深い青色の瞳の少女だった。

 

 

“やっと会えた……”

 

 

窓ガラスと自分の背後を交互に見る真司。

 

 

(同じだ……昼間の黄金仮面と同じだッ!?)

 

 

“リュウキ……ううん、シンジ”

 

 

ゆっくりと歩み寄り、少女はガラスの中から抜け出て、真司と対面する。

 

 

「え……えっ……!?」

 

 

立て続けに起こった現象に対して混乱する真司に、少女は口元に人差し指を立てて、静かにするようアピールする。

 

 

 

「私はアリス。シンジ……どうしても、あなたに会っておきたかったの」

 

「俺に……?いや、そもそもなんで俺の名前を知ってるんだ?」

 

 

目の前の少女―――アリスに尋ねる真司だったが、彼女は何も答えず、黒いケースを一つ取り出した。

 

 

 

「…それは?」

 

「分からない……。でも、これはあなたが持つべきだと思う」

 

「俺が?」

 

 

ケースを受け取り、カバーを開いてみる真司。

 

「……カード?」

 

一枚取り出すも、それには何も描かれていなかった。

 

 

「えっと……アリス?これって……」

 

「……ごめんなさい。私に出来るのは、これぐらいしか………」

 

 

悲しそうにそう告げると、アリスは再びガラスの中へ。

 

 

「お、おい!?」

 

「そのカードデッキは、あなたの分岐点……。鏡の奥に閉じ込められた、戦いの記憶の鎖を解き放つか……今の幸せを守るために、記憶を封じ込めたままにするのか……どちらを取るかは、あなたの自由」

 

 

でも、とアリスは言葉を続ける。

 

 

「もし、“目覚め”を望めば……」

 

 

 

 

あなたは、戦い続けなきゃならなくなる―――

 

 

「……え?」

 

 

アリスの告げた、最後の言葉の意味を聞こうとしたが、アリスはもう何処にも居なかった。

 

 

 

「戦い続けなきゃならない……って、どういうことだ………?」

 

 

そう呟く真司の疑問に、答えるものは無かった………。




チキショオ……

やっぱりテレビシリーズを観てないと難産ですね……。


誰か……誰かドラ○もんを雇っていませんか!?


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30話 : 鏡に映る影、海に潜む怨念

水の中ではなく、水面に映る自分の視点から世界を見たいと思ったことはあるだろうか?

鏡やガラスとは違い、水面は気象や場所に影響を受け易く、映るものの姿は酷く曖昧だ。


しかし、そこに映るものの内面までもが曖昧かどうか……それはまた別の話と言えよう。


※一部修正しました。


文京区内 09:21 p.m.

 

 

 

下宿先のアパート……その一室。シャワーからあがった青葉は、頭を拭きながら真司の言動を思い返していた。

 

 

「ハァ………。先輩ってば、いったい何がどうしたんでしょう……」

 

 

パジャマに着替え、青葉はベッドに潜り込む。

 

 

「…………」

 

 

(私が艦娘であること………先輩…城戸さんは黙っていてくれる……確かにそう言ってくれた。でも……)

 

(私は、城戸さんが今日感じたことについて、何も気付けなかった………。それは私が鈍かっただけ?それとも……)

 

 

(私が艦娘(どうぐ)だから……?)

 

 

 

 

《OREジャーナル》に就職……否、大久保に拾われる前。

 

 

青葉は、今は無き鎮守府に在籍する艦娘であり、秘書艦をも任されていた。

 

 

青葉が着任して間もない頃の提督は、若いながらも多くの艦娘たちから信頼があり、一部の駆逐艦たちは彼を兄の様に慕うほど人望に恵まれていた。

 

 

だが………

 

いつの時代も、どんな場所にもそんな人望厚い人間を疎み、邪魔に思う者はいるらしい。

 

 

彼の先輩にあたる大本営の職員が、汚職の事案を捏造。

自身が上層部に顔が効く立場であることを利用して、提督を徹底的に追い詰め、遂には軍部から永久追放。

空いた提督の席に、提督を追いやった男の息子が腰を据えることとなったのだ。

 

 

 

(それからは、平和な国から独裁国家に成り下がったような崩壊ぶりでしたね……)

 

 

提督という地位を、王か何かと履き違えたような思考に言動。資材管理もロクに出来ず、艦隊の指揮など以ての外。

にも関わらず、己の無能さを棚に上げて、全ての失態を艦娘たちに押し付け、挙げ句の果てに「お前らがこの鎮守府に居られるのは誰のお陰だと思ってる!?お前らは所詮、使い捨てのオモチャだろぉが!!!」などと、人としても最低な言葉をぶつけたのだ。

 

 

これ以上、野放しにしてはいけないとして、青葉は憲兵に密告。

 

 

当然、その屑提督とその一派は逮捕。提督の任も解かれ、私物化されてしまった鎮守府も資材が殆ど残っていなかったため、運営の維持は困難と見なされ、解体となった。

 

 

 

艦娘たちが開放された事、そして前提督の復職願を申請し、前向きに検討してもらえる旨を青葉は報告に向かった。

 

 

 

…………しかし。その願いは、あまりに呆気なく砕け散った。

 

 

己の無力さを嘆き、青葉たちを守れなかったことに罪悪感を抱いていたのであろう提督は、自宅で首を吊って死んでおり、既に半月以上が経過していた………。

 

 

(それからの青葉は、ほぼ浮浪民同然でしたね……)

 

 

各地を転々とし、日雇いのアルバイトをしたり他所の鎮守府を取材・演習に参加するなどで食い繋いできた。

 

 

(そして、編集長さんに腕を見込まれて拾ってもらえた訳ですよね………)

 

 

大久保の人の良さや優しさに、青葉は深く感謝している。

 

しかし、同時に怖れてもいた。

 

 

“いつか、捨てられてしまうのでは?”……と。

 

 

(城戸さん………私は、皆さんを信じていいんですよね………?)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「………ん〜〜〜」

 

 

翌日。

 

昨夜出会った謎の少女―――アリスから渡されたカードデッキを手に、真司は頭を捻っていた。

 

「コイツが何なのか、肝心なことは答えてくれなかったもんなあ……結局」

 

 

カードデッキその物にも疑問はあるが、真司がそれ以上に気になっているのはアリスの言葉だ。

 

 

「記憶の鎖が開放されて、俺の目覚めがどう…って言ってたよな………」

 

 

しかも、その記憶とやらが目覚めると、自分は戦い続けなきゃならないという。

 

 

 

「ワケ分かんねえよな、まったく………」

 

 

今日は一日休みだったので、真司は気晴らしに散歩へと出向いた。

 

 

「!」

 

 

通りに出たところで、青葉の姿を見かけた。

 

 

「青葉ちゃん……?」

 

 

 

 

 

同じ頃、都内に程近い製油所。

 

 

資材運搬用のタンカーが、突然姿を消したという報せが大本営に届いた。

 

 

「馬鹿な!!深海棲艦の出現反応も無く、タンカーが消えるなど有り得ないッ!!!」

 

「ですが、現に消失しているんです!これは、明らかに超常的な力が働いているとしか……!!」

 

 

この異常事態に組織内が混乱したのも、ある意味当然だったと言える。

 

 

深海棲艦の出現時に発生するという、特殊な音波も何一つ反応が無かったのだから。

 

 

 

 

 

「………」

 

会議を終え、一条と長門は苦々しい想いでいた。

 

未確認でも、揚陸侵艦でもない……まったく未知の事態に対し、打つ手が無かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「青葉ちゃん!」

 

「あっ……先輩……」

 

 

真司に呼びかけられ、青葉は振り向く。

 

 

「今日、お休みだったんですね」

 

「そういう青葉ちゃんも?」

 

 

「ええ……まぁ」

 

 

その時。

 

 

真司と青葉の耳に、金属同士を打ち合わせるような音が響いてきた。




ヤバイ……

ホントにネタの絞り込みが難しい……


龍騎ファンの皆さん、かなりムチャクチャな作りですがお許しください!!


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31話 : 紅蓮の龍と未熟な仮面騎士

数々のありがたいご指摘や応援コメント……

ワタシ、こんなシアワセで良いの?(ヽ´ω`)


そんなワケで、31話です。


休日にバッタリ顔を合わせた、真司と青葉。

 

 

そんな二人の耳に、謎の金属音が響いてきた。

 

 

「なんだ?この音……」

 

 

「こんな音、今まで聞こえなかったですよね……?」

 

 

音がより大きく聞こえる場所を探そうと、二人は歩きだす。

 

 

「……どう?」

 

「間違いないです………。近付いてます」

 

 

そして、二人が辿り着いたのは人気の無い商店街。

 

 

出入口付近の曲がり角に設置された、カーブミラーを見上げた……その時だった。

 

 

 

 

「キャアッ!!?」

 

「!!あ、青葉ちゃ…っ!?」

 

 

悲鳴に驚き、振り向くと……。

 

なんと、青葉の背後―――無人の骨董屋の窓ガラスから太い縄のような物が伸びて、青葉の首に巻き付いているではないか。

 

 

ガラスが割れていないところを見るに、その縄状の物体の持ち主が建物の中に居ないことだけは理解出来た。

 

 

「青葉ちゃん!!グッ…何だってんだよ!?このロープはァ……!!!」

 

 

しかし、危機はそれだけではなかった。

 

 

カーブミラーの奥、真司の背後に迫る、赤い龍のような怪物の姿を青葉は視認した。

 

 

(あれって……土産物の置物とか屏風なんかで描かれてる龍そのものじゃない!?)

 

 

そして、龍の視線が真司に向いていることにも気付く。

 

 

(あの龍……城戸先輩を狙ってる!?)

 

 

このままでは、真司も龍に襲われて、二人共お陀仏だ。

 

 

 

(編集長……貴方から教わったアドバイス、今此処で活かしてみせます!!)

 

 

 

 

“後悔しない決断”をする―――

 

 

青葉にとっての決断は、まさしく“それ”だった。

 

 

 

真司の後ろ………赤い龍が映っていたカーブミラーを、手持ちの連装砲型ハンドガンで破壊したのだ。

 

鏡の中の怪物を殺せる武器など、真司も青葉も知らない。

 

 

しかし、攻撃することは出来ずとも、その場しのぎに追い払うぐらいならばという、博打同然の一手だった。

 

商店街のショーウィンドウに映る影の動きを見た限りでは、成功したらしい。

 

 

 

(良かった………)

 

 

真司を守れたことに対する安堵から、己を引きずり込もうとするものへの抵抗が、僅かながら弛んでしまったのだろう。

 

 

 

 

 

助けようと必死に伸ばした真司の手が、ガラスの中へと引き込まれていく青葉の手を掴むことは無かった………。

 

 

 

「青葉ちゃんッ!!!」

 

 

無駄だと理解しつつも、それでも青葉を飲み込んだガラスを叩かずにはいられなかった。

 

 

「クっソ!!クソっ!!チクショオオオオォォッ!!!!」

 

 

 

 

 

“取り戻したいか”

 

 

「!」

 

 

悔しさと怒りに我を忘れかけていた真司の耳に、昨日の仮面怪人の声が響く。

 

 

“取り戻したいのなら、この先へ進むための鍵を使え。お前は、もう手に入れた筈だ”

 

 

見ると、ガラスの向こうに黄金怪人の姿があり、真司を指差す。

 

 

 

「鍵、だって……?」

 

その言葉に疑問を抱くが、それはほんの一瞬であり、すぐに気が付いた。

 

 

「コイツかっ!」

 

ズボンのポケットに突っ込んでいた、あのカードデッキだ。

 

 

 

“感じるだろう……その気配を、そしてカードに秘められた力を………”

 

 

 

黄金怪人がそっと手招くと、真司の身体を強烈な力が引き込もうとする。

 

 

「っ!!?ぐっ……うぅ、な…なんだ……コレ!?」

 

 

あまりに唐突だったこともあり、真司は抗おうとする。

 

 

“行け………全てを取り戻し、全てを失い……そして、戦うために”

 

 

「うっ!?うわああぁぁぁあッ!!!」

 

 

 

真司は青葉と同じガラスの中へ引きずり込まれてしまった。

 

 

 

「あああぁぁぁああああッ!!!!」

 

 

 

四方八方、全面ガラス張りの様な異空間を、落ちているのか吸い込まれているのかは分からないが、飲み込まれていく中、真司は黒い装甲と濃い紺色のスーツに身を包んだ騎士の姿へと変わった。

 

 

 

そして、仮面騎士の姿となった真司はガラスの中から飛び出した。

 

 

「あぃたっ!?…ってぇ〜〜………」

 

微かに痛む後頭部を押さえながら、真司は辺りを見回す。

 

 

「な……なんじゃこりゃあ……!?」

 

 

そこは、看板の文字も、道路標識も、建物の並びまでも。

 

 

 

何もかもが鏡像反転した、無人の世界だった。




やっぱり、本編把握してないとキャラとか風景の描写って難しいですね……(ヽ´ω`)


そして、気付けばUAやお気に入り登録者数がすごいことに!?



期待に応えねば、生き残れない!!


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32話 : 人間(ヒト)だって道具だ

龍騎編、クウガ編よりも長編になってきてる!?


龍騎の復活まで、もうちょいお待ちを!!


「何なんだよ、これ……!?」

 

 

見慣れた筈の景色、その全てが鏡の中と同じように反転した不気味な世界に真司は引きずり込まれた。

 

 

「……って、姿変わってるし!!」

 

 

そして、ここでようやく自分の変化に気付いた。

 

 

「まさか……このベルトもカードデッキの力、なのか?」

 

 

 

色々調べていると、交差点の辺りで砲撃と何かの唸り声の様なものが聞こえてきた。

 

 

「!―――青葉ちゃん!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ハァ…ハァ……!」

 

 

鏡像反転した、この不気味な世界に自らを引きずり込んだ元凶である、巨大な蜘蛛のような怪物に追われながらも、青葉は砲撃で抗戦していた。

 

 

「もう!いったい何なんですか、此処は!!」

 

 

いつの間にか纏っていた艤装とか、他にも色々と気になることはあるが、今はとにかく状況の打開が最優先。

 

 

青葉は主砲の照準を調整し、蜘蛛の怪物に砲撃する。

 

 

 

(ちょっとぐらい、効いててよ……?)

 

 

『グルルル……!』

 

 

しかし、怪物は少し怯んだ程度でダメージを与えるに至っていなかった。

 

 

「……あれ?」

 

 

怪物は唸り声をあげ、青葉に迫る。

 

 

「蜘蛛なのに、硬すぎでしょおおおっ!!?」

 

 

 

猛ダッシュで逃げるが、蜘蛛の怪物は糸を吐いて青葉の体を縛りあげる。

 

 

「あ、あ…ちょっ!?離して下さいぃ〜〜!!」

 

 

必死にもがくが、糸は思った以上に粘着質で、もがけばもがくほど体の自由が効かなくなっていく。

 

 

(なんで……なんで、誰も居ないの……!?)

 

 

人気の無い、怪物しか居ない鏡の世界に、初めて青葉は恐怖を感じた。

 

 

(イヤ……こんな終わり方、あんまりだよ………)

 

 

怪物の牙がゆっくりと近付く中、青葉は涙を浮かべる。

 

 

(城戸さん………!!)

 

 

「ウオオオオオオォォォォッ!!!」

 

 

自身の最期を覚悟し、ぎゅっと目を瞑った、その時だった。

 

 

聞き覚えのある叫び声が耳に届いて、ハッと顔を上げる。

 

 

商店街の方から、剣道の面にも似た仮面と動きやすさを優先した鎧に身を包んだ戦士が走ってきて、蜘蛛の怪物に体当たりをかました。

 

 

「ッ!?」

 

 

「青葉ちゃん!大丈夫!?」

 

 

自分の名を呼ぶ、その声に青葉は確信した。

 

 

「城戸…さん……?」

 

 

目の前に現れた戦士に、恐る恐る呼びかける。

 

「え?…あぁ、そっか。こんなカッコじゃ、驚くよな……。でも大丈夫!俺は、君の先輩、城戸真司だから!!」

 

 

青葉の前に立ち、蜘蛛の怪物と対峙する。

 

 

「……で。えっと……武器とかねーのかな?コレ……」

 

 

 

「………ハイ?」

 

 

その妙な間が、隙となってしまい。

 

 

蜘蛛の怪物の反撃を許してしまう。

 

 

「うぉわったた!?」

 

「先輩、いきあたりばったりも大概にして下さぁぁいッ!!」

 

 

「ゴメンナサイ!!ホンットマジでゴメンナサイっ!!!」

 

 

逃げ切れないと判断し、二人は戦うことを決意。

 

 

「だああ、もうッ!!どう戦えばいいんだよ!?」

 

 

明らかにスケールの違う敵を前に、真司は愚痴りだした。

 

 

「……!先輩、その左手の奴は使えないんですか?」

 

 

真司が左手に装備している、篭手状のツールを指差す青葉。

 

 

「え?」

 

ツールのカバーをスライドすると、何かをセット出来るスロットが展開する。

 

 

「カードデッキ……。そういうことか!」

 

 

 

バックルにセットされたカードケースから、カードを1枚引き抜く。

 

 

そのカードには、細い刀身の剣のイラストが描かれていた。

 

 

そして、カードを左手のツールのスロットにセット。

 

カバーを閉じると、カードの効果が発動した。

 

 

 

《SWORD VENT》

 

 

カードに描かれた剣が虚空から出現、地面に突き刺さった。

 

 

「剣……?」

 

「どういうカラクリかは知らないけど……これで戦える!」

 

 

剣を引き抜き、真司は気合だけを頼りに怪物に接近。

 

 

剣を振り下ろした。

 

 

「ウオオオオオオォォォォッ!!!」

 

 

 

しかし、バキンッという音が辺りに響く。

 

 

「折れたァ!?どわあぁぁあっ!!」

 

 

二度目の隙を突かれ、脚で簡単に薙ぎ払われる。

 

 

「城戸さん!!」

 

 

助ける筈が、反対にピンチに陥ってしまった真司はお手上げ状態だった。

 

 

「くっそぉ……!」

 

そこに、替わって青葉が前に立った。

 

 

「城戸さん、逃げて下さい。私が、なるべく時間を稼ぎますので……その間に出口を見つけて、脱出して下さい」

 

「なっ……!青葉ちゃんは!?」

 

 

驚きの声をあげる真司に、青葉は振り向くことなく、穏やかに応えた。

 

 

「お願い。もう……青葉(どうぐ)なんかに優しくしないで」

 

 

 

 

「道具………だって………?」

 

 

 

「言ったでしょ?私たち艦娘は、国や人のために戦う兵器……使い捨ての道具と同じなんです。私にはもう……使ってもらうべき提督(ヒト)も場所も無い……」

 

 

「………」

 

「だから、せめて………少しの間でも、私を人間にしてくれた恩人(みなさん)の道具として、終わりたいんです」

 

 

そう言って、振り向いた青葉は、涙を流しながら微笑んでいた。

 

 

 

しかし

 

 

「ふざけるなッ!!!!」

 

 

そう怒鳴りながら、真司は青葉を抱え、怪物の攻撃を躱した。

 

 

「艦娘が道具だって?そんなコト誰が決めた!?お前たち艦娘を道具だっていうんなら、人間(俺たち)だって人間(ヒト)の道具だッ!!」

 

 

 

真司の叫びに、青葉は目を見開いていた。

 

 

「それでも納得出来ないってんなら、俺がそんなくそったれの考えをぶち壊してやるっ!!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 

カードデッキから再びカードをドロー。

 

それには何も描かれていなかった。しかし、真司はそのカードを掲げた。

 

 

「―――来い!ドラグレッダー!!!」




龍騎編で、書きたかったシーンをやっと書けた気がします……(^_^;)


次回、いよいよ龍騎編クライマックスです!


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33話 : 夢に向かえ まだ不器用でも生きている激しさを身体中で確かめたい

クウガ編とは違う意味で繊細な作業ですね……(^_^;)


などと弱音を吐きつつも、迎えました龍騎編クライマックス!


最後の瞬間まで、お付き合い下さいm(_ _)m


「来い!ドラグレッダー!!!」

 

 

 

真司の叫びを耳にしたのであろう、赤い龍が咆哮しながら飛来した。

 

 

 

「あれは………城戸さんを狙ってた………!?」

 

 

青葉の言葉に、真司は頷く。

 

 

「昔も、最初は俺を標的にしてたからなあ…コイツ」

 

「昔……?」

 

 

「話すと長くなるかも……だから、今はちょっと待ってて」

 

 

目の前に現れた龍・ドラグレッダーにカードをかざす真司。

 

 

「これで、契約成立だ」

 

 

真司の手にしているカード……それは鏡の世界(ミラーワールド)に棲むモンスターたちと契約するための《コントラクトカード》。

 

 

ドラグレッダーは真司の周りを廻りながら、力の一端を分け与える。

 

 

それが、契約した証だった。

 

真司の変身した戦士の鎧は、紺色から赤に変わり。

 

左手のツールも、専用召喚機・ドラグバイザーとなり、カードデッキに龍のエンブレムが刻まれた。

 

 

龍とカードの力で戦う、仮面ライダー龍騎の登場である。

 

 

 

「青葉ちゃん!まだ行けるか?」

 

「へ?…えっと、はい!」

 

 

弾薬類は、まだ残っている。

 

龍騎の呼びかけに応じ、青葉は構えた。

 

 

 

「反撃…開始だッ!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その頃。

 

OREジャーナルの事務所では、真司と青葉が戻って来ないということで騒ぎになっていた。

 

 

「令子!どうだ!?」

 

「ダメです…まったく出ません!いったい、どうしたってんでしょう……!!」

 

 

大久保と令子の二人がハラハラしている中、島田は至って平常だった。

 

 

「……って!お前もちょっとぐらい慌ててもいいだろ!?」

 

 

そのマイペースぶりに、思わず声を荒げる大久保。

 

 

 

「戻って来てない……ってことはですよ?案外、デカいネタに巻き込まれたってことじゃないですか?」

 

 

島田の一言に、大久保たちはハッとなる。

 

 

 

「令子!裏を取りにかかるぞ!!」

 

「はい!!」

 

 

 

 

場面は戻って、ミラーワールド。

 

 

巨大な蜘蛛の怪物・ディスパイダーの猛攻を躱しながら、龍騎と青葉は一撃一撃を確実に打ち込んでいた。

 

 

「城戸さん!糸吐き、来ますよ!!」

 

「おう!!」

 

バックステップで回避し、龍騎はドラグバイザーのスロットを展開。カードをセットする。

 

 

《STRIKE VENT》

 

 

ドラグレッダーの頭部を模した武器・ドラグクローを装備し、ドラグレッダーと共に構える。

 

 

「青葉ちゃん!!」

 

「はい!!」

 

 

青葉の主砲斉射に併せて、火炎放射攻撃「ドラグクローファイヤー」を放った。

 

 

「索敵も砲撃も雷撃も!青葉にお任せ!!」

 

「雷撃って、此処は海じゃないけどね」

 

「良いじゃないですか!ノリですよ、ノリ!」

 

 

 

 

二人がかりの攻撃が効いてきたのか、ディスパイダーの外殻に亀裂が見えた。

 

 

「青葉ちゃんは下がって!あとは俺が決める!!」

 

 

そう言いながら、龍騎は4枚目のカードをドロー。

 

それには、龍騎のカードデッキと同じ、龍のエンブレムが描かれていた。

 

 

《FINAL VENT》

 

 

『ギャアアァァァアンッ!!』

 

 

ドラグレッダーが再び飛来し、龍騎は深く腰を落として構える。

 

 

「ハァァァ……ハッ!!」

 

 

高く跳び上がる龍騎に、ドラグレッダーが螺旋を描くようにして追従する。

 

 

アクロバティックな動きで体を捻り、キックの体勢を取ると、ドラグレッダーの吐き出す火球を纏ってディスパイダーに突撃。

 

ファイナルベント「ドラゴンライダーキック」を繰り出した。

 

 

「だああああああああああああああぁぁっ!!!!!」

 

 

 

 

キックは亀裂に命中、ディスパイダーはその巨体を盛大に転がしながら吹き飛んでいく。

 

 

「締めは、青葉が決めますっ!!」

 

 

龍騎や自分以外に人が居ないとは言え、戦うと決めた以上、最後まで気は緩めない。

その意志を胸に、青葉は連装砲と機銃をディスパイダーに向けて一斉砲火した。

 

 

ディスパイダーは爆散、核とも言うべき発光体だけが残された。

 

 

「城戸さん……あれは?」

 

「ミラーモンスター……ドラグレッダーやさっきの蜘蛛みたいに、この世界に棲んでる怪物のことなんだけど……そいつらが死んだ時、ああいうエネルギー体が発生するんだ。……で、戦いに勝ったモンスターがそれを喰って、自分を強化しているってことらしい」

 

 

龍騎が説明している間に、ドラグレッダーはエネルギー体にかぶり付き、飲み込んだ。

 

 

「……さて、と。青葉ちゃんも助けられたことだし、早いとこ帰らなくちゃな?」

 

「そ…それはそうですけど……城戸さん、出口は分かるんですか!?」

 

 

慌てる青葉に、龍騎は頭を掻きながら答えた。

 

 

「それなんだけど……このミラーワールドから出るには、入ってきた道じゃないとダメなんだよ。俺も、最初は慌てたなあ」

 

 

「最初って……何を言って……?」

 

 

問い詰めようとするが、青葉は龍騎や自分の手元から粒子が発生していることに気付いた。

 

 

「詳しい話は後、後!早く外に戻らなきゃ、本当に帰って来れなくなっちゃうぞ!!」

 

 

「きゃっ!」

 

 

青葉の手を取り、龍騎は商店街へと走る。

 

 

 

「さぁ、行くぞッ!!」

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!まだ心の準備が…きゃあっ!!」

 

 

 

 

 

 

真司と青葉が姿を消した、無人の商店街。

 

 

ディスパイダーによって引きずり込まれた、窓ガラスをぶち破るようにして二人は飛び出してきた。

 

 

しかし、ガラスその物は割れておらず、引きずり込まれる前と変わらぬ様子に、改めて自分は異世界に飛ばされていたのだなと青葉は実感した。

 

 

「……あ。城戸さん、変身が解けてますね?」

 

「ん?ああ、そうだな。こういう所は、ホント便利だなって思うよ」

 

 

「便利って、そんな……」

 

「……うん。ホントは、こんなコト思い出さない方が良かったのかもしれない……」

 

 

「えっ………」

 

 

真司の一言に、青葉は目を見開いた。

 

 

「もう、殺し合わなくて済む筈だったのに……」

 

 

でも、と真司は顔を上げる。

 

 

「これは俺が決めたことだ。誰かに命令されたり、強制されてる訳じゃない」

 

「城戸さん……」

 

 

「人も艦娘も関係無い……俺が守ると決めたものは、絶対に守ってみせる!」

 

 

その真っ直ぐな眼に、青葉は嬉しさのあまり、涙ぐんでしまう。

 

「…ふふっ。これじゃあ、まるでプロポーズみたいですね?」

 

 

そう言われ、真司は「あっ…」と声を漏らし、顔を真っ赤にした。

 

 

「い、いや!!これは、その…ねっ!?そういう、深い意味で言ったワケでは……!!」

 

 

「フッフッフー♪もうボイスレコーダーに録っちゃいました!これを編集長や桃井先輩が聴いたら、果たしてどんなリアクションを取ってくれるのか。青葉、今から楽しみです!」

 

「止めてーっ!!特に編集長と令子さんに聞かれるとか、俺色んな意味で死んじゃうからぁぁッ!!!」

 

 

 

真司の悲痛な叫びが、少し陽の傾き始めた空に木霊する。

 

 

そんな中、青葉は胸の内でそっと呟いた。

 

 

(ありがとうございます……城戸さん)

 

 

 

 

この後、二人揃って大久保や令子からキツく絞られることになるのだが、それはまた別のお話。




賛否両論に加え、造りが甘い等々の厳しいご指摘を受けまくる中。

龍騎編、ひとまず一段落です。


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オーズ編 メダルと艦娘と掴む腕
34話 : 鎮守府と呑兵衛と明日のパンツ


読者の一人である、ガディキンさんのリクエストにお応えして、『オーズ/ OOO』編を開始します!!!


《鴻上鎮守府》―――

 

 

揚陸侵艦と命名された、未知の怪物が出現する8ヶ月ほど前に急遽設置された鎮守府だ。

 

その創立者にしてスポンサーでもある人物こそが、鎮守府の名にもある大企業『鴻上ファウンデーション』会長、鴻上光生である。

 

 

 

「我が鎮守府に迎えた艦娘の数は、順調に揃ってきている……素晴らしいッ!!あとは……彼女らを指揮する提督が着任すれば、言うこと無しだ!」

 

 

そう言いながら、彼は趣味でもあるバースデーケーキ作りを再開する。

 

会長室に(しつら)えた蓄音機で、《Birthday Song》のレコードを流しながら。

 

 

 

 

―――これが1つ。

 

 

 

 

「〜♪〜〜♪」

 

 

鎮守府付近の小料理屋にて、一人の女性が真っ昼間から酒を煽っていた。

 

毛先の跳ねた、藤色の長髪と色白の肌。

メリハリのある肢体と、豪快さの中に垣間見える品の良さが特徴的な彼女の名は《隼鷹(じゅんよう)》。

かつて、《橿原丸(かしはらまる)》という名の豪華客船から改装された軽空母の力と魂を宿した艦娘である。

 

 

 

「くぁ〜っ!やっぱ此処の酒と(さかな)は美味いねえ〜♪」

 

「ハハハ。そう言ってくれると、ウチも出した甲斐があるよ。隼鷹(ジュン)ちゃんみたいに、そうやって酒やつまみを美味そうに味わってくれる客は、この辺じゃすっかり見なくなったからねえ」

 

 

小柄でしわくちゃな顔の老店主が、けらけらと嬉しそうに笑う。

 

 

「へへ、おっちゃんが言う連中はアレだね。楽しみ方を知らない阿呆か、ただ騒ぎたいだけの馬鹿共だよ」

 

グラスのビールをクイッと飲み干し、隼鷹は立ち上がる。

 

 

「どうしたジュンちゃん?もう行くのかい?」

 

 

「うん、お勘定ヨロシク♪なあに……顔見知りが来たみたいだから、ちぃーっとツラ貸してくるだけだよ」

 

いい塩梅に酔っている隼鷹だったが、その眼は素面(シラフ)同然。

獲物に狙いを定めた猛禽類の様に鋭い眼差しで、外で待ち構えるゴロツキ集団の方へと歩きだした。

 

 

 

―――これが2つ。

 

 

 

 

そして、3つ―――。

 

 

 

河原で、派手な柄のトランクスを天日干ししている一人の青年の姿があった。

 

 

「……よし!あとはこれを乾かせば、完璧!」

 

 

彼の名は「火野映司」。

 

 

一週間ほど前、知人から急な連絡を受け、日本に帰国してきたばかりだった。

 

それに加え、旅費も最低限しか持ち合わせていなかったため、本来ならばまずいのだが、昨夜は野宿をしていた。

 

 

「あ!やっと見つけた…!火野さーん!!」

 

 

「ん?」

 

女性の呼び声に気付き、映司は何事かと辺りをキョロキョロ見回す。

 

 

「こっちですよ、こっち〜!」

 

見ると、鴻上光生の秘書である女性・里中エリカが香取を連れて、手を振りながら駆けてきた。

 

 

「あ、里中さん!それと……隣の人はどちら様ですか?」

 

 

「申し遅れました。私は日本新生海軍大本営所属の艦娘で、香取といいます」

 

 

「火野映司です、初めまして!」

 

 

 

そう言いながら、映司は一枚の用紙を取り出す。

 

 

それは、鴻上の紹介状が添えられた「提督任命証」だった。




やっぱ、新章とかのスタートは難産ですね(^_^;)


ジ・カ・イ♪も、お・たのし・み・に!(タトバのコンボメロディ風に)


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35話 : ケンカと挨拶と怪現象

オーズ編、第2話開始!

欲望を賛美する鴻上会長、自己の欲求に忠実な隼鷹。
そして、基本無欲な火野映司。


欲望が欲望を生む、欲深き物語が産声をあげる……。


映司を呼び出し、提督に任命したスポンサー―――鴻上会長の用意した鎮守府へ、映司と香取、里中の3人は歩きだす。

 

 

「未確認生命体……まさか、また現れるなんて……。でも、未確認は五だ……4号や警察のみなさんが全部やっつけた筈でしょ?」

 

 

尋ねる映司に、里中は答えた。

 

 

「九郎ヶ岳の奥地に、新たな遺跡が発掘されたそうなんです。そして、そこから新たな未確認が甦った……」

 

 

「現在、揚陸侵艦と名付けられたそれらは、これまでに計12体出現……石ノ森鎮守府と警視庁合同捜査本部の連合艦隊、そして第4号の奮戦によっていずれも撃破に成功しています」

 

 

里中に続いて、香取が現状を報告する。

 

 

 

「ホントに、人手が足りないんだ……」

 

 

艦娘の戦力は、ある程度耳にしているし、4号の実力は間近で見ているから不安は無い。

 

 

 

しかし、今よりも強い敵が現れたら?

 

深海棲艦と揚陸侵艦が、もしこちらの動きを読んで攻めることがあったら?

 

 

 

戦術や広い視野を持って作戦を立てることを苦手とする映司にとって、難しい問題だった。

 

 

「まあ、先のことは今すべきことを済ませてからにしましょう?ほら、もうすぐ着きますよ?」

 

 

 

香取が映司を促した、その時。

 

 

「ぐあっ!!」

 

「テメっ、このヤロー!!」

 

 

 

「!?」

 

 

右手の曲がり角にて、何やら騒ぎが起きているようだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ぐっ……ぅぐえ……」

 

「ご…ごの、アマ…ぁ……ッ」

 

 

体格の良い、大柄な男やいかにもヤンキー崩れの若者など、合わせて5人ほどのグループを相手に、一人の女性が暴れていた。

 

いや、飛びかかる男たちを女性がのらりくらりと躱しつつ、鋭い一撃を加えている…と言うべきか。

 

 

「おいおい、そんな程度かぁ?こっちは艦娘つったって、たった一人だぜ?ま……あたしが贔屓にしてる店の周りで威張り散らしてるグループの話は聞いてたから、捜し出す手間が省けて助かってるけど……なっ!」

 

 

女性―――隼鷹はぼやきつつも、背後から迫ってきた男の急所を踵で蹴り上げる。

 

 

「はぐぅおおっぅ!!?」

 

その一撃があまりに凄まじかったのか、グループの中で一番大柄な男は内股になりながら倒れ込み、蹴りぬかれた急所を押さえて悶絶しだす。

 

 

「うわあ……」

 

 

その光景を目の当たりにした映司は、やられた男に心から同情した。

 

 

「……はっ!?」

 

 

 

しかし。

 

 

真っ先にやられていたらしい、グループの一人が立ち上がり。

 

「死ねやああぁぁぁッ!!!」

 

 

ナイフを取り出して、隼鷹に突撃してきた。

 

 

「!」

 

 

「危ないッ!!!」

 

 

映司は飛び出すが、間に合わない!

 

 

隼鷹も、映司自身も。

この場に居る誰もが、そう思った。

 

 

 

 

ところが………

 

 

「ぐえっ!?」

 

 

男が急に、何かに躓いたかのように転んだのだ。

 

 

「……えっ?」

 

 

しかし、そこには足を引っかけるような物は無い。

 

 

何が起きたのかは分からないが、とにかく今は事態を解決せねば。

 

そうして、映司たちはゴロツキのグループを警察に引き渡し、事態は解決した。

 

 

 

「あれ?香取じゃん、どうしたのさ?」

 

香取に気付いた隼鷹が声をかける。

 

 

「隼鷹さん、さては貴女…また飲みに行ってましたね?口からお酒の匂いがしてますよ!」

 

 

香取に注意され、隼鷹はニヘヘと笑いながら謝る。

 

 

「里中さん、香取さん。ひょっとして、彼女も?」

 

 

「ええ。鴻上会長が設置した鎮守府に在籍している、艦娘の一人。軽空母・隼鷹さんです」

 

 

 

ここで、隼鷹はようやく映司の存在に気付く。

 

 

「んえ?香取、コイツ誰?」

 

「コイツって……ハァ。着任式の前とは言え、失礼ですよ?隼鷹さん。こちらは火野映司さん、本日付けで、鴻上鎮守府の提督に着任される方です」

 

 

「……ふーん」

 

 

映司の顔をじろじろ眺めながら、隼鷹は一言。

 

 

「……あんた、提督ってガラじゃないね」

 

 

「……………え?」




UAとか、お気に入り登録者数がスゴイ……。


次回、映司がいよいよ鎮守府へ入ります!


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36話 : 着任と欲望とバースデーケーキ

ハッピーバースデイトゥーユー♪

ハッピーバースデイトゥーユー♪


ハッピーバースデイ、ディア……


「ち…ちょっと、隼鷹さん!?今の発言を撤回して下さい!!」

 

 

新任の提督である映司に、面と向かっての発言に対し、香取は慌てて注意する。

 

 

「なんでさ?あたしゃ、思ったまんまを言っただけだよ?」

 

「それが問題なんですッ!!申し訳ありません、火野さん…いえ提督!彼女、かなり酒癖が悪いもので……」

 

 

悪びれる様子の無い隼鷹に代わり、頭を下げる香取。

 

しかし、映司は朗らかに笑いながら手を振った。

 

 

「いいよいいよ、そう思われるのも当然だし。俺は気にしてないよ?」

 

 

その言葉に、香取はホッと胸を撫で下ろす。

 

 

提督の中には、頑なに序列に拘る者も少なくない。

映司がそういう類の人間ではないと分かり、鎮守府の艦娘たちとも上手くやっていけそうだと安心した。

 

 

 

「えっと、隼鷹さんも鴻上さん所の?」

 

「アハハハ!鴻上鎮守府は、あんたが提督として管理すんだよ?んな他人事みたいな言い草すんなよー!」

 

 

映司は至って真面目に質問するが、隼鷹には天然ボケな発言と見えたようで、けらけらと笑う。

 

 

「隼鷹さん………」

 

香取は額に人差し指を当てながら溜め息を吐く。

 

 

 

 

兎にも角にも、映司たちは鴻上鎮守府へと到着。

 

備品や資料を詰めた、段ボール箱の置かれた執務室へと入る。

 

 

「うわぁ……!広いなあ〜〜!」

 

「此処が、火野提督の仕事部屋となります。後で秘書艦見習いとして、初期艦を選んで頂きますので、準備が出来ましたら……」

 

 

香取が簡単な説明をしていた、その最中。

 

 

『ようこそ、火野映司くん!!私からのプレゼント、そして君の新たなホームである鴻上鎮守府へ!!』

 

 

バンッ!!!という効果音と共に、室内に設置されていたらしいスクリーンにモニターが映し出され、会長室の鴻上と中継が繋がる。

 

 

「鴻上さん!?」

 

驚く映司やポカーンとなっている香取や隼鷹を置き去りに、鴻上はスピーチを続ける。

 

 

『まずは、君の提督着任を記念して…ハッピーバースデイッ!!』

 

立派なバースデーケーキを見せ、クラッカーを鳴らす。

 

 

 

『多種多様な欲望を持つ少女たちをスカウトし、急ピッチで拵えた鎮守府に集めてはや8ヶ月……今日という日を、我々がどれ程待ち望んだことかッ!!しかぁしッ!君が来てくれたことにより、全ては動きだし!!全てが始まるッ!!スバラシイっ!!!』

 

 

 

 

その凄まじすぎるハイテンションぶりに、隼鷹はすっかり酔いが覚めてしまっていた。

 

「………なあ、香取。このオッサン…こんなにテンション高かったっけ??」

 

「…………」

 

 

しかし、香取は呆然となってしまい、思考が停止してしまっていた。

 

「……あれ?おい、香取ー?おーい!?帰ってこぉ〜〜〜いっ!!」

 

 

「あははは………」

 

このカオス過ぎる状況に、映司は苦笑いするしかなかった。

 

 

「フハハハハハハハっ!!」

 

そして、鴻上鎮守府の提督“誕生”に、喜びと笑いが止まらない鴻上は高笑いを続けるのだった。

 

 

 

 

その騒ぎに聞き耳を立てていた、一人の艦娘は一言。

 

 

「………私、とんだハズレを引いたかも……」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……っぐ…ってて……あのアマ、舐め腐りやがって……!!」

 

 

留置所にて、隼鷹に打ち負かされた男の一人が怒りと憎悪に打ち震えていた。

 

「俺をこんな目に遭わせて、タダで済むと思うなよ……!!」

 

 

その時。

 

 

男の脳裏に、“何か”が入り込んだ。

 

さらに、何かしらの声が響いてきた。

 

 

“その欲望……満たしたいか”

 

 

“満たしたくば……”

 

 

“それに見合う、代価を支払うがいい………”




オーズ、やっぱり楽しいですねえ(^_^)


次回、一部タグには入れていないゲームの要素を取り入れます。

まずは、それについてお詫び申し上げますm(_ _;)m


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37話 : ドジっ娘と右手と新たな怪物

『着任先の新提督が色々とマトモじゃない。』!
前回の3つのあらすじは?


1つ!鴻上の用意した鎮守府に、火野映司が提督として着任!

2つ!艦娘の一人、軽空母・隼鷹と遭遇!

そして3つ!隼鷹に絡んだゴロツキの男に、謎の異変が生じた!


鴻上鎮守府の創立者である鴻上からの熱烈な挨拶が終わり、気を失いかけていた香取もようやく立ち直った頃。

 

 

映司は里中から渡された、ある衣装に着替え終わった。

 

 

「ど…どうかな?」

 

 

「まぁ…!」

 

「ほっほぉ?」

 

 

それは、幾分ゆったりとしたデザインではあるが、サイズはピッタリ、動きやすさと機能性を見事両立させた提督衣装だった。

 

 

「大変お似合いですわ!火野提督♪」

 

 

香取が褒めるのに併せて、里中も頷く。

 

 

「流石会長ですね、寸分の狂いも無く完璧に仕上がっています」

 

「え?コレ、鴻上さんが?」

 

 

「はい。鎮守府創設にあたり、提督を任せられるのは火野さん以外に有り得ないと」

 

 

里中の淡々とした説明に、隼鷹たちは追いつけなくなりつつあった。

 

 

しかし、香取は咳払いをして気持ちを切り替える。

 

 

 

「えー……改めまして。火野映司提督、鴻上鎮守府へようこそ!各艦娘を代表して、ご挨拶申し上げます」

 

 

「あっ、どうもご丁寧に…」

 

 

香取と隼鷹の敬礼に、映司はペコペコと頭を下げる。

 

 

「それでは、秘書艦見習いとして初期艦をお選び下さい。通例としては、駆逐艦5名から1人選んでいただくんですが……」

 

 

「もしかして……艦娘さんも人手が足りてないとか?」

 

 

映司の問いに、香取は首を横に振る。

 

 

 

「艦娘の在籍数“だけ”はそれなりなんです。ただ……鴻上会長が提示した、艦娘を鎮守府に迎える条件が特殊過ぎたんです。《欲望を持つ艦娘よ!今こそ欲望を開放し、欲望の下に集え!!》……なんていう、新手の宗教団体みたいな触れ込みに、駆逐艦などのピュアな娘たちが怖がってしまって……」

 

 

「え?じゃあ……この鎮守府って……」

 

 

「鎮守府の設立当初から、初期艦候補として着任している《五月雨(さみだれ)》以外の駆逐艦が1人も居ないんです………」

 

 

香取の説明が終わった、その時。

 

 

「キャアァァーっ!!!」

 

 

 

廊下の方から、少女の悲鳴が聞こえた。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「今の声は……五月雨ちゃんです!」

 

 

何事かと、皆は一斉に執務室を飛び出した。

 

 

 

 

悲鳴が聞こえたのは鎮守府の中庭。

 

そこには、映司にとって馴染みのある自動販売機が置かれており、そのすぐ側に、清らかな水を思わせる長い水色の髪が印象的な美少女……白露型駆逐艦《五月雨》がへたり込んで震えていた。

 

 

 

「五月雨!どうしたんだよ?」

 

「あっ…じ、隼鷹さん…香取さん……」

 

 

香取や映司たちに気付き、安心したのかくしゃっと顔を崩して泣き出した。

 

 

「いったい何があったの?」

 

 

香取が尋ねると、五月雨は涙ながらに答えた。

 

 

「お、おばけが……自販機の下から、おばけの手が出たんです〜!!」

 

 

「おばけぇ?」

 

五月雨の怯えた様子に対し、隼鷹は顔を(しか)める。

 

 

香取も里中も首を傾げるが、五月雨は必死に訴える。

 

 

「ホントなんです!真っ赤で、真っ黒い爪を生やしたおばけの右手が、この自販機の真下から…にゅ〜って……!」

 

 

真っ赤な右手―――

 

 

その証言に、映司はハッとなる。

 

 

「ねえ!五月雨ちゃん!そのおばけ、他に何か喋ったりしなかった!?」

 

「ふぇ……?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

映司たちが五月雨の話を聞いている頃……。

 

 

隼鷹に打ちのめされたゴロツキたちが収容された留置所では、とんでもない騒ぎが起こっていた。

 

 

 

「ハア……ハア……ハア……ッ」

 

 

隼鷹にナイフを刺そうとした男が部屋を脱走し、警備員たちも何人かの負傷者が出ていた。

 

 

「いったい、どうなっているんだ……!?」

 

「分からん!しかし、いったい何なんだ……()()()()()()()()()……!!」

 

 

警備員たちを次々と薙ぎ払い、扉を簡単に破砕するほどの腕力。

 

しかも、こちらの取り押さえに抵抗し、反撃する度に力が増し、右腕が膨れ上がっているように見えるのだ。

 

 

 

「ハア…ハア……ハア……!おさ…まらねぇ……。怒りが……イライラがぁ……とまらねえ……!!」

 

 

 

 

 

その様子を伺う、複数の影が物陰にあった。

 

 

 

『さあ………欲望を満たせ』

 

『そして、満たされることのない欲望に身を委ねろ』

 

『そして、欲望に溺れ……』

 

 

『欲望の塊として全てを喰らい、全てを私たちに捧げるのです………』




オーズ編、思ったよりも難しい!_| ̄|○ il||li


欲望というテーマが、難しいだろうことはある程度覚悟してたんですけど、コイツはなかなかの癖者ですね……(;´Д`)


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38話 : 艦娘と陸戦と欲望の怪物

気付けば、UAが16000を超えて…お気に入り登録者数は120名突破……だと……ッ!?


拳王さま、私めに文才と気力をお与え下さい……っ!!


視界がぼやける。

 

 

音もハッキリ聞こえない。

 

 

またか……また、この満たされない飢えにイラつかねばならないのか………。

 

 

いや、待て?

 

 

 

微かに、潮の香りがする……?

 

寒さを伝える風……そうか、まだ冬の最中か……。

 

 

ああ……腹が減った……

 

 

 

誰でもいい……

 

 

俺に、アイスを寄越せ―――。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「あの……あなたは……?」

 

 

自身の見た、赤いおばけについて尋ねてきた男性に、五月雨は戸惑いを隠せない。

 

 

「ああ、ごめん!俺は火野映司。今日から此処の提督をやることになったんだ。よろしくね」

 

 

にっこり笑いながら、五月雨に手を差し伸べる映司。

 

 

「えっと……よ、よろしくお願いします……」

 

 

握手をしようと手を伸ばすが……

 

 

「…ご、ごめんなさいっ!」

 

 

背を向けてしまう。

 

 

 

そんな五月雨を見て、映司は隼鷹に聞いてみた。

 

 

「隼鷹さん。五月雨ちゃん……男の人が怖いのかな?」

 

「いんや、単に恥ずかしがってるだけだと思うよ?事実、鴻上の会長さんには実の父ちゃんみたいに慕ってるみたいだし」

 

 

「そう、なんだ……」

 

 

あの人の事だから、五月雨ちゃんの要望なんかを「スバラシイっ!」と言って、底知れない財を惜しげも無く使って叶えてあげただけだろう。それを彼女が純粋に感謝しているだけなのでは?

 

そう思いつつも、五月雨の気持ちを傷つけるような事は言わないようにしようと静かに決心する映司であった。

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 

留置所から脱走した男は、ふらつきながらも街を彷徨い、近くの公園の雑木林の中で倒れた。

 

 

「ハァ…ハァ……っなん、なんだよ……この、体中に湧いてくる痒みはァ……!!」

 

 

男の右腕は、膨張に加えて変形までしており、まるで別の生き物のようにドクンドクンと脈打っていた。

 

 

「ハァ…ハァハア…ハアアア……ッグ!?ウアア、アアアア…!!」

 

 

「ウアアァァぁぁああアアアアアアっ!!!」

 

 

右腕からあふれる、どす黒い液状のオーラやその波に混じったメダルが男の体を飲み込む。

 

 

 

その光景の一部始終を、鹿のように大きな角を生やしたライオンのような顔の赤い怪物が眺めていた。

 

 

『さぁ……その怒りを欲望に変えて、暴れるがいい』

 

 

『お楽しみなところ、失礼しますよ……クルイ』

 

そこに、ドラゴンの顔と鳥の姿を合わせたような帽子型の頭部を持つ、狼の様な顔をした藍色の怪物が近付いてきた。

 

両者とも、上半身は鎧や衣服のような外殻を身に着けてはいるが、下半身は黒い包帯を巻き付けたミイラの様な格好をしている。

 

 

『アザム……お前が来たということは、もしや?』

 

『ええ、マドゥとガイスも目覚めています』

 

 

アザムと呼ばれた怪物が答えると、クルイと呼ばれた怪物は顎に手を当てる。

 

 

『しかし……一つ気になることがある』

 

 

『メダルが……“魔銭(ません)”が足りないことでしょ?』

 

 

そこに、二本のアホ毛と、額から細く長い一本角を生やした女性がセミロングの銀髪を掻き上げながら、魚の尾ビレを幾重にも重ねたようなデザインの水色のドレスを纏って歩いてきた。

 

 

『マドゥ…ガイスも一緒か』

 

 

『………』

 

 

ガイスと呼ばれたのは、山吹色の外殻を持ち、ヒゲの様な苔と髪のような草を生やした顔をイノシシの仮面で覆った、大柄の怪物だった。

 

このガイスと、マドゥと呼ばれた女性はクルイとアザムの二人とは反対に、上半身がミイラの様な姿になっており、マドゥは肩掛けの色が失われた布切れみたいになっていた。

 

 

僅かな沈黙の後、ガイスは口を開いた。

 

 

『我々の魔銭……“虚魔銭(こません)”とは別に、力の根源である“降魔銭(ごうません)”が数枚ほど失われている』

 

 

『分かっている………“オリジナル”の中でもイレギュラーの存在………裏切者の烙印を押された、最も狡猾な存在………』

 

 

少し、不愉快そうにクルイは呟く。

 

 

『命を欲した、愚かなメダルの塊………』

 

 

 

やがて、泥の様なエネルギーを振り払い、人間だったモノは赤い皮膚をした鬼の様な異形に変わった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……以上が、提督としての基本的なお仕事です」

 

「んー……この遠征って、提督の俺は付いてっちゃダメなのかな?」

 

 

映司の質問に、香取はハァ…と溜め息を吐く。

 

 

「あのですね?提督。町工場といった小規模の企業体系なら、たしかに社長が動くなどの場面は多くなることもあるでしょう。ですが……部下の出張に付いていって、自分の業務を放棄する社長が何処に居ますかっ!?」

 

 

「えぇ……でも…」

 

「でももヘッドもヴァ○ガードもありません!あなたには、もっと提督という立場を学んでいただかないと……」

 

 

その時、大淀から通信が入った。

 

 

『緊急事態です!荒川区に、謎の怪物が出現しました!!』

 

 

「!?」

 

 

―――これが、1つ。




UA、そしてお気に入り登録者数がここまで膨れ上がるなんて………皆さん、私をどうしたいんですか!?(ヽ´ω`)


感謝の言葉って、意外とボキャブラリーが無いんですよ!?


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39話 : 初陣と赤鬼と誕生(バース)

世界は広い。
地球の歴史は、長い。
人間の欲望は、深い。
まもなく、朝日が昇る。

今日のパンツは―――大丈夫。(「仮面ライダーぴあ」より)


大淀からの緊急連絡を受け、鎮守府内は騒然となる。

 

 

「怪物って言ったよね!?まさか、揚陸侵艦かなっ!?」

 

「いや、それならそうと分かる筈だろ!それが無いってことは……新種だな、ほぼ間違いなく!」

 

 

隼鷹の言葉に、映司はショックを受ける。

 

 

着任して、まだ数時間ほどしか経ってないのに……

 

 

「もぉ〜!敵さんも、ちょっとぐらい空気を読んでくれたっていいじゃんかぁ!!」

 

 

「し、司令官!事が起きてしまった以上は仕方ありません!」

 

 

映司の愚痴をピシャリと諌めたのは、五月雨だった。

 

 

「私も、正直自信はありません……。でも!逃げていい理由にはならないから、それでも私は戦います!!」

 

 

そのキッと凛々しげな眼差しに、映司は少しばかりときめいた。

 

 

「五月雨ちゃん………」

 

 

「オッホン!」

 

 

……が、香取の咳払いで現実に引き戻される。

 

 

「こうなれば仕方ありません。提督、現在居る艦娘たちで艦隊の編成をお願いします!」

 

 

「う、うん!えっと……敵の情報とか、大まかにでもいいから知りたいな……。大淀さん、敵の数とか具体的な特徴って分かる?」

 

 

無線を通して、映司は大淀から情報を求める。

 

 

『敵の数は1体、特徴としては……デカいです!』

 

「デカい?他には?」

 

 

『ツノ……』

 

「角?」

 

 

『何か……鬼みたいな……』

 

 

「鬼?大淀さん、何がどうして………ん……?」

 

 

 

通信の最中、ズシン…ズシン…と地響きが聞こえてきたので、何事かと映司たちは外を見た。

 

 

 

「……………え?」

 

 

 

 

 

 

外に見えたのは、赤い体に2本の角を生やした鬼の様な姿の巨人だった。

 

 

『ゴオオオォォォォアッ!!!』

 

 

その巨体は、高層ビル6階ほどのスケールだった。

 

 

「なっ……な、な……なんじゃありゃあッ!!?」

 

 

「あ、あれも揚陸侵艦ですか!?」

 

 

「分からない!でも……間違いなく言えるのは、アレを早く止めなきゃってことだ!!」

 

 

驚愕する隼鷹と五月雨にそう告げると、映司は1枚のメダルを取り出して自販機に投入。中央部の大きなボタンを押した。

 

 

すると、自販機は瞬く間に大型バイク・ライドベンダーへと変形した。

 

 

 

「えええぇぇ〜〜〜っ!!?」

 

 

隼鷹や五月雨だけでなく、香取も驚きの声をあげた。

 

 

「まぁ、普通はそういう反応だよね」

 

 

苦笑いしながら、映司はヘルメットとグローブを身に着ける。

 

 

「よし!じゃあ、行ってくるね!」

 

「わ、私たちも一緒に!!」

 

「でも、このバイクじゃいっぺんには……」

 

五月雨の申し出に悩む映司だったが。

 

 

「五月雨、提督に一緒に乗っけてもらいな!あたしと香取は後から追いかけるからさ?」

 

 

「隼鷹さん……」

 

 

隼鷹の言葉に、映司は五月雨に対する友情を感じた。

 

 

「分かった!五月雨ちゃん、行こう!」

 

「司令官……。はい!」

 

 

里中から予備のヘルメットを借りて、五月雨は映司の後ろに跨がる。

 

 

「ちょっと飛ばすよ?しっかり掴まってね!」

 

「分かりました!」

 

 

ぎゅっと映司の腰に手を回し、しっかりとしがみつく。

 

 

五月雨が掴まっていることを確認して、映司はライドベンダーを走らせた。

 

 

 

 

 

―――これが2つ。

 

 

 

 

そして、3つ―――。

 

 

 

『ゴオオオォォォォアッ!!』

 

 

赤い鬼の様な怪物は、ヒトの手を象った形状の棍棒を振るって暴れていた。

 

 

 

「見つけた!司令官、敵はショッピングモールに向かってます!」

 

「なんだって!?」

 

 

敵の移動先を確認し、先回りすべく細い路地を進む。

 

 

 

(信じろ……絶対に止めてみせる!!)

 

 

 

五月雨のナビゲートのお陰もあって、映司は赤鬼の怪物の前に回り込むことに成功した。

 

 

『フウウゥ……』

 

怪物は何事かと、映司たちを見下ろした。

 

 

「お…大きいですね……」

 

「うん……」

 

 

戦闘準備をしようと、映司はズボンのポケットに手を伸ばす。

 

 

「…!」

 

 

しかし、すぐに引っ込めると、ライドベンダーから降りる。

 

 

「五月雨ちゃん。里中さんから預かったヤツ…出してもらえる?」

 

「え?……あ、はい!」

 

 

映司の指示を受け、五月雨はライドベンダーのシートからリュックサックを取り出す。

 

 

ファスナーを開けると、中にはダイヤル式のレバーが備わったベルトと大量のメダルが収められていた。

 

 

 

「艦娘なのに、初陣が陸上になっちゃって…ゴメンね?」

 

「いえ。司令官と一緒に戦えることは、私にとって大切な初陣です!」

 

 

ベルトを着けながら、映司は「そっか」と微笑んだ。

 

 

メダルを1枚取り出し、ベルトの左サイドにある投入口に入れる。

 

 

左手を胸の前で構えながら、ベルトのダイヤルを右手で摘む。

 

 

 

「変身!」

 

 

ダイヤルを回すと、バックル中央部の球体が「パコッ♪」と上下に割れ、映司の体を球状のバリアが包む。

 

 

そして、映司の体を強化服が包み込んで、戦士の姿に変えた。

 

 

 

鴻上ファウンデーションが開発した《メダルシステム》の戦士、仮面ライダーバースが艦娘・五月雨と共に戦場に立った。




皆さん、期待を裏切ってしまい申し訳ありません!


真打ちは、もうちょいかかりそうです(T_T)


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40話 : 伸ばせない腕と掴む腕と相棒の腕

UA、遂に17000超えて……

お気に入り登録者数は、133……!!!


ありがとうございます!!


映司が変身したバースは、ベルト・バースドライバーと一緒にリュックに突っ込んでいた専用武器・バースバスターを取り出すと、バスター本体のマガジンを取り外し、リュックの中に詰めたメダル《セルメダル》を(すく)い取ると、バスターのスロットにマガジンをセットしてリロード。

 

「っせあ!!」

 

 

構え、メダルを変換して生成したエネルギー弾を放つ。

 

 

 

『グゥ!?』

 

 

その銃撃は有効であったらしく、被弾する度に怪物の体からメダルと一緒に黒い液状の何かを撒き散らす。

 

 

「ひぅ!な、なんですか……あのドロドロ?」

 

「さあ……。気にはなるけど、今は倒すことに集中!これ、提督としてのお願いね?」

 

 

「へ?あ…はいっ!!」

 

 

命令、ではなくお願い………。

 

 

五月雨は、映司との距離の近さに嬉しさや照れ臭さ、そして哀しさを抱いた………。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その頃……鴻上鎮守府では、里中と香取、そして隼鷹がモニター越しの鴻上と話をしていた。

 

 

 

「鴻上会長……貴方は、最初から五月雨(かのじょ)を火野提督の初期艦に宛てるつもりでしたね?当鎮守府には、他にも数名の候補が居たにも関わらず、貴方の掲げたスカウトの条件から最も遠い筈の彼女一人を最優先で採用した………。何故です?」

 

 

 

香取の指摘に、鴻上はニッコリと微笑んだ。

 

 

まるで、その質問を待ち望んでいたかの様に。

 

 

 

()()()()()だよ、香取くん!彼女の内には、火野くんに匹敵するほどの素晴らしい欲望のエネルギーが秘められている!!それを開放するには、欲望渦巻く環境に身を置くことがベストなのだよ!!」

 

 

 

「……では、五月雨さんの持つ欲望とはどの様な物なのでしょうか?」

 

 

里中も首を傾げた。

 

 

 

「それは………」

 

 

 

「私も知りたい♪」

 

 

いたずらっぽくウインクして見せた鴻上に、隼鷹は一言。

 

 

 

「かわいくねーよ……オッサン……」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

《CRANE ARM》

 

 

セルメダルをドライバーに投入、ダイヤルを回してバースの武装ユニットの一つ、クレーンアームを右腕に装備。

 

バースは腕を振るい、強靭なウィンチを内蔵したフックで怪物の右腕を縛り、武器を振り回す動きを抑え込もうとする。

 

 

 

“どいつもこいつも、俺を何も出来ない役立たず呼ばわりしやがって………”

 

 

「!?」

 

 

しかし、怪物の唸り声に混じって、何か人の声らしきものが聞こえてきた。

 

 

「っ……なんだ……?」

 

 

 

“チビだからか?体がでかいとか、権力を持ってる奴はみんな何をしても許されるってのか?ジョーダンじゃねえ!”

 

 

“力だ……どんな奴にも負けない力が欲しいいいぃよおおおおッ!!”

 

 

 

「ッ………ぐ……!!」

 

 

 

それは、目の前にいる怪物の中から響いてくる《欲望の声》だった。

 

 

「司令官さん!?」

 

バースの様子に、一瞬注意が逸れてしまった五月雨。

 

 

 

 

それが、敵に反撃のチャンスを与えてしまった。

 

 

『グオオオォォォアッ!!!』

 

 

 

クレーンで抑え込んでいたバースを巻き込んで、怪物は腕を振り回した。

 

 

「し、しまっ…うあああっ!!」

 

「司令官さん!!―――きゃっ!?」

 

 

バースが飛ばされ、しかもその直後に怪物と目が合ったことで抑えていた恐怖心が沸き起こり、五月雨は動けなくなってしまった。

 

 

 

「ぐっ……!さみ…だれ、ちゃ………ッ」

 

この時、怪物に叩きつけられた衝撃が凄まじかったために、映司は変身が強制解除されていた。

 

 

「っ!し、司令官さ……」

 

 

司令官を助けなきゃ。

 

でも、今さっき傷ついてしまったばかりの彼を助けるには、目の前の怪物の攻撃を掻い潜らねば。

 

 

 

 

―――出来るのか?自分に……

 

現に、こうして足が竦んでいるではないか。

これでは、前に出られたとしても怪物の一撃を喰らってお陀仏だろう。

 

 

助けたいのに……伸ばしたいのに、伸ばせない腕………。

 

なんと、情けない細腕だろう。

 

 

 

これでは、火野提督の傍で共に戦う資格なんて………

 

 

 

「オォッシャラアアァァァっ!!!」

 

 

そこに、巻物を携えた隼鷹が、大声を張り上げながら走ってくるではないか。

 

 

「艦載機、全機発艦!!!」

 

 

右手に『勅令』と言霊の宿ったオーラを灯して、式神を艦載機に変化させて怪物に向けて放つ。

 

 

 

「じ、隼鷹さん………」

 

「おいコラ、五月雨!!」

 

「ぴゃいっ!!?」

 

 

突然の大声に、五月雨は叱られると思いビクビクする。

 

 

 

しかし、隼鷹がかけてきた言葉は予想外なものだった。

 

 

「よく頑張った。コイツはあたしに任せて、早く提督の所に行きな」

 

 

「……っ…はいっ!!」

 

泣きそうなのを必死に堪えて、五月雨は映司の元へ走る。

 

 

 

「よぉ………ウチの新米提督とカワイイ妹分が世話になったねえ?―――覚悟は出来てんだろうなデカブツがァっ!!!」

 

 

 

 

 

「隼鷹さん…良かった……追いついたんだね?」

 

五月雨に肩を貸してもらい、映司は立ち上がる。

 

 

「司令官さん、お怪我を……!」

 

 

五月雨の心配を受けながらも、映司はにっこり微笑む。

 

 

「これぐらい大丈夫♪俺はみんなの提督さんなんだから。それに………五月雨ちゃんたちとは、今朝からの長い付き合いなんだから、遠慮は無しだよ?」

 

 

「……っ……」

 

 

どうして……

 

 

ああ、どうしてこの人はこんなにも優しいのか?

 

自分の些細なミスでこんな怪我を負わせたのに……真っ先に動いて、戦うべきは艦娘である自分なのに………

 

 

「どうして………司令官さんは、そんなに優しいんですか………」

 

 

五月雨の涙ながらの質問に、映司は返答に困ってしまう。

 

 

「どうして……って、言われてもなあ………」

 

 

 

どう答えたものかと、悩んでいたその時―――。

 

 

 

 

 

 

『コイツが、どうしようもないぐらいのバカだからだ』

 

 

 

 

 

 

上から目線で高圧的な態度の伝わってくるその絵に描いたような「偉そう」な物言いに、映司はハッと声のする方へ振り向く。

 

 

 

「………あっ!?」

 

映司の向いた先を見て、五月雨はその声の主に指を差す。

 

 

 

間違える筈が無い。

 

 

初めて見た、その異形な姿を。

 

 

長い間、衝突しながらも共に戦い、その最期を見届けた“相棒”の姿を。

 

 

 

 

 

そこに居たのは、黒い皮膚と鱗に覆われた腕に、赤をベースにグラデーションのかかった極彩色の羽毛状の外殻を纏い、中指に宝石を飾ったリングを着けた、猛禽類の様に硬く、鋭い爪を生やした五指。

 

掌には、うっすらと目玉の様な模様が見える、不気味な右腕が宙に浮かんでいた。

 

 

 

 

『相変わらずだなァ……映司?』

 

 

「お前こそな…………《アンク》」




全国のリアルメダル争奪戦を戦い抜いてきた皆様、緊急事態です。

赤い右腕のアイツが、還ってきましたァ―――っ!!!ヽ(`▽´)/


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41話 : 復活と変身とOOO(オーズ)

長らくお待たせ致しました。


オーズ編最大の見せ場、行きますッ!!!


『久しぶりだな……映司』

 

 

《アンク》―――そう呼んだ右腕だけの怪物に、映司は微笑んだ。

 

 

「7年振りくらい……かな?お前と一旦別れて」

 

 

それに対し、アンクは鼻で笑うような仕草を取る。

 

 

『寝ることにはそれなりに馴れていたつもりだったが……800年封印されていた頃よりも退屈だったぜ』

 

 

「あはは、お前がそこまで言うなんて……かなり人間臭いよ?」

 

 

五月雨は映司とアンクのやり取りに質問をしたかったが、仲良さげなその雰囲気に割り込むことに躊躇していた。

 

 

「お〜い、提督ぅ〜〜!こっちはまだ解決してねえよぉ〜〜〜〜ッ!!」

 

 

 

しかし、隼鷹の一声が周りを呼び戻した。

 

 

 

 

「司令官さん。それから……アンク、さん?相手は思いの外、強敵です。どうすべきか、指示をお願いします!」

 

 

五月雨の意見に、映司は一言。

 

 

「じゃあ…………サポートよろしく!」

 

「はい!―――え?」

 

 

「俺が前に出て、一気に叩く!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

鴻上ファウンデーション、会長室。

 

鴻上は、またもバースデーケーキ作りをしていた。

 

 

「Happy Birthday to you〜♪Happy Birthday to you〜♪Happy Birthday dier ……」

 

 

チョコプレートに、鴻上はメッセージを記す。

 

 

 

 

「……オぉー〜ズ」

 

その宛名は、Oが3つ並んだ謎の文字だった。

 

 

 

「Happy Birthday to you〜〜〜〜♪」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

『映司!アレは持ってるだろうな?』

 

アンクの問いに、映司は頷く。

 

 

「勿論!“いつか”は“明日”かもしれないからね」

 

 

そう言いながら、メダルをセット出来るスロットが3つ備わった、細長い楕円形のツールを取り出した。

 

 

「あと、ついでにコレ預かっといて!」

 

バースドライバーを外し、リュックサックに仕舞って五月雨に渡す映司。

 

 

「え!?あの、司令官さん!?」

 

 

ツールを腹部に当てると、ベルトが伸びて映司の腰に巻き付く。

左腰に小型のホルダーが、右腰には円形の装置が出現した。

 

 

「んあ?提督、そいつ何だ!?」

 

ここで、ようやく隼鷹もアンクの存在に気付いた。

 

 

『話は後だ。映司!』

 

 

掌に3枚のメダルを取り出す。

 

 

銀一色のセルメダルと異なり、金色に縁取られたそのメダルはそれぞれ、鳥の絵柄が赤、虎の絵柄が黃、そしてバッタの絵柄のメダルは緑と実にカラフルだ。

 

 

「アンクさん、司令官さんは大丈夫なんですか!?」

 

『いいから、黙って見てろ』

 

 

 

メダル3枚を一気に投げると、映司は全てを見事にキャッチ。

 

 

 

右手側のスロットに赤いメダルを、左手側のスロットに緑のメダルをセット。

そして、黄色のメダルを真ん中のスロットにセットすると、バックルを右下向きに傾けた。

 

 

「これ以上、誰も傷付けさせない!みんなは俺が守る!!そのために……俺が変身する!!!」

 

 

右腰の装置・オースキャナーを手に取り、バックルにセットしたメダルを赤から順に読み込ませる。

 

 

「変身!!」

 

 

映司が叫んだ、次の瞬間。

 

 

【タカ!トラ!!バッタ!!!】

 

【タ・ト・バ!タトバタ・ト・バ!!】

 

 

 

映司の周囲にメダルの様なエネルギー体が発生、それらが混ざり合い、上部にタカ、中央にトラ、下部にバッタの模様が1枚のサークルに描かれたエネルギー体が映司の体に宿り、その肉体を変化させる。

 

 

 

 

「っ!?」

 

「司令官……さん……!」

 

 

 

羽ばたく鳥のシルエットを思わせる頭部。

 

鋭い爪を備えた、力強いトラの腕。

 

軽やかさと跳躍力に優れた、バッタの脚。

 

 

一言で言えば、キメラの様な姿をした戦士に変身した。

 

「アンクさん!アレはいったい……!?」

 

『アレがOOO(オーズ)だ。どれ程のものかは、戦いを見てれば分かる』

 

 

 

無限とも言える欲望を受け止め、欲望を力にする欲望の王―――オーズ、復活の瞬間である。




Happy Birthday!!


次回、いよいよオーズの反撃です!!


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42話 : 反撃と乾杯と今日のアイス

オーズ編クライマックスです!


この提督……マトモじゃないッ!!



アンクから受け取った3枚のオーメダル―――『コアメダル』で変身した映司は、手を握り締めたり開いたりして、感覚を確かめる。

 

 

「よし!違和感も異常も無しっと!」

 

 

一方、五月雨と隼鷹は映司の身に起こった一連の出来事を把握しきれずに居た。

 

 

 

「提督が、なんか未確認みたいなのに変わったぞ!?」

 

 

「そ、それにタカ!トラ!バッタ!って……!!」

 

 

そんな五月雨たちに対し、アンクは一言。

 

 

『歌は気にすんな』

 

「そう言うこと!」

 

 

オーズもそう告げ、猛々しいファイティングポーズを取り、赤鬼の様な怪物に立ち向かう。

 

 

 

「ハアアァァァっ!!」

 

 

その身軽さはバースの時と異なり、映司“らしさ”が反映されているように五月雨は感じた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

江東区内 02:33 p.m.

 

 

映司がオーズに変身し、怪物にリベンジを開始した頃。

 

 

南西諸島沖の主力艦隊撃滅に成功した報告を受け、一条はパトカーを走らせていた。

 

 

その最中、一条の下に通信が入る。

 

 

 

「こちらP08、一条です!」

 

『祥鳳です!提督、今よろしいでしょうか?』

 

 

「祥鳳くん、何があった?」

 

 

一条の問いに、石ノ森鎮守府所属の軽空母《祥鳳》は報告する。

 

 

『はい!偵察機からの報告によると、荒川区に出現した巨大生物は鴻上鎮守府の艦隊が迎撃に当たっているとのことです!また、その戦闘区域に第4号に酷似した新たな未確認が出現。艦隊に加勢し、怪物と戦闘を開始したとのことです!!』

 

 

「第4号に似た、新たな未確認……!?」

 

 

 

第4号―――クウガに酷似した未確認といえば、『()()()』しか存在は確認されていない筈………。

 

 

 

 

 

いや、噂や都市伝説としてではあるが、ある観光都市には怪物から街や人々を守るため、颯爽と現れては事件を解決していく仮面の戦士がいるという話もある。

 

 

もしかしたら………

 

 

 

そう思考しながら、一条は祥鳳に指示を送った。

 

 

「怪物の対処は鴻上鎮守府に任せよう!今我々がすべきは、海戦の戦果報告と事後処理だ!」

 

『…了解!』

 

 

そう指示を出した一条には、その戦士に関して任せても大丈夫だろうと感じていた。

 

 

 

とは言え、一条自身“らしくない”と思うほど、根拠は無かったのだが。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ハッ!たぁっ!せいやっ!!」

 

 

胸部のマークにあるトラの絵柄が光り、両腕に備わった鉤爪を展開すると、オーズは力一杯振り抜き、怪物に引っ掻き攻撃を連続で繰り出す。

 

 

しかし、怪物も簡単にやられるつもりは無いようで、より激しく暴れる。

 

 

 

「きゃっ!!」

 

五月雨は攻撃の煽りを喰らってしまい、服も少しばかり破けてしまう。

 

 

「五月雨ちゃん!大丈夫?」

 

「はい!司令官の方こそお怪我は!?」

 

 

「俺は大丈夫!これでも、それなりに実戦経験は積んでるからね」

 

 

 

それらの戦いを眺めているアンクに、隼鷹は少し不満を抱いた。

 

 

「おい、アンコ!お前もちょっとは手伝えよ!!」

 

 

それに対し、アンクはムキになって言い返した。

 

 

『誰がアンコだッ!!』

 

 

そして、アンクは1枚の赤いコアメダルを取り出した。

 

 

 

『映司!真ん中のコアをコイツと替えろ!!』

 

 

「!」

 

アンクから投げ渡されたメダルを見て、オーズは驚いた。

 

それはまったく見たことの無いもので、トカゲの様な絵柄が描かれていた。

 

 

「アンク!これ、いつものと違うんだけど!?」

 

『説明は後だ!さっさとやれッ!!』

 

「そんな、強引すぎますよぉ!」

 

アンクのゴリ押しに、五月雨も思わず声をあげた。

 

 

「ああ〜もぅ、分かったよ!」

 

文句を垂れながら、しかしどこか嬉しそうにメダルを替えるオーズ。

 

 

そして、オースキャナーでメダルを読み込ませる。

 

 

【タカ!サラマンダー!!バッタ!!!】

 

 

 

トラのパーツが赤いトカゲの模様に変わり、肩にはトカゲの頭部を象った模様が現れ、赤い両腕にはトカゲの爪を模した短刀型の武装・サラマンダガーを備えた《サラマンダーアーム》となった。

 

 

新型の亜種形態、オーズ・タカサラバ。

 

 

「うわあぁ、なんだコレ!?身体が軽いっ!!」

 

 

バッタの跳躍力と相性が良いのか、バッタの能力開放をせずとも軽やかに跳び回り、赤鬼の怪物に攻撃を加えていく。

 

 

『グオオオ!!ゴオオオォォッ!!』

 

 

怪物はオーズを捕まえようと必死に動くが、その巨体が災いして、オーズの俊敏な動きに対応しきれず、やがてバランスを崩して倒れてしまう。

 

 

 

その一瞬の隙を、アンクは見逃さなかった。

 

 

『今だ!!一気にカタをつけろッ!!!』

 

 

アンクの叫びを合図に、オーズはオースキャナーで再びスキャニング。

 

 

【スキャニングチャージ!!!】

 

 

 

「ハアアアアア……!!」

 

全身にエネルギーを溜め、オーズはバッタの脚力で跳躍。

 

 

「セイヤァァァァっ!!!」

 

 

サラマンダガーを突き出しながら、回転アタックを決めた。

 

 

『ゴオオオォォアッ!!?アア……アガァァァア……!!!』

 

 

巨体に風穴が空き、怪物は爆発。

 

 

大量のセルメダルの他に、見たことの無い絵柄のものが混じっている中、怪物の核となっていた人型からドロドロとどす黒い液状のエネルギーが溶け出し、残ったのは怪物の媒体となった昼間のチンピラだった。

 

 

「あ!?コイツ、さっきの!!」

 

チンピラの顔を見て、即座に気付いた隼鷹は指差しながら詰め寄る。

 

 

「し…しにたくない……しにたくないよぉ……」

 

「なぁにが死にたくないだ!こっちはテメェにぶっ殺されかけたんだぞ!?」

 

 

「隼鷹さん、落ち着いて!……たぶん、さっきまでの事はこの人の意思じゃないよ」

 

 

隼鷹を制したオーズに、五月雨は首を傾げる。

 

 

「どういう事ですか?」

 

「色々説明しなくちゃいけないけど………とにかく、まずはこの人をどうにかしてあげなきゃ。……それにしても、なんで右腕だけがこんな酷く(ただ)れてるんだ?」

 

 

数々の疑問が残ったまま、オーズ率いる鴻上艦隊は初陣を勝利で飾ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

チンピラの男を病院へと送り、鴻上鎮守府に戻った映司は、五月雨と隼鷹、そして香取にアンクとオーズに関する事を話した。

 

 

グリード―――人間の欲望から生み出された《オーメダル》から生まれた欲望の塊と、それを封じるために作られたオーズの戦い。

 

さらに、そのメダルが元で起こった戦いによって、世界が二度も崩壊しかけたことなど、これまでの事全てを。

 

 

 

「そんな、ことが………」

 

「あたしらでなきゃ信じないようなレベルのぶっ飛び具合だぜ、この話」

 

「ですが……鴻上会長が所有されている書類にも確かに記録として残されていました。信じざるを得ませんね……」

 

 

香取たちに、映司は「ありがとう」と礼を述べる。

 

 

 

「……まぁ、それはそれとしてだ。アンコはいったい、どうやって復活したってんだ?」

 

 

『アンコ言うなッ!!……それは俺にも分からん。一つだけハッキリしてるのは、また不便な状態で復活したことだけだ』

 

 

 

『ならば!私からプレゼントを贈ろうではないかっ!!』

 

 

突然のアナウンスに、一同は周りを見回す。

 

 

アンクは一人「またか……」と呆れたように呟く。

 

 

 

そして、バンッ!!!とモニターに鴻上が映し出された。

 

 

『Happy Birthday!!!アンクくん、復活おめでとう!!』

 

 

アンクの名を書いたチョコプレートを飾ったバースデーケーキを披露、アンクを祝福する鴻上。

 

 

「あの、会長。アンクさんへのプレゼントって……?」

 

 

五月雨の質問に、鴻上はニッコリと答えた。

 

『君たちの鎮守府にある、工廠へ向かうと良い!そこで、私が指定する数字で《建造》を開始するんだ!』

 

 

 

 

工廠で……という一点が気にはなったが、工廠の管理も提督の務めだと思い、映司は五月雨たちを連れて工廠に赴き、指定された各資材の数字を設定。

 

帰ってきた際に届いていた、プレゼントラッピングされた状態の高速建造剤・通称『バーナー』でスピード建造開始。

 

すると、次の瞬間……

 

 

『……?な、なんだ!?』

 

 

アンクが輝きだし、強い光を放った。

 

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!!」

 

 

突然の光に目が眩んでしまったが、恐る恐る目を開けると………

 

 

 

「…………あ……」

 

 

そこに居たのは、アンクの右腕を持ち、金髪に翡翠の瞳という姿をした若い男だった。

 

 

「……ウソ…だろ……?」

 

「こ、こんなことって………」

 

 

呆然となる隼鷹、頭を押さえながら軽く立ちくらみをする香取。

 

 

五月雨は、映司と新たに姿を現した男を交互に見比べる。

 

 

「………アンクさん、ですか?」

 

「そうだよ。―――おかえり、アンク」

 

 

改めて、再会の喜びを噛みしめようと手を差し出す映司。

 

この時、映司は握手をするつもりだったのだが、手を伸ばしたアンクはたった一言。

 

 

 

 

「映司。今日のアイスを寄越せ」

 

 

映司は苦笑いし、五月雨たち艦娘がズッコケたのは言うまでもない。




嗚呼、結局これまでで最大の長文になってしまった……(;´Д`)

欲望を開放した結果がコレでは、この先どうなっちゃうの?ワタシ……


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登場人物メモ②
登場人物紹介④


こちら、オーズ編に登場したメインキャラの紹介します。


敵サイドは次の項目に書くことにしますね


火野映司/仮面ライダーオーズ

 

 

「少しのお金と明日のパンツさえあれば生きられる」と豪語する旅人。

旅好きだった祖父の受け売りでもある、この言葉が指す通り、基本無欲な性格で、自分がこうしたいと決めた以上のことを求めることは無い。

 

しかし、その奥底に秘めた欲望の大きさは果てしなく、「助けを求めるものがあれば、どんなに遠くても届く腕」―――すなわち「力」を欲していた。

 

その巨大な欲望とそれを収めるだけの器を持つことから、欲望をエネルギーの糧とするメダル・オーメダルの力を最大限引き出すことの出来る戦士・オーズに変身する素質を見出され、アンクを始めとする多くの仲間と共に戦い、欲望とメダルに飲まれかけた世界を救った。

 

 

本作では、鴻上光生が創設した鎮守府の提督としてスカウトされ、初めて組織のリーダーという仕事に就いたが、執務室にて腰を落ち着けることが出来ず、暇さえあれば工廠などで妖精さんたちに混じって雑役をしている。

 

 

 

 

五月雨

 

 

鴻上鎮守府に在籍する、白露型駆逐艦娘の6番艦。

鎮守府の創設者にしてスポンサーでもある鴻上光生直々の推薦によって、映司の初期艦兼秘書艦に任命された。

 

映司から「学園モノのヒロインみたい」と言われるほどにヒロイン要素がこれでもかと備わっているドジっ娘で、しかしそれ以上に映司や鎮守府の支えになろうと頑張る健気な少女。

 

鴻上が彼女を推薦した理由として触れられている「候補に選んだ艦娘たちの中で、誰よりも強い欲望」とは、いったい何なのか?

 

 

 

 

隼鷹

 

 

飛鷹型航空母艦2番艦娘。その豪快かつ侠気(おとこぎ)のある性格から、一般市民との交友関係が幅広く、贔屓の居酒屋などで友人たちとよく酒盛りをしている。

ちなみに、飲み仲間の間でのあだ名は「ジュンちゃん」。

 

ブラック鎮守府の話を耳にする中、映司に出会ったことで人間への信頼をより深めつつある。

 

 

 

アンク

 

 

オーメダルから形作られた、欲望の塊とも言うべきメダルの怪物・グリードの一人。

 

かつて繰り広げられた、メダル争奪戦において映司を現代のオーズに選び、利用しようと企てていたが、長い間共闘したことで生まれた信頼関係から、損得勘定を抜きにして得られるものの価値を知り、満たされる筈の無い心に満足感を得て消滅した。

 

 

本作では、詳しい経緯についてはアンク自身も把握してはいない様だが、映司の持つ割れたタカのコアメダルを用いることなく復活。

 

さらに、鴻上の粋な計らいで鎮守府の工廠と資材を使って肉体を獲得した。

 

 

復活してすぐ、映司たちと共に給糧艦娘・間宮の営む甘味処へ行ったが、そこで食べた間宮アイスを「このアイス、二度と俺以外には喰わせるな!」などと興奮したとか違うとか。

 

 

 

 

鴻上光生

 

 

鴻上鎮守府創設者にして資金提供者でもある、鴻上ファウンデーション会長。

欲望の持つエネルギーに異常なまでの関心を示し、さらに深海棲艦についても独自の調査を進めている模様。

 

また、「誕生」に至上の価値を見出しており、事あるごとにバースデーケーキを作り、対象を祝福している。




次に、オーズ編及び今後も関わってくるであろう敵の紹介を予定しております。


どうぞお楽しみにm(_ _)m


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敵対者紹介①

こちらは揚陸侵艦ではない、ライダーや艦娘たちと敵対する者たちの紹介に入ります。

今後の展開を楽しんで頂けるよう、掲載させていただきます。


アバリシア

 

 

「オーズ編」にて、新たに出現したメダルの怪物。

アバリシアとは、スペイン語で「強欲」を意味する。

 

 

 

魔銭(ません)》と呼ばれるメダルで肉体を構成しており、コアメダルに相当するメダルを《降魔銭(ごうません)》、セルメダルに相当するメダルを《虚魔銭(こません)》と呼ぶ。

 

かつてのグリードがヤミーを生み出したように、欲望を抱いた人間を利用して《モアーズ》という怪物を生み出し、メダルを集める。

 

 

 

 

クルイ

 

 

鹿の様に枝分かれした角とライオンのような(たてがみ)と顔を持つ赤いアバリシア。

 

鬼の様な形相とは裏腹に温厚な物腰で、腰に提げたサーベルや胸元に飾った薔薇、そして甘い声音と相まって貴公子の様な雰囲気を漂わせているが、人間をメダルを集めるための道具程度にしか見ていないなど、その本性は傲慢その物。また、欲しいと思ったものは、対象を手にかけてでも手に入れようとするなど、欲求に対する自制心というものが無い。

 

核である降魔銭の種類はイフリート・サラマンダー・ケンタウロス。

 

 

 

 

アザム

 

 

ドラゴンの顔と翼を広げた鳥の姿を象ったハットの様な頭部と狼の顔を持つ青いアバリシア。

コートの様な外殻の裾には羽根の様な意匠があり、風を操る能力を持つ。

 

クルイと同様、物腰は柔らかで、誰に対しても丁寧な口調で接するが、その本性は極めて陰湿でサディスティック。

言葉巧みに相手の弱さに付け入り、精神的に追い詰めて自滅させるという、自分の手は汚さぬ手法を好む。

 

また、自ら「臆病」と称するほどに用心深く、慎重な一面もある。

 

核である降魔銭の種類はドラゴン・ガルーダ・フェンリル。

 

 

 

マドゥ

 

 

アバリシアの紅一点。

額に1本の角を生やし、左右にアホ毛が1本ずつ伸びる銀髪のセミロングで魚を連想させるドレスに身を包んでいるなど、アバリシアの中でも人間に近い姿をしている。

 

思ったことはハッキリと口にする性格で、面倒くさいことと子供が嫌い。人を馬鹿にしたような態度を取ることが多く、アザムやクルイからよく諌められている。

 

水を操る力を持ち、高圧水流で鉄をも切り裂く。

 

ちなみに、クルイたちに仲間意識はあるものの、敬意は持ち合わせていないらしい。

 

核の降魔銭の種類はユニコーン・セイレーン・マーメイド。

 

 

 

 

ガイス

 

 

草木や苔を生やした石像の様な外見に、イノシシの様な仮面を着けた黄土色のアバリシア。

 

物静かな性格で、何かを伝えようとする時以外は基本無口である。

 

怪力を誇り、また植物を操る力を持つ。

 

核である降魔銭の種類は、ドワーフ・ゴーレム・トロル。




次回、何を進めようかしら………(-_-;)


どうしよう……欲望を開放しなきゃ……


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登場人物紹介⑤

クウガ編4章の登場人物……もとい艦娘を紹介いたします(^_^)


どんどん仲間が増えていきますね、どんどん(^_^)


雪風

 

 

陽炎型駆逐艦8番艦娘。

 

九郎ヶ岳にて新たに見つかった、遺跡の発掘調査団の護衛に当たっていた春日久臣の鎮守府に在籍していたが、突如出現した《九郎ヶ岳棲鬼》によって調査団が惨殺された為、石ノ森鎮守府へ転属した。

 

艦隊のため、仲間のために全力を尽くす頑張り屋だが、いつも自分の周りの者ばかりが犠牲となってしまう為、自身を疫病神のように感じていた。

 

自殺願望を抱いていたが、一条や雄介との交流を経て、自分を責め続ける呪縛から開放された。

 

ちなみに帰り際、雄介から名刺を貰い、「雪風も2000の笑顔を獲得しますっ!」と言って「ゆぅすけししょー」の弟子入りを宣言。雄介本人も快諾したという。

 

 

大井

 

球磨型軽巡洋艦4番艦娘にして重雷装巡洋艦娘。

 

姉妹艦である北上第一主義にして北上至上主義の気がある、かなり癖の強い性格の持ち主。

 

前任の提督が無謀な作戦を強行し、多くの艦娘が損傷を受けたために提督という存在を酷く憎むようになっていた。

 

 

鎮守府に戻ってきた北上から雄介の話を聞き、「会ってみれば分かる」と紹介されたが、もしその優しさを裏切られたらという恐怖心から一条と雄介の暗殺を企てる。

 

しかし、本心を加賀に見抜かれたことにより暗殺を断念、吹雪たちと共に戦うこととなった。

 

 

その後、雪風らと共に雄介の変身を目撃。

自らの弱さを受け止め、改めて石ノ森艦隊の一員として戦うことを決心するのであった。

 

 

ちなみに、帰りに雄介から「飯食いに来ない?」と誘われたのだが、その瞬間『胸に甲標的が撃ち込まれた』との事で、丁重にお断りしたというが、その時の様子は吹雪曰く「大井の顔が茹でダコになっていた」そうな。

 

 

 

加賀

 

加賀型正規空母1番艦娘。

 

凛とした佇まいと落ち着きのある物腰、憂いのある表情から「クールビューティー」と警視庁鎮守府の間でも密かに人気を集めている大人の女性。

 

 

しかし、その実感情は(たかぶ)り易く、彼女の同期である赤城曰く「単に顔に出ないだけ」らしい。

 

思ったことはハッキリと口に出す性格で、それがやむを得ない状況であったとしても、リスクを最小限に抑えるための方法を導き出すためならどこまでもダメ出しをする癖がある。

 

 

一条の下に着任し、その采配をある程度評価はしていたが「詰めが甘いところがある」として、見切りをつけるつもりでいた。

しかし、一条の己を顧みぬ体を張った行動や雄介=クウガを目の当たりにしたことで認識を改め、「一条提督の部下」として背中を預け、鎮守府を護り、戦う決意を固める。

 

 

赤城にも秘密にしているらしいが、とある男性が気になっているらしい。




揚陸侵艦の紹介についてですが、また怪人サイドが出てからに致しますm(_ _;)m


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クウガ編 第四章
43話 : 申請


時系列をなるべく自然に見えるようにしたい……


その為に一時スポットから外れていたクウガ編。


第4章、開幕です。


警視庁鎮守府 10:17 a.m.

 

 

 

会議室にて、一条は只一人《九郎ヶ岳棲鬼》のビデオを見返していた。

 

 

「………」

 

 

そこに、杉田と北上が入室してきた。

 

 

「よぉ、一条」

 

「提督、またそれ見てたの?」

 

「原点に立ち返れば、何か見落としているものがあるかもと思ったんですが………」

 

 

「3週間くらいになるよね?揚陸侵艦が出てきて、奴らとの戦いが始まってから」

 

 

北上の言葉に、杉田も頷く。

 

 

「これまでに倒したのが、全部で13体。その内、俺たちが君らや五代くん(第4号)抜きで撃破出来たのは、たったの1体………。これじゃあ、18年前の時と何一つ変わらない……。情けない話だ、まったく」

 

「そこまで凹むことないよー。提督も杉田さんたちも頑張ってるじゃん」

 

 

そこへ

 

 

「北上さぁ〜ん!」

 

茶色のロングヘアと目尻の下がった色っぽい目元、そして北上と揃いの制服を着た艦娘が現れ、北上に抱きつく。

 

 

「大井……」

 

「大井っち〜、飛び付くのは良いけど程々にねー?ほら、提督たち反応に困ってるしー」

 

 

北上の言う通り、杉田は少し呆れたような様子で頭を抱えているし、一条は固まってしまっていた。

 

 

「あ、提督に杉田警部。いらしたんですか?」

 

 

明らかに北上に対する態度と違い、一見無関心とも取れるほどだ。

 

 

「大井くん。姉妹仲が良いのは結構だが、仕事に差し支えの無いようにだけは注意してくれ」

 

「分かりましたよ、善処します」

 

 

名残惜しそうに北上から離れ、会議室を後にする直前。

 

 

「提督。貴方の指揮が、信頼するに値することは認めます。でも……」

 

 

振り返った大井の眼は

 

 

「万が一……その様な事が起きたときには、相応の報いを覚悟してくださいね?」

 

 

まるで獲物に狙いを定めた狩人のように冷たく、微かにだが殺意がこもっていた。

 

 

「じゃ、演習に行ってきますね♪」

 

 

 

 

大井が行った後、杉田は深いため息を吐く。

 

 

「…なんて眼をしやがるんだ……金縛りにでも遭ったみたいに、眼を逸らせなかった……」

 

ハンカチを取り出し、額の汗を拭う。

 

 

 

「ゴメンね……大井っち、前の提督がやらかした大失態のせいで人間嫌いになっちゃってるんだよ」

 

「まさか……姉妹艦の誰かが被害を?」

 

 

一条の問いに、北上は悲しそうに頷いた。

 

 

「敵艦隊の殲滅作戦の最中に、敵にハメられちゃってね。幸い、轟沈者は出さなくて済んだんだけど……それでも、当時、艦隊のメンバーだった駆逐艦の皐月とか姉妹艦の木曽っちが集中砲火を受けて、ボロボロになっちゃったんだ。でも、奴はその見込みの甘さを自分のミスだと決して認めなかった。だから、大井っちは奴の失態や汚点を徹底的に洗い出して、報告書にまとめて大本営に提出したんだ。結果は、提督たちの想像通りだよ」

 

 

「―――そんな訳で、大井っちは人間……特に提督という立場の相手には絶対に心を開こうとしない。もし踏み込んでこようものなら、お咎め覚悟で()るとも言ってたよ」

 

 

「マジかよ……一条、大丈夫か?」

 

話を聞いていた杉田は、一条の身を案じた。

 

 

 

その言葉に、一条は一言。

 

 

「善処します。過去が最悪だとしても……今から変えることは出来ます!」

 

「今は……私が石ノ森の提督ですから」

 

その言葉に、北上は顔を綻ばせた。

 

 

 

すると、そこへ今度は大淀が入室してきた。

 

 

「失礼します、一条提督。本日、確認して戴く書類をお持ち致しました」

 

「ご苦労さまです。………ん?大淀くん、これは?」

 

 

受け取った書類に目を通す一条だったが、一枚の書類に目を留めた。

 

 

それは、艦娘が提督側へと出願するものの一つ《解体申請書》だった。

 

 

「誰が、こんなものを?」

 

 

大淀は俯きながら、やがて静かに答えた。

 

 

「駆逐艦《雪風》………先日殉職された、春日久臣准将の艦隊から異動してきた艦娘です」




久しぶりのクウガ、なかなか感覚が戻りませんね(^_^;)


次回も、どうぞお楽しみに!!


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44話 : 相違

深海棲艦と戦う艦娘……

艦娘たちの被害を最小限に抑えつつ、敵艦隊の撃破を成功するよう導く提督……


しかし……

これらが上手く噛み合わねば、組織は内部から崩壊しかねない………。


演習を終えた大井は、シャワーを浴びて汗を洗い流し、着替えを済ませると艤装を受け取りに工廠へ向かった。

 

 

その途中、廊下で壁にもたれかかりながら、窓の外を眺めていた那智に声をかけられた。

 

 

 

「今日の演習、見せてもらったが……いつになく荒れていたな。提督か他の誰かから、注意でもされたか?」

 

「貴女には関係ないでしょう。変な詮索は止して」

 

 

「提督は不器用な人だな?艦娘相手とは言え、年頃の女の扱いには手慣れていないらしい。あれでは、長門や妙高姉さんがフォローに苦労しているという話も、あながち嘘でもなさそうだ」

 

 

去りかけた大井が、足を止めた。

 

 

 

「……貴女も、提督を庇い立てするつもり?」

 

「もし、お前の言う《提督》が、立場としての意味だけを指すのなら……それは誤りだ。私や姉さん、そして足柄たちが信じているのは、一条 薫という提督(おとこ)の言葉と行動だ」

 

 

それだけを聞くと、大井はふんっと鼻を鳴らして去っていった。

 

 

 

「………やれやれ。秘書艦の補佐というのも、楽ではないな。あとは頼むぞ?長門、吹雪」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

??? 10:29 a.m.

 

 

人気の無い、放置されたゲームセンター。

 

 

そこに、ザビューなどと共にいた揚陸侵艦や、深海棲艦と思しき集団が集まっていた。

 

 

黒いフードパーカーを着た少女が手にしているスマートフォンを、カバのタトゥを持つ男と初老の男が不思議そうに眺めていた。

 

 

「バンザ・ゴセパ?」

 

カバのタトゥの男が尋ねる。

 

 

「すまーとふぉん、ダトヨ。リャクシテ、す・ま・ほ」

 

「スゥマ・ホ?」

 

適当にいじっていると、ニュースサイトの動画を見ることが出来た。

 

 

『揚陸侵艦に関する、最新のニュースをお伝えし……』

 

 

「ヨォ…リ・ク、シン・カン……」

 

初老の男が復唱する。

 

 

すると、またもカバのタトゥの男が尋ねた。

 

「バビン・ボドザ?」

 

「ゴセダヂン・ボドザ」

 

 

初老の男や少女の代わりに、脇で聞いていた斑模様の上着を纏った男が答えた。

 

 

 

その時。

 

 

桜のタトゥの女が姿を現し、集団は一斉に振り向く。

 

 

女の脇には、ウェーブのかかった長い白髪と陶磁器のように白い肌、そして白い服に身を包んだオレンジの瞳をした幼い少女が居り、後ろには男女3人が追従してきた。

 

 

桜のタトゥの女が連れ立ってきた以上、この男女も少女も、人に(あら)ざる存在であろうことは間違いない。

 

 

「バゼ・ゴラゲダヂグ?」

 

カバのタトゥの男が問い質す。

 

 

すると、無精髭にボサボサの黒髪をした、カバのタトゥの男に匹敵する巨躯の男が笑いだした。

 

 

「ハハハ!ゴラゲダヂグボ・グバギ・ザバサザ!」

 

「バン・ザド!?」

 

カバのタトゥの男が怒り、巨躯の男に掴みかかる。

 

 

「…フン!ジャ・スボバ?ゴセド」

 

 

怒り心頭といった様子で、鼻息を荒くするカバのタトゥの男に対し、巨躯の男は落ち着いていた。

 

 

 

「フゥー……フウゥー…!」

 

やがて、カバのタトゥの男は、肉厚でガッシリとした体躯の怪人の姿へと変わる。

 

 

「………フン」

 

一方、巨躯の男もそれなりにやる気を出した様で、遊牧民の様な毛皮の衣装に身を包んだ、灰色の肌をした熊の様な怪人に変身した。

 

 

「フゥー!フゥー!ヌウウゥアッ!!」

 

「フウゥンッ!!」

 

 

両者が、同時に殴りかかろうとした直前―――。

 

 

桜のタトゥの女が指を鳴らしたことで、二人は動きを止めた。

 

 

「………フウゥ…」

 

不満そうではあるが、カバ男は大人しくなった。

 

 

「フン……ショグ・ガバギバ……」

 

熊男も、頭をガシガシと掻きながら引き下がった。

 

 

「ラズパ・ザセザ?」

 

初老の男が声をかける。

 

 

 

「パダギグ・ギボグ」

 

返事をしたのは、桜のタトゥの女と共に来た、指揮者風の格好をして、首にハーモニカを提げた若い男だった。

 

 

初老の男からボードを受け取り、線を書き込んでいく。

 

書き終えたのであろうそれを、桜のタトゥの女に渡して内容を確認してもらう。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

目配せで双方合意し、桜のタトゥの女は例の指輪を翳す。

 

 

 

今、また新たな殺戮が始まろうとしていた………。




改めて思ったことを言います。


やっぱ特撮番組のクリエイターさんはスゴイッ!!!


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45話 : 自戒

今回、色々とごちゃ混ぜになるかもしれません。

混雑を回避するためにも、なるべく画面から離れてご覧下さい。


………と、TVの注意事項風に読み上げてみましたm(_ _;)m


すべての始まりを記録した、《九郎ヶ岳棲鬼》に関するビデオを観終えた一条は、杉田と射撃訓練場に居た。

 

 

「………」

 

 

艤装を基に開発、新規配備された銃器を手に取り、的に照準を合わせる。

 

その装備は、艦娘が通常用いる主砲よりもいくらか小振りに造られたもので、ベースとなったのは量産性の高さと扱い易さのバランスが取れた、12cm単装砲であった。

 

 

 

「艤装の小型化か……。それでも、俺たちが使い慣れた拳銃(モノ)よりはゴツいな…やっぱり」

 

 

「科警研に協力してくれた整備班たちが、我々の身を護れるように配慮してくれた結果でしょう。大振りな分、使いやすいように軽さと丈夫さの両立を目指したと榎田さんも夕張くんも言っていました」

 

 

 

「しかし……北上も言ってたが、今回も長期化を覚悟せにゃならんとはな……。こんな状況だと、お前も長野に居る嫁さんのことが心配だろ?」

 

「―――居ませんよ、嫁なんて」

 

 

そう返し、砲身を構える一条。

 

 

発砲し、的の中央より右端寄りを撃ち抜く。

 

 

 

「おぉ………」

 

一条の相変わらずの腕前に感嘆の息を洩らす杉田。

 

 

次いで、杉田も試し撃ちをする。

 

 

「っ!」

 

発砲時の反動の強さに、少々驚く。

 

 

「……しかし、だ。貰ったは良いが…こんな物騒なもんを本当に使って大丈夫なのかね?聞けば、深海棲艦の中には人の姿をした個体も居るそうじゃねえか。揚陸侵艦も、未確認の奴らと同様に人間態があるって話だし……そいつら相手にも、迷わず引き金を引けるのか……?」

 

 

未確認生命体の秘密を知っているだけに、かつての未確認たちに酷似した特徴を持つ揚陸侵艦相手に銃を向けることに対し、杉田は不安を抱いていた。

 

 

 

しかし、一条は気丈に応えた。

 

「それでも、やるしかありませんよ。揚陸侵艦による被害数が既に522件……深海棲艦の侵攻についても、辛うじて食い止めている状態ですから。まずは鎮守府周辺の海域を確保しないと、資材の確保も揚陸侵艦への対策もままならないですから」

 

 

 

「それからもう一件……。長野県警と憲兵隊の合同調査隊からの報告によると、例の《九郎ヶ岳第二遺跡》からさらに南下した平地に、集団の墓のような物が見つかったそうです。恐らく、奴らはそこから甦った……」

 

 

「集団ってのは、どれくらいだ?」

 

 

杉田の問に、一条は静かに答えた。

 

 

 

 

「最低でも………300」

 

 

「なに………!!?」

 

 

未確認の時でも、推定200という数だった。

 

だが、今度の連中はそれを遥かに上回る数だという。

 

 

もし、それだけの数が一挙に押し寄せてきたら……

 

 

《第0号》の引き起こした大量虐殺以上の惨禍が(もたら)されることになるだろう。

 

 

 

無論、そうならない為にも自分たちが阻止せねばならない。

 

一条は、改めて決意を固め、単装銃の射撃訓練を続けた。

 

 

2発目、3発目と数をこなす毎に、的の中央を正確に撃てるようになった。

 

 

 

「…………」

 

 

一日でも早く、五代(アイツ)が冒険に戻れるように―――。

 

 

そう願いながら、一条は訓練場を後にするのだった。




まさか……クウガ編の難易度が、ここまでレベルアップしてしまうとは思いませんでした……_| ̄|○ il||li


雪風や大井っちとの絡みは、もうちょっとお待ち下さい!


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46話 : 自責

武勲―――
本来、それは己を誇るべきものである。

しかし……

それがもし、己の力で立てたものではなく、何かの犠牲の上に成り立っているものであったとしたら………


OREジャーナル 12:01 p.m.

 

 

「編集長!昨日のヤマの分、まとめ終わりました!」

 

「おう!ご苦労だったな青葉!」

 

 

先日の件以降、青葉は表情が明るくなり、仕事にも今まで以上に積極的に取り組むようになった。

 

 

「真司……ちょいと」

 

「はい?」

 

手招きされ、真司は大介の元へ。

 

 

「青葉の奴、すっかり明るくなって結構なことだと思うんだ、が、な?お前……何かしたか?」

 

 

「へっ?」

 

不意打ち過ぎる質問に、真司は驚きと動揺を隠せない。

 

 

「い、いや…別に、ナニモ?」

 

片言にしながら答えるという、謎の技能を見せる真司に対し、令子がジロリと睨みつける。

 

「城戸くん?分かっていると思うけど、青葉ちゃんが後輩だからって……」

 

 

「わ、分かってます!セクハラとか(やま)しいことはなんんっにも!してません!!だから、そんな恐い顔しないでっ!!」

 

 

実際、そういう事はしていないのだが、令子の眼と発言には逆らえず。

 

真司の立場は、見習い時代から変わらずなのであった。

 

 

「やれやれ……相変わらずのバカだなぁ」

 

苦笑いする大介の横で、青葉は真司を眺めながら呟いた。

 

 

「それが城戸先輩の良いところですよ……きっと」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

警視庁鎮守府 12:18 p.m.

 

 

訓練場から戻ってきた一条に、神通が声をかけた。

 

 

「提督、雪風ちゃんがご相談したいことがあるそうです。今、控室で待ってもらってます」

 

「…分かった。報告ありがとう」

 

 

いえ、と返す神通に一条は小さく頷いて、雪風の待つ控室へと向かった。

 

 

 

「すまない。雪風くん、遅くなった」

 

「あ…しれぇ」

 

 

大きな双眼鏡を首から提げた、ワンピースタイプのセーラー服を着た少女・駆逐艦《雪風》がソファーに座って待っていた。

 

 

立とうとする雪風に、そのままで構わないと一条は促すと、向かい側に腰掛けた。

 

 

「この忙しい時に申し訳ない。今日は、どういった要件で?」

 

 

雪風は現在、一条の部下になる訳だが、呼び出しを受けた状況が“かつての時”と非常に似ていたためであろう。

一条は雪風を客人のように迎えた。

 

 

「あの……実は、申請書にも書いたことなんですけど………」

 

 

申請書―――。

 

その一語に、一条は話の案件を理解した。

しかし、相談事として最後まで聞くべきだと己に言い聞かせ、静かに待った。

 

 

「雪風を、解体処分にしてください……」

 

 

「…………」

 

 

一条は、やはりといった様子で表情を曇らせた。

 

 

「え……えぇ!?ゆ、雪風ちゃん!?いったい何を!!」

 

 

脇で聞いていた吹雪が、周りの艦娘を代表するかの様に驚きの声をあげた。

 

 

「ダメですよ提督!?雪風ちゃんを解体なんてしちゃッ!!」

 

「落ち着きなさいっ」

 

 

勝手に騒ぎだした、吹雪の頭に軽くげんこつをぶつけたのは妙高。

 

 

「あぃたっ!……うう、痛いですよ妙高さん〜……」

 

「まだ提督が何も言ってないのに、勝手に騒ぐからでしょ」

 

 

妙高が吹雪を注意してくれたお陰で、話が逸れずに済んだので、一条は雪風に向き直った。

 

 

「その事だが、雪風くん………それは受理出来ない。練度も装備も不十分な現状で、さらに戦力を削るなどとんでもない!まして、そんな状態の中で無謀な出撃をするなど以ての外だ!」

 

極力穏やかに、しかし指揮官の務めとして厳しく注意をする。

 

 

「そんな!雪風は簡単には沈みませんっ!!」

 

「だとしてもだ。戦線復帰したり、新たに建造・改修をした艦娘(もの)も居るので戦力は整っているように思われているが、まだ艦隊の移動や連携などに僅かだが(むら)がある。一瞬の判断ミスや迷いが、戦局を大きく変えてしまうことは君たちが一番よく知っている筈だ!」

 

 

「当然、その連携や艦隊の編成を指揮するのは提督という立場にある俺の仕事だ。火力や各個の能力の高さだけで戦場を思うままに出来るなど、この世には存在しない!もっと演習を重ねて、練度や連携の質を向上させねば……。提督として未熟な俺が、実戦以外で経験を積む方法が他に無いからというのも勿論あるんだが」

 

「そんな…!しれぇはご自分でおっしゃるほど未熟なんかじゃないです!!」

 

 

雪風の言葉に、一条はふっと微笑んだ。

 

 

 

その時、一人の警官が声をかけてきた。

 

 

「一条さん!揚陸侵艦の仕業と思われる事件が発生したとの通報が!!」

 

 

「ッ!?…分かりました、直ちに現場へ向かいます!!」

 

この一言で、一条は再び《提督》から《警察官》へと戻る。

 

 

「あ……」

 

「あぁ……」

 

 

一条の切り替えの早さに、吹雪と妙高は思わずため息を吐いてしまう。

 

 

―――しかし、一条は振り向き、雪風に告げた。

 

 

「雪風くん。君は我々にとっても必要な戦力だ。今後のためにも、失うことは出来ない。しかし、今のまま前線に出すのは危険過ぎる……」

 

 

そこで、一条はメモに何かを書き付けると吹雪を呼んだ。

 

 

「吹雪、彼女と一緒に此処へ向かってくれ。今回、君は待機だ」

 

「へ?…あ、はい!」

 

 

「では、後は頼む!」

 

 

 

そう言って、一条は足柄や長門、そして他の艦娘を連れて出動してしまった。

 

 

一条に渡されたメモを、吹雪と雪風は見る。

 

 

 

「《城南大学……沢渡桜子…考古学研究所》?」




怪人が思いつかねええええッ!!!(がびびび〜〜〜ん)


ハチはもう出てるし、あんまり奇をてらうとアンノウンになるし……


ネムイヨ、パトラッ○ュ……


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47話 : 絶影(ぜつえい)

一番好きなのに、一番執筆の難易度が高いクウガ編。


とうとう、新たな揚陸侵艦の登場です!


城南大学 考古学研究室 12:51 p.m.

 

 

研究室では、雄介と大淀、単ちゃんがパソコンの画面を桜子に見せてもらっていた。

 

その内容は、《第2の九郎ヶ岳遺跡》から発掘され、桜子が大淀や単ちゃんたち妖精さん数名で構成された暗号解読班と共に読み解いた碑文の一部だった。

 

 

「じゃあ、説明するね?この石版に書かれている古代文字は、クウガのベルトや《ゴウラム》って言う、クウガを支援する“馬の鎧となる戦士の下僕”を作り出した民族の用いた表意文字が一部変化したものであることが分かったの。……で、そのクウガやゴウラムに深く関係している民族の名前が《リント》」

 

 

パソコンの画面に映し出された、研究データと併せて解説する桜子。

 

 

「うんうん」

 

単ちゃんたちと一緒に頷く雄介。

 

 

「……そして、そのリントに対して殺戮の牙を向けたのが《グロンギ》。世間一般で言われる、未確認生命体がコレね」

 

「グロンギ……」

 

 

桜子の説明を聞きながら、大淀は揚陸奇襲鬼―――グムナを思い返した。

 

 

「……そして。今回、石版の碑文から新しく分かったことなんだけど」

 

 

「なになに?」

 

新情報と聞いて、雄介はぐいっと詰め寄る。

 

 

「現在の九郎ヶ岳みたいに、山間部や内陸で生活をしていたリントとは別に、海辺付近で集落を築いていた民族が居たみたいなの。その民族の名前が―――」

 

 

 

 

マウスを操作し、翻訳結果を表示する。

 

 

「―――《カ イ リ》」

 

「カイリ……?」

 

 

個人名の様な名称を、雄介は復唱する。

 

 

「この民族は、漁業を生業としながらリントと交流関係を築いていたみたい。石版にある《大いなる水源の巫女》っていうのは、カイリが海を神聖視していたこととリント同様、呪術的な文化を持っていたことの表れね」

 

「ほぉ……」

 

リントに関する新情報に、雄介は不意に声を洩らすのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一方。

 

一条は杉田たちと共に、通報のあった南区に来ていた。

 

 

 

「米沢さん!状況はどうなっていますか?」

 

一条が尋ねると、鑑識の一人・米沢が説明をしてくれた。

 

 

「いやー…どうもこうも、怪奇としか言いようがありませんな。被害者の胸元……それも心臓部を極めて正確に撃ち抜いた痕があります。詳しいことは司法解剖の結果待ちになりますが、被害者は犯人と面と向かった状態から狙撃された…と考えられます」

 

 

「正面から……って、そんな堂々と撃てるもんかね?」

 

 

米沢の推理を訝しげに聞いていた杉田は、辺りを見回す。

 

 

「……まあ、あくまで素人の考えですから。テキトーに聞き流して頂いても……」

 

 

米沢が苦笑いをしていた、その時。

 

 

「杉田さん!一条さん!」

 

 

一人の若い刑事が呼びかけてきた。

 

 

「どうした、後藤!?」

 

 

「これを見て下さい……!」

 

 

一条らを呼んだ刑事・後藤慎太郎が、アスファルトにある小さな穴を指差した。

 

 

 

「………なんだ、こりゃあ?」

 

「微かにですが……中で光沢感のある物が見えたんです。もしかしたら、何かヒントを得られるかも」

 

「分かった。サンプルを回収して、科警研に調べてもらおう」

 

 

近くの鑑識を呼んで、穴の調査とサンプルの回収を頼む杉田。

 

 

その間、一条と共に現場へ来ていた羽黒は空を見上げる。

 

 

「提督……。こんな開けた場所で、いったい何が飛んできたんでしょう……?」

 

 

 

この時、一条は一つの可能性を考えていた。

 

しかし、その推理に確信を持つには、まだ決定的な情報が無い。

 

 

 

 

―――そんな一条らを、冷ややかに笑いながら見下ろす影があった。

 

 

「フフ……バギング・グシギド・ズガギ・ビンレ……」

 

 

不気味な言葉を発した後、忌まわしい羽音を立てながらその場を去っていった………。




やっと絞り出したぁ……(;´Д`)


次回、やっと雪風と雄介の直接対面です!


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48話 : 対面

好きな話題を振られて上がりまくるものはテンションですが、本作は二次創作という名のフィクションです。

元ネタの世界観、人物、団体等は極力オリジナルを尊重するよう心掛けておりますが、過剰な批判やムチャぶりはご遠慮ください。


一条らが現場検証をしていた、同じ頃。

 

 

桜子の研究室に、ドアをノックする音が鳴り響く。

 

 

 

「!」

 

「誰だろ……。どうぞー!」

 

 

 

「失礼しまぁ〜す……」

 

 

 

桜子の呼びかけに応じ、入ってきたのは一条から指示を受けた吹雪と雪風。そして、護衛として付いてきたのであろう、青い袴と凛とした顔立ちが印象深い、大人びた女性だった。

 

 

「加賀さん……!」

 

大淀が立ち上がったのを見て、雄介は尋ねた。

 

 

「知り合い?」

 

「ああ、そうでした。五代さんは会うのは初めてでしたね」

 

 

一つ咳払いをして、大淀は紹介する。

 

「五代さん、桜子さん。こちらは正規空母の艦娘《加賀》さんと駆逐艦《雪風》ちゃんです。―――雪風ちゃん、加賀さん。こちらは一条提督のご友人で、考古学の准教授の沢渡桜子さんです。それから……」

 

 

「ハイ♪こーゆー者です」

 

 

と、にこやかにお馴染みの名刺を手渡す雄介。

 

 

「夢を……追う、男?」

 

 

肩書の部分を読み返す雪風。

 

 

「………つまり。定職には就かず、ブラついている訳ですか」

 

そう呟いたのは加賀。

 

「か、加賀さん…五代さんはそういう人では……」

 

吹雪がフォローしようとするが、五代はにこやかにこう返した。

 

 

「まあ、色んなところをブラブラするのが冒険野郎の仕事っていうか役目なんで。もちろん、仕事をしながら時間を作って冒険をする人も居ますから、一概には言えませんけど」

 

 

あっさり肯定したばかりでなく、冒険や旅を趣味としている人たちのフォローも忘れない。

その言葉に、加賀も吹雪たちもポカンとしてしまう。

 

 

「……そ、それにしてもっ。よく此処が分かりましたね?」

 

話を本筋に戻すべく、大淀が話を切り出す。

 

 

「あっ、そうだった!司令官からこちらで情報の共有をするようにと、指示を受けて参上しました!」

 

「そんな畏まらなくても……あ、どうぞ?ちょっと散らかってるけど……」

 

 

テーブルの上に積まれた資料などを、雄介と共に片付け始める桜子だったが。

 

 

「いえ、お構いなく」

 

またも加賀が発言し、キッパリと断った。

 

 

「うう……」

 

少しは寛げるかもと期待していた吹雪は、ガックリと肩を落とした。

 

 

 

「………?」

 

 

ふと顔を上げると、雄介と視線が合った雪風。

 

 

「―――こんにちは♪」

 

笑顔で挨拶をする雄介に、雪風は思わず俯いてしまう。

 

その様子に、雄介は雪風が心を閉ざしていることを察した。

 

 

「………」

 

 

その様子に、大淀は吹雪に話を振る。

 

 

「五代さん、沢渡さん。実は、ご相談したいことが……」

 

 

「え?」

 

「相談?」

 

 

「……雪風ちゃんたちを、今日一日だけでも預かっていただけないでしょうか?」

 

「えっ……」

 

 

大淀の言葉に、桜子は驚きの声をあげた。

 

 

「彼女は……雪風は、自沈しようとしているのです」

 

 

「じちん?」

 

加賀の言葉に、今度は雄介が首を傾げた。

 

 

「乱暴な言い方をすれば………自殺願望を抱いているようなのです」




長々と先延ばしにしてしまい、誠に申し訳ありません。


次回、いよいよ揚陸侵艦の登場です!


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49話 : 傷心

キング・オブ・ポップはマイケル・ジャクソンですが、本作は二次創作という名のフィクションです。


元ネタに関しては以下略。


という訳で、雪風との対話です。


大淀、そして加賀から聞かされた、雪風に関する話。

 

それは提督である一条への解体申請、そして演習にて多く見られたという自沈願望の傾向など、外見的にも精神的にも幼い少女にあるまじきものだった。

 

 

「そんな……」

 

 

「雪風が…雪風が居たから、しれぇの時間を取り上げてしまったんです………。雪風のせいで…しれぇは……」

 

 

 

雪風の言葉に、雄介は疑問を抱いた。

 

 

「大淀さん。雪風ちゃんの基になった軍艦《雪風》って……どんな船だったの?」

 

 

 

 

その問いかけに、大淀は一瞬躊躇いの表情を見せたが、しかし意を決し、語った。

 

 

 

 

 

 

不沈艦《雪風》の言われなき悪評を………。

 

 

 

「《雪風》という(フネ)は………戦時中、死神と忌まれていたんです」

 

 

「えっ………!?」

 

「死神………?」

 

 

不沈艦、幸運艦という輝かしい呼び名からは想像もつかない評価に、雄介も桜子も耳を疑った。

 

 

「当時、雪風を始めとした多くの駆逐艦は異常な労働環境の中にいました。数多の作戦に参加・出撃し、大破・修復を繰り返す艦は数知れずといった有様で……。それでも、《雪風》が艦隊に加わっていた艦の多くが最悪の事態を免れ、時には一隻の轟沈も出さずに乗り切ったこともありました」

 

 

「勿論、すべてが上手くいくわけではありません。それでも、沈まない軍艦―――《不沈艦》《幸運艦》という評価が広まるに連れて、雪風を疎ましく思う者が出てきました」

 

 

「そんな……」

 

 

悲しみに胸を痛める桜子と雄介だったが、大淀は話を続ける。

 

 

「雪風を疫病神扱いする、デタラメな情報が出回り始めたんです………」

 

 

 

「ひどい………」

 

「そんな悪評に拍車をかけたのが、雪風と共に戦った艦が各海戦で沈んだことでした。雪風の武勲を、運だけで勝ち取ったものだと誤解した人々の考えと、60隻もの艦の最期を見届けたという経験が混ざってしまって、雪風が他の艦の運気を吸い取る死神だ……とまで、言われるようになってしまったんです」

 

 

大淀が話し終わると……

 

 

「やっぱり……雪風は、みんなから幸せを奪う悪い子なんです……」

 

 

雪風は自分を卑下し始めた。

 

 

「な、何言ってるの!雪風ちゃんはそんな……!!」

 

 

吹雪が励まそうとするが

 

 

「今までだって!雪風が参加しなきゃいけない作戦には出してもらえないで、代わりに行った人たちばっかりが居なくなっちゃって……!雪風はそれを遠くから見てるだけ!!」

 

「雪風ちゃん……っ!」

 

 

大淀も宥めようとしたが、雪風は涙をぽろぽろ溢れさせながら叫んだ。

 

 

「私のせいで、しれぇは死んじゃったのにッ!!!」

 

 

 

その一言を最後に、雪風は部屋を飛び出してしまった。

 

 

「雪風!」

 

「雪風ちゃんっ!!」

 

 

吹雪や加賀が呼び止めようとするが

 

 

「吹雪ちゃん、加賀さん!俺が行ってきます!」

 

 

ここでも、やはりこの男が行動を起こすのであった。

 

 

 

「五代くん、良いの?」

 

「うん!桜子さんと大淀さんは、碑文の解読をヨロシク!」

 

 

サムズアップ。

 

 

雄介は雪風を追うべく、部屋を後にするのであった。




早く…早く戦闘シーンを書きたいぃ(;´Д`)


話は変わりますが、かつての駆逐艦・雪風に、あの水木しげる先生が乗っていらしたとのことを今朝方pixiv百科で知りました(^_^;)


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50話 : 水弾

遅々として進まぬ展開に対し、読者の皆様が抱いているものはクエスチョンだと思いますが、本作は二次創作という名のフィクry


……ハイ、心の担当Dからも「言い訳とネタを考える暇があるなら、さっさと書け」と脅されましたので、作業に掛からせていただきます。


研究室を飛び出した雪風を追うべく、雄介はドルフィンチェイサー2018を走らせていた。

 

 

そんな中……

 

 

『五代雄介、聞こえるか!』

 

「一条さん!もしかして、事件ですか!?」

 

『ああ…俺は今、科警研に向かっている!君も今から来れるか?』

 

 

「……はい!」

 

 

雪風のことを考え、雄介は一瞬迷った。

 

しかし、揚陸侵艦もしくは深海棲艦が絡んでいるのなら迷っている暇は無い。

 

 

(雪風ちゃん、ゴメン!ちゃんと迎えに行くから!!)

 

 

急遽、Uターン。

 

科学警察研究所へと向かった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

千葉県 科学警察研究所 01:20 p.m.

 

 

駐車場にて一条と合流した雄介。

 

移動中、雄介は雪風や大淀から聞いた話を一条にも話していた。

 

 

 

「雪風が、その様なことを………」

 

「途中、雪風ちゃんが研究室を飛び出しちゃったんで……なるべく、急いで探さないと危ないと思うんです」

 

 

雄介の言葉に、一条は安心と信頼を深めた。

 

 

「いつもながら、君には世話になってばかりだな」

 

「いえいえ、そんな!俺は俺に出来ることを、一条さんは一条さんに出来ることを精一杯やってるってだけですよ!」

 

 

そうこう話しているうちに、施設の一室の前に到着した。

 

 

「失礼します―――榎田さん」

 

 

長い黒髪を首後ろで一つに束ねた、白衣に眼鏡という出で立ちの女性に呼びかける一条。

 

 

 

「ん?―――あら!一条くん、五代くんも!」

 

 

科学警察研究所主任、榎田ひかり。

 

未確認生命体に対抗するための武器を研究・開発し、技術面で事件解決に貢献した人物の一人だ。

 

 

また、第4号の正体が雄介であることを知るメンバーの一人でもあるため、一条と二人で並び立つ姿は、彼女にとって思わぬサプライズとなった。

 

 

「ひさしぶり〜〜〜!ニュースとかで言ってる4号って、やっぱり五代くん?」

 

 

「はい!」

 

榎田にサムズアップで応える雄介。

 

 

「一条くんも、話は聞いてるよ〜?提督やってるんだって?」

 

「ええ、まだ未熟ですが……」

 

 

そう返す一条に、ふと榎田は尋ねた。

 

 

「………ん?一条くん、ひょっとして結婚でもした?」

 

「いいえ?」

 

「そう?」

 

 

どこか懐かしいやり取りをしつつ、一条は話を戻す。

 

 

「それで……現場から検出された物の鑑定は?」

 

「―――これを見て」

 

 

そう言うと、榎田は1本のアンプルを取り出した。

 

 

「現場付近で見つかった、不審な穴から採取した液体よ」

 

「水、ですか?」

 

興味津々な様子で手を伸ばす雄介だが

 

「触んないの」

 

ぺしっと榎田に払われる。

 

 

「成分を分析してみたけど、被害者の体組織などが微かに混ざっていた事から、高圧水流に近い手法で狙撃されたと思われるわ」

 

「これが……」

 

そう言いながら、再び雄介は手を伸ばすが、再び榎田に止められる。

 

 

「……で。もう少し詳しく調べた結果、液体の中に(セミ)の尿に極めて近い特徴が見つかったの。だから、今度の未確認…あ、揚陸侵艦っていうんだっけ?今度のは…ま、未確認でもいいよね?―――とにかく、今度の敵は蝉の能力を持った未確認ってことになるわね」

 

 

 

「セミ……」

 

 

 

 

 

中川区内 01:41 p.m.

 

 

路地を歩く、買い物帰りの主婦。

 

 

次の瞬間―――

 

 

「……?」

 

 

バシュンッ!!

 

 

「ッ!?………」

 

 

主婦が倒れた、その場には謎の貫通孔が残されていた………。

 

 

その後も、転々と怪死事故が発生。

 

 

捜査の途中、一条たちは長門たちと合流し、各自で集めた情報を照合した。

 

 

「あの、長門さん…提督と一緒にいらしたこちらの方は?」

 

「クウガだ」

 

「え?」

 

「我々が……特に提督が安心して背中を預けられる男であるとだけ理解してくれれば良い」

 

 

 

長門の言葉に、羽黒は首を傾げる。

 

一方、傍に居た大井は不信の念を抱いた眼差しを向けていた。

 

 

 

「……一条さん、長門さん!気付きました?」

 

事件の起こった場所の特徴に、雄介はハッとした。

 

 

「ああ…第14号の時と同様、最初の事件現場から螺旋状に広がっている!」

 

「しかも、時間はほぼ20分置き!」

 

 

「と、なると……次の犯行が起こり得る場所は……!!」

 

 

予想地点に急ぐべく、雄介たちは飛び出した。

 

 

 

そんな一条たちを見て、大井は小さく呟いた。

 

「そうまでして、自分の手柄が欲しいのかしら……」




チクショオ、まだ怪人の姿が出ないぃ………


文面もだいぶ荒くなってきてるし……(`;ω;´)


ミナサン、ホントにごめんなさい!


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51話 : 翡翠(ひすい)

ソ○ーが提供するゲーム機はプレイステーションですが、本作は二次創作という名のフィクションです。


この前振りを考えるの、ちょっと楽しくなってきた私がいますが、どうでしょうか?


東村山市内 02:12 p.m.

 

 

揚陸侵艦に備えて、一人の憲兵が巡回していた。

 

 

 

その時、不審な羽音が聞こえた。

 

 

「……ん?」

 

 

瞬間―――。

 

 

「ぐっ!?………ぅ……」

 

 

胸に鋭い痛みを感じるも、その原因が分からぬままに憲兵は絶命した。

 

 

 

そして、その死を確認するように、ビイイィ…という音が地上に降り立った。

 

 

 

毒々しい、くすんだ緑色の肌。

耳あての様に大きく張り出した複眼と、切れ長でオレンジ色に光る人型の瞳。

 

セミの口吻に似た、すらりとした突起のある髪飾りと黒いセミロングヘアに、身軽さを重視した装飾品で身を飾り、右腕にはセミの腹部に似た特徴の突起を持ち、腰には艦載機を模した形状のボウガンを携行している。

 

 

背中の大きな4枚の翅を畳み、セミの姿と能力を持った揚陸侵艦―――《メ・ゼミル・バ》は左手首の腕輪を眺め、飾り玉を一つ動かした。

 

 

「フフ……」

 

満足げに笑うゼミルを、物陰から見守る者があった。

 

 

それは細身の少女の姿で、頭に巨大なクラゲのような生き物を乗せた姿をしている深海棲艦―――《空母ヲ級》と呼称されているタイプである。

 

 

「ジュン……チョウ…ラシィ、ナ……」

 

 

ヲ級の言葉に対し、ゼミルはフフンと鼻で笑った。

 

 

「ズンジャヅ・サジャゴラゲダヂド・パヂバグ」

 

その得意気な……というより、見下したような物言いに、ヲ級はムッと眉を潜める。

 

 

 

 

 

と、その時だった。

 

 

「居たッ!!」

 

「!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ゼミルとヲ級が声のした方を見ると、追跡していた一条たち石ノ森艦隊や雄介が駆けつけ、雄介が先陣を切って飛び出した。

 

「え!?あの、五代さん!危ないですよ!?」

 

 

慌てて止めようとする羽黒だったが、長門がコレを制止する。

 

 

「いや!良いんだ、羽黒!」

 

 

 

「変身ッ!!」

 

 

走りながらベルト・アークルを呼び覚まし、雄介はクウガへと変身。

 

 

「クウガ!?」

 

 

クウガに気を取られた一瞬を逃さず、一条はゼミルの左腕の腕輪を狙い、撃ち落とした。

 

 

「長門さん、足柄姐さん!五代さんが…!」

 

「長門が言ってたでしょ?クウガって!!」

 

 

雄介がクウガに変身した瞬間を見て、羽黒は軽く混乱してしまう。

 

足柄が落ち着かせようと説明している横で、長門が号令をかけた。

 

 

「足柄、羽黒!空母ヲ級1を発見した!海上に逃げられる前に撃破するんだ!」

 

「了解!」

 

 

「叢雲!君は提督と第4号の援護を頼む!」

 

「分かったわよ……!」

 

 

何処か不満げな様子で、叢雲はクウガの元へ。

 

 

 

「ケェア!」

 

「フゥン!」

 

 

ゼミルが左腕を振るうと、クウガはこれを防御。

 

それを崩さんとして、ゼミルは艦載機型のボウガンを抜こうとしたが、クウガはゼミルの鳩尾に膝蹴りを入れて牽制。

 

 

「邪魔よっ!!」

 

叢雲の掛け声に、クウガはゼミルから離れることで射撃を補佐。

 

 

しかし……

 

 

「ちょっと!なんで離れるのよ!そこは押さえたままで当てやすくするところでしょう?!」

 

「え?ああ…ゴメン!」

 

 

その一瞬の隙を突いて、ゼミルは飛翔した。

 

 

「あぁ!?ホラ見なさい!逃げられちゃうじゃないっ!!」

 

 

しかし、叢雲の文句に対してクウガは一言。

 

 

「大丈夫!俺も跳ぶからッ!!」

 

 

アークルに両手をかざし、クウガは変身ポーズを取る。

 

 

「超変身!!」

 

 

アークルに収められた霊石アマダムが、赤から青に変わり、クウガは走り出す。

 

 

 

【邪悪なるものあらば その技を無に帰し 流水の如く 邪悪を薙ぎ払う 戦士在り】

 

 

 

「フンッ!!」

 

 

俊敏なる力を持つ、青い戦士。

 

ドラゴンフォームとなったクウガは、驚異のジャンプ力でビルの屋上へとひとっ飛びした。

 

 

 

「……うそ……」

 

通常の赤い姿とトリトンフォームしか知らなかった叢雲は、ドラゴンフォームの身軽さに圧倒され、立ち尽くしてしまった。

 

 

 

 

 

一方。

 

屋上へ到着したクウガは、姿の見当たらないゼミルを探した。

 

 

第14号の時と同様、敵は超高空からの狙撃を得意としていると見たクウガは、より効率的に、より確実に捉えることの出来る方法を考えた。

 

 

しかし、()()()を使うとなると、敵の行動パターンは勿論、艤装を持っているとして、どの様な攻撃法で向かってくるかが分からない以上、使いどころを誤ればかなり不利な状況になってしまう。

 

 

どうしたものかと考えていた、その時。

 

 

「シャッ!!」

 

「っ!?うああっ!!」

 

 

集中力の途切れる瞬間を狙っていたのであろう。

 

ゼミルは上空からキックを繰り出し、反撃の先手を打った。

 

 

「ぐっ……!ハアッ!!」

 

 

足払いを仕掛けるが、余裕が生まれたためかゼミルに避けられてしまい、またも姿を見失う。

 

 

 

そして、背面から奇襲を受けたクウガは、ビルから落下してしまう。

 

 

「ウワアアァァアっ!?―――うぐっ!!」

 

 

しかし、非常階段の手すりに掴まることに成功した為、地面に叩きつけられることは回避出来た。

 

 

 

と、次の瞬間―――。

 

 

 

 

クウガ―――雄介の意思を汲み取った結果であろう。

アマダムは緑に輝き、その姿を緑の戦士へと変えた。

 

 

 

 

「ッ!!?―――今度は緑か!!」

 

 

それも、ただの緑に非ず。

 

 

 

左肩の防護アーマーに飛行甲板を模した「ク」の一文字が記された大型の盾が装備され、腰にはクウガのシンボルマークを刻んだ矢筒状のタンクと前垂れが追加されており、その外見は航空母艦娘に似ていた。

 

 

「ッ!?な……なんだ………!!?」

 

 

しかも、トリトンフォームの時の様な外見だけの変化に留まらず。

 

なんと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

 

「ッ!!?な、なんで………うっぐ!!」

 

 

しかも、視力・聴力は緑のクウガ本来の力をそのまま引き出すため、今まで以上の情報が目や耳、頭の中に雪崩込んできた。

 

 

「ぐっ……ぅう…ああ、ウアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

体力・気力ともに限界を迎え、クウガは手すりから手を離してしまい、そのままアスファルトに叩きつけられてしまった…………。




やっと、ここまで書くことが出来ましたぁ………(;´Д`)


次回、緑のクウガ編後半戦となります!!


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52話 : 閉心

ヒーローのカッコ良さを引き立てるものの一つはアクションですが、本作は二次創作という名のフィクションです。


クウガ編4章、ここからが正念場です。


景色が―――

 

音が―――

 

巨大な一つの塊となって、クウガの頭の中に雪崩込んでくる。

 

 

「うぐ……うああ…ぁあああっ!!」

 

 

常人なら、数秒と保たずに廃人となっていてもおかしくないような情報の濁流の中で、クウガは辛うじて自我を保っていた。

 

 

それでも、限界に達したのか手すりから手を離してしまい、地面に激突してしまう。

 

 

 

「あっ!?ちょっと、大丈夫!?」

 

 

落下していくクウガを見て、何事かと駆けつけた叢雲。

 

 

 

そこに、容赦無くゼミルが追撃を仕掛ける。

 

 

「ケェアッ!」

 

「っ!!フゥッ!」

 

 

しかし、寸でのところでクウガが避けたため、追撃は失敗。

 

 

「ガグガ・リゾシン・ヂバサザ……ム?」

 

 

右腕の噴射口が、微かに膨らんでいるのを確認するゼミル。

 

 

「ギボヂヂソギ・ギダバ」

 

 

見逃してやる、とでも言うようにゼミルは翔び立つ。

 

 

「くっ……!」

 

取り逃がしたことを悔しがる叢雲の横で、クウガは苦しみ続けていた。

 

「ハァ…ハァ……ぐぅ……ッ……!!」

 

 

 

やがて、クウガの頭の中から騒音は消え失せ。

 

緑から白い姿に変わったクウガは、そのまま倒れ伏せた。

 

 

「五代!!」

 

「五代さん!」

 

 

身を潜めていたヲ級の放った艦載機に妨害されていた一条たちが、ようやく追い付いた。

 

 

そして、変身が解けて気を失っている雄介と、どうしたものかと頭を抱えていた叢雲と合流するのであった。

 

 

 

 

戦果報告―――

 

 

《揚陸侵艦殲滅艦隊》

 

旗艦 叢雲…損傷、軽微

 

随伴艦 羽黒…中破

    長門…小破

    足柄…小破

 

 

連続して発生した、奇怪な銃殺事件の犯人である揚陸侵艦《高空狙撃鬼(こうくうそげきき)》を発見、応戦するも深海棲艦《空母ヲ級》と遭遇。

 

出現した未確認生命体第4号が揚陸侵艦を迎撃するが、戦況は好転すること無く、敵の逃亡を許してしまった。

 

 

判定―――《敗北》

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

クウガ達が戦闘を終えて間もない頃。

 

 

碑文の解読を桜子と解読班に任せ、大淀は雪風を捜すべく外に出ていた。

 

 

 

「そうですか……ありがとうございます」

 

 

聞き込みをしながらの捜索であったが、これといった手掛かりは得られず、どうしたものかと考えていたその時。

 

 

「!」

 

一条から着信が。

 

 

 

「一条提督……。もしもし?」

 

 

『もしもし……大淀く―――』

 

『もしもし大淀さん!?今度は緑だよ、緑!緑に艤装が付いたんだ!!』

 

 

一条の声を遮り、雄介の興奮した声が聞こえてきた。

 

 

 

「五代さん!?」

 

 

 

「今までの緑も視え過ぎるくらい視えたし、聴こえ過ぎるくらい聴こえてたんだけど、今度のは後ろを見なくても後ろが視えたりして、もぉ〜すんごいのよっ!」

 

「ちょっと、落ち着け!!―――申し訳ない、五代が失礼した」

 

 

『い…いえ………』

 

 

 

電話越しの二人のやり取りを聞いた大淀は、一条は本当に雄介の相棒なのだなと再認識した。

 

少し離れた所では、叢雲と足柄が雄介に対して「はしゃぎすぎ!」と軽く説教をするのであった。

 

 

 

 

「……では、改めて状況の説明をお願いします」

 

 

「ああ……先ほど五代が少し話したと思うが、クウガがまた新しい艤装を纏った姿に変身したんだが……石版の碑文に、航空母艦もしくは水上機母艦のような戦い方をする戦士に関する記述は無いだろうか?」

 

 

緑のクウガの能力が索敵・遠方射撃に特化していることから、一条は空母艦娘などの能力に関係があるのではと予想し、尋ねた。

 

 

「………」

 

 

ところが、大淀から返事が無い。

 

 

「大淀くん……今、外か?」

 

『実は………、雪風ちゃん…研究室を飛び出したきり、鎮守府に戻っていないそうなんです……』

 

 

「なんだって!?」

 

 

驚く一条の側で、長門も鎮守府からの連絡を受けていた。

 

 

「提督……北上からの報告だ。大井の姿が、何処にも見当たらないそうだ………」

 

 

「大井くんまで……!?」

 

 

 

 

街から少し離れた、電話ボックス。

 

 

そこから、雪風は110番通報を入れた。

 

 

『はい、こちら110番。何かありましたか?』

 

 

「警視庁鎮守府のみなさんと……石ノ森鎮守府のしれぇに伝えて下さい……。守ることも出来ないで、周りの人が死ぬのを見ることしか出来ないくらいなら……私……っ………死ぬかも………!!」

 

 

そう言って、雪風は電話を切り、電話ボックスを飛び出していった………。




ハイ、緑のクウガ編もあと僅かですね。


雪風と大井っちは、果たして心を開放出来るのか?


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53話 : 捜索

二次創作の小説を読むときは、部屋を明るくして、画面に近付きすぎないよう、程よく離れて拝読下さいますよう、お願いいたします。



……ハイ。クウガ4章、続きでございます。


クウガや叢雲たちと交戦し、一時撤退したゼミルは、揚陸侵艦たちのアジトへと戻り、中間報告をしていた。

 

 

「シュビハ、ドウダ?」

 

黒パーカーの少女が、人間の姿になったゼミルに問いかける。

 

 

「……フン」

 

それを鼻で笑い、ゼミルはボードに何かを書き込んでいく。

 

 

それは、さながら数を数えている様だった。

 

桜のタトゥの女にボードを見せるが、女はゼミルの左腕を掴んだ。

 

 

「グセパパ…ゾグ・ギダ?」

 

その声音は、微かに怒気が混じっているように見える。

 

 

「カイリグ・ジャラギデ……バブバ・ダダ」

 

 

一条―――格下と見ているリントにやられたとは、ゼミルのプライドが許せなかったのだろう。

カイリ……艦娘にやられたと誤魔化した。

 

艦娘とも戦ったのは事実なので、あながち嘘ではない。

 

 

それを聞いて、桜のタトゥの女はボードを取り上げると、書き込んだものを全て消した。

 

 

「ザン・ベンザ・グジャシバ・ゴギザ…」

 

新たに腕輪を渡されるが、ゼミルは折角の成果が白紙になることだけは納得いかなかった。

 

 

そこで

 

「ボンバズパ・リント……ボンバズパ・クウガ。ボセゼ・ゾグザ?」

 

2つ身につけた腕輪をそれぞれ、飾り玉1つ、飾り玉3つを動かし、取引を持ちかけた。

 

「……ギギザ・ソグ」

 

 

それに対し、桜のタトゥの女は了解するのであった。

 

 

 

 

 

関東医大病院 02:40 p.m.

 

 

雪風や大井の行方が分からなくなった、との報せを受けた一条たちであったが、先程の戦いのことやクウガの新たな力の発現なども気にかかる為、一旦椿の下で検査を受けようとなり、一行は関東医大病院に訪れていた。

 

 

 

「まったく……どこまで俺を驚かせりゃあ気が済むんだ?お前は」

 

「驚きですか?」

 

 

今回、新たに撮ったレントゲン写真を、椿と雄介の二人は食い入るように眺めていた。

 

 

「艤装を纏った緑になったら、急に視界の範囲が広がった…と言ったな?」

 

「はい。後ろを見なくても、ほぼ真後ろまで視えて……もう『みなさん、元気ですかーッ!!』……って感じ」

 

 

相変わらず、雄介の表現は独特である。

 

 

「……そのために、これまでの緑と同様にかなりの力を使うんだろう。その結果、アマダムも基質変化を起こして輝きを失ったようになっている。見てみろ」

 

 

そう言って、今回の状態と初めて緑の姿に変身し、力を消耗した状態のレントゲン写真を比較する。

 

 

「ちょっと、私にも見せてよ」

 

 

そう言って、足柄と叢雲が間に割って入る。

 

「うわぁ……ホント、くたびれてるって感じね……」

 

「うそ………ホントに、このベルトが丸々五代さんの体の中に?」

 

そう声を洩らしたのは叢雲。続いて足柄が驚きの声をあげる。

 

 

 

「椿先生、こんな得体の知れない異物が体の中にあって……コイツは大丈夫なの?」

 

雄介をコイツ呼ばわりしつつ、身体のことを少しばかり気にかける叢雲。

 

 

「概ねな。ベルトその物は、カルシウムやタンパク質といった有機物や人体に問題のない物質のみで構成されている。純粋な異物と認められるのは、この部分―――アマダムと呼ばれる、神経組織を伸ばして五代の身体と密接に繋がっている石だ。言わば、五代の第2の心臓だな」

 

「第2の…心臓……」

 

 

「緑の力について話を戻すが……この状態になると、全身の神経が極限にまで緊張して、感覚が何倍も鋭くなるんだ。精神を集中させれば、遠くのものをハッキリと捉えたり、遥かに離れた場所の音を聞くことが出来たりする素晴らしい力になる。だから今度の能力も、艦載機なんかを使うことが出来れば、海上での戦いにも応用出来る筈だ」

 

 

「だから50秒しか保たないわけね……勿体ぶって」

 

 

変に納得する叢雲。

 

「あ!叢雲ちゃんもそう思う?」

 

 

それに対し、何故か嬉しそうにする雄介。

 

「なんで嬉しそうなのよ!?良い?私はアンタが第4号だろうが、提督と親しかろうがどぉ〜〜〜でもいいんだから!!もし、私たちに変なことをしでかそうとしたら、その時は海に沈めてやるから覚悟してなさいッ!!」

 

 

「うん、しないよ。みんなが嫌だと思うことは、絶対」

 

 

叢雲の強気な発言に対し、雄介はにっこり微笑むだけだった。

 

 

「っ………そ、そう……なら、良いんだけど……」

 

雄介のその表情に、叢雲はなんだか自分が悪かったように感じてしまう。

 

次に、長門が椿に尋ねた。

 

「椿先生。先程の話を聞いて思ったのだが……五代の変身能力が失われた訳では、ないのだな?」

 

「ああ。アマダムの状態は徐々に回復し始めている。が……あと2時間、変身はお預けだ」

 

 

椿の横で、「そうなんですか?」と尋ねる羽黒に対し、雄介は「そうそう」と頷いていた。

 

 

「……まぁ。どのみち、今度の緑がどう戦えば良いのか分かんないし……かと言って、ねえ?」

 

「演習に顔を出しちゃったら、事情を知らない周りがパニックを起こしちゃうし……」

 

 

雄介と一緒になって、うーんと考え込む足柄。

 

 

「あんた達、いつの間にそんな打ち解けたの?」

 

そのやり取りに、叢雲は若干呆れるのだった。

 

 

と、そこに警視庁からの連絡を受け、電話を終えた一条が戻ってきた。

 

 

「提督、どうしたんだ?」

 

「何かあったんですか?」

 

 

長門と雄介の問いかけに、一条は答えた。

 

 

「雪風と大井が、行方不明だそうだ……」

 

「雪風と…大井が!?」

 

 

これには長門たちも驚いた。

 

「大井まで……なんでよ?」

 

 

「大井くんについてはわからない。……ただ、先程警視庁側に連絡があったそうだ」

 

 

 

 

「“守ることも出来ずに、死んでいく仲間を見続けるくらいなら、死んだ方がマシだ”……と」

 

 

その言葉に、長門たち艦娘は口をつぐんだ。

 

 

艦娘として生まれる以前の雪風の記憶を知っているのみならず、自分たちも仲間や姉妹の最期を見届けたり、介錯したりした記憶が少なからずあるからだ。

 

 

「そう…言われてもな………」

 

 

どうフォローしたものかと、頭を抱える椿。

 

 

一条も、雪風の解体処分申請を出した思いを充分に理解していなかったと己を恥じた。

 

 

 

しかし、その重々しい空気は唐突に払われた。

 

 

「―――大丈夫!俺が雪風ちゃんと、その大井ちゃんを捜してきますよ!今、ちょうど2時間変身出来ないし!」

 

 

「五代……」

 

 

雄介の申し出に、長門は困惑した。

 

何故、この男はこんなにも真っ直ぐな眼差しで、迷うことなく人のために行動を起こせるのだろう。

 

勿論、そんな彼と出会ったから、北上も島風も、足柄たち妙高姉妹も救われ、今があることには違いないが。

 

 

「大丈夫!」

 

 

サムズアップ。

 

 

一条たち一人一人に掲げ、雄介は診察室を後にする。

 

 

「……色々、騒がせてすまない」

 

 

後を追うように、一条たちも病院を後にするのだった。

 

 

そして、そんな彼らの背中を見届ける椿は、笑みを浮かべて一言呟いた。

 

 

 

「―――いい艦隊(チーム)じゃねえか」




えー、「大井っちはなんで鎮守府を飛び出したの?」と疑問を抱いた方々は大勢いらっしゃるでしょうが、安心(?)して下さい。

次回あたりで、ちゃんと出します!

ホントに出しますから!!石は投げないでっ!!


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54話 : 大井

予定を大きく変更しまして、またいくつか分割します。


緑のクウガ編をお楽しみの皆様、大変申し訳ありませんm(_ _;)m


「…………」

 

 

雪風が飛び出し、それを五代雄介が追いかけていって、かれこれ一時間近くが経とうとしていた。

 

 

「………吹雪」

 

長い沈黙の中、加賀が口を開く。

 

 

「ひゃいっ!?」

 

何の前触れも無かった為、吹雪はビクッと身を強張らせる。

 

 

「暢気そうな彼……五代さんといったかしら。帰ってくる様子が無いのだけど」

 

「そ…それは、ホラ。大淀さん、言ってたじゃないですか?揚陸侵艦が出たって…それで……」

 

 

「それについては、提督が艦隊を率いて対処されている筈です。彼は民間人であり、特に関係は無い筈ですが」

 

 

加賀はクウガのことを知らない為、吹雪はクウガの話抜きで雄介を擁護しようとするが……

 

 

(うぅ〜……加賀さんの指摘って、いっつも的確過ぎるから反論の余地も無い………)

 

 

「大淀さんもだけど……貴女、何か隠していないかしら?」

 

 

核心に迫る質問が来たことで、吹雪は固まった。

 

 

「あ……えと、ソノ……」

 

かかなくていい汗が、タラリタラリと出てくる。

 

 

これはいかんと、大淀が助け舟を出そうとした、その時―――。

 

 

「大淀さん!加賀さん!吹雪ちゃん!」

 

 

扉を勢いよく開け、雄介が飛び込んできた。

 

 

 

「五代さん!?」

 

「五代くん……!」

 

 

いったいどうしたのかと、尋ねようとした大淀だったが

 

 

「吹雪ちゃん!加賀さん!雪風ちゃん、ホントに自殺するような娘じゃないよね?」

 

 

逆に、雄介に質問されてしまった。

 

 

 

「あ…えっと……」

 

あまりに予想外な展開だった為、加賀は問い詰めることを忘れてしまった。

 

 

「大丈夫!雪風ちゃんも大井ちゃんも、必ず連れて帰りますから!!―――だから、桜子さんと大淀さんも解読の方をヨロシク!」

 

 

サムズアップ。

 

 

それだけを伝えると、雄介は研究室を飛び出していった。

 

 

「うん……」

 

「………もしかして、それを言いに来ただけ……ですか……?」

 

 

このシチュエーション、前にもあったような……と思いながら頷く桜子。

 

吹雪も同様に、首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

千葉県 科学警察研究所 02:58 p.m.

 

 

雪風捜索は雄介に任せて、一条は長門と共に科警研へと出向き、ゼミルを追跡出来る手段は無いかと榎田に相談していた。

 

 

「敵は行動パターンなどが第14号と極めて似ているためか、各地に設置されているレーダーが第3号や第14号の時と同様に、特殊な音波をキャッチしていたみたいね」

 

「五代雄介が言っていた、奴の羽の音か!」

 

 

「急いで準備はしたけど、第14号の時に使ってもらった旧式のやつしか用意出来なかったわ…ゴメンね?」

 

 

そう言いながら、榎田が用意したのは通常では聞き取れない特殊な音波などを探知出来るレーダーだった。

 

 

「いえ、充分助かります!」

 

「あ!それと、ガス弾の方も改良したヤツの試作品を20本ばかし送ったからー!」

 

 

改めて榎田に一礼をして、一条は研究室を後にした。

 

 

 

 

 

改めて、城南大学の桜子の研究室。

 

 

そこに、思わぬ来訪者が現れた。

 

 

「失礼します」

 

「はい………え?」

 

 

「え……えぇっ!?」

 

 

 

それは、現在行方不明中の重雷装巡洋艦《大井》であった。

 

 

「お…おお、大井さん!?」

 

驚きのあまり、言葉がまとまらない吹雪。

 

 

それに対し、加賀と大井は至って冷静だった。

 

 

「あの、こちらに五代雄介という方はいらっしゃいます?」

 

「え……?五代くんに、用事……ですか?」

 

 

突然、五代の名前が出たことで桜子も驚きを隠せない。

 

 

「今は不在だけど……大井、貴女こそ何をしに来たの?鎮守府は今、雪風だけでなく貴女まで居なくなったことで騒ぎになっているのよ?」

 

加賀の質問に対し、大井は淡々と答えた。

 

 

「無断で飛び出したことについては謝罪するわ。でも、必要なことなの」

 

 

 

「―――提督と五代雄介を殺すためには、ね」




おかしい……

こんな、こんなハズじゃ…((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル


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55話 : 射手

風の声を聞く戦士、射抜くものを手にして、敵を撃ち倒せ―――。(「仮面ライダークウガ」より)


「大井さん……今、なんて………?」

 

 

耳を疑い、吹雪は震える声で大井に聞き返す。

 

 

「聞こえなかったかしら?今居る提督と、それの腰巾着を殺すから居場所を教えなさいと言ったの」

 

 

大井の眼は穏やかだが、しかしその瞳の奥は深く澱んでいた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

雄介や一条がそれぞれの場所で対処に当たり、吹雪たちが大井と一触即発の状態になっている頃。

 

 

「………」

 

雪風は、独りトボトボと歩いていた。

 

 

ちなみに、これまでにトラブルなどに巻き込まれた様子は無い。

 

 

「………」

 

海岸線に目をやり、雪風は首に提げた双眼鏡を覗き込む。

 

 

「………」

 

 

海の彼方を眺めた後、再び歩きだした。

 

 

 

 

城南大学 沢渡桜子考古学研究室 03:12 p.m.

 

 

 

「………」

 

一条と雄介を殺す―――。

 

 

大井の放ったその言葉に、吹雪たちは凍りついた。

 

 

「どうしたんですか?知っているなら教えてください」

 

「て…提督は……」

 

 

大井の凄みに怯えながらも、吹雪は抗おうとする。

 

 

しかし

 

「一条提督は、現在揚陸侵艦の追跡調査を進めておられます。五代雄介さんについてですが……雪風を捜索している最中だそうです」

 

 

代わりに、加賀が丁寧に答えた。

 

 

「雪風を……?」

 

その言葉に、大井は怪訝な顔をする。

 

「第一……どういった事を根拠に、五代さんを提督の腰巾着などと思うの?私が見た限り、そういった要素は微塵も無かったのだけれど」

 

 

「それは……雪風を捜し出して…」

 

「使えないから解体処分にして、待遇をよくしてもらおうとしている……とでも?解体の申請をしていたのは、雪風自身よ」

 

 

「えっ……!?」

 

加賀の言葉に、大井は目を見開く。

 

 

「やっぱりね……。北上や自分が関心を向けている狭い範囲ばかりに気を取られて、しかも憎しみに囚われて神経質になっていたから、貴女は情報を得ることを怠った」

 

 

「……なさい…」

 

「さらに言えば、貴女は提督や五代さんを殺すなどと口にしてはいるけれど、それは本心ではないでしょう?」

 

 

「えっ?そうなんですか!?」

 

次に吹雪が驚きの声をあげる。

 

 

「何故なら―――」

 

「黙れッ!!!」

 

 

声を荒げ、大井は無断で持ち出した単装砲を加賀に向ける。

 

 

「―――貴女は、殺しに来たのではなく。五代雄介に会うよう、“勧められた”のだから。他でもない、北上に」

 

 

 

 

 

危機を感じ、吹雪は身を縮こまらせていたが、加賀は大井の単装砲から目を離さず、逃げもしなかった。

 

 

「……のよ……」

 

大井の手が震えだす。

 

 

「あんな……あんな風に、幸せそうに笑う北上さんを見たの……久しぶりだったのよ。それが……」

 

 

「北上さんの笑顔を取り戻してくれたのが……私たちから笑顔を…幸せを奪った、人間だったことが許せなかった……!認めたくなかった……受け入れたくなかったのよ!!」

 

 

顔を上げた、大井の眼は、涙で濡れていた。

 

 

「本当に嬉しかった……北上さんが、あんなに幸せそうに笑ってくれて……。でも、もしその優しさがまやかしだったら?全部…全部嘘だったらって、怖くてたまらなかった………」

 

 

泣き崩れる大井を、吹雪が抱きしめる。

 

 

「今は信じられなくても構いません。でも……」

 

 

「―――大丈夫!」

 

吹雪が言うよりも先に、力強く言い放ったのは桜子だった。

 

 

「五代くんは、約束を破らない人だから!だから……絶対、大丈夫!!」

 

 

言葉にしつつ、桜子はキーボードを打つ手を早める。

 

 

少しでも、彼の思いに応えるために。

 

 

 

「ふー……よしっ!」

 

吹雪は自分の両頬をぱしんっと叩き、立ち上がった。

 

 

「加賀さん、大井さん!行きましょう!提督が戦っています!!」

 

 

秘書艦として、吹雪は初めて雄々しく号令をかけた。

 

 

 

その姿を大淀は頼もしげに眺め。

 

 

「―――さあ、単ちゃん!私たちも作業にかかりますよ?」

 

 

大淀の掛け声に、単ちゃんたち解読班も敬礼で応えるのだった。

 

 

 

 

 

品川区内 03:36 p.m.

 

 

 

榎田から受け取ったレーダーを頼りに、一条はゼミルの動きを探っていた。

 

 

「この反応……間違いない、ヤツは近くに居る……!」

 

 

すると、近くの駐車場に1台の軽自動車が停まっており、一組の母娘連れが見えた。

 

 

 

 

「今日もいっぱい買い物したね☆」

 

「そうね〜、今日は豚しゃぶにしよっか♪」

 

「やったぁ!」

 

 

ごくありふれた、微笑ましい親子の会話。

 

 

しかし、それを遥か上空から冷ややかに見下ろす者が居た………。

 

 

「フン……」

 

 

 

そんなことを知る由もなく、母娘は帰宅しようとするが……

 

 

「ん?あれ……」

 

「お母さん、どうしたの?」

 

「なんかね、エンジン掛かんないのよぉ」

 

 

エンジンの様子を見ようと、母親が車から出てきてボンネットを開く。

 

 

 

「クク……ム?」

 

右腕を伸ばし、狙いを定めた…その時。

 

 

 

一条がパトカーを爆走させ、駐車場に着くなり飛び出した。

 

 

「そこから離れてッ!!!」

 

 

「チッ!」

 

邪魔されてなるかと、ゼミルは高圧水流の弾丸を撃ち出した。

 

 

しかし、一条の強運が味方をしてくれたのか、母親を守ることに成功した。

 

 

バギュンッ!という銃声に、当然ながら怯える母娘。

 

 

「大丈夫ですかっ!?」

 

 

《高空狙撃鬼》が艤装を持っている以上、第14号の時よりも危険と考え、長門と足柄の二人を別の場所に付いてもらいつつ、偵察機を飛ばして索敵を指示していたのだが……。

 

 

『こちら足柄!高空狙撃鬼は標的の狙撃に失敗したからか、逃走を開始したわ!』

 

「深追いはするな!敵航空戦団が迎え撃ってくる可能性も無いとは言い切れない!!」

 

 

『しょうがないわねぇ……了解!』

 

「活躍の場を設けてやれなくて、すまないとは思っている。しかし、深手を負わせることはしたくない!」

 

 

そう説得すると

 

 

「ふぇ!?な…なな、何を言ってんのよ!?この餓えた狼が、そんなミスをやらかすワケないじゃない!!で、でもまぁ!優しい提督がそこまで言うんなら?命令を聞いてあげないこともないわよ?」

 

 

無線機越しに、足柄の慌てぶりが伝わった。

 

 

「すまない……そうしてくれると助かる」

 

 

 

『……すまない。足柄が任務に専念したいということで、交代した長門だ。提督、先程の指示以外にすべきことはあるか?』

 

「いや、他は特に無い。……では、通信を切るぞ」

 

『了解!』

 

 

 

通信を切った、その直後。

 

 

桜子から電話が入った。

 

 

「もしもし!一条です!――解読出来ましたか?」

 

 

 

「はい、空母や艦載機といった記述は無かったんですけど……五代くんの話と合わせると、これが一番近いんじゃないかと!」

 

「どういった文章ですか?」

 

 

「《邪悪なるものあらば その姿を彼方より知りて 暴風の如く 空の使いと共に邪悪を射抜く戦士在り》―――」

 

 

 

「空の、使い………?」

 

 

陰陽道などで言うところの、式神の様なものだろうか。

 

しかし、リントにそういった陰陽道的な話は聞いたことが無い。

 

 

いや……もしかしたら、或いは―――

 

 

一条は、《空の使い》と呼ぶにふさわしい存在の答えに辿り着いたのであった。




少女は憎む。欲深いばかりの、人間の醜さを。

少女は憎む。守りたいものを守れない、弱き自分を。


男は訴えかける。


弱さを受け止め、許すことも立派な強さだと。


その思いは、柔らかな風となって包み込み、やがて暴風となって邪悪を撃つ―――。


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56話 : 暴風

みなさん、長らくお待たせ致しました。


緑のクウガ編、クライマックスです!!


鎮守府近海 季廻田(きかいだ)海岸 04:30 p.m.

 

 

 

強風の吹く中、雪風は佇んでいた。

 

 

「…………」

 

 

そこは、春日提督の下に着任して間もない頃、着任祝いといって連れてきてもらった想い出の場所だった。

 

 

“雪風”―――

 

 

“雪風、来てごらん”―――

 

“何ですか、しれぇ?”―――

 

 

“ホラ。こんなに可愛くて、キレイな貝殻があるよ”―――

 

“わぁー!”―――

 

 

 

“昔の人たちは、こういった貝殻なんかをアクセサリーにして、身につけていたんだよ”―――

 

“アクセサリー、ですか?”―――

 

 

“そうだよ”―――

 

 

 

波の音に混じって、甦る雪風の覚えている春日准将との想い出。

 

 

しかし……

 

その大好きだった提督は、もう……居ない。

 

 

楽しかったあの日は

 

幸せだった時間は、もう戻らないのだ。

 

 

 

「人一人守れない艦娘に、居る価値なんて無いのに……」

 

 

 

必要だと言ってくれた一条の言葉を思い返し、雪風は己を否定する言葉を呟いた。

 

 

「しれぇ……雪風は、どうしたらいいんですか……?」

 

 

 

 

「―――どうしよっか?」

 

 

唐突な返事に、雪風は目を丸くした。

 

 

この場には自分だけの筈。

 

呟きに対し、声が返ってくる訳が無いのだ。

 

 

しかし……声の主―――五代雄介は、そこに居た。

 

 

 

「んー……流石に、まだ泳ぐにはちょっと冷たすぎるよなぁ」

 

 

海を眺めながら、暢気な話をする雄介。

 

 

「…どう、して………!?」

 

 

驚くことばかりが多すぎて、雪風がやっとの思いで絞り出した一言が、それだった。

 

 

その問いかけに対し、雄介は雪風のバッグに飾られた貝殻のアクセサリーを指さした。

 

 

「その貝、この辺で採れるやつだから」

 

 

 

そう言うと、雄介は小石を拾い上げ、水平線に向かって投げた。いわゆる水切りだ。

 

 

新しい小石を拾うと、雪風に声をかけてきた。

 

 

「7連チャン、出来ると思う?」

 

「え!?……む、ムリですよ……こんな強風で……」

 

 

戸惑う雪風を他所に、雄介は助走をつけて、勢いよく右腕を振り抜き、小石を飛ばした。

 

 

 

ピシャッ!ピシャ、ピシャ……

 

 

なんと、雄介の宣言通り、小石は7連続で水面を跳ねていった。

 

 

「わぁ………!」

 

あまりの凄さに、雪風は感嘆の声をあげた。

 

 

「信じて!必要の無いことなんて無いから!そして君にも、何かやるべきことがあると思う!提督さんも、きっとそれを楽しみに見守っていてくれてるよ!」

 

 

「…………」

 

 

雄介の言葉と笑顔に、雪風は俯く。

 

 

 

 

 

一方。

 

雄介と雪風の姿を発見したゼミルは、遥か上空でほくそ笑んでいた。

 

 

「クウガ………ガドグ・ゴギザ……ラデデ・ギソ………」

 

 

 

 

同じ頃。

 

一条はゼミルの行方を追いつつ、雄介のことも捜していた。

 

 

「何処に行った…五代雄介……!ヤツはこの上空だぞ……!」

 

 

そこに、吹雪から通信が入った。

 

『こちら吹雪!司令官、応答願います!』

 

 

「こちら一条!何かあったのか?」

 

 

『はい!誠に勝手ながら、私の独断で艦隊を編成・出撃し、深海棲艦の迎撃を開始しました!』

 

 

「なんだって……!?」

 

流石の一条も、これは予想外だった。

 

 

「ちなみに、編成は!?」

 

『はい!旗艦を私が、随伴艦を叢雲ちゃん、大井さん、加賀さんにお願いしました!』

 

 

そのハキハキとした応対に、一条は吹雪の意志の強さを感じ取った。

 

 

「……分かった!最後に確認するが、場所は?」

 

 

『はい!場所は季廻田海岸沖です!』

 

 

「なに………!?」

 

 

それは、ゼミルが居る範囲内だった。

 

 

「すぐ俺も現地に向かう!迎撃についても、無理はするな!!」

 

『り、了解!!』

 

 

最悪、高空狙撃鬼が深海棲艦と共謀して向かってくる場合も考えられる。

 

 

そうはさせまいと、一条はパトカーを飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

鎮守府近海 04:35 p.m.

 

 

勇ましく出撃した吹雪たちであったが、予想は大きく外れて、敵影を見つけられずに居た。

 

 

「敵、発見に至らず……ね」

 

加賀の呟きに、吹雪はガックリと肩を落とした。

 

 

「!」

 

その時、加賀は海岸の方に視線を向けた。

 

 

「雪風………それから、あれは………?」

 

 

すると、加賀の放っていた偵察機から通信が。

 

 

「…………そう、分かったわ」

 

「加賀さん?どうしたのよ?」

 

 

叢雲が尋ねると、加賀は答えた。

 

 

「信じられないかもしれないけど………私たちは、敵の罠に嵌められたみたい」

 

「えっ!?」

 

 

「提督たちが交戦したという《高空狙撃鬼》……ヤツの仕業ね」

 

 

「そ…、そんなっ!!」

 

 

愕然とする吹雪。

 

 

「……それが何?ここで立ち往生してる場合じゃないでしょう?吹雪!出撃の言い出しっぺなら、へこたれてないでシャキッとしなさいシャキッと!!」

 

 

そう言って喝を入れたのは大井だった。

 

 

「大井さん……」

 

 

「……ほら!時間は待っちゃくれないのよ?急いで提督たちと合流しなきゃ!!」

 

 

「叢雲ちゃん……。うん!そうだね!!」

 

 

叢雲からも励まされ、吹雪は立ち上がり、一条らとの合流に向かった。

 

 

 

 

 

季廻田海岸 04:41 p.m.

 

 

レーダーが捉えている、ゼミルの位置が変わらないことを不審に思った一条は、海岸に出向いていた。

 

 

「!」

 

 

砂浜を歩いている中、沖から吹雪たちの姿が見えてきた。

 

 

「吹雪……」

 

 

さらに、海岸の先には雪風と雄介の姿が。

 

 

「雪風………五代……?」

 

 

瞬間。

 

これらの状況から、一条は全てを理解した。

 

 

「まさか、ヤツの狙いは………!!」

 

 

「司令官!ご報告したいことが……って、司令官!?」

 

 

「ダメ……ダメよ!」

 

雪風たちの下へ走る一条を見て、大井は航行用の艤装を取り払い、一条を追いかける。

 

 

 

「一条さん!?」

 

「しれぇ?大井さんたちまで……!」

 

 

 

「この上空に、高空狙撃鬼がいる!!」

 

 

駆け寄りながら、一条は状況を伝えると、雪風を抱き抱え、直撃しないように庇う。

 

 

「狙いは五代――君だッ!!」

 

 

傍で聞いた雪風も、一条を追ってきた吹雪たちも、その話に驚愕した。

 

 

只でさえ敵の位置が判らないのに、しかも標的が雄介だと。

 

 

それは、揚陸侵艦への対抗手段を失うに等しかった。

 

 

(また………また、雪風は……誰かを死なせちゃう……)

 

 

雪風は悲しかった。

 

 

せっかく、自分に優しくしてくれた人がいるのに……

 

ほんのちょっとでも、自分を好きになれると思ったのに……また、誰かの命を奪ってしまう……。

 

 

雪風の目に、涙が溢れそうになった、その時。

 

 

 

 

雄介は両手を腹部にかざし、ベルト・アークルを呼び覚ました。

 

 

「えっ………」

 

加賀も、大井も、雪風も。

 

そこから起こった一連の出来事に、目を離せなかった。

 

 

 

ゆっくりと構える雄介の動き。

 

アークルの中央に収められた霊石アマダムの放つ、翡翠の輝きを。

 

 

 

「―――変身ッ!!」

 

 

 

 

穏やかな風から、徐々に力強さが増していき、嵐のような強風に包まれて、雄介は緑の戦士へと変身した。

 

 

 

「受け取れ!!」

 

 

変身した雄介に、一条は躊躇無く自身の銃を貸し与えた。

 

 

 

【邪悪なるものあらば その姿を彼方より知りて 疾風の如く 邪悪を射抜く戦士在り】

 

 

拳銃―――「射抜くもの」を基に《天翔ける天馬の弓》ペガサスボウガンを生成し、緑のクウガことクウガ・ペガサスフォームは完成する。

 

 

 

しかし。

 

今回はそれだけに留まらず。

 

クウガは、そこからさらに飛行甲板を模した武装を纏い、空母タイプへと超変身!

 

 

【邪悪なるものあらば その姿を彼方より知りて 暴風の如く 空の使いと共に 邪悪を射抜く戦士在り】

 

 

変身直後、クウガの周りに小型のゴウラムを模した艦載機《天馬》が出現。

 

 

優雅に舞う天馬の起こす疾風よりも荒々しく、敵を粉砕する暴風の戦士―――クウガ・テンペストフォームの誕生である。

 

 

 

「来るぞ!!」

 

 

 

ペガサスボウガンを手に、クウガは精神を研ぎ澄ませ、集中する。

 

 

「あ…あの、五代さんはなにを…」

 

「シッ!」

 

 

一条に質問しようとする吹雪を、加賀が制止。

 

 

 

 

静寂―――。

 

一条や吹雪たちに聴こえるのは、風が吹く音と波の音のみ。

 

 

 

 

 

―――と、その時。

 

 

―――ビィイイイッジジジジジジ……

 

 

 

常人では聴き取ることの出来ない、しかし忌々しい羽音を、クウガ・テンペストフォームの耳が捉えた。

 

 

「っ!」

 

 

遥か上空……高度数千メートルもの場所から、ゼミルはクウガ目がけて水弾を発射。

 

さらに、ついでと言わんばかりにボウガンを構え、吹雪たちに向けて矢を放った。

 

 

「フッ!」

 

 

ボウガンを基点にして、クウガは天馬を飛行甲板より発艦。

 

 

天馬は最大10機に増殖、ゼミルの放った矢を尽く相殺していく。

 

 

さらに、クウガはゼミルの放った水弾の弾道を読み、僅かな動作でこれを回避。

 

 

「ッ!?」

 

 

驚愕するゼミルをそのままに、流れるような動きでクウガはペガサスボウガンのレバーを引き絞り、エネルギーの込められた空気弾をチャージ。

 

 

 

そして

 

 

 

バギュンッ!!

 

 

引き金を引いて、必殺の狙撃・テンペストブラストペガサスを放った!

 

 

「グッ!ウゥ……ウアッ!?」

 

 

封印エネルギーの込められた弾丸を胸に受け、ゼミルは落下していく。

 

 

「グウウウッ!!ヌウウゥゥアアアアアアアッ!!」

 

 

悔しさと苦痛に声を荒げる中、ゼミルのベルトの装飾はパキンッと真っ二つに割れる。

 

 

そのまま海面に叩きつけられ……爆発。

 

 

「や……やった……?」

 

 

彼方に立ち昇る炎と煙が、撃破の成功を示していた。

 

 

 

 

 

戦闘が終わった頃。

 

すっかり陽は傾き、辺り一面夕焼けに染まっていた。

 

 

「はぁ〜〜〜………くったびれたぁ」

 

 

文字通り、体力気力共に激しく消耗する変身だった為、雄介はぐったりと砂浜に寝そべる。

 

 

「………」

 

 

加賀としては、ここで「だらしない」と注意をしたいところだが、先程のものを目の当たりにしただけに、強く言い出せなかった。

 

 

「五代……さん……」

 

 

「ん?……あ、君が大井ちゃん?良かったぁ…ケガは無い?」

 

 

「……っ………」

 

 

先程の変身然り、今の挨拶然り。

 

こんなお人好しが、ついさっきまで自分が殺そうとした人なのか……

 

「……ッ……う…うぅ……!」

 

過去の憎しみに囚われていた自分がみっともなくて

 

そんなことも知らず、無条件で誰かのために必死になれる雄介の姿が眩しくて…優しさが嬉しくて……

 

 

大井は泣き出してしまった。

 

 

一方、雪風も一条らと面向かっていた。

 

 

「しれぇ……私……」

 

「……無事で良かった」

 

 

謝ろうとした雪風に、一条が向けたのは安堵の言葉だった。

 

その優しさに、雪風も泣き出した。

 

 

「ごめんなさい………ごめ…なさい……っ」

 

 

泣きじゃくる雪風の頭を撫でながら、吹雪は微笑みかける。

 

 

 

「………明日は、よく晴れそうね」

 

水平線の彼方に煌めく夕陽を見ながら、加賀はそっと呟くのだった。

 

 

 

《戦果報告》―――

 

石ノ森艦隊

 

旗艦 吹雪

 

随伴艦 叢雲

    大井

    加賀

 

全艦、無傷。

 

 

鎮守府から一時行方不明になっていた雪風を捜索中、揚陸侵艦《高空狙撃鬼》を発見。

途中、出現した未確認生命体第4号が《空母4号》に変化。

狙撃によって、これを撃破。

 

 

判定―――《完全勝利》




クウガ編4章、これまでで最長になりました(;´Д`)


ひとまず、次回はまたキャラ紹介になります。


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アギト編 目醒めの章
57話 : 津上翔一という男について


本作の読者の一人でいらっしゃる、マサルさんのリクエストを受けまして、アギト編を展開致します!


覚醒めろ!その魂!!


一条 薫が石ノ森鎮守府に着任し、約1ヶ月が経った。

 

 

深海棲艦との戦いに加え、揚陸侵艦と名付けられた第2の未確認生命体の脅威がある中、《外道の巣窟》とまで呼ばれた石ノ森鎮守府は、それまでが嘘のように改善され、生まれ変わっていった。

 

 

「…………よし!出来たっ!」

 

工廠の一角、桃色の髪をなびかせながら、額の汗を拭う一人の艦娘が居た。

 

 

彼女の名は《明石》。

鎮守府にて、工具や工廠の設備を管理する役目を担っている艦娘である。

 

 

「造花ちゃん、単ちゃーん!そろそろ休憩しようかー!」

 

 

明石の掛け声に、妖精さんたちはキャワキャワと賑わう。

 

 

ちなみに、明石が行っていたのは、倉庫に仕舞っている装備一式の点検である。

 

 

「明石さん、整備班の皆さん。ご苦労さま」

 

そこに香取が労いに顔を出した。

 

 

「あ、香取さん!お疲れ様です!」

 

 

「新しく建造した艦娘のリストは出来ましたか?」

 

「ええ。えっと……あ、ハイ!どうぞ」

 

 

先週、一条が建造した艦娘の名簿を香取に渡す明石。

 

 

「一条提督は本っっっ当に真面目な人で助かりますよ。艦娘一人一人に気を配ってくれるし、遠征や演習も積極的ながら資材管理も抜かり無し!」

 

「他の鎮守府の提督からも一目置かれているのは、やはりその実績ゆえ、でしょうね。大淀さんも言ってましたけど、大本営では一条提督を《中将》に昇進しようという話が出ているとか」

 

 

ちなみに、一条の現階級は《准将》。着任歴を考えれば、異例のスピード出世である。

 

 

「そういえば、香取さんは《鴻上鎮守府》知ってます?あそこって……」

 

 

明石がそこまで言いかけたとき。

 

 

香取は脇腹を押さえながら俯いた。

 

 

「か……香取、さん?」

 

「お願い………その名前を出さないで。いえ、現地の提督や鎮守府が原因じゃないのよ?断じて……」

 

 

明らかに様子がおかしい香取を、明石は心配する。

 

 

「香取さん、ホントに大丈夫?なんなら、スポンサーの」

 

 

「ぅぐ!」

 

「こう――」

 

「ぁあっく!!?」

 

「がみ……って、ええ!?」

 

 

《鴻上》というワードに対し、香取はビクビクっと反応。

 

苦悶の表情で倒れてしまった。

 

 

「香取さん!?香取さあぁ―――んっ!!?」

 

 

 

香取が倒れた原因をまったく知らない明石は、ただ困惑し、救護班を呼ぶしかなかった………。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

都内に佇む、小洒落たレストラン。

 

店の名は《AGITΩ》。

 

 

若き店主が、一人で種類豊富な料理を提供。幅広い客層から愛され、オープン17周年を過ぎても尚、新メニュー作りに余念が無い。

 

 

とは言え。ここ最近、客数が急増したため、店主一人では回りきれなくなってきたのも事実。

 

 

そこで、一つ試してみることにした。

 

 

《バイト募集中!艦娘さんも妖精さんも大歓迎!!》という広告を出したのである。

 

 

「ちょっと、文面が露骨過ぎるかな?バイト希望の人、来てくれるといいなぁ……」

 

 

 

広告を出した、その2日後。

 

 

「此処……で、良いのよね」

 

 

右のサイドテールにした銀髪に、少し気の強そうな眼をした小柄な少女は、チラシと店を交互に見ながら確認する。

 

 

「あ…あのっ!先日、面接の予約をした者なんですけど!」

 

 

「ん?――あっ!いらっしゃい!面接、今日でしたね。えっと……《(かすみ)》ちゃん、で良かったですか?」

 

 

「はい、駆逐艦の霞です!」

 

「初めまして♪店長の津上翔一です!それじゃ、早速……と、その前に」

 

 

そう言って、翔一は湯呑2つと急須を持ってきて。

 

 

「どうぞ?熱いうちに、チャチャッと飲んで下さい♪」

 

 

お茶を淹れた。

 

 

「―――は?」

 

 

これが、艦娘《霞》と《津上翔一》と名乗る男の出逢いだった―――。




出そうかどうしようかと悩んだ、アギト編……


翔一くんと絡めるなら、この娘は外したくない!として、霞を登場させました。


ここから、どう物語が紡がれるのか………。


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58話 : 人気レストランの店主は完璧超人……そう思っていた瞬間が私にもありました。

期待を裏切るというのは、必ずしも悪い意味ばかりではない。


………いや、この場合はやはりマイナスな意味で捉えるべきなのかもしれない。


「どうぞ?」

 

 

津上翔一の営む、レストラン《AGITΩ》に面接を受けに来た艦娘・駆逐艦《霞》は困惑していた。

 

 

「えっと……」

 

 

当然と言えば当然である。

 

 

面接時に、お茶を差し入れる面接官など聞いたことが無い。

それも店長直々にというのだから尚更だ。

 

 

(どうぞって……ハイどうもって簡単に貰えるワケないじゃない!?私、面接を受けに来たのよ?ご飯を食べに来た客でも、顔見知りの友達でもないのよ!?)

 

 

……しかし。

 

「…もしかして、緑茶は苦手でしたか?」

 

 

まるで捨てられた仔犬のような顔でションボリとするのを見ると、飲まないといけない気にさせられる訳で。

 

 

「……い、いただきます……」

 

 

気まずい気持ちで手に取り、口をつけた緑茶は程よく冷めており、とても美味しかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

石ノ森鎮守府 執務室 10:58 a.m.

 

 

 

「〜〜〜♪」

 

つい先日までの鬱屈とした雰囲気は何処へやら。

雪風は、自身の愛用バッグを幸せそうに眺めていた。

 

 

「おっ?雪風ー!どしたの?そのバッグ」

 

「あ!島風ちゃん!見てください、コレ!ししょーから雪風へのプレゼント!ししょーとお揃いなんですっ!♪」

 

「ししょー?」

 

 

バッグには刺繍が入っており、よく見るとそれは『戦士(クウガ)』のマークだった。

 

「おぉっ!?いつの間にっ?」

 

「ししょーとの“約束”の印ですっ!」

 

 

サムズアップ。

 

 

その様子を、演習から戻ってきた吹雪や夕立らが見守っていた。

 

 

「雪風、すっかり元気っぽい?」

 

「ちょっと、元気過ぎを通り越して能天気になった気がしないでもないけど…ね」

 

「もぉ、叢雲ちゃん。今の雪風ちゃんは、これで良いんだよ♪」

 

 

そう言って微笑む吹雪に、北上が声をかけてきた。

 

 

「やっほ〜。演習お疲れ〜」

 

「あ、北上さん。今からポレポレ(お店)に?」

 

 

「ん。復帰したは良いけど、非番の時がやっぱり落ち着かなくってさ〜?おやっさんに頼んで、もっかいバイトさせてもらうことになったよー」

 

「―――あ、そーそー。しまぷーは任務に専念するから、店には戻らないみたい。その代わり……」

 

 

島風の代わりに募集した艦娘の名前を聞いて、吹雪たちは一瞬ポカンとしてしまった。

 

 

「………………え?」

 

 

 

 

レストランAGITΩ 11:01 a.m.

 

 

「―――はい♪じゃあ、以上で面接を終わります!面接の結果は後日お報せしますんで、その時はまた改めてよろしくお願いします!」

 

「は、はい……ありがとうございます…」

 

 

翔一の雰囲気も相まって、緊張し過ぎることはなかったが、翔一が持つ独特の雰囲気に調子を狂わされ、霞は疲れてしまった。

 

 

(……なんか、採用されなくても別に良い気がしてきた……)

 

 

 

少しばかりフラつきながらも、鎮守府にある寮を目指す霞。

 

 

―――しかし。

 

 

「…………」

 

 

その様子を、物陰から静かに観察する影があった。

 

 

「…………」

 

 

その影は、霞以外の人影が無いことを確認すると、右手で左胸を撫でるように下ろし、左人差し指と中指を立て、Zの字を書くような動作を取るのだった………。




アギト編も難易度が高いィィィっ!!!


目醒めろ、俺の文才っ!!


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59話 : 艦娘と大地の龍

難産シリーズ第2段、その名はアギト。


なぜ、自分で自分の首を締め上げるような行為をするのだ……ワタシ。


「…………」

 

 

(―――これは何?どういうこと……?)

 

 

「グルルル………」

 

 

艦娘・霞は、目の前で起こっている状況を理解しきれずに居た。

 

 

突然、豹が人の姿をしたような怪物が現れ、霞に襲いかかってきたのだ。

艤装を展開しようとしたが、今日は面接に行くだけだからと思い、持ってきていなかった。

 

「最悪だわ……こんな時に揚陸侵艦に襲われるなんて……!」

 

 

………しかし。

 

怪人の鋭い爪が、霞を傷つけることは無かった。

 

 

「…………?」

 

怪人は左手側―――つまり、霞の右手側に視線を移していたからだ。

 

 

―――そして、その先には。

 

 

提督や吹雪などから聞いていた《未確認生命体第4号》によく似た姿をした、大きな2本角を持つ金色の戦士がゆっくりと歩いてきたのである。

 

 

「な……なに……?」

 

 

困惑する霞と、戦士に対し威嚇する怪人。

 

 

すると、戦士は霞の前に立ち。

 

構え、怪人と対峙する形を取った。

 

 

「グルルル……!」

 

 

 

しばらくの間、睨み合いを続けた両者であったが、先に豹の怪人が動き、金色の戦士に向かって飛びかかった。

 

 

「フゥッ!!」

 

 

しかし。

 

「フン!ハッ!」

 

戦士は怪人の振るってきた右腕を左腕で防ぎ、すかさず正拳突きを怪人の鳩尾に打ち込む。

 

「グゥっ!?」

 

「ハッ!トァッ!」

 

 

その動きは、空手の演舞のように一切の乱れが無く、残心を取ることで敵に反撃の隙を与えないという洗練されたものだった。

 

 

「グルルル……ルオォッ!!」

 

 

悔しげに吠え、豹の怪人が突撃してくるが、戦士は慌てる様子も無く。

 

 

「ハァッ!!」

 

カウンターの回し蹴りを決め、怯ませた。

 

 

「グゥっ……ウウウ……!!」

 

 

分が悪いと判断したのか、怪人はその場から去った。

 

 

「あっ!?」

 

霞は驚き、戦士も後を追おうとしたが、怪人の脚は驚異的な速さであり、瞬く間に見えなくなってしまった。

 

 

「………」

 

「…助かった……?」

 

 

霞の様子を伺い、無事であると判断すると、戦士もその場を立ち去った。

 

 

 

「あ!ま、待って……ッ?」

 

 

呼び止めようとしたが、その背中から放たれる並々ならぬオーラに、霞は気圧されする。

 

 

(何だろう……初めて会った感じがしない………)

 

 

 

 

霞は、去り行く戦士の背中を見続けていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「フゥ…フゥ……ッグ、ウゥ……」

 

 

霞を助けた戦士から受けたダメージを残し、豹の怪人は脇腹を押さえながら町外れの雑木林に退避していた。

 

 

 

木に寄りかかると、怪人の頭上に『光の輪』が現れた。

 

 

すると、怪人の傷がみるみる消えていき、体力も回復したのか雄々しく吠えた。

 

 

「ウオオォォォッ!!」

 

 

光の輪が消えると、怪人は頷き、その場を軽やかに走り去る。

 

 

さらに……

 

その光景を目撃した者が居た。

 

 

「あわわわ……!青葉、見ちゃいました………!!」




アギト=サスペンスチックな謎が謎を呼ぶ展開。


そんな偏見の下、アギト編3話目をお贈り致しましたm(_ _;)m


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60話 : 警視庁鎮守府本部長の悩み

アギト、テレビ本編を最後まで見なかったからなぁ……

かなり無理矢理になりそう……ってこともお構い無しで進めていきます!


警視庁鎮守府 司令部 09:11 a.m.

 

 

「……ふぅ」

 

霞がレストランAGITΩのバイト面接を受けた帰り、不可思議な体験をしてから一夜明けた。

 

 

大量の書類に目を通していた、山県元帥は深く溜息を吐くと、ポキポキと首や肩を回した。

 

 

「はぁぁ……。我ながら、面倒な仕事を引き受けたもんだわい」

 

 

すると、そこへ元帥直属の秘書艦である艦娘が入室してきた。

 

 

「失礼します。提督、お茶をお持ちしました」

 

 

朱色の羽織に紺の袴、長い髪を結った大和撫子だった。

 

 

「おお、鳳翔(ほうしょう)。いつもすまんな」

 

 

軽空母《鳳翔》。

 

山県元帥の警官時代の同僚であった、故・新島忠宏(にいじまただひろ)の元秘書艦であり、現在は元帥の秘書艦兼元帥夫人である。

 

 

「だいぶお疲れのようですね……」

 

「まあな……。一条の指揮する石ノ森艦隊や、彼らと上手く連携を取っている現場の警官たち。そして……事件解決に最も貢献してくれている、第4号……。あとは、他の管轄区域の鎮守府幹部どもが、もう少し理解を深めてくれりゃあなあ………」

 

 

そう……

 

 

警視庁鎮守府を拠点に設置された、作戦司令部のメンバーの約半数が未だに艦娘を蔑視しており、山県の目が届かぬ所で道具扱いする状態が続いていたのである。

 

山県が独自に調査を進めた結果、そうした考えを持つ者の多くは艦娘に対して恐怖心を抱く者や、功績と名声目当ての者であり、総じて艦娘の軽視が背景にあった。

 

 

「秘書艦で、女房でもあるお前は勿論……部下である川内や利根にも苦労ばかりかけて、本当にすまないと思ってる。新島の……我が戦友の想いを受け継ぎ、人も艦娘も等しく、少しでも穏やかに暮らせる世の中にしようと、それなりの武勲を立てて、今の地位に滑り込んだは良いが……どうして人間てのぁ、権力を持つと化かし合うことしか出来なくなっちまうのかねえ」

 

 

面白味の無い遊びに対して愚痴るかのように、山県は呆れた様子で溜息を吐いた。

 

 

 

「………ああ、そうだ。時に、鳳翔」

 

「はい?」

 

 

「今度の演習についてなんだが……鴻上鎮守府にアポを取っておいちゃくれねえか?勿論、石ノ森の提督として、一条にも参加してもらうつもりだ」

 

「何か、企んでいらっしゃるようですね?」

 

 

そう指摘する鳳翔に対し、山県はニヤリと笑った。

 

 

「ハハハ……なあに。ちょいと小耳に挟んだ話なんだがな?()()鴻上鎮守府に、ネットニュースの配信会社から取材のオファーが来たんだと。そんで、他の鎮守府との演習なんかを見学させて欲しいって、申し出があったそうなんだよ」

 

 

「……なるほど。鎮守府間の情報共有、そして艦娘に対する認識改善のPRも織り込もうという訳ですね」

 

 

山県の話を聞いた鳳翔はクスクス笑う。

 

 

「かしこまりました。では、詳しい日程などを決めなくてはなりませんわね?“あなた”♪」

 

 

うんうんと山県も頷き、鳳翔にお代わりを注いでもらうと、くいっと緑茶を飲み干すのだった。

 

 

 

 

しかし。その翌日、警視庁鎮守府はまたも殺人事件の捜査に追われることとなってしまった。

 

 

―――《不可能犯罪》の発生である。




ちょっと変化球、警視庁鎮守府サイドのお話となってしまいました(^_^;)


次回、アギトメインに戻る予定であります!!


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61話 : 捜査開始、そして……

再就職に向けて、地元の職業訓練校に通い始めました。

更新は今まで以上に遅れると思いますが、何卒よろしくお願い致しますm(_ _)m


西暦2001年―――。

 

都内を中心に、人間には起こし得ない不気味な殺人事件が度々発生していた。

 

 

後に《不可能犯罪》と呼ばれることとなる、それらを起こしていた者たちを、警察は未確認生命体と異なる未知の存在としての意を込めて《アンノウン》と命名。

正体を暴くべく、捜査を開始した。

 

 

だが……

 

 

 

その正体はハッキリ言って、()()の手に負えるモノではなかった………。

 

 

 

 

 

鴻上鎮守府 執務室 09:14 a.m.

 

 

提督として、まだ駆け出しの新人である映司は、朝刊に目を通しながら哀しい顔をしていた。

 

 

「酷い………まだ子供じゃないか………ッ」

 

 

被害者は小学生の少年で、遺体は発見された当初、樹の(ウロ)の中から片腕を出した状態で押し込められていたという。

 

 

「提督……あまり自分を責めないで下さい」

 

 

今朝のスケジュールを確認し終えた五月雨が、映司を慰める。

 

 

そこに、横で間宮アイスを頬張っていたアンクが割り込んできた。

 

 

「無駄だ。今のそいつには、どんな慰めの言葉も聞こえちゃいない。人間が一人死んだ………その事実だけで、頭ん中は一杯だ」

 

「アンクさん………」

 

 

 

一瞬の沈黙の後。

 

 

「―――ああっ!?また勝手に間宮券を使いましたねッ!!隼鷹さんや香取さんから、あれほど注意されていたのに!!」

 

「ウルサイ!!文句なら間宮(アイツ)に言えッ!!」

 

「そんな無茶苦茶なっ!!」

 

 

この口喧嘩で、先程までの重く沈んだ空気は吹き飛んでしまった。

 

 

……と、そこにノックが。

 

「あ…はーい!どうぞー?」

 

 

映司が呼ぶと、「失礼します!」というハキハキした声が聞こえてきた。

 

 

「朝潮型1番艦、朝潮です!提督、どうぞよろしくお願い致します!!」

 

 

「朝潮ちゃん、だね。こちらこそよろしく♪」

 

 

気付けば、映司に少しだけ笑顔が戻っていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

足立区内 10:18 a.m.

 

 

揚陸侵艦と別の殺人事件と上層部が判断したのか、現場には一条の姿は無かった。

 

 

警視庁鎮守府のメンバーの一人にして、捜査一課の刑事である後藤慎太郎は、過去の経験を活かして隅々まで調べていた。

 

 

「後藤さん、何か見つかりました?」

 

 

声をかけてきたのは、同じ部所の先輩であり、17年前に起こった海難事故《あかつき号事件》の英雄と称されている刑事・氷川誠であった。

 

 

「氷川さん。……いいえ。残念ながら、まだ……」

 

 

同じ警察官として、それぞれの道で戦い続けている氷川や一条といった、尊敬すべき先輩たちに少しでも追いつきたいと思いながら、後藤は過去の反省を忘れることなく己を鎮める。

 

 

「……それにしても、何故また不可能犯罪が……」

 

後藤の疑問に、氷川も頷く。

 

 

「ほんとに……揚陸侵艦のことと言い、先日の怪物騒動と言い。原因と呼べそうなものも思い当たりませんし……」

 

 

二人して唸っていると、一人の刑事が声を掛けてきた。

 

 

「流石の《あかつき号の英雄》や元・鴻上ファウンデーション会長の忠臣も、不可能犯罪相手では肩無しという訳ですか」

 

 

「北條さん……」

 

 

捜査一課所属のエリート刑事・北條 透。

 

不可能犯罪及びアンノウン出現が頻発していた当時、氷川やその仲間をやたら敵視し、顔を合わせる度に嫌味やら妨害工作をしてきた男である。

 

 

「上層部は、今回の件をアンノウンの仕業と見て捜査を進めるようです。そうなれば……G3システムの再起動は勿論、G5ユニットの実戦投入もされるでしょうね。状況によっては《G7システム》も使うことになる、かも……」

 

 

北條が氷川や後藤に話をしている中。

 

 

青葉に引っ張られるようにして、真司は事件現場にやってきた。

 

 

「先輩、早く早く!あっ、カメラ落とさないで下さいよ?」

 

「あ…あのさ……青葉ちゃん?荷物を持つのは構わないとして……。先頭に立つのって、普通逆じゃね?」

 

 

先の一件以降、弱みを握られた(…と、少なくとも本人はそう感じている)真司は、正式に青葉とペアを組むことになった。

 

 

そして、今回がペアを組んで初の取材となったのだが……

 

 

 

「ゴメンね、霞ちゃん?面接が終わって、通知もまだなのに買い物に付き合わせちゃって」

 

「良いわよ、どうせこれが最後の縁だろうし」

 

 

「ん?何か言った?」

 

「な、なんでもないわよっ!」

 

 

途中、向かい側から来る、買い物帰りの男女―――翔一と霞の二人とすれ違う。

 

 

 

「―――!」

 

「………?」

 

 

この時はまだ、翔一も真司も、互いに関わり合い、後に起こる大きな流れに巻き込まれていくことを知らない………。




かなり間を空けてしまいました。申し訳ありません!m(_ _;)m


ペースは遅くなってしまいますが、またボチボチ進めていきます!


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62話 : 鏡の竜騎士、(ふね)の戦乙女と共に立つ。

季節外れのインフルエンザにより、オデノガラダハボドボドダァ!!


でも、負けずに更新していきますので応援よろしくお願いしますm(_ _)m


警視庁鎮守府 資料室 10:39 a.m.

 

 

合同捜査本部からの指示とはいえ、現場から外されたことに若干の不満を抱いていた一条は、鎮守府で待機してもらっていた吹雪と長門、そして長門の姉妹艦娘である《陸奥》の協力の下、《不可能犯罪》に関する記録を一から見返していた。

 

 

「うぅぅ……。司令官〜、私たちなんでファイルの山と格闘してるんですかぁ?」

 

個人的に艦娘としての仕事から引き離されている様に感じていた吹雪は、そう嘆く。

 

 

「深海棲艦に対する警戒は、由良くんを旗艦とした警備隊に頼んでいる。緊急の際には連絡をするよう伝えてあるから、心配するな」

 

「でも、揚陸侵艦の場合はどうなんですかぁ!?」

 

 

懸命に食い下がる吹雪を、陸奥が宥める。

 

「吹雪ちゃん。提督には提督の考えがあるのよ。あんまり質問攻めしちゃったら、せっかくの考えがまとまらないかもしれないわ」

 

「陸奥さん〜……」

 

 

すると……

 

 

「………これだ!」

 

 

一条が見つけた、1枚の写真。

 

 

画質の荒い画像の中、怪人と思しき複数の影と戦う、もう一つの影。

 

それは、クウガによく似た、金の2本角を持つ戦士の姿だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ORE ジャーナル 10:44 a.m.

 

 

「う〜〜ん……」

 

「すいません、先輩……青葉が前に出過ぎちゃったばっかりに………」

 

 

犯行現場の写真を撮り、取材と併せて独自に調査を……と言うのが青葉の狙いだったのだが、あと一歩のところで警官―――それも杉田刑事に見つかってしまった。

 

 

「見たところ、まだ新米のようだが……取材(そういうこと)は、こちらでもある程度調べが付いた後にしてもらいたい」

 

 

悪いな、と現場から締め出されてしまった。

 

 

「くっそ〜……これじゃ、また編集長たちから文句言われちまうよぉ……」

 

「あと、桃井先輩からのお灸もキツいですね」

 

苦笑いしながら、真司の嘆きを聞いてやる青葉。

 

 

 

―――と、その時。

 

「っ!」

 

「先輩!この音……」

 

 

カードデッキを持つ者、そして現時点では青葉だけが聴き取ることの出来る、ミラーワールドから響く《戦いの音》。

 

 

「………急ごう!」

 

「はい!!」

 

 

 

人目の付かない、オフィスビルのショーウィンドウ。

 

真司と青葉は二人、そこに全身を映すように並び立つ。

 

 

「そうだ。今更だけど……青葉ちゃん、艤装はどうやって仕舞ってるの?」

 

「それが……初めて向こうから帰った後、先輩のと似た様なカードケースに……」

 

 

そう言いながら、藤色をベースに錨のマークを刻んだデッキケースを取り出す。

 

 

「艦娘の艤装が、ミラーワールドに適応化した……ってことか?」

 

 

疑問は尽きないが、ショーウィンドウの向こうでは、昔と比べ物にならないくらい大人しくなったドラグレッダーが、まだかまだかと宙を舞いながら待ちかねている。

 

 

真司と青葉が、左手に持ったカードデッキをガラス面にかざすと、カードデッキのホルダーでもある変身ベルト・Vバックルが映し出され、それは反転し、真司と青葉それぞれの腰に装着される。

 

 

 

左手を腰に添え、右腕を胸の前で真っ直ぐに伸ばす真司。

 

同じく左手を腰に添えて、右手は親指と人差し指を立ててガラス面をびしっと指差す青葉。

 

 

「変身!!」

 

「艤装、展開!!」

 

 

カードデッキをVバックルにセットすると、青葉は艤装を装着。真司は三方向から現れた鏡像を纏い、龍騎に変身した。

 

 

「青葉、取材…じゃなかった、出撃しますっ!」

 

「っしゃあ!!」

 

 

青葉の掛け声に合わせるように、龍騎も喝を入れて、二人はガラス面の中へダイブ。

 

ミラーワールドと現実世界を繋ぐ道《ディメンションホール》を渡るための次元輸送機・ライドシューターに乗り込み、龍騎は青葉と並走するのだった。




アギト編なのに……アギトの出番を最高のタイミングにしたいだけなのに、ちゃっかり龍騎が出張って来ちゃったァ(;´Д`)


アギト、そしてG3の活躍を期待している皆様!ごめんなさい、ごめんなさい!!


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63話 : 堅物な男、氷川誠

インフルエンザはどうにか収まってきました……

まだまだスローペースですが、頑張って進めて参ります。


レストランAGITΩ 11:00 a.m.

 

 

「ありがとうございました〜!」

 

客が帰った後、片付けをしながら翔一は霞の採用について考えていた。

 

 

(霞ちゃん……昨日はちょっと様子がおかしかったな。面接を受けたは良いけど、気が変わっちゃった……とか?)

 

 

頑張り屋さんという印象を持っただけに、翔一としては是非とも採用したい。

 

 

「お茶だけじゃなくて、ウチで出してるデザートも試食してもらえば良かったかなぁ……」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

警視庁鎮守府 11:09 a.m.

 

 

不可能犯罪の現場検証が一段落した為、慎太郎と氷川は本庁に戻ってきた。

 

 

「アンノウンか………。資料は一通り目を通しているので、(おおよ)その事は把握していますが、氷川さんとしてはどう思われますか?」

 

 

慎太郎の質問に、氷川はこう返す。

 

「正直言って、答えようがありません……。17年前、《エル》と呼ばれる上位のアンノウンが倒れたのを最後に、アンノウン出現は無くなったと思っていましたから………」

 

 

そこへ、演習を終えたばかりの電、軽巡洋艦「川内(せんだい)」。そして重巡洋艦「利根(とね)」が歩いてきた。

 

 

「あっ、氷川くん!」

 

「……川内さん」

 

 

川内から声を掛けられた時、氷川は少しばかり眉を(ひそ)める。

 

 

「遠征任務、おつかれ」

 

「後藤さんたちもお疲れ様なのです!」

 

 

後藤からの労いに、電は敬礼で返す。

 

 

「大淀から話は聞いておる。ふかのー犯罪とやらが発生したそうじゃな?我輩たちに出来ることがあれば、遠慮なく言ってくれ!」

 

若干古風な喋りで、利根はポンッと胸を叩く。

 

 

「ありがとうございます、利根さん。ですが―――」

 

「なになに?夜戦!?♪」

 

 

それに対し、氷川が応えようとするが、横から川内が割り込み「夜戦」の有無を問い質そうとする。

 

 

このやり取りに対し、氷川はハッキリ言ってウンザリしていた。

 

そのため……

 

 

「川内さん……何度も言いましたよね?僕たちは捜査一課の刑事であって、鎮守府の職員ではありません!そんなに夜戦の話がしたいなら、石ノ森鎮守府ですればいいでしょう?」

 

 

唯でさえ不器用な上に、女性の扱いにも慣れていないことが災いして、少々乱暴な口調になってしまった。

 

 

しかし。

 

そんなことどこ吹く風といった様子で、川内はこう返す。

 

 

「あれ?言ってなかったっけ?私、山県元帥直属の艦娘だよ?」

 

 

「―――は??」

 

「我輩と電は一条提督の部下だが、川内は確かに元帥の部下だぞ?」

 

 

「あと……本庁も鎮守府として正式に認可されて、運営しているのです……」

 

 

「………」

 

信じられないといった様子の顔で後藤を見るが

 

 

「……ええ。本庁は《警視庁鎮守府》を設置し、現在は我々を含めた捜査一課の刑事たちも在籍している形となってます」

 

 

後藤の言葉に、氷川は僅かな間、茫然としていた。




今回は氷川くんにスポットを当てた形となりました。


不可能犯罪を深めるために必要なモブのキャラ付が難しい……(;´Д`)


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64話 : 超常犯罪鎮圧部隊《G5ユニット》

UAが30000台を越え、ここまで応援して頂けて、感謝してもしきれません……(`;ω;´)



ZEROさん 月光閃火さん 月下 光さん G-3さん guyoさん (玄)さん SERAPHIMさん 牙王さん なすんさん バソキヤさん 幻想の投影物さん 笑う男さん ありあはんさん sr40さん trombe5さん mukkyさん ゼルガーさん ゴウラム00さん ア-クさん ぱ~るるさん Monochromeさん ジャッキー007さん コウタさん ナモナモさん あんこ入りチョコさん 南部赤松さん 十刃さん かっこうギルスさん アラリスさん 涙と三日月の悪魔さん chinkさん 不知火零式さん 侑輝さん ドンドンチンさん 物数寄のほねさん 白影 涅槃さん アルケオルニスさん Agent Sさん 博正さん jinkiさん 銀時事さん UBW好きさん 廣豚魔王さん ナシナシさん 神楽しおんさん 鹿島 雄太郎さん 赤土さん 茨木翡翠さん リリカさん 青風さん 

バーニングゴジラさん Nakajiさん 5N0Wさん 鯖男さん 楓のさん 冥府さん スーパー1さん 仮面罵倒会館さん 働かない車さん 神崎零さん ラオシャンさん ショー0810さん 椎音さん  弟切社長さん 
炎龍 剣心さん HIDE10さん taku0zさん ライブラGさん サイドショー・ボブさん キン肉ドライバーさん クラストロさん ロンドロンドさん 面倒いぃさん 禍禍冴月さん 和蒼さん ニャルるんさん ロマンスさん 鎧武さん カチドキさん クルミ割りフレンズさん よなみーさん 水無月 ロックシップさん アッティラさん はたおりべさん 俺、参上さん 新生仮面ライダーさん アベンジさん ブライト博士さん 
宵の兎さん 冷めた月さん gesoさん 皆川さん 雅樹さん 555さん かっささん 六道駁さん 一読者さん ティグレさん CRAZYBOYさん Ki26miさん karinさん イリヤ信者さん コスモス@騎空士さん 

紳士えもえもさん 武琉さん たまのひさん カワリュウさん カネコアランさん ZENOSさん 南之魁さん 角さんさん 欲望の思うままにさん AKNMさん バンチョウ 刀さん マサルさん エグゼキューターさん cocklobinさん AgitΩ-Zさん ユウキチさん lark30さん 紫雲涼斗さん とらい1192さん クロトダンさん ガルドさん Takami提督さん 蒼星のIS使いさん 雪見DAIFUKUさん ken13954さん 古代の機械衛兵さん horou02さん スパイ・ダーマさん ドランレリウスさん ヴァーミリオンY.Aさん げんとくんさん ガディキンさん MensGohanさん 大図書館の鍵さん k-34さん 六本脚のジャイアンSさん ナビサエクさん 9eyesさん ユユユsummerGさん ラウンド2さん otojiroさん ファングジョーカーエクストリームさん サンバガラスさん 軍曹さんさん 司っちさん ハッピさん 漆黒のFD3Sさん 風見堂八雲さん カエル先生さん 釣りバカ野郎さん 

ロイミュード0さん 漆黒雷帝さん 焼きたておにぎりさん

以上、お気に入り登録して下さった153名の先輩方と非公開の18名の皆さん!

本当に、本当にありがとうございます!!!


これからも夏夜月怪像をよろしくお願い致します!m(_ _)m


石ノ森鎮守府 寮部屋 11:12 a.m.

 

 

鎮守府内にある、艦娘の寮。

 

霞はそこの一室で、姉妹艦の「(あられ)」と暮らしていた。

 

「霞姉さん……。封筒、届いてた……」

 

 

郵便受けに入っていた封筒を霞に渡す霰。

 

 

「あ…ありがとう、霰……」

 

 

案の定、差出人はあのレストランのポケポケ店主だ。

 

 

面接結果は―――『採用』。

 

勤務の開始をいつにするかなどといった、細かいことを打ち合わせしたい旨の内容が添えられていた。

 

 

 

「バイト………採用、されたの…?」

 

物静かな様子で、淡々と尋ねる霰に、霞は複雑そうな表情を見せる。

 

 

「霰……。今度のバイトの事だけど、私……やっぱり取り消してもらおうかなって思う」

 

「えっ……」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

警視庁鎮守府 合同捜査本部 11:20 a.m.

 

 

山県元帥に呼び出された一条、氷川、後藤の3名。

 

山県の口から発せられた指令は、耳を疑うものだった。

 

 

 

 

「《G5ユニット》の実戦投入…!?」

 

 

驚きの声をあげたのは一条。

 

 

《G5ユニット》―――。

 

 

『未確認生命体第4号』の戦闘データを元に企画・開発が進められた《Generationsシリーズ》通称《Gシリーズ》。

 

 

試作機《G1》非装着型の《G2》を経て、実用化に成功したのが第3世代《G3》とその強化改良型《G3−X》であり、さらなる改良を重ね、《G4》という最大の問題点をクリアして量産化を実現したのが《G5ユニット》なのである。

 

 

上層部の意向は、旧型のG3システムでは遅れを取ったが、新世代機のG5部隊ならばアンノウン1体程度なら十分対抗出来るだろうという希望的観測と、G5ユニットの稼動テストを見たいという、悪く言えば子供染みた理由だった。

 

 

「そういう事だから、今回のアンノウン対処については艦隊の出撃は無いものと思ってくれ」

 

 

G3が旧型だからアンノウンに勝てなかった―――その言い草に、氷川は不満を申し立てようとしたが。

 

それよりも先に動いたのは、やはり一条であった。

 

 

 

「本庁がアンノウンに対し、どういった認識を持っているのかは資料を通して大体は理解しました。しかし……彼らが、彼らだけにしか通じない道理を以て、人を殺し続けた事実は変わりません!今回もそうです。彼らの行動原理が不明な以上、楽観視することは危険です!」

 

 

「……一条中将。それは組織の意向に従わないということか?」

 

 

山県の目付きが鋭くなるも、一条は臆すること無く意見する。

 

 

「私がお聞きしたいのは、元帥のお考えです!」

 

 

 

一条の胆の据わった言動に、氷川は勿論、後藤も驚いていた。

 

 

『鬼』とあだ名される山県元帥の睨みに臆することなく立ち向かえる警官は勿論、軍人さえも居ないかもしれない。

 

 

「……………。クッ……カッカッカ!やはり、オメェは面白い男だなァ?一条」

 

 

ところが、山県は急に笑いだし。

 

何事と、氷川は目を丸くした。

 

 

「型破りな男だとは思っちゃあいたが、まさかここまで怖えモノ知らずな奴だとはな?ハッハッハ!後藤、お前が尊敬する警官の名前に真っ先に挙がる訳だな?」

 

 

ケラケラと笑う山県の言葉に「恐縮です……」と頭を下げる後藤。

 

 

「お前たちの考えは分かった。お前たちの今後の行動については、俺が責任を持つ!だが、急な指示を出したときにはきちんと従ってもらうぞ?」

 

 

「………はい」

 

 

型破りなのは果たしてどちらだ……。

 

 

氷川は勿論、後藤も胸の内でそう呟くのであった。




しばらく休んでいたこともあって、かなりスカスカな感じに(;´Д`)


皆さん、こんな夏夜月ですが今後も応援よろしくお願いします!!


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65話 : 人は()れを使徒と呼んだ

プリーズするものはアテンションですが、本作は二次創作という名のフィクションです。


今後も具だくさんにしようとしてグダグダになること間違いなしですが、よろしくお願いします。


文京区内 ポレポレ 12:00 p.m.

 

 

平日ということもあってか、静かな店内。

 

 

玉三郎と雄介、北上。そして、島風と入れ替わりに入った大井は少しばかり暇そうに過ごしていた。

 

 

そんな中、新聞を見ていた玉三郎はポツリと呟いた。

 

 

「へえ〜……。警視庁秘蔵の、対未確認用の特殊部隊を配備するのかぁ」

 

 

その言葉に、雄介たちも反応する。

 

 

「マスター、それって今日の朝刊ですか?」

 

「ん?おお…なんだ、大井っちも興味あるのか?いやね…結構昔になるんだけどさ?警察が、あの4号をモデルにした秘密兵器を開発した……なんて噂が流れた時期があったんだよ。まあ、それはホントだったんだけどね。たしか……()()()()に対抗するために相当頑張ってたって話だよ、ウン」

 

 

「…………」

 

「おやっさん………まあいいや」

 

 

玉三郎のおとぼけに、北上や大井はただ黙り込むしかなかった。

 

 

と、そこに電話が鳴ったので、雄介が出る。

 

 

「ハイ!オリエンタルな味と………あ、一条さん!」

 

 

 

 

「揚陸侵艦ではないが、アンノウンという未確認生命体の仕業と思われる殺人事件が発生した!場所は池袋だ!!」

 

 

「池袋ですね?分かりました!」

 

 

通話を終えると、雄介はエプロンを取って外へ飛び出す。

 

 

「おい、雄介!?」

 

 

玉三郎が呼び止める間もなく、雄介は行ってしまった。

 

 

「………ん?大井っちも!?」

 

 

「みたいだねえ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一条と合流すべく、雄介はドルフィンチェイサーを走らせていた。

 

 

「大井ちゃん、良かったの?北上ちゃんだけ置いてきた風になっちゃったけど……」

 

 

バイクの運転中なので、振り向かぬまま後部に乗っている大井に問いかける雄介。

 

 

「バイクに3人乗りが出来ない以上、私と北上さんのどちらかが残ることになるのは分かり切っていたことでしょ?でも、私はまだ店に入って日が浅いですし……自分で言うのもアレですけど、結構人見知りですから」

 

 

そこまで言って、最後に大井は少し声を抑えて「まぁ……北上さんと五代さんのどちらを取るかって問われたら、両方を取りたいのが本音なんですけど……」と呟いた。

 

 

―――と、その時。

 

 

「ッ!五代さん、危ない!!」

 

 

前方……遥か上空から、“何か”が雄介たちに向かって突っ込んでくるのが見えた。

 

 

「!!?」

 

 

大井の呼びかけで急ブレーキをかけ、ハンドルを切ったことにより、謎の影との衝突はギリギリのところで回避出来た。

 

 

しかし、突っ込んできた謎の影はそのまま過ぎ去ってしまったのか。

 

姿を確認することは出来なかった。

 

 

「……何だったんだ?今の……」

 

 

「ひょっとして………提督からの報せと、何か関係が?」

 

「たぶん……。とりあえず、急いで一条さんたちと合流しよ。長門さんや吹雪ちゃんたちも来てるかもしれないし」

 

 

揚陸侵艦ともグロンギとも違う、不気味な感覚を拭いきれぬまま、雄介たちは一条たちとの合流を急ぐのだった。

 

 

 

 

―――自分たちを鋭い眼光で睨みつける、黒い影に気付かぬまま。

 

 

()()()………」

 

カラスのような姿をした不気味な影は、雄介の後ろ姿を見てそう呟くのだった………。




アギト編、何でこんなに難しいんだああぁぁぁっ!!!


こんなことで、ライダーを愛する者と名乗っていいのかァァ!!?


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66話 : 超越生命体(アンノウン)未確認生命体(グロンギ)の違いとは何か

長らくお待たせしました。


アギト編第1章、盛り上げて参りますッ!!


雄介と大井が一条と合流しに向かっていた頃。

 

 

翔一の下に霞が来店した。

 

 

「やあ。ハガキは届きましたか?」

 

「ええ……届いたし、中身も読んだわ」

 

 

霞の様子に、翔一は不思議そうな顔をする。

 

 

「……何かありました?」

 

 

翔一の質問に、意を決した霞は顔を上げて宣言した。

 

 

 

「あの……。採用してもらったばかりなのに、勝手なことを言うけど……バイトの件、採用を取り消して下さい!」

 

 

「…………」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

池袋 12:16 p.m.

 

 

「一条さん!」

 

「すみません、提督。遅くなりました」

 

 

謝罪する雄介と大井に、一条は気にするなと言葉をかける。

 

「不可能犯罪って聞きましたけど……被害者は、どの様な?」

 

 

尋ねる雄介に、一条は答える。

 

 

「遺体の状態や現場の状況を簡潔に説明すると………首の骨を折られたことによる窒息死の後、街路樹の虚の中に押し込められていた」

 

 

「深海棲艦は勿論ですけど……揚陸侵艦の犯行でも例の無い手口ですね」

 

 

一条の説明を聞きながら、大井も驚きを隠せない。

 

 

「―――そうだわ!提督、私たちも此処へ来る途中、奇怪な事故に遭いかけたんです!」

 

 

「なんだって……!?」

 

「そうなんですよ!バイクを走らせてたら、前の方からこう…ギュンッ!!と突っ込んできて……。まぁ、ギリギリ避けられたんですけど」

 

「…そうか……」

 

 

雄介の言葉に安堵する一条。

 

 

と、ここで吹雪が疑問を提示した。

 

 

「……あれ?司令官……五代さんたちが遭遇した、その怪現象………資料で見た不可能犯罪の一つと似てません?」

 

 

「!」

 

その一言に、一条や長門、陸奥もハッとなる。

 

 

「言われてみれば………」

 

「《高速で突っ込んできた、謎の塊に撥ね飛ばされたことによる粉砕骨折》………!資料にある事件と内容がほぼ一致している!」

 

 

ここで、雄介が改めて口を挟む。

 

「じゃあ………今回の事件や事故が、どちらもアンノウンの仕業だとしたら………」

 

 

「アンノウンは、なんで人を襲うんですかね?」

 

 

 

未確認生命体ことグロンギは、自分たちの中で取り決めたルールに基き、人間を標的とした殺人ゲームを行うため、『プレイヤー』以外の者たちが手を出すことはほとんど無かった。

 

 

しかし……

 

 

アンノウンに関しては、単独による犯行もあれば、複数で犯行に及ぶケースもあり、未確認以上に目的や意図が読めない。

 

 

「俺たちも、その点についてはまだ答えを出せていないんだ………」

 

「提督にも、手がかりが掴めない……と」

 

 

一条の言葉に対し、大井も不安げに呟く。

 

 

「誰か、一緒に考えてくれる人は居ませんかね……」

 

 

雄介がそう呟いた時。

 

 

「失礼します……一条さん、それから艦娘の皆さん。そろそろ対策会議の時間ですので、会議室の方へ………」

 

 

 

アンノウン事件解決に貢献した、堅物な刑事の氷川誠が顔を出した。

 

 

「氷川さん……」

 

「………?一条さん、そちらの方は?」

 

 

「あ…こんにちは♪」

 

 

これが、《2000の技を持つ男》と《いかなる戦いからも逃げない男》の出会いであった…………。




どうしよう……何か、考えているシナリオを書こうとする度に違うスポットが文面に表れるぅ……(;´Д`)


アギトを、はよ活躍させたいッ!!


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67話 : 艦娘が人並みの幸せを望むことは許されないのか

平成が終わり、時代は令和へ………。


令和最初の年に、平成初期の仮面ライダーたちが活躍する!!


「………何ですか?コレ」

 

 

初めて見る男―――五代雄介から名刺を渡された、氷川誠の第一声がそれだった。

 

 

「何って……名刺ですけど?」

 

 

「それは分かります!僕が聞きたいのは、名刺に書いてある奇妙な文句です!」

 

 

雄介のキョトンとした顔と返答に、氷川は思わずムキになってしまう。

 

 

「そんなの、五代さんの肩書に決まってるじゃないですか」

 

「……なんで大井さんが代わりに答えてるんですか?」

 

 

氷川に対して冷たい態度を取る大井に、吹雪は(もっと)もな質問をする。

 

 

「……別に良いじゃない、それくらい」

 

 

何故か膨れ面になる大井に、吹雪も雄介も首を傾げるのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

レストランAGITΩを後にして、霞は独り帰路に着いていた。

 

 

「これで良いのよ……うん、これで良い……」

 

 

バイトの採用をして貰えたにも関わらず、霞は取り消しを要求した。

 

それに対し、店長である津上翔一はにこやかに微笑んで、ある言葉をかけて霞を送り出してくれた。

 

 

その言葉が

 

 

ずっと霞の胸に響いて

 

 

「…………っ……あー、もうっ!!」

 

 

自分で決めた事の筈なのに、「これで良かったのか」と迷いが生まれていた。

 

 

「何なのよ……艦娘としての務めを優先するだけなんだから、迷う必要なんて無いじゃないっ!!」

 

 

他でもない、自分自身に苛立ちの声をぶつける霞。

 

 

 

―――いつもこうだ。

 

 

自他問わず、霞はいつも何かに苛立ち、不満を抱えていた。

 

姉妹たちの優しさから生まれる、甘さに対しても勿論だが、それ以上に自分自身の脆さや非力さ、そして弱さに苛立っていた。

 

 

一条が着任するまで、霞は「役立たず」「口先だけのガラクタ」と言われながら役目を務めてきた。

 

 

(偉そうな口を叩いといて、無能なのはどっちだって話よ……まったく!)

 

 

姉妹たちが責められ、傷つき、汚されるくらいなら、全て自分のせいにすれば良い………

 

 

元々、思ったことはハッキリと口に出す性分なので、結果、姉妹である朝潮たちに被害が及ぶことは無く、引き際も弁えていたので、霞自身も過剰な暴力を振るわれることは無かった。

 

 

そして、前任の提督が追放され。

 

 

一条提督が着任した。

 

(悪い提督じゃないのは分かるけど………今までがヒドかったせいか、落ち着かないのよね………)

 

 

 

 

石ノ森鎮守府 01:31 p.m.

 

 

雄介らと一旦別れた一条は、すっかり綺麗になった執務室へと戻ってきた。

 

 

「はーい、司令官!おかえりなさい!!」

 

 

溌溂(はつらつ)とした声で出迎えたのは、電に似た顔立ちと制服姿の、八重歯がチャーミングな駆逐艦「(いかずち)」。

 

 

ザビューの事件のすぐ後に発生した、揚陸侵艦の事件にて艦隊に参加。その際、雄介と出会い、クウガの秘密を知った艦娘の一人である。

 

 

 

「大淀さんから聞いたわ。今度の怪事件、揚陸侵艦とは別の怪物が犯人らしいじゃない?」

 

「流石……情報の聞きつけが早いな、君は」

 

 

「フフン♪もーっと私に頼っていいんだからね?」

 

 

「………そう言えば、霞くんはまだ戻っていないのか?今日は用事があるからと、外出許可を出していた筈だが……」

 

 

一条が尋ねた、その時。

 

 

「提督!提督、大変です!!」

 

 

明石が執務室に飛び込んできた。

 

 

「どうした!」

 

「先程、霞ちゃんから救難信号が……!」

 

 

「通信を取ろうとしたんですが、その直後………信号が、途絶えました………!!!」




艦娘は人の姿をしている……

ならば人か?

艦娘は人ならざる力を持つ……

ならば兵器か?


人は、己の内に秘めた無限の可能性を形にすることが出来る。


ならば、人とは何なのか………?


目醒めろ、その魂!!


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68話 : 人を裁く者と人ならざるものを裁くモノ

アギト編第1章も、大詰めに近付いて参りました!


68話目、行きます!!



警視庁鎮守府 02:11 p.m.

 

 

山県元帥より、独自の行動権を許された一条、後藤、氷川の3名。

 

 

鎮守府へ戻った一条を見送って、後藤と氷川は今後の課題についてどう対処すべきかを話し合っていた。

 

 

「そう言えば………元帥も仰っていましたが、今度一条さんの鎮守府と鴻上鎮守府で演習を行うそうですね」

 

 

「ええ。そこの提督については、自分もよく知る人物ですので一条さんたちの相手としても申し分無いかと」

 

 

と、そこへ一人の駆逐艦娘が駆け寄ってきた。

 

 

「後藤さん、氷川さん〜!」

 

「どうしました?綾波さん」

 

 

氷川に尋ねられた綾波は、息を切らしながら報告する。

 

 

「き…緊急事態です!鎮守府に帰投していた霞ちゃんが……霞ちゃんの通信が途絶えたって……!!」

 

 

「なに………!?」

 

「なんですって!?」

 

 

これは只事ではないと、氷川も後藤も走り出す。

 

 

 

 

同じ頃。

 

 

レストランAGITΩの厨房にて、午後の仕込みをしていた翔一であったが

 

 

 

「―――ッ!」

 

 

突然、頭の中で鋭い感覚が走る。

 

 

その感覚を、翔一は本能で理解した。

 

 

行かねばならない、と。

 

 

 

 

作業の手を止め、翔一は外へと飛び出した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

廃工場の中、霞は手足を縄で縛られた状態で目を覚ました。

 

 

「………ッ……此処…は………?」

 

 

「よお……気分はどうだ、霞?」

 

 

低く響く、周りを見下したような声に、霞の中で思い出したくもない嫌悪感が甦る。

 

 

塩川(しおかわ)……アンタ……!!」

 

 

それは、霞を《建造》した張本人であり、提督としての権限を利用して仕入れた資金を持ち逃げしたばかりか、「影武者」と称して無関係な民間人を憲兵に逮捕させた犯罪者……塩川洋介であった。

 

 

「ハン……大して金にもならねえ資材を使って建造してやった恩人を、呼び捨てとは……。生意気なクチは相変わらず直らねえのな?」

 

 

タバコを吹かしながら、感情のこもってない嘆きを呟く塩川。

 

 

「提督としての責務も果たさないで、貴重な資材を売り払って資金に替えて、着服するだけじゃ飽き足らず!風俗だのギャンブルだのに使いまくったクズなんかに、感じる恩なんて無いわよ!!」

 

 

「ハッハ!ホント、変わらねえなあ?そうやってキツい言葉で相手を負かそうってんだから……なっ!」

 

 

愉快そうに笑いながら、塩川は霞の腹を蹴飛ばす。

 

 

「っぐ……!」

 

「―――いつまでも調子に乗れると思うなよ?クソガキ」

 

 

言うが早いか、霞の額にタバコの火を押し当てる。

 

 

「ゃぁ……っづ!!」

 

 

「あ〜あ……お前が変に突っぱねるから、俺の貴重〜〜〜なタバコが1本、ムダになっちまった」

 

 

「……っ……アンタ……後悔、するわよ………。アンタの悪事も……クソッタレな考えも、全部……うあっ!?」

 

 

霞の言葉を遮るように、塩川は霞の頭を鷲掴みにする。

 

 

「裁きが下る……ってか?―――ハッハッハ!!誰が裁くってんだ?俺を裁けるヤツなんか、誰も居ねえよ!!何故かって?この世に神なんか居ねえからさッ!!!人が人を裁くための法がある、なんて言うがなぁ?法なんてのは、破るためにあるんだよぉおおっ!!つまり、法を守りながら破り続け!そこから炙れた者を裁く奴こそが法であり!!神なんだよ!!アッハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

塩川が高らかに、下卑た笑い声をあげていたその時。

 

 

「ッ!?」

 

 

霞は、脳内に電流が走ったような感覚を抱いた。

 

 

(この感じ………この前、変な怪物に襲われた時と同じ………!?)

 

 

次の瞬間。

 

 

 

ゴッ!!という、硬質な何かが飛んできたような音と共に、塩川の姿が消えていた。

 

 

「…………え……?」

 

 

 

 

 

 

一方。

 

警視庁鎮守府は、加賀を始めとした航空船団が放った偵察機の調査により、霞の行方を暴き出していた。

 

万一に備えて、G5ユニットを編成し、現地へと急行していた。

 

 

ちなみに、G5ユニットの一員として後藤も参加。

 

氷川は、別働隊として《Gトレーラー》と合流。

 

専用装備《G3-X》を装着、いつでも出撃出来るようスタンバイしていた。

 

 

 

そして、パトカーやG5ユニットが到着してすぐ。

 

「ッ!?こ…これは………」

 

 

隊員の一人が目にしたのは、何かに撥ね飛ばされたように、身体がぐしゃぐしゃになった状態で息絶えた塩川の遺体だった。

 

 

 

そして………

 

 

霞は、先日の豹怪人とは別の怪物と対峙していた。

 

 

黒々とした身体と羽毛、そしてカラスを思わせる頭部。

 

 

そのカラス怪人は、霞に向かってこう呟いた。

 

 

『カイリ………貴女たちは、存在を許されない……』

 

 

「……え…?」




少女は求める。少しでもいい、己が許される居場所をと。


男は願う。生きている、それこそが素晴らしいことであると。


男は護る。

自分のために、少女のために。そして、みんなの未来のために………。


目醒めろ、その魂!!!


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69話 : 出動!G5ユニット

『闇の中見つめてる……
手を伸ばし掴み取れ。君…求めるもの』

また、誰かが平気な顔をして
夢だと笑っても……


『カイリ……貴女たちは、存在を許されない……』

 

 

カラス怪人は、その不気味な姿からは想像出来ないほど落ち着いた、高い知性を感じさせる言葉で語りかけてきた。

 

 

「カイリ………?私は霞よ!」

 

微かに恐怖を感じてはいるが、それを悟られまいと強気な態度で応じる霞。

 

 

しかし……

 

 

『恐怖を感じることを恥じてはいけない……。カイリもまた、命を宿す者……命在る者が恐怖を感じることは、生きようとする本能なのだから』

 

 

「!?(コイツ……私の心を読んでる……!?)」

 

 

 

考えを見透かされていると感じて、霞はより一層警戒心を強めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「霞ちゃん……!霞ちゃーん!!」

 

霞の姿を探して、大声で名を呼ぶ吹雪。

 

 

 

廃工場はかなり大きく、その中から駆逐艦娘一人を見つけるのは、地味に難しい。

 

 

「後藤隊長!南東の位置で、電波の乱れが発生しているとオペレータールームから情報が……」

 

 

一人のG5隊員からの報告を受け、後藤は氷川から得ていた情報を思い出した。

 

 

アンノウンが出現した時、その範囲一帯では特殊な磁場が発生し、防犯カメラといった電子機器に異常を来す……と。

 

 

「――恐らく、そこにアンノウンが出現している!A班、B班は反時計回りに迂回し、避難経路を確保してくれ!残るC班とD班は、俺に続け!捕らわれている艦娘の保護が最優先だが……万が一アンノウンが攻めてきた場合、俺が食い止める!!」

 

 

「了解!!」

 

 

指示を出した後、後藤は外していたマスクを再び装着。

 

 

専用マシンガン・GM-01《スコーピオン》を手に、部隊と共に工場内へ突入した。

 

 

 

 

 

「…アンタ………誰なの……?」

 

 

カラスのアンノウン………もとい、カラスのアンノウンを通して話しかけてくる存在(もの)に、霞は問いかける。

 

 

 

『知る必要はありません………。貴女は勿論、カイリは全て消えるのだから』

 

 

「ッ!?全て……!?」

 

 

ここで、霞はようやく理解した。

 

 

コイツが言うカイリとは……艦娘のことだ。

 

 

『カイリ……。これまで繰り返されてきた、永遠の苦しみ……そして、決して重なる事の無い、人との共存共栄の道………。その中で受け続ける痛みと悲しみから、貴女たちを開放します……』

 

 

 

 

「アンノウン発見!!側に居る少女、情報にあった艦娘と思われます!!」

 

 

『よし!アンノウンからの攻撃を防ぎつつ、艦娘の救助にあたれ!一番に保護し、救出を成功させた奴には、帰りにビールを奢ってやる!!』

 

 

部下と軽いやり取りをしつつ、後藤の率いるG5部隊が霞たちの前に現れた。

 

 

「GM-01、構えッ!!」

 

 

各班長の号令により、GM-01を構える部隊。

 

 

 

「撃てぇ―――ッ!!!」

 

 

霞の安全を確認し、直後に発砲。

 

 

 

 

しかし…………。

 

 

『愚かな………』

 

 

ただならぬ気配が消えた後、カラスのアンノウンを銃弾の雨が当たることは無かった。

 

 

 

「ッ!!?」

 

 

銃弾は全てアンノウンの眼前で静止し、一つ残らず粉々に砕けてしまったのだ。

 

 

「くっ!第二射撃、用意!!」

 

 

「た、隊長ォッ!!!」

 

 

 

そこに、霞を襲った豹のアンノウンが、黒豹タイプや雪豹タイプのアンノウンと共に出現。

 

 

G5ユニットを蹂躙し始める。

 

 

 

「コイツら、いつの間に………!!?」

 

 

GM-01を構える後藤だが、黒豹のアンノウンに飛びかかられ、防戦一方となってしまう。

 

 

「くっ……!オペレータールーム!オペレータールーム!!こちらG5後藤、緊急事態が発生した!直ちに応援を……ぐあっ!?」

 

 

「ヒッ、ヒイイイッ!!!」

 

 

恐怖に飲まれ、がむしゃらに発砲する新米の隊員たち。

 

 

しかし……カラスのアンノウン同様、アンノウンたちは一発の銃弾も受けることなく、戦場を蹂躙していく。

 

 

 

「嘘………これも、私が起こしたことだっていうの………?」

 

 

カラスのアンノウンの鋭い眼が、霞を冷ややかに見下ろす。

 

 

「フウウウ……」

 

 

右手で左胸を撫で下ろし、鳩尾辺りで止めた後、左手でZの字を刻む動作を取る。

 

 

 

 

 

 

この時、霞は初めて走馬灯というものを見た気がした。

 

 

霰や朝潮たち姉妹のこと、吹雪たち鎮守府の仲間や妖精さんたち………。

 

 

 

そして

 

 

最後に浮かんだのは、今日、翔一にバイトの取り消しを頼んで、その帰り際に贈られた言葉と笑顔だった。

 

 

 

『分かった。―――でも、もし気が変わったら、その時はまたいつでも声をかけて?そうでなくても、お客さんとして友達と一緒に来てくれたら嬉しいな』―――

 

 

 

 

 

 

瞬間。

 

 

霞は、涙を流していた。

 

 

「あ、れ………?なんで……」

 

 

茫然としてしまったが、すぐに理解した。

 

 

自分が、翔一の下から離れようとした理由……

 

自分が艦娘であるために、彼から何かを奪ってしまうかもしれないという恐怖から逃げようとしただけだったのだ。

 

 

それに気付いたと同時に、霞は「生きたい」という強い願望が芽生えた。

 

 

「やだ………やだ………っ」

 

 

それまでの強気な雰囲気は微塵も無く。

 

人一倍寂しがりで、甘えん坊な少女の本心だけが残されていた。

 

 

「やだ……やだぁ……」

 

 

 

カラスのアンノウン……クロウロードは頭上に現れた《光の輪》から長剣を召喚。

 

(きっさき)を霞の首元に突き付け

 

 

 

振り上げた……その時。

 

 

バイクのエンジン音が轟いた。

 

 

「!!」

 

「…………へ……?」

 

 

バイクから降り、ヘルメットを脱いで現れた男は

 

 

「…………」

 

 

 

左腰で両手をクロスさせ、右腕を胸の前でかざした。

 

 

すると、腹部に光の渦が発生し、ベルト状の装身具が実体化する。

 

 

 

「ふぅぅぅ……」

 

 

静かに、深く息を吐きながら、男―――津上翔一は叫ぶ。

 

 

 

神と呼ぶに等しい、巨大な存在を前にして尚立ち上がり、抗う者の魂の叫びを―――!!

 

 

「変身ッ!!」

 

 

 

ベルト状の装身具・オルタリングの両サイドバックルに備わったスイッチを叩き、翔一はゆっくりと歩み寄ってくる。

 

 

「グルル……!オオオッ!!」

 

 

クロウロードは飛び出し、翔一に飛びかかるも

 

 

手慣れた動きで翔一はクロウロードを往なしつつ

 

 

オルタリングに収められた『賢者の石』から発せられる、神秘の光・オルタフォースを受けて『変身』する―――。

 

 

「…………!!?」

 

 

 

「グルルル……!!ア・ギ・トォ……!!」

 

 

霞の前に立ち、クロウロードと対峙する金色の戦士

 

 

《進化し続ける者》を、アンノウンたちはこう呼んだ。

 

 

《アギト》…………と。




久しぶりに長々と書いてしまいました(^_^;)


次回、脳内BGMをアギト200%にしてお楽しみ下さい!!!


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70話 : BELIEVE YOURSELF〜抗う者、その名はAGITΩ(アギト)

人類は何処から来て、何処へ行くのか。
やがて、進化の時が訪れたとき、それに耐えられるのか。


審判の時は近い。

だがその時、問われるのはいったい何だろうか―――。(「仮面ライダーぴあ」より)


追記。
文章を一部入れ替えました。


「アギ…ト………?」

 

 

目の前で姿を変えた翔一を見て、霞はアンノウンが呼んだ名を呟く。

 

 

霞の無事を確認し、アギトは小さく頷く。

 

 

「アギト……あれが………」

 

 

それなりのダメージを負っていた後藤は、よろめきながらも立ち上がる。

 

 

「あ!?霞ちゃん!!」

 

 

「あ…吹雪……」

 

 

混戦の中、吹雪はどうにか霞の下へ駆けつける。

 

 

「良かった……ホントに良かったぁ〜!!」

 

半泣きになりながら、霞を抱きしめる吹雪を見て、後藤も安堵する。

 

 

「此処は危ない。急いで避難を!」

 

 

「はい!」

 

「ま…待って!」

 

 

安全な場所へ行こうとする吹雪と後藤を、霞は呼び止める。

 

 

「まだ……待って。逃げないで……見届けなきゃ……」

 

 

そう言って、霞はアギトとアンノウンの戦いを見守る。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その頃、廃工場の入り口付近。

 

 

豹型のアンノウン……ジャガーロード3体を相手に、G5部隊が次々と大破、撤退を強いられる中、青と白、そして銀色に輝く戦士が到着する。

 

 

「!!」

 

「G3-X……!G3-Xだッ!!」

 

 

左肩に輝く、《G3-X》の文字。

 

警視庁の開発した、対未確認生命体及び対アンノウン用戦闘強化装甲服……G3-Xを纏った、氷川が指示を出す。

 

 

「大破、負傷した人は急いで退避を!後は自分が引き継ぎますッ!!」

 

 

右脚大腿部に携行していたGM-01を構え、発砲。

 

 

当然、対峙している黒豹のアンノウン……黒いジャガーロードは弾丸を止め、破壊するが

 

 

「明石さん!GX-05、装備運用(アクティブ)に移行します!!」

 

 

G3-Xの通信に、Gトレーラーのオペレーションルームで連絡を取っていた明石が対応する。

 

 

「了解!GX-05、アクティブ!!」

 

 

 

G3-Xの専用白バイ《ガードチェイサー》の車体後部に積まれたアタッシュケース型に折り畳まれた大型ガトリング砲・GX-05《ケルベロス》のロックが解除されると、G3-XはGM-01で牽制しつつ、アタッシュモードのGX-05の暗証コード「2・1・3・ENTER」を入力。

 

 

《カイジョシマス》

 

 

銃本体上部をスライドし、さらに銃口部を展開。

 

 

ガトリングモードにして、G3-XはGX-05のトリガーを引く!

 

 

「グッ!?グアッ!!ガアアアァァアアッ!!?」

 

 

シリンダーが回転、GM-01を遥かに上回る銃弾の雨を撃ち出すGX-05を前に、黒いジャガーロードは避けることも出来ない。

 

 

やがて、その猛攻に耐えられなくなったのであろう。

 

 

黒いジャガーロードは爆発四散し、消滅した。

 

 

 

「グルルル……!!」

 

 

白いジャガーロードがG3-Xの前に立ち、黄色いジャガーロードはクロウロードの加勢に向かう。

 

 

「こちらは引き受けます……なので、そちらは頼みますよ?津上さん……!」

 

 

弾丸を使い切ったので、背面にマウントしている予備のマガジンと交換するG3-X。

 

 

 

 

 

一方。

 

クロウロードと対峙するアギトは、静と動のメリハリのある動きで、完璧なまでに攻撃を往なしていた。

 

 

「シャッ!!」

 

 

「ハッ!!」

 

 

クロウロードが距離を取ったところを見計らい、アギトは左側のサイドバックルのスイッチを叩く。

 

 

すると、オルタリングの中央と左側の石が青く輝き、アギトの胸部と左腕が青い装甲に覆われた。

 

 

「超越精神の青」ストームフォーム。

 

 

「フン!」

 

オルタリングの放つ光の渦から、アギトは薙刀状の専用武装・ストームハルバードを抜き取り、刃を展開して構えた。

 

 

「ハッ!たあっ!!せあっ!!」

 

 

風を纏った、その立ちさばきにクロウロードは不利と見て、空に舞い上がった。

 

 

「!」

 

すかさず、アギトは右側のサイドバックルのスイッチを叩き、ストームフォームの武装を解いて、右側の石が放つ赤い輝きと赤い装甲に右半身を包んだ。

 

 

光の渦から真紅の長剣・フレイムセイバーを抜き、アギトは「超越感覚の赤」ことフレイムフォームに変わる。

 

 

さらに、同じ頃。

 

 

G3-Xは、白いジャガーロードとの戦いにも決着がつこうとしていた。

 

 

「オペレータールーム!GXランチャーの使用許可を願います!」

 

『了解!遠慮無く、ぶっ放しちゃって下さい!!』

 

 

GM-01とGX-05を合体、さらに小型ミサイルのGX弾をセット。

 

白いジャガーロードに照準を合わせて

 

 

「GX弾…発射!!」

 

 

「ッ!?グオオオオオオァッ!!!」

 

 

避けることも、防ぐことも出来ず。

 

 

白いジャガーロードも撃破された。

 

 

 

 

「…………」

 

 

場面は戻って、アギトとクロウロードの対決。

 

 

俊敏さと冷静な心を強化するストームフォームに対し、フレイムフォームは五感を研ぎ澄ませ、相手の動きを読み取る力を高める。

 

 

フレイムセイバーの鍔が展開し、炎の力を開放する。

 

 

 

そして―――

 

 

「ハアアアァァァァッ!!!」

 

 

 

自身に向かって突撃してきたクロウロードを、頭から真っ二つに切り裂き。

 

必殺の一太刀・セイバースラッシュを極めた!!

 

 

「…………!!」

 

 

その激しい展開に、霞は一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 

 

「グルルル……!!」

 

 

クロウロードが討たれた瞬間を目の当たりにした黄色のジャガーロードは忌々しげに唸り声をあげる。

 

 

 

それに対し、アギトは再び「超越肉体の金」ことグランドフォームへと戻り。

 

 

頭部の角・クロスホーンを展開、2本の角が6本となる。

 

 

「角が増えた……!?」

 

 

これには霞も思わず声が洩れる。

 

 

と、同時に。

 

 

アギトの足下に、アギトの頭部に酷似した紋章が現れ、その輝きがアギトの脚に集束していく。

 

 

アギトは静かに呼吸を調え、キックの体勢に入る。

 

 

 

「グルルル……!グルオオオオッ!!」

 

 

先手必勝とばかりに、ジャガーロードは突っ込んできた。

 

 

「ハアアアァァァァ……ハッ!!」

 

 

力を込め、アギトは跳躍。

 

 

必殺のキック・ライダーキックを叩き込む!!

 

 

「ハアアアアアアアッ!!!!」

 

 

 

キックはジャガーロードの胸部に直撃し、後方へと吹き飛ばす。

 

 

華麗に着地したアギトは、無言のまま呼吸を調える。

 

 

「ッ……グウ…ウゥ……ッ!?グゥ…ウオオ……!!」

 

 

どうにか立ち上がるジャガーロードだが、突然苦しみだし、頭部に《光の輪》が出現する。

 

 

「…………」

 

 

ゆっくりと、アギトはジャガーロードに背を向けた。

 

 

「ァガア……!!ウオオオオオァァアァァアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

 

断末魔をあげ、そのまま爆散。

 

 

「…………」

 

 

アギトの示した、その凄まじい強さに、霞は言葉を失っていた。

 

 

(すごい………なんて強さなの………。もし、これが……敵として、私たちに振るわれたら……)

 

 

そう考えた途端、勝ち目が無いと体が震えた。

 

 

しかし……

 

 

「霞ちゃん」

 

 

「……!」

 

 

「怪我は無い?怖かったよね……でも、もう大丈夫!」

 

 

少なくとも、この津上翔一という男が自分たちの敵になることは当分無いだろう。

 

 

 

「………っ……」

 

 

先程まで、雄々しく戦っていた者と同一人物とは思えないほどに優しい翔一の言葉に、霞は瞳を潤ませ、泣き顔を見られたくない一心で翔一にしがみついた。

 

 

「おっと?」

 

「ぐすん……ひっく……しょおいちぃ……っ…」

 

「………うん。何?霞ちゃん」

 

 

「バイトの……ひっく……とりけし……っ、とりけし…できりゅ……?」

 

 

バイトの取り消しの取り消し………

 

 

その言葉に対し、翔一は

 

 

「勿論♪ウチはいつでも歓迎だよ?そうだなあ……じゃあ、早速で悪いけど……仕事を一つ」

 

 

霞の頭を優しく撫でながら、こう告げた。

 

 

「ウチに来て、夕飯をお腹いっぱい食べること!お願い出来るかな?」

 

 

「……うん……!」

 

 

「よし!じゃあ、支度する前に……みんなと相談しなくちゃだね?」

 

 

 

霞と並んで、翔一は吹雪や後藤たちの下へ向かうのだった―――。




えー、アギト編一段落となりますが……


やっぱり難しいですね_| ̄|○ il||li


かなり無理矢理になりましたが、楽しんでいただけたでしょうか?

次回、久方ぶりの登場人物紹介となる予定です。


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登場人物紹介⑥

久方ぶりの登場人物紹介!

今回は「アギト」編から登場した人物や艦娘の紹介となります!


津上翔一/仮面ライダーアギト

 

 

レストラン「AGITΩ」を営む、若きコック。本名は「沢木哲也」だが、記憶喪失だった頃に使っていたこの名前で定着していた為、現在もこの名で通している。

 

人気店であることに慢心せず、新作メニューの開発にも積極的に取り組むが、その独特な創作料理は味こそ悪くないのだが、見た目と発想のウケは宜しくない模様。

 

そのもう一つの顔は、人類の進化した存在とされる「アギト」であり、アギトとなる可能性を持つ人間を排除しようと暗躍するアンノウンたちから人々の未来と居場所を護るために戦い続けていた。

 

今回、再び姿を現したアンノウンたちから「カイリ」と呼ぶ艦娘の一人・霞を守るため、再び立ち上がり、戦うことを選んだ。

 

 

 

氷川誠/仮面ライダーG3-X

 

警視庁捜査一課警部補、そしてG3-X装着員。

 

「あかつき号事件」と呼ばれる、謎の限定海難事故から乗客を救い出した英雄と讃えられ、さらにその後発生した不可能犯罪やその元凶であるアンノウンとの戦いに身を捧げた、勇気ある人物。

 

良く言えば実直、悪く言えば堅物で不器用を絵に描いたような性格で、その不器用さは周囲の人にからかいのネタとして弄られるほど。

 

 

本作では、艦娘を配備したことにより鎮守府としての機能を確立した警視庁の内情をほとんど把握しておらず、先輩である一条と後輩の後藤から聞いて初めて知った。

 

 

ちなみに、今回の出動を機に警視庁鎮守府在籍の提督として任命されることとなった。

 

 

 

 

 

朝潮型駆逐艦10番艦娘。

 

ツンデレを地で行くような気の強い少女。

一条が着任するまでの提督から、駆逐艦ゆえのか弱さを「役立たず」と見なされ、姉妹艦を庇うために酷い罵声を一身に受け続けた過去を持つ。

 

生活費を稼ぐため、バイトの募集をしていたレストランAGITΩの面接を受け、採用されるも最初は採用の取り消しを要求。

その後、翔一から掛けられた言葉で思い直し、改めて採用を受け入れた。

 

 

翔一を兄の様に感じているが、本人としては全力で否定している。

 

 

 

山県茂正

 

警視庁鎮守府元帥。

徹底した現実主義で、半端な甘えや妥協を許さない厳格さから『鬼』と畏怖されている。

 

しかし、形式や常識とされるものに縛られることを嫌う面があり、型破りともいえる計らいをすることから、その人柄に惚れ込んで協力する者も大勢居る。

 

 

 

 

朝潮型駆逐艦9番艦娘。

ボーッとした雰囲気だが、姉妹想いの優しい少女。

霞がバイトをすると言い出したときも、無理をしてはいないかと心配していた。

霞の誘拐事件が解決して、正式にバイトの採用が決まったと聞いてからはレストランAGITOにちょこちょこ顔を出すようになった。

驚いたときや、思うことがあると「んちゃ……」と呟く癖がある。




次に、霞を拐った外道及びクウガ編4章とアギト編の怪人勢を紹介いたします。


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敵対者②

クウガ編4章並びに、アギト編で登場した敵対者(だった者)たちを紹介します。


塩川洋介

 

石ノ森鎮守府元提督。

それなりに頭は切れ、戦況を見極める力はあるものの、その本性は詐欺師。

大本営に気付かれないよう綿密な細工を施して、少ない資材を換金して自身の懐や私事に使い荒らし、悪事がバレると見るや言葉巧みに民間人を騙して身代わりに仕立て上げ、利用された身代わりは追放。自身は雲隠れして逃げ果せていた。

 

霞を建造した張本人でありながら、前述の性格からまともに接する訳もなく、演習などで練度を高めようともせずに役立たず呼ばわりばかりしていた。

 

 

ずる賢さや悪運の強さを実力であるかのように誇示し、自分は選ばれた存在であると傲慢に振る舞っていたが、それはアギトの力による恩恵に過ぎず、結果としてクロウロードによってその傲慢に満ちた生涯を終えることとなった。

 

 

 

 

メ・ゼミル・バ

 

別名《高空狙撃鬼》。

セミの能力と軽空母の戦力を持った揚陸侵艦。

人間態はハーモニカを首に提げた指揮者風の派手な格好をした若い男の姿をしている。

 

右手にセミの腹部に似た器官を持ち、そこからセミの尿に極めて近い水の弾丸を高圧力で打ち出し、標的を射殺す。

しかし、この水弾を1発撃ち出すごとに20分の休息と水分の補給が必要となる。

 

 

『ズ』の者や深海棲艦を見下す態度が目立つなど、『メ』ランクの者ならではの高慢さを持ち、初戦闘時にはクウガらを圧倒、自身の殺人行為を円滑に進めるべく吹雪たちを罠に嵌めて陸から遠ざけるなど悪知恵を働かせたりしたが、テンペストフォームの力を制御したクウガに逆転され、その失態を自らの死で清算する羽目となった。

 

 

 

 

ジャガーロード

 

個体名『パンテラス・ルテウス』。

 

新たに発生した、『不可能犯罪』の主な実行犯。

かつて行われた犯行と同様、殺した相手を街路樹の虚の中に隠していた。

 

 

「カイリ」こと艦娘である霞を狙い、襲うもアギトによって一度は退けられてしまい、塩川によって誘拐された霞を発見するやクロウロードや他のジャガーロードたちと共謀、暗殺を図った。

 

そこに駆けつけたG5ユニットの部隊を圧倒するも、再び現れたアギトと交戦、ライダーキックを受けて爆死した。

 

 

 

ジャガーロード(黒)

 

個体名『パンテラス・トリスティス』。

 

アギトに妨害されたパンテラス・ルテウスの尻拭いと、アギトである塩川を暗殺するために遣わされたジャガーロード。

 

パンテラス・アルビュスやコルウス・クロッキオと共に務めを果たすべく、霞の救助に駆けつけたG5ユニットの部隊を蹂躙するも、加勢に駆けつけたG3-Xの繰り出す銃器の猛威を受けて爆死した。

 

 

 

ジャガーロード(白)

 

個体名『パンテラス・アルビュス』。

 

アギトに妨害されたパンテラス・ルテウスの尻拭いとアギトである塩川を暗殺するために遣わされたジャガーロード。

 

パンテラス・トリスティスやコルウス・クロッキオと共に務めを果たすべく、G5ユニットの部隊を蹂躙するも、加勢に駆けつけたG3-Xの繰り出す銃器の猛威とGXランチャーの放ったGX弾を前に敗北。そのまま爆死した。

 

 

 

クロウロード

 

個体名『コルウス・クロッキオ』。

 

「カイリ」こと艦娘である霞の暗殺に失敗したパンテラス・ルテウスの尻拭いの他に、別働隊としてアギトやカイリを捜索し、暗殺を担っていた。

 

途中、クウガである五代雄介をアギトと誤認して、艦娘である大井もろとも殺そうと体当たりを仕掛けたが失敗。

リベンジを兼ねて、霞を拐った塩川がアギトであった為、これを暗殺。

 

しかし、直後に霞を仕留めようとしたところでアギトに変身した翔一によって阻まれ、さらにはフレイムセイバーによる一刀両断で最期を迎えるという、散々な結果となった。




次は、龍騎かオーズにスポットを移そうと思うのですが、皆さんはどちらがよろしいですか?


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龍騎編 第二章 鏡に魅せられたモノたち
71話 : ミラーワールドの深海棲艦。そして『仮面ライダー』


龍騎編、第2章。


クウガ編などに負けず劣らずの急展開、お見逃し無く!!


不可能犯罪が発生し、取材及び調査に臨もうとした真司とパートナーの青葉。

 

 

しかし、現場の刑事たちから追い出されてしまい、調査が行き詰まってしまう。

 

 

 

これは、そんな中で真司と青葉がミラーワールドからの信号を受けて、ミラーワールドへ突入してからのお話―――。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「よ…っと!」

 

「よいしょ!」

 

 

ライドシューターから降りて、周囲を見回す龍騎と青葉。

 

 

「……ん?青葉ちゃん、いつの間にカメラを……」

 

「はっ!すみません、つい癖で……」

 

 

一度来たことのある世界とは言え、自分の意思で訪れるのは今回が初めて。

 

記者としての好奇心からか、青葉はミラーワールドの景色を写真に収めようとカメラを構えていた。

 

 

「ったくもう、遊びに来たんじゃないんだぞ?」

 

「えへへ、ゴメンナサイ……」

 

 

と、その時。

 

 

「っ!…先輩、来ますよ!!」

 

「っ!」

 

 

イノシシの頭部に似たボディに人型の手足を生やしたような姿のミラーモンスター・ワイルドボーダーとシールドボーダーが現れた。

 

 

「青葉ちゃん、行くぞ!」

 

「先輩も!突っ込み過ぎて自爆したりしないで下さいよ?絵的にはオイシイですけど」

 

 

「ちょっ!?一応、俺も記者なんだから、バラエティ番組のお笑いタレントみたいな扱いすんなよ!?」

 

 

 

他愛もない会話をしつつ、龍騎はドラグセイバーを、青葉は機銃を構えて突撃する。

 

 

『ゴオオオッ!!』

 

『ブオオオオオッ!!』

 

 

シールドボーダーが突撃し、ワイルドボーダーは後方から「気」の弾丸を放つ。

 

 

「やっべ!!」

 

慌てて弾道から離れ、回避するも

 

 

「城戸先輩!前、前!!」

 

「え?」

 

 

『ブオオオオオッ!!』

 

 

狙いすましたかのように、シールドボーダーが体中の棘や刃を展開して体当たりを仕掛けてきた。

 

 

「うおおわったたた!!?」

 

 

避けるには間に合わないし、迎え撃つにもシールドボーダーの硬さは生半可なものではない。

 

 

ならば

 

 

「守りに移るっきゃないか!!」

 

 

ドラグセイバーをシールドボーダーに向けてぶん投げ、注意を逸らした一瞬の隙を突いて、アドベントカードをドロー。

 

ドラグバイザーにセットした。

 

 

 

《GUARD VENT》

 

 

ドラグレッダーのボディを模した2基の盾・ガードベント『ドラグシールド』を装備。

 

シールドボーダーの体当たりを受け止めた。

 

 

『ブゴ!?』

 

「う、お、おおおおぉぉっ!!」

 

 

そして、押し返す勢いをそのままに、シールドを構えたタックルで仕返しした。

 

 

普段の龍騎は、身軽さと武器の豊富さで臨機応変に対応する戦闘スタイルだが、状況によっては今回のようにゴリ押しでいく場合もある。

 

これまでの戦闘で、青葉は何度も目にしてきたが、龍騎のこの戦い方を「バカ正直過ぎる」と分析。

 

 

 

現時点では、自分と二人三脚でやってきているのと、遭遇する敵が単体若しくは少数であることから難無く攻略出来てはいるが、もし仮に敵が深海棲艦であり、尚且つ編隊を組んだりして攻めてきた場合を考えると……

 

 

(ハッキリ言って、勝ち目は無いですね……いくらドラグレッダー(ドラちゃん)の力が強大でも、苦戦は必至です。こちらも艦隊を編成出来れば、まだいくらか勝機は………)

 

 

……と、青葉が考えていた時だった。

 

 

 

「青葉ちゃん、危ないッ!!」

 

「へ?―――きゃっ!?」

 

 

ワイルドボーダーの放つ気弾とは別に、『砲撃』が繰り出された。

 

 

「大丈夫!?」

 

 

龍騎が駆け寄り、砲撃を仕掛けてきた方角を見る。

 

 

 

 

―――その視線の先に現れたのは

 

 

「……えっ!?」

 

「なっ………嘘、だろ……ッ!?」

 

 

駆逐イ級や軽巡ホ級といった深海棲艦と共に、重厚感溢れるダークグリーンの鎧に身を包んだ、ワニの様な仮面の戦士が歩いてきたのだ。

 

 

 

「なっ……なに……アレ……!?」

 

困惑する青葉と同じく……否、それ以上に驚愕、動揺する龍騎。

 

 

「なんで………なんで、『仮面ライダー』がッ!!?」




龍騎編第2章、いかがだったでしょうか?


これから先、どうなってしまうのか!?


『戦わなれければ、生き残れない!!』


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72話 : ライダーバトル

クウガ、アギト、オーズは人を守るために戦う。

龍騎も、人を守るために戦うことを持つことを選んだのに……


それは、同じライダーとなる人を“殺して”勝ち上がる、バトルロイヤルに参加することと同義だった……。


新たに発生したミラーワールドから出現するミラーモンスターから、人を守るために出撃した龍騎と青葉。

 

 

しかし、そこに深海棲艦と共に、龍騎と同じミラーワールドを行き来する力を持った仮面の戦士―――『仮面ライダー』が現れたのであった………。

 

 

 

 

「城戸先輩、あのワニ頭を仮面ライダーって……!?」

 

 

龍騎の言葉に驚く青葉に、龍騎は頷く。

 

 

「ああ…アイツのベルトを見てみろ……。カードデッキだ……!!」

 

 

 

龍騎が指差した先―――ワニの仮面ライダーのベルトは、龍騎と同様Vバックルであり、ダークグリーンのバックルは、ワニの頭部を模した紋章が描かれた《カードデッキ》だった。

 

 

 

しばらくの沈黙の後、ワニのライダーが口を開いた。

 

 

「………へぇ?ただのうわさとばかり思ってたが……ホントに居たんだな?仮面ライダーってのは」

 

 

声色と体型から、ワニのライダーは男……それも龍騎と同年代か一回り年下と見受けられた。

 

 

「そう言うお前だって……仮面ライダーじゃないか。なんで深海棲艦を従えてるんだ?」

 

 

 

相手が人間なら、対話でこの状況を変えることが出来る筈―――。

 

龍騎はそう考え、質問を投げかける。

 

 

「しんかい、せいかん?ああ…コイツらの事か?仮面ライダーなら分かるだろ」

 

 

そう言って、ワニのライダーが取り出して見せた物―――

 

 

 

それは、深海棲艦が描かれたコントラクトカードだった。

 

「ッ!!先輩…あれって……!?」

 

「ミラーモンスターとの契約に使うカード……!まさかお前、それを複数持ってるのか!?」

 

 

驚愕する龍騎の質問に、ワニのライダーはくっくと笑う。

 

 

「それがどうした?」

 

「どうした…って…、お前が誰かは知らないけど、分かってるのか!?深海棲艦は……!!」

 

 

「海の彼方から迫る、人類の敵……艦娘以外に対抗・撃破する術は無い……だろ?さらに言えば、この世界の怪物どもも、人間を獲物として狙ってるそうだな?そして、仮面ライダーはコイツらとこのカードで契約することで力を得る………」

 

 

不良染みた物言いに反し、ワニのライダーは事を冷静に分析、把握しているようだった。

 

 

「ならどうして!深海棲艦を配下に加えたり、青葉ちゃん(彼女)を攻撃した!?この世界がヤバい所だってことも、深海棲艦が危険な連中だってことも分かってるのになんで!!」

 

 

無意識に熱くなる龍騎。

 

話を聞く限り、青葉がワニのライダーたちから攻撃される理由が現時点では一つも見当たらないのだから、当然と言えば当然である。

 

 

 

………しかし。

 

ワニのライダーの口から出たその返答は、龍騎の怒りに火を点けることとなった。

 

 

 

「何言ってんの?艦娘が深海棲艦を狩って、ライダーがモンスターを狩るんだから、ライダーが深海棲艦を使って艦娘を狩っても文句無いっしょ?」

 

 

 

「…………ハ?」

 

「なに?おたく、知らないでそいつとつるんでるの?艦娘は人間とは別モンだよ。《建造》つって、船造りと同じことして生まれるとか、コイツらと大して変わらないば―――」

 

 

ワニのライダーのだらけた喋りは、そこで途切れた。

 

 

 

 

龍騎がワニのライダーの懐に飛び込み、一瞬の隙も与えず、その顔面に右ストレートを叩き込んだからである。




オリジナルライダーのデザイン、ちょこちょこ練ってはおりますがチョコは出ませんよ?(すっとぼけ)


次回、龍騎がいつになく荒れまくる予定です!!


戦わなければ、生き残れない!!


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73話 : 少女が目にするは炎龍と大鰐の戦い

かませ犬感ハンパないオリジナルライダーが出てきた、龍騎編第2章。

そして、迎えてしまったUA35000越え!!


ワタシ!歌っていいですかっ!?(←さっきから誰や!)


「がっは!!?……ッ、テ…メェ!!」

 

 

問答無用という言葉が似合い過ぎる、そのパンチによって殴り飛ばされたワニのライダーは体を起こし、龍騎を睨みつける。

 

 

「もっぺん言ってみろ……」

 

そう呟いた龍騎の声は小さく、ライダーにはよく聞き取れなかった。

 

 

龍騎のすぐ側にいる、青葉は聞いていたが。

 

 

 

「せ…先輩……?」

 

 

「青葉ちゃん………5分くらい待ってて。ちょっと、アイツを黙らせてくる………」

 

 

 

そう言って歩きだした龍騎の背中を、青葉は不安と恐怖を感じながら見送ることしか出来なかった。

 

 

(城戸先輩………まさか……そんなこと、無い……よね………?)

 

 

「……ああ、そうかよ。見た目がアレなら化物でも構わねえってかい!」

 

 

「ごちゃごちゃうるせえよ……さっさとかかってこい」

 

 

「本当の仮面ライダーの力ってヤツを教えてやるよ、半端野郎が!!」

 

 

 

「………っしゃあ!!」

 

 

一瞬、龍騎の背中から殺意を感じたが、それは自分の勘違いであると青葉は信じたかった………。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

龍騎と青葉がミラーワールドへの入り口として利用した、ショーウインドウの前。

 

 

そこに、かつて龍騎――真司にカードデッキを渡した少女、アリスが佇んでいた。

 

 

「……龍騎」

 

 

手を伸ばそうとするが、しかし躊躇いがある様子で手を引っ込める。

 

 

「助けたいか?アリス」

 

 

そう問いかけてきたのは、真司の前に度々現れる黄金の仮面ライダー・オーディン。

 

 

「オーディン………。ううん、そうじゃないの。そういうわけじゃ…ないのだけれど……」

 

 

 

「彼は今………“境界線”を越えようとしている。もし越えてしまったら………」

 

 

そこまで言いかけて、アリスは悲しげな表情になる。

 

 

「彼の心が耐えられない……」

 

そう呟くアリスをどう思ったのかは知る由もないが、オーディンは鏡の向こうで戦いを繰り広げる龍騎たちを見守りながら、アリスに言葉をかける。

 

 

 

「今は見届けよ……それが()()の務めであり―――」

 

 

「―――お前が為すべきことだ、アリス……」

 

 

 

オーディンの言葉を受け、アリスも黙って小さく頷くのであった………。

 

 

 

 

 

 

「くっ!オラ!オォラアッ!!」

 

 

龍騎の猛攻を前に、ワニのライダーこと《仮面ライダーヴァイス》は左腕に装備したワニ型の召喚機・バイトバイザーを盾にしながら応戦するが……

 

 

「ふっ!!」

 

「ぐっ!?うぇあっ!?」

 

ドラグセイバーによる斬撃を連続で浴びせられ、どうにか隙を見て反撃しようとはするが

 

 

「であっ!!」

 

「うあっ!?」

 

 

動きを見切られてしまい、カウンターの投げ技やパンチ、キックなど、やられ放題同然の事態に陥っていた。

 

 

「先輩……どうしたんですか………?こんなの、全然先輩らしくないですよ………」

 

 

 

青葉の言う通り、龍騎のその戦いぶりは、溢れ出る闘争心……或いは殺意を剥き出しにして荒れ狂う闘士その物。

 

ドジな所もあるけど、人のために何かをしようとする真司本来の意思や優しさが、そこには見当たらなかった。

 

 

 

「っぐ……クッソ…がぁああ!!!」

 

 

一方のヴァイスだが、こちらとて単にやられっぱなしでいるつもりは無い。

 

 

バイトバイザーのワニの口を開き、ドローしたアドベントカードをセット。ワニの口を閉じて読み込ませた。

 

 

《STRIKE VENT》

 

 

ワニ型のミラーモンスターの頭部を模した、2枚1対のクロー《バイトクラッシャー》を装備。

 

 

「図に乗ってんじゃねえぞ、半端野郎ぉおおっ!!!」

 

 

 

龍騎をズタズタに噛み砕かんと、武器を構えて突撃する。

 

 

……しかし。

 

龍騎は至って冷静…否、冷徹であった。

 

 

 

《GUARD VENT》

 

 

ヴァイスの攻撃が迫る直前にドラグシールドを装備、防御に成功する。

 

 

「なッ……!!?」

 

その淡々とした対応に、ヴァイスは驚愕する。

 

 

(なんだよ、コイツ……!?さっきのヘッポコみたいな雰囲気とか、全部芝居(ブラフ)だったってのか!?)

 

 

「一つ………ハッキリ思い出したことがある」

 

「っ?」

 

 

そんなヴァイスを余所に、龍騎は口を開く。

 

 

「お前みたいに、ライダーバトルをただのゲーム扱いして……面白くしたいとか言って、関係の無い人たちを巻き込んで……自分は高みの見物を決め込んで!!」

 

 

次の瞬間。

 

 

龍騎はヴァイスの首を掴み、高く持ち上げて見せた。

 

 

 

「ただでさえヤバい凶悪犯を焚き付けて……最悪な状況になったんだ!……まあ、結局そいつも、焚き付けた凶悪犯に盾にされた挙げ句、トドメを刺されて死んじゃったけどな」

 

 

「へ?……う、嘘だ!お前みたいなヘッポコが、なんでそう言い切れる!?」

 

「居たからだよ。そこに……な」

 

 

ヴァイスの首を締め付ける腕に力が入る。

 

 

「教えてやる……。死にたくないのに……自分が死ぬなんて微塵も考えてないヤツが味わう、死への恐怖ってヤツを……!!」

 

 

ここに来て、ヴァイスはようやく自分が震えていることに気付いた。

 

 

「先輩……何を……?」

 

 

荒ぶる龍騎の戦いを見守ることしか出来ずにいる青葉も、龍騎が何か取り返しのつかないことをしようとしているのではないかと感じ始めていた。

 

 

 

「言ったろ……死への恐怖を教えてやるんだよ」

 

 

そう言いながら、龍騎はヴァイスを開放し、アドベントカードをドローする。

 

 

「……っ…調子こいてんじゃ、ねえぞクソがああああッ!!!!」

 

 

怒り爆発といった様子で、ヴァイスもアドベントカードをドローする。

 

 

そして、龍騎のドラグバイザーとヴァイスのバイトバイザーが同時にカードを読み込んだ。

 

 

 

《FINAL VENT》

 

 

ドラグレッダーを従えて跳躍する龍騎。

 

それに対し、バイトクラッシャーを装備した状態で、ワニ型の契約モンスター・バイトダイラーを召喚。その背に飛び乗って腰を低く落として構えた。

 

 

 

両者、睨み合っていたのは恐らくほんの一瞬であったのかもしれない。

 

 

 

 

「だああああぁぁぁああっ!!!」

 

「ウラアアアアァァアアアっ!!!」

 

 

龍騎はドラゴンライダーキックを。

 

ヴァイスはファイナルベント《マッドシェイカー》を繰り出し、両者は交差する。

 

 

 

そして―――。




オリジナルライダー……そしてカードを使うライダーのバトル、思った以上にムズいっ!!(ゼハーゼハー)


果たして、この戦いの結末は?!


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74話 : 本物とニセモノ

ちょっと短いですが、龍騎編初のライダーバトル、ひとまずの決着です。


気付けば、UAが36000台って………

オラワクワクすっぞ!!


少し陽の傾き始めた、人気の無い通り。

 

 

その中に建つビルのショーウインドウのガラスが砕け散り、龍騎と青葉、そして二人を襲撃した仮面ライダーヴァイスが飛び出してきた。

 

 

しかし、彼らが出てきたのは鏡の向こうの世界・ミラーワールド。

 

異世界と言える場所からの帰還であるため、ガラスその物は破壊されていない。

 

 

「ハア……ハア……っぐ……ぅ……!!」

 

 

龍騎を一気に(ほふ)らんとして、最大の一撃・ファイナルベントを発動させたヴァイスだったが、怒りによって情も迷いも忘れた龍騎の前では歯が立たず、大ダメージを負ってしまった。

 

 

「ウ…ソ、だ……!こんな……こんな、半端なヤツなんかに……!!」

 

 

結果を納得出来ず、よろめきながらわめくヴァイスを見据え、龍騎は言い放った。

 

 

「少しは味わえたか?本気の殺意を向けた、仮面ライダーの怖さってヤツを……!」

 

 

しかし……

 

 

「ふざけるなああァっ!!!」

 

ヴァイスは立ち上がり、尚も戦おうとする。

 

 

「俺は仮面ライダーだ……お前みたいな、半端なニセモノとは違う……!俺が……俺が本物の仮面ライダーなん―――」

 

 

 

パンッ!!

 

 

 

ヴァイスの声は、再び遮られた。

 

 

今度は、龍騎は手を出していない。

 

 

「あ……青葉…ちゃん………?」

 

 

艤装を解いた青葉が、ツカツカと歩み出てヴァイスの頬を右手で思いきり叩いたのだ。

 

 

 

「………ッ…な、なにしやが」

 

 

「いい加減にしなさいよッ!!!本物ホンモノって……あんたは何かのニセモノとでも言いたいの!?」

 

 

 

その大声は凄まじく、茫然となるヴァイスにつられて、龍騎も思わず耳を押さえて身を縮こまらせてしまう。

 

 

「あ…青葉ちゃん……!?」

 

 

「真司先輩も!!何が『死への恐怖を教えてやる…』ですか!!死ぬことの怖さ(そんなモノ)、先輩みたいなおバカさんに言われなくたってみぃ〜んな分かってますよッ!!」

 

 

「おバカさん……って!そんなハッキリ言う!?こんな事言いたくないけど、俺いちおー君の先輩なんですけどっ!?」

 

「………」

 

 

珍しく青葉が声を荒げ、龍騎は驚きつつも反論しようとする。

 

 

それを、放置されたヴァイスはただ茫然と眺めていた。

 

 

 

「………という事ですから!先輩はもっと冷静になって事の対処に当たるよう心がけて下さいね?」

 

「はい……」

 

 

それから十数分後。

 

龍騎―――真司よりも口が達者な青葉が真司を言い負かし、口論はひとまず落ち着いた。

 

 

「………さて!話を戻しますけど……その前に、変身を解いてもらいましょうか。青葉の突撃インタビュー、開始させていただきます!」

 

 

「…分かったよ……」

 

 

そう言って、Vバックルからカードデッキを抜き、変身を解くヴァイス。

 

 

 

「では、まず……お名前を教えて頂けるでしょうか?」

 

 

その正体は、真司たちに対して暴言を吐いた相手と同一人物とは思えないほど、優しい顔立ちの青年だった。

 

 

 

「俺は沼田静(ぬまたしずか)……城南大学院の院生だ」

 

 

「―――ッ!」

 

 

《沼田》………その名を聞いた青葉の顔色が、瞬時に変わった―――。

 

 

「青葉ちゃん?」

 

「………彼は…沼田さんは………」

 

 

真司の呼びかけで、青葉はどうにか平静を保つ。

 

 

ゆっくり深呼吸して、彼女は答えた。

 

 

「私がかつて在籍していた鎮守府の提督であった、沼田統也(とうや)中将の弟さんです………」




次回、またも重暗い話になるかもです……m(_ _;)m

皆さん、どうか見捨てないで!

ちゃんと助けますから!!


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75話 : 仮面ライダーヴァイス誕生秘話その1

読者の皆さんの応援のおかげで、本作も75話を迎えました!

これからも応援よろしくお願いします!!


前回までのあらすじ。

 

 

ミラーワールドにて遭遇した、新たな仮面ライダー・ヴァイス。

 

交戦し、どうにか打ち負かすことが出来た真司と青葉であったが、その正体は青葉の所属していた鎮守府の提督《沼田統也》の弟、沼田静であった………。

 

 

 

「青葉ちゃんの上司だった提督の……弟さん……」

 

 

「青、葉……?」

 

 

真司の言葉……というより、青葉の名前に静は反応する。

 

 

「艦娘のあんた………青葉っていうのか……?」

 

静の問に、青葉は頷く。

 

 

「はい。沼田提督の秘書艦も務めさせていただいてました」

 

 

その言葉に、静は目を見開く。

 

 

同時に、今は亡き兄との想い出が甦ってきた―――。

 

 

 

 

 

 

 

《沼田統也》。

 

深海棲艦を迎撃・殲滅するために必要な戦力、艦娘を指揮する提督を育成する士官学校では優秀な成績を修め、教官や大本営の幹部たちから「山本五十六の再来」と謳われるほどに明晰な頭脳と白兵戦スキル、そして指揮能力に秀でていた。

 

 

 

………しかし、そんな期待など彼にとって単なる重圧でしかなかった。

 

 

 

赤塚鎮守府 06:31 a.m.

 

 

「おはようございまーす!」

 

「おはよう、青葉ちゃん」

 

 

心地好い風の吹く晴天の下、当時秘書艦を務めていた青葉は、統也を起こしに提督部屋へ向かっていた。

 

途中、廊下で道が同じになった航空戦艦《扶桑》と挨拶を交わし、並んで歩く。

 

 

「扶桑さん、聞きましたよ?昨日の出撃でMVP取ったらしいじゃないですか〜!」

 

「そんな大袈裟な……。提督の指揮が良かったから、こんな欠陥だらけの私でもみんなの役に立てた訳で……」

 

 

そう言う扶桑は、喜んでいる筈なのに陰りのある表情をしている。

 

 

「もぉ〜…そんな暗い顔をしてちゃ、いざ提督にプロポーズをしてもらった時に困りますよ?」

 

「プ、プロっ!?あ、青葉ちゃんってばなにを………!」

 

 

青葉のジョークに、扶桑は顔を真っ赤にして恥ずかしがる。

 

 

「じゃ!青葉は提督を起こしに行ってきまーす!」

 

 

いたずらっ子の様にはしゃぎながら、青葉は提督部屋へと到着する。

 

 

(……なんて言うけど、私だって出来ることなら………)

 

 

ふと過る考えを振り払い、青葉はドアをノックする。

 

 

「提督?朝ですよ、起きて下さいー」

 

 

しかし、返事が無い。

 

 

「……さては」

 

 

ドアノブに手をかけると、鍵はかかっておらず。

 

 

「………ハァ…」

 

 

やっぱり……

 

 

呆れた様に軽く溜め息を吐き、青葉はドアを開けた。

 

 

 

「新聞屋でえぇぇす!!!料金未払いですよおおぉぉぉぉっ!!?」

 

 

「ほぉあわあっ!?」

 

 

その大声に提督―――沼田統也は跳び起きた。

 

 

「新聞なら、ウチは間に合ってます!……って、なんだ青葉か……」

 

「おはようございます!提督♪」

 

 

満面の笑みを浮かべながら挨拶をする青葉を見て、少し癖のある髪を寝癖で爆発させた頭を掻きながら、統也は微笑む。

 

 

「おはよう、青葉」

 

 

 

これが、赤塚鎮守府崩壊3ヶ月前の事である………。




突然始めてしまいました、「ヴァイス」編。

Vシネマ的なポジとかではないので、長々とならないよう気をつけて展開します!


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76話 : 仮面ライダーヴァイス誕生秘話その2

話の流れから発生した、通称『ヴァイスイベント』。


果たして、艦娘を嫌悪し、『本物』というものに拘る仮面ライダーはいかにして生まれたのか………。

今回は、そんな彼と密接な繋がりのある人のお話。


秘書艦である青葉に大声で起こされた統也は、休み明けのサラリーマンみたいにモソモソと身支度を調える。

 

「はぁ……やれやれ。まったく、世界ってのは厳しいもんだ。洋の東西を問わず、年齢性別問わず。24時間という限られた時間の使い方の自由は与えてくれても、私のように公務というものを持たされた人間には、こうして朝の起床時間を選ぶ自由だけは与えてくれない。私が総理大臣になるような野心家であれば、まず公務員の朝の起床時間に自由を提供するね」

 

 

「まーたそんな評論家っぽい愚痴をこぼして………。そんな自堕落な思想を公言するのは、提督ぐらいなもんですよ?」

 

 

そんなやり取りをする二人であったが、しかし。

 

沼田統也提督の戦績は、その若さと着任歴に見合わぬ非凡さを表していた。

 

 

出撃回数73回の中で、敗北らしい敗北を一度も経験していないのである。

 

 

戦果内容を見ても、艦隊に多少の損害が出ていることはあっても「戦術的」には勝利している。

 

 

明確な勝利は、まだほんの数回しか経験していないが、統也のその采配は「艦隊と艦娘を生かす戦術」と言われ、各地域の鎮守府などからも注目を集めていた。

 

 

彼を支持する者の中には、とある軍人の異名を借りた二つ名で呼ぶ者も居る。

 

 

 

「任務中以外の時ぐらい、本音の一つでも言わせておくれよ。―――君や初期艦である(さざなみ)には何度も話した通りだが、あの子たち妖精が見えようと見えまいと、私の第一志望は歴史家になることだったんだ。軍属じゃあない」

 

 

「………が、しかし。何がどうしてこうなったのか、歴史学を専門的に学べる大学を選んだ筈が、私の方向音痴に当時の試験官の勘違いが加わって、悪い方向に科学反応を起こした……。結果、入るつもりの無かった士官学校に入学し、費用の浪費をしたくないがために仕方なく一軍人としての基礎を学び。大して嬉しくもない首席卒業をして程なく、此処、赤塚の鎮守府に新米の提督として着任し、現在に至る訳だ」

 

 

「私が着任したてで、皆さんに第1回目の突撃インタビューをして廻ったときも、提督はそう仰ってましたよね」

 

 

統也の語る、彼がどういった経緯で提督になったのかを改めて聞いたところで、青葉はずっと気になっていた疑問を投げかけてみることにした。

 

 

「……でも。提督は充分、青葉たち艦娘を指揮する司令官としての素質はあると思いますよ?そんなに歴史家になりたいのでしたら、ジョブチェンジすれば済む話じゃないですか」

 

 

その問いかけに対し、統也は苦笑いしながら頭を掻いた。

 

 

「転職かぁ……。私がそこらの若い提督みたいに自己中心的な性格で、それが実現可能であったなら、とっくに執務室(この場)から姿を消してるさ。しかし…実際にそんな事をしたら、この鎮守府は巨大な支柱を失った城塞のように内部から崩落してしまう。柱や土台を失ったハリボテほど御し易く、壊しがいのある物は無い。深海棲艦たちは、三日と言わずして鎮守府を壊滅させてしまうだろう。最悪、一日もしないで落ちるかもしれない……」

 

 

「そうならないために、提督が青葉たちを支えてくれる…と?」

 

「軍艦の力を持つ装備で戦うと言っても、戦場に向かうのは君たち女性陣だ。中には君や駆逐艦のような若い娘たちや金剛みたいに年頃の女性も居るというのに、肝心の男手が裏方……なんて、これほど“罰当たり”な仕事は無いよ」

 

 

 

統也は、提督という仕事が心底嫌いだった。深海棲艦と艦娘の戦いその物も嫌いだったが、提督の仕事はそれ以上に嫌っていた。

 

 

「しかし……望んでなった仕事でなくても、働く以上は給料分しっかり務めを果たさないとね」

 

 

「……ねぇ、提督。最後にもう一つだけ……質問、良いですか?

 

「なんだい?」

 

 

「提督は、この仕事は望んでなったものではない……そう仰いました。では……誰が提督として相応しいとお考えですか?」

 

 

 

その質問に対し、統也はにっこり微笑んだ。

 

 

「弟の静だ。私と違って、あいつは何かと真面目だし。艦娘(女の子)たちにも嫌がるようなことは絶対にしない、信頼出来る男だよ」




龍騎編side.ヴァイス、第2話。

いかがだったでしょうか?

なんか、統也氏の過去編みたいな語り口になってしまいました……(^_^;)


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77話 : 仮面ライダーヴァイス誕生秘話その3

まだ未登場ながら、少しずつ印象が変わりつつあるヴァイス。

そんな彼の誕生エピソード第3話……ちょっと色々動きだします……。


艦隊総司令部……通称《大本営》。

 

 

そこに在籍する幹部の大半は政府官僚や旧自衛隊上層部、そして警察庁幹部である。

 

深海棲艦という、未知の敵が侵攻してきているという状況を、一刻も早く解決するために一致団結を………といかないのは、どの時代でも変わらないようで。

 

 

 

「4日前の大規模作戦だが、また沼田艦隊が先手を決めたようだ」

 

 

「沼田……あの《海上の脚本家》か……」

 

 

同僚らしい准将の話を聞き、大本営所属の幹部・荒井少将は憎らしげに表情を歪める。

 

 

 

脚本家―――。

 

 

それが、統也の指揮する艦隊の連携の質の高さや、作戦の成功率の高さを組織内で示す表現であり、いつしか彼を支持する者たちはその表現から《海上の脚本家》《脚本家(シナリオライター)統也》とあだ名するようになっていった。

 

 

「戦果だけを見れば、確かに深海棲艦の撃退には成功している……しかし……」

 

「ああ…我々に従うどころか、規範に背いた行動が余りにも多い!」

 

 

「しかも、民衆は政務や国防を担う我々にではなく、沼田個人を支持し始めている!」

 

 

「このままでは、規律と秩序を重んじる大本営を乗っ取られかねん……!!」

 

 

大本営の幹部たちは、統也が自らに集中している民衆の支持を利用して、組織を乗っ取るのではないかということをひどく怖れていた。

 

 

当の本人は、そんなつもりは毛頭無かったのだが。

 

 

「かくなる上は………」

 

「ああ……」

 

 

「世界の……引いては国家の、平和の礎となってもらうとしよう……」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

城南大学 10:12 a.m.

 

 

当時、大学院生になったばかりの沼田静。

 

兄に引けを取らぬ優秀さを持ち、特に戦史について強い関心を抱いていた。

 

 

「おーい、沼田ー!」

 

「んぁ?……なんだ、JKか」

 

 

同級生の神宮海蔵…通称《JK(ジェイク)》。

 

勉強漬けな日々を過ごし、基本独りで居ることの多い静に積極的に声をかけてきた、数少ない友人の一人である。

 

 

「今朝のニュース見たか?お前のアニキさん、また大手柄立てたらしいぜ!」

 

「流石、元・天ノ川学園高校一の情報通。朝刊に出たばっかりのニュースも仕入れちまうとはね」

 

 

「ダチの身内は、俺にとっても身内だからな!―――って、これはある人の受け売りなんだけどさ♪」

 

 

そう言いながら笑うJKを、静はふぅん…と眺めていた。

 

 

「そういやさ。お前、就職とかはどうすんの?やっぱり、アニキん所で働くの?」

 

 

ふと、話を変えてきたJKに対し、静は苦笑いしながら手を振った。

 

 

「それは無いよ。俺はただ勉強が好きってだけで、兄さんみたいに頭が良い訳じゃない。艦娘との付き合い方だってさっぱりだし……だいたい、俺が女子苦手だってこと、お前だって知ってるだろ?」

 

「えぇー……でも、お前とアニキさんがタッグ組んだら、それこそ無敵艦隊ってならね?」

 

 

「艦隊の質を高めるのは、第一に艦娘との信頼関係だ。信頼関係を深めるのに、コミュニケーションは欠かせない。……でも、俺は口下手だし愛想が悪い。そんな奴が提督や艦娘のサポートを出来るわけ無いだろう?――さぁ、この話はもう終わり!ちゃっちゃとレポート出さねえと、また教授にどやされるぜ?」

 

 

「うげぇ、このタイミングでそれ言うとかひでえな……」

 

「にしし♪な?知っての通り、俺は優しかねえんだよ……だから艦娘絡みの仕事は似合わないのさ」

 

 

静の言葉に、JKは納得いかなかったが、時間も時間だったので渋々引き下がった。

 

 

 

 

………その時。

 

金属同士の擦り合う音が響いたが、静を含めたその場に居る者たち全員が、聴き取ることが出来なかった………。




次回、ヴァイス誕生のエピソード…いよいよです!!


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78話 : 仮面ライダーヴァイス誕生秘話その4

気付けばUAは38000台を突破……


連載始めた頃は、こんなにも長期化するなんて夢にも思わなかったろうなあ……。


などと思い返しながら、書いています。


赤塚鎮守府 執務室 10:27 a.m.

 

 

「えー……以上が、今日みんなにこなしてもらう一通りの任務と仕事だ。遠征組と出撃組には、かなりしんどい思いをさせるが…よろしく頼む」

 

 

資料と照らし合わせながら、統也は艦娘たちに今日一日のスケジュールを伝えた。

 

 

「No problem!提督が私たちを信じてくれていることは、みんな判ってマース!♪」

 

 

英語混じりに応えたのは、当鎮守府の主力戦艦の一人《金剛》だ。

 

 

「金剛の言う通りクマ。提督はいつも通り、だらけながら戦局を考えて、球磨たちに指示をくれれば良いクマ」

 

 

特徴的な語尾とアホ毛が愛らしい、軽巡洋艦《球磨》が後に続く。

 

 

「だらけながらって……。それじゃあまるで、私が日がな一日中何も考えずに怠けているみたいじゃないか?」

 

 

その問いに対し、室内は笑いに包まれる。

 

 

「まあ、否定する余地はありませんよね?司令」

 

 

クスクス笑いながら、金剛の姉妹艦《霧島》が指摘すると、統也も申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながら頭を掻く。

 

 

作戦中や執務を除けば、統也の私生活は球磨の言う通り、自室で紅茶や酒を飲みながらゴロゴロしたり、艦娘や妖精さんの誰かと世間話をして時間を潰すなど、仕事らしい仕事をする光景は滅多に見られない。

 

 

 

 

しかし、沼田艦隊に所属する艦娘たちは皆知っている。

 

《海上の脚本家》沼田統也提督の、この過ごし方はある種のルーティンであると。

 

 

 

「さて……それじゃあ各自、配置についてくれ」

 

 

「了解!!」

 

 

統也の号令に、一同は敬礼。

 

各自、持ち場に付くのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

同じ頃、城南大学。

 

 

講義が終わり、食堂へ向かう静とJKに、一人の女子学生が声をかけてきた。

 

 

「ちぃーっす!JKに静ちん、今からお昼?」

 

「おっ、鈴谷(スズやん)!スズやんも今、講義終わったの?」

 

「うん、ついさっき♪」

 

 

鮮やかな緑の長い髪と、今時な女子学生といった雰囲気の少女《鈴谷海華(すずやうみか)》はニッと笑って答える。

 

 

「ねぇねぇ、折角だしお昼一緒に食べよー?」

 

「俺は良いけど……」

 

 

JKが静の方を見ると

 

「ゴメン、俺は遠慮しとく」

 

 

あまりにもバッサリと断った。

 

 

「ええ〜〜!?また返事がソレ〜?そんなんじゃ女子にモテないぞぉ〜?」

 

 

静の左頬を人差し指でつつく鈴谷だが、静はその手を掴んで拒む。

 

 

「俺はモテたいとかいう願望は無い!そういう鈴谷こそ、他の連中を誘えば良いだろ?JKから聞いたが、また男子からの告白をフッたそうじゃないか!」

 

「なっ!?JKぅ〜、アンタどこでそれを……!!」

 

「ごっ、ゴメンゴメン!!()()()()近くを通りかかったんだけど、サッカーサークルのキャプテンがスズやんに告ってるのが見えたもんだから……ハッ!?」

 

 

「へえ〜〜〜……()()()()通りかかっただけなのに、誰が告ってきたのか判るんだぁ〜?―――海蔵、ちょっとそこに直れええいっ!!!」

 

「ゴメンナサイ!ゴメンナサぁぁぁあイッ!!!」

 

 

鈴谷の怒号に驚き、JKは食堂へと逃げていった。

 

 

「……えっと、なんか……スマン」

 

「いいよ……JKに悪気が無かったことぐらい、あたしにだって判るし………」

 

「……ありがとう」

 

 

遠慮がちな声だが、静の礼に対し、鈴谷は少しだけ頬を赤らめながら微笑んだ。

 

「ダチを信じてあげるのって、大切じゃん?♪」

 

 

鈴谷の言葉に、静も笑顔で返し、食堂へ向かった。

 

 

「―――あっ。ゴメン、静ちん。先に行っててー?センセに提出()すレポートがあったの忘れてた〜」

 

 

「?…ああ、分かった。JKにも伝えとくよ」

 

「シクヨロ〜♪」

 

 

そう言って、手を振りながら鈴谷は教授たちの研究室がある研究棟へ……

 

 

―――向かわなかった。

 

代わりに向かったのは、先程静とJKが講義を受けていた教室。

 

 

周囲に人目が無いことを確認して、鈴谷は深呼吸する。

 

 

「スゥ……ハァー……」

 

意を決した表情で、鈴谷はブレザーの左ポケットからワニのエンブレムが刻まれた、ダークグリーンの《カードデッキ》を取り出し、窓ガラスに向けて翳した。

 

 

ガラス面に映し出されたベルト・Vバックルを腰に装着し、カードデッキを翳した左腕を右へと振り抜き、カードデッキを両手に包んで半回転。ワニが大きな口を開いたような形でカードデッキを突き出し、叫ぶ。

 

 

 

「変身!!」

 

 

左手に持ち直したカードデッキをバックルに挿し込み、鈴谷は鏡像の影を纏い、仮面の戦士へと変身。

 

 

 

―――それは、後に沼田静が変身する《仮面ライダーヴァイス》だった。




まさか、こんな展開になるなんて……

作者は何やってるのよ!?←オマエだオマエ


自分でも予想外な展開に、混乱が収まりません!


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79話 : 仮面ライダーヴァイス誕生秘話その5

作者の予定や構想さえも裏切ってくる、本作の世界観……。


戦わなければ、生き残れないッ!!


鈴谷と分かれ、一足先に食堂へと着いた静。

 

鈴谷の怒号から逃げてきたJKと相席になり、持参してきた手作り弁当を出すと合掌した。

 

 

「いただきます」

 

「お……い、いただきまっす!」

 

 

JKも釣られる形で手を合わせ、塩サバ定食を食べ始める。

 

 

「ふぅ……。なんかさ?沼田ってお堅いっつーか、生真面目だよなあ……別に、それを変とか言うつもりはねえんだけど」

 

 

「飯を食う時の基本だろ?周りの連中が不作法になってるんだよ、周りが」

 

 

お前は違うことは解ってるけどな、と付け加えて、静は水筒の水を飲む。

 

 

(鈴谷の奴、ちょっと遅いな……。まぁ、気長に待つか)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

沖ノ島周辺 戦闘海域 12:14 p.m.

 

 

 

沼田統也提督が誇る、赤塚艦隊。

その主力を誇る金剛を旗艦に、随伴艦として姉妹艦《比叡》・軽巡洋艦《木曽》。そして駆逐艦枠に《深雪》と《白露》、軽空母の《龍驤(りゅうじょう)》という編成で組まれた第2艦隊が出撃、深海棲艦を相手に勇猛果敢に戦っていた。

 

 

 

「バァァァニィィイイング……!ラアアァァァァァヴッ!!!」

 

 

力強い叫びと共に砲撃を繰り出し、金剛は先陣を切る。

 

 

「ギィッ!!」

 

駆逐イ級、軽巡ホ級が反撃に出て、それぞれ比叡、白露に狙いを定めて砲撃してきた。

 

 

「うわっととと!?」

 

「危なっ!」

 

 

二人共に辛うじて躱し、態勢を立て直す。

 

 

「白露!比叡!ケガは無いな?」

 

「おかげさまで!」

 

「いっちばんに勝利を決めるのは私なんだからね!」

 

 

 

―――その頃、赤塚鎮守府。

 

 

各艦娘の艤装に搭載された小型カメラで、統也と青葉たち控えの艦娘たちは戦況を見守っていた。

 

 

「流石に、空母や軽巡が混ざると奴さんも手強くなるなぁ……」

 

軍帽を取り、統也は頭を掻く。

 

 

「現時点では、敵機の爆撃にも上手く対応出来ているようですね」

 

 

そう呟く青葉に、扶桑の姉妹艦《山城》が頷く。

 

 

「そうね……このまま夜戦に持ち込めば、殲滅も可能なんじゃ……」

 

 

 

その時、統也が椅子から立ち上がる。

 

優勢の立場にあって、統也が艦隊に伝えた指令は思いもよらぬものだった。

 

 

「金剛、それから艦隊総員に伝える!敵艦隊の陣形が崩れ始めている今、この機を利用しない手は無い!全力で戦闘海域を離脱し、そのまま敵主力の陣営に突入する!」

 

 

「えっ!?」

 

『なんだって!?』

 

 

司令室で驚きの声があがる中、無線機越しに声を荒げたのは木曽だった。

 

 

『ちょっと待て!あと少しで殲滅出来るんだぞ!?それを放って逃げろってのか!!』

 

 

納得できないと問いつめる木曽に対し、統也は落ち着いた様子で答える。

 

 

「我々の目的は、深海棲艦から制海権と海域を取り戻すことだ。深海棲艦の根絶ではない。殲滅ばかりに固執すれば、その分君たちの弾薬や燃料を浪費することになり、資材全体の不足に繋がる」

 

 

「そっか……。資材不足になれば、私たち艦娘の体調管理や装備の組織全体の士気にも関わる………」

 

 

傍で会話を聞いていた扶桑や青葉など、一部の艦娘は統也の意図を理解していた。

 

 

「戦況は刻一刻と変わっているんだ。一時の優勢に溺れたら、あっという間に数秒後の劣勢に捕まるぞ!」

 

 

『……了解。すまない、つい調子に乗っちまった……。アンタから、何度も注意されてるってのに……』

 

 

「いや、良いんだ。戦線に居て優勢にあれば、誰だって浮かれるさ。私だって気を緩めていただろう」

 

 

素直に謝る木曽に代わり、金剛が応答する。

 

『提督。みんなは私が旗艦として、しっかりとまとめマース!』

 

「ああ、よろしく頼む。やれやれ………これじゃ、永遠の未熟者と言われても反論の余地は無いな……」

 

 

「私たちと同じ目線に立ってくれている証拠じゃないですか、司令官♪」

 

 

そう言って微笑む青葉に、統也も朗らかな笑顔で返す。

 

 

「…さて。悪いけど、私は少し横にならせてもらうよ。緊急の連絡もしくは、戦闘海域に入る直前になったら起こしてくれ」

 

「はい♪」

 

 

椅子の背もたれを倒し、机の上に足を投げ出して、軍帽をアイマスク代わりにして顔を伏せて仮眠をとる。

 

 

仮眠を取り、リラックスした状態となることで艦隊の現状と海域、敵艦の情報を整理。

そうした中で、被害を最小限に抑えられる陣形や作戦を組み立てるのが、提督・沼田統也の手法だった。

 

 

 

(さて………どうしたものかね?)




純粋な艦娘と深海棲艦の戦闘……

まぁ!なんてむずかしいッ!!(泣)

次回以降、ちょっと更新が今まで以上に遅くなるかもですがご勘弁を(^_^;)


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80話 : 仮面ライダーヴァイス誕生秘話その6

お気に入り登録者数が、とうとう200名達成!!


みなさん、ありがとうございます!!!


これからも、グダ付きながらではありますが頑張ってまいりますので、どうぞよろしくお願いします!!(^_^)ノシ


ミラーワールド―――。

 

 

それは、文字通り鏡の向こうの世界を指す。

 

 

いったい、いつの事であろうかは誰にも思い出せない記憶の彼方……かつて、この異世界にて過酷なバトルが繰り広げられていた。

 

 

しかし、それは決して誰かの考えた空想などではなかった………。

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

城南大学の敷地内からミラーワールドへ進入した、鈴谷海華こと仮面ライダーヴァイス。

 

 

「ほんっと……数だけなら深海棲艦といい勝負だよね、コイツら」

 

 

獣人の様な姿をした、レイヨウ型のミラーモンスター・メガゼール、ギガゼール、ネガゼールのガゼル軍団を相手に立ち回りながら、ヴァイスは悪態をつく。

 

 

『グルルル……』

 

『ゴルルル……!』

 

 

低く身構え、ヴァイスを蹂躙しようと唸り声をあげるガゼル軍団だが、ヴァイスは決して慌てない。

 

 

「………まっ。あたしはやる事をこなすだけだしぃ?」

 

そう呟きながら、左腕に装備した召喚機・バイトバイザーの『ワニの(アゴ)』を開き、ドローしたアドベントカードをセット。

 

 

「《艦娘だけど艦娘じゃない生き方》を許してくれた、提督への恩返しと……あたしが守りたい人たちを守るための生き方ってヤツをね!!」

 

 

《SWORD VENT》

 

 

契約モンスター・バイトダイラーの尾を模した大型ランス、バイトアンカーを装備。

 

力強く振りかざし、ガゼル軍団に向かって突撃するのであった………。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その頃、赤塚鎮守府では。

 

 

仮眠を終えた沼田統也が起き上がり、艦隊の状況を把握していた。

 

 

「どうにか、一人の中破・大破を出す事も無くボス海域に潜り込めたか……。まったく、金剛(かのじょ)の指揮能力の高さには、毎度の事ながら感心させられるよ。指揮官である私が、彼女の采配に何度救われたことか」

 

 

世間一般では、金剛の姉妹艦である霧島を《艦隊の頭脳》と称することが殆どであり、実際、統也の艦隊でも霧島は充分切れ者だし、統也の立案した作戦を検証し、修正を加えて実行案に仕上げる主な役割を担っている訳だが、しかし……シミュレーション通りに事が上手く進まないのが戦場である。

 

 

窮地に陥った時、或いは不測の事態が発生した時。

艦隊全体を落ち着かせ、態勢を整えることも旗艦の務めであるが、有能とされる艦娘たちの中でも、金剛は抜きん出ていた。

 

単純な火力や戦力としてなら、他にも優秀なメンバーが居ることは、統也は当然理解している。

 

しかし、メンタル面の強さ――こればかりは、一朝一夕で鍛えられるものではない。

 

 

赤塚に着任する前……金剛は、幾つもの海戦を潜り抜けた《ときわの英雄》と呼ばれし伝説の提督・通称《オサムシ》の秘書艦として活躍していたという。

 

老いを理由にオサムシが退役してからは、他の艦娘たちと共に彼の身の周りを世話していたそうだが、オサムシは、金剛たちの才能はもっと広い場所で活かされるべきだとして、転属を促した。

 

そうした経緯から、金剛たち金剛型4姉妹は統也の艦隊に迎えられたのである。

 

 

 

(相手は戦艦ル級2に空母ヲ級1……それから…)

 

 

(重巡リ級1に駆逐イ級2……かなりゴツめの編成ネ……)

 

 

司令室では統也が、戦闘海域では金剛がそれぞれで分析を開始。

 

 

(空母が居るとなれバ、こちらも輪形陣で対応すべきでしょうケド……)

 

(相手の主力は戦艦組だ。こちらも火力が決して控えめな訳じゃあないが……複縦陣や縦列陣で来るとなれば、砲雷撃の圧は大分変わってくる)

 

 

果たして、《脚本家》と《指揮艦》はどう動くのか―――?




かなり間が開いてしまい、申し訳ないですm(_ _;)m


リアルでの職業訓練による疲れが溜まってきたようで………

ヴァイス編、もうちょいお付き合い下さいませませ。


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81話 : 仮面ライダーヴァイス誕生秘話・(テン)

UA、遂に4万到達……!!


仮面ライダーヴァイス編、ちょっと強引ですが終演に向かわせていただきますm(_ _;)m


城南大学 04:36 p.m.

 

 

「………」

 

「大丈夫か、沼田?」

 

 

昼休みを過ぎ、午後の授業も無断欠席となってしまったにも関わらず、鈴谷は結局戻らなかった。

 

 

その事に対する不安が静の思考を支配し、JKの呼びかけにもすぐには応えられなかった。

 

 

「ん……ああ、すまない。大丈夫……じゃ、ないな…やっぱり」

 

 

「ちょっと連絡入れてみようぜ?俺も今日はバイト休みだし」

 

「ありがと……俺も休みだから、捜してみるわ」

 

 

これといった予定も入れていなかったので、二人は鈴谷を捜すことにした。

 

 

 

意外と抜けてる所のある奴だから、そのままサボりをきめただけだろう――

 

この時、静はその程度にしか考えていなかった。

 

 

………しかし。

 

鈴谷の秘密を知らぬのだから、当然と言えば当然だった………。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

静とJKが鈴谷を捜しに動いていた、同じ頃。

 

 

ヴァイスはガゼル軍団を1体残らず討伐した。

 

 

「うーわ、ヤッバ……。思ったより時間食っちゃった……」

 

 

右手の指先から、徐々に粒子化が進んでいた。

 

 

 

 

―――ミラーワールドは、単なる異世界ではない。

 

 

鏡の中にあるもの……それは、我々が現実と呼ぶ世界に存在するからこそ鏡像として存在出来る。

 

しかし……実体無き物が存在することの出来ないように、ミラーモンスターによってミラーワールドに引きずり込まれた人間は存在出来ない。

仮に、運良くミラーモンスターの脅威から逃れることが出来たとしても、あとに残されているのは、元の世界に帰ることの出来ないまま消滅するという絶望だけである。

 

ヴァイスや龍騎の様に、ミラーモンスターの力を借りて変身する仮面ライダーは、その姿こそがミラーワールドという世界が持つ力から身を護る、鎧としての役目を担っているのだ。

 

 

しかし、それでも完全とはいかない。

 

問題無く活動出来るのは、精々10分そこそこが限界であろう。粒子化が始まれば、それが帰還する合図であり、時間との戦いとなる。

 

 

「あたしとした事が、ちょっと熱くなっちゃったからねぇ……早いとこ戻らないと………ん?」

 

 

元来た道へ急ごうとした、その時。

 

 

 

「…………誰……?」

 

 

少し離れた先に、知らない人影があり。

 

 

「………」

 

 

その男は

 

 

《黒いカードデッキ》を構えると、不気味な笑みを浮かべながら、静かに呟いた。

 

 

 

「変身……」

 

 

 

 

 

 

赤塚鎮守府 05:14 p.m.

 

 

一方、沼田提督の第2艦隊が帰還した。

 

 

 

「Hey!提督ー!!戦闘Resultが挙がったヨー!♪」

 

金剛の溌剌とした第一声に、皆笑みを綻ばせる。

 

 

「すまへん、提督。艦載機のみんな、ガンバってくれたんやけど……」

 

 

満足のいく活躍が出来なかったことに、軽く凹む龍驤。

 

 

様々な表情で報告する艦娘たちに、統也はオホンと咳払いをした。

 

 

 

「みんな!まずはよく無事に戻ってきてくれた!一人の轟沈も無く、こうして艦隊全員の帰りを迎えることが出来て、本当に嬉しく思う」

 

 

統也の少々堅苦しい言葉に、皆はクスクス笑いながらも聞いていた。

 

 

「……さて。それじゃ…金剛たちはまず入渠と補給を済ませてきなさい。その後、改めて報告を聞くとしよう。―――最後に。みんな……本当によく帰ってきてくれたね。おかえり」

 

 

軍帽を取り、金剛たちに労いの言葉をかける統也の顔は、我が子の帰りを出迎える父親のそれだった。

 

 

 

判定は《戦術的勝利》。

 

 

龍驤の艦載機や、艦隊全員の腕を信じて、金剛は敢えて複縦陣を展開。

 

空母ヲ級の猛威や戦艦ル級の砲撃に苦しめられながらも、深雪や木曽の雷撃、比叡の一斉砲火が勝利を引き寄せ、さらには敵艦隊旗艦の戦艦に大打撃を与え、戦局の好転に大きく貢献した白露にMVPが贈られた。

 

 

「おめでとう、白露」

 

「ありがとう♪時雨」

 

 

姉妹艦の時雨からお祝いの言葉をかけられ、白露は満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

と……そこへ大淀が統也に声をかけてきた。

 

 

「沼田提督、お時間よろしいでしょうか?」

 

「ん?どうかしたかい、大淀?」

 

 

「艦隊司令部より、入電です」

 

何事かと、統也は司令書に目を通す。

 

 

すると、統也は深いため息を吐いた。

 

 

「青葉。金剛たちに高速修復剤を使ってあげてくれ」

 

「司令官?」

 

 

余程でない限り、艦娘の傷を短時間で癒やす高速修復剤・通称バケツを使わず、自分たちにゆっくりとした時間を与えてくれる統也がバケツの使用を促した……。

 

 

「……分かりました!」

 

 

となれば、本部から緊急の通達があったに違いない。

 

青葉はそう判断し、統也の指示に従った。

 

 

 

「ハァ……」

 

 

青葉が入渠室へ行った後、統也は改めてため息を吐き、頭を掻いた。

 

 

「提督?本部は何と?」

 

 

 

扶桑の問いに、統也は静かに答えた。

 

 

 

「―――国家転覆の容疑が私に掛かっているので、大本営に出頭せよ…だそうだ」




ヴァイス編が思ったより長くなってしまった事、そしてリアル艦これで新たに迎えた娘たちのキャラを把握&ストーリーとのブレンドを仕上げるため、ちょっとギアを上げて参ります(^_^;)


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82話 : 仮面ライダーヴァイス誕生秘話・脚本家還ラズ

仮面ライダーヴァイス編、最終章その1。


皆さん、壁を殴る準備をして下さい……(超☆唐突)


「どういう事だよ、これはッ!!!」

 

 

入渠・補給を済ませた金剛たち第2艦隊は、他の艦娘らと共に執務室に呼び出された。

大本営からの伝令について、統也が簡潔に報告したその直後。

 

再び、木曽が怒鳴り声をあげた。

 

 

「どうもこうもない……。大本営(うえ)から直々のお達しだ」

 

「そんな事を聞いとるんやあらへん!!なんで提督が容疑者扱いされとるんかを聞いとるんや!!」

 

 

木曽を落ち着かせようとする統也に対し、龍驤も詰め寄った。

 

 

 

大本営からの通達……

 

それは、統也が艦娘と市民を煽動し、国家転覆を謀った容疑が掛けられているため、直ちに艦隊司令部へ出頭し、尋問を受けよ……という物だった。

 

 

「オーヨド!!連絡員として怪しいと思わなかったデスカ!?」

 

統也に対し、信頼や好意を寄せる艦娘たちの中でも、トップクラスと言えるほど、統也に愛情と絶対的な信頼を寄せる金剛は、普段からは想像がつかないほどに荒ぶり、大淀に噛み付いた。

 

 

「私も最初は、提督を嵌めるための偽書かと思いました。ですが……」

 

言いづらそうに、大淀は統也の方を見る。

 

それを受けて、統也が代わりに答えた。

 

 

「大本営の判、それから筆跡鑑定を明石に頼んで、確認をしてもらった。判定は……本部のもので間違いない、との事だ」

 

 

「そ…んな………」

 

あまりに無情な情報に、青葉は青ざめる。

 

 

「ふざけんなよ……!こんなのガセネタだ!!司令部に殴り込んで、抗議してやるッ!!!」

 

怒り心頭に達した重巡洋艦《摩耶(まや)》が執務室を飛び出そうとする。

 

 

「止さないか!摩耶!!」

 

 

しかし、統也がこれを一喝。摩耶を引き止める。

 

 

「提督……でもよ!」

 

「これは、組織との協調性とやらを散々無視してきた私にツケが回ってきたって事だろう。もし、ここで摩耶たちが本部へ抗議しに乗り込むようなことになれば、それこそ奴さん方の思うつぼだ。君らを利用して、大本営を乗っ取ろうとした反逆者という証拠として、彼らに大義名分を与えることになってしまう」

 

 

「そんな……!提督は悪いことなんて一つもしてないじゃん!!」

 

淡々と分析する統也に、白露は弁護する。

 

 

「いずれにしろ…行かなければ行かなかったで、彼らの計画の片棒を担ぐことになってしまう。そうなれば、君たちまで要らぬ罪を被ることになるだろう」

 

 

椅子から立ち上がり、統也は軍帽を被る。

 

 

「だから……行ってくるよ。私だって、身に覚えの無い罪を吹っかけられるのは納得できない」

 

 

「同じ辞めるにしたって、働いた分の年金は、きちんとふんだくらせてもらわないと」

 

「提督……それ、余計な一言って言わへん?」

 

「ん?……あっ」

 

 

龍驤のツッコミに、統也がアハハ…と苦笑いすると、皆が笑顔になり、張り詰めた空気が幾分和らいだ。

 

 

 

その翌日。

 

 

「―――さて!それじゃ、行ってくるよ。青葉、扶桑。みんなをよろしく頼む。伊勢、比叡。金剛と摩耶のブレーキ役は任せたよ」

 

「了解」

 

「お気をつけて、司令!」

 

 

不満げな摩耶、そして半ベソになりながら付いていこうとする金剛を押さえながら、比叡と伊勢は敬礼する。

 

 

そして……

 

 

「司令官……行ってらっしゃい」

 

「……行ってくる」

 

 

 

青葉の頭を優しく撫で、統也は本部からの迎えである車に乗り、大本営へと出発した。

 

 

「遅くても、半日ほどで終わると思われます。ご安心下さい」

 

「そう願いたいね……」

 

「……?」

 

 

この時……送迎を行った憲兵は、統也の呟きの意味を理解していなかった。

 

 

 

―――そして。

 

赤塚鎮守府提督・沼田統也中将は、この日を最後に、自らの鎮守府へ戻ることは無かった………。




まず、ヴァイス編最終章パート1終了。


胸糞悪いけど、安心して下さい。


僕も胸糞悪くてたまりませんから(#^ω^)


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83話 : 仮面ライダーヴァイス誕生秘話・(シュウ)

長く続いた、龍騎2章・仮面ライダーヴァイス編。


哀しい結末ですが、どうぞ最後までお付き合い下さい。


時は少し遡り、沼田第2艦隊が赤塚鎮守府へ帰投した頃………。

 

 

昼休みを最後に、連絡が途絶えた鈴谷を捜すべく、静とJKは街中を駆け回った。

 

 

「ハァ…ハァ……。居たか?」

 

息を切らしながら、静はJKに確認を取る。

 

しかし、JKは首を横に振る。

 

 

「ダメだ……!あいつの行きつけのカフェとかも行ったけど、来てないって……」

 

「くそ……!」

 

 

手掛かり無しという事実に、静は悔しさに顔を歪める。

 

 

「JK、お前は待機しててくれないか?ひょっとしたら、行き違ってるせいで顔を合わせないのかも!」

 

「確かに、それも可能性としちゃあ有るかもしれねえけど……」

 

 

「頼む!見つけたら、すぐ連絡入れっから!!」

 

 

じゃ!と言って、静は走り去った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

一方……ミラーワールドでは、ヴァイスを謎の敵が襲い、一方的に攻撃を仕掛けていた。

 

 

「ハァ…ハァ……!ったく……何なのよ…アンタは……!?」

 

 

襲いかかってきた敵―――漆黒の鎧に身を包み、禍々しいオーラを放つ騎士と、それと同様に黒々とした身体を持つ龍を前に、ヴァイスは傷を押さえながら睨みつける。

 

 

「俺は……最強の仮面ライダー……。そして………お前を倒し、潰す者だ」

 

 

ヴァイスの問いかけに対し、漆黒の騎士は淡々と言い放った。

 

 

「はっ……中二病ってヤツ?今時流行んないっての……」

 

 

軽口を叩きつつも、ヴァイスは内心危機感を抱いていた。

 

 

コイツは危険だ。

 

隙を突いて、早く外に戻らないと、本当に帰れなくなってしまう―――。

 

 

そう思いながら、ふとビルのガラス面に視線を移す。

 

 

 

「―――えっ……」

 

 

視線の先に映り込んだ、その光景にヴァイス―――鈴谷は目を疑った。

 

 

大本営のものと思われる車を、謎の黒服のグループが襲撃。

 

運転士の憲兵が、何事かと拳銃を取り出して応戦しようとするも、グループの一人がそれよりも早く、ナイフと思しきもので攻撃。

 

憲兵はそのまま倒れ、血を流したまま起き上がることは無かった。

 

 

「っ!?…て、提督………!?」

 

 

さらに、グループによって車から引きずり出された人物……それは、大本営によって呼び出しを受けた沼田統也だった。

 

 

「な、何がどうなって……あぅ!?」

 

 

注意が逸れた、その一瞬を突かれ、ヴァイスは漆黒の騎士と漆黒の龍の攻撃をモロに喰らってしまう。

 

 

「ぐ……!!ちっ…く、しょおおおっ!!!」

 

 

このままやられてたまるかと、ヴァイスはアドベントカードを抜き、バイトバイザーに読み込ませる。

 

 

《FINAL VENT》

 

 

バイトダイラーを召喚し、ヴァイスはファイナルベント『マッドシェイカー』を発動。

 

 

「フン……。最初から殺す気で来れば良いものを……」

 

 

鼻で笑いながら、左腕の召喚機のカバーをスライドし、カードを読み込ませる。

 

 

《FINAL VENT》

 

 

漆黒の龍を従え、騎士は宙に舞い上がる。

 

 

「……フンッ!!」

 

 

青白い炎に身を包み、騎士はキックを放った。

 

 

衝突する直前。

 

ヴァイスはポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「提督………静ちん……ゴメンね……」

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ……」

 

すっかり陽が沈み、夕暮れ空が夜の色に染まってきた頃。

 

静は汗だくになりながらも、捜し続けていた。

 

 

「ハァ…ハァ……。鈴谷ーッ!!」

 

 

やけくそとばかりに、静は大声を張り上げた。

 

 

 

「…………くっそ……。何処行っちまったんだよ…鈴谷……」

 

 

疲労も限界に達していたため、静はガックリと膝を着いてしまった。

 

 

―――と、その時だった。

 

 

「うっさいなぁ………。近所迷惑…でしょうがよ……」

 

 

弱々しいながらも、しかし聞き慣れた、捜し続けた声が聞こえてきた。

 

 

「鈴谷……鈴谷!!」

 

 

街角の陰で、血を流しながら座り込んでいる鈴谷を見つけた。

 

「お前……その怪我は!?」

 

「あはは……やっちゃったゼ♪…なんてね………」

 

 

静が相手だからであろう、鈴谷は笑ってみせた。

 

 

「酷い……!すぐ病院に……」

 

「無理だよ……もう限界だし………それに、人間の医療じゃ……鈴谷の傷は……完全には…治せない……」

 

 

「な……どういう意味だよ、それ………」

 

 

言葉の意味が分からない静に、鈴谷は告白した。

 

 

「静………あたしね……艦娘なの……。マジな…話……」

 

 

突然の告白に、静は目を見開く。

 

「提督に……静のアニキにさ、勧められたの………。戦場に出たくないのなら、強制はしない。その代わり……自分よりも……提督に相応しい男を…紹介、するから……会って…しばらく、行動を共にしてくれないか………って……」

 

 

さらに、鈴谷は静の兄――統也に勧められて、静と共に行動していたと明らかにした。

 

 

「悪気は無かったんだよ……?でも……結局、静を騙してたことに…なっちゃった……。ゴメンね?」

 

 

「やっぱ……艦娘が恋なんて………NGだよね―――」

 

 

「んな事知るかよ……」

 

涙を流す鈴谷を、静は抱きしめた。

 

 

「その艦娘に、ベタ惚れしてる俺なんて……引きニートよりもドン引きされる大バカってことになるだろが……!」

 

 

言い方こそ回りくどいが、それが静なりの告白だということを鈴谷は理解していた。

 

 

「……あはは…やっぱ、静ちんって口下手だねえ♪そんなんじゃ……女の子…捕まえ、らんな…ぃ、よ……?―――」

 

 

 

それだけに、嬉しかった。

 

飾らない言葉が

 

思うままの言葉が、鈴谷の心に沁み渡り、気張らなくて良いんだと優しく包み込んでいく。

 

 

だから、改めて思う。

 

 

やっぱ、“死ぬ”って怖いなぁ―――。

 

 

 

 

「………鈴谷?」

 

 

眠ってしまったのかと思い、揺さぶって呼びかける。

 

 

しかし……

 

彼女の腕は、糸の切れた人形のように脱力しており

 

 

呼吸(いき)も……

 

していなかった………

 

 

「……ぁ……ああ……うあ…あぁあ………ッ!!」

 

 

 

 

―――耳元で、何か喧しい。

 

誰かが、大声で喚いて…いや、これは泣いている?叫んでいるようにも聞こえる……。

 

 

 

その泣き叫ぶ声の主が、自分自身であることは程なくして理解はしたが、困ったことに止め方をド忘れしちまったらしい……。




仮面ライダーヴァイス編……


あと1本で終わります。

沼田静がヴァイスのカードデッキを手に入れたこと、そして統也の死の真相については、次回明かします。


戦わなければ、生き残れない―――。


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84話 : 仮面ライダーヴァイス誕生秘話・鏡に映るは憎悪の塊

仮面ライダーヴァイス編、完結。


大本営 司令室 05:25 p.m.

 

 

 

「………うーむ…」

 

 

国家転覆の企て…及び海軍組織への反逆罪により、沼田統也中将を軍事裁判にて尋問する―――。

 

 

警視庁鎮守府が発足されておらず、新生日本海軍司令部の要職に就いていた山県大将(当時)は、この通達に対してずっと疑問を抱いていた。

 

 

何故なら、山県は統也と幾度か演習の相手をしたことがあるだけでなく、苦労人な提督同士、腹を割って話すことも多かったので、彼の人柄は大体理解していた。

何より、今は亡き戦友の忘れ形見である鳳翔との婚姻の際、先輩の門出だからと仲人を名乗り出てくれたのが他ならぬ統也だったのだ。

 

 

自分は世話を焼くくせに、誰かに世話を焼かれるのは嫌がる面倒くさい後輩……。

それが、山県の抱く統也に対する印象だった。

 

それだけに、今回の招集について納得のいかない点があまりに多過ぎる。

 

 

「……川内、不知火。居るな?」

 

指令書から目は離さず、山県は部下の艦娘二名を名指す。

 

 

「はい」

 

「呼んだ?提督」

 

音も立てず、軽巡洋艦《川内》と駆逐艦《不知火(しらぬい)》が姿を現す。

 

 

「赤塚鎮守府の提督、沼田は分かるな?今回の出頭命令について、情報を集めてもらいたい。不知火は外、川内は内から頼む」

 

 

「承知しました。落ち度の無いよう、遂行します」

 

「合点!」

 

 

 

(どうも胸騒ぎがする………。沼田……まさかと思うが……)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「っし……。これで、偽装は良いか」

 

「な、なぁ……今更だけど、これ……下手すっと俺らクビ切られんじゃねえか?」

 

 

大本営に向かう途中の、統也が乗っていた車を襲い、運転士の憲兵や統也を殺した5人の犯行グループ……彼らは大本営に所属する、士官候補生であった。

 

 

『国家転覆を目論む、脚本家気取りの反逆者を正義の名の下に粛清せよ』

 

 

突然の密命に最初は驚いたが、前金としてとんでもない金額が口座に振り込まれていた為、欲に目が眩んだリーダー格と数人の取り巻きが実行に移った。

 

 

憲兵は、取り巻きの一人が心臓目がけてナイフを突き立てたのでそのまま放置したが、統也は数人がかりで押さえ込んで絞殺……免許証から住所を割り出し、自殺に仕立て上げて、計画は完了という予定だった。

 

 

しかし、グループの中で付いてきた……というより、付き合わされた、消極的なメンバーが一人居た。

 

元々優柔不断で、押しに弱い性格であったためにリーダー格や取り巻きたちのパシリに使われていたのだが、暗殺すると聞いて、これを断固拒否。

 

「来ねえなら、お前の分前は無しだぞ?」と脅されたが、『人殺しになるくらいなら弱虫のままで良い!』と逃げてきた。

 

 

 

その弱虫とバカにされた士官候補生・小宮は、独り赤塚鎮守府へと走っていた。

 

統也が危ない、このままでは殺されてしまう。

その事を伝えるために………。

 

 

しかし

 

 

「!……あ、あの……貴方は…ひょっとして………!?」

 

 

その道中、小宮は一人の女性を抱いて泣き叫ぶ青年と遭遇した。

 

 

 

 

「……あ…あの………」

 

 

傷だらけで、静かに笑みを浮かべたまま、もう二度と目を覚まさない鈴谷を抱いたまま、どれ程泣き叫んでいただろう。

 

 

声はかすれて、正直、声をかけられるまで口の中がカラカラになっていることに気付かなかった。

 

 

「…ぁ…あんた…は………?」

 

服装から、大本営の士官候補生だというのは理解したが、それにしたって初めて見る顔だ……

 

そんな事をぼんやりと考えていた、次の瞬間。

 

そいつは、いきなり土下座してきた。

 

 

「すいません!!!俺…軍人としてだけじゃなく、人として最低な事をやらかしましたッ!!!!」

 

 

土下座してきた小柄なそいつ……小宮と名乗った候補生は、自分とその同期生数人が、大金を餌に釣られて、無実の罪を着せられた兄さんを殺す計画を立てたことを話した。

 

「俺はやりたくないって言ったんです……でも、あいつらを止めなきゃいけないのに……また、俺は独りで逃げて…………ッごめんなさい……ごめんなさい…ッ!!」

 

 

小宮の体は小さく震えており、コイツは弱いけど正しくあろうとする人間なんだということは理解出来た。

 

 

なるほど……

 

コイツは確かに逃げたのかもしれないが、それだけで済ませるほど卑怯者にもなれそうにない。

恐らく、兄さんの鎮守府にでも行って、危機を報せるつもりだったんだろう……。

 

 

「……そいつらの名前と、今何処に居るのかを教えてくれ。そしたら、お前だけはなんとか許してもらえるよう説得してやる」

 

 

 

 

小宮の懺悔……そして、大本営の一部派閥共が企てたクソみたいな計画を聞いて、俺は思い知らされた。

 

 

どんなに正しく、真っ直ぐな思いを貫こうとしたところで、権力なんていうハリボテに隠れて、嘘の力を手にした奴の前では無力だと……。

 

なら、そんなクソみたいな偽りの壁をぶち壊して、本物の力とは何かを徹底的に教え込んでやれば良い……。

 

 

 

「だから………」

 

 

―――想い人の遺した、鏡に映る『力』を手に入れ、憎しみと怒りに囚われた猛獣と化した沼田静こと《仮面ライダーヴァイス》は、兄を死に至らしめた犯行グループは勿論、計画を企てた大本営の権力者たちを皆殺しにして、契約モンスター・バイトダイラーの贄とした………。

 

 

 

「そうだ………。偽物が力を持つから、本物の正しさが否定されるんだ………。ククク……なら、俺が証明してやる………!本物の怖さをなぁ!!クッハハ…ハハハハハハハハハ!!!」

 

 

獲物の血を浴びたまま、憎しみの牙を振るい続ける大鰐は、狂った笑い声を上げ続けた……。




仮面ライダーヴァイス編、最後までお付き合いいただき、ありがとうございましたm(_ _)m


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85話 : 引き返せないのならば

龍騎編第2章、ひとまずのフィナーレです。


戦わなければ、生き残れない!


「………これが、俺の知ってることだ。後の事は青葉……君が知ってる通りだ」

 

 

「………ッ………」

 

 

赤塚鎮守府にて、《脚本家(シナリオライター)》と讃えられた智将・沼田統也の実弟、静から話を聞いた城戸真司…そして、統也の秘書艦を務めた青葉は黙り込んでしまっていた。

 

 

あまりにも惨い……そして理不尽な仕打ちに、青葉は泣き崩れ、真司は溢れんばかりの怒りに拳を震わせていた。

 

 

「……分かったかい?アンタや兄さんみたいに真っ当な人間や、鈴谷みたいに人のために命を削る艦娘ほど排除されて、嘘の塊みたいなゴミばかりが伸し上がっていく……それが、この世界の仕組みなのさ。そんな奴らを黙らせるだけの力を得るには、そいつらが嫌う力を得て振りかざすしかないんだよ」

 

 

そう言って冷ややかな笑みを浮かべる静の顔は、先程までの悪人振った雰囲気は微塵も無く。

 

大切な物を奪われ、傷付いた一人の若者としての本心が表れていた。

 

 

「……そっか……」

 

真司は一言、ポツリとそう呟く。

 

 

「とりあえず、アンタだけはそういう奴らと違うことは分かった。だから、これ以上攻撃はしないし、アンタの邪魔もしない。でも……アンタが俺を止める権利が無いってことも解って欲しい。アンタみたいなお人好しに、俺みたいな奴の過去をどうこうされたくないんだ」

 

 

「静さん……!」

 

真司のことは認めたが、それでも自分の復讐を止めるつもりは無いと言う静に対し、青葉はいい加減にしろと厳しく諌めようとした。

 

 

「―――分かった。なら、気の済むまでやれば良い」

 

 

ところが、真司はそれを許す発言をした。

 

 

「せ、先輩!?」

 

「っ!?」

 

 

これには静も予想していなかったらしく、驚きのあまり目を見開いた。

 

 

「手段は最悪だけど、それで気が済むのなら好きなようにすれば良い。兄貴を殺した奴らや、大本営の権力者どもの遺族から恨まれ続けることが……戦い続けながら生きることが出来るのならな」

 

 

「ッ!!」

 

「ぁ……」

 

 

遺族………

 

その一言に、静と青葉はハッとなる。

 

 

 

「俺、お前や青葉みたいに物事を難しく考えるのは苦手でさ?頭ん中が爆発すると、見える範囲がすっごい狭くなっちゃうんだけど……それでも、踏み越えたらまずいラインくらいは忘れないようにはしてる……つもり」

 

 

だって

 

 

「それを踏み越えたら……もう、引き返せなくなっちゃうから」

 

 

「………」

 

それを聞いて、静は自分のしてきた事を思い返す。

 

 

醜い欲望を持った連中のために、兄さんは殺された……

 

だから、それに対する復讐は殺す以外に無い……そう思いながら、奴らを一人残らず消した……。

 

 

でも………

 

 

 

そんなクズ共だって、何も生まれた時からそうだったとは限らない。

 

 

そいつらにだって……家族が…大切な人たちが居たんだ………。

 

 

 

我が子の死を受け入れられず、半狂乱に泣き叫ぶ両親や大好きな父、或いは祖父との別れを拒む子供たちの姿を、静は見ていなかった。

 

 

否……見えてはいたが、見ないようにしていた。

 

 

自分のした事が、兄を奪った連中と何ら変わりないことを、理解していたから………。

 

 

 

「………おれは……人を…殺し……ちがう…人殺しなのは、兄さんを殺した奴らのことで、おれは……おれは…!!」

 

 

目を背けてきたことを思い返した途端、静の身体がガタガタと震えだした。

 

震えを抑えようと、静はブツブツと呟き、己の行為を正当化しようとする。

 

 

 

「おれは…おれはっ……!!!」

 

 

―――その時。

 

静の体を、青葉が優しく抱きしめた。

 

 

「ごめんなさい……私にも、もっと力があれば……こんな事をさせなくて済んだのに……っ…司令官を……あなたの兄さんを死なせてしまって………ほんとに…ごめんなさい………っ……!」

 

 

青葉の流した、暖かな涙が静の頬を伝い、鼓動が静の胸に響いてくる。

 

 

 

「青葉?それに………静さん?」

 

 

そこに、品の良さげな声が呼びかけてきた。

 

 

「えっ……えっと……君は?」

 

ブラウンのブレザーに、艷やかで長い茶髪。

 

その顔立ちは、鈴谷と似ていた。

 

 

「く…熊野……さん?」

 

青葉の裏返った声に、真司も目を丸くした。

 

 

「え?なに、知り合い?」

 

「最上型重巡洋艦《熊野》さん……。鈴谷さんの、姉妹艦…です………」

 

 

「……えっ………?」

 

 

熊野―――

 

鈴谷に妹がいることは本人から聞いていたが、名前までは知らなかったので、静も熊野の顔を見る。

 

 

静の顔を見て、熊野は穏やかに微笑んだ。

 

 

「鈴谷の言っていた通りの方のようですわね?真面目で、融通の利かない…でも、誰よりも優しい…提督が誇りとされていた弟さん」

 

 

静の目線に合わせて屈むと、熊野は青葉ごと抱きしめた。

 

 

「鈴谷のこと……ありがとうございました。小生意気でそそっかしい、甘えん坊な姉でしたけど……貴方のことを、本当に愛していましたの。貴方の心の傷が、簡単に癒えないであろうことは理解していますが……せめて、彼女と提督の分まで、私に貴方を守らせて下さいな?」

 

 

「………っ……」

 

 

熊野の言葉は、とても暖かく。

とても優しく……静の心に染み込んでいく。

 

 

それは、確かに自分を想ってくれた、大切な人の温もりと似ていた。

 

 

 

―――ありがとう。

 

でも……そろそろ、自分を許してあげなよ?―――

 

 

 

謎の声が聞こえたその時……。真司と静は、ガラス越しに鈴谷の姿を見た気がした。

 

 

その顔は、愛しげに微笑んでいて

 

静の額にそっと口付けると、奥に立つ若い提督……沼田統也の幻影と共に、遠くへと歩き去っていった……。

 

 

 

「…あ…ぁあ……あああ…ぁあ〜〜ぁああ……!」

 

 

溜め込んでいた物……そして、独りで抱え続けた物が崩れ落ちた反動であろう。

 

 

青葉と熊野に抱きしめられたまま、静は大声をあげて泣いた。

 

 

その様子に、真司も少しだけ涙ぐみ、空を見上げた。

 

 

「……上〜を向ぅ〜う〜い〜て♪()〜るこ〜ぉう、おぅおぅおぅ………♪」

 

何となしに、『上を向いて歩こう』を口ずさんでみる真司。

 

 

静の泣き声と、上手いのか下手なのか分かりづらい真司の歌声が、夜空に上っていく。

 

 

 

その日の夜空は、雲一つ無い夜空であったという。

 

 

 




仮面ライダー龍騎第2章、及び仮面ライダーヴァイス編。

完!!


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登場人物紹介⑦

龍騎編第2章という名のヴァイス編に登場し、物語を紡いでくれた皆さんの紹介ですm(_ _)m


沼田静/仮面ライダーヴァイス

 

 

城南大学の院生にして、龍騎やオーディン同様《カードデッキ》を用いて変身する仮面ライダーの青年。

 

優れた指揮能力と人望の厚さから民衆の支持を集める、沼田統也提督の実弟であり、彼自身も兄を尊敬していた。

 

 

しかし、彼を疎ましく思う組織の人間によって兄は殺され、それだけでなく同級生として側に居た鈴谷の死によって、彼の心は憎しみに囚われてしまう。

 

どれだけ正しくあろうと、嘘偽りで固まった権力の前では無力であると悟り、「本物の力」というものに縛られていたが、龍騎こと真司と青葉の出会いや熊野の対面が、彼の心に僅かながら光を照らした。

 

 

 

沼田統也

 

赤塚鎮守府元提督。故人。

 

《海上の脚本家》と讃えられ、その手腕と功績から「山本五十六の再来」とまで言われた。

 

 

しかし、当の本人は提督になる事自体が不本意であったらしく、本当は歴史家になりたかったのだという。

 

 

艦娘たちを娘や妹のように大切にしており、艦隊の主戦力として活躍していた戦艦・扶桑や長期間秘書艦を務めていた青葉は淡い恋心を抱いていた。

 

 

臨機応変に対応出来るよう、戦局や編成などに常に気を配り、柔軟な思考と発想力を以て指揮を執るため、彼の関わった海戦には一度も敗退の記録は無い。

しかし、その柔軟な対応や指揮は、組織に取って意に反するものであり、民衆の支持が彼に集中することを危険視した荒井少将一派によって無実の罪を着せられ、大本営へ出頭する道中、待ち伏せていた犯行グループによって暗殺されてしまう。

その後、遺体は首吊り自殺として偽装工作され、青葉が発見するまで放置されてしまった。

 

 

 

鈴谷/仮面ライダーヴァイス(初代)

 

 

最上型重巡洋艦3番艦娘。

今時の女学生風な雰囲気の少女だが、繊細で甘えん坊な一面も持つ。

 

艦娘としての自分に少しばかり不満を持ち、戦いたくないという願望を抱いていた。

その事で相談を受けた統也の計らいで、「鈴谷海華」という偽名で静の居る城南大学へ入学。

それから間もなく、鈴谷は仮面ライダーオーディンと遭遇。

 

「艦娘としてではなく、人として戦うための力を求めるか」と問われ、欲しいと答えた際、仮面ライダーヴァイスになるためのカードデッキを手に入れた。

 

 

それからは静や周囲の人々を守るために、仮面ライダーとして戦い続けたが、ある時遭遇した漆黒の仮面ライダーの猛攻を受け、致命傷を負ってしまう。

 

どうにか逃げ切ったが、傷は思いの外深く、鈴谷を捜していた静と合流。艦娘であることを明かし、同時に静への想いを告白。静と両想いであったことに喜びと幸せを感じながら、そのまま静かに命を終えた。

 

静がヴァイスのカードデッキを受け継ぎ、憎しみの権化と化した最大の要因である。

 

 

 

 

荒井 幹雄(みきお)

 

 

大本営総司令部少将。

統也よりも一回りほど先輩なのだが、飛び級で昇格した統也に対して醜い嫉妬心を燃やしていた。

 

同じく統也の存在を疎ましく思っていた派閥に加担し、彼を反逆者として仕立て上げる計画を思い付き、さらに士官候補生を利用しての暗殺をも企てた。

 

予定としては、実行犯たちをも捨て駒にして、自分は白を切るハズだったのだが、復讐鬼として現れた静=ヴァイスによって計画は全て崩壊。

ミラーワールドに引きずり込まれ、そこで筆舌し難い拷問を受けながら、消滅した。

 

 

 

小宮 侑里(ゆうり)

 

荒井少将を始めとした、統也を排除しようとする一派に唆された士官候補生たちのグループに巻き込まれた、気弱な少年。

 

押しの弱さに漬け込まれ、パシリなどをやらされてきたが、殺人の加担だけは御免だと逃走。

赤塚鎮守府へ統也の危機を伝えに向かう途中、鈴谷を喪った静に遭遇し、全ての罪を打ち明けたことで、静の温情により法の裁きは幾らか軽く済んだ。

 

しかし、裁判の閉廷後、自殺を図ったために急遽警察病院へ搬送された。尚、今も意識不明の状態であるという。




次は、ヴァイスとバイトダイラーの詳細でも書こうかしら?と考えています。


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オリジナルライダー①

本作初のオリジナルライダー・ヴァイス。

そして契約ミラーモンスターの紹介と参ります!


仮面ライダーヴァイス

 

かつて、神崎士郎によって生み出された「13のカードデッキ」を基に生み出された、謎のカードデッキを用いて変身する仮面ライダー。イメージカラーはダークグリーン。

 

 

マスクのイメージは、クロコダイルオルフェノクの頭部を龍騎の作風にアレンジしつつ、よりヒロイックにした感じ。

 

ボディはアリゲーターイマジンをベースにして、ライダーチックにしたものをイメージして頂ければ。

 

 

契約モンスター・バイトダイラーの恩恵もあって、単純な防御力の高さならガイやシザースにも負けない。

 

 

 

 

召喚機バイトバイザー

 

 

ヴァイスがアドベントカードを使用する際に使う、小振りの盾にワニを1匹丸ごと落とし込んだデザインの召喚機。

 

ワニの顎を開くことでカードをセット、閉じてカードを読み込ませる仕組みとなっている。

 

また、その強度は盾として使うだけでなく、タックル用のバンパーとしても機能する。

 

 

バイトダイラー

 

 

ヴァイスと契約し、力を貸し与えるワニ型のミラーモンスター。

ワニらしく、水辺でその機動力を発揮し、大きな顎と長く太い尻尾で、敵が粉々になるまで攻撃の手を緩めることは無い。

 

 

鈴谷と契約していた頃、どういう訳か『ミケ』と呼ばれていた。静と契約してからは全く呼ばれなくなってしまったのだが、案外気に入っていたらしく、近頃はミケと呼ばれたいのか、ミラーワールド越しに顔を覗かせている。

 

ちなみに、咬み付く力は最大5200AP、尻尾の一薙ぎは4800APである。

 

 

《ソードベント》バイトアンカー

 

 

バイトダイラーの尻尾を模した大型ランス。

ランスとしての刺突攻撃だけでなく、ハンマーの様に振るうことで周囲の敵を蹴散らすことも出来る。

ランス本体に備わったウロコ状の突起・クロコスパイクはカミソリの様な切れ味を持つ為、迂闊に近付くことは出来ない。2400AP。

 

 

《ストライクベント》バイトクラッシャー

 

 

バイトダイラーの頭部を模した2枚1対のクロー。

右手に上顎を、左手に下顎を装備するスタイルとなる。

この状態から、バイトダイラーとの連携攻撃「バイトハウリングクラッシャー」を放つことも出来る。

バイトクラッシャー本体は3000AP、バイトハウリングクラッシャーは4100AP。

 

 

《トリックベント》ジャングルリバー

 

 

ヴァイスを中心に、ジャングルにある運河の様なフィールドを形成。

ヴァイス以外の敵は泥濘(ぬかるみ)に足を取られ、動きが若干鈍る。

 

反対に、バイトダイラーは動きが俊敏になり、加えて獰猛さが増す。

 

 

 

《ファイナルベント》マッドシェイカー

 

 

腹滑りをするバイトダイラーの背にヴァイスが跳び乗り、敵に向かって突撃。

勢いをそのままに、バイトクラッシャーでギロチンアタックを決める。

バリエーションとして、バイトアンカーを構えて突撃するバージョンもある。

6300AP。




オリジナルライダー紹介、いかがだだたでしょうか?


次回、久々のオーズ編来るか!
それともクウガ編?

まさか、また新たに来るのか!?


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オーズ編 第2章 演習と奇襲と共同戦線
86話 : 初演習と再会と祝い酒


お待たせしました!

オーズ編2章と本作初の合同演習、そして本格クロスです!!


この提督ども……揃いも揃ってマトモじゃねぇッ!!!


《高空狙撃鬼》による殺人事件やアンノウン出現の不可能犯罪が一段落して、早くも5日が経った。

 

 

「…………」

 

 

 

石ノ森鎮守府に移籍した大淀であったが、上層部としてはその手腕を取られたくないらしく。

大本営からの出向という扱い止まりとなってしまったが、それでもある程度自由に動けるようになったのは山県元帥が上手く根回ししてくれたお陰だろう。

 

 

だから、大淀としてはそれを最大限活かし、一条や雄介らのサポートを全力で臨むだけ………

 

 

 

 

 

 

……の、筈だった。

 

 

 

「な……なっ…………」

 

 

今、彼女が立っている場所は、今度石ノ森鎮守府と合同演習を行う相手である提督の居る《鴻上鎮守府》の門前である。

 

 

 

その彼女の前で

 

 

「あっ。いらっしゃい♪」

 

 

油と汗まみれで汚れた、提督服姿の若い男が

 

 

派手な柄のトランクスを木の棒に掛けて、門前で堂々と天日干ししていた。

 

 

 

「い……っ、いやあああああああああっ!!!!」

 

 

「どぁっふぅ!!?」

 

 

 

人目も(はばか)らず、パンツを天日干しする変質者………。

 

 

それが、鴻上鎮守府提督・火野映司中佐に対する、大淀の第一印象であった………。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「……それで、今朝からそんな怪我を?」

 

 

演習の打ち合わせをするべく、秘書艦及び護衛艦として、吹雪、長門を連れて訪問した一条は、映司の身に降り掛かった事故と原因を、本人と大淀から聴いた。

 

 

「ええ…まあ、そんなところ…ですね」

 

 

大淀のビンタが綺麗にヒットした左頬には、まだ大淀の手形がくっきりと残っていた。

 

 

「もぉ〜!提督ったら、またパンツだけ別にしましたね!?洗濯物の整理が大変なんですから、きちんと他の着替えと一緒にして下さいと、あれほど言ったのに!」

 

 

映司の秘書艦である五月雨がプンプンと怒る傍らには、自分のやらかした事に対する罪悪感と羞恥心で真っ赤になった顔を両手で覆いながら縮こまった大淀と、その話を聞いていた隼鷹が酒を煽りながらケタケタと笑っていた。

 

ちなみに、映司が使う筈の執務机には、派手な金髪と鋭い目付きが印象深い男―――アンクが、アイスキャンディーを頬張りながら我が物顔で座り込んでおり、彼の座り込んだ場所には赤いカーテンが敷かれていた。

 

 

 

「大淀さん……」

 

揚陸伸艦やらアンノウンといった、様々なゴタゴタを片付けて、ようやくこの日を迎えたというのに、一番落ち着いていなければならない艦娘(ひと)が一番起こしちゃならない騒ぎを起こすなんて……。

 

 

吹雪も長門も、これについてどう言い訳をしたものかと頭を抱えた。

 

 

 

「申し訳ない……。色々と山積みになっていた問題が一通り片付いたばかりなので、少し冷静さを失っていたようです」

 

 

大淀の代わりに頭を下げ、謝罪する一条。

 

それに対し、映司は慌てた。

 

 

「い、いえそんな!刑事さ…提督さん、顔を上げて下さい!こんな若僧相手に、勿体無いですよ?」

 

 

映司のその姿勢に、アンクが一言余計に付け足した。

 

 

 

「そもそもの原因は、コイツの妙な習性だ。パンツだけ別に日干しをするとか……そこらのバカでもやらん様なマネを平然とやるからな」

 

 

「ちょ!?アンク、習性ってなんだよ!習性って!!」

 

 

「そうですよ!それじゃ、まるで提督がおサルさんみたいじゃないですか!?」

 

 

「…いや、五月雨?アンタの言い分もだいぶズレてるから」

 

 

映司を想っての発言であろうと思われるが、隼鷹のツッコミは尤もだと吹雪は感じた。

 

 

 

「………まあ。後のことは、お互いに気を付ければ解決出来ると思います。今回が初の合同演習ですし、これをきっかけに―――」

 

 

一つずつ解決をしていきましょう―――と、一条が言いかけた、その時。

 

 

「っしゃあ!!ならやる事は1つ!飲み会だー!!ヒャッハァーっ!!」

 

 

一升瓶片手に、隼鷹が声を張り上げる。

 

 

「じ、隼鷹さん!?」

 

 

これには映司もアンクもビックリ。

 

「隼鷹!テメェ、また飲んだくれてやがったのか!?」

 

「ぁんだ?飲まなきゃいけねえ酒があんのに、飲むなっつうのか?ピヨピヨの癖に生意気だぞぉ!アンコ!!」

 

 

「アンクだ!!あと、ピヨピヨってどういう意味だ……ってかクッサ!?」

 

 

あまりの酒臭さに、アンクは軽く引いた。

 

 

「えっと………こんな、自由勝手な鎮守府の提督が……俺です」

 

 

挨拶にもならない挨拶をする映司に、一条も長門も苦笑いをするしかなかった。

 

 

 

 

 

五代(あいつ)に似ている、火野映司の笑顔に。




かなり強引にやらかしたら、ドッカンは覚悟してよ?こっからが大変なんだから!


………と、偉そうに言ってみたり(^_^;)


次回、いよいよ艦隊の編成ですぞ?


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87話 : 取材準備と関西空母とぱんぱかぱーん

ずっと書きたかったエピソード、演習編!


艦隊同士、そして提督同士の熱いドラマが!!


まったく繰り広げられませんッ!!!←(オイッ!!)


一条と吹雪たちが、映司らと演習の打ち合わせをしている頃。

 

 

「さぁ!先輩、ようやくこの日が来ましたよ!!」

 

「……だから、なんで俺が下っ端みたいになってんの?」

 

 

春が終わりを告げ、風に夏の匂いが混じってきた今日この頃。

 

 

様々な事件によって阻まれてきた密着取材をやっと行えるだけあって、青葉は張り切っていた。

 

 

「これじゃ、若手の女子アナとカメラマンだよぉ……」

 

 

荷物持ちを引き受けるのは構わないのだが、先輩記者として青葉に良いところを見せて、記者としての目標にして欲しいのが真司の本音だったりする。

 

 

「ほら、先輩ってば!」

 

「青葉ちゃん、はしゃぎ過ぎだってー!」

 

 

今度取材をする、石ノ森鎮守府と鴻上鎮守府の合同演習。その内、石ノ森を支援しているという警視庁鎮守府の元帥が出してくれた紹介状を再確認した真司は、改めて仕事前の緊張感を抱いた。

 

 

「…あっ、そうだ。先輩!折角ですし、お土産でも持っていきません?前々から取材の予約をさせて戴いて、時間を作ってもらった訳ですから」

 

 

青葉の提案に、真司は尤もだと思った。

 

 

「じゃあ、摘み易いように手軽な和菓子の折り詰めでも買うか」

 

 

「はい!……と言ってる側から、実はもう目星を付けていたりして♪」

 

 

可愛らしい照れ笑いをしながら、青葉は一軒の和菓子屋を指差す。

 

 

「《甘味処たちばな》……か。なるほど!流石青葉ちゃん、もう嗅ぎつけてたか〜」

 

「えへへ♪青葉の本命は、間宮さんの作るスイーツや料理全般ですけどね?ちゃんと記者としての目と鼻は、鍛えてますから!」

 

 

得意げに語る青葉を「可愛いなあ」と思いつつ、真司は青葉と共に入店。

 

そこで一回り歳上の男性店員が接客してくれたのだが、これがなかなかに不器用な様子で、レジ打ちにだいぶ苦戦していた。

 

 

「申し訳ありません〜!大変失礼しましたぁ〜っ!」

 

途中、女性店員の一人が交代したので、お釣りは問題無く返ってきた。

 

男性店員に軽く説教をしていたが、人間関係はかなり良好らしく、「ヒビキさん(たぶん名前だろう)」と呼びながら談笑していた。

 

 

「お客さんたち、テレビのスタッフさんか何か?」

 

 

菓子の折り詰めを受け取りながら、真司たちは先の不器用な従業員―――ヒビキ(仮)(カッコカリ)から尋ねられた。

 

 

「ええ、まあ」

 

「これから、石ノ森鎮守府と鴻上鎮守府による合同演習があるんです!青葉たちは今日、その様子を密着取材するんですよ!!」

 

聞かれたことをそのまま答える真司と、インタビューされる側の経験が少ないので、やや緊張気味の青葉。

 

それを見て、ヒビキはくっくと笑った。

 

 

「まあ……話術と人馴れ(こういうの)ばっかりは、鍛えるしかないわな?」

 

 

「鍛え……ですか…」

 

「要するに、場数を踏めって事だわな」

 

 

ヒビキの言葉が、真司や青葉の胸に暖かく響く。

 

 

「ありがとうございます!」

 

二人は深々と一礼して、鴻上鎮守府へと急ぐのだった。

 

 

 

「―――さて、と。俺もぼちぼち準備すっかな」

 

 

真司たちを見送った後、荷造りを始めるヒビキ。

 

 

 

そこに、ヒビキと揃いの『たちばな』の制服を着た妖精さんが一人現れ。

 

 

「………っし!じゃ、行ってきまーす」

 

 

愛車の大型バイクに荷物を積んだヒビキに寄り添って、共に《たちばな》を出発した―――。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

鴻上鎮守府 10:17 a.m.

 

 

「――以上が、石ノ森の現状です」

 

 

鴻上鎮守府との情報共有の為、一条はこれまでの石ノ森の惨状と現在進めている大改革を伝えた。

 

 

「そんな……石ノ森が、そんな酷いことになっていたなんて……」

 

 

あまりに過酷な話であったために、五月雨は途中から泣き出してしまった。

 

「で、でもホラ!司令官が来てからは、みんな力を合わせて頑張ってるよ!?ね?長門さん!」

 

 

五月雨を慰めようと、必死に今の石ノ森を伝える吹雪。

 

それに対し、長門もうんうんと頷く。

 

 

「スゴイなぁ……吹雪ちゃんも長門さんも。それもやっぱり、一条さんが先頭に立ってみんなに道を示してくれてるから…なんですね!」

 

 

「火野さん!司令官のスゴさ、解ってくれますか!♪」

 

「もちろん!!」

 

 

何やら、似た者同士で同盟が出来たらしい。

 

 

「吹雪ちゃん……提督まで……」

 

「アハハ♪いーんじゃねえか?あたしらの提督にゃ、こういうダチも必要なんだよ…きっと」

 

 

「それっぽい事を言って、次の酒瓶を空けようとしないで下さいっ!」

 

 

大人びた決め台詞を言いつつ、新しい酒瓶を空けて呑もうとする隼鷹を、香取が厳しく注意した。

 

 

 

―――と、そこに二人の艦娘が顔を出した。

 

「提督ー。遠征任務完了、艦隊が帰投したでー?」

 

「ぱんぱかぱ〜ん!提督、ただいま〜♪うふふ♡」

 

 

一人は小柄で、赤い上着とツインテール。そして関西弁が特徴的な艦娘で、もう一人は青い制服にロングスカートと言った出で立ちで、長い金髪に豊満過ぎる体付きがまさにインパクト大であった。

 

 

(だっ……大福餅が歩いてきた…だとッ!?)

 

 

この出会いは後に、吹雪に対し、ある意味大きなダメージを残すことになるが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

「こんちゃー!ウチが航空母艦《龍驤(りゅうじょう)》や。今度の演習に参加するさかい、よろしゅうなー」

 

 

「同じく、演習に参加する高雄型重巡2番艦、愛宕よ♪お手柔らかに……ね?♪」

 

 

ハキハキとした関西少女に、無邪気さと色っぽさが同居している天然ボケな美女。

 

今回の演習にて、この二人は勿論、一条や映司たちは衝撃の事態に巻き込まれるのだが、誰一人気付く者は無かった………。




出会いはさらなる出会いを呼び、時には想い出を手繰り寄せる。


次回もお楽しみに!( ^ν^)ノシ


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88話 : 再会と艦隊編成と傲慢の悪魔

連載100回目……

果たして、誰がこんなにも続くと思っていたでありんしょう?(`;ω;´)


オーズ編第2章、張り切って参ります!!


鴻上鎮守府にて、火野映司と石ノ森鎮守府提督・一条 薫による合同演習の打ち合わせの最中、鴻上鎮守府に在籍する二人の艦娘―――龍驤と愛宕が、遠征より帰還した。

 

 

「あっ…龍驤ちゃんに愛宕さん。おかえり♪」

 

「うん、ただいま……って、その“ちゃん”付けはなんとかならへんの?君が呼び易い呼び方で良い言うたんはウチやけど……流石にこそばいわぁ」

 

 

映司の呼び方に、少しばかり照れの表情を見せる龍驤。

 

 

「提督、ひょっとして……そちらの方々が、今度の演習の相手?」

 

 

愛宕の質問に、一条は一礼する。

 

「初めまして。石ノ森鎮守府の提督を任されている、一条です。火野中佐同様、新参者ですので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします」

 

 

「石ノ森………。ふぅん……」

 

 

 

「あたごん?」

 

「愛宕さん、どうかしました?」

 

 

一瞬、考え込んでいた愛宕は、龍驤と吹雪に呼びかけられ、はっと我に返る。

 

「ううん♪なんでもないわ」

 

 

首を横に振ると、愛宕は一条らに向き直ると

 

 

「一条提督。演習だからって、手加減しちゃイヤよ?」

 

 

不意打ち。

 

 

なんと、一条の右頬にキスを落とした。

 

 

「んなっ!!?」

 

「あっ……ぇ、あっ!?」

 

 

長門、吹雪の順に驚きの声があがる。

 

 

「………初対面の人間、それも異性に対して、気安くするものではないぞ?」

 

 

しかし、一条は動揺するどころか眉一つ動かさず、冷静に愛宕の挨拶を指摘した。

 

 

「うふふ♪ごめんなさい?あんまり可愛らしいものだから、つい♪」

 

 

 

クスクス笑いながら、愛宕は謝った。

 

 

「あはは…………」

 

 

「それじゃ、補給を済ませてきますねー?んー、でもちょっと汗かいちゃったし…シャワーでも浴びちゃおうかしら?」

 

 

「ごめんね?いつも遠出してもらって……」

 

「良いのよ、それも艦娘の仕事なんだし。………あ」

 

 

ドックへ行きかけ、愛宕は振り返った。

 

 

「提督たち……覗かないでね?♡」

 

 

「ちょっ!?」

 

愛宕の色っぽい誘惑に、映司は顔を真っ赤にしながらビクッと反応する。

 

 

それに対し、一条は至って平静だった。

 

 

「それについてはご心配無く。覗きが発生しないように、我々が見張りますので」

 

 

「あ……ど、どうも〜…」

 

 

一条のブレない姿勢に、愛宕は礼を伝えるが、その直後。

 

 

「来てくれなきゃ、意味が無いのよ………」

 

 

小声でそう呟き、補給に向かった。

 

 

 

「し、司令官……本当、ですよね?愛宕さんの入渠シーンを覗いたりしないですよね!?」

 

「?…ああ、そうだが……それがどうかしたのか、吹雪?」

 

 

吹雪の質問の意図がいまいち読めなかった為、一条は聞き返す。

 

 

「ふぇ!?い…いえ!違うなら、良いんです……違うなら…ハイ………」

 

 

そう言って顔を真っ赤にしながら、吹雪は俯いてしまう。

 

 

「…龍驤ちゃん。愛宕さん……どうかしたの?」

 

 

次に、落ち着きを取り戻した映司が龍驤に尋ねた。

 

 

「あたごん……いや、愛宕はな………。昔、石ノ森の艦娘やったんよ」

 

 

 

 

 

その頃。

 

 

先日、オーズと鴻上艦隊が戦ったメダルの怪物―――《モアーズ》を生み出した存在・《アバリシア》たちが話し合いをしていた。

 

 

『間違いない……。あの気配、あの力……!オーズだ……!!』

 

 

赤い怪人・クルイは断言する。

 

自分たちと深い関わりを持ち、モアーズに対抗し得る唯一の存在を感じ取ったのだから、否定の余地は無い。

 

 

クルイの意見に対し、青い怪人・アザムも共感した。

 

 

『なれば、尚更行動を早めに起こすべきでしょう。我々の目的のために……』

 

 

隣で知恵の輪らしき小道具をいじっていた茶色の怪人・ガイスも無言ながら頷き、だらけながら話を聞いていた女の怪人・マドゥは「しょうがないわね〜……」と面倒臭げながらも反対はしなかった。

 

 

『では………今度も私にやらせてもらおう。この私が……はぐれ者のオリジナル如きに、二度も苦汁を舐めさせられる訳が無いのだからな………!!』

 

 

そう言って、1枚のセルメダル・虚魔銭を取り出すのだった………。




次回、演習の準備とあたごんの昔についてちょっぴり触れます。


一条艦隊、抜錨せよ!

出撃開始!!火野艦隊!


演習、開始なるか!?


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89話 : 再会と誘惑と刻まれた恐怖

「着任先の新提督が色々とマトモじゃない。」前回の3つの出来事!


1つ!鴻上鎮守府と石ノ森鎮守府の両提督が出会い、演習の打ち合わせをした!

2つ!鴻上鎮守府に所属する艦娘、龍驤と愛宕に出会った!

そして3つ!愛宕は昔、石ノ森に所属していた!


「愛宕さんが…石ノ森の艦娘だった……?」

 

 

龍驤の口から明かされた、思いもよらぬ愛宕の前歴に対し、映司は驚きを隠せない。

 

 

当然、石ノ森の現提督である一条も驚いていた。

 

 

何故なら、着任早々、五代雄介らと共に行った鎮守府内の大掃除の時や先日発生した不可能犯罪の調査と併行して、本来保管されている筈の在籍艦の名簿や、資材の在庫ファイルといった資料を捜したのだが全く残されておらず、警視庁鎮守府の各資料いずれとも比較出来ぬまま断念していたからだ。

 

 

(長門さん……これはどういう事なんですか?)

 

 

小声で尋ねる吹雪に、長門は一条に気付かれないように答えた。

 

 

(恐らく……塩川か、その前に提督として居座っていた連中の仕業だろうな。資材の横流しや資金の私物化は、一条提督やお前が着任する前の石ノ森では当たり前の様にあったからな)

 

(そ、そんな………!?)

 

 

 

掃除前に見た執務室の酷い有様だけでなく、資材管理の面でも荒れていた事実に、吹雪はショックを受けた。

 

 

 

―――と、その時。

 

執務室の扉を誰かがノックした。

 

 

「!」

 

「あっ…はい、どうぞー?」

 

 

映司が促すと、一人の警官が入室した。

 

 

「本日、石ノ森鎮守府と鴻上鎮守府による合同演習の安全管理及び警備を担当することになりました。警視庁鎮守府警備隊1番隊長、後藤です。どうぞ、よろしくお願い致します」

 

 

 

「後藤!」

 

「後藤さん!!」

 

思わぬ来訪者を前に、一条、映司の順に驚きの声が上がる。

特に映司は笑顔で駆け寄りながら出迎えた。

 

「うわぁぁ、久しぶりだなぁ!ひょっとして、後藤さんも提督になったんですか!?」

 

 

「そうじゃない。俺は警視庁鎮守府の職員として、今回の演習を警護する任務を担当することになったんだ。と言うのも…演習の様子を取材させろと、ネットニュースの記者たちがうるさくてな……」

 

 

映司と一条らが視線を移すと、そこに青葉と真司の姿が。

 

 

「どうも!記者魂を唸らせて、青葉が参上しました!」

 

「その先輩記者の、城戸でぇ〜す……」

 

 

すっかり青葉に出番を取られてしまい、真司は若干落ち込み気味。

 

 

「青葉……?ひょっとして、青葉ちん!?」

 

そこへ、青葉の顔を見た龍驤が驚きの様子で近寄ってきた。

 

 

すると、青葉も龍驤を見てビックリ。

 

 

「りゅ、龍驤さん!?ホントに龍驤さんなんですねっ!?」

 

 

二人の反応に、真司も映司も理解が追いつかない。

 

 

「あ、えっと……青葉ちゃん?その娘はひょっとして………赤塚時代の元同僚?」

 

「はい!私の大切な……大切な仲間です!!」

 

 

「間違いない……!赤塚の名前がすぐに出るなら、やっぱりウチが知っとる青葉ちんや!!」

 

 

しっかりと抱き合い、再会を喜び合う青葉と龍驤を見て、後藤は映司にそっと一言呟いた。

 

 

「火野」

 

「はい?」

 

「お前に限って、そんな事は起きないと思うからこそ言うんだが………艦娘たちを泣かせるなよ?里中も香取も言っていたが……お前は特に」

 

 

後藤の忠告に、映司はそっと微笑み。

 

 

「―――ありがとうございます、後藤さん。でも…今の俺は提督だから。どんな無茶をしてでも、みんなの為に手を伸ばしたいんです」

 

 

映司の一言を聞いていた一条は、確信を抱いた。

 

鴻上鎮守府は、素晴らしい提督を迎えたのだと。

 

 

 

 

鴻上鎮守府 入渠室 01:42 a.m.

 

 

シャワーを浴びながら、愛宕は鏡に映る自身の裸体を見つめる。

 

 

「………」

 

 

 

愛宕は、はっきり言って自分の事が嫌いだった。

 

 

艦娘として生を受け、鎮守府に迎えられてから、一度も「良かった」と思える出来事を経験した事が無かった。

 

 

 

 

これまでに経験した事は、たった二つ。

 

艦娘(じぶん)が人外の力を持つために、人として見られていないという風潮。

 

 

そして……

 

男好きのする体付きのために、多くの男から酷い辱めを受け、この身を汚される恐怖であった。

 

 

卑猥な視線を向けられるぐらいなら、どうという事は無い。気にし過ぎないよう振る舞えば済むことだから。

 

 

だが、油断しているところで実力行使に出られるとそうもいかない。

 

 

火力や馬力、耐久面に秀でた重巡洋艦は腕っぷしが強い者が多く、愛宕も例外ではない。

 

だが、愛宕はその優しさ故に力を十分に引き出せない時があった。

それが人間相手であれば、尚更リミッターが働いて、抵抗出来ないまま下品な欲望の捌け口として汚される…この繰り返しだった。

 

 

 

(今度の提督は、まだ手を出して来ない…けど……)

 

無害そうな印象の映司が、いつ我慢の限界を迎えるか……

 

愛宕は近頃そればかり考えてしまい、なかなか任務に集中出来ずに居る。

 

 

「……まぁ、来たらその時……よね」

 

他の誰かが手を出されるくらいなら、また自分がこの身を差し出せば良い―――。

 

この心を偽ってでも、『提督の玩具』として接すれば、他のみんなに危険は及ばない………。

 

 

気付けば、愛宕は欲深い人間の『玩具』として振る舞っていたのである。

 

 

 

 

『―――良い。自身の守りたいもののために身を捧げる………。その欲望、実に気高く美しい』

 

 

「!!?」

 

穏やかな、紳士然とした声に思わず振り返ると

 

 

そこには、見たことの無い異形の影が。

 

 

『その美しい欲望……、私の為に開放するがいい……』

 

 

1枚の銀貨・虚魔銭を取り出すと、愛宕の胸の谷間に現れたコイン投入口へと投げ入れる。

 

 

すると、愛宕の体から白い包帯まみれのミイラの様な怪人が現れた。

 

 

 

「キャアァーッ!!!」

 

 

不気味な展開に、愛宕は悲鳴を上げた―――。




スミマセン……

演習編と言いながら、また中途半端に途切れさせちまいました(-_-;)


だが私はあや(((殴



次回もお楽しみに!


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90話 : アバリシアとオーズと愛宕の欲望

どんどん台無しになっていく演習。

容赦無く襲い来るアバリシア。

そして……


「っ!?」

 

 

入渠室の方から聞こえた、愛宕の悲鳴に気付いた映司。

 

 

しかし、それよりも早く動いたのが後藤……そして、さらにその上をいく初動の速さを発揮したのが、やはりと言うべきか一条であった。

 

 

「愛宕さん!!」

 

 

勢いよくドアを開け、中に突入する一条と後藤。

 

 

「ちょ、ちょっと司令官!!?」

 

「後藤さん!一条さんもちょっとは遠慮を……!!」

 

 

「そんな事を気にしてる場合か!?――失礼、愛宕さん大丈夫ですか?」

 

 

幸い、愛宕は寸での所でバスタオルを巻いており、男性陣に裸を見られることは避けられた。

 

 

「チッ!よりによって、入渠室から奇襲してくるとは………!!」

 

 

憎らしげに舌打ちをする長門の横で、アンクは冷静かつ無遠慮だった。

 

 

「オイ、愛宕」

 

「ひゃん!あ……アンクちゃん……なに…?」

 

 

多少驚いてはいるものの、アンクと落ち着いて話している愛宕を見て、吹雪は映司に尋ねた。

 

 

「あの……アンクさんて、男性ですよね?愛宕さんと普通に話してるんですけど……大丈夫なんですか?」

 

 

「ああ…大丈夫、あいつは女の人を傷つけるようなことはしない奴だから」

 

「そーそー。間宮さんのアイス以外には、なーんにも手を付けへんし、見向きもせえへん」

 

 

映司に便乗して、龍驤もアンクについて評価する。

 

 

 

「…………」

 

 

しかし。

 

今回のアンクは、愛宕をじっと眺めている。

 

 

「な…なに…?」

 

 

「お前………ヤミーの親にされたな」

 

 

「ヤミー?それに、親……って―――」

 

 

アンクの言うヤミーについて、話を聞こうとした愛宕だったが

 

 

 

「吹雪ぃいいいッ!!五月雨ぇえええッ!!!龍驤ぉおおおおァッ!!!!愛宕を辱めた下衆を抹殺するぞおおおぉぉぉるあああッ!!!!!」

 

 

 

「ヒイイイィィっ!!?」

 

 

その時、吹雪や五月雨、真司などが悲鳴をあげ、一条さえも目を丸くしてしまう程に恐ろしい、鬼の形相をした長門が声を張り上げた。

 

 

「なっ、長門…さん?!」

 

その迫力に、映司は思わず声をかける。

 

 

 

「火野映司殿!心配には及ばない……。貴殿の大切な部下を斯様な目に遭わせた外道は、この戦艦長門、全身全霊を以って!!ビッグセブンの誇りに懸けて!!一人の艦娘としてッ!!!愛宕の純潔…純情を穢した汚物を抹消してみせるッ!!!」

 

 

「あ…いや……えっと〜………」

 

長門の怒気に圧倒されながらも、映司は一部の訂正をしようとした。

 

 

「おっ、落ち着いて下さい!長門さん!!」

 

 

そこに割って入ったのは、意外にも五月雨だった。

 

「確かに、愛宕さんは襲われたかもしれませんが…長門さんが思うような、生々しい意味では無いと思います!」

 

 

「―――えっ?」

 

「……と、言うと?」

 

 

五月雨の一言に、先程までの熱気が一気に収まった。

 

 

「一条、映司……長門(コイツ)は、ハッキリ言ってバカだな」

 

 

「アンク!」

 

「………熱くなりやすい、という点は否定出来ませんね……」

 

 

 

 

 

一方。

 

 

愛宕を襲ったアバリシア……クルイのメダルと愛宕の欲望から生まれたモアーズは、何かを捜すかのように街を徘徊していた………。

 

 

『さぁ……解き放つがいい。その内に秘めた、強い欲望を……!』




こんなコメディタッチにして、良かったのだろうか……3分の1はクウガ、残る3分の1は龍騎なのに……_| ̄|○ il||li


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91話 : 欲望と複製と愛欲

UAがとうとう45000台を突破し、お気に入り登録者数も224名に……!本当に、ありがとうとしか言えないこの身が情けない……!!(`;ω;´)


怒涛の展開が留まる所を知らない状態の、オーズ編第2章。

遂に、オーズとアンクが新たな敵の一人と遭遇します!


「これが、私に変なメダルを投げつけた怪物よ」

 

 

入渠室を出た一行は、服を着直してきた愛宕に頼んで、改めて怪物の似顔絵を描いてもらったのだが。

 

「これって……シカ、かな?」

 

 

その可愛らしい絵を最初に見た映司が呟くと

 

 

「でも、顔はちょっとライオンっぽくも見えますよ?」

 

 

五月雨が似顔絵の顔立ちを指摘する。

 

 

「ライオンが人の形をしてるワケねーじゃん。歌舞伎役者か何かじゃね?」

 

 

そこに隼鷹が適当な推理を出した。

 

 

「……愛宕。その怪物について、他に何か特徴はあったか?」

 

 

情報が圧倒的に少ないため、映司たちがあーでもないこーでもないと話し込んでいる中、後藤はもう少し詳しく聞いてみることに。

 

 

「他に?………あ!『欲望を開放しろ』…とか言われたわ、確か!」

 

 

欲望―――

そのワードに、映司も反応した。

 

 

「それで、どうしたんですか!?」

 

 

「えっと……その後、私にメダルを投げつけたの。確か……、ちょうど胸の谷間辺りだったと思うんだけど」

 

 

 

そう言いながら、シャツのボタンを外して胸元を(はだ)けようとした。

 

 

 

「ちょ、ちちょっと愛宕さんっ!!?」

 

「良い…そこまでやらなくて良い……!!」

 

 

 

顔を真っ赤にして慌てふためく映司と、真面目故に顔を逸す後藤。

 

 

「五月雨………お前は幸せ者だな……ホントに」

 

 

映司たちの様子を眺めながら、長門は五月雨に言葉をかけるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『ウウ……ウゥウ………』

 

 

その頃……

 

愛宕から生み出されたヤミーの幼体に似たミイラの様な怪物は、目についた人……特に男性を優先的に襲い、その場で抱きつき、締め付けては離れるという行為を繰り返していた。

 

 

 

その様子を眺めていたクルイの下に、アザムやマドゥたちが姿を現した。

 

 

『なにやってんのよ、アレ?マジで意味分かんないんだけど』

 

 

気持ち悪そうに悪態を突くマドゥに対し、クルイは穏やかに応える。

 

 

『分からないか?あの美しい……醜悪な欲望を表現する姿を』

 

 

欲望の醜さを『美しい』と賛美するなど、クルイの言動は支離滅裂である。

 

 

『馬鹿馬鹿しい……。貴方が賛美するのは、あくまでご自身の欲望だけでしょう?人間や艦娘の抱く欲望を、道端の塵芥程にも価値を見出していない貴方の賞賛など、ただの嫌味にしか聞こえませんよ』

 

 

アザムが指摘すると、クルイはクククっと笑う。

 

 

『そう言うな……。下等な存在にも下等なりの美意識や価値観というものがあろう?この私がそれらに目線を合わせ、言葉をかけてやる……そこに価値があるのだ。下等な連中にくれてやるは、充分過ぎる餌だと思うがな?』

 

 

傲慢不遜なる言動。それこそが、クルイの本質だった。

 

 

 

 

やがて

 

 

愛宕の持つ欲望から生み出されたモアーズは、半人半蛇の怪物・《ラミアモアーズ》に成長した。

 

 

 

『全ては、この私が満たされるために在れば良い……!』

 

 

クルイはそう言って、表情の分からない顔で不気味な笑みを浮かべるのだった………。




オーズ編2章、どんどんカオスになっていきますねえ……(汗)


オーズ、早くタスケテー!!


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92話 : 会議と挨拶とメダルの怪物

オーズ編、もうしっちゃかめっちゃかな事に……(泣)


全体的に口数が少なくなっている気がするよォ……(;´Д`)


メダルを使う怪物が現れたという報告を後藤が本部に伝え、一条と映司、真司が演習の日程変更について話し合おうとした、その時。

 

 

 

「―――!」

 

 

アンクがメダルの“気配”を感じ取った。

 

 

「アンコ?」

 

隼鷹が尋ねると、「アンクだ!」と律儀にツッコミを入れてから答えた。

 

 

このやり取りを交わしたり、見たりする度に、映司は本当にアンクが帰ってきたのだと実感し、喜びのあまり笑顔になるのであった。

 

 

「……それで、アンク。何か感じたのか?」

 

 

「ああ……あの時のデカブツと同じ、ヤミーに似た気配だ」

 

 

「ヤミー?」

 

「何ですか、それは?」

 

 

初めて聞く呼び名に、真司と青葉は質問をする。

 

 

「えっと…ね?簡単に言っちゃうと、人の欲望を糧に成長するメダルの怪物なんだ」

 

 

「メダル!?」

 

 

メダルと怪物、一見ミスマッチな取り合わせに二人は驚きの声をあげた。

 

 

「うん……でも、グリードは全部やっつけた筈なのに……」

 

「確かに。アンク以外のグリードは、メダルその物が消滅している。よほどの事が無ければ、復活など有り得ない……」

 

 

映司と後藤がそう説明した、その時。

 

 

『ならば……私から説明しよう!』

 

 

突然のアナウンス。

 

 

真司たち記者コンビは何事かと周りを見回し、隼鷹とアンクは「またか……」と飽き飽きしている様子。

 

 

さらに、吹雪と長門の横に居た香取は軽く立ちくらみをしてしまう。

 

 

「かっ、香取さん!?」

 

「大丈夫か?何かあったのか!?」

 

 

心配する二人に対し、隼鷹はたった一言。

 

 

「今に分かる……」

 

 

 

と、次の瞬間。

 

 

 

『Happy Birthday!!!』

 

 

 

執務室の壁面に設置された、連絡用のホワイトボードに巨大なスクリーンが下ろされ、バンッ!!!という効果音付きで鴻上と中継が繋がった。

 

 

「鴻上さん!」

 

 

「鴻上って……まさか!?」

 

「う、嘘でしょ!?鴻上さんって、()()鴻上会長ですかッ!!?」

 

 

当たり前の様に名を呼ぶ映司とスクリーンの鴻上を交互に見て、真司と青葉は驚きが止まらない。

 

 

「噂には聞いていたが………本当に、この鎮守府のスポンサーだったとは………」

 

 

平静を努めてはいるが、一条でさえ驚きの連続で目を見開いている。

 

 

「ええ。創立者でもいらっしゃいますし……」

 

 

大淀の説明に、真司と青葉はさらにビックリ。

 

 

「先輩………青葉は、財力という壁を前にして、倒れそうです………」

 

「俺もだよ………。なんだろ……、すごい権力を持ってるのに、ライダーになってまで権力を手にしようとした奴とか、腕は確かなのにがめつい弁護士の知り合いを思い出しちゃったよ………ハハ…」

 

 

「おぉ〜い!!二人とも帰って来ぃやッ!」

 

 

鴻上の財力に圧倒され、倒れかける二人だったが、龍驤に揺さぶられ、なんとか意識を失わずに済んだ。

 

 

 

「……で?鴻上、お前は犯人に心当たりがあるのか?」

 

 

アンクが尋ねると、鴻上は頷いた。

 

 

 

「彼らは《アバリシア》。アンクくんを始めとするグリードを基に生まれた―――グリードを複製(コピー)した存在だ」




遂に語られる、新たなメダルの怪物の正体!


愛宕の欲望から生まれたモアーズ、そしてクルイを相手に映司たちはどう戦うのか!?


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93話 : 失われたメダルと求めるモノと連合艦隊

第4の壁から、映司たちにスライディング土下座をして謝りたい……(;´Д`)


それくらい更新ペースが落ちてきました(汗)


「アバリシア……?」

 

 

鴻上の口から発せられた、新たな情報……それは、映司たちに襲いかかった怪物・モアーズやそれらを裏で糸を引く者たちに関するものだった。

 

 

「アバリシア……《強欲》を意味するスペイン語ですね」

 

「ええ」

 

映司と後藤が頭を捻り、真司がスマホで調べようとしたよりも早く、一条と大淀が言い当てた。

 

 

「提督……」

 

「うっ……そんな残念そうな顔しないでよ、五月雨ちゃん〜」

 

 

「真司先輩……」

 

「し、しょうがないだろ?スペイン語とか、英語以上に使わない外国語なんだから……」

 

 

それぞれのパートナーにジト目を向けられ、しょげる映司と真司。

 

 

 

そんな二人を他所に、アンクは鴻上に質問した。

 

 

「アイツらもメダルで形作っていることは理解している。だが、メダルと欲望から生まれたのは俺たちグリードだけの筈だ!」

 

 

そう……

 

古代に生み出されたオーメダルは、7つのカテゴリーに各3種類の10枚ずつのみ。

 

歴史書の何処を探っても、オーズに関するメダル以外の物は存在しない筈なのだ。

 

 

 

「そう……アンクの言う通り。オーメダルはオーズが関わった物のみ!それは事実だ!」

 

 

鴻上もそれについては肯定した。

 

 

しかし………

 

 

 

「しかし、だ………。仮に、800年前のあの時代………。初代オーズの知らない所で、別のメダルが何者かによって生み出されていたとしたら……?」

 

「なに……?」

 

鴻上の言葉に、アンクは耳を疑う。

 

 

その時。

 

鴻上鎮守府の艦娘の一人、朝潮が部屋に駆け込んできた。

 

「提督、緊急事態発生です!!街の広場に、蛇の様な怪物が出現したとの通報がありました!尚、被害は徐々に拡大中との事です!!」

 

「えっ!?」

 

「なんだって!?」

 

 

朝潮の報告を聞いて、映司と五月雨、吹雪が驚きの声をあげた。

 

 

「……今考えても仕方無い!その怪物が、もし愛宕(かのじょ)の欲望から生まれたものであれば、市民に甚大な被害が及ぶ危険性がある!!」

 

 

後藤の言葉に、今度は愛宕が驚きの表情になる。

 

 

「わ…私の欲って……そんな、大袈裟な……。大体、私だって怪物に襲われたのよ?」

 

 

現実味の無い話をしている様に感じたからか、愛宕は苦笑いするのみである。

 

 

そこへ、龍驤が前に出た。

 

 

「あたごん……ウチかて、こんな話は今だに信じられへんよ?でも!君の身に起きたことと、今回起こる事件は無関係やあらへんねん!提督やアンクから聞いたやろ?グリードやヤミーは、人の欲望を利用して自分の欲を満たそうとする……その為だけに、利用した人も関係無い人も平気で傷つけて、辛い目に遭わせてきたって!!」

 

 

そこまで言ったところで、今度は愛宕が声を荒げた。

 

 

「………だから何?私に非があるって言いたいの?」

 

「愛宕さん…それは……!」

 

 

弁護しようとする五月雨を、長門と隼鷹が止めた。

 

 

「散々、欲望まみれの手を伸ばして近付いてきたのは人間の男(そっち)じゃない!!したくもない行為を強要されて…艦娘としての人権も、何もかもを奪われて!汚されて!!此処に来たことで、女として生まれたことを怨み続ける地獄からやっと開放されたけど……でも、アンクちゃんや火野提督に会って、思い知らされたの」

 

 

「ずっと、歪んだ関係しか持てなかったせいで、異性との接し方が分からなくなってしまって………結局、自分自身が卑しいモノになっている事に………。そんな自分が堪らなく嫌だった……!少しでも良い……私の事を、一人の存在として心から愛してほしかった………」

 

 

顔を両手で覆い、愛宕は泣き出してしまった。

 

欲望の捌け口とか、戦うためだけの道具などではない。

一人の人間として愛情を向けて欲しかった―――それこそが、愛宕の想い……欲望の形なのだと、映司は理解した。

 

 

そこで

 

 

「一条さん。後藤さん……それから、吹雪ちゃんに長門さん。真司くんや五月雨ちゃんたちも、ちょっと聞いて?」

 

 

一同に呼びかけると、映司はとんでもない提案を出した。

 

 

「演習の事なんだけど………怪物退治の共同戦線に変更しても良いかな?」

 

 

 

「―――えっ?」




どんどん燃えていきますよ?どんどん!


太陽神が叫びに来そうですけど、私は負けない(イミフ)


次回もどうか、お楽しみに!!


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94話 : 勇将と名将と作戦開始

今回のサブタイトル……

ワードの一つは迷う事無くコレに決まりました!!


You count the medals One, two and three.

Life goes on Anything goes Coming up OOO!!!


鴻上鎮守府 出撃ドック 11:42 a.m.

 

 

鴻上鎮守府所属の艦娘・愛宕の『人から愛されたい』という欲望に目をつけて、新たなメダルの怪物・アバリシアの一体、クルイがモアーズを生み出し、人々を襲い始めた。

 

 

演習を予定していた、鴻上鎮守府提督・火野映司中佐率いる火野艦隊と石ノ森鎮守府提督兼警視庁鎮守府所属の一条 薫大佐率いる一条艦隊は、モアーズの討伐及びアバリシアの撃退を目的とした連合艦隊を結成。

 

急遽、作戦会議が始まった。

 

 

 

尚、連合艦隊の編成メンバーは以下の通りである。

 

 

 

 

 

《一条艦隊》

 

駆逐艦 吹雪(旗艦)

 

 

(以下、随伴艦)

 

戦艦 長門

 

駆逐艦 雷

 

重雷装巡洋艦 北上

 

重雷装巡洋艦 大井

 

正規空母 加賀

 

 

 

《火野艦隊》

 

駆逐艦 五月雨(旗艦)

 

 

(随伴艦)

 

軽空母 隼鷹

 

軽巡洋艦 阿武隈

 

軽空母 龍驤

 

重巡洋艦 愛宕

 

駆逐艦 山風

 

 

 

 

「すっげぇ……!これが、大規模作戦でしか見られないってゆー連合艦隊……!!」

 

 

「先輩!カメラ、カメラ!!」

 

 

壮観な眺めに見入っていた真司は、青葉に急かされながらフィルムに収める。

 

 

しかし、半人前と言われても真司や青葉とてジャーナリストの一人。興奮するのも当然であった。

 

 

片や、《未確認生命体事件の英雄》と呼ばれる提督自らが前線に立ち、時には捨て身覚悟で艦隊を支え、勝利へ導く石ノ森艦隊。

 

 

彼の着任を境に、これまで鎮守府に刻まれてきた数々の悪評が払拭され、目覚ましい活躍と輝かしい戦果を挙げ続けたその激変ぶりを、不死鳥が甦った様に(なぞら)えて《火の鳥艦隊》と呼ばれ、多くの将校や大本営の幹部たちから尊敬の念や注目を集めている。

 

また、一条は提督として執務をこなす傍ら、本職である一人の警察官として揚陸侵艦を相手に立ち回るなど、その奔走ぶりから『神速の(つわもの)』とも呼ばれ、士官学校の候補生憧れの的ともなっていた。

 

 

 

「士官候補生憧れの提督、《神速の兵》の指揮が見られるなんて……青葉、感激です!」

 

「青葉ちゃん、気持ちはよぉ〜く分かる!でも……鴻上鎮守府だって魅力たっぷりだろ?」

 

「それは勿論!」

 

 

 

真司が語る、鴻上鎮守府が誇る火野艦隊の魅力。

 

その特徴は、艦娘の豊富さと資材の充実ぶり。そしてなんと言っても、創立から続いている《轟沈者ゼロ》の記録である。

 

 

底知れぬ財を惜しみ無く投資して、鎮守府を運営する創立者兼スポンサーの鴻上。

提督を任されている映司は、提督という軍職は勿論リーダー職その物が初めての為、着任当初は艦娘たちの扱いに慣れず、歩幅を上手く合わせられずにいた。

 

しかし、それも(ひとえ)に彼の人柄の良さが関係している。

 

 

『艦娘だって一人の人間だから』。

 

これを公言し、人と艦娘の距離や溝を積極的に埋めるための活動をしているのだ。

 

 

そんな彼には、部下である艦娘たちや、最近、提督の参謀として着任したとされる謎の男《アンク》のみが知る『秘密』があるらしいとの事………。

 

 

「人も艦娘も、出来れば深海棲艦も助けたい」―――。

 

その発言から、一部の間で《強欲提督》とあだ名されているのが火野映司という男なのだ。

 

 

 

「みんな。まずは、急な召集にも関わらず応じてくれたこと、心より感謝する。それに伴い、当初予定していた演習の中止については、誠に申し訳無い。この場を借りて、謝罪をさせて欲しい」

 

 

簡潔に述べると、一条は吹雪を始めとした部下一同に頭を下げた。

 

 

「司令官、顔を上げてください!」

 

そう言って、一条に呼びかける吹雪。

 

 

「吹雪の言う通りだよ〜。提督たちに取っても予想外のトラブルだったんでしょ?謝る必要無いって〜」

 

北上もひらひらと手を振り、気にするなと励ます。

 

 

「私も同意見です。敵に関してはまだ情報不足ではありますが、両提督に非は無いと断言出来ます」

 

 

加賀の意見に、大井と雷もウンウンと頷く。

 

 

 

「……で。今回の言い出しっぺでいらっしゃる映司提督からも、何か一言ヨロシク〜♪」

 

 

そんな一条たちのやり取りを見ていた隼鷹は、映司に話を振った。

 

 

「えっ!?あー…えっと…」

 

 

挨拶はするつもりでいたが、いきなり話を振られたため、映司は言葉が出てこない。

 

後藤に視線を移し、助けを乞うが後藤から贈られたのはたった一言。

 

 

「いつものお前らしくしろ。俺から言えるのはそれだけだ」

 

 

バッサリである。

 

 

「提督、早くしないと外が……」

 

 

五月雨からも促され、映司は意を決した。

 

 

「………よし!みんな、行くよ?出撃だーッ!!」

 

 

 

 

 

 

「……………え?そんだけ?」

 

隼鷹からポツリと一言、疑問の声が。

 

 

「………ダメ?」

 

 

苦笑いする映司。

 

そして、そんな映司に対して苦い顔をする龍驤や長門、後藤。

アンクに至っては鼻で笑う始末。

 

 

「提督……ちょっと、かっこ悪い……」

 

 

山風がポツリと呟いたところで、苦笑いではあるが愛宕も表情が柔らかくなった。

 

 

 

「えー……っと。それじゃあ、気を取り直して。一条さん、号令をお願いします!」

 

 

改めて、一条が号令をかけることになり。

 

 

「石ノ森、鴻上連合艦隊!総員、出撃ッ!!」

 

 

 

「了解ッ!!!」

 

 

艦娘一同が敬礼、出撃態勢に入る。

 

 

連合艦隊としては初の陸上戦……誰もがそう思っていた。

 

だが、この作戦は一条らの想像を超えた戦いとなるのである………。

 

 

 

「……さあ!先輩、青葉たちも行きましょう!」

 

「勿論!記者として……だろ?」

 

 

「でも先輩は、それだけじゃないです…よね?」

 

 

「そう言う青葉ちゃんも、だろ?」

 

 

 

連合艦隊が出撃した後、真司と青葉はカードデッキを取り出し、海面にかざすのだった。




嗚呼……やっぱり難しくなってるぅ(;´Д`)


連合編、正直見くびってました(;´Д`)


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95話 : 蛇の怪物とメダルのライダーとカードのライダー

2つ以上の作品を掛け持ちするって、大変ですね……


嫌いじゃないわッ‼


そーゆーワケで、連合艦隊作戦開始です。


「う、うあああああぁぁあっ!!!」

 

 

ビルが立ち並ぶ、大通り。

 

そこに、場違い過ぎる怪物が市民を襲っていた。

 

 

鮮やかに輝く、赤い長髪にスタイルの良い女性を思わせる上半身。

 

しかし、髪に隠れた顔はミイラの様に表情が無く。

 

下半身は太い蛇の体をしており、しかも尾の先には人の「手」を思わせる形状の蛇の顔が生えているという、一度見たら簡単には忘れられない容姿をしていた。

 

 

妖艶な美女の姿で異性を誘惑し、本性の一端である蛇の身体で絞め殺し、仕留める怪物に似たモアーズ《ラミアモアーズ》は、次々と男性を襲い、その体を構成するメダル・虚魔銭を増やし、その身体を膨張させていく。

 

 

 

 

『モット……モット!』

 

 

次なる獲物を探して、目を光らせる中。

 

 

 

「討伐対象、発見!他に敵艦などの機影は見当たりません!」

 

 

艦隊の旗艦らしく、吹雪と五月雨が各艦隊をリードしつつ。

 

鴻上・石ノ森連合艦隊と、その護衛役として後藤が到着した。

 

「あれが……!」

 

 

その巨大さに、一条は驚きのあまりそう呟いた。

 

 

 

映司の部下である朝潮が通報を受けた時点では、ラミアモアーズは尾長を抜きにして180cmそこそこだったのだが、映司や一条らが出撃準備をしている間にもどんどん欲望を満たす行為を繰り返し、全長30mという怪獣サイズにまで膨れ上がっていた為、皆が驚くのも当然だった。

 

 

「こぉ〜りゃ、もしウナギだったら蒲焼に鰻重、ひつまぶしなんかにしてもお釣りがくるだろうなあ〜」

 

 

「えぇえっ!?隼鷹さん、本気ですか!?あたし的には、思いっきりアウトなんですけど……」

 

「私も阿武隈と同意見だ。あんなデカブツとウナギを同じ(はかり)にかけるのは止してくれ、隼鷹」

 

 

皆の緊張を(ほぐ)そうとしたのか、単に酒の肴として例えたかっただけなのか意図は不明だが、隼鷹の発した軽口に対して、先程までガチガチに緊張していた阿武隈や長門がツッコミを入れたことで、他の艦娘たちの表情が、少しばかり和らいだ。

 

 

「な、なんだよぉ〜!みんなして〜!」

 

「隼鷹さん……今のは、君の例え方が悪い」

 

「んなっ!?提督までそんなコト言う〜〜!?」

 

 

映司だけは自分の味方をしてくれる……そう期待していただけに、映司のキッパリとした意見を受けてショックを受ける隼鷹。

 

 

「バカが……」

 

横でボソッと呟いたアンクの悪口を、五月雨は聞き逃さなかった。

 

 

「アンクさん!!またそうやって人の悪口を言って!ダメですよ、そんな事したら!」

 

「くどいッ!!なんで俺が毎度お前に説教されなきゃなんねえんだよ!?」

 

 

五月雨がアンクに注意して、それに対してアンクがムキになる。

 

そこに映司や隼鷹を巻き込んで、火野艦隊初期メンバーによる日常風景が完成するのであった。

 

 

しかし、今は作戦の真っ只中。

 

提督という立場もあるため、映司は二人を止め、ラミアモアーズの撃破に集中せねば。

 

 

「二人とも!ケンカしてる場合じゃないってば!」

 

 

モアーズを見据えながら、映司は専用ツール・オーズドライバーを装着する。

 

 

「えっ……火野提督!それは一体!?」

 

 

ベルトを目にした雷が驚きの声をあげる中、映司はニッコリ微笑むと。

 

 

「アンク!!メダルだッ!!!」

 

 

長い付き合いの相棒に呼びかける。

 

 

「チッ………!間宮のアイス3人前だからな、映司!!」

 

 

一方的に報酬を要求し、アンクはメダルを投げ渡す。

 

 

映司はそれらを見事にキャッチして、それぞれの対応したスロットに填め込む。

 

 

「後藤さん、一条さん!みんな、いきますよ!!」

 

 

「ああ!」と応えながら、後藤はバースドライバーを装着し、セルメダルをスロットに投入。

 

一条も拳銃を手に頷いた。

 

 

そして、映司がオースキャナーをドライバーにかざし。

後藤がドライバーのダイヤルを回した、その時。

 

 

「変身ッ!!!」

「変身!!」

 

 

「ぶはぁ〜!!やっと追いついたあ〜〜!」

 

 

「―――えっ?」

 

 

突然、横から飛び出してきた二人組に、一同は素っ頓狂な声をあげた。

 

 

しかし、それは相手側―――龍騎と青葉も同じだったらしく……

 

 

「えっ?」

 

 

【タカ!トラ!!バッタ!!!】

 

【タ・ト・バ!タトバタ・ト・バ!!】

 

 

ついさっき会った提督が。

取材の申し込みに来た新聞記者が。

 

 

 

《仮面ライダー》に変身したことに対し、互いに驚くしかなかった。




こんな……こんなコメディにするつもりではァ………!(>_<;)


次回、やっと戦闘シーンに入ります!!


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96話 : アバリシアと大混乱と山風の特攻

『着任先の新提督が色々とマトモじゃない。』!
前回の3つの出来事!!!


1つ!艦娘・愛宕の欲望からモアーズが生まれる!

2つ!映司が立案した、一条艦隊と火野艦隊の連合艦隊が結成される!

そして3つ!!
映司と後藤、そして真司が《仮面ライダー》に変身した!!!


「映司……お前……!?」

 

「ひょっとして……メダルじゃなくて、カードで変身!?」

 

 

映司と後藤―――オーズとバースの変身を目の当たりにして、驚いたまま固まってしまった龍騎と、龍騎のベルトを見て、直感的にカードを使うライダーだと見て動揺するオーズ。

 

すると、そこに遅れた青葉が追いついた。

 

 

「先輩!もう、いくら急ぐからって後輩を置いてかないで下さいよ……って、なんかライダーが2人増えてませんっ!?」

 

 

「青葉?彼らのことを知っているのか!?」

 

 

青葉の発言に、今度は長門が反応した。

 

 

「し、司令官……吹雪は、もう何がなんだか分からなくなってきましたぁ〜……」

 

 

カオスがカオスを呼び、吹雪は半泣き状態。

 

 

「みんな、落ち着け!!今は作戦中……っ!?」

 

 

一条が呼びかけ、皆を落ち着かせようとした時。

 

 

「―――火野!!山風がッ!!!」

 

 

「えっ!?」

 

 

バースの声に振り向くと

 

 

「ッ!!山風ちゃん!!?」

 

なんと、山風が単身、ラミアモアーズに向かっていくではないか。

 

 

「今度こそ役に立つから……役に立つから…………だから…()たないで……」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「山風さん!?」

 

 

一条も山風の異変に気付き、止めに向かう。

 

 

「山風ちゃん!いったい何を!?」

 

「五月雨ちゃん!一条さんと一緒に、山風ちゃんをお願い!!」

 

「は、ハイ!!」

 

 

オーズの指示を受け、五月雨は一条と並び、山風を追いかける。

 

しかし………

 

 

 

『いけないなあ……人の意思を邪魔しては』

 

 

二人の前に火の玉がばら撒かれ、行く手を阻まれてしまう。

 

 

「なっ……なに………!?」

 

 

 

『艦娘の意思を尊重しないとは………やはり、これまでの身勝手な人間と変わらないではないか。嘆かわしい』

 

 

甘い声で嘆きの言葉を紡ぎながら、シカの様な角にライオンの様な顔をして、肩に無地の黒いマントを、腰に騎士が使うサーベルを身につけた、下半身がミイラの様な姿をした怪人が姿を現した。

 

 

「ひっ……!?」

 

その異様な姿と気配に、五月雨は怯えて固まってしまう。

 

 

それを庇うように立ちながら、一条は尋ねた。

 

 

「お前は何者だ………?アバリシアというのはお前なのか………!?」

 

 

その毅然とした態度に対し、赤い怪人はクスクスと笑いだした。

 

 

「何がおかしい……!質問に答えろッ!!」

 

 

怪人の態度に対し、かつて日本語を理解し、自分たちに挑発的な言動を繰り返した未確認生命体の姿を重ね、一条は思わず声を荒げる。

 

 

「いやいや、失敬………。おかしくて笑ったのではないのだよ?君の優秀さには、ここ暫くは注目させてもらっているところだ。むしろ、君を評価してあげたいくらいなのだ」

 

 

「評価………?」

 

その上から目線な物言いに、長門や傍で聞いていた龍騎が反応する。

 

 

「そう…評価だ。美しく、可憐な人形たちに愛を示し、誰にも奪われることの無いよう傍に置くために心を砕く。実に素晴らしい……愛という名の支配を難無くこなす、その手腕……私にこそ相応しい。どうだ?その力…この私、クルイの為に使う気は無いか?勿論、君が望むものは全て与えよう。その代わり、君は私に全てを捧げてもら……」

 

 

 

赤いアバリシア・クルイの言葉はそこで遮られた。

 

 

 

「悪いな?そこのモアーズに当てるつもりだったんだが………()()()()()()()()()()()()

 

 

バースがバースバスターを構え、クルイに狙いを定めて銃撃したのである。




区切りが悪いと思われますが、ちょっと予定を変更。


次回、次回こそはオーズにビシッとキメてもらいますので!!m(_ _;)m


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97話 : 怒る龍と砲撃戦と拒む腕

UAがとうとう50000超えました!

皆さん、こんなグダグダ作者の作品を応援してくれてありがとうございます!!


戦闘中、ラミアモアーズに向かって突っ込もうとする山風を止めようとした一条と五月雨の前に、アバリシアの1体・クルイが出現。

 

一条の提督としての能力を評価しつつ、その力を自分のために使えと引き込もうとしたクルイだったが、交渉の最中、バースに変身した後藤慎太郎がバースバスターをクルイに向けて発砲。牽制したのであった。

 

 

『ッ……、何のつもりだ……君?』

 

平静を装おうとしてはいるが、声は微かに震えており、怒りを抑えているのは明らかだった。

 

 

「後藤さん……!?」

 

バースの起こした行動に、オーズも驚きを隠せない。

 

そんな中、バースは平然と言い放った。

 

 

「悪いが……お前は俺の尊敬する上司たちの足下にも及ばない。俺は、俺たちの目的のためにお前を倒す!!」

 

 

この言葉に、龍驤たち艦娘は胸の内より込み上げてくるものを感じた。

 

 

「後藤の奴……変なもんでも食ったか?」

 

「アンク…それ、すっごい失礼だぞ!?」

 

一方、艦娘たちの士気を高めたであろうバースに対するアンクの発言をオーズが諌めるが。

 

「火野!山風を早く!!」

 

「は、はい!!」

 

バースに背中を押される形で、オーズはラミアモアーズの下へ向かおうとする山風を追いかけた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「フフフ……。欲を生む以外に能の無い下等生物が、頭に乗るなッ!!」

 

怒りを露わにして、クルイは炎の矢を放った。

 

「ッ!!」

 

その攻撃範囲は広く、バースやオーズだけでは防ぎきれない。

 

 

しかし……

 

《STRIKE VENT》

 

『ギャアアアアアァァン!!!』

 

「だあああぁぁぁっ!!」

 

 

深紅の龍・ドラグレッダーがミラーワールドより召喚され、ドラグクローを装備した龍騎と共にドラグクローファイヤーを放った。

 

「城戸!」

「城戸さん!」

 

「奴の言ってる事とか、後藤たちの話はさっぱり分かんねえけど……でも!これだけはハッキリ分かる!」

 

 

一呼吸置くと、龍騎はドラグクローをクルイに向けて突き出し、構えた。

 

 

「ヤツは、“俺たちが倒さなきゃならねえ敵”だってな!!」

 

 

そこに青葉も並び立ち、ドラグレッダーも唸り声をあげる。

 

「先輩!青葉も加勢します!!」

 

『グルルル……!!』

 

龍騎としては、得体の知れないクルイの相手をさせたくなかった。

しかし、ヴァイスとの戦いを機に、何があっても共に戦うと言ってくれた青葉の覚悟も無下にしたくない。

 

なので

 

「……分かった。けど、ヤバくなったらすぐに他のみんなと逃げなよ?」

 

「逃げる時は先輩も一緒ですよ?」

 

 

それでも万が一の時には、青葉や他の艦娘だけでも逃がせるよう名案を出したつもりだったが。

真司を慕う青葉の心に、逃げるという選択肢は無かった。

 

 

「……じゃあ、最後に一つだけ。―――死ぬなよ?青葉!!」

 

「ガッテンです!真司さん!!」

 

 

 

バース、龍騎。そして青葉と各鎮守府の連合艦隊による迎撃作戦が始まった。

 

 

 

 

『モット……モット、アイシテェ……!!』

 

巨大になり過ぎたため、抱きつく対象が無くなったものの、それでも欲望は膨らみ続けるラミアモアーズは、目についたビルを抱き込もうと移動を開始した。

 

 

それを追いかけ、無謀にも一人で相手取ろうと山風が追い続ける。

 

 

「やらなきゃ……私がやらなきゃ……」

「山風ちゃん!!」

 

そこに、オーズがライドベンダーで追いかけてきた。

 

「ひぅ……!てい……とく……」

 

「良かったぁ……間に合って。さぁ、みんなの所へ戻ろう?あんなデカい奴を一人で相手にするなんて……」

「やだ……」

 

「………え?」

 

 

山風の無事に安堵し、手を差し伸べるオーズだったが、山風はそれを拒んだ。

 

「私がやらなきゃ……また、役立たずになっちゃう………。ちゃんとやるから………おねがい……」

 

恐怖で震えるその小さな身体に、入渠して尚消えていない傷痕をオーズ―――映司は見つけた。

 

 

「…………」




次回……


火野映司、艦娘・山風に『提督命令』を出します。


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98話 : 臆病な風と父性と提督命令

激しさを増してきました、オーズ編第2章。

現時点での人気投票、独り占めとはやりますなぁ……後藤ちゃん(;・∀・)


白露型駆逐艦・山風。

 

鴻上鎮守府に来る前、彼女は最悪と言えるブラック鎮守府に在籍していた。

 

そこの提督は、大本営の幹部の一人息子で、深海棲艦との戦いをゲーム感覚で見ており、艦娘の扱いも酷いものだった。

 

 

「提督……作戦、失敗しました……」

「そう、じゃあもっかい頼むわ」

 

「提督!これで5回連続の出撃です!疲労が溜まって、戦闘への集中力が落ちている艦娘たちもいます!!一度補給と入渠、編成のし直しを……」

 

「ウッザいなぁ……ゲームのコマが文句垂れてんじゃねえよ!!轟沈がなんだ?それならまた“代わり”を作れば良いだけだろ?所詮、お前らは提督(カミサマ)が居なきゃ何にも出来ない役立たずなんだからさあ!わかったらとっとと行ってこいっての、グズ共がっ!!」

 

 

この様に、無茶な出撃や遠征は日常茶飯事。任務失敗をした時には、入渠も補給も許されず、そのまま放置され、最悪の場合、囮として『処分』された………。

 

そうした中で、大人しい山風は提督の都合の良い『相談相手』だった。

 

 

「ったく……冗談じゃねえぞ、大本営のハゲジジィ共!!僕を何だと思ってんだ!提督だぞ?未来の大元帥サマだぞ!?調子に乗ってんじゃねえよ、クソがあっ!!!」

 

少しでも気に食わない事があったり、苛立つ事がある度に、山風を殴る蹴るなど暴力を振るうだけでなく、関係の無い罵詈雑言まで浴びせかけ、ストレスや鬱憤の捌け口にしていたのだ。

 

 

(役立たず……役立たずのままでいたら、私……私……っ)

 

 

こうした数々の問題を在籍艦たちに告発され、提督は逮捕されたが、山風はそれ以後も人に触れられる事や優しい言葉をかけられる事に恐怖を感じるようになり、さらに死に急ぐような行動を取るようにまでなってしまったのである。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『我が力の前に屈するがいい!!』

クルイはそう叫びながらサーベルを抜き払うと、バースや龍騎らに向けて炎の斬撃を放った。

 

「龍驤さん!隼鷹さん!!」

 

「あいよっ!!」

「任しとき!!」

 

五月雨の掛け声に応え、隼鷹と龍驤の軽空母コンビが艦載機を発艦。

 

「艦載機のみんな!お仕事お仕事ッ!!」

「艦載機、発艦!!」

 

炎の斬撃を掻い潜り、爆撃機や戦闘機がクルイに向かって攻撃する。

 

「!……えっ!?」

 

援護射撃の態勢に入った阿武隈は、視線の先に映った光景に目を疑った。

 

 

クルイの死角に回り込んだ一条が、対深海棲艦用に配備された狙撃用ライフルを構え、加賀と対角線上に並んだ。

 

「…………」

 

静かに、深く息を吐き、照準を捉える。

 

そして―――

 

 

ライフルが火を噴き、加賀の放った矢は戦闘機となり、クルイに向かっていった。

 

 

『チッ!ちょこざいな……!!』

「まだまだッ!!」

 

一条らの方へ向けば、ドラグセイバーを手にした龍騎が前に飛び出し、真っ向から立ち向かう。

 

青葉が援護射撃する上に、ドリルアーム&キャタピラレッグを装備したバースが追撃を繰り出すなど、これまでに無い連携だった。

 

 

(どうした、火野……!まだか……!)

 

ラミアモアーズと山風の下に向かったオーズを、バースは戦いに集中しつつも気にかけるのであった。

 

 

 

 

 

「山風…ちゃん………」

「ちゃんとするから……だから、今は……構わないで……」

 

 

山風の言葉に、オーズは一つの確信を得た。

 

彼女が怖れているのは、暴力を振るわれることでも轟沈することでもない。

 

『役立たず』と言われ、存在を否定される事を怖れているのだ。

だから、轟沈しかねない無茶を繰り返していたのだと。

 

 

 

「そんなの……」

 

オーズが言いかけた時。

 

 

ラミアモアーズが、オーズと山風の下に迫ってきた。

 

『モットォオオオ!!!』

 

 

二人を捕まえようと、巨大な手を振り下ろしてきた。

 

 

 

「そんなの、認められる訳無いだろうッ!!!」

 

 

瞬間。

 

バッタレッグを展開し、山風を抱えて跳び上がることでこれを回避。

 

 

「ひっ……!?やだ…はなし、離して……!!」

「嫌だ!!絶対に離さないッ!!!」

 

腕に抱かれていることに気付いた山風は、オーズから離れようともがく。

 

しかし、オーズはその腕でしっかと抱き締めた。

 

 

「艦娘は戦う為に生まれてきた……確かにそうかもしれない。けど!生き方を決める自由ぐらい、あって良い筈だ!!」

 

オーズの言葉に、山風は目を見開いた。

 

「それでも戦うことを選ぶのなら、1個だけ約束しよう!!俺が戻れと命令したら、絶対に帰ってくること!自分や仲間の命を、任務に優先させるな!!でなきゃ……二度と戦わせないッ!!!」

 

 

力強く、そして優しく包み込むようなオーズの言葉に、山風は涙を溢れさせた。

 

 

「……っ………!!」

 

『モットォ…モットオオオ!!』

 

手掴みが失敗したので、今度は下半身の蛇で襲いかかるラミアモアーズだったが

 

 

「主砲……撃てぇ―――ッ!!」

途中、追いかけてきた愛宕が砲撃。ラミアモアーズの蛇の目を潰した。

 

「愛宕さん!」

「提督……さっきの“命令”、嘘じゃありませんよね?」

 

「命令?………あ」

オーズが山風に告げた約束を、提督命令として扱うのか愛宕は確認を求めた。

 

 

オーズの答えは

 

 

「………もちろん!」

 

 

言わずもがなであった。

 

「さてと……山風!愛宕さん!オーズ艦隊突撃班!!反撃開始だッ!!!」

「了解!!」

「ぅん……!」




次回。

オーズ編2章及び艦これ編2章(?)、遂に決着です!


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99話 : 笑う鷹と怒る魔人とパパ提督

オーズ編第2章、いよいよ決着です!!


オーズが山風、愛宕と合流し、ラミアモアーズとの決戦に臨もうとしていた同じ頃。

 

クルイを相手に戦っていたバース、龍騎&青葉のペア、そして石ノ森と鴻上の連合艦隊も決着をつけようとしていた。

 

 

『自らの欲に潰れるがいい!!』

 

腰を低く落とし、サーベルを構えたクルイ。

同じく、長門や吹雪、五月雨たちも主砲を構える。

 

 

「欲に溺れるのは……貴様の方だ!!」

 

 

その時、バースの声が上空から響く。

 

 

『!?なっ……なんだと!?』

 

 

バースは飛行ユニット・カッターウィングを装備して、空からの奇襲をかけてきたのだ。

 

しかも右手にドリルアーム、左手にショベルアームを装備しており、攻めに一切の妥協も容赦も無い。

そんなバースの怒涛の攻めを見て、長門は一言呟いた。

 

「後藤殿の戦い方……あれは、吹雪や足柄より酷いな……」

「えっ?長門さん、それって私の戦い方もあれぐらい酷いってことですか!?」

「うん。正直なところ…な」

 

吹雪自身は、ただ必死なだけのつもりでいたため、この評価は地味にショックだった。

 

「………」

 

そんな中、アンクは静かに戦いを見つめていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ハッ!」

 

鴻上ファウンデーション製のオーズ専用剣・メダジャリバーを手に、オーズは愛宕と山風の援護を受けて、巨大なラミアモアーズと戦っていた。

 

 

「お願いだから……沈んで……!」

 

先程までの雰囲気からは想像もつかない、物騒な事を呟きながら砲撃する山風。

 

「高雄型重巡洋艦の力、甘く見ないでね!」

続いて、愛宕がラミアモアーズに向けて砲弾を放つ。

 

 

「絶対に掴むぞ、俺たちの明日を!!」

揺るぎ無い決意を再確認し、オーズは力強く叫んだ。

 

 

一方、連合艦隊サイド。

 

戦局の変化……それは、実に唐突で呆気ないものだった。

 

 

『ええい…あの役立たずめ!たかがオーズとカイリ2匹に、何を手こずっている!!』

先程までの貴公子のような余裕は何処へやら。ラミアモアーズの劣勢に、クルイは苛立ちを露わにする。

 

その一瞬が、全てを決した。

 

 

「今だ!!一気にカタを付けろッ!!!」

 

 

アンクの掛け声を合図に、艦隊もライダーたちも一斉に攻めにかかった。

 

 

《FINAL VENT》

 

龍騎が跳躍し、加賀を始めとした空母艦娘たちの放った艦載機がそれに追従。

 

ドラゴンライダーキックと共に、艦載機の爆撃がクルイに襲いかかる。

 

『グゥッ!!』

 

 

「北上!大井!」

一条の号令により、北上と大井の二人は魚雷の代わりに用意したミサイルランチャーを発射した。

 

ちなみに、提供者は鴻上からの指示を受けてきた里中である。

 

 

『な、なんだとぉっ!!?』

 

 

さらに、阿武隈と雷が連装砲を発砲。

クルイに逃げる隙を与えない。

 

「深海棲艦じゃなくても、負けないんだからっ!!」

「駆逐艦だからってナメないでね?」

 

 

『こっ…この、人形どもぉおおおっ!!!』

 

怒り心頭といった様子で、クルイは掌に炎の力を溜めていく。

 

 

しかし

 

ここでクルイは、一つの疑問が浮かんだ。

 

あれだけの攻撃をしたというのに、この場に居る艦娘の数が合わない。

 

五月雨とアンク、そして吹雪の姿が消えているのだ。

 

 

(まっ……まさか………!!?)

 

 

「すみませんが……!」

「貴方の負けですッ!!」

 

 

バースに抱えられた吹雪と、右腕()()のアンクに掴まった五月雨がバースバスター・バーストモードを構えていた。

 

 

『ク…クッソオオオオオォォォオオッ!!!!!』

 

怒りを剥き出しにした叫びをあげながら、クルイはセルバーストのダブル放射を受けた。

 

 

「!!」

 

不完全体であろう筈の、クルイの体は完全に撃破されず。

それでも、大量の虚魔銭と共に、コアメダルと思しき魔銭・降魔銭が3枚ほどクルイの体から飛び出した瞬間をアンクは見逃さなかった。

 

慣れた様子で右腕を切り離し、飛ばすと3枚の降魔銭全てを見事に回収。

それに気付いたクルイは、さらなる怒りを見せた。

 

 

『オリジナル!!キサマ、私のコアをぉ!!!』

 

それに反して、アンクは勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

「コイツは儲けたなあ!!」

 

 

『おのれぇ……おのれおのれ、オノレぇええッ!!!』

狂ったように叫ぶ中、クルイの外装は剥がれ落ち、頭部以外の肉体が屑ヤミーの様に弱体化した。

 

『これで勝ったと思うなよ……!次に会ったときは、キサマのコアごと奪い返してくれるッ!!』

 

捨て台詞を残し、クルイはモアーズを見捨てて撤退した。

 

 

「司令官!追わなくていいんですか!?」

「いや……あそこまで激昂した奴は、何をしでかすか判らない。あちらから撤退したのであれば、深追いするのは返って危険だ」

 

吹雪の意見に対し、一条は深追いするなと指示。

 

 

「あとは……」

そう呟きながら、五月雨はラミアモアーズの見える先を見つめた。

 

 

 

 

「提督!あっちは片付いたみたいよ?」

「オッケー!それじゃ、こっちもそろそろ決めないとだね!」

 

愛宕からの報告を受け、オーズは左腰のメダルケースからセルメダルを3枚取り出すと、メダジャリバーのスロットに1枚ずつ投入していく。

 

「山風!少し下がって!!」

「分かった…!」

 

ラミアモアーズに威嚇射撃をしながら、山風が安全圏まで後退したのを確認して、オーズはメダジャリバーのスロットに備わったレバーを倒し、刀身のスロットにメダルを流し込んだ。

 

『オオオオッ!!!』

ラミアモアーズが迫り来る中、敢えて懐に飛び込む形でライドベンダーを走らせることでメダジャリバーをラミアモアーズの腹に突き立て、斬り裂いていく。

 

切り口からは、血飛沫の様にジャラジャラと大量のセルメダルや虛魔銭が溢れ出す。

 

 

ラミアモアーズの背後に回り込むと、振り向いてくるのを逆手に取ってUターン。再び、愛宕と山風の前に来ると、オースキャナーでメダジャリバーの刀身を撫でるようにセルメダルをスキャニング!

 

 

【トリプル・スキャニングチャージ!!!】

 

 

 

メダジャリバーの刀身が光り、オーズは狙いを外さぬようにモアーズを見据えた。

 

 

 

そして、ラミアモアーズが迫ろうとした瞬間―――!

 

 

 

「セイヤアアァァァッ!!!」

 

 

メダジャリバーを真一文字に振り抜き、必殺の斬撃『オーズバッシュ』をきめた!!

 

 

『ガッ!?』

 

「………えっ?」

「へ……!?」

 

 

その光景は、愛宕と山風は勿論。

 

遠くから見ていた吹雪たちをも驚愕させた。

 

 

オーズよりも遥かに巨大なラミアモアーズを、空間ごと切り裂いていたのだから。

 

 

しかし、空間断絶はすぐさま修正され。

切り裂かれたのはラミアモアーズだけとなる。

 

直後……ラミアモアーズは大爆発し、大量のセルメダルや虛魔銭の雨を降らせるのだった。

 

 

「ふぅ……」

 

数百……いや、数万枚はあろうメダルの雨の中、山風と愛宕は変身を解いた映司を見つめていた。

 

「提督……」

「…………」

 

やがて、山風は映司に駆け寄ると抱き付き、小さく震えながら泣き出した。

「……た……」

「ん?」

 

泣きながら、何かを伝えようとする山風に、映司は頭を撫でながら尋ねる。

 

「怖かった……パパ…怖かったよぉ……」

「……うん。がんばったね、山風」

 

そんな二人を見て、愛宕も寄り添うように二人を抱きしめた。

「本当に……山風ちゃんも映ちゃんも、お疲れ様」

 

二人に気付かれないように、愛宕も静かに涙を流した。

あんなに嫌っていた男性に対し、安心感と愛しさを抱くときが来るなんて……

いや、そんな事はもうどうでも良い。

 

自分の全てを預けられる、信頼出来る提督がやっと現れてくれた。

その喜びに、今は身を預けよう。

 

もしかしたら、この(ヒト)になら……

愛宕は、映司に対する胸の高鳴りに特別なものを感じた。

 

 

「………ん?山風、さっき俺のこと……」

「なに……パパ?」

 

「パ…パパっ!?」

「何だ何だ?どうしたんだよ、映司?」

 

変身を解いた真司や後藤たちが、映司らの下に集まってくる。

 

「あたごん、何かあったんか?」

「ウフフ…あのね?」

「ちょ!?愛宕さん、ちょっと待って〜!!」

「おやおや?青葉、気になります!」

「だからぁ〜…!!」

 

 

 

真司や青葉、そして他の艦娘たちにワチャワチャ絡まれ、からかわれる映司を一条や加賀、アンクが眺める。

 

「君は行かなくて良いのか?加賀くん」

「ええ。眺めるだけで充分です」

 

一条の問いかけに、そう返した加賀の表情は穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「オイ!お前ら、じゃれ合うのはそれぐらいにして、さっさとメダルを集めろ!」

そんな和やかな空気を、アンクの一言が台無しにした。

 

 

「アンコぉ〜〜〜?せっかくのムードを台無しにすんじゃねえっつうの!!」

「いででででっ!!隼鷹、何しやがる!?」

 

そんな掛け合いから、また賑やかな笑い声があがり。

大量に散らばったセルメダルや虛魔銭を回収して、その日は解散となった。

 

 

 

―――戦果報告

 

《石ノ森・鴻上連合艦隊》

 

《一条艦隊》

 

駆逐艦 吹雪(旗艦)……中破

 

 

(以下、随伴艦)

 

戦艦 長門…小破

 

駆逐艦 雷…中破

 

重雷装巡洋艦 北上…小破

 

重雷装巡洋艦 大井…損傷、軽微

 

正規空母 加賀…小破

 

 

 

《火野艦隊》

 

駆逐艦 五月雨(旗艦)…損傷、軽微

 

 

(随伴艦)

 

軽空母 隼鷹…小破

 

軽巡洋艦 阿武隈…中破

 

軽空母 龍驤…中破

 

重巡洋艦 愛宕…小破

 

駆逐艦 山風…中破

 

 

 

揚陸侵艦とも異なる脅威《アバリシア》の1体・クルイとそれが使役する怪物《モアーズ》と交戦。

《仮面ライダー》と呼称される仮面の戦士3名の獅子奮迅の活躍により、大破者及び轟沈者を一人も出すこと無く撃退に成功。

 

 

判定……《勝利》!!




久々に長くなりました(^_^;)

かなり書き込みましたぁ(^_^;)


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登場人物紹介⑧

オーズ編2章にて登場、活躍した人物たちの紹介に参ります!


後藤慎太郎/仮面ライダーバース(2代目)

 

警視庁鎮守府所属、警備隊第1隊長。階級は少尉→中尉。

かつて、オーズとグリードの戦いに関わった鴻上ファウンデーションの私設部隊の隊員として参加。映司やアンク、そして多くの人々と交流したことにより、人間的に成長した人物。

鴻上鎮守府と石ノ森鎮守府の合同演習を警護する任務を引き受けたのだが、アバリシアとモアーズの襲撃に伴い、戦線に参加。

その乱暴な戦い方は、以前アンクから酷いと評価されていたが、今回長門からもお墨付きを貰ってしまった。

 

ガンコで仕事熱心な性格であるが、実は「起きてても眠そう」な歳上の奥さんが居り、今回の戦闘後、その話をした際、今までで一番映司たちを驚かせた。

 

 

 

愛宕

 

高雄型重巡洋艦2番艦娘。

眩い金髪と透き通った白い肌に豊満な体付きをしたおっとり美人で、元は石ノ森鎮守府の出身。

その容姿と優しい性格から、他の艦娘を庇う形で邪な欲望を抱いた多くの男から心身を汚され続けた過去を持つ。

映司やアンクからは、そういった素振りも無く交流を重ねたが、心の奥で「艦娘としてではなく、愛宕として愛されたい」という欲望を深めており、そこにクルイが現れた為、ラミアモアーズを生み出してしまう。

それでも仲間として受け入れてくれた映司や五月雨たちに、感謝と幸せを抱いた。

 

同時に、映司に対して特別な感情が芽生えたようで、提督呼びだったのが「映ちゃん」とあだ名で呼ぶようになった。

 

 

 

 

龍驤

 

龍驤型航空母艦1番艦娘。

小柄な容姿ながら、艦娘としての戦闘技術は鎮守府内でも指折りのレベルであり、映司やみんなからの信頼も厚い。

 

赤塚鎮守府の出身であり、元司令官であった故・沼田統也の相談役としても有名な艦娘だった。

映司の寛容さとアンクのキレた頭脳、そして、艦娘の自主性の高さに惹かれ、鴻上の下へ直談判。『大好きだった提督を守れなかった、弱い自分をぶちのめす』事を条件に、鴻上から資金を前借り。それを手土産に、映司の下へ着任した。

また、多彩な技能を持っており、柔道・剣道共に四段、一方で調理師免許や危険物取扱者の資格も持っている。

 

 

山風

 

白露型駆逐艦8番艦娘。

おとなしい、と言うだけでは表現出来ぬほどに臆病かつ消極的な性格で、鴻上鎮守府の前に就いていた鎮守府では、提督のストレスの捌け口として日常的に暴力を振るわれ続けていた。

そんな日々の中、一度だけ反抗を試みたのだが、それが返って火に油を注ぐ結果となってしまい、今まで以上の暴行に加えて、一生消すことの出来ない『屈服』の印を刻まれてしまった。

いつもは服に隠れて見えないが、背中と左脇腹に鞭を入れられた傷痕があり、これまで人に手を差し伸べられる度にその記憶がフラッシュバックし、他人と触れ合うことも出来ずに居た。

 

ラミアモアーズとの戦いの中で、映司から命を無駄にするなという命令と、思うままに生きていいんだという言葉を受けて、山風はようやく苦しみから開放された。

 

映司に抱きしめられた時、よほど安心したのか映司を「パパ」と呼び、甘えるようになった。いつでもどこでもピッタリ寄り添うか抱きついており、映司が腰を下ろせば、その膝の上が山風の特等席となるほど。

勿論、場合によっては香取などが注意をするのだが、「やだ」と即答してなかなか離れないのだという。




さて、次はどうなるのやら?


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クウガ編 第五章
100話 : 家族


ついに迎えました、『着任先の新提督が色々とマトモじゃない。』連載100回目!!


ここまで来れたのも、皆さんの愛読と応援のおかげです!

本当にありがとうございます!!
これからも応援よろしくお願い致します!!!


品川区内 01:21 a.m.

 

 

とある運送会社の社長が、仕事を終えて会社の倉庫へ戻ってきた。

 

「ふぅ……。次は朝イチでの納入だな」

 

トラックから降り、仕事の内容を再確認するが、一つの倉庫のシャッターが微かに開いているのを見つける。

初めは単なる閉め忘れかと思いながら、もし中に誰か居るならと、懐中電灯を持って中へ。

 

「イラッシャイマセ」

「……?誰か居るのか?」

 

問いかけるも、返事は無い。それどころか、何やら不気味な物音が聞こえてきた。

 

 

 

恐る恐る、奥を見てみると……

 

 

鎖で首を括って吊り下げていたり、ナイフやらを打ち付けたマネキンが飾られており、見るからに普通ではない雰囲気の集団が集まっていた。

 

「ひっ!?」

 

あまりの光景に悲鳴をあげてしまい、懐中電灯を落とした音と相まって、その集団―――桜のタトゥの女たちに気付かれてしまう。

 

集団の一人……黒いフードパーカーを着た少女がニタリと笑い、社長に歩み寄る。

 

 

「あ…ああっ!!うわあああぁぁぁあああああっ!!!!」

 

 

社長が最期に見た光景……それは、人の様な姿をした者が、人ならざるモノに変わる瞬間だった………。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文京区内 ポレポレ 08:43 a.m.

 

この日、艦隊の勤務が非番だった大井は、人気メニュー『ポレポレカレー』の仕込をしていた。

 

「………。うん!マスターさーん、お味見て下さる?」

「ん、どれどれ?」

 

大井に呼ばれた玉三郎は、味見皿に取ったカレーをキュッとすすり、吟味する。

 

 

「……うん!辛ぇ(カレー)♪」

「おやっさん、それってまんまじゃ〜ん」

「だってカリ〜んだもん」

「だからさ……って、もう良いや。ハハ」

 

テーブルを拭いていた北上からツッコミを入れられながら、今日もポレポレは和やかな空気に包まれる。

 

「オハヨー、おやっさん。北上ちゃんと大井ちゃんもオハヨ」

「おう、やっと起きたな雄介。今、大井っちがカレーの仕込やってくれたぞ?」

「あっ、そうなの?ゴメンね大井ちゃん、ありがとう!」

 

本来、カレーを仕込む作業を頼まれていたのは雄介であった。しかし、昨日はタイミングの悪いことに揚陸侵艦出現の報せを一条から受けて、急遽出動。

同時に、海軍支援用に設置された製油所周辺に現れた深海棲艦を迎え撃つべく海洋に出たりといつも以上に走り回ったため、ヘトヘトになってしまい、帰ってきてそのまま眠り込んでしまっていたのだった。

 

勿論、雄介が仕事を出来なかった理由は、此処に居る全員が解っているので、文句や不満を言う者は居ない。

 

 

そこへ、みのりと鹿島が来店した。

 

「おはようございまーす」

「マスター、みなさん。おはようございます」

 

「あっ、オハヨ!」

「おはよう、みのりっちに鹿島っち」

 

「もぉ〜、まだその呼び方するの?」

「良いじゃない、高級ブランドみたいで!」

「私のことを鹿島っちと(そう)呼ぶのも、そういう語感の良さから…ですか?」

「まぁ…そんなトコ、かな?へへ」

 

玉三郎とみのり、そして鹿島の会話に、一同は笑いに包まれる。

 

「あれ?そーいやみのりさん、今日は保育園休みなの?」

 

北上が尋ねると、みのりは頷く。

 

「うん。今日が土曜日でちょうど良かった」

「ホント良かったよ!みのり、鹿島!ちょっと店の手伝いよろしくな?」

「えっ?」

「ちょっと、雄介さん?」

「俺、ちょっと桜子さんと大淀さんの所行ってくるから!また石板の古代文字、解読出来てるかも気になるし!じゃ、頼むな?」

 

 

サムズアップ。

 

 

雄介は意気揚々と出かけていった。

 

 

「……お兄ちゃん、また忘れてるんじゃないのかなあ……自分の誕生日」

寂しげに呟くみのりの一言で、玉三郎はハッとなる。

 

「誕生日?……あっ!?そうか、今日か!」

 

カレンダーを見て、大井の目の色が変わる。

 

「マスターさん!!五代さんの好きなカレーのトッピングを教えて下さいっ!!」

 

「……なんでも食べるよ?アイツ」

 

明らかに様子のおかしい大井を見て、キョトンとするみのりと鹿島。

 

その訳を把握している北上は一言。

 

「雪風……ある意味ライバルの登場かもよ〜」

 

そう呟きながら、玉三郎の淹れたコーヒーを一口飲むのであった。

 

 

「……あちっ…」




クウガ、相当ぶりの新章突入てす!!

今回はどんな物語が繰り広げられるのかっ!?


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101話 : 会議

先日より、とある方からのリクエストを受け、pixivでも本作を掲載することにしました。

pixivでの認知度はまだまだですが、常連さんに混じって新たな読者からいいね!をもらえて嬉しいです(^_^)


警視庁鎮守府 09:17 a.m.

 

 

この日も、揚陸侵艦に関する、現時点で明らかになっている情報の再確認と深海棲艦との関連性について会議が行われていた。

同時に、鴻上光生によって《アバリシア》と呼ばれる未知の怪物の情報がもたらされ、これまでの戦いからアバリシアを《第3の未確認生命体》として認知。

 

そこから派生するモアーズを生み出さないことは勿論、それ以上に市民の命と安全を守るために、より一層の警備の強化と各県警、各鎮守府の提督や艦娘との密な連携が求められることが、山県元帥より報告された。

 

 

「では…改めて、揚陸侵艦についての情報確認を。一条大佐」

 

「はい」

 

山県より呼ばれ、立ち上がる一条。

 

 

「これまでの一連の事件から、揚陸侵艦たちはかつての未確認生命体と同様、ある特定の場所に集団で集まる習性があることが判明しました。異なる特徴として挙げられるのは、揚陸侵艦の出現した場所や連中がアジトの様に利用して集まっている場所の近辺で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の姿が目撃されていることです」

 

「人型の深海棲艦たちと、特徴が似ていますね」

 

後藤の指摘に頷きながら、一条は報告を続ける。

 

 

「そして……これも過去の未確認生命体と似通った点ですが、奴らの存在に勘付き、近隣の住民が騒ぎ始めると、一切の抵抗を示さずに場所を移動しているのです。これらの点から、揚陸侵艦の中にも集団をまとめる存在が居ると考えられます」

 

 

長門に合図をして、揚陸侵艦たちがアジトとして使い、その後移動したり放棄した地域を表した地図をスクリーンに映し出す。

 

 

「あの未確認たち以上に手強い連中が、そんな真似をするとなると………今度の奴らも、殺人に対して何か目的があるってことか?」

 

「そこまでの情報は得られていませんが、可能性は十分にあると思われます」

 

 

杉田の問いに、一条は申し訳なさそうに答えた。

 

 

「これまでに出現した揚陸侵艦は20体。それによる被害の総数は、637名にまで拡大している!これ以上の被害を出さぬ為にも、敵を一網打尽にする必要がある!吹雪くん」

 

「はい!」

 

次に吹雪が起立、アタッシュケースから1本の筒状の道具を取り出した。

 

「こちらは、科警研と石ノ森鎮守府技術部に開発してもらった、特殊ガス弾です。詳しい内容は、お配りした資料に記載していますが、未確認生命体第6号や滑空奇襲鬼が苦手とするガス成分を、通常の5倍に濃縮したものが内蔵されています」

 

 

「…まさか、我々が艤装以外の物を使うことになるとはな」

 

資料を眺めながら呟く那智。

 

「上下に備わった安全装置を解除した後、一定の時間が経つと同時に爆発して、煙が拡がる仕組みです。……ただ、他の揚陸侵艦や他の未確認に対しても有効かどうかは、実際に使ってみないと何とも言えない…とのことです」

 

説明を終え、吹雪は一条と共に着席した。

 

 

「次に、敵の現在のアジトの特定についてだが……緑間(みどりま)くん」

 

「はい」

 

山県に呼ばれ、長身で眼鏡をかけた男性が起立した。

 

 

「警察犬訓練所の緑間です。揚陸侵艦及び深海棲艦への恐怖心から、強い抵抗を示していた犬たちですが、1ヶ月半に渡る訓練の末、(ようや)く警察犬34頭のうちハヤテ号だけが揚陸侵艦たちの放つ特殊なフェロモンを嗅ぎ分け、追跡出来るようになりました。後は、我々人間が人事を尽くすのみです」

 

 

「ウム。桜井くん、緑間くんと共に揚陸侵艦のアジト捜索にあたってくれ!」

 

「はい!」

 

 

最後に、山県が一同に声をかける。

 

 

「かつての悲劇を、これ以上繰り返してはならん!みんな、頼むぞ!!」

 

「はいッ!!!」




警察サイドだけで終わらせちゃいました(;´∀`)


あっちもこっちもって、やっぱ大変ですね(^_^;)


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102話 : 船人(ふなびと)

随分とお待たせしました。

久しぶりの最新話更新です。


城南大学 沢渡桜子考古学研究所 10:21 a.m.

 

 

単ちゃんたち解読班と共に、カイリの遺した碑文の解読を進めていた桜子と大淀。

そこには、五代雄介の弟子となった雪風の他に、『揚陸侵艦第15号』の事件にて雄介らと出会い、心を通わせた艦娘《瑞鳳(ずいほう)》と《日向(ひゅうが)》の姿があった。

 

 

「桜子さん、この資料は何処に仕舞うの?」

 

「あー、それはね…」

 

 

すると、雪風と単ちゃん、そして艦載機の操縦を担う妖精の一人である《探理(さぐり)ちゃん》がハッとしたように動きを止める。

 

「どうした、お前たち?」

 

日向が尋ねるよりも先に、雪風がドアへ駆け寄り、来訪者を出迎えた。

 

 

「ししょー!」

 

「やぁ、雪風ちゃん。桜子さんたちもオハヨ♪」

 

単ちゃんや探理ちゃんも、雪風と一緒になって雄介の周りを飛び廻る。

 

 

「おはよう、五代。……ん?そのマーク、昨日まで見なかったような?」

 

日向は、雄介が着ているTシャツの胸元にある『戦士(クウガ)』のマークと別に、羽織ったチェック柄のシャツに付いた錨マークのアップリケに気付いた。

 

 

「五代さん、それ……ひょっとしてカイリの?」

 

「オシャレだろ〜?」

 

大淀の質問に対し、得意気に答える雄介。

 

 

「……まぁ、それなりに」

 

「ししょー、流石です!」

 

「フフ、君らしいとは思うかな?」

 

 

いつも通りの雄介に対し、桜子や大淀、日向たちは笑い、雪風は尊敬の眼差しを向ける。

 

 

「―――あ!そうそう、石板の古代文字なんだけど…どんな感じ?」

 

「それなんだけどね……ちょっと来て?」

 

「うんうん!」

 

 

桜子に呼ばれ、パソコンの画面を覗き込む。

一応、一条の下から連絡員としての役目も任されているため、大淀や日向たちも雄介と共に詰め寄った。

 

 

その内容は―――まっさらだった。

 

「………まだ分かんない♪」

 

「あらら…」

 

お茶目な言い方をする桜子に、雄介たちは軽くズッコケる。

 

 

「……でも、紫のクウガみたいに剣を持ってるみたいよ」

 

「剣?」

 

 

 

桜子が言うには、石板に書かれている新たな『戦士』のもう一つの姿は《紫のクウガ》に似て、剣を持っているらしいという。

 

「何とかの如く、斬り付けるみたいに書いてあるんだけど……」

 

「………あれ?桜子さん、ちょっと待って?」

 

すると、瑞鳳が何かに気付いたらしく、桜子に呼びかけた。

 

「どうしたの?瑞鳳ちゃん」

 

「この部分……なんとなくだけど、【繋ぎ止める】って読めませんか?」

 

 

「繋ぎ止める……?」

 

 

瑞鳳が指差した古代文字は、『船に乗った人が、縄状の物で船を柱に繋ぐ』姿を象っていた。




クウガのオリジナルフォーム、フラグ立つか?


次回、新たな揚陸侵艦現る!


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103話 : 困惑

台風だの蒸し暑い日々だので、色々と思考が回らない日々ですが、なんとか()り出しました(^_^;)


場面変わって、揚陸侵艦たちのアジト。

 

そこに、白い和装を身に纏い、さながら巫女の様な出で立ちをした、全身ずぶ濡れの女が現れた。

 

 

「……ゴゴ・ギゾ」

 

桜のタトゥの女が、僅かに不満げな声音で呼びかける。

 

「ボソラ・パガギバ・パサズバ……」

 

続いて、クマ男が頭を掻きながら愚痴らしき言葉を洩らした。

 

巫女風の女が小さく鼻で笑うと、視線の先に転がっている男の死体に目を向ける。

 

それは、今朝方フードパーカーの少女に殺された社長の遺体だった。

 

 

「…バンゼグバ・ゴセパ?」

 

「アタシガシトメタ♪」

 

得意気に答えるフードパーカーの少女。

 

「ムセギジャジャ・ボグドゼバギ・ボドビ・バンシャグス・ボドザ……」

 

それに対し、斑模様の上着を羽織った男が諌めるように口を挟んだ。

 

「ギ……ワーッテルヨ。ジョーダンダ、ジョーダン…」

 

 

話が一段落したのを確認し、桜のタトゥの女は、白いポンチョを羽織った白髪の幼女から腕輪を受け取ると、巫女風の女に投げ渡した。

 

 

「バン・ビンビ?」

 

腕輪を受け取り、左手に填めると、巫女風の女はそれまでの物静かな雰囲気から想像もつかない邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

「バギング・バギング……ゲギド・ビンレ」

 

その左手の甲には、『マンタのタトゥ』が刻まれていた………。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

文京区内 ポレポレ 11:07 a.m.

 

 

「ごちそうさまでしたー」

「ありがトーテムポールさん〜!」

 

食事、そして会計を済ませた客を見送り、玉三郎はダジャレ混じりの言葉をかける。

 

「ありがとうございましたー!」

 

「バイバイ」

「はーい、バイバイ。また来てねー」

 

家族連れだったこともあり、子供が声をかけたため、鹿島が手を振って応えた。

 

 

「―――ハイ、みんなご苦労さん」

 

一段落し、玉三郎は人数分のコーヒーを差し入れてくれた。

 

「あんがと〜」

「ありがとうございます」

「いただきます」

「どうも」

 

「…いやぁ、ほんと悪いね?雄介の奴、ほんっと働かないもんだから、みのりっち達が居てくれて大助かりだよ」

 

玉三郎の労いと感謝の言葉に、みのり達ははにかむ。

 

 

「お礼に、とっておきのアレ……見せちゃおっかな」

 

「なになに?おやっさんのとっておきって?」

 

北上が興味深げに笑う。

 

一方で、“それ”を知るみのりは顔にこそ出さないが複雑な気持ちになる。

 

 

鹿島から聞いた限りでは、北上のみならず大井や雪風もクウガについて話を知っているとの事。

 

おやっさんが“アレ”を見せるということは……

 

 

「おやっさん……」

 

恐る恐る呼びかけると、玉三郎は振り向かぬまま、みのりだけに分かる合図―――サムズアップを示した。

 

 

北上や大井は然程気に留めなかったが、みのりと長く一緒に居て、かつ雄介とも話をする機会が他の艦娘よりも多い鹿島は、そのサムズアップに込められた意味を朧気に感じ取った。

 

「コレだよ、コレ!もう10年以上前の奴だから、かみちんや大井っちとかはイマイチピンと来ない話もあるかもしれないけど……当時の『未確認生命体事件』の記事!日課でね、スクラップにして纏めてたんだよ……俺も若かったってことだよなぁ、ウン」

 

「おやっさんさん……。おやっさんさんの年齢(トシ)から見ると……その表現は、ちょっと不適切かと…」

 

 

珍しい、鹿島の冷ややかなツッコミに対し、玉三郎や北上たちは固まってしまう。

 

 

しかし、すぐに気持ちを切り替えて、当時の『未確認生命体第4号』に対するマスメディアの見解などに目を通すのだった。




またしばらく、更新ペースは落ちたままかもしれません(^_^;)


楽しみにしてくれている皆様、申し訳ありませんm(_ _;)m


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104話 : 海魔

激しめのクシャミはブェックションですが、本作は二次創作という名のフィクションです。
このネタも久々に出しましたが、やっぱ本家には敵いませんです……。


警視庁鎮守府での会議が終わり、各部所へ戻っている中。

一条のスマホに、榎田から電話が。

 

 

「はい、一条です。ハイ……会議は先程。送っていただいた資料も、しっかり活用させていただきました」

 

『ゴメンね?会議(そっち)に出られなくて』

 

電話越しの榎田の声は、何やらバタバタと忙しない様子だったが、一条は朗らかに返す。

 

 

「いえ、気にしないで下さい。今日はご家族で―――」

 

 

 

一方、こちらは榎田がバタバタしている科学警察研究所。

 

一条との通話をしながら、身支度をしていた。

 

 

「そのハズだったんだけど……実は昨夜、鴻上さん所から急な調査依頼が来たもんでね?研究室泊まりになっちゃったのよぉ……オマケに、起きたのが待ち合わせの1時間前ってゆーね……。昔と似たようなシチュエーションで、イヤんなっちゃうよねえ」

 

『……大丈夫ですか?特に、息子さんは……』

 

 

心配そうに尋ねる一条に、榎田は苦笑いをした。

 

「お察しの通り、『いい加減懲りろ!』ってお叱りのLINEを貰っちゃった。アハハ……でもまぁ、(さゆる)ももう大人だし。旦那も私とあの子両方の側に立ってフォローしてくれるから、前ほどギクシャクはしてないよ」

 

 

やがて、身支度を済ませた榎田は他の職員たちに「じゃ、お先!」と言って研究室を後にした。

 

 

「………それに。納得してなきゃ、あの子が警察官になる事(今の仕事)を選ぶ筈無いもん」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

台東区 12:14 p.m.

 

 

川辺の通りを、二人のサッカー少年が歩いていた。

 

 

「春の地区大会まで、あと2週間か〜」

「監督も言ってたけど、翼は俺たちのエースだからな!肝心なときに、体を壊すなよ?」

 

「そう言う円堂くんだって、練習中に見せた、あのカーンみたいなパンチングでみんなを守ってよ!」

「パンチングじゃねえよ!爆裂パーンチ!!だよ!」

「はいはい」

「あははっ!」

 

 

小学生らしい、無邪気な会話を()()()()覗き見ていた巫女風の女が、ずぶ濡れのままでゆっくりと姿を現した。

 

 

「フフ……。ボソギダ・ブバスド・ゾギバパ・ギギレ」

 

「ん……っ!?わあぁあっ!!?」

「なに!?なにっ!!?」

 

 

見るからに怪しい、ずぶ濡れな女を見た少年たちは、まるで幽霊を見たかのような慌てぶりで、背を向けて走り出した。

 

 

「ククク……」

 

舌なめずりをしながら、女は羽織った着物を少しだけ着崩し、その姿をマンタが花魁に化けた様な出で立ちの妖艶な怪人に変えた。

 

しかも、白い体を引き立てるかの様に黒光りする、大きな主砲や副砲など、深海棲艦の中でも《戦艦ル級》に似たタイプの艤装を展開。

 

「フフ……」

 

しかし、マンタの怪人が砲撃することは無かった。

 

艤装を展開したまま走り出し、少年らを追い始めたのである。

 

「うわっ!」

 

途中、少年の一人が転んでしまう。

 

「円堂くん!」

 

それに気付いたもう一人が、慌てて引き返してしまう。

 

 

「―――え…」

 

 

次の瞬間。

 

 

「………フフ。ラズ…ドググ・ビンレ」

 

少年らの頭上から襲いかかった、凄まじい衝撃と音の正体………それが艤装を纏ったマンタの怪人によるボディプレスだったということを、潰されてしまった少年たちは永遠に知ることは無い。

 

 

「ひっ……!?」

「ン……?」

 

そこに、運悪く一人の釣り人が現場に居合わせてしまった。

 

「……ミ・タ……ナ?」

「み…見てない…見てないよぉ〜……!!」

 

 

その釣り人が最期に見たもの……

それは、マンタの怪人が突き出した主砲から放たれた、駆逐イ級の様な形状をした、“生きた弾頭”が喰らいついてくる瞬間だった………。




まず、皆さんに謝罪を。

マンタ(オニイトマキエイ)、扱いづれえぇぇぇぇッ!!!_| ̄|○ il||li

でも、やっと久々のクウガらしい展開に出来たかと思ってます。
次回もお楽しみに!


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105話 : 不安

再就職に向けて、しばらく忙しかったために更新ペースがガタ落ちのぺー督ですが、朝雲ちゃんというニューフェイスを迎えられたことを励みに、また頑張っていこうと思います!

あと、UA数もとうとう60000を突破しました!


ポレポレにて、みのりや鹿島たちが、2000年当時の『未確認生命体事件』のスクラップ集を見ていた所。

 

「ただいま〜」

 

「おっ」

「おかえりなさい、雄介さん」

 

桜子たちの研究室から雄介が帰ってきた。

 

 

「研究の進捗状況はどうでした?」

「んー……今のところは、まだ進んでないみたい」

 

大井の質問に、ちょっと残念そうに応える雄介だったが。

 

「ん……?うーわ、懐かしい〜!これ、アレだろ?おやっさんがスクラップにしてた!」

 

「雄ちゃん、嬉しそうだね〜」

 

「まあね?……あぁ、そうそう!これとか、ホントよく撮れてるよなぁ〜」

 

 

その無邪気な様子に、みのりは当時の雄介の姿を重ねた。

 

そして、そんな彼女の気持ちを察している鹿島もまた、雄介に対して不安を抱かずにいられなかった。

 

 

「……雄介さん」

「ん?」

 

「2ヶ月くらいになりますよね?私たちにクウガのことを話してくれてから……」

「うん……そう、だね」

 

「もう……戦うの、平気になっちゃいましたか……?」

 

「………」

 

 

その質問に、みのりや北上、大井もハッとなる。

 

 

と、そこに1本の電話が。

 

「はい〜、オリエンタルな味とかお……あ、はい!ちょっとお待ちを〜。―――雄介、一条さんから」

 

 

玉三郎から受話器を受け取り、電話に出た。

 

「俺です。………21号が!?ハイ!浅草の……ハイ、分かりました!」

 

「雄ちゃん、行くの?」

「うん!それじゃ、後はよろしくな?」

 

一条から場所を教えてもらい、雄介は飛び出していこうとする。

 

「お兄ちゃん!今日、誕生日だよ!」

 

 

……が、その直前に、みのりに呼び止められた。

 

 

「え?……あ!そうだっけ?」

「今日、お祝いするから早く帰ってきてね?」

「なるべくな?」

 

サムズアップ。

 

家族に笑顔を向けて、雄介は店をあとにするのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方。

 

揚陸侵艦たちのアジトを捜すべく、桜井は対揚陸侵艦用に訓練された警察犬ハヤテ号と訓練士の緑間 光(みどりまひかる)と共に品川区内を移動していた。

 

そこに、一条艦隊の艦娘《筑摩(ちくま)》から通信が入る。

 

 

『こちら筑摩。桜井さん、揚陸侵艦の行方は見つかりましたか?』

 

「いや……ただ、ハヤテが何かを嗅ぎつけたようなんだ!今、匂いの元を追っている!」

 

『了解しました。提督たちにもお伝えしておきます!』

 

「よろしく頼む!」

 

 

短めの通信ながらも、桜井は一条の一人の警察官としてのみならず、提督という組織のリーダーとしての信頼の厚さと力量を感じ取り、改めて尊敬の念を抱いた。

 

 

 

 

練馬区内 12:08 p.m.

 

 

「ゴメンね〜?遅くなるって分かってたら、こんな待たせなくて済んだんだけど…」

 

 

仕事帰り早々、家族での外食の約束をしていながらも待ち合わせに遅れてしまった榎田ひかりは、母・篤子と息子の(さゆる)、そして冴の18歳年下の妹・亜里沙(アリサ)と4人で歩いていた。

 

「亜里沙、楽しみにしてたんだよ?」

「ほら、亜里沙?お母さんと手繋ぎな?」

 

幼い頃の自分を思い出しながら、篤子と共に亜里沙に呼びかける冴。

 

しかし、当の亜里沙はふてくされたままで。

 

「おばあちゃんとおにぃちゃんがいるから、いい…」

 

母であるひかりに手を伸ばさない。

 

 

「参ったなあ……」

「冴も、亜里沙ぐらいの時はこんなだったんだよ?」

祖母(ばぁ)ちゃん、俺そんな細かいことまで覚えてないよぉ〜」

 

篤子から思い出話を聞かされ、苦笑いする冴。

 

「あっ、そうだ!アイス食べよっか!こないだテレビでやってたお店の!」

 

ひかりの提案に冴はオォ!と感心する。

 

「そっか!アレな!」

「そうそう!お詫びにさ、ダブル頼んでいいよ〜?」

 

「……ほんと?」

 

やはり、おやつは子供の心を溶かす魔法の品であるらしい。

 

「ホントホント!」

「じゃあ……いいよ?」

 

「ヨッシャ!」

「良かったなあ、亜里沙?」

 

遠慮がちに伸びた愛娘の手を取り、ひかりは微笑む。

 

 

家族団欒、その筈だったのだが……

 

 

 

「また襲撃だって……」

「マジかよ……いったい、いつまで出るんだろうな…揚陸侵艦の奴ら」

 

 

「………」

 

道中、道行く人たちの会話が耳に入り、思わずひかりの足が止まった。

 

「ママ?どぉしたの?」

 

亜里沙に呼びかけられながらも、ひかりは気持ちが揺らぎ始めていたのだった。

 

 

 

 

豊島区内 わかば保育園 12:14 p.m.

 

 

言いようの無い思いを抱えたまま、鹿島は保育園へと足を運んでいた。

 

「………」

 

 

2ヶ月前……久しぶりに再会をしてすぐ、同僚にして先輩であるみのりの兄・雄介から明かされた『2000番目の技』の秘密……それは、本来人を護るために戦う存在・艦娘である鹿島から見ても、想像を絶するものだった。

 

それでも、あの心優しい雄介は、自らの決断に後悔も迷いも無いというのだから、鹿島は驚きを隠せなかった。

 

 

でも……

 

「あ!かしませんせーだ!」

「どーしたの?いつも、どよーびはいないのに」

「いけないんだよ?きちゃいけないひにきちゃ」

 

拭えない不安を隠すように、園児たちに笑顔を見せる鹿島。

 

「んー……なんとなく来ちゃった♪」

 

「わかった!デート、ダメだったんでしょ?」

 

それに対して、二人の園児の内一人が、おませな事を発言。

 

「そーゆー事を言う子は……こうだ!」

「きゃー!やめてやめて!くすぐったーい!」

 

くすぐり攻撃をして、じゃれ合っていると、今度は二人の男の子が駆け寄ってきた。

 

「ねー、かしませんせー!4ごーって、イーやつだよね?」

 

「4号?―――未確認生命体の?」

「そうにきまってるでしょー?」

 

「ワルいヤツだよぉ……みかくにんたいせーめーだもん」

 

男の子の一人・道隆に対し、鹿島と最初に話をしていた園児のもう一人が口を挟んだ。

 

「おまえにはきいてないよ!」

「あー!おまえっていっちゃいけないんだよー?」

 

キラキラした、純粋な眼で答えを待つ園児たちを見ながら、鹿島はうーん…と人差し指を口元に当てながら考える。

 

「そうだなぁ…」

 

「いーからいって?」

「イーやつだよね?だって、ママがよんでるほんにね?かいてあったもん!」

 

子どもたちの期待に応えたい気持ちは勿論ある。

 

 

「良い人で居てほしいよね……ずっと」

 

でも、それは

 

「そうだ!みんなで、ジャグリングの練習しよっか!」

「やったー!!」

 

「よーし!それじゃ、出発ー!」

 

 

自分自身の願望でもあるのかもしれない。




長らくお待たせしました。

またボチボチ、更新を進めていく予定です(^_^;)


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106話 : 天龍

再就職先への初出勤、そしてバタバタなスケジュールの中での先輩方からの懇切丁寧な指導の下、心身共にヘトヘトな夏夜月ですが、こちらでの活動は辞めるつもりはありません!

ありませんよっ!!( ゚д゚ ;)クワッ!!


台東区 第二犯行現場 12:41 p.m.

 

 

通報を受け、一条たち揚陸侵艦対策班は現場検証に来ていた。

 

「しっかし……これまでと比較にならないくらい、エグい()り方をしやがるぜ。上半身丸ごと()し潰して、下半身だけはほぼキレイに残してるとかよ……」

 

 

深い紫色の髪に金色の瞳、そして左眼の眼帯と腰の刀が特徴的な艦娘《天龍》が、現場に残された血痕を眺めながら呟く。

 

「まったくだ。反対側で見つかった遺体は、まるで23号にやられた被害者みたいに、無数の咬み傷があったそうだ……」

 

天龍と同意見である杉田は、圧殺された二人の少年と別に襲われた釣り人の遺体の状態を苦々しい様子で報告した。

 

「咬み傷?じゃあ、今回は複数犯ってことかよ?杉田の旦那」

「現時点では、答えようが無い。なにせ、情報その物が少なすぎるからな……すまない」

 

 

一条率いる石ノ森鎮守府在籍の軽巡洋艦の中で、好戦的かつ仕事熱心な天龍に、杉田は「気を張りすぎるなよ?」と肩を叩いて労った。

 

 

そこへ

 

 

「一条さん!」

「提督!みなさんも、お勤めご苦労さまです!」

 

「夕張…それに、榎田くん?」

 

 

なんと、夕張と冴が現場にやって来た。

 

「さっき、そこの辺りで合流したもので」

「それは良いんだが……榎田くん、今日は非番だった筈じゃ?」

 

一条が尋ねると、冴は苦笑いをしつつ

 

「最初は、母が行こうとしたんですけどね。ちょっとは娘孝行しろ!って、押し退けてきました」

 

 

にししっと笑う冴を見て、一条は思った。

 

ああ、やはり親子だなぁ……と。

 

「……それより。これはどういう状況ですかね?」

 

夕張が話を振ると、一条は気持ちを切り替えて仕事に徹する。

 

「被害者の外傷が二通りもある、これまでに例の無い殺人事件です。パターンが固定されていないので、相手がどういった能力の揚陸侵艦なのかも特定出来そうに……」

「司令官!」

 

説明の途中、何かを発見したらしい吹雪が呼びかけてきた。

 

「失礼。…どうした、吹雪!」

「これなんですけど……」

 

吹雪が拾い、見せたもの。

 

それは、何かの破片らしかった。

 

「どうしたの?吹雪ちゃん」

「ちょうど良かった。夕張、工廠に戻って明石さんとこれの分析を頼む」

 

破片をビニール袋に入れて、一条は夕張に預けた。

 

「了解しました」

 

敬礼し、夕張は冴と共に鎮守府へと戻った。

 

 

「ぐうぅ……、落ち着かねえなぁ……」

 

そんな細々とした作業の中、天龍は落ち着かなくなってきていた。

 

「天龍、急に落ち着きが無くなったね?」

 

長い銀髪とクールな表情が印象的な駆逐艦《響》が尋ねると、天龍は声を荒げそうになる寸前で堪えた。

 

 

「……ハァー。当たり前だろ?俺たち艦娘は、海の上で戦ってナンボだろぉが。こんなチマチマとした作業は基本合わねえし、そもそも畑違いなんだっつうの」

「でも……相手の目的や居場所が分からないし、敵がどんな能力を持ってるか分からない以上、迂闊に動くのは反って危険だよ」

 

表情こそ変わらないが、心配そうな響に対し、天龍はへっと笑った。

 

「だからこそ、向こうもこっちが手を出してこないだろうって高をくくっているんじゃねえか。その意表を突いて、一気に叩く!簡単なことじゃねえか」

 

「ついでだ。4号が出てきたら、そいつも始末してやるぜ……!」




久しく更新しました!

クウガ編、またも試行錯誤に陥っておりますが、頑張って参りますね(^_^)


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107話 : 参入

かなり久しぶりな『着任先』更新です!

長らくお待ちしていた皆様、大変申し訳ありません!!


一条からの報せを受け、浅草方面を移動していた五代雄介。

 

そんな彼のサポーター兼ナビゲーターとして同伴していた単ちゃんが、突如、仲間の妖精から通信を受け取った。

 

「っ!」

「どうした?」

 

単ちゃんの動揺ぶりから、只事ではないと肌で感じた雄介は、脇道へ入ると一時停車。話を聞くことにした。

 

しかし、その時。

一条から無線が入った。

 

「俺です!」

『五代!揚陸侵艦21号が東京湾沖に現れた!!』

 

「東京湾にっ!?」

 

まさか……そう思い、単ちゃんの方へ振り向くと、コクコクと必死に頷いたので、彼女が伝えようとしたことと同一であると確信。

 

「――それで、艦娘たち(みんな)は!?」

『今、《天龍》を旗艦に水雷戦隊を編成して向かわせた!万が一という事もある……現地に急行して、出来る限りの援護を頼む!』

 

「分かりました!!」

 

雄介の力強い言葉に、単ちゃんはぱぁっと表情が明るくなる。

 

クウガの事を知ってから、単ちゃんにとって雄介は、親しみやすい人間の友達というだけでなく、自分を含めた妖精や艦娘を救ってくれるヒーローとしての憧れの存在となっていた。

そう思うようになった決め手は、石ノ森鎮守府を訪れたとき、外道の巣窟に成り果てていた執務室やボロボロだった各施設の掃除を雄介が提案し、進んで手伝ってくれたことだった。

本来、海軍の仕事に関わることのない筈の、彼の嘘偽りの無い優しさに、それまで張り詰めていた心が解きほぐされた気がした。

 

余談だが、その時を境に造花ちゃんは雄介に“恋”をしたというのだが、単ちゃんは何故かそれを素直に応援する気になれなかった。

 

 

「ゴメン!ちょっと急ぐから、しっかり掴まってて!」

 

雄介の言葉に頷き、単ちゃんは雄介のシャツの胸ポケットに潜って身を守る態勢になった。

 

ちゃんと掴まっているか、安全かを確認すると、雄介はドルフィンチェイサーのスロットルを全開にして、現場へと急行するのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

東京湾沖 01:16 p.m.

 

作戦司令部から深海棲艦出現の報せを受け、天龍を旗艦に出撃した《石ノ森第一水雷戦隊》は、東京湾沖に現れた深海棲艦……ではなく、揚陸侵艦第21号と遭遇。

 

状況は―――最悪だった………。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「フフ……。ガギションギ・ゲギパ・ゾグ・ギダ?」

 

 

《戦艦ル級》のような、人型の深海棲艦に似た風貌と艤装に加え、マンタの様な特徴を備えた未知の敵……それもたった1体を前に、天龍たちは手も足も出ない状態に陥っていた。

 

「各員…状況を報告しろ……」

 

天龍の呼びかけに、随伴艦娘のメンバーは応じた。

 

「暁よ……状態は大破、艤装の動力部が損傷して、これ以上の航行は不可能…だわ」

 

「響だよ……状態は中破だけど、艤装の損傷具合は暁と同等……だね」

 

「こちら電……暁ちゃん同様大破……弾薬が底を着いて、戦闘の継続が出来ないのです……」

 

「大潮……電ちゃんに同じく、テンションサゲサゲですぅー……」

 

「くっ……!」

 

 

撤退せざるを得ない状況にあることは、天龍自身も中破しているので理解はしている。

 

しかし……何故だ?

 

目の前のコイツ――揚陸侵艦から、逃げ切るヴィジョンがまったく浮かんでこないのは……

 

 

「フフフ……コ・ワ・イ?」

「!!?」

 

突然の挑発に、天龍は思わず顔を上げ、目を見開く。

 

 

―――今、奴は何と言った?

これまで、揚陸侵艦たちは何語かも分からぬ言語を発し、一方的にブツブツ呟いていた。

 

だが、コイツはハッキリと日本語を喋った。

 

「怖いか?」……と。

 

 

思考を停止してしまった、その一瞬が仇となった。

 

 

主砲を天龍の顔面に向け、揚陸侵艦はニヤリと笑った。

 

「ボセゼ・バギング・ズゴゴド・グシギ・ビンレ!」

 

 

砲撃が放たれる、その直前。

 

 

水面を突き抜ける、力強い轟音と共に1台の水上バイクが現れ、揚陸侵艦の横っ腹に体当たりを繰り出してきた。

 

「グォ!?」

 

完全な不意打ちだったため、避けることも防ぐことも出来ず、勢いよく陸地へと吹き飛ばされた。

 

「……な…今度は何だっ!?」

「あれは……!」

 

混乱している所から、さらに不測の事態が発生した為、天龍は訳が分からない。

その一方で、電は現れたマシンとその乗り手の背中を見て確信する。

 

“彼”が来てくれた――と。

 

「ビガラ……!」

 

駆けつけた男――五代雄介は、懐に忍ばせていたから妖精さん・単ちゃんを天龍たちの下へ向かわせると、ドルフィンチェイサーから陸地へ飛び移り。

 

両手を腹部にかざし、超古代のベルト・アークルを呼び覚ました。

 

そこから続く動作…そして“変身”を、天龍たちは目撃した。

 

 

「変 身 ッ!!」

 

ベルト中央部の霊石・アマダムから発せられる赤い輝き、そして未確認生命体第4号――《戦士》クウガの変身を。




何やら、もうメチャクチャになってきちゃいましたね(^_^;)

リアルが忙しい中、執筆をなさる先輩方の気力体力・時間確保の能力の高さにひたすら脱帽ですm(_ _;)m


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108話 : 防戦

仕事の現在のシフトが昼から夜間にかけてのため、チェックや執筆の時間が限られております夏夜月です。

今回、「紫のクウガ編」中盤にかかります!


「変身ッ!!」

 

 

揚陸侵艦21号の猛攻を受け、窮地に立たされていた天龍たちの前に現れたのは、《戦士クウガ》となる男・五代雄介。

 

 

「五代さん!」

「え……電、4号と知り合いだったの!?」

「暁、電は足柄さんと一緒に《陸上奇襲鬼》との戦闘で4号に遭遇していたんだ。知っていて当然だし、雷も前の事件で共闘しているよ?私も、間近で見るのはこれが初めてだけど……」

 

電の歓喜の声から始まって、第六駆逐隊の三姉妹たちは急に4号の話題で盛り上がり始める。

 

 

「お前ら、くっちゃべってる場合かよっ!」

 

それを天龍が一喝して切り上げ、意識を戦闘に呼び戻した。

 

 

 

「クウガ………。バリ・ランラジョ・メ・ベギマ・ギビ・バデスバ・ギサ?」

 

 

マンタの特徴を備えた揚陸侵艦―――《メ・ベギマ・ギ》の挑発と思しき言葉を受けながら、クウガは心揺るがぬよう構え、警戒を怠らない。

 

 

「4号………あれが……」

 

相対する両者を見て、刀を握りしめる天龍の手に力がこもった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

豊島区内 わかば保育園 01:22 p.m.

 

立ち寄って、そのまま帰るのも悪いと思った鹿島は、同僚の艦娘《榛名(はるな)》に声をかけて、休日出勤として仕事を手伝うことにした。

 

「お疲れ様です、鹿島さん…じゃなくて鹿島()()

「うふふ、お互いに呼び慣れませんね?榛名()()

 

 

この時、丁度園児たちのお昼寝の時間を含めた休憩時間だったため、二人はお茶を飲みながらニュースを見ることにした。

 

「そう言えば……また揚陸侵艦が出たそうですね?」

「ええ……まったく物騒ですよね」

 

すると、タイミング良く速報が入った。

 

 

「まあ……!また4号が出たんですね!場所は東京湾付近……なら、この辺は一応大丈夫ですね?」

「………そう、ですね……」

 

 

4号が現れ、揚陸侵艦と交戦している………

 

それは、鹿島にとって素直に喜べる情報ではなかった。

 

 

 

何故なら

 

「フン!フゥンッ!!」

 

その4号とは

 

 

「おおりゃあぁぁっ!!!」

 

 

戦って欲しくない、誰よりも優しい人だから。

 

 

 

東京湾付近 01:25 p.m.

 

 

砲撃をさせまいと、クウガはベギマの背後に周り、艤装の隙間を狙って肘鉄や膝蹴りを食らわせるが……

 

「フフ……クスクス……」

 

「っ!?」

 

その体は、かつての《未確認生命体第21号》のように軟体質で、打撃系統の衝撃を緩和・吸収、完全に無効化していた。

 

 

「効いてないっ!?」

 

クウガや暁たちが気付くよりも一歩早く。

 

ベギマは、その重厚な艤装を纏った体でクウガに押し迫り

 

「っ!?うあっ!!」

 

斬りかかろうとしていた天龍を巻き込んで、海中に落とそうとした。

 

 

「くっ……!超変身!!」

 

 

水面に叩きつけられる直前、クウガは《青い艤装》を纏ったクウガことトリトンフォームへ超変身。

天龍を抱きかかえ、守りながら、至近距離での砲撃を敢行。

 

「グッ!」

 

「天龍さん!?」

「すごい……あんな至近距離から砲撃するなんて!大潮でも、あそこまで攻めた撃ち方は出来ませんっ!!」

 

クウガの艤装の使い方に驚きつつも感激する大潮と、天龍の無事を案じる暁。

 

無論、クウガは天龍をしっかりと守った。

 

 

「………っ!?ば、バカヤロー!!離しやがれ、何勝手に(ひと)を抱えてんだよ!!」

 

男勝りな性格に加え、足柄程ではないものの戦闘狂の気がある天龍であるが、それを抜きにすれば、凛々しい顔立ちにモデル顔負けのスタイルの良さから、男女問わず人気は高い。

しかし、異性との交流経験がほとんど無いため、直接触れられたりすることに対して強い抵抗感を示してしまい、それが元で杉田警部を殴りそうになってしまったことがある。

 

 

「フフ……ドンドビパ・バギギレ」

 

ニタァ……と笑いながら、ベギマは主砲の照準をクウガと天龍に

 

……ではなく。

 

 

「え……」

「はわっ!?」

「あ……」

 

無防備な暁、響、大潮、電に向けて砲撃。

 

駆逐イ級のような形状の、生きた弾頭を放った。

 

 

「あ…あのヤロォオっ!!!」

 

怒りに任せ、暁たちを守ろうと飛び出す天龍。

 

 

……しかし。

 

「ッグ!!ウアア…っ!!!」

 

 

それよりも早く動き、その身を盾にして守ったのはクウガだった。

 

 

「五代さんッ!!!」




久々にノッてきました、クウガ編!

はてさて、どぉなるのか!?


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109話 : 拒絶

戦うことへの執着……
それは、守りたいものへの想い故か。

それとも……

己が己であることの、生きていることの証を示す為か……


クウガ、そして天龍たち石ノ森水雷戦隊が揚陸侵艦《メ・ベギマ・ギ》と交戦していた頃。

 

わかば保育園にて、鹿島は園児の少女と一緒に『桃太郎』を読んでいた。

 

「門が開くと、桃太郎たちは一気に中へと飛び込みました。『なんだなんだ!?』『助けてー!』鬼たちは慌てました。犬は、噛みつきます。猿は、引っかきます。キジは、つつきます」

 

園児がハキハキと音読し、鹿島が付き添って聴いていると。

 

 

「あれえ?『花咲かじいさん』の絵本が無いよぉ?」

 

一人の園児の少女が本棚の絵本を探していた。

 

それに気付いた園児の一人・良平(りょうへい)が声をかける。

 

「さっき雅人(まさと)くんが持ってったよ?」

「えー…」

 

「持ってきてあげようか?」

「ホント?」

「だってボク、4号だもん!」

 

音読に耳を傾けつつ、鹿島は良平の優しさに笑みを浮かべた。

 

そして、良平は目的の相手である雅人の下へ向かった。

 

 

「ねえ、雅人くん。その絵本貸して?」

「やだ」

「でも、次は真子(まこ)ちゃんの番だよ?」

 

そう言って、良平は絵本を取ろうとした。

 

しかし、雅人はそれでも拒み、良平から絵本を取られまいと抵抗を始めた。

 

「イヤだって言ってるだろ!」

「離せよっ!!」

 

お互いに譲らず、揉め始めた。

 

「せんせぇ……」

そのピリピリした雰囲気に、真子は少し怯えた様子で鹿島にしがみついた。

 

「コラ、止めなさい?」

 

良平らに呼びかけるが、それでも二人は止めない。

 

 

雅人の頑固さに苛立ってしまったのだろう。良平は雅人を叩いてしまった。

当然、それを許せない雅人もやり返す。

 

揉め事は暴力によるケンカに発展してしまい、さらに……

 

「!!」

 

良平は、叩き合いになった際に落ちた絵本を拾い上げると、雅人を叩こうと振り上げた。

 

 

「コラッ!!」

 

鹿島や、騒ぎに気付き、良平の行為を目の当たりにしたみのりが止めようとした、その直前。

 

 

距離の近かった榛名が雅人を庇いながら、絵本による打撃を左腕で防ぐと、良平の手を掴み、取り押さえた。

 

 

「止めなさいっ!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ぐっ……うぅ……ふぅんっ!!」

 

ベギマの放った、生きた砲弾に咬み付かれたクウガは、痛みに耐えながら砲弾を引き剥がし、その場に叩きつける。

 

 

「ククク……」

 

しかし、その一瞬を逃さず、ベギマは通常の砲弾を放ち、クウガを追撃する。

 

「ッ!!ぐっ、ウアアァっ!!」

 

「五代さん!!」

 

 

これ以上、攻撃させてなるものかと、電は前に飛び出そうとした。

 

「止めなさい、電!あなた、弾薬が尽きてるんでしょうがっ!!」

「暁ちゃん……でも……!!」

 

暁に止められ、電は戸惑う。

 

 

このままではクウガがやられてしまう。

だが、今の自分たちでは、反撃をしようにも打つ手が無い。最悪、返り討ちに遭って轟沈(終わり)だ。

 

 

「ハァ…ハァ……ッ」

 

砲撃による打痕(だこん)や火傷、そして噛み傷と、今までに無いダメージと傷を負いながらも、クウガは逃げなかった。

 

(しめた…!今なら、4号だけでも……)

 

 

クウガの背中に回り込めたことから、天龍は刃先の折れた刀を握りしめ、立ち上がる。

 

 

「フフ……ドゾ・レジョ」

 

不敵な笑みを浮かべながら、ベギマは主砲をクウガと天龍に向けた。

 

 

 

 

品川区内 01:32 p.m.

 

 

揚陸侵艦を一網打尽にすべく、桜井と警察犬ハヤテ号、そして訓練士の緑間は、匂いの元を追って辿り着いた工場の物陰で待機していた。

 

そこへ、連絡を受けた一条と加賀、吹雪が合流した。

 

 

「一条さん!加賀さんと吹雪ちゃんも!」

「お疲れ様です、桜井さん!緑間さん!」

 

「……ありがとう、あなたは頑張り屋さんね」

 

桜井らに敬礼する吹雪と、ハヤテ号に労いの言葉をかける加賀。

 

「桜井さん、敵の様子は?」

「静かなもんですよ……あと、2日ほど前から行方が分からなくなっていた、この工場を運営している会社の社長と思われる遺体が、倉庫の裏手で発見されたそうです」

「……そうですか…」

 

 

また、救いきれなかった……

 

悔恨の念を抱きつつ、一条は気持ちを切り替えて任務に専念した。

 

 

同じ頃……長門は一条からの指示により、クウガや天龍たちの救援に向かっていた。

 

「頼む……間に合ってくれよ……!!」

 

僅かにではあるが、長門は天龍たちの身を案じるのと同じくらい、クウガ――雄介のことも心配していた。

 

理由は勿論、天龍の意気込みにあった。

 

石ノ森鎮守府の面々の中には、今だにクウガ=第4号を他の揚陸侵艦や未確認生命体と同族であると見なし、危険視するのみならず、あわよくば撃破しようという考えの者がいる。

 

天龍はその最たる者で、今回の出撃の際も自ら旗艦を立候補したほどだ。

 

「五代……みんな……!!」

 

 

 

しかし……そんな長門の望みは、呆気なく消えてしまった……。

 

 

 

「くたばりやがれ……未確認ッ!!!」

 

 

「ッ!?」

 

「天龍さん、ダメッ!!!」

 

 

電の叫びも虚しく、天龍の振り上げた刃はクウガに向けて振り下ろされた………。




邪悪なるものあらば 鋼の鎧を身に着け 地割れの如く 邪悪を切り裂く 戦士在り―――


邪悪なるものあらば 鋼の根を伸ばして 舟を(くさび)に繋ぎ留め………の如く 邪悪を切り裂く 戦士在り………。



待て、次回!!


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110話 : 鋼鉄

紫のクウガ編……荒ぶる龍と駆逐艦ズが、2000の技を持つ男と改めて邂逅するお話でございます。


「くたばりやがれ……未確認ッ!!!」

 

「天龍さん、ダメっ!!!」

 

「ッ!!」

 

 

クウガに向けて振り下ろされた、天龍の刃。

 

天龍の艦娘としての身体能力、刀の切れ味……どれを一つ取っても、クウガにダメージを与えるには充分過ぎる。

 

避けようにも、電が助けるにも間に合わない!

 

 

そう、“この姿”にならない限りは……

 

 

「超変身!!」

 

 

クウガの叫び、意思に呼応し、アークルのアマダムが、真紅から紫苑へと輝きを変えた。

 

 

瞬間―――

 

天龍の振り下ろした刀は、クウガを斬り捨てることなく折れ、その刀身をさらに短く変えてしまった。

 

「なっ………」

「え……」

 

「ゴセパルサ・ガビン・グガダバ……」

 

 

息を切らしながら立ち上がった、クウガの姿は

 

紫の眼に、紫の縁取りを持つ白銀の鎧という、西洋騎士の如き重厚なものへと変わっていた。

 

 

【邪悪なるものあらば 鋼の鎧を身に着け 地割れの如く 邪悪を切り裂く戦士在り】

 

 

 

大地支える巨人の名を持つ、クウガ・タイタンフォームである。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

同時刻。

 

揚陸侵艦たちのアジトは、少しばかり騒々しくなっていた。

 

「オ?ナツカシイカオガキタナァ」

 

フードを被った少女は、鼻息を荒くしながら現れたカバのタトゥの男を見てせせら笑った。

 

「ギラガサ・バビンジョグザ?」

 

サクラのタトゥの女や、斑模様の上着を羽織った男と共に序盤から行動を共にしていた初老の男が尋ねた。

 

「ゴセビジャサゲソ・リジドンゾ!」

 

その申し出らしき言葉に対し、サクラのタトゥの女は苛立たしい様子で声を荒げた。

 

「ブ・ソギ!ログゴラゲビバギ・ベンシパ!!」

 

それに続くように、白いポンチョを羽織った白髪に白い肌の少女が言葉を投げかけた。

 

「カ・エレ!カエ・レ!」

 

「ギギバサジャ・サゲソっ!!」

 

それでも我慢できないらしく、詰め寄るカバのタトゥの男。

 

しかし……それを赤黒いタンクトップと黒いレギンス、スニーカーに赤茶のリストバンド。ドレッドヘアと褐色の肌に、右上腕部に刻んだ《シャコ》のタトゥが特徴的な男が前に出て遮った。

 

 

「止せ……ルールはルールだろぉが」

 

 

「〜〜〜〜〜!!」

 

その流暢な日本語と、落ち着いた雰囲気から、知性、実力共に高いことが窺えるも、カバのタトゥの男としては悔しさのあまり、顔を真っ赤にしながら青筋を立てるしかなかった。

 

 

 

 

場面は戻って、再びクウガらとベギマの戦闘現場。

 

トドメを刺そうとした筈の未確認生命体第4号――クウガが、突然赤から紫と銀の姿へと変わっただけでなく、そのまま斬撃を弾いたことに、天龍は驚きを隠せない。

 

「天龍さん!!」

「ぁ……あ……え?…んで……なんで倒れてねえんだよ……なんで……」

 

弾薬も無い、残された頼みの刀も完全に使い物にならなくなった。おまけに艤装も損傷し、燃料もほとんど無い。

 

文字通り、圧倒的絶望である。

 

「ククク……バゴバ・パ・ギギべ?」

 

天龍の恐怖心に囚われた表情に、快感を得ているのか、ベギマは嬉しそうな声をあげながら主砲の照準を向けてくる。

 

「ひっ………」

「逃げるんだ!!早くっ!!!」

 

クウガが前へと飛び出し、ベギマが砲撃しようと構えたのがほぼ同時であった。

 

 

「ギベっ!!」

 

 

しかし。

 

突然、ベギマの背負った艤装の排気口から凄まじい勢いで蒸気が噴き出した。

 

「………ギボヂヂソギ・ギダレ」

 

砲身を畳むと、踵を返し、海中へと飛び込んだ。

 

「っ!ま…待ちやがれっ!!」

 

自身の状態も忘れて、天龍は追いかけようとした。

 

「行ったらダメだ!そんな大ケガで…!!」

 

それをクウガが止め、行かせまいと押さえる。

 

「うるせぇ!!死ぬまで戦わせ、ろ………え?」

 

 

天龍が振り向くと、そこに居たのは先程までの《第4号》ではなく。

 

ボロボロな天龍を心配そうに見つめる、五代雄介であった。

 

 

 

―――戦果報告。

 

《石ノ森第二次水雷戦隊》

 

《旗艦》

軽巡洋艦 天龍……大破

 

《以下、随伴艦》

駆逐艦 暁……大破

    響……中破

    電……大破

    大潮……大破

 

 

揚陸侵艦第21号改め《戦艦潜水鬼(せんかんせんすいき)》の猛攻を受け、退路を断たれかけるも、途中出現した未確認生命体第4号がこれと交戦。

その最中、天龍は4号を敵と見なし、これを攻撃。

咄嗟に《紫の4号》へと形態変化し、難無く退けるが、混乱に乗じて揚陸侵艦は逃亡。

艦隊の被害状況を鑑みて追跡を断念。やむなく撤退した。

 

 

判定―――《敗北》




ん〜〜〜………難しくなってきましたぞいっ!(;´∀`)


次回、一条や長門たちはどう動く!?

そして、石板に刻まれた新たな碑文の内容とは!?


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111話 : 突撃

朝晩ともに、ますます冷え込んで参りましたが皆さんいかがお過ごしでしょうか?

体は寒くても、心は自分の好きなものへの想いでアツくしていきましょう!!


クウガと天龍たちがベギマに追い詰められていた頃。

 

一条たち突撃班の下に、杉田や那智らガス弾使用部隊が到着した。

 

「すまない、待たせた!」

「いえ」

 

「深海棲艦のものと思われる、艦載機の襲撃を受けてな。幸い、赤城と加賀が護衛に付いてくれたお陰で、被害は最小限に抑えられたよ」

 

杉田の言葉に合わせて、一条たちが視線を移すと、加賀と別にもう一人、艷やかな茶色の長髪に赤い袴という大和撫子の艦娘―――空母艦娘《赤城》が同行していた。

 

 

「出過ぎた真似を致しました」

 

赤城が何かを言おうとするよりも先に、加賀は一条に頭を下げた。

 

「いや、寧ろ礼を言わせてくれ。二人共、よくやってくれた」

 

一条の言葉に、赤城と加賀は嬉しそうにはにかんだ。

 

 

「……しかし。こうも静かだと、未確認たちのアジトに突入した時のことを思い出すぜ。あの時は結局、取り逃がしちまったからなぁ……」

 

 

妙高、那智、足柄が隊員たちと共に装備の最終チェックをしている中、杉田が言葉を洩らす。

 

それに対し

 

「問題ありません。奴らは必ず居る……そして、我々は必ず捕らえることが出来る。今日までに人事を尽くしてきた、それを実行に移す時です」

 

警察犬訓練士の緑間が、眼鏡をくいっと上げながら反論した。

 

「あ…いや。これは失礼……」と杉田が謝罪すると、此処で吹雪が緑間に尋ねた。

 

「あの……ところで、その手に持ってるのは何ですか?」

 

緑間が手にしている、玩具のミニカーを指差す。

 

「ラッキーアイテムです」

 

吹雪の質問に対する答えも、簡素なものだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

荒川区内 01:51 p.m.

 

 

ベギマに大敗し、逃げられてしまった天龍たちの下に、長門が応援に駆けつけた。

 

 

「天龍、みんな!大丈夫か!?」

「長門……」

 

艦隊一同、大破の状態で体も衣服もボロボロ。

長門の呼びかけに対する、天龍の声はすっかり力を失くしていた。

 

「長門さん!」

「五代、君も来ていたのか!」

 

「長門さん、あの人とお友達なんですか?」

「電が聞いた話では、揚陸侵艦が出現した最初の事件からのお知り合いらしいのです」

「そういう電だって、あの人のこと知ってる風じゃない」

「電が知ってるのは五代雄介さんであって、クウガについて知ったのはつい最近なのです!」

 

雄介と長門の会話を眺めながら、暁と大潮は電と話しだす。

 

 

「ほれ、チミっ子ども!鎮守府へ帰投するぞ?」

「あ、長門さん!」

「五代、今度はなんだ?」

 

「ちょっと、別行動していいスか?」

「………うん、分かった。提督に伝えておこうか?」

「いや、向こうに着いたら直接話しますよ」

 

 

サムズアップ。

 

長門のみならず、電や天龍たちにも笑顔を向けた後、損傷具合を確かめるため、一旦抜いていたドルフィンアクセラーを、再び本体右サイドにセット。

スロットルを吹かし、一条たちの居る品川区へと向かっていった。

 

「………」

 

雄介の背中を見送った後、天龍は雄介からもらった名刺を眺める。

 

 

「“夢を追う男”………。はん、アホくせ……」

 

破り捨てようとしたが、瞬間、雄介の別れ際の笑顔とサムズアップが鮮明に甦り。

破くことが出来なかった。

 

「………暁、コレやるよ」

「えっ……でもコレ、天龍が貰ったやつじゃ…」

「いーんだよ。俺は要らねえから」

「………」

 

そのやり取りを、響は静かに見ていたのだった。

 

 

 

一方。

 

揚陸侵艦のアジトは、一条ら警察と艦娘の合同部隊に包囲されていることを知り、騒然としていた。

 

 

「カイリド・リントゾログ・ラパシゾ・バボンデ・デギス!」

 

事態を報告したのは、上半身裸の上から白いファー付きの黒ジャケットを羽織った、色白の肌にスキンヘッド、サングラスなど、スポーツインストラクターのような出で立ちの男だった。

 

「バゼザ!ゾグギデ・パバダ・ダ!?」

 

これには、流石のクマ男も苛立ちを隠せない様子で、声を荒げる。

 

そして、こんな状況にあっても、桜のタトゥの女は冷静……否、冷酷であった。

 

 

「ガバリ……ゴラゲベ?」

「バンザド…!?」

「ゴラゲンビ・ゴギグ・カイリド・リントゾログ・ガゴギボンザ・ボザ」

 

ガバリと呼んだ、カバ男を責めるような言い方に、当のガバリ本人は納得いかない様子。

 

それに対し、黒フードの少女はゲラゲラと笑っていた。

 

「アッハハハ!クセーノカ?クセーンダナ!アッハハハハハハ!!」

「ザラセッ!!」

 

青筋を立てながら怒鳴ると、ガバリはテーブルに置かれていたボードを手に取った。

 

「リント・ロカイリロ・リバボ・ソギビギ・デジャスッ!!」

 

鼻息荒く、ボードを何かしらに使おうとしていることは明白だった。

しかし、それを桜のタトゥの女とは異なる、妖艶な雰囲気の女が止めにかかり、二人はボードの取り合いを始めた。

 

 

そんな中、表ではガス弾投入部隊が指定された各ポイントに配置され、安全装置を解除したガス弾を中へ投げ込んだ。

 

「!!」

 

一同がその存在に気付いたとき、もう手遅れだった。

ガス弾が爆発し、室内を濃縮されたガスで満たしていく。

 

「ウッ!?ウオオオ…!!」

「バンザ・ボセパ!?」

「ウッゲ…ァッガ……!」

 

揚陸侵艦のみならず、謎の少女や女たちにも有効らしく、同様に苦しみだす。

 

「……ジャザシ・ビダバ」




かなりの難敵だったため、またも分割致します。

お楽しみの皆様、誠に申し訳ありません!m(_ _)m


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112話 : 思案

ハーメルンデビューして、まもなく1周年を迎えようとしている夏夜月でありますが、こんなにも大勢の読者から支持されて、こんな幸せ者になっていいのでしょうか?(ヽ´ω`)


品川区内にて発見された、揚陸侵艦のアジト。

そこへ、一条率いる石ノ森艦隊と警視庁鎮守府の合同部隊が特殊ガス弾を投入し、突撃作戦を開始した。

 

「バギヅ・べダレ…リント。ゴギデ・カイリ」

 

 

その様子を、クウガたちとの戦闘から引き上げてきたベギマ・人間態も目撃。

 

 

「………フン」

 

 

包囲、さらに突撃されるとなれば長居は禁物。

 

仲間たちの“匂い”を辿って、足早にその場を去った。

 

 

「……そろそろガスが切れる頃だな。みんな、行くぞ!」

 

杉田の号令に合わせ、一条たちは工場内へと突入する。

 

 

「ふぅ……新たな戦場が、勝利が私を呼んでるわ……!」

 

警察官用に開発された、零式軽量単装砲を手にした一条の隣に並び、足柄は(はや)る気持ちを抑えつつも、まもなく展開されるであろう戦闘に心を躍らせた。

 

 

そして

 

一条たちが銃を向けながら前に出ると―――

 

 

そこは、既に藻抜(もぬ)けの殻となっていた。

 

 

「…………!?」

 

室内ということから、弓の代わりにハンドガンを手に警戒する加賀。

 

 

「……イヤな趣味じゃのう…」

 

 

利根がそう洩らした通り、そこは何本ものナイフを突き立てたマネキンを机に転がしていたり、鎖で首吊りにしたマネキンを飾ったりと、かつての未確認生命体のアジトのように毒々しい飾り付けがされていた。

 

「………」

 

身を潜めている者がいるかもしれない……そう思い、一条は慎重に周囲を見回した。

 

 

すると、片隅に一枚のボードと筆記具らしき物を発見。

さらに、黒い液体の入った湯呑のような容器と徳利のような物も見つけた。

 

「これは………」

 

現職の提督ということもあり、その液体が何なのかを直感した一条であったが

 

 

「一条さん!」

「提督!!」

 

桜井と那智から呼びかけられたので、考えるのは一先ず後回しにする事にした。

 

 

「どうしました!?」

「裏口が開けられていた。恐らく、奴らは此処から逃げたものと……」

 

すると、今度は緑間から杉田へ無線が入った。

 

「こちら杉田!何があった!?」

 

『ハヤテ号が揚陸侵艦の匂いを嗅ぎつけたらしく、急に飛び出しました!今、後を追っています!』

 

「大丈夫か……!?」

 

 

この時、杉田も一条たちも不安を抱かずにいられなかった。

 

ハヤテ号の先輩に当たる警察犬・ミカド号も逃亡した未確認生命体を追跡したが、その直後に殉職した。

 

 

何か嫌な予感がする……

 

「加賀!」

「了解」

 

一条の指名を受け、加賀は偵察機を発艦。

 

ハヤテ号の追尾、及び索敵を開始した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一方。

 

周りから遅れたカバ男―――ガバリは独り、林の中をのしのしと歩いていた。

 

「フー……フー……!」

 

ガバリは、この上なく不愉快だった。

 

《リジドン》の順番は回ってこないばかりでなく、“メ”の者たちに権利を奪われ。

 

挙げ句、リントやカイリにアジトを嗅ぎつけられ、自分は囮にされたという状況に苛立っていた。

 

 

そこに、一匹の犬……警察犬ハヤテ号が追いつき、吠え立てた。

 

「ワウッ!!ワウッ!!」

「………!!」

 

コイツか……

コイツのせいで、俺は……!

 

「フゥー……フゥー!!」

 

ガバリは息を荒くしながらハヤテ号に詰め寄った。

 

 

そして

 

 

「ギャン!?キャゥ、ワォーッ!!」

 

「!!?ハヤテ号ッ!!!」

 

 

林の中に入った緑間が最期に聞いたのは、ハヤテ号の悲鳴だった………。

 

 

 

 

少し遅れて、雄介の駆るドルフィンチェイサーが現地に到着した。

 

そこに一条たち警官と足柄たち艦娘、緑間が居り。

 

地面には、血だらけの鎖だけが残されていた。

 

 

「…………。勝てぬ相手と知りながら、それでも尚立ち向かおうとする……お前の悪い癖は、結局最期まで改善されなかったな……。だからお前は、バカと言われ続けたのだよ……ハヤテ号………ッ…」

 

鎖を拾い上げ、緑間は怒りと悲しみに震えながら、静かに涙を流し続けた。

 

 

「…………」

 

その様子を見て、雄介は、また守れなかったと悲しみに顔を伏せるのだった。

 

 

 

石ノ森鎮守府 02:09 p.m.

 

 

「ふぅ……」

 

入渠の際、天龍は高速修復剤を使って戦線に戻ろうとしていたのだが、「いたずらにバケツを浪費するな!」と長門から注意され、仕方なく時間いっぱいまで浴槽に浸かることになった。

 

 

「天龍さん……五代さんと会ってから、ずっと怒った顔のままなのです…」

「ん……まあな」

 

「気になるのかい?彼が」

 

電と響に話しかけられ、天龍はますます眉間にシワを寄せた。

 

 

「そりゃあ、ちょっとはな……。あのへろへろ野郎が4号だなんて、信じられねえからよ」

 

「だったら、お話されてみてはどうですか?五代さんがどんな人かを知る、良い機会だと思うのです!」

 

「話すって……なにを?」

「色んなことを、なのです」

 

 

サムズアップ。

 

電の笑顔を見て、天龍はとりあえず話ぐらいはしてもいいかと思うことにした。




はい、かなり中途半端になってしまいました(;´Д`)

次回も、ゆっくり楽しみにしていて下さい!!


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113話 : 対策

明けましておめでとうございます!
『着任先の新提督が色々とマトモじゃない。』連載1周年を経て、心機一転!連載とリアルと提督業、いずれも頑張って参ります!!


揚陸侵艦一味を一網打尽にするべく、行われた包囲作戦が失敗し、さらに追跡の要となる筈だった警察犬ハヤテ号の殉職に加え、《戦艦潜水鬼》ことメ・ベギマ・ギも取り逃がすなど、石ノ森鎮守府所属の一条艦隊と警視庁揚陸侵艦対策班の合同作戦は失敗に終わってしまった。

 

 

「申し訳ありません!過去の反省が至らず、また被害を出してしまいました……!」

 

山県に報告し、一条は深々と頭を下げながら謝罪した。

 

それに対し、山県は小さく首を横に振ると

 

「いやいや……お前独りが責任を感じることではない。今回の作戦は、揚陸侵艦との戦いなどが勢い付いてきたことによる、我々上層部側の慢心に原因がある。お前たち現場の者に非は無い」

 

「…はい……」

 

 

 

退室し、鎮守府へ戻ろうと廊下を歩いていた途中。

一条は資料を整理していた吹雪と合流した。

 

 

「司令官!天龍さんたちの入渠が完了したと、妖精さんたちから連絡が」

「そうか。基地に戻ったら、改めて報告を聞くと伝えてくれ」

「了解!」

 

「……すまない。本当なら、俺も提督として、彼女らと共に前線に向かわねばならない筈なんだが」

「そんな風に気にかけて下さるのは、一条司令官や火野中佐たち少数派の方々だけですよ」

 

 

そう言って微笑む吹雪に、一条も穏やかに笑顔を返すのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

石ノ森鎮守府 第1ドック 02:15 p.m.

 

 

無事に治療が終わった電と響は、先に入渠を済ませていた暁と大潮の二人と共に、改めて戦艦潜水鬼ことベギマの対策を話し合うことにした。

 

 

「あれが揚陸侵艦……直接戦うのは今回が初だけど、あんなに厄介だなんて聞いてないわ!」

 

開口一番、暁が愚痴りだしたのに対し

 

「でも、司令官は前から言っていた筈だよ?奴らが深海棲艦とはまったくの別物だということは」と響。

 

「陸戦に対応出来て、戦艦クラスの火力と駆逐イ級に似た、生きた装備も扱う……。あんな怪物、4号さんが来てくれなきゃ、私たち絶体絶命どころか、最悪轟沈しちゃってたよね……」

 

大潮の怯えた様子に、電も頷いた。

 

「五代さん……4号さんを追い詰めた程の強敵ですから、一刻も早く弱点を見つけて、被害の拡大を止めなきゃなのです!」

 

その言葉に、暁たちも同意見であった。

 

「そうだね。今、科警研とやらで夕張さんと明石さんが色々と調べてくれているらしい。私たちがすべきは、司令官たちと共に次の襲撃に備えることだ」

 

 

 

一方、同じ頃。

 

天龍は独り、リベンジを果たすべく出撃の準備をしていた。

 

 

「どこへ行くんだ?死に急ぎ娘」

「!」

 

天龍が振り向くと、そこには長門が。

 

 

「……決まってんだろ。あの揚陸侵艦を今度こそブチのめすんだ」

「それを死に急ぎと言うんだ、阿呆め」

「んだと、コラ!?」

 

鼻で笑う長門に、天龍は声を荒げた。

 

 

「どうせ戦いに行くんなら、その前に話でもしてみたらどうなんだ?―――会ったんだろう、彼と」

 

「…………電が言ってた、五代って野郎のことか?」

 

入渠中、生返事で流していた名前を思い出し、天龍は確認をとる。

 

「なんだ、勧められていたのか?にも関わらず戦闘を選ぶとは……お前も、とんだ戦闘狂だな?」

「うるせえ」

 

帰り際に渡されていた名刺を取り出し、天龍は雄介の顔を思い返す。

 

会ったところで何の意味がある?

 

自分の意思は変わらない。

邪魔をするなら、たとえ4号の正体が人間だろうと力ずくで黙らせるだけだ―――。

 

 

「…………チッ」

 

さっさと言い負かして、リベンジに行こう―――

そう思いながら、天龍は鎮守府を後にするのだった。

 

 

 

品川区内 02:21 p.m.

 

 

「そうか……。すまなかったな、せっかく加勢してくれたのに」

 

揚陸侵艦のアジトに残された品の回収が終わり、後の作業を杉田たちに頼んだ那智は、雄介からベギマ戦の概要を聞き、天龍の行為について謝罪した。

 

「いやいや!彼女はイナちゃんたちを守ろうとしただけですし、俺は気にしてませんよ」

 

 

そう言いながら笑顔で返す雄介に、那智は納得した。

 

 

なるほど、一条提督が信頼する訳だ。

同時に、雪風がここ最近、師匠が師匠がとはしゃいでいたが、おそらく目の前にいる彼のことなのだろうな……とも、理解した。

 

しかし……今はそれどころではない。

気持ちを切り替え、改めて問い質した。

 

「して……どうだった?例の…戦艦潜水鬼は」

 

那智の問いに対し、雄介はコバンザメ型の兵装に咬み付かれた肩を押さえながら、ベギマの手強さを思い返した。

 

 

「―――強かったです。今までの連中と、比べ物にならないくらい」

「そうか………」

 

「うーん……青い艤装のクウガじゃ、火力が足らないだろうし……緑のクウガは50秒しか保たないし……。赤いクウガじゃ、ヤツの体が柔らか過ぎてパンチやキックを無効化されちゃうし………」

 

 

その時。

 

雄介はかつての戦いと、カイリの碑文にあった《紫の力》についての記述を思い出した。

 

「そうだ―――“剣”!!」

「剣?」

 

「はい!今、解読をしてもらってる石板の碑文の中に、剣と艤装を持った戦士について書かれた記述があるっぽいんです!それが何なのかさえ分かれば……」

 

「!……すまない、通信が……もしもし?」

 

その時、那智のスマホに長門から連絡が入る。

 

「了解した。では、そのまま落ち合うよう伝えておこう……うむ、承知した」

 

「どうしました?」

「天龍……えっと、貴殿を斬り捨てようとした軽巡洋艦のことだが…彼女が、貴殿と改めて話をしたいとの事だ」

 

「分かりました。それで、待ち合わせ場所は?」

「警視庁にある、鍛錬場で落ち合おうとの事らしい」

「分かりました」

 

 

時は少し(さかのぼ)り、ポレポレ。

保育園に居る鹿島からの電話を、玉三郎は受けていた。

 

「どした、鹿島っち?――え、雄介?なんか、警視庁に行くとか言ってたけど……また免許の書き換えとかかねえ?」

『そうですか……ありがとうございます』

 

「あ……そんだけ?――そう、うん……分かった」

 

 

 

「取り込み中……か。俺も、洗濯物取り込まないと……」

 

電話を切ると、入店した客に気付かぬまま、洗濯物を取り込みに向かうのであった。




次回、刃の心を持つ艦娘と盾の心を持つ艦娘が、青空の心を持つ戦士と改めて心を交わします。

果たして、彼らはどのような答えを見つけるのか?

今年もよろしくお願いします!m(_ _)m


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114話 : 合流

リアルが忙しくry

言い訳をせずに、ボチボチ更新して参りまーす(^_^;)


警視庁 鍛錬場 02:46 p.m.

 

 

剣道着の出で立ちをした五代雄介と艦娘・天龍は、相対していた。

 

「………おい」

「ん?」

「構えろよ。やる気あんのか?テメェ」

 

竹刀を握りしめ、鋒をしっかりと向けている天龍に対し、雄介は仁王立ち。攻めにかかろうにも、天龍の方が圧倒的に有利である。

 

「良いんです。そのまま、構わずにどんどん打ち込んできて下さい!」

「は…はぁあっ!?構わずに来いって……なんだよそれ!マゾかよテメェ!?」

「いや、マゾかはちょっと分かんないですけど……お願いします!」

 

 

防御の構えを取ることなく、防御を鎧に任せて敵の懐へ攻め入り、最大の一撃を打ち込む―――《紫のクウガ》の戦い方をさらに極めようとする雄介の姿勢は、クウガについて未だ無知な天龍には解らない。

 

「……分かったよ。その代わり、後で泣き言言っても遅えからな!」

「大丈夫!俺、クウガだから!」

 

右手は竹刀を握っているので、左手でサムズアップ。

 

面の奥の雄介の顔は、相変わらずの強い意思を秘めた笑顔であった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

城南大学 沢渡桜子考古学研究所 02:48 p.m.

 

 

「………ふぅ…」

 

石板に記された、《紫のクウガ》と関係のありそうな古代文字の解読を進める桜子と日向、瑞鳳の3人と探理ちゃんや単ちゃんら妖精さん組。

 

しかし……これまでと一風変わった文字が多分に刻まれており、これまでに調べてきた文字と照らし合わせながらの調査だけでは限界があった。

 

 

故に、初心に帰って、一から調べ直すことにした。

 

「桜子さん……コーヒー、もう6杯目だよ?」

「ん?うん、そうだね」

 

瑞鳳に指摘され、あっさりと返す桜子に対し、流石の日向も軽く苦笑いを浮かべる。

 

「まったく……提督もそうだが、君も五代(かれ)とよく似ているな?」

「あはは……」

 

日向にまで言われると、やっぱりそうなのかなと思い、桜子も笑みがこぼれる。

 

 

そこへ、お使いから帰ってきた雪風が、桜子にとって懐かしい友人を連れてきた。

 

「桜子さん!お客さまを連れてきましたあ!」

「Hi!桜子さん、久しぶリ」

「ジャン!久しぶり〜!」

 

桜子や雄介の友人であり、桜子と同じく考古学者のジャン・ミッシェル・榎田。

彼もまた、クウガについて共に調査し、協力してくれた仲間の一人である。

 

「五代さんやヒカリさんから、話は聞きましタ。軍艦や戦闘機の武器はサッパリだけど……僕も、僕にしか出来ないことがあるならと思っテ、一条さんにお願いしましタ」

「ししょーのお友達ならって、しれぇも大本営に紹介状を送ってくれたんですっ!」

 

事情を説明するジャンに続いて、雪風が嬉しそうに話す。

 

「そっか。良かったね、雪風ちゃん」

 

すっかり元気と笑顔を取り戻した、雪風のその無邪気な姿は、まさに小さな雄介の様だと桜子やジャンは感じた。

 

 

 

 

場面は戻って、警視庁鎮守府。

 

雄介が居るという話を聞き、鹿島はサンドイッチを作って持ってきた。

鍛錬場に到着すると、ちょうど羽黒と鉢合わせた。

 

「あっ、鹿島さん!」

「お疲れ様です、羽黒さん。五代さんが鍛錬場に居ると伺ったんですけど、いらっしゃいますか?」

「その方でしたら、今天龍ちゃんと手合わせをしていますね」

 

「そうですか……ありがとうございます」

 

一礼して、鹿島は中へと向かうのだった。




ま〜た中途半端になってもうた……(;´Д`)
どぉ〜しよっオゥ!

どおぉ〜しよぉッアゥ!!


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115話 : 理由

シナリオが……頭の中で構築されては、あーでもないこーでもないと崩れていく……おのれディケイド(八つ当たり)


雄介が天龍と稽古を始めた頃。警視庁鎮守府から石ノ森鎮守府へ帰還した一条は、先程夕張に頼んでいた、犯行現場に落ちていた謎の破片について分かったことが無いか、工廠へ立ち寄っていた。

 

「あ、提督!そろそろいらっしゃるだろうなと思ってました!」

「破片について、何か判明したのか?」

 

一条の問いに、夕張は頷く。

 

「パッと見た感じでは、ただの弾薬か戦艦潜水鬼の艤装の欠片かと思ったんですが……調べた結果、確かに戦艦潜水鬼の艤装の破片でした。恐らく、砲撃ではない方法で殺人を行った際に落ちたものと思われますが………」

「他に何かあるのか?」

 

「これは……戦艦潜水鬼が装備している艤装は、とんでもなく危険な代物であることが判明したんです」

「どう危険なんだ?」

 

「簡単に言いますと、潜水艦に戦艦の装備を無理矢理取り付けて運用している為、極めて不安定な状態にあるんです」

 

「…なんだって………!?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

警視庁鎮守府 鍛錬場 03:17 p.m.

 

 

()ェ――ンッ!!」

 

防御の構えを取ることなく、一歩一歩踏みしめて迫る雄介に対し、天龍はこれでもかと竹刀を打ち込んでいく。

 

(…んだよ、コイツ……なんで倒れねえんだよ!?)

 

 

見た目こそ華奢ではあるが、天龍は剣術において有段者相手でも互角に渡り合えるだけの力量とセンスを持っている。

故に、少しばかり調子に乗る事もあるにはあるが、今回はそういった油断をせずに、最初から全力で攻め込んでいる。

 

しかし……雄介は、何度面を打ち込まれても歩みを止めない。引き下がることも、避ける素振りすら見せないのだ。

 

(っ?まさか……この俺が、またビビってんのか?こんなヤツに!?)

 

雄介の進撃を止められぬまま、天龍は壁際に追い詰められてしまった。

 

 

瞬間

 

「ふん!!」

 

雄介は天龍の竹刀を打ち払い。

 

「めえぇぇぇんッ!!!」

 

 

鋭い一撃を叩き込んだ。

 

 

 

「……あ!雄介さん、天龍さん!?」

 

直後、鹿島が鍛錬場に到着。

 

彼女が目にしたのは、雄介が壁際に追い詰められた天龍に面を打ち込み、それによって天龍が態勢を崩し、倒れようとしている瞬間だった。

 

「天龍さん!!」

「ッ!!」

 

鹿島の叫びに反応した雄介は、咄嗟に竹刀を振るいながら踏み込み、天龍の背中を打つようにして引き寄せ、左手を添えるようにして抱き寄せて、転倒を防ぐことに成功した。

 

 

「天龍ちゃん?天龍ちゃん、大丈夫!?」

 

受け止めた雄介の呼びかけに、天龍は応えず。

無言のまま離れた。

 

「天龍さん……」

 

その様子に、鹿島はハラハラしてしまう。

 

……が、しかし。

 

「………また、余計なマネしやがって…」

 

面を取った天龍の顔は、耳まで真っ赤になっていた。

 

「良かったぁ……怪我は無い?」

 

それを見て、雄介は安堵の笑みを浮かべる。

 

 

瞬間

 

「―――!」

 

雄介の中で、新たな戦い方の『答え』が見つかった。

 

 

「雄介さん?」

「今度はどうしたってんだよ……?」

 

「天龍ちゃん!鹿島!俺、分かったよ!」

 

「???」

 

あまりに突然な発言の為、二人は首を傾げるしかなかった。

 

 

同じ頃。

 

暁・響・雷・電の4人から成る第六駆逐隊は、一条からの指示を受けて、戦艦潜水鬼が次に現れると予想される海域の見廻りを行っていた。

 

「司令官ったら、執務室に居ないで何をしてるのかしら?」

「暁。司令官は私たちの提督だけど、警察官でもあるのよ?海域を私たちに任せるってことは、それだけ私たちを必要としてくれてるってことじゃない!」

 

若干不満げな暁に対し、頼られることに喜びを感じる雷は嬉々としていた。

 

「電、五代さんと天龍さんは和解出来ただろうか?」

「響ちゃん」

 

一方で、響と電は雄介と天龍の事を案じていた。

 

「不安が全く無い訳ではないですけど……でも、五代さんならきっと大丈夫なのです!」

 

 

この時、電たちは誰一人、海面下から迫る影に気付かなかった………。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

剣道対決による戦術の模索が一段落した雄介と天龍は、鹿島が持ってきた手作りサンドイッチを3人で分けて食べていた。

 

「いやあ、ゴメンね?わざわざ差し入れ持ってきて貰っちゃって」

「いえ……私がしたかっただけなので」

「まさか、鹿島がコイツと知り合いだったとはな……」

 

 

見晴らしの良い、公園のベンチに腰掛けてモグモグと頬張る中、鹿島はどこか寂しそうな、怯えているような顔をしていた。

 

「……どうした?」

 

雄介が尋ねると、鹿島は立ち上がり、雄介たちから数歩離れ、内に秘めていた不安を口にした。

 

「雄介さん……私は怖い。なんとなくですけど…怖いんです。雄介さんが……雄介さんでなくなってしまうような気がして……!」

「………」

 

鹿島が抱いている不安や恐怖……それはかつて、みのりが雄介に打ち明けた悩みと同じものだった。

 

 

(どうなんだよ?4号さんよ……)

 

 

この時、天龍は雄介は『怖くない』と答えると思っていた。

あれほどに力の差を見せつけてくれたのだ、怖いものなどある筈が……

 

 

「俺だって怖いよ?」

「!?」

 

しかし、天龍の予想に反し、雄介の答えは『普通の人間』と変わらないものだった。

 

 

「怖いのに……戦うのかよ?」

 

意外過ぎる言葉に、思わず天龍も問いかけた。

 

すると、今度は雄介が質問してきた。

 

 

「天龍はどうして戦ってるんだよ?」

「!(今……天龍さんを呼び捨てにした?)」

 

「それは、艦娘は深海棲艦と戦うのが……」

「それは艦娘が戦う理由だろ?俺が聞きたいのは、《天龍が戦う理由》だよ」

 

「……俺?」

「……!」

 

キョトンとする天龍に、雄介はにっこりと微笑んだ。

 

「誰かの笑顔のためだろ?」




やっとここまで進められたぁ……(;´∀`)


やっと《紫のクウガ編》クライマックスに向けて進みます!!


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116話 : 不退(ふたい)

またもスランプ気味に……

でもワタシ、負けないっ!!

負けないんだからッ!!( ゚д゚; )クワッ!!


「…笑顔……?」

 

 

雄介から戦う理由を問いかけられ、天龍は耳を疑った。

 

自分は目の前のこの男……五代雄介みたいに、そんな暢気な理由で戦っているつもりは無い。

 

俺は、俺自身の為に戦っている。

誰かの笑顔の為とか、周りの連中がどうかなんて………

 

 

―――そこまで考えたとき。

 

天龍の脳裏に、電たち駆逐艦や石ノ森鎮守府の仲間たちの姿が浮かんだ。

 

 

「………!」

 

その時見えた、仲間たちの顔は皆、笑顔だった。

 

(笑顔……か……)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

石ノ森に着任するまで……天龍は、はっきり言って孤独だった。

 

主な原因は、やはりその負けん気の強さと我の強さにあった。

 

勝手な単騎行動や、提督の命令に背くなどの違反行為は日常茶飯事、酷いときには艦娘とも衝突が絶えなかった。

 

『港湾の野良猫』―――あまりの身勝手ぶりから、いつしかそう呼ばれるようになっていた。

 

そして……一条が石ノ森に着任して間もなく、天龍は前に居た鎮守府から異動させられた。

早い話が、厄介払いである。

 

当時、人間……ひいては提督に対し、敵意や憎悪を抱く者が大勢居た石ノ森であったが、一条が着任し、さらにそこへ五代雄介という全く関係無さそうな民間人が出入りするようになってから、その様相は過去の悪評と共に瞬く間に払拭されていった。

 

それは、天龍にとって予想外な展開であり、起こるわけが無いと思っていた“奇跡”であった。

 

 

()して、かつて世間を恐怖に陥れた《未確認生命体事件》を解決に導いた真の英雄、【未確認生命体第4号】の正体が目の前の男だというのは今だに信じられない事だった。

 

 

「………」

 

しかし……

 

何故か、天龍は雄介の言葉に反論出来なかった。

 

鍛錬場で話した時と同様、のほほんとした雰囲気の中に、揺るぎ無い意志の強さを感じたのだ。

 

(天龍さん……貴女も感じたんですね?雄介さんの意志の強さを……)

 

そして、それは鹿島も同様に感じていた。

 

 

この人は誰よりも優しい。

けれど……優しいからこそ、自分がやらねばと決めたことから逃げ出したくないのだ。

 

 

「お前はお前の場所で。俺は俺の場所でやってるってだけだよ」

 

 

笑顔、そしてサムズアップ。

 

「雄介さん……」

「………」

 

 

「――はい!」

「えっ!?」

 

この時、まだ納得していない天龍を余所に、鹿島は雄介の言葉に納得していた。

 

 

そうだ。

 

自分が保育士のボランティアをしようと思ったのも、全ては誰かを笑顔にしたかったからだ。

 

雄介は、その方法が「クウガになって、みんなの笑顔を守ること」だったというだけの違いなのだ………。

 

 

そう納得したからこそ、鹿島も笑顔でサムズアップを返した。

 

 

「鹿島……お前……」

「天龍さん。大丈夫!天龍さんも、雄介さんや提督さんと、絶対上手くやっていけますから!」

「〜〜〜〜〜〜……!」

 

 

これまでの経緯と相まって、天龍は純真無垢な眼差しが苦手だった。

しかも、今回の作戦で仕留めてやると意気込んでいた相手に守られ、しかも「女」としての顔を見られたことで弱味を握られてしまったように感じてしまい、強気な態度を取れなくなってしまった。

 

 

と、その時。ドルフィンチェイサーの無線に通信が入った。

 

「っ!――俺です!」

『五代雄介!戦艦潜水鬼が有明に現れた!』

「有明だって!?」

 

一条からの通信を聞いて、天龍は驚愕した。

有明―――すなわち有明海は、今まさに第六駆逐隊の4人が巡回している海域だからだ。

 

「おい、提督!アイツらは……電たちは無事なんだろうなッ!?」

「天龍さん……」

『その声……天龍か?』

 

「どうなんだ!!」

 

その必死な様子から、雄介は天龍が心根の優しい艦娘なのだと、改めて安心した。

 

 

一方の一条も、天龍が僅かながらでも心を開いてくれたのだと理解した。

 

「現在、付近を巡回していた警官隊が援護しているそうだ!俺もなるべく急いで、現地に合流する!」

 

 

「はい!!」

『最後にもう一つ!夕張と科警研の調査で、奴の弱点が判明した!21号と同様、腹を狙え!!』

「分かりました!!」

 

通信を終えると、雄介はドルフィンチェイサーに跨り、ヘルメットを被ろうとした。

 

「あ、雄介さん!待って?」

「ん?」

 

鹿島に呼び止められ、たくさんの手作りのお守りを渡された。

 

「園のみんなで作ったんです。いつ冒険から帰ってくるか分からない、雄介お兄ちゃんにって」

「う〜わ!ハハ、こりゃまたたっくさん作ったなあ?」

 

 

「……いくら怖くたって、これじゃあ引き下がれねえわな?」

「!」

 

鹿島からお守りを受け取った雄介に、天龍がボソッと一言つぶやく。

 

「……うん」

「………で?あのバケモンに勝つ手はあるのかよ?」

 

天龍の問いに対し、雄介はこう答えた。

 

「避けずに攻め続けられるように……、繋ぎ止めようと思う」

 

「繋ぎ止め………って、正気かよアンタ!?」

「しかも、避けずに攻め続ける……なんて、無茶です!!」

 

これには、天龍のみならず鹿島も驚きを隠せない。

 

「……紙一重の戦いだぜ?」

「……うん!」

 

 

かつて、【紫の力】を極めるための特訓をした際も、一条から似たような言葉を掛けられたなぁと、雄介はほんのり懐かしんだ。

 

すると

 

「……俺も連れてけ」

 

なんと、天龍が雄介の後ろに飛び乗った。

 

「天龍さん!?」

「今回の作戦は俺が巻き込んだみてぇなもんだ。旗艦らしく、責任取らせろよな?」

 

「……分かった。その代わり、危ないと思ったらすぐにイナちゃんたちと逃げるんだよ?」

「わーったよ……」

 

保育園の園児たちからのお守りを懐に収め、天龍を連れて。

鹿島に見送られながら、雄介は電たちが待つ有明海へと出発した。




予定の破壊ばかりを繰り返して申し訳ありません……(;´Д`)

なんとか……なんとか調整出来るようになりたいっ!!


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117話 : 霊樹

先日、28度目の誕生日を迎えました夏夜月です(ど〜でもいい報告w)


お待ちかねの《紫のクウガ》編、いよいよクライマックス!


有明海 戦闘海域付近 03 : 31 p.m.

 

 

「退避!退避ーっ!!」

 

《戦艦潜水鬼》ことメ・ベギマ・ギの捜索を行っていた、暁たち第六駆逐隊の援護をするべく、警視庁鎮守府の警官隊や大本営からの増援部隊が駆けつけたのだが

 

「フン」

 

案の定というべきか、ベギマの放つ生きた砲弾《駆逐獣弾》を始めとした高火力の前では、彼女の為に的を増やしているようなものでしか無かった。

 

「ジダダダゲズビ・ギギボ・ゼギブグギギレ」

 

母が幼子に対し、優しく叱るかのような声音で呼びかけながら、ベギマは無慈悲な砲撃を繰り返す。

 

 

「ひゃあんっ!!」

 

幸い、大きな損傷や死者は出ていないが、ベギマの放つ駆逐獣弾の対応に追われ、暁たちは逃げられない状態となってしまった。

 

「暁、電!大丈夫!?」

「だ…だ、大丈夫よっ!?いい、雷たちこそ大丈夫!?」

 

懸命に躱し、迎撃を続けてはいるが、弾薬もいつまでもは保たない。いずれ先刻のように弾切れを起こしてしまう。

そうなれば今度こそお終いだ。

 

「っ!……ちょっと待った。あれは……?」

「?」

 

響が指差す方―――海上から聞こえてくるエンジン音に、暁たちは視線を向けた。

 

「!」

 

同じく、ベギマも視線を移す。

 

「!!……五代さん、天龍さん!」

 

 

ドルフィンチェイサー2018・水上機モードを走らせ、雄介と天龍が駆けつけた。

 

 

「天龍様の攻撃だ、ィヨッシャア!!」

 

修理し終えた愛用の刀を携え、ドルフィンチェイサーから海面へと跳び移るとそのまま突撃した。

 

「フフ……バパギガ・シバガサ・ボソギデガゲス」

 

お気に入りの獲物が来たことを喜ぶかのように笑い、ベギマは砲口を天龍へと向けた。

 

 

しかし

 

 

「変身!!」

 

そうはさせまいと、雄介がアークルを呼び覚まし、変身の動作を取る。

 

「チッ!」

 

不愉快そうに、ベギマは雄介に向けて実弾を放った。

 

 

「なっ!?」

「五代さんッ!!」

 

砲弾は命中したが、雄介を仕留めることは出来なかった。

 

 

何故なら

 

 

「っ!」

「あれは………」

 

被弾するより一瞬早く、クウガに変身していたからだ。

 

しかも、その姿は紫のクウガ・タイタンフォームをベースに、重厚な船体を象った艤装を纏っており、左腕には《戦士クウガ》を表すリント文字を刻んだ、錨付きの盾を装備。

 

海上の戦士の盾となり、また矛となる重巡洋艦の戦力と大地の力を備えた戦士の頑強さが融合した、紫のクウガの新たな姿。

 

クウガ・ユグドラシルフォームの完成である。

 

「か……変わった……!?」

「てゆーか……あれ、艤装…!?」

 

クウガの姿に驚く暁と雷だが、クウガは気にすることなく海面に降り立ち。

ドルフィンアクセラーを抜いてモーフィングパワーを発動、《大地支える巨人の剣》タイタンソードを生成。

 

ゆっくり下ろすと、クウガの意思に呼応するように刃先が伸長した。

 

 

「行くぞ!!」

「応ッ!!周りの雑魚は任せとけってんだ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

豊島区内 わかば保育園 03 : 34 p.m.

 

 

雄介らと別れた後、鹿島は再び保育園へと戻り、園児たちと共に過ごした。

 

(そうだ……私がこの仕事をしたいと思ったのは……)

(私がもらった幸せを、一人でも多くの人に分けて、一緒に笑顔になりたいと思ったからだ)

 

鹿島の前提督、()(しろ)()(なえ)少将も退役後、鎮守府を去る間際「幸せというのは、受け取ったものは返すべきものなの。そうして、また誰かを笑顔にするのよ」と言っていた。

 

今なら分かる……

 

私がもらった幸せは……笑顔は、この子どもたちに届けるものなのだ。

 

 

園児たちの笑顔を見つめながら、鹿島は愛しげに微笑むのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「オイオイ?深海棲艦の雑魚共、ビビってんのか?オラオラぁ!!」

 

一切防御の態勢を取らずに進撃してくるクウガを、格好の標的だと見た駆逐イ級などの敵駆逐艦が襲い来るが、それを邪魔させまいとして天龍が次々と斬り倒し、砲撃し、道を切り拓いていく。

 

「ハラショー……こいつは力を感じる」

「というか……天龍さん、ちょっとノリノリ過ぎじゃない?」

 

一応、暁らも援護していたのだが、天龍の勢いが凄まじいため戦闘に加わりづらい状態になっていた。

 

 

一方、ベギマはその勢いとクウガの威圧感に徐々に圧され始めていた。

 

 

「クッ……!ギベ…ギベ!ギベっ!!」

 

 

次々と砲弾を撃つが、クウガ・ユグドラシルフォームの生体鎧や艤装は桁外れな頑強さを誇っており。

それまで有効だった、駆逐獣弾さえも今や下手な豆鉄砲と成り下がっていた。

 

「バ…バゼ……!?」

 

高火力をものともせず、ジリジリと迫りくるクウガ。

 

 

至近距離からの砲撃すら、左腕の盾・ユグドラシルアンカーの前では無意味に等しかった。

 

 

「ク……クッ!!」

 

勝ち目無しと判断し、ベギマは海中へ潜った。

 

 

「フンッ!!」

 

 

しかし、ユグドラシルアンカーから放たれた錨は力強く、水の抵抗にも負けずベギマを捕らえ、海中から一気に引き揚げた。

 

 

「グッ……ウアア!?」

 

そして

 

 

「ヌウウゥアァっ!!オリャアアアアアっ!!!」

 

 

ドズッ!!!

 

 

ユグドラシルアンカーで引き寄せられたのと同時に、タイタンソードがベギマの腹を艤装ごと刺し貫き。

ユグドラシルカラミティタイタンが炸裂した。

 

「ウグゥ!?ウガ…アガァァアッ!!」

「フゥ…!ぬうぅぅぅん……っ!!」

 

 

『嫌な感触』が、いつも以上に伝わってくる。

しかし……これも全て、みんなの笑顔を守るため……

 

封印エネルギーを流し込まれ、苦悶するベギマの最期を見届けるクウガ。

 

やがて

 

「ウグアァァ…ァ―――」

 

エネルギーが全身に伝わり、力尽きたと同時にベギマは爆発四散。

 

「きゃっ!!」

「くっ……!」

 

爆風などの衝撃はそこそこ強かったが、深刻な被害は出ずに済んだ。

 

「…………」

「…………」

 

倒すべき敵を撃破した後にも関わらず、黙り込んだままのクウガを、天龍たちも一時ばかり声をかけられずに居た。

 

 

 

―――〈戦果報告〉

 

 

《石ノ森第一水雷戦隊》

 

旗艦 天龍…小破

 

随伴艦 暁…小破

    響…損傷、軽微

    雷…中破

    電…損傷、軽微

 

 

《戦艦潜水鬼》の行方を暁型艦娘4名が捜査中、戦艦潜水鬼が有明海より出現。途中、天龍と《重巡4号》に変化した未確認生命体4号が合流し、これを撃破。

 

判定―――《勝利》




長かった………

ようやく、ようやく「クウガ編」序盤《超変身》シリーズを一段落させられたァーっ!!


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登場人物紹介⑨

やっと終わりました《紫のクウガ編》。

そこで登場した人物の大まかな紹介をいたしますm(_ _)m


天龍

 

天龍型軽巡洋艦1番艦娘。

 

男勝りで負けず嫌い、自分で決めたことは絶対に譲らない頑固さを持つ為、石ノ森鎮守府に着任するまで各地をたらい回しにされていた。

剣術の心得もあり、長門と同様、近接戦闘や対人格闘にも対応出来る。

 

雄介=クウガの存在を疎ましく思っていたが、雄介に戦う理由を問いかけられ、己の戦う理由を再認識。共に戦う意思を固めた。

 

戦艦潜水鬼ことベギマとの戦闘以後、雄介を「兄貴(アニキ)」と呼び慕い、雄介と提督である一条の為ならば誰よりも一番に駆けつける覚悟でいる。

その一方で、雄介に女の子として見てほしい思いも芽生え始めているが、その理由についてはまだ自覚していない。

 

 

 

暁型駆逐艦1番艦娘。

 

電と同じく、石ノ森鎮守府の中では新顔のメンバー。

「一人前のレディ」を目標としているが、実際のところは外見相応に幼い言動が目立つため、目標に近付いている気配は今のところ無い。

一条を見習って、ブラックコーヒーを飲めるようになろうと努力をしているらしい。

 

 

 

暁型駆逐艦2番艦娘。

 

暁型姉妹の中で最も冷静沈着かつ大人びた思考の持ち主だが、それは姉である暁や妹の雷、電を守るために感情を押し殺すための振る舞いに過ぎず、その素顔は姉妹の中で一番の寂しがり屋かつ甘えん坊である。

 

石ノ森への着任前、とある士官候補生と交流していたのだが、その人物は沼田統也提督殺害に関わったとして逮捕され、その上自殺未遂により警察病院に入院中との事。

 

 

 

暁型駆逐艦3番艦娘。

明るく世話好きな性格で、誰かに頼られることに喜びを感じている。提督である一条は、基本何でも自分一人でこなしてしまう為、頼ってもらえないことに若干の不満を抱いているらしい。

雄介と関わったことから、雄介のお世話もしたいと考えている。

 

 

大潮

 

朝潮型駆逐艦2番艦娘。

「小さな体にでっかいガッツ!」をモットーに、石ノ森鎮守府の艦隊を鼓舞する熱血少女。

しかし、熱血過ぎるあまり、吹雪と同様に気合が空回りしてしまうことも多い。

車好きな一面があり、長門や一条にせがんでよくパトロールに同行している。

 

 

緑間 光

 

警察家訓練士の青年。

いかなる物事に対しても確実に成功させるための努力を惜しまぬ完璧主義者で、人事を尽くす以上に最善を尽くし、星座占いなども欠かさずチェックするなど、その徹底ぶりは凄まじい。

揚陸侵艦を捕らえる作戦の最中、訓練を積んだ警察犬ハヤテ号の死を目の当たりにした。

 

 

ハヤテ号

 

揚陸侵艦及び深海棲艦を追跡する訓練を積んだ警察犬。

品川区内に潜伏していた揚陸侵艦たちの匂いを追跡するが、囮として置いてけぼりを食らったガバリの八つ当たりを受けて殉職した。




次回、揚陸侵艦とこれまでに登場したクウガの《艤装フォーム》を紹介しようと思います!


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敵対者③&公開可能な資料@クウガ編①

《紫のクウガ編》並びにこれまで登場したオリジナルフォームの紹介をさせていただきます!


《新たな超変身》

 

 

揚陸侵艦という新たな脅威に立ち向かうため、仮面ライダークウガが新たに引き出した艦娘に類する力。

現在、3つの姿が確認されており、いずれも艦娘同様に水上での移動が可能となっており、装備した艤装による砲撃も出来る。

 

 

トリトンフォーム

 

ズ・ザビュー・ダ戦にて、クウガが最初に変身した形態。

ドラゴンフォームをベースに艤装を身につけた姿をしており、アイデンティティワードは【邪悪なるものあらば 荒ぶる波を従えて その技を無に帰し 海神(わだつみ)の如く 邪悪を薙ぎ払う 戦士あり】。

 

初めて変身した際は、突然の変化に対する戸惑いもあってか艤装を使えず、劣勢に立たされたが、《青い戦士》の武器である《長きもの》ドラゴンロッドを手にしたことで能力を完全に目覚めさせ、見事勝利を収めた。

これ以降、威力は落ちるがドラゴンロッドが無くとも牽制用の砲撃だけは撃てるようになり、海上でも艦娘たちの援護が出来るようになった。

 

艤装を纏っているため、ドラゴンフォームよりも身軽さやジャンプ力は落ちているものの、その代わりに筋力と身体の耐久力が上がっている。

 

必殺技は砲撃で足止めをしつつ、ドラゴンロッドの突きで封印エネルギーを打ち込む『トリトンスプラッシュドラゴン』。

別名を《青い艤装のクウガ》、または身軽さと火力のバランスが軽巡洋艦と似ていることから《軽巡4号》と呼ばれる。

 

 

テンペストフォーム

 

メ・ゼミル・バ戦にて、クウガが2番目に変身した形態。

ペガサスフォームをベースに艤装を身につけた姿をしており、アイデンティティワードは【邪悪なるものあらば その姿を彼方より知りて 暴風の如く 空の使いと共に 邪悪を射抜く 戦士あり】。

 

元々、ペガサスフォームは狙撃に特化した形態のため、五感に優れていたのだが、この形態はさらに感覚が研ぎ澄まされ、特に視覚は真後ろ以外の後方まで把握できるようになり、聴覚は敵潜水艦の気配や魚雷の接近音を捉えるほどに強化されている。

拳銃などの《射抜くもの》から生成するペガサスボウガンによる銃撃とは別に、専用の艦載機《天馬》による索敵・爆撃などの戦闘支援も行う。

 

必殺技は天馬を使って艦隊や周囲の人を守りつつ、ペガサスボウガンで放つ一撃必殺の狙撃『テンペストブラストペガサス』。

別名《緑の艤装のクウガ》もしくは空母艦娘と似た特徴を持つことから《空母4号》と呼ばれる。

 

 

ユグドラシルフォーム

 

メ・ベギマ・ギ戦にて、クウガが3番目に変身した形態。

タイタンフォームをベースに艤装を身につけた姿をしており、アイデンティティワードは【邪悪なるものあらば 鋼の鎧を身につけ 霊樹の如く 根を伸ばし 邪悪を切り裂く 戦士あり】。

 

タイタンフォーム特有の頑強さに加え、これまで以上に重武装な形態となっており、素早さを犠牲に、攻撃力と防御力が強化されたことで、敵戦艦の砲撃にも耐えることが出来るようになった。

《切り裂くもの》から生成する専用の剣・タイタンソードとは別に、専用装備として錨付きの盾・ユグドラシルアンカーを持ち、これにより敵の捕縛、仲間の救援や自身の機動力の補助を行う。

 

必殺技はユグドラシルアンカーで敵を捕らえ、ウインチによる引き寄せを行いつつ、タイタンソードで刺し貫く『ユグドラシルカラミティタイタン』。

別名《紫の艤装のクウガ》または重巡洋艦に似た艤装の特徴などから《重巡4号》と呼ばれる。

 

 

 

メ・ベギマ・ギ

 

別名『戦艦潜水鬼』。深海棲艦《戦艦ル級》に似た艤装を装備したマンタ種怪人。

人間態は長い黒髪を下ろした、巫女風の姿をしている。

 

性質としては潜水艦型に近い能力を持つが、艤装は戦艦型というアンバランスなもので、未確認生命体21号同様、定期的に体を冷やさねばホメオスタシスを保てない。人間態や艤装が常にずぶ濡れなのもその為。

 

駆逐イ級などに似た生きた砲弾・駆逐獣弾など、艤装を用いた砲撃や艤装を纏った状態での重さを利用したボディプレスによる殺人行為を開始、クウガや天龍たち一条艦隊を追い詰めた強敵だったが、最後はクウガ・ユグドラシルフォームの桁外れな頑丈さを前に恐怖心が芽生え、逃げようとするもそのまま撃破された。




さて、次回は・・・


・・・どうしよ?(´・ω・`)


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118話 : 《番外編》幕間

各パートが一段落したので、ちょっとだけ総合的な番外編パートを一つ。

息抜きと思っていただければ幸いですm(_ _)m


《龍騎サイド》

 

千代田区内 OREジャーナル 10:28 p.m.

 

 

「……っしゃあ!!片付け終わりー!」

「お疲れ様です、真司先輩」

 

揚陸侵艦《戦艦潜水鬼》と未確認生命体第4号の交戦が終わり、各メディアを通して速報が発信される中、真司と青葉が勤めるOREジャーナルもしっかりと報道していた。

 

しかし……情報という物は、多く得られるのなら多いに越した事は無いが、溢れ返るほどに膨れ上がると、反って間違った情報や嘘などが混ざってしまい、内容の正確さが失われてしまう危険を孕んでいる。

 

正しい情報を得て、発信するためには、情報の真偽を見極める眼と耳…そして嗅覚という名の直感力が求められるのである。

 

大久保や令子からの教えを忠実に守りながら、真司と青葉は今日も仕事に臨んでいた。勿論、それが記者としてのモットーではあるのだが……

 

 

「一条さんから少しでも情報を提供してもらえて、ホント大助かりだよ〜」

「鴻上鎮守府の火野さんたちと共闘した時に、先輩を信頼出来る人間だと認めてくれたからですよ。きっと」

 

「…かな?」

 

 

アバリシア・クルイとラミアモアーズの一件以来、真司と青葉は、映司や一条と情報の交換・共有をする関係となった。特に一条は、真司の「人を守るために戦う」姿勢に強い信頼を寄せ、可能な範囲での情報提供をするなどの協力をしてくれるようになった。

 

最初は勿論、警察官がいち報道記者に対して、独断でそんな事をしていいのかと心配したのだが。

 

 

「俺の友人にも居るんだ。誰かの笑顔を守る……その為に、どこまでも懸命に走り続ける。そんな男が…な」

 

 

そう発言した一条の表情が、何処か哀しげに見えたことが、真司と青葉は漠然と気になっていた。

 

「一条さんがああいう顔をしながら俺たちに話をするってことは……やっぱり、その友達っていうヒトも…」

「仮面ライダー……なんですかね?もしそうだとしたら、【アギト】みたいに不思議な力で戦うタイプとか?」

「かなぁ?――いや、でも俺が変身を解いたとき『そのベルトは脱着可能なのか!?』……って、驚いてたぐらいだし……」

 

「う〜〜〜〜ん……」

 

 

結局、この日は答えが出ぬまま、二人は帰宅したのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《アギト編》

 

レストランAGITΩ 08:46 a.m.

 

 

「〜♪」

 

店主・津上翔一は、鼻唄混じりに店内のテーブルを拭いていた。

今日は快晴、ちょっとオシャレなカフェテラスなどで優雅なひと時を過ごすには絶好の空模様である。

 

「おはようございまーす」

「やあ、霞ちゃん!オハヨ」

 

そこへバイトの霞が出勤。通常は、艦娘として任務や演習があるのでシフトにムラがあるが、今日は非番だったので朝からの勤務となっていた。

 

「艦隊のお仕事は大丈夫?」

「ええ。司令官といい翔一といい、気遣ってくれるのは嬉しいけど……ちょっと過保護じゃない?」

 

「それはそうだよ。艦娘さんってことは軍人さんで、刑事さんみたいに命懸けの仕事をしてるんだから!それに……霞ちゃんや霞ちゃんのお姉さんたちみたいに小さな女の子が一生懸命頑張ってるのに、心配しないなんて冷たいことは出来ないよ」

 

「……そう」

 

翔一の掛けてくれる言葉は、一条の凛とした力強さとは違うが、霞の心を優しく包み込んでくれる暖かさを持っていた。

 

「さぁ!そろそろ開店の準備にかからないと!お昼時になったら、またカガワさんが来るかもだし!」

「……カガワさん?氷川中尉じゃないの?」

「あっ!違った、氷川さんじゃなくて、艦娘さんの……そう!サガさん!」

「………」

「――金剛寺さんだっけ?」

「加賀さんでしょ!もう、しっかりしなさいよ翔一!店長でしょ!!」

 

叱られ、エヘへと照れ笑いする翔一と、呆れつつも翔一への感謝と思慕の念を抱き続けている霞は、今日もレストラン【AGITΩ】を開店するのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《オーズ編》

 

鴻上鎮守府 演習場 10:11 a.m.

 

 

「艦載機発艦!目標、オーズ!やっちゃって!!」

 

 

最近着任した空母艦娘【瑞鶴】。

彼女の特性や戦闘スタイル、スペックを把握するため、そして五月雨や山風の姉妹艦である【江風】【海風】そして瑞鶴と同期の軽巡艦娘【阿賀野】の練度向上も兼ねて、映司自ら演習相手を買って出たのだ。そのため、指揮官である提督が自身の部下である艦娘の対戦相手をするという、極めて異例な展開を繰り広げていた。

 

無論、いくら演習でも指揮官ないし司令塔は必要。

そこで、瑞鶴たちの指揮官代理は鴻上鎮守府のご意見番こと龍驤が引き受け、オーズこと映司の指揮はアンクが務めることとなった。

 

 

「うわっとと!?」

 

皆と一緒に戦えるようにと、映司も海上戦に馴れるための努力を重ねてはいた。

しかし、クウガのように専用マシンを持っている訳ではないため、なかなか思うようにいかない。

 

そんな映司の情報を何処から仕入れたのか、鴻上は自身の抱える製造工場が製造・運営している特殊バイク【ライドベンダー】を基に新型マシンを開発。

 

自販機型からバイク、さらに水上バイクへと3段変形するライドベンダーの新型。

その名も【ライドベンダー・S】、今回の演習が初お披露目であり、テストドライブでもあるという。

 

「相変わらず、鴻上のタヌキは何処までも腹の底が見えんな……」

「あはは……でもまあ、力になってくれるのはありがたいじゃん?」

 

ちなみに、現在オーズの使用しているメダルはイフリート×トラ×バッタの亜種形態、オーズ・イトラバ。

 

「映司!来るぞ!!」

「っ!」

 

瑞鶴の放った爆撃機、そして阿賀野たちの一斉砲火が繰り出される。

 

オーズはイフリートヘッドの能力を発動、シカのような角・インフェルノホーンから赤い雷撃・ヘルサンダーを放ち、応戦したが………

 

 

「映ちゃん……!?」

「パパ……?」

 

艦隊の一斉攻撃が思いの外効いたらしく、変身が解けてしまった。それだけなら特に問題は無かったのだが

 

「……っぶ…ぶふ…!」

「提督さん……ぷっ……くすくす……」

 

「ケホ!……みんな、気持ちは分かるけど……わらいすぎ…」

 

攻撃を受けたせいか、はたまた能力使用の反動か。

 

映司の頭が、マンガやバラエティの爆破オチにある様な黒コゲアフロヘアーになってしまっていたのである。

 

「パパ……大丈夫?」

「うん……アリガト?山風……」

 

映司の提督としての道程は、まだまだ遠い様だ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《クウガ編》

 

石ノ森鎮守府 食堂 12:31 p.m.

 

 

「………」

 

休憩時間。一条、そして桜子の研究室から戻ってきた大淀の二人は、それぞれ新聞やネットニュースに掲載された《戦艦潜水鬼》戦の記事を見ていた。

 

新聞記事には、月日の経過という現実を突きつけるかのように、第4号(クウガ)に対する否定的な意見や特別視の危険を訴えかけるものが大半を占めており、ネットニュースやSNSの文面はそれを遥かに上回る酷い荒れ様で、『某大国やテロ組織の送り込んだ生物兵器だ』とか『政府が秘密裏に進めていた化学実験の産物だ』などという極端なデタラメ話や、しまいには『自分が4号だ』などという、どう見ても注目されたいだけとしか思えないガセネタまで出回っている有様だった。

 

 

「はぁ……」

 

どちらからともなく、溜息が溢れる。

 

「!」

「あ……」

 

一条は新聞を畳み、大淀はスマホをバッグに仕舞うとコーヒーを口にする。

 

 

「イヤな物ですね……テレビも新聞も。言うだけならタダと思って、好き勝手に報じるなんて」

「SNSなどの方も、ほぼリアルタイムで情報を得られるようになった影響からか、思い思いの発言が膨大な量で飛び交っている様ですね。五代(アイツ)や吹雪たちに対する文言も、これまで以上に容赦無い、より攻撃的なものになってきている……」

 

「……私たちとしては、提督でもある一条大佐に対する評価も心配です。勝手に過剰な期待をしておきながら、今回のように作戦が失敗したと本部が発表した途端、掌を返して理不尽な誹謗中傷を行う……そういった民衆や政府関係者などはごく一部とは思いますが、この手の人たちの身勝手さには心底腹が立ちます……!」

 

石ノ森艦隊の艦娘たちは、一条自身の献身的な交流や五代雄介という人間との関わりをきっかけに、過去のトラウマや人間に対する強い憎しみを少しずつ克服し、徐々にではあるが艦娘同士の結束や人間関係が改善されていた。

 

それ故に、今回の包囲作戦の失敗について海軍総司令部の過激派の一将校から責められた時には、妙高と足柄、そして穏健派として有名だった利根までもが激昂し、一条への侮辱を撤回し、謝罪しろと詰め寄ったのだ。

 

 

『戦場の痛みも苦しみも、何一つ味わったことの無い無能共が……提督たちの悔しさを語るなッ!!!』

 

 

その場に居た一条は勿論、話を聞いた大淀も、利根の発した言葉が今でも忘れられずにいた。

余談だが、この件を後から聞いた天龍も大本営に殴り込もうとしたらしく、長門たちがなんとか押さえ込んでくれたという。

 

 

「…今日は、幸い何事も起きてはいませんが……どうされてるんでしょう?五代さん……」

 

不安げに問う大淀に対し、一条は穏やかに微笑んだ。

 

「…あいつは―――」

 

 

 

都内のとある公園にて。

 

一人の青年が、リュックを枕にして、一人の少女と共に昼寝をしていた。

 

少女は艦娘・雪風。隣で眠る青年を師と呼び、日々を懸命に生きている。

 

青年の名は五代雄介。

 

またの名を―――『クウガ』。




番外編の短編集なつもりが、かなり長々と書いてしまいました(^_^;)

EDを添えるならと、最後をクウガで締めてしまいました(^_^;)

本編はまだまだ続きます!
今後も、応援よろしくお願い致します!!


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()()編 第一章
119話 : 報告


まさか、ここまで読んでもらえて、しかも書き進められるとは正直思ってなかったなあ……

そんなワケで、クウガ編続投といたしますm(_ _)m


《深海棲艦》―――突如として現れ、人々に怖れられる脅威である、別名『海の怨霊』。

 

そして現在、これらと全く異なる『第2の未確認生命体』として《揚陸侵艦》が出現。深海棲艦と同じく人々を恐怖に陥れている。

 

 

しかし……怨霊が成仏するのと同じように、深海棲艦が人知れず“共存”していたとしたら?

 

 

―――栃木県内の、とある民家。

 

一人の男性が、一冊のアルバムを懐かしそうに眺めていた。

 

それは、かつて小学校で教師を勤めていた頃、彼が担当していた教え子たちが卒業の際プレゼントしてくれた寄せ書きだった。

 

 

「カンザキ・センセ」

「ん?」

「ソレ、ナァニ?」

「ああ、これか?これはね……昔、勤めてた小学校の卒業生がくれた物なんだ」

「センセェノ…タカラモノ?」

「そうだな。うん、宝物だよ。とても大切な」

「フゥン……」

 

男性と談話している、その少女は絹のような白銀の髪と色白の肌をしていた。

 

「……タカラモノ、カ……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

警視庁鎮守府 10 : 17 a.m.

 

 

「ふう……」

 

長野県警や石ノ森鎮守府本部から届いた、資料を詰め込んだ段ボール箱を抱え、長門は廊下を歩いていた。

 

「長門さん!届いたんですね?荷物。運ぶの、手伝いますよ!」

「吹雪。……スマンな、助かる」

「にへへ」

 

長門に頼まれた分を抱え、吹雪は長門と並んで歩く。

 

 

「そうだ!長門さん、艤装の強化改造が認可されたんですよね?おめでとうございます!」

 

「ハハ、大袈裟だな……確かに《艤装》その物の精度や私たち使う側との同調性を高めるための練度向上が改装に必要なのは事実だが…実際のところは単なるオーバーホールだよ。でも、ありがとう」

 

これまでの戦いや演習を経て、練度が一定値に達したとして長門の《改装》が大本営より許可が下った。

資材にいくらか余裕があった為、一条は長門以外の一部の艦娘たちの改装にも踏み切った。

 

とは言え……艤装の改装は、既存の装備を強化する改修と異なり、艦娘の身体強化に合わせて一から造り直すという事である。

 

駆逐艦1人の艤装の改装だけでも相当時間が掛かるらしく、吹雪の改装を行おうとした時は、工廠妖精たちの力を総動員して作業を進めても、最低1週間は掛かると科警研からの報告も出ている。

 

そうなれば、戦艦の艤装は費用も資材も、時間も凄まじいコストがかかるのは明白であった。

 

 

「改装が完了するまで、当分は戦線に出られんな……」

「演習や遠征ばかりが任務って訳じゃないですし、気にしないでください。それに、ホラ!自分にしか出来ないことを探して、それを全力でやれば良いんですよ!」

 

 

サムズアップ。

 

気付けば、石ノ森鎮守府に所属し、五代雄介と関わった艦娘の多くが彼に感化され、笑顔でサムズアップをする習慣が浸透していた。

 

 

「こっちに置けば良いですか?」

「ああ、ありがとう。ホント助かった」

「どういたしまして!」

 

「おう、吹雪!長門!」

 

「あ、杉田警部!」

「杉田殿、お疲れ様です」

 

荷物を運び終えた時。そこへ杉田が通りかかり、挨拶を交わした。

 

「ご苦労さん。今朝、新しい通達が出てるんだが、もう聞いたか?」

「通達、ですか?」

「いえ……」

 

二人が首を横に振ると、「そうか…」と杉田は呟き、教えてくれた。

 

「これまで、揚陸侵艦関連の事件は長野県警と本庁で別々に捜査を進めてたんだが……ほれ?深海棲艦の出現が頻発化したり、アバリシアとかゆー新手の未確認が出たりしてるだろ?捜査対象が都内を中心に集まってるのを考慮して、捜査の拠点もこちらに移すそうだ」

 

「そうなんですか」

「……となると、我々石ノ森の艦隊も鎮守府ごと異動して、本格的にこちらで腰を落ち着けることになる……」

 

「だろうな。近々、大本営からも正式な通達が来るだろうって山県本部長も言っていたよ」

 

「―――こりゃあ、今度こそ一条(アイツ)の嫁さんも泣くかもしれんな……。二人も、彼氏に声くらい聞かせてやれよ?」

 

じゃあな、と長門の肩を軽く叩き、杉田はその場を後にした。

 

 

「………長門さん。彼氏さん、居るんですか?」

「いや……別に。君は?」

「私も居ません……居たら良いなってゆー、憧れはありますケド……」

 

年頃な少女たちは、色々と複雑な想いを抱きながら執務室へ戻るのだった。




はい、今回から《クウガ+〇〇編》のようなクロスオーバーパートは名称を変えまして!

ズバリ、【艦()()編】ですッ!!


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120話 : 暴走

長いこと、シナリオの構築が思うようにいかず。

ボチボチと進めてまいります(-_-;)


※一部、訂正いたしますm(_ _)m


千葉県 我孫子(あびこ)市内 11:23 p.m.

 

 

闇夜の中、1台のワゴン車が川沿いを走っていた。

 

「おら!大人しくしやがれってんだ!」

「イヤ!!イヤァァっ!!!」

 

乗っていたのは運転者を含めた20代前半ほどの男4人のグループと、それに捕まったらしい若い女性1人だった。

 

「おぉ?結構いいカラダしてんじゃん〜!」

「ウッホゥ、マジ?それなら朝までコース待った無しじゃね?」

「フゥーっ!」

 

会話などから察するに、手当たり次第に襲って暴行をすることを目的とした暴漢グループらしい。

 

 

「早いとこ適当な場所探そうぜ!車内(なか)ですんのも盛り上がるけど、やっぱムードは……」

「って、オイ!?前、前!!」

 

「へ?―――うっわ!?」

 

欲にまみれた会話で盛り上がっていた最中、道のど真ん中に、ガッシリとした体格の男が一人立っているのを発見。

慌ててブレーキをかけた。

 

「っち……!オイコラ、オッサン!!あっぶねえだろぉが!!?」

「………」

 

「聞こえねえのか!?さっさと退けよ!!ぶっ殺すぞコラァっ!!!」

 

その男は、若者たちの脅しが聞こえていないのか、微動だにしなかった。

 

やがて、痺れを切らした男たちは車から降りると、力ずくで退けようとした。

 

……しかし。

 

 

「………?…っ!?くっ!オイ!退けよ、オラッ!!」

 

一人でダメならと、二人がかりで押すが全く堪えない。

 

見た目は人間のハズなのに、まるで巨大な鉄の塊に触れているかの様だった。

 

「クッソ!!何なんだよ、コイツ……!」

 

流石に疲れたので、一息ついた……その時だった。

 

 

「ヅギパゴ・ヂヂンダン・ザザ!」

 

自分を押しに掛かった二人の顔面を、それぞれ片手で鷲掴み。

 

「フゥンンヌァッ!!」

 

勢い良く路面に叩きつけた。

 

 

グシャッ!!という鈍い音と共に、男たちの顔面はトマトのように潰されていた。

 

「うわぁ!!?ああぁぁぁあっ!!!」

「キャアアアァァァッ!!!」

 

残った男二人と女性は、車から飛び出すと逃げ出した。

 

女性は男たちからも逃げるために川辺の方へ、男たちは不審な殺人者に背を向ける形で元来た道を走っていく。

 

それに対し、殺人者の男は唸り声をあげながら、鬼の様な険しい形相と赤錆色の肌をした、カバの様な特徴を備えた怪物へと変身。

 

そして、乗り捨てられたワゴン車を抱き込むと、なんとそのまま持ち上げ……

 

「ヌウウゥアッ!!!」

 

 

男たちに向けて投げつけたのだ。

 

 

ガシャンッ!!!

 

 

投げ飛ばされたワゴン車は、逃げる男たちを押し潰し。

そのまま爆発した。

 

 

「ラズ…ズゴゴ・ビンザァ!!」

 

獲物を仕留めたことを誇るように、怪物は大声を張り上げた。

 

 

そして……運良く逃げ延びた女性は、度重なる恐怖を味わったことにより、声を出せなくなってしまったのだった………。

 

 

「フゥアアアアアアアアアアアアアァァッ!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

そんな事件から一夜明けて。

 

 

文京区 ポレポレ 10:08 a.m.

 

「いらっしゃいー……あれ?一条さん!」

「しれぇ!長門さんに吹雪ちゃんも!」

 

警察並びに提督業務の両方で休暇を取れた為、一条は長門たちへの労いを込めて来店した。

 

「あらあら!一条さん、いつの間に結婚してたの!?しかも子供さんまで?ま〜〜〜!可愛らしいお嬢さんだこと……」

 

「すみません……彼女たちは、職場の部下です」

「……そう、なの?」

「……はい」

 

 

長門と一条のツーショットを初めて見た玉三郎の早とちりは、雄介を始めとした店内のメンバーに妙な空気をもたらした。




気になる話の続きは、CMの後!!


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121話 : 連絡

ここまで応援・愛読して下さる皆さんに一つ謝罪を。

かなり強引なクロスを、ゴロゴロぶち込むと思います。
それらを良しとしない場合は遠慮無くギャバ○ダイナミックをかまして結構です。

それでも良いという方々は、ライダーきりもみシュートを遠慮なry


「………それで。今日はどうしたんですか?」

 

玉三郎の淹れたコーヒーを受け取りながら、雄介は一条に尋ねた。

 

複雑な話なのであろう、いつもなら大抵の質問にはすぐ答えてくれる筈の一条は、どこか歯切れが良くなかった。

 

 

「実は……石ノ森鎮守府を海軍省と併合することが正式に決まったんだが、うちの艦隊は現在、警視庁を拠点として運営している状況だ。そこで、作戦の準備や遂行をなるべく円滑に進められるよう、都内(こちら)で設備や資材を管理する為の仮設基地を置くことになった」

 

「それに伴い、これまで長野に残って俺の代理・運営をしてもらっている艦娘たちの中から、新たに護衛艦隊と設営の支援部隊を編成、導入するようにと総司令部から指令が下った」

 

「それって、つまり……」

 

雄介の言葉に、長門は苦々しい顔で頷いた。

 

「大本営のお偉方は一条提督を弱体化、或いは飼い殺しにしたいのだろうさ。警視庁鎮守府の実質トップである山県元帥は勿論、海特警、天憲隊の精鋭達や査察局といった、優秀過ぎる監視の目がこれでもかと睨みを効かせているんだ。《沼田中将暗殺事件》や《猪宮少将冤罪事件》の時の様な、汚い手口はそう簡単には使えまいよ」

 

 

「………」

 

 

―――先日。雄介は一人の青年と、それに付き添う一人の艦娘と出会った。

 

話を聞いたところ、青年は先程一条が話していた《沼田中将》の実弟であり、共にいた艦娘の姉妹艦は中将の元に在籍する艦娘であったという。

 

だが、中将の有能さを妬んだ当時の上層部たちの陰謀によって暗殺されてしまい、青年は憎しみのあまり首謀者たちを手にした大きな力で殺してしまった。

 

今は全てを受け入れ、自身の犯したことも過去への憎しみも克服するためのリハビリを続けているとの事で、それを聞いた雄介は心からホッとした。

 

 

だが……それとは別に、一条たちの身に降り掛かっている事象は、かつて彼が憎しみを抱くきっかけとなった事件と同じであると、雄介は感じずにいられなかった。

 

「提督……私、今から大本営に魚雷を撃ち込んできてもいいですか?100発くらい」

 

そう提案した大井の眼は、かつての時のように暗く淀んでいた。

 

「大井っち、どぉどぉ」

「き、北上さん!でも……!!」

「気持ちは分かるけど……提督や雄ちゃんたちの気持ちも考えなよ」

 

「うっ……」

 

一条を通じて雄介と出会ったことで、憎しみの呪縛から開放されたことを思い出し、大井は渋々ながらも北上の提言に従った。

 

「大井さん、北上さん……」

 

一条や雄介への理解者が増えてくれたことに、吹雪は心から喜びを感じていた。

 

 

と、その時。店の電話が鳴った。

 

「おやっさん、あたしが出るよ」

「ん、よろし黒柳徹子!」

 

玉三郎の相変わらずなダジャレを華麗にスルーして、北上は受話器を取った。

 

「あ〜い、こちらオリエンタルな……んぇ?あー…はい、ちょっとお待ちをー。―――雄ちゃーん、電話〜」

「……ん?」

 

「神崎って人から」




久々に、重暗い話を展開してしまった……_| ̄|○ il||li


次回……次回こそは!!(しつこい発言でスミマセン……)


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122話 : 約束

長きに渡り、お待たせしました。


最新話、更新ですm(_ _;)m


神崎―――その名を聞いた雄介は、何処か明るい顔をしていた。

 

「うん!ちょっと待ってて?」

 

パタパタと駆け寄り、受話器を受け取った。

 

 

「はい!電話代わりました、五代雄介です!お久しぶりです!!」

 

 

その様子から、玉三郎と一条は電話の相手を察した。

 

 

「五代さんのお知り合い……ですかね?」

「ししょーのあんな嬉しそうな顔、雪風は初めて見ます」

 

 

話している様子から見ても、雄介にとっては喜ばしい相手であることは明白だった。

 

 

「ハイ!ハイ!じゃあ、今度の土曜日に!ハイ、分かりました!!」

 

 

「雄介、神崎先生は何て?」

「先生、新しい家族が出来たそうなんです!……で、俺やおやっさんたちに紹介したいってことで、今度の週末に遊びに来てくれるって!」

 

「先生って、ししょーのししょーですか?」

 

「んー、間違ってはないけど惜しいなぁ。俺が小学校の時の担任の先生なんだけど……もう、とにかくめっちゃくちゃステキな人なの!!俺に大事な事をたっくさん教えてくれた先生なんだ!」

 

「ほっほ〜」

「へえ〜」

 

雄介の熱意に、北上や雪風、吹雪たちも思わず感心した。

 

ここまで人間の出来た雄介が尊敬する教師とは、いったいどれ程の人物なのか。

 

「しれぇ!雪風、ししょーのせんせぇに会いたいです!」

「わ、私も!五代さんの恩師という方に、是非ご挨拶を!!」

「大井っち一人行かせるのもアレだからってのもあるけど……まっ、あたしも興味あるしねえ〜?雄ちゃんの先生に」

 

 

雪風を筆頭に、大井、北上が面会を立候補。

 

 

しかし……

 

「ちょっとちょっと!あんまり大所帯で行っちゃあ、神崎先生も困っちゃうだろうし……何より、店の従業員が居なくなっちゃうんだけど!?」

 

「あ……」

 

すると、ここで長門が提案を持ちかけた。

 

 

「……マスターと提督が良ければだが―――」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

長野県 石ノ森鎮守府 09:17 a.m.

 

 

現在、警視庁鎮守府へ出向中の艦隊とは別に残っていた艦娘たちは、本部へ送るための荷物を整理していた。

 

 

「ふう……」

 

当鎮守府の在籍艦の一人・阿賀野が、伸びをして体をほぐす。

 

「提督さんが東京に移ってから、もうすぐ2ヶ月かぁ………」

 

「早く帰ってくるといいなあ……」

 

すると

 

「阿賀野姉〜〜?」

「ゔっ、能代……」

 

姉妹艦・能代が、険しい表情で仁王立ちしていた。

 

 

「また仕事サボったわね!?もう……ちょっと目を離すと、すぐこれなんだから!」

 

「し…しょうがないでしょお?只でさえ人手が足りないんだから〜」

「それは分かるけど、サボって良い言い訳にはなりませんっ!」

「やぁ〜んっ」

 

 

腕を掴まれ、阿賀野は能代に連行されて行った。

 

 

一方、提督である一条が不在の中にあっても、変わらずに職務に励む艦娘も居た。

 

 

「よし……仕分けはとりあえず、これでお終いかな?」

 

 

駆逐艦・朝雲。

 

吹雪の同期であり、雄介と一条の背中を見て、生きるための目標に定めた艦娘の一人である。

 

 

「提督と五代さん……また会いに来てくれるかな……」




次回、暴走を開始したカバの揚陸侵艦・ガバリがついに、長野付近に!!

雄介と一条たちは、果たして対処出来るのか!?

そして、恩師との再会は!?


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123話 : 準備

長いこと休載(?)して申し訳ありません。

だいぶペースダウンはしてしまいますが、どうにか凍結だけはしないよう進めて参ります。


警視庁鎮守府 09:19 a.m.

 

 

「長門さん……五代さん、どうかしたんでしょうか?」

 

「どうもこうも…いつも通りのアイツだと思うが?」

 

 

 

昨日、ポレポレにて。

 

雄介の恩師・神崎と再会するにあたり、待ち合わせ場所をどうするかを決めかねていた一同であったが、長門から一つの提案が出された。

 

 

「神奈川にある、仮設基地の執務室を使えないだろうか」……と。

 

 

「何しろ、現状がこんな有様だ。如何にこちらが用心しても、揚陸侵艦やアバリシアのような連中はこちらの都合など考えはしない。それなら、少しでも安全を確保出来る様に工夫せねば」

 

「長門さん」

 

これに対し、吹雪や島風は雄介の事だから「大丈夫!」と、いつもの様に言ってのけるだろうと思っていた。

 

 

……ところが。

 

 

「……分かりました。それじゃあ、お願いします」

「あららっ…」

 

意外にも、すんなりと受け入れたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

足立区生物園(?) 10:00 a.m.

 

 

「フン!でやっ!」

「真司さん、右に避けてください!!」

 

「おわったた!?」

 

 

全てが鏡像反転した異世界・ミラーワールド。

 

そこに潜む、人を襲うモンスターを相手に戦う一人の戦士と一人の少女。

 

《仮面ライダー》龍騎とその相棒《艦娘》青葉。

 

 

仮面ライダーヴァイスこと沼田 静の一件から、二人は人知れずモンスター達と戦いつつ、深海棲艦や揚陸侵艦について謎を解き明かせないかと独自に調査をしてみる事にした。

 

 

根拠の無い直感でしかないのだが、真司が記憶している限り、『あの男』が創り出した《カードデッキ》は龍騎とオーディンを含めて13種類だった。《擬似ライダー》なる存在も確かに在った気はするが……『破壊者』の影響から生じたパラレルワールドの存在を足しても14種類だけの筈。

 

(静……アイツが鈴谷って娘から受け継いだカードデッキ。アレも『ヤツ』が創った物なら、あのアリスって女の子は何者なんだ……?)

 

 

「真司さん!真司さん!!」

「んぇ?……あっ!?ヤッベ!!」

 

戦闘が終わってからも、ボーッと立ち尽くしていた為、粒子化が始まっていることに気付かずに居た。

 

青葉に追い立てられるように、元来たガラス面へと飛び込んだのであった。

 

 

 

一方。

 

こちらは神崎と『新しい家族』の少女。

 

 

「友達の艦娘さんが、施設の部屋を一つ貸してくれることになりました!約束の日、また『教室』で見ていて下さい!!」―――

 

 

『あの日の約束』と同じ宣誓を聞いた時、神崎は内心、複雑な気持ちになった。

 

18年前……アイツは見事に誓いを果たし、笑顔で現れた。

 

それは教師として誇らしくあったが、同時に心配の種にもなった。

 

それでも……アイツが今の自分に納得している、満足しているのなら、余計なことは言うまいと見守ってきた。

 

 

そして今……世界は再び大きな混乱に見舞われている。

 

こうした情勢の中で、“この子”と出会ったのも何かの巡り合わせなのか……自分には、その答えを知るべき義務がある。

 

そう思い、雄介と会う約束をしたのであった。

 

 

「センセ…?」

「うん?」

 

「オナカ…空イチャッタ……」

「そっか……それじゃあ、次の駅で電車を乗り換えるから、そこで駅弁を買おうか?」

「ヤッター!」

 

雪の様に白い頬を桜色に染めて、無邪気な笑顔を見せる少女。

 

その髪色、肌の色を一層浮き立たせる様に、身に着けた黒い衣服は陽に照らされ、禍々しくも美しく輝いていた。

 

 

 

 

所変わって、ポレポレ。

 

日めくりカレンダーをめくり、日付を眺めながら雄介はニヤける。

そんな雄介に釣られて、雪風もにぱっと笑顔になった。

 

「おぅっ?ゆーすけも雪風もゴキゲンだね?」

「そりゃーまあ、当然っちゃ当然だよねえ〜」

 

「えへへ…うん!」

「えへへ〜」

 

師弟揃って、満面の笑顔。

 

弟子と師匠は似るもの、という言葉があるが。

笑顔がそっくりな弟子と師匠というのも、簡単に見られるモノではないなと思う北上であった。

 

「ほんじゃ、あたしらも後から行くからー」

「くれぐれも!くれぐれも北上さんと大井がよろしくと!そう言っていたと神崎先生にお伝えして下さいっ!!」

 

「ししょー、長門さん。なんで大井さん、あんなに一生懸命なんですか?」

 

「……さあ?」と純真な雄介に対し。

 

「雪風、お前は優しい子だな。でも気にするな」と長門がフォローしたのだった。




次回。仮設基地へ呼び出された朝雲たち石ノ森の留守番組が、神崎先生らと対面。

そして、雄介と雪風はまさかの……!?


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124話 : 急襲

現在、You Tubeにて毎週2話ずつ配信中の『クウガ』………かつてリアルタイムで見た物語を、また初心に返った気持ちで楽しめるのは最高にたまりません!!


雄介と雪風がポレポレを出発した、ほぼ同じ頃。

 

 

長門からの招集連絡を受けた石ノ森鎮守府の艦娘一同は、突然過ぎる呼び出しに戸惑っていた。

 

中でも、航空戦艦「山城」は人一倍不満を露わにし、警戒していた。

 

如何に一条があちらで戦績を立てていようと、共に出向している長門たちが彼を提督として評価していようと、それは世間的な評価や組織が公表している戦績に過ぎない。

 

実態など、権力者であればなんとでも変えられる………

長門と同期である山城は、権力という物が持つ醜さを、彼女や姉の扶桑と共に嫌というほど目の当たりにしてきた。

 

 

提督など必要無い。自分達の身は自分の力で守ってみせる―――そう、決めていたのに………

 

あの日、“奴ら”は現れた。

 

そして……それに呼応するかのように、あの男も化け物に変わって見せた。

 

そんな化け物を長門は庇い、遂には共闘関係まで結んだというではないか。

 

ざっくりとした内容しか聞いていないが、人間を嫌っていた足柄や大井までも、あの時の化け物に強い信頼を寄せているという。

 

 

(これは絶対、何かしら裏があるとしか思えない。朝雲はあの二人を信用しているみたいだけど……騙されているに違いないわ!!)

 

 

 

 

警視庁鎮守府 11:37 a.m.

 

 

「そうか……まぁ、それは全くの想定外という訳でもないさ。気にするな、お前が責任を感じる必要は無いよ。……うん。それじゃあ、また後でな」

 

長野に居る朝雲との連絡を取っていた長門は、朝雲から山城が一条だけでなく雄介をも警戒している事についての相談を持ちかけられた。

 

あの日、吹雪や長門と共に未確認生命体第4号=クウガへの変身を目の当たりにした艦娘の一人という事もあって、朝雲は一条と雄介の両名を信じていい人だと認識。

 

扶桑と共に石ノ森周辺の近況を報告したりなど、一条らとの中継役を務めていた。

 

 

「長門さん。朝雲ちゃんは、何て?」

「提督や我々が急ぎで戻らねばならぬような事態は、幸い起きてはいないらしい。とは言え……提督やアイツに対する不信が、完全に払拭された訳ではないようだがな」

 

「司令官と五代さん……ですか…」

 

 

基本的には職務に忠実。かと思えば、己が最善の一手であると判断すれば、その先にどんな危険が立ちはだかろうと、後でどんな責めを受けようと臆すこと無くやってのけてしまう、大胆過ぎる行動力を持つ一条。

 

一方、本来なら関わり合う筈の無い民間人でありながら、『戦士クウガへの変身』という力を持ち。

「みんなに笑顔でいて欲しい」―――ただそれだけの理由で、揚陸侵艦や深海棲艦を相手に命を懸けて戦う雄介。

 

基本、真逆な性格の二人であるが、自分を顧みずに誰かの為に何かを為そうとする生き方は似た者同士であることを、これまでの共闘を経て、長門や吹雪を始めとするクウガの関係者たちは理解していた。

 

 

「五代さんの小学生時代の先生……神崎先生、でしたっけ?ちゃんと会えます…よね?」

 

「だと、良いんだが………」

 

 

どうか、何も起きずに済んで欲しい……

 

そう願わずにいられなかったのだが、残念なことに、彼女らの嫌な予感は当たってしまう……。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

神奈川県 川崎市内 12:13 p.m.

 

 

雪風を後ろに乗せ、ドルフィンチェイサーを駆る雄介の元に突如、無線が入った。

 

 

『五代雄介殿、聞こえるか!こちら利根じゃ、応答してくれ!』

「っ!利根さん!?」

 

『オオ!雪風も一緒とは!お主らは今、何処に居るのじゃ!?』

「神奈川の川崎市に入ったところです!」

 

 

雄介が現在地を告げると、利根から伝えられたのは驚愕の報せだった。

 

 

『…揚陸侵艦が現れた!場所は習志野じゃッ!!』

 

「ッ!!」




嗚呼……またしても約束が……(;´Д`)

どぉしていつもこうなっちゃうの………(;´Д`)


※またしても次回の展開が先延ばしになっちゃいました。応援してくださっている皆さん、本当に申し訳ありません!!


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125話 : 邂逅

なんやかんやで、『着任先』シリーズももうすぐ連載2周年を迎え……てしまうの!?

いいの!?単にダラけながら書いてるから終わってないだけなのに!?Σ(゚Д゚;)


千葉県 習志野市内 12:25 p.m.

 

 

揚陸侵艦出現の通報を受け、警視庁鎮守府と協力体制を取っていた千葉県警の警官隊と、その支援部隊として派遣されてきた《流星鎮守府》の艦娘たちが出動、撃退に当たっていたのだが、ここで一つ大きな誤算が生じた。

 

「フウゥゥゥアッ!!」

 

「うああぁーっ!?」

 

攻撃対象である揚陸侵艦……ガバリは、大柄かつ筋肉質な見た目に違わぬ怪力とは別に、想像を越える素早さとスタミナをも備えていたのだ。

 

また、警官隊が射撃をしようとすれば、一瞬の隙を突いてラリアットなどの力技でねじ伏せる、艦娘が引きつけ、隙を作ろうとしても警官やその死体を使って攻撃出来ないよう妨害するなどといった、かつての「未確認生命体第22号」と比べ物にならぬ知性の高さをも見せつけてきた。

 

 

「く……!!いかにも頭が悪そうな見た目なのに、やってくれるじゃないっ」

 

支援部隊の旗艦である五十鈴が苦々しい顔をすると、随伴艦の一人である長月が励ました。

 

「大丈夫だ、五十鈴姉!本庁の艦隊もきっと合流してくれる!だから、今は持ちこたえるんだ!!」

 

「フゥー…!フゥー!!ヌウアァァァっ!!!」

 

 

その時。

 

一台のオートバイが駆けつけ、ガバリの体当たりを阻んだ。

 

 

そのバイクには、何かしらのロゴが《SB-555V》という型式番号と共にプリントされていた。

 

バイクの乗り手らしい男がヘルメットを脱ぎ、ガバリを見据える。

 

「たっくん……!」

 

 

それは、流星鎮守府の提督……『乾 巧』少佐であった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方、利根から報せを受けた雄介と雪風は、神奈川県から急遽Uターン。習志野へと向かっていた。

 

すると、そこへ長門から無線が入る。

 

『五代雄介、聞こえるか!』

「長門さん!ひょっとして、習志野の件ですか!?」

『…そうだ!今、流星鎮守府から増援が到着したらしい!私達もなるべく急いで合流する!!』

 

「分かりました!!」

『よし…。分かってると思うが、二人とも無理はしても無茶はするなよ?』

 

「はい!!」

「りょーかいですっ!」

 

雄介と雪風の力強い返事に、長門は思わず顔を綻ばせた。

 

 

我ながら、随分と信用するようになったもんだ、と。

 

だが、そうさせるだけの物を彼は持っているのだ。

 

単なる力だけでは成し得ない、根源的な何かを。

 

 

 

そして……ガバリと対峙する巧は、バイク・オートバジンに積んでいたアタッシュケースを開け、中のツールを出そうとした。

 

 

しかし……

 

「たっくん!!危ないっ!!」

 

「ッ!?」

「フウゥゥゥアッ!!」

 

抵抗も小細工も許さぬ―――そう言わんばかりの勢いで突撃。体勢を低くしての体当たりだった為、巧も避けきれず、突き飛ばされてしまう。

 

「巧ッ!!」

「っ……。気にすんな、ちょっと派手に転ばされただけだ」

 

立ち上がり、ギアを取りに行こうとした、その時だった。

 

「!」

 

両者を遮るようにして、バイク・ドルフィンチェイサーを駆る五代雄介と同乗した雪風が到着。

 

 

「大丈夫ですかっ!」

「………」

 

 

戦いの場にて、夢を追う男と夢を守る男が邂逅した。




二番煎じにならず、かつ艦娘との絡みも出来る展開はなんだろうと、練りに練り込んだ結果。

かつてのオーズ&龍騎のような事になりそうです(´・ω・`)


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126話 : (しゃっ)(こう)

2021年、明けましておめでとうございます。

ますます更新の速度が落ちておりますが、なんとか失踪や凍結だけはせぬよう気をつけて参ります(^_^;)


習志野に現れた揚陸侵艦。それを目の当たりにし、駆けつけた雄介は青年――服装からして、提督であろう――の前に立った。

 

「大丈夫ですか!?」

 

同じく、同乗していた雪風が駆け寄り、五十鈴らに呼びかける。

 

「え?ええ、あたし達はなんとか……。貴女達は?」

 

「あたしは警視庁鎮守府、一条艦隊所属の雪風です!みなさんの救援にさんじょーしました!」

 

「救援………って、え!?」

 

助けに来てくれた事はありがたいが、五十鈴は雪風と目の前の男の取り合わせに戸惑いを隠せない。

 

無理もない。艦娘である雪風はともかく、彼はどう見ても軍属に見えないのだから。

 

「……おい、邪魔すんな!怪我しても知らねーぞ!」

 

今がチャンスと見て、アタッシュケースから飛び出したベルトを装着し、残りのツールをセットしていく。

 

そうとは知らぬまま、雄介はこの状況と騒動の原因である男・揚陸侵艦を見据え、アークルを呼び覚まそうとした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

……しかし

 

「変…っ!?」

「フウウゥアッ!!」

 

そんな一瞬すら許さないとでも言うように、男は体当たりを仕掛けてきた。

 

「うわっ!!」

 

避けようとしたが一瞬間に合わず。掠っただけで済んだものの、それでも雄介を転倒させるだけの勢いと力を見せつけてきた。

 

「ヤバい!」

 

援護しようと、長月が連装砲を構える。

 

「待ちなさい。彼に当たったら大問題になるわ」

 

しかし、同じく今回の艦隊に参加していた軽巡洋艦・龍田がこれを制止。

 

「大丈夫。巧ちゃ……提督がいるもの。私達が今すべきは、残った警官隊を避難させることじゃないかしら?」

 

「龍田……それもそうね。徒に怪我人を増やすことも無いわ」

 

五十鈴もこれに同意、生き残った警官らを救護、退避させる役に回った。

 

 

 

一方、雄介はかつての時と似た展開に難儀していた。

 

変身するには構えを取り、自分なりに意思を強くしなきゃならない。しかし、こうも攻め込まれては構える間も集中する間もない。

 

 

「グウウ……!チョソチョ・ソグスバァァっ!!」

 

一方、そんな雄介に対し、男――《ズ・ガバリ・ダ》は神経を逆撫でされている気分だった。

 

威勢良く突っ込んできた癖に、さっきから一度も攻めてこない……さっきまでのリント共と比べれば、まったく話にならない。《アイツら》から権利は無いと言われ、『深きモノ』や“アイツ”からは馬鹿にされ、ただでさえ腹立たしいというのに……!

 

 

「フウウゥゥゥアッ!!!」

 

「そんなに暴れたきゃ、相手にも準備ぐらいさせろっての!」

 

その時、ベルトを始めとするツール一式の準備を終わらせた巧が呼びかけ、意識を向けさせた。

 

 

「!」

「……ンン?」

 

5・5・5・ENTER。

 

手にした携帯電話型ツール・ファイズフォンにキーを入力する巧。

 

【STANDING BY】

 

 

準備が整い、フォンを畳むと高く掲げ、巧は叫んだ。

 

「変身!!」

 

 

【COMPLETE】

 

ベルト・ファイズドライバーにフォンをインサート、倒すと同時に赤いラインが走り、巧の体を深紅の光で包んだ。

 

「!!」

 

そして、雄介とガバリの前に、流星鎮守府の『仮面ライダー』ファイズが戦線に立った。




年明け早々、不完全燃焼で申し訳ありません(ヽ´ω`)

久しき執筆は、思いの外難産でした……。


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127話 : 前進

かつて集団から孤立し、暴走していた『未確認生命体第22号』のような馬鹿力を見せつけてくる揚陸侵艦・ガバリ。

変身する間もなく振り回される雄介や警官隊の撤退を支援する雪風らの前で、巧は変身ツール・ファイズギアを装着。変身したのであった。


乾 巧がファイズに変身した、ほぼ同じ頃。

 

雄介たちを援護すべく、長門はパトカーを飛ばしていた。

 

「ちょっと意外だったわ。いくら艤装を改装に出してるとは言え、貴女が車を運転するなんて」

「何事も無駄になる訳ではないしな。警察官でもある提督のサポートをするなら、パトカーの運転ぐらいは出来ないと……だろ?」

 

吹雪と共に随伴艦として同行してくれた陸奥に問われ、長門は当然のように答えた。

 

「……吹雪は、もう少し練度と身長を伸ばす所から始めようか」

「ヒドイッ!?」

 

後部座席から、少しだけ羨ましそうにしていた吹雪の視線を受けての発言だったが、長門の一言は今の吹雪には相当なダメージを与えたらしい。

 

「ドンマイ、吹雪ちゃん」

「陸奥さんまで〜!!」

 

 

和やかな空気に包まれる車内であったが、目指すのは緊張感あふれる戦場。いつまでも気を(ゆる)めていてはいけない。

 

「……少し飛ばすぞ。しっかり掴まっていろ!」

「へ?…どわっ!!」

 

 

一刻も早く、仲間たちと合流せねば。

 

その思いを胸に、長門はアクセルを吹かした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

神奈川県内 12:31 p.m.

 

ポレポレでの手伝いが一段落して、玉三郎から許可をもらった北上、大井、島風の3人は、電車を利用して石ノ森鎮守府仮設基地へと向かっていた。

 

 

「ん〜〜、いいね〜。長野以外の県外に来るの初めてだから、なんかウキウキするねえ」と北上。

 

「ふふ、ですね。北上さん」と笑顔で同意を伝える大井。

 

「二人とも、おっそーい!早く早く〜!!」

 

急かす島風に対し、北上が「はいはーい」と応えていると、手持ちのスマホに揚陸侵艦関連ニュースの速報が入った。

 

「おぅっ?」

「これ……っ」

「うーわ……」

 

 

《揚陸侵艦第22号出現!流星艦隊と未確認生命体第4号、三つ巴の戦いなるか?》

 

ネットニュースの見出しに目を通し、北上たちの表情が曇る。

 

一条や雄介本人から聞いた、18年前の『災厄』。

これに限った話ではないが、人間というのは時間の経過や世代の移り変わりによって、多少の違いはあれど記憶は風化してしまう。

 

それは戦争の記憶も、《未確認生命体関連事件》のように人智を超える怪異も変わらないらしい。

 

「提督や杉田さんが悔しがってた気持ちが、やっと解った気がするよ……」

「北上さん……私…」

 

「大井さん。過ぎちゃったことは、どうしたって取り戻せないんだからしょうがないよ。ゆーすけや提督たちは今、頑張ってるんだから、島風たちも一緒に頑張ればいーんだよ!!」

「しまぷー……」

 

かつて、雄介を殺そうとした事があっただけに、世間の評価に対して大井は罪悪感が込み上げてきた。

 

しかし、それを感じた島風が励ます。

 

「……うん。そう、だね。あたしらがしなきゃいけないのは、これからの為に今をどうにかする事だわ」

「北上さん……そうね、二人の言う通りだわ」

 

自分の場所で、今、何をすべきか。そして、自分が出来ることに全力で取り組む事が大事なのだと再認識させてくれたのは、他でもないあの二人だ。

 

自分たちが今、すべき事………鎮守府の仲間たちに、一条や雄介、そしてみんなの事を教えるためにも、雄介の「恩師」と出会い、迎える。

 

(ゆーちゃん……待ってるからね?)




思い切って、戦闘シーンではなく《クウガらしさ》をもっかい再現してみました汗

やっぱ、辻褄合わせやリアリティを出すのってムズカシイ!
けど楽しい!!


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128話 : 騒乱

You Tubeでのクウガ無料配信が、いよいよ終わる……

そんな中で、自分は改めて『クウガ』を好きになって良かったという気持ちを噛みしめながら、執筆を進めて参りたく思います。


「ジャラゾ・グスバサ・ボソギデジャスゥ!フウゥゥウンヌァアッ!!」

 

巧が変身した姿……ファイズに対し、表情をより一層険しくしながら、赤錆色の皮膚を持つ筋骨隆々の怪人の姿へと変わるガバリ。

 

「ししょー!あの提督はいったい……?」

「分からない……けど、艦娘と一緒だったから、たぶん敵ではないと思う!」

 

ファイズを信じながら、雄介はアークルを呼び起こし、構える。

 

 

「変身!!」

 

戦士クウガへと変身した雄介と並び、雪風も主砲を握りしめる。

 

「陽炎型駆逐艦、雪風!抜錨しまっす!!」

 

「!」

 

ガバリの突進を躱しつつ、ファイズはクウガの姿を視認した。

 

「クウガァ……!!」

「クウガ?……てことは、アレが例の第4号って奴か」

 

同じくクウガを目の当たりにしたガバリの反応を見て、ようやくファイズの中で、クウガの名前とニュースや新聞で耳にする『第4号』の存在が繋がったのだった。

 

 

「ゴラゲダ・ヂゾボソギデ・ガゲデジャ・スンバゾズ・ガバリ・ダ〜〜!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

本部からの出動命令を受けた天龍は艤装を纏い、トライチェイサー2013Aを走らせ、独り習志野へと急行していた。

 

「ったく……深海といい揚陸といい、暴れるなら一声掛けやがれってんだ!」

 

通常、予告して犯罪を行う輩は居ないと思うのだが、そう思いたくなるほどに今回の天龍は機嫌が悪かった。

 

練度の高さや戦闘技術の評価は優良であったが、これまでの組織内における振る舞いを理由に見送られ続けてきた改装が、前回の戦闘評価を讃える形でやっと認可されたというのに、今回発生した揚陸侵艦事件によって、現在作業中の改装が大幅に遅れてしまう可能性が出てきたのだ。

 

「こうなったら、雄介アニキの出番を取るくらいに暴れてやる!!」

 

長門たち戦艦枠の艤装も改装中なので、この緊急事態を早めに解決しなければ他の艦娘たちの艤装や空母艦娘たちの艦載機の整備、開発などにも影響を及ぼしかねない。

 

 

「待ってろよアニキ。俺もすぐに追いつくからよ!!」

 

助太刀半分、憂さ晴らし半分の気持ちを胸に、天龍はトライチェイサーを走らせるのだった。

 

 

 

 

「フウウゥゥウアッ!!」

 

「超変身!!」

 

突進してくるガバリの勢いと先の力強さを見て、マイティフォームでは力負けすると判断したクウガは、過去の反省も踏まえてタイタンフォームへと超変身。押し合いに持ち込み、雪風が砲撃を行うための隙を作ろうとした。

 

「ししょー!?」

 

……しかし、ガバリはその図体に違わぬ剛力を備えており。

膂力と防御に特化した紫のクウガを徐々に圧し始めた。

 

(コイツ……22号よりも強い!?)

 

紫のクウガだからこそなんとか耐えているが、もし赤のクウガのままで迎え撃とうものなら、間違いなく彼方へと吹っ飛ばされていただろう。

 

「雪風とししょーは、カンタンには沈みません!!」

 

ショルダーバッグの様に提げた連装砲を構え、ガバリの背面へと砲撃した。

 

「ッ!!グゥオオ!」

「グッ…!!」

 

轟音に気付き、避けようとしたガバリをクウガがしっかりと抑え込んだことで砲弾は命中。衝撃こそ小さくはないが、直撃は免れた為、クウガがダメージを負うことは無かった。

 

「ビガラバ・カイリィ……!!」

「ガビガビうるせえな!」

 

闇雲に突っ込んで砲撃の巻き添えを食うことだけは避けたかったので、しばらく様子を見ていたファイズであったが、クウガの素性を聞くのは後にして、手を貸した方が早く終わりそうだと考え、加勢しようとした。

 

 

………ところが

 

「!!」

 

何かを感じたのか、雪風はファイズに向かって叫んだ。

 

「いけない!!来ちゃダメっ!!!」

 

次の瞬間、上空から大量の爆弾が降り注ぎ。

 

ガバリをも巻き込んで、クウガたちに襲いかかった。

 

「キャアアァァっ!!?」

「うああああぁぁっ!!」

 

「ぐ……ッ!」

 

クウガは雪風を庇い、ファイズは内蔵されたセンサーを介して爆弾の投下地点を予測、回避することで辛くも凌いだ。

 

「……あれは…?」

 

ファイズが向けた視線を、クウガと雪風も見る。

 

 

「クス…クスクス……フフフフ……」

 

 

それは、黒い装甲や艤装を除けば、髪や肌、服といった全てが「白一色」という、二本の角を生やした深海棲艦――

 

 

「飛行場姫」と呼称される、上位種の個体だった。




差別化を、物語に変化を!!

そう思ったら、突発的に沸いた発想。


「そうだ、深海出そう」……(ヽ´ω`)

どぉなる?次回!


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129話 : 姫級

第2の未確認生命体と平成のダブルライダーによる激戦開始、と思いきや。

深海棲艦……それも姫級というとんでもない乱入者によって、戦闘はより一層の混迷を極めそうです。


※一部修正いたします。


千葉県 船橋市内 12:38 p.m.

 

 

高層ビル等が立ち並ぶ大通りを、フードで顔を隠した黒いロングコートの人物が歩いていた。

 

しかし、明らかに悪目立ちする風貌であるにも関わらず、誰一人としてその人物を不審がる事無くすれ違った。

 

 

―――否。

 

 

不審がっていなかったのではない。

 

“存在を認識していなかった”のだ。

 

 

同様の不審人物は他の地域でも現れ、それらは廃ビルの一室に集った。

 

 

「……ぁ゛〜〜〜ッたく!なんでこんな、クッソ暑くなるような格好をしなきゃなんないワケ?」

 

黒コートの一人、マドゥが愚痴を零しながらフードを脱ぐ。

 

「ガマンして下さい。これでも我々の気配を九割方消してくれるのですから」

 

マドゥを含めた、3人の黒コートを待っていた藍色の髪の青年が宥める。

 

「そうは言うけどねえ、動き易くするぐらいは出来たんじゃないの?アザム」

 

「止さないかマドゥ。我々の力と気配は、あのグリードに完璧に覚えられてしまった。感付かれるようでは、今後に向けて事を進め(にく)くなってしまう」

 

 

残る二人もフードを脱ぎ、一人はグリード――恐らくはアンクの事であろう――に対して強い警戒心と復讐心を抱いている様子から、クルイの化身と思われる薄紅色の長髪をした美男子と、もう一人は無口で強面な様子からガイスの化身であろう、少し癖のある茶髪の大男が顔を露わにした。

 

 

「それに、だ。今回はわざわざ手を出さずとも、面白い物が見られそうな展開のようだぞ?」

「面白い〜?」

 

意味深な笑みを浮かべながら、クルイはアザムに用意させたテレビに向けて指を鳴らすと同時に放電。

 

「………!」

「これは……」

 

画面に映し出されたのは、クウガとファイズ、そして「揚陸侵艦第22号」ことズ・ガバリ・ダに加え、それらを急襲した深海棲艦「飛行場姫」の姿であった。

 

 

「さて……深きところより現れし姫を相手に、どこまでやれるか?楽しませてもらうぞ。オーズよりも遥か古より生まれし者……《戦士》クウガ」

 

 

======================

 

 

習志野市内 12:40 p.m.

 

 

「クス……クスクス……」

 

クウガと雪風、ファイズにガバリの4人を襲った深海棲艦《飛行場姫》は、不気味な笑い声をあげながら一同を見下ろしていた。

 

 

「なんだ?ありゃあ……」

「雪風ちゃん……ひょっとして、あの人も深海棲艦?」

「は…はい……。アレは、とっても危ない相手です……!!」

 

提督に着任して日が浅いファイズや、艦娘や深海棲艦その物について知識不足のクウガであったが、雪風の怯えようから、目前の敵の危険度の高さは朧気ながら理解した。

 

 

「ジャラゾ・グスバァァーッ!!」

 

戦いの邪魔をされたと見たガバリは、怒りのままに突撃を開始した。

 

 

「オコッタ?オコッタノ?」

 

正面から突っ込んでくるガバリを、まるで子供をあやす様に呼びかけると

 

「……ナラバ。ソノママ…ドコマデモ、シズンデイケ……!!」

 

武装した右手を振り上げ、生き物の様な不気味な姿をした艦載機を放った。

 

飛行場姫の艦載機たちは、かつてベギマが繰り出した駆逐獣弾よりも高い機動性を持っており、爆撃を混じえながら食らいつくなどといった変則的な攻撃を繰り出し、徐々にガバリを追い詰めていった。

 

やがて、ガバリは艦載機を振り払おうと、艦載機同士をぶつけてしまい。

 

 

「ブゴオォォアッ!!?」

 

「!!」

「きゃっ!!」

 

爆発に飲まれてしまい、火だるまと化した。

 

 

「グゥウアアアッ!!アアアアァァーッ!!!」

 

もがき苦しみながら、近くの川へと転落していった。

 

 

「……っ…」

「…………」

 

「アツイノ?アツイデショオ…?」

 

ガバリのもがき苦しむ様を、思い出し笑いしながら、飛行場姫はクウガたちに問いかけながら、艤装を向けてきた。

 

 

「クス、クスクスクス……」

 

 

そして・・・・




脳筋なために強制退場させられた風のガバリ。

果たして、暴走したガバリはこのまま終わってしまうのか?

そして、クウガたちの命運は?!


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130話 : 混乱

長い、かつてない程に長いスランプに苦しみ続けました……

さらなるペースダウンを気にしつつ、最新話です。


飛行場姫に艤装を向けられ、艦載機が放たれようとした……その時。

 

 

「天龍様の攻撃、食らいやがれぇぇぇッ!!!」

 

「ッ!!」

 

 

 

トライチェイサー2013Aを駆り、艤装の刀を手にした天龍が乱入。

 

さらに、ファイズの危機を感知したオートバジンが人型のバトルモードへと自動変形、バスターホイールによる射撃で飛行場姫を迎え撃った。

 

 

「天龍ちゃん!?」

「天龍さんっ!」

 

思わぬ助っ人の参上に、クウガも雪風もびっくり。

 

そんな二人に対し、天龍は得意気な笑みを浮かべながら言い放った。

 

 

「フフン、怖いか?」

 

「大丈夫!雪風は怖くありませんっ!!」

「……うん!怖いくらいナイスタイミング!!」

 

「何言ってんだ?お前」

 

とても素直な雪風の返事とクウガのサムズアップに加え、容赦ないファイズの一言を受けて、天龍は何か恥ずかしい事をした気分になり赤面するも、首を振って気持ちを切り替える。

 

 

「相手は姫級か……。上等だッ!!」

 

軽巡洋艦天龍、駆逐艦雪風。

そして戦士クウガにファイズ、オートバジンという異色の混成部隊による迎撃戦が開始された。

 

「行くぜ!!」

 

「マトメテ……シズンデシマエ……!」

 

 

======================

 

 

船橋市の某所……

 

揚陸侵艦出現の騒ぎを知り、真司と青葉は習志野を目指していた。

 

 

「艤装を使って、先に行っても良かったのに。なんでバイク(そっち)にしたの?」

 

真司の使っているスクーター、ズーマーに対し、青葉はHONDA・ジョルノで追従していた。

 

「先輩だって知ってるでしょ?深海棲艦は海だけじゃなくて、最近は(おか)にまで上がって被害を拡大してるんですよ?もし戦艦クラスとかに出くわしたりなんかしたら、先輩独りじゃあ撃沈はほぼ確定ですよ!」

 

「ほぼ確定って……俺、そんなに頼りないっ!?」

 

「頼りないのではなく、心配なんです!先輩てば油断し易いし、おバカだし……」

 

「そ、そりゃあ……相手がヒトっぽい見た目だったら、ちょっと油断するかもしんないけど………って!今、またバカって言った!?」

 

 

人通りの少ない状況とは言え、走行中に雑談するほど二人は打ち解け、同時に安心していた。

 

 

否……油断していた、と言うべきかもしれない。

 

 

「……?」

 

人目の付きにくい、路地裏へと入っていく不審な男女を見つけ、その正体に気付くまでは………

 

 

 

真司と青葉が見つけた不審な男女……熊男ともう一人、ボブカットに鮮やかなカチューシャを着け、明るい緑のワンピースに黒を基調としたカーディガンという出で立ちで、緑の日傘を差した、何処か冷たさを感じる眼の女が並んで歩いた。

 

そこへ、黒いフードパーカーを着た少女がひょっこり現れ、ニヤニヤ笑いながら馴れ馴れしい態度で近寄ってきた。

 

 

「カバノヤツガ、カッテニウゴイタアゲク、飛行場姫ニヤラレタトサ?」

 

それを聞いた熊男達は目を見開く。

 

「ガバリ・グ?」

 

日傘の女が尋ねるも、熊男は鼻で笑った。

 

「フン……ダバ・バンゾドド・ドキャギギ・ザソグ」

 

 

そんな会話の様子を、真司と青葉は気付かれないよう用心しつつ、観察していた。

 

 

(先輩……まさかと思いますけど、あの集団はもしかして?)

(うん……。前回、品川区で行われた対策班の突撃作戦から逃れた、揚陸侵艦の一味だ!)

 

 

青葉がカメラを構えようとした、その時。

 

桜のタトゥの女が、白尽くめの少女と初老の男を連れて、熊男たちの前に現れた。

 

日傘を差した女は傘を畳み、フードパーカーの少女は先程までのニヤケ顔を止めた。

 

すると熊男は桜のタトゥの女の前に出て、ニヤリと笑った。

 

 

「ツギハ・オ・レの、バン……ダろ?」

 

しかし、桜のタトゥの女は眉一つ動かさずに返した。

 

「ま・だ、だ」

「!?ナゼ……!」

 

 

(「まだ」……って、何がだ?それに「オレの番」って………)

 

もう少し詳しく聞き取れないか、真司が耳を(そばだ)てようとした……その時。

 

 

クシャッ…

 

「!!」

「っ!!?」

 

 

ポイ捨てされた物であろう、スナック菓子の袋を踏んでしまい。その音が元で気付かれてしまった。

 

「やっべ……!!!」

 

 

 

さらに同時刻。

 

仮設基地までの道を再確認しようと、北上たちは近くのバス停で一息ついていた。

 

 

「………ん?」

 

その最中、北上は少し離れた先にあるコンビニから出てきた、初老の男性と並んで歩く、黒い装飾品を身に着けた白い髪と肌をした少女の姿を目の当たりにし、驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「嘘……、《()(ちく)(せい)()》が、なんで町中に………!?」




応援して下さっているみなさん、大変お待たせしました。

またしても、かなりグダついておりますが、極力、矛盾点の無いようにシナリオを組み立てつつ、カタツムリ更新ではありますが、頑張って進めて参ります!!

失踪だけはしないよう気をつけますので!


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131話 : 会敵

あーでもないこーでもないと、ひたすらにシナリオを組み立てては壊し、また組み立てていく事の繰り返し………。


そんな中での更新で御座います。


雄介の小学生時代の恩師、神崎と会うべく、北上と大井、島風の三人は神奈川県へと訪れていた。

 

しかし……その道中、深海棲艦の上位個体の一種である《駆逐棲姫》が、一人の男性と共に歩いている光景を目撃してしまう。

 

 

「北上さん……あの人……」

 

大井の呼びかけに、北上はハッと我に返る。

 

「大井っち……。うん、そうみたいだけど……今は止めとこ?」

「……はい」

 

「二人とも…大丈夫?」

 

同様に、島風は二人の様子を気にかけた。

 

「しまぷー」

「島風ちゃん……ええ。もう、以前の様にはならないから」

「……なら、良いんだけど」

「えへへ、ありがとね?」

 

 

 

重雷装巡洋艦艦娘・北上と大井。

 

《建造》から生まれた艦娘《オリジナル》である両名は、オリジナルであるが故に、一つの強い衝動を抱えていた。

 

深海棲艦への強い敵対心。

一種の「殺戮衝動」や「破壊衝動」とも言えるそれを、強い精神力や自制心でコントロールする事が出来なければ、深海棲艦と変わらなくなってしまう。

しかも、そういった精神的に不安定な艦娘は、人類の守り手である彼女らを単なる「兵器」と見なす大本営の一部派閥や指揮官達に取っては、自分たちの身に危険を及ぼしかねない「欠陥品」も同然の存在でしかなく、わざわざ生かしておく意味が無い。

 

この様な、連中の身勝手極まりない理由の為に、建造されて日も経たぬ内に「戦力外」として解体される艦娘が出る事も、かつての石ノ森を始めとした一部地域ではさほど珍しい話ではなかった。

 

 

二人が辛うじてそれを御する事が出来たのは、長門や妙高を始めとした先輩艦娘や島風ら後輩の存在が大きな理由として挙げられるだろう。

 

しかし……それでも、今は亡き塩川を始めとしたブラック提督などの蛮行により、その感情はよりどす黒い物へと変質していった。

 

北上と大井の二人に違いが現れたのは、姉妹艦であり、同じくオリジナルとして生まれた《木曽》の暴走と解体処分であった。

 

当時、石ノ森に着任していた提督も、ご多分に漏れずの屑男であり「実“戦”に勝る経験無し」として、練度も装備も不十分な新米艦を激戦地へと送り出し、轟沈すれば役立たずと罵り、生還しても敵を沈められなければ「臆病者」と責め立て、さらに「玉砕覚悟で討ち取れ」と言って最低限の補給物資だけを持たせ、休息を与える事無く出撃させるという、支離滅裂な指揮を執っていた。

 

そして‥‥木曽も同様に、その無茶苦茶な指揮に振り回された。

 

後になって判った事だが、彼女の暴走は屑提督の狂った指揮による精神崩壊が大きな原因であり、提督はそれを「不良品」と決めつけ、解体処分しようとした。

 

 

北上は、これ以上の横暴は我慢ならないとして、大井と共に提督を拘束しようとした。

 

そこへ、突如として木曽が乱入。提督のみならず、北上と大井にも攻撃を仕掛けてきたのである。

 

必死に止めようと説得したが、残念ながら、この時既に、木曽は《艦娘》としての人格をほぼ喪失しており、残されていたのは徹底的に刻み込まれた「眼前の敵を屠る」という闘争本能だけだった。

 

木曽の放った流れ弾と殴打により提督は死亡したが、自我を失った木曽を鎮守府に置くことは出来ないとして、北上と大井は自分たちの手で木曽を《解体処分》‥‥その生に引導を渡した。

 

この事件が元で、北上は鎮守府を一度去り、大井は提督という存在に強い憎しみを抱き、痛みや悲しみを共有する北上以外の全てを信じられなくなってしまったのである。

 

 

「‥‥‥!」

「ん?どうした?」

 

一方、そんな北上と大井の気配を感知したのか、《駆逐棲姫》は辺りを警戒し始める。

 

当然、一般人である神崎には彼女がどうしたのかは分からないので、とりあえず尋ねてみた。

 

「艦娘‥‥近クニ、イル‥‥強イ気配ガ2ツト、私ニ似タ気配ガヒトツ‥‥‥」

 

「カンムス‥‥?」

 

そう言えば、五代が先日「艦娘の弟子が出来た」とか電話で話していたな‥‥

 

この子(モモカ)に似た子が居る、と言うのであれば、きっと初対面でも打ち解けられるであろう‥‥そう思いながら、神崎も共に周囲を見渡した。

 

 

そして―――

 

「っ!」

「ア‥‥‥」

 

 

艦娘と深海棲艦、互いに姿を確認した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

船橋市内 12:49 p.m.

 

 

ちょっとした不注意から、存在を気付かれてしまった真司と青葉。

 

桜のタトゥの女やその他の集団は、黒いフードパーカーを着た少女を残し、その場を後にする。

 

「ヤッチマウゾ?アトデ生カシトケヨ、トカ言ッテモオセェカラナ!キャハハ!!」

 

その少女は、とても嬉しそうに笑みを浮かべると、より一層眼をギラつかせた。

すると、次の瞬間、少女の背中から太い尻尾の様な物が伸びて、それは独立した生き物のように牙を剥き出した。

 

 

「ウソ‥‥!?なんでコイツが!?」

 

「青葉ちゃん?コイツが何か知ってるのか!?」

 

 

信じられないという驚愕と恐怖心から、微かに震えながらも青葉は頷く。

 

 

「《戦艦レ級》‥‥‥深海棲艦の中でも、飛び抜けて強力かつ危険な個体です!!!」




やっと進められたと思ったら、半歩‥‥良くても一歩進んだだけだった(ヽ´ω`)

ホント、スランプってコワイ‥‥‥


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132話 : 対決!龍騎&青葉VS戦艦レ級

サブタイトルが変わってますが、現在はライダーと艦娘の本格クロス「艦呼列編」であり、場所やメインの視点を変える際、少しでも分かりやすくなるようにという事でご了承下さいm(_ _)m


揚陸侵艦出現のニュースを聞き、真司は青葉と共に船橋市内を移動していた。

 

その道中、不審な集団の姿を目撃。揚陸侵艦関連かと聞き耳を立てていたのだが、運悪く感付かれてしまい、集団の一員らしき黒パーカーの少女に襲われてしまう。

 

その少女は、深海棲艦の中でも強力かつ危険な個体《戦艦レ級》だった………。

 

 

======================

 

 

「ちょ……どうすんだよ!?艦娘の間でもヤバいって評判の相手に、生身でやり合おうとか自殺行為じゃんかっ!!」

 

青葉からの解説に青ざめ、冷や汗の止まらない真司。

 

「青葉だって丸腰+単騎(ひとり)で応戦とかやりたくありませんよっ!!大体、先輩だって身を守る手段はあるでしょ!?」

 

「んな事言ったって!こいつはミラーワールドでしか使った事ねぇし!!仮に変身出来ても、力を使えるかは分かんねえだろ!?」

 

 

二人であれこれ口論していると、レ級は尻尾を振り上げた。

 

或いは、尻尾の先に頭部らしき物があるので、鎌首をもたげた、とも言えるかもしれない。

 

「イチャツイテル暇ガ、アルノカ…ヨッ!!」

 

「っ!!しまっ……!?」

「くっ!!」

 

レ級の尻尾が襲いかかるも、青葉は真司を突き飛ばしつつ、跳び退いてこれを回避。

 

「ぐえっ!」

 

突き飛ばされ、さらに尻餅を突いたことで軽く咳き込む真司。

 

「二手ニ分カレタッテ無駄ダゼ?」

「本気で暴れたきゃ、相手の準備ぐらい待ちなさいよ!」

 

レ級の脅しに屈さず、青葉は強気な言葉を返し。

近くに駐車している自動車のボンネットにカードデッキをかざした。

 

「艤装、展開ッ!!」

 

レ級に指差し、デッキをVバックルへセット。

艤装を纏い、戦闘態勢に入った。

 

「青葉ちゃん!!」

「先輩は警察に連絡を!!此処は私が足止めします!!」

 

真司に襲いかかろうとする尻尾を牽制、レ級本体にも砲撃を行いつつ、青葉はレ級を引き離そうと試みる。

勿論、前回の事もあるので、撤退のチャンスを作るまでの時間稼ぎだけに留めるつもりだった。

 

 

……しかし、彼女は忘れていた。

 

自身の慕う先輩にして、何があっても守ると決めた大切な人である城戸真司という男が

 

 

「またそうやって、何でもかんでも一人で背負い込むなっつうの!!」

 

底無しの「馬鹿」である、と言う事を。

 

「変身!!」

 

カードデッキをVバックルにセット、真司は仮面ライダー龍騎に変身。

 

「うおおおおッ!!」

 

気合い一発、声を張り上げると同時に飛び出し。

 

「フン」

 

レ級が繰り出す尻尾に頭から丸呑みにされてしまった。

 

「先輩っ!!」

「キャハハ!!オマエノオトコ、馬鹿ダナ?セッカク逃ゲラレタノニ、自分カラ喰ワレヤガッタ!♪」

 

ゲラゲラと大笑いするレ級だが、青葉の表情は絶望していなかった。むしろ、苦笑いをしていた。

 

「……ドウシタ?呆気ナ過ギテ、泣クコトモ出来ナイカ?」

「そうですね……確かにその人は馬鹿ですよ」

 

 

そう呟いた、次の瞬間。

レ級の尻尾に、異変が生じる。

 

「ッ……?ナッ!?」

 

 

「その人は、どんな事にも真正面から突っ込む事しか出来ない正真正銘の大馬鹿野郎で……卑怯になれない馬鹿正直なヒーローですから」

 

 

「ぬうぅぅおおおおお……!!!」

 

レ級の尻尾の口を、力任せに開けようと踏ん張る龍騎の姿が現れたのだ。

 

「だああああァっ!!」

 

 

バキッ!!という、鈍い音と共に尻尾の大顎が裂ける。

すると、黒い血飛沫を上げ、吠えながらもがき苦しむ尻尾から飛び出した龍騎は青葉とレ級を交互に見る。

 

青葉は安堵と呆れの入り混じった苦笑い。

レ級は信じられないといった様子の驚愕と怒りのこもった眼差しで睨みつけていた。

 

 

「っしゃあッッ!!」

 

よく分からないが、とりあえず危機は脱した様なので、龍騎はガッツポーズを取りながら叫ぶのだった。




やってみたかったシーンのハズなのに、何か我ながらコレジャナイ感のある描写になってしまった……

ほんと、クロスオーバーは大変です(ヽ´ω`)


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133話 疾駆

だいぶ遅くなりましたが、最新話です。

新年の挨拶もイマイチ決まらぬ有様ですが、今後も応援していただければ幸いですm(_ _;)m


千葉県 習志野市内 12:50 p.m.

 

「フフ‥‥クスクス‥‥」

 

深海棲艦《姫級》・飛行場棲姫の繰り出す艦載機による猛攻を、戦士クウガと雪風、ファイズと天龍は辛くも凌いでいた。天龍や雪風の砲撃、オートバジンのバスターホイールを以てしても、飛行場棲姫の耐久力は凄まじく、攻撃が通じているのかさえ分からぬ程だった。

 

「ちっくしょお‥‥。一筋縄じゃいかねえ頑丈さだってのは報告書とかで知っちゃあいたが、コイツは想像以上だぜ!」

 

「ししょー!天龍さん!雪風が援護射撃に回りますので、その隙に攻め込んでくださいっ!」

「雪風ちゃん!?」

「バカ野郎!!そんな事したらお前が‥‥!!」

「だいじょーぶ!!雪風は、カンタンには轟沈(しず)みませんッ!!」

 

雪風の気持ちは嬉しいが、相手は深海棲艦の中でも上位種‥‥底知れぬ力を秘めているであろう強敵だ。駆逐艦である雪風一人に任せては、それこそ取り返しのつかない事になりかねない。

 

しかし‥‥だからと言って、このまま持久戦を行うには、援軍の到着を待つだけの体力も弾薬も残されていない‥‥

 

と、そこへファイズが口を挟んだ。

 

 

「‥‥っち。しょうがねえな」

「!」

「ふえ?」

 

「このメンツで、ここまで粘って、それでも奴の方が火力も堅さも俺達を上回ってる。いくら増援を待ったって、その前に俺らが潰れちまったら意味は無ぇし、万が一来たとしても勝てる保証は無い」

「ソウダ!ダカラココデ、ヒトリノコラズ‥‥」

「けどな」

「‥‥ン?」

 

「打つ手が無い訳じゃねえし、ここで倒れるつもりもない」

「いったい、何を‥‥?」

 

クウガが尋ねると、ファイズは気怠げに答えた。

 

「俺がヤツを食い止める」

「えっ!?」

 

 

ファイズフォンのミッションメモリーを抜き取り、オートバジンの左ハンドルにセット。

 

引き抜くと、【READY】の電子音声が発せられると同時に、フォトンブラッドで構成された深紅の刀身を形成。

ファイズ専用の剣戟装備・ファイズエッジとなる。

 

「‥‥と言っても、“ほんの10秒だけ”だがな」

 

さらに、左腕に装着しているデジタル腕時計・SB-555W 《ファイズアクセル》から専用のミッションメモリー・アクセルメモリーを抜き取るとフォンのメモリ用スロットにセットした。

 

 

【COMPLETE】

 

メモリのデータが読み込まれると、胸部装甲・フルメタルラングが展開。続いて、ファイズのスーツに施されたラインが赤から黄へと一瞬変わり、そのまま白いラインへと変化した。

マスクの複眼も黄色から赤へと変わり、変身完了。

 

 

ファイズ・アクセルフォーム。

 

「人間ゴトキガ‥‥タッタ一人デ、ワタシニ敵ウト思ッテイルノカッ!!」

 

挑発されたと見て、飛行場姫は怒りの声をあげながら艤装を操り、艦載機と別に砲撃を放とうとした。

 

 

それに対する、ファイズの応じ方はあまりにシンプルだった。

 

【START UP】




久しぶり過ぎて、どこをどう見せるべきか。そもそも誰にメインスポットを当てようか………

ひたすらに悩み続け、いっその事、下手に出し惜しみせずにした方が気も楽か?という発想に到った結果、こんなコトに(ヽ´ω`)


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134話 : 撤退

本家艦これの作業も勿論ながら、リアルでの諸事情があったりで執筆が進まず、応援してくれている読者の皆さんには詫びても詫びきれない日々です‥‥(T_T)

そんな中での更新です。


習志野に出現した揚陸侵艦、そして飛行場姫の乱入に対する迎撃を支援するべく、長門と陸奥、吹雪は現場へと急行。

 

到着し、パトカーから降りた、その直後。

 

「ッ!?」

 

彼女らが目にしたのは、飛行場姫が艦載機と共に砲弾の雨を放つ光景と、クウガや天龍、雪風と共闘していたのであろう仮面の戦士が、刀剣らしき装備を手に構え、走り出した瞬間。

 

【START UP】

 

 

「えっ‥‥‥」

 

「ナッ!?‥‥‥ッグア!!ガ‥‥グッハ‥‥ッ!!?」

 

一同の視界から戦士の姿が消えたのだ。しかもその直後、艦載機や砲弾が次々と破壊・撃墜され、さらに飛行場姫が突然、腹を蹴られたような体勢で後方へと吹っ飛んだのだが、地面に叩きつけられる前に背後から攻撃を受けたように跳ね飛ばされ、同時に艤装を使用不可な状態にまで破壊されたのである。

 

【TIME OUT】

 

仮面の戦士――ファイズが宣告した、10秒を報せる音声が鳴り。姿を現したファイズは、ベルトのフォンからアクセルメモリーを抜き取る。【Re.FORMATION】の電子音声を合図に、展開されたフルメタルラングが閉じ、通常形態へと戻った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

これは、《飛行場姫の身に起きた10秒間の出来事》をファイズの視点から見た内容である‥‥‥

 

 

ファイズアクセルの赤いスタータースイッチを押すことで【START UP】の電子音声が鳴ると同時に、超高速行動を可能とした《アクセルモード》が発動。

 

ファイズエッジを手に突撃、迫り来る砲弾や艦載機を切り裂き、時には艦載機を砲弾にぶつけて撃破しつつ、ファイズは飛行場姫の懐へ向かう。

 

「フンッ!!」

 

走り込んだ勢いそのままに、鳩尾へ左脚の蹴りを叩き込むと、そのまま飛ばされていく飛行場姫を追撃。

 

【EXCEED CHARGE】

 

「ぜぇええあッ!!」

 

背後に回り込むと、ファイズエッジによる必殺の斬撃《強化スパークルカット》で艤装“だけ”を破壊。

飛行場姫は艤装を破壊された衝撃と爆発で、前のめりに吹き飛んだ。

 

【3‥2‥1‥‥TIME OUT】

 

アクセルモードの発動時間‥‥すなわち10秒が経過。

 

ファイズがアクセルメモリーを抜き取ると同時に【Re.FORMATION】の電子音声が鳴り、ファイズは通常形態へと戻ったのである。

 

 

「‥‥‥‥!!」

 

一連の出来事を目の当たりにした、クウガや雪風、長門たちは言葉を失っていた。

 

確かに、これまでにも、彼らは常軌を逸脱した事象を数多く目にしてきた。だが‥‥たった今、目の前で起こった10秒間は、その全てを圧倒していた。

特に、姫級や鬼級の深海棲艦との交戦を幾度か経験している長門と陸奥は驚きを隠せなかった。

 

「長門‥‥今、何が起こったの‥‥?」

「解らん‥‥解らないが‥‥‥あの仮面の戦士が、たった一人で飛行場姫を《損壊(大破)》させた事が嘘などではない事は確かだ‥‥!!」

 

「ハア‥‥ハァ‥‥ッ‥‥。ナニヨ‥‥イ‥イタイ、ジャナイ‥‥!?」

 

傷だらけとなり、艤装を破壊されながらも、目付きや口調は戦意を失っていなかったが、それでも飛行場姫の胸中にはハッキリと恐怖心が芽生えていた。

 

コイツは危険だ。艤装も艦載機も壊された今、早くこの場を離れねば自分に命は無い、と。

 

 

その時‥‥

 

「ッ!?ぐ‥‥う、ぁ‥っ!」

 

突然ファイズが痙攣を起こし始め、踏ん張ろうとするがフラつき、膝を着いてしまう。

 

「っ!!」

「お、おい!大丈夫か!?」

 

天龍と雪風がファイズの下へ駆け寄る隙を見て、飛行場姫は戦線離脱。

 

「あっ!?飛行場姫が!!」

 

吹雪が慌てて追いかけようとするが、陸奥に腕を掴まれて止められた。

 

「止めなさい!!駆逐艦一人で追いかけようなんて、わざわざ自沈しに行くようなものよっ!?」

「で、でも!!」

 

「陸奥さん!俺が行きます!!」

 

吹雪の抗議よりも早く、クウガは走りだした。

 

「五代!!」

 

長門が呼び止めようとするも、彼が止まる訳も無く。

 

「!」

 

そこへ、新たな来訪者が姿を現した。

 

「‥‥で、でっかいクワガタ‥‥??」

 

遠くから聞こえてきた、謎の飛行音に何事かと見上げると。

 

大型バイクほどの大きさをしたクワガタムシのような物体が、奇妙な言語を発しながら現れたのだ。

 

「ゴウラム!!」

 

《ゴウラム》と呼ばれたソレは、クウガの元へ向かうと彼の腕を掴み。空高く飛翔した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

時は少し遡り‥‥

 

神奈川県内にて、北上と大井、島風の3人は、目的地へ着く前に雄介の恩師・神崎と、彼が連れていた駆逐棲姫と出会った。

相手が姫級という事から、初めは警戒したのだが、「モモカ」と呼ばれている彼女のおとなしげな性格と、神崎に純粋に懐いている様子から敵意や害は無いと判断。

雄介や彼と関わった人々に影響されてか「まずは信じてみよう。後の事はそれからだ」と、前向きに捉える事にしたのだった。

 

「そっかぁ。雄ちゃんが言ってた先生の新しい家族って、モモカちゃんの事だったんだ?」

「ウ、ウン‥‥」

「そういう事になりますね。すると、五代が言っていたお弟子さんというのは?」

「あっ‥‥私は違うんだけど、友達の雪風っていう娘が、ゆーすけの一番弟子をやってます」

 

目的地に着くまでの間、バスに揺られながら、北上たちは神崎と親睦を深めていった。

 

「ところで神崎先生。駆逐棲姫‥‥えっと、人間や艦娘と敵対している深海棲艦の一種であるモモカちゃんとは、どういったご縁で?」

 

神崎やモモカを傷つけぬよう、大井は慎重に言葉を選びながら経緯を尋ねる。

 

それに対し、神崎は苦笑いを浮かべた。

 

「どこにでもある、ありふれた話ですよ」




ドラマが‥‥

物語が定まらないぃ‥‥(ヽ´ω`)ノ


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135話 : 深海棲艦の価値観、人間の価値観

「艦呼列」編におけるクウガを始めとしたライダー達。

様々な形で絡み合っている現在ですが、実は意外な所で意外な繋がりが既にあった様です‥‥‥


千葉県 木更津市内 01:06 p.m.

 

 

ファイズ・アクセルフォームの猛攻を受けた事により、状況を不利と見て退却した飛行場姫を追って、クウガは《馬の鎧》ゴウラムと共に上空から探していた。

 

(何処だ‥‥?)

 

初めのうちは、“緑のクウガ”の超感覚を駆使して追跡を行っていたのだが、流石は深海棲艦の上位に位置する個体と言うべきか。

飛行場姫の対空防御力や索敵能力は想像以上に高く、クウガの姿を発見するや、僅かに残っていた弾薬を駆使して迎撃を開始した。

 

 

回避を続けるクウガだが、“緑のクウガ”ことペガサスフォームには50秒という制限時間がある。しかも50秒を過ぎれば2時間の間変身不能となる為、そのリスクを避けるべく、限界ギリギリの手前でトリトンフォームへ超変身。機銃型の装備で足止めを試みるも、命中精度が急激に低下した影響もあって砲撃失敗。仕舞いには完全に見失ってしまった。

 

「!」

 

次から次へと積み重なっていく問題について、どれをどう対処したものかと思い悩んでいた最中。川沿いで俯せに倒れている人影を見つけた。

 

まだ助けられるかと思い、急いで駆け寄り、抱き起こすも、血溜まりの中で倒れていた男性は既に息絶えていた。

 

‥‥‥しかも、クウガが息を呑んだ理由はそれだけではなかった。

全身に酷い火傷を負っていたので一瞬判らなかったが、その男性は、先程クウガやファイズ、雪風らと相対し、さらに飛行場姫の爆撃を受けて火だるまになりながら川に落ちていった、ズ・ガバリ・ダの人間態だったのだ。

 

 

「‥‥‥」

 

火傷によるダメージの他にも、艦載機による物であろう咬み傷や、飛行場姫の持つ巨獣の様な艤装による砲撃と思われる貫通孔が腹部に残っていた為、かつてクウガが戦った未確認生命体と同様、傷の回復が出来ぬまま力尽きた様だった。

 

 

「!」

 

敵とは言え、死体を目の当たりにして黙り込んでいたクウガの頭上で、突如、プロペラ機のエンジン音が聞こえてきた。

 

(あれは‥‥彩雲?て事は‥‥)

 

上空の偵察機を発見した、その直後。南方――横須賀方面から来る、艦娘数名の姿を発見した。

 

 

「加賀さん!!」

「!」

 

自分たちを呼ぶ声に気付き、加賀と足柄、妙高、軽空母《飛鷹》はクウガの姿を見つけた。

 

「五代さん?」

「今、そっちに行きます!」

 

慣れた動きで水面に跳び移り、一行の元へ向かった。

 

「あらあら、島風ちゃんや足柄みたいな身のこなしね?」

「ちょっ、姉さん!?流石の私でも、あそこまで飛んだり跳ねたりしないわよ!?てゆーか、五代(あの人)は一応一般人よね!?艦娘(私ら)より動きが様になってる気がするんだけどっ!!」

 

しばらく振りの再会とは言え、クウガ――雄介の変わらぬ行動の速さと順応性の高さには、足柄程ではないものの加賀も密かに驚いていた‥‥が、それを表に出すことは決して無かった。

 

「ひょっとして、加賀さん達も習志野へ?」

「ええ、飛行場姫が陸上に上がってきたとの報告がありましたから。貴方こそ此処で何を?」

「利根さんから揚陸侵艦が習志野に出たって報せがあったんです。ホントは、雪風ちゃんと横須賀へ行く約束があったんですけど‥‥」

 

(横須賀へ‥‥?)

 

揚陸侵艦事件の解決や深海棲艦撃破の協力者ではあっても、海軍組織に直接関係がある訳ではない雄介が、雪風と共に横須賀へ何の用があったというのか。

 

「五代さん‥」

「あっ、そうだ!」

 

加賀が尋ねるよりも先に、クウガが声をあげた。

 

()(びつ)(がわ)で、一人亡くなってました!早く長門さん達にも報せないと、他の深海棲艦が集まって来るかも!」

 

「‥‥‥」

 

見失った飛行場姫の行方も気にしてはいるが、それ以上に被害の拡大を心配してくれている雄介に対し、加賀は近頃、複雑な感情を抱き始めていた。

 

市民や国の為、命を懸けて戦うのが艦娘の在り方であるというのが加賀の考えだが、今、目の前に居る異形の戦士は、「兵士」または「兵器」である艦娘をも「己が護るべきもの」とし。その身を、命を懸けて戦っている。

 

戦いとは無縁の‥‥暴力を振るう姿が似合わない、優しい人なのに。

 

 

「五代さん。長門さん達には私が報告します。貴方は一旦、雪風と天龍たちの元へ戻ってあげて下さい」

「‥はい!」

 

サムズアップ。

 

水上ルートの方がいくらか速く動ける事や深海棲艦が居ない状況を活用する事を考え、クウガはそのまま習志野へ向かい、加賀は妙高らと共に小櫃川に遺されたガバリの遺体の元へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

神奈川県 横須賀市内 01:08 p.m.

 

 

「ありふれた話‥‥って、どういう事なのさ?」

「ソレハ‥‥」

 

質問を重ねる北上に対し、モモカは答えようとしたが、話した時の反応が気になるのか途中で口籠ってしまう。故に、神崎が代わりに答えてくれた。

 

 

「3年くらい前でしょうか。元教員であるという理由から、私は海兵士官学校で臨時講師を勤めていた事があるんですよ。その任期が終わる少し前のある日の帰りに、モモカと会ったんです」

 

======================

 

それは、春と呼ぶにはまだ少し肌寒く、朝から冷たい雨が降り注ぐ日であった。

1体の深海棲艦が傷だらけの姿で、雨に濡れながら街を歩いていた。

 

 

「モモカ」という名を持つ駆逐棲姫は、艦娘や人間との対立関係以前に、「戦い」その物に疑問を持っていた。

深海棲艦としての凶暴性や闘争本能よりも、理性的な人格が強く形成されていたのは、彼女が深海棲艦と“人の心を持った人ならざるモノ”との間に生まれた存在であった事は決して無関係ではないだろう。

 

家族とはぐれ、途方に暮れていた所に深海棲艦の一群と遭遇したモモカは、余程精神的に追い詰められていたのであろう。(わら)にも(すが)る想いで、その一群と同行するも、気付いた時には逃げる事も出来ない状況だった。

 

そんな彼女に救いの手が差し伸べられたのは、家族と離れ離れになって7ヶ月ほど経った頃だ。

 

ある輸送船を襲撃し、資材を強奪しようという作戦に連れ出されたのだが、標的の船の乗員らしき男が“折りたたみ式の通信機”と“妙なベルト”を使って姿を変えると、戦艦娘に匹敵する戦闘力で一群を圧倒。モモカは驚きと恐怖のあまり、その場に座り込んでしまった。

 

僅かに生き残った深海棲艦たちはモモカを残して逃亡。早い話が、彼女を捨て駒にしたのである。

 

「‥‥お前は逃げねえのか?」

 

強化服を纏った男に尋ねられるも、モモカは泣き出してしまい、「ゴメンナサイ‥‥ゴメンナサイ‥‥ッ!」と、震えながら謝り続けるしか出来なかった。

 

「‥‥‥お前、“人間”か?」

「!」

 

他の深海棲艦と違う様子を見て、何を思ったのか。

強化服を解除しながら、男は質問を変えた。

最初は「違う」と答えそうになったが、その質問の意図はすぐに理解出来た。

 

お前の心は、人間と向き合えるか。また、誰かを理不尽に傷つけたりした事はあるのか、と。

 

返答した後に何をされるか‥‥恐怖に耐えながら、モモカは首を縦に振った。実際、モモカは艦隊の一員として連れ回されていただけの状況が殆どであり、直接戦闘に参加していた訳ではなかった。

 

そうか、と男は呟くと、モモカに干し肉を食べさせただけでなく、港に着くまで被っとけと言ってビニルシートを貸してくれたのだった。

 

 

こうして、港に着いたモモカは改めて家族を探すべく、街を彷徨う事になったのだが、手掛かりが一つも無い上に「深海棲艦=悪」というレッテルから追われの身となってしまい、人目につかぬよう動かざるを得なくなってしまった。

 

そして、空腹と疲労の限界から気を失い、行き倒れてしまったのだが、そこに通りかかったのが、彼女の家族を捜す手伝いだけでなく、その後、改めて養子として迎えてくれた神崎昭二だったのである。




久々にメチャ長くなっちゃいました(汗)

果たして、描きたい物を描き、描くべきシーンは描けているのか‥‥それが心配だ(←今更


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136話 : 冒険野郎の掛かりつけ医と野良犬提督

最新ライダー・ギーツ、久々のバトルロイヤル系の様ですが、いったいどんな展開を繰り広げていくのでしょうか?


関東医大病院 01:41 p.m.

 

 

習志野での戦闘の最中、意識を失った巧。

そんな彼が次に目を覚ましたのは、病院のベッドの上であった。

 

 

「たっくん!」

「巧!!」

「たくみちゃーん!!」

 

病院への搬送に同行した龍田、五十鈴、長月、文月に呼びかけられ、巧は自身の身に起きた事を朧気ながら理解した。

 

 

「‥‥あの深海棲艦は?倒せたのか?」

 

 

起きて早々、質問の内容が戦闘の結果とは‥‥‥

 

巧の仕事に対する真面目な姿勢に、龍田と五十鈴は感心すると共に苦笑した。

 

「もう‥‥少しは自分の体の心配もしてよぉ」

「全くだ。目立った外傷こそ少ないが、突然倒れたと聞いてるんだからな」

 

龍田の文句に共感しつつ、椿が入室した。

 

「あんたは‥‥」

「当院で司法解剖を担当している、椿だ。流星鎮守府の乾提督‥だったな。あんたの容態を診させてもらったが‥‥もう少しだけ、詳しく診察させてもらえるか?」

 

椿の発言に、どうかしたのだろうかと首を傾げる龍田たちに対し、巧の表情が微かに強張る。

 

 

「‥‥人払いをしたいなら、対応するが?」

 

医者という仕事柄、椿も様々な患者を診てきた。

だから、「診察したい」という椿の申し出に対する巧の反応が、拒絶のそれに近い物である事も直感したのだ。

 

「‥‥頼む」

 

最初は昔の啓太郎(アイツ)みたいに無遠慮な奴かと思ったけれど、流石は医者と言ったところか。ある程度の配慮はしてくれるらしい。

 

‥‥が

 

「あら〜?秘書艦くらいは同席しても良いんじゃないかしら〜」

「お前‥‥」

 

龍田(コイツ)はどうやら、人が困る事を一番困るタイミングで仕掛けるのが得意らしい。

 

「龍田さん、良いの?たくみちゃん人払いして欲しいって‥‥」

 

出来るなら自分も傍に居たいのだろう、文月が不安そうな顔をする。

 

「‥‥うん。ここは龍田に付いててもらいましょ」

「五十鈴?お前まで‥‥」

 

文句を言おうとする巧の額に、五十鈴は指を押し当てる。

 

「情報ってのは、ある程度共有すべき物でしょ?知った時にはもう手遅れだったーなんて、あたし達だって嫌なんだから!」

 

それに、と五十鈴は小声で付け加える。

 

 

「何でも独りで背負い込むのはキツいだけだって、たっくんも知ってるでしょ?」

「‥‥‥」

 

悩みや不安を打ち明けられず、抱え込む事しか出来なかった前例である龍田たちを相手にしていただけでなく、自身も誰かに頼る事が苦手な巧に、この発言は深く刺さった。

 

しかし、だからと言って“自分の秘密”を明かしたとしても、それが彼女らに何をもたらすか判らない‥‥

 

「患者の事情やプライバシーはちゃんと守る。口の堅さも、それなりに信用はしてもらっている」

 

 

なかなか決心のつかない巧と五十鈴たちを見て、椿は一条が着任して間もない頃の石ノ森艦隊を思い浮かべた。

 

ここまでのやり取りだけを見ても、想像以上の訳有りなのはほぼ確定であろう。簡単に問い詰めて良い問題ではないだろうが、五代雄介という(あらゆる意味で)デリケートな問題に首を突っ込み、世界で唯一人の専門の掛かりつけ医を自称してもいるのだから今更だ。

 

抱える問題がいくつ増えようが、自分に出来るのは医者として適切な処置をする事だけである。

 

「巧ちゃん‥‥お願い」

 

龍田たちの懇願する眼差しから眼を逸らしつつ、巧は椿に尋ねた。

 

 

「‥‥本当に、黙っててくれるんだな?」

「おう。詳しくは言えないが、“危ない話”にも関わってたりするんでね」

 

そして、巧は龍田と椿、そして五十鈴の3人だけを病室に残し、長月と文月には待合室で待ってもらう事にしたのだった。




断片的にシーンが組み上がっては崩れる‥‥その繰り返しの中、月日ばかりが過ぎていきます。

椿さん、「アブナイ奴」枠が増えるかも?


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137話 : 鏡像を虚像で終わらせるか・前編

《戦士》クウガ/五代雄介が、流星鎮守府の艦隊と共に揚陸侵艦と戦い、神崎昭二と深海棲艦である駆逐棲姫《モモカ》の二人が、北上・大井・島風の艦娘3名と出会い、交流を深めていた頃。

揚陸侵艦の仲間と思われる深海棲艦《戦艦レ級》を相手に、仮面ライダー龍騎と青葉が苦戦していた。


「キャッハハハハ!!ホラ、ホラァ!サッキマデノ勢イハドウシタ?」

 

中・近距離の攻撃に対応した尻尾を破壊されたにも関わらず、レ級の攻撃の勢いは収まるどころか、より一層激しさを増していた。

 

「ぐっ!どわぁっ!?くっそ~‥‥アイツ、調子に乗ってきてないか?」

「先輩がガッツポーズとかして、油断するからですよ」

「ちょっ、また俺のせい!?」

 

ガードベント《ドラグシールド》で防御しつつ、反論しようとする龍騎だったが、青葉の言うことは全く(もっ)てその通りである為、何も言い返せずに口を尖らせる。

 

「‥‥そりゃ、否定はしないけど‥‥」

「まあ、謝罪は後で構いませんから。今はとにかく、眼の前のレ級撃退に専念しましょ?」

「だな!」

 

 

とは言え‥‥尻尾による噛み付きが出来なくなっても、戦艦レ級の艤装には砲台が備わっている。戦艦特有の火力や耐久力、そしてレ級本体の運動能力までもが失われた訳ではないので、砲撃や立ち回りには十分注意しなければ。

 

 

「う〜‥‥。やっぱり、戦艦相手に艦娘単騎(ひとり)とライダー1人じゃあ、ちょっとピンチですかね?」

「ッ‥‥」

 

ドラグシールドを1つ借り、防御しながら弱気な発言をする青葉に対し、龍騎は仮面の下で表情が険しくなる。

 

もし、ここで一発逆転を狙うために“あの力”を使えたとしたら?

 

ライダーとしての力や、ミラーワールドに関する記憶を取り戻した今なら、当然、あの力も手元にあると考えるべきだろう。

しかし‥‥《最強の仮面ライダー》の力を持つオーディンから与えられた力を、ミラーワールドの外である現実世界で使うなど危険過ぎる。しかも、戦艦ル級という深海棲艦の中でも強大な力を持つ相手に陸上で行使した場合、側に居る青葉は勿論、周囲一帯にどんな影響を及ぼすか計り知れない。

 

(でも‥‥やるしか無いか‥‥ッ!?)

 

 

‥‥と、その時。

 

「‥‥ん?」

 

キーン‥‥ キーン‥‥

 

仮面ライダーやミラーワールドに関わる者たちだけに聴こえる『戦いの音』が鳴り響く。

この非常時に、またミラーモンスターかと辺りを見回す龍騎。

 

レ級にも聴こえたのか、何事かと辺りを見回す。

 

やがて、レ級の右後方に設置されたカーブミラーの“向こう側”に、ヴァイスの契約モンスター・バイトダイラーの姿を見つけた。

 

「な‥‥なんだ?」

 

思わぬ来訪者の姿に驚く龍騎。

 

しかも、その傍らには

 

「熊野さんっ!?」

 

青葉と同型の、特殊なVバックルを身に着けた熊野の姿もあったのである。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

警視庁鎮守府 工廠 01:21 p.m.

 

艤装やG5ユニット等の装備開発・整備と動作テストを行う開発エリアにて、明石はとある人物と連絡を取っていた。

 

「‥‥はい。ご推察の通り、揚陸侵艦の艤装は、厳密には艦娘(私達)や深海棲艦のモノとは似て非なる物みたいです。ええ‥‥勿論、研究材料が不十分な状態で判断を下すのは、あまりにも危険ですからね。その辺は榎田さん達とも話し合って、山県中将に舵取りをしていただいている所です。はい‥‥お忙しい中お時間いただき、本当にありがとうございました」

 

「‥はい!また沢神さんや結城教授(センセイ)たちを誘って、皆で焼肉食べに行きましょ?小沢先輩」

 

連絡先の人物‥‥小沢澄子との通話を終えた、その直後。

 

「!」

 

キーン‥‥ キーン‥‥

 

明石の耳に『しばらく振りの音』が鳴り響く。

 

 

「はぁ‥‥ったく、もう!ちょっと気を抜いた途端にコレだなんて‥‥」

 

とは言え‥‥選ばれ、選んだ以上、逃げも拒絶も許されない。

 

(おまけに、契約対象が見かけと違って人懐っこいとか、どこのマスコットなモンスターよ‥‥)

 

人目を避け、大型の資材を積んでいる倉庫へと向かった明石がフォークリフトのサイドミラーに向かってかざしたのは、『象のエンブレムが刻まれた灰色のカードデッキ』だった。

 

 

「変身!」




大変、長らくお待たせ致しました。
話の結びつきがぶっ飛びまくりで、辻褄合わせにもなってないと思いますが、どうかご容赦下さいm(_ _;)m

次回もかなりの間が空くかと思いますが、何卒よろしくお願いいたします。


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