いずれ真理へと至る王の物語 (Suspicion)
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プロローグ:真理へと至る王の誕生

 

とある世界の王都郊外

そこにはとてつもない数の兵士が王城へ向けて、まるで津波の様に押し寄せていた

現在進行形で攻め込まれている王城の玉座には、2本の莫大な力を放つ日本刀を携えた王が、眼を閉じ鎮座している

 

「陛下!敵軍がそこまで攻めて来てるぜ!マジで数がヤバい!!」

 

そう報告するのは、額に立派な一本角を持つ鬼神

その様子は、焦燥から余裕がなく、切羽詰まっていた

 

「敵は人界の者達が大半を占めた各界の混成軍の様です。おそらく人界が他の世界を煽動しているのかと。本当に忌々しい奴等です」

 

更に追加の報告をするのは黒い氷の鱗を持つドラゴン

先程の鬼神とは違い、怒りを湛えている

 

「……そうか…」

 

王はただ、静かにそれだけを口にする

抑揚があまり感じられない声音には、深い悲しみと静かな怒りが込められていた

 

「如何いたしましょう?今ならば逃走も出来ますが…」

 

そう問うのは王の傍らに控えていた、白銀の毛皮を持つ巨大な狼

 

「…分かり切った事を…王である俺が民を見捨て、逃げる筈もあるまい…かと言って、ここで俺が討たれるわけにはいかぬ…ならば答えは1つ。往くぞ。奴等の下らぬ願い、悉く滅してやろう…我が後に続け」

 

「「「我等が王の仰せのままに!!」」」

 

「……人は…そうまでして…理をねじ曲げたいか…」

 

そう呟く王の声は小さく、誰の耳にも届かなかった…

 

…それはいずれ来る争い…

 


 

─時は遡り─

 

聖界のとある病院で突然の爆発音が鳴り響き、病院内は騒然としていた

爆発音と共にとある部屋から赤ん坊の鳴き声が響いていた

 

「今の爆発はなんだ!?あの方向は…まさか!?」

 

病院の廊下を豪華な白と金を主とした服を着た20代後半程の男性が慌てて走っていく

─この男、何を隠そう、聖界の若き王なのだ

今日、自身の正妻が産気付き、ずっと我が子の誕生を心待ちにしていたのである

仕事を一段落させ、病院に着いてすぐのことだった

爆発音は妻の病室と同じ方向、これはただ事ではないと歩を早める

 

暫く走ると、前方から妻に連れ添っていたメイドが王を見付け、駆け寄ってきた

 

「陛下!おめでとうございます!無事産まれました!!」

 

メイドが告げた言葉は王が何よりも聞きたかった事だった

 

「そうか!良かった!それでどっちだ?男の子か?女の子か?」

 

「お喜び下さい!男の子と女の子の双子でございます!」

 

佳い事は1つではなかった

なんと子供は双子だったのだ

 

「おぉ…素晴らしい!だが先の爆発音はなんだ!?」

 

「それが…先に産まれた男の子が…産声と同時に雷を放ち…」

 

有り得ない事だ

産声で魔法を発動させるなど、聞いた事もない

 

「産声で魔法を発動したのか!?それで被害は?」

 

「周囲への被害は設備、人、共にありません!おそらく発動と同時にかき消したものと思われます。お医者様も凄まじい魔力を宿していると仰っております」

 

王は歓喜に身を震わせていた

当然だ、この次元において魔力とは才能だ

生まれながら我が子が莫大な魔力を保有する

それはいずれ自分の後を継ぎ、王になる者が強大な力をもって世界を護る事が出来ると言う事だ

 

「何と…これで我が世界の将来は安泰だ…今日は何とめでたい日だ!どれ、愛し子の顔を見に行こう」

 

「今は王妃と共に病室で陛下がお越しになるのを心待ちにしておいででしょう。報道陣も控えております故、お急ぎ下さい」

 

 

メイドに案内された病室のドアを、緊張した面持ちでノックする

 

「どうぞ」

 

「失礼するよ」

 

病室のベッドには長く美しい金髪をした王妃と、同じく金髪の双子の赤子が王を待っていた

 

「よくやった!よく頑張ってくれた!」

 

王は興奮冷めやらぬ、といった様子で妻を労い、涙すら浮かべる

王の後に続き何人かの大臣や報道人が入室する

 

「ありがとうございます…さぁ、抱いてあげて下さいな、貴方様のお子です」

 

「どれ、我が子達よ…

パパでちゅよ!

何と愛らしい!」

 

「ゴホン!陛下、人前です。お控え下さい」

 

「う、うむ、すまん…」

 

大臣に怒られた

待ちに待った我が子の誕生に完全に立場を忘れていた

この王、既に親バカなのだ

 

「貴方、この子達の名を…お願いしますね」

 

「大丈夫、既に考えてある。男の子は瑞稀、女の子は幸穂だ」

 

「瑞稀、幸穂。美しい名ですね。どのような意味が?」

 

「幸穂は、善き縁に恵まれ、この子にとって幸せになって欲しいと、願いを込めた。瑞稀は、いつまでも強く健康的に不自由なくいられるように。そして民の願いを汲み取る善き王になってくれるようにと、願いを込めた」

 

王の暖かな微笑みにつられ、王妃や周りの者も笑みを浮かべる

病室は暖かな笑いに包まれていた…

 


 

それから数ヶ月後

 

聖界は未曾有の大災害に見舞われていた…

それは星をも砕く吹雪、ワールドブリザードと呼ばれる大災害

空間すら凍てつかせ、全てを氷の世界に変えてしまい、常に強力な界を張り巡らしていなければ、瞬く間に死に絶えてしまうワールドエンド級の大災害が、聖界に直撃したのだ

「瑞稀と幸穂を無事人界に避難させたか!?」

「それが、殿下達のお姿が見えぬのです!」

 

「護衛の者達が宇宙船で避難させたのではないのですか!?」

「いえ、まだ避難用の宇宙船は1隻も出ておりません!全ての宇宙船をくまなく探しましたが見付かりません!!」

 

「そんな……」

 

…その後、王宮中を探しても双子は見付からず

吹雪が収まり聖界中を探しても双子を見付ける事は出来なかった…

 

その2年後王妃が心労で病を患い亡くなった…

王はあまりの哀しみに耐え切れず、王位を捨て辺境にて世捨て人となった

 


 

…そしてワールドブリザードから時は流れて9年後…

 

人界のとある貴族の館の庭で、1人の少年が木刀で素振りをしていた

 

 

「おい、アイツまた1人で木刀の素振りしてるぜ!」

 

「声がでけぇよ!聞こえるだろ!まぁいいや!ちょっとからかってやろうぜ!」

 

赤毛をした男の子2人が庭の隅で、1人素振りをする金髪の男の子を指差し嗤う

 

「………」

 

(…うるせえな…マジでウゼェ…)

 

彼の名は瑞稀

9年前にこの館の貴族に拾われた養子だ

貴族は鬼崎と言う鬼神の血を継ぐ一族の宗家、人界の五大貴族の1つだ

鬼神の力を受け継ぎ、膨大な魔力、卓越した剣技、強力な炎系魔法を主とした、鬼崎流と呼ばれる技は各界でも名が知れ渡る程、強大な力を持つ貴族だ

 

しかし、鬼崎の者はエリート意識がやたらと強く、自分達こそが頂点であり、それ以外は取るに足らないと考えている

他者を見下し、貶める事に疑問を抱く事すら無いのだ

 

「おい!瑞稀!どれだけ頑張ってもお前なんか出来損ないにうちの流派は教えないぜ!」

 

「そうそう!お前なんか魔力も無い、出来損ないだからな!」

 

「………」

 

そう、彼等が言う様に瑞稀は殆ど無いに等しい位の魔力しか保有していない…

 

「お前なんかただの人間にすら魔力総量で負ける出来損ないじゃねえか!」

 

「そんなヤツがうちの流派を使えるはずないもんな!無駄な努力なんかやめて、黙って俺たちの奴隷として生きていけよ!!」

 

だが一般的に考えても彼の魔力量は不自然な程少ない、少なすぎるのだ

とはいえ、子供にそんな判断が出来る筈が無い

だからいつも瑞稀は、魔力無しの出来損ないとイジメられている

 

「…うるせえな…」

 

「なんだと?!」

 

「もういっぺん言ってみろ!このやろう!」

 

「うるせえって言ったんだよ、てめえらみたいなバカにかまってやる暇なんかねえんだよ、どっか行けよ、シッシッ!!」

 

「このやろう!!瑞稀のクセにナマイキだぞ!!」

 

「ボコボコにしてやる!!!」

 

結果、瑞稀はボコボコにされた…

 

「コラー!!!お前ら何やっちょる!!」

 

そこに雷鳴の如く怒声が響き渡った

 

「ヤベ!じいちゃんだ!逃げろ!」

 

「逃げろー!」

 

鬼崎のワルガキ2人は脱兎の如く凄まじい速さで逃げていった

 

「全く、なんて逃げ足の早さだ…瑞稀や、大丈夫か?立てるか?」

 

そう言って瑞稀に優しく声をかけ手を差し伸べる

彼は瑞稀の養母の父、つまり祖父である鉄平

五大貴族の1つ、奈落一族の本家、奈良橋家現当主でもある

 

 

「………」

 

…2人に散々殴られ蹴られた瑞稀は9歳の子供とは思えない程、気丈に振る舞い泣く事も無く立ち上がり鉄平の手を払った

 

「…よけいなお世話だ…ジジイ…」

 

血を流しながらも瑞稀は館に戻っていった…

 

「……」

 

1人、庭に残された鉄平は瑞稀の背中を見つめながら心を痛めた

 

(瑞稀…いつも気丈に振る舞っておるがもう限界じゃ…このままではあの子が壊れてしまう…)

 

鉄平は瑞稀の様子を見るために、時間を見付けてはこうして足を運んでいた

鬼崎の子供達にどれだけ自分が道徳を説こうと、全く効果がない

ならばと瑞稀を庇おうとしても、頑なに瑞稀は鉄平の助けを拒み続けていた

まるで、何かに怯えるような眼をしながら…

 

(あの子は人に裏切られる事を恐れている…あの歳で既に人の醜い部分を見すぎた故に、人を信じる事が出来ぬ様になってしまった…儂が助けねばならん…何よりもあの子は、おそらく彼女の血を引いておるかもしれん…)

 

鉄平はこの日、瑞稀を引き取る覚悟を決めた

 

 

 

 

 

 




非常に読み辛く拙い文章で申し訳ない!
文才が欲しい(泣)


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第1章、人の王
力とは何のために


今回は後のための伏線です
今回も駄文ですが生暖かい目でお読み下さい!




「力とは何のためにあると思う?」

 

…誰かが少年に静かに問う

 

「さぁ?分かんないね。

でも俺にとって力は自分を守るためのモンだよ」

 

少年はぶっきらぼうに答えた

物心ついた時には、迫害されていた…

物心ついた時には、実の親は居なかった…

そんな少年にとって力は、周りから自分を守るための手段だった

 

そんな少年の答えに、僅かな微笑みをたたえながら、誰かが静かに告げる

 

「確かにそれも1つの答えだろうさね。

でもね瑞稀、力とは自分だけを守るものじゃない。

自分の大切な人を、守るためにこそ振るうべきなんだよ。

力ある者には、力なき者を護る義務があるんだ。」

 

…優しく、それでいて覇気のある言葉だった

 

「…よくわかんない…」

 

「あんたにもいずれ分かるよ…」

 

 

 

そう言って少年の頭を愛おしそうに撫でる…

 


 

「……夢か…あれは誰だ?覚えがない…でも…凄く綺麗な声だった…」

 

気怠げに布団を頭まで被り直すのは、美少女と見紛う程に美しい顔立ちをした、金髪の少年

16歳になった瑞稀だった

9歳の時に祖父、鉄平に引き取られ、今は奈良橋家で祖父、鉄平と祖母、敬子と暮らしている

 

「瑞稀~朝だよ~起きておいで~」

 

「!!!」

 

優しい祖母の声が響き、瑞稀は慌てて飛び起きた

 

 

「婆さん!今何時だ!?」

 

急いで自分の部屋から、リビングまで走って来た瑞稀は、金髪の背中まである寝癖のついた髪を整えながら問う

何故か知らんが、祖父が髪を切らせてくれないのだ

 

「まだ6時前だよ、安心しなさい、寝坊してないよ」

 

「瑞稀、寝惚けとるのか?部屋に時計があるんじゃ。時間位確認すればいいじゃろうが」

 

「……はあ、やかましいわ。夢見がよろしくなかったんだよ」

 

テーブルに座り、水を飲んで落ち着いた瑞稀はぐったりしていた

 

「…爺さん。何で今日は朝の鍛練、起こさなかったんだ?」

 

朝食を食べながら瑞稀が鉄平に問う

瑞稀は朝と夜、毎日の様に鉄平と、組手や剣術の鍛練を行っている

かつて鬼崎にいた頃とは、見違える程に強くなっていた

 

「儂も今さっき起きたからじゃ!!」

 

「……あっそ…まぁいいや。今日は学校終わったら、信介と唯と王都に買い物行くから。帰りは遅くなるわ」

 

「そうか、楽しんでくるんじゃぞ?あまり遅くなり過ぎぬ様に。後いい加減彼女つくれ」

 

「いつもしつこいな…彼女つくれ彼女つくれ、何かといえばそれしか言わないな、このジジイ…」

 

瑞稀の日常は慌ただしくも穏やかだった…

 


 

学校帰りに夕方の王都へ瑞稀は幼馴染の唯と、親友の信介と共に、買い物に来ていた

 

「ねえ、みーちゃん、このワンピース買ってよ!」

 

「てめえで買え。俺にたかってんじゃねえよ」

 

「まぁまぁ瑞稀、そう怒んなよ。唯ちゃんもすぐに瑞稀にたかるのやめようね。コイツすぐキレるんだから」

 

3人は賑やかに買い物を楽しんでいた

 

「なぁ瑞稀。遊びに来てる時くらい、その日本刀置いてこいよ。いくら最近物騒だからって落ち着かねえだろ?」

 

「念のためだよ」

 

「みーちゃんは唯を守るために持ってるんでしょ?」

 

「…お前のためじゃねえよ…」

 

「そう言えば瑞稀、最近変な夢を見るって言ってたけど。それってお前の記憶がぽっかり抜けてるって、言ってた11、12歳の頃の夢じゃねえの?」

 

「さあ?分からん」

 

瑞稀は11歳から13歳までの約2年間の記憶が無い

その頃から瑞稀の身体能力、剣術の腕は異常なまでに跳ね上がっていた

ちなみに魔力は今でも全く無い

本来魔力も体の成長に伴い総量が増えるものだが、彼は全く増えていない

 

「その頃からだろ?お前がめちゃくちゃ強くなったのって。実際お前に肉弾戦で勝てる奴なんて、お前の爺さんくらいしか俺知らねえぞ。お前、魔力なんて全く無いのに、喧嘩じゃ負け知らずだもんな」

 

「みーちゃんの魔力の無さは逆に凄いけどね」

 

「…俺は全く覚えてないから分からん…でも決まって夢に出てくるのは綺麗な女の人なんだよなぁ」

 

「…瑞稀、お前彼女出来無さすぎて欲求不満なんじゃねえの?」

 

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ信介がそう言うと、瑞稀がキレた

 

「そんなんじゃねえよ!!お前だって彼女いねえじゃん。お前こそ欲求不満なんじゃねえのか?」

 

「うるせえ!!俺だって…俺だってなぁ…」

 

信介の涙ながらの訴えが空しく響く

…瑞稀達の日常はこうして賑やかに過ぎていった…

 

 




次は瑞稀がとうとう戦う予定です


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瑞稀、最前線へ!

やっと瑞稀が戦います
でも戦闘描写は少な目です(汗)
ご了承下さい


 

─人界上空─

 

無数のドラゴンが人界全土を覆い尽くすかの様に飛び交い、王都へ今まさに、攻め込もうとしていた

 

…切欠は1匹のドラゴンの死だった…

 

小さなドラゴンの子供が、好奇心にかられ、人界を訪れた

ただ冒険をしたかっただけだった

未知の世界を見たかっただけだった

だが、人界の人間達は、ドラゴンの子供を殺してしまった…

 

人界は人間こそ至高の種族とし、神、天使以外の他種族を嫌悪している

それ故、過去何度も他種族との戦争が繰り返されてきた…

そして殺されたドラゴンの子供は、龍界の四大龍王の1柱、黒龍王の子供だった

怒り狂った黒龍王は己の兵力全てを率いて、人界へ戦争を仕掛けた

 

当初、人界の王は償いとして実際に黒龍王の子を殺害した、人間の首を黒龍王に差し出し、降伏の意思表示をした

だが黒龍王は人界全土を滅ぼさねば、我が憤怒は鎮まらぬ、と人界の降伏を無視、進軍を開始した

 

人界は強大な力を誇るドラゴン達を相手に劣勢を強いられていた…

 


 

 

金色の装飾を施された人界の王城、謁見の間には、20人程の大臣、軍の将軍達が集まり、戦況の報告がされていた

 

「前線部隊の2割が壊滅か…不味いな…」

 

「結界班の魔力が枯渇し、守りが薄くなったのが原因かと思われます」

 

「だけではない。遊撃部隊の攻撃力不足も原因だろう。後方の魔法部隊の魔力枯渇も重なったからな」

 

「…やはり、ドラゴンを相手に人間では力不足か…せめてトップクラスの担ぎ手さえ居れば…」

 

「…陛下、例の者が参りました」

 

「そうか、やっとか!通せ!」

 

「御意。入りなさい!」

 

大臣がそう声をかけると、黒いスーツを来た金髪の青年が、謁見の間に通された

青年は玉座に座る王に、頭を下げる

 

「王宮直轄粛清部隊所属、奈良橋瑞稀、王の召喚に応じ、推参致しました」

 

「……チッ、殺し屋風情が…」

 

瑞稀が謁見の間に入ると、軍の将軍達から侮蔑の眼差しが向けられる

 

 

「よく来てくれた。君が粛清部隊最大戦力と名高き、奈良橋瑞稀かね?」

 

瑞稀は今21歳になり、人界の王宮直轄の粛清部隊、つまり暗殺部隊に所属し、部隊で最強と言われる程になっていた

そして瑞稀は、神器と呼ばれる強大な魔力と力を保有する武器と契約していた

 

「最大戦力かどうかは私の口からは答えかねます……それで…粛清部隊の私が何故、王宮に召集されたのでしょうか?通常、我々粛清部隊への指令は極秘文書、もしくは暗号化された通信での指示のはずですが。将軍閣下達は私の様な殺し屋風情が、ここに居るのが大変不服とお見受けしますが。どの様なご用向きだったのでしょうか?」

 

「君には前線に遊撃部隊として出て欲しいのだ。知っての通り今、人界は劣勢に立たされている。だからこそ君の様に実力のある者を前線に送る必要がある。君はかの天空剣の担ぎ手だ。十分過ぎる程の実力だろう。引き受けてくれるか?」

 

「……なるほど…分かりました。王のご命令とあらば、慎んでお受け致します。」

 

「そうか。よろしく頼む」

 

「チッ、精々忌々しいドラゴン共を道連れに死ね。」

 

「…そうしますよ、将軍閣下。では私はこれで。明日には前線に出ます」

 


 

(おい、瑞稀、何故引き受けた?お前が前線に出ると言う事は儂も前線に出ると言う事じゃ。そんな面倒な事は御免じゃ。ドラゴンの相手なんぞ面倒極まる)

 

瑞稀が腰にさす日本刀から唐突に声が響く

 

(そう言うな、天空剣。王宮直轄の俺には元々拒否権なんて無いさ。あそこで断ればどんな汚い事をしてくるか…分かったもんじゃない)

 

天空剣

そう呼ばれた日本刀は神器と言う、強大な力を保有し、意思を持つ武器の1振り

そんな神器の中でも、強大な力を保有する事で伝説とさえ謳われるのが、天空剣だ

そして神器と契約した者は担ぎ手と呼ばれ、神器の強大な力を行使する事が出来る

 

(とにかく、明日には前線だ。精々気張るとしよう)

 

(…まあ、担ぎ手のお前がやると言うなら儂もやるしかないか。ヤダヤダ面倒極まるのぅ…)

 


 

「…おい、見ろ。あれが例の担ぎ手だ。まだまだ若造じゃないか…」

 

でも、女みたいなあんな見た目で滅茶苦茶強いらしいぞ

 

前線基地は瑞稀の噂で持ちきりだった

一部の伝説では最強とさえ言われる神器、天空剣と契約した者

それは英雄と呼ぶに相応しい力を持っている事の証明と言える

だが目の前にいる、美女と見紛う様な優男が、それほどの実力者とは誰も思わなかったのだ

 

 

「下らない噂を喋る暇があるなら、戦えよ。だから負けてるんだろ。緊張感の無い戦線だ。天空剣、すぐに出撃するぞ」

 

(分かった、そうしよう。こんな所に居てはヘタレ根性が移りそうだ)

 

そう言うと瑞稀は前線に向かい、出撃した

そのスピードは人の目では追えない程に速かった

 

「…おい、なんだありゃ?化けモンか?」

 

「天空剣の担ぎ手なんだ。化けモンだろ…」

 

 

 


 

 

「ギャオオオォ!!!」

 

おぞましい絶叫を上げドラゴンが次々と地に墜ちていく

ドラゴン達を足場にしながら瑞稀が空を舞う

天空剣を振るい続け、既に百を超えるドラゴンを葬っている

 

「弱い。これで最強の幻想生物か、笑わせるな。」

 

(瑞稀!ドラゴンの大群じゃ!200はおるぞ!)

 

「薙ぎ払うさ!天空剣、魔力は頼むぞ!」

 

そう言うと瑞稀は、天空剣を中段に構えた

すると、天空剣の刀身が淡い桜色に輝きはじめた

 

(いつでも撃てるぞ!)

 

そして瑞稀は横一閃に天空剣を振るい、天空剣が誇る絶技の名を叫ぶ

 

「天空扇!!!」

 

天空剣の刀身から桜色の斬擊が放たれた

それはドラゴンの大群を切り刻み、敵軍を一掃してなお、止まること無く空を舞い続けた

 

オオオオオ!!やったー!!ドラゴン共を退けたぞ!!

 

誰もがそう叫んでいた

 

…だが瑞稀は、警戒を解く事無く神経を研ぎ澄まし続けた…

 

 

 

遥か上空から巨大な黒き龍王が飛来してきていた……

 

 




はいすいません!!
戦闘描写が難しくて凄く陳腐な感じになってしまいました!
しかもめっちゃ短い…


次回!龍王と瑞稀が戦います



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黒き龍王と天を舞う英雄

今回、瑞稀が本気で戦います!
大技もバンバン撃ちます!
この辺りから色々設定が出ます
色々面倒だけど頑張りたい!


「…嘘だろ…黒龍王が自ら最前線に来るなんて…」

 

「勝てるのか?あんな化けモン…とんでもない魔力だぞ…」

 

強大な魔力を振り撒きながらついに、龍王が戦場に降り立った

人界の兵士達は龍王の圧倒的な力を前に、膝を折り絶望した

あまりにも力の差が有りすぎる

最強の幻想生物、その王の暴力的な王威を前に誰もが、勝てないと、敗北を覚悟した

だがそれでも、龍王を睨み、その猛威に立ち向かう者が居た

 

「…流石龍王。凄まじいな…」

 

(おいおい、無茶じゃろ、あれと戦うなんて)

 

「やるしかないさ。負ければ死ぬんだ、やるしかない」

 

瑞稀は龍王を前にしても、怯む事なく天空剣を構えた

そして穏やかに天空剣に語りかけはじめる

 

「…不思議だな…これほどの敵を前にしてるのに、恐怖はない。何よりも…俺はこれよりももっと強く、圧倒的な力を知っている気がする。もっと偉大な龍を知っている気がするんだ」

 

(なんじゃと?それが本当ならとんでもない化けモンじゃぞ、それ)

 

「確かにそうだな。…さて、はじめよう。」

 

瑞稀の眼光が鋭く龍王を射抜く

そして高らかに名乗りを上げる

 

「我が名は人界王宮直轄粛清部隊所属、奈良橋瑞稀。龍界四大龍王が1柱、黒龍王殿、その首貰い受ける」

 

「人間の割には良い気迫だ。だが我が首はやらぬ。我が龍の吐息にて燃え尽きよ」

 

今、龍王と瑞稀の戦いがはじまった!!

 

 

 


 

「天空剣!いつでも天空扇を撃てる様に魔力を常に溜めておけ!」

 

(分かっとるわい!いつでも撃てる!派手にやれ!!)

 

龍王が吐く火炎弾を、避けながら瑞稀が地を駆ける!

天空剣の刀身が淡い桜色に輝き初めたのを確認すると、一気に巨大な龍王の首目掛けてジャンプする!

 

「くらえ!!天空扇!!!」

 

桜色の斬擊は真っ直ぐ龍王の首に当たる!!

…が、龍王は鱗を斬られ多少の血は出てはいるが、あまり効いていない

 

「我が龍鱗を斬るか、流石は天空剣の担ぎ手だな。だがこの程度では届かぬ。」

 

龍王は無防備に上空に浮いている瑞稀目掛けて、尻尾を叩き付ける!

瑞稀は避ける事も出来ず直撃し地面を何度も跳ねながら吹き飛ばされる

瑞稀は全身から血を流しながら、血を吐きながら、それでも立ち上がる

 

「!?…くそっ、天空扇が効かないとはな。だがまだ負けるわけにはいかない!!」

 

瑞稀が超速で走り抜け、間合いを一気に詰める

 

「懲りぬか、まあ良い。我が炎で灰にするまでだ」

 

龍王が火炎弾を、連続で吐く!

瑞稀はそれを、避けながら天空扇を幾度も放ち続ける

幾度となく放たれる火炎弾と天空扇、このまま永遠に続くとも思える均衡は龍王が正面に魔力で描きだした魔方陣によって、崩された

 

「劫火炎上!!」

 

龍王がそう唱えると魔方陣から極大なレーザーの様な炎が放たれる!

 

(まずい、避けれんぞ!)

 

「斬り伏せる!!!天空扇!!!」

 

龍王の魔法を天空扇で斬り裂くも、瑞稀の体力の消耗は激しく、限界が近付いていた

 

「埒があかない。仕方ない、出し惜しみしてる場合じゃないな。天空剣、魔力を最大出力で展開。本気で殺すぞ」

 

(それしかないな。よし!瑞稀、高らかに詠うが良い!我らが威を世界に示す時だ!)

 

天空剣から膨大な魔力が溢れ出す。放出された魔力に共鳴して大気が震え、地震が起きる

 

神格覚醒(ディバインブレイク)

 

瑞稀が静かに唱えると同時に魔力が瑞稀を中心に膨張、爆発し土煙で瑞稀が見えなくなる

 

…土煙が晴れた時瑞稀が手に携えていたのは、神々しく輝き、刀身の所々に桜の花弁の様な彫刻が施された、刀だった

そして瑞稀は高らかにその刀の名を詠う

 

「天空剣・天咲桜(あまざきざくら)

 

「まさか、人の身で天空剣のディバインブレイクを発動するとはな。大したものだ。いいだろう、我も本気でやろうか!」

 

龍王がその身に莫大な魔力を漲らせる

そして力ある言霊を告げる

 

「ジャガーノートドライブ!!!!」

 

解き放たれた波動の余波でクレーターが出来る程に、強大な力を漲る

 

 

「改めて名乗ろう。我が名は黒龍王バルム。偉大なる黒龍神王カオスヴェインが末裔なり。さて人界の英雄よ、我もジャガーノートドライブもあまり長くは持たぬ。互いにもう余力はあまり残っていまい。そこで我から少し提案がある」

 

「聞こう」

 

「互いに最強の一撃にて決着をつける。自らの全てを賭した一撃、それで終いだ」

 

「……分かった、その提案に乗ろう」

 

そして二人は自らの余力全てを絞り出す!

 

「天空剣、全魔力を刀身に」

 

(任せろ!)

 

「人界の英雄よ!我が黒炎にて燃え尽きよ!!」

 

「フレアブラスト!!!」

 

「天空扇・天扇(あまあおぎ)!!!」

 

互いにぶつかり、余波で周囲を破壊し尽くしていく!!

 

(瑞稀!気張れ!!)

 

「くそ!!押し負ける!」

 

徐々に天空扇が押し返され、瑞稀が押し負けていく…

 

ドクン!

 

急に瑞稀の中で何かが膨れ上がった

そして、女の声が聞こえた

 

(…力を、与えようか?)

 

(!?なんだ、お前は!?)

 

(答えろ、小僧。力が欲しいか?)

 

(…!!…欲しい…大切な人達がいる世界を守れる力が欲しい!!)

 

(良いだろう。あの人に封印されたままだが、あの程度の龍を葬る力ならば、くれてやれる。私が宿るお前が、たかがあの程度の龍に負けたとあっては、我が誇りに傷が付くのでな)

 

!!!!

瑞稀から全く無い筈の魔力が溢れ出す!!

龍王すらをも遥かに凌駕する程の莫大な魔力を込めて、瑞稀が吼えた!!

 

「ォ…オオオオオ!!!!!」

 

瑞稀の叫ぶに呼応する様に天空扇の威力が増していく!

 

「ぐっ、馬鹿な!?なんだ、この魔力は!?人間ごときに龍王たるこの我が…押し負けるなど…そんな事がっ!!」

 

「オオオオオ!!!!!」

 

瑞稀がさらに叫び、魔力を上乗せして、一気に龍王の放った魔法ごと龍王を跡形も無く消し飛ばした!!

 

「…………」

 

瑞稀は言葉も無く立ち尽くし、天を仰ぎ、力を使い果たし倒れた

息を切らし、疲れ果てた瑞稀の頭に直接またあの声が響いた

 

(眠れ、瑞稀。我が宿主よ)

 

そして薄れゆく意識の中で、瑞稀は何度も夢に出てきた、美しい声を聞いた気がした

 

(私の愛しい瑞稀、今は休みなさい。お前は大切な人達を守り抜いた。よくやったね)

 

そして瑞稀は完全に意識を失った…

 

 

 

ここに英雄が生まれた

人々は皆、瑞稀を英雄と呼び、畏怖を込めて天剣の君と呼んだ

 

 

 

 




戦闘描写が難しい(泣)

さて、なんかいきなり色々出てきました!
瑞稀に力を与えると言い出した謎の女性の声!
瑞稀に愛しいと愛の告白?をしはじめる女性の声!
瑞稀が最後に発揮した謎の魔力は一体なんだったのか!?
そして瑞稀が知っている気がすると言っていた龍とはなんなのか!?
この辺りはかなり後のほうで伏線回収する予定です

次回は戦闘は無しになる予定です!


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幕間 求めるは夢想の神威、抱くは砕けぬ信念

今回戦闘は無いと言ったがあれは嘘でした!
今回は瑞稀と天空剣の出会いの話をしたいと思います!

天空剣とどの様に契約したのか?
神器との契約とはどの様なものなのか?
その辺りを掘り下げます!

ついでに瑞稀が何故力を求め、振るうのか?
その理由、信念の話をしたいと思います


力とは、己を守る刃だった

力とは、己の弱さを砕く拳だった

力とは、己を誇示する翼だった

力とは、己を見下す全てを引き裂く爪であり牙だった

力とは、己を虐げた全てを貫く雷だった

力とは、己を害する全てを焼き尽くす焔だった

力とは、己を否定する世界を滅ぼす神威だった

 

幼い瑞稀の内に蠢くのは、そんな思いだった

 

…誰かがそれを柔らかに否定した

 

力とは、己を守る盾である

力とは、己を高みに導く拳である

力とは、大切な人達を包み込む翼である

力とは、理不尽な暴力を引き裂く爪であり牙である

力とは、あらゆる災厄を貫く雷である

力とは、虐げられた者を照らす炎である

力とは、世界の平穏を護る神威である

 

ノブレスオブリージュ

力ある者には力無き者を護る義務がある

世界の平穏を護る義務がある

 

幼い瑞稀には理解出来なかった

 

「人間なんて自分達が理解出来ないモノ、自分達と違うモノ、自分達よりも劣っているモノにはどこまでも冷酷で、残酷で、慈悲など無く迫害する!全て奴らが俺にやった事だ!やり返して何が悪い!?俺にとって大切なのは爺さんと婆さんと唯とあんただけだ!他の奴らがどうなろうが知ったことか!」

 

幼い瑞稀の叫びはどこまでも純粋で、混じり気の無い憤怒と、憎しみだった

 

「今は分からなくてもいい、いずれあんたにも分かるさ。大切な人達と共に在る世界を護ると言う意味がいつか分かるよ」

 

…それはもう、失われてしまった過去の事…

 

 


 

「あった。封印宮殿だ」

 

2本の日本刀を腰にさした瑞稀が山中の風景と、最早同化している封印宮殿を前に呟いた

 

高校を卒業した瑞稀は本格的に力を求め、神話に伝わる伝説の神器を探して、担ぎ手の居ない神器が眠る封印宮殿を巡っていた

 

「せめてそれなりの神器があればいいんだが」

 

そう言うと封印宮殿の中に、足を踏み入れる

 

封印宮殿の中は無数の日本刀が地面に突き立てられた古戦場の様な様相だった

その中心に、強烈な神威を撒き散らす日本刀が突き刺さっていた

 

「これはまた、凄まじいな」

 

「…誰じゃ、儂の眠りを妨げるのは…」

 

荘厳な声が宮殿中に響いた

 

「…俺の名は瑞稀。貴方の名を聞きたい」

 

「…儂に名を問うか。良かろう。我が名は天空剣。始まりの刃が1振りなり」

 

「これは驚いた、歴史で天の扇と語られる伝説の神器、天空剣とは…当たりと言えば当たりか。むしろ大当たりと言えるな」

 

「なんじゃ、小僧。その口振りでは、求めるのは儂ではなく別の神器だと、そう言いたげだな?」

 

「ああ、そうだ。俺が本当に求めているのは貴方の様に存在が実証されている神器じゃない。神話でのみ、その存在を語られる伝説の神器、究極の護り刀、夜宵時雨だ」

 

夜宵時雨

創世神話でのみ語られる伝説の神器

創世神が天空剣と共に振るったと語られる始まりの刃の1振り

その刀身はどんな闇よりも黒く、影や闇から自在に刃を成し、あらゆる災厄から担ぎ手を護るとされている

しかし、それだけの力を語られながらその存在を実証するものは無く

創世神話でのみ語られる

夜宵時雨を巡って様々な論争が繰り広げられた

 

曰く、夜宵時雨は創世時代、既に砕け、失われた

曰く、創世神が世界を創り終わり理の神々を産み落とし、眠りについた際、創世神が居ない世界に絶望し、世界の狭間にその身を投げ出した

曰く、夜宵時雨は創作であり、元より実在しない

 

今では夜宵時雨は元より実在しないとする説が、最有力と言われている

 

「ほう!まだ夜宵時雨を求める馬鹿がいたか!小僧、お前面白いのう!」

 

「…夜宵時雨は貴方と共に始まりの1振りと云われている。貴方なら夜宵時雨が実在するかしないか。知っているんじゃないのか?」

 

「知っている。だが教えてやらん、お前に興味が湧いた。儂と勝負して勝ち、お前が儂と契約する資格が有ると判断したら、教えてやろう。儂も長らく此処に引き込もって飽きた。いい加減担ぎ手を得て、外に出るのも面白そうじゃ」

 

そう言うと天空剣全体が輝き出した!

光が収まった時、そこには白い和装の狩り衣を纏った白い髭を生やした初老の男性が立っていた

 

人形(ひとがた)になるのも久々じゃのぅ」

 

初老の男性は天空剣そのものだった

神器は各々人形(ひとがた)と呼ばれる人の姿となる力がある

 

「……分かった。全力で相手をさせて頂こう」

 

 

誰にも語られる事の無い、伝説の神器、天空剣と、数年後には英雄と呼ばれる瑞稀の戦いがはじまった!

 


 

天空剣と瑞稀が鍔迫り合い、何度もその剣閃が交差する!!

瑞稀の二刀と天空剣がぶつかり合う!

 

「驚いたのぅ!只の日本刀で、天空剣たる儂と張り合うか?!大した腕じゃ!」

 

「…そりゃどうも!」

(くそっ!なんて威力だ!まともに受ければ刀ごと真っ二つだな!)

 

瑞稀は正直焦っていた

強い、強すぎる!

最強とさえ讃えられる神器である、天空剣の魔力、刀としての純粋な切れ味、そして天空剣本人の剣術の技術

全てに於いて、瑞稀は劣っていた

斬撃を捌き、避けるのが精一杯だ

 

「ほれ、どうした?疲れたか?まだまだこれからじゃぞ」

 

そう言うと天空剣は今、手にしていた刀を地面に突き立て、地面に無数に刺さっていた別の刀を手に取る

 

「ほれ、これら全てが儂よ。これぞ、剣山。天空扇と並ぶ、我が奥義よ」

 

「!!!!」

(馬鹿な?!この無数の刀全部が天空剣だと?!規格外にも程度ってもんがあるだろ!!)

 

天空剣は天空扇を放ち続け、瑞稀は天空扇を辛うじて避け続け、必死に隙を見て斬りかかる瑞稀の刀を天空剣が受け止め、天空剣は刀を持ち替えながら天空扇を放つ、幾度となくそれを繰り返す!

 

「どうした?手も足も出んのか?この程度か?つまらんのぅ」

 

「くそ!!」

 

とうとう瑞稀が悪態が吐いた

苦し紛れに力一杯天空剣に上段から刀を叩き付ける!

天空剣はそれを苦もなく受け止め、また刀を持ち替える

 

…この時、瑞稀は勝機を見た

受け止めた天空剣の刀にヒビが入り折れかけていた

 

(そうか!天空剣は確かに比類無き切れ味と破壊力を持っているが、耐久性が無い!だから何度も持ち替えていたのか!)

 

「オオオオオ!!!」

 

瑞稀は全身全霊を込めて斬りかかる!

 

「無駄じゃ!」

 

瑞稀の刀を天空剣が受け止める

 

「なに?!」

 

天空剣が持っていた刀が刀身の中程から折れる!

 

「もらったぁ!!!」

 

瑞稀の一太刀が天空剣を捉えた!

肩から腹にかけて斬られ、血を流しながら天空剣は…

…笑っていた…

 

「フッ…ハッハッハ!!!これ程か!やるではないか!瑞稀!ならば儂も本気を出すとしよう!」

 

天空剣が魔力を放出すると地面に刺さっていた無数の刀が浮き上がり天空剣の周りを浮遊し出した!

 

「これぞ、剣山・桜並木!我が最強の奥義!打ち破って見せよ!!さすれば、我が担ぎ手となり、儂を振るう事を許す!」

 

「こうなれば1本ずつへし折ってやる!!この髭爺!」

 

無数の刀が一斉に瑞稀を襲う!

 

「奈良橋流奥義・如来」

 

それは攻撃ではなく守りを極めた、奈良橋流の奥義の構えだった

瑞稀が二刀を逆手に構え、天空剣の斬擊全てを捌き、叩き落とす!!

叩き落とした刀を素手で殴り、へし折っていく!!

 

「いつまで続く?儂の剣山は億にも及ぶ!全て折れるのなら折ってみろ!!」

 

2人の激闘は激しさを増していく!!

 

無数の刀で斬りかかり、それを捌き、叩き落とし殴り折る

繰り返される闘いは、終わりを迎えようとしていた

 

「なんなんじゃ…お前は…儂の剣山全てを殴り折りおった…」

 

「はっ…はっ…はっ…」

 

天空剣は瑞稀のあまりの気迫に半ば恐怖すら感じていた

対して瑞稀は億にも及ぶ斬擊全てを捌き続け、体力の限界をとっくに超えていた

 

「オ…オオオオオ!!!」

 

裂帛の気合いを込めて瑞稀が斬りかかる!

 

「おのれ!!」

 

天空剣は最早防ぐ刀を全て失っていた

 

瑞稀の渾身の一太刀が天空剣を捉え、勝負は瑞稀の勝利に終わった

 

「大したもんじゃ…最後に1つ聞かせろ…何故力を求める?」

 

「…力ある者には力無き者を護る義務がある。何よりも俺にも護りたい人達がいる。大切な人達が幸せに暮らす世界を護るためにも力が欲しい」

 

「そうか…認めよう。瑞稀、儂と契約してくれ」

 

「…ああ、よろしく頼むよ」

 

「それと、夜宵は実在する。故に儂とお前の契約は夜宵を見付けるまでとする」

 

「そうか…夜宵時雨は実在するのか…ありがとう、それまでよろしく頼むよ」

 

「契約は儂に任せよ、儂とお前の魂を2つに分け、互いに交換するんじゃ。つまり魂を分け合うと言うわけじゃな」

 

「なるほど」

 

「契約が完了して魂が馴染めば神格覚醒と言って儂の力を最大限高め、お前に合わせた形状に変化させる事も出来るようになる。じゃがこれには膨大な魔力が必要になる」

 

「…悪いが、俺は魔力を全く保有していないんだが…」

 

「安心せい。儂の魔力で発動させてやる。天空扇も剣山も魔力を使う。全て儂の魔力で賄ってやる」

 

「何から何まですまない…」

 

「気にするな。これからは相棒なんじゃ。互いに支え合えば良い」

 

そう言って、自らを打ち破り屈伏させた強者と共に、戦場を駆け抜ける未来を想像して、天空剣は嬉しそうに笑った

 

こうして瑞稀は天空剣と契約し、数年後、天剣の君と呼ばれる英雄と成る

 

 




如何でしたでしょうか?
色々またブッコミました!

さてまたまた出て来た謎の人!
一体何者なんでしょうかね!
まだまだ正体は明かされません!
多分その前に瑞稀の謎パワーの秘密が明かされる予定です!あくまで予定ですが


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無能たる王、喰らい尽くす銀狼

今回、瑞稀の出番無いです
ちなみに今回は衝撃の展開です!



人界の総人口の約7割は人間で構成されている

残りの3割の内、1割は天界や神界から赴いている神や天使である

ではあとの2割は何なのかと問えば、人界の人間は大半が顔をしかめこう答える

 

「他種族だよ。汚らわしい世界のゴミ共さ」

 

人界で迫害されている他種族には大きく分類して、2つの種族が挙げられる

 

産まれながらに強大な魔力を宿す、魔族

人々の恐怖心から産まれたと言われる、妖怪

 

特に魔族は悪魔と呼ばれ、蔑まれていた

なまじ人の姿をしてる故に、表向きは人権を認められ、理不尽に殺される事は無いが、魔族への暴力、罵倒、差別は公然と行われている

 

人界に住まう魔族達は長きに渡る迫害により反抗心を折られ、力すらも奪われ、人界から逃れる事も出来ないでいた

 

そんな魔族への迫害に激しい怒りを抱く者達が居た

魔界を統べる一部の魔王達だ

魔界の魔族達は同族意識が非常に高く、同胞を傷付けるものを決して許しはしない

 

今、3柱の魔王が動き出そうとしていた

 


 

「陛下!魔王共が我ら人界に戦争を仕掛ける準備をしていると、情報が入りました!」

 

「なんだと!?それは本当か!?」

 

「はい!諜報班からの確かな情報です!」

 

大臣からの報告を受け、謁見の間に居た軍の将軍や政治家達がざわめきだす

王もまた突然の事態に青ざめていく

 

「…よりにもよって私の代に……大臣、最後に魔王が攻めてきたのはどれほど前であったか?」

 

「今から約千年ほど前になります」

 

「…最悪だ…だからあれほど人界に居る魔族共を、皆殺しにすれば良いと言ったのに…」

 

「しかし陛下、奴らが持つ魔法の知識と魔力は利用価値はあります。絞り尽くすまでは生かすべきです」

 

「結果魔王が同胞を取り戻そうと攻めてくるのだぞ!?」

 

王は狼狽えていた

よりにもよって自分の代に魔王が戦争を仕掛けてくるなんて、最悪だとうわ言の様に呟き続ける

が、いつまでもそうしているわけにはいかない

迎え撃つ準備を進めなければならない

そうでなければ自分が殺されてしまう

 

「攻めてくる魔王はどいつだ?」

 

「……諜報班の情報によりますと、鬼神将、氷龍鱗」

 

「よりにもよって魔王の中でもトップクラスの2柱がくるか……」

 

「……実は、だけでなくもう1柱魔王軍を率いて、攻めて来ようとしている魔王がおります…その魔王は……」

そこまで言って、大臣が青ざめて報告を躊躇う

 

「どうした?早く報告しろ。もう1柱の魔王はどいつだ?」

 

「……銀狼です…」

 

大臣がそう告げた瞬間、その場にいる全員の顔から血の気が一気に引いていき、誰もが恐怖心から震えはじめる

 

「ば、馬鹿な!?銀狼だと!?最強の魔王と、言い伝えられているあの銀狼か!?」

 

「…はい…」

 

銀狼

それは数多くの魔王の中で、最強クラスと呼ばれる銀色の毛並みを持つ、フェンリルの魔王

フェンリルと言う種族だけでも、トップクラスの危険度を持つ魔獣だ

それに加え、かの魔王は、神すら封印出来る封印魔法の使い手であり、神すら殺す魔法を操り、あらゆる魔法をも防ぐ結界を操り、如何なるものより速く戦場を駆け抜けると、伝説として恐れられている

 

「…だが、銀狼はかつて初めて魔王が人界に攻め入った時に天空剣の担ぎ手に敗北したと、言い伝えられている。瑞稀ならば、あるいは退けられるかもしれん!」

 

その言葉に誰もが恐怖心を忘れ、安堵した…

 

「誰ならば、誰を退けられるって?」

 

その場に静かに声が響いた

 

「何者だ!?」

 

王が叫ぶ

将軍達が王を守るために周りを固める

…すると謁見の間の巨大な門が外から吹き飛ばされる!

 

ベチャと湿った嫌な音を立てて、何かが謁見の間に投げ込まれる

…それは門前を警護していた近衛騎士達だった

20人以上いた騎士達は1人残らずズタズタに引き裂かれていた…

 

「お初にお目にかかる人間共よ。私はバロムと言う者です。あなた方に分かりやすく言うと

我が名は魔王、銀狼のバロム。今日は貴様らに宣戦布告を告げ、ついでに貴様らの王の首を貰いに来た」

 

銀狼の姿がかき消える

その瞬間…人界の王の頭が銀狼の牙で噛み砕かれた

 

 




ちょっとグロ注意ですね
王を失った人界はどうなるのか!?
混乱を極めるこの状況どうなるのか!?

次はちゃんと瑞稀がメインになる予定です


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新たな王の即位、来るは混沌?それとも珍獣?

瑞稀が出世します!
戦闘描写は少な目になります




「我が名は魔王、銀狼のバロム。今日は貴様らに宣戦布告を告げ、ついでに貴様らの王の首を貰いにきた」

 

銀狼の姿がかき消えると同時に王の首を、銀狼が噛み砕いた

 

誰もが呆然としていた

何が起きたのか、誰もが理解出来なかった

 

「…陛下?…首が…うあああああ!!!」

 

誰かが喚き叫ぶ

そうしてようやく皆が状況を理解した

目の前の獣畜生が王の首を喰った!

 

「貴様ぁ!!よくも陛下を!!」

 

将軍の1人が銀狼に斬りかかった!

鋭く振り下ろされる一刀を軽やかに避け、銀狼は溜息を吐く

 

「…そう焦るな。言ったはずだ、今日は宣戦布告と、ついでに王の首を貰いにきたと。お前達が死ぬのは戦場だ。1ヶ月後、我らは魔王軍を率いここを攻める。それまでに身の回りの整理をしておけ、どうせ皆死ぬのだからな」

 

そう言って銀狼は魔法陣を足元に一瞬で描き出した!

魔法陣が光を放ち、収まった時には銀狼の姿はそこにはなかった

 

「くそっ!転移魔法!逃げられたか!」

 

「…いや、あのまま戦えば我らに勝ち目はなかった。皆殺しにされていただろう」

 

銀狼の圧倒的な力を前に、その場にいる全ての者が沈痛な面持ちとなっていた

 

「とにかくこんな状況だ。陛下の弔いを済ませ、すぐにでも次の王を決めなくては」

 

大臣が気持ちを切り替え、人界の混乱を少しでも収めるために発言する

 

「…そうだな、陛下には悪いがすぐにでも次の王を決めなくては民衆の不安も積もる一方だからな」

 

「…明日には王を決めるため、全体会議を行う。陛下には世継が居ない故、王家以外から排出されるだろう。場合によっては民衆の意見を聞くためにも選挙を行うかもしれん」

 

…人界は今、混乱の極みにあった…

 

 


 

 

「それで、民衆の投票はどうなった?結果は?」

 

結局全体会議では次の王は決める事が出来ず、銀狼の襲撃から3日後、時間が無いのもあり、4日間だけ選挙を行い、襲撃から8日後の今日、民衆の投票が終わり結果が出る

 

「…最悪だ…よりにもよって…」

 

大臣は結果を見て頭を抱えた

 

「…将軍達よ…落ち着いて聞いてくれ」

 

「勿体ぶらずに早く言え。民衆が選んだ次の王は誰だ?」

 

将軍達は新たに仕える王の名を聞き逃すまいと、皆身を乗り出す

 

「…民衆の約7割が奈良橋瑞稀に投票している…よりにもよって奴か…」

 

「なんだと!?何故だ!?何故たかだか粛清部隊の奴がそんなに支持されるのだ!?」

 

将軍達が皆驚きと嫌悪感を露にする

 

「先の龍王との戦争の功績で奴は民衆にとって、今や英雄だ。しかも天空剣の担ぎ手でもある。魔王襲撃を知った民衆は強い王を望んでいるのだろう…」

 

誰もが大臣の言葉に沈黙した

確かに奴は強い、むしろ強さの次元が自分達とは違いすぎるほどに強い

何よりもここで奴以外の者が王座に就けば、民衆からの反発を受けかねない

ならば表面上だけでも奴に従うしかない

皆がそう決断するのだった

 


 

 

「唯ちゃん!聞いたか?瑞稀が次の人界の王になるらしいぞ!」

 

「…知ってるよ、みーちゃん本人から聞いたからね。でも信介君も情報早いね。正式発表は明日らしいよ?」

 

「まあね、色々噂になってるしさ。なんだよ?あんまり嬉しそうじゃないな?」

 

「…唯はちょっと心配かな。あの人無茶ばっかりするし。ああ見えて脆い部分もあるからさ…」

 

「…確かにあいつ学生の頃から無茶ばっかりするな」

 

付き合いの深い2人は瑞稀を心配していた

瑞稀は弱者を救うためなら、自らの全てを賭して戦う

まして今回は鬼神将、氷龍鱗、銀狼と魔王の中でも最強クラスが相手だ

間違いなく瑞稀も無事ではすまない

負けて死ぬかもしれない

 

「…最悪、唯も戦場に出ようと思うよ」

 

実は唯は生坂と言う人界五大貴族の次期当主であり、家の流派を継承していた

その流派は格闘技を主とした魔法を得意としている

戦闘力は極めて高い

 

「でも、唯ちゃんが戦場に出るって言ったら瑞稀、怒ると思うよ?」

 

瑞稀は唯が戦場に出る事を頑なに拒んでいた

 

「そうも言ってられないよ。相手は魔王なんだからさ。間違いなく前の黒龍王より、3柱の魔王は強いだろうし、みーちゃん1人じゃ無理かもしれない…」

 

唯は瑞稀の反対を押し切ってでも、瑞稀が危なくなりそうならば、戦場に出るために準備を始めた

 


 

 

人界の王宮前に沢山の人が集まっていた

今日、新たな王が即位し演説を行うのだ

新しい王を一目見ようと、皆王宮前に足を運んでいた

 

「…陛下、お時間です。壇上へどうぞ」

 

「ありがとう、大臣。私の様な者が王となり、不満も大層あるだろうがよろしく頼む」

 

「…はい、全力を尽くさせて頂きます」

 

大臣が瑞稀に頭を下げ、壇上へと瑞稀を送る

瑞稀の背中を見送る大臣の目には侮蔑の感情がうつっていた

 

「…忌々しい、粛清部隊にいたせいで我々政府の裏の部分を知り尽くしているせいで、下手に奴に手出しが出来ない…」

 

粛清部隊として、政府の邪魔者を暗殺してきた瑞稀の存在は、政府にとって自らの首元に突き付けられるナイフも同然だった

瑞稀は政府の表沙汰に出来ない汚い部分の全てを知っている

 

そして瑞稀が壇上に上がり、演説が始まった

瑞稀が姿を見せると、民衆は大歓声にて新たな王を迎え入れた

 

「ありがとう、私の様な者が王として貴方方に選ばれた事を誇りに思う」

 

そう言う瑞稀の声は優しく、微笑みさえ浮かべ、王宮前に集まった民衆を見渡した

一転して瑞稀の目が鋭くなり、民衆の心を鼓舞するように声を、雄々しく張り上げる

 

「今回約千年ぶりに魔王達が人界に攻め込もうとしている!魔王軍の力は強大であり、率いる魔王もまた、先の龍王すら超える力を持っている!無論!我々もただ指をくわえて負けるわけにはいかない!!貴方方人界の民は私が命にかえても必ず護る!!民衆の皆もどうか諦めずに戦って欲しい!!我が神器、天空剣と我が名に誓い、揺るぎ無き勝利を人界に住まう生きとし生ける全ての民に、捧げよう!!」

 

「おおおおお!!瑞稀様!瑞稀陛下万歳!!」

 

王宮前は新たな王を讃える歓声に包まれた

 

そして早1ヶ月

とうとう魔王達が人界に攻め込んできた…

 

 


 

「チクショー!!強すぎる!魔王軍が一気に雪崩れ込んできやがる!!」

 

「諦めるな!もう少しで瑞稀陛下が前線に到着する!そうすれば、押し返せる!」

 

数十万の人界の兵士に対して、3柱の魔王が率いる三千の魔王軍に、 劣勢を強いられていた

純粋に人間と魔族では魔力も、身体能力も違いすぎるのだ

何よりも魔王軍が放つ強力な魔法が厄介だった

人間が使う結界ごときでは防ぎ切れず、1発の魔法で戦線を崩されてしまっていた

絶対的な数の有利など、そもそも何の役にも立たない程、人界軍と魔王軍には差がある

 

「たかが1人の人間が加わった所で、うちの魔王様達に敵うわけもない!!大人しく、滅びろ!人間共!!」

 

容赦なく人界の兵士を、強力な魔法や高い身体能力に任せた一撃で吹き飛ばしていく魔王軍

 

そこに一陣の風が駆け抜けた

 

「すまない、待たせた」

 

瑞稀が天空剣を左手に携え、前線に到着した!

 

「天空扇!!」

 

到着と同時に天空扇を放ち、魔王軍を一気に斬り崩していく!

戦線は瑞稀の一撃で魔王軍の優勢から人界の優勢に逆転する!

その隙を突いて人界の魔法部隊が畳み掛ける様に魔法を放ち続ける!!

 

「押し返せ!!これ以上奴らの好きにさせるな!!我らの背には人界全ての命がかかっている事を忘れるな!!」

 

瑞稀が兵士に怒号を飛ばし、鼓舞する

それに応じて兵士の士気が跳ね上がる!

雄叫びを上げながら戦線を押し返していく人界

 

すると、魔王軍後方から巨大な火柱が立ち上る!

そして戦場に片刃の大刀を肩に担いだ鬼が現れる!

 

「勇ましいねぇ!お前が奈良橋瑞稀か?」

 

鬼が瑞稀を視界に捉え、そう問う

 

「いかにも、私が人界王瑞稀だ。貴様は魔王か?」

 

鬼は満面の笑みを浮かべ答えた

 

「おうよ、俺は魔王。鬼神将斬鉄だ。よろしくな、すぐお前は死ぬがな!」

 

そう笑う鬼に対して、瑞稀は挑戦的な笑みを浮かべながら言う

 

「鬼神将?なんだ、鬼か。てっきり喋るゴリラの珍獣かと勘違いをしてしまった。こいつは失礼。魔王軍は動物園でも開くのかと思ったよ」

 

ゴリラと言われた鬼は赤い顔を更に赤くして叫ぶ

 

「俺ゴリラじゃねぇし!!珍獣じゃねぇし!!動物園じゃねぇし!!鬼神だしぃ!!」

 

むきになって否定した…

魔王軍は腹を抱えて笑い転げ、人界の兵士も戦場である事を忘れ、笑いを堪えていた

 

「お前ら笑うなぁ!!てんめぇ!よくも俺をゴリラと!バロムと同じ事を言いやがって!もう怒ったぞ!!本気で行くからな!?泣いて謝ってももう許さねぇかんな!?チキショー!!!」

 

鬼神将(ゴリラ?)と瑞稀の激闘が始まる?

 

 

 




唯ちゃんは戦場に本当にでてくるのでしょうか?まあ出ないでしょうね
そしてとうとう瑞稀が王様になりました!!大出世ですね!

さて魔王の1人、鬼神将(ゴリラ?)が瑞稀と戦います!
この魔王ちょっと馬鹿っぽいですね(笑)
こんなお馬鹿な魔王ですが強いんですかね?それは次回のお楽しみです!

ちなみにゴリラは禁句みたいです(笑)


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燃え盛る紅蓮、迎え撃つ天剣の王

鬼神将と瑞稀が戦います
でも鬼神がなんで魔王やってるんですかね?
後々分かるとは思います




「俺はゴリラじゃねえ!!!」

 

叫び、斬りかかる鬼神将

その様はまさに、怒り狂う鬼神であった

2メートルを超える鬼神将の巨体を、さらに超える大刀を軽々振るい、瑞稀に凄まじい速度で上段から斬りかかる

 

「馬鹿の一つ覚えだな…」

 

それを呆れて溜息を吐きながら避ける瑞稀

それをかれこれ既に30分ほど繰り返していた

 

「ちょこまかと鬱陶しいなぁ!!黙って斬られろ!!」

 

「流石に、何度も繰り返せば目を閉じても避けれるぞ。天空剣…いい加減もう良いか?飽きてきたんだが…」

 

瑞稀は天空剣に問う

天空剣はまず様子を見てからやれ、と言って瑞稀を止めていたのだ

 

 

(まぁ待て。実は儂、あいつら魔王とは古い知り合いでな。儂に気付いとらんのが気に入らん。何で気付かんの?あのゴリラ脳味噌まで獣に退化したか?)

 

そう言う天空剣に瑞稀がさらに、溜息を吐く

 

「…面倒だな…」

 

「俺の相手は面倒だってか!?いい根性してやがるな!?コンチキショー!」

 

瑞稀の呟きを勘違いして、鬼神将がさらにキレる

 

「…お前じゃねえよ…」

 

瑞稀がさらに、呆れる

悪循環である

戦場のど真ん中で、現在殺し合いをする2人とは思えないやり取りである

 

「…鬼神将、いい加減に俺が持ってる刀が天空剣だと、気付いてやってくれんか?この髭、いじけて面倒なんだ」

 

我慢出来ず、瑞稀が告げる

もう面倒くさくて嫌になった、早くこいつを仕留めたい

瑞稀の頭の中はそんな感じだった

 

「アァン!?天空剣!?ホントだ!天空剣だ!」

 

何故か嬉しそうな鬼神将

瑞稀は思った

そうしてると本当に赤いゴリラにしか見えないと

 

「久し振りだなぁ!懐かしいなぁ!元気だったか?」

 

大変フレンドリーな魔王である

これには流石の瑞稀も脱力してしまった

 

(気付くのが遅すぎるんじゃ!このボケが!儂ほどの神器、普通一目で分かるじゃろ!?どんだけアホなんじゃ!?ぶった斬っちゃるけえ、かかってこんかい!!)

 

「誰がボケだ!?ボケてんのはてめえだろ!この髭爺!!俺の方こそ担ぎ手もろともぶった斬ってやる!!」

 

…やっとか…

瑞稀は脱力してしまっていた身体に、気合いを入れ直し、改めて天空剣を構える

 

「天空剣が居るなら、本気で殺りに行くぞコラァ!!」

 

叫び、いきなり鬼神将が上空に跳ぶ

 

「防げるもんなら防いで見やがれ!!鬼神斬!!」

 

高速で落下し、その速度を乗せたまま振り下ろされる斬撃!!

 

「!!!」

 

あまりの速度に瑞稀は一瞬、反応が遅れる

 

「天空扇!!」

 

一瞬の遅れは致命的だった

天空扇を放つも鬼神斬に斬り裂かれる!!

瑞稀が咄嗟に地面を転がる様に避ける

瞬間、大地が割れる!

 

「避けたか!大したもんだな!だが魔法ならどうだ!?」

 

瑞稀の周囲に3つの火柱が立ち上る!!

 

「三天の劫火!!」

 

火柱が一斉に瑞稀を襲う!

それを天空扇で薙ぎ払う!

 

「…この程度の魔法でどうにか出来ると思うなよ」

 

「なら次で、最後だ!!」

 

鬼神将の身体から、とてつもない炎が溢れ出す!!

 

「天空剣!!」

 

(いつでもいける!!)

 

「剣山・桜並木!!」

 

無数の天空剣が地面から出現し、瑞稀の周囲を浮遊する!!

 

「準備はいいな!?泣いても笑っても最後だからな!?」

 

「いつでもいいぞ!」

 

互いに駆け出す!!

 

「奥義・爆炎鬼神斬!!!」

 

「天空扇・桜吹雪!!」

 

燃え盛る鬼神の一刀と天をも扇ぐ無数の刃がぶつかる!!

 

「たかがゴリラに負けてたまるか!!!」

 

(そうじゃ!ゴリラに負けてなるものか!)

 

「お、俺は!!ゴリラじゃねえ!!……あっ…」

 

鬼神将の集中力が乱れ、魔力が霧散していく

纏う炎は消え、鬼神斬は天空扇に押し負けた

そして瑞稀の天空扇が鬼神将を薙ぎ払う!!

 

「チキショー!!覚えてやがれ~!!」

 

鬼神将が捨て台詞を吐いて吹き飛んでいく

 

ここに、魔王・鬼神将斬鉄と瑞稀の一騎討ちは瑞稀の勝利で幕を下ろした

 

そして、今度は巨大な氷塊が落下してきた

 

「まったく…斬鉄さんときたら情けない。では瑞稀さん、次は私が相手です」

 

氷の中から出てきたのは、黒い氷の鱗を持った龍だった

 

「…次は凍ったトカゲか。バラエティー豊かだな、魔王動物園は」

 

「誰がトカゲだ!?失敬な!!俺は魔王・氷龍鱗の刻龍。あんなゴリラと一緒にするなよ!!」

 

瑞稀は思った…

同類だ、ちょっと挑発しただけで素が出てる

そして魔王達はマジで動物園でも開く気か、と

 

 

 




はい!ゴリラ飛びました!!
次は凍ったトカゲです
実際龍ですが…
瑞稀の毒舌が冴え渡っていますね!



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凍てつく漆黒、焼き尽くす真紅

瑞稀と氷龍鱗の戦いです
今回この話の中の魔法について少し説明したいと思います
今後魔法に関してはこの回で出た説明を元に構成するつもりです


「ブリザードウォール!!」

 

氷龍鱗を中心に吹雪が荒れ狂う!

視界と足場が悪くなり、瑞稀の動きを阻害する

 

(気を付けろ!刻龍は斬鉄より強いぞ!)

 

「分かってる!天空剣、知り合いなら弱点位教えろよ!?」

 

天空扇を放ちながら、悪態を吐く瑞稀

放った天空扇は先程から全て直撃していた

…しかし、天空扇を全て当ててなお、仕留め切れないでいた

氷龍鱗・刻龍の強みはこのしぶとさだった

 

「無駄ですよ?どれだけ強力な技を放とうが私は死なない。私は氷ですから、砕かれようと、また凍り蘇る」

 

そう、氷龍鱗は先程から天空扇を受ける度に砕け散っていた

砕ける度にまた凍り蘇るを繰り返し、瑞稀は突破口が見出だせないでいた

 

「私の通り名である氷龍鱗は私が使う、大魔導・氷龍鱗からきています。これは自らを氷へと変え、水気さえあれば死なない身体に作り替えると言うものです。お分かりになりましたか?貴方では私には勝てません」

 

魔導とは魔法の最上位に位置する至高の力

魔法とは大きく分けて3つに分類される

 

魔力だけを使い、大気中の魔素(マナ)を加速させる魔術

 

魔力と魔方陣や詠唱などを組み合わせて大気中の魔素(マナ)を加速させる魔法

 

そして自らの体内にある魔素(マナ)を直接魔力で加速させ、コントロールし変質させる、もしくは魔力の様に放出し大気中の魔素(マナ)と混ぜ加速させる魔導

 

氷龍鱗は魔導の中でも強力な部類とされる大魔導

それを破るためには同じ大魔導を行使するか、それすら超える力を使うかしかない

 

(あやつの弱点は炎だ。生半可な炎では凍るがな)

 

「俺は魔法を使えない。まして大魔導に対抗するほどの炎なんか出せないぞ」

 

(詰みじゃろうかな…儂も無理じゃ。ちなみにあやつが前に攻め込んで来た時の担ぎ手は、砕きまくって無理矢理あやつの魔力を削り切ったがな)

 

「それしか無いな…」

 

「私の魔力を削り切るおつもりで?頑張りますねぇ、前は1週間ぶっ通しで戦いましたねぇ。はたして貴方は出来ますかね?」

 

氷龍鱗は先程から、氷属性の魔法を行使しながら、肉弾戦も仕掛けていた

瑞稀は持ち前のスピードでそれを避け続けているが、体力の消耗が激しく、連戦であることもあり、限界が近づいていた

 

「くそ!まずいな…」

 

(神格覚醒を使っても決定打にならんのでは意味がない、剣山もしかり。このままでは押し切られるぞ!)

 

「隙ありです!!」

 

集中力が乱れた隙を突かれ天空剣を弾き飛ばされる

 

「っ!!」

 

(瑞稀!!)

 

追い詰められる瑞稀と天空剣

未だ底が見えぬ氷龍鱗・刻龍

勝負は決している様に思えた…

その時、瑞稀の頭に直接声が響いた

 

(今生での我が半身よ、力を貸してやろうか?)

 

黒龍王との戦いの時、聞こえた声とは違う何者かが瑞稀に語りかける

 

(っ!?龍王の時とは違う!?お前はなんなんだ!龍王の時といい、今回といい、何故お前達は俺に力を貸す?お前達はいったいなんなんだ?何故俺の中に…)

 

(理由?そんなもの至極単純だ。私は先程の鬼神とこの龍、そして後に控えている犬擬き達に怨みがある。何より今生ではお前には必ずやあの方の下へ参じてもらいたいのでな、奴ら()()如きに手こずっている暇はない。もう片割れは知らぬ。我が器たるお前の力に引き摺られただけの者だ、欠片程も興味はない。まあ所詮はかつて()()()()()を滅ぼしかけただけ。大した力ではない、その程度で関心など湧かぬ)

 

その声は銀狼達を五柱と呼び、怨みがあると語る

しかも龍王との戦闘時、語り掛けて来た者はかつて全ての世界を滅ぼしかけたと言う

さらにはそれほどの力さえ大したものではないと蔑む

 

(さぁ、少しばかり力を貸してやる。あの程度の氷、焼き尽くしてやれ)

 

瞬間、瑞稀から膨大な魔力が炎となって溢れ出す!

刻龍がブリザードウォールで生み出した吹雪が一瞬で全て焼き尽くされ、蒸発していく!!

 

(馬鹿な!?瑞稀に魔力は無いはずじゃ!何故炎を!?何よりあの炎はまさか!?)

 

「そんなまさか!?真紅の炎だと!?では貴様が!?」

 

天空剣と氷龍鱗・刻龍が瑞稀の身体から放たれる炎を見て、驚愕する

 

「なるほど…だからこのタイミングでバロムさんが人界に戦争を…」

 

氷龍鱗・刻龍が何かを察し、目付きを鋭くする

 

「ならば試させてもらおう!!貴様が本当にそうなのか!」

 

そう言って刻龍は魔力を高まらせて、拳にその魔力全てを集約する!!

 

「我が最大の奥義にて、決着をつけよう!」

 

「よく分からんが、望む所だ…」

 

瑞稀もまた、内から溢れる魔力を高まらせて、両の手の平に集約する!!

呼応して炎が激しく燃え上がる!!

 

「砕け散れ!奥義・得救世(エグゼ)!!!」

 

「燃え尽きろ!!」

 

刻龍が虚空に拳を叩き込み、空間にヒビを入れる!

途端にとてつもない衝撃波が発生し大地を割りながら瑞稀に迫る!!

同時に瑞稀が両手を刻龍に向け、そこから絶大な威力を持った炎が放たれる!!

 

2つの力は中空でぶつかり、互いの力を削り合う!

…拮抗は長くは続かなかった。瑞稀の炎が刻龍が放った衝撃波を喰らい尽くし、さらに威力を上げ刻龍を飲み込んだ!!

 

「っ!!やはり、貴方が…そうなのか…」

 

激しく燃え上がる刻龍!

炎が収まった時、刻龍は力を使い果たし、倒れていた

 

(…よく分からんが瑞稀が勝った様じゃな)

 

「はぁ…はぁ…」

 

急激に魔力が跳ね上がり、急激に魔力を消費したせいで瑞稀は息を切らし、倒れる

 

氷龍鱗・刻龍と天剣の君・瑞稀の勝負は瑞稀の勝利で幕を下ろした

 

しかし、喜びも束の間

 

「やはり、貴方がそうでしたか…では、最後の確認として私の相手を願おうか」

 

銀狼・バロムがとうとう瑞稀と戦うために戦場に駆け抜けてきた

 

ここに、人と魔王の最終決戦が始まる!

 

 




またしても謎の声が出ました!
魔王が意味深な事を言っていましたがこれに関してはしばらく謎のままにする予定です
謎の声の正体もまだ分かりません
天空剣や魔王達は何か知ってそうな口振りですが

次回は魔王最終決戦、最強の魔王・銀狼との戦いです



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駆け抜ける銀狼、目覚める最悪の龍

瑞稀の力の秘密が今回一部、明かされます
後、銀狼について謎が増えます



「最後の確認として私の相手を願おうか」

 

銀狼が穏やかに告げる

瑞稀は連戦による体力の消耗と急激に魔力を消費した影響で膝をつき、立ち上がる事もままならないでいた

 

「はぁ、はぁ」

 

息を切らし、滝の様な汗を流し、意識さえ朦朧としながらも立ち上がろうとする瑞稀

が、脚に力が入らずふらつき、再び膝をついてしまう

 

(…あれだけの魔力を放ちながら、今は欠片ほどの魔力も感じない?)

 

銀狼は今の瑞稀を観察し、魔力が感じられない事に気付き、怪訝に思う

 

「…天空剣!」

 

(今行くぞ!)

 

瑞稀が天空剣を呼ぶ!

呼び声に応えた天空剣が真っ直ぐ瑞稀の元へと飛翔する

 

「まぁいい、始めようか」

 

天空剣の助けで体力を多少回復させた瑞稀が立ち上がり、銀狼に突っ込んでいく!

 

「剣山・桜並木!!」

 

走りながら剣山を発動し、浮遊させ斬りかかる!

 

「いきなり桜並木か、いいでしょう。本気で来るがいい」

 

「天空扇・天扇!!」

 

奥義を初手から放ち、一気に仕留めにかかる瑞稀!

 

「天扇か…結界で受けるのは悪手か。まあ避けるだけですがね」

 

銀狼が凄まじい速度で動き、天扇を避ける

そして魔力を溜めて、魔法を放つ

 

「ブラスト!」

 

口から細目のレーザーの様な魔法が放たれた

絶大な威力を秘め、真っ直ぐ瑞稀に迫る!

 

(避けろ、受けてはならん!!防げる威力ではない!)

 

「っ!!」

 

天空剣の声に反応し、辛うじて回避に成功する

放たれた魔法は後続の人界軍を貫通し、吹き飛ばした!!

 

「……マジかよ…どれほどの威力だ…」

 

「避けたか…まぁいい。ではスピードにはスピードで対抗するとしますか。私もそちらが得意分野ですし」

 

また銀狼が凄まじい速度で駆け出す!

 

「瞬月狼」

 

魔力を纏い、瑞稀に突進する銀狼

辛うじて紙一重で避ける瑞稀

しかし、速度によって発生した衝撃波で吹き飛ばされる

 

「っ!!速すぎる!」

 

(魔法の威力、そしてあの速度故に、奴は最強と言われている!)

 

「休んでいる暇はありませんよ?」

 

瞬間、空中に百を超える魔法陣が展開される!

 

「さて、一つ一つは大した魔法ではありませんが、はたして避け切れますかね?」

 

「数が多すぎする!!」

 

瑞稀を全力で回避に専念し、時に天空剣を振るいながら、魔法の対処にあたった

その間にも魔法陣を追加で展開しながら、銀狼は瑞稀をより深く、観察していた

 

(…なるほど、封印を施されているのか。しかもかなり強力な封印だな、私でもこのレベルの封印は一人で行使するのは無理だな。先程は一時的に封印が綻びを起こしただけか…だが…どうやら封印はまだ完全に元通りと言うわけではなさそうだな。しかも…随分と厄介なモノまで宿しているな…目覚めると殺られるな…)

 

銀狼は瑞稀の状態を正確に見抜き、表情を曇らせた

瑞稀の中からとてつもない力を感じ取った様だ

 

「一気に仕留めるか…」

 

銀狼は魔力を一気に最大限高まらせ、その身に纏う

そして銀色の閃光を放ちながら、神速の突進が瑞稀に迫る!!

 

「銀月狼!!!」

 

それは銀狼・バロムが誇る最速の奥義だった

瑞稀は為す術もなく直撃し、吹き飛ばされる

 

「っ!?がはっ!!」

 

大量の血を吐き、全身の激痛で動く事すら出来なかった

そして一気に追い詰められた瑞稀の内から強烈な憎悪を滾らせながら、龍王戦で語り掛けてきたあの声が響いた

 

(殺せ!!あの憎き犬畜生を!!跡形も残さず消し飛ばせ!!)

 

その声は龍王の時の様な、厳かで、誇り高い声ではなく、怨嗟にまみれていた

 

『あの忌まわしき()を!!()()()をこんな惨めな姿に()()()()を!!殺せ!!さぁ、瑞稀!!謳え!!我が怨嗟を!!唱えろ!!奴に捧げる怨嗟の祝詞を!!!』

 

瞬間、瑞稀の内から強烈な憎悪、憤怒が溢れ出す!

それに呼応する様に瑞稀の内から魔力が際限なく溢れ出し、白い雷が迸る!!

…瑞稀の口から瑞稀の意思とは関係なく、呪文が紡がれる

 

「我に宿りし救われぬ白龍よ…

怒りのまま解き放て…

我が内に眠りし銀光の白龍よ…

再び天へと君臨せよ…

全界を創造せし神々よ…

我を封じた理の神々よ…

汝等に封じられし我が真の力を思い出せ!!

汝等、我が銀幽たる雷にて悉く滅せよ!!」

 

そして最後の一節が瑞稀とあの声が重なり紡がれる!

 

「『愚かなものなり!!理の神よ!!』」

 

 

「『完全覇龍化(ブレイカブルジャガーノートドライブ)!!!!」』」

 

瑞稀の身体が輪郭を失い、 徐々に人の姿から巨大な龍に替わっていく!!

それは巨大な白銀に耀く四足の龍だった!

2対の翼を持ち、その背には光を放つ巨大輪を浮遊させて、白い雷を滾らせながら天を舞っていた

 

「…やはり、目覚めたか…マナスヴェイン…史上最強最悪のドラゴン。二覇龍、白龍神王…!」

 

「──!!!!!!」

 

とてつもない咆哮を上げ、白龍神王は天に君臨する!

その力は咆哮1つで周囲一体を消し飛ばすほどだった

 

「…まずい…白龍神王相手では勝ち目なぞ無い…」

 

白龍神王がその身に迸る雷を銀狼に向けて放つ

銀狼は強力な結界を張るが一瞬で砕かれ、雷が直撃し吹き飛ばされる

最強の魔王と伝説に語られる銀狼すら、禍々しい力を放つ白龍神王を前に、為す術なく蹂躙されていく!!

 

「くそ!やはり強すぎる!しかもあの様子じゃ宿主の意識がない、暴走してるな…」

 

白龍神王は銀狼だけでなく手当たり次第にその身から雷を、口から強力な火炎弾を放ち、破壊の限りを尽くしていた!

その目は怨嗟にまみれ、咆哮は憤怒を撒き散らしていた!

 

「最終手段だな、我が最強の魔法にて迎え撃つ!!」

 

銀狼はその身に宿す、全ての魔力を口に溜め始める!!

その魔力はとてつもなく、大気中の魔素が呼応し、空間そのものが震えていた!!

 

白龍神王もまた、銀狼の魔力に反応して迎え撃つがために魔力を口に溜めていく!

同時に背中の輪が高速で回転し、周囲の魔素を吸収し始める!!

 

「ブラスタルニクス!!!」

 

銀狼が周囲を吹き飛ばしながら、天を舞う白龍神王目掛け、魔法を放つ!!

白龍神王もまた、口から絶大な力を込めた白い雷を伴ったレーザーの様な魔法を放つ!!

 

中空で2つの魔法がぶつかる!!

が、一瞬の均衡すらなく銀狼の魔法が掻き消され、白龍神王の魔法が銀狼に向かっていく!!

 

銀狼に魔法が当たろうとする刹那、魔法が唐突に消え、白龍神王の内側から深紅に燃える巨大な炎の刃が白龍神王の身体を斬り裂いた!!

 

「──!!!!」

 

悲痛な叫びを上げ、白龍神王はその身を魔力に霧散させ消える

白龍神王が居た場所には、傷だらけの瑞稀が意識を失い横たわっていた…

 

「……何が…起きた?」

 

銀狼もまた、それだけを言い残し力を使い果たして意識を失い地に倒れた

 

…工程はどうであれ、魔王達は倒れ、人と魔王の戦は人の勝利に終わった…

 

 

 

 




白龍神王・マナスヴェイン
あれは何故瑞稀の中にいるのか?
銀狼がどの様な形で関わっているのか?
近々明かされると思います

完全覇龍化に関しては元ネタはD×Dの擬似龍神化ですね
感覚的には二天龍の覇龍を遥かに超える覇龍みたいな感じです


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天の扇の覚悟、銀狼の信念、暗躍する●●●●

今回は瑞稀の出番は無しです
瑞稀は気絶しています



覇龍化の影響で意識を失っている瑞稀に、体力を幾分か回復させた銀狼が歩み寄る

 

「…よりによって完全覇龍化を使うとはな、咄嗟に結界に魔力を全て割いたから辛うじて助かった…今なら殺せる、悪い芽は今の内に摘むべきだな…」

 

瑞稀の心臓目掛けて銀狼が魔法を放とうとする

 

「やめろ!!バロム、瑞稀に手を出すな!!」

 

そこに人形になった天空剣が駆け付ける

瑞稀を庇う天空剣に銀狼が眼光を鋭くして怒鳴る!

 

「どけ!天空剣!そいつはあの御方じゃない!!白龍神王を宿す忌まわしきこの次元の敵だ!!忘れたわけではあるまい!?あの惨劇を!!二覇龍がどれほどの猛威を振るったのか!!()()()()()()()()()の真の力を!()との戦の準備を進める事すら出来なくなる!!」

 

「お前こそ忘れたのか!?()()()はあやつに狂わされたに過ぎない!!瑞稀の力は()()()()()()()()()()()()()()()!!。確かに瑞稀はあの御方じゃないのかもしれん、だが儂はこやつがあの御方だから契約したわけじゃない!!何より、白龍神王の力ならあやつを堕とす所か、滅する事すら出来る!!」

 

「…出来るだろうさ。だが!宿主の意識が喰われるのでは意味が無い!!奴を滅したとしても今度は白龍神王が敵だ!今までの宿主は皆、喰われた!その度に()()が宿主諸共殺してきた!だがもう彼女は居ない!神界の馬鹿共が彼女の力を恐れ、冥府の最下層に肉体と魂を分離して、封印した!それだけなら彼女なら封印を振りほどく事も容易かろう。だが神界の奴等が何をしたか知らんが彼女は力の大半を失っている!もう二覇龍を止められる者は居ない!」

 

天空剣の訴えも虚しく、銀狼は怒りを露にする

天空剣はそんな銀狼の怒りを受け、両手に剣を取る

 

「…お前がどうしても瑞稀を殺すと言うのなら…儂を砕いてからやるんじゃな…」

 

「…本気か?」

 

天空剣の覚悟を前に銀狼が驚愕を浮かべる

 

「当たり前じゃ、担ぎ手を護るのは神器として!共に歩む相棒として当然じゃろが!!この身、この命、例え砕け散ろうとも!儂は夜宵が見付かるまでは瑞稀の神器じゃ!!あいつは必ず白龍神王を降し、偉大なる王となる!生半可な覚悟で神器なんざやれるかい!」

 

天空剣が両手の剣に膨大な魔力を纏わせる!

 

「…そうか、ならばお前をこの次元の怨敵と断定する。次元の全てに仇なすならば相手がお前であろうとも、俺は容赦しない。その身、その命、幾千幾万と砕け散れ」

 

銀狼もその身に膨大な魔力を纏わせる!

互いに一歩も譲らず、己の信念に従いぶつかり合う!!

 

「行くぞ!!天空扇!!!」

 

「ただの天空扇で俺がどうにかなると思うな!!」

 

銀狼が無造作に腕を振るい、天空扇を吹き飛ばす

先程の戦闘で天空剣も魔力の殆どを使ってしまい、剣山も、奥義天扇も使えないほど消耗していた

苦渋を浮かべる天空剣に目掛け、銀狼が口に魔力を集約し、魔法を放つ!

 

「ブラスト!!」

 

「お前も相当消耗しとる様じゃな!!」

 

銀狼が放った魔法を天空剣が刀の一閃で斬り裂く!

銀狼もまた、先程の戦闘の傷も消耗した魔力も回復していない状態にある

それでも、互いに譲れない信念を貫くために残り僅か力を振り絞り戦う

 

天空剣が両手の二刀から天空扇を放ち、それを銀狼が高速で駆け抜け避け、または爪で薙ぎ払う

銀狼が魔法を口から、または空中に描いた魔法陣から放ち、それを天空扇が二刀で捌き、または斬り裂く

延々と繰り返されるその戦いは唐突に終わりを告げる!

 

二人の直上から黒い雷が降り注ぐ!!

 

「「っ!?」」

 

二人は咄嗟に後ろに飛び退き、事なきを得た

そして上空から背中まで届く黒い髪を靡かせながら一人の女性が凄まじい速度で落下してきた!

 

「…そこまでにしておくれ、まだこいつを殺されるわけにいかんのよ」

 

凛々しくも、美しい声が響き渡る

その声に、その姿に銀狼と天空剣は驚愕して目線を釘付けにされた

 

「…馬鹿な…お前は…リーベ!?何故ここに!しかも人形だと!?既に目覚めたのか!?」

 

銀狼が驚愕から声を荒げる

女性はそんな銀狼を一瞥すると興味が無いように言い放つ

 

「目覚めたのかって、目覚めてなかったら人形じゃないさ。耄碌したもんさね、銀狼。まあ、あんたの事なんざどうでもいい、今はあの子の事さ。」

 

「どう言うことじゃ?何故お前が瑞稀を助ける?」

 

「決まってる、あの子は凛音だからさ。私が助けるのは当たり前だろ?」

 

「「っ!!」」

 

そして女性の周囲を中心にとてつもない魔力が迸る!!

女性は狂暴な笑みを浮かべながら銀狼に言い放つ

 

「これ以上、この子に手を出すと言うのなら…私が相手をするよ?銀狼。死ぬ気でかかってきな」

 

「……勝ち目は無いか…仕方がない、ここは退かせてもらう。だが、天空剣、後悔するなよ。お前の担ぎ手は白龍神王を宿す者。俺が何もせずともロクな人生送らんぞ」

 

そう言って銀狼は転移魔法を使用し倒れていた鬼神将と氷龍鱗と共に消えた

 

「…さて、私もさっさとトンズラこくかね。それじゃあね、天空剣。精々担ぎ手を護ってやるんだね。私が助けるのはこれが最初で最後だ。次は私が殺してやるよ」

 

女性はそう言って地面を吹き飛ばす勢いで跳躍し、一気に遥か上空に到達すると凄まじい速度でどこかに飛んで行ってしまった

 

残された天空剣は呆気に取られながら、瑞稀を背負い治療班まで運んだ

 

 




またよく分からない女性が出てきました
銀狼すら戦いを放棄し逃げるほどの力の持ち主みたいですが何者かは分からないままです
明かされるのはもうちょい後だと思います

そしてまたよく分からない話が出てきましたが
予定ではこの小説を何章かに分けようと思っているのですが、今の話の大筋に関係する事柄になります

ちなみにこの世界の女性は基本的に男性よりも強い事が多いと言う設定です
何故って?強くて綺麗な女性って惹かれませんか?
はっきり言って作者の性癖ですね!


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王の奮闘、歩み寄る確執、燻る疑心


前回より話の中の時間が飛びます
今回は瑞稀の王としての頑張りのアピール回です

ちなみに短いですし瑞稀本人の登場も無いです



 

魔王との戦いから五年程の月日が流れた

この五年で人界は大きく発展を遂げていた

 

理由は瑞稀が王として、ある政策を行ったからだ

その政策とは

 

《人界に住まう他種族との和解、及び魔族に対して、正式に魔法研究の協力を仰ぐ》

 

瑞稀はこの政策を宣言すると同時に魔族一人一人に協力を仰ぐため、自ら対話のために赴いた

 

そして魔族だけでなく、人界に住まう人間以外の種族の将来を、少しでも良き方向にするため、教育機関に他種族への理解を深める様、教育体制の変更を最優先で行う様、王命を下した

 

瑞稀の努力が形となり他種族への差別は少しずつ無くなりつつある

が、未だに大多数の人間達は差別を行っているのが現実である

人間達の人間至上主義による差別は非常に根深いものだった

 

それでも魔族の大半が瑞稀の度重なる対話により和解し

「この王になら協力を惜しまない」と瑞稀への協力を申し出てくれた

 

魔族は産まれながら人間とは比べ物にならない膨大な魔力を保有し、不死に等しい長寿でもある

故に魔法の知識も豊富であり、技術も人間とは比べ物にならない

 

魔族の協力の下、魔法研究は飛躍的に進み、瑞稀の方針により魔力が産まれながら乏しい者も、知識は持つべきと教育方針を変更した事で、魔法への理解も更に深まり、魔力が無くとも知識が豊富な研究職の者が増えた事で、魔法知識、技術共に発展を遂げ続けている

 

そのお陰でなんやかんや文句が出ながらも国民からの支持は増える一方であった

 

政府の者達は政治に関しては、無能だと思っていた瑞稀の王としての才覚に、表向き称賛を送り、内心では苛立ちを募らせていた

 

「くそっ!瑞稀め!忌まわしい他種族と共に歩むなどとぬかしおって!人間の王としての自覚があるのか!?」

 

「全くだ!特に王宮に魔法研究のために魔族を度々出入りさせるなんて!あの馬鹿な王は何を考えているんだ!?魔族なんて穢らわしい!奴等の穢れが高尚な人間である我々に移ったらどうするんだ!!」

 

大臣達は口々に文句を吐く

元粛清部隊の瑞稀を早く王座から引き摺り降ろしたくてしょうがない様だ

そこに諜報班の者が音も無く入室する

 

「…大臣、探って参りました。陛下の血筋を調べた結果、母方に魔族の血が入っております。陛下に魔力が無いのは封印されているからの様です」

 

それを聞き、大臣達が沸き立つ

 

「フフフフ!素晴らしい情報だ!この事を国民に公表すれば奴は失脚間違い無い!魔王との戦いも奴が仕掛けたものだと捏造してやれば完璧だ!」

 

人界はまだまだ荒れそうだ…

 

 





主人公の登場2話連続無いって…我ながら酷いと思う
さて、大臣達が良からぬ事を企んでいますね
次こそ瑞稀を出したい…


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露出する醜悪、芽吹く怨嗟

鬱展開です
今回の出来事は今後の瑞稀にかなり影響を与えます



「瑞稀、力有る者には力無き者を護る義務がある。どんな力もそれを扱う者次第で有り様を変える。例えば、全てを滅ぼす力があったとする、それを世界を滅ぼす為に振るうのは容易い。でも全てを滅ぼす事が出来ると言う事は、あらゆる理不尽を砕き、大切な誰かを護る事が出来ると言う事だ。逆にあらゆる災厄をはね除ける守護だって、使い方次第でとてつもない暴力にだってなる。あんたの力はきっと将来、あんたを傷付けるだろう。それでも忘れちゃいけないよ?滅びは守護にだって成り得る。守護は滅びにだって成り得る。あんたの力はあんたの使い方次第で何にだって成り得る。何よりもどんな力もあんたの命の一部なんだ。目を逸らさず向き合い、捩じ伏せるんだ。あんたなら出来る。だってあんたは私の最高の●●なんだから」

 

…声が聞こえる…

今俺は夢を見ている…

これは失った記憶なのか?

分からない…この声が誰なのか未だに思い出せない…

凄く大切な誰かだった気がする

かけがえのない人だった気がする

何よりこの言葉は…ずっと胸に抱き続けていた

誰かも思い出せないのに言葉だけが残った

結果、それは俺自身の揺るぎない信念と成った

 

また…声が聞こえる…

 

「あらゆる争いを止める方法を教えてやろう。それはな…お前が自身の力の全てを振るう事だ。そうさ!殺せば良い!!愚鈍な人間共を、かつて()()()()()()()()()生きとし生ける全てを皆殺しにしろ!!お前にはその為の力がある!!滅びを振り撒け!!思うがままに蹂躙しろ!!己の中に燻る怨嗟の炎を糧として(ほむら)と成せ!!滅びとは何たるかを、偽りの神々に見せ付けてやれ!!自分が何なのかを高らかに怨嗟と共に叫べ!!お前は●●を司る●●の●なのだ!!」

 

これは俺の願望なのだろうか?

確かに幼少期、度し難い破壊衝動を覚える事はあった

持て余し周囲にぶつけた事も1度や2度じゃない

…でも…違う…これは俺の怨み辛みじゃない

 

この憤怒は、怨嗟は20年かそこらで積る様なモノじゃない

もっと根深く、覗くだけで呑み込まれてしまいそうな程暗く冷たい

 

「お前は誰だ?何故俺にそんな事を語る?」

 

それを視てはいけない

それを知ってはいけない

そんな気がして瑞稀は堪らず、怨嗟を撒き散らす声に問う

 

「クックック!そんな事すらお前は忘れてしまったのか?鬼崎の下朗共に魔素を歪められた結果か」

 

まるで瑞稀を嘲笑うかの様に吐き捨てる声は、もう耐えられないとばかりに笑い声を上げる

…ひとしきり笑いが収まると、今度は憐れみを滲ませた声音で告げる

 

「私はな……」

 

声は途切れ、()が終わりを告げ、()()()()()

 


 

今、人界は騒然としていた

1週間程前から耳を疑う様な噂が、まことしやかに囁かれていた

 

王は魔族の血を引く穢れた混血だ

王は魔族と結託して人界を魔界化させる気だ

魔王が攻めて来たのも、その魔王をたった1人で3柱も退けられたのも、全て王が人界を支配するために謀った事だ

 

そんな噂が人界で囁かれ、一瞬で広まった

連日、新聞のトップやテレビのトップニュースとして報道され、今や、あれだけ瑞稀を支持していた国民は手のひらを反して瑞稀を罵倒した

 

あの王は悪魔の血筋だ

あの王は我らを裏切った

あの王は人間の王じゃない、魔王だ

殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!

あの穢らわしい王を殺せ!

 

誰もが口を揃えて瑞稀を罵り、王座から引き摺り降ろした

 

瑞稀は今、人界の秘境にある奈落一族の宗家総本山で身を隠していた

最早、人界に瑞稀の居場所は無くなっていた…

 

「……何故…」

 

瑞稀は茫然としていた

 

魔族の血?初耳だ

実の親すら知らなかったのに、知っているわけが無い

人界を魔界化?他種族との繋がりを強めなければいずれ、他の世界から復讐され人界は滅びる

そう思ったからこそ俺は、他種族との和解の道を選んだ

魔王と俺が結託して人界を支配?ただ俺は、民を護りたかっただけだ

 

ただ…民を護るために命懸けで戦った…

それだけだった…俺は…間違っていたのか?

俺は…今まで何をしていたんだ?

爺さん…教えてくれ…俺は…どうすれば良い?

 

瑞稀の養父、奈良橋徹平は2年前に病気で他界していた

国民から裏切られ、心の支えであった養父も居らず、幼馴染の唯は瑞稀のために、瑞稀の王への復帰を訴える署名活動を、友人の信介と一緒にしてくれていた

だが、賛同してくれる者は未だに一人も居ない

 

そんな状況がさらに、瑞稀を追い詰めていく

そんな折に先日、奈落一族宗家御館、真奈から聞かされた瑞稀の血筋の事と、ある秘密は、瑞稀を驚愕させるに足るものだった

 

「良いか?心して聞くが良い。お前の母の名は、宮小路幸葉。奈落一族の分家、宮小路家の娘じゃ。それが分かったからこそ、徹平もお前を引き取る決意を固めたのだろうよ。そして奈落一族は魔族の血を引く一族でもある。」

 

そして真奈はさらに、衝撃の事実を告げる

 

「宗家の養子に幸穂と言う娘がおるじゃろ?」

 

「ああ、知ってるよ。俺と同い年の子だろ、昔はよく一緒に遊んだよ。だが幸穂がなんだってんだ?」

 

「幸穂はお前の実の妹じゃ。ある日儂らは鬼崎の実験場跡地から二人の幼子を見付けた。お前と幸穂じゃ。幸穂は儂らが保護したが、お前は鬼崎に保護された。」

 

「…似てるとは思っていたが…まさか妹だとはな。だが何故今さらそれを俺に教える?」

 

「お前はどの道、人界にはもうおれん。ならば最後にそれ位の事を教えてやるのも良かろうと思っただけじゃ。」

 

「…どう言う意味だ?」

 

「そのままの意味だ。こうなってはお前はもう人界では生きられん。数日中に人界を発て、どこへなりとて行くが良い。」

 

奈落一族からすら見捨てられ、瑞稀は途方に暮れていた

これから自分はどうすれば良い?

これからどう生きていけば良い?

何もかもが分からなかった…

 

ただ…1つだけはっきりしている

人間は醜い…

ただこの身に流れる血が、自分達と違うからと言う理由で、命懸けで護ってくれた王を裏切った

自分達と違うからと理不尽に迫害し、侮蔑する

その醜悪、吐き気すら催す

もう…俺は…人間達のために戦いたくない…

滅びてしまえ…愚かな人猿共よ…

 

瑞稀の中に黒い感情が芽生え始めた…

…1人、人間達への憤怒を湛えた瑞稀に、何者かが気配を殺しながら近付いてきた

 

「…誰だ…俺に何の用だ…場合によってはその首貰うぞ…」

 

天空剣の柄に手を掛けながら、殺気すら滲ませ問う

瑞稀に気付かれた事で、気配を殺す意味を無くし、出て来たのは、1人の美しい女性だった

 

「何者だ?その魔力、人間では無いな?」

 

女性は美しい見た目とは裏腹に、禍々しい魔力をその身に湛えていた

女性は、瑞稀の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべた

 

「ご明察。私は魔界の魔王の1人、セシルよ。」

 

魔王と聞き、瑞稀の殺気が跳ね上がり、天空剣を抜き放つ

 

「魔王が俺に何の用だ…同胞の敵討ちか?」

 

「違うわ、貴方を迎えに来たの」

 

「どう言う意味だ」

 

瑞稀は一切警戒心を緩める事無くセシルに問う

迎えに来た?殺しに来たの間違いだろ

瑞稀はそう思っていた

 

「貴方、人間達に裏切られたのでしょ?行き場なんて無いんじゃない?」

 

「…っ」

 

「なら、魔界に来なさい。魔王になれば良い。魔界は貴方を歓迎するわ。既に魔界の住人は貴方を招く事に賛成している」

 

「馬鹿な…魔王を退けた俺をお前達が歓迎する?誰がそんな戯れ言を信じる?」

 

瑞稀は疑心を隠す事無く露にした

だが、セシルはそれを聞き可笑しそうに笑った

 

「魔界の住人は良い意味でも、悪い意味でも馬鹿が多くてね。そう言うの気にしないのよ。兎に角1度魔界に来て、考えてみて?損はさせないわ」

 

そう言うセシルは、嘘を言っている様には見えなかった

仮にも、数年前に死闘を繰り広げた魔界に迎えられる?

しかも自分が魔王になる?

悪い冗談だと思いたかった

これではあの噂は真実である、と証言するのと同義である

だが、行き場が無いのも事実故、瑞稀は答えあぐねていた

とは言えいつまでもだんまりを決め込むわけにもいかない

 

…ここは賭けに出るか

 

「分かった。その話、受けさせて頂く。魔王になるかどうかは、少し考えさせて欲しい」

 

「分かったわ。では早速、転移魔法で魔界に行きましょう」

 

「よろしく頼む」

 

光が二人を包み、消えた時にはもう二人の姿はそこに無かった

 

こうして瑞稀は人界を去り、魔界に赴く事になった

最後に振り返った瑞稀の目には…深い憎しみが刻まれていた…

 

人界は今日、本当の意味で王を失った…

 

黎明の夢が消え、暴虐たる現実が顔を出した…




今回で第1章が終了となります
果たして瑞稀は人間の敵となるのか否か
今後瑞稀はどうなるのか
今回の出来事が瑞稀にとってターニングポイントになります



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第2章、魔界の王
解き放たれる紅蓮、喜びを謳う女王


第2章に入ります
話の主な舞台が人界から魔界に替わります
それに伴いタグを追加しました



転移魔法の光が収まり、まず瑞稀の目に入ったのは、黒い城だった

周りは荒野が広がり、寒々しい情景である

何よりも、城の中から肌に感じる禍々しい魔力は凄まじいものだった

 

「ここは?」

 

瑞稀が共に転移したセシルに問う

セシルは瑞稀の反応が思った通りだったのか、上機嫌に答える

 

「ここは魔王城。数多に存在する魔王にも当然序列というものが存在するわ。そしてこの城に住まうのは最高位の魔王、魔界の正当なる王、メルフェレス・ヴェリオール女王陛下よ。これから貴方にはメルフェレス様に会って貰うわ。大丈夫よ、メルフェレス様は色々ぶっ飛んでるけどお優しい方だから。他にも貴方を一目見ようと主要な魔王が来てるけどね」

 

セシルの言葉に柄にもなく瑞稀が緊張を催す

天空剣は逆に楽しそうだった

 

(そう緊張するな、メルフェレスは悪い王ではない。むしろ警戒するべきは他の有象無象、バロム達三人以外の魔王共だ)

 

天空剣の忠告に首を傾げる瑞稀

銀狼達三人以外の魔王?

むしろ銀狼達の方が因縁がある以上、俺を目の敵にしそうなもんだが?

 

瑞稀がそう考え込んでいるのを見て、セシルが瑞稀に気付かれない様に笑う

 

(彼は面白い。こんな純粋な子が人間共の王だったとは。しかもバロム様方を退けるとはね。これから面白くなりそう)

 

そしてセシルに先導され、瑞稀が魔王城に入る…

瞬間、感じたのは多数の殺気だった!

城のロビーには幾人もの魔王が居た

皆一様に好戦的な笑みを浮かべながら瑞稀を睨み付けていた

咄嗟に天空剣の柄に手を掛ける

一触即発の様相を見せるその場に力ある声が響き渡る

 

「止めよ。彼はメルフェレス様の客人だ。あの御方の顔に泥を塗る気か。この馬鹿共が」

 

「言うだけ無駄です。バロムさん?不躾なこいつらは1人残らず殴り殺した方が、御行儀良くなりますよ」

 

「一人一人殴り殺すのも面倒だし俺が焼き尽くせばいいんじゃね?」

 

「「黙れゴリラ」」

 

「俺ゴリラじゃねえし!鬼神だしぃ!!」

 

銀狼と氷龍鱗が人形で、鬼神将が派手なアロハシャツを着て、漫才をしながら現れる

三人(三匹?)の登場に瑞稀とセシルが脱力する

他の魔王は瑞稀に向けていた殺気を三人に向け、侮蔑の眼差しを露にする

 

「チッ!おい銀狼、何しに来やがった?文字通りの負け犬に成り下がって魔王の座から堕とされた分際がよ。氷龍鱗、鬼神将、お前らもだ。魔王でも何でもねえお前らが、俺達魔王に偉そうな口を叩くんじゃねえ!分かったら下がれ!」

 

魔王達がせせら笑う様を見て、瑞稀とセシルは呆れ果てていた

身の程知らすが

二人がそう口にする前にその場の空気が重くなった

 

「大層な口をきくじゃないか…魔王を名乗りながら我等が人界に攻め込んだ時に、尻込みして共に来れなかった三下風情が…」

 

氷龍鱗の文字通りの氷点下の視線が魔王達を射抜く

 

「だから言ったじゃねえか!一人残らず焼き尽くしちまえば良かったんだ!こんな奴等が魔王をやってる事自体、俺は気に食わねえ!」

 

鬼神将がその身に炎を纏いながら、怒鳴り散らす

 

「…止めろ二人共、メルフェレス様の城で勝手は許さん。とは言え、貴様等も身の程を弁えよ。確かに我等は魔王の座を剥奪された。だが力まで失くしたわけじゃない。貴様等如き、全滅させるは容易い。分かったら貴様等こそ黙れ、この恥知らず共が。貴様等は魔王の面汚しだ」

 

銀狼の言葉で止めを刺され、魔王達が押し黙る

それを見て、これ見よがしにセシルが笑う

 

「フフフ!こんなお馬鹿さん達は放っておいて、メルフェレス様にお会いしてきなさい。バロム様方がご案内してくれるわ」

 

「…分かった。よろしく頼むよ、銀狼」

 

「バロムで構いませんよ、瑞稀様」

 

銀狼達の案内に従い謁見の間に向かう

その道すがらもすれ違う魔王達に睨み付けられ、瑞稀は居心地が悪かった

 

「…申し訳ない。恥知らずな魔王共が不快な思いをさせてしまい、代わりに御詫び申し上げます」

 

「…いや、別に。むしろ貴方方から殺気や怒気が感じられないのが不思議でしようがない」

 

瑞稀の発言に三人はきょとんとしていた

何か変な事を言ったか?

瑞稀は自分が可笑しな事を言ったのかと疑問に思った

それほどまでに彼等からは、負の感情が感じられなかった

 

「…俺は、何か可笑しな発言をしただろうか?」

 

「失礼。そう言うわけでは無いのです。むしろ貴方が気にしていた事が意外だったので、ちなみに我々は全く気にしてませんよ」

 

「そうですねぇ、瑞稀様との戦いは心踊る楽しいものでした」

 

「そうだぜ!旦那!勝者が敗者に気を使うんじゃねえよ!旦那は堂々としてりゃあいいのさ!」

 

三人は自分達が敗北した事を全く気にしていないと笑った

その潔い物言いに今度は瑞稀がきょとんとした

 

(なるほど、良い意味でも、悪い意味でも馬鹿が多い、か。確かにそうかもしれん。だが…後腐れなく、こうして接する事が出来る器の大きさ。敵ではなくなり、同じ魔界に生きる者となれば分け隔てなく接する。確かにこの三人は他の魔王より偉大な王だな)

 

内心三人の王としての器の大きさに、感動すら覚えていた

瑞稀は魔王と言う存在に抱いていた印象が良い意味で崩れた

…そうこうする内に謁見の間の前に着いた

三人は瑞稀の後ろに下がると、跪き中に入る様先を促す

 

そして謁見の間に入った瑞稀が目にしたのは、禍々しい魔力を、放ちながらも柔らかな笑みを浮かべ玉座に座る美しき女王だった

 

「いらっしゃい!貴方が瑞稀ね、待ってたわ!それはもう、首を長くして待ってたのよ?バロム達から話を聞いてずっと貴方に会いたかったの!あっ!ごめんね!挨拶がまだよね!私はメルフェレス!メルフェレス・ヴェリオールよ!よろしくね!」

 

…開いた口が塞がらなかった…

見た目は美しい大人の魅力溢れる女王

だが、その振る舞いは完全に少女のノリだった

 

(魔王ってのはマトモな奴は居ないのか!?いや、多分居ない!)

 

瑞稀の中の魔王への印象が悪い意味で崩れた…

 

「えっとね、貴方を魔界に呼びたいって言ったのは私なの!魔王には別にならなくてもいいわ!私の話し相手になって欲しいの!」

 

「と言いますと?」

 

「私ね、この魔界の初代魔王の血を引いているの。だから産まれた時から王位を継ぐ事が決まってたの。だから話し相手が居ないの。昔から周りには友達も、話し相手さえ居なくて寂しかった。だから貴方に私の話し相手になって欲しいの」

 

「…事情は分かりました。しかし、何故私なのでしょうか?」

 

「そんな堅苦しい話し方はやめて?寂しくなるわ。何故貴方なのかって聞かれると、何となくって感じかな!何となく貴方なら私と仲良くしてくれそうだから。バロムから話を聞いてそう思ったの!貴方と話がしたい、貴方の話が聞いてみたい、貴方に私の話を聞いてほしいって思ったの!」

 

…分からん!完全に分からん!フィーリングじゃねえか!

瑞稀は内心そう叫びたかった

謁見の間の扉の外でバロム達三人が爆笑しているのが聞こえた…

 

「…ふぅ、分かりました。貴方の話し相手になれば良いんですね?なりましょう!やればいいんでしょう!?」

 

やけくそ気味に瑞稀がそう言うと嬉しそうにはしゃぎ、メルフェレスが笑う

その顔はまさに無邪気な少女のそれだった

 

「あっ!忘れてた!瑞稀!貴方の魔力の封印、私が解いてあげるね!」

 

さらに爆弾を投下してきた!

 

「はい?」

 

「貴方の魔力の封印を私が解いてあげる!凄く強力な封印だから完全には無理だけど、貴方の力の覚醒の切欠にはなると思うわ!」

 

そう言うとメルフェレスは瑞稀に魔力を放った

直撃すると同時に瑞稀の内から膨大な魔力が溢れ出した

その魔力は大気中の魔素に反応して紅い、紅蓮の炎に変わった

そして魔力が収まり、炎が消えると瑞稀が驚きのあまり、固まっていた

 

「…これは、俺の魔力?これほどの魔力が俺の中に封印されていたなんて…」

 

今自分の中にある魔力だけでも、銀狼すら軽く凌駕するほどの魔力がある

 

「凄いわ!まさか少し封印を緩くしただけでこれほどの魔力なんて!」

 

封印を緩くしたメルフェレス本人すらあまりの魔力総量に驚きを露にする

 

「決めたわ!瑞稀、さっきは魔王にならなくていいって言ったけど、私の直轄の魔王、序列二位の魔王になって!貴方の部下にバロム、刻龍、斬鉄をつけるから!お願い!!」

 

「はあ!?」

 

「よぉし!そうとなれば貴方の魔王としての名が必要ね!そうだなぁ……うん!決めた!その荒々しい魔力!争乱と暴力を司る魔王、狂嵐の魔公子が良いわ!!」

 

「はあ!?まだ俺は引き受けるとは言ってねえぞー!!!!」

 

こうして、狂嵐の魔公子・瑞稀の誕生である

ちなみに、その話を聞いた銀狼、氷龍鱗、鬼神将は腹を抱えながら爆笑し瑞稀の部下になる事を引き受けた

そしてセシルは数時間笑いが止まらず、病院に運ばれた…

 

「俺の意思は無視かー!!!」

 

瑞稀の叫び声が魔王城に響き渡った…

 




瑞稀魔界に行く!そして魔王になる!(させられる)
ちなみにメルフェレス様は黒髪ロン毛の巨乳美人です


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幕間 魔王とは?魔界とは?教えてバロムさん!

今回は説明回です
主に銀狼が説明してくれます




「さて、瑞稀様。魔力を取り戻した事ですし、貴方には魔法を学んで頂きます。不肖、このバロムが担任をさせて頂きます」

 

魔王城の一室で、バロムがどこからか持ってきた黒板を前に、学生の様に机を用意され、学ランを着せられた瑞稀。不満そうである

部屋の扉にはバロム魔法教室と看板が立てられていた

 

「これはなんだ?馬鹿にされているのか、俺は?」

 

何なら不満どころかキレ気味である

そんな瑞稀を前に、バロムは楽しそうだった

ちなみに、何故か斬鉄も座って勉強させられている

刻龍は副担任の役割として、バロムの横にいた

 

「瑞稀様、馬鹿になどしていませんよ。何事も形からです。学生時代、楽しかったでしょ?そういう気持ちで学んで欲しいと私とバロムさんは思ったんですよ」

 

「そうだぜ~旦那!刻龍の言う通りだ!楽しくやろうぜ!」

 

斬鉄も楽しそうに言う

何度も言うが、瑞稀はキレ気味である

 

「………どうでもいいから、始めてくれ…」

 

「分かりました。では瑞稀様は魔法をどの程度知っていますか?」

 

「…魔法とは、大きく分けて3つに分類される

己の魔力を用い、大気中の魔素を加速させ発動する魔術。これは初歩だ、特別な知識はいらない。魔力があれば誰でも使える。これを主に扱う者を魔術師と呼称する

次に己の魔力と、魔法陣や詠唱などを用い、大気中の魔素を加速させ発動する魔法。ある意味最もポピュラーなのがこれだ。下級、中級、上級、最上級と区分された豊富な種類があり、そして究極魔法と言われる強力な魔法で構成される。魔法を学ぶとは主にこれを学ぶと言う事だ。これを主に扱う者を魔法師と呼称する

そして、己自身の魔素をコントロールし変質させる、または魔力の様に用い、大気中の魔素と混ぜ合わせ加速、変質させる魔法の極致、魔導。これは知識だけでどうにかなるものじゃない、己の魔素を制御出来る生来の能力、もしくは特殊な技術を持つ必要がある。魔導を修めた者を魔導師と呼称する

これら3つを総合的に呼称するのが魔法だ

さらに己の自作の魔法が魔法協会の永久保管に登録されると大魔導師と呼称され、それは魔法の真理に至った証明でもある

俺が知ってるのはこれ位だな」

 

「…大変…お詳しい…」

 

バロムは教える事が無さすぎてがっかり

刻龍も予想外な程のうんちくにびっくり

斬鉄はそもそも何を言ってるのか理解不能

瑞稀は人界で魔族に正式に魔法研究の協力を依頼する際、頼む側が知識が無いのでは話にならないと考え、魔法の事が書かれた参考書や、魔道書の類いを手当たり次第読み漁り、知識を蓄えた

結果、知識だけなら大魔導師に匹敵する程の知識量を得た

つまり、今さら魔法に関して学ぶ事などないのである

 

「分かりました、魔法は大丈夫な様なので、魔王の事や魔界の事を教えましょう」

 

「よろしく頼む」

 

「ではまず魔王について。魔王には序列が存在します。と言っても大雑把なので覚えるべきは3つだけです

序列1位、メルフェレス・ヴェリオール女王陛下

彼女はこの魔界の最高位の王です。故にメルフェレス様は魔界王と呼ばれます

序列2位、元は私、今は貴方です。

主な役割は内政から軍事面の総指揮ですね。まぁ分かりやすく言うなら大臣+将軍みたいな感じです

そして序列3位、その他大勢。

つまり貴方以下の魔王はぶっちゃけ貴方の部下に等しいと思って構いません

そして魔王にはそれぞれ魔王軍と言うお抱えの部隊が存在します。貴方は今現在、私と刻龍と斬鉄の魔王軍をそのまま、保有する事になりました

そして魔王になる条件ですが、簡単です。強ければ良い。魔界は力こそ全てですから、強い者が上に立つ

そこに血筋だとか、種族だとかは関係ありません」

 

「確かに大雑把だな。条件もまた凄い、強ければ良いと来たか。しかも3位からは一纏めか。実力にばらつきがかなりあるのでは?」

 

「あります。良い例を挙げるなら刻龍や斬鉄と他の魔王でしょうね。斬鉄1人でも本日、魔王城の正面広場に居た連中なら全滅させれます。しかし立場で言うなら一緒です」

 

「なるほど」

 

「では次に魔界について。魔界と一纏めに呼称していますが、実際は数多の惑星で構成された星系です。星の一つ一つにそれを治める魔王が存在します。今から何億年も前は1つの巨大な星でしたが、神々との戦争により魔界は今の様に砕かれてしまったんです。そしてこの魔界が当時、魔界の王都とされていた場所なのです。故にこの魔界が他の世界からは魔界の中心と言われていますね。各魔界は互いに争い、誰が本当の最強の魔王なのかと、戦争ばかりしていますよ。ここは滅多に攻められませんけどね。通常魔王は1つの魔界に1人ですが、この魔界は多数の魔王が存在します。その分、戦力がありますから喧嘩売る馬鹿もそうは居ません」

 

「なるほど、数多の惑星で構成されているのは知っていたが、元は1つだったのは知らなかった」

 

「そしてこの魔界の最終目標は…神々の打倒です。長きに渡り、我々魔王と神界の神々は互いを滅ぼすために争っています。理由は世界の有り様の意見の相違ですね。神は自分達を頂点とし、秩序ある世界にするべきと考え、我々魔界は誰を頂点にするかではなく、自由こそを重んじるべきと考えています。ちなみに今の所、4度戦争があり、魔界は全敗です。魔界は纏まりが無いんですよね。毎回少数の魔王が各々攻め込むだけで、全体で戦ったのなんて最初の1回だけですからね」

 

「何故だ?全員でやれば数も戦力も、十分なのでは無いのか?」

 

瑞稀が素朴な疑問をぶつける

数多に存在する魔王全員で戦えば神々を相手にしても、十分戦えるのでは?

そう考えるのが普通だ

しかも力こそ全てと考える魔王なら尚更だ

自分達の上に立つ神々を黙って見過ごすなんて出来ないのではないか?

瑞稀はそう考えた

 

「確かにそうなんですけどね。魔王も見て分かったと思いますが、一枚岩じゃないんですよ。神々との争いに反対する者も中には居ます。大半は神々と戦い、死ぬのが嫌なんですよ。信念を持って戦っている魔王なんて殆どもう居ません」

 

刻龍が呆れながら答える

魔王もかつての様に自分達こそ最強なのだ、と魔王らしく、神すら恐れず戦う者はもう居ない

 

「確かになぁ。今じゃ名ばかり魔王ばかりだぜ…」

 

斬鉄もまた、つまらなさそうに吐き捨てる

 

「かつての魔王はこんなんじゃなかったんですがね…いつの間にか魔王も保守的になってしまったんです…」

 

バロムが寂しそうに呟く

かつては自分と肩を並べて神々と戦った魔王ばかりだったんですがと、呟き窓から外を眺めるバロムの横顔は哀愁に染まっていた…

 

「力こそ全てと考える魔王も、神を恐れるか…」

 

瑞稀はこの時、近い将来、自分は神々との戦争に乗り出す予感がしていた…

 




ただ延々と喋ってるだけで終わりました
瑞稀の魔王としての戦いはいつになるんでしょうか…


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触れ合う温もり、抱く矜持

今回は日常回です
戦闘無しです



「おーい、瑞稀様!買い出しかい?良い肉が入ったんだ、見てっておくれよ!」

 

「おばちゃん、ちなみに何の肉だ?前はそう言ってヘルハウンドの肉を売り付けられたからな。あれは不味かった、パサついて食えたもんじゃない」

 

「悪かったって!ありゃ私も卸売りの奴等に騙されたんだよ!でも、今回は大丈夫だよ!ベヒモスの肉さ!うちの旦那が仕留めてきたのを私が捌いたんだよ!安くしとくよ?買ってっておくれよ!」

 

「…分かったよ、買ってくよ。またパチもんだったら怒るからな?」

 

賑やかな市場を、背中に赤い逆十字の紋章の入った黒いコートを着た瑞稀が、夕飯の買い出しに来ていた

市場の者達は瑞稀を見付けると皆片っ端から声をかけていた

 

「瑞稀様!こっちも見てってくれ!今日はリヴァイアサンが入荷したんだ!こいつぁ旨いぜ!生で良し!焼いても良し!何しても旨い!」

 

「ほう、珍しいな、リヴァイアサンが入荷するなんて。よし!貰おう!」

 

「ありがとよ!またご贔屓に!」

 

「瑞稀様!食後のデザートに、果物なんて良いんじゃないのかい?買っておくれよ!」

 

「だぁめ!瑞稀様?食後のデザートはやっぱりケーキよね?何なら…私と二人で…食べさせ合いなんて如何?」

 

「色仕掛けなんて汚いよ!?」

 

喧騒に包まれながら瑞稀は買い物を終え、帰る時には両手に荷物がいっぱいになっていた

 

(…買い過ぎじゃろ…誰がそんなに食うんじゃ…)

 

天空剣は呆れ果てていた

瑞稀に買い出しに行かせると毎回、市場の連中に押し売りされまくり、とんでもない量になる

 

「みんな熱心に言って来るもんだから、つい…」

 

瑞稀が魔王になり、内政を取り仕切る事になり、早半年

瑞稀はまず、内政を執り行うに当たり、現状を知るために魔界の端から端まで自ら徒歩で視察した

そこで会った人々、一人一人に声をかけ、相談に乗ったり、雑談に興じたり、はたまた魔王への不満不平を一つ一つ丁寧に聞いて回った

結果魔界の住人達は瑞稀に親しみを抱き、何でも話す様になった

視察が終わり、瑞稀が内政に取り組むと今まで放置されていた様々な問題を解決していった

 

病院などの医療関係の技術、機器不足など解消

義務教育の教育体制の強化、貧民層への支援強化

道路の整備や老朽化していた工業施設の改修などのインフラ整備

そして瑞稀が一番力を入れたのが犯罪の取り締まりだった

今までは、力こそ全てであり、強い者が何もかも好き勝手にして、元より取り締まる為の法が無いということもあり、魔界は完全に文字通りの無法地帯だった

特に性犯罪が後を立たず、魔界の少女は体を成長させるための魔素が豊富な為、成長が早く、瑞稀が聞き込みをした結果、十代で強姦された事が無い女性は1人も居なかったほどである

瑞稀はその現状に、それを良しとしていた魔王達に激しい怒りを覚えた(バロムは今まで内政を行っていたということもあり、1週間文句を言われ続けた)

瑞稀はこの状況を打開するべく4つの法を作った

 

同胞を害する者、死して償うべし

同意無き性行為に及ぶ者、死して償うべし

秩序を乱し、魔界の平穏を脅かす者、死して償うべし

これらの裁決は魔王・瑞稀の名の下に断罪する

 

これらの政策にて魔界はかつてないほどに平穏を謳歌していた

民衆は瑞稀を魔王史上、最高の賢王と讃えた

そして瑞稀は、視察を完全に終えた今も、1日に1度、街に散歩と称して顔を出していた

街行く人々は、老若男女問わず瑞稀を見掛けると、話し掛け、時には人生相談をしたり、世間話をしたり、まるで家族の様に、瑞稀に接している

 

瑞稀も魔界の住人達を本当の家族の様に思っていた

人間達に裏切られ、見捨てられ、何もかも信用出来なくなっていた自分を、暖かく迎え、受け入れてくれた魔界を気付けば、心から愛していた

魔王として、彼等を護れる自分を誇りに思っていた

自らの全てを賭けて、魔界を護る覚悟を決めていた

 

「みずきさま~!ばいばぁい!またね!」

 

「はい、ばいばい。気を付けて帰るんだぞ」

 

学校帰りの子供達と挨拶をしながら夕暮れ時、魔王は城に帰っていく…

その胸に、揺るぎない王の矜持を抱きながら…

 




魔界のみんなが大好き!魔界印の瑞稀様!
魔界の住人に大人気です。本人も精一杯内政に精を出してます
もしかすると人界に居た頃よりやる気になってるかも?




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幕間 最高神の黄昏

今回は神界の現状説明をします
後々関係しそうな話もいくつか出てます



神界の神々は大きく分けて2種類に分類される

 

戦いを司り、強大な戦闘力を誇る戦神

叡知を司り、主に内政や外交を行う知識神

 

そして戦神の頂点に君臨し、実質神界の王、絶対神

知識神の頂点に君臨し、神界の全てを知る最高神

 

両者は性質の違い故、そりが合わず、意見の相違は日常茶飯事である

特に戦神と絶対神は最高神を嫌っていた

絶対神は殆どの場合、約1万年毎に代替わりをしているが、最高神は今の最高神に代替わりをした1度しか無く、何億年も現在の最高神が君臨している

今では最高神に逆らえる者は非常に少ない

絶対神はそれが気に入らないのである

《神界の王は自分であり、あの老いぼれではない》

彼は心底そう思っている

 

神々すら一枚岩ではなく、内乱の危険を孕んでいた

それを裏付ける出来事が十数年前に起きていた

その出来事が今、最高神の頭を悩ませる一因になっている

 

 


 

「…白龍神王が目覚めたと言う噂は真か?」

 

見た目は初老の最高神が各界の情報収集をしている私兵の密偵に問う

 

「はい、人界にて五年程前に。今のところ銀狼との戦いの後、姿を一切見せておりません。宿主も何者なのか、調べがついておりません。あくまで噂の範疇を出ませんが、覇龍化した際、深紅の炎で形成された巨大な刃にて、討伐されたという話も…」

 

「いや、おそらく何らかの封印式であろうよ。二覇龍を討伐出来るのは彼女以外には有り得ない」

 

「最高神様直属の討伐神様ですね。戦神の馬鹿共が何らかの方法で封印したとか」

 

「彼女が居なくなれば、いざ次元の危機に陥った際、どうなるかも分からん様な馬鹿が絶対神になったのだ。神界も長くは持たんかもしれんな」

 

討伐神

それは次元最強の抑止力と呼ばれ、その炎は本気で力を振るえば次元をも焼き尽くすと言われ、その斬撃はあらゆるものを断ち斬ると言われた

 

彼女は最高神の命令のみ、不承不承従っていたが、他の神々の命令には従った事が一度たりとて無いと言われている

彼女はその力を恐れる今代の絶対神達に、十数年前に冥府の最下層に封印されてしまった

 

討伐神封印の影響で神界の戦力はかつてないほどに落ちていた

それでも戦神達は、自分達が居れば何者が攻めて来ようと、負ける道理は無いと、思っている

 

「本当に愚かな事よ。聞けば魔界に新たな魔王が入ったと聞く。しかもあの銀狼すら超える力を持つという。今、魔界が戦争を仕掛けて来ればかなり不味い状況だな。今の戦力でどこまで退けられるか」

 

最高神は今後の神界を思い、頭を悩ませていた

せめて、彼女が居てくれたなら…

そう思わずにはいられなかった

 

…神界の空を最高神の気持ちを表した様な分厚い雲が覆い始めていた…

 

 

 




人が欲深いのは、元になった神々が欲深いから
そんな感じで、考えました


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正義=虐殺、世界の悪=魔王の正義


新たな動乱の始まりです
天使と悪魔(魔族)の宿命の戦いが始まろうとしています!


 

魔王城は今、騒然としていた

先日、天界の長、大天使長が代替わりした

そして新たな大天使長は魔界の辺境にヘブンズゲート、天界からの転移門を出現させ、数百の天使を送り込み近くの村を襲い村民は皆殺しにしたのだ

その報告を受けた魔王達は狼狽えていた

新たな大天使長は、何を考えているのか

確かに、天界と魔界は数万年にも及ぶ冷戦状態にあったが、今までの大天使長は別段魔界を攻める事などしなかった

魔王達はここに至り、天界と戦争に乗り出す事を尻込みしているのだ。一部例外を除いて…

 

「……」

 

騒ぎ立てる魔王の中で1人、一言も口を開く事も無く無言の憤怒を撒き散らす瑞稀

…瑞稀に気付き、魔王の1人が声をかける

 

「新入り、気持ちは分かるが…早まった事はすんじゃねえぞ。今回の件、ほぼ間違いなく神界の絶対神が一枚噛んでる。天界だけでもやべえのに、神界まで相手にしたら俺らの命がいくつあっても足りゃあしねえ」

 

その言葉に瑞稀の理性が吹き飛んだ

魔力を乗せた拳打を床に叩き込む。床全体にヒビが走り、直接叩き込んだ場所は小さなクレーターが出来ていた

 

「貴様ら…それでも魔王か?魔王たる者が揃いも揃って天使ごときに怯え、神々に頭を垂れ、同胞が理不尽に殺されても騒ぎ立てるばかりで報復すら出来ない。情けない事この上無い。俺は天界のクズ共を決して許さぬ。一切の慈悲も無く狩り尽くしてやる。俺は明日、天界に攻め込む。俺に続く気概がある魔王だけついてこい」

 

瑞稀はそう宣言すると静かに広間を後にし、魔王城最上階、メルフェレスがいる謁見の間に天界進軍の進言をするために向かう

…そんな瑞稀に続く者がいた

バロム、刻龍、斬鉄、セシルの4人と瑞稀が従える魔王軍だ

 

「瑞稀様、我等狂嵐魔王軍、どこまでも御身と共に」

 

「私も行くわ。私達魔王を虚仮にされて黙っていられないわ」

 

セシルは魔王序列3位の中でも、かつては斬鉄に次ぐ強さを誇り、現最強と言われている

魔界での二つ名を、蹂躙暴殺の嬢王

他の世界では、その非常に好戦的な性格と、強者との戦いを嬉々として受け入れ、戦場でも崩さぬ微笑みから、デストロイスマイルとも呼ばれている

 

「ならば続け。我等魔王に喧嘩を売ればどうなるのか、天界のクズ共と、その後ろで視ている愚かな神々に思い知らせてやるぞ」

 

瑞稀もまた好戦的な笑みを浮かべ魔王軍を焚き付ける

 

「「はっ!!この身は王の命ずるがままに怨敵を蹂躙し尽くしてみせましょう!!」」

 

魔王軍の士気が一気に最高潮まで跳ね上がる

それを受け、瑞稀の纏う覇気もまた、跳ね上がる

 

「メルフェレス様、狂嵐の魔公子瑞稀。御身に進言させて頂きたく参りました」

 

「入りなさい」

 

メルフェレスの言葉と共に謁見の間の巨大な扉が、魔力により開かれる

瑞稀を先頭に他の者達が続き、玉座の前に片膝を着き跪く

 

「何用か?進言とはなんだ?申せ」

 

「はっ…既にお耳に入っているとは思いますが、先日、天界が我が魔界を襲撃、辺境の村にて村民を虐殺するいう暴挙に出ました。これは明らかに我々魔王に対する侮辱に他なりません」

 

「確かに。近くの村は襲撃に怯え、酷い有り様と聞く。すぐに警護のため、我が魔王軍を派遣したが、何をするつもりだ?」

 

瑞稀は眼光を鋭くし、下げていた頭を上げ宣言する

 

「警護だけでは足りませぬ。明日の明朝、ここに集う我が狂嵐魔王軍、セシル率いる魔王軍で天界に攻め込みます」

 

この発言には流石のメルフェレスも思わず素が出るほどにビックリである

 

「…瑞稀、分かってる?それは神界も相手取るという事よ?総じて言えば魔界以外の全てを敵に回しかねないのよ?最悪魔界が滅びてしまうかもしれないのよ?」

 

メルフェレスは魔界を滅ぼしかねない瑞稀の進言を、受け入れる事が出来ない

…だが、瑞稀の気持ちは痛いほど分かる

魔王として、大切な魔界の住人に手を出されて泣き寝入りするしかないなど、受け入れ難い屈辱だった

 

「全てを敵に回す?構うものですか!奴等は魔界の民に、我等の家族に手を出した!!彼等の怒り、悲しみを背負い、晴らさずして何故王を名乗れましょうか?!俺は魔界に手を出した奴等を1匹残らず狩り尽くす!ここで引けば俺に魔王を名乗る、いや彼等の上に立つ資格は無い!」

 

瑞稀の言葉にメルフェレスは言葉が続かない

瑞稀の決意は揺らがない

 

「誰が何と言おうが俺は行く!天使だろうが神だろうが魔界に仇なすというのなら!俺が魔王として滅してやる!!彼等を護れずに何が魔王か!?」

 

瑞稀の気迫にとうとうメルフェレスの心が折れた

玉座に項垂れ、力無く微笑みを浮かべ、改めて魔界王として宣言する

 

「分かったよ、瑞稀。貴方の言う通りだね、ここで引けば魔王の価値は無いよね?ならば!魔界王として瑞稀に命ずる!ここに集う者達を率い、天界を潰しなさい!!神共がでしゃばるというのならそれすら蹂躙しなさい!!敗けは許されない!必ず勝って、生きて帰りなさい!!」

 

「御意!必ずや奴等の悉くを潰し、生きて魔界に帰ってきます!!」

 

 

悪魔を滅するという天界の正義

民を、家族を護るという魔界の正義

ここに天界と魔界の戦争が開幕する!!





魔王になった瑞稀がとうとう動き始めます!
次回はとうとう魔力を取り戻した瑞稀が戦場で暴れます!


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終末戦争、真理詠う魔王

瑞稀が大暴れします!
ちなみにこの回の瑞稀は常時ブチギレ状態です!


魔界の辺境にある天界への転移門、ヘブンズゲートの前には多数の天使が防衛線を張っていた

 

「…おい、あれ…魔王軍か?」

 

「間違いない!魔王軍だ!全員配置につけ!!」

 

天使達は急ぎ、隊列を組み始める

先頭に立つ天使が魔王軍に対して怒号を放つ

 

「止まれ!これより先は天界に続く聖なる門。貴様等魔族が立ち入って良い場所ではない!!早々に立ち去れ!!警告を無視して行軍を続けるならば武力行使にて排除する!!」

 

「…だ、そうですよ?如何致しましょう、瑞稀様」

 

バロムの言葉に瑞稀は静かに答える

 

「知れた事よ」

 

右腕に紅蓮の炎を迸らせながら、天に腕を掲げる瑞稀!

 

「退け、天使共。俺の歩みの邪魔ぞ」

 

瑞稀が極大の火炎弾を放ち、無慈悲に天使兵を断末魔すら上げる暇すら与えず焼き尽くす!!

天使兵を焼き尽くした火炎弾は勢いを失わず天界にまで届き、天界側の転移門を防衛していた天使兵さえ、同時に焼き尽くす!

 

「何事だ!?」

 

突然の出来事に理解が追い付かず、天界は混乱を極める

転移門から現れたのは、約4000の精鋭からなる魔王軍。そして先陣を行くは金色の髪を靡かせ、全身から紅蓮の炎を迸らせる魔王・瑞稀

その顔は憤怒に歪んでいた

 

「馬鹿な、魔王軍だと!?クソ!迎え撃て!!」

 

混乱しながらも天使兵達は、魔王軍を迎撃すべく隊列を組み直す

そんな中、魔王軍は一歩も動かない

彼等は待っていた、自らが仕える王の開戦を告げる言葉を

そして瑞稀が激しい憤怒を湛えながら、開戦の口上を詠う!!

 

「刃向かう者は等しく砕く!!

しかして我が(アギト)へと下り、永久の血肉と成るがいい!

去る者は追わぬ、己が恐怖を隣人に伝え、共に恐怖で震えて眠るがいい!

我が名は瑞稀!魔王、狂嵐の魔公子・瑞稀と知れ!!

進め!!同胞達よ!!汝等が行く先は我が足跡にあると知れ!!!

進め!!同胞達よ!!我が後に続け!!!!」

 

「オオオオオオ!!!!」

 

瑞稀の言葉は言霊となり天界中に響き、魔王軍の咆哮が天地を揺るがす!!

 

「調子に乗るな!魔王軍!!」

 

天使兵も神聖魔法や聖なる力を纏う聖剣、聖槍で魔王軍を迎撃する!

だが、忘れてはいけない。先陣を行くは最強の魔王・瑞稀

 

「燃え尽きろ!劫炎!!」

 

魔法陣から一直線に極太の炎が放たれ、天使兵をまとめて燃やしていく!

 

瑞稀の後に続くのは、かつて最強と謳われた銀狼のバロム

瞬月狼で駆け抜け天使兵を蹴散らしていく!

そして氷龍鱗・刻龍も氷魔法を放ちながら拳打にて天使兵を蹴散らしていく!

鬼神将・斬鉄も携えた大刀を豪快に振るい天使兵を薙ぎ払う!

 

「何なんだ、こいつら!?魔界三強がまとめて攻めてくるなんて!強すぎる!」

 

そう叫ぶ天使兵もまた、無慈悲に斬り刻まれていく!

 

「うふふ!油断大敵ね、天使さん?」

 

微笑みを浮かべながらその爪で天使兵を刻んでいくのは蹂躙暴殺・セシル

 

圧倒的な力を誇る五人によって天使兵は瞬く間に殲滅されていく

 

「そう上手くいくと思うなよ、魔王共!」

 

そこにとうとう大天使長直属の天使兵長達が戦線に加わる!

 

天使兵が兵長参戦にて隊列を立て直し、一気に攻勢に出る!!

兵長の1人が瑞稀に極大の神聖魔法を放つ!

 

「この程度でどうにかなると思うな…!」

 

魔力を乗せた拳打で神聖魔法を砕き、反撃に炎魔法を放つ

天使兵長は聖槍で斬り払う!

明らかに他の天使と比べ物にならない実力を有していた

 

「瑞稀様!お気を付け下さい!そいつはエルラザク、魔王にさえ匹敵する最強の天使兵です!!」

 

「最強の天使兵…望む所よ!!」

 

互いに魔法、刀と槍をぶつけ合い、相手を殺すために力を振るう!

光と炎、その様は正しく終末戦争を表している様だった

 

「魔王!貴様等魔族は生まれながらの悪だ!我が光にて、その罪を浄化してやる!」

 

エルラザクの発言に瑞稀が更に激昂していく!

 

「抗う力を持たない村人達を虐殺しておいて正義面か!?ふざけるな!!」

 

「我等天使は生まれながらの神の御使い!即ち絶対正義なのだ!貴様等は神々の定めたもうた通りに生きる事が出来ない!それだけで貴様等は絶対悪なのだ!!神々の定めたもうた通りに生き、神々が定めたもうた通りに死ぬ!!それが正しき生命!それが()()()!!」

 

瑞稀の雰囲気が変わる

先程までの激昂が嘘の様に静かに、しかし確かな怒りを滲ませる!

 

「…それが()()だと?」

 

瑞稀の中で声が響いていた

その声は嘲笑うかの様に、しかしとてつもない憤怒を秘めていた

 

(宣ったな…真理に指先1つ至れぬ愚か者風情が…詠ってやれ、瑞稀。高らかにお前が生まれながらに至りし我が真理を詠え!!)

 

「生きるという事は、懸命に抗い、自らの価値を自ら造り上げ、その価値を自ら謳い上げる旅路だ!自らの生きる道は自ら定めるものだ!断じて誰かに定められるものじゃない!!死とは、自らの造り上げた価値をどんな形であろうと誰かに残し、託す事!そして懸命に生きた魂を癒し、次の旅路に送り出す休息だ!!それが生命だ!!それこそ()()だ!!!」

 

「「「!!!」」」

 

瑞稀が高らかに詠い上げた真理にバロム、刻龍、斬鉄が驚愕を示す

そして何か感じるものがあったのか、三人の動きが鮮烈なまでに勢いを増していく!!

 

「黙れ!!神々の定めたもうた通りに生きる事も出来ぬ魔王風情が、真理を語るな!!その身、その命、貴様の罪ごと我が光に裁かれ、滅せよ!魔王!!!」

 

「神々の定めた道しか歩めぬ半端者が、真理を語るな!!我が紅蓮の炎で焼かれて朽ちろ!クソ天使!!!」

 

互いの信念、掲げる真理を抱き、ぶつかり合い、火花を散らす!!

だが、拮抗は長くは続かない

ここに来て地力の差が出始める!

瑞稀の炎がエルラザクの光を飲み込み始めた!!

 

「炎天轟きて地を満たし万象悉く灰と成せ!劫火焼!!」

 

瑞稀の魔法がエルラザクを捉え、焼き尽くす!!

 

「おのれ!!私を滅してもメルディエズ様が貴様を滅してくださる!!貴様等に未来は無い!!」

 

「案ずるな、メルディエズも直ぐに後を追わせてやる」

 

「やった!!瑞稀様が勝ったぞ!!」

 

魔王軍が瑞稀の勝利に沸き立つ

しかし、瑞稀は一層戦意を滾らせ吼える!

 

「止まるな!我等が滅するは大天使長と心得よ!!たかが天使兵長を討ったごときで騒ぐ暇はない!!」

 

瑞稀の叱咤に魔王軍の気は引き締まり、更に士気が上がっていく!

 

この終末戦争、最終決戦は近い

 




次は大天使長VS魔王です!


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終結 終末戦争、神々を滅する力

遅くなり、申し訳ございません!

さて!天界と魔界の戦争も今回で最後となります!




エルラザクを討ち滅ぼし、大天使長を滅するために瑞稀は1人、大天離宮に向かっていた

魔王軍とバロム達4人は瑞稀を先に行かせるべく残りの天使兵長達の足止めを行っている

 

(瑞稀、気を付けるんじゃぞ。メルディエズは以前から名前を聞いていた。天界の虎の子、魂を砕く槍、ソウルブレイカーの担ぎ手と聞く。ソウルブレイカーはかつて理の神の1柱が造り、担いでいた神器。力は儂に匹敵する)

 

「分かった、いざとなったらアレを使うさ」

 

(…そうならん事を祈るよ、儂は。アレは負担がかかり過ぎる)

 

「…見えた!大天離宮だ!一気に突っ込むぞ!!」

 

純白の宮殿を肉眼で捉え、速度を上げる

そしてその勢いのまま宮殿の扉を跳び蹴りで吹き飛ばす!

 

「…来たか、狂嵐の魔公子…」

 

「貴様が大天使長メルディエズか?」

 

「如何にも。私が天界の長、大天使長メルディエズである。魔王風情が頭が高い。跪き、赦しを乞え。神々に従わぬ愚者よ」

 

6対の純白の翼を広げる大天使長

手には天界の虎の子、神槍ソウルブレイカーを携える

その偉容は凄まじく、エルラザクの比ではない

 

「神々に従う事でしか生きれぬ半端者が偉そうにほざくな。貴様こそ大天使長風情が図に乗るな。地べたに這いつくばり、無様に命乞いをしろ。クソ天使」

 

瑞稀もまた魔力を放出させる

魔力に呼応して周囲の魔素が紅蓮の炎になる

その偉容は大天使長に劣らない

 

「…紅蓮に燃ゆる煉獄の炎か…大した力だ。まあいい、魔王風情が我が天界に逆らったのだ。ここで死んでもらう、それによりお前の罪は浄化される」

 

「死ぬのは貴様だ、クソ天使。魔界の民に手を出したのだ。その身、その命、痕跡残さず我が紅蓮の炎で焼かれて朽ちろ」

 

ここに天界と魔界、大天使長と魔王、世界の絶対正義と絶対悪の最終決戦が始まる!!

 


 

「浄化せよ。セイクリットアロー」

 

メルディエズが無数の光の矢を放つ!

屋内での戦闘というのもあり、逃げ場など無く隙間無く瑞稀に降り注ぐ!

 

「小賢しい!!焼き尽くせ!爆炎陣!!」

 

広範囲に及ぶ瑞稀の魔法が光の矢をあまさず焼き尽くしていく!

その炎は留まる事を知らず、メルディエズに襲いかかる!

 

「…ふん…下らぬ…」

 

メルディエズはそれを結界で受け止める

互いに様子見にも関わらず、凄まじい力のぶつかり合いを繰り返す!

神聖魔法による聖なる裁きと、紅蓮の炎による地獄の業火が幾度となくぶつかり合う!!

 

「…まわりくどい…」

 

メルディエズが空中に巨大な魔法陣を描く!

 

「あれは…召喚術か!!」

 

「…来い…光天聖龍アルマ…」

 

魔法陣から現れる、白い身体に青いラインの走る聖なる龍!

 

「グオオオオォォォ!!!」

 

咆哮と共に放たれる魔力により瑞稀が纏っていた紅蓮の炎が剥がされる!

魔王である瑞稀と聖なる龍は相性最悪だった

 

「チッ!天空剣!!」

 

(ああ!!解き放つとするか!!)

 

瑞稀と天空剣が膨大な魔力を放出し始める!

その魔力は桜色と紅蓮の二色に染まる!!

 

「「神格覚醒(ディバインブレイク)!!!!」」

 

「ほう…天空剣の覚醒か…ならば」

 

神格覚醒(ディバインブレイク)

 

互いに神器の力を解き放つ!!

その余波で大天離宮が崩壊し、砂埃で二人の姿が見えなくなる

…砂埃が収まり互いの姿が視認出来る様になると、そこに君臨するのは莫大な神威を振り撒く神器を携える二人だった

瑞稀は淡い桜色だった刀身の彫刻が紅蓮に染まり、放出された魔力により足下が燃えている

メルディエズは4メートルはあるだろう長大な槍を持ち、光天聖龍を傍らに従えている

 

「「天空剣・紅染天散桜(べにぞめあまちりざくら)」」

 

「スピリットブレイカー」

 

互いに己の神器の解放状態の真名を告げる

互いに戦意を最大限まで高まる!!

 

「滅せよ!!クソ天使!!」

 

「滅するのは貴様だ!!魔王!!」

 

互いに相手を滅するために魔力を滾らせる!!

 

「天空扇!!」

 

桜色の斬撃がメルディエズ目掛け放たれる!

瑞稀自身の魔力を上乗せされたその威力は、かつての瑞稀とは比べ物にならない程に高まっていた!

 

「無駄だ!」

 

それを絶大な聖なるオーラを纏わせた槍の一振りで相殺する!

 

「ただの天空扇では効かぬか…ならば!」

 

天空剣が纏っていた桜色の魔力が瑞稀の魔力により紅蓮に染まり、刀身が炎に包まれる!

 

「天空扇・火花吹雪!!」

 

さながら舞い散る桜吹雪が燃えているかの様な斬撃が周囲を焼き尽くし ながらメルディエズに襲いかかる!!

 

「紅蓮の炎か…それも無駄だ!アルマ!!」

 

メルディエズを庇い光天聖龍が前に出る

天空扇が光天聖龍に直撃する!

だが、直撃と同時に魔力が霧散する!!

 

「!?」

 

あまねく万象悉くを焼き尽くす紅蓮の炎を込めた天空扇が霧散する

これには瑞稀も動揺を隠せない

 

「驚いたか?アルマは神の御使いとして力を授かった。その力とは、地獄の業火たる紅蓮の炎の無力化だ」

 

「馬鹿な!?」

 

(有り得ん!!紅蓮の炎は実質最強の炎だぞ!?それを無効化だと!?最上級戦神すら焼き尽くす炎だぞ!?聖龍としての範疇を逸脱しているぞ!?)

 

瑞稀が扱う紅蓮の炎は正式名称を、紅蓮に燃ゆる煉獄の炎と云われ、歴史上2番目に強力な炎とされている

創造神が振るった創生の炎、真紅に光輝く紅蓮の炎が創造神と共に消失した今、実質最強の炎が紅蓮の炎

それは神々すら焼き尽くしかねない地獄の業火と言われている

 

「アルマは数万年を費やしこの領域に至ったのだよ。先に言っておくがアルマにも天空扇は効かんぞ、アルマの龍鱗はかの守護龍、白龍王すら超える。さて…天空扇も効かず、紅蓮の炎も効かない以上魔法も意味がない。打つ手なしだな…諦めて裁かれよ」

 

「…………」

 

瑞稀が顔を手で覆い俯く

 

「理解したか?魔王風情が勝てる道理など、元より無いのだ。絶望し、己の罪を悔やみ裁かれよ」

 

「…くっくっく…」

 

瑞稀が俯きながら笑い始める

 

「ははははははは!!あっはははははははははははは!!!」

 

「…絶望のあまり気でも狂ったか…」

 

「あっはははははは!!これが笑わずにいられるか!!あまりに滑稽に過ぎて笑いが止まらぬ!!」

 

「…どういう意味だ?何が言いたい…」

 

「確かに天空扇も効かず、紅蓮の炎も効かない。大したものだ。だが…炎が効かないからといって魔法の全てを無効化されたわけじゃない。一言も炎魔法が俺の扱う属性で最も強力だと言った覚えはない」

 

「馬鹿な…紅蓮の炎を超える力を持っているとでも言うつもりか!?有り得ない!!出鱈目だ!!」

 

今まで取り乱す事無く無表情を保っていたメルディエズが初めて焦燥を露にする

 

「出来れば使いたくなかった…この力は…

神々を滅するための力なのだからな!!!

 

瑞稀から灰褐色の雷が放たれる!!

その力はとてつもなく、天界全土を駆け抜けた!!

駆け抜けた雷はあまねく万象悉くを貫き滅する!!

メルディエズに迫る雷を庇い、光天聖龍すら貫き、消し飛ばす!!

 

「アルマ!!!これは!?そんな馬鹿な!?鈍色雷だと!?」

 

鈍色雷とは、正式名称を鈍色に煌めく破壊の雷と呼ばれる現存する最強の雷だった

そもそも魔法の属性で雷は最も威力に優れた属性

その雷の中でも最強の威力を誇る鈍色雷の威力は想像を絶する!

 

「なんなんだ!?貴様は一体なんなんだ!?アルマすら跡形も無く消し飛ばす程の力を持つなど、魔王の範疇を逸脱している!!いや、生物としての常軌を逸脱しているぞ!?」

 

「俺が何なのか、だと?分かり切った事を問う。俺は魔王!!争乱と暴力を司る魔王、狂嵐の魔公子である!!!」

 

(瑞稀!鈍色雷はまだコントロールが不完全だ!!一撃で仕留めよ!!)

 

「元より二撃などいらぬ!!」

 

天におぞましい程に精密な魔法陣が描かれ始める!!

 

「有り得ない!!有り得ない!!!紅蓮の炎だけでも生物が扱える限界の力だぞ!?にも関わらず更に鈍色雷まで扱えるなど有り得ない!!!!」

 

メルディエズは動揺と恐怖のあまり動く事さえ出来ない

瑞稀の魔力が天界全土を駆け抜け、雷となり天界を蹂躙していく!!

 

「天を駆け抜けるものよ!満ちよ!束ね、降り注げ!我が意に従い我が怨敵を滅せよ!!」

 

瑞稀の詠唱をもって魔法が完成する!!

 

「撃滅刧雷!!!」

 

「こんな事があってたまるか!!!魔王に!!魔王風情にこの大天使長メルディエズが敗けるなど!!有り得ない!!!」

 

「跡形も無く消し飛べ!!!クソ天使!!!!」

 

瑞稀が放った魔法が天から無数の極太の雷を降らせる!!

その威力は凄まじく、メルディエズと周囲一帯は跡形も無く消し飛んでいた!!

 

天使と魔王の終末戦争はここに魔王の勝利により幕を閉じた

 

…ちなみにコントロールを誤り、瑞稀も一緒に吹き飛ばされた…

 




瑞稀の扱う力の説明をさせて頂きました
設定的には伝説級の力は、1つ極めれば魔導師として極致に至ったと言える程、強力な力
そんな設定です
それを2つ使える瑞稀は正に化け物と言えるでしょう
何故瑞稀がそんな力を持っているのかという理由は後々明かされます


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終戦、勝鬨をあげる魔界


大変お待たせしました!
1ヶ月以上も放置していまい申し訳ありません!


 

「…くそ…やっちまった…」

 

瑞稀の魔法により瓦礫の山と化した大天離宮

その瓦礫の下から這い出して来た瑞稀は悪態を吐かずにはいられなかった

自らの魔法のコントロールを誤り、吹き飛ばされ、今まで瓦礫に埋もれていたのだ…

ちなみに天空剣は魔法が発動する直前に、瑞稀によって安全圏までぶん投げられ、少し離れた場所に突き刺さっている…

 

何とも間抜けである

 

「やっぱりまだ鈍色雷はコントロールが難しいか…」

 

ぼやきながら瑞稀は天空剣の下に歩みを進める

 

(…お前も大事ない様じゃな…良かった)

 

天空剣も瑞稀の無事を確認して安心を浮かべる

…途端に天空剣が小刻みに震え出し、徐々に震えが激しくなっていく!

遠くからバロム達が慌てて駆け寄ってくるのが見える

 

「…天空剣?大丈夫か?まさか…強く投げ過ぎたか?!」

 

「瑞稀様!御無事ですか?!」

 

瑞稀が天空剣の異常に危機感を感じ、バロム達もまた、瑞稀の様子にただならぬ焦りを感じ取り、一気に瑞稀の下に急いだ

 

…瞬間

 

「…ぷっ!」

 

「「「「は?」」」」

 

(ぶぁぁぁぁぁっはははははははははははは!!!ふはははははははははははは!!!!ひーひひひひ!!!)

 

「「「「!?」」」」

 

天空剣が唐突に笑い始める!

 

 

(このお間抜けさんめぇ!まだコントロールが完全ではない鈍色雷を使った挙げ句、魔法のコントロールを誤り自ら吹っ飛ばされて瓦礫に埋もれるとかぁ!!面白過ぎるぅ!!ひーひひ!げほっ!ふははは!!うぇっほ!馬鹿じゃ!!お前は馬鹿じゃぁ!!これが争乱を司る魔王とか!自爆芸を司る魔王の方が良いんとちゃうか?!マズイ!儂笑いが止まらん!!)

 

「……」

 

「…あのぅ…瑞稀様?お気を確かに…」

 

「やっべ!旦那、マジギレ寸前じゃねぇか!?」

 

「逃げましょう、そうしましょう。バロムさん、斬鉄さん、急いでこの場を離れるべきです」

 

天空剣はひたすら笑い続け、心配していたのに笑われて、青筋を浮かべる瑞稀

バロム達は瑞稀の憤怒の形相を見て慌ててその場から離れる

 

(止めよ!瑞稀、儂を笑い死にさせるつもりか?!ふはははははははははははは!!!面白過ぎて笑いが止まらんぞ!!マズイ!本気で死にそうじゃ!ひーひひひ!!げほっげほっ!笑いが止まらな過ぎて息が出来ぬぅ!)

 

ブチッ!!

そんな音がバロム達3人には聞こえた…

瑞稀が静かに天空剣の柄と刀身に手を添える…

そして静かに、しかし確かに今の瑞稀の心情を伝える言葉を告げる

 

「…折るぞ…」

 

(マジギレ!?すまんかった!!いやマジで!!待って!?ヒビ!ヒビ入ってるから!!)

 

マジギレである

 

その後、バロム達の仲裁もあり瑞稀の怒りは鎮まり、戦争の勝者たる魔王は魔界に帰還した…

 


 

 

「「「「瑞稀様、ばんざーい!!」」」」

 

瑞稀達の勝利を魔界の民が賛美し迎える

その顔は皆一様に王の無事と勝利を心から喜んでいた

 

民衆の歓声に包まれながら魔王達は魔王城へと帰還を果たす

 

「メルフェレス様、御命令通りメルディエズの首、確かに討ち取って参りました」

 

瑞稀達がメルディエズの前に片膝をつき跪く

 

「瑞稀、よくぞ約束通り無事に帰りました。本当に…本当に良かった!」

 

メルフェレスもまた涙を流し、瑞稀達の帰還を喜んでいた

 

「さあ!民に終戦の宣言を!」

 

メルフェレスが瑞稀をエントランスへ導く

 

瑞稀がエントランスから顔を出すと割れんばかりの大歓声が巻き起こる!

 

「聴け、魔界の民よ!!我等魔界は幾度となく天界と争い、その全てに敗北し続けていた!!大切な者達を殺され、仇を討てず苦しみの涙を流し、自らの無力を嘆き、魔王の無力を恨み!辛かっただろう!惨めだっただろう!だが!!それも今日で終わりを迎えた!!此度の戦、我等魔界の勝利だ!!!魔界よ、勝鬨をあげよ!!!」

 

民衆が魔界全土を震わさんばかりに勝利の雄叫びをあげる

民は思う。この王ある限り我等魔界に敵は無いのだと

この王がいれば我等魔界は救われるのだと

この王こそ我等魔界の悲願、神々の打倒を叶えて下さるのだと

ここに天界と魔界の戦争、後に天魔戦争と呼ばれる戦いは魔界の勝利で終わった

 

 





放置した挙げ句、短くて申し訳ない!

前半は完全にギャグです
ただのノリです
後日天空剣に笑われたのが悔しくて瑞稀は猛特訓しました

次は天界を落としたせいで事態が動きます!
投稿は未定です。申し訳ない!


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かの王が抱くは王道か、それとも怨嗟か


またかなり間が空いてしまい申し訳ありません!



 

「人界の阿呆共が我等魔界に宣戦布告をしてきました」

 

天魔戦争が終結して事後処理に追われていた瑞稀にバロムが苛立ちを隠さず告げる

神を至上とする人間が天界を攻め落とした魔界を神々の敵として排除すると言い出したらしい

 

「…今の人界の王は馬鹿なのか?俺を欠いて魔界に勝てると本気で思ってるのか?」

 

「さあ?どうなんでしょうね。ちなみに貴方が失脚させられた後に王になったのは、鬼崎宗家の四男らしいのですが。知ってます?」

 

鬼崎の名を聞き、瑞稀の顔が嫌悪に染まった

当然だ。瑞稀は未だに幼い頃自分を迫害した鬼崎を良く思っていない

 

「…ああ、知ってるよ。名は優真。鬼崎の中でもちゃらんぽらんな放蕩息子だ。実力も長男次男に比べればかなり劣り、頭の出来もよろしくない。三男に比べれば少しはマシだがな。性格なぞ語るもおぞましい愚物よ。女癖が悪く好みの女はどんな手段を取っても手に入れる。他者を利用し糧とし蹴落とす事も厭わない。そのくせ自分は優しい、自分ほど慈悲深い者はそうは居ないとほざく本物の阿呆よ。よく人王になどなれたものだ。成る程奴なら無謀にも魔界に喧嘩を売るのも分かる。大方一部の政府の連中と市民に焚き付けられたのだろうよ。少し考えれば今の人界には魔界に勝てるほどの戦力なぞあるまいに。つくづく救い様の無い阿呆よな」

 

「…ボロクソですね…」

 

バロムがドン引きするほどの言い様である

 

「鬼崎が嫌いだからな。それに事実しか言っていない」

 

嫌悪を隠さずバッサリ断言する瑞稀

 

「それで?人界の宣戦布告、如何対処致しましょう?まぁ、こちらには貴方がいますからね、まずは対話でしょうね。貴方も人界と争うのは心が痛むでしょう?」

 

バロムが元人王の瑞稀を気遣い、まずは対話にて対処すべきと提案する

命を賭けて護っていた人間と争うのは、瑞稀にとって非常に辛い戦いになるとバロムは考えたのだ

仮に対話で止まるなら、それにこした事はない

なによりもこの心優しき王のために、争わなくてもいい様に最善を尽くすためにも、まずは対話を試みるべきだと考えたのだ

しかし当の瑞稀は不思議そうな顔をしてバロムに問う

 

「何故対話などしてやらねばならぬ?奴等は宣戦布告を突き付けてきたのだろう?ならば正面から蹴散らせばよかろう。それに対話で止まるなら宣戦布告などしてこないさ。鬼崎の放蕩息子が王ならば脅しも大して効果が無いだろう。阿呆故脅されても深く考えずに、まぁ何とかなるだろう程度にしか思わんよ。1週間後にでも人界に攻め込むぞ。メンバーは俺とお前達の3人とうちの魔王軍だけで十分だ。人界に宣戦布告、受けて立つ。1週間後に攻め込んでやると叩き付けてやれ」

 

「し、しかし!よろしいのですか!?かつて貴方が命を賭けて護っていた人間と争うのですよ?」

 

「良い。気にするな。第一に奴等は俺を裏切った。とにかく1週間後、人界に攻め込む。準備を進めよ」

 

「…分かりました。その様に」

 

「それと今回は()()()を連れていく」

 

「もう大丈夫なんですか?」

 

「ああ、問題ない」

 

「分かりました。いざという時は我々でフォロー致します」

 

「頼んだよ」

 

「では進軍の準備を始めます」

 

「…そうさ、今さら人猿ごときにかける情などありはしない…」

 

瑞稀の言葉には隠し切れない憎悪が篭っていた…

しかし次の瞬間には瑞稀は王の顔になっていた

魔王は魔界の誇りに賭けて人界を攻め落とすために準備を始める…

その傍らには()()()()()()()()()()()()

 


 

「陛下。魔王・瑞稀が宣戦布告に対し1週間後に進軍すると宣ってきました」

 

人界の王宮謁見の間は騒然としていた

大臣と将軍達は恐怖した

人界を滅ぼさんと奴が魔王になって帰ってくる

自分達が裏切り、蹴落とした、かの王が復讐のために帰ってくる

かつてより力を付けて自分達を殺しに帰ってくるのだ

しかも今の王は自分達の思い通りに動く傀儡としては最高の王だが、奴と戦うには頼りない

 

「…マジで?瑞稀の奴本気かよ?あいつの事だからビビって泣き寝入りすると思ったんだけどなぁ」

 

そう言うのは玉座に座る新たなる王。鬼崎優真だ

かつて幼い頃、鬼崎の養子だった瑞稀を虐め抜き、迫害した者の一人だ

彼等鬼崎は幼い頃の瑞稀しか知らず、かつて龍王や魔王を降した事すら詳しく知らない

彼等にとって瑞稀は魔王になって魔力を取り戻したとしても、未だ出来損ないの弱者に過ぎないのだ

どう足掻いても自分達の様な産まれながらに強大な力を持っている、選ばれた者に勝てる訳がないと、本気で思い込んでいるのだ

 

「まぁいいや!あんな弱え奴に負けるわけねえし。うちの兄貴達も出張るって言ってたし。マジで攻めてきたらぶっ殺してやるかな!久々に俺の烈火霜害も使ってやんないとなぁ。なぁ?霜?」

 

「はい。マスター。この烈火霜害、愛するマスターの神器としてあまねく全てを焼き尽くしましょう。」

 

傍らにいた美女が淡い赤の炎を纏いながら優真に寄り添い語りかける

彼女こそ優真が担ぎ、鬼崎が保有していた炎を操る神器の1つ。烈火霜害

その炎は霜の様に敵を覆い焼き尽くすと言われている

 

「とにかくあいつが攻めてきてもいい様に準備だけはしとけよな、将軍」

 

「…畏まりました…すぐに準備に取り掛かります」

 

人界もまた魔王の進軍に備え準備を始める

…自分達が死なないために…

そこに誇りになどあるはずもなく…

あるのは瑞稀への恐怖だけであった…





次回は魔王VS人間再び!
ただし今回はかつて人間を護った王が魔王として攻めてくる!


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幕間 魔王と戦乙女


戦争の準備に勤しむ瑞稀に春が来た!!
戦争の準備してる最中て…タイミング酷すぎる…



 

「お父様。私は魔界に行きたいです」

 

「…婚約者を決めねばならないこの時期に、何故魔界に?」

 

純白のドレスを着た姫と、同じく白を主とした正装を着た王が聖界の王宮の一室で話していた

 

「何度も言いますが私はお父様がお連れになった殿方とお会いする気はございません。それよりも会いたいのです。あの魔王様に。あの魔王様はあの人なのだから」

 

「…お前が以前話していた想い人か…しかし魔王か…今代の絶対神がお前を后に欲しがっている。確実に戦争になるぞ。聖界を滅ぼされるわけにはいかぬ」

 

「それでも…私は…あの人に会いたい…今だからこそ会いたいのです。あの人が本当に辛い時に私は傍に居てあげられなかった…もうそんな思いはしたくないんです!あの人の傍で支えたいんです!お父様…お願いします…どうか、身勝手な私のわがままを、どうか、どうか…」

 

「……」

 

泣き崩れる娘を前に強く言う事が出来ず、何とか娘の気持ちを汲んではやれないだろうかと思案するが、この場でどうこう出来る事ではない

 

「…もうよい、下がれ。その件は考えておこう」

 

「……分かりました…困らせてしまい申し訳ございませんでした…」

 

娘が部屋を出ると男性は椅子に腰掛け深い溜息を吐く

娘は大人しく、今までわがままらしい事を言った事がなかった

初めてのわがまま故、叶えてやりたいが非常に難しい問題である

噂の狂嵐の魔公子が娘の想い人であろうとそれはいい

聖界は中立。魔王と結婚しようとも娘を大事にしてくれるのなら構わない

だが今回は状況がよろしくない

よりによって絶対神が娘を欲しがっている

それを無下にして魔王と結ばれたなど、あの強欲な神々が許すわけがない

今の神界に思う所がないわけではない故に、娘を嫁がせる事を迷ってはいるが、聖界を滅ぼされるわけにはいかない

下手な事は…出来ない

神々の逆鱗に触れるわけには…いかない──

 

「…瑞稀様…」

 

涙を流しながら自室に戻った聖界の姫・ワルキューレはただただ彼の事を想う

会いたい…瑞稀様に会いたい…

会って想いを告げてお傍で支えたい

かつて人界にて出会い、歳月を重ね育んできた想い

最初は夢見がちな少女特有の憧れだった…

私が危ない時、颯爽と助けてくれる白馬の王子様…

私を助けてくれるヒーローの様な…そんな憧れでしかなかった

でも…歳月を重ねる毎に憧れは恋に変わった…

彼を知る程に惹かれていた…

彼の理想を知った…凄いと思った…支えたいと願った

彼の弱さを知った…愛おしいと思った…包んであげたいと願った

彼のひた隠してきた激情を垣間見た…悲しいと思った…その心を癒してあげられればと願った

想いは募るばかりだった…

それでも耐えてきた…あの人の迷惑になると…

この想いは私の片想いなのだと…

でも…もう耐えられない…

7ヶ月程前あの人が人界王を失脚させられた

驚いた…あの人が魔族の血を引いていたなんて…

お会いした時に魔力を感じられなかったから人間だと思っていた

でも…どうでもよかった…

例え魔族の血を引いていても、彼である事は変わらない

ただ彼の事が心配だった…

命を賭けて護ってきた人間達に裏切られた彼を思うと心が張り裂けそうになる…

すぐに彼を迎える為に情報を集めた

でも…彼は見付からなかった…

彼を恐れた政府に殺されたのか…

あるいは世界に絶望して自ら死を選んだのか…

生きた心地がしなかった…

恐らくあの時、彼が死んだという情報が入ったら私は彼を追っていただろう…

そして…つい先日彼は見付かった…

彼は魔王になって天界を落としていた

生きていた!生きていてくれた!

嬉しかった!ただ嬉しかった!

すぐにでも彼に会いたかった…

でも…絶対神様が私を后に迎えたがっていた…

彼は神々の敵対者…私が彼の下に行けば聖界に神々が攻め込むかもしれない…

彼にも迷惑をかけるかもしれない

…それでも…会いたかった…彼を支えたかった…

 

「…瑞稀様…貴方に…会いたい…貴方の声が…ききたい…!」

 

彼を想う涙は止めどなく流れていた──

 

 

父王は悩んでいた

どうにか娘の想いを遂げさせてやれないだろうかと

 

「どうしたものか。今の絶対神は強欲で傲慢。神としての己以外を省みぬ冷血漢。対して狂嵐の魔公子は民を最優先に考え、比類無き才覚を持ち、他者を慈しむ慈悲をもって魔界を統治している。天界との戦争も民のためと聞く。どちらが娘を大事にしてくれるかなど一目瞭然なのだがな…」

 

「…陛下。私に妙案がございます。魔王様次第ではありますが」

 

そばに控えていた秘書が意見を述べる

 

「述べよ」

 

「はい。姫様は政略結婚を忌避し家出をした事にするのです。そして事前に魔界に使者を送り、あちらの協力の下、保護して頂けば少なくとも聖界に危険はありません。絶対神様も馬鹿ではありません。姫様のわがままに対して武力などを使えば器量を疑われます。すぐに手荒な事はしないでしょう。その間に姫様と魔王様の婚儀を速やかに済ませるのです。問題なのは代わりに魔界が進攻を受けかねないという事です。魔界にとっていい話ではありません」

 

「…確かにいい話ではないな…だが…あの子のわがままを出来るだけ叶えてやりたいのだ。大至急、魔界に使者を送れ。魔界は人界との戦争を始めるという話を聞いた。その前に話を通せ!」

 

「はい!直ぐに使者を魔界に送ります!」

 

魔界に使者を送り、後は魔王の返答を待つだけだ

常識的に考えれば魔界に受け入れるメリットは無い

…果たして受けてくれるだろうか…

出来る事なら受けて欲しい

彼なら娘を大事にしてくれると思うから…

 


 

「瑞稀様。メルフェレス様がお呼びです。全ての事柄を差し置いて、急ぎ魔王城へ赴く様に。との事です。なんかいつになく真剣な顔でしたよ」

 

「…は?緊急事態か?」

 

「さあ?」

 

瑞稀とバロムは不思議そうに首を傾げるが、考えても分からないものは分からないので急ぎ魔王城に向かう事にした

人界との戦争まで後5日程前だった──

 

「狂嵐の魔公子・瑞稀。入ります」

 

「銀狼・バロム。入ります」

 

二人が片膝を着け礼をする

メルフェレスは玉座にてなんだか悪い顔をしている

まるで渾身の悪戯を思い付いた子供の様に

その傍らには魔界には似つかわしくない白い正装を着た者が居た

 

「よく来てくれたわ!」

 

「それでメルフェレス様。本日はどの様なご用で?」

 

「実は今、聖界から極秘裏に使者が送られて来たの!この人ね!瑞稀に頼みがあって来たのよ!」

 

「…聖界が俺に頼み?いったいどの様なものなのでしょうか?」

 

「私はもう聞いたんだけど!直接聞きましょう!いやマジで面白いわぁ!!」

 

瑞稀とバロムは何が何だか分からないと怪訝な表情を浮かべる…聖界の使者は冷や汗やら油汗で生きた心地がしない…

 

「狂嵐の魔公子殿。突然の事で驚きとは思いますが、どうかお話をお聞き頂きたい」

 

「前置きはいい。それで何の用なのだ?メルフェレス様に話を通した上で俺が呼ばれたのだ。無下にはせん。出来る限り話は聞こう」

 

「ありがとうございます。落ち着いて聞いて頂きたいのですが…単刀直入に申し上げると、我が聖界の姫を絶対神から奪って頂きたい!」

 

「「……は?」」

 

瑞稀とバロムが同時に疑問を口に出した

ぶっちゃけ落ち着いて聞けなんて無理である

瑞稀は思った

何のこっちゃ、こいつは何をトチ狂った事言ってやがるんだと

混乱し過ぎてぶっちゃけキレそうである

バロムは思った

今日の魔界はいい天気だと

混乱し過ぎて現実を認識出来ていないのである

 

「あっははは!!!二人とも面白い!!」

 

瑞稀とバロム大混乱

メルフェレス様大爆笑である

…ちなみに使者はストレスのあまり吐きそうである

 

「…詳しく事情をお聞かせ願いたい…」

 

何とか持ち直した瑞稀がキレそうなのを堪えながら問う

 

「はい、実は──」

 

 

 

「…なるほど。つまりそちらの姫が俺に会いたがっていると」

 

説明をされた瑞稀は頭痛がした

この忙しい時になんて面倒な事が起こったと

…自分の秘めた想いは見ない事にした…

 

「はい。ですがこれは婚約の申し込みと受け取って頂きたいと、我が聖界の王が申しておりました」

 

…更に頭痛が増した

ぶっちゃけ聖界の姫の事はよく知っている

だが、何故今さら魔王である自分なのか

 

実は瑞稀が人界の粛清部隊に居た頃、聖界の王が外交のため人界を訪れた事があった

その時彼女も一緒に見聞を広めるために付いて来ていた

彼女の警護についたのが瑞稀なのだ

父王が政治外交を行っている間、彼女の観光案内や話し相手になっていたのだが、その時人界の不穏分子の奇襲にあったのだが…

瑞稀一人に全て鎮圧された

彼女はそれ以来瑞稀に恋心を抱いていたのだ

彼女にとって瑞稀は自分を助けてくれたヒーローだった

…ちなみに彼女と瑞稀は出会ってから人界と龍界が戦争を始めるまでの数年間、文通をしていたのだ

 

…初めて会った時は何とも思わなかった…ただの護衛対象だった…

だが、彼女を観光案内しながら、色々な事を話し、様々な景色を見ながら表情を変える彼女を見る度に、美しいと思った…

最初は…そう…上っ面の美しさに眼を奪われた…

でも文通を通して彼女を知る程に内面に惹かれていた

彼女の強かさを知った…本当の強さを思い出した…俺もそうでありたいと感じた…

彼女の清らかさを知った…本当の美しさを思い出した…俺には無いものだと感じた

彼女の儚さを知った…本当に強くなりたい理由を思い出した…俺が護りたいと感じた

瑞稀自身、彼女に強く惹かれていたのだ

 

「いきなり婚約と言われても…ぶっちゃけ魔王と聖界の姫ではそちらにとってよろしくないのではないだろうか。俺と彼女では不釣り合いだろう…」

 

聖界の姫といえば神々すら見惚れるほどの美貌を持ち、誰もが羨むほどの抜群のスタイルを誇る

頭脳も明晰で、その知識は魔法、科学、政治とあらゆるものを兼ね備えている

戦闘技術も高く、神聖魔法と高度な魔法剣を使う事から戦乙女と言われ、あらゆる世界から求婚の申し出が絶えない

 

それに対して瑞稀は魔王

神々の絶対的敵対者

世界にとっての絶対悪

ついこの間天界を落としたばかりで全世界から敵視されている

しかも次は人界に攻め込もうといているので印象は最悪である

 

…釣り合うわけがないと瑞稀は思った…

…だが…

 

「…何故です?貴方は善き人だ。善き人に魔王もなにもないでしょう。貴方以上に姫様に相応しい相手など居ないでしょう。少なくとも我々聖界はそう考えております。なによりも姫様が貴方を望まれたのです。貴方を傍で支えたいと。王もまた、貴方なら姫様を大事にしてくださるだろうと」

 

「…っ!?」

 

聖界の使者は心底不思議そうに問う

魔王である自分を偏見無しで一個人として見て善き人であると言われたのも驚いたが、彼女自身の想いはとても嬉しい

…かつて何度、彼女を后に迎えたいと思ったか…

その度に考え直した…

まだ早い、もっと人界王として実績を積み重ね、政府の連中を黙らせてからでなければ彼女が恥をかくと…

もう遅い、この身は怨嗟に塗れ、魔王と成った。彼女には相応しくない。彼女も俺に失望しただろうと…

だが、彼女はこの身が魔王に堕ちれども、俺を求めてくれている

ならば!!

 

「…お引き受け致します。聖界の姫君・ワルキューレ様を奪わせて頂きます。彼女の準備が整い次第后に迎えましょう」

 

迷う事はなかった

彼女が俺を求めてくれているのなら、迷う必要なんてなかった

 

「おお!ありがとうございます!!急ぎ聖界へ戻り、王にご報告致します!」

 

「出来る限り早い方がいい。魔界は後5日程で人界との戦争を始めます」

 

「分かりました!本日中には姫をこちらに送り出せる様、速やかに準備に取り掛かります!」

 

聖界の使者が転移魔法にて聖界に帰還した後、瑞稀は一気に血の気が引いていく様な気がした

 

「…メルフェレス様。勝手を御許し下さい。俺のせいで神界と戦争をする事に…ですが!!魔界は必ず俺が─」

 

「あっははは!!さいっこうに面白いわ!!ねっ!バロム!」

 

「ふふふ、そうですねぇ。最高に面白いですね。色恋にて争う魔王と神。これ以上ない神々を潰す理由です」

 

焦る瑞稀を置いてきぼりで愉しそうな二人

二人とも悪い顔である

 

「……あの…え?」

 

「あ~笑った笑った!なぁに瑞稀?鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して」

 

「そういえば瑞稀様に言った事ないですね。魔界と神界が初めて戦争をしたのは色恋沙汰でですよ。ぶっちゃけ今回と同じ様なケースですね」

 

「え?は?マジで?初耳なんだけど…」

 

「だからね瑞稀!気にせず娶りなさい!そして神々をぶっ潰してやればいいのよ!魔界は貴方達の味方よ!思う存分イチャついて!思う存分暴れればいいわ!」

 

「…えぇ?そんなの有りかよ…」

 

…そして翌日、魔界にて瑞稀と聖界の姫君・ワルキューレの結婚式は盛大に行われた

…具体的には魔界総出で夜通し騒ぎまくって…

 

「瑞稀様。私は貴方と結ばれて幸せです…これからは貴方の隣で貴方を支えます!何があろうと貴方が何に成ろうと私は…貴方を愛し続けます!」

 

「俺も君と結ばれて幸せだ。この先何があろうと俺が君を護る。ずっと俺の傍にいてくれ、死が二人を別つまで…」

 

「はい!ずっと貴方のお側に!!」

 

瑞稀とワルキューレの幸せを肴に魔界のお祭り騒ぎは夜通し静まる事はなかった…

 

 





瑞稀に奥さんが出来ました!
本当ならもうちょっと前に結婚する予定だったんですが、ぶっちゃけ忘れてました(汗)
なのでこのタイミングですが無理矢理捩じ込みました


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嘲りの炎、怨嗟の闇

お待たせしました!
最近気分が乗らず、話が思い浮かばない…
それでもなんとか完走はしたいです!


「瑞稀様。進軍の準備が整いました」

 

バロムは魔王城にて待機していた瑞稀に報告をする

魔界が人界に宣戦布告をして一週間が経ち、とうとう人界に攻め込む時が来たのだ

 

「分かった。バロム、お前も前線部隊に加われ」

 

瑞稀はバロムに指示をすると、魔王城の外で待機してた魔王軍の下へと覇気を纏い赴く

そんな瑞稀を先日妻となったワルキューレが心配そうに見送っていた

 

「瑞稀様。どうか…どうかご無事に…」

 

「大丈夫。たかが人間風情や鬼崎ごときに遅れを取る俺じゃないよ」

 

「でも…あちらには唯さんがいらっしゃる。彼女は貴方の幼馴染と聞きました。実力もかなりのものだと…」

 

ワルキューレは本来、情に弱く心優しい瑞稀が幼馴染である唯とぶつかった場合、まともに戦う事が出来ず、隙を突かれてしまうのではないかと心配しているのだ

 

「…そうだな…唯は強い。それにあいつとは幼い頃から一緒だったからね、情もある。それでも大丈夫だよ。負けはしない。俺は…魔王だから」

 

「…分かりました…これ以上はなにも…どうかご無事に戻って来て下さい…」

 

「ああ、行ってくるよ」

 

ワルキューレに見送られさらに覇気をみなぎらせ、魔王軍に号令をかける

 

「皆、準備が整ったようだな。ならば行こう。手筈は前もって話した通りの作戦で行く。天界を落とした我等には物足りぬ相手だが油断せぬように」

 

瑞稀の号令を受け、歓声を上げる魔王軍

今この時、かつて人界を護った王が魔王となり先の人魔戦争の再演をなす

 


 

「陛下!魔王が攻め込んできました!!迎撃の準備は万全です!早く前線へ!」

 

人界は宣戦布告を受けた時点で王都城壁手前の平原にて迎撃体勢を整えていた

そこならば街への被害は最小限で済み、補給も容易い、城壁には魔法で結界を張り護りを固め、城壁の上から重火器や魔法で遠距離攻撃も容易いと非常に戦いやすいのだ

奇しくもそれはかつて瑞稀が先の人魔戦争の時にとった作戦だった

 

「へいへい、今行くわ~」

 

現人王・鬼崎優真はやる気無さげに傍らの神器、烈火霜害を携え、前線に向かう

この王、元より瑞稀なんか相手にならないと考えているのだ

かつて幼い頃、魔力の欠片も無かった落ちこぼれに、選ばれた天才である自分が負けるわけない

しかも今回は鬼崎宗家から長男次男の兄貴が参戦するという

負ける方が難しい

そう考えているのだ

 

「それで?敵さんの数は?」

 

「それが…たった今入った偵察部隊からの報告では敵は()()だけです…」

 

「一騎だけ?瑞稀だけって事か?」

 

「はい。そのようです」

 

これには優真も驚きである

いくらあいつが馬鹿でもそこまで馬鹿だとは思わなかった

この時点で優真は瑞稀はクソ雑魚大馬鹿野郎だと思った

 

「こりゃあ思ってた以上に簡単に終わりそうだな~」

 

優真は瑞稀を嘗め切っていた──

 

「本当に瑞稀だけだな」

 

前線に合流した優真が見たのは、平原に一人佇む瑞稀の姿だった

 

「陛下!これは明らかにおかしい!罠です!警戒すべきかと!」

 

「いや、取り敢えず部隊をぶつけてさぁ、ちゃっちゃと終わらせよう」

 

既に戦場で待機していた将軍達が警戒するが優真は聞く耳を持たず前線部隊を出し、瑞稀にぶつけようとする

──そこに瑞稀の声が戦場に静かに、冷たく響き渡る

 

「歯向かう者は等しく砕く。しかして我が顎へと下り、永久の血肉と成るがいい

去る者は追わぬ。己が恐怖を隣人に伝え、共に恐怖で震えて眠るがいい

我が名は瑞稀。魔王、狂嵐の魔公子・瑞稀と知るがいい

集え。我が同胞達よ

汝等が行く先は我が足跡にあると知れ」

 

──瞬間、巨大な魔法陣が描かれ、そこから総勢3000の魔王軍が召喚された!

 

「さあ進め!同胞達よ!魔界に喧嘩を売るとはどういう事か、人間共に思い知らせてやれ!!」

 

「皆、進め!!!瑞稀様に忠義を示せ!!!」

 

バロムを先頭に魔王軍が人界軍を蹴散らしていく!!

その様は正に一方的な蹂躙だった

瑞稀一人と油断した人界軍は、突然の魔王軍出現に出鼻を挫かれ、為す術なく蹂躙されていく

…しかし人界もただやられてばかりではいられない

 

「嘗めやがって!!魔族ごときが!!!鬼神の血を引く俺等鬼崎に勝てると思うなよ!!!」

 

人王・優真と鬼崎宗家長男神真、次男刃真を中心に実力者達が戦線を立て直す

しかし、それでもバロム、斬鉄、刻龍の三人を止めることは出来ない!

三人は各々戦場を縦横無尽に駆け回り、着実に人界軍の数を減らしていく

瑞稀もまた最前線に赴き、広範囲魔法にて一気に人界軍を蹴散らしていく!

 

「貴様等人猿風情が、この俺に勝てると思い上がるなよ!」

 

そんな瑞稀の前に優真、神真、刃真の三人が立ちはだかる

 

「お前こそ俺等に勝てると思うなよ!!落ちこぼれが!!!行くぞ烈火霜害!!」

 

優真が自らの神器を解放すると、その身に炎を纏いはじめる

 

「やってくたな…瑞稀。生きては帰さんぞ…!落ちこぼれが我等鬼崎に牙を剥くなど身の程知らずが!!目覚めろ王冥炎火!!」

 

神真が自らの神器を解放すると、炎が地を這うように燃え盛る

 

「まあそんなキレんなや、神真。落ちこぼれの瑞稀君がビビってチビちゃうだろう?なあ流天火雨」

 

刃真が自らの神器を解放すると、上空に炎の球が出現しそこから拳大ほどの火の粉が降り始める

三人共、炎を司る鬼崎に相応しい炎系神器と契約していた

 

三人は未だに瑞稀を落ちこぼれだと罵り、見下す

三人を見た瑞稀は──

 

かつて無いほどに怒り狂っていた──

 

「…この日をどれだけ夢見たか…どれほど焦がれてきたか…」

 

瑞稀から強大な魔力が発せられ雷と炎となり周囲を破壊していく!!!

 

「始めよう…復讐を…さあ行こう!!()()()()()()()()()!」

 

瑞稀が腰に携えていた二対の刀から真っ黒な闇の魔力が溢れ出した!!

それは天界との戦争には調整が間に合わず使う事が出来なかった、瑞稀が新たに契約した二刀一対の神器だった!

現在瑞稀は天空剣との契約を破棄し、この二刀一対の神器と契約していた

その能力は影を操り刃と為す

彼が求めている夜宵時雨に似通った能力を持っていた

 

「来い!貴様等が落ちこぼれと言う俺の力を、貴様等人界が裏切った俺の怨嗟を思い知れ!!この闇は我が怨嗟の叫びと知れ!!!!」

 

 




お待たせした割には駄文で申し訳ない…
次は決着つけたいです…


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復讐、告げられた本音

難産でした!
今回はちょっと派手さに欠けるかな?



「…馬鹿な…何故瑞稀が魔力を持っている?」

 

「おいおい、あいつは生まれつき魔力を保有してないんじゃなかったのか?」

 

「神兄、刃兄、どっちみちあいつが落ちこぼれなのは変わらねえだろ!さっさと殺しちまおう!」

 

鬼崎兄弟は膨大な魔力を放出する瑞稀に動揺こそすれど、すぐに持ち直し、自分達も魔力を放出し始める!!

3人の魔力は炎となり、瑞稀の炎を相殺する!!

 

「…3人掛かりで俺1人の炎を相殺するのが精一杯とはな…思ってたより大した事無いんだな…鬼崎ってのは」

 

「ほざけ!!魔力が有ろうと貴様が俺達鬼崎に勝てると思うなよ!出来損ないが!!生まれながらの天才とお前の様な出来損ないの差を教えてやる!!刃真!優真!合わせろ!!」

 

長兄神真を中心に、3人の魔力が更に高まり、中空に巨大な魔法陣を描く!

 

「「「炎よ!龍の吐息となり、遍く全てを焼き尽くせ!!!フレアオブカタストロフィ!!!!」」」

 

3人掛かりで発動した魔法は周囲を破壊しながら、瑞稀に襲い掛かる!

瑞稀は避けようともせず、直撃し、爆発する!

燃え盛る炎の威力は凄まじく、瑞稀の周囲数十メートルを焼き尽くしていく!!

 

「…フレアオブカタストロフィが直撃だ…無事では済まない…所詮瑞稀ごときではこの程度か」

 

爆炎が晴れ、土煙が収まり現れたのは、無傷の瑞稀だった

周囲には、真っ黒な柄が付いていない刀身が無数、浮遊していた

 

「鬼崎の炎はこの程度か?つまらんな…次はこちらが攻める番だな」

 

瑞稀が左手を正面に突き出す

すると浮遊していた刀身の切っ先が、鬼崎に向けられる!

 

「簡単には死んでくれるなよ?━影の太刀・放殺刃」

 

無数の刃が一斉に3人目掛けて射出される!

広範囲に渡り放たれた刃は、周囲を無差別に貫いていく

鬼崎は結界を張り、防ごうとするがそれでは足りず、各々回避もしくは、神器で捌き、何とか防ぎ切る

 

「はぁ…はぁ…馬鹿な…最上級魔法の直撃に耐えて…しかもこれほどの魔法を行使するなんて…」

 

「この程度で根をあげるなよ…鬼崎は天才なんだろ?出来損ないの挨拶代わりの魔法で、潰れてくれるな。まだまだこれからなんだ…鬼崎の力ってやつを見せてくれよ」

 

瑞稀は酷薄な笑みを浮かべながらまた新たに黒い刀身―影の太刀を出現させる

 

「次は少しレベルを上げるぞ?━影の太刀・流殺刃」

 

またしても影の太刀が射出されるが、先程とは違い、範囲は狭く、ピンポイントで3人を狙っている!

結果先程より攻撃の密度が上がり結界を一瞬で貫き、回避、防御どちらも間に合わない!

 

「くそっ!!」

 

3人は何本もの刃に貫かれるが、何とか致命傷は免れていた

その様子に瑞稀は酷薄な笑みを更に強める

自らの復讐心が満たされていき、嗜虐心を隠そうともしない、その様は正に残酷な魔王に相応しい

 

「…なんだ、この程度か。この程度の相手に俺は…ガキの頃とはいえ、負けていたのか…情けない…天才だなんだと言っても、たかがこの程度の魔法すら捌き切れないとは」

 

「ふざけるなよ!もう手加減はなしだ!殺してやる!!刃真!優真!超越技(イクシード)を使うぞ!!」

 

そう言うと3人は莫大な魔力を溜め始める!

超越技(イクシード)とは特殊な術式を用いて発動される各々が持つ独自の技

その威力は凄まじく、場合によっては大魔導すら凌駕する事もある

 

「「超越技(イクシード)!!百火一陣炎!!!」」

 

超越技(イクシード)!!鬼神斬・剛炎!!!」

 

神真と刃真が合計200の炎を瑞稀目掛けて放ち

優真が高速で爆炎を纏った刀を振り下ろし、斬擊を炎として飛ばす

 

「…下らん真似を…超越技(イクシード)劫火焼・天爛」

 

巨大な魔法陣が地面に出現し、上空目掛けて瑞稀の紅蓮の炎が火柱となり放たれる

3人の炎は瑞稀の放った巨大な火柱に呑み込まれ焼き尽くされる!

 

「…馬鹿な…俺達の炎が…たかが瑞稀に…」

 

「冗談キツいぜ…あれは…紅蓮に燃ゆる煉獄の炎…俺達でさえ使えねえのに…」

 

「嘘だ!!俺の炎がアイツの炎なんかに負けるわけねえ!紅蓮の炎!?あり得ねえ!!なんで出来損ないのアイツが!?」

 

「もういいか?まだ奥の手があるなら使え、俺は貴様等の力の悉くを焼き尽くしてやる」

 

3人は魔力の過剰消耗により息を切らし、地に膝をついていた

 

「そうか…この程度か。残念だ」

 

そう言うと瑞稀は左手を3人に向ける

すると影の太刀が凄まじい数で3人を全方位から囲む様に現れる!

 

「…もういい…死ね━影の太刀・八方流殺刃」

 

3人に全方位から刃が襲い掛かろうとした━瞬間

3人の後方から、凄まじい勢いで魔力が衝撃波となり、飛んでくる!!

 

「っ!!!」

 

その魔力は意表を突いたとはいえ、瑞稀に防ぐ暇すら与えず、瑞稀を吹き飛ばす!!

術者が吹き飛ばされた事で、3人を囲っていた影の太刀は消失、3人は助かった

 

「…この魔力…来たか…出来れば来て欲しくはなかったな…久しぶりだな、唯…」

 

「…みーちゃん…どうして魔王なんかになっちゃったの…どうして…こんな事をするの…みんな、みーちゃんが護ろうとした人達だよ?なのにどうして…」

 

3人を助け、瑞稀を吹き飛ばしたのは、瑞稀の幼馴染の唯だった

 

「…唯、退け。俺が憎いのは俺を裏切った人間共と、鬼崎だ。お前を傷付けたくはない」

 

「ちゃんと答えて!!どうしてみーちゃんが魔王なんかになって人界と戦争なんてするの!?おかしいよ!命懸けで護った人界をなんでみーちゃんが!!!みんなもおかしいよ!!あんなにみーちゃんに護られて、助けられて!なのに魔族の血を引いてるってだけで追い出して!殺そうとして!おかしいよ…狂ってるよ…答えてよ…みーちゃん…なんで…」

 

唯の叫びはただただ悲痛だった

かつて命懸けで世界を護った王が、自らの手で世界を傷付ける

かつて命懸けで護った民を、王自らの手で殺す

かつて命懸けで護られた民が、王を殺そうとしている

命懸けで護られたのに血筋だけで裏切った民

命懸けで護ったのに血筋だけで裏切られた王

唯には全てが狂ってるとしか思えなかった

 

「なんで俺が魔王になったか?救われたからだよ…俺は人間共に裏切られて、全てに絶望し、魔界に救われ、希望を知った。唯、俺はね、魔王としての自分に誇りを持ってる。俺にとって魔界の民は家族同然だ。家族を護るのは当たり前だ」

 

瑞稀の答えに唯は何も言わなかった

いや言えなかった

瑞稀は唯が見たことがない程の本当に優しい顔をしていた

瑞稀の言葉には唯が知らない瑞稀の強さが込められていた

 

「…そっか…分かったよ…」

 

唯の言葉には悲しみが込められていた

そして━

 

「…彼らを殺すなら唯を先に殺して」

 

鬼崎の3人を、その後ろで震えている人間を庇う様に、両手を広げ立つ

 

「…なに…を言ってるんだ…唯…退け…俺は…お前を傷付けたくない!退け!!」

 

「いやだ、退かない。彼らを殺すなら唯を殺して」

 

毅然とした態度で唯は瑞稀に立ち塞がる

その眼は決意に満ちていた

そんな唯を前に瑞稀は、動揺を隠せない

唯が自分と戦うなら潰すつもりでいたが、殺す気はなかった

しかし唯は事もあろうか戦わず無抵抗なまま殺せと言う

 

「唯!退け!!退いてくれ!!!頼む!!俺にお前を…殺させないでくれ…」

 

唯は瑞稀の言葉を意に介さず動かない

瑞稀自身、復讐心より幼馴染の唯に対する情が上回っていた

それでも諦め切れない

鬼崎への復讐、人間達への復讐

自分が求めて止まなかった復讐の機会

逃したくはない

奴等を生かしたくはない

でも唯を殺したくない

かつて()()()()()()()()()()()()()()()()()唯を傷付けたくない

 

━━誓った?

いつ?どこで?誰がいた時?

 

━眩暈がする

━頭が割れるように痛い

━身体の奥から何かが暴れ出てくるような錯覚がする

しかしそれもすぐに収まる

 

「…興醒めだ…全軍撤退!!魔界に帰還する!!」

 

「瑞稀様!?何故!?今なら人界を落とせる!!チャンスですよ!?」

 

バロムや魔王軍が驚愕に声をあげる

しかし瑞稀は唯を一瞥すると転移魔法を発動させ始める

 

「ふざけるな!!ここまでやって終いだと!?鬼崎を愚弄しておいて!!!」

 

「そうだぜ!瑞稀、俺達との決着がまだついてねえぞ!!!」

 

「出来損ないのお前がこれで俺ら鬼崎に勝ったつもりか!?ナメんなよ!!このクソヤロウ!!」

 

鬼崎が撤退しようとする瑞稀に待ったをかける

今まで出来損ないと思っていた瑞稀に完膚なきまでに叩き潰され、あまつさえ命まで見逃されようとしている

彼らのプライドはズタズタにされた

 

「興が削がれた。撤退するぞ!!!人界との戦争はこれで終わりだ。どちらにしろ貴様等人界はほぼ壊滅、こちらはほぼ無傷。俺達の勝ちだ。己の無力さを噛み締め、俺に喧嘩を売った愚かさを悔いろ」

 

「しかし!瑞稀様!それでは貴方の怨みは━」

 

「バロム…もういい。奴等への怨みなぞ我ながら下らぬ事に執心していた。最早どうでもいい。退くぞ」

 

瑞稀は無表情で魔王軍に撤退を再三告げる

ここまで瑞稀に言われてはバロム達魔王軍も退かざるを得ない

 

「…了解です…撤退します…」

 

不承不承ながら瑞稀に従い魔王軍は撤退する

1人残った瑞稀に唯が呼び掛ける

 

「待って!みーちゃん!!行かないで!!!」

 

「…唯…ごめんな…出来る事なら…お前には傍に居て欲しかった…ごめんな…さようなら…」

 

そう告げて瑞稀は消えてしまった

後に残ったのは悲しみに暮れる唯と、傷付き疲弊した人界の者達と、魔王・瑞稀によって破壊された荒野だけだった

 

「…みーちゃん…唯だって…みーちゃんの傍に…」

 

荒野には唯の嗚咽が響いていた

 

 

 




可哀想な唯ちゃん!
完全にヒロイン枠なんですが瑞稀には既に奥様が…
と言うかワルキューレにも散々良いこと言っておきながら、幼馴染の唯ちゃんにも良いこと言ってる瑞稀は、完全にタラシですね
浮気性ですね
真性のクズですね

ここまでボロクソに言っておいてこの世界では重婚は当たり前です
作者もクズでした

ちなみに今回いきなり出てきた超越技(イクシード)ですが
まだ上があります
超越技(イクシード)ですが個人が独自に開発したり、近しい人や家系に伝わるものを使ったり、様々です
更に威力はかなりヤバめですがその分消耗も激しく、使う人と使わない人がいたりと、かなりばらつきがあります
ご了承下さい



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幕間 王道と覇道 PSマジごめんね!来ちゃった!

ギャグ時々真面目!!
今回そんな感じです


人魔戦争終結から1週間が過ぎ、戦争の事後処理も落ち着きを見せ始めていたある日

瑞稀達魔王は一同に会し、来る神界との戦争に関して会議を開いていた

しかし、魔王内でも魔王として神々に屈する事なく瑞稀を中心とし神界に攻め入るべき、と主張するメルフェレスを中心とする少数の武闘派魔王

逆に神界との戦争の切欠になるであろう瑞稀の首を差し出し、戦争を回避するべき、と主張する大多数の保守派魔王で、意見は真っ二つに割れていた

 

「何度も繰り返し言いますが、神々と戦って勝てるわけがない。狂嵐1人の首で済まし、戦争を回避するべきでしょう。確かに狂嵐は天界、人界と続け様に勝利を重ねている。これは我々から見ても驚異的な強さです。しかし神々は相手が悪すぎます。特に絶対神・天乃の力はかつてバロム様と戦い、勝った程ですよ。しかもどういうわけかは分かりませんが、奴はこちらの動きを把握している節があります。単純な戦闘でも情報戦でも勝ち目は無く、我々の力でどうこう出来る相手ではありません。メルフェレス様、お考えを改めて下さい」

 

魔王の中でも銀狼・バロムと、同等の年期と言われている古株の魔王がメルフェレスを嗜める様に、言い聞かせる様に発言する

 

「何よりも会議中だというのにずっと眠りこけている様な魔王に、勝算などあるとは思えませんがね」

 

…そう瑞稀は会議中ずっと眠っている

バロム曰く、瑞稀はこの1週間、事後処理に掛かりきりで、まともに寝ていなかったらしい…

 

「絶対神がバロムに勝ったと言うが、それは瑞稀も同じ事だ。しかも瑞稀は力を封印されている状態で勝っている。封印を解き、紅蓮の炎と鈍色雷を自在に操る今の瑞稀ならば、十分勝機はある。何より私はお前達まで戦えとは言っていない。神々と戦う気概のある者だけ戦えば良い。気概無き者なぞただの足手纏いでしかない。眠りこけていようと、少なくとも尻込みしているお前達よりは頼りになる。攻め入るのは瑞稀率いるバロム、斬鉄、刻龍の4名とセシルを加えた5名、その魔王軍だけで良い。しかも今回は更に瑞稀の妻、ワルキューレも参戦する。彼女の力は瑞稀に劣りはしない」

 

メルフェレスは1歩も退くことなく反論する

それでも保守派の魔王は難色を示し続ける

 

「そうは言いますがね、狂嵐の超越技(イクシード)では絶対神を滅するには不足ですぞ。いくら戦乙女が参戦してもねえ。神器も持たぬ様な女では魔王について行けるかどうか。その眠りこけている魔王に最終超越技(ファイナルイクシード)でもあれば、別ですがね。ねえ、バロム様?」

 

保守派の魔王が、瑞稀を起こそうとしているバロムに対して、嫌味をたっぷり込めて話を振る

 

「あ、あぁ、いや、それは~ちょっと瑞稀様マジで起きて下さいよ~

 

何で俺がこんな目に…と思うバロム

半ば泣きそうである

しかしここでバロムの努力は報われる

瑞稀起床である

 

「…んあ?うるせえな…俺寝てねえんだよ、バロム頼む、もうちょい寝かせてくれ。マジで」

 

話題の渦中にある瑞稀本人は眠気眼で話を聞く気無し

ぐだぐだである

バロムは内心ガチ泣きである

 

「瑞稀様、お願いですから起きて下さい。ほら、あちらさんが瑞稀様の超越技(イクシード)じゃ足りないから最終超越技(ファイナルイクシード)でもなければ駄目だ~って。ワルキューレ様加えても神器持ってねえから無理だ~と仰っております故。起きて下さい本当に…」

 

最終超越技(ファイナルイクシード)?無いよ。そんなもん無くても勝てる…一応ネピリムとアルジェナの神格覚醒(ディバインブレイク)は調整段階だがある。大丈夫。ワルキューレはお前らより全然頼りになる。大丈夫。むしろそんな事で起こすなよ。バロム後頼んだ。寝る」

 

また寝た

魔王としての威厳、責任感、やる気、協調性無し

真にダメダメな王である

バロムはとばっちりである

 

「………との事です!最終超越技(ファイナルイクシード)が無くても大丈夫!新たな神格覚醒(ディバインブレイク)は何とかなった!ワルキューレ様めっちゃ強え!対策バッチリ!万事OK!」

 

バロムやけっぱちである

正直面倒くさい

どちみちコイツら来ねえのに、何でこんなにウダウダ言ってんの?

と思うバロムであった

その後保守派は瑞稀のやる気の無さに憤り、会議は終了となった

…会議室を出ていく保守派は気付かない

会議室に残った瑞稀が起きていて、意地の悪い笑みを浮かべている事に

 


 

「で?何で寝たフリなんてしたんです?てか最終超越技(ファイナルイクシード)ありますよね?神格覚醒(ディバインブレイク)だって調整済みじゃないですか。しかもワルキューレ様にはあいつが…なんだってあんな嘘吐いたんです?」

 

結婚した後に魔法で建てた瑞稀の自宅に着いた時に、バロムが瑞稀に問う

実際瑞稀は人魔戦争の時には使わなかっただけで、既に最終超越技(ファイナルイクシード)も既に会得し、神格覚醒(ディバインブレイク)も調整済みだったのだ

更にワルキューレには秘密兵器とも呼べるものがある

なのに会議で最終超越技(ファイナルイクシード)は無く、神格覚醒(ディバインブレイク)も調整中と嘘を吐いた

 

「分からないか?絶対神はこちらの動きを把握している。間違いなく保守派の魔王の誰かが神界側のスパイなんだろうよ。だから嘘の情報を掴ませた。俺の最終超越技(ファイナルイクシード)は威力はある、範囲も広い。だが消耗の反動がでかすぎる。使えば今の俺じゃ丸1日は動けなくなる。外せば殺られる。だから最終超越技(ファイナルイクシード)は使えないと思わせておいて、隙を突いて確実に当てる。ワルキューレが担ぎ手じゃないと思ってくれれば、隙も突きやすい。そうすれば勝ちだ」

 

「なるほど。そういう事ですか」

 

瑞稀は今回の神界との戦争は、自身の持ち得る全てを使うと決めていた

そうでなければ負ける

負ければ命は助かっても愛する妻を奪われる

何よりも、瑞稀は神を許せなかった

本来人々を救うべき神は無く、救うのではなく、ただ奪うのみ

本来人々を生かすべき神は無く、生かすのではなく、ただ殺すのみ

そこに慈悲は無く、あるのは冷徹な神罰のみ

祈りを捧げるものを救わぬ神などいらぬ

気紛れに奪うだけで慈悲を与えぬ神などいらぬ

罪無きものを護らず死なせるだけの神などいらぬ

神が救わぬとほざくのならば、俺が救う

神が与えぬとほざくのならば、俺が与える

神が護らぬとほざくのならば、俺が護る

 

「それで神々を打ち倒した暁には、瑞稀様は如何なさるおつもりで?自身が神に?それとも魔王として世界を支配しますか?」

 

バロムの問いに瑞稀は、疲れた顔を見せる

 

「俺が神ねぇ…それも悪くはないかもしれんが…有り得まい。かといって世界を支配するのも面倒だな。でもそうだな…支配ではなく、俺が全世界の争いの抑止力となるのも…有りかもしれんな…」

 

瑞稀の内あるのは人徳による繋がりを善しとする王道か、それとも武力による恐怖を善しとする覇道か

 


 

次の日、瑞稀は頭を抱えていた

 

昼頃、仕事が一段落し、ワルキューレと昼食をとっていると、魔王軍が慌ただしく現れ、瑞稀にある出来事を伝えた

 

人界最大戦力の1人今坂唯が魔界に侵入した

だが敵意は無く、魔王軍の指示に従い、魔王城まで大人しく連行され、メルフェレス様に取り次がれた

事もあろうにメルフェレス様に瑞稀に会いたいと泣きながらに訴えた

これにはメルフェレス様ビックリ

大号泣する唯に感化され、話も聞かずに涙ながらに了承

大至急瑞稀を呼んだのだ

ちなみにワルキューレも同伴である

 

そして今に至る━━

 

「み゙ーぢゃん!! あいだがっだよ~!!!」

 

唯ガチ泣きである

ちなみに瑞稀は頭を抱えている

 

「…唯…お前何しに来た?いくら戦争終わったっていっても、敵対してた世界に来てガチ泣きて…」

 

「だっであいだがっだんだもん!!」

 

「いやだから何しに来たんだよ…」

 

「あいだがっだんだよ~!!!」

 

「何しに会いに来たんだよ!!」

 

完全に言葉が不自由になっている

会話が成立していない

瑞稀は思った

唯、人としての知恵を捨てるな、と

 

━━しばらく号泣して、唯が落ち着いて何故魔界に来たのかを、瑞稀は改めて問う

 

「マジごめんね、みーちゃん!来ちゃった!!唯を魔界において下さい!!」

 

「相変わらず話の通じんやっちゃなぁ。意味が分からない」

 

率直過ぎて意図が伝わらない

これにはワルキューレ、バロム、メルフェレス様もぽかーんである

 

「わけを聞かせろよ、わけを」

 

瑞稀は久々の幼馴染との会話に早くも苛立っていた

彼女は昔から瑞稀を怒らせるのが得意だった

 

興奮するとまともに人の話を聞かない

思い込みが激しく、我が強い

こうと決めると決して自分を曲げない頑固さ

しかも少し頭がわるい、そう少しわるい。あくまで少し

 

結果、今の様に会話が成り立たない事はよくある事だった

 

「唯を魔界において下さい!」

 

「いやだからわけを話せっつってんだろ!このちぢれマイマイ!!」

 

「ちぢれてないもん!!」

 

「喧しいわ!!お前何し来た!?」

 

「お引っ越し!!!」

 

「だ~か~ら~!!わけを話せよ!!お引っ越し!?ふざけんな!!引っ越して来たわけを話せ!!脳ミソ腐ってんのか!?それとも耳か!?どっちもか!?」

 

「誰がゾンビじゃ!!喧しいわ!!」

 

「お前に言われたくないわ!!」

 

大喧嘩である

 

━━二人が落ち着くのに更に時間を要する

 

一通り罵り合い、肩で息をする2人

 

「結局…何しに来た…お前は…」

 

「みーちゃんの…力になるために…魔界にお引っ越し…」

 

「最初から言いましょうよ」

 

「アッハハハ!!この2人さ、最っ高に面白い!!」

 

「…メルフェレス様…笑い事じゃありませんから…わりとマジで」

 

これにはワルキューレも真顔でツッコミを入れざるを得ない

メルフェレス様は2人の大人気ない喧嘩に大爆笑

バロムはそんなメルフェレス様を嗜める

まさにぐだぐだである

 

「俺の力に?お前意味分かってんのか?うちは近々神界とやり合うんだぞ?」

 

瑞稀も流石に本気で唯を心配している

瑞稀にとって唯は、幼い頃から自分の傍にいてくれた、かけがえの無い存在だ

それは今も変わらない

いや、未来永劫変わる事はない

どれだけ苛ついても、瑞稀は唯を大切に想い、唯も瑞稀を大切に想っている

 

「分かってるよ!いくら唯が馬鹿でもそれぐらい分かってる!!それでもみーちゃんが危ない目にあってるなら力になりたい!!みーちゃん昔から唯が危ない時助けてくれた!!今度は唯が助ける番!!!」

 

唯は真剣だった

揺るぎない覚悟を持っていた

唯は悪いところを挙げるとキリがないが、誰よりも思い遣りがある人だった

だからこそ瑞稀も、苛立ちながらも唯と、ずっと一緒にいた。いれたのだ

 

「魔界に来たわけは分かった。だがはいそうですかって言うと思ってんのか!?お前が思ってるより戦場ってのは危険なんだよ!!!さっさと帰れ!!!!」

 

「やだ!!帰んない!!!唯も戦う!!!もうこれ以上黙って見てるだけはやだ!!遠くで見てるだけはやだ!!!」

 

「ふざけ━」

 

「瑞稀様。私からもお願いします、唯さんを魔界においてあげて下さい」

 

「ワルキューレ、何を…」

 

なおも唯を追い返そうとする瑞稀にワルキューレが懇願する

唯の叫びはワルキューレにとって他人事ではなかった

唯が抱いている無力感をかつて自分も抱いた

そして唯と同じ様に瑞稀を助けたくて、支えたくてもがいた

今の唯はかつての自分だ

 

「いいんじゃない?おいてあげても」

 

「メルフェレス様まで」

 

メルフェレスもまた唯の叫びを無視出来なかった

この健気な叫びを掬い上げてあげたくなった

唯の叫びはそれほどまでに強く、真っ直ぐだった

 

「………分かったよ…好きにしろ…」

 

やがて2人の言葉に瑞稀が折れた

むしろワルキューレが介入した時点で、瑞稀の心は揺らいでいた

そこにメルフェレスの言葉が止めをさした

 

「みーちゃん、ありがとう!!ワルキューレさん、ありがとう!!メルフェレス様、ありがとう!!唯、頑張るから!!!」

 

とうとう人界最大戦力とまで言われた唯を加え、魔界は更に勢い付いていく

神界と魔界

神々と魔王

因縁の対決は近い

 

 

 

 

 

 




瑞稀の奥さん参戦!幼馴染も参戦!
多分ついでに幼馴染とも結婚!ハーレムへの道は開けた!!
進め!瑞稀!汝が行く先は色欲にまみれた茨の道と知れ!






すんません悪のりが過ぎました




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王の始まりの怨嗟、見え始める原点

今回ほぼ回想です



俺は夢を視ている…

 

「瑞稀、逃げなさい!奴等の狙いは私だ!!あんたは私をおいて逃げて!!」

 

「嫌だ!!奏女様をおいて逃げるなんて、出来ないよ!!俺だって戦える!!俺だって奏女様の弟子だ!!」

 

深い森の中を複数人に追われながら逃げる2人

1人は見目麗しい和装の狩衣を身に纏う女性

その手には紅い炎を纏う刀を携えている

その身にはいくつもの傷があり、血だらけだった

1人は幼い少年。かつての瑞稀だ

その目には、涙を湛え、必死に訴えていた

女性は幼い瑞稀を庇いながら戦い、傷を負ったのだ

 

「馬鹿を言うんじゃないよ!!あんたみたいなガキにどうこう出来る相手じゃない!!私に庇われてた分際が、偉そうにほざくんじゃないよ!!あんたを護りながら戦う余裕はもうない。お願いだから…あんただけでも逃げて…」

 

そうこう言い合っている内に、木々の合間から夥しい数の矢が襲いかかる!

 

「瑞稀!!」

 

女性が瑞稀を庇い、抱き締める

矢は悉く女性の背中に突き立てられる

女性は地に伏し、瀕死の重症を負ってしまった

 

奏女様!嫌だ…俺をおいていかないで!立って!一緒に逃げよう!?」

 

瑞稀の悲痛な叫びが森に木霊する

女性は瑞稀の声に応える様に、刀を杖代わりにして、立ち上がる

 

「…私が…護る…この子をあんた達なんかに傷付けさせやしない…」

 

全身から血を流し、血塗れになりながらも、必死に立ち塞がる

 

「…あんた達が殺したいのは、私だろ…この子は関係ない…この子に手を出すな…」

 

「そうはいかない。確かに我々が殺したいのは貴女だ。だが彼は貴女の弟子だろ?我々にとって貴女の弟子だというだけで彼は十分危険だ。ここで一緒に死んで貰う」

 

追跡者の中で最も力を持つと思われる男が、女性に歩み寄り、そう言い放つ

その手には不可思議な紋様が刻まれた槍を携えていた

 

「それは…ロンギヌスの槍…私を封印するつもりか…」

 

「そうだ。貴女は殺しても時が経てば蘇る。ならば封印するしかない。いくら貴女でもロンギヌスならば封印出来るはずだ」

 

ロンギヌスの槍は、封印を司る神器の中でも、最強の力を持つと言われている

その槍はあらゆる魔力、魔素の干渉を無効化し、貫かれた者は体内の魔素の流れを止められ、目覚める事はない

男は最早抵抗する力すらない女性に向け、槍を構える

 

「さらばだ。遍く厄災を焼き尽くした無双の神よ」

 

女性は避ける事すらままならず、槍に貫かれ、槍に込められた封印式が作動し始める

女性は、最期の力を振り絞り、笑みを浮かべ、瑞稀に言葉を尽くす

 

「ごめんね瑞稀、約束守れなくて。どうか私の教えを忘れないで。強く生きなさい。自分の力に溺れる事なく、大切なものを護るために、力をふるいなさい。憎しみに囚われるなとは言わない。でもそれが全てと思わないで。強く在れ、瑞稀。私は…ずっと…貴方を愛している」

 

笑顔を浮かべたまま、彼女は動かなくなった

何が起きたか、理解出来ない

歩み寄り、触れてみた

冷たい。いつも温もりを与えてくれた熱はなく、少しずつ冷たくなっていった

 

奏女様…起きてよ…」

 

揺さぶり、声をかける

返事はない。いつも安らぎを与えてくれた柔らかな声はなく、沈黙だけがあった

抱き締める

少しの温もりが彼女から逃げない様に

しかし、少しずつ理解した

彼女は死んだ

彼女が与えてくれた温もりも、安らぎも、もうない

奴等が殺した

俺から大切な奏女様を奪った

殺してやる

俺の中に眠るナニカが暴れ出した

…ああ、そうか。このナニカがなんなのか分かった

これは俺だ。憎しみに染まった俺自身だ

自分の中で憎悪が際限なく、広がっていく

ナニカが俺に訴える

 

(奴等を殺せ!!あの人を殺した奴等を殺し尽くせ!!さぁ、謳え!!私の怨嗟を!!お前自身の怨嗟を!!)

 

その唄は、憤怒と憎悪に彩られ、瑞稀と瑞稀の中に眠る最悪の厄災の、2人によって謳われる

2人の唄はとてつもない力を伴って奏でられ始めた

 

「「我に宿りし救われぬ白龍よ!

怒りのまま解き放て!!

我が内に眠りし銀光の白龍よ!

再び天へと君臨せよ!!

 

全界を創造せし神々よ!

我を封じた理の神々よ!

汝等に封じられし我が真の力を思い出せ!!

汝等、我が銀幽たる雷にて滅せよ!!」」

 

周囲の木々を薙ぎ倒しながら、無尽蔵の魔力を放出させて、最悪の厄災は目覚める

 

「「愚かなものなり、理の神よ!!!!」」

 


 

「瑞稀様、神界の戦神が攻めて参りました。どうぞ迎撃の御命令を!」

 

「…早かったな。よし!全軍出陣!!我が後に続け!!」

 

「「「「我等が王の御心のままに!!!」」」」

 

瑞稀の後ろにワルキューレ、唯、バロム、刻龍、斬鉄、セシルと続き、その後ろには精鋭4000で構成された魔王軍が、これから始まる神々との戦争に、抑えきれぬ覇気を纏い、行軍を開始する

そんな中で瑞稀の表情は暗かった

 

(…昨日見た夢…いつもより鮮明だった…あれは俺が忘れている過去?だとすると俺の中に眠るのは白龍神王?それに、あの人が俺の師匠?だが、何を学んだ?思い出せない…それに、何故このタイミングに…嫌な予感がする…いや、今は神界との戦争に集中せねば!)

 

気持ちを切り換え、覇気を纏う瑞稀

不安を抱えながら、神々と魔王の因縁の戦いが始まる

 

 

 

 

 




いくつか明らかになった、瑞稀の過去
瑞稀の中に眠るのはかつて世界を破壊し尽くした二覇龍と呼ばれる最悪の厄災
何度か瑞稀の夢に出てきた女性は瑞稀の師匠
でも教わった技術は思い出せず

でも瑞稀に語りかける、瑞稀の中に封じ込められてるっぽいのはあと1人いたような?
それが語られるのはまだ先です



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開戦、神々と魔王

大変お待たせしました!
申し訳ない!



「くそっ!神々の相手なんぞしてられるか!狂嵐の小僧はまだ来んのか!?」

 

「あの小僧が原因で奴等が攻めて来たんだろ!?なんで俺達が戦わなきゃならないんだ!?」

 

「魔王様、戦線もう保てません!!お願いします!前線へ赴きください!!」

 

防衛を任されていた魔王達が神々の進攻を防ぎながら悪態をつく

率いる魔王軍もまた、神界の猛攻を前に戦線が崩れていく

 

「黙れっ!保てないではない!保たせろ!!貴様等が退けば我等が戦わねばならんではないか!!前線へ出ろだと!?死ぬのは貴様等の様な一兵卒だけで良いわ!!我等は撤退する!せめて時間稼ぎくらいはしろ!その為の魔王軍だろうが!!」

 

「そんな…」

 

魔王達が自らの魔王軍を見捨てて逃げようとする様に、魔王軍達は絶望を抱く

 

─しかしその絶望を引き裂く様に、遥か後方から白色を帯びた白銅色の雷が、鈍色雷が幾条も飛来する!!

 

「退くな、魔王ならば戦え。退くなら失せよ、二度と魔王を名乗るな」

 

そこに在りしは本物の魔王

神々に刃を突き付け、世界にとっての悪を成す絶対悪

己の誇りと矜持の為に、神々を滅する事を決めた魔王

狂嵐の魔公子・瑞稀が己が魔王軍を率いて戦場に到着した!

 

「狂嵐!貴様!!遅いぞ!何よりその言い分はなんだ!?魔王になったばかりの新参風情が!偉そうに─」

 

その先は言葉に出来なかった

瑞稀の放つ覇気に当てられ、恐怖のあまり喉が引きつった様に声が出なかったのだ

 

その瞳は深き紅蓮の光を放ち、憤怒の視線が神々を射抜く

両の手に携えるは暗き闇を放つ二刀の神器、闇はまるで神々の絶望を表す様に蠢く

その身からは絶えず、鈍色雷が帯電し放たれ、大気を震わせる

その足下は悉く紅蓮の炎で焼き尽くされ、紅き煉獄と化す

 

付き従しは神々を喰らい尽くす魔狼、銀狼バロム

身の丈を超える巨大な刀を携える赤き鬼、鬼神将斬鉄

漆黒の氷をその身に纏いし黒き龍、氷龍鱗刻龍

禍々しい魔力を放ち微笑みを浮かべる魔王、蹂躙暴殺セシル

神々しいまでの純白を纏う気高き戦乙女、ワルキューレ

物理的な圧力すら感じさせる膨大な魔力を纏う戦姫、唯

 

この場に集うは魔界の最大戦力達

各々抱くは遍く全てを背負い護ると決めた、王の矜持

遥か太古の昔、戦い敗れ、己を蹂躙した神々への復讐

強き者と戦えるという喜び、武人としての歓喜

己が仕える主に絶対の勝利をもたらさんとする忠節

憎き神々を蹂躙し尽くすという悦びに打ち震える狂人の愉悦

愛しき人を護り通すと互いに誓い合った2人の乙女の深き愛

皆一様に謳うは、神々の滅び

率いるは魔界最強と呼ばれし魔王

 

たかが神"ごとき"に退こうとする腰抜けではかの者達が放つ覇気に耐えれるはずもない

 

怯える魔王達を尻目に瑞稀が詠う

己に付き従う全ての者に開戦を告げる!

 

「刃向かう者は等しく砕く!!

しかして我が(アギト)へと下り、永久の血肉と成るがいい!

去る者は追わぬ、己が恐怖を隣人に伝え、共に恐怖で震えて眠るがいい!

我が名は瑞稀!魔王、狂嵐の魔公子・瑞稀と知れ!!

進め!!同胞達よ!!汝等が行く先は我が足跡にあると知れ!!!

進め!!同胞達よ!!我が後に続け!!!!」

 

「「「「我等が王の御心のままに!!!!」」」」

 

魔王軍が先陣を駆け抜ける瑞稀に続き、突撃し、魔法を放ち、各々が思うままに蹂躙を開始する!

 

 



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戦神と魔王 圧倒的な力

現存する軍事力にて、次元最強と人々が口を揃えて言うのは、ほぼ間違いなく神界の戦神だろう

強大な魔力、高い身体能力、強力な神器、絶対神の高い統率力

これらにより戦神は、あらゆる戦況でも、非常に高い殲滅力を誇る

 

「…なんなんだ…あの小僧…本当に俺達と同じ魔王なのか…」

 

─しかし

 

「…いや、魔王じゃない…アレは…ただの化け物だ…」

 

そんな戦神が、今、たかが魔王に押されている!

 

「後方部隊は絶えず魔法を放て!敵を休ませるな!支援部隊は常に前線の者に強化と結界をかけ続けろ!遊撃部隊は一ヵ所に留まるな!常に敵陣を掻き乱し、前線部隊を援護せよ!前線部隊は囲まれぬ様に立ち回れ!常に遊撃部隊との連携を意識せよ!唯、お前は突っ込んでくる連中の足留めだ!自慢の馬鹿力で吹き飛ばせ!決してこちらの陣形を崩させるな!ワルキューレは敵と距離を取りつつ、魔法を中心に攻めよ!出来る限り攻撃範囲を広げ、少しでも敵の数を減らすんだ!セシルは遊撃部隊と共に敵陣を掻き乱せ!隙を突いて少しでも敵戦力を削れ!斬鉄、刻龍は敵陣中央に向け進撃!短期で決着をつけるぞ!皆の者!数では不利だ!!持久戦に持っていかせるな!!一気に殲滅するぞ!バロム!行くぞ!!」

 

「はっ!!駆け抜けます!!」

 

最前線で戦いながら感知能力をフル稼働させ、自軍の状況を把握、指揮を執る瑞稀

一通りの指示を出し終えると瑞稀はバロムに跨がり、魔力を滾らせる

瑞稀を乗せたバロムは一直線に敵陣中央に向け駆け抜ける!

その様は戦場を切り裂く一筋の流星の如く─

駆け抜けた跡にはバロムの突進を受け、吹き飛んだ者。瑞稀の斬擊にて斬り伏せられた者が、残されるのみ

何人たりとて今の2人の進撃を止める事、能わず

決して止まる事なく敵陣を駆け抜けていく!

さしもの戦神でさえ、その姿に恐怖を感じ始めている

 

瑞稀はその隙を見逃さない

 

「怯んだ!全軍畳み掛けろ!!」

 

魔王軍が一気に雪崩れ込み、戦神を駆逐していく!

瑞稀とバロムも敵陣中央までたどり着き、内側から敵を殲滅していく!!

 


「撤退!全軍撤退だ!」

 

戦神達が瑞稀達の猛攻に晒され、勝ち目がないと判断し、撤退していく

 

「追撃します!」

 

「いや…いい。深追いは厳禁だ。下手に反撃を受けて被害を増やす必要もない。取り敢えず最終防衛ラインまで下がり、指示があるまで待機でいい」

 

戦神を追撃しようとするバロム達を止め、後方に下がっていく

防衛ラインには他の魔王達が呆然と立ち尽くしていた

 

「…嘘だろ…あの小僧…戦神相手にここまで一方的な戦運びを…」

 

同じ魔王ですら、瑞稀の戦いに呆気にとられていた

あまりの強さにドン引きしている者すら居る

それもそうである

戦神はほぼ壊滅

それに対して魔王軍は軽傷者はいるが死者は無し

はっきり言って被害0、圧勝もいいところである

にも関わらず瑞稀達の表情は暗い

 

─しかし、冷静に考えればこの結果は当然なのだ

魔界にとって瑞稀達は最大戦力であり、魔王軍も瑞稀に鍛えられ下手な魔王クラスの強さを誇る

対して今回進軍してきた戦神は最下級の者ばかり

いわば雑魚ばかりの烏合だったのだ

神界にとって今回の戦いは瑞稀達の戦力、戦術、戦略を推し量るための捨て石に過ぎない

戦力差は歴然である

 

それを理解しているのは実際に戦った瑞稀達だけだった

これから先の戦いはこれ程容易くはない

 

瑞稀達は1週間程防衛ラインで待機した後、再び戦神が進軍して来ないのを確認して、魔王城に撤退した

その表情は晴れる事はなかった

 





お待たせしたわりに短くて申し訳ない


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集う王、束ねる嵐

いつものことですが時間飛びます
しかも今回は新キャラ多数登場です



神界との開戦から早1年が過ぎた

最初の襲撃こそ最下級ばかりだった戦神も、度重なる襲撃が瑞稀によって悉く撃破され続けた事で、今では本腰を入れはじめている

 

他の世界は戦神が劣勢と言っているが、実際は劣勢を強いられているのは魔界の方だった

度重なる襲撃により市民は地下シェルターに避難

その影響で経済はストップ

瑞稀率いる魔王軍も戦い通しで疲労困憊

しかも戦神は上級神も戦線に出ているとはいえ、最大戦力である絶対神はおろか、最上級戦神すら未だ戦線に出ていない

 

さらに襲撃が繰り返される現状では、天界の時の様に直接瑞稀達が攻め入る事も出来ない

故に──瑞稀はある策を巡らせた

 


 

「瑞稀様、各魔界の魔王達が魔王城に到着したそうです」

 

「分かった、俺も魔王城に向かう。防衛線は任せるぞ」

 

「任せて、襲撃があっても戦線は必ず死守するわ。瑞稀君も御武運を」

 

「私は反対です、バロムさん1人しか護衛を付けずに別魔界の魔王達と会合など」

 

「…私じゃ不満かよ…でも確かに護衛はもう少し連れて欲しいもんだがね」

 

「まあまあ、バロム、刻龍。旦那なら大丈夫だよ、なんたって最強の魔王だからな」

 

「そう言う事だ、心配などせずとも良い。むしろ相手の心配をしてやれ。下らぬ事を宣うなら消し炭にしてやる」

 

そう言って防衛拠点をセシル達に任せ、瑞稀はバロムに乗って魔王城に向かう

瑞稀が巡らせた策とは──別魔界の魔王との共同戦線の構築である

 


 

現在魔王城の会議室には10名の魔王が集っていた

皆、言葉を発する事もなく静かに覇気を漂わせている

まさに一触即発の雰囲気である

それも当然、本来別魔界の魔王達が顔を合わせる時など、互いに殺し合う戦争時のみ

今この瞬間、この場が戦場になってもおかしくない

魔王城警護のメルフェレスの魔王軍は恐怖とストレスで吐きそうである

 

そんな中、筋骨隆々の魔王が口を開く

 

「こうして我等魔王が集められた理由をそろそろ聞きたいのだが?」

 

不死者王・ブラムス

格闘戦を得意とし、その拳はあまねく敵を打ち砕くと言われている

かつて愛する妻を神に奪われ、それが切っ掛けで神々と小競合いを繰り返している

厳つい見た目とは裏腹に愛情深く、思慮深い

臣民にも慕われ、自身も魔界の民を大事に思っている

 

「そうですね。何より人様を呼びつけておきながらこの場に狂嵐がいないのは解せませんね」

 

絶刀瞬刹・火皿

日本刀による抜刀術、居合を得意とし、その速度は相手に死を悟らせず絶命させると言われている

彼女は元は魔王の奴隷として飼われていた人間だったが、魔道に堕ち人間をやめ、先代を殺し自ら魔王となった

別魔界からはひどく恐れられているが、実際は義理堅く、友愛に満ちている

一部では彼女の扱う剣術の流派は、失われた創造神が残した流派とも言われている

 

「そんな事より狂嵐てイイ男って聞いたけど、本当?私はそっちの方が気になるわぁ。イイ男なら食べちゃいたいわねぇ」

 

斬華双影・ルーシア

双剣を主とした遊撃戦を得意とし、隠密能力も高く暗殺術も使用する様は、さながら血化粧を纏った蠱惑の死神と言われている

サキュバスでは珍しく純粋な戦闘能力で魔王にのしあがった程の実力者

言動はサキュバスらしく痴女っぽいが、実は恋愛面に関しては真面目で一途そのものという、サキュバスとはなんぞや?みたいなお方

 

「…あのさハルちゃん、私がここにいるの場違いだと思うんだけど…帰ってもいいと思う?帰っていいよね?ね?」

 

魔導の姫君・真央

広範囲魔法を用いた殲滅を得意とし、本気を出せば都市群を滅ぼす事も可能とさえ言われている若き魔王

実力はあるがまだ若く気が弱い。積極的に戦いに加担するタイプではない

 

「真央、帰っちゃ駄目よ。ぶっちゃけ私だって来たくないのに来たんだから、帰ったら許さないわよ」

 

死眼の姫君・ハル

死眼と言われる最強クラスの魔眼を持ち、視線だけで対象の魔素を停止させ、死に至らしめる力を持つ若き魔王

真央とは逆に気が強く、冷静沈着

真央と同じく積極的に戦いに加担するタイプではない

 

彼女と真央は互いの魔界が近く、同い年というのもあり、幼い時から仲が良く同盟を組んでいる

 

「下らぬ。余は暇ではない、あまり待たせるようなら帰るぞ」

 

赤薔薇の魔王・ロザリンド

魔導銃、双剣、魔法を用いオールラウンドに力を発揮する絶大な戦闘力を誇る魔王

見た目こそ若いがかなりの年月を積み重ねた歴戦の魔王

性格は尊大かつワガママ、でも寂しがり屋、子供である

 

「…見た目通り中身も子供か…貴女も王ならば駄々をこねず、黙って待てばいいだろう…」

 

斬魔瞬閃・マリー

日本刀を用いた斬術を主とした接近戦を得意とし、どんな傷を負おうと倒れないと言われる程の高い生命力を誇る吸血鬼

元は人間の貴族の令嬢だったが吸血鬼に咬まれ、吸血鬼に変じた下級吸血鬼だが、高い戦闘技術を用いて魔王にまでのしあがった

元は人間の貴族の令嬢だけあり、礼儀正しく、所作は気品に溢れている

普段は物腰柔らかで慈悲深いが、ひと度戦場に出れば苛烈を極める

 

「まあまあ、ここは穏便に。狂嵐の魔公子殿は戦線にいるのですから、到着が遅れるのは道理でしょう」

 

音断のレヴ・マデュラ

日本刀を用いた魔法剣を得意とし、その斬撃は音を断ち斬ると言われている

彼女は出自、経歴、魔王になった経緯など、過去の殆どが謎に包まれており、突然現れ、実力の高さと美しい白銀の長髪と抜群のスタイルも相まって瞬く間にその名が広まった

 

「兄さんも一緒との事なのでもうすぐ到着すると思いますがね。あと瑞稀様の前ではあまりふざけない方がいいですよ、キレるとかなり怖いですから」

 

白き神喰狼・アルディルア

フェンリルとしての高い身体能力と、膨大な魔力から繰り出される強力な魔法を用いた殲滅戦を得意としている

バロムの義理の妹にして妻でもある

彼女が治める魔界は、メルフェレスが治める魔界と昔から友好条約を結んでいる

ちなみにバロムは戦争が始まる前は、毎日アルディルア魔界に帰っていた

夫婦仲は悪くない

しかし、魔界ではよく知られているが、バロムはかなりの女好きで、性欲旺盛、浮気は日常茶飯事である

それでも夫婦仲は悪くない、少なくとも表面上は悪くない

 

「ふははははは!!一体なんの用があってぇ、我等魔王を呼びつけたのかはぁ、知らぬがぁ、我輩を待たせるとは。狂嵐めぇ、死にたい~らしいなぁ!!まぁ寛大で偉大な我輩はその程度の些事を許すだけの度量も持ち合わせているがな

 

魔帝・ロイヤルキングダーク3世

祖父の頃から魔王として別魔界を統べる所謂七光り

途轍もなく偉そうにしているがぶっちゃけかなり弱い、間違いなく並みいる魔王の中では最下層と言っていい位には弱い

最初は偉そうに喋っていたにも関わらず、後半はガチビビりしながら小声でガタガタ震えている

プライドは高いが誇りはない故に、

魔王としての体裁などないに等しい

代わりに金はあるので財力にものをいわせた、最高品質の武器、防具を装備しているので魔王としての体裁はギリギリ保たれている

いや保たれてなかった、他の魔王は心の中で嘆いた

(狂嵐、なんでコイツも呼んだん?何するにしても邪魔にしかならんやん)

魔帝、ナメられまくりである

 

以上の9名+1名が瑞稀の召集に応えた魔王達である

 

「おい、瞬閃、誰が子供じゃ。喧嘩を売っておるなら、買ってやるぞ。むしろ今すぐ剣を抜け。余が実力の差というやつを教えてやろう!!」

 

「別に喧嘩を売っているわけではない。王ならば少しは落ち着きを持つべきだと、言ったのだ、殺り合うつもりはない。だが貴女がその気なら相手をしよう」

 

赤薔薇と瞬閃が臨戦態勢を取り始める

他の魔王は溜息を吐いて口々に外でやれだの、我関せずとだんまりを決め込んだりと収拾に回っているのは白狼と音断だけである

どれだけ人格者であろうと、流石に魔王だけあって皆我が強く、周りに合わせる事などあまりない

 

「魔帝、貴方普段から我々魔王相手でも偉そうにして役に立たないんだから、こんな時くらいあの2人の喧嘩を止めて役に立ちなさい」

 

絶刀が魔帝に皮肉をたっぷり込めて話を振る

魔帝、顔面蒼白である

しかしそこは腐っても魔王

気合いで震えながら止めに入る

 

や、止めるのだ、2人とも。こ、ここで殺り合えばきょ、狂嵐や銀狼達、この魔界の魔王達が黙っていないぞ。そんなに殺り合いたいならば後日ゆっくり2人だけでやりたまえ

 

震えてるし、目線は泳いでるし、しかも言ってる事は完全に他力本願である

魔帝にプライドなんて無かった

しかもそれは完全に火に油を注ぐ事になってしまった

 

「「黙れ!!三下!!!」」

 

ひぃぃぃぃぃ!!

 

赤薔薇、瞬閃、マジギレである

余計な事しかしない、それが魔帝クオリティ

 

「他の魔王が黙っとらんじゃと?望む所じゃ!!なんならこの場の魔王を皆殺しにして余が最強であると証明してやる!!」

 

赤薔薇のこの言葉でこの場の魔王全員が席を立ち、殺気立ち始めた瞬間──

 

「─面白い、では試そうか」

 

全員の体に絡み付き拘束する様に、漆黒の刃、影の太刀が全方位から出現し、いつでも殺せると言わんばかりに何千もの魔法陣が室内を埋め尽くす!!

 

「なんじゃ、これは!?」

 

「体が動かない…」

 

「私の膂力でも砕けぬだと!?」

 

「あらあら?そういうプレイ?」

 

「…この異常な数の魔法陣、噂通りですね…」

 

「ハルちゃ~ん!助けて~!!」

 

「無茶言わないで、真央!私だって動けないのよ!」

 

「何で私まで!?理不尽です!?」

 

「そんな馬鹿な、この刃は!?」

 

「ひぃぃぃぃぃ!!我輩は悪くないぞ~!!」

 

全員が動きを止められ、自らの力で振りほどけない事に驚きを隠せずいる中、会議室に1人の魔王が傍らに巨大な白銀の狼を引き連れ入室する

 

その者、狂嵐の魔公子・瑞稀

1年に及ぶ神々の襲撃を悉く退けている、間違いなく現在最強の魔王に最も近い男

紅蓮に燃ゆる煉獄の炎と鈍色に煌めく破壊の雷という、最強の破壊力を用いた魔法は、正に災厄そのものの具現の如し

黒塗りの二刀を携え、神々を斬り刻む姿は、さながら死神の如し

高らかに謳うは絶対的な神殺しによる魔界の勝利

狙うは絶対神・天乃の首、それ以外などただの有象無象

彼の者を屠り魔界に勝利をもたらすまで、この魔王は止まらない

 

傍らに控えるは、かつてメルフェレス率いる魔王の中で最強と謳われた生ける伝説

銀狼・バロム

蒼穹に輝く風を操り、戦場を駆け抜ける姿は白銀の流星の如し

彼が放つ魔法は戦場を切り裂く嵐の如し

バロムはかつて、神々との戦争で数々の武勲を立てるも、今代の絶対神・天乃に敗北、惨めに生き永らえ敗走するという、魔王として最大級の屈辱を受ける

故に今回こそは彼の者を屠り、かつての屈辱を払拭する

今までにない程の気迫を纏い、魔王の座を堕とされながら、その姿は正に伝説の魔王そのもの

 

「さて、赤薔薇殿、瞬閃殿、少しは落ち着いてくれたかな?他の魔王方も呼びつけておいて遅れた事、申し訳なく思う。なにより同じ魔王として敵対してもおかしくない俺の招集に応え、こうして集まってくれた事、心から礼を言う」

 

「…むう…もう良い、余が悪かった。この拘束を解け、これでは落ち着いて話も出来んではないか」

 

「そうだな…私も非礼を詫びよう、すまなかった」

 

赤薔薇、瞬閃両名の謝罪を受け、影の太刀と魔法陣が消失する

 

「さて、聞かせてもらおうか、我等魔王をこうして呼び集めた理由を」

 

「単刀直入に言うと共同戦線、同盟を組みたい。知っての通り今我が魔界は神界と戦争中なのだが、使い物になる魔王が少なすぎてな、守りはいいが攻めあぐねている。そこで貴公等と同盟を組み、戦力を増強させ、こちらから神界に討って出たいと考えている」

 

「なるほど!つまり我輩に力を貸してください!お願いします!と言う事だな!?」

 

魔帝、大興奮である

ちなみに他の魔王は魔帝と瑞稀に呆れている

 

「…いや、お前は呼んでないんだが。なんでいるの?バロム、お前が呼んだのか?」

 

「いえ呼んでません。こんな雑魚呼びませんよ。役に立たんでしょ」

 

魔帝、実は呼ばれてないのに来た

 

「この馬鹿はどうでもいいとしてだ。狂嵐、それは絶対神の首を我々に譲ると、神殺しの栄光を我々に譲るという事か?それとも奴を討ち取った我々を、貴様が討つという事か?」

 

「不死者王ブラムス、歯に衣を着せぬ物言いだな。まあいい、はっきり言って貴公等の首に興味はない。絶対神の首を譲るつもりもない。敢えて言うなら奴の首を取る機会を貴公等にも与えると、そう解釈してくれて構わない」

 

「与える、ですか。随分と余裕ですね?」

 

「絶刀瞬切の火皿、そりゃ余裕だよ。絶対神に負けるつもりも無ければ、貴公等に遅れを取るつもりも無い」

 

瑞稀の物言いに魔帝を除く魔王達が殺気立つ

魔王達は瑞稀が自分達を見下していると判断した

しかし、先程の事もあり、誰も動けない

先程のはあくまで牽制だったが、仮に瑞稀が殺すつもりだったなら、不意打ちというのもあり、確実にこの場の魔王全員を殺せた

魔帝を除く魔王達はそれを理解していた

 

「だがあくまで俺が望むのは同盟だ。故に従えとは言わない、協力して欲しい。ああは言ったが貴公等が絶対神の首を取ろうが構わない、俺が望むのは奴の死であり魔界の勝利だ。俺の勝利や栄光などいらない、魔界が勝ち、民と愛する者達が無事ならそれでいい。そのためにも今より強大な戦力がいる。だからどうか、協力して欲しい。望むのであればこの戦争の後、俺を貴公等の部下にしてくれてもいい!首を寄越せと言うのなら差し出そう!だからどうか!どうか絶対神を殺すために、貴公等の力を貸して頂きたい!!」

 

瑞稀が土下座をしながら魔王達に懇願する

バロムもまた瑞稀に倣い、頭を下げる

瑞稀もバロムも魔王としてのプライドは誰より高い

瑞稀は魔界の王としての自身を誇りに思っている

だがそんな誇りをかなぐり捨ててでも魔界に勝利をもたらしたい

 

全ては魔界のため

 

「…貴様の覚悟は理解した。だが貴様も私も魔王だ。言葉だけでは足りない、力を示してもらおう。何よりも魔王ならば協力してくれなどと、軟弱にも程がある。魔王ならば力で従わせろ。その覚悟に免じ、力を示したのなら狂嵐、いや瑞稀よ、この不死者王ブラムス、お前に従おう」

 

先程までの殺気や疑心を捨て、不死者王が瑞稀を見据える

その眼は本気の闘気に満ちていた

 

「不死者王、貴方だけ良いトコ取りはダメよ?私だってこんなイイ男が頼んでるんだもの、力を貸すわ。まあでも一応私も魔王だからねぇ?力は示してもらいましょう。貴方が私に勝ったら私は貴方に従うし、なんなら女として貴方の傍に居たいわねぇ♥️ちょうど嫁の貰い手もいなかったし…

 

斬華双影が舌舐りをしながら、乙女の顔をしながら、闘気を纏い始める

いくら魔族が不老に等しい寿命を持っていようと、いくら魔族が魔力の活性化で見た目をどれだけ若く保てようと、いい加減結婚したいのだ

 

「双影…悲しくなるので止めてください…嫁の貰い手がいないのは貴女だけではないんですよ…この場の女性は白狼を除けば…全員いないんですよ…」

 

絶刀瞬刹が悲しみに暮れながら自棄っぱちで魔力を纏う

小声で私だって…私だってなぁ…!結婚したいんだよ…!と呟きながら

 

「…ハルちゃん…結婚…したいよね…結婚…出来るかな…」

 

「…無理ね…真央も…私も…!この際、狂嵐にまとめて面倒見てもらいましょう…それしかない…これを逃せば…一生独身…!」

 

魔姫と死眼がよく分からない強迫観念に押され魔力を纏う

その眼はヤバイくらい血走っていた

 

「余も!余も交ぜろ!!良い!許す!!狂嵐よ、余を娶る事を許す!!」

 

赤薔薇もなんかよく分からんないテンションになって便乗する

ぶっちゃけ仲間外れは寂しいのだ

 

「…これ、私も…負けたら嫁ぐパターンか?」

 

「「「「「うん」」」」」

 

「……そうですか…まぁ…どうせ、吸血鬼の身だ。貰い手などいないから、良いのだが…」

 

瞬閃はなんか周りの勢いに負けて了承しちゃった

だが自分より弱い男に嫁ぐ気など無いと言わんばかりにやる気を出す

 

「私はもう同盟組んでるし、1抜けでお願いします。ぶっちゃけ瑞稀様とやり合いたくねえ、マジで命がいくつ有っても足りねえよ。て事で帰ります!」

 

白狼はさっさと自分は関係ないと主張しながら、瑞稀の実力を知っているので自分の魔界に帰還、避難する

バロムはさもありなんと言わんばかりである

 

「我輩はなぁ、勝ち目の無い戦いはしないからなぁ。絶対神と戦って勝てると思えんしなぁ。協力は出来な─」

 

「いやだからお前はお呼びじゃねえんだよ。てかまだ居たのか?帰っていいよ、何しに来たの?」

 

「うわぁぁぁぁぁん!!!ママ~~~~~!!!」

 

断ろうとしている魔帝に瑞稀が止めを刺した

魔王とは思えないこの上なく情けない泣き方をしながら走り去る魔帝

威厳、体裁、プライド、その他諸々なんて彼には無かった

 

そんな中、沈黙を貫く魔王がいた

 

「………」

 

音断である

彼女は瑞稀の携えた二刀の神器をじっと凝視していた

 

(えっ?さっきの魔法って影の太刀?なんで?どうして?有り得ない、だってあれはあの方の固有能力のはず。昔あのクソ髭が訳知り顔で語ってたし、間違いないはず。て事はあの方の系譜?いやそれも有り得ない、じゃあ本人?えっ?だってあの方は既にその身を砕いてしまったはずじゃ?でも本人じゃなきゃあれは何って話になるし、じゃああの魔法が影の太刀に似た何か?いやそれも有り得ない、あの強度、何より闇を操り隷属させて形作ってた。間違いなく影の太刀の特徴だわ。ていうかいつの間にか狂嵐とやり合う話になってる?!しかも負ければ結婚?!ヤバイヤバイヤバイ!だってこの魔界にはあの髭がいるし、会いたくないし、何よりバレる!私のせっかくの魔王ライフが!でももしもあれがあの方本人だったら勝ち目なんてあるわけないし…でもでも!同盟拒否ったら自分の魔界に無事帰れる保証もないし…よし!決めた!)

 

この思考過程、約1秒のスピード思考である

表に出していないが今彼女は確実にテンパっている

 

「私は戦いませんよ。相手の実力くらい見れば分かります。狂嵐、貴方は私が力を貸すに値する者でしょう。神界との!戦争中に!か!ぎ!り!力を貸しましょう。では私はこれで。詳しい話は後日使者を送りますのでその者に」

 

滅茶苦茶強調して同盟了承して滅茶苦茶急いで帰っていた

内心冷や汗ダラダラである

 

「音断はなんだったんだ…急に帰りやがった…」

 

これには瑞稀も呆気に取られていた

 

「それよりも始めようか、お前が勝てば同盟なぞ安い事は言わん。我等の魔界はこの魔界と合併してお前の部下になろう。さあ!下して見せろ!!」

 

魔王達がもう待ち切れないと言わんばかりに闘気を放つ

これには瑞稀も本気の魔力を纏い始め、やる気満々である

 

「ああ、始めよう。その言葉、忘れるな。必ず下して見せよう」

 

「「「「「「「望むところだ!!」」」」」」」

 

こうして前代未聞の魔王同士の戦いが始まった

 

ちなみに後日メルフェレス魔界に7つの魔界とアルディルア魔界の計8つが合併し、瑞稀率いる魔王軍は数を百倍の30万にまで総数を増やし、戦力を一気に増大させた

 

そして瑞稀は自らの魔王軍の中でも強大な力を持つ元魔王達とワルキューレと唯を師誓将と呼称を決め、将軍として新たな魔王軍から精鋭を集め再編成

1人頭1万、総数13万の魔王軍を再編成

この戦力をもって神界を制圧、絶対神討伐に乗り出す

 

 




魔王大集合!
魔王達の戦闘シーンは割愛させていただきました
申し訳ない
いつか番外編とかでやれればいいなと思っています


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闇照らす炎、光喰らう闇

今回瑞稀はシリアスやったり、馬鹿やったり、ブチギレたり、忙しい…



魔界合併から2ヶ月余り、瑞稀率いる魔王軍は、度重なる戦神の侵攻を悉く退け、防衛線を押し上げ、その勢いは止まる事を知らず、まさに破竹の勢いである

都市防衛に戦力を割かざる得なかった瑞稀達は、今や神界への転移門を守る戦神の前哨基地の目前まで迫っていた

 

「瑞稀様、斥候の報告では現在、奴等は基地にかなりの戦力を集結させている様です。数は約50万、指揮官として最上級戦神多数、構成部隊員も上級戦神ばかりです」

 

「そうか、奴等是が非でも神界に我等を行かせぬつもりだな。バロム、師誓将に通達、明日の明朝、攻め込む。転移門を確保、そのままの勢いで神界に攻め入る。各部隊万全の態勢で挑め。明日が勝負所だ」

 

「かしこまりました。ではすぐに野営の準備を行います」

 

バロムが去った後、瑞稀は転移門を睨む

 

「…待ち侘びたぞ…やっとだ…やっと絶対神、貴様を殺す事が出来る…ああ…どれほど焦がれた事か…全身の魔素が疼く…昂り過ぎて魔力が抑えられない…」

 

瑞稀の呟きに呼応する様に、瑞稀から魔力が溢れ出す

言い知れぬ高揚感と、抑え切れない怒りを覚えると同時に、胸を締め付ける様な焦燥感が募っていく

 

瑞稀自身、自らの感情が理解出来ないでいる

何故これほどまでに怒りを感じている?

何故これほどまでに昂る?

何故これほどまでに焦りを感じている?

自身の心が分からない

狂おしいほどに絶対神を殺したい

王としての在り方だとか、矜持だとか、誇りだとか、何もかもどうでもいい

理性だとか、知性だとか、そんなもの全て捨て去りたいほどに、狂おしい殺意が沸いてくる

絶対神を前にしたら、この狂おしいほどに沸き上がる殺戮衝動を抑え切れないかもしれない

それほどの感情を抱きながら理由が分からない

何が自分にこれほどの激情を抱かせるのか

その瞳は瑞稀の溢れ出た魔力に呼応し、透き通る真紅に輝き、瞳孔が金色がかった輝きを放ち、肉食獣の様に細長く変化していた

 

決戦を前に、瑞稀は自分の心を理解出来ず、戸惑いを隠せずにいる

 


 

「天乃様、只今魔界の実働部隊から報告が上がってきました。狂嵐の魔公子共が転移門の防衛拠点まで辿り着いたそうです」

 

きらびやかな白銀の神殿、その頂きに艶やかな黒髪の美男が瞳を閉じて、玉座に座っていた

その男からは眩い光が発せられていた

傍らには真っ白な鞘に納められた日本刀、全体に魔法式が描かれた赤い槍

 

「ほう、思っていたより早いな。2ヶ月程前に配下に加えた師誓将とやらの影響か…」

 

絶対神・天乃

かつて最盛期のバロムすら退けた最強の神

開かれた瞳は右目は血の様な赤い色を宿し、左目は淡い金色の光を宿していた

 

この世界において赤い瞳は力の象徴とされ、赤い色が濃く透き通っているほど、神格が高いとされ、黄金色の瞳は創造神の系譜に連なる者の証とされ、神瞳と呼称される

特に右目に神瞳を持つ者は、理の神と呼ばれ、世界を司る魔素を支配する力を持つと言われている

 

絶対神の様に左目に神瞳を持つ者は、純血の神にまれに生まれ、あまねく全ての魔素を見通し、あらゆる罪を見抜き裁くとされる

 

「天乃様、如何致しましょう?あちらの数は20万にも満たず、こちらの半数以下と言えど、師誓将と呼称される者達は一騎当千の強者揃い。万が一突破される可能性はあります。何よりも魔王、狂嵐の魔公子は紅蓮の炎と鈍色雷を自在に操り、未知の能力を持つ神器を使用し、影の太刀と呼称される、神器の能力と思われる魔法を使用するとの事です。非常に危険だと愚考致します。更なる戦力の投入を行うべきかと」

 

「ふむ、未知の神器か。確か人界の役立たず共の報告ではアルジュナ、ネピリムと、狂嵐が呼称していたとか。それに影の太刀か、聞いた事もないな。三流の神器か、もしくは今まで封印宮すら発見されなかった危険な神器か。まあ良い。どちらにせよ、数を増やした所で此方の被害が増えるだけだ。我が親衛隊ロイヤルガードの出撃準備を進めよ。私が出る」

 


 

「瑞稀様、どう攻めますか?正面から行くのは危険かと。包囲するにしてもこちらの数では難しいですね」

 

バロムが険しい顔で瑞稀に問う

日が上りはじめ、いざ攻めようにも数の違いがありすぎる故に、瑞稀達は攻めあぐねていた

 

「ふむ、任せよ。俺に考えがある」

 

そう言う瑞稀の目の下には隈が出来ていた

一晩中作戦を考えていたので寝ていないのである

徹夜明けの瑞稀は自信満々に笑いながら、どこから出してきたのか、帽子を目深く被り、段ボールを持ちながら1人敵基地の正面に回り、馬鹿でかい声でこう言った

 

「ちわー!宅配便でーす!判子お願いしゃーす!」

 

宅配業者に変装して潜入、内側から一気に潰せば良い!!

俺ってば冴えてる!

これが瑞稀の作戦だった

ぶっちゃけナチュラルハイである

冷静な判断など出来ていない

 

「なんだ!?宅配便だと!?そんなわけあるか!なんで魔界から宅配が送られるんだよ!っ!!よく見たら貴様は狂嵐の魔公子!?敵襲だ!!全員迎撃開始!!」

 

即バレた

当たり前である

魔王軍がすぐに合流し、結界で戦神の攻撃を防ぐ中、皆瑞稀に呆れ果てていた

正確には師誓将は呆れ、魔王軍は徹夜明けの瑞稀を憐れんでいた

魔王軍は皆、寝てないからおかしくなっただの、一時撤退して瑞稀様に睡眠を取らせろだの、戦神の奴等はノリが悪いだの、好き放題である

 

「…瑞稀様…貴方はアホですか…」

 

「おいバロムお前、失礼な奴だな…でも今回は強く言えんな…すまん…マジすまん…詫びは奴等の首で頼むわ…」

 

謝りながらも瑞稀は片手で数百もの魔法を瞬時に行使し、戦神を蹴散らしていく!

今や魔法技術で瑞稀に敵う相手は、全ての世界を含めて、多く見積もっても5人いるかいないかである

その技術は凄まじく、攻撃魔法、補助魔法、召喚魔法、強化魔法、妨害魔法、回復魔法、結界などあらゆる魔法を扱い、属性魔法も雷、炎、水、氷を中心に、土気以外の全ての属性を扱えるという万能性を誇る上に、保有魔力総量は無尽蔵に等しいとさえ言われている

特に攻撃魔法と、幻影魔法と呼ばれる人や物質を複製する魔法においては、他の追随を許さない

その代わり結界との相性が悪く、強度が通常の半分程度しか出力が上がらない

根っからの脳筋なのだ

 

「…少しでも早く終わらせて…!休ませましょう…!」

 

「そうだね…みーちゃんはさ…働き過ぎなんだよ…休めよ、マジでさ…」

 

ワルキューレと唯は涙を堪えて呟きながら前線に躍り出て、戦神を蹴散らしていく

 

「この戦が終わったら瑞稀に休暇を与えるべきだな…」

 

「そうですね…彼が大人しく休んでくれるかが問題ですが…まあ無理矢理にでも休ませましょう…」

 

ブラムスと火皿は最前線で、最早自棄っぱちとばかりに高笑いをしながら、とうとう数千単位で魔法を同時に行使する瑞稀を見て、休ませなければヤバい、と危機感を募らせる

 

「ていうか瑞稀さんヤバくない!?どんだけの数の魔法をいっぺんに発動してんのよ!?」

 

「…瑞稀さんだからね…ハルちゃん、ツッコんだらキリがないよ…」

 

「あら、突っ込むだなんて真央ちゃんたら、戦場のど真ん中でヤラしいわね。そういうのはサキュバスである私の役目よ!取らないで!それとね、ダーさんは私達の共有なんだから!1人占めは許さないからね!それに、私達はどちらかと言うとダーさんに突っ込まれる側よ!」

 

「下ネタに持ってかないでもらえますか!?」

 

ハルや真央は瑞稀の魔法の同時制御数に驚きと呆れを浮かべ、ルーシアはいたっていつも通り

 

 

「…のう、マリー…ここって戦場であるな?余が言うのもなんだが…緊張感無さすぎんか?」

 

「ロザリンド、今更だな。我々師誓将に緊張感など無いさ。この2ヶ月いつもの事だろ」

 

「確かに!おぬしと余も含めて緊張感など無いな!」

 

マリーとロザリンドは周りの緊張感の無さに嘆くが、自分達にも無かったと開き直る

そもそも王からして緊張感など無い

 

「…アルディルアさん…」

 

「…なんですか…レヴさん…」

 

「…私は単なる同盟で、この戦争が終わったらさようならなのでいいんですが、貴女はアレらと同僚なんですもんね…心底同情しますよ…大変ですね…」

 

「分かってくれますか…!大変なんですよ!皆さん危機感が無さすぎて…!危機感が無いから緊張感も無いんですよ…!そもそも瑞稀様からしてアレですもん…嫌になりますよ…」

 

アルディルアは魔王の中では比較、常識的故に周りのノリについていく事に苦労していた

レヴ・マデュラも常識枠として同盟を組んで2ヶ月余り、酷く苦労していた

 

そして彼女は何故か変装していた

長く腰まであった金糸の様な髪は、肩まで短くなり黒髪に、顔も見られない様に仮面を着けていた

スラッとした長い脚も、豊かな胸も今では、少女の様に小さくなっていた

 

「…セシル様…これ…俺らいります?」

 

「…私を含めて…いらないわね…」

 

瑞稀と同じ魔王であるセシルすら置いてきぼりにされ、その魔王軍も瑞稀の力に畏怖しながらも、自棄を起こしている瑞稀に同情を禁じ得ないでいた

 

「ほれほれどうした戦神共!こちらの倍以上の数がいながら、この程度で手も足も出ないか!?自らを神だとほざくなら、凌いで見せよ!俺もようやく目が醒めてきたのでな!ここからが、本番ぞ!」

 

戦っている間に目が醒めた瑞稀はとうとう数万単位で魔法を行使し始める!

それでも尚、衰えぬ魔力は、確かに最強の魔王に相応しい

発動された魔法も数の凄まじさは言うに及ばず

何よりも恐ろしいのは1つ1つの魔法の質だ

数万の魔法、その全てが上級以上の魔法なのだ

その威力は凄まじく、2つ名通り、まるで荒れ狂う嵐の様

 

瑞稀と言う嵐の前に、さしもの戦神も為す術もなく蹂躙されていく中、遂に神界への転移門が見えてくる

 

「見えたぞ!転移門だ!このまま一気に雪崩れ込め!!瑞稀様の道を切り開け!」

 

バロムを先頭に師誓将と魔王軍が一気に転移門へ向かう

 

「っ!!バロム!止まれっ!!」

 

「っ!?」

 

瑞稀がバロム達を静止させると同時に、紅い火柱が転移門から燃え上がっていく!

 

「…大人しく焼かれていればよかったものを…」

 

「絶対神天乃!!」

 

転移門から瑞稀と同じ紅蓮の炎を纏いながら、絶対神・天乃が自らの親衛隊、ロイヤルガードを率いてとうとう戦線に現れた!

 

瑞稀と天乃の視線が交わり、お互いの存在を認識した瞬間、瑞稀は激しい頭痛に襲われ、天乃は眼を見開き驚愕した

 

「っ!?」

 

「貴様…まさか、あの時の…そうか、そうだったのか…なるほど奴が相手では、最上級戦神でも相手にならぬわけだ。なんせ奴はかの討伐神・琥牙奏女太刀乃神  の唯一の弟子だからな。まあ本人は記憶の封印を施され、覚えていない様だがな」

 

激しい頭痛に襲われたが故か、はたまた別の理由か、瑞稀には天乃の声が届かない

代わりに血が沸騰しそうな程の激情が吹き出し、全身から鈍色雷が放電し始める!

 

「天乃様、あの雷はまさか…」

 

「間違いない、鈍色雷だ。なかなかの出力だな、少しは楽しめそうだ」

 

絶対神も全身から紅蓮の炎を溢れさせる

その出力は瑞稀の雷に勝るとも劣らない

 

「天乃おぉ!!!」

 

瑞稀は全身を焼き尽くす様な熱に駆られ、膨大な魔力を撒き散らす!

 

「…来るか、忌まわしきあの女の残り火。今度こそ吹き消してやろう」

 

絶対神もまた、刀と槍を構える

 

「アルジュナ!ネピリム!やるぞ!!」

 

「「イエス!マスター!!この身は御身のために!我等の全てを御身にお捧げします!!」」

 

アルジュナとネピリムの言葉を聞き、瑞稀がありったけの魔力を叩き込む!

瑞稀の魔力に耐え切れず、アルジュナとネピリムの刀身が砕け、周囲一帯を覆い尽くす程の闇が溢れ出す!

 

「馬鹿な、この魔力は!?」

 

「おいバロム!この魔力まさか!?」

 

「…驚きましたね…」

 

バロム、斬鉄、刻龍が溢れ出した闇に覚えがあるのか、驚愕をあらわにする中、ロイヤルガードが馬鹿を見る様な視線を瑞稀に向けながら吐き捨てる

 

「狂嵐め、なんのつもりだ?自ら神器を破壊するとは。それにこの闇はなんだ?セイクリッドブレイクの影響か?」

 

セイクリッドブレイクとは、神器を破壊する事で、神器が内包する魔力を爆発させる事

その威力は凄まじく、弱いものですら最上級魔法に匹敵する

強力な反面リスクが大きく、破壊された神器は一部を除く修復不可能となり、永久に失われる

 

(いや、違う。これはセイクリッドブレイクじゃない。魔力こそ発したが爆発が起こっていない。何よりも神器から放たれた魔素が霧散せず集束し始めている。面白い、これは予想以上に楽しめそうだ)

 

ロイヤルガードが嘲笑をあげる中、絶対神だけは冷静に出方を伺っていた

絶対神は左目の神瞳によって闇を構成する魔素が急速に集束していっているのが視えていた

やがて闇は晴れ、闇を構成していた魔素は1本の日本刀になっていた

その刀は全体が闇夜の如き黒で統一され、鍔の無い直刀

膨大な魔力を撒き散らし、禍々しく闇を溢れ出させる

 

「これよりこの身は貴方のモノ。全ての闇は貴方の刃であり盾と成る。我が主よ、私の全てをお望みのままに御使い下さい」

 

響き渡るのは艶やかな女性の声

透き通る様に美しく、それでいて慈しみを感じさせる声

刀身から漏れ出る闇とは裏腹に、神々しさすら感じる

 

「今こそ偽りの身と名を捨て、我が真名を告げよう」

 

この場の誰もが注目する中、アルジュナとネピリムが1つとなった神器は、その名を高らかに告げる

 

「我が名は夜宵。始源の神器が一振り、夜宵時雨。あまねく全てを宵闇に沈め、あまねく厄より主を護る者」

 

瑞稀がずっと追い求めていた神器、夜宵時雨

神話だけでしか存在を確認出来ず、本来は存在しない創作物と言われていた神器

実際は母たる創造神が世界から去り、世界に希望を見出せず、自らを砕き、封印宮にて眠りに就いていたが、封印宮を満たしていた夜宵の魔素が、長い月日で再構築をはじめ、アルジュナとネピリムの2本に別たれ再生した

そして別たれた2本を瑞稀の魔力で再び砕き、再結合し、瑞稀の魔素と同調させる事で、夜宵時雨へと元に戻したのだ

 

「復活早々で悪いが…はじめよう、夜宵。行けるか?」

 

「イエス、マスター。魔素核同調率、魔力共鳴率、マスターからの魔力供給、私からマスターへの魔力還元、全て問題ありません。全ての敵を我が闇に沈めてご覧に入れましょう。マスターはなにも憂う事無く存分に威を御奮い下さい」

 

「では行こうか!!」

 

瑞稀と夜宵から膨大な魔力が放出される!

 

「「神格覚醒(ディバインブレイク)!!!」」

 

闇が瑞稀を護る様に覆い尽くす!

 

「「禍衣(まがごろも)・夜宵」」

 

夜宵は刃から姿を変えて、瑞稀を護る衣となる!

瑞稀が纏う夜宵はその名に相応しく、禍々しい闇を漂わし、周囲に無数の影の太刀を生成する

 

「では私も使いましょう。天空剣さん、はじめましょう」

 

「やっと儂の出番か!待ち侘びたぞ!ワルキューレよ、しかと儂を使いこなして見せよ!行くぞ!!」

 

「「神格覚醒(ディバインブレイク)!!」」

 

天空剣は瑞稀と契約破棄した後、ワルキューレと契約したのだ

ワルキューレと天空剣の相性は非常に良く、出力は瑞稀と契約していた時を凌駕する

 

「「天空剣・白無垢桜」」

 

純白の花弁の様な魔力を放ちながら佇むワルキューレは、宛ら花嫁の様に美しく、戦場の只中にも関わらず、皆がその姿に見惚れ、息を呑む

 

「夜宵、久方ぶりの戦じゃ、戦い方を忘れとらんか?大丈夫かの?」

 

天空剣が夜宵をからかう

夜宵はうざったそうに溜め息を吐く

 

「…髭、黙れ。喋るな。我が影の太刀で蜂の巣にしてやるぞ。それが嫌ならワルキューレ様の為に黙って力を奮え」

 

「…はい…」

 

先ほどまでの優美な声はどこへやら、辛辣な毒舌を炸裂させる夜宵

天空剣はしょんぼり、意気消沈

天空剣は夜宵に嫌われているのだ

 

「無駄口は後にしよう。あちらさんもやる気のようだ」

 

「かの伝説の夜宵時雨、まさか実在しようとはな。しかも始まりの2振りと、こうして共に相見えるか、流石に荘厳だな。殺るぞ、ロンギヌス、羽々斬」

 

そう言うと絶対神も膨大な魔力を放出し始める

 

「「「二重神格覚醒(ダブルブレイク)」」」

 

「馬鹿な、神器の二重契約!?」

 

バロムが絶対神が口にした呪文を聞き、驚愕をあらわにする

 

通常、神器との契約は、担ぎ手1人で神器1つが限度

理由は神器との契約方法

神器との契約の際、互いの魂を半分ずつ交換すると言われる

だが正確には互いに半分ずつではなく、神器は自身の魂を半分、担ぎ手に関しては神器から与えられるのと同質量

当然神器と担ぎ手の魂が完全に同じ質量なわけがない

そして魂とは、正確には生物が存在する為、自身の魔素を生み出す魔素核と呼ばれるもの

この魔素核の質量が大きければ大きいほど、潜在魔素や保有魔力量が多くなる

そして神器は膨大な魔素が宿った武具

その性質上魔素核の質量が大きい者が多い

対して人の魔素核は一部を除いて、それほど質量を持たない

結果神器との二重契約は非常にまれである

強大な力を持つ神器なら尚更だ

 

「「「天乃羽々斬・魂殺槍(あめのはばぎり・たまごろしのやり)」」」

 

2mはあろう長刀とそれを超える長槍を携え、絶対神が紅き炎を纏う

2つの神器と絶対神から放たれる魔力は、瑞稀すら凌駕していた

 

「いくら始まりの2振りの担ぎ手が居ようと、私には勝てん。魔王風情が、身の程を弁えよ。貴様等の魔力や魔素なぞ、私から言わせれば有象無象と大差無い」

 

「儂等を前に有象無象とはな…大きく出たな、小僧」

 

「左目の神瞳で私達の魔素を視た様だが…所詮は童の1人遊戯。身の程を弁えるのはお前だ、井の中の蛙。魔力や魔素だけで優劣を付けるなど、素人め」

 

絶対神の言葉に天空剣と夜宵が反論する

魔力や魔素だけでは戦闘力は測れない

まして、それが伝説の始源の神器ならなおのこと

 

「神器の二重契約には驚かされたが、その程度の力では自慢する事でもあるまい。2対1といえど、悪く思うな。確実に…殺してやる…!」

 

瑞稀の殺気が一気に膨れ上がり、溢れ出す!

天界との戦争から待ち焦がれた絶対神殺し

焦がれ焦がれた激情に駆られ、今、瑞稀が絶対神目掛け、駆け出す!!

 




アルジュナとネピリム、実は夜宵時雨だった!
そしてまた色々出てきた…
面倒で申し訳ない…



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神々の黄昏、至りし覇王

今回やっと瑞稀が過去を思い出します
それに伴い瑞稀の秘められた力が一部解き放たれます


神界最大戦力ロイヤルガードと戦いながら、バロムは焦燥感を募らせていた

 

(まずい、いくら瑞稀様とワルキューレ様といえど、不利だ。夜宵様の復活は想定外だが、それでも絶対神の方が数段上だ。それに…今の瑞稀様は何かおかしい…確かに激情家ではあるが、あれほど感情を剥き出しにするタイプじゃない。絶対神の何があれほどの激情を抱かせるのかは分からんが、明らかに冷静じゃない。さっきから凄まじい数の魔法を行使しているが、あれは出鱈目に使っているだけだ。いつもの計算され尽くした使い方じゃない。絶対神の発言も気になる。瑞稀様が彼女の弟子?そんな馬鹿な、彼女は弟子を取る様なタイプじゃない。何よりも瑞稀様は()()()()()を使えないはず。仮に絶対神の言う通り瑞稀様が彼女の弟子なら、まずい事になる。彼女を封印したのは絶対神のはず。瑞稀様は彼女が殺された瞬間を見ていたという事。あの方の性格を考えたら白龍神王が出て来かねない。そうなったら…誰も瑞稀様を止められない…何よりも─奴が深層から解き放たれてしまったら…)

 

バロム、刻龍、斬鉄にはいざという時の奥の手がある、あるにはあるが使った所で3()()()()()()()()

それでは二覇龍は止められない

むしろ火に油を注ぎかねない

それに─暴走して瑞稀の自我が曖昧になった機に乗じて、奴が瑞稀と白龍神王の魂を喰らい尽くしたら─

二覇龍どころの騒ぎじゃない

例え彼女が生きていても、奴は止められない

間違いなく全ての次元が滅びる

 

「下らない。最強の魔王と言うには弱い。魔法も威力は大したものだが、使い方が出鱈目だな。隙が多く、見切るのは容易い。速度もあるが、攻撃力が足りない。何よりも─」

 

絶対神が神器を手放して、一気に加速し、瑞稀の腹に強烈な拳打を打ち込む!

瑞稀は冷静さを欠いている事もあり、反応が遅れ、防御すら出来ずに吹き飛ばされる

 

「ガハッ!!馬鹿な…なんだ、この攻撃力は…」

 

血反吐を吐き、立ち上がる事すらままならない瑞稀に、絶対神は神器を手元に戻し、歩み寄る

 

「私を相手にするには脆すぎる。夜宵時雨の防御力が無ければすぐにでも殺せる。貴様は速度、魔力総量、魔力コントロールは抜きん出ているが、物理攻撃力、防御力が足りない。

根っからの魔法型だな。対して私は物理型でな。貴様とは相性が悪い」

 

そう、瑞稀と絶対神では絶望的に相性が悪いのだ

魔法は瑞稀が冷静さを欠き、出鱈目に行使している事もあり、ロンギヌスの魔素停止能力で無力化され、物理攻撃や影の太刀は、瑞稀の攻撃力不足と、絶対神の高い防御力故に、有効打になり得ない

それに対して絶対神は、瑞稀の攻撃を無力化しつつ、瑞稀に匹敵する速度で接近し、高い物理攻撃力にものを言わせた攻撃で瑞稀を追い詰めている

 

「黙れ!!貴様だけは殺してやる!!」

 

「吠えるだけなら容易い。それに期待外れだ。まさか()()()()()が使えないとはな。あの女は貴様に何を教えていたのやら…ああ、そういえば貴様は覚えていないのだったな」

 

瑞稀が地に伏せながらも、未だ殺気を放ち続けるが、絶対神は最早瑞稀に興味を失いつつあった

 

「天空扇・乱れ桜吹雪!!」

 

そこにワルキューレが、剣山で出現した無数の天空剣を魔力で操り、一斉に天空扇を放つ!

 

「無駄な足掻きだな…」

 

しかし、絶対神は紅蓮の炎を纏わせた羽々斬の一閃で、全て相殺してしまう

攻撃力の違いがあり過ぎるのだ

 

「そんな…天空扇が効かないなんて…」

 

「戦乙女、貴様も私を相手にするには役不足だ。天空扇の威力は申し分ないが、それだけでは不足だ。我が槍、ロンギヌスで無力化し、羽々斬の攻撃力で捩じ伏せてしまえばどうという事はない。安心しろ、お前は殺しはしない。狂嵐を殺した後は私の妻となるのだ。一生飼い殺してやる、今の内に覚悟しておけ」

 

瑞稀もワルキューレも絶対神の持つ神器、ロンギヌスの魔素停止能力を前に、為す術もない

加えて絶対神のもう1つの神器、羽々斬もまた、非常に強力な攻撃力を持っていた

2つの神器は同時覚醒により、能力は飛躍的に上昇しており、その出力は天空剣や夜宵に匹敵するほどに高い

 

「さて…狂嵐の魔公子・瑞稀よ。まだ抵抗するか?」

 

「知れた事!この身は未だ砕けてはいない!!ならば俺はまだ戦える!!それにここからが本番だ!!」

 

夜宵と自身の魔力で身体を支え、立ち上がる瑞稀は、さらに魔力を高め続ける!

そして上空に巨大な魔法陣を描き始める!!

 

「馬鹿の1つ覚えか…下らない…広範囲の魔法なら、停止させれないとでも思っているのか?」

 

絶対神はロンギヌスで魔法陣を構成する魔素を停止させようと構える

しかし、違和感に気付いた

魔法陣が大気中の魔素を吸収し始めたのだ

 

「これは…まさか魔導?いや、だが大気中の魔素を吸収するなど…どうやって…何よりこの規模の魔導を1人で行使するだと?常軌を逸脱しているぞ…まさか!?」

 

魔法陣に膨大な魔素が充填され、今まさに解き放たれようと絶対神に狙いを定める!!

 

「もう遅い!!ロイヤルガード諸共に滅びろ、絶対神!!」

 

今、瑞稀最強の魔法が放たれる!!

 

最終超越技(ファイナルイクシード)天扇雷劫界(ライジングメテオ)!!!」

 

極太の鈍色雷が無数に放たれ、絶対神に降り注ぐ!!

その破壊力は凄まじく、敵のロイヤルガードどころか、敵の前哨基地が完全に消し飛び、巨大なクレーターになっていた!

魔王軍や師誓将達は、バロムが転移魔法で避難させたので無事だが、敵の戦神は確実に全滅である

 

「おいおい…旦那の最終超越技(ファイナルイクシード)、ヤバ過ぎだろ…こんなに破壊力あるとは思わなかったぞ…」

 

「確かに、これほどとは…バロムさんが転移させてくれなければ、確実に我々も全滅してましたよ…」

 

「私は事前に聞いていたからな、瑞稀様にも発動前に転移しろと言われていたよ。流石にこの破壊力は予想外だがな」

 

「ヤベーよ…もうみーちゃんを怒らせない様にしよう…マジでこれうたれたら死ぬ…」

 

「流石に瑞稀様も夫婦喧嘩でここまではしないですよ…」

 

バロム、斬鉄、刻龍、唯、ワルキューレは予想以上の破壊力に驚きを隠せず、他の者達は放心状態に陥っていた

 

「とにかく、瑞稀様の下へ向かいましょう。天扇雷劫界を使えば、あの人は魔力の過剰消耗で動けないはず」

 

いち早くワルキューレが我に返り瑞稀の下へ向かう

そう、この魔法はあまりにも強力過ぎる故に、瑞稀が1度に使える魔力の許容量を遥かに超えている

それを無理矢理使い発動しているのだ

そもそも、この魔法は瑞稀自身が考案、開発した魔法だが、開発段階で魔力消耗の問題が分かったものの、対絶対神戦のために威力と効果範囲を突き詰めるために、敢えて瑞稀は無視した

それだけならまだ辛うじて瑞稀の許容範囲内だが、その術式に最終超越技(ファイナルイクシード)の術式を追加して、さらに威力を上げている

代わりに消耗が増しているのだ

結果瑞稀の許容範囲を超え、魔力の過剰消耗で、オーバーヒートを起こし、動く事が出来なくなるのだ

 

「いた!旦那だ!!」

 

斬鉄がいち早く瑞稀を見付け走り寄るが、バロムが斬鉄を腕で制す

 

「おい!バロム、なんの真似だ!?」

 

「…待て、よく見ろ…あれは…絶対神か!?馬鹿な、あれだけの威力で仕止め切れないなんて!」

 

絶対神は流石に無傷ではなく、満身創痍ではあるが、未だ地に伏せず、全身から血を流しながらも立ち、魔力の高まりは衰えていない

これには精鋭たる師誓将も愕然としていた

 

「大した威力だ。流石に私も駄目かと思った。しかし、これで勝負はついた」

 

「……くそ…」

 

瑞稀の最強の魔法、天扇雷劫界でも殺せず、瑞稀も動けない

いくら満身創痍といえど、力の差があり過ぎ、自分達では太刀打ち出来ない

最早敗北は必至と思われたが、瑞稀にあの声が、白龍神王が語り掛けた

 

(諦めるのか?あの人の弟子であるお前が。あの人の仇を討たず、屈するのか?)

 

(お前は…白龍神王?あの人の弟子?誰の事を言ってるんだ…)

 

(そうだ、私は白龍神王、凛音。お前は奏女姉さんを覚えてないのか?ああ、そうか。お前は記憶を封印されているんだったな。覚えていないなら教えてやる。お前は全次元最強と称された討伐神、琥牙奏女太刀乃神(こがかなめたちのがみ)の唯一の弟子。あの人が唯一愛した者だ)

 

(琥牙奏女太刀乃神(こがかなめたちのがみ)?)

 

瞬間、瑞稀の記憶の封印が解け、思い出がフラッシュバックする

 

奏女様!嫌だ…俺をおいていかないで!立って!一緒に逃げよう!?

 

…私が…護る…この子をあんた達なんかに傷付けさせやしない…

 

さらばだ。遍く厄災を焼き尽くした無双の神よ

 

強く在れ、瑞稀。私は…ずっと…貴方を愛している

 

(そうだ…思い出した。奏女様、俺の師匠であり、母親の様な人であり、俺の初恋の人。誰よりも強くて、すぐキレるし、口が悪くて、凄く厳しいけど優しくて、いつも俺を思いやってくれた、大好きだった奏女様。絶対神が俺から奪った俺の大切な人)

 

(やっと思い出したか。そうだ、奴が殺した。仇をとれ、奴を許すな。謳え、お前の怨嗟を。他ならぬ奏女姉さんの弟子だ、私が力を貸してやる。上手く使いこなしてみせろ)

 

──そして、瑞稀の口から、白龍神王の声と共に、呪文(うた)が紡がれる

 

「「我、目覚めるは、覇の頂きに君臨せし白龍神王なり

理を喰らい、王と成る

我、白銀の龍の覇王と成りて、汝を虚無の闇へと沈めよう!!!」」

 

「「覇龍化(ジャガーノートドライブ)!!!!」」

 

瑞稀から膨大な魔素が溢れ出し、瑞稀の背には白銀の翼が現れ、全身から白銀の雷が放電されていた!

 

「覇龍化だと!?そんな馬鹿な、白龍神王を手懐けたというのか!?ふざけるな!!」

 

絶対神が怒りのあまり怒鳴り散らす

先ほどとは違い、凄まじい殺気を伴った魔力を放ち始める

 

「ふざけるなよ…またしても私の邪魔をするか!?おのれ!忌々しい過去の遺物が!討伐神といい、白龍神王といい、遥か太古の遺物共が、我が栄光の邪魔をするな!!!」

 

絶対神は怒鳴り散らしながら、瑞稀にロンギヌスを突き立てる

しかし、瑞稀に届く事は無く、白い雷を纏った夜宵の一閃でロンギヌスは半ばから斬り裂かれる!

 

「覚悟はいいか、絶対神。世界を自分勝手に支配し続けたツケを払って貰う。何よりも、奏女様の怨み、晴らさせて貰うぞ!!」

 

 




大切な師匠との思い出を取り戻し、秘められた龍の力を解き放った瑞稀
そして白龍神王が目覚め、本格的に瑞稀に協力します
瑞稀が師匠、奏女様を思い出し、白龍神王が目覚めたので彼女達のプロフィール、設定を説明したいと思います

まずは白龍神王
本名、如月 凛音。女性
生前の渾名、夢幻の爆神
種族、ドラゴン。しかし元は人間
人型の見た目は20代後半。腰まである癖毛の銀髪。170程の長身。巨乳美人
龍の見た目は、白い体毛に覆われた細長い身体に、巨大な白銀の翼を3対、計6枚持つ
性格は非常に好戦的であり、強者と戦う事が何よりも楽しみという戦闘狂
しかし、非戦闘時は非常にフランクでサバサバしていて、親しみやすく、女性らしい包容力も発揮する
ちなみにバツ3。経産婦であり、生前は6人の子供がいた
夫は皆若くして死別、基本的に不幸体質
拳打による物理魔法を主体とした、超破壊力を誇る零式夢幻流という流派と、白夜に煌めく白銀の雷、通称白色雷という固有の雷を用いた魔法を使用し、格闘戦を得意としていた
戦闘力の高さは常軌を逸脱しており、生前は人間でありながら、最強クラスの強さを誇っていた
ある事件に巻き込まれ、ドラゴン化し暴走、後に二覇龍、白龍神王と呼ばれる最悪の厄災となり、理の神と呼ばれる5柱の神に人の魔素核に宿り、転生し続ける封印を施される
これは仮に普通に封印した場合、二覇龍の力なら内側から容易く打ち破れると考え、宿主の魔素と魂を楔にした方が、確実に封印出来るからである
彼女達二覇龍は生前、瑞稀の師匠である琥牙奏女太刀乃神に、一時期育てられた恩があり、彼女を姉と慕っていた

続いて瑞稀の師匠
本名、不明。女性
生前の渾名、討伐神、琥牙奏女太刀乃神
種族、神?ドラゴン?詳細は不明
見た目は30代前半。肩まである直毛の明るい茶髪をポニーテールにしている。170半ばの長身。かなりの巨乳美人
性格は非常に気性が荒く、キレやすく口が悪い。思った事は、脳ミソと口の間にフィルターが無いので、すぐ口に出る。かなりの健啖家であり、食事となると周りがドン引きする位食べる
基本的に周りに合わせる事は無く、誰の言う事も聞かない。唯我独尊、我が道を往くを素でやるお方
しかしその一方で、思慮深く、頭の回転が早い。気に入った相手には優しく寛容。母親の様な厳しくも優しい包容力を発揮し、愛情深い
ちなみに男性経験は無く、恋をした事も無い。討伐神になる前、戦神時代は同僚の女神が、次々結婚していく事に一時期危機感を覚えていた
日本刀による魔法剣を主体とした、斬式夢幻流という流派と、血の流れより紅き紅蓮の焔、通称血の焔という固有の炎を用いた魔法を使用し、無敵を誇った
その強さは正しく最強であり、斬撃はあらゆるものを断ち斬り、その炎は次元すら焼き尽くすと言われ、あらゆる者から恐れられていた
最高神に次ぐ程の最古参の神であり、戦神においては間違いなく最も古株である。しかし、性格が災いし、緊急時以外は、厳重に封印を施された封印宮に閉じ込められていた、にも関わらず上司である絶対神の言う事を聞かず、付き合いの長い最高神の言う事しか聞かなかった事から、天乃に神の座から堕とされ、命を狙われる
彼女は生前の二覇龍を育て、姉と慕ってくれていたにも関わらず、彼女達の暴走を止める事が出来ず、全次元を滅亡の危機に陥らせた責任を感じており、以来二覇龍が宿主を喰い尽くし、封印が解かれそうになる度、彼女達を殺し続けていた
今から10数年前、以前から付き合いがあった瑞稀の養父、徹平に請われ、瑞稀を弟子にとる。約2年ほど共に過ごす内に、自らを一切恐れず、ありのままを受け入れてくれた瑞稀に、惹かれていく。その頃は瑞稀はまだ子供だったので、大人になるまで待ち、告白しようと思っていた
そんな産まれて初めて過ごす幸せな時間は、彼女を、自分の絶対神としての栄光の邪魔になると考えた天乃によって、終わりを迎える
彼女は自身が封印される中、瑞稀が白龍神王の完全覇龍化を発動させた事を察し、瑞稀の力と、自身と過ごした日々の記憶を封印する事で、完全覇龍化を止める
現在は肉体を冥府の最下層に封じられ、力の大半を瑞稀の封印に使ってしまった事で、封印を振りほどく事が出来ないでいる

以上です
長々とすいません
巨乳美人なのは作者の趣味です
多分この作品に登場する名前ありの女性はほぼ全員巨乳になると思います
ちなみに唯はAカップの貧乳です


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解き放たれた力、甦る想い


かつて師によって封じられた力を取り戻し、瑞稀が大暴れ!



「嘗めるなよ、魔王風情が!!」

 

絶対神が瑞稀に断ち斬られたロンギヌスを、魔力で修復し、膨大な魔力で身体能力を強化し駆け出す

その速度は凄まじく、踏み込む足は地面を砕かんばかりに力強い

その勢いのまま、瑞稀の胴体目掛け、槍の太刀打を力いっぱい叩き込む!

 

「うおぉぉぉぉ!!!」

 

烈昂の気合いを込め、全身全霊を振り絞り、槍を振り抜き瑞稀を吹き飛ばす!!

瑞稀は防御すらせず、地面を削りながら僅かに残った瓦礫に突っ込む!

 

「瑞稀様!!」

 

「邪魔はさせぬぞ!!」

 

ワルキューレ達が助けに入ろうとするが、絶対神が自身と瑞稀を中心に、周囲一帯を紅蓮の炎で囲み、妨害され助けに入る事すら出来ない

 

「我が炎の結界、地獄封界。貴様等如きで突破出来ると思うな。何人たりとて邪魔立てはさせぬ、今度こそあの女の残り火なぞ、跡形も残さず滅ぼしてくれる!」

 

「─やってみろよ、クソ野郎」

 

白い雷を纏いながら瑞稀が瓦礫を消し飛ばし、姿を現す

 

瑞稀は土で汚れてはいるが、出血すらしておらず、ダメージを負っている様子はない

 

「馬鹿な、無傷などありえない!!私の、絶対神の全霊の一撃だぞ!!ロンギヌスで防御魔力も無効化して、魔力で攻撃力を可能な限り上昇させて叩き込んだんだぞ!?なのに無傷など…こんな事があってたまるか!!」

 

「俺自身も驚いているよ。まさか白龍神王の力がここまでとはな」

 

(だが油断するなよ、瑞稀。覇龍化では私本来の力は出し切れん。何よりも今のお前じゃ御し切れん。今はお前の魔素で暴走を無理矢理抑え込んでるが、時間をかけ過ぎれば魔素が浸食され暴走する)

 

「…分かった…ならば全力でいく…!」

 

瑞稀が足下に描いた魔法陣を強く踏み込み、高速で駆け出す!

その疾走はあまりにも速く、そして不自然だった

絶対神が迎撃に放った魔法を、急カーブを細かく描きながら回避し、速度を落とす事なく、音速に近い速度で距離を詰めていく

常識的にこれだけの速度が出ている状態で、急カーブなど出来るはずがない

何より瑞稀の足は地に着いていない

走行というより跳躍、しかし跳躍というには軌道が低すぎる

滑空が最も近いかもしれない

 

歩法魔法・天駆瞬光

究極魔法に分類される、最速を誇る魔法

原理は足下に設置した魔法陣で術者を射出、魔力で軌道を制御しているのだ

これだけなら簡単に聞こえるが、実際は扱いが非常に難しい

射出するための魔法陣は、込めた魔力量で速度が決まる

魔力を込め過ぎれば、術者の肉体強度の限界速度を超えてしまい、身体が耐え切れず砕けてしまう

逆に魔力が少ないと、速度が出ず不発に終わってしまう

魔力での軌道制御も緻密なコントロールを要求される

少しのミスで軌道が一気にズレてしまうのだ

 

「一気に決めにいく!!」

 

瑞稀は天駆瞬光で一気に間合いを詰め、夜宵に雷を纏わせ斬りかかる

 

「何度も同じ手が通じると思うな!!」

 

ロンギヌスの魔素停止で雷を無力化し、羽々斬で斬撃を止める

返す刃で絶対神が斬りかかり、それを瑞稀が龍鱗を纏わせた手の甲で受け止め、また斬りかかる!

さらに瑞稀が鍔競り合いを演じながら無数の魔法を行使して、絶対神を攻め立てる!

しかしそれも絶対神は長年の実戦経験で培われた技術をもって捌き切る!

 

そんなやりとりを超速で何合も演じ続けながら、お互い、相手に苛立ちをぶつけ合う

 

「死に損ないのドラゴン風情が!!我が栄光の礎となり、黙って滅せよ!!私は白龍神王から世界を救った神として未来永劫、頂点に君臨するのだ!!そうすれば私は、絶対神などと偽りの頂きから、真の頂き、理の神となれる!!いや、それどころか、創造神と並ぶ、真理の神へと至れる!!!」

 

「貴様が理の神?あまつさえ真理の神に至るだと?寝言は寝てからほざけ!!貴様如きでは始まりたる創造の真理に至れるものか!!ましてこの程度の力で終焉たる滅びの真理に至るなど、烏滸がましいにも程がある!!!」

 

「黙れ!!!穢らわしいドラゴン風情が真理を語る方が烏滸がましいわ!!暴れまわる事しか出来ぬ蜥蜴風情が!!私は神々の王、ひいては全次元の頂点に君臨する王、絶対神・天乃!!貴様如きとは魂の格が違うのだ!!」

 

「ハッ!貴様が頂点だと?笑わせるな!!貴様なぞ奏女様に敵わず、ガキを人質にあの人を封印する事しか出来なかった分際が!!しかも敵わぬからとて、ガキを人質にする様な外道が王を語るな!!虫酸が走るわ!!」

 

「貴様こそ笑わせるなよ!貴様が魔王だと?貴様は断じて魔王ではない!まかり間違っても貴様は王などではない!!貴様は二覇龍と呼ばれる厄災、世界を滅ぼす絶対悪そのものだ!!その様なおぞましいモノが王道を語るでないわ!!」

 

「おうさ!!分かってるじゃないか!そうとも、俺は王ではない!!俺が掲げるのは言葉や情で人を導く、所謂王道などではない!!」

 

「なんだと…?」

 

「分からぬなら教えてやろう!我、掲げるは絶対的な力による統制。我が臣民には慈愛と繁栄を、刃向かう者には等しく絶対の死を!!我、掲げるは覇道、即ち王に非ず。我、狂嵐の魔公子にして白龍神王、真の覇王・瑞稀なり!!俺は…俺を信じる者達のため、虐げられた力無き者達のために天をも喰らい尽くす覇龍と成る!!全ては魔界のために。魔界のためならば、この魂が覇の理に呑まれ、未来永劫囚われ腐り果てようとかまわない!!貴様は力無き者達の祈りを踏みにじり、己の欲望のために神を名乗る紛い物!我が(アギト)へと下り、滅せよ!!!」

 

─かつて彼女が説いた言葉は今、再び瑞稀に還り、彼の覇道の礎となり、確固たる信念となる!

琥牙奏女太刀乃神の魂は今、新たなる覇王へと受け継がれた

 

魔王にして覇王、魔を統べる真の龍王が吼え猛る!!!!

 





瑞稀は人道に則った王道を往かず、己の大切なものを害する全てを滅する覇道を掲げました
魔王なのに龍王とはどうなの?となりそうですが、気にしたら負けです

しかもこれでも本来の瑞稀の力の一部でしかない
完全に覚醒した瑞稀の強さは想像を絶するものになりそう
でも最強には多分なれない運命…


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垣間見る滅び

何故、今更瑞稀は覇龍に目覚めたのか
そもそも魔王になるまで彼の魔力を封じていたのは誰で、何のために封じたのか

バロムが危惧する[奴]とはなんなのか



「貴様の口上なぞどうでよい!!何を想い、何を語ろうが貴様は二覇龍。厄災そのものだ!今この場で私が滅してやる!!!」

 

「宣うだけなら誰でも出来よう!殺れるものなら殺ってみろ!!逆に俺が貴様を殺してやる!!!」

 

「狂嵐ーーーー!!!」

「天乃ーーーー!!!」

 

2人は互いの存在を滅するために全身全霊、文字通り自らの命を削りながら戦い続ける

 

(ヤバいな…理性が飛びそうだ。覇の理に呑まれはじめてる…)

 

(瑞稀!これ以上は無理だ!一旦退け!このままじゃ暴走するぞ!!)

 

(いや!まだだ!奴を殺すまでは止まるわけにはいかない!!)

 

瑞稀は徐々に覇の理に魔素を浸食され、理性を削られていく

自分という存在が喰い散らかされ、別のナニカに変わっていく様な感覚に苛まれ、少しずつ、しかし確実に焦りを募らせる

 

(おのれ!たかがドラゴン相手に、この私が!絶対神たる我が力が届かぬというのか!!認めぬ!断じて認めぬぞ!!)

 

絶対神もまた焦りを募らせている

絶対神は右目の神瞳で瑞稀の魔素が、徐々に変異しているのが視えている

 

(なんなんだ!奴は一体なんなんだ!?本当に白龍神王なのか…?有り得ない!これだけの力を引き出してなお、()()()()()()()()()()()()()…!おのれ!討伐神め!一体ナニを育てた!?まずいぞ…覇の理の浸食の影響で封印に綻びが生じてしまったら…!!)

 

最早何度目かも分からない鍔競り合いにて、互いに後退する

 

─そしてとうとう瑞稀が限界を迎える

 

「ッ!!!!!」

 

瑞稀から発せられる魔力が不気味に脈動し、魔素が変質しその身が完全な人型ドラゴンになりはじめる!

 

しかし、血の様な紅い炎が瑞稀の身体から吹き出し、刃となり瑞稀を貫いた

 

「これは血の焔だと!?討伐神の封印式か!」

 

人魔戦争の折に暴走した白龍神王を抑え込んだ刃が、再び出現し、瑞稀を取り戻さんと燃え盛る

 

しかし─

 

「グッ…オォ…」

 

瑞稀が自身の意思で、封印の刃を引き抜こうとしていた

 

「オォオオオォォォオォオオォォ───!!!!!」

 

刃は引き抜かれ、封印が完全に解かれてしまった

 

──現れたるは人型の小さな白龍神王

 

「───────!!!!!!!」

 

最早音響兵器の域に達した咆哮で周囲の瓦礫を吹き飛ばし、白色雷を纏う瑞稀だったドラゴン

理性無く、知性も無く、また自我すら無く、破壊衝動の赴くまま、怨嗟を振り撒き暴れまわろうとし始める白き暴龍

瑞稀としての自我すら無くしながらも、絶対神を睨み付ける白龍神王

 

「なるほど…覇に呑まれ狂えども、私に対する怨嗟は消えぬか」

 

絶対神はロンギヌスの矛先に全魔力を集中させ、右目の神瞳で瑞稀の魔素核を正確に捉え、構える

暴走し、力の扱いが乱雑になった今なら、ロンギヌスの一刺しで確実に封印出来るはず

 

(狙うは一刺し、外せば殺られる。決まればこちらの勝利は必定。全身全霊を以て、最強の一撃で仕留める!!)

 

羽々斬を納め、ロンギヌスを両手で構える

膨大な魔力と神威を纏い、瑞稀に迫る!

 

「動き出す前に仕留める!

最終超越技(ファイナルイクシード)!!天破槍・魂接演舞(てんぱそう・たまつぎえんぶ)!!!!」

 

「!!!」

 

白龍神王が動き出す前に、反応すらさせず槍が迫る!

 

「──!!!!」

 

槍が白龍神王の胸を捉え、絶対神の勝利が確定した──

 

「…馬鹿な…そんな事が…」

 

─槍は白龍神王の鱗に阻まれ、貫く事無く、弾かれた

弾いた瞬間、花弁の様な紋様が出現した様に見えたが、その様な事を気にする余裕は、最早絶対神に残されていなかった

 

「グルルル!!ギャオオオォ!!」

 

そして絶対神を認識した瞬間、絶対神に襲い掛かる!

爪で、牙で、尾で、吐息で、吠え声で、翼の羽ばたきで、白き雷で、あらゆる暴力が絶対神を襲う!

 

技術が伴っていない故、攻撃を捌く事は可能なれど、一つ一つの破壊力、攻撃速度が尋常ではなく、確実に追い詰めれていく絶対神

 

「おのれ…!この様な事が…!断じて認めん!ドラゴン如きに私が劣るなど!!認めるわけにいくものか!!!」

 

僅かな隙を突いて槍で、刀で、魔法で、拳で、蹴りで、持てる全てで反撃する絶対神

しかし、それでも、それら全てをその身に受け、なおも白龍神王揺らがず。その龍の鱗は全てを弾いた

 

「──────!!!!」

 

まるで勝ち誇るかの様に咆哮をあげる白龍神王

その口内には白く輝く雷が集束していた

 

(──!!あの密度の魔素、白色雷、流石に防げないな…よもやここまでか…)

 

絶対神は白龍神王が放とうとしている雷を前に、為す術など無く、ただ睨み付けるしか出来なかった

ただ眼を反らす事無く睨み続ける

故に、視てしまった。神瞳によって視えてしまった

 

──貴様等理の神は何も変わらぬのだな!!何故過去の失敗を繰り返す!?この世界が、この様な世界があの御方の望んだ世界か!?否!断じて違う!!世界が変わらぬのなら、貴様等が変えられぬと宣うならば、私が今在る全てを滅ぼそう!!!今再び原初へ還り、悔い改めろ!我が憤怒と怨嗟の焔で燃え尽き、滅びよ!!!愚かな生命共よ!!!!

 

世界が真紅の焔で焼き尽くされていた

あらゆる生命が死に絶えていた

村が、街が、国が、星が、あらゆる理が跡形も無く焼き尽くされた後の虚無

 

(これは!?狂嵐?いや、違う。奴の魔素核の奥、深層魔素よりも奥で眠る何者かの記憶?そんな馬鹿な…これではまるで…)

 

それは地獄ですらなかった

絶望ですらなかった

虚無。地獄すら無く、絶望すら無く、全てが消え去った後の虚無

それはまさに、正しく世界が終焉を迎えた後の光景だった

 

「──は、はは…」

 

その光景の前に全ては無力

 

「ふはははははは!!ははははははははは!!あっはははははははは!!ひゃははははははははは!!!」

 

絶対神は理解してしまった

()()()()()()()()()()()を、視てしまった

()()()()()()()を、理解してしまった

()()()()()()()()()()()()を、知ってしまった

 

「────!!!」

 

白龍神王の咆哮と共に放たれた雷に呑まれ、絶対神はその生涯を終える

 

「────────────!!!!!!!」

 

白龍神王の勝鬨の咆哮が響き渡り、いよいよ世界に白龍神王を止める事が出来る者が居なくなり、世界が終焉へ向かおうと──しなかった

 

「──!?」

 

突如白龍神王が炎上し始めた

その炎は白龍神王の内側、瑞稀の内より発生していた

 

「──!!!」

 

苦痛もがき苦しむ白龍神王

その炎は紅蓮よりなお紅く、深い真紅の炎だった

 

やがて炎に呑まれた白龍神王の姿が龍から人に変わり、瑞稀に戻った

炎は瑞稀が戻ると同時に鎮火され、瑞稀は傷1つ無い姿で気を失っていた

 

「瑞稀様!!」

 

ワルキューレや唯、師誓将達が瑞稀に駆け寄る

 

「…外傷は無くなっていますが…魔素核の損傷が激しい…!このままでは非常に危険です…!」

 

「そんな…バロム様、なんとかならないのですか…!」

 

「………私の力では……」

 

沈痛な面持ちのバロム

バロムですら手の施しようが無いと聞かされ、ワルキューレが膝をつく

このままでは、瑞稀は助からない─

 

「…そんな……」

 

「ワルキューレさん!しっかり…!………そうだ!!奈落一族なら!なんとかなるかも!!」

 

唯の一言に皆が希望を見出だした

 

「みーちゃん奈落一族から勘当されてるけど…奈良橋のおばあちゃんなら!多分力になってくれると思う!」

 

「すぐに瑞稀様をお連れしましょう!」

 

こうして師誓将は人界へ向け、転移門を開き、奈良橋邸を目指す

 

「おい、バロム、さっきの炎…」

 

「分かっている…分かってはいたが…」

 

「…まさか、本当に……まったく…難儀な事ですよ…」

 

バロム、斬鉄、刻龍は何かを知っていた、知っていたが故に、思い悩む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふむ…此度は私の封印は解かれなんだか…あの神擬きめが…余計な事をしおって…まあ良い。今は待つとしよう。瑞稀よ、お前は今、どの様な夢を見ているのだ?瑞稀よ、お前はこれから──何を視て、何を感じ、何を目指すのだろうな…はたして此度こそは絶望に屈する事無く、希望を抱いて、いずれは真理を掲げる日は来るのだろうかな…あまり時間は残されていなさそうだが…今はお前の生き様を眺めようか。瑞稀よ、絶望に足を止めるな。希望を捨てるな。決して屈する事無き様、己の持てる力の全てを鍛えよ。滅びは既に動き始めてしまった…』

 




暴走して死にかける瑞稀
絶対神が視てしまった瑞稀の正体
謎の炎の出現
最後に出てきた謎の声

詰め込み過ぎた感が…


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死にかけの王、安らぎの眠り

今後の瑞稀達の拠点にお引っ越しです



「ここが奈良橋家が保有する精霊邸…ですか…」

 

「うん…プラエトーリウム・ソムヌス。別名、眠りの館。おばあちゃんや紗矢彦の言ってた通り、スゴく濃い魔素を宿してるね」

 

今、瑞稀の嫁であるワルキューレ達は、激しい消耗により目を覚まさない瑞稀を連れ、奈良橋別邸に赴いていた

 

瑞稀は絶対神に勝利し、戦争は終結。神界相手に魔界は初の勝利を掴み取った

 

瑞稀は絶対神との戦いで覇の理に目覚め、覇王として名乗りを上げた

しかし、戦いは長引き、限界を迎えた瑞稀は、師・琥牙奏女太刀乃神の封印を力ずくで振りほどき、暴走

絶対神を終始圧倒、絶大な力で跡形も残さず消し飛ばす

その直後、瑞稀は突然、炎に包まれ、暴走は鎮静化

 

鎮静こそしたが暴走の影響で体内魔素を多量に消耗

暴走による覇の理の浸食で魔素核が損傷

このままでは二度と目を覚ます事は無く、このまま死に至る、非常に危険な状態

治療のためには超高濃度で膨大な量の魔素を必要とする

 

終戦から3日たった今も瑞稀の魔素は回復の兆しすら見せない

現状出来る事は瑞稀の嫁が交代で自らの魔素を注ぎ、最低限の生命維持を保つのが精一杯

 

そんな現状を打開するべく、唯とワルキューレは奈落一族に助力を求めた。しかし奈落一族宗家はこれを拒否

瑞稀は人王失脚、その後の魔王就任により奈落一族から勘当されていた

奈落一族は代々、魔の力を用いて人界を裏から護り、神々を支える立場にあった

今でこそ虐げられ、宗家は隠れ里から出ず、分家も奈落一族である事を隠しながら生きているが、生き方そのものは何一つ変わっていない

故に魔王であり、絶対神を討った瑞稀を助ける事などあるはずがなかった

 

しかし、奈良橋家現当主は秘密裏に協力を申し出てくれた

現当主の名は紗矢彦。元は宗家の者であったが、次期当主でもあった瑞稀が勘当され、瑞稀の養母が戦闘力を持たぬ故に養子となり、当主となったのだ

彼は19歳とまだかなり若いが、高い戦闘力、膨大な魔力量、なにより非常に聡明な頭脳の持ち主であり、既に奈落一族の中でも高い地位を築き上げていた

そして彼は幼い頃から瑞稀を慕い、憧れていた

 

「瑞稀さんが死にかけ?そりゃヤバい!魔素核がズタボロ?超高濃度の魔素が必要?ならプラエトーリウム・ソムヌスで療養してもらえばいいんじゃね?あそこスゲエ魔素が濃いし」

 

「紗矢彦の言う通りだねぇ。あそこなら瑞稀を治せると思うよ。ド田舎の山ん中だから今じゃだぁれも近付こうともしないし、使い道も無いからね。大変かもしれんけど転移魔法かなんかで、魔界に持って行けば楽だと思うよ」

 

紗矢彦も瑞稀の養母も快く申し出てくれた

 

「ああ、そうだ。この事、真奈のジジイには内緒だぜ?」

 

口に指を添え、そう言う紗矢彦の顔は愉しげで、何処かイタズラを思い付いた時の瑞稀に少しだけ、似ていた

 


 

「この部屋が一番魔素が濃いですね」

 

「だね。見た感じ一番広いし、ここがみーちゃんの部屋で決定!とりあえずベッドに寝かそっか」

 

瑞稀を静かにベッドへ寝かせる

ずっと血の気が引き蒼白だった瑞稀の顔色が、少しずつ血の気が戻り、赤みが差していく

 

「凄いですね、ここ。比較的高濃度の魔界の魔素でも回復には足りなかったのに…」

 

「ホントスゴいよね。外からでも魔素が濃いなぁ、て思ったけどさ、中は別格だね。魔素が濃すぎて別世界みたいだよ。いや、実際別世界みたいなもんなんだけどね?」

 

プラエトーリウム・ソムヌス

別名、眠りの館とも言われる、奈良橋秘蔵秘匿の精霊邸

 

精霊樹と呼ばれる膨大な魔素を内包する特殊な樹木で建てられ、永い年月を経て、館自体が精霊と呼べる程に超高濃度な魔素を生成するようになった非常に稀有な館

代償に高濃度な魔素は毒にすらなり得る

元より強大な魔素を保有する瑞稀達には問題無いが、魔素核の強度、最大保有魔素量が少ない者では最悪、死に至る可能性すらある

 

「でも唯的にはこんな館に住み込みでメイドさんが居たのはビックリだけどね…しかも、まさかの精霊…」

 

そう、プラエトーリウム・ソムヌスには専属の住み込みメイドが5人居た

しかも、全員真っ当な存在ではない。永い年月と人々の想いによって力を宿した動物、物体、自然現象。精霊と呼ばれる者

 

「あらあら。奈良橋家の財力、この館の規模と特殊性、これらを鑑みれば妥当かと存じますわ~」

 

狐の精霊、メイド長、フィン

常に浮かべる微笑み、柔らかな発声、喋り方、滲み出る母性

金髪、緑色の瞳、平均より少し大きめの身長で細身ながら出るとこ出てる、しかも未亡人。バロムのどストライク美女

 

「いや!普通は誰でも驚くにゃ!フィンはやっぱり天然にゃ~」

 

猫の精霊、雑用係、エリカ

鈴を鳴らしたような高い声、テンション高めで人懐っこい

赤い髪、黄色い瞳、身長は小さめだが猫らしくちょこちょこ動き回る。やっぱり出るとこ出てる。バロムのどストライク美女

 

「ですよね~…普通は精霊がメイドやってるなんて思いませんよ~…」

 

狼の精霊、庭師兼戦闘メイド、マージ

のんびりとした喋り方、人見知りが激しく、オドオドと挙動不審

銀髪、灰色の瞳、平均より少し大きめフィンと同じ位の身長。彼女もまた、出るとこ出てる、けど隠し切れない残念臭。そしてバロムのどストライク美女

 

「私としては瑞稀様、ご主人様にお仕え出来るのなら文句はない」

 

アンティークドールに宿った精霊、戦闘メイド、アメリア

美しくも、感情を感じさせない無機質な声、変わらぬ無表情

紫色の髪、青い瞳、並の男より大きい高身長。愛想こそ皆無だが、文字通り人形の様に整った容姿を誇る出るとこ出てるバロムのどストライク美女

 

「私はこんなオトコなんてどうでもいいんだけどね。マムがコイツに仕えるって言うから、仕方なくいるだけだし。でも…コイツ死にかけだけど本当に大丈夫なの?」

 

狐の精霊フィンと人間の男の間に産まれた半精霊、フォニーム

勝ち気で気の強さが表れた人を見下し小馬鹿にした態度

金髪、緑色の瞳、まだ子供故の愛らしさ

今でこそちんちくりんなれど、母親はセクシーダイナマイトボディ、将来が楽しみなバロム的にアウトな美少女

 

「しかしさぁ、バロムさんて実はスゴいんだね。こぉんな大きな館を魔界まで転移させれるなんてさ、ビックリだよ」

 

「ですね…おそらく魔力や魔素の量は私達の方が若干上ですが、魔法技術ではバロム様が数段上ですね。見直しましたよ」

 

「…いやぁ…これくらいの事…瑞稀様なら容易くやってのけるかと…私は死にそうですがね…過剰消費(オーバーヒート)ですよ、マジで…」

 

プラエトーリウム・ソムヌスは小さな山1つ分の広大な敷地を有する館である

それらをまとめて魔界に転移させたのでバロムは死にかけ、その様を見て刻龍と斬鉄は大爆笑

 

プラエトーリウム・ソムヌスは転移させたが、3つの理由から一部の関係者以外にはその存在を明かしていない

 

1つはプラエトーリウム・ソムヌスに元々備わっていた霧の結界と呼ばれる広範囲結界が原因

この結界は非常に特殊な性質を持ち、空間を歪曲させ、敷地内を幽世(かくりよ)にして、資格無き者が結界の内部に侵入するのを防ぎ、仮に結界内に入っても内部は常に濃い霧がかかっており、まともに歩く事すらままならない。そして彷徨い歩き、知らず知らずのうちに結界から弾き出される

バロムですらこの結界を完全に解除する事が出来ず、プラエトーリウム・ソムヌスの高濃度な魔素が強制的に発動させてしまっているらしい

 

2つ目はその稀有な存在そのもの、希少価値

現存する精霊邸は全ての世界を含めても希少であり、存在が確認されているのは、人界の鬼崎宗家の邸宅、奈落一族宗家の邸宅、そして霊界に存在し、今は断絶し血筋が途絶えた貴族の邸宅、そしてプラエトーリウム・ソムヌスの4つだけ

当然欲する者は数知れず、鬼崎は強大な戦闘力を誇る鬼神の末裔として恐れられ、奈落宗家は所在が知られておらず、知られても返り討ちにしてしまうが故に狙われない

霊界の貴族邸は現在は霊界が直接管理している上、霊界自体が幽世(かくりよ)に存在するので容易には辿り着けない

プラエトーリウム・ソムヌスも霧の結界の特性上、容易には辿り着けない上、所在が知られておらず狙われなかったが、魔界に存在する、魔王・瑞稀が保有していると露呈してしまえば、それを奪おうとする者は魔界の内外問わず多くいるだろう

 

そして3つ目、瑞稀の生命線になり得る可能性が高い

これこそプラエトーリウム・ソムヌスの存在をバロム達が隠す最大の理由

瑞稀の魔素核の損傷は通常の手段では、もう完全に手遅れで、本来なら緩やかに、しかし確実に死に至る様な状態

プラエトーリウム・ソムヌスの規格外の魔素で、回復し始めているが、おそらく瑞稀の魔素核を完治させるには至らない

プラエトーリウム・ソムヌスからの魔素供給を半永久的に受けなければ、魔素の回復が追い付かなくなる可能性が非常に高い

プラエトーリウム・ソムヌスを失えば瑞稀は確実に死ぬ

それを世間に知られれば瑞稀を亡き者にするため、プラエトーリウム・ソムヌスを破壊しようと企む輩が現れかねないのだ

 

「しかし、本当によかったですよ。何とか回復の目処がついた。今瑞稀様を喪うわけにはいきません。何より…部下として主をお救い出来たのは幸いでした。ちなみに斬鉄、刻龍。めっちゃ笑ってるけどてめえら今回なんもしてねえからな!」

 

「いや、だってさ、魔法ならお前の専門分野じゃねえか。俺は焼くか斬るしか出来ねえし」

 

「私も凍らせるか殴る蹴るしか出来ませんし」

 

バロム以外は戦場以外では役立たずだった

バロムはそんな2人に呆れ果て、溜め息を残し、ワルキューレ達に挨拶だけして2人を連れて帰っていった

 

「取り敢えず私達も少し休もう?」

 

「ですね。皆さんお疲れですし、お食事をして、お風呂に入って、各自部屋を決めて休みましょう」

 

「お風呂は個室に備え付けのがあるらしいけど、大浴場もあるってフィンさんが言ってたからみんなで入ろう!」

 

瑞稀の回復の目処がついて、安心して瑞稀の嫁達は久々に和気藹々と談笑しながら体を休めた

 




まただらだらと説明ばかりで申し訳ないです…

バロムさんは巨乳な女性なら人妻だろうと、何でも良しの変態、クズ野郎です


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王と女神の邂逅

 
ここから数回ほどまたしても過去回に突入です



俺は…死んだのか?

それとも夢を視ているのか?

 

「瑞稀、今日からこの女性、奏女様に弟子入りしてもらうぞ。勿論拒否権は無い。必要な荷物は既に奏女様にお渡ししている。当分の間、奏女様と二人で暮らす事になる。しっかりと奏女様の言う事を聞くように」

 

懐かしい顔だ。なるほどこれは今まで俺が失くしていた過去の夢か、はたまた走馬灯か

 

じいさんの突然の物言いには、幼い俺は混乱したな

状況説明が足りなさすぎる、アホか

 

「じいさん何言ってんの?意味わかんないんだけど、とうとうボケたの?つうかこのババア誰?」

 

土下座しろ!今すぐに!知らぬとは言え、奏女様になんたる口の聞き方だ!後じいさんがボケてんのは今に始まった事じゃないだろ!

 

「徹平、あんた孫?息子?に対して教育が行き届いてないようだね。この私に向かってババアとはね…このクソ餓鬼、命が惜しくないと見える。今この場で首を落としてやろうか」

 

「─っ!!?」

 

あれはマジで恐かった

それでも幼い俺は、奏女様が放った殺気に当てられながらも、脂汗が吹き出してヤバいけど、咄嗟にじいさんが与えた鍛練用の刃削ぎされた日本刀を抜き放った

俺のアホめ、そんなん役に立たんがな…

 

「─ほう…正気を保つか。震えてもいない、何より私を恐れながらも立ち向かうか。なるほど性根はともかく、根性はあるらしい。気に入ったよ。でもねクソ餓鬼、そんな玩具でどうする気だい?まさか私とやろうってのかい?」

 

実は内心ガクブルでした、本当にごめんなさい

 

「このクソババア!馬鹿にするな!お前みたいなババアに負けるもんか!」

 

喧しいわ!今すぐ土下座しろ!!奏女様に対してババアババアとうるさいんじゃ!このど阿呆が!

 

「あっはっはっはっ!粋がるじゃないか。面白い小僧だね!余計に気に入ったよ!でもね─」

 

奏女様が腰を少し落とした瞬間、地面が吹き飛び姿が消える

やっぱり速いな、今の俺より遥かに速い

 

「お前みたいな餓鬼なんざ、大人がその気になりゃいつでも殺せるんだ。早死にしたくなきゃ相手は選びな」

 

本当にごめんなさい、土下座でも何でもするんで許してください

幼い俺の後ろに立ち、首筋に刀を突き付ける奏女様

幼いながら勝てないと悟りながらも俺は刀を振り上げ、抵抗を続けるが首根っこを掴まれ持ち上げられて暴れるしか出来ずにいた

ははは、ざまあ

 

「奏女様、その辺りで勘弁してやって下さい。その子の性根が悪いのは仕方ないのです」

 

じいさんが俺を庇い、奏女様を諫めるが、これに気分を害したのか、奏女様は催眠魔法で俺を眠らせ、じいさんを睨み付ける

じいさんよ、俺の性根の悪さは半分はあんたのせいだと俺は認識しているよ

 

「徹平。事情は確かに聞いたがね、あんたの教育不足を正当化する言い訳をするんじゃないよ。この子に必要なのは身を護る戦闘技術や強大な力なんかじゃない。愛情だ。人を思い遣る心、人を愛する心、人に愛される喜び。自分は産まれてきてもよかった、世界に生きていていいという、当たり前の自己肯定だ。眼を見りゃ分かる。この子には自己肯定が無い。あるのは猜疑心と自己否定。そして深い悲しみと怒り、怨嗟だ。この子の事を思い、力をつけさせようとするあんたの気持ちも分からんでもない。でもね、力より先に、この子は人としての幸せを知るべきだ」

 

奏女様マジ女神

仰る通り!じいさん!よく聞けよ!

 

「…ごもっともです…」

 

奏女様の言葉に項垂れるじいさん、ざまあ

しかし、その瞳は強い意思を感じさせた

まさか…反論する気か?!非を認めて反省しろよ!

 

「しかし、だからこその貴女なんです。貴女は全次元最強の力を持ちながら、破壊ではなく、深き愛情、母性を根源に持つ御方だ。そんな貴女だからこそ、この子をより良く導いてくれる筈だ」

 

じいさん、それは育児放棄と言わんかね?

そりゃあ俺だってあんたみたいなジジイやヨボヨボシワシワのばあさんより、ムチムチ爆乳超絶美女な奏女様の方が良いけどさ~、育児放棄はよろしくないと思うぞ

 

「…はぁ…あんたといい、鬼崎の外道といい、面倒ばかり押し付けるね…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…かなり…拾われたと思われる赤子の頃より実験されていたと思われます。実験期間は予測ですが、一歳前から五、六歳頃まで。時期も長く、この子本来の魔力、魔素が分からない程に歪められています…」

 

そう、鬼崎は幼い俺に対して幾度も実験を繰り返していたらしい

餓鬼の頃の俺の中にはあらゆる種族の魔素が流れていた

元より流れる魔族、人間、詳細は分からんが神。実験による後付けで鬼神、妖怪、邪龍、龍神、天使、堕天使、精霊、妖精、魔獣、神獣、亡霊、不死者

実験によってあらゆる種族の魔素を注入され、それらを取り込んだ俺の魔素核は穢れてしまった

結果俺はその負荷に耐え切れず魔力を暴走させ実験施設を破壊、その力を怖れた鬼崎によって全ての力を封印されたらしい

実は人界を出てく際に、ばあさんから初めて聞かされた

鬼崎マジで許さん

 

実験が行われなくなって数年が経ったこの頃、俺の魔素核は本来の魔素によって少しずつ浄化され始めたが、穢れがあまりにも濃く、本来の魔素を取り戻すのには数十年の歳月を有する。つまり未だに俺の魔素は絶賛浄化中ということだ、マジで鬼崎は許さん

 

「確かに私でもこの子の本来の魔素は感知しきれない。混ざりに混ざった汚泥の様な穢れた魔素しかほとんど感知できない…本当に鬼崎の馬鹿には昔から困ったもんだ…始祖たる鬼崎の鬼神もクズだったが、子孫も負けず劣らずだね…とは言え、断言しよう。この子は凛音、白龍神王、マナスヴェインを宿す今代の二覇龍の片割れだ。どれだけ混ざろうが、餓鬼の頃から見知ってるあの娘達の魔素を見逃すものか」

 

白龍神王も奏女様の世話になってたのか

この人、マジでとんでもねえな。つうかマジであんた何歳だよ?!

 

「やはりそうなんですね…なんとなく予感はあったんです。この子の魔素核を調べれば調べるほど、あまりにもドラゴンの魔素が強過ぎる。しかし、それだけでは無いのです」

 

じいさんの表情が曇り、その物言いに奏女様は疑問を隠さず先を施す

いや、待て。そんなん俺も初耳だぞ

 

「我々、奈落一族はこの子の魔素核を徹底的に調べました。あくまで検査の範疇ですが。すると鬼崎が施したものとは違う封印式が2つ見付かったんです。1つはおそらく白龍神王のものでしょう、強大なドラゴンの魔素はその封印式から漏れ出ていたので。しかしもう1つが分からないのです。独立した5つの封印式を連結し、1つの術式として発動されているのですが、1つ1つですら凄まじく厳重な封印なんです。あまりにも過剰過ぎる。そこまでして封じる、封じなければならないものとは一体なんなのか。あらゆる伝承、伝説、神話、調べられる限りは一族で調べましたが…皆目検討がつかんのです」

 

「…凛音の封印より強力なのかい?」

 

「遥かに」

 

いやさ、俺ってマジでなんなの?

じいさんの答えに奏女様は黙りこみ、数十秒程の熟考を終え、鬼気迫る表情を浮かべ問う。マジで恐いです、ごめんなさい

 

「つまりはあんたらはこの子を持て余してるわけだ。このまま成長して、将来この子が白龍神王に目覚め、最悪その封印を破るかもしれないと危惧している。なるほど確かに。凛音を抱え、二覇龍以上の化物を抱えたこの子は、このまま成長してしまえば世界を滅ぼす絶対悪と成るだろう。怖ろしかろうさ。危惧もしようさ。しかし今なら修正をかける事も叶う。それで?奈落一族は…あんたらの始祖、真奈のクソ餓鬼はこの子をどうするつもりだい?兵器にするため傀儡と成すか?はたまた次代の希望と成さんがために私に託すのか?」

 

言い逃れや有耶無耶に煙に撒く事など赦しはしない

答え如何によってはお前達を滅ぼそう

奏女様の表情は、殺気と覇気は言葉にせずとも雄弁に語っていた

俺を想ってそれほどまでに怒ってくれたんですね、ちょっぴり感動

 

「…真奈様はこの子を殺すべきと仰いました…しかし、私はこの子を生かすべきと考えます。この子の幸せのため、世界のために。何度でも言います。そのための貴女なのです。貴女なら瑞稀に人並みの幸せを教えれる、瑞稀が将来、その力を正しく奮える様に育てて下さる」

 

だからさ、じいさん?それは育児放棄ではないのかい?

 

「……ハァー…分かった…この子は私が導こう。全霊をもって護ると誓おう。それでいいんだろ?」

 

じいさんの真摯な態度に奏女様は不承不承と瑞稀の面倒を引き受けた

いいんかい?!いや俺としては最高です!

 

 

言葉や態度とは裏腹に、奏女様の眼はひどく穏やかだった

 




 
瑞稀の素はこんな感じです
彼は真面目ですが、実はおっぱい大好きな変態さんです


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幼き王はぬくもりを知る、王はハイになる(鬱にもなる)

今回の過去編は長くなりそうです…



鬱蒼とした樹海の中にぽつんと慎ましく建った木造の一軒家に、幼い俺は奏女様に拉致られ連れて来られていた

…ボロとは言わん、しかしもうちょい広めに建てれんかったのか…

一軒家と言ったがね、これはどちらかと言うと小屋だ。これ多分広さ的には五畳あるかないかだよね…

明らかに二人で住むには狭すぎる。いや、一人でも狭い

しかもど真ん中に布団敷いてるから他に物置けねえし、何より布団はご丁寧にダブルが1つだけ…

いやさ、一緒に寝ろと?若い男女(ガキと見た目だけ)が同じ布団で夜を共にしろと!?アホか!貞操を持ちなさい!

 

「今日からここで私と二人で住む」

 

「…ここで?」

 

言いたい気持ちは分かる、今でも言うね

 

「そう、ここで」

 

「…あんたとふたりっきりで?」

 

キャッキャッウフフなイチャイチャライフなら良いが、これから始まるのは語るもおぞましい地獄の修行だ

 

「そう、私と二人きりで」

 

「……いつまで?」

 

「さあ?あんたが立派に独り立ちしたらじゃない?」

 

…奏女様、適当だなぁ…

 

「…マジで?」

 

「マジで」

 

マジなんです

 

「…メシは?」

 

真っ先に食い物の心配とは…我ながら子供らしさが無いな、サバイバル精神満載か

可愛げ無し!つうか他にもあるだろ!?友達と遊びたいとか!テレビは?とか!ゲームしたいとか!

あっ!友達なんて唯しか居なかった!テレビあんま見なかった!ゲームなんてこの頃した事ないわ!

 

「飯の心配はいらない。私が作る」

 

「…材料は?」

 

「肉ならその辺にいっぱい住んでるから大丈夫。山菜や木の実、キノコもあるし。魚は食える奴が居るかは分からんがどうにかなる」

 

奏女様、肉はその辺に住んでるってさ、それは魔獣や魔龍や。決して食用の家畜ちゃうよ。最悪こっちがあいつらの食料やで

しかも魚は食える奴が居るかは分からんだと?食える怪魚や魔魚なぞリヴァイアサン以外ほぼおらんわ!

そして海でもあるまいに、リヴァイアサンがいるわけねえだろうが!

 

「…俺帰る!こんな森の中に住めるわけねえ!!」

 

だよね!

 

「駄目、もう遅い♪」

 

楽しそうだな。奏女様め、意地の悪い笑みを浮かべてらっしゃる…

 

「というかどうやって帰るつもり?」

 

「は?!そんなもん歩いてりゃそのうち森から出れんだからなんとかなんだろ!」

 

無理無理…諦めな

今の俺でも森から出るのは、単騎駆けじゃ1週間はかかるね

 

「無理だよ、その前に間違いなくあんたは死ぬ。ここはね、魔の森と呼ばれる全次元でもトップクラスの危険地帯だ。分かりやすく言うとね、ここは魔獣や魔龍の巣窟なんだ。ここは森の最奥、中心だよ。当然生息してる魔獣共の力は桁違いだ。黙って私の傍に居た方が安全だよ?一応ここら一帯は私の結界が張ってあるから魔獣共は入って来れないしね」

 

…そう、何の因果か、ここは魔界。我等がメルフェレス魔界の立ち入り禁止区域、最上級危険地帯、魔の森

魔王すら足を踏み入れたがらないガチの危険地帯

今更だが、俺、昔この魔界に来てたのな…

 

「…ウソだろ…」

 

「嘘じゃないね」

 

事実です、諦めろ

 

「そう言えばあんたを弟子に取ったのに自己紹介がまだだったね。これから二人で住むのに大事な事を忘れてたよ、ごめんごめん」

 

「俺はまだあんたに弟子入りするなんて言ってないぞ!」

 

言うだけ無駄無駄、諦めろ

 

「私は琥牙奏女太刀乃神。斬式夢幻流と天破狂奏流の継承者だよ。あんたに教えるのは天破狂奏流の方かなぁ、斬式は強力だが危険だからね。大丈夫大丈夫!私が手取り足取り、優しく厳しく鍛えてあげるよ。ちなみにまだ若い綺麗なお姉さんだ、ババア呼ばわりしたら殺す」

 

嘘つき!優しく厳しくじゃなくて、厳しく、時に厳しく、ひたすら厳しく鍛えたじゃないか!優しさなんてなかった!

いや待てよ?死なないように加減してくれてたし、強力な魔獣共を狩る時は奏女様がメインで、俺はサポートだから優しさもあったのか?

……んなわけあるか!!優しさなんて欠片もねえわ!!

しかも若いだと?!オオボラもいいとこだ!!クソババアじゃねえか!!若えのは見た目だけだろ!!この見た目詐欺!おっぱいお化け!

自分で綺麗なお姉さんとか言ってんじゃねえよ!事実でも少しは謙遜しろ!クソババア!おっぱいお化け!

殺すとか!ガチ目の殺気飛ばすとか!子供相手にムキになるなよ!短気!寛容な心を持て!そのおっぱいの如く大きな慈愛を持て!!

 

「人の話聞けよ!!」

 

無駄無駄、人の話なんざ聞かないからね

唯我独尊、我が道を往くとは奏女様のためにこそある言葉だね

 

「で?あんたの名前は?好きな食べ物も教えな。後好きな遊び、運動、なんでもいいから、とにかく好きなもん教えな」

 

「……瑞稀」

 

おい、自己紹介はそれだけか?もうちょいあるだろ!?

しかもわざわざ奏女様が話振ってたろ!素直に答えろ!知らんぞ!奏女様は短気だからすぐにキレるぞ!お前は本当に可愛げが無いな!!誰だ?!このクソガキ!

俺だ!!

 

「…じゃあ瑞稀、好きなものは?教えろって言っただろうが」

 

ほら見ろ!もうキレてる!

 

「なんで教えなきゃいけないんだよ!だいたいなんなんだよ!いきなり現れて弟子にするとか!一緒に住むとか!意味分かんねえんだよ!」

 

「…そうだね、流石に急すぎたね。しかし呆れた、徹平は何も瑞稀に説明してないんだね…」

 

されてません、あのジジイはボケが進行してるので、説明してない事すら忘れてるんですきっと

 

「取り敢えず私が何で瑞稀を弟子にして、何でこの森で二人きりで住む必要があるのかを説明するわね?」

 

こうして落ち着いてる時は滅茶苦茶美人なんだけどな

如何せん口は悪い、短気、気性が荒い上に我が凄まじく強い

残念過ぎる…!

 

「まず私は瑞稀のおじいちゃん、徹平に瑞稀を鍛えてくれと頼まれたの。そして私はそれを引き受けた。ちなみに何で私に頼んだのかは、私の口からは言えない。ごめんね」

 

「…なんで引き受けたんだよ?」

 

「貴方を放っておけなかったからかな。瑞稀はさ、鬼崎が、世界が憎いんだろう?何よりも怖いんだろ?自分が生きていていいのか分からずに。いや、答えなくていい。貴方の眼が全て語ってくれた」

 

…流石としか言えないな…

眼を見ただけで見抜くか

まあ、この頃はガキだから隠す事を知らなかったからな

 

「…なにが言いたいんだよ…俺は…!鬼崎に全て奪われた!あんたになにがわかんだよ!!分かったような事言ってんじゃねえ!!だいたい…!俺がなにをしようが…!どこで死のうがあんたには関係ないだろ!!」

 

おい、やめろ

お前こそ知った口を叩くな

 

「…そうだね。ごめんね、分かったような事言って…本当にごめん…」

 

奏女様が哀しんでいる

他でもない、幼く未熟な俺の言葉で

…悔恨、罪悪感で血の気が引く思いだ…

 

「でも、だからこそ。これから貴方を知りたい。私は貴方の理解者に成りたい。貴方に私を知ってほしい。私の理解者に成ってほしいと思ってる。そして教えてあげたいんだ、知ってほしいんだ。世界は決して醜いだけではない事を、怨嗟だけでは視えない世界を。この世に癒えぬ怨嗟は決して無い事を。何よりも生きる事の喜びを、尊さを、素晴らしさを。愛される喜びを、愛する事の喜びを、想いが繋がるぬくもりを」

 

…ああ…そうだ

俺はここで本当の意味で人に成り…貴女の死と共に人として死に、()()()()()

 

「なにを…言ってんだ…わけがわかんねえよ…」

 

そうだろうさ、お前は今は人に非ず、怨嗟を抱え叫ぶだけの獣なのだから

真正面から叩き付けられる人の情を理解出来るわけもない

 

「今は解らなくていいんだ。そのために私がいる。そのためにここで暮らすんだ。私は貴方と共に在り、愛を説く。私の全てを貴方に託すために、貴方を育てる、人として」

 

貴女がいたから俺は、俺で在れた

あまねく理の頂点に君臨せし無双の神よ、無限の愛で俺を導いた女神よ

貴女に全身全霊の感謝を、そして謝罪を

貴女のおかげで俺は…本当に幸せだった。貴女と俺だけで完結された、二人だけの世界。本当に幸せだったんだ

そして貴女を奪われ、嘆きに沈む俺を救い上げてくれた妻達。彼女達のためならば、この命、捧げる事を厭わない程に愛おしい

けれども…それでも俺は…

怨嗟を捨てれなかった…

貴女を奪われた怒りを捨てれなかった…!

結果貴女が俺のために施した封印を、俺自身の手で解いてしまった…!

貴女は最期に俺に強く在れと…!なのに俺は…!!

自らの怨嗟にすら屈してしまう…!!

 

「もう怯えなくていいんだ。大丈夫、瑞稀には私がいる。世界が貴方を否定すると言うのなら、私が護ろう。世界が貴方にぬくもりを与えないと言うのなら、私が抱き締めよう。世界が貴方を愛さないと言うのなら、私が愛そう。私はいつまでも瑞稀の味方だよ」

 

そう言って奏女様は俺を抱き締めた

俺は…与えられたぬくもりに…ただただ奏女様の柔らかなぬくもりに抱かれて…生まれて初めて声を上げて泣き続けた。まるで産声を上げるかの如く

 

 




魔王のキャラ崩壊が進んでいる!
実際は素の彼を出す機会がなかっただけなんですけどね

そして奏女様の無限の包容力が発動しました!
瑞稀、陥落!


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安らぎの日常

はっちゃけ続ける魔王
止まらぬキャラ崩壊



「かなめ様ーメシまだー?」

 

「もうちょい」

 

「ねえまだー?」

 

「もうちょいだから待って」

 

「おれ腹へった。まだー?」

 

「だから!もうちょいだから待てって言ってんだろうが!!」

 

実に平和だ

おそらく奏女様との修行の日々が一年くらい経った頃だな、これ

 

この頃の俺は完全に奏女様に懐きまくり、甘えたい放題

時折こうして奏女様を怒らせ楽しんでいる

奏女様も変な遠慮がなくなり、言う事聞かなきゃキレる、殴る、蹴ると凄まじい。あ!それ最初からだ!

虐待だろ!!DVだろ!!訴えるぞ!?

でもまあ、それで怪我をした事は一度たりとて無い

今なら分かる。あれは絶妙な力加減で痛みだけを与えている!大変無駄な技術だな!

 

「ほれ飯!食ったら風呂入って寝ろ!明日も日の出と同時に訓練開始だからね!」

 

今日の飯は奏女様が狩ったドラゴンの肉か

風呂は奏女様が無いと辛いと泣き喚き、二人で穴掘って石磨いて敷き詰めて作り、奏女様が魔法で水出して炎で沸かしている。仕切り1つ無い露天風呂である

…とても見たい!覗きたい!!しかし俺は子供ながらに理解していた。覗いたら間違いなく眼を抉られる!なので覗いた事は無い…

 

「訓練て言ったってさー、また型稽古でしょ?どうせなら実戦形式がいいな、おれ」

 

「調子に乗んな、私とやり合うなんざ40年早いわ」

 

具体的だな!?後20年くらいしたら俺、貴女レベルになれんの!?すげえな!

 

「なんで40年なんだよ。ふつう100年とか1000年じゃないの?」

 

だよね!もっと、ツッコミを入れてやれ!

 

「なんとなく?」

 

勘かよ!どうしようもねえな!

 

「まあとにかく実戦形式はまだ早い。今は身体に動きを覚えさせて、理想的な動きを咄嗟に出来る位に落とし込む。それが出来る様になったら、次は魔法だ。折角少しずつ魔力が戻って来てるんだから魔法を使わないのは勿体ない」

 

そう、この頃の俺には魔力があった

おそらく奏女様の魔力の影響で封印の劣化が早まったんだろう

あの頃は分からなかったが、奏女様の魔力はヤバい

多分白龍神王よりも膨大で濃密な魔力を保有している

今の俺が本気でやっても闘いにすらならず一蹴されるだろう

 

「ええ!?そんなの、つまんないよ!おれはさ!天破狂奏流なんかより、かなめ様の斬式夢幻流を教えて欲しいんだよね!」

 

「駄目、教えない」

 

ブーブー、ケチ

とは言えそれも実際道理だ

斬式は以前奏女様が言っていたように、非常に危険な流派だ

記憶を取り戻したからな、奏女様が斬式を使ってたのを覚えてる

おそらくあれは甲縛式魔法の一種なんだろう

 

甲縛式魔法は魔法を放つのではなく、纏う。その性質上、コントロールをミスれば下手すりゃ命を落とす

斬式は基本的に刀に纏わせていたが、あれもミスればおそらく暴発して自分も巻き込まれるだろうな

あんなもん、クソも魔力の扱いを知らねえガキに教えていいもんじゃない

 

「いつも駄目しか言わねえんだよなー。じゃあどうしたら教えてくれるのさ?」

 

「そうだねえ。あんたが本気の私と実戦形式で30分やり合えるようになったら教えてあげる」

 

無理です、勘弁してください

 

「ホント!?嘘じゃないよね!?」

 

嘘であってくれ、本気の奏女様とか…悪夢だよ…

 

「本当に教えてあげるよ。分かったなら頑張りな」

 

「やったー!!かなめ様、おれ頑張る!!」

 

「はいはい…精々頑張んな。実際いつになるか分かったもんじゃないがね」

 

悪夢だ…!

 


 

「ほれどうした!斬撃が軽くなってきたよ!腕で刀を振るからそうなる!もっと腰肩足を使いな!!」

 

「はあ、はあ、くっ!はい!!」

 

かれこれ5時間ぶっ通しでやればガキの体力じゃ追い付かんわ!

見ろよ!もう疲労で腕が軽く痙攣してるだろう!!

少しは加減しろよ!鬼畜!人でなし!残念美女!おっぱいお化け!

 

ちなみに奏女様はサラシで胸を抑えているのでクソも乳揺れを起こさない。無念…!!

 

─そこからさらに3時間後

 

「そこまで!」

 

「もう無理!!疲れた!!」

 

やっとか…8時間ぶっ通しでひたすら型稽古って…

完全に拷問じゃん…

 

「よーし!お疲れさん!明日からはしばらくの間、格闘戦の稽古ね。今日は飯食ったら風呂掃除して、少し休んだら今日の晩飯狩りに行くよー」

 

「はーい」

 

ハードにも程がある…

 

「そう言えばさ、かなめ様。あの真っ赤な炎、もう一回見せてよ!」

 

「駄目。あれはあんたが馬鹿みたいに賢龍なんぞに出会っちまったから使っただけで、本当は使っていい炎じゃないの」

 

「えぇ…けちんぼ…」

 

「ケチで結構」

 

賢龍とはエンシェントドラゴンの事だ

その力は下手すりゃ龍王クラスに匹敵する、伝説級の龍種

普通にエンカウントしていいドラゴンじゃねえぞ…

 

ちなみに奏女様は極大の火柱をおっ立てて灰すら残さず焼き尽くした

あの炎は紅蓮の炎じゃない。最強の炎である紅蓮より、赤く、朱く、どこまでも紅かった。まるで血の様に真っ赤で、とても美しい炎だった

 

同時にアレはあまりにも異質な炎だ

夢か走馬灯かよく分からんが、こうしてあの頃を見てみると奏女様の異常性をよく理解出来る

 

天破狂奏流と言う斬術と魔法と拳打を主とした、理の神の一柱が残したとされる流派を会得、継承

全次元最強と謳われる夢幻流。その派生であり特化型、斬式夢幻流の正当後継者として太刀乃神を名乗る

それらを臨機応変に扱い日本刀による斬術と、徒手空拳での格闘戦を行える応用力と機転、十全以上に使いこなす身体能力

炎と風の広範囲攻撃、強力な結界、有り得ないレベルの自己強化、ロストミスティック(失伝魔法)と思われる歌声、斬式による超高威力の魔法剣など、魔法技術も抜きん出ている

何よりも超高密度で莫大な量を誇る保有魔力と魔素

そして正体不明の炎。おそらくあの炎は大気中の魔素と対象の魔素を浸食、喰らう事で火力が跳ね上がると思われる。

 

過去、現在、そして未来含めて史上最強と謳われる戦神、討伐神。その名はあらゆる伝承にて語られる

 

曰く、こことは違う次元と戦争になり、たった一人で相手の次元を、跡形も無く焼き尽くし滅ぼした

曰く、最悪の厄災、二覇龍が全次元を滅ぼしかけるが、神界に被害は無く、天界、人界、霊界、魔界、聖界の被害が軽微だった理由は、彼女がたった一人で二覇龍を退けたから

曰く、あまりの強さに原初の神たる理の神さえ、彼女には関わりたくなかった

 

─曰く、その炎は血の流れよりなお紅く、あまねく全てを焼き尽くす滅びの(ほむら)。その斬撃はあまねく因果を断ち斬り、焔を纏わせ放てばあらゆる理すら絶つ。その美貌はあらゆる生命を魅了し、されど何人たりとて触れる事は許されぬ至高の頂きであり、あまねく生命の母たる創造神の似姿。しかし、彼女の真実の姿は人に非ず、真紅に染まる巨大な龍なのだと伝承で記されている

 

誇張されているものもあるだろうが、これほどの力、真っ当な生き物が持てる筈がない

奏女様…貴女はいったい何者なんだ…

 


 

奏女様が何者なのか?確かにそれは大変気になる事柄である

 

「さぁて。飯も食った、風呂も入った。よし!寝るぞ!」

 

しかし今はそんな事はどうでもいい

 

「う、うん。寝る…」

 

そんな事より今は!

 

「なにやってんだい?はよこっちおいで。寝るぞ?」

 

今は!目の前の素晴らしきおっぱいから目が離せねえ!!!

このクソガキ!!そこ代われ!!毎晩毎晩奏女様の腕枕で寝てんじゃねえよ!!目の前にあのおっぱいがあるとかどんなご褒美だよ!!羨ましいわ!!

てかこのガキ俺だ!!!

おい!俺!ガキのクセに一丁前に照れてんじゃねえよ!!そこは、かなめ様おれさびしい…とか言って抱きつくなり、おっぱい揉むなりしろや!!!今の俺ならするぞ!!絶対するね!!!

 

 




瑞稀の本音はただの変態




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師から弟子へ繋がる矜持、散り逝く安らぎ


今回で瑞稀の過去編、終了です
基本的には今まで回想だので出ていたものに少し手を加えただけの手抜きで申し訳ない


「ねえ、瑞稀。あんたの力は何のためにあると思う?何故貴方には力があるのだろうね?」

 

「さぁ?分かんないね。でもおれにとって力は鬼崎や周りから自分を守るためのモンだよ」

 

確かにそうだ。かつての俺はそうだった

 

物心ついた時には、鬼崎や世間から、魔力を持たぬ出来損ないと迫害されていた

物心ついた時には、ぬくもりを、愛情を、人を人足らしめる情を教える親は居なかった

 

そんな俺にとって力は、周りから自分を守るための手段でしかなかった

俺を…俺として認めぬ世界を壊すための手段でしかなかった

 

「確かにそれも1つの答えだろうさね。でもね瑞稀、力とは自分だけを守るものじゃない。自分の大切な人を守るためにこそ、振るうべきなんだよ。覚えておきな。力ある者には、力なき者を護る義務があるんだ」

 

覇気に溢れ、それでいて諭す様な優しさに満ちた言葉

今の俺を俺足らしめる矜持、誇り、信念

全て、この人から教わり、与えられた

獣ではなく人として、王としての生き様だ

 

「…よくわかんない…なんで強いからって弱いヤツをまもらないとダメなんだよ…」

 

「…誰もが好きで弱いのではなく、弱きに甘んじるしかない者も少なからず存在するのさ。そんな者達を護れるのは力ある強き者だけなんだ」

 

そうだ、その通りだ

誰もが強く在りたいと願う。それでも強くなれぬ者の方が多い

肉体的に強く在りたい、精神的に強く在りたい、誰もが願う

それでもそう在れるのは一部でしかない。様々な理由でどう足掻いても強くなれぬ者は存在する

 

「強いから、力があるから絶対にまもらないとダメなの?」

 

「そうだよ。望む望まぬは別として、貴方には凄い力が眠ってる。その力は必ず貴方の大切な人を護るための力になるのよ。全てを護れとは言わない、それは無理な話だからね。でもせめて自分の大切な人や、貴方を必要とする人のためにその力を振るいなさい」

 

…本当に貴女は善き師だ。貴女の教えがあったればこそ、俺は魔王として民を護れた

 

「…やっぱりわかんない。だって他人なんて自分達が理解出来ないモノ、自分達と違うモノ、自分達よりも劣っているモノにはどこまでも冷酷で、残酷で、慈悲なんて無く迫害するんだ!全部ヤツらがおれにやった事だ!やり返して何が悪いのさ!?おれにとって大切なのは爺さんと婆さんと唯とかなめ様だけだ!他のやつらがどうなろうが知ったことか!」

 

なんとも醜い、我ながらこれは酷い

なんたる浅慮、視野狭窄。情けなくて笑いが込み上げてくるわ

 

─だが、今はそれでいい。その想いが彼女を呼び覚ますのだから

 

「今は分からなくてもいい。世界が必ず貴方を受け入れ、貴方を必要する時が来る。いずれあんたにも分かるさ。なにが罪なのか、大切な人達と共に在る世界を護ると言う意味がなんなのか。焦らなくていい、いつか分かるよ」

 

「…急にどうしたの?珍しく真面目なこと言って」

 

「たまにはね。師匠らしいことしないと」

 

終わりの時は近いな…

 

嗚呼、俺はまた…貴女を喪う悲しみを味わうのか…

また何も出来ず、ただ貴女に護られ、見ている事しか出来ないのか…

 


 

原因は単純だった

あの人の力はあまりにも強大すぎた。俺との修行中、ずっと奴に感知されていた

それでも強すぎるが故に奴は魔界に居る事は分かれど約2年もの間、奏女様の正確な居場所を割り出せずにいた

しかし、それでも2年も時間があり、なおかつ奏女様が1ヶ所に留まっていた事も合わせれば、奴が奏女様の居場所を特定するのは当然だったんだ

 

「─!結界が破られた…しかもこの魔力は…天乃のクソガキか…よりにもよって今か…」

 

そう、よりにもよって今。奏女様が俺という足手纏い、お荷物を抱えている今、奴は奏女様を葬るために、ごく少数のロイヤルガードを率いて来た

 

「かなめ様?どうしたの?」

 

「逃げるよ。しっかり付いて来な」

 

「なんだよ、急にどうしたんだよ」

 

「っ!!!瑞稀!!!」

 

木々の合間から呪詛や封印式を込めた矢が襲い掛かる

奏女様は俺を庇い、全ての矢をその身で受け止める

 

何故だ!何故貴女は炎を使わない!?貴女の炎ならその程度、焼き払うのは容易いのに!!

…分かってる。俺が居るから…炎を出せば、そばにいる俺を巻き込みかねかないから出せない…

 

「くそ!!魔力封じの封印、呪詛か!!」

 

「かなめ様!?」

 

そこからの奏女様の行動は素早かった

状況を理解出来ず、戸惑う俺を抱え森の中を駆けていく

木々の合間を縫い、決して抱きかかえた幼い俺を離すまいと、奏女様が駆けていく様は一層美しくさえあった

 

「決して逃がすな。別動隊と連携、囲いに誘導し追い詰めよ」

 

「はっ!!」

 

憎き天乃の声が聞こえた

それだけでハラワタが煮えくり返りそうな程の怒りが沸く

俺自身がこの過去に干渉出来たなら…奴の喉元に喰らい付き、確実に噛み砕いてやるものを…

嗚呼、なんと口惜しい…目の前に奴らが居るのに喰ラいツク事すらでキなイ

 

「…くそ…!誘導されてる。せめて瑞稀だけでも…」

 

「かなめ様!前から7人、左と後ろから10人ずつ来てる!」

 

!!魔力感知が鋭敏化されはじめた。彼女が目覚めはじめたか…

 

(っ!凛音の魔素!まずい、目覚めかけてる!駄目!凛音、お願い。この子を連れていかないで…!)

 

「仕方ない。瑞稀、逃げなさい!奴等の狙いは私だ!!あんたは私をおいて逃げて!!」

 

「嫌だ!!かなめ様をおいて逃げるなんて、出来ないよ!!おれだって戦える!!おれだって奏女様の弟子だ!!」

 

「馬鹿を言うんじゃないよ!!あんたみたいな餓鬼にどうこう出来る相手じゃない!!私に庇われてた分際が、偉そうにほざくんじゃないよ!!あんたを護りながら戦う余裕はもうない。魔力が上手く放出出来なくなってきた…お願いだから…貴方だけでも逃げて…お願いだから…貴方だけでも…生きて…」

 

あア、この時の俺ニちカらがあれば、ヤツラをミナゴロシにしてヤれるのに…!

 

奏女様と俺が言い合っている間に奴らに追い付かれ、木々の合間から呪詛や封印式を込めた矢が再び襲い掛かる

 

「瑞稀!!」

 

奏女様が俺を庇い、抱き締める

矢は悉く奏女様の背中に突き立てられ、奏女様は地に伏し、瀕死の重症を負ってしまった

 

…俺が弱いせいで…

 

「かなめ様!嫌だ…おれをおいていかないで!立って!一緒に逃げよう!?」

 

幼い俺の悲痛な叫びが森に木霊し、奏女様は刀を杖代わりにして、立ち上がる

 

お願いだ…もう立たないで… 

 

「…私が…護る…この子をあんた達なんかに傷付けさせやしない…」

 

全身から血を流し、血塗れになりながらも、必死に立ち塞がる奏女様

泣きながら奏女様にすがり付く幼い俺

 

何故、俺はまた見ている事しか出来ないのか…

魔王になり、力を付けたのに奴らから貴女を護る事すら出来ない…

 

「…あんた達が殺したいのは、私だろ…この子は関係ない…この子に手を出すな…」

 

「そうはいかない。確かに我々が殺したいのは貴女だ。だが彼は貴女の弟子だろ?我々にとって貴女の弟子だというだけで彼は十分危険だ。ここで一緒に死んで貰う」

 

天乃…!

忌々しい…!今すぐその喉元に喰らい付き、噛み砕いてやりたい…!

 

「それは…ロンギヌスの槍…私を封印するつもりか…」

 

「そうだ。貴女は殺しても時が経てば蘇る事すら出来るだろ?ならば封印するしかない。いくら貴女でもロンギヌスならば封印出来るはずだ」

 

やめろ!やめてくれ!!

 

「さらばだ。遍く厄災を焼き尽くした無双の神よ」

 

やめろおおおぉ!!!

 

「ごめんね瑞稀、約束守れなくて。どうか私の教えを忘れないで。強く生きなさい。自分の力に溺れる事なく、大切なものを護るために、力をふるいなさい。憎しみに囚われるなとは言わない。でもそれが全てと思わないで。強く在れ、瑞稀。私は…ずっと…貴方を愛している」

 

笑顔を浮かべたまま、奏女様は動かなくなった

何が起きたか、幼い俺は理解出来ない

 

歩み寄り、触れた

冷たい。いつも温もりを与えてくれた熱はなく、少しずつ冷たくなっていく

 

「かなめ様…起きてよ…」

 

揺さぶり、声をかける

返事はない。いつも安らぎを与えてくれた柔らかな声はなく、沈黙だけが答える

 

抱き締める

少しの温もりが奏女様から逃げない様に

 

しかし、少しずつ理解していく

奏女様は死んだのだ

 

彼女が与えてくれた温もりも、安らぎも、もうない

奴等が殺した

 

俺から大切な奏女様を奪った天乃が再び目の前にいる

コろシやる…もう一度、コロシテヤル!!!

 

(お前の怨嗟、確かに聞き届けたぞ。奴等を殺せ!!あの人を殺した奴等を殺し尽くせ!!さあ、謳え!!私の怨嗟を!!お前自身の怨嗟を!!)

 

凛音の声が聞こえた

幼い俺と凛音の声が重なり覇を謳う

 

「「我に宿りし救われぬ白龍よ!

怒りのまま解き放て!!

 

我が内に眠りし銀光の白龍よ!

再び天へと君臨せよ!!

 

全界を創造せし神々よ!

我を封じた理の神々よ!

汝等に封じられし我が真の力を思い出せ!!

 

汝等、我が銀幽たる雷にて滅せよ!!」」

 

「「愚かなものなり、理の神よ!!!!」」

 

「「完全覇龍化(ブレイカブルジャガーノートフルドライブ)!!!!!」」

 

「まさかこれは…!?白龍神王か!!おのれ!討伐神め!!とんでもない置き土産を置いて逝きおって!!」

 

アまネく神々よ、悉く滅セヨ

俺カラ最愛のヒトをうばッタ罪をツグナエ

 

「─駄目。凛音、その子を返しなさい」

 

「─!!!」

 

奏女様の紅い炎が巨大な刀身となり、我が身を貫く

そしてその刃は封印式となり、白龍神王を抑え込み俺の自我を取り戻させる

俺自身すら…また覇の理に呑まれかけていたのか…

なんとも情けない限りだ…

未だにあの人に助けられるとはな…

 

「凛音、その子は私の大切な人だ。手を出すんじゃない」

 

『やれやれ、分かったよ。こいつが私の力を求めない限り覇龍化はしないと約束する。姐さんも私の封印に力を使っちまって自分の封印を振り解くことも出来ないだろうし、取り敢えずこの場を切り抜ける程度で今回はまた寝るさ』

 

凛音は遥か上空にまで羽ばたき一気に加速、その場を離脱した

そうか、俺はあの時、凛音に助けられたのか

そして人界に帰還したというわけか

 

「凛音…頼んだよ………」

 

「…ちっ…白龍神王には逃げられたか。まあ、よい。討伐神を封印出来たのだ。最優先の目的は果たせた。どちらにせよ、あのまま戦えば全滅は免れまい…」

 

天乃、貴様はこの時、俺を追うべきだったんだ。そうすれば俺を殺せたのに

詰めが甘かったせいで、結局貴様は俺に殺されるんだからな

 

『そうだな、天乃はあの時、私達を殺すべきだった。人界に着いた時には私も残りの力を使い果たし、眠りについたしな』

 

凛音か。これは夢なのか?それとも末期の走馬灯か?

 

『夢さ。お前は死んじゃいないよ。天乃との戦いで覇に呑まれかけ、今お前は瀕死ではあるが生きている。回復も進んでる。良い機会だからな、お前が封印されていた過去の記憶を夢として、私が見せたのさ。これからのお前にはおそらく必要な事だからな』

 

そうか。ありがとう、凛音。俺に大切なあの人との記憶を見せてくれて

夢とはいえ、奏女様の顔を見れて、声を聞けて、ぬくもりを感じられて、嬉しかったよ

 

『なら良かった。これからお前は私の力を制御出来るようにならなきゃいけない。そのためには力を付け、何よりも決して覇の理に呑まれぬ覚悟と強い意思が必要だ。姐さんが教え、お前が受け継いだ矜持と王としての覚悟で乗り越えて見せてくれ。私も永い間、宿主を転々とするのにも疲れた。そろそろ腰を落ち着けたい。だから死んでくれるなよ?』

 

ああ、俺は死なん。あの人に助けられたんだ、早々に死ねんさ

絶対に覇龍の力をものにしてみせる

 

『その意気だ。私も出来る限り協力するさ。逝っちまった姐さんのためにもな』

 

ああ、世界に魅せ付けてやろう。あの人が残した俺という残り火を

 

俺は王として誓う

焼き尽くそう。この世のあらゆる全悪を

護り切ろう。俺を必要とする全ての民を

君臨しよう。あまねく理の頂点に

在り続けよう。誰よりも誇り高き王として

 

燃え尽き、灰に成ってしまった…あの安らぎの日々を無に帰さぬために…

 





白龍神王、凛音と本格的に意志疎通が出来る様になりました!
やったね!これでパワーアップは確実だね!


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告げられる出来事、王の目覚め

大変お待たせしました




「バロム様、単刀直入に聞きます。瑞稀様が絶対神戦で使った力はなんなんですか」

 

瑞稀の妻達が険しい目付きでバロムに詰め寄る

 

プラエトーリウム・ソムヌスにて瑞稀の回復の目処が立ち、瑞稀の妻達を代表し、瑞稀が使用した力を知っているであろうバロムにワルキューレが問う

 

「本当に単刀直入ですね。正直私にも何が何だかさっぱりで─」

 

「冗談はやめて下さい。貴方は、貴方方3人はあの力を知っている。そうですよね?バロム様、刻龍様、斬鉄様。戦いの後、瑞稀様を運ぶ際、貴方方3人が深刻な顔で話しているのを目撃した人がいます。何か心当たりがあるようですが?」

 

ワルキューレが殺気すら滲ませ、バロムだけでなく、刻龍、斬鉄の2人にも問う

 

「……」

 

「えーと…それは~…」

 

「…はぁ…」

 

刻龍は黙り、斬鉄は明らかに動揺を示す

そんな2人を見てワルキューレ達は更に怒気を増させる

そんな状況にもう誤魔化しが効かないとバロムは判断する

 

「…分かりました。お話します」

 

「バロムさん、しかし今は!」

 

「そうだ!まだ早い!」

 

刻龍と斬鉄がバロムを制止しようとするが、バロムは普段のおちゃらけた雰囲気は微塵も見せず、真剣そのものだった

 

「目覚めてしまったものは仕方ない。むしろ奥方達に説明しないのは道理が通らない。おそらく既に瑞稀様は深層意識内で白龍神王とある程度繋がってしまった。再封印は現実的じゃない。何より暴走してはもう今の我々では止められない。ならば奥方達には説明し、暴走のリスクを最小にするべきだ」

 

バロムの剣幕にその場の誰もが気圧された

それほどまでに事態は深刻なのだと告げる様に、バロムは重苦しい程の真剣さを見せた

 

「さて、順に説明しましょう。まずあの力は覇龍化(ジャガーノートドライブ)と呼称されるものです。その身にドラゴンの力を宿す者が使う、ある種の覚醒状態です」

 

「ドラゴン?みーちゃんにドラゴンの力が?」

 

「あります。とんでもないドラゴンが瑞稀様に宿っています。そのドラゴンの名は、真なる白龍神王マナスヴェイン。二覇龍、と呼称される、全次元史上最悪のドラゴンの片割れです」

 

「二覇龍?!あの全ての世界を滅亡一歩手前まで追い込んだって言われてる、お伽話に出てくる、あの二覇龍ですか?!実在していたなんて…!」

 

ワルキューレが信じられないとばかりに声を荒げる

 

「実在したんです。他者の魔素核の最奥、深層魔素に封印され、現代に至るまで宿主を替えながら存在し続けている。そして瑞稀様は今代の宿主なんです」

 

瑞稀が史上最悪のドラゴン

先の戦いで瑞稀が使った覇龍化が、信じがたいバロムの発言を真実なのだと証明している

 

「二覇龍は通常、休眠状態にあり、宿主に与える影響は非常に少ない。しかしなにかのきっかけで目覚めた場合、最終的に宿主の意識を喰らい尽くし復活。二覇龍同士で争い、その都度、とある人物に討伐されてきました。まあ今はこの話は割愛します。とにかく瑞稀様が先の戦いで使った力は白龍神王の覇龍化です。魔素核が傷付いてしまったのは、その力を抑え切れず暴走したからでしょうね」

 

「…意識を喰らい尽くすとは具体的にどのような状態になるのですか?」

 

「言葉通り、瑞稀様としての意識、魂が白龍神王に乗っ取られます。正確に言うなら瑞稀様の魔素核が白龍神王の魔素核に書き換えられ、瑞稀様という存在は完全に消失します。即ち、瑞稀様を生贄とし、白龍神王の完全復活を意味します」

 

「…そんな…防ぐ方法はないんですか?」

 

「魔素核への浸食が始まれば止める事は出来ません。瑞稀様の存在を繋ぎ止めるという意味なら、白龍神王が瑞稀様を喰らい尽くす前に、瑞稀様を殺す事くらいです。そうすれば瑞稀様は瑞稀様のまま死ねます。しかしその前に白龍神王が完全復活してしまえば、瑞稀様という存在は消失し、再び世界は滅亡の危機に晒されるでしょう」

 

バロムの説明に全員が絶望する

目覚めれば瑞稀は消え、世界が滅ぶかもしれない

 

おそらく瑞稀自身、こんな事は望まない。基本的にお人好しで、自分より民の幸せを願う王。魔王として敵対者には冷酷非情になるが、決して非道でも、残酷でもない。

 

「世界が滅ぶ事は瑞稀様自身、望む事では無いでしょう。いっそ、その前に─」

 

「その前に、なんだ?バロム、お前が俺を殺すか?」

 

「そうです。望まぬ滅びを背負わせるなら私が──はい?」

 

「?」

 

バロムと瑞稀の目が合い、そこで皆が瑞稀の存在に気付いた

 

何を驚いているだ?こいつはお馬鹿さんなのかな?と言いたげな瑞稀の顔がムカつく

 

「瑞稀様!?目を覚まされたのですね!良かった!本当に…良かった…このまま目を覚まさないかと…ずっと不安で…!」

 

安堵のあまり、泣き崩れるワルキューレを抱き止める瑞稀

もう離さないと言うようにワルキューレは、瑞稀に抱きつき、静かに涙を流す

 

「ワルキューレ、すまん。いらぬ心労をかけた。もう大丈夫だよ。こんな綺麗な女をほったらかして、死ねぬよ。どこにも行かない。傍に居るよ、もう大丈夫だから」

 

「はい…!どこにも行かないで…傍に居て下さい…!もう…置いていかないで…」

 

優しくワルキューレを宥める瑞稀に刺客が迫る─!

 

「み゛~ぢゃ~ん!よ゛がっだよ~!じんばいさせんなよ~!」

 

涙と鼻水と涎で顔ぐちゃぐちゃの唯が両手を広げ、飛び掛かる!

 

「心配かけたな、唯。すまんな。でも泣きすぎ。涙と鼻水と涎で顔ぐちゃぐちゃだぞ。人に見せられる顔では無いぞ。はっきり言って汚い。顔拭け。おい!その顔で俺に寄るな!汚い!鼻水!涎!付く!拭け!まずは顔を拭け!!」

 

唯を抑えながら、叫ぶ瑞稀。いつも通りである

 

そこからは抑えが効かなくなった皆が、泣きながら雪崩れ込む

 

「ダーさんのバカ!心配させ過ぎよ!いくらなんでも自愛を持ってよ!!」

 

ルーシアが抱き付き

 

「瑞稀さん、もう大丈夫なんですか?!暫くは絶対安静ですからね?!」

 

「まあ、確かに信じてはいましたがね。でも暫くの間は大人しく休んでもらいましょう」

 

真央、火皿が案じ

 

「瑞稀さんがあの程度で死ぬわけないじゃない!なんたって瑞稀さんは最強なんだから!」

 

「そうだ!瑞稀は余の夫だからな!最強なのだ!故に心配などする必要は無かったな!」

 

ハル、ロザリンドがはしゃぎ

 

「未だ目覚めたばかりなんだぞ、油断は出来ん。が、ひとまずは安心、といったところか」

 

マリーが安堵する

 

「…信じられん!覇龍化であれほど弱っていたのに…!もうお目覚めになるとは…なんという頑強さ…!」

 

バロムは想定を超える瑞稀の魔素の頑丈さに驚きを隠せない

 

「あの御方の力は我々の想定を越えていた…ということですね。私としては喜ばしい誤算ですがね。とにかくよかった…本当によかった」

 

「だんな~!よかった~!!」

 

刻龍、斬鉄は純粋に瑞稀の目覚めを喜ぶ

 

「マスター、お帰りなさいませ。御帰還をお待ちしておりました」

 

夜宵が寄り添う

 

「おい!誰か助けろ!!病み上がりに唯の馬鹿力はヤバい!!というかどいつもこいつも離れろ!目は覚めたが病み上がりだ!怪我人だぞ!いや病人か?とにかく痛いから!ホントに痛いから!!後ずっと寝てたから腹減ったし飯食わせろ!!煙草も吸いてぇんだよ!!だから頼む!!離れろ!!!」

 

瑞稀の目覚めの報せは瞬く間に魔界中に知れ渡る

 

民は歓びを謳う

 

「瑞稀様が目を覚ましたらしいぞ!!今日はめでたい日だ!!王の目覚めだ!!」

 

「やったー!!我らの英雄の、偉大な王が目覚めたぞ!!!」

 

敵対者は怨嗟を謳う

 

「口惜しい!!狂嵐め!目覚めやがった!!」

 

「銀狼共め!どこに奴を隠してやがった!!見付け出してトドメを刺してやろうと思ってたのに!!!」

 

ある者は称賛を述べる

 

「へぇ、凛音の力に飲まれなかったか。面白いな。こんなの初めてだ。しかもあの小僧から感じるこの魔力は、姐さんの魔力だ。こりゃ面白く成りそうだ。さて、蛇が出るか、鬼が出るか。いやこの場合は龍が出るか、王が出るか。これが正しいかな。精々愉しむとするかね」

 

そしてある者達は──

 

「我が主よ、先の神界と魔界の大戦で絶対神を屠った白龍神王、狂嵐の魔公子が目覚めた様です」

 

「─そうか。まあ、魔王如きどうでもよい。いくら凛音と言えど儂の下にはたどり着けまいよ。警戒する必要は無い」

 

様々な思惑の中、尚面白いと嗤う者

白龍神王を知り、尚警戒は必要無いと宣う者

 

(はてさて。これからが大変だぞ、瑞稀。私の力を巧く手懐けろよ?さもなくば覇の理はお前を喰らい尽くす事になるぞ。姐さん、これで、良かったんだよな?姐さんに受けたかつての恩は、姐さんが愛したあの子に返すよ。私も出来る限り協力するからさ、あの子を見守ってやってくれよ)

 

かつて受けた恩義に報いるため、深層魔素から見守り続けた瑞稀の、力と成ると誓う白龍神王、凛音

 

そして──

 

(ふむ、白龍神王の力を得る。此度は回り道が好きだな。それもまた、一興か。歩みは遅く、道程は未だ遠い。滅びは遥か先。裁定の時は今ではない。だが、そう遠くはあるまい。龍が滅ぼすが先か、自ずと滅ぶが先か。はたまた、此度こそは終焉へと至るのか。微睡みながら待つとしよう)

 

深層魔素、その更に奥底、微睡みに揺蕩う者も目覚めが少しずつ、少しずつ、近付いている

 



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神か、魔か。揺れる王

 

「新しい絶対神の就任が決まったそうです」

 

瑞稀が神々を討ち倒し、戦争で負った傷も癒え、戦後処理や内政にあくせくし始めた頃、神界の新たな絶対神が決まったと、瑞稀のもとにバロムから報告が届く

 

「そうか。心底どうでもいい。魔界に害が無いならそれで良し。あるなら殺す。それだけだ」

 

「それがですね、新しい絶対神、女神でかなりの美人らしいんですよ!しかも巨乳!!興味ないですか?私は興味津々です!」

 

女性、美人、巨乳

それだけでバロムは大興奮、変態である

ちなみに瑞稀も多少興味を示す。瑞稀もまた、変態である

 

大戦で死にかけ、夢の中でかつての記憶を取り戻した瑞稀は、色々とはっちゃけてしまい、大の巨乳好きという性癖をまったく隠さなくなり、むしろ積極的に見せるようになっていた

つまる所、むっつりがオープンエロになったのだ

 

「……興味はある。だがそれがどうした?相手は絶対神、俺達は魔族。関わり合いになることなぞない。あるとしたら戦場、敵同士だ。殺し合いになるしかない。まあ…一目拝みたくはあるがな」

 

「それがですね、その新たな絶対神が近々魔界に来るらしいんですよ!」

 

「はあ?絶対神が魔界に来る?なんで?また戦か?」

 

「貴方に会いに来るのよ!瑞稀!ちなみに絶対神じゃなくて代行ね!絶対神はまだ決まってないんだって!」

 

誰が呼んだか、ドアをすごい勢いで開けメルフェレス様が現れる

騒ぎが起こりそうな所にこの人は大抵現れる

 

「俺に?なんでまた。あとメルフェレス様、来るなら来ると言って下さい。ていうか貴女は正真正銘この魔界の王なんですから、ご自身で来ないで御呼び頂ければ、こちらから赴きますから」

 

「いやよ!待てないわ!だって面白そうじゃない!!代行とはいえ絶対神が魔界に来るのよ!それだけでも前代未聞なのに、前任の絶対神を殺した魔王に会いに来るなんて!これは絶対に面白くなるわよ!!ねっ!バロム!」

 

「そうですね。我々は所詮他人事ですからね、ぶっちゃけ面白いです!」

 

楽しそうにハイタッチを交わす二人

瑞稀は溜め息を吐き、こいつらもうやだ、と言いたげに天を仰ぐ

 

そこに続々と瑞稀の妻達も参戦する

 

「でも何のために、わざわざ瑞稀様に会いに?あちらも戦後処理で大変でしょうに」

 

「普通に考えたらみーちゃんに会いに来る用事なんてなくない?だってこいつ魔王よ?神様が魔王に用事なんてないでしょ」

 

「「「「「「確かに」」」」」」

 

ワルキューレと唯の言葉に全員が声を揃えて同意を示す

 

「俺も心当たりなぞある筈もなく、検討もつかないな。何のために来るのやら…あと唯、旦那に向かってこいつとか言わない」

 

「どちらにせよ、面白くなりそうだわ!!」

 

 

 


 

「お目通り感謝致します。はじめまして、この度絶対神代行を任されました、(かがり)と申します。以後、お見知りおき下さい」

 

後日本当に絶対神代行が来た

前任の天乃と違い、物腰柔らかな慈愛に満ちた雰囲気を湛え、微笑みすら浮かべ、女神は謁見の間にて、師誓将や魔王軍に囲まれているにも関わらず、護衛も連れず一人でやってきた

おそらく敵対心が無い事を示すためだろう

 

「いえこちらこそ、この度はわざわざ魔界にご足労下さり、感謝申し上げます。改めまして、序列二位の魔王、狂嵐の魔公子、瑞稀と申します。篝殿、歓迎致します」

 

あくまで魔王として接する瑞稀

辛うじて誤魔化せてはいるが、実際はバロムや魔王軍の野郎連中共々、絶対神代行の容姿に釘付けになっていた

 

背中まで伸びた艶やかな黒髪を、白い布でポニーテールに纏め、下は緋袴、上は金細工の施された水干と呼ばれる和装

優しく垂れた切れ長の瞳、綺麗に通った鼻筋、薄く紅を引かれた艶やかな唇

かなり整った容姿をしている

なにより男達の目を引くのは、体型が隠れてしまう和装を纏って尚、一目で分かってしまう

 

その巨乳である

 

バロムや魔王軍はガン見、瑞稀は平静を装いながらチラ見

魔界の男は皆、ただの変態である

 

「それで早速本題に入らせて貰いますが篝殿、何用で参られたのでしょうか?代行とはいえ絶対神である貴女が、何故魔王である私を?」

 

(瑞稀、まともに女の乳も見れんとは、魔王も大変だな)

 

(凛音うるさい、会話に集中しないとどうしてもおっぱいに目が行くから話しかけんな)

 

(この変態め)

 

心の中で白龍神王、凛音にからかわれながら平静をなんとか装う瑞稀、少しだけ悲しそう…

 

「…瑞稀殿、貴方は何故前任の絶対神を討ったのでしょうか?私はそれが聞きたかったのです。最後の戦い、あの状況ならば討たずとも魔界の勝利は確定していた。聞けば貴方も覇の理の暴走で生死の境をさまよったと聞いています。何故そうまでして天乃を討つ必要があったのでしょうか。貴方が苦しんでまで、自身の命を削ってまで討つ必要があったのでしょうか。何が貴方をそこまで駆り立てたのでしょうか。それをお聞かせ願いたいのです」

 

彼女は真剣そのものだった

何故そうまで痛みを自身に強いるのか

そこまでして天乃を殺さずとも、戦争に勝つだけなら他にも方法はあった

それなのに何故

彼女はそう問おていた

 

瑞稀もまた、彼女の問いに先程まであった浮わついた気持ちを失くし、王として毅然とした態度に変わる

一応王様だから、変態だが切り替えは早いのだ

 

「そんな事ですか。簡単です。奴をあのまま生かしておけば、必ず犠牲が出る。奴がどの様な神か、知らぬわけではありますまい?祈りを捧げる者を救う事も無く、助けを必要とする者を助ける事も無く、そのくせ自身を崇めねば不条理に天災を起こし人々を苦しめ、自身の邪魔だと感じればどの様な汚い手段を取ろうと排除する。その様な神なぞ害悪でしかない。篝殿、私はね、奏女様の、討伐神の弟子だったんですよ」

 

「奏女様の弟子!?そんなだってあの方は天乃に…」

 

「はい。幼い頃、私を庇って目の前で殺されました。奴は師の仇でもある。何より私は奏女様の教えを破りたくなかった。あの人の信念を守りたかった」

 

「奏女様の信念…力有るものには力無き者を護る義務がある…」

 

「そうです。それこそ奴を討った理由であり、あの人から託された私の信念です」

 

その場に集った魔界の者達は皆、誇らしげだった

見たか、新たな絶対神。この方こそ偉大なる我等の王だ

皆がそう思った

 

「なるほど、理解しました。貴方は私が思っていた以上に偉大な王ですね。素晴らしい。それでこそ会いに来た意味もあると言うものです」

 

嬉しそうに笑う篝に瑞稀除く男達は目がハートである

見たか、新たな絶対神。これこそが魔界名物、HENTAI魔族である

 

「そんな貴方に相談があります。実はこちらが本題なのですが、聞いて頂けますか?」

 

「相談?神が魔王に?まあ、貴女は天乃とは違う。単身、魔界にご足労下さったのだ、無下にしません。聞きましょう」

 

「ありがとうございます!ああ!貴方は本当に素晴らしい人ですね!」

 

嬉しそうに笑う篝、目がハートな魔界のHENTAI共

ちなみに瑞稀も少しだけときめいている、少しだけ

 

(なぁなぁ凛音、この絶対神可愛くない?)

 

(めっちゃ可愛いな。不覚にも私、少し滾ってきたぞ)

 

(お前は女だろうが)

 

民がHENTAIなら王もHENTAIだった

宿主がHENTAIなら白龍神王もHENTAIだった

互いに魔界に影響されたのだろう。そう思いたい

 

「現在神界は、先の戦にて古い神々が討たれ、立て直しが非常に難しい状態にあります。しかも最高神様がこれを機会に、二度と天乃の様な神が出ぬ様にと、裏で悪事を働いていた不貞な者共を大規模粛正し、お恥ずかしい事ですが、殆どの戦神が粛正されるという結果に。それもあり、現在、戦神が機能しない、絶対神選出も出来ぬという状態に」

 

「あー…なるほど。つまり我々のせいで立て直しがきかないと。それで?我等魔界になにか?」

 

篝の発言に一瞬申し訳なさそうな顔をした瑞稀だったが、次の瞬間には逆に剣呑な雰囲気を醸し出す

敗戦国の分際が、戦勝国に責任でも取れと言い出すつもりか。そちらから戦争を仕掛けておいて、支配下に置かれなかっただけ、有り難く思え

言外にそう言いたいのだ

 

「いえ!元はといえば我々神界から始めた戦ですし、戦神の粛正はこちらの内部問題です故、貴方方魔界に非はありません!ただ、それにより有力な絶対神候補が存在しないのです。ですので、瑞稀殿、貴方に…絶対神になって頂きたいのです!!」

 

「は?俺?」

 

「「「ハァァ!?魔王が絶対神?!」」」

 

その場に集う皆が驚愕した

当然だ。過去、一度たりとて魔族が戦神になった事など無い

ましてや瑞稀は、先代絶対神を殺した張本人

本来あり得ない事だ

 

「…理由を問おても?今や瑞稀は魔界の英雄。はいそうですかどうぞ、とは言えない。魔界の民も認めはしない。生半可な理由で渡すわけにはいかない。渡す道理もない」

 

今まで口を挟まず、玉座にて見守っていたメルフェレス様が、微笑みを浮かべながらも、剣呑な雰囲気で問い質す

 

「理由は3つあります。1つ目は彼の人柄です。覇の理を掲げた覇王であるにも関わらず、民を思い、民を護るために戦う。力無き者を護り、力無き者のために政を執り行う。その様な方こそ絶対神になるべきです。2つ目は彼の戦闘力の高さです。驕るわけではありませんが、神界は理を護り、全次元を導くべきです。必然的に強大な力を持つ者を絶対神に据えるべきです。彼が絶対神足り得る力の持ち主であるのは明白です。3つ目は彼の力の危険性です。最高神様は、瑞稀殿が、正確には白龍神王が、いずれ全次元の驚異になりかねない、と考え、絶対神に据え、最高神様御自身の力で、瑞稀殿の暴走を未然に防ぎたい、とお考えの様です」

 

「…なるほど。絶対神に据える以上、瑞稀の人柄の良さも理由だ。と言い訳にし、結局の所、あなた方神は、瑞稀を王としてではなく、白龍神王として、生物兵器として手元に欲しい。もしくは最悪、暴走するなら早々に封印、または抹殺するために手元に置いておきたい、といった所かしら?」

 

未だ微笑みこそ浮かべているが、殺気すら滲ませ、メルフェレス様が篝に問う

 

「そんな!違います!!確かに白龍神王の力は危険だと考えておりますが、最高神様は瑞稀殿は絶対神足り得る器の持ち主であると仰っておりました!!それに、私の個人的な意見ですが、瑞稀殿は今の世界の在り方に疑問を抱いておりますよね?」

 

「…確かに。護られるべき、力無き者が護られず、意味も無く散り逝く今の世界は間違いだと、魔王に成ってからずっと思ってはいます」

 

「ならば!貴方自身が神となり、世界を変えるのです!私はここに来るまでに可能な限り、貴方の事を調べました!だからこそ分かる!!貴方ならば全ての命を護る事が出来る!貴方ならば世界をより良いものに導ける!出来るだけの力と意思がある!!」

 

「─ふざけるなよ。どんな綺麗事を宣った所で、貴様等神が、瑞稀を王ではなく、白龍神王としてしか見ていないのは一目瞭然ではないか!!絶対神足り得る器?全ての命を護る?ふざけるな!!自らの我欲のために瑞稀を裏切り、貶め、魔界に追いやった人間共まで、護れと言うのか!?我等の民を殺し、魔王の誇りを傷付けた天使共まで、護れと言うのか!?瑞稀の恩師を、最愛の人を殺した貴様等神すらを!!護れと言うのか!?自らの感情を捨て去る事が絶対神足り得る器か!?ふざけるな!!!その様な戯れ言、私は魔界の王として、瑞稀の主として、断じて許しはせぬぞ!!!!」

 

玉座から立ち上がり、普段は浮かべている微笑みすら引っ込め、メルフェレス様が叫ぶ

瑞稀を思い、憤怒を撒き散らす

普段は見せない王として激しさ、魔力を惜しみ無く撒き散らす様に、その場に集う全ての者が、押し潰されそうな重圧を感じていた

 

─瑞稀1人を除いて

 

「メルフェレス様、お静まり下さい。その様に恐怖を振り撒くのは、貴女ではなく、他の魔王の役目でしょ?皆が不安がります故、いつもの様にどうか微笑みを絶やす事無き様、お願い致します」

 

この場で最も怒りを覚えているであろう瑞稀の言葉に、メルフェレス様は言葉を失う

穏やかな瞳、微笑みすら浮かべ、瑞稀がメルフェレス様に跪き、諌める

 

「…っ………………ごめん。そうね、瑞稀の言う通りね。篝殿、先程の暴言、深くお詫び致します。皆もすまなかった。魔王のお茶目と笑って許せ」

 

玉座に座り、篝に頭を下げるメルフェレス様

先程までの殺気は嘘の様に無くなっていた

 

「篝殿、申し訳ないが時間を貰いたい。急な話故、俺もすぐには返事は出来ぬ。1週間後に答えを出そう。それで構わぬか?」

 

抑え切れぬ怒り故か、敬語が無くなる瑞稀

瑞稀の瞳が魔力の昂りに影響され、瞳孔が細長くなり、真っ赤になっていた

 

「構いません。むしろこの様な話を最後まで聞いて頂き、感謝致します」

 

早々に話を切り上げる瑞稀

これ以上は危険だ。メルフェレス様がまたいつキレるか分からない

師誓将も怒りを覚えている

自身も怒りを抑えるのが難しくなって来ていた

 

「バロム、篝殿を客間に案内して差し上げろ。"くれぐれ"も失礼の無い様。他の者達にもそう伝えよ」

 

比較的冷静なバロムに篝を任せる

それでも念のため、釘は刺す

二重の意味で釘を刺す

 

決して危害を加えるな、加えさせるな

あと、手を出すなよ。性的な意味で

バロムならあり得る。彼はHENTAIの中でも特級だから

 

「畏まりました。では篝殿、こちらへ」

 

「ありがとうございます。よろしくお願い致します」

 

バロムが先導し、篝を客間に案内する

瑞稀の言葉の意味をしっかりと分かっていた故か、バロムは去り際に瑞稀を怨めしげに見つめる。残念そうに去るのだ

やはりバロムは変態である

 

そして2人が十分離れたのを確認して、メルフェレス様が吼える

 

「マジでありえないんですけど~!!!なにあれ!!魔王に絶対神やれってだけでもありえないのに!!なんなの!あの言い草!!な~にが、貴方自身が神となり世界を変えるのです、よ!!ふざけんなっつうのよ!!偉そうに宣うならてめえがやれや!!な~にが、白龍神王の力が全次元の驚異になりかねない、よ!!分かってるわ!!だから制御するための訓練だってしてるのよ!!な~にが、最高神様自身の力で白龍神王の暴走を未然に防ぐ、よ!!うっせえわ!!出来るわきゃあないでしょ!!出来たら苦労しねえわ!!そんな事、出来るなら理の神々も苦労しなかったしぃー!!1人の力で白龍神王を抑え込めるなら、全次元が滅びかけるわきゃあないでしょ!!なんなの!?アホなの!?アホなのね!?神共はアホしかいないのね!?よし!!滅んじまえ!!その方がきっと世界はうまくまわるわ!!」

 

「どうどう。落ち着いてください」

 

「落ち着けるか!!瑞稀はムカつかないの!?あんな露骨な事言われて!」

 

「ムカつきはしますがね。彼女自身は悪かないでしょうね。おそらく最高神辺りの考えじゃないですか?」

 

「かぁー!!このお人好しは!!どうせあの女が巨乳で美人だからでしょ!!この変態!!!」

 

「…いや、流石に私情は挟みませんよ。バロムと一緒にしないで下さい」

 

メルフェレス様は子供の癇癪の如く怒鳴り続ける

瑞稀にまで八つ当たりしながら地団駄を踏みまくる

瑞稀は怒りを通り越し、疲れを全面に出す

他の師誓将はメルフェレス様のブチギレ様に、怯えている者すらいる

この場に集まった魔王軍に至っては、怯えて気絶する者すら出ていた

 

「…はぁ…もう嫌だ…疲れた…」

 

(世界を変える…か。奏女様、俺はどうしたらいいのでしょうか…)

 

「クソがよぉーー!!!!!!」

 

 




次からは次章です
また間隔空くかなぁ…
申し訳ありません


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誰が為に


前回、今回から次章と言いましたが、あれは嘘です!!

ごめんなさい。計画性がなく本当にごめんなさい



鬱蒼と茂る森の中を、ただ進み続ける

その眼は惑い、覇気もない

しかし、その身からは絶えず力を放ち続ける

力を放ち続けなければ、この森の中でまともに歩く事すら出来ないと知っているから

 

「……」

 

何かを探して、周囲を見渡しながら歩みを進め、見覚えのある場所に出る

懐かしさ、安堵、悔恨。様々な感情が入り乱れる

 

「…ここはあの頃と何も変わっていないな…」

 

ここは魔の森の中央部

かつて瑞稀が師と共に在りし頃の思い出の地

 

絶対神代行・篝から、絶対神への誘いを受けて6日が経ち、明日には答えを出さねばならない

そんな状況でありながら、未だ瑞稀は迷っていた

 

魔王として、魔界を護りたい。彼等の王として、彼等と共に在り、彼等を護る事こそが自分の為すべき事。そう在れかしという魔王としての矜持

 

神と成り、あらゆる理不尽から全てを護りたい。あまねく全てを導き、生きとし生ける者が分け隔てなく幸福を謳う。そんな世界にしたいという理想論

 

瑞稀は答えを出せずにいた

世界を変える理想と、魔王としての矜持の狭間で揺れていた

故に赴いた。自身の原点、自身をここまで導いてくれた師が眠る、この場所に答えを求めたのだ

 

「…何のためか知らんが、結界が張られているな。凛音、お前が張ったのか?」

 

『私じゃないぞ。あの時は、目覚めてすぐに姐さんに封印式をブチ込まれたから、そんな余裕はない。それにこれは時止めの結界だな。姐さんの封印が経年劣化で解けるのを防ぐ為に天乃が張ったのかね?うーん、でもこの結界、失伝魔法(ロストミスティック)なんだよなぁ。あいつが使えるとは思えないな。しっかし、こんな古臭い魔法の使い手が、今の時代に残ってるとはね』

 

時止めの結界とは、その名の通り、結界内の時間経過を止める強力な魔法

強力ではあるが、活躍する場が限られ過ぎて、廃れてしまった失伝魔法(ロストミスティック)と呼ばれる、失われた魔法の1つなのだ

そんな魔法、使い手はかなり限られる

 

「時止め?じゃあまさか、中はあの頃と変わっていない?」

 

『見た感じ、そうだね。おそらく私達が逃げて、すぐ位に張ったんじゃないかな。だとすると中はあの時から止まってる状態だと思う』

 

「…っ…」

 

結界内があの時と同じだとすると、瑞稀の師、琥牙奏女太刀乃神の遺体がそのままという事になる

 

『あの人の遺体を見ることになるが、大丈夫か?辛ければやめてもいいんだぞ?今日1日よく考えればいい事だ。無理をするな』

 

「凛音の言う通りです。マスター、無理せず戻りましょう?」

 

「…いや、行こう。あのまま冷たい地べたに寝かせ続けるのは心が痛い。ちゃんと奏女様を弔わないと。じゃなきゃ叱られる。この恩知らずが!そんな風に育てた覚えはない!てね」

 

凛音と夜宵に心配されながらも、思い出し笑いを浮かべ、瑞稀は意を決して結界を破る

 

王として君臨するか、神と成り導くか

どちらを選ぶにせよ、奏女様を弔い、しっかりと過去の痛みの精算を行わなくては前に進めない

 

「…奏女様を探そう…凛音、案内を頼む」

 

『分かったよ。だが無理だけはするな。あまり精神に負担をかけすぎると、覇の理の暴走を引き起こしかねないからな?』

 

「ああ、理解している。無理はしないよ」

 

瑞稀は凛音の案内を頼りに、1人森の中を進む

 

 


 

「遺体が無いな」

 

『うん、綺麗に遺体だけが無いな』

 

凛音の案内で、かつて天乃により奏女様が封印された場所に着いたが、遺体が無い

時止めにより、当時から変わらず乾いていない大量の血、瑞稀と凛音の暴走で吹き飛ばされた木々

間違いなく場所は合っている

けれども在るべき場所に遺体が無いのだ

 

「ちなみにさ、あれ、なんだと思う?」

 

『真っ赤な炎。火炎球。色こそ似てはいるが、多分姐さんの炎ではないと思う。ただこれ、相当ヤバい火力だぞ』

 

「やっぱりそうだよな。なんなんだ、あれ」

 

本来、ここにはない筈の紅い炎の塊がそこにはあった

時止めの影響か、はたまたそういうものなのか、その炎は周囲を一切焼くことなく燃え続けている

途轍もない魔力を発している事から、魔法なのは間違いないのだが、誰が、何のために、どうやって、この様な場所に魔法を設置したのか、全てが謎なのだ

 

「…とにかく遺体が無いんじゃあ弔いは無理そうだな。あの炎も俺の手に余るし、小屋に行こう」

 

『分かった。まあ、あれだけの炎だ、放置するしかないな』

 

念のため、周囲に被害が及ばぬ様に、瑞稀が炎の周りに結界を何重にも張り、その場を後にする

かつて師と2人で住んでいた小屋へと向かいながら、瑞稀は凛音と奏女様との思い出を語り合った

 

『私とリーベ、ああリーベてのは黒龍神王の事な、二覇龍の片割れ。とにかく私ら二覇龍はさ、餓鬼の頃、奏女姐さんに育ててもらったんだ。まあ5年位の短い間だがね』

 

「へえ…その頃は奏女様は若かったのか?」

 

『そうだなぁ…少なくともお前が知ってる姐さんよりは若かったな、見た目は。中身は何も変わっちゃいなかったがね。いや、少し穏やかになってたかな?』

 

2人が思い出話に花を咲かせる傍ら、人型になった夜宵は、瑞稀の後ろを歩きながら考え事をしていた

 

(…あの炎、まさか彼の?いや、それにしても強力過ぎる。出力は私ですら超えている。彼にそれ程の力は無い。何よりあの子は既に力を失っている。魔力は彼のものに非常に似てはいるが、あまりにも強力過ぎる。では一体誰が…彼の継承者?いや、理由が無い。それに彼の継承者と言えど、あれ程の炎を操れるか?おそらく無理だろう。となると私が知る限りでは、候補は母しかいない。しかし創造神である母は、とうに消えた筈。私との契約の繋がりが消えた以上、それは間違いない。それにマスターの師、琥牙奏女太刀乃神の外見が母に瓜二つであることも気になる。マスターの夢の中で見た限り、性格はまったく似ていないが、外見は似ている。母の胸を少し大きくして、身長を伸ばし、髪を茶色にすれば、見分けは付かない程に似ている。彼女は一体、何者だったのか、あの炎はなんなのか…彼なら知っているかもしれない。あの病的秘密主義者め、追及する必要がありそうですね。)

 

「夜宵?どうした?なにやら苛ついてる様だか」

 

「へ?いえ、何でもありません!苛ついてなんかいませんよ?」

 

『なんだぁ?偉大なる夜宵様は、愛しのマスターを私に取られておこなのかな?ん?おこなの?ねえねえ、おこなの?ヤキモチ妬いちゃったのかなぁ?お姉さんに素直に言ってごらんよ?』

 

「あぁん!?別にヤキモチじゃないですけど!!鬱陶しいんで絡まないでくれます!?あと、私の方が年上ですから!!」

 

『なんだ、ババアか。生娘の上にババアとは、救い難い年増よな』

 

「…!!誰がババアですか!!いい加減にしてください!!!」

 

『お?ババアは否定しても、生娘は否定しないんだな。世界創造から生きているのに処女とは、見た目と言動はイケイケなのにな。そっか!処女拗らせてイケイケ痴女みたいになったのか!なるほどなぁ。瑞稀、気を付けねば犯されるやもしれんぞ』

 

「誰が痴女だと!?失礼にも程がありません?!それに世界創造から生きていると言っても、私は母が居なくなってすぐに封印宮で砕けた(自決)ので相手なんか居るわきゃあねえでしょう!!あと、私はマスターの神器ですよ!?マスターが望むのならバッチ来いですが、私から無理矢理など出来るわきゃあねえでしょうが!!そりゃしてえけどよ!!処女にはハードル高過ぎだろ!!この、アホドラゴン、少しは物事考えてから言ってもらえねえでしょうかね!!」

 

凛音にウザ絡みされ、夜宵様は泣きたかった

キレ過ぎて最早ヤケクソである

 

『…私が悪かった…その話は瑞稀としてくれ…』

 

「…聞かなかった事にする…」

 

「マスター?!」

 

そうこうする内に小屋に到着した瑞稀は、先程までの喧騒が嘘の様に、静かに扉を開いた

 

「………」

 

本当に何も変わらない

つい先程までここには瑞稀と奏女様の2人が居たかの様に、当時のままだった

 

訓練に使用していた2本の刀、飲みかけの水が入った2つのコップ、夕飯にと切り分け焼かれた肉、食べたあとに入ろうと温められた風呂、2人が寄り添い眠っていた布団

全てが変わらず、そこに在った

 

「…あ…」

 

こら!瑞稀、起きたなら顔洗いな!

 

瑞稀、好き嫌いせずに食べな!大きくなれないよ!

 

刀を振る時は腕だけで振ろうとするな!身体全体で振るんだ!

 

ダラダラしてなくていいから早く風呂に入りな!

 

さ、寝るよ。おいで?

 

「…っ…」

 

瑞稀の中で思い出がフラッシュバックする

ずっと抑えていた感情が一気に膨れ上がる

 

「アアァアアァアアァアァアァァ!!!!!!!!!!!」

 

大粒の涙を流しながら、抑え切れない感情に任せて叫ぶ

悲しみが止め処なく溢れ出し、瑞稀の心を染め上げていく

 


 

どれほど泣き叫んだだろうか

喉は枯れ、涙も枯れ果てたかの様に、瑞稀は微動だにしなくなっていた

 

『無事か?』

 

「マスター…」

 

2人が語りかけ、やっと反応を示す

その眼に迷いはなく、強い決意を宿していた

 

「…俺は神と成る。そして全ての絶望からあまねく希望を護る盾と成り、全ての希望を犯す絶望を斬り伏せる刃と成る。世界がこの様な理不尽を許すなら、俺がそれを滅する神と成る。あまねく世界を導き、全ての悪を滅ぼそう」

 

瑞稀は絶対神になる事を決意した

希望を奪われ、互いを想い合う者達の幸福が理不尽に奪われる、この様な痛みを二度と繰り返させないと、誓いを新たにしたのだ

 

魔界だけでは駄目だ

変えるべきは世界そのもの

全ての世界を変えなければ、この様な理不尽は必ずどこかで繰り返される

もう十分だ、そんなのは俺達で終わりでいい

これから産まれ、生きていく新しい生命には無用な痛みなのだ

 

永きに渡る闇夜を照らす光と成ろう

救いを求める者には救いをもたらそう

罪無き者には庇護を与えよう

罪を犯す者には鉄槌を下そう

あらゆる罪悪に絶対的な滅びをくれてやろう

その為に神と成る、絶対神と成り、平和な世界へ導こう

 

それがあの人が教えてくれた、俺自身の信念だから─

 




次からは本当に次章が始まります!

本当だよ…


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第3章、神々の王
神々の王とおじいちゃん


今回から新しい章に入ります

ちなみに全体的に真面目な話してますけど、所々に不真面目な話がブッ込まれています

最後の方にいたってはどうしようもない感じです…



「メルフェレス様。いえ、陛下。私は陛下の温情で魔王にして頂き、短い間ですがお仕えさせて頂きました。天界の時には、若造の分際で偉そうな事を吠えた私の事を許して頂き、私共、夫婦のせいで、神界と戦争になる等、我が儘ばかりの私に、大変良くして頂き、本当に感謝しております」

 

魔王城の謁見の間にて、瑞稀は2人で話がしたいと、メルフェレス様と会っていた

いつも名前で読んでいるのに、珍しく陛下などと、堅苦しい呼び方をする瑞稀に、メルフェレス様は驚いた

 

「なぁに?急にそんな事言い出して。陛下なんて今まで1度も呼んだ事ないくせに」

 

「…陛下。私、瑞稀は…本日を持って、狂嵐の魔公子の名をお返ししたく思います。魔王ではなく、神として、魔界だけではなく、全ての世界を護りたいのです」

 

「……そっか……なんとなくね?そうなるんじゃないかな、て思ってはいたの…貴方は優しいから…世界を見捨てて、魔界だけを護るなんて、出来ないだろうな、て思ってはいたの…」

 

瑞稀の魔王辞任、それは魔界にとって、あまりにも大き過ぎる損害だ

しかし、魔王が神に、絶対神になる事は、魔界にとっても有意義な事でもある

民が瑞稀が絶対神になる事を受け入れる事が出来たなら、神々を快く思わない魔族達も、神々を受け入れる事が出来るかもしれない

そして、神々も魔王が絶対神になれば、魔界を受け入れる事が出来るかもしれない

長年に渡る殺し合いに、終止符をうてるかもしれない

 

「…分かりました…本日を持って、狂嵐の魔公子の任を解きます。今まで、魔界の為に、本当にありがとうございました…」

 

「…有り難きお言葉でごさいます。本当にお世話になりました。最後まで身勝手ばかりで、申し訳ございません…」

 

深々と頭を下げる瑞稀

それを寂しそうに見つめながらも、微笑みを絶やさぬメルフェレス様

 

「貴方はそれでいいのよ。誰にも縛られる事なく、自らの成すべき事を成しなさい。自由な翼である事を誇りなさい。たとえ神と成ろうと、貴方は覇龍なのだから」

 

「…はい…重々、本当にありがとうございます…」

 

「もう!堅苦しいのはこれでおしまい!それで…すぐ発つの?」

 

「はい。既に我が邸宅全体に、魔法陣を敷いております。あとは俺が戻れば、神界へ転移する事が出来ます」

 

「準備良すぎない?!相変わらず仕事が早いわ~。魔力は足りるの?バロムですら過剰消耗で死にかけたらしいけど」

 

瑞稀は既に、プラエトーリウム・ソムヌスごと、神界に行く為の転移魔法の準備を終えていた

かつて、プラエトーリウム・ソムヌスを魔界に転移させた際は、広大な土地ごと転移しなければならず、転移魔法を行使したバロムが、魔力の過剰消耗で死にかけていたのだ

 

「俺の魔力総量なら十分過ぎる程です。余裕で間に合います。問題ありません」

 

「そっか…分かったわ…じゃあ、いってらっしゃい。狂嵐の魔公子の席は空けておくから、何かあったら…いつでも戻って来るのよ?」

 

「ありがとうございます。それでは…いってきます」

 

メルフェレス様は涙を耐えながら、瑞稀を抱き締め送り出す

 

瑞稀が謁見の間を出てしばらくすると、玉座から啜り泣く声が響いた─

 


 

「…転移は無事に済んだな…」

 

瑞稀は魔王城をあとにして、すぐに邸宅を土地ごと転移させた

転移先は前もって絶対神代行の篝と相談して決めていた、神界の居住区から離れた森の中にした

もっとも、邸宅と一緒に敷地である山も転移させたので、既に森ではなく山になってしまったが

 

「…いやー聞いてはいましたが、実際にこの眼で見ると凄いですね…規格外の魔力です」

 

一緒に転移した篝が驚きをあらわにする

当然だ。転移魔法自体、最上級魔法に分類される程の高等技術であり、魔力消費も激しい

これだけ広大な土地を丸ごと転移させるなど、通常出来るわけがない

 

篝は瑞稀の規格外の魔法技術と力を目の当たりにして、改めて彼が絶対神になってくれてよかった、と頼もしさを覚えた

 

「…それにしても、まさかお前達も来るとは思ってはいなかったよ…馬鹿なの?」

 

「瑞稀様、水臭いですよ。私達はどこまでも貴方様に付いて行きますよ。我が氷と拳は、貴方の敵を葬る為にあるのです」

 

「そう言うこったぁ!旦那、俺達はどこまでも付いてくぜ!!」

 

「この2人は戦以外、役に立ちません。私が居なければ瑞稀様を支える事など出来ません。無茶ばかりなさる瑞稀様を放っておけませんよ」

 

そう、まさかの刻龍、斬鉄、バロムの3人まで付いて来た

瑞稀の妻ですら相談した結果、ワルキューレ、唯を除いた者は残ったのに、この3人はちゃっかり付いて来やがったのだ

他の師誓将は、瑞稀が抜けた穴を埋める為、魔王に復帰、魔界に残ったのに、この3人は瑞稀に相談する事すらせず、勝手に付いて来やがった

 

「まあまあ、そう怒らず。我々3人、メルフェレス様に既に辞表は出しております故、問題ありません」

 

「…そう言う問題じゃなくてな…ああ、もういい。好きにしろ…」

 

「あはは…大丈夫ですか?」

 

「…はぁ…転移していきなり疲れた…」

 

脱力する瑞稀、苦笑いを浮かべる篝達女性陣

 

そこに近付いてくる2つの影

 

「お姉様~!!」

 

「お帰りなさいませ、お姉様」

 

篝に似た、2人の女性は満面の笑みで篝に飛び付く

瑞稀達は何事か分からずポカーンである( ゚□゚)←こんな顔

 

「こら!2人とも、今は仕事中よ!離れなさい!」

 

「はっ!ごめんなさい!」

 

「申し訳ございません、お姉様」

 

「はあ…まったく。皆様、申し訳ございません。こちら、私の妹でございます。ご無礼をお許し下さい。2人とも、挨拶」

 

篝の言葉に2人は姿勢を正し、気品溢れる美しい所作で頭を下げる

  

「お見苦しい姿をお見せして、申し訳ございません。篝の妹、次女の(かがみ)と申します。どうぞ、お見知りおき下さいませ」

 

「三女の天狼(あまら)と申します。先程は失礼いたしました。どうぞ、お見知りおき下さいませ」

 

2人は先程見せた無邪気な姿が嘘の様に、上品な雰囲気を醸し出していた

 

「いえ、お気になさらず。挨拶が遅れました。私は瑞稀、この度、絶対神に就任させて頂く事となりました。どうぞ、お見知りおき下さい」

 

「まあ!ではこのお方が狂嵐の魔公子様なのですね!」

 

「想像してた方と全然違ってお優しそうですね」

 

「私の事をご存知とは、嬉しい限りで─」

 

「ご挨拶が遅れましたがわたくし!バロムと申します!今後瑞稀様の副官をさせて頂く事となりましたので!どうぞよろしくお願いいたします!!つきましてはこの後、お時間などいただけませんか?どこか落ち着ける場所で、まったり、じっくり、こってり、たっぷりと、お話など」

 

「バロム、黙れ。誰がお前に発言を許可した」

 

いきなり2人を口説き始めたバロムを、瑞稀がたっぷりと殺気を乗せて睨み付ける

 

「も、申し訳、ございません…お口にチャックしておきます…」

 

「そうせよ。俺が許可するまで口を開くな。次は節操の無いお前の愚息と、舌を斬り落とす」

 

「肝に…しっかりと…命じておきます…」

 

「部下が失礼いたしました。二度とこの様な事無き様、眼を光らせておきますのでご容赦下さい」

 

「「い、いえ、お気になさらず…」」

 

2人は穏やかな顔から一転、殺伐とした瑞稀の雰囲気に怯えていた

瑞稀は、やっちまった、とバツの悪い感じだった

 

「あ、あはは…取り敢えず最高神様にお会いしましよう。詳しい話は最高神様からお話するとの事でしたので…2人とも、私は瑞稀様をご案内するから、大人しく家で待っててね」

 

「では案内をお願いします。バロム、お前達も館で待機だ。大人しくしてろよ」

 

「かしこまりました…」

 

瑞稀は1人、篝の案内で、最高神の待つ社に向かう

 


 

荘厳な白い社にて、最高神は書類整理をしながら瑞稀を待っていた

白髪、白い顎髭、白い和装を身に着けた、見た目は初老位の男性

しかし、白い社も相まって神秘的な威厳に満ちていた

 

「…魔王瑞稀、よく来た。楽にしてよい。ある程度の話は既に篝から聞き及んでおる。此度の就任、感謝する」

 

書類から瑞稀へ視線を移し、威厳に満ちながら優しげな声音で語りかける最高神

人払いを行い、瑞稀と2人きりにする様に指示を出す

 

「…一体何の意図で俺を絶対神にした。単純に俺の力を欲した、二覇龍の力を危険視しているだけではあるまい」

 

「ふむ…頭の出来も悪くない。しかし、些か短絡的だな。師に似たか?」

 

最高神の一言に瑞稀の目付きが変わる

眼は透き通る真紅に染まり、瞳孔は縦長に細まり金色の輝きを放つ

完全に戦闘態勢に入った瑞稀は、腰にさした夜宵に手をかける

 

「…貴様等神が、あの人を語るか…あの人を裏切った貴様等が…」

 

「やはり短絡的だな。あやつにそっくりだ。奏女を裏切ったのは天乃達戦神だ。あやつの追放に知識神は反対していた。そもそも儂は奏女の友人だ。あやつを裏切りなどせん」

 

「何をもってそれを信ずる?」

 

「そうさな、自らの眼で判断せよ。あやつの弟子ならば、人を見る眼は持ち合わせていよう?あやつは性格こそハチャメチャであったが、人を見る眼は確かであったぞ?」

 

「………分かった…今は信じよう…それで、何故俺を絶対神にした」

 

戦闘態勢を解き、改めて問う

 

「…奏女は…本当に死んだのか?」

 

「死んだ。俺を護り、天乃のロンギヌスに貫かれた。その時暴走した俺の力を封印して、力を使い果たし、死んだ」

 

「…なるほど。あやつはそなたを大切に想っておったのだろうな。いや、愛しておったのか。そうか、あやつも愛する者を見付けたか。昔の奏女ならば、封印などせず白龍神王ごと、そなたを殺していただろう」

 

無表情に努め、瑞稀は師の最期を告げる

それを聞いた最高神は寂しそうでありながらも、嬉しそうに微かに笑った

 

「それと俺を絶対神にした話、何の関係がある」

 

「少しは思い出に浸らせよ。無粋な奴め、まあよい。そなたを絶対神にした理由だが、察しの通り、篝が語った理由だけではない。まずそなたは奏女の弟子だ。あやつの戦闘技術と信念を受け継いでいる。それは今の時代に必要なものだ」

 

「俺は斬式を継いでいない」

 

「しかし天破は継いだ。儂はあやつが神界を追放されてからも、密かにあやつと連絡を取り合っていた。そして儂はあやつが死ぬ数日前に、弟子に天破の奥義を授けた、と連絡を受けた。記憶が戻った今なら天破も使えよう」

 

かつて、幼少期に瑞稀は奏女様が使う流派の1つ、天破狂奏流の奥義を教わっていた。使えはしなかったが技の原理は教わっていたため、成長し、力を付けた今ならば使える

 

「…奏女様があんたと連絡を取ってたなんて、知らなかった…」

 

「そうだろうな、そなたを弟子にとってからは連絡を取っていなかったからな。それだけに最期の連絡は驚かされた。かつて神界にいた頃は弟子をとる事を、ずっと拒否し続けていたからな。そんなあやつが弟子をとったと言い出したのだ。しかも男嫌いだったあやつが、子供とはいえ男を弟子にとったと聞いた時は耳を疑った。あやつの事だ、男の扱いなど知るまい。そなたも大変であったろう?見た目だけは整っておったからな。心底同情する。今度時間がある時にでも、その頃の話を聞かせてくれ」

 

「…わ、分かった…」

 

最高神は意外とお茶目なおじいちゃんかもしれない

 

「話が逸れたな。まあぶっちゃけ1番の理由は奏女の弟子だからなのだが、他にあるとするならば、そなたの眼だ」

 

「眼?」

 

「うむ、眼だ」

 

「どういう意味だ?」

 

瑞稀はちんぷんかんぷん、最高神は不思議そうな顔

会話が噛み合っていない

 

「どういう意味も糞もない。そなたの眼が理由だ」

 

「だからどういう意味だ。いきなり眼が理由だとか言われても意味が分からん」

 

「なんだ、奏女の阿呆はそんな事も教えていないのか」

 

「???」

 

最高神が呆れ果て、瑞稀は更にわけが分からず混乱する

どうやら奏女様は教えなければいけない事を教えていなかったらしい

 

「魔力の昂りに反応するそなたの赤い眼は特殊な眼でな、ブラティカルアイと呼ばれる魔眼、その中でも最高クラスの力を宿している。その魔眼は、かつて全次元を統べていた、5柱からなる理の神の系譜に列なる力を持って産まれた者が、ごくまれに開眼する非常に強力な魔眼であり、赤い色がより透き通り、深い赤、紅に近い程、高い神格を宿している。儂は多くのブラティカルアイを見てきたが、そなたの様な深く澄んだ紅の眼は、未だかつて見た事がない。そなたの神格は儂が知る限りでは、最も高いと言えるだろう。本来ならば、奏女の阿呆はそなたにそれを伝えるべきだったのだ。そなたにはそれだけの力が宿っているのだから、それを自覚させた上で鍛えるべきであったのに、あの阿呆は…おそらく、そなたを神々に奪われる事を恐れたか、いや、天乃ならば殺しかねぬな。そなたに教えてしまえば、どこから情報が漏れるか分からんからな、だから教えなんだのだろう。そう考えれば納得出来る」

 

「全然知らなかった…むしろ俺の眼が魔力に反応して赤くなる事すら知らなかった…」

 

「なんと…全く意識せず発動していたのか…これはますます常軌を逸脱している眼だな。ブラティカルアイの能力は単純な身体能力と魔法の威力強化しかない故、気付きにくくはあるが…それにしても上昇量はかなりのものだからな、普通は気付くか、周りが不審に思う筈なのだがな…」

 

瑞稀の攻撃魔法の威力が、普通より遥かに高いのは魔眼が関係していた様だ

本人や周りは全く気付いていなかったわけだが

 

「まあ、とにかく理由はこんな所か。他に疑問は?無いのなら今後の話をしたいのだが」

 

「無い。話を進めてくれ」

 

「では今後の事だが、まず申し訳ないがそなたの力に制限を掛けさせてもらう」

 

「は?制限?」

 

「うむ。白色雷と覇龍化を使わない様にしてもらう。こちらから絶対神になってくれと頼んでおいて、申し訳ないが、白色雷と覇龍化は白龍神王の力の象徴。理由はどうあれ、彼女が全次元の脅威である事は変わりない。それを全次元を護る立場にある絶対神が振るっては、神界の信用に関わる」

 

「俺の最大戦力を使うなと?そんな理不尽を許せと?」

 

「うむ。何度でも言うが、彼女が全次元の脅威である事は変わりないのだ。彼女は未だ伝説の中とは言え、全次元で恐れられている。絶対神が振るっていい力では無いのだ。済まぬが、自覚して欲しい」

 

これには瑞稀も憤りを隠せない

それもそうだ、今の瑞稀は白色雷を主とした魔法を扱う

しかも覇龍化を使う事を想定した訓練を行い、凛音の力を完全に制御する事を目指していたのに、それを使うなと言うのだ

 

「俺も馬鹿ではない。言い分は分かる。だが今の俺は白色雷を主に使い、覇龍化を最大戦力にしている。それを使うなと言うのは、俺に力の大半を失えと言っている様なものだ」

 

「それでもだ。そなたには紅蓮の炎がある。それにそなたは水の魔法も得意としている筈だ。しかも漆黒を扱うと聞く。それを主とした戦いをせよ」

 

そう、瑞稀は白色雷、紅蓮の炎だけでなく、黒い水、漆黒と呼ばれる強力な水魔法をも扱える

漆黒は正式には、世界に初めて落ちた漆黒の闇の雫と呼ばれる、水属性の中で最も強力な攻撃能力を持った力なのだ

 

「…従わなければどうする…」

 

「かつて奏女がそうであった様に、封印宮に幽閉し、有事の際に戦うだけの道具とせねばならん。出来ればそれだけはしたくない。故にそなたには、あやつの弟子であるそなたには、聞き分けて欲しく思っている」

 

かつて、瑞稀の師、琥牙奏女太刀乃神は、その強大過ぎる力と、誰にも従わない気性の荒らさ故に、封印宮に幽閉され続けていた

最高神は反対し続けたが、他の神々が彼女を恐れ、反対を押し切り、封印宮に幽閉してしまったのだ

最高神は友として、止める事が出来なかったせめてもの償いとして、彼女の下に足繁く通い、話し相手になっていたのだ

だからこそ、今回は、瑞稀は奏女の様になって欲しくない故に、瑞稀を説得する

二度と過ちを犯さぬ様に、せめて彼女が残した瑞稀を、他の神々から護るために

それが志半ばで倒れてしまった、親友への最高神なりの手向けなのだ

 

「……分かった…あんたは信用出来ると思う…使わない…あんたには従おう…」

 

瑞稀もまた、最高神が奏女様の事を語る時の真剣さに、嘘は無いと感じ、従う事を決めた

それに、かつて1度だけ奏女が昔、友の忠告を聞かなかった事を後悔している、と語った事を思い出したのだ

 

「済まぬ。この様な理不尽を受け入れてくれて、礼を言う」

 

「いい。奏女様に免じて従うさ。それで?それだけか?」

 

「いや、もう1つだけ頼みがある。今、戦神は殆どが儂に粛清され、機能していない。故に戦神を再編成して欲しい。そなたに付いて来た者を入れても良い。人選はそなたに全て任せる。儂もコネを使い協力する」

 

「分かった。それは前もって聞いていたから、予想していた。俺の部下を3人、妻の中でも強い力を持つ2人を連れて来ている。取り敢えずこの5人を中心に据え、再編成する。そう言う方向で構わないだろうか?」

 

「うむ。構わぬ。好きにせよ。他の神々の反対は儂が抑え付ける。今の神界に儂の意見を無視する気骨がある者はおらぬ故、安心せよ。そうだ、篝と妹達を持っていけ。妹達には転移した際に会ったであろう?あの娘達は品行方正、戦闘力も高い。血筋も良い。あの3姉妹が居れば知識神も文句を言い辛い」

 

何を隠そう、篝達は天照大神の血筋であり、長女の篝は現代の天照を襲名している、正当な継承者なのだ

そんな彼女の神界での影響力は高く、彼女が瑞稀の部下となれば、それだけで瑞稀に反抗する神にとって牽制になる

しかもその妹達もいるとなれば尚更だ

 

「では彼女達には俺から交渉しよう」

 

「そうか?儂から言っても良いのだが」

 

「いや、これから一緒に戦う事になるからな、今の内から信頼関係を築いておきたい」

 

「なるほど。ではその様にせよ。ちなみにあやつら3姉妹は独り身だ」

 

「…それで?だからどうしたってんだ…」

 

さっきまでの真面目な話から一転、いきなり下世話な事を言い出す最高神のおじいちゃん

 

「いや、そなた、好きじゃろ?乳。いやな、あやつらもいい歳じゃから、いい加減、身を固めた方がいいと前々から言っておったのじゃがな。如何せん相手がおらんと聞かんでな。篝はそなたに興味がある。儂が言わずともそなたの事を調べると聞かんでな。いや、あれには驚いた。ならば篝をそなたとくっ付ければいいのでは?そうすれば、あのお姉ちゃん子の2人も、姉に倣ってそなたに嫁ぐのでは?と思ってのう。さて、どうやってそなたに興味を持たせるかと思い悩んでおったのじゃが。儂が独自に調べてみたら、そなたは大の巨乳好きと聞いてな。いやぁ、悩む必要など無かったわ。で?好きじゃろ?乳。あやつら3人、儂が言うのもなんたが、デカイぞ、かなり。こう、ボン!キュッ!ポン!みたいな感じの、尻は小振りじゃが、乳はデカイ、腰回りは細い。かなりのナイスバデーじゃろ?」

 

このおじいちゃん、かなりの世話好きで、相手が居ない独身者に相手を紹介するのが大好きなのだ

付け加えると、純度100%の善意だ

単純に周りの人達に幸せになって欲しいだけなのだ

女をイヤらしい眼でしか見ていないバロムとは違うのだ

このおじいちゃんは善意でしかないのだ

それだけにバロムとは違う厄介さがあるが

 

「…いや、まあ、好き、ではあるが。いいモノ持ってるなぁ、とは思ったのは否定しないが…」

 

「よし、ならば口説け。そなた、かなり遊んどったろ?調べたから知っとるぞ。おなごを口説くのは得意じゃろ。すぐ口説け。心配するな、式場は任せよ。仲人も儂がやろう。子供は早い方がよい。女児も良いが、そなたは絶対神故な、跡取りとなり得る男児も捨てがたい、やはり才能は血筋も多少は関係するからな。うぅむ、悩ましいな。いや、そなたはまだ若い、この際、女も男も両方つくれ。うむ、それが良い。良い産科を紹介しよう。この際、嫁全員と子作りに励め。それが良い。そうすれば神界の将来も安定、そなたも幸せな家庭を築ける。皆が幸せになれる完璧な構図じゃ」

 

「…えぇ…」

 

おじいちゃんはノリノリ、瑞稀はドン引き

どこに行っても周りに振り回される瑞稀なのだった

 

 




瑞稀のハーレムに新しい仲間が入ったよ!やったね!

どうしてこうなった…

ちなみに瑞稀は妻全員を等しく愛しています
1人に絞れはしないけど、愛はあるんです…!
それだけは分かってあげてください…!


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理の神、真理の神


今回は長々と説明を垂れ流してるだけで終わります




 

「瑞稀!貴様、またしても我等知識神に無断で戦神を増やしおって!事前に我等の審議を通せと何度言えば!」

 

「知らぬ。戦神の人選は全て俺に一任されている。貴様等に許可など求めぬ。文句なら俺に一任した最高神にでも言うのだな」

 

知識神が集う社にて、怒り心頭の知識神が怒鳴り散らす中、絶対神になり、一年程が経った瑞稀が澄まし顔で宣う

 

 

「それに何故貴様!部隊長を純血の神以外の者ばかり選ぶ!?遊撃部隊の篝殿以外に純血の神の部隊長がいないではないか!!部隊長は古来より、純血の高位軍神が勤めるのが仕来り!それを貴様!!」

 

「下らぬ。その様なカビ臭い仕来りなど知らぬ。そもそも、その仕来りに従ってきた結果、ほぼ全ての戦神が粛清された。そして俺の眼から見て、今の戦神に部隊長を任せられる者は、今の部隊長達以外に居ない。あなた方知識神の純血主義は古臭いと言わざるを得ない。少しは最高神を見習い、柔軟に物事を見るべきでは?」

 

「貴様!元魔王風情が我等知識神を愚弄するか!!立場を弁えよ!!」

 

「あなた方こそ弁えるべきだ。あなた方は知識神、俺は絶対神。元魔王であろうがなかろうが、今は俺の方が立場は上だ。それが不服ならば、絶対神の任命権がある最高神にでも文句を言ってくれ。魔王だった俺を絶対神に推したのも、あの御老人なんだから」

 

「儂がどうかしたか?」

 

怒鳴り散らす知識神達と、それに辟易としている瑞稀の集う社に、実に意地悪い顔で最高神が現れる

 

「最高神様!?何故こちらに!?」

 

「いやなに、瑞稀がまた外から戦神を連れて来たと聞いてな。瑞稀が選んだ新たな戦神の人となりを聞いておこうと思って、こやつの館に出向いてみれば、こちらに報告に来ていると聞いたのでな。待つのも面倒故、直接儂が出向いた次第だ。瑞稀よ、こやつ等に報告する前に儂の所に来ぬか。順序が違うだろう。そなたの上司は儂だぞ?こやつ等は管轄外だ。先ずは儂の所に来ぬか」

 

狼狽える知識神達に、嫌味を込めて最高神が瑞稀に告げる

それを理解している瑞稀は、大層申し訳なさそうな表情で頭を軽く下げる

周りの知識神達はバツの悪い顔で俯いている

 

最高神は瑞稀を気に入っている

自分達に怒りが向くのは避けたいのだ

 

「知識神と戦神では役割が違う。人員の把握は必要であろうが、管轄が違う故、こやつ等に報告する必要など如何程もない。そなたの報告をもとに、儂からこやつ等に話を通す故、そなたが直接報告する必要はない。今後はその様にせよ。そなた等もそれで良かろう?どうせ戦事なぞ、聞いてもよく分かるまい」

 

「は、はい!我等に異論はございません!瑞稀よ、人員の件は今後、最高神様に報告する様に。下がって良いぞ!今日はご苦労であった!」

 

「はいはい…では俺はこれで失礼させて頂きますよ…最高神様、詳しい話は俺の館でしよう。新しい茶葉が入ったのでな、落ち着きながら話そう」

 

「おお!良いな!そなたの所のメイド、フィンと言ったか?彼女の淹れる紅茶は美味故、儂のお気に入りなのだ!すぐに行こう!」

 

こうして最高神と瑞稀は社を去って行った

残された知識神達は最高神の登場で冷えた肝を落ち着けるのに、大層時間がかかったとか

 


 

「あやつ等の純血主義にも困ったものよ。今は昔と違い、神以外の者にも優秀な人材が多い。何よりも純血の神は駄目だ。先入観から他の種族達を見下す者が多い故、争いが絶えぬ。過去の遺恨さえ未だに癒えぬと言うに。これ以上の争いの火種なぞ、御免被る」

 

「確かに。絶対神になって分かったが、神界て敵が多いのな」

 

神界は現在、精霊達の住む霊界、機械達が支配する機界、龍達が治める龍界、妖怪達が支配する妖界と冷戦状態にあった

かつては最大の宿敵だった魔界は、魔王だった瑞稀が絶対神になった事で、今では友好的になりはしたが、非常に敵が多いのは事実

 

原因は神々の驕り、傲慢さが原因なのだ

神こそが至上、神に従う事こそ生きとし生ける生命の役割

従わぬ者は異端であり、存在する価値すら無い

信じる者は救われる、信じぬ者は救われぬ

言い方を変えればそれは、従う者は救われる、従わぬ者は排除する

それがこれまでの神々の考え方だった

 

「儂が神に成った頃はこうではなかったのだがな。いつしか神々は驕り昂り、世界の均衡は崩れ始めてしまった」

 

「なんだ?あんた、純血の神じゃなくて、後天的に神に成ったのか?」

 

自身の館のテラスで紅茶を飲みながら、不思議そうに尋ねる瑞稀

 

「そういえば言ってなかったな。儂は元々人間だったんじゃよ。かつて、人間として生を受け、存命であった創造神様より祝福を受け、神と成ったんじゃ。どうだ?凄いじゃろ?」

 

「マジか…そりゃ凄い」

 

「そうじゃろそうじゃろ!もっと尊敬してもいいじゃぞ?」

 

すごい自慢気な最高神は鼻高々である

しかしそこは人を小馬鹿にするのが瑞稀である、素直に尊敬の念を示すわけもなく

 

「うん、凄い。そんな昔から生きてたなんて、すげえジジイじゃん。いや、ジジイジジイだとは思ってたけど、そこまでジジイだとは思わなかった。むしろジジイというか化石?」

 

「き、貴様は!本当に人を馬鹿にするのが好きな奴じゃな!!奏女を思い出すわ!!」

 

「いやだってあの人の弟子だし」

 

「変な所まで似んでいいわ!!腕っ節と志だけ似ろ!!性格まで似んでいい!!!はあ~!あやつは碌な育て方をせんな!!」

 

「そんなに褒めんなよ。照れるじゃん」

 

「褒めとらんわ!!そういう所もあやつにそっくり!嫌になるわ!!」

 

なんやかんや仲の良い2人なのだ

 

「そう言えばさ、創造神てどんな人だったの?伝承では奏女様に似てたとか言われてるけど」

 

「そうじゃな、見た目は結構似とったな。性格は全然じゃが。というかそなた、夜宵様と契約しとるなら、夜宵様から聞けばいいじゃろ。あの御方は創造神様が生み出され、契約しておられた神器なんじゃから」

 

「いや、夜宵に聞いてもあんまり教えてくれなくてさ」

 

「…ふむ?あの御方なりに考えが有っての事かの…」

 

「でも奏女様に似てるなら気になるじゃん?だから教えてくれよ」

 

「うーむ、どうしたものか…」

 

考え込む最高神に、尚もせがむ瑞稀

そこにバロムが合流する

 

「何の話をしているんですか?私も暇なんで混ぜてくださいよ~」

 

「えぇ…お前が居るとまともに話が出来なくなるからな…まあ良いけどさ…」

 

不満そうな瑞稀、ウキウキなバロム

バロムは大体話の腰を折るので、瑞稀に邪険にされている

 

「バロム殿。元気そうじゃな。今、こやつに創造神様の話を聞かせていたじゃよ」

 

「創造神様のお話ですか?なんでまたそんな話してるんです?」

 

「こやつが聞きたいと言うでな。思い出語りのつもりで話しておったのじゃ」

 

「なるほど~!いやぁ、私も気になりますね!伝承では相当の美女だったと語られていますからね!私も聞かせて頂きますよ!で?どうだったんです?やっぱり美人だったんですか?スタイルは?胸は?」

 

女となればこれである

彼にとって、創造神であろうと、女性ならばそういう対象なのだろう

 

「バロムはすぐこれだ…だから嫌なんだよなぁ…」

 

「まあまあ、良いではないか。そうじゃな、今思い出しても凄く美しかったな。慈悲深く、いつも全ての生命を見守り、慈しんでおられた。まさに慈母と言う感じじゃったな」

 

懐かしむ様に眼を閉じ語る言葉には、言葉では表し切れない尊敬が込められていた

 

「儂が神に成ってからは、よく世界について語ったものだ。あの御方はいつも言っておられた。いつかあまねく生命達が、互いに助け合い、慈しみ合い、愛し合う、そんな世界になって欲しいとな。本当に優しい御方じゃったよ」

 

「ふーん。まさに生命の母て感じ。確かに性格は奏女様に似てないな。本質は似たようなもんだが」

 

「確かにそうじゃな。奏女もなんやかんや優しい奴じゃったからな。封印宮に閉じ込められ、不自由を強いられておったにも関わらず、あやつはいつも笑っておったよ。これでいい。自分の力は強大過ぎるし、争いにしか役に立たないから、争いが無いのなら自分は不要。こうして人目につかぬ様にひっそりとしていればいい。いつもそう言っておった」

 

「奏女様らしい。口は悪いし、気性も荒いけど、本心では思い遣りの塊みたいな人だからな」

 

2人が思い出に花を咲かせている傍らで、バロムは不貞腐れていた

 

「お二人が大変素晴らしいお人柄なのはよく分かりました。しかし聞きたいのは別の事です。スタイル!胸!おっぱい!私が聞きたいのはそこです!!」

 

「お前は二言目にはそれしか言わんな…」

 

「当たり前でしょ!!それ以外の何に興味を持てと!?」

 

「……」

 

瑞稀は呆れ果て、バロムは欲望のまま叫ぶ

そんな2人を見ながら押し黙る最高神

 

「そう言えばさ、創造神て創造の真理を司る神じゃん?他の理の神てどんな奴なんだろうな…ちょっと気になるな」

 

「えぇ…そんな事よりおっぱい…」

 

瑞稀の何気ない言葉に、バロムは残念そうに囁く

 

「まあ、語ってもよいのだがな。どうしたものか」

 

「おっ!気になる!教えてくれよ!」

 

「おっぱい…」

 

なにやら言い辛そうにする最高神、好奇心剥き出しの瑞稀、尚も胸の話を聞きたい変態(バロム)

 

「…良かろう。まず真理の神とは、創造を司る、全ての生命の母たる創造神様。そして滅びを司る、全ての生命の終着点たる滅びの神の2柱の事を言うとされている。創造神様はあらゆる万象を産み出し、操る力を持つとされ、滅びの神はあらゆる万象に死を与え、終焉をもたらす力を持つとされている。この2柱はかつて、世界が産まれるより以前、世界の有り様をめぐり、互いに争っていた。創造神様は世界を愛で導こうと仰り、滅びの神は自らの力で世界を治めるべきだと言った。2柱の神は議論を続けたが、互いの意見が交わる事はなく、滅びの神が痺れを切らし、争いが始まった。永きに渡る戦いは創造神様の勝利、滅びの神の敗北に終わったと言い伝えられている」

 

「へえ、2柱の戦いか…想像も付かないな…」

 

「まあ、本当の所は儂も知らん。あくまでも創世神話で言い伝えられているだけじゃ。創造神様にその様な事を聞く事もなかった故、真実かどうかすら儂には定かではない。実際に滅びの神が実在したのかすら怪しい。創造神様は確かに存在していたが、滅びの神の存在を立証するものは創世神話以外に無い。実在していたとして、創造神様に敗北し、死んだか、何処かで封印されたか、はたまた逃げて何処かに存在していたのかすら分からん」

 

「ふーん…」

 

「次は理の神々の事を語るとするか」

 

「お願いします!」

 

「おっぱい…せめて話の中におっぱい成分を…」

 

ウキウキな瑞稀、尚も胸の話をせがむ変態(バロム)

対称的な2人に苦笑いを浮かべる最高神

 

「やれやれ。理の神とは創造神様が産み落とした5柱からなる神々でな。五行、木火土金水(もっかどごんすい)の力をそれぞれ操る。木気を操り、成長を司る神。火気を操り、繁栄を司る神。水気を操り、停滞を司る神。金気を操り、守護を司る神。土気を操り、崩壊を司る神。これらの5柱の神が集う事で世界は保たれている。故に理の神々は、世界の真理を司る神とも言われている。一説では実際に世界は創造神様が創造したのではなく、この5柱の神々が創造神様の協力の下、創造されたのではないか、とも言われている」

 

「へえ、すげえな…でもさ、そんな神は神界に居ないぞ?理の神は実在しないのか?」

 

「いや、実在する。あの方々は各々自らの神殿を持ち、そこにおられる。神殿は空間が歪み、こちらからは干渉する事すら、本来は出来ない」

 

「本来は?どういう意味だ?干渉された事でもあんの?」

 

瑞稀が疑問を口にする

本来は干渉出来ない

それをわざわざ口にすると言う事は、なんらかの手段を用いて干渉した者がいるのか?

 

「その話なら私も知ってますよ」

 

ここでバロムが口を挟む

 

「なんでお前が知ってんだよ」

 

「私も最高神様並に古い時代から生きてますからね!ではここからは私が説明しましょう!」

 

自慢気なバロムが咳払いをして説明し出す

イマイチ乗り気じゃない瑞稀は嫌がるが、それでも好奇心が勝ってバロムの説明を聞く

 

「ゴホン!そもそも理の神々は絶対神などと同様に、代替わりします。理由は力の劣化を防ぐために、新たな力の器、次代の理の神に継承を行うためです。理の神々が司る力は世界にとって、非常に重要なものですから、力が弱まり、機能しなくなっては大変です。世界の均衡が崩れてしまいます。それを防ぐための代替わり、力の継承ですね」

 

「詳しいな。最高神、こいつの話、本当かぁ?バロムの言う事だからなぁ、イマイチ信用に欠けるんだよなぁ」

 

露骨に疑いを隠さず、瑞稀は最高神に問う

バロム、ショック。最高神、苦笑い

 

「本当じゃよ。嘘を吐いても儂にバレる故、大丈夫じゃ。真実しか語るまいて」

 

「ふぅん。ならはよ続きを話せ。力の継承とさっきの話、なんの関係がある?」

 

「酷い!まぁ良いですがね。理の神々の1柱である、成長を司る神は力の継承を、唯一行ってないそうです。とある男に奪われたんですよ」

 

「奪われた?つまり自分の意思ではないと?」

 

「はい。神殿に攻め込まれ、無理矢理奪われたみたいですよ」

 

「なるほどね。でも待てよ?確か理の神々の力はかなり強大で、しかも理の神の加護を受けた騎士が理の神を護ってるって神話には記されていたが、嘘か?神話は誇張されてんのか?」

 

「多少の誇張はありますが、ほぼ神話の通りですね。騎士達の力も、個人差はあれど、かなりのものですし」

 

「なのに奪われたのか?馬鹿なの?」

 

「ゴホン!まあ馬鹿なのかどうかは知りませんが、成長の神が力を奪われたのは事実です。もっとも奪った本人も、後に別の者に神殿に攻め込まれて、出し抜かれたらしいですがね」

 

「…それさ、本当に成長を司る神なの?馬鹿なの?」

 

「さあ?馬鹿なんじゃないですか?」

 

「やれやれ…理の神に対して失礼な奴じゃ」

 

瑞稀とバロムは成長を司る神に呆れ果て、最高神は瑞稀の頭を小突きながら苦言を呈する

 

「しっかし、理の神て奴らは酷いな。下界がこんなに争いに明け暮れていても、調停しようとすらしないなんてな」

 

瑞稀が紅茶を1口飲み、2人の話を反芻しながら呟く

 

「だってさ?神話は誇張されず、ほぼ事実なんだろ?」

 

「そうですね」

 

神話には理の神々の凄まじい力が記されていた

その眼は全ての事柄を見通し、全ての魔素を従える

その耳はあらゆる声を聞き、声無き声すら捉える

その言霊は全ての生命を縛り付ける絶対の強制力であり鎖

その魔力は世界を覆い尽くす程に膨大であり、世界を原初に還す事さえ可能にする

その魔素は全ての生命の源であり、大気に満ちる魔素は理の神によって生み出されている

 

現存している神々の力なぞ、足元にも及ばない

比べる事すら烏滸がましい

 

「神話に伝わる通りの力があるのなら、争いをやめさせるなんて簡単だろうに。二覇龍の出現だって止められたんじゃないか?」

 

瑞稀は、己の内に封印されている白龍神王、凛音と対話を、今でも繰り返している

凛音の生前の話、奏女様との思い出話、対となる黒龍神王の話

色々な話を聞いた

かつて彼女が人間として生を受け、人間として生きていた事

何の因果か、龍の力を宿し、逸脱者として戦場を駆け抜けていた事

原因は覚えていないが、龍の力を暴走させてしまった事

対となる黒龍神王と争い、殺し合いの末、2人とも封印されてしまった事

 

対話を繰り返す内に、凛音は戦闘狂ではあるが、決して全次元を滅ぼす様な邪龍ではないと感じていた

力の暴走さえ起こさなければ、凛音達二覇龍は全次元を滅ぼしかける事なんてないと感じていた

 

「なんで理の神々は何もせず、全次元が滅びかけるまで傍観していたんだ?未然に防ぐ事も出来ると思うんだが」

 

「それは…」

 

「それはな、あの方々は極力下界の問題は、下界で解決すべきであり、自ら干渉するべきではないと定めたからじゃ。それに理の神々といえど全能ではない。未来がどうなるかは分からんのじゃ。二覇龍の暴走は誰もが予測出来なかった。故に世界は後手にまわってしまったんじゃ。理の神々も然り。予測出来なかったんじゃよ」

 

『確かにあの暴走はあまりにも突然だったからな。兆候すら無かった。私も気付いたら封印されてたし。はっきり言って予測は不可能だったろな』

 

凛音が瑞稀に語りかける

その声は優しく瑞稀を諭す様でありながら、どこか諦念を含ませていた

自分達の暴走は誰にも止められなかったし、防げるものでもなかった

言葉には出さないが、彼女はそう考えていた

 

「…理の神々でさえ、全能ではない…か。本当にそれだけなのかね…」

 

誰に問うわけでもなく、瑞稀は小さく呟いた

 

 

 

 

 





自分のケツは自分で拭け!
その結果、世界がどうなろうと自業自得であり、滅びさえしなければ大体OK!
間違えて滅びたらリセットして何度でもリトライすれば良いのさ!

極論ですが、それが理の神々が定めた事

きっと過去、それを良しと出来なかった者がいたかもしれませんね


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残り火、復讐の女神



いつもの事ですが、かなり間隔が空いてしまって申し訳ありません!!

もう前書きに書くことが無くなって来た…



「瑞稀様、また所属不明のドラゴンが人界に出現、暴走したそうです」

 

「またか…今月だけで既に10件を超えてるぞ。他の世界も含めると100近くか…」

 

バロムの報告に眉をひそめる瑞稀

絶対神の社で事務処理をしながらバロムの報告を聞く

 

「で?相変わらず所属、目的、出現ルートは不明なままか?」

 

「はい。うちの研究班も、他の世界の研究者も、依然として何も掴めておりません」

 

現在、人界、魔界、聖界、霊界、天界、神界は正体不明のドラゴンの襲撃を、度々受けていた

ドラゴンとは言え、一度に出現する数は少なく、力も弱いので各界、各々の戦力で問題なく対処出来ているが、如何せん出現頻度が多すぎる故に、絶対神であり、世界の守護者たる瑞稀は警戒を続けている

 

「ただ…魔界から興味深い報告が来ています」

 

「ほう?どんな?」

 

「今まで魔界にドラゴンが出現した場合、魔力反応等は無いにも関わらず、微弱ながら次元震と、次元の歪みを観測。直後に会敵している、と」

 

「次元震と歪みが観測されただと?まさか毎回か?」

 

「そのようです」

 

瑞稀が事務処理の手を止めて考え込む

 

「馬鹿な…魔界からも相当数の出現報告が上がってる。微弱とは言え、毎回次元震と歪みが観測された?魔力反応が無いって事は自然発生か?有り得ない…自然発生の歪みなんて、数百年に1度観測されるような事象だぞ…それがこんな短期間に何度も観測されるなど…しかも自然発生の次元震なんて、ここ数千年では1度も観測されていない…それがこんな頻度で観測されるなんて…有り得ない…」

 

次元の歪みとは、空間に穴が開き、次元の狭間と呼ばれる空間に繋がってしまう現象の事

次元の狭間は、如何なる生命を寄せ付けない程の高濃度の魔素で満たされた領域であり、現実世界とは異なる虚数領域とされている

空間の穴が大きい場合は、次元の狭間の高濃度な魔素が流出し、半径数キロ圏内の生命体に重篤な魔素中毒を引き起こし、非常に危険だが、穴が小さい場合は特に害は無く、すぐに閉じてしまう

発生原因ははっきりと特定されておらず、膨大な質量を持った魔法が原因で発生した事例もあれば、突然何もない空間に発生した事例もある

発生事例自体が少ない故に研究が進まないのだ

 

そして次元震とは、大気中に存在する魔素が、外的魔力や魔素と接触、衝突して振動する事で発生する、空間版の地震の様なもの

人為的にならば、膨大な量の魔力を放出した際に発生するので、瑞稀などの実力者ならば案外簡単に起こせる

しかし、自然に発生する事は滅多にない

と言うのも自然界で膨大な量の魔力が、勝手に放出される事など滅多にない

主に自然発生する場合は、性質の異なる魔素同士が接触、衝突する事が原因と言われている

これは、本来ならば各界の大気圏内に留まる各界固有の魔素が、飽和状態になった際に他の世界に流出してしまう事で発生する

しかし、各界の魔素は年々減少傾向にある現在では、飽和状態になる程の魔素など、どの世界にもありはしない

 

「バロム。大至急、各界の観測データを取り揃えろ。魔界の報告が事実ならば、決して無関係ではあるまい」

 

「畏まりました。今日中に次元中の観測データを取り揃えます」

 

そう言うとバロムはすぐに動き出した

瑞稀は椅子に深く座り込み、自らの内に封じられたドラゴンに語り掛ける

 

「凛音。どう思う」

 

『なかなか面白い話だな。仮にドラゴン共の出現場所と次元震、次元の歪みの発生場所が重なったら…面白くなりそうだ』

 

凛音は戦意を剥き出しにして語る

 

『そうなったらこれは人為的に起きている事になる。言わば未知の敵からの侵略だな。大規模な戦になる。しかも相手は次元震や次元の歪みを狙って発生させれる程の知識と技術、そして力を持っている上に、最強の幻想生物であるドラゴンを無数に従えている可能性が非常に高い。親玉は同じドラゴンか、はたまたドラゴンすら超えるナニカ。心踊る戦になるな』

 

戦闘狂である凛音は愉しげに、興奮を隠す事無く語る

 

「勘弁してくれ…」

 

『冗談だよ。実際は面倒なだけだ。最高神の言い付けで私の力は使えないからな』

 


 

結論から言うと、凛音の言った事が現実になってしまった

バロムが調べた結果、全ての世界でドラゴンの出現と連動して次元震と次元の歪みが観測されていた

そして歪みから流出した大気魔素を調査した結果、未知の魔素を確認

未知の次元からの侵略と断定、それと同時期に襲撃が激化

一度の襲撃時の敵生体の個体数の増加、個体毎の戦闘力の増強から、一部では占拠されてしまった地域すらある

また、敵の能力などの情報量が少なく、魔法術式形態の違いから、各界の軍は苦戦を強いられていた

 

瑞稀率いる戦神も本格的に戦いに介入、襲撃を受けている各界で、援軍として戦うも、出現場所の特定が難しく、後手に回らざるを得ない状況では、如何に瑞稀達ですら対処は非常に難しいのが現状である

 


 

「クソッ!なんなんだ!!あのドラゴン共は!?」

 

「バロム!文句を垂れる暇があるなら足を動かせ!!歪みを多数確認!まだまだ来るぞ!!」

 

「あーもう!!少しは休ませろっつうだよ!!」

 

「いいから走れ!!」

 

現在、瑞稀とバロムは人界の王都周辺の平原に出現したドラゴンと交戦していた

バロムが瑞稀を背に乗せ、瑞稀が影の太刀や魔法でドラゴンを少しずつ撃破するも、次々現れる敵の増援に少しずつ戦線を押されていく

 

敵の増援以外にも問題があり─

 

「おい!鬼崎の無能王と無能兄弟共!!俺達の射線上に入るな!!邪魔だ!さっさと退け!!」

 

「うるせぇ!!てめえこそ邪魔なんだよ!!俺らが前にいるのにバカスカぶっ放してんじゃねえよ!!!ちゃんと見ろよ!目え腐ってんのか!!」

 

「ああ!?てめえらじゃ対処出来ねえから、わざわざこっちとら来てやってんのに!なんだその態度は!?ざけんじゃねえぞ!!まとめて消し飛ばすぞ!!!」

 

「やれるもんならやってみやがれ!!!こっちだって好きでてめえみてえな出来損ないに頼ってるわけじゃねえんだよ!!!」

 

「瑞稀様!今は鬼崎に構っている余裕なんて無いですよ!!」

 

「やかましい!!!あの野郎まとめて消し飛ばしてやる!!!」

 

こんな状況にも関わらず、瑞稀と人界の王、鬼崎は互いに協力するという事を知らない

瑞稀が広範囲魔法を使おうとすると、鬼崎が射線上に割り込んで邪魔をしたり、鬼崎が射程範囲内にいるにも関わらず、瑞稀が影の太刀を全方位に放ち鬼崎を巻き込みかけるなど、協力どころか互いの足の引っ張り合いをしている

 

『瑞稀!その犬の言う通りだ!!たかが鬼如き捨て置け!!敵に集中しろ!!!』

 

「チッ!バロム!一気に駆け抜けろ!!鬼崎の前に出れば俺の炎でまとめて焼き尽くせる!!」

 

「はっ!トップスピードで行きます!! しっかり掴まってて下さい!!!」

 

凛音の叱責で冷静さを少し取り戻し、バロムに指示を出す

鬼崎を追い抜き、前方に誰も居ない事を確認して、瑞稀が巨大な魔法陣を描く

 

「燃え尽きろ!!夜空煌めく極炎(ナイトオブバーニングスター)!!!」

 

上空に巨大な炎の塊、小さな太陽の如く燃え盛る炎の塊が出現する

その塊は途轍もない熱量を持ち、まるで流星群の様に火の玉を降らせながら、自らも落下し、辺り一帯を焼き尽くし、煉獄の様な情景を作り出し、敵ドラゴンを残らず消滅せしめた

 

「こんなやべえ魔法があんなら最初から使って下さいよ!?もうやだ!私泣きそう!!」

 

「…鬼崎が邪魔で使えなかったんだよ…」

 

大袈裟に叫び泣き出すバロム、瑞稀はちょっと申し訳なさそうに言い訳する

 

「つうか!お前が最初からもっと速く走れば鬼崎に追い付かれる前に使えたんだよ!!お前が出し惜しみなんてするからだろ!?」

 

「だって全力疾走すると疲れるじゃないですか。ぶっちゃけ鬼崎がこんなに使えねえとは思わなかったですし」

 

「犬が偉そうにすんじゃねえよ!!てめえらが使えねえんだよ!!」

 

「犬じゃねえし!狼だし!!フェンリルだしぃ!!!フェンリルがワンちゃんに見えるなんて、鬼崎のお坊っちゃん方はお目目が悪いのかなぁ!?それとも違いが分からないほど頭が悪いのかなぁ!?あっ!どっちもか!!救えねえ(笑)」

 

「アァン!?ぶっ殺すぞ!!俺らの炎で焼き肉にすんぞ!!」

 

「はいはい(笑)出来ない事を口にしない方が良いですよー?も!の!す!ご!く!小者に見えますから(笑)」

 

「おい…バロム。警戒を解くな。何かヤバそうなのが来る」

 

バロムと鬼崎があーでもないこーでもないと喧嘩を始めたが、瑞稀が何かを感知したらしく、再度戦闘態勢に入る

 

「流石は最強の呼び名高き絶対神。情報以上の実力だな」

 

突如、目の前に次元の歪みが開き、中から人が出てきた

 

「女?なんだこいつ?」

 

そう一目で女性と分かる人型の生物

今までドラゴン以外が出現した事など無かった

 

身長は高めで、燃える様な赤い髪を背中まで伸ばし、鋭い目付きをした女性だ

顔は隠していないが、首から下は黒い甲冑を着込み、自身の身長と同じ位の片刃の大刀を右手に持ち肩に担いでいた

 

─突然、女性の身体に鎖が絡み付き、女性を拘束する

 

「拘束封印魔法、グレイプニル。貴様、何者だ」

 

瑞稀が魔法で鎖を精製、拘束したのだ

グレイプニルはフェンリルですら縛り付ける強度を誇る封印魔法の一種だ

これを解くには相当な膂力、もしくは魔力を要する

 

「ふむ。実力だけでなく勘も良い。惜しい人材だが、敵なら仕方ないか…」

 

「答えろ!!貴様は何者だ!!」

 

「…良かろう。名乗ってやるとしよう」

 

女性はそう言うと瑞稀の拘束をいとも容易く引き千切る

 

「なっ!?馬鹿な!!」

 

「我が名はセレス。再生を司る、番外の理の神だ。我は、我が次元ディアレストの神として、貴様等神界、天界、魔界、聖界、霊界、人界に対して宣戦布告をする。これはかつて、神界の討伐神によって焼き尽くされた、我等ディアレストの正当なる復讐である」

 

「かつて討伐神に、奏女様に焼き尽くされた?あの伝説は本当だったのか!!それに、よりによって理の神だと!?」

 

ディアレスト

かつて神界と戦争をして瑞稀の師、討伐神奏女様に次元ごと焼き尽くされ、敗北した世界

 

奏女様に跡形も無く焼き尽くされたと言い伝えられていたが、実際には完全に焼き尽くされたわけではなく、燃えカスとも言うべき程度ではあるが、残っていたのだ

 

そして永い年月を費やし、番外の理の神は燃えカスを元に、次元を再構築

ディアレストは瑞稀達が住まう次元とは違う魔法技術を発展させ、ドラゴンの複製、強化技術を確立

更に理の神の力で次元に穴を開け、復讐の為に今回の進攻を決行したのだ

 

「さて、今までの調べで討伐神が居なくなったのは分かっている。こちらの理の神は我の力に干渉する事が出来ない程、弱っているのも分かっている。最早我等に対抗し得る者は居ない。諦めて我が軍門に下れ。そうすれば我が家畜として生かしてやろう。だが抵抗すると言うのなら、万物一切我が刀の錆にしてくれる」

 

そう言ってセレスと名乗った理の神は刀を振るった

その斬撃の威力は凄まじく、平原を一直線に斬り裂き、王都の城壁すらも真っ二つに斬り裂いた

 

「此度は見逃す。次に我が赴くまでに降伏か、処刑か。決めておくがいい」

 

そう言い残し、彼女は歪みの中に消える

圧倒的な実力差に呆然とする鬼崎達

その実力差に、自らの無力さに打ちのめされる瑞稀達

 

「…瑞稀様。まずは神界に帰還し、最高神様に此度の事を報告しましょう」

 

「…そうだな…絶対神として降伏は有り得ない。至急対策を練ろう」

 

「馬鹿か!?あんな化け物に勝てるわけねえだろ!!出来る事なんてあるわけねえんだよ!!諦めて降伏しろ!!てめえらが抵抗して俺達まで巻き込まれたらどうすんだよ!?そんな事、まっぴらごめんだぜ!!戦うぐらいなら、俺達はアイツ等に見付からねえ様に遠くに逃げるぞ!!」

 

あれほどの実力差を前に、未だに戦う気でいる瑞稀に鬼崎が怒鳴り付ける

 

だが、忘れてはいけない

彼は、かの討伐神の弟子であり、その信念を継いだ神なのだ

 

「本気で言ってるのか?腐っても王だろ?王が民を見捨てて逃げるのか?聞いてなかったのか!?奴は家畜として生かすと言ったんだぞ!?まともに生かすと思うか!?有り得ない!生殺与奪の全てを握られ、気紛れに命を奪われる可能性だってある!!お前の民がだぞ!?貴様も王ならば民の為に戦え!!力無き者を護って戦え!!それが王だ!!!」

 

「知るかよそんなもん!!俺だって好きで王様になったわけじゃねえんだよ!!!戦って死にてえ奴だけで勝手にやれよ!!」

 

「貴様っ!!!」

 

「瑞稀様っ!!冷静になって下さい!!今はこんなクズを相手にしている場合ではありません!!至急対策を練り、少しでも多くの民を護らねば!!貴方が!王が護らずして、誰が貴方の民を護るのです!?」

 

今にも殴りかかりそうな瑞稀を抑え、説得するバロム

憤怒を湛えながらも、バロムの言葉に冷静さを取り戻す瑞稀

普段こそバロムはHENTAIだが、いざというときには頼りになる副官なのだ

 

「…っ。至急神界に帰還する。援軍に出ている者を全員呼び戻せ。最高神も交え、ディアレストへの対策会議を開く。何としてでも奴等を殲滅する」

 

「畏まりました!」

 

瑞稀は鬼崎を一瞥するとクソ馬鹿デカい舌打ちをして、転移魔法を発動、神界へと帰還した

 

 

 





神様になっても鬼崎が嫌いな瑞稀
神様であろうと瑞稀が嫌いな鬼崎
彼等は永遠に和解する事はないかもしれない

今回、鬼崎と瑞稀の王としての価値観、考え方の違いが露骨に出ました

でもぶっちゃけ鬼崎は人として当然の反応をしただけ
抵抗すれば確実に殺される状況で、人としての尊厳を貫ける人は決して多くはない
逆に瑞稀の王としての在り方は異常です。狂気染みてます

瑞稀はほんの一欠片を除いて、1人の"人"として生きていないんです
彼はどこまでいっても"王"なんです
鬼崎が嫌いだとか、人間が嫌いだとか、綺麗なお姉さんが大好きだとか、おっぱいが大好きだとか、その程度しか人らしい感情を持ち合わせていません
あれ?結構人臭いぞ、この王様

とにかく、日常生活での瑞稀は変態であり、ノリが軽いので目立ちませんが、彼の根底には王たるべしという思いが常にあります

作中では書いてませんが、彼の口癖に、王は国が無ければ王には成れず、国は民が居なければただの土地でしかなく、民は王が居なければ国には成れない。民は王の為に在り、王は民の為に在る。民とは王の願望を実現するために奉仕する存在であり、王とは自らの願望を体現する存在である。と言うのがあります

自らの力は民を護る為にあり、自らの身体は民を護る為にあり、自らの命は民を幸せにする為に使う
それが瑞稀の願望であり、王としての在り方です
義務感だとか、使命感だとかではないんです
瑞稀自身の願望なんです。王様だからそうしないといけないとかではなく、瑞稀がそうしたくて勝手にしてるんです
はっきり言って頭イカれてます
でも、民が幸せになるには自分も幸せでなければならないとは考えているので、自分の幸せを全く考えてないわけではないんです
まあ結局、自分か民の二択を迫られた場合、迷わず民を取ります。民の為なら権力や地位を捨てる事も厭いませんし、いざとなれば死ぬ事すら躊躇いません

そして瑞稀は他の王の在り方にもうるさいです
なので鬼崎の様に自らの保身を優先してしまうとブチギレます
反面、一度認めた相手には協力を惜しみません

後書きで長々と申し訳ありませんでしたm(__)m
いつか人物設定とかでまとめたいとは思いつつ、面倒臭がる作者をお許し下さいm(__)m


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駆け付ける兵器と巨龍


新キャラ登場!



 

「番外の理の神セレス率いるディアレストは、多数のドラゴンを投入、人界の地方都市を多数占拠、地方を中心に勢力を拡大、現在王都の占拠を目指し進攻、人界軍は何とか魔法協会や傭兵団と協力し、足止めを試みているようですが、長くは持たないと思われます。ディアレストは同時に霊界を襲撃、精霊王と五大精霊を中心に抵抗を続けておりますが戦力差は大きく、同盟である聖界と協力して戦線を維持していますが、人界と同じく長くは持たないと思われます。魔界、天界、聖界、そして我々神界に関しては今の所はゲリラ戦を主としており、戦力の大規模投入は確認されておりません。ディアレストは今までの次元の歪みを利用した転移を使用せず、占拠した人界の都市を前哨基地とし、直接進軍しております。歪みを使用しなくなった理由は不明ですが、おそらく消耗を少しでも減らす為ではないかと思われます。尚、敵戦線を構成しているドラゴンですが、通常の個体ではなく、理の神の祝福を受けた理の騎士であると思われます。個々の戦闘能力の高さは常軌を逸脱しておりますが、連携には些か難有りと思われます。何か質問がある方はいらっしゃいますでしょうか?」

 

バロムは現状報告を終え、周りを見渡す

現在瑞稀率いる戦神と最高神を中心とした知識神は、ディアレストへの対策会議を行っていた

 

「では儂から質問させてもらおう」

 

「では最高神様。どうぞ」

 

「あちらの目的は何なのだ?単純に復讐だけが目的ではあるまい」

 

「はい。おそらく神界に保管されている魔素の聖樹の苗木の奪取が、ディアレストの最終目的と考えております」

 

魔素の聖樹とは、精霊樹の一種で魔素を取り込み成長する、全次元で最も巨大な木だ

成長には膨大な魔素を必要とするが、成長した聖樹は高濃度の魔素を放出する

聖樹は各界に一本ずつ存在していたのだが、現在は全て枯れ果ててしまい、神界に小さな苗木が保管されているだけになってしまった

 

「ディアレストはかつて、討伐神様に次元を焼き尽くされておりますので、理の神の力だけでは魔素の精製が追い付いていないと考えられます。ですので聖樹を奪い、魔素の精製量を底上げしたいと考えるのは至極当然の事です」

 

「成る程。じゃが、ならば何故直接神界に攻め込まぬ?態々他の世界を攻め落とす理由は何じゃ?」

 

「その理由なんですが、あちらの理の神は討伐神様の神器を探していると、人界から報告が来ています。あちらは討伐神様が御亡くなりになられた事は知っていても、魔界で御亡くなりになられた事は知らないようです」

 

「奏女の神器を?」

 

「はい。討伐神様の神器紅爪桜花は、繁栄を司る理の神が己の力を全て込めて造った神器です。その力は始まりの2振りの神器すら凌駕する。まさに史上最強の神器と呼べます。かつて討伐神様と敵対し、その力を目の当たりにしたのならば、欲するのは不自然ではないと思います」

 

「ふむ…瑞稀。紅爪桜花は現在どこにある?奏女の弟子であるお前なら知っているのではないか?」

 

「知らぬ。そもそも俺は今回の報告で紅爪桜花の存在を知った。前に貴方には話したが、あの場所に赴いた時、奏女様の遺体は無かったし、奏女様の刀もそこには無かった」

 

『おい、あの炎の事は言わなくて良いのか?』

 

(ああ。おそらくあの炎は、紅爪桜花が張った結界の類いかもしれん。しかも後から調べたらあの炎、かなり地下深くまで延びていた。おそらく冥府まで続いてる。干渉は無理だ。何より知識神に知れたら何をしでかすか… )

 

『確かにそうだな。あいつらなら奏姐さんの遺体を悪用して、なんかやらかしそうだな』

 

「どうした?何か気になる事でもあるのか?」

 

「いや、何でもない。とにかく紅爪桜花の所在が分からぬ以上、無闇に探し回る余裕はない。今は如何に聖樹を護り、ディアレストを退けるかを考えるべきだ」

 

瑞稀の発言を受け、紅爪桜花は一時保留とし、会議は進むが、結局戦力差が激しく戦えば勝ち目はなく、まともな案も出ないまま会議は泥沼化していった

そして会議も終盤に差し掛かった時に瑞稀がとんでもない事を言い出す

 

「対抗策が無い以上、覇の理を使うしか無いのではないか?」

 

瑞稀の一言にその場にいる全ての者が驚愕した

 

「白龍神王の力を使うつもりか!?馬鹿を言うな!!世界を滅ぼすつもりか!?」

 

「そうだ!!たとえディアレストを退けても白龍神王が目覚めては意味がない!!よく考えて発言せよ!!」

 

知識神が激しく抗議する

彼等は一様に怯えていた

 

かつて全ての世界を滅ぼしかけた二覇龍の片割れの復活など、冗談じゃない

二覇龍を超える唯一の存在である討伐神が居ない今、奴等を止める事が出来る者は居ない

たとえ制御が叶い暴走せずとも、絶対神が覇龍の力を使っては神界の信用は地に堕ちる

覇龍の危険性を理解していないのか

皆が怯えながら叫んだ

 

「静まれ!!!」

 

最高神が一喝、知識神を睨み付ける

先までの騒ぎは一瞬で沈静化、それでも未だに覇龍への恐怖は消えない

 

「瑞稀。そなたの言いたい事も分かる。しかし許可は出来ぬ。こやつ等の言う通り覇龍は危険過ぎる。別の方法を模索しよう」

 

「…分かった。ならば俺の焔を使う事を許可願いたい」

 

「…そなたの焔か。良かろう。じゃがあまり派手に使うなよ。そなたの焔は危険過ぎる」

 

「分かってる。紅蓮の炎で出来る限り対処する。それで無理なら…使わせてもらう」

 

「うむ。それで良い」

 

その後、覇龍への恐怖を拭えぬまま会議は終了する

 


 

「瑞稀、会議で凛音の事を発言するのは止めよ。知識神の阿呆共が怯えるであろうが」

 

「すまない。以後控える」

 

会議が終了した後、最高神はプラエトーリウム・ソムヌスにて内密に話がしたいと瑞稀に呼び出された

 

「まあ良い。聞きたい事があるのだろう?申してみよ」

 

「ディアレストの理の神の事なんだが。番外とはどういう事だ?理の神は5柱だけで、再生を司る神など居ない筈だ。古い時代から生きてるあんたなら何か知らないかと思ってな」

 

「成る程。儂も詳しい事は分からぬが。次元間転移を行い、理の騎士らしき龍を従える。儂自身も私兵に調査させたんじゃがな、おそらく大気中の魔素を操る術も持っているらしい。それらの能力は理の神が持つ特徴に合致している。じゃが儂も理の神に番外が存在していた、ましてや再生を司る神が存在していたなど聞いた事も無い。バロム殿も聞いた事も無いのではないか?」

 

「そうですね。番外も再生を司る神も聞いた事なんて無いですね」

 

神話伝承に伝わる理の神は、成長、繁栄、停滞、守護、崩壊を司る5柱のみ

再生を司る神など神話では一言も語られていないのだ

 

「理の神ではなく、自称の可能性は?実際には理の神に近しい力を持っているだけという可能性は無いのか?」

 

「それは…無いとは言えんが、可能性は低いじゃろうな。そもそも最初の理の神は創造神様が御造りになり、力を分け与えた存在じゃ。少なからず創造神様の魔素を保有している事になる。それは力を継承した次代の理の神も同じ事。セレスとやらが此方に転移してきた際、創造神様の魔素を微量ながら感知している。何らかの形で創造神様から力を与えられているのは間違いない」

 

「そういえば成長の神は力を奪われたと言ってたよな?創造神もセレスに力を奪われた可能性は無いのか?」

 

神話では語られていないが、初代成長の神は力の継承を行わず、他者に力を奪われている

前例がある以上、創造神の力を奪う事も可能かもしれないと瑞稀は考えたのだが

 

「無い。あの御方の力を奪う事など出来はしない。そもそもあの御方の力には干渉する事など出来はしない。何よりも力を奪われたにしてはあの御方の魔素が薄過ぎる」

 

「あんたが言うならそうなのだろうな。まあよく分からん事を今議論しても拉致が明かん。それであんたから見て俺達に勝ち目はあると思うか?」

 

「厳しいと言わざるを得ん。相手は未知数の力を持つ理の神故、いくらお前達でも勝てるかどうか。常識的に考えれば勝ち目はない。じゃが相手が常軌を逸脱しているのと同じ様に、そなたも常軌を逸脱している。可能性は捨て切れん」

 

「そうか。0じゃないなら勝てるな」

 

瑞稀の自信に満ちた発言に最高神は思わず吹き出し、大笑いした

 

「ふははは!理の神相手に0で無ければ勝てると来たか!!阿呆の極みではないか!!」

 

「誉め言葉と受け取っておこう」

 

「理の神に挑むのだ。阿呆で無ければ出来ぬ。無茶無謀ではあるが不可能ではない。阿呆ではあるが今はそれが頼もしい。そなたはまこと奏女の弟子よな」

 

最高神の言葉に瑞稀は、まるで当然だと言わんばかりに笑みを浮かべるだけで何も言わなかった

 

「まあ流石に無策では不味いので、私の方で手は打ちました。斬鉄、刻龍、私の共通の知己に声をかけました。準備が整い次第参戦してくれるそうですから、多少は何とかなるかと」

 

何やら知らない所でバロム達が動いていたらしい

 

「お前らの知り合い?魔王関係か?」

 

「いいえ。また別筋の知り合いです。私達がまだ魔王になっていない時からの知り合いです。能力は保証します。必ず我々の力になります」

 

「そうか。お前がそこまで言うのなら大丈夫なのだろう。そちらは任せる。俺は現状の戦力での作戦を考える」

 

 

 


 

 

「進め。蹴散らせ。我が祝福を受けたお前達の力を、愚かな神擬きに見せ付けてやれ」

 

「怯むな!我等に数多の祈りを捧げた民を護れ!我等戦神に敗北は許されん!!相手が理の神であろうが、理の騎士であるドラゴン達だろうが、遅れを取るな!!捧げられた祈りに報いよ!!ドラゴンなぞ1匹残らず狩り尽くせ!!!」

 

後日、瑞稀率いる戦神と、番外の理の神と理の騎士であるドラゴン達が人界の王都前で、再び一戦交えていた

敵の数は、理の神と理の騎士と思われるドラゴンが10体ほどとその他のドラゴンが1000体程度と数は少ない

数の上では戦神の方が圧倒的に勝っているが、理の騎士は1体1体が龍王クラスを凌駕する戦闘力を誇っている

その他のドラゴンならまだしも、理の騎士は部隊長以下の戦神では歯牙にもかけられない

数での優位など容易く覆される程の戦闘力の差があった

しかし、それでも戦線は押し返されない

 

「瑞稀様が愛し、護る世界に害を成すのなら、たとえ理の神であろうと容赦しません!行きますよ!天空剣さん!!」

 

『ほれほれドラゴン共よ!!ぶった斬られたくなけりゃ退かんかい!!』

 

ワルキューレが天空扇で薙ぎ払い

 

「よっしゃ!!いっちょ唯もやるか!!殺!!!」

 

唯が魔力を込めた拳で殴り飛ばし

 

「鏡!天狼!油断無く、慢心無く、容赦無く焼き尽くしますよ!!」

 

「「はい!お姉様!!」」

 

天照三姉妹が神聖魔法による炎で焼き

 

「理の騎士が相手とは…光栄の極みですね。凍らせ殴り砕いて差し上げましょうか」

 

刻龍が拳に氷を纏わせ殴り掛かり

 

「刻龍。そりゃ嫌味だぜ…とは言え、俺も遅れを取るわけにも行かねえな。よっしゃ!一丁殺るか!!」

 

斬鉄が大刀に炎を纏わせ斬り掛かり

 

「はてさて、再生を司る神ねぇ…はたして如何程の実力かな?まずは鬱陶しい蜥蜴から消し飛ばすとしますかね」

 

バロムが衝撃波を撒き散らしながら駆け抜け

 

「一気に敵本陣まで駆け抜ける!貫け夜宵!!」

 

『イエス、マスター!』

 

瑞稀が影の太刀を大量に精製し、敵の防衛網に風穴を開け、駆け抜ける

 

「理の騎士の足止めを最優先!瑞稀様が敵大将、理の神セレスを討つまで戦線を維持!!」

 

ワルキューレが全部隊に指示を出す

理の騎士達は主である理の神からの魔力、魔素の供給を受ける事で戦神すら超える絶大な力を振るう

逆に言えば供給さえ絶ってしまえば弱体化してしまうのだ

故に瑞稀は自分を除く、全ての部隊で理の騎士や他のドラゴンを足止めし、理の神相手に一騎討ちを仕掛けるつもりなのだ

戦神と理の騎士達との戦力差は激しく、まともに渡り合えるのは部隊長達だけ

この戦いに勝つにはまずは戦力差を縮める他無いのだ

 

「理の騎士とは言え、幸いこいつらは知能が低い様ですね。同じドラゴンとして恥ずかしい。まあ、お陰で引き付け足止めするだけなら、戦線の維持は大丈夫ですね」

 

「刻龍。油断するな。知能が低くかろうが理の騎士である事に変わりはない」

 

「そうだぜ!油断はダメだ!つうかこいつらメチャクチャ硬いぞ!?俺の鬼神斬すら大して効きやしねえ!!」

 

「唯の打撃もあんまり効果無いね!自信無くしそう!!」

 

「私達姉妹の炎も駄目です!吐き出す火炎弾でかき消されてしまいます!!」

 

理の騎士のドラゴン達はその他のドラゴンと同じ様に、単純に暴れ回るだけなので知能は低いと思われるが、如何せん頑丈過ぎるのでダメージを与える事すら難しい

しかも吐き出す炎は非常に強力で天照三姉妹の炎すらかき消されてしまう程の威力を持っている

 

『儂の天空扇ならダメージを与えられるが、理の騎士は10。此方はまともにやり合えるのは8。決定打に欠ける上に数が足りんのう。瑞稀は兎も角此方は足止めが精一杯じゃ。せめて1対1に持ち込めれば最終超越技(ファイナルイクシード)で何とか仕止められるが。雑魚の数も多いしのう。バロム。お前が言っとった助っ人はまだか!?』

 

「いやぁ…もうちょいで来るとは思うんだが…」

 

バロムがそう言った瞬間

後方から無数の光が飛来し、数多のドラゴンを飲み込んだ

 

「これは…やっと来たか。遅いぞ、()()()()()

 

「いやぁすまない。私としては急いで来たつもりなんだが。機界からここまでちょいと距離があるからね。少しばかり遅刻してしまったよ。とは言え良いタイミングだろ?許してくれたまえ」

 

白銀の装甲を纏う機械が背中から火を吹きながら飛んできた

2m程の大きさで、兵器としては小さいが身体のあらゆる場所から光学兵器の砲身が伸びている

バロムにゼルガノンと呼ばれたこの機械が、どうやらバロムが呼んだ助っ人の1人の様だ

 

「お前だけか?アイツはどうした?」

 

()()()()ならすぐ来るよ。ほら来た」

 

ゼルガノンがそう言うと巨大な何かが空から降ってきた

 

「すまん。遅れた」

 

言葉少なく告げたのは80mはあるだろう巨大な薄黄色の二足型のドラゴン

1対の翼を持ち、見た目は巨大な翼がある人型ドラゴンだ

彼もまた、バロムが呼んだ助っ人の様だ

 

「遅いぞ、リューン。お前といい、ゼルガノンといい、もう少し早く来れなかったのか」

 

「すまん…これでも急いで来たのだが…我のスピードではこれが精一杯であった…遅くてすまん…ノロマで本当にすまん…この戦いが終わったら死んで詫びよう…許してくれ…」

 

「気にするんじゃないよ。バロムが文句ばかり言うのは昔からじゃないかね。ほっときたまえ」

 

「いやしかし、我等が約束の時間に遅れたのは事実だ。バロムが怒るのは道理であろう。やはりけじめは必要では」

 

『ゼルガノンもリューンも相変わらずじゃのう。まさか助っ人がお前達とは思わなんだ』

 

「天空剣か。これはまた懐かしい面だよ」

 

「うむ。息災であったか。再会を嬉しく思う」

 

「どうでもいいが、話しは後にしません?敵さんが待ちくたびれている様です」

 

刻龍の言う通り、生き残りのドラゴン達が唸りを上げて突っ込んで来ていた

理の騎士達は先程のゼルガノンの攻撃を警戒しているのか、後方が火炎弾を放っていた

 

「うむ。まずはこやつらを消すか」

「消えよ!破滅の咆哮!!!」

 

リューンが口から極太のレーザーを魔法で放ち、敵の雑兵を消し飛ばし、理の騎士達の放った火炎弾すら相殺する!!

 

「これで少しはスッキリした。うむ、奇しくも理の騎士と此方でまともに戦えそうな者の数は同じ。一騎討ちにて仕止められるわけだが」

 

「最初からそのつもりでお前達を呼んだんだ。1体づつ仕止めてくれ」

 

「成る程ねぇ。まあ分かったよ。任せたまえ」

 

「うむ。遅れは取らぬ。消し飛ばして見せよう」

 

助っ人を合わせて10騎

やっと1対1で戦える状況となった

 

しかし相手は理の騎士

そう容易くは討ち取れる筈も無いのだ

 





機械兵器に巨大なドラゴンが登場しました
2人?はバロムさん達とは昔馴染みの様ですが、魔狼、鬼神、氷龍、機械兵器、巨龍、神器、皆さんかなりキャラが濃ゆい…



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敗北

永らく失踪しておりました
申し訳ない


「さて。我が騎士達は貴様の思惑通り、貴様の部下に足止めされているわけだが。まさかたかが絶対神如きに、理の神である私の相手が務まると思っているのか?」

 

「思ってるさ。そうでなければこの場には居まい」

 

瑞稀がこれ見よがしに肩を竦めて見せる

挑発しているのだ

 

「なるほど。貴様は私が思っていた以上に頭が悪いようだな。貴様の神器、守りに特化しているな?その神器、見た所保有魔力は破格の様だが、空間を斬り裂く我が神器の力には及ばない。大層な神器を持っていても、守りだけで戦に勝てるわけがない」

 

理の神セレスも憐れみをたっぷり含んだ目線を送りながら瑞稀を挑発する

おそらく負けず嫌いなのだろう

 

「頭が悪いのは貴様だろう?力は大したものだが、技術がお子ちゃまレベルだ。空間を斬り裂く神器だかなんだか知らんが、大層な玩具を振り回してチャンバラしてる子供にしか見えんぞ?貴様の頭の悪さに神器が泣いているぞ?いやはや、それすら理解できぬとは、貴様のおつむの程度がよく分かるな。単なる世間知らずか、もしくは理の神などと言う分不相応な力を持ち、さも自分は全能にでもなった気になっている阿呆─」

 

瑞稀の言葉は最後まで言い終わる前にセレスの斬擊で止められる

結果セレスと瑞稀は自然と鍔迫り合いになるが、それでも瑞稀は余裕を崩さない

わざとらしく殺気を弱め、申し訳無さそうな表情を作る

 

「─すまぬ。図星であったか。事実とは言え、デリカシーが無さすぎた」

 

「吐いた唾は飲めんぞ。その無駄口、首を落としてすぐにでも黙らせてやる」

 

先程までの余裕など無く、セレスは殺気を滾らせている

瑞稀の挑発が効いているようだ

対称的に瑞稀は余裕を崩さない

徹底的に相手の神経を逆撫でしていく

 

「出来るならやってみろ。ほらどうした?殺気で俺は殺せんぞ?首を落とすと言うのなら、その刃を届かせねば落とせんぞ?」

 

「黙れ!!不快なその口、すぐに塞いでやる!!」

 

セレスは息つく暇無く瑞稀を斬り付けるが、全て瑞稀に防がれている

セレスの攻撃を防ぎながら瑞稀は挑発を続けた

 

「どうした?塞ぐのではないのか?理の神とはこの程度か?餓鬼の遊びでは無いんだぞ?本気で殺しに来いよ」

 

「黙れ!!絶対神如きが!理の神である私を侮辱するなど!身の程を弁えろ!!」

 

瑞稀の挑発にセレスの理性は加速度的に削られていく

しかし、その分セレスの攻撃は熾烈を極めた

瑞稀もまた、表面上は余裕を気取っているが、内心では余裕など全然無くなってきていた

 

(クソが!!なんだこの馬鹿げた身体能力は!出来る限りの最善手で捌いてるのに、腕が持ってかれそうだ!!太刀筋が乱雑だから捌けるが、そうじゃなきゃ何回か死んでる!!ここまで能力の差が大きいとはな!挑発に乗って冷静さを失ってくれて助かった!)

 

以前、魔王の頃より白龍神王の力が身体に馴染んで基礎能力が向上している瑞稀ですら、能力の差が大き過ぎる

冷静さを失い、攻撃が雑になっているからどうにかなってはいるが、完全に押されてしまっている

 

(覇龍化(ジャガーノートドライブ)さえ使えれば押し返せるものを!!魔法を使う暇すら無いんじゃ焔を使う事すら出来ん!)

 

(マスター!私が影の太刀で隙を作ります!その間に魔法を!!)

 

瑞稀の周囲に膨大な量の影の太刀が展開される!

その全ての切っ先がセレスに向けられ、音速を超える速度で射出される

これにはセレスも距離を取り防御に専念する他無い

 

「今だ!!」

 

瑞稀は右手に炎纏わせ、地面に特大の魔法陣を展開

手のひらを地面に叩き付け、特大の火柱が魔法陣から噴き出す!

 

「天扇劫炎界!!!」

 

噴き出した炎は紅蓮の炎よりも紅く、美しく透き通った真紅の耀きを放っていた

それの炎は、創世神話に語られる創造神が扱っていた、真紅に光耀く紅蓮の焔だった

その炎はどこまでも延びていき、天すら焼き尽くす勢いを魅せ付けた

 

『殺ったか?』

 

「いや直撃とはいえ、そう容易く終わるとは思えん」

 

「マスター。今の内に神格覚醒(ディバインブレイク)の準備を」

 

瑞稀と夜宵が魔力を溜め始めると同時に、瑞稀ごと魔法陣が真っ二つに斬り裂かれた!

 

「っ!?」

 

「─油断したよ。私としたことが冷静さを失い、まさか傷を負わされるとはな」

 

セレスは所々火傷を負ってはいるが生きていた

それ所かあまりダメージを負っているようにすら見えない

しかも攻撃を受けた事で冷静さを取り戻している

先程までと違い、油断無く構えている

 

「見事な魔法だった。まさか、真紅の焔を見れるとは思わなかった。謝罪しょう。貴様は単なる神ではない。理の神である私が殺すに値する神である。ここからは私も全力で戦おう」

 

「死んではいないとは思ったが、まさか殆どノーダメージとはな。自信を無くしそうだ」

 

これには瑞稀も驚きを隠せない

殺せるとはハナから思っていなかった

それでもそれなりのダメージは与えられると考えていた

直撃させた天扇劫炎界は、かつて天乃戦で使った天扇雷劫界を改良して作った魔法

瑞稀の基礎能力向上により、あの頃よりも威力は上昇しているにも関わらず、大したダメージを与える事が出来ていない

しかも紅蓮の炎じゃなくて、絶対神になってから目覚めた真紅の焔を使用した

真紅の焔は創造神が扱っていたとされる歴史上最強の炎なのだ

それでも、そこまでしてなお理の神には届かない

しかも夜宵が咄嗟に影の太刀を幾重にも展開し防いでくれたおかげで致命傷には至っていないが、肩から腹にかけて袈裟懸けに斬られてしまっている

威力の違いを見せ付けられ、精神的にもキツい

 

「今さら私との実力差を理解したか?ならば諦めろ。足掻く事を止め、大人しく死ぬがいい。私への暴言の責は貴様の死をもって償ってもらおう」

 

「いいや、まだだ。まだ抗わせてもらうさ!夜宵!!」

 

「イエス!マスター!!」

 

瑞稀と夜宵が膨大な魔力を放出する!

 

「「神格覚醒(ディバインブレイク)!!!」」

 

「「禍衣・夜宵(まがごろも・やよい)!!」」

 

神格覚醒(ディバインブレイク)?なんだそれは?」

 

セレスは本来有り得ない疑問を口にする

神器を持ち、自身も絶大な力を持ちながらも神格覚醒を知らない

そんな馬鹿たれは今まで聞いた事すら無い

 

その疑問に瑞稀は、担ぎ手として侮蔑を覚えた

 

「神器の担ぎ手であり、理の神でありながら、神格覚醒すら知らないとはな。担ぎ手のくせに神器の本領を知らないとはとんだ大馬鹿だな。神器との対話すらしていないと見える。まさか神器の名すら知らぬわけではあるまいな?」

 

「神器と対話?何を言っている。道具に何を語れと言うのだ?それに神器の名だと?そんなものを知ってどうする?神器は武器、道具だ。道具に必要なのは性能だ。性能さえ分かれば名など、どうでもいい」

 

「貴様…本気で言ってるのか…それでも担ぎ手か…!!」

 

神器は武器、道具

事実ではある

 

それでも彼女達には心がある。魂がある

例えば、美味しい物を食べれば喜ぶ

何か気に触る事を言えば怒りもする

哀しみにうちひしがれ涙も流す

楽しげに笑う事だってある

神器だって時には誰かを愛する事だってある

神器だって時には誰かを怨む事だってある

神器だって人と何も変わらない感情を持っている

 

神器は武器、道具ではあるが生きている

故に担ぎ手は彼女達を理解しようと努める

1つの命として接する

お互いに理解し合い、信頼関係を築き上げる

使うのでは無く、共に戦う

神器との契約はただ魔素核を共有し、所有権を得るわけではない

魔素核を共有するとは、命を共有すると言う事、人生を共有すると言う事だ

 

「そう言えば前にバロム達も同じような事を言っていたな。こいつ程露骨ではないがな。ここまで神器を軽んじるクズは初めてだ…!それでよく契約出来たものだな…!!」

 

「契約?何の事だ?それに担ぎ手とやらも知らぬ」

 

「─なるほど。貴様、呪い手か。しかも神器を聖剣や魔剣の類いの様に魔力を注いだだけで使えると思い込んでる大馬鹿か。知りもせず呪い手になるとはな。本物の馬鹿だな」

 

呪い手とは担ぎ手と違い、契約を結ぶ事無く、自身の魔力だけで神器を無理矢理従わせる者を言う

呪い手に使用される神器は自我を封じられ、性能以外では通常武器と変わりはない

呪い手になるメリットとしては契約を結ばないので使用者の魔素核への負担は少ない

自身の魔力さえあれば固有能力を行使する事が出来る

通常の武器と同じように持ち替えが楽に出来る

一度契約した神器との契約解消は双方の魔素核に負担がかかる

故に普通は契約解消など有り得ないのだ

かつて天空剣と契約し、夜宵と契約し直す為に契約解消した瑞稀と天空剣はしばらくの間、魔力を行使する事すら出来ない程に疲弊した

そして一番のメリットは、自身と契約を結ぶ事を拒んだ神器でも、膨大な魔力さえあれば無理矢理従わせ、固有能力を行使する事が出来る事にある

神器は契約相手を選ぶし、気に食わなければ契約拒否するのは当然だ

しかし、神器は武器単体として見た場合の性能も高い上に、固有能力を保有しているので、単なる武器として使う事が出来るだけでも、破格の性能を誇るのだ

 

当然デメリットも有りはする

契約を結んでいない以上、神器の魔力を必要とする神格覚醒を行う事が出来ない

神器の魔力を行使出来ない以上、出力も担ぎ手よりも劣る

損傷してしまった箇所の魔力での再生は出来るものの、神器への負担が担ぎ手よりも大きく、神器自身の能力低下を引き起こす

そもそも膨大な魔力が無ければ神器を抑え込む事が出来ず、暴走しかねない

当然だが強力な神器である程、抑え込むのにはより多くの魔力を必要とするなど、かなりのデメリットは有るが、それでも呪い手になる者は少なからず存在する

 

「何の事を言ってるのか知らんが、どう足掻いた所で貴様は私に勝てない」

 

「ほざけ。無知蒙昧な貴様如きに負けるものか」

 

瑞稀が右手を掲げた途端、上空に1万を超える影の太刀が展開される!

 

「我等が影の太刀にて、蜂の巣にしてくれる」

 

「「影の太刀・流殺刃!!」」

 

無数の影の太刀がセレスに襲い掛かる

絶体絶命の中、セレスは焦る事もなく刀を腰溜めに構え、横一閃

影の太刀を全て叩き斬るという、文字通り神業を魅せ付ける!

 

「たった一太刀で影の太刀全てを!?呪い手でありながらこれ程の威力かよ!!」

 

「斬鉄閃。我が奥義に斬れぬものなど無い」

 

「クソが!!こうなれば!!」

 

瑞稀が膨大な魔力を放出し始め、巨大な魔法陣を上空に展開する!!

 

最終超越技(ファイナルイクシード)!!天扇界・双天門(ライジングフレア)!!!!」

 

極大の鈍色雷と真紅の焔が同時に地上のセレスに向けて放たれる

今の瑞稀に出来る最強の魔法だ!!

 

「斬鉄閃」

 

しかしそれすら、瑞稀の最強の魔法すらたった一太刀でセレスは瑞稀ごと斬り裂いた

 

「……嘘だ……俺の…最終超越技(ファイナルイクシード)だぞ…それを一太刀で…」

 

何とか最終超越技(ファイナルイクシード)でセレスの一太刀の威力を減衰させれたが、最早戦闘続行は不可能な程のダメージを負ってしまった

あまりの実力差にとうとう膝を折る瑞稀

そして、戦場では巨大な火柱がいくつも出現していた

 

「あれは…!みんな!!まさか、負けたのか…?」

 

理の騎士と戦っていたワルキューレ、唯、天照三姉妹が戦闘不能

バロム、斬鉄、刻龍、ゼルガノン、リューンも重症、これ以上の戦闘は難しい

そして、瑞稀自身も戦闘不能

完全に敗北である

 

「終わりだ。私に刃向かった事を冥府で悔いよ」

 

セレスが刀を振り上げ、瑞稀の首目掛けて振り下ろそうとする瞬間

その場に居た瑞稀を含む戦神全員が転移魔法で何処かに飛ばされた

 

「あらあら。あの子ってば随分派手にやられたのね」

 

「ふん…どうでもいいが目的は達した。さっさと退くぞ」

 

いつの間に現れたのか、2人の女性が戦場に居た

1人は戦場に居るにも関わらず、笑みを浮かべ穏やかな雰囲気を醸している

1人は剣呑な雰囲気を醸しているが、どこかそわそわしている

 

「…貴様等、何者だ。名を名乗れ」

 

セレスが2人を敵と認識して殺気を飛ばす

しかし2人はどこ吹く風、特に怯んだ様子を見せない

 

「私はリア。何者だなんて、分かり切っているでしょ?彼の味方で貴女の敵よ」

 

リアと名乗る女性は鈴を鳴らす様に可愛らしく笑う

見た目は20代前半位か、桃色の髪を腰下まで流し、白い法衣の様な服を着て、腰には1本の日本刀が携えられている

 

「冬史。あいつの味方になった覚えはないが、貴様の敵であることは間違いないな」

 

冬史と名乗る女性はどこか不服そうに答える

見た目は20代半ば位か、腰まである長い銀髪をポニーテールに結わえ、黒いコートを来て、両手にトンファーを携えている

 

「私が理の神セレスと知っての事か?」

 

「勿論!そこまで馬鹿じゃないわよ!失礼しちゃうわ!そうは思わない?冬史さん!」

 

「お前はお気楽過ぎるからな。馬鹿だと思われたんじゃないのか?リア」

 

「酷い!!」

 

2人が言い合いを始め、セレスは苛立ち始めた

戦場のど真ん中で、敵の大将を目の前にして、いきなり現れて、いきなり仲間同士で喧嘩し始めれば、そりゃ誰でも苛つく

 

「絶対神達を逃がしたのは貴様等か?奴等を何処に飛ばした?答えろ。答えなければ叩き斬る」

 

「あら?逃がしたのは勿論私達だけど、何処に飛ばしたかなんて言うと思う?」

 

「ふん…素直に言うわけないだろう。こいつ、理の神のくせに馬鹿だろ」

 

「ならば死ね」

 

セレスが刀を横一閃に振るう!

 

しかし2人はそれを危なげ無く避ける

 

「私達は貴様とあいつの戦いを最初から見てたんだ。何度も同じ技を見れば避けるのなんて簡単だ」

 

「そうねぇ。でも私達2人だけじゃ貴女には勝てないから逃げるね!バイバイ!!」

 

「待て!!」

 

2人は転移魔法で何処かに消えていった

 

「逃がしたか。まあいい。次は殺す」

 


 

「瑞稀!しっかりしろ!!すぐに医療班をまわせ!!他の者達も重症だ!!急げ!!」

 

神界は大混乱に陥っていた

瀕死の重症を負った部隊長と絶対神が突然、最高神の社に転移してきたのだ

しかも瑞稀達が転移してきてすぐに、正体不明の2人組まで現れたのだから、混乱して当然だ

 

「そなた等は何者だ。瑞稀達を転移させたのはそなた等か。何が目的だ」

 

最高神が2人を封印結界を幾重にも展開し閉じ込め、矢継ぎ早に問う

 

「おいリア!警戒されてるぞ!だからいきなり神界に転移するのはやめろって言っただろうが!」

 

「ええ?だって面倒臭いじゃん。冬史さんだって面倒だから良いかって言ったじゃん」

 

「言ってない!!」

 

またしても喧嘩し始める2人

 

「貴女は…そうか。そう言う事か」

 

最高神が何かに気付いたのか、勝手に1人で頷き納得し始める

そして結界を解き、2人に歩み寄り、頭を下げた

 

「絶対神達を助けて頂き、感謝する。そして先程の無礼を深くお詫び申し上げる。本当に申し訳ない」

 

いきなり最高神に頭を下げられ、困惑気味な2人

 

「そんな!頭をお上げ下さい!私達が勝手にやった事です。お礼を言われる程のものではありません。それに戦時中に突然の訪問です。警戒するのは当然の事です」

 

リアがわたわたと慌てふためく

 

「その通りだ。警戒して当然だ。むしろこちらこそ、この馬鹿が申し訳ない」

 

冬史も一緒に頭を下げる

リアの方を見ながら馬鹿を強調するのは忘れない

 

「そんなに馬鹿って言うこと無くない?!」

 

「事実だ」

 

また喧嘩をし始める2人

最高神を前にフリーダムである

 

「とにかく瑞稀達を助けてくれた事、礼を言う。お2人共、かなりの実力者とお見受けする。良ければ対ディアレストにおいて、協力して頂けると助かるのだが」

 

「ええ。元より協力するためにこちらに訪問させて頂いたんです。喜んでご協力させて頂きます!」

 

「まあ、そうだな。協力するさ」

 

瑞稀達はセレス率いるディアレストに大敗を喫した

しかし、新たに2人の協力者を得る事が出来た

 

果たしてこの2人は何故瑞稀達を助けたのか

何故瑞稀達に協力するのか

 

謎はあるが戦力が増える事は、決して悪い事ではない

 

 

 

 

 




瑞稀、敗北
勝てないですね、無理です
瑞稀の最強の魔法すら一刀両断ですからね。あんなん勝てませんよ


そしてまたしても女性キャラが登場!
勿論巨乳美女です!!



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拳と刃


短いです
いつもの事ですね
申し訳ない



 

「冬史…何の真似だ…何でお前が俺を助けてここにいる…」

 

「お前を助けた理由は単なる善意だ。ここにいる理由はな、お前が魔界に行った後、仕事を辞めてな。傭兵やってたんだが、そろそろ傭兵稼業から足を洗おうかと思ってな。さて再就職先はどこにしようかと悩んでいたんだ。そんな折に元同僚が魔王から絶対神なんぞになり、別次元からの侵略を防いでいると聞いたのでな。そう元同僚!がな。可哀想だから私が態々手伝ってやろうかと思ってな。ついでに雇ってくれ。ちなみに元同僚は嫌みだぞ」

 

「うるさいよ…人界の粛清部隊を辞めたのかよ。知らんかったわ…ていうか俺に協力してくれるのか?」

 

「ああ。あの程度の王の下につく気がしなくてな。それに黙っていなくなったお前のツラァ殴り飛ばしてやりたくて仕方なくてなぁ!来ちゃったんだよなぁ!!」

 

彼女と瑞稀は、かつて瑞稀が人界の粛清部隊に所属していた頃の同僚であり、一時期は恋仲だった

しかしお互い粛清部隊の主力だった事もあり、短期、長期、どちらの任務も多く、数ヶ月顔を合わせない事すら当たり前。半ば自然消滅の様な状態が続いていた

そんな中、瑞稀が龍界との戦争に駆り出され、それが終わったと思えば魔界との戦争、瑞稀が人王に就任、魔界との戦争が終わりやっと人界の政が落ち着いたと思ったら瑞稀が人王失脚、会話を交わす事すらなく魔界に移住、紆余曲折あり瑞稀嫁さんいっぱい!ハーレムである!

別れたつもりのない冬史が怒るのは当然だ

 

「恋人に何も言わずに戦争に行く、人王になる、失脚させられて魔界に行く、嫁はいっぱい娶る、神になる、大層忙しい奴だなぁ!お前は!!」

 

「い、いや、それは…タイミングを逃したというか何というか…」

 

「言い訳か!?見苦しいぞこの野郎!!私はなぁ!粛清部隊を辞めてお前がいつ私を迎えに来るのか、毎日毎日待ってたんだよぉ!!!全然迎えに来ないから傭兵やって食い扶持稼いでたんだぞ!!そんな女に対してタイミングを逃しただと!?言い訳より先に言う事あんだろうが!!ええ!?」

 

「大変申し訳ありませんでした。心の底から反省します。結婚してください」

 

土下座である

まさかの絶対神という超絶偉い神様、渾身の土下座&求婚

まことに情けない絵面である

 

「よし!許す!!結婚してやろう!」

 

そしてまさかの快諾である

 

「…それで冬史。そちらの女性は誰なんだ?」

 

「忘れてた。こいつはリア。傭兵やってる時に知り合ってな。今回お前に興味があるって言うから仕方なく連れてきた」

 

「雑!冬史さん紹介が雑!!」

 

「だって私もお前の事あんまよく知らないし」

 

「そ!う!だ!け!ど!!にしても雑でしょ!?」

 

「…ええと…リアさん?でいいのかな?貴女は何故俺に興味を?」

 

ほっといたら冬史とリアでずっと言い合ってそうなので無理矢理瑞稀が会話に割って入る

 

「え?ああ!そうでした!自己紹介しなきゃですね。改めまして、私はフェリアと申します。一応傭兵やってます!気軽にリアと呼んで下さい!私も気軽に瑞稀と呼ばせてもらいますね!」

 

「はぁ。ご丁寧にどうも。知ってる様ですが、一応俺も自己紹介しときます。瑞稀と申します。一応絶対神やってます」

 

フェリアと名乗る女性は元気溌剌といった感じに自己紹介してくれた

大分押しが強そうな人柄の様で瑞稀が勢いにのまれてしまっている

もっとも周りの女性はみんな押しが強いのでわりと通常運転だったりする瑞稀

絶対神という超絶偉い神様になっても大体いつも押しに弱い、情けない男なのだ。女性に対してだけは

 

「それで何故俺に興味をあるんですか?」

 

「理由ですか?それはですね、実は私、バロム達の知り合いでして、あの子達が仕えている貴方に興味が湧いたんです!だってあの子達、人の言う事全然聞かないでしょ?それなのに噂では貴方について行って戦神になったって聞いたので!今の絶対神てどんな子なのかなぁって!噂ではかなりのイケメンて話も聞いたので!もう気になって仕方なくて!一目見てみたいなぁって!そしたらたまたま冬史さんの知り合いだって言うじゃないですか!?冬史さんが会いに行くついでに貴方に協力するって聞きましてね!めっちゃ困ってるみたいだしこれは私も行くしかない!と思って来たんですよ!」

 

マシンガントークである

 

「なるほど?」

 

早口過ぎて瑞稀はよく分かっていない様である

 

「簡潔にまとめると!貴方、面白そう!会いたい!会ってみたら噂通りのイケメン!困ってるから協力しよう!こんな感じでしょうか!!」

 

「はぁ。ありがとうございます?ご協力に感謝します?」

 

「はい!どういたしまして!!末永くお願いします!!」

 

よく分からないが協力してくれるそうなので、瑞稀は深く考える事をやめた

 

なんとなく唯と同じ空気を感じるのだ

つまりイマイチ会話が成り立たない

思考が特殊なので何を考えてるのか分からない

 

でも悪い人じゃなさそう

彼女を見ていると凄く優しい人なんだろうと思うし、よく分からないが絶対に護らなきゃと思うのだ

何よりも巨乳美女だ

とにかく巨乳と美女に弱いのが瑞稀なのだ

 

「とにかく2人とも俺に協力してくれるんだな?」

 

「ああ。当然だ。全身全霊をもってお前の敵を殴り砕いてやるさ」

 

「はい!協力しますよ!私も全身全霊で瑞稀の敵を斬り崩しましょう!」

 

「よかった…これで何とかなるかもしれない」

 

こうして新たに2人の戦力を加えて、ディアレストとの最戦に望む瑞稀達戦神

 

ディアレストの戦力は、理の神セレス、理の騎士が10、その他約1000のドラゴン

戦神の戦力は、絶対神瑞稀、部隊長ワルキューレ、唯、篝、鏡、天狼、バロム、斬鉄、刻龍、ゼルガノン、リューン、新たに加わった冬史、リア、その他約50万の戦神

 

数だけ見れば圧倒的な戦力である

しかし前回、瑞稀がセレスと戦い、惨敗。部隊長も理の騎士と戦い、惨敗。その他戦神はドラゴン達の足止めで精一杯と散々たる結果に終わっている

 

それでも次は新たに2人の戦力が加わる

冬史はかつて、天空剣という伝説の神器と契約していた瑞稀と肩を並べる程の実力を持ち、一部では瑞稀ではなく冬史こそ粛清部隊最強と言われていた程の実力者である

リアも実力は完全に未知数ではあるが、冬史が連れてきた助っ人である事を考えると相当な実力者であるのは間違いない

その身に宿す魔力や魔素も、もしかするとバロム達すら超えているかもしれない程の絶大さを誇っている

 

これほどの戦力が加わる以上、前回と同じ結果に終わるとは限らないのだ

 

「次こそは…必ず勝つ。例え、何を犠牲にしてでも…」

 

 





瑞稀のハーレムはどこまで増えるのかなぁ!?

2人のプロフィール的なのを

青木 冬史。女性
種族、ドラゴンと魔族と神のスーパーハイブリッド
年齢は30そこそこ。見た目的には20代半ばで通る位
身長は170半ば位の長身。勿論巨乳のナイスボデー
お尻位まで伸ばした白銀色の長髪をポニーテールにして結んでいる所に梅の花を模した簪をつけている
使用武器はトンファー。打撃による接近戦を得意とする
ドラゴンと魔族と神のスーパーハイブリッドなので途轍もない魔力総量と魔素総量を誇る
その魔力総量から消耗が激しいとされる空間振動系魔法を得意とする
使用する魔法は主に、得救世(エグゼ)。刻龍が得意とする魔法でもある。大量の魔力を放出、振動させながら対象に叩き付ける事による防御力を無視する攻撃を可能とする滅茶苦茶強力な魔法
性格は豪快の一言。基本的には脳筋
でも恋愛経験は瑞稀以外無いのでよく分からないので、あたふたするか、混乱し過ぎてキレるかどちらか
結構家庭的で家事全般得意とする。見た目も結構気にする様で髪とお肌のお手入れは欠かさない。お肌モッチモチ髪ツヤッツヤである
面倒見も良いので周りから頼られる事も多い
ちなみにヘビースモーカー

フェリア。女性
種族、不明
年齢不明、見た目は20代前半位。冬史よりは若く見える
身長は160あるかないか位の細身の小さめ。でもやっぱり巨乳である
艶のあるピンク色の髪を腰まで伸ばしてそのまんま
使用武器は日本刀
戦闘スタイルは斬撃の際に刃に魔力を走らせ、斬撃を飛ばす、斬れ味を強化するなど、近距離から中距離を得意とするヒット&アウェイ(冬史談)
とにかくスピードが高いらしく、眼にも止まらぬ速度で駆け抜け、敵を斬り刻む。魔法と剣術の腕も相当らしい。しかしそれ以外はゴミ(冬史談)魔力と魔素はバロム達以上の化け物
性格はとにかく元気!テンションは常に高め!
ボケもツッコミもイケるオールラウンダー
平時はなんか常にお菓子を持ち歩き、行く先々で色んな人に配りまくる。誰でも彼でも子供扱いする癖がある
なんとなく雰囲気が肝っ玉母ちゃんというか近所のおばちゃんみたいな人

以上です



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磨くべき力


今回は会話パート
というか報告会です
基本地の文もなく喋りまくります




前回のセレス達との戦いから1週間程が経ち、瑞稀達の傷も癒え始めた頃

瑞稀達戦神は冬史、フェリアの新たに加わった2名を交えて作戦会議を行っていた

 

「現在ディアレストは人界の約7割を掌握。先日の我々との戦いの後に魔界に進軍を開始、セレスが騎士達を率い先んじて魔界に到着。メルフェレス様を中心に師誓将が交戦。王都の防衛には成功しておりますが、一部周辺都市が占拠されております。魔界は戦況を覆す事が困難と判断、神界に援軍を要請。しかし知識神がこれを拒否。魔界の戦況は悪くなる一方です。現在ディアレストはセレスとの合流を優先しており、魔界以外への侵攻を中断している状況です。私からの説明は以上です。何か質問はございますか?」

 

バロムが現在の状況説明を終えると、フェリアが挙手する

 

「私は新参なのでよく分からないんですが、知識神は何故魔界の援軍要請を拒否したんですか?」

 

「そう言えばそうだな。魔界の師誓将と協力すれば戦況も変わるだろうに。なんで知識神は拒否したんだ?元魔王が絶対神なんだから連携も取りやすいだろう」

 

フェリアの疑問に冬史も同意し、バロムに問う

 

「逆に俺が元魔王だからだよ。俺が神界より魔界を優遇すると思ってるんだろうよ。何より奴等は魔族が嫌いなんだ。次元存続の危機なのに、魔族と協力したくないくらいにはな。ついでに魔界に援軍を出して俺達が不在になって、神界の護りが薄くなるのも嫌なのさ」

 

バロムに代わり、瑞稀が吐き捨てる様に言い放つ

口には出さないが、知識神の差別的な態度や神界至上主義を、心底下らないと常々思っている

次元全体を護りたいと考える瑞稀とはまさに水と油なのだ

 

「そう言う事です。しかし魔界が攻め落とされ、師誓将が討ち取られてしまってはこちらの次元の戦力はガタ落ちですからね。私から最高神様に直訴しておきます。出来れば冬史様の言う通り、師誓将と協力体制を取りたいですからね。そうすれば戦力倍増です」

 

「そうだな。ぶっちゃけ俺が覇龍も使えない、白色雷も使えない、この状況でディアレストを殲滅するには師誓将の協力は不可欠だ。冬史とリアが加わったと言えどまだ足りない。何としても戦力を増やさねば前回と同じ結果に終わる」

 

最高神への進言はバロムに任せるとして、瑞稀は現存戦力の底上げを提言

部隊長全員に最終超越技(ファイナルイクシード)の開発、強化を言い渡した

 

「魔界への援軍はバロムから最高神に進言してもらうとして、俺含め他の者は、最終超越技(ファイナルイクシード)使用者は威力を重視して強化、未使用者は開発を最優先。強化、開発が終了した者は、担ぎ手は神器との同調率を上げて出力の強化。神器と契約していない者は、神界に保管されている神器で相性が良い神器があれば契約、無ければ基礎訓練を主とし、自身の能力強化を図れ。各々、現戦力の報告、課題共有をして今日の会議は終了とする。バロムから順に報告」

 

「私は最終超越技(ファイナルイクシード)の強化ですね。現在は銀月狼(ぎんげつろう)での突進を複数回行った後にブラスタルニクスを最大出力で発動しておりますが、幻影魔法を利用した分身を使い、手数、威力共に強化し、ブラスタルニクスの術式も見直し威力と効果範囲を強化するつもりです。神器は普段は使いませんが、契約しております。爪型神器の百虹(びゃっこう)です。同調率はあまり高くは無いので最終超越技(ファイナルイクシード)の強化が終わり次第、同調率強化に移ります」

 

「分かった。術式の見直しは兎も角、幻影魔法はそこまで得意じゃないだろう。幻影魔法なら俺の方が詳しいから、何かあれば聞け。次、斬鉄」

 

「次は俺か!俺は最終超越技(ファイナルイクシード)自体はあるんだが、1から作り直すぜ。今のは魔力の大半を注ぎ込んだ言霊を使った呪詛なんだが、魔法耐性が低い奴相手なら即死なんだが、俺より魔力が強い相手にはてんで使いモンにゃならねえ。だから呪詛から変更して、炎魔法を使って威力とスピードを強化した鬼神斬にするつもりだ。神器はいつも使ってる片刃で炎属性の大刀で宵の流星って名前だ。同調率は高い方だが、出来る限り同調率を上げるつもりだ」

 

「炎魔法を使うのはいい。だがお前は頭が悪い。術式の組み方なんて大して分からんだろうから、全体像が固まり次第俺の所に持ってこい。次、刻龍」

 

「私はバロムさんと一緒で強化です。現在は天雷得救世(テラエグゼ)と言う一撃の威力を高めたものですが、それに氷結魔法を加え、得救世(エグゼ)で凍らせるのと、殴り砕くのを同時に行える様に強化するつもりです。神器は私の龍の鱗と一体化している氷属性の憑依型神器の氷蓮と言います。憑依型の神器の特徴として同調率は非常に高いので、

最終超越技(ファイナルイクシード)の強化が終わり次第、能力強化を行うつもりです」

 

「強化を図るのなら出来る限り得救世(エグゼ)の威力はそのままでいい。ただでさえ得救世(エグゼ)は身体への負担がでかい。無理はするな。次、ゼルガノン。ゼルガノンとリューンとリアの事を俺達はよく知らない。出来る限り詳しく話してくれると助かる」

 

「出来る限り詳しくね、分かったよ。私は見ての通り機械兵器でね、全身にビームランチャーだのビームライフルみたいな光学兵器や、物質精製魔法で作った実質ノーコストでぶっ放せるミサイルだのを搭載している超高性能機体だよ。兵装以外では全次元で最高硬度を誇る装甲を搭載しているからね、実は攻めるより護る方が得意だよ。私の性能はそんなとこだね。それじゃ課題なんだがね、最終超越技(ファイナルイクシード)は無いので開発だね。個人的な理由からバロムから援軍要請をされるまで休眠していたから、そもそも最終超越技(ファイナルイクシード)の術式そのものを知らないんだ。だからバロムからこの後教わるつもりだよ。雛型が出来次第、瑞稀様に見てもらおうかね。神器なんだが元々使っていたやつを、寝てる?停止している間に盗まれたみたいでね、現在は丸腰だよ。いやぁ困った困った。まあでもどこにあるかは判明しているから返して貰うつもりさ。ソウルブレイカーって名前の槍型神器なんだよね。取り返せたら再契約して同調率の上昇訓練を行うつもりだよ」

 

「ソウルブレイカー?天界の虎の子じゃないか。堅物頑固真面目一辺倒生物の天使共が人様の神器を盗むとは思えんが。恐らく何らかの理由で天界に流れたんだろうな。まあ今はいい。もしも天界が返却を渋る様なら言え。俺が力づくで奪い取る。次、リューンも詳しく話してくれ」

 

「うむ、賜った。我はドラゴンだ。今は人形になっている故分かり辛いかもしれんが、刻龍の様な小型ドラゴンではなく、大型の二足歩行型のドラゴン、所謂巨龍だ。巨体故、スピードこそ遅いが広い攻撃範囲、高い攻撃力と防御力でカバーしておる。翼があるから飛行速度は遅いが飛べはする。主な攻撃手段は尾での薙ぎ払いや、ドラゴンボイスや咆哮を用いた魔法による広範囲攻撃を得意としている。神器は刻龍と同じで憑依型で我の龍の鱗と同化している土属性の覇鎧という神器と一応契約している。最終超越技(ファイナルイクシード)とやらは、ゼルガノンと一緒で長い間寝ていた故、知らんのでな。ゼルガノンと一緒にバロムに教わるつもりだ。その後は最近の魔法術式をバロムに教わりながら、あらゆる状況に対応出来る様、他にも魔法を開発するつもりだ。我から言えるのはこの位だな」

 

「分かったよ。憑依型神器は同調率が高い傾向にあるからな。その方針で大丈夫だろう。リューンも何か不明点が出たら遠慮無く聞いてくれ。術式の事ならある程度は教える事が出来る。次、リアも詳しく頼む」

 

「はぁい!私は人間だったんですが、なんかご先祖様に太刀神様がいたらしく、先祖返りしたらしいです!あれ?なら種族は神になるんでしょうか?まあどっちでもいいですね!結論!種族フェリアでお願いします!…嘘ですごめんなさい。種族は先祖返りした神もしくはお婆ちゃんでお願いします。えぇと、能力を言えばいいのかな?得意な事は居合とか、抜刀術とか言われてるアレです!後は炎魔法、得意です!実は紅蓮の炎を使えたりします!すごいね!…すいません真面目にやります。他にはちょっとだけ神聖魔法が使えます!浄化の炎での回復とか!そのまんま浄化とか!後は冬史さんにスピードはバケモノ防御は紙と言われています!見た目通りのか弱い美女なので防御力は無いです!当たったら大体終わります!当たらなきゃいいんですけどね!最終超越技(ファイナルイクシード)は無いです!元は単なる傭兵だったんで創らなかったです!なので創ります!出来たら瑞稀見てね!神器は無いです!物質精製魔法によるマジカルウェポンで戦ってます!なんか私の魔素核は神器との相性が悪いみたいで契約してません!なので今後もしないつもりです!最終超越技(ファイナルイクシード)出来たら基礎訓練を徹底的にします!以上!リアでした!皆さんクッキーあるんですけど食べます?」

 

「クッキーは会議中なので結構だ。とりあえず分かった。神器はもしも相性が合いそうなのがあれば契約、無ければそのままで構わない。何か不明点があればいつでも聞いてくれ。次、冬史。お前も詳しく。俺はお前の事はよく知ってるが、他のみんなは知らないからな」

 

「分かった。種族は龍と魔族と神の混血。詳しくは知らんが血筋らしい。長い間に様々な種族の血筋が交じり合った挙げ句、私の代でまとめて力が発現したらしい。元々は人界の粛清部隊で殺し屋みたいな事をしていたが、嫌気が差して辞めて傭兵をしていた。まあやってたのは主にヤクザなんかの用心棒だったな。能力としてはトンファーを用いた殴り合いを主としている。遠距離魔法は苦手だが得救世(エグゼ)が得意だから、やっぱり殴り合いが得意だな。あまり器用な戦い方は苦手だから、腕っぷし以外はすまないが期待しないでくれ。神器はトンファー型の攻龍と獅龍と言う三流神器と契約してる。出力はあまり高くないが、空間振動能力を持ってるから得救世(エグゼ)との相性が非常に良い。最終超越技(ファイナルイクシード)は必要性が無かったから無い。術式は詳しくないから瑞稀、教えろ。それが終わったら基礎訓練だな。以上だ」

 

「分かった。術式組み立ては教えるから覚えろよ。神器は出力低いから同調率上げてもあんまり効果は無いから、お前は基礎訓練でいいな。次、ワルキューレ」

 

「はい。私は最終超越技(ファイナルイクシード)の強化です。現在は剣山を利用した天空扇の連擊、夢幻騎行を使用していますが、剣山全てを利用した、天空扇の威力を高めた一撃系のものに強化、変更する予定です。それが終わり次第、天空剣さんとの同調率を高める訓練に移行します。以上です」

 

「分かった。強化案は天空剣と相談しながら進める様に。俺も元契約者として相談に乗るから、何かあれば言ってくれ。次、唯」

 

「はぁい!唯はね、開発かな!殺の威力を高めたヤツを作るつもりです!術式とかよくわかんないからみーちゃん教えてね!作り終わったら基礎訓練!神器はないから探してみてよさげなヤツがあったら契約しまぁす!以上!!」

 

「お前はそれでいいや。術式は教えるから覚えろよ。後、殺は天破狂奏流の技の1つだ。俺も使えるから強化案の相談位は乗ってやる。次、篝様」

 

「私は最終超越技(ファイナルイクシード)の強化です。現在は貴方が開発した炎系究極魔法、劫火焼に術式を加える事で使用していましたが、1から最終超越技(ファイナルイクシード)用の魔法を組み立てます。まあ、実質開発ですね。それが終了次第、基礎訓練に移行します。神器は私が魔法師ですので、今まで契約する必要性があまり無かったのですが、相性が合いそうな炎系神器があれば契約したいと思います。以上です」

 

「分かったよ。神器は俺の方でも探してみよう。魔法開発もアドバイス出来ると思うから、何でも聞いてくれ。次、鏡様」

 

「はい。私も最終超越技(ファイナルイクシード)の開発です。今まではお姉様同様、劫火焼を使用していましたが、1から開発し直します。近接系の魔法剣を開発しようと考えています。神器は日本刀型の炎系神器、紅沙雨(べにさざめ)と契約しています。なので開発が終了次第、同調率の上昇訓練を行います。以上です」

 

「分かったよ。鏡様も魔法開発で不明点やアドバイスが欲しい時は遠慮せずに聞いてくれ。次、天狼様」

 

「私も姉達同様、最終超越技(ファイナルイクシード)の開発です。私は弓型炎系神器の緋乃弦(ひのづる)と契約しているので、魔法を矢の形に精製、もしくは圧縮して放てる様に作成するつもりです。それが終わり次第、神器との同調率強化に移ります。以上です」

 

「矢の形か。少し難しいかもしれんが、俺も術式の相談に乗るから、何でも聞いてくれ。最後は俺だな」

 

「俺は最終超越技(ファイナルイクシード)の再開発だ。天扇雷刧界ではなく、刧炎界の方を強化、もしくは元にして再開発になる。真紅の焔の威力や魔素を喰らう特性を最大限引き出せる様な術式を作れればいいんだが。開発が終わったら夜宵との同調率の上昇訓練を行いながら、同時進行で記憶を辿り、天破狂奏流をものにしようと思う。あとは出来れば奴等が探している奏女様の神器、紅爪桜花の捜索も行いたいと考えてはいるが、こちらはあくまで余裕があればの話になるな。俺からは以上だ」

 

その後、瑞稀が質問を募り、何度か問答を終えると、皆が現状を正しく理解し、各々の戦力増強に乗り出す

打倒ディアレストを実現すべく、皆が覚悟を決め、自らの課題に取り組む

 

『瑞稀。口頭で良いなら天破なら私も少しは教えてやれる。あまり焦るなよ。最終超越技(ファイナルイクシード)の再開発だって楽じゃないだ。師誓将と協力体制を敷ければ戦況も変わる。お前だけが世界の命運を背負う必要は無い。相手は曲がりなりにも理の神なんだ。負けてしまった事を責める事など誰にも出来ない』

 

『マスター、凜音の言う通りです。どうか御身だけを責めるのは御止め下さい。何度でも立ち上がれば良いのです。御安心下さい、私も全身全霊を以って貴方様を御支えします。何も憂う事無く存分にその王威を御振るい下さい』

 

凜音と夜宵は気付いていた

先の戦いでセレスに敗北した事を自身が弱かったせいだと瑞稀が自身を責めている事を

 

「…すまない。余計な心配をかけた。そうだな、俺だけが背負って立てる程、世界は軽くない。皆と支え合えば良い。自分だけでどうにかしようと考えるのは傲慢だな。ありがとう。では始めよう!次は奴等に負けぬ様に強く成ろう!」

 

周囲の存在の大切さを再認識した瑞稀は、大切な皆を今度こそ護ると覚悟を新たにして会議室をあとにする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうだ、瑞稀。次こそはあの程度の紛いモノに不覚を取るなよ?あまり情けない姿を晒すで無いぞ。しかしまさかここであちらから来るとは思ってもみなんだわ。さてどうするつもりなのか。未だ目覚めの時ではない私には見守る事しか出来ぬが。はてさてどう転ぶか見物よな』

 



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再会、偽りの神


今回も会話パートです
投稿遅いくせにダラダラと申し訳ないm(_ _)m



 

 

「今後の方針はある程度固まったな。さて、どうしたもんか…」

 

『どうしたもんかって言ってもなぁ。どうせお前の事だ、最終超越技(ファイナルイクシード)なんて、既にほぼ完成してるんだろ?夜宵との同調率だって既にかなり高い。今更上げる必要もないだろ。他の奴等への助言だって今すぐ必要な者など居ない。紅爪桜花を探しに行くにも、魔界にあるんだろうし、心当たりはあるが、あんなもん手は出せないだろ。今すぐ出来る事なんて無いんじゃないか?』

 

凛音の言う通り、瑞稀は課題の殆どを会議を開いた時点で、既に終わらせていた

最終超越技(ファイナルイクシード)も後は細かい調整をすれば完成する

夜宵時雨と神器同調率の上昇訓練も必要無い程に高い

紅爪桜花は恐らく、かつて瑞稀の師、琥牙奏女太刀乃神が封印された地に出現した火の玉の中にあると思われるが、火の玉は魔法で展開されていて、出力が高過ぎて瑞稀でも手が出せないと判断したのだ

 

「確かに今すぐやれる事はほぼないよ。でも相手は理の神だ。やり合って分かったよ。今の俺じゃ多分何をしても勝てない。最後の手段にはなるが…」

 

『まさかマスター、覇龍化(ジャガーノートドライブ)を使うつもりじゃないですよね?使えば間違いなく神の座を堕とされます。貴方の理想を叶える事が難しくなってしまう。私は反対です。現状、マスター以外に絶対神は務まりません。マスターが堕神したら神界の治世は崩壊します。そうなっては次元はバランスを保てなくなる』

 

覇龍化(ジャガーノートドライブ)を使えば瑞稀が白龍神王である事が全ての次元に知られてしまう。そうなれば大多数の者が瑞稀の封印、もしくは抹殺を望むだろう

白龍神王が全次元を滅亡の一歩手前まで追い詰めたのは遥か太古の伝説とはいえ、その名はあまりにも多くの恐怖を集め過ぎている

そんな存在と知られて尚も神、ましてや絶対神で在り続ける事など、到底不可能なのだ

 

そして夜宵の言う通り、現状の神々には瑞稀の代わりに絶対神を務められる神などいない

瑞稀の理想である、あまねく全ての生命を庇護する事も神以外では難しい

 

神界は確かに敵が少ないとは言えない。しかし、それでも尚、次元の中心的存在であり、様々な意味で調和を担うバランサーである事は否定出来ない

 

「分かってるさ。あくまでも最後の手段だ。それでも使わざるを得ない可能性も否定出来ない。だから跡を継げるだけの実力を持ってるあいつを迎えに行くのさ。まあ、本人が引き受けるかどうかは分からんが」

 

『へえ?お前の跡を継げるだけの実力者がいるのか?てっきりめぼしい奴はもう声を掛けたと思ってたのに。まさか隠し球があるとはな。で?誰なんだ?』

 

「それは会ってからのお楽しみさ」

 


 

バロムが最高神に魔界との共同戦線を張る事を提案した翌日、最高神から今すぐに魔界に向かえと指令が下された瑞稀は、戦神を率いて古巣である魔界に降り立った

 

一先ず魔王城にてメルフェレス様に謁見して、互いに情報交換を行う必要があると判断した瑞稀達は、師誓将や魔王軍も交えて魔王城の会議室に集まった

 

「メルフェレス様、師誓将の皆様方、御無沙汰しておりました。救援要請に迅速に対応出来なかった不手際、まことに申し訳御座いません。本日付けで正式に魔界と神界の共同戦線をお願いしたく、馳せ参じた所存です。救援要請に応じなかった我々に対する不審感は拭えないとは思います。しかし大変厚かましい事と承知しておりますが、どうか轡を並べる事をお許し願いたい」

 

かつての主君に、置き去りにしてしまったかつての友、愛する妻達に最大限の礼を尽くす瑞稀

瑞稀の意思ではないが、神界は魔界の救援要請を拒否、1度は魔界を見捨てている

裏切り者、卑怯者と謗りを受ける覚悟で頭を下げる

 

「あはは!絶対神に敬称で呼ばれるとか!敬語使われるとか!面白過ぎる!」

 

メルフェレス様、大笑い

この御方、全然気にしていないのだ

 

「むしろこちらからお願いしたいわ!貴方達と一緒ならあのドグサレ女になんか負けたりしないもん!あの女、魔界の街を滅茶苦茶にしやがったのよ!?許せないわ!今まではあの女との直接戦闘は避けてたんだけど、今度こそ絶対ボコボコにして後悔させてやるんだから!!」

 

大変御立腹である

 

「はい。城に来る前に少し街を見て参りました。酷い有様で、見るに堪えませんでした」

 

瑞稀も御立腹である

 

2人が怒りを露にするのも無理はない

魔界の首都はセレス率いるディアレストの進攻により、家屋は崩れ、商店街などの商業区画も崩壊し、市民達の生活は完膚無きまでに破壊されていた

 

魔界を統べるメルフェレス様が怒り狂うのも道理である

瑞稀もまた、かつては魔界を統べる王の1人として君臨し、魔界の人々を分け隔て無く愛し、護ってきた

そして今も魔界に対する狂信的な情愛は変わらない

むしろ魔界を離れた事で表には出していないが、情愛は深まり続けるばかりだ

 

「瑞稀、お前はセレスと一戦交えたと聞いたが、実際どうなのだ?勝ち目はあるのか?」

 

不死者王ブラムスが神妙な顔付きで問う

 

「はっきり言うと無いに等しい。相手は理の神だ。基礎能力が違い過ぎる。理の騎士共も同様だ。とにかく基礎能力が別次元だ」

 

「ダーさんですらそこまで差があるの?」

 

斬華双影ルーミアが驚愕を露にする

当然だ。彼女達は神魔戦争の時に瑞稀の本気を間近で見ている

間違いなく、この場に集う実力者の中で、彼こそ最強だと知っている

 

「ああ。騎士共なら一対一で戦えば勝てる。複数でも最悪相討ちには持っていける。しかしセレス、理の神相手では相手にならなかった。単独で勝てる相手じゃない」

 

事実、瑞稀は1週間ほど前に一騎討ちで敗北したのだ

誰がやろうと単独でセレスを討ち取る事は出来ないだろう

 

「それは、覇の理を使ってもですか?」

 

絶刀瞬刹の火皿が問う

覇の理。それは覇龍の力であり、瑞稀の最大戦力でもある

究極の破壊、白色雷。創世の炎、真紅の焔。最強最悪の力の権化、覇龍化(ジャガーノートドライブ)。全てを併せて使えば、瑞稀の力は爆発的に高まる

火皿は勿論、絶対神になった瑞稀がその力を使えないだろう事は、聞かなくとも理解している

それでも聞かざるを得ない

それすらかの理の神は凌駕すると言うのなら、どう転んでも我々は滅びるしかないのだ

 

「……それは…」

 

瑞稀が言葉に詰まる

口に出してしまいたい

"勝てる"と言ってしまいたい

それでも立場がそれを許さない

神が覇の理を謳うなどあってはならない

神が示すべきは慈愛であり、恐怖であってはならない

神が歩むべきは王道であり、覇道であってはならない

故に言葉にする事は許されない

 

「いえ、ごめんなさい…今の発言は忘れて下さい。それよりも現存戦力でどう対処するかを話し合うべきですね」

 

火皿は瑞稀の思いを察して、話を切り替える

 

「…そうだな。とにかくお互いの知り得る全ての情報を共有しよう」

 


 

神格覚醒(ディバインブレイク)も、神器の名前すら知らない?おかしくない?それ」

 

蹂躙暴殺セシルが瑞稀のもたらした情報に目を丸くする

 

「だってアイツは神器の能力を使用してたわよ?あれだけの戦力があるのに、そんな初歩的な事を知らないなんて有り得る?」

 

当然の疑問だ

常識的に考えて有り得ない

神器を保有しながら、その真価を知らないなど宝の持ち腐れだ

仮にも世界の理の1つを司る神がそれを知らないなど、有り得ていい筈が無い

 

「俺も驚いた。奴は俺が神格覚醒(ディバインブレイク)を使った時、神格覚醒(ディバインブレイク)の存在さえ知らないとほざいた。しかも自分の神器の名も知らないし、神器に意思がある事さえ知らない。なんなら恐らく担ぎ手じゃなくて呪い手だ。知らず知らずの内に自身の魔力で神器を捩じ伏せたんだろう。正直な話、あまりにも不自然だ。馬鹿げた戦闘力を持っていながら、神器の事を何も知らない。それだけじゃなく、奴は戦闘技術そのものは大した事はない。身体能力と絶大な魔力にものを言わせた力押しでしかない。ぶっちゃけ素人に毛が生えた程度の技術だ。軍への指揮もかなり雑だ。戦事の心得は完全に素人としか思えない。何の準備も訓練もせずに攻め込んできた様な拙さを感じる。しかもそれを誰も指摘せず、止めもせず攻め込んできた。これではまるで…」

 

瑞稀が沈痛な面持ちで言葉を濁す

 

これまでの瑞稀の感じた不自然さ

セレスは絶大な戦闘力の持ち主だが戦闘技術はほぼ無く、また知識も無い

指揮能力も低く、軍全体を見ても、まともに戦えるのは理の騎士とセレスだけ

軍を構成するドラゴン達も、戦闘力そのものは高いが、力押し以外能が無く、対処は容易い

普通に考えればどれだけセレスが強かろうと、理の騎士が強かろうと無謀である

実際、仮に瑞稀が神ではなく、今も魔王だった場合、セレスに勝ち目は無いかもしれなかったのだ

にも関わらず、ディアレストの者達は今回の侵攻を止めなかった

世界の要である理の神が討ち取られる可能性が高いにも関わらずである

これは何がなんでも不自然だ

 

「…まさか、セレス達は捨て駒?有り得ないでしょ!理の神が死ねば、魔素のバランスが崩れて世界が滅びるかもしれないのに!?」

 

瑞稀の言わんとした事を察したメルフェレス様が驚愕を露にする

 

「確かに。理の神を捨て駒にするメリットはありませんが、逆にそうでなければ、セレス達の不自然さに説明がつきません」

 

瑞稀自身、確証は無いが、では何故ディアレストはセレス達を止めなかったのかという疑問が残る

 

ディアレスト全体が戦慣れしていない故に、セレスの拙さに気付けないという可能性は無いわけでは無いが、可能性は限り無く低い

セレスが神器を保有しているという事は、過去ディアレスト内でも争いがあったという証明でもある

何よりディアレストはかつて、瑞稀の師、琥牙奏女太刀乃神に完全敗北を喫した過去がある

確かにセレスは奏女様が不在である事を知った上で攻め込んできたが、それでも普通なら奏女様ほどでは無いにしろ、それに準ずる実力者が存在する可能性を警戒すべきだ

 

考えれば考える程にセレスの行動には不自然さが際立つ

ここで今まで沈黙していた夜宵時雨が突然人型になった

 

「マスター。失礼ながら発言をお許し下さい」

 

「良い。何か気になる事があるのなら言ってくれ」

 

瑞稀の許可を得た夜宵はとんでも無いことを言い出す

 

「恐らくディアレストはセレスが邪魔になったので、我々に排除して欲しいんじゃないでしょうか?」

 

これには一部を除いた皆がきょとんである

 

「どういう事だ?」

 

瑞稀が皆を代表して問う

 

「今回の戦争、セレス自ら前線に出ています。恐らくですが、ディアレストはこちらの次元の様に、理の神が最低限以下しか世界に干渉しないのではなく、セレスが直接統治もしくは管理しているのではないかと思います。そうでなければ直接理の神が攻めて来るわけがありません」

 

「それは有り得るだろう。だが何故それでセレスが邪魔になる?何故自らが滅びるかもしれないのに、セレスを排除したがる?」

 

「煩わしくなったのではないでしょうか。どんな世界でも、ある程度の知識と力があれば、単一の存在からの永続的な支配を、不満に感じる者が一定数は存在し得ます。普通は何らかの対処をするものですが、セレスは対処を怠ったのかもしれません。結果、積もり積もった不満がディアレスト全体に広まり、セレスを排除しようとしているのかもしれません。そして恐らくですが、ディアレストは世界の成り立ちや、世界の理に関する知識が欠如しています。理の神は各々、魔素の加速、魔素の炎焼、魔素の氷結、魔素の物質化、魔素の結合崩壊などの魔素そのものに対する干渉能力を備えていますが、彼女はそれらを使用した形跡がありません。もしかしたら自身の力もよく理解していない可能性もありますし、干渉能力が弱すぎて使えない可能性もあります。そんなセレスが治めるディアレストが、理の神の存在意義を、理の神が死した場合世界がどうなるのか、理解しているとは考えられません。だから排除しようと考えたのでは?と私は考えます」

 

「…確かにそれなら説明がつくかもしれん」

 

夜宵の説明を聞き、瑞稀が納得したのを見計らってバロムが続けて意見を述べる

 

「私も夜宵様と同意見です。実際こちらの次元でも、過去に似た様な事が起きた伝承もあります。更にディアレストは討伐神様に1度、世界ごと焼き尽くされていますから、世界の理に関する知識が失伝していても不思議ではありません」

 

バロムの発言に斬鉄は怒りを感じていた

 

「するってぇとなにか?セレスは自分の次元のためにあんな事をしてんのに、ディアレストはセレスを殺したがってるってことか!?おいおい!そんなふざけた事があってたまるかよ!確かにアイツは理の神だよ!でも生きてんだ!考えるし、感じるんだ!ディアレストのためにって考えて!護りてえって感じたから!自分の命を危険に晒してこんな事してんのに!ディアレストのヤツらはアイツを見殺しにするのか!?焼き尽くされた次元を頑張って元に戻して!頑張って護りてえだけなのに!そんなバカな事が許されてたまるか!!」

 

「斬鉄、今の話を聞いて、君はセレスが可哀想だと思ったんだろう。助けたいと思ったのも分かる。でもね、ここでそれを嘆いても何も変わらないよ。助けたいのなら直接セレスにその思いをぶつければいい。今は堪えたまえ」

 

怒りを露に怒鳴り散らす斬鉄をゼルガノンが宥める

もしも夜宵の予想が当たっていたのなら、セレスはむしろディアレストにいい様に利用されているに過ぎない

セレスを討ち倒しても根本的解決には至らない

ならばいっそ、セレスをこちら側に引き込めれば、被害は最小限に抑えられるかもしれない

 

「…セレスが素直にこちらの話を聞くとは思えんが。とはいえもしも夜宵の言う通りならば、憐れな女1人助けるのも一興か。部下の思いを踏みにじるのもよろしくない。何より、個人的にはディアレストの馬鹿共の思い通りになるのも気に入らん。可能ならばセレスを説得するとしよう。まあ、話を聞かない様なら、瀕死になるまで痛め付けてでも、話を聞かせるがな」

 

瑞稀の発言に異を唱える者はいない

皆、少なからず夜宵の予想に納得して、セレスを憐れんでいるのだ

助けられるなら助けたいし、それが被害を最小限に抑える最善策であるとも考えている

 

「よぉし!なら方針は決まりましたね!まずはセレスをボコボコにして言う事を聞かせる!ですね!」

 

「リア…間違ってはいないが、言い方ってもんがあると思うぞ…」

 

フェリアの発言に冬史がドン引く。なんなら全員ドン引きである

 

とはいえ、今後の方針は概ね決まった

まずはセレスを倒す

そして助ける

戦力差は未だに埋まらず、具体的な対策は練られていないが、皆の気持ちが決まったのは大きい

 

もしもセレスが捨て駒として見捨てられたのならば、絶対に助ける

 

皆がそう心に決めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『刃を向けた相手すら助けたい…か…甘っちょろい考えだ。しかしらしい考えだ。さて、あの紛い物は救いの手を取るか、払い退けるか。どちらに転んでも、あの御方の好意で生き延びていたディアレストの運命は、決まったも同然だな。どういう終焉を迎えるか…面白くなりそうだ』

 

 

 

 

 

 

 

 





セレスは利用されているだけかもしれない!
だから助けたい!
斬鉄さんはこんなに優しいのに、なんで魔王なんてやってたんだろう…
他のみんなも優しいのになんで魔王やってたんだろう…
まあ、魔王だから悪者じゃないと駄目なんて決まりはないから、
別に良いか

さて、瑞稀が絶対神の後釜にとある人物に狙いをつけました
一応、既に名前は出てる人物なんですが…
もうちょい伏線をしっかり入れて、ある程度分かるようにすれば良かったなぁ、と反省してます…
多分、次辺りで登場するとは思います
拙いストーリー構成で申し訳ないです…


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神の後継、逸脱の先


結局瑞稀はこうなる…
当然と言えば当然ですが…





 

「おかえり…瑞稀」

 

「…ただいま。ばあさん」

 

瑞稀は今、かつて人界にいた頃住んでいた奈良橋家に帰っていた

万感の思いが込められた育ての母からのおかえりは、かつてと変わらず暖かかった

魔王になった事、人界を捨てた事、想い出の詰まったこの家を捨てた事、後悔はしていない

それでも気掛かりだった

じいさんに先立たれ、唯一の家族である俺にまで置いていかれたばあさんは、大丈夫だろうか。新しく本家当主になった紗矢彦はばあさんを支えてくれているだろうか。俺は、ばあさんを置いていった事を恨まれていないだろうか。

そんな不安を吹き飛ばす程に育ての母のおかえりは、瑞稀を安心させた

 

「…少し…痩せたかな。ばあさん」

 

「瑞稀こそ、少し老けたんじゃないかい?」

 

そう言うとばあさんは瑞稀を抱き締めた

 

「こんなにも傷だらけになって…辛かったろうに…」

 

「大丈夫だよ。傷痕は残ってるけど治ってるから」

 

「身体だけじゃないよ…瑞稀。あんた、心もズタズタじゃないか…護りたいものを護れなくて…護れる力があったのに、護れなくて辛かったろう…」

 

ばあさんは瑞稀が覇龍化出来る事を知っていた

そしてディアレスト戦では、神という立場に縛られて使えなかった事も

 

「……大丈夫だよ…次は…絶対護るから…もう俺は負けないから…」

 

泣かぬ瑞稀の代わりに、ばあさんは瑞稀を抱き締め啜り泣き続けた──

 


 

「それで?急に帰ってきてどうしたんだ?」

 

現当主紗矢彦が落ち着いた頃合いを見て切り出す

こんな大変な時期に、なんの用も無く絶対神がここに来るわけがないと分かっている

 

「紗矢彦。先ずは礼を言う。プラエトーリウム・ソムヌスの件、本当に助かっている。それと一族から追放された俺の突然の訪問を許可してくれて助かった。今日はお前に用があってきた」

 

「瑞稀さんが俺に?嫌な予感しかしないなぁ…」

 

「単刀直入に言う。次代の絶対神として戦神になって欲しい」

 

「…は?」

 

「絶対神候補として戦神になれ」

 

「…いや…意味が分からない。俺でも分かるように言ってくれ」

 

「分かった。簡単に言う。俺の次の絶対神になれ」

 

「そういう事じゃなくてね!?俺を絶対神に据えようとする経緯を説明しろって言ってんの!!」

 

「…面倒臭いけど…説明するか…」

 

心底面倒臭そうな顔で瑞稀がほざく

 

そんなん説明されなくても察しろよ、と本気で思っているのだ

おそらくある程度、最近の情勢を把握していれば、瑞稀がセレスに対して覇龍化を使用する可能性があると推測する事は容易く出来る

しかし紗矢彦は瑞稀の覇龍化を知らない

というか瑞稀が白龍神王である事すら知らないのだ

 

何を隠そう紗矢彦は瑞稀すら超える変態であり、生粋の女好きなのだ

毎日毎晩、相手をとっかえひっかえしてずっこんばっこん

仕事は出来るが女と仕事以外の情報など調べないし、知りもしない

奈良橋家の管理だけなら世界情勢なんて知らなくても大丈夫なのだ

以前ワルキューレ達が瑞稀の為に訪ねてきた時も、紗矢彦はあんまり話を聞いていなかった

ただ瑞稀が危ない、高濃度の魔素による恒久的な治療が必要な事以外理解していなかった

 

そう、彼は馬鹿なのだ

 


 

「つまり瑞稀さんは、次にセレスと戦う時に覇龍化するから、俺に後釜をやらせたいと」

 

「…まあ…うん…そういう事だ」

 

紗矢彦に事情を説明した瑞稀は疲れ切っていた

紗矢彦は瑞稀が思っていた以上に馬鹿だったのだ

 

瑞稀が白龍神王の宿主であり、絶対神として覇龍化を使えない事

セレスとの実力差を逆転させるために覇龍化を使わざるを得ない事

覇龍化を使えば神の座を堕とされる事

現在の神界には後釜を任せられる者が居ないので、女癖が悪いという欠点を除けば、かなりの実力があり、人格者である紗矢彦に、次の絶対神になってもらいたい事

 

たったこれだけの事を説明するのに、2時間近く掛かったのだ

1つの事を説明すれば、それに対して質問され、質問に答えると更に詳しく説明を求められる

この繰り返しで瑞稀は辟易としていた

 

「分かった。俺が瑞稀さんの後釜になろう。だから絶対に負けるな。俺の中で瑞稀さんは絶対無敵のヒーローなんだ。戦場で屈する瑞稀さんの姿なんて見たくない。だから勝て。あんたの帰りを待つ人の為に勝て。あんたの背に希望を託す人達の為に勝て。あんたの往く先に未来を見た人達の為に勝て。あんた自身の夢の先を描く為に絶対勝て」

 

紗矢彦の眼は本気だった

普段は馬鹿で女たらしでちゃらんぽらんな紗矢彦だが、根は真面目で心根の優しい青年なのだ

 

「…任せろ。王に敗北は許されない。次は勝つ」

 

「おう。神界は任されるから、責任持ってセレスをぶっ飛ばせ」

 


 

後日、ばあさんを連れて紗矢彦は神界に合流し、瑞稀から最高神に話が通された

結論から言うと、紗矢彦の件は承諾されたが、瑞稀は最高神に怒られている

 

「…瑞稀。こういう大事な事は事前に相談せんか。前回の敗北を気にしていると思っておったが、神の座を捨てる必要は無いだろう。そなたには、全ての世界を別け隔て無く護るという理想があろう。神で無ければその様な事、不可能に近いぞ。その理想すら捨てる気か。まったく…自分だけで全部背負い込んで、全部自分だけで勝手に決めてしまうとこまで奏女に似おって、この大馬鹿者め。そんなに儂は信頼出来んか」

 

態度こそ落ち着いているが最高神は今、怒りが頂点に達する寸前まで来ている

親友の忘れ形見とも言える瑞稀が自分の知らない所で、神の座を諦める程に、自身の理想を諦める程に悩んでいた事に気付けなかった自分の不甲斐なさと、これ程までに自らを追い詰め、悩んでいたのに相談すらしてくれなかった事への怒りが、ふつふつと沸き上がってきていた

 

「…信頼しているからこそ、事前に言わなかった。貴方に相談すれば止められるのが分かっていたから、準備が整ってから言う事にした。それに貴方が神として君臨してくれているからこそ、いざという時に、安心して俺は神の座から堕ちれる。そんな事言ったら貴方は俺を叱るだろう?」

 

瑞稀の言い分に最高神の堪忍袋の緒が切れた

 

「当たり前だ!分かっておるのか?覇龍と成ればそなたは全ての次元にとって、恐怖の象徴と成るのだぞ!?そなたの理想は、想い描いた夢はどうする!?全てを護るのだろう!?力による覇道の支配ではなく、仁徳による王道の統治を目指すと、あんなにも希望に満ちた眼で、そなたは儂に語ったではないか!!覇龍と成れば理想の全てが塵と化すぞ!!そなたの夢見た永遠は、覇の(ことわり)、逸脱の先には無い!穏やかな(ことわり)の先にこそあるのだぞ!?」

 

かつて瑞稀は酒の席で、自らが抱いた理想を語った

 

─最高神、俺さ、全てを護りたいんだ。差別とか迫害とか、あらゆる理不尽から全部を護りたいんだ。平等とまでは言わないけどさ、一人でも多くの人々が幸福な天命を全う出来る世界を創りたい。力による覇道の支配じゃなくて、仁徳による王道としての統治。覇王じゃなくて、王としてみんなを導きたい。それが俺の夢見る永遠なんだ─

 

その時の瑞稀の眼は希望に満ちていた

本来、瑞稀が目指したかったもの

魔王では、覇王では出来なかったもの

神だからこそ出来るものだ

 

「理想か…確かに全てを護りたい。今もそれは変わらない」

 

「ならば─」

 

「だからこそ、俺は再び覇龍と成る。仁徳による穏やかな統治、実現出来れば本当に素晴らしいだろう。だが、俺は気付いたんだ。穏やかな(ことわり)では災いの前に霞んでしまう。あまりにも無力だ。俺が望む永遠は…逸脱の先に、滅びの先にこそ見えている。全てを護る為に、あらゆる災いを喰らい尽くす覇龍へと、再び俺は成る」

 

理想を実現する為に、力を制限して王に成った

でも、それでは護れる者達を護れなかった。理想は遥か遠くに消えていた

 

考えた。考え抜いた。計算し尽くした

どうすれば護れるのか、どうすれば理想に近付けるのか

考え得る全てを行った

戦神全体での作戦会議。最高神との戦況の擦り合わせ。最終超越技(ファイナルイクシード)の強化。夜宵との同調率の上昇による出力強化。部隊全体の熟練度の底上げ、戦力強化。魔界との共同戦線の構築。師誓将との情報共有

それでも足りない

どう計算しても被害が甚大だった。護れなかった

だから、もういいのだ

王としての自分で勝てないのなら、覇王の自分に戻ればいい

 

王として皆を導く事叶わぬとも、この身を抑止とし、恐怖によって災いを抑えよう

同胞には繁栄を、敵対者には滅びを

恐怖をもって我が身を平和の礎と成さん

覇の理を掲げし覇王として、あまねく悪性に滅びを手向けよう

 

これらの理をもって瑞稀の往く先は決まった─

真なる白龍神王、白銀の魔王の再臨である

 

 

 

 

 





難しい事ばかり言ってますが、ようはこのままじゃどう足掻いてもセレスには勝てないから、覇龍使います!て事です

瑞稀の葛藤をもう少し上手く表現したかった…
作者の頭ではこれが限界でした…申し訳ないです…


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揺るがぬ決意、本当の救い


大変お待たせしました…!




 

「…瑞稀よ。そなたの言い分は分かる。だが納得は出来ん。覇の理を使うのは待て。まだやれる事はある。メルフェレスだけではなく、他の魔王に協力を仰げば、少ないだろうが応じる者もいる筈じゃ。それだけではない。聖界、霊界、龍界、獣界、妖界、機界など呼び掛ける世界はまだ多い。これらの世界も協力してくれればセレス撃退も可能なのではないか?」

 

瑞稀が神の座を捨ててまで覇の理を使用する事を容認出来ない最高神が、瑞稀を説得しようと他の世界との協力を提案する

それはどうしても瑞稀を神の座から堕としたくない最高神の抵抗でもあった

それで瑞稀が少しでも考え直してくれると、淡い期待にすがりたかったのかもしれない

 

「無理だ。聖界と霊界はディアレストの攻撃を受けてから日が浅い。こちらに回す余裕などない。龍界は以前、黒龍王を俺が討ち倒してるから協力はしてくれない。獣界は他の世界の争いに干渉する事に消極的だから無視を決め込んでる。妖界は内紛に忙しくてこちらの事なぞ興味もない。機界は神界や魔界など比較的魔素が豊富な世界を狙ってるから、むしろ敵側だ。つーか機界を除いた世界には既に声を掛けたがさっき言った理由で断られた。現在こちらの戦力は神界と、その麾下に天界と人界、そしてメルフェレス魔界が協力して戦線を構築している。他の魔王は己の利益にならないと無視を決め込むか、漁夫の利を狙って共倒れを望んでるかの違いはあれど、今は不干渉を決め込んでるよ。分かっただろう?外部からの戦力は期待できない。これ以上、戦力を増強出来ない現状を覆すには、白龍神王の力が必要だ。俺が本来の力を取り戻せば、確実に奴等を蹴散らせる」

 

「…確かにそなた本来の力、覇の理や白色雷を使えば戦況は確実に覆す事が出来る。しかしこの争いが終われば、次はそなたが全ての世界に敵として認識される可能性が高い。全次元を相手に戦争でもする気か」

 

「そんなつもりは俺には無いよ。護りたいから戦うだけさ。他の世界が俺をどう思うかなんて、クソ程の興味も無い。ただ救いを求める声に、もうこれ以上耳を塞ぎたくないだけさ。それでも世界が俺を否定するなら、勝手にすればいい。俺の大切なものを傷付けるなら、蹴散らすだけだ。それに俺の力は神には向かない。何せ最凶最悪のドラゴンの力だからな。神が振るっていい力じゃない。本来の力が出せない俺なんかより、紗矢彦の方が絶対神に向いてるよ」

 

少し自嘲気味に言う瑞稀に呆れる最高神

 

「はぁ…。もう良い。そなたの覚悟は分かった。好きにするが良い。覇道を歩む上で救いの道を行くならば、決して敗北は赦さぬ。しかし、何かあれば儂を頼れ。儂はそなたの味方であり続ける事を、努努忘れるなよ」

 

「ああ。貴方の親愛を裏切りはしない。次は勝つ」

 

覚悟を決めた瑞稀の目は赤く、紅く輝いていた

 


 

「…挨拶は終わったんですか?」

 

「ああ。ワルキューレ、面倒をかける」

 

館に戻った瑞稀を迎えたワルキューレは瑞稀を抱き締めた

 

「大丈夫です。貴方は貴方の信じる道を歩んで下さい。私達はどんな選択でも構いません。貴方を支えてみせます」

 

ワルキューレの言葉には愛が満ちていた

 

「ありがとう…」

 

「イチャついてるとこ悪いんだけど、出発はいつになんのかな?あとさ、みんな魔界に連れて行くの?」

 

ワルキューレに見せ場を取られた唯が不機嫌そうに問う

 

「いや…魔界に戻るのは俺とバロム、斬鉄、刻龍だけだ。他にはゼルガノン、リューン、リア、冬史を連れて行く。ワルキューレ、唯、篝様、鏡様、天狼様は引き続き、戦神として神界に残って欲しい。とはいえ館は魔界に戻すから別居はしない。魔界から通う事になる。転移門を俺が常に開く様に術式を作ったから心配はしなくていい」

 

「唯達は神界にお残りかぁ…まあ、しょうがないね。紗矢彦だけじゃ心配だしね」

 

少し残念そうに唯がため息混じりに言う

 

「すまない。頼りにしている。俺が居なくなった後の神界を支えてやってくれ」

 

皆に頭を下げて謝る瑞稀

なんやかんや神界も心配なのだ

そして頭を上げた瑞稀は、沈痛な面持ちで妻に語った

 

「それと…もしも…これ以上、俺と一緒にいたくないと思ったのなら…離婚する事も出来る。みんなも知っての通り、俺は自分に嘘を吐くのが苦手だ。我が儘で、自己中だ。自分の信念を曲げたくないし、人の忠告を聞くのも嫌いだ。正直、自分でも馬鹿だと、本当に頭が悪いと思ってる。それでも多分…これから先も俺は、俺の思う道を往くだろう。これから先も、君達に迷惑をかけるだろう。それでも俺は…我が儘に…身勝手に進むと思う。付き合い切れないと、そう思うなら…俺と共にある事が自身の幸せに繋がらないと、そう感じるなら─」

 

「瑞稀様。そんな悲しい事を言わないで下さい」

 

ワルキューレが瑞稀を強く抱き締める

それに続き、皆が瑞稀を優しく抱き締めた

 

「私は、そんな貴方が大好きです。どこまでも真っ直ぐに理想を、夢を追いかける貴方の背中が大好きです。貴方はそのままで。いえ、そのままの貴方が良いんです」

 

ワルキューレが告げる

─彼の高潔さを知っている、無謀でも諦めない強さを知っている─

 

「唯もね、みーちゃんの事大好きだよ!唯はバカだからみーちゃんの夢とか理想とかは、難しくてわかんないけど、昔よりイキイキしてて良いと思うよ!」

 

唯が告げる

─彼のかつての絶望を知っているからこそ、思うまま振る舞う彼がいい─

 

「私も瑞稀の事、大好きよ。なにより貴方を絶対神にしてしまったのは私でもあるのよ。これからもずっと貴方を支えてみせます。貴方の夢を一緒に見させてください」

 

篝が告げる

─彼の語る夢の果てに希望を見た、彼と共に夢の果てを見てみたい─

 

「私だってお姉様に負けないくらい、瑞稀君が大好きです。貴方は私にとっての光です。優しくて、あったかいお日様なんです。ずっとそばに居させてください」

 

鏡が告げる

─ずっと姉の影に隠れていた、そんな自分を彼は優しく照らしてくれた─

 

「姉さん達より私の方が瑞稀さんの事、大好きですよ。普段から貴方は王としてみんなの事ばかり考えて、自分の事は二の次、三の次なんですから。貴方は優しすぎるんです。だから我が儘なくらいが良いんですよ。私が受け止めますから」

 

天狼が告げる

─彼の優しい笑顔を見ていたい、不安に曇った顔なんて見たくない─

 

「私だって!お前の事が好きだぞ!そりゃお前は自分勝手で猪突猛進でどうしようもないヤツだけど!お前は…私をちゃんと見てくれるから…だから!大丈夫だ!私だってずっとお前のそばにいるから!」

 

冬史が告げる

─あまりにも強すぎる力を持つ故に誰もが自分の力を恐れていた、でも彼は力ではなく自分を見てくれた─

 

「私も瑞稀が大好きですよー!貴方は誰よりも強く、誰よりも理想にがむしゃらです。でも、誰よりも繊細でもあります。心を許した相手に嫌われる事を、置いていかれる事を誰よりも怖がっている。孤独を誰よりも恐れている。大丈夫。私達は貴方を独りなんてしませんよ。いいんです。私達の前では弱くなって」

 

フェリアが告げる

─彼の恐怖を垣間見た、それを無くす事はきっと出来ない。それでも自分達なら感じさせない様に癒す事は出来る─

 

『マスター。私も貴方を愛しています。絶望に沈んでいた私を貴方が救い上げてくれたんです。この身は貴方の盾と成り、刃と成る。終生、私は貴方と共に在り続けます』

 

夜宵が告げる

─母が世界から去り、自分は捨てられたと感じた、そんな自分に彼は共に歩もうと救い上げてくれた─

 

「みんな…」

 

瑞稀が涙を流しながら皆にしがみつく

本当は離れて欲しくない

でも愛しているからこそ、幸せになって欲しい

 

不安だった

自分のそばにいては彼女達が不幸になるんじゃないか

自分の我が儘に振り回されて嫌気が差すんじゃないか

それでも曲げられない自分の信念が、馬鹿さ加減が嫌いだった

 

─でも彼女達はそれでもいいと、そんな自分がいいと、受け入れてくれた─

 

「ありがとう…みんな、ずっと一緒にいよう。ずっとそばにいてくれ。みんなは俺が護る。絶対に護るから…」

 

瑞稀は皆の愛を知った

いや、元々知っているつもりだった

それでもこれほど、深い愛情を向けられていた事に彼は気付いていなかった

 

ずっと不安に苛まれていた

魔王だった自分が、二覇龍という災厄を宿す自分なんかが、本当に彼女達に愛されてもいいのか

災厄を宿す自分なんかが、本当に彼女達を愛してもいいのか

災厄を宿す自分なんかが、本当にこの世界に生きていていいのか

 

良いのだ。愛されても良いのだ。生きていて良いのだ

幼い頃より、心の奥底でずっと抱いていた不安が解きほぐされていく

彼女達の愛で満たされていく

 

『それでいいんだよ。人は誰もが幸せになれるんだ。私が言うのもなんだが。瑞稀、お前だってみんなに愛されて、みんなを愛していいんだ。幸せになれよ。なっていいんだ。私も護るからさ』

 

凛音が優しく告げる

 

凛音は瑞稀が幼い頃から、深層魔素から彼を見守ってきた

最初は奏女様への義理立てだけだった

それでも年月を重ねる毎に情が移ってしまっていた

今では息子の様に思えてしまう

幸せになって欲しいと心から願っている

 

だから辛かった

自分を宿してしまったせいで、瑞稀の心が壊れていくのが、本当に辛かった

 

そんな瑞稀の心を、彼女達が救ってくれた

彼女達の深い愛情が、瑞稀の心を満たしてくれた

 

─かつて鬼崎によって人として壊され獣と成り、奏女様の愛に救われ人と成り、天乃によって愛を奪われ人を捨て龍と成り、魔界に救われ王と成り、そして今、瑞稀は愛する彼女達の愛で再び人に戻り、真の救いを得た─

 

 







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第3章、魔を統べる覇王
王よ、高らかに謳え



長らく失踪しておりました
申し訳ない



 

「来たか…」

 

魔界と神界の戦争跡の荒野で瑞稀は1人呟く

 

『はい。敵はセレス単騎、理の騎士10騎が各々ドラゴンを1000体ずつ率いております。セレス除く全軍がそちらに向かっています。セレスは単騎で魔王城に進軍して来てますね』

 

神界で瑞稀達に蹴散らされた兵力を補充して、セレス率いるディアレストが魔界に再び攻め込んで来た

1万を越えるドラゴンを率いて、魔界を蹂躙せんと迫ってくる

しかし、瑞稀は念話でのバロムの報告を聞き、鼻で嗤う

 

「1万のドラゴンと言えど、奴等は烏合でしかない。下らない。数を揃えれば勝てると思っているセレスの浅はかさが見て取れる。時間はかかるだろうが、問題無く全滅させれるな」

 

『…瑞稀様…本当にお1人で行かれるのですか?いくら兵が烏合の衆と言えど、騎士達をまとめて1人で相手をするのは、流石に無謀かと。少しでも勝率を上げるためにこちらもそれなりの数で当たるべきと進言致します』

 

そう。今回、瑞稀は1人でセレス除くディアレスト全軍と戦うと言い出しているのだ

あまりにも無謀過ぎる瑞稀に、バロムは作戦変更を申し出る

 

「問題ない。此度は制限など何もない。寧ろ斬鉄に伝えておけ。本当にセレスを助けたいなら、俺が加減を忘れぬ内に説得してみせろと」

 

『…分かりました。貴方がそこまで言うのなら、これ以上は何も申しません』

 

「お前達こそ気張れよ。セレスを説得出来る状況を作るには、ある程度弱らせる必要があるだろう。俺も出来る限り迅速に合流するつもりだが、数が数だ。時間はかかる。それまではお前達で凌がなきゃならんのだから、俺以上に厳しい戦いになるのは明白だ」

 

『ですよね~。斬鉄の馬鹿のせいで、こんな分の悪い賭けをする羽目になるなんて、ツイてないですよ。ま、死なない程度に気張ります。瑞稀様、お願いなんで、なるはやで合流してくださいよ~。だからって無理はしないで下さい。奥様方が悲しみますので』

 

溜息混じりにバロムが愚痴る

 

「分かってるよ。その為の覇龍でもある。ま、久々の覇龍だからな。暴走しないように、程々でやるさ」

 

『そうして下さい』

 

そうこう話してる間に遠くの荒野を覆う黒い影が多数、瑞稀の視界に入る

 

「おっと?奴等、やっと来たか。待ちくたびれたぞ。ていう事でこっちは先に交戦に入るぞ」

 

『了解です。御武運を』

 

「そっちもな」

 

念話を切り、深呼吸をする

緊張してるわけではない

ただ、感慨深い

再びこの地で、初めて己の意思で覇龍を使ったこの地で、神に成る為に捨てた覇龍を使う

短い様で長かった

 

「よし。始めよう。いや…違うな。始めるわけじゃないな。柄にも無いお行儀の良いフリなぞやめて、龍に、覇王に、魔王に戻ろうか!さあ!行こう!凜音!!」

 

『応ともさ!謳おうか!私達の覇道を!お前の覚悟を!!』

 

絶大な魔力が瑞稀が放たれ、大気中の魔素とぶつかり、次元震を起こす!

そして、龍と王は謳う─

 

「我に宿りし、銀光の白龍よ。再び覇の頂きへと至れ」

 

瑞稀が謳い─

 

『我が宿りし、狂嵐の魔王よ。覇王と成り吼えよ』

 

凜音が謳い─

 

『全界を創造せし忌まわしき理の神よ。我が威に屈伏せよ』

「遍く理を超える愛しき無双の神よ。我が理想を見届けよ」

 

2人が謳い─

 

「『汝、荘厳たる我等が銀雷にて跪拝せよ』」

 

2人の謳が重なる!

 

「『真覇龍化(トゥルー・ジャガーノート・フルドライブ)!!!』」

 

魔力の爆発が起こり、そこに顕現せしは白銀の龍人

完全に人型のドラゴンになり、その背に2対の銀翼を持ち、全身に白色雷を纏う姿は、まさに白龍神王の名に相応しい

 

「─やはり、俺はこうでなくてはな」

 

瑞稀が右手を掲げると、巨大な魔法陣が描かれる!

 

「消えろ。駄龍共。天旋雷劫界」

 

凄まじい威力と範囲を誇る、かつて天乃にすら絶大なダメージを与えた雷が、ディアレストのドラゴンに降り注ぐ!

 

「さあ、蹂躙だ。死を恐れぬなら来るがいい」

 

 

 

 





瑞稀完全復活!

真覇龍化は覇龍に目覚めてからの修行で身に付けた強化形態です
瑞稀と白龍神王である凜音が共鳴、協力する事で初めて使用が可能になりました



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