死んで叢雲になったわ。なに、不満なの? (レフォート・ノーレッジ)
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プロローグ

色んな憑依ものみて、叢雲が無かったので思いきって投稿しました。なるべく更新遅滞しないように頑張ります。

※叢雲の最後に関する記述を加筆修正しました。ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした。m(__)m


 付近の高架を通る列車の騒音が鳴り響く。ガタンゴトンと線路を走る音が少ししたら鳴り止み、変わりに道行く人々の喧騒が周りを包み込む。

 

 そんな日常の風景に、僕は制服姿で歩いていた。

 

 名前は八雲 叢一(やくもそういち)、今年で16の誕生日を迎えて今は高校に通ってる学生だ。何も変わったところや特筆すべき点もない、俗に言う男子高校生。

 

 生活に不自由はない、両親の収入源は安定しているし。僕自身も生まれつき、あるいは事故で何か患ってる訳でもないから不便と思ったこともない。

 学校での成績はまあまあ位だと思う。頑張って勉強すれば今の高校を卒業して、何処かの会社に就職出来るだろう。

 

 そんな僕の変わったところと言えば漫画やアニメ、ゲームにラノベと言ったサブカルチャーが趣味なことかな。

 世間ではオタクって呼ばれるかもだけど、勉強に影響しない程度には慎んでるし。あと剣道を嗜んでるから学内の評判はそう酷いものでもないと思うし。

 

 大丈夫だ、問題ない。

 

 特に最近好んでいるのはとあるアプリ、ソーシャルゲームだ。

 

 艦隊育成シミュレーション『艦隊これくしょん』、通称艦これ。

 太平洋戦争で活躍した軍艦の記憶を持った艦娘を集めたり育成して敵である深海棲艦と戦わせる、というのがこのゲームの主な内容。

 クラスメイトの男子から勧められるままスマホでアンドロイド版をダウンロードしたら、それまでの趣向を一新する程にはまった。

 ネットで初心者向けの攻略情報を確認するのは勿論、気になったノベライス版や公式漫画も購読。もう、オタク呼ばわりされても仕方ないかもね。

 

 艦これで一番好きな艦娘はと聞かれたら、迷いなく叢雲って答えると思う。

 

 駆逐艦叢雲。

 

 進水した当時は優秀な凌波性能と航続力、重武装を併せ持った驚異的な駆逐艦として世界に衝撃を与えた特Ⅰ型駆逐艦。

 その五番艦となる叢雲は史実の戦績こそ目立ったものではないものの、戦前は満州国皇帝の御召艦になった戦艦比叡の護衛を第12駆逐隊で務め、日中戦争を経て太平洋戦争を戦った歴戦の駆逐艦らしい。

 

 ここまではwikiで調べたけど、そう言った史実を反映してかプライドが高いツンデレ系美少女って感じだったな。

 ゲーム開始時の初期艦選択では叢雲にした。以来叢雲を第1艦隊旗艦、つまり秘書艦としたまま提督業を続けてきた。

 敢えて駆逐艦の叢雲を旗艦にするのは拘ってるから、それぐらい好きな艦娘と言えたから。

 

 最初はセリフがキツくて面食らった、でも時々こちらを気遣う時もあって素直じゃないけど良いかな。厳しさの中に優しさありって感じで。

 旗艦にしてからは色々な海域を攻略して、リランカでレベリングを繰り返して改二にもした。公式はケッコンカッコカリっていうシステムを実装したらしいし、嫁艦にするのは叢雲と決めてすらいる。

 

 今は高校での授業も終わって下校中、帰れば宿題などノルマをこなしてから艦これにログインだ。

 登校前に遠征に出した第2~第4艦隊の結果を確認、補給させては第1艦隊でレベリングするサイクル。

 

 何より叢雲の声を聴きたい。そう思いながら歩道を歩いていると。

 

 目の前を小柄な影が横切っていった。視線で追うと私服の男の子、多分小学生だろう。

 ただ問題なのは今走っている場所で、そこは車道だ。すぐ横の道路は車は通っていないが、向こう側は。

 

 

「不味い!」

 

 急いで飛び出す。ここから向こうの対向車線は僕の進路方向から自動車が既に進入してきてる、このままでは今横切った子供が危ない。

 急いで車道を横断する男の子に追い付き、その勢いのまま背中を突き飛ばす。不意討ちのようなものだったからだろう、反応できずに車道から歩道に押し出され転んでいく。

 

 クラクションの音がすぐ近くで響いた。振り向けば車がすぐ目の前に迫っていた。この距離では、もう避けられない。

 

 衝撃と視界がぐるぐる回る感覚がしたのは同時に思うような錯覚。

 そして、意識は暗転した。

 

 

 

          ◇◇◇

 

『・・・あ、れ?』

 

 気付けば周りの風景は変わっていた。

 

 漆黒を塗りたくったような暗闇、暗さを増して行く視界、そして自分の周りで蠢く気泡。

 

 気泡?

 

 僕はさっきまで街を歩いてたはず。授業後帰って艦これにログインするのを楽しみにしながら歩いて、それで。

 

 

『あの時、車に跳ねられたのか』

 

 解けた疑問が呟きとして漏れ、それが現実として認識すると途端に恐怖を覚えてきた。

 

 暗い、それに冷たい。これが死後の世界だと言うなら、日本で言うところの三途の川は無いのか。こんな暗くて冷たい、寂しい所があの世だっていうのか。

 

 多分僕は今沈んでいっている。なら、底まで沈んでいったらどうなるのか。得体の知れない恐怖で泣き叫びそうになった時だった。

 

 

『落ち着いてくれ、少年』

 

 何処からか声が届き、直後に上から周りの闇を上書きするような光が近付いてきた。

 

 やがて光が収まるとそこには、セーラー服を着た少女がいた。何故か両前足を掴んで垂れ幕のように吊るしている。

 

 

『君は?』

 

『特定の名前は持っていない。敢えて呼ぶなら、“猫吊るし”とでも呼んで欲しい』

 

『猫吊るし』

 

 何とも見た目通りの呼び名だ。まあ他には呼びようが無いかもしれない、僕もすぐには思い付かないし。

 

 

『もう把握したかもしれないが、君は現世で死んでしまった。善意から起こした行動とは言え、無茶をしたな』

 

『…………すぐに行動を起こしたらああなってしまった、少し後悔してるよ』

 

 他にやりようがあったかもしれないし。

 

 

『まあでも、すぐ行動に移れるのはなかなか凄かったぞ』

 

『それはどうも。でも、僕はこれからどうなるんだ?』

 

 それが一番気になるところだ。

 

 

『心配しなくて良い。ここは死後の世界とは少し違う、ある場所に通じる通り道みたいなものだ』

 

『通り道?』

 

『献身的行動で若くして命を散らした君が不憫に思ってね、違う人生を送らせようと思ったのさ。どうかな?』

 

 俗に言う神様転生と言うやつだろうか。まあ、目の前にいるのが神様か分からないけど。

 

 

『僕も、人生があんな中途半端に終わるのは嫌だ。まだ生きていたい』

 

 少なくとも、目の前の猫吊るしに対する答えとしてはこれが一番素直な意見だ。例え代わり映えしない人生でも、あんな形で終わったままには出来ない。

 

 

『良い返事だ。下の方を見てくれ、ちょうど見えてきた』

 

 言われるまま眼下、と言うより現在進行形で降りていってる先を見つめる。

 

 下方に広がる暗闇が徐々に猫吊るしの放つ燐光に照らされ、あるものが浮き彫りになってくる。それは。

 

 

『軍艦?』

 

 正確にはその残骸に見えた。遠目から見ても底に沈んだままの船体はボロボロで、殆どの主砲は脱落したり煙突が潰れて無惨な姿だった。

 

 

『あれは君が愛して止まない艦娘。そのモデルとなった旧日本海軍の駆逐艦叢雲、その骸だよ』

 

『っ!』

 

 あれが、叢雲?

 僕が艦これで初期艦に選び、ずっと旗艦として大切に育ててきた駆逐艦。

 

 なら、まさかここは。

 

 

『ここは、サボ島沖?』

 

『ざっくり言うとそうだな』

 

 いきなり展開が急すぎて、ここに来て頭が混乱する。でも現世で生活する頃とは違い、今は死んでるからか意識は気味悪いくらいクリアだ。そのため思ったより早く予測が立ってしまった、それは。

 

 

『僕の転生先は、艦隊これくしょん?』

 

『左様。更に言えば、君は駆逐艦叢雲として新たな生を送ることになる』

 

 猫吊るしが口許を緩めて頷く頃にいつの間にか、海底に沈んで眠り続ける残骸のすぐ上まで降りてきていた。

 

 まず先に右手を、下に向けて表面に触れる。よく見たらフジツボや海藻が張り付いて、外板は酷く錆び付いていた。

 直後、船体が白く眩い光に包まれる。深海での激しい発光に、思わず条件反射で目を細めた。やがて光は狭まり、叢雲の外板に着底した僕の体に流れ込んでくる。

 

 流れ込む光から感じたのは幾つもの感情だった。

 一つは救援に向かって間に合わず、仲間を助けることができなかった無念。

 もう一つは運がなかったとは言え敵飛行場から空襲を受けて航行不能に陥り、その後助けに来た妹まで沈んだことへの後悔。

 最後は大破炎上して曳航も断念せざるを得ず、姉に自分を沈めさせたことから来る自責。

 

 でも、それに負けないくらい強い意思もある。次に戦うときは誰も沈ませない、自らを沈ませる十字架は背負わせないという揺るぎない決意。そして艦長だった東日出夫氏を誇りに思うゆえのプライド。

 

 先に来たネガティブな感情も、後から来た確かな信念に覆われて僕の体、精神レベルでの融合を始めたことがわかる。

 

 片や世界を震撼させた艦隊型駆逐艦にして、目立たないながら緒戦を戦った歴戦の駆逐艦。

 

 片や特に何か変わった特徴があるわけではなく、平々凡々に学生時代を送った少年。

 

 双方はどちらかと言えば叢雲をベースに、だけどどちらも等しく混じり合い一つに纏まって。

 

 

『良い旅を。次に目が覚めれば、君は駆逐艦叢雲だ』

 

 視界が白のペイントで塗り潰すように、ゆっくりと狭くなっていく。その中で僕は目の前にいる存在が何なのか分かり始めた、この少女は。

 

 既に公式が画面から廃除、『リストラ』した筈の存在。

 

 そう気付いたのと同時に、意識は完全にホワイトアウトした。




内容自体は他の小説と差別化を図りたい意図があるため、このような描写となっています。感想、もしよければ高評価も宜しくお願い致します。m(._.)m


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第1話 サブ島沖

間違えて鋼鉄の咆哮二次に投稿してしまった(汗)

後から来た気付いて慌てて再投稿。内容的には、主人公が叢雲として顕現するところからスタートです。


 サブ島沖は日ノ出を迎えた現在、朝焼けの陽光が海面を反射し、まだ薄暗く感じる上空の高積雲は日ノ出を背に影が伸びていた。

 

 その眼下を幾つもの人影が航行していた。

 

 

「ここもすっかり静かになりましたね。本土の主力は凄いです、憧れます」

 

 先頭を走るオッドアイが特徴的なセーラー服の少女──古鷹が呟いた。

 

 

「私は夜戦がしたかったんだけどなぁ」

 

 不満げに応えるのは両手を頭の後ろで組んだ少女──川内だった。こちらは古鷹が同じセーラー服だが、色合いと細部が異なる。

 

 

「本土の主力が作戦完了した後の残敵捜索も大事です! 頑張りましょう!」

 

「吹雪ちゃんの言う通りです。元々、私達泊地の艦隊は本土から任務でやって来る艦隊の支援が役目です。私達が今やってるのも重要な任務ですよ」

 

 その後ろから続くのは先頭の二人より小柄な少女──吹雪と白雪で、不満な様子の川内をそれぞれ励まし、嗜めた。

 

 

「そりゃ分かってるけどね。やっぱり新設の泊地は警備が精一杯かなぁ」

 

 普段嚮導艦である自分の指揮下にある二人から言われ、まだ不服そうに頬を膨らませて言う。

 

 

「私が編入されたのは残敵に強力な個体がいた場合、例えばeliteクラスに備えた用心らしいので気を引き締めましょう?」

 

「あ、うん・・・分かった」

 

 古鷹の優しげな口調とは裏腹に有無を言わせぬ雰囲気が感じられ、川内はただ頷くしか出来ない。

 

 そんな二人のやり取りに同行する駆逐艦二人は笑みを溢し、和やかな空気が流れた時だった。

 

 

「! 旗艦より各艦ッ、右舷(みぎげん)前方に異常!」

 

 突如、進行方向より右の海面で発光現象が起こり、先頭にいた古鷹がいち早く気付いて叫んだ。

 

 

「まさか、深海棲艦!?」

 

 吹雪から声が発せられて、全員が砲を構える。

 

 

「待ってください!」

 

 そこに制止する声をあげたのは古鷹だった。

 見れば水面の光は弱まり始め、やがて収まるとそこには。

 

 

「艦・・・娘?」

 

 一人の垢抜けた少女が立っていた。

 見たところ駆逐艦娘だ。腰まで伸びる銀の長髪、ワンピース風のセーラー服を着ている。背中には一部の駆逐、軽巡洋艦娘が使用する可動式のアームが付いた艤装を背負っていた。右手には細長い槍のようなものを持っている。

 

 

「まさか、叢雲ちゃん・・・?」

 

 吹雪の驚きを含んだ声に反応して、叢雲と呼ばれた少女が返事した。

 

 

「ふ、ぶき・・・?」

 

 鈴が鳴るような掠れた声で名を呼んだ。直後、ふっと糸が切れたかのように海面に倒れた。

 

 

「叢雲ちゃん!?」

 

 吹雪は思いきって隊列から飛び出し、倒れた叢雲に駆け寄る。遅れて古鷹達も後を追った。

 

 

「吹雪さん、叢雲さんの様子は!?」

 

「・・・気を失ってるみたいです。でも」

 

 どうしてこんなところに突然現れたのか。当然の疑問が吹雪から発せられた。

 

 

「白雪、座標は?」

 

「ちょうど一致してます。ここから見えるサブ島の地形から考えて、ここは叢雲ちゃんが沈んだ場所、だと思います」

 

 川内の問いに白雪が表情を硬化させて答えた。

 

 人類が擁する彼女達艦娘、それと敵対する深海棲艦の戦争が始まって二十年近く。多くの戦船が世に顕現してもなお邂逅していない艦娘がいた。

 

 特Ⅰ型駆逐艦五番艦、通称雲級と呼ばれる駆逐艦の一番艦叢雲。

 過去の大戦で実施された、南方の制海権を巡る戦いで沈んだ第十二駆逐隊の一隻。

 

 自分達が記憶する限りなら、公式では叢雲という艦娘はどこの鎮守府にも存在しない。

 

 

「私達が叢雲と初めて接触した艦隊だね」

 

 自嘲気味に川内が呟いた。

 ここにいる艦隊は新設されたショートランド泊地の所属だ。

 本当は未発見の艦娘と邂逅するのは歴戦を戦ってきた本土の艦隊だと思っていた。実際に大規模作戦の主力は本土の鎮守府だから当然だが、特型とは言え叢雲を自分達が発見してしまった。

 

 川内の内心をよそに、駆け寄った吹雪に抱えられた叢雲は瞳を閉じて眠り続けていた。

 

 

 

          ◇◇◇

 

『ここ、は?』

 

 意識せず呟いた声はエコーが掛かっている。だけどそれは問題じゃない。

 

 僕は船の甲板上にいた。

 砲身が二つある連装砲、その下に広がる木甲板。その後方に雨風を防ぐ天蓋(てんがい)が二つ、階層毎に取り付けた艦橋が此方を見下ろしていた。

 

 

『貴方が叢一? 意外と地味なのね』

 

 背後から辛辣な言葉が聞こえた。声がした方に振り向くと、現世で見慣れた美少女が立っていた。

 

 

『そう言う君は叢雲だよね』

 

『その通り。私は叢雲。旧日本海軍特型駆逐艦、五番艦の叢雲よ』

 

 前世で見た図鑑のように自己紹介してくれた。良いね、流石に気分が高揚する。某空母の艦娘じゃないよ?

 

 それは取り敢えず置いといて、今気になっている事を聞いてみる。

 

 

『ここはどこ? 見たところ君の甲板上だけど』

 

『厳密には違うけど見ての通りよ。ここは私と叢一の内側(・・・・・・・)にある私の甲板上ね』

 

『僕と叢雲の内側?』

 

『前世で死んだ後の事は覚えてるわね?』

 

 叢雲の質問に頷く。

 

 

『確か深海らしい場所で猫吊るしが現れて、僕が不憫だから転生させると言って、君の沈んだ船体に触れた。そしたら僕の中に叢雲の色んな感情が入ってきた』

 

 それから意識が途切れる間際まで、猫吊るしが見送った所まで記憶してる。

 

 

『最初の二つはともかく、あとの二つはその通りね。特に最後の感情については現状と深く関係するわ』

 

『どういうこと?』

 

 あの時、僕と叢雲は等しく混ざりあったように感じていたけど。

 

 

『さっき私達はサ()島沖で現出して付近を航行していた艦娘の艦隊と遭遇した。でもその時はまだ融合が完全じゃなかったから途中で気を失ったわ。安心しなさい。今はそれも殆ど終わってるから』

 

『分かった。あと君が沈んだのはサボ島だよね? 今サブ島と言ったけど』

 

『叢一のやってた“げーむ”と同じよ。この世界に存在する地名はげーむと同様で、サブ島はその一つね。でも問題はそれじゃなくて、ここからが大変よ』

 

『そ、それって・・・一体?』

 

 普段柔和な物腰ではないが、より真剣な表情を浮かべた叢雲を見て深刻な問題かもしれない。

 

 

『────この世界に、駆逐艦叢雲はまだ私達しかいない』

 

『えっ!?』

 

 駆逐艦叢雲は他に居ない? それってつまり。

 

 

『僕達が最初に出現したってこと? でも、なんで』

 

『この海域が、それだけ特別な場所だからよ。それはともかく、私達は難しい状況にあると思う。駆逐艦叢雲としては最初の個体だからその関係でトラブルに遭うかもしれない』

 

『! 例えそうだとしても、僕が好きにさせないっ』

 

 せっかく叢雲と一つになったのだ。邪魔されてたまるもんか。

 

 

『ふふ、頼もしいわね。その意気よ』

 

 僕が意気込んでるのを見た叢雲は、愉快げに微笑みながら言った。

 

 

『それについては叢一に任せるわね。あとはひとつだけ言っておくわね。目が覚めてから口調が変わってるかもしれないけど、私に合わせて変換してるだけだから。気にしないで話して』

 

『あ、うん。分かった』

 

 多分叢雲がベースになってるからなんだろうな。

 

 

『さて、そろそろ時間よ』

 

 叢雲がそう言った直後、辺りは白い光で溢れ始めた。周りの風景を塗り潰すように、叢雲の天蓋付きの艦橋や主砲が光に埋め尽くされていく。

 

 

『最後にもうひとつだけ言っておくわね』

 

 光がこの空間を満たそうとするなか、徐々に体まで及んだ叢雲が前置きした。

 

 

『ありがとう、私を選んでくれて。史実では大した活躍も出来ず、今までは艦娘に生まれ変わることもできなかった。それが叶ったのは叢一のおかげ』

 

 靴を履いた足からセーラー服の腰辺りまで光に覆われ、ゲームでは聞くことのなかった素直な言葉を恥ずかしそうに、頬を染めながら言う。

 

 

『目覚めたら、私達は駆逐艦叢雲よ。よろしくね、相棒』

 

 それを最後に、視界はホワイトアウトした。




最後の辺りは叢雲の素直な気持ちを表現した、というのを書いてみたんですが、同じ叢雲嫁な提督さん達にはどうなのでしょう? ツンデレが足りないかもです。勿論、ツンを増やしたいですけど(苦笑)


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第2話 ショートランド泊地

前回から一ヶ月後の投稿です。

それはそうと、最近比叡が発見されたそうですね。ツイッターなんかでも色々意見はありますが、大体が『おかえり』『おつかれ』『おやすみ』と彼女を労う言葉も多かったと思います。

今回の話にも彼女は出てきます。と言っても次回を含めて説明回のようなものかもしれませんが。

あとお気に入り登録は初投稿と2話目で急増してビックリしました。ありがとうございます。

では本編です、どうぞ。


 目が覚めた時、最初に見たのは見慣れない天井だった。

 

 

「知らない天井ね」

 

 取り敢えずお決まりの台詞を言ってみた。そして自分の発した声と言葉に違和感を覚える。だが、直前まで体験した出来事から直ぐに払拭できた。

 

 僕は今、駆逐艦叢雲になっているはずだ。それも僕が夢にまで見た、艦娘としての叢雲に。

 

 そこまで理解してから上体を起こす。そして部屋を見渡した。

 

 

「結構真新しい建物みたいね」

 

 見たところ室内は医務室のようだった。

 白いベッドが幾つも置いてあり、僕は窓際で寝ていたらしい。今着ているのは病院で入院して着るような薄い患者衣だった。

 

 傍らには着替えもあった。前世でやっていたゲームでは改二改装するまでお馴染みだったワンピース風のセーラー服などが、ベッドの横にある棚にハンガーで引っ掛けてあった。その手前には叢雲のトレードマークと言える艦橋マストを模した槍が立て掛けてあった。

 

 

「取り敢えず着替えようかしら」

 

 そう呟いてからハンガーの着替えに手を伸ばした。

 

 

 

          ◇◇◇

 

「こんなところかしらね」

 

 患者衣から駆逐艦叢雲としての装束に着替え、意識せず満足げに呟いた。

 

 今の僕は叢雲と一心同体、否。二心同体だ。

 叢雲と一つに交わり、僕がこうして第2の人生を歩むことになった。その上で、僕は決めた。

 

 自分の艦歴と容姿に絶対の自信をもった、プライドの高い艦娘叢雲になりきる。叢雲になったなら、それ以外に選択肢はない。

 

 

「まぁ、実際はその方が変に疑われないで済むからだけどね」

 

 なんて肩を竦めながら言う。まあ僕が発言するたび、叢雲の口調に変換されるから心配しなくても良いかもしれない。

 

 取り敢えずここが何処か把握する必要があるだろう。槍を手に取り、病室のドアに足を向けた時だった。

 

 病室のドアが横にスライドした。勿論僕が開けた訳じゃない、ドアの向こうにいる誰かだ。

 

 

「叢雲ちゃん……!」

 

 ドアを開けて現れたのは、巫女装束を着た女性──多分艦娘だろう。

 

 前世で学生だった僕はゲームのキャラとして。僕と同化した叢雲は軍艦だった頃に幾度も護衛した記憶から、彼女が誰なのかを直感していた。

 

 

「久し振りね、比叡」

 

 僕が艦娘として目覚めて一時間もしないうちに第1艦娘と遭遇なわけだし、名前呼ばれたらそれに応えないとね。

 

 戦艦比叡。

 太平洋戦争や日中戦争が始まるより前、叢雲の所属した第十二駆逐隊は満州国皇帝の御召艦に選ばれた比叡を日中間往復で護衛した。その記憶から叢雲は彼女の事を知っていた。

 

 

「私が誰か分かるんですか!?」

 

「何となく、ね」

 

 素っ気なく返したけど、言ってることは強ち間違いじゃないよ? 僕はゲームを通して知ったけど、叢雲は感性に従っただけだからね?

 ただ、相手が史実の関係で面識? あるとは言え感覚的に分かるって言うのはどうなのか。その辺りは僕にも、多分叢雲にも今のところ分からないな。

 

 

「って、そんなこと言ってる場合じゃないです! 早く移動しないと」

 

 何て考えてたら比叡は何を思ったのか、焦った様子で叢雲の手を掴んで引っ張った。

 

 

「え、ちょっ!? どうしたのよ、そんなに慌てて。それに此処は」

 

「移動しながら簡単に説明します! こっちです」

 

 よく分からないうちに部屋から連れ出され、廊下に出る。すぐそこに出口もあり、そんなに大きな建物ではないようだ。

 

 それから屋外に出て、視界に飛び込んできたのは南国だった。

 至るところで自生した椰子の木、どうやら海岸線らしい。辺りを照らす夕陽が砂に細かい影を作っていた。

 

 

「此処はショートランド泊地。貴方がさっきまでいたのは入渠施設の一部です。近くに修理用のドックがあります」

 

「ショートランド……なるほどね。それで、今向かってるのは?」

 

「工敞です。隼よ……橿原提督の指示で目が覚めていたら連れてくるよう言われてるんです」

 

 高床式の建物から階段で降りながら比叡が話した。

 何か言いかけた気がするけど、今はそれを気にしてる場合じゃないか。

 

 そこからは走る比叡に手を引かれながら移動した。海岸線を少し走ってすぐ件の建物が見えてきた。

 そこは足場がしっかりした岩場に建てられた、先程と同じ高床式の建物。外観からわかる特徴と言えばこちらの方がかなり規模は大きく、建物の向こうにある桟橋で船が停泊してることか。

 

 そのまま階段を登り比叡が工敞と呼ぶ建物に入る。

 

 内部は騒音に満ちている。正確に言えば、怒号が飛び交っていた。

 

 

「白雪、初雪が帰港した! 艤装点検、修復材を持て!」

 

「工敞長! 比叡の艤装修復にはもう少しかかります!」

 

「修復材残り3割切りました!」

 

 工敞内では整備士が慌ただしく動き回っていた。床に散乱する何かの部品、それと同じくらい多く飛び散っている血痕。

 

 更に外の桟橋と繋がってるらしい入り口からは、二人の傷付いた艦娘が歩いていた。

 

 

「橿原提督!」

 

 二人の艦娘の近くには、純白の第一種礼装を着た女性がいた。その女性に向かって比叡は名前を叫んだ。

 

 

「──どうやら目が覚めたようだな? 思ったより早かったじゃないか」

 

 女性──橿原は特徴的なツンツン頭を揺らしながら僕を一瞥して言った。

 

 だけどそれより、僕と叢雲は近くにいる二人の艦娘を見て驚いた。

 

 

「……比叡だけじゃなかったのね」

 

 それは比叡の時と同じ感覚で理解に及んだから、目の前の二人が誰か分かった。

 

 

「また会えたわね。白雪、初雪」

 

 旧日本海軍の軍艦、特Ⅰ型駆逐艦二番艦白雪と三番艦初雪の生まれ変わった艦娘がそこにいた。




2話目が書き終わりそうな段階で比叡発見の朗報があったので、急いで仕上げて投稿しました。

次回は明日投稿する予定です。今後の更新も、気合い!入れて!頑張ります!それでは~(^o^)/~~


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第3話 襲撃された泊地

続けて投稿なう。

※2019年2月7日に加筆修正しました。


「叢雲……ちゃん」

 

「…………」

 

 二人に呼び掛けるとまず反応したのはセミロングの茶髪を二つ括りにした少女、白雪が弱々しい声音で呼んできた。

 一方でぱっつんの黒い長髪が特徴の少女、初雪は俯いたまま返事はなかった。

 

 

「初雪? どうしたのよ、あんた」

 

 前世の記憶でも初雪はダウナー系で口数も少ない印象だったけど、それでも様子が気になったから訊いてみた。

 

 

「……なんでも、ない。久しぶり……叢雲」

 

「なんか気になるわね。ま、良いわ。改めて久しぶり」

 

 どうも引っ掛かるけど、それより今は状況を把握するべきだ。

 

 

「それで? 貴女が私の司令官?」

 

 この問い掛けは比叡や白雪、初雪とは少し違う感覚がしたからだ。相手がいかにもな服装と言うのはあるけど、何となく(・・・・)そんな気がした。

 

 

「やっぱドロップならアタシを選ぶか。もっと落ち着けるタイミングなら、歓迎会したのにな」

 

「どういう意味よ」

 

「目を覚ましたばかりで悪いな、ここを離れてくれ」

 

「…………は?」

 

 意味が分からない。自分で着替えてからだが覚醒直後に連れ出されて、叢雲の姉二人に出会ったのにここを離れろ?

 

 

「何でよ、私はここに必要ないって言うの? 比叡や白雪、初雪にまた会えたってのに、それで私にはここから出ていけって!?」

 

 思わず声を荒らげて叫ぶが、この言動は僕より叢雲のものだろう。今言った3人とは史実の関係で特に思うところがあるからだ。

 

 

「まあ落ち着けって。別に必要ない訳じゃない、だけど周りの様子見ればどんな状況か予想はつくだろ」

 

 橿原司令官は宥めるように言って溜め息をついた。

 

 

「今、泊地は敵艦隊の襲撃を受けている」

 

「ッ!」

 

 工廠の有り様を見てから何となく、予感はしていた。

 多分、この泊地は橿原丸司令官の言った通り襲撃を受けていて、整備士達と床に散乱した部品や血痕から察する限り、消耗戦になっている可能性も。

 

 

「発端は友軍が発動した敵飛行場砲撃、敵泊地の破壊を旨とする大規模作戦だ。

 アタシ達の泊地を前線の拠点として作戦は開始され、それは無事に成功したさ。けど、そのあとに出現した深海棲艦を旗艦とする敵艦隊が問題だ」

 

「叢雲ちゃんがドロップ──ここに居る白雪ちゃんを入れた4隻が回収してから帰投途中に襲撃を受けたんです。

 そいつは強力な戦艦クラスで、同行した古鷹でも歯が立たなくて、他の敵艦隊から逃げてどうにかこの泊地まで辿り着いたんです」

 

「私が見つけられてからそんなことが……」

 

 そう呟いてみたが、僕には心当たりがあった。

 友軍が発動した大規模作戦は、恐らく前世の2013年秋に原作で実施された『決戦! 鉄底海峡を抜けて!』の第四作戦海域(E-4)──アイアンボトムサウンドに至るまでのイベント内容と趣旨が一致していた。

 

 飛行場姫の撃破がE-4の突破条件だから、新たに出現したのは恐らく戦艦棲姫。

 

 

「それからは泊地に留まっていた本土の攻略艦隊が応戦を開始した。

 だけど相手が想像以上に強大で、うちの泊地からも戦力を抽出する程の消耗戦になっちまった……」

 

 そう話した橿原丸司令官は疲れた様子で肩を落とす。無理もない、前世でも戦艦棲姫は“ワンパン姫”と呼ばれるほど、当時の提督達にトラウマを植え付けた強敵だったのだから。

 

 

「まだこの泊地が陥落するかはまだ分からない。だけど万が一もある。

 実戦を経験した他の艦娘ならともかく、ドロップしてから間もなく実戦経験のない叢雲は投入出来ない。だから一度泊地から離脱してもらう。

 心配するな。移動は長距離航行可能な船舶とうちの泊地の軽空母による援護で行う」

 

「私は行かないわよ」

 

 きっぱり、僕はそう言い切った。その発言に橿原丸司令官は苦い表情を浮かべ、比叡、白雪と初雪は揃って目を丸くした。

 

 確かに状況は苦しいだろう。出現した敵艦隊が強力で、南方の作戦である以上夜戦だってあるから消耗戦になったのは仕方ない。そんな状況だからこそまだ船舶が航行する余裕がある内に、まだ顕現したばかりの叢雲は待避させるべきなのも分かる。

 

 …………だけど

 

 

「私は比叡や白雪、初雪と同じ艦娘よ。ドロップして間もないから何? 錬度が乏しいし駆逐艦だから? だからって、順序が逆じゃない!」

 

 僕は感情のままに叫んだ。顔が熱を帯びて頭に血が上っているのが分かる。その勢いのままに続けた。

 

 

「ここには艦娘じゃない、普通の人間だって居る! 整備士も、さっきまで私が寝ていた病室を管理する人も! それなのに私がここで逃げれるわけないわよ!」

 

「けどさ、叢雲はまだ訓練も受けてないんだ。経験皆無の駆逐艦が一人いても──」

 

「さっきから騒がしいわね。どうしたの、提督?」

 

 橿原司令官が言い切る前に声を掛けられた。聞こえた方に振り向くと、ストレートの黒い長髪の女性が屋外の桟橋と繋がる出入り口に立っていた。

 

 この女性は多分艦娘。前世では原作で入手したから知ってる、名前は。

 

 

「飛鷹か。気になって様子を見に来たんだな」

 

 橿原司令官がその名を呼んだ。

 

 軽空母飛鷹。

 豪華客船をベースにした商船改装空母の艦娘で、軽空母であるが蒼龍型、飛龍型正規空母を超える排水量とそれに迫る搭載量が特徴の航空母艦。

 

 

「そんなところよ。それで、貴女が例のドロップした艦娘よね?」

 

「そうだけど」

 

「……そう。それで提督? 何を話していたの」

 

「ここを離れるよう指示していたんだ。だけど本人は言うこと聞かなくてな」

 

 なんと言おうが僕と叢雲は逃げないよ? 出撃させてくれないなら最悪、艤装勝手に持ってくし。

 

 

「ふぅん? 叢雲、どうしても泊地から逃げ出したくないのよね?」

 

「答えは変わらないわよ」

 

「そう、分かったわ。提督、叢雲の出撃を許可してあげて」

 

「はぁ!? 冗談だろ飛鷹! 叢雲はドロップしたばかりで訓練も、演習もしてないんだぞ!」

 

 橿原司令官は信じられないと言わんばかりに叫んだ。

 

 

「この期に及んで冗談は言わないわよ。それにこの駆逐艦、テコでも動かないと思うし、なら私が連れてくわよ」

 

「……はぁ。分かったよ、それでいい。直衛に使えるので何機残ってる?」

 

 飛鷹の言葉を聞いて諦めたように言った。

 

 

「零戦二一型が八機、九九艦爆が四機、九七艦攻が六機残ってる。使うならその半分だから、零戦四、九九艦爆二、九七艦攻三で計九機を叢雲の援護に回せるわ」

 

「OK、それでいこう。明石! ちょっと来てくれ、叢雲が目を覚ました!」

 

 橿原司令官の呼び掛けに一人の女性が駆け寄ってきた。

 

 

「提督、何のよう……っ!? 叢雲ちゃん起きてきたんですか!」

 

 こちらを見るなり驚いた様子で叫ぶ女性は、うん。間違いなく原作と同一人物だね。ピンク色の髪を前で結ってるところも同じだ。

 

 

「見ての通りだ。ただ困ったことに出撃を希望しててな、急いで艤装を用意してくれ」

 

「えぇ!? まだ訓練も演習も「時間が無いから頼むよ」わ、分かりました!」

 

 有無を言わせず橿原司令官が言うと明石は慌ててまた走り出した。もう司令官でいいや。いちいち書くの作者も面倒だろうし。

 

 

「明石はすぐに艤装を持ってくる。桟橋で待機してくれ。友軍が深海棲艦と交戦する海域までは飛鷹に案内してもらえばいい」

 

「無理言って悪いわね」

 

 一応謝っておく。彼女達も本当はこちらの身を案じて止めようとしたかもしれないし、他に何か理由があったかもしれないからね。

 

 

「まぁ気にしないでくれよ。ただあれだけ言ったんだし、沈むんじゃないぞ」

 

「端っからそのつもりよ。私にとってここは懐かしい場所だし、また戻ってくるわよ。行ってくる」

 

 そう言って桟橋と繋がる出入り口に足を向けた。

 

「……叢雲ちゃん」

 

 行こうとしたら白雪がこちらを呼び止めてきた。

 

 

「白雪……?」

 

「どうしても、行くんですね」

 

 白雪は不安げに表情を曇らせて言った。

 

 

「ええ。ここにはいないけど、私を回収したらしい吹雪と古鷹が多分、向こうに居るはず。だから助けにいくわ」

 

 これは叢雲の願いだ。過去の戦争と同じ様にあの二人を助けられなかった、なんて結果は彼女が何より望まないし、恐れてることだから。

 

 

「……分かりました。でも、気を付けてください。私も修理が終わったらすぐに向かいます」

 

「私も。今度こそ……叢雲を助ける」

 

「話はもういいかしら? 明石が艤装を用意できたみたいよ」

 

「……そろそろ行くわね。行きましょう、飛鷹」

 

 無意識に顔を背けてから言った。

 

 白雪は吹雪型では二番艦だから姉として言ったと思う。でも初雪は、意味が重い気がした。

 

 理由は見当がつく。恐らくそれも史実に関係することだろう。

 駆逐艦叢雲はサボ島沖で沈んだ吹雪と古鷹の乗員捜索に出撃したが痕跡すら見つけられず、敵飛行場から空襲を受けて航行不能になり、艦長と砲雷長を除いた生存者が初雪に移乗した。

 叢雲に雷撃処分をしたのも初雪だった。白雪の艦長が艦内に残っていた二人を説得して、退艦した直後に大炎上した叢雲を沈める役目は初雪が担った。

 

 白雪にとっては、吹雪と古鷹の救援に向かった先で大破した叢雲を置いて待避するしかなかったからだと思う。

 初雪は多分、叢雲を雷撃処分するなんて2度としたくないからかもしれない。

 

 そんな姉二人が無事を願ってるから、理由が分かる素直じゃない叢雲はそれしか返せない。

 だけど、僕としてなら言えることはある。

 

 

「白雪、一つ良いかしら?」

 

「なんですか?」

 

 白雪からすれば思い出したように聞いてきたと思う。戸惑う彼女に続けた。

 

 

「私、目が覚めてから何も食べてないわ。だからカレーでも食べてみたいわね。この姿に生まれ変わってから初めてのカレーをね」

 

 振り返りながらそう発言した。それを聞いた白雪はポカーンとした表情になったけど、すぐにそれを明るくして駆け寄って来た。

 

 

「約束します! 絶対、美味しいカレー作りますから!」

 

 こちらの手を取りながらそう返してきた。うん、いい笑顔だ。

 

 

「私も、手伝う。カレー……作るの。絶対」

 

 初雪も倣うように手を触れさせた。姉妹としては嬉しい、でも叢雲は素直になれないので。

 

 

「感謝はしないけど、作ってくれるなら食べてあげるわよ。それじゃあね」

 

 と返した。そして踵を返し歩き始めた。

 

 

「私もカレー作り、気合い、入れて、頑張ります!」

 

 背後からそんな声が聞こえたけど、今は気にしない。ダークマターなら後で阻止できるだろう。

 

 出入り口で台車に積んだ艤装を明石から受け取った後、桟橋から飛ぶように着水した。思っていたより初めての体験から来る不安な気持ちはなく、そこからは飛鷹に速力を合わせながら泊地を出発した。




多分次回から交戦回に入ると思います。叢雲の新人なりの戦いを書いていきたいところです。

ちなみにこれは私情を含みますが、




叢雲の妹──雲級の駆逐艦はいつ実装するんでしょうかね?(´・ω・`)?


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第4話 初陣

比叡発見の報があった前回から続いての投稿です。

結構時間空いちゃってるのに文字数少ないですが、内容は出来るだけ詰めたつもりです。途中武器を使った描写がありますが、武道とか素人同然なので合ってるかは正直分かりません。

それでは、本編をどうぞ。


 この世界で目覚めて間もなく艦娘比叡と出会い病室から連れ出され、その先で再会した叢雲の姉二人と話し、同じ場所にいた司令官から許可を得てショートランドを出発して1時間後。

 

 

「そっちに討ち漏らしのロ級が一隻! 悪いけど対応して!」

 

「了解!」

 

 無線で聴こえてくる飛鷹の焦りを含んだ叫びに応え、意識せず槍を握る右手に力がこもる。

 

 泊地を出発してから程なくサーモン海は夜の帳が降りて、周囲は闇に包まれていた。

 前世では夜でも照明で明るい現代の街で生まれ育った僕は少し不安だったが、あれだけ言って出てきた手前僕も叢雲も引き返す気は起きなかった。

 

 それから1時間が経とうとしたした頃、友軍と交戦中だった敵艦隊と遭遇した。

 発見は進路上に瞬いた多数の砲火を視認したからだ。砲声が轟くたび、砲弾の空気を切り裂く音と幾つもの水柱が生じる。

 見れば火災を起こしている艦も居るようだった。それが深海棲艦か艦娘かはここからでは判別できないが、そこまで見た僕は思わずそこで足を止めてしまった。

 

 怖い。漠然とした物ではない、目の前にある死と隣り合わせの戦場が目の前にあった。それを目にしたことによる、本能的な死に対する恐怖は闇夜を進むなか押さえ込んでいた感情と併せて溢れる。行き足を止めた足は膝が笑っていた。

 

 恐怖に心が呑み込まれそうだったその時、頭上を複数の影が通過。直後に飛鷹から無線で叱咤してきた。

 

 

『しっかりしなさいっ、敵は目の前よ! 攻撃隊を向かわせたから周囲を警戒しなさい!』

 

 だけどこの攻撃は艦載機を損耗する前提だったらしい。夜間の発艦は出来ても着艦が困難で、燃料切れになった機体から着水させるつもりだと続けて聞かされた。

 

 

「ここからが、私の本番なのよ!」

 

 本来なら夜戦にどうしても向かない空母である飛鷹が、そこまでの覚悟を示した。だから逃げない。往けるところまで往く!

 

 そんな決意を胸に、海面を思い切り蹴った。

 いつの間にか敵艦、駆逐艦ロ級はすぐそこだった。

 深い夜の闇に浮かぶ巨大な影。それはこちらに気付いたのか、口と思われる部分を開いた。

 

 

「ッ!」

 

 本能的に危険を感じ、反射的に飛び退く。その刹那、開口部から砲火と同時に砲声が轟いた。砲火に照らし出された敵艦はゲームで見たものより歯が大きく感じられて、前世でただの高校生のままだったら逃げ出したいくらい怖い。

 飛び退いた海面に砲弾が着弾。巻き上げる水飛沫がかかるが、気にせず背負った艤装の主砲を敵艦に向ける。

 叢雲の艤装は主砲が背部についてる関係上、その使用法は他と比べて特殊だ。動かすには視線を向けて集中するだけで、あとは撃てと念じればいい。ここまでは天龍型と同じだろうと航行中に飛鷹から説明を受けた。

 

 

「沈みなさいッ!」

 

 目の前に迫る目標を見据え、自らを鼓舞するように叫ぶと右舷(艤装右側)の主砲で砲撃。至近まで近付いてきたロ級に錬度が低くても当てられない筈はなく、吸い込まれるように命中。

 

 その一撃でロ級は大きく怯み悲鳴に聞こえる軋み声をあげるが、仕留めきれなかったみたいだ。砲撃で頭部が大きく抉れたロ級はこのまま噛みつくつもりなのか、なおもこちらに向かってくる。

 

 

「砲撃が駄目なら」

 

 チラッと右手に握る槍を見る。柄が長いため間合いは大きいが先端の刃はやや短く、その下は2対の横に伸びる突起に気を付けないと武器としては使いづらいだろう。

 だが相手に突きを入れることはできる。槍を握る右手に左手を添えて、剣道で言うところの中段に構える。

 

 槍を構える頃にはロ級は文字通り目と鼻の先、不気味なほど大きな歯が並んだ口を大きく開けてこちらに飛び掛かってくる。

 

 

「今ッ!」

 

 僕はこれを待っていた。タイミングを見計らい、体を左に半回転するその勢いのままに、ロ級の大きく抉れた頭部に槍の穂先を突き入れる。

 

 ドッ、と柄の細い槍にしては重い音を鳴らし、ロ級の破損箇所に槍を突き入れることで強い衝撃が伝わってきた。ロ級も槍を振りほどこうと激しく暴れ始める。

 もがき暴れるロ級の激しい動きに槍を落としそうだが離しはしない。かわりに足をロ級の体に付けて、思い切り蹴飛ばす。

 

 態々槍まで使ったのは主砲の装填に必要な時間を稼ぐため。ロ級を蹴飛ばした直後、主砲の照準を合わせ2度目の発砲。

 間をおかずに放たれた2発の砲弾は、蹴飛ばしてから大きく隙が出来たロ級に命中。火災が発生して周りの闇を削り、ついに力尽きたかロ級は浮かんでいた海面を揺らしながら沈んでいった。

 

 

「……ぶっつけ本番だけど、やればできるものね」

 

 ロ級が沈んでから再び闇に包まれた海上で呟く。そして安堵するように長い溜め息をついた。これで目の前の脅威は排除できたはずだ。

 

 

「すみません! ショートランドの艦娘ですか!?」

 

 不意に呼び掛けられ声がした方を向いた。暗闇でもお互いに視認するためだろう、かなり至近まで近付いていた艦娘

────セーラー服を着た小柄な少女が立っていた。

 

 

「アンタは?」

 

「横須賀第2鎮守府の雪風です! 二水戦としてこの作戦に参加してます!」

 

 ビシッと敬礼しながらそう答えてくれた。見た目以上にしっかりしてるなぁ。ってそんなこと考えてる場合じゃない。

 

 

「艦娘として目覚めたばかりだけれど、ショートランドの叢雲よ。戦力補充のために参加するわ」

 

「ご協力感謝します! それと……そこにいるのは飛鷹さんですよね?」

 

「ええ。実戦経験皆無だった叢雲の護衛を任されてるわ」

 

「そうなんですか。でも艦載機は……」

 

「……お察しの通りよ。さっきの薄暮攻撃で艦載機はほぼ壊滅。もう私は戦力を残してない」

 

 夜間でくらいから分かりづらいけど、苦い表情なのがわかる。それを見て申し訳ない気持ちになってきた。

 

 

「どうするつもりなんですか」

 

「私はここで離脱する。それで叢雲の意思がまだ固いようなら、悪いけど護衛を任されてくれないかしら」

 

「叢雲さんは?」

 

「私は飛鷹が抜けても先に進むわよ」

 

 雪風に聞かれ改めて意思を伝えた。僕も叢雲もやれると分かってるからだ。

 

 

「分かりました。神通さんに相談してみます」

 

 幸い、雪風はそれを快諾してくれた。この時点では現海域にいる他の艦娘まで受け入れるか分からないけど。

 

 それも杞憂のようだった。あれから戦闘を終えて待機していた旗艦の神通は、雪風と何人かを同行させてくれるらしい。姉の川内が敵の中枢艦隊と交戦中だからどちらにせよ援護する必要もあり、二手に分かれて行動することになった。

 

 生まれたばかりの新参に至れり尽くせりで申し訳ないと思いながら、飛鷹にここまで護衛してくれたことにお礼を言って別れ、雪風とその姉妹艦である時津風、天津風と共に再び海上を駆け始めた。




次回はショートランド所属の艦娘と某イベントのラストボスを登場予定です。序盤では一番描きたい場面が出てくるので、次回は急いで書き上げることになると思います。

あと、少しお知らせです。実はタグとして載せるのを忘れていましたので、今更ですが『自衛艦これ要素あり』を追加します。


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第5話 アイアンボトム・サウンド

??「なぜこんなに遅れたのかしら?」

え、えーと、それは、ですね(^_^;)

??「さっさと言いなさい」つ抜刀

ニ○ニ○で艦これのMMDドラマを見てました。あと鋼鉄小説の再編集の関係で設定とか色々見直したり、だからその軍刀を仕舞ってください薩摩さん

薩摩「へえ? 私の名前出しても良いのかしら?」

それを言うなら出てこないでください! 貴女、この小説に登場予定なだけでまだ出番はないんですよ!?

薩摩「近いうちに登場するから良いじゃない。天誅!」

ギャァーーー!?

薩摩「待たせたわね。世間では春の甲子園が始まってる時期だけど、今後もなるべく早く書かせるわ」


 叢雲がショートランドを出発して二時間後。

 

 作戦海域『アイアンボトムサウンド』

 

 

 

「お願い! 当たってください!」

 

 降り注ぐ砲弾と立ち上る巨大な水柱を掻い潜り、相対する敵艦に至近から長10cm連装高角砲の砲弾を浴びせる。

 毎分10発の砲撃は敵艦の艤装に次々と着弾するが、命中しても敵の装甲に弾かれてダメージは通らない。

 

 目に見える絶望的な結果を見て少女、駆逐艦吹雪は攻撃を雷撃に切り替えた。

 

 

「いっけぇーー!!」

 

 両太腿に取り付けられた三連装魚雷発射管二基六門が前方を指向、膝を曲げて姿勢制御して放たれた魚雷は目の前の敵艦に命中、水柱に包まれた。

 

 

「そんな……ッ!?」

 

 放たれた魚雷は六発のうち二発が命中した、だが水柱から出てきた敵艦に目立った損傷はない。恐らく、舷側喫水線下の装甲がそれだけ厚いのだ。

 

 南方海域における日本国防海軍が目指した元々の目標は、同海域で最大の脅威と認定された新種の深海棲艦、飛行場姫の撃破だった。

 

 飛行場姫の能力はその名が示す通り飛行場そのもの、その圧倒的な航空兵力を抑え込むため、機動部隊による空襲を幾度となく行った。

 

 最初の何度かは飛行場姫の驚異的な再生能力で失敗したが、その後航空兵力に打撃を与えることで無力化。その後、編成した水上挺身部隊による数回の夜間切り込みで撃破に成功。

 

 作戦はそれで成功したかに思われた。目の前の敵艦が現れるまでは。

 

 それは戦艦ル級のような人型で長い黒髪を伸ばし、頭部に一対の角を生やしている。薄手の黒いワンピースを着た姿は妖艶さが強調されているが、その個体が従えている艤装も異彩を放っていた。

 

 巨大な四肢と16inch主砲を備える独立した艤装。

 その巨体に似合わず高い跳躍力で本体を抱えて跳ね回り、夜間切り込みに参加した本土からの攻略組の金剛型戦艦はその強固な装甲に歯が立たず、次々に離脱していった。

 

 今この海域にいるのは吹雪、川内、古鷹、霧島と言ったショートランド泊地の艦娘。あとは目の前の敵旗艦と護衛部隊を相手取る本土組の水雷戦隊のみだった。

 

 

「吹雪ちゃん、下がって!」

 

 後方から叫び声が聞こえた直後、轟いた砲声と砲弾の大気を切り裂く音が頭上で通り過ぎ、弾着するが敵旗艦が器用に主砲の防盾を使って弾いた。

 

 

「この距離じゃやっぱり弾かれる……っ!」

 

 敵旗艦との距離は凡そ1000mにも満たない、軍艦同士の海戦においては至近距離といっていい間合いで、この距離で放たれる20.3cm連装砲の高初速の砲弾なら戦艦が装備する重装甲だろうと食い破れるはずだった。

 

 だが先の吹雪、古鷹による攻撃はこれまで何回も繰り返されてきたことだった。

 

 最初に試されたのは本土組の長門型戦艦を筆頭とする戦艦隊の砲撃戦だった。結果は護衛部隊に妨害され、敵旗艦の予想外な機動力に翻弄された結果、主砲戦距離で装甲を貫通できず敗北。

 

 重巡洋艦を主力とする至近での砲撃や雷撃も試されたが、こちらも護衛部隊に阻まれて満足な戦果を挙げることが出来ずに失敗。

 

 それからは敵戦力を削るために逐次戦力投入しての波状攻撃に切り替えられたが、敵も味方も艤装と残骸を同海域の海底に沈める消耗戦へと発展した。

 吹雪達ショートランド泊地の艦隊もその戦況に巻き込まれる形で参加する羽目になり、既に比叡と白雪、初雪が損害を受けて離脱していた。

 

 そんな何度繰り返したか分からない攻防に舌打ちしながら、目の前の敵旗艦を睨み叫んだ。

 

 

「探照灯照射!」

 

 他の艦娘に見られない、探照灯として機能するオッドアイの左目からサーチライトを照射、夜の闇を貫く光のビームが敵旗艦を捉え、その強烈な光に堪らず怯みながらも光源である古鷹を砲撃してくる。

 

 

「霧島さんッ、今のうちに攻撃を!」

 

「分かったわ! もう少し頑張って!」

 

 古鷹の叫びに霧島が応え、敵旗艦に向かって最大戦速で突撃していく。

 

 

「こう言うの、柄じゃないんだけどね」

 

 眼鏡のズレを直し、背中に背負う艤装を展開、主砲四基をX字に構える。

 

 

「距離は近い、外さない! 全門斉射ァーー!!」

 

 四基八門の35.6cm連装砲が砲火を吹き出し、距離の関係からほぼ水平に敵旗艦目掛けて飛翔していく。

 

 その直後、敵旗艦の手前で砲弾が炸裂した。

 霧島が使用したのは本来対空用で、今作戦の主目標だった飛行場姫撃破にも使用された三式弾だ。砲弾内部に内蔵された996個の子弾を一斉に撒き散らし、敵旗艦の艤装の至るところに着弾していく。

 

 

「計算通り、三式弾なら電探くらいなら破壊できるようですね」

 

 霧島の言葉通り、敵旗艦は今までにない様子を見せていた。

 艤装に背負われていた主砲から煙が吹いている。恐らく先程の三式弾による子弾の雨は、いかに重装甲の新鋭戦艦であっても内部に伝わる衝撃までは殺しきれなかったのだ。

 

 敵旗艦も自身の状態を把握したのか、主砲による砲撃を各個射撃に切り替えてきた。

 

 

「霧島さん!」

 

「大丈夫よ吹雪! これくらいっ!」

 

 一門ずつ放たれる砲弾をかわし、時折撃ってくる副砲を戦艦娘が展開する障壁──艦娘の霊力で形成する装甲が弾く。

 

 それをしばらく続けたあと、敵旗艦がその跳躍力で飛び掛かってきた。

 

 

「しま──っ!?」

 

 隆起した筋肉を膨張させ、前足を振り上げた敵旗艦の艤装は霧島を横凪ぎに殴り飛ばした。

 

 

「霧島さぁーーん!?」

 

 後方から響く吹雪の悲鳴じみた叫びは霧島に届いてない。殴られた衝撃で気絶したのだろう、呼び掛けても反応はない。

 

 このままでは無防備なまま流れ弾に巻き込まれる、それを防ごうと古鷹が駆け寄ろうとするが。

 

 

「古鷹! そっちに軽巡と駆逐艦が行った!」

 

 本土組の水雷戦隊と協力して敵の護衛部隊を相手取っていた川内が叫び、直後に古鷹の周囲を複数の水柱が上がった。

 

 

「──ッ!」

 

 霧島の救援を妨害するように砲撃してきた敵の護衛部隊を睨み、左足に装備する二基八門の四連装魚雷を斉射した。放射状を描いた魚雷の網は確実に、敵艦を射線に捉える。間もなくして敵の軽巡ヘ級と駆逐艦イ級後期型に命中、爆発と火災を起こして停止した。

 

 

「きゃあッ!?」

 

 吹雪に向けて放たれた砲撃が周囲に水飛沫を巻き上げ、焔のように揺らめく赤い光を纏った影が敵旗艦の向こう側から彼女に近付く。

 

 霧島の救援のために駆け寄ろうとした川内には影の正体が分かった。重巡リ級、それも強化された個体のeliteだ。

 

 

「川内さん! サブ島方面から敵駆逐艦が複数向かってます!」

 

(退路を塞がれた……!?)

 

 本土組の水雷戦隊を率いている軽巡洋艦娘の阿武隈から警告を聞いた川内はまずい、と感じた。

 

 霧島を戦場から離脱させるには曳航が必要だが、吹雪には難しい。駆逐艦なら二隻でなければ馬力が足りず、川内か古鷹がやる必要がある。だが敵旗艦やリ級eliteに対抗できる古鷹にそれをさせる訳にはいかない。

 

 

「吹雪ちゃん、川内! あなた達は霧島を曳航して離脱してください! 私が囮になります!」

 

 古鷹も同じことを考えていたらしく、自ら敵の注意を引き付ける役目を買ってでた。

 

 

「そんな! 置いていくなんて出来ません!」

 

「残るのは私だけではないはずです! 阿武隈達一水戦と協力して食い止めます! だから」

 

 早く、と古鷹が言おうとしてそれは遮られた。

 突如、後方より爆発音が響いてくる。続けてひとつ、ふたつ。音がした方へ誰からともなく振り向くと、火災を起こし硝煙と火柱をあげる敵の駆逐艦が三隻、停止していた。

 

 その近くに一人の少女が立っていた。

 漆黒で塗りたくられた夜の闇を削る火柱の灯りに照らされ、薄い燐光を孕んで輝く銀の長髪を靡かせ、恐らくマストを模した槍を持った駆逐艦の少女。

 

 

「……叢雲ちゃん、なんで……?」

 

 吹雪の呟きは川内も、古鷹も感じたことだった。

 

 今自分達が向ける視線の先にいたのは、つい先日この世界に顕現したばかりの叢雲だった。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 神通達二水戦と合流し、飛鷹と別れてから雪風達陽炎型駆逐艦の三人と航行して一時間。僕達は何度かの交戦を経てサブ島沖に到達していた。

 度重なる戦闘で艤装は既にボロボロだ。アームに固定された二基ある12.7cm連装砲のうち一基は砲塔が片方破損してるし、左手に装備する三連装空気魚雷発射管も一門が破損していた。

 

 そんな必死の行軍で辿り着いてみたらなんか敵の駆逐ハ級が二隻、徹底海峡に進出しようとしていた。まだこちらに気付いていなかったので、雪風達と連携して撃破した。やっぱり安定した援護がある、ないでは大分違うように思う。

 

 

「……叢雲ちゃん、なんで……?」

 

 前方で砲を奥の敵艦に向けつつ、顔だけこちらに向けて困惑した表情を浮かべる少女

──叢雲の姉である駆逐艦吹雪が呟いた。

 

 ……確かに彼女達からすれば、目を覚ましたばかりの駆逐艦がここに来たのはあり得ないと思うだろうな。これが原作のゲームだったら、提督諸氏にとって何も違和感が沸かないかもしれないが、ここは現実の戦場だ。新参の叢雲より先に長い間戦ってきた吹雪からすれば、自ら死地に飛び込んできたと映るだろう。

 

 だけど、ここに来たのは一隻じゃない。

 

 

「時津風、天津風は突撃してください! 私は叢雲ちゃんの直衛に専念します! 叢雲ちゃん、私に続いてください!」

 

「了~解! さあ、叩くよ!」

 

「大丈夫……いい風が吹いてるもの!」

 

 原作と同じ台詞を口々に叫びながら二隻の陽炎型駆逐艦が突撃していく。

 

 

「駆逐艦叢雲、了解!」

 

 僕も負けていられない。今までの戦闘で艤装が傷付いてもなお、落ち込むどころか高まった戦意が叢雲から伝わってくる。高揚した気分に鼓動が高まった胸の前で左手をきゅっ、と握り締めて前を往く雪風に続いた。

 

 

「前方に敵駆逐艦、二方向です!」

 

 雪風の叫びが示す通り、進路上に敵駆逐艦──縦に長い頭部を見る限り恐らくハ級だ。

 

 

「叢雲ちゃん、(ひだり)舷の敵をお願いします!」

 

「任せなさい!」

 

 飛んできた指示にそう返してから、右手の槍を斜め上段、目線の高さに持ってきて構える。

 

 何度か戦闘を重ねて分かったことがある。この槍は単純に近接武器としてだけではなく、寧ろ本来の用途は砲撃時の補助にあることだ。

 例えば今とってる構えだが、これは狙いを定めている。雪風達と出発した後の二度目になる実戦で思い付き、試してみたところ視線だけで狙うよりも精度と発射までに伴う体感時間は改善されていた。

 

 それからはこの構えが砲撃時に用いるスタイルになった。目覚めてから土壇場続きの実戦で戦闘経験も少しは蓄積できたはず。

 

 そしてここからは、立ち塞がる敵を撃つ。

 

 

「私の前を遮る愚か者め……!」

 

 沈め、と叫ぶと背中の艤装のアームと連結した12.7cm連装主砲一基が唸る。甲高い飛翔音が空を切り、異形の敵艦に突き刺さる。

 

 初弾で終わりじゃない。あえてタイミングをずらし、初弾で姿勢を崩した敵艦に続けて発砲。時間差で撃ち込まれた砲弾は容易にハ級の胴体を捉え、直後に爆発して炎と煙を吹き出しながら沈んでいった。

 

 横をちら、と見れば雪風も撃破したところだった。時津風、天津風は別の友軍艦隊を援護するため敵の護衛部隊と交戦している。

 

 海域の奥に視線を向けると吹雪と違う雰囲気ののセーラー服、多分川内と古鷹か。川内は吹雪と巫女服の女性を抱えて後退しようと移動していて、その間に古鷹が奥の敵艦に油断なく砲を向けていた。

 

 ……あれが敵の旗艦か。

 原作では後に実装された期間限定海域しか経験してこなかったが、ある程度なら知識として把握していた。

 

 艦種は戦艦だということは分かっている。あのゴリラみたいな艤装、ゲームではお馴染みの主砲を背負う16inch三連装砲さん(・・)を見る限り、流れが原作と同じなら一種類のみだろう。

 

 戦艦棲姫。

 同時期のイベントで登場した南方棲戦姫を凌ぐ火力、飛行場姫を超える重装甲という当時で言えばふざけた性能の海域ボスだった。

 

 

「……これが、敵の旗艦」

 

 呟いた言葉は声が震えていた。

 既に処女航海と数度の実戦を経験したとは言え、それでも深海棲艦でまともに交戦したのは駆逐艦ぐらいだ。

 これが軽巡か重巡程度ならまだましだったろうけど、相手は前世のゲームで提督諸氏を震撼させた戦艦棲姫、姫級だ。

 正直言って、まともにやり合って撃沈するどころか生き残れる確率すら怪しい。

 

 極度の緊張に汗ばみ、震える指貫グローブを嵌めた左手を押さえる。

 

 目の前の姫級からは物凄い重圧を、経験の浅い新兵同然である叢雲の肌でも感じ取れていた。

 戦場に現れたこちらを見つけて愉快げに、口角を上げて笑っていた。

 同時にこちらを主砲で狙っており、いつでも撃てる態勢に入っていた。それを見た僕は心臓を掴まれたような錯覚に陥り、初陣を飾ったときと同じように膝も笑っていた。

 

 

「それがどうしたのよ!」

 

 自身を叱咤するように、小刻みに震えて強張った足を海面に叩き付ける。勢いよく踏みつけたことで水飛沫が上がり体に降りかかるが、それを気にはしない。

 

 

「吹雪、川内! そのまま海域を離脱して! 古鷹も一旦退きなさい!」

 

「そんな、出来ないよ! 叢雲ちゃんだって、まだ艦娘として生まれたばかりじゃないですか!」

 

「心配しなくても、もうすぐ神通達二水戦がここに来るはずよ! 一水戦と交代が済んだら私も一度離脱する! さあ早く、行きなさい!」

 

 かつて救援に向かい、間に合わなかった重巡の少女に向かって叫び、槍を再び構える。

 

 僕の正面、それまで飛行場姫が鎮座していたガダルカナル島

──長いから今後はガ島と呼ぶ──の手前では戦艦棲姫がいる。ダメージは与えられないとしても、せめて釘付けにできれば。

 

 

「アラァ……? 貴女、懐カシイ匂イガスルノネェ? 昔沈メタ、人間達ノフネト同ジ匂イガ」

 

 ……やはり喋るか。

 姫級や鬼級、レ級のような一部の個体は期間限定海域において専用のボイスが存在した。その一種が目の前にいる戦艦棲姫だが、今の台詞には真意を図りかねる。

 

 どういう意味だ?

 

 

「イイワ、モウ一度沈メテアゲル。カツテ数多クノフネ、ソノ残骸ガ眠ル冷タイ水 底(ミナソコ)ニ、アイアンボトム……サウンドニ。沈メテ、アゲル」

 

 その言葉が合図だったのだろう。

 戦艦棲姫の艤装は頭部らしき部位が夜空を仰ぐと、不気味な遠吠えを発した。その音響はこちらに不快感を煽り、思わず耳を塞いだ。

 

 そして戦艦棲姫の本体は腕を持ち上げ、勢いよく前に付き出す。直後、艤装が背負う二基の16inch三連装砲さん(・・)が雷鳴のような砲声を轟かせた。




前書きで投稿が遅れに遅れた理由は書きましたが、もうひとつ言うなら、徹底海峡の雰囲気が掴めなかったので劇場版艦これを視聴してから、改めて本格的に執筆するプロセスが必要だったことと。
登場キャラを喋らせる関係で色々な方面から参考しつつ執筆しているからです。天津風とか雪風とか時津風なんて普段あまり使ってないし⬅優先順位が下であるため

あと古鷹や霧島の立ち回りなんかは考えていたけど、前書きで書いたみたいにニ○ニ○動画見ててスマホのバッテリーが持たないから執筆時間が短くなったりしたためです。
こんな阿呆なことしてるからと言われかねないですけど、気分転換しようとしたらこうなってたので何も反論できないです。こんな拙作ですが、今後もどうかよろしくお願い致しますm(__)m


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第6話 第二水雷戦隊

また1ヶ月くらい掛かってしまいました。他の小説も書いたりしてるからその分遅れがちでもあるんですけど、もう少し改善したいですね。

あと先日、瑞パラに行って参りました。横浜と八景島は旅行で行くのは初めてですが、何もかもが新鮮で終始圧倒されました。艦これ関連のイベントなんて行ったことは今回が初めてだったので、特設酒保の限定グッズは買えませんでした(血涙)

ただお陰で滞っていた話を書くネタが出来ました。なので鋼鉄二次に更新する話を書いていきたいと思います。

今回は叢雲と雪風、タイトルの通り二水戦がメインとなります。少し轟沈ネタが入ってるかもしれません。


 戦艦棲姫は向かい合った駆逐艦娘に砲撃を開始した。闇夜を照らす砲火と反響する砲声の直後、彼女の頭上から降り注ぐ。

 それに対し叢雲は鋭角に舵を切り、最初に上がった水柱に思い切って飛び込んだ。恐らく、一度砲弾が落ちた海面には落ちてこないというジンクスに従ったのだと、古鷹は後退しながら察した。

 

 

「だからって、こんなの……っ」

 

 古鷹は悔やんだ。まだ艦娘になって間もない彼女を、このような修羅場に巻き込んだこと。かつて自分の救援に駆け付けるも、ミイラ取りがミイラになる形で沈むことになったこの海、かつての戦いと似すぎる(・・・・)この作戦に参加させてしまったことを。

 

 そんな自分の無力さに、左手を爪が食い込むくらい握り締める。

 

 本当は今すぐにでも飛び出して、叢雲を援護したい。二度と自分の為に彼女が沈むようなことは、それだけは許容できない。

 

 だが、今自分が離れれば意識を失っている霧島や、彼女を曳航する川内と吹雪が危険に晒されてしまう。そう言った懸念を考慮するなら、護衛の役割を放棄してまで援護に向かうのは愚策だった。

 

 それが理屈で分かっているからこそ、沸き上がる感情を抑えてでも役割に徹しなければならない。そんなジレンマを胸のうちに抱えながら、霧島を曳航する川内と吹雪に続いて後退していった。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 気を失った霧島、それを曳航する川内と吹雪、護衛する古鷹が海域を離脱していく。戦艦級の砲弾が降る注ぐ海上を右に、左に舵を切りながら、チラッと視線を向けて確認すると再び目の前の敵艦に集中した。

 

 敵艦が撃ってくる砲弾は予想よりバラけていた。先程までの攻撃で思ったより打撃を受けたのかもしれない、そのお陰もあって一対一の砲雷撃戦でも何とか直撃を避けることが出来ていた。

 

 それでも無傷で済んでいる訳じゃない。砲弾が海面に落ちる度、飛んでくる破片が飛沫となって跳んできては着ている服や皮膚を傷付けていく。

 

 主砲も既に一基が脱落した。もう一基はまだ無事だけど、敵の砲撃音が轟くなかでも分かるくらい、不安感を煽るような異音がする。内部機構が損傷したのかもしれない。これだけの損傷を鑑みるに恐らく中破か。

 

 視線を横に流せば雪風が見えた。敵艦は主砲を一基ずつ僕と雪風に指向し、牽制するように各個射撃している。どちらも回避に専念しながら隙を見て砲撃しているが、雪風はこちらより損傷は大したこと無いように見えた。

 

 

「雪風ッ、アンタ五連装酸素魚雷持ってるわよね! 何とかアイツに当てられない!?」

 

「近付かないと難しいです! それに不意を突かないと跳躍で避けられます!」

 

 返ってきた内容を聞いて舌打ちする。駆逐艦が主砲を何発当てようと戦艦棲姫の装甲は貫通できず、虚しく弾かれるだけだ。であれば駆逐艦が持ちうる最大火力である魚雷に頼るしかないけど、戦艦棲姫はあの艤装が持つ同じ艦船ならあり得ない程の跳躍力を誇る。至近で狙い撃っても跳ばれたら当たらず、弾数の限られる魚雷も無駄になってしまう。

 

 それなら。

 

 

「雪風、常にヤツの後ろをキープして! こっちで何とか動きを止める!」

 

 彼女の装備が一番の決めてだ。それを確実に叩き込むしか、あの戦艦棲姫に打撃を与える手段はない。

 

 

「そんなっ、無茶です! 叢雲ちゃんはまだ錬度が低いんですよ!」

 

「それでも私達の中で最大火力はアンタよ! だったら私がそれをやるしかない!」

 

 叫んでから舵を切り、戦艦棲姫目掛けて突撃した。

 

 例え主砲を至近距離で当てても先程までと同じように弾かれ、一方的に反撃されるだけなのは分かってる。だけどこれは、彼女が前世の頃から待ち望んでいたことだった。

 駆逐艦は英名であるDestroyerが示す通り、敵艦を駆逐する(フネ)。それは主力艦のために露払いする役割の他、自分より大型の敵艦を喰らう大物喰らい(ジャイアントキリング)にも成りうる。

 そんな駆逐艦にとって夜戦は華だ。前世では連合国の駆逐艦を妹の白雲と共同で撃破したのが最初で最後、それからは艦としての最期を遂げた南方作戦で敵艦と交戦することなく沈んだ。

 

 僕の知識の通り倒せないと分かっていても構わない。今は夜戦、目の前の敵戦艦を沈めろと叢雲が叫んでいる。それを胸の内から感じながら、右手の槍を脇に挟むと、魚雷発射管から魚雷を一本引き抜いて左手に持った。

 

 主砲が弾かれるだけなのは分かっている。だけど、まだ魚雷がある。戦艦は基本的に甲板の装甲は薄いため、主砲弾ではなく爆発力のある魚雷を直接ぶつければどうか。試してみる価値はある。

 

 

「沈ミナサイ──!」

 

 その動作を見た戦艦棲姫は近付かせまいと砲撃してきた。

 

 

「ッ──!!」

 

 咄嗟に舵を切りかわそうと試みる。直後、先程までいたすぐ横の海面に砲弾が着弾。至近弾とはいえそれでも凄まじい爆風に襲われ、堪らず吹き飛ばされた僕はそこから離れた海面に叩き付けられた。

 

 

「ぐ、うぁ……」

 

 爆風が全身を横殴りに叩いたためか酷く痛い。前世で剣道やってた頃は打撲することはあったけど、ここまで酷くはない。この分だと骨は何ヵ所かやられているし、さっきまでのような動きは無理だろう。

 

 それでも立ち止まったままでいるわけにはいかない。ここは戦場のど真ん中だ。のんびり寝転がっていたらいい的だ、生きるなら動き続けないと。

 

 そう思って上体を起こした瞬間、正面に水飛沫を立てて巨大な足が見えた。反射的に視線を上げると、その先には艤装に抱えられた戦艦棲姫が僕を見下ろしていた。

 

 

「がッ!?」

 

 突然の戦艦棲姫の行動に硬直した僕は首を掴まれ、そのまま持ち上げられた。

 

 

「呆気ナイモノネェ? 威勢良ク向カッテキタノハ誉メテアゲルケド、駆逐艦ジャコンナモノヨ」

 

 拍子抜けしたように言う戦艦棲姫の力は強く、槍で反撃しようにも首を締め付ける握力に気道が圧迫される。振りほどこうと左手で相手の手を掴んで抵抗してみても、酸素を得られない事で力が徐々に抜けていく。

 

 

「叢雲ちゃんを離してください!」

 

 叫び声と同時に砲撃音が鳴り響く。直後、戦艦棲姫の艤装から鈍い音が伝わってきた。多分、弾かれているんだろう。

 

 このままだと首を掴まれたまま、絞め殺されるだけだ。この女は駆逐艦の砲撃をいくら受けても大した損傷は受けず、その余裕からゆっくり息の根を止めるつもりだ。

 

 ……ふざけるな。

 

 僕も叢雲も、まだ何も出来ていない。主砲を何発か当てただけで、戦艦棲姫はダメージを受けていない。

 

 叢雲の姉である吹雪、川内と古鷹、霧島は逃がすことができた。だがそれだけで終わらせるためにここまで来たんじゃない。

 

 まだ出せる力を振り絞って、ゆっくりと左手の魚雷発射管を向ける。

 さっき突撃した時に引き抜いた魚雷は砲撃で吹き飛ばされた後、手から取り零したから手元にない。だけど一門だけなら、まだ魚雷は残っている。

 

 向けられた魚雷に気付いた戦艦棲姫はぎょっとした表情を浮かべた。まさか、こんな至近距離では自分も巻き添えだ、なのに撃つのか。そんな思考を窺わせるような、正気を疑うような顔に見えた。

 

 ……残念ながら正気だよ。

 

 言葉にはせず内心で呟くと、三連装発射管のうち生き残った一門から空気魚雷を撃ち放つ。

 

 直後、視界が閃光に包まれた。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 雪風はその光景を見ていることしかできなかった。自分が制止しても止まらず、突撃して行った彼女が砲撃で吹き飛ばされ、首を掴まれながらも魚雷を放って、決死の反撃をした彼女を。

 

 空気魚雷の爆発に巻き込まれた叢雲は離れた海面まで吹き飛ばされ、何回も海上を転がって停止した。

 

 

「叢雲ちゃんッ!」

 

 吹き飛んだ時点で体は動いていた。叢雲が飛ばされていったのは敵旗艦の前方、自分は横から砲撃していたため、駆け寄れば(ひだり)舷後方に対して隙を見せることになるはずだ。

 

 

「オノレェ……! 駆逐艦ゴトキガァ……!」

 

 敵旗艦が呪詛の言葉を叫び、艤装の雄叫びが左舷後方から響いてくる。視界の端に光が瞬き、鳴り響く轟音が腹まで震わせるが構いはしない。

 

 

「雪風は沈みません!」

 

 お互いの距離が短いため、敵旗艦は主砲の仰角をほぼ水平に合わせて発砲した。雪風に向かって飛翔する砲弾はしかし、風に煽られたせいか掠めるように逸れていく。続けて発砲するが横に逸れるか手前で落ちてやはり当たらない。

 

 雪風にとって、このような偶然の連続(・・・・・)は今に始まったことではない。

 横須賀で生まれた第二世代の艦娘として生まれた当時、新鋭の陽炎型駆逐艦として中核を担うことが期待されていた国防海軍の黎明期、配属された二水戦旗艦神通の下で過酷とも言える訓練に明け暮れていた。

 

 その時期から雪風は驚異的な幸運を訓練で発揮していたのだ。砲撃訓練では風向きが偶然(・・)都合良く変わったため他の陽炎型と比べても命中率が高く、航行訓練でも波の動きに偶然(・・)上手く乗れたから成績は良かった。

 

 そんな奇跡的な出来事を何度も起こした雪風は何時からか幸運艦と呼ばれるようになった。多少錬度が低くても補って余りある強運は羨望の的になり、同時に不満を抱えるようになった。

 

 自分は幸運だから雪風なんじゃない、陽炎型駆逐艦の八番艦だ。そう言い聞かせようとしたが、起こる偶然は前世を彷彿とさせる物ばかりで、更に不満を大きくさせた。

 

 そんな状況にあった自分が腐りながら訓練していた時、神通から叱責された。

 

 ──貴女が強運持ちなのかは関係ありません。前世の貴女は数多くの海戦に参加して終戦を迎えた一番の武勲艦です! なら、貴女には自分以外の誰かに伝えることがある筈。それは貴女だけが持つ役目です!

 

 そう言った神通の言葉は雪風の腐心を打ち消すものだった。

 そして雪風は目的を見出だした。これから会わなければいけない艦娘達がいる。彼女達に会って、二度目の艦歴を与えられた艦娘としてやり直したい。

 

 結果としてその願いは半分叶い、半分は出来なかった。

 前世で共に行動した艦娘達と再会して和解は出来た。だが前世でも会ったことがない第一世代の大部分と、自分と同じ一部の第二世代の艦娘達は守れなかった。

 

 それで絶望した時期があった。結局前世を再現したじゃないか、なにも変わらないじゃないかと。

 

 そんな自分を姉妹達は励ましてくれた。

 

 長女の陽炎は前世から背負わせてきた事を謝り、泣きながら抱き締めた。

 次女の不知火は雪風を置いて沈まないと誓った。

 黒潮も、親潮もそれに倣った。

 自分が所属していた第十六駆逐隊や第十七駆逐隊は、死神と呼ばれた史実に関係なく頼ってくれ、と言った。谷風が申し訳なさそうに頭を下げた時は慌てた記憶もある。

 

 雪風はもう迷わなかった。未だ顕現していない艦娘はいる。彼女達を、他の皆も自分より先に沈ませない。その想いを胸に今まで闘い続けてきた。だから、叢雲は絶対に沈ませない!

 

 背後の敵旗艦は依然として砲撃を繰り返していたが、それとは別の砲撃音が左前方から、直後に砲弾が着弾したのか弾かれた音を聴いた。

 

 

「雪風さん、叢雲さんは!?」

 

 左前方にいたのは神通だった。周りには同じ第十六駆逐隊の初風と一水戦を援護していた時津風、天津風。第十七駆逐隊と第十八駆逐隊がいる。

 

 

「叢雲ちゃんは敵艦の砲撃を受けました! その直後に近接されて、拘束された状態で魚雷を放って、それで……!」

 

「分かりました。雪風さんは初風さんと一緒に叢雲さんの救助を。あとは私と攻撃を仕掛けます!」

 

「がってん! 谷風さんに任せな!」

 

「十八駆、了解です! 砲雷撃戦、用意!」

 

 二個駆逐隊に第十六駆逐隊の二人を加えて10人の駆逐艦娘が、旗艦の神通を先頭に単縦陣で突撃していく。そこから抜け出すように一人の駆逐艦娘が近寄ってきた。

 

 

「初風ちゃん」

 

 艦娘は第十六駆逐隊の一人、駆逐艦初風だ。激戦を幾つも潜り抜けてきたのだろう、頬を煤で汚し服は一部焼け落ちている。

 

 

「ぼんやりしないで、行きましょ。まずは、ドロップして直ぐに飛び出していった馬鹿な駆逐艦を救助するわよ」

 

「はい!」

 

 

 

          ◇◇◇

 

「十七駆、十八駆は左右に展開!時津風、天津風は私に続いてください。行きましょう!」

 

「 「 「了解!」 」 」

 

 神通の号令が発せられると駆逐艦達は力強く応答し、二つの駆逐隊が分散し始めた。

 

 

「霰と霞は酸素魚雷を先に撃って! あたしと不知火は先行するわ!」

 

 第十八駆逐隊嚮導艦陽炎が指示を飛ばし、彼女ともう一人の陽炎型駆逐艦が散開する。

 直後に後方から二人の朝潮型駆逐艦が酸素魚雷を発射した。それぞれ左手に装備した四連装を一基ずつ、計八射線が敵旗艦を絡めとるように海面下を突き進む。

 

 同様の動きは第十七駆逐隊にもあった。左右に展開する駆逐隊が包囲して、雷撃と近接砲撃の飽和攻撃を仕掛ける。

 

 二方向から挟み込むように放たれた雷撃は数瞬の後、巨大な水柱を巻き上げた。

 だがその直後、水飛沫の壁を突き破るように敵旗艦が飛び出してきた。

 

 

「不知火!」

 

「承知」

 

 雷撃は不発に終わった。恐らく敵旗艦は信管が接触する直前に跳躍し、二方向から向かってきた魚雷同士を接触させて誘爆させたのだ。

 

 陽炎はそこまで瞬時に把握すると、妹であり無二の相棒の不知火を伴い弾かれるように動いた。

 

 敵旗艦が跳躍した先には二水戦を統率する旗艦神通と、十六駆の二人がいる。何とか阻止しようと鋭角に舵を切り、後を追った。

 

 

「十六駆、散開!」

 

 迫る敵旗艦を見据えた神通が号令した。それを聞いた瞬間に時津風、天津風は左右に別れる。

 

 すぐ目の前を敵旗艦が着水した。巻き上がる水飛沫のカーテン越しに本体が神通を睨み、艤装が主砲を指向する。

 その時点で神通は動いていた。死角を探すような小細工はしない、真正面から突っ込んでいく。

 

 それを見た敵旗艦も避けるでもなく、応じるように艤装の腕を振り上げる。

 相手は明らかに自分より格下の軽巡洋艦。装甲は駆逐艦と大差ない艦種ではこの一撃を耐えられないだろう。距離の関係もあるが、艤装に殴打させるだけで充分だ。

 

 そう考えていた敵旗艦の思考を他所に、軽巡洋艦神通は思い切り海面を踏みしめ飛び上がった。

 着地点は艤装の胴体。横から飛び越えたことで本体は狼狽していた。

 

 

「ナニヲォ──!?」

 

「撃ちます」

 

 短く呟いてから右腕を前に出し、足元の艤装に向けると主砲を照準して発砲。完全にゼロ距離の砲撃を受けて艤装が揺らぎ、振り落とそうと腕を回そうとしたときには再び跳躍していた。

 空中で宙返りしながら四連装魚雷発射管を発射。空中を重力に引かれながら落下する九三式酸素魚雷は艤装に命中。次いで発生した爆風を背に受け、それに押されるように敵旗艦から離れていった。

 

 

 

          ◇◇◇

 

『ここ、は……?』

 

 呟いて聞こえた僕の声はエコーがかかっていた。周囲を見渡す。黒で塗りつぶしたような一面の闇、下降する逆さになった自分の視界。沸き上がる気泡を見て何処なのか理解した。

 

 

『結局、沈んだのか……』

 

 情けない。あの時、猫吊るしの提案で文字通り二心同体、駆逐艦叢雲として第2の人生を送ると決めていたのに。比叡を始め、叢雲に縁の深い艦娘達とショートランドで出会い、逃げたくないからって飛び出し、何度も必死の戦闘を経て会敵した戦艦棲姫相手に出来たのは捨て身の雷撃のみ。

 決死の覚悟でやった甲斐は果たしてあったか、今となってはそれも分からない。

 

 

『諦めるのか』

 

『? ……誰?』

 

 突然聞こえた声に慌てて周囲を見渡した。しかし、視界に入るのは先程と変わらない風景のみだった。

 

 

『私が誰かなど大した問題ではない。それより質問に答えろ』

 

『諦められるわけ、ないじゃないか……!』

 

 僕と叢雲は何故だか、こうして二人で一人の艦娘として生を受けた。

 僕はまだ生きていたい生の願望の為、叢雲は艦娘として二度と後悔しないために。その筈がこんなあっさりした最期なんて、あまりにも空しすぎるだろう。

 

 

『まだ生きたいのか』

 

 謎の声の主は続けて質問してきた。

 

 

『生きたいよ……っ。このままじゃ未練しか残らない。それに……』

 

『なんだ』

 

『白雪と初雪に、約束したんだ。カレー食べるために生きて帰るって』

 

『…………』

 

 理由を告げると沈黙が帰ってきた。

 

 

『え、っと。どうし『フ、ハハハハハ!』……!?』

 

 黙りこんだのが気になって訊こうとしたらいきなり笑い出した。え、本当にどうしたの?

 

 

『なんでいきなり笑うんだよ』

 

『ハハッ。いや悪い。思いがけない答えが返ってくるものでな、可笑しくなって我慢できなかったのだ』

 

『からかってる?』

 

『否。寧ろ嫌いではないから可笑しくなったのさ。これが若さか、なかなか良いものだな!』

 

 謎の声は愉快げに話した。なんか古風な話し方だけど、一体何がしたいんだ?

 

 

『戯れもここまでにしようか。本題に入る前に一つ、君も叢雲もまだ沈んでいないから安心しろ』

 

『えっ?』

 

 沈んでいない? でもここは僕が前世で死んでから目覚めた場所と同じだし、沈んだのでなければなんだって言うんだ。

 

 

『そもそもここは特定の人物の意識を、別の場所と繋げるための回廊なのだよ』

 

『回廊? それじゃ、やっぱり死後の世界じゃ』

 

 そこまで言いかけてから気になることを思い出した。

 

 あの時猫吊るしは何と言っていた? 確か、あの時。

 

 

 ──安心してくれ。ここは死後の世界とは違う、ある場所へと繋がる通り道みたいなものだ。

 

 記憶が間違いでなければそう言っていた。ということは。

 

 

『僕は意識を別の場所に向かって降りているのか?』

 

『ほう? よく解ったな。君の言う通り、ある場所に向かっている。ほら、ちょうど下に見えてきた』

 

 言われるままに逆さになった視界で視線を動かした。

 

 僕が向けた視線にあったのは、海底に横たわる船の残骸だった。

 船体は攻撃で誘爆したのか、中央から破断していた。前部は同じ理由で脱落したのか、主砲を置いていた場所に穴が出来ていた。そのすぐ後ろも基部だけで、痕跡を残して装備は残っていない。

 更に後ろは艦橋だったらしい上部構造物が見える。叢雲みたいな天蓋付きではなく密閉型のようだ。両舷に取り付けられたウイングがひしゃげている。

 

 少し離れた所では船体後部が海底に突き刺さっていた。何か搭載していたのか、格納庫と余裕のある広さの後部甲板がある。上部構造物の直後には前部と同様、主砲が収まっていたらしい穴があった。

 

 まさか。

 

 

『これって、戦後のフリゲート艦と同じレイアウトじゃないか!』

 

 前世の僕は艦これを通して駆逐艦叢雲に興味が湧き、太平洋戦争は勿論、初代の東雲型に至るまで調べた。その過程で知ることとなったのが3代目に当たるみねぐも型護衛艦だった。

 

 艦歴を調べていくうちに解ったのは、護衛艦むらくもが設計上の重大な課題を抱え、試験的に新型の速射砲を含む兵装を試験運用したこと。そして、第3代護衛艦隊旗艦に選ばれていることだった。

 

 眼下にある残骸のレイアウトは護衛艦むらくもと一致していた。なら、あれは。

 

 

『君も薄々気付いただろう。あれは、護衛艦むらくもの成れの果て。私がかつて海原を往き、最期を遂げた残骸だよ』

 

『……じゃあ、やっぱり君は』

 

『叢一、君は何を望む?

 

水上艦を沈める魚雷か?

 

駆逐艦叢雲の最期を繰り返さぬよう、敵機を撃墜する機銃や対空電探か?

 

敵潜水艦を発見して掃討する爆雷か?

 

どれを求める? その力を使って、何を為すつもりだ』

 

『僕は』

 

 謎の声の主──むらくもの言葉を頭の中で反芻させて、考える。

 

 駆逐艦としてなら、強力な魚雷は欲して止まないだろう。かつての叢雲の二の舞にならないよう、対空兵装の充実も重要だ。駆逐艦の主要任務である露払いをするなら、対潜兵装だろう。

 

 でも、僕が求めるのはそうじゃない気がした。

 

 

『僕が欲しいのは、護るための力』

 

 先程にむらくもが並べた言葉の中から選ぶのは、僕には難しい。

 

 何故なら、それらは駆逐艦に必要な要素だったから。どれも数に優れた駆逐艦だからこそ活きる兵装で、現代の護衛艦はそれを兼ね備えているはずだから。

 

 

『自分の身だけじゃない、仲間を護れる力が欲しい。それが僕の望むものだと思う』

 

『理不尽な現実が待ち受けてるかもしれんぞ? どうしても避けられない運命もあるかもしれない』

 

『そんなの認めない』

 

『何故?』

 

『僕も叢雲も、そう決めたから』

 

 駆逐艦叢雲の最期は、数多くの犠牲と無念を伴ったと思う。だから、そう決意した。今度こそ護るために。

 

 

『フッ、合格だ。その答えが聞けただけで充分だろう。さあ、受け取れ』

 

 むらくもがそう言った頃には、残骸が目の前だった。右手を下に向け、甲板に触れる。

 直後、叢雲の時と同様に船体が光に包まれた。

 船体だけじゃない。離れた海底の何ヵ所かに光が灯った。

 

 

『私はかつて舞鶴で生まれ、幾度も試験運用に使用されて護衛艦隊旗艦に選ばれた。平和主義国家となった日本を護るために生まれたはずだった』

 

 船体や周囲の残骸から溢れた光は奔流となり、僕の体に流れ込んでくる。同時に、むらくもの記憶が流れ込んできた。

 

 DD-118 みねぐも型護衛艦三番艦むらくも

 

 1968年 10月19日に起工、1969年 11月15日に進水。1970年 8月21日に就役後、第1護衛隊群第22護衛隊に編入。呉に配備された。

 

 1985年 3月27日に第3代護衛艦隊旗艦となり横須賀を定係地にして転籍、旗艦として指揮管制能力を拡張する改装が施された。

 

 

『私は護れなかった。今から27年前、人類に牙を剥いたヤツらと戦うため、米軍との共同作戦でこの南方の海に来た。それが私にとって最初の防衛出動で、最後となる初陣だった』

 

 次に流れ込んできたのはむらくもとは異なる、多分だけどこの世界に関わる歴史だった。

 

 1983年にオーストラリア国籍のタンカー一隻が謎の攻撃を受けて撃沈。

 原因を突き止めるべく、オーストラリア政府は海軍に調査を命じて実施するが、同任務行動中の艦艇までが消息を絶った。

 数年後の1987年、アメリカのハワイ州を国籍不明の航空機が爆撃。

 出動した米海軍が迎撃して犠牲を出しながら撃退。母艦と思われる存在を確認し、討伐部隊が編成されて出撃したが全滅。

 その後対象は移動し、南太平洋に向かったことが偵察で判明。更に調査した結果、ハワイを襲撃した母艦と思われる存在と、正体不明の大規模な勢力が確認された。

 最新鋭の装備を以てしても予想外の損害が出たことで米軍は警戒し、太平洋諸国に協力を要請。日本を含む多国籍軍を結成して南太平洋に集結、敵勢力と会戦した。

 結果、敵勢力に損害を与えられず多国籍軍は半壊。残存艦艇は撤退を開始した。

 

 これがこの世界の歴史なのか。前世では、二次界隈で多種多様な世界観の作品が存在した。なかには米国が衰退した設定の作品もあったくらいだ。

 

 光の奔流がもたらす情報はそれに留まらなかった。スライドショーのように映像が流れ始める。

 

 南太平洋ソロモン諸島近海上空を乱舞して、墜落していくジェット艦載機。生き残った機体を追い回す小型で黒い異形の飛行体。

 艦首を真上に向けて沈没していくミサイル駆逐艦。その周辺で漂う溺者を捕食する怪物。

 無線に悲鳴を伝えて機銃で散っていくパイロット達。海に投げ出され、不気味さを感じさせる怪物に捕食されまいと、恐怖と本能に突き動かされて必死に泳ごうとする艦艇の乗員達。

 

 僕の記憶の通りなら、あれはイ級だ。ゲームで見た物と多分同じ姿、ならここで日米連合部隊は。

 

 僕の思考を他所に違う映像が流れてくる。海上に見覚えのある個体が航行していた。

 

 

『戦艦棲姫!』

 

 見間違える筈がない。さっきまで交戦していた筈の深海棲艦が映像に映っていた。つまり、この時期から姫級が存在したことになる。

 

 映像のなかの戦艦棲姫が腕を降り下ろし、背後の艤装が砲声を轟かせる。

 砲撃を受けた艦艇は懸命に回避運動するが、一発の至近弾が艦左舷中央付近に着水。発生した衝撃波が船体を叩き、竜骨(キール)が悲鳴のような軋みを鳴らした。直後、艦内で爆発を起こして船体は分断し始める。一方で前部主砲が旋回して戦艦棲姫を指向、最後の抵抗とばかりに発砲した。

 発射された砲弾は吸い込まれるように直撃。被弾した戦艦棲姫は目立った損傷こそ無かったが、恨みを込めた視線で睨んでいた。

 

 最後の砲撃をした艦艇には艦首に艦名が記されていた。

 『DD-118 むらくも』

 この場所に誘った彼女と同じ名前。つまり、本当にここで戦っていたのだ。恐らく護衛艦隊旗艦として、他の護衛艦を率いて多国籍軍に参加していた。

 

 映像のなかの彼女は力尽きたように、浸水による負荷で船体を半ばからへし折られ海中に没していった。

 

 

『今のが私の記憶するすべてだ。ここから先を知りたいのなら、今日の戦いを生き延びるしかないだろう』

 

『まだ、僕も叢雲も沈んでないんだよね?』

 

『そうだ』

 

『戦いは終わっていない?』

 

『ああ。当海域に友軍の増援も近付いているが、現場の敵は君を救助する駆逐艦達に攻撃するだろう』

 

『戻らなくちゃ』

 

 雪風は顕現して間もない叢雲を気遣って同行してくれた。これ以上彼女に守られるだけでは終われない。

 

 

『私はフネだった時代、ヤツらに通用しなかった。だから、頼んだぞ』

 

『それなんだけど、さ。僕からもお願いして良いかな?』

 

『なんだ』

 

『僕は駆逐艦叢雲についてある程度解っているつもりだけど、護衛艦むらくもについては殆ど何も知らない。だから、最初は君に体を預けたいんだ』

 

 これは僕なりに考えてみたことだ。この海は駆逐艦叢雲にとっても、護衛艦むらくもにとっても因縁深い場所だ。本来は平凡な高校生が全部担うより、リベンジを果たす意味でも彼女に任せてみたかった。

 

 

『……良いのか?』

 

『勿論、君が拒むなら強要しないよ。僕が引き受ける。でも、この海に因縁があるのは叢雲だけじゃなく、むらくもだって同じだよ。だから、最初は君に預けたいと思う』

 

『……解った。君がそう望むなら、私としても拒む理由はない。彼女、叢雲の台詞を真似するわけではないが、言わせて貰おう。ありがとう。私に機会を与えてくれて。そう願ってくれた君の為にも、生きて帰らせると確約しよう。今日から頼むぞ、相棒』

 

 やがて光の奔流は海底より遥か上に向かって上昇し始めた。体もそれに運ばれるように浮き始める。

 

 急速に上昇してどれ程経っただろう、海上に立っていた。意識は体の制御から離れているのを確認した。

 

 

「また会えたな、あの時の深海棲艦! 沈められた姉達、僚艦の仇は取らせて貰うぞ」

 

 そう告げられた深海棲艦、戦艦棲姫は信じられないような表情を浮かべていた。

 

 

「みねぐも型護衛艦三番艦、DD-118 むらくも。交戦規定に従い交戦する! 往くぞ」

 

 専守防衛を掲げる戦後の自衛艦の生まれ変わった姿、自衛艦娘が声高く宣言した。




唐突な自衛艦娘登場。ここから彼女はどう戦っていくのか。

それはそうと雪風については、あれは史実をあれこれ調べて考えた結果こうなりました。

幸運艦なんて呼ばれていても結局、一番不幸なのは雪風だったと思います。自分が行く先々で多くの艦を看取るなんて、普通だったら気が気でないでしょう。
それでも彼女が前向きに戦ってこれたのは姉妹や二水戦旗艦の神通が居たから、今度こそ護ると思えばこそ。

次回も雪風の視点を含む描写になると思います。今回みたいにごちゃごちゃ視点が変わることはないかと。多分。


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