Fate/egoist (アグナ)
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大晦日のリビドーを抑え切れなかったのだ……。
ふふ……未完の連載が増えていく(白目)


「祖、安倍清明。陰陽道土御門―――謹んで泰山父君冥道諸神に奉る」

 

 

 

 

………

…………

………………。

 

 例えば、死だ。

 

 生命活動の停止、脳活動の終了、意識が霧散し二度と戻ってこない現象。人はそれを死と呼ぶ。誰もに必ず訪れる必定の結末。始点が在るゆえ終点があるように、無限の螺旋で閉じた完璧、完成という例外を除いて悉くを掻っ攫う運命。生を欲する我らに対する死神。それに直面した時、人は正か負を抜いてまず確実に、必ずに、逃避と言う行動に出る。

 

 例えば、人生とは死に至るまでの余暇だとか。死を持って完成するだとか。或いはそれでも想いは逝き続ける打とか。綺麗ごとを聖者賢人は並べるが、結局のところその結末を粛々と受け入れてしまっている。ワタシは死にたくないといっているのに御託を並べて結末だと寿ぐ。

 

 なんて、間抜け。まるで案山子か何かだ。ワタシは死にたくないと言っているのに死なない方法ではなく、死を説いて来る。貴様らに耳は、言葉を理解する脳はあるのかと叫べば、ものみなワタシに憐れみの視線をくれやがる。何だそれはふざけるな、死にたくないという願いがそれほど憐れなのか? それほど醜いものなのか?

 

 だって、生者ならば誰もが思うはずだ。死にたくない、生きたいと。確固とした己が個我を世界に独立し続けたいと、そう願う事の何処に悪がある? 言えるものなら言ってみよ、その命、今すぐ投げ出せといわれて投げ出せる者がいるか?

 

 少なくともワタシは嫌だ。

 

 生きたい、生きたい、生きたい、生きたい―――生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生き生き生き生き生き生き生き生き生き生生生生生生生生生生―――ただ死にたくないのだ。

 

 だからこそ生存の可能性があるならばワタシは往く。他の者など知ったことか。前例が無い? 不可能? 誰も出来ない? 笑止、貴様ら所詮は死を受け入れた敗北者共だろうが。ならば如何なる賢者、如何なる英雄の言葉も不要無価値。全て、総て、凡て、我が生存に役立たず。

 

 書物を読み漁った。科学を極めた。法則を読み解いた。言葉を、生命を、世界を―――万象悉くを死のためにくべた。

 

 その過程で名を馳せた―――どうでもいい。

 その過程で悪と呼ばれた―――どうでもいい。

 その過程で狂人だと罵られた―――心の底からどうでもいい。

 

 生きるのだ。ワタシは生きるのだ。誰がなんと言おうと評価しようと生きるのだ。

 何故生きるか? 愚問、死にたくないからである。

 

 それを侵す者、邪魔するものは親類縁者だろうが死ね。ワタシが生きるために死ね。

 役立たず共、邪魔をするなら―――ワタシの唯我こなみの生の礎となれ。

 

 

 

 

「汝、三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ―――天秤の守り手よ」

 

 月の海、0と1とが構成するこの世界を霊子虚構世界「SE.RA.PH(セラフ)」と言った。簡単に言って電脳世界。ここは月に人外の何者かが作った現代科学の及ぶところ無い規格外のスパコンともいえるムーンセル・オートマトン。その表層部に位置する空間だった。

 

 ムーンセル・オートマトンは言ったように人外が作ったオーバーテクノロジー。ゆえに演算技能は人類が保有するあらゆる演算機の機能を凌駕する。観測・記録をするこのスパコンは使い方によっては人類史を、世界を変えるだけの力を保有する。それ即ち、万能の杯……ゆえにこの力を手にする権利を人は「聖杯」と呼んだ。

 

 そして、それが何よりこなみが此処に居る理由。死することが最も恐ろしい彼女が、それでもこの究極の生存競争。「聖杯」を争う「聖杯戦争」に参加した理由であった。

 

「サーヴァント・キャス……あれ? バーサーカー? クラスミスなんじゃないのこれ?」

 

 こなみの眼先、これでもかと言うぐらいの魔力を纏って現界した男はその規格外の登場と霊格に相反して凄まじく気の抜ける口調で己に対して疑問を口にする。背負った身丈並みのラッパにとんがり帽子、色とりどりの衣服や装飾の数々は成る程、「道化」か「吟遊詩人」かのそれ。即ち、この上なく胡散臭い。

 

 これでもこの男とのパスがはっきりと彼が己のサーヴァントであることを示している。

 

「サーヴァントで間違いないな? そうだな? ならばこれで契約成立だ。私が生きるためにしゃんと働け。道化」

 

「うわーお。これはこれは、また随分アレ(・・)なマスターを引いたものだ。でも、僕を従者にしてしまったあたり、どっちもどっちかい? まあ良いけど」

 

 慇懃無礼なこなみの言葉にサーヴァントと呼ばれた道化男は金銀の瞳(オッドアイ)を不気味に輝かせてこなみの言葉に肩を竦める。

 

「その通り。私が貴女のサーヴァント、クラスは何の間違いかバーサーカー。そうだな……適当に『悪魔使い』とでも呼んでくれたまえ。それとも真名聞きたい?」

 

「興味ない。サーヴァントとして機能すればお前にそれ以上は求めない。語りたければ好きにしろ。私も好きに無視する」

 

「おいおい、無視されると分かって語るなんてそりゃあもう道化にとって一番の拷問じゃないか! マスター、君ってドSかい? それともサディスト?」

 

「どうでも良い。ついてこい、悪魔使い。私は一秒だってこんな場所に居たくないんだ」

 

 言って踵を返すとこなみは颯爽とサーヴァント召喚によって開かれた扉の方へと歩いていく。

 

「……やれやれ、これは本当に骨が折れそうなマスターに召喚されたようだね。大丈夫かい俺?」

 

 まるで自分のことなぞ考えず、ひたすら己、己と言った態度のマスターに呆れた風に呟く悪魔使い。但し、その口元は実に愉しげに歪んでいる辺り、この男もこの男だった。

 

 そうしてマスターに続こうとしてふと、辺りの景色に気付いた。……こんな場所(・・・・・)とは、成る程、確かによく言ったものだ。

 

「これは、これは凄まじい」

 

 粉微塵に破壊された人形の山(・・・・)

 引き千切られた手足(・・・・・・・・・)撥ね飛ばされた首(・・・・・・・・)

 惨殺殴殺暗殺射殺絞殺自殺―――殺戮された死骸の群。

 焼死圧死溺死病死ショック死―――悉く、そう、悉く皆殺し。

 

「……確かに、サーヴァントなんてどうでもいいかもね。うん、素晴らしい。これは素晴らしい。もしかして我、英雄譚を書く機会に恵まれちゃった系? とっくの昔に神代は終わったと思ってたんだけどねェ。事実は小説より奇なりって? キハハ! 愉快愉快。確かに現世は地獄だね、(やつがれ)

 

 その惨状に道化は笑う。倫理や正義をおいてただ面白いか否かで生きる道化の態度は正にその名の悪魔使いの名に見合う態度であった。バーサーカーは己のマスターの行く末が面白いと確信し、全力で付き合うことをいきなり勝手に心に決めて、歩き去るマスターの背中を追って行った。

 

 ―――これは正義の物語でもない。賢人の決意でもない。聖人の戦いでもなければ英雄の戦いでもない。

 ましてや崇高な願いを抱いた奇跡の話などでは断固としてない。

 

 狂気を纏った人が当たり前の願いを叶えるためだけの物語。

 

 さあ―――人間(かいぶつ)が来るぞ。




モデル・どっかの逆十字と蝿の王。

因みにモデルの方々は登場しませんのであしからず。
後、別に知らなくても本編に影響しない。


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一回戦 ①

 例えば道端。

 

 子供たちがきゃっきゃ、きゃっきゃとはしゃいでいる。

 何しているの? ―――ワタシは問いかけた。

 遊んでるの!! ―――彼らは答えた。

 

 電柱の下。アスファルトに空いた小さな孔。

 その上でバタバタと足を上げては踏み下ろす不可解なタップダンス。

 彼らは、蟻を潰して遊んでいた。

 

 見るも無残な虫の死骸。

 

 ―――――笑顔の子供達の顔が、同じ存在(モノ)に思えなかった。

 

 

 

 

 デジタルの海。空を見上げた感想は端的なものだった。まるで時たま壊れたテレビのようにノイズ掛かる風景。正しく此処がこなみの知る現世で無い証明だ。

 

「ふーむ、仮にも予選を突破してきた人間達だからどれほどかと思ったけど。ダーメだね。ぜんっぜんツマンナイ。これが今から英霊同士、魔術師同士の殺し合いをする魔術師(マスター)の顔? ナイナイ、これはナイ」

 

 コツコツと警戒しながら周囲を練り歩くこなみと違い、後に続くバーサーカーの表情はそれはそれはつまらなそうなものであった。

 

「もっとこう……『僕は世界を救うんだッ!!』ぐらいのいい感じにぶっ飛んだ人間はいないもんかねェ。これじゃあマスターの一人勝ちだ。それはつまらない、山あり谷ありだから人生(ものがたり)は面白いってのにねえ? そこんところはどう思うマイマスター?」

 

「……一つ、言っておく」

 

 お? と自分の言葉に反応らしき反応を示したことに喜ぶバーサーカー。

 

「貴様がどうしようと知ったことではない。私が貴様に求めるのは聖杯戦争に参加する上での参加資格のみ。何処の誰に手を貸そうと破滅させようと干渉しようと私の知ったことではない。だが……」

 

 一拍。身も凍るような静寂を置いて……。

 

「私の邪魔はするな。私は私の命を脅かすものを殺す。故に、私の邪魔を貴様がすると言うならば命以外の全てを諦めろ」

 

 いっそ親の仇を見るような憎悪に満ちた眼差し。彼が英霊……即ちは人類史に名を残すほどの偉人であり人を超えた英雄であることを弁えた上で、それでも邪魔をしたら殺すという決定―――バーサーカーはケタケタ笑う。

 

「朕は君に呼ばれたサーヴァントだぜ? せっかく邪魔以外の一切を許すという寛容なマスターを得たんだ。邪魔はしないさ」

 

 そういって実に愉しげにこなみを瞳に映す。

 

「君ほどオカシイ人間ともそう巡り合えないだろうしね。語り屋(ストーリーテラー)としてその断片を収集するまで付き合うさ。それに知っておくといい、悪魔っていうのはね。人間以上に誠実なイキモノなんだぜ?」

 

「どうでもいい。害するものと判断した場合、処置する」

 

「あっはー、無関心! 吾は寂しいと死んじゃう生き物なんだけど?」

 

「安心しろ、私が聖杯を手にするまではどのような形になっても生きてもらう」

 

「わあお、これはいい感じにヤバイぜ。なるべく傷付かないでおこ」

 

 必要なことを言い終わったためか、以降一切口を閉ざすこなみ。だが、お喋り好きなのか、バーサーカーは勝手に語る。

 

「だけど、殺し合いの舞台が学校って言うのも業が深いよねえ。ある意味因果かな? だって子供たちが将来を夢見て学ぶ場所だ。万能の杯なんて怪しいものに縋ってまで願いを叶え様とする魔術師(ウィザード)たちにはうってつけの舞台じゃないか!」

 

 予選から引き続き、舞台はバーサーカーの言葉通りに学校の校舎を模した場所だった。0と1の蒼海の下、ただ一つ浮かぶ学校の校舎(オブジェクト)。ある種、幻想的な光景ではある。

 

「初戦突破は128人だっけ? それをこれから最後の一人になるまで削りあうんだからねえ……ヤバイ、これはヤバイよ、ニヤケが止まらないぜ!」

 

 聖杯戦争……一対一で行なわれる過去の偉人の残滓、英霊を操って魔術師たちが行なう殺し合いのことである。勝者にはあらゆる願いを叶える願望器が授けられる。

 

「つまりは最低な七回は殺し合いの舞台に上がらなきゃならないわけだけどォ」

 

 そこで前を行くマスターにたたた、と駆け寄りその顔を覗き込むバーサーカー。

 

「率直に言って今のお気持ちは!? ねえねえどんな気持ち? 生きたがりのマイマスター!?」

 

「………悪魔使い」

 

「へえい、なんでしょう?」

 

「そんなにも私に令呪を使わせたいのか?」

 

 言うや否や手の甲を見せ付けるように翳すこなみ。そこには逆さ十字のタトゥーにも似た文様が刻まれていた。

 

「貴様らサーヴァントからしたらさぞ目障りな足枷だろう。ここでお喋りを止めろ徒命じれば一角減らすことが出来よう。貴様の目的はそれに相違ないな? そうだな?」

 

 令呪はサーヴァントを縛る三度限りの絶対命令権。サーヴァントを律する大魔術の結晶だ。参加資格も兼ねているためマスターは実質二度に限り行使できる。

 

「いやいや別に? 私からすれば特に気に触るものでもないさ! ああでもでも、マスター。その命令は止めてくれよ、俺からすれば喋るなっていうのは息するなって意味だからなネ! 息詰まったら何するか判らんぜ己は!」

 

「ならば壁に向って話すか別の相手を探せ。鬱陶しい」

 

「はいはーい、そうしまーす」

 

 人でも殺しかねない勢いで睨まれ流石に肩を竦めて反省するバーサーカー。彼は話したがりであっても死にたがりではないのだ。

 

「じゃあ、ここからは独り言って事で! いやあ、それにしてもムーンセルって言うのは凄いなァ! ここは僕が知る学び屋とは趣が違いけれど教室を覗けば、黒板と三十とある机椅子だ。このまま授業でも出来るんじゃないかってぐらい!」

 

 大仰に手を広げて言うバーサーカー。

 

「これだけリアリティーある空間を霊子で再現するなんてどれだけの電力(まりょく)使うんだろ! 空間そのものが一つの固有結界なんて、一体国幾つ賄えるんだか!」

 

 伊達にサバイバルの果て願望器が手に入るという与太話で人を集めているわけでは無いらしい。この景色を見れば嫌がおうにでもリアリティーのある話として眼前に突きつけられるようだった。

 

「いや、それをいうなら過去の残影である英霊をこうして百数人分限界させている時点で途方も無い! 魔術協会が現存していたら餓えた野犬のように飛びつくだろうね!」

 

 英霊という歴史に名を残した者達。それらを従者(サーヴァント)と言う形で限界させること自体が彼の言うように途方もない奇跡だ。それが百数体とは最早、普通の魔術師の理解が及ぶところではない。

 

「キハハ! COOLだねえ、実にデンジャーだねぇ……ところでマスター」

 

 と、ようやく落ち着きを取り戻したバーサーカーは素っ気無い己がマスターに目を向ける。

 

「ほんっとうに無反応だとしまいには泣くぜ僕。知っているかい? 兎と語り屋(ストーリーテラー)は寂しいと死んじゃうんだぜ?」

 

「……気が済んだな。もうじき個々に用意された『マイルーム』に着く。そこまで五月蝿ければ黙らせているところだった」

 

「あっれ? (わたくし)、今知らずに死線潜ってた?」

 

 呆けるように言うバーサーカーを置き去りに、マイルームとして活用できる教室に踏み入るこなみ。そのままサーヴァントを置き去りにして行きそうな勢いに慌ててバーサーカーも後に続く……。

 

……

………

………………。

 

 部屋に入ればそこはただの教室だった。

 

「うーむ。『マイルーム』っていうからもうちょっとインテリアとか欲しいよねえ。改造していいかいマスター?」

 

「好きにしろ、どうでもいい。私も工房を構築する」

 

「わーい!」

 

 ―――とやり取りから数十分。天上には蝋燭に似たオレンジ色の光。壁には頭が痛くなるような厚い本が納まる本棚と本棚の焦げ茶に合わせた机椅子。ソファの横には申し訳程度に部屋を飾る観葉植物が置かれた。

 

「どうだい? この書斎は? いい感じだろう?」

 

「奇天烈空間じゃなくて何よりだ」

 

「……マスター、拙を一体なんだと思っているんだい?」

 

「バーサーカーだ」

 

「つまり?」

 

「正気じゃない」

 

「だよねえぇぇ!」

 

 こなみの包み隠さない感想にバーサーカーはガックリとうな垂れる。

 

「ともあれようやく落ち着ける場所が手に入ったねマスター。これで安心して言葉を交わせるって事だろう?」

 

「……貴様、分かっていて話しかけていたな悪魔使い」

 

「勿論、書き手たるもの読み手のことも少しは考えられるよ? その上で俺は自分の趣味を優先したまでだ。それに致命的な言葉は何一つ語ったはず無いから少なくともマスターの邪魔はしてないだろう。君は定める上での邪魔は」

 

 金銀の瞳(オッドアイ)に妖しい光を浮かべて笑うバーサーカーにこなみは鮮烈な舌打ちをした。その態度にバーサーカーはケタケタと笑い声を上げる。

 

「まだ本格的な戦いも始まってないのに周囲を全て“敵”と見なして行動する君には頭が下がるけどね。僕らが交わしたやり取りだけで素性を暴くとかナイナイ」

 

「既に此処は殺し合いの舞台だ。死ねば死ぬ、ならば一分の隙すら見せずして当然だろう。それに今回の戦いにはハーウェイの人形に反逆の徒、蠍に黒騎士がいる。奴らならば僅かな情報を精査して何らかのヒントを得る可能性が捨てられない」

 

「おお、何それ詳しく! もしかして優勝候補だったり?」

 

 『マイルーム』は各マスターに与えられる不可侵地帯。周囲の目が阻まれていることでようやく言葉を交わす気が起きたのか、興味津々のバーサーカーに面倒くさげに語り始める。

 

「西欧財閥は知っているな?」

 

「召喚に際して今の知識は得ているからね。地上の殆どを版図に置く勢力でしょ」

 

 西欧財閥―――この2030年の歳において世界の過半数を統治する勢力である。ハーウェイ家を盟主に頂き、徹底した管理社会を強いている。

 

 とはいえ、管理社会と言えば聞こえ話悪いが実態はユートピアに等しい。彼らの統治の下にある国々は皆、現行体制に満足しているからだ。しかしそれでも不満を抱くものは少なからずおり、そういった者たちはレジスタンスとして活動している。

 

「連中は宇宙開発技術やクローン製造……新たな可能性を閉じることで社会に停滞を齎し、民を盲目にすることと不満の種を潰すことで平和を齎した。そんな連中からしてみれば月にある此処ムーンセルも願望器『聖杯』も体制を崩す一石に映るだろう、俗にいう封印指定という奴だ」

 

「ふむ、確か現在だと特定対象物に対する接触禁止の協定だっけ?」

 

「ああ、そもそもこうして月のムーンセルにアクセスする行為自体、連中が定める封印指定に接触する」

 

「うん、それは良いんだけど、それと優勝候補と一体何の関係が?」

 

「聖杯を封じ込めるには聖杯を手にするが速い、ハーウェイ家はそれを成す為に連中が設計した完璧な統治者の器を此処に送り込んできた。それこそレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。人工的に創られた次代の完璧なる王……醜悪な製造品だ」

 

「成る程、そう繋がるわけね」

 

「他にも優勝を磐石にするため、ハーウェイの邪魔をする支配者層を淘汰してきた暗殺者にハーウェイが送り込んだもう一つの刺客「蠍」に、連中を目の仇にするレジスタンスの女。何を血迷ってか英国で女王直々に騎士号を与えられた老兵まで参戦している。うっとうしい限りだ。私の生きる邪魔をする塵ども……!」

 

「私からすれば物語が栄えて良いけどね。つまるところ目下の敵は彼らかい? 了解了解。彼らには勢い余って喋り過ぎないように気をつけよう」

 

 自戒する様に頷くバーサーカー。そんなやり取りをしているとピピッと端末が鳴る。この部屋の認識に際し、利用した物だ。

 

 端末はマスター各位に配布されており、聖杯戦争に関する連絡事項他、この戦いに必要なマスターのシステム管理を一身に受け付けている。

 

「おや? 一回戦の敵でも決まったのかな?」

 

 こなみが端末を手に取るとバーサーカーは目を爛々と輝かせて言う。果たして、見ればバーサーカーの言う通り連絡は一回戦の相手に関するものだった。

 

『二階の掲示板にて、次の対戦者を発表する』

 

 メールには無機質にそう書かれていた。

 

「なんか成績発表みたいでドキドキするなこのシステム。マスター、早速見にいかな……て、おーい。マスター?」

 

 メールの内容に目を輝かせて言って見れば、こなみは何故かソファで横になり始める。それから……。

 

「予選突破と召喚で魔力を消耗した。今日はこのまま休む、知りたければ自分で見に行け。何なら、後日私も改めて見に行く手間が省ける」

 

「え、ちょ、マスター? マジで?」

 

「…………………」

 

 さすがのバーサーカーもギョッとしてこなみを見るが横になったこなみから応答は無く、代わりにすーすーと呼吸の静かな音が聞こえてくる。

 

「……本当に寝てるし。敵マスター……気になるなァ、気になるなァ、でもマスター放置とか『律儀で最悪』が座右の銘な我的にどうかと思うし……仕方が無い使い魔を使って確認しよう」

 

 意外と図太いマスターに嘆息したバーサーカーは虚空からポン、と一冊の本を取り出す。タイトルは『幻想魔道書群(グリム・グリモワール)

 

「カモン! 王の忠臣、ヨハネスくん!!」

 

 本を開いてバーサーカーがそういうとバーサーカーの眼前に膝を着いて礼を取る貴族然とした様相をした壮年の男が現れる。

 

「ささっと校舎二階の掲示板見てきて、敵マスターを教えてちょうだいな」

 

 バーサーカーがそう命じると、ヨハネスと呼ばれた男はコクンと承諾の意を示して『マイルーム』を後にしていく。

 

「それで良し」

 

 その後ろを見送ったバーサーカーは満足げに一つ頷き、一度、マスターの方を見る。マスター、こなみは本格的に眠っているのか反応は無い。

 

 

 

「―――前途多難だねえ。だから面白そうなんだけど」

 

 悪魔使いを名乗る狂人はそういって笑った。



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