千年恋文 (朱鷺羽 緒方)
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千年恋文

 

コンビニのおにぎりってどうしてこんなに美味しいんだろうなぁ、なんて適当なことを考える。 自分で作ってこそ栄養バランスが安定する、偉いなんて少し上の世代は言うだろうが理解に苦しむ。

時間のない朝にわざわざ昼に向けてのお弁当を作る意味が果たしてあるのだろうか、そんな時間があれば睡眠時間を伸ばせる。 もう二十歳を迎えようとしているのにそんな怠けた考えでいいのかと両親からは耳にタコができるくらい聞かされた、勘弁だ。

 

四月も中旬、そろそろゴールデンウィークをどう過ごすか決めた方が良さそうだ。 一日だけ合コンに誘われた日があった気がする。

もちろん彼女は欲しいが、実際問題今すぐ欲しいというほどでもない。 なるようになればいいというくらいの考えだ。

今は新しく発売したゲームを進めるのに忙しい。 クリアするのにゴールデンウィークを潰してもいいとも思ってる。

 

─そんなことを思ってた時期がありました、なんてベタなこと言うことがくるなんて思いもしなかった。

 

─六月。

 

君と出会うことになる。

 

だけど、不思議だな。 君とは何故か初めて会った気がしないんだ。

初めて会ったはずなのに、君の髪の色、君の大きな瞳、君の艶やかな唇、君の笑ったその顔全てが何だか懐かしいんだ。

 

きっかけは覚えてないけど、俺は奥手でシャイだから、君から話しかけてくれたんだと思う。

君にとっては友達の一人、なのかもしれないけどここまで心惹かれた女性も俺にとっては初めてだった。

 

君の作ってくれた料理の味も、君のために買ったバッグも、君と行った動物園も、全てが色褪せない大切な思い出。

 

七月、玉砕覚悟で君に告白をした。

 

嬉しかった、涙を流して喜んでくれた。 また、一緒になれるんだねと。

 

九月、君と同棲生活が始まった。

俺は君のことをもっと深く知ることになった、もちろん君も俺のことを知ってくれた。

知れば知るほどに君とは前にも会ったことがあるような気がしてならなかった。 そんな話を君にしてもクスリと笑うだけ、その笑顔が綺麗だ。

 

─君と一線を越えた。

もちろんゴムは付けてあるから万一の心配はない、はずである。

お互いに肌を触れ合って、お互いの全てを曝け出して、感じあった。

 

ある日、俺は君の知りたくなかった一面を知ってしまった。

 

─盗撮、同棲しててもこれはさすがに許容できなかった。 俺のプライバシー、君と過ごす時間以外にも君に監視されてる。 正直言って気味が悪い。

俺は君に監視されたいわけじゃない、君と一緒に過ごしたいだけ。 しかし、人間関係の都合上君にばかり時間を割くことはできない。

 

君と初めて喧嘩をした。

一気に気まずくなった。 いや、俺が一方的に君を避けるようになったと言った方が正しい。

大学を卒業するまで、君との関係は回復しなかった。 そして、卒業と同時に君と別れた。

 

それから三年後、俺は人生のパートナーと出会い、交際を続けてる中でプロポーズをされた。 もちろん了承した。

結婚式まで幸せな日々が続いていた。 君のことは今日まで頭の中では大学時代の元カノという記憶で残り続けていたけど、大部分は占めていなかった。

 

─そう、結婚式の前日に花嫁が自殺するなんてあり得るだろうか?

結婚式が楽しみでウェディングドレスを前日に着ていたあの子が自殺だなんて。 その日、ポストに投函されていた封筒を見て君のことを思い出したんだ。

 

─そして、結婚式当日に俺は横断歩道の横から聞こえてきたクラクションの音を最後に世界が真っ暗になった。

 

 

 

私は貴方に恋をしている。

片想い、ってやつなのかもしれない。

 

貴方を目で追いかけると胸が熱くなる。 ずっと、今までみたいに百年、千年と愛を誓ってこれからも、百年、千年と愛を誓っていきたい。

 

彼は私の全て。

こんな私をバケモノとして扱うことなく、ただ一人の人として受け入れてくれた人。

老いることも死ぬこともない私の側に器が変わっても受け入れてくれていた人。

 

─そんな貴方が私を愛してくれない、そんなことは私自身が許さない。

この世界が許せない、ならば何度でもやり直せばいいんだ。

たとえ、この世界で貴方と結ばれなくても、きっと次の世界で貴方と結ばれる。

顔や名前が変わったとしても、魂はそのことを覚えている。 輪廻転生を繰り返しても魂に刻まれた記憶だけは私のことを覚えている。

 

彼と、一つになれたと思ったのに私はまたやりすぎてしまったらしい。 あの夜のことを思い出して思わず興奮してしまったよう。 取り乱してはしたないわ。

 

─だって仕方ないじゃない。 私以外に貴方を誑かそうだなんて、下種な人間の分際で烏滸がましい。

殺してしまっても仕方ない。 まだ生易しいくらいである。

最後にラブレターを書いたけど、それも読まれなかったみたい。 私の千年以上もの想いを綴った恋文だったのだけれど、残念。 今回の貴方も死んでしまったみたいだし。

 

なら、またやり直せばいい。 最近になって人間が躍起になって時間を費やしているゲームという存在、あれは便利なものだ。 貴方も楽しい楽しいと言ってやってた頃もあったっけ。

気に入らない結果になったとしても電源を切れば全てがゼロになる、元通りに戻る、また、やり直せる。

 

何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、貴方に恋して、愛して、一つになって、やり直して、繰り返して、愛し合って─

 

貴方と私は結ばれる運命。

その運命を辿れないのなら何度だって私はやり直す。

リセットを繰り返して、生まれ変わった貴方に逢いに行く。

 

今でも貴方と初めて会ったあの日のこと、手を差し伸べられたあの日のことを覚えてる。

 

─家を追い出された私に握り飯をわけてくれてそこから私の話を何時間も飽くことなく聞いてくれた私の身の上を知った上でも軽蔑するでもなく避けるでもなく石を投げるでもなかったのは本当に嬉しかったそれどころか綺麗な花までもらっちゃったから小さい頃だったけど思わずトキめいてしまったからこそ私たち二人で幸せになろうと決めて集落から駆け落ちして私たちのハネムーンを邪魔する虫どもは私の手で潰してそれでもなお私を受け入れてくれて生涯添い遂げてくれて私のために自分の魂にまじないを施してこれから先も遠い未来を誓ってくれたときは本当に嬉しかったんだよ輪廻転生が完了するまでに時間はかかったけど私に与えられた時間が無限だったから何の苦でもなかったむしろ待ち焦がれて我慢できなくなった時もあったけど貴方以外と寝るつもりなんて毛頭なかったし言い寄ってくる輩はみんなみんな消えていったわだからこそ二度目の貴方が死んでしまったときは狼狽えはしちゃったけど次も会えたときは本当に嬉しかったんだよこの想いは誰にも負けないし貴方の好みも性格も癖も微妙に変わっちゃうのは残念だけど私の愛ですぐにわかっちゃうだから私が貴方を殺すなんてとてもじゃないけどできない今回のもまた偶然。

 

貴方の魂に施したまじないは未来永劫、私がこの世界に存在している限り輪廻転生を繰り返すことでしょう。

器は毎度違えど、貴方の魂があればそれでいいの。 だって、好きな人は外見よりも中身が重要なもんでしょ? 愚かな現代人の言葉でも同調できるものは珍しいものね。

 

─恋は盲目?

 

─恋は魔法?

 

─恋は奇跡?

 

─恋は美しい?

 

まさにその通りだと思うわ!

 

彼のことはもちろん愛してる。

今回はたまたま私の気持ちが届かなかっただけ。

時間は永遠、焦る必要はない。

 

─また、齢二十の貴方と出会うまで少しでも彼に気に入ってもらえるよう、女を磨かないとね。

 

─だから、待っててね。 愛しく変わることのない貴方。




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