五等分の姉さん (リョー)
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序章
覚醒


大幅改修致しました。今後はこの設定で進んでいきたいとおもいます。宜しくお願いします。

主人公の名前は六來(ろく)です。あまり深い意味はありません。六番目に来たので六です。前の主人公の名前よりこのくらい安直なほうがいいのかなぁ、なんて思ったりして。

兎に角、宜しくお願いします。不定期、ナメクジ更新ですが、どうか、どうか宜しくお願いします!


 蝉の鳴く声が五月蝿く響く初夏、心音計が規則正しく鳴っていた。

 

「今日で丁度10年だね。六來。六來が眠ってから色んな事があった。私達の髪型も変わって、性格も変わって、声も、顔も。この10年間で沢山変わって、沢山笑うことも、沢山悲しむこともあった。でも今でも六來のことがずっとずっと忘れられないんだ」

 

三玖の目からは涙が溢れた。ポツポツと、降り始めの雨の様に涙は落ちる。

 

「ゆっくり休んで、なんて言うのは本心じゃない。起きて欲しい。また、六來と一緒に過ごしたいし、暮らしたい」

 

医者からはもう二度と目覚めることは無いだろう、と言われた。それでも三玖は願って祈った。目の前の少年が起きてくれます様に、と。

 

 

 

 

 

 夢を見た。君と出会ったいつかの日。

 

「名前はありません。宜しくお願いします」

 

 汗で濡れたシャツが身体にくっついて気持ち悪い。僕は簡単すぎる自己紹介をして頭を下げた。目の前にいるのは最早同じと言っても過言じゃない五人の少女だ。彼女らは五つ子らしい。どうやら僕は今日からこの人達の家族になり、この少女達の弟に成るらしい。と、言っても僕とこの少女達は同年齢らしいのだが。

 正直な所、施設は好きでは無かった。勉強でも運動でも失敗すれば死んだ方がましとも思えるような痛いお仕置きが待っているし、施設の高校生どもはこぞって僕達を日々のストレスや欲望の捌け口にしていた。自分自身骨折は何度も経験したし、錆びたカッターナイフで片目を刺されて失明までした。その時は流石に病院に連れていってくれたし、刺した奴は精神鑑定の結果、異常とみなされ病院へ送られた。

 施設から抜け出せたのは願ってもなかった。大人は笑顔で言うことを聞いていればそれで良い。こっちで生きるのは施設で生きるより楽そうだ。僕は笑顔を浮かべて目の前にいる女性と少女に連いていった。

 

 

 

 

 

 「三玖!危ない!」

 

 僕が家族に成ってから気づけば約2年が過ぎた。何故だか僕は本気でこの家族を愛するように成っていた。だからあのとき咄嗟に手が、身体が動いたんだろう。迫り来るダンプが三玖に当たるより速く、身体を動かし三玖を突き飛ばすと同時に僕はダンプ撥ね飛ばされた。

 糞親に生まれて、生まれつきの障害の白い髪を気持ち悪いと言われ、殴られ蹴られ、挙げ句の果てに捨てられて、拾われた先の施設でも殴られ蹴られ、片目を失い、結局はダンプに轢かれる。失うばかりの人生だから最後はお似合いなのかも知れない。

 こんな失うだらけの人生でも本当の家族を得られたというのは嬉しかったなぁ。

 脳内を思い出が駆け巡る。これが所謂走馬灯ってやつだろうか。昔、誰からか聞いたことがある。走馬灯と言うのは死に行く年間際、何とかして生き延びようと、過去の経験の中から今の打開策を探るために見るらしい。

 今、走馬灯を見ていると言うことはまだ僕は生きたがっているんだろう。

 

 

 

 

 

 

 ピッ、ピッっと言う規則正しい音が聴こえた。身体を覆う布団が少し重くて苦しい。そして何より暑い。

 そこまで思った所で六來はおかしなことに気付いた。自分に五感があるのはおかしい。今まで開かなかった瞼が今なら開きそうだ。六來はゆっくり瞼を開けた。射し込む目映い光に、白一色の天井。そして自分を覗きこむ顔。

 思うように声が出せず、掠れた声で言った。

 

「こ、こは?」

 

「六來?六來!?起きたの?」

 

状況がさっぱり掴めない。身体は硬直して動かない。それに自分を呼ぶ声。しばらく考えて気づく。自分は起床したのだ。全身を駆け巡る痛みがもう夢では無いことを示している。

 しかし何故だろうか。身体がやけに大きい気がする。六來は硬直した身体を無理に動かして枕元のカレンダーを見た。そして何かを諦めたように口元にぎこちない笑みを浮かべた。

 

「10年後、、、か」

 

 

 

 

 



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復帰

先に言っておきます。

フータロー!すまん!!!


 目覚めてから約一週間、六來はリハビリをしていた。医者曰く、足は衰弱しきっているため、入院期間内のリハビリで歩けるようになることは無いだろうけれど、退院後もリハビリには来てもらうから歩ける様なるらしい。

 そうして自分の部屋に戻ると五人が既に来ていた。三玖と五月は既に来ていたから分かったが、他の三人とは中々予定が合わなかったり、来てもらった時間に診察を受けていたりなど、色んな理由が重なって会えなかった。だから久し振りにこの五人を前にすると胸が躍った。

 

「どうも。こんにちは」

 

そう言いながら車椅子を自分の手で押しながらベッドの近くまで行き、そのままベッドに寝転がった。

 

「うそ!本当に起きてる!」

 

「何ですか?起きてたら駄目ですか?四葉」

 

「私!一花!」

 

六來は首を傾げた。ショートカットが一花で大きなリボンが四葉で、、って四葉?二乃じゃないのか??

 本格的に解らなくなってきた。

 

「全員!番号順に整列!」

 

五人はそれぞれ文句を言いながら整列する。

 

「一花、二乃、三玖、四葉、五月!」

 

「「「「「違う!五月、四葉、三玖、二乃、一花!」」」」」

 

盛大に間違えた後、全員にむくれられたが正解を聞いたら何となく昔の面影というのを見つけて分かるようになった。

 結局、自分は他所から来た異分子だから余り仲良くなれなかった五人のお祖父さんが言うには、見分けるコツは愛だと言う。

 

「愛が足りなかったですかね」

 

五人と沢山話した後、全員が帰って一人になった部屋で呟いた。

 

 

 

 

 

 それから暫くして六來は退院した。三玖に車椅子を押されながら変わった町並みを進み始めた。

 

「ここ、毎年花火みてたとこ」

 

「ん?ええと、、、」

 

思い出せない。軽度の記憶喪失という部分が関係しているのだろうか。断片的に記憶が抜け落ちていて困る。三玖は六來が記憶喪失なのを察したらしく、ごめん、と言って黙った。

 

「うん?悪いのは僕の方だと思うけど。これまでの大切な思い出を無くしちゃったんだし」

 

「ううん。仕方ないよ。それに思い出はまた一緒につくっていこうよ。折角目覚めてくれたんだから」

 

瞬間、風が吹いた。六來に笑いかけながら振り返る三玖の髪が靡いた。何故だろうか。前まではただの血の繋がっていない姉だったから何も意識することが無かったが、今、少しだけ胸を突かれるような感覚を抱いた。この感覚は何だろうか。少しだけ考え込んだが全く思い付かず思考を放棄した。

 

「そういえば僕も高校生だね」

 

「うん、そうだね」

 

「一年間は中学校とかの勉強させてくれるから編入は来年からなんだよね」

 

「らしいね。でも私達と会ったときには中3の勉強まで終わってた六來だったら大丈夫じゃない?」

 

実感が無い。寝る前までは小学生、起きたら高校生。施設や家では子供らしく無い程冷静とは言われていたがさすがに理解が追い付かない。

 悩んでいたら急に車椅子が止まった。そして三玖が六來の前に立ち止まった。

 

「ごめん。とっても辛いよね。あの時私が飛び出していなければ六來がこうならずに済んだのに」

 

「きっと私と同じように大きく成っていったのに私の所為で10年間も無駄にさせて」

 

六來は車椅子を押して涙を流す三玖に極力近付いた。

 

「屈んで」

 

そして手を伸ばして頭を撫でた。

 

「僕が起きてから三玖が本心から笑う姿を見ていないよ。さっき僕に笑いかけたときも綺麗だったけど本心では笑っていないでしょ」

 

「僕は三玖に笑って欲しいな。じゃなきゃ、、、」

 

「三玖姉ちゃんって呼んじゃうよ?」

 

三玖の顔が真っ赤に染まる。この呼び名は三玖が恥ずかしいからという理由で辞めた呼び名だった。六來はクスクスと笑いながら続ける。

 

「あと、ごめん、って謝罪されるよりはありがとうって感謝された方が気分が良いかな」

 

恥ずかしそうに頭を掻きながら言う六來をみて三玖は笑った。

 

「うん。その顔の方が良いよ」

 

三玖は違う意味で顔を赤らめた。赤らめた顔を見られまいと髪で顔を隠して車椅子を押し始めた。

 

 

 

 

 

 新しい家に着いた六來は驚愕していた。10年間の間に何が有ったんだろう。高級マンションの最上階に住むように成るなんて。

 そして二つ目に驚いた事は、自分を診察した医者が新しい父親だったと言うこと。

 最後は驚いた事じゃなくて悲しいこと。お母さんが死んだ。何より悔しいのは死に目にすら会えなかったこと。血は繋がっていない。だけど矢のように速く過ぎ去った二年間であの人は沢山の事を教えてくれたし、心を閉ざしてただの置物と化していた自分を人にしてくれた。人間恐怖症を克服したのもあの人がいたからだ。褒めるときに褒めてくれて、怒るときに頬を打ってでも怒ってくれたが、今はその痛みすら味わえない。五月からそれを聞いたとき悔しさのあまり涙は出なかった。あとはやり場のない怒りが身体を満たしていた。

 

 そう書いて日記を締めくくった。日記帳を繰ると10年前の年が書かれている。本当に10年間眠っていたらしい。身長もあの時から50cmは伸びて185cmを越している。取り敢えずはこの金持ち生活になれながら勉強するところから始めよう。そう考えてベッドに横に成った。

 

 



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救出

 めちゃ短いです。感想でも「短い」って言われてたのにー!

言い訳じゃないとは言いません。今から言うのは言い訳です!

何か良い感じになって此処から更に伸ばすのは蛇足かなって思っちゃたんですよ。マジで。

だから1013文字で終わらせて頂きました。次から本気出します!次から!




 夜10時頃、六來は照明も付けず暗い部屋でこめかみを押さえながら座っていた。

 外を歩けば何もかもが変わっている街、家でもいきなり変化した生活、姉達は皆それぞれ変わって、自分自身の身体も信じられない程大きくなった。そんな中で10年前と何も変わっていない自分はまるで置いて行かれたような感覚に陥っていた。自分の身体さえもが自分を置いていくようでついていけない。

 正直な所、辛くて淋しい。

 目覚めてから早一年、きっと勉強だけをして姉達と殆ど関わらなかったからこう成っているんだろう。姉達と関わって、昔と変わっていな所を見つければ少しだけこの感情も薄くなったかも知れなかった。そう逃げてみるものの鬱いだ心が変わることはなかった。

 すると突然、扉を叩く音が聞こえた。その音が暗く沈み行く六來を引き戻した。

 

「はい」

 

「三玖だけど」

 

そう言って三玖が扉を開けた。

 

「うわ。暗い」

 

六來は照明が付いていないことに気付いた。

三玖が照明を付けたようで部屋は一気に明るくなった。

 

「どうしたの?」

 

三玖が六來の顔を見て聞いた。六來は何のことを聞いているんだと首を傾げる。

 

「いや、隈が凄いから。あまり眠れてないの?」

 

この一年間、夜も勉強していたから基本的にベッドに倒れ込むのは3時頃だったけれど、その後も眠れずに徹夜をすることも有った。

 

「まぁね」

 

三玖はベッドに座る六來の隣に座った。

 

「三玖、どうしたの?何か用?」

 

そう聴くが三玖は答えること無く、六來の身体を横に倒した。

 六來の頭が三玖の膝の上に。10年前は平気で何ともなかったこの行為が、今は堪らなく恥ずかしいような照れくさいような気持ちになった。

 

「10年前、やったよね」

 

「うん」

 

「六來、どうしたの?」

 

「しょうもないことだよ。聞く価値も無いくらい」

 

三玖は何も言わずに頭を撫でる。

 

何故か少し気分が楽に成った。

六來は久し振りに感じた眠気に身を委ねながら遠退く三玖の声を聞いた。

 

「大丈夫。六來は私と一緒」

 

三玖は完全に眠った六來をベッドに横にする。意外な軽さに驚きつつ六來に布団を掛けた。

 

「久し振りにいい、よね?少しだけなら」

 

三玖は六來の隣に横に成った。眠くなったのなら自分の部屋に戻れば大丈夫だ、なんて考えも儚く三玖は重い瞼を閉じてしまうのだった。

 

「六來、、、」

 

三玖の知らない感情。10年前に感じることはなかったこの刺激はなんだ、そう思うが結局分からず眠ってしまった。

 

目覚めてから一年、六來が高校へと編入する1週間前のことだった。

 




一応此処までが序章のつもりです。次から学校に編入するので本編突入です。


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五等分の姉さん
始動


一花→一花姉

二乃→二乃お姉さん

三玖→三玖

四葉→四葉お姉ちゃん

五月→五月姉さん

明確な違い。

ハーレムエンドには成りません。

それと今日は長めで4722文字です!


 「六來、行きますよ!」

 

五月の声が響いた。今日から学校が始まる。

普段あまり心情や表情の変化がない六來も、今日は珍しく緊張して顔が強張っていた。

中学校を飛ばして高校。周りが大人に近い年齢の人達という環境の中、一人だけつい一年前に起きるまで小学生だった人が混じるのは想像よりずっと難しそうで緊張していた。

 

「六來~?緊張してるの~?」

 

一花が擽ってくる。弱点の脇腹を突かれて、六來は思わず声を上げて笑ってしまった。

 

「脇腹わっ!ダメッ!だってっ!」

 

「ははは!どう?少しは緊張解れた?」

 

「うん。ありがとう。でも擽るのは止めてよ!特に脇腹は!」

 

笑い過ぎて目に涙が浮かぶ。

部屋は類をみない汚さだし、だらしのない所もある。

でも、立派な長女で僕を含めた姉弟の思ってること、感じていることを敏感に読み取って、その時その時に必要なことをしてくれる。それは六來がどんなに努力しても出来ないことで、それをできる一花に六來は少し憧れていた。

 六來は感慨に耽っていたが我に帰り、杖を手にした。

 未だ脚は言うことを聞いてくれない。さらに昨日までは背中の真ん中位まで有った髪をバッサリ首元まで切ったことが余計に緊張を掻き立てている。

 しかしこの姉達となら何処へ行っても大丈夫な気がしてきた。

 

「行こうよ~六來~」

 

「ちょっと!何時まで待たせるのよ!」

 

「六來。一緒に行こ」

 

「六來~!速くしないと置いてきますよ~!」

 

「六來!行きましょう!」

 

 六來は口元に笑みを浮かべた。そして杖を持つ手に力を込めて立ち上がる。

 

「うん。行こう」

 

 

 

 

 

 六來は学校に着いて、自分のクラスのメンバーに自己紹介をしたが、案外受け入れられて内心はかなり安心していた。

 クラスは三玖と一緒で、最悪な話友達が出来なくても三玖がいるから大丈夫そうだ。

 しかし六來が三玖に関わりすぎて迷惑を掛けるのは絶対に有ってはならない。それが理由で嫌われたくない等と思っていると、既に人だかりが出来ていた。

 

「宜しくな!中野!」

 

「あの子と双子なのか?名字が一緒だけど、、、」

 

「それにしては似てないだろ。どっちも美形なのは変わんねぇけどな」

 

「くっそ!イケメンかよ!」

 

「彼女いるの?」

 

六來に男女問わず、人が押し寄せてくる。六來は成るべく緊張は表に出さないようにして話す。

途中、女子に囲まれた時は三玖の方から殺気に近い何かを感じた気がしたが正体はよくわからなかった。

 

 そして時間は過ぎてあっという間に放課後に成った。

 

「六來。帰ろう」

 

「うん。一緒に帰ろ」

 

三玖に誘われ、立ち上がると三玖が思い出したように言った。

 

「そう言えば。今日から家庭教師が来るらしいよ?」

 

「家庭教師?」

 

「うん。家庭教師」

 

 姉達の学力が不味いのは知っていた。きっと留年を回避するために父親が家庭教師を呼んだのだろう、と考えていると携帯電話が鳴った。

 

「はい。もしもし」

 

「やぁ。六來くん」

 

「こんにちは。お父様。なにかご用でしょうか?」

 

「そんなに畏まらなくて良い。今日から家庭教師が来るのは聞いてるね」

 

「はい」

 

「それなら話は早い。君には今日から来る家庭教師と二人で君の姉達を教えて欲しい。勿論、給料は払おう。引き受けてくれるかい?」

 

特に断る理由は無かった。人に教えるためには自分が理解している必要がある。つまり自分の理解度を確かめるのにもうってつけだ。

 何より自分だけは卒業して、姉達は留年してるというのは嫌だ。姉達がどう思っているのかは知らないが、少なくとも六來は全員揃って卒業したいと思っていた。それに父には色々な恩がある。

 

「、、、はい。やります」

 

「君ならそう言ってくれると思っていたよ。向こうに話は伝えてある。君と一緒に教えるのは君達と同じ学校にいて同じ学年の上杉風太郎くんだ。精々励みたまえ」

 

 通話を終了して、六來は携帯電話をポケットにしまった。そして決意した。五人を卒業させるためなら鬼にでも何にでも成ろうと。

 別に卒業したくないと言うのなら構わない。嫌だと思っているならやらない。しかし全員揃って卒業したいと思ってくれているのなら、全身全霊を注ごう。

 

 

 

 

 

 そう思った矢先、普段の賑やかさは失われ、静かすぎるリビングに居るのは三人。一人は六來。二人目は家庭教師、上杉風太郎。もう一人は四葉。

 一番不味い四葉だけを残し、他四人は一目散に逃げ去っていった。

 

「取り敢えず風太郎くん。宜しく」

 

「ああ。六來。宜しく」

 

六來と風太郎は握手した。その光景をまじまじと四葉は見つめていた。

 

「と、いうか四葉お姉ちゃんは逃げなくていいの?」

 

「む!逃げませんよ!心外です!」

 

「じゃあなんで残ってるんだよ」

 

上杉がそう聞くと四葉は満面の笑みを浮かべて言った。

 

「六來と上杉さんの授業を受けるために決まってるからじゃないですか!」

 

六來は四葉を見直した。努力はする気らしい。

 

「安心しました。怖い先生が来るかと思っていたけど、同級生の上杉さんと六來だったなんて」

 

「四葉。抱き締めて良いか?」

 

上杉の気持ちはよくわかると頷く六來。中々シュールな光景をみた四葉は無理矢理場を盛り上げた。

 

「とっ、兎に角皆を呼んできましょう!」

 

六來はゆっくりと歩き、四葉と上杉の横に並んで五月の部屋の扉を叩いた。

 

「五月姉さん。開けて」

 

「六來。上杉さんと一緒なのは分かっていますよ?先に言いますが嫌です」

 

五月が出てきてはっきりと言った。それにこの顔は相当機嫌が悪い。触らぬ神に祟りなし。一度放っておくのも良いかも知れない。

四葉も同じことを考えているようで、目を合わせると苦笑いをした。

 

「と、いうか何故同級生の貴方なのですか?この街には貴方以外にまともな家庭教師はいないのでしょうか?」

 

「まぁ、ろっ、六來なら良いです。実際、分かりやすいし、、、」

 

「兎に角、私は貴方()()教わりません」

 

五月は頬を紅くして言うと勢いよく部屋の扉を締めた。

上杉とクラスが同じで、多かが1日だが、一番長く関わった五月がこの調子なら他は駄目だろう。

二乃は部屋にさえいない見たいだ。

 

「次は三玖です。三玖はきっと六來がす、、、いえ!何でもないです!さぁ開けましょう!」

 

何かをいいかけて止めた四葉が何を言おうとしていたのかが物凄く気になる。何か三玖にしてしまったのだろうか。

少しドキドキしながら扉を叩いた。

 

 五月とは違って部屋には入れて貰えた。しかし即答で断られた。

 

「というか何故同級生のあなたなの?この街には」

 

「分かったそれさっきも聞いた!」

 

「六來なら良い、よ。分かりやすいし、、、」

 

三玖ははっきりと分かるほどに顔を真っ赤にしていた。

 風邪でも有るのか、と考えた六來は三玖の額に自分の額をくっ付けようとしたが、後10cm程の所で身体が動かなくなった。前までなら確実に出来ていたことが出来ない。結果的に三玖と至近距離で見つめ合うことになり、六來も三玖と同様に頬を紅くして直ぐに振り返った。

 

「、、、ごめん」

 

「う、ううん。大、丈夫だよ」

 

少し急ぎ足で六來は出ていった。身体が火照って暑い。四葉は二人の様子を見てニヤニヤとしていた。

 

「つ、次いこっか」

 

と言っても二乃は居ない。そうなると最後で、一花だが、六來と四葉は困っていた。あの汚部屋を他人である上杉に晒すのは流石に可哀想だ。がしかし、上杉と一緒に説得する他ない。汚いのは自業自得だ。

 六來と四葉は顔を合わせて頷いた。そして扉をノックした。

 反応が無いのは何時ものことだ。それなら開けるのみ。

 

 ノブを回して扉を押すとそこには足場すら無い部屋が広がっていた。

 

「こ、ここに人が住んでいるのか?」

 

「住んでるんだよね。それが」

 

奥の布団がモゾモゾと蠢いた。

 

「人の部屋を未開の地扱いしないでほしいなぁ。それと蠢いたっていう表現は酷いんじゃないかなぁ」

 

 余談だが、直ぐに上杉と自分が一緒だと言うことを見破ったり、自分が考えていることを読み取ったりなど、この姉達には超能力、それも心の中を読み取れるのが有るんじゃないか、と六來は思い始めるのだった。

 

「ふぁ~おはよ。まだ帰ってなかったんだね」

 

「この間、一緒に片付けたのにもう此処まで散らかしたなんて、、、。風太郎君。一回部屋の外に出てくれないかな?」

 

六來はそう言って風太郎を部屋から出したあと、適当な服を拾って一花に投げた。

 

「一花姉。ちゃんと着て!」

 

「なになに~?そう言っといて本当は見たいんじゃないの~?」

 

「本当に止めて!露出狂!」

 

そうしていると扉越しに声が聞こえてきた。

 

「お前ら。早くしろ。勉強するぞ」

 

「もー。勉強勉強って。折角女の子の部屋に来たのにそれで良いの?」

 

からかっているのが目に見えて分かる。

きっと今の一花は梃子でも動かないだろう。

五月と三玖は六來が教えて、四葉を風太郎が教えるとして、てんでやる気のない一花と二乃はどうしようか。

六來は風太郎と話していると三玖が寄ってきた。

 

「フータロー。聞きたいことがあるの」

 

「私の体操服が無くなったの。赤のジャージ」

 

「そうか。見てないな」

 

「さっきまでは有ったの。フータローが来る前は。盗っ」

 

「てない!」

 

二乃かその辺りが着ているのだろう。六來はそう予想して言った。

 

「僕の体操服。まだ使ってないの部屋の箪笥に入ってるから着ていいよ?身長に合わせてLサイズ頼んだからブカブカだと思うけど」

 

「ナイスアイデアだ!」

 

何故か嬉しそうな三玖。考えてみればまだ使ってないとはいえ、これから自分が着る体操服だ。それを三玖が着る。嫌ではない。可笑しな話だが、むしろその逆だったりする。

 他の姉とは何時も通りだ。しかし三玖とは何か変だ。

 

 妙な違和感を抱いていると、一階が賑やかに成っていた。

 

「クッキー焼いたけど食べるー?」

 

二乃が帰ってきたようだ。六來は嫌な予感を感じつつ、一階に降りた。

 

 

 

 

 

 梃子でも動きそうに無かった一花が動いている。しかし勉強をする気もなさそうだ。他の四人も同じだ。ふと二乃の着ている赤のジャージに目がいった。(中野 三)、予想は的中していたらしい。

 

「二乃お姉さん。そのジャージ」

 

「あ。」

 

三玖も気付いたらしい。

 

「なんで私のジャージ着てるの?」

 

「えー。だって料理で汚れたら嫌じゃん」

 

余りにもあんまりな理由に苦笑いするしかない。軽い喧嘩に成ってもいい感じだが三玖は三玖で六來が貸したジャージが有るからそこまで怒ることもなかった。

 

 再びリビングに賑やかさが戻ったは良いが、今から勉強を始めると言う空気ではない。四葉は上杉が作ったプリントを解こうとしているものの、名前しか書けていない。

 いざ鬼にでも何にでも成ろうなどと決心したものの、想像以上にこの姉達の家庭教師は難航しそうだ。作戦を練ろうと溜め息を着いて、賑やかなリビングと少し離れた所にある椅子に座った。

 

「六來。クッキー食べないの?」

 

二乃が寄ってきて皿を差し出した。六來は2つ程つまんで口に運んだ。

 

「うん。美味しいね」

 

「そんなとこに居ないでこっち来なさいよ」

 

作戦を考えようと思ってはいるものの行ってしまう。どうやら自分自身も変わる必要が有りそうだ。

 上杉も二乃に誘われクッキーを食べ始めた。そこで六來は首を傾げた。 

 真っ先に上杉を拒絶した二乃が上杉にクッキーを食べさせ、水を差し出した。

六來は目を凝らして水の入っているコップを見た。コップの底に僅にのこる沈殿。睡眠薬だ。

 施設でよく飲まされたのを思い出す。10歳にもいかない子供に睡眠薬を飲ませるということ事態が狂気の沙汰で、さらに睡眠薬で眠らされた夜の翌日に目覚める場所は大抵、鉄格子の中だった。

 六來は嫌な記憶を思いだし、頭を押さえた。

 

「六來。大丈夫!?」

 

三玖が慌てて聞いてくる。六來がこうなることは何度か有った。

 

「大丈夫、、だよ。それより上杉くん」

 

バタン、という音が響いた。六來が指をさすと同時に上杉は倒れた。

 

 

 

 

 




プーリンさん、紫知能さん、えいえんさん、ドスメラルーさん、多分イッセーさん、たかみーさん、マロンマロンさん、ザルザンカさん。

感想ありがとうございます!

その他、お気に入り登録をしてくれた方、しおりをしてくれた方、評価してくれた方。本当にありがとうございます

最後に今読んでいただいてる皆様。本当にありがとうございます。

これからも宜しくお願いします!

(なんか辞めそうな雰囲気ですが辞めませんよ!!)


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予兆

最後の方が気にくわないから少し変わるかもしれません。

それと胸糞注意。(作者はリョナは好きではありません。寧ろ大嫌いです。ご理解のほど宜しくお願いします)


 家庭教師を始めてから約1週間。段々三玖の学力が上がってきた頃のことだった。

 

「ん?何?泊まりに来る?」

 

六來は二乃に首を傾げた。今日は二乃の友達が泊まりに来るらしい。それ自体は別に悪いことでもないし、寧ろ家に上げられる友達がいるというのは逆に良いことだろう。だが、それを態々六來個人に言う理由が分からない。二乃の性格上面倒くさいことは避けて、自分を含む五人を集めて一気に言うと思うのだが。

 

「うん。分かった。義眼は自分の部屋で消毒することにして、あ、それか僕は近所のホテルにでも泊まった方が、、、」

 

「別にそこまでしろとは言ってないわよ。でもあんたが居るとちょっと騒がしくなりそうだから」

 

六來は自分が騒がれてるほど嫌われてるのかと本気で落ち込んだ。しかし本当に二乃が言いたいことはそれとは真逆だ。六來は男女問わず物凄く好かれてる。

 善良で素直な人柄だったり、面倒見が良いところ等が同級生や後輩だけでなく先生にまで人気だった。また、愛嬌があり、あどけない顔が主に異性の間で人気を博していた。

 それでいて彼女は居ないというこれ以上にない優良物件。だから六來の知らない所では六來の隣を誰が取るかというバトルが日々繰り広げられている。

 

「取り敢えず大人しくしていてよね。リビングにはいても良いから。あと、悪いけどお風呂は結構遅くに入ってくれない?」

 

「うん。分かった」

 

返事をすると机の引き出しを開けた。クラスメイトが来るなら眼帯をしているのは見せられないと、スペアの義眼を窪んだ目に嵌め込む。

 

六來はまだ気付いていなかった。これから起こる第一の悲劇に。

 

 

 

 

 

 暫くしてインターホンが鳴った。随分と楽しみだったようで二乃が駆け足で出迎えると女子が三人、家に入ってきた。

 玄関で一人を除き、確りと挨拶をすると早速角にある男物の靴、六來の靴を見つけた。

 

「ねぇ!二乃!この男性用の靴って、、、」

 

「やっぱり本当だったんだ!」

 

「?何が?」

 

二乃は何のことを指しているのかが全く分からなかったが、二人が指す方向にある靴と、ガールズトークをするかのような表情で、何を言っているのかを察した。

 

「「六來くんも一緒にすんでいるんでしょ!?」」

 

 二乃は呆れて何も答えないことにした。

 今騒ぎ立てている二人は二乃が本当に信頼している友達で、先程挨拶をしなかった、最奥にいる女子は先日二乃と仲良く成った女子だ。

 二乃は最奥の女子、新谷のことを気に掛けながら、未だ煩い二人、森山と川海を家に上げた。

 

「「お邪魔しまーす!」」

 

森山と川海は元気に挨拶をしながらリビングに入る。リビングにはテレビを見ながら話す三人と、六來の膝の上に座って抹茶サイダーを飲む三玖。

 

「ねぇねぇ三玖。それ美味しいの?」 

 

「私は好き。一口飲んでみる?」

 

「うん。頂戴」

 

そんなやり取りをしていたが、客が来たことに気付いて六來は三玖を乗せたまま振り向いた。

 

「どうもー。って森山さんと海川さん」

 

「「覚えててくれてありがとー!やっぱ六來くん居るんじゃん!なんで言わなかったのよー!」」

 

二乃の友達がこの二人なのはかなり安心する。二人とは一週間前に知り合って仲良く成った。

 そう安心していた六來だったが、急に悪寒を感じて警戒した。

 施設に居たときに何度か経験したことのある悪寒だ。そしてその悪寒を発しているのは最奥にいる金髪で派手な女子だ。

 彼女が六來に向けて放つ視線は、まるで自分自身を値踏みをしているような気持ちの悪い視線で、六來は思い出したくないものを思い出して冷や汗をかいた。

 

「えっと君は、新谷さんだったよね?」

 

「ウフフ!覚えてくれてありがとう!」

 

吐き気がするほど気持ち悪い。自分とこの新谷という女子の相性は最悪だろう。特にあの眼が大嫌いだ。

 六來は笑顔を取り繕ったまま三玖と一緒に自分の部屋に入った。

 それまでの動き、六來が何をして、何処に、誰と入ったのか、新谷は瞬きもせずずっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 その夜、六來は二乃の言い付けを守り、夜遅くに風呂に入った。

 

「ねぇ六來くん?居る?」

 

風呂場の外から森山の声が聞こえた。

 

「居るよ。どうしたの?」

 

「今度それとなく二乃に伝えておいて欲しいんだけど、あの新谷っていう女子、ヤバい。今まで一切喋らないでスマホを弄くってるんだけど、六來君が来た瞬間急に態度変えるんだよね。それと三番目の三玖ちゃん?だっけ?を見つめる目線が怖い。弟なんだからしっかり姉ちゃんを守ってあげなよ?だけど六來くんも気を付けてね」

 

「、、、うん」

 

悪寒は正しかったらしい。まだ何もしてきてはいない。だけどいつ、何をしてくるのかは分からない。

森山はこんなに笑えない冗談は言わないだろうし、信じて良いだろう。取り敢えず、三玖には何が何でも手出しさせない。そう六來は決めた。

 

 

 

 

 

 休日は終わって、また学校が始まった。そして昼休みに事は起こった。

 

昼休み、三玖は新谷に呼ばれて一切、人がいない屋上に来ていた。

 

「あんたが色目使って六來君を誘惑したんでしょ!?」

 

そして来たらいきなり言われた言い掛かり。三玖は必死に弁解しているが聞く耳を持とうとしない。

 

「そんなことはしてない!」

 

「惚けないでよね。それとも、、、滅茶苦茶にして言うこと言わせた方が良いのかしら?」

 

「出てきなさい」

 

出てきたのは4人の男子。全員体育部員だろう。4つの大きな影が三玖を覆った。

 

狼狽える三玖に新谷は迫っていき、腹頬を打った。そして腹を殴る。

 

気色の悪い声で笑いながら三玖をいたぶった後、影が三玖に迫った。

 




この女のプライドがずったずたに引き裂かれるとこ、みたくなぁい?


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察知

 お気に入り100越え来たー!皆さんありがとうございます!!!!!
 
今後とも六來を宜しくお願いいたします!


 「や、、め、て。来ない、で」

 

痛む腹を抑えて三玖は言う。先程まで首を絞められていたせいか声が掠れて上手く出ない。

 

やがて、男子生徒が三玖に触れようとしたときだった。

 

「汚い手で触れないでもらえるかな」

 

そう言う声とともに響くシャッター音。ボヤける三玖の視界に写る白髪で杖を持った青年。

 

「てめぇ。痛い目見たくねぇんならその画像消して今すぐ帰るんだな。今、お前が言った言葉は無かったしてやるよ」

 

「それは出来ないよ。だってその子、僕の大事な人だから」

 

「ろ、、く、、」

 

そう言いながらもう一枚。笑っているのは口元だけで、眼は完全に本気だ。貼り付けたような笑顔が六來の怒りを代弁していた。

 

「ハッ!イカれ野郎が!やるぞ」

 

四人が一気に殴りかかる。

 

 六來は無言で相手を見据える。真っ先に飛び込んできた男子生徒の腕と胸ぐらを掴み、膝を支店にして倒す。そして頭を思い切り踏みつける。

 普段なら痛みで動かない脚はやけに機敏に動いた。

 同時に殴りかかってきた二人目、三人目は片手ずつで防ぎ、一人は腹に正拳を入れて、もう一人は自分の前に手繰り寄せて、腕で首を絞めて肉の盾にする。最後の四人目の本気の拳は肉の盾の腹に丁度良くあたった。

 

「チッ!クソが!」

 

四人目は腰から黒い棒を引き抜いて振ると、それは音を立てて伸びた。

 

「警棒、、、」

 

六來は杖を構えた。警棒を振りかぶる隙だらけの腹に一突き、腹を押さえた瞬間に膝を殴り、最後に倒れかけた顎を一突き。顎に強い衝撃を与えて気絶させると、直ぐに三玖に駆け寄った。

 

「大丈夫、じゃないか。ごめん。遅くなった」

 

どう見ても大丈夫ではない。六來は三玖を抱えた。向かうは保健室。沸々と六來の隻眼は怒りに染まっていった。後ろ、屋上の壁の陰からの視線を感じながら。

 

 

 

 

 

 家に帰ってきたのは既に10時を回ったころだった。四人の男子生徒の写真を先生に突きだして、何があったのか説明をし、更に警察の所にも行き、やっと家に帰ってきた。

 六來は家に帰るなり、先ず三玖の所に向かった。

病院で診断は受けたようで、腹を殴られて内蔵損傷。六來は横に成って此方を向く三玖の前で頭を下げた。

 

「三玖。御免なさい」

 

「六來が悪い訳じゃない。だから頭を上げて、ね?」

 

「お風呂、まだ入ってないでしょ。入ったらまた部屋に来てよ」

 

三玖にそう言われ、六來は湯船に浸かっていた。どうしてやろうか。今はそれしか考えられない。取り敢えず、新谷達の履歴書に前科一犯という文字を付け足すことは出来るだろう。

 六來を屋上へ行くように言ったのは川海だ。息を切らして走ってきて、新谷が三玖を殴る動画を見せた。後から、動画は送ってもらった。つまり証拠は充分に出揃っている。社会的な地位は確定で殺せる。しかし、三玖が受けた苦痛を倍にして返してやりたい。そう考えるとこうするのは適切なのだろうか。

 

 考えすぎて頭が朦朧とする。六來は自分が今居る場所は風呂場だということを忘れていたらしい。

 脳裏に浮かぶ気持ちの悪い女。その女のせいで逆上せるというのもまた変な話だし、何だか癪に触る。六來は風呂場から出て、着替えると言われていたように三玖の部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 部屋では三玖が痛そうに腹を抱えて座っていた。それでも六來が来たら心配をさせないように笑顔を浮かべる。三玖が浮かべる辛そうな笑顔は六來を酷く傷めた。

 

「六來、近くに来て」

 

言われた通りに近くに行き、三玖のベッドに腰掛けた。

 

「ねぇ今日は我儘言っていい、、よね」

 

顔は六來に向けずに言う。

 

「良いよ」

 

「一緒に寝て。ちょっと怖い」

 

「、、、良いよ」

 

三玖は六來が入れる分のスペースを空けると、六來はそこに横になった。

 

「僕で良かったの?二乃とかじゃなくて」

 

「六來じゃなきゃ、、意味がない」

 

そう言い三玖は六來の胸に頭を押し当てた。

 

「怖かった」

 

「、、、。」

 

六來は無言で三玖の背中に手を回す。

 

「っ!!」

 

赤くなり、声にならない声をだした三玖に驚き、六來は慌てて聞いた。

 

「ごめん!嫌だった!?」

 

「ううん!全然!寧ろ、、、ちょっと良いかも」

 

安堵しつつ六來は再び三玖を抱き寄せる。

 

 傷付いているのを本気で心配できて、傷付けたことに本気で怒れる。ただの姉では抱けなかった本気。

 

「もう怖い思いもさせない。絶対に手を出させない。三玖は絶対に守り抜く」

 

肌の温もり、甘い匂い、規則正しい心音、耳元に聞こえた優しい声。

 

三玖は姉としてでなく、三玖として六來を想う。六來の胸の中にいると不思議と腹の痛さも、男子に囲まれた怖さも無くなっていくような気がした。

 

 気付けば三玖は寝息を立てていた。そして六來は誰も見たことないような獰猛な顔で呟く。

 

「絶対に許さない。あの気色の悪い女。その高慢な態度へし折ってやる」

 

 




次回。新谷、死す!


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過去

短めです。次で金髪女が終わります!



 大きな病院の手術室でそれは産声を上げた。双子の兄弟で、息子が欲しかった父親は大層喜んだらしい。

 

 二人はすくすくと育った。弟の方は顔立ちも、能力も何もかもが平均的で普通だった。しかし兄の方は、男の子らしくない顔立ちであったが、愛嬌があり、三歳ながら流暢に喋り、中学生の計算問題を解けるほどの頭脳と、他の三歳児と比べても群を抜いた運動能力を持っていた。

 しかし父親は兄のことが気に食わなくて仕方がなかった。これだけ完璧に育ってくれたのに何故一つだけ悪い所が有るのかと。

 

 兄は先天性の障害を持っていた。身体の色素が全て抜け落ちて産まれてくるという障害。父親はこれが堪らなく気に入らなかった。

 

 資産家である父親が欲しいのは息子ではなく後継ぎだ。そして優秀だけど外見に難が有るような兄と、至って普通の少年。

 それなら安全な弟を選ぼう。そうして父親は優しい顔をして兄を連れ出し、施設に入れられた。

 

 愛されていないと分かっているけど、父親に愛される為に色んなことを身に付けたが結局は捨てられたという事実に兄は怒り狂った。

 

 

 

 

 

 施設には沢山の人が居た。部屋はまるで檻のような所で一人で眠る。それが何よりも怖かった。特に夜中に響く見回りの足音等はまるで自分を襲いに来るようで何度か夜泣きした。そうすれば睡眠薬を飲まされ、気付けばもっと深い所に行くだけだが。

 朝は3時起床で起きたら直ぐに仕度をして勉強。12時になると昼食をとって、それからは武道を徹底的に仕込まれる。

 施設で名前は与えられない。1111等の番号で管理され、優秀な順番で番号は若くなっていく。兄は最初は1333番だったが、過ごしていく内に0001番か0002番に成っていた。

 毎回トップを争う高校生はもの凄く優しい人だと思っていた。面倒見が良くて、他の高校生見たいに、年下を殴ったり、年下を襲ったりしない。だから油断していたのだと思う。

 ある日、施設のボイラー室に呼ばれて、行ってみれば優しい高校生がそこにいた。彼は笑顔で手を振りながら兄に近付いていき、カッターで眼を刺した。甲高い声で笑って、そのまま刃を上下させたり、グルグルかき混ぜるように回したり、、、。

 声は出なかった。結局はボイラーの点検にきた業者が光景を目撃して通報した。

 もう何も信じられなくなって、0001のままで居続けた。言われたらハイと言ってやる、機械のように。

 

 そうして二年間が過ぎていったある日、兄は施設の一室で先生に説明を受けていた。

 

「貴方を引き取る人が決まりました。この人です」

 

経歴等が書かれた紙を渡されて眼を通す。

 

「見たら拇印を押しなさい。拒否権は有りません」

 

「はい」

 

インクを親指に付けて書類に押し当てる。

 

「それでは明後日に里親が来ますので」

 

こうして0001は六來になり、人へと変わるのだった。 

 

 



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断罪

金髪女良い感じに書けてるかな、、、


 「作戦会議を始めよう」

 

六來はリビングで五人を前に言う。何時もは気分で柄を変えている眼帯だが、今回は機能性重視な本革で黒色無地にしている。

 

「先ずは、二乃お姉さん。新谷と縁を切ってくれないかな。関わると不味いよ」

 

「それについては心配要らないわよ。家に来た日の後から一切話してこないのよね」

 

「きっと六來くん目的だね~」

 

六來は一花に首を傾げた。自分目的とは何のことだ、と。

 

「ん?」

 

「気付いてないの?六來くん、かなり人気だよ。私の友達も六來くん好きな人、二人居るけど」

 

だとすれば、もし自分が目的なら、自分が存在しなければ何も起こりはしなかった。三玖が痛くて怖い思いをすることも。

 そんな考えをしていると震える六來の手の上に三玖が手を重ねた。

 

「六來は何も悪くない。私を助けてくれた」

 

三玖は六來のことなら何でも分かるとでも言うように笑った。現に今だって、一言も自分が存在しなければなんて口にはしていないのに、三玖はそれを耳で聞いたのかにように言っている。

 

「それ、なら、良かった」

 

泣いているように見えたのだろうか。全員が心配そうな顔で六來を見ている。慌てて何時もの笑顔を取り繕うと六來は話始めた。

 

「少し昨日調べてみたの。新谷のこと。その結果がこれ」

 

六來はノートパソコンを開いて、全員が見れるようにディスプレイを前に向けた。

 ディスプレイに映っているのは某大型掲示板。そこには新谷の画像と、恨み言が溢れかえっていた。

 

「確か新谷さんって編入してきた人ですよね」

 

「そうそう。あんなに派手な見た目なのにスッゴい無口でさ。でもこの間私に話しかけてきたんだよね。そのまま家にあげちゃって、、、」

 

 五月と二乃が話す。気丈に振る舞っている二乃も本当はむしゃくしゃして仕方が無いのだろう。

 

「はい。この恨み言を言っている人達に連絡を取って話を聞いてみました。それがこれ」

 

「六來くん。それどうするつもり?」

 

「まぁ待ってよ」

 

そう言って次に六來は一枚の紙を取り出した。

 

「今日、僕の靴箱に入ってた」

 

全員が近づいて紙を読む。先程まで寝ていた四葉もこれを見るために起きていた。

 

「六來くんへ、伝えたいことが有るので明日の放課後、屋上に来てください。何時でも良いです。ずっと待っていますので。新谷より」

 

反吐が出る。しかし良いチャンスだ。六來が何をするのか、未だ解っていない姉と上杉に向かって話し始めた。

 

「先ず、新谷さんは17歳という年齢ながら各地で好みの男を見つけてはくっついて、飽きたら良いように使って捨てる、という行動を繰り返してきたとんでもない悪女です。そして、今回連絡を取ったのは捨てられた方の中で、今でも殺したい程憎んでいる人です。探した結果、18人の人が集まりました。そしてこの町にも憎んでいる人は8人居ます。全員大学生で、今回7人が呼び掛けに応じてくれました」

 

「三玖。一度部屋に戻っててくれない?ここからは少し聞かれたくない」

 

勿論、優しい三玖は六來がこれからするような行動を望んではいないだろう。六來がここからやることはかなりえげつない。だから嫌われたくない。六來は三玖が部屋に入ったのを確認すると続けた。

 

「この際ですし、他の方の憂さ晴らしも兼ねて全員であの女を囲みます。大学生の一人が車の手配をしてくれるので必要なら人気が無いところに連れていきましょう。そしてこっちには証拠があるので向こうは下手なことは出来ません。必ずしも襲ったりするわけでは有りません。土下座をしてくれれば後はしてきたこと全てを警察に報告で良いんです。しかし、土下座もしないようなら、暴力だっていとわない」

 

「これ、見て」

 

六來のスマホに写る、新谷の裸の画像。紅くなる四人の姉たちと上杉。

 

「あんた!どうしたのよ!これ」

 

「六來くんにはないと思ったけどあったかー。性欲」

 

「仮に欲が有ってもこの女を使わないよ。直接いけないけど憎んでいる人達から貰った。対価はあの女の土下座した画像と鬱憤が晴れそうな画像。これもゆする為の材料」

 

直ぐに穴のない作戦を立てる智力。人と物を集める行動力。本気の六來程怖いものは無いと、改めて実感する五人だった。

 

「最後にこの作戦に参加しますか?」

 

六來が聞く。一応一人で出来ないことは無い。しかし人は沢山居た方が良いのは確かだ

 

「やるわ!三玖の仇は私がとる」

 

「二乃お姉さん。真っ先に来ると思ってたよ」

 

「私もやります。出来れば安全にお願いします!」

 

「五月姉さん。分かってる」

 

「俺も手伝うぞ。生徒を傷付けた奴は許さない」

 

「ありがと風太郎くん。それより居たっけ?」

 

「私も手伝います。困っている人は放って置けません。三玖なら尚更」

 

「四葉姉ちゃん。変わらないね」

 

「こんなに行くなら皆をまとめあげるお姉さんが必要じゃない?私も行くよ」

 

「一花姉。やっぱ部屋は汚いけど頼りに成るね」

 

全員が行くと言った。これ以上に頼もしいことはない。そう思っていると、足音が響いた。

 

「私も行く!!六來、私の怒りは私が晴らす。それに、、、。仲間外れは嫌だよ」

 

六來は三玖に近付いた。この作戦で一番大切なこと。それは三玖が報われること。

 

「そうだよね。三玖。ごめん。一緒に行こう」

 

 

 

 

 

 放課後。万全を期して六來は屋上へ向かう。

 

大学生達に作戦を説明する為に上杉。 

 

絶対に人を屋上に近付けない為に一花が待機。

 

マニュアルを基に行動を指令する為に二乃が待機

 

もし逃げようものなら取り押さえる為に四葉が待機。

 

職員室前で教師の出入りを探るために五月が待機。

 

最後に六來の彼女役をする為に三玖が六來の後ろで待機。

 

全員が役割を与えられ、それを全うする。つくづく五つ子というものは良いものだと思う。そして六來は屋上の扉を開けた。

 

「あっ!六來くん!おっそーい!」

 

気持ち悪い。吐きたい思いを堪えて六來は作った笑顔を浮かべる。

 

「ごめんごめん。で、話って何かな?」

 

「あのね、私、六來くんのことが好きに成っちゃったみたい!ねぇ私と付き合って!」

 

「悪いね。彼女はもう居るんだ」

 

「えっ」

 

「ねっ。三玖」

 

「て、言うか彼女が居ないとしても君見たいな悪女とは付き合わないから」

 

「えっ何?自分もう六來くんに好かれてるなんて思ってた?だとしたら残念でしたー」

 

「あ、、くじょ」

 

呆然として六來を見つめる新谷。抑揚のない声で六來は淡々と続けた。

 

「先ずはさ謝ることが有るんじゃないの?僕じゃなくて三玖に。内臓損傷。君のせいだよ?」

 

「ごめん、、なさい」

 

「土下座。しよ?」

 

それだけは新谷のプライドが許さなかったらしい。黙っている新谷の耳元で囁く。

 

「早くしよ。まだ君がその頭を地面に擦り付けないといけない相手が居るんだから」

 

それでも黙っている新谷の目の前でスマホを取りだし、動画を見せつけた。

 

「証拠は有るの。警察に突き出そっか?」

 

「それだけはっ!」

 

「じゃあ土下座しようか」

 

新谷はゆっくり膝を折って、手を地面に着いた。

 

「ごめん、、なさい」

 

「謝る相手は僕じゃない。そして頭をつけて申し訳ありませんでした。やり直し」

 

「申し訳、有りませんでした!」

 

「良くできました。それじゃ出てきて下さい」

 

屋上にぞろぞろと入ってくる大学生達。

 

「今のいい様だったよな」

 

「あー。早く殴りてぇ」

 

「六來くんには感謝だな」

 

様々な事を言いながら入ってくる大学生達。

 

「新谷さん。君がたぶらかしてきた方達だよ。折角だからこの機会にこの方達にも土下座して。今ならその安い頭で許してくれそうだよ?」

 

「おら早く頭下げろ糞女」

 

「許すとは言い切っていない当たり流石ー」

 

「おい、ビデオカメラで撮っとけ」

 

「なんで、なんで私がこんなことしなきゃなんないのよ!」

 

遂に堪忍袋の緒が切れたようで新谷は先頭にいた男の顔面を殴った。

 

「おい、撮れてるか?」

 

「あ、ハイ。バッチリですね。警察に突き出しましょう」

 

「やっ、止めなさいよ!」

 

焦る新谷。六來は新谷の写真を新谷に見せる。

 

「こう言うのも有るよ。大人しく頭を下げた方が賢明なんじゃないかな?」

 

「sstqgdlhdgdkはがczヴぁrしゃっkdjsm!!!!!!!」

 

なんて言っているのかがまるで聞こえない。そして散々叫び散らしてから頭をゆっくりと下げた。新谷の頭を踏む大学生達。

 

「これで私のことは、警察には言わないでよ!」

 

息を切らしながら言う新谷。六來と大学生達は冷ややかな笑みを浮かべる。

 

「貴方達はこの女を許せますか?」

 

全員が顔を合わせてニヤリと微笑む。

 

「いや。足りないな」

 

「そうですね」

 

「でももう、肉体的に虐めるのは飽きたので警察に突き出して社会的地位を剥奪してあげましょうか」

 

「う、、、、、、、そ、、、、。」

 

「くづdjんsmqっlwjwjっksksっjdっjsjsっじゃshqmksjmjdj!!!!!!」

 

また発狂。六來は新谷の近くに行って言う。

 

「君がしてきたのはこう言うこと」

 

「それではは撤収しましょうか!」

 

大学生達に言うと、彼らは清々しい顔で頷いた。今日、行けなかった人も六來が送った土下座の画像と、発狂動画で喜んでくれているだろう。

 帰る際、完全に光の消えた目で俯く新谷に六來は言い放った。

 

「またね、新谷さん。ってまたは無いか」

 

 

 

 

 

 後日、六來は新谷が精神鑑定の結果、精神病院の隔離病棟に入れられたことを知った。絶対に出ることが出来ない隔離病棟に入れられるということは願っても無かった。あの時の高校生といい、自分の周りからは精神病院に行く人が多いきがするのはなぜだろうか

 新谷がそうなるに至った理由は六來達が突き出した動画と、あのあと新谷を恨んでいる人が個別に新谷を訪ねた時に新谷が刺したことだ。心臓を刺されて即死だったらしい。

 

 新谷が捕まってからの日常に変わりはなかった。ただ一つ変わったことは、六來の中で三玖という存在が、三玖の中で六來という存在が一気に大きくなったと言うことだった。

 




これで第一の悲劇は終了ですよ!
しかしまだまだ終わりません


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親子

父親と六來を絡ませました。父親のキャラ、合ってるかな?

閑話みたいなものですので気軽な気持ちで読んで下さい!


 「それでは診察を始めよう」

 

六來達が住んでいる家の近くにある総合病院で、六來は見慣れた人物を前に動かない片脚を見せていた。

 

「はい。宜しく御願いします」

 

畏まってみるがそう言うのは良いと言われた。目の前にいるのは父親で、彼は医者だ。

 

「また脚の状態が悪化している。何か激しく動かすようなことはしたかい?」

 

思い出すのは先日の新谷の件で、取り巻き共を倒した時だ。

 

「そう言えば、三玖の件で、、、」

 

「ああ。三玖くんの件は五月君から聞いている。君が尽力してくれたのも聞いているよ」

 

「いえいえ。僕は何も」

 

何もしていないのなら脚がこうなる訳も無い。目覚めた一週間辺りではリハビリをすれば脚も動くようになると言われていたが、無理らしい。今の状態をキープ出来ても、良く成ることは無いと父からは告げられていた。

 

「謙虚なのは君の良い所だがね」

 

「、、、はい」

 

一見、キツそうな外見で、子供のことを見ているように見えないが、本当は色んなことが見えている。今回の新谷と三玖の件だって覚えているということは何か思うところが有るのだろう。

 

「それと家庭教師の方はどうだい?」

 

「上杉くんと分担してやっています。僕は理系科目を教えることが多くて、上杉くんは文系科目を教えることが多いです」

 

「家庭教師に滅多に参加しない二乃お姉さんは分かりませんが、姉達は着々と力を付けていると思います」

 

「それなら良かった。君が思うに一番の成長株は誰だい」

 

六來は頭に五人の顔を浮かべた。先ず二乃お姉さんは抜く。次に四葉お姉ちゃんも抜く。一花姉もやれば出来るのだろうけれど、やらないから抜く。そうして残ったのは三玖だ。

 

「三玖だと思います。今の所は」

 

「そうか。分かった。精々励みたまえ」

 

今の所はと言った部分を汲み取ってくれただろうか。珍しく笑みを浮かべる父に六來は笑い返した。

そして診察が終わったようで父は医者として言う。

 

「君の脚は段々と悪く成っていっている。理由は、、、分かるね。忠告しておくが、これ以上は激しく動かさないことだ。最悪、切除して義足を装着することになる」

 

もともとは車で飛ばされて、離れた脚だ。今こうしてくっついているだけで有難い。

六來は大腿を輪切りにしたような傷跡を見つめる。

 

「次に、これは父親として言おう。もう少し自分の身体を大事にしなさい。君は無茶をし過ぎている。幼少期に他の人の何培もの無茶をした君は既に対価を負っている。現に君は胃潰瘍を引き起こて、昨日も吐血している。もう一段階ステージが上がると薬では治せなくなるよ」

 

六來は未だに痛む胃を撫でた。全然平気だと思い込んでいる身体が本当はとてつもなく不味いのは分かっていた。

 

「善処します」

 

それだけを言うと六來は立ち上がって礼をした。進んで無茶をしに行きたい訳ではない。寧ろ無茶をしなくて済むのならそれに越したことはない。でも、姉達に何かが起こり、それはこの壊れかけの身体を更に壊さないと避けられないものなら、幾らでも使ってやろうというのが、六來が彼女達に心を開いた夜からずっと離していない決心だった。

 六來が居なくなり、一人だけ部屋に残った父は呟く。

 

「本当は入院させて今すぐにでも治療して欲しいのだがね」

 

 



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花火

どうも。お久し振りです!無事に入試も終わり、結果も出て、手続きも終えました。
これから連載再開したいと思います。待ってて下さった方には本当に感謝しています。そして連載ストップ中も読んでくださって方にも感謝しています。
改めましてありがとうございました!そしてただいま!
 暫くぶりにこの小説を書いたので変になっているかもしれません。そこは勘弁。
あとで修正入れるかも。


 カーテンの掛かっていない窓から朝日が降り注ぐ。

窓の近くにあるベッドに眠っていた六來は朝を感じ、ゆっくりと瞼を開けた。

 時刻は四時。夏は朝日が昇るのも速いから六來の目覚めも尚更速い。上体を起こした六來はグッと身体を伸ばして、気持ち良さそうに眼を細めた。

そして舌に残る鉄のような味と、塗れているように感じる頬を触り、いつもの顔からは想像出来ない程暗い顔で溜め息を吐く。指を濡らす赤い液体。幸い六來と背中合わせで眠っていた三玖には血は着いていない。しかし、六來の口元の枕は赤黒く塗れていた。

身体を焼くような胃痛にはもう慣れた。しかしそれが問題なのだ。慣れるほど長く痛み続けているのにずっと放置していることが。

 六來はすやすやと眠る三玖を見つめた。

まだ死ねない。

手に残った血を握りしめて決心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六來は街に来て、姉達を探していた。

何時もより騒がしく、人が多い街では浴衣を着た人達が右往左往している。

人混みが苦手な六來は目を回しそうな光景だが、頑張って高い身長を活かして見回すと見慣れた顔を六つ見つけた。

 

「あれ、六來だ」

 

 近寄ってくる六來に一番最初に三來が気付いた。

そして気付いた六來も手を振る。

 

「聞いたよ。上杉兄妹も一緒に来るんだよね?」

 

六來がそう言うと上杉とその妹が六來を見た。

 

「おお。これが風太郎くんの妹?」

 

六來は上杉の隣にいる女の子に目線を合わせた。

 

「兄がいつもお世話になっています。妹のらいはです」

 

目線を合わせた女の子は綺麗なお辞儀をする。六來は笑って風太郎とらいはを交互に見た。

 

「良く出来た妹だね。うん。風太郎にはない可愛さ」

 

「なにか買ってあげたくなる」

 

六來はらいはの頭を撫でた。その瞬間に三玖から向けられる嫉妬の視線には気づかないまま六來は立ち上がり全員揃って歩き出した。

 

 

 

 

 

 六來は三玖を誘って一緒に祭りを楽しみ始めた。

花火の時間まではあと一時間。今日給料が払われて財布は潤っているかららいはの他に三玖にも何か奢れそうだ。

 そう考え、六來は何故だか少し拗ねている三玖に話し掛けた。

 

「なんで拗ねてるの。何か食べる」

 

「拗ねてないし物で釣ろうとしてもだめ。人形焼き、食べる」

 

「食べはするんだね」

 

六來は苦笑しながら屋台で二人分の人形焼きを買う。そして三玖に手渡す。

 

「で、なんで拗ねてるの」

 

無言でそっぽを向いた三玖の頭を撫でる。

 

「ッ!いきなりなに」

 

「折角浴衣着てるなら、そんな浮かない顔しないで笑っていた方が可愛いと思うよ」

 

六來の言葉に三玖は顔を赤くする。撫で終わった六來は手を降ろした。三玖は手が降ろされた頭に寂しさを覚える。

 

「ねぇ六來は、私のこと好き?」

 

「うん。好きだよ」

 

いつも笑っている六來には珍しい真面目な顔に三玖はハッとした。

 

「それは、姉さんとして?それとも、、、、?」

 

「どうだろうね」

 

六來は杖を使ってゆっくりと立ち上がる。三玖も一緒に立ち上がったその時、三玖の耳元に六來の声が聞こえた。

 

「三玖。大好きだよ。これは僕として」

 

そう言った六來は恥ずかしさを笑って誤魔化した。

 

 

 

 

 

 二人で会場を歩く。そして次の瞬間夜空に轟音が響き花が咲いた。

 

「不味い。三玖。急ごうか」

 

「う、うん。でもちょっと待って。今、足踏まれちゃった」

 

良く見ると三玖の脚は真っ赤に腫れていた。

 

「これは酷いな。一回人混みから抜けよう」

 

六來は三玖を労りながら歩いて、人混みを抜けると三玖を座らして脚の様子を見た。

 

「取り敢えず応急処置はしとくよ」

 

六來はそう言って、まだ飲んでいないペットボトルの水で三玖の脚を洗い、浴衣の裾を破いた。

 

「ごめんね。僕の浴衣で」

 

「ううん。大丈夫」

 

そして三玖の脚に布を巻いた。

 

「これで大丈夫かな」

 

三玖の応急処置は終わった。後は全員で集合するだけだ、そう思った六來だが重大なことに気付いた。

 

「ねぇ待ち合わせってどこだっけ?」

 

「現地集合だったと思うけど」

 

「その現地って?」

 

「あ。」

 

 六來は携帯電話を取りだし、全員に電話を掛けてみる。しかし、人混みの喧騒のせいか電話に出る人は誰一人と居ない。

 

「仕方ないか。歩いて皆を探そう」

 

「うん。でも歩けるかな」

 

六來は不安そうな三玖の手を引いて起こした。そして使っていた杖は浴衣の帯に挟んで落ちないようにしたあとしゃがんで三玖に背を向けた

 

「ほら、乗って!」

 

「え、でも脚は」

 

「いいから」

 

三玖を乗せると六來は力強く立ち上がった。

 

「歩ける?」

 

「歩こうと思えば歩けるよ」

 

三玖をおんぶしたまま人に溢れた通りを歩く。父にも激しく動かすなと言われたばかりだ。だけど三玖のためなら何でも出来ると痛みを必死に堪えて、それを表に出さないように歩く。すると上に乗っていた三玖が言った。

 

「あれ、フータローじゃない?」

 

三玖が指す指の先には忙しく動き回る上杉がいた。

 

「ほんとだね。やっと一人発見だよ」

 

安堵しながら六來は上杉に近づく。

 

「風太郎くん!」

 

六來達を見つけた上杉は焦った様子で寄ってきた。きっと風太郎も自分達と関わってこの花火大会が大事な行事であることを分かってくれたのだろう。そして近くに来た上杉は焦った様子を変えずに言う。

 

「一花は居ないか!?」

 

六來に乗った三玖が辺りを見回すが一花は居ない。首を振った三玖を上杉は確認して三人で人混みを抜けて座った。

 

「一花とは会えたの?」

 

六來は上杉に訪ねると、上杉は難しい顔をしたまま答えた。

 

 

 

 

 

そしてそのまま話続けていると、三玖が居なくなっていることに気付いた。

 

「三玖が居ない!」

 

真っ先に気がついた六來は上杉と探し始めた。脚のことなどには構わず、全速力で走って探した末に三玖を発見した。三玖は上杉との話に出てきた髭のおじさんにまさに連れていかれようとしていた。

 

「その手を離して下さい」

 

六來は三玖を抱き寄せて連れていく。そして六來に変わって出てきた上杉を見た髭のおじさんは声をあらげた。

 

「君は、君はこの子のなんなんだ!」

 

「パートナーだ。返してもらいたい」

 

上杉と姉達の関係。先程街頭アンケートで聞かれたらしく、その答えを上杉はずっと迷っていたが答えが出たらしい。

六來は三玖を隣に座らせて笑ってその光景を見ていた。そしてその顔を三玖は見ていた。綺麗な笑顔。しかしその笑顔に曇りが有ることを三玖は的確に見抜いていた。

 上杉と姉達はパートナーと割りきれた。自分と姉達の関係は間違いなく姉弟。それでいいはずなのだが自分と姉達との血は繋がっていない。そこが少し不思議だ。

 

「ねぇ。六來は私達と出会えて良かった?」

 

不意に投げ掛けられた質問に六來は自信満々で答えた。

 

「勿論!でも最初から一緒に居たかったな」

 

本当の姉弟になってしまえばこう悩むことも無かったのに。そう考える六來に三玖は自分の意見をぶつけた。

 

「そうかな。でも最初から一緒だったら、こうやって姉弟愛とは違う好きを感じることはなかったよ?」

 

三玖の言葉に六來は顔を上げた。思えばそうだ。そしてそれを知ってしまうと何でこんなことを考えていたんだろうと馬鹿らしなってきた。

 

 

 

 

 

 気付けば上杉と一花と髭のおじさんの件、そして花火大会は終わっていた。一花の件に関しては一件落着で本人からの話も有ったからどうでも良くなっていた。しかし、花火大会はやっぱり無くてはならない。それは姉達と母親の思い出、また六來と母親の思い出を繋ぐ大切なものだからだ。

 

 

 六來は姉達が手持ち花火で遊ぶ姿を遠くから見守る。これも花火大会だ。それに手持ち花火も風情があって悪くない。今日一番動いてくれたのは上杉だろう。六來はそう思って自販機でコーヒーを買って上杉に届けた。

 

「風太郎くん。お疲れ様」

 

「おう。六來」

 

上杉の隣に六來は座り、二人でコーヒーを飲み始める。

 

「今日は頑張ってくれてありがとね。風太郎くんが居ないとこうして平和に解決していなかったよ」

 

「どういたしまして」

 

「風太郎くんの存在もだんだん大きくなってきたね」

 

「そうかよ」

 

「そうだよ」

 

そこまで話した所で六來は三玖に呼ばれた。挨拶をした六來は三玖のもとへと向かっていく。

六來と入れ替わりに一花が来たあとに何があったかは六來達は知らない。

 

 

 

 

 

 そして花火大会は無事に終わった。明日からは普通に学校だ。

六來達はもう暗い道を笑い合いながら歩く。

この時はまだ知らなかった。直ぐ近くに悲劇が有ることに。

そして六來は悲劇に段々と近付いて行く。

 六來達が家の前に着いた瞬間、声が響いた。

 

「やっと見つけた!」

 

夜道に響く忘れもしなかった声に、六來は振り返った。そして静かに憤怒の炎を灯した。 

 

「ずっと会いたかった!覚えているかい?いや、忘れているわけがないよなぁ。パパだよ!四季!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




火薬の種が打ち上げられて、夜空に花を咲かす。それは希望のようにも思えるけども案外違うのかもしれない。
一つの種が咲かすのは必ずしも希望だと決まっているわけではなく悲劇かもしれないのだから。


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姉弟

沢山の感想をありがとうございます!感謝感激!


 六來は自分を抱きしめる巨体を振り払った。こんな時に限って腹がジクジクと痛む。姉達の前で病気を見せるわけにはいかないと、口の中に満ちるむせかえるような血の味を必死に飲み込んだ。

 

「ちょっと!ウチの六來になんか用!?」

 

二乃が父親に訪詰め寄っていった。二乃の片手には110と番号が表示された携帯電話。

 

「あんたの答え次第では警察呼ぶけど」

 

二乃が父親にそう言っている最中に、三玖は苦しそうに息を吐く六來を座らせた。

 その丸々と太った身体、短い脚、豚のような顔、気色の悪い声。

全てが六來の目と耳、そして脳内に焼き付いていた。自分を捨てたあの男。

 落ち着いた六來は父親に向かって言う。いや、落ち着いてなどは居なかったのかもしれない。本当は今すぐ殴りたい気持ちだった。しかし、それを抑え込む六來の握られた手からは血が滴っていた。笑顔を作った六來は言う。

 

「済みません。七條さん。何か御用でしょうか?」

 

「そんなに固くならないで良いんだよ?私のことはパパで良いんだ。四季」

 

「御用はと聞いています。無いのならお引き取り下さい」

 

精一杯の作り笑顔だが、ちょっとしたきっかけでその笑顔も直ぐに崩れそうだった。姉達は六來がとてつもなく怒っていりことは見抜けているようで少し怖がっているようにも見える。しかし七條は何も気付いていないようでニタニタと笑いながら話し掛けてくる。

 

「そうだ!四季!話をしよう!四季は確かミルクコーヒーが好きだったよね!美味しいカフェが有るんだ!」

 

「今更、今更貴方とする話が有るとでも?」

 

六來の冷たい声に父親は黙った。

ちょっとしたきっかけは直ぐに出来た。ずる賢い態度が引き金になり、六來を起爆させた。

 

「僕を捨てた貴方とっ!する話などあるとでも!?」

 

上がりそうになる手を隣にいる三玖が握った。血行が悪いのか、ひんやりとした手だがそれは優しく六來の血塗れで震える手を包み込んだ。

 

「だめ。こんなになるまで耐えた意味が無くなっちゃう」

 

三玖の声と手が六來を抑える。自分の手のひらを抉るほど固く握った拳を三玖はゆっくりと開いた。

 

「お引き取り下さい」

 

六來は一度礼をすると振り返ってマンションの中に入っていく。後ろから姉達が追い掛けてくる。

父親はハッとして追い掛けようとするが既に六來はマンションの中に入っていた。父親は舌打ちをして近くにある鉢植えを蹴っ飛ばした。しかし、その後何かを思い付いたように気色悪く笑った。

 

 

 

 

 

 家に帰ってきた六來は部屋に籠っていた。

何故あの父親に居場所が割れたのだろうか。ここに引き取られる時に自分についての個人情報は抹消されている筈だから先ず辿ってくることは出来ないだろう。施設が情報を漏らしたのだろうか。しかし施設は出た瞬間に一部の情報だけを残してデータを抹消するしデータ管理はかなりのものな筈だから流出は有り得ない。

色んな憶測や思考が頭を流れるが深くは考えられない。どっと疲れがのし掛かってくる。しかし異様に興奮していて眠れもしない。寝て忘れられたらどれだけ楽なことだろうか。怒りとは呼べない。よくわからない感情が脳内を支配して

六來はベッドの上で丸くなった。白いシーツを手から流れ出す血が汚す。するとノックの音が響いた。

 

「六來。起きてる?」

 

「、、、。、、、。うん。起きてる」

 

「入っていい?」

 

「うん。いいよ」

 

すると扉が開いた。そしてそこにいたのは三玖だけではなく全ての姉だった。

 

「姉さん達。どうしたの?」

 

ベッドに腰掛けて深く項垂れる六來の部屋にある車椅子、勉強机、勉強机の椅子、六來の両隣。それぞれに姉達は腰掛けたりよしかかったりして六人で話始める。

 

「六來。手、出して」

 

六來の右隣に座った三玖が救急箱から消毒液取り出したりなど忙しく動き、手を治し始めた。

 

「ほら、六來君ー。そんな顔してたら幸せ逃げちゃうぞー」

 

一花が六來の脇を擽る。弱点の脇を擽られた六來は笑ってしまう。

 

「やめてっ!脇はっ!」

 

六來が溢す自然な笑み。いつも浮かべる寂しそうな笑みとは違う無垢な笑み。

天才の割にはかなり天然で、鈍感で不器用で本当は性格とは相反して甘え下手。だけどそこが可愛くて、温かくて、優しくて。それがふとした瞬間に顔を覗かせる本当の六來なのだろう。

 六來は幼くして痛みを知りすぎてしまった。そしてそれは知らなくて良いことなのだ。六來が辿るべき道はこんなに暗く荒んだ道では無くて、沢山の愛で輝く道だったのだ。

 六來が自分自身でも分からなかった六來の感情の正体。その一つは怒り。もう一つは悲しみだ。どこまでも底無しに深い悲しみだ。

 そしてその悲しみを六來に抱かせ、六來から笑顔を奪った奴は許さない。姉達は各々に思う。大切な弟の為に。愛する弟の為に。

 

 

 擽れて笑い終えた六來は言う。

 

「みんなありがとね。元気が、、、出た」

 

ギュッて笑って見せた六來に姉達は微笑む。綺麗で、ほんの少しの衝撃で崩れて無くなりそうな無垢な笑顔。

この笑顔をずっと見ていたいと姉達は思うのだった。

 

「今日は久し振りに六人で寝ませんかー?」

 

四葉が全員に向けて提案した。とても良い案だと全員で頷く。

 

「だけどリビングで寝るわけにもいかないですし、、、」

 

「何言ってるのよ五月。ここに大きなベッドがあるじゃない」

 

二乃は六來の座るベッドを指す。身長を考慮して縦幅の長いベッドにしたら横幅も長くなった大きなベッド。確かに全員で縮まれば寝られそうだ。

 

「取り敢えず血のついたシーツは剥がしてっと。ほら!六來!立って!」

 

二乃が着々と準備を始めだした。それに合わせて他の姉達も銘々に動き出した。

 六來が姉達とこうしている間に父親のことなんてとっくに忘れていた。

 その数時間、六來は夢を見ていた。大きく黒い闇が六來を取り込もうとする。中に入っては二度とここに戻ることができない、そんな気がするような黒い闇は六來の身体を取り込もう大きく開いた。しかし五つの光が闇を照らして、消し去るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




折角の全員で寝るイベントなので書いてみようと思います。書きたいけど閑話にするほどでも無いという感じなので後書きに書きました。良ければ読んで下さい。






 六來は遠い目で姉達を見つめる。
時刻は夜の12時。六來の部屋に寝間着をきた姉達が集まったのは大体10時。何故こうなったのか。それはよくわからない。強いて言うならば寝る位置決めだ。誰の隣は嫌だだの誰の隣がいいだだの話合っていたら二時間が経っていた。
 漸く決め終わったようで全員がそれぞれの位置について横になった。

「やっぱ六來と三玖はいつも一緒に寝てるから私が六來の隣に行く!」

「だめ二乃。もう決めたから変更なし」

「それにしても隣が一花なのはまずいと思います。仮にも六來は男子です。ここは安全な私が、、、」

「うふふ。五月ちゃん。残念ながらもう決まったことだからね」

「私は寝相が悪いのでどの位置に寝ても六來の隣になると思いますよ!」

「四葉。私は抱き枕がないと眠れないから今日は六來を抱き枕にする。だから左隣しかいけないよ」

そう言って三玖は六來の右腕を抱いた。

「あっ!三玖ズルい!」

「一花。美味しいものあげるので場所かわりましょうか」

「ZZZ」

「ていうか四葉お姉ちゃんもう寝てるし!」

「あっ!四葉!駄目です!動かないで下さい!」

「三~玖~!場所を変わりなさいよ!」

「六來君ー。脱いじゃったらごめんね♪」

「一花がその気なら。六來。脱ぐけどごめん」

「三玖?方向性変わってない?右腕がこの状態のまま脱がれるときついんだけど??」

「ていうか!うるさくて寝れないよ!!!!!」

夜とは思えない程のに賑やかさだったという。


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発覚

 六來はいつも通りの時間に目を醒ました。ただ身体の上に四葉が乗っていたり、三玖が寝る前と同じく腕を抱いていたり、一花が脱いでいたり、、、。様々な状況のせいで抜け出せない。そして遂に六來は起きる上がることを諦めた。

 思えば口を満たす血の味は無い。口周りにも血は付いていなかった。病は気からという言葉が有るが割と正論なのではないかと考える。そして気持ちを落ち着かせて父親のことについてを考え始める。こうしている内にテストは近付いているわけで余り時間はないというのに厄介な話だ。三玖や五月は家庭学習を付き合っているから心配は無いが、他の姉達が心配だ。

 そっぽを向きかけた思考をもとに戻す。第一にあの家に戻る気などは有るわけがない。多分、弟が後を継ぐにしては学力が足りないなどの問題が有ったのだろう。この間の全国模試の総合順位には記載すらされていないかった。受けていないわけは無いとおもう。あの父親が受けさせないわけがない。自慢ではないが自分は例年の全国模試のトップだ。自分の住所を知っているということは自分の今の名前も知っているということだろう。それなら合点がいく。

 多分、今日もちょっかいを掛けられるのだろう。そしてこれは前の新谷の時のように子供だけで何とかなる話ではない。もしかしたら父の力を借りることにもなるかもしれない。身体のことを知っていても見逃してもらったり、姉達に黙っていてもらったり何かと世話になっている分、さらに手を掛けされると考えると心が痛む。

 

 

 

 

 

 そんなことを考えていると隣に寝ている三玖が動いた。

 

「ん。六來。おはよ」

 

「うん。おはよう」

 

起きた三玖は不安げに六來を見た。それに気付いた六來はどこか疲れたような笑みを浮かべて頭を撫でる。 

 

「六來はどこにも行かない?」

 

「行かないよ。僕はずっとここ」

 

「、、、。今ならみんな起きていない」

 

三玖は一度全員の顔を見回したが自分達以外はぐっすりと眠っている。

 

「正直に言って欲しいことがある。六來は病気?」

 

六來は目を見開いた。どうやら三玖は気付いていたらしい。他の姉はどうだろうか。いや気付いていないだろう。思えば数日前から三玖が身体を案じてきたり等心配しているような素振りを見せていた。

六來は諦めて三玖だけの秘密だと言って話始めた。

 

「うん。病気だよ。それも一つじゃなくて色んな病気」

 

「それは、、治るの?どうしてなったの?」

 

「治るのかは僕には分からないし、どうすれば良いのかは僕には分からないや。ちょっと無理しすぎちゃったみたい。ずっと前の無茶のツケが回って来たのかな」

 

寂しそうに笑う六來の頬に三玖は手を置いた。身体を触られるのは嫌いだった。また自分は殴られるのだろうか、傷つけられるのだろうかと怖がるから。でもこの手は違った。

 

「なんで気付いたの?」

 

「この間一緒に寝たときに夜に血を吐いてるのを見たから」

 

三玖に隠し事は出来ないみたいだ。

 この身体は治るのだろうか。父親からは逃れられるのだろうか。僕は三玖と、、、。沢山の不安が脳を占めた。だけど今は頬を触れる手が落ち着かせていた。六來は自分の脳内ですべきことをを整理し出した。第一に元父親のことを父

に話して早急に措置する。そして勉強を姉達に教える。そして病気を治す。全てが終わったら三玖に。

 整理を終えた六來の顔は引き締まっていた。緊張とは違う顔をみた三玖は微笑んだ。

 

「うん。いい顔になったね」

 

 

 

 

 

 朝のチャイムが鳴り、六來は三玖の席を離れて自分の席に座った。そして何時も通りの担任の声は告げた。

 

「今日からこのクラスのメンバーが一人増えるぞ。ほら、入ってきなさい」

 

そう言われて廊下から男子が一人入ってきた。良くも悪くもない普通の顔立ちで低身長。六來と正反対にうねる黒い髪は不規則に伸びている。六來とは何もかもが反対だがその雰囲気はどこか六來を感じさせる。そしてその男子は言った。

 

「どうも。七條(さん)と言います。皆さんよろしくお願いします」

 

そして参の眼は窓際に座る六來へと向かう。六來を見つめたその眼はまるで蕩けたように弛み、誰にも聞こえない声で彼は言うのだった。

 

「ああ、、兄さん。ずっと会いたかった」

 

六來と参の眼は合う。そして六來は気付き内心驚くが表情には出さずに眼を逸らした。

 極普通の男子。特に何の反応も起こらない。全員がいつも通りを繰り返そうとしているなか六來はいつも通りではない日常を感じていた。手を打つのを速めた方がよさそうだ。

 




読んでくれてありがとうございました


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哨戒

六來のキャラ絵を作成しました。載せとくのでよろしければ見て下さい。
【挿絵表示】

体格はもう少し華奢です。あと、左眼に赤くて大きめな傷がありますがアプリの性能上、それは表現出来ませんでした。アプリの性能上です。僕は悪くないです。ほんとですよ?

追)寒そうだったので服を着せてあげました。


 夕方、六來は参に屋上へと呼び出されていた。

参がここに来たのはただの偶然ではないと分かっていた。そしてなにか起こるに違いないと思っていた。

 夕方の廊下には隣の教室から響く笑い声に自分の杖の音。

六來の顔は少し寂しそうな笑みを浮かべたいつもの顔とは違って冷たい。そして屋上の扉を開いた。

 

 

 

 

 

 開けた扉を吹き抜ける暖かい風に眼を瞑った。屋上の奥に参はいた。開いた扉の音を聞いた参は直ぐにこちらを見た。

 

「兄さん!来たんだね!」

 

五月蝿い参を鼻であしらう。先程とは打って変わって寒い風が吹いたような気がする。

 

「用は?」

 

「冷たいなぁ。久しぶりに会えたのならもう少し優しくてもいいんじゃない?」

 

六來は冷たく見つめて言う。

 

「七條さんの命令?」

 

「ううん。実は僕がここに来た件にパパは関係していない。ただ僕が兄さんに会いたかったから」

 

聞きなれたセリフにうんざりする。しかもこの相手の場合は本心だということに更にうんざりとじた。

 

「そんな顔しないでよ。僕にはパパみたいに戻ってこいと言う気もない。僕は兄さんが好きだから一緒に居たいけどそれ以上に僕は兄さんの幸せを望むし。きっと今の場所が兄さんにとって最高の場所なんだろうなとおもう」

 

 じゃあ何故来たのだと睨む。背中まで伸びた白い髪が風に揺れた。

 

「僕が兄さんのところに来たのは2つ理由がある」

 

「なに?」

 

「一つはさっき言ったこと。兄さんにずっと会いたかったから。あの日からずっと会いたかったから。もう一つは兄さんに頼み事が有ったから。兄さんにしか出来ないことを頼みたかったから」

 

「お願いします。兄さん。パパを止めてください。方法は分かりません。けど僕にやれることはなんでもやります。あれを止めて下さい。きっと貴方ではないと出来ないんです」

 

そう言って参は腕や脚を制服を捲って見せた。

そこにあるのは腫れた後など。きっと参も苦労したに違いない。ある意味自分は幸せなのかも知れない。取り返しのつく幼少期に捨てられたこと、無数の傷を負って、片眼を失ってでも全国トップを独占できる才能を手に入れられる施設に入れられたこと。そして中野家に行けたこと。

 六來は大きく溜め息を吐いた。しかし警戒心は無くさない。

 

「頼まれなくてもそうする気だよ。ただ言ったからには手伝ってもらう」

 

六來は感謝して頭を下げる参を尻目に屋上を去る。そしてポケットから携帯電話を取り出して電話を掛ける。掛けたのは休憩時間に入っているであろう父親だ。

 

「もしもし。こんばんは。お父様、、、」

 

電話をする六來は不敵な笑みを浮かべた。

 

 



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