塩パンに恋をして (アインシュタイン)
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プロローグ

こんにちは!
アインシュタインです。

今回はとある方からのリクエストで山吹沙綾を
ヒロインにして作品を書かせていただきました。

是非暖かい目でお読みください♪
感想やお気に入り登録お待ちしております!


Δプロローグ∫☆

 

 

僕、吉澤悠真は本日花咲川学園に入学した。

 

この学校はつい最近共学になった学校だ。

歴史はまあまあ浅い。

 

僕が何故この学校を選んだかというと…

 

普通だから。

 

特にこれと言って目立ってもなく、特にこれと

言って劣ってるわけでもない。

 

入学する為の受験も簡単だったしな。

 

 

ここは中学からそのまま上がってくる内部生と

途中で入ってくる外部生がいる。

 

僕は勿論外部生だ。

 

中学までは東北に居たんだが、高校でこうして

都会に出てきて、今は独り暮らしだ。

 

「さてと、掲示板見に行きますか。」

 

僕は受付を済ませ、クラスが書いてある掲示板に

向かって歩き始めた。

 

----------------------

 

掲示板近く…

 

「そうだ、クラス!何組かな~♪掲示板は……

あ、あそこだ!」

 

僕の目の前を猫耳の髪型をした女が歩いている。

 

髪型や心の中が全部外に漏れてることから、

コイツはかなりのヤバい奴のようだ。

 

なるべく関わりたくないな。

 

「とやま、とやま…あ、あった!」

 

戸山という名前のようだ。

というか、独り言が大きすぎやしないか?

 

「わっ!」

 

バカなのか。

 

猫耳の女はまんまと掲示板に夢中になって隣の人

に当たってしまった。

 

「あ、ごめん…掲示板見てて隣見てなかった」

 

当てられたのは茶髪のポニーテールの女だな。

 

当てられたのに自分が謝るとか意味わかんない。

偽善の塊か…

 

「ううん、こっちもぶつかってごめん……

あれ、いい匂い……?」

 

「えっ?」

 

「すっごい、いい匂いした!パンの!」

 

この女、かなりイカれてるな。

 

「うぅ…朝ごはん食べてないの

思い出しちゃった…」

 

バカか。朝ごはん食べてないということは、

どうせ入学初日から寝坊か。

 

「うちパン屋だから。いる?パンじゃないけど」

 

茶髪のポニーテール女はパン屋のようだ。

彼女は猫耳女に飴を差し出した。

 

「飴だ!いいの?ありがとー!」

 

飴で喜ぶとか幼稚だな。

 

というか、忘れてたけど僕は掲示板が見たくて

ここに来たんだ。

 

女二人を観察しに来たんじゃない。

 

「何組?」

 

それにしても人が多いし、何より二人が邪魔で

自分が何組か見ることが出来ない。

 

自分はまあまあ背はあるほうだが、名前が吉澤

な為、掲示板では下の方に名前が書かれている。

 

そのせいで結構前のほうに行かないと確認でき

ないのだ。

 

「A組……」

 

「ほんと!?どこどこ!?」

 

いい加減どいてくれないだろうか。

 

「山吹沙綾、ほら、あそこだよ」

 

茶髪のポニーテール女はパン屋の娘で名前は

山吹沙綾と。

 

僕は一度見聞きしてしまったことは大抵覚えて

しまうクセがある。

 

テストには役立つのだが、そのせいで嫌な記憶や

どうでも良いことまで覚えてしまう。

 

「やまぶき…あった!私はねー、戸山香澄!」

 

全く。猫耳女の名前まで覚えてしまった。

 

「戸山さんか…中学で見たこと無いし外部生

だよね?どうしてうちに来たの?」

 

へー。猫耳女も外部生なのか。

 

って、またどうでもいいことを…

 

「えっとね!妹がここの中学に通ってて、楽しそ

うだな~って!あとね、いっぱいあるんだけど、

あ、制服好き!」

 

吉澤悠真、コイツらの話を聞くな…

 

「あはは、大事だよね、制服♪」

 

「うん、それで花咲川に決めたんだ!」

 

制服ね…って聞くなよ!

どうでもいいことを覚えてしまう…

 

「あはは、いいね、そういうの。私、内部生

だから。半分は中学から持ち上がりだし、中学

そこだし。制服一緒だし、何も変わらないって

いうか…」

 

「でも、高校生だよ!何か始まる感じしない?」

 

するかよ。僕は決してしないぞ。

 

「え?何かって…」

 

「ほら、もう始まってる!新しい友達、

出来ちゃったし!」

 

「友達認定早いね…」

 

僕も完全に山吹さんに同意だ。

僕、こういう友達認定早い奴苦手…

 

「え!早すぎた!?」

 

「あはは、そんなことないよ。

よろしく、戸山さん」

 

いや、そこは早すぎたって言おうよ。

山吹さん、偽善の塊だな…

それとも本当に優しすぎるか…

 

「香澄でいいよ!」

 

あー。ダルい。入学初日からダルすぎんだろ。

 

「おい。」

 

僕はやっと声を出した。今日は全然声を出して

ない。心のなかで話してただけだ。

 

「っ!」

 

僕の低い声にビビったのだろうか。

山吹さんが少し驚いてこちらに振り向いた。

 

「お前ら、邪魔。」

 

普通の恋愛小説や恋愛漫画ならここでお互い

目を見つめあって引かれ合う…

 

だが、僕はそうはいかなかった。

 

「あ、ごめん。」

 

山吹さんはそう言って一歩横にずれた。

 

えーっと、僕のクラスは…

 

“A組 14番 吉澤悠真”

 

ちょっと待てよ。これ、この二人と同じクラス

だよな…

 

「はぁ。最悪」

 

今回ばかりは僕の記憶が間違っていてくれ…

と祈るばかりだった。

 

----------------------

 

入学式が終わり、僕らは教室に向かった。

 

僕は指定された席につく。

三の川の後ろから二番目。窓際だ。

 

女子が段々と教室に入ってきて、少しおどおど

しながら席に付き始めた。

 

隣の男子はどんなかな~?とか思ってるのか?

正直言って、恋愛小説じゃあるまいし、隣は

ブスかバカだぞ。

 

僕の隣は…

 

「私、山吹沙綾。よろしく♪」

 

おい。パン屋の娘かよ…

 

「ん。」

 

僕は雑な返事を返し、そっぽを向いた。

 

これからの学校生活、面倒くさくなりそうだ。

 

 

 

この時の僕は知らなかった。

 

僕と山吹という女がこれからあんな関係に

なるということを…




ここまで読んで頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか?

今後少しずつキャラの情報をお伝えしていきます
ので、応援よろしくお願いします!

感想やお気に入り登録お待ちしております!!


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塩パンに恋をして#1

更新遅くなりました。
申し訳ございません。

頑張って更新しようと思います。

感想お待ちしております。


 

Δ塩パンに恋をして#1∫☆

 

 

 

僕が入学してから最も嫌うもの。

 

それは“自己紹介”だ。

 

「それじゃあ、順番に自己紹介しましょう。もう

高校生ですから自己PRであることを意識して下さ

いね♪」

 

先生の発言に皆が騒ぎ始めた。

 

高校生だから自己PRを意識って、高校生未満の人

は自己紹介を自己PRだと思ってないのか?

 

----------------------

5分後…

 

 

何人かの自己紹介が終わった。個人的に興味深い

と感じたのは青山君かな。

 

「では、次は牛込さん。」

 

「は、はい!牛込りみです。えと……うぅ……

よろしくお願いします。」

 

「はい。次は遠藤さん…」

 

うん。牛込さんは恥ずかしがり屋なのだろうか。

これも関わりたくないタイプだな。

 

そんなことを考えているともっと関わりたくない

女、戸山香澄が

 

「PRってアピールだよね…アピール…」

 

と、真剣な顔をして悩んでいた。

 

あっという間に自己紹介が進み、次は戸山の番

になった。アイツは大丈夫なのだろうか。

 

「では、戸山さん。」

 

「ハイ!」

 

返事が大きいという点で失格かな。

 

「皆さん、こんにちは!戸山香澄、15歳です!」

 

ここはアイドルのオーディションか?

年齢は大体皆一緒だろ。どうでも良い宣言するな

 

「私がこの学校に来たのは、楽しそうだったから

です!」

 

あー。ダルい。

楽しそうで入るねー。気楽なもんだ。

 

「中学は地元の学校だったんですけど、妹がここ

に通ってて文化祭に来てみたら、皆楽しそうでキ

ラキラしてて、ここしかないって決めました!」

 

僕はこういう人間が本当に苦手だ。

説明くらい上手に出来ないのか?

 

「だから今、すっごくドキドキしてます!」

 

キラキラとかドキドキとか副詞を使いすぎだ。

もっと良いスピーチをしてくれ。

 

あのオレンジとかいうスマホ会社の人見習えよ。

ステューブジョンズさんとか言ったっけ。

 

「私、小さい頃『星の鼓動』を聞いたことが

あって。キラキラ、ドキドキって。そういうのを

見つけたいです!」

 

星の鼓動?何を言っているんだ。

 

そんなもの存在しないと思うが?それは彼女の

鼓動であって星の鼓動ではないと思う。

 

どうかそこら辺に物理オタクでもいたら説明して

欲しいくらいだ。

 

「とにかく、キラキラドキドキしたいです!」

 

やっぱりこの女には近づかないでおこう。

 

僕はそう、今までよりも強く決意した。

 

こうして彼女の自己紹介が終わる。

はずだったが…

 

僕と同じで星の鼓動を気になった奴がいたのだ。

 

「星の鼓動って?」

 

全く。気になっても口を出すなよ。

 

「え~っと、星がキラキラ~って。」

 

だからそれを説明してくれって言ってるのに。

 

「ふふ。可愛い。戸山さんって面白いね♪」

 

おい!何でアイツの世界に導かれてるんだよ。

折角僕と似てる人がいたと思ったのに…

 

最近の高校生は趣味が悪いな。

 

そんな親父みたいなことをしみじみ感じていると

僕の番の一個手前まで自己紹介が進んでいた。

 

「次は山吹さん♪どうぞ。」

 

「はい。山吹沙綾です。両親はパン屋です。

何か食べたいパンがあったら言ってください♪」

 

あー。掲示板の前の出来事を覚えてる僕には

新しい情報はゼロだな。時間の無駄だ。

 

「次は、吉澤君。」

 

よし。待ちに待った僕の番だ。

 

「吉澤です。」

 

僕はそうとだけ言って席についた。

 

シーン……

 

どうして皆静かなんだ?

 

10秒程沈黙が続いている。先生が早く進めてくれ

れば良いのにな。

 

こういう状態に陥った方は分かると思うが、大抵

沈黙が起こると人は声を出しづらいものだ。

 

このまま沈黙が続くと思われたそのとき!

 

「え?吉澤君。今ので終わり?」

 

隣の山吹って女が声を出した。

 

僕は声を出さずに首で頷く。

 

「あ、えーっと。次は…」

 

先生はまるで見てはいけないものを見たかのよう

な顔で進め始めた。

 

何かまずいことを言ったか?

 

「ねえ、吉澤君。自己紹介あれで良いの?」

 

隣の山吹はパッチリとした青い目でこっちを

覗き込むように聞いてくる。

 

「ああ。」

 

「何で?」

 

山吹はもっと目をパッチリさせて聞いてきた。

座高の問題でまあまあ下から目線だ。

悪いが僕はそういうのには惚れないからな。

 

「興味ない。」

 

僕は山吹の顔も見ず、そっぽを向いて答えた。

 

「プッ!何それ?吉澤君って面白いね。」

 

「嬉しくないから。」

 

「吉澤君、照れてるの~?」

 

山吹って女は偽善の塊だと思ってたがSっ気もある

みたいだ。

 

僕は人には興味がない。

 

関わっても良いことなんて無いからな。

 

「はーい。自己紹介は終わりです。どうやらこの

クラスは個性が強いみたいだね。」

 

お、終わったのか。

 

先生は個性が強いっていってるけど、正直に言う

なら、イカれた奴らの集まりってことだろ。

 

「はーい。それじゃあ10分休憩でーす。」

 

僕はやっと地獄から救出された。

 

と思ったが…

 

「沙綾~」

 

10分休みも地獄と化したのだった。

 

「変なこと言ったかな~自己紹介。」

 

「あー…」

 

戸山って女は変なこと言った自覚無いのか?

山吹って女は苦笑いしてるし…

 

「あーってやっぱり変だった?」

 

うんうん。僕は心の中で5回ほど頷いた。

 

「いや。私は良いと思ったよ♪」

 

Sっ気があると思ったら偽善の塊だったり、この

山吹って女、わからない奴だな。

 

「君はどう思う?」

 

「えっ?」

 

僕は戸山からの突然の質問に正直驚いた。

 

なるべく関わりたくなかったのに。

ここはなるべく印象に残らないような返事を

しなくてはいけない。

 

つまり、こういうこと。

 

「別に」

 

決まったー!

 

この『別に』という回答、内容の薄さNo.1だ。

印象に残らないにちがいない。

 

「何それ~キラキラドキドキしてないじゃん!」

 

「まあまあ」

 

今回は山吹が戸山を大人しくしてくれたから良か

ったが、本当にコイツは面倒くさそうだ。

 

「キラキラドキドキしたいな~」

 

まだ言ってるよこの女。

 

「高校に入って新しい環境になったんだし、新し

いこと始めてみるのも良いんじゃない?」

 

新しい環境になったから新しいことを始める?

そんな必要はない。

 

あくまで環境が変わっただけで、することは変え

なくていいのだ。

 

小学校から中学校、中学校から高校になっただけ

で、やることは勉強だろ?

 

「ほんと!?じゃあ明日から部活見学一緒に

行ってくれる?」

 

新しい事と聞いて部活になることがまずおかしい

だろ。他に新しい事は無いのか?

 

それに、山吹にだってやりたい部活はあるだろう

 

「あー…ごめん。部活は…放課後はうちの手伝い

があるから…」

 

なるほど。パン屋の娘も大変だな。

 

「そっかぁ…」

 

ところで僕は何部かというと、勿論帰宅部だ。

 

なぜなら学生のすべきことは学習であり、決して

部活動ではない。その為、この学校では部活動の

参加は自由だ。

 

そんな強制でないものを、無理にする必要はない

のだ。人生は楽しんだ者勝ちだからな。

 

----------------------

 

キーンコーンカーン…

 

チャイムが学校中に響き渡った。

そう、学校の終わりを告げたのだ。

 

これこそ、本当に地獄から解放される時だ。

 

帰りのHRも終わり、いよいよ学校から出る。

 

後は下駄箱に上履きを入れ、土足に履き替える

だけ。

 

僕は今日一日のストレスを解消する為、少し力を

入れて下駄箱の扉を開けた。

 

すると…

 

「痛っ!」

 

聞き覚えのある声がした。

 

そう。山吹の頭に扉が当たったのだった。

 

よし。早く帰ろう。

僕はその場を去ろうと土足を履き始めた。

 

「ちょっと!吉澤君。無視?」

 

捕まったな。

 

「何が?」

 

僕は気づいているが、まるで知らなかったように

とぼけた顔をした。

 

「頭に扉が当たったんだけど…」

 

座っているときより身長差がある為、かなり下

から目線だ。

 

「知らない。」

 

僕は早く帰ろうとした。

家に帰ったら何をしようか。

 

「知らないじゃなくて…」

山吹が折れる気配はない。

ここは…

 

「君の頭がそこにあったのが悪い。」

 

「え?」

 

「それでは。」

 

僕はすごい速さで逃げ出した。

 

山吹の『えー!ちょっと!』という声も決して

聞こえなかった。うん。

 

 

それから20分ほど経っただろうか。

 

少し寄り道をしてしまい、商店街を通って家に

変えることにした。

 

「今日もコンビニのカレーパンでいっか。」

 

僕はそんな独り言を呟き、商店街を歩く。

 

何だろう。良い匂いがしてきた。

この匂い、どこかで嗅いだような気がする。

 

いつもなら思い出せる僕も、今回は思い出せ

なかった。

 

匂いの元は…

 

どうやらパン屋のようだ。

 

僕は匂いにつられ、パン屋の名前も見ずに店に

入った。

 

「いらっしゃいませ~」

 

エプロンをつけていた綺麗な茶髪の女の人が

振り向いた。

 

「あ…」

「あ…」

 

これが僕と山吹の恋愛小説になりそうもない

出会いだった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます。

前も言いましたが、これはとある方のリクエスト
で作りました。

是非リクエストがあったら、一人につき何作でも
良いので、ガンガン募集しています。

抹茶さんに期待…


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塩パンに恋をして#2

お待たせしました。

二人の関係が少しうごくかも!?


 

 

Δ塩パンに恋をして#2∫☆

 

 

 

「「あ…」」

 

僕が匂いにつられて向かった先、それはパン屋

だった。しかし…

 

“普通のパン屋”ではなかったのだ。

 

「い、いらっしゃいませ~」

 

「……」

 

そう。ここは今日から同級生で、隣の席の山吹の

家のパン屋だ。

 

沈黙がどのくらい続いただろうか。

体感的には3分だが、実際は15秒ほどだろう。

 

僕らはお互いを見たままずっと黙りこんでいた。

 

その沈黙を遮ってくれたのは

 

「沙綾~ 紗南が呼んで…」

 

山吹の母親らしき人だった。

顔はとても似ていて、髪の色もそっくりだ。

 

まあ世間的に見たら美人に属するのだろう。

ということは山吹は将来的に…

 

なんて考えてしまった自分を消し、いつも通りの

僕に戻る。

 

「あら。沙綾と同じ花咲川の制服じゃない。

こんにちは。沙綾、彼はお友達?」

 

「あー。うん。隣の席の吉澤君。」

 

この二人が並んで話しているとDNAのすごさを

実感する。

 

「そうなのね。でも、外部生の子よね。彼はどう

してここに?」

 

「う~ん。分かんない。」

 

「あの…」

 

「「何?」」

 

うわ。ハモった。親子は恐るべし

 

「一言言わせてもらうと友達じゃないです。」

 

「「え?」」

 

もうこの親子はどうなってるんだ。

そんなにハモられても困るのだが。

 

「他人以上友達未満です」

 

「……」

 

「そ、そうよね。さすがに入学初日だもの。まだ

新しい友達がいなくても当然よ。」

 

「う、うん。」

 

「初日から友達作ったバカもいますよ」

 

「「……」」

 

山吹親子の気分を悪くしたのだろうか。

とても苦笑いをしているように見える。

 

僕はそれを気にせず、何となくパンを2個取り、

レジへ渡す。

 

山吹の母が受け取ってくれた。

 

「あ、カレーパンとフランスパンで210円です」

 

金と引き換えにパンをもらう。

山吹は固まっていて動いていない。

 

僕はそのままパン屋を出ようとした。

 

しかし、

 

「ちょっと待って!」

 

さっきまで固まっていた山吹に腕を捕まれた。

普通ならすぐに振りほどくのだが、今回はそうは

いかなかった。

 

理由?聞くな。

 

「これ、あげる。これからよろしくってことで

サービスね♪」

 

山吹はそう言って僕にビニールに入ったパンを

差し出した。

 

「……」

 

「また、来てね?」

 

「……」

 

僕は無言で袋を受け取った。

 

ここで無口になってしまったのは決して照れた

とか、そういうことではない。

 

もう一度いっておく。照れてない!

 

チロリン♪

 

可愛げなベルの音が鳴り、僕は山吹親子を背に、

パン屋を後にした。

 

「やまぶきベーカリーか。」

 

早く家に帰ってパンを食べようとしてたのはここ

だけの話。

 

----------------------

 

~沙綾side~

 

彼がここに来たのは正直言ってかなりびっくり

した。

 

今日は驚いてばかりだ。

 

掲示板で戸山さんと彼に話しかけられた時。

まあ、彼は話しかけられたとは言えないか…

 

そして彼が隣だったことが分かったとき。

 

何より彼がものすごく冷たい人だったことが

分かった時だ。

 

掲示板の時の一言から確かに冷たそうな人だな。

と思ってたけど、想像を上回る冷たさだった。

 

「姉ちゃん、なにボーッとしてんだよ。」

 

そんなことを考えていると、弟の純が話しかけて

きた。

 

「風呂、沸いたってよ」

 

あ、もうそんな時間か。良く見ればお母さんと

お父さんが閉店の準備をしてる。

 

「そっか。ありがと。」

 

「うん。で、なに考えてたんだよ。男か?」

 

「教えな~い♪純は私が高校に入って変な男に

取られないか心配なのかな?」

 

「は?何言ってんだよ。安心しな。誰も姉ちゃん

なんて狙わねーから。」

 

「ふーん。それより純、お風呂一緒に入る?」

 

「ッ!いい加減そういうのやめろよ!///」

 

うーん。吉澤君も純くらい分かりやすい人だった

ら良かったのになー

 

彼、顔も無表情だから何考えてるかさっぱり

わからない。

 

でも何でだろう。何故か彼は憎めないんだよね。

 

「吉澤君だっけ?彼に何渡したの?」

 

今度はお母さんに思考を遮られた。

 

「え?それはひ・み・つ♪」

 

「へ~。なるほどね~頑張れ~」

 

お母さんがニヤリと微笑んだ。

 

「ち、違うからね!お母さん!」

 

----------------------

 

お風呂は落ち着く。

ここなら考え事も遮られないもんね。

 

そういえば彼、あれにどんな反応したのかな?

 

私が渡したあれ、中身は何かというと…

 

“塩パンと紙”

 

なんで塩パンかというと、お父さんが沢山焼いて

余りそうだったから。

 

でも、余り物あげた訳じゃないからね。きちんと

焼きたての余り物をあげたから。

 

紙は、ラブレター

 

ではなく、ただ単に私の連絡先を書いてあるだけ

 

追加してくれたかな?

早くお風呂出て確認しないと!

 

そんな思いを胸に、私は珍しく風呂を早く出た。

 

すぐに自分の部屋に向かい、スマホを開く。

三件の連絡が来ていた。

 

2件は香澄から。1件は吉澤君からだ。

 

メッセージアプリRINEには多くの機能がある。

その中でも、友達を追加したときに真っ先に見る

のはプロフィールだ。

 

私はニックネームはSayaでトプ画は私の手作り

メロンパン。背景は家族の集合写真だ。

 

ステータスメッセージは“高校生活も頑張ろ!”

 

大抵の人がこんな感じだろう。

 

吉澤君はというと…

 

吉澤とあまりにシンプルな名前に、トプ画は

未設定。背景も同じだ。

 

うん。彼らしいな。私はそれを見て思わず

にやけてしまった。

 

香澄はトプ画は流れ星、背景は入学式の写真で

ニックネームは ♪香澄☆ミ だ。これも彼女

らしいな。

 

そうだ。そんなことより早くメッセージを

見ないと。

 

私は香澄に急いで返信をし、恐る恐る吉澤君の

メッセージを開いた。

 

すると…

 

「君は何がしたいの?」

 

彼からはとてもシンプルな言葉が送られていた。

これもスタンプと絵文字つきの香澄とは真逆だ。

 

でも、何がしたいの?とか聞いといて、きちんと

追加してくれてるところが彼らしい。

 

何か憎めないのはこういうところだろう。

 

私は急いで返事を返した。

 

「折角隣になったんだし。」

 

「よろしく!」

 

よろしくはきちんとスタンプだ。

彼はどう返してくるのだろうか。

 

すると既読がすぐについた。

 

「よろしく」

 

嬉しかった。いつも冷たくて人に興味

無さそうな彼が、まさかこんなことを送って

くれるなんて。

 

もしかして、生で話さなければ素直なのかな?

 

しかし、こんなことを考えて浮かれていた自分が

バカだったと思うのはそのメッセージが来てすぐ

のことだった。

 

「はしたくないな。」

 

私は思わず笑ってしまった。

 

期待を裏切らないな。ちょっと寂しいけど…

複雑な気持ち。

 

どんな返事をしようか。

結局迷った末に

 

「素直じゃないなー。」

 

と送った。

 

既読はついたがこのメッセージはスルーされた

 

気づけばもう10時だ。

 

明日は朝に店の手伝いもある。

もう寝なくてはいけない時間だ。

 

最後に

 

「もう寝るね。おやすみ♪」

 

と送り、スマホを閉じようとした。

 

しかし、圧倒的な早さで彼からの返事が来た。

 

「ん」

 

うんの略なのだろうか。

 

そこはせめておやすみって返してほしい所だ。

 

明日学校であったら彼はどんな反応をするの

だろうか。

 

そんな事を考えながら私は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

ピロン♪

 

彼からのメッセージに気づくより早く…

 




いかがでしたか?

ここで距離が縮まったように感じますが、
次回も彼は通常運転です。

恋の予感がしない…


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