ニンジャストーリーズ・オブ・ハイデン・イン・ハーメルン (Rogue 5)
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レイジング・ザ・ストーム・オブ・ヘイトレッド・イン・タイショウエラの章 イービル・ルックド・ザ・レッド・ブラック・ストーム 前

ニンジャスレイヤー外伝サムライニンジャスレイヤーに影響を受け試験的に書いてみました。プロットの構築が進んだら本格的な連載に移行するかもしれません。




「グググググ……イヤーッ!」「アバーッサ、サヨナラ!」ナラク・ニンジャの神話の魔獣の爪めいた鉤手がウブメ・ニンジャの肩甲骨を断ち割り、そのまま心臓をも破壊し爆発四散させた。

 

「ググググ……グハハハハハ!」ナラク・ニンジャは哄笑する。上質な畳、フスマなどの戦の舞台となった屋敷の調度品はカラテの余波で砕かれ穢され、さらに殺されたモータルやニンジャの血がそれらの破片に赤黒い色彩を加えている。そう、ナラク・ニンジャの手にかかったのはニンジャだけではない。モータルも少なからず含まれている。

 

ナラク・ニンジャは平安時代を支配する半神存在たる支配者のニンジャをも殺す超自然の、いわば理不尽の具現化ともいうべき災害。ソガ・ニンジャの四天王を殺し都を滅ぼし、なおも殺戮を続けた彼の後には無数の屍が転がる。その大殺戮は死の化身と槍の英雄により彼の者が滅されるまで続いた。

 

否、まだ終わってなどいない。歴史上幾度なくナラク・ニンジャはニンジャに虐げられたモータルと憑依融合した存在、ニンジャスレイヤーとなり憎悪のカラテを振るった。

 

或る時には妻子を殺された侍が、またある時は娘を殺された父親がニンジャスレイヤーとなり、邪悪なるニンジャへの復讐のカラテを振るい殺してきた。そうして命を憎悪の炎で燃やす彼らの生は一様に短く、されど無数の死に満ちていた。

 

ニンジャによる、そしてニンジャスレイヤーによる憎悪と死の歴史は連綿と続いていく。平安時代から江戸時代へ、明治から大正へ。そしてその先へ―――――

 

 

 

 

 

 

大正エラを迎えた日本の中心地東京。華やかな街では洋風のビルヂングが立ち並び、着飾ったモボ、モガ(モダンボーイ、モダンガールの略称。大変奥ゆかしい)が歩き、紳士淑女が最先端の洗練された洋食を愉しむ。

 

他方路地裏では近年の東京の目覚ましい進歩から取り残された貧しい人々が繁栄に羨望の目を向け、薄汚れた地面をうつむいて歩く。万人が幸せとなれる理想郷の実現はまだ遠く遥か彼方。人間や社会の光と闇を体現したかのような都市、それが大正エラの帝都東京であった。

 

 

 

草木も眠る丑三つ時。東京の片隅の片隅にある邸宅に憎悪に満ちたカラテシャウトが響く。

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

暴風が吹き荒れたかのような様相の室内をゴムまりめいて勢いよく吹き飛ばされるのは黒い影。フスマにめり込みうめき声をあげるのは顔から足元まで人絹で織られた黒装束で覆った男。その有様はまるでニンジャだ。

 

否、まるでではない。この男は実際ニンジャである。黒いニンジャ装束の男は帝都の闇に巣食うある秘密結社の幹部に仕える末端ニンジャであり名をハービンジャーという。

 

「キ、貴様……私を誰だと心得る。この私を、誰だと!」

 

怒り狂うハービンジャーの言葉に応えることなく接近するのは赤黒い装束のニンジャ。抜き打ちのスリケンを目にもとまらぬ速さで躱すと一瞬でハービンジャーの超近距離まで到達し、無慈悲なカラテを叩き込む。

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

邪悪なニンジャであるハービンジャーの手足は具のように捻じ曲げられる。それを成すのは赤黒のニンジャの圧倒的な圧倒的なカラテ。家屋を吹き飛ばす赤黒の暴風めいた圧倒的なカラテだった。

 

「バカナー!イ、イヤーッ!」

 

ハービンジャーの頼みの綱である左腕の仕込み針も意味をなさない。赤黒のニンジャの片手で容易く受け止められ握りつぶされる。ベイビー・サブミッションめいた圧倒的なカラテ実力差が両者にはあった。

 

「アッアイエッ……」「イヤーッ!」「アバーッ!」

 

赤黒のニンジャは無慈悲に腰に吊った軍刀を突き刺し、邪悪ニンジャのはらわたを掻き混ぜた。サツバツ!

 

「アバーッ!アババババーッ!!アバッー!」「レッドダスク=サンの居場所を吐け。ハービンジャー=サン」

 

赤黒のニンジャの言葉はハービンジャーに届かない。彼の脳裏にあるのはニンジャであり、末端とはいえ巨大な闇組織の一員たる自分がこのような理不尽に遭う事に対する疑問。ニンジャである自分がこれまで足蹴にしてきたモータルのように踏みにじられている事に関する疑問で塗りつぶされていた。

 

(バカナ、俺はニンジャなのに、モータルじゃないのに、なぜ今ここでこんな目に遭っている!?仏陀は寝ているのか?そ、そうだ俺のせいじゃない。そこに転がっている役立たず共が……!)

 

ハービンジャーは転がる家主の死体を睨みつける。彼の脳裏に自身や主の行為に対する悔恨はない。その邪悪な行状に対する後悔は。

 

彼がやっていたのは現在の言葉でいえばマネージメント。主の趣向の為に没落した良家の子女を引き取り「仮置場」となる家で見せかけの愛情を注ぎ、そのあと主の元へ出荷する。そうした邪悪行為の管理監督が彼の仕事の一つだった。

 

この仕事は金と手間はかかるがなかなか雅であるとハービンジャーは気に入っていたが順風満帆な毎日にケチが付いたのは三日前、主が特別に楽しみにしていた上物の出荷直前に薄汚い新聞記者に嗅ぎ付けられた時からだ。

 

如何なる手段を使ったのかハービンジャーたちの行状を嗅ぎ付けた男が騒ぎ立てる前にハービンジャーは男を追い詰め始末した。しかし天網恢々疎にして漏らさずというべきか、赤黒装束の死神めいたニンジャがハービンジャーを殺しに来た。

 

「アバーッ!アバババババーッ!!呪われろ、呪われろォー!」「イヤーッ!」「アバーッ!サヨナラ!」

 

己の腹より引き抜かれた軍刀で首を切り落とされハービンジャーの呪われた命は爆発四散した。爆発四散の煙の中、赤黒のニンジャは残身を決める。その手にあるのはハービンジャーから奪いとった彼のものの主、レッドダスクの居場所を含む機密書類。それが何を意味するかは一つ。赤黒のニンジャは次なるニンジャを殺しにゆくのだ。

 

禍禍しい憎悪の炎を置き去りに赤黒のニンジャは走り出す。ガス灯がその姿を照らす間もなく帝都の闇を飛ぶように駆け行く身にまとわりつくのはニンジャに虐げられしモータルの残影。奴らを殺してくれ、私の娘の仇をとってくれと叫ぶ無念と怨念の声。

 

「イヤーッ!」

 

一際強い残影が消えた後、赤黒のニンジャは走り出す。全ては邪悪なるニンジャに因果応報の死を与える為に!

 

 

 

 

 

 

 

「ははははははは。タノシイ、タノシイ」

 

丑三つ時の瀟洒な洋館の中、寒さを増す室外とは対照的な室内で暖かな焔の照り返しを受け男は笑う。ここは一度は没落しながらもここ十年の復権により権勢を保つ中級華族サミダレ家の邸宅。ワイングラスを手に笑い続ける男はサミダレ家の当主のシゲタモ。十年ほど前にサミダレ家の養子に入って以来、優れた手腕で家を建て直した一世一代の傑物である。

 

だがこの家の者達にシゲタモに対する敬意はない。あるのは盲目的なまでの恐れのみ。別室で息をひそめる彼の養父母も、この屋敷で働く使用人たちも皆彼を恐れていた。まるで彼が人間ではなく祟り神であるかのように。

 

その理由は皆さんもシゲタモの面相を見れば理解できるだろう。おお、ナムアミダブツ!スーツに包まれた偉丈夫の顔を覆うのはどこか虚無的な表情の仮面めいた赤い面頬!そう、シゲタモは部下であるハービンジャー同様尋常の人間ではない。太古の世より世界をカラテで私する半神的存在、ニンジャの一人なのだ!

 

「余興は楽しんでくれたかねシオン=サン?」

 

部屋の片隅には鎖で縛りあげられた女性。いや年齢を鑑みれば少女ともいうべきか。大正エラの日本には珍しい明るい色の髪が柔らかな顔立ちと実際マッチした、可憐な花のような美しさを持った少女。そのバストはそこそこに豊満だった。

 

彼女が今宵仮初の家から出荷され、シゲタモの陰惨な殺戮劇に招待された不運なる客。その名をシオンという。

 

「ヒッヒ……ッ」

 

だがその美貌は今この場の悍ましい惨劇によって損なわれていた。ペルシャ製の絨毯のひかれた床には、先程振るわれたシゲタモの無慈悲なカラテにより試し胴めいて断ち切られた女給たちが折り重なる。その姿は無残そのもの。到底尋常な人間になせる業ではないその行為はただシオンの自我を破壊する為の余興として行われた。シゲタモの非人間的なまでの残虐さやカラテはまさしくニンジャの業。ありうべからざる事実がより一層シオンを混乱させる。

 

「ナンデ……ニンジャナンデ……」

 

NRSに襲われ必死に失禁をこらえながらもシオンは言わずにはいられない。ニンジャは神話や伝承の中に存在する超越的存在のはず。神や悪魔のようにこの世には人の心の中にしかいないはず。少なくとも大正を迎えた日本には存在しないはず。なのにナンデ?

 

「ほう、ニンジャナンデとは!所で君は悪魔の不在証明を知っているかね?」

 

対するシゲタモは愉快気だ。シオンの顔をニタニタとのぞき込み質問する。仮面の奥から見える陰惨な目から視線をそらしながらもシオンはうなづく。女学校で聞いた事のある話だったからだ。

 

シゲタモもまたシオンの反応に満足げにうなづいた。ハービンジャーは良い娘を調達した物だ。まっとうな素養がなくてはこうはいくまい。実に……実に嬲りがいのある小娘だ。

 

「よく知ってるいるものだ!そう、悪魔と同じようにニンジャの不在を証明するのは難しいが、ニンジャの存在を証明するには目の前にニンジャを連れてくればよい。おや、君の前にはニンジャがいるね?ニンジャの存在が証明されてしまったぞ!ハハハハハハ!」

 

「アイエエ……」

 

シオンはその邪悪なオーラに震えるのみ。対してシゲタモは気取った仕草でチッチと指を振る。

 

「ああ、怯えているようだが心配はいらないぞシオン=サン!ハービンジャー=サンから色々聞かされているだろうが私はそこまでひどくない。君をファックしたり殺したりはしないさ。やってもらうのは……こういう事だ!」

 

彼が片手で引きずる鎖の先にいるのは見ずぼらしい子供。その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

 

「アーン!アーン!」

 

「君には!この汚らしいガキを!殺してもらう!」

 

「エッ!?」

 

「そう、殺してもらう!私はね、ニュービーのころから好きなんだよこういうのが。君のような知性や品性、善性に満ちた美少女に嫌がることを無理やりやらせ、自我を蹂躙するのが!フゥーッ!」

 

あまりにも目まぐるしく変わる展開にシオンの視界は万華鏡のように回転する。しかし混乱の極みに遭っても明晰なシオンの脳裏にはある凄惨な確信があった。

 

(この男は……このニンジャは私の全てを飴玉みたいに舐め溶かして楽しむつもりなんだ……そしてそれを止める者は誰もいない。私はただ……この男の贄となるだけ)

 

絶望し虚脱した様子で涙を流すシオンにシゲタモは歩み寄る。その目は病んだ欲望に血走り、口からは蒸気のようなと息が漏れる。シオンを戒める鎖をチョップで両断し、無理やりに人ひとりを殺すのに十分な刃物を握らせる。

 

「さあ、殺したまえ!」

 

「アーッ!アーン!」

 

「で、できません……こんな小さい子を殺すなんて私には無理です……」

 

絶望の中シオンはそれでもなおシゲタモの申し出を拒絶する。ニンジャに対して拒絶を貫くその姿勢は持ち前の善性か、それとも己を取り巻く運命に対しての反骨心か。

 

「ハァーッ!ハァーッ!早くしろ!早く刺し殺すんだ!言っておくがそうしないと私は酷いぞ!ハァーッ!知り合いにはニンジャの医者もいるんだ!生きジゴクを見せてやるぞ!」

 

「嫌だーっ!嫌ああー!!」

 

「ウフッウフフフフフッ!いいよねえ誰も助けてくれないのォー!いいよォー!」

 

シゲタモは泣き叫ぶシオンを抑えつけ無理やり子供を刺殺させようとする。おお仏陀よ!薄目を開けて寝ているのか!何という末法的光景!

 

しかしこの光景を止める者は誰もいない!シオンや子供を救う者は誰もいない!この救いのない光景こそが、帝都東京の闇だというのか!

 

「イヤーッ!」「ナニッ!?イヤーッ!」

 

だが広く凝った装飾の窓硝子をたたき割り、一筋の流星めいたスリケンがシゲタモめがけて飛ぶ!興奮のさなかにあったシゲタモは抜き打ちでスリケンを弾くが急激で大ぶりな防御行動の影響で畳五枚分飛びのく!

 

「成程……確かにその娘を救う者は誰もいない。だが」

 

粉砕された窓ガラスからエントリーしたのは赤黒のニンジャ。その赤黒の装束は砲火に晒され引き裂かれたかのように歪な形状。そしてその面頬には決断的な「忍」「殺」の二文字!

 

「貴様を殺す者ならここにいるぞ……シゲタモ、いやレッドダスク=サン。ドーモ、ニンジャスレイヤーです」

 



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イービル・ルックド・ザ・レッド・ブラック・ストーム 後

後編開始。今回はがっつり解像度を上げたカラテをお楽しみください。


邪悪なるニンジャレッドダスクの支配する館の中、二人のニンジャはは対峙する。一方はこの館を支配する陰湿なるサイコパスニンジャ、レッドダスク。もう一方はニンジャ殺しの死神、ニンジャスレイヤー。

 

「ドーモニンジャスレイヤー=サン、レッドダスクです。その様子だとハービンジャーは殺されたようだな。なかなか使える奴だったんだが……カラテも弱かったし仕方ない、か。お前を殺した後の俺の楽しみを捧げて弔いとしよう。イヤーッ!」

 

「イヤーッ!」

 

オジギ終了の直後、二人のニンジャはカラテシャウトを発し切り結ぶ!ニンジャスレイヤーは抜き身の刀のような鋭いチョップを。対するレッドダスクの獲物は禍禍しい小太刀の二刀流。わずかに長さの異なる左右の刀を巧みに扱い、ニンジャスレイヤーの攻撃を巧みにかわす。その動きは予想以上に鋭い。彼はその陰湿極まりない性癖に相反する高いカラテの持ち主であった。

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

手首を返して放たれた返礼の斬撃がニンジャスレイヤーの脇腹を切りさく。さらにレッドダスクはもう一撃。斬撃の勢いを利用して小太刀の柄を握った手を裏拳めいてニンジャスレイヤーに叩きつける。

 

「グワーッ!」「隙アリだ!イヤーッ!」

 

レッドダスクがスナップを効かせて軽く刀を振るとその一部が分離しスリケンとなってニンジャスレイヤーめがけて飛翔する!しかしニンジャスレイヤーもさる者。吹き飛ばされながらもサマーソルトめいた回転蹴りでスリケンをはじき返し、そのままトライアングルリープからのトビゲリでレッドダスクを狙う!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」CRAAAAAAAASH!レッドダスクがガードに使った両腕の小太刀が砕け散る!地に足をつけた両者はそのままチョーチョー・ハッシの近距離戦に移行!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 

おお、ゴウランガ!二者のカラテは空気を切り裂き流れ落ちた水滴すら何重にも刻む超高速!ニンジャ殺しの死神ニンジャスレイヤーとレッドダスクはマイめいて立ち位置を変えカラテ応酬を継続する!右こぶしと右こぶしがぶつかり合う!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 

ニンジャ殺しの死神ニンジャスレイヤーとレッドダスクはマイめいて立ち位置を変えカラテ応酬を継続する!左こぶしと左こぶしがぶつかり合う!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

ウインブルドンよりも激しいカラテラリーを制したのは……ニンジャスレイヤー!渾身の右蹴りがレッドダスクのあばらをへし折り血を吐き出させる!怯むレッドダスクに対してニンジャスレイヤーは断頭チョップでカイシャクを試みた!

 

「イイイヤアーッ!」「イヤーッ!」

 

しかしレッドダスクの動きは予想以上に機敏。ビール瓶を三本並べても容易に切断するチョップに肩口を切り裂かれながらも風車めいた動きでニンジャスレイヤーに蹴りを浴びせる。その一撃は苦し紛れの攻撃に見えたが……?

 

「ッ!?グワーッ!」

 

レッドダスクの蹴りは鋭い残光を残してニンジャスレイヤーを切り裂いた!赤黒い血が飛び散る中ニンジャスレイヤーの目に映るのは鈍く光る刃!

 

な、何という事であろうか!レッドダスクの足側面から生えるのは禍禍しい刃。峰が波打つ禍禍しい刃はニンジャスレイヤーがカラテ止血を試みる間も手足から出る本数を増やしていく!

 

「フーッまさか狂った賊相手にこのジツを使う羽目になるとはな。人の肉を切り裂く手ごたえは心地よいものだが……やはり生娘の精神をいたぶり木偶人形に変える喜びにはかなわぬ。ああ、早く遊びたい!」

 

更なる殺意に目を細めるニンジャスレイヤーに超自然の怨念がささやく。レッドダスクの師は強大なカラテに似合わぬ下卑た性格で知られたヤイバ・ニンジャかその系譜。彼らは刀を飲み込む修行を経て、体から刀を生やし相手を切り刻むジツを得たという。

 

ニューロンの同居者が策を示すよりも早くレッドダスクが突進する。その四肢からは先程と同様の禍禍しい刃がニンジャスレイヤーめがけて伸びる!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 

ニンジャスレイヤーはブレーサーで刃を弾きつつも後退する!その刃の勢いは嵐の如き凄まじさ!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イイイイヤーッ!」「イヤーッ!?」

 

だが後退するニンジャスレイヤーは訝しむ。レッドダスクの四肢から生えるのは先程と同じ小太刀。当然ながらその間合いは四肢による伸長があったとしても刀よりは短い。にもかかわらずその間合いはニンジャスレイヤーのカラテを警戒しているにしてもやけに遠い。まるでニンジャスレイヤーを遠ざけるように。

 

しかしその理由はすぐに分かった。さらに力と速さの乗った大ぶりの一撃を回避した際に体操選手めいて飛びのいたニンジャスレイヤーは気づく。背後にある者に。震えながらも幼子をかばうシオンに。

 

「かかったなニンジャスレイヤー=サン!これまでの反応で貴様がモラリスト気取りの惰弱者という事は把握済みよーっ!イイイイヤアアーーーーーーッ!!」

 

レッドダスクは空中で体をねじり竜巻めいて大回転!空中を乱舞する悍ましき刃の乱舞から放たれるのは……そう、大量のスリケンである!その大げさなまでの攻撃はニンジャスレイヤーにとっては数発の被弾を許容すれば容易に回避できる攻撃であろう。

 

「……!」

 

(((バカ!ウカツ!何たる惰弱な!)))

 

しかしニンジャスレイヤーはニューロンの同居者の罵声をよそにガードを固める。ここで彼が引けばどれほど無残な死が背後の少女にもたらされるか明らかであるからだ。

 

ニンジャスレイヤーは焔を纏いしクロス腕でスリケンを防御する。だがそれは多勢に無勢。一つ二つと確実にスリケンがその身に刺さっていき――――13ものスリケンが刺さった時にニンジャスレイヤーはボロクズのようになって床へ崩れ落ちた。

 

薄れゆく意識の中ニンジャスレイヤーはシオンの悲鳴と、レッドダスクの勝ち誇った笑い声を聞きいた。そして彼の意識は闇へ落ちていった。

 

 

 

 

 

01001010100011111010100ザリザリザリザリ……

 

 

ニンジャスレイヤーは、カザミ・ケンジョウの意識は混濁する。走馬灯・リコールの如き記憶の奔流の中、脳裏に映るのは黒きニンジャ。血で染まったセキハバラの大地に立つは恐るべきバヨネットドーの使い手たる怨敵デスリーパー。二刀を握ったそのシルエットははどこかレッドダスクと重なる。

 

「殺すべし……妻子の仇殺すべし……!」

 

サムライの如き鎧をまとったニンジャスレイヤーは胸に燃える憎悪を基に、刀を握って突き進む。それは彼とは別のニンジャスレイヤーの記憶。二刀流の使い手たるレッドダスクとの戦が引き寄せたのだろうか。そのニンジャスレイヤー、キルジマ・タカユキが戦うのは家族の仇討の為。しかり家族の仇だ。ケンジョウもまたニンジャによって家族を殺された。

 

ケンジョウの二人の妹、アズサとリコ。穏やかで控えめ、活発で陽気という違いはあれど二人ともケンジョウにとって自分の命よりも大切な妹だった。両親亡き後にケンジョウが苦心して愛し育て来た最愛の妹だった。

 

だが二人とも殺された。陸軍に新設された航空隊に配属された日、長年の念願が叶った事への祝いの為に帰宅したケンジョウを迎えたのは、焼け落ちる生家。ニンジャのカラテ。そして折り重なるようにして剣に貫かれ殺されるアズサとリコ。

 

病弱でいつも空を見上げ夢を抱いていたアズサ。いつか兄のように航空機のパイロットになるのだと豪語していたリコ。彼女たちはもういない。ニンジャに殺された。

 

ケンジョウには妹たちを殺したニンジャにどのような理由があったのかは知らぬ。知ろうとも思わない。だが死ねない。妹たちの仇を討つまでは、彼女たちを殺したチルハ・ニンジャを殺すまでは死ねぬ!

 

「殺すべし、ニンジャ……殺すべし」

 

憎悪の嵐がケンジョウの体内に流れ込む。その悪黒のストリームは圧倒的。それはニンジャに殺され無念の内に死んでいった者たちの多さを表している。

 

「ニンジャ殺すべし……ニンジャ、殺すべし!」

 

赤黒の憎悪のストリームの中ケンジョウは、ニンジャスレイヤーは立ち上がる。目の前には邪悪なニンジャがいる。ならばやることは一つだ。カラテによって惨たらしく殺し、無明のジゴクに引きずり込むべし。それだけだ。

 

ニンジャスレイヤーはカラテを構える。どこかシオンと子供を守るように立ちふさがるその姿は鬼神の如き何処か禍禍しく雄々しいものだった。

 

 

 

 

絶望に包まれる中シオンは風を感じた。そう、風だ。幽鬼めいた姿になり果てながらも赤黒のニンジャは立ち上がった。その体からはまるで飛行機のプロペラが巻き起こすそれのようにすさまじき風がき出す!そして装束の表面で燻っていた焔と混ざり合い、凄まじい勢いで吹き出し赤黒の翼めいたエフェクトを形成した!

 

「赤と黒の……翼のニンジャ?」

 

シオンは呟く。翼めいて展開されたニンジャの裁ち布から発せられるのは凄まじいエネルギー、そのカラテは絶大な勢いであった!

 

されど赤黒の焔風がシオン達を傷つけることはない。赤黒のニンジャがそのエネルギーを向けるのは禍き刃のニンジャのみ。

 

(((グググ……ケンジョウよ。足手まといの小童共に意識を割くとは何たる未熟。だがまあ良い、とっととその胡乱な三下をクズ肉にせい!)))

 

(言われなくてもそのつもりだ……奴を、レッドダスクを殺す!)

 

「イヤーッ!!」

 

ニンジャスレイヤーは助走なしに一瞬でトップスピードに到達し駆けた!その速さは飛ぶ鳥が如し!

 

「イ、イヤーッ!」

 

異常事態に怯みつつもレッドダスクが刃のスリケンを仕掛ける!しかしニンジャスレイヤーは防御動作すらしない!レッドダスクのスリケンはその疾風の如き疾走の後に残った残影を割くのみ!瞬く間にニンジャスレイヤーはレッドダスクの眼前にたどり着いた!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

レッドダスクが防御のため掲げた刃を右腕毎カラテ破壊!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

レッドダスクが防御のため掲げた刃を左腕毎カラテ破壊!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

レッドダスクが防御のため掲げた刃を右足毎カラテ破壊!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

レッドダスクが防御のため掲げた刃を左足毎カラテ破壊!

 

両腕両脚の刃を折られたレッドダスクはもはや王手詰。だが邪悪ニンジャにはまだ仕込み武器がある。胸部に内蔵された一対の隠し刃が。

 

「アッアバッ……イ、イヤ」「地獄に落ちろレッドダスク=サン。イイイヤアアアッーーーーーーーー!!!」「アバッー!アバババババーーーーーー!!」

 

だがニンジャスレイヤーはそんな小細工など真っ向から打ち破る!赤黒の焔風を纏った右腕のが鉤爪めいた一撃が刃毎心臓を完膚なきまでに破壊する!

 

「アバーッ!な、なんだお前は、なんなんだ!アバッー!」

 

体内から焔と風を流し込まれ焼かれ割かれ砕かれていくレッドダスクは極限の苦痛の中ニンジャスレイヤーに問う。絶望の中の問いに憎悪に満ちた瞳のニンジャスレイヤーはレッドダスクの恐怖に満ちた目を見つめ答えた。

 

「何故だと?知れたことよ。妹たちの仇チルハ・ニンジャ。あの増上慢を、連なる三下共をすべて殺し首を墓前に供えるそれだけが儂の望みよ!」

 

「エッ……チルハ・ニンジャ=サンを……?」

 

最早文字通りの死に体のレッドダスクは目を見開く。彼の所属する暗黒ニンジャ組織の首魁たるアーチ級リアルニンジャ。神話級ニンジャであるケイト―・ニンジャの最後の弟子の一人である強大なイモータルである彼を殺すと?この男はそういったのか?

 

レッドダスクはその誇大妄想を笑い飛ばそうとする。しかしできなかった。ニンジャスレイヤーはチルハ・ニンジャの殺害を誇大妄想ではなく現実しかねないと彼は感じた。それほどまでにこのニンジャのカラテは、赤黒の焔風は、憎悪は……!

 

「アイエエエエエエエエエエエエエエ!アイエエエエエエエエ!!アイエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」「イヤーッ!」「サヨナラ!」

 

ニンジャスレイヤーの憎悪を感じ取り発狂したレッドダスクは心臓握り潰しによりカイシャクされ爆発四散した。屋敷を飲み込む爆発と共にかけらも残さず、邪悪なニンジャは死んだ。

 

焔が消えそれでもなお強い風が吹く中、ニンジャスレイヤーはたたずむ。その姿はどこまでも孤独。しかしその身に秘めたる憎悪は烈火のごとく。そして彼はカラテシャウトを発し、エントリーした際の窓から出ていった。その姿を見ると共にニンジャリアリティショックの影響でシオンの意識は途切れていく。薄れゆく意識の中、それは幼子のぬくもりか、それともニンジャの焔か。何処か熱を感じながらシオンは意識を失った。

 

 

 

それが、シオンとニンジャスレイヤーの一度目の遭遇であった。かたや赤黒のニンジャ殺しのニンジャ。かたや美しくして平凡なモータルの少女。何の接点もないように見えた二者はしばしば運命づけられたかのように出会う。邪悪なるチルハ・ニンジャを殺す戦いの最中、ニンジャスレイヤーはかつて自分がそうしたように少女に救われる時が来る。

 

しかし彼らの再びの邂逅について語るのは今ではない。いつの日か、帝都東京の闇で繰り広げられるニンジャの戦が再び語られるその日に明かされる時が来るだろう。




今回の話はここまでとなります。すでにチルハ・ニンジャとの最終決戦のプロットは大まかに考えていますが、その途中がまだほとんど未完成なのでそこらへんが出来たら本格的に長編として投下するかもしれません。


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クナイ・ハウンズの章 ファイト・フォー・ア・プレシャス・ホープ 上

第三部から8年後、ある賞金稼ぎニンジャについて書いた話です。
上中下で完結する予定です。


其処は貪婪の都ネオサイタマ。月が砕け散り磁気嵐が消失し、明日世界が滅びるやもしれぬ状態でもなお聖書の貪婪の獣の如き成長を続ける貪婪の都。この悪徳の街ではサラリマンが己の愛社精神を試され、ヤクザはソンケイを磨き、情け容赦ないヤクザや企業戦士達はサイバネで己の身を鎧う。世界の中心の一つである暗黒都市は当然のことながら混沌の都市でもあった。

 

故にネオサイタマの治安は地域にもよるが全体的に悪いと言ってよい。市内の各所にはスラムやヨタモノの根城が築かれ、地域住民の治安リスクとなり続けている。このウナギディストリクトの西部にある廃墟群もまた質の悪いジャンキーやヨタモノで満ち溢れていた。

 

この荒れ果てまともな経済活動の存在しない地域に企業の治安部隊はリスクから近づくことなく、もし無力な子羊がこの廃墟群に迷い込むか引きずり込まれた場合死までも覚悟しなくてはならないだろう。

 

だから一際荒んだ様子の廃墟―――入口に大小のバイオ動物の死体が吊るしてあるに引きずり込まれた時点で震える少女二人の運命は決したといっていい。およそティーンエイジャー程の年頃の身なりの整った少女二人は互いの手を固く握りあいガタガタと震えている。

 

彼女たちに落ち度はなかったといってよい。彼女たちが帰宅しようとしたのはまだ日の暮れる前で道も人通りの多い安定した地区に建設された物だった。にもかかわらず二人は前後ワゴンに強制招待されこの廃墟に連れ込まれた。

 

しかも彼女たちを拉致した相手も最悪である。ゲシュニンであるヨタモノらしき5人はいずれもサイバネや物騒な凶器で武装し、その身には「バカ」や「私は10人埋めました」などの恐ろしいタトゥーを体中に入れている。二人は知らない事であるがヤクザですら匙を投げたモラル最悪のヨタモノ集団「ゴト・ダン」が二人を攫った集団であった。

 

攫われた少女二人(日に焼け活発そうなショートカットの金髪の少女と、長くつややかかな黒髪を持つ知的な顔立ちの少女。彼女らのバストは豊満であった。)はこれまで動乱の時代にも関わらず安定した職についた親の庇護の元平穏に暮らしてきた。しかし今日この日これまでの平穏はちり紙のような薄い膜の上に成り立っていた幻想であると最悪の形で思い知っていたのだ。

 

嗚呼。凶悪犯罪者のセオリーどおりなら彼女たちはヤクザでも者によっては目をそむけたくなるような悲惨な末路を迎える事になるのだろう。だがブッダはいつの間にゲイのサディストからバイのサディストに鞍替えしたのだろうか?彼女ら二人の目の前にさらなる理不尽が現れていたのだ。その理不尽とは―――――

 

「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」

 

「イヤーッ!」「グワーッ!ナ、ナンデ!?ニンジャナンデ!!」!」「イヤーッ!」「アバーッ!」

 

少女たちからは怪物のように思える凶悪なヨタモノ達を一撃で殺していくのはニンジャ。そう恐るべき半神、闇を駆ける戦士であるニンジャである。

 

この場に現れたニンジャは彼女たちが時代小説などのフィクションで見たような黒ずくめの姿はしていない。放浪者めいた色褪せた蒼コートに四肢に黒漆塗りの防具をつけた上、ヨタモノに無慈悲に振り回すのはカタナ。騎士かサムライの如き姿だ。しかし口元につけられたメンポや時折投擲するスリケン。そしてその人外の超絶したカラテは紛れもなくニンジャであった。

 

「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」

 

「ウオオオオーッ!!このタツジン・オノミチ社製アサルトライフルでネギトロになりやがれぇ!!」

 

三次元戦闘の可能なこの廃墟はニンジャにとって格好の狩場。しかし空中回転切りからの着地の隙をついてコンバットドラッグで加速した「ゴト・ダン」首領ヨタモノの手にした高性能アサルトライフルから放たれた銃弾がニンジャを捉えようとする。

 

「チッイヤーッ!」

 

無論ニンジャ反射神経からすればブリッジ動作などで銃弾を躱すのは難しくない。だが角度からすれば背後の少女二人に当たる可能性は低くはない。ニンジャ判断力によって結論を導き出したニンジャは舌打ちすると、刀身の半ばに手を当てたハーフソードめいた構えで銃弾の雨を味く。

 

1発、2発と銃弾が体を擦過し傷を作るがニンジャの頑強さからすれば蚊に刺されたのとそう変わらない程度のダメージである。そのままニンジャはじりじりと首領ヨタモノに接近していき、射程圏内に入った所で無慈悲なカタナを振るう。

 

「イヤーッ!」「アバーッ!アババババババーッ!!」

 

「「アイエエエエエエ!!」」

 

「イヤーッ!」「アバーッ!」

 

首領ヨタモノのサイバネ両腕がケジメされ機械油がスプリンクラーめいて噴き出す。その無残な光景に少女二人は失禁をこらえ悲鳴を上げるが対照的にニンジャは動じない。片手をカタナの柄頭に添え、勢いよく突き出して心臓を貫きカイシャクした。どう、と音を立てて首領ヨタモノの巨体が倒れ伏す。そして薄汚い血が薄汚い床に広がりコーティングしていった。

 

「ゴメンナサイ!」「オミソレ、シマシタ!」

 

首領の死に心折られた残り数名のヨタモノが土下座し許しを請う。それを見てニンジャは歩みを止め、ヨタモノは一瞬安堵の笑みを浮かべるが、

 

「イヤーッ!」「「「アバーッ!」」

 

すぐにその足りない脳みそにスリケンをプラスされた。「ゴト・ダン」のヨタモノだったものが床に転がり仲間と共に薄汚い血や臓物で薄汚い床をコーティングする。なんともサツバツとした光景が繰り広げられていた。

 

「下劣なクズ共が。お前らのしてきたことを知って見逃がすわけないだろうが」

 

ニンジャはヨタモノ達への侮蔑を露にして鼻を鳴らす。そして懐から頑丈そうな端末を取り出した。

 

「モシモシ。全員始末したぞ。なんか証拠品とかいるか?」

 

『耳とか遺品とかそういうのはいらない。証拠の死体映像だけとってきて。ゴア過ぎると見たくなくなるからなるべく内臓とか映さないように』

 

「アイアイ」

 

端末の撮影機能を使用してニンジャはヨタモノ達の死体を撮影していく。その様子を何処か現実感が欠けたまま見る二人の少女はなおも震え続けていた。脳裏にあるのは自分たちがどうなるのかという恐怖。ヨタモノが皆殺しにされた後も依然としてニンジャという特大の恐怖が目の前にある。地雷原を抜けた先には戦車部隊が待ち構えていたような気分に二人は囚われていた。

 

「あー、其処の君たち」

 

「「アイエッ!」」

 

不意にニンジャは二人に話しかけてきた。蒼コートのニンジャの口調は高圧的な物ではなく穏やか。だがそれは彼の全盛を意味しない。ニンジャとはモータルの条理から超越した領域に精神を置く人外の存在であるからだ。

 

「いや…君たちに危害を加えるつもりはないから安心してくれて構わないんだが……。ところでその…非常に図々しい事を言わしてもらうが…君たちの親か親戚にカネモチとかいないかな?なんというかこう、娘の恩人にポンとオキナワで数年遊べるくらいのマネーを出してくれる感じの」

 

少女二人の足かせを破壊し、口に手を当て隠し事を相談するようにして話しかけるニンジャの顔立ちは予想よりも若い。おそらく自分の兄とそう変わらない年齢なのではないだろうかと眼鏡の少女は感じた。それほどニンジャは若かった。

 

「す、スミマセン。そんな親戚はいないんです。スミマセン」

 

「ああいいんだ。ちょっとそういう幸運がないだろうかと思っただけだから。それより企業警察を呼んだ方がいいかな?地域と時間を考えたらヤナマンチになると思うんだが」

 

「ああ…そのできれば企業警察は…親や学校に知られたくないんです……」

 

「分かるよ。そういうの女の子にはキツイから。俺が安全な地域までエスコートしよう」

 

訳知り顔でうなづくニンジャは先程のヨタモノを殺戮していた恐るべき戦士と同一人物とは思えない。恐る恐るの会話ではあったが事実このニンジャは彼女らを盲導犬か忠実な執事めいて安全な地域にエスコートした。そして安全な地域まで送り届けたのだ。

 

そんな騎士道精神にあふれるニンジャに対しておそらく少女二人は育ちが良いのだろう。丁重に礼を言う。

 

「今日は本当にありがとうございました。あなたがいなければ私たちはとても、とてもひどいことになっていましたから」

 

「それは気にしなくていいさ。それよりさっきも言ったけどニンジャの存在を他言しない事。あとは基本的にニンジャを当てにしないことだな。大概のニンジャはああいう奴らの側、そうじゃなくても利益や愉しみがあれば加わる側にいるからな。…まったくああいう奴らはモータルもニンジャも区別なくゴキブリめいて沸いてきやがる。月が砕ける前、8年前までにもっと駆除しとくんだったな」

 

ニンジャは嘆息する。彼は月は歳前からこのようなバウンティハンターめいた仕事をしていたのだろうか?人に歴史ありと言うが、二人は彼がニンジャであること以外は何も知らない。おそらく彼も自分から明かすことはないだろう。

 

しかしそれでもせめて恩人の名前くらいは知っておきたいと日焼けした少女はニンジャに質問した。あなたの名前を聞かしてほしいと。

 

「……どうしてもっていうなら教えよう。ただし恨み買う仕事ではあるから名前をみだりに出すんじゃないぞ。俺のニンジャとしての名前は、ホープシーカーだ」

 

蒼コートの騎士めいたニンジャの名前はホープシーカー。二人はその名前をしっかりと脳裏に刻んだ。恩人の諱として、二人だけの秘密として。

 

「それじゃあ俺は帰るぜ。待っている人がいるんでね―――願わくは二度とヨタモノやニンジャとかかわらない人生を歩むことを祈る」

 

「はい、ありがとうございました!」「オタッシャデ!」

 

二人はホープシーカーに同じタイミングで深くオジギをして帰路へと着く。およそニンジャの存在する闇からはかけ離れた光にあふれた街並みへと。

 

日焼けした金髪の少女と長い黒髪の眼鏡の少女の手が俗に言う恋人つなぎと呼ばれる形でつなげられているのを見たホープシーカーはカタナの出来合いを確認するカタナ鍛冶のような目でその睦まじさを見て取る。そしてうなずき「アーイイ」と満足げに呟いた。

 

 

 

 

ネオサイタマの夜、シンカンダ地区。学生向けの施設が立ち並び比較的治安の安定した地区にホープシーカーの根城はある。彼はこの街の清潔で、それでいて活気のある雰囲気が気に入ってたし、何より食料品や日用品が安く手に入る事が本当に良かった。

 

「クナイ・ハウンズ」に仕事の顛末を報告したうえで買い出しに行った結果帰宅が遅くなってしまった。厄介事に巻き込まれない内に早く自宅に戻るべきなのだがなかなかにうまくいかない。まああの二人を放っておくわけにもいかないし仕方のないだろう。

 

若年層向けのそう古くない4階建てのアパートはブルーのシートで覆われている。ネオサイタマは常と言っていいほど重金属酸性雨が降り注ぐためこうした定期的な建物メンテナンスは不可欠なのだ。

 

「ドーモ。スーパーの方、何か安くなっていましたか?」

 

「卵が安かったですね。ただオーガニック白菜は値上がりしてたんで今度買った方がよいでしょう」

 

隣人と軽く言葉を交わしてエントランスのロックを解除し、自宅へ急ぐ。彼の自宅は102号室。ネオサイタマの治安事情を考えると1階というのはよろしくない。しかしセキュリティにかけるカネを増額しても彼は1階に居を構える理由があった。

 

二重に設置したロックを解除して玄関の戸を開ける。かすかな笹の香りが漂い、殺しでわずかだがささくれだった彼の精神を癒した。

 

「タダイマ」

 

「おかえりなさい――――――今日も無事でした様で何よりです」

 

ホープシーカーを出迎えたのは栗色の髪をした女性。どこか貴族めいた美貌とは対照的に人柄の良さをうかがわせる暖かい表情を浮かべた彼女の目線は高い。それは当然である。彼女は車椅子に乗っているのだから。

 

彼女の名前はセリュウイン・マキ。彼女こそがホープシーカーの最愛の女性であった。

 




次回は遅くとも来週中には投稿します。


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エンバースの章 ゼア・イズ・ア・リグレット、イーブン・ソー・エンバース・イズ・スティル・バーニング 1

『ファイト・フォー・ア・プレシャス・ホープ』はなんかサツバツとかが足りないので当初の予定から大幅に改定する予定となりました。その代りこちらの『ゼア・イズ・ア・リグレット、イーブン・ソー・エンバース・イズ・スティル・バーニング』を先に投下します。こちらもまた全3話の予定です。


月破砕以後も尚成長を続ける極東の大都市、貪婪の都ネオサイタマの遥か西。四千年の歴史を誇る煌びやかなキョ―ト共和国。

 

人類の至宝とも称される歴史と、その長さに伴った壮麗な建築物を幾多も有するこの国は10年前に起きた痛ましいカタストロフを経てなおも観光業を主産業としている。むしろ元老院穏健派の改革によりよりキョートは24時間のカブキ営業などより観光に特化した国としてなおも栄えていた。

 

が、ここ数日は観光客の脚も滞りがちだ。原因はネオサイタマにおける重金属酸性雨のように陰鬱な長く続く雨。数日間降り続く雨は観光客や小場人たちから気力を僅かなりとも奪っているようだ。しかし、これで良いのかもしれない。日照り続きのキョートに久しぶりに続いた雨はこもりすぎた熱気を奪い、僅かづつたまった瘴気を洗い流すのにはもってこいの天気だからだ。

 

「ヤメロー!ヤメロー!」

 

が、続く雨を以てしてもすべての汚れを洗い流すことは出来ないようだ。キョートの首都であるガイオンの路地裏、建造物の高度制限が欠けられていることにより横に折り重なった建造物のアーチに隠れた路地裏では惨劇が起こりつつあった。

 

標的とされたのはまだ若い外国人の観光客カップル。好奇心から隠れ家的バーのような店を探しに来た彼らはすぐに後悔することになった。彼らを待ち受けていたのは魅力的なキョートの隠れた名店ではなく血と欲望に飢えたケダモノめいたヨタモノの群れだった。

 

「アイエエエ!!」「ヤメロー!その子は何も悪くない!俺が悪いんだー!」

「イディオットめ!悪い悪くないの話ではない、我々テツノオニのテリトリーを犯した者には死を以て代償を払ってもらう!そういう決まりだ!」

 

泣き叫ぶカップルを周りのヨタモノ達はニヤニヤと見守る。その下卑た表情は彼らがその惨劇を楽しんでいる事の何よりの証明だ。そして彼らの中心にいるのは……ナ、ナムアミダブツ!緑色の装束に身を包んだニンジャである!ニンジャとはかつてこの世に生きていた闇夜を駆ける半神の如き戦士が人間に憑依する事で生まれる超自然の戦士。

その多くがヤクザやメガコーポに仕えるものの、こんな路地裏のチンピラにもニンジャが混じるとは昨今のニンジャ数の増加は実に深刻なようだ。

 

 

「だが安心しろ!貴様の女は見た所中々にバストが豊満だ!殺さずに俺のネンゴロにしてやろう!ガーハッハッハ!」

 

「ヤメロー!ヤメロー!」「アイエエ!アイエエエ!!」

 

「バカ!」「ウラナリ!」「雑魚!」

 

冒涜的な言葉に泣き叫ぶカップルをヨタモノ達があざ笑う。こうした悲劇は古今東西在りがちな事である。しかし悲劇の当人たちにとってはそれは何の慰めにもならない!ただ軽率であっただけでこれほどの凄惨な代償を払わなくてはならない。これもマッポーの一側面なのか!?

 

カップルの反応に満足したのか首領ニンジャは深くうなづく。そして手を振り上げた。

 

「さてと…そろそろ頃合いだな。この軟弱者を始末せい!」

 

「イヒッ任せてくださいよボス…その代わり一撃で殺せたら後で、その女をお願いしますぜイヒッ!」

 

「いいだろう!煮干しめいた状態になった後だけどな!」

 

 

「イヒーッ!!ありがたき幸せ―!」

 

進み出た焦点の定まらない目をしたヨタモノが斧を振り上げる。被害者の絶望の叫びを無視し彼は重力の力に任せて斧を…振り下ろした!重く粘ついた音を立てて血と体の一部が転がる。

 

「イヒッイッヒヒヒヒ!イ……」

 

「何ッ!?」

 

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一泊遅れてチュンと、軽い音が響く。レンガでできた壁に刺さったのはニンジャの扱う武器の一つであるスリケン。摩擦熱か故か薄い煙を立てるそれが意味する事は……!

 

「イヤーッ!」「「「アバババーッ!!!!」」」

 

さらに天より降り注いだ火炎がヨタモノ達の半分を焼き尽くす!その凄まじい炎は奇妙な事にカップルを巧妙に避け、並みいるヨタモノ達のみを焼き尽くしたのだ!

 

「チィ―ッ!良くも折角集めた部下共を!これでは奴らに喰わせたメン・タイが無駄になったではないか!」

 

「イヤーッ!」

 

距離をとり舌打ちする首領ニンジャの前に現れたのもまたニンジャ。新たなニンジャはやや紫のかかった蒼色の装束に両腕を中心とした体の各部をサイバネ化し、フルメンポには三日月めいたサムライの如き装飾が施されている。その武骨な雰囲気と醸し出すキリングオーラは間違いなく一級のニンジャだ。

 

「ドーモ」

 

乱入ニンジャが先んじてアイサツする。アイサツはニンジャにおいて必要不可欠な儀式である。それをおろそかにするようなシツレイは例え敵対者でも、いや敵対者だからこそあってはならないのある。

 

「エンバースです」

 

カトン使いのニンジャ、エンバースは柔らかにお辞儀をした。一見儀礼的な振舞にはされど、燃え盛る炎とカラテが凝縮されている。

 

 

 

 

【ゼア・イズ・ア・リグレット、イーブン・ソー・エンバース・イズ・スティル・バーニング】

 

 

 

ニンジャのイクサは無慈悲である。ただのコンマ1秒の判断があっけないほどに生死を分ける。だがこの場のイクサはそうなりはしなかった。

 

「イヤーッ!」グワーッ!」「イヤーッ!」グワーッ!」「イヤーッ!」グワーッ!」「イヤーッ!」グワーッ!」「イイイイイヤアーッ!!!」「アバーッ!サ、サヨナラ!」

 

イクサはエンバースの圧勝。ラッシュのとどめに放たれたエンバースの赤熱カトンチョップが首領ニンジャの肩甲骨から袈裟懸けに身を断ち切り、爆発四散せしめた。如何にニンジャとはいえ所詮はモータル相手に粋がるのみが能の弱敵。幾多のイクサを生き残ってきたエンバースの敵ではない。

 

「フーッ……」

 

ザンシンするエンバースの周囲には放火されたツキジめいた惨状が広がっている。彼の無慈悲なカラテによって殺戮されたヨタモノ達は無残な躯となりある者は焼け焦げ、またある者はネギトロめいた有様になっている。インガオホーではあるが実に容赦ない。最もニンジャの殺戮とは遥か昔よりこういう物であるが。

 

「「アイエエエ……」」「表街道でケビーシガードに保護を求めろ。そしてもう裏道には近づくな」「「アッハイ」」

 

凄惨なニンジャのカラテを目撃したカップルは急性NRS(ニンジャリアリティショック)により茫然自失としている。朦朧となった意識はエンバースの助言をあっさりと受け入れふらふらと催眠術にかかったように歩いていった。キョートとって観光客は全てVIPだ。手厚い保護を受けて家族の基に変える事が出来るだろう。家族の元に、心身共に無事で。

 

「………」

 

カップルの去っていく様を何処か哀しみを秘めた目でエンバースは見守る。だがそれもわずか数秒の事。すぐに彼は踵を返しアビ・インフェルノめいた死体たちの見分を始めた。そして何体かの死体からバッチのような物を取り出すと舌打ちし、端末からIRCコールを行った。

 

『モシモシ。手早く用件をいえ』「先程観光客を襲っていたヨタモノ共を殺したが、例のバッチを持っていた。こいつらもテツノオニだ」『チッその様子だと皆殺しか。お前の腕なら生け捕りも容易いだろうに』「そうすると観光客が危険だった」

「それもそうか。後五分でそちらに行くから少し待っていろ」

 

……七分後!エンバースはケビーシ・ガードめいた現場検証に立ち会っていた。勤勉に動く背広や作業着姿の職員たちをまとめ上げているのは特徴的な白いスーツで身を包んだ目つきの鋭い男。ただしその顔には強化セラミックのメンポが装着されている。彼もまたエンバースと同様にニンジャなのだ。名をホワイトリングという。

 

ホワイトリングはキョート治安局に仕えるニンジャであり、外資系暗黒メガコーポ及び犯罪組織に対する捜査から犯罪ゲシュニンの討伐までを幅広く担当しているエージェントである。過去の一部過激派の暴走からニンジャを公職に登用することを避けがちな現在のキョートでは珍しい存在であり、若いながらも有能なエージェントとして現在頭角をあらわしつつある。フリーランスとして活動しているエンバースにとっては貴重なまっとうな仕事を回す雇い主だ。

 

「……やはりバッチの材質や構造を見るにテツノオニの連中のようだな。キョートを汚すファック野郎どもが。そんなにツッコミが好きなら奴らのケツの穴に焼けた鉄棒をつっこんでやる」「全くだな。品のない、下衆共だ」

 

だがアッパーガイオン育ちのエリートとは思えぬほどに彼は口が悪い。尤も今回の口の悪さは敵に対する強い怒りによるもの。テツノオニというクズ共の手口の下劣さにはエンバースも同意見だった。

 

テツノオニと呼ばれるヨタモノ集団は近年急速に最近キョートのアッパーガイオンを含む市街にはびこりつつある。彼らは電脳麻薬密売などの闇ビジネスを行っているが中でも非道なのが人身売買事業だ。そうした行為を行う組織はキョートに他にもいないわけでもないが彼らの事業はアッパーガイオンでも良家の子女や観光客をも標的にする事で常軌を逸している。

 

更にはテツノオニは複数のニンジャを擁し制裁に入った地元ヤクザやケビーシガードにまで被害を出した。この段になってキョート治安局は最優先捜査対象としてテツノオニを指定。ホワイトリングやエンバースのような信頼できる雇われが日夜暗闘を繰り広げている。

 

「これでN案件だけで三件目。しかも奴らそれなりに武装が整っていると来ている。そうすると……」

 

「言われなくても分かってるよ。奴らはメガコーポの紐付き。大方コウ・タイ・シュメイ社の根暗サイコパス野郎どもだろうがよ」

 

ホワイトリングは検死の済んだ死体を蹴飛ばす。死体となったヨタモノの身に着けているのは焼け焦げてはいるが軍用のタクティカルベスト。最新式ではないが製品の高い信頼性で知られるロシアの暗黒メガコーポ、スダチカワフ社の製品だ。明らかにそこらのヨタモノがそうそう着ている代物ではない。

 

ホワイトリングの言葉はただの言いがかりではない。以前にも海運系メガコーポであるコウ・タイ・シュメイ社は良家の子女を含む多数の人身売買をキョートで行った疑いがあり、強制捜査が行われたことがある。さらにその時の被害者は買い先のボロブドゥールにキョート外務省が多額の金を払い何とか取り戻したがそのクソッタレな結末には多くの人間が腹を煮やした。

 

「以前の事件を主導していたロングゲイトっていう下衆成金はヨグヤカルタでくたばったらしいがどうせ同類の糞どもがまだウジャウジャいやがる。そいつらもさっさと首を切らねえと市民の皆さまが安心できねえ」「ああ」「ハッさすがは元キョートの守護者様だ。頼もしい返事だよ。……すまねえ。少し言い過ぎた」「べつにいい。本当の事だ」

 

気が立っているとはいえ自身の失言に気づいたホワイトリングは気まずそうに目を伏せる。だがエンバースは平然としていた。そのような言葉で傷つくような心は彼にはもうない。夥しいほどの回数行った自己嫌悪が何も感じさせなかった。

 

「それより問題はテツノオニだ。急速に規模を拡大しているようだがそのぶんおそらく不安定な組織だ。バックからの支援が途絶えれば殲滅は容易だろう」「ああ。こっちもケビーシと連携して根拠地の特定を急いでいる。もし奴らの巣穴が判明したら……皆殺しだ」「その時の報酬は多めに頼む。あとは…今日の2件の分も」

 

プシュッと気の抜けた音がたつ。エンバースの身体に組み込まれたサイバネは彼のカトンを十全に生かす為の特注品だが、長時間の戦闘後も100パーセントの性能を発揮する為には冷却時間を要するのだ。この地での戦闘の前にもハックアンドスラッシュ集団を殺したエンバースのサイバネは冷却に入っていた。

 

「分かった。いつもの口座に振り込んでおこう」「それでは、オタッシャデー」「オタッシャデー」

 

エンバースは予備動作なしの跳躍で屋根に飛び乗り、キョートアッパーガイオン特有の高くない建築物をパルクールめいて飛び移りあっという間に去っていく。その動きの機敏さから見ても並のニンジャではないのは明らかだ。エンバースの挙動に見とれていた部下がホワイトリングに話しかける。

 

「あれがエンバース=サンですか。腕利きとは聞きましたが…実際強そうですね」「ああ、奴はウチの使う雇われの中でもトップの腕利きだ。俺の知ってるだけで7人はニンジャをやってる。だがな……」「ですが?」

「アイツの経歴に問題があってな。それさえなければ正式な職員として迎え入れていいんだが――――まあいい。俺は2課の奴らと情報交換してくる。お前たちも検証が済んだら引き上げろ」

 

敬礼する部下を残してホワイトリングは歩き出す。彼の手には黒漆塗りのタブレットめいた情報端末。治安局の指揮官級人員のみに支給される端末は様々な人間のプロフィール個人情報を閲覧できる、犯罪者が高級オーガニックトロよりも欲しがる代物だ。その中にはキョート市民であるエンバースの情報も載っている。

 

『ニンジャネームエンバース。本名サゴ・ブンゴ。カトン・ジツを操るニンジャであり過去の負傷から両腕を始めとする各所がサイバネ化されいる。過去の任務達成率は高く――――』

 

そんな事がつらつらと書かれた液晶画面をスクロールしていく。こんな内容はどうでもいい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『特筆事項1:エンバースはかつてキョートアッパーガイオンに甚大な被害を与えたキョート・ヘル・オン・アース事件を引き起こしたザイバツ・シャドーギルドのニンジャである。特筆事項2:エンバースにはモータル時代から養育していた娘がいたがキョート・ヘル・オン・アース事件で死亡している』

 

以前より知っていた情報を見返しホワイトリングは眉根を寄せた。世の中にはクソッタレな偶然もあるものだ。

 

 




次回の投下は明日には行う予定です。もし駄目な場合はゴメンナサイ。


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ゼア・イズ・ア・リグレット、イーブン・ソー・エンバース・イズ・スティル・バーニング 2

サイバネティクス…ヤクザ…人情…そしてニンジャ。全てが一体となった『スズメバチの黄色』は遥かに良い……


「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!ナ、ナンデ!?ナンデ俺が殺されなきゃいけない!?ナンデ!!?」「イヤーッ!」「アバーッ!サヨナラ!」

 

ボロ雑巾のようになるまで殴られたニンジャが爆発四散した。死んだニンジャは実力と品性の双方において下等なヨゴレニンジャであるが、此度のイクサは惨いまでに一方的な圧勝。されど殺した側のニンジャも満身創痍だ。青色の装束は血に汚れ切り、モータルであれば痛みのみで数度は死ぬほどの重傷を負っていたのだ。

 

「ARRRRRRRRRRRRRGH!!殺す…全て殺していやる!」

 

だが手負いのニンジャは、エンバースはハンターの包囲に陥り狂乱するライオンめいて叫び荒れ狂う。捨て鉢な憎悪が彼の心身を覆いつくし憎悪の獣めいた状態に堕としていた。

 

「そこかああああああああああああ!!」「アイエッ!?狂人か!」「イヤーッ!」「アバババババーッ!」

 

荒れ狂うエンバースは女と血濡れの宝飾品を抱えて逃げる汚れニンジャを発見。スプリントで近寄り敵がカラテを構える前にカトンチョップで貫き、残忍なローマ剣闘士めいて天に掲げる!インガオホー!

 

「イヤーッ!」「アババババババーッ!!サヨナラーッ!」

 

貫かれたニンジャは追い打ちのカトンに身を焼かれ絶命した。タツジンめいた一瞬の早業であるがエンバースはその戦果に満足しない。即座に身をひるがえし次の獲物を求める。そして邪悪な色付きの風と化して廃墟のようになったアッパーガイオンを駆けて行った。

 

10年前キョートの表層にあるガイオン地域をマッポーカリプスめいた惨禍が襲った。当時キョートを裏から支配していたニンジャ組織ザイバツ・シャドーギルドは世界支配の為の最終計画を発動、本拠地であるキョート場を浮上させ大虐殺を行ったのだ。さらに泣きっ面に蜂とはこの事か、ザイバツと呼応するかのように発生した謎のニンジャによる殺戮と大暴動でキョートガイオン全域が大被害を被り、かつてないほどの被害者を出した。その中にはエンバースことサゴの娘も含まれている。

 

そして恥ずすべきことに当時のサゴはザイバツ・シャドーギルトのアデプトニンジャだった。かつての彼の組織への忠勤がシャドーギルド首領の謎めいたジツの影響か、まだ若かった彼自身の意思かはそれは今となっては分からない。だが一つ彼自身にとって確かな事がある。

 

自分は愛する娘の、彼女と同じように誰かに愛されて育った人々の死に加担した最低の男であることだ。

 

【ゼア・イズ・ア・リグレット、イーブン・ソー・エンバース・イズ・スティル・バーニング 2】

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

休日のキョート西部の公園。カチグミファミリー向けにカジュアルながら高品質の遊具や休憩施設の供えられたそこは市民たち憩いの場となっており、平日である今日も家族連れでにぎわっている。遊具では子供達が遊び、若い夫婦が穏やかな顔でそのほほえましい姿を見守る。実に平和な光景だ。

 

だが公園の片隅で悲鳴が聞こえた。有名な芸術家のデザインしたという幾何学的な形状のジャングルジムに上っていた子供が足を滑らせ、頭から落ちようとしたのだ。遠くから見ていたその子の両親は慌てて駆け寄ろうとするが間に合わない。子供はそのまま頭から地面に――――とはならなかった。素早く駆け付けた壮年の男が子供を受け止め、そのまま優しく地面におろしたのだ。

 

「アーン!アーン!」「アリガトゴザイアマス!本当に何とお礼を言ったらいいか…!」「いえ、お礼はいりません困った時はお互い様です」

 

何度も頭を下げる父親に対し子供を救った男は何事もないようにそう言った。そして子供の持っていた人形を拾い上げる。

 

「ほら、これは君の人形だろう」「モチヤッコだ!」

 

人形を渡してもらった子供は瞬時に泣き止み人形に頬擦りする。よほどその人形を気に入っているようだ。

 

「その人形、好きなのかい?」「うん!お父さんに買ってもらったの!僕の宝物だよ!」「そうか、なら大切にするといい」

 

穏やかな目の男はそう言って去ろうとする。モチヤッコ。確か彼の娘もそんな人形を持っていたはずだ。もういない、彼の娘が。

 

「それでは失礼します。仕事があるので」「「アリガトゴザイマシタ!」」

 

両親の声をよそに男は、サゴは去っていく。仕事というのは本当だ。この公園の付近でもテツノオニらしきヨタモノの目撃情報があった為彼は念の為に警戒に来たのだ。だがヨタモノは影も形もない。あの若い家族には幸いな事に空振りのようだ。

 

この公園が平和であるのは悪い事ではない。しかしサゴの目には焦燥がある。原因はここ一週間の奴らの犯行だ。昨日起きた事件と言いこれまでにないほどのペースで奴らは犯行を行っている。そのエスカレートぶりは治安局に追い詰められている事による焦りもあるのだろうが、次の商売が近い事もあるのだろう。早く解決せねば二度とキョートの地を踏めぬ者達が続出することになりそうだ。

 

「………」

 

サゴの目には焦燥の色が強い。速く奴らを殺すか捕らえねば。されど捜査はなかなかに核心まで進まぬ。実に難儀な事だった。

 

だがサゴの端末はこの時鳴った。それは運命へのいざないか。

 

「モシモシ」『このクズが!イヤーッ「アバーッ!」サゴか?理由は道すがら話す。ASAPで今から言う場所を襲撃してくれ!』

 

ホワイトリングの怒声にサゴ、エンバースは表情を戦士のそれへと変える。彼のカラテを振るう時がいよいよやってきたようだ。

 

 

 

夜を迎えたキョート、絢爛な観光施設や文化財が並び治安が高水準に保たれているガイオンにおいても治安の悪い要注意の地区はいくつか存在する。その一つが西部の港湾エリアからほど近いマリアシ地区である。付近を領有していたキョート貴族の没落により一挙に寂れたマリアシ地区にはヨタモノがはびこり、善良なるキョート市民は決して近寄らない。

 

あえて近づく者がいるとすればそれは違法ビジネスの加担者か、あるいは犯罪捜査に携わる者くらいであろう。そんな人通りの少ない状況故か入り口近くの塔に見張りめいて立つモヒカンの顔は弛緩している。

 

「アバーッ!」「へへ、ポイントゲット」

 

浮浪者を遊び半分に撃ち殺したモヒカンはくちゃくちゃとガムをかむ。特にケビーシなどが来るわけでもなく見張りは退屈だった。もっとも建物の中に入ってもやることがそうあるわけではない。キョートの各地から攫ってきた娘たちに卑猥な言葉を投げかけるのは楽しい。だがファックは厳禁だ。女たちに手をだそうとしたコロジはニンジャ――――『取引先』の恐ろしく強いニンジャになぶり殺しにされ、オブジェめいて手足を床に揃えられた。。

 

「BRRR……」

 

あの時の時のことはモヒカンからしても恐ろしい出来事だった。だがニンジャは商品に手を付けないならば、高圧的ではあるが金払いは良い。彼の払った金で何度もゲイシャを抱いてきたモヒカンはそれを知っている。しかも今日運び出す予定の商品は上物ばかり。払われる金を想像すると頬が自然に緩んだ。

 

CABOOOOOM!!「アイエッ!?」

 

現代のキョート市街では珍しい爆発が遠方の市街地で起こった。唐突に起きた爆発にモヒカンは顔をしかめるが、すぐに距離の遠さと爆発したのがカネモチの多いアッパーガイオンであることに思い至り、再度頬を緩ませる。

 

「へっカネモチ共が燃えるのはいい気味だぜ」

 

モヒカンは薬物入り煙草を取り出す。これをやりながら運転や銃撃を行うのが大好きなのだ。まだ長く新鮮な一本に火をつける為ライターを取り出し、点火する前に煙草に火が付いた。

 

「おっ」

 

親切な誰かがつけてくれたのか。そう思い礼を言おうとしたモヒカンの頭はそのまま溶断されたかのような焦げた切断面を見せて崩れ落ちた。その背後にはニンジャソードを構えたエンバース。周囲に敵影がない事を悟ると滑るようにシャウトもなく塔から飛び移りテツノオニのアジトへ潜入していく

 

「………」

 

急場での潜入とはいえザイバツでの訓練と長年のイクサで培った彼の能力は一級品。音もなく裏口から入り込み構造から推察される建物の中心部へと向かっていく。

 

「アバーッ!」「アバーッ!」

 

彼にとって薬物で弛緩したヨタモノなど何の障害にもならない。すれ違いざまに切り殺して再び闇から闇へと駆けていく。だがその動きと技は普段よりもわずかに荒い。

 

理由はホワイトリングからもたらされた情報だ。彼らは以前よりテツノオニに対する内通者を疑い内定調査を進めていた。その結果今日になってケビーシ・ガード内の内通者が判明し、内通者に対して迅速に制圧・拷問を行った。痛めつけられた内通者により彼らのアジトのいくつかが判明した。今エンバースが強襲しているのはそのうちの一つだ。

 

本来は装備や手数を整えるべき強襲作戦をエンバース単独で行った事には理由がある。副次的な情報により攫われた女性達の買い手が来るのは今日の深夜との事。高速輸送船で乗り付けてくるという彼らの手に渡ってしまったならばもう彼女たちは戻らない。エンバースの娘のように、家族の元へは帰れない。

 

「アバーッ!」

 

2階の各フロアを制圧し音もなく背後から忍び寄り殺す。幸いな事にメインホールへのドアは何があったのかもうない。蛇めいた低姿勢で忍び寄り通り抜け、木箱の裏に潜むと手鏡で1階の吹き抜けを見る。

 

適当にゴザを引いた地面には何人かのまだ若い娘達が縛り上げられて転がされている。肩を震わせなく彼女達を見て笑うのは椅子に座った上役らしきヨタモノ2人。少し離れた所にはショットガンとマシンガンを構えた護衛が4人立っている。

 

モータル6人など一瞬で倒せる。されど娘たちに流れ弾を当てない為には少しばかり注意が必要だ。脆弱なモータルの肉体に被害を与えず速やかに制圧する。やれるか。

 

上役ヨタモノの一人が娘たちを言葉でいたぶる為か近づいた。位置がいい。

 

「イヤーッ!」

 

接近戦。切って殴って全員殺す。飛び降りると同時に上役ヨタモノを後ろから拘束し片腕の力で首をへし折る。ほぼ同じタイミングでもう片方の腕に握ったニンジャソードでもう一人の上役ヨタモノの脳天を刺した。

 

「「アバーッ!」」「エッ……」「イヤーッ!イヤーッ!」「「アバーッ!」」

 

上役ヨタモノを立てにした状態でスリケンを投げて二人を殺す。これ以上は肉の盾は無用だ。サイバネ改造による反応速度と火力で対応される前に盾を突き飛ばし射線をふさぐ。

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

立て続けに叩き込まれたパンチでサイバネヨタモノが体をくの字に折る。サイバネ化された男を殺すにはこれだけでは不要。だが無防備な頭が目の前に来ている。

 

「イヤーッ!」「アバーッ!」

 

エンバースの肘がヨタモノの頭を陥没させ即死させる。残り1。

 

「テメッ……」「イヤーッ!」「アバーッ!」

 

向き直る最後の一人にニンジャソードを投擲。断頭チャクラムめいた回転で飛翔するニンジャソードはそのまま住所う撃しようとするヨタモノの首をはね、薄汚い血が間欠泉のように噴き出した。残数0。

 

「アイエエエ!」「アイエエエエ!ゴメンナサイ!本当にゴメンナサイ!」

 

一瞬で行われた決断的殺戮に数拍遅れて女性達はさらに泣き叫ぶ。彼女たちにとってヨタモノ達はおよそ人間性という物のない怪物であり、彼らを瞬殺するエンバースはニンジャという人知を超えたさらなる化け物だ。抱く感情は恐怖しかない。

 

「アイエエエエ!アイエエエエ!!」「静かに。俺はキョート治安局の使いだ」「エッ」

 

エンバースは手早く拘束を切っていく。ヨタモノ達の人間性を暗示したかのような雑な拘束により女性達の手首足首には鬱血や切り傷がある。その有様にエンバースは顔をしかめた。クズ共め。

 

「じきに後続が来るから安心するんだ。……立てるか?」「アッハイ」

 

エンバースは一番若い娘を助け起こした。疲弊しているが重傷はない。何とか立ち上がる彼女を支えるエンバースは一瞬何か懐かしいような感覚を覚える。だがそれが何なのか自覚する前に彼は背後に向き直った!増援のニンジャだ!

 

「イヤーッ!」

 

回転ジャンプでエントリーしてきたのは灰色装束のニンジャ。中肉中背のとりたてて特徴のないニンジャであるが、そのアトモスフィアからしてこれまで倒してきたテツノオニのニンジャとは格が違う。あからさまなまでに強力なニンジャであった。

 

「ドーモ。フォルネウスです。弱小国家の弱卒にこうも趣味と実益を兼ね備えたビジネスを邪魔されるとはな」

「ドーモフォルネウス=サン。エンバースです。貴様が元締めか」「左様、と言ったらどうするね?」「無論殺す」

 

エンバースの胸には怒りがある。その激烈な怒りは彼の背に裂帛のカラテを立ち昇らせた!

 

「その様子…言葉は不要といったところか。ならば」

 

フォルネウスもカラテを構える。カタめいて動くなめらかに動く手はそのカラテ段位を雄弁に語る。二人はにらみ合い互いへ向かって突進した。

 

「「死ね」」

 

タツジンのカラテが薄暗い建物の中ぶつかり合う。これこそが真のニンジャのイクサである。

 




次回も可能なら明日更新する予定です。


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ゼア・イズ・ア・リグレット、イーブン・ソー・エンバース・イズ・スティル・バーニング 3

これまでのあらすじ:かつてザイバツニンジャであったエンバースは娘を失った後悔を抱えたまま戦いを続けていた。そんな彼の基に人身売買を行うヨタモノ集団「テツノオニ」のアジト強襲任務が下される。敵を排除しアジトの奥深くに潜入したエンバース。彼の基に現れたのは暗黒メガコーポの精鋭ニンジャ、フォルネウスだった…!


【ゼア・イズ・ア・リグレット、イーブン・ソー・エンバース・イズ・スティル・バーニング 3】

 

 

フォルネウスは子供のころから人の自由を奪う事が好きだった。人間の心身の自由を奪いこちらの一挙手一投足を怯えながらうかがう、そんな人形めいた状況に人を追いやるのが好きでいろいろと試行錯誤して遊んでいた。そんな彼は幸運なことにメガコーポ幹部の子弟であり、彼には絶えず女の子たちが寄ってきたが、彼女達とデートするよりも、捕らえた子達で遊ぶのが好きで面倒な事態に巻き込まれたこともある。

 

そんなフォルネウスの悪癖はニンジャになって加速した。しかしそれがどうしたというのだ。彼は才覚にあふれた強靭なニンジャであり、親譲りの地位から引きずり降ろされる事なく高い地位を誇る。そして何より……そんな彼をブッダもジーザスも寝込んだこの世の中で誰が自分を止められよう?

 

が、世の中には物好きなニンジャもいた者だ。エンバースというニンジャはなかなかにやる。

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!しつこいぞおっさん…!」「若造が…!」

 

移動しながら続く二忍のカラテラリーは苛烈だ!エンバースのカラテは力強くフォルネウスの俊敏なカラテに撃ち返してくる。フォルネウスがスイトンを使うのに対してあちらはカトン。相性の利はこちらにあるはずだがサイバネ機構を利用したカラテは相性差をものともせずこちらにガードすら難しい痛打を与えてくる。そしてなにより

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

フォルネウスの至近距離から放つウォーターカッターめいた鋭利なスイトンをブリッジで躱したエンバースはそのまま半月のような円弧を描くサマーソルトキック!フォルネウスの顎をかちあげた!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 

追撃に放たれたスリケンを巧みな空中動体で躱し着地する。機敏にカラテを構えなおすフォルネウスはメンポにひびが入っているのを見て舌打ちして放り捨てた。どうせこれから無用になるものだ。

 

「ハハ…強いなアンタ。良かったら俺のボディガードにならないか?報酬は弾むし、なんなら商品を特別価格で卸してやってもいい。どうだ、いい条件と思わないか?」「報酬がお前の首なら考えてやる」「年甲斐もなくイキっちゃってまあ」

 

フォルネウスはエンバースをあざ笑い、上半身のニンジャ装束を緩める。その如何にも余裕気なアトモスフィアにエンバースは違和感を覚える。彼の巧妙な立ち回りによって攫われた娘たちが人質にされるような位置には二人は立っていない。先程確認した所では彼女達の身には毒や爆薬などもなく、遮蔽物の裏に隠れた彼女たちはエンバースの足手まといとならない。ならば何故?

 

「自分語りしちゃうとさ…俺、性癖もだけどニンジャとしても普通じゃないんだよ。ちょっと前に親切な人が便利な物くれちゃってさあ…!」

 

いったい如何なるジツの効力か、自己陶酔的な言葉と共にフォルネウスのシルエットは異形へと変わっていく!その姿はまるで……、ナ、ナムアミダブツ!異形のニンジャを前にエンバースは目を見開く!

 

「ありがとうサツガイ=サン…持ってる俺にさらに良い物をくれて!やっぱこれ最高ダヨ……!アハハハハハハハハハハハ!」

 

彼のニンジャネームにあるフォルネウスとはかつてソロモン王の召喚した72柱の魔神の一つからとられている。しかし彼が変身した姿の悍ましさはそのソロモン王ですら眉を顰め視線を逸らすだろう!心臓の弱い方は注意して次のセンテンスを読んでいただきたい!

 

灰色の装束と一体化した四肢の肉はパテを無理やり盛ったかのようにカイジュウめいた太さとなり胸板も汚染物質含有の鋼鈑めいた不健全なボリュームを備える。そしてクトゥルフめいた名状しがたい形状に変形した顔には4つの邪眼が禍禍しくきらめく。そしてその背中では退化した翼と鱗に覆われた尾が伸びる。なんという悍ましさか!

 

「これはアクマ・ニンジャクランの……!馬鹿な、スイトンとは全く系統の違う力のはず!」

 

「ハハハハアアアアハアハハハハ!!ダメダヨオジサン。イマノヨノナカニジュンオウシナキャ!アハハハハ!!ターノシー!!!」

 

エンバースは知らない。かつてキョートで起きたある事件がきっかけとなり、ニンジャにランダムにジツを授ける超存在サツガイがこの世界に降り立ったことを。サツガイがフォルネウスにジツを授けていたことを。それは当然の事であるが今このイクサにおいては致命的。ニンジャのイクサは誠に無慈悲なのだ。

 

「イイイイイ……」

 

カラテを構えるエンバースに対してフォルネウスは両腕を伸ばし、それぞれ一本ずつが成人男性の腕ほどもある五指を向ける。不可解な事にすべての指には空洞が開いていた。

 

「ヤアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

指の穴からウォーターカッターめいたスイトンが噴き出す。両腕から合計十本放たれたスイトンは恐るべき速度でエンバースに迫り必死の回避運動にも拘らずその身を捉えた!

 

「グワーッ!」「ハハハハハハハ!ヘアハハハハハハハ!!」

 

サツガイの力を得たフォルネウスのヒサツ・ワザはアクマ・ニンジャクランの強靭な異形を利用したスイトンの同時射撃だ。カラテを込めて高速で射出される10本のスイトンはニンジャであっても目視すら難しい。実に強力なヒサツ・ワザだ!

 

「ムオッハハハハハハ!!イイイイイ……」「チィ―ッ!」「ヤアアアアアアアアアア!」「グワーッ!」

 

得意絶頂のフォルネウスが二射目を準備する。その動きにエンバースはなすすべもない。形勢は完全に逆転していた。

 

 

 

 

「アイエエエエ……」

 

囚われた娘たちは絶望のままにニンジャのイクサの結末を見る。嵐が吹き荒れた後のような有様のこのホールで立つニンジャはただ一人。見るだけで精神を侵食されそうなほどの異形にヘンゲしたフォルネウスのみだ。

 

「アハハハハハゴメンネオレ、ツヨスギテアハハハハハハハ!!」

 

哄笑するフォルネウスの視線の先ではスイトンの直撃を受け壁に叩きつけられたエンバースが崩れ落ちる。もはや傷だらけの彼はこれ以上の継戦が不可能に思える。かつてキョートがカタストロフに包まれた日、彼の娘が死んだ日以来の傷を負っていた。

 

(…………これが、俺の死にざまか)

 

死を迎えようとしているにもかかわらずエンバースの心には無しかない。あの日のような激情もなくただ自分は死ぬのだという認識のみがある。彼の心は燃え尽きた灰山のように静かだった。

 

(我ながら、無意味な生だ)

 

キョートのアンダーガイオンの平凡な生まれであったサゴは、早くに結婚した妻を亡くしながらも娘を養う為懸命に働く最中―――ニンジャとなった。そののちにザイバツ・シャドーギルドに迎え入れられた時、彼はザイバツの待遇の良さに歓喜した。これで娘を大学まで出し、豊かな生活を送らせてやれると。そうして忠誠を胸にエンバースとなったサゴはカラテを鍛え、組織の為に懸命に働いた。おそらくアンダー生まれの自分はザイバツで出世することはないだろう。しかしそれでも偉大なるロードに仕え、娘の幸福に生きる事の出来る理想社会を作る一助になるはずだと考えていた。今にしては何と滑稽な思いだろう。

 

結果として娘はあの日死んだ。それを成したのはザイバツ・シャドーギルド。娘の亡骸を見て暴徒やニンジャに八つ当たりをしてももう遅い。彼は最低の父親であり、汚らしいエゴにまみれた殺戮の片棒を担いだ邪悪なニンジャだった。故に彼には生きる理由も価値もない。なのになぜこれまで生き恥を晒していたのだろう?

 

「サテト、ソロソロオワカレダエンバース=サン。コノコタチハセキニンヲモッテ、ヒドイメニアワセテアゲヨウ」「アイエエエエエ!!やだ、やだよぉ……」「カワイイネ!」

 

囚われた娘でも一番若い娘が――――彼の娘が生きていれば同じ年頃になるであろう娘がさめざめと泣く。それを見てフォルネウスはあざ笑う。エンバースの胸の奥深くで何かが燃えた。悲哀と嘲笑。その二つの相反する感情が彼の何かに火をつけた。

 

エンバースにはもうこの10年間自分が生きていた意味が分からない。わかるはずもない。だが、だがだがだが!今ここに彼の娘と同じ年であったであろう娘が苛まれ、ロードやザイバツニンジャ、そしてかつての自身のようなクソったれのニンジャが笑ってやがる!歪なエゴを満たす為、若い娘を苛んでいるのだ!

 

(生きてちゃいけないファック野郎が…!腐れニンジャが!)

 

怒りだ。しばらく感じていなかったマグマのような激しい怒りが今この瞬間のエンバースには生まれていた!目の前に反吐の出るようなニンジャがいる!

 

「ならば……十分だ!」

 

このフォルネウスというニンジャを殺す!その一念で転がるエンバースは目を見開きボロ雑巾のようになった全身にカラテを集中させた!

 

「ッ!?シネ!エンバース=サン!シネ!」「イヤーッ!」

 

ただならぬアトモスフィアを感じ取ったフォルネウスの放ったカイシャクのスイトンをエンバースはカトン小爆発を利用し無理やり躱す!そしてそのまま跳ね起きてボロボロのサイバネ腕を突き出した!彼の体の奥深くのカラテが怒りの焔を呼び覚ます!

 

「イヤーッ!」「イマニナッテコレホドノカトンヲ!?イヤーッ!」

 

回避運動とスイトンを一体化させた機動でフォルネウスは強引にエンバースのカトンを躱す。エンバースのカトンは虫の息と思えない程に強力だ。恐ろしい勢いをした、酸素どころかこの世ならざる物すら燃やしかねないほどの迫力を持った焔が、彼に迫っていたのだ!

 

「イヤーッ!イヤーッ!」

 

エンバースはカトンを纏ったスリケンを投げ続ける!そしてデスパレートなまでの鋭角なジグザグ軌道でフォルネウスに近づいていく。スイトンが当たらない!

 

「ロウガイガーッ!ウゼエンダヨーッ!!」「お前はここで死ね…!」

 

スイトンに身を削られようとエンバースは巧みに致命傷を割け、フォルネウスに肉薄していく!もはやその距離は目前だ!

 

そうしてワン・インチ距離へと至った二人がとった攻撃方法は奇しくも同様。フォルネウスはスイトンを、エンバースはカトンを宿した拳で殴り合う!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」

 

水蒸気を上げながら二人の左拳が互いを捉える!一瞬ののけぞり硬直の後再び殴り合い始めた!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」

 

水蒸気を上げながら二人の右拳が互いを捉える!一瞬ののけぞり硬直の後再び殴り合い始めた!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」

 

水蒸気を上げながら二人の左拳が互いを捉える!一瞬ののけぞり硬直の後再び殴り合い始め…ない!

 

「イイヤアーッ!!」「「グワーッ!!」」

 

エンバースはそのまま自爆めいたカトンを叩き込んだのだ!自身をも深く傷を付ける超至近距離カトンはされどフォルネウスを傷つけ、これまでにないほどのダメージを与えた!カイジュウめいたフォルネウスの身体が揺らぐ!

 

「イイイイイイ……」

 

そしておお、おおゴウランガ!あらかじめダメージを予期していたエンバースは素早くダメージから復帰し、聖剣めいて右のサイバネ腕を掲げる。限界以上のカトンが注ぎ込まれたサイバネはその身を黒く焦がしながらもエンバースのカラテに支えられ確かに天へ向けて立っていた。トドメヲサセー!

 

極度に加速したニューロンの中フォルネウスは絶望と共に掲げられたサイバネ腕を見る。バカなこの俺がここで死ぬ。今この瞬間に死ぬ。ただモータルで遊んでいただけなのにナンデ?

 

「ヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

エンバースの灼熱するチョップが、邪悪ニンジャフォルネウスに振り下ろされ袈裟懸けに切り裂いた!

 

「サヨナラ!」

 

真っ二つにされたフォルネウスは懺悔の間もなく灰燼に帰し、エンバースもその横で膝をつく。近づいてくるキョート治安局の車両の馴らすサイレンと共に、何処か送り火のような火の粉が天井へと立ち上っていった。それはまるで死した魂を弔うセンコのような。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

かつてキョート城があった地域近くに建設された真新しい墓地。あの忌まわしい事件から一か月後。ホノカは以前より彼女の外出を渋るようになった両親を説得し墓参りに来ていた。かつての陰鬱な梅雨が嘘のようなからっと晴れた天気の下でホノカがオジギする墓石に眠るのは彼女の一族の者ではない。

 

そもそもこの墓地は10年前のカタストロフの犠牲者を弔うためにキョート元老院の主導で建てられた施設である。暴動に加わった犯罪者を除く死者が、貴賤の別なく観光客も含めて皆埋葬され、死後の冥福を祈る為に建てられたのだ。その一角にはホノカの親友であったムメも、その父も眠っている。

 

(ムメ=サン、安らかに)

 

ホノカがこの墓に参ろうと思ったのは他でもなく一か月前のあの事件が原因だ。テツノオニなるヨタモノにかどわかされ、後は闇カネモチの元へ出荷される無残な末路を待つだけだったホノカはエンバースと名乗ったニンジャの恐るべきカトンによって救い出された。凄惨な傷をものともせずフォルネウスなる異形のニンジャをも打倒し彼はホノカ達を絶望から救い出したのだ。その姿をホノカは一生忘れることはないだろう。

 

エンバースが何者なのか、そしてどこへ行くのかををモータルであるホノカは知らない。しかしメンポ越しに見えた彼の目は、そしてそのアトモスフィアはかつて死んだ親友の父、子供の目からしても自身の娘を愛していたあの人を想起させたのだ。

 

(アリガトウムメ=サン。私…あなたのおかげでまた帰ってこれたよ。家族や友達のいるこの世界に)

 

それが意味する事をホノカは知らない。ただホノカはオヒガンの彼方に旅立った親友に感謝をささげる。かつて逝った親友がニンジャとなった父を遣わし自分を助けてくれたのだと。彼女はそう信じている。

 

(そっちへ行くにはまだ時間がかかるけど…それまで、ゆっくりと待っていてね)

 

ホノカが祈りを終えるとぽたり、と水滴が一滴落ちた。それと同時にホノカは振り向き目を見開いた。雑木林の中に人影を見つけたような気がしたのだ。

 

そしてその人影は、ホノカの目が誤ってないならば両腕をサイバネに置換した、壮年の男に見えた。

 

 

 

【ゼア・イズ・ア・リグレット、イーブン・ソー・エンバース・イズ・スティル・バーニング 終わり】

 




今回の話はこれで終わりです。
自分なりに力を入れて書いた作品なのでもしよかったら評価・感想などいただければ幸いです。


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その他短編 ア・マイザー・リスぺクツ・ヒズ・ベネファクター

アイエエエ…前回投稿したエンバース=サンのモデル、カトンはサイバネによる物で本来のジツはケイトンだってテストに出ないよぉ……


重金属を含んだ有害な雲に覆われた、陰鬱なウシミツアワーを迎えながらも貪婪の都ネオサイタマは街を行き交う人々の喧騒とネオン光に包まれていた。ギラギラとひかるまばゆいネオンは街々を照らし、同時に光の届かない路地裏をより暗くせしめる効果を持っていた。

 

そんな暗い闇の中に隠すように建てられた四階建ての雑居ビル、クローンヤクザやギャングスタの死体や血が散らばるオフィスの中で二人のニンジャが対峙している。彼らは影が交差するほどの近距離でアイサツを交す。

 

「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」先んじてアイサツしたのは赤黒い装束に「忍殺」と恐怖を煽る書体で刻まれたメンポをつけた恐るべきニンジャ、ネオサイタマの死神、カラテモンスターなどの綽名を幾つも持つニンジャ殺しのニンジャ、ニンジャスレイヤーである。

 

「ドーモニンジャスレイヤー=サン。マネーガーディアンです」ニンジャスレイヤーに対して挨拶を返すのは砂色の装束のニンジャ。マネーガーディアンだ。その顔には脂汗がにじんでいる。「まさか貴様が如き狂人が乱入してくるとはな。厄年を超えたってのに俺もツキがない」

 

今日この夜ニンジャスレイヤーがマネーガーディアンを殺しに来たのは他でもない。彼が邪悪ニンジャであるからだ。

 

マネーガーディアンの運営するこのビルに本拠を置く貿易会社は、表向きはキョートからの特産品を商うまっとうな商社であるが裏では違法物資や人身売買その他の非合法事業によって利益を上げている。その悪徳の業をハッキング、あるいは他のニンジャへの拷問によってか知ったニンジャスレイヤーはこのビルをカラテ強襲し、マネーガーディアンをスレイしに来たのだ。

 

「いつまでも己の不運を嘆き、はした金を抱えて震えておれ。その金をオヌシのアノヨへの六文銭とする故」ニンジャスレイヤーは決断的にジュ―・ジツを構え無慈悲に告げる。その構えを見てもキリングオーラが感じ取れるほどの殺意が彼には宿っていた。「ほざけ!イヤーッ!」キリングオーラにひるむことなくマネーガーディアンが右腕に装着したスリケンボウガンを発射する!イクサの火蓋が切って落とされた。

 

「イヤーッ!イヤーッ!」マネーガーディアンはスリケンボウガンを連射!一発一発がカラテを込められた弾幕をニンジャスレイヤーはブリッジで躱す!「おのれ!ならばこれだ!」体勢を崩したニンジャスレイヤーにマネーガーディアンはニンジャソードを抜き放ち切りつけた!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」しかし吹き飛ばされたのはマネーガーディアンだ!ブリッジ状態からばね仕掛けめいて起き上がったニンジャスレイヤーは、左右のワンツーパンチでニンジャソードの側面とマネーガーディアンのボディを巧妙に叩いたのだ!

 

強烈な打撃に天井まで飛びマネーガーディアンはビリヤードの球めいて天井や壁をけり後退する。スリケンケンボウガンで牽制しようというのだ。

 

「イヤーッ!」しかし蛇めいて地面を滑るように移動するニンジャスレイヤーの方が速い!「なっ…ハヤイ過ぎ」無慈悲な鉄槌めいた拳や蹴りがマネーガーディアンを捉える!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

「アバーッ!」CRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAASH!!気取った窓にはめ込まれた窓ガラスをぶち破りマネーガーディアンはブザマに路地裏へ落ちていく。その様はまるで彼の転落人生を暗示しているかのようであった。

 

「イヤーッ」ニンジャスレイヤーは躊躇なくマネーガーディアンの落ちた窓に足をかけ飛ぶ。今宵も邪悪なニンジャを殺す為に。

 

 

 

 

 

 

 

深夜のネオサイタマ。ウシミツアワーを迎えながらも飲み屋を始めとする様々な店が客を呼び込み盛況なこの辺りの市街は今が繁盛時だ。事実隠れ家バーめいて地下二階で開店しているこの「吼えるバー」にも多くの酔漢が集まっていた。

 

付近にネオサイタマ湾岸警備隊の基地や関連施設が多い事からこのバーに集まるタフガイたちは多くが軍人だ。彼らは一様に日ごろのハードな業務や無能な上官について管を巻き、知能指数の低いアナーキストを愚弄する。真に騒がしい事になっているが、声量の多い彼らの中でも一際うるさいのがカウンターの左隅に座っているコートを着たままの老人だ。

 

「それでのうコンドの奴はな!なんと余剰金をうまく使って儂らの部隊の弾薬を補充したんじゃ!全く戦場の勇者とはただ声を上げて突撃するだけじゃない、むしろ兵站に細かな気遣いが出来る者の事だとは思わんかね!」

「アッハイその通りです」

 

マグロめいた目で相槌を打つ若い兵士に向かって老人――――サカマサは機関銃のようにしゃべり続ける。もう数十年も前に彼の部下であった兵士のコンド・ムラノチの事を。

 

「いろいろとあったがのう…思い返せばあいつが儂に良くしてくれるようになったのは、カモにされてたあいつに金を貸してやった時の事じゃ」「金を貸したんですか?」「そうじゃほんの少しばかりの、な」

 

サカマサ曰くコンドとは同じ部隊に所属していた物の、その時までほとんど交流がなかったという。しかしある非番の日、質の悪い兵士とやっていたギャンブルでカモにされていたコンドを見かねて金を僅かながらも貸してやった所コンドはギャンブルに大勝ち。彼はサカマサを慕うようになったのだという。

 

「それからアイツとは親しくなってのう…階級の差はあったが色々酒と女から装備の仕方までいろいろと教えてやったんじゃ。無論それだけだとちょっとしたどこにでもある美談だ。しかしあいつが凄かったのは出世して、別の部隊に移ってからの事じゃった」

 

コンドが別の部隊の指揮官となってから2年後の事だ。サカマサの部隊はとある反政府ゲリラの掃討に投入されたが相手の待ち伏せにはまり隊長が戦死、数で勝る反政府ゲリラに対して追い詰められて廃病院に立てこもった。乏しい弾薬をやりくりして何とかゲリラを食い止め、HQには応援を要請したが時すでに遅し。彼らの命は風前の灯火となった。

 

「あの時は儂の人生でも電子戦争以後は最大の危機じゃった…儂も部隊の他の隊員も諦めムード。もう生きて故郷の土を踏めぬものだと思っていたよ…だが、其処に来たのが我らがコンドじゃ!」

 

コンド率いる少数の部隊は危険を冒してゲリラの背後に回ってその無防備な背後をついた。彼らの戦いぶりはすさまじく次々とゲリラを打倒していった。特にコンドは指揮官であるにもかかわらず縦横無尽に暴れまわり()()()()()()()()()()()()()()()()()()で次々とゲリラを殺しつくした。

 

「あの時は本当に助かったが…それだけじゃない。その後コンドの奴は儂がスキャンダルに巻き込まれた時も、部隊が演習中に遭難した時も儂の基に駆け付けて救ってくれた。そして今はケチな湾岸警備隊年金事務所に代わって儂に少なくない金を毎月送ってくれている」

 

サカマサ老人は涙ぐんでいるようであった。彼の弟子ともいえるコンド―――おそらく今は壮年となっている彼には返し切れない程の恩がある。それに比べれば自分が彼にしたことなどほんの微々たるものだというに。

 

「アイツには初孫の名付け親になってもらったがそんな事じゃ到底足りんあいつは…あいつは……いい奴じゃよ。なあ若いの。お前さんがどんな軍人になるかはわからんがの、ああいう真の男を見つけ友とする、それはとても良い事だから…心に刻んでおくとよいぞ……」

 

年甲斐もなく飲み過ぎたのかうつらうつらとサカマサ老人は舟をこぎだす。その様子を見て彼の聞き役となっていた若い兵士はホッとした様子で帰り支度を始めるが、同時に何処か感じ入った様子でもある。何処か、あたたかな浪漫のようなアトモスフィアを感じる光景であった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――その光景を冷酷な目で見つめる男が居なければの話だが。

 

「クソったれめ…酒がまずくはなる話を聞いちまった」「お客様、何かおっしゃいましたか?」「別に。それよりこのツマミをくれ」「カシコマリ!」いい加減な様子で男はメニュー表の一部を指さした。店員が行くと男は鼻白んだような息を吐き、服の下のホルスターに収めたスリケンを触った。男はニンジャだった。

 

男のニンジャネームはブラッドボウ。ネオサイタマを裏より支配する暗黒ヤクザ組織ソウカイヤの構成員であり、

下部組織や取引先との交渉、時にはカラテ制圧の為に日夜ネオサイタマの闇を駆けずりまわっている。そんな彼がサカマサ老人の話に不快感を覚えたのは他でもない。彼は話に出てきたコンドという男がどんな人間か知っていた。名前や経歴からすると彼の知る男と同一人物のはずだ。

 

 

コンド・ムラノチ、ニンジャネームマネーガーディアン。ソウカイヤと提携する組織の一員である彼はニンジャソウルの憑依以前、湾岸警備隊に所属していた頃からあらゆる悪事を重ねていた。そう深い付き合いでもないブラッドボウですら彼の犯罪歴についてはうんざりするほどよく知っており、恐らくやってない悪事は尊属殺人くらいではなかろうか。現在においても彼は独自のコネクションから様々なものを仕入れ下は薬物から金髪オイランまで多くの違法物資を闇カネモチやヤクザに納入している。およそ邪悪ニンジャという称号が似合う男だった。

 

「くっだらねぇ…てめえの酒代がどこから出ているかも知らねえで調子こきやがって…クソ老害が」ブラッドボウは低く毒づき、小ぶりなスリケンを左手のひらに握りしめ、暢気な老人を睨みつけた。

 

一瞬ブラッドボウは酒をまずくしてくれた礼にサカマサを殺そうかと考えた。しかしやめた。この店のだすツマミと酒はなかなかうまい。少なくともチンケな殺しで失うにはもったいない程度には。

 

「ケッ……」ブラッドボウはツマミのバイオエビの姿焼きを食いちぎり、高くない酒をのどに流し込んだ。

 

 

 

 

 

「クソめ…ここまでか」脚の筋肉に深刻な損傷を抱えながらもマネーガーディアンは路地裏に降り立つ。ニンジャスレイヤーの強烈なカラテを受けて彼の身体はボロボロだ。スリケンボウガン毎右腕は砕け歪な体勢からはあばらが何本も折れている。この有様では逃げきれないだろう。

 

だがその前に彼に流行っておくべき事があった。インプラントしたIRCから送金の指示を無事な端末に向けて出す。これだけはやっておきたかった。電波を送った直後傷一つないニンジャスレイヤーが目前へ降り立つ。ベイビーサブミッションめいた実力差に傷一つない。やはり自分の腐れ人生がここで終わるのは明白だ。まあ、今となってはもういい事だ。

 

「ハァ……悪い事しかないわけじゃなかったが…それでもクソみてえな人生だったな……」マネーガーディアンは天を仰ぎ独り言ちる。「だが…」

 

キャバーン!キャバーン!彼らが先程までいたビルの四階からは何らかの口座への振り込みを告げる電子音が響く。その音を聞くとマネーガーディアンはニヤリと笑った。事はなった。「何の真似だ」「アバッ…気にしなくていいぜニンジャスレイヤー=サン。ソウカイヤのビズと関係のないちょっとした私用だ」そしてうなづく。「殺せよ。ニンジャスレイヤー=サン」

 

「ハイクは読むか」「ああ…」マネーガーディアンは損傷しつつある呼吸器にキアイを入れ、それでもしっかりと呟いた。「六文銭より、重き物は、わが師の恩」「イヤーッ!」「サヨナラ!」ニンジャスレイヤーの断頭チョップがマネーガーディアンの首を切り捨て、ほとんど同時に爆発四散せしめた。

 

糸の切れたジョルリ人形めいてマネーガーディアンの身体が爆発四散し灰燼に変わる。ほとんど同時に残された巻物を掴みニンジャスレイヤーは再び闇夜を駆けていく。全てはニンジャを殺す為。妻子の仇をとる為に彼の戦いは続くのだ。

 

ニンジャスレイヤーの去った後、爆発四散の風と、高速でスプリントするニンジャの動きの起こす風が合わさった二つの風に巻き上げられて一枚の写真がネオサイタマの夜を飛んでいく。色褪せた古い写真に写るのは壮年の頃のサカマサと彼のもっとも信頼する部下であったコンド・ムラノチが肩を組み映っている。

 

 

 

重金属に包まれた雲の下、ネオン光に包まれた貪婪の都の間を色褪せた写真は、コンド・ムラノチであったニンジャの持っていた写真はふわりと、飛んでいく。

 

 

 




2時間ほどで書いた作品ですが楽しんでいただければ幸いです。


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