ニンジャストーリーズ・オブ・ハイデン・イン・ハーメルン (Rogue 5)
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レイジング・ザ・ストーム・オブ・ヘイトレッド・イン・タイショウエラ イービル・ルックド・ザ・レッド・ブラック・ストーム 前

ニンジャスレイヤー外伝サムライニンジャスレイヤーに影響を受け試験的に書いてみました。プロットの構築が進んだら本格的な連載に移行するかもしれません。




「グググググ……イヤーッ!」「アバーッサ、サヨナラ!」ナラクニンジャの神話の魔獣の爪めいた鉤手がウブメ・ニンジャの肩甲骨を断ち割り、そのまま心臓をも破壊し爆発四散させた。

 

「ググググ……グハハハハハ!」ナラクニンジャは哄笑する。上質な畳、フスマなどの戦の舞台となった屋敷の調度品はカラテの余波で砕かれ穢され、さらに殺されたモータルやニンジャの血がそれらの破片に赤黒い色彩を加えている。そう、ナラク・ニンジャの手にかかったのはニンジャだけではない。モータルも少なからず含まれている。

 

ナラクニンジャは平安時代を支配する半神存在たる支配者のニンジャをも殺す超自然の、いわば理不尽の具現化ともいうべき災害。ソガ・ニンジャの四天王を殺し都を滅ぼし、なおも殺戮を続けた彼の後には無数の屍が転がる。その大殺戮は死の化身と槍の英雄により彼の者が滅されるまで続いた。

 

否、まだ終わってなどいない。歴史上幾度なくナラク・ニンジャはニンジャに虐げられたモータルと憑依融合した存在、ニンジャスレイヤーとなり憎悪のカラテを振るった。

 

或る時には妻子を殺された侍が、またある時は娘を殺された父親がニンジャスレイヤーとなり、邪悪なるニンジャへの復讐のカラテを振るい殺してきた。そうして命を憎悪の炎で燃やす彼らの生は一様に短く、されど無数の死に満ちていた。

 

ニンジャによる、そしてニンジャスレイヤーによる憎悪と死の歴史は連綿と続いていく。平安時代から江戸時代へ、明治から大正へ。そしてその先へ―――――

 

 

 

 

 

 

大正エラを迎えた日本の中心地東京。華やかな街では洋風のビルヂングが立ち並び、着飾ったモボ、モガ(モダンボーイ、モダンガールの略称。大変奥ゆかしい)が歩き、紳士淑女が最先端の洗練された洋食を愉しむ。

 

他方路地裏では近年の東京の目覚ましい進歩から取り残された貧しい人々が繁栄に羨望の目を向け、薄汚れた地面をうつむいて歩く。万人が幸せとなれる理想郷の実現はまだ遠く遥か彼方。人間や社会の光と闇を体現したかのような都市、それが大正エラの帝都東京であった。

 

 

 

草木も眠る丑三つ時。東京の片隅の片隅にある邸宅に憎悪に満ちたカラテシャウトが響く。

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

暴風が吹き荒れたかのような様相の室内をゴムまりめいて勢いよく吹き飛ばされるのは黒い影。フスマにめり込みうめき声をあげるのは顔から足元まで人絹で織られた黒装束で覆った男。その有様はまるでニンジャだ。

 

否、まるでではない。この男は実際ニンジャである。黒いニンジャ装束の男は帝都の闇に巣食うある秘密結社の幹部に仕える末端ニンジャであり名をハービンジャーという。

 

「キ、貴様……私を誰だと心得る。この私を、誰だと!」

 

怒り狂うハービンジャーの言葉に応えることなく接近するのは赤黒い装束のニンジャ。抜き打ちのスリケンを目にもとまらぬ速さで躱すと一瞬でハービンジャーの超近距離まで到達し、無慈悲なカラテを叩き込む。

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

邪悪なニンジャであるハービンジャーの手足は具のように捻じ曲げられる。それを成すのは赤黒のニンジャの圧倒的な圧倒的なカラテ。家屋を吹き飛ばす赤黒の暴風めいた圧倒的なカラテだった。

 

「バカナー!イ、イヤーッ!」

 

ハービンジャーの頼みの綱である左腕の仕込み針も意味をなさない。赤黒のニンジャの片手で容易く受け止められ握りつぶされる。ベイビー・サブミッションめいた圧倒的なカラテ実力差が両者にはあった。

 

「アッアイエッ……」「イヤーッ!」「アバーッ!」

 

赤黒のニンジャは無慈悲に腰に吊った軍刀を突き刺し、邪悪ニンジャのはらわたを掻き混ぜた。サツバツ!

 

「アバーッ!アババババーッ!!アバッー!」「レッドダスク=サンの居場所を吐け。ハービンジャー=サン」

 

赤黒のニンジャの言葉はハービンジャーに届かない。彼の脳裏にあるのはニンジャであり、末端とはいえ巨大な闇組織の一員たる自分がこのような理不尽に遭う事に対する疑問。ニンジャである自分がこれまで足蹴にしてきたモータルのように踏みにじられている事に関する疑問で塗りつぶされていた。

 

(バカナ、俺はニンジャなのに、モータルじゃないのに、なぜ今ここでこんな目に遭っている!?仏陀は寝ているのか?そ、そうだ俺のせいじゃない。そこに転がっている役立たず共が……!)

 

ハービンジャーは転がる家主の死体を睨みつける。彼の脳裏に自身や主の行為に対する悔恨はない。その邪悪な行状に対する後悔は。

 

彼がやっていたのは現在の言葉でいえばマネージメント。主の趣向の為に没落した良家の子女を引き取り「仮置場」となる家で見せかけの愛情を注ぎ、そのあと主の基へ出荷する。そうした邪悪行為の管理監督が彼の仕事の一つだった。

 

この仕事は金と手間はかかるがなかなか雅であるとハービンジャーは気に入っていたが準風満帆な毎日にケチが付いたのは三日前、主が特別に楽しみにしていた上物の出荷直前に薄汚い新聞記者に嗅ぎ付けられた時からだ。

 

如何なる手段を使ったのかハービンジャーたちの行状を嗅ぎ付けた男が騒ぎ立てる前にハービンジャーは男を追い詰め始末した。しかし天蓋楚々にして漏らさずというべきか、赤黒装束の死神めいたニンジャがハービンジャーを殺しに来た。

 

「アバーッ!アバババババーッ!!呪われろ、呪われろォー!」「イヤーッ!」「アバーッ!サヨナラ!」

 

己の腹より引き抜かれた軍刀で首を切り落とされハービンジャーの呪われた命は爆発四散した。爆発四散の煙の中、赤黒のニンジャは残身を決める。その手にあるのはハービンジャーから奪いとった彼のものの主、レッドダスクの居場所を含む機密書類。それが何を意味するかは一つ。赤黒のニンジャは次なるニンジャを殺しにゆくのだ。

 

禍禍しい憎悪の炎を置き去りに赤黒のニンジャは走り出す。ガス灯がその姿を照らす間もなく帝都の闇を飛ぶように駆け行く身にまとわりつくのはニンジャに虐げられしモータルの残影。奴らを殺してくれ、私の娘の仇をとってくれと叫ぶ無念と怨念の声。

 

「イヤーッ!」

 

一際強い残影が消えた後、赤黒のニンジャは走り出す。全ては邪悪なるニンジャに因果応報の死を与える為に!

 

 

 

 

 

 

 

「ははははははは。タノシイ、タノシイ」

 

丑三つ時の瀟洒な洋館の中、寒さを増す室外とは対照的な室内で暖かな焔の照り返しを受け男は笑う。ここは一度は没落しながらもここ十年の復権により権勢を保つ中級華族サミダレ家の邸宅。ワイングラスを手に笑い続ける男はサミダレ家の当主のシゲタモ。十年ほど前にサミダレ家の養子に入って以来、優れた手腕で家を建て直した一世一代の傑物である。

 

だがこの家の者達にシゲタモに対する敬意はない。あるのは盲目的なまでの恐れのみ。別室で息をひそめる彼の養父母も、この屋敷で働く使用人たちも皆彼を恐れていた。まるで彼が人間ではなく祟り神であるかのように。

 

その理由は皆さんもシゲタモの面相を見れば理解できるだろう。おお、ナムアミダブツ!スーツに包まれた偉丈夫の顔を覆うのはどこか虚無的な表情の仮面めいた赤い面頬!そう、シゲタモは部下であるハービンジャー同様尋常の人間ではない。太古の世より世界をカラテで私する半神的存在、ニンジャの一人なのだ!

 

「余興は楽しんでくれたかねシオン=サン?」

 

部屋の片隅には鎖で縛りあげられた女性。いや年齢を鑑みれば少女ともいうべきか。大正エラの日本には珍しい明るい色の髪が柔らかな顔立ちと実際マッチした、可憐な花のような美しさを持った少女。そのバストはそこそこに豊満だった。

 

彼女が今宵仮初の家から出荷され、シゲタモの陰惨な殺戮劇に招待された不運なる客。その名をシオンという。

 

「ヒッヒ……ッ」

 

だがその美貌は今この場の悍ましい惨劇によって損なわれていた。ペルシャ製の絨毯のひかれた床には、先程振るわれたシゲタモの無慈悲なカラテにより試し胴めいて断ち切られた女給たちが折り重なる。その姿は無残そのもの。到底尋常な人間になせる業ではないその行為はただシオンの自我を破壊する為の余興として行われた。シゲタモの非人間的なまでの残虐さやカラテはまさしくニンジャノ業。ありうべからざる事実がより一層シオンを混乱させる。

 

「ナンデ……ニンジャナンデ……」

 

NRSに襲われ必死に失禁をこらえながらもシオンは言わずにはいられない。ニンジャは神話や伝承の中に存在する超越的存在のはず。神や悪魔のようにこの世には人の心の中にしかいないはず。少なくとも大正を迎えた日本には存在しないはず。なのにナンデ?

 

「ほう、ニンジャナンデとは!」所で君は悪魔の不在証明を知っているかね?」

 

対するシゲタモは愉快気だ。シオンの顔をニタニタとのぞき込み質問する。仮面の奥から見える陰惨な目から視線をそらしながらもシオンはうなづく。女学校で聞いた事のある話だったからだ。

 

シゲタモもまた紫苑の反応に満足げにうなづいた。ハービンジャーは良い娘を調達した物だ。まっとうな素養がなくてはこうはいくまい。実に……実に嬲りがいのある小娘だ。

 

「よく知ってるいるものだ!そう、悪魔と同じようにニンジャの不在を証明するのは難しいが、ニンジャの存在を証明するには目の前にニンジャを連れてくればよい。おや、君の前にはニンジャがいるね?ニンジャの存在が証明されてしまったぞ!ハハハハハハ!」

 

「アイエエ……」

 

シオンはその邪悪なオーラに震えるのみ。対してシゲタモは気取った仕草でチッチと指を振る。

 

「ああ、怯えているようだが心配はいらないぞシオン=サン!ハービンジャー=サンから色々聞かされているだろうが私はそこまでひどくない。君をファックしたり殺したりはしないさ。やってもらうのは……こういう事だ!」

 

彼が片手で引きずる鎖の先にいるのは見ずぼらしい子供。その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

 

「アーン!アーン!」

 

「君には!この汚らしいガキを!殺してもらう!」

 

「エッ!?」

 

「そう、殺してもらう!私はね、ニュービーのころから好きなんだよこういうのが。君のような知性や品性、善性に満ちた美少女に嫌がることを無理やりやらせ、自我を蹂躙するのが!フゥーッ!」

 

あまりにも目まぐるしく変わる展開にシオンの視界は万華鏡のように回転する。しかし混乱の極みに遭っても明晰なシオンの脳裏にはある凄惨な確信があった。

 

(この男は……このニンジャは私の全てを飴玉みたいに舐め溶かして楽しむつもりなんだ……そしてそれを止める者は誰もいない。私はただ……この男の贄となるだけ)

 

絶望し虚脱した様子で涙を流すシオンにシゲタモは歩み寄る。その目は病んだ欲望に血走り、口からは蒸気のようなと息が漏れる。シオンを戒める鎖をチョップで両断し、無理やりに人ひとりを殺すのに十分な刃物を握らせる。

 

「さあ、殺したまえ!」

 

「アーッ!アーン!」

 

「で、できません……こんな小さい子を殺すなんて私には無理です……」

 

絶望の中シオンはそれでもなおシゲタモの申し出を拒絶する。ニンジャに対して拒絶を貫くその姿勢は持ち前の善性か、それとも己を取り巻く運命に対しての反骨心か。

 

「ハァーッ!ハァーッ!早くしろ!早く刺し殺すんだ!言っておくがそうしないと私は酷いぞ!ハァーッ!知り合いにはニンジャの医者もいるんだ!生きジゴクを見せてやるぞ!」

 

「嫌だーっ!嫌ああー!!」

 

「ウフッウフフフフフッ!いいよねえ誰も助けてくれないのォー!いいよォー!」

 

シゲタモは泣き叫ぶシオンを抑えつけ無理やり子供を刺殺させようとする。おお仏陀よ!薄目を開けて寝ているのか!何という末法的光景!

 

しかしこの光景を止める者は誰もいない!シオンや子供を救う者は誰もいない!この救いのない光景こそが、帝都東京の闇だというのか!

 

「イヤーッ!」「ナニッ!?イヤーッ!」

 

だが広く凝った装飾の窓硝子をたたき割り、一筋の流星めいたスリケンがシゲタモめがけて飛ぶ!興奮のさなかにあったシゲタモは抜き打ちでスリケンを弾くが急激で大ぶりな防御行動の影響で畳五枚分飛びのく!

 

「成程……確かにその娘を救う者は誰もいない。だが」

 

粉砕された窓ガラスからエントリーしたのは赤黒のニンジャ。その赤黒の装束は砲火に晒され引き裂かれたかのように歪な形状。そしてその面頬には決断的な「忍」「殺」の二文字!

 

「貴様を殺す者ならここにいるぞ……シゲタモ、いやレッドダスク=サン。ドーモ、ニンジャスレイヤーです」

 



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イービル・ルックド・ザ・レッド・ブラック・ストーム 後

後編開始。今回はがっつり解像度を上げたカラテをお楽しみください。


邪悪なるニンジャレッドダスクの支配する館の中、二人のニンジャはは対峙する。一方はこの館を支配する陰湿なるサイコパスニンジャ、レッドダスク。もう一方はニンジャ殺しの死神、ニンジャスレイヤー。

 

「ドーモニンジャスレイヤー=サン、レッドダスクです。その様子だとハービンジャーは殺されたようだな。なかなか使える奴だったんだが……カラテも弱かったし仕方ない、か。お前を殺した後の俺の楽しみを捧げて弔いとしよう。イヤーッ!」

 

「イヤーッ!」

 

オジギ終了の直後、二人のニンジャはカラテシャウトを発し切り結ぶ!ニンジャスレイヤーは抜き身の刀のような鋭いチョップを。対するレッドダスクの獲物は禍禍しい小太刀の二刀流。わずかに長さの異なる左右の刀を巧みに扱い、ニンジャスレイヤーの攻撃を巧みにかわす。その動きは予想以上に鋭い。彼はその陰湿極まりない性癖に相反する高いカラテの持ち主であった。

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

手首を返して放たれた返礼の斬撃がニンジャスレイヤーの脇腹を切りさく。さらにレッドダスクはもう一撃。斬撃の勢いを利用して小太刀の柄を握った手を裏拳めいてニンジャスレイヤーに叩きつける。

 

「グワーッ!」「隙アリだ!イヤーッ!」

 

レッドダスクがスナップを効かせて軽く刀を振るとその一部が分離しスリケンとなってニンジャスレイヤーめがけて飛翔する!しかしニンジャスレイヤーもさる者。吹き飛ばされながらもサマーソルトめいた回転蹴りでスリケンをはじき返し、そのままトライアングルリープからのトビゲリでレッドダスクを狙う!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」CRAAAAAAAASH!レッドダスクがガードに使った両腕の小太刀が砕け散る!地に足をつけた両者はそのままチョーチョー・ハッシの近距離戦に移行!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 

おお、ゴウランガ!二者のカラテは空気を切り裂き流れ落ちた水滴すら何重にも刻む超高速!ニンジャ殺しの死神ニンジャスレイヤーとレッドダスクはマイめいて立ち位置を変えカラテ応酬を継続する!右こぶしと右こぶしがぶつかり合う!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 

ニンジャ殺しの死神ニンジャスレイヤーとレッドダスクはマイめいて立ち位置を変えカラテ応酬を継続する!左こぶしと左こぶしがぶつかり合う!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

ウインブルドンよりも激しいカラテラリーを制したのは……ニンジャスレイヤー!渾身の右蹴りがレッドダスクのあばらをへし折り血を吐き出させる!怯むレッドダスクに対してニンジャスレイヤーは断頭チョップでカイシャクを試みた!

 

「イイイヤアーッ!」「イヤーッ!」

 

しかしレッドダスクの動きは予想以上に機敏。ビール瓶を三本並べても容易に切断するチョップに肩口を切り裂かれながらも風車めいた動きでニンジャスレイヤーに蹴りを浴びせる。その一撃は苦し紛れの攻撃に見えたが……?

 

「ッ!?グワーッ!」

 

レッドダスクの蹴りは鋭い残光を残してニンジャスレイヤーを切り裂いた!赤黒い血が飛び散る中ニンジャスレイヤーの目に映るのは鈍く光る刃!

 

な、何という事であろうか!レッドダスクの足側面から生えるのは禍禍しい刃。峰が波打つ禍禍しい刃はニンジャスレイヤーがカラテ止血を試みる間も手足から出る本数を増やしていく!

 

「フーッまさか狂った賊相手にこのジツを使う羽目になるとはな。人の肉を切り裂く手ごたえは心地よいものだが……やはり生娘の精神をいたぶり木偶人形に変える喜びにはかなわぬ。ああ、早く遊びたい!」

 

更なる殺意に目を細めるニンジャスレイヤーに超自然の怨念がささやく。レッドダスクの師は強大なカラテに似合わぬ下卑た性格で知られたヤイバ・ニンジャかその系譜。彼らは刀を飲み込む修行を経て、体から刀を生やし相手を切り刻むジツを得たという。

 

ニューロンの同居者が策を示すよりも早くレッドダスクが突進する。その四肢からは先程と同様の禍禍しい刃がニンジャスレイヤーめがけて伸びる!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 

ニンジャスレイヤーはブレーサーで刃を弾きつつも後退する!その刃の勢いは嵐の如き凄まじさ!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イイイイヤーッ!」「イヤーッ!?」

 

だが後退するニンジャスレイヤーは訝しむ。レッドダスクの四肢から生えるのは先程と同じ小太刀。当然ながらその間合いは四肢による伸長があったとしても刀よりは短い。にもかかわらずその間合いはニンジャスレイヤーのカラテを警戒しているにしてもやけに遠い。まるでニンジャスレイヤーを遠ざけるように。

 

しかしその理由はすぐに分かった。さらに力と速さの乗った大ぶりの一撃を回避した際に体操選手めいて飛びのいたニンジャスレイヤーは気づく。背後にある者に。震えながらも幼子をかばうシオンに。

 

「かかったなニンジャスレイヤー=サン!これまでの反応で貴様がモラリスト気取りの惰弱者という事は把握済みよーっ!イイイイヤアアーーーーーーッ!!」

 

レッドダスクは空中で体をねじり竜巻めいて大回転!空中を乱舞する悍ましき刃の乱舞から放たれるのは……そう、大量のスリケンである!その大げさなまでの攻撃はニンジャスレイヤーにとっては数発の被弾を許容すれば容易に回避できる攻撃であろう。

 

「……!」

 

(((バカ!ウカツ!何たる惰弱な!)))

 

しかしニンジャスレイヤーはニューロンの同居者の罵声をよそにガードを固める。ここで彼が引けばどれほど無残な死が背後の少女にもたらされるか明らかであるからだ。

 

ニンジャスレイヤーは焔を纏いしクロス腕でスリケンを防御する。だがそれは多勢に無勢。一つ二つと確実にスリケンがその身に刺さっていき――――13ものスリケンが刺さった時にニンジャスレイヤーはボロクズのようになって床へ崩れ落ちた。

 

薄れゆく意識の中ニンジャスレイヤーはシオンの悲鳴と、レッドダスクの勝ち誇った笑い声を聞きいた。そして彼の意識は闇へ落ちていった。

 

 

 

 

 

01001010100011111010100ザリザリザリザリ……

 

 

ニンジャスレイヤーは、カザミ・ケンジョウの意識は混濁する。走馬灯・リコールの如き記憶の奔流の中、脳裏に映るのは黒きニンジャ。血で染まったセキハバラの大地に立つは恐るべきバヨネットドーの使い手たる怨敵デスリーパー。二刀を握ったそのシルエットははどこかレッドダスクと重なる。

 

「殺すべし……妻子の仇殺すべし……!」

 

サムライの如き鎧をまとったニンジャスレイヤーは胸に燃える憎悪を基に、刀を握って突き進む。それは彼とは別のニンジャスレイヤーの記憶。二刀流の使い手たるレッドダスクとの戦が引き寄せたのだろうか。そのニンジャスレイヤー、キルジマ・タカユキが戦うのは家族の仇討の為。しかり家族の仇だ。ケンジョウもまたニンジャによって家族を殺された。

 

ケンジョウの二人の妹、アズサとリコ。穏やかで控えめ、活発で陽気という違いはあれど二人ともケンジョウにとって自分の命よりも大切な妹だった。両親亡き後にケンジョウが苦心して愛し育て来た最愛の妹だった。

 

だが二人とも殺された。陸軍に新設された航空隊に配属された日、長年の念願が叶った事への祝いの為に帰宅したケンジョウを迎えたのは、焼け落ちる生家。ニンジャのカラテ。そして折り重なるようにして剣に貫かれ殺されるアズサとリコ。

 

病弱でいつも空を見上げ夢を抱いていたアズサ。いつか兄のように航空機のパイロットになるのだと豪語していたリコ。彼女たちはもういない。ニンジャに殺された。

 

ケンジョウには妹たちを殺したニンジャにどのような理由があったのかは知らぬ。知ろうとも思わない。だが死ねない。妹たちの仇を討つまでは、彼女たちを殺したチルハ・ニンジャを殺すまでは死ねぬ!

 

「殺すべし、ニンジャ……殺すべし」

 

憎悪の嵐がケンジョウの体内に流れ込む。その悪黒のストリームは圧倒的。それはニンジャに殺され無念の内に死んでいった者たちの多さを表している。

 

「ニンジャ殺すべし……ニンジャ、殺すべし!」

 

赤黒の憎悪のストリームの中ケンジョウは、ニンジャスレイヤーは立ち上がる。目の前には邪悪なニンジャがいる。ならばやることは一つだ。カラテによって惨たらしく殺し、無明のジゴクに引きずり込むべし。それだけだ。

 

ニンジャスレイヤーはカラテを構える。どこかシオンと子供を守るように立ちふさがるその姿は鬼神の如き何処か禍禍しく雄々しいものだった。

 

 

 

 

絶望に包まれる中シオンは風を感じた。そう、風だ。幽鬼めいた姿になり果てながらも赤黒のニンジャは立ち上がった。その体からはまるで飛行機のプロペラが巻き起こすそれのようにすさまじき風がき出す!そして装束の表面で燻っていた焔と混ざり合い、凄まじい勢いで吹き出し赤黒の翼めいたエフェクトを形成した!

 

「赤と黒の……翼のニンジャ?」

 

シオンは呟く。翼めいて展開されたニンジャの裁ち布から発せられるのは凄まじいエネルギー、そのカラテは絶大な勢いであった!

 

されど赤黒の焔風がシオン達を傷つけることはない。赤黒のニンジャがそのエネルギーを向けるのは禍き刃のニンジャのみ。

 

(((グググ……ケンジョウよ。足手まといの小童共に意識を割くとは何たる未熟。だがまあ良い、とっととその胡乱な三下をクズ肉にせい!)))

 

(言われなくてもそのつもりだ……奴を、レッドダスクを殺す!)

 

「イヤーッ!!」

 

ニンジャスレイヤーは助走なしに一瞬でトップスピードに到達し駆けた!その速さは飛ぶ鳥が如し!

 

「イ、イヤーッ!」

 

異常事態に怯みつつもレッドダスクが刃のスリケンを仕掛ける!しかしニンジャスレイヤーは防御動作すらしない!レッドダスクのスリケンはその疾風の如き疾走の後に残った残影を割くのみ!瞬く間にニンジャスレイヤーはレッドダスクの眼前にたどり着いた!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

レッドダスクが防御のため掲げた刃を右腕毎カラテ破壊!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

レッドダスクが防御のため掲げた刃を左腕毎カラテ破壊!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

レッドダスクが防御のため掲げた刃を右足毎カラテ破壊!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

レッドダスクが防御のため掲げた刃を左足毎カラテ破壊!

 

両腕両脚の刃を折られたレッドダスクはもはや王手詰。だが邪悪ニンジャにはまだ仕込み武器がある。胸部に内蔵された一対の隠し刃が。

 

「アッアバッ……イ、イヤ」「地獄に落ちろレッドダスク=サン。イイイヤアアアッーーーーーーーー!!!」「アバッー!アバババババーーーーーー!!」

 

だがニンジャスレイヤーはそんな小細工など真っ向から打ち破る!赤黒の焔風を纏った右腕のが鉤爪めいた一撃が刃毎心臓を完膚なきまでに破壊する!

 

「アバーッ!な、なんだお前は、なんなんだ!アバッー!」

 

体内から焔と風を流し込まれ焼かれ割かれ砕かれていくレッドダスクは極限の苦痛の中ニンジャスレイヤーに問う。絶望の中の問いに憎悪に満ちた瞳のニンジャスレイヤーはレッドダスクの恐怖に満ちた目を見つめ答えた。

 

「何故だと?知れたことよ。妹たちの仇チルハ・ニンジャ。あの増上慢を、連なる三下共をすべて殺し首を墓前に供えるそれだけが儂の望みよ!」

 

「エッ……チルハ・ニンジャ=サンを……?」

 

最早文字通りの死に体のレッドダスクは目を見開く。彼の所属する暗黒ニンジャ組織の首魁たるアーチ級リアルニンジャ。神話級ニンジャであるケイト―・ニンジャの最後の弟子の一人である強大なイモータルである彼を殺すと?この男はそういったのか?

 

レッドダスクはその誇大妄想を笑い飛ばそうとする。しかしできなかった。ニンジャスレイヤーはチルハ・ニンジャの殺害を誇大妄想ではなく現実しかねないと彼は感じた。それほどまでにこのニンジャのカラテは、赤黒の焔風は、憎悪は……!

 

「アイエエエエエエエエエエエエエエ!アイエエエエエエエエ!!アイエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」「イヤーッ!」「サヨナラ!」

 

ニンジャスレイヤーの憎悪を感じ取り発狂したレッドダスクは心臓握り潰しによりカイシャクされ爆発四散した。屋敷を飲み込む爆発と共にかけらも残さず、邪悪なニンジャは死んだ。

 

焔が消えそれでもなお強い風が吹く中、ニンジャスレイヤーはたたずむ。その姿はどこまでも孤独。しかしその身に秘めたる憎悪は烈火のごとく。そして彼はカラテシャウトを発し、エントリーした際の窓から出ていった。その姿を見ると共にニンジャリアリティショックの影響でシオンの意識は途切れていく。薄れゆく意識の中、それは幼子のぬくもりか、それともニンジャの焔か。何処か熱を感じながらシオンは意識を失った。

 

 

 

それが、シオンとニンジャスレイヤーの一度目の遭遇であった。かたや赤黒のニンジャ殺しのニンジャ。かたや美しくして平凡なモータルの少女。何の接点もないように見えた二者はしばしば運命づけられたかのように出会う。邪悪なるチルハ・ニンジャを殺す戦いの最中、ニンジャスレイヤーはかつて自分がそうしたように少女に救われる時が来る。

 

しかし彼らの再びの邂逅について語るのは今ではない。いつの日か、帝都東京の闇で繰り広げられるニンジャの戦が再び語られるその日に明かされる時が来るだろう。




今回の話はここまでとなります。すでにチルハ・ニンジャとの最終決戦のプロットは大まかに考えていますが、その途中がまだほとんど未完成なのでそこらへんが出来たら本格的に長編として投下するかもしれません。


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クナイ・ハウンズの章 ファイト・フォー・ア・プレシャス・ホープ 上

第三部から8年後、ある賞金稼ぎニンジャについて書いた話です。
上中下で完結する予定です。


其処は貪婪の都ネオサイタマ。月が砕け散り磁気嵐が消失し、明日世界が滅びるやもしれぬ状態でもなお聖書の貪婪の獣の如き成長を続ける貪婪の都。この悪徳の街ではサラリマンが己の愛社精神を試され、ヤクザはソンケイを磨き、情け容赦ないヤクザや企業戦士達はサイバネで己の身を鎧う。世界の中心の一つである暗黒都市は当然のことながら混沌の都市でもあった。

 

故にネオサイタマの治安は地域にもよるが全体的に悪いと言ってよい。市内の各所にはスラムやヨタモノの根城が築かれ、地域住民の治安リスクとなり続けている。このウナギディストリクトの西部にある廃墟群もまた質の悪いジャンキーやヨタモノで満ち溢れていた。

 

この荒れ果てまともな経済活動の存在しない地域に企業の治安部隊はリスクから近づくことなく、もし無力な子羊がこの廃墟群に迷い込むか引きずり込まれた場合死までも覚悟しなくてはならないだろう。

 

だから一際荒んだ様子の廃墟―――入口に大小のバイオ動物の死体が吊るしてあるに引きずり込まれた時点で震える少女二人の運命は決したといっていい。およそティーンエイジャー程の年頃の身なりの整った少女二人は互いの手を固く握りあいガタガタと震えている。

 

彼女たちに落ち度はなかったといってよい。彼女たちが帰宅しようとしたのはまだ日の暮れる前で道も人通りの多い安定した地区に建設された物だった。にもかかわらず二人は前後ワゴンに強制招待されこの廃墟に連れ込まれた。

 

しかも彼女たちを拉致した相手も最悪である。ゲシュニンであるヨタモノらしき5人はいずれもサイバネや物騒な凶器で武装し、その身には「バカ」や「私は10人埋めました」などの恐ろしいタトゥーを体中に入れている。二人は知らない事であるがヤクザですら匙を投げたモラル最悪のヨタモノ集団「ゴト・ダン」が二人を攫った集団であった。

 

攫われた少女二人(日に焼け活発そうなショートカットの金髪の少女と、長くつややかかな黒髪を持つ知的な顔立ちの少女。彼女らのバストは豊満であった。)はこれまで動乱の時代にも関わらず安定した職についた親の庇護の元平穏に暮らしてきた。しかし今日この日これまでの平穏はちり紙のような薄い膜の上に成り立っていた幻想であると最悪の形で思い知っていたのだ。

 

嗚呼。凶悪犯罪者のセオリーどおりなら彼女たちはヤクザでも者によっては目をそむけたくなるような悲惨な末路を迎える事になるのだろう。だがブッダはいつの間にゲイのサディストからバイのサディストに鞍替えしたのだろうか?彼女ら二人の目の前にさらなる理不尽が現れていたのだ。その理不尽とは―――――

 

「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」

 

「イヤーッ!」「グワーッ!ナ、ナンデ!?ニンジャナンデ!!」!」「イヤーッ!」「アバーッ!」

 

少女たちからは怪物のように思える凶悪なヨタモノ達を一撃で殺していくのはニンジャ。そう恐るべき半神、闇を駆ける戦士であるニンジャである。

 

この場に現れたニンジャは彼女たちが時代小説などのフィクションで見たような黒ずくめの姿はしていない。放浪者めいた色褪せた蒼コートに四肢に黒漆塗りの防具をつけた上、ヨタモノに無慈悲に振り回すのはカタナ。騎士かサムライの如き姿だ。しかし口元につけられたメンポや時折投擲するスリケン。そしてその人外の超絶したカラテは紛れもなくニンジャであった。

 

「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」

 

「ウオオオオーッ!!このタツジン・オノミチ社製アサルトライフルでネギトロになりやがれぇ!!」

 

三次元戦闘の可能なこの廃墟はニンジャにとって格好の狩場。しかし空中回転切りからの着地の隙をついてコンバットドラッグで加速した「ゴト・ダン」首領ヨタモノの手にした高性能アサルトライフルから放たれた銃弾がニンジャを捉えようとする。

 

「チッイヤーッ!」

 

無論ニンジャ反射神経からすればブリッジ動作などで銃弾を躱すのは難しくない。だが角度からすれば背後の少女二人に当たる可能性は低くはない。ニンジャ判断力によって結論を導き出したニンジャは舌打ちすると、刀身の半ばに手を当てたハーフソードめいた構えで銃弾の雨を味く。

 

1発、2発と銃弾が体を擦過し傷を作るがニンジャの頑強さからすれば蚊に刺されたのとそう変わらない程度のダメージである。そのままニンジャはじりじりと首領ヨタモノに接近していき、射程圏内に入った所で無慈悲なカタナを振るう。

 

「イヤーッ!」「アバーッ!アババババババーッ!!」

 

「「アイエエエエエエ!!」」

 

「イヤーッ!」「アバーッ!」

 

首領ヨタモノのサイバネ両腕がケジメされ機械油がスプリンクラーめいて噴き出す。その無残な光景に少女二人は失禁をこらえ悲鳴を上げるが対照的にニンジャは動じない。片手をカタナの柄頭に添え、勢いよく突き出して心臓を貫きカイシャクした。どう、と音を立てて首領ヨタモノの巨体が倒れ伏す。そして薄汚い血が薄汚い床に広がりコーティングしていった。

 

「ゴメンナサイ!」「オミソレ、シマシタ!」

 

首領の死に心折られた残り数名のヨタモノが土下座し許しを請う。それを見てニンジャは歩みを止め、ヨタモノは一瞬安堵の笑みを浮かべるが、

 

「イヤーッ!」「「「アバーッ!」」

 

すぐにその足りない脳みそにスリケンをプラスされた。「ゴト・ダン」のヨタモノだったものが床に転がり仲間と共に薄汚い血や臓物で薄汚い床をコーティングする。なんともサツバツとした光景が繰り広げられていた。

 

「下劣なクズ共が。お前らのしてきたことを知って見逃がすわけないだろうが」

 

ニンジャはヨタモノ達への侮蔑を露にして鼻を鳴らす。そして懐から頑丈そうな端末を取り出した。

 

「モシモシ。全員始末したぞ。なんか証拠品とかいるか?」

 

『耳とか遺品とかそういうのはいらない。証拠の死体映像だけとってきて。ゴア過ぎると見たくなくなるからなるべく内蔵とか映さないように』

 

「アイアイ」

 

端末の撮影機能を使用してニンジャはヨタモノ達の死体を撮影していく。その様子を何処か現実感が欠けたまま見る二人の少女はなおも震え続けていた。脳裏にあるのは自分たちがどうなるのかという恐怖。ヨタモノが皆殺しにされた後も依然としてニンジャという特大の恐怖が目の前にある。地雷原を抜けた先には戦車部隊が待ち構えていたような気分に二人は囚われていた。

 

「あー、其処の君たち」

 

「「アイエッ!」」

 

不意にニンジャは二人に話しかけてきた。蒼コートのニンジャの口調は高圧的な物ではなく穏やか。だがそれは彼の全盛を意味しない。ニンジャとはモータルの条理から超越した領域に精神を置く人外の存在であるからだ。

 

「いや…君たちに危害を加えるつもりはないから安心してくれて構わないんだが……。ところでその…非常に図々しい事を言わしてもらうが…君たちの親か親戚にカネモチとかいないかな?なんというかこう、娘の恩人にポンとオキナワで数年遊べるくらいのマネーを出してくれる感じの」

 

少女二人の足かせを破壊し、口に手を当て隠し事を相談するようにして話しかけるニンジャの顔立ちは予想よりも若い。おそらく自分の兄とそう変わらない年齢なのではないだろうかと眼鏡の少女は感じた。それほどニンジャは若かった。

 

「す、スミマセン。そんな親戚はいないんです。スミマセン」

 

「ああいいんだ。ちょっとそういう幸運がないだろうかと思っただけだから。それより企業警察を呼んだ方がいいかな?地域と時間を考えたらヤナマンチになると思うんだが」

 

「ああ…そのできれば企業警察は…親や学校に知られたくないんです……」

 

「分かるよ。そういうの女の子にはキツイから。俺が安全な地域までエスコートしよう」

 

訳知り顔でうなづくニンジャは先程のヨタモノを殺戮していた恐るべき戦士と同一人物とは思えない。恐る恐るの会話ではあったが事実このニンジャは彼女らを盲導犬か忠実な執事めいて安全な地域にエスコートした。そして安全な地域まで送り届けたのだ。

 

そんな騎士道精神にあふれるニンジャに対しておそらく少女二人は育ちが良いのだろう。丁重に礼を言う。

 

「今日は本当にありがとうございました。あなたがいなければ私たちはとても、とてもひどいことになっていましたから」

 

「それは気にしなくていいさ。それよりさっきも言ったけどニンジャの存在を他言しない事。あとは基本的にニンジャを当てにしないことだな。大概のニンジャはああいう奴らの側、そうじゃなくても利益や愉しみがあれば加わる側にいるからな。…まったくああいう奴らはモータルもニンジャも区別なくゴキブリめいて沸いてきやがる。月が砕ける前、8年前までにもっと駆除しとくんだったな」

 

ニンジャは嘆息する。彼は月は歳前からこのようなバウンティハンターめいた仕事をしていたのだろうか?人に歴史ありと言うが、二人は彼がニンジャであること以外は何も知らない。おそらく彼も自分から明かすことはないだろう。

 

しかしそれでもせめて恩人の名前くらいは知っておきたいと日焼けした少女はニンジャに質問した。あなたの名前を聞かしてほしいと。

 

「……どうしてもっていうなら教えよう。ただし恨み買う仕事ではあるから名前をみだりに出すんじゃないぞ。俺のニンジャとしての名前は、ホープシーカーだ」

 

蒼コートの騎士めいたニンジャの名前はホープシーカー。二人はその名前をしっかりと脳裏に刻んだ。恩人の諱として、二人だけの秘密として。

 

「それじゃあ俺は帰るぜ。待っている人がいるんでね―――願わくは二度とヨタモノやニンジャとかかわらない人生を歩むことを祈る」

 

「はい、ありがとうございました!」「オタッシャデ!」

 

二人はホープシーカーに同じタイミングで深くオジギをして帰路へと着く。およそニンジャの存在する闇からはかけ離れた光にあふれた街並みへと。

 

日焼けした金髪の少女と長い黒髪の眼鏡の少女の手が俗に言う恋人つなぎと呼ばれる形でつなげられているのを見たホープシーカーはカタナの出来合いを確認するカタナ鍛冶のような目でその睦まじさを見て取る。そしてうなずき「アーイイ」と満足げに呟いた。

 

 

 

 

ネオサイタマの夜、シンカンダ地区。学生向けの施設が立ち並び比較的治安の安定した地区にホープシーカーの根城はある。彼はこの街の清潔で、それでいて活気のある雰囲気が気に入ってたし、何より食料品や日用品が安く手に入る事が本当に良かった。

 

「クナイ・ハウンズ」に仕事の顛末を報告したうえで買い出しに行った結果帰宅が遅くなってしまった。厄介事に巻き込まれない内に早く自宅に戻るべきなのだがなかなかにうまくいかない。まああの二人を放っておくわけにもいかないし仕方のないだろう。

 

若年層向けのそう古くない4階建てのアパートはブルーのシートで覆われている。ネオサイタマは常と言っていいほど重金属酸性雨が降り注ぐためこうした定期的な建物メンテナンスは不可欠なのだ。

 

「ドーモ。スーパーの方、何か安くなっていましたか?」

 

「卵が安かったですね。ただオーガニック白菜は値上がりしてたんで今度買った方がよいでしょう」

 

隣人と軽く言葉を交わしてエントランスのロックを解除し、自宅へ急ぐ。彼の自宅は102号室。ネオサイタマの治安事情を考えると1階というのはよろしくない。しかしセキュリティにかけるカネを増額しても彼は1階に居を構える理由があった。

 

二重に設置したロックを解除して玄関の戸を開ける。かすかな笹の香りが漂い、殺しでわずかだがささくれだった彼の精神を癒した。

 

「タダイマ」

 

「おかえりなさい――――――今日も無事でした様で何よりです」

 

ホープシーカーを出迎えたのは栗色の髪をした女性。どこか貴族めいた美貌とは対照的に人柄の良さをうかがわせる暖かい表情を浮かべた彼女の目線は高い。それは当然である。彼女は車椅子に乗っているのだから。

 

彼女の名前はセリュウイン・マキ。彼女こそがホープシーカーの最愛の女性であった。

 




次回は遅くとも来週中には投稿します。


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