そして比企谷八幡は仮面の少女と (白羽凪)
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プロローグ
プロローグ #0 そして夜はいくつもの終わりを告げる
秋、俺は修学旅行に向かう時2つの依頼を受けた。
1つは戸部から受けた依頼「戸部の告白を成功させる」こと。このことは奉仕部の全員が知っている話だ。
だがもう1つ、俺は個人で依頼を受けた。それは戸部が好意を寄せている相手、海老名さんから受けた「戸部の告白を未然に防ぐ」という依頼である。
この大きく矛盾する依頼を解決することはほぼ不可能と言ってよかった。いや、不可能だった。
当然だ。海老名さんには男性への好意がない。告白したってそれは自殺行為だ。
そこで1番予想できるパターンのように告白が失敗するとしよう。
いつも同じグループにいる海老名さんと戸部の間に溝ができれば、酷く脆いあのグループはいとも簡単にすれ違いが起き、すぐ消えてしまうだろう。
そうすれば、依頼の関係ない所の人も被害をこうむってしまう。それだけは避けたかった。
だから俺は自分を犠牲にすることで問題を消そうとした。
「海老名さん、ずっと前から好きでした。付き合ってください」
俺は嘘の告白で海老名さんの本心を引き出し、そこはかとなくそれを戸部に伝えた。
もちろん、海老名さんからの答えは「NO」であった。
これでいい。結局傷つくのは俺一人で済む。どうせあいつらは住む世界が違う人間だ。
そう思っていた。
しかし、雪ノ下、由比ヶ浜からは批難の声を浴びた。
「あなたのやり方...嫌いだわ」
「人の気持ち、もっと考えてよ!」
なんだよ...。このやり方で何も悪くねぇじゃねぇか。
なぁ雪ノ下。
やり方が嫌い?だったら他の方法があったのかよ。
誰もが不幸なく生きれる方法なんてない。今生きている世界がそうだ。
なぁ由比ヶ浜。
気持ちを考えろ?気持ちだけで依頼が解決出来るか?それまで変わらなかった関係を変えずにいられるか?
その答えは「否」である。
(誰かが犠牲にならなければ。人という字は片方が支えながら出来ているように、自分が犠牲になるしかない。なのに...。なのに、そのやり方を否定するなよ...)
俺は自分の生き方を否定されたような気がし、いつの間にか心にイライラを生んでいた。
そう気づいた時、俺達奉仕部の関係にヒビが入ったような音がした気がした。
それから俺と由比ヶ浜と雪ノ下はホテルへの帰路についた。
だが、そこには言葉はなく、冷たいままの空気、長らく続く静寂だけがあった。
時間は夜。もう少し日が過ぎれば冬のような冷たさがやってくるだろう。
けれど、
その冷たさが今、自分をおおっている気がした。
失踪しないよう頑張るぞ( *˙ω˙*)و グッ!
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main story
#1 そして比企谷八幡は限界を迎える
矛盾する2つの依頼を自分を犠牲にすることにより解消した比企谷八幡。しかし彼自身が得たものはなく、あったものさえ壊れようとしていた。そんな彼を迎えたものは...
修学旅行が終わり、教室は浮かれた空気が薄れていった。
が、俺が今見ている俺の机の上には
「死ね」だの「クズ」だの書かれた紙が何枚も置いてあった。
...くだらん。
はいはいご苦労さまですねーなどと思いながら紙を丸め、そのままゴミ箱に投げ入れる。
「まあ、最初はこんなもんだろう。」
雑音に紛れ誰かが呟いた気がしたが、はっきりと聞こえることは無かった。
放課後になると急に憂鬱な気分が押し寄せてきた。
それもそうだろう。今の関係のまま奉仕部に行ってしまったら、本当に全てが壊れそうでたまらない。
所詮これも、偽物の関係だったのかもしれねえな。
幸い、今日は由比ヶ浜は三浦たちと予定が入ってるようで部活は休むようだ。
とりあえず俺も部活を休む連絡だけしてMAXコーヒーでも買って帰ろう。
そう思って自販機へと向かう。
その道中何人か俺の下駄箱の近くでたむろっている連中を見かけたが、気にしないでおこう。
自販機でMAXコーヒーを買い、雪ノ下に部活を休むことを伝え、玄関へと向かう。あっさりと許可を出してもらったのはなんとも言えないのだが。
玄関に来てみたが、さっきまでの連中はもう居なくなっていた。ただ、たむろっていたぶん、なにかされてる可能性が高い。
一応警戒して自分の下駄箱を開けてみるなり、つま先の方までびっしりとゴミが入っていた。
...めんどくせぇ。
とりあえず何も考えずに近くのゴミ箱へと捨てに行く。
大丈夫、訓練されたぼっちはこんな小学生並みの嫌がらせには負けないんだからね!!
なんて思いながら今日のところは帰ることにした。
戦略的撤退?何それ。負けてねーし。
翌日からも同等の嫌がらせは続いた。そしてそれは、日に日にレベルが上がって行った。クラスではヒソヒソと嘲笑う声が聞こえ、机には小さく彫刻刀で削ったりした跡が見え出した。
こうも続くとさすがに面倒くさい。
そうして少しずつストレスが溜まってきてたある日のことだった。
俺はいつも通りチャリで学校へ向かう。後ろに乗ってる小町は「お兄ちゃん、最近どんどん目が腐っていってない?」なんて言ってるが、まあ無理もない。
はぁ...行きたくねぇ。
小町を届けたあと、学校へ向かい教室へ入る。いつもと変わらないような景色がそこにはある。明らかに一個人に矛先が向いた、変わってしまったいつもと変わらない景色。
ふと思った。俺が守りたかったものはなんだと。
ただ、そんなのは一瞬。後ろから声が掛かる。
「八幡!おはよう!」
「...ん、ああ」
いつもの眩しい笑顔で戸塚がやって来る。ただ、少し瞳は曇ったように見える。
「...ねぇ八幡。大丈夫?」
戸塚はそれまでの笑顔から表情を変えた。
「大丈夫だ。どうせ目立たないくらいの嫌がらせだしな。」
実のところだいぶ精神的にきている。けど、戸塚にまで迷惑はかけれない。
「うん、大丈夫ならいいんだけど...。もししんどかったら、もっと頼って欲しいな」
頼って欲しい、か。ちょっと前まではそんな居場所があったかな...。
「ああ、心配、ありがとな。」
そして戸塚は席へ戻った。予鈴が鳴る。さて、今日も憂鬱な一日が始まるのか。
いつもの憂鬱な6時間が終わった。今日もまっすぐ家へ向かう予定だ。3日ほど前、雪ノ下から「無理に来なくていいわよ」との連絡があり、今はそれに甘えさせて貰っている。
今日は書店にでもよるか。
そんなことを考え、階段を降りようとした時だった。
ドンッ
一瞬何が起きたかわからなかった。そして、それと分かった時にはもう遅かった。身体が宙に浮いている。そしてその先には...
ダァン!
激しい衝撃とともに俺の身体は階段の踊り場の壁にぶつかる。
「うぅ...あ...」
全身を鋭い痛みが走り、まともに声が出せない。頭からは血が流れた感じがし、変な方向へは向いてないものの、地面に着いた際強く打った足はかなり腫れていた。
「はっ、ざまぁねえぜ」
「もう行こうぜ、証拠なんて残されたらタチ悪いじゃん?」
どこかで聞いた声だ。確かこれは...。
あれだ。葉山のグループの大和と大岡だ。
...なんだよ。俺は自分を犠牲にしてまで守ったグループの連中に痛めつけられてるのかよ。
「クソっ...!」
そう吐き捨てて立ち上がる。今は帰らなければ。帰らなければいけない。
立ち上がった際右足に再び激痛が走る。一瞬バランスを崩したがなんとか立て直し、手すりに捕まりながら自転車を目指す。
頭の血は持ち合わせていたハンカチで一応止血はしておいた。が、少しずつではあるが血は流れている。
いつものゴミだらけの下駄箱を抜け、やっとの思いで自転車置き場に着く。けれどそこには
タイヤの切り裂かれた自分の自転車が倒れていた。
「ははっ...なんだよこれ」
「なんだってんだよこれは...!」
「俺が何をしたってんだよ...!」
「あは、はははは....」
もう俺は考えるのも、生きるのでさえどうでも良くなった。帰ろうと思ってたはずなのに、今は帰りたくない。
帰りたくないけど、もうここには居たくない。
いつの間にか強い雨が降り始めていた。
ずっと激痛が走ったままの右足を引きずりながら、俺は傘も刺さないで目的もなく歩いた。ただただ歩いた。
もうフラフラですぐにでも倒れそうだ。そのまま死んでもいいかもしれない。
そして俺の身体はついにバランスを崩し倒れる。そんな俺の最後に視線に写ったのは...。
「ひゃっはろー!比企谷く...ん...?」
「雪ノ下...さん...ですか...」
1番見られたくない人に見られたなぁ...。
あぁ、この人驚いてるよ。そりゃ驚くだろうな。見慣れた人物が頭から血を流して倒れてるんだから。
なんか急に携帯取り出したぞ...?
まあいいか。少し眠たくなってきた。
そしてそのまま俺は...
意識を失った。
相変わらず過去形と抽象的な表現のオンパレード。あなた、作者失格よ?なんてびっしり言ってください(・ω・ )
次回ははるのん視点が入るかな?
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#2 ずっと比企谷八幡は誰かに頼りたかった
そんな彼を偶然見つけた雪ノ下陽乃は...。
短っ!!?
---もし、歩んできた人生に間違いがあったとしたら。俺はどこで間違えたんだろう---
ー陽乃sideー
最近ぜーんぜん面白いことがない。あーあ退屈だなぁ...。
大学帰り、暇つぶしにと立ち寄ったドーナツショップで窓に片手で頬づきながら外を見渡す。私が入って5分くらいたった頃から降り出した雨は次第に強くなってるみたいだ。
まあ、傘は持ってるけど...。
つまんないなぁ...。
でもすぐに帰りたくないかな。あんまり家にはいたくないし。
こんな時、なにかいいおもちゃ...ううん言い間違い。話し相手かなにか居ないかな....。
...いるじゃん!
目が腐っててちょっと猫背でちょっと可愛い後輩くんが!
即座に携帯を取り出し、電話をかけようとする。しかし、番号を打つ前に指は止まった。
うーん。でも部活行ってるかもしれないしなぁ。電話はちょっと辞めとこうか。
そうしてバッグの中に携帯を収める。
もういいや。今日は帰ろっと。
会計は先に済ませるタイプの店なのでとっくに会計は終わっている。レジ前を通り抜けて私は店を出た。
傘を片手に雨の街へと歩き出す。車を呼んでもいいかもしれないが、家は近いので歩いて帰ることにした。
歩き出して数分たった頃だろうか。差し掛かった直線に見慣れた目の死んだ猫背の少年がいた。
なーんだ、部活でてないじゃん。せっかく見つけたんだし、捕まえてどこか連れて行こうか!
「ひゃっはろー!比企谷く...ん...?」
私が声をかけた瞬間。目の前で彼は倒れた。その時彼のポケットから出てきた全体が赤に滲んだハンカチを見て声が消えた。こんなに血が滲んだハンカチ、きっと尋常じゃないほどの血が出てるのだろう。
とりあえず深呼吸。
少し落ち着いたので彼の元へ急いで近づく。死んだ魚のような目は開いていない。どうやら意識を失ってるようだ。
「これってどういうこと...なのかな」
誰にも聞こえないような独り言を呟く。ちょうど周りには私と彼以外誰もいないのだが。
一旦携帯を取り出す。しかし、次の行動に悩んだ。
どうしようかな...。普通に119で呼ぶのが当たり前かもしれないけど、きっと彼は表沙汰にしたくないんだろうし...。都築を呼んで近くの病院へ運ぶってのもありかもしれない。
けどやっぱり...
そう思って私は119の数字を携帯に打ち込んだ。幸い病院は近い。雪ノ下家と関わりのある病院というのも好都合だ。
「もしもし雪ノ下です。...はい、救急です。場所は...」
ー八幡sideー
目が覚めたそこは見知らぬ天井だった。
ってよく言うけどほんとだよ?
本当に見知らぬ天井を見上げていた。
「...ん、と。ここは...病院か?」
辺りを見渡して状況を確認する。どうやら病院で間違いないらしい。
時計は7時を指している。明るさ的に朝のようだ。
はぁ...。なんで生きてんだろ俺。
倒れる前のことを思い出し気分が悪くなる。あのまま最後を迎えてもよかったのにな、と冗談でも聞きたくないことを思う。
「はぁ...起きちまったのか...」
「起きたみたいだね、おはよ」
「うおっ!!?」
自分以外の声が聞こえた。何何誰誰まさか幽霊そんなわけいやでも
「おはよ。比企谷くん」
声と同時に隣のカーテンが空いた。そこから現れたのは雪ノ下さんだった。
「なんだ雪ノ下さんか...。おはようございます...ってはぁ?」
「いちいち驚かなくてもいいでしょ。あなたが運ばれた。私が見舞いに来た。それだけでしょ?」
「は、はぁ...」
とりあえず状況が分かってきたので体を動かそうとする。しかしその時、動かそうとした右足に激痛が走った。
「っ!!」
声にならない悲鳴をあげた。雪ノ下さんはそれを見てか表情を変え、少し低い声音で話し始めた。
「今足、痛かったでしょ」
「いや、別にそこまで...」
「《折れてる》らしいけど?」
「...」
昨日だいぶ腫れてたきがしたけどやっぱりか。
「それで、君は昨日倒れて病院に運ばれた訳だけど」
「まあ、そうみたいですけどね。...どうしたんすか」
雪ノ下さんは一呼吸置いてまた話し出した。それも、さっきより低い声音で。
「まずは怪我について。さっきも言ったけど右足が折れてるらしいね。単純骨折だからそんなに直すのに時間はかからないって。そして頭の方。どうやら切ったみたいだね。6針縫ったらしいよ。」
「はぁ...。でもそれだけで意識失うんすか?」
「...ストレス的負担。それが倒れた直接の理由だよ」
言葉に詰まった。当然だ。その通りなのだろうから。
「君は何かを隠してる。そして今回も隠し抜こうと思ってる。違う?」
「そんなこと...」
「あるね。」
雪ノ下さんは断言した。その瞳には怒りのようなものが見える。
「...比企谷くん。お姉さんのこと騙そうとしたって無駄だよ。だいたい何を思ってるか感じることだってできる。まあ、何が理由かだけは、まだ知らないけどね。」
突如、学校での出来事のフラッシュバックが起こる。
(クソっ、クソっ、クソっ!!)
頭の中が混乱して言葉にできない。とにかく叫んで晴らしたい気分だった。
(助けて、助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて)
頭の中を助けての文字がよぎる。背中に冷や汗が流れ出し、握りしめた拳が震え出す。
そんな俺の手を取って雪ノ下さんは俺と目を合わせた。すぐに目を逸らしたが、一瞬、上面ではない、本当の優しさをもった瞳が見えた。
「...いいよ。全部聞いてあげる。全部受け止めてあげる。だからさ、比企谷くん。一回くらい、私を信じてよ。」
さっきとは真反対の柔らかい微笑み顔で雪ノ下さんはこちらを見つめる。
「なんで、今日は優しいんですか...。こんなの...信じない方がおかしいじゃないですか...。でも、信じたら...」
俺は信じることが怖い。今までだってずっと裏切られてきた。けれど...でも...。
それと同時に過去全てのトラウマが蘇る。
それへの否定か、あるいはさっきの一言への安堵なのか。理由は分からないが目尻を熱いものが伝う。
涙。
いつぶりだろうか。ここまで心が不安定なのは。ここまで優しくされたのは。ここまで頼りたくなったのは。
「そうだよね...。いいよ、泣いて。ずっと待ってあげる。」
俺の感情をせきとめていたダムが崩壊するには、その一言で十分だった。
「うっ...うああああああ!!」
泣いた。泣き叫んだ。赤子のように。初めて買ってもらったおもちゃが壊れた子供のように。映画で見た愛する人を失った時のように。感情のままに、泣いた。
「俺は...誰も傷つけたくなかっただけなのに...!」
いまだに涙は止まらない。そんな俺を雪ノ下さんはずっと見守ってくれた。赤子が泣き止むのを優しく見守る母親のように。
「雪ノ下さん...、お願いが...あります...。」
少し落ち着いた。俺は詰まりながら切れ切れながら口にする。
言ってしまおう、全て。この人を信じて。
「うん。いいよ。聞いてあげる。」
「俺を...
助けてください」
やっぱり視点を分けて書くと書きやすくていいですね!!次回辺りから学校メンバーの視点も入ってくるかな?因みに、この視点分けとストーリーのヒントをくれたのは、めぐり先輩√を書き上げた方です。圧倒的respect( ˘ω˘ )
ではまた次回。
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#3 そして平塚静は後悔する
あらすじ難しいよォ!!(悲痛な叫び)
ー陽乃sideー
---過去 病院内待合室---
夢を見た。ただそれは、見たくもない現実。
「陽乃、あなたは"雪ノ下"なの。それ相応の振る舞いをしなさい」
そう言われたのはまだ5歳にもならないころだった。
私は名家雪ノ下の家に長女として生まれてきた。
私は生まれてからずっと母の言うように過ごしてきた。今もまだそれは変わっていない。
そうして身についたものがこの仮面。中の感情を見せないまま、表情を変えることの出来る仮面。
...こんなもの、いらないんだけどなぁ。
---現在 某病院とある病室---
時刻は朝の7時になっていた。
「...ん、と。ここは...病院か?」
馴染んだいつもの声が聞こえる。どうやら彼は目が覚めたようだ。
今はカーテン越しなので、彼の姿が見えない。
とりあえず、今は彼の話を聞きたい。そう思って彼のベットのすぐ近くの椅子へ腰掛ける。
次彼がなにか喋ったら言葉を返してみよう。
そんなことを思った矢先だった。
「はぁ...起きちまったのか...。」
「起きたみたいだね。おはよ」
「うおっ!!?」
彼は驚いて身体を起こした。よし、そろそろかな。
カーテンをつかみ、右にスライドする。
「おはよ。比企谷くん」
「なんだ雪ノ下さんか...。おはようございます...って、はぁ?」
「いちいち驚かなくてもいいでしょ。あなたが運ばれた。私が見舞いに来た。それだけでしょ?」
マジレスしてしまった。(`・ω・´)
ちょっとリアクションが面白かったけど、そんなにいらないかなぁ...、なんて。
「は、はぁ...」
そう言って彼は身体を動かそうとした。
が、数秒後、その表情は苦痛に満ちていた。
急に現実に引き戻された気がした。
そう、私は彼に伝えなきゃいけないことがある。聞かなきゃいけないことがある。まずは...伝えるほうだ。
そう思うと自然にいつもの笑顔が消えた。心が少し冷めた感覚になる。
「今足、痛かったでしょ」
「いや、別にそこまで...」
「《折れてる》らしいけど?」
「...」
彼は黙った。やっぱりこういうことは隠そうとするんだ。
けど、私は見逃さないよ。
話を戻そうか。
「それで、君は昨日倒れて病院に運ばれた訳だけど」
「まあ、そうみたいですけどね。...どうしたんすか」
彼は姿勢を変えない。いつもなら、そんな彼が好きなのに今だけはそれが許せないでいた。
それが声に出てたのだろうか。声音がいつもより低い気がする。
「まずは怪我について。さっきも言ったけど右足が折れてるらしいね。単純骨折だからそんなに直すのに時間はかからないって。そして頭の方。どうやら切ったみたいだね。6針縫ったらしいよ。」
「はぁ...。でもそれだけで意識失うんすか?」
そうだ。基本そんな怪我じゃ意識を失うまではいかない。彼に、もう一つの理由を伝える。
「...ストレス的負担。それが倒れた直接の理由だよ」
彼は黙り込んだ。やっぱりそうだ。
今彼は理由はともあれ心にも傷を負っている。けど、その内容は決して言わないだろう。表沙汰にしたくないはずだ。それでも、なぜかはわからないけど。
私は彼を、救いたくなった。
まずは聞かないといけない。
それが、今私がここにいるもう一つの理由だから。
「君は何かを隠してる。そして今回も隠し抜こうと思ってる。違う?」
「そんなこと...」
「あるね。」
逃げ続ける彼の態度に少しイライラを覚える。でも、一緒に感じた感情は「哀しい」だった。
...分かった。私が彼を救いたい理由。それはきっと、彼が自分と同じ、《変わることができない人間》だったからだ。
きっと彼は変わらないでいたいのだろう。だが、そのままでは彼は何も得られない。失ってばかりになってしまう。
私はそんな彼にきっと、小さく自分の影を写していたのかもしれない。同じ変わることができない人間として。
だから今は彼を救う。そうすれば自分も少し救われる気がするのだろう。
でも今はまず、少し叱った方がいいのかな?
そう思って彼に声をかける。
「...比企谷くん。お姉さんのこと騙そうとしたって無駄だよ。だいたい何を思ってるか感じることだってできる。まあ、何が理由かだけは、まだ知らないけどね。」
これは半分あってて半分嘘だ。
本当は何を思ってるかはっきりわからない。だから伝えて欲しい。
そんな中彼はひとり目をつぶって首を横に振っている。
強く握りしめている拳が震えていた。
そっか。やっぱ怖かったんだね...。
気がつけば私は彼の手を握っていた。
向き合おう、ちゃんと。そう思って彼に視線を合わす。
すぐにかわされたけど。
今はそんなことどうでもいい。ここまで来たんだ。全部言ってしまおう。
「...いいよ。全部聞いてあげる。全部受け止めてあげる。だからさ、比企谷くん。一回くらい、私を信じてよ。」
この時私は初めて
心から微笑んだ。
「なんで、今日は優しいんですか...。こんなの...信じない方がおかしいじゃないですか...。でも、信じたら...」
彼はまた下を向いた。けれどそれは何故か分かっている。
彼はどうすればいいか分からないんだ。きっと今まで裏切られ続けた人生だから。人に頼ることがきっと怖いんだ。
それでも私は、頼ってほしいなぁ...。
そして。
彼は泣いていた。涙が彼の頬を伝う。
『一人で泣かなくていいよ。』
心の中でそっと囁いた。このことを伝えよう。今しかない、素直な気持ちで。
「そうだよね...。いいよ、泣いて。ずっと待ってあげる。」
それを聞いた瞬間、彼は声を上げて泣き出した。普段の彼からは想像出来ないくらいの顔で。声で。
彼がこらえてきたものがどれくらい大きいか。それを思ったら私の目尻にも少し涙が滲んでいた。
5分くらい経つ頃には、だいぶ落ち着いていた。
そして彼は、少ししゃくりを混ぜながら、弱々しく口にする。
「雪ノ下さん...お願いが...あります...。」
「うん、聞いてあげる。」
そして彼の口から出た言葉は、今私が一番欲しかった言葉だ。
「俺を...助けてください」
「いいよ。助けてあげる。」
---数十分後 病院外にて---
比企谷くんから全てを聞き、病室を出た私は、昨日のように携帯を取り出した。昨日のうちに小町ちゃんにメールは打っておいたので、今は急いで電話をかける必要は無い。今回は彼の身内とは別な人だ。
仮面のせいで結構な数埋まっているアドレス帳、その中のある人物に電話をかける。その相手は...
ー平塚sideー
最近、奉仕部の面子の様子がおかしいように感じてきた。
特に比企谷。
何か依頼があったのだろう。最近でいえば修学旅行かもしれない。そこでトラブルか何かがあったということも考えれる。
そんな比企谷の最近だが、目が今まで以上に死んでいる。
もしかしたらそのトラブルが原因で、比企谷がいじめなんてものにあっていたとしたら。
私は生徒指導の担当だ。
それは未然の防がなければいけない。
なにか異変があるかもしれない。クラスを細かくチェックしに行かなければ。
その時、私のデスクの電話がなった。
「もしもし、総武高校平塚ですが。」
『もしもし、2-F、比企谷八幡の母です。あの、八幡なんですけど...。』
比企谷の母親からの電話だった。会話中比企谷の名前が出された時、ゾクッとした。冷や汗が流れる。
「はい。」
『ちょっと怪我してしまったようなので、少しの間休ませて頂きます』
「は、はい。分かりました。」
そう言い終わる頃電話が切れた。
嫌な気がする。手が震える。まさかやはり比企谷の身に何かあったのだろうか。
しかし、来ない以上詳しく話を聞くことは出来ない。
そう諦めかけていたとき、別の方向から電話がかかってきた。
聞きなれた着信音。携帯だ。
誰からかと思い画面に目を向ける。そこには
「雪ノ下陽乃」
という名前が書かれていた。
何のためにかけたかわからない。ちょっとしたイタズラかもしれない。しかし、比企谷の一件に何か関係あるかと思い、電話を取った。
『ひゃっはろー!静ちゃん!』
「こんな朝早くから何の用だ。陽乃。」
すると陽乃はこれまで聞いたことの無いような声に変わった。
『今、比企谷くんの親御さんから電話来たでしょ?』
「...!!?なんでそれをお前が知ってるんだ!!?」
私は動揺を隠せなかった。さっきより震えが増している。
『やだなぁ...あんまり大声出さないでよ静ちゃん。一応外には出たけどここ、病院なんだから』
「病院...?まさか比企谷入院してるのか!?」
『うん、してるよ。』
絶望だった。私はまた、比企谷を救うことが出来なかったのか...。
もはや何も言うことが出来ず、口をぱくぱくする。声が出ない。
『おーい、静ちゃん聞こえてるー?』
「あぁ...」
やっと声が出たが空返事になってしまった。
しかし。
陽乃は全てを知っている。だから今は辛くても聞かなければいけない。逃げてはいけない。
「なぁ、陽乃...。今、どういう状況か教えてくれ...。」
『そのために電話をかけたからね。伝えるよ』
それから全てを聞いた。修学旅行で受けた依頼を期に比企谷にいじめが始まったこと。それが依頼主のグループのメンバーだったこと。そして挙句自転車のタイヤを切り裂かれ、階段から落とされたこと。
聞き終わる頃にはもうなにも考えたくなかった。
あぁ、私は教師失格だ。自分の婚期くらいどうにでもなる。けれど、私はそれ以外の、どうにもならないミスを犯してしまったんだ。
『ってのが比企谷くんから聞いた全て。静ちゃんはもちろん信じるよね?』
「その前に陽乃、一つ聞いてもいいか?私が比企谷を奉仕部に入部させたこと、間違いだったと思うか?」
決まってる。間違いだ。そのせいで今一人の教え子を傷つけている。
『んー、私にはわからないよ。きっと彼にも。でもね静ちゃん。』
『今、彼のために動けないのなら、それは間違いだよ。これでもかってほどの大間違い。それと、さっきの質問、答えてねー』
陽乃はYesともNoともつかない言葉を返す。ただ、その言葉にはこれ以上にない説得力があった。今動けるか、動けないか、か。
ならば私は...
「私は...信じる。信じてあいつの味方になる。それが今私が出来る償いだと思う。」
『...静ちゃんが恩師でよかった。私も信じるよ。静ちゃんが彼の味方になることを。』
一瞬間が空いて陽乃が返事を返す。いつもと違う雰囲気に私は少し驚いた。これは、外面なのか?
「なぁ陽乃。今日のお前は...なんかこう素直で優しいな。」
『...気の所為でしょ?まあいいや、もう切るねー』
そして電話は終了した。
携帯を元の位置に戻し、手を目にやり空を見上げる。
すまない比企谷。私は君の異変に気づけなかった。
けれどお前さえ許してくれるなら...。
お前の味方にならせてくれ。そして
お前を必ず助けてみせる。
ヾ(・ω・`)ねぇねぇ
(*´-ω・)ン?
ヾ(・ω・`)UAが1000件超えたらしいよ?
(*´-ω・)またまたそんなこと言って...
( ゚д゚ )えっ?
Σ(*OДO;/)/
〜UA1000件超え...ありがとうございます!!!〜
-----------------------------✁︎キリトリ線✁︎----------------------------
昨日八幡視点で書いた範囲を陽乃視点にすると文字数が2倍になった。( ゚д゚)オカシイ
という事で3話、どうだったでしょうか?
陽乃視点、平塚視点で頑張ってみました!
このペースだと10話は余裕で越えそうですね...頑張ろう!!
そして余談ですが、
#0 約1000字
#1 約2000字
#2 約3000字
#3 約4000字←イマココ
...えぇ。次回は5000字行っちゃうのかな?
相変わらず拙い文章ですが、次回もよろしくお願いします!
後書き楽しい( ˙꒳˙ )
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#4 今一度、比企谷八幡は自分と向き合う
そんな今、この一瞬だけ。
雪ノ下陽乃の仮面は剥がれようとしていた。
あらすじって何書けばいいのさ( ´・ω・`)
ー陽乃sideー
私は今静ちゃんこと平塚静先生に電話している。内容は勿論比企谷くんの事だ。
『私は...信じる。信じてあいつの味方になる。それが今私が出来る償いだと思う。』
「...静ちゃんが恩師でよかった。私も信じるよ。静ちゃんが彼の味方になることを。」
『なぁ陽乃。今日のお前は...なんかこう素直で優しいな。』
「...気の所為でしょ?まあいいや、もう切るねー」
そう言い残して電話を切った。
やっぱり静ちゃんは私が言いたかったことを分かってくれた。
生徒指導の方からきっと上に言ってくれるだろう。
今回これからの行動については彼自身が許可を出している。だから私達はその範疇で動くつもりだ。
さて、今はこんなものかな?
いや...。
あと、今日中に彼のことを伝えなきゃ行けない人間が1人、いや2人いる。
...まあ、今日は大学行かないと行けない日だから放課後になるかなー。
二人とも、きっと《部活》に行ってるはずだから、覗きに行けば会えると思うけどな。
さて、比企谷くんに行ってきますでも伝えてくるか!!
ー比企谷sideー
俺以外誰もいない病室。
今一度、自分に問いかけてみる。
俺が欲しかったものはなんだ?
自分を犠牲にしてまで、他人に迷惑かけまいとして生きてきて、欲しかったものは一体なんだ?
分からない。
分からないけど、もしもそれが、今自分の近くにいてくれる人がいてやっと手に入るのなら。
俺は...
「ひゃっはろー!比企谷寝てなんてないよねー?」
ドアが開く。そのチンピラっぽい挨拶はいい加減聞き飽きましたよ雪ノ下さん。あと俺は基本寝てます(-_-)zzz
「意識失ってあれだけ寝てたのにそんなすぐ寝れるわけないじゃないですか。で、どうしたんですか急に帰ってきて。」
時計の針は7:45を指している。
少し前に雪ノ下さんに予定を聞いたところ、今日は朝の方が結構埋まっているらしい。
だから、今ここに長居することはないはずなのだが。
「うーん、そうそう。あのね...。」
「なんですか?」
なんですか焦らしですか早く要件を言ってくれない人は正直無理ですごめんなさい。
なんて冗談めかしたことを思ってみる。
...あれ?どっかで聞いたことある?
「えーっとその、行ってきます!八幡!」
「うぇっ!?え、ええ...いってらっしゃい...?」
急に名前で呼ばれてびっくりした。...びっくりするのそこだけ?
しどろもどろになりながらいってらっしゃいを告げる。雪ノ下さんは満足そうな顔をドアの方向へむけ、歩いていく。
「ふふっ」と笑い声が聞こえたのは聞かなかったことにしよう。うん、それがいい。
勢いよくドアが閉まる。ここ病院だからねやめようね。
嵐のような《いつもの》雪ノ下さんが去っていた。
ふぅ...。疲れたよぉ...。(朝の8時前)
さっきまでの雪ノ下さんどこ行ったんだろう...。
ふと辺りを見回すと、雪ノ下さんが座っていた椅子の上に本が置いてあった。
---数分前 とある病室---
「落ち着いた?」
「はい...」
ひとしきり泣いたあと、やっと落ち着いてきたので面と向かって話してみることにする。
それから雪ノ下さんにいじめの経緯、内容、それ前後に起きたイベント、今ある全てを詰まりながら、込み上げる何かを堪えながら話した。
「なるほどね。で、助けるって具体的に何をすればいいのかな?」
「そうですね...。まず生徒指導の先生、まあ平塚先生とか、上層部の人への通達ですかね...。」
「ふーん、最初っから『主犯のヤツらを潰してくれ』じゃないんだね」
主犯のヤツらと聞いてまた勝手に身体が震える。やはりまだ怖いのかもしれない。
「あぁ、ごめんごめん。怯えさせるつもりなんてなかったんだけどね。」
雪ノ下さんは申し訳なさそうに手を合わせる。
「けど、少なくとも私はそうしたいかな...なんて」
数分前に見た怒りに満ちた目だ。しかし、その矛先は俺ではなさそうだ。
「...まだ結構怖いんです。背後が。階段が。人が。感情が。
今は学校にもいけそうにないくらい...。ちょっとダメですよね...。流石に。」
「ううん、ダメじゃないよ。だって比企谷くんも人間だからね」
今のこの人は本当に優しい。こんなに優しくされると、もっと頼ってしまいたくなる。
でも...きっとそれではダメだ。
結局は自分で一歩を踏み出さなければ。
「とりあえず、比企谷くんが今どうしたいかは分かった。
まずは静ちゃんに電話をかけるとして...、そうだ、比企谷くん。部活の2人にはどうするの?」
部活の2人...?
『あなたのやり方、嫌いだわ...。』
『人の気持ち、もっと考えてよ!!』
その言葉を聞いた瞬間、あの夜のことを思い出した。冷や汗が流れ、息が荒くなる。
「はぁっ、はぁっ、はっ、はっ...」
だんだん息が早くなり、次第に呼吸が苦しくなってきた。
「比企谷くん!?ちょっと落ち着いて!」
そう叫んで雪ノ下さんは
身体全体を使って俺を抱きしめた。
少し間が空いて、脳が状況を理解したのか、呼吸はどうにか落ち着いた。
「ごめん。一気に話しすぎちゃったね。この話は一旦おこうか」
「...すいません。こちらも迷惑かけて。」
お互い一回距離を置いて深呼吸。
ちょっと雪ノ下さん顔赤かったなぁ...。
「ふぅ...、とにかく、今は君がどういう状況かを君の周りの人間に伝える。それでいい?」
「はい、お願いします。」
結局、こういう話でまとまった。
「そういえば、小町らには連絡してあるんですか?」
「んー?してあるよー。まあ、内容は詳しく書かずに業務連絡程度にしておいたけどね。」
どうやらメールしててくれたようだ。
流石雪ノ下さん。使い分けが完璧すぎる。
「はぁ、ありがとうございます...。」
「それじゃあ、ちょっと外出てくるから。」
何をするかは何となく察しがついたので、聞かないでおくことにした。スタスタと歩いていく雪ノ下さんを見送る。その背中は自分よりも遥かに大きく感じた。
---現在 とある病室---
とりあえず、今は自分と向き合おう。
俺が欲しいものはなんなのか。なんのために生きていくか。まだまだ俺は俺を知らない。
だから、自分と今一度向き合おう。
そう思って、雪ノ下さんが置いていったであろう椅子の上にある本に手をかけた。
その本のタイトルは
『1歩前へ、自分を変える為の魔法』
前回5000字と言ったな。あれは嘘だ...。
------------------✁︎キリトリ線✁︎-----------------
すいません。今回頑張ったけどつなぎの回になってしまいました。深く反省m(_ _)m
この回だけなら評価☆1でもおかしくないですね。
実際、どういう展開運びをしようかとずっと考えてはいたんですが、細かい部分や時系列がしっかりとまとまらなかったです...。
次回こそは...!奉仕部メンバーの視点を...!!
なので次回も是非、読んでくださいお願いします...!!!!!
(そしてここまで読んでいただき、ありがとうございます。
失踪しないようこれからも頑張ります。)
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#5 ついに雪ノ下陽乃は決断を下す
なんだこの形式( ˙꒳˙ )
ー由比ヶ浜sideー
あたしは自分がちょっぴり好き。いつも周りには友達がいてくれて、勉強は出来ないけど自分を認めてくれる人がいてくれて、...ちょっと胸があるところとかが。
あたしは自分が大嫌い。その友達の空気だけ読もうとする自分がいて、つまり学習能力がなくていつも周りに迷惑かけてばかりいる自分がいて、もっとそれ以外にも理由はある。
ヒッキーと出会ってあたしは変われるのかなーなんて思ってた。
けど結局、あたしはあたしのままだった。いつもゆきのんとヒッキーの顔色を見てばっかだった。
この前を気に、もっとそれが分かった気がする。
はぁ...。
「...結衣聞いてんの?」
「え、あぁ、ごめん...。」
優美子に呼ばれて我に返る。
今はHR前。とはいえどそろそろ先生が来る頃だ。
「そういえば今日はヒキタニくん来てないべー?さっきの結衣、ひょっとしてそれが理由だべー?」
戸部っちの口から唐突にヒッキーの名前が出て、一瞬ビクンっと身体が動いた。
「え!?あぁ...うん、そうかも...。」
「ヒキオでも休むことくらいあるっしょ。それよりさっさと席つきな。時間来てっしょ。」
「あ、そうだね。」
あはは...と苦笑いをして席へ向かう。
HRが終わった。ヒッキーはやっぱり休みなようだ。
けど、さっきのHR中、ヒッキーの休みの連絡があった時に大岡くんと大和くんの方から
「休みかよあいつあれだけで...」
「流石にやりすぎたんじゃね?」
なんて聞こえてきた。
なにか不吉なことでも起きてなきゃいいけど...。
やっぱり心配だ。
さて、1時間目は移動教室だからなるべく早く移動しよう。
そう思ってた時、チャイムがなり、生徒の呼び出しがあった。
「2年F組の大岡、大和は生徒指導平塚のところまで来てくれ」
たったそれだけの言葉。でも、今のあたしの平常心を砕くにはその一言で十分だった...。
いつの間にか放課後になっていた。何も考えてなかったのか、今日は何を習っていたか全く覚えていない。
グループの方は呼び出しの一件からずっと黙ったままの状況だ。隼人くんも少し落ち着きが欠けてるように見える。
結局、1時間目開始前に呼ばれた、大岡くんと大和くんが戻ってくることはなかった。
「なぁ...比企谷にいじめがあったってマジ?」
「さぁ...?マジなんじゃね?」
クラスメートからボソボソっと声が聞こえる。
嫌だ、今はここにいたくない。
とりあえず、誰かに話を聞いてもらいたい。吐き出してスッキリしたい。
ゆきのん...。
あれから部活に顔を出しにくくなって行く回数が減ってしまったけど、ゆきのんは聞いてくれるかな...。
迷っても仕方がない。今は行こう、奉仕部へ。
部室前に着いた。鍵はかかってない。どうやらゆきのんは今日もいるみたいだ。
ガラガラッ
少し元気ない音でドアを開ける。ゆきのんはいつもの場所に座っていた。
「あら由比ヶ浜さん。いらっしゃい。」
「や、やっはろー...。」
少し気まずそうに自分の席へ座る。ゆきのんは今日も変わらず文庫本に目を通している。
...ゆきのんは噂のこと知ってるのかな?
少し聞きにくいけど聞くしかないよね...。
「あ、あのさゆきのん...。」
「どうかしたの由比ヶ浜さん。」
ゆきのんは読んでる本を置いて話に反応してくれた。
「あのさ...ヒッキーの事だけど。噂になってるあれって...本当なの?」
するとゆきのんは不機嫌そうな顔をして言った。
「分からないわ。けど、彼にもしそれがあったとしたら、《自業自得》としか言えないわね。」
えっ...?
その言葉は今まで聞いた全ての言葉より冷酷で、鋭かった。
なんなの?それ...。冷たすぎるよ...。
そのとき、もう一度部室のドアが開いた。
「本当に、雪乃ちゃんはそう思ってるの?」
さっきの声よりはるかに冷たい声がする。
そこに居たのは...。
ー陽乃sideー
大学が終わり、潰すべき予定は全て終わった。
1回病院へよるくらいの時間はあったけど、そんな毎回毎回比企谷に会いに行ったら嫌な顔しそうだしやめておいた。
よし、じゃあ向かおうかな。懐かしい母校、総武高校へ。
私の大学から総武高校もそう遠くはない。なので歩いて数分、すぐに総武高校へ着いた。
一応静ちゃんに挨拶をしに職員室へと行く。けど今は静ちゃんはいないようだ。
「なんだ、雪ノ下姉か。悪いけどお目当ての平塚はいねぇぞ。多分生徒指導の方行ってるはずだ。」
「あ、そうですか。ありがとうございます。」
私の在学中から居た、少し親しい先生が教えてくれた。
まぁいいや、今は向かうべきはここじゃないからね。
私は奉仕部の部活へと向かって歩いた。
さてと、部室前には着いた。さっきガハマちゃんが入ってくのを見たから、ちょっと様子を見て入ろう。
「あ、あのさゆきのん...。」
「どうかしたの由比ヶ浜さん。」
おっ、早速話し始めたぞ。
内容は比企谷くんの事かな?
「あのさ...ヒッキーの事だけど。噂になってるあれって...本当なの?」
...やっぱりもう広まってたか。
それにしてもさっき思ったけど静ちゃん、行動早いでしょ。ああは言ったけどさ...。
さて、雪乃ちゃんはどう答えるのかな?
彼のことをどう思ってるのかな?
けど...
『分からないわ。けど、彼にもしそれがあったとしたら、《自業自得》としか言えないわね。』
その答えは、私が望んでるようなものじゃなかった。
自業自得...?
何もやらなかった雪乃ちゃんがそれを言うの...!?
ふざけないで!
彼に言われた話を思い出し、私の中の何かが切れた。
気がつけばもうドアを開けていた。
「本当に、雪乃ちゃんはそう思ってるの?」
「...姉さんっ!?」
「雪ノ下さん!?何でここに居るんですか!?」
2人は一斉に驚きの声を上げた。私はと言うと変わらぬ剣幕で部室内へと入っていく。
「ねぇ雪乃ちゃん、もう一回だけ聞くよ。今のはあなたの本心?」
「...ええ。本心...のつもりよ。」
一瞬間を置いて雪乃ちゃんはそう言った。それが本心にしろ偽物にしろ、もうどうでもいい。
もう全てが終わった気がした。
彼はこんな所にいてはいけない。
彼は自分を幾度なく犠牲にして依頼を、この場所を守った。でもこの部活はもう腐っている。理由は間違いなく雪乃ちゃんだ。
私は雪乃ちゃんが好きだった。自分の背中を追ってついてくることがめんどくさい事もあったけど、それでもまだ妹を好きだと思っていた。
けれど。
今ここにいる雪乃ちゃんは、もう顔も見たくないほど大嫌いだ。
始めて親しかった人間を心から軽蔑した気がする。
「何もしなかった、自分のやり方でさえ見せなかった雪乃ちゃんが、《自業自得》ねぇ...。言えると思う?今更。」
「...姉さんに何が分かるの!!」
「分かるよ。何があったかはもう全部《彼》に聞いた。確かにこれは彼自身が招いた結果かもしれないよ。だけど、どうしてその答えになったの?どうしてそうせざるを得なかったの?...ねぇ雪乃ちゃん。一体誰のせいだと思う?」
怒りに任せて全てをぶつける。そうでもしないと自分の中にもっとどす黒い感情が溜まってしまいそうだったからだ。
「...!そんなの....」
「じゃあ教えてあげようか、それは「待ってください!!」
気がつけばガハマちゃんが叫んでいた。
「...1分だけ話を聞いてあげる。」
「雪ノ下さんは...ヒッキーの現在についてどれだけ知ってるんですか...?」
「全部だよ。多分ガハマちゃんが知りたいことも全部。」
「今、ヒッキーに会うことは出来るんですか...!?」
「出来るけど、彼はきっと拒むよ。君たちのことを。」
「どうしてですか!」
ガハマちゃんが涙を目にいっぱい溜めながら幾度となく叫ぶ。けど残念。もう時間だ。
「はいここまで。ガハマちゃん、続きは自分で見つけてみてね。...さて、私はもうここにはいたくないから帰るんだけど、雪乃ちゃんにさっきの答えを教えるね。それは...」
『雪乃ちゃん、君自身だよ』
雪乃ちゃんはもう何も言ってこなかった。放心状態か何かだろう。
けど妹のそんな姿でさえ彼の辛さに比べればどうでもいいものだった。
薄情?構わないよ別に。
「じゃあね、次会う時が最後になるかもね!」
そう言って私は奉仕部部室をあとにした。
さてと比企谷くん。下準備は終わったよ。
確認もできた。君を助けるにはあと一手でいい。
もう全部、壊してもいいよね?
「SSに本物なんて...あるのかな」
「ないです(即答)。」
(原作10巻抜粋)
------------------✁︎キリトリ線✁︎-----------------
今回は由比ヶ浜視点を入れてみました!というかまた比企谷八幡がいないパートになってしまった...。それと報告ですが、明日の投稿は出来ればしますが出来なさそうです。というのも、何しろ主は高校生なので模試の勉強しなくてはいけないのです!無念。それと、ちょっとネタが詰まりかけてるので一旦整理もしたいつもりです。
疾走はするけど失踪はしません。(宣言)
今回もまた駄回になってしまいましたが、次こそは上手くやってみせます。
なのでまた次回もよろしくお願いします...!!!!!
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#6 そして彼は本物を探す
一方、比企谷八幡は何を望むのだろうか...。
ふぇぇぇぇ...。
ー八幡sideー
...なんじゃこりゃ。
それが椅子に置いてあった「1歩前へ、自分を変える為の魔法」を読み終わって第一の感想だった。
評論文か何かと思っていたが、結局この本には具体的な行動、目指すべき指標は書いていなかった。
言い換えよう。
「自分一人では変われない」
要約するとそう書いてあっただけだ。
国語3位をもってすればこれくらいの要約は簡単である。
...いや他のページ何してんの。
そんな本の話はどうでもいい。今目の前の問題はというと...
「で、全部伝えちゃったわけですか...。」
夕方に病院に寄りに来た雪ノ下さんから奉仕部に行った時の話を聞いた。そして今の状況である。
「流石にまずかったかな?」
申し訳なさそうに手を合わせる雪ノ下さん。
「いや、いずれは言わなきゃいけなかったんでしょうし、問題ないです。ただ、俺自身がもう一度話に行く必要があると思います。」
あとは自分で解決すべきだ。
助けてと言ったものの、他人に縋り続けるのは許せない気がした。が、少し顔に出ていたようで...
「ねぇ、また1人で全て終わらせようとしてない?」
雪ノ下さんは少し怒っていた。この人はほんとになんでも見透かしているようだ。
「なんでそうやって君は自分から暗い道へ進んでいくの?」
せっかく、君の近くにいれるチャンスが来たのに...
雪ノ下さんは最後なんて呟いているか、俺には聞こえなかった。ただ、何を伝えたいか、その根本的な部分は伝わった。
「...甘えていいんですか?」
「はなからそのつもりだしね」
そう言って雪ノ下さんは微笑む。
綺麗だな...。この人の笑顔。
そんなことを思ってると、電話がかかってきた。
画面には「平塚静」と表示されていた。
「すいません雪ノ下さん、ちょっと外出てきます。」
そう言ってベッドの近くに添えてある松葉杖に手をかける。幸い1回事故した際に使用してるので慣れはある。
「じゃ、ここで待ってるね。」
意外にも雪ノ下さんはついてこなかった。多分、空気を読んでくれたんだろう。
ちょっと感謝しつつ屋上へ向かうエレベーターへ向かった。
エレベーターが開き、屋上が目の前に見える。ドアが解放されているのは正直ありがたい。
屋上に出たところでもう一度画面を見る。バイブ音もなくなっており、一旦切れているようだ。
という訳なので、こちらからかけ直す。
『もしもし、平塚だが...。』
「あぁ、平塚先生。お疲れ様です。」
『...』
「...」
一瞬の沈黙。切り裂いたのは平塚先生の方だった。
『...私は、君に謝らなければいけないな。』
「別に、平塚先生は何も悪くないですよ。」
『そうは言ってられない。まずは生徒指導の担当として、君の身にあったいじめを見つけれなかったこと、すまなかった...!』
「そもそも隠し隠しでしたからね。それこそ外からじゃ見つけられないような。だからそれは、許せと言われたら許しますよ。」
先生にそこの罪悪感は感じて欲しくない。
実際、通告しなかった自分にも非はある。
「だから先生、そんな気を落とさないでください。」
『優しいな、君は。ただ、なにか償わせて欲しい。そうしないと気がすまなそうでな...。』
「...今度旨いラーメン屋連れてってくれるだけでいいですよ。」
『分かった。日程が決まれば予約しておこう。』
即答だった。
...芯はぶれないなーこの人。
ただ、この人と話さなければいけない事はまだある。
「それと先生。もう1つお願いがあるんですけど...。」
『何だね。』
「俺は奉仕部を辞めたいと思います。」
『...!』
「今日、ずっと考えてたんです。俺は何が欲しかったのか。何のために生きてきて、これから生きていこうって。
そして分かったんです。」
『...それはなんだ?』
「俺はきっと、《本物》が欲しかったんです。」
俺は本物が欲しい。嘘偽りない本当の自分が。曲がった視点から見た世界ではなく、真っ直ぐ純粋な視線で見ることの出来る世界が。
「ただ、それは奉仕部では見つけることは出来なかった。それだけの事です。」
『気持ちは変わらないのか?』
「変わりません。」
『そうか...。』
先生はすごく残念そうな声だった。無理もない、自分を奉仕部に入れたのは平塚先生本人なのだから。
『なぁ、比企谷。私の話を聞いてくれるか?』
「いいですよ。」
『私はな、最初比企谷みたいな生徒を見つけた時、少し嬉しかったんだ。こんな捻くれた高校生が、まだ雪ノ下しかいない奉仕部に入ったら、きっと面白くなるだろうって。問題児だった雪ノ下も何か変わるんじゃないかって。勿論君もだったが。』
『ただ結局、それは私自身の自己満足でしかなかった。その自己満足のせいで、君はさらに歪んでしまったんだ...。全部、私のせいで...。』
話し終わる頃には先生は泣いていた。電話越しにその様子が伝わってくる。
でも...。
先生、それは違います。
「それは違いますよ先生。誰かが悪い、なんてことはないんですよ。先生も、由比ヶ浜も、雪ノ下も。」
依頼をした戸部も。海老名さんも。
「誰もが悪いんですよ。皆一律に。だから誰かに責任をぶつけるのは違うんじゃないですかね。」
『そうか...。』
もうそれ以上は言うことは無かった。
『最後になるが、この事は由比ヶ浜と雪ノ下には...』
「今度、学校行った時に自分から話します。」
『分かった。では失礼するよ。』
そうして電話は終わった。
電話を終え自分の病室へ戻る。雪ノ下さんは椅子に座ったまま軽い眠りについていた。
あの時、この人に助けて貰って始めて自分がはっきりと見えた気がする。
だからきっとこの人となら...
俺は《本物》を見つけれるかもしれない。
※今作で言う《本物》とは、原作で述べられたものとは異なりますのでご注意ください。
------------------✁︎キリトリ線✁︎-----------------
数日ぶりに帰ってきました。と、同時にネタが詰まって死にそうです_( _´ω`)_ペショ
どんどん書いていくうちに最初に考えてたことからズレてきてます...。やばい...。
この前感想欄にて指摘があったんですが、まさにその通りです。
...全然原作沿ってないじゃないか!!
「もう壊してもいいよね?」
壊れないようにギリギリで頑張っていこうと思います。
ズレてるよって感じてきたら感想欄にてご指摘お願いします。(評価もお願いします...)
ここまで読んでくれて、誠にありがとうございました!
未熟ですが次回も未熟なりに頑張りますのでよろしくお願いします...!
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#7 雪ノ下陽乃が、一歩踏み出すには
比企谷八幡は、変わろうとしている。
1人では変われない、いつかの本にそう書いてあった。
だが、彼は奉仕部ではそれは出来ないと悟った。
それでも彼はこれまでの自分を捨て、変わろうとしている。
では、雪ノ下陽乃は...
本文さながら、前書きが一番難しい。
ー陽乃sideー
はぁー...疲れたぁ...。
病室の椅子に座ってふっと息をついてそう思う。
こうやって本心で誰かのために動くのって、ひょっとして初めてかな?
にしても疲れた。ちょっと休憩!
...
「雪ノ下さん、起きてください」
「...ん、あれ?」
いつの間にか閉じていた目を開けると、比企谷くんが覗き込んでいた。
「あ、あれ...?もしかして寝ちゃってた?」
「...もしかしなくても、結構しっかり寝てましたよ。」
「///」
しまった!弱みを握られた!?
ゆきのしたはるのに100のダメージ!!こうかはばつぐんだ!!
彼から顔を逸らすように時計を見やる。どうやら20分ほど寝てたようだ。
恥ずかしい...。
「心配しなくても、寝顔とか撮ってないですよ。」
まるで見透かしてるかのように比企谷くんが言った。
「撮ってたら...分かるよね?」
とりあえず笑わなきゃ...笑わなきゃ....。
「わ、分かってますよ...。怒んないでください頼みますから。」
え?笑えてない?
「ねぇ比企谷くん。今私どんな顔してる?」
「どうって、まぁ、笑ってはないですね。」
あれ?
まあいいや。とりあえず今は...。
「じゃあ私、今日はそろそろ帰るね。昨日今日帰ってないとなるとさすがにまずいしさ。」
「そうですか。本当に今日はお世話になりました。」
そう言って比企谷くんは頭を下げる。
「礼はいらないよ。他で賄ってもらうから。」
「わ、分かりますた...。」
挙動不審の比企谷くんに少し笑って、私は病室を後にした。
家に帰ったのは8時くらいだった。中に入ってみると珍しく母さんがいた。
「ただいま帰りましたー...、あれ、母さん。」
「陽乃、ちょっと来なさい。」
母さんは入ってきた私を見るなりこっちへ来るよう言った。相変わらず母さんの発言一つ一つには言葉にならない強要性がある。
「何の話?」
「昨日、帰ってこなかった理由は都築に連絡したことで間違いないのね?」
「うん。道で倒れてた人を救急車呼んで搬送して、その人に付き添ってた。間違いないよ。」
「そう...。」
母さんのその一言には落胆、怒り、喜び、どれとも取れないような意味が込められていた。
「陽乃、何回も言うようだけれど、あなたは雪ノ下なのよ?
普通の人とは違うの。そこを分かって過ごしてちょうだい。」
「はい、母さん。」
「もし、通いつめるくらいにまでなるようなら、あなたの自由行動の制限についても考えます。」
「はい。」
母さんはその一言で話の全てを終わらせ、その場から離れていった。どこに行ったのかは分からない。
あぁ、もういやだ。
何で私は《雪ノ下》なんだろう。
もっと普通に、自由に生きたい。裕福なだけがきっと幸せじゃないはず。
この《雪ノ下》という名前を持っているだけで、私という人間は特別な存在になっていた。
けれどそれが、1番気に食わない。
結局私は、餌が十分にある鳥籠の中の鳥のようだ。
私は変わりたい。
でも、今はそれが出来ない事は重々承知している。
どうやったら変われるかなぁ...。
ふと、私は「1歩前へ、自分を変える為の魔法」という本を思い出した。
それこそ、中身は読む時間が無く、まだ中身については知らない。
そいえばあの本、病室へ置いたまんまだったっけ...?
後で比企谷くんにメール送っておこう。
そう思ってた矢先、メールが届いた。比企谷くんだ。
『雪ノ下さん、そういえば本忘れて帰ってません?』
《ごめん、忘れてた。明日取りに行こうか。》
『いえ、いつでもいいんですけど、何か思い悩んでいるなら言っておきますね。』
《?》
『きっと人は1人では変われません。きっと俺も、雪ノ下さんも。』
その言葉は今の私に響く言葉だった。
けど、それは現状の解決にはならない。
《へぇ、言うようになったね。》
『生意気でしたらすいません。ただ、俺はそう思いますよ。では、おやすみなさい。』
《うん、おやすみ。》
携帯を閉じ、自室のベッドへ飛び込むように入った。
1人では変われない、か。
今まで私に告白してくる人間は沢山いた。
けど、全部上っ面。本当の自分は誰一人見抜けなかった。
...比企谷くんなら、分かってくれるのかな?
そうだ、折角だし...。
そう思ってもう一度携帯を取り出す。
相手はもちろん比企谷くんだ。
《ねえ比企谷くん、まだ起きてる?》
『起きてますよ。どうかしましたか?』
いつも誰かに軽い気持ちで送る文より、同じ文を何十倍もの勇気を振り絞って次の文を綴る。
《今度、デート行かない?》
次回、うp主死す!!デュエルスタンバイ!!
―――――――――キリトリ線―――――――――
今回もまた字数が少ないっすね...。ただ、内容はそれなりにあるんじゃないかと主は思ってます。
たまにはイチャラブ回もいいんじゃないでしょうか?という安直な考えに繋げるための今回となってます。
では、失踪するつもりは無いのでまた次回。
―――――――――キリトリ線―――――――――
ここまで読んでくれてくださり、ありがとうございました。まだまだ未熟ですが、これからも未熟なりに頑張りますのでよろしくお願いします。
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#8 けれど今この時だけは
比企谷八幡が己と向き合うように。
雪ノ下陽乃もまた己と向き合っていた。
しかしそこは超えれない壁がある。
今、変わるために必要なこと。それはまだ誰にも分からない。
だから今この時だけは...
なんかまともなの書けたかな?
ー八幡sideー
とある休日。
朝7時、家で外出の準備をしながらふと思った。
なんでこうなった...?
あの怪我で入院したとはいったものの、1週間くらいで退院でき、今はこうして家にいる。
とはいえ、まだ怪我が治った訳でもない。
じゃあ、なんのための外出か。
事の発端は、先日雪ノ下さんから送られた
「今度、デート行かない?」
の一通のメールだ。
因みに入院中の話だが、雪ノ下さんと家族以外は見舞いに来ることはなかった。おそらく、ケースがケースという事で他言しなかったのだろう。ぼっちにはそっちの方がありがたい。
...戸塚には今度謝罪と甘いもの用意しとこ。
そんなこんなでインターホンがなる。どうやら来たようだ。
「はいはい、出ますよっと。」
独り言を呟いて玄関のドアを開けに行く。
「ひゃっはろー比企谷くん。」
「どうもです。」
今日の雪ノ下さんは一段と可愛く見えた。やっぱこの人すごいなぁ...。
「じゃあ、行こっか!」
「あ、でも待ってください。俺そんな歩けないっすよ。」
実際まだ松葉杖暮らしである。歩かされるとなるとたまったもんじゃない。
雪ノ下さんは得意そうな顔を浮かべる。
「ねぇ比企谷くん、面白いこと教えてあげよっか。」
「なんです?」
「私、自動車免許持ってるよ?」
...まじで?
「...まじっすか。」
「という訳で、乗った乗った!!」
よく見てみると玄関の先に軽自動車が見える。恐らく雪ノ下さんのものだろう。
玄関でそうこうしてるうちに、寝起きの小町が起きてきた。
「あれ、陽乃さん。おはようございます。あ、デートですか。ごみいちゃんを宜しくお願いしますね。」
小町は返事を聞く前にリビングへと入っていった。
...寝起きじゃなければもっと話してたのかもしれない。
小町にもだいぶ迷惑かけてしまったからな。
今日お土産でも買って帰るか。
「...じゃ、行こっか。」
「うす。」
そんな訳で俺は雪ノ下さんの自動車へと乗った。
車に乗って数十分たった。いやどこまで行くんだろうほんと。高速乗っちゃってるし。
少なからず千葉市内ではないことは分かった。
季節は10月。海に行くなんてのは流石に考えれない。
「そういえば雪ノ下さん、なんで免許なんて持ってるんですか?専属の運転手だっているのに。」
「意外だったでしょ?」
「いや、それはそうですけど。確か雪ノ下さんのお母さんって厳しい人なんですよね?よく許可してくれましたね。」
地位もあって厳しい人なら、尚更自分の娘に万一の危険があるようなことはさせたくないだろう。
「...ほんっと、大変だったんだよ?説得するのに。」
本当に大変だった。そんな感じがつたわってくる声音だった。
「あたしさー、もっと自由に生きてたいんだよねー。」
吐き捨てるように呟かれた独り言。けど、それは捨てては行けないほど大事な言葉だった。
「さて、比企谷くん問題です!私達は今何処へ向かってるでしょうか!」
場の空気を一新するように雪ノ下さんが大きな声を出す。
「いや知りませんよ。千葉を抜けたら俺の知識はリセットされるんで。」
標識を見たところ、ちょうど千葉からでた位のところのようだ。
「んじゃ、着くまでゆっくり待っててよ。着いてからのお楽しみってことで♪」
車に乗ってから2時間経ち、ようやく目的地へ着いた。
「まさか栃木だとは思ってませんでしたよ...。」
今俺は日光にいる。うん、なんで?
「こっちの方って来ること無かったしさ、いいじゃんこういうのも。」
「まぁ、確かに紅葉が綺麗ですね...。千葉には少なくともここまでのものはないと思いますし。」
実際、言葉にならないほど綺麗だった。
一面に椛の赤が広がる。それはもう燃えそうなほど赤かった。
しかし、燃えている火が消えるように、いつかはこの椛も色褪せ、枯れていってしまう。
その循環はまるで人間を見てるようだ。
「でも雪ノ下さん、ここに来たのってこれ見るためだけですか?」
「ううん?まだまだ色々回るよ?東照宮とかも行かないと!」
「はは、ですよね...。」
それから、日光周辺を色々見て回った。
さっき述べた東照宮や、輪王寺など、観光名所と呼べるものはいっぱいあった。怪我の都合上、残念ながら温泉に行くことはなかった。「今度、行けたら行こうね」と言われたので考えておきます。
ふと思う。
千葉と栃木。同じ関東なのに一体何が違うんだろうか。
千葉と東京は同じ平野部として、似ている片鱗はある。
けどそこからもう一歩踏み出せば新しい景色が見えた。
...自分の世界にも言えた話かもしれないな。
そして今は帰りの車内である。
会話数は相変わらず。おまけにどうやら1時間ほど眠ってたようだ。
「すいません雪ノ下さん。寝てしまって...。」
「いいよいいよ、その状態で結構歩かせたんだから、疲れるのも無理は無いでしょ。」
「...まあ。でも、今日は楽しかったんで良かったです。」
「そっか。楽しんでくれてよかったな。」
そう言って雪ノ下さんは笑う。
その笑顔に嘘偽りはない。
けれど。
その笑顔の奥には悲しさが感じられた。
「あのさ、今回の一件についてこの前母さんにきつく言われてさ。もう、当分こういう機会なんてないんじゃないかって思うの。だから、今日はデートに来れて本当によかった。」
「そうですか...。」
「もちろん最後じゃないとは思うけどね?」
世界は無常だ。
こんなに大切だと思う時間は刻一刻と過ぎていく。いずれはこの楽しい時間も終わってしまう。
だから、せめて今だけは。
「あの、雪ノ下さん。」
「ん?どうしたの?」
「寄って欲しい場所があるんです。」
俺が指定したのは家の近くにある公園だ。
この公園は昔から星が綺麗に見えて好きな場所だった。
今日は星は...出ているな。
よし。
「で、比企谷くんはなんでこんなとこに寄りたいって言ったのかな?」
「ここから見える星が綺麗でしてね。紹介したかったんですよ。」
「うん、確かに綺麗だね。」
「...雪ノ下さん、伝えたいことがあります。」
声が震える。緊張で逃げ出したい気分だ。
けど勇気を振り絞って。真っ直ぐに伝えよう。
あぁ、今までの俺が見たら発狂しそうだな。
でも今は全部ぶつけてやる。
「雪ノ下陽乃さん。あなたが好きです。付き合ってください。」
イチャラブ回と言ったな?すいませんあれはまだみたいです...
――――キリトリ線――――
ほんっと申し訳ございません!!前回のあとがき書き終わった後で「あ、無理やん」って気づきました!!
許してくださいなんでも(するとは言ってない)。
さて、中盤くらいまで来ましたかね...。ここからどうやって運ぶか、まだまだ考え中ですm(_ _)m
ところで、今回日光を挙げたのですが...。
主は関西人です。
はい。
ネタがキレそうなのでまた次回お会いしましょう。
――――キリトリ線――――
今回も最後まで読んでくれてくださりありがとうございました。全く成長しないバカ主ですが次回もよろしくお願いします。
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#9 だから雪ノ下陽乃は自身の運命を呪う
ふとしたことから始まった
いつか終わってしまう、大切な時間。
だから、1秒1秒に誓う。
今、この時だけは楽しくいようと。
このときを大切にしようと。
そんな時間を過ごす、運命に縛られた彼女の話
毎回毎回スタイルが変わっていくぅ...( ´・ω・`)
ー陽乃sideー
私は今、比企谷くんとデートに来ている。
まだ怪我が治ってないにも関わらず誘ったのに、彼は来てくれた。
私だってちゃんとした状態で彼に話したかった。
けれどもう、時間がない。
数日前母さんに言われた事、それは
「あと2週間以内に、この1件について全て終わらせなさい。」
というものだった。
どうやら2週間後から、やるべき事が立て続けに入ってるようだ。私もいくらか行かなければいけないらしい。
期限が過ぎればまた私は、《いつもの》雪ノ下陽乃に戻らなければならない。
そしてこれが、その2週間の中の最後の休日。そして明日が期限の最終日だ。
だから
彼を誘うのは今しか無かった。
まだ痛む時があってもおかしくない。なんで彼は来てくれたんだろう?
いや、そんなことはどうでもいいや。
今は楽しもう。ただそれだけだ。
...
そして今は帰りの車内だ。
私は、一応ではあるが車の免許は取っている。もしも、自分が普通の女として生きれたら。そんな望みを少しでも叶えるために手に入れた。
少し母さんに反抗心を見せようと思ったのも理由の一つだけど。
そんな私の車の助手席で比企谷くんは眠っていた。
結構深めに寝ているようだ。よっぽど疲れたのだろう。
1時間ほどたった頃、比企谷くんは目を覚ましたようだ。
「すいません雪ノ下さん。寝てしまって...。」
「いいよいいよ、その状態で結構歩かせたんだから、疲れるのも無理は無いでしょ。」
「...まあ。でも、今日は楽しかったんで良かったです。」
嘘をつかないところが彼らしい。そこは変わらず好きだ。
「そっか。楽しんでくれてよかったな。」
そう言って笑顔を見せる。
けど、
とても悲しかった。だってこの時間はもうじき終わってしまう。
彼とこうやってゆっくり話せる時間もないだろう。
だったらせめて、その旨は彼に言っておこう。
「あのさ、今回の一件についてこの前母さんにきつく言われてさ。もう、当分こういう機会なんてないんじゃないかって思うの。だから、今日はデートに来れて本当によかった。」
「そうですか...。」
彼は少し残念そうだった。
「もちろん最後じゃないとは思うけどね?」
取り繕うように慌てて言葉を出す。けど、嘘だ。
最後の可能性は十分ある。
《雪ノ下》陽乃に戻ってしまって時間を過ごせば、いつか好きでもない人間と結婚させられるという事も考えれる。
...。
そんな中、比企谷くんが声をかけてきた。
「あの、雪ノ下さん。」
「ん?どうしたの?」
「寄って欲しい場所があるんです。」
指定されたのは何の変哲もない公園だった。
「で、比企谷くんはなんでこんなとこに寄りたいって言ったのかな?」
「ここから見える星が綺麗でしてね。紹介したかったんですよ。」
「うん、確かに綺麗だね。」
そう言って夜空を見上げる。頭上には沢山の星が輝いていた。
千葉にもこんな場所あったんだなぁ...。
身近で、でも気づかない。きっとそれは、私が人とは違うからだろう。
「...雪ノ下さん、伝えたいことがあります。」
彼は震え声でそう言った。拳を強く握ってるのが分かる。
私は、ちゃんと聞くことに決めた。
「雪ノ下陽乃さん。あなたが好きです。付き合ってください。」
一瞬、息が止まった。そして確認する。
私は今、告白されたんだよね?嘘じゃないよね?
とても嬉しかった。自分が想いを寄せている人からの、こんなにも素敵な告白だったから。
けど...
「...ごめんね比企谷くん。君の気持ちは嬉しい。けど、もう少しだけ待って欲しいな?」
私はぎこちない表情で言う。
「...それはまた、結構かかりそうなんですね。いいですよ。待ちます。」
彼は表情から私の心境を読み取り、また、受け入れてくれた。
「じゃあ俺はこのまま帰ります。今日はありがとうございました。」
そう言って比企谷くんは何事も無かったかのように家へ向かった。
わかってるよ。ほんとはしんどいこと。
「じゃあ、私も帰んないとだな。」
荒む心を抑えつつ、今は車へ向かう。ダメだよ、今は抑えないと。
私は家に着くなり自分の部屋へこもった。
幸い今は誰もいなく、ありのままでいられた。
そしてベッドにうつぶせになるように体を預ける。
そうしたら、ずっと抑えてたものが溢れて堪えられなくなった。
頬を無数の涙が伝う。
「ねぇ比企谷くん...。こんなのってないよね...。」
私は誰もいない空間に1人話し出した。
「告白、すごく嬉しかった...。すぐにでもokを出したかった。なのに...」
「なのに、私は《雪ノ下》の名前を背負ってるだけで、こんなにも好きな人を愛せないの?」
未だに涙が止まらない。少しずつ嗚咽も混ざってきた。
「ねぇ...なんで、なんでなの...!」
声をなるべく上げないようにして泣きたかった。けど、そんなことはもう無理だった。
だから、せめて声が漏れないようにと枕に顔を填めた。
「ううっ、うううう.....」
...。
それから20分が過ぎた。
少しずつだけど、心も落ち着いてきた。
とりあえず、真っ赤に腫らした目を洗いに洗面所へ向かう。
顔を洗ってパシンッと1回、両手で自分の頬を叩く。
きっと彼は明日奉仕部に行くのだろう。
彼自身が変わる最後の1歩のために。
私はとりあえずそれを見届けて、彼の前から消えよう。
ほんの僅かな可能性だけど、いつか、彼の隣で歩けれるように。
(今回はネタ無しです。)
――――キリトリ線――――
ふぅ...。とりあえずプロローグ含め10話まで来ました。よくやった私!
物語の山場は割とすぎていて、とりあえずキリが良くなるのはあと1、2話後ですね。そのあとも話は続きますが。
それぞれのキャラクターが大分変化してきたと思っております。さて、雑談は今日はこの辺で。
――――キリトリ線――――
失踪すまいと心に決めて、やっとここまで来れました。
きっと、今でも見てくれる方がいるから、頑張ろうと思えるんだと思ってます。
とりあえず、
ここまで見てくださった皆さん、ありがとうございました!
そして、ちゃんと最後まで走りきりたいと思いますので、これからもよろしくお願いします!
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#10 1歩ずつでも比企谷八幡は変わっていく
運命はいつも不条理で。
望んだものは簡単には手に入らず
何かを失ってもまだ終わらない。
それでも手を伸ばし続ければ
その欲しがった世界へ届くのだろうか。
うーんなんだこれ( ˙꒳˙ )
ー八幡sideー
「待って」、か。
告白された陽乃さんからの返事はこうだった。
訓練されたぼっちならこんな言葉に期待なんてしないだろう。
けど、たった数日ではあるけども。
自分に全てをかけてくれた人の「待って」の言葉は、期待してしまってもおかしくない。
多分、またゆっくり話せる日は遠くなるだろう。
だから、待ち続けることにしよう。
「ただいまー。」
「おかえりーお兄ちゃん。」
リビングの方から小町の声が聞こえる。何?迎えに来てきれないとか冷たくない?
...まあ、気にしないけどね。
とりあえず荷物は持ったままリビングに入る。小町はソファに寝転がっていた。
「おかえり、お兄ちゃん。どうだった?デート。ちゃんと告白して帰ってきたんだよね?してなかったら小町的にポイント、チョー低いからね?」
「おう、告白したぞ?」
小町はこれ以上にないくらいキョトンとしていた。
「...お兄ちゃん、マジで言ってんの?」
「バカ、千葉の兄貴は嘘つかねえぞ。ちゃんと一言一句伝えたからな。」
「へー...ヘタレのお兄ちゃんがねぇ...。」
「るっせ。」
悪口を吐きつつ、小町は内心嬉しそうだった。
「んでんで、結果はどうだった?」
さあ、なんと言ったものか...。
「あー...そのー...なんだ。待ってくれ。って言われた。」
「そか。」
小町は落胆とも歓喜ともつかない表情をした。実際俺だってどうすればいいかわからない状況だ。無理もない。
「でもね、小町、ちょっと嬉しいんだ。」
小町は下を向いて語り出した。
「修学旅行が終わってさ、お兄ちゃん、少しずつ暗くなっていったじゃん?そしてあんなことが起こった時、小町ずっと思ってたの。なんで、お兄ちゃんは幸せになれないのって。そんな時、陽乃さんが現れてくれて。それからずっと陽乃さんがお兄ちゃんに尽くしてくれて、陽乃さんならお兄ちゃんを幸せにしてくれるなんて思って。そして、今日。お兄ちゃんがその想いから逃げずに幸せになろうとした事が。小町、すごく嬉しかったんだ。」
瞳が潤んでいる。小町は今にも泣きそうだ。
俺はそんな小町の頭を一回ポンと叩いた。
「すまんな。いつも迷惑かけてばかりで。」
「ホントだよ..。全くごみいちゃんは...。」
小町の頭をもう一回ポンと叩いて俺は立ち上がった。
「んじゃ、俺は片付けの方行ってくるわ。お土産はテーブルの上置いとくからな。」
「うん。...ねえお兄ちゃん。」
「ん、なんだ?」
ドアから出る前に小町に呼び止められる。
「なってね。幸せに。」
「...ああ。」
そう言って俺はリビングをあとにした。
次の日、いつもよりちょっと早い時間で学校に向かった。
怪我はまだ治ってないので親に送ってもらった。親父。すまん。
さて、教室に入る。しばらくしないうちにザワザワと聞こえ始めた。多分俺の噂で間違いないだろう。
して、席について数分後。由比ヶ浜が俺の机近くによってきた。
「ねぇヒッキー...その...。」
「すまん、話はまとめて放課後にさせてくれ。ちょっとこのザワついた空気じゃ言うもんも言えねぇ。」
「そっか、そうだよね。」
そう言って由比ヶ浜は席へ戻って行った。
もちろん、今日、全てを話しそして、
全てを終わらせるつもりだ。
因みに三浦達のグループはほぼ活動していなかった。
大岡と大和の席は無くなっていた。まあ、どうでもいいけど。
そして、由比ヶ浜が離れて数分もしないうちに次の客が来た。ラブリーマイエンジェルとつかたんだ。
が、今は少し怒った表情でいらっしゃる。
「ねぇ八幡。あの日僕がなんて言ったか覚えてるよね?」
「はい...。」
「もっと周りをたよってよ。少なくとも僕は八幡の力になりたいから。」
悲しげな声で戸塚が言った。その通り、である。
「悪かったな。結局抱え込んで迷惑かけちまって。」
今まででは嘘でしか言えなかった言葉が、今日は心から言えた。
「ううん、分かってくれればいいんだよ。」
そう言って戸塚は笑顔を見せる。やっぱり戸塚はこの笑顔であって欲しい。
また数分もしないうちに更にお客は訪れる。俺はそんなの望んではいないのだが。
「やあ、比企谷くん。」
その声の持ち主は、今回の事の発端の友人であり、その居場所を失ったものであり、今もっとも俺を憎んでいるであろう人だった。
「葉山...。」
「ちょっと、話をしないか?」
葉山に連れられて俺は屋上へ向かった。まだ時間には余裕がある。
「で、話はなんだ。恨み言か?まあ、俺のせいでお前の居場所がなくなっちまった訳だからな。恨まれる覚えはあるが。」
「そんなんじゃないさ。少なくとも、俺は君を恨んでなんかいない。それよりまず、謝らせてくれ。本当に済まなかった...!」
葉山は頭を下げる。ただ、こいつも色々と被害者のようなものだ。実際、大岡と大和の行動は把握出来ていなかったそうだ。
「おいおい謝る必要ないだろ。お前がやった訳じゃあるまいし。とりあえず頭上げてくれ。」
そう言われて葉山はゆっくりと頭を上げた。
少し間が空いて、葉山が話を切り出す。
「なぁ比企谷くん。それまであった場所が急になくなるって、どんなんだろうな。」
「さあな。そもそも俺はそんな経験がなかったからな。」
「俺は、自分がいた場所があんなに脆かったなんて、気にしたこともなかった。...やっぱり、君の言う通りだったんだな。所詮、上辺だけだったんだって。」
「...はぁ。」
「なぁ比企谷くん。教えてくれ。どうやったら君みたいに強くいられるんだ?」
何を勘違いしてるんだこの男は。
俺は強くなんてない。それどころかこの前弱さを露呈したばかりだ。
ただ、今の俺になら言えることはあるか。
「...俺は別に強くなんかない。寧ろこの前弱さを実感したばっかだ。だが、俺みたいにいたいって思うお前に言えることは1つある。」
俺が変わるきっかけを作った人にも伝えたい言葉を、今はこのどうしようもなくダメな男に伝える。
「自分が生きたいように、なりたいように生きろ。そしたら結果はついてくる。良かれ悪かれな。そうだな...。まず、みんなに望まれる人間というのが本心じゃないなら、その生き方は間違いだ、とかな。」
葉山は少し驚いた表情をしていた。
「君は、少し変わったな。」
「何がだよ。」
「少なくとも、こうやって面と向かって本心を話すような君じゃなかったはずだ。」
確かにそうだったかもな。
「...俺だって、変わりたいんだよ。」
誰にも聞こえないように呟く。
素直に本心を吐き出したせいか、朝の風が、少し気持ちよく感じた。
「話聞いてもらって悪かったね。俺は先に戻ってるとするよ。」
そう言って葉山は屋上を後にする。屋上にいるのは俺一人になった。
ふぅっと一息ついて心の整理をする。
俺は変わりたい。その想いだけは変わらない。
例えその先が凄まじいイバラの道であろうと、それでも...。
それでも俺は、《本物》が欲しい。
(お気に入り100件まであと少し!!)
――――キリトリ線――――
来ましたね#10。よくここまで来れたなぁ...。そして、次回がメインルート最終回ですかね。(終わらないよ)
後もう少し、頑張れ!私!!
(今回も悩みまくったせいで文面がめちゃくちゃです。ご了承ください。)
――――キリトリ線――――
今日もここまで見ていただき、ありがとうございました!
次回もまたより一層頑張りますので、このへっぽこ主をよろしくお願いします!
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#11 だから比企谷八幡は
きっと人生は間違いだらけだ。
けど、そんな人生だからこそ本物になれる。
自分らしくあれるはずだ。
だから比企谷八幡は。
最後まで持ち直さなかった前書き。
ー八幡sideー
捻くれた性格の自分を構成するという名目で強制的に入れられた部活、奉仕部。雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣とそこで過ごした時間は悪くなかった。けど、俺は結局そこで変わることはできなかった。きっと居続けても変わることは出来ないだろう。だから、奉仕部に別れを告げることにした。
比企谷八幡という男が、変わるために。
ということを、なんて言おうか考え続けるうちに、気づけば放課後になってしまっていた。やばい、時間ない...。
「由比ヶ浜、先行ってろ。後から行くから。」
とりあえず何か言われる前に先手を打っておく。これで少し時間は稼げるはずだ。
「あ、うん。分かった。」
とりあえず返事は返してくれた。うし、じゃあ気持ちの整理と言葉の整理だな。
が、結局考えきれず、部室に行って話をしながら考えることにした。という訳で、部活に向かう。
その道中、職員室前廊下でよく見なれた服装、姿の人を見た。雪ノ下さんと平塚先生のようだ。
なにか二人で話しているが、笑顔は見られない。なら、割り込みはよそう。
あえてそのふたりがいる場所を避けるようにして部室へ向かう。
部室の前まで着いた。
とりあえず1回深呼吸を行う。
すぅ...ふぅ...。
よし、行くか。
ガララと音を立てドアが開く。聞きなれた音だ。
「...よう。」
中を見回す。雪ノ下も由比ヶ浜もそこにはいた。
「ヒッキー...。」
「比企谷くん...。」
2人して呼びづらそうに俺の名を呼ぶ。まあ、こんなことがあれば無理もない。
「とりあえず座ってもらえるかしら、比企谷くん。」
いつもよりトゲトゲしてない雪ノ下の声に座るよう諭される。
「あー、その事なんだけどな...。」
「何、どしたの?」
由比ヶ浜が不安そうに尋ねる。
「俺は、今日をもって奉仕部をやめる。今日はそれを伝えに来ただけだ。」
「えっ...?」
「...」
部室に緊張が走る。けれど、話はここからだ。
「冗談だよね...?ねぇヒッキー...!」
「いや、これは俺の本心だ。嘘なんかはない。」
「ねぇ何で?私達があの時否定したから?それとも別の何か?ねぇ何でなの...!?」
「違う、そうじゃねえんだ。誰が悪いとかじゃねえんだよ。」
由比ヶ浜は泣きそうな顔で下を向く。変わりにそれまで黙っていた雪ノ下が口を開いた。
「...私達はまだあなたの更生の依頼を終えていないわ。だからそんなこと...。」
その時再びドアが開いた。平塚先生だ。
「私が認めた。」
「先生...!?」
雪ノ下は驚いた表情で平塚先生を見る。
「それは、この男の更生がもう終わったという見解ですか?」
「いや、そう思ってはいない。だが...」
そう言って平塚先生は俺の方を見やる。ここからは俺の番か。
「俺は今回の問題を経て、自分に接してくれた人といて、初めて変わりたいと心の底から思った。素直な見方をもった、《本物》の比企谷八幡になろうと思った。けどな...。」
一旦言葉を区切る。雪ノ下は口出ししようとはしてないようだ。ちゃんと聞いてくれる分ありがたい。
「けど、それはこの場所じゃ見つからない。そう思った。だから俺は奉仕部をやめる事にした。」
「...どうして、ここでは見つからないって思うのかしら。」
「これまできた依頼、覚えてるか?それをどうやって解決したか覚えてるか?」
川崎のことや、材木座のこと。確かにこれらは自分の意思でどうにかなるものだった。でも、千葉村や、相模の1件、そして今回もそう。誰かを犠牲にしなければ、誰かが傷つかなければ解決へ導かれない問題があるのだ。
「俺は、自分を犠牲にして解決への手立てにした。でも今は自分をもっと大切にしたいと思うようになった。けれどここに来る依頼がそれを縛る。だから...」
「《逃げる》というのね...。」
「そうね、逃げだね。」
また新しい声がした。今度は雪ノ下さんだ。
「姉さん...!」
「でもね雪乃ちゃん。あなたの行ってる《逃げ》よりは全然比企谷くんのやってることが正しいと思う。比企谷くんは自分で変わるために、自分を犠牲にすることから、奉仕部から逃げることにした。立派なことだよ。自分から変わろうなんて。それに比べて雪乃ちゃんはどう?素直になることから逃げて、また1人になるんだよ。なんで、気づかないかな...。」
最後の方は声が消えてしまったため聞き取れなかったけど、雪ノ下さんは俺が思ってることをちゃんと伝えてくれた。
「...という訳だ。納得してくれなくてもいい。けど俺は変わることを選ぶ。それだけだ。」
そしてもうひとつ、伝えるべきことを伝えてここから消えよう。
思い出との決別の為に。別れとして区切るために。
「ここで過ごした時間は悪くなかった。今までありがとな。」
由比ヶ浜は1人泣き、平塚先生も雪ノ下ももう黙っていた。
...終わりか。
奉仕部の部室に背中を向けて歩き出す。振り向くことは無い。
「じゃあな。」
誰にも聞こえないように呟いて、1歩、また1歩歩き出す。
数分後、後を追ってきた由比ヶ浜と少し話した後、校門を出ると雪ノ下さんが待っていた。
「やぁ、比企谷くん。」
「どうもです。」
さっきもあったんだけどね...。
「結局、私は君の居場所を壊してしまったね。」
「雪ノ下さんは何もやってないですよ。そもそも、いつかは終わらなければいけなかったんですから。それに...。」
「それに?」
「今は今で新しい居場所がある。そんな気がするんです。」
「...そっか。」
雪ノ下さんは悲しげに答えた。理由はなんとなく分かる。
「...ねぇ比企谷くん。多分、こうやって面と向かってゆっくり話すのは今日で最後かもしれない。少なくとも、当分は会えないかなって思うの。」
「昨日の話ですか。」
「うん、だから告白の返事もまだ待ってもらうことになると思う。それでも、待つの?」
そんなこと、決まっている。
「待ちますよ。ずっと。次の機会まで。」
「...ありがと。」
そう言って雪ノ下さんは少し黙り込む。そして、また動き出す。
「じゃあさ比企谷くん。別れの前に渡したいものがあるからこっち来て。」
そう言って雪ノ下さんはちょいちょいとこっちへ招く。
俺は言われるがままに近づいていく。
だいぶ距離を詰めたその時だった。
自分の唇に柔らかいものが当たった気がした。
「!!」
そしてそれが雪ノ下さんの唇だということを理解した。
「これが渡したかったものだよ。どうだったファーストキスは?」
「え、ええ...。」
「ふふ、可愛いよ。」
やっぱり最後までこの人は侮れない。
「じゃあね比企谷くん。また会えたら面白い話聞かせてね!」
そして最後は笑顔で。
雪ノ下さんは背中を向け帰っていった。
きっと俺の青春ラブコメはまちがっているはずだ。今までも、そしてこれからも。
だけど俺は変わり続けよう。本物になるために。そして...
自分を変えてくれた、仮面の少女の為に。
ないです。
――――キリトリ線――――
メインルート終結。ちゃんと走りきれました!!
物語はまだ終わらないのですが、ひとつの区切りということで。
精一杯の力を込めて...
『よくやった私!!』
と褒めたいです。
本編についてですが、特に言うことは無いです。ブレブレでしたが最後までありがとうございました!
小言があるとすれば、是非1〜10段階で評価して欲しいです。では、また次回。
※何回も言いますけど、続きます。
――――キリトリ線――――
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました!
次回もあります!ポンコツ主ですがこれからもよろしくお願いします!
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main story 《NEXT》
#1' そして2人は再び巡り会う
あれから半年。
変わった人、変わらない人。
今はただそれぞれの道をゆく2人。
だが、2人はまた運命によって巡り会う...。
お待たせしました。連載復帰です!
ー陽乃sideー
あれから半年がたった。
あれからの私は、それこそ今までどおり、それ以上に母親の言う通りに生きてきた。それこそ人形と言うに相応しかった。
もちろん比企谷くんに会うこともなかった。見つけても自分から避けるようにしてたから、向こうにも気づかれていない。
これでよかったのかな...?
そんな答えのない考えを抱きながら、今は過ごしている。
そして今日もいつも通り、大学からの帰りだ。
私もあと少しすれば3年生になる。それはつまり、少しでも《自由》で生きていられる時間が減っていくという事だ。
今は雨が降っている。大通りを通っていたら車で跳ねてきた水が当たるかもしれないと思い、人通りのない細道へ入っていった。
そして数十歩歩いた頃だった。
「雪ノ下ぁああああああ!!!」
えっ?何...!?
急に背後から叫び声が聞こえた。
驚いて振り向こうとした時、足がもつれ尻もちを着いてしまった。濡れたアスファルトの冷たい感触が伝ってくる。
その男は自分に面識のない人間だった。片手に包丁を持っていて、こっちへ走って向かってきている。
しまった...!距離をつけないと...!
そう思って立ち上がろうとしたが、立てない。急の出来事で腰が抜けてしまったようだ。
そしてここは人気のない細道だ。誰か来る気配もない。
「.........ぁ」
悲鳴をあげようとしたがパニックで声も出なくなってしまっている。
もはやパニックで冷静な判断が出来ないでいた。
「死ねぇええ!雪ノ下ぁああ!!!」
その男は自分に向かって包丁を突き刺そうとしてきた。
やだ...。怖い...。助けて...!
そう思って私は目をつぶった。
ブスッ
無慈悲に包丁の刺さる音がした。
けれど
痛みは感じなかった。
そして恐る恐る目を開いた先には...。
ー八幡sideー
あれから半年がたった。
俺はと言うと割と元気でやっていけている。
放課後については特に予定は無いが、最近は戸塚の練習相手になったりなどをやっていて、十分楽しいと思える生活をしている。
曰く、「あまり目が死んでいない」そうだ。(小町談)
由比ヶ浜も三浦、海老名さんたちと上手くやってるようだ。
雪ノ下については...、俺にも分からない。
だが、こうしてそれぞれの道に進む現状にも慣れ、今はこれでいいと思っている。
俺は変われた。
その理由を作ってくれたのは、紛れもない雪ノ下さんだ。
だから今度は自分が、あの人を助ける番だと思っている。
あれから会うことは出来てないが、半年たった今でもあの人が好きなことには変わりない。
その日は雨が降っていた。朝から続く長く嫌な雨だった。
雨とわかっていたのでチャリには乗ってきていない。
(いつ直してもらったかは言う必要ないよね?)
という訳で、今日の帰りは徒歩だ。
放課後の予定は特にないので、とりあえず学校から出る。
が、このまま帰るのは何故か嫌だったので、書店で面白い本がないか探すことにした。
書店は丁度新年度に向けたセールを行っていた。
新年度向けのセールって何だよとか思ってはいたが、割と内容ははっきりしていて、参考書などが新しいものに変わっていたりなどしていた。
自分ももうそろそろ高3になる。
勉強の方だが、何故かあれからいっそう力が入ってしまい、理数系も問題ない程度まででき、国公立文系大学が今の所志望になっている。
そんなわけで、今は参考書はいらない。そう思って参考書コーナーを素通りした。
店内を1周見て回った。
しかし、お気に召すものや連載物の続編などはなかった。
特にこれといっていい本はなかったし、帰るか。
そう思って店の出口へ向かう。その時、一冊の本が目に入った。
「1歩先へ、自分を変える魔法」
懐かしい。
それが1番最初に出た感想だった。
この本には結局答えは書いてない。ヒントですら危ういくらいだ。だが。
今ならこの本の答えが分かる気がする。変わるために何が必要か。
けど、言う必要も無いので胸の中に閉まっておこう。
再び曇天の街へと出ていった。雨はさっきより少し強くなっている。
ここら辺の通りは車通り、人通りともに多い。
水たまりなんかできてる日にゃぁ...ね?
こういう時は千葉loveお兄さんの土地勘を利用して細道を回って帰るのがベストだ。
そう思って細道へ足を踏み入れる。その時だった。
「雪ノ下ぁああああああ!!!」
どこからか叫び声がし、驚いて辺りを見回す。
特に人は見えない。どうやら1つ2つ隣の道のようだ。
てめぇ今さっき、雪ノ下っつったよな...?
背中に冷や汗が走る。あの叫び方は間違いなく危ない人間だ。
自分の知ってる人が襲われるとなると...。
気がつけば走っていた。
くそっ、どこだ!?
手当り次第に探すしかない。そう思って自分の今いる細道を左に曲がる。
そしてそこには尻もちを着いた雪ノ下さんが見えていた。
距離は50mもない。が、混乱状態でこっちには気づいていないようだ。
この細道は人通りがてんでない。事件があっても気づかれにくく、もしもの事があっても通報などが遅くなるかもしれない。
だから今のうちに手は打たねば。
そう思って俺は即座に携帯を取り出し小町にメールを入れる。
《急いで警察と救急を呼んでくれ。場所は千葉市〇〇だ。頼む》
返事を返してもらう前に携帯をさっさとしまい、全力でダッシュする。
「死ねぇええ!雪ノ下ぁああ!!」
やっと見えた男は包丁を突き刺そうとしていた。
まずい、どうやったら止めれる?
一瞬考えたがそんな時間はない。
俺は咄嗟に雪ノ下さんの前に身体を差し出した。
そして
ブスッ
その包丁は無慈悲に俺の身体を突き刺していった。
まず最初に。
お気に入り登録100人、本当にありがとうございます!!
やっと小説ってこんなに楽しいんだって思える場所を見つけることが出来たと思います!これからも飽きずに読んで貰えたら嬉しい限りです。
――――キリトリ線――――
続編ですね。やっと書けました(ずっと推敲してた)。
どんな内容にしようか、大まかには出るんですけどそこから先が難しいですね...。やっぱり。
そしてまたまたチャリなんですが。
主はチャリ大好きです。中学校から今日に至るまで通学はチャリですので。
さて、この話はどうでもいいので終わらせましょうか。
――――キリトリ線――――
ここまで読んでいただきありがとうございました!
続編もまだ始まったばっかり、これからも頑張りますのでよろしくお願いします!
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#2' ただ、雪ノ下陽乃は
運命はいつも残酷で。
巡り合わせは突然に。
始まりを告げぬまま。
終わりを告げようとして。
いつになったらこの残酷な運命は
終わりを迎えるのだろうか....。
うーん、やっぱ無理!
ー陽乃sideー
あの日からずっと想いを寄せていた愛しい人。
別れは告げたはずなのに恋しくて。
もう会うことなんてないと思ってた。
でも目の前の世界にはあの日と同じ彼がいた。
《服を血で濡らした》彼が。
えっ...いやっ...
「いやぁあああああああああああああ!!!」
私は絶叫した。普通ならすごく痛みを感じるくらいの声で叫んだが、今はそんな痛みすら感じなかった。それよりも目の前の彼の痛みの方が遥かに自分に来ているからだ。
私の身体が刺されたわけじゃないのに、刺されたように鋭く心が痛んでいる。
「雪ノ下さん...!とりあえず離れて...ください...!」
彼は男が包丁を持っている方の手を掴み
「あああああ!!!」
声とともに男を押し倒した。その時、包丁がさらに深く彼の身体に刺さり込む。
それでも彼は男を押さえ込み続けた。
「くそっ!ガキが!!離しやがれ!!!」
男がもがき、抵抗していたが彼はピクリとも動かなかった。そして無理して作った笑顔をこっちに向ける。
その顔にはもう血の気がなかった。
いや...もうやめて...
声はかけられなかった。どうやら思考回路が止まってしまったらしい。私は何も出来ず、座り込んだままだった。
数分くらいたった頃だろうか。近くでサイレンの音が聞こえだした。どうやら救急と警察が来たみたいだ。
「くそっ!来やがったか!どきやがれってんだ!」
男はやっとの思いで押さえ込んでいた彼の身体から抜け、道を引き返すように逃げていった。が、警察がもう到着していたみたいで、捕まっていた。
「大丈夫ですか!!」
救急隊の人が別方向から担架を持って走って向かってくる。この細道はどうやら車は通れないようだ。
「あっ...、雪ノ下...さん...。とりあえず...救急...呼んで...大丈夫...から...。」
彼の声は次第に途切れ途切れになっていき、ついには何も言わなくり、そのまま目をつぶった。
「あっ...いやっ...!」
いや...いや...死なないで...!
「大丈夫ですか!!」
再び救急隊の人の声がした。もうここまで来たようだ。
少し安心したのか、ちょっと眠たくなってきた。
そして意識は少しずつ薄れていき、いつの間にか
意識を失っていた。
---数時間後---
目が覚めたそこは病院だった。
救急搬送なんて初めてだったけど、意識がなかったせいでそんなことは覚えてなかった。
それより彼は...?
「比企谷くん...。」
力なく呟く。返事なんて帰ってくるわけじゃないのに。
「はい?」
しかし返事は帰ってきた。
そしてその返事は、聞き覚えのある声だった。
え?どこ?
急いで辺りを見回す。
「あぁ、ここですよここ。」
隣のベッドのカーテンが開く。
そして彼はそこにいた。
「え?なんで...?」
ー八幡sideー
さて、飛び出してきたはいいものの...参ったなこりゃ。
自分の身体には包丁が刺さっている。ただ、1番驚いているのは、この状況で異常な程に冷静な判断が出来ている自分自身だった。
何故か痛みは感じない。こういう時、アドレナリンは本当に役にたつ。
そんなことはどうでもいい。とりあえず今まずすべき事は...。
「雪ノ下さん...!とりあえず離れて...ください...!」
俺は雪ノ下さんに逃げることを催促した。腹周りが刺されているようで、声が途切れ途切れになる。が、まだ平静は保っているようだ。
「あああああ!!!」
そのまま声を出しながら男が包丁を持っている手を掴み、地面に押し倒した。さらに包丁が奥深く突き刺さる。流石に痛みが伝わる。
「.......!!」
声にならない悲鳴をあげる。けど今は抑えなければ。
そこからはもう何も考えないことにした。
雪ノ下さんを守ること。男を抑え込むこと。
脳に残っていた指令だけに従って無我夢中で動いた。
男がなにか喚いているが聞こえない。
ただ、遠くから聞こえるサイレンだけは耳に入ってきた。
そしてその一瞬。油断してしまったのかもしれない。男は俺の抑え込みを抜けていき、そのまま逃げていった。
(くそっ、逃げるな...!)
が、もう身体が限界を迎えていた。血を出しすぎたのかもしれない。立つことができなかった。
ただ、遠目に男が捕まった様子が見えた。とりあえず一件落着である。
雪ノ下さんは固まって動かなくなってしまっている。まずい。何か伝えなければ。
「あっ...、雪ノ下...さん...。とりあえず...救急...呼んで...大丈夫...から...。」
やっとの思いで声が出るくらいしか、もう力は残ってなかったようだ。
さて、今は休憩するか...。
もう身体を使う気力がなかった俺は意識を失い...
数ヶ月前とおなじ病室で目が覚めた。
...えぇ?
とりあえずまた辺りを見回す。時計の針は5時を指していた。が、明かりがないあたりどうやら朝だろう。
特にやることもないので、傷口の周りを見ている。そこには痛々しい手術の跡があった。
はぁ...また入院かぁ。すまんな小町。お兄ちゃんこんなで。
そんな他愛もないこと思っている頃だった。
隣のベッドからゴソゴソと音がした。どうやら起きたみたいだ。
そういえば、前回は病室に他の人はいなかったのだが、今回はいるらしい。
「比企谷くん...。」
聞き覚えのある人の声が聞こえた。が、その声に元気はない。
「はい?」
とりあえず返事は返しておいた。すると隣から更に音が聞こえ出す。俺を探しているみたいだ。
「あぁ、ここですよここ。」
そう言ってカーテンを開ける。そこには焦った様子の雪ノ下さんがいた。
「え?なんで?」
雪ノ下さんはとても驚いていた。まあ、普通は起きるのに時間のかかるような傷だ。刺された位置がよかったとしか言い様がない。
「まあ、運が良かったんだと思います...。」
「そっか...。」
雪ノ下さんは俯いて何も言わなくなった。そしてせき止めていたものが溢れたかのように泣き出した。
「よかった...死なないで...よかったよ...。」
「そこまで深い怪我じゃないっすよ。だからそんなに泣かないでください。」
しかし雪ノ下さんは泣き止まなかった。それどころか強くなっていくばかりだった。
「もうやだ...もうやだよぉ...!なんで...普通に生きれないの...!なんで《雪ノ下》なの...!命を狙われないといけないの...!ただの女の子として...生きさせてよぉ...!」
そこに仮面をつけた雪ノ下さんはもういなかった。そこにいたのはただ1人の、心の弱い少女だった。
あぁそうか。雪ノ下さんが抱え込んでいたものはこんなに大きかったんだ。
それに雪ノ下さんは決して強くなんてない。こんなものを引きずっていたまま生きてきたこの20年で、もとよりの自分が壊れてしまっていたのだろう。
ただ、今、壊れた自分を取り戻しているのなら。
遠慮はいらない、もっと心に素直になればいい。
俺はまだ少し痛む身体を起こして雪ノ下さんのベッドに近づいて、そのまま雪ノ下さんの身体をそっと抱き締めた。
「今はもっと泣いていいですよ。大丈夫です。全部受止めますから。」
「比企谷くん...。」
その一言で充分だったようだ。
それから雪ノ下さんは壊れたように泣き続けた。
平均評価8.0...嬉しい限りですm(_ _)m
――――キリトリ線――――
そういえばこのNEXTなんですけど、多分10話もいかないと思います。ただ、内容が薄いとは言われたくないので、そこは今まで通り、それ以上に頑張ろうと思います!
(今回言う内容ないなんて言えない...)
――――キリトリ線――――
今回もここまで読んでいただきありがとうございました!
NEXTはおそらく短いですけど、最後まで読んでいただきたいと思ってます!ですので、これからもよろしくお願いします!!!
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#3' きっと雪ノ下陽乃の幸せの音色は
その涙は何のため?
彼の傷のため?私の情けなさのため?
あってるけど、違う。
きっと今流している涙は
今までの自分のためかもしれない。
一人称視点あらすじ。
ー陽乃sideー
あれからどれだけ泣いただろう。
今まで溜め込んでいた涙が全て流れたような気分だ。おかげで胸に残ってたものが今はない。
その間、比企谷くんはずっとそばにいてくれた。とてもありがたかった。
そして、全て流し終えて初めて自分の気持ちが改まって分かってきた。
その思いの丈を比企谷に言おう。
「ねぇ...比企谷くん...。」
少し強く彼の袖を引っ張る。彼は直ぐに気づいてくれた。
「あ、もう大丈夫ですか?なら、良かったです。」
「そうじゃなくて...まあ、それもあるけど...。」
彼はふぅっと短い息を吐いた。
「言いたいこと、あるんですよね。いいですよ。聞きます。」
「うん、あのさ...。何回も言ってるように、私は変わりたい。雪ノ下の名前を捨てて自由に生きたい。けど、そんな道なんてあるのかな...。」
「...ありますよ。」
彼の答えはYesだった。
「俺はあの日をもって変われました。それはもちろん陽乃さんのおかげだと思ってます。それに...。」
彼は続ける。
「いつか雪ノ下さんが持っていた本。一見、答えが書いてない様に見えて、実は簡単なことが答えだったんです。そしてそれは誰にでもできることだと思いますよ。」
彼は少し勿体ぶるように話した。今はちゃんと話して欲しいものだけど。
「...教えて欲しい。だめ?」
「別に隠すつもりは無いですけどね...。いいですよ。」
『変わるために必要なこと。それは、今ある居場所を全て壊すことです。』
彼はそう告げた。
壊す...。雪ノ下という名前を...?
私は戸惑った。それはきっと、答えが大胆だったからに違いない。
私にそれができるの...?
不安で拳が震える。その拳の上からそっと彼は自分の手を重ねた。
「本当に変わりたいならこうするしかないんです。それまでの過去は全部なくなっちゃいますけど...。大丈夫ですよ。雪ノ下さんなら。仮面がなくても雪ノ下さんはきっと強いですから。」
励まし。
1度もなかったそんな言葉。それはとても暖かかった。
うん、私ならできる。やってやる。
心の底からそう思えてきた。
「分かった。じゃあ、改めて力を貸してくれることを依頼していいかな?」
「喜んで。...っ!」
彼は傷口の方に手を当てた。まだ痛いのだろう。
「...くれぐれも無理はしないようにお願いします。」
時刻は6時前。もうすぐ夜が明ける。
---数時間後---
それからどういう事をやればいいのか、具体的に話し合った。幸い、親の見舞いはもう少し時間がかかるようだ。
「まあ、俺が事故した時親は3日くらい来ませんでしたけどね」と、どっかの誰かが言った。うん、ドンマイ。
時刻は昼を回り、気づけば14時になっていた。
その時、病室のドアが開いた。
「お兄ちゃん、見舞いに来たよーってあれ、陽乃さん。」
「ひゃっはろー、小町ちゃん。」
入ってきたのは小町ちゃんだった。手にはMAXコーヒーが二三本入ったビニール袋を持っている。
「あれ、今日学校早かったのか。」
「一応午前中で終わりだったからねー。あとこれお見舞いね♪」
そしてそのビニール袋を彼に渡した。
でも、お見舞いに缶コーヒーって聞いたことない...。
「ねぇ比企谷くん。お見舞いそれでいいの?」
「何言ってるんですか。これがいいんすよ。MAXコーヒー好きにはきっと悪い人いませんし。」
「いいんですよ陽乃さん。こっちの方が兄的に金もかからず心に逆らわずwinwinですから。」
「...そういうことです。」
彼は渋い顔をしていた。けどそこに嫌気は感じられない。これが彼の普通なんだろう。
そういうの、ちょっと憧れるなぁ...。
「そういえば陽乃さん。前々から話したかったことが山ほどあるんですけど、聞いてくれますか?」
小町ちゃんは急にこっちを向くなり真剣な顔付きで話しかけてきた。
「うん、いいよ。」
「まず最初に...。あの時は兄のこと、本当にありがとうございました。」
小町ちゃんは深々と頭を下げる。
「いいよいいよ礼なんて。とりあえず頭上げて。」
小町ちゃんは頭を上げるなり話を続けた。
「あの時、誰もお兄ちゃんの味方はいないのかなって思ってたんです。でも、実際は陽乃さん達がいてくれて、今こうしていつも通りでいられるんです。だから...本当にありがとうございました。」
「...」
遠目に見た比企谷くんは少し顔を赤くして照れていた。
これは気持ちの代弁だったのかもしれない。
「そっか。それはありがとね。けど、私は小町ちゃんにひとつ謝らなければいけないね。...今回のこと。」
「いや、兄なら大丈夫ですよ。家の事ならさほど困ってないですし(寧ろちょっと気が楽ですし)、まあ、また運ばれたって聞いた時はびっくりしたんですけど今回はケースバイケースってことで別に問題ないですよ。」
「...ねえ小町ちゃん。さっきしれっとひどいこと言わなかった?」
彼が突っ込むが見事にスルーされた。
「そう。それならよかった。」
「そういえば陽乃さん。小町、総武高校受かったんですよー!」
「へー、おめでとう!」
「それで質問なんですけどー...」
こうして他愛のないおしゃべりは40分くらい続いた。比企谷くんは最初本を読んでいたがいつの間にか寝てしまったようだ。
「あ、もうこんな時間ですね。小町、ちょっと用事があるのでそろそろ帰ります。それと陽乃さん。最後に...。」
「うん、なになに?」
「幸せになってくださいね。」
「...うん、ありがと。」
そう言って小町ちゃんは病室を出ていった。
幸せになる、か。
その権利は誰にだってあるんだろう。
それはきっと私にも。
だったら私は今は隣で眠っている彼と。
どこまでも幸せになってやる。
総UA10000件まであと少し...!!
――――キリトリ線――――
3話です!うん、5〜6話で終わりそうですね。
このNEXTはプロローグ書き始めの段階でもう考えるまで至ってたんですけど、やっぱり細かいところは難しいですね。頑張ります。
やっぱ小説って書くのは楽しいですね。この気持ちでまだまだ頑張りたいです!
――――キリトリ線――――
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました!
この作品もそう長くないですが、最後までよろしくお願いします!!
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#4' 故に、その思いに迷いはない
叩き潰されて。右往左往して。
それでも変わりたいともがき続けて。
周りに助けられて、自分を知って。
また今日も変わりたいと願い続ける。
故に、その思いに迷いはない。
うーん...。
ー陽乃sideー
小町ちゃんが帰って1時間くらい経ったころ、一通のメールが来た。都築からだ。
『陽乃様、あと数分ほどでお母様がお見舞いに着くそうです。』
それまでの空気が消え、表情が険しくなる。
私は雪ノ下を捨てる。
今日はそのことを伝えなければならない。
ただ、相手は自分より遥かに強い人間だ。一筋縄で押し通せないことは百も承知だ。
「いざとなりゃ脅せばいいんですよ。一つや二つまずいことやってるんでしょう。雪ノ下家も。そいつを脅しの材料に使えばいい。」
比企谷くんはそう言ってた。やはり彼の曲がった部分は1部だけど変わってないらしい。
実際、そのまずい部分というのはある。直接聞かされた訳じゃないが、仮面を被って生き続けたことや、その上で情報を収集したことが役に立ちそうだ。
かといって、もう仮面をつけるつもりはないが。
「あれ、小町帰りました?」
隣のベッドで寝ていた彼の目が覚めた見たいだ。
「帰ってもう1時間経ってるけど?」
「あ、まじっすか...。絶対ポイント下がったなこりゃ。」
「それはまたドンマイ。」
彼はバツが悪そうに頭を掻く。
「そういえば比企谷くん。さっき都築から連絡があったんだけど...。」
急で悪いかもしれないが話題転換を行う。
「分かりました。ちょっと席外しますね。」
「まだ何も言ってないよ!まあ、わかってるからその行動なんだろうけど。」
「本当はちょっと聞きたいですけど家族の事情に足を踏み入れるのまでは流石にあれなんで。」
うん、今回ばかりは聞かれたくないかもなぁ...。
「そっか。まあ、後でちゃんと伝えるよ。」
「そうですか。じゃあ、外出ておきますね。」
比企谷くんはそのまま外に出て行った。今、病室には私一人だけだ。
母が来るまでの間、しっかりと気持ちの整理をする。
それから間もなく、病室のドアが空いた。入ってきたのはもちろん、母さんだ。
「調子はどうかしら、陽乃。」
向こうが立ったままで会話は始まった。
「うん、大丈夫...だと思うよ。」
「そう。」
それ以上は何も言わずに私のベッドの近くの椅子に腰掛けた。
さて、どうやって言おうかな...。
だが、そんなことを考えなくても、向こうが起爆剤を送り付けてきた。
「早いところ治してちょうだいね。まだやらなければいけないことが沢山あるのだから。」
そう言って悪意のないような笑みを見せる。けど、そんなもの全然いらない。
今欲しいのは...『自由』だ。
「...ねぇ母さん、私はもう、雪ノ下をやめるよ。」
「なんですって...?」
浮かべていた笑みは一瞬で消え、こめかみ近くに血管が浮かぶのが見えた。
「...どういうことかしら陽乃。」
言葉に怒気が混ざる。
「そのまんまだよ。私は雪ノ下家と縁を切って一人で生きていく。そう決めたの。」
「ふざけた発言はやめなさい...!」
「ふざけてなんかない!!」
力いっぱい叫んだ。母の怒気よりも更に強く、自分の気持ちをぶつけた。
「子供は親の奴隷なんかじゃない!ここまで育ててもらったのは感謝してる。けどそれだけ。親の背中を見て学んだものなんて何一つないんだよ。縛られた生き方。決められた道。そんな人生は捨てるの。今日、ここで!」
「そんなこと...させないわ。」
『雪ノ下建設は1部分の物件において違法建築を行った。』
「!?」
『国会議員雪ノ下は自分の手を汚さず賄賂を行っている。』
「あなた何故それを...!?」
「他にもあるよ。この家が抱えてる問題。さて、もし無理を通してこの家に残そうって言うなら、これらの問題は報道陣に一言一句伝えるよ。《雪ノ下》陽乃としてね。」
「...。」
もうすぐ夢が叶う。もうあと一押しだ。
「だから言ったように私は雪ノ下をやめて、一人で生きる。お願いだから、その邪魔だけはしないで。」
母は諦めついたような顔をして言った。
「もう好きにしなさい。今日をもって縁を切ります。」
母はそう口にして、止まることなくドアへ向かった。やはりその背中には何も見えず、何も感じなかった。
「さようなら。母さん。」
気づかれないように小声でつぶやく。これが別れの手向けだと言わんばかりに。
返事は返ってくることなく、ドアはバタンと音を立て、再び病室内は私一人になった。
やっと...。
やっと終わった...!
再び目に涙が浮かぶ。ただ、これは今まで感じたこともなかった嬉し涙だった。
っと、そうだ。あと伝えなければいけない人が2人ほどいたね。
感傷に浸るのを一旦やめて携帯を取り出す。
今は仕事中かもしれないが、きっと電話はとるだろう。
「〜♪」
「もしもし陽乃か?母さんから聞いたぞ、さっきの話。詳しく教えてくれ。」
「あ、もう電話いったんだ。じゃあ1から話する必要なさそうだね。」
ただ、とりあえずどういう経緯、どういう心情で動いたかはちゃんと自分の口から伝えた。
父さんは何も言わずにただ聞き続けてくれた。
「なるほど...。もうそれなら仕方あるまい。ただ、陽乃。大学の資金、一人暮らしの金はどうするんだ。」
「あー...。」
そういえばそうだ。少なくとも大学はまだ金がかかる。バイトを始めたところで自分一人じゃ無理だろう。
「...大丈夫だ。いつかこうなるかもしれないと思ってその分の金を貯めてたから、お前の口座に振り込んでおくよ。大学卒業までは持つだろう。」
そこまでしてるとは思ってなく、私は驚いた。
「なんで、そう思ってたの?」
「まあ、母さんあれだからさ。いつかはこうなるかもしれないってずっと思ってたんだ。とはいえ一人分。このことを最初に決断した方にだけ前々から渡そうって決めてたんだよ。」
父さんは自分の気持ちを理解してくれていた。
その上で動かせてくれたら、こんな結果にはならなかったかもしれなかったけど。
「そっか。ありがとね父さん。助け舟を出してくれて。」
「礼はいらんよ。自分の娘だからな。ただ...。」
「ただ?」
「もしお前がいいなら、これからも私個人でいいから会ってくれないか?」
「うん、いいよ。」
「そうか...。話すことは以上だな。これからもがんばれよ、陽乃。」
「...うん!」
そうして電話は切れた。
少し大きいため息をついて、一旦落ち着く。
このことを伝えるべき相手はあと一人。ずっと好きだった雪乃ちゃんだけだ。
渋々yesを出すしか無かった母と、自分の巣立ちを受け入れてくれた父。なら、《妹》は、どう答えるだろうか。
そう思いながらかけ慣れた番号をひとつひとつ押していく。
「〜♪」
「ひゃっはろー雪乃ちゃん!」
「元気そうね姉さん。今更なんのようかしら。」
「あれ?母さんに聞いてないかな?じゃあ改めて伝えるね。」
「...?」
「私は今日で雪ノ下をやめるよ。雪乃ちゃん。」
「...言ってる意味がわからないわ。」
少し怒気がある。けどそんなものはもう何も怖くなかった。
「私はね、変わるの、雪乃ちゃん。これまで生きた道を全部否定して。雪ノ下陽乃を壊して。」
「そんなこと...出来るわけ」
「できるよ。許可は貰った。」
「そんな...。」
電話越しに雪乃ちゃんが呆然としてるのが伝わる。ただ、今は攻めの言葉をやめない。
「比企谷くんは変わった。そして私も変わろうとしてる。あなたはどう?雪乃ちゃん。ずっと逃げてばっかで、何も変わらなかった。そしてこれからもきっとそう。だからもう一度聞くね。雪乃ちゃんはどうするの?」
「私は...。」
答えが直ぐに出ないということは、きっと今まで通りだろう。もうそこに妥協はいらない。
「結局そうなんだね。もういいよ。私からはもう何も言うことはない。これが最後の電話になるね。...じゃあ、これからも頑張ってね。《雪ノ下》雪乃ちゃん♪」
そう言って電話は終わった。
最後の声は自分でもゾクッとするほど低い声だった。
けれどもう、これで赤の他人だ。
これからはなんの束縛もない未来が待っている。
これまでよりはずっと厳しい道だと思うけど、期待感だけで胸がいっぱいになっている。
そして私はベッドから飛ぶように出て軽やかに進み出した。
自分を変えてくれた彼が待つ場所へ。
ネタなしですm(_ _)m
――――キリトリ線――――
次回最終回です。(main〜NEXTの)
ここからside、afterなどのストーリーは書くかもしれませんが一応次回がmainの最終回です。
ここまで来れたんやなって思うと泣きそうです...。
(今回内容しょっぱくてすいません...。)
最後まで気を抜かず、頑張ろうと思います!
――――キリトリ線――――
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!
とりあえず次回も、何卒よろしくお願いします!!
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#5' そして比企谷は仮面の少女と
ある男のひとつのすれ違いから始まった全ては
今やっと終わりを迎える。
それはまた新しい何かの始まり。
だから比企谷八幡は仮面の少女と。
最後までポンコツだった前書き
ー八幡sideー
春の暖かい風が吹く。
季節は3月。まだ桜は花開くことなく、じっくりとその時を待ってる。
では、人間にとっての3月は。
別れの季節だろうか、出会いの季節だろうか。
答えは、その両方である。
俺は一人、屋上で遠くを見渡していた。
そこから見える景色は変わらない。よく見なれたいつもの町だ。
しかしそんな町でさえ、いつかは変わるのだろう。
昔見たアニメで誰かが言っていた。
「楽しいこと、うれしいこと、それら全部変わらずにはいられません。それでもこの場所が好きでいられますか?」
確かこんな内容だった気がする。
俺は変わることが嫌だった。怖かったからだ。
変わることで、それまでの自分が壊れるのではと思っていた。
でも、それは違った。
だからこうして、今は素直なままで俺は生きている。
そしてそれは決して俺だけではない。
それに...。ほら。
これ以上ない清々しい顔で、雪ノ下さんは現れた。
「終わったんですか?雪ノ下さん。」
「うん、終わったよ。」
その『終わったよ』という言葉には一つだけじゃない思いが込められていた。
「これで、やっと自由なんですね。」
「そ、自由なの。」
雪ノ下さんは両手を横に広げる。まるで大空を羽ばたく鳥みたいに。
「そういえば、自由なのはいいんですが、大学とかはどうするんですか?」
「あー、うん。そこについても大丈夫。お父さんが多少なり援助してくれるから。」
「そうですか。」
きっと親父さんは分かってたのだろう。あのやり方ではいづれこうなるのだろうと。
「...やっと、終わったんだね。全部。」
雪ノ下さんは今までを懐かしむような声で言った。
あぁそうだ。本当にいろんなことがあった。
1人だった生活に新しい居場所が出来て、
そこで過ごす時間はぬるま湯のようだけど楽しくて、
しかし結局すれ違いでまた1人になって傷ついて、
自分を助けてくれた人が現れて、
その人を好きになって、
そしてその人が今度は思い悩んで、
そして今、それが終わった。
けど、この終わりは全ての終わりじゃない。
これからまた、新しい物語が始まる。
だから、
「いや、まだ終わってないですよ。」
「え?」
「まだ、幸せになるという課題が残ってるじゃないですか。」
「ふふっ、そうだね。」
雪ノ下さんはふっと微笑む。
「あっ、そういえば比企谷くん。」
雪ノ下さんは何かを思い出したように口にする。
「あの時の返事、ずっと待たせたまんまだったね。」
「そうですね、そういえば。」
そうだった。俺はまだ告白の返事をもらえていなかった。
万一ここでNOなんてくらったら人間不信待ったナシだ。
緊張して喉をごくりと鳴らす。
「なに緊張してんの。大丈夫、今更NOなんて言わないよ。」
「それじゃあ...。」
「うん。...比企谷八幡くん。長い間待たせてごめんなさい。
私はあなたが好きです。こちらこそ、よろしくお願いします。」
ふぅ...。
よかったぁああ....!
一回深い息をついた。身体が緊張から開放される。
「あ、でもそうだ。」
「なんです急に。」
こんな時逆説を使われるのが一番怖い。
「付き合うなら、いくつか約束して欲しいことがあるの。」
「いいですよ。」
「そうだね...。じゃあ、これからはちゃんと名前で読んでもらおうか♪」
結構きついやつだった。
これ恥ずかしいのなんでだろう。
「初っ端からですか雪ノ下s」
「んー?」
「は、陽乃さん...。」
「うーん、まあいっか。」
陽乃さんは不承不承ながら了承してくれた。
「それともうひとつのお願いだね、八幡。」
「はぁ...。」
さすが陽キャの塊。そこら辺の対応力は高かった。
「自分を犠牲にすることは禁止。絶対にだよ?」
それは過去の自分の否定だった。
今なら即答でうんと言えるかもしれないが、完全に自信はない。
「大丈夫。私が言いたいのは、1人で全部抱え込まないでってこと。君の悩み、私の悩みについて一緒に悩んで一緒に苦しみたい。いいよね?」
「...約束します。」
そう言うと陽乃さんはこっちを向き直す。
「そして、これが最後の約束、いや、私からの最後の依頼かな?」
その瞳は真っ直ぐでとても美しい。
「依頼ですね。聞きますよ。」
「では...。比企谷八幡くん、雪ノ下陽乃からの最後の依頼です。私を...。」
一瞬の間を挟んで。
「私を、幸せにしてください。」
これから何が起きてもきっともう大丈夫だ。
1人じゃない。なら、どんな苦難だって乗り越えれるはずだ。
だから比企谷八幡は力強く、仮面の少女からの依頼を承る。
「勿論です、陽乃さん。一緒に幸せになりましょう。」
ー比企谷八幡は仮面の少女と《main story》 finー
今日もないですm(_ _)m
――――キリトリ線――――
main story完結しました!
(最後の最後で内容が少し薄かった気がします申し訳ございません。)
途中投げ出しそうになったけどここまで来ることが出来て本当に良かったです!読者さんに感謝。
さて、あとこの作品はside、afterstoryがあるかないかです。とりあえず、少しの間あくかもしれませんが、その時はまたよろしくお願いします!
――――キリトリ線――――
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!!
これからも、1人の書き手『亜睡める』の作品をよろしくお願いします!
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another story
#1" そして由比ヶ浜結衣は離別を告げる
残された2人は何を思っていただろうか?
失望だろうか、あるいは自責だろうか。
これは、揺れて、歪んで、壊れていく世界に立たされた
由比ヶ浜結衣のお話...。
やはりくそ雑魚前書き先輩
ー由比ヶ浜sideー
「俺は、今日をもって奉仕部をやめる。今日はそれを伝えに来ただけだ。」
久しぶりに部室に来たヒッキーは、唐突に離別の言葉を伝えた。
理由はわかってる。きっと、あの日以降のことが原因だ。
しかし、ヒッキーは誰のせいでもない、とあらかじめこちらに責任を持たせないようにした。
「俺は今回の問題を経て、自分に接してくれた人といて、初めて変わりたいと心の底から思った。素直な見方をもった、《本物》の比企谷八幡になろうと思った。けど、それはこの場所じゃ見つからない。そう思った。だから俺は奉仕部をやめる事にした。」
変わりたい、ヒッキーはそう言った。
私はどうだろう。同じ状況になって助けてくれる人がいただろうか。
表面上はいるかもしれない。けど、心の底から助けてくれる人が、私にはいるのだろうか。
ゆきのん?...ゆきのんなら、きっと助けてくれるかもしれない。けど、今のゆきのんとなら、ちょっとわからない。
私は自分が大嫌いだ。いつも取り繕ってばっかりで、本当に見なきゃいけないもの、忘れてたんだ。
それなのにヒッキーは上手く接してくれて...なんだろう私って本当に馬鹿みたい。
もう、そこから先に私のセリフはなかった。少なくとも、今この奉仕部で私が言えることは何も無いと思う。
そう思って下を向く。聞きたくない結果だけが耳に入ってくる。
ふと、涙が零れてきた。でも、何の涙だろうか。
ヒッキーがいなくなるから?自分が傷つけたから?この関係が壊れるから?...ヒッキーが好きだったから?
流れた涙の意味さえわからないまま時間はすぎてく。
「ここで過ごした時間は悪くなかった。今までありがとな。」
そう言ってヒッキーは奉仕部を出ていった。
...だよ。
...嫌だよ。
嫌だよ!!
気がつけば私は走り出していた。周りの静止の声なんかには耳も傾けず、ただ走り続けた。今行かないと、もう二度と話せない気がしたから。そんなのは、嫌だ。
ああそっか。やっぱり私、ヒッキーが好きだったんだろうな...。
もうどうにもならない感情を押さえつけて走る。ヒッキーはそこにいた。
「ヒッキー!!」
「...由比ヶ浜か。どうした?」
ヒッキーはいつものように答えてくれた。...他人行儀な姿勢を取らてたら、私はどうなってただろうか?...今はそれはどうでもいいや。
「...まずは、もうどうにもならないと思うけど謝らせて...。ほんとうに、今までごめん...。」
もう一度泣きだしそうな感情を抑えて深々と頭を下げる。
「いや、さっきも言ったけど誰のせいでもないんだよ。俺でも、由比ヶ浜でも、...雪ノ下でもない。だから謝られたって...正直困る。」
ヒッキーはバツの悪そうに答えた。
「...そっか。」
頭をあげる。...また空回っちゃったな。
「んで、急に走ってきて何の用だ?忘れもんなんて無いはずだぞ。」
「...あたしって、何だろうね。」
「...はぁ?」
「そうだよ。いつもいつも周りにとって都合のいい人間として生きてきて、そのせいで大事なもの失っちゃうんだ。あはは、無様だよね。
だからヒッキーのことも分からずに、こういう結末を迎えちゃって。
もっと分かってれば、変われたかもしれないのに。...ねぇ、私って、一体何なの...!?」
混乱してる心にストッパーなんてものはなかった。
これまで溜め込んだものが涙と一緒に流れる。ああ、ほんとダメだ私って。
「...そうだな、俺も分からん。というか、自分のことは誰だって自分が一番分かっちゃいない。ただ、そうだからこそどうなりたいか、ってのは自分で決めれるんじゃないのか?」
無理だよ...今の私にそんなこと...。
「...そっか。...ねえヒッキー。これが最後になるならせめて聞いて欲しいことがあるの...。」
私からも、せめて離別の為に言いたいことがある。
「...聞いてやるよ。そうやって今までお前の馬鹿な話を聞かされてきたからな。」
「うん、ありがとう。」
やっぱりヒッキーって優しいな。だから私は...
「比企谷八幡君、ずっと...ずっとあなたが好きでした。」
くっそひっさしぶりのこっちの投稿。
――――キリトリ線――――
はい、another storyです。ずっと書こうって考えてました。
因みにこのstoryはもうちょっと書きます。
尺の都合で今回めちゃ短いですがご了承ください。
――――キリトリ線――――
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました!
4ヶ月こっち書いてなくてボキャ貧にランクダウンしましたが、最後までお願いします。
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#2" 由比ヶ浜結衣の居場所は
伝えたい無数の感情があって
出せないまま消えてしまった居場所を
埋めることすら出来なくて
だからきっと繰り返されて
そんな道を変えるのなら
それはきっと今なんだ
(´・ω・)ナニコレ
ー由比ヶ浜sideー
「失礼かもしれないが...やっぱり。そうだったんだな。」
ヒッキーは申し訳なさそうに下を向いた。あはは、やっぱりバレちゃってたよね。あんなに...近くにいたんだから,..。
そしてヒッキーは少し躊躇って、顔を上げた。
「...すまん。お前の気持ちには答えられない。」
「うん、分かってた。そして分かってるよ。...今のヒッキーの隣に誰がいるべきか。」
それは私じゃないから。
そう言おうとしたが、ずっと抱えていた思いが崩壊したからか、再び情緒不安定になる。
「...ごめん、もう行ってヒッキー。もうこれ以上...ヒッキーの前で迷惑かけたくないから...。」
「...そうか。じゃあな、由比ヶ浜。」
ヒッキーは私の表情を見て悟って、それ以上何も言わず玄関へ向かっていった。
もう、いいかな...。
私は近くにある空き教室へ入ると、その場に座り込んだ。
「うっ、ぐず...うわああああああ!」
私は大声を上げて泣きだした。人の目なんて興味もなかった。ただ今は、胸の中にある全ての感情を吐き出したかった。
...
何分くらい泣いただろうか。
目は真っ赤に腫れ、ものすごい頭痛に見舞われる。
あたしはフラフラとしながら立ち上がり、帰るための荷物を取るために奉仕部の部室へと戻りに行った。
あの後部室に行ったが、鍵が空いたままもう誰もいなくなっていた。
この前までのこの教室なら、また明日と言って帰れた。
でも今はどうだろう?ここが私の居場所でいいのかな?
...もう今は、どうでもいいか。
考えることをやめた私は、「じゃあね」とだけ呟いて奉仕部の部室から出ていった。
あの日から数日がたった。クラスは少しだけギクシャクしたまま、それが当たり前のように過ごしていた。
私だってずっと引き摺ってなんかられない。元気出さなきゃ。
んで、えーっと、今はなんの時間だっけ...?
「結衣、結衣!聞ーてんの?」
「え、ああ!ごめん由美子...。」
あの一件以降、いつも集まっていたグループは散り散りになった。
でも、由美子と姫菜は変わらず私と接してくれていた。
「結衣、明日一緒に遊びに行くし。」
「ああ、うん!いいよいいよ!」
顔に笑顔をうかべる。きっとひどく薄っぺらく、冷たい笑顔を。
「...じゃあ、駅前に9時で。」
一瞬だけ由美子の表情が歪んだ気がしたが、気のせいだと思う。
こうしていつものように、遊びに行くことになった。
土曜日、私は集合場所へと向かった。
集合場所には、見るからに暇を持て余しているような由美子がいた。
あれ?いつもは最後なんだけどな...?
まあ、そんなこともあるだろうと思って由美子に声をかける。
「由美子ー!やっはろー!」
「...ん、ああ、結衣。」
いつもの素っ気ない返事とは違う、違和感を感じた。
「どうしたの由美子。元気ない?」
「いや、そんなことないし。ったく姫菜遅いし...。」
「はろはろー!ごめん、最後だね。」
そんな時タイミングよく姫菜がやって来た。
「姫菜やっはろー!」
「姫菜遅いし...。ま、いっか。とりあえずどこ行く?」
「あれ?どこ行くって...決めてなかったの?」
「全部は。カラオケ行くことだけ考えてたし。」
「じゃあ服とか見に行ってみる?」
「姫菜それ!」
こうして私達は動き出した。由美子の異変に気付かないふりをして。
...
色々回ってみたものの特に買うものはなく、当初の予定通りカラオケに入った。
ここにもみんなで来たっけ。
そんなことを思ってまた、少し悲しくなった。
部屋に入る。姫菜はトイレに寄るため、少し遅れてくるそうだ。
「さてと、もう何曲か入れちゃおうかな。」
私が機会に触ろうとしたその時だった。
「結衣、ストップ。」
「?どうしたの?由美子。」
私は手を止めて由美子の方を振り向く。同じタイミングで姫菜も入ってきた。そしてそのまま由美子の隣へ座る。
...
場に沈黙が流れる。
「な、何何?どうしたの二人とも?」
「結衣、あんたはさ、あーしたちのことどう思ってんの?」
「どうって...友達でしょ?どしたの急にさ。」
「...それだけ?」
姫菜も、由美子も真剣な目をしていた。生半端な言葉が通らないくらいに。
「それだけって...他にどういえばいいの?」
すると由美子が力強くテーブルをバンと叩いた。
「ああもうじれったい!結衣!何であんたはいっつもそうなの!建前で場を作って、表情を偽って辛いこと押し込めて!...もう一度聞く。結衣にとってあーしたちって何なの!?」
由美子は全力で、叫ぶように言う。その目にはもう涙が溜まっていた。
「えっと...分からないよ...。なんて言えばいいか。」
私は一方後ろに引いた。その時、前に引っ張られるのを感じた。
「逃げちゃダメ!...結衣、逃げちゃダメだから。」
姫菜が私の腕を掴んでいた。その腕には今まで感じたこともないような力を感じた。
「結衣、あんたの隠してること、抱えてる辛いこと、全部あーしたちに話してよ...。あーし達は少なくともあんたのこと大事な友達だって思っている。...もし結衣もそうなら、ちゃんとあーしたちに聞かせてよ...。」
由美子が言う。
もうその声には、さっきまでの勢いはなかった。
...そっか。また私は、大事なものを失っちゃう所だったんだ。
「...めんね。ごめんね。由美子、姫菜。...きっと私、ずっと2人といた時上辺の付き合いしかしてなかった。こんなに大切にしてもらってたのに気づけなかった...。ううん、目を逸らしていたんだと思う。」
口を開いて出てきたのは懺悔と涙だった。
「...今からで間に合うなら、聞いて欲しいことがあるの。...聞いてくれる...?」
「うん、いいよ。」
姫菜が優しく答えてくれた。由美子も言葉はなかったが頷いている。
「えっとね...」
それから全て話した。
修学旅行のこと。少なからずとも私のせいで大事にしてた関係が壊れたこと。居場所なんてないと感じてたこと。
2人はただ黙って聞いてくれた。そして、私が話し終わると今度は2人が胸中を語ってくれた。
話し終わる頃には目に涙のない人はなかった。
ああ...。きっと、ここが私の居場所なんだ。
そう思うと、これまで抱えていたモヤモヤが全部吹き飛んだ気がした。
私は、2人にそばにいたい。ずっとこの3人でいたい。だから...
「由美子、姫菜。これからも、私の友達でいてくれる?」
傲慢な願いかもしれない。でもこれだけは聞き入れて欲しい。
「うん、いいよ。これからもよろしくね、結衣。」
「当たり前だし...!絶対に、もうこんなことにさせないから。」
迷うことなく、2人はYESと言ってくれた。
「ありがとう。2人とも。」
そして私は顔いっぱいに笑顔を作った。
それは生きてて今までで、一番気持ちのいい、嘘偽りのない笑顔だった。
(了)
駄文駄文!!!
――――キリトリ線――――
anotherstory1、完結です。
2以降はネタが湧いたら書きます。
しかしまあブランクですね。
初心に帰りたいです。
――――キリトリ線――――
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!
次回は別作品でしょうかね?また会いましょう!
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after story
#LAST そして物語はどこまでも続く
屋上で誓った愛から数年。
大きくなっても自分たちのままで
物語はまた1歩進んでいく。
ー八幡sideー
朝6時。今日も今日とて何気ない一日が始まる。
ベッドから起き上がる。俺の【隣】はすでに空いていた。
リビングの方へ向かうと、キッチンの方から少しずつフライパンの音と元気の良さそうな女性の鼻歌が聞こえてくる。
「あ、おはよう。八幡。」
その女性━━━雪ノ下陽乃改め、比企谷陽乃はリビングに入ってきた俺に気づくと挨拶をした。
「おはよう陽乃。」
病院の屋上で告白の返事を貰ったあの日からもう10年近くたった。
最初の方はやはり少し色々あったが、付き合いが崩れることは全然なく、俺が大学を卒業して2年くらいたった頃、俺達は結婚した。
そうして今日もこうやって、2人で何気ない日々を送ってるのである。
...まあ、もうじきその2人も、3人になるのだが。
そう。陽乃のお腹には子供がいる。確か今5〜6ヶ月だったか。安定期に入っているから今はこうしていられるけど、もう数ヶ月したら出産期になる。
ほとんどの確率では大丈夫だとは言われるが...。正直、やっぱり怖い。
なんて、俺が弱気になってもしょうがない。それに、守るべき人が増える分、俺も少しは強くならないといけないはずだ。
「今日は仕事終わるの早いんだっけ?」
机を挟んで、朝食を取りながら今日の話。予想は出来ると思うが、陽乃は会社の方を寿退社しているため、今は日中家で1人なのである。
ついでに言うと陽乃と就いている会社は一緒だった。
時々悪戯めいた顔で「寂しい〜」なんて言って抱きついてくるけど、きっとこれは本心だと思う。
何故なら、あれからもう随分と作られた陽乃の表情、言動を見ていない。証拠なんて、これだけで十分だ。
もちろん、なるべく早く帰るようにしているし、一緒にいる時間をできるだけ多く作っているつもりだ。
幸い、すごくブラックな会社な訳でもないので、そこら辺はすんなり通る。
「確か3時くらいには終わるから、もし何かあっても5時までには帰る。何も無かったら直行で。」
「OK。じゃあ今日も美味しいご飯作って待ってるから。」
妊婦なのに俺が帰る時間を問わず、その時間でご飯を作ってくれる。
それはもう、十分にありがたいことだ。
「楽しみにしてるよ。...と、時間もあれだし早く食べてしまうか。」
「味わってよ?」
「もちろん。」
そうしていつも通りの、明るい朝が過ぎていった。
PM3時
予定通り、今日分の仕事が終わった。
因みに会社の方だが、一流、という訳でもないが、そこそこ多く部署があり、人数も多い。因みにこの会社に戸塚も就いていて、入社式の時はさすがに驚いた。まあ、部署は違うが。
「お先に失礼します。」
よし、勤務終了。荷物を持ち、デスクを離れる。
「おう、じゃあな!」
少し離れたところから部長の声。
「奥さんによろしくな。」
「あんたそれ毎日言ってるだろ...。」
隣の同僚までもが少し茶化したように言う。
高校時代の俺には考えられなかった光景だ。
上司と部下の関係にも慣れ、同僚と共に仕事をして、信頼し合って作業を進める。
他人と群れることを嫌って、働くという当たり前の現実から目を逸らしていたあの頃の俺は、今の俺を見てなんて言うんだろうな。
「へっ、社畜が。」なんて吐きそうだが、今になってみるとやっぱり考えは変わるもんだ。
それこそ、陽乃がいてくれたから俺は変われたが。
それから会社を出て数分歩いた頃のこと。
「っと、まだ今から帰る連絡をしてなかったな。」
そう独り言を呟いてバッグからスマホを取り出す。
しかし、俺の手は一旦そこで止まった。
「ん?ありゃあ...。」
遠くに見覚えのある人影を見たのだ。
覚えずしてそっちの方へ歩み寄っていく。
「...?」
その人はこちらに気づいたようで振り向く。
その視線があった時、おたがいの動きが止まった。
「比企谷...君?」
その女性はスラッとしたスタイルに綺麗な黒髪をしており、どこか冷めたタイプの雰囲気。
俺の知人であれば、該当者は1人だけだ。
「やっぱり雪ノ下だったか。」
そう、その女性は雪ノ下だった。高校卒業後長い年月会ってなかったが、人目でそれとわかるほど変わってなかった。
...少しやつれたような雰囲気もあったが。
「その...久しぶりね。」
「ああ、もう10年近く会ってなかったしな。」
「「...」」
色々あったぶん、こういう時の会話に困る。
しかし、ここでずっと立ち往生してるわけにもいかないので、どこか店によることにした。
サイゼ...は近くにあったはずだが...いや、さすがに大人になってそうやすやすとサイゼに行ってはいけない気もする。
「...お前今日このあと少し空いてるか?」
「え、ええ。今日は休みでこれ以上特に何もないけれど...。」
雪ノ下は俺が意外と普通に喋ってるのに驚いていた。
「...まあ、話とか色々あるなら、一旦そこのカフェでも行かないか?」
そう言って俺は道路向かいの店を指さした。
「ええ。そうしましょうか。」
とりあえず俺は陽乃に『雪ノ下と話したいことがあるから遅れる』とだけメッセージを打ち、店へと向かった。
店内へ入り、適当に座った後コーヒーを二人分頼む。頼んだのは普通のブラック。MAXコーヒーは陽乃に飲みすぎを注意されてしまったので最近は減量している。
「その...比企谷君、姉さんは元気してるのかしら。」
会話の始まりはそこからだった。しかし、雪ノ下自身が姉の話を持ち出したのには驚いていた。
「ああ。今は家でのんびりしてるんじゃないのか?出産までそう長くもないし、そうしてもらってないとちょっと心配だけどな。」
「...。」
雪ノ下はどうやら姉の妊娠のことを知らなかったらしく数秒口を開けて固まっていた。
そして、動揺を満足に隠せないまま口を開く。
「姉さん、妊娠してたの...?」
「ああ、もう5〜6ヶ月だな。」
「そう...。おめでとうと言った方がいいのかしら。」
自分の姉のことについて少し微笑む雪ノ下。
俺はそれにかなりの違和感を感じた。
そしてひとつの答えがてた。
今の雪ノ下は、俺の知っている雪ノ下では無くなっている。
当然だ。一言一言に棘がない。代わりに、どこかで感じたことのある黒い部分、威厳が見え隠れしている。
多分、今の雪ノ下はきっと...。
「そういえば、お前は最近どうしてるんだ?」
姉妹とはいえ、片方が縁を切っているため、そこの情報について俺は全然知らない。
「そうね、姉さんがやってたこと、その役割がちょうど私に来ている感じかしら。あちこちに回って挨拶をしてはまた別の場所で、みたいに。」
やっぱりか。
あの母親からは逃げにくい。というかほぼ無理だ。
陽乃はそれにずっと耐えてきて、やっとの思いで道を掴んだ訳だ。
流石に一人いなくなった以上、もっと支配を強めるのは間違いないだろう。
「そうか...。」
「ねぇ比企谷君。」
呼びかけられて顔を見る。その表情は諦め切った哀しそうなものだった。
「姉さんは、今幸せ...よね。私は、どうすれば姉さんみたいに幸せになれたのかしら。ずっと追いかけて、後ろから見ていてばっかりでも、結局...届くことなんて...できなくて...。」
少しずつ落ちてく涙のせいか、だんだんと声が小さくなってきた。
「姉さんは変わった。変われた。私も...もう無理かもしれないけど...変われるのなら...変わりたい...!」
時間が経って初めて気づくことがある。
そして残酷なことに、時間が経ってしまえば、もう無理な事もある。
でも、俺は知っている。
どれだけ時間がかかろうと、結局変われるかどうかなんて自分次第だ。諦めなければなんとかなるなんて台詞はクサいが、実際似たようなもんだ。
「できるんじゃねえの。なんたってお前は強いからな。結局、環境なんて自分次第なんだよ。...そうだな、一言で言うならば。『過去の、現在の自分を否定しろ』ってことだな。」
「『過去、現在の自分の否定』...。」
「ああ、そうだ。結局変わるってそういうことなんじゃねえのか?」
「そう...そうね。」
少し開き直った雪ノ下は俺にあるお願いをした。
「比企谷君、その...少し手伝って欲しいことがあるのだけど。」
PM5時
約束の時間までには帰ってこれたな...。
玄関のドアを開けると、エプロン姿の陽乃が立っていた。
「おかえり。ギリギリセーフ、かな?まあいいや。雪乃ちゃんどうだった?」
「ああ、色々とあるらしいがとりあえず元気そうだ。」
「うーん...何となく予想出来るんだけどね...。」
やはり姉妹と言うだけあり、色々の部分の理解が早かった。
「そうだ、これ見てほしいんだが。」
そう言って俺は自分のスマホの写真フォルダーを開き陽乃に渡す。
「ん?なになに。動画?」
『久しぶり、姉さん。その...元気にしてるかしら。...あの日家を出ていった事、すごく驚いて、...すごく羨ましかった。そして分かったの。やっぱり私は姉さんには叶わないって。届かないって。でも、私も変わりたいと思ってる。だから一言だけ....姉さんに言えなかったことを言わせて欲しいの。本当は、こんな動画越しに言うべきものでは無いのかもしれないのだけれど。姉さん、今までありがとう、それに、結婚、おめでとう。』
雪ノ下は、姉が絶縁状態にあったため、家の方から俺たちの結婚式に来ることを禁止されていた。その後も会うことがなく、改めて言う機会がなかったため、これが初めての祝いの言葉となる。陽乃は、幸せそうな雰囲気の結婚式の中、きっと雪ノ下のことを気にかけていたはずだ。
今回のこの動画はきっと、雪ノ下が変わるために起こした小さな反抗みたいなものだと思う。
その動画が終わった時に俺はバッグからもう1つ物を出した。
「あとこれ。雪ノ下からの贈り物だと。」
そう言って俺は向日葵のブローチを手渡した。
見終わった陽乃は少し泣きながら「やっぱり雪乃ちゃんは不器用だなぁ...。」と呟いた。
そして涙をふいてもう一言、優しい声で動画越しに雪ノ下へエールを送った。
「ありがとう、雪乃ちゃん。大丈夫、あなたもきっと変われる。」
変わるとか、変わらないとか。どっちがいいかなんて人それぞれだ。
でも結局、自分次第で道は変えれる。
そうして自分達で変えてきた道を俺は歩いていくだろう。
そこには嘘の、偽りも仮面もない。
ただ真っ直ぐな気持ちだけがあるはずだ。
だから、俺たちの物語はどこまでも続く。
ーそして比企谷八幡は仮面の少女と finー
今回が正真正銘最後です。
――――キリトリ線――――
はい、というわけで簡単にafter storyです。
ずっと計画しててようやく文に出来ました。
ここまで読んでくれた皆様に精一杯の感謝を。
ありがとうございました。
そしてこれからも、亜睡めるを、よろしくお願いします。
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