迷宮の都市のアリス (RyujiOturu)
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始動の一頁目
御話の始まり


はじめまして。
私の初めての作品ですが、誤字等があれば、言って頂けるとありがたいです。



 私がこの世界でする事はあの人達に恩返しをする事。

 

 

 

 

 

 

 私はいつもどうり、アーケードをしようとゲームセンターにいった。

 私がしようとしたアーケードは 〈Wonderlandwars〉と言う。百円硬貨を筐体にいれ、チケットをゲーム内で購入し、チケットを消費して対戦等を行うタイプのアーケードゲームで、そのアーケードゲームをしようと百円硬貨をいれ、キャストと呼ばれるキャラクターを選んぶ。

 私がいつも使っているキャストは〈リトル・アリス〉。このキャストは不思議の国のアリスの主人公のアリスをモチーフにしたキャラクターで、防御力が低く攻撃後の硬直が長いものの、高い攻撃力と長い射程、足の速さ。更に自身を回復させるスキルや、相手に毒を付与する事ができるスキルを持ち、オールラウンダーとして有名なキャストだ。

 私が〈リトル・アリス〉を選んだ瞬間、激しい光が私を包み。ふっ、と意識が飛ぶ。

 次に気がついた時には、全く見たことのない街並みが目に飛び込んできた。

 

 私がこの世界に来て、ヘスティア様に出会ってから、数日がたった。

 私はどうやらリトル・アリスと同じ姿になっているらしく、ふわふわとした裾とスカートの洋服を着て、大きな青いリボンを頭の後ろにつけ、私の背丈よりも大きな杖を手に持ち、ヘスティア様の最初の家族のベル・クラネルさんと一緒にダンジョンに向かう。

 これが私がこの世界に来てからの初めての冒険だった。

 

 

「死んじゃうー!?」

 

 ダンジョンに潜ってすぐに私達は絶体絶命となった。

私は魔法があるため、ベルさんが前衛、私が後衛といった隊列になっていたんだが、ゴブリンと言う、ダンジョンの初め頃に出現するゴブリンと言う-雑魚に分類される-怪物に私達は囲まれ、絶体絶命な状況に陥っていた。

 

「どうしますか!? ベルさん!? SS(ストレートショット)撃ってもいいですか!?」

 

 SS(ストレートショット)とは、Wonderlandwarsのキャストならどのキャストでもできる基本行動で、真っ直ぐに飛んで行く球を射つ行動で、この世界では、私の魔法として、私の背中に刻まれている。

 ベルさんは私の魔法を射ってもいいか、と言う問に無言でこちらを向いてうなずいた。私はうなずき返し、意識を集中させる。少し遠いゴブリンに狙いをつけ、杖を降りながら、近くのゴブリンを牽制し、狙っていたゴブリンめがけ、杖を振り下ろす。

振り下ろした杖の先から、輝く球が発生し、高速で-レベル1の認識能力でだが-飛び、狙っていたゴブリンに直撃する。

 SS(ストレートショット)が直撃したゴブリンは吹き飛び、壁に激突する。そのゴブリンは只の肉塊に成り下がっていた。さらに爆風によって近くにいたゴブリン達にもダメージが加わっており、足や腕等が吹き飛んだりしていて包囲に穴ができた。

 私とベルさんはその包囲の穴から抜け出し、そのまま逃げ出す。

 

「はあっ、はあっ、だ、大丈夫? アリスちゃん?」

 

「え、ええ、大丈夫です。ベルさんは、大丈夫ですか?」

 

 ベルさんはうなずき、腰のベルトについている袋の中を確認し、小さなため息をつき、

 

「そろそろ、戻ろうか」

 

「はい、そこまで降りた訳じゃないので、速く戻れそうですね」

 

 私はベルさんの提案に賛成し、地図を取り出す。私はマッパーとしてマッピングをしていて、帰路はマップに記入しており、それを見ながら私達はダンジョンから出た。

 

 

 私達はダンジョンから出て、怪物から入手した魔石をギルドで換金し、私達の拠点に戻る。拠点と言っても、荒れている教会の地下室が私達の拠点で、ヘスティア様とベルさん、それに私の三人で暮らしている。

 

「神様ー、今帰りましたー、だだいまー」

 

 ベルさんが地下室の扉を開け、そう言うと、奥のソファーでごろごろとしていた、私よりも少し身長が高く、艶のある漆黒の髪をツインテールにし、大きな胸を持つ可愛らしい、幼女と少女の間をさまよっているような彼女は、ベルさんが神様と言った様に、私達とは異なる超越存在で、私達の主神。ヘスティア様がとととと、とベルさんに近付き抱き付いた。

 

「お帰りーベル君、それにアリスちゃんも怪我はなかったかい?」

 

 ヘスティア様は私達の体をチェックし、怪我がないことを確認すると、ベルさんの手を引っ張り、地下室の奥に行く。

 この地下室はPの形をして私達三人で生活していても、狭いとは感じない広さで、キッチンもある。

 

「ヘスティア様はベルさんのステイタスの更新をしてもらえますか? 私が晩御飯の準備をしますので」

 

「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

 ヘスティア様はベルさんを呼び、ステイタスの更新を始める、私はヘスティア様が持ってきたじゃが丸君を6個ほど取り出し、皿にのせ、机に持って行く。

 ベルさんとヘスティア様が椅子に座り、私も椅子に座って、ヘスティア様の「いただきます」の声を合図に、じゃが丸君を食べ始める。

 晩御飯を食べ終わり、ヘスティア様にステイタスを更新してもらい、私は床に布を敷いて寝る。

 ベルさんはヘスティア様と一緒にソファーで寝る。

 次の日の朝にベルさんがヘスティア様を起こさずにソファーから出る事に頑張っていた事は私とベルさんの秘密だ。

 




アリスちゃんのステイタスはこんな感じです。



Lv.1

力:G218 耐久:H104 器用:F354 敏捷:F376
魔力:E469

《魔法》

[ストレートショット&ドローショット]
・無詠唱  ・精神力無消費
・通常はストレートショット
・任意でドローショットに変化
・ドローショットは精神力を消費

[]

[]

《スキル》

第五唱聖(テイルマスター)
・状態異常を時間経過で回復
・精神力を徐々に回復
・戦闘中にステイタスに補正(効果中)
・ステイタスの上昇量に補正



今後も頑張っていこうと思いますので、よろしくお願いします。


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ワンダースキルが発現する御話

更新は不定期になります、すいません。
誤字脱字があれば、報告していただけるとありがたいです。



 私達がダンジョンに潜り初めて、数日がたち、少し儲かったので、酒場にでも行かない? と言うベルさんの提案を受け、『豊饒の女主人』に行くことになった。

 

「アリスちゃん、今日もお疲れ様」

 

「はい、ベルさんもお疲れ様です」

 

 私はベルさんが出して来たグラスに私のグラスをぶつける、まあ、乾杯をする。

 ベルさんは何でも、ここの女給に少し前に-私がヘスティアファミリアに入る前に-食事を恵んでもらったらしく、頭が上がらないらしい。そんな風に思っていると、薄鈍色の髪を持つ、女給が近づいてきた。

 

「あら、ベルさん、来てくださったんですね」

 

 その女給がおそらく、ベルさんに食事を恵んでくれた女給だろう。ベルさんはその女給をシルさんと呼んでいる。

 ベルさんはいろいろとシルさんと話して(?)いたが、諦めたらしくパスタを頼んだようで、私も同じものを頼んだ。

 私はそのパスタを平らげるがベルさんは途中まで食べたまま、硬直している。

 私は不思議に思い、ベルさんに話しかけようとしたその時、ベルさんが椅子を蹴飛ばし、走って出ていってしまった。

 

「べっ、ベルさん!?」

 

 私が驚いて立ち上がるが、すでに見えないところまで走って行っていた。

 

「おい、金はどうするんだい?」

 

 追いかけようと、杖を持ち、椅子を降りた時に後ろからそう声をかけられた。

 私が後ろを振り向くと、ドワーフの女将さんがこちらを睨みながら、威圧的に言ってきた、しかし私はお金を全てベルさんに預けており、いまの私は無一文。払おうにもベルさんはどこかに行ってしまったため、払えない。

 私はそれを女将さんに伝える。

 

「金は全部、さっきの小僧が持ってるだぁ?」

 

「はい、なので今度払いに来るので、追わせてもらえますか?」

 

 私は後で払うので見逃してくれと言うと、女将さんは、渋い顔をしながらも、それを承諾してくれた。

 私は女将さんに礼をいい、私はベルさんが走って行ったダンジョンがある白亜の塔に向かって走る。

 

 

「ベルさんー! どこですかー!」

 

 私は走りながら、声を張り上げ、ベルさんを呼ぶ。

 その声に反応した怪物達が現れる。私はその怪物達に杖を叩きつけ、灰に変えて行く。

 どんどんと進み、ついに四階層と五階層をつなぐ階段にたどり着く。

 私は意を決して五階層に入る。新たに出現する怪物(モンスター)に苦戦し、ぼろぼろになりながらも走り、声を張り上げた、私は走りながら一つのルームに入った。

 

「ベルさんっ!」

 

 そのルームにベルさんは私よりぼろぼろになりながらも、怪物(モンスター)と戦っていた。

ベルさんは影を一体倒し、すぐに次の影を倒しにかかる。

 私は走って近付き、ベルさんを後ろから攻撃しようとしていた怪物(モンスター)に『ストレートショット』を撃ち、爆殺する。そのままベルさんのところまで走って行き、ベルさんの背中に私の背中を合わせる。

 

「!? アリスちゃん!? なんでここまで!?」

 

「ベルさんが食い逃げみたいに走り出すからです! まずはここの怪物(モンスター)を倒しきりますよ!」

 

 私はそう言うなり、DS(ドローショット)を撃つ。

DS(ドローショット)とは、私が考えたルートを通って行くSSの様なもので、威力は高くないが、強制的に気絶(スタン)させることができる。

 ベルさんはDS(ドローショット)が当たった怪物(モンスター)を仕留め、どんどんと数を減らして行く。

 

 

 

 それから数十分後、そのルームには私達以外がいなくなった。

 

「ありがとう、でもなんでここに?」

 

 ベルさんが、本当にわからないと言う風に聞いて来た。

 私は思わず、盛大にため息をついた。

 

「ベルさんは、本当に仕方のない人ですね、...ハア」

 

 ベルさんは私の言っている意味がわからないらしく、首をかしげているが、私は何も言わず、魔石を取って集め、袋に入れる。

 

「さあ、ベルさん、帰りますよ」

 

 私はそれだけ告げ、杖をしっかりと持ち、ルームから出て行く。ベルさんは私が動き出したのを見て、後ろから走って来る。ベルさんが私の隣まで走って来て、私に謝って来た。私はその様子に思わず苦笑しながらも、ベルさんを許し、二人で一緒にダンジョンから脱出した。

 

 

「ただいま戻りましたー。ベルさんもいますよー」

 

 私達は夜深くに拠点に戻って来た。私が、いるであろうヘスティア様に向けて言うと、恐ろしい速度でヘスティア様が来た。ヘスティア様は相当心配していたらしく、私達はシャワーを浴び、お説教を受けていた。

 

「なんでこんなに帰って来るのが遅いのかな?理由を聞かせてもらおうか?」

 

 相当怒っているらしく、ヘスティア様の艶のある漆黒のツインテールがぶんっ、ぶんっ、と激しく動いている。

 

「すいません、私がベルさんを誘って潜ったんです」

 

「本当かい? 神の前では嘘はつけないのをわかっていてのその答えなんだね?」

 

 恐らく、というか、もう嘘はバレているだろうが、ヘスティア様は、私を見て、諦めた様にため息をつき、

 

「わかった、今回はおとがめは無しで行こう。だけど次こんなことをしたら、一ヶ月はダンジョンに入れない様にしてもらうからね」

 

 ヘスティア様はそう言い、部屋の奥にあるベッドに向かった。

 

「ほら、ステイタスを更新するだろう?」

 

 私達はヘスティア様にそう言われ、部屋に入った。

 

 

 ステイタスの更新が終わり、ヘスティア様に呼ばれた。

 

「アリス君。新しいスキルが発現したよ」

 

「はい、確認しました......でもなんでワンダースキル......?」

 

 新しく発言したスキルは[盤面破壊]なんて名前だけど、ルピに《ワンダースキル》なんて書いてあったらさすがに何か分かる。でも巨大化なんて書いてなかったし......それにワンダースキルはレベル5からのはず......

 

「ん? 何か言ったかい? ......にしてもこのスキルは化け物としか言い様がないぐらい凄まじい効果だね」

 

「え、は、はい、使いどころにもよりますけど、格上も倒せる力ですね」

 

「ああ、だが、無理はしないでくれよ?家族がいなくなるのは嫌だからね」

 

 ヘスティア様はそんなことを最後に言って来た。

 私はその言葉に無言でうなずき、寝ることにした。

 




最後まで呼んでいただき、ありがとうございます。

今回の更新での、ステイタスです。



Lv1

力G:218→D593

耐久H:104→F:328

器用F:354→D:503

敏捷F:376→D:529

魔力E:469→C:672

《魔法》
変化なし

《スキル》

盤面破壊(ワンダースキル)
・詠唱により発動
 詠唱式 『不思議な世界のおもちゃ箱、全部ひっくり返しちゃう!』
・発動は一日一度のみ
・発動時に力と耐久、敏捷と魔力に補正(効果超特大)
・ステイタスの上昇に補正(効果大)



こんな感じです。
作品内ではステイタスの詳細はできるだけ書かない様にしたいと思っています。
ステイタスは『Wonderlandwars』のリトル・アリスを元にして上昇量を考えています。が、あまりにも一気に挙げているので驚いたりする事があるかもしれませんが、作品内で書いていないところでもたたかったりしているのもあわせて上昇させています。
これからも頑張って書いて行きますので、よろしくお願いします。


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ベルさんと頑張る御話

最初に書いていませんでした。
この作品は私の趣味と自己満足の為に書いた作品です。
語彙力、国語力がなく、駄文も多数あります。(すでにその片鱗が...)内容はあまり期待しないでいただけるとありがたいです。
それと、更新遅くなりました。いろいろとありまして。すいません。



 例の酒場の事件から数日が立ちました。

 ベルさんと一緒謝りに行ったのですが、ミアさんが

 

「後一日でも遅かったらあたしの得物(スコップ)が轟くところだったよ」

 

 なんて言っていたので、本当に急いで来て良かったと思いました。

 私達は毎日ダンジョンに潜り、無理しない程度に戦い魔石を集めていました。この頃ヘスティア様はガネーシャと言う他の派閥の主神が開催する宴に行っていて、二日ほど帰って来ていない。

 私達がダンジョンから出てきて換金をした後、ベルさんはとある店の前で止まり、ガラス越しにとあるナイフを見ていた。

 この頃はいつも決まってこのヘファイトスファミリアの店の前でナイフを見ているのだが、このナイフの値段は200万ヴァリスと今のままでは手がとどかない一品だ。

 

 

 そして、とある少女と少年がナイフを見ていた店の店内で、ヘスティアは緋色の髪の麗人に見えるとある派閥の主神に『土下座』をしていた。

 

「ねえ、なにしてるの? ヘスティア。そろそろ帰ってくれないかしら」

 

「『土下座』だよ、タケから教えてもらったんだ」

 

「タケって? ......ああ、タケミカヅチのことね」

 

 ハァ、と麗人はため息をつき、またヘスティアを帰そうとまた口を開きかけたその時、

 

「すいませーん、武器を見に......」

 青く、先が金色の髪を持つ少女が入ってきた。

 

 

「すいませーん、武器を見に......」

 

 私はベルさんがナイフをガラス越しに見ている間に店に入ったのだが、緋色の髪と目を持つ麗人に私達の主神、ヘスティア様が土下座をしているところに直面した。

 思わず固まってしまい、顔を上げたヘスティア様がこちらを見てガチガチに凍っていた。

 

「ヘスティア様? 何をしているんですか? それにそちらのかたは?」

 

 少しして状況を理解し始めた私はヘスティア様に問いかける。

 話の内容を聞いて思わずため息をついてしまった。

 

「ベルさんしかいないのでしたらともかく、私もいるんですから相談ぐらいはしてくださいよ」

 

「ふふふ、いい子じゃない。あなたのことをしっかりと案じてくれているんだから」

 

 緋色の髪を持つ麗人、ヘファイトス様が私を見てからそう言う。

 

「うん、ベル君と同じでボクには少し良すぎる子供達だけどね」

 

「ヘスティア様。とりあえずその話は置いておいて、ベルさんの武器を作るのに必要なお金ってどれぐらい何ですか?」

 

 私がヘスティア様に問いかけるとヘスティア様はへファイトス様の方を向く。

 

「はぁ、正直に言うと二億ヴァリスよ」

 

「二億ですか、十年程お金を貯め続ければ行けるかとお......」

 

 私は冷静に受け止めているとヘスティア様が、

 

「わかった、契約書にサインしよう」

 

 なんて言っていた。十年間借金を返し続ける生活が決まる。

 

「ヘスティア様、少しは生活のことを考えてくれません?」

 

 そう言うがヘスティア様の耳には届かない。私はため息をつき、店を出た。

 

 

「なんだか今日はご飯が少ないような」

 

「気のせいです」

 

 ニコニコと言った擬音が付きそうなほど完璧な笑みを浮かべ有無言わせぬ口調で言う。ヘスティア様の表情が固まるが私は無視してパクパクと食べ進める。

 食べ終わると杖と雑嚢を持ち乾パンを雑嚢に入れ地下室の扉を開ける。

 

「2日ぐらい潜って来ます。大丈夫です帰って来るので」

 

「僕もいきますよ! ちょっと待っててください。すぐに準備してくるんで!」

 

 そう言ってベルさんは準備をしようとするが、

 

「ベルさん、明日はヘスティア様が用事があるとかなんとかでしたけど。ヘスティア様? 言わなくてもいいんですか?」

 

 勿論嘘だ。だけども一人にならないと出来ないこともある。ヘスティア様は驚いた様子だったがベルさんに話しかける。私はそれを見て地下室をでた。

 

 

 ダンジョンに潜って二日目の夜に私はベルさん達がいる神殿の地下室に帰った。

 

「ただいま戻りました、っていない?」

 

 私は反応がないので、奥を見てみるがヘスティア様とベルさんはいない。

 とりあえずご飯を食べようとキッチンに向かう途中、机に紙があり、それには、

 

『お帰りアリス君。ボクとベル君はディナーを食べに行っているんだ。悪いけど一人で夜はすましてくれるかい?』

 

 こう要約すると書いてあった。私はここで食べようとも思ったがどうせ一人ならと《豊饒の女主人》に向かったのだが、そこにはロキファミリアの主要メンバーがいた。

 

「ねえねえ、君。アリスちゃんでしょ?」

 

 私がそれに気付かずにカウンターに座ったとき、後ろから声をかけられた。その声は聞いた事があり、びくりと跳び跳ね、後ろを向くと褐色の肌の少女が人懐っこい笑みを浮かべていた。

 

 

「いや、来てもらってすまない」

 

「いえ、大丈夫です。一人だったので周りに人がいることで悪いことは少ないですから」

 

 私はティオナさんに捕まり、ロキファミリアの人たちの輪に入って夜ご飯を食べることになった。平気なように演じているが内心は汗だくだ。なぜこんな状況に!?

 

「でも一人でこんなかわいい子がいたらねー、さらっちゃうよ。うん」

 

「さらうのはどうかと思う。でも可愛い」

 

 そしてただですら私一人だけ他のファミリアで居心地悪いのにアイズさんにぬいぐるみのようにだかれているのだ。

 

「無理に逃げようとしないのね、意外だわ」

 

「逃げようとしないのも事実ですが、逃げられないのも事実ですし」

 

「逃がさない、かわいいし暖かいし」

 

 こんなわけだが、食事は意外と取れる。私はむぐむぐと頼んだペペロンチーノを食べていると正面にいた、フィンさんが、

 

「そうだ、君は明日暇かい?」

 

「明日ですか? 特に予定はありません。休みの予定でしたし」

 

 私は疑問を抱えながら正直に答えると、

 

「そうかい、ならよかった。明日ある怪物祭(フィリア祭り)を一緒に回らないかい? 話もしたいしね」

 

 そういわれた、明日もヘスティア様とベルさんは回るだろうし私は一人だ、なら一緒に行っても悪いことはないのではないだろうか。私はそう考え、

 

「わかりました、明日の朝にでもロキファミリアのホームを訪れます」

 

 そう言い、了解を得て私はアイズさんから離れる。少し名残惜しそうにアイズさんは表情を曇らせるが私はお勘定をすませ、ホームに戻る、ヘスティア様達はまだかえって来ていなかったがすでに眠かったので下に毛布をひき、眠りについた。

 




いかがでしたか?
少し前は全く筆が全く進まなかったのに久しぶりに書くと、どんどんと進むものですね。私だけでしょうか?
それではこれぐらいで終わります。
また次でお会いしましょう


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怪物祭にロキファミリアの面々と行く御話

お久しぶりです。
更新が遅くなって本当にすいません。
いまだに一巻分も終わっていないところを見ると怠けているなー、なんて他人事のようにこの頃思いました。HAHAHA。
更新は不定期で速くなったり遅くなったり、遅くなりすぎたりとします。すいません。



「早いのね」

 

 私は現在ロキファミリアの拠点(ホーム)の門の前にいる。私が来たのことに対応したのはティオネ・フュリテさんだ。予想以上に速く来たらしくまだ準備ができてないらしい。

 私はティオネさんにつれられ拠点(ホーム)の奥に行く。

 杖は今まで考えたことすらなかったけど、小さなストラップ型に意識したら変わったので、首に下げるようにして今は着けている。

 私が拠点(ホーム)のリビングのような場所につくと奥の椅子に座っていたティオナさんが立ち上がり、なかなかに大きな声で、

 

「アイズー! あの子来たよー!」

 

 そう言った、私はティオナさんの前に座っていたアイズさんが立ち上がったのを見た後、視界がぶれ、今まで味わったことのない速度を体感した。

 

「......かわいい」

 

 私の視界のブレがおさまると、私はティオナさんの前に座っていた。

 

「え?」

 

 思わず間抜けな声がでる。

 さっきはティオナさんの前にはいなかったのに今はいる。そして私の頭の上にアイズさんの頭があること。謎だなー。

 

「アイズ好きだもんねー!」

 

「うん、かわいい」

 

 私の知らないアイズさんを見た気がした。上を向くとアイズさんの感情がわかりにくい-今は笑っていてわかるが-顔がある。私の髪をさわり片腕を回し、抱き締めている。

 

「アイズ達は準備が終わってるみたいだし、先に行っていいわよ?」

 

「ほんとー? なら行こっ! アイズ! アリスちゃん!」

 

 ティオネさんが先に行っていいと言った瞬間にティオナさんは拠点(ホーム)から出ていく。それを追うようにしてアイズさんが出ていき、私はティオネさんに頭を下げてティオナさん達を追う。

 私が全力で走っているにも関わらず訳のわからない速さで前にいっている。レベルって偉大だなー、あはは。

 レベルって言えばワンダースキルってレベル5にならないと使えなかったよなー、でも今はまだ1だし、まあ困らないけど、まだ使ったことないし、まあ、レベル差は1ぐらいはくつがえせるだろう。なんて考えてないで速くアイズさん達を探さないと。

 そうして走っているとじゃが丸くんの屋台でじゃが丸くんを買っていた。思いの外遠くに行っていなかったのに安堵した。

 

「あ、アリスちゃん! ごめんね、ついつい」

 

 えへへ、とわらいながらティオナさんは私にじゃが丸くんの抹茶味を渡してくれた。食べてみると以外とおいしかった。これをアイズさんは美味しそうに食べまくっている。私には無理だ。

 と言うわけで私はうまく合流でき、そのまま祭を回った。

 様々な屋台を周り食べたり食べたり食べたり、食べたりしかしてないな。うーんまあ、お祭りだしいいかな?

 

 

 そんなこんなで私はティオナさんとアイズさんの二人とお祭りを回っていたのだけど、

 

「よってらっしゃい! 射的だよー!」

 

 射的、久しぶりに聞いた言葉だった。私自身友人はいたのだけどWLWをやりこんでいたこともあって祭りとかには全く行ってなかった。まだWLWにハマる前までは祭りにも行っていたんだけどなー。

 

「すいません、一回させて頂いてもいいですか?」

 

 私は『射的』と言う言葉に引かれ屋台のおじさんに問いかける。

 

「うん? お嬢ちゃんかい? 五弾で400ヴァリスだよ?」

 

「わかりました!」

 

 私は400ヴァリスを屋台のおじさんに渡して射的用の銃と弾をもらう。よくよく見てみると日本の射的用の銃と全く同じ見た目で弾もコルクのようなものだった。

 このコルクが発射される仕組みは全く違った。

 この銃は魔道具らしく魔力を一定量流し込めるらしく、トリガーを引くと込められた魔力分の力でコルクが発射されるのだが、流し込める魔力量は上限が決まっていて、それ以上流し込もうとすると暴発するらしい。

 私は銃の先にコルクを詰め、魔力を流し込む。暴発ギリギリまで流し込んで狙いをつける。これでも日本での射的はなかなか上手くて八割ぐらいは欲しいものが手に入っていた。

 私が射的をやっているのを見て景品を見ていたアイズさんが上においてあった白くて赤い目の兎のぬいぐるみを見てぼそりと呟いた。

 

「あれ、かわいい......」

 

 私はアイズさん達と一緒に祭りを回らせてもらっていることの感謝の気持ちに取ろうと思い、狙いをつける。

 重いものは上を狙う!私は白兎のぬいぐるみの頭を狙い、トリガーを引く。

 

パァン!!

 

 乾いた音が響き、銃からコルクが発射される。コルクはなかなかの速度で飛んでいき、白兎のぬいぐるみの頭に綺麗にあたる。白兎のぬいぐるみは衝撃を受けて大きくのけぞり、そのまま倒れる。これでぬいぐるみはゲット!

 

 私は次のコルクを詰め込み、次に落とすものを狙うと、ティオナさんが不意に、

 

「あっ! あれかっこいいね!」

 

 そういって指をさす。

 指をさしている方向には美しいお姫様の横顔が彫られたブローチがあった。私はそれに狙いをつけ、魔力を流し込む。

 特に大きくもないブローチの真ん中を狙ってトリガーを引く。

 

パァン!!

 

 先ほどと同じように乾いた音が響きブローチを押し出し、ブローチが下に落ちる。これで二つ目もゲット!

 

 私はヘスティア様へのプレゼントを何にしようか見ているとかわいらしい白くて赤目の兎がかかれたペンダントがあった。何でこんなにベルさんを思わせる白兎が多いのだろうか? まあ、そんなことはいいや。

 私は銃口にコルクを詰め込み、魔力を流し込む。さっきと同じように狙って射つ。

 

 先ほどと同じように乾いた音が響き、銃口から発射されたコルクがペンダントを撃ち落とす。

 これでヘスティア様へのプレゼントもゲット!

 私はるんるんと言った擬音が聞こえて来そうなほどテンションが上がっている。銃口にコルクを詰め魔力を込めてベルさんへのプレゼントを探しているとナイフの鞘があった。何でこんなにちょうどいいのが多いのかな?まあ、ラッキーだと思おう。

 

 私は鞘を狙ってトリガーを引く。パァンと音が響いて鞘に当たり鞘を弾いて落とす。

 最後の一発になったコルクを銃口に詰め、何を落とそうか景品を見ると目を引くものがあった。

 それは黒を基調とし、金の刺繍がちりばめられている大きなリボンだ。WLWの『とあるキャスト』を思わせる色だ。

 私はそのリボンを狙って射つ。コルクがリボンの真ん中に当たり、リボンが落ちる。

 

「お嬢ちゃん、凄いね。はい、これが景品だよ」

 

 屋台のおじさんが私が落としたぬいぐるみ等を渡してくれた。

 私は屋台のおじさんに礼をいってアイズさんにぬいぐるみを渡す。

 

「え? くれるの?」

 

「はい! お祭りに誘ってもらったお礼です!」

 

「......ありがとう///」

 

 アイズさんは嬉しそうにぬいぐるみをもらってくれた、私は内心で息を吐いた。もらってもらえるかわからなかったからだ。

 

「ティオナさんも、どうぞ!」

 

「私にも!? ありがとー!」

 

 ティオナさんにもお姫様の描かれたブローチを手渡すと嬉々として受け取ってくれた、それにすぐにブローチを着けてくれたのだ。わたしも思わず笑みがこぼれる。

残りのペンダントと鞘は荷物入れに綺麗に入れ、黒いリボンは今のリボンと付け替える。

 アイズさん達はかわいいと言ってくれたので少し自信を持てた。

 そうして様々な屋台を回ったりしてお祭りを楽しんでいた私達は今回の祭りの中心地である闘技場付近に来た。ここで《ガネーシャファミリア》のテイマー達による捕獲してきた怪物(モンスター)のテイミングを行うのだ。多くの人が闘技場付近に集まっていた時。

 

ガアァァァァァッ!!!!

 

 人々に恐怖を振り撒く怪物(モンスター)の咆哮と悲鳴が聞こえて来た。

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?今回はアイズさんらロキファミリアとのゆったりとしたお話でしたが、次話では本格的にアリスちゃんを戦わせたいと思います。
基本的にはダンまちの小説にそって行きたいと思っているんですが、WLWの要素をねじりこんだり話をねじ曲げたりすることもあるのでわかって頂けるとありがたいです。


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異形の怪物と戦う御話

こんにちは(?)響野です。
更新が速くなりましたがまたスローペースに変わると思います。GM終わっちゃうんで(言い訳)
まあ、そんなわけですがこれで原作の小説の一巻が終わるところです。
そして、感想や評価お待ちしてます(唐突)

それでは本編をどうぞ!


「なんで怪物(モンスター)が外に出ているの!?」

 

 私はギルドの職員が叫んでいる声が聞こえる。心は清みきった水面のように落ち着いている。

私は首にぶら下げていた杖型のストラップを手に握り、ストラップを取る。

 そうすると今まで使っていた背の丈を越える大きな杖に変わる。

 今視界の中に入っている怪物(モンスター)は中層以降から出現する大型の怪物(モンスター)のトロールだ。

 正直に言うとダメージを与えられる可能性はほとんど無いが足止めならできる。

 

ガアァァァァァ!!

 

 トロールはこちらに気付いたのかこちらに走って来る。そして二秒程で目の前に到達し、腕を振り上げる。

私は大きく回避行動をとりつつ、杖を振りDS(ドローショット)をうち、停滞させる。

 私の主武器はSS(ストレートショット)で、レベル差が一程度だったらなかなかに痛いダメージを与えられる。

 しかし、近接戦になると主武器はDS(ドローショット)に変わる。

 なぜなら発生が早く、光弾の発生スピードが異常なほど速いのだ。その上停滞と加速を操ることのできるタイプの魔法で、近くに来る相手に停滞させたDS(ドローショット)を当て転倒(ダウン)させてSS(ストレートショット)をうつ戦法をとることである程度の敵を倒すことはできた。

 そしてこのトロールもその戦法に綺麗にはまった。

大きな地響きをおこし転倒している。そこに過剰に魔力をつぎ込んだSS(ストレートショット)を打ち込む。

トロールの体に二発着弾した。着弾した腕と腹は肉が弾け、腕は半場なくなっている。

 それに私の役目は動きを鈍らせて、私に注意を向かせるだけだ。トドメは他の冒険者がやってくれる。

 私に攻撃しようと距離を積めてきたトロールは後方から飛んできた矢によって魔石を砕かれ灰となって消える。

 

「ありがとう。倒しやすかったよ」

 

「いえいえ、私には倒せる手札がほとんどないので、逆にありがたいです」

 

 私はトロールにトドメをさしてくれた他の冒険者に礼を言って他の怪物(モンスター)を倒しに走り出す。

 そうして走り回り、Lv.1のシルバーバックやLv.2のミノタウロスだったりと複数の怪物(モンスター)と戦い周りにいた冒険者さん達と共に討伐してきた。

 

「数は少ないですが、まだまだいるはず、探さないと」

 

 私は怪物(モンスター)を倒すために走り回る、各所でさまざまな冒険者が討伐しきっていてもういないのではないか、とまで思えるが私の(リトルアリス)が警鐘をならし続ける。まだ危険な怪物(モンスター)はまだ生きてる、と。

 私はその警鐘に従い、走り回っているとシルバーバック、野猿をより大きくした銀の毛並みを持つ、ついさっき他の冒険者と共に討伐した怪物(モンスター)が白髪の少年を追いかけていたのだ。私はすぐに助けに行こうとしたのだが、私の(リトルアリス)としての部分が特大の警鐘を鳴らす。

 

 そして空から絶望を撒き散らす存在が舞い降りた。

 

 それはその広場の中心にゆっくりと降りてくる。

 紫色の体表を持ち私ぐらいの大きさであれば丸呑みにできそうな程巨大な口。

 そして巨大な体に不釣り合いな程小さい翼。

 長く鋭く禍々しい爪。

 私はそれをゲームの画面越しに見ていた。

 (リトルアリス)はそれと直接戦っていた。

 毒や最大HP現象等の複数のデバフが攻撃に含まれ、遠距離攻撃や全方位攻撃を持ち、凶悪なリーチで予想外のダメージを受けなかなかに苦戦した記憶が多い相手である。

 それの名前は〈ジャバウォック〉不思議の国の近くにある森に潜む邪悪なる[ヴィラン]。

 この世界にいるはずのない怪物(モンスター)

 〈ジャバウォック〉はその巨大な口を大きく開き、

 

 

 

ウォォォォォォォォォ!!!

 

 

 

 聞くものに本能的な恐怖を覚えさせ行動不能(リストレイト)状態に陥る咆哮を轟かせる。

 私の理性と(リトルアリス)の理性はあれは無理だと訴えかけるが、本能的な部分だろうか?そこが大声で叫んでいる。

 

 

 

あれは私が倒すべきだと。

 

 

 

 実際、私が倒さずともLv.5のアイズさん達が倒してくれるだろう。

 しかしそれでは駄目だと(リトルアリス)の本能と私の神筆使い(プレイヤー)としての矜持が叫ぶ。

 私は理性を叩き潰し、本能が覚醒する。

 背中が白熱する、燃えるような熱さとは真逆に今の頭は澄みきっていて熱さとは無縁だった。

 私の本能が、(リトルアリス)が、次の最適な行動を滑らかに紡いでいく。

 

『不思議な世界のおもちゃ箱、全部ひっくり返しちゃう!』

 

 詠唱苻を軽やかに読む。

 一度も使ったことのない《スキル》

 

 

      [盤面破壊(ワンダースキル)

 

 

 WLW中(あちらの世界)では、体が巨大化し、移動で当たり判定が発生し攻撃力と防御力、そして移動速度が大きく上昇する。そのまま相手を踏みつけてキルを奪い取ることで局面をひっくり返すことのできるポテンシャルを持つ強力なWS(ワンダースキル)だ。

 そしてこちらの世界では、体の大きさは変わらないが体の奥底からあふれでるような力は思っていた通りだった。

 

「私が相手だ〈ジャバウォック〉!! 」

 

 私の声に反応したのか〈ジャバウォック〉はこちらを向き、飛びかかってくる。その速度はなかなかのものだが、今の私には遅い方だ。私は逆に近付き、杖を振りながら脇をすり抜ける。

 打撃武装になるためそこまでダメージを与えれた様子はないが、表面の鱗が割れ、こぼれ落ちる。

 私はさらに素早く振り返った〈ジャバウォック〉の懐に入り込み、ほぼゼロ距離でSS(ストレートショット)を打ち込む。

 私はそのまま脇をすり抜け、その間に停滞するDS (ドローショット)置く(・・)

 懐で爆発したSS(ストレートショット)の爆風に押され後ろに下がった〈ジャバウォック〉が、先に置いていたDS(ドローショット)に当たる。

 すると大きく〈ジャバウォック〉は体勢を崩す。

 そこに私は三発のSS(ストレートショット)を打ち込み、さらに接近し杖で数回殴打する。ダメージは蓄積しているらしく、体の鱗は剥がれ、全身から青紫色の血が吹き出し、広場のタイルを汚しているが、あくまで表面上に出ている成果なだけであって、まだ〈ジャバウォック〉はWS(ワンダースキル)を発動させていない。

 こちらの世界では、怪物(モンスター)が魔法を使うことはあるがスキルは使わないらしい。

 使わないのであればありがたいが、そんな優しいわけではないようだ。

 〈ジャバウォック〉が咆哮を上げ体の傷が修復され、より強固な鱗が全身に生え、全身から先程とは違う、本気とも思えるオーラが発生し、体が一回り大きくなった。

 私は再度杖を構える。ご都合主義かなにかは知らないが[大きくなるよ!]の効果は本来ならば十数秒しかもたない。しかしすでに三十秒は過ぎている。

 まあ、切れないならばそれでいい。[大きくなるよ!]の効果が切れる前に殺すだけだ。

 私は復活し、より強くなった〈ジャバウォック〉に挑む。周りにいた冒険者達は近付いてこない。

 私は杖を両手にもち、〈ジャバウォック〉の懐をめがけて走り出す。

 〈ジャバウォック〉は迎え撃つように左腕の爪を振り上げ、薙ぐようにして左斜め上から振り下ろすようにして私の命を刈り取ろうとする。

 私はそれを一旦後ろに飛び退いて回避。

 その上飛び退くタイミングでSS(ストレートショット)を射つ。が、〈ジャバウォック〉は後ろに下がり爪を振るう。

 すると爪の起動にそった鎌鼬が発生し私を襲う。

 それを大きく横に飛んで回避し、〈ジャバウォック〉に向かって走り出す。杖を振るってSS(ストレートショット)を射つが、かするだけにとどまり、爆風は当たらない。

 しかしそれだけの隙を作り出した私はさらに接近する。

〈ジャバウォック〉の爪から放たれる鎌鼬を避けながら接近し杖が当たる距離まできたが、〈ジャバウォック〉が今までに見ないモーションをとる。

 そのモーションは神筆使い(プレイヤー)としての記憶が全方位攻撃だと結論を出す。

 本来ならば避けるべき高威力の攻撃。だか私は踏み込む。そして〈ジャバウォック〉が全方位攻撃を使う。私はそれをさらに踏み込むことで爪を避け体を低めて当たらないようにして懐に入り込む、そして私は必殺の《ストレートショット》を放つ。

 ほぼゼロ距離で放ち、なおかつ避けれない場所だったため私も《ストレートショット》の爆風を受け、吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされ、ゴロゴロと広場のタイルの上を転がりながらも体勢を建て直しどうにか足をつき、踏みとどまる。

 すぐに顔を上げると体の一部を失いながらも化け物としか言い様のない生命力で私を殺そうと走ってくる。

 私はそれに対抗するためすぐに立ち上がり再度近接戦(インファイト)に持ち込む。

 先程よりもさらに速く鋭くなった爪の連擊を避けようとするが数回かすり、服が破け皮膚が切れ、血が流れるが私は近接戦(インファイト)を続ける、杖で殴打し、DS(ドローショット)で牽制を入れる。

 さすがに[ヴィラン]である〈ジャバウォック〉を転倒させることは出来ないためダメージを入れ続けることができない。

 左から来る振り下ろし気味の爪を後ろに下がって避ける。右から薙ぐようにして振り抜かれる爪を杖で反らして難を逃れる。そして全方位攻撃に継げてくる〈ジャバウォック〉の懐に入り込みSS(ストレートショット)を打ち込む。そのまま脇をすり抜けるのではなく〈ジャバウォック〉の頭を踏みつけ大きく飛ぶ。

 私を見失った〈ジャバウォック〉に向けて全力で魔力を過剰に込めたSS(ストレートショット)を三つ展開させ、一点に、〈ジャバウォック〉の頭部に向けて放ち、上空から落ちる勢いも乗せた杖を振り上げる。

 私を見失っていた〈ジャバウォック〉は上空にいることに気付き、上を見るが、飛んできた三つのSS(ストレートショット)の直撃を受け大きく怯んだところに落下してきた分の速度を加えた杖の振り下ろしを叩き込む。

 頭部が大きくへしゃげ広場の中心で叩き潰される。

 それと同時に体の奥底から湧いて出てきていた力が無くなる感じがした。そして全身に恐ろしいまでの倦怠感が襲う。

 それでも私は杖を支えにして立ち〈ジャバウォック〉の死体を見る。

 ゆっくりと死体は灰に変わっていき、中心に大きな私の頭の大きさ以上の魔石が残り、〈ジャバウォック〉の鱗と巨大な爪が残った。

 私はそれまで確認してフラりと体が揺れる。杖を支えにしようとするが耐えきれず地面に倒れこみ、意識が暗闇に落ちていく。

 

 

 

 

 それから一日寝ていたようで、起きたところはロキ・ファミリアの拠点(ホーム)だった。

 起きたところ、ベルさんやヘスティア様。アイズさんやティオナさん達ロキ・ファミリアの幹部の皆さんも集まっていて私が起きた時にはベルさんとヘスティア様は安堵の息をつき、アイズさんとティオナさんに抱きつかれ他の幹部の皆さんは何処かに報告しに行っていた。

 私は新聞-のようなものだけど-にのせられ、『異形の怪物(モンスター)と一人で戦い勝利した小さな少女!』と大見出しで乗せられていたときは思わず卒倒しそうになった。

 ベルさんもベルさんで大型の怪物(モンスター)を討伐したらしく、漆黒のナイフを鞘に入れていた。

 私はその日のうちにヘスティア・ファミリアの拠点(ホーム)となっている崩れた教会の地下室に戻った。

 服はアイズさん達の好意で綺麗に仕立て直してもらっていた。

 そして私は戦闘の経験を背中に刻み込んでもらう。

 ゆっくりと優しく刻まれていく私の経験。その感触を感じながら私は〈ジャバウォック〉との戦闘を通して変わったことを考える。

 それは私の神筆使い(プレイヤー)としての部分と私の(リトルアリス)としての部分が一体化しているような感じだ。今のところは特に感じることはないが、今後何かしらの影響があるだろう。

 私がそう考えていると、ヘスティア様が私の背中から降り、

 

「お疲れ様。終わったよ」

 

 そういわれ立ち上がり、ベルさんがこちらを気にしなくて良いように白いインナーを着て、ヘスティア様に更新の結果を紙に写したものをもらう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

リトルアリス

 

 

Lv.2

 

力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0

 

《魔法》

 

[ストレートショット&ドローショット]

 

[ボムバルーン]

・無詠唱 

 

[]

 

《スキル》

 

第五唱聖(テイルマスター)

 

盤面破壊(ワンダースキル)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 私は紙に目を通し、

 

「本当ですか?」

 

 思わず聞いてしまう。

 それに対してヘスティア様は優しく微笑み、

 

「おめでとう、ランクアップだよ」

 

 そうして冒険者登録をして一ヶ月でのランクアップと言うオラリオを震撼させる出来事はこうして起きた。

 




いかがでしたか?
ランクアップをしたことで新しい魔法が増えました。
これもWLWのリトルアリスのスキルから取りました。
わからない方はGoogleなどで調べていただけたらわかると思います。
お気に入り登録をしてくださっている複数の方々、本当にありがとうございます。こんな作品を呼んでいただき感謝しかありません。
これからも頑張るのでこれからもよろしくお願いいたします。
それではこれぐらいで、次回に会いましょう。


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冒険の二頁目
小人の罠を踏み抜く御話


こんにちは(?)響野です。
更新はいつもより速くなりましたが、多分次の更新は遅くなると思います。(どこかで言っていたような)
それとこれからWLWの要素が増えていきます。調べればすぐに出てくると思うので調べてみていただけると分かりやすいかと思います。
それでは本編をどうぞ!


「貴女って冒険者になって何ヵ月だっけ?」

 

「1ヶ月ですよ?」

 

「1ヶ月で、ランクアップ?」

 

「はい、そうですけど?」

 

「1ヶ月でランクアップゥゥゥ!?」

 

 

 

 

「ご、ごめん。まさかあんなことになるなんて」

 

 私の担当となったギルド職員のミイシャさんは私に頭をさげて謝っていた。

 

「い、いえ。大丈夫ですよ? どうせわかることですし」

 

「うー、優しさが見に染みるよー」

 

 あはは、と私は苦笑いを浮かべながら、こうなってしまった経緯を思い出す。

 私はつい先日、怪物祭で怪物(モンスター)が放たれてしまったとき、現れた〈ジャバウォック〉と一対一で殺しあい、討伐したことでランクアップを果たし、そのことでミイシャさんに報告をしようと思ったのだけど、ミイシャさん曰く訳のわからない速さだと、

 

「えっと、それじゃあランクアップをする前にしたことは何かある? どんなクエストを受けたとか」

 

「それでしたら、先日の怪物祭で〈ジャバウォック〉を倒しました」

 

 そういうとミイシャさんはまたもや机に倒れこむ。

 

「何で私の担当がこんな可愛いのにおかしなことするの~」

 

「え、ええと私はそれがランクアップの要因だと思うんですけど」

 

「じゃあ、君があの新聞の!?」

 

 ミイシャさんが言う新聞とは、定期的に発行される情報誌で私も読んでいる。

 そしてその一番の見出しが

 

『無名の少女。謎の怪物(モンスター)を討伐する!!』

 

 見たときに私の写真が載っていて卒倒しそうになりました、何あれ。

 

「はぁ、わかったけど何か相談でもあるんでしょ?」

 

「あ、はい。発展アビリティなんですけど、『耐異常』と別に『情報』って言うアビリティがあったんです」

 

「『情報』かー聞いたことないし希少(レア)だと思う。『耐異常』も重要だけどやっぱり希少(レア)な『情報』をとった方がいいと思うな」

 ミイシャさんはそう言ってくれた。

 私はその後、少し話してステイタスを更新するために 拠点(ホーム)に戻ることにした。

 

 そして拠点(ホーム)に戻りヘスティア様にステイタスを更新してもらった結果。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

リトルアリス

 

情報:I

 

Lv.2

 

力:I0

 

耐久:I0

 

器用:I0

 

敏捷:I0

 

魔力:I0

 

割愛

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ランクが上がって能力値がリセットされているが、Lv.1の時のステイタスは隠し数値となっているらしい。

 そして私の発展アビリティの情報の効果は私にしか今のところは機能していないが、私の残りHPとMP(魔力)を表示してくれている。まあ、HPはあって無いようなものだけど。だって私、紙装甲だし。

 とまあ新しくアビリティを手に入れたり新たな魔法が発現したと言うことでダンジョンに潜ろうかと思ったのだけど、よく見る白髪の少年を見つけた。

 私はその白髪の少年に声をかけようとしたが、近くにいた小人族(パゥルム)の少女がいた。

 ベルさんがついに新たなパーティーメンバーを!?

 私は声をかけるのを躊躇ってしまう。私はランクアップをした結果上層ではなく中層に行くことを推奨された。

 私としてはベルさんと一緒にいた場合ベルさんに経験値がいかないのではないかと言う思いが頭をよぎるが小人族(パゥルム)の少女のを見た瞬間に私の本能と(リトルアリス)が叫ぶ。

 

 あれとベルさんを二人っきりにしてはいけない!

 

 私は(リトルアリス)と本能にしたがいベルさんに声をかける。

 

「ベルさーん今から潜るんですかー!」

 

「あっ、アリスちゃん!?」

 

 私が走って近付くとベルさんは驚きつつも私に気付き返してくれた。

 

「ベル様、こちらの方は?」

 

 小人族(パゥルム)の少女がそう聞いている。そこに私は入り込み、

 

「私はリトルアリスだよっ!」

 

 (リトルアリス)での名乗りをする。もはや痛いどころではないが、見た目が可愛いため周りで見ている他の冒険者は優しい目で見ているが、かわいらしい少女-自分で言うのもあれだけど-二人に囲まれているベルさんを見て殺気をみなぎらせている冒険者もいた。

 

「リトルアリス様ですか? ......どこかで見たような?」

 

「ベルさん、こちらの小人族(パゥルム)の方は?」

 

 私はベルさんに問いかける。ベルさんはニコニコとして、

 

「この子はリリ、サポーターとして僕を助けてくれるんだって」

 

「へぇ、サポーターですか」

 

 嫌な感じはするがまあ、それは見てみればわかるか。

 

「よろしくお願いしますね? リリさん?」

 

「はいっ! よろしくお願いします!」

 

 リリさんは綺麗な笑みを浮かべて私に手を伸ばした、私はその手を握って握手をする。

 

 

 

 

 ダンジョンに入る前にリリさんと一悶着あったが特にそれからは問題なく進み、私たちがいるのは八層。

 ベルさんは今までの短刀だけでなく漆黒の刀身を持つナイフ、名前は『ヘスティア・ナイフ』と言うらしい。

 それをベルさんは駆使し、七層以降に出現する蟻を大きくして硬くしたような怪物(モンスター)、『キラーアント』の硬い殻まるごと切り裂いていた。

 私? 杖で撲殺してますが何か?

 ランクアップしたことによって上昇したステイタスは圧倒的で、思っている以上に高く、杖で硬そうな殻まるごと叩き潰せるのだ、比喩でも何でもなく、ね。

 そんな訳で私とベルさんが倒した怪物(モンスター)の魔石をリリさんが取り出して、回収しているのだ。

 そうしてうまくいっていた私達はどんどんと進み、九層まで進む。

 そこでも破竹の勢いで攻略していき、最終的にはリリさんのバックパックがいっぱいになったため戻ったのだが、換金をリリさんに任せたベルさん。ここで私のリトルアリスとしての部分-これからは本能と言おう-が警鐘を鳴らす。

 私自身、地味にまめなところがあり討伐した怪物(モンスター)の数を数えている。『キラーアント』が104体、『ウォーシャドウ』が19体、ゴブリンとコボルトがあわせて17体。

 そしてそれぞれの魔石の換金量もだいたいだが覚えている。上から300、140、30ぐらいだ。これにドロップアイテムを足したら五万ヴァリスに届くはずだ、しかしリリさんは、笑顔で帰ってきて、こう言った。

 

「やりましたベルさん! 三万六千ヴァリス(・・・・・・・・)でしたよ!」

 

 そんなわけがない、と私は顔をしかめる。ドロップアイテムは少なくとも一万ヴァリスはするはずだ。換金量もメモしている。

 私はメモを取り出し、換金量を確認する、そこに書いている誤差を鑑みても三万六千ヴァリスは少なすぎる。

少なくとも一万ヴァリスは取られた。

 

「すいませんベルさん。この方は嘘をついているようです」

 

 私は至って普通のように怒りをこらえながら、言う。

 ベルさんは何を言っているのか、という表情だが、リリさんの表情が目に見えて曇る。

 

「何を言っているのですか? リリは換金された金額をそのまま伝えていますよ?」

 

「嘘。その言葉は嘘。私は換金される魔石をメモしているから」

 

 私は淡々とリリさんを追い詰める。

 

「討伐した怪物(モンスター)の量とドロップアイテムを換金したら最低でも五万ヴァリスは乗るはず、それを貴女は嘘の報告をした」

 

 リリの顔にたらりと汗が垂れる。

 

「私はこれでもランクアップをしてLv.2。逃がさないから」

 

 実質的な死刑宣告、そして私は更なる追撃を入れる。

 

「それとベルさん、『ヘスティア・ナイフ』はどうしたんですか?」

 

 リリの顔が青ざめる、ベルさんはそれに気付かず腰にさしていたはず(・・)の『ヘスティア・ナイフ』に手を伸ばすがそこに『ヘスティア・ナイフ』はない、

 

「っ!」

 

 リリさんは素早く反転し逃げ出そうとするが、それを私は圧倒的に高かった敏捷で追い越し、

 

「逃げると言うこと死んでもいいということですよ?」

 

 杖を置く、そこに自分から激突したリリさんは、杖に弾き飛ばされ、コロコロと転がりその懐から『ヘスティア・ナイフ』が転がり落ちる。

 

「あら、リリさんが持っていたんですね。すぐに渡してもらえたらよかったんですけど」

 

 リリさんはケホッケホッと咳をしながら立ち上がる。

 私はそのリリさんに杖を向けて、

 

「さて、リリさん。どうしますか? 逃げて殺されるかこのまま出頭して事情を話すことにするのかさてどうしますか?」

 

 なぜだろう私の裏側(シャドウ)が出ている気がする。

 

「リリは生きたいので出頭します」

 

 私はその答えを聞くとベルさんとリリさんを連れてヘスティア様のいる拠点(ホーム)に戻る。




いかがでしたか?
原作ではまだ二巻のさわりですけどランクアップしてますね、HAHAHA!!
さて、そんなわけですが主人公の疾走は続きます!
感想、評価待っています。



それと、
「ワンダーランドウォーズを知らない人に向けての説明」です
 




「Wonderlandwars」
SEGAが運営しているアーケードゲーム。
画面を筆型のタッチペンで操作する特殊なタイプのゲーム。
登場人物は『キャスト』と呼ばれ禁書指定を受けた物語の悪役『ヴィラン』と戦ったり『キャスト』同士で戦ったりするMOBA型のゲーム。
チャット機能があり、スタンプ等で会話も可能なほどしっかりとしたチャット機能が備わっている。
この頃は自分好みのステイタスビルドをすることのできるキャラクターが現れたりした。





 
「リトル・アリス」
この作品の主人公が憑依している設定の『キャスト』
初期段階から実装されていた『キャスト』で、高い攻撃力と機動力の高さで遊撃手のような役割が多かった。
徐々に修正に引っ掛かり弱体化していった時期もあったがそれでも根強い人気と一発逆転の可能性を秘めた『WS(ワンダースキル)』が魅力でもあり、いまだに使用者は多い。

「ストレートショットとドローショット」

・ストレートショット、SS
 キャストが使える基本的な攻撃の一つ。MPを使わない。
 基本的には一直線だが一部キャストは一定距離で分裂して二つや三つに別れる。
 リトル・アリスの場合は根元の振り回し判定と呼ばれる部分と発射される球体に直撃したとき、そして終点で球体が爆発したときの三回hitが生じる。
 作中で撲殺したりしてるのは振り回し判定(原作では微々たるダメージしか与えられないが)
 直撃した際に一定時間動けなくなる〈ダウン状態〉になる種類もある(リトル・アリスはこれ)

・ドローショット、DS
 キャストが使える基本的な攻撃の二つ目(というかこれら二つしか基本的にはない)
 自由曲線(画面で描いた線に沿って玉が動く)型、突進(読んで字のごとく)型、投擲(指定したところに障害物を越えて当たり判定を発生させる)型の三種類がある。
 使用にはMPが必要で連打は一部状況を除きできない。
 リトル・アリスの場合はそこそこの大きさの玉が線を書き終えたすぐに発生する。これも相手を〈ダウン状態〉にすることができる。

それではこれぐらいで、また次回に。


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少女が増える御話

こんにちは(?)響野です。
うーん、タグって人個人の感性で大幅に変わりますからねー。難しいです。
そんなわけでタグは増えて行きます。先に言っておきますね

それでは本編をどうぞ!


 私はリリさんとベルさんを連れて拠点(ホーム)のある廃れた教会で、ベルさん、ヘスティア様、私、リリさんの四人で裁判が行われていた。

 容疑者はリリルカ・アーデ、ソーマ・ファミリアの団員だが、何かがあったらしくソーマ・ファミリアを嫌っている。容疑は魔石とドロップアイテムの換金をし、その中から被害者に話を通さずに抜き取った、というものだ。

 私はそれをヘスティア様に伝える役割。

 ヘスティア様は裁判官的な役割。

 ベルさんは役割なす。

 というわけで、私はヘスティア様にリリさんについてのことと、どういった背景があったのかを説明する。

 

「ふーん、まあ、嘘はついてないみたいだね。リリルカ君かな? 何か言い分はあるかい?」

 

 ヘスティア様は少し考えるようにしてリリさんに問いかける。

 リリさんは私を恨めしそうに見ながら、

 

「リリからは何もありません。神様の前では嘘はつけませんし」

 

 そう言うリリさんは諦めたようでため息をついている。

 

「うーん、じゃあベル君。リリルカ君に何かしらの罰を与えてくれ、僕は専門じゃないしね」

 

「ぼ、僕ですかっ!? ......うーん、僕は一緒にダンジョンに潜ってくれればいいかな」

 

「優しいですねベル様は」

 

 リリさんは嬉しそうな表情でベルさんを見ている、ヘスティア様もベルさんの判断に対して何かしらを言うつもりは無いのだろう。

 ここで私は口を開く。

 

「では私から、リリさんに」

 

「っ!?」

 

 突然な私の言葉にリリさんは息を呑む。

 

「今回の一万ヴァリスは持っていっていただいて結構です。ですがこれから私達がダンジョンに潜る時に私達のサポーターとして共に潜ってもらいます。報酬もまあ、三割でいいですよね」

 

「......え?」

 

 リリさんの口から間抜けな声がでる。

 そこまで鬼畜な要求をするとでも思っていたのだろうか? 侵害だなー。

 

「嫌ですか? 私としてはベルさんの警戒心を高めることにもなりますし、リリさんは、ソーマ・ファミリアの人と組まずにお金と経験値を稼げる。私としてはまあ、より効率的に魔石を集めれるからハッピー。いいことしかないじゃないですか」

 

「え、でもリリはアリス様達を......」

 

「うーん、だから三割ですし、私を騙せないことはわかってるでしょうからまた騙されることはない。まあ、私の知らないところで魔石を集めれたらかないませんが」

 

 私が言ったことを信じられないと言った様子で、いや、実際信じられないか。まあ、当たり前だけど。

 とまあ、そんな感じでリリさんは私の言ったことを信じられないらしい、でも、リリさん私達よりかダンジョンに潜っているだろうし怪物(モンスター)のあしらい方も慣れていて効率がいいし、そんなわけで仲間では無いにしろ、共にダンジョンに潜ってもらいたいのだ。

 

「私はリリさんと言うパーティーメンバーが加わってWin。リリさんはお金をもらえて経験値も稼げてWin。ほら、これってWinWinの関係じゃないですか」

 

「でも。リリなんかでいいんですか?」

 

「もちろん。リリさんがいいんですよ」

 

 リリさんは私の言葉に違和感を覚えたのか何かを考えていたが、

 

「わかりました、よろしくお願いしますベル様にアリス様」

 

「あ、私じゃなくてベルさんと主に潜ってほしいな」

 

「? わかりました」

 

 私の突然の要望に、小首をかしげながらも承諾してくれるリリさん優しい!

 

「えっと、それじゃあ私は行くところがあるので」

 

 私はそう言って拠点(ホーム)から出る。向かう場所はロキ・ファミリアがいるだろう『豊饒の女主人だ』。

 

 

 

 

「やあ、もう大丈夫なのかな? アリス君」

 

「はい、おかげさまで」

 

 私は『豊饒の女主人』にいる。そこには探索を終えて帰ってきたのだろうロキ・ファミリアの皆さんがいて。私はその輪に入っている。まあ、正しくはアイズさんに捕まっているだけなのだけど。

 

「あっ、このリボン」

 

「はい? これは怪物祭の時に手に入れたやつですよ」

 

「そう、なんだ。かわいい」

 

 ギュー。

 さらに強く抱き締められた私。もう抵抗することもだるい、と言うかしても意味がないので私はアイズさんの膝の上に座ってエールを飲んでいる。

 この世界に年齢制限なんてないからね。

 そんなわけでぐびぐびとエールを飲む私、まだ一杯目だが既にほろ酔い気分だ。酔うってこんな感じなのかー、と私の冷静な部分は思う。(リトルアリス)は一口目から酔い潰れている。

 

「もうランクが上がったのか」

 

 狼人(ウェアウルフ)のベートさんが酒を飲みながら私にそう聞いてくる。

 

「はい、私も驚きですけど」

 

「そうか」

 

 ベートさんはそう言うと酒を飲み始めた。なんだったんだろう。

 

 

 もう、りゃめぇ...

 

 お、おーい? あ、ダメだ完全にダウンした。

 

 

 (リトルアリス)が酔い潰れていたのでこれ以上は酷だろう。私はエールを飲みきると、酔いを冷ますために私は外にでる。

 外は既に暗くなっていて、風も冷たくなってきた。

 私は冷たい風に当たっていると、

 

「アリスたんやないか?」

 

「あ、ロキさん」

 

 ロキ・ファミリアの主神、ロキさんがいた。いつもと同じ笑みを浮かべ私の横にまできた。

 

「なあ、アリスたん。何か隠してることないか?」

 

「え?」

 

 不意に放たれた言葉、その意味は(プレイヤー)のことだろうか、私がリトルアリスに憑依していることに対してなのだろうか。

 

「いいや、なんかアリスたんが隠し事してる感じがしてな?」

 

「...ヘスティア様にも言っていませんし、この事は誰にも言えないんです。すいません」

 

 私はロキさんにそう答える。本当のことはまだ誰にも伝えてない。

 

「そうか、まあ、ええや。それなら仕方ないな」

 

「すいません」

 

「謝らんでええよ、誰でも言いたくないことはあるだろうしな」

 

 ロキさんは手をヒラヒラとさせながら『豊饒の女主人』に戻っていく。私はそれを追おうとしたとき、

 

 

 貴女がリトルアリスをいじめてるのかしら?

 

 この声は!? シャドウアリス!?

 

 

 私の脳内でリトルアリスが酔い潰れていたと思ったら新しいアリスがきた。

 

 

 そう、私はアリスの影。シャドウアリス、よろしくぅ~

 

 シャリスちゃんまで出てきたか。

 

 うん? あっ、シャリスちゃん!

 

 

 騒がしくなったなー。私の脳内で(リトルアリス)(シャドウアリス)(プレイヤー)の三人の声がする。

 

 

 酔いはもう大丈夫? アリスちゃん。

 

 うん! もう大丈夫だよっ!

 

 

 シャリスがいるからか、リトルアリスは元気に話している、それをシャリスはニコニコと笑いながら聞いている。

 端から見れば仲のいい姉妹なんだよねー。

 

 ヒュゥ!

 

 寒っ! 風が冷たくなってきたので私は『豊饒の女主人』に戻ることにした。

 

 そしてロキ・ファミリアの皆さんに失礼すると言って私は拠点(ホーム)のある崩れた教会に向かう。

 

 

 

 

「お帰り、アリス君」

 

「はい、ただいま戻りましたヘスティア様」

 

 私は拠点(ホーム)に帰ると、ヘスティア様に途中で買ってきた弁当を渡してソファーに座りこむ。

 

「ベル君はリリ君と一緒にダンジョンに潜りに行ったよ」

 

「そうなんですか。私はもう寝たいです」

 

「そうかい、ベル君はまだ帰って来ないだろうしベッドを使っていいよ」

 

 ヘスティア様の好意に甘えて私はベッドに飛び込む。

 柔らかいベッドに埋まる私の体。その幸せな感触に能は思考を止め体は脱力していく。

 私は明日こそアタックするぞ! と意気込みながら睡魔に飲み込まれた。

 

 

 

 

「はぁ、こういう姿は本当にあどけない少女なんだけどね」

 ヘスティアはベッドに埋まってすやすやと寝息を立てている少女を見てため息が出る。

 彼女はふらりと現れてボクのファミリアに入ってくれた二人目の家族。

 なんだけど誰よりも幼いはずなのに誰よりも大人びていて、誰よりも頑張っている。そんな彼女にボクは何かを出来ているのだろうか?

 助けられてばかりのボクは何が出来るのだろうか?

 わからない、彼女には武器もあるお金なんて彼女の方が稼げるだろう。

 何か贈り物をしようと思っても彼女の好みはわからない、それどころかボクの好きそうな白兎の置物をくれた。

 ああ、嫌になる。ボクは彼女には何も出来てない。ベル君のことばかり考えていて彼女、アリスちゃんのことは何も考えられていなかった。自己嫌悪になりそうだよ。でもそんなボクでも笑って養ってくれるベル君、アリスちゃん。ボクには良すぎる子供達だよ。

 頑張って何か出来ないかな? あはは、分かんないや。

 でもわからなくてもいいのかも知れないまだこれからボクは彼女達の経験を見て労うことが出来るのだから。

 




いかがでしたか?
新キャラ増えましたね、脳内でしか出ませんけど。シャリスが好きな人はすいません。
それではこれくらいでまた次の作品で


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ダンジョンにアタックする御話

どうも響野です。
1ヶ月近く更新に時間がかかってしまいすいませんでした。
原作は既に十四巻までは出ているにもかかわらずいまだに二巻分しかすすんでいないと考えると長いなーと遠い目をしています。
5000UAを突破いたしました。このような作品でもそれだけ読んでいただいていけて恐縮です。今後も頑張っていきますのでよろしくお願いいたします。

それでは本編の始まりです。



 数日間休むように言われた私はその間にロキ・ファミリアの拠点(ホーム)だったりに遊びに行ったり、孤児院に日曜教師として行ったりと満喫した私。

 そして私はようやく中層に探索(アタック)をしに行けると言うことでポーションを買いにミアハ・ファミリアの拠点(ホーム)『青の薬舖』にいた。

 

「じゃあ、このポーションを五個もらっていいですか?」

 

「ん、五個なら二千ヴァリスね」

 

 ミアハ・ファミリアの団長にして店番のナァーザさんが私に値段を伝える。私はその額をポーチから取り出し渡す。

 

「ん、まいどあり」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

 少しずつ(リトルアリス)(シャドウアリス)との共存が上手くできるようになってきたのだが、その結果思考(プレイヤー)の素が出てくるようになって来た。

 

「ああ、そうだ。ナァーザさん。ベルさんにはこんな風に売らないでくださいね?」

 

 ナァーザさんがぶるりと震える。

 

「なにを言っているの? こんな風って......」

 

「ああ、ちゃんとした値段ではない値段で売ることですよ」

 

 ナァーザさんが顔を反らし店の奥に行こうとする。私はその背中に向かって、

 

「一応私もLv2なのでナァーザさんぐらいでしたら殺せますよ?」

 

 びくりとナァーザさんが震え、こちらをゆっくりと向く。私はにっこりと(リトルアリス)としての笑みではなく、意識()として笑みを浮かべる。

 そしてその笑みを見たナァーザさんは顔に怖いと浮かぶ。

 

「私にこういう商売をするのは見逃してもいいですけど、ベルさんにこういう商売をするのでしたら遠慮はしませんよ?」

 

 ふふふ、と笑い『青の薬簿』の扉に手をかける。

 

「ポーションありがとうございました。それでは」

 

 ギィ、と音を立てて扉は開き、私は『青の薬舖』を出る。背後の恐ろしいものを見るようなナァーザさんに(リトルアリス)での笑みを向けて。

 

 

 

 

 次に私が行ったのは摩天楼施設(バベル)の7階。

 ヘファイトス・ファミリアが作った武具の販売店がある四階から七階で下の階は今のままでは手が届かない値段だったりが多いが上の階は下位構成員の作った武具が販売されている。とミイシャさんに教えてもらったので新しい武装を探しに来たのだ。

 

 

 へぇ、でも魔法もスキルもあるんだし、もう要らないんじゃない?

 

 あ、シャリスちゃん。

 

 うん、そうだよー。

 

 あ、アリスちゃんまで。えっとね、魔法が効きにくい怪物(モンスター)がいるらしくて。それ対策に新しい武器を探そうかなーって。

 

 ふーん、意味があったのね。

 

 意味があるならいいやー。

 

 あれ? そういや君たちそんなこと考えるタイプだったっけ? ......まあ、いいや。

 

 

 そういった脳内で会話をしていると目的地、摩天楼施設(バベル)の七階についた。

 私はヘファイトス・ファミリアがまとめている店に入り、武具を見る。

 大剣や短剣。槍に鎚等、さまざまな武具がある中、私の目に止まったのはWLW(ワンダーランドウォーズ)で見たことのある。とある武装を見つけた。

 それは雑に置かれており、手入れはされているようだが薄汚れていて、あまりいい扱いはされてないらしい。

 

 

 これってジグルドさんの槍に似てるね。

 

 そうね、でもなんだか小さいような。

 

 うーん、でも、もの凄く引かれるものがある。

 

 私もー!

 

 私も同じ意見ね。

 

 

 脳内での意見はほぼ同じ、この槍、騎槍を買う。

 値段は九千ヴァリス、武器名は〈乙女槍(ヴぁるさー)〉うむ、何となくしっくり来る名前だ。

 私はその槍を持つとカウンターに向かう。

 

「あのー、すいませーん」

 

「はい、なんですか?」

 

「えっと、この槍を買いたいんですけど」

 

「はい、この槍ですね」

 

 私は店員に槍を渡すと、店員は少し顔をしかめ、私の方を向く。

 

「えっと、この武器は〈乙女槍(ヴぁるさー)〉って言うんだけど、いいのかい?」

 

「はい? 特に困ることはないですけど?」

 

「わ、わかりました、値段は九千ヴァリスになります」

 

「わかりました、九千ヴァリスですね」

 

 私は財布を取り出して中から九千ヴァリスを取り出し、店員に渡す。それを受け取った定員は槍を少し磨くと、私に手渡してくれた。

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ、お買い上げありがとうございました」

 

 にこりと笑い、手を振る定員に見送られ私は店を出る。

 

 これでようやくダンジョンに潜れる。そう浮かれながら私は足早に摩天楼施設(バベル)を降りて行った。

 

 

 

 

「ふう、やっぱり杖とは違うな。まあ、重心の位置が違うし当たり前か」

 

 私はダンジョンの九層に来ていた。ここは硬い-かったと言った表現が今の私には適切なのだが-(キラーアント)だったり、速い-勿論これも過去形だ-(ウォーシャドウ)がなかなかのテンポで発生するため、新しい武器、〈乙女槍(ヴぁるさー)〉の試運転にはもってこいな階層だ。

 なんていいながらうまく扱いきれずにピンチに二回ほど陥ったのはいい経験だ。うん、ポジティブに行こう。

 

「まあ、結果的には下の階層に進むことになるよねー」

 

 そうして現れる怪物(モンスター)を討伐していくと十層に降りるところまで来てしまった。

 十層からは霧が発生したりするぶん危険なのだ、まあ、その分経験もつめるしいいけど。

 そんな考えで十層に降りた私は予想以上に苦戦し、もう甘い考えで動くのはやめようと心に誓った。

 そうして数時間をかけて十層から十一層に降り、また数時間かけて十二層に降りた。このまま中層、十三層に降りるつもりだったため下に続く部屋(ルーム)を探していると、十数メートル前の通路横から火球(・・)が飛び出して壁に着弾し軽い爆発を起こした。そしてそれと同時に戦闘音が激しく起きる。

 私は嫌な予感を覚えながらも火球が飛んで来た通路に入り、奥の部屋(ルーム)に入ると、そこには複数の倒れ伏した他のファミリアの冒険者と武器を持ち中央に陣取る怪物と戦う冒険者達、そして中央に陣取る怪物は赤い鱗を身に持ち、鋭い牙と爪、そして巨大な体躯を持つ小さくとも、強大な力を持つ〈小竜(インファント・ドラゴン)〉だった。

 私が部屋(ルーム)に入ると入って来た入り口が唐突に崩壊し、私と他のファミリアの冒険者達が閉じ込められる。

 

「貴方っ!? 速く逃げてっ!」

 

「もう逃げられませんよっ!」

 

 黒髪の刀を携えた少女が私に叫ぶが素早く返す。私は〈乙女槍(ヴぁるさー)〉を構えて小竜を見据える。

 小竜は威嚇するように小さく唸り声を立て、牙の間から火の粉を枚散らせながら鎌首をもたげ、何かを吐き出す前のような動きを見せる、その事前行動(モーション)から少し前に壁を破壊する程の破壊力を私にまざまざと見せ付けた火球を放つのだとわかった。 

 素早く横に跳び跳ねるようにして火球の通るであろう小竜の前から離脱しつつ槍を振り、〈SS(ストレートショット)〉を射つ、これは着地したときに大きく隙を見せることになるのだが仕方ない。何故って?黒髪の少女の反応が恐ろしく遅かったからだ。仕方ない、見捨てるのはなんだか嫌だしね。

 〈SS〉は火球とぶつかり爆発、火球も同じく爆散し辺りに炎を撒き散らす。

 

「私が前に出ます! 貴女は倒れてる人達を助けてください!」

 

 そう言うだけ言って走り出す。槍買っといてよかった。近接戦闘が杖よりかはしやすいはず。

 小竜は爪を振るって接近を許さないが、強引に槍を盾にして接近し槍を突きだす。鋭く尖った穂先はなかなかの速度で繰り出され、容易く赤い鱗を貫きながら肉をえぐり鮮血を撒き散らさせる。

 苦悶のうめき声を漏らしながらも牙で噛み殺さんと迫る小竜の口に焦ることなく後ろに飛び退き〈SS〉を射つ。

 しかし素早く避けながら距離を詰めて来る。着地し、槍を構えるが上から振り下ろすように追撃を繰り出してきた小竜の爪が私の体を掠り、血と肉が飛ぶ。

 全身を激痛が走り抜け動きが止まりそうになるが尻尾を振り始めているのが視界に入っていたためすぐに飛び退きつつ牽制の為〈DS(ドローショット)〉を射って置く。

 

「うおぉぉおおぉぉぉ!!」

 

 私にしつこく追撃を決めようとする小竜との間に一人の黒髪の巨漢が盾を持って入り込む。

 

「っ、すいませんっ!」

 

 黒髪の巨漢に謝り、素早く後ろに下がり朝買ったポーションを素早く腕に振りかけ追加で飲む。

 

「大丈夫ですかっ!?」

 

「大丈夫ですっ!」

 

 ポーションを再度腕に振りかけ、立ち上がる。

 

「あの人の名前はっ!?」

 

「えっ?」

 

「速くっ!」

 

「え、えっと、桜花です」

 

 桜花、桜花、何度か心の中で復唱し、彼を仲間だと認識(・・)する。

 

「ありがとうございます! 貴女は?」

 

「えっ? 私は命ですけど......」

 

「わかりました、引き続き負傷者を助けてください」

 

 そう伝えると傷から血が溢れだし、燃えているかのような痛みと熱が全身を駆け巡っているなか、槍を抱えて走り出す。

 一人で戦っている桜花さんの負担を減らすため、私は魔法を放つ。

 

「!? 貴女! 桜花を殺す気っ!?」

 

「そんなつもりは有りませんっ!」

 

 大きな声で命さんに反論し、槍を突きだした状態で小竜に向けて走り出す。

 桜花さんが小竜を惹き付けている間にポーションを使って少しだが回復を計り、少し傷が塞がったのを確認した上での突進だったのだが、肩口の傷が開き血が溢れる。

 激痛が肩から走るがそれを根性で耐え、槍が接触できる距離まで接近し、走ったままの勢いで小竜の脚を狙って槍を突き出す。勢いの乗った槍は小竜の脚を覆う鱗を易々と貫き大きく体勢を崩させる。

 桜花さんが体勢の崩れた小竜の頭部に片手で持っていた斧を振り下ろす。それは鱗を軽々とは行かないものの片眼を完全に潰し、鱗を撒き散らしながら斜めに振り抜かれる。

 

アァァァアアァァァァ!!!

 

 大きな叫び声を上げ体を激しく動かし、尻尾や爪を振り回しそれが私達に迫る。接近しようとしていた私と追撃を決めようとした桜花さんは武装をあえなく盾にして攻撃を防ぐが大きく弾き飛ばされる。特に私は体が軽いから桜花さんよりもより遠くへと飛ばされる。

 空中で体勢を立て直し着地と同時に走り出すが私の目に飛び込んで来たのは無策にも突撃を行う命さんの姿と、命さんに対して前脚を振り上げ爪で切り裂こうとする。

 

 私はあって間もない人の死する未来が見えた気がした。

 素早く顔を上げると走り出している命さん。そしてそれに気付いて前脚を振り上げる小竜。

 決して死なせない! (リトルアリス)(シャドウアリス)が声を揃えて叫ぶ。それに対して思考()は危険だ、ダメだ、見捨てようと冷酷に言うが。心が()が誰よりも大きく叫ぶ。

 

 助けなきゃ! 助けられるかもしれないのだから!

 

 私の本当の意志はわからない。でも、助けなくちゃ、って思いが私を体を動かさせる。

 

「命さぁぁぁん!!!」

 

 今まで上げたことの無いような声を上げながら走り出す。

 背中の神聖文字が燃え盛っているかのように白熱し熱を感じる。しかし、その熱が高くなって行くほどに意識は鮮明に体は軽く、より力強くなって行く。

 命さんが繰り出した太刀が小竜の鱗に阻まれ大きな隙を晒した体、そこに小竜の振り下ろす、軽々と命さんの命を奪い取れる爪が命さんに迫るが、そこに私は飛び込み命さんを突き飛ばす。

 迫ってくる爪を見ながら槍を間に挟み込むも、大きく弾かれて体勢を崩す。小竜が繰り出す追撃の爪を回避しようとした私だったが、体勢が崩れている上に小竜の攻撃を防いだときに足首をひねり、それが大きく動きを鈍らせる。

その結果、小竜の爪が私の、(リトルアリス)を左目を掠めていく。

 しかし掠めると言っても水晶体を貫き、虹彩を引き裂いて行く。私は激痛が来る前に体の感覚をすべて(リトルアリス)から思考()に切り替える。そして爪が振り抜かれた。

 左目の視力が失われ、それと同時に今まで味わったことのない、激痛が左目を中心に全身を駆け巡る。

 

「アァアアァァァァッ!?」

 

 爪との間に槍を挟み込んだことで弾き飛ばされた私はボールのように跳ね飛ばされ、ゴロゴロと転がって行く。

 体の各所をぶつけ痛みが走るが左目から発信される圧倒的な痛みが私の口から絶叫を上げさせる。

 立ち上がる事が出来ずに転がったまま動けない。小竜は桜花さんが押さえてくれているようだが止めどなく溢れてくる血液が薄い碧色の髪を真っ赤に染め、服や顔までも血で染め上げていく。

 激痛と出血によって意識が朦朧としはじめて来たが、誰かが近付いて来るのが何となくわかった。

 

「しっかりするんだっ! ここで倒れたら行けない!」

 

 そう中性的な声が耳に入る声のする右に顔を向けると中性的な顔立ちで、茶色のミディアムにしてある髪の少年が居た。

 その少年は腰から私の使っているポーションよりも濃い色のポーションを二つ取り出し、私の左目に振り掛ける。

 少しだが痛みが和らぎ出血もある程度治まった。只のポーションではないだろう、ハイポーションかそれらに近い物。そう思考しながらゆっくりと立ち上がる。

 

「なっ!? まだ動いてはだめだっ! 傷が開くぞっ!?」

 

 茶髪の少年? そう焦ったようにして私を止めようとするが私は小竜に向かって歩き出す。

 

「桜花さん一人だけにまかせられません、速く私が行かないと」

 

 それだけをうわ言のように呟いた私は思った以上に思考ができていないらしい。でももういい、私がするべき事はただひとつ、ここで小竜を殺して生きて帰るだけ。

いまだに背中の神聖文字は白熱したままで体は命さんを助けた時よりも軽く力はあふれでてくる。

 槍を手に持つと全力で駆ける。

 さっきよりも速く、力強く踏み込んだ私は小竜が反応するよりも速く接近し、槍を少し引き、突き出す。

 繰り出された槍は鱗なんて無いかのように抵抗なく肉まで到達しえぐるようにして深くまで傷を広げる。

 血とうめき声を撒き散らしながら小竜は暴れるが、素早く退避しつつ〈SS(ストレートショット)〉を射ち、爆発によって鱗を剥がしながら動きを止めさせる。

 そこに桜花さんが飛び込み、斧でさらに傷を広げさせる。

 私は槍で心臓のある部位。魔石を狙って槍を突き出すが肉が厚く魔石まで届かない。ならばと素早く思考を回し、脳を破壊して殺すことに意識を切り替える。

 槍を細かく振るって牽制しつつ〈SS(ストレートショット)〉を射ってダメージを蓄積させ鱗を剥がしていく。そして数分もかからず頭部を守る鱗はほぼなくなる。

 桜花さんがヘイトを集めようとするが私を危険と判断したのだろう。近付こうとするたびに桜花さんではなく私に向かって爪や尻尾を繰り出して来るため接近出来ない。

 ゆっくりと左目からは血が流れ、体はすでに悲鳴をあげているがそれらを意志と根性で耐え抜きまた走り出す。

 小竜は私を捕捉するとうなり声を上げ、爪を振るって近付けまいとするが爪を槍で反らし槍が当たる距離に入りこむ。私は槍を引いて溜めを作り、脳を一撃で破壊するために極限まで集中する。

 小竜は牙を使い私を先に殺そうとするがそれよりも先に槍の穂先が脳まで届く。しかし壊すまでには行かない。

 小竜の牙が私の体に届く寸前、

 

「〈DS(ドローショット)〉」

 

 短く呟き、脳の中に星形の光弾が発生する。

 内部に発生した星形の光弾は脳を蹂躙し、頭部が中から破裂し、生命活動を強引に停止させる。

 小竜のいた部屋(ルーム)の生存者達の歓声が上がる。私は槍を突き立てて立っておこうとするが意識が混濁し思考が上手く出来なくなる。

 ゆっくりと槍にすがるようにして座り込み、そのまま意識は暗黒に落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

「うぅ? ここは?」

 

 ゆっくりと瞼を上げると眩い、ダンジョンでは決して見れないような眩しい光が右目に入り込んで来た。

 体を起こそうとして全身に痛みが走る。思わずうっ、と声が漏れ、また倒れこむ。柔らかいベッドに寝かされているようで私が首を曲げて辺りを見ると白い壁に白い天井、点滴があることから病院だと判断する。

 なぜ病院に居るのかは大体想像がつくがどうすべきかと考えているとガラガラガラッ! と病室の扉が開き艶のある黒い髪のツインテールの少女と白髪で深紅の瞳を持つ少年。茶髪で小さな少女、そして見たことのない黒に薄く紫がかった髪の白衣を来た女性。四人が病室に入って来た。

 

「あ、ヘスティアさ「何をしてるんだいっ!?」っ......」

 

 ヘスティア様に私は怒鳴られた、私は思わず押し黙るとそのままヘスティア様は私に抱きついた。

 

「本当に心配したんだよ? 帰って来ないんじゃないかって」

 

「......すいません」

 

 私はどう答えるべきかわからず謝るしかできなかった。

 

「もう心配させないでくれよ?」

 

「......はい、すいません」

 

 謝るだけの私に笑いかけながらゆっくりと離れて行くヘスティア様、そして次に口を開いたのは白衣の女性だった。

 

「始めましてアリスちゃん、私はエイル。ヘスティア達と同じ神だよ、よろしくね」

 

 手を差し出して来るエイル様の手を私は握り、

 

「エイル様ですか......よろしくお願いします」

 

 にっこりと笑みを浮かべて返す。

 エイル様はその私を見て少し驚いたような表情を見せるが、すぐにその表情は引っ込む。

 

「えっとだね、それで君に言いたいことがあって来たんだが、いいかい?」

 

 先ほどとはうってかわって緊張感の増す病室、その中で私は迷わず頷く、エイル様が言うであろう事は既に予想はしている。

 

「それじゃあ、アリスちゃん。君は冒険者としてもうダンジョンに潜れないだろう」

 

「そう、ですか」

 

 予想していただけに直接そう言われるとやはり心に来る何かはある。しかし私は諦められない。まだまだベルさんやヘスティア様に恩を返しきれていないのだ、まだ引退は速い。

 

「うん、まだ傷も残っているから少しの間は通院してもらうけど......」

 

「すいません。それは出来ないです」

 

 私の放った言葉に病室がシンと静まる。

 

「何故か聞こうか?」

 

 私の言葉の真意を探ろうとか、エイル様が私に聞いてくる。

 

「私はヘスティア様に拾ってもらった恩が有ります、ベルさんには最初の頃に養ってもらった恩が、まだまだ私はそれらの恩を返しきれていません。私は助けられてばかりです、少しでも私はヘスティア様達に恩を返さなければ行けない、こんなところで私は止まっていられないんです」

 

 淀みなく私の口から出される言葉を聞いていたエイル様は思わずと言った様子で笑みをこぼす。

 

「ああ、ごめん。いや、とてもヘスティアはいい眷属(子供)達に恵まれていると思うとね」

 

 そう言ったエイル様は私の手を握ると、

 

「ごめん、さっきは嘘を言ったよ。君の左目は治せる宛がある、まあ、通院は結局してもらうけども。それでも君は冒険者に戻れるよ」

 

 エイル様はさっきの言葉を取り消した、その表情は悪戯の成功した子供と同じそれで私は思わずため息を吐く。

 

「ごめんごめんアリスちゃん、気を悪くしないでね?さてそれでなんだけど、私のファミリアの団長が特殊な魔法の使い手でね、その魔法で君の左目が治る可能性があるんだ。お金はもらうけどね?」

 

 ウィンクをしたエイル様の話を詳しく聞き、ヘスティア様達の了解を得てその治療を受けることが決まったわけだが、治るまで着けておく眼帯をもらった。

 その眼帯は黒を貴重としつつも目に当てる部分は碧色の装飾をしてあり、私の髪にあわせて作られているらしく特注品だといっていた。

 私は一日病室に泊まることになり、その日はヘスティア様達は帰って行ったがその後に入れ替わるようにして黒髪の男性が入ってきた。その後ろには小竜を倒すために共に戦った桜花さんと命さん、そして気弱そうな少女が続く。

 黒髪の男性はゆっくりと膝を着くと手を床に叩きつけ頭を大きく下げる。

 

「今回はうちの命のせいで、すまなかった!」

 

 それは前世のテレビドラマだったりで見たことのある謝罪の仕方『土下座』だった。

 

「あ、い、いえ。気にしなくても大丈夫です。私が自分の意志で命さんを助けました。ならば感謝されど謝罪されるようなことではありません、なので頭を上げてください」

 

 頭を下げていた、恐らく神であろう男性に頭を上げてもらう。

 

「し、しかし......」

 

「それ以上謝るのは私の判断には対する侮辱と同じですよ?」

 

「む、すまない」

 

 男性は再度頭を下げながらも、命さん達を自分の左右に立たせると、

 

「俺は命達の主神、タケミカヅチだ。今回は謝りと戦利品のことだが命」

 

 タケミカヅチ様は命さんに声をかけると、袋を持って私の前に来て中身を見せる。

 そこには子供の頭と同じぐらいの大きさの魔石と大きな牙が一つづつ、そして複数の鱗が入っていた。

 

「私達にこれを受けとる資格はないと思っています」

 

 命さんがそれだけ言うと出ていく、それを気弱そうな少女がそれを追って出ていく。

 

「すまない、命は責任を感じていてな。それは小竜のドロップアイテムだ受け取ってくれ」

 

 タケミカヅチ様はそう言って再度頭を下げると病室を出ていく、桜花さんがタケミカヅチ様を追って出ていこうとしたのを呼び止め、私は小竜の鱗を渡す。

 

「桜花さんがいなければ私は死んでいたかもしれません。これはその感謝の印です。受け取っていただけますか?」

 

 桜花さんは小竜の鱗を受け取り、少し困惑しながらも私の意思を受け取ったのか、ありがとうとだけ言い病室を出ていく。

 私はその後ろ姿を見送りながら私は左目を覆う眼帯に触れる。この感触に思わず心が揺れる。

 ふぅ、と息を吐き出し、私はゆっくりと瞳を閉じる。そのまま意識は暗闇に落ちていった。

 

 

 

 

 翌日退院した私は拠点(ホーム)となっている廃教会に戻り、ヘスティア様にステイタスの更新を行ってもらっている。

 背中にゆっくりと柔らかい指で神聖文字が刻まれて行く感覚を目を閉じて味わっていく。

 

「終わったよアリスちゃん」

 

 そう言って渡された共通語に書き直されたステイタスを確認する。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

Lv.2

 

《発展》

 

情報:I→G

 

 

《基本》

 

力:H147→G264

 

耐久:H121→E472

 

器用:H102→G203

 

敏捷:G241→D578

 

魔力:G217→D549

 

 

《魔法》

 

変化無し

 

 

《スキル》

 

冒険目録(ヒエログリフ・ページズ)

・任意でステイタスに補正

・任意でステイタスの上限を解放

・一定時間で効果が消失、消失後にステイタスに下方補正

・冒険を繰り返す度に効果上昇

 

他、変化無し

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 手渡された紙には新たにスキルが増えていた。

 効果はそこまででは無さそうで恐ろしく凄まじい。勿論デメリットもだが。

 

「いまだにステイタスの上昇量は衰えて無いね」

 

「そうですね、耐久の上がりようには見たときに思わず吹き掛けました」

 

 今まで多く上がっても耐久は二百も上がらなかったことを考えると小竜から受けた攻撃がそれだけ危険だったと言うことになるだろう。

 

「あ、そうだアリスちゃん! 僕もついに魔法が発現したんだよ!」

 

 唐突にベルさんが言った事は本当に脈絡の無かったことで思わずフリーズしてしまったがすぐに言葉の意味を理解した私はベルさんに、おめでとうと言ったのだが、その後に続いた言葉の意味を理解した時卒倒しそうになってしまった。何故って? ベルさんが一人で(キラーアント)を百体以上相手にしたって聞いたからですが?

 

「ボクもその話を聞いたときは呆れたけどね」

 

 まあ、私はベルさんがリリルカさんを助けるために無茶をしたとわかったからそこまでの衝撃は無かったものの、ねぇ、まあ、ベルさんらしいと言えばそうなのだけども。

 

「これからもダンジョンには潜るのかい?」

 

 ヘスティア様が不意に放った言葉は地下室の空気に一気に緊張感を増させるもので、

 

「はい、そのつもりです。でもヘスティア様達に心配をかけるような事はしないつもりです」

 

 しっかりと答えた私を見て苦笑しながらも、わかったと言ってくれるヘスティア様は優しいのだろう。私はその笑みを無くさせないように頑張る必要があるだろう。

 私は時折感じる視線を意識しながらゆっくりと体を伸ばす。

 地下室には私の買った槍がおいてあるが、激しく扱われたせいで少し薄汚れ、欠けているようにも見えはするが強度はほとんど変化していない、何故わかるのかは《発展アビリティ》の情報を使ったからで、大体の情報がわかる為、それで確認したからだ。

 

「それでも無理は出来るだけ避けてね?」

 

「はい、これからは出来るだけベルさんらと共に潜ろうと思っています」

 

「そうかい、なら気を付けてくれよ? 後、泥棒猫からベルくんを守ってくれよ?」

 

 ヘスティア様の浮かべる笑みに思わず引きそうになるも私はこらえてベルさんを見る。ベルさんはよく意味を理解できていないらしく首をかしげている。

 私はそのいつも通りとも言えるようなヘスティア様達を見て笑う。その笑みは(リトルアリス)が浮かべるものでも()が浮かべるものでもなく、年相応の優しいものだった。

 

 

 




いかがでしたか?
一万字近く行ってしまいましたすいません。
新たに追加されて行く要素もこれからあるので、今後投稿させていただこうと思っている主人公の設定で詳しく書きますが、後書きでも少し書きたいと思います。



《発展》〈情報〉

勿論のこと希少(レア)で熟練度が高まっていくたびに一度に見れる人数や数が増える。怪物(モンスター)の体力だったりは見えないが、人の魔力だったりはWLW(ワンダーランドウォーズ)仕様で見れる。
現状では三人まで同時に見れる。

WLW仕様についてはWLWの動画などを参考にしていただけるとありがたいです。



このような仕様となっています。
それではこれぐらいで、また次の御話で会いましょう。


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成長の三頁目
ベルさんとは別に特訓をする御話


どうも、ニャラルトです。

字数がゆっくりと多くなっていくことに違和感を覚える事なく書いていくといつの間にか七千字。何故だ。

そんなわけで今回多めです字数。比較的ほんわかで行きます。そしてついにアリスちゃんに春が来る! 需要あるかは知らないが。HAHAHA!!

と言うわけで、本編をどうぞ。



 

 左目を負傷して二週間ほどがたち、ナーザァさん達ミアハ・ファミリアからの依頼(クエスト)を受けたり、ベルさんとアイズさんの特訓を見たり、リリルカさんを加えた三人でダンジョンに潜ったり、としてすぐに時間は過ぎていき、私も槍の使い方に慣れてきたりした。

 左目を負傷したのも槍を使いこなせないのに調子に乗ってどんどんと下の階層に降りて行ったせいだ。(リトル・アリス)は防御力が低いということをよくわかっていたのに、だ。

 ランクが上がった直後だったし、慢心していたんだろうなー。そう感じたので特訓することにしました。

 え? 唐突過ぎ? だって言うじゃん? 思い立ったが吉日って。そんなわけで今私はロキ・ファミリアの拠点(ホーム)の訓練場にいる。

 

「そんなわけで、ってことで僕を呼び出したのかい?」

 

「そうですね、他に槍使いの人は知りませんし」

 

 私の正面にはロキ・ファミリアの団長でLv.6の勇者(ブレイバー)の二つ名を持つ小人族(パゥルム)のフィン・ディムナさんだ。相当忙しいはずだけど無理言って稽古をつけてもらうことにした。

 

「それじゃあ始めるけど、まずは君の力を見せてもらうよ」

 

 予想通りが言葉に即座にうなずき槍を構える。

 

「じゃあ君からどうぞ」

 

 フィンさんの言葉に甘える形で私は〈スキル〉[神話の一頁(ヒエログリフ・ページズ)]を発動させる。

 背中の神聖文字が燃えているかのように熱くなり、体の奥底から力が溢れてくるような感覚が全身を包み込む。

 

「不思議な世界のおもちゃ箱、全部ひっくり返しちゃう!」

 

 さらに〈スキル〉の[盤面破壊(ワンダースキル)]を発動させ、フィンさんにステイタスだけでも近付く。

 

「行きます」

 

 フィンさんが聞き取れるかどうかは気にしていなかった。

 私は強化されたステイタスによって今までとは比にならない速度でフィンさんに接近し、手に持った騎槍を突き出す。しかしフィンさんは槍を器用に使い騎槍を弾き、そのまま私の腕を狙って突きを連続で繰り出す。

 少し無理な体勢ながらも強引に回避し、〈SS(ストレートショット)〉を三発分出現させ、一発をフィンさんに向かって放つ。〈スキル〉の重ね掛けによる相乗効果によってステイタスだけで見るのであれば、Lv.5のアビリティD~Bぐらいまで強化されている今のアリスの放つ〈SS(ストレートショット)〉は恐ろしい速度と威力を誇るが、それを軽々と避けるフィンさんはやはりLv.6なのだと再認識する。

 残り二つの光弾も発射し、それにあわせてフィンさんに接近する。

 回避するか〈スキル〉か〈魔法〉を使ってどうにかするだろうと考えていた。のだが、

 

「僕もやられっぱなしじゃ箔が付かないからね」

 

 魔法が斬られた。

 

 いや、おかしいでしょ!? 何であの速度で飛んで行った魔法を斬れるの!? どっかのブラッ○ー先生しかしてるところ見たことないよ!?

 私が内心でツッコミまくるもフィンさんはさらに接近してくる。素早く〈DS(ドローショット)〉をうって牽制しつつ距離を取ろうと思ったのだが、

 

 またもや魔法を斬られた。

 

 だからワケわかんないって! 〈DS(ドローショット)〉は〈SS(ストレートショット)〉よりも避けにくいんだよ!? 軌道は私が思うように動くんだから! 避けるんじゃなくて斬るのは予想外過ぎるよ!

 またもや私はフィンさんにツッコミを入れながらも突き出される槍を避け、カウンターを叩き込もうとするが、素早く後ろに下がる。なんだか背筋がぞっとしたのだ。

 

「直感は僕と同じぐらいかな?」

 

 フィンさんはそう呟きながらさっきよりも速く踏み込んで来る。高速で繰り出される槍を反らし、弾き、横から叩くことで事なきを得るがフィンさんは一旦引くとすぐに接近し、槍を突き出してくる。速い上に重いのだからやりにくい。

 魔法は斬られる、どうにかして当てたい......あ、ボムバル......忘れてた。ミニオンに対しての削りとhit稼ぎにしか使って無かったからなー。

 なんて思考をしているが、フィンさんの繰り出す槍の連擊を受け流しながらだ。

 甘く繰り出された槍の一撃を大きく弾くとフィンさんは後ろに下がる。そのタイミングで私は空いた右手を突きだし、

 

『ボムバルーン!』

 

 紡ぐ言葉は短く、Lv.6でオラリオの二大ファミリアの一つロキ・ファミリアの団長であるフィンさんですら反応に遅れる発生の速さ。そして〈SS(ストレートショット)〉と同等の弾速を誇るリトルアリスがLv.2から使える魔法。

 そして高い性能に加えて広範囲に広がる爆風と、それに付与された体力を削り取っていく毒。凶悪な性能を持つ〈ボムバルーン〉はフィンさんの少し手前で着弾し、爆発する。

 

「うぐっ!?」

 

 フィンさんの呻く声が青紫色の爆風の中から聞こえる。

 私はその時既に走り出していた。毒は[盤面破壊(ワンダースキル)]の効果で無効化することでフィンさんから一本を取るチャンスを手にした私は渾身の突きを繰り出す。

 それは気付かれてしまったため二の腕を掠めるだけだったが毒の中で無理に動いたせいで動きのキレはなく、隙を晒したままだ。毒の爆風がなくなりフィンさんの姿がはっきり見えるようになったタイミングで近付こうと踏み込んだその時、

 

 ガクンッ!

 

 今まで身体中からあふれでていた力が一瞬にして消え去った。

 〈スキル〉の効果時間がきれてステイタスが下がっているんだろうけど、いきなり効果がきれるのは予想外だった。

 私は膝をついてへなへなと座りこむ。

 

「ううぅ、すいません」

 

 私は中途半端に終わってしまったことに謝るが、

 

「大丈夫だよ、しかし、毒まで使って来るとは思わなかったな」

 

フィンさんに苦笑され、羞恥心を感じていると、

 

「大丈夫ですかー! 団長ー!」

 

 少し若い声が聞こえて来た。

 私は首だけを動かして声のした方を見ると山吹色の髪を伸ばしたエルフの少女が走って来ていた。

 彼女は確かレフィーヤさん、ランクは3か4だったはずよく覚えて無いのが悔やまれる。

 

「とりあえず解毒薬ってある? 毒をもらったみたいでさ」

 

 なんだか居たたまれなくなってきたのだが、上手く体に力が入らず座り込んだままでいると。

 

「おいてめぇ、いつまで座り込んでるつもりだ?」

 

「あ、ベートさん......すいません」

 

 狼人(ウェアウルフ)のLv.5冒険者、ベートさんが私の後ろに立っていた。あわてて私は立ち上がろうとするが上手く力が入らずに立ち上がれずこけそうになったところをベートさんが支えてくれた。

 

「あ......ありがとうございます」

 

「礼を言われる筋合いはねぇよ......さっきの戦い見てた、強く、なったんだな」

 

 唐突にかけられた言葉に私は思考が一旦停止する。

 

「え? ......あ、はい。ありがとうございます」

 

 言葉の意味を理解しとりあえずそう言うがそれを聞いたベートさんは少し頭を掻きながらも私をお姫様だっこの形で抱き上げると、

 

「おいレフィーヤ! リヴェリアを医務室に連れてこい!」

 

 レフィーヤさんにそう大声で言い何処かへ、おそらく医務室に私をお姫様だっこをしたまま歩き出す。羞恥で顔を真っ赤に染め上げ心臓がバクバクと音を立てているのがわかるほど激しく動く。

 恥ずかしいのもあるが、それよりも初めてお姫様だっこと言うものをされたことでドキドキしているのだろう。(プレイヤー)はそんな事とは無縁だったから耐性があるわけなく、ベートさんにされるがまま顔をうつむけ羞恥心に耐えていた。

 

 

 んー、私もされたことないけど、そんなに恥ずかしい?

 

 恥ずかしいからねっ!? 逆に何で恥ずかしくないの!?

 

 私も恥ずかしくないわね、貴方だけじゃない?

 

 シャリスちゃんまでっ!?

 

 

 私は思わぬ言葉にうちひしがれているとベートさんが医務室についたのか、ベッドに寝かせられる。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ふぇっ? ......あっ、はい。大丈夫です」

 

 顔が真っ赤なのが恥ずかしくて顔を反らしながら答える。

 

「そうか、リヴェリアってエルフが来るからそいつに見てもらえ」

 

 そう言ってベートさんは何処かへいってしまった。私はベッドに寝たままバクバクとうるさい心臓に落ち着けと心の中で言いながら深呼吸をする。ゆっくりと心が落ち着き、体の倦怠感も和らいで来る。

 

「ふむ、レフィーヤ。ベートに言われたんだよな? ......ん?」

 

「あ、さっきの......ベートさんは?」

 

 私がベッドの上で寝ていると緑色の髪を伸ばしたエルフの女性とレフィーヤさんが医務室に入ってきた。

 

「あー、えっと、わからないです。ここに寝かされたらすぐに何処かに行ったみたいで」

 

 私がたどたどしくもそう答えると緑色の髪のエルフは何か考える素振りを見せるが、椅子を持つと私が寝ているベッドの側に椅子を置き、座り、私を見ると。

 

「ふむ、君がベートやアイズ達が言っていたアリス君、だな?」

 

「えっと......そうですね」

 

 答えはするものの何だか凄く居心地が悪い、何故だろうか。

 

「まあいい、それで君はここに何をしに来たんだ?」

 

「あ、えっとベートさんに連れて来られたんですけど、大丈夫です」

 

 そう言って医務室から出るため、ベッドから立ち上がろうとするが、

 

「うわわっ!?」

 

 足に力が入らずにこけそうになる。レフィーヤさんに支えてもらう形で再度ベッドに座る。

 

「ふむ、力が入らないのか。倦怠感はあるか?」

 

「え?......あ、え、えーと倦怠感はないです」

 

「ふむ、なら何か〈スキル〉か〈魔法〉を使ったか?」

 

「はい、多分それの影響だと思うんですけど」

 

「む、ならば治癒系の〈魔法〉はダメだな」

 

 うん?私ってこの人に癒してもらうの?

 そう思うと私は自分の〈スキル〉のせいで全身に倦怠感があるので、さすがに恥ずかしいのでやんわりと断っておく。レフィーヤさんやリヴェリアさん(?)はうむむ、と唸っていたがちょっとしたプライドみたいなものがあるのでこれは治療なんか受けられない。

 少しずつ体に力が入るようになって来たのでベッドから立ち上がってゆっくりと扉に向かって歩いて行く、リヴェリアさん(?)が止めようとするが私が医務室の扉に手をかけた、その時、唐突に扉が開きバランスを崩す。その結果、扉を開けたベートさんの胸にダイブすることになった。

 服の上からもわかる筋肉質ながらも引き締まった体の少し硬い感触に加え、ほんのりと感じる暖かな体温を全身で感じる、何故だかドクドクと激しく心臓が脈をうち、顔は熱くなる。

 

「す、すすすっ、すいませんっ!!??」

 

 今までより最速でベートさんの胸から離れ、そのまま脇を走り去って行く。フィンさんが止めようとしていたようだったが構わずに走り去る。

 そのままロキ・ファミリアの拠点(ホーム)から出て、拠点(ホーム)のある廃教会に向かって全速力で走って行った。

 

 

 何処かに行ってしまったアリスちゃんを追い掛けようとしたものの何故だか異様に速い速度で出ていったので、間に合わずベート達がいる医務室に戻って来たのだが、

 

「るっせぇ!」

 

 入った瞬間聞こえて来たのがこれだ、思わず僕は苦笑を浮かべた。

 

「どうしたんだい? リヴェリア?」

 

「ああ、フィンか、先程からベートがアリスに何をしたのか問い詰めていたのだが......」

 

「ああ、なるほど」

 

 ベートのことだ、何かあったとしても何かを言うことはしないだろう。でもアリスちゃんがそう言った感情を理解しているのかはわからないから何かしら本能的に逃げたのかもしれないし、それはわからない。

 

「まあ、ベートが春が来たんだから応援して上げないとね」

 

「んなっ!? そんなんじゃねぇだろ!」

 

「わからんぞ? アリスが気づいているのかはわからんが、あれはそう言うことだろうしな」

 

 リヴェリアの追撃に狼狽えるベート、ベート自身も鈍いところがあるのを考えると少し難しいだろう、頑張れ二人とも。

 

「ふふふ、ベートさんにも春が来たんですか」

 

「んなわけねぇだろ!」

 

「はいはい、頑張ってねベート、応援してるよ」

 

「ざけんな! フィン!!」

 

 少しほんわかした雰囲気が医務室に充満した。

 

 

「ううぅぅーーー!!」

 

 真っ赤になった顔を覆い悶絶する。今私はエイルファミリアの拠点(ホーム)兼病院の〈黒衣の病館〉の医院長室、エイル様の居る部屋にて治療を受けた後だった。

 いつも来る時間より少し遅くなり治療を受けた後に、エイル様とエイル・ファミリアの団長で私の左目の治療をしてくださっているアルナ・フォリアスさんに弄られた結果が今だ。

 遅れた理由を聞かれたのでロキ・ファミリアで特訓をさせてもらっていたことを言い、その後でベートさんに抱くつくような形になってしまい何故だかわからずここまで逃げて来たと話すと、エイル様とアルナさんは心底楽しそうな(嫌らしい)笑みを浮かべ私を弄って来たのだ。

 さんざんおちょくられ、ベートさんに抱きついたことについて根掘り葉掘り聞き出され、その度に顔を赤くする私を面白そうに弄ってから二人で何かを話し込んでいるかと思うと、エイル様が真っ赤になって悶絶している私の耳元で、

 

「ふふふ、アリスちゃん。その何故だかわからなかったものはね〈恋〉って言うものなのよ?」

 

 なんて言うのだ、いきなり言われたその言葉を私は即座に理解できなかったが、少しして意味を理解し始めると私の頭の中でエイル様に囁かれた言葉が再生される。その言葉は私の顔を真っ赤に変えて、その上で悶絶させるには十分過ぎた。

 

 そして今に至るのだ。エイル様とアルナさんはお腹を抱えて笑い、私は私でベッドの上で悶絶しながらゴロゴロと転がっているのだから混沌と化していた。そんな医院長室に茶髪の中性的な容姿の少年(?)がお茶を持って入ってきた。

 

「え? えぇ? な、なにこれ? ......え、エイル様? ど、どういう状況ですかこれ?」

 

 私はその少年(?)を見て驚いた。その少年(?)が私にハイポーションを振りかけてくれた少年(?)だと言うことに。

 

「あ、君はあの時の!! じゃあ特別な治療をしているのって......」

 

「ええ、アリスちゃんよ。紹介しておくわね、彼は第三級(レベル2)冒険者のアルベス・フォリアス。アルナの弟よ」

 

「あ、えっとアリスです。あの時は助けてくださってありがとうございました」

 

 私はアルベスさんに向かって頭を下げる。アルベスさんはそれを見て焦ったのか頭を上げてください、と少し早口で言う。

 私は頭を上げてアルベスさんを見る、前に私を助けてくれたときと同じミディアムの茶髪に中性的な容姿だった。

 

「ううん、僕もあの時アリスさんが助けに来てもらわなければ死んでたでしょうし、お礼を言うのは僕の方です。ありがとうございました」

 

 アルベスさんも頭を下げ、上げた後、左手を差し出して来た。私はその手を握る。するとアルベスさんも私の手を握り返してくる。

 

「ふふふ、アリスちゃんが助けてくれたお陰でアルベスは戻ってこれた、そのお礼なのよ左目の治療は」

 

「そうだったんですか......」

 

「弟を助けてくれてありがとうね、アリスちゃん」

 

 エイル様とアルナさんにお礼を言われむず痒いような感じがして照れている私を見てエイル様達はふふふ、と笑う、それにつられて思わずと言った雰囲気でアルベスさんも笑う。

 私はエイル様達に笑われ、恥ずかしいような気をしながらも苦笑を浮かべる。やんわりとした雰囲気が医院長室を包み込み全員が笑う。

 

 

〈黒衣の病館〉での治療を終え少し買い物をして拠点(ホーム)のある廃教会に入って地下室に入ると、

 

「お帰りー! おお! アリスちゃん。その手に持っているものはなんだい?」

 

「ヘスティア様、ただいま戻りました。これは今日の夕飯の食材です。今日はオムライスにしようと思っています」

 

 ヘスティア様は楽しみだよ、と言ってソファに腰かける。私は台所に立つとオムライスをるんるんと高めのテンションで作り始める。

 そして二十分程して三人分のオムライスを作り終わると、

 

「ヘスティア様ー! ただいまー!」

 

 ベルさんが帰ってきた。

 ヘスティア様はベルさんに飛び付き、テキパキと体を確かめる。いつもヘスティア様はダンジョンに行った後に絶対体を確かめるのだ、ヘスティア様の優しさが見える。

 

「ベルさん、お帰りなさい。今日はオムライスです」

 

そう言い、私はオムレツをチキンライスの上にのせて行く。

 

「アリスちゃんただいま、もう食べれる?」

 

「勿論です、先にヘスティア様どうぞ」

 

 私は皿にのせたオムライスとスプーンをヘスティア様の座る席の前に置く。

 

「おお、ありがとうアリスちゃん。それじゃいただきます」

 

 ヘスティア様はそれを嬉しそうに食べ始める。

 

「どうぞ、ベルさんも」

 

「ありがとうアリスちゃん」

 

 そしてベルさんの前にもオムライスとスプーンを置き、私は自分の分を持ってベルさんの前に座り、オムライスを食べ始める。

 

 和気あいあいとした食事を終えステイタスの更新を行う。先にベルさんそして私の順だ。

 ベルさんの更新が終わり私の更新が始まる。背中の上を柔らかい指が動き私の経験をステイタスに昇華させていく。

 

「はい、終わったよアリスちゃん。これが今回の更新結果だよ」

 

 そう言って手渡された紙に目を通す。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

Lv.2

 

《発展》

 

情報:H→G

 

《ステイタス》

 

力:F327→F342

 

耐久:D502→D514

 

器用:G258→G291

 

敏捷:C601→C675

 

魔力:C649→B723

 

 

《魔法》

 

変化なし

 

 

《スキル》

 

孤狼焦心(フェンリスリーフデ)

 

狼人(ウェアウルフ)を仲間と認識しているときステイタスに補正。絆の強さに応じて効果上昇。

・対象のステイタスに補正。絆の強さに応じて効果上昇。

・恋心の丈に応じて効果上昇。

 

以下変化なし

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 私はそのステイタスに思わず吹き出した。反射的にヘスティア様を見ると生暖かい優しい目で私を見ていた。

 

「ふーん、まさかアリスちゃんがねー。ステイタスに現れる程思っているなんて、ボクは応援するよ」

 

 その言葉と優しい目が私の心を完全に砕く、膝から崩れ落ちた私はそのままうなだれる。まさかエイル様に言われた言葉がこうやって現れるなんて、思わぬ形でヘスティア様にバレたことに羞恥で再度悶絶する。

 

 そうしてヘスティア様に優しい目で見つめられ続けた私はそのまま力尽き、洗いざらい吐かされた。そのまま悶絶し続けた私はベッドに逃げて追及を逃れられた。今日一日が今までで一番散々な日だったと思いながらも笑みを浮かべて私は眠った。

 




いかかでしたか?

少しずつ更新が遅くなっていく気がしているのですが、出来るだけ1ヶ月以内に更新したいところです。(するとは言ってない)

そろそろ原作のメインヒロインが登場します。アリスちゃんはどういう立ち位置になるのかは決まってません。

さて、それではこの辺で、次回もよろしくお願いします。


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例の女神様と出会う御話

どうも、ニャラルトです。

更新が遅くなってしまい本当に申し訳ありません。
書くためのスマホがですね、壊れてしまったんですよ(言い訳)いや、ホントなんですけどね。何が言いたいのかと言うと、本当にすいません。

それでは本編をどうぞ、後書きでは今回出てきた新要素について説明をいれたいと思います。




 

 

 

 ステイタスの確認をしていたところ、仲間設定と言うものに気づいた私はベルさんやリリさん、アイズさんにベートさんなど知り合いの冒険者を登録していった。これで〈SS(ストレートショット)〉だったりの誤射がなくなるんだから今までの細かい苦労はなんだったのだと言いたくなる。

 〈スキル〉は仲間と認識している。と効果が発動するらしい、ならこれで発動しているはず。

 そう思うと早く試したい気持ちが沸き上がる、素早く支度を済ませ、ヘスティア様を起こしてご飯を食べてもらい、衣類を渡してから、階段を上がる。

 

「それではヘスティア様! いってきます!」

 

「いってらっしゃい! 気を付けてね!」

 

 扉を開け、気分高らかに走り出す。

 まずは〈黒衣の病館〉に向かう。裏口から入った私はやけに高めなテンションのまま医院長室に突撃する

 

「あら、おはようアリスちゃん」

 

「おはよーございます!」

 

「やけに元気ね? 何かいいことでもあったのかしら?」

 

 柔らかい笑みでこちらを見るのは〈黒衣の病館〉の医院長でエイル・ファミリアの主神エイル様。優しく、お茶目な神様だ。

 

「久しぶりにダンジョンに潜るのでそれが楽しみで!」

 

「そう、ふふふ、でも怪我には気を付けなさいね?」

 

「はい!」

 

 その後もエイル様との話は弾み、小一時間が過ぎた頃、

 

「失礼しまーす。ってアリスちゃん? 速いね」

 

 医院長室に入ってきたのはエイル・ファミリアの団長アルナさんだ。

 いつもの白衣ではなく動き易いように薄めの布で作られた服にレザーアーマーを上から着込み、裾の長いロングスカートといった、冒険用の衣装に身を包んだアルナさんが、それらの衣装を着崩し豊満な肉体を大気にさらしていた。

 

「何してるんですかっ!? 服はだけてますけど!? と言うか服意味無いんですけどっ!? しっかり着てください! 服!」

 

 同性だから特に興奮するとかは無いんだけど、自分たちのその、貧相なソレと比べたらなんだか悲しくなってきたのでとりあえず八つ当たりにアルナさんの後ろを顔を背けてついてきたアルベスさんに飛び蹴りを食らわせる。

 

「ガフッ!? ......何で、俺なんだい? ......」

 

 アルベスさんは私の容赦ない飛び蹴りを-ステイタスに補正がかかった状態のをもろに-受けてしまったため、少し飛んでコロコロと転がり、私にごく普通の問いを投げ掛け、ガクッ、と力尽きる。

 

「すいませんアルベスさん。八つ当たりです」

 

「アルベス? あらら、気絶しちゃってるわね」

 

 エイル様はコロコロと笑いながらアルベスさんの状態のチェックをしていた。

 私はむうう、と唸りながらアルナさんの膝の上にのせられ左目の治療を受けていた。アルナさん曰くあと二週間もあれば戻るそうだ。

 ずっと閉じている左の瞼の下で形どられている眼の感覚に最初こそ戸惑ったが今では慣れたものになった。

 治療を始めておよそ1ヶ月半。アルナさんも驚くスピードで治って行く、エイル様曰く成長期前だったからではとのこと、うーん、アリスちゃんに憑依している方はすでに成長期は終えているからなー。アリスちゃんに感謝だね。

 

 

 どうしたの?

 

 あ、ううんなんでもない。ただ、アリスちゃんの怪我が早く治りそうだからって

 

 ふーん、やったねアリス

 

 うん!

 

 

 なんだか私が戦い易くなるから感謝したなんて言えない、純粋過ぎるんだよねーアリスちゃん達。まあ、それをカバーするのが私だけど。

 

「これからダンジョンに行くの?」

 

「はい、そうするつもりです。少し潜ったら帰るつもりですけど」

 

「そうなの、気を付けてね。怪我したら怒るからね」

 

 少し笑いながら私を心配してくれるアルナさんに思わず抱きつき、豊かな胸に顔を埋める。柔らかい胸は私の頭を包み込めるほどの大きさがあり、ほんのりと甘い匂いがする。

 その双丘に埋まって数分が過ぎ、ゆっくりと顔を上げる。

 

「どうしたらこんなに大きくなりますか?」

 

「おおう、いきなりだね」

 

「私のはこんなのなので......はぁ」

 

 私はアリスとしての体のつるぺたなそれを手でぺったぺったと触る。それを見てアルナさんとエイル様が可哀想な目で私を見る。

 この体に不満は無い。無いのだが街を歩いていて見る目が少し、無遠慮なのだ。

 なんと言うか幼女趣味の男性から嫌らしい目で見られているような嫌な視線を感じるのだ。リトル・アリスが可愛いのは当たり前として(思考放棄)え? 可愛いのはわからんことも無いけど人にもよる? 知らんな。

 なんてふざけずに可哀想な人を見る目をしているアルナさんとエイル様の誤解を解いた。少し欲しいと言う気持ちはあるがそこまで大きいのもいらないしなー、地味に肩こるし。実際あったからなー......って話が脱線しまくってる。とまあふざけながらもエイル様達に礼を言ってダンジョンに向かったのだが、ギルドの職員にランクを聞かれた。

 何故かと聞くと何でも上層でミノタウロスを見たという証言があり注意を促しているらしいのだ。まあ今の私はランク2なので特に止められることなくダンジョンに潜った。

 

 

 一層から全力で下に向かう、おそらくだがベルさんたちなら朝から潜っているだろうし二人の早さならもう五層までは降りているだろう。

 元々高い敏捷が補正により磨きがかかり、怪物(モンスター)や他の冒険者を置き去りにしてどんどんと降る。

 そして二時間ほどかけて六層に降りる階段まで到着した。

 そこには小休止を挟んでいたベルさんとリリさんがいた。

 

「ようやく追い付きました」

 

「アリスちゃん!? もう追い付いたの!?」

 

「アリス様! ?速すぎです!?」

 

「声大きすぎです、ここはダンジョンですよ?」

 

 いきなり現れた私に驚き、思わず大きな声を出してしまうベルさんとリリさんだったが、ここがダンジョンだと言うことを思いだしハッとした表情になるがすでにコボルトの群れと数匹のウォーシャドウが声に反応してこちらに走って来ていた。しかし私の《SS(ストレートショット)》の多重展開で大半が消滅し、残った数匹もベルさんとリリさんが倒していた。そして落ち着いて話を始める。

 

「治療はしっかりとしてきましたよ? 後二週間ほどで治るとのことです」

 

「二週間ほどですか、早いですね」

 

 リリさんの驚いたような声に私も同意を示す。だって目みたいな複雑なものが一ヶ月ぐらいで治ると言っている訳だ。それだけアルナさんの魔法が規格外なのか。

 

「だから二週間後からは私もしっかり戦えるよ」

 

「そうなんだ、でも、無理しないでね? 女の子なんだから」

 

 ベルさんが笑いながらそう言う。

 

「なるほど、これは天然タラシですね。そのくせ一途とかどれだけ厄介なんですか」

 

 ヘスティア様やリリさんが少しかわいそうに思えてしまった。ベルさんは天然で私達の心に綺麗に刺さる行動や言葉をかけてきたりするのだ。

ヘスティア様は自身の始めての眷属だからってところが多いだろうけど、リリさんはベルさんに危険な時に助けられたらしく、その上に優しく心にくる言葉をかけられたのだろう。うん多分落ちるな。私ならまだしも普通だったら落ちるわ、でもベルさんはアイズさん一筋と言う、酷いな。

 

「頑張ってくださいね、リリさんにヘスティア様」

 

「はい? リリがどうかしましたか?」

 

「あ、ううん、何でもないよ」

 

 心の中でヘスティア様とリリさんに頑張ってとエールをおくりながら、辺りを注意する。

 先程の戦闘音で近付いてくる他の怪物(モンスター)がこないか注意しているのだが特にそんな気配はない。

 

「危険は無さそうですね、それで今回はどこまで潜るんですか?」

 

「はい、十一層までの予定でしたがアリス様がいるのであれば十二層までは行けるかと」

 

 妥当な判断だとうなずきベルさん達の休憩が終わるのを待ってから階段を降りる。

 七層自体は特に危険は無いのだが近くにいた別のパーティーから怪物進呈(パスパレード)をされてしまった。

 硬い蟻(キラーアント)が視界を埋め尽くしたのは恐怖意以外の何物でもなかった。思わず『大きくなるよ!』を使ってしまうぐらいには怖かった、ホントに。

 

 まあ、その話は兎も角順調に降りて行った私達は現在十一階層にいる。ここは部屋(ルーム)で霧が発生するから注意が必要だ、まあ私は遊撃に徹しているからそこまで戦う機会が無いんだけど。オークとかの魔石を騎槍(ランス)でドスッ!とかしてるんだけど、まあなぜか上手くいかない。ベルさんあんなに上手いのに何故だろう?

 そんなことを考える暇はあるほど安定して迷宮(ダンジョン)を探索している訳なんだけどやっぱり左目が見えないのは痛い。上手く距離を掴めないし、左側見にくいし。今はレベル差があるから大丈夫だけどこれ以上、中層だとまともに戦えるかどうか怪しいだろう。まあ後二週間で治るそうだし気長に待とうかな。

 

「ブモォォオオォォ!」

 

 っと、無駄なことを考えてたら新しくオークが産まれてきたので魔法を打ち込み爆殺する。騎槍(ランス)もいいが私と言うかリトル・アリスの強みは長い射程を持った高威力のSS(ストレートショット)。使えば強くなるし悪いことは無いよね!

 

ビキビキビキィッ!!!

 

 と言うわけで新たに産まれた-次はシルバーバックだ-怪物(モンスター)に魔法を多重展開してぶっぱする。

 怪物(シルバーバック)の硬い毛皮をものともせず魔石ごと胸元が抉れたり、頭部が爆散していたりとする。ふぅぅ、スッとしたぜぇ。

 なんてカッコつけていたらベルさん達もインプとハードアーマード達を討伐し終わり、こちらに来ていた。

 それなりに広い部屋(ルーム)だったため両端で戦う形だったのだが、私の方に何故か大量に産まれていたらしい。倒すだけ倒して魔石の回収をしていなかったのでリリさんがあせあせと魔石を取り出している。

 なんか、ごめんなさい。

 心の中で謝りながら私はマップを見る。え? 手伝わないのかって? ......下手なんですよ。どうしても上手く魔石を取り出すことの出来ないんですよねー。だからリリさんにしてもらうのが一番速いんですよ、ええ。

 とりあえずリリさんが魔石を取り出すのを待ってから私はベルさんとリリさんに来てもらう。これから少し行ったところに十二階層に降りる階段があることを伝える。壁を傷付けていないにも関わらず迷宮(ダンジョン)は沈黙を保つ。少し不気味に思いながらも私はベルさんに問いかける。

 

「十二階層に行きますか?」

 

 特に意味はなく、ただ降りるかを聞いただけ。それなのに少し緊張感が増すのは私がやられた階層だからだろうか。まあ気にしてはいないが。

 

「どうしますか? このまま帰ってもいいですが」

 

 再度問いかける。ベルさんは少し迷ってから、

 

「いや、今日は帰ろう。エイナさんにも言われてるしね」

 

 冒険者は冒険をしてはいけない、と言うものである意味的を射ている気もするが私としては違うと思ってしまう。怪物祭(フィリア祭)で冒険をした私は冒険はするべきだと思う。自分の殻を破る為にもベルさんは特に。

 ミノタウロスと言う恐怖といつか対峙する時に、冒険は必要になってくる。速めになれてほしいと私は思う。

 しかしまだまだ中層には行かないだろう。せめて私の左目が治るまでは、冒険もまだまだ必要ない。私自身もそう思いベルさんの意見を受け入れる。リリさんもうなずき迷宮(ダンジョン)から撤退する。何か起きることもなく地上に戻った私は換金所に向かった。

 魔石は一から六層の怪物(モンスター)のものが百ほど七から十一までのが百ほど、その他ドロップアイテム複数と中々の量を換金してもらった結果は、約八万ヴァリス。袋の重みに口元が思わずにやける。これは嬉しい。

 ベルさん達のところに行って金額を伝えると飛んで喜ぶベルさんを見れたのでさらにほっこりした。とりあえずリリさんに報酬分の二万五千ヴァリスを手渡す。そして残りをベルさんに渡して一旦別れる。

 特に行くところも無いのでロキ・ファミリアにでも行こうかなと思っていた矢先、

 

「そこの娘、リトル・アリスだな?」

 

 不意に後ろから声を掛けられた。

 低く男の人の声だと思われる声に私は後ろを振り向くとそこには二メートルに届くかと言う長身に服の上からでもわかる鍛えられた体。そして濃い茶色の髪と頭に生える猪の耳。猪人(ボアズ)の冒険者が立っていた。

 

「そうですけど......何かご用でしょうか?」

 

 丁寧に返答する。追加で疑問をぶつけると

 

「ああ、俺についてきてもらいたい」

 

 ついてきてもらいたい。とのこと。

 少し気になる言い方だがついて行っても良いだろう。ベルさんにヴァリスは渡しているし、そう考えた私は猪人(ボアズ)の冒険者にいいですよ、と返答し横に並ぶ。歩き出した冒険者が向かった先は、

 

「え? 摩天楼施設(バベル)?」

 

 

 あれから摩天楼施設(バベル)に入り、エレベーターを使用して上の階に登ること十分程、ようやくついた目的地は最上階。フレイヤ・ファミリアの主神、フレイヤが住んでいると言う場所だった。

 猪人(ボアズ)の冒険者-オッタルさんと言うらしい-につれられ奥の部屋に入るとそこには臍までバックりと真ん中の空いたドレスのようなものを見にまとった銀髪の女神が椅子に座って片手にワインの入ったグラスを弄びながら微笑んでいた。

 

「あなたがリトル・アリスちゃんかしら?」

 

 こちらに視線を向けられて思わずゾクゾクッ!!と背中を不意に撫でられたような、よくわからない刺激を感じる。

 

「はい、そうです。私に何かご用でしょうか?フレイヤ様」

 

 ゆっくりと息を整えて答える。

 その姿を見て何故か驚いたような表情を浮かべると、不意に笑い出す。

 突然のことに驚き、固まっているとフレイヤ様は椅子から立ち上がり何故か目を引く足取りで近付いてくる。

 そして、私の前まで来て顔を近付け私の瞳に覗きこむ。紫色の綺麗な瞳が私の両方の瞳を占領する。

 同性でありながらどぎまぎしてしまうほどの美貌を持つ女神が目の前に少しすればキスすらも出来てしまいそうなほど近付いていて、顔を真っ赤にして硬直していると、ふふっ、微笑み椅子に戻る。

 

「いえ、良いわ。私の物(・・・)になってくれない子も時には良いもの」

 

 椅子に座って私に向けて放った言葉にゾクゾクッ!! とした。今回は最初のような曖昧なものではなく、背筋の凍るようなもの。思わず私は一歩後ろに下がる。

 それを見たフレイヤ様は、オッタルさんに何かを伝える。と言うかいつの間にオッタルさんはフレイヤ様の後ろに!?

 そう思っているとオッタルさんが私のところに来ると、

 

「もういいそうだ。メインストリートまで送ろう」

 

 お、おおう。もういいのね。

 とまあそんな感じでフレイヤ様との初会合は終わった。それから教会の地下室に向かったのだが、迷宮(ダンジョン)を出たときはまだ夕暮れだったのにすでに真っ暗になったメインストリートを走り抜け、教会までたどり着く。

 

「すいません遅くなりました」

 

地下室の扉を開けながらそう言うと、ヘスティア様はこちらを向く。ベルさんが見当たらないと思ったらステイタスを更新していたようでヘスティア様に跨がられていた。

 

「お帰りーアリスちゃん。待ってたんだよー?」

 

「ハハハ......すいません。私も後でいいですか?」

 

 ヘスティア様はニッコリと、笑顔で労ってくださった。それに苦笑いで答えながらテーブルにつく。ベルさんのステイタスの更新が終わったのかヘスティア様が次に座り、黒いインナーを着たベルさんも席につく。それを確認したヘスティア様が手を合わせて言う。

 

「いただきます!」

 

「「いただきます!」」

 

 三人で和気あいあいと晩御飯を食べる。

 私がつくったわけではないのでジャガ丸君だが、美味しそうに頬張るヘスティア様とベルさんを見ながら食べるといつも食べるご飯より美味しく感じる。

 十数分で食べ終わった私達はベルさんは皿を洗い、私とヘスティア様はステイタスの更新をしていた。

 

「なぁ、アリスちゃん」

 

「はい? 何ですか? ヘスティア様」

 

 不意に上から掛けられた声に声だけで返す。

 

「今日は帰りが遅かったみたいだけどどうしたんだい?」

 

「ああ、フレイヤ様? に呼ばれたので」

 

 私がそう答えると、そうだったのかー、フレイヤねぇ......といつも通りの雰囲気でいると。

 

「フレイヤだってぇぇぇぇ!!!???」

 

 いきなり大きな声を出して私の背中に針がブスッと刺さった。

 

「痛っ!!?? ヘスティア様っ! 針! 針っ!!」

 

「はっ! ご、ごめん! アリスちゃん!!」

 

 私の背中に刺さった針を抜いてポーションを振りかけるヘスティア様は落ち着きを取り戻して、再度私の背中に神の恩恵(ファルナ)を刻んでいく。少しして他の紙に共通語(コイネー)で記されたステイタスを確認する。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

Lv.2

 

 

 

《発展》

 

 

 

情報:G

 

 

 

《ステイタス》

 

 

 

力:F372→D528

 

 

 

耐久:D514→D581

 

 

 

器用:G291→E419

 

 

 

敏捷:C675→B742

 

 

 

魔力:B723→A867

 

 

 

《魔法》

 

 

 

[ボムバルーン+1]

・全性能微量上昇

 

 

 

《スキル》

 

 

 

第五唱聖(テイルマスター)+1]

・全性能微量上昇

 

 

 

盤面破壊(ワンダースキル)!+1]

・全性能微量上昇

 

 

 

孤狼焦心(フェンリスリーフデ)+1]

・全性能微量上昇

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 プラスがついた。

 いやーWLWにもあったけど、WLWに関係ないやつも+がついているのが謎。使用回数かなー+のつく条件は。

 

「アリスちゃん、フレイヤのところに行ったんだよね?」

 

 何時にもなく真剣な表情と声音でそう聞いてくるヘスティア様が何故そんなに真剣なのかはわからないがとりあえずそうなので頷く。すると、ヘスティア様は私の体をまさぐり、

 

「大丈夫かい!? 何もされていないかい!?」

 

「え、えっと......少し話したぐらいですけど......」

 

「は、話したのかい!?」

 

「え、ええ」

 

 何故かヘスティア様は慌てているがどうしたんだろう。

 

「魅了されていないかい!? 本当に大丈夫かい!?」

 

「魅了? 状態異常は[盤面破壊(ワンダースキル)]で弾けるはずですけど」

 

 魅了は迷宮(ダンジョン)の二十五階から二十七階で出現する〈マーメイド〉の歌声を聴くことで発生する特殊な状態異常だ。普通の対異常では防げず、耳を塞ぐか強靭な精神力が必要らしい。私の場合は[大きくなるよ!]で弾けるっぽいのだが、なぜ聞くのだろう、

 

「一部の女神は子供達(キミたち)を魅了できる種類がいるんだ」

 

「なるほど、フレイヤ様はそう言う種類だと言うことですね。大丈夫そうですけど」

 

 ヘスティア様は私がフレイヤ様に魅了されたのではと心配していたらしい。特に魅了された感じはしないが、フレイヤ様がものすごく好きなわけでも無いし、

 

「ならいいんだ、ふぅ、本当に焦ったよ」

 

「アハハ......すいません」

 

 本当に安堵したように息を吐くものだから申し訳ない気持ちになる。すいません。

 

「まあ、大丈夫なら問題ない。明日は早いんだろ?」

 

「はい、ベルさんは朝から潜るといっていましたし。今日で特訓は終わったそうなので、私は治療をしてもらいに行きますし」

 

「じゃあ、早く寝るんだ! 体は基本だからねっ!」

 

 ヘスティア様にそう言われては私は反論する必要は無いので今日は床にシートをしいてそこに転がる、ベルさんはソファーで、ヘスティア様はベッドに潜り込む。

 眼を閉じてゆっくりと息を整える。規則正しく息を吐いて吸う。それを数回繰り返すだけで私の意識は暗闇に沈んで行った。

 

 

 

 

 

 

 一人の男が迷宮(ダンジョン)を走っていた。

 男の名はカヌゥ。ソーマ・ファミリアの団員で、リリルカ・アーデから金をむしりとり私腹を肥やしていた人間の一人。

 一週間程前にリリルカ・アーデから奪い取った魔剣を使って威張り散らしていた頃の姿はなく、その男の本当の姿があった。

 無様に転げるようにして迷宮(ダンジョン)を駆け回る、仲間はすべて異常事態(イレギュラー)である牛人(ミノタウロス)によって殺された。そしてカヌゥも牛人に追いかけられていた。

 目の前の角を曲がったカヌゥはそこで表情が絶望に染まる。袋小路となっていたその曲がり角に後ずさると、背後からズンッ! と地響きを伴って死が顔を出す。

 カヌゥはその瞬間に赤色の短剣、リリルカから奪い取った魔剣を振りかざす。

 劣化した魔法が牛人(ミノタウロス)に突き刺さり爆炎をあげる。そして脚が止まる。それを見たカヌゥは狂ったように魔剣を振り続ける。

 その度に爆炎が上がり、そして

 

パキィン!

 

 使用限界を迎えた魔剣が砕け散る。

 カヌゥはそれを見た瞬間に硬直し、後先考えずに後ろへと、袋小路へと逃げ込む。

 後ろからはズンッ! ズンッ! と地響きが繰り返され、死が迫ってくる。銀色に光る大剣は脳漿や血液によって赤黒く染まり、カヌゥもその一つになるのだと言ってくる。

 カヌゥは袋小路の壁際に追い詰められ、顔を様々な液でぐちょぐちょにしながら自身の剣を構える。

 もはや自棄になったカヌゥは剣を構えて突進をし、壁を彩る赤い染料に変わった。

 牛人(ミノタウロス)はゆっくりと歩き出す。白髪の少年を、兎のような少年を探して迷宮(ダンジョン)を闊歩する。そこは彼がいるべき中層ではなく、初心者や少し力を付けた程度の冒険者が集まる上層の十階だと言うこと。そしてこれからすぐに白髪の少年が来るわけではなく、その間に幾人もの犠牲者が出ること。

 それを地上の冒険者達は愚か、神ですらも知らない。知っているのは迷宮とたった一人の美の女神だけだと言うことを。

 

 




いかかでしたか?

終わらせ方こそ微妙ですが、次で原作の三巻が終わります。
誤字報告を毎回毎回ありがとうございます、本当に助かっています。



今回の新要素

(+について)

WLWではカードが被ったときに入る補正で、基本的には消費MPの減少で一定数になると効果時間延長や効果上昇等の強化が入る。この作品では全性能の微量(1~5%)上昇としています。



評価や感想など頂けたら幸いです。モチベーションにも関わるので是非ください(催促)

ふざけましたが、評価や感想、お気に入り登録等をこのような作品に頂けて感謝が絶えません。本当にありがとうございます。

それでは次の作品でお会いしましょう。


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ベルさんがトラウマと対峙する御話

どうも、ニャラルトです。
ええーとですね。私事ではございますが少々更新のインターバルが長くなるかも知れないのです。いろいろと事情がありまして。いや悪いことでは無いんですけどね。

この頃誤字を勝手に直してくれる機能があることを私は知りました。今までの私の苦労(?)はなんだったの......

さて、これにて原作三巻が終わりになります。未だに拙いものですが楽しめていただけたらありがたいです。
では、本編をどうぞ!


 太陽が昇る前に起きた私はつい先日奮発して買った卵をホクホク顔で焼く、玉子焼き用のフライパンは無かったので目玉焼きを作る。

 ジュージューと音を立てて焼ける卵のいい臭いに吊られたのか、ベルさんとヘスティア様が起きる。

 

「おはようございます、ヘスティア様、ベルさん」

 

「「ふぁ~おはよう」」

 

 目元を擦りながら欠伸をあげ、テーブルにつく二人にとりあえずパンを出しておく。目玉焼きはとりあえず二人分だけ作り皿にのせてベルさん達の前に置く。

 熱々の目玉焼きを初めて見たのか戸惑っているベルさんとヘスティア様にとりあえず黄身を割って、そこにパンをつけて食べてもらう。

 醤油? 買ってませんが何か? 高いんですよ! 醤油は! だから白身は塩コショウでしか味付けをしていない。まあ、目玉焼きはそのままでも美味しいからね! ダイジョーブの精神で行こう。お金は正直『神様のナイフ(ヘスティア・ナイフ)』の借金返済で稼ぐお金は七割近く持っていかれる。

 左目を負傷した今では迷宮(ダンジョン)にソロで潜るのも何かあれば危険なので止めている。ランクアップを果たしているとは言え、下手すれば死ぬのが迷宮(ダンジョン)だ。

 さすがに死ぬのは嫌なのでおとなしくヘスティア様と屋台でバイトしたり、ロキ・ファミリアに行って経理を手伝ったり、ミアハ・ファミリアで製薬の手伝いしたり、ミアハ・ファミリアの敵対ファミリアのディアンヒケト・ファミリアに行って製薬したりといろいろなところでバイトをした。それはもう馬車馬のごとく。ええ、疲れました。

 まあ、迷宮(ダンジョン)に潜った時よりは少ないもののなかなかに稼げた。一週間かけて六万ぐらいだけど。まあそれでも無いよりはまし、と言った考えでバイトのお金も治療で一万。ベルさん達の冒険で使う備品。ポーションや保護手袋(サポーターグローブ)だったりを買うので一万近く。食費で一万で他にもさまざまなところでと借金返済に使えるのは一万前後。全くと言っていいほど返済に使えていない。合計二億ある借金は三十万程しか返済出来ていない。

 ベルさんとヘスティア様には食事意外では私が関わらずともお金を自由に使っていいと言っており。出来るだけ自由にしてもらっている。

 食費もジャガ丸君をバイト先-ヘスティア様と同じところだ-から大量にもらってきたり、食材を値切ったり。誇りだとぉ? そんなもの豚に食わせておけ! の精神でギリギリまで食費を削った。水準は今までとほとんど変えずに食費をギリギリまで削った私頑張った。

 

 

 朝からベルさんを見送り、ヘスティア様をバイト先に送った私が行くのはロキ・ファミリアの拠点(ホーム)だ。

 

「ベートさぁーん! 私を慰めてくださぁーい!」

 

「んなっ!? おいっ! てめぇっ! いきなり抱きついてくんじゃねぇ!」

 

「あら、彼女には『雑魚がっ!』とか言わないのね」

 

「うっせぇ! バガゾネス!」

 

「アリスちゃーん! ベートの代わりに私が慰めてあげるよー!」

 

「ん、私もいいよ」

 

「アイズさんの膝枕っ!? アリスさんめぇ! 羨ましい!!」

 

 ベートさん達幹部が集まっていたところに突撃した私はベートさんの胸に飛び込む。

 不意のことでベートさんは避けきれず、私はベートさんの胸に収まり、頬をスリスリと擦り付ける。あまりにも唐突でそういう関係でも無いのにするようなことではないのだが、ベートさんに会えた嬉しさで思考回路がまともに働かない。ただただベートさんにじゃれつく。

 

「お、おいっ! いい加減離れろっ!」

 

「むうぅぅぅー! 嫌ですー!」

 

 私を剥がそうとするベートさんにより強く抱きついて抵抗するがそこは第三級冒険者(レベル2)第一級冒険者(レベル5)の力の差によって強引に剥がされる。

 

「いきなり来て何すんだこのやろうっ!」

 

「満更でもないくせに~」

 

「んなっ!? そんなんじゃねえっ!」

 

「ベートとアリスちゃんはお似合いだと思うけどなー」

 

 ベートさんをティオナさんとティオネさんが弄るのを見ていると後ろから抱き抱えられる。

 

「ぁ、アイズさん? どうしたんですか?」

 

「ううん、膝枕、する?」

 

 アイズさんに膝の上に座らさせれいる状態で上からそう声をかけられたら頷くしかないよネ!

 とまあ、そんな感じでベートさんを弄るティオネさん達をアイズさんの太ももの感触を頬で感じながら見ている。

 ううう~! とレフィーヤさんの唸るような声が聞こえて来るような気もしなくは無いが気のせいだろう。きっとそうだ。

 そんな感じで軽くなごんだ雰囲気が満ちるロビー。

 

「おい、いつまでそうしているつもりだ」

 

 いつでも和やかな雰囲気が続くわけでもなく、ロキ・ファミリアの重鎮(ママ)が現れる。

 

「アリス、いつまでそうしているつもりだ。ベート達もそうだ」

 

「アハハ......すいません、久しぶりだったもので」

 

「事務を手伝ってくれて助かってはいるが遊びすぎるのもどうかと思うぞ」

 

「......すいません」

 

「む、そこまでシュンとせずともいいのだが、なんだ、その言い過ぎたな」

 

 私がリヴェリアさん(ママ)に怒られてシュンとすると申し訳なさそうに謝ってくる。私も精神年齢はもう十七になるのに子供かっ!て突っ込みたくなる。でも仕方ない、逆らえない母性がリヴェリアさんからあふれでてるから。

 

「明日からは私達は拠点(ホーム)を開ける。それでなんだが、頼んでいたあれは出来ているか?」

 

 なんて思っていたら真面目な雰囲気で話してきたので、名残惜しいアイズさんの膝枕から頭を離し、あれ、まあひらぺったく言えば備品の明細書だ。他派閥の私に頼むのもどうかと思ったが、思った以上にこう言うことが出来る人が少ないらしい。

 ロキ・ファミリアではフィンさんとラウルさん、それとリヴェリアさん、レフィーヤさんが主にそう言うことをするらしいのだが、フィンさんは団長としての書類検査。ラウルさんはそれの補佐で、リヴェリアさんはその他の細かい書類等の検査でレフィーヤさんがそれの補佐。といった感じで遠征のことまで手が回らなかったらしい。

 そこに私が来て、おまけに書類まで見れてバイトが欲しいと行ってきた、私タイミング良すぎない!?

 

「はい、出来てます。詳しいことはわからないので書面上に表しただけですが、紙に書いているのでどうぞ」

 

「ああ、ありがとう。む、これは......その年で良くできているな」

 

「ありがとうございます、これでもそう言うのは得意なので」

 

 バイトとしてお金をもらっている以上、中途半端なのは私の主義に反するのでしっかりと明細書を作った。

 しっかりと目を通してもらい、追加でファミリアの資金や出費も見てくれと言われ、書類とにらめっこする事一時間。

 治療に行く時間の前に終わらせる事ができた私はリヴェリアさんへの説明もそこそこに足早に出ていく。そこまで急ぐ必要は本当はないのだが、待たせるのもどうかと思うと少し速めに行くぐらいでいいだろう。

私はロキ・ファミリアの拠点(ホーム)を後にした。

 

 

 

 

 エイル・ファミリア。団長は聖女(ハイルング)アルナ・フォリアス。第二級冒険者(レベル4)が二人、第二級冒険者(レベル3)が四人、第三級冒険者(レベル2)が十三人、初心者(レベル1)が二十四人の中堅ファミリア。登録上は探索系のファミリアだが、病院を経営しているファミリアとしても有名で、〈黒衣の病館〉と言う名前で一般人から他ファミリアの団員まで受け入れ、団長の聖女(ハイルング)は部位欠損すら治せる魔法を持っていることで有名だが、異様なまで魔力を消費するのと、絶対に成功するわけではないと言った理由から一部の検査などで成功すると予想された人物のみがアルナの治療を受けれる。......とギルドや他ファミリアには言っているのだが、本当は誰でも治療を受けることは出来る。

 エイル様が言うには、何でも治ると思って注意を怠る冒険者(こども)達が多くなるだろうからと、言っていた。私も治してもらえるとわかった時にはとても嬉しかったが、これに依存して注意しなくなればそれこそ命を落とす。体の一部を失いながらも生きて帰れればまた別の道があると私は思っている。命あればこその冒険だ、死ねば元も子もない。

 そんなことを思いながら碧色の眼帯にそっと触れる。日本だと危険なことすらなかったからそんなこと思わなかったけど、小竜に目をやられて、あんなに痛い思いをしたのは始めてかもしれない。

 

「あれ? アリスちゃん?」

 

「あ、ウルドさん。こんにちは」

 

 ウルドさんは私の懇意にさせてもらっている産業系ファミリアのヴェルダンディ・ファミリアの副団長で第二級冒険者(レベル3)でもある。

 

「うん、こんにちは。アリスちゃんはどうしてここに?」

 

「怪我をしてしまったので、治療に」

 

 短く刈り上げた茶髪に整った容姿、そこそこ筋肉のついた体。薄い灰色のコートを羽織った優しいお兄さん的なウルドさんは患者用の衣類や、袋等を持ってきたらしい。じゃあねぇ、と緩い感じで帰って行った。

 私はエイル様に呼ばれ館長室に入った。そこには白衣を着て準備を終えたアルナさんがいた。

 

「やあ、アリスちゃん」

 

「おはようございます。アルナさん」

 

 にっこりと笑うアルナさんの二つ名が聖女の意味が良くわかった気がした。

 

「さぁ、治療を始めるよー」

 

 そう言ってポンポンと太ももを叩き、そこに寝るように言うアルナさんの指示に従う。

 

「それにしても治るのが早いね、今まで見てきた人の中で一番早い。治りにくい場所なんだけどね」

 

 成長期だからかな? と言うアルナさんの声音はとても嬉しそうで、

 治療を始めて十分程で治療は終わり、外していた眼帯をつけ直した私はアルナさんに抱き締められていた。

 

「むふふ~、柔らかいし良い匂いもするし~」

 

「あらあら、神達(わたしたち)みたいになっているわねぇ~」

 

「あ、あのぉ? アルナさんはどうしたんですか?」

 

「柔らかいよぉ~、あぁ幸せぇ~」

 

「この頃はダンジョンに潜って怪我した男しか治療してなかったからじゃないかしら」

 

 そんな理由ですか、私も嫌だとは思いますけど。それでもこんな風に壊れますか? あ、壊れるんですかそうですか。

 

「明日には治るかもね」

 

「え? ってあれ? 大丈夫なんですか? アルナさん。さっきまでおかしくなっていたのに」

 

「うん、もう大丈夫。アリスちゃんのお陰で後二日は大丈夫」

 

「全然じゃないですかっ!?」

 

「ふふふ、楽しそうね」

 

 軽いコントを面白そうに笑うエイル様。

 

「って、こんなことをするんじゃなくて、アリスちゃんの目なんだけど」

 

「左目が治るんですか?」

 

「うん、多分明日明後日には」

 

「そうですか」

 

 

 やったね、これでダンジョンにも行けるよ。

 

 ええそうね、ようやく、でいいかな。

 

 うん、ありがとう。アリスにシャリス。

 

 

「と言うわけで明日も来てもらえるかな?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 その後も話をして、目が治った後のことも注意された。なんでも治った直後の一日は十分に機能しないとのこと、それと瞳の色は真っ赤になると言われた。血液の色がそのまま瞳の色になるらしい。

 はい、オッドアイですね。まあ、と言っても元が少し濃いめの赤色だからほぼ変わらないんだけど。

 とまあ何個かの注意を受けて〈黒衣の病館〉を出た。その後は特にすることもなかったのでギルドでミィシャさんと駄弁ったり。ミアハ様とタケミカヅチ様と話したりとして時間を潰し、夕暮れ時に拠点(ホーム)に戻ると、

 

「あれ? アリスちゃん?」

 

 ベルさんが丁度帰ってきていた。

 

「あ、ベルさん。今お帰りですか?」

 

「うん、今日の夜からまた潜るよ」

 

 少し会話をしながら地下室への扉を開く。

 

「ただいま帰りましたー! 神様ー?」

 

「ただいま戻りました......? 出掛けてるんでしょうか?」

 

 私達が地下室に入ってもヘスティア様がベルさんに突撃してこない。地下室の隅々まで探したがヘスティア様はいなかったのでとりあえず私は夕飯を、ベルさんはダンジョンに潜る為の準備を始めた。

 今日の夕食はジャガ丸君とオムライス。卵を溶き、フライパンに流していれ、薄く伸ばしてからフライ返しで卵を返す。しっかりと火の通った卵を素早く先に作っておいたケチャップライスの上にのせる。

何故かケチャップや胡椒だったりの調味料があるのは謎に思っていたが、もう気にするのも億劫になっている。

 

「出来ましたよ、ベルさん」

 

「本当? ありがとう!」

 

 スプーンを皿にのせて渡すと、嬉しそうに笑いながら机に持っていって食べ始める。私はもうひとつヘスティア様の分を作ってベルさんの正面に座ってからジャガ丸君を手に取り食べる。

 

「......」

 

 ジャガ丸君を食べながらベルさんを見る。始めて出会ったときよりも凛々しくなったと思う。いまだに幼さはとれないし、まだ初心者の域を出っせていない雰囲気がしている。まあ冒険はまだまだするべきじゃないだろう。私程成長が速くないのだから。

 

「え、えぇと、どうしたの? そんなに見て」

 

「ふふふ、いいえ、ただ見ているだけです」

 

 テーブルに両肘をつき、両手で頭を支えるようにしてクスクスと笑う。笑う私に戸惑うベルさんはオムライスを食べ終わり、シンクを皿をおいて私にご馳走さま、と言って地下室から出ようとしたとき、

 

「ただいまー!」

 

「神様っ!?」

 

「あ、ヘスティア様、お帰りなさい」

 

 勢いよく地下室の扉を開け、そのままベルさんに飛び付いたヘスティア様に驚くベルさんは抱き付かれたままで狼狽えていた。

 

「ヘスティア様、それぐらいにしてご飯にしてください。ベルさんもステイタスを更新してもらっては?」

 

 ベルさんの胸に顔を埋めてスリスリするヘスティア様を軽くたしなめながらベルさんにステイタス更新を提案する。

 それにハッとしてヘスティア様にお願いするベルさんにいきなりで困惑するヘスティア様に苦笑しながら作っておいたオムライスを机に置き、ベルさんがステイタスを更新している間に私はさらさらっと家計簿、ファミリアの出費だったりを付けて借金返済に回せるお金を算出している訳なんですが......ハァ。

 

「どうしたんだい? ため息なんかついて」

 

「いえ、ヘスティア様のベルさんへの愛の結晶に回せるお金がほとんどないとわかったので」

 

「あ、アハハ......ごめん」

 

「謝らなくてもいいですよ。ヘスティア様がベルさんを想っていることは私も共感できる部分がありますし」

 

「......? ヘスティア様にアリスちゃんも、何を話してるの?」

 

「いえ、女の子同士の話ですよ。ねぇ? ヘスティア様?」

 

「あ、ああ。そうだね、ベル君はダンジョンに行くんだろ? ステイタスはもう更新したから行ってきていいんだよ?」

 

「そうですか? なら行ってきます!」

 

「ああ、気をつけるんだよ? 怪我なんてあんまりしてほしくないからね」

 

 微笑むヘスティア様は本当に女神なんだと再確認させられるぐらいには神々しくて、こっちに来る前は神様なんて信じないタイプだったんだけども、ヘスティア様だったら信じれたのかな? まあ、今は良いや。

 

「ベルさん、行きましたね」

 

「そうだね、まあ、リリルカ君もいるわけだし大丈夫だろう」

 

 二人の幼女が楽しそうに会話をする......一部の特殊性癖の(男神)が喜びそうな絵だなー。

 

「あ、そう言えばヘスティア様」

 

「なんだい?」

 

「今のベルさんのステイタスってどれぐらいですか? ベルさんは見ていかなかったから気になって」

 

「あー、それは......見るかい?」

 

「え、ええ。見ていいのなら」

 

 なぜだか渋るヘスティア様は共通語(コイネー)に直されたベルさんのステイタスを書いた紙を私に見せる。そこに書かれていたベルさんのステイタスは......

 

「オールアビリティA!? いや、これはほぼオールアビリティSじゃないですか! それに、何ですかSSって」

 

 魔力を除く四つのアビリティはSで魔力も後少しでSに届く。そしてその中で私の、いや、これを見たら誰もが違和感を覚えるだろう敏捷のアビリティ。

 

「ヘスティア様、ベルさんはまだ冒険者になって半年ですよね」

 

「......ああ、ベル君は君より長いがまだ半年しかたっていない」

 

「私には二つの成長補正スキルがあります。だから1ヶ月なんて言う異常な速度でステイタスが成長し、ランクアップまでこぎつけました。

 しかしベルさんは違う......はずです。少なくともベルさんからそんなスキルの存在を聞いたことはありません」

 

 ヘスティア様に問いかける私、それに口を閉ざしたままのヘスティア様。

 

「私に言いたくないのであれば構いません。それはヘスティア様の自由ですから......だけど私は貴方の家族じゃないんですか? だから......いいえ、何でもありません」

 

 咄嗟に紡ごうとした言葉を私は呑み込む。私がそんなことを言う資格はないと、心の中で理解しているから。

 

「アリスちゃん......」

 

「いえ、いいんです。ヘスティア様が言いたくないのでしたら。その時まで待ちます」

 

 ヘスティア様が少し迷う素振りを見せるが、私は顔を背けたまま言葉を吐き出す。本当は泣き出したくてたまらない。沈んだ気分を紛らせるために地下室から出る。

 ヘスティア様に止められたようにも聞こえたが私は止まらなかった、感情がコントロールできずに両方の頬に涙が伝う。

 見た目は十に届くか届かないかの可愛らしい幼女だが、精神年齢は二十に近い。そんな肉体と精神の(ギャップ)からか、想定していたよりも精神が磨り減っていたらしい。その上ヘスティアの隠し事が心の傷(トラウマ)を刺激することになり、感情が爆発したらしい。

 半場飛び出るような形で地下室から出てきた私は涙を流しながらとぼとぼと歩く。涙は全く止まらず頬を濡らしていた。

 

「ぅぅ、わだしだっで、だよっでほじがったっ......」

 

 何らかしらベルさんの成長で悩むところがヘスティア様にはあったはず。それなのに一人で考え込んでいることが悲しかった。私だっていると言うのに。

 どこに行くとも決めずに歩いていた私は無意識の内に摩天楼施設(バベル)に、いや、ダンジョンに向かって歩いていたらしい。もう太陽は沈みきり、冒険者ですら出入りをすることの無い時間だと言うのにダンジョンの入り口にはよく知るファミリアのエンブレムが見えた。

 

「あれ? アリスちゃん......っ!? どうしたのっ!?」

 

 私が歩いて来たことに気がついたのか、ティオナさんがこちらに手を振ってくるが、私の頬を伝って溢れ落ちる大粒の涙を見て走って来る。

 

「あ、いいえ、なんでもないでず......」

 

 心配かけまいと笑おうとするが、涙は頬を伝い、声は少し上ずる。

 

「ねえ! ちょっと来て!」

 

 ティオナさんが私を見て大丈夫じゃないと判断したのだろうアイズさん達を呼び、私をつれていく。

 

「どうしたの? 余り迷惑をかけないで......って、アリスちゃんっ!? ど、どうしたの!?」

 

「なんで泣いてるの? 大丈夫?」

 

「ふむ、これは見逃せないね。大丈夫かい? 話を聞こう」

 

 フィンさん達に心配されてしまい、少し申し訳なく思いながらあったことを話す。

 見た目的には十代にも満たない幼女な訳だけど、精神年齢は16。あまりにも幼稚なことで顔が真っ赤になるのがわかる。

 

「アリスちゃんらしい悩みだね。ふふふ、神様思いで君の神様も鼻が高いだろうね」

 

「そうだといいのですが、うう、恥ずかしいっ!」

 

「あははっ! ロキもいい神様なんだけどねー!」

 

「アリスちゃんも子供らしいところがあるのね」

 

 暖かい目で私を見てくるフィンさん達に思わず顔を手で覆ってしまう。それを見たアイズさんの可愛い。と言う言葉にさらに顔を赤くする。

 あまりの恥ずかしさにそれこそアイズさん達の前から逃げ出したい程に、だけども私が逃げようと向いた方向にベートさんが現れたことによってそれは出来なくなった。体は動こうとするのだが、思考が働かない。ベートさんに釘付けになる。訳がわからなくなり、半場本能的にベートさんに抱きつく。本当に意味がわからない。惚れたのは事実だがこの状況で抱きつくなんて、奇行にも程があるだろう!?

 

「なんだ? 目元があけぇじゃねぇか。どうしたんだ?」

 

 いつもなら、離れろっ! なんて言って強引に引き剥がして来るのに今日は頭に男性特有のゴツゴツした手をおいて優しく問いかけて来る。

 えっ? と困惑しながらベートさんの顔を見上げてみれば少し恥ずかしそうに頬を赤らめていて、

 

「ベートさんっ!」

 

「なんだ......「チュッ」っ!?」

 

 ピョンとジャンプをしてベートさんの頬にキスをする私。何故だか達成感で満たされていく薄い胸の下で心臓をバクバクと高鳴らせながらベートさんの元を離れる。

 ベートさんは硬直したままで動かない。それを見てティオナさんとティオネさんは大爆笑している。フィンさんは苦笑し、アイズさんの目が据わる。私はその人たちの間をくぐり抜けて〈摩天楼施設(バベル)〉の前で止まって、アイズさん達に向かって手を振る。

 

「皆さん! ちゃんと帰ってきてくださいね!」

 

 言うだけ言って〈摩天楼施設(バベル)〉の中に入っていく。ダンジョンの入り口でギルドの職員に冒険者の証--ペンダント型にしてもらった--を見せて、入っていく。

 入ってすぐのところでロザリオ型--形は一週間でローテーションしている--のペンダントを握り、紐を取る。すると私の身の丈を越える杖に代わる。それをしっかりと握り走りだす。いまだに心の中で燻る火種を消し飛ばす為にも私は怪物(モンスター)を倒す!

 そう意気込んで怪物(モンスター)を片っ端から駆逐して早二時間。八層から九層に降りる階段の前でふと足を止めた。やけに人が多いのだ怪我をしたわけでは無いのに。

 

「どうしたんですか?」

 

「あ、君、この先には行かない方が良い。ミノタウロスが九層にいるからね」

 

 疲れきった冒険者の一人が放った言葉はにわかに信じ難いものだったが他の冒険者に聞いても同じことを言うので本当なのだろう。

 私は複数買っていたポーションを冒険者に渡し、階段を急いで降りる。濃い血の臭いを鼻が敏感に察知し、その方向に向かって走る。その道中でベートさん達に出会い、お互いに得た情報を交換した。すると冒険者から聞いたらしいのだが、白髪の少年(・・・・・)がミノタウロスと戦っていたらしいのだ。

 私はそれを聞いて今一度加速する。その白髪の少年がベルさんならば危ないからだ。ステイタス的には大丈夫でも、心がなっていなければ負ける。ベートさん達も私と共に走るが、

 

「おい、待て」

 

「ぇ?」

 

 ベートさんの鋭い制止の声に止まると、鋭くルームの奥を睨み付けるベートさんが私の一歩前に出る。するとルームの影からのっそりと猪人(ボアズ)が出る。

 

「あ、オッタルさん!?」

 

「なんだぁ? アリスはオッタルと会ったことがあるのか?」

 

「はい、つい先日ですが......何もされてませんよ?」

 

「何もされてないなら良い、お前は先に行け」

 

 ベートさんは私に聞こえるぐらいの声でそう言うと、いつの間にかオッタルさんに近付き、蹴りを入れた。しかしそれはオッタルさんの上げた左腕によって防がれている。オッタルさんは余っている右腕を振るいベートさんを殴ろうとするがその間にフィンさんが入り込む。

 

「この先に彼はいそうだ! 僕の親指が疼く! アイズと一緒に行ってくれ!」

 

 フィンさんの言葉と共に金色の風が私を包み、抱え込まれる。

 

「アイズさんっ!?」

 

 私を抱き抱えたアイズさんは私では目に追えない速度で走る。風となったアイズさんは恐ろしい速度でダンジョンの奥へと進む。

 そして、ついにベルさんのいるルームにたどり着く。そこには銀色の大剣を片手剣のように振り回す片方の角が折れた(・・・・・・・・)ミノタウロスと身体のあちこちを傷付けたベルさんがいて。、身に付けていた鈍色の胸当て(ブレストプレート)翡翠(エメラルド)色のサポーターは砕けて破片が落ちている。

 アイズさんの腕から離れた私はブレスレットに変えていた杖を具現化させようとして、ベルさんとミノタウロスの間から放たれた強力なプレッシャーに動きを止めて目を向ける。

 

「たてる?」

 

 プレッシャーを放っている張本人のアイズさんは何時もと変わらない声音でベルさんに向けて、手を伸ばす。

 ベルさんは差し出されたその手を見て歯を食い縛り、伸ばされた手を払う。

 

「もう、アイズ・バレシュタインに助けられる訳にはいかんないんだ!」

 

 アイズさんの手を払ったベルさんは立ち上がり、〈神様のナイフ(ヘスティア・ナイフ)〉を左手に持ち、ミノタウロスと対峙する。

 

「ははは、獲物の横取りはご法度だろ?」

 

「でも、大丈夫なの!? 彼ってLv.1なんでしょ!?」

 

「彼が選んだんでしょ、さすがに危なくなったら助けないとだけ、ど......」

 

 ティオナさんの言葉が徐々に小さくなっていく、そしてそこに来たリリさんを担いだリヴェリアさんとフィンさんがベルさんとミノタウロスの戦いを見てベートさんに向かって言葉を投げ掛ける。

 

「ベート、前に彼を見たとき、彼はよくみる三下ではなかったのかい?」

 

 ミノタウロスと戦うベルさんは〈Lv.1〉だ、ミノタウロスは〈Lv.2〉であってもパーティーを組まなければ楽には勝てない強敵だ。

 そのミノタウロスとベルさんは、押されぎみながらも一方的な蹂躙(ワンサイドゲーム)ではなく対等な、等しく命をかけた攻防を繰り広げていた。

 

「おい、アリス、なんであいつはミノタウロスと戦えてやがる」

 

「......ベートさんに蔑まれ、多くの人に笑われながらも、恋い焦がれる人と対等になるために走り続けたんです」

 

 ベートさんは私の言葉に目を見開き、ベルさんの戦いを見る。

 ベルさんの持っていた両刃短剣(バゼラート)の刃が宙を舞い逆手に持っていた両刃短剣(バゼラート)の柄を投げ捨て、左手に握り込んだナイフを腰に溜め、ミノタウロスに突撃する。

 それを見たミノタウロスは目を見開き大剣を強引に横にして、ベルさんの一撃を防ごうとするが、握り込んでいたものが先に折れていた短刀の刃だと気付き、避けようとするがもう遅い、右手で逆手に持った紫紺色の輝きは大剣を握った手首を貫き、筋肉や血管、神経を引き裂き、大剣を握った手ごと切り飛ばす。

 ミノタウロスの苦悶の声がルームに響き渡る。宙を舞う大剣のグリップをベルさんは握りしめ、大剣に振り回されるような形だが、ミノタウロスに傷を増やしていく。

 ミノタウロスが徐々に押され始め、大きく距離が開く。

 ミノタウロスは手首から先のなくなった前足を地面に踏み締め、臀部を上げ頭を下げる。それは高い潜在能力(ポテンシャル)から繰り出される突進の事前動作。

 それを見たベルさんは大剣のグリップを握りしめ、真っ正面から向き合う。ミノタウロスが踏み締めた四肢を稼働させ、ベルさんに向かって突進する。

 そしてベルさんは大剣を腰に溜め、ミノタウロスに真っ向から激突する。

 周りからはその選択に否を出すが、すぐさま両者は衝突する。

 ミノタウロスは下からの突き上げ、ベルさんは上段からの振り下ろし。両者の一撃が激突し、銀色の破片が飛び散る。ミノタウロスに雑に扱われ、耐久力を減らしていた銀色の大剣はついに砕け、ミノタウロスは勝利を確信した笑みを浮かべる。

 しかしベルさんは、砕けた大剣を投げ捨て、鞘に戻していた紫紺のナイフを握り、着地と同時に強引に反転しミノタウロスの背にナイフを突き刺す。そしてナイフの柄に右手を置き叫ぶ。

 

「ファイヤボルトォ!!」

 

 右手から魔法を打つときに漏れ出る特有の輝きが出たと思うとミノタウロスの胸がボンッ! と膨らみ、口から黒煙が吹き出る。

 ミノタウロスは背中に張り付くベルさんを叩き潰そうと腕を振り上げ、

 

「ファイヤボルトォォォォ!!!!」

 

 それよりも速く、ベルさんの放った魔法がミノタウロスを内側から焼き付くし、内に溜まった炎がミノタウロスの上半身を破裂させることで外にあふれでた。

 ベルさんはミノタウロスだった灰と大きな魔石。そして芯まで赤くなった角の前で立っていた。が魔力がなくなり気絶していた。

 

「魔力切れですか......はぁ、ベルさんったら」

 

 私は少し笑いながらもため息をつく。ヘスティア様が聞けば発狂するだろうが、ベルさんは冒険をした。確かに今日、冒険をしたんだ。とその勇姿がいまだに離れずなんだか冒険談の実物を見ているようでハイテンションのままいた。

 ベートさん達が何かを言っているが全く聞こえ無いぐらいに心が高揚していた。

 

 

 ベルさんとミノタウロスとの戦いから一日が明け、ベルさんとリリさんの体力も回復し、私も含めた三人でヘスティア様にお説教を貰った後、私とベルさんのステイタス更新を行ったのだが、

 

「ふふふ、おめでとうベル君。ランクアップだよ」

 

「え? 本当ですかっ!?」

 

 ベルさんのランクアップを告げるヘスティア様の嬉しそうな声を聞きながら私は地下室を出る。

 首にぶら下がったペンダントは左右に揺れ、私の表情は晴れやかに輝いている。

 ヘスティア様にベルさんのステイタスの秘密も伝えられなんだかんだあって必要とされていると理解できたからか、曇っていた心の天気が快晴に変わったような感じだ。

 

「ふふふ、これから何をしよう」

 

 ああ、楽しみだ。これからベルさん達と共に冒険をするのが、ベートさん達に冒険の話をしてもらうのが、楽しみなことが多くて困っちゃう。

 

 

 ええ、そうね。私も楽しみだわ。アリスは?

 

 私も! 冒険もお話も楽しいことばかり!

 

 

 これからどんな冒険が出来るのか、どんな話が聞けるのか、とっても楽しみ!

 




いかがでしたか?
今回も更新が遅くなり申し訳ありません。こんな作品でも読んでいただけて本当にありがたいです。

今回で原作の三巻まで進んだことになります。ここまで長続きするとは......

感想、評価、誤字脱字報告等いただけたらありがたいです。

それではこのぐらいで、また次回に。


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挑戦と勇敢の四頁目
アリスちゃんが復帰する御話


お久しぶりです。

サブタイトルが思い浮かばないこの頃、全く内容も思い浮かばず他の小説を書き始める始末。

久しぶりにワンダーをしに行くか......


 先日のベルさんの戦いから一夜が明け、私はベルさんと共にギルドに向かったのだが、

 

「半年でランクアップゥゥゥ!!!???」

 

 おっとこれはどこかで見たような......

 

 

「ごめんっ!!!」

 

「アハハ......大丈夫ですよ、いずれ知られることですし」

 

「「どこかで見たことがあるような......」」

 

 ベルさんのランクアップの報告を受け、詳しいランクアップの経緯を聞くためにも防音のしっかりとした個室に向かった。

 私とミイシャさんは面白がってついてきたのだがどこかで見たことがある光景に二人揃って首をかしげていた。

 

「一人でミノタウロスを討伐......あれだけ冒険しちゃいけないって言ったのに......」

 

 ベルさんがランクアップした経緯を話していればエイナさんが頭をかかえる。

 私はエイナさんに御愁傷様です。と心の中で思いながらベルさんの報告に耳を傾けていた。

 

 

 僕のエイナさんへの報告を終え、アリスちゃんと二人で壊れた防具を買いに〈摩天楼施設(バベル)〉に向かっていた。

 

「アリスちゃんも上にお店があること知ってたんだね」

 

「はい、杖以外の武器を探しに来たときに上のお店を見つけまして......それからもちょくちょく投げナイフだったりを買いに」

 

「へー、投げナイフとかも使うんだ」

 

「はい、手数が多いことに越したことはないので」

 

 話は特にはずむことなく〈ヘファイトス・ファミリア〉のランクの高い冒険者ではなくランクアップも果たしていないような構成員が作品を販売する店に到着した。

 

「それじゃあお店の中を見て回ろう」

 

「お好きなのを買ってください。資金はありますし。何よりランクアップの記念にもなりますしね」

 

 嬉しそうに笑うアリスちゃんに思わず見惚れてしまう。アイズさんばっかりを見ていたせいであんまり気にしていなかったがランクアップを期に周りの仲間のことを見るようにしていたが、アイズさんに匹敵するような美形ばっかりなことに気がついた。

 今さらに意識をしてしまうのはおかしいがそれでもアリスちゃんのいつもの大人びてる雰囲気は感じられない年頃のような笑みは不意打ちだと思う。

 

「そ、そうだね」

 

 赤くなっていた顔をそらして返答をする。

 アリスちゃんは特に気にすることもなく店の奥に歩いていっていた、僕もそれを追う。

 それから堂々と展示されていた大剣や綺麗な装飾を施したきらびやかな軽鎧を見たがどれもグッと来るものはなく、十数分見て回ったが僕が使っていたあの軽鎧と同じ作者のものは見つからなかった。前のように乱雑に作品の入れられた箱の中を見ても見つからず、店の人に聞こうかと思っていた時。

 

『......んでだよ! ......にも......』

 

 誰かと誰かが口論しているのが強化された聴覚が感知した。気になって声が聞こえて来た方に向かってみるとそこでは短く切った赤髪の青年とこの店の定員さんが言い争っていて、定員さんがこちらに気づくと、

 

「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」

 

「え? あ、はい。ヴェルフ・クロッゾさんの作品を探してるんですけど......」

 

 そう言うと定員さんはばつの悪そうな顔をし、さっきまで定員さんと口論をしていた青年がこちらを勢いよく振り向く。

 

「はーはははっ! ほらな! 俺にも顧客(ファン)の一人ぐらいいるんだよ!」

 

「え?」

 

「よう、俺の顧客(ファン)一号。あるぜヴェルフ・クロッゾの作品」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ、あるぞ。ほら、持っていけ!」

 

 そう言ってクロッゾさんはずいっとカウンターに置いていた鎧だったりが入っているケースを僕の前に置いた。

 

「え? これってあなたのじゃ?」

 

「ああ、そうだぜ。俺がヴェルフ・クロッゾ。よろしくな顧客(ファン)第一号」

 

 

「さて、まず自己紹介からだが、俺はヴェルフ・クロッゾ。ヘファイトス・ファミリアに入ってる」

 

「私はアリス、ヘスティア・ファミリアに所属しています」

 

「あ、僕はベル、ベル・クラネルです。アリスちゃんと同じヘスティア・ファミリアに入ってます」

 

 お店で少し話していたんだけど、アリスちゃんの提案で談話スペースを使って話すことにしたけども、なんだか視線を感じる......

 

「ベルさんは半年でランクアップした有名人ですからね、ここで関係を持っていれば後々のしあがれる......そんな考えで回りの人は見ていると思いますよ」

 

「まあ、違いないな」

 

 感じたことのない視線にウズウズしていた僕に二人の言葉がやけに納得できる言葉だった。全身を舐め回すような不快な視線だけどランクアップした者の宿命らしい、アリスちゃんが苦笑いを浮かべながらそう僕に耳打ちをする。

 

「想定Lv4の怪物を一人で倒したって言うLv1の少女も相当有名だと思うぞ」

 

「......あの値踏みするかのような視線は少なくとも女の子に向けるものじゃないですね」

 

 ヴェルフさんの言葉に苦虫を噛み潰したような表情で答えるアリスちゃん、相当堪えたらしい。

 

「おっと、話がそれちまった。ベル......でいいか?」

 

「あ、はい。大丈夫ですよ」

 

「ベルは少なくとも俺の防具を買って使ってくれた、見た目や名前は関係なく、違うか?」

 

「あ......はい」

 

「そこでなんだが......俺と専属契約を結ばないか?」

 

 

「だからって、誰とも知れない鍛冶士を一向(パーティー)に加えますか!? アリス様もいたのに!」

 

「リリさん落ち着いて。私も考えなしにOKをだした訳じゃないよ?」

 

 アリスちゃんがリリを宥めているのを苦笑しながら僕はヴェルフに自己紹介をしてもらうよう促す。

 

「あー、なんだ。一応自己紹介しておく、ヴェルフ・クロッゾ。ヘファイトス・ファミリア所属の鍛冶士(スミス)だ」

 

「え? クロッゾ......? 呪われた魔剣鍛冶の......」

 

「呪われた魔剣鍛冶? リリ、どういうこと?」

 

 ヴェルフの自己紹介を聞いて気になる言葉をリリが呟く。

 

「ええっと、そこは私が説明しようと思います」

 

 リリに聞こうとしたときにアリスちゃんがそう言って回りを確認する。摩天楼施設(バベル)の中、回りに他の冒険者がいる迷宮(ダンジョン)に降りるところの近くから少し外れた人の少ないところまでアリスちゃんに連れられ、

 

「あんまり聞かれたくないことですしね......それで、呪われた魔剣鍛冶って言うのはクロッゾ一族のことを言います。とある事件をきっかけに没落したんですけど......クロッゾ一族はその事件で呪われたんです、その事件は......」

 

 それからも説明が続いたけど、要約すると本来の魔法よりも強い力を持った魔剣を国に納めて地位を得ていたヴェルフの家は魔剣を作る力を与えていた精霊の怒りを受けて、呪われて魔剣を作れなくなり、没落したと。

 その様を見て呪われた魔剣鍛冶なんて呼び方をされていると、

 

「そんなところです。すいませんヴェルフさんには不快な話をしてしまって......」

 

「ん? 気にすんなってもう慣れたしよ」

 

 そう言って笑うヴェルフはんで、と話を繋げる。

 

「一応ランクアップまではパーティーを組ませてもらうつもりなんだが、いいか?」

 

「私は勿論大丈夫ですが、リリさんは......」

 

「嫌です。ランクアップまでなんてちょうどいいカモみたいなものじゃないですか」

 

「うーん、ここでヴェルフさんと関係を築いておけば、ヘファイトス・ファミリアと友好な関係を築けるかもしれません、損は少ないと思いますよ? リリさん」

 

「......私は反対ですが、ベル様がいいと言うなら」

 

 アリスちゃんの説得に折れたのか渋々と言った雰囲気でそうリリは言う。

 僕はリリにありがとうと言ってヴェルフに手を出す。アリスちゃん曰く、最初の印象を良くするのは友好な関係を築きやすくらしく、誰かとパーティーを組んだりするときは握手からはいるのもいいと言われたからだ。

 

「よろしくね、ヴェルフ」

 

「おう、よろしくな。ベル」

 

 ヴェルフは僕の差し出していた手を握り、僕も握り返す。初めてにしては淀みなくできたと思う。

 

「それじゃあ、早速行きましょう。迷宮(ダンジョン)に」

 

 アリスちゃんは可愛らしい笑みを浮かべながら迷宮(ダンジョン)の入り口を指差した。僕達は頷き、迷宮(ダンジョン)に向かった。

 

 

「今回はしっかり後衛になれそうですね」

 

「なんだ? アリスは魔法も打てるのか?」

 

「はい、この頃は槍を使ってばっかりでしたが」

 

 数回戦闘をこなして、ヴェルフさんとベルさんの前衛がしっかりとしていたこともあり、槍を持っていた私はそろそろ杖に切り替えようかと考える。

 

「ん? なにやらあっちが騒がしいな」

 

 少し考え事をしているとヴェルフさんの呟きに意識が現実に引き戻される。

 すでにベルさんは走り出していて、それを追うようにしてリリさんも走り出している。ヴェルフさんは私を見て肩を少し竦めた後ベルさん達を追う。それを私は急いで追った。

 追いかけていった先は少し広めのルーム。私達以外の冒険者が複数いるなかで中央にいるのは、

 

「あれは〈小竜(インファント・ドラゴン)〉!?」

 

 私の少ない心傷(トラウマ)の一つ、あの時の個体は私が仕留めたけれども、いまだに身体は強張るし、武器はカタカタと震えてしまう。だけど立ち向かうことはできる。

 

「アリスちゃん! 少し時間を稼いで!」

 

「了解です!」

 

 硬直していた戦いの盤面に私と言う横槍が入ることで一気にこちらに傾く。

 槍を片手に〈小竜(インファント・ドラゴン)〉の目の前に躍り出る。

 突然現れた冒険者に――ほぼ反射的にだろう――鋭い爪を振り下ろす〈小竜(インファント・ドラゴン)〉だったが、容易く回避され、付き出された槍が硬質な鱗を貫きその下の肉に食らいつく。それは十近くの冒険者が戦ってつけられなかった傷で、〈小竜(インファント・ドラゴン)〉からすれば初めての激痛だった。

 

 ガアァァァッ!!!

 

 逆ギレして私に向かって再度その爪を振り下ろすが、槍の表面を使ってその一撃を難なく防ぎ、

 

「《四創聖よ、力を私に!》」

 

 私の魔法はカスタムがある程度できる。WLW内のゲームシステムにあったアシストカードの選択のように、私が決めた詠唱を加えることによって威力を上げる。射程を伸ばす等々、詠唱は短いけど効果は覿面。

 硬く魔法にも強い〈小竜(インファント・ドラゴン)〉の鱗を肉ごと容易く吹き飛ばす。

 

「アリスちゃん! 退いてっ!!」

 

 そこでベルさんの声がルームに響く。

 私は槍の柄の部分で〈小竜(インファント・ドラゴン)〉の頭部を叩き、注意を引いたところで目の前から素早く横に飛び退く。

 

「《ファイヤ・ボルトォ!!!》」

 

 そして私の横を掠めるようにして巨大化、高速化した青白い光に包まれた雷型の炎が駆け抜ける。その雷炎は〈小竜(インファント・ドラゴン)〉を正面から喰い千切り、ルームの壁まで駆け抜ける。

 轟音が響き、遅れて〈小竜(インファント・ドラゴン)〉の倒れる音がルームに響く。

 心傷(トラウマ)との再戦は思った以上にすんなりと終わってしまった。がいきなり来て一撃で上層最強と言われる怪物(モンスター)を倒してしまったベルさんと、いいようにあしらっていた私に注目が向く。

 下手な詮索をされても困るのでそそくさと下の階層に逃げるようにして行った。

 

「これより下の層は〈最初の死線(ファーストライン)〉と呼ばれてます。まだまだ私達は弱いですが更に下に行けるように頑張りましょうね? ベルさん」

 

 振り返ってそう満面の笑みで言う。それを見たベルさん達が苦笑いをしていたのは気のせいでは無いだろう。

 

 

 異界の魔法少女と兎少年達が新たなステージに足を踏み入れたその時、彼女達の主神はと言えば摩天楼施設(バベル)の上層で神会が開かれ、そこで小さくなっていた。

 

「ラキアの方はあんまり動いてないな、そこまで気にしなくても良さそうだ」

 

 名前も知らない男神の報告が何度か続き、神会に参加していた神達がぐたーっとなってきたが、

 

「さて、そんじゃお次は二つ名決めといこか!」

 

 ロキがそう言った瞬間にやる気無さげにしていた神達が色めき立つ。

 ボクもそうだ。アリスちゃんは......その、悪いがロキに丸投げしようと想う。なぜだかわからないけどロキの子供達に好かれているみたいだし。だから今回はすまないがベル君に無難な二つ名を上あげるためにボクは全力を尽くす!

 

「よし、命ちゃんの二つ名は〈絶†影〉で決まりだ!」

 

「うわあぁぁぁっ!!!」

 

 タケの悲痛な叫びが聞こえるが、ボクはそんなことよりもいかに普通の二つ名をつけさせるかシュミレーションしている。

 

「んじゃ、次! 次はヘスティア・ファミリアのリトル・アリスや!」

 

「おおっ! 来たな最速少女(レコードホールダー)が」

 

「うーん、見た目は可愛いし仕事もできる優秀な子ってのはわかるんだけどな......一ヶ月はいくらなんでもおかしいだろ」

 

「だな、どうなんだ? ヘスティア」

 

「うっ......」

 

 アリスちゃんの番になり、その異様なまでに速いランクアップの裏にボクが神威を使って違法に改造したんじゃないかと疑惑が出ている。

 

『私のせいでヘスティア様が困るようなことがあれば遠慮なく私のことを喋ってもらって構いません。ヘスティア様は気にせず言っちゃってください』

 

 ニコッと可愛らしく笑ってそう言うアリスちゃんの顔が浮かぶ、ボクにしては相当出来すぎた子供だと思う。

 それこそロキ・ファミリアにだって行けただろうに、でもボクのファミリアに留まってくれてるのはとてもありがたいことだ、ご飯も美味しいし、

 

「っ......ごめん、アリスちゃん」

 

「ん?」

 

「......アリスちゃんには成長を補正するスキルが発現している」

 

「「「「なんだと(やて)!!!???」」」」

 

「だから恐ろしい速度でステイタスも上がる、それにアリスちゃんが倒した怪物(ジャバウォック)はアリスちゃんにとって因縁の相手だったんだ。ランクアップしてもおかしくないだろ?」

 

 

 アリスちゃん、ごめんね......! そう頭の中で言いながらボクにさまざまな質問を投げかけてくる他の神達をあしらう。そうやって一通り捌ききった後にアリスちゃんの二つ名を決める事になったが、すぐに決まった。その名は、

 

「アリスの二つ名は〈不可思議少女(ワンダー・ガール)〉に決定や!」

 

 比較的まともになったのはいいことだろう。うん

 

 




いかかでしたか?

今回は字数も少ない上に内容も薄いと......

さてさて、久々にワンダーをしに行った訳ですが、ジョーカーにボコられるわ、玉藻に封殺されるわ、引退を考えましたね。あんまりお金を入れてないので......

さて、そんな話はさておき、オリ主(アリスちゃん)の二つ名が決定しましたがネーミングセンスの無さに毎度うちひしがれます。

誰か優しい人がオリ主の次の二つ名をきめてくれないかなぁ(まだまだ先)

とまあ、ふざけるのはここまでにして、私の拙い作品を読んでくださっている皆様に感謝申し上げます。誠にありがとうございます。
感想、評価、お気に入り登録等々、いただけたら励みになります。
それでは次の作品で!


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中層に向かう準備をするお話

いったい何をしていたんだニャラルトフテフ!
お久しぶりです。いまさらながらに更新しに戻ってきましたニャフです。
もう6カ月がたってしまいました、そのくせにこの内容の薄さ、事案を免れない......

少々、章などをいじくってみました4巻と5巻は同じ章として扱っていきます。


 

「いらっしゃいませー!」

 

 カラン、と扉が開く音に反応したシルが客を店内に案内する。私は両手にジョッキを複数持ち、既にできあがっている冒険者()に持っていく。机の上の空いたスペースにジョッキを置いて厨房に戻ろうとしたとき、シルに呼び止められる。

 

「リュー、アリスちゃんが呼んでるよ~」

 

 その言葉を聞いた私は丁度できたらしいアリスさんが注文した料理を両手に持っていつもアリスさんが座っているカウンターの端に向かう。

 

「あ、リューさん。ありがとうございます」

 

 可憐に笑う目の前の少女に私は注文されたパスタと紅茶を置く。すると彼女は目を輝かせて料理に釘付けになる。

 私は彼女の隣の席に座って彼女がパスタを食べるのを眺める。彼女自身は特にいいところで育った訳ではないといっているが、食べ方には品があるし、机や唇を汚しているところを見たことがない。

 どこかの貴族のご令嬢と言われても遜色ないほどに彼女の食事やいつもの立ち振舞いは品がある。

 

「どうしました? リューさん、私の顔になにかついてますか?」

 

「い、いえ。ただ......アリスさんの食べ方はいつも綺麗だと思いまして。良いところの産まれではないのですよね?」

 

「ふふっ、よく言われます。だけど私は至って普通の平民でした」

 

 見た目は愛らしく、万人受けするだろう可愛らしい笑みを浮かべ、少し高めの年端もいかない少女の声。

 

「やっぱり美味しいですね、ここの料理は」

 

 パスタを半分ほど食べ終わり、水をコクコクと飲み、そう呟く彼女は胸元で輝く銀色のペンダントをそっと握って、いつも着ているフリルの多い独特な服の胸元にそれを直す。

 彼女曰くあれがメインの武器らしい。私は彼女が戦っているところを見たことがないためどういった物かはわからないが、それでも彼女の服や武器が魔法の品、それも極上の品だと言うのはいつも見ていればわかる。

 そんなことを考えているといつの間にかパスタを食べ終わったアリスさんが皿の上にフォークを置き、水をコクコクと飲んでいた。

 

「ごちそうさまでした。とても美味しかったですリューさん。勘定をお願いできますか?」

 

「! はい、400ヴァリスです」

 

「400ですね~、はい、400ヴァリスです」

 

 そう言って私の手を握って(・・・)直接金貨を渡してくる。しかし、反射的に手を振り払うことを私はしなかった。

 

「リューさん、どうかしましたか?」

 

「い、いえ......」

 

 私は誤魔化しながら400ヴァリスをカウンターの上に置いてあった籠の中に入れて、私はアリスさんにお辞儀をする。

 

「おごちそうさまでした~、......あ!」

 

「? どうしました?」

 

 アリスさんが店を出ていこうとしたとき、途中で何かを思い出したらしくまた私の近くまで戻ってくる。

 

「私は明日から中層に行こうかと考えています」

 

 アリスさんの言葉に私は驚きながらも冷静に返す。

 

「! 今のステイタスの最高値は?」

 

「魔力がAで一番低いのが器用でEです」

 

「なるほど......ステイタス的には十分すぎるほどですが......一党(パーティー)を組むのがやはり一番いいかと思います」

 

 私のその言葉に、やっぱりか~、と頬をぽりぽりと指でかきながら苦笑を漏らすアリスさんはそれを予想していたらしく、私に礼を言って席を立つ。

 

「ありがとうございました」

 

「いえいえ、こちらこそ。おごちそうさまでした~」

 

 手を降って〈豊穣の女主人〉を出ていく彼女の背中には神からの加護が宿っているのだろう。

 

「リュー! いつまでボサッとしてんだい! 働きな!」

 

 ミア母さんの言葉に私は思考を切り替えて接客に戻る。アリスさんの事がなぜか気になるものの私は気のせいだと言い聞かせ、手渡された麦酒(エール)を冒険者達に持っていった。

 

 

一党(パーティー)を、組む......」

 

 中層に進出するに向けて前はこのオラリオで名を馳せたらしいリューさんにアドバイスをもらいに〈豊饒の女主人〉に行ったのだが......

 

「ロキ・ファミリアの皆さんは力の差がありすぎるし、遠征に行ってるみたいだからダメ......」

 

 私は〈摩天楼施設(バベル)〉に向かう道中、一党(パーティー)について考えていた。

 私は色々と異色なせいか同業者(冒険者)の知り合いが少なく、ベルさんやリリさんと都合が合わない時にはソロで潜る事が多かったため、いざ一党(パーティー)を組もうとすると相手がいないと言う悲しい事実に直面することになった。

 ほかにも複数思い当たる人物はいるにはいるが、私と同じLv(ランク)同業者(冒険者)の知り合いはいない。

 

「どうしよう......」

 

「ん......? アリスじゃないか。久しぶりにうちの店で買い物していけよ。何かあるなら相談にも乗るぜ?」

 

「あ、メルクリウス様......お願いします」

 

 

「中層にか......うちのところで行きたいやつがいるか聞いてみるか?」

 

 目の前の少女はそう言うと、瞳をキラキラと輝かせて頷く、いつも見るこの少女は見た目に反した落ち着きようと、やけに大人びた物言いに本当は年を取っている方なのではないかと思うが、こういう見た目相応の態度も取るのだからよりわからん。

 

「あ、でもメルクリウス様や眷属の方に迷惑になるのでは......?」

 

「ん? ああ、そこは気にしなくていい。と言うかこっちが特をする可能性の方が高い」

 

 俺の言葉に首を傾げる目の前の少女は自分がどれだけ商売に使えるのかわかっていないようで、少々不安になる。

 

「アリスは子ども達と神々(俺たち)両方から見られている。だからこそアリスとパイプがある俺やファミリアも名前が出る。そしたら人が来るだろ? 迷惑どころか商売のチャンスが増える」

 

「なるほど......なら、お言葉に甘えさせていただきます」

 

 苦笑いを浮かべながら律義に頭を下げる目の前の少女を微笑ましく思いながら俺は今残っている中で、アリスとレベルが近い子どもが何人いたかと思い出す。

 

「ちょっと待ってろ、何人か連れてくるが......何かこれはダメってのはあるか?」

 

「いえ、特にはないです」

 

「そうか、んじゃ店の中見ながら待っててくれ。何かあったら呼ぶかも知れないからその時は来てくれ」

 

 そう言って店の裏に向かった俺は誰が適任かと思考を回す。アリスは詠唱がいらない魔法を使うらしく、魔法使い、と言うよりかは大きな騎槍(ランス)を使って戦うらしく遊撃手の役割がいいだろうから戦士と魔法使い、回復役の三人とサポーター代わりのレベル1かレベル2に成り立ての子どもの四人、とここまで考えて、店から拠点(ホーム)に変わる扉の前に来た。俺としてはヘスティアに恩を売ったり知名度を上げるためにも一緒に中層の攻略をしてくれた方がありがたい。

 

「さて、やる気にさせますかねぇ」

 

 今後の生活のためにも子ども達に頑張って欲しいところだ。

 

 

 メルクリウス様から呼び出されたアタシ達はいつもの一党(パーティー)でメルクリウス様の執務室に向かったが、そこで開口一番に言われたのが、

 

「他の派閥(ファミリア)の少女と組んで欲しい」

 

 アタシ達は一年前にようやくランクアップを果たし、つい二ヶ月ほど前にようやく中層の攻略に乗り出したばかりのアタシ達と組ませたい他の派閥(・・・・)の少女とは一体誰なのか。

 

「組んでほしい少女の名前は、リトル・アリス(最速記録の保持者)

 

「「「!!!」」」

 

 そう考えていたときに与えられた答えは予想を大きく越えた有名人(ビックネーム)だった。

 僅か一ヶ月と少しでランクアップを果たしたとされるヘスティアファミリア所属のまだ年端も行かない見た目の少女。

 神ヘスティアが改造したから、ズル(チート)をしたからこのように早くランクアップを果たせたのだと、そう言う冒険者は多いが改造するには神の力を使う。と言うことは改造していれば他の神々にバレる。しかしそんな事はどの神様も言っておらず、何かしら特殊な事情が重なった結果なのだろうが......いくらなんでも一ヶ月は速すぎる。

 

「まあ、いろいろ思うところはあるだろうが、お前たちにも悪い話じゃない。話し合って決めてくれ」

 

 そう言って執務室のクルクル回る椅子で遊び始める。どうやら話し合う時間、をくれたらしい。

 アタシ達は少ない情報の中で気になるものだけをまとめ、『アリス』という少女について話し合うが......

 

「ダメ、情報が足りなさすぎる」

 

「メルクリウス様、さすがに判断できかねます」

 

 ついに音を上げたアタシ達を待っていたと言わんばかりに手に十数枚の紙をまとめた物を持ち、座っていた椅子から腰を上げる。

 

「そうだろうと思ってアリスちゃんの今出ている情報をまとめてある冊子を作ってある。

 いつ聞くのかと待ち構えていたんだがなかなか聞かないからウズウズしていたんだぞ?」

 

 そういって憎たらしいほどの笑みをこちらに向ける主神にアタシ達は質問を投げ掛けたが......

 

「本当かどうか疑わしいような情報ばかりじゃないか......メルクリウス様、その情報は確かで?」

 

「ああ、勿論だとも。レベル4相当の怪物を〈怪物祭(モンスターフィリア)〉の騒動の時に一人で討伐したのも、成長が早くなる何て言う希少(レア)スキル持ちなのも、全部ギルドから吐き出させた情報だからね」

 

 ギルドからの情報なら正しいのだろうが、なぜ神々がこぞって手に入れたがるような希少(レア)スキルのことを公言したのだろうか。面倒なことになるのは安易に予想できるだろうし派閥(ファミリア)件の少女(アリス)を含めて二人の弱小、引き抜きに来てくださいと言っているようなものだ。

 

「さて、これだけの情報があるわけだが......本人に会わないと判断もしにくいだろう。と言うわけで呼んできてくれるー?」

 

 そう近くに控えていた非戦闘員の団員に声をかけると彼はペコリとお辞儀をしたあと部屋を出ていき、数分もしないうちに戻ってきた。今まで会話の中心となっていた少女を連れて。

 

「ええと、メルクリウス様......なんで私は連れてこられたんですか?」

 

「いやー、アリスちゃん達がギルドに公開してる情報を伝えていたんだが、本人がいるなら直接会わせた方が早いじゃないかって思ったものだから」

 

 そう言うメルクリウス様に半場呆れたような顔をしながらこちらにも視線を寄越す少女はアタシ達が思っていたよりもはるかに幼かった。

 120もないであろう身長にあどけなさの残る容姿が相まってかなり庇護欲を掻き立てられる。とても一ヶ月半でランクアップを果たしたとは信じがたい。

 

「んで、そこにいる四人にパーティーを組んでほしいってお願いしてたんだよ」

 

「そうなんですか......えーとと、アリスです。以後よろしくお願いします」

 

 そう言ってペコリと頭を下げてくるものだから思わず反射的にこちらも頭を下げる。見た目では考えられないほど礼儀正しく、彼女が見た目通りの年齢ではないのはすぐにわかった。

 

「あ、ああ。アタシはカミリアだ、これからも顔を合わせることもあるだろうしよろしく頼むよ」

 

「ボクはミリア、魔法が使えるんだぞー」

 

「んっと、私はホロウ、一応店番なんかもやったりしてる」

 

「私はレーネ、まだランクアップしたばかりだよろしく頼む」

 

 集められていたアタシ達四人がアリスに一通り自己紹介を終えたあと少々きまずい沈黙が訪れたが、アリスがアタシ達よりも先にその口を開いた。

 

「私は、こんな私を拾ってくれた女神(ヘスティア)様と同じファリミアの人に恩返しをしたいんです。だから......こんな私に力を貸してくれませんか?」

 

 そう言って彼女は頭を深々と下げた、紡がれた言葉は彼女の根本にあるもの、そしてアタシ達と一党(パーティー)を組みたい理由。その二つを紡ぐ彼女の瞳はとても見た目相応の幼い女の子ができるものではない。それに、実はアタシたちのなかでは既に彼女と組むことは決定しているようなものだった。相手を見てから最終決定をしようとは思っていたがここまで純粋だとは思ってもみなかった。

 

「そう、か......そういうことならアタシに任せな! アタシ一人だってアンタと組んであげるよ」

 

 バッと勢いよく頭を上げた彼女の顔には喜びと困惑、そして不安の色が伺えた。そんないまの状況を理解しきれていないアリスに畳みかけるように残りの三人が矢継ぎ早に言葉を投げかける。

 

「女神様を安心させたいんだろ? なら回復役が一緒にいた方が安心してもらえるだろう。私もアリスと組むよ」

 

「ボクがいればどんな怪物(モンスター)が来たって安心さ!」

 

「私もついていこう。一応は戦うことだってできるしな」

 

 いまだに現状が理解できていないアリスはあたふたとしながらアタシを見る、アタシを見る紅い瞳は自分がアタシたちに迷惑をかけているのではないかという危惧を孕んでいた。だからアタシはその紅い瞳から目を逸らさずに、どこか誇らしげに言葉を紡ぐ。

 

「アリスと組むことが迷惑などころか嬉しいぞ? だからアリスも辛気臭い顔をすんなって」

 

「! はい! これからよろしくお願いします、皆さん!」

 

 アリスがとてもうれしそうにそう言ったとき、あふれんばかりの可愛らしい年相応の笑顔に同じ部屋にいた全員が浄化されたと後に語ったとかなんとか。

 

* 

 

 《ねえ、マスター。マスターはカードクラフトしないの? 赤毛の人はしてたみたいだけど》

 

 〈またカードクラフトするの? 私もしてるところ見たいな!〉

 

 カミリアさんたちとパーティーを組んで後日迷宮(ダンジョン)に行くことを約束してもらった私は廃れた教会跡の地下室に戻っていた途中に脳内で雑談をしていたシャリスちゃんとアリスちゃんに言われてその機能のことを思い出す。

 カードクラフトってのは言わば鍛冶と同じようなものだ。存在するレシピ通りに素体(ベースカード)とフラグメント、いわゆる素材を集めそれらを使うことで強力なアシストカードを作り出すことができる。ほかにもマスタースキルやソウルカードなんかも作ることができるが素体も素材もない......ん?

 

 シャリスちゃん、ヴェルフさんもカードクラフトをしていたってどういうこと?

 

 《あのヴェルフ? っていう人が作っていた剣......というよりかはここの武器は全部アシストカードみたい》

 

 えっ!? じゃあ素体と素材はどうにかなる......? あ、でも本がない。普通の本じゃできないだろうしせめて白紙の本があれば......

 

 〈誰かに本を作ってもらうのはどうかな? さっきのところとか!〉

 

 あらたな本に物語を描くのって創聖の力だったような......まあ、やるだけやってみるよ。やれたらいいなぁ......

 

 脳内での雑談から暫くの方針を決めた私はひとまずメルクリウスファミリアにUターンし店番をしていたレーネさんに事情を説明しどこの狂人がつくったかわからない文字を書くことのできない白紙の分厚い本を頂けることになった。

私の小さな手を広げたときとおなじぐらいの分厚さの本は使う用途がないうえに棚を無駄に占領していたため近々廃棄しようとおもっていたらしい。

 一応といってメルクリウス様に渡してもいいのか聞いたらしいが二つ返事で許可が下りたそうで、私は分厚い本を抱えて教会跡に向かった。

 道中で夕食の材料を買い両手にいっぱいの荷物を持った私は教会跡の地下室に下り夕食の下ごしらえを終わらせ机の上に白紙の本の最初のページを開きその前でウンウン唸っていた。どうやって何をこの本に書き綴るのか、そもそも筆が無いのだ画面越しで見ていた神筆はこんな感じ......

 そうやって画面越しで見ていた神筆の形を思い出していると、手に突然重みを感じる。

 

「まさかほんとに出てくるなんて......とりあえずこれで書いてみようかな」

 

 恐る恐る手に突然現れた紅く輝く紅玉の神筆のペン先を白紙のページに向ける。

 ゆっくりと白紙のページを押したペン先から滲んだインクが白紙のページに文字を躍らせる。体が知っている、頭の中に無数の文字の羅列が浮かび上がり物語をかたどっていく、いままで戦った怪物との戦闘の記録、そしてその前、ゲームの中であっていたはずの戦いの記録が一斉に脳に流れ込み恩恵によって強化された脳の処理速度をついに超え、私はパタリと気絶した。

 

 

 

「……ん、……くん、……君......アリス君!?」

 

「……? へすてぃあさま?」

 

 頭が痛い、アリスちゃんがいままで戦ってきたときの記録が頭の中に流れ込んできてそれで......

 

「うっ!」

 

「アリス君!? 大丈夫かいっ!?」

 

 大量の情報を思い出そうとしてしまった私を激しい頭痛が再度私を襲うが今回は耐えられないわけじゃない、頭を押さえながら机に寝そべっていた上体を起こしたところで違和感を感じる。私が気絶したときには本を開いていたはずだけど今は丁寧に表紙を上にして閉じてある、その横には煌めく紅玉の神筆がおいてある。私が気絶したとき本は開き文字を書き綴っていた途中だったはず。

 

「アリス君? 大丈夫かい? 机にぐったりと寝そべっていたから心配したよ」

 

「ヘスティア様......気を失ってました、体に影響はないのでそこは安心してください」

 

「本当に大丈夫かい? かなり焦ったんだよ?」

 

「あはは......それは申し訳ないです、もう大丈夫だと思いますしちゃっちゃと夜ご飯作っちゃいますね」

 

 本気で心配そうにするヘスティア様に知恵熱で倒れていたなんて恥ずかしくて言えない、そっと見た時計がもう夕方の時間を指しており私はそそくさと台所に逃げる。ヘスティア様は少し違和感を覚えたのかうーんうーんと唸っていたがあきらめたようにソファに座り込み私が持って帰ってきた分厚い本の表紙を眺めたり、触ったりしているが開いて中を読むつもりはないようだ。

 夕飯を作り始めて十数分で完成したのはジャーマンポテト風の何かと特売で安くなっていた牛肉を焼いて味付けをしたもの、そしてパン。なかなか豪華な夕飯に目を輝かせるヘスティア様に苦笑を漏らしながらもそれらを食器に移して本をどかした机の上に配膳する。

 

「うわぁ......! すごく豪華だけど大丈夫なのかい?」

 

「食費は基本的に私のポケットマネーから出ているので気にしなくても大丈夫ですよ? ベルさんの武器に充てるお金も十分に確保しています」

 

「うぐっ......そのことは本当にごめん......」

 

「そう思っているなら私にも相談してくださいね、ちゃんと相談に乗りますから」

 

 雑談を交えながら食卓を囲む私たちだったがベルさんが帰ってきたことであわただしくなる。

 ヘスティア様はベルさんにいつものように抱き着き怪我がないかなどをてきぱきと確認し机に座るように促す、私はその間に皿に分けておいた夕飯を机に並べ、すぐに食べれるように準備を終わらせる。

 

「今日もお疲れ様ですベルさん、どうぞ」

 

「あ、ありがとう。アリスちゃん」

 

 毎度私に律義にありがとうと言うベルさんの前に皿を並べ、更に私にもヘスティア様にも出さなかった特別な主菜を出す。それは練習してようやく作れるようになったコロッケだ、それも牛肉の入った少々お金のかかった一品だ。

 目の前に出てきた高級品に硬直するベルさんに目で食べていいですよ、とサインを送り私は予定通りに分厚い本を抱えて教会跡の地下室を出る。目指す場所はミアハファミリアの拠点に向かう、少々実験をしたいのでポーションをいくつか購入するためだ。財布の中身を確認しながらルンルンと鼻歌を歌いながら歩く。人通りは多いもののやはりもう夕飯時ということもあり昼間のような人の多さはないもののそれなりに人がいる。その中に見知らぬ男神(変な神達)を見てしまい走って向かうことにした。

 

 

 ポーションを大量に購入し地下室に戻ってきた私はヘスティア様に見られながら分厚い本をめくる。

 気絶してしまったからまだまだ大量に文字を書かなければいけないと少々やる気をなくしていたが、ヘスティア様に催促されて本の最初のページをめくった......がなぜか一ページ目にはびっしりと共通語ではない、しかしなぜか読めてしまう文字が躍っており、ペラペラとページをめくればまた別の文字列が躍っていた。

 結果として後半の二十数ページ以外はアリスちゃんやシャリスちゃん、私が戦ってきたことの記録が書き綴られておりアリスちゃんとシャリスちゃんの記録の間には数えるのも億劫なほどのページがあり、明らかに本の厚さにあっていないページの量に驚きながらも直感的にこの本があのワンダーランドで私が書き綴るはずだった本だと理解した。

 それから脳内に流れ込んでくる情報に従い購入したポーションを最後のページの上に乗せるとゆっくりとポーションが消えていき代わりに白紙だったはずのページに文字が浮かぶ、浮かび上がった文字には魔力が薄っすらと宿っていた。

 その事実にヘスティア様も驚いていたが、魔導書(グリモア)がないわけではないためその一種と勝手に解釈してくれた。売ったらお金になるのでは、と話に上がったが人が使った後の魔導書(グリモア)を買うようなもの好きがいるわけもないと言ったら残念そうにしながらもあきらめてくれた。

 

「さて、それじゃあいつものステイタス更新だ。といってもこの頃は迷宮にも行ってないみたいだししなくてもいいんだよ?」

 

「いえ、ぜひお願いします」

 

「そ、そうかい......なら上を脱いでソファに寝転がってくれ」

 

 いつものようにいそいそと上だけを器用に脱いだ私は下着の後ろのフックを外して邪魔にならないようにして寝転がる、そして私の上にヘスティア様がまたがり血を垂らして私のステイタスを書き綴っていく。その途中で一瞬手が止まったがその後はスラスラとステイタス更新が進み、共通語に訳されたステイタスの書かれた紙を渡された。

 

--------------------------------------------

 

 

Lv.2

 

 

 

《発展》

 

 

情報:G

 

 

《ステイタス》

 

 

力:D539→D542

 

 

耐久:D593→D594

 

 

器用:E482→D538

 

 

敏捷:B771→A846

 

 

魔力:A870→A884

 

 

《魔法》

 

 

 

[SS&DS+2]

 

 

[ボムバルーン+2]

 

 

 

《スキル》

 

 

 

[第五唱聖(テイルマスター)+3]

 

 

[盤面破壊(ワンダースキル)+1]

 

 

[孤狼焦心(フェンリスリーフデ)+2]

 

 

[童話再編(カードクラフト)]

魔導書(グリモア)を媒体に魔導具を生産

魔導書(グリモア)と武器を媒体に魔剣を生産

・武器と道具を魔導具(カード)化可能

 

 

 

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 またスキルが増えたけどヘスティア様は慣れた様子で、かく言う私も予想ができていたため特に驚くこともなくステイタスを確認し終えると下着のフックを閉め上の服を着こむが、ここで先ほどのステイタス更新時に出現したスキルの効果でカード化させれると書いてあった。もしかしたらこの服もカード化できるのでは? そう思って念じてみれば服がすべて消え去り下着だけになってしまった。

 

「アリス君!?」

 

 ヘスティア様が下着姿に早変わりした私を見て驚いているが、手に収まっていいたカードに戻れと念じるとすぐさまいつもの洋服が身を包んでいた。

 試しに立てかけてあった(ヴぁるさー)を握って念じてみれば一瞬のうちに手の中に納まるサイズのカードに変わっていた。思わぬスキルの有用性知ってしまったからにはもう止まらない、いつも持ち歩いている道具一式はまとめて一枚のカードになり、試しにと|魔導書グリモア》にもしたところ一枚のカードに変わったときは思わず吹き出してしまった。

 そのまま明日の迷宮攻略のための準備を終わらせた私は不意に強烈な眠気に襲われる。自分に意識を向けて〈情報〉を使うと魔力がすっからかんになっていた。それを確認した私は次は注意しなければいけないな、と他人事にように考えソファに倒れこむように沈み深い闇の底に意識は落ちていった。

 

 




いかがでしたか?
久しぶりに書いても筆が乗らずこんなにかかってしまった......はーつっかえ、やめたほうがいいんじゃないの? なんて言わず見ていただけたらありがたいです。

感想、評価、お気に入りなど励みになってます! いただけたらありがたいです。





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予想外の形で中層攻略を始める御話

ドーモ、この頃リアルで忙しいニャフです。
最近出たマァトさんが好きすぎてアリスやかぐやを触れてない気がする......それにゲーセンも行く余裕がない......
14話目にしてようやくアシストカードが出てくるなんて自分でも想像してませんでした。もっと早く出す予定だったんだけどなぁ......
ようやくアシストカードを出せばしたもののびっくりもかくれんぼもまだなんだよなぁ......(白目)

とまあどうでもいい話はここまでで
本編をどうぞ!


 

 カミリアさん達と迷宮に潜ってから数日、白紙の本を使ってアシストカード等の切り札となるであろうカードの製作に成功し、さらに既存の武器をカードにすることもできたため複数の武器を嵩張ることなく持っていけることにリリさんが曖昧な表情を浮かべていたのが印象に残っている。

 と言っても、私は異界の少女の魔杖(いつもの杖)とヴェルフさん作の槍ぐらいしか武器はないので、杖だけいつも持ち歩き、槍はカードにして服のポケットに入れてる。

 他にも、この世界にあったものからWLWの世界のアシストカードを作り出すことにも成功した。

 と言っても実用できるような性能ではなくほんのりステイタスに補正がかかる程度だが、唯一、前の〈怪物(フィリア)祭〉で手に入れたリボンを元に作った〈不思議な少女のリボン〉はかなりいい性能になっていて、武具について聞こうと尋ねたヘファイトス様によると第二級等(レベル3相当)だと言う。

 あー、WLWでもレベル3からだったなーとか思いながらヘファイトス様の説明を聞いていたが、聞き逃せない言葉があった。

 

「いくら凄い武器や防具でも、付けたらステイタスの表記が変わるなんてことはあり得ないのだけどもね」

 

 本来の魔道具や武具はステイタスに作用したりするものではなく、シンプルな硬さやどれだけ切れるか、使った素材だったりに応じて第何級等と決められるらしい。

 

「あ、ちなみになんですけどステイタスが上昇するような武具はないんですか?」

 

 ふと思ったことを聞いてみたがその返答を聞いて正直聞かなければ良かったと思った。

 

「ステイタスが上昇する武具なんて何級等でもないわよ、そんなもの作ったら一生遊んで暮らせるわ」

 

 こうやって聞いている事からわかる通り、私の作ったリボンを付けるとステイタスが十数だが上昇していた。

 内心では今までにないぐらい焦っていても表面上を取り繕うのは慣れたもので、平然をよそおいながらヘファイトス様との話を終えて私は急いで拠点(ホーム)に走った。

 

 

「さて、それじゃあ今日も行ってらっしゃい。無事に帰ってくるんだよ?」

 

 いつものように迷宮(ダンジョン)に向かうベル君達を見送ったボクは、自分の眷属達を見送る知神のタケを見つけた。

 

「やあ、タケ」

 

「ん? おお、ヘスティアか」

 

 タケはボクの所と同じような小さなファミリアで、主神のタケが極東の島国で共に過ごしていたらしい数人の子ども達を連れてオラリアに来たあとは、探索系のファリミアとしての収入の大半を子ども達の故郷に送っているらしく生活は厳しいらしい。

 

「ヘスティアも見送りか?」

 

「うん、後は無事に帰って来てくれることを祈るだけだけどね」

 

 ボクたち神は迷宮(ダンジョン)に入ることは出来ない。足手まといになるしそれに......

 

「あ、ヘスティア様! それにタケミカヅチ様も」

 

「あ、アリス君」

 

 考え事をしていると、近くに用事があったのかアリス君がこちらを見つけ近寄ってくる。

 

「よう、久しぶりだな」

 

「お久しぶりですタケミカヅチ様。あ、ベルさんはもう行きましたか?」

 

「......? もう行ったけどどうしたんだい?」

 

「急いで作っていた御守りができたので渡そうかと思っていたんですが......間に合いませんでしたか」

 

 そういう彼女の手には何やら緑色のカードのような物が握られていた。おそらくはそれを渡そうと思っていたのだろう。

 

「まあ、ヴェルフ君にリリ君もいるんだ。大丈夫だろう」

 

「そうですね、心配のしすぎですね......」

 

 そう言ったアリス君の瞳には何かを憂いているような色が宿っていた。

 でもすぐにその色は消えていつも通りの十にも満たないようなあどけない少女の表情に戻っていた。

 ボクはこの瞳をする彼女が理解できていない。いつもは幼い可愛らしい少女なのに、不意にボクらと同じような長い間生きてきたような全てを達観したような表情と目をする。

 とても年端もいかない少女がするものではない、そんな目をしている。

 それにタケやエイルも気がついていると思うが彼女の嘘をボクたちは見抜けない(・・・・・)。ボクたち神が嘘を見抜けないのは同じ神や迷宮(ダンジョン)から湧き出る怪物(モンスター)だけのはず。なのに彼女の言葉の真意はどうしてもわからないのだ。

 だからこそボクは彼女を警戒し、彼女の言葉の真意は今までは共にいた子ども達を観察して判断してきた。だけど今回の彼女の言葉はベル君を心配してのことだとしか思えない。

 

ボクの方も心配しすぎだね......

 

「?」

 

 今まで警戒していたけど、もう必要なさそうだ。

 

「さて、ボクたちは帰ろうか」

 

「はい、帰りましょうか」

 

 それでも、そう呟く彼女の瞳に映る理解のできない色にボクは不安を拭えなかった。

 

 

「それじゃあボクは『神会(デナトゥス)』に行ってくるよ」

 

 いつもの服装ながらも私のセンスで選んだバレッタを付けて教会跡の地下室から出ていったヘスティア様を見送る。

 数日前に来た、延期されていた『神会(デナトゥス)』の開催の知らせにヘスティア様はげんなりとしていたものの、私たちに変な二つ名はつけさせない! とかなり張り切っていた。

 

「さて、私も出掛けますか......」

 

 今日はバレッタに変形させて右側の一房だけ金色の髪を留め、アシストカードを作るために必要な白紙の本、それと魔力をひたすらに流してフラグメントの代わりになったポーションもどきを、ビンが割れないように布で包みリュックに詰め込んで私は地下室を出た。

 向かう先はヘルメス・ファミリアの拠点(ホーム)。魔道具を創るのなら先達がいるのだからその技術を得るためにもアスフィさんに私の作ったカード状の魔剣(マスタースキル)を数枚譲渡することを条件に師事をしてもらっている。

 

「来ましたか......と言っても私が教えられることはもうほぼないんですがね......」

 

 工房を借りる形で来させてもらっている私としては、教えてもらうことがなくとも知られる可能性が少ないここを使わせてもらえてるだけで十分なのだ。

 

「それにしてもやはり貴女の魔剣......いえ、マスタースキルと言うのでしたっけ?」

 

 そういってアスフィさんがポケットから取り出したのは、黄色に虹色のラメが施され、中央に風神のような影絵の描かれたカードだった。

 

「しっかりと効果があったなら良かったです」

 

 半場事務的な返事ながらも効果が出たことは純粋に嬉しい。これならば大英雄だったりも効果が出るはず......

 

「次は一体何を? 赤色ですが」

 

「次は威力こそ低いものの使い方によっては凶悪な武器になる......はずのものですね」

 

 現状では対人用で接近拒否に使えるはずのエルガーグランツと高範囲の雑魚処理用に使えるはずのインプルスゼーレの合計二種を作ろうと考えている。

 エルガーグランツは既に構築が出来ているので後はカードにそれを押し込むだけだが......問題はゼーレの方だ。

 

「とりあえず一枚出来ましたが......ここで使うのはかなり危ないのと、対人用なので気をつけて使ってくださいね?」

 

「対人用......貴女は何を目指してるんです......?」

 

「そろそろ私やベルさんにつっかかってくる人や、ベルさんの魔法では対応しきれなくなってくる状況が出てくるのを見越しての自衛用です」

 

 かなり真剣に私はそう考えている。私もだがベルさんの魔法はかなり対人向きだとは思うが、それでも囲まれたりするとやはり弱い。その時のためのエルガーグランツなのだ、本家を再現できているといいけど......。

 

「後もうひとつは今日中に完成させるのは難しいかもしれません、とりあえずグランツだけ渡しておきます」

 

「グランツ......?」

 

 さも当然のようにグランツと略したがまずもってWLWを知らないのだからこの〈MS(マスタースキル)〉の名称も知らないし、それにこの略しかたで全員がわかるわけではない。

 

「その〈MS〉の名前がエルガーグランツ。私はグランツと略して読んでいます」

 

「はぁ......とりあえずこのカードを頂いていきますね」

 

 そうとだけ言ってポケットにカードをしまったアスフィさんは工房を出ていった、私はその背中を目で追いながらも手を止めることはしない。

 真っ白な頁の上で錬金水薬(フラグメントポーション)(アスフィさん命名)を砕き、あふれでた私の魔力の込められた水薬が開かれた頁の上で黒い文字となって紋様を描く。

 

「ここをこうして......うーん、やっぱりサモン状態を維持させる部分がうまく作れないな......」

 

 ゼーレの周囲にダメージを与えるフィールドを生成する部分はできたのだが、サモン状態、そのフィールドを継続させる部分の構築がどうしても上手くいかない。

 サモンはカードの魔力を消費してその能力を継続させるのが主体であり、効果よりも能力を継続させる事が重要なのだが......

 

「これ以上考えすぎてもできそうにないなぁ......今日は一旦帰りますか......」

 

 そう思ってからの行動は早かった。五枚ほどグランツを作り終えると作成に使った道具を即座に片付け、荷物をまとめて『神会』が終わって暇をしていたヘルメス様に挨拶だけしてヘルメス・ファミリアの拠点を出て、大通りから一つ外れた裏道を通る。

 この頃は余裕のなかった中学生頃の時と同じような生活をしている。ヘスティア様だったりとは朝に挨拶するものの他人と関わることをほとんどせず何かに没頭するだけで一日を終える。

 

「はぁ......ダメだ、せっかくヘスティア様達に救ってもらったんだ、しっかりと恩が返せるようにならないと......」

 

 前のようにヘスティア様達の為にご飯も作ってないしバイトもしていない。迷宮にも潜っていないからほとんど収入がないのだ。

 

「よし! 明日からは籠るのをやめて少しでも負担を減らせるようにしないと!」

 

 まだ2億ヴァリスの借金が私達のファミリアにはある。せめて日々の生活がもっとマシになるようにしないと......毎日パンやお米が食べれる生活は最低限なんだから......

 

「最悪、MSの技術を売り付けると言ったところですかね......」

 

 こればっかりは冒険者の成長の妨げやファミリア間抗争を広げてしまう可能性が高いため私の手の内に納めておきたい。

 

「〈快癒の和塊〉を作れるようになればいいんだけど......」

 

 力を貯める、その能力が発動する状態を維持する、だけど使用可能時間は徐々に減っていく。

 永久的に使用可能にしようとすると内部に貯めておける魔力量を越えて使用したときにどうなるのかわからない。

 本来のWLWでのサモン系MSは使用可能にする構造部分が魔力を常に流し続ける圧に耐えきれずに劣化し、最終的に使えなくなるのか......? それなら貯蓄された魔力を越えることもなくなるし構造も簡単にできる。

 

「これは行けるかもしれない......!」

 

 もし和塊が作れればベルさん達が生存できる可能性も高くなるし、和塊のサモンと同じ構造で他のゼーレやスフィアも作れるように!

 

「いいかもしれない......! しかしグランツの試運転もしないと......」

 

 そこまで呟いてふと顔を大通りの方に向けた瞬間に上と後ろ、それに横の脇道からそこそこ早い黒い何かが突撃してくる。

 

「油断したと思いました?」

 

 しかし、既に感知していた上に恐らくはレベル1であろう冒険者を差し向けられたところで被害を受けるわけもなく、手に握っていたグランツを試運転がてら発動させる。

 カードに魔力を少し流しただけでMSは発動し、私を中心にかなり広い範囲(半径20Mほど)に軽い衝撃波が放たれる。

 建物やゴミを吹き飛ばすほどの威力ではないと思ったのか強襲者達はそのまま突っ込んで来て、反対方向に30M以上吹き飛ばされた。

 

「......これは威力が出過ぎでは? あ、でも死んではないみたい。思った以上に傷も浅い、気絶してるのはグランツの効果になるのかな?」

 

 手の中で握っていたカードが塵になっていくのがわかった。グランツも韋駄天も基本は一回の使いきりだ。

 そんなことを思っていると、ついさっき吹き飛ばした襲撃者のことを思いだし情報で一人の体力を見てみたが大きく吹っ飛ばされたわりにはそこまで減ってはないものの、気絶しているらしく、WLWのグランツとは多少使い勝手が変わっているようだった。

 

「まあ、実験ができたと言うことでよしとしましょう、この人たちはつき出さないでおきますか」

 

 思わぬ成果に内心驚きつつも何者かが監視している感覚を覚えた私はさも併存のようにその場を立ち去り、教会跡の地下室に帰った。

 

 教会跡の地下室では今日の『神会』で私とベルさん二つ名が決まり、私は何の捻りもない〈不思議少女(ワンダーガール)〉となり、ベルさんが〈リトル・ルーキー〉となった。

 私の場合は成長促進効果のあるスキルを持っていることが公開されていることからか、このような名前になったとのこと。

 ベルさんはそのようなスキルがないにも関わらず私を除いて最速でランクアップを果たしたということから、超大型新人(リトル・ルーキー)となったそうな。

 

 

 ベルさん達を見送って二日が経とうとしていた夕方だった、私が〈快癒の和塊〉の作成に成功し、三枚目を作っていたときだった。

 

「アリス君っ! 君沢山〈水薬(ポーション)〉持ってたよねっ!?」

 

「! 〈水薬〉ですね! 持っていきますっ!」

 

 ヘスティア様の並々ならぬ様子に知神の眷属が大ケガを負って帰ってきたのだろうと察した私はありったけの治療用水薬とできたばっかりの和塊を一枚握ってヘスティア様を追う。

 

「アリス君! 彼女だ!」

 

 摩天楼施設(バベル)の前の広間で肩から石斧を生やして倒れる少女とその回りで必死に止血を試みている黒髪の大男と美少女......

 

「タケミカヅチ様の眷属の方ですかっ!」

 

 私は最速で駆けつけ、石斧を肩から生やす少女の容態を見る。

 

「アリス殿っ!?」

 

「驚いている暇はありません! 水薬を二十個近く持ってきたので石斧を引き抜く前に数本振りかけてください!」

 

 唐突に現れた私に命さんが驚き、その声に桜花さんも驚いたような反応を見せるが、私の言葉にハッとして水薬の詰まった袋を手繰り寄せていた。

 水薬で傷は治るが、石斧を引き抜けば出血が酷くなる。

 しかし引き抜かないと完治することはないため、どうするか迷っていたようだが、和塊を使えば少し傷は残るかも知れないが、治すことはできる。

 和塊に魔力を流し始める。

 その間にも私の指示に従って水薬を盛大に使う命さん達。

 

「斧を引き抜いてください!」

 

 とっさの言葉にも即座に反応した桜花さんが石斧を引き抜いたのと同時に最大までチャージされた和塊が効果を発揮する。

 石斧が刺さっていた部分だけぱっくりと開いていた肩口が傷ひとつなく治り、かすり傷や切り傷、打撲痕などの残っていた桜花さん達の傷まで綺麗サッパリ無くなるが、手元で爛々と輝いていた和塊はその輝きがくすみはじめていた。

 ここでこの騒動は収まり、その後近くの店で私とヘスティア様はまたタケミカヅチ様と命さん達助けて貰った礼と言って土下座され、なぜあのような状況になったかを聞いたのだが......

 

「白髪の少年達に怪物贈呈(パスパレード)をしたって!?」

 

「うちの眷属がすまん!!!」

 

 |白髪の少年、おそらくベルさんやヴェルフさん達に贈呈された怪物は50近くいたらしく、上層で、白髪の少年(ベルさん)の目撃情報もない。ということは......

 

「っ! 私が探してきますっ!」

 

「待つんだ!!!」

 

 今すぐ道具をまとめて迷宮に行かんとする私をヘスティア様は制止する。

 制止する声にはヘスティア様の神意が込められており、身体が本能的に動きを止める。

 

「ボクも行く」

 

「でもっ! 神様がいても「足手まといになるって?」」

 

 突然危険なことを言い出すヘスティア様に反論しようと口を開いたとき、私の声に被せて青年のような声が響いた。

 

「なら大丈夫さ、俺がウチのアスフィと心強い味方を連れてこよう」

 

 そう言って私達が囲んでいたテーブルに近付いて来たのはヘルメス様だった。

 

 

 命さん達が帰ってきて一日が経ち、タケミカヅチ・ファミリアとヘルメス・ファミリア、そしてリューさんの協力を受けてベルさん達の救出に向かうことになった。

 

「で、ヘスティア様とヘルメス様も同行するんですね」

 

 迷宮に入る直前に武器の確認と〈魔符〉を確認し、カードになった槍をいつもの服(夢見る迷子の魔法服)のポケットに入れ、左手でしっかりと杖を握る。

 

「さて、それじゃあいくよっ!」

 

 フードを目深に被ったヘスティア様の言葉に全員が頷き、私達は迷宮に足を踏み入れた。

 

 

 

 第一級冒険者(レベル4)二人と第三級冒険者(レベル2)三人で現れる怪物(モンスター)を瞬殺しながら走り続け、一日と少しして私達は中層に到達した。

 上層よりもいっそう暗く、より広くなった通路を走り抜ける。ヘスティア様とヘルメス様に合わせているとは言えかなりの距離を飛ばし続けていることもあり、一旦13層と14層の間で休憩を取ることになった。

 

「それにしても......ベル君はどこにいるんだろうか......」

 

 ヘスティア様の呟きに私や命さん、桜花さんはハッとする。

 命さん達が言うには14層で怪物贈呈(パスパレード)を行ったらしく、13層付近で目撃情報がなかった事からいるとするとこの層だと思っていたのだが、13層と同じく目撃情報がない。

 

「ならばクラネルさん達は18層に向かったのでしょう」

 

 そこにリューさんがそんなことを言う。

 私は反射的になぜ下の層に! と言いかけたところで18層の事を思い出した。

 安全階層(セーフティポイント)と呼ばれる地下の楽園がまさしく18層だった事を。

 

「一度冒険を経験したクラネルさんなら間違いなく18層に向かうでしょう」

 

 リューさんの言葉の意味をうまく飲み込めていない様子だったが、休憩時間が終わってしまいこの後どうするかという話になった。

 結果としては私やリューさん、アスフィさん達の言葉に負けて18層を目指すことになったが、17層と18層を繋ぐ通路の前に大きな障害があった。

 

〈階層主ゴライアス〉

 

 リューさん達は討伐したことがあると言っていたが、今の状況では無理に近い。

 ゴライアスは17層の最後の広間(ルーム)にある巨大な壁、別名〈嘆きの大壁〉と呼ばれる場所でのみ産み出される他の中層で出現する怪物から大きくかけ離れたステイタスを持つ怪物のことを言う。

 想定レベルは4ど私達のような第三級冒険者(レベル2)ではまともにやりあう前に吹き飛ばされて迷宮のシミとなってしまうだろう。

 おそらくベルさん達もここを通過したのだろう。既にゴライアスが出現していたのだ。

 

「なので今回は私とアスフィで注意を惹き付けその間に駆け抜けてもらいます」

 

 14層から最短距離で駆け抜けてきた私達は〈嘆きの大壁〉の前の通路で最終確認をしていた。

 予想していたとはいえ既に出現しているとなるとそのまま走り抜けることは不可能。

 そこでゴライアスにレベルの匹敵しているリューさんとアスフィさんが囮となり、その間に足の速い私と命さんが神様をそれぞれ背負い駆け抜けることになった。

 

「それでは手筈通りに......行きますよ!」

 

 リューさんの言葉に私達は一斉に駆け出す。囮となった二人以外には『おとぎ話の韋駄天』を使ってもらい強引に速度を上げて走り抜けようとする。

 広間(ルーム)に入ってきた私達を視認したゴライアスは異様なまでに広い広間全体を震わせるほどの咆哮を上げこちらに走ってくる。

 いくら速度を底上げしたとしてもステイタスの格も体格も圧倒的なまでにゴライアスが上回っている。

 しかしリューさんの握る木刀が強かにゴライアスの巨躯を支える膝を打ち据え、アスフィさんが放ったフラスコが爆発し追撃をかける。

 体を支える足を狙われ転倒するゴライアスを尻目に私達は走る。あと数十Mほど先に18層に続く下り坂が見えた。

 

「ォォォオオッ!!」

 

 だが、転倒したゴライアスが立ち上がり、こちらに向けてその豪腕を高々と持ち上げ、勢いのまま振り下ろす。

 これには合流しかけていたリューさん達も対応できず、豪腕によって産み出された衝撃が地面を砕きながら迫ってくる。

 後ほんの少しと言ったところで私達はその衝撃波に巻き込まれ、大きく吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた私達は18層に続く通路の壁や低くなっている天井にぶつかりながら下り......

 

「ようやくたどり着きましたね」

 

 ベルさんがいると思われる、18層。〈アンダーリゾート〉にたどり着いた。

 

 

 




まだベル君とは合わさせねぇぜ!

はい、18層まで攻略できましたね()
今回MSをどうするかでかなり迷いました。
使いきりか永久に使用できるものにするかで一週間ぐらい考えていたんですが、WLW中に「無限にMS使えたらかー、ブリングとかはクールタイム長いけど短いのとかならめんどそうだなー」と思い使いきりになりました。
18層まで行ったしようやくベル君達と合流させれる! それにお風呂だって描写できる......!(本能を隠さないゴミ)

お気に入りや感想、評価等いただけると励みになるのでください!(堂々と要求するゴミ)

それでは次の御話で!


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