お正月企画三題噺シリーズ・アドヴァンスドサード (ルシエド)
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仮面ライダービルドの内海がその頭脳で魔法少女まどか☆マギカの全てを救いハッピーエンドにする話

※この作品はお正月三題噺企画で書かれたものです。
 三題噺(さんだいばなし。三題話、三題咄とも)とは、落語の形態の一つで、寄席で演じる際に観客に適当な言葉・題目を出させ、そうして出された題目3つを折り込んで即興で演じる落語である。
 出典:Wikipedia
 活動報告で三人の方からお題を頂き、それを元に作品が執筆されています。

 お題は「かっちゃん」「貴方に忠誠を誓おう」「魔法少女まどか☆マギカ」

 全てを破壊し、全てを創れ!


 仮面ライダービルドの物語は、ひとまずは幕を閉じた。

 かつてあった世界の危機は去り、まだどこかに火種は残り、されども間違いなく以前よりは平和となった『再構成された世界』。

 

 『仮面ライダービルドの地球』は『魔法少女まどか☆マギカの地球』と融合することで、ひとまずの平和を迎えていた。

 

「うう……くそう……」

 

 そんな中。

 内海成彰は、号泣していた。

 これでもかと号泣していた。

 駅前で、大人としてちょっとどうかと思うくらいに号泣していた。

 彼は今日、就職先の難波重工を解雇されたのだ。

 

「ちょっと会社にうっかり三億程度の損害を出しただけじゃないか……! ううっ……!」

 

 自分は会社に三億以上の利益をもたらしてきたとナチュラルに認識しているがゆえの台詞。

 思いっきりの思い上がりである。

 内海は自己評価が高いわけではないが、自尊心は妙に高いところがある男でもあった。

 結構根に持つ男であった。

 

「これからどうすればいいんだ……バイトなんてしたことないのに……」

 

「良い勤め先があるわよ」

 

「! 何者!」

 

「私は暁美ほむら。あなたには前の時……いえ、なんでもないわ」

 

 内海にとっては初対面。

 ほむらにとってはノット初対面。

 運命の出会いであり、運命の再会であった。

 

「一日五時間の拘束で、日給1万5000円でどうかしら。あなたを雇いたいの」

 

「―――!」

 

 迷うことなどない。

 破格の条件。

 内海は一瞬で魅了された。

 次の職が見つかるまでは、と。

 そこにひょっこりと現れる白い小動物。地球外生命体、インキュベーター!

 

「暁美ほむら、今度は何を企んでるんだい?」

 

「内海」

 

 すっとほむらが指を振ると、インキュベーターの頭と尻尾を内海が掴む!

 

 其が腹に叩きつけられるは内海の天衝く膝蹴り!

 

「あなたに、忠誠を誓おうぅぅぅっ!!」

 

「ぐぁぁぁぁぁッ!?」

 

 銃で撃たれても顔色一つ変えないQBの表情が無残に歪み、哀れその体は真っ二つ!

 

 見滝原に平和が訪れた!

 

 

 

 

 

 見滝原の平和は守らねばならない。

 そう、内海は元仮面ライダー!

 仮面ライダーでなくなっても、難波重工系列の工場員でなくなっても、彼の魂には人間の自由と平和を守る使命が根付いている!

 そう、鹿目まどかの自由と平和も守らねばならない!

 

「かっちゃんさん、魔法少女になってはいけませんよ……いけませんよ……」

 

「内海さん……

 ほむらちゃんに頼まれなかったからって耳元でサブリミナル囁きやめてください……

 というか、鹿目まどかで『か』が二つあるからってかっちゃんって呼ばれたの初めてです」

 

「ほむらさんがノートに書き溜めてる

 『こんなあだ名で呼び合いたいなリスト』

 の一番だったので、これで呼ぶのが一番いいかなと」

 

「内海!」

 

「ほむらさん! かっちゃんとこちらから呼びましょう!」

 

「内海!」

 

 まどかに余計なことを吹き込まれたほむらが怒る!

 だが解雇はしない。

 内海は役に立つ男であるからだ!

 

 時は流れ、運命の分岐点。

 マミ達に忠告するほむらに、マミのマスケットが突きつけられる!

 

「暁美さん。何を企んでるか知らないけれど……」

 

「内海。日給1000円アップ」

 

「あなたに忠誠を誓おうッ!」

 

「私のマスケットぉぉぉぉぉ!?」

 

「なんだこのおじさん!?」

 

 魔法少女の武器といえど!

 なんか杖のように細長くて、内海の両手に掴まれた時点で蹴り折られるは必然!

 マスケットなんて使ってる方が悪い!

 

 内海の膝蹴りによって武器が失われ、平和な話し合いが成立し、和解が実現した!

 だが、ほむらと共闘するマミを狙って、伸ばされるお菓子の魔女シャルロッテの首!

 あわれマミ!

 鷲尾兄弟のように後に何か残すわけでもない死体も残らぬ無駄死にをしてしまうのか!

 

「忠誠!」

 

「あれは……お菓子の魔女が首を伸ばすとその首を真ん中で蹴り折る男、内海!」

 

 救済!

 いかなシャルロッテとて、首を細長く杖のように伸ばしてしまう以上、内海の両腕に掴まれて蹴り折られてしまうという弱点は露呈する!

 内海がここにいるならば首を伸ばしてはいけなかったのだ!

 

 ほむらが時を止め、内海が掴んで膝で蹴る! 無敵のコンビネーションだ!

 蹴り・フィナーレ!

 着弾!

 爆発四散!

 

 時は流れ、佐倉杏子もやって来る!

 

「あんたは甘いんだよ、現実が見えてないんだ!」

 

「なにおぅ!」

 

 リアリストになりきれないのにリアリストの杏子!

 ロマンチストっぽいが意外と理想を見失いやすいさやか!

 二人の魔法少女が武器を突きつけ合い、その戦いをほむらが止めんとする!

 イッツミー、ウッツミー!

 レッツゴー、ウッツミー!

 

「内海。蹴ろ・フィナーレ」

 

「交わした忠誠忘れないよ 武器折り 確かめる!」

 

「あたしの槍ぃぃぃぃ!?」

 

「あたしの剣ぅぅぅぅ!?」

 

「一動作で一本しか折れないと思った? 内海の膝は―――二つあるのよ」

 

「意味分かんねえ」

 

 魔法少女の武器といえど!

 なんか杖のように細長くて、内海の両手に掴まれた時点で蹴り折られるは必然!

 剣と槍なんて使ってる方が悪い!

 

 ほむらのループにおいて見滝原に最多登場率を誇る魔法少女達の武器はマスケット、剣、槍、弓ィ! 全てに対し内海の膝蹴りがこうかはばつぐんだ!

 ピカチュウを前にしたギャラドスに等しい!

 見滝原というフィールドは、ほむら以外の魔法少女に対し内海が特攻という奇跡の世界!

 

 内海の膝蹴りによって武器が失われ、平和な話し合いが成立し、和解が実現した!

 だが、襲来するワルプルギスの夜!

 あわれマミ!

 鷲尾兄弟のように後に何か残すわけでもない死体も残らぬ無駄死にをしてしまうのか!

 

「大変だ! 内海がワルプルギスに取り込まれた!」

 

「大変よ! 膝に気を付けて!」

 

 あわれマミ!

 鷲尾兄弟のように後に何か残すわけでもない死体も残らぬ無駄死にをしてしまうのか!

 

「大丈夫よ、ワルプルギスの夜に膝はないわ」

 

「あ、なんだ」

 

「心配して損した」

 

「内海取り込んだ意味がまるでねえじゃねえか……ただの魔女かよ……」

 

「それで最悪の魔女なのってんの? 魔女辞めたら? なっさけな」

 

 だが、内海を取り込んだのが運の尽き!

 

 ワルプルギスの内部には核が!

 ソウルジェム、グリーフシードにあたるものがあった!

 ならば掴める!

 膝が当たる!

 

 消滅する敵、終わる夜、ワルプルギスの夜の最期だ!

 

「内海!」「内海!」「内海さん!」

 

「交わした忠誠忘れないよ 杖折り 確かめる」

 

 軽快な歌口ずさみ、内海成彰が帰還する。

 

「ありがとう内海……!」「ありがとう膝蹴り……!」「全てにありがとう……!」

 

 内海成彰は、号泣していた。

 魔法少女達も号泣していた。

 長い戦いが今、終わりを告げたのだ。

 かつて解雇で流された涙が、無職の悲しみで流された涙が、今別の意味をもって流されていた。

 

「ありがとう内海! 今日をもってあなたは解雇よ! 今日までありがとう!」

 

「暁美ァ!」

 

「げっふぁ!」

 

 ほむらを掴み、叩き込まれる膝蹴り!

 そう、内海の膝蹴りは、嘘か本当かは別としてかつて持っていた忠誠を捨てる儀式!

 今! ほむらへの忠誠は捨てられたのだ!

 

 雇用契約! 交わした約束! 忘れちまったぜそんな約束!

 

 見滝原は平和になった。

 

 

 



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ある物語の後日談、シンフォギアの長命者の考察投稿

お題は「ボンドルド」「featワイルドアームズのディーンハイム一家」「ゾンビランドサガ」

 シンフォギアで敵をやってる長生きジジイとババアの話。
 ガリィちゃんは舌が回る


 ディーンハイム一家のガリィはアニメを見て、原作を買って、日々ゴロゴロしながら毎日を過ごしていた。

 キャロルのお叱りが飛ぶ。

 食費がかからないガリィだが、アニメや漫画を買いまくることは結構な金銭問題だった。

 

「おい、働けガリィ」

 

「えー、いいじゃないですかぁこのくらい」

 

「世界が平和になってからというもの、お前はジュードをからかうか遊ぶかばかり……

 いいかげん働くか何かしたらどうだ。

 ジュードなんてゼファーと組んで本業他に、他世界の装者を助けに行ったりしてるんだぞ」

 

「パン屋とマジシャンのついでに世界救ってる奴らなんて知ーりませんよぉ。

 あ、これ最近ハマってる奴ですマスター。

 メイドインアビスとゾンビランドサガってやつでしてぇ。

 もう、マッドサイエンティストが見てて楽しいですし?

 その辺の何の罪も無いやつを突然ゾンビにした反応を見てみたいんですよねー」

 

「まったく」

 

「あ、そうだ。

 ジェネレーションギャップってやつあるじゃないですか。

 私達が大昔と現代の間で何度か感じたアレです。

 ゾンビランドサガはその辺扱ってて面白いっていうか、どこどなーく共感できますよ」

 

「ほう」

 

 興味を持った風なキャロルが、ガリィの入っていたコタツに入った。

 

「長生き組はジェネレーションギャップ中々大変そうですよねえ」

 

「まあ、そうだな。

 俺達錬金術師組。

 今はもういないがフィーネ。

 それにパヴァリア光明結社。

 長生きしてる人間は、旧世代の思い出や倫理を引きずっているとも言える。

 それは良くも悪くも現代人との常識との違いとして結実する。軋轢になるわけだな」

 

「ババアもジジイも大変ですねえ」

 

「おい、他の勢力の長生き勢の前でそういうことは言うなよ。

 たとえばだ、あのサンジェルマンという女。

 あの女の生きた時代は奴隷なんぞ当たり前な認識だった時代だ。

 地球の総人口もせいぜい6億人。

 つまり人がガンガン死ぬため、それ以上増えなかった時代。

 人の命がとても軽かった時代なんだな。今の時代では普遍の倫理だが、

 『人の命は何よりも重い』

 という倫理が生まれたのはいつ頃だ? 相当に最近だろう、この概念は」

 

「てーか、平和な先進国だけでしょそれ。

 そんな倫理が無い国なんていくらでもあるんじゃないですかぁ?

 地球全体がそういう倫理と道徳で包まれるには、もうちょっとかかりますよ」

 

「だろうな。バラルの呪詛がある世界というのは、そういうものだ」

 

「『人間を一人でも殺したら悪』の現代人。

 『数百人の犠牲で世界平和とかなんて素晴らしいんだ』の中世人。

 この辺の許容できる犠牲の数って相当に違いそうですねえ。

 サンジェルマンとかを基本善人だって言ってたんでしたっけ、ジュード」

 

「ああ。一番良く分からんのはカストディアンとアダムが一緒にパン屋やってるあそこだが」

 

「あそこは魔界ですよ」

 

「あそこが一番ジェネレーションギャップあるはずなんだがな……」

 

 キャロルがこたつでみかんを食べ、お茶をすする。

 

「この世界にはもうバラルの呪詛が無い。ここからだ」

 

「ですねえ。あ、そういえば。

 ゾンビランドサガ見てて思ったんですけどね?

 ああいうゾンビ式の不死者って見ないなあって」

 

「フィーネは転生式。

 オレの保有技術は躯体交換式。

 パヴァリアは完全な肉体の実現、だったか。

 錬金術の観点から見ると死体は『あまりにも完全から遠い』からな」

 

「ふむふむ」

 

「生命として完成するには生者である方が良い。

 ついでに言えば女性体である方が良い。

 より完成された肉体は、より大きな力を出す。

 自らの存在をより上位のものへと置換する。

 オレは一定以上長生きできればそれでよかったが……

 パヴァリアは"自分を高める"という目的があったようだからな」

 

「私とんだド変態性癖野郎どもですねとか言っちゃいましたよ」

 

「お前は……お前は、本当にな!」

 

「寿限無寿限無性器の擦り切れパイ砂利パイ魚のパイ行末チン来末風来末パイ出るところに無いところやぶらこうじのぶらこうじチンポチンポチンポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのチンポコピーのマンポコナーの長久命の長助、とかガリィちゃん反射的に罵倒してしまいましたぁ」

 

「罵倒されてた方が罵倒されてることを理解できないレベルの舌回しはやめろ!」

 

 キャロルが茶飲みをコタツに叩きつけた。

 

「ともかく。

 産むことができる、という女性体は錬金術においてより優れた肉体と定義される。

 生きているということは大前提だ。

 錬金術師であればゾンビではなく、生きた何かを産める女性体となっていくものなんだ」

 

「ですよねえ、子供産めるのは大事大事」

 

「おい、なんでオレを見て言う?」

 

「べっつにー? ガリィちゃん何のことかわっかんなーい」

 

 キャロルはコタツに入ったまま、ネットで検索してガリィがハマっている作品の概要を大まかに掴んでいた。

 

「ただ、共通点はある。

 お前が見ているその作品の……ええと。

 メイドインアビスのマッドサイエンティスト。

 ゾンビランドサガのゾンビ。

 そしてオレ達のような人種が使う技術。それは自己の連続性を保っているというものだ」

 

「ですねえ、ボンドルド卿やゾンビィはそんな感じです」

 

「不死、蘇生、復活とは、つまりはそういうことだ。

 今ここにいる自分をどこまでも継続していたい。

 まだ終わりたくない。

 死という終焉が怖い。

 定命では果たせない悲願を達成したい。

 自己を喪失しかねない領域を、喪失しないまま踏破したい。

 既に終わってしまっている何かを、今ここに繋いで連続させたい」

 

「人間は大変そうですねぇ、あれやこれやと心配することがあって」

 

「オレはここにいる。

 だがオレの細胞から作ったクローンはオレではない。

 当時に、ジュードと俺のクローンが会っても、それは再会とはならない。

 自己の連続性とはそういうものだ。

 人間はその歴史の中で、この概念だけは捨てられなかった。残念なことにな」

 

 キャロルが茶を飲み干す。

 

「自分が死ぬ。

 原子レベルで一つの違いもない複製品の自分が、自分の代わりに生きる。

 自分の複製品が自分の代わりに社会を生きる。

 これを、人間は自分が不老不死になることなのだと思うことができなかった」

 

「そりゃそうでしょうよ、ガリィちゃんそれで不死名乗ってる人いたら笑っちゃう」

 

「この観念を捨てられないのが人間の限界。

 同時に、人間を人間たらしめるものなんだろう。

 死んだ人を蘇らせるとなっても……

 その人の細胞から作ったクローンでは納得せず、本人のゾンビの方が良いと思うんじゃないか」

 

「自己の連続性ねぇ」

 

 ガリィはキャロルが剥いていたみかんを横からかっぱらう。

 キャロルはイラッとした。

 

「ちょっとこのみかん手土産にパヴァリア光明結社煽ろっかな?

 『男の意識の連続性保ちながら女体でする自慰は楽しいか?』って!

 ガリィちゃん天才! さあ待ってなさいよオナニーディちゃん!」

 

「お前本当やめろ! プレラーティに殺されるぞ!」

 

 ガリィが全力疾走し、キャロルがその後を追った。

 

 

 



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北島マヤと姫川亜弓は『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』を応援しているようです

お題は「舞台少女」「その血の運命」「轢き逃げアタック」

 『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』のステマ……?
 なんのことでしょう。
 言っていることがまるでわからないな……


 ガラスの仮面の主人公、北島マヤは焦っていた。

 

「いつまでも『紅天女』が演じられない……」

 

 そう。

 紅天女が演じられないのである!

 ガラスの仮面の連載が始まった1976年頃からの、最初期からの目標である『最高の演劇・紅天女を演じる』こと……それが、達成できないのである!

 49巻が2012年に出てから、続巻が出ていないのである!

 

「どうしたらいいの……」

 

「そこに言及するとはね……マヤ! 恐ろしい子!」

 

「その声は……亜弓さん!

 その目は! ガラスの仮面特有の、なんか黒目が消えて真っ白な目で驚いてるやつ!」

 

「ほうっておきなさい」

 

 主人公マヤの前に現れたるは、ライバルの姫川亜弓。

 マヤの味方をする誰よりも、マヤを理解する女。

 恵まれぬ天才がマヤなら、恵まれた相対的非才の努力型が亜弓であると言えよう。

 

「作者が轢き逃げアタックを食らって今リハビリの最中だと考えるの。

 それなら何十年でも耐えられる。

 いいえ、むしろ、作者の方を応援しようという気持ちが湧いてくる……!」

 

「亜弓さんっていつも気の持ちようで余計なくらいに自分を追い込んでますよね」

 

「マヤ!」

 

 ガラスの仮面の月影先生の声優さん・藤田淑子が2018年12月28日に亡くなられ、ファンが皆喪に服し冥福を祈っている今、マヤを止められるものはどこにもいなかった!

 

「紅天女より『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の再演の方が早そうですよね!」

 

「ええっ、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の舞台演劇の再演ですって!?」

 

「そうですよ、大好評だったので再演するんですよ!」

 

「『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』……

 聞いたことがあるわ。

 ミュージカルを原作としたアニメ……

 イマイチ最近は集客が見込めないミュージカルをアニメにし、成功したという……

 まずミュージカルのキャストを決定し、その人達をアニメ声優に抜擢……

 アニメとミュージカルの二層構造、二媒体で作品で展開……

 ミュージカルらしい独特のアニメを作りながらも……

 アニメ声優で舞台演劇をやるわけではないために、舞台の質も保った恐ろしい子……!」

 

「そうです! ミュージカル初公演で大人気!

 翌年リバイバル公演! そして更に人気だったので、アンコールのアンコール!

 2019年7月12日からの公演が決まったそうなんですよ。これは見逃せませんね亜弓さん!」

 

「ええ、女優として負けてられないわ」

 

「露崎まひる役の岩田陽葵さんは叔父と叔母がプロの声優という声優の血脈らしいですよ!」

 

「ふふっ、親世代に芸能の人間がいるとやはり違うのね。

 似た遺伝子の先人。

 どうしても比べられる出来栄え。

 その血の運命、その芸能に魂まで浸かる遺伝子というのは、どこにもあるわけね……」

 

「なんと第一幕はBDで2018年6月にも発売! 第二幕も2019年2月にBDで発売ですよ!」

 

「なんて素敵なことなの。紅天女を演じるまで暇だし買ってきましょうか」

 

「近年他の娯楽に人を取られがちな舞台演劇。

 ガラスの仮面連載中に随分人気が落ちてしまった舞台演劇。

 そこに舞台演劇のアニメ化と平行化という道を見出してくれたこの、

 『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』

 のミュージカルは来年の公演も見に行ってもらいたいものですよね!」

 

「ええ。最初から舞台俳優を用意してあるんだもの。

 『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の舞台の出来が悪くなるはずもないわ。

 舞台の世界に多くの人を引き込めるし……

 仕事がない舞台女優に、副業として声優の仕事をあげることもでできるのは良いことだわ」

 

「アニメに興味がない舞台好きの人をアニメに。

 舞台に興味がないアニメ好きの人を舞台に。

 それぞれ引き込んで活性化させてるんですね、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は!」

 

「そうよ、期待値を高め過ぎなければ十分楽しめるはずよ。

 『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は。

 舞台演劇に興味がある人は漫画『アクタージュ』を読んでから見てもいいんじゃないかしら!」

 

「ガラスの仮面は巻数が多すぎて舞台に興味がある人に勧められませんからね」

 

「やめなさい、マヤ」

 

「舞台らしいアニメも。

 アニメらしい舞台も。

 どちらも楽しめる『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は誰にも勧められていいですね」

 

 少女二人の会話の合間に、颯爽と現れる顔がいい男。

 

「ちょっと失礼するよ」

 

「あなたは……真澄さん!

 少女漫画特有の面倒臭いポジションにいる中々くっつかない優良物件のイケメン!」

 

「やあ」

 

「真澄さん、私の最新刊での恋のライバルポジの紫織さんいるじゃないですか」

 

「いるね」

 

「主人公の私とくっつくのか、紫織さんとくっつくのか……

 って不安がられてるのが、イケメン相手役のあなたじゃないですか」

 

「そうだね」

 

「2017年の『週刊女性』でのガラスの仮面・作者美内すずえさんのインタビューなんですけど。

 『紫織が読者にもアシスタントに嫌われすぎている』

 『アシスタントが"嫌いだから"と紫織にスクリーントーンすら貼ってくれない』

 って作者さんが言ってたんですけど……

 これってもしかして……ガラスの仮面の続きが出ない理由って……」

 

「それ以上いけない」

 

「真澄さん、マヤさん、余計なことはそろそろ語るのも辞めにしましょう。行きますわよ」

 

「ゆこう」

 

「ゆこう」

 

 そういうことになった。

 

 

 



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ウマ娘と魔法使い

お題は「操真晴人」「ウマ娘プリティーダービーのアドマイヤベガ」「虚無戦記」

 ソ馬ハルトさん! ウマ娘だったんですか!?


 ビッグバンですら、ただの時間稼ぎに使われる戦い。

 幾多の宇宙を巻き込み、無数の次元を喰らう化物に、万年単位の時を費やし戦う者達の物語。

 人、それを『虚無戦記』と言う。

 

 果てなき戦いの果て。

 終わりなき戦いの終わりの前。

 無限の敵に、有限の攻撃を無限に重ね合わせて対抗する、そんな戦い。

 そんな戦いが繰り広げられるがゆえに頻繁に宇宙の壁に穴は空き、そんな恐ろしい多元宇宙の一つにある地球に、一人のウマ娘が落下した。

 

「あだっ」

 

 彼女の名はアドマイヤベガ。

 ウマ娘、と呼ばれる存在。

 

「ここ、どこ?」

 

 だがここは、既に馬が走ることを許される地球ではない。

 ガラス化した大地。

 鉄の棘のようにしか見えない路面。

 宇宙を消滅させる機械の化物くらいしか、もはやこの大地は歩けまい。

 一歩踏み出すことすらはばかられるような、そんな恐ろしい大地だった。

 

「こんなところどう歩けば……鳥?」

 

 どうしようもない状態の少女の近くに、赤い鳥が飛んできた。

 玩具や機械にも見える赤い鳥。

 しかし羽ばたくその姿は、生物のようにしか見えない。

 人間なのか馬なのか分からないのがウマ娘なら、機械なのか鳥なのかが分からないのがその鳥だった。

 鳥は少女の周りをくるりと飛び、彼方の丘の主の下へと帰還する。

 鳥の主は、己の肩に止まった鳥の頭を撫でた。

 

「よくやった、ガルーダ」

 

《 Extended Please 》

 

 浮かぶ魔法陣が、鳥の主の腕を伸長させる。

 100m以上は伸びたその腕が少女を掴み上げ、鋼の大地から少しまともな丘の上へと、少女の体を引き上げていった。

 

「わっ」

 

 戸惑いながらも、少女は落ち着いた声色で自分を助けあげてくれた青年の顔を見る。

 

「あなたは……マジシャン?」

 

 青年は優しく少女を降ろし、優しそうな笑みを浮かべた。

 

「通りすがりの魔法使いさ」

 

《 Flower Please 》

 

 起動されるは花の魔法。

 花を出すだけの魔法によって、少女に花が手渡される。

 困惑しながらも花を受け取った少女の心を、花の香りが少しばかり落ち着けてくれた。

 荒廃した末期の地球。

 花の一輪も無い地球。

 既に花が絶えた地球。

 そんな地球で、少女を落ち着かせるためだけに作られた、綺麗で可憐な花があった。

 

「操真晴人。晴人って呼んでくれ。

 ここの地球に落ちて来た君の、最後の希望だ」

 

 そう、魔法使いは名乗った。

 

 

 

 

 

 優男だと、アドマイヤベガは思った。

 軽い男だとも思った。

 魔法使いと名乗ったあたりに、ちょっと胡散臭さも感じていた。

 けれども、不思議なことに出逢ってしまった以上、多少の不思議なことは許容すべきだとも思っていた。

 

「俺は色々旅してる内にたまたまここに来たような、旅の魔法使いさ。

 最近ちょっと『ここ』がヤバいらしくてね。

 ちょくちょく他の宇宙から人が落ちてくるらしくてさ。

 見張ってもらって、落ちて来た人がいたら、元の世界に連れて帰ってやってるんだ」

 

 ボランティアの救急隊員みたいなものだろうか、とアドマイヤベガは自分なりに噛み砕く。

 

「可愛い女の子の馬が落ちてくるとは思わなかったけどね」

 

「……気軽に初対面の女の子を可愛いとか言う奴は、信用しない」

 

「うん、こいつは失礼した。不快に思ったならごめんな?」

 

「いい、別に不快ってほどでもないから。あなたはなんでここに来たの?」

 

 晴人は苦笑する。

 

「友人の形見を静かな場所に埋葬してやりたくて、場所を探してたんだけどさ」

 

「友人?」

 

「友人っていうか……大切な人? 俺の片割れ、半身の相棒、みたいな」

 

 晴人の手の中で、綺麗な色合いの指輪が転がっていた。

 

「ここはちょっと煩くて、死者が穏やかに眠るには騒々しすぎるかな」

 

 上を見上げる晴人。

 それにつられて、アドマイヤベガも空を見上げる。

 空が割れ、空が切り裂かれていた。

 星が消え、星が生まれ、空の星々の並びが次々と変わっていった。

 それは星も、星が放ち地球に届く光も、無慈悲に片っ端から消されているという恐ろしい宇宙の戦いを証明する事象であった。

 ビッグバンすらも一手段でしか無い多次元宇宙の戦闘が、空というモニターに映し出される、おぞましき宇宙の光景だった。

 

 そんな空の下で、操真晴人は平然としていて、でっかい宇宙の事柄に何の興味も持たず、小さな人の心の平穏だけを気にしていた。

 少女の心を気遣い、晴人は笑ってドーナッツを差し出す。

 

「ドーナツ食うかい? プレーンシュガーしかないけど」

 

「オグリキャップ達じゃないんだから……」

 

「オグリ? 友達?」

 

「……いいから、元の世界に返る方法があるなら、さっさと教えて」

 

「せっかちさんだな。ま、気持ちは分かるよ。ちょっと待っててくれ」

 

 魔法使いが指輪を付け替え、ベルトにかざす。

 

 指輪を付け替え無数の魔法を使いこなす彼を、人は魔法使い……『ウィザード』と呼ぶ。

 

 彼はウィザード。『仮面ライダーウィザード』だ。

 

《 Teleport Please 》

 

 広がる魔法陣がするりと二人を飲み込み、アドマイヤベガの"存在に相応しい波長の世界"を検索した魔法が、二人を『ウマ娘の世界』に連れて行った。

 見慣れた世界の光景に、アドマイヤベガがほっとした表情を見せる。

 

「ありがとう」

 

「ここからなら一人で帰れるか?」

 

「一人で大丈夫。私は一人で戦って一人で勝ってきた。これまでも、これからもそう」

 

「そっか。ま、あんま一人でとか、自分だけでとか、気張るなよ」

 

《 Miracle Please 》

 

 魔法使いの召喚魔法が、魔法使いの内なるドラゴンを呼び出す。

 晴人はウィザードラゴンにまたがり、アドマイヤベガに別れの挨拶とばかりに手を振る。

 

「俺もほら、俺の馬とずっと二人三脚だから、あんま寂しくないからさ」

 

『誰が馬だ』

 

 ドラゴンが晴人をぶっ叩こうと尾を振るが、晴人はドラゴンの上でひょいと避けた。

 

「心の中に誰か大切な人が一人いれば、一人じゃない。そうだろ?」

 

 微笑む晴人がいい笑顔を浮かべると、その腰に吊られた晴人の大切な人の形見(ホープリング)が揺れて、それを見たアドマイヤベガの表情に、ほんの僅かな笑みが浮かぶ。

 

「そうね」

 

 アドマイヤベガが手を振り。

 互いが別れの言葉を告げて。

 魔法使いが世界の壁を越えていく。

 

 不思議な一期一会の出会い。

 

 不思議な共感を覚えたまま別れた二人は、以後二度と再会することはなかった。

 

 戦うことで絶望に呑まれている人を救う魔法使いにとって、それはとても、とても素晴らしいことだった。

 

 

 



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宇宙の揉め事が粗方片付いた後でラブコメの神になったアストラナガン

お題は「竜胆の花言葉」「かぐや様は告らせたい」「インフィニティ・シリンダー」

そうか……わかったぞ……ゲッター線とは……ラブコメとは……!

ラブコメに鬱展開って要る? 要るって答えた? じゃあ君、次のスパロボのラスボスね


 アストラナガン。

 それは、スパロボ系列の作品に登場する、男の子が好きな最強チートをこれでもかと詰め込んだオリジナルの機体である。

 

 スパロボという色んなロボ作品の設定がごちゃごちゃァ! と混ざってる作品における禁じ手スレスレの強手、色んな作品の技術を混ぜ込んで作ったという最強機体。

 平行世界移動!

 時間操作!

 ブラックホール、念動力、因果律がうんたら!

 強い。

 これでもかと強い要素が詰め込まれている。

 強すぎてシナリオの中でもうほぼ動かせないというレベルの存在だった。

 

 それはそれとして。

 アストラナガンは脇に置いておいて。

 

 

 

 

 

 私立秀知院学園!

 かつて貴族や氏族を教育する機関として創立された、由緒正しい名門校である!

 貴族制が廃止された今でなお、富豪名家に生まれ、将来国を背負うであろう人材が多く就学している。

 そんな彼らを率い、纏め上げる者が、凡人であるなど許される筈もない!

 

 秀才にして天才!

 秀知院学園生徒会、生徒会長・白銀御行!

 天才にして富豪令嬢!

 秀知院学園生徒会、副会長・四宮かぐや!

 

 これはとても頭の良い彼らによる、「相手のこと好きなんだけど、相手が自分のこと好きなのは分かってるから、自分に告白させよう」という天才たちの恋愛頭脳戦!

 頭の良いバカ達の駆け引き!

 言うなれば、スーパーコンピューターを頭に積んだチンパンジーのラブコメ!

 彼らはスーパーコンピューターで計算し尽くした行動を取るのではなく、スーパーコンピューターで殴ることで恋愛を進展させんとする!

 

 そう、彼らは頭のいいチンパンジー!

 恋愛となれば猿!

 勉強となれば最高レベルの文明人!

 書紀の藤原のことを時々チンパンジーを見るような目で見ている生徒会の者達であるが、恋愛時は所詮同レベルのチンパンジー!

 

 だが仕方ない。

 彼らは高校生。

 ちょっとしたことで恋人になってしまうような軽い男、軽い女には見られたくない。

 それは当たり前のことなのだ。

 三分で彼女になるようなインスタントマンコヤリマンビッチに見られたいか?

 セックスと異世界のファンタジーを同じ目で見ているモンスター童貞に見られたいか?

 否!

 否!

 余裕ぶった感じに相手から告白させ、それで付き合いたい!

 

 この世界は、そんなバカ達のほんわかふんわりした頭を最大限に使う頭脳戦の物語だ!

 

 だからこそ!

 

「幻滅しました、会長」

 

「ふん、こちらこそ幻滅したぞ。二度とその顔を見せるな」

 

 気楽に見ていられるラブコメ世界が破綻した、その時!

 好き合っていた男女が、未だに心の中で好き合いながらも、些細なすれ違いで修復不可能なほどにまで関係が崩壊した、その時!

 優しくも甘酸っぱい時間が終わりを告げた、その時!

 

「はい、巻き戻し」

 

 発生する十個の中性子星!

 中性子星が白銀達の宇宙の周りを回転し―――宇宙の時間が巻き戻り始めた!

 そして僅かに時間が巻き戻された宇宙が、別の流れをやり直し始める!

 起動せよインフィニティ・シリンダー!

 其は時間を巻き戻すスーパーロボットの力なり!

 

 そう!

 彼はアストラナガン!

 因果律の番人!

 ラブコメの守護者!

 『いやーこの展開ないわー』となった時に時を巻き戻す者!

 

 確率論的には起こることがありえないような奇跡的なめぐり合わせで、ほとんど不快にならない見ていて楽しいだけのラブコメの世界とは全て、アストラナガンによって作られている!

 

 ToLOVEるは必ずスカートの中に入り!

 ニセコイは中々決着がつかずぬるま湯のような時間が続き!

 寄宿学校のジュリエットは面倒臭い設定が致命的なところまで行かず!

 堀さんと宮村くんは致命的な事態を回避し!

 古見さんはコミュ障ですは優しい世界が継続され!

 からかい上手の高木さんは決定的な関係変更線を越えず!

 ギリギリアウトは毎回必ずヒロインが放尿する!

 うる星やつらは『告白しない』という意志を貫いてもいい世界が約束される!

 

 全てはアストラナガンのおかげ! ありがとうアストラナガン!

 

「四宮、貰い物の花束だけど、これやるよ」

 

「まあ。ありがとうございます、会長」

 

(さあどう出る四宮……この俺の一手、最後の一手まで読み切れるか……?)

 

(ふふ、会長ったら私を好きにもほどがあるわ……

 花なんて送っちゃって……でもきっとこの裏の真意は……

 わー、わー、会長に花貰っちゃった、花貰っちゃった、頬に手を触れないと)

 

 だが再び窮地!

 このままでは上手く行き過ぎて、白銀とかぐや様のカップリングが成立してしまう!

 アストラナガンの干渉の結果のカップリングが成立してしまう!

 それでは駄目だ!

 カップル成立は極めて自然でなければならない!

 ここだ! と、名演出家アストラナガンの手腕が光った!

 

 起動せよアキシオン・キャノン!

 暗黒物質・ダークマターの構成材質・アキシオンが宇宙に撃ち込まれる!

 生成される巨大宇宙重力異常(グレート・アトラクター)ッ!

 ブラックホールをも超える宇宙規模の極大重力滑落点が宇宙に大いなる影響を与えるッ!

 

 それこそがバタフライエフェクトを生み!

 藤原書紀と石上会計を生徒会室に呼び込んだ!

 アホの襲来、ラブコメの終焉、コメディの開始である!

 

「あ、お花だ!」

 

「生徒会室に花ってなにやってんですかまた……ん? あれ、それ竜胆ですね」

 

「竜胆?」

 

「花言葉は正義、誠実、悲しんでいるあなたを愛する……だったかな」

 

「―――!?」

 

 ここでアストラナガン演出師の誤算!

 石上は花言葉に詳しい!

 時間を巻き戻すか、アストラナガン演出、迷う!

 

「は? あ、いや……」

 

「え、いや、その」

 

 一瞬、ほんの一瞬のみ、白銀とかぐやのポーカーフェイスが誰にも見えない角度で崩れた。

 照れた白銀とかぐやがなにやら誤魔化し始めたので、時間を巻き戻すのはやめた。

 

 アストラナガンは因果律の番人。

 今日も今日とて、ラブコメの因果律を守護していく。

 世界のどこかでラブコメのあるべき因果が崩壊した時……その時こそ、宇宙を崩壊させ、ラブコメの因果を崩壊させる、アストラナガンが倒すべき邪悪が現れた時!

 

「本日の勝敗、白銀&かぐやの敗北……っと」

 

 この二人のラブコメのワンエピソードが終わった時、一言感想を付ける。

 

 それが最近のアストラナガンのライフワークであった。

 

 

 



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グリッドマンとひよっこウルトラマンティガ

お題は「御守竜胆」「修羅場」「響裕太」

 夢の中でなら、いつも助けに来てくれる。
 いつも共に戦える。
 夢のヒーロー。


 これは夢だ、とグリッドマンは思った。

 これは夢だ、と御守竜胆は思った。

 

「あれ、この前の夢で共闘した……グリッドマンさん」

 

『おや? もしかしてだが……あの夢の中で共闘した、ティガだろうか』

 

「あ、はい、あの時のティガです」

 

 ウルトラマンフェスティバル2015にて、グリッドマンはウルトラマンと共闘している。

 公式イベントのライブステージにてウルトラマンXと並び立つグリッドマンは、当時サプライズで会場のお父さん達を大いに驚かせたとか。

 ジオラマステージなどではガイア&ダイナと共闘し、超大混戦の中ファイブキングに立ち向かうティガの姿もあったという。

 十勇士ティガ然り、超古代ティガ然り、中身がマドカ・ダイゴでないティガが宇宙の数だけ存在するのもまた、『ウルトラマンティガ』の特色である。

 

「あの時は色々あって力出しきれなくて、活躍しきれなくてすみませんでした」

 

『いや、助かったとも。君の力もまた必要なものだった』

 

「ババルウ星人を吹っ飛ばしたグリッドビーム、クソ強かったですね……」

 

『だがファイブキングは吹き飛ばせなかっただろう。

 あれは君のゼペリオン光線の力だったと、私は思う』

 

「ゼロさんがあそこでハイパーゼットンに睨みを利かせてくれて無かったらヤバかったですね」

 

『しかし、今日まで夢だと思っていたよ』

 

「俺は完璧に忘れてましたよ。起きてる時は忘れちゃうみたいです」

 

『私はハイパーエージェントだ。そういう忘却にも、ある程度耐性がある』

 

「ハイパーエージェントすっげえ……じゃあちょっと、話でもしましょうか」

 

『ティガがこんな少年だったとは、私も想像していなかった。

 君くらいの年頃なら悩みも多いんじゃないか?

 少なくとも私がこれまで支え合ってきた中学生達は、そうだった』

 

「俺最近中学生じゃなくなったんですよ」

 

『む、そうか。すまない』

 

「謝るこたないです。

 最近の悩みは……そうですね……

 ちーちゃんと若葉が喧嘩してて、俺が間に挟まれること多いこととかでしょうか」

 

『恋の三角関係の修羅場……だな?』

 

「違います」

 

『すまない』

 

 この人表情筋も顔の皮膚もなさそうなのによくドヤ顔できるな、と竜胆は思った。

 

『誠実に接し、気遣い、優しさを忘れない。人間関係の基本はそうではないだろうか』

 

「やっぱそれっすかねー、やっぱか」

 

『役に立たないアドバイスしかできなくて申し訳ない。

 ここが夢でなく、私の仲間が同行していたら別のアドバイスもできたかもしれないが……』

 

「気にしないでください」

 

『思えば、私は最初に一体化した直人の恋の助けにもなれなかった。

 先日一体化した裕太の時に、初めて恋の助けになれたような者だ。

 去り際に裕太が胸の奥に隠していた恋心を、片思いの相手にバラしていくことしか……』

 

「それ状況によっては殺意抱かれても仕方ない失策では……?」

 

『なんだって!? それは本当か!?』

 

「無自覚ですか!?」

 

 彼はハイパーエージェント・グリッドマン。

 去り際に一体化した少年の恋心をヒロインに勝手にバラし、去っていった夢のヒーロー!

 

『綺麗で尊い想いを聞かれて何が悪いのだろうか。

 想いは胸に秘めたまま、ずっと明かされなければその尊さと共に消えてしまう……』

 

「善意だったら全て許されるってわけじゃねえぞグリッドマン!」

 

 思わず叫んでしまった竜胆も、むべなるかな。

 グリッドマンがしょぼんとした。

 

『……裕太なら、全てを知っても許してくれそうなのが怖い。

 彼と私は一体化し、一人の少女をなんとか救えたが……

 一体になっている時にずっと、光を感じていた。光の心の持ち主だったんだ』

 

「あー、分かります、俺分かる。純粋で真っ直ぐな奴は眩しいですよね……」

 

 竜胆は、どこか遠くを見るような目で、どこかの誰かを思い出すような声色で、とても優しく暖かな声を出した。

 竜胆が特定の誰かの笑顔を頭に浮かべたことは、想像に難くない。

 

「光の心の響裕太、か。そういうの、結構憧れてたんですよ、俺」

 

 グリッドマンは、憧れの言葉を口にする竜胆の前に立つ。

 そして、手を差し出す。

 友情を表明するために。

 信頼を表明するために。

 かつて共に戦った戦友に対する評価を、誤解なく伝えるために。

 

『君も十分眩しいとも。君は既に光だ』

 

「―――」

 

『君は光の戦士だからこそ、あの謎のスパークドールズをきっかけとした戦いに喚ばれたのだ』

 

 グリッドマンは光だ。

 電子の世界の光に潜り込み、その中にはびこる闇を撃つ。

 『アクセス・フラッシュ』とは、グリッドマンが光であるがゆえの変身コード。

 ウルトラマンという光の戦士とは別に、グリッドマンという光の戦士もまた、人々の笑顔と希望のために戦っている。

 電脳世界では、電子の巨人として。

 現実世界では、光の巨人として。

 個別の戦う姿を持つのが、グリッドマンという夢のヒーローである。

 

 竜胆は複雑そうに、けれど嬉しそうに、グリッドマンが差し出した手を取った。

 

「ありがとう」

 

 少年とグリッドマンの手が、固く握られる。

 

「起きてる間は忘れてましたけど、俺はあれの後も喚ばれてましたよ。*1

 タイプチェンジもできない簡素なマルチのティガの姿でしたけどね。

 Xさんは、マジャバって怪獣を人形にしていて。

 オーブさんは、ウルトラマンシャドーと戦って。

 ジード君は、ウルトラダークキラーと戦って。

 ゼロさんは、ウルトラセブンの偽物と戦って。

 俺はイーヴィルティガとかいうやつと戦ってたような……

 グリッドマンがまたウルトラマンと共闘する時間が、またきっと来ますよ」

 

『その時は、よろしく頼む』

 

「あ、夢じゃなくて現実だと俺ちょっと違うティガなので。

 それと起きたら俺忘れてるっぽいので。そこは覚えておいてください」

 

『分かった。私も違う姿で君の前に現れるかもしれない。その時は、よろしく頼む』

 

「はい」

 

 二人の握手が解かれ、二人が背中を向け合い、別々の道に歩き出す。

 

 別々の道。

 されど、方向が違うだけの光の道だ。

 

 そうして、御守竜胆とグリッドマンは、夢から醒めた。

 

「随分寝てたなグリッドマン。次の指令が来てるぞ」

 

「あ、リュウくんおはよう! 怪獣は来てないよ」

 

 それぞれの耳に、それぞれの仲間の声が届く。

 

 グリッドマンと竜胆は、それぞれの答えを返した。

 

「ああ」

「ああ」

 

 道は違えど、世界は違えど、グリッドマンと竜胆が思うことは同じ。

 

 いつも、どこかの誰かの笑顔のために。

 

 彼らはまた立ち、また歩き出し、人々を守るための拳を握った。

 

 

 

*1
ウルトラマンフェスティバル2017ライブステージ第一部「運命を切り開け~光と闇の戦い~」のこと。



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グリッドォォォォ……エアロビームッ!!

お題は「ピョードル」「自分を呂布だと思い込んでるグリッドマン」「クロスオーバー」

 S()S()S()S().GRIDMAN
 透真は吐いた。


 ルパンブルーこと宵町透真は、うなされていた。

 悪夢。

 悪夢である。

 地獄の悪夢に、透真は本気でうなされていた。

 

「ううう……ぐうううっ……!」

 

 『操作する/Le contrôle』。

 「頑固な無頼漢をも言霊の音色で操ってしまうリコーダー」と語られたこのルパンコレクションを巡る戦いで、透真は信じられないほどの生き恥を晒してしまった。

 それこそ、ビルの屋上から飛び降り自殺して地球を踏み砕いてやろうか、という憤怒が湧いてくるほどの恥辱だ。

 自殺と殺意が混ぜこぜになって一緒に蒸発するほどの、怒りと恥辱は今も透真の中にある。

 

 そう。

 透真は。

 ギャングラー・ピョードルのルパンコレクションで洗脳され、大真面目な顔で古武術と思い込まされたエアロビをやらされてしまったのだ!

 

 その恥ずかしさたるや天元突破。

 静かな授業中にクソデカ放屁をしてしまう以上の大恥である。

 透真はクールキャラで通していただけに、そのダメージは大きかった。

 例えば警察の朝加圭一郎ならば「許さん!」の一言で激怒し、ぶち倒し、明日に引きずらず終わる……ということができただろうが。

 なまじクールなイケメンをやっていたことが不運であった。

 

 このルパンコレクションは非常に強力なもので、口にした言葉だけで相手を強制洗脳、その心と体の動きを自在に操作するというもの。

 「あのバカ以外が持ってたらヒーロー全滅してたよね」と言われるほどのものである。

 透真が逆らえないのも当然だった……とも言えるものなのだが。

 洗脳されて自分の意志でとんでもなく恥ずかしいことをしてしまったのもまた事実。

 これは透真の一生物のトラウマとなった。

 

 事件の直後は、婚約者が目の前で氷漬けにさせられ消滅させられた時の悪夢を見る頻度より、エアロビの悪夢を見る頻度の方が高かったくらいである。

 

「はぁぁぁぁぁッ!?」

 

 そして、飛び起きた透真は、それがただの夢であったことに安心した。

 

「ゆ……夢か……」

 

 眉間を揉む。

 びっしょりとかいた汗を拭き取る。

 顔を洗い、水を拭う。

 だが、過去の記憶を拭い去ることはできなかった。

 

「ふっ……過去を忘れられないのが俺達だと、分かっていたはずなのにな……」

 

 起き抜けの透真の脳裏を、忘れられないトラウマ―――婚約者のこと、エアロビのこと、キツツキ迷言のことなど様々な記憶が駆け巡る。

 

 過去は変えられない。

 だがそれも覆す奇跡を求めて、彼はルパンコレクションを集めているのだ。

 受け入れられない過去を覆すため、今日も宵町透真は『怪盗』として戦い続ける。

 ひゅっ、とそんな彼の部屋に窓から飛び込んで来る、一つの影。

 

「大変だ大変だぁ!」

 

「グッティ? どうした、何かあったのか?」

 

「街中の人達がエアロビを踊ってるんだよぉ!」

 

 透真は膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 街は大混乱に陥っていた。

 街中で開催されるエアロビ。

 全てのインフラは停止し、特に街が破壊されるということはなかったが、社会は完全に崩壊してしまっていた。

 すなわち、世界の終焉一歩手前である。

 

「踊れ踊れ! 足腰立たなくなるまでなぁ! はっはっは!」

 

 街中で暴威をもたらすピョードル……蘇ってきた悪夢の前に、誰よりも速く必死の疾走にて到達した透真が立ちはだかった。

 

「貴様……どうやって蘇った!」

 

 誰よりも速く辿り着いたこと、それすなわち透真の殺意の証明である。

 

「ワシの亡霊を取り込んだ『不死身の何か』を媒体に……復活したのだよ!」

 

「不死身の何か、だと?」

 

「死したワシの怨念を……往生際の悪い何かが吸収した。

 そしてワシは、ワシと融合したその何かの力を使い、ワシの笛を取り戻した!

 その往生際の悪い不死身の何かを護送していた巨人も、今やワシの洗脳下よ!」

 

「なんだと!?」

 

 ずずず、と巨人が立ち上がり、その巨体を見せる。

 彼の名は(誰も知らないが)グリッドマン。

 

 設定上、現実世界では自在に巨大化し巨人となれる戦士であるが、電脳世界で戦う時は人間の作った巨大化プログラムがなければ戦えず。

 人間と融合しているため、人間の体に無理がかからないよう時間等の制限があり。

 ボロPCと一体化しているため、エネルギー限界と負荷限界があり。

 電脳世界を介して人間を救うため、多くのハンデを背負っている巨人であった。

 

 その制限も、ルパンコレクションに操られ、ギャングラーを媒体に顕現している今は無い。

 

「なんだあの巨人は……グットクルカイザーVSXより大きい!」

 

 ルパンレンジャーとパトレンジャーが力を合わせた最強のてんこ盛り巨大ロボ・グットクルカイザーVSXは頭頂までで60.3m、装飾含めた前高が69.7m。

 グリッドマンが全長70m。

 対し、普段透真達が使っているルパンカイザーは46.5m。

 グリッドマンは、そりゃもうデカいのだ。

 

 身長70m、体重6万トン。

 現実世界では重力操作能力を行使し(電脳世界では使えない)、光速以上の速度で飛ぶ。

 活動制限時間はコンピュータワールド内のみと設定されており、現実世界ではその弱点も存在しない最強ヒーロー!

 

 そして、魔力超獣ジュバゴン戦然り、グリッドマンは割と洗脳されやすい。

 洗脳笛の格好のカモである。

 

「貴様らのルパンカイザーもパトカイザーもワシのコレクションでは操れん!

 よってワシは大きくなっての戦闘にやや不向きだが……この巨人がいれば話は別よ!」

 

「くっ」

 

 エアロビを踊るグリッドマンが、透真に迫り来る。

 

「さあやれ! 巨人よ、街を破壊しろ!

 人間界を掌握し、ワシこそがドグラニオ様の後継者となるのだ!

 『呂布のようになれ巨人よ』、全てを破壊する巨人になあっ! フハハハハ!」

 

 そしてグリッドマンは、自分を洗脳し命令するピョードルを、踏み潰した。

 

「フハハハハハギャアアアアアアッー!?」

 

 巨人はハッと我に帰り、ぐしゃっとなったピョードルから何かを回収し、どこぞへと消えた。

 

「あいつ、本当にバカだな」

 

 呆れた顔で、透真もピョードルの金庫を探る。

 解錠(物理)されたグシャグシャの金庫から、奇跡的に無傷の笛のルパンコレクションが発見された。

 

 呂布になれ、とピョードルは言った。

 上位者として命令した。

 人の心と認識すら操る、笛の力で。

 それはつまり。

 

「『命令してくる上司を下剋上してぶっ殺す』のが呂布だろ……」

 

 そういうことだった。

 

 ほどなくして、透真の仲間達もやってくる。

 

「透真、もう終わったのか」

「えー、私達することなかったカンジ?」

 

「ああ。……俺の心だけが、とてつもなく疲れただけだ」

 

 超速攻で問題は解決された。

 後に残った疑問は一つ。

 

「で、あの謎の巨人はどっから来たんだ?」

 

「知らね」

 

「知らなーい」

 

「オイラも知らねー」

 

 結局よくわからないまま、ノエルかコグレさんに聞いてみよう……ということになって、謎の解決は棚上げして、一旦お開き。

 

 透真は自室に戻り、まるで自分に言い聞かせるかのように口にする。

 

「もう二度と湧いて出るな、エアロビの亡霊が……!」

 

 エアロビの亡霊は何度でも蘇る。

 

 そう……透真が求めるルパンコレクションが、この世にある限り。

 

 それはある意味。人の業そのものと、言ってよいものであった。

 

 ルパンコレクションを求め、ルパンコレクションを破壊できない透真の心がある限り……またいつか、第二第三のエアロビは現れるであろう。

 

 それが、世の条理である限り。

 

 

 



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ノット・アクターズ IF

お題は「朝風英二」「絶対可憐チルドレン」「鷹の爪団」

 IFというにはいつも通りすぎる、ちょっと恋愛要素が強いもしもの一幕……に見せかけたいつものヤツ。


 絶対可憐チルドレンは、今も連載中だと言うと「え!? まだ続いてたの!?」と言われることが多い。

 確かに連載20周年が見えてきている連載期間も原因の一つだが、そう言われることの原因はもう少し他にもある。

 

 『この漫画他にそんなにすること残ってたっけ?』と思う人が、途中で買うのも読むのも辞めると、「あれから何年も経ってるし流石にあの問題は全部片付いてるだろう」と思う。

 そうなると、『じゃあ今何やってんだ』という感想が出て来る。

 これがあくまで一つの要素ではあるが、「まだ続いてたんだ……」と言われたりする作品の要因ってやつである。

 

 「いつまで続くんだろう」と誰かが言う。

 「いや最近も面白い小話的なのあったから!」とファンが言う。

 そうして、なんだかんだ多くの人が楽しみながら買い続けて、絶対可憐チルドレンという作品は続いてんのだ。

 

 安定感は抜群なので、固定ファンの獲得とコミックスの継続購入という意味では、今でもサンデー屈指の優等生の一角と言えるかもしれねえな。

 

 で。

 この絶対可憐チルドレンのアニメ化や、敵側キャラを主人公にしたスピンオフアニメの脚本やシリーズ構成をやってんのが、東園悟さんと、猪牙慎一さんと言う。

 

 俺の同業者ってやつだ。

 つまり、特撮で技を磨いた男達ってことだな。

 

 東園さんはカブタックの中核ライターの一人。

 ウルトラマンコスモスにも参加し、最近のウルトラマンルーブに登場した怪獣ブースカの番組ライターとしても参加してる、特撮ライター古参だぜ。

 

 猪牙さんは魔弾戦記リュウケンドー、レスキューフォースのシリーズ構成として参加。

 猪牙さんはレスキューフォースで、2008年に一年かけて子供達の心を掴んだ。

 それから9年後。

 2017年に、子供の頃にレスキューフォースを見ていた高校生が火災現場で「助けて」という声を聞き、燃え上がる家に突っ込んで老人と子供を合計八人助けたとか!

 すっげえ勇気だ。

 パねえ特撮ってのは、やっぱ人間をヒーローにするパワーがあんのかもな。

 

 だがアニメと特撮の接点、っつーなら絶対可憐チルドレンじゃやや弱え。

 それならむしろ秘密結社鷹の爪の方が、アニメと特撮の中間っぽいとこにいるかもな。

 

 鷹の爪はちょこちょこ特撮使ってる実写映画とコラボしてるし、劇場版第九弾では実写特撮で有名なアメコミヒーローとコラボしてっしな。

 ……劇場版第九弾!?

 俺アニメを嗜好してる人間じゃねえけど、いつの間に鷹の爪って劇場版九作も作ってんだ!?

 はー。

 人気あるとこはすげーな。

 九作も映画作れるとか……もう超大手シリーズクラスじゃねえか。

 

 いっけね。

 余計なこと考えてねえで、仕事仕事。

 

「英二」

 

「ん? 千世子、どうかした?」

 

 千世子が寄ってきた。

 いつも綺麗だよなあ、この子は。

 

「あの男のどこが好きなのか、って聞かれちゃった」

 

「へぇ、なんて答えたんだ?」

 

「英二さ、よく寝癖残ってるじゃん。仕事にばっか集中してるからだけどさ」

 

「? うん、そだな」

 

「寝癖を見て『だらしない』じゃなくて。

 『かわいい』って思えたなら。

 それが好きってことなんじゃないかな」

 

「―――」

 

 轟沈。

 俺は轟沈した。

 

「じゃ、英二の番」

 

「え、俺の番とかあんの……?」

 

「採点してあげよう」

 

「えー、あー、こほん。

 テレビの前で見せる千世子の綺麗な笑顔より。

 俺だけに見せてくれる笑顔の方が好きで、世界で一番好きかな……」

 

「85点」

 

「あ、意外と厳しい」

 

 やめろよお前。

 

 俺に理想的な歯の浮くような台詞が言えると思うか!?

 

「じゃ、そろそろ夢から醒めよっか。もう十分やる気は入ったでしょ?」

 

「え?」

 

「英二君って私に都合の良い女で居てほしくないって願望有るよね。多分」

 

 そんなこんなで。

 

 夢の中でも都合の良い女にならねえ、何を考えてんのか分からねえ、他人を振り回す小悪魔な天使やってた百城さんは、夢の中の俺を叩き起こした。

 

 

 

 

 

 がばっ、と起き上がる。

 そこは見慣れたデスアイランド撮影期間中の宿泊施設。

 

「はっ……ゆ、夢。夢だった。

 なんつー身の程知らずな夢を……百城さんに合わせる顔がねえ」

 

 百城さんはあんなこと言わ……言うかもしれねえが俺には言わねえ!

 あー嫌だ嫌だ。

 俺がまだ夢にガキみてえな妄想を投影する18歳のガキだって思い知らされた気分だ。

 もう少しでいいから自分の無意識も理性で制御できるようにならねえと。

 親父は夢を見ながらでも仕事できるやつだったんだ。

 あの寝ても起きても仕事できるテクニック、このままじゃ身に着けられる気配がねえ。

 

「英二くーん、起きてるー? ご飯いこー」

 

「あ、すみません景さん、ちょっと待っててください」

 

 朝飯のお誘いか。

 景さんのお誘いなら喜ん……いや、待て。

 この時間だと百城さん普通に飯食ってるな。

 じゃあ駄目だ。

 今百城さんを直視できん。

 俺の方が落ち着くまで待ってよう。そうしよう。そいつがいい。

 

「今ちょっと百城さんの顔が見れないんで、俺は後で飯食いに行きます。先行っててください」

 

「そうなの? わかった」

 

 ふぅ。

 

 心情が落ち着くまで仕事してよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝風英二と別れた後、夜凪は茜を誘って朝食を摂っていた。

 

 自分の道を自分のペースでとことん突き進んでいるように見える夜凪だが、毎朝誰かと一緒に食事を摂っているのを見るに、決して孤独ではない。

 むしろこの自然と周囲の人を引きつける不思議な魅力こそ、彼女を女優として急速に成長させているものなのかもしれない。

 

「英二くんが千世子ちゃんの顔見たくないって」

 

「そーなん? 喧嘩したんかな」

 

 夜凪から、茜に。

 ちょっと伝言がズレて伝わる。

 

「英ちゃんが千世子ちゃんの顔も見たくないんやて」

 

「喧嘩か何かしたんスかねえ」

 

 茜から真咲へ。

 ちょっと伝言がズレて伝わる。

 

「英二さんチヨコの顔なんかもう見たくないって不機嫌っぽいぞ」

 

「真咲。人からの又聞きで事実を理解した気になるのは良くないと思うが」

 

「いやマジなんだって! 茜さんからの情報だしよ」

 

 真咲から烏山へ。

 ちょっと伝言がズレて伝わり。

 その会話を、百城千世子が聞いていた。

 

「へー……」

 

 千世子はひょっこり歩いていき、英二が窓際で窓に背を向け作業しているのを発見。

 あえてドアの方から入っていかず、冷水で冷やした細い指で英二の首に触れた。

 

「ひゃっ」

 

 更にすかさず、英二の肩を押さえる。

 窓越しに、英二は完全に千世子に捕まってしまっていた。

 千世子の口元が、英二の耳元に寄る。

 ささやく声が耳の中へと流し込まれる。

 

「英二君、私の顔が見たくないんだって? 噂に聞いたんだけど」

 

「か、輝かしい百城さんの笑顔を見たら目が潰れると思ったからで……」

 

「私に英二君の嘘って通じると思う?」

 

「思いません……」

 

「ちょっとお話しよっか」

 

「はい……」

 

 夢の話は絶対にせず、沈黙を守ることを決め、その秘密を守りきった英二であったが。

 

 他の心情的秘密を守れたかというと、そんなことは全くなかった。

 

 鷹の爪は辛い。バカの詰めは甘い。

 

 

 



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戦姫絶唱シンフォギア feat.ワイルドアームズ afters

お題は「feat.ワイルドアームズのゼファー君の結婚」「10連ガチャ無料」「ハイスクールD×D」

 その後のつまらない話。


 ハイスクールD×D。

 お色気、熱血、中二、等々。

 少年が夢中になれるものがこれでもかと詰め込まれたせいか、逆に主流のラノベから離れた王道の邪道と化したライトノベル。

 この作品が地味に大活躍しているジャンルが有る。

 

 そう。ソシャゲである。

 

 近年、そのほとんどが数ヶ月で店じまいしていると言われ、一年保てばそれなり以上に優秀と言われるこのソシャゲ業界。

 そのソシャゲ業界でハイスクールD×Dのソシャゲは四年以上保ち、やがては五周年を迎えようというラインにまで到達しようとしていた。

 快挙。

 そう、快挙である。

 

 五年ユーザーを維持できるソーシャルゲームがいくつあるのか?

 2018年調べで、ソシャゲ上位層においては、売上を五年維持できるゲームは12%しか存在しないという話である。

 五年生き残ってるソシャゲという時点で英傑の一角と言っていいのかもしれない。

 エロは強し。

 ハイスクールD×Dのエロ要素はソシャゲにガッチリハマった様子。

 

 そんなHSDDのソシャゲにも当然現代のメインストリームの一つでもある無料10連(無料11連)があるわけだが、このメインストリームは他のゲームにも波及している。

 たとえば、通常のネトゲもそうだ。

 現在は通常のネトゲにもアイテムガチャ、課金ガチャなどが実装されていることも珍しくない。

 それらのネトゲにもまた、イベント報酬などで無料10連チケットがある場合は多い。

 

 一例だが、友達に勧められてSNSの延長で遊んでいたネットゲームのガチャで、無料10連をやった結果、最高レアの限定アイテムがドロップするという事態が発生する。

 

「あ、最高レアの結婚指輪がドロップした」

 

 ゼファー・ウィンチェスターがそのゲームでそういう最高レアアイテムを引き、それがにわかに元二課メンバー&装者達に伝わり……それが後日、イベントとなった。

 

「えー、今回のボーナス査定ですが。

 風鳴司令の提案でネットゲームの遊びで楽しく決めることが決定されました」

 

「イエーイ!」

 

 リアルでゼファーに勝てる奴はもうほぼ居ない。

 

 ゆえにこそ!

 ゲーム内で、ゼファーをラスボスとする身内抹殺結婚イベントが企画されたのである!

 それは二課の流れを汲む現行組織の身内限定のネトゲイベント!

 

 企画、風鳴弦十郎!

 司会進行、友里あおい!

 プログラム進行、藤尭朔也!

 ゼファー以外をキルしたプレイヤーキラーをキルするプレイヤーキラーキラー、ニンジャスレイヤー緒川慎次!

 

 このイベントの勝利者には、冬のボーナスが増えたりとなんやかんやの特典あり!

 

「ゼファー君をゲーム内で力尽くでねじ伏せ、結婚式場でHPを0にした人のボーナスが増えます」

 

「これ大概おかしくねっすか?」

 

「アイテムの結婚指輪は倒すとゼファー君のキャラから強奪できます。

 ゼファー君の使用キャラに向かって使ってみてくださいね。面白いので」

 

「あのちょっと」

 

「ちなみにゼファー君を男性職員がゲーム内でねじ伏せてもボーナスは増えます」

 

「絶対におかしい! 絶対に絶対だ!」

 

 もはやゲーム内で殺される側のゼファーからしか異議は上がらない。

 女に殺され女とゲーム内結婚式を挙げるか。

 男に殺され男とゲーム内結婚式を挙げるか。

 ゼファーには二つに一つしか無いのだ!

 

 ちなみに会場の隅っこには、男キャラを使うカリオストロと女キャラを使うプレラーティと無性キャラを使うサンジェルマンがいるため、地獄の性別交差点が完成している。

 更にはおふざけで女キャラで参加しているジュードと、ジュードの妨害に参加したキャロルと、キャロルの妨害に参加したガリィと、ガリィの妨害に参加したミカと……と更に地獄。

 

 もはやこれはただの結婚式イベントではない。

 地獄のネカマ・オブ・ネカマ一丁目など通過地点。

 いかにして周りを出し抜き、新郎ゼファーを殺し奪った結婚指輪を、ゼファーの操作キャラの死体に無理矢理ハメて結納するか―――それを競う、シンフォギア世界知略最強決定戦なのだ!

 

「未来ー! 私と組もう!」

 

「いいよ。ネットゲームなんて初めてだなあ」

 

「調、切歌。私に続きなさい!」

 

「これ、チームの人数増えるほど有利なのかな?」

 

「デース!」

 

 既にチームの結成が始まっている。

 そう、これは新郎をリンチする数が多ければ多いほど良い。

 数が揃っていればそれだけ、ゼファーの操作キャラを逃さない可能性が増す。

 最終的に結婚指輪の争奪で身内戦になるかもしれないが、それはそれ、これはこれ!

 

「でも僕は既にゼファー氏に雇われてるんだよねぇ。こっちに付くよ」

 

「局長!」

「いつものやつ!」

「考えなしの陣営変更!」

 

「やだなあ、僕だけじゃないよゼファー氏の味方は。ほら、ごらん」

 

「風鳴弦一郎!」

「風鳴弦二郎!」

「風鳴弦三郎!」

「風鳴弦四郎!」

「風鳴弦五郎!」

「風鳴弦六郎!」

「風鳴弦七郎!」

「風鳴弦九郎!」

「アダム・ヴァイスハウプト」

 

「これがゼファー陣営の戦力だ!」

 

「おい脳味噌が溶けそうになる怒涛の新キャラ紹介やめろ」

 

「……あっ、よく見たらこれ全部ゼっくんだ! ただの影分身の忍術だこれ!」

 

「分身して変装かよ!」

 

「ゼファー・ウィンチェスターは我々ベストナインが守ってると思っていただこう」

 

「野球でも始める気か?」

 

 ロードブレイザーを倒した後の世界は、なんだかんだで平和だった。

 

 

 



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デストラ君とディアボロさん

お題は「デストラ・マッジョ」「ジョジョの奇妙な冒険・ディアボロ」「平成ガメラ」

『未来を見る人間の隙を見逃さず、最初から狙うためには』というルパパト42話のちょっと前の話。


 其は、亀だった。

 大昔から存在する亀。

 普段は漂流する環礁であると人間に認識され、海の上をぷかぷかと浮いて流れながら、目覚めの時を待つ万年単位の休眠中の亀。

 遠い昔から海の上をさまよっているがために、その甲羅の上には超古代の遺物、大昔に散逸した価値あるものが埋没されている。

 

 そこに、二人の男が来訪した。

 

 片や、デストラという男。

 怪人と呼ばれるに相応しい風貌を持ち、今は最後の戦いに赴くべく、かつて人間界に渡ったルパンコレクションの知られざる一品があるやもと、か細い情報をあてにここにやって来ていた。

 されど見つかるのは超古代の勾玉のみ。

 ルパンコレクションなど、見つかるはずもなかった。

 

 片や、ディアボロという男。

 ある戦いに敗北した彼は、永遠に世界のどこかを彷徨いながら死に続けている。

 ある場所で死ねば別の場所で死に、その場所で死ねばまた別の場所に飛ばされる。

 終わりが無いのが終わり。永遠に終わらないまま終わり続ける。

 それが、敗北者となったディアボロの運命だった。

 

 "やってきた"デストラ。

 "飛ばされてきた"ディアボロ。

 怪人のデストラを見たディアボロが『自分を殺すもの』だと認識し、恐怖から絶叫したのは当然のことだった。

 

「オレのそばに近寄るなああ―――!」

 

 特に生かす理由はなかった。

 デストラは人間を見下している。

 その命を無価値に見ている。

 癇に障ったならば、殺すことに躊躇いはなかった。

 

 だが、怪人が何気なく放った人を殺すに足る威力のミサイルが、飛翔した瞬間。

 この死のループにも慣れてきたディアボロはミサイルが()()()()()()()避け。

 彼らを乗せた島の如き亀が、それに合わせて身動ぎする。

 立っている場所が大きく動くということは、地面が揺れる地震以上のズレを生み出し、攻撃の前にディアブロが動いていたこともあり、デストラの攻撃はかすりもせず回避されてしまった。

 

 デストラの肩が、ピクリと動く。

 "今の避け方"に、デストラはとても見覚えがあった。

 怯えに怯えるディアボロの襟首を掴み、持ち上げる。

 

「貴様、今、何かしたな。未来を見たのか? 数秒は先か」

 

「あ、ああ」

 

 ディアボロは"未来を見る異能"を行使し。

 デストラは"未来を見るルパンコレクション"を連想した。

 奇しくもこの場で、ディアボロがデストラに殺されるという確定の運命を覆したのは、休眠中でも僅かに干渉した心優しき巨亀と、『未来予知能力者を殺すつもり』のデストラの思惑、その二つが噛み合うという奇跡であった。

 

「『未来を見ることができるヤツの攻略法』を教えろ。そうすれば見逃してやる」

 

「あ、ああ。……本当に見逃してくれるんだな?」

 

「私は貴様の生死に興味はない。

 貴様が巻き込まれて死ぬ分には気にせんが、わざわざ殺そうとも思わん」

 

「そ、そうか。そうか……

 攻略法があるかは知らん。だが、弱点はある。オレの体感だが」

 

「ほう」

 

「たとえば―――」

 

 ディアボロは卑屈に、命乞いを繰り返すような口調で、『自分が今まで未来を見て予想外に失敗した事柄』を片っ端から伝えていく。

 それはデストラの中に蓄積された情報となる。

 ゆえに、もはや"一人で戦う未来予知能力者"はどうやってもデストラの敵ではなくなった。

 ディアボロは常に一人で戦ってきた、未来を見て時間を飛ばす戦闘者。

 

 なればこそ。

 未来を見ながら戦うという破格の能力を持っていたとしても、一人で戦う限り、もはやその者はデストラに勝つことは不可能となった。

 

「なるほど、それが未来を予知できる者に付け入る隙か」

 

 特にデストラが気に入ったのは、"未来を見ていても予想外なことが絶対に起こらないとは限らない"という点であった。

 ディアボロが未来を見る能力を発動する前に奇襲され、予想外の事態に動揺し、未来を見ないまま戦わざるを得なくなったという話は、デストラにいくつかの戦術を思いつかせたようだ。

 

「特に、未来を見るのは疲れるという話が気に入った。

 今と未来を同時に見るのは面倒なのだな。

 だからこそ、戦闘の要事にのみ集中して常時発動させる。

 奴が戦闘中の有事にのみしか未来を見る形態と能力を使わないのであれば、どうとでもなるか」

 

「そう、そういうことだ。

 未来が見える者に奇襲が全く通用しないというのは、少し違う。

 戦闘中に奇襲されないだけ、ということもある。

 戦闘中だって能力が発動する前に攻撃を当てれば、当たる。だから―――」

 

 ふっ、とディアボロが消えた。

 終わり無きが彼の終わり。

 殺されないまま時間が経過したことで、次の死に場所に転送されたようだ。

 デストラはそういった仕組みを理解していたわけではないが、突然現れた者が突然消えたことにさして疑問は持たなかった。

 必要な情報は、既にディアボロを通して得ている。

 

「消えた、か」

 

 デストラは地面――のようにすら感じる巨大な亀――を踏みしめる。

 巨亀は休眠中のまま。

 未だこの亀が目覚めるに相応しい『世界の敵』は現れていない。

 ゆえにこそ、漂流する環礁の如き存在のまま、海の表面を漂うのみ。

 

 この星に生きる命であるディアブロを、この星に生きる命でないデストラから、眠ったまま本能的に助けはしたものの、それだけ。

 巨大な亀は眠り続ける。

 星の危機は、まだ到来していない。

 

「貴様が寝ているだけの存在で助かった」

 

 星を死滅させる気は無い異世界の犯罪者は、漂うだけの巨大な亀をひと蹴りし、その場を去っていった。

 

 

 



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HEBOT AUTOMAT

お題は「水没都市」「ヘボット!のナグリ王妃」「ロードブレイザー」

 性格悪いヤツと何も考えてないヤツがニーアオートマタの世界を見たら、出る反応は違うのやも。

ひょっとしたらロードブレイザーとナグリ王妃の年齢ってひょっとしたら同じくらいなんじゃないかという疑惑


 二人の破壊者がその場所を訪れた。

 一人は無関心に去った。

 一人は手を差し伸べた。

 

 その地球は、どうしようもなく終わっていた。

 

 かつて、そこには人類という生命がいた。

 人類に戻るはずだった、人類だった生命がいた。

 宇宙から侵攻したエイリアンがいた。

 地球と地球外生命体の間で、戦争が勃発した。

 

 人類が作り上げた機械兵器、アンドロイドが戦場に現れ。

 エイリアンが作り上げた機械兵器、機械生命体が戦場に現れ。

 人類が滅び。

 エイリアンが滅び。

 けれど戦争は終わらず。

 アンドロイドと機械生命体は、命も無いのに殺し合う日々を続けた。

 

 戦わねばならない。

 入力されたコマンドだから。

 それ以外に道がないから。

 得るものがないまま壊し合い、殺し合う。

 

 敵を倒せという命令を継続しなければならない。

 けれど、敵がいなくなれば命令を継続できない。

 だから敵を全力で倒しながら、敵を全滅させないようにしなければならない。

 命令を継続するために。

 何の得もないままに。

 

 それを何度も繰り返す。

 ある存在が発生し、失敗し、遠い未来に同じような存在が発生し、同じような失敗を繰り返し、同じような歴史を繰り返し。

 選択によって歴史は無数の平行世界に分岐し、全てがBADENDに終わりながらも、世界は分岐と合流を繰り返し、相互に干渉し合いながら進んでいく。

 

 時に、何の関係もない平和な世界も、この崩壊と破綻に巻き込みながら。

 

 その地球が、多元宇宙との接続を得たのは、完全に偶然と言えた。

 

「面白そうなものが飛ばされているな」

 

 その魔神の名は、ロードブレイザー。

 全並行宇宙を滅ぼし尽くすことも可能な力と、多元宇宙を渡り焼き尽くす権能、上位次元に干渉する創造神の分け身ですら超える力を持つ、焔の魔神である。

 その力は不老不死を殺すという矛盾を成立させ、神すらも殺し尽くす者。

 

 そんな魔神が、ある日「竜」を見た。

 世界と世界の間の壁を超える、『神の異形』と、その後を追う竜だ。

 興味を掻き立てられ、その周囲の世界群を覗く魔神。

 平和でない世界から平和な世界へと飛び立つ、神の異形と追う竜は、地獄の世界からそうでない世界へと射出される『地獄の種』のように見えたからだ。

 

 新たに宇宙を焼き尽くそう、新たに世界を滅ぼそう、とその魔神は飛翔し、宇宙の壁を越え、その宇宙を覗き込む。

 

「……つまらん。既に手垢が付いた世界か」

 

 そうしてロードブレイザーは、アンドロイドと機械生命体の地球を見て、萎えた。

 

 ここは既に、『神』と呼ばれた者に無価値にされた並行宇宙群。

 中世の時代の世界でも。

 三十数世紀という時代の世界でも。

 それすらかすかなものに見えるほどの、遠い未来の時代の世界でも。

 残酷ばかりが満ちていて、完全な救済に至る道は全て途中で途切れるようになっている。

 結末と行く末が決まりきっている、悪辣な世界。

 

 魔神ロードブレイザーの好みの世界であり。

 これ以上手を加えようとも思えない世界であり。

 価値ある命の営みを自らの手で潰したいロードブレイザーからすれば、この上なく無価値で興味の湧かない地球であった。

 

「時間の無駄であったな」

 

 ロードブレイザーは水没都市の水を踏みしめ、飛び上がり、この宇宙を去っていく。

 

 綺麗な新雪を踏み荒らすことを楽しむ者はいるだろう。

 積み上げられた積み木を崩すことに快感を覚える子供は多い。

 ゲームで爽快感のある破壊を楽しむ大人も少なくないはずだ。

 けれど、粉々になったゴミをわざわざ手間暇かけて更に破壊しよう、などと思う者はいまい。

 

 外宇宙からの侵略者が狙わないほどに。

 邪悪な神が破壊する価値を見出だせず見捨ててしまうほどに。

 この地球は、無価値だった。

 

 神というマクロな視点から見れば、この並行宇宙群は全て無価値な世界であった。

 長命種であればあるほど、無味乾燥なその無価値さに目を覆うかもしれない。

 よっぽどのバカ以外は。

 よっぽどのバカ以外は。

 

 

 

 

 

 宇宙の壁、世界の壁は厚い。

 世界の壁を越えて飛び出した竜が、他の世界に絶望の種を届けること。

 宇宙一つを遥かに超えるスケールに到達した魔神が、他の宇宙を滅ぼしに飛ぶこと。

 それらはとても、"希少なこと"であると言える。

 

 なればこそ。

 

 いつかの日に、竜が世界の壁を越えてこの地球にやってきた。

 竜の到来した地球の人類は滅び、地球に攻め入ったエイリアンも滅び、アンドロイドと機械生命体のみが残った地球が、延々と乾燥した無価値な日々を繰り返す。

 その竜を見て、魔神が宇宙の壁を越えてきた。

 宇宙の壁、世界の壁には、魔神が通った分の穴が空く。

 

 星間活動規模の上位生命種であれば、興味本位でくぐり抜けられる程度の穴が。

 

 それから一年後。

 一つの戦いが終わり、破壊されたアンドロイド達のデータがサルベージされ、破壊された躯体が以前と同じそのままの姿で再生され、新たなアンドロイドの営みが始まった頃。

 2Bと呼ばれたアンドロイド。

 9Sと呼ばれたアンドロイド。

 A2と呼ばれたアンドロイド。

 三者はまとめて、水没都市にて、なんか突然現れたよく分からん頭のネジの外れた女に叩きのめされていた。

 

「2B、2B! しっかり!」

 

「な、なんだこいつ……」

 

「あらあなた、体に面白そうなネジを使ってるでコブシ」

 

 彼女の名はナグリ・ドツーキ王妃。

 億年を生きる、『まだ終わっていないどこか遠くの地球』からの来訪者である。

 その筋肉は強力無比。

 "ギャグ漫画の強キャラは基本的には負けない"のルールに従い、恐ろしいパワーでアンドロイドのヨルハ部隊達を軒並み吹っ飛ばしていった。

 

 その目的は?

 おそらく大したものではない。

 何故なら彼女の世界には、2B達の世界に過剰にあるシリアスがなく。

 2B達の世界には、彼女の世界に過剰にあるギャグがなく。

 ギャグ世界の住人は大抵大したことを考えていないからだ。

 

 まあ細かいところを抜きにして見れば。

 彼女はこの地球のアンドロイドや機械生命体の中で話の分かりそうな個体を襲撃し、大人しくさせてから、欝要素のないギャグアニメの世界に拉致しようとする侵略者である。

 

 戦争に負けた国の女性が奴隷娼婦に堕ちるかの如く、ナグリ王妃に負けたアンドロイド達はギャグアニメ堕ちの刑に処される、そんな危機に瀕していた!

 

「ちょっとこの子たち持って帰るでコブシ。

 うちでちょっと下働きが欲しいと思っていたところでコブシ」

 

「語尾の安易なキャラ付けにイラっとくる!」

 

「落ち着いてナインズ!」

 

 自動機械(オートマタ)達の世界は、もっと破壊しようと思う者にとっては無価値で、平和な世界で物語の続きを紡がせる者にとっては価値ある世界。

 全てが失われる世界だからこそ、『次』が継ぎ足されてこそ価値がある。

 

 繰り返した世界の結末は、人間も機械もほんわか楽しくやってるギャグアニメの世界に、多くが移住しギャグアニメ堕ちするFエンド、だった模様。

 

 



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ボーダー最強が実は出水先輩だったという秘密の話

お題は「三雲隊」「アニメの作画崩壊」「肛門の錬金術」

 修! 遊真! ヒュース! ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!
 男三人のバカ話。

これは、真なる意味でのブラックトリガー。汚れても汚れが目立たないように黒く染められているアナルバイブと同じ意味でのブラックトリガーの話


 三雲修、空閑遊真、ヒュースの三人は、珍しく女子が一人もいない玉狛支部にて、三人だけで駄弁っていた。

 

「親父が言ってたな、男同士で仲良くなるなら下ネタが一番だって」

 

「……うちのクラスの男子みたいなことを言うんだな、空閑の親父さんは」

 

「オサムはそういう話絶対しなそうだよな。

 おれもあんましないけど。

 オサムは絶対にしないからクラスで変な浮き方したこととかありそうだ」

 

「うっ」

 

「おっ、図星? オサムはだめなやつだなー」

 

 けらけらと笑う遊真。

 やや焦った様子で何かを誤魔化すように眼鏡を押し上げる修。

 対し、ヒュースは眉間にシワを寄せて黙り込んでいる。

 

「ヒュースとだって連携できるよう、仲深めといた方がいいだろ?」

 

「オレはお前達と協力関係にはなった。

 だが、そんなくだらないことを話し合う仲間になった覚えはない」

 

「他の近界の話でも?」

 

「……!」

 

「ヒュースは興味あるんじゃないの、おれのこういう話」

 

 ヒュースは渋々といった顔で、ソファーに深く腰を下ろした。

 

「オサム、あちら側の世界には『肛門の錬金術世界』って言われる世界があってな」

 

「やだよなんだよその異名」

 

 修とヒュースが同時に身構えた。

 

「ちょっと特殊なトリガー使ってるところでさ。

 相手の頭の中の意味記憶を読み取って、相手の使用言語を物質化するんだよ。尻の中に」

 

「尻の中に」

 

「これは相手の文化体系とシンクロしたトリオン受容端末なんだ。

 アフトクラトルの角みたいな?

 尻の中にこの物質化言語があると、相手の体から常時トリオンを吸収できる。

 尻の中の物質化言語を入れ替えると、別の奴からも吸収できる。

 こまめに尻の中身を入れ替えると、吸収速度を維持できる。

 肛門で物質化した言語を掴んで保持したりとかするんだってさ、ドン引きだよなー」

 

「オレたちの角をそんなものと一緒にするな!」

 

「でもこれアフトクラトルの角を参考にした改良品だって聞いたぞ。

 付け外しができる次世代型の角、アフトクラトルの角の未来の姿だって」

 

「んなっ……ぐっ……!」

 

 ヒュースの表情がかつてないほどに苦悶に歪む。

 

「だから文字の形が尻から抜きにくい形になると、すぐ抜けなくて戦闘汎用性が下がるとか」

 

「いやなネイバーだ……」

 

「相手の文化形態によって強さが変わるトリガーってことなんだな」

 

 修は想像しようとして、想像できなくて、ホッとした。

 

「いやだな、ぼくは正直その辺明確に想像できないのが救いになってる気がする……」

 

「明確に想像できないのか?

 そうだな、あれだ。

 ヨータローが見ていたドラえもんの、コエカタマリン。

 あれのように口にされるべき文字が、尻内にそのまま具現化すると考えればいい」

 

「ドラえもんを汚さないでくれ」

 

「そういや人間もちょっとズレてんだよな。

 生態系もズレ気味の近界だから。

 おれが見た時は、アニメの作画崩壊の時みたいな顔の人間しかいなかったぞ」

 

「アニメがまともな顔で見れなくなりそうだ……」

 

 ドラえもんの世界の未来には、コエカタマリンで声を物質化させ、どのひらがなや漢字が尻を通りやすいのか、通りにくいのか、検証している人間もいるかもしれない。

 未来であればこそ、何があってもおかしくはない。

 何が起こるか分からない未来の可能性とは、そういうものだ。

 そうだろ迅!

 

「だが、そういえば聞いたことがある。

 アフトクラトルの兄弟世界のアナトクラトル、通称アナル……

 特殊なトリガーを持っているためにガロプラに戦争を任せた、と聞いていたが。

 そうか。

 ガロプラの文字は尻に入れば抜けにくい形をしている……

 対し、アフトクラトルの文字は凸凹もトゲも少なく抜けやすい……

 アフトクラトルの戦士は、そういった特殊トリガーの使い手と相性が悪いのか……」

 

「やめないかそういう評価の仕方!」

 

「親父の『鬼』とか鬼のように聞いたらしいぞ。フックが肛門に引っかかるらしくて」

 

「そりゃそうだよ! 空閑の親父さんが日本人なら負ける要素無いよ!」

 

「漢字はかなりエッグい形してるから肛門に引っかかるんだろうなー」

 

 遊真はふざけ半分、戦士の心持ち半分で語っている。

 ヒュースはすっかり戦士の面持ちだ。

 幾多の世界を渡り、アフトクラトルの世界にまで辿り着かんとするならば、どこかでアナトクラトルも通る可能性はある。

 その時、戦いになる可能性はある。

 ならばその時、『頭に思い浮かべて敵のケツ穴に出現させる漢字』は、今の内から想定・選別しておくにこしたことはない。

 それが、戦士というものだ。

 

 なればこそ、遊真とヒュースの議論は進む。

 それは二人にとって漢字が、"外国の文字"に近い形で認識されているからだ。

 母国語でもなんでもない文字を玩具に、あるいは武器に考えているからだ。

 だが、これが母国語の修からすればたまったものではない。

 

「実際戦うってなったらどの漢字がいいんだろうな?

 学校で見たんだけど『社』とか地味にヤバそーだけど、ヒュースはどう思う?」

 

「……『永』。『乳』や『王』にも違ったエグさがある。肛門の形状次第だな」

 

「漢字ってめっちゃ多いじゃん。

 根本的に、ネイバーなおれ達じゃすぐ全部覚えきれないじゃん?

 じゃあ知り合いの漢字で考えてみるのとか良さそうだよね。

 チカの『千佳』とかケツへの殺意に満ち溢れてるし。

 しおりちゃんの『宇佐美栞』もこなみ先輩の『小南桐絵』も全部ケツに悪そうだ」

 

玄界(ミデン)はアナトクラトルにとって絶対的な天敵だな……」

 

「やめよう! 出水先輩の名前が明日から

 『出水公平ってボーダーで一番尻に悪そうな名前』

 とかそういう風に見えちゃうから! ぼくは吹き出さない自信が無い!」

 

「チカの名字ってボーダーで一番ケツに優しそうだな、雨取で」

 

「……それは、言われてみると確かに……」

 

 その時。

 玉狛支部の扉が開き、予定外の来訪者が現れる。

 

「あ、珍しい。修くん達三人だけなんだ?」

 

「あ、ああ、ち、千佳。どうした急に」

 

「忘れ物しちゃって。どうしたの修くん、なんだか慌ててるみたいだけど」

 

「べ、別にそんなことはないって!」

 

 修が目を逸らす。

 遊真が目を逸らす。

 ヒュースが目を逸らす。

 

 今、雨取千佳の綺麗な瞳を直視できる者は、この場に一人もいなかった。

 

 

 



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鬼舞辻無惨、女装癖にハマる

お題は「鬼舞辻無惨」「バイツァダスト」「妖怪退治」
男性体の服の裏地と女性体の着物の帯の柄が同じなあたり、女性体でもファッションにこだわってる感じありますよね無惨様

 下弦殺しのキラークイーン。鬼滅の刃の裏には壮大な性癖とメッセージが隠されている……!(大嘘)


 バイツァ・ダスト。

 それは殺人鬼吉良吉影が発現させた能力。

 発動者の心の底からの咆哮に応じ、発動者が求める結末だけを残し、それ以外の結末が訪れそうになれば『爆殺』を実行することで、時を爆発にて巻き戻すことができる。

 時が巻き戻される度に事象は運命にピン留めされ、爆殺と運命の確定が繰り返されることで、最終的に発動者に都合の良い運命が固定された世界の流れが完成する。

 そんな、スタンド能力だ。

 

 しかしながら、スタンド能力とは、遺伝が強い異能である。

 

 血が繋がっていれば、Aの覚醒がBに影響する。

 Bの血がAの血と引き合う。

 AとBで似たスタンドが発現する。

 先祖の肉体と子孫の肉体に同じ時止めのスタンドが発現する、ということすらある。

 

 吉良吉影のスタンド能力とは、彼だけのものだったのだろうか?

 彼の血の中に眠っていた、血脈の特性が発現したとは考えられないだろうか?

 

 血は力を伝える。

 先祖と同じ力を身に着けるのは、一種の先祖返りでもある。

 吉良吉影の先祖に、そういった人物はいたのか?

 日本の大昔に、スタンド使いに類する人間はいたのか?

 

 いた! いたのだ!

 

「『負けて死ね』」

 

 カチリ、と能力が発動する音がする。

 

「鬼舞辻無惨、貴様は最高の女装ができるまで、一時間で爆死し、一時間遡行し続ける……!」

 

「何故」

 

「オレの趣味だ」

 

「おのれ妖怪・吉良……! 面倒な血脈がぁ……!」

 

 かつて戦国時代、鬼舞辻無惨を追い詰めた剣士達には、残らず鬼の文様に似た『痣』が現れていたという。

 同時代。

 戦国時代に、吉良親実なる武士がいた。

 長宗我部に仕え、智勇双全、怒りがちなことだけが欠点という男であった。

 

 だが主君の側近と折り合いが悪く、主君の跡継ぎ候補を巡る争いで主君への諫言を繰り返し、そのせいで主君の不況を買い切腹を命じられたという。

 吉良親実は腹を切り、その家臣七人も後を追って腹を切ったとか。

 その怨念は土地を汚し、そこに住まう者達を末永く呪ったという。

 

 吉良親実を核とし、七人の後追い家臣をモデルとした妖怪。

 それを、『七人ミサキ』と言う。

 かの有名な七人ミサキは、"吉良の亡霊"と言い換えても過言ではないのだ。

 

 そして。

 スタンドは使い手の死後に真なる力が発動する場合もある。

 使い手の心が勝手に歩き出すかのように、勝手な行動を始めることがある。

 それはもはや、死者の怨念が怨霊となることと同義であると言えないだろうか?

 

 そう。

 吉良も、崇徳天皇も、菅原道真も。

 怨霊と呼ばれる者達は、皆死後に発動するスタンドの使い手だったのだッ!

 

 ならば。

 女装させるのが好きな男なら。

 鬼舞辻無惨を幾度となく追い詰めた戦国時代の剣士たちに紛れ発生した、吉良とかいう怨霊化のサラブレッドのような血脈に生まれた男なら。

 その男が死した瞬間に発動する能力は。

 男を女装させることに特化したスタンドになるのでは?

 

 そう、それが妖怪・吉良! 世界最新の七人ミサキがごとき存在!

 

 吉良吉影の先祖のスタンドにして、時を巻き戻すスタンドを発現させてから死亡したため、スタンドが『目を付けたやつに強制的に女装をさせる』存在と化したもの!

 スタンドが満足するまで、狙われた存在は何度でも爆死させられ、時間を巻き戻して最初からやり直しということとなる!

 もはや鬼舞辻無惨は、女装を強制させられ、拒んでは爆死させられ、一時間の制限時間を超えても爆死させられ、爆死の度に時間を巻き戻されループ10回目に突入していた。

 

「どうだ、こんな服で」

 

「あーダメダメ、照れが残ってる、男にも女にも見える服とか吉良許さないよ」

 

 爆死。

 時間遡行。

 一時間前に時間が巻き戻る。

 

「ど、どうだ」

 

「いいねいいねー。外見も着物も無惨ちゃんって感じ」

 

「そうか、ならこれで」

 

「でもちょっと色気が足りんのでリテイク」

 

「おい」

 

 爆死。

 時間遡行。

 一時間前に時間が巻き戻る。

 

「どうだ、ちょっとかわいい系で……」

 

「はぁー、無惨ちゃん、ちょっとやる気ある?

 女装は男を興奮させられるライン超えないと……そんなアンバランスで正気かよ」

 

「ぐっ」

 

「自分の女装のダメ出しされて、反発しないのも駄目だよね

 自分の女装に誇り持とうよ。

 ちゃんと自分が思う最高の女装してる?

 それができてたらさぁ、俺のダメ出しに反発してるはずだよね?

 "これが鬼舞辻無惨の考える最高の女装なんだ"って。

 俺にダメ出しされて"じゃあ次の女装だ"って考えてる時点で二流なのよ」

 

「黙れ」

 

 爆死。

 時間遡行。

 一時間前に時間が巻き戻る。

 

「無惨ちゃーん、こっちの髪飾り付けた方が良くない?」

 

「……いや、それならこっちの髪飾りの方が女性らしさが出る」

 

「お、確かに。

 いいねいいねぇ。

 こだわりでてきたんじゃないのぉ?

 ようやく体だけ女になった、みたいな二流の女装の領域超えたね」

 

「気色が悪いぞ」

 

 爆死。

 時間遡行。

 一時間前に時間が巻き戻る。

 

「ほら鏡だよ鏡。無惨ちゃん一回自分のトータルコーディネート見ないと」

 

「結構いけるんじゃないか私……」

 

「いけるよーいけるよー無惨ちゃん美人だよー!」

 

「うるさい」

 

 そうして、美女・鬼舞辻無惨は完成した。

 かくして、スタンドであり吉良でありバイツァ・ダストを繰り返す怨霊であったそれは、本懐を果たし消滅していく。

 

「いい女装だ、鬼舞辻無惨……」

 

「貴様が鬼であったなら、一瞬で貴様を消していたところだ。さっさと消えろ。」

 

「だが……嫌いじゃなくなっただろ……? 女装……」

 

「ああ?」

 

 無惨のドスの利いた声を叩きつけられ、女装の亡霊・吉良は消滅した。

 

 ほっと、無惨は息を吐く。

 臆病者の無惨にあるまじき油断の一瞬と、あるまじきホッとした表情であった。

 女装が楽しいという気持ちがすっと引くと、先程までの理不尽への怒りが湧いてくる。

 

 もはや皮膚の一部のようになった心地良い女装の着心地のせいか、鬼舞辻無惨は着替えるという発想にも中々至らない。

 男性に戻るのは数日後になるやもしれない。

 

(何か手近な殴れるもの、壊せるもの、苛立ちの解消になるものはないか)

 

 そんな無惨が、その日の夜、招集した下弦の鬼達を見て、苛立つ心でこう思った。

 

 まあもう下弦は要らないか、と。

 

 苛立ち解消にぴったりなものを見つけた無残は、100%ノリで決めた。

 

 上司がなんかイラッとしたら死ぬ。下弦の鬼の命は軽い。無残である。

 

 

 



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斬月超人グリッドナイト

お題は「呉島貴虎」「戦士の頂」「アンチ」


 「新条アカネの心は、痛かったんだろうか」

 アンチはある日、ふと思った。
 彼には、自分が作ったもの、自分の部下に裏切られる者の気持ちが分からなかった。
 誰も教えてくれなかったから、分からなかった。
 自分が新条アカネの敵に回った時、新条アカネの心に痛みはあったんだろうかと、そう思うアンチは、自分を深く省みていた。

 呉島貴虎を裏切った者達は特にそういうことを考えることもなかったので、皆基本的には裏切った後も笑顔だった。
 呉島主任!


 『それ』を、戦士の頂と呼んだのは、誰だっただろうか。

 人間だったか。

 機械だったか。

 怪獣だったか。

 『それ』がそう呼ばれるようになってから、もう数年の時が経とうとしていた。

 

 

 

 

 

 それはもう、数年も前のこと。

 そこが"戦士の頂"と呼ばれたのは、彼らの最後の戦いがそのコンピュータ・ワールドの中で行われたからだ。

 その戦いの残骸と残滓の山が、数年後に戦士の頂と呼ばれるようになった。

 

 コンピュータ・ワールドは、全ての機械の中にある世界。

 それぞれの中に怪獣や、コンポイドと呼ばれる人間に似た電子生命体が生息している。

 かつてそこで、グリッドマンという光の戦士が戦い、世界を救った。

 世紀は変わり。

 変わらず人類の守護者として在るグリッドマンと、その仲間達が、一人の少女と、一つのコンピュータ・ワールドを救った。

 

 その戦いで、グリッドマンを助けた戦士の一人がいる。

 その名を、『グリッドナイト』……またの名を、アンチ。

 

「グリッドナイトサーキュラーッ!!」

 

 彼は今一人、自分が生まれ育ったコンピュータ・ワールドを守るべく、『謎の巨大機械』による侵略者軍団を一掃していた。

 紫色の光刃が大気を裂き、飛翔する。

 無数のロボットがバラバラになり、機械部品が雨のように街に降る。

 絶え間なく続いていた援軍が一旦止まったのを見て、グリッドナイトは大通りの交差点の中心にて、安心した様子で構えを解く。

 

「チッ、なんだこれは。どこから来ている?」

 

 平穏が訪れたはずの街に現れた、世界の外部からのロボット達。

 電子の世界を征服せんとする侵略者。

 グリッドナイトが思わず舌打ちするのもむべなるかな。

 そんなグリッドナイトに、遠くから内海なる少年の声が届く。

 

「グリッドナイト! 無理すんなよ!」

 

「ああ」

 

 "複雑な想い"が前提だとしても、かつて蛇蝎の如く嫌われていた相手から認められ、応援と心配を贈られるというのは、悪い気がしなかった。

 グリッドナイトの身に力が入る。

 足元に知人の六花と、知人の知人の裕太がいるのを見たグリッドナイトは、膝をつき彼女らを安全な場所に誘導する。

 

「建物が崩れればオダブツだ。広い場所に行け」

 

「う、うん。ありがと、アンチ君」

 

 六花は頷き、礼を言い、裕太の手を引いていった。

 あまり芳しくない反応をする響裕太に一抹の寂しさを覚えながらも、グリッドナイトはひょひょいと自分の肩まで飛び上がってきた少女・アノシラスとの会話を始める。

 

「どーもお客さんみたいだネ」

 

「お客さん? 外からの侵略者ということか? アレクシスのような?」

 

「元を断たなきゃ永遠に敵が来るやつっぽ。にひぇひぇうぃうぃひぃひひ」

 

 コイツの笑い声本当に変だよな、とアンチは思った。

 

「なら潰しに行くだけだ。ここは任せたぞ」

 

「いってらっしゃーい」

 

 アンチ/グリッドナイトの全身に力が漲り、その体が飛翔した。

 

 コンピュータ・ワールドは、通常のデータ回線を超越した電子経路・バサルートを使って相互に接続されている。

 それは、独立するカーナビと他のパソコンを繋ぐようなものもあり。

 コンセントから電気の経路を通して繋がっているようなものもある。

 ゆえに、通常のセキュリティの多くを、グリッドマンやグリッドナイトは突破することができるのである。

 

 それでも通れない、重度のセキュリティウォールというものはある。あるのだが。

 グリッドナイトが辿り着いたその場所のセキュリティホールは、ズタズタになっていた。

 もはや電子の壁はなく、ズタズタにされた電子の壁の残骸と、それによってそこら中が埋まってしまったバサルートがあった。

 

「ここが奴らの侵略経路か」

 

 バサルートを探り、黒幕に辿り着ける到達経路を探し回るグリッドナイト。

 その過程で、ちょうどいいコンピュータ・ワールドを発見した。

 データの流れからして黒幕がこの先にいるのは明らかで、かつそのコンピュータ・ワールドはまだ黒幕に制圧されていない。

 格好の基点であった。

 

「グリッドマンは安定した特定世界への介入にジャンクを使っていたな……

 よし、オレもここを基点にして介入するか。グリッドナイト……ストーム!」

 

 わらわらと湧いて来ていたロボット軍団をビームで一掃し、綺麗になったそのコンピュータ・ワールドを、ジャンクのように基点に設定する。

 それが、『そのパソコンを操作できる者』と、そのパソコンのコンピュータ・ワールドの中にいたグリッドナイトを、結線した。

 操作者の意向によって、スーパーコンピュータの処理能力がそのままグリッドナイトのスペックに加算されていく。

 

『こちらのスパコンを基点にしているな? こちらから全力でバックアップする』

 

「何者だ?」

 

『今の戦闘はモニターに映っていた。

 説明は後でいい、この事態を解決しようと動いている者だとお見受けする』

 

「オレは自分の街を守りに来ただけだ。侵略者は殴って倒す」

 

『好ましい答えだ』

 

 世界最新型のコンピュータに後押しされ、グリッドナイトが敵本拠地に繋がるバサルートへと飛び込んだ。

 

『私は呉島貴虎。君の名は?』

 

「グリッドナイトと呼べ」

 

『君になんとかできる力があるなら、急いでくれ。

 今、ネットワークの世界にとんでもない危機が起こっている。

 スタンドアローンのはずの海外核発射基地のシステムが乗っ取られている。

 下手人はメガヘクス。かつて倒された、地球外機械生命体の侵略者の残党だ!』

 

「鼻歌交じりに片付けてやる。この程度の敵なら、グリッドマンの足元にも及ばん雑魚だ」

 

『セキュリティは随時こちらで解除する。止まらず進め』

 

 全力で飛ぶグリッドナイト。

 その飛行を邪魔しないために次々消えていくセキュリティ。

 かくしてグリッドナイトは、核発射施設の致命的に破壊されたコンピュータ・ワールドに降り立ち、そこに救う無数の機械兵器達と対峙した。

 

 

 

 

 

 メガヘクス。

 それはかつて地球に飛来した機械生命の侵略者である。

 侵食植物による星単位の侵略に対抗すべく、星とそこに生きる生命の全てを機械化し、他の星や生命も取り込み機械化せんとする星系規模の侵略者だ。

 

 かつて多くの戦士が立ち向かい、その星と端末の全ては破壊しつくされた。

 かに、見えた。

 その一部は僅かに残り、残りカス程度の電子戦力が核発射施設のコンピュータ・ワールドを乗っ取り、コンピュータ・ワールドの制圧と現実の更地化を目論んでいたのだ。

 

 現実世界では、メガヘクスの母星を破壊した戦士達がいる。

 なら、コンピュータ・ワールドなら?

 電子世界でなら?

 それならば、止められる可能性は低い。

 そう考えたこと自体は間違いではないだろう。

 

 問題は、現実世界の戦士達との戦いを避けた先に、凄まじき騎士がいたということだった。

 

 殴れば電脳戦仕様の巨大メガヘクスロボが砕け。

 蹴ればメガヘクスの一旦は吹っ飛び。

 ビームがメガヘクスを片っ端から焼き尽くしていく。

 

『圧倒的だな』

 

「グリッドマンは最も強い。ならば、俺も強いということだ!」

 

 地面を蹴り、壁を蹴るグリッドナイトの足取りはたん、たん、たんと軽いのに、蹴り込むグリッドナイトの足はドゴォと恐ろしいまでに重々しい。

 吹っ飛んだ敵に、追撃の紫の光刃が投げつけられた。

 

「グリッドナイト! サーキュラーッ!」

 

 電子戦個体とはいえ合金でガチガチの硬度を誇るメガヘクスの機械兵達が、まるでビスケットかゼリーのように破壊されている。

 恐るべし、グリッドナイト。

 "一番最初に一番強い奴の真似をした"からか、大量の伸び代があるにも関わらず強さの初期値が桁違いで、その強さは誇張抜きで化け物じみている。

 

「それより、話の続きだ。

 貴様が先程迂闊に漏らした話の続きを聞かせろ。裏切られたとは、どういうことだ」

 

『本当に余裕だな……』

 

「仲間。友。俺には知らないことが多すぎる。

 そして、知るべきことも多すぎる。

 俺は内海とやらが俺に怒っていた理由を理解するのにも、随分時間がかかってしまった」

 

『無知の知、か。知るを求める子供のようだな。

 ……大したことではない。俺が愚かしく、部下の仲間に造反されたというだけのことだ』

 

 呉島貴虎は、かつて仲間に、部下に、友に、弟に裏切られている。

 彼は真っ直ぐに世界の救済を求めていたが、彼の仲間や家族は世界の救済なんてものは比較的どうでも良かった。

 自分の才能の誇示。

 自分の願いの成就。

 最後の勝利の到達。

 誰も彼もが根本的には"自分のため"に何かを成そうとしていたがために、"自分以外のため"が基本な貴虎とは致命的なレベルでソリが合わなかった。

 

 貴虎が他人を疑い、打算と計算で付き合いができる人間だったなら。

 あるいは、仲間の裏切りを想像できる自由な想像力(イマジネーション)があったなら、また別の道もあったかもしれない。

 

『俺は、仲間を最後まで信じ切り、味方で在り続けることが、誠実であり礼儀だと思っていた』

 

「味方でいること、仲間でいることが、必ずしも正解とは限らないだろう」

 

『ああ、その通りだ』

 

「だがタカトラの言葉が間違っているようにも感じない。よく分からない」

 

 アンチ/グリッドナイトは、途中から自らの創造主である新条アカネの造物に立ち向かい、それを打倒する者となった。

 

 貴虎とアンチの最大の違いは、ただ一点。

 貴虎は部下に裏切られ。

 アンチは部下として裏切った。

 貴虎は部下にほとんど愛されていなかったが、アンチの反逆は一種愛のような感情から行われた事柄であった。

 

 貴虎の部下と新条アカネの部下は、共に上司を裏切った。

 裏切りとは悪なのか。

 それともそれ以外の意味も持つのか。

 "新条アカネのために新条アカネを裏切る"ということに何の違和感も持たなかったアンチの言葉だからこそ、貴虎の心の妙な部分に突き刺さる。

 

「仲間を信じるとはなんだ、タカトラ。

 オレに仲間のようなものがいたことはある。

 だがオレの戦いはオレが単独で飛び回るものが多かった。

 仲間を信じるとはなんだ。友を信じるということとは違うのか」

 

 グリッドナイトの一撃が、右翼側のロボット群を一掃する。

 

『少し前、友人から聞いた話の受け売りで申し訳ないが。

 同じ道を進んでいくのが仲間。

 別々の道を共に立って行けるのが友、だそうだ。

 だからこそ、仲間と友の信頼の仕方というものは違うんだろう』

 

 グリッドナイトの一撃が、左翼側のロボット群を一掃する。

 

『俺にも葛葉紘汰という友がいて、何人かの仲間がいたのかもしれんな……』

 

 メガヘクスは時間稼ぎを始めた。

 コンピュータ・ワールド内にロボが散り、容易に一掃できないように分散する。

 時間が経てば核は発射され、メガヘクスの勝利が決まる。

 時間稼ぎは、グリッドナイトにとっても貴虎にとっても、あまり嬉しくない一手であった。

 

「なら、オレにとって新条アカネは友か?

 オレにとってキャリバーは友か?

 アノシラスは……仲間だが、まあ、友でいいか」

 

『お前がそう思えるかどうかが、一番大事なことだろう』

 

「貴虎。部下に裏切られたお前にこそ、聞きたいことがある」

 

『なんだ』

 

「オレは一つ、後悔していたこと……いや、振り返って、よく分からなくなったことがある」

 

 飛び回るグリッドナイトは流星の如く、目についた端からメガヘクスの残党を破壊していく。

 

「上に立つ者というのは、下の者に裏切られた時、辛く思うのか?」

 

 通信越しにも、貴虎が密かに息を呑んだことが分かる、そんな沈黙が広がった。

 

『ああ。色々と思うことは多かった。

 だが……これは、俺の個人的話だが。

 共に歩んできた仲間が裏切った時にこそ、思う。

 自分の下にいた者が裏切り、全てをひっくり返した時にこそ、思う。

 そうなって初めて、俺は一度、自分の全てを振り返り、こう思うことができた』

 

 裏切りが善だったか、悪だったか。

 それは裏切る側の者の心情の問題で、裏切られる側から見れば関係ない。

 

 裏切りが良いことだったか、悪いことだったか。

 それは最後の結果を参照して考えるべきことで、結果論である。

 

 だが一つ。

 呉島貴虎と新条アカネに共通したところがある。

 裏切られた二人の心に、共通して生まれた感情がある。

 

『"俺は、間違っていたんじゃないか"と。自分の間違いについて、考えられた』

 

 "自分を振り返る気持ち"だ。

 裏切られたことは、大なり小なりショックだっただろう。

 そこから二人とも、自分のことを省みただろう。

 貴虎の場合は、自分を裏切った者達はほとんど死に、別の者に手を差し伸べられた。

 アカネの場合は、本気でアカネにぶつかっていったアンチが、グリッドナイトとしてアカネを救う手を差し伸べた。

 

 裏切りからは、悪しきものしか生まれないわけではない。

 結果的に良きものが生まれることもある。

 

 貴虎には『反省』が生まれ。

 アカネには『救済』が生まれた。

 本当に酷い裏切られ方をした貴虎が、その裏切りを何もかも否定しているわけではなく、自らの過ちを認め、そこから得た教訓を肯定していることは、アンチにとっての救いでもあった。

 

 心の隅に刺さっていた"自分の反抗はアカネの心を傷付けたのでは?"という、アンチのほんの小さな苦悩は、この会話にて完全に消失する。

 

「なるほど。オレはそんなに間違ってなかったんだな」

 

『だが辛い気持ちは大なり小なりある。あまり敵に回ってやるなよ』

 

「分からん。オレにはヤツの気持ちしか分からん。

 ヤツの気持ちを裏切らないことしかできない、それがオレだ!」

 

 グリッドナイトの飛び蹴りを、巨大なロボの一体が受け止めた。

 

「!」

 

 ロボの残存戦力の残りが分散するふりをして、数体のロボをグリッドナイトを引きつける囮とし使い、残り全てが一箇所に集まって合体したのだ。

 グリッドナイトの一撃を受け止められるほどに。

 分散したのも戦術で、合体こそが本命の一手。

 

「敵の合体か……」

 

「よっすー、大詰めみたいだから援軍に来たよ」

 

「アノシラス!」

 

 ひょこひょこ歩いてきた幼い少女が、グリッドナイトの肩に飛び乗る。

 その手には、フルーツをモチーフとした錠前のような、アイテムにもオモチャにも見える、何かが握られていた。

 

「でもその前におやつおやつ」

 

『それは……ドラゴンフルーツエナジーロックシードのデータ!

 戦極も使っていた、あの……

 ぺっしなさいぺっ! 小さい女の子が口にしていいものではない!』

 

「うっわまっず、味しないやこれ」

 

 ドラゴンフルーツエナジーロックシード、と呼ばれるもののデータがアノシラスに食われ、様々なデータと混じり合いながらペッされる。

 吐き出されたロックシードデータは盛大なバグを起こし、データ変異を起こしながら変形と拡大化を続け、一気に膨大なデータ塊となり。

 

《 Dyna Dragon fruit Energy 》

 

 そして、最終的にドラゴンっぽい何かとなった。

 

「私これ知ってるー。アシストウェポンってやつだよ。装着!」

 

「うおっ!?」

 

 そして、グリッドナイトとの合体シークエンス開始。

 

 『アーマーを上から素体に被せる』というロックシードアーマーの基本システムに準じ、ドラゴンはグリッドナイトの体表面に重なるようにして、その体と一体化した。

 

「合体竜帝! キンググリッドナイトぉー!」

 

「なんだこれはァー!?」

 

「撃つんだよ、アンチくん!」

 

「分からん! 分からんがノリで撃てば良いんだな!

 キング、グリッドぉ―――ナイトストームッ!!」

 

 合体メガヘクスが構え、光線を発射する。

 が、全て無駄。

 残り全てのメガヘクスが力を合わせた光線も、キンググリッドナイトの放つ極太光線に飲み込まれ、その体ごと一瞬で消滅していった。

 敵残数、0。

 ここにようやく、地球に残っていた地球外機械生命体メガヘクスの侵略の爪痕は、その全てが終わりを告げたのだった。

 

『よし、間に合ったぞ! 核発射前に一掃できた! 後はプログラムの修復をすれば……』

 

「そっちでなんとかならないのか?」

 

『日本のこのコンピュータからアクセスしているだけだ。こちらからは修復できない』

 

「なら……間に合わないか」

 

『っ!』

 

「オレはフィクサービームなど使ったこともない。直せないなら、このままだ」

 

『何か、何か方法は……!』

 

「焦るな。

 オレはやったことがない。

 アノシラスは役に立たん。

 お前にもできることはないんだろう。だが」

 

 きらりと、コンピュータ・ワールドの空の彼方に輝く光。

 

 それが、希望をもたらす光。

 

 いつでもどこでもやって来る、コンピュータ・ワールドの光の守護者。

 

「真打ちの登場だ」

 

 『本物の方』が来たのを見て、アンチは楽しげな笑みを浮かべた。

 

 広がる光が、破壊されたコンピュータ・ワールドを修復していく。

 

 世界の危機は今、真の意味で去ったのだ。

 

 

 

 

 

 なにはともあれ。

 敵をぶっ倒した後は、棚上げにされてたアンチ君の願いを叶える時間だ。

 すなわち、"グリッドナイトはグリッドマンを倒す者である"という定義の実行である。

 

「さあ勝負だグリッドマン。このキンググリッドナイトの力で」

 

「よそでやろうねよそで。……あ、グリッドマンあれ、サンダーグリッドマンじゃん……」

 

「何? あれの呼び名はフルパワーグリッドマンじゃないのか?

 まあいい。あっちも合体、こっちも合体、条件は互角のはずだ! 行くぞアノシラス!」

 

「はいはい」

 

 グリッドマンもグリッドナイトもコンピュータ・ワールドを守ってくれる戦士だが、それはそれでこれはこれ。

 いざや行かん決闘へ。

 そんなアンチの耳元に届く声が一つ。

 

『ありがとう。君達のおかげで、億人単位の人の命が救われた』

 

「構わん。オレたちは、自分の街を守っただけだ」

 

『何か礼がしたい』

 

「礼が欲しいなどと言った覚えはない。要らん」

 

『借りは返す。そうでなくては、俺の気が済まん』

 

 貴虎のその返答を聞いて、アノシラスとアンチは目を丸くして、互いの顔を見合わせた。

 そして、アノシラスはまた変な笑い方をして、爆笑し始めた。

 "借りは返す"なんて律儀に言われてしまうと、少女はついつい笑ってしまう。

 

「なーんか、わたしたち、似たようなの集まっちゃってるねえ?」

 

「そうだな。オレとグリッドマンの決闘の場所でも貸してもらうか」

 

『お安い御用だ』

 

 本来の姿を取り戻したグリッドマンと仲間達が一体となった、サンダーグリッドマンが飛ぶ。

 

「意味の無い戦いだ」

 

 拾い物のバグデータを一体化させたという、いかにもアンチらしい『合体能力をコピーした結果の力』による、キンググリッドナイトが飛ぶ。

 

「そう言うな。こいつがオレの、命の意味なんだ」

 

 貴虎の用意した電脳の戦場で、二人は激突し。

 

 その結果は―――悪いものでは、なかったとか。

 

 

 



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ガイアメモリ×ガイアフォース

お題は「左翔太郎」「野生児」「ブラックウォーグレイモン」
BLACK to BLACK

 黒っぽいやつに好かれやすいマン、左翔太郎。


 ブラックウォーグレイモン。

 元は暗黒の海に存在し、デジモンの進化を抑制し、洗脳の力を中継・伝搬させる電波塔のような役割を果たしていた『ダークタワー』から作り出されたデジモンだ。

 定義次第では人形であるとも、生命ではないとも言える。

 だが確固たる意志を持ち、一体のデジモンとして確かに世界に生きたデジモンである。

 

 その背には、ウォーグレイモンにあった勇気の紋章がない。

 ウォーグレイモンにはいたパートナーもいない。

 けれども彼は生きていた。

 デジモンと人間の世界で、確かに生きていたのだ。

 

 強者との戦いのみを求め、けれども最後にそれ以外の願いを得たブラックウォーグレイモンは、子供達のために人柱となる結末を選んだ。

 戦うこと以外に何も無かった自分に、それ以外の何かができた……そこに不思議な気持ちを抱きながら、ウォーグレイモンは消えていった。

 

 そして、消えて、次に目を開けた時。

 

「お前、どっから入ってきたんだ?」

 

 ブラックウォーグレイモンは、風都の街を守る探偵事務所・鳴海探偵事務所の壁に寄り掛かるようにして、『左翔太郎』に話しかけられていた。

 

 

 

 

 

 ブラックウォーグレイモンが経緯を説明しても、イマイチ噛み合わず。

 左翔太郎がこの街の説明をしても、イマイチ噛み合わず。

 噛み合わないまま、翔太郎は納得していた。

 

「どっかの平行世界から迷い込んだんじゃね? よくあることだろ」

 

「よくあることなのか……? 人間にはよくあることなのか……?」

 

「仮面ライダーにはよくあることだ。しっかし、お前名前長いな」

 

 翔太郎はブラックウォーグレイモンに対し『なんだこいつ』と思い、ブラックウォーグレイモンは翔太郎に対して『なんだこいつ』と思った。

 

「あだ名で、グレ男でいいだろ。グレてるしな」

 

「……グレてるだと? 俺が?」

 

「グレてるわけじゃねえのか? そんな印象受けたんだが」

 

「……広義で言えば確かに、俺は人間の言う"グレてる"に入るのかもしれんが……」

 

「じゃあ当座はグレ男でいいな。いいか?」

 

「呼び名など、どうでもいい」

 

「行くところねえなら、とりあえずはここにいてもいいぞ。……っと、依頼人か」

 

 今日もまた誰かが、事務所のドアを叩く。

 事件の予感に、翔太郎は身だしなみを整えた。

 ドアを開き入って来たのは、若い女性。

 名は青山唯。

 以前、ミュージアムの後継としてメモリを売り捌こうとしていた若者チーム『EXE』の一件で、翔太郎に依頼をした子供・青山晶の姉その人である。

 

「おう、いらっしゃい。久しぶりだな」

 

「どうもこんにちわ翔太郎さなんかいるううううう!?」

 

「こいつはグレ男。気にすんな、バイトみたいなもんだ」

 

「ば、バイトですか……またなんかすごい人来たんですね……」

 

 唯がジロジロとブラックウォーグレイモンを見る。

 ブラックウォーグレイモンは目を閉じ、腕を組み、事務所の片隅で静かに佇んでいた。

 

「翔太郎さんって真っ黒なものならなんだって好きなんですか……?」

 

「いや、黒は嫌いじゃねえがその言い方は誤解があるだろ!」

 

 彼女は翔太郎が仮面ライダージョーカーに変身したところを見ている。

 つまり、翔太郎が仮面ライダーなことも、翔太郎が変身するジョーカーが黒染めの仮面ライダーであることも知っている。

 なので、ブラックウォーグレイモンを見て真っ先に思ったのは、"そういう趣味なんだろうか"であった。

 

「で、依頼だろ? 何があったんだ」

 

「最近、街で記憶を失う人が続出してるんです」

 

「記憶?」

 

「私の知り合いにも、記憶を失った人がいて……

 記憶を全部失って、猿みたいな野生児になってしまいました。

 それだけじゃないんです。

 抜け落ちた記憶が質量を持ったみたいに、街に突然現れてるんです」

 

「記憶の欠落に、記憶の出現か……こいつは調べないとヤベえ案件かもな」

 

「お願いします。この不思議な現象をどうか解決して、私の知り合いも助けてあげてください」

 

「オーケー、レディ」

 

 翔太郎は席を立ち、壁にかけた黒帽子を選び、被る。

 

「グレ男、お前も手伝え。事務所に置いてやってんだ、そのくらいはいいだろ」

 

「わかった。どうせ他にすることもない」

 

「あ、本当にバイトさんだったんですね……」

 

 白シャツ、黒ジャケット、赤ネクタイ、黒帽子の翔太郎と、黒ずくめのブラックウォーグレイモンが出立する。

 

 青年探偵と探偵デジモンという世にも奇妙なコンビが、風都の平和を守るべく歩き出した。

 

 

 

 

 

 まず翔太郎が向かったのは警察署。

 そこには翔太郎と同じ仮面ライダーで、同じく不可思議な事件を解決する警察官、照井竜がいるからだ。

 まずは警察の情報を求めつつ、街に迫る危機の認識の共有。

 常道である。

 

 ところが翔太郎に事情を説明され、ブラックウォーグレイモンを見た照井の反応は、まるで善良な殺人鬼井坂を見てしまったような反応だった。

 つまり、"自分の目を疑っている"。

 

「左、お前黒が好きすぎじゃないか」

 

「特にそういう理由なわけじゃねえってんだよ!」

 

 しかも同じことをまた言われる始末。

 警察では不審者の目撃情報が得られたものの、それ以上の収穫はなし。

 ただし、不可思議な事件が起こっているという噂は、確かに警察に伝えることができた。

 

「まあいい。こっちでも話を回しておこう」

 

「助かるぜ、照井」

 

「フィリップはまだ戻ってないのか?」

 

「ま、すぐ戻って来るさ。あんま遠出する用件でもねえしな」

 

 警察からの帰り道、ブラックウォーグレイモンは翔太郎に問いかけた。

 

「ショータロー。フィリップとはなんだ」

 

「俺の相棒さ。今はちょっと、興味持ったことのせいで県外まで出てっちまってる」

 

「相棒、か」

 

「ま、気にすんな。俺達だけでささっと事件を解決しちまおうぜ」

 

「事件の解決の仕方というのが、オレには分からない」

 

「俺の言うことを聞いてりゃ問題ねえよ。ん? あれ、なんだ?」

 

「子供だ。小学生くらいの子供が集まり、木に登った猫を見上げているな。分からないのか?」

 

「いやそれは見りゃ分かるわ!」

 

「あ、翔ちゃんだ!」

「助けて翔ちゃん!」

「あの猫ちゃん、木の上に上がって降りられなくなっちゃったの!」

 

「なんだと? よっしゃ任せろ、俺が木を登って……」

 

「いや、こんなつまらんことにそんなリスクを背負うな。下がっていろ」

 

 落ちることも恐れず、子供達のために木を登ろうとする翔太郎を手で制し、ブラックウォーグレイモンはさらっと飛んで木上の猫を拾い上げた。

 だがその"猫をあまり心配していない雑な手つき"に、翔太郎はちょっとヒヤリとした。

 

「そっと手に乗せて、そっと降りて、そっと降ろせ。そっとだぞグレ男」

 

「こうか」

 

「そう、そんな感じだ。いいぞグレ男」

 

 そして、ちゃんと言えば猫を優しく扱ってくれたブラックウォーグレイモンに、露骨にホッとしていた。

 ブラックウォーグレイモンの手で、優しく猫が地面に下ろされる。

 その背中を、翔太郎がバンバン叩いた。

 

「やるじゃねえかグレ男! お前飛べるんだな!」

 

「こんな些細なことで……」

 

「些細じゃねえさ。ほら、見ろよ」

 

 猫を助けてくれたブラックウォーグレイモンの周りに、子供達が集まってくる。

 ブラックウォーグレイモンは自分の両手に付いた鋭い爪が子供達を傷付けないよう、半ば反射的に両手を上げていた。

 

「ありがとー!」

「ありがと!」

「黒いお兄ちゃんありがとう!」

 

「決して無価値じゃねえ。そうだろ?」

 

「……」

 

 笑いかける翔太郎と目を合わせないようにして、ブラックウォーグレイモンは子供達に背を向け去っていく。

 

「オレには推し量れないものだ」

 

「ったく、素直じゃねえな」

 

 その後を追う翔太郎。

 

 子供達のお願いを聞いて猫を助けるのは、『探偵の仕事』ではない。

 

 けれども、『風都の探偵の役目』ではある。そういうものだった。

 

 

 

 

 

 情報屋から情報を買い、街の人気者や顔が広い女子高生などから聞き込みを行う。

 そうやって翔太郎は情報を集めていく。

 ブラックウォーグレイモンは感心していた。

 一度死を迎えるまでの短い人生の中で、こういった人間の努力を見たことはなかったからだ。

 

 情報を集めて組み立てていく翔太郎の捜査過程を、ブラックウォーグレイモンはずっとその横で見つめていた。

 

「翔太郎、お前は黒が好きなのか? 町の住民が度々言ってるが」

 

「黒帽子被る時が多いだけだ! つかグレ男まで言ってんじゃねえ!」

 

「それで、何か分かったのか? ショータロー」

 

「結構な数が被害になってる……らしい。

 らしいってのは、よく分かってねえからだな。

 記憶を失うって言っても、朝飯の内容を忘れただけとかも多い……

 記憶の具現化も、朝飯がまた出てきたとか、そのレベルのも多いわけだ」

 

「この街ではそれが異常事態じゃないのか?」

 

「異常事態なんだが……ビルが溶けたり人が死ぬのにも、街の皆が慣れちまったからな……」

 

「何かがおかしいんじゃないのか、それは」

 

「人間っぽくないお前に言われるとちょっと胸に来るものがあるわ」

 

 風都は随分と平和になった。

 だが、全ての悪が消えたわけでもない。

 "仮面ライダーが必要とされている街"であるということは、そういうことだ。

 

「だが、見ていてオレも大体分かった。探偵とは、人を助ける者のことなんだろう?」

 

「まあ、大まかにはそれで間違ってねえかもな」

 

「つまり、ショータローのような人間のことだ」

 

「へへっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。

 俺もこの街の涙を拭う探偵だ。半端はやれねえさ」

 

 と。

 その時。

 一人の老婆が、横断歩道の途中で膝をついてしまう。

 そこに来る、トラックの居眠り運転。

 翔太郎は周囲の人間の誰よりも速く気付き、誰よりも速く助けるべく駆け出していた。

 

(間に合わねえ!)

 

 だが、間に合わない。

 翔太郎は間に合わない。

 されど、"お婆さんを助けようとする"翔太郎の意を、横に居た彼はきっちり汲んだ。

 

 翔太郎が一歩を踏み込んだ瞬間には、彼は翼を広げ飛び上がり。

 ほんの一秒か二秒の間に、車に轢かれそうになっていたお婆さんをその場から救出していた。

 

 翔太郎が助けに行こうとして初めて助けようと考えた、とも言える。

 周りの真似をしなければ何が善行なのかよく分からない、とも言える。

 されども、結果を見れば善行であることに疑いはなかった。

 

 冷や汗を拭う翔太郎のそばに駆け寄る、女性の影が一つ。

 

「翔太郎くん!」

 

 鳴海探偵事務所の所長、亜樹子だ。

 亜樹子が翔太郎に駆け寄るのと同時、ブラックウォーグレイモンもまた、翔太郎の横にお婆さんを抱えて降りてくる。

 

「おう亜樹子。間一髪だったぜ、このグレ男のおかげだ」

 

「そうなんだーって何これ!? ドーパント!?」

 

「違う違う。うちの……バイトみたいなやつだな」

 

「え!? ちょっと! 所長に無断でバイトってどういうことよ!」

 

「まあまあ、いいじゃねえか」

 

「もー」

 

 『もー』で済ませていいのか? ブラックウォーグレイモンは訝しんだ。

 自分レベルの異形に対し、ナチュラルに街の人間が見慣れたような反応を示すので、ブラックウォーグレイモンは段々と自分の中の常識を疑いつつあった。

 亜樹子がブラックウォーグレイモンをじっと見る。

 

「翔太郎くん、黒好きすぎじゃない?」

 

「もうその話はいいんだよ!」

 

 そうしてブラックウォーグレイモンは気付く。

 自分の異形に対する反応より、左翔太郎の黒好きに言及されることの方が圧倒的に多い。

 つまり、ブラックウォーグレイモンよりも、左翔太郎の方が興味を持たれている!

 この街がいかに"普通"からズレているのか、そして左翔太郎が街の住民からいかに愛されているのか、それを思い知らされた気分であった。

 

「グレ男、その婆さんを病院に連れて行ってやってくれ」

 

「病院? それはどこだ。オレには分からん。

 ショータロー、オレの右腕に乗れ。左腕でこの老婆を抱えていく」

 

「うおっ、まさかの提案……わかった、任せろ」

 

「ねえ翔太郎くん、この人……人? 何?

 ジョーカーメモリの擬人化?

 とうとうメモリと相性良すぎてメモリが進化しちゃったの?

 付喪神みたいな?

 ジョーカーメモリ凄くないそれ!? ねえねえ翔太郎くん、どうなの!?」

 

「あーもううるせーな亜樹子!

 後で説明してやるから今は行かせろ! 急患だろこの婆ちゃん」

 

「へーい」

 

「ごめんなさいねえ、この老体がだらしないばっかりに……」

 

 ブラックウォーグレイモンが婆さんと翔太郎を抱えて飛び上がり、翔太郎の指示した方向へと飛んで行く。

 空のブラックウォーグレイモンを見ても、大した騒ぎにはならない。

 恐竜が空を飛ぶ。

 バイクが空を飛ぶ。

 そのくらいは日常的にあるのがこの風都という街である。

 たかがブラックウォーグレイモンが飛んでいたくらいで騒ぐ住民など、いるはずもない。

 

 翔太郎の前で変顔をしていた亜樹子の存在も、ブラックウォーグレイモンからすれば理解不能な何かだった。

 

「あんなにやかましい女もいるのか。人間ってのはどういう種族なんだ?」

 

「あれはなんだ、特別だ。人間の平均値計算する時にいれるとノイズになるやつ」

 

「ノイズか……変な顔をしてたな」

 

「あの変顔は例外として覚えとけ。他のレディは……まあ亜樹子よりはレディしてるだろ」

 

 そういうものなのか。

 

 ブラックウォーグレイモンは深く考えることを諦めた。

 

 

 

 

 

 捜査は進む。

 人助けを適度に挟みながらの捜査は余計な時間がかかっているようで、助けた人間から翔太郎が情報を得ていくため、何故か全く遅延が発生していなかった。

 一つ一つ情報を得て、至るべき場所へと近付いて行く。

 

 かくして翔太郎とグレ男は、地道な現地調査の果てに、街で密かに暗躍していた怪しい男の一人を捕縛することに成功していた。

 

「お前、財団Xだな」

 

「か、仮面ライダー……!」

 

 『仮面ライダー』。

 その独特の響きが、何故かブラックウォーグレイモンの耳に長く残った。

 だが、ブラックウォーグレイモンが気にしたのは、翔太郎が口にした組織名の方。

 

「ショータロー。財団Xとはなんだ」

 

「倒すべきワルって奴だ。こいつらの企みが、街を泣かせてやがる」

 

「倒すべきワル、か」

 

 翔太郎は最初からアタリを付けていた様子。

 そしてその勘はドンピシャであったようだ。

 財団X。

 世界を股にかける、死の商人と呼ぶことすら過小評価となる、恐るべき組織。

 いくつもの仮面ライダー達と戦い、多くの悪の組織を支援し、それぞれの組織の技術を吸い上げ成長し、幾度となく世界を危機に陥れるも、どんな正義の味方でも滅ぼせない大組織。

 風都の仮面ライダーにとっても、宿敵と呼べる存在である。

 

 だが、"倒すべきワル"の一言でまとめられるといえばまとめられる、そんな存在でもあった。

 

 翔太郎は捕まえた男の襟首を掴む。

 男は仮面ライダーという存在を、たいそう恐れているようだ。

 翔太郎が少し脅せば、情報を片っ端から吐いてくれそうな気配はあった。

 

「素直に吐けば、多少は待遇良くなるかもな?

 おい、今回街に何かしてるドーパントのメモリを教えろ」

 

「ふぉ、フォーゲット(Forget)だ。人の記憶を消したり、抜き取ったりできる」

 

「メモリはFか」

 

「メモリの使用者が、長期使用によって特別な個体になってるらしい。

 ハイなんとか、って。

 そいつが使うとメモリの効果が違うんだ。

 抜き取った記憶をそのまま具現化できたり、それ以上のことも……」

 

「!」

 

 記憶を使うドーパント。

 その存在を聞き、翔太郎が思い出したのはかつて戦った『ダミー・ドーパント』であった。

 

 ガイアメモリの怪人・ドーパントは、地球の記憶が封入されたメモリを使うことで人間が変身する怪人である。

 根本が記憶の力だ。

 だからか、他者の記憶やイメージからそれに沿った姿に変身し、能力まで再現する完璧な擬態を行うダミー・ドーパントなど、記憶を使う能力はかなり強力なものであった。

 

 記憶を司るドーパント。

 悪用すれば、いくらでも危険な事件を

 

「そ、そこのそいつもそうだ!」

 

「んだと? グレ男についても何か知ってんのかお前」

 

「ずっと昔のアニメのキャラの記憶を引き抜いて、具現化したんだ!」

 

「―――な、に?」

 

「だ、だから!

 肉体の組成はルナ・ドーパントのマスカレイドと同じだ!

 あれも幻想のメモリの、幻影から作った実体だから!

 記憶なんていう曖昧なものから作った実体だから、そうなるんだ!」

 

 翔太郎が振り向き、ブラックウォーグレイモンの表情を見る。

 人の抜き出した記憶から作られた作り物だと言われても、ブラックウォーグレイモンは特に大きな反応も見せず、淡々としていた。

 翔太郎は、やや焦りを見せながら、男を締め上げさらなる情報を吐かせる。

 

「てめえらの企みの、本丸はどこだ?」

 

「も、もう遅いかも。今日中には『ガイアインパクト』を起こせるって、主任が……」

 

「ガイアインパクトだと!?」

 

「実在と非実在の境界が壊せる……

 地球の記憶、人類の記憶も財団の自由にできる。

 記憶消しちゃえばどんな賢人だって、猿と変わらない野生児だ。

 更に、どんな記憶からでもどんなものでも作れる。ガイアインパクトは、革命だって……」

 

「"財団X流のガイアインパクト"か……フィリップが戻って来るのも待ってられねえな」

 

 ガイアインパクト。

 それはかつて翔太郎が倒した悪が掲げた目標であり、その後、それを受け継いだ後継達が掲げた計画群の名称でもある。

 総じて、世界人口のほとんどが吹っ飛ぶような作戦など、世界全てをひっくり返すような、地球規模のとんでもないことを実現する計画の名称として使われている。

 

 必要な分の情報を吐かせ、翔太郎は男をふんじばって床に転がせる。

 そして、ブラックウォーグレイモンに向き合った。

 ブラックウォーグレイモンは、無機物のタワーから作られ、バグのように人格が発生し、ただの操り人形だと言われ続けたデジモンである。

 作りものであるという自覚など、生まれた時から持っている。

 今の彼は、アニメの中で死んだ存在を再生しただけの、生ける死者と言えるだろう。

 

 真っ当な生命でないことを自覚しながら生きるブラックウォーグレイモンの姿が、何故か、翔太郎の目には、かつて戦った『大道克己』という男のそれと重なって見えた。

 

「なあ、グレ男、その……」

 

「俺の発生過程に興味はない。"お前は作り物だ"と言われることなど、もう慣れた」

 

「……」

 

「だが……お前がしている『探偵』という仕事とやらには、興味がある」

 

「は?」

 

「新鮮だ。お前にとっては日常かもしれんが、オレにとっては未体験のものしかない」

 

 けれど、ブラックウォーグレイモンがそんなことを言い出すものだから。

 翔太郎は、思わず笑ってしまった。

 師から受け継いだ帽子を、深く被り直し、ブラックウォーグレイモンの背を叩く。

 

「お前、探偵向いてるぜ。

 感謝をいい報酬に感じられる奴は、きっと探偵に向いてる奴だ」

 

「感謝をいい報酬に感じられる奴? オレが? 何を言っている」

 

「さっきのお前、ありがとうって言われて、悪い気がしてなかっただろ」

 

「―――」

 

 一瞬虚を突かれた様子を見せたブラックウォーグレイモンだが、すぐに元の様子に戻る。

 

「お前の、気のせいだ」

 

「そうかい。ま、いいか。さっさと事件解決しちまおうぜ」

 

 ブラックウォーグレイモンの目が、翔太郎の背中をじっと見る。

 一度一つの生を生ききったことで、ブラックウォーグレイモンの中から半ば失われていた『生の熱さ』が、彼の内に蘇りつつあった。

 

「ショータローは必要であると思えば、他人の心に踏み込んで行くことを恐れないんだな」

 

「やりたいようにやってるだけさ、俺は」

 

 帽子を指で押し上げ、似合わないニヒルな笑みを浮かべる翔太郎。

 

 ふと、ブラックウォーグレイモンは思い出す。

 

 確かに一つの世界を救った選ばれし子供達が、よく帽子を被っていたことを。

 

 ゴーグルが似合う少年の勇気をよく見ていたブラックウォーグレイモンは、子供達が身に付けていたもののことを、鮮明に記憶に残していた。

 

 

 

 

 

 正義の味方が突き進む限り。

 道を間違えず、正しい方向を目指し続ける限り。

 一歩ずつでも、確かな一歩を繰り返している限り。

 いつかは必ず、彼らは出会う。

 

 救うべき人に。

 倒すべき敵に。

 彼らは必ず巡り合う。

 涙を流す人を救い、人を虐げる悪を倒す、そのために。

 

「仮面ライダー……おのれ、またしても……!」

 

「見つけたぜ。てめえがフォーゲット・ドーパントだな?」

 

「ショータロー。こいつがお前の言う、倒すべきワルか?」

 

「下がってろ」

 

 翔太郎がメモリを構える。

 相対するは街の裏で暗躍していたフォーゲット・ドーパント。

 彼は風都を守る仮面ライダー。

 誰の力を借りずとも、街を守りきる覚悟で戦う戦士。

 

《 JOKER! 》

 

「俺の仕事だ。この街を泣かせるやつは、絶対に許さねえ」

 

 起動したメモリが、差し込まれたドライバーが、左翔太郎を戦士に変える。

 

「変身!」

 

《 JOKER! 》

 

 全身黒塗りの、黒き戦士へと。

 その名はジョーカー。

 仮面ライダージョーカー。

 

 ブラックウォーグレイモンを背後に従え、悪を討つべく駆け出すジョーカーの姿は、黒と黒のコンビゆえによく映えた。

 

 構えるジョーカー。

 グッ、と握られた拳が軋むような音を出す。

 引き絞られた腕が、グググと力を溜め込む。

 仮面ライダーに襲いかかった怪人へと、カウンター気味に叩き込まれた拳の一撃は、子供が見ても"痛そう"と思えるほどに、見事なものだった。

 

「ぐっ」

 

「風都を泣かせる奴は許さねえ。さあ……お前の罪を数えろ!」

 

 ワンテンポで繰り出される早い右ジャブが怪人の顎を打ち、顔に意識を引いた所で、顔を守った怪人の脇腹を狙って左フック。

 いい一撃が脇に入って怪人がよろめいたところに、ジョーカーのアッパーが怪人の顎を強烈に打ち上げた。

 

 流れるような連携。

 シームレスに繋がる連撃は、その全てが怪人のガードの隙間をすり抜けるように放たれる。

 スペックはフォーゲット・ドーパントが完全に上回っていたが、怪人の攻撃は一つも当たらず、仮面ライダーの攻撃は全て当たり、かつ急所へのクリーンヒットが連続している。

 

 スペック差がなければとうに勝負は決まっていたと、そう思えるほどの攻勢だった。

 

 それを見て、ブラックウォーグレイモンは思い出す。

 自分がずっと執着していた『八神太一とウォーグレイモンのコンビ』を思い出す。

 羨むように、ウォーグレイモンに戦いを挑み続けた記憶を思い出す。

 あの頃の自分になくて、相対したウォーグレイモンにはあった何かが、自分が羨んだ何かが、左翔太郎/仮面ライダージョーカーには詰まっている。そんな、気がした。

 

「『ガイアインパクト』は起こる! お前の頑張りは全て無駄だ!」

 

「させるかよ!」

 

「マキシマムドライブの威力は全て計算に入れている!

 風都の仮面ライダーのどの攻撃でも、ガイアインパクト起動装置は破壊不可能だ!」

 

 いくら押しても、守りを固めた怪人をジョーカーは押しきれない。

 更に、黒幕の言が真実であれば、発動間近の極大危険装置は破壊しきれない。

 怪人になっている黒幕が余裕たっぷりに見えることも、その発言が真実であるという最悪の現実の裏付け足り得る。

 

 敵の言うことを全部真に受けるほど翔太郎もバカではないが、彼は勘が鋭いために、その装置を自分が破壊できないことを半ば察しつつあった。

 

「ちっ」

 

 怪人の額を掌底で打ち、蹴りで吹っ飛ばして距離を取る。

 記憶をどうこうするという、財団X流のガイアインパクトを引き起こす装置はもう目に見える位置にあるというのに、それを破壊する手段がない。

 翔太郎は心中で歯噛みした。

 そんな翔太郎の肩に、グレ男が手を置く。

 

「さっきの言葉をお前にそのまま返そう。下がってろ、ショータロー」

 

「お前」

 

「オレがここにいる意味があるのなら、これは俺の仕事であるはずだ」

 

 はっ、と怪人と成った黒幕が笑う。

 

「『ガイアインパクト』は止められ―――」

 

「―――『ガイアフォース』ッ!!」

 

 一瞬。

 一瞬だった。

 たった一瞬で、ブラックウォーグレイモンの両手の間に巨大な火球が形成され、それが一気に巨大化し、投げつけられ―――黒幕が自信満々に自慢していた機械を、飲み込んでいった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から生まれたブラックウォーグレイモンは、そうして爽快に、いっそ無慈悲なほどに容赦なく、その機械を粉砕した。

 

「なっ……バカな、このパワーは、なんだ……!?」

 

《 JOKER! MAXIMUM DRIVE! 》

 

 一瞬一瞬の判断を間違えるのが二流。

 絶対に間違えないのが一流だ。

 

 予想外の事態を目にして、怪人は呆け、戸惑い、爆発した機械を見た。

 予想外の事態を目にして、仮面ライダーは敵を見て、隙を見て、その隙を突いた。

 ブラックウォーグレイモンのガイアフォースが巻き起こした爆焔の渦の中を、突き抜けるように黒きライダーが飛んで来る。

 その足に、とてつもないエネルギーを集約し、怪人に向けて真っ直ぐに。

 

「『ライダーキック』」

 

 怪人が気付いた時には、もう遅く。

 

 ブラックウォーグレイモンの攻撃着弾からほんの一息の間を置いて、最大の力が込められたライダーキックが、怪人の胸に着弾する。

 

「ぐ―――か―――あああああああッ!!」

 

 かくして、世界を巻き込む最悪の機械は爆散し、数秒後にはその黒幕も爆散し。

 

 奇妙な巡り合わせで出逢った二人の黒いヒーローは、瞬く間に世界を救って見せた。

 

 たった一日だけの奇跡のコンビ。あるはずのなかった共闘であった。

 

「よう、世界を救ったヒーロー。気分はどうだ」

 

 翔太郎が、ブラックウォーグレイモンの背中を軽く叩く。

 

「ありがとうと言われない分、猫を助けた時の方がマシだな」

 

「はっはっは、そりゃいい! 探偵らしい感想で好きだぜ、そういうの」

 

「有象無象を倒しても虚しいだけだ。達成感などない。達成感というのは……」

 

 そこまで言って、ブラックウォーグレイモンはハッとする。

 

「……オレはもしや今、賢くない生き方をしているのか」

 

「良い生き方をしてんだろ」

 

 翔太郎が強くブラックウォーグレイモンの背中を叩き。

 

 ブラックウォーグレイモンは無言のまま、強烈に仮面ライダージョーカーの背中を叩き、しれっと強烈にやり返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件は解決した。

 記憶から生み出されたものはそのまま残ったが、記憶を抜き出された人達の頭には記憶が戻り、記憶の抜かれ過ぎで野生児と化した人間も自然と元に戻っていった。

 一件落着、というやつである。

 タイプライターで事件の記録をつけている翔太郎に、グレ男は静かに語りかけた。

 

「お前は、周りの人間に、長所はどこだと言われている?」

 

「あ? そりゃ、このイケメンフェイスとか。

 類まれなる推理力とか。

 ハードボイルドな振る舞いとか、そういうのがな……」

 

「戯言を言えとは言っていないぞ」

 

「たわごとぉ!?」

 

「お前の最たる長所は、戦いの中踏み込む一歩。

 相手の心に踏み込む一歩。お前の一歩には、いつでもどこでも迷いがなかったな」

 

 それは、ブラックウォーグレイモンの目に映った、彼にとっての個人的な左翔太郎への評価の羅列。ハーフボイルドな探偵への、彼なりの賞賛。

 この世界に来て初めて出逢った人間が、何でも許す聖人でもなく、何でも一瞬で解決する万能の人間でもなく、左翔太郎で良かったと、そう思っている彼の、遠回しな感謝でもあった。

 賞賛を、感謝の代わりに使っていた。

 

「ショータローは、勇気の塊だな」

 

「お、おいおい、褒めても何も出やしねえぞ」

 

「今日は世話になった。オレはもう、ここを出て行くことにする」

 

「ん? どうした、どっか行きたいとことか、何かしたいことでもできたのか?」

 

「オレもパートナーを探してみるべきかと、そう思った」

 

「パートナー?」

 

「デジモンには人間のパートナーが必要だ。オレたちは、そういう風に出来ている」

 

 たった一日のコンビ。

 たった一日の共闘。

 それは、ブラックウォーグレイモンの旅立ちにて、終わりを告げようとしていた。

 

「お前がパートナーだったら最良だったんだが……

 左翔太郎には既にパートナーがいるようだからな。なら、他に探すしかないだろう?」

 

「……まーな」

 

 デジモンと人間の関係は、パートナーと表現される。

 人間にとってのデジモン、デジモンにとっての人間。

 相互に大事にし合い、助け合い、高め合うからこそのパートナー。

 なればこそ、左翔太郎はブラックウォーグレイモンに気に入られようとも、ブラックウォーグレイモンのパートナーになれはしない。

 

 左翔太郎が地獄の底まで相乗りするパートナーは、今も昔もずっと一人だけだ。

 

「お前を見習おう。

 お前の『勇気』を。

 一匹のデジモンとして、一人のパートナーを、勇気をもって探しに行こうと思う」

 

「また顔見せろよ。あんま顔見せねえなら、心配するからな」

 

「ああ。この出会いを感謝する、勇気の探偵」

 

 そうして、ブラックウォーグレイモンはどこかへと飛び去っていった。

 

 世界のどこでも、仮面ライダーの活躍する場がある世の中だ。

 

 いつもどこかに、ブラックウォーグレイモンが戦うべき戦場があるだろう。

 

 いつかどこかで、ブラックウォーグレイモンの相棒が見つかることもあるだろう。

 

 タイプライターへの打ち込みを再開した翔太郎がドアの方に視線をやると、客ではなく、ようやく帰って来た相棒が姿を見せる。

 

「ようおかえり、フィリップ。お前がいない間、面白い奴と会ったぜ」

 

 翔太郎の話を聞いた相棒が、興味深そうな顔をした。

 

 長い話になりそうだ、と思った翔太郎は苦笑し。

 

 また会える日を楽しみにして、再会の日に思いを馳せて、瞳を閉じた。

 

 

 




 これにて、終わり。


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