猿と魔王の二重奏《タッグマッチ》 (ジェリド・メサ)
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ガンニョム、大地に立つ?

天に彗星、地にはチンパン。

動物であるはずの猿は、安田によって創成された。

さあて、俺様達は誰でしょう!?


保存日時:2019年01月10日(木) 15:27

 

チンパンジー(Pan troglodytes)とは、霊長目ヒト科チンパンジー属に分類される類人猿である。

 

界 : 動物界 Animalia

門 : 脊索動物門 Chordata

亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata

綱 : 哺乳綱 Mammalia

目 : 霊長目 Primates

亜目 : 直鼻亜目 Haplorhini

科 : ヒト科 Hominidae

属 : チンパンジー属 Pan

種 : チンパンジー P. troglodytes

 

体長オス85センチメートル、メス77.5センチメートルで体重オス40 - 60キログラム、メス32 - 47キログラム。全身の毛衣は黒く、顎の毛衣は白い。脳容積は397 mL前後――

 

 

 

じゃなぁぁぁぁぁぁい!!!

 

 

 

いや一概に違うとは言えないけど!確かに世間一般の、それこそあまりゲーセンに足が向かって行かないような人間であればこの認識で全く問題は無い。ええ、そうですとも。普通に勉学に励んで適当な大学を出てから就職、ジジィになるまで働いて残りは年金で――フォウッ!パーリナイッ!!

 

みたいな生活を夢見る諸君達のような方々はここでストップだ。ここから先は地獄だぞ?このSSを普通のSSと思えない方は今すぐにブラウザバックしてください。猿すぎて横を降り始めてしまいます。

 

それでもいいなら…、見たけりゃ見せてやるよぉ!

 

 

 

 

 

大乱闘エクストリームチンパンズエクスドライブマキシフルブーストをなァ!!

 

 

 

★ ☆ ★ ☆

 

 

「ウッキー!今年は申年ィ!ア"ー"イ"!!」←ここ相方

 

「おいバカやめろバカ!よっしゃ覚醒溜まったァ!」←ここ俺

 

「イケイケ覚醒吐いて攻めろ!前ブ前ブ!!」←ここ対面

 

「ギャァァァァ!(ゲーム)落としたー!」←ここも対面

 

 

 

『W I N』

 

 

「「いよぉぉぉし!」」

 

パシンッ!っと、甲高い音と二人の男の勝利の雄叫びがあがる。それとは反対に――

 

「「てめぇぇぇ相方ァァァァ!」」

 

お互いのミスを互いに押し付ける高度なプレイングをかましている男が2名。100円に命をかける男達はいつもこうだ、勝っても負けてもうるさい、ゲームをプレイしてる間もうるさい。つまり、常にうるさいのが、このゲームの住人のデフォなのです。

 

えー、はい。皆様お分かりの事と思いますが今、俺はゲーセンに居ます。それも開発者が民度が低い認定してしまった例のゲームの交流会に参加しています。

あ、申し遅れました。私、吉崎泰三と言います、この話に着いてこれる人は今後ともよろしくお願いします。もう沼に片足突っ込んでるけど、まだ帰れるぞ?今のうちにブラウザバックだァ!

 

羽丘高等学園に通っていて、()()()()()()()ごく普通(ごくふつう)の高校3年生、部活は帰宅部。多分このゲームに関することを除けば、マジで普通の男子高校生なんだよなぁ…。

成績普通、運動はちょっと出来て、友達付き合いもちゃんとある。青春は無いけど。恋人はゲーセン。それと前までは某動画投稿サイトでいわゆる『歌ってみた』動画を出していて、結構再生数が伸びていたり。当時では珍しいMIX無しの生声の歌を投稿してたんだけど、Twitterのトレンドにも入った事もあった…、かな?でも今はチャンネルも消してしまっていて、動画も何も残ってないけどね。

 

 

『今日はありがとございました!』

 

 

あれ?そんな自分語りしてる間に交流会終わっちゃったよ。まだまだやり足りないんだよなぁ…。どうすっかな……。

 

「バズーカニキ固定しませんか?」

「あ、いいっすよやりましょ!」

 

交流会参加者の一人からちょうどタッグのお誘いがあったので、提案に乗る旨を相手に伝える。

ちなみに、バズーカニキというのは俺のPNのあだ名のようなモノで、正式名称は『バズ兄貴の猿講座』というバカみてぇな名前です。センスのある名前考える人ってどういう頭の構造してるんかねぇ……、ほんと羨ましいわ。

ま、でもアニメとかのキャラの名前をそのまま使っている奴もいるから、ゃそういう奴らよりかは良い名前をしてるんじゃないだろう、という独りよがりが自分を優しく包み込む。

 

筐体に百円硬貨を投入してゲームがけたたましい音と共に起動する。タッグプレイで隣に座った相方とゲーム開始ィ!

基本的に俺は金色で薄い装甲のMS(まだだ!まだ終わらんよ!)試作システムを駆使して格闘戦を仕掛けたり(EXAMに選ばれたジオンの騎士)

敵の耐久を奪い取れる能力を持ったMS(まともにダンスを踊れぬ者よ、死ね!)等に乗っている。

 

相方と相談して機体を決めれば、あとは勝手にオンラインで同じ位の腕前の相手とマッチングして試合が始まるのだが、これが全然同じ腕前じゃねぇだろ、って感じの相手に当たる事がしばしばあってとても運営が優しくない。

 

 

それでも何戦かして、帰ろうかと考えた時。この場所、ゲーセンにはとても似つかわしくない――いや、それだと語弊があるな。このゲームコーナー(俗に言う動物園)にはとても似合わないような少女(と言っても二つしか変わらないけど)が目に留まった。

 

俺と同じ羽丘の制服を来ていて、紫のドリル状のツインテールを引っ提げた彼女は俺を見つけると、トコトコと可愛らしく近寄って来て「たいぞーさん!こんにちはー!」ってこれまた可愛らしい声で話しかけてくる。

 

「おー、あこちゃんじゃんか。今日の練習は終わったんだ」

「うん!今日は交流会の日だったから行きたかったんだけど、練習があったから…」

「それは仕方ないでしょ、次のライブも上手く行きそう?」

「もーバッチリだよ!だから、えっとね…。つ、次のライブも見に来てくれる…かな?」

 

ホントこの子はコロコロと表情が変わってもー可愛い!でもこんなにちっちゃくてもライブではとても力強いドラムを叩いているんだから、ギャップが凄くてそれもまた可愛い。

 

「行く行く、絶対行くって!楽しみにしてるよ」

「ホントー!やったぁ!それならあこ、もっと頑張る!」

「おう、頑張れよい。んで、今日はやる?」

「うん!その為に来たんだもん!」

 

かれこれ2年目の付き合いになる彼女の名前は宇田川あこ。俺が通っている羽丘高等学園の一年生で、あるバンドのドラムをやっている。あるバンドっていうのはまた今度説明するよ。多分。

 

「それで今日は何乗る?」

「うーん…、あっ!あこアレ乗りたい!」

「どれじゃい」

「イオさんが乗ってるの!」

「あー、FAか…。よっしじゃあ俺はリボで行くよ」

「えっ?リボって今作死に機体じゃ…」

「いや!まだいける子なの!ほら行くよ!」

 

<フルアーマーガンダム、イオ・フレミングショウイダ、ブットバセ!

<リボーンズガンダム、イク

 

ということで迷わずリボと呼ばれた機体を選択。あこちゃんもFAを選んだのでマッチングが始まる。しっかし、随分久しぶりな感じがするなぁ…」

 

「そうですねー、大体1ヶ月立っちゃいましたからね!」

「あれ?声に出てた?」

「うん、久しぶりだなーって」

「そっか…。あ、始まるね」

「みたいですね、頑張りましょー!」

 

マッチングが終了してもうすぐ始まるって時。交流会の居残り組が俺達の一月ぶりの固定にヤジを飛ばしてくる。

 

「おいみんな!このゲーセン一のチンパンジーと俺達の癒しあこちゃんが固定やってんぞ!」

「なんだとぉ!このゲーム捨てて、さっさと見に行こうぜ!」

「まじそれ、行こいこ」

「『猿と魔王の二重奏』だぞ!モニターで録画しとけよ!」

 

「おいお前ら騒ぐな!他の客とあこちゃんに迷惑だろうが!」

「た、たいぞーさん!あこは大丈夫ですよ〜…?」

「よしお前ら!他のお客の迷惑にならないレベルで盛り上げてよ!」

 

 

これが、今の俺の日常。

バカばっかりだけど、良い奴が沢山いるような――

 

最高の居場所だよ。

 

 

 

 

 




は〜、横振りて〜


横振らなきゃ…



横振るんだよ!


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もう十分に休暇は楽しんだだろう……?

「邪魔だ、ガエリオ」
「やはり俺を見てはいないのだな。マクギリス…。」


この掛け合いほんと好き。








「みんな、今日の練習はここまでよ」

 

そう言って私は、今日の練習を締め括った。皆になるべく早く片付けをするように指示しながら、私もみんなの片付けを手伝いに行く。

 

「ふぅ〜…、今日も疲れたねぇー。友希那もおつかれ〜、紗夜もね〜」

「今日もおつかれ、リサ」

「ええ。今井さんもお疲れ様でした」

「今日のりんりん調子良かったんじゃない?なんかいつもよりもドーンって心に響いてきたよ〜!」

「そうね、そこは私も思ったわ。まだまだ満足は出来ないけれど、この調子よ。燐子」

「そ、そんなこと…。ありがとうございます、友希那さん…。あこちゃんもよく分かったね…」

 

昔の時とは――結成当初の頃とは違って、このバンドには会話が多く生まれるようになったわ。元々このバンドはただただ高みを目指し、一つの目標のために突き進んできたバンドだった。私情を挟まず、音楽の技術のみを向上させ続けて、そして夢へと至る。そういうためのものだった。けれど皆も、そして自分も。何かしらの思いをこのバンドの中で溢れさせていった結果、一度このバンドはもろくも崩れていった。

 

けれど、皆の心の内をさらけ出して一度壊れたはずのこのバンドは、新たなRoseliaとなってその骸の内から蘇った。メンバー間の繋がりをより強固なものとして、この5人でのみ奏でられる音を目指す。

 

練習後の会話が増えていったのも、練習中でも笑顔が見られるようになったのも、きっとこの出来事があってから、やっとの事で絆の重要性に気づいた私達のひとつの回答なのだと、私は思っているわ。

 

 

そういったアクシデントを乗り越えながら、私達は数々のライブをして行くうちに…。

 

「では皆さんも無事に進級出来たようなので、今日は行きますか?」

「そうね、不思議と随分と行っていない気がするわね」

「ま〜たポテトかぁ〜、こりゃぁ〜太っちゃうぞ☆」

「☆を付けてまで言うことじゃ…」

 

反省会も兼ねていつものファミレスへと、意見が固まった――と思っていたら。

 

「あー、ごめんなさい…。みんな…、今日はあこ行かなきゃ行けないところがあって…」

「そう…、それなら仕方ないわね」

「……、ポテェ…」

「?氷川さん…」

「あこ…、最近そういうの多くない?何かあったりした…?」

 

リサはあこに優しく問い掛ける。恐らくは、他のみんなも同じように思っている事を。

そう、最近あこは練習中はいつも通りなのだけれど、その後の反省会だったり、ただの外食の時もあるけれど、そういうのを欠席する事が多くなった。だからそういう時は燐子に頼んで、反省会で出た意見等を代わりに伝えてもらう。

 

でもそれはバンドのリーダーとしての私。本当はとても心配で、裏で何かあったのではないかと気が気ではない。それでもあこは、反省会に出れない事を負い目に感じているのか、バンド練の前に一人でスタジオを借りて振り返りをしている事が多くなった。そのおかげか、あこのドラム捌きはだんだんとレベルが上がっているのを、私も身に染みて感じているわ。――熱心なのはいいけれど…、でもやっぱり心配になってしまうわ…。

 

「え?ううん!何か悩みとかじゃないよー!ちょっと行かないと行けないところがあるだけだもん!」

「あー、そっか…。それならいいんだけどね〜…」

「何にせよ、気をつけるのよあこ。最近はおかしな人間も増えてきているから…」

「はい!今日はホントにごめんなさい…、お疲れ様でした!」

 

そう言ってあこはスタジオを後にしていった。少し話をして見た感じではいつも通りのあこの様だったわ。空元気という風でもなかったし…。

 

「…どう思う…、みんな?」

「そうですね…、無理をしているとは思えませんでしたが…」

「で、でも…、やっぱり心配です…」

「それはアタシもかな…」

 

やっぱり心配に思う気持ちはみんな一緒だったようね…。それが分かっただけでも、今のRoseliaが昔とは違っている事が実感出来るわ。きっと前までの私では、それよりも自分の技術が優先だったでしょうから。少しずつでも私達は変わることが出来て――

 

「そうだ!いっその事、今日あこの後をつけてみない?」

 

え、何かしらリサ?おかしな事を言わなかったかしら?

 

「今井さん!さすがにそれは…」

「いえ、私は…賛成です…」

「白金さん!?」

 

あら、何だか不思議な流れになってきたわね。確かにあこを心配に思う気持ちはみんなと同じ、それならそう言った提案が出てくるのも納得出来るわ。

 

「そうね、あこが練習後の集まりを一番楽しみにしているのはみんな知っているでしょう?そのあこがそれを欠席してまで行く場所を、私は突き止めたいと思っているわ。みんなは、どうかしら…?」

「友希那の言う通りだよ!」

「友希那さん…。行きましょう…!」

「はぁ…。正直こんなストーカー紛いの事はなるべくならしたくはありませんが…、私も心配ですからね」

 

よし…、この先の方針は決まったわね。ついさっき出ていったばかりだから、まだ遠くに入っていないハズ。

 

「まずはあこを見つけるわ。みんなあこを見つけたら連絡して頂戴!それじゃ、行くわよ!」

 

その瞬間、4つの流星が1つの彗星を追跡し始める…!

 

 

★ ☆ ★ ☆

 

 

『ゲームスポット・サファリパーク羽丘』は、つい3年前に開店したまだまだ新しい部類のゲームセンターだ。子供も入りやすいように可愛らしい動物の装飾が外装に多く施されている他、店長の趣味で地下にはそれなりの規模を持ったライブハウスを併設している。

 

さて店内を見ていこう。ライオンの口を模した入口を潜れば、ゲームセンター特有のタバコ臭さがお出迎え――はしなかった。ここは完全分煙制のゲーセンなので喫煙室が設けられているのだ。

 

一階には前述のような子供に親しみやすいメダルゲームや、カードを集めて戦うようなアーケードゲームなどが多く設置されている。なので親子連れや、小学生くらいの子供をよく見かけたりする。その他には御老人の方々もちらほらと言ったところか。

 

二階はいかついオッサン達の溜まり場、麻雀コーナーなので無視。

 

さて、三階だ…。

ここには大きいお友達向けのアーケードゲームが多く並べられている。ガンスト、鉄拳、デシデア、星翼など様々なゲームが、やってくる客を惹き付けるために爆音のデモムービーを流しているためやっぱりうるさい。

 

――が。

 

その全てを凌駕しているゲームコーナーが一つ…。この元の作品は好きでも、このゲームは嫌いという人も少なくは無いだろう。ただ、ハマったらなかなか抜け出す事が出来ないという…。

 

「ヤッタァー!ブッパァー!」

「ブッパ見てから盾余裕でしたわw」

「やっちゃってください!(Z)バーサーカーさん!」

「俺を見ろぉぉぉぉ!!」

 

まだ他のコーナーの方が静かに聴こえてしまう不思議な異空間。

 

 

あこちゃんと同じバンドの仲間だという女性達に――その内の二人くらいは知っている人物だけど。湊友希那と今井リサは俺とクラスが一緒だからな。――このゲームセンターの案内をしていたら、なんか彼女たちの顔がどんどん青ざめていくのが見て取れた。何故かって、そりゃ…。

 

「ヤッタァー!ブッパァー!」

「ブッパ見てから盾余裕でしたわw」

「やっちゃってください!(Z)バーサーカーさん!」←ここあこちゃん

「俺を見ろぉぉぉぉ!!」

 

えっと…、まぁ、そういう事だよね…。

 

 

★ ☆ ★ ☆

 

 

「ねぇ…、たいぞー…。あこってさ、ここにはいつから来てるの?」

 

アタシは同じクラスであり、ここでバイトしているらしい彼――吉崎泰三、みんなからはたいぞーと呼ばれている――にそう尋ねた。学校でも彼とはよく話をしたりするので、そのままの調子で馴れ馴れしく話を振った。

 

「んーあー…、これ言っていいのかな…」

「出来れば教えて欲しいわ。お願い、吉崎さん」

 

友希那も興味があるみたいだね…。まぁそれはそうだよね、私達よりも二つも歳が下なのにこんな場所に出入りしているんだから、何か裏があるのかもって疑っているのかもしれないし…。

 

「んー、そうだな…。2年半くらい前だったかな…」

「それって…!Roseliaが結成してから…」

「あまり…、時間が経っていませんね…」

 

Roseliaが結成して少し経ってからこのゲームセンターに通い始めているらしいあこは、このゲームでは相当な腕前がある事や、他の色々なお客と一緒にゲームをするという『交流会』というものに数多く出席しているという事を、アタシ達は初めて知った。

 

 

─────────────

 

 

なんか…、あからさまに戸惑った顔してるんだよなぁ…。湊も今井も…、いやその他のロングのライトグリーンの髪の女の子や、その隣の黒髪ロングの女の子もだけど。いやまぁ、見知った人の新たな一面が発覚すればこうもなるのかもしれないけどさ。

 

「えっと、それで俺はどうしたらいい?あこちゃん呼ぶ?」

「…いいえ、大丈夫よ。だって、あんなにも楽しそうにゲームしているもの」

「…うん、そうだね〜」

「しかし、本当によかったです…」

「え?何がですか…?あー…えっと、氷川さん…で合ってましたよね?」

「!何故私の名前を…!?」

 

うろ覚えのままライトグリーンの彼女に問い掛けてみれば、逆に物凄い剣幕で迫られてしまった。すっごいいい匂いがする…、じゃなくってだねぇ!

 

「あこちゃんに誘われて、Roseliaのライブをさ、何回も見に行ってるからさ、そこで覚えたんだよ…。ちなみに湊が一人で歌を歌ってた頃からね」

「あ…、そうだったんですか…。それは失礼しました、そしてありがとうございます」

「ちょっと待ちなさい。私が一人で歌っていた頃から見ていたの?」

「うん、そうだよ。あこちゃんに一緒にね。隣のあこちゃんが凄い凄いって言っててさ、『いつか湊さんとバンドでもやれたらいいなぁ!』ってよく言ってたんだよ。俺もすっごい鳥肌立っちゃってさぁ〜!それからファンになっちゃったよ」

「……!」

 

おおぅ、見るからに湊の顔が真っ赤になっていく…。なんか嬉しさと恥ずかしさがミックスされた顔になってるよー。確かに俺もすっごい恥ずい事言ったけども、本人の前で、正面向かって。

 

「……あ、ありがとう

「いえいえ、どういたしまして」

「!聞こえてたの…!?」

「すっごい小さな声だったけどね…」

 

あ、また顔真っ赤になった。可愛いなこの子、学校じゃあんまり表情変わらなくって、正直怖かったんだけど、全然女の子らしいとこあるじゃんか。なんだか安心した。

 

「コラ!うちの友希那を口説かないで貰えるかなっ!」

「あははは…、これは失礼しました」

 

ニヘラと笑いながら今井が茶々を入れてくるのを、軽く左へと受け流していると。その左の方向から、ちっこい少女がやって来た。

 

「たいぞーさん!あこと固定してくれませんか〜!…あれ?」

「「「「あ…」」」」

 

「あー…、これはもしかしなくてもやらかしちゃったやつか…?」

 

ここでで合わせるべきではない5人が集まってしまっていたのだ……。さて果たしてどうなる宇田川あこ!




あこもこういうカッコイイセリフが言ってみたいなぁ!


300年だ…、もう十分に休暇は楽しんだだろう…。アコニカ・カイエル…。とかでいいんじゃないかな…?


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新しいモノ

ごめんなさい


すみませんでした


助かりました


次もよろしく






「ぅおいッ!!なんで今の着地取れねぇんだよォ!」

 

「マジで馬鹿の一つ覚えみたいに特格に急速変形つけるのやめろって!!」

 

「横サブの誘導強スギィ!避けらんねえッ!」

 

「オマケにケルビーもあるんですからね……、あの機体ほんと壊れですよぉ……」

 

 

場所はいつものゲーセン。

 

リプレイモニターでさっきまで繰り広げられていた熱い戦いの映像を、今日たまたまここに集った4人の戦士達と鑑賞していた。ついでにお話も。

 

今日もしっかりと固定を楽しんだのでそこで流れ解散、というのが普段の流れなんだが、今日はそうもいかなかった。なにしろ重要な案件がまだ残っているのだからな。

 

それじゃぁ、今日ここに集まったイカれたメンバーを紹介するぜッ!

 

まずは一人目!PN『パンさん(人間)』、結構な頻度でこのゲーセンに出没している大学生。このゲーセンのトップ5の実力者でもある。ここのゲーセンのバイト面接で落とされた悲しい人。

 

続いて二人目だァ!PN『ひで・カスタム』、名前の通りジオン軍の白兵戦様モビルスーツのカスタム機をよく使っている。最近にして、ようやく弟子が出来たらしい。前から欲しいつってたからね……。ちなみにひでは本名。

 

えー、三人目。俺。終了。

 

そして四人目。このゲーセンが誇る紅一点、PN『聖堕天使あこ』――つまりはあこちゃんです。他にも色んなゲームをしているみたい、正直このゲームに引き摺り込んでしまった俺が言うのもアレだけど、このゲームには手を出さない方が良かったかもね……。

 

 

さて、そんな俺達の議題はと言えば、最近のアップデートによって追加された新機体の件だ。

 

「あれそもそもメインの火力もおかしない?」

 

「ホントですよぉ!打ち切りリロードなのが唯一の救いです……」

 

「いやいや、それよかあのサブやろ。あの武装アメキャンとかで降りれる機体じゃなきゃ相当きついぜ?」

 

「うん、それはあるね。あの格チャのゲロビもワンチャン火力があってなんでもある機体って感じだよな」

 

出るわ出るわの新機体への恨み辛み、それもそのはず。この4人で交代しながら固定を組んでいたのだけど、だいたいの組み合わせにその件の新機体が、オマケに高コストも超絶万能機OOだったり、横特鈍足サブ阿頼耶識チンパンだったりでほとんど確定していると来たのだ。

 

割とその2機体のせいで低コストが息をしない環境になり出していた所に、運営からの新たなる楔が打ち込まれる。それが今回の新機体である『ライトニングガンプラ』なのだ。

 

火力の出るメイン。

強誘導かつ強よろけでダウンまでしっかり取れるうえに、横入力の移動量もそこそこあるサブ。

試合をひっくり返せる力を持った打ち切り格チャ。

リロもそこそこ短く、ケルビーと曲げ撃ちゲロを撃ち分けられる特射。

迫り来る敵機から爆速で距離を離すことが出来る特格の急速変形。

変形時のサブと特射の誘導も相当きつい。

オマケに派生で火力が伸ばせる格闘。

 

これらが全て詰め込まれた上に、極めつけとして。

 

2500コストなのだ。

 

 

 

んん??ぶっ壊れかな?

 

「もぉ〜!なんでこの機体25なんですかぁ〜……!」

 

あこちゃんの甲高い悲鳴にも聞こえる嘆きが響いた。あこちゃんの言う事は最もだよ……。こんな見たらわかる強機体を勝率ガチ勢の奴らが使わないわけないでしょ?

 

結果として一時期、全国機体使用率が一時期、脅威の30%を超えていた時もあったのだ。単純に考えれば、敵味方合計4機の中に必ず1機はガンプラが紛れ込むという、ガチの戦争してきたMS乗りの方々からすれば溜まったものじゃないだろう。

 

 

 

その後は、立ち回りとかいろいろ談義した後で今日は解散ということになった。

 

今日はあこちゃんのバンド練も無かったようなので、少し商店街の方に寄り道しながら帰ることにした。元々はそのまま直帰する予定だったのだがそうせざるを得なくなってしまった、という方が正しい。

 

「たいぞーさん、これから時間ってありますか?」

 

「いや……、今日はバイトも無いから午後はフリーだよ」

 

「それじゃあ…!ご、午後はあことデートして下さいっ…!」

 

「うん、喜んで」

 

期待と不安が混在している顔から、デートのお誘いが来たらさ……。そういう期待に応えたくなるのは仕方の無い事だと思いませんか?そもそもゲーセン通いの俺にそんな女友達なんて出来たことなんか……、うん、無かったからなー。

 

「ホントですか〜!やったぁ〜!」

 

いや、あこちゃんのこんな屈託の無い笑顔が見られたってだけで、今回のお誘いを受けた価値があったってもんでしょ。

 

 

★ ☆ ★ ☆

 

 

あこちゃんと隣り合わせで商店街を練り歩く。

 

誘われたのが当日という事で何もプラン等は無い、行き当たりばったりのデートなんだけど、それでもあこちゃんはいつも以上の笑顔を向けてくれる。なんやこの子は……、天使か…?

 

「あ、そうだ!あこがいっつも行ってる喫茶店に行きませんか?」

 

いかにも楽しそうな顔を浮かべながら、そんな提案をしてくれる。人付き合いとかすっごい得意そうだよなあ。

 

「うん、じゃあそこ行こうか?……えっと、案内よろしくね?」

 

「はい!任せてください!」

 

さっきまでの隣り合わせの状態から、あこちゃんが半歩ほど前に出て歩き出す。その小さくとも頼れる背中を見つめながら、後ろにぴったりと着いていくと、『羽沢珈琲店』というパッと見レトロチックな喫茶店に行き着く。

 

「ここがあこちゃんの言ってた?」

 

「はい!ここって中がすっごく落ち着いた雰囲気で居心地がいいんですよー!」

 

「なるほど……。この店って前からあったの?」

 

「多分あこが産まれる前からありましたよっ」

 

「……そんな店を俺は知らなかったのか……」

 

「早く中に入りましょっ!」

 

「あぁうん、入ろうか」

 

店のドアを開ければ、当初の俺の予想通りにレトロっぽい内装。これは確かに落ち着いた雰囲気だなぁ……。

 

「あ、いらっしゃいませ!」

 

そう言って茶髪の活発そうな印象を持った女の子が、接客をしてくれる。

 

「おひとり様ですか?」

 

「あ、いや――」

 

もう一人います、と店員さんに言おうとした所で、後ろにいたこれまた元気な奴によって遮られる。

 

「つぐみさん、こんにちは!」

 

「あ、あこちゃん!うん、こんにちは」

 

やはりというかなんと言うか、この接客をしてくれている女の子とあこちゃんは知り合いらしい。二人とも笑顔で会話していて、こっちまで元気を貰えそうな感じ。

 

一通りの会話が終わったらしく、その店員さんの関心は続いてこちらへと向けられる。そりゃそうだよな、自分の知り合いが知らない人を連れてきたんなら、誰だろうと不思議になるのは普通のことだ。

 

「俺はあこちゃんの……友達?の吉崎泰三って言います。今後ともよろしく」

 

「これはご丁寧に……。えっと羽沢つぐみって言います!よろしくお願いします!」

 

羽沢つぐみさん、ね……。ん?それってもしかして……!

 

「羽沢って、この店の……?」

 

「はい、このお店は私の両親がやっているお店なんです」

 

「つぐみさんはね、自主的に店を手伝ってるんだよ!」

 

それは、なんて偉い子なんだろう……。家族の仕事を自分から手伝いに行くなんてなぁ、俺には絶対に出来ないな。一応俺も働いている人間だけど、バイトは自分の為だし。

 

そんなやり取りの途中だったのだが、続いて入口からやってくるお客様がいらっしゃった。それも4人も、だ。

先頭に立っているのは、黒髪に赤メッシュを入れたいかにも厳つそうな女の子。

その横からひょっこりと顔を出しているのは、灰色っぽい髪色でダルそうな顔をしている。当然、女の子。

その後ろにはピンクの髪ですっごいボディラインの女の子と、赤髪で面倒見が良さそうな女の子が。

 

しかもそれぞれ、何故かキツめの――というかあからさまに俺を睨んでいるような……。

 

「あ、おねーちゃんだ!」

 

「あこ、こいつは……、誰だ?」

 

赤髪の女の子から猛烈に凄い覇気が漏れ出ている……。めちゃくちゃに……、怖い……!なんか、問答無用で殺されそうな雰囲気だ。

 

 

 

あれ……?もしかして俺……、死ぬ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




えー、ごめんなさい。


色々あったんですよ。




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苦味と甘さ

サボっていた

池袋のバーサーカー


『許されざるいのち』



 

 

今の時代にはそこそこ珍しい、知る人ぞ知る落ち着いた雰囲気の喫茶店。

 

『羽沢珈琲店』

 

ここの店長が長年に渡って研究を重ねて編み出したという、オリジナルのコーヒーを喉に注ぎ込んでいく。

 

――めっちゃ美味いんですけど……!

 

偶に家にいる時に飲むぐらいなので、別にコーヒーにうるさい訳じゃないけど、それっぽい雰囲気を醸し出しながらまたコーヒーを一口啜る。あー……、これやばいわ……。

 

スーパーでよく見かける少し高めのコーヒーなんかじゃ、比べるのも失礼に当たるレベルだろう。それよりも安価でかつその数倍も美味いコーヒーなのだ。あぁ……、俺の身体にきっつい苦味と、その奥にある旨味が染み込んでくるのを感じた。

 

いやごめんなさい正直舐めてましたわ。あの、なんだ……。巷で流行ってんのか知らんけどスターバックスなんたらとかで飲めるやつが、コーヒーじゃねぇんだってすっげぇ実感出来たわ。この味覚えちゃったらあそこに二度と行けなくなるわ。

あー、あれだ。次郎とかのラーメンがラーメンって名前の食い物じゃなくって、『次郎』っていう次元を超えた食い物っていうアレと同じ感覚がする。次郎を下に見る訳じゃないが、長年の経験が蓄積された味だって感じたな……。いやーすっげーわ――

 

 

「何コーヒー飲んで落ち着いてんだあんた、いや確かに美味しいんだけどさ」

 

「あー……、うん」

 

「そろそろ話して欲しいんだけどな……、あことの関係を、さ」

 

赤毛の女の子の威圧感もりもり、かつ静かな言葉によって一気に現実に引き戻された俺。

 

あこちゃんの案内の元、やって来た喫茶店の奥の方へと案内された俺とあこちゃん。そこに加えて店の入口で鉢合わせた赤毛の女の子とピンク髪の女の子も一緒に。赤メッシュと灰色の髪の女の子は付いてこなかった、興味無さそうな顔してたしそういう事でしょ。

 

しっかし、話せって言われてもなぁ……、もはや未来見えたぜこれ。多分返答に関係なくたんこぶ出来るやつだわ。やっぱりエピオンのゼロシスじゃ未来は見えても、敗北する未来しかを見せてくれないみたいですね……。

 

 

なに、バカ正直にゲーム友達ですってか?そう言えってのか。年齢差幾つあると思ってんだ、2つだぞ!?うーん、……あんまり差が無かったな。

でもそれだけ言ったところで信じてくれるかな…?多分無理臭いぜこの空気感じゃ。さっきからガンガン視線ぶつけてきてる女の子二人が、だんだんと目付きを強ばらせてるんだもん。

 

あ、でも席の反対側に座ってる赤毛の子はともかく、その隣に座ってるピンク髪の子はただ楽しんでるだけっぽい。目が笑ってるのを顔全体を硬直させることで、なんとかカバーしようとしてるのがバレバレ。

 

「!………!」

 

「えぇ……?」

 

目を動かすだけで盗み見ていたってのに、何故か気づかれてしまった。むむっとした顔でこちらを睨んで――見つめてくる。睨んでいるつもりかもしれないけど、迫力が全く無かったのでただただ可愛いだけ。あとおっぱいも大きい。すごいなー。

 

「えっと……、……あのね!お姉ちゃ――」

 

「あこは静かにしてろ。あたしは今、こいつと話してるんだ」

 

「あ……、うん……」

 

なんとかフォローを入れようとしたと思われるあこちゃんは、俺が今対面しているお姉ちゃんによって会えなく先落ち。一人でこの強敵と立ち向かわなければならないのは、結構精神を使いそうだよなぁ……。

 

これからの身の振り方を気を付けなきゃ最悪の場合、未来が消え失せそうな予感がガンガンする。あれだ、脳ミソが本能的にヤバいって警告してくれてるわ。

 

「あー、えっとね。俺とあこちゃんは……」

 

「「………」」

 

対面の二人の視線が集まる。加えて少し離れた所から、さっきの赤メッシュの女の子と灰色の髪の女の子にも見られている事に気付く。高速で活動を始める心臓をなんとか抑えつつ、言葉を吐き出していく。

 

「えっと、一緒に……、ゲームをしてる……友人、です!」

 

「「………」」

 

言葉を紡いでいる最中でも最善の発言を考えながら、相手に熱意を込めて伝えていく。あこちゃんと付き合う上で、決してやましい意図を持ってはいないという事を伝える為に……!

 

自然と強ばっている顔。バイトが終わってから着替えた筈なのに、極度の緊張による汗で背中に服が張り付いている。ペタペタしていて、とても気持ちが悪い。それ以上にこの状況の方が嫌だけど。

 

 

赤毛の子と見つめ合うこと数秒。

 

 

「……あこ、ホントか?」

 

「う、うん!ホントだよ!あこがよく行ってるゲーセンのバイトしてて、すっごく優しくしてくれるんだよ!」

 

やっとこっちに流れが来たので必死に弁解してくれるあこちゃん。あ、ありがたい……!まるで天使や……!

それを聞いて二人はまた顔を合わせて、こそこそと何かを話している。さっきよりも切羽詰まったような顔をして。……なんで?

 

ほ、ほら!やっぱり変な人じゃなさそうだよ?

そんな事は分かってる!けど……、あたしよりさきにあこに男ができるなんて信じたく無かっただけなんだよ!

それを言うなら私もなんだけど!

 

なんか、それ程命の危機を感じる必要は無かったかも知れん。こいつら残念な会話してるわ。いや、そんなキリッとした顔でこっち見んなって。さっきの会話が聞こえてないと思って仕切り直そうとするな、ばっちぇ聞こえてっから。

 

「あこ、本当だな?そいつに変な事されてないのか?」

「も〜っ!!お姉ちゃん心配しすぎだって!たいぞーさんはいい人なんだよ?」

「たいぞーって……、あんたの事か?」

「話の流れ的にそういう事だよ。吉崎泰三、ここの近所の羽丘の学生と、さっきもあこちゃんが言ってた通りゲーセンのバイトをしている、三年生だよ。以後、よろしくね?」

 

最後の一言を言い切ってから、二人の顔がみるみるうちに変色していく。そりゃもう鮮やかに、血気盛んに俺に食ってかかっていた時の赤みがかった顔は、見るも無残な青色になってしまった。いかにもやってしまった……!みたいな表情も添えて。

 

「は、羽丘の……、三年生……なんですか……?」

 

ピンク髪が恐る恐る尋ねてくる。その顔からは、「できれば聞き間違いであってください!」っていう願望が見て取れる。

 

「うん、そこの羽丘の三年生だよ」

 

 

その直後、店内は二つの悲鳴にも聞こえる声の謝罪で、瞬く間に凍り付いたのだった。

 

 

★ ☆ ★ ☆

 

「へぇ〜、巴ちゃんもバンドやってるんだね」

「そうなんです。ここに居るひまりと、あっちに居る蘭とモカ、それとここの手伝いをしてるつぐみと一緒にやってます」

「……で、そのバンドでドラムを叩いてる巴ちゃんに憧れて、あこちゃんも始めたんだ……って言ってたよね?」

「はい!覚えててくれたんですねっ」

 

その後なんだかんだで、普通にお茶会が始まった。詳しく話を聞いてみれば、俺の事をそこまで深くは疑っていなかったらしく、どちらかと言えば――。

 

「――それでそれで、あこちゃんとはどういう関係なんですか!?」

「ホントにただのゲーム友達だって。それ以上でもそれ以下でもないってのに……。ね、あこちゃん?」

「うぇ!?あ、えっとぉ……、はい……」

「……ん、あこどうした、具合悪いのか?」

「う、ううん!大丈夫だよっ」

「ホントに大丈夫?あこちゃん」

「だ、大丈夫ですっ!お気になさらずっ!」

 

そう、そっちの方を疑っていたらしい。俺があこちゃんの男なんじゃないか、悪い男に引っ掛けられてしまったのではないかと、妹の為を思っての行動だったって説明を受けている。まぁ完全に許してはあげないけど、それでも妹思いのいいお姉さんだっていう認識にはなったかな。

 

途中からあこちゃんの様子がおかしくなっちゃったけど、なにかあったのかな。本人が大丈夫って言ってるから、大丈夫なんだろうけど。

 

「あ、そうだ!いい機会なので、これを」

「!これは……」

「はい、私達のライブのチケットです!」

「この日って予定空いてますか?今日のお詫びって訳じゃ無いですけど、是非来て欲しいです」

 

手渡されたのは白い無地の封筒、その中身は彼女達のバンド――Afterglowのライブのチケットが収められていた。

 

「いいの?今日知り合ったばかりの怪しい男に渡しちゃって……」

「もう怪しいなんて思ってませんよ」

 

赤毛の女の子――宇田川巴はそう言いながら笑みを浮かべる。

 

「あこちゃんも来れるー?」

「はい!予定はばっちり空いてます!」

「じゃああこちゃんにもプレゼントだよ〜!」

 

隣ではピンク髪の女の子――上原ひまりがあこちゃんに、俺と同じように白い封筒を手渡していた。その中にはやはり彼女達のライブのチケットが。

 

「楽しみにしてますねっ!」

「うん、期待しててね!」

 

なんか……、微笑ましいな…。

 

「吉崎先輩も予定が空いていればで大丈夫なので」

「泰三でいいよ、苗字で呼ばれるとむず痒く感じる。呼び捨てでもいいから」

「い、いえ!流石に先輩なので……」

「じゃ泰三先輩って呼んでよ。だから俺も、ってか既に呼んでるけど巴ちゃんって呼ばせてもらうから」

「は……、はい、分かりました」

 

内心ドキドキしながら会話を進める。一日の間にこんなに長い時間女の子と話したのなんて、小学校以来だぞ……。なんか変な事とか言ってないよな?大丈夫だよな……?

 

「あ、じゃあ私も泰三先輩って呼ばせてもらってもいいですかぁ?」

「うん、いいよ、ひまりちゃん」

 

ひまりちゃんは巴ちゃんと比べて、グイグイと自分のパーソナルスペースに連れていくタイプの人間らしい。正直奥手の俺にはこれぐらいに来てくれた方がやりやすいや。

 

「巴ちゃん、ひまりちゃん!終わったよ〜!」

「おっ、つぐ!お疲れさん」

「つぐ〜!今日もおつかれさま〜!」

 

そこに、今日のお仕事を終えてさっき接客をしてくれた羽沢つぐみちゃんが席へとやって来た。慌ててきたって感じが満載で、さっきエプロンの下に着ていた服のままだった。

 

「はははっ、つぐ。服着替える時間ぐらい待ってるから、着替えていいぞ?」

「ほらほら、私達の事は気にしないでいいからっ」

「う、うん……。すぐ着替えてくるね!」

 

そうしてとたたたと、これまた慌てた様子で店の中へと入っていった。

 

「仲、良いんだね」

「アタシ達5人は昔っからずっと付き合いがありましたからね」

 

そう語った巴ちゃんの顔はその事を心の底から嬉しく思っているのか、自然と口元が緩んでいた。

 

 

★ ☆ ★ ☆

 

 

さっきまで机の向こうにいた二人は、つぐみちゃんに連れられて何処かへと――バンド練習だって言ってたし、スタジオにでも行ったのだろう。少し離れた席にいた赤メッシュと灰色の髪の女の子も一緒に。

 

「何かに夢中になっている奴ってのは、やっぱ輝いて見えるもんだよなぁ……」

 

ポツリと口をついて出た言葉は、誰にも届くこと無く遥か彼方の空へと消え去る。

 

 

決意を決めた俺は、止まっていた足を再び動かし始める。

 

後少しで見えなくなってしまいそうな夕陽が、陰として俺を映してくれる。足取りは軽い。

 

 

行先なんて――

 

「オラァン!!ゲリラ固定大会じゃァ!」

 

『ウェェェェェイッッ!!!』

 

俺が生きる糧にしてるのは、これを置いて他にはないわけだし。

 

まー、そういう事だよね。




眠気に襲われながら必死に書きまちた。



誤字あればおしえちぇ


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ゲームをひっくり返せる単発格闘チャージ砲(ハイ・バースト)をガードされると相手(ライトニング)は軽く絶望する。

騎士ガンダム……、強化のリキャストもう少し長くしてくれん?


あれのメインバリバリウザすぎでクサイ。






 

 

――ここまでは良好な、実に良い試合展開だ。

 

敵低コストのライトニングなんたらを先落ちさせて残り耐久がミリの30横ムチオバケを、耐久にまだまだ余裕のある自分の高機動30全裸が追う展開。こちらの低コストであるインチキZアシスト呼出機は後ろでゲロビによる援護と、飛び上がる下格で卑怯に立ち回っている。

 

敵からすればどちらを狙うにせよリスクが伴う、加えてこちらの2機とも覚醒が半分溜まっていていつでも割ることが出来るのだ。ほぼ勝ち確ゲーと思われる。

 

しかし懸念すべきポイントもある。それはと言えば――。

 

 

「ハイ・バァァァァストォッ!!」

「来たぞ!避けろ艦長ッ!」

「あぁ〜^^イクイクイクゥ!!!E覚ぽきたしたぁ〜!」

「その着地、甘々ゾ?」

「ぎゃあああッ!無理無理カタツムリィ!」

 

油断していた相方に一出撃につき一回限りの超高火力ゲロビが見事にぶっ刺さり、それに気を取られた我が全裸もムチオバケの急接近からの格闘コンボを頂戴仕って、仲良く耐久を減らしてしまう。

 

「相方耐久14ッ!?うせやろ!?こんな局面で……」

「ここで覚醒していくゥ!」

「待って!助けて!待ってください!お願いします!ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

「相方君!?」

「じゃあ俺、ギャラ貰って帰るから……(覚醒終了)」

「お前よーやった!それでこそ男や!」

 

敵低コストの2回目の覚醒をモロに貰った相方に金色が死に際に殺人アシストで一矢報いるが、流れるように先落ち。こうなると今度は、耐久が黄色になっている自機が狙われる展開になってしまう。

 

「覚醒吐いてぶっ殺してくる!」

「おっけ、援護する!」

「順落ちはヤバい!」

 

対面の瀕死30ムチ野郎が決死の覚醒を使って攻め立てて来る。さすがに捌けないと判断してこちらも覚醒を割って逃げの体勢。せめて相方が戻ってくるまでは耐え忍ばなければ……!

 

「やべやべ……。さすがに危なッ!?おいそのムチ当たってねぇよ!!おい!?」

「はいありがとございましたー、約250ダメしっかり頂きまぁす!」

「はー!相方やるYOOOOO!!!」

「覚醒落ち……、こりゃ終わったなー……」

 

 

えー、はい。終わりました。

 

 

──────────────

 

 

「惜しかったですね……、さっきの対戦」

「いやー、あの局面の格チャ撃つ判断は流石としか言えないわ……。作戦負けだよ」

「艦長さんの巻き返しも凄かったんですけど……」

「いやぁ〜、申し訳ナス!ガード間に合わんかった!」

「いいよいいよ、次だよ」

 

結局、覚醒を失った全裸が狙われてあえなく敗北。今は空き待ちしていた後ろの面々と交代して、リプレイモニターでプチ反省会with我らのアイドルあこちゃん。

残念そうな顔をしたり、ぴょんぴょん飛び跳ねたり、手をわちゃわちゃさせたりして、いろいろとさっきの試合の感想を言ってくれるあこちゃんは、どうしても天使に見えてしまう……。これは仕方の無いことだ。

――あこちゃん自身は大魔王を自称しているみたいだし、PNにもその片鱗が溢れ出ているが。

 

まぁそれはそれとして可愛い(真理)。

 

「あっ!台空きましたよ!たいぞーさんあことやりましょ!」

「うん、いいよー。こんな格チャでワンチャン作られる相方は解雇じゃ解雇!」

「オォン!?聞き捨てならねぇなァ?」

「け、ケンカはやめてくださぁ〜いっ!」

「大丈夫あこちゃん、ジョークだよ。じゃ、また後で頼むわ」

「おうよ、こちらこそだぜ」

 

さっきの相方である艦長と一芸やり合った所で、今度はあこちゃんとの固定試合。あこちゃんは美しい白い翼を持った30機体を、それを見てから俺は全部乗せの境地である25機体を選択。このままオンラインの渦の中へと繰り出していく。

 

ちなみになぜあこちゃんにその機体を選んだのか聞いてみたところ、「翼が天使みたいでカッコイイじゃないですかっ!」とのこと。

 

おまかわ定期。

 

 

マッチングした相手の機体は最近のアップデートで修正の入った黒塗りの武闘格闘機と、これまた最近のアップデートで追加された新機体の中世の騎士風の機体。詰まるところ、相手のコンセプトは両前衛だ。相手のペースに乗せられてしまわないように落ち着いてプレイしなければ……。

 

「疑似タイの状況だけは避けよう!」

「わっかりました!あこが高コス中心に見ますね!」

「了解っ、じゃあこっちは騎士中心に見るけど要所要所でダブロしよう」

「了解ですっ!」

 

 

そうして、満足してホームのゲーセンを離脱出来たのは、時計の単身が6の文字を指し示そうとする頃になってしまった。

 

 

──────────────

 

 

「今日も固定、ありがとうございましたっ!」

「ううん、こちらこそ。頼りになったよ〜」

「ホントですかっ!?」

「うん、ホントホント。今日の艦長よりも良かったよー」

 

ゲーセンの集いも終わり、夜道をあこちゃん一人で帰らせるような事はしない俺は、責任を持って家まで送り届ける任務を遂行している。報酬はあこちゃんとの会話を楽しむ権利、ありがとうございます……!

 

「ただ、あこちゃんは低コスト乗ってる時敵を追いすぎる癖があるから、そこはやっぱり直した方が良いね。高コスの方からしてみれば、安心して前張れないからね」

「あぅ……。わ、わかりましたっ!頑張ってみます!」

「うんうん、その意気だよ」

 

こうやってアドバイスをしてあげると次固定する時にはだいたい直ってる事が多いから、どんどんあこちゃんも上手くなっていってるのがよく分かる。やっぱりあこちゃんには何かしらのセンスがあるのかもしれないなぁ……、単に迷惑掛けたくないって思ってるだけかもしれないけど。

 

「あ、それで話は変わるんですけど……」

「うん、どうしたの?」

 

妙に改まった雰囲気のあこちゃんに、自然と俺の表情も強ばってしまう。それと同時にどのような話題がの飛んでくるのか、少し気になる気持ちもあるけど。

 

「ら、ライブの日程が決まりましたっ!」

 

おおっ、ついにか……!

やっとあこちゃんのドラム捌きが、また見れる日が来るとは!

 

「だ、だから……、えっと、見に来てくれませんか……?」

 

心配そうな、不安そうな顔でお願いをしてくるあこちゃん。そんな顔しなくたって絶対いくって!

 

「大丈夫だよ、何があっても予定合わせて行くから。だから最後まで練習に気を抜いちゃダメだよ?」

「……っ!う、うんっ、あこ頑張る!」

「よしよし、頑張れ頑張れ」

 

わしわしとあこちゃんの頭を片手で撫でる。女の子特有のサラサラとした毛ざわりがなんとも……。おっと、やり過ぎるのもあこちゃんに「子供じゃないですっ!」って感じに怒られかねないからな。

 

「はい、おしまい」

「あっ……」

 

そう思って頭の上から手をどけると、あこちゃんは残念そうな顔を浮かべる。また今度、それもライブが終わったらね。彼女にそう伝えてあげると、もっともっと頑張ると言って、笑顔を見せてくれる。あー、ほんと可愛い、なんかまるで心が浄化されるような感覚になれる……!

 

「お〜い!あこー!」

「あっ、おねーちゃんっ!」

 

そろそろ家に到着しそうという所で、あこちゃんのお姉さんである巴さんが出迎えとして前から歩いて来ていた。

 

「泰三さん、今日もあこをありがとうございます」

「いやいや、こっちも色々助かってるから」

 

軽く挨拶をしてから言葉を交わして、後は巴さんが大丈夫だと言うからここでお別れという訳だが。

 

「たいぞーさん!またねーっ!」

「うん、またね」

 

 

やっぱり、どうも名残惜しく感じている俺がいる事は、自分でも感じている。

 

 

 

――いや、それってさ。ただ単にチンパンプレイが楽しすぎるだけじゃね?




やっとの事で少尉5に上がったけど、そっからがキツすぎてやばい……。


少尉と中尉の壁の厚さが半端じゃないわ……


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