東方新記伝 : リメイク版 (黒鉄球)
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第一話 少年の幻想入り

この作品には以下の要素が含まれます

・拙い文章
・中二病全開
・キャラ崩壊
・作者の妄想

それでもいいよという方はゆっくりして言ってください。


さぁ語ろう、人に絶望した物語を

さぁ語ろう、人を信用した物語を

 

ただの人と人ならざる何かと共に生きてきた者の幻想譚を

 

 

 

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日本某所にある山。木々が生い茂り、風が吹くと葉が鳴く。鼻腔をくすぐり、森特有の自然の匂いが通る。そんな場所に黒髪の少年は足を運んでいた。理由は単純でただの家出だ。目の届かないところへ行こうと決めた。ただそれだけだった。

 

「さすが夏だな……登山にはもってこいかもしれんが日が強すぎる」

 

愚痴をこぼしながら山を登って行く。しかし不思議なことに彼は汗をかいていなかった(・・・・・・・・・・)。夏に登山など汗が大量に出るはずだが一切かいてなった。

 

なぜ彼は登山などしているのかというと家出の門出にガラにもなく神様にでも旅の成功を祈っておこうと思って山中にある神社を目指していた。神様は信じていない彼だがこういう時は姑息にも頼ってやろうとテキトーに思っただけなのだ。それとわざわざ山中にいる理由は辺境の地の方が願いを叶えてくれる気がするという理由だ。

 

「山登ってると昔を思い出すなぁ。あの時は左腕吹っ飛ばしたっけ?」

 

そう言いながら自分の左腕に触れる(・・・・・・・・・)。まるで何ともないように触れた。しかし表情は誰かを懐かしむように、そしてどこか悲しそうな顔をしていた。

 

「……行こうか。とっととお参りして何処かに飛ばないと」

 

この後から彼は一言も口を開かなかった。そしてようやく神社に辿り着いた。鳥居をくぐり、明らかにボロボロな賽銭箱の前に立った。目的の場所に立ったが彼の顔はしかめっ面だった。まるで何かを疑うような表情をしていた。何処か違和感があるような場所だと察知していた。

 

「………不自然な雰囲気だな。なんでこんな場所に……!」

 

そう呟いた瞬間目の前が真っ白になった。とっさに目を瞑り、目をガードした。

 

 

 

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目を開けると目の前には賽銭箱が見えた。かなり古く見えるがすぐに直感した。さっきのとは違う(・・・・・・・・)、と。

 

「………賽銭箱さっきより綺麗になってね?」

 

黒髪の少年----俺は目を剥いた。明らかに違う賽銭箱に驚きを隠せなかった。またどこかに飛ばされたのか(・・・・・・・・・・・・・)。そう思いながら辺りを見渡してみた。どう見てもさっきよりも木は少なく、木々の匂いはしない。明らかに開けていて手入れもされている神社の境内にいた。ふむ……出川よ、こういう時はどうすればいいんだ?リアルガチでやばい、とでも言えばいいかな?

 

「………まぁ家出だしどこに行こうとも構わないか」

 

そう言いながらポケットにある財布から500円玉を出して賽銭箱に放り投げた。中身にお金が無いからだろう。トンッと小銭が木にあたる音が鳴った……と同時にドタドタと走ってる音が聞こえてきた。そして賽銭箱の更に向こう側にある戸が勢いよく開いた。え、今の音聞こえたの?マジ?

 

「お賽銭入れたの誰!いくら入れたの!」

 

………なんだか騒がしい女の子が思いっきり息を切らして出てきた。赤と白が特徴的な服。腕の袖は見る限りじゃ服と離れてる。そしてなぜかスカート。変わった巫女服を着ていた。というか巫女なのかこいつ?他にも疑問はあったがそんなものは些細なことだ。賽銭箱を死に物狂いで漁る姿に比べれば、大した問題じゃないな。目血走りすぎだろ。

 

「500円も入ってる!?やったぁぁぁぁ!これで1週間は生きていける!」

 

500円に猛烈に感動する巫女を前に俺はどんな顔をしていただろうか。多分顔が引きつってるだろう。てかどうやって1週間生き延びるつもりだよ。うまい棒生活でもする気かこいつ。

 

「ありがとう!あんたのおかげまで私は生きていける!さぁ、ここでたくさんお参りしていきなさい!どんな神様が祀られてるのか知らないけどきっと願いを聞き届けてくれるわ!」

 

「おい待て、なんでお前自分の神社に祀られてる神様知らないんだよバチ当たるぞ?」

 

思わずツッコミを入れてしまった。だってしょうがないじゃん。なんの神かわからんのに祈れっておかしいじゃん。

 

「大丈夫よ。バチ当たったことないし」

 

「あぁ、そう」

 

「そういえばあんた誰?」

 

「え、あぁ。俺は神条皐月(かみじょうさつき)だ」

 

突然聞かれたから素直に答えちゃったじゃねぇか。てか真顔で聞くな、怖い。

 

「皐月ね。私は博麗霊夢(はくれいれいむ)。ここで巫女をしてるわ」

 

あ、やっぱり巫女さんなのね。めっちゃ腋でてるけど巫女なのね。ものすごい違和感あるんだけど。

 

「なぁ博麗、ここどこよ。俺さっきまでここよりも古い神社の前にいたんだけど」

 

「………それ本当?」

 

俺の質問にかなり神妙な顔立ちをする博麗。どうしたんだろうか。いや、俺もおかしいとは思ってるから一緒に考察してくれるのだろうか。ありがたし。

 

「あぁ、間違いない。俺は確かにかなり古い感じの神社の前にいた。それが突然目の前が真っ白になって気がついたらここにな」

 

こんなことを言っているが実はなんとなく理解している。アニメや漫画であるような『過去へのタイムスリップ』だろう。擬似感あるもん。

 

「待って、もう何が起きたのかわかったから」

 

え、マジで?君過去の人間だよね?タイムスリップなんて無いよね?まさかここ未来?未来の巫女のスタイルなら腋出しあるかもな。

 

「アンタ、幻想入りしたのよ」

 

………ゲンソウイリ?予想の斜め上どころか全く想像してなかった言葉が出てきたぞ。

 

「顔に出てるわよ。いいわ、教えてあげる」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

どうやらここは『幻想郷』と呼ばれる『忘れられたものたちの終着点』らしい。殆どは死にたがってる人間、忘れられた人間、物がゲンソウイリ?ってのをするらしいのだが……。

 

「そうなると俺かなり特殊なんじゃないか?光に包まれていつのまにかって感じだし」

 

「もしかしたらアンタ、結界の歪みに巻き込まれたんじゃない?」

 

「結界の歪み?幻想郷ってのは結界に囲まれてんのか?」

 

「ええ。幻想郷は"博麗大結界"っていう強力な結界に囲まれてて、外の世界からは認知できないようになってるのよ」

 

腕を組みながら説明をする博麗。その姿はさながら委員長のようだ。俺学校まともに行ってないけど。

 

「つまりあれか。その博麗大結界が何らかの原因で歪められて、それが修正された時に偶然俺がそこにいて巻き込まれた、と」

 

「そういうことよ」

 

成る程。どうやら博麗大結界というのはいわば箱庭。空間が歪めば勝手に修正されて元に戻る構造らしい。空間が歪む理由は様々らしい。例えばそこに古い木があってそれを幻想郷に招くためだったり、本当に忘れられた人が結界の近くで「消えたい」願った場合に歪むらしい。

 

「で、俺が巻き込まれた理由は?」

 

「結界は定期的に綻びを見せるのよ。大抵は自動修正されるんだけど」

 

ここまで言われれば流石にわかる。その自動修正とやらに飲まれたらしい。なんて傍迷惑な!と言いたいところだが俺としては都合がいい(・・・・・)。でも一応聞いておこう。

 

「出られる方法は?」

 

そう、出られる方法である。俺のように訳ありな人間が巻き込まれたのならそんなことは聞かないがただ巻き込まれた人にとっては大迷惑である。帰りたいとせがむ筈だ。そのための措置はあるのか一応確認しておきたかったのだ。

 

「簡単よ。私の霊力をそこの鳥居に流し込んで結界に穴をあける。そしてそこへ飛び込んだら外の世界よ」

 

あっけらかんとあたかも当たり前ですけど?みたいな顔をしながら言われた。そりゃまぁ博麗大結界って言うくらいだし博麗が何とかするとは思ってたけど一つの空間を閉じ込めるほどの結界を維持するのに一体どれだけの力が必要になるのかこいつわかってんのかねぇ。

 

「で、それを聞いたってことは帰りたいのかしら?」

 

核心をつくことを言ってきた。確かに変える方法を聞いたらこう帰ってくるよな。でも俺にとってはこっちの方が都合がいい。となると、答えは決まってる。

 

「いや、俺は帰らない。むしろこの世界に興味が湧いたから残りたいね」

 

「………へぇ。あんた、結構肝が座ってるのね」

 

かなり意外そうな目で見られた。でも外の世界じゃ俺は厄介者だし、未練もない。むしろトラウマ植え付けられてるからね。それに………ここにいればあんな思いしなくて済みそうだしな」

 

「何か言ったかしら?」

 

おっと、声に出ていたらしい。まぁでも聞こえてないならいいや。この世界なら俺のことを知ってる奴はいない。結界や霊力が存在するのなら俺が目立つこともないだろう。まさにうってつけの地だ。素晴らしいの一言に尽きる。

 

「何でもねぇよ博麗」

 

「霊夢でいいわよ。博麗って呼ばれ慣れてないしあんまり好きじゃないの」

 

「わかった、じゃあよろしくな霊夢」

 

「ええ、よろしく皐月」

 

俺はこの地で新たな人生を歩むのだ。あの事件から頑張ったんだ。だから、見ててくれよ黒山さん。俺、この地で頑張るから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼が歪みに巻き込まれた子ね。それじゃ『賢者』として会わないとね」

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?リメイク版は。少し話を削ったり増やしたりしていて前作とはだいぶ変わってるかもしれませんがご了承ください。では、次回お会いいたしましょう


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第二話 全てを受け入れる幻想郷は怖い

レポートあって進まないなーと思った矢先にインフルエンザにかかりました。更にテスト日というクソ事態。運命様は俺のこと嫌いなのですか?

天空の覇者さん、クロス・スカーレットさん、バクテストさん、fiaeheizaiさん、よしぺーさん、白兎。さん、黒ノ姫さん、伊那神さん。お気に入り登録ありがとうございます。


「こんにゃろー!何であたらねぇんだ!」

 

光の玉を大量に浴びせてくる金髪魔女っ子。

 

「アホか!これでも精一杯逃げてんだ!まずそこ褒めろ……よ!」

 

いきなり戦いを挑まれたポケモントレーナー気分の俺。

 

「反撃してるじゃねぇか!」

 

「………ねぇ。何であいつあんなに動けてんのよ。本当に一般人なのかしら?」

 

「どう考えても違うわね」

 

我関せずな腋巫女と扇子で口元を隠してる金髪美女。

 

「分析してないで助けてくれませんかね!?」

 

元はと言えばお前らが余計なこと言わなけりゃこうなってねぇんだよ!

 

 

 

 

 

 

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一通り幻想郷の事を聞いた俺はここに残り続けることを決めた。ここから俺の新たな生活が始まるぜヒャッハーとなっていたのだがすぐに問題に激突した。

 

「あんた寝床どうするの?」

 

そう、俺の住居である。ここにお部屋探しマストがあれば苦労はないんだろうけどそんなものはないという。さて、どうしたものか。この際今日は野宿でもいいんだよなぁ。一応提案してみた。

 

「やめた方がいいわよ。ここには人を喰う妖怪だっているし中には盗賊に成り下がった人もいるから殺されちゃうわよ?」

 

成る程それは面倒臭いな。気配消せば何とかなるかな。

 

「それにあんたやけに霊力(・・)が高いんだから余計ちょっかいかけられるわよ」

 

「………なんて?」

 

ものすごく変な声が出た。今霊夢は『霊力』つったのか?え、嘘でしょ?俺そんなの知らない………わけではないけど。どうしよう、俺のこれ(・・)については語りたくないんだよな。いかん、トラウマが。

 

「だから霊力よ。結界のことをなにも不思議がらなかったじゃない。だから知ってるもんかと思ってたけど?」

 

迂闊すぎるだろ俺。普通は結界だなんだってのは一般人には縁遠いただの絵空事のような力だ。愚かすぎて泣けるぞ……。適当に誤魔化すしかないな。

 

「俺の世界じゃ霊媒師ってのがいてだな。いや、俺は信じてないんだけど神殿を築くだとか結界を張って悪霊をどうとかってのがテレビでやってんだ。まぁただ何となくで「へーそりゃすごいや」くらいに思ってただけだ」

 

めちゃくちゃ早口で弁明した。やばいちょっとやばいかなりやばい。完全に嘘下手くそな人だよこれじゃ。霊夢の反応はどうだろうかと見ているとすぐさまジト目になった。

 

「……男って嘘をついたり、やましい事があると早口になるって紫から聞いたんだけど本当みたいね」

 

バレテーラ……。ちくしょう紫とか言う人許さん。いつか会ったら弱み握っていじり倒してやる。黒い感情はさておき、どうしたものか。俺のことを伏せつつ言うか。くそ、面倒な。

 

「………俺の知り合いが使えるんだよ。俺は霊力が多いだけのただの木偶の坊だよ」

 

嘘は言ってない。知り合いが使えるって点は嘘じゃないからな。

 

「それは興味深いですわね」

 

途端に寒気がした。後ろから声が聞こえてきたからである。気配を察知させず、突然現れた声。……女性か。さて、その顔拝もうか!

 

「はぁ……また来た」

 

「そんなこと言わないで笑顔でいなさい。貴女可愛いんだから」

 

「あーはいはい」

 

適当に流された人は上半身だけを外に出し、下半身を目玉だらけの空間に入れてる。……え、誰?なにその目玉?怖いんだけどめっちゃ怖いんだけど。っていうかなんだこの妖力……妖怪の主レベルじゃねぇか。

 

「あのぉ……霊夢さんや?この人誰です?」

 

「なにその爺さんみたいな聞き方。さっき言った紫よ」

 

「どうも〜♪」

 

ジト目のまま面倒臭そうな顔をしている霊夢とは反対に笑顔で手を振っているこいつが……紫。こいつが…………霊夢に余計なことを言ったやつか。やめよう、こいつにちょっかいかけるの。殺されるわ。

 

「ねぇ、なんでこの人引いてるの?」

 

「あんたみたいなのが来たらビビるわよ。霊力持ってるってことは紫の妖力くらい感知できるでしょ」

 

的を得ているとしか言えない。実際少しビビってる。なににビビってるってこんな妖力を持ったやついじり倒そうとした俺にビビってる。バカジャネーノ。

 

「そんな引かなくていいわよ。私は八雲紫よ。この子の親代わりで幻想郷の管理者なの」

 

「賢者って呼ばれてるわ。っていうかあんた親じゃないでしょ。妖怪だし。しかも親代わりって自称でしょ」

 

自己紹介の言葉に続いて『賢者』という言葉を使った霊夢。っていうか自称なのかよ。

 

「……神条皐月だ。今日から幻想郷で世話になる。よろしく」

 

「ええ、よろしくね」

 

今日ここで、初めて妖怪を見た。俺はここで固く誓った。余計なことするのやめよう、と。

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

場所は変わって博麗神社の中。とりあえず上がっていきなさいとの事でお邪魔させてもらった。そして八雲から幻想郷のことを色々教えてもらった。システムについてと彼女が博麗大結界の維持をし、幻想郷の創設者であることを。

 

「大方分かったよ。殺し合いを廃止して『弾幕ごっこ』ってのに変わったこととか知らなかったからな」

 

俺は霊夢の出してくれたお茶を啜った。美味いなこの茶。日本人の血筋素晴らしい。

 

「でも貴方は使えないのでしょう?さっき言ってたものね。『霊力が大きいだけの木偶の坊』って」

 

部屋に上がる際全身を出して俺と向かい合う形で座った八雲が言った。なんだか導師のような服着てるし、八卦描かれてるから陰陽師かと思った。妖力持ってんだから妖怪だっつーの。

 

「その光の玉?の出し方知らんしな。でもあれだろ?普及して間もないんだから殺し合いとかザラにあるんだろ?」

 

「残念なことにね。知的指数が高い妖怪は従ってくれてるんだけど本能の赴くままに動く妖怪もいるから」

 

「その度に私が退治しに行かなきゃいけないんだからやってらんないわよ」

 

頬杖をついて愚痴る霊夢。妖怪が暴れるたびに退治しなきゃならないらしい。どうやらこいつは妖怪を退治してその対価として食料を貰ってギリギリの生活を送ってるというのだ。道理で500円に対して感激の目をしてたわけだ。それなんてブラック企業?

 

「そのおかげで貴女餓死してないんだから文句言わない。というか貴女、神社でダラダラしてるだけじゃない」

 

「うっ……」

 

痛いところを突かれたのだろう。表情が変わった。なんだ、自業自得じゃないか。こいつなに自分のせいじゃないですオーラ出してんだ。おい、こっち向け。

 

「魔理沙がやってるんだからいいでしよ!私はお茶とお茶受けがあれば生きていけるのよ!それに山菜もある!こうしてやっていけてるんだからお願いだからそんな可哀想なものを見るような目で見ないで!」

 

半泣きしながら抗議してくる霊夢を本当に可哀想な目でみてる八雲。いや、どう考えても霊夢が悪い。

 

「だって貴女あんまり外に出ないじゃない。そういうの『にーと』っていうのよ」

 

それは語弊があるが大方あってる。働かずに引きこもってるやつをニートというがこいつは多少は働いている。頻度は少ないっぽいけど。

 

「……誰か異変起こせ」

 

「おい、不穏なこと言うな」

 

異変というのは幻想郷で起きた事件のことを指すらしい(八雲談)。とんでもなくとんでもないことをほざきやがったこのやろう。実はこいつを退治したほうがいいんじゃないか?

 

「お前異変を解決する側の人間だろうが……」

 

「異変を起こすのは妖怪の専売特許じゃないわ。誰でも起こすし、誰もがそれを止め「おーい霊夢!遊びに来てやったぜー!」………面倒くさいのが来たわね」

 

ため息をつきながら縁側へ向かう霊夢。面倒くさいと言っておきながら向かうのだから実は真面目で優しいのではないかと錯覚する。金にがめついしワガママだけど。あれ?今ので良いところ帳消ししたぞ。

 

「あんた昨日もきたじゃない。なにしにきたわけ?」

 

「だから遊びに来てやったんだって。今日は絶対ここに来なきゃって私の勘が囁いたんだ」

 

「それ私のセリフ」

 

顔だけ襖から顔を出して様子を見ると黒い大きな帽子が見えた。片手に箒、白と黒を基調とした服、そして金髪。見てくれだけだと所謂『魔法使い』のようだ。俺に気付いたのだろう、目を見開いた。

 

「霊夢、そいつなんだ?私の知らない間に男でも作ったのか?」

 

「ばっか違うわよ。外来人よ。今日ここで拾ったの」

 

おい待て誰が捨て犬か。

 

「お前外来人か!私は霧雨魔理沙だ、ヨロシクな!」

 

「元気いいなお前……。神条皐月だ、幻想入りしてこのまま移住する気なんでよろしくな霧雨」

 

「魔理沙でいいよ。霧雨って言われるの慣れてないし」

 

当たり障りのない挨拶で終わらせる。霧雨改め魔理沙は笑顔で返して来た。多分こいつは裏表のない性格なのだろう。元気100倍ア○パ○マ○なのだろう、というのが第一印象。静の霊夢、剛の魔理沙と言ったところか。どこの北斗兄弟だお前ら。

 

「魔理沙、丁度いいわ。皐月の相手しなさい。かなり多くの霊力を有してるわよ」

 

八雲がひょっこり顔を出して余計なことを言った。

 

「待てや、俺は霊力だけで弾幕撃てないって言っただろ。だからそんな目を輝かせんな魔理沙。俺は戦えない」

 

「なら教えてやるよ!あ、大丈夫加減するから!」

 

 

そういう問題ではない。と言ってもこいつは聞かないな。こいつ我を是が非でも通すタイプか。確かに少し面倒くさい、ほら霊夢。なんか言ってやれ。お前は俺の味方だもんな!

 

「いいじゃない、やってみなさいよ。あんただってこのままじゃ妖怪に食われて終わるだけよ?」

 

えぇ………魔理沙に味方すんのかよ

 

「弾幕は威力だぜ!」

 

おっとものすごくやばい言葉が聞こえたぞ?

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

ということがあった。あの後適当にやったら光の玉が出て来て、この状況。流石にヤバイ。なにがヤバイって「加減する」とか言っておきながらかなりの量の弾幕を展開してるのがヤバイ。生身の状態でここまで逃げきれてるんだから褒めて欲しい。

 

「お前実は戦い慣れてるんじゃないか?!」

 

「んなわけあるか!こんな状況初めてだわ!つーか加減はどこいった!?」

 

「お前が予想以上に逃げるからいらねぇなって判断したんだよ!」

 

弾幕を打つ手を止めない魔理沙に対して全力で走り回ってる俺。ふざけんなそんな理由で殺されかけてたまるか!あ、死なないんだっけ。これ遊びなんだっけ。にしてもやりすぎだろ。

 

「皐月!走りながらでいいから聞きなさい!」

 

「無理あるけど何だ?!」

 

「変化球投げなさい!外の世界での『やきゅう』を連想しなさい!そしたら一矢報いることが出来るわよ」

 

「八雲お前馬鹿じゃねぇの!?今の状況で出来るわけねぇだろ!」

 

全力疾走でなんとか避けてるのに変化球なんて投げる余裕ねぇよ?無理難題すぎるだろ。一発でも当たったら俺のことがバレる。それだけはなんとか避けたい。あと野球なんてよく知ってるなお前!

 

「それともう一つ!」

 

「なんぞな?!」

 

なんだ?また余計なこと言うのか?俺には無理だあきらめろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のことは紫でいいわよー!」

 

「今言うことじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空気を読め!呼ぶけど!お前がそれでいいならな!でも!タイミングが!!おかしい!!!

 

「逃げんな!!」

 

怒号が飛んできた。いや、待って無理死んじゃう勘弁してください。

 

「当たったら痛いだろう……が!」

 

右手で生成した弾幕(10個)を同時に投げた。ただ……大暴投してるけど。

 

「どこ投げてんだ?これで終わらせてやるぜ!《恋符 : マスタースパーク》!」

 

魔理沙は箒の上から物体を取り出した。目に見えるレベルで力が収束していくのが分かる。間違いなく……。

 

「魔理沙のバカ!スペルカードなんて撃ったらここ荒れるでしょうが!」

 

「え?そこ?」

 

「霊夢、そこじゃないわよ。このままじゃ皐月が跡形もなくなるわ」

 

「そこ!冷静に分析すんな!そう思うんならあいつを止めろよ!」

 

「くらえ!」

 

どうやら充填が済んだようだ。あーあ、このまま当たったら死ぬのだろうか。いつぞやか死のうとした時のことを思い出す。まぁ挫折したけど。これが走馬灯か。だが………。

 

「食らうわけねぇだろ!お前がくらえ!」

 

俺は右腕を横に払った。手元には何もないが。しかし弾幕はある(・・・・・)。10個の光の玉はものすごい速度で魔理沙の腕に命中した。

 

「ぐっ……!」

 

魔理沙の腕が逸れ、七色の光線が放たれた。俺の約2メートル左に。地面を抉って。もう一度言うぞ。地面を抉った。

 

「お前なんてもん撃ったんだ!死ぬ!普通に考えて今の当たったら俺死んでるから!」

 

「お前だってなんて事するんだ!弾幕の威力じゃねぇぞ今の!明らかに本気でやっただろ!」

 

「威力高めないと今の光線当たってただろうが!ナイスプレイだと褒めて欲しいレベルだわ!」

 

ギャーギャーと喚く俺と魔理沙。今のは完全に速度重視で撃ったけど威力が思いの外高かったらしい。でも可愛いものだろ。お前のアレに比べれば。

 

「はいはい喧嘩しない。今回はあなたの負けよ魔理沙。それに皐月、あなたもよくやったわね」

 

仲裁に紫が入ってきた。た、助かった……。

 

「紫が変化球投げろって言ったんだろ。だから暴投して死角から撃つ方法を思いついただけだ」

 

「それでもよ。寧ろあの土壇場でよくやったと思うわ。スジがいいのかしらね?」

 

ここまで褒められると少しむず痒い。スジがいい、か。

 

「どうしたんだぜ?そんな顔して」

 

いつのまにか下に降りてきていた魔理沙がとても不思議そうな顔をした。理由は分かってる。分かってるが多分言っても彼女らにはわかるまい。

 

「誰かに褒められるなんてなかったからつい、な」

 

「どういうことかしら?」

 

やはり分からないだろう。俺と彼女らはあってまだ間もない。俺の過去を知らない以上意味はわからないだろう。俺はなんでもねぇよ、と言って次の言葉を発した。

 

「それより魔理沙、お前あの威力やばいでしょ。なにをどうやったらあの威力になるわけ?」

 

「え、言ったろ?弾幕は威力だって」

 

キョトンとして「当たり前だろ?」みたいな顔をしてきた。いや俺初心者なの忘れてないこいつ?鬼畜の所業なんだけど。

 

「俺初心者だぞ?戦いの「た」の字も知らない弱者に対して撃っていい威力じゃないよ?」

 

「いや、アンタの動きどう考えても慣れてる動きなんだけど」

 

「無我夢中だっただけだ!あんなミラクル起こせるか!」

 

冷静にツッコミを入れる霊夢に対して更にツッコミを乗せた。普通無理だろあんなの躱すの!

 

「でもそのおかげで身を持ってわかったでしょ?幻想郷がどういう場所なのか」

 

「まぁ、そうだが……それにしたって酷くありませんかね?」

 

とてつもなくひどいと思う。紫さんだから扇子仰いでないでちゃんと話ししてください。

 

「……幻想郷は全てを受け入れるわ。でも、それはとても残酷なこと。否定をしないってことですもの」

 

「たしかに残酷だな。俺の未来が」

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷は全てを受け入れる。それ即ち善人も悪人も弱者も強者も全てを赦すということ。否定も肯定もせず、ただそれを受け止める。故に、弾幕ごっこなんていう抑止力が生まれたのだろう。世紀末のような世界にならないように。楽園と、なるように。故に俺はこんな言葉を発した。

 

 

 

 

 

「幻想郷怖いわ」

 

 

 

 

 

 




評価、感想等よろしくお願いいたします


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第三話 枕は高くして寝たい

部活動忙しすぎてちまちま書いてました黒鉄球です!

萃蓮さん、squeeさん、しろしろさん、MiyaMonさん、神様2001さん、ヒロケンさん、伊那神さん、お気に入り登録ありがとうございます!

₣$さん、お気に入り登録&評価ありがとうございます!


魔理沙との弾幕勝負が終わった頃、俺はあることを思い出した。

 

「そういえば寝床どうしよう」

 

紫と魔理沙の登場により、有耶無耶になった寝床探しである。霊夢の話じゃ妖怪が蔓延ってるから野宿はオススメしないと言っていた。もちろん自ら妖怪の食料になりたい奴は別だが。

 

出来れば某Fクラスのような家はお断りしたいが幻想郷の建築物は基本木造建築らしい。紫曰く、「あなたのところでいう江戸から明治にかけてかしらね」だそうだ。200年以上前なのかよと舌を巻いたがまぁこの際暮らせればいいんじゃね?とか思ってきた。

 

「あれ、塩ないのか。それじゃあ……って胡椒もないし。どうなってんだこの家」

 

そんな中俺は博麗神社でお料理中である。理由は腹が減ったからというのもあるが幻想郷と弾幕勝負のことを教えてくれたお礼、というのが名目。霊夢からは泣いて喜ばれた。だが調味料不足が過ぎる。どうしたものか……適当な野菜炒めとスープでも作るか。

 

 

 

 

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「え、なにこれすごい豪華なんだけど」

 

「いやただの野菜炒めとスープとご飯なんだけど」

 

俺の作った料理に目を輝かせる霊夢に呆れてツッコミしてしまった。コンソメや塩胡椒がなかったため味付けは醤油ベースで適当に作って、野菜炒めは書いた字の如く炒めただけ。あと申し訳程度の山菜のおひたし。紫の言う通り備蓄品少なすぎて焦ったけど異様に山菜が多かったところをみるとこいつ地味に採取してやがった。ナイスです。

 

「いや本当に美味そうだぜ!きのこが入ってないのが残念だがな」

 

「博麗家でこんな豪華なご飯が出てくる日が来るなんて。異変でも起きるのかしら」

 

しみじみとした雰囲気が紫から漂ってきた。どうやら霊夢は本当にかつかつの生活を送ってるようだ。自業自得とはいえちょっと同情した。あと魔理沙、お前の基準はキノコの有無なのか。

 

「そんなことはどうでもいいわ!早く食べましょう!」

 

どうやらもう待てないらしい霊夢犬はよだれがダラダラである。誰も取らないから普通に待てばいいのに。

 

 

 

 

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ご飯を食べながら紫に調味料のことを聞いた。どうやらこの幻想郷には地球の7割ほどを占める海がないという。だから必然的に塩はないという話だった。それにコンソメや胡椒もまだ普及していないらしい。ただ、紫がまれに外の世界のものをこちらに輸入してくるというが霊夢はそれを目当てにしすぎて輸入を止めたらしい。バカだろ霊夢。

 

「仕方ないじゃない……。紫が美味しいもの持ってきてくれるの割と楽しみにしてたんだもん」

 

俺の横で食器を拭く(・・・・・・・・・)霊夢がつぶやいた。所変わってまた台所。食べ終わったものを片付けるのもまた俺の仕事。という事にしたが霊夢が流石に悪いと言ってきたので食器拭きをお願いした。

 

「だからって自分で飯を作らない理由にはならないだろ。カップ麺ばっか食ってたんだろ?」

 

「たった3分で出来るなんて凄いわよね!」

 

こいつは備蓄品(野菜)をカップ麺のせいで腐らせたりしたらしい。こいつの反応見ればわかる。普通にアホだ。生活費をゲーム代に捧げてソルトウォーターと幸せな白い粉(砂糖)で生活してるバカと同レベル。同情で涙が出そうだ。

 

「栄養偏るしお前一人暮らしなんだから料理しろよ、あと仕事しろ」

 

「あ、じゃああんたここに住む?」

 

………what?いまこの子なんて言った?耳がおじいちゃんになっちゃったのかな?もう一度聞こうか。

 

「だから、あんたここに住むかって。私としては食を確保できるしあんたは住を確保できる。お互いに利点はあるわ」

 

聞き間違いじゃなかった。でも霊夢の提案は割と魅力的だ。家探しに苦労するのは目に見えてるしここは隙間風もないし優良物件とも言えるかもしれない。だが一つ問題がある。

 

「俺は願ったりだが男と一つ屋根の下で暮らすのに抵抗ないわけ?」

 

霊夢くらいの年頃になるとそういうのを思いっきり気にしだす。父親の服と一緒に洗濯したくないだとか父親うざいとかいいだす。なにそれ父親不憫すぎる。

 

「別にいいわよ。私の勘が言ってるもの。あんたは信用できるって」

 

「いやそんな不明瞭なもんでいいんか?」

 

「私がいいって言ったんだからいいのよ!で、どうすんの?」

 

ふむ……俺は気にしないしこいつも良いと言ってるから問題は解消された。確かにお互いに利点はあるから前向きに検討しても良いのではないかと思う。美少女と一つ屋根の下ってのが不安だがまぁ俺だし問題ないな。それに俺の蓑隠れには霊夢のそばの方が都合がいい。

 

「それじゃあ世話になろうかな」

 

「やったー!これで食のバラエティが増えたってもんよ!」

 

せめてそういうのは俺に聞こえない声で言って欲しいが霊夢の満面の笑顔を見るとそんなことは気にしなくなってきた。だいぶ甘くなったな俺。

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

 

「じゃあ私は帰るぜ。霊夢、皐月、ごっそさん」

 

黒いとんがり帽子を右手で抑え、左手に箒を持った魔理沙が言った。どうやら俺が霊夢と話をしてる間に準備をしていたようだ。なぜかニヤニヤしているのか気になる。

 

「お粗末様。って作ったの皐月だけど」

 

「食材は霊夢提供だからかまわんだろ」

 

「お?早速夫婦漫才か?」

 

とんでもない爆弾を置きやがった。そうか、こいつさっきの話聞いてたのか。道理でニヤついてたわけだ。殴りたい、この笑顔。

 

「そんなんじゃないわ。皐月はただの居候よ」

 

「そうだぞ魔理沙、霊夢に失礼だからやめろ」

 

なにが失礼って俺みたいなのと夫婦って言われてるのが不憫だろう。俺が女子なら嫌だ。やっべ、目から汗が。

 

「面白くねーな。まぁいいや、じゃあな!勢い余って子供作るなよ!」

 

「だからてめぇはなんで爆弾を投下していくんだ!」

 

去り際の爆弾にツッコミを入れながらも内心少し楽しくなっている俺がいる。昔じゃありえないことだけど、うん、こいつらは信用できるからだろうな。面白い子たちだ。

 

「貴方達大変そうね。まぁ2人がいいのなら私は構わないけどね」

 

「ならその顔やめなさいよ。魔理沙と同じ顔してるわよ」

 

幻想郷の賢者はどうやら俺たち人間に近い感性をお持ちのようです。わーい、極悪非道な妖怪じゃないことを喜びたいのにこいつの笑顔も殴りたくなったぞ☆

 

「それじゃあ私も行くわ。皐月、楽しんでね」

 

最後に優しい声を残して紫はスキマ(目玉だらけの空間)へと消えた。先ほどまで騒がしかったからだろう。博麗神社にすごく寂しい雰囲気が漂った。ふと霊夢の方を見るとほんの少しだけ寂しそうな表情をした。なんだかんだ言っても魔理沙と霊夢は友達、別れが寂しいのは隠しきれないようだった。

 

「安心しろよ、どうせ明日にゃ騒がしくなる」

 

「なっ!なにに安心しろってのよ!訳わかんない!」

 

どうやらこういったことには恥じらいを覚えるらしい。是非ともその感情を大事にしてほしい。あとごちそうさまです。

 

「んじゃ、今後どうするか決めようか」

 

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

 

役割は割とすぐに決まった。と言ってもそんなに分担はしていない。ただ俺が炊事と風呂掃除係になって、霊夢が洗濯をするというだけだ。境内の掃除は当番制にした。なぜ当番制にしたのかというと霊夢にサボりぐせをつけさせないためである。こうすれば早起きするだろうという魂胆だ。え?普通?知ってる。

 

「ねぇ、ごはんまだぁ?」

 

「もうちょいでできるから皿の用意しててくれない?」

 

今は夕ご飯時。なんちゃって焼肉のタレを作って野菜と絡めた野菜炒めを作ってる最中だ。霊夢はせっせと皿を用意して運んでも良いものを指示して居間に運んでいる。よし、出来た。盛り付けて持って行こう。

 

「………あんたの料理ってほんと美味しそうよね」

 

「そりゃどうも」

 

料理を褒めてくれるのは嬉しいけどヨダレを拭いてほしい。人が見ていないとはいえはしたないから。

 

「「いただきます」」

 

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

 

「……………もう食べられない」

 

「食いすぎなんだよバカ」

 

ものの十数分でご飯を完食した上にお代わりをしまくった霊夢は仰向けで倒れていた。そりゃあ掃除機並みの勢いで食ってりゃ苦しくもなる。

 

「だって、美味しかったんだもん」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけどもう少し落ち着いて食えよ。誰も取ったりしねぇから」

 

「そんなこと言ってる割には私より食べてるわよね?」

 

「ソンナコトナイデスヨ?」

 

起き上がってジト目で見てくる霊夢。だって仕方がないじゃない!食べ盛りの男の子だもん!まぁとはいえこのペースで食っていけばどう考えても飯が無くなる。考えないとなぁ。ってあれ?そういえばこいつ……。

 

「そういえばお前どうやって食料確保してんだ?」

 

「人里から貰い受けてたのよ。異変解決の報酬としてね」

 

どうやら妖怪退治をするとお金の代わりに食料が報酬として支払われていた。おそらく紫の計らいだろうな。こいつ金遣い荒そうだし。ていうかこいつ報酬腐らせたの?あの量の貰い物腐らせるって頭おかしいんじゃない?

 

「あんたその憐れみの目で見るのやめてよ。一応……反省してるし」

 

なんだか借りてきた猫のようにしょんぼりし始めた。なるほど、一応罪悪感みたいなのはあるようだ。まぁ多分俺が来なきゃこうはなってないだろうから素直に慰めたくない。

 

「そ、そうだ!あんた今日は疲れたでしょ?お風呂沸かすわよ」

 

バツが悪くなったのか話をすり替えようと試みたようだ。かなり雑なすり替えだけどまぁいい。その話に乗ってやるか。

 

 

 

 

 

 

 

------ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……やっぱ日本人には風呂だよなぁ」

 

俺は霊夢が沸かしてくれた風呂に浸かっていた。別に特別な効能があるわけではないと思うが疲れが出てる気がする。やはり風呂は最高だ。

 

「……今日は色々ありすぎたな」

 

ふと考えた。もし幻想入りしていなかったら俺はどこで何をしていたのだろうか。適当に日本を見て回っていたのかもしれない。もしかしたら国外へ行って平穏に暮らしていたのかもしれない。もしかしたら………戦いに明け暮れていたかもしれない。一人冷静になれる風呂場だからだろう。色んな仮定を考えてしまう。

 

だが俺はこうして幻想入りを果たした。妖怪に会い、巫女に会い、魔法使いに会い、弾幕ごっことかいう遊び(・・)もした。俺のことを知らない世界。俺の知らない世界。俺が家出を決め込まなければ知らなかった世界。そんな世界に身を投じて少し心が躍っている自分がいる。でもいつか俺の事を知ればみんな俺を見放すだろうという可能性は考えておかねばならない。

 

『気味が悪い』『面倒見きれないわ、化物』『お前は生きているだけで命を狙われるのさ、化物』『まだ生きてたのね』『君の力を貸してよ、僕の仲間になろう』『君の力はいらない……僕に利用されない力はいらない!』『あぁ、帰って来なければよかったのに』

 

いらん事を思い出した。向こうにいた記憶。あの目をした奴らの記憶。正直思い出したくもないものだが、定期的に思い出してしまう。冷静になればなるほどそれは色濃く思い出してしまう。

 

『君があの……?よろしくな!ガンガン頼るから!君も俺を頼ってくれよ!』『貴方のソレ(・・)は必要なもの。だから貴方が持ってるの。そして忘れないで。いつか必ずあなたを受け入れてくれる人がいる。私たちのように』『よかった………君は生きろよ、少年』

 

………嫌なことばかりではなかったな。俺を受け入れてくれたあいつら(・・・・)だけはあの目をせず、認めてくれた。だから俺は生きようと思ったんだったな。あいつらのように受け入れてくれる奴はいない。だから俺は自分の正体を隠してでもここにいたい(・・・・・・・・・・・・・・・・・)と思ったんだ。知らなければ、受け入れてくれるのだから。

 

さて、そろそろ出るとしよう。多分霊夢が布団を準備してくれてるだろうから。俺の幻想郷ライフは、色濃く楽しいものにしよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしこの思惑が直ぐ(・・)に瓦解するとは、思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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第四話 これからの日常

部活でやること多すぎて頭がパンクしそうな黒鉄球です。それでもしっかり投稿はしていく

自称『天災ボーイ』さんお気に入り登録ありがとうございます


「皐月ー、そっち終わった?」

 

「終わってるぞ。ったく、面倒な廊下掃除やらせやがって……」

 

俺が幻想郷に来て2日目の昼、早速居候らしく家事に勤しんでいた。本当なら朝に終わらせるつもりだったのだが昨日の疲れが残っていたのか昼前まで眠っていた。ついでに霊夢も。

 

二人揃ってバカな事をやっているが霊夢曰く、大抵の日はこうなんだそうだ。クザン顔負けのだらけ具合である。誰かこのバカ巫女に天罰を。

 

なぜ俺が廊下掃除をしているのかというのはじゃんけんに負けたというだけの話。普通に悔しい思いをしただけ。当番制?初日だからいいんじゃね?

 

「お茶いれたけどいる?」

 

掃除を終え、居間でだらけてる俺に台所の掃除を終えたであろう霊夢からお茶の誘いが聞こえた。正直疲れたから願ってもないので返事をしておく。

 

居間から顔を出して返事をするとパタパタと足音を立ててやって来た。こうしてみると普通に気の利く娘に思える。魔理沙や紫の話を聞く限りじゃ怠け者なんだけどやはり自分の目で見ないと分からないものだな。

 

「きゃっ!?」

 

「は?」

 

掃除したばかりの廊下を靴下を履いて小走りするとどうなるか知っているだろうか?そう、転ぶのだ。すってんころりんするわけであり、大変危険だ。盛大に転びかけている霊夢の手元にはおぼん。このままいけば俺の顔面にぶつかる。やべぇ、かわせないわ。

 

「おぶっ!?」

 

見事に顔面キャッチを決めた。思いっきり鼻を打って、支えになっていた腕が地についた。

 

「………てめぇ何してんだこの野郎」

 

「あんたこそなんで廊下に顔だしてんのよ危ないでしょうが………!?」

 

とばっちりで怒られた……。こちとら湯呑みやら急須が乗ったおぼん叩きつけられてるんだけど。反射であれ(・・)を使いそうになったが耐えた俺を褒めてあげたい。

 

つーか腕重いんですけど?なんか柔らかい感触あるし。なにこれフニフニするんだけど。

 

「ひゃっ!?」

 

試しに手を動かすと霊夢が変な声をあげた。その瞬間察した。霊夢の体が俺の腕の上にあるということと、俺の掌の上には霊夢の胸部があることを。おぼんのせいで顔は見えないが多分怒ってると予想。ゆっくりと腕から重みが消え、おぼんが顔を離れた。

 

「…………」

 

顔を真っ赤にそめ、散乱している湯呑みや急須のことなど目にもくれず、俺を見ておぼんを振りかぶっていた。なぁラブコメの神様よ、こういう時俺はどうすりゃいいんだろうか。ひとまず謝らんと。

 

「………ごめんn「この………ヘンタイ!」

 

俺が謝罪を言い切る前にお盆を振り下ろして来た。鼻に激しい痛みがはしり、目の前が真っ暗になった……。こういう時、助けてこその神様だろう、が。

 

 

 

 

 

 

 

------ーー

 

 

 

 

 

 

 

鼻がズキズキ痛んだ事により、目を覚ました。体感としては午後3時といったところか。ふむ、約二時間ほど寝てたのか。そういえばなんで……ってそうか。俺霊夢の胸揉んだのか。……あ、あいつ今どこだ。

 

「…………」

 

どうやら掃き掃除をしていたようだ。俺が気を失ってる間に掃除していてくれていたようだ。霊夢が滑ったのが原因とはいえ俺もやらかしたしな……。今一度謝らなければ。

 

「なぁ、霊夢」

 

「……………」

 

俺の呼びかけに一切反応がない霊夢。聞こえなかったのだろうか?もう一度呼びかけて見た。しかし、

 

「…………」

 

完全に無視された。どうやら口も聞きたくないくらい怒っている、と推測する。さっきから掃き掃除が乱雑で葉が散らかってるという事も加味するとそうなのだろう。………非常に気まずい。誰でもいいからこの雰囲気ぶち壊してくれ。そして俺に謝らせてくれ。

 

「霊夢ぅぅぅぅ!!!魔理沙ちゃんが遊びに来てやったぜ!」

 

すいません誰でもとは言いましたがチェンジでお願いしますある意味空気ぶち壊れました勘弁してください。いや、目視はできてたんだ。空からなんか黒いの来てるなくらいには。でもさ、認めたくないじゃん?一番空気読まなさそうな知り合いが来たんだから。

 

「おろ?どうしたんだ?霊夢顔赤いぞ?」

 

………ね?だから嫌だったんだ。確実に地雷を踏む未来しか見えなかったから。案の定霊夢の顔真っ赤だし今にも爆発しそうだ。

 

「赤くなんてなってないわ!断じて!」

 

全力で否定して掃除を再開する霊夢。魔理沙のやつ絶対わけわからんくなってるぞ。

 

「?」

 

ほら、明らかにわかりませんって顔してる。そしてとてもご不満そうな顔だ。表情を変えず、俺の元へと歩いてくる魔理沙。まぁ霊夢から聞けそうになかったらそうなるよな。さて、どうごまかしたものか……。

 

「お前何したんだよ」

 

「まて、なぜ俺がやらかした前提で話が進んでんだ」

 

いや、間違ってはないんだけどこうも断言されると反論したくなるのが人間というものでつい口が滑ってしまった。適当に誤魔化すつもりが完全にやらかしてしまった。いや、まだ挽回のチャンスはある!

 

「ほらやっぱお前がやったんじゃねぇか」

 

普通にバレてらぁ……。分かってたよちくしょう!俺が反射で反応したから犯したミスだ。……素直に話すか。

 

「いや実は……」

 

俺は霊夢が激おこモードになった経緯を話した。大変恥ずかしかったが誤魔化しようがなかったので腹を括って話した。魔理沙の目がクズを見る目をしなければもう少しマシだったのだがな。

 

「このすけべ野郎め」

 

「狙ってやったわけじゃねぇっての。そりゃ悪いとは思ってるが……」

 

弁明の言葉が思いつかなくてモゴモゴしてしまった……。こういうのは可愛い子がやるからいいのであって俺がやっても気持ち悪いな。悲しい気持ちになってる最中魔理沙はため息をついて、

 

「なぁ霊夢」

 

「な、なによ……」

 

魔理沙が霊夢を呼んだ。魔理沙の声色で分かるが少し真面目に話をするようだ。内心にビビってる俺は口を挟まず、地蔵のように不動に徹する。

 

「皐月のやつ反省してるし、いつまでも意地張ってないで許してやれよ」

 

「………まだ謝ってもらってない」

 

霊夢の無視の理由は俺がまだ謝ってないと思ってるということが判明した。いや君が謝りきる前に気絶させたんでしょうが!と言いたいところだが俺に非があるのでその言葉は飲み込んでおく。下手すりゃ霊夢の怒り買いそうだし。

 

「謝りきる前にお前が殴ったんだろ?すぐに想像がつくぜ」

 

俺の思惑とは裏腹に俺の言わんとしたことをあっさり言った魔理沙。お前マジでふざけんな。一瞬でもいい奴だと思った俺の気持ちを返せ。

 

「あんなことがあったら殴るでしょ!」

 

「気絶させられたら謝るタイミング見逃すって。しかも無視してるし」

 

「じゃああんたは平気だっていうの!?」

 

「いや、マスパ撃つぜ」

 

「あんたの方が酷いじゃない!」

 

さらっと俺への死刑宣告してくるのやめてくんない?魔理沙め、一体何考えてやがる。

 

「もちろん時と場合によるぜ?そりゃ理由もなく揉まれりゃ問答無用でマスパ案件だけど、私に非があったら謝るぜ。で、今回は明らかに霊夢に非があるだろ。掃除したての廊下を小走りしてたらそりゃ転ぶだろうよ」

 

どうやら魔理沙は話の土台を構築していたようだ。何も考えてなさそうな感じだったのにいつのまにか説得の姿勢に入っていた。幼馴染ってのもあってこういうのはうまく運びやすいのだろうか。

 

「で、でもあいつの手の位置はどう説明をつけるのよ!」

 

自分の非を認めたくないのか反論をする霊夢。昨日は信用するとか言ってたのにちょっと悲しくなった。いや裏切ったのは俺か。しかしこのやり取り、どんな結末になるのか気になるから黙っていよう。

 

「大方腕を支柱に廊下から顔でも出してたんだろ?それで霊夢が滑っておぼんを顔に叩きつけた。その勢いで腕が崩れて霊夢の胸の位置にって考えるのが自然じゃないか?私にはワザとやったとは到底思えないぜ」

 

俺から聞いた話を織り交ぜながら説得をしている。魔理沙のやつ、ちゃんと考えて発言してくれてるのか。なんだよ、やっぱりいい奴だったんだな。

 

「っ!………確かにそうかも。でもだからって許さないわ」

 

自分にも非があったのを認めた霊夢だが、やはり少し納得がいかないのだろう。そりゃそうか、女子の身体はそこまで安くないもんな。なら男として取るべき行動は限られるな。何か十字架を背負えばいい。それならば多分いける。

 

「じゃあ俺が…「皐月が一週間全ての家事をやるってのでどうだ?」

 

俺の言葉に被せて来た魔理沙。お前が俺の罰決めんの?ていうかさっきまで味方だったじゃん。そこまでは味方してくれないのね……。まぁやるけど。

 

「………わかったわ。それで手を打ってあげる」

 

この瞬間、俺の地獄の家事生活は決まった………。畜生。3日くらいにしようと思ってたのに魔理沙の野郎…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日から一週間の強制労働を課せられた俺はせわしなく動いていた。

 

「皐月、お茶頂戴」

 

「へいへい、ちょっと待ってろ」

 

霊夢に顎で使われ、

 

「私にもくれだぜ」

 

魔理沙に顎に使われていた。いや、君関係ないよね?ついでだからやるけどさ。

 

「皐月、私掃除で疲れたから肩揉みしてくれる?」

 

「私にも頼むぜ!」

 

「ちょっと待て、明らかに家事じゃないよなそれ」

 

今こいつら肩を揉めとか言った?明らかに雑用というか奴隷というかそんな扱いを受けてる気がする。しかも霊夢ならともかく魔理沙にまで………。ちょっとイラっときたからイタズラしてやるか。

 

「じゃあ魔理沙からやってやるよ。ついでに足もやってやる」

 

俺のこの一言に魔理沙は気がきくな、と一言いって素直に身体を預けてきた。俺はふつうに肩揉みをしてやった。なんの変哲のないただの肩揉みだ。鼻歌を歌って上機嫌になっている魔理沙は思いもしないだろう。この後の地獄を。さぁ足ツボマッサージ(・・・・・・・・)の時間だ!

 

「え、おまっ!これ、超いてぇんだけど!?これマッサージじゃ……」

 

「れっきとしたマッサージですよ?足ツボマッサージっていう人によっては激痛の」

 

してやったりという顔をしているだろうな。調子に乗るからお灸を据えないとこいつは付け上がるということが先ほどわかったからな。容赦はしない。

 

「お前そんなの聞いてイデデデデデデ!!!ごめん私が悪かったからそれもうやめて本当に痛いんだって!!!!」

 

「馬鹿め、痛いということは疲れてる証拠。もってこいだろ?それともお前は人の善意(・・・・)を無下にすんのか?ん?」

 

「そんな善意はいらねぇからもうやめてくれ頼むお願いします!!」

 

ふむ、流石にここまでなると自分でも可哀想に思えてくるからやめてやろう。いやぁスッキリしたわ、俺の心が。

 

 

「魔理沙あんた馬鹿でしょ、調子に乗るからそうなるのよ。あ、私はやらなくていいからね」

 

「言われなくてもやらんわ。一応罰を受けてる身だし。とはいえ魔理沙には助けてもらったから足ツボマッサージで礼をしてやる」

 

「ごめんなさい調子に乗りすぎました!これめちゃくちゃ痛いから勘弁してくれだぜ……」

 

多分無意識だろう。だからこそ恐ろしい。だいぶ痛かったのだろう、涙目でしかも上目遣いになって謝ってきた。なかなかの破壊力があったから危うくおぅふと反応するとこだった。魔理沙、恐ろしい子……!っと、もう夕方か。飯の準備しないとな。

 

「飯作るわ。ついでだし魔理沙も食ってけよ。さっきの詫びってことで」

 

「痛いのを我慢するぜ!!」

 

この瞬間思った。魔理沙は割と御し易い。仕方ない、キノコ使うか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

夕飯を作り、案の定キノコ料理をめちゃくちゃ美味そうに食って満足して魔理沙は帰って行った。まったく、今日も疲れたな。昼からハプニング続きで騒がしかった。今までの人生でここまで騒がしいのは久方ぶりだ。これからの日常がこんなに騒がしいものになるのかと思うと疲れそうだが、俺の手にした日常だ。大切にしないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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紅霧異変
第五話 紅色の悪夢


どうも、最近ちゃんとしたバイトを始めた黒鉄球です。うーん……書くことがねぇ!!


味噌サバさん、ゆうっちさん、ペテコフさん、busyさん、米握りさん、お気に入り登録ありがとうございます!


 

 

あの事件から2週間が経過した。皐月は私との約束通り1週間きちんと家事をやってくれた。魔理沙が遊びに来た時も欠かさずやり、魔理沙との遊びも両立させていた。更に皐月は私がやるはずの仕事を更に1週間続けてやっていた。多分私が早起きしなかったからだから申し訳ない気持ちになった。というわけで現在私は境内の掃除をしているわ。え、皐月?二度寝させたわ。

 

「……眠い。でも皐月もずっとやってたのよねこれ。しかも2週間も。起きたら謝らないとね」

 

ブツブツと独り言をしていた。側から見たら可愛そうなお姉ちゃんに見えるのかしら。……ムカムカしてきた。バカ妖精共がいいそうな言葉を連想したからだわ。今度とばっちりでもかましますか。

 

そんなことを考えていたら寒気を感じた。それにさっきまで明るかったのに急に暗くなった(・・・・・・・)。思わず空を見上げると清々しいくらいに青かった空が真っ赤に染まっていた。モヤモヤとしてるから多分霧ね。

 

「……異変ね。全く、どこのどいつがこんな気持ち悪いことやるのよ」

 

「教えてほしいかしら?」

 

ひょっこりと私の前にスキマが現れた。あぁ、また(BBA)が絡んでるのか。

 

「今失礼なこと考えなかった?」

 

「気のせいよ」

 

なんでそんな鋭い目が出来るのよ。声には出してなかったはずよ。なに?紫ってば心を読む程度の能力でも発現したの?何それ怖い。

 

「ていうかなんでアンタが犯人知ってるのよ。ならアンタが行けばいいじゃない。私に態々教える必要ないわよね?」

 

そう回答すると紫は、

「あなたが博麗の巫女だからよ?それにスペルカードルール始まって初めての大きな異変よ?博麗の巫女の力を示す事ができるわよ?」

 

と言った。残念ながら私そういう名声に興味はないのよねー。紫は分かってないわね。そんなものはメリットにすらならない。もっと有意義なものが欲しいわね。

 

「もしかしたらお賽銭箱が満たされるかもしれないわ。異変解決のお礼に」

 

「それを早く言いなさいよ。犯人はどこ?ぶちのめすから」

 

お賽銭が来るなら是非ともやらせて頂くわ。そっか、私のお賽銭が増えない理由は大きな異変が起きなかったからかぁ。なら迷う余地はないわ。すぐに叩きのめしてお賽銭(こづかい)手に入れるわよ!

 

「………ハァ、相変わらずお金にガメついわね。博麗の泊がつかないわけだわ。まぁやる気が出ただけいいかしら」

 

紫が呆れてるけど気にしないわ!私は早速紫から異変を起こした張本人の居場所の方角を教えてもらった。成る程、北北西……。ここまでくれば勝利も同然!待ってなさい私のお小遣い!

 

 

 

 

東方紅魔郷 〜the Embodiment of Scarlet Devil〜

 

 

 

 

現在私は幻想郷上空を飛行中。紅い霧の中をただ真っ直ぐに北北西に向かっている。なんだか体良く紫に唆された感あるけど異変解決は私の、博麗の巫女の仕事だしお賽銭抜きにしても向かわなきゃいけなかったけど。……そういえば皐月起こさなかったけど良かったのかな。ま、いっか。

 

しばらく飛行を続けているとなんだか目に悪そうな建物が見えた。大きく、紅い色をした建物。和ではなく洋。洋館って言ったかしら?紫に昔聞いたことがあるわ。それにしても目に悪すぎる。これ破壊していいのかしら?

 

「ダメに決まってるだろ。中にいる奴死んじまうぞ?」

 

声に漏れていたのだろう。反応が返ってきた。その方向を向くとそこにいたのは黒いとんがり帽子、黒を基調とした服装、そして箒。魔理沙がそこにはいた。なんでここにとは言わなかった。魔理沙の本職はなんでも屋だけど殆どが異変解決を仕事にしてるから。

 

「魔理沙、あんた行動早くないかしら?」

 

「お前こそ早くないか?どうせ皐月に急かされて来たんだろうけど」

 

そんなことない、と言いたかったけど紫に急かされたという事実があるから反論しきれない……。

 

「まぁいいや。それより霊夢。折角だからどっちが早く異変を解決できるか競争しようぜ!」

 

魔理沙が面倒臭い提案をして来た。まぁでも良い方に考えれば魔理沙に別ルートを行かせて私が倒すべきであろう敵を討たせれば手間は省ける。

 

「わかった。でも私が先に倒しても文句言わないでよ?」

 

もちろんだぜ!と魔理沙は承諾した。御し易いというべきか自信に満ち溢れてるというか……。魔理沙が私に勝てるわけないのに。少し暗い感情が出たところで嫌な気配を感じ下方を見た。いつのまにか側まで飛んでいた弾幕を躱し、魔理沙とともに下に降りた。どうやら敵陣地の前まで来ていたようね。

 

確かここって霧の湖とか言われてる場所よね。洋館までの道は一本道なのを考えると歩いて行くと必ず私の視界に入ってる門番と一戦交える形になるわね。緑色の中華服を着て、変な帽子を被った門番。肉弾戦に関しては私より強いかもしれない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。それくらいの妖力を感じる。隣にいる魔理沙なんて「こいつ強そうだぜ!」とかテンション上がっちゃってるし。面倒ね、どうしましょうかね。

 

「う〜ん、やっぱり弾幕は私と相性悪いですね。奇襲をしても躱されちゃいましたし」

 

弾幕との相性が悪い、ね。それは良いことを聞いたわ。なら高火力で撃ちたおすことに決めたわ。早速霊力練ろう。

 

「残念ですがここは通しませんよ。怪我をしたくなかったらさっさと……」

 

「はいドーン」

 

何かを言い切る前に私は大きな霊力の塊を門番目掛けて放った。だって話長いんだもん。

 

「え!?ちょ、まだなにも……」

 

門番の声を爆発音がかき消した。砂埃が晴れると門番はぐったりと倒れ、気絶していた。ふぅ、まぁこんなもんかしらね。うん、私は悪くないわ。

 

「………お前ひどいな」

 

魔理沙からすごく冷ややかな目で見られた。でも相手弾幕撃てそうになかったし早めに倒せれば御の字だという意を説明した。魔理沙はなんとなく納得していない感じだったけど気にしない。

 

「グダグダ言ってないで行くわよ。この門を超えたら敵地なんだから気を引き締めていきなさい」

 

「おう!」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

『ーーー!ーーむ!なーーーんなことに!!』

 

『ーーーーめーーい!今すぐーーに行きなさい!』

 

声が聞こえる………。誰かの叫び声だ。

 

『-----……。-------』

 

誰だ……?お前は一体………?

 

『-----はは。アハハハハハハッ!!!』

 

目の前に移った光景は、血に濡れた金髪の少女を最後に途切れた。

 

 

 

 

 

 




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第六話 たとえ犠牲にしてでも

右足が痛む黒鉄球です。

バイスロスさんお気に入り登録ありがとうございます!


目が覚めてまず思ったのはいつもと違う、ということ。空気がやたら重い。別に誰かが喧嘩をしているとかではなく、普段感じない邪悪な気配(・・・・・・・・・・・)が漂っているという意味だ。嫌なものを見たのに更に嫌な気分になった。寝起きは良い方だと自負しているが今日に限っては悪いようだ。襖を開けてみるか。

 

そこに広がっていたのは輝かしい太陽の光ではなく、真夏らしい入道雲が見えたわけでもない。ただ紅いモヤに覆われていた世界が広がっていた。一瞬毒の類かと思ったが博麗神社境内にある大樹が枯れていないところを見ると毒ではなく妖力だということがわかった(・・・・・・・・・・・・・)。流石に理解できる、これは異変だ。そう理解し、俺はすぐさま着替えて(・・・・・・・・・・)霊夢のいるであろう部屋へ足を運んだ。

 

だが、襖が開いていた。このことから霊夢はすでに異変解決へと向かったと推測が出来る。俺は無言のまま踵を返し、靴を履きに行った。

 

「あら、あなた今起きたの?」

 

俺の背後から声が聞こえる。間違いない、紫だ。振り返ると案の定彼女が隙間から上半身だけを出して現れた。いきなり声が聞こえたから少しだけ心臓が跳ねたのは内緒だ。

 

「まぁな。一応確認をとるが霊夢はどこへ?」

 

俺は今一番聞きたいことを聞いた。霊夢はどこへ?というのは今の俺にとっては優先事項だ(・・・・・・・・・・・・・)。聞いておかねば、俺は多分後悔するだろうから。

 

「異変解決よ。それが博麗の巫女の役目だった教えたでしょ?あの子も最初はゴネたんだけどお賽銭に目が眩んで出て行ったわ」

 

成る程な。ということはあいつはこのあと確実に………。すでに出て行ってから時間は経過してるという。てかあいつお賽銭でつられて命かけに行ったのかよだせぇなおい。兎に角、なんであれあいつら(・・・・)は異変解決に出かけて行った。ならば………俺も出向くしかあるまい(・・・・・・・・・・・)

 

「場所を教えろ」

 

「え?」

 

俺がそこへ向かうと思わなかったのだろう。紫は素っ頓狂な声を出した。目を見開き、明らかに驚いている表情。ごっつぁんです。可愛かったです。……そんなこと言ってる場合じゃなかった。場所聞かなきゃ。

 

「霊夢が行った場所だよ。俺も出向くからそこ教えろっつってんの」

 

「貴方戦い初心者なんでしょ?足手まといにしかならないわよ」

 

紫は素っ頓狂な表情から一変、鋭い眼をしていた。言いたいことはわかっている。俺は紫から見たら雑魚中の雑魚だ。いくらあの時魔理沙に勝ったとはいえ俺は初心者らしい動きだったのは間違いない。カマをかけられても俺はただの雑魚として振る舞うようにしたのだから。

 

「確かに俺は雑魚だろうよ。魔理沙にまぐれで勝利し、霊力も貧弱。だが俺には行かなきゃならん理由がある。あれ(・・)を見ちまった以上、俺はあいつを放っておくことはできねぇんだ」

 

「………本気なのね?」

 

「あぁ」

 

「………ここから北北西、紅い館に霊夢はいるはずよ」

 

紫は何かを察したのか、将又諦めたのか俺に霊夢達の居場所を教えた。あとは俺が行くだけだ。……これが終わったら紫話さなきゃな。

 

「サンキューな紫。お陰で霊夢()を死なせずに済む」

 

俺は地を蹴り、北北西の空へと飛んだ(・・・・・・・・・・)。急がねぇと………霊夢達が殺されちまう(・・・・・・・・・)

 

俺は自分のことを隠していた。理由は簡単で、怖かったからだ。あの目(・・・)を見たくなかった。されたくなかった。……霊夢達にして欲しくなかった。俺を知らないあいつらと一緒にいられる。俺を蔑まないあいつらとともに生きたい。他ならぬ俺のために。だが、今そんな霊夢達が殺されようとしてる。俺の見た予知夢(・・・)は外れない。見た俺がそこに出向くだけでこの未来は変わる。俺の行動パターン次第でいくらでも未来は変えられることを俺は知っている。だから俺は向かわねばならない。それだけの理由があいつらにはある。

 

あの時、俺が魔理沙に勝った時あいつは俺をあの目で見なかった。ただ驚きに満ちた顔をしていた。それだけで俺は救われた。だから霊夢の居候の話にも乗ったのだ。………だから死なせるわけにはいかない。たとえ俺自身を犠牲にしてでも助ける。俺の全霊をかけて。

 

 

 

 

-------ー

 

 

 

 

「へぇ、中はこんなに広かったのね。持ち主は死ねばいいのに」

 

「おい霊夢、本音ダダ漏れだぞ」

 

よく分からない門番を吹き飛ばした後私たちはすぐに館内へと入った。館内を入ってすぐに踊り場があり、その先には二手に分かれる階段、そして踊り場の左右には廊下があった。いやほんと死ねばいいのに。私の神社の何倍の広さよ。主犯倒せばお金くれないかしら?」

 

「だから霊夢、本音漏れてるって」

 

横で魔理沙が呆れてる。え、声に出てた?なにそれすごく恥ずかしいんだけど。

 

「侵入者ですね。まったく、美鈴はなにをやっているのかしら。後で折檻しませんと」

 

階段奥からいきなり声が聞こえてきた(・・・・・・・・・・・・)。そこにはメイド服を着た短めの銀髪の女がいた。……いつの間にここにいたのかしら。さらにこの感じ、強いわね。でも関係ない。どうせ私が勝つ。

 

「悪いけど門番は吹っ飛ばしたわ。その辺で気を失ってるはずだから私に負けた後で回収して」

 

「ええ、後で回収させてもらいます。貴女を負かした後で」

 

そう言うと銀髪の女は両手に3本のナイフを取り出した。どうやらこいつは私に用があるみたいね。なら、魔理沙を別ルートに回した方が良さそうね。

 

「魔理沙、ここは私がやるわ。あんたは別ルートから行きなさい。どうせこいつ以外にも敵はあるだろうけど関係ないわよね?」

 

「あったりまえだぜ!じゃ、先に行かせてもらうぜ!」

 

魔理沙は自慢の箒にまたがって右のルートへ飛んで行った。私はそれを目で追って直ぐに前を見つめ直した。敵は動かず、ただナイフを構えていた。

 

「先に行かせてよかったのかしら?普通こういうのは先に行かせないように立ち塞がるものなんじゃない?」

 

「あの白黒が向かって行った道の先にはパチュリー様の大図書館があります。魔女である彼女には万に一つもあの女に勝ち目はありませんわ」

 

自信ありげに言っているメイド。なるほどね。確か魔女と魔法使いは違うって魔理沙に聞いたことがあるわ。それになんの差があるのか分からないし興味もないけど、一つこのメイドは勘違いしてるわね。

 

「魔理沙はあんたが思ってるほど弱くはないわよ?それより自分の心配をしたら?」

 

「博麗の巫女と言えど私の能力の前では貴女は赤子同然。気付かぬ間に始末してあげますわ」

 

「大きくでたわね。いいわ、名乗りなさい。私は博麗霊夢。貴方の挑発に免じて思いっきり叩き潰してあげる」

 

「私は十六夜咲夜。ここ紅魔館に務めるメイドの長です。我が主に仇なす者は何人たりとも通しません」

 

私はお祓い棒を、メイドはナイフを構えてお互いを睨み合った。さぁて、さっさと終わらせますか!

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「なんだこの部屋……?階段の下にって…………覗いてみようかな」

 

 

 

 

 

 




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第七話 目的のため

最近バンドリで友達に神引きしてもらった黒鉄球です。いい加減☆4モカちゃん欲しいです。

こんにちは、血さんお気に入り登録ありがとうございます!

※今回は5,000字以上書いたので長めです。退屈だったごめんなさい


 

なんじゃこりゃ。まずこれが一言目だった。何についてかと言えば俺の目の前の光景だ。俺は紫の言う通り北北西に向かって進行し、紅い館を見つけた。明らかに目に悪そうだったからすぐ分かった。どうせ霊夢達は正面から突っ切っただろうと決めつけ、門から堂々と進もうとしたらなんと地面が門をめがけて一直線に抉れているではないか。そしてその中には綺麗な赤い髪の女性が寝転んでいた。十中八九霊夢(あのバカ)の仕業だろう。恐らく加減せずに弾をぶっ放した結果だろうな。どんだけ早く解決したかったんだよ。お賽銭に従順すぎるだろ……。

 

「ん……」

 

微かに声が聞こえた。赤髪の人の声だろうな。さて、どうしようか。どう見てもボロボロだし、放っておけば衰弱するだけだ。このまま放っておくのはなんだか悪い気もする。溜息をつきながら俺はその女性に近づいた。敵なのはわかっている。だがここでこいつに恩を売っておけば少なくとも今襲われることはないだろう。多分。

 

俺は自分の右手に力を集中させ、彼女に触れた。その瞬間身体は翡翠色に包まれ、みるみるうちにキズが消え、癒えていった。これで完治しただろうよ。ひとまず声をかけてやった。

 

「……え?あの、あなたは……?」

 

予想外だったのだろう。めちゃくちゃ驚いた顔をしていた。いや、まぁそうだろうよ。霊夢にやられ、気がついたら目の前に男が居たんだからそりゃ驚くわ。だがまぁ正体も聞かれたんだ。答えてやるか。

 

「俺は神条皐月だ。赤色で腋を出した容赦のない破廉恥巫女と白黒で金髪の魔法使いを追ってきたんだが」

 

「あぁ、これはこれは。私は紅美鈴(ホンメイリン)です。ここで門番をやってます。……もう突破されちゃってますけど」

 

赤髪の女性改め美鈴は律儀に名前を名乗ってくれた。これだけでわかる。こいつ普通にいい奴だわ。うちの巫女さんが容赦なくてごめん。心の中で反省をしている時に美鈴は質問をしてきた。なぜ自分の体の傷が治っているのか、どうやったのか、と。ふむ……律儀に答えてやる義理は全くないけど答えれば恩を売れるかもしれない。結果的にこいつに恩を売ったとなればあの未来は変わる(・・・・・・・・)。何せあの場にはこいつは居なかったのだから。

 

俺の能力(・・・・)だ。人が元々持ってる治癒力を活性化させただけだが」

 

嘘は言ってない。俺は能力を持ってる(・・・・・・・・・)。霊夢達には打ち明けてないが、少なくともこいつは敵ながら信用ができると値したから打ち明けた。その証拠にこいつは驚きはしたがあの目をしなかった。むしろ、

 

「む、難しいことは分かりませんが傷を治してくれて有難うございました。何かお礼をさせてくれませんか?って今戦いの最中ですのでまた今度ですけど」

 

なんて言ってきた。なら俺はすぐにそのお礼ってのを使わせてもらう。

 

「いや、今頼む。俺にこの館を案内してほしい。あー、安心しろ。君の主人に敵対する気は無い」

 

「え、ならどうして、ですか?」

 

「俺の用事は赤い服を着た金髪の幼い子に会うことだからだ」

 

「なっ!?」

 

何かまずいことでも言ったか?俺はただ人に会いに来たと言っただけ。そこまで驚かれるようなことは言ってないはずだ。なのに何故目を見開くほど驚いたんだ?

 

「どうしてあなたが妹様の事を何故知っているんですか(・・・・・・・・・・・)!?あの方は一度も外に出てないのにどうして!?」

 

なるほど、そりゃビビるわ。どうやら俺が夢で見た子は思った以上に複雑な局面にあるらしい。しかしまずったな。美鈴の警戒心は一気に高まってしまった。少しだが殺気が込められてる。誤解を解くには俺の予知夢の事を話すしかない、か。

 

「実はだな、!?」

 

言いかけた時だった。突然美鈴の後方、つまり館から爆発音が聞こえた。だが俺はその一瞬前にとてつもなく冷たく、重い妖力を感知した。美鈴を思わず振り返り、今にも駆け出しそうになっていたが俺がすぐに肩を掴んで止めた。この機を見逃すわけにはいかない。この騒動に乗じて館内へ入って俺の目的を果たす。その為には説得をしなければ。

 

「なぁ美鈴。俺はこの館に用がある。お前も今用が出来たはずだ。ここで俺といがみ合って時間を潰すより俺と一緒に中に入った方が得だ。それに俺は回復させることができる。中に一緒に行けばお前の仲間を回復させてやることもできる。どうだ?利点はあるぞ」

 

「………迷ってる場合ではないですね。わかりました!一緒に来てください!」

 

俺たちはお互いの利点のために館内へと進んだ。……これが異変時じゃなけりゃ割とテンション上がっていただろうなということは心に留めておこう。だって美鈴美人なんだもん。

 

 

 

 

館内の扉を抜けるとそこは広い踊り場になっていた。きっと貴族が住んでそうな雰囲気だっただろうな。………床のクレーターと散乱したナイフ、そして辺りが暗くなけりゃだけど。

そんな感想を抱きながらも俺はきちんと見逃さなかった。二階へ続く階段の前で誰かが倒れていた。暗くて誰かマジでわからんけど。

 

「え………咲夜さん!?」

 

名前的に女性のようだ。美鈴はその咲夜とやらに駆け寄った。俺はその後を追うように歩きだした。

そこには銀髪の女性がいた。お嬢様に見えるしメイドにも見える。いや、メイドだな。前掛けかけてるし(意味不)。

 

「咲夜さん大丈夫ですか!?」

 

美鈴は慌てていた。もしかしたらこのメイドがここまでボロボロになった姿を見たことがないのだろう。しかしどっちが(・・・・)やったんだろうな。まぁ十中八九霊夢だろうけど。魔理沙がいたなら馬鹿でかいクレーターがあってもおかしくないのにここには小さなものしかない。つまりそういうことだと思う。ていうかこれごっこ遊びなんだよな?弾幕勝負恐ろしすぎる。普通に殺しあってない?ナイフとか完全に殺しにきてるだろ。

 

「咲夜さん!目を覚ましてください」

 

お前はお前で慌てすぎだろ……。

 

「落ち着けよ。これくらいの傷ならすぐに治せる」

 

俺はそう言って右手を翳した。美鈴の時同様に身体が翡翠色に包まれ、傷が塞がっていった。

……何やってんだろうな。昔の俺なら『知らん』の一言で何もしなかっただろうに。あの出来事(・・・・・)が起きて、その上で幻想郷に来てなかったら、霊夢達に会ってなかったら多分こんなことやらなかっただろうな。俺割とちょろいかもしれん。

 

「……め、めい…りん………?」

 

「咲夜さん!目を覚ましたんですね!」

 

俺ちょろい疑惑を頭で考えていた間に目を覚ましたようだ。美鈴は現状を理解出来ていない咲夜を置いてけぼりにする程喜んでいた。とても微笑ましい。そう思った。俺の能力でこんな光景が見られるとは思わなかったな。

 

「どうして美鈴、貴女がここに?なぜ私の怪我が?そして貴方は?」

 

質問が多いな。まぁでも無理ないか。霊夢にやられ、気を失って、気がつけば傷は全快。目の前には美鈴と見知らぬ人たる俺がいる。致し方ないだろう。

 

「俺の名は神条皐月。美鈴は俺が連れてきて、怪我は俺が治した」

 

とても簡単に説明をした。咲夜は、

 

「そうですか……」

 

と納得したかのようなことを言った。だが、目は完全に警戒していた。そりゃそうだ。見ず知らずの男がいきなり現れて傷を治したというのだから。俺でも普通に警戒する。何か裏があるのでは?と勘ぐるのが普通だろうな。

 

「それで皐月さん、と言いましたか。なぜ私の傷を治したのですか?そして何故ここへ赴いたのですか?」

 

「また質問か。お前の傷を治したのは美鈴にここへ案内してもらうために交わした約束を実行する為。この館に来たのは紅白巫女と愉快な白黒魔法使いを追って来たから」

 

「……ということは貴方も異変を解決するために来た、ということですか?」

 

「ま、あながち間違っちゃいない」

 

もう一つ理由があるけどもそれについては言わなくてもいいだろう。余計に警戒心を煽るだけだ。美鈴が何かを言いかけて黙ったのはその事を察したからだろう。心の中で言っておこう。ありがとう。

 

「……傷を治していただいた事には感謝します。しかし」

 

咲夜は治ったばかりの体を起き上がらせ、スカートの中からナイフを一本取り出して切っ先をこちらへ向けた。彼女の目は、明らかに敵を見る目だった。

 

「お嬢様の敵は私の敵です。恩があってもこれだけは覆りません。ご退場願います」

 

なるほどな。咲夜はこう言いたいのか。「恩があるから一度は見逃す」と。正直ホッとした自分がいる。普通ならこういう反応で間違いない。自分の主人の敵だという人間をそう簡単に先に進ませるわけがない。だから咲夜の行動に間違いはない。だが俺もそう簡単に引き下がれない理由がある。やはり本当の理由を話す必要がありそうだ。

 

俺はそう思っていた。だが何故だ。何故美鈴が咲夜の腕を掴んでいる(・・・・・・・・・・・・・)

 

「どういうつもり?貴女はこの男を、お嬢様の敵を先に進ませると?」

 

「違います。彼は敵ではないんです!彼は、妹様を……」

 

「くたばれぇ!!」

 

美鈴が何かを言いかけた時、天井が崩れ落ちた。それと同時に聞こえた聞き覚えのある声。俺は咄嗟に弾幕を展開して瓦礫の相殺をした。全く……下に人がいることを考慮できんのかあのバカ巫女は。

 

「あんた!いい加減退治されなさいよ!」

 

「そう言われてハイそうですか、と退治される輩がいるかしら?博麗の巫女」

 

上の階から瓦礫と共に降って来たのはバカ巫女とウェーブのかかった紫の髪、赤い瞳、そして人間にはない黒い羽を生やした幼い少女だった。って爪長い。なんだこいつは……。まぁいい、取り敢えず言わないとな。

 

「霊夢、スカートの中見えてるぞ」

 

「え!?…って皐月?なんであんたここにいんのよ!っていうかあんたその二人私が倒した門番とメイドじゃない!なんで一緒にいんのよ!説明してもらうわよ!」

 

「ギャーギャーやかましいぞ。情報収集の為だよ。それよりお前あそこまでやる必要ねぇだろ。ボロボロだったぞ」

 

「加減したわよ。ちょっと強くやっちゃったけど……ってなんでそいつら怪我治ってんの!?」

 

「………気力じゃね?」

 

「納得できるか!」

 

今はこれで納得してほしいのだが……。だが霊夢と合流出来たのは運がいい。俺の予知夢で見た金髪のロリっ子がこの場にいない時点で未来が変わったのか。それともこのタイミングでは出会わないのか。どっちにしろ今俺の目の前には霊夢がいる。ちょっと安心した。

 

「「お嬢様!敵の侵入を許して申し訳ありませんでした!」」

 

俺たちの会話の隣では美鈴と咲夜が紫髪の少女に頭を下げていた。ていうか今お嬢様(・・・)って言った?え、こいつが?

 

「過ぎたことは仕方ないわ。ってそこのあんた。今失礼なこと考えなかった?」

 

す、鋭いやつだ。でも多分だけど俺以外でもこう思う奴はいるだろう。つまり俺は悪くない。社会が悪い。

 

「まぁいいわ。それよりボコボコにやられたはずの貴女たちが今無傷なのかしら?」

 

やはりそこに目をつけたか。そりゃ俺の気力発言で丸め込めないよな。主人だもんな。

 

「それは……」

 

咲夜は言いにくそうだった。まぁそりゃそうだ。敵である俺に治されたなんて口が裂けても言えないわな。言わなきゃダメだよなー。

 

「皐月さんが治してくれたんです!」

 

「え!?」

 

美鈴が包み隠さずどストレートに言った。もちろん今の声は霊夢のもの。こ、この野郎俺が言わなかったことをさらっと言いやがって。まぁここにいる時点で話さにゃならんとは思ってたからいいけどさぁ。

 

「サツキ?この男のことかしら?」

 

お嬢様(仮)は俺に指をさした。美鈴は一瞬の迷いもなく頷き、お嬢様(仮)は俺の方へ向いた。

 

「私の従者の怪我を治してくれたこと、礼を言うわ。でも良かったのかしら?敵に塩を送る真似して。貴方と私は敵なのでしょう?」

 

「俺があいつらを治したのは俺の目的のためだ。俺は」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

言葉を今度は別の知った声に遮られた。それも霊夢と真逆で地下から。今度は魔理沙か。こいつらは騒ぐことしかできないのか。

 

「そ、そこどいてくれ!」

 

魔理沙はどうやら箒に乗って逃げてきたようだった。その証拠に一直線に俺の方へ向かってきた。え、待ってそのまま行くとぶつかるんだが!?

 

「え、いやちょっ、ぐぇっ!?」

 

案の定俺の腹に突撃してきた。箒の先端が腹にめり込んだせいで空気が全部出て、危うく吐瀉物発射するところだった。……くそいてぇぞこの野郎ちゃんと前見ろよ。

 

「いってぇな魔理沙この野郎!箒の先端がめり込んで超痛かったんだが!?」

 

「え、皐月?なんでお前ここに……ってそんなこと言ってる場合じゃないんだ!」

 

魔理沙は慌てているように見えた。俺は魔理沙に事情を聞いた。魔理沙がそのことを話そうとした直後、何かが地下から飛んできた。今度は瓦礫かと思ったが砂埃の中に見える黒いシルエットはどう見ても人だ。それも自ら飛んだわけではなく、まるで吹き飛ばされたかのようだった。俺は魔理沙を即座にどかし、その影の方へと飛んだ。

 

辛うじてその影を捕まえることに成功した。その影は予測通り人だった。薄い紫色のドレスのようなものを着た紫髪の女の子だった。俺の腕の中の彼女は少し怪我を負っているようだった。

 

「おい、大丈夫か」

 

「え、えぇ。平気よ……ハァ…ハァ………」

 

俺の声に軽く反応をした。息切れしてるし明らかに平気そうではないが取り敢えず突っ込むのはやめた。そんなことよりもまずあいつらの元へ行ってこの子を預けるのが先決だ。

 

俺はすぐに方向転換し、霊夢達の元へと降り立った。霊夢も魔理沙も何か言いたげな顔をしていたが無視することにした。それどころじゃないのでな。

 

「パチェ!?どうしてこんなに怪我を……!なにがあったの!?」

 

「フ、フランが……狂気(・・)に目覚めたわ……」

 

「なっ、なんで!あの子は地下にいたはずでしょ!どうして外に……!」

 

お嬢様(仮)は驚いていて、とても焦っていた。理由はわからないが彼女らにとっても不測の事態だということだろう。……まさかこのタイミングであの予知夢が現実に?だとしたら運命のいたずらが過ぎるだろうが……。とにかく、説明をして貰わないと困る。いつまでも動かずにこの莫大な妖力の波動(・・・・・・・・)を放っておけない

 

「おい、狂気ってのはなんだ」

 

「狂気というものはお嬢様の妹様に巣食う闇の部分です。……貴方が探していた方です」

 

やはりそうか。どうやらここが俺にとっての、こいつらにとっての最大の分岐点になりそうだ。

 

 

 

 

 




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第八話 狂気と一戦

だいぶ期間が空いたことをここに謝罪します。黒鉄球です。

ラララのらさん、影兎。さん、忠犬は狂犬さん、ヴェルターさんお気に入り登録ありがとうございます!


ただの興味本位だった。小さい頃読んだ本で、「隠し部屋に使われるのは地下」というのを見たことがあった。だから金目の物があればラッキーくらいに思ってたんだ。なのにまさか……。

 

「あは、アハハ、アハハハハハハハハ!!」

 

こんなやばいものを引き当てるとは思わなかったぜ……。

 

 

 

 

ーー------

 

 

 

 

「狂気というものはお嬢様の妹様に巣食う闇の部分です。……貴方が探していた方です」

 

咲夜の声はとても震えていた。今にも逃げ出したい、そんな感情を感じ取れるくらいに。正直俺も逃げたいくらいだ。常人(・・)であれば正気でいられるのが不思議なくらいの禍々しい魔力を放出しているのだから。それでも逃げ出すわけにはいかない。俺は目の前の人を止めるために来たのだから。

 

「なんなのこいつ?普通にここから離れたいくらい面倒な魔力持ってない?魔理沙、あんた何したのよ」

 

霊夢はさらりと普通に話している。が、額から冷や汗が流れているのが見えた。霊夢もこいつの危険性を理解している、ということか。

 

「なんもしてねぇ!……って言っても嘘なのはバレるよなぁ」

 

「当たり前でしょ。アンタと一緒に出て来たんだから」

 

あっけらかんと話している二人。こいつらこれだけの危機に直面してもアホな会話をするくらいの余裕はあるのか?肝が座ってるな。

 

「………地下室があったんだ。私はそこを開けてアレと会ったんだよ。なんか閉じ込められてるっぽかったから出したらあの魔女のいるでっかい書庫に出てそれで……」

 

魔理沙はそこから先を言わなかった。口を噤み、目を逸らしていた。え、なに?こいつなにやったの?すげぇ気になるんだけど。その意図を汲んでか分からないが紫色のドレスのようなものを着た女の子が喋った。

 

「あ、貴女が私の大事な本を盗もうとして私と戦闘になったんでしょ……」

 

………とんでもなくしょうもないことやってんなバカ魔理沙。

 

「そ、それはそうだけど……。でもお前私の話だけじゃなくてフランの話も聞かずに流水に閉じ込めたろ!なんて言ったっけか?『あなたは出てきてはいけない。大人しくしてなさい』だったか?その言葉のせいでこいつがこうなったんだろ!」

 

魔理沙の怒号が響いた。側にいたお嬢様(?)は目を逸らし、フランなる子を見ていた。……なるほどね。つまりこういうことだな。

 

「偶々地下室を発見した魔理沙はそこの金髪の子を地下室から出した。んでさまよってたら紫ドレスの子がいた書庫へ侵入。戦闘になったが先にフランなる子を封じた結果暴走状態に陥った。封じた理由はこの子の暴走を未然に防ぐため。だが、それが裏目に出てしまった、と」

 

「…………ええ」

 

紫ドレスの子が短く返事をした。やれやれだ。どんな事情にしろ狂化する子を閉じ込めるのはナンセンスだ。一体どれくらいの期間閉じ込められてたのかは知らんけど悪手だ。って言っても聞かないだろうなぁ。さっきの霊夢とのやりとり聞いててわかったけどわがままそうだし。

 

「……フラン、今すぐ部屋に帰りなさい」

 

「……オネエサマ。ワタシハモドラナイヨ?ズットヒトリデ、ミンナカラハナシテワタシヲノケモノニシテタ」

 

姉と妹、これは姉妹喧嘩……なのか?狂化してるとはいえ自我があるのか?

 

姉の方はゆっくりと前進し、彼女から見て左の方は指をさした。

 

「戻りなさい!」

 

「……モウイヤダ。ズットトジコメテ!ワタシトハナシモセズニ!キョウモソウ!ソラガアカクナッテルナンテシラナカッタ!マタワタシ二ナイショデ!」

 

ここまで来ると事の発端が分かってきた。この異変の奥深くには……姉としての想いがあるようだ。……だが、こんな方法じゃ誰も救われない。こんな事じゃ、妹を真の意味で救うことにはならない。この数秒で俺は俺の中での最善の策を打ち出した。あとは……やるだけだ!

 

雷槍(サンダーランス)!」

 

俺はフランをまず無力化するために攻撃を放った。察知していたのかすぐに躱されたが興味はこっちに移ったようだ。

 

「アハ♪アソンデクレルノ?」

 

こちらに目を向けた瞬間汗が吹き出した。空気がさらに重く、禍々しくなったからだ。俺の心臓の鼓動が速い。胃がキリキリする。覚悟を決めていたとはいえ、これだけやばい相手だとは。でも……逃げねえよ。

 

「来い!俺が飽きねぇように遊んでやらぁ!」

 

俺はそう叫ぶと大量の弾幕を展開した。

 

「コンナノ……キカナイ!」

 

フランは容易く弾幕を躱し、右手に炎を集中させていた。俺はそれを目で確認し、上へとジャンプした。

 

『禁忌 : レーヴァテイン』

 

フランは炎の剣を顕現させて斬りかかってきた。一瞬驚いたがまだ予想の範疇だ。落ち着いて対処すれば問題はない。

 

俺はそれをバックステップで躱した。多少熱を浴びたが大したダメージはない。

 

「コレダケジャナイヨ?」

 

フランは即座に炎の剣を切り返した。だが、見た目通り子供の太刀筋故に単調だ。これくらいなら何度振ってきても意味はないな。次は弾幕に電撃を仕込んで無力化するか。

 

「サセナイヨ? [禁弾 : スターボウブレイク]!」

 

レーヴァテインを振りかざしながら無数の弾幕を上空へ展開するフラン。降り注ぐ弾幕の動きはさほど早くないが動きにばらつきがある。一つ一つに意思があるように。

 

数が多くてうまく捌き切れない、か。そう判断した俺は即座に両手から雷を散らした。

 

衝雷破(しょうらいは)!」

 

両手から発せられた雷は降り注ぐ弾幕を悉く破壊した。俺はすかさずポケットに仕込んでおいた霊夢の針(・・・・)を中指と人差し指に挟んで雷を纏わせてフランは打ち込んだ。音速の約3倍で打ち込まれたレールガン。常人相手には使うまいとしていた技だが、相手は吸血鬼。伝承通りなら肩を撃ち抜かれても支障はきたさないはずだ。多少の傷は勘弁してくれよ……。

 

「ドッカーン!」

 

フランへと撃ち込まれたレールガンはフランにたどり着く前に四散した(・・・・)。流石に驚いた。レールガンに反応したのもそうだけど攻撃が届く前に物体が壊れるとは思わなかった。しかも触れずに、だ。射程50m範囲内でこんなことは初めてだ。何かの能力、としか考えられなかった。

 

「気をつけてください!妹様は【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】を有してます!」

 

美鈴がすかさず注意勧告をしてくれた。が、【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】って全然程度じゃなくないか?完全にチートやん。チーターやん。と、ここで一つ思い出したことがある。俺が夢で見た光景だ。確かあの時……霊夢は大量の血を流していた。体が壊れたのではなく、血だけ……。まるで内部のみを破壊されたかのように。…………そうか、そういうことか。

 

「やっぱりこの戦い、あの手(・・・)しかないか」

 

俺は結論を出すとすぐに一つの策を思いついた。最初に思いついたのはフランを無力化して大人しくさせること。だがこれだけじゃ不完全だということに気がついた。なら……彼女の精神を揺らす方法を取ればいい。……やりたくないけど。

 

「フラン!いい加減にしなさい!今すぐに部屋に戻らないと本気で怒るわよ!」

 

俺が行動を開始する前にお嬢様が動き出した。だが、今説教をするのは悪手だ。精神は揺らぐけど、間違いなく悪化する。

 

「ウルサイウルサイウルサイウルサイ!オネエサマバッカリ!」

 

姉への不満を表したかのようにフランの持つレーヴァテインが激しく燃え上がった。マズイな、これ以上余計なことを言えば姉といえど殺されるぞ(・・・・・)

 

「待ってください妹様!お嬢様は……」

 

「ダマッテテメイリン。ウルサイヨ?」

 

そう言ってフランは右手を美鈴に伸ばした。まるで何かを掴むように。その光景を見た瞬間、俺の身体は脳が判断するより先に動いていた。今突っ込め(・・・・・)と。

 

「待ってフラン!!!」

 

お嬢様の声が響いたがフランはそれを聞かず、その手で拳を作った。何かを潰すかのように。その瞬間になにかが弾け飛ぶ音が聞こえた。美鈴は血塗れとなり、それでもその子の体に異常は見られなかった。そりゃそうだろうよ。たった今弾けたのは俺の右腕と右側頭部なのだから(・・・・・・・・・・・・・)

 

「……え?なんで、貴方が」

 

「うるせぇよ………。今お前がやられたら…………俺の……思惑から外れ…る」

 

右目が見えない……。血の気が一気に引く感覚がある。僅かに顔を右に向けるとありえない量の血が腕から流れているのが見えた。寧ろ、この状態でよく生きているなと思った。でもまだここでくたばるわけにはいかない……。今この瞬間、真っ青な顔をしているフランに畳み掛けなければ俺の作戦は完成しない。俺はもうすでに痛みを感じなくなった右腕をフランに向けた。

 

「……どうだ?お前がやったことだぞ………。お前、が、壊した……ものだ。楽しかったか?フラン……」

 

くそ、もうか細い声しか出ないか。だがこれでいい……でなければあいつの顔が歪むわけがない(・・・・・・・)。……ついでに魔理沙たちも顔が歪んでるが気にしてる場合ではない。

 

「……ゼンゼンタノシクナイ。コンナノ……ワタシハノゾンデナイ!」

 

フランは泣きながらにそう叫んだ。………あと一押しだな。

 

「お前が、なんで閉じ込められたのかはもはや言わずともわかる…………。でも、閉じこもってちゃ……なんも解決しねぇんだよ……。認めたくねぇだろうけど認めろ!受け入れろ!」

 

「で、デモ……私のチカラは人をキズツケルんだよ?ウケイレラレルワケ……」

 

俺の状態、言葉を聞いて心なしか話し方に変化が見られた。……これで終わり、だな。

 

「俺が、受け入れ……て、やるよ………。肯定してやるから……な…」

 

俺は喋りながら感じ取っていた、もう長くない、と。意識が混濁して、深い闇に入りそうな感覚……。俺はそれに委ねるように意識を手放した。あぁ、そういや、魔理沙と霊夢には事情を話さないと、な。また後でな(・・・・・)

 

最後に俺は、フランの泣きじゃくる声を聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 




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第九話 戦いの後で

ちょっとずつ書いてたら長くなってしまった……。

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「………知らねぇ天井だ」

 

寝起き一番の言葉はこれに限る。何故かって?知らねぇ部屋に寝かされてりゃこういうと相場は決まってる。どっかの死に戻り野郎も同じことしてたろ?多分気持ち的には一緒。さて、冗談は置いといていつもの確認をしますか(・・・・・・・・・・・)

 

俺はまず左手で右腕をチェックした。もちろんあるわけがない。傷口は完全に塞がってるがな(・・・・・・・・・・)。次に右側頭部に触れた。うむ、きちんとあるな(・・・・・・・)。眼球を動かしてみるか。しかし左しか動いてる感覚がない。ということはまだか(・・・)

 

傷の確認が終わった後、俺は状況を整理に入った。まずここを知らない。が、天井の色が血のような赤色だから多分ここは紅魔館?だと思う。相変わらず趣味の悪い場所だ。目に悪い。そして俺の身体はいつも通り再生した(・・・・・・・・・)。俺がここに寝かされてるってことはこの能力を見られたってことだろう。まぁ十中八九もうここにはいられないだろう。こんな化け物(・・・)と一緒にいたいなんて思う奴はいないからな。はぁ、相変わらず気味悪い再生能力だ。そのくせ中途半端と来たもんだ。ため息出まくるわ」

 

「起きたんですか!?」

 

「うおっびっくりした!!ってなんだ美鈴か脅かすなよ。つーかうるさい。俺怪我人だし起きたばっかなn「怪我は!?えーっと、目は見えますか?!何処かに痛みは?!あとは、あとは、えーっと、えーっと………」

 

「うるさいっつってんだろ静かにしろよ。あと人の話を最後まで聞け。気持ちはわかるが」

 

俺の横たわるベッドの左側で寝ていたであろう美鈴がそこにはいた。ずっと右側見てたから気付かんかったわ。何故寝ていたと予測したのかというと口元によだれが付いていたから。騒いだことに美鈴は謝り、俺は口元についたよだれを拭くように促した。

 

美鈴は恥ずかしがりながらよだれを拭いた。あまり見るものでもないので少し俯いたらそこに水滴が落ちたのを見た。またよだれでも垂らしたのかと思って美鈴の方を見たら涙を流していた。

 

「おい、どうした?俺に見られるのそんな嫌だったか?」

 

「違いますよ!確かに恥ずかしいですけどそんなことじゃないです!私……このまま皐月さんが目を覚まさなかったらどうしようって………」

 

どうしよう……ってなんだ?こいつまさかとは思うが俺の心配をしたのか?俺のこの能力を見たあとで?

 

「お前、俺の心配をしたのか?」

 

「当たり前じゃないですか!皐月さん死にかけてたんですよ!私を庇ったばっかりにあんな大怪我を負って……」

 

美鈴は涙を流しながらそう告げていた。俺はどうすればいいか、分からなかった。人に心配されるなんてのはあいつら(・・・・)以来なかった事だ。ましてや俺の再生能力を見たあとでなんて初めてだ。

 

「あの……」

 

こいつの涙に不自然さ(・・・・)は無い。ということは本当に心配をして、心から涙を流したということになる。「あの………」こいつは多分相当なお人好しなんだろう。もしくは根は心優しい女の子「あの!」美鈴がなんか言ってたので左を向いたら俯いて頭を撫でられていた美鈴がそこにはいた。誰に、そう、俺に。……え?

 

「え、あ、すまん。完全に無意識だったわ」

 

無意識的に女の子の頭撫でてたとかどこの千葉県民お兄ちゃん?何それ俺の目腐ってるの?いや腐ってたわ。てかお兄ちゃんでもないし俺()だし。……嫌なこと思い出したわ。

 

「い、いえ……。その…嫌ではないので………」

 

嫌じゃないんかい。そう思いながら何故か手を離す気にはならなかった。最初見たときから思ってたけどこいつ髪サラサラすぎんか。きめ細やかで撫でるたびになんかいい匂いするし。霊夢もだし紫もそうだけどなんで女の子っていい匂いするんですかね。

 

ちょっと変なことを考えていた時に複数の足音がすごい速さで走っているのが聞こえた。何事かと思ったのもつかの間、部屋の扉が勢いよく開けられた。その拍子に手を離し、美鈴は少し寂しそうにしていた。なんでやねん。てか誰やねん行儀の悪い。誰かはなんとなくわかるけど。

 

「皐月起きたのね!」

 

「霊夢うるさいぜ!皐月無事か!?」

 

「あなたもうるさいわよ魔理沙。もう少し静かにできないのかしら?」

 

「そういう咲夜も走ってたじゃない。私は飛んでたけど」

 

順に霊夢、魔理沙、咲夜、パ……パチェ?忘れたけど四人が来た。当主様とフランはきてないようだ。まぁフランはともかく当主が来てたら睨んでしまいそうだから来なくて正解だったかもな。てか三人ほど息が荒いんだが?そんな全力で走ってきたのかこいつら。

 

「うるさいぞアホ達。静かにしてくれ」

 

「できるわけないでしょ!あんた三日も寝てたのよ!」

 

「逆に三日で済んだのが謎よ」

 

霊夢のセリフにツッコミを入れるパチェさん(勝手に命名)。こいつかなり鋭いな……。いや、しかしなんだ……。

 

「三日も寝てたのか俺は。………15食食い損ねた」

 

「なんで1日5食計算なんだぜ……」

 

俺のセリフにツッコミを入れる魔理沙。いやぁ激闘の後3日寝たってなったら言わなきゃって思うじゃん。麦わらの船長のセリフだけど。それに俺5食食えんから青ざめた顔をするな霊夢。

 

「それより、怪我の具合はいかがですか?」

 

「右目と右腕がないことを除けば問題ないぞ」

 

咲夜からの質問をさも当たり前のように答えた。こう言っちゃなんだがどうせ治る(・・・・・)。俺はそれを知っているがこいつらは知らない。だからだろう。全員があまり思わしくない表情をして俯いていた。パチェさん以外。発言ミスったな。

 

「良かった、とはあまり言えない状態ね」

 

パチェさんは無表情のまま俺の頭と腕に目をやっていた。じっくりと観察するように。一瞬殺気を出しそうになったがなんとか堪えた。ふと扉の方を見るとそこには金色の髪がチラッとだけ見えていた。俺の知る限り金髪の髪は魔理沙と紫とフランしか知らない。身長的にはどう考えてもちびっ子だから誰かはすぐわかったけど。

 

「………」

 

頭だけひょっこり出したのはフランだった。申し訳なさそうな目をして、入りにくそうにしていた。これは俺が声かけないと入ってこないな。

 

「フラン。お前が今そこにいるってことは狂気は今どうにかなってるってことだろ。良かったな」

 

実のところ内心少しホッとしてる。心から良かったと思ってる。何故なら俺の半身を吹き飛ばしてでもなんとかしたかった狂気が目の前にある。いや、狂気に飲まれかけた少女と言うべきか。その少女が普通の状態でそこにいる。それだけで俺が身体を張った甲斐があったってもんだ。報われたな、俺。

 

「全然よくない!」

 

俺の言葉の後に出て来た言葉はフランの泣き声だった。

 

「全然、良くないよ………。私が、私のせいで皐月は、こんな………大怪我を…………。私の狂気が鳴りを潜めて、みんなと一緒に居られようになったけどそのせいで皐月は……。ごめんなさい………ごめんなさい……………」

 

フランは俺の前で懺悔を始めた。おそらく俺が寝ていた三日間を苦悩と共に過ごしていたんだろう。俺が死んでしまったら全部自分のせい、狂気を抑えられなかった未熟者とそう思ったのだろう。俺も馬鹿じゃない。フランの気持ちは分かる。嬉しさ半分、悔しさ半分ってとこだろうな。俺の目が覚めた嬉しさ、俺の腕と頭が飛んだ自責の念。この2つが重なったんだろうな。こんな小さな女の子が抱えるには早すぎるな。こういう時ってどうすりゃいいんだっけ?ああ、そうだ。

 

「フラン、ちょっとこっちこい」

 

俺は手招きをしてフランを呼んだ。最初は来なかったがずっと手招きしていると観念したのかフランは俺の方に歩み寄ってくる。俺の真ん前に来た瞬間俺はデコピンを食らわせた。

 

「コンニャロ喰らえ」

 

「うにゃっ!?……え?」

 

わけもわからず突然デコピンを食らったフランは額に手を当てていた。まぁ当然の反応だな。俺は自分の意図を説明し始めた。まぁこれ言ったら多分フランは反論するだろうけど。

 

「これがお前の罰だ。これでチャラ。これ以上の異論は認めん」

 

ぶっちゃけ俺はそこまで怒っていない。元々腕は吹き飛ばさせるつもり(・・・・・・・・・・・・)だったからな。そこに+αがついただけだし。そしてフランは俺の予想通りフランは反論をした。「それじゃ意味がない。私のしたことは……」と。この答えも予想通りだ。俺は真っ直ぐフランを見て、俺の答えを言おう。そうじゃないと、こいつには届かなさそうだ。

 

「気が収まらないってか?じゃあお前はその罪を一生背負え。自分のした事を悔いるのならそれを背負うのがフランの贖罪だ。気が収まっちまったらそいつは過去を忘れるのと変わらねぇ。罪の意識が無くなっちまうのと同じだ。忘れたら………何も残らないだろ?」

 

至極当然のことを口にした、はずだ。とてつもなく危険な能力を持った子だ。自分のしてしまったことをちゃんと教えて、次に活かせるように導くのが大人の役目だ。俺まだ18だけど。

 

「………お、」

 

「お?」

 

「お兄様ぁぁぁぁ!!!」

 

フランがなんかよくわからんことを叫びながら突っ込んできた。ねぇ待って俺怪我人なんだけどお願いだからダイブして来ないでください。

 

そんな祈りも虚しく俺の胸にダイブして来た。俺は呻き声を上げそうになったが年上の意地でなんとか堪えた。超痛かったけど。俺の胸の中でフランの啜り声が聞こえた。フランはその状態で話し出した。

 

「私……忘れないよ。自分の過去と向き合って………い、いづが………克服じでみぜるがら!!!」

 

フランはずっと泣いていた。なんだか泣かせてしまった感が否めないから、贖罪になるかわからないけど俺はフランの頭をそっと撫でてやった。少しでも落ち着いてもらえるように。だが一つ聞きたいことができた。うむ、これは聞かないとダメだ。俺の沽券に関わる。

 

「ところでフラン」

 

「……にゃに?お兄様?」

 

そう、俺は一つ疑問に思っていた。それはこれだ。

 

「その『お兄様』ってのはもしかしなくても俺の事か?」

 

「うん!お兄様はお兄様しかいないよ!」

 

この日より俺はフランのお兄様に任命されました。ま、悪い気はしないからいいけど。………俺に妹萌えはない、とだけ言っておこう。

 

 

 

 

 




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第十話 秘密と涙

ちょっと興がのって連日投稿になりましたw


 

 

「少し質問いいかしら」

 

フランなでなでタイムに興じていた俺の時間は終わりを告げた。パチェさんが神妙な眼差しで俺を見て質問をしようとしていたから。何を聞きたいのか、それについては心当たりしかない。

 

「俺の身体の秘密……だろ?」

 

パチェさんは「ええ」と一言置いてから言葉を続けた。和やかな空気が一変した。魔理沙も霊夢も咲夜もフランまでもが俺の話を聞こうと耳を傾けていた。

 

「貴方の身体は規格外すぎるわ。脳を治すなんてあり得ないわ。それにあなたの心臓なんだけど、一時的に(・・・・)止まってたのよ?要するに一度は死んだと言う事よ。なのに何故あなたは生きているのかしら?」

 

「人の心臓が一度停止してまた動き出すなんて奇跡の話聞いたことない?……って誤魔化しても聞かねぇんだろ?」

 

「当たり前でしょ。一度止まった心臓がまた動き出したのもそうだけど、一人でに肉体が再生する(・・・・・・・・・・・)。これも奇跡だとでも言いたいのかしら?」

 

こいつ全員が疑問に思ってること全部言いやがった。っていうか俺が言わなかったこと全部言いやがったよ。いや、霊夢はまだあのこと(・・・・)を聞いてないな。

 

「それにあんた、雷を使ってたわよね。ずいぶん使い慣れていたみたいだけど。それについても聞きたいわ」

 

案の定、ここぞとばかりに質問を重ねて来た。確かに気になるよな。『霊力が多いだけの木偶の坊』なんて言ってた俺が雷撃を扱い、更に復活までしたのだから。そりゃあこうなるよな。

 

本当は語りたくない。俺の秘密を聞いたらこいつらが俺をどういう風に見るか怖いからだ。でも俺は元々それを覚悟してこいつらの前に現れたんだ。ここで言わなきゃこいつらも納得しないからな。筋は通さないとな。俺は一度息を吐いて、話を切り出した。

 

「……御察しの通り俺は霊力が多いだけってわけじゃない。俺にはちゃんと能力が備わってる」

 

「!」

 

一同驚いていたが俺は無視して話を続けた。

 

「俺の能力は【自然を操る程度の能力】とでも言えばいいのか。この世界じゃなんたらの程度って言うんだろ?俺は自然に働くものを操ることができる。自然治癒、自然災害、そして超自然現象。自然に関するものなら俺は操れるんだ。雷を出したのもその一端だよ」

 

「まって。そしたら辻褄が合わないわ。だって頭を飛ばされて死んだはずの人間が能力を発動して復活なんてあり得ないもの。不自然だわ。………!!!」

 

パチェさんは即座に反論をしたが自分の発言のどこかで気付いたかのように眉間にしわを寄せた。こいつほんと頭いいな。察しがよすぎて怖いんだが。

 

「おいパチュリーどういうことだぜ?」

 

「いいかしら。人は傷を負った時や治すときは必ず体力を消費するものなの。それが自然の摂理で当たり前のことなのよ?」

 

「それがどうしたんだ?」

 

「3日前の咲夜と美鈴の傷を治したのは皐月よ。美鈴が言ってたけど傷は重症だったはずよ?なのになぜ美鈴は元気なまま館内へ入って来たのかしら?普通自然治癒能力を向上させたのなら体力もそれに比例して減るはずでしょ?どうだったの?美鈴、咲夜。貴方たちの体力はどうなった?」

 

パチェさん改めパチュリーがどんどん当たりを引いていく。流石に恐怖通り越して感心したわ。良かったこいつがあの時の敵(・・・・・)じゃなくて。だとしたらあの時以上に苦戦を強いられていただろうからな。

 

「た、確かに身体がすごく軽かったです」

 

「普通ならダメージの蓄積も含めて身体は動かないはずだものね。それなのに不自然なくらい動けたわね」

 

「つまり皐月の能力は自然の理そのもの(・・・・・・・・)を操れるのではないかしら?」

 

パチュリーの推理が終わり、それと同時に全員が俺の方へ向く。どうやら推理が当たってるかどうかを求めているようだ。ま、ここまでにて答えないってことはないから信用してほしい。

 

「正解だ。俺は自然を操れる。でも同時に『不自然』をも操れるのさ。不自然なものをまるで自然なようであるかのように。しかも俺の意思とは関係なく発動するものもある」

 

俺の能力は自然を操れる。だがそれは自然の理をも操れるということ。俺は言葉を極大曲解をして自然の摂理から外れた存在になってしまった。自然という言葉に属しているものすべてを。

 

「それが……再生能力、ということですか?」

 

「それもだけど、俺自身は自然の摂理から切り離されちまってる。本来なら輪廻転生の理で俺は死んだら生まれ変わるはずなんだ。なのにこうして『神条皐月(・・・・)』として生きている。つまり俺は怪我じゃ絶対に死なない、魂も切り離せない完全な不死ってわけだ。しかも俺は死に直結する怪我を負ったら能力が勝手に発動して死なない程度に回復する。しかも超スピードで細胞の一つ一つから全てを。そして峠を越えたら今度は俺の意識が覚醒して怪我が治ってくってのがいつもの流れだ。どうだ?不自然だろ?でもこれが俺の能力の全貌なのさ。死にたくても死ねない、気付かれたくなくても気付かれ、そしてバケモノと忌み嫌われる。それが例え家族であったとしてもだ。だってそうだろ?そんな奴がいたら厄介者にするのが自然だからな」

 

「あんたならそれを書き換えられたんじゃないの?その自然を操ればあんたは……」

 

「霊夢、お前はほんといつもこういうところは鋭いよな。でもダメだ」

 

「なんで!」

 

「俺の能力の使えない所は『人の思う自然は操れない』ってとこでね。以前操ろうとして出来なかった。幾つかのパターンを試したけど駄目だった。それにほら、お前らの思う自然ってのが変わってないのが何よりの証拠だろ?」

 

俺のこの言葉を聞いて、全員が言葉を詰まらせた。そう、概念を見たり行使したりはできる癖に人類に根付いた『自然とは何か』という認識を変える事は不可能なのだ。そのせいで俺は何度も命を狙われ、何度も死のうとした。その度に復活し続けた。外傷がダメなら溺死も試した。だがダメだった。死なない措置として水中で呼吸ができるようになってしまったからだ。

 

なら魂はどうか?そう思って過去の文献を漁って死を呼ぶという桜を探したこともあった。その桜を見つける事は叶わなかったがそれと同時に進めていた臨死体験の法を編み出して魂を召そうとしたが結局寝て起きたかのように普通に起き上がってしまった。今度は老衰すればもしかしたらと思いわざと俺の時間を早めたこともある。不自然に年を取らせて。結局500年進めても姿が変わらず、死ねなかった。これにより俺は絶対に死ぬことができないということが分かった。

 

「さて、以上が俺の話だがどうだ?流石に化け物だと忌み嫌うだろ?」

 

俺は自虐気味に笑い、自分に対して化け物と呼んだ。いくらこいつらが優しくともこいつらは俺を忌み嫌うだろう。

 

「……わけないじゃないですか」

 

美鈴が体を震わせながら何かを言っていた。最初の方が聞こえなかったがこいつは何を言ったんだ。

 

「お前何言ったんだ?」

 

「嫌うわけないじゃないですかって言ったんです!」

 

「?!」

 

何言ってんだこいつ?今の話聞いてたのか?俺は死なないんだぞ?不自然な事を起こせるんだぞ?それなのに嫌わねぇってどうやって…………。

 

「だって皐月さんは私達の事を助けてくれたじゃないですか!自分が化け物だと思われるリスクを顧みず、私達の傷を治して、私の事を身を呈して庇ってくれたじゃないですか!!傷ついて再生してしまうのを見られるリスクを顧みずに助けてくれたじゃないですか!!!そんな人を嫌いになれるわけないじゃないですか!!!」

 

「…!」

 

涙を流しながら俺に向かって『嫌いになれるわけがない』、か。

 

『なぁ、お前は俺のこと嫌わねぇのか?』

 

『どういう意図でそれを言ってるのか分からないけど私はあなたのこと嫌いにはならないわね』

 

『なんでだよ?」

 

『あなたが私の人生の恩人である限り、嫌いになれるわけないでしょ』

 

『……そんな大層なことした覚えないんだが』

 

『バカね。あの時あなたがいなかったら私は独りになってたかもしれないのよ?それに私は個人的にあなたのこと気に入っちゃったしね』

 

『………寝言は寝て言え』

 

『もしかして照れてるのかしら?』

 

『うっせぇな。明日早いんだろ?さっさと寝ないと怒られるぞ』

 

あの時(・・・)俺に一筋の光を当ててくれた言葉をここでもう一度聞くことになるとはな。二度と聞くことのない言葉だと思っていたけど……ここにもいたんだな。あいつ(・・・)と同じ物好きが。ふと、自分が寝ていたベッドに水滴が落ちたのが見えた。まさかと思って自分の目に手を触れるとそこは濡れていた。

 

「あれ……おかしいな。俺、なんで泣いて……」

 

「……それだけあんたが思いつめてたってことよ。安心しなさい。ここはあなたを受け入れるわ。あなたの過去になにがあったのかは聞かないわ。話したくないことだってあるでしょ。でもあなたにとっての幸せがここにはあるわ。過去に縛られないで、今を生きて。未来を見て。私達も一緒に行くから」

 

霊夢はそのまま俺の頭を撫でてきた。魔理沙達も俺のそばに立ち、柔らかな表情で笑っていた。俺は今こそ悟った。ここでは不死身だろうが能力者だろうが本当に全て受け入れる(・・・・・・・・・・)のだと。

 

「ありがとう……ありがとうみんな」

 

こんな時、俺はどうすればいいかわからない。あの時は恥ずかしくてそっぽを向いていたけど内心では嬉しかったんだ。利用するだけの関係ではなく、そこにはちゃんと信頼関係が築かれていたから。外の世界にいた頃は黒川さん以外、俺を化け物として利用してるだけだった。あの猪突猛進なおっさんは俺の受け皿になろうとしてくれてたと気づいたのはあの人が死んだ後だったからな。

 

そして今俺の目の前には俺を受け入れてくれる。それを当たり前としてくれる奴らがいる。そう思うと涙が止めどなく零れ落ちた。

 

「ほんと、ありがとうみんな」

 

俺は霊夢に頭を撫でられながら泣き続けた。

 

 

 

 




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第十一話 紅魔館の主人

どれくらい期間空いたか忘れました。多分一週間(テキトー)。どうも黒鉄球です!

式上零人さん、戦場 rimさん、イリュドラさん、お気に入り登録ありがとうございます!


 

 

 

「落ち着いたかしら?」

 

「あぁ、見苦しいもん見せたな」

 

多分五分ほどだろうか。俺は泣いていた。子供のようにあやされて正直かなり恥ずい。なんか生暖かい視線送ってくるし、すげぇ格好つかねぇ。

 

「気にすんなって。私はどんなお前でも受け入れてたからな!それに私たち友達だろ?お前がどんなもん抱えててもそれは変わんないって!」

 

魔理沙はそうやって得意げに帽子を上げ、ニカッと笑った。まったく敵わねぇな。もし、こいつのような奴が外の世界にいたのなら俺ももうちょいマシな生活送ってたのかな。ま、仮定の話に意味なんてないけど。

 

「霊夢さんいいな……羨ましいです」

 

 

「何かあったかしら?」

 

「え!?いや、なんでもないです!」

 

「?……ならいいんだけど」

 

「美鈴顔赤いよ?どうしたの?」

 

「な、なんでもないです!」

 

「私は聞こえてたけど」

 

「パ、パチュリー様!」

 

なんか向こうはワイワイやってなんだか楽しそうだ。やっぱり身体を張った甲斐があった。でなきゃこんな光景は見れなかっただろうからな。そう考えると俺の存在も少しは役に立ったんだな。

 

そんなことをしみじみと思っていると霊夢の視線が俺の腕へと移っているのがなんとなくわかった。

 

「ねぇ、その傷っていつ治るの?」

 

「こんだけの傷だし、完治するには四日から一週間はかかると思う」

 

実のところ俺は自分のこの再生能力を把握しきっているわけじゃない。分かっているのは傷口が小さけりゃ一瞬で治るし、大怪我ならもっとかかる程度だ。

 

「なんかいい加減な能力ね」

 

「言うと思ったわ。でもしょうがねぇだろ。これが俺の能力なんだから」

 

「なぁ皐月」

 

次いで魔理沙が口を開いた。

 

「なんだ魔理沙」

 

「その能力って他人にも適応されるのか?」

 

「ある程度な。死にさえしなければ俺の能力の効果領域だよ」

 

魔理沙は俺の説明に驚きの声をあげて更に質問を続けようとした。が、それを遮るようにドアをノックする音が聞こえた。

 

「し、失礼します」

 

扉を開けたのは赤い長髪をして、黒い羽を生やした、白いシャツ、黒のベストと黒のロングスカート、赤のネクタイを着用した女の子だった。

 

「あら、こあじゃない。どうしたのかしら?」

 

どうやら彼女の名前は『こあ』と言うらしい。珍しい名前だな。是非とも名付け親に名前の由来を聞きたい。

 

「あの……お客様に、さ、皐月様にお嬢様が、お会いしたいと」

 

……俺を見るたびに言葉に詰まるのは何故なのだろうか。いや、こんな怪我人前にしたら普通そうなるか。再生してるしな。

 

「レミィが?………分かったわ。皐月、立てるかしら?」

 

「問題なく」

 

霊夢に少しずれてもらい、俺はベッドから降りた。少しバランスを崩したが霊夢が支えてくれてなんとか倒れなかった。

 

「大丈夫?」

 

「あぁ、腕を欠損したの久しぶりだからちょっとな」

 

「過去に一度欠損したという事実に驚きなんだけど……」

 

俺の言葉に思わずといった感じでツッコミを入れたパチュリー。まあ普通はありえないからな。あの時は左腕だったかな。今でも鮮明に覚えている。あの時は『姫様』を……っと、んなこと思い出してる場合じゃねぇな。早く行こう。

 

「えっと、こあだっけ?案内してくれるか?」

 

「!あ、え、あの、……はい」

 

俺はこあの前に立った。やはり俺の前だと何故か目をそらし、言葉が少し詰まる。ベッドからじゃ見えなかったが手が震えているのが分かった。

 

「皐月、彼女は男性が苦手なの。だから悪い気はしないでほしいの」

 

後ろについていたパチュリーが少し慌てたように言った。恐らく俺の能力のことを怖がっているのだろうと思っていたのだろう。まぁ思ってたけど。まぁそういう理由があるのなら気にはしない。俺はその意を手振りだけの伝え、パチュリーも一緒に来いという意図を伝えた。流石に彼女一人に俺の相手をさせるのは気がひける。

 

「それじゃ案内頼む」

 

「あ、は、はい……」

 

………とてもやりにくいんだが。

 

 

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

 

「あ、こ、ここが、お嬢様のお部屋……です」

 

「……おう」

 

長い廊下を歩きお嬢様の部屋へと着いた。廊下が長すぎて退屈だったのは口には出さない。怒られるかも知れんから。

 

「お嬢様、連れてまいりました」

 

「入りなさい」

 

こあが部屋の扉をノックしたらすぐに返事が返ってきた。俺は「失礼します」、と一言入れてから部屋に入った。

 

「ようこそ、私の部屋へ」

 

そこには高級そうな椅子に座る幼女がいた。その姿はどこか凛としていて、カリスマ性を感じさせた。

 

「あぁ。えーっと、自己紹介しとくか。俺は神条皐月だ。皐月って呼んでくれ」

 

「そう。私はレミリア・スカーレット。レミリアで構わないわ」

 

一通りの自己紹介を終え、お嬢様改めレミリアは俺の後ろにいたパチュリーとこあを下がらせた。二人で話しがしたい、という理由だ。こういう時の空気は少し気まずい。その空気をレミリアが壊した。

 

「一先ず、貴方にはお礼を言うわ。貴方のおかげで美鈴も咲夜も、フランも誰一人死なずに済んだ」

 

「気にすんなよ。俺がやったことはただの自己満足だ。ただあいつらを守りたかった。そんだけのことよ」

 

事実嘘ではない。俺は霊夢を死なさない為に行動し、フランを止める。結果的に他の人たちの被害が最小限になったと言うだけのことだ。俺がやりたかっただけのことだ。あまり過大評価されても困る。

 

「それでもよ。結果的に貴方はみんなの命を救い、フランの心さえ救ってくれた。だから主人として、姉として貴方にはお礼と謝罪をするわ。ありがとう、そしてごめんなさい」

 

レミリアはそういうと俺の顔、腕と順番に見た。どうやら今回の異変での被害を受けた俺に負い目を感じているようだった。なるほどこいつもか。

 

「礼はともかく謝罪なんていらん。俺が勝手に首突っ込んで負った怪我だぞ。だからお前は謝らなくていい。それでもなんかあるんなら一つだけ言わせてもらう」

 

「ええ、なんでも言ってちょうだい」

 

お?いまなんでもって言った?なら遠慮なく言ってやろう。

 

「今回の異変で目に見えた怪我を負ったのは俺だけだ。俺はこの傷に関しては胸を張って誇るし、後悔もない。だからもう謝んな」

 

「……わかったわ」

 

俺はただ俺の想いを伝えた。俺には後悔も憂もない。霊夢達を救うことができ、結果的にだが俺を認めてくれたみんなとも繋がりを持てた。レミリアは少し不満そうではあったがそれを了承した。一応これで俺とこいつとの蟠りはなくなったと見ていいだろう。

 

「………貴方がフランに好かれた理由が分かった気がするわ」

 

「別に特別なことはなんもやってねぇよ。信頼する。ただそれだけであの子は報われたはずなんだ。あんな大掛かりな異変を起こさなくてもあの子の狂気は軽減されてた」

 

「!………気付いてたの?」

 

「まぁな」

 

レミリアは意外そうに驚いた。実は此度の異変はすべてフランの狂気を解消するために行ったものだ。あの紅い霧で太陽を隠し、フランを外へ出す。吸血鬼にとって太陽は大きな弱点となり得る。それ故に太陽は邪魔となった。そこでこの大掛かりな異変だ。これが止められなければ人間に甚大な被害が出ていた代わりにフランは自由に空を飛べ、狂気に侵されずに過ごせると考えてたのだろう。そう推論を立てた。まぁこれはレミリアにも恩恵があるから完全にフランの為というわけではないと思うが。

 

「貴方、面白いわね。どう?紅魔館で雇われない?貴方のその洞察力と力を私のために使わない?」

 

レミリアが席から俺の前に移動して手を差し伸べながらそう言った。なんというかとんでもなく図太い性格だ。……俺一応勝者なんだけど。まぁそれはどうでもいいや。レミリアの提案は正直魅力的だし三食飯付きで金も入る。魅力しかない。もちろん俺は。

 

「断る」

 

その勧誘をける。外の世界での憂いを断ち、自由に生きると決めた。たとえ好条件であっても俺は今ある生活(・・・・・)を大切にしたい。レミリアはやっばり、と言った顔で手を引いた。

 

「分かってはいたけどここまでキッパリと振られると流石に堪えるものがあるわね」

 

分かってた。その言葉に疑問を抱いた俺はどういうことか説明を求めた。

 

「貴方は知らないんだったわね。私は【運命を操る程度の能力】を有しているの。と言っても自力で使えないんだけどね」

 

「それ操るって言わなくね?」

 

ちょっとした矛盾に速攻でツッコミを入れてしまった。レミリアはクスクスと笑いだした。

 

「確かにね。でも間違ってないのよ。私の能力は未来予知に近いの。その人の運命を見ることでその人に訪れるはずの幸や不幸をなんらかの形で干渉することで運命を左右することができる。だから【運命を操る程度の能力】なの」

 

レミリアの懇切丁寧な説明のおかげで納得いったがここで一つ疑問を抱いた。

 

「その能力で運命ってのはいつでも見れるのか?」

 

「見れるのなら早めにこの力を行使してフランの狂気をどうにかしてるわ。わたしの能力はいきなり頭にそのビジョンが見えたり、夢で見えたりするの。滅多に起きないけど」

 

レミリアの一言で確信した。こいつの能力は俺のと同じだ。俺の場合は夢でしか見れないから使い勝手は悪いが能力としての効果はほとんど変わらない。俺の能力の一端のことを話すか悩ましい。そんなことを考えているとレミリアは「でも」と話を続けた。

 

「でも、私の見た運命と違う未来になったのは初めてだわ」

 

レミリアは少し神妙な顔になり、話をさらに続けた。見たものが違う。どういうことだろうか。

 

「お前が見たものってのはどんなのだったんだ?」

 

「私とフランが外で霊夢と魔理沙を相手に戦ってたわ。でも、途中でフランが狂気に落ちるのよ。それで……」

 

レミリアはそこから先を話そうとしなかった。流石にここまできたらわかる。俺の見たものと同じだ(・・・・・・・・・・)。ならここからは俺から言ってやろう。俺の能力とともにな。

 

「霊夢がフランに殺されるんだろ?【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】で心臓でも握りつぶされてな」

 

「!な、なんで分かったの……」

 

レミリアは目を見開いて驚いていた。心でも読まれたのかと一瞬眉間にシワが寄ったのが見えたのですぐに説明を始めた。

 

「俺の能力だよ。【自然を操る程度の能力】の一端である超自然能力と呼ばれる【予知夢】でその結果を三日前に見たんだよ」

 

「……あなたも同じ能力を?」

 

「ちょっと違う。俺の場合は夢でしか見れない上に頻度がかなり少ない。その上厄介なことに直前にしか見えない。ついでだ。俺の能力のことを話しておこう」

 

俺はレミリアに俺の能力のことを話した。自然現象から超自然現象たる超能力の一端を操れること、俺の傷が再生した理由もフランたちに話したことを余さず説明した。

 

「………そうだったのね。あなたもフランと同じような境遇にいたのね」

 

「俺もあいつも能力を恐れられてたけど、ここにはそれを気にしない奴らがいる。むしろそれしかいないけどさ。当たり前だけど俺も放ったりしない。中途半端に投げるのは嫌いだからな」

 

過程はどうであれ、俺はフランの苦しみを知った。今は部屋の外を出て普通にしているがいつ狂気に侵されるか分からない。だから俺は手を伸ばす。救われぬものに救いの手を、なんて言葉を何処かで聞いたが少なくとも俺は救われた。その意図がなかったとしてもその事実に変わりはない。だから今度は俺が手を差し伸べる。後悔の無いように、誰も失わないように。あの時(・・・)と同じように。

 

「ふふっ、やっぱり貴方は面白いわ」

 

「だからって俺はお前のもとにゃいかんぞ」

 

「分かってるわよ。だから貴方は」

 

レミリアはそう言って俺に告げた。多分俺はこの時のレミリアの顔を一生忘れないであろう。

 

「私の友達として、仲良くしたいわ」

 

吸血鬼としてでも紅魔館の主人としてでもなく、少女としてのレミリア・スカーレットが満面の笑みを浮かべていたのだから。

 

 

 




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紅霧異変〜宴会〜
第十二話 宴会〜鴉の襲来〜


クソ遅れましたごめんなさい、黒鉄球です!




 

 

「偉い人数が来たもんだな」

 

「いつもの事よ。あんたの歓迎会でもあるんだからあんたも楽しみなさいよ?」

 

レミリアとの話が終わった数日後、博麗神社にて異変解決を祝して宴会が開かれた。しかも俺が幻想入りしたということもあり、いつもより豪勢になっているらしい。魔理沙や紅魔館の連中、その他知らない顔がいた。ざっと数えても50はいる。しかもその半分以上が羽生えてる。霊夢曰く、妖精らしい。妖精、子供ばっかだな。

 

「しかし、よくまぁここまで集まったな」

 

「みんな騒ぎたいだけよ。いつもいつも騒ぐだけ騒いでゴミは私が捨てる羽目になるんだから……」

 

少し憂鬱そうに話す霊夢。なんか苦労が偲ばれる。本当に苦労してるんだろうな、と容易に想像がつく。さっそく酒瓶倒してるやついるし。

 

「てめぇなに酒倒してんだゴルァ!お前啜れよ?!それ勿体ねぇから啜れよ!!」

 

「え、あ、ちょ、おま、待てってゴブボボボボボっ!!!」

 

……酒を倒したやつが怒られて地面に顔面を押し付けられてる瞬間に俺はそっと目を逸らした。あの黒い羽と赤い下駄には見覚えはないが多分鴉天狗だろう。カラスの要素は黒い羽しかないが俺の見た伝記(・・・・・・)通りならだけど。ていうか縄張り意識が強くて頑固って聞いてたんだけどなんで普通にここにいるのだろうか。謎い。

 

「どうもどうもどうも!!!」

 

「うおっ!?」

 

踵を返してその場を立ち去ろうとしたら目の前にいきなり女の子が降り立ってきた。思わず驚いて後ろに飛んでしまった。その時に全体像が見えた。黒いスカートに白のワイシャツ。胸には黒のリボンをつけた赤い下駄を履いた女の子。そして一番特徴的だったのは背中に生えてる黒い羽。鴉天狗(仮)か。てか……。

 

「いきなり出てくるんじゃねぇよビビるだろうが」

 

「あやや。これは失礼しました!」

 

俺の指摘にすぐ反応して謝ってきた。そして右手を額にあて、敬礼をした。といっても手に持ってるメモ帳がとても気になるが。

 

「私、清く正しい射命丸こと、射命丸文です!あなた、最近外の世界からきた方ですよね!ぜひ話を伺いたいのですが!!!」

 

めちゃくちゃグイグイ前に来るなこいつ。鴉天狗は頑固で真面目。融通が利かず、縦社会に厳しいって聞いてたんだけどなんで人間の俺に敬語使ってんだ(・・・・・・・・・・・・)

 

「あの……聞いてます?」

 

「え、あぁ、悪い。少し考え事をな。で、さっきから気になってたんだけどその手に持ってるメモ帳は?」

 

話を聞いてるか不安になって敬礼が崩れていたので少しだけ申し訳なくなったがそれよりもこいつの態度と手に持ってるメモ帳が気になったからとりあえず話を進めてみることにした。

 

「え、あぁ。私は文屋なんですよ。『文々。新聞』というものを書いてるんです」

 

「……新聞?」

 

どうやらこの鴉天狗は新聞記者らしい。あぁ、だからメモ帳を持ってたのか。確かにそれならメモ帳を構えてる理由に合点がいくが……なぜ今構えてるんだろうか?

 

「ええ!私はここ幻想郷で起きた出来事を記事にしてみんなに配ってるんです!もちろんお金は取りますけどね♪」

 

成る程なんとなくわかってきた。こいつは俺のことについて書く気なんだな。外来人の幻想入り&異変解決。この両方を抑えれば確かに売れ行きも話題性もある。目立ちたくない俺としては出来れば断りたいところだけど……。

 

「取材させてください!」

 

こんな目を輝かせてるやつを諦めさせるのは骨が折れそうだ……。

 

「答えられんものは答えないからな」

 

俺自身が折れる。これが最善で最短の答えだった。

 

 

 

 

-------

 

 

 

場所を変えて縁側に座った。立ち話もなんだから座って酒でも飲みながらやろうと提案した。外の世界じゃ酒は二十歳からだったし、飲んだことないのに我ながら変なことを提案したものだ。

 

「それでは取材の方を始めたいのですが………」

 

最初の方は「え!いいんですか!じゃあそうしましょう!」と乗り気だった文が縮こまってしまっている。まぁ理由はわかってるんだけど。

 

「「………」」

 

霊夢とフランの視線のせい(・・・・・・・・・・・・)だ。この二人は俺が縁側に文と座った途端霊夢は奥の部屋から、フランは飛んで来たのだ。なんか誰かの止める声が聞こえた気がしたが気のせいということにした。考えるとめんどくさそう。

 

霊夢とフランがなぜか睨みをきかせているせいで本当にやりずらそう。この視線だけで人殺せるんじゃねぇかと思うくらい怖い。向けられてない俺がいうのだから間違いない。

 

「お前ら落ち着けって。ただの取材だから」

 

「だからでしょうが。こいつロクなこと書かないわよ」

 

霊夢が目つきを変えないまま言った。俺としてはそれは少々困るから例えばどういうことを書くのか興味がある。

 

「例えばどんなのだ?事件ばっかり取り上げるとかか?」

 

「そんなわけないでしょ。こいつの書く新聞の半分は本当のことを書くの。でも残りの半分は話題作りのために変なのが書き足されるのよ」

 

霊夢は少し遠い目をしながら言った。まるで過去の黒歴史を振り返るように目が死んでいた。こいつ一体何を書かれたんだろうか。ものすごく気になるんだが。

 

「てか、全然清くも正しくもねぇじゃん」

 

「いやぁ、あれはああ書いた方が面白いかなって思いまして。でも反省はしてますよ?……霊夢さんが鬼の形相で追い回して来たので流石に」

 

今度は文が死んだような目をしていた。それだけ怖い体験をしたということか。そしてそんな事をするまでに霊夢を怒らせたのか。ほんとどんな記事書いたんだこいつは。

 

「当たり前よ。あんたのせいで魔理沙と誤解を解くのに凄い時間かけたんだから」

 

霊夢の言動的にどうやら魔理沙にも被害はあったようだった。可哀想に。だが余計にその記事を読みたくなったのは内緒だ。こんど文に読ませてもらおう。

 

「それでお兄様どうするの?しゅざいうけるの?」

 

さっきから空気だったフランが声をかけてきた。ただ、タイミングが少し悪い。具体的には最初の言葉が危うい。

 

「あ、お前今それ言ったら…「お兄様(・・・)!?い、一体どういう事なんですか?」

 

ほら見ろ文が食いついた。霊夢がまだ睨みをきかせているというのにそんなものは後回しだと言わんばかりにメモ帳とペンを構えている。まずいな。何がまずいってこのままじゃ要らんゴシップ記事を書かれそうだ。下手なことは言わないようにしないと。

 

「そのままの意味だよ?」

 

フランが悪びれもなく答えた。当然かのように。俺はすかさずフォローを入れた。

 

「フランの相手をした結果だから。やましい意味はないから」

 

いや、もっとマシな言い訳あっただろ。何テンパってんだ俺。絶対変な事を書くなこいつは。だが、目の前の光景は文が「なるほど、異変解決が……」とブツブツ言いながらメモを取っていた。

 

「それじゃあ次の質問いいですか?」

 

メモを終えた文が更に質問をしてきた。どうやらさっきのでスイッチが切り替わったらしい。ここまできたら断るのも申し訳ないので頷いておいた。文はじゃあ、と一言置いて次の質問を決めたらしい。

 

「皐月さんと霊夢さんって付き合ってるんですか?」

 

「は?「ぶはっ!?」

 

いきなり異変とは関係ない上に予想だにしない事を聞かれた為素っ頓狂な声を上げてしまった。そして霊夢は口に運んでいた酒を文に向かって噴き出した。

 

「うわっ!ちょっ、いきなり吐かないでくださいよ!」

 

「あ、あんたが変なこと聞くからよ!!」

 

霊夢が顔を真っ赤にして猛抗議をしていた。別に恥ずかしがってるとかではなく、普通に怒ってる。何故ならこめかみに青筋が浮かんでいたからだ。ほんと、このゴシップ記者は下世話が好きらしい。

 

「……とりあえずハンカチ貸してやるから顔拭け」

 

俺は左ポケットからハンカチを取り出して文に差し出した。流石に酒まみれのやつと話はしたくない。それに風邪を引かれても困る。

 

「え、あぁ、ありがとうございます」

 

「気にすんな。そんでさっきの質問の答えだけど『ノー』だ」

 

さらっと質問に答えて適当に流す。文はハンカチで顔を拭いて、すぐにその事をメモし始めた。

 

「………」

 

なんでか知らないけど霊夢の視線が俺に向けられている。しかも睨みつけてるように見える。なんか怒られるようなこと言っただろうか?わからん。霊夢の事で悩んでいるところでフランが俺の服の袖を引っ張っていた。どうかしたのだろうか?おしょんか?

 

「どったの?」

 

「え、えっと……」

 

何かを言おうとしているが口ごもっている。本当におしょん案件なんじゃないかと思う反応だった。しかし、俺の予想とは違う答えが返ってきた。

 

「い、今までにいたことって……あるの?」

 

どうやら俺の彼女歴を聞きたかったらしい。ふむ、彼女いない歴史=年齢の俺にその質問をしてくるとはこいつ、無自覚に俺のHPを削ってきやがる。ま、別に気にしてないけど。だからそんな恐る恐る聞くな。なんか悪い気がしてくるから。

 

「いねぇよ。じゃなきゃ今頃俺は幻想郷(ここ)にいないからな」

 

多分俺に彼女がいたらどこかに行こうなどとは思わなかっただろう。俺は割と自分の性格を理解している。俺の性格上、幻想郷(ここ)に連れてくるか外の世界に残ってるはずだからな。

 

「そ、そっか……よかった

 

俺の答えに満足したのか、安心した顔をした。何故だろう。隣では霊夢が落ち着いた顔をして酒を口に運んでいた。ものすごいペースで。明日二日酔いにならないか心配である。

 

「次変な質問したら叩きだすからね」

 

「い、嫌だなぁ霊夢さん。もうしませんって。だからお酒を飲みながら殺気をぶつけないでくださいよ」

 

お怒りモードで酒飲むとかこいつ怒り上戸じゃないだろうな?文は咳払いをした。

 

「それじゃあ次の質問に行きますね。なぜ幻想郷に?」

 

さっきとは打って変わって真面目な質問をしてきた。まぁでも人を取材するのに当たってこの質問は至極真っ当な質問だ。しかも俺がすんなり答えられるような質問。(こいつ)実は普通の記事だけでも売れるんじゃねぇかな。

 

「そうさなぁ。強いて言えば家出だな。俺は人を信用してなかったし疎まれてたからな。旅でもしようかと思ってその祈願でちょっと山奥の神社にお参りしようと思った矢先に博麗神社(ここ)の賽銭箱の前に飛ばされたんだよね」

 

あれから約二週間ほどしか経っていないのに少し懐かしく感じた。それだけ幻想郷(ここ)で見聞したものが色濃いものだったという事なのだろう。文はかなりの勢いでメモ帳に俺のことを書き記していく。思いっきり書き殴っているように見えるから後でちゃんと読めるのか不安だな。

 

「……では次行きます!ぶっちゃけどうやって異変を解決したんですか?というかなぜ紅魔館へ?」

 

「え、あー、それか。そりゃ嫌なもん見ちまったからな。霊夢を死なせるわけにはいかなかったし。まぁ答えは誰も死なせたくなかったからだな」

 

俺の能力のことは伏せつつ、ありのままを説明した。実際のところ嘘は一つも言ってない。俺のポンコツ能力である『未来予知』で霊夢が殺される未来を見たからそれを阻止するために動いた。それだけのことだからな。文は頭に?を浮かべていて、つまりどういうことだってばよ状態だった。そして文はそういう事かという顔をした。

 

「つまり愛ですね!」

 

だめだこのバ鴉全然反省してない。ついさっき霊夢に怒られて叩き出すって言われたのに同じ系統のことを言いやがった。霊夢は冷静に懐からお札を取り出して霊力を込めた。

 

「さ、話は終わりよ。帰りなさい」

 

「ご、ごめんなさいつい」

 

霊夢の凄みですぐに文が「あやや……」と少し残念そうに萎縮したフリ(・・・・・・)をしていた。こいつやっぱり反省してないようだ。自然とため息が出てしまう。あとフラン痛い。二の腕を思い切りつねらないで欲しい。爪が肉に食い込んで血が出そうなくらい強く抓っていた。このままだと左腕もなくなってしまう。そんな未来は見たくないのでフランに一言痛いからと言ったらすぐに離してくれた。あーあ、ミミズ腫れコースだ。

 

「それじゃあ次で最後にしますね。私だけに時間を取らせるのも申し訳ないので」

 

次が最後。この言葉を聞いて安堵したのは気のせいだろう。霊夢が不機嫌になったりフランが抓ってきたり被害を被っていたとはいえ、流石に安堵するのは失礼というものだ。いやまぁこいつの自業自得なんだけどね。まぁそんなこいつでも流石にもう失礼な質問はしてこないだろう。

 

「皐月さんって、どんな能力持ちなんですか?異変を解決するくらいの力がある人間なんてそうそういませんからね。私気になります!」

 

その瞬間、場の空気が凍った。今までタブーとされてきた能力の話。霊夢とフランは気まずそうな顔をしていた。恐らく俺の境遇のことが頭を過ぎったのだろう。しかし、当の俺は全く違うことを考えていた。いずれバレる事。今明かそうが後からバレようが結果は変わらない、そう考えていた。恐らくここの人たちは受け入れてくれるはずだ。ここは幻想郷。外とは違うのだから。

 

「わかった。教えてやるよ」

 

かなり意外だったのだろう。霊夢とフランが顔をバッと上げて俺の方を見た。霊夢は「いいの?」と聞いてきたが俺はすぐに「構わない」と答えた。たった二言ではあったが霊夢は納得したように顔をそらした。フランは袖をつかんで、心配してますと言わんばかりに力を込めていた。だが、俺の言葉を聞いてすっと袖から手を離した。

 

この一連の光景を見ていた文は申し訳なさそうな顔をしていた。いけない地雷を踏んだのではなかろうかと思ったのだろう。俺は気にするなと一言言って話をつなげた。

 

「俺の能力は【自然を操る程度の能力】だ。自然災害、自然治癒、超自然、不自然。ありとあらゆる自然の名を冠するものを操れる。ただし自然の概念そのものは操れない。例えば人が『これ不自然(おかしい)ね』って思う思考そのものを『これが自然(当たり前)だよね』と思わせることができない」

 

「え、何ですかそれメチャクチャ強い能力じゃないですか!」

 

文は興奮しながらメモ帳にスラスラと書き込んでいた。小声でとくダネだぁ!とか言っていたが気にしない方向で行こう。文が鉛筆を止め、そういえばと言葉を繋いだ。

 

「そういえばなんで皐月さん、右腕ないんですか?」

 

「「……」」

 

突然の爆弾発言に思わずフランと霊夢は顔がこわばっていた。霊夢からすれば守るべきものを守れなかった結果であり、フランからすれば自分の暴走のせいで失ったものだ。居た堪れなくなる気持ちはわかるが気にしないでいただきたい。そう言っておいたはずなんだけどな。

 

「あれ、もしかして聞いちゃいけないこと聞きました?」

 

流石の文も爆弾を投下したことを認識したらしい。

 

「気にすんな。そんで右腕のことだったな。これは今回の異変での傷だ。じき治るから気にすんなって言ってんのにこいつらがまだ気にしてるだけだから」

 

俺はなんてことのないというふうに言った。実際気にしてないから言えたことだが少なくとも二人からすれば負い目にしかならないだろうが、いつまでも気にしないでいただきたい。

 

「じきに治る!?それも能力の一端ですか!?」

 

不用意な発言をしたのは俺も同じのようだ。別にもう隠す必要のない事だから普通に暴露してしまった。

 

「まあな。俺自身が『自然と不自然の境界線』上にいるからか普通じゃ治らない傷も時間はかかるけど再生するんだよ」

 

流石に死んでも復活するという点は伏せた。別にこれは知られて困るとかではなく、倫理的に考えてアウトラインだと思っただけのこと。そんなことを知らずに文は「とんでもないことを聞いたぜひゃっはー!」とテンションが上がっていた。これからはこいつの前で不用意な発言するの止めようと思った。

 

「いやぁこれはなかなかいい記事が書けそうですよ!ありがとうございました!」

 

文は一通り書き終わったら凄い勢いで空へと飛び上がった。フランが小さな悲鳴をあげた。それほど唐突で、素早い動きだった。

 

「……慌ただしいやつだな」

 

「それが射命丸文よ。でもあれでも『風神』の異名を持つくらいの強さはあるわよ」

 

「……What?」

 

あっけらかんと言っていたが今霊夢は風神と言っていた。

 

『風神』。書いて字のごとく、風の神様。一般的に風神の名は風を操り、素早い動きをする者に与えられる二つ名である。この名を冠するということはつまり文は風を操れると見て間違い無いと思う。参ったな、こりゃとんでもないやつと知り合ってしまったかも知れないな。

流石の俺も『風神』の名を持った奴とは会ったことがない。

 

「く、くくくっ」

 

「……皐月?」

 

不意に笑いが、笑みがこぼれた。なぜ笑ったのかは分からない。だが唯一わかったのは。

 

「ほんと、面白えな。幻想郷ってのは」

 

俺の中に流れる血が滾った感覚があった、ということだ。

 

 

 

 

 

 




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第十三話 宴会〜人形使い〜

お気に入り登録者が追いきれなくなった(自業自得)
しかし!こんな駄作に登録してくれた方々とても感謝してます!


 

 

 

文から解放された俺は縁側で日本酒を嗜んでいた。怒涛の質問攻めで疲れたということもあってか口に運ぶ回数は増えていた。だが酒に強い体質なのかあまり酔ってはいなかった。因みに今は俺一人だ。霊夢とフランはレミリア達の元へ向かっていた。なぜ俺が向かっていないのかというと知ってる人の元へ行ったら入り浸りそうで他と交流が持てないと思ったからだ。せっかく自分の能力のことを吹っ切ったのだから色々な人と話したかったのだ。これはその前の休憩のようなものだ。

 

「おーい!」

 

あぁ、神様よ。何故休憩をしているのに更に疲れるような人間を俺の元へと呼び寄せるのでしょうか、と神にはあまり祈らないくせに神に文句を言う俺であった。

 

「よう皐月!友達連れてきてやったぜ!」

 

霧雨魔理沙はそんなこともつゆ知らず、満面の笑みで俺の元へと駆けてきた。

 

「頼んでもないことをわざわざやりに来るとはご苦労なことで。で、その子の名前は?」

 

皮肉たっぷりの答えを返しながらも一応傍にいる少女のことを聞く。

 

「アリスよ、アリス・マーガトロイド。よろしく」

 

そう答えたのは魔理沙ではなく傍の少女だった。青色と白いフリルを基調としたドレスを着た金の単発をしていた。ぱっと見人形に見えるほど顔が整っていた。こういうのを「わぁ、お人形さんみたい」というのだろう。え、違う?気にしない気にしない。

 

「よろしく。俺は神条皐月だ。誠に遺憾ながらそこの騒がしい金髪魔女っ子の……知り合い?みたいなもんだ」

 

「ひっでぇな!友達だろ!?」

 

「あら、奇遇ね。私も誠に遺憾ながらこの子の知り合いなの」

 

「アリスまで!?」

 

ジョークの応酬で肩をがっくり落とす魔理沙だが俺もアリスも気にしない。相手にすると面倒臭そうだから。それにしても適当なジョークにちゃんと返してくれるとはこいつ中々やるな。姫様との会話を覚えててよかったぜ。お陰で距離感を間違えずに済んだ。

 

「安心しろ魔理沙、軽いジョークだよ。ちゃんと友達だって思ってるから」

 

「当たり前だ!出会い頭にどキツイ事言いやがって!ちゃんと友好関係築けてるようで安心だよちくしょう!」

 

ここで安否を心配してくれる魔理沙はやはり優しいと思う。隣にいるアリスも魔理沙に「ゴメンゴメン」と肩を軽く叩きながら言っていた。こいつらも大概仲がいいな。それよりも俺はさっきから気になってることがある。アリスの横に浮いているものについてだ。

 

「なぁ、それ人形か?なんで浮いてんの?」

 

俺は横に浮いてる人形について指摘した。どう考えても異能の類だが一応聞いておいて損はないだろう。初めて話す相手にはもってこいの話題だろうから。

 

「え、あぁ。私の能力よ。『人形を操る程度の能力』っていうね。今はこの子は半自律型の人形なんだけど、いつか完全自律型の人形を作るのが私の目標なの」

 

人形使いアリス・マーガトロイドと言ったところだろう。アリスが「挨拶しなさい」と言ったら人形がお辞儀をして来た。半自律型というのはどうやら本当らしい。俺は指を顎にあて、「なるほど」と一言ついた。それ程に面白い能力だと思った。

 

「完全自律型の人形か。それは意志を持った人形を作るってことか?」

 

「あら?この答えにすぐにたどり着くなんてあなた中々頭の回転が早いのね」

 

アリスは感心したように言った。俺も「まぁな」と一言言った。なぜ、俺がこの答えにたどり着いたのかというのはとてもシンプルな答えだ。先程人形はアリスの命令で挨拶をした。これは人形に魔力を流して命令を下しているのと同義だ。つまり完全自律型というのは命令をする事なく動く人形ということになる。あたりをつけるのは造作もないことだった。

 

「お前凄いな……。魔法のことなんて全く分からないのに」

 

魔理沙が目を見開いて驚いていた。魔法歴で言えば断然俺より先輩だ。てんでど素人な俺が導き出したのが信じられないのだろう。

 

「外の世界じゃクローンなんてものを作ろうとしてる時代だからな。想像するのは難しくねぇんだよ」

 

「くろーん?なんだそれ?」

 

クローンとは細胞を活用して作り出された人間のことを指す。その細胞の持ち主と同じ容姿、同じ声、同じ思考能力を持った分身だ。幻想郷には伝わっていないのか魔理沙は目に見えてはてなを浮かべていたので説明してやった。魔理沙もアリスも「ほへー」と夢物語を聞いたかのように返事をしていたのがなんとなく面白かった。

 

「外の世界の連中は面白いこと考えるな!」

 

魔理沙は単純だから無邪気なことを言っているがアリスはずっと黙っていた。

 

「………ねぇ」

 

答えがまとめ終わったのかアリスは口を開いた。

 

「そのクローンって本当にその人なの?」

 

「いい質問だな。こればっかりは俺も分からんし想像でしか言えないけど俺はその人とは呼べないな」

 

アリスは俺の回答に対してやはりと言った顔をしていた。普通に考えたら「クローンってその人の思考を持った分身だろ」という答えに辿り着く。だがそこまで単純な話ではない。その細胞の持ち主の記憶を持った全くの別人(・・・・・)なのではないかと俺は考えている。思考回路は全く同じでもその次に考えるのはあくまでその時生きてるそいつ自身だ。同じであって同じではない行動をとる。なにせ全く同じことをする人間はこの世には存在しない。見て、触れて、学んだものが違うのならばそれはもう一つの可能性のその人だ。同一人物であって別人であり、別人であって同一人物なのだと俺は思う。

 

アリスは俺のこの説明に納得をした顔をしていた。魔理沙も同様納得した顔をしていた。魔理沙、バカなのに頭いいから理解してるんだよな。なんか悔しい。

 

「あなたのいた世界って凄いのね。でも、理論上は出来そうなものなら私の悲願もいつか叶うのかしらね」

 

クローン技術の話を聞いて少し自信がついたのか笑顔だった。アリスの目的は完全自律型の人形を作ること。人格を埋め込み、人と同じ様にする。科学的にはそれなりの理論が成り立っている中、魔法にもその理論はあるはずだと考えたのだろう。俺は思った。魔法使いというのはみんなこういう生き物なのか、と。魔理沙を除いて。

 

「いま少し不穏な空気を感じたぜ」

 

………魔法使いはみんな心を読む力でもあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 




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第十四話 宴会〜紅魔館〜

テスト期間から風邪をひき、治ったと思ったら合宿が始まり、終わったと思ったらまた風邪をひいた黒鉄球です。

はぁ、沖田さん宝具3で止まっちゃった、


 

 

 

不快極まりなかった。何がと問われれば迷わず答えられるくらい不快な思いをした。宴の席だからと思っていたけれど限界だった。一体何度手を出せば良いのか。一体何度言えばわかるのか。本当に、不愉快だ。

 

「それでそれで僕とお友達から始めてそのままゴールインしてくださぎゃあああああああああ!!!!」

 

本当に何度目よ。同じセリフを吐いた烏天狗(・・・)を殴り飛ばしたのは。

 

 

 

 

 

-------

 

 

 

 

アリスとの会話を一頻り楽しんだ俺は彼女たちと別れて紅魔館の面々がいる方向へと足を運んでいた。度々妖力が膨れ上がっていたからさっきからとても気になっていた。酒の席ゆえに誰かが酔って喧嘩でもしてるのかと思ったが何やら感じ取ったことのある妖気だったからまさかと目を逸らしながらもアリスと話をしたり文の質問責めに答えていた。ちょうど手持ち無沙汰になったし事実を確かめに行こうとしているところだ。だが足取りは少しだけ重い。何故ならさっきから俺の向かっている方向から男の叫び声が聞こえてくるからだ。「ぎゃあああ!」だの「のぶぁぁぁぁぁぁ!」だのそれはもう次から次へと。

 

「なーにやってんだか。まぁあたりはつけてるんだけどさ」

 

多分レミリアが酒に酔って片っ端からボコボコにしているのだろうと勝手に決めつけている。フランが俺から離れてすぐに酔うわけないし咲夜はこういうのはちゃんとしている。美鈴は多分咲夜が見てるから羽目を外さないだろう。パチュリーとこあは多分嗜む程度にしか飲まないだろう。とするとレミリアしか考えられないのだ。レミリアからもちろんそういうイメージは湧かないが感じる妖力はレミリアのそれに限りなく近い。とするとそれはもうあたりと言ってもいいだろう。紅魔館の面々でレミリア(酔っ払い)を止められるのは多分パチュリーかフランくらいだろうが多分何もしてない。と言うことは俺しか止められないかもしれない。そしてその考えは改めなければならないかもしれない。

 

「ありがとうございまああああああす!!」

 

「あっぶな!?」

 

俺めがけて人が飛んできた。咄嗟に横に避けた。危うく男とぶつかって二人が被さって誰得状態になるところだった。よく見れば黒い羽が生えていたから烏天狗だろう。いくら吸血鬼だからといって幼女が大の大人をぶっ飛ばすとか近づきたくなくなる。マジで怖いが、さっき烏天狗は「ありがとうございます」とお礼を言っていたが……。

不意に目線を前に戻すとそこには肩で息をしているレミリアと顔の引きつった咲夜がいた。フランは笑っていてその他3名は我関せずと3人で飲んでいた。

 

「………これなんて言う状況だ?」

 

思わず声が出てしまうくらい、意味がわからない状況だった。

 

 

 

 

 

-------

 

 

 

 

 

「成る程。つまり酒の席なのをいい事に咲夜に言い寄ってくる烏天狗たちを片っ端からぶっ飛ばした、と」

 

「そうなのよ!縄張り意識が高いから変なアプローチはないと思ってたのに咲夜にやれ文通だのけ、けけ、結婚だの!万死に値するわ!」

 

レミリアは大変ご立腹だった。それもそうだろう。烏天狗もそうだが吸血鬼たるレミリアと縄張り意識というか仲間意識が強い。自分の従者を家族同然に扱っているレミリアにとっては不快でしかないだろう。私に勝てる男じゃなきゃ認めないわ!とか言い出してもおかしくない。

 

「お、お嬢様。私は別にどうということも……」

 

「咲夜は黙ってて!あんな下心丸見えの男共にして渡してやる程咲夜は安くないわ!あー!また腹立ってきた!一層の事滅ぼしてしまおうかしら!」

 

頭に血が上りすぎてて心配になってきた。流石に烏天狗対吸血鬼の全面戦争は見たくない。多分弾幕勝負とかそんなレベルでなくレミリアの一方的な虐殺になるだろう。そんな未来が本当に見えそうだから笑えない話である。

 

「落ち着けレミリア。弾幕勝負ならともかく殺し合いとなったら紫が黙ってねぇ。むしろお前が殺されるかもしれないぞ」

 

レミリアはうっ、と少し詰まった声を出した。それもそうだろう。『幻想郷の賢者』と名高い八雲紫は恐らくこの世界において最強の位置に君臨する存在だ。至高の吸血鬼の末裔のレミリアといえど一筋縄じゃいかない。

 

「くっ、ここに来て幻想郷のルールが邪魔するのね。……ってちょっと待った。弾幕勝負ならいいのよね?」

 

「え、あぁ、まぁ、そうだが……」

 

咄嗟のことで反応が少し遅れてしまった。少し考えれば分かることだが、俺は言葉を言い終わった時に気付いてしまった。レミリアは弾幕ごっこでボコボコにする気だ(・・・・・・・・・)と。

 

「おい待て、レミリア」

 

「それじゃあここは任せたわ!」

 

レミリアは俺の言葉を聞かずに勢いよく飛び出して行った。フランと咲夜が小さな悲鳴をあげ、レミリアのいたところからは土埃が立った。あぁ、やっちまったかもしれない。すまん、名も知らぬ鴉天狗の諸君。アーメン。

 

「おらぁぁぁぁぁ!!!顔は覚えとるんじゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「「「え、ちょ、まっ、ぎゃああああああああぁ!!!!!」」」

 

「ちょっ!?レミリア!アンタ社の前で何暴れてんのよ!ってきゃああああ!!私のお酒がっ!?」

 

遠くで聞き覚えのある怒号と野太い叫び声と霊夢(よっぱらい)の悲痛な叫び声が聞こえた気がしたが俺はサッと目を逸らして目の前の酒に逃げることにした。咲夜がお酌をしてくれたあたりこいつも現実逃避しようとしているのだとわかった。

 

「ね?だから関わらない方がいいって言ったでしょ?」

 

「ありがとうございますパチュリー様!」

 

………ほんと、関わらない方が良い。

 

 

 

 




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第十五話 宴会〜終会〜

夏休み入ってからグータラしてる黒鉄球です


 

レミリアが大暴れしてから約30分ほどで宴会はいつのまにか戦場へと変貌を遂げた。レミリアの一方的な弾幕勝負(だいぎゃくさつ)が終わった後に魔理沙が飛び入りで参加し、それに乗じて妖精たちが大暴れ。霊夢がこれを鎮圧するために容赦のない一撃をかましていた。恐らく酒をこぼされた恨みも混じってたと思う。

 

そして当の本人であるレミリアは30分もぶっ通しで暴れまわったからだろう、疲れ果てて今は美鈴に背負われて眠りについていた。境内には無数のクレーターがあるがこのうちの半分以上がレミリアの戦果。残りは魔理沙のマスパと霊夢の怒りの一撃によってできたものだ。俺は我関せずを貫き通し、散りゆく黒い羽根や妖精達を尻目に酒を飲んで現実逃避をしていた。目をつけられるの確実にとばっちりが来るからな。

 

「ゴルァ!今私に弾幕打ち込んだやつ出てきなさい!ぶっ殺してやるわ!」

 

「わー、はくれいのみこがおこってるー」

 

「にげろー!おにみこだー!!」

 

「お前らかああああああああぁ!!」

 

鬼巫女(れいむ)の怒号とともに爆音が生まれ、また新たにクレーターが出来上がった。巻き込まれた妖精達はキャーキャーと叫びながら逃げ惑い、それを鬼の形相の霊夢が追い回すという死と隣り合わせの鬼ごっこが開催されていた。本来の敵はレミリアだぞ。妖精に八つ当たりしてどうするよ。

 

「ま、霊夢だし久々に酒も入ってるから仕方ないぜ。魔理沙さんには関係ないけどな!」

 

「いや、お前もやらかした一人でしょうが。クレーター製造機め」

 

いつのまにか戦場から安置へと帰還していた魔理沙が盃を傾けながら言った。魔理沙も酷く酔っていたのか「褒めてんのか?照れるぜぇ」とか言いながら酒を飲んでいた。どうやら『クレーター製造機』という言葉を『クレーターを作るくらい強いなお前』という意味として解釈しているようだった。しかもかなりドヤ顔しているのがちょっとイラっときた。素面だったら間違いなくこいつを殴ってる。

 

「まあまあ、落ち着いてください皐月さん。酔っ払いの話は半分冗談くらいに聞いておかないともちませんよ?」

 

美鈴はよいしょ、とレミリアを背負い直しながら言った。一瞬だけ何かを憂う表情をしていたのを俺は見逃さなかったが敢えて聞かなかった。なんとなく予想がついていたから。レミリアのアホ。

 

「そもそもの原因はレミリアが大暴れしたせいだろ。博麗神社(ここ)の住人の俺からすりゃいい迷惑だぞ」

 

「それも酔っ払いのせいですよ。ほら、そこで羽根を散らして天寿を全うした鴉天狗のせいです」

 

美鈴が示した方向には某地球人のように蹲り、倒れている鴉天狗の成れの果てがいた。フランがしゃがんで「大丈夫〜?」と声をかけている。こら、離れなさいフラン。変態が感染るぞ。ていうかとっとと起きないと巻き添え食らうぞ。

 

「う〜ん。全然起きないなー。遊んでもらおうと思ったのに」

 

前言撤回。そのまま朝まで寝ていて欲しい。てか寝てろ。でないとフランのおもちゃにされる、もしくは霊夢に追い打ちを食らう羽目になる。だが、後処理も面倒臭いから正直誰か持ち帰って欲しい。

 

「妹様、それから離れたほうがいいです。変態が感染りますから」

 

「お前実は結構怒ってるな?辛辣にもほどがあるだろ」

 

謎のシンクロを生み出した俺と咲夜はもしかしたら思考回路が似ているかもしれない。こんなところで似ていても悲しいだけだが鴉天狗の諸君よ、同情はしないからな。全ては主人(レミリア)の前で従者(さくや)にラブコールなんてするから悪いんだ。

 

「いいえ、私は怒ってませんよ?あまりにも突然だったので恥ずかしかったのと少し嫌な気分になっただけなので」

 

世間ではそれを怒っているというのだが。突っ込もうと思ったが「何もいうな」という目線をひしひしと感じたためそれはやめた。

 

「咲夜、そろそろ帰るわよ」

 

いつのまにか物を片していたパチュリーが言った。この短い会話の間に片付けられるような量ではなかったのだが何をしたのだろうか。ちょっと気になる。

 

咲夜は「はい」と一言だけ言い、会釈をして帰った。美鈴と背負われたレミリア、それを見て肩で息をするパチュリー、その横を歩くこぁと咲夜。その後ろをトテトテとついていくフラン。こんな景色は昔からしたらありえない光景だっただろう。狂気に侵され、外に出すことを許されなかったフランと共に、並び立って外を歩くというのは夢のひとつだっただろう。今回の異変での犠牲者は誰一人としていない。まさに最高の形の結果を迎えた。そしてこれからも彼女らとの交流は続くだろう。だから俺は手を軽くあげ、今まで口にしたことのない言葉を口にした。きっと、こうするのが正解だと思ったから。

 

「またな、お前ら!」

 

その声に反応するかのようにフランはクルリと振り向き、大きく手を振って「またねー!」と言った。咲夜と美鈴は身体を半回転させ、軽く会釈をして步を進めた。こぁとパチュリーは疲れているのかそのまま進んで行ってしまったが、これくらいでいい。こぁは男性恐怖症だし。……っていうかどうやって乗り切ったんだろうか。今度聞いてみよう。そう心に決め、俺は踵を返して真後ろで暴発しまくっている霊力を止めるために步を進めた。

 

「お前らー、そろそろお開きだ!今から止まらない奴は全員俺の一撃で沈めるからなー!」

 

電撃を右手に集めながらそう告げ、俺の初めての宴会は幕を閉じた。この後、約1名だけこんがり肉に調理されたが……そんなことは気にしない。止まらなかった奴が悪い。それがたとえ家主でも、な。

 

 

 

 

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「……よろしかったのですか?()に会いに行かなくて」

 

「ええ、構わないわ。今は……今日はやめておくわ」

 

とある神社を上空から二人の人影が見下ろしていた。それは飛んでいるのではなく、浮いているわけでもなく、動かぬ目がたくさんある空間の中から覗いていた。方や金色の尾を九本(・・)揺らし、鋭い目をしてとある男をその目に収めていた。もう一方は優しげな視線を向けながらその笑みは、とても優しげなものだった。

 

「彼と話す機会なんて、それこそ永遠に(・・・)あるんだから」

 

九本の尾を持つ女性は「そうですか」と一言だけ呟き、皐月の方へ視線をやった。彼女の抱いた第一印象は『不貞の輩』だった。膨大な霊力を有していて、尚且つ嘘をついて博麗神社に転がり込んでいた。更に今回の異変で隠していた能力を発動して異変解決の立役者となった。敵が味方かは別にしても明らかな警戒をしていた(・・・・・・・・・・・)

 

「紫様」

 

「何かしら藍?」

 

「なぜ、貴女はあの男に肩入れするのですか」

 

故に問うた。何故幻想入りを許し、娘同然に大切にしている霊夢の家での居候を許しているのか。興味本位ではなく、同じ八雲として(・・・・・・・)の質問だった。

 

「………いずれ分かるわ。彼が霊夢の側にいるという意味が貴女にも」

 

八雲紫はそう言ってはぐらかした。八雲藍は納得の言った顔をしていなかったが追及はしなかった。一つの思惑を胸に仕舞い込み、件の男、神条皐月から目を離した。

 

「それじゃあまたね、皐月くん。また会いましょう」

 

そう言い残し、八雲紫はスキマを閉じた。

 

 

 

 



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