ロニー・ポッターと賢者の石 (渦巻き子)
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生き残った双子

閲覧ありがとうございます。


プリペット通り4番地の住人、ダーズリー夫妻は「おかげさまで、私どもはどこから見てもまともな人間です」というのが自慢だった。

不思議とか神秘とかそんな非常識はまるっきり認めない人種で、まか不思議な出来事が彼らの周辺で起こるなんて、とうてい考えられなかった。

 

ずんぐりと肉付きの良いダーズリー氏の豊かな口ひげは穴あけドリルを製造する、グランニング社の社長としての威厳を示していた。奥さんのほうはやせた金髪で、普通の人の二倍ほどもある首は、ご近所を詮索するのに大変役立った。そんな二人の息子、ダドリーはまだ一歳になったかならないかの年だというのに、すでにその出来の良さは隠しのようもなかった。もちろん、この二人の親ばかに言わせればの話ではあるが。

 

とにかく、どこをとってもこの一家にはおかしなところはなかったし、絵に描いたように満ち足りた一家であることは言うまでもなかった。

 

しかし今日は様子が違った。

いつもきれいにそろえられているはずの芝生の上では新聞を持った一匹のトラ猫が待ちきれぬように二足で立っていったり来たりを繰り返し、行き交う人は「例のあの人が...」とか「息子のハリーが...」とかと、まだ夏の暑さの残るこの頃だと言うのに真っ黒なマントを着てヒソヒソと話しこんでいた。

 

勿論、世間一般の常識から外れることに関しては、妻と並んで誰よりも厳しいダーズリー氏がそんな異変に気づかないはずはなかった。

 

出勤しようと家を出ると自宅の芝生の上では猫が新聞を読み、空には午前9時だというにもかかわらずフクロウが飛び交っている。行き交う人々は、誰もが幸福そうな顔をして訳の分からない話をしている。

 

猫が新聞を読む時点で信じられない話だが、何より気になったは、マントを着た人々の言う「息子のハリー」の部分だ。確か妻の頭のおかしな妹の息子がそんな名前だった。この妹一家のことは、ご近所の誰にも知られてはならない。もし知られれば…きっと格好の噂話のネタになるだろう。これはダーズリー一家唯一の心配事で、この世で一番恐れているものだった。

 

いや、何かの間違いだろう。猫が新聞を読むなんてあり得ない。それに、ハリーだって、珍しい名前ではない。そもそも、その息子の名前がハリーだと言う確証もないのだ。第一、この暑いなか、あんな長いマントを羽織った頭のおかしい連中が自分にかかわっているはずはないじゃないか。

 

結局、夕方になって帰宅したときは猫もマントを羽織った人々も消えていたのでそのまま気にもとめず、眠りについた。

 

 

 

 

ふと、街頭のあかりが吸い込まれるように消えた。

長いマントを着た、背の高い、このどこまでもありふれたプリベット通りには不似合いな老人がどこからともなく現れた。百歳を超えているかもしれない。それほど年老いている。

 

老人が新聞を持ったトラ猫に近づいくと、次の瞬間、猫は厳格そうな女性の姿へと変わった。

 

「それで、皆の噂は本当なのですか?ダンブルドア」

老人を目にするなり、女性が聞いた。

「噂、とは?」

「『あの人』に関する噂ですよ!噂では…ポッター一家が狙いだった。とか…それで、その、リリーとジェームズが…あの二人が…死んだ…とか…。」

老人はうなだれ、女性は息をのんだ。

「ああ、なんてこと。信じられない!…信じたくなかった、ああ、アルバス…」

老人は手を伸ばし、女性の肩をたたきながら言った。

「分かる、よーくわかるよ…。」

沈痛な声だった。

 

「それで…もう一つの噂は…皆の話では、『あの人』が…消えた、とか。」

女性は声を震わせて言った。

「うむ…」

老人がうなずいた。

「それじゃ、いったいなぜ?二人はどうやって生き延びたと…?一歳になったばかりの幼い赤ん坊が…!」

「それは想像するしかないじゃろうな…。永遠にわからずじまいかもしれん。」

女性はハンカチで目頭を押さえ、老人は鼻をすすった。

 

低い、ゴロゴロ…という音があたりに響き渡った。

途端にとてつもなく大きなオートバイがプリベット通りに現れた。しかしオートバイもそれにまたがる男に比べたら、ずいぶんと小さい。何しろこの男ときたら背丈は普通の人の二倍、横幅は五倍ある。

 

女性は彼が大切そうに抱えている双子の赤ん坊を見て、目を見張った。

「まさか…、この二人をどうするおつもりで?まさか、ここの住人に預けるなんてことはございませんよね?」

女性が憤慨して老人を見やると、老人は言った。

「親戚がこのほかにおらんのじゃ。他にどうすればいいと?これが最善の方法じゃよ」

「ええ…。」

女性はまだ納得しきれない様子で頷いた。

 

大男は赤ん坊を抱えなおして老人に差し出すようにした。

「この額の傷は…。」

女性が男の赤ん坊を見ていった。

「一生消えることはないじゃろう。呪いによって受けた傷じゃ。」

老人がそう言って、男の赤ん坊を抱きよせ、つかつかとプリベット通り四番地の戸口の前に立った。双子の片割れである女の子を抱いた大男が後に続く。

 

「あの、お別れのキスをさせてはもらえないでしょうか?」

大男はそう言うと、あたりに響き渡る大声でオイオイと泣き出した。

「ッシ、マグル達を起こしてしまいますよ」

女性がすかさず注意した。

「す、すまねえ…」

大男はそういいながらもテーブルクロスほどの大きさもあるハンカチに顔をうずめた。」

 

「さて…」

丸々一分間そこに佇んだのち、老人は懐から手紙を取り出して赤ん坊の上にそっと置いた。

「必要なことはすべてこの手紙に書いてある…。二人が成長すれば、おじさんとおばさんがすれて話してくれよう。後ほどお会いしましょうぞ、マクゴナガル先生、ハグリッド。」

 

街灯の明かりが元に戻った。

 

「幸運を祈るよ、ハリー、ロニー。」

 

老人がそうつぶやくと、三人は跡形もなく消えていた。

 

二人は眠っている。

そうしている間にも、国中の人々が杯をあげこう叫んでいるというのに。

「ハリーポッターに乾杯!」

そんなことも知らず、二人は眠り続けている。




読んでくだっさって、ありがとうございます。
まだ主人公に自我が芽生える前…なのでかなり省略してはいますが原作通りの展開です。
もしも原作を読んだことがない方がおられたら、ぜひそちらも読んでみてください!

(01/15に原作を読み直したうえで、変更しました)


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消えたガラス

ご訪問ありがとうございます‼️


ダーズリー夫人が戸口の前に寝ていた二人の赤ん坊を見て、甲高い悲鳴をあげてから、10年が経った。ダドリーダーズリーはもう赤ん坊ではない。棚の上に飾られた写真がそれを示していた。

 

あのとき真ん丸な赤い顔に笑顔を浮かべ写っていた赤ん坊の写真はもうなく、代わりにピンクの顔の大豚そっくりの少年がにたっと、写真の向こうからこちらに笑いかけていた。

 

誰がどうやってこの家を探したって、あと二人、子供が住んでいるということには気づきもしないだろう。

しかし、階段下の物置では薄っぺらいバスタオルを互いの方に引っ張り合いながら少年と少女が眠っていた。

 

しかしそう長くは眠ってられないだろう。

 

ダーズリー夫人----ペチュニア叔母さんが目を覚ました。一日の騒音は彼女の目覚めと共に始まる。

コンコンコンコン!!物置の扉を乱暴に叩く音がした。

 

「分かった、いまいくよ。」

 

少年、ハリーポッターは、明るいグリーンの瞳を開けて言った。

 

「ほらロニー、起きて、ペチュニア叔母さんが起きた」

 

ハリーが毎朝起きて一番にすることは双子の姉、ロニーを起こすことだ。何事も要領よくこなす彼女にハリーは度々助けられていたが、朝だけは別だ。記憶にあるかぎりロニーがハリーより先に起きていたことはない。

 

ロニーがうーんと女の子らしさの欠片もない呻き声をあげ、目を擦った。

 

ハリーがまだ眠たそうにしているロニーを掴み、キッチンに行くといくつもの大きな箱が積み上げられていた。いとこのダドリーも珍しく起きてきている。ダドリーが学校があるわけでもないのにこんな時間に起きてくるのは一年中で二日だけだ。

 

クリスマスと、誕生日。

 

忘れられるわけがない。今日はダドリーの誕生日....一年で最悪の日だ。この日になると、ダーズリー一家は動物園や遊園地へ出掛ける。この一家に限って、ハリーやロニーを連れていくなどということは絶対にない。二人はそういうときいつも、近所のキャベツの臭いがするフィッグさんの家に預けられる。

 

ペチュニアおばさんが長い首を捻って馬のような顔をこちらに向けた。

 

「突っ立ってないで、早くベーコンを焼いてちょうだい。焦がしたら承知しないよ。」

 

ロニーは大きくあくびをするとフライパンの方にノロノロと歩いていった。

 

でっぷりとした大きな口ひげのバーノンおじさんは、コーヒーの粉が入った瓶を顎でしゃくり、ハリーをにらんだ。

 

ハリーはロニーにならい、ノロノロと歩いた。

 

ハリーもロニーもこの家族の誰とも似ていない。

ロニーはたっぷりした赤毛にハシバミ色の目。体型も仕草もおよそ女らしくないが、美人だ。髪を伸ばせばいいのにといつも思う。

ハリーは膝小僧の浮き出た足。細面の顔にクシャクシャの真っ黒い髪。額には稲妻型の傷がある。この傷は双子の姉がなんだか特別な感じがしてカッコいいと言ってくれた、自分の顔で唯一気に入っているところだ。

 

最も褒めてくれるのはロニーだけで、ハリーの記憶が正しければペチュニアおばさんに傷のことを聞いたときには

「その傷は、お前の両親が車をぶつけて死んでしまったときにできた傷さ。下らないこと聞くんじゃないよ!」

と甲高い声で怒鳴られた。

 

そう、ハリーとロニーの両親は事故で死んだのだ。その事故があってから....ハリーやロニーにとって、ダーズリー家の物置の外で楽しいことがあったためしはない。学校では、ダドリーにいじめられ、家では召し使いかほこりのように扱われる....。

 

「三十六しかない!」

 

ダドリーがプレゼントの山を指差し、涙目で両親を睨んだ。

 

「あら、ダドリーちゃん、マージおばさんのを数えなかったでしょう?パパとママの大きな包みのしたにあるわ。」

 

「それでも三十七だ。去年よりひとつ少ない。」

 

ダドリーがムチムチの指をテーブルにかけ、ひっくり返しかねない勢いで跳び跳ねた。

 

バーノンおじさんはそんな様子を微笑ましいというように見て朝のニュースに文句をつけるため、リビングに向かった。

 

「わかったわ。今日お出掛けしたら、あと二つ、買ってあげる。これでどう?かわいいダドリー坊や」

 

ペチュニアおばさんが微笑んだ。

 

「そうすると僕....」

 

ダドリーが必死に指を動かし、助けを求めるように母親を見たが、電話がなったのでおばさんはリビングに向かった。

 

「三十九よ、頭のちっちゃなダドリー坊や。」

 

いつの間にか目が覚めたのかロニーがペチュニアおばさんの口真似をして、ハリーにニヤリと笑ってから洗いかけのフライパンに反吐をはく真似をした。

 

ハリーはクスリと笑い、ダドリーはピンクの顔を赤カブ色に変えた。しかしその時、ペチュニアおばさんがわざとらしい困り顔を浮かべてキッチンに入ってきた。

 

「フィッグさんたら、足を骨折して二人を預かれないんですって」

 

このハリーにとっては嬉しい....つまりダドリーにとっては悲しい知らせを聞いたダドリーは口をあんぐり開けて呆然とした。

 

「や、やだよう。いつだって、こ、こいつらが台無しにするんだ!」

 

ダドリーが泣き真似をした。そうすれば母親が自分の望み通りになるのを知っているのだ。

 

「あら、ちっちゃいのは頭だけじゃないのかしらね」

 

ロニーがハリーにささやいた。

 

ピーンポーン、ペチュニアおばさんとバーノンおじさんがハリーとロニーをどうするか、結論を出さないうちにダーズリー家のインターホンがなった。ダドリーの腹心の子分、ピアーズだ。一緒に動物園に行く約束をしている。

 

ダドリーは目を潤ませる程度も出ていない涙を引っ込め、結局、ハリーとロニーは一緒に動物園に行くことになった。

 

何て幸運。今日だけは問題を起こさないようにしなくては....。ハリーは心に誓ったがにやっと笑ったロニーを見逃さなかった。

 

 

 

生まれて初めてみた動物園は素晴らしかった。

 

ゴリラの檻の前ではダドリーとどっちが賢いかな、とロニーと笑ってるところを見つかりバーノンおじさんに殴られたがそれを抜きにすれば一番小さいサイズとはいえ、ひんやりしたジェラートまで買ってもらい、最高の午前だった。お昼になるまでに夢じゃないかと十回はほっぺたをつねった。

 

昼過ぎになってそろそろ暑い屋外にいるのも限界になってきたので、は虫類館に行くことにした。

 

 

は虫類館はひんやりして気持ちがよかった。

 

“ブラジル産ボア・コンストリクター 大ニシキヘビ”

 

「いつもこうさ」

 

ハリーとロニーがなんとなく大きな蛇を見ていると、眠っていたはずの蛇が鎌首をあげてハリーの目を見つめてかたりかけてきた。

 

「分かるよ、檻のなかで人間に見られて暮らすなんて....退屈で、落ち着かないだろうね。」

 

ハリーは蛇に言葉がわかるとは思えなかったが、小さく呟いた。

 

蛇は鎌首を上下に振ってはげしくうなずいた。

 

ハリーは驚いてとっさに横にある掲示を見て質問をした。

 

「ところでブラジルはいいところ?」

 

すると蛇は掲示をつついてよく見るようにとでも言うようにハリーを見た。

 

“動物園生まれ”

 

「じゃあ、ブラジルを知らないんだ」

 

蛇がうなずこうと鎌首をあげた瞬間、後ろでピアーズの大声がした。

 

「見て!蛇が!」

 

後ろからダドリーが勢いよく突進してきた。ハリーは床にひっくり返り、そのすぐ横を檻のなかにいたはずの蛇がすり抜けていった。

 

「ありがとよ、アミーゴ」

 

ハリーは目をあげ、息をのんだ。それはロニーも同じだったようで、横から小さな悲鳴が聞こえた。檻のガラスが消えている!

 

次の瞬間、バーノンおじさんの怒声が響き、ロニーはひゅっと立ち上がった。するとガラスがもとに戻り、何事もなかったのよう、檻はもとに戻った。

 

蛇は....消えていた。

 

帰りしな、おじさんの機嫌は最悪だった。息子の目の前で蛇がいきなり消え、次の瞬間横を通り抜けた。。これこそが、バーノン・ダーズリーがこの世で一番毛嫌いする常識はずれなバカだ。

 

「ハリーとロニーが蛇と話してた。そうだろ?。」

 

ピアーズが止めを刺した。

 

 

 

「行け、物置、食事抜き」

 

家に着くとバーノンおじさんは怒りのあまり、声を絞り出してハリーとロニーに向かって怒鳴った。

 

やってしまった。あれほど誓ったのに。ガラスを消したのはハリーだ。姉はむしろ....きっとガラスをもとに戻したのだ。

 

何だかんだでロニーは要領がいい。自分の立場が危うくなることや本当に危険だと思うこと....例えば大蛇を檻から出す何てことはたぶんしないだろう。

 

そういえば、昔からこういうことがよくあった。ハリーやロニーの周りでは度々摩訶不思議なことが起こる。

自分達の意図しないところで....。




ありがとうございました‼️
ロニーはハリーの逆....ですね。
見た目はリリーにそっくりだけど、中身はどちらかというとジェームズかなあ。
でも、ジェームズがどういう人だったかは想像に頼らなくては行けないところが結構あると思うので....。
人によって印象が違うかもしれません。


※誤字報告、ありがとうございます!


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知らない人からの手紙

ご訪問ありがとうございます!

三章は、ロニー目線からです…。


「ロニー‼‼‼」

 

耳元で、弟のハリーの声がした。

ここ最近は、ずっと物置に閉じ込められていたので、ペチュニアおばさんが物置の戸を壊れそうな勢いで叩くことも、ハリーが耳元で“起きて!”と叫ぶこともなくなっていた。ずいぶん久しぶりの感覚だ。記憶と日にちの感覚が正しければ、過去最高に長い”お仕置き”をうけたことになる。もう夏休みが始まっているだろう。

 

 

 

ブラジル産大ヘビ逃亡事件は高くついた。いったい誰がガラスを消したのか…ロニーにも想像もつかない。

ハリーだろうか?ハリーは度々不思議な事件を引き起こしてきた。しかし人のことは言えない、ロニーもだ。むしろ、事件を起こすのは、いつも、ロニーのほかもしれない。

一度など、ハリーが先生のカツラを鮮やかなブルーに変えてしまったことがある。その上、それを見てロニーがクスリと笑ったとたんにカツラが消え、先生の、髪のまばらな頭が丸見えになった。先生は顔を真っ赤にして怒り狂い、その様子はずいぶんと滑稽だった。おかげでロニーもハリーも2週間は物置から出ずに、暮らしたし、二週間後に学校に行った時も先生の機嫌は治っておらず、たくさん宿題が出た。

 

もしかして、私はモノを消せるんじゃないか…。恐ろしい予感がした。先生のカツラが消えたとき、ロニーは“何ならハゲ頭を見せてくれればいいのに”と心の底から思っていた。今回もハリーの出すシューシューという音に合わせてうなずくヘビや、100キロはあるだろう巨体で体当たりしてきたダドリーを見て、“ヘビが檻から出てくれば面白いな”と心の奥で想像してにやりと笑った。

 

もともと、自分たち…ハリーやロニーが普通でないことは気づいていたのだ。

そしてハリーは多分、こういうこと…ダドリーにヘビをけしかけるなんてこと…は思いもよらない、いい子ちゃんだ。やっぱりガラスを消したのは私かもしれない。

 

 

 

キッチンに入ると、いとこのダトリーが今度の九月から通う“名門”スメルティングス男子校の制服を着てテーブルの一片を占領していた。手にはてっぺんにこぶの付いたセメルティングスの杖を持っている。

 

「あんた、突っ立ってないで。焦がしたら承知しないよ。」

ペチュニアおばさんがキッチンに入ってきて、ロニーを見たとたんにフライパンを指さして言った。

ロニーはのろのろと冷蔵庫から卵を取り出して目玉焼きを焼いた。

 

「小僧、手紙をとってこい」

おじさんがハリーに命令した。

「ダドリーに取りに行かせてよ」

珍しくハリーが反論した。

「これから七年その制服を着ようと思ったら運動しなくちゃ、ちっちゃなダドリー坊や」

ロニーが加わった。

 

バーノンおじさんとダドリーの顔はそろいも揃って赤カブ色になったが、ハリーは手紙をとりに玄関へ向かった。ロニーにはおじさんのげんこつとスメルティングスの杖が飛んできたがひょいとよけてテーブルに並んだ皿に目玉焼きを乗せた。

「小僧早くせんか!」

げんこつを当て損ねたおじさんの怒鳴り声が飛んだ。

 

ハリーはすぐに戻ってきた。手には四つ封筒を持っている。そのうち二つをおじさんに渡し、ハリーはあとの二つのうち一枚をロニーに渡した。

 

 

 サレー州 リトルウィンジング

 プリペット通り4番地 階段下の物置

   ベロニカ・ポッター様

 

 

分厚い、黄色みがかった封筒に入っている。でも…この10年間、手紙を受け取ったことなんて一度もない。本当に…私に?

「パパ!ハリーとロニーが手紙を持ってる!」

 

ダドリーが叫んだ。バーノンおじさんは、大きな口ひげを生やした丸くて大きな赤ら顔に意地の悪い笑みを浮かべて、

「こいつらに手紙を書くやつなぞ…」

と嘲り笑ったがハリーの手紙を見た瞬間、嘲り笑いは消え、赤ら顔は真っ青になった。

「ぺ…ペチュニア…」

そうつぶやいたおじさんの顔はもはや青ですらないおかゆ色だった。

おじさんはハリーとロニーから手紙をひったくり、(ぼくに見せてよ!二人が持っているのを見つけたのは、僕、だ‼‼)怒鳴った。

 

「行け!自分の部屋に!ダドリー、お前もだ!!!!」

 

 

 

夕方になって、物置の扉がいつもと打って変わって至極丁寧にノックされた。

「私達のの手紙はどこ?」

ロニーが真っ先に聞いた。

「誰からの手紙なの?」

ハリーが続ける。

「間違いで送ってきたんだ、焼いてしまったよ」

おじさんが告げた。

そんなわけは、絶対に、ない。ロニーは馬鹿にしたような笑みを浮かべて上目遣いに叔父を見た。

 

「あー、それでなのだが…そろそろ二人も大きくなってきたし、男の子と女の子が二人、こんな風に過ごす…というのはよくないだろう…。それで…ダドリーの二つ目の部屋に移ったらどうかね?」

 

どういう風の吹き回しだろう?あの手紙を隠すことは…それほどの…ダドリーのスメルティングス杖で何度も殴られるであろうことを引き換えにしてもいい程…価値のあることなのだろうか…?

 

 

ダドリーの二つ目の寝室にはダドリーが壊して使い物にならなくなったおもちゃや、飽きられ、忘れられたおもちゃがそこら中に転がっていた。

「ハリー、あの手紙は…明日も来るかな?」

ロニーが半ば願望に近い感じでハリーに言った。

「そんな…手紙は普通、一度出したらお終いだよ。」

ハリーはあっさりと否定した。

「うーん、でもさ、うちらに手紙が届くこと自体、普通じゃないよ?」

 

 

手紙は翌日も来た。今度は六通…。

 

その次の日も、十八通(明日は朝、玄関で待ち構えておこうよ)、五十四通(おじさん!何で玄関で寝ているの?)、百六十二通(これだけあれば一個くらいは…)(小僧、小娘!何をしておる!)…。

 

日曜日、遂にはリビングいっぱいの手紙がなだれ込んできた。

ダーズリーおじさんはおかゆ色と赤カブ色の混じったまだらな顔でおばさんとダドリーとハリーとロニーを車に無理やり乗りこませ、当てもなく走らせた。

途中泊まったホテルには手紙が三百通以上届き、(わしがすべて引き取ろう!)どこへ行くにも日に日に増えていく手紙の配達がついて回った。

 

 

「今日って何曜日だっけ?」

ハリーが聞いた。

「月曜だ、もう一週間も家に帰っていない。」

ダドリーの曜日感覚は…テレビのおかげで…なかなか信用できる。

ロニーはハリーがふっとため息をついたのを見逃さなかった。今日は…私と弟の、十一回目の誕生日だ。

珍しく感傷に浸っていると、おじさんが一艘の子船の前で手招きした。このゴーゴート雨のなっている中、船で湖を渡るなどどうかしている。しかし、おじさんは遠くに逃げれば手紙は来ないと思っているらしく、にたりと笑った。

 

 

 

小舟に乗って付いたのは、湖の中に浮かぶ島に建ついまにも崩れそうなボロ小屋だった。夫妻はギコギコきしきし、いやの音のするベッドで、ダドリーはぺしゃんこのソファで寝た。

ハリーとロニーは何とか床の柔らかいところを探して寝ようとはしたが、なかなか寝付けなかった。

 

十一歳まであと一分、三十秒、十秒…三、二、一。

 

   ガラガラガッシャーーん!

 

小屋の扉がものすごい音を立て、倒れた。

入口から、とてつもなく大きな大男が窮屈そうに、身をかがめて入ってくる。

 

目を覚ましたダーズリー夫妻はソファに寝ているダドリーを重そうに引っ張り、小屋の奥へと逃げ込んだ。

振動が腹の底から伝わってくる。

 

 

小屋中が文字通り、震えていた。




ありがとうございました!

ガラスを消したのは、いったい誰だったんでしょう…?


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鍵の番人

ご訪問ありがとうございます。
何だか、更新がすごく不定期で、すみません......。


「やあ、お二人さん。お前たちを探すのにゃ苦労したぞ?ハリーに、ロニー。」

大男はロニーとハリーに向かって大きな手を振った。小屋の隅で縮こまるダーズリー一家がロニーをきっとにらんだ。ロニーには、全く見覚えのない男だ。ハリーのほうを見ると、自分と同じようにぽかんとして大男を見つめている。

「おっと、自己紹介をせにゃならんな、俺の名前はルビウス・ハグリッド。ハグリッドと呼んでくれ。」

ハグリッドはそういって、ハリーとロニーに大きな手を差し出した。

「ベロニカ・ポッター。ロニーって呼んで。」

「ハリー・ポッター、よろしく。」

ハリーは親指と人差し指を、ロニーは残りの指を、両手で握って握手した。

 

「さて、まずはおたんじょびおめでとうだ。尻に敷いちまって、ちょっとつぶれてるかもしれんが…味は変わらんだろ。」

ハグリッドはそう言って大きなオーバーコートの内ポケットを大きな手でごそごそやりだした。途中、丸い大きな綿のような生き物やツンとした匂いの草が出てきた。やっと、くちゃくちゃのケーキを取り出すとハグリッドは言った。

 

「二人とも、もちろんホグワーツは知っとるな。」

あの、分厚い黄色みがかった封筒をハリーとロニーに差し出したハグリッドはモジャモジャの顔をゆがめて笑った。

「ホグワーツ?」

ハリーがオウム返しに聞いた。

「それ、この封筒の?私たちに?」

ロニーが顔をしかめてハグリッドを見た。

「二人とも、ホグワーツを知らんのか⁉」

そう言って、ハグリッドはダーズリー一家をきっとにらんだ。ダーズリー一家は小屋の隅でごにょごにょといっと言っている。

「じゃあ、二人とも、君の両親がどこであんなことやこんなことを学んだと思っているんだ?」

部屋の隅で縮こまっているバーノンとペチュニアの青筋がぴくぴくしたのをロニーは見逃さなかった。

「あんなことやこんなことって?」

ハリーが聞いた。

「まったく!ハリーポッターともあろう人が、何も知らんというのか!魔法界人の人間がお前さんの名前を知っているというのに!」

ハグリッドが小屋の屋根が吹き飛ぶような大声を出した。

何も知らないというのは大げさじゃないか、とハリーが不服そうな顔をした。実際、ハリーは学校の成績は3人の中で一番いい。もちろん、ロニーが僅差で二番目だ。

「魔法?」

ロニーが聞いた。しかし、不思議に腑に落ちた。今まであった、奇妙な出来事は全部、あんなことやこんなことだったのだ。

「僕は…ただのハリーだよ。そんな風に言われるような人間じゃ…」

「じゃあな、ただのハリー、今まで、お前さんの周りで、奇妙なことは起こらなかったか?」

ハリーはしばらく宙を見つめて考え込んでいたが、納得したようにハグリッドのコガネムシのような眼を見つめ返した。

 

「でも、何でそんなに、ハリーは…有名、なの?」

ロニーが聞いた。

「お前さんの両親が、何で死んじまったのか、それもこいつらから聞いちょらんのか?」

ハリーとロニーはあいまいにうなずいた。

 

「ダーズリー!!!!!」

今度はほんとに屋根が吹き飛んだのかもしれない。地響きがしたし、ロニーは、間違いなく空気がキュッと冷えるのを感じた。

「ダンブルドアの手紙に書いてあったろう!全部!時が来れば二人に話すようにと!」

「いかれた学校で、行かれた小僧と出会って、最後は勝手にふっとんじまった妹のことなんて知らないわよ!」

ペチュニアおばさんが金ぎり声をあげた。

「ふっとんだ?自動車事故で死んだって言ったじゃない!」

ハリーがさけんだ。

「自動車事故?そんなもんでリリーやジェームズが死ぬわけないだろう!あのリリーやジェームズが!」

今度はハグリッドだ。

 

「でもじゃあ、全部知ってたの?色んな事、全部知ってたの?」

ロニーが皆に負けないくらい大きな声で叫んだ。

「知っていたわよ!休暇で家に帰ってくりゃ、ポケットはカエルの卵でいっぱい!夕食のお皿は浮かせる!でも両親は我が家に魔女がいることが自慢だった。何をするにもリリーリリー、私のことなんて見てもくれなかった!魔法だなんだって、くだらない!!」

ペチュニアは吐き捨てるように言った。

 

「二人は行かせんぞ!わしらは二人を預かったとき、決めたんだ!二人の中からいかかれたなんやらかんやらを絶対に叩きだしてやると!」

バーノンおじさんはようやく勇気を取り戻したのか、赤ら顔を震わせて言った。

「お前みたいなマグルに何ができるんだ!」

ハグリッドが嘲った。

「マグル?」

ハリーが小さな声でつぶやいた。

「あいつらみたいに魔法族でないもんのことだ。」

ハグリッドも小声で答えた。

 

「ハリーと、ロニーは魔法使いと魔女だ!ホグワーツで学ぶ資格がある!生まれた時から入学名簿に名前がのっちょる。訓練すりゃ、そんじょそこらの魔法使いより、よっぽど優秀になれる。ジェームズとリリーの子供である二人がホグワーツで学べないなんて馬鹿なことあるか!」

ハグリッドが再び声を張り上げた。

「知らんぞ!そんな…」

「二人はホグワーツに行き、しかるべき教育を受ける!歴代で最も偉大な校長、アルバスダンブルドアの下でな!」

 

「いかれた間抜けジジイがこいつらにインチキトンチキ教えるのに、わしは金なんか払わんぞ!」

 

おじさんが叫んだ。

 

 

「俺の前で、アルバスダンブルドアを、侮辱するな!!!」

 

 

ハグリッドがそう叫び、部屋の隅に縮こまったままのダドリーに杖を向けた。

閃光が走り、ダドリーの大きなお尻にくるんと丸まったしっぽが生えていた。

ダドリーは、ギャアギャアと悲鳴を上げ、大きな尻にムチムチとした手を当てた。

「ホントは丸々豚にしようと思ったんだが…あまり変えるところがなくてな。」

ハグリッドはいたずらっぽく笑ってハリーとロニーに向き直った。

 

「それで…父さんと母さんが吹っ飛んだってどういうこと?何で、二人を知ってるの?同級生には見えないけど…。」

ロニーは気になっていることを真っ先に聞いた。

「二人が吹っ飛んだってのはだな…、つまり…。話せば長い。まずは…そう、昔、一人の魔法使いが悪の道に走った。名前は…。うむ。言うのはあんまり恐ろしい。」

「紙に書けないの?」

「綴りがわからん。言うぞ、それっ、ヴォルデモート。」

「ヴォルデモート?」

ハリーとロニーが声をそろえていった。なんて奇妙な名前なのだろう。

「その名を口にせんでくれ、皆、例のあの人とかって呼んどる。その人に、必死にあらがったもんたちがいててな、二人ともものすごく勇敢で力のある魔女と魔法使いだったから…当然お前たちのかあさんと父さんもそのうちの一人だ。」

「十年前のハロウィーンの夜、お前らの家が襲われた。二人はそれで…。死の呪いだ。ひとたまりもない。それを受けて生き残ったもんは…。ハリー、お前さんしかいない。」

そう言って、ハグリッドは、ハリーをまっすぐに見つめた。

「額の傷は、その時受けた傷だ。とにかく、『あの人』は、ハリー、お前さんを殺し損ねた。それどころか、呪いは跳ね返って、『あの人』は消えちまった。」

「死んだの?」

ロニーは聞いた。多分、当然の報いだ。きっと、『あの人』は、父や母のような人を、たくさん殺している。もし、『あの人』最初に杖を向けたのがハリーでなくて、私だったら......もしかすると......私もその一人だったのかも。

「そう言うやつもおる。俺に言わせりゃくそくらえだ。ダンブルドアはやつは必ず生きておると言っちょる。」

じゃあ、どうすればいいんだろうか。考えたところでどうしようもないのだけど。

 

「さあ、今日は早く寝んとな。明日は忙しくなるぞい。」

沈黙を破ってハグリッドが言った。

ロニーとハリーは床に寝転がり、一緒にハグリッドのオーバーコートにくるまって眠りについた。

腹の奥にある気持ちの悪いようないいような違和感が何であるか、ロニーには分からなかった。オーバーコートのなかにはまだ他に、生き物がすんでいるのだろうか。それとも、やっぱり、両親や自分達についての話のせい?それとも......生まれてはじめてもらった誕生日プレゼントとケーキ?

 

夢じゃないのかな......。そう不安になるくらい、静かだった。ぶたのしっぽのせいでキャーキャーと叫んでいたダーズリー一家の声も聞こえない。

夢かどうかは......明日になれば、分かる 




なんとなく、ハリーが原作よりも優しいというか、気が弱いというか......そうなってる気がします。

さいごまでお付き合いいただき、ありがとうございました!


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ダイアゴン横丁

閲覧ありがとうございます。
またまたロニー目線。
そのうち、ハリー目線の回も出てくると思います......。
(その予定!)


次の日、耳元で大きな声が聞こえた。

「ロニー‼いい加減に起きてよ!」

目をぱちりと開けると、目にはぼろぼろの天井が映った。

ああ、やっぱりいつも通り…。ハリーの叫び声で目を覚まして、物置の天井を見る…。

 

待てよ?確か、私たちは二階に“お引越し”したはず…。

じゃあ、現実?

 

「ロニーもそろそろ起きんと。今日は忙しいぞ。ダイアゴン横丁で、本やらなんやら買わんといかんしな。」

ハグリッドがロニーがくるまっていたオーバーコートを羽織って言った。現実だ...。

ロニーは、大きくあくびをして髪を撫でつけた。耳の後ろでそろえたショートカットの髪はこういう時本当に便利だ。時間がない朝も、30秒あれば用意ができる。もっとも、他の女の子はいくら髪が短くたって、朝の用意を三十秒で済ませることはないだろう。

 

外に出て見ると、小屋の前には小舟が一艘つけてあった。なんだか魔法の絨毯とかを想像していたので、拍子抜けした。ハグリッドが乗り込むと、小舟は大きく傾いたが、それでも何とか浮かんだ。

「たく、魔法省がまたしくじった。大体今度の大臣は…あそこまでドジな奴も珍しいってもんだ。」

船で岸に向かって移動しながらハグリッドは新聞を読んでいた。新聞の写真は勝手に動いていた。船は漕ぎもしないのにすいすいと進んでいる。

ロニーの頭には質問がざっと100は思い浮かんだ。

「これ、全部ロンドンで買えるの?」

何から聞こうかと迷ったあげく、ロニーがあの、黄色い封筒の中に入っていた一枚の紙を見て言った

 

一年生は次の物が必要です

制服

 普段着のローブ三着(黒)

 普段着の三角帽(黒)一個 昼用

 安全手袋(ドラゴンの革またはそれに類するもの)一組

 冬用マント一着(黒、銀ボタン)

 衣類には名前をつけておくこと

 

教科書

 全生徒は次の教科書を各一冊準備すること

 「基本呪文集(一学年用)」 ミランダ・ゴスホーク著

 「魔法史」 バチルダ・バグショット著

 「魔法論」 アドルバード・ワフリング著

 「変身術入門」 エメリック・スィッチ著

 「薬草ときのこ千種」 フィリダ・スポア著

 「魔法薬調合法」 アージニウス・ジガー著

 「幻の動物とその生息地」 ニュート・スキャマンダー著

 「闇の力―護身術入門」 クエンティン・トリンブル著

 

その他学用品

 杖(一)

 大鍋(錫製、標準、2型)

 ガラス製またはクリスタル製の薬瓶(一組)

 望遠鏡(一)

 真鍮製はかり(一組)

 

ふくろう、または猫、またはヒキガエルを持ってきてもよい

一年生は個人用箒の持参は許されないことを、保護者はご確認ください

 

ローブやマント、大鍋はいいとして、こんな魔法に関する本が一体、ロンドンのどこに売っているのだろう。

「どこで買うのかを知っていればな。」

ハグリッドはそう言ってにやりと笑った。

 

どこで買うのか…。それは、ロンドン市街の地下鉄に乗って(ハグリッドは他の人たちにじろじろと見られた)にぎやかな通りにある、一軒の古ぼけたパブに入ると分かった。

 “漏れ鍋”

中には奇妙奇天烈にマグルの服をコーディネートした魔法使い、それに鮮やかな緑のマントを着た魔女、頭の2倍はありそうなターバンを巻いた若い魔法使い…いろいろな人がいた。

 

「やあ、トム、ちょいとホグワーツの任務でな。」

ハグリッドはそう言って、口の形だけで、

『ポッター』

と言った。

 

「これはこれは!!ハリーポッター!」

漏れ鍋の店主、トムは目を真ん丸にして、叫んだ。とたんに店中の目と言う目がハリーを見た。

「ポッターさん、お会いできて光栄です。」

「ドリスと申します。握手をしても?」

「ポ、ポッター君、クィレルです。ホ、ホグワーツで、闇の魔術に対する防衛術を、お、教えている。も、もっとも君には必要ないかもし、知れないが。」

 

ほとんどの魔女や魔法使いがハリーを人目見ようと首を伸ばしたし(ロニーは、ペチュニアおばさんなら伸ばさなくても見えただろうなと思った)そのうち半分が握手を求めた。

 

ハグリッド巨体が難なく人のを掻き分けていった。ロニーもハリーも楽々と歩けたがなんとなく縮こまって歩いた。ハリーは本当に、『有名』だ。

 

店の反対側にある裏庭に出ると、レンガの壁があるだけだった。これから、何が起こるのだろう?ロニーはワクワクとハグリッドがレンガの壁をピンクのかさでコツコツと叩くのを見ていた。

 

ぎゅいーん、不自然にレンガの壁が歪んでアーチのようになった。驚いて見張った目に映ったのは......

 

「ダイアゴン横丁だ!」

ハグリッドが得意気に言った。

ダイアゴン横丁の広い通りが色とりどりのローブを着た魔女や魔法使いで埋め尽くされている。

「ワオ......」

別世界みたいだ......。ロニーは思った。

 

「まずは銀行にいかんとにゃ。グリンゴッツだ。」

ハグリッドが言った。魔法界には銀行まであるのだろうか。ロニーは興奮しつつ舌を巻いた。

「あれだ」

ハグリッドがひときわ目を惹く大きな建物を指差した。大理石か何かで出来ている、豪華絢爛という言葉が似合う建物だ。

 

なかでは奇妙な生き物がむずかしい顔をして働いていた。

「あれは何?」

ロニーは『あれ』じゃ失礼だったかなと思いながら聞いた。

「ゴブリン、小鬼だ。」

「こ、お、に?」

ハリーがオウム返しに聞いた。

「小鬼に銀行員が出きるの?」

ロニーは目を見張って聞いた。

「ああ、財産の管理に関しちゃあ、あいつらほどうるさいもんはいねえ。もっとも、好ましい連中とはいえんがな。」

そう言ってハグリッドは一匹の『小鬼』に向き直った。

 

「ポッター家の金庫を開けたいんだが......。それから......。」

ハグリッドはそう言って一枚の封筒を差し出した。ダーズリー家に届いた、あの封筒だ。

「ダンブルドアからのお願いでな。713番金庫だ......。」

ハグリッドがささやくように言うと、ゴブリンは封筒を丁寧に見て、小さくうなずいた。

「こちらです。」

 

金庫までの道のりは快適とは言えなかった。

木で出来たトロッコはミシミシゴウゴウといって大きく気持ちの悪い揺れかたをしながら3人とゴブリンを乗せてはしった。

 

ポッター家の金庫は、金貨で溢れていた。

「これ、全部?」

ハリーが金貨を一枚取っていった。

「ああ、もちろんだ。お前さんの両親がなんも残してかんかったと思うか?」

それでも......。目が眩むような、金貨の山だ。これさえあれば、多分、ダーズリーに頼らなくたって暮らしてける。

「すごい......」

思わずため息が出た。

 

『713番金庫』には拍子抜けした。

魔法学校の校長のお願いなんだからすごいものに違いないと思ったが、一目見ただけでは金庫はからに思えた。よくみると、小さな包みが入っていることが分かったが、あんなのがいったい何になるんだろう。

 

横丁にある店にはどれも銀行に負けず劣らず、奇妙で魅力的だった。魔法の箒(ニンバス2000だ!最新式だぜ!)や干からびた何かの目玉......。自分で動くチェス......。純金の大鍋(リストに錫製ってあるだろが)、エメラルドを埋め込んだいかにも怪しい髪飾り......。

 

リストにあるもののいくつかをさっさと買うと、ハグリッドはグリンゴッツのトロッコで青くなった顔に赤みを戻すため、ロニーとハリーを『マダムマルキンの洋装店 普段着から式服まで』に送り届けて、ブランデーをひっかけに行った。

 

店の奥では青白い顔をした男の子が、学校用のローブの採寸をしているところだった。

ずんぐりした魔女、マダムマルキンに促されて、ロニーとハリーも男の子の隣に立った。メジャーが勝手にバストやウエストを計った。

 

「やあ、君も今年からホグワーツかい?」

なんとなく気取った話し方をする子だ。

「ええ、そうよ。あなた、名前は?」

ロニーも負けじと少し高慢ちきに言った。

「ドラコ。ドラコ・マルフォイだ。君達は?」

「ロニーよ。ベロニカ・ポッター。」

「ハリー・ポッター、ハリーって呼んで。」

ドラコの顔に少しピンクみが差した。

「ハリー・ポッター?」

そう言って口をあんぐり開けた。さっきまでの気取った態度が嘘みたいで、ロニーはなんだかクスリと笑ってしまった。ハリーも同じみたいで、笑いを噛み殺しながらてを差し出して、

「ヨロシク。」

と言った。

ドラコはおずおずと手を取った。

「驚いた......。君、へえ......。後で母上にもご報告しないと......。」

ダドリーでも言わないような台詞にロニーはまた笑いそうになった。いったいこの少年はどんな風に育てられたのだろう。

 

「坊っちゃん、終わったよ。」

そのままドラコは採寸を終えて、店を出ていってしまった。ロニーとハリーは顔を見合わせてまたニッと笑った。ドラコのお坊ちゃんぷりが可笑しかったのもあるし、友達が出来たみたいでこそばゆかったせいでもあった。

 

ロニーとハリーが採寸を終えて店を出ると、ハグリッドが待っていた。

「さて、そうだな、二人は杖を買いに言ってくれ。俺は教科書だ。」

そう言って、ハグリッドは二人を古ぼけたショーウィンドウの店に連れていった。

『オリバンダーの店 紀元前382年創業』

「杖ならここが一番だ。」

 

オリバンダー翁は白髪の小柄な魔法使いだった。

「これはこれは、ハリー・ポッター、ロニー・ポッター。杖腕はどちらですかな?」

これでもかというほど顔を近づけてオリバンダーが聞いた。

「右......だと思います。」

ロニーとハリーが声を揃えて言った。

 

「ミス・ポッター、どうかな?いちょうの木に不死鳥の尾羽、26センチ。しなやか」

ロニーが杖を受け取ってふった。たちまちオリバンダーが杖を取り上げてしまった。

「ではミスター?オークにユニコーンのたてがみ。23センチ、振りやすい。」

ハリーも振ろうとしたが、オリバンダーはたちまち取り上げてしまった。

「ふうむ。ミス・ポッター?ウメの木にドラゴンの心臓の琴線。24センチ、弾力がある。」

いくつか杖を試したあと、その杖を手に取った。とたんに腕から胸に暖かいものが流れる感覚がした。

「ブラボー!!!」

 

ロニーはこの感覚を早くハリーにも味わってほしかったが、ハリーの杖はなかなか決まらなかった。

 

「ふうむ。むずかしい客じゃの。しかしご心配、召されるな。あなたを選ぶ杖が必ず見つかるはずじゃ。」

「めったにない組み合わせじゃが......柊に不死鳥の尾羽。28センチ。良質でしなやか。」

ハリーは杖を手にとって振った。とたんに、にっこりと笑みを浮かべた。

「ブラボー!!!」

「いやしかし......実に不思議じゃ。その杖の芯に使われている尾羽を提供した不死鳥はの、もう一枚だけ、尾羽を提供している。そしてその尾羽を使った杖は......その傷をつけ、たくさんの人を殺した。」

オリバンダー翁がハリーの額をまっすぐに見つめていった。ハリーもロニーもなんとなく居心地が悪かったので、ハグリッドが来てくれて助かった。手には真っ白なフクロウが入った鳥かごを持っている

 

「バースデープレゼントだ。」

 

 

ダーズリーの家に帰っても、誰もハリーやロニーに話しかけようとはしなかった。

ハグリッドからの誕生日プレゼントの白フクロウは二人にということだったので、名前は二人で相談して決めた。

ロニーは最初、フランス語で白という意味のブランシュにしたかったのだが、せっかくだから、何か魔法らしい名前をつけようよということで、ヘドウィグになった。

 

8月に入ってからの一ヶ月、ハリーとロニーは毎日カレンダーにばつ印をうって、9月を待った。

 

私達は、魔法使いの学校に行くんだ。




ありがとうございました!
もしも初めて出会った時、マルフォイがハリーの名前を聞いて、少しでも違う態度をとっていたら、ハリーの人生変わったと思います。実は、ハリーが初めて会話したホグワーツの同級生って、マルフォイですよね。

でも、やっぱり、ハリーとロンのコンビ、大好きです。


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9と4分の3番線からの旅

ご訪問ありがとうございます。
今回は話す部分が長いせいか、いつもの二倍くらいあります。(といってもそう言える程まだ書いてないんですけどね)
あと、更新がちょっとたってしまいました。少しだけ忙しかったかな?


カレンダーのバツ印をあと1つ付ければホグワーツ......

 

「ねえ、明日、キングスクロス駅へ行きたいんだけど、送ってくれない?学校の汽車がそこから出るの。」

その日、ハリーとロニーはダーズリー氏に、キングスクロス駅へ行くと話さなくてはならなかった。

「ダメなら空とぶ絨毯で行くからいいんだけど。きっと、すっごく目立ってカッコいいと思うわ。」

ロニーがにんまりと言った。なんたってロニーの口は、バーノンの機嫌を損ねることばかりを言うんだろう?今回ばかりはちょっと、やめてほしい。実際は空とぶ絨毯なんて持ってないんだから、駅にいくことが出来るのは、おじさんの新車だけだ。

 

おじさんの、あるのかないのか分からない、短い首がかしげられた。ロニーの態度に対する怒りか、はたまたなにも言えない悔しさか、プルプルと巨大な口ひげをふるわせている。

「ありがとうございます。」

ハリーはここは逃げたもん勝ち、とばかりにさっさと立ち去ろうとした。

「ヘンッ。」

背を向けると、後ろで、ため息が盛大に吐き出された。

「魔法使いの学校に行くにしちゃあ、変なやり方だな。箒も絨毯も、全部パンクか?」

おじさんはハリーともロニーとも、豚のような小さな目を合わせずに、むすっとして言った。

「いったい、その学校とやらは本当にあるのか?」

ハリーは黙っていた。

「少なくとも、ダドリーがテストで百点とるよりはあり得ることだよ。」

ロニーが答えた。とたんにソファの上のクッションが飛んできた。

 

次の朝、ハリーは五時に起きた。興奮してぐっすり眠れなかったのだ。ロニーでさえも、六時には、ハシバミ色の目をぱっちり開けていた。ロニーはたっぷりとした髪を撫で付け、顔を洗うとトランクを見て、忘れ物がないかもう一度確認し出した。もっとも、ハリーとロニーの持ち物はあまりに少なく、忘れようもなかったのだが。

ダーズリー家族が起きてくるのを待って、一時間後、バーノンおじさんの新車はプリペット通りを出発した。

 

キングスクロス駅に着くと、そろそろ十時半だった。

「そーれ、着いたぞ。九番線と十番線だ。9と4分の3番線はどこかな?」

駅のホームで、ハリーとロニーの重いトランクをのせたカートを押しながら、意地の悪い顔をして、おじさんが言った。

なるほど、車を降りてからやけに親切だったのはこの一言のためか。

「次の夏にまたな。」

そう言ってバーノンおじさんはすたすたと行ってしまった。その後ろを妻と息子が追う。

 

ハリーは途方にくれてロニーを見た。

「ハグリットってば、9と4分の3番線がどこにあるかまで、教えてくれれば良かったのに......。」

ハリーが十番線と九番線の何もない壁を見ていった。

「うーん、でも、キングスクロス駅の九番線と十番線はここだけ......。」

ロニーはそういうと、杖をおもむろに取り出してホームの真ん間の柵をこつこつと叩き出した。

「多分、こういうことだよね。」

ただでさえヘドウィグのお陰で目立つというのに、ロニーが無遠慮にコツコツをするので、今や二人は注目の的だった。

 

「何してるの?」

後ろからいたずらっぽい男の子の声がした。

「あのさ、僕の考えてる通りだったら、トランクごと、柵に突っ込めばいいよ。そうじゃなかったら......まあ、お気の毒さま。僕を信じたことを後悔するだろうな。」

ハリーが振り返ると、背の高い、茶色い髪の男の子だった。目も髪にお揃いの澄んだ茶色だ。

「やあ、君らも今年からホグワーツかい?もしかして、マグル生まれなの?」

男の子が快活に言った。

「突っ込むってどういうこと?そんなことしたら、ぶつかっちゃうんじゃないの?」

ロニーが柵をコツコツするのをやめて聞いた。

「ところがどっこい、見てて。」

男の子は柵に向かって一直線に、文字通り突っ込んだ。あっ、ぶつかる!ハリーは思わず声をあげそうになった。しかし、男の子は消えてる。

 

「魔法だ......!」

ロニーとハリーは顔を見合わせ、同時に呟いた。

「先行くね!」

ロニーは柵と十分に距離をとると、そこから勢いよく柵に向かって走った。次の瞬間、姿が見えなくなる。

ハリーも目をつぶって、同じようにした。あ、ぶつかる......!いや、なんだか騒がしいぞ?駅のホームも騒がしかったけど......。

 

目を開くと、そこには大きな汽車があった。

『ホグワーツ特急 9と4分の3番線』

「私たち、魔法の学校へ行くんだね......。」

ロニーが感嘆したように呟いた。

 

汽笛がなった。

ホームに降りていた子供たちも、ぞろぞろと汽車に乗り込んだ。ロニーとハリーも重いトランクをもって駆け込む。

 

「全然空いてないね。」

コンパートメントはどこもいっぱいだった。

「やっぱり、ちょっと遅かったかな。」

ロニーがあたりを見回して言った。

「空いてても、誰か座ってるし......。僕、正直やだな。何で僕たちってわかるんだろ?」

ハリーはさっきから、両側のコンパートメントのハリーに向けられる視線が気になって仕方なかった。

「そんなこと言っても。でも......まあ、確かにね。誰か知り合いがいればいいのに。」

 

結局二人が誰もいないコンパートメントを見つけたのは一番後ろから三番目だった。

二人が席に座るとすぐに汽車が動き出した。

なんとなく何を話したらいいか分からない。魔法魔術学校では何が待っているんだろう。今までよりましには違いないけど......。友達はできるかな?寮は4つあるんだよね。ロニーと離れたらどうしよう。

 

「あの、ここ座ってもいい?どこも空いてなくって。」

コンパートメントの扉が空いて、赤毛の男の子が言った。のっぽで、ひょろりとしている。顔にはソバカスだ。

「もちろん、いいよ。あと......鼻に泥がついてる。」

ロニーはにっこり笑っていった。

「きみ、ロニーポッター?それからハリーポッター。」

ありがとうと言って男の子は聞いた。

「やっぱり、有名なんだ。あなたは?」

ロニーが聞いた。

「ロナルドウィーズリー。ロンって呼んで。ロニーだときみと被っちゃうし。よろしく。」

「よろしく。」

ハリーとロニーが声を揃えて言うとコンパートメントの扉がまた開いた。

「おい、ロン。」

ロンと同じ真っ赤な赤毛をした双子の一人が言った。ロンとちがって、がっしりしている。

「俺たち、真ん中辺りの車両に行くぜ。リージョーダンがでっかいタランチュラをもってんだ。」

「オッケー。」

ロンがモゴモゴと言った。

「それから、君たち、ハリーとロニーポッターだろ?よろしくな。俺たちはフレッドとジョージだ。こっちがジョージで、俺がフレッド。グリフィンドールでまた会おう。」

双子のもう一人が言った。

 

「ねえ、あなたの家族はみんな魔法使いなの?」

ロニーが目を輝かせて聞いた。

「多分ね。ママのはとこは会計士だけど。でもそんなに珍しくもないよ。ノットとかマルフォイとか、ブラックとか。そんなやつらは他にもいっぱいいる。」

ロンが肩をすくめていった。

「ドラコマルフォイ?ドラコなら知ってる。ダイアゴン横丁であったよ。」

ハリーが言った。

「どうだった?」

ロンが顔をしかめていった。仲が悪いのかな?

「どうもなにも、お坊ちゃんって感じかな。僕は結構好きだと思ったけど......。」

「嫌いなの?」

ロニーが聞いた。こういう、遠慮のないところはすごいと思う。

「父親同士の仲が悪いんだ。」

 

「車内販売よ。何か要りませんか?」

一瞬、気まずい空気になった気がしたが、車内販売のお陰で助かった。

「僕いらない。ママのサンドイッチがあるから。」

カートには見たこともないお菓子がいっぱいある。甘草飴、蛙チョコレート、大鍋ケーキ、バーティボッツの百味ビーンズ......。

ロニーとハリーは顔を見合わせた。

ポケットの中ではガリオン金貨やシックル銀貨、クヌート銅貨がジャラジャラとうなってる。

「全部ちょうだい!」

ロニーとハリーは声をあわせて言った。

ロンが目を丸くしてモゴモゴと気後れしたように動いた。

「一緒に食べようよ」

ロニーが大鍋ケーキをロンに差し出しながら言った。

「うん、きみのサンドウィッチも分けっこしよう。」

ハリーはにっこりと言った。

「でもこれ、美味しくないよ?」

ロンが言って、慌てたように続けた。

「子供が4人もいるからママも大変なんだ。」

「4人兄弟なの?わたしもハリーがいるけど、憧れるわ。」

ロニーが言った。

「ホグワーツにかようのは四人さ。ほんとは上にもう二人いて、妹も一人いる。それに、そんなに良いもんじゃないよ。期待にそうのは大変。一番上のビルは監督生で首席だったし、チャーリーはクィディッチのキャプテンだった。それに今度はパーシーが監督生だ。あいつ、夏休み中僕らにバッチを自慢してきた。それから、フレッドとジョージはみんなの人気者。イタズラばっかだけど......。それで僕がスリザリンなんかに選ばれてみろ。ほら、ホグワーツに入ると組分けの儀式があるだろ......きっとみんなの笑い者さ。」

ロンが想像したくもないと言うように顔をしかめた。

「じゃあ、あなたはグリフィンドールがいいの?さっき、フレッドが言ってたわ、グリフィンドールで会おうって。」

「うーん、スリザリンじゃなきゃ、どこでも。でも、マルフォイとか、ノットとか......スリザリンは血を重んじるから、血を裏切るものじゃあ、そもそも、入れないかもしれないけど。」

「血を裏切るもの?」

ハリーが聞いた。

「純潔のクセにマグルびいきだって、そういうんだ。蛙チョコ、食べなよ。」

ロンが話題を変えるように言った。

 

蛙チョコを開けると、中にはカードが入っていた。

「きみ、何が当たった?僕はアグリッパだ。もう七つも持ってる。」

「ダン...ブルドア?かな。あ、ホグワーツの校長なんだ。ニコラスフラメルの友達......。グリンデルバルトを倒した......。すごい、この人。」

ハリーが蛙チョコの説明欄を見ながら言った。

「裏返してみなよ、写真が載ってるわ。」

ロニーが自分のカード(バックショット)に載った、女性の顔を見ていった。

「消えた!」

ハリーが蛙チョコのカードを裏返したとたん、写真の中の老人はいなくなった。

ロンは当たり前だろ?という顔をしている。

「ハリーとロニーは、蛙チョコ、食べたことないの?」

ロンが不思議そうに聞くので、ハリーとロニーはダーズリー家のことや、自分たちが、11才になるまで魔法使いだと知らなかった話をした。ロンは少し元気付けられたようで、にっこり笑った。

 

ロンがペットのスキャバーズ(ドジでデブなネズミさ。パーシーのお古なんだ。ほら、うち、お金ないから......。)をハリーとロニーに見せていると、ドアをコンコンとノックする音が聞こえた。

「ドラコ?」

青白い、少し高慢ちきな表情がハリーとロニーに笑いかけていた。後ろには筋骨粒々の男の子が控えている。

「久しぶり。あらためて挨拶しなくちゃと思ってね。僕たちのコンパートメントメントに来ないか?友達になりたいと思って。」

扉を開けると、ドラコが言った。

「どうする?」

ハリーがロニーとロンの方を見ると、ロンは心底、嫌そうな顔をしたが、ロニーはいいわよ、というようにうなずいた。

「ロンも行こうよ?お父さん同士仲が悪くても、付き合ってみるといい人かもしれないよ?」

ハリーも誘ったが、しかし、これは見込み違いだったようだ。

「もしかして、ウィーズリーの息子か?どうりで、赤毛でソバカスだ。それにボロボロの古着。二人とも、付き合うやつは、選んだ方がいい。」

ドラコは憤慨していった。

「まだ喋ってもないじゃない。」

ロニーが言うと、ドラコは肩をすくめた。

「表情を見れば分かるさ。」

これには反論できないようで、ロニーは小さくため息をついて、申し訳なさそうに言った。

「じゃあ、二人のうちどちらかが行けばいいわよね?」

「なら、僕行くよ。」

ハリーは入り口に近い方に座っていたのでロニーに応じて答えた。

 

「ごめん、ロンもいい人だと思うんだけど。それに、きみも、もうちょっと友好的に話しかければいいのに。」

後ろと前を大柄な男の子に固められて歩きながら、ハリーが遠慮がちに言った。

「ハリーなら、自分を見ただけで顔をしかめるヤツと仲良くできるのか?」

「じゃあ、にっこりしてたら、普通に喋りかけてた」

ハリーはそうとは思えなかった。

「気にくわないって思ったかもしれないが、ソバカスでボロで付き合っちゃいけないやつとは言わなかったさ。赤毛のところでやめておいたね。」

そう言われると、ああそう。としか言えなかったが、ハリーはやっぱり、ドラコがそうしたとは思えなかった。

 

「そんなことよりだ、紹介しよう。こっちはクラッブ、それからこっちがゴイルだ。」

ドラコがいきなり笑顔になっていった。

「それから、こっちはパンジー。パーキンソン家の。」

見ると、どうやらコンパートメントに着いたらしかった。

ドラコとハリーが隣同士に座り、クラッブとゴイルは、その向かいのパンジーの横に座った。

「ちょっと、狭い。あなたたち、絶対に減量するべきだわ。」

大柄な二人に押し潰されるようになったパンジーは顔をしかめて言った。顔をしかめると、少しだけパグ犬に似ている。

そんなパンジーの訴えを無視して、ゴイルは蛙チョコの包みに手を伸ばした。

「そのうち痩せるはずだよ......。」

ゴイルは蛙チョコを頭から美味しそうに食べながら言った。

 

「ハリーは寮はどうするんだい?」

ドラコが百味ビーンズを食て言った。

どうやら、あまりいい味はしなかったらしく、むせこんでいる。

「まだ決めてない。ロンはグリフィンドールが良いみたいだったけど......。スリザリンは評判が悪いみたい。」

ハリーが言うと、ドラコはとんでもないという顔をした。

「グリフィンドールの方が悪いさ。ホグワーツの歴史について知ってるかい?」

「ううん......、僕、マグル育ちなんだ。」

ハリーが言うと、クラッブやゴイルは驚いたような顔をしたが、パンジーとドラコは知らなかったの?というように二人を見てまゆをひそめた。

「まあ......、そうだな。本で読んだよ。母親の妹なんだろ?えっと、じゃあ説明するよ。ホグワーツはもともと、四人の創設者によって建てられたんだけど、それぞれが、寮を持ってるんだ。レイブンクロー、ハッフルパフ、グリフィンドール、そして、スリザリン。でも、最初は四人ともうまくやってたんだ。今はそれぞれいがみ合ってるけど......。で、その原因となったのが、グリフィンドールの傲慢さ。もともとホグワーツはマグルの魔女がりに対抗するための術を教える学校として建てられたんだ。だからスリザリンは、魔法が使えるというだけで、人を殺そうとするやつらの子供なんて信用できないといって、マグル生まれの子供の入学を拒否した。すると、グリフィンドールはその意見を聞こうともせず、スリザリンをホグワーツから追い出したんだ。たったひとつの意見の違いで‼️」

ドラコは大袈裟な身ぶりで演説した。

「あ、マグル生まれっていうのは、両親とも、魔法使いじゃない人のことを言うの。」

パンジーが付け足した。

「でも、じゃあ何でロンはグリフィンドールに入りたいの?」

ハリーが聞いた。

「そりゃあ、マグルびいき同士、気が合うんじゃないか?でも僕に言わせれば、さんざん僕らを痛め付けてきたやつらの子供を嫌うより、共に歩んだ仲間と、たったひとつの意見の違いで道を分かつ方がよっぽど罪だ。」

前半はなんだか、答えにはちょっと足りない気がしたが、後半は共感できる気がしたので、ハリーはどの寮が良いのか分からなくなった。

 

そのとき、コンパートメントのドアが勢いよく開いた。

「あなた、ネビルのヒキガエルを見なかった?どこかへ逃げちゃったの。あら、あなた、ハリーポッターね!あっちで、ロニーポッターにもあったわ。私、あなたたちのこと知ってる。本で読んだの。教科書も暗記してきたんだけど、それで足りるかしら?それから、あなたたちは?私はハーマイオニーグレンジャー。両親ともマグルなの。私、ホグワーツから手紙が来たとき、ほんとにビックリしたわ。でも、とっても嬉しかった。世界一の魔法学校って聞いているもの。寮はどこに入りたいの?私はグリフィンドールね。でもレイブンクローもいいかも。よろしく。」

女の子はそう一気に言うと、手を差し出した。

ハリーがおずおずと手を握ると、女の子はドラコにも手を差し出して、握手を求めたが、ドラコは応じなかった。

「あら、あなたも、もしかして『純潔主義』?私、思うんだけど、魔法使いの考え方ってとっても遅れてるわ。まるで中世よ。」

ハーマイオニーグレンジャーがずけずけと言った。

「きみのご先祖のせいで、そういうところを発展させる大切な人間がたくさん死んだんでね。」

ドラコが皮肉った。

「私のせいじゃないじゃない!何年前のことを......。」

ハーマイオニーが呆れたような怒ったような声で言った。

「まあいいわ、そろそろ着くはずよ。はやくローブに着替えた方がいいんじゃないかしら?」

そう言って、ハーマイオニーはツンときびすを返した。

 

「あれはちょっと言い過ぎだよ。握手ぐらいいいんじゃない?」

ハリーはドラコに言った。

「でも、父上が、ああいうのとは関わるなって言ってた。それに、魔法使いの血が濃い方が優秀なんだ。だから寮も大体は家系で決まるだろう?そんなことも知らないで偉そうにしてくる女は嫌いだ。」

またしてもハリーはドラコの話のある部分には、同意しかねたが、ハーマイオニーが偉そうだったというのは、かなり的を射ていた。

「ああいう傲慢なタイプは絶対にグリフィンドールだ。」

 

汽笛がなって、汽車が止まった。

「降りよう。」

ドラコが言った。

ハリー、クラッブ、ゴイルが降りると、ドラコは扉を開けて、パンジーをエスコートした。

汽車から降りるとホームは人でいっぱいだった。

「イッチ年生はこっち、イッチ年生はこっち!ああ、ハリー、元気か?こっちだ。」

懐かしい大きな声が聞こえてきた。

人混みの奥からモジャモジャの笑顔がハリーに呼び掛けていた。

「みんな来たか?ついてこいよ......足元に気い付けて......。」

一年生は他のみんなとは離れてハグリッドの引率で小さなボートに乗った。

「これ、ホグワーツの伝統なのよ。一年生はボートで湖をわたるの。」

パンジーが言った。ボートには四人ずつだったので、一人余ったが、パンジーが友達を見つけてどこかへいってしまったので、クラッブ、ゴイル、ドラコがハリーと一緒のボートに乗った。

ハリーはロニーの姿を見つけて、手を小さく振ったが、ロニーはロンともう一人、茶髪の男の子としゃべるのに夢中だった。

「頭、下げー。」

ハグリッドが叫んだ。

誰が漕ぐまでもなく、動くボートに乗って、蔦のカーテンを潜り、崖の間の窪みに入ると、ボートは止まった。船着き場だ。

 

「ほい、これ、お前さんのヒキガエルだろ?」

みんなが下船したあと、船を調べていたハグリッドが言った。

「ついてこい!」

ハグリッドが大きな声で言って、一年生はぞろぞろとハグリッドの後ろについていった。

「みんないるな?ヒキガエルは忘れてねえか?オッケーだ。」

ハグリッドはそう言って、巨大な樫の扉を巨大な拳で叩いた。

この先に、ホグワーツがあるのだ......。




最後まで読んでくださってありがとうございます‼️
原作の雰囲気、壊してないかな......。ちょっとそれが怖いんですよね。でも、ドラコとか、完璧に嫌なやつにするわけにもいかないし、実際、ハリーの視点で見ていたからドラコが嫌なやつだっただけで、別に原作のドラコもいいところはあったと思うし。
でも、出来れば、ロニーがもたらした以外の変化は入れたくないんです。


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組分け

閲覧、ありがとうございます。
更新がすごく遅くなりました。すみません!


ハグリッドが扉を開くと、そこに立っていたのは、厳格そうな魔女だった。エメラルド色のローブを着て、背が高い。真一文字に結ばれた口は、この人に逆らってはいけないと、ロニーに告げていた。

「皆さん、私は、ホグワーツ魔法魔術学校の副校長、ミネルバマクゴナガルです。」

そう挨拶して、マクゴナガル教授は、ハグリッドに向き直り、ここからは自分に任せるようにと言った。

 

マクゴナガル教授が目の前の大きな扉を開いた。

扉を開けた先には大きな玄関ホールがあった。ダーズリー家の何倍か......。

一年生はマクゴナガル教授に連れられて、玄関ホールを横切り、ひときわ大きな扉の前に止まった。樫の扉も、玄関ホールに続く扉も大きかったが、この扉はそれ以上に、豪華だ。扉の向こうではガヤガヤと笑い声がする。

ロニーは高揚感とも緊張感ともいえない面持ちでロンと汽車から降りたところで仲良くなった男の子、ダン・マッキンノンを見つめた。ダンは9と4分の3番線への入り方を教えてくれた、あの男の子だ。

 

「ホグワーツ入学おめでとう。」

マクゴナガル教授は扉に背を向け、ロニーたちに向き直った。

「新入生の歓迎会がもう間もなく始まりますが、まず、この扉の向こうの大広間に入ったら、皆さんが入る寮を決めなくてはなりません。寮生は、皆さんがホグワーツでの寝食を共にする仲間です。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、そして、スリザリン。それぞれが輝かしい歴史を持ち、数々の偉大な魔女や魔法使いを輩出してきました。ホグワーツにいる間、皆さんのよい行いに対しては、加点が付き、反対に悪い行いは減点対象となります。毎年、年度末には、一番得点を稼いだ寮に、大変名誉ある、寮杯が渡されます。さて、間もなく組分けの儀式が始まります。できるだけ身なりを整えてお待ちなさい。」

マクゴナガル先生はそう言って、扉の向こうへ消えた。

 

「僕、ハッフルパフに入りたいんだ。父さんがそこの寮の出身だからね。あ、でもグリフィンドールも悪くないかも。」

マクゴナガル先生が見えなくなると、ダンがそわそわと言った。

「でも、ハッフルパフは劣等生が多いって言うよ?」

ロンが言った。人のことはいえないが、少しデリカシーに欠けてる発言だとロニーは思った。ダンの口ぶりからして、彼にとって父親は憧れの存在だ。

「知ってるか?ハッフルパフの出身者で闇の魔法使いになった人間はとっても少ないんだ。」

ダンもそう思ったのか、ムッとした様子で答えた。

「ごめん。でも、僕さ、君はグリフィンドールの方がしっくりくると思うな。」

ロンが申し訳なさそうに、謝って言った。

「何で?」

ダンとロニーは声を揃えて、不思議そうに聞いた。

「だって、君はあんまり優しそうな感じがしないじゃないか。何て言うか、ギラギラしてる。」

この言葉に、ダンは失敬な、という顔をしていたが、ロニーはおかしくて吹き出しそうだった。確かにダンは、優しそうじゃないし、キラキラしてるともギラギラしてるともいえる空気を放ってる。

「君こそ、グリフィンドールがいいんじゃないか?」

ついに小さく吹き出したロニーをムッとした顔でにらみながら、ダンが言った。

今度はロンが驚く番だった。

「何でそう思うの?」

「そりゃあ、君はウィーズリーだろ?」

ダンは当たり前だというように答えた。

確かに、ロンは列車のなかで少し、寮の話をしたときも、どこでもいいと言いながら、グリフィンドールに入りたがってるみたいだった。

「そういえば、ロニーはどの寮が良いの?」

ロンがロニーを見ていった。

「うーん、私は組分けに任せる。でも、スリザリンはイヤかも。あなたの話じゃ、あんまり良くないみたいだし......。」

ロニーが珍しく、はっきりしない口調で言うと、ダンが言った。

「君はグリフィンドールじゃないの?母さんが君のお母さんの親友だったんだけど、グリフィンドールだったし。君のお父さんもそうだ。」

これははじめて聞く話だった。

父さんと母さんはグリフィンドールだったんだ。グリフィンドール......。いいかも。ロニーは顔には出さなかったが、かなりグリフィンドールを魅力的に感じていた。

「どの寮になるにしろ、同じ寮になれたらうれしいわ。」

ロニーがそう言って、ダンとロンにほほえむと、二人もそうだね、と微笑み返した。

友達を作るのって、案外簡単だわ。少し話しただけなのに、私はもう、二人のこと、友達だって思ってる。

 

「さあ、用意が整いました。ついてきなさい。」

マクゴナガル先生が扉も向こうから現れて、そう告げた。

 

マクゴナガル先生に連れられて進んだ先の大広間は、大きくて豪華だった。天井には本物の星が浮かび、何本ものろうそくがただよっている。四本の長テーブルがある。それぞれのテーブルにビロードのクロスがかかっている。真紅の地に金色の糸で刺繍されたライオン、カナリアイエローの地に黒色の穴熊、青地にブロンズの鷲......そして、緑色の地に銀色の蛇......。

新入生の姿が見えると、四つのテーブルから歓声が聞こえた。

その歓声を聞きながら、ロニーのお腹のそこに、気持ち悪い感じが戻ってきた。ダンやロンと話して、一瞬どこかへいっていたあの緊張感が百倍になって帰ってきたようだった。

 

大広間の一番奥につくと、椅子の上に古ぼけた帽子がおいてあった。いかにも魔法使いの帽子という感じがする。

 

「これ、どうするのかな?組分けに使うんだよね?」

ロニーがロンとダンを振り返って言った。

「さあ、フレッド、あ、僕の兄さんなんだけど、フレッドはトロールと取っ組み合いさせられるって言ってたけどな。もしかしたら、あそこからトロールが出てくるのかも。」

「まっさか、本気にしてないよな?」

ロニーがロンの話を聞いて、ヒッと声を上げかけたので、ダンがクスリとバカにしたように笑った。

「トロールってすっごくデカいんだ。それが大広間に現れてみろ、大変なことになるぜ?」

ロンがむっとして口を尖らせた。

「じゃあ、やっぱり、かぶるの?」

「かあさんはそんなようなことを言ってた。きみ、冗談じゃなかったの?」

ダンがロンをちらりと見て、驚いたように言った。

「かぶるだけなら簡単だし、そうだといいな。」

ロニーは帽子を見つめた。

 

すると、突然、帽子のふちのところが口のようにぱっくり裂けて、ぴくっと震え、歌いだした。

 

私はきれいじゃないけれど

人は見かけによらぬもの

私をしのぐ賢い帽子

あるなら私は身を引こう

山高帽は真っ黒だ

シルクハットはすらりと高い

わたしはホグワーツの組分け帽子

彼らの上をいくこの私

君の頭に隠れたものを

組分け帽子はお見通し

かぶれば君に教えよう

君が行くべき寮の名を

 

グリフィンドールに行くならば

勇気ある者が住まう寮

勇猛果敢な騎士道で

他とは違うグリフィンドール

 

ハッフルパフに行くならば

君は正しく忠実で

忍耐強く真実で

苦労を苦労と思わない

 

古き賢きレイブンクロー

君に意欲があるならば

機知と学びの友人を

ここで必ず得るだろう 

 

スリザリンではもしかして

君はまことの友を得る

どんな手段を使っても

目的遂げる狡猾さ

 

かぶってごらん!恐れずに!

興奮せずに、お任せを!

君を私の手にゆだね(私は手なんかないけれど)

だって私は考える帽子!

 

「abc順に名前をお呼びいたしますので、呼ばれたら、前に出て、帽子をかぶってください。」

マクゴナガル先生が長い羊皮紙をまきながら、言った。

「アボット・ハンナ!」

金髪のおさげ髪の少女が転がるように前に出た。一瞬の間……。

「ハッフルパフ!」

右側のテーブルから歓声が上がり、ハンナは小走りでテーブルに着いた。

「ボーンズ・スーザン!」

「ハッフルパフ!」

「ブート・テリー!」

「レイブンクロー!」

組み分けはどんどん進んだ。帽子は、すぐに判断して叫ぶこともあれば、迷ってなかなか叫ばないこともある。汽車の中で会った女の子、ハーマイオニーグレンジャー(ネビルのカエルを探していた子で、グリフィンドールに組み分けされた)の後の、ネビルロングボトムなど、丸々十分くらいは、椅子に座っていた。心なしか、組み分け帽子のグリフィンドール!という叫びも自信なさげだった。

 

そして、ネビルがやっとグリフィンドールの席に着くと、次はダンだった。

「マッキンノン・ダニエル!」

ダンは小さく息を吸って、小走りで前に出た。グイっと帽子をかぶる。

「グリフィンドール!」

帽子が一瞬なやんで、すぐに叫んだ。ダンは少しだけ、二っと笑って、小走りでグリフィンドールのテーブルに着いた。

「ほら。やっぱ、僕の見込みは正しかった。」

ロンがニコニコと言った。

 

「マルフォイ・ドラコ!」

そういえば、ドラコとダンはイニシャルが一緒だ。

ドラコは例の高慢ちきな表情を崩さずに前に出た。それでも、ただでさえ青白い顔がなおさら青白くなっている気がする。

「スリザリン!」

帽子がドラコの頭に触れないうちに、叫んだ。どうやら、ドラコはこの結果に満足したようで、悠々とふんぞり返って、スリザリンのテーブルに向かった。

 

ムーン、ノット、パーキンソンにパチル姉妹、それからパークス、サリーアン……。

そして、

「ポッターハリー!」

マクゴナガル先生が呼んだ。

ハリーが前に進み出ると、広間がシーンと沈黙に包まれた。どの寮の生徒も、ハリーをじっと見つめている。

二、三分が経って……。

「スリザリン!」

帽子が声高々に叫んだ。

ハリーはニッコリ笑って、スリザリンのテーブルのドラコの横に着いた。

 

「ポッター・ベロニカ!」

遂にロニーの番が来た。今度は、ハリーの時と対照的なざわめき声が重い波のように広がる。

ロニーはすっと、なるべくキレイでかっこよく見えますようにと祈りながら、前に進み出た。帽子をぎゅっと握りしめてかぶる。

「グリフィンドール!」

ドラコの時と同じくらいすぐに、帽子が叫んだ。椅子から立ち上がて、大広間を見回すと、一番右の、赤いテーブルではダンやロンの双子の兄たち、フレッドとジョージが立ち上がって喜んでいる。大広間の反対側、スリザリンのテーブルでは、ドラコやハリーが残念そうにうなだれている。

ハリーは、スリザリンだ…。そして私はグリフィンドール。もともと、あんまり似てない兄弟だったんだけどね。見た目もそうだけど、何よりも性格が。

ロニーはハリーに二っと笑いかけて、小走りでグリフィンドールのテーブルに着いた。

 

「やっぱりな。卒業までよろしく。」

向かいの席のダンがロニーに二っと笑いかけた。

「あなたこそ。ロンの見込みは正しかったのね?」

ロニーも笑い返した。

「そうみたいだ。ハッフルパフがいいって言ったら、それでもいいけど向いてないって、帽子に止められた。じゃあどこがいいんだ?って言ったら、グリフィンドーール!って。まあ、スリザリンッ!じゃなくてよかったよ。グリフィンドールなら、母さんも喜ぶ。」

「ハリーはスリザリンよ?まあ、もともと私たち、全然似てない兄弟だったんだけど。」

ロニーが眉毛をキュッと上げていった。

 

「やあ、特急で会ったな。」

フレッドかジョージ……とにかく、ロンの双子のお兄さんの一人が斜め前の席から身を乗り出して握手を求めた。

「きみの弟……兄?いや、どっちでもいいけど、とにかくハリーポッターがスリザリンだなんてな。驚き桃ノ木。」

今度は双子の片割れがむすっとして言った。

すると、三つむこうの席から、角ぶち眼鏡をかけた赤毛が身の乗り出した。

「フレッド、スリザリンだからって、何でもかんでも悪いと決めつけるのは良くない。事実、コーネリウスファッジ魔法大臣は、スリザリン出身だ。」

「それ、『現代魔法社会』で読んだわ。」

栗色のぼさぼさ頭の女の子、ハーマイオニーがロニーの隣で言った。

「あなた、ハーマイオニーでよ?汽車の中で会ったね。ロン、カンカンに怒ってたわよ。」

ロニーが面白そうに言った。

「何しでかしたんだ?」

ダンがニヤニヤとハーマイオニーを見た。

「簡単に言うと、公衆の面前で、初恋の相手がテディベアだってばらすのと同じくらい、屈辱的な仕打ちをね。」

「ほんとのことを言っただけよ。」

「そりゃ確かに、初恋の相手をばらすのだって、嘘はついてないからな。」

ハーマイオニーがすまして言うと、ダンが水を差した。

「でも実際、偶然にもあいつの初恋はテディベアのマダムルーシだぜ。」

今度はジョージだ。

すると、いきなりフレッドがむせこんで、悲壮感たっぷりに言った。

「マジかよ?俺、アクロタマンチュラに変えちゃた。あいつの……レイディ・ル、ルーシーを!」

「八歳の時だ。」

ジョージが合の手を入れる。

「ところで、ロナルド坊ちゃんと言えば、組み分けだ。懸けるか?無事、このテーブルに着くことができるかどうか。」

さっきのあの表情はどこへやら、フレッドがにやっと笑った。

「ロン、グリフィンドールに来るかな?」

ロニーがダンに聞いた。

「ロンはグリフィンドールだよ。なんたって、ウィーズリー家の一員だ。」

ダンの代わりに、角ぶち眼鏡の青年が答えた。よく見ると、ロンによく似ている。眼鏡をとったらそっくりだ。

「分かんねえぞ、パーシー。事実、ジニーなんて、危ないぜ。スリザリンかもしれない。」

 

「ウィーズリー・ロナルド!」

マクゴナガル先生が威厳たっぷりにロンを呼んだ。生徒はあと、ロンを入れても二人しか残っていない。

「それ来た。耳が真っ赤だ。」

ロンはがくがくと震えながら、前に出て帽子をかぶった。

「グリフィンドール!」

ロンは嬉しそうに、本当にうれしそうに笑って、グリフィンドールのダンの横に座った。

「卒業までよろしく!」

「どうぞよろしく。」

 

ロンの次に呼ばれた男の子、(ザビ二・ブレース!)はスリザリンだった。

 

「さて、あとはジニーか。」

組み分けが終わって、椅子を片付けているマクゴナガル先生を見ながら、ジョージが言った。

ロニーは空っぽの大皿を眺めた。おなか、ペコペコだ。

 

教職員テーブルの真ん中で、ダンブルドアが立ち上がった。

腕を大きく広げ、この上ない幸せ、というように笑った。

「おめでとう!ホグワーツの新入生、おめでとう!歓迎会を始める前に、二言三言言わせていただきたい。では、行きますぞ。そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!以上!」

ダンブルドアはもう一度ニッコリ笑って席に着いた。

「あの人、変な人だね。」

ロンが斜め前から身を乗り出した。

「でも、なかなかよくまとまってて、素敵なスピーチだったよ?好きなくとも、短かったもの。」

ロニーが肩をすくめた。

「まったくだ。ほら見ろよ。このごちそうに比べりゃ、どんないい話も、ダル・ニッケルのブクブクキャンディと同じくらい価値のないもんだぜ?」

ロニーがダンに言われて目の前の大皿を見ると、おいしそうなステーキキドニーパイが盛られていた。

「ワーオ。」

まったく、ダンの言うとおりだ。ダル・ニッケルのキャンディがどれほどヒドイのか、ロニーは知らないが、少なくとも、あの、ダドリーが食欲を失うほどにはヒドイに違いない。

 

すごいごちそうだ。テーブルの上の大皿はローストビーフ、ローストチキン、ポークチョップ、ラムチョップ、ソーセージ、ベーコン、ステーキ、ゆでたポテト……ほかにもたくさん。ダーズリー家にいたのでは、見ることもできなかっただろう。

ロニーは、どれも少しずつ皿にとって、一口一口味わって食べた。向かいのテーブルでは、ダンとロンが、どちらがベイクドポテトの山を早く平らげることができるか、競争している。

 

「おいしそうですね。」

ロニーが骨付きラム肉をどうにかして食べやすいサイズに切ろうとしていると、ひだ襟服のゴーストが悲しげに言った。

「食べればいいのに。ゴーストは食べちゃいけないの?」

ロニーが一旦、ラム肉を何とかすることをあきらめて、ゴーストの悲しげな眼を見つめ返した。

「ゴーストというのは、食事ができないんです。する必要もありませんがね。かれこれ、500年食べておりません。もっとも、正確には499年ですが。ああ、まだ自己紹介をしてませんでした。ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿でございます。以後お見知りおきを。」

ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿は礼儀正しくお辞儀した。

「僕、君のこと知ってる!ほとんど首なしニックだ!兄さんたちがいってたよ!」

ダンとの、ベイクドポテト早食い対決に大差をつけて勝利したロンが目を輝かせて叫んだ。

「どうひ……て、ほどんど、ふびなひ……になれう、の?」

ダンがポテトで口をいっぱいにしながら聞いた。

「呼んでいただくのであれば、むしろニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿と……。」

「ねえどうして?」

黄土色の髪の少年、シェーマスフィネガンが割り込んできた。

ニックは、自分の思った通りに会話が進まないので、ひどく気に障ったようだ。

「ほら、この通り。」

ニックが自分の左耳をつかんで、思い切り引っ張った。

首が蝶番のように開き、ぐらりと落ちた。誰かが、首を斬り損ねてしくじったらしい。

「打ち首?何やらかしたの?」

ロンが聞いた。

ハーマイオニーが隣でなんて無神経な!という表情をした。

ほとんど首なしニックは一瞬、顔を半透明にして、怒りの声をあげたが、すぐに元に戻って、話題を変えた。

「とにかく、今年こそは両杯を我がグリフィンドールの手に。この六年間、血みどろ男爵は鼻持ちならない状態ですぞ。六年連続、スリザリンが寮杯をとっていますからな。」

皆が一斉にスリザリンのテーブルを見た。血みどろ男爵はドラコとハリーの間に座っているゴーストだろと思った。虚ろな目、げっそりした顔、衣服は血でべっとりと汚れている。ハリーもドラコも居心地悪そうにもごもごと動いていた。

「なんで、血みどろになったの?」

シェーマスが興味津々で聞いた。

「かれこれ、500年の付き合いですが……聞いてみたこともありませんな。」

ニックが言葉を濁した。

「友を恐れるなんて、ひどい。」

ロニーが面白そうに言った。

今度こそニックは気を悪くしたようだ。ふわふわとテーブルの反対側に漂っていった。

 

全員がおなかいっぱいになったところで、食べ物は消え去り、デザートが現れた。ロニーはいつもの百倍の量の夕食を食べた後だったので、デザートを流し込む余裕など全くなかったが、それでも何とか、全種類のデザートを小さじ一杯分ずつ食べた。

 

ロニーがアップルパイを一切れ食べていると、家族の話になった。

「僕はハーフなんだ。ママは魔女で、パパはマグル。結婚するまで、ママは自分が魔女だって言わなかったみたい。パパはずいぶんどっきりしたって。」

シェーマスが言って、みんなが笑った。

「僕は自分でも、分かんないんんだ。ちっちゃいころに父さんが家を出てっちゃって。母さんはマグルだから、多分マグル生まれなんだけど……。」

シェーマスの横の男の子が言った。ディーントーマスだ。

「じゃあ、母子家庭なんだ。俺と一緒!」

ダンが笑って、ディーンとグータッチした。てっきり、憧れの父親だと思ったのに。

「兄弟はどうなの?」

インド系の女の子、パーバティ・パチルが聞いた。

「お兄ちゃんがいたんだけど、父さんと一緒に行っちゃったからな。あんまり覚えてない。」

ダンが肩をすくめて答えた。

「僕は、小さい妹がいるけど、まだ、魔女らしいことは全然。そういうのって、いつごろ分かるの?」

ディーンの問いかけにはネビルが答えた。

「僕は八歳くらいまで、知らなかったんだ。みんな、僕のこと、スクイブだと思ってた。アルジー大叔父さんなんか、なんとか、僕から魔力を引き出そうって、溺れさせたりとか、三階の窓からぶら下げたりしたもん。それで、十七回目に叔父さんが窓から僕をぶら下げたとき、叔父さん、うっかり手を離しちゃったんだ。僕はまっ逆さまに落ちたんだけど、マリみたいにぐーんって弾んだんだ。もう、みんな大喜びでさ、ヒキガエルを買ってくれた。」

 

テーブルの向こう側では、ハーマイオニーが一人、パーシーと話していた。

「ホントに待ちきれないわ!特に変心術に興味があるの、私。すごく難しいっていうけど......。」

「はじめはほら......、簡単なものから始めるんだ。マッチ帽を針に変えるとか。」

パーシーが答えた。

 

教職員のテーブルでは、鍵鼻のむっつりした先生と、奇妙なターバンのクィレル先生が話していた。

ロニーは、二人を眺めた。

そして......一瞬、本の一瞬、鍵鼻の先生と目があった気がした。一瞬で目を逸らされてしまったから分からないが、ロニーは、その目が自分の目を見て、大嫌いだといっている気がした。バーノンおじさんの小さな目よりも強烈に。

 

「エヘン、皆よく食べ、皆よく飲んだことじゃろうから、また、二言三言。新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある。一年生、構内の禁じられた森は禁じられておる。立ち入り禁止じゃ。上級生の何人かにも、改めて注意しておこう。」

ダンブルドアの青い目がキラッと輝いた。

「管理人のフィルチさんからお知らせじゃ。ろうかでの魔法の使用は禁止出そうじゃ。今学期のクィッディチのの予選は二週目じゃ。参加したい人は、マダムフーチに連絡すること。」

ダンブルドアはぐるりと広間を見回した。

「そして最後に、一番大切なお知らせじゃ。今年一杯、とてもいたい死に方をしたいもの以外、四回階の右側のろうかには立ち入らぬよう。」

目の前でダンが笑った。

「ほんとだと思う?何があるのかな?」

ロニーが目を輝かせた。

 

「では、寝る前に校歌を歌うとしようぞ!」

ダンブルドアが声を張り上げた。

ダンブルドアが杖を降ると、金色のリボンが流れ出て、校歌の歌詞を示した。

「みんな自分の好きなメロディーに!」

 

ホグワーツ ホグワーツ

ホグホグ ワツワツ ホグワーツ

教えて どうぞ 僕たちに

老いても  ハゲても  青二才でも

頭にゃ何とか詰め込める

おもしろいものを詰め込める

今はからっぽ  空気詰め

死んだハエやら  がらくた詰め

教えて  価値のあるものを

教えて  忘れてしまったものを

ベストをつくせば  あとはお任せ

学べよ脳みそ  腐るまで

 

みんなバラバラに歌い上げた。双子のウィーズリーが最後に残った。ダンブルドアは杖を指揮のように振っていたし、ロニー、ダン、ロンはコーラスとして加わった。

「音楽とはなんと素晴らしい魔法じゃ!」

ダンブルドアが感動の涙をぬぐいながら言った。

「さあ、諸君、就寝時間。駆け足!」

 

グリフィンドールの一年生は、パーシーに連れられて、ザワザワとしたなかを、進んだ。

歩きながら眠たくなってきた。あとどのくらいで着くのだろう......?そう思ったとき、突然パーシーの足が止まった。一枚の太った女性の絵の前で、滑稽なゴーストがとおせんぼをしている。

「何で止まったの?」

ラベンダーブラウンがあくび混じりに聞いた。

「ピーブスだ。」

パーシーが苦々しげに言って、声を張り上げた。

「ピーブス‼️血みどろ男爵を呼んでも良いのか?」

すると、ピービスが渋々どこかへ消えていった。

「このフレーズは役につ。ピーブスがおそれるのは、血みどろ男爵だけだからね。」

パーシーが威厳たっぷりに言った。

 

「合言葉は?」

太った女性の絵がいきなりいった。

「カプート・ドラコニス!」

パーシーがそう答えると、肖像画がぱっくり空いた。つくづく、魔法ってすごいと思う。

肖像画が隠していた穴を抜けると、居心地の良さそうな談話室だった。

ロニーは正直、その場で寝てしまいたかったが、何とかパーシーじゃない方の監督生に連れられて女子寮にたどり着いた。

ベットはふかふかだ。

ロニーはそのまま、眠りに落ちた。

明日、起きてみたら全部幻だった......。そんなことになったらどうしようと、ロニーは夢の中でも不安だった。

しかし、翌朝起きてみると、ちゃんとベッドはふかふかで、昨日と変わらず、居心地の良い場所だった。




ロニー以外は変えたくないといっておきながら、一人、オリジナルキャラクターが!
最後まで読んでいただいて......ホントにありがとうございます。


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魔法薬の先生とドラコの主張

ロニーの視点です。


これからの人間関係や考え方について、結構書いてあるかも。


「ロニーって、ハリーの双子の姉妹なんでしょ?昨日は聞きそびれちゃって。あんまり似てないのね。」

「この帽子……、一番のお気に入りなんだけど……ハリーにサインをもらってきてくれないかしら……。」

「あなたって、ハリーの双子のお姉ちゃん?妹?どっちかしら?とにかく、ハリーに自分についての本を読んでみるように勧めといてもらえない?」

次の日、同室の女の子たちにかけられた言葉で“ハリー”が入っていないものはなかった。これが同室の三人だけなら、笑顔でそうよ、と答えたものだが、寝室から出ると、初めて顔を見るような上級生がハリー、ハリーと言うのには少し参った。中でも一番無遠慮だと思った質問はこんなだ。

「きみも、十年前のハロウィーンの日、そこを見てたんだよな。死の呪文で人が死ぬところって、どんな感じだ?死の呪文が跳ね返るところは?例のあの人を覚えてるのか?ほんとにあいつは死んだのか?見てたんだろ?」

これには、ロニーも少しムッとした。肩幅のがっしりはった、二年生には見えない彼は忘れているかもしれないが、あの事件で死んだのは、見ず知らずの他人じゃないし、私は遠巻きに見てた野次馬じゃない。

 

「ハリー、大人気だね。」

やっとの思いで大広間にたどり着くと、ロンとダンが朝食をとっていた。同室の三人と大広間まで来たのだが、さんざんハリーはハリーはと聞かされ、いい加減うんざりしてきたところだったロニーはロンの軽い一言に安心した。

「よかった。私、どうしようかと思ったよ。二人までハリーハリーって一日中うっとりした顔されたら……。」

「そりゃあ、僕、昨日ある程度聞いたもん。」

ロンがあっけからんと言った。

「そこは、もっとロマンチックにしてよ。私は、ハリーポッターの姉としての私じゃなくって、ロニーポッターとしての私に飢えてるの。」

ロニーが芝居がかった身振りで言うと、ダンが盛大にカボチャジュースを吹き出した。

「さすが、ロニー・ポッター。」

「さすがダン・マッキンノン、テーブルマナー以外は完璧。」

ロニーがジュースがべっとりついて、オレンジ色になったローブを見て肩をすくめた。

「また寮に帰らなくっちゃ。初日そうそう遅刻かも。」

「大丈夫、一時間目は魔法史だってさ。ビルが、魔法史はさぼってなんぼだって言ってた。」

ロンが時間割を見て安心したように言った。

「ホグワーツの首席様が言うんだから間違いないさ。」

 

結局、数分程度遅れる予定だった魔法史の授業には、三十分の大遅刻をした。

 

ホグワーツは、魔法学校だ。建物自体が魔法だ。例えば百四十二ある階段のうち、間違いなく半数近くは何らかの魔法がかかっていた。金曜日にはいつもと違う場所につながる階段、真ん中あたりで一段消えてしまうため、必ずジャンプしなくてはいけない階段、いくら上っても、上れば上るほど下へ下がっていってしまう階段……。さらには、壁や扉も厄介だった。同じところを正確にくすぐらないと開かない扉、丁寧にお願いしないと開かない扉、実は扉じゃなくて、ただのタスペトリー……。

第一、ホグワーツではモノというものがあるべき場所にとどまっていない。肖像画の絵たちは、勝手にお互いを訪問しあっているので、目印にしようにも、全く意味をなさない。鎧だって、きっとその気になれば歩けるだろう。

ゴーストも、ゴーストに慣れていないロニーにしてみれば、見るたびにヒヤッとした。ほとんど首なしニックなどは喜んで新入生に道を教えてくれたが、ポルターガイストのピーブスは、道に迷ったときに出くわすと、本当に厄介だった。ゴミ箱を頭の上からぶちまけたり、足元のじゅうたんを引っ張ったり、間違った道に誘導したり、後ろから忍び寄って鼻をつまみ、「釣れたぞ!」キーキーと声をあげたりした。仕返しをしようにも、ピーブスは空中をふわふわと漂っている。今のところ、一週間がたっても、ロニーたちの報復方法はチョークをたっぷりしみこませた濡れぞうきんを投げつけることぐらいだった。しかしこれにも、欠点がある。第一に、濡れぞうきんは重いので、ただでさえちぎれそうなカバンがミシミシと不吉な音を奏でることだ。第二に、ピーブスはすばしっこいので、なかなか当たらない。ロニーはそれでも、多少は当てていると思ったが、ダンやロンは時々監督生や先生の顔を直撃したりして、大量に減点を食らっていた。ロン曰く、半分近くを正確にピーブスの顔に当てるロニーが異常なのだ。

ピーブスより厄介だと言えるかもしれないのは、管理人のアーガスフィルチだった。飼い猫のミセスノリスとのタッグは最強で、ミセスノリスにいたずらの現場が見つかろうものなら、二秒後にフィルチがリュウマチの足を引きずりながら飛んできた。フィルチは(双子のウィーズリーには負けるかもしれないが)城中の誰よりもよく秘密の階段や抜け道を知っていた。

 

教室への道にある程度慣れ、ピーブスを狙うダンとロンの濡れぞうきんのコントロールが定まって来ても、ホグワーツでの生活に安心はできなかった。魔法というのは、ただ杖を振って呪文を覚えれば済むものではない、ロニーはそのことに気づかされた。

水曜日の真夜中には、ホグワーツで一番高い天文学の塔に上り、星や星座の観察をした。次の日は寝不足だ。

週に三回ある薬草学の授業では、ずんぐりと小柄なスプラウト先生と不思議な植物やキノコについて、観察、勉強した。

初日の一時限目、ビル曰くさぼってなんぼの授業は、案の定、とてつもなくつまらなかった。ロニー、ロン、ダンの三人は初回の授業に三十分遅れたにもかかわらず、悠々と十五分の睡眠をとった。教室に入っていった時点で起きていたのは、ハーマイオニー・グレンジャーただ一人だ。

「妖精の呪文」は、小さなフリットウィック先生の担当だった。本を何冊も積み上げた上に立ち、教壇からちょこっと顔をのぞかせて講義をしたが、授業自体はなかなか楽しかった。

 

マクゴナガル先生は厳格で聡明そのものだった。授業を始めます、という言葉の次に聞かされたお説教の内容はこうだ。

「変身術は、ホグワーツで学ぶ科目のうち、もっとも複雑で危険なもののひとつです。いい加減な態度でわたくしの授業を受けるものは出て行ってもらいますし、二度とクラスには入れません。はじめに警告しておきます。」

それから先生は机を豚に変えサッとまた机に戻した。

皆は、早く試したくてうずうずしていたが、間もなく、家具を動物に変えるまでになるには、まだまだ時間が必要だと気付かされた。さんざん複雑なノートをとった後、マッチ棒が配られ、それを針に変えてみせるという課題が出されたが、これがなかなか難しい。

ロニーは何とか、針のカタチをしたマッチを生み出すことに成功したが、マクゴナガル先生がマッチ箱でこすると、火が付いた。それでも、まあ良いでしょうと、五点をもらえたのだから、驚きだ。ダンの針は木製ですぐに折れてしまったし、第一、何かを縫うには太すぎた。ロンの針などは、びくともしなかった。しかし、ロンのように針を全く変身させることができなかった生徒が大半で、完璧な針を生み出すことができたのはハーマイオニーただ一人だった。マクゴナガル先生はめったに見せない寛大な微笑みを彼女に向け、十五点をグリフィンドールに与えた。

 

皆が一番楽しみにしていたのはクィレル先生の、闇の魔術に対する防衛術のクラスだったが、これは全くの肩透かしだった。クィレルは終始おどおどして授業どころではなかったし、頭のターバンからはおかしな匂いがプンプンした。先生は、ターバンは吸血鬼をやっつけたときに、アフリカの王子さまがくれたものだと言ったが、どうも怪しい。ディーン・トーマスがターバンについて質問した時に、気まずそうに天気の話を始めたからだ。双子のウィーズリーは、吸血鬼に襲われないようににんにくを詰めていると主張した。

 

ロニーは他の生徒に比べ、たいして後れを取っていないことに安心したが、一方で、同室のハーマイオニーに負けたことが悔しくもあった。ご親切なことに、「針は火をつけるものじゃなくて、何かを縫うものよ。形だけじゃなくって、モノの本質を理解しなくちゃ」なんてアドバイスをくれものだから、ロニーとしても、心に火が付いた。ぜひとも、学年主席の座を彼女から奪ってやろう。

 

金曜日は、魔法薬学の授業があった。

「スネイプはスリザリンを贔屓するってみんなが言ってる。」

ロンがオートミールを食べながらふがふがと言った。

「マクゴナガルは全然なのに……。本当だったら不公平じゃない?」

ロニーが教職員テーブルのマクゴナガルを見ていった。今日も口は真一文字に結ばれている。

「ホントかどうかはすぐ分かるさ。でも、僕の母さん、スネイプと同級生だったんだけど、学生時代からやなやつだったて。」

ダンがすっと席から立ち上がって言った。

「じゃあ、私のお父さんとお母さんも、同級生だったの?」

「うん、まあ。君のお父さんなんか、犬猿の仲だったらしいぜ。廊下で目があえばお互い魔法合戦さ。」

ダンが肩をすくめた。

驚いたことに、話しながら地下に向かっていると、目の前に魔法薬学の教室があった。全く迷わずたどり着いたのだ。

 

授業が始まると、魔法薬学のクラスが最悪だということがはっきりとした。

「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。それでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く大鍋、ゆらゆらと立ち上る湯気、人の血管の中を杯めぐる繊細な液体の力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……諸君のすべてがこの見事さを真にを理解するとは到底期待しておらん。吾輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、死にさえふたをする方法である。ただし、諸君がこれまで教えてきたウスノロよりましであればの話ではあるが。」

スネイプは、授業を始めるの一言もなく、開口一番そう告げた。大演説の後は、クラス中が一層シンと静まり返った。

スネイプは教室の中をぐるりと見回して、突然、「ポッター!」と叫んだ。スリザリンとグリフィンドールの合同授業だったので、ハリーとロニーが二人そろって顔をあげた。

「ああ、それでは、ミスター。」

スネイプが薄い唇をめくれ上がらせた。

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えるとなにになるか?」

ハリーは困ったようにドラコを見たが、ドラコが答えを教える前にスネイプが口に嘲り笑いを浮かべた。こんな問題、教科書を隅から隅まで暗記してないと分からない。

ハーマイオニーは空中に高々と手をあげた。

「では、ミス。弟のおまけだろうが……、頭のほうは分からんからな……、ベアゾール石を見つけてこいと言われたらどこを探す?」

ロニーにはこの答えが分かったような気がした。ハーマイオニーにモノの本質を理解しろと言われたのが悔しくて、一夜漬けで読んだ教科書に載ってたような気がするだけだから、正直、自信はないけど……。

「ヤギの胃の中。」

ロニーが態度だけは尊大に、眉を吊り上げていった。

「正解だ。ではもう一問。モンクスフードとウルフベンの違いは?」

スネイプは値踏みするようにロニーをにらみながら言った。

「たしか、どちらもトリカブトのことです。第十六章に載っていました。一つ質問ですが、このクラスでは、魔法薬を真に理解できていない生徒に、いきなり上級生の範囲を教えるんですか?最初の質問なんて、六年生にならないとやらない高度な魔法薬だって、教科書にも書いてありました。」

今度は自信があったので、ロニーはスネイプをにらみ返しながら嘲った。

スネイプは、それでもひるまずに、フンと小さく言った。

「君の無礼で、グリフィンドール一点減点。父親と同じで、どこまでも傲慢だな。容姿は母親似だが、容姿だけでも救いようがあって幸いだ。」

「でも私、自分のパーツの中で目が一番気に入ってるんです。きれいな色でしょう?」

ロニーはわざとスネイプを挑発したが、スネイプは無視した。

「教えてやろう、ミスター・ポッター。アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると眠り薬となる。あまりに強力で、『生ける屍の水薬』とも呼ばれる。諸君、なぜノートをとらぬのかね?」

 

「何で、そんなこと覚えてるんだ?」

ロンがロニーに聞いた。

「記憶力には多少自信がね。マグルの学校に行ってた時も成績は学年トップだった。」

「抜け駆けかよ。」

ダンが小さく言ってクスリと笑った。

ほんとは昨日、必死で予習をしたからなのだが、特に何もせず、小学校で学年首位をとれたのは嘘ではなかったし、ダンとロンに予習をしただなんて言うと馬鹿にされる気がしたので、少しウソをついた。

 

その後、実習の時間になっても、スネイプの陰険さはとどまることを知らなかった。

スネイプは、生徒たちが組になって簡単なおできを治す薬を調合するのを育ちすぎたコウモリのようにザバザバと見回った。ロニーにしてみると、何が違うのかはよく分からなかったが、ドラコを除くほとんどが注意を受けた。確かに、言われてみると、ドラコの鍋からは独特のツンとした嫌なにおいが漂っている気がしないでもない。しかし、もしそうだとすると、ハーマイオニーの大鍋だって、匂いはした。

一回目の実習では、皆、さほど悪い結果でもなかったが、ネビルは例外だった。ネビルは、どういうわけか、シェーマスの大鍋をねじれた小さな塊にしてしまい、こぼれた薬を浴びたネビルは真っ赤なおできを体中に噴き出していた。

 

「ばか者!さしたるところ、大鍋を火からおろさないうちにヤマアラシの針を加えたな。」

ネビルはしくしく泣き出した。

それからスネイプはシェーマスにネビルを保健室に連れていくよう命令し、ネビルの隣で作業していたロニーとハーマイオニーに矛先を向けた。

「おい、ポッター。なぜそう忠告しなかった?グリフィンドール、一点減点。」

「それは、先生の仕事なのでは?」

ダンがロニーの代わりに言い返した。数人が笑ったが、スネイプは口をゆがめた。

「もう二点減点。」

「スネイプ、百万点減点。」

ロンが小声で言った。

 

スネイプは、ロニーのことを嫌ってるなんてもんじゃない。憎んでいる。あの様子だと、おそらくハリーもだ。最も、今日の授業で、ハリーよりもロニーのほうが十倍憎いと認識を新たにしただろう。

 

 

「ハグリッドって、ホグワーツの森番をやってるんだけど、今から会いに行かない?実はぜひ来てって言われてて。」

授業が終わると、今日一日の数々の理不尽をハグリッドに話したくて、ロニーはロンとダンを誘った。

 

金曜日は午後の授業がなかったので、三人は三時前に城を出て校庭へ向かった。禁じられた森との境らへんにある小さな小屋がハグリッドの家だ。

ノックすると、ワンワン!という声に交じって、ハグリッドの大声と、子供の、誰?という声が聞こえてきた。

ドアが少し開くと、隙間からハグリッドのもじゃもじゃ顔が見えた。なんと、小屋の中にはハリーとドラコ、そしてゴイルがいる。

 

それを見たとたん、ダンとロンの顔にしかめっ面が浮かんだ。それを見て、ドラコとゴイルもムッとしたように二人をにらんだ。

「まあ、ハリー、お前さんがスリザリンに組み分けされるたあ、ちいっとばかし、驚いたな。」

ハグリッドが四人の様子にオロオロするハリーに語りかけた。

「ダンもロンも座りなよ。」

ロニーがダンとロンを無理やり座らせると、ドラコとゴイルも座った。

「何で、スリザリンの連中がここにいるんだい?」

ダンがムスッと言った。

「僕らだって、こんな豚小屋、来たくなかったさ。」

今度はドラコだ。どうやら、ロニーたちが来る前からもともといい雰囲気で優雅にお茶、というわけではなかったらしい。

「ドラコ!ハリーも何でこんなこと言わせておくの?」

ロニーが憤慨した。

「僕だって、ドラコがあんまりハグリッドのことを悪く言うもんだから……。会えば変わるかもってさ、で来たんだけど。」

「いいか?僕は言っただろ?こいつみたいな、純粋な魔法族じゃない奴は、下劣な種族だって。純血が優秀なのと一緒だ。」

ドラコがハグリッドを指さして言った。

「純血が優秀なんて幻想じゃないの?実際、ロンは純血だけど、半純血の私やダンのほうが変身術での成績は良かったよ。」

ロニーは言ってから、今のは少し、ロンに対して無神経かもしれないと思った。

 

「ロニー、君は、どうせそいつら二人の肩を持ってるんだろう?」

ドラコが嘲るように言った。

「そりゃあ、友達なんだから当たり前だろう?お互い、相手の主張に敬意を払うもんさ。君も、ハリー・ポッターの言うことを聞いてみればどうだい?今よりはましな人間になれるかもしれない。」

ダンが眉を吊り上げていった。

「ハリーはまだ魔法使いの常識が分かってない。それを教えるのは友達の役目だ。」

ドラコが憤然と言った。

「だから、魔法族が優秀だってことも分かっているさ。でも、君は半純血の僕を差別しないだろう?僕が君より劣っていたって、君は僕を友達だと思ってくれているんだろ?」

ハリーが控えめに小さな声で言った。

「君は特別さ。闇の帝王を倒した。」

ドラコが肩をすくめた。

「じゃあ、ロニーは?」

ダンがドラコをにらんだ。

「ロニーは……、友達の大事な人……だ。」

そう言いながら、ドラコは声に詰まって頬を紅くした。

「とにかく、僕が言いたいのは……、自分より劣っているからって、差別するのは間違ってるんじゃないかってことで……それを君に言いたくって、ここに来たんだけど。」

ハリーがドラコのしりすぼみの声を遮って言った。

 

「そうなの?私が何を話しに来たかというと、スネイプよ!ほんっとにムカつくんだから!お父さんのこと、傲慢だって言ったのよ?容姿は救いようがあってよかったなとも。あのでかい鼻を引っ提げてよく言えたものだわ。」

議論が収束しかけたので、ロニーは今のうちにとばかり言った。

「確かに、父上は、スネイプ先生は立派な方だとおっしゃっていたんだけど……。」

ドラコが言った。

「そうだよ、全く、一時間でロニーから四点引きやがったんだ、ヤツ!」

ロンが憤慨して身を乗り出した。

その後は、ハリーとロニーを通して、(主にロニーたちグリフィンドールの三人は)スネイプをこき下ろし、(主にハリーとドラコは)スネイプについて考察して盛り上がった。

その間、ロンやダンと、ドラコは一言も口を利かなかったし、ゴイルなど、全く言葉を発しなかったが、スネイプをこき下ろすのは楽しかった。

 

夕食に遅れないようにと、小屋を出たころには、ロニーの中で、スネイプは救いようもない嫌な奴だということで結論が出ていたし、ドラコやハリーの中では、スネイプは少し、あまのじゃくな面があって、有名なハリーをどうせくだらない奴だと、勝手に判断した、ということで納得していた。




でも、ハリーも多少スリザリンナイズされてます。半純血の自分や半巨人のハグリッドを純血の魔法族より劣ていると認めたり……。それでも、ハリーはめちゃくちゃいい子!←原作でも五巻くらいまでは普通にめちゃくちゃいい子ですしね!


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飛行訓練

閲覧ありがとうございます!


残念ながら、ハリーの、『自分より劣っているものだからと言って差別してはいけない』それをドラコに教える、その目論見は完璧に失敗した。ホグワーツ二週目を過ごし終わってみると、ロニーとしてはそういわぜるをえない。ロンのドラコに対する態度は相変わらずひどかったが、なぜかダンまでもが、むしろロン以上にひどい態度をとっていた。もっとも、ロニーとしても、あのドラコの様子を見たのでは無理もないと思ったが。

実際、ロニーも、本当にドラコを友達と呼んでもいいのか分からなくなってきたのだ。あれじゃあ、スネイプと同じじゃないか。いや、正確には違う。それでも、理不尽な態度を他人に取るという点では共通している。それに、もしかすると、私は最初っから、ハリーの双子の姉でしかなかったのかも。それでも、ドラコは初めて、私やハリーを異端者として扱わなかった同年代の子供なのに。それとも……そういう自分の都合とか感情で友人を選ぶのは悪いんだろうか……。もしかすると、ドラコって、いやな奴なのかもしれない。それなら、自分に対する態度がそうじゃないからって、彼をともだちと呼ぶのは、ダンやロンにしてみたら、きっと迷惑なことだ。

 

なんだか、ドラコとのことでモヤモヤとしていたロニーとしては、その日張り出された『お知らせ』はことさらありがたくなかった。

 

飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンの合同授業です。

 

「やった、飛行訓練だ!スリザリンと一緒ってのが気に食わないけど……。」

となりでロンが声をあげた。

「スリザリンが何だってんだ。僕、ほうきって乗ったことがないんだ。母さんが過保護だから……。信じらんないだろ?」

ダンがうきうきと言っが、ただでさえこの二人は背が高いのに『お知らせ』の前にずっと立ってピョコピョコしたものだから後ろに人だかりができた。

「あああ、でも、私、今はドラコと会いたくないな。なんて言うか……あの時は別に気にならなかったんだけど。」

ロニーがダンとロンを『お知らせ』の前から引っぺがして言った。

 

「気にすんなよ、悪いのはあいつだ。」

『太った婦人』の肖像画を出て、廊下を歩きながら、ダンが肩をすくめた。

「別に、私が悪かったんじゃないかなんて気にしてないわよ。少なくとも、私、できるだけのことはやったもの。」

ロニーは若干そうとも言えない気がしたが、声を張り上げていった。

「あの時、話を逸らすべきじゃなかったって思ってる?だとしたら、まあ、一週間の熟考は無駄になったな。」

ダンはやれやれという様なポーズをとって、ロニーを振り返った。

「そうだよ、最悪、僕ら、ハグリッドの小屋を吹き飛ばしてたかもしれない。まあ、一年生じゃそこまでは出来ないけど……。」

ロンも続ける。

「出来ることならやってたね。ただ、ルーモースには無理さ。もちろん、ルーマスにもね。」

ダンがこの一週間の妖精の呪文での出来の悪さを茶化した。

「ロウマスはまだ希望があるかもしれない。」

ロンがロニーをニヤニヤと見ながら言った。

「それでも、ハーマイオニーに言わせれば、“あなた、中途半端なのよ”よ。私だってまだ出来たほうなのに!」

ロニーがハーマイオニーの声を真似て言った。ハーマイオニーのことはすごいと思うが、その時の気分次第では、ひどく癇に障ることもある。第一、あけすけすぎるのだ。妖精の呪文でも、彼女は彼女の周囲にいたすべての人間の呪文の発音を正して見せた。そう、完璧に。

 

「まあ、どっちにしろ、ほうきは良いもんさ。二人とも、乗ったことがないなんて、信じらんないよ。」

ロンが大げさに肩をすくめた。

「僕なんか、ホグワーツに来る前は家の周りをほうきで飛び回ってたんだ。それで、バングライダーにぶつかりそうになったことがあってさ。もう、チャーリーのお古のボロだから……。」

ロンはこの調子で大広間に着くまで延々と話し続けたが、ダンもロニーも興味津々で聞いた。

 

「でも、僕もほうきなんか乗ったことないな。」

テーブルに着くと、ダンがそれまでほうきに乗せてもらえなかったことに対して愚痴ったが、それを聞いたネビルも行った。

「地上に足をつけてたって危ないんだからって、ばあちゃんが。」

そう言ってネビルはカボチャジュースに手をひっかけた。

「それは......賢明な判断かもしれない」

ダンがクスリと笑う。

「でも、どうせいつかは乗らなくっちゃいけないんだから……、練習しときたかったな」

「確かに。だって、ほとんどが小さい頃からほうきで飛び回ってたやつらんなかで、自分だけ始めっててのは、ちょっとキツイじゃないか」

ネビルの言葉にダンが同意した。

「でもさ、みんな自慢はするけど……、ホントかどうかは怪しいんじゃないかな?」

ロンが自分のことは棚に上げて言った。

 

しかし、実際、ロンの言ったとおりだった。

魔法族の子供たちは、幼いころの武勇伝を長々と話したが、どれも本当とは思えないような突拍子もない話だった。彼らは口をそろえて木曜日が楽しみだの、一年生がクィデッチのチームに入れないのは残念だだのと言った。

しかし、木曜日の訓練に関心を寄せているのは魔法族の子供たちだけではない。ハーマイオニー・グレンジャーは箒やクィデッチに関する本を読み漁り、四六時中その話をしたが、こればかりは知識だけではどうにもならない。しかし、ネビルはハーマイオニーの話にしがみついていれば、あとで箒にもしがみついていられると思ったのか、熱心に彼女の話を聞いていた。

 

木曜日の朝、ロニーに初めての手紙が届いた。

「わお、手紙!」

ヘドウィグにありがとうと言ってから手紙を開けると、ハグリッドからだった。

 

この間は、あんまし落ち着いて話せんかったし、また、お茶にでも来んか?  ハグリッド

 

「またやなこと思い出しちゃった」

「気にするなよ。だいたい、何でマルフォイなんかにこだわるんだ?」

ロンが怪訝そうに聞いた。

「まったくだ。スネイプのことはあんなにこき下ろす癖に」

ダンが鼻を鳴らした。

「何でって、ハリーの友達だし……。それにスネイプほど理不尽なことはしないじゃない」

「どうだかな。」

ダンとロンが声をそろえて言った。

 

「わあ、ネビル、それって思いだし玉?」

すぐ隣でシェーマスが声をあげた。見るとネビルが手にビー玉のようなガラス球を持っている。

「思い出し玉?」

マグル育ちのディーントーマスが聞いた。

「うん、何か忘れてたりすると赤くなるんだ。僕忘れっぽいから……それでばあちゃん、送ってくれたんだと思う」

ネビルがそういうと、『思い出し玉』はみるみる赤くなった。

「あれ……何か忘れた、かな……?」

「でも、もうそろそろ行かないとまずいよ?」

ロニーが時計を見ていった。今日は朝から飛行訓練がある。

「君にとったら、忘れ物なんて、大したことないだろ?」

ロンがこの数週間でロニーも分かってきた無神経さを発揮した。

「箒のほうが大事さ」

ダンもにやりと笑う。もしかすると、ダンとロンって、すごく良いコンビなのかもしれない。二人とも、ずいぶんちがって見えるけど、変なところでそっくりだ。

「まあ、どうせ間に合わないしね」

言ってから、ロニーは、自分も人のことは言えないなと思った。私たち、ホントにいいトリオだ。

 

 

「何をぼやぼやとしているんですか」

飛行術の先生、マダムフーチは、開口一番ガミガミと言った。

「さあ、ほうきの横に立って」

箒は全部ボロだ。皆少しでもよさそうな箒を勝ち取ろうと急いだが、ロニーにはいい箒と悪い箒の区別もつかなかった。

「上がれ!と叫ぶ。」

マダムフーチのこの言葉で、皆が上がれと叫んだ。しかし、きっちりと手に収まった箒はごくわずかだ。

「上がれ!」

ロニーもあわてて叫んだ。

驚いたことに、箒はまっすぐ手に収まる。

何回か、上がれ、上がれ、と叫ぶうち、ほとんどの生徒の手に箒が収まったが、ネビルやハーマイオニーはまったくダメだった。

「では、箒にまたがってみましょう。」

そのうちにマダムフーチは諦めたように言って、皆は箒にまたがった。

「私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえて、二メートルぐらい浮上したら、前屈みになってゆっくり降りてくること。」

マダムはキリッと生徒たちを見回した。

「1、2の......。」

ネビルの箒が勢いよく空に舞い上がった。二メートル、三メートル、あっという間に豆粒ほどの大きさになると、いきなりネビルが降ってきた。ボキッというイヤな音。

「まあまあまあ!」

マダムフーチが真っ青になってネビルに駆け寄った。

「手首がおれてるわ」

「大丈夫ですよ......、さあ医務室へ......。」

マダムフーチはネビルにそう声をかけると、またキリッとなって、残りの生徒に告げた。

「私がネビルを医務室へつれていきます。その間、一歩でも箒に触れてみなさい、クィディッチのクの字を聞く前にこの城から出ていってもらいます。」

 

「あいつの顔、間抜けにもほどがある。」

ドラコが意地悪い顔をしていった。

「やめてよ、初めてなのよ?」

同室のパーバティが眉を潜めて言った。

「あら、パーバティ、あんなちびのデクが好みなのね?」

パグ犬顔のパンジー・パーキンソンが嘲った。

「見て、ロングボトムがなにか落としたみたいだ」

ハリーが草むらから小さなキラキラと光るビー玉のようなものを取り出した。

「思いだし玉だ」

ドラコの顔がことさら意地悪くなる。

「どうやら、自分には箒なんて乗れっこないってことは思い出させてくれなかったようだな」

「返して!あなたこそ、自分がどんなに情けないやつなのか、思いだした方がいいんじゃないの?」

ロニーが顎をつんとあげて言い放った。

ドラコは青白い頬をさっと染めると、ハリーに目配せした。

「ロングボトムが後で取りに来られるところに置いておこう。木の上なんてどうだい?」

そのまま箒をとって空に舞い上がる。なかなかの腕前だ。

「ハリー、来いよ!」

ハリーは迷ったような顔をして、箒をつかんだ。

「ハリー!信じられない!」

ロニーはほとんど無意識に箒をつかんで空に飛び上がった。冷たい風が耳元でごうごうと音をたてる。

一体、何故こうなるんだろう?ハリー、あなたは自分より劣っているからって、意地悪くするのはいけないと、ついこの前、言っていたじゃない!それに、ドラコだって、やっぱりイヤなやつ!友達かもって思っていた自分が情けない。

「ロニー、あなたまで退学になること、ないわ!」

ハーマイオニーが叫ぶ声が聞こえた。

 

「返して」

ロニーがドラコに向き直って言った。

「......イヤだね」

ドラコは目を泳がせて言った。

「ハリー、パスだ!」

思いだし玉はきっちりハリーの両手に収まる。

ロニーは前屈みになり、ハリーに向かってまっすぐ飛んだ。

 

「恥ずかしくないの?」

「僕......」

こういうとき、どうにも歯切れが悪いのはハリーの1番悪いところだ。

そのままハリーは答えず、箒を旋回させて、さらに高く舞い上がった。驚いたことに、すごくうまい。正直、ドラコなんて目じゃないくらいだ。

 

ロニーもハリーを追って、高く舞い上がる。あと、五メートル、四メートル、三メートル、だんだんと距離が縮まる。しかし、いきなりハリーが箒を止めた。ロニーもあわてて急ブレーキをかける。

「ちょっと!どういうつもりよ!」

「ごめん、やっぱり、僕......ドラコにちゃんとダメだって言わなきゃいけなかった」

そしていきなり、孟スピードで今来た方に引き返した。どういうつもりなんだろう?ハリーは時々訳のわからない行動をとる。

ロニーはあっけにとられて、少し迷ってから、ハリーのあとをまた追った。

 

「ねえ、どういうつもりなの?」

ロニーがノロノロとハリーに追い付くと、何故か思いだし玉はドラコの手のなかだった。

ドラコが口を開きかける。

「ねえ、ホントに、あなたって、最低!」

ロニーがいうと、ドラコはまた頬を染め、おもいっきり思いだし玉を空に放り投げた。

ロニーは息を飲んでまた急旋回する。

危機一髪、思いだし玉はきれいにロニーのてのなかに収まった。

 

「ポッター!こんなこと......」

ロニーが地上に降り立つと、ドラコとハリーはもう降りてきていて、さらに、そこにはなぜかマクゴナガル先生がいた。

「私......、いえ、すみません」

一瞬、全部ドラコとハリーが悪いのだと言いたくなったが、ふと思い出して口をつぐんだ。あのとき......、ドラコが口を開きかけたのは、謝るためだったのかもしれない。

「ロニーのせいじゃないんです!」

ダンが叫んだ。見ると、すごい顔でハリーとドラコを睨んでいる。

「ほんとなんです!全部、ポッター......ハリーの方ですよ?......と、マルフォイが悪いんです」

ラベンダーが重ねた。

「お黙りなさい!」

マクゴナガル先生が一喝でグリフィンドール生を黙らせた。

そういえば......退学になるのだ......。まだ一ヶ月も通っていないこの学校を。最悪だ......。まだハグリッドとの二回目のお茶だってしてないのに。

「心配することはありません」

マクゴナガルが重々しく告げた。

その声で心配しないでですって?でも、今だって、城に向かって歩いているじゃない!しかも、どちらかというと、グリフィンドール塔の方向に。

しかし、マクゴナガル先生が足を止めたのは、太った婦人の前ではなく、闇の魔術に対する防衛術の教室の前だった。

「クィリナス、ちょっとウッドをお借りしいてもよろしいですか?」

ウッドって、なんだろう?木の棒なんて......なにに使うんだろうか?

ウッドは人間だった。たくましい五年生だ。

「さて、二人とも......。私についてきなさい」

マクゴナガル先生は短くいうと、どんどん廊下を進んだ。ウッドも、授業中にマクゴナガル先生に呼び出されるなんて、イヤな予感しかしないらしく、固い表情で黙りコクっている。

「ウッド、シーカーを見つけましたよ!」

ある程度進み、人気のない廊下に出ると、マクゴナガル先生は満面の笑みで告げた。シーカーって、なんだろう?不安に思って、ウッドを見上げると、なんとウッドは目を丸くして......喜んでいた。

「でも、一年生は箒の持ち込みは禁止なんじゃ......。いえ、もちろん、なんとかなるならそれでもう最高なんですが......規則が......。」

ウッドがロニーの体をじろじろと見ながら言った。

「もちろん、それは何とかして見せますとも。」

マクゴナガルが自信たっぷりに言った。

「箒の操作の荒さは目立ちますが、それはそれは素晴らしいスピードと加速力ですよ。訓練すれば、チャーリーウィーズリーに、負けずとも劣らない選手になるでしょう。」

「それなら......うん、最高だ。体つきはシーカーにぴったりだし......加速力とスピードはシーカーに最も必要とされる素質だ。えっと......君、名前は?」

ウッドが惚れ惚れとしたように言った。

「えっと、ロニーポッターです」

すると、ウッドの目がまんまるくなった。

「まさか、ジェームズポッターの娘の?」

大抵、ロニーの名前を聞いて驚く人がまさかのあとに繋げる言葉は、ハリーポッターだったので、いきなり父親の名前が出てきて驚いた。

「偉大なクィディッチ選手だ。時代が違えば間違いなくプロになってたな。何しろ、彼のプレーはパフォーマンス性があった。チェイサーだったんだ。もちろん技術も折り紙つきさ!」

ウッドが目を輝かせる。

「私......知らなかった。でも、ちょっといい気持ちね」

ロニーはウッドの熱弁に面食らいながら言った。

「君も、いつかはチェイサーとしてやってけるかもしれないな。今年はもう最高なのが三人揃ってるからダメだけど......」

ウッドが一人でうなずきながら言って、突然はっとしたようにマクゴナガル先生を見た。

「それにしても......箒は?まさか、流れ星なんて使えませんよ?」

「ええ、それも、規則を曲げられるか、ダンブルドアに掛け合ってみます。ニンバスなんかがいいでしょうね」

それからマクゴナガルはひらりとロニーに向き直って言った。

「必死に練習に励んでください。そろそろ、クィディッチ杯を副校長室に飾りたい頃です。さもなくば......処置は考え直さなくてはなりません」

そして一度、ハーマイオニーが変身させた飾りボタンを見た時以来の微笑みをみせ、マクゴナガルはくるりときびすを返した。

 

そのまま夕食に大広間へいくと、ロンとダンがそわそわして待っていた。

「どうなった?」

「退学にはならなかったな。それどころか、クィディッチ選手になった」

ロニーが肩をすくめてニヤリと笑った。

一瞬、二人は訳が分からないという顔をしたが、すぐ口をあんぐり開けて、それからニッコリ笑った。

「ソレって、何年ぶりだい?だって一年生は箒を持っちゃいけないんだ!」

ロンが叫んだ。

「本当にすごいよ!今回ばかりは、マルフォイとポッターに感謝だ!」

ダンがニッコリ笑う。

その言葉で、ロニーは目をスリザリンのテーブルに向けた。一瞬、ドラコと目がたしかにあったが、すぐにそらされてしまった。申し訳なさそうに。




ありがとうございました!
次はハリーの視点でいきます!
なんか、ロニーが書けば書くほどリリーそっくりに!でも、ハリーがリリーに似ているとダンブルドアが言った意味では、ちゃんとジェームズに似せるつもりです!結構重要だと思うので......そこは変えないでいきたい......。


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