メンタルモデルになってネギ魔の世界に転生するお話 (照明弾P@ハーメルン)
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#01

どうも。照明弾P@ハーメルンです。

はい。また勢いで別の作品に手を出しました。

『まただよ(呆)』と思うかもしれませんが、こんな作者の作品でも読まれた方が楽しんで貰えたら嬉しいです。




「突然ですが、貴方は死んでしまいました。こちらの不手際で」

 

 なんて、突然いわれてぽかんとなってしまうのも無理はない。こういった話は小説とか創作物とか二次元的なものでしかないはず。てかそうだと言ってよ目の前の神様!

 

「其方のって……あなたがミスしたんですか?」

 

「いや。私ではないですよ? 同僚が泥酔状態で業務を行ってミスを大量に……っと。そんな事は貴方に関係ありませんね。さて、貴方には転生して貰うことになります。勿論、貴方達のいう転生特典も1つ差し上げますし、記憶も転生前を引き継ぐ事になります。ちなみに転生先は既に決まっており、『魔法先生ネギま!』の世界になります」

 

 おおう……。いろいろいいたい事はあるが、あのインフレバトルな世界に転生とか。

 

「転生特典に制限はないので良く考えて決めてくださいね」

 

 特典に制限がない。色んな能力はあるが、どれも一長一短だし……いや、あの作品のなら……いけるか?

 

「決まりましたか?」

 

「ええ。『蒼き鋼のアルペジオ』のキリシマに転生したいです」

「キリシマにですか?」

「はい。ただ、普段の姿はメンタルモデルの方で、船体の方は自分が出したい時だけ具現化できるようにしてほしいのと、出来れば単独でのハルナとの合体状態での超重力砲使用可能と弾薬やナノマテリアルの補給をなんとかして欲しいです」

 

 キリシマさんは原作やアニメなんかでは残念だったけど、俺は好きだった。それにあの作品のメンタルモデルにはクラインフィールドがある。クラインフィードがあれば防御面はなんとかなるはず! ハルナとの合体からの超重砲は浪漫だから盛ってみたが……。

 

「……あの世界ではかなりのチート具合ですが……まぁ前の転生者の特典と比べたら全然自重してますし、いいでしょう」

 

 前の転生者はこれよりも酷いのか……ま、まぁよし! これならあのインフレ世界でもやっていけるはず!

 

「では、貴方には早速生まれ変わってもらいます」

 

 アッハイ。って、あの、神様? その手に持っているバズーカみたいのは何ですか? てか、一体どこから出したんですかソレ。

 

「何って…転生砲ですよ」

 

 MATTEッ!? 普通こういう時は意識をフッ……っと遠のかせたりおふざけだとしても落とし穴とかじゃないんですか!? てか、なんかさっきからその抱えているモノからセミみたいな音が聞こえるのだけど!?

 

「嫌ですねぇ。この音と言えば波○砲のチャージ音ですよ。私、この音好きなんですよね。浪漫に溢れていて。だからついがんばっちゃいました」

 

 ちょっとぉぉぉぉぉっ!? 何!? 何ついがんばっちゃいましたなのっ!? ソレ向けられてるこっちはとんでも無く怖いんですけどっ!?

 

「では。第二の人生。がんばってください。私も影ながら応援してますよ」

 

 言ってる事だけは凄く嬉しいのに、その抱えているモンのせいで全部台無しだよ! って待て待て待てぇッ!?

 

「では…。えいっ☆」

 

 ギャァァァァァアーーーーーッ!??

 

 

 麻帆良学園には『図書館探検部』なる中・高・大合同サークルが存在する。そのサークルのする事はただ一つ。それは麻帆良湖に浮かぶ様に存在する図書館島の探索である。

 この図書館島は明治時代の中ごろに、麻帆良学園が創立された時に一緒に建設された巨大な図書館だ。建設当初はその巨大な図書館を埋め尽くす事は出来ないなどと考えられていたが、色々な理由で大量の貴重書が集められ、また日々発刊された書物を収めていった事で当初の予想以上の早さで蔵書許容量を超えてしまった。また、建設した者が改築のし易さよりも見栄えを重視して麻帆良湖に浮かぶ様に建設してしまった為に、増改築できるのは自然と地下へ向かう形になってしまった。

 結果、図書館島は現在に至るまでに何度も地下に向けて増改築を行った事と収めた蔵書の盗難防止用の細工などによって、まるで小説などに出てくる迷宮のようなものと化していた。

 

 太陽が地平線へと沈み外が暗くなってきた頃、そんな図書館島から4人の少女が出てきた。

 

「……今日もめぼしい発見はありませんでしたね。んぐ」

「まぁまぁ夕映。そう落ち込まない。あそこはトンデモなく広いわ、入り組んでるわで歴代の先輩達だって全然調べられなかった位だしさー」

「そうは言ってもハルナ。最近はめぼしい発見が全くなくてつまらないです」

 

 図書館島から出てきた綾瀬夕映(あやせゆえ)が、そう言って落胆の表情をしながら手に持った『トマトスカッシュ』なる飲み物を口に運ぶ。そんな彼女の横を歩く早乙女ハルナは彼女に慰めの言葉をかけた。

 

「せやなー。次こそはなんか見つかればえぇなー」

「そうだね……」

 

 夕映の言葉に同意する様に近衛このかと宮崎のどかが言う。

 彼女達4人は図書館探検部に皆所属しており、今日も図書館島の地下を探索していた。しかし、ここ最近めぼしい新発見は無く、彼女達のモチベーションは徐々に降下気味になっていた。

 そんな彼女達がたわいも無い会話をしながら寮まであと半分といった距離まで帰っていた時だった。

 

「……ぎゃんッ!?」

 

 彼女達の目の前を女性が凄い勢いで縦に転がりながら通り過ぎて行き、少しして鈍くも大きな衝突音と短めの悲鳴がしたのだ。

 

「ちょッ!?」

「い、今女性が物凄い勢いで通り過ぎたですっ!?」

「う、うん……!」

「あっちに転がっていったえ!」

 

 突然の出来事に固まっていた4人だったが、直ぐにハルナが声を上げ、夕映が確認を取る。それにのどかが答えると、このかが転がっていった女性の方へ先導し、4人は転がっていった女性の元へ向かった。

 女性が転がっていった方へ4人が向かうと直ぐに先ほどの女性は見つかった。転がった先で木にぶつかって止まった為に、前転を途中で抑えられたような格好で気絶していた。

 

「ありゃ。気絶しとる」

「てか、かなりの美人じゃない? ……今はこんな格好だけど」

「というよりも私としては何故あんな速さで転がっていたかが気になるのですが……」

「あわわ……。と、とにかく誰か呼ばなきゃ!」

 

 このか、ハルナ、夕映がそれぞれ自分の言いたい事を言う中、のどかがどうすべきかを三人に言う。

 

「それなら、うちがじーちゃんに電話するわ」

「お願いするです。このか」

「うん。じゃあちょっと電話してくるなー」

 

 のどかの言を聞いたこのかがポケットから携帯を取り出し自分の祖父――麻帆良学園長――に連絡を取ると告げる。夕映がこのかにお願いすると、彼女は電話をする為にその場を離れた。

 

「いやぁ。にしてもこの人、随分際どい格好してるよね。臍出しに袖なし。しかもジーパンの片側なんかホットパンツ並みの長さだし」

「は、ハルナ……。いくら相手が聞いてないからってそんな事言っちゃだめだよ」

 

 このかを見送ってから振り返ると、ハルナが気絶している女性を見た感想を零す。それを聞いたのどかは少し顔を赤くしながらハルナを注意していた。夕映はのどかの言う通りだとハルナを同じく注意するが、ハルナはそんなものはお構いなしに話し出す。

 

「でもさーこの人凄くオシャレだけど、私たちがこんな格好しようと思うとさ……かなり恥ずかしいと思うんだよねー」

「……まぁ。確かに私がこの女性(ひと)みたいな格好しますかといわれたら恥ずかしくて無理です……」

「わ……わたしも……むり」

 

 ハルナの言葉を聞き、夕映とのどかは目の前の女性の格好をした自分を思い浮かべ、彼女の言う事に頬を少し赤らめながら同意する。その後暫く沈黙が三人の間に流れたが、のどかが、気絶している女性を横にしてあげた方がいいのではないかという言葉に、ハルナと夕映は頷き、三人で女性を横に寝かして少しした時だった。

 

「みんな~。高畑先生が来てくれたえ~」

 

 そういいながらこっちに向かってくるこのかの後ろを我等が2-Aの担任、タカミチ・T・高畑先生がついてきていた。

 

「ありがとです。このか」

「ええよ~。じーちゃんに電話し終わった頃に丁度見回りしてた高畑先生見つけてなー。事情を話したら着いてきてくれたんよ~」

「木乃香さんから気絶している女性がいるといわれてね。…彼女かな?」

 

 夕映は高畑先生を連れてきてくれたこのかに声をかけると、このかは運が良かったわ~と笑顔で返す。そんな二人をよそに、このかに呼ばれてきた高畑は、ハルナとのどかの二人に、呼ばれた理由の人物を見て確認を取る。

 

「あ、はい」

「凄い早い速度で目の前をこの女性(ひと)が転がって、木に衝突した状態で気絶してたんで、私とのどかと夕映の三人で横にしちゃいました」

「ああ、それは構わないよ。さて、彼女だけど、まだ保健室が開いてるはずだから、ついて来てくれないかな?寮の方には少し遅くなるって連絡はしておくからさ」

 

 高畑はのどかとハルナの話を聞いた後、気絶している女性を両手で抱え4人についてきてくれないかと相談してきた。4人は高畑に一つ返事で頷き、一同は保健室へと向かった。

 

 

 

 

「ん……」

 

「あ、気がついたようですね」

「そうみたいやね。ほんなら、うち高畑先生呼んでくるわ。三人はこの女性(ひと)見ててなー」

「うん」

 

 目を開けると、そこには知らない天井と4つの少女の顔があった。んんー?これは一体どういう状況なの?さっきまで神様とお話ししてたはずなのに一体全体どうしてこうなった?

 

「あの、大丈夫ですか?」

「此処は……」

「此処は麻帆良学園の保険室です。貴女は私達の目の前を物凄い速さで転がっていって木に衝突してさっきまで気絶してたのです。なので、私達は先生を呼んで、貴女を此処まで運んでもらったのです」

「……成程。理解した」

 

 何も考えずに思ったことを呟いたら、少女が状況を説明してくれて私は全て思い出した。うん、そういえば私ってばネギ魔の世界に転生したんだったね。んで、今説明してくれた彼女が綾瀬夕映で、興味深々な目で見てるのが早乙女ハルナ。心配そうに見てくれてるのが宮崎のどかで、今さっき高畑先生とやらを呼びにいってくれたのが恐らく近衛木乃香だ。どうやら転生して最初にあったのはあの図書館研究部のメンバーらしい。あと彼女達の話を聞いて、さっきから後頭部が痛い理由が理解できた。あの神様のせいです。おそらくあの転生砲で吹っ飛ばされた勢いのままこの世界に転生した為に、吹っ飛んだ後はそのまま転がって…という訳なんだろう。

 さて、現状は理解した。次は自分の事について理解するべきだ。神様にはキリシマになりたいといったが果たしていった通りになれているか心配だ。軽く保健室を見渡すと目的の鏡を発見。バッとベットから飛び出て鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。結果は…うん。転生特典のキリシマになりたいという願いはしっかり成されていた。鏡に映っている姿は、『蒼き鋼のアルペジオ』に登場するメンタルモデルのキリシマだった。衣装に関しても原作通りの肌の露出が多い格好だ。とりあえず神様は転生方法がどうであれ、転生特典については一応安心していいようだ。ついでに転がって木に衝突した際なんかに負った傷が無いかもチェックする。後頭部を触ると、少し腫れている箇所が軽い痛みと共に見つけられた。あとは衣装が少し傷ついた程度で、他に怪我らしきものは見受けられなかった。

 

「あの、突然鏡の前に立って何してるんですか?」

 

 簡単な身体チェックを終えると、後ろから声をかけられた。声をかけられた方向に身体を向けると、そこには早乙女ハルナが手を上げながら聞いてきた。彼女の後ろにはハルナの言葉に頷く夕映と突然ベットを飛び出した事で驚いた様子ののどかがいた。

 

「え、ああ。怪我の具合を確かめようと思って」

「へぇ。あ、私、早乙女ハルナっていいます。こっちが綾瀬夕映で、この子は宮崎のどかっていいます」

「綾瀬夕映です」

「み、宮崎のどかっていいます」

 

 ハルナの質問に答えると、簡単に信用してくれた。しかもあっちから自己紹介までしてくれた。うん。貴女達の事は原作の知識から知ってるけど、そうやって自己紹介してくれるとこっちとしてもボロが出る事がないから助かるわー。さて、あっちが自己紹介してくれたので、こっちも自己紹介すべきなんだけど……どう自己紹介すべきかなー?メンタルモデルとかそういった内容は彼女達に言う必要は無いし……とりあえず名前と違和感の無い感じの此処に来た理由でも言っとけば大丈夫かな。

 

「ハルナにユエにノドカだな。私の事はキリシマと呼んでくれ。それと態々ここまで運んでくれてありがとう」

「どういたしまして。それに目の前であんなの見て放っておくなんて出来ませんよー」

「ですです」

「あ、あはは」

 

 自己紹介と一緒に保健室まで運んでくれた事に感謝すると、ハルナが笑いながら思ってた事を言うと夕映も頷きながら答える。のどかもそう思ってるのか、声に出しはしないが、此方を伺いながら小さく頷いていた。そんな三人を見て、私はつい苦笑してしまう。

 

 うん。そうだよね。普通目の前を物凄い速さで転がってく人がいたら心配になるよね。

 

「失礼するよ」

「あ、どうぞ」

 

 三人に苦笑していたら、保健室のドアをノックする音がして、男性の声が聞こえる。私はそれに答えるとドアが開かれ、其処には原作知識では知っている高畑先生がいた。

 

「あ、高畑先生」

「うちもいるえ~」

「木乃香さんに呼ばれてね。その様子を見るに……大丈夫のようだね」

 

 ハルナの呟きに答えながら保健室に入ってくる高畑先生とこのか。高畑先生は私と三人の様子を軽く見てから微笑しながら言う。

 

「この人は高畑先生。私達2-Aの担任。この子は近衛このか。此処にいる皆で、キリシマさんの事を保健室まで運んだんですよ」

「へぇ。高畑先生、このかちゃん。態々ありがとう。私の事はキリシマと呼んで欲しい」

「初めまして。タカミチ・T・高畑と言います。彼女達の担任をしています」

「このかっていいます。よろしく~」

 

 軽く会釈しながら二人に自己紹介をすると、高畑先生も会釈を返しながら自己紹介をしてくれた。このかは軽く手を振りながら笑顔で自己紹介をしてくれた。うん。このかちゃん可愛い。

 

 お互いに自己紹介を交わしたので、軽い雑談をしようと思ったら、高畑先生が腕時計を見て時間を確認すると残念そうな表情をしてハルナ達に言う。

 

「もう最終下校時間だね。保健室も閉めなきゃいけないし、早乙女さん達もこれ以上遅くなると幾らなんでも寮の人が心配されるから帰ろうか」

「……確かにそうですね」

「じゃあもう帰ります?」

「えーっ。もう少し大丈夫じゃない? もう少しお喋りしようぜ!」

「うち、もう少しキリシマさんとお話したいんやけど……」

 

 高畑先生の言葉にのどかが頷き、夕映がハルナ達に帰ろうと提案するが、ハルナとこのかはもう少し私とお話したいと夕映の提案には反対のようだ。

 

「このか。明日菜さんがお腹を空かせてると思いますし、そろそろ帰らないと不味いのでは?」

「う~ん……。しゃあないかぁ」

「むぅ……仕方ない」

 

 ゆえの説得を受けこのかが賛成側に回る。三人が帰ることに賛成すると、ハルナは自分側の不利を悟ったのか意見を下げた。

 

「このか。私は暫く麻帆良に滞在する予定だからまた今度話そう」

「ほんま?ならまた今度に沢山お話しような~」

「ああ。そのときはハルナ達も一緒に話そう」

 

 私とお話したいって? 私は一向に構わんッ!! という訳で、このかちゃん達には麻帆良に暫くいるからまた今度ゆっくりお話しようと約束を取り付けた。

 

「高畑先生。私は麻帆良には初めて来たもので、この後仕事が無ければ少し案内してくれませんか?」

 

 私がそう言うと、高畑先生は少し思案してからいいですよと快く応じてくれた。

 

 

 

 

「今日はもう遅いから無理だけど、今度会った時は私達が麻帆良の案内しますね」

「ああ。その時を楽しみにしてるよ。また今度」

『また今度』

 

 保健室から正門前まで私はハルナ達と軽く話した後、ハルナ達は寮へと帰っていく。私は4人が遠のくまで軽く手を振り続けた。

 

 暫くしてハルナ達が見えなくなってから、私は正門の方へ身体を向ける。そこには携帯をしまう高畑先生が待っていた。

 

「さて、高畑先生? 何処に向かうかは大体予想出来るが、案内してくれるかな?」

「……ああ。ついてきて下さい」

 

 高畑先生に案内を頼むと、高畑先生が正門を開け、学園内に入っていく。……まぁ、これから向かう先は大体わかっている。恐らく向かう先は学園長室だろう。

 理由は簡単。よくある転生モノ二次小説で、突然麻帆良に現れた転生者が最初に連れられていく先が学園長室だからだ。なんせ今の麻帆良での私の立ち居地は、どこからともなく突然この地に存在した得体の知れない人物といった所だからだ。じつは保健室で会話してた時も、監視目的なのか、遠くからだが誰かに見られていた。

 さて、もはや学園長と対面する事は決定事項。そして当然自分の事についても聞かれるだろう。ハルナ達は学生だし、いわゆる表側の人間だから説明しなくて良かったけど、学園長達魔法使いに情報を公開しないと怪しまれるし、ある程度説明しなきゃいけない訳だが……。

 

「着いたよ」

 

 高畑先生の後をついていきながら、学園長にどう説明するか考えていたら、どうやら目的地に到着したようだ。目の前にあるドアから視線を軽く上に向けると

其処には学園長室と書かれた札があった。

 

「失礼します。学園長。木乃香さんからお話があった彼女をお連れしました」

 

 そういって高畑先生がドアを開けたので、部屋の中に入ると……まぁ、予想はしてたが原作に出てきたりする沢山の魔法先生や魔法生徒がずらりと左右に並ぶ。

 

「ほっほっほっ。初めまして。ワシの名前は近衛近右衛門(このえこのえもん)。この麻帆良学園の学園長をしておる」

 

 そして正面に座っているのは、後頭部が長く髷を生やした、麻帆良に住まうぬらりひょんこと、学園長だった。

 

 

 

 




誤字の指摘、感想、批評、書き方のアドバイス等々、頂けたら幸いです。

11月22日…ルビ表示のミスを修正。超重力砲 → 超重砲へ修正。
1月30日…伏字修正。転生○ → 転生砲へ修正。
2月14日…用語の統一。超重砲 → 超重力砲に統一。
2月14日…文章の一部追加。
2月14日…ルビの修正。


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#02

 学園長が自己紹介をしてくれた訳なんだが、私は返事を返せないでいた。何故かって? いや、マジで学園長って人間なの? 流石に原作を知っているから凄い頭しているのは分かってはいたが、それはあくまでも前世で見た漫画の中のお話。いくら分かっていても現実でこの人を見ると妖怪にしか思えないのだが。

 

「ほ? 随分驚いておるようじゃがどうかしたかの?」

 

 学園長が私の表情を見て尋ねてくる。いや、貴方のその頭のおかしな大きさに吃驚したんです。はい。

 

「……高畑先生。失礼だが目の前にいるのは妖怪か何かか?」

「フォッ!? ワシはれっきとした人間じゃぞ!? のぅ、タカミチ君」

「……あ、あはは。キリシマさん。この人はこれでもちゃんとした人間ですよ」

「そうなのか……」

 

 うん。それは知ってるけど一応ね? 始めて学園長にあったときのテンプレみたいな感じで言っただけなんだよね。てか、学園長が自分の事を人間っていった時の周りの人達の表情がとっても認めたくないといった表情だったんだけど。学園長ェ……。

 

「ごほん。……さてお嬢さん。出来れば自己紹介をしては貰えんかのぅ」

 

 学園長が軽く咳をしてから尋ねてくると同時に、さっきまでの緩んでいた部屋の空気が一変した。私の左右に並ぶ人達から警戒心や敵意を感じながら、私は口を開く。

 

「……これから自己紹介しようというのに、随分と警戒されているのだが?」

「それはすまんのう。じゃが、ワシ等も警戒せねばならない理由があるのじゃよ」

 

 学園長にそういわれてしまうとこっちとしてはぐうの音もでない。周りの魔法関係者がこんなにも警戒している理由は、私にあるからだ。なぜなら私は麻帆良には転生した事で居る訳だが、学園長側からすれば見たこともない人物がいつの間にか麻帆良の地に侵入していた事になる訳だからだ。それに私を発見した人物がこのか達であった事がここでは悪く働いてくる。近衛このかは学園長の孫娘だし、彼女の持つ膨大な魔力量の関係で、私は学園側に対して秘密裏にこのかに接触を図ろうとした人物と思われても仕方ないからだ。

 私はこの状況から自身がいかに学園側に無害を説明しなくてはいけない。なんという無理ゲー。でもやるしかないんじゃな。これが。

 

「……分かった。私の名はキリシマ。霧の艦隊(Fog Fleet)の一体だ」

「ふぉ?霧の艦隊のぅ……ワシの聞き違いでなければ、キリシマ君は自身の事を一体と言っておったが?」

 

 学園長が私の言った言葉について確認を取る。学園長は自然体で聞いてくるから答えやすいんでけど、左右に居る人達からの圧が凄くて説明し辛い…。てか、いまから切り出す事を聞いたら過剰反応するんだろうなぁ…。うぅ。

 

「そうだ。今アンタ達の前に居る私だが、本来の姿ではない。この姿はメンタルモデルといって、人間と意思疎通を図る為の姿に過ぎない」

「なるほどのう。お主の本来の姿とは一体どんなものなんじゃ?」

「見せたいが、此処では直接は見せられない。映像データなら見せられる」

「それでもいいので見せてもらえんじゃろか」

 

 ここまでの話し合いは概ね安全にクリア…。だけど次が問題なんだよね。相手に信用して貰える様にこっちの情報をある程度公開するにしても、それを信用して貰えるかどうかは相手次第だし。それに麻帆良の魔法関係者って排他的な面があるからなぁ。

 

「わかった。……まず言っておくが、こちらには攻撃する意思は無いからな」

「うむ」

 

 とりあえず左右の人達、魔法関係者を見渡してから学園長に確認を取る。学園長は頷いてくれたので、私は原作やアニメでキリシマ達メンタルモデルが展開している輪の様なものを、自身の船体情報を見たいと思い浮かべる。

 すると、私を中心に原作と同じ様に輪が展開された。やった! と喜んだのもつかの間。周りの魔法関係者が一斉に得物を構えたでござる。表情には出してないが怖いんですけど!? てか学園長早くオサメテ!

 

「これ、皆武器を下ろすのじゃ」

「ッ! しかし学園長!」

「ガンドルフィーニ君。彼女があえて先に攻撃の意思はないといったのじゃ。警戒するにしても今のは過剰反応じゃよ。ほれ。皆も武器を下ろしなさい」

 

 学園長が皆に武器を下ろす様にいうと、魔法関係者の一人であるガンドルフィーニが反論した。しかし、学園長の言葉に渋々といった様子で彼は武器を下ろした。ガンドルフィーニが武器を下ろした事で、他の魔法関係者も武器を下ろした。

 

「いや、此方の者がすまない事をした」

「いいさ。言った所でそういった反応をされるだろうとは予測していた。話を戻すが、本来の私の姿はコレだ」

「こ、これは……!」

「戦艦……だと!?」

 

 組織の長として謝罪する学園長に応じながら、私は全員が見えるように大きめの画面に自身の船体の姿を映す。画面には、旧帝国海軍金剛型戦艦四番艦・霧島の形状をした船体が映っていた。それを見た学園側の人達は皆驚きの声を漏らしていた。

 

「コレが私の本来の姿だ。正式名称は霧の大戦艦キリシマ。形状は旧帝国海軍、金剛型戦艦の霧島を模している。そして、ここに居る私が、大戦艦キリシマのメンタルモデルという訳だ」

 

 学園長室にいる全員に確認を取るように言うが見せた情報がアレすぎて返事が返ってこない。少し寂しい思いをしたが流石というべきか、いち早く再起動したのは学園長だった。

 

「キリシマ君。さきほど君は霧の艦隊の一体と言っておったな。つまり、君のような存在が他にも存在するという事じゃな?」

 

 学園長が真剣な表情で聞いてくる。恐らく組織の長として、又魔法使いの一人としてこっちの戦力を測りにきているのだろう。正直に言えば、他には存在しない。何故って、此処は魔法先生ネギまの世界だからだ。決して蒼き鋼のアルペジオの世界ではない。だがら安心していいよといってもいいが…私としては自分に有利な条件を得られるチャンスとみた。

 

「ああ。私の知る限りでは旧帝国海軍の名を冠した艦は大体存在する。コンゴウ、ナガト、ムサシ、ミョウコウその他大勢だな」

「なんと……」

 

 私がそう答えると、学園長の表情が愕然としたモノに変わる。魔法関係者も同じくだ。むむ、ちょっと脅しっぽくなってしまった様だ。ここはフォローをしなければ。

 

「私がいうのもアレだが、安心していいぞ。恐らく、私以外目覚めている者はいないからな」

「ふぉ? そうなのかの?」

「ああ。本来なら、私達霧の艦隊はもっと先の未来に目覚める様に命令されていた。だが、命令…私達側ではアドミラリティ・コードと呼ばれるモノが、私のだけ何らかの問題(バグ)によって、この時代のこの地(麻帆良)で覚醒するようになっていた」

 

 実は全部嘘だけど、それっぽく説明する。学園長側は未知の存在である私の話を聞いて判断しなきゃいけないんだし、こっちの都合のいい様に説明させてもらうぜ!

 

「君達が目覚めるのは先の未来だとして…目覚めた君達の取る行動はなんじゃ?」

「私達は兵器だ。覚醒したときに伝えられる命令によるだろうな」

「ふうむ……」

「ちなみに私に下された命令は……『人間を観察せよ。』だ。何故アドミラリティ・コードが私に人間を観察させるのかは分からんが、恐らく他の仲間が目覚めた時に下す命令の判断材料にするのだろう。観察対象を攻撃対象にするか否かと言った所か」

「貴様ッ!」

 

 原作では人間を海上から追い出せ的な意味合いだったが、そんな事言ったらこの場で袋叩きにされかねない。ここは人間を観察し、後に仲間(存在しない)に下される作戦の内容、そして未来の人間の運命にも繋がると仄めかす。するとすぐさまガンドルフィーニが私に対して噛み付くように声を荒げた。

 

「私に噛み付かれても困るのだが」

「ガンドルフィーニ君。落ち着きなさい」

「しかし学園長!」

「黙らっしゃいッ!」

「ッ! ……くっ」

 

 ガンドルフィーニを横目に見ながら、学園長に言うと、学園長が彼に落ち着くように言う。しかし、熱くなったままのガンドルフィーニに学園長の雷が落ちた。

 

「……キリシマ君。君は下された命令にどう動こうとしているのかね?」

「……私としてはこの地で命令を遂行したいと思っている。無論、其方がソレを許可してくれたらだが。条件にもよるが、幾らかは其方に譲歩してもいい」

 

 急に雷を落した学園長に内心驚きながらも、ついに待ち望んでいた言葉を学園長から引き出した。私は学園長の言葉に対し、あらかじめ言おうとした言葉を言った。

 

「……此方は居住と戸籍を用意しよう。そして雇い先として君にはこの都市の警備員として雇い入れようと思う。また、依頼という形でじゃが我々に協力して貰いたい」

 

 学園長の言葉に魔法関係者がざわざわと騒ぎ出す。私としては随分と嬉しい条件だが、あっち側からすれば条件が良すぎるのではないかと疑問視しているのだろう。学園長も魔法関係者達の思いを組んだのか、「ただし」と条件を一つ付け加えた。

 

「君を一ヶ月間程、監視させてもらう。どうじゃ?」

「それで構わない。宜しく、学園長」

 

 学園長から君の事を監視させてもらうよと言われたが、私としてはバッチ来いである。何故かって、それは今はまだ原作が開始されていないからだ。その理由はこの場にネギが居ない事と、初めて高畑先生にあったときに彼が2-Aの担任といったからだ。ネギが居なければエヴァも行動を起こさないから平穏な生活になる。私はドタバタな原作、ネギが3-Aの担任になるまでは精々2-Aの面子と顔合わせでもしたり、お茶なんかしたりしてすごそうと決めているのだ。

 

「うむ。宜しく頼むぞ。キリシマ君。刀子君、すまないが彼女を此処に書かれた場所に送ってくれんかのう」

「はい……はい、分かりました。キリシマさんでしたね。着いて来て下さい」

「ああ」

 

 学園長が魔法関係者の中の一人―――たしか葛葉刀子(くずのはとうこ)だったか―――を呼び、二三話した後、彼女はそれを確認した後、着いてくる様に言われた。私はそれに頷き、彼女に着いて行く事でこの場から退出しようとした時だった。

 

「学園長」

「刹那君。どうかしたかね?」

 

 刀子さんが学園長室のドアに手をかけた時だった。後ろの方から誰かが学園長に声をかける。私は声がした方に顔を向けると、其処には手を上げた桜咲刹那(さくらざきせつな)がいた。あー。なんか先が読めるぞー。きっと私も刀子先生についていってもいいですかとか言うんだろうな。

 

「私も刀子先生についていってもよろしいでしょうか?」

「ふむ……いいじゃろう。着いていきなさい」

「ありがとうございます」

 

 うん。案の定でした。そして学園長もあっさりそれを許すと、刹那は学園長に頭を下げた後、私の後ろについた。刀子先生は私の後ろに刹那がついたのを見るとドアを開けて部屋を出て行ったので、私もそれについていった。

 

 

          ◆

 

 

 私が学園長に無理を言って同行を申し出たのは、目の前を歩く彼女を見極めたかったからだ。かなり肌の露出の多い服装をした、自分の事をキリシマと名乗った彼女は、全ては理解できなかったが、自分は兵器だと言った。私個人の意見を言わせて貰うなら、兵器という危険な存在である彼女を、今すぐにでも排除すべきだと思っている。しかし、学園長はそれをしなかった。別に学園長の判断に不満は無い。あの人なりに彼女の話を理解して、学園側に不利益が出ない様に話を纏めたのだろう。だが、私はこのかお嬢様の護衛だ。はっきり言って、私は彼女が信用ならない。

 学園を出てから私達が向かっている先までの間、私はどんな些細な行動でも見落とさない様に彼女を見張っていたが、彼女はただ刀子先生の後をついていくだけだ。暫くして、刀子先生が足を止めたので、私と彼女も続くように足を止める。視線を彼女から前に向けると、そこには少し古ぼけたアパートが建っていた。

 刀子先生が振り向くと、キリシマさんに部屋の番号と部屋の鍵、そして携帯電話を渡し、明日の朝に学園長から呼び出しがある事を告げる。彼女はそれに頷きながら渡されたものを受け取ると、彼女がものを受け取ったのを確認した刀子先生はそれではといって足早に去っていった。

 この場に彼女と二人きりにされてしまった私は、呆然としてしまったが、彼女が部屋へ向かおうと動いたのを見て、私は慌てて彼女を呼び止めた。

 

「待てッ!」

「……何だ?」

 

 呼び止められた彼女は表情を変えずに私の方を向く。私はそんな彼女に聞きたかった事を告げる。

 

「……このかお嬢様とあったのは偶然か?」

「ああ。全くの偶然だ」

「……本当だな?」

「嘘をつく理由が無い」

「「……」」

 

 私の質問に彼女が直ぐに答えるが、私はあえてもう一度尋ねる。直ぐに彼女から返事が返ってきて、お互いに相手の表情を窺う。暫しの間、彼女の表情を窺っていたが、彼女の一切変化の無い表情に、私は彼女の兵器としての一面を感じた。そしてこれ以上は私に得るものはないと理解した。

 

「……このかお嬢様に近付くな。もしお嬢様に危害を加えようとするなら……容赦はしない」

「……」

 

 そう、どんな存在であろうと、お嬢様に仇なす存在は私が許しはしない。たとえそれが未知数の存在だとしても。私は彼女にそれだけ告げて、その場を去ることにした。

 

 

          ◆

 

 

 刀子先生の後をついていった先に見たものは、少し古ぼけたアパートでした。ちょっと外見が残念だが、学園側が私の為に用意してくれた場所だ。何も言うまい。そんな感想を抱いてたら、振り向いた刀子先生から部屋の番号と部屋の鍵、そして携帯電話を渡された。何でも、学園長から明日の朝に今後の事について呼び出しがあるらしい。その為の連絡用の携帯だそうだ。刀子先生から「わかりましたか?」と言われたので頷いてみせると、それを確認した刀子先生はそれではといって足早に目の前を去っていった。なんか用事でもあるのかしら?

 

 ススッと帰っていった刀子先生に呆然としてしまったが、暫くして我に返った私は、与えられた部屋を見てみようかなと思って部屋の方に足を向けた時だった。

 

「待てッ!」

「……何だ?」

 

 後ろについてきていた刹那から急に呼び止められたでござる。いや、彼女が着いてきてた以上、何か私に言いたい事があるんじゃないかと思ってはいたけどね? 何かというか十中八九このかちゃんの事だとは思うけど。

 

「……このかお嬢様とあったのは偶然か?」

 

 うん。知ってた(予知)。しかしなんて思考の読みやすい()なんだろうか。

 

「ああ。全くの偶然だ」

「……本当だな?」

「嘘をつく理由が無い」

「「……」」

 

 私がこのかちゃんに何か目的があって接触したんではないかと疑っている彼女だが、ハッキリ言ってあれは全くの偶然だ。私にこのかちゃんをどうこうしようなんて、そんなやましい考えなんてない。それに、個人的には千雨ちゃんやハカセちゃんあたりと接触したかったです。いや、このかちゃん達図書館探検部の皆と会えたこと自体はとっても嬉しかったが、こうなる事が予想出来てたから……なんとも複雑な気分である。兎に角そんなにじっと睨みつける様に見つめられても困る。本当、嘘なんてついてないってば。

 

「……このかお嬢様に近付くな。もしお嬢様に危害を加えようとするなら……容赦はしない」

 

 漸く口を開いたと思ったらこのかちゃんに近付くなといわれたでござる。幾ら彼女の護衛だっていってもそれは越権行為じゃないかな……? そんな事を内心で呟くが、言葉には出さない。だってこの件にこの場で口出ししたら余計面倒な事になりそうだからである。彼女はそれだけ告げると、もう用事がないのか、私に背を向け去っていった。

 

 一人でアパートの前に立っているのもアレなので、刀子先生に言われた部屋へと向かう。与えられた部屋は201号室、階段を上ったら直ぐの部屋だ。貰った鍵をドアにさして鍵を開けて部屋に入る。

 部屋の感想は外見とは違いかなり住み易そうだ。トイレ、お風呂、台所があり、広くは無いが部屋も広間と寝室+押入れまである。今はカーテンがない為に広間は外からは丸見えな状態だが、光が良く入るいい部屋だ。しかも備えつきで布団と小さいながらも冷蔵庫まである。冷蔵庫は当然中身は入ってないが。

 学園長に感謝の念を送った後、私は広間に大の字で横になった。寝るにはまだ早すぎるのだが、如何せん部屋にはテレビなど存在しない。部屋には布団と冷蔵庫しかないから暇を潰す様なモノがない。

 

 暫くは今後どうしようかな~なんてぽけーっと考えていたが、突如ティンと来た。

 

 そうだ。自分の事を調べようと。

 

 よくよく思い返してみれば、転生初日から原作の主要人物と遭遇したり、学園長との話し合いとかで転生したらまずすべきである自分の持つ能力の把握をしていなかった。これでは慢心した結果がこれだ! な結末を迎えかねない。そんな事は御免である。学園長室でやった様にこの身体の能力(スペック)についての情報を調べてみる。すると、驚愕の情報を発見した。

 

 ……調べていたデータに神様よりと名前のついたデータを発見したのだ。それを調べてみると幾つかの画面とテキストデータが表示される。私は表示されたテキストデータを確認した。

 

『どうも。神様です。ご要望の通りの特典を貴女に与えました。このデータファイルは与えた特典について説明する為のものです。まず、特典であるキリシマになりたいについては、目が覚めた後にご自身の目で確認したと思います。メンタルモデルとしてのコアの演算能力に関しては本家の1.5倍程強化してあります。また、ナノマテリアル、弾薬の補給に関しては表示された画面の一つに砂のアイコンの横の数値があると思われます。それが、貴女が現在使用可能なナノマテリアル保有量です。船体の展開、攻撃時の弾薬消費、破損部位の修復、様々な行為を行う度に、そこにある数値から行動に使用するナノマテリアルが消費されますが、時間経過と共にそこの数値は増加していきます。また、ナノマテリアルの保有量に関しては、上限は存在しないので、ナノマテリアルの使用を抑えれば、貯蔵も可能です。最後に、個体での合体超重力砲に関しては、使用自体は可能ですが、お奨めできません』

 

そう描かれたテキストデータを読みながら、表示された画面の幾つかを確認する。初めに見た画面は、ナノマテリアルについてのものだ。ナノマテリアルを示す銀色の砂を盛った様なアイコンの横には数値にして18万tもの量が表示されていた。他の画面には、メンタルモデルとして行える事を理解する為のインストールプログラムだった。使用方法は寝る前に、画面の実行ボタンを押すだけ。そうすれば、寝ている間にデータを取得し、朝にはメンタルモデルが行える事について全てを理解した状態になるらしい。のこりのアイコンにはどのような行動をする事で、ナノマテリアルがどれくらい消費するかが表示されていた。其処には船体を展開するのに必要な量や、弾薬補給に必要な量など様々な数値が書かれていた。そういった情報を調べているうちにいつの間にか時間は過ぎていき、気がつけば真夜中になっていた。

 明日の事もあるので、私は渡された携帯を側に置き、布団に横になる。そして、先ほどのインストールプログラムを実行すると、直ぐに眠気に襲われ、私はそのまま眠りにつくのだった。

 

 

 




誤字の指摘・感想・書き方のアドバイスなど、御座いましたら宜しくお願いします。




12月4日…活動報告をご覧になって頂けると嬉しいです。
12月8日…アドミラルコード→アドミラリティ・コードに修正。
12月12日…アドミラルコード→アドミラリティ・コード
12月12日…アドミララリティ・コード→アドミラリティ・コードに修正。
2月14日…用語の統一。 超重砲 → 超重力砲 に統一。
2月14日…文章の一部追加


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#03

通学時に少しづつ書き足して漸くかけました。

それとUA2700越え、お気に入り78件と作者も驚きと感謝に堪えません。

これからも精進します。


 朝、具体的に言えば午前6時半。私は目が覚めた。すっくと布団から起き上がり、その場で軽く伸びをする。意識も明瞭で、なんともすっきりとした目覚めだ。置いておいた携帯を手に取り時間を確認。本日は2002年12月9日月曜日午前6時32分。学園長からの連絡がいつ来るのかは聞いていなかったので、とりあえずどうしようかと悩んだ末、インストールしたプログラムについて確認する事にした。

 早速、何度目かのリングを展開しながら情報を確認していく。インストールプログラムがあったページを確認すると同時に情報が頭の中を駆け抜けていく。

 

「っ!?」

 

 突然の感覚に戸惑ったが、暫くして、私は昨日の自分と比べ、今の自分はメンタルモデルとしての能力を十全と理解し、また運用できると確信した。こう……なんとも言いがたいのだが、昨日まで知らなかった事なのに、今では覚えていて当然の如くと思ってしまっているのだ。凄いなあのインストールプログラム。

 そして、改めてこの身体(メンタルモデル)能力(スペック)に驚かざるを得ない。溜め込んだエネルギーの処理という問題点を除けば、攻撃手段にもなり、かつ防御面ではこの世界では完全ともいえるであろうクラインフィールドに、低エネルギーで効果の高い重力攻撃や、ナノマテリアルを使用した武器生成、おまけに演算処理能力を集中運用した超人的身体能力の実現と、とんでもない能力だらけなのに、止めともいえる能力として、超高度な電子ハッキング能力とか。いや、確かにメンタルモデル一体で、船体の運航に火器の運用、クラインフィールドの展開と平然とできるほどの処理能力があるのは分かっていたが、なんでもかんでも出来すぎでしょ。他にも沢山あるがいちいち改めて数えるのもめんどくさくなってきた。兎にも角にも、私は今日、真のキリシマとして覚醒したのだった。

 

 目が覚めて、真のキリシマとして覚醒したはいいが、学園長に呼び出されるまでは暇だ。とりあえず使った布団を干しておこうと、広間の窓を開けて、洗濯物を干す為だけのスペースしかないベランダに出て布団を干しておく。うーん。空を見る限り、今日一日は晴れだろう。外の空気は12月というだけあって冷たい。まぁ冷たいと思うだけで、我慢できない事じゃないしね。さて、学園長が呼ぶまで待ちぼうけは嫌だし、部屋の掃除でもするか!

 

 

          ◆

 

 

「……あんな格好していて良く寒くないな」

 

 スコープ越しに見た布団を干す彼女を見て、私、龍宮真名(たつみやまな)はそう言葉を零しながら軽く身震いをする。

 私は現在、ガンドルフィーニ先生から頼まれて、昨日突然とこの地(麻帆良)に現れたキリシマと名乗った彼女を監視していた。ガンドルフィーニ先生からの依頼は今日の6時から7時半までの間、彼女を監視して欲しいというものだ。勿論、監視対象に見つからない様に。その依頼を受けた私は、対象の居るアパートから4km程離れた所に植えられた林の内の一本に上った所から監視している。今は12月。早朝はとても寒く、中に何枚か着た上で防寒コートまで着て仕事に及んでいる。しかし、監視対象の彼女は昨日見た姿と同じ、素肌の露出の多い服装のまま、部屋の窓を開けた状態で室内の掃除を始めやがったのだ。

 はっきり言おう。見ているこっちが寒くなってきた。時刻は6時37分。依頼の終了までまだ53分もある。……残り53分、私は彼女を監視しながら、途中で来るであろう尿意を堪えなくてはいけない未来を理解し、今度ガンドルフィーニ先生から受ける依頼は値段を吊り上げようと心に決めた。……勿論、この依頼が終わったらトイレに行く事も決定事項だった。

 

 

          ◆

 

 

 部屋の掃除をする事1時間。掃除された部屋の中は随分ときれいになったと思う。換気しながらの掃除で、部屋の中が随分寒くなったが、別に問題は無い。それよりも、此方を監視していた龍宮さんの方が心配である。

 正直に言うと、布団を干していた際に彼女が私の索敵圏に引っかかった。此処から随分と離れた場所で気づかれない様にする為の距離なのだろうが、残念ながらバレバレである。掃除の最中に何度か彼女の事を確認したのだが、随分と着膨れた格好で此方を見ていた。ちなみにこの身体機能の一つとして遠視機能があり、それで彼女を確認できた。凄いぞこの身体。何度か身震いしていた所を見たし、監視の為に動けない事からトイレとか大丈夫かな?

 もう一度彼女の方を確認してみる。監視用に使用していた器具を急いでしまいその場を離れていく姿を見るにやはり我慢していたようだ。

 そんな彼女を見送っていたら、携帯が鳴り出した。手に取り画面を確認してみると、学園長と書かれており、私は通話ボタンを押した。

 

「もしもし」

『おお。キリシマ君おはよう。ワシじゃよ』

「ああ。それで、私はどうすればいい?」

『うむ。では今日の8時半に学園長室に来ては貰えんかのう?』

「8時半に学園長室だな。了解した」

『うむ。待っておるよ。ではまた後での』

 

 学園長と今日の予定について軽くお話を済ませた後、携帯を切った私は、携帯電話の画面で時間を確認。時刻は7時40分。予定の時間までまだ余裕があるし、私はある事で能力を使う事にした。そのある事とは、服装についてである。

 なんせ、私は今現在身に着けている衣服以外持っていない。原作のキリシマさんと全く同じ、かなり露出が多めな格好なのだ。はっきりいってこの季節にこの格好はまずいかな?と思ったのだ。もし、私と同じ格好をした相手と冬の早朝で会ったら、私でも確実に寒そうな格好と思ってしまう。

 この問題の対策として、私はナノマテリアルを使って衣服を生成しようと思ったのだ。原作でも、メンタルモデル達は身に着けている衣服を変化させる事が出来ていた。つまり、彼女達の衣服は基本はナノマテリアルで構成されている。私の今着ている衣服も、ナノマテリアルで構成されている。ここで、そのナノマテリアルを使って、新たな形状の衣服に変化させようという訳だ。具体的には暖かめな格好とか。ついでにいえば、この身体もナノマテリアルで構成されているので、姿も一応変える事ができるらしい。まぁ、特に変えようとは思ってないのでキリシマさんのままでいるつもりだ。

 早速衣服を変化させていく。露出の多かった衣服が緑色に発光したかと思うと、その形が変化する。発光が止むと同時に衣服が変化を終了する。さっきまでキリシマさん標準装備だった衣服が、今は黒地のタートルネックにその上にベージュのコートを羽織っており、下は左右の丈の長さがアンバランスなジーンズから、黒のレギンスとベージュのスカートに変わった。うん。冬服のこの格好結構いいな。他にも正装用のスーツやコスプレ気味な衣装などついつい楽しくなって着替え続けて、そういや今何時かなー? って携帯電話の画面を確認してみたら。

 

「……8時15分……だと」

 

 ……うっわーい。なんか滅茶苦茶時間経ってるー。……と、とりあえず、さっきの冬服で学園長の元にいく事にした。玄関でブーツを履き、部屋の鍵を閉めた私は、急いで麻帆良学園へと足を向けるのだった。

 

 

          ◆

 

 

 駆け足10分程で、麻帆良学園の正門前に到着した。といっても与えられたアパートが近かった事と、演算処理を集中運用する身体能力の強化で10分である。普通に歩いてたら余裕で遅刻です。

 私は正門を潜り、学園の敷地内へ入っていく。少しして来学者用の受付を見つけ、其処で学園長に面会する予定がある事を事務員さんに告げる。四十台半ばを超えてるであろう事務員のおじさんは、受付にある電話で何処かに確認をとった後、私を学園長室まで案内してくれるのだった。

 

 

「学園長はこの部屋でお待ちです」

「ありがとうございます」

「いえ。では私はこれにて失礼致します」

 

 学園長室前まで案内してくれた事務員さんと別れ、私はドアを軽くノックする。直ぐにドアの向こう側からどうぞの声が返って来たので、私はドアを開け、学園長室に入った。

 

「おはよう。キリシマ君。昨日はよく眠れたかね?」

「おはよう。学園長。良く寝れたよ。良い部屋を提供してくれて感謝する」

「ふぉふぉふぉ。それはよかった。立ち話もあれじゃ、座りなさい」

「感謝する」

 

 部屋に入った私は、デスクに座った学園長と軽い挨拶を交わした後、デスク前に置かれた椅子に座る。

 

「それで? どういった要件で私は呼ばれたのかな?」

「おおそうじゃそうじゃ。うむ、実はキリシマ君には広域指導員になって欲しいのじゃ」

「広域指導員?」

 

 広域指導員? それって確かタカミチ先生がやってる奴だっけ?

 

「うむ。ここは麻帆良学園(・・)都市というだけあって、多くの学生が存在する。その為、彼等はその若さの余り、時に他人に迷惑をかけてしまう事をしてしまう者も居る訳じゃ」

「成程な。つまり、学園都市故に、学園の敷地外……街中や広場などでも学生同士のぶつかりあいが起こり、その場の住民に迷惑をかけてしまう……と。その広域指導員はそういった輩を指導すると存在という訳だな?」

「その通りじゃ。勿論此方から依頼する仕事じゃから給料はしっかりだすぞい。それに君の目的にも沿う仕事じゃとワシは思うんじゃが?」

「……此方としては有難い限りだ。その話、受けさせて貰おう」

 

 学園長が広域指導員の説明をしてくれたので、私なりに纏めてみて確認を取る。どうやら私の認識であっているらしく、学園長が頷くので、私もその話を受ける事にした。確かに学園長の言う通り、彼等に話した目的にはその仕事はうってつけである。まぁ、話した内容は嘘だから意味はないのだが。ただあるとすれば、私が原作キャラ、つまり3-Aのクラスメイトとお話できる機会が増える程度だ。私的には大歓迎である。

 

「そういって貰えると嬉しいのう。広域指導員は君の他にはタカミチ君がいる。仕事の詳しい事に関しては、彼に聞いて欲しい。それじゃ、君の戸籍をワシの方で作成しておくのじゃが、名前はどうするかのう?」

 

 うん。タカミチ先生がやってるのは知ってる。しかし、戸籍を作る為の名前かぁ……。キリシマはそのままにしたいしどうするか……そうだ。此処は仕事の先輩になるであろうタカミチ先生の名前みたいにしよう!

 

「名前か……。……なら、キリシマ・K・霧乃(きりの)とでもしといてくれ」

「ふむ……。それじゃあワシの方で、君の戸籍をキリシマ・K・霧乃として作成しておくぞい」

「宜しく頼む。要件は以上か?」

 

 名前はその場の思いつきでは結構良い線言ってるのではないか? と思ってる。とりあえず、仕事も決まったし、ここでの戸籍もキリシマ・K・霧乃として作成してもらえるように話がついた。もう他に用事はないと思うのだけど?

 

「おっと、すまんがキリシマ君。できれば今日の夜に時間を空けといてくれんかのう?」

「何かあるのか?」

「うむ。君には表の広域指導員の他に裏の仕事にも協力して欲しいのじゃ」

「裏の仕事?」

「うむ。此処、麻帆良は学園都市であると同時に、関東魔法協会の地でもあるのじゃ。そして様々な理由で、我々は他の組織から一定の間隔で攻撃を受けていたりするのじゃよ。ワシも含めたこの地の魔法使いと協力者で今まで守ってはきたのじゃが……」

「ふむ……。つまりその際に私も協力者としてこの地を一緒に守ってほしいから、まずは私の実力を知りたいと?」

「……察しが良くて助かるわい。その通りじゃよ」

 

 学園長がそういうが、私的にはもう話しの流れと原作知識からの推測である。

 

「……ふむ、構わないぞ」

「そうか。では……今日の23時に世界樹公園前広場にまで来てくれんかの?」

「了解した」

「それじゃあ頼むぞい。……おっと忘れる所じゃった。キリシマ君。コレを受け取りなさい」

 

 学園長と夜の話について話終えたと思って腰を上げようとしたら、また学園長から話しかけられ、学園長から封筒を渡される。

 

「何だ?」

「この中にとりあえず15万入っておる。君に与えた部屋は最低限の家具しかないじゃろう?それで、今月は凌いで欲しい。来月からは表と裏の仕事分の給料が入るからの」

「それは……感謝する」

「うむ。ワシからはコレでお終いじゃ」

「なら、私はこれで失礼する。23時にまた」

「うむ」

 

 やだ! 学園長ってば太っ腹! 15万もPONと渡されて、とっても嬉しい。結構学園長って、二次創作モノだと悪役っぽい存在でよく見るけど、この学園長は善人っぽいようだ。私は学園長に感謝の一言を言った後、特に学園長から呼び止められなかったので、そのまま学園長室を後にした。

 学園長との話を終え、15万円を渡された私。現在の時刻は午前9時13分。原作キャラ事2-Aのメンバーは今は授業中なので会う事はないので、私は早速貰ったお金で、部屋に必要なモノと食材を買う事にした。よくよく考えれば、私ってば、昨日から一口もしてないのよね。身体がメンタルモデルだからお腹空かないけれど。でも味覚はあるし、あるのならやっぱご飯は食べたいものなのだ。そんな訳で、私はお世話になった事務員の人に商店街が何処にあるかを聞いてから、学園を後にした。

 

 

          ◆

 

 

 商店街についた私は、家電製品をみたり、食べ歩きしたり、服を見たり、食べ歩きしたり、本屋に寄ったり、家具をみたり、食べ歩きしたり、スーパーで買い物をしたりした。そんなこんなで、アパートに帰ったのが午後6時半。ドアの鍵を開け部屋へ入り、私は買ってきた炊飯器の入った箱を広間に置き、買い物袋の中の食材を冷蔵庫にしまう。

 学園長とのお話の後、商店街で約半日ほどぶらぶらとしてしまったが、その行動には意味がある。ズバリ色々と情報を集めていたのだ。

 情報を集めていたといっても、その内容は家電製品や衣服などだ。理由は勿論、ナノマテリアルで生成できるもののデータ収集だ。まず、家電製品に関しては、その商品を触った際に内部構造やら組み込まれているシステムやらを解析したりして、情報を蓄積、衣服は服単体を見たり、本屋のファッション雑誌などを確認したりしてデータを集めていたのだ。

 本当は買ってきた炊飯器も集めたデータの中に存在するのだが、これに関しても理由がある。

 ナノマテリアルで、今日集めてきたデータを元に、家電製品などを生成する事は容易だ。しかし、この生成で使用するナノマテリアルは戦闘時の弾薬、もしくは修理素材でもある。この世界がネギまの世界である事から、原作が開始されれば、戦闘に巻き込まれる回数が多くなり、ナノマテリアルの消費が激しくなるかもしれない。そんな未来予想から、生活に必需で、かつお金に余裕があるならば、正規に購入し、生活に必需だが、現在購入が不可なモノは一時的にナノマテリアルで生成したもので代用する事にしたからだ。

 そんな訳で、とりあえず貰った15万から炊飯器と、鍋やフライパンといった調理器具、皿やお碗、食材などを購入した。まだお金に余裕はあるが、無駄遣いもよくない。

 洗濯機やテレビといったものは欲しかったが、それらも購入すると15万が軽く吹き飛ぶので、それらはナノマテリアルで生成する事にした。次の給料が入り次第、買い換えていくつもりだ。

 

 そんな訳でナノマテリアルを使用して、集めてきたデータ通りにテレビや洗濯機を生成する。目の前に表示される画面に映る、ナノマテリアル保有量の数値が減少するとその場にデータ通りの製品がすぐに生成される。私は生成された物をテキパキと設置していき、30分もしない内に部屋の内装を整え終えた。干していた布団を取り込んで、その後は夕食を作る事にした。といっても、今日は簡単なミートパスタである。作り方は単純で、茹でたパスタに、温めたミートソースのレトルトパウチをかけ、その上にミートボールを乗っけて、其処に粉チーズを掛けて完成。前世の私が良く好んで食べた食事である。カロリーに関しては何も言うな。

 時間をかけて食事をし、使用した鍋や皿を洗ったりして、時刻は午後の8時。まだ学園長との約束の時間まで随分と余裕があるので、風呂の準備をしたりしたが、それほど時間をつぶせず、しょうがなく生成したテレビで、適当に番組を見たりして約束の時間30分前まで時間を潰すのだった。

 

 時刻は午後10時50分。二十分前にアパートを出た私は、のんびり歩きながら世界樹公園前広場へと向かい、そして今到着した。ちなみに服装は今朝の学園長とのお話のときのままである。

 到着した世界樹公園広場前には学園長とタカミチ先生の他に、昨日見た魔法関係者達が多く集まっており、その中に桜咲や龍宮、ガンドルフィーニなどもいた。

 

「よく来てくれたのう。キリシマ君」

「そういう約束だからな。こんばんわ、学園長。タカミチ先生も、こんばんわ」

「ああ。こんばんわ、キリシマさん」

 

 私を遠巻きに囲むように此方を見ている魔法関係者達を無視し、私は学園長とタカミチ先生に挨拶する。学園長とタカミチ先生も挨拶を返す。お互いに挨拶をした所で、私は早速この場でのすべき事を聞く事にした。

 

「で、此処で私の実力を測るんだろう?誰が相手になるんだ?」

「うむ。キリシマ君には、この先ワシ達と共に裏の警備を手伝ってもらう予定じゃ。なのでこれからキリシマ君の実力を測る為に、キリシマ君にはタカミチ君と簡単な手合わせをしてもらう。タカミチ君も了承してくれておる。皆の者、この手合わせで彼女の実力を確認するように」

「そういうことなんだ。よろしくお願いするよ」

「構わない。此方も宜しく頼む」

 

 学園長が周りの魔法関係者に説明すると、タカミチ先生が一歩前に出る。自然体の様子でいるが、彼の手はポケットの中だ。私も、彼に応える様に一歩前に出ると同時に、リングを展開し、現在の服装をキリシマ標準装備に変える。目の前のタカミチ先生も含め、魔法関係者の表情に驚きが浮かぶが私はきにせず、私はクラインフィールドの展開準備を開始した。

 

「ふむ……両者、準備はよいな?」

「僕はいつでも」

「私も大丈夫だ」

 

 学園長の確認の言葉にタカミチ先生と私は同時に答える。学園長はその返事を聞いて頷く。

 

「うむ。では……両者始めッ!」

 

 学園長のその言葉で、私とタカミチ先生の手合わせが始まった。

 

 

 




誤字の指摘・感想・書き方のアドバイスなど、御座いましたら宜しくお願いします。

12月27日…2003年12月9日 → 2002年12月9日に修正。
2月15日…文章の修正。


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#04

 学園長から夜遅くに世界樹公園前広場に集まる様にとのメールが来たので、私はその日、同室の龍宮真名と共に指定された広場へと足を運んだ。

 そこには、私と真名を呼び出した張本人である学園長に、その隣に立つ高畑先生がいた。また私以外にも、ガンドルフィーニ先生や、刀子先生といった魔法先生達もおり、さらに驚く事に聖ウルスラ高の高音さんや佐倉さんといった麻帆良の裏に関わっている魔法関係者の殆どの面子が揃っていた。

 

「ふむ。……随分人が多いな。刹那はこの集まりをどう見る?」

 

 真名も私と同じ思いを抱いたらしく、私にこの集まりの目的を訪ねてくる。

 

「……さあな。学園長は何かと隠し事が多い方だ。あれこれ考えるよりも、話を聞いた方が手っ取り早い」

「確かに」

 

 私の出した答えに真名は肩を竦めながら同意し、私たちも含めた魔法関係者達は学園長の言葉を待つことになる。

 

 そして、広場に集まってから数分した頃、新たに訪れた人物に私を含めた何人かの魔法関係者が驚きの声を漏らした。

 新たに広場に訪れたのは、昨日学園長室で初めて会った相手、キリシマと名乗った人物だったからだ。

 昨日の露出の多い姿とは打って変わって、今は防寒対策のされた服装で身を包んではいるが、この場に現れたのは、昨日の説明で自らを人ではない存在であるといった相手。当然、私も含めた多くの魔法関係者が彼女を警戒する。しかし、当の本人は警戒されているのも気にならないのか、学園長と高畑先生に夜の挨拶を交わしていた。

 

 学園長と高畑先生、そして彼女が簡単な挨拶を交わした後、彼女が学園長にこの場所に呼び出した理由を聞いた。学園長は彼女に頷くと、この場に居る者全員に聞こえる様に、この場に集まった理由を話し出す。

 

 それは、彼女を表ではこの都市の広域指導員として雇い、そして裏の仕事に外部協力者として私たちと共に闘ってもらう事をお願いするといったものだった。当然、私やガンドルフィーニ先生といった多くの魔法関係者は学園長の決定に不満を持つ。しかし、学園長も私たちから不満が噴出するのが分かっていたのか、今の麻帆良の裏の戦力的な問題点などを挙げられ、学園長は私たちに理解を求めてきた。そんな学園長に未だ不満は残るが、そういわれてしまうと此方としても引き下がらざるを得ない。事実、西からの刺客による襲撃は回数を重ねる事に、此方をかく乱させたり、式神を伏せたりと策を用いてくる動きが見れ、防衛線を何度か抜かれ、その度に遊撃についている魔法先生達のおかげで、なんとか守り切れている状態なのだ。不満の声が上がらなかった事が、彼女を裏の仕事への参加を許すモノと捉えた学園長は、今日この場で、新たに私たちと麻帆良を守る事になる彼女の実力を知るために集まってもらったと説明した。

 

 彼女の実力を測る為の相手は高畑先生が務めるらしく、高畑先生が広場の中央に足を進める。それに応じる様に彼女も足を進め、一歩目を踏み出したと同時に、彼女の服装が昨日の服装へと一瞬で変化する。その変化を見て、高畑先生は少し驚き、無言で両手をズボンのポケットへと収める。対して、彼女は自身の周りに緑色に発光する一つ輪を展開したまま、高畑先生の正面に相対した。

 

 学園長が、両者に準備がいいかと問うと、お互いに準備ができたと返事が返ってくる。それを聞いた学園長は頷き、

 

「うむ。では……両者始めッ!」

 

 手合せの開始を告げたとほぼ同時に、彼女(キリシマ)と高畑先生の間で衝撃音が響いた。

 

「ッ!」

「なっ。高畑先生の初撃を防いだ!?」

「……彼女、やるな」

 

 二人の丁度中間の位置に、六角形の緑色に輝く板のようなものが浮いている。先ほどの衝撃音はそれに高畑先生の攻撃が当たった事で起きたものだった。そして、その事実に私は驚愕を隠せなかった。なぜなら、それは高畑先生の初撃は普通なら防げないモノだからだ。高畑先生はポケットに手を突っ込んだ状態で、無音かつ高速な攻撃を放つ相手だ。正直、拳も構えないで立っている相手から、いきなり無音かつ高速の攻撃が飛んでくるなど、初見ではまず回避することも出来ずに攻撃を受ける羽目になるはずなのだ。しかし、彼女はそれをどこからともなく取り出した緑色に輝く六角形の板のようなもので防いだのだ。つまり、彼女には、私には認識出来なかった高畑先生の初撃がはっきり見えていた事になる。

 

 高畑先生も初撃を防がれた事に少し驚いた様子だったが、すぐさま攻撃を仕掛け、再び今度は3度の衝撃音が響き、いつの間にか三枚に増えていた六角形の板が高畑先生の攻撃を全て防いでいた。

 

「な……」

「お終いか? なら次は私の番だな。いくぞ!」

「ッ!? クッ!」

 

 流石に高畑先生も今の攻撃を全て防がれるとは思ってもいなかったのだろう。その表情にありえないといった感情が出ていた。そんな彼に対し、彼女は攻撃が止んだ事で、守りから攻めに転じる。彼女が高畑先生に呟くと同時に、彼女の前に幾つもの六角形の板が現れ、彼女が腕を前に押し出すのと合わせて、それらは高畑先生に目掛けて飛んでいき、それから彼女の怒涛の攻撃が始まるのだった。

 

 

          ◆

 

 

 学園長に呼び出され、魔法関係者の人たちに見られながら、高畑先生と闘う事になった訳だが……この勝負、正直いってタカミチ先生には勝機はない。だって彼じゃクラインフィールドを貫く事が出来ないからだ。なんせこのクラインフィールドは対艦ミサイルの直撃や、主砲さえもー―蓄積したエネルギーさえ放出できればだが――防げてしまう程の防御力を持つのだ。それに彼が幾ら無音拳だか居合拳だか名前は忘れたが、幾ら高速で拳圧を放とうとも、それよりも速い主砲や機銃、スーパーキャピテーション現象を用いた高速誘導魚雷なんかをすぐさま迎撃できる能力(スペック)を持つメンタルモデルに通用する要素は一つもない。

 

 かといって慢心すると、原作のキリシマみたいになってしまうので、私は一切慢心はしない。彼のどんな攻撃でも、全てを無力化して完全勝利を目指すつもりだ。

 そんな訳で、学園長が手合せ開始の合図と共に、索敵能力をアクティブに。タカミチ先生の動きの初動、ポケットから抜かれた拳を目視しながら、拳圧が来るであろう所にクラインフィールドを展開する。ここまでの行動も、流石メンタルモデルというべきか。一瞬の内に行える。彼からすれば、当てようと思った攻撃が、突然展開されたクラインフィールドに防がれたのだ。表情には出てないが、内心驚愕してるに違いない。そんな風に思っていると、続けて3発の攻撃が彼から放たれる。しかもかなりえげつない。下、下、上のコンビネーションというのか、下に防御を意識させての必殺の上の一撃。これがただの一般人なんかであれば、全てを直撃し、とどめの上への一撃で意識を刈り取られるに違いない。

 しかし、残念だったな。タカミチ先生。私にはそれが始めから見えている。そして一瞬で攻撃を防ぐ術がある。この時点で君に勝ち目はないのだ。私は彼の3発のコンビネーションに対し、やはりクラインフィールドを展開し、それらの攻撃を全て防いだ。

 

「な……」

 

 流石のタカミチ先生も、今の攻撃を完全に防がれるとは思ってもいなかったのだろう。驚愕の表情を隠せていなかった。当然、周りの魔法関係者も、タカミチ先生の表情と彼の攻撃を全て防ぎ切った私を見て、驚いていた。

 だがしかし、私の攻撃はまだ始まってもすらいない。先手はタカミチ先生に譲った形になったので、今度はこっちが攻める番だ。

 

「お終いか?なら次は私の番だな。いくぞ!」

「ッ!? クッ!」

 

 クラインフィールドを自身の前面に複数展開し、それを押し出す様に腕を前に出す。そうすると、目の前に展開されたクラインフィールドはタカミチ先生に向かって勢い良く飛んでいく。

 私の攻撃方法は、非殺傷ならば格闘か、この方法の二択ぐらいだった。すなわち、クラインフィールドを直接打撃武器として扱い、相手にぶつけて無力化するといったものだ。なんせ、この身体の持つ攻撃方法は殺傷系ばかり揃っていて、代表的なモノをあげれば、相手を削り取ったり、展開の余波で押しつぶしたりする事ができる重力系攻撃など手合わせでは絶対に使えない攻撃だ。

 そんな理由もあって、私はタカミチ先生に向けクラインフィールドを突撃させる。気分は某闘技場の様に相手にシューーッ!! 当たれば超エキサイティンッ!! だ。まぁ、当たらないだろう。なんせ、彼には瞬動といった途轍もなく素早く移動する事ができる方法を持っているのだから。

 だが、流石タカミチ先生といった所か。彼は瞬動で回避するを選ばずに、その場で此方の攻撃を迎撃する事を選んだ。そして、突撃させたクラインフィールドが直ぐ近くまで距離が詰まった所で、彼は迎撃を開始。突撃してくるクラインフィールド達の端を狙って攻撃し、攻撃を受けたクラインフィールドはその攻撃で突撃する方向を変えられたのだろう。タカミチ先生を避ける様に他の方向へ飛んでいってしまう。

 これには、少なからず私も驚いた。それなりの速度と硬度を持たせたクラインフィールドをタカミチ先生に突撃させたのだが、彼は拳圧では私の攻撃を防げないだろうと見るや、自分の拳が届く距離まで待ち、直接拳でクラインフィールドを殴り、軌道を無理やり変えたのだ。

 

「よく防いだな」

「君もさ。僕の初撃を防げた人は久しぶりだよ」

 

 タカミチ先生の今の攻撃に対しての対処法を見て、私は賞賛の言葉を投げかける。タカミチ先生も、自分の攻撃を防いだ私に賞賛を返す。

 

「タカミチ先生。もっと本気を出してくれても構わないぞ? 貴方の戦い方は、そんな固定砲台みたいなものじゃないだろう?」

「……やれやれ。ならご期待に応える様に、僕も少し本気を出そうか……なッ!」

 

 タカミチ先生にもっと本気で来いや! っていったら、それに応えた彼は、私の目の前から居なくなり、その直後、後方から拳圧が急速接近。私は直ぐ様クラインフィールドを展開しそれを防御し、後ろを振り向くが、其処にはタカミチ先生は居なく、今度は左右の両方から拳圧が急速接近してきた。

 

「ッ!」

「……これすら防げちゃうなんてね」

 

 左右の拳圧もクラインフィールドで防ぐと、姿は見えないが、タカミチ先生の驚愕と感嘆の言葉が呟かれる。彼からしてみれば、瞬動を用いて私の視界に入らないようにして攻撃をしまくったのに、その攻撃すら防御を貫けないのだから呟きたくもなるだろう。

 

「成程、高速移動か」

「さて、ご想像にお任せするよっ!」

 

 私の言葉に、タカミチ先生は攻撃で応える。瞬動を駆使して全方向から放ってくる攻撃に、私は自分を覆う様にクラインフィールドを展開して対抗し、タカミチ先生を目で追いかけ、彼の動きを観察する。観察する動きは足運び。動きを解析し、この移動法を理解した時が私の攻撃の番だ。

 

 タカミチ先生の全方向からの攻撃を防ぐ事3分間。その間、タカミチ先生は全く息をきらせずに攻撃を継続していた。もしかすると気を使用していたか、はたまた自前のスタミナかはわからないが、どちらにしても凄いことには変わりは無い。だが、その3分間で、私は彼の行っている移動法の解析が完了した。ここからはクラインフィールドを使わない戦いの始まりだ。

 

 タカミチ先生が全方向に展開されたクラインフィールドをひたすらに攻撃し、私の正面で攻撃を放った瞬間、私は彼がしてきた動きを再現し、一気に彼の眼前まで接近し、彼のスーツの襟を掴み、半分ほど脱がせてから距離を取った。

 

『なっ!?』

 

 私のとった行動に、された当人であるタカミチ先生も含めたこの場にいる全員が驚きの声を上げた。なんせ、私が瞬動を使ったからだ。

 無論、これにはタネがある。というか、ハッキリいってメンタルモデルの能力がタネだ。3分間で散々見てきたタカミチ先生の瞬動を解析し、その解析した動きを、そのままこの身体に再現させた。その結果が、タカミチ先生に接近し、スーツを半脱ぎさせて距離を取ったアレである。なぜスーツを半脱ぎにさせたかといえば、彼の腕の動きを制限させる為である。案の定タカミチ先生は腕が抜き辛かったのか、私が距離を取ったのに追撃はしてこなかった。

 

「……君は、瞬動も使えるのかい?」

「瞬動? 今の動きの名前か。何、タカミチ先生の動きを見て真似しただけだ。上手くいったようだがな」

 

 タカミチ先生がスーツを着直しながら聞いてきたので、素直に応える。貴方のおかげで、私は瞬動が使える様になりました。ありがとうタカミチ先生! タカミチ先生はそんな私の返事を聞くと、頭に手を当てるポーズを取りため息をつくと、ポケットから手を抜き、学園長の方を向いた。

 

「学園長。もうこれくらいでいいでしょう。彼女の実力もわかったはずです」

「う、うむ……。皆の者、これで彼女の実力も分かったじゃろう。今後は彼女と協力して、夜の警護を行う。彼女を何処のチームに加えるかは、また後日ワシから連絡する。今日はこれで以上じゃ」

 

 ……なんかよくわからないが、どうやら手合わせはこれでお終いらしい。なんだか消化不良な気分だが、終わってしまったものは仕方ない。私は学園長にもう終わりなら帰っていいのか確認を取り、タカミチ先生に軽く挨拶をしてから家に帰った。

 

 

          ◆

 

 

 自宅に帰るといって彼女がこの場からいなくなった後、僕の元に教え子の二人がやってきた。

 

「やぁ。こんばんわ。桜咲さんに龍宮さん」

「手合わせお疲れ様でした。高畑先生」

「はは。随分情けない戦いを見せてしまったね」

 

 桜咲さんが彼女(キリシマ)との手合わせの件の話を持ち出し、僕は苦笑しながらそれに応える。

 

「いえ、高畑先生程の方があれほど苦戦するのですから、彼女が相当な者なのでしょう……。事実、見ただけで彼女は瞬動を使ってきた」

「ああ。そうだね」

 

 そう。彼女は僕に僕の動きを見て真似ただけで、瞬動をする事が出来たといった。それは普通に考えればありえないような事だ。

 

「真似ただけならば、まだ高畑先生に分はあったと思うのですが……。なぜあそこでやめたのですか?」

 

 桜咲さんが私に尋ねてくる。僕は苦笑しながら二人に拳を見せた。内出血を起こし、腫れ始めた両方の拳を見せると、桜咲さんは顔をハッとさせ、龍宮さんは成程といったような表情をした。

 

「この怪我は……」

「彼女の攻撃を防ぐのに直接ね……あの障壁、途轍もない硬度だったよ。あの一度を防いだだけで、この有様さ」

 

 彼女の攻撃手段だった、緑色の六角障壁ともいうべきか。その攻撃速度は手合わせ故に遅かったが、此方の攻撃を防ぐ際の展開速度などから、本気であればもっと速い速度で放たれていたであろう。

 

「つまり、彼女の実力はまだ底が見えないと」

「ああ。本気の彼女の実力はもしかするとあのエヴァに匹敵するのかも知れない」

「あのエヴァさんに匹敵……!?」

 

 僕の呟いた言葉に、桜咲さんが驚愕し、彼女が帰っていった方向を睨みつける。そんな相棒をやれやれといった様子で、龍宮さんは肩を竦めた後、桜咲さんの肩を叩く。

 

「ほら、彼女の事は一旦置いておいて、今日はもう帰って寝よう。明日も学校があるし、刹那はお嬢様を見守る務めがあるだろう?」

「む。……はぁ。そうだな。すみません高畑先生。私達はこれにて失礼します」

「ああ。桜咲さんも龍宮さんもお休み」

「お休みなさい。高畑先生。その両手、お大事に」

「はは。明日のHRまでにはなんとかしておくさ」

 

 教え子の二人と別れて自宅に帰った僕は、両手の怪我を治療符を使って目立たないぐらいまで治して、眠りにつくことにした。

 

 

          ◆

 

 

 タカミチ先生との手合わせを終え、自宅に帰ってきた私は、現在お風呂に入りながらさっきの反省を始めた。

 今回、殺傷系の攻撃は使用していないのでそれらの威力評価は出来ていないが、非殺傷系の攻撃とクラインフィールドに関しての情報はそれなりに集まった。まず、クラインフィールドに関してだが、フィールド自体の強度からして、恐らく余程の攻撃を受けない限り破られる事は無いだろう。また、今回の手合わせでクラインフィールドが溜め込んだエネルギーは凡そ4%。あのタカミチ先生の攻撃でもその程度だ。これが千の雷なんかの場合はどのぐらいエネルギーを溜め込むのかは分からないが、打撃系の攻撃に関しては殆ど防げるだろうというのが私の判断だ。

 そして次にクラインフィールドを相手に突撃させる攻撃方法だが、これに関しては相手の攻撃で、進路がずれるといった問題点がでた。ただし、あくまでこの攻撃は非殺傷であり、元々決めての欠ける攻撃なので牽制程度のものと割り切れば問題はなかった。

 次にタカミチ先生からラーニングした瞬動だが、これに関してはかなりの儲けモンだった。特にこの世界の強い相手に対して、この移動法はなくてはならないものであると私は思っている。

 メンタルモデル時にしか使えない移動法だが、フェイトや学園祭を過ぎた辺りのネギ先生なんかを相手にする場合、瞬動を用いた高速移動はクラインフィールドに頼らずに攻撃を回避する事で、無駄にエネルギーを溜め込まないようにする事ができる。それにクラインフィールドを展開するのに回していた演算能力を身体能力や攻撃面の方に回せることも魅力になるだろう。

 

 風呂を出て、タオルで身体を拭きながら、私は船体の能力を考え始める。

 今回、メンタルモデルの能力を調べる事が出来たが、本来の姿である戦艦の能力はまだ把握できていない。なのでその能力を把握する為にも、何処かで船体を展開しなくてはいけないのだが、この地に展開できる程の湖や海がないから困ったものだ。

 ……ここはどうにかしてあのキャラと顔を合わせて、あの道具を使わせて貰わなくてはならないだろう。

 

 今後の麻帆良でのしたい事に、彼女との接触と例の道具を使用させてもらう事を追加して、私はタオルで身体を拭き終えてから、寝巻きに着替え、そのまま布団に入り寝るのだった。

 

 




誤字の指摘、感想、批評、書き方のアドバイス等々、頂けたら幸いです。
2月14日…文章の修正。


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#05

なんとか年内に投稿できた。今回はちょっと短め。具体的にいうと訳600文字減。次回は頑張りますんで。許してください。

艦これのアルペジオとのコラボイベントが嬉しいのですが、消費資材の量が凄くて辛い。なんとかE-3までクリアしたいのですが相手の超重力砲がなぁ。


 タカミチ先生とドンパチやった日から一夜あけ、今の私は現在お昼の準備に取り掛かっている。

 今日は、学園長から朝から呼び出される事もなく、またする事も特に思いつかなかった為に、朝に起きたが二度寝を敢行。お昼頃まで布団の中でぐっすりだった。しかし、流石にお昼以降も寝て過ごすのは時間があまりにも勿体無いし、とりあえず今日はどうしようか考えながらお昼ご飯の準備をする事にしたのだ。

 

 そんな訳で、現在(いま)私はお昼ご飯を作っている。ちなみに今日の料理はチキン南蛮だ。作り方は簡単で、まずチキンに絡める甘酢を作る為に、酢、砂糖、醤油、みりんを鍋に入れたら煮立つまで混ぜて、その後は火を止めて別の容器に移して冷ましておく。次にタルタルソースだが、ゆで卵を潰したものにマヨネーズを加え、其処に刻んでからレンジで熱を入れた玉葱、刻んだだけのピクルスを加えてから混ぜ、塩、コショウ、レモン汁、牛乳を少し加えて味を調える。そして、漸くメインのチキンだが、鶏肉に塩、コショウ、薄力粉を塗した後、余分な薄力粉をよく叩き、それを溶き卵に潜らせ、180℃の油で両面が色よくカラッとなるまで揚げる。揚げたチキンを甘酢の入った容器に入れ、スプーンで甘酢をチキンに満遍なくかけて味を染み込ませる。味が染みたと思ったら、容器から取り出してお皿に盛り付け、チキンの上からタルタルソースをかけて完成。

 

「いただきます」

 

 完成したチキン南蛮をおかずに、私はお昼ご飯を食べ始める。さっそく作ったチキン南蛮を箸で一切れつかみ口の中へ。衣に染みた甘酢と、タルタルソースの濃厚さが、ジューシーなチキンの味を更に一段階引き上げる。おいしさの余り、箸が止まる事はなく、私の食事は20分もしない内に終わった。

 

「あー…美味かった」

 

 昼ごはんの出来に満足しながら、私は使った調理器具や皿を洗う。久々に作った料理だったが、おいしく出来ていてよかった。なんせ、前世では美味しかったが、胃に重たい料理である為に一度作った後は、全く作っていなかったからだ。しかし、今のこの身はメンタルモデル。どんなに食べても太らないし、胃もたれもしない。あれ?もしかしてメンタルモデルになった利点ってこれが一番かもしれない?

 なんてわりと真剣に思いながら、皿などを洗い終えた私は、食事も食べて気分も上がったので、今日の予定を考える事にした。

 さて、今日はどうすごそうかと考えるが、まずは私が目下すべき事を中心に考える。思い浮かんだのは、やはり昨日の反省で思った様に、殺傷系及び船体の能力(スペック)の確認だ。しかし、この確認をするにはどうしてもエヴァンジェリンの協力がいる。具体的には彼女が持つダイオラマ魔法球が必要だ。あの中でなら、気兼ねなく能力確認ができるはずだ。だが……

 

「彼女と顔合わせてないんだよなぁ……」

 

 そう。実はまだ彼女と顔を合わせてないのだ。昨日のタカミチ先生との手合わせの際、周りの人物を確認したが彼女らしき人物は見かけなかった。なので、まずは彼女に接触しなくてはいけない。そんな訳で、彼女と接触するべく、私は学園長に携帯で連絡をいれた。

 

「何かね?キリシマ君」

「こんにちわ学園長。直接会って聞きたい事があるから、学園へ入る事の許可と今から少し時間を空けておいて貰えないか?」

「ふぉ?聞きたい事かの?……ふむ。わかった。許可は出しておくから今から来なさい」

「感謝する。また後で」

 

 携帯を切り、普段の服装にナノマテリアルで生成したコートを着て、私は部屋を後にした。

 

 

          ◆

 

 

 来学者用の受付で、昨日と同じく学園長に呼ばれたと事務員さんに告げて、学園内に入りまっすぐ学園長室へと向かい、ドアをノックする。学園長のどうぞの言葉を聞いてから、私はドアをあけ部屋に入ると、学園長がお茶を飲んで待っていた。

 

「待たせたかな?」

「ほっほっほ。今お茶を飲み始めた所じゃったよ。ほれ。座りなさい」

「失礼するよ」

 

 学園長と言葉を交わし、彼の向かい側のソファに腰を下ろす。学園長はお茶を一口飲んでから、聞いた。

 

「さて……聞きたい事とは何かのぅ」

「いくつかあるが、まず一つ。私以外に外部協力者はいるのか?」

「おるにはおるが……何かあるかのう?」

「他の協力者の顔見せをされてない。裏の手伝いで、見たことない相手だからと攻撃したら、実は紹介してなかったけど協力者でした……なんて事は無くしたい」

「うむ。そういわれるとそうじゃのう。わかった。この後確認を取ってみよう」

 

 学園長とこうやって話す理由は、ずばりエヴァンジェリンに会う為だ。幸い、学園長にいった様に顔見せしてないから誤射しかねない。もしくはされかねないを理由に顔を合わせ、ついでに目下の目的の為の足がかりにしようと思っているのだ。そして、その結果は、学園長がいった通り。どうやらこの後確認してくれるらしい。ひとまず此処に来た目的の半分はクリアされた。なんかすんなり許可が貰えたので、ちょっと欲を出してもう一つ聞いてみる。

 

「二つに、本来の姿の確認を行いたい。どこか船体を展開できる水辺はないか?」

「すまんがそれは無理じゃ。麻帆良にはたしかに麻帆良湖という大きな湖はあるが、お主の船体を展開させたら湖の水が溢れてしまうわい」

「そうか……わかった」

「うむ。では今から彼女に確認を取ってみるのですまんが静かにの」

「宜しく頼む」

 

 欲を出して聞いてみたが残念ながら許されなかった。まぁ正直通るとは思ってなかったので構わない。

 学園長が携帯を取り出し、彼女に連絡を取る。暫くして携帯からエヴァンジェリンらしき声がする。

 

『なんの用だ爺』

「エヴァ。実は今からお主に会わせたい人物がおるんじゃ。すまんがワシの所まで来てくれんかのぅ?」

『嫌だね。面倒臭い』

「そういわずに。授業サボって屋上にぼーっとしておるのじゃろう?ワシの所に来るなら、茶と羊羹ぐらいならだすぞい」

『何……羊羹は何処のだ』

「この前お主がかっぱらっていったところのじゃよ」

『……いいだろう。今から向かってやる。羊羹の用意でもしておけ』

 

 そういって携帯が切られると、学園長はため息をつきながら携帯をしまい、ソファから立ち携帯の向こうの相手のいう通りに羊羹とお茶の準備をし始めた。

 

「相手のいう通り準備するんだな」

「そうせんと、あ奴は面倒じゃからのう」

 

 そういって羊羹を用意し、お茶の準備が終わった頃を見計らったかの様に、学園長室のドアが一言も無く開けられた。

 

「貴様の願い通りきてやったぞ爺」

「すまんのぅ。ほれ、羊羹は用意してある。とにかくまずは座りなさい」

「……ふん」

 

 開けられたドアから現れたのは金髪ロリことエヴァンジェリンだ。エヴァは私に目を向けてから鼻を鳴らすと、ズカズカと部屋に入り、学園長が用意した羊羹の前に座り、お茶と羊羹を楽しみだした。うん。すっげぇわ。暴君というか、わが道を行くというか。とにかく私の事なんてどうでもいいといった感じで、羊羹の味を楽しんでいる。いくら知識で彼女がそういうキャラだとしってはいても、目の前でその通りされるとなんというか驚くというかスゲーというか。

 

「……で? コイツが貴様のいう会わせたい人物か?」

「うむ。キリシマ君。彼女の名前はエヴァンジェリン・(アタナシア)(キティ)・マクダウェル。君と同じ、裏の仕事においての外部協力者じゃ」

「っと。初めまして。私の名前はキリシマ。宜しく頼む。あー……エヴァンジェリン」

「ふん。……爺。一体どういうつもりだ?コイツからは魔力も気も感じない。こんな奴の顔を見せる為この私と呼んだのか?」

 

 学園長の計らいで、エヴァに自己紹介をしたのだが、彼女の反応は冷たい。まぁ、彼女からしたら今言った事が私と学園長にいいたい事なのだろう。学園長はそうじゃのぅ……と言葉を漏らしてから、私の事をチラ見してきた。恐らく私の正体を話していいか確認したくて見てきたのだろう。私はそれに軽く頷くと、学園長は軽く咳をしてから口を開いた。

 

「実はの。ここにいる彼女は人ではないのじゃ。区分的に言えば……お主の従者、茶々丸君と同じ存在とでもいうべきかのぅ?」

「……何だと?」

「ワシも一昨日から彼女と顔を合わせたのじゃがな。見た目とは裏腹に、彼女はお主と同等かそれ以上の強さを持っておるのじゃ」

「ハッ! この女が私と同等? もしくはそれ以上だと!? 随分と言うじゃないか爺」

「しかしそう判断せざるを得ないのじゃよ。なんせあのタカミチ君を実力を隠したまま、軽くあしらってしまう程なのだから」 

 

 エヴァと学園長が私をそっちのけで話し合う。エヴァは学園長が彼女を私を同列、もしくはそれ以上と言うと不快感を露にするが、学園長のタカミチ先生を軽くあしらったという言葉を聞いて、眉を顰め私を見た。

 

「キリシマといったな」

「ああ。そうだ」

 

 エヴァが私に話しかけてきたので、それに応じる。

 

「貴様。本当にタカミチを軽くあしらったのか?」

「事実だ。私は確かに、彼を軽くあしらったよ」

「……本気を出すことなく?」

「ああ。そもそも私の本気はこの姿では無理だ」

 

 なんせ本気で戦艦の姿になったら、きっとラカンさん位のレベルじゃなきゃ対処しようがないだろうし。

 

「ほう……その姿では無理、ね……。なら貴様が本気になるにはどうすればなるんだ?」

「……海であれば。恐らく誰にも負けはしないだろうな」

 

 なんかエヴァが聞いてくるから答えたが……もしかするとこの後バトルなのか!?

 

「海ね……。まぁいい。爺、もう顔見せは済んだだろう? 私はもう帰る」

「ふむ。呼び出して悪かったのぅ」

「まぁ暇つぶしにはなった」

 

 あ、あれ? なんかバトルなのかと内心身構えてたけどエヴァも部屋から出て行っちゃったし、もしかして何もない系?

 

「さて、キリシマ君。君の要望通り、君以外の協力者にも会わせたし、今日はもういいかの?流石にワシもそろそろ仕事をせねばならんのじゃよ」

「ああ。時間をとらせてすまなかった。学園長、これで失礼するよ」

「うむ。またの、キリシマ君」

 

 エヴァが部屋をでていった後、暫くぼうっとしてたら学園長が仕事したい発言をしたので、私も用事が終わった事だしそそくさと学園長室から出て行く。部屋を出てどうやら本当に何もない様子なので、とりあえず帰って夕食の準備でもしようかと学園の正門へと足を運ぼうと廊下を曲がったときだった。

 

「待て」

 

 廊下を曲がった瞬間、背後から突然声をかけられる。私はすぐさま後ろに振り向くと、其処にはつい先ほど学園長室から出て行ったエヴァが立っていた。

 

「キリシマ。この後、この住所までこい。いいな?」

「……ああ」

 

 うん。バトル展開がないかと思った途端にこれだよ。よくわからないが、彼女が手につまんだ紙切れを離すと、紙切れは落下せずに私の手の中へと飛んできた。あれか。もしかして今のが魔法なのだろうか? 手の中に納まった住所を確認してから顔を上げると、そこにはエヴァの姿はなかった。

 とりあえず、どうやらこの後の予定は彼女の指示した場所に向かうことになったので、私はとりあえず受け付けの事務員さんから紙に書かれた住所を特定する事にした。

 

 

          ◆

 

 

 あの後、受付の事務員さんから紙に書かれた住所を聞き、その場所へと赴くと、其処には立派な建物。そしてその建物にはエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと書かれた表札がついていた。どうやら、ここがあのエヴァンジェリン邸らしい。建物の前で彼女の家を眺めていると、突然玄関のドアが開けられ、そこから人物が現れた。

 

「……貴女はキリシマさんでしょうか?」

「……ああ。私がキリシマだ」

「初めまして。私、絡繰茶々丸と申します。マスターが中で貴女をお待ちしています。どうぞ中に」

「む。……では失礼する」

 

 ドアを開けて現れたのはエヴァの従者にしてガイノイドである絡繰茶々丸だった。彼女の話曰く、マスター(エヴァ)が家の中で私を待っているらしいので入れとの事。私はそれを拒否する理由もないので、言われるままに彼女の家へと入っていくのだった

 

 エヴァの家の中に入ってまず目にしたものは沢山の人形だ。たしか、彼女の別名は人形使いだったか? なんて思いながら部屋の景色を眺めていると、茶々丸が此方ですと、案内をしてくれる。私はそれに従い、玄関から廊下、地下に下りる階段を下りていき、地下のある一室に連れて行かれた。

 茶々丸についていき入った部屋にあったのは、テーブルの上におかれた一つの置物。……って、もしかして?

 

「……キリシマさん。こちらのテーブルの前に。中でマスターがお待ちです」

「ああ……っと、中で……? 一体どういうこt」

 

 もしかしてこれがダイオラマ魔法球なのかと茶々丸に聞こうとしたが、私におきた現象が彼女に聞こうとしたことの答えを出していた。突然身体が引っ張られる感覚を感じ、次に視界が真白に染まったかと思えば、気がつけば私の目の前には海辺が広がっていた。

 

「これは一体……?」

「漸くきたな。キリシマ」

「ッ! ……?」

 

 どうやらさっきのがダイオラマ魔法球だったようだ。この魔法具凄いなぁと思いながら海を見ていたら、後ろから声を掛けられた。再びすぐさま振り向くが、其処にいたのは先ほど私を部屋まで案内してくれた茶々丸と、そんな彼女を後ろに引き連れたグラマラスな金髪の女性。ただし服装とかは私の服装以上に肌の露出が多く、ぶっちゃけ痴女かといいたくなるレベルの際どいものだ。

 

「……だれだ?」

「私だッ! エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル!」

「……そ、そうか。……で? 此処は何処だ?」

「貴様……。此処はダイオラマ魔法球という魔法具で作った私の別荘だ」

「凄いものだな。魔法具とは。……で、何故私を此処に呼んだ?」

「外と違い、此処なら私が十全の能力を発揮できるのでな。それに今回、この別荘は海に囲まれた孤島として設定してある。この場所なら貴様のいう本気とやらもだせるだろう? だからここで、貴様の本気とやらを見てみようと思ったのさ。なんせ……私と同等かそれ以上なのだろう?」

 

 グラマラスなエヴァ、大人エヴァがニタリと笑いながら私にそう聞いてくる。うん。つまり学園長の言葉が癪に障ったから、この場所で白黒はっきり付けるぞコラァ!? って事ですね。わかります。

 

「……言っておくが、私の本気は只ではすまないぞ?」

「ハッ! それは私が貴様にいう言葉だよ。貴様には私の凄まじさを見せてやろう。不死の魔法使い、闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)と恐れられた私の強さ。存分に味わうがいい!」

「……そうか。なら、わかった。茶々丸だったか? 正直言って戦いの巻き添えを喰らいたくないならこの島から直ぐに離れろ」

「……それはどういう意味でしょうか」

「そのままの意味だ。エヴァンジェリン。今から私の本来の姿を見せてやる。そこで待ってろ」

 

 なんか何いってもこの戦闘は回避できそうにないので、諦めて戦うことにした。それに、ぶっつけ本番になってしまったが、船体を展開できるだけの広さはあるし、せっかく実践形式での船体能力の確認のチャンスでもある。私はエヴァと茶々丸に伝えるべき事を伝え終えてから、クラインフィールドで足場を作って海の方へ走っていき、エヴァと十分距離を取った所で、船体の展開を開始する。

 船体の展開を行う事で、ナノマテリアル保有量を表示させていた画面の数値が減少したと同時に、私の目の前、海から突然飛び出すように、私の本来の姿が現れる。旧帝国海軍、金剛型4番艦・霧島を模した私の船体(身体)。私は艦橋までクラインフィールドで足場を作って駆け上がり、艦橋に飛び乗ってから、大声でエヴァにむけて叫ぶ。

 

「これがッ! 私の本当の姿だッ! いくぞエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル! 霧の本気、受けてみろッ!」

 

 そうして、私とエヴァの別荘内での激戦が始まった。

 

 

 




誤字の指摘、感想、批評、書き方のアドバイス等々、頂けたら幸いです。
2月14日…文章の修正。


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#06

普段よりも短いし投稿遅れた(白目)

今後は一定期間毎に更新できる様に頑張りますんで!だから許してください!なんでもしますから!


 キリシマが海の上を駆けて行く様子を見た時、私は奴のいう全力を発揮できるという言葉をなんとなく理解した。自身が作った足場で海の上に立ち、恐らく水系統の魔法を、辺り一面にある海水を利用して威力を底上げする。そういった戦い方をするものだと判断した。そして、その判断と同時に私は自分の勝利を確信した。私の魔法の系統は氷。奴の系統は水ならば、奴に負ける要素は一つもない。

 そう、判断した。そして、次の瞬間、その判断は全く間違っていた。

 

「な、何だとッ!?」

 

 奴が走っていった方向から突如現れた船体。その大きさや形状、積まれている砲の大きさから、戦艦だと判る。そして、奴が現れた戦艦の艦橋に飛び乗ると、奴と同じリングのようなモノが戦艦から出現する。

 

「あれは……。」

「判るのか、茶々丸」

「はい。いえ、あの船体の形状を調べてみた所、ほぼ一致する(ふね)が存在しました」

 

 奴の乗った戦艦を見て、茶々丸が奴の乗るモノと同じであろう艦があるという。私は声を荒げそうになるのを抑えながら、茶々丸に続きを促す。

 

「どんな(ふね)だ」

「検索の結果……あれは旧帝国海軍に所属していた金剛型戦艦の姿に非常に酷似しています。また、金剛型戦艦は全部で4隻存在し、その一隻の名前が霧島……彼女の名前と同じ(ふね)が存在します。以上の点から、あれは金剛型戦艦4番艦・霧島である可能性が高いです」

「だからキリシマ……か。……確かに、奴の本気は海で無くては発揮できないな」

 

 茶々丸の推測を聞き、私はその推測がほぼ当たっているであろうと判断する。奴自身も言っていた。海辺ならばと。つまり、私のさっきまでの考えは完全な誤り。奴の本気とは、あの戦艦の火力を用いた戦いという訳だ。

 

「これがッ! 私の本当の姿だッ! いくぞエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル! 霧の本気、受けてみろッ!」

 

 奴の声が私の元まで響くと同時に、戦艦の機関が稼動し、唸り声が響く。

 その音を聞いて、私は思考を切り替える。対人戦から対艦戦に。奴との距離、奴の装甲。そういった点を考えると、魔法の射手など全くもって効きはしないだろう。氷の槍も奴に届くかどうかだろう。私の使う魔法で効きそうなものを考え――行使する。

 

「リク・ラク ラ・ラック ライラック――氷神の戦鎚(マレウス・アクイローニス)!!」

 

 奴の乗る戦艦を叩き潰す様に奴の上空に氷塊を作りあげ、それを落下させる。戦艦の姿は驚いたが、驚いただけだ。それ以上の事はない。回避不可能な距離から、障壁で防ぎきれない程の質量の攻撃で沈める。それで、私の勝利は確定する。しかし、そんな考えはまたしても奴に覆された。

 

「ッ!? さっきのアレ(足場)が、あの質量さえも防げる障壁だとッ!?」

 

 奴に落下させていた氷塊が、奴がさっきまで海の上を走るのに使用していた緑色に発光していた物体を大きくしたものによって受け止められていた。そして、受け止められている氷塊に向けて、戦艦の前主砲2基4門が照準を定め、砲撃音が響く。その次の瞬間に氷塊は爆発四散する。砕かれた氷塊の先に見えたのは無傷の戦艦の姿だった。

 

「ちぃっ!」

「敵戦艦の主砲が此方に照準を向けています!」

「茶々丸! 貴様は向こうに退避しろ! 奴のいった様にこの島から離れていろ!」

「了か――ッ! 敵主砲から発光! 砲撃来ます!!」

「(速射が可能だとッ!?)糞ッ! 来れ氷精 爆ぜよ風精 弾けよ凍れる息吹――氷爆!! ――氷盾(レフレクシオー)!! グウッ!」

 

 茶々丸の言葉に、私は咄嗟に茶々丸の前に立ち前方に氷爆を放ち、すぐさま氷盾を展開する。氷爆の爆発音に少し遅れて爆発音が響き、展開した氷盾に幾つかの飛来した砲弾の破片がぶつかり、身体を推し込まれる。

 

「マスター!」

「ぐ……大丈夫だ茶々丸。お前は直ぐに退避しろ」

「ッ……了解しました」

 

 茶々丸の無事を確認した後、私は茶々丸にこの場を退避するようにいう。それと同時に私は後悔していた。別荘の設定を孤島ではなく、群島にしておけば茶々丸の心配はしなくて済んだはずだからだ。とにかく、私は茶々丸が安全な所へ退避するまでの時間を稼ごうと駆け出した所で、戦艦から無数にあがる飛行物を見てしまった。

 

「ミッ……ミサイルだとぉッ!?」

 

 戦艦から放たれた200を優に超えるミサイル達が私目掛けて飛翔する。あと数十秒もしない内に、空にあるミサイルは私の居るこの場に降り注ぐ。そして、その数十秒後には、再びあの戦艦から打ち上げられたミサイルが、二度目として私の居る場所に降り注ぐだろう。

 そして、一度目のミサイル群が、私の元へと降り注いだ。個人相手に凄まじい飽和攻撃だと思う。しかし、私もそれを黙って喰らってやるほど甘くないし、私もそこまで弱い存在ではない。

 戦いの歌(カントゥス・ベラークス)を発動させ、強化した身体能力で、ミサイルの爆撃を回避できるものを回避し、避けられない場合のみ魔法の射手を用いて、迎撃する。自分の周りが轟音と爆発、そして爆発の際に巻き上げられる石や土、木々の破片やミサイルの破片が、私の身体と精神を削っていく。

 一度目の爆撃は、時間にして数秒の出来事だったが、それを迎撃していた私には数十倍にも長く感じられた。身体の傷は吸血鬼の特性のおかげで、もう治りかけているが、爆撃によって足場の悪くなったこの場で、次の爆撃を避けるのは難しい。

 ……そして、何よりも今の戦いは相手の間合いでの戦いになっている。私の間合いにする為にも、私がすべき事は一つだった。

 

 

         ◆

 

 

 本来の姿を展開する事が出来た私は、エヴァに本気を受けてみろなんて事を言ってしまったが、まだ戦艦(この姿)での動きがしっくりこない。艦橋に乗って直ぐにメンタルモデルと船体の同期が完了し、動いたり主砲を放つ事もできるが、この姿に慣れる為に、積まれている主砲の砲塔を軽く旋回させていると、エヴァの攻撃が放たれた。

 突然目の前の上空に巨大な氷塊が現れ、私に向けて落下してくる。

 落下してくる氷塊を視界に入れた私はすぐさま行動を開始する。すぐさま後退、クラインフィールドを氷塊の落下推測位置に展開して一時的に氷塊を受け止める。そして前主砲2基4門で氷塊の中心を狙い、放つ。放たれた徹甲弾が氷塊を粉砕し、砕かれた氷塊の先に見える孤島には悔しそうな表情をしたエヴァがいる。

 

「今度はこっちの攻撃だな。茶々丸は……退避はまだか。まぁ、エヴァならこの攻撃くらい防げるだろうし」

 

 すぐさま装填を終え、主砲2基4門をエヴァに向けて放つ。数秒後、エヴァの居た付近で爆発音が短い間隔で数回聞こえ、爆煙が晴れた先にはエヴァと茶々丸が無傷で立っていた。

 

「流石エヴァって所か。あ、漸く茶々丸が退避しだしたか。エヴァは茶々丸から離れるように動いてると……。なら、次はミサイルでも撃ってみるかな」

 

 攻撃手段にあるミサイル攻撃を選択すると、甲板の所々がずれ、ミサイルの発射口が一斉に現れる。その数は298。弾頭を侵食弾頭から通常弾頭に替えてから、私はエヴァがいる一帯を狙う。

 

「この攻撃、受けてみろ。エヴァンジェリンッ!」

 

 霧の艦隊の初見殺し技の一つである,艦の形状からは放たれる事はないと思ってしまう高速ミサイルの飽和爆撃。エヴァの居る所に目掛けて、一射目のミサイル298本を放ち終えた後、続けてもう一回、合計596本ものミサイルを放つ。先に放ったミサイル群がエヴァの居る周辺に降り注ぎ、爆音が響きまくる。しかし、時折ミサイルが地面に着弾する前に爆発しているものあったので、彼女はあの爆心地の中、当たりそうなミサイルを迎撃しているのかもしれない。

 一射目の全てのミサイルが着弾した後、暫くして二射目のミサイルがエヴァのいる元に降り注ぐ。二射目のミサイルのいくつかが爆発し、爆煙をあげた時、その爆煙を切り裂いて、此方に向かってくる存在を確認した。

 確認した存在は、もちろんエヴァだった。ミサイルがエヴァ本人を狙ったものではなく、あの一帯を狙ったものであることを見抜いたのかは分からないが、エヴァが誰も居なくなった場所に降り注ぐミサイルを背に、私の元に向かってくる。

 

「へぇ! 流石だな。ミサイル中止。対空兵器展開。敵を確認。……迎撃開始!」

 

 接近してくるエヴァを盛大に迎える為にミサイル攻撃を中止すると、甲板が元に戻る。そして、艤装全てをアクティブにし、エヴァが来る方向に向けられる全ての艤装を向ける。そして、彼女が此方の有効射程に入った瞬間、彼女に向けた艤装が一斉に火を噴いた。

 

 エヴァと闘う事で気をつけなくてはいけない事はただ一つ、とある魔法の詠唱をさせる間を与えない事だと私は考える。如何にとんでもないチート能力を持っていようが、エヴァにはそんなものを簡単に覆せる魔法を一つ持っているのだ。それが『えいえんのひょうが(ハイオーニエ・クリュスタレ)』だ。

 この魔法は簡単に言えば超広範囲の温度を一瞬で絶対零度にして相手を凍結させる魔法だ。魔法の効果はそれだけなのだが、エヴァの場合はこの魔法から凍結させた相手を完全に粉砕する『おわるせかい(コズミケー・カタストロフェー)』とセットで使ってくる。つまり、『えいえんのひょうが』で凍らされたらアウトなのだ。

 

 そんな切り札を持っているエヴァへの私の対抗策は、彼女の周りでひたすら爆発や爆音をぶちかます事だ。

 この対抗策の目的はズバリ、爆音で詠唱でを掻き消す、もしくは爆発による爆風で詠唱を中断させる事だ。近距離での爆発というのは、それだけで相手の心身に甚大なダメージを与える。それを絶え間なく行う事で、詠唱する為の集中をかき乱し、消耗させようと思ったのだ。

 

 そんな目的を持って攻撃を開始したが、エヴァは艦のような大きく鈍重な標的ではない。当然、エヴァは此方の機銃や砲撃を回避する。しかし、彼女を狙って放たれた砲弾を回避しようとした瞬間、その砲弾は彼女の前方で爆発した。

 何故砲弾がエヴァの目の前で爆発したのか。それは砲弾の信管が近接信管だったからだ。霧の艦隊でよくある見た目とは裏腹な超高性能性が、砲弾も含まれていたのだ。

 爆発をモロに受けたエヴァがその場でふらつく。私はそこに畳みかける様に一斉射撃を行い、主砲と副砲から放たれた砲弾が、彼女の周りで一斉に爆発する。流石のエヴァも堪らなかったのか、海へと墜落していき、水柱があがる。

 

「フラグ立てるみたいで言いたくないのだが……やったか?」

 

 流石に手合せなので、ここで追い討ちにビームを主砲でぶち込みはしないが、私はエヴァの動きがないかウィンドウを手元に表示し、様子を確認した瞬間だった。

 もの凄い勢いで、島の方を向いていた艦首が空へと向けられた。

 

「う、うおおおおっ!?」

 

 突然の出来事に驚愕し、事態を理解して私は更に驚く。なんせ船底から氷柱でひっくり返されているのだから。そして、それを行った張本人(エヴァ)はその姿はボロボロだが、鬼気迫る表情で手に馬鹿でかい剣を持って此方に向けて振りかぶっていた。

 

「や、らせるかああああっ!!」

 

 エヴァにとって、この攻撃が私に対しての切り札の一つなのだろう。主砲といった攻撃手段が一切存在しない船底部分からの奇襲攻撃。しかし、私とて霧の艦隊、ましてや大戦艦級なのだ。簡単に負ける訳にはいかないのだ。

 故に、私は船底から彼女に向けてミサイルを一斉に発射した。

 エヴァのありえないといった驚愕の表情が見えて直ぐに、私の発射したミサイルが彼女の目の前で一斉に爆発し、彼女に襲い掛かる。そして――

 

「あっ。」

 

 至近距離で爆発したミサイルの爆風を受け、海面に対して垂直になっていた船体は傾き、ひっくり返るのだった。

 

 




誤字の指摘・感想・批評・書き方のアドバイス等々、頂けたら幸いです。
2月14日…文章の修正

6月29日…文章の修正。発砲音→発光


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#07

ファッキン・バレンタインデー。

卒論も漸く完全終了を迎えたので、更新頑張ルゾー。


「……ス……ター……マス……」

「う……」

「! マスターッ!」

「……茶々丸か」

 

 目を開けたら目の前に茶々丸の顔があった。その表情は私の事を心配しているようだ。一体なんでそんな表情をしてるのかと思った所で、私はさっきまでキリシマと戦っていた事を思い出す。そして、茶々丸が私の前に居る事で、私は大体を察した。

 

 私は、キリシマと戦い、敗れたのだと。

 私は奴との戦いを思い出す。奴の圧倒的な火力に苦戦した私は、奴の攻撃を掻い潜り接近し、それを待っていたかの様に、奴からの砲撃――何故か私が回避し始める前に爆発するもの――をまともに喰らい、海に墜ちた。だが私とて意地があった。奴の船体を氷柱で持ち上げ、船底から攻撃しようとして――船底から一斉に発射されたミサイルが見えた所までしか思い出せない。……恐らく、あのミサイルをまともに喰らい、私は意識を失ったのだろう。

 

「茶々丸。あの後、どうなった?」

「はい。……マスターとキリシマとの最後の攻防後、マスターはキリシマの船底からのミサイルを受け、海へ墜ちました。また、キリシマの船体も、ミサイルの爆風を近距離で受けた為か、海面に垂直状態だった船体はその状態を維持できず、艦橋から海面へと転覆しました。暫くして、船体は海面に沈んだのですが……」

「沈んだ……が?」

「……すぐに転覆状態から復帰した状態で、海面に現れました。海に墜ちたマスターも、彼女に救助されてました」

「……そうか。つまり私がいままで寝ていた場所は……」

「はい。此処はキリシマの甲板です」

 

 キリシマの奴に聞きたい事が山ほどあるが、それは奴と顔をあわせてからでいい。とりあえずいつまでも横になっているのもどうかと思ったので、私は身体を起こそうとして、身体の感覚が殆ど感じない事に気づく。……どうやら、奴の攻撃を受け続けた為に、流石の吸血鬼の身体も、かなりのダメージが残っているようだった。

 

「茶々丸。悪いが起こしてくれ。まだダメージが抜けないみたいだ」

「はい。マスター」

 

茶々丸に頼むと、直ぐに茶々丸が私の背中に手を回し、私の上体を起こす。その時、視界に自分の身体が映ったから分かったのだが、今の私は何故か裸で、上体を起こした事で、胸元まで掛けられていた見知らぬコートが私の腰から先を隠していた。そんな私の考えを察したのか、茶々丸が訳を話し出す。

 

「彼女の攻撃を受けた為に、マスターの着用していた衣服は、もはや衣服に分類されないまでになってしまったので、失礼ながら私が処分致しました。此方のコートなのですが、キリシマから渡されたものです」

「そうか……まぁ、仕方が無いか」

 

 茶々丸から訳を聞いた私は、掛けられていたコートに目を向けていると、後ろから甲板に着地した音が聞こえた。私は茶々丸に身体の向きを音のした方に向けてもらうと、其処にはタオルで頭を拭きながらもう一枚のタオルを持って此方に来るキリシマの姿があった。

 

「目が覚めたようだな。エヴァ。ホラ、茶々丸。これでエヴァの身体を拭いてやってくれ」

「あ、はい。わかりました。マスター失礼します」

「頼んだ。…あぁ。ついさっき目が覚めたさ。キリシマ。まだ頭に爆発音が響いてはいるがな」

「それはまぁ……諦めてくれ。……で、手合わせは私の勝ちという事でいいのかな?」

「……ああ。貴様の勝ちでいい。私は気を失い、あまつさえ貴様に助けられた」

「そうか。なら、エヴァ。改めてお互い自己紹介でもしないか? 勿論、身体が回復した後でだが」

「……そうだな。とりあえず、身体が動く様になったらな」

 

 キリシマの言葉になんとなく頷いてしまったが、その時に聞きたい事を聞けばいいかと考え、私は茶々丸に身体を預ける。

 

「マスター。お身体を拭き終えました。キリシマさん。タオルありがとうございました。後で洗ってお返しします」

「いや、構わないよ。というか、茶々丸にお願いしたい事があるんだが」

「……? キリシマさんから私へお願いですか?」

「ああ。かなり、というか非常に切実な願いなのだが聞いてくれるか?」

 

 キリシマが真剣な表情で、茶々丸を見ながら願い事を言おうとする姿に、私は奴が茶々丸に対して一体どんな内容を言うつもりなのか気になってしまう。茶々丸もただならぬキリシマの表情を見て、真剣な表情で言葉を返した。

 

「はい。どうぞ言ってみてください」

「ああ。……アレを、見て欲しい」

「アレですか……」

 

 茶々丸の返事を受けたキリシマは、静かに腕を上げ、ある方向に指を指し示す。それを追う様に私と茶々丸が首を向けると、其処には爆撃の痕だらけになった島が存在した。

 

「……アレの整地を頼みたい」

「あー……。そうだな。茶々丸。頼んだ」

「マ、マスター……」

 

 キリシマの指差した島の惨状は、私が奴のミサイル攻撃を迎撃した場所だった。トンデモない数のミサイルがあの場所に落ちた為に、あの場所だけ世紀末のような大地に感じになってしまっている。確かに別荘の景観としては必ず直さなくてはいけない。物凄く労力がいるとは思うのだが。

 私も含め、あんな惨状を作ってしまった張本人が本来なら整地するべきなのだろうが、私とキリシマはこの後話し合いをする予定がある。というか、私は絶対にあの整地はしたくない。よって、この整地は私の従者である茶々丸に任せる。悪く思うなよ。茶々丸。

 

「……わかりました。キリシマさん。マスターの事をお任せしてしまう事になるのですが、宜しいですか?」

「ああ。むしろ任せてくれ。私とエヴァの後始末を任せてしまってて心苦しいぐらいだったからな」

「ではお願いします。マスターの着替えなのですが……」

「……まさか、ないのか?」

「……はい。キリシマさんのミサイルで吹き飛んだ木々の幾つかが別荘に……」

「あー……。茶々丸。着替えの方は私の方で用意するから。すまないが、島の整地に集中してくれ」

「……わかりました。ではお願い致します」

 

 茶々丸が一礼して甲板から島へと飛んでいく様子を、私とキリシマは申し訳ない気持ちで見送るのだった。

 

 

         ◆

 

 小さくなっていく茶々丸を見続けていた私とキリシマだが、いくら濡れていた身体を拭いたといっても、裸のままでは身体が冷えていってしまう。私は、キリシマの方をむい向いて茶々丸にいっていた奴の言葉について聞く事にした。

 

「で、私の着替えはお前が用意するといっていたが、どうなんだ?」

「用意はできるが、少しの間、コートを退かしてくれないか? 体のサイズを目測できない」

 

 服を用意するといっておきながら、私の裸を見せろというコイツ(キリシマ)に一瞬何を言っているんだと思ったが、本人は真面目に言っている様なので、私はため息をつきながら、未だ感覚が戻らず酷く重たい腕をゆっくりと動かし、腰から下に掛かっていたコートをどかした。

 

「これでいいか」

「悪いな。……サイズの目測完了。服は……適当でいいな」

 

 裸で座り込んでいる私を上から下まで軽く見たキリシマは、そんな事を呟きながら私の側にしゃがみこんで、私の肩に手を置く。

 

「……おい。一体お前は何がしたい」

「何。今からお前を着替えさせるだけだ。じっとしててくれ。すぐに終わる」

「だから何を……ッ!? 服が……!」

 

 私の肩に手を置いてさっきから話をはぐらかすキリシマにいらつき始め、声を荒げようとした瞬間、変化は起こった。私の身体に光る粒子が集まりだし、一定の量まで集まった光る粒子が、Tシャツに変化した。そしてそのまま、光る粒子は短パン、サイハイソックス、スニーカーへと変化する。

 

「色々言いたい事はあるだろうが……まずは場所を変えようか」

「わっ」

 

 キリシマが何かをして私に服を着せたが、それについて奴自身も答えるつもりのようなのですぐには聞かない。奴は此処で話すのは嫌なのか、私を抱えて――所謂お姫様抱きである。――戦艦の中へと入っていく。

 キリシマに抱えられたまま船内を見るが、戦艦の中は見た目とは逆ベクトルに突っ走っていた。余りにも先進的で、まるで宇宙船の中にいるような感覚に陥ってしまう。そんな感覚に陥って数分して、私はある一室へとキリシマに連れていかれた。ドアの前に立つと、勝手にドアがスライドし、部屋の中へ入れるようになる。キリシマに抱えられたまま部屋に入るが、部屋の中は広いが何もなく、およそ部屋と呼ぶよりも区画やスペースといった方がしっくりするようなものだった。

 

「んー……こんな感じでいいか」

 

 キリシマはそんな部屋を見て呟くと、足で床を叩く。すると、さっきの光の粒子が部屋の至る所に現れ、部屋の姿が変化していく。冷たい感じを思わせる区画のような部屋は、温かみを感じさせる淡いオレンジ色の壁紙に変わり、床はウッドタイルに変化する。部屋の入り口から見て左側にダイニングキッチンが生成されていき、部屋の中央に丸いテーブルが作られ、それを四方から囲む様にリクライニングチェアが置かれている。ダイニングキッチンの向かい側には、大きなモニターが設置され、モニター前には4人ほどが一度に座れる緑色のソファ、その前にソファに座った際の膝の高さほどのテーブルが赤のカーペットが敷かれた上に置かれている。

 部屋のあまりの変化に、私は開いた口が塞がらないでいるが、キリシマはそんな私も気にせず、部屋の中央に置かれているリクライニングチェアに私を座らせる。私を座らせた後、キリシマはダイニングキッチンへと向かった。少ししてキッチンから戻ってきた奴の手には、紅茶セットがあり、テーブルの上に紅茶セットを置くと、私と向かい合うように奴もチェアに座る。

 

「さて、急拵えの部屋だが……どうかな?」

「驚きの連続だ。一体お前は何者なのかとさっきから考えてるよ」

「だろうな。まぁそれもすぐに分かるさ」

「……というと?」

 

 部屋を見渡しながら感想を尋ねてきたキリシマに私は素直に思った事を述べる。それを聞いた奴は、苦笑しながら私の前に紅茶を淹れながら会話を続ける。

 

「私がエヴァを此処に連れてきたのは……言ってしまえば、学園長よりも我々について詳しい事を話そうと思ったからさ」

「ほう……。爺よりも、ね。理由は?」

「学園側の連中は考えや思想がな……。己の正義が絶対……といった感じからして話をする方が面倒な事になりそうだからさ」

「ああ。確かにそういう所があるな。なんせ奴等は『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』を志す輩共だからな」

 

 キリシマの言葉に私は学園の連中の事を鼻で笑いながら言うと、奴もそう思うのか軽く頷きながら私の前に紅茶を淹れたカップを置く。

 

「その面、エヴァはそういった思想ではないし、私の目的を理解してくれそうだからといった所だ」

「随分と私をかっているのだな」

「お互い実力を探り合った仲だろう。それに船体をひっくり返されたのは中々驚愕させられた」

「そうか。……じゃあ、聞きたい事には答えてくれると考えていいのかな?」

「ああ。エヴァが聞きたい事に答えよう」

 

 キリシマに確認を取ると、奴はそれに頷き、自分で淹れた紅茶を飲む。私の身体も、どうやら漸く身体の回復が終わったようで、まだダルさを感じはするが、感覚も戻り、さっきまでの酷い重さは感じられなくなっていた。私は腕を伸ばし、キリシマの淹れた紅茶を一口飲んでから、奴への質問を始めた。

 

「まず、お前は何者なんだ」

「私は霧の艦隊に所属する大戦艦キリシマ。霧の艦隊とは、私のような存在達の事を指す」

「……次だ。さっきの服といい、この部屋といい、あの現象は何だ」

「あれは、ナノ・マテリアルを使った物体生成、が一番分かりやすいかな」

「ナノ・マテリアルとはなんだ」

「私達霧の艦艇を構成している基本因子だ。ナノ・マテリアルはあらゆる物質を作り出す事が可能で、この船体や部屋の家具、紅茶から私の身体に至るまで、全てナノ・マテリアルで作られている。ちなみに人体に影響はないから気にしなくていい」

 

 キリシマの言葉を聞き、私は驚愕せざるを得ない。なんせ、キリシマのいうナノ・マテリアルは此方の世界でいう賢者の石のようなものだ。現に今着ている服の感触も普通のものとなんら違いを感じられない。

 

「とんでもない因子だな。……お前が展開していた障壁みたいなものはなんだ」

「あれはクラインフィールドといって、私達霧の艦隊が持つ最強の盾だ。特殊なエネルギー経路を形成し、外部から加わるエネルギーを任意の方向へ転換する事で敵の攻撃を無力化する事が出来る。エネルギーならどんなものでも転換可能だから、実弾兵器や光学兵器すら防御可能だ。エヴァの氷塊も、衝突力を別方向に反らしたから受け止められた」

「なんともふざけた障壁だ。……クラインフィールドは突破できるのか?」

「あー……。出来なくはない。幾らエネルギーを別方向へ転換できるといっても、許容量というものがあるからな。余程の超威力の攻撃を飽和攻撃で喰らえば……といった所か。ちなみに、艦砲射撃を2~3発防ぐ程度で、クラインフィールドの稼動率はいって3%程だ。あとは……タカミチの攻撃数十発で4%か。口に出してみて思うが、此処の人間は規格外ばかりだな」

「どの口がいうんだか……。さっきのミサイルもそうだが、見た目と装備が違うようだが」

「ああ。あくまで我々はかつての艦艇の姿を模してはいるが、中身は全くの別物さ。手合わせでは使ってはいないが、私達は標準装備で光学兵器を使用できるし、侵食魚雷や超重力砲といった重力子兵器もあるからな」

「……いまの話で聞きたい事が更に増えたが……まず、重力子兵器とはなんだ」

「重力子兵器か? 重力子兵器を説明するには、まずタナトニウムの説明が必要だが」

「タナトニウム?」

「ああ。タナトニウムというのは、我々霧の艦隊のエネルギー源だ。その物質自体が、常に自壊をしていて、重力子を放出しているものなんだ。我々の使う重力子兵器は、このタナトニウムを利用している」

「……続けてくれ」

「重力子兵器はこのタナトニウムを利用し、対象付近で重力波を……まぁ、細かい事を省けば、起爆すれば、起爆範囲を根こそぎ消失させる兵器だ。侵食魚雷は、魚雷として相手に撃つ事ができるし、超重力砲は射線に入った相手をといった所か」

「……」

「む。どうした頭を抱えて」

「いや、少し頭を整理させてくれ」

「ああ」

 

 私はキリシマから告げられる情報に頭が痛くなってきた。たまらず奴に少し時間を貰いたいというと、あっさりと頷いて席を立ってキッチンの方へ向かう。私はキリシマがキッチンに入っていくのを見送った後、紅茶を口にしながら奴からの情報についてを纏める。

 まず、キリシマが私に嘘の情報を述べているかどうかに関しては、恐らく嘘の発言はしていないだろうと私は判断した。理由は奴が余りにも私に対して信用を向けているからだ。先の手合わせ以降、私に対しての警戒度というべきものが全く持って感じられない。この件に関してあれこれ考えても、余計に頭を悩ますだけだと判断し、私は次を考える。

 次に彼女の戦闘力についてだが、戦艦が展開されてしまえば、恐らく魔法使いの殆どはキリシマに勝てないだろうというのが、私の出した結論だった。その理由は奴の持つクラインフィールドと圧倒的火力にある。奴を守るクラインフィールドを突破するには、恐らく大魔法、しかも最低でも15人同時詠唱で発動できる規模の破壊系魔法を使わなくては無理だろう。しかし、そんな規模の魔法が個人で使えるのは、私やナギといった規格外の連中のみだ。他の魔法使いは、大人数で、詠唱行為を行って発動するのが大体だ。だが、奴を相手にした場合、その詠唱時間を確保する事はまず無理だ。なんせ、あれほどのミサイルをポンポン放ってくるのだ。幾ら術者を守る従者がいようが、あの火力の前では無力だ。それに、奴のいう重力子兵器など使われてしまえば……恐らく何も出来ずに壊滅するのが関の山だろう。

 では、戦艦を展開できない陸ならばどうか。などと考えたが、奴の事だ。恐らく陸であっても、戦艦を展開する可能性は無いわけではない。奴にとって、戦艦の展開=勝利の確定なのだから。陸にあげられた戦艦は固定砲台にしかならないが、奴の場合は固定砲台であっても恐ろしいのだ。

 こうやって考えてみると、とんでもない相手と手合わせしたものだと思っていると、キッチンから帰ってきたキリシマが向かい側に座り、手に持っていた皿をテーブルに置く。皿の上には、サンドイッチが並べられていた。

 

「頭の整理は終わったか?」

「ある程度はな」

「なら、話の続きといこうか。軽食でも食べながら」

「そうだな」

 

 そうして、私とキリシマの話し合いは再開した。

 

 

 




誤字の指摘・感想・批評・書き方のアドバイス等々、頂けたら幸いです。
2月14日…文章の修正。


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#08

エヴァとのやりとりがどんどん伸びていく……

書いてて楽しいのですが、全然原作に入れないのは問題だし……悩むところです。

あと、活動報告にてちょっとしたアンケートしたいと思います。


 

「さて、話の続きだが……他には何を聞きたい?」

 

 そういいながら、テーブルに置かれたサンドイッチを掴んで口に運ぶキリシマに、私も奴と同じ様にサンドイッチに手を伸ばしながら答える。

 

「そうだな……。この艦の能力(スペック)はどのぐらいなんだ? 見た目とはやはり違うのだろう?」

「んぐ? ()の能力か? ふむ……。んー……口で説明するよりも見たほうが速い……か? エヴァ、モニターの方を見てくれ」

 

 私が聞きたい事としてあげたのは、キリシマ本来の姿であるこの(身体)の能力についてだ。キリシマは私の質問に対して、口に入れていたサンドイッチを飲み込んだ後、身体をモニターの方に向けると、モニターの電源が入り、其処にはこの艦の内部構造や船体情報が表示されていた。

 

「私の能力だが、このモニターに映されてるのがソレだ。武装に関してはさっき軽く話したから省くぞ。クラスはコンゴウ級高速戦艦。全長222m。全幅31m。喫水12.7m。排水量32060t。メンタルモデルや機関についてはこれも省くが、最高速力は水上で85Kt。海中潜行で40Kt。装甲は強制波動装甲……まぁ、クラインフィールド装備の特殊装甲と理解してくれればいい。」

 

 モニターに表示されている情報は、専門的な用語が多く、私が見てもさっぱりなので、モニターを指差しながら読み上げるキリシマの説明に耳を傾ける。流石戦艦に分類されるだけあって聞かされた大きさには軽く驚いたが、私が驚いたのは最高速力に関してだ。85Kt……1Ktを約1.852Kmで考えると……。

 

「はぁッ!? じ、時速157Kmだとぉっ!?」

「確かに速いかもしれないが、そんなに驚くことか?」

 

 あまりのトンでもない速さに、私は口へとサンドイッチを運んでいた腕を止め、大声を上げる。キリシマはそんな私を紅茶を飲みながら軽く頷いた後、言葉を続ける。

 

「私達霧の艦隊は、速力に関してはかなりぶっ飛んでるからな。それに私は高速戦艦だからこの速力だが、重巡やそれ以下のサイズのクラスはもっと速力がある奴もいるぞ」

「……出鱈目すぎる」

「まぁ……そういうもんだと理解してくれれば助かる。他に聞きたい事はあるか?」

「……他に目覚めているお前の仲間とかはいるのか?」

 

 キリシマの言葉から霧の艦隊たちの出鱈目さに頭が痛くなるし大声を上げたくなるが、我慢する。私は続けて奴に聞きたかった他の連中についてを尋ねた。

 

「いや。この時代では私だけだ。他の連中はもっと先の未来で目覚める予定だと思う。」

「思う? という事はお前もその辺りに関しては分からない事なのか?」

 

 これまで、私の質問に対しはっきりと回答してきたキリシマから、初めて曖昧な回答が帰ってくる。私はその理由を聞こうと更なる質問を続ける。キリシマは少々困り顔をしながら思案した後、私に答えた。

 

「大まかに説明するぞ。まず、私がこの時代に目覚めている事は、本来ならありえない事だった。でも、私は現にここにいる。その理由は、私に対しての命令が変更されたか、はたまた何らかの原因(バグ)かは不明だが、この時代に目覚める様になっていたからだ」

「……続けてくれ」

「経緯はどうあれ、私は目覚め、命令を確認した。命令は『人間を観察せよ』だ。だから私はここで人間を観察している。……だが、私一人では観察できる情報にも限りがある。そう上位存在が判断すれば、もしかしたら別の個体が目覚めさせられるかもしれない。それに……」

「それに?」

「上位存在が、私の集めた情報で、判断を決定した場合だ。もし、最悪の方向で判断が下された場合は、我々霧の艦隊全てが目覚め、人間に対して攻撃を加える可能性も無いわけじゃない。なんせ、変更される前の命令は『再起動した後は海洋を占有し、人類を海洋から駆逐、分断せよ』だったからな」

 

 そう言葉を付け加えて、キリシマは肩を軽くすくめながら言った。そこで私は、奴のいう最悪の方向というものを想定してみる。もし、奴のいう上位存在が人間に対して敵対的な決定を下した場合。恐らく、キリシマを除いた未覚醒の霧の艦隊たちが目覚め、それぞれが人間の軍艦を模した艦船を構築して、奴の言った様な命令の元にこの世界に人間達を海から駆逐するのだろう。

 では、その結果起こるであろう未来は? 恐らくどの国も大混乱となるだろう。突然何処からとも無く現れ、人間に攻撃をしてくる霧の艦隊(かれら)に、各国は国民達から対応を迫られる。その結果起こるであろう事は、各国の軍から彼等を倒す為に抽出される連合艦隊。そして、その連合艦隊は霧の艦隊と対決し……彼らの持つクラインフィールドによって、攻撃の殆どを防がれ、ミサイルや光学兵器、そして重力子兵器による猛攻撃に晒されて、なす術もなく壊滅するだろう。そうして人類は彼等によって海洋から駆逐され、僅かな陸地に押し込められる。海洋から駆逐された事で、海上輸送などで食料を輸入していた国は、瞬く間に食料難になるだろう。その先に待つ人間の未来は、酷く暗いものとなる。

 魔法使い達が、大々的にこの世界に来て霧の艦隊と敵対する場合も考えてみたが、それでも彼等には勝てないだろう。単体で活動している彼等相手ならば、もしかしたら勝機があるかもしれない。だが、艦隊編成された彼等と戦う事になれば、魔法使い達も連合艦隊のような結末になるだろう。

 

「エヴァなら分かると思うが、もし、我々が人類と戦う事になった場合。きっと人類の未来は悲惨な事になる」

「ああ。食料難な国では餓死者が続出し、大陸などでは生存競争をかけた戦いが起きても不思議ではない」

 

 キリシマの言葉に、私は頷いて起こるであろう未来の話をする。奴は私の言葉に少し暗い表情をしながら口を開いた。

 

「私としては、そんな未来は訪れて欲しくないな」

「それは私も同じだ。恐らく今以上に生き辛くなるだろうからな」

「そうだな。……さて! 他に聞きたい事はあるか?」

 

 私がそう言うと、キリシマはそうだなと言うと、気持ちを切り替えたのか。他に質問はあるかと聞いてきた。私は他に聞きたい事があるか暫く考えてみるが、特に思いつかなかった。

 

「そうだな。大体聞きたい事は聞いたと思う」

「そうか。なら、今度は私からエヴァに聞きたい事があるんだが、いいか?」

 

 そこから奴と私の立場が変わり、私がキリシマに色々と答えることになった。奴からは私の身体の事や魔法について色々と聞かれ、私はそれに受け答えていく。途中で、話が茶々丸の事で逸れたが、その後も魔法についての話が続いた。そんなやりとりと暫く続け、気がつけばかなりの時間がたっていた。

 

「かなり話し込んでしまったな。外は今どんな感じだ?」

「そういえばそうだな。待ってろ。今モニターに外の映像を映す」

 

 私がキリシマに外の様子を確認すると、奴は外の映像をモニターに映し出した。モニターから見た外は、夕焼け色に染まっており、島が映ると、其処には一生懸命整地をしている何体かのロボットとそれを指揮する茶々丸の姿が映る。

 

「……茶々丸には申し訳ないな」

「まだそんなこと言ってるのか。気にしすぎだ」

 

 キリシマがまだ茶々丸に対して負い目を感じているようで面倒だったので、私は呆れながら言葉を投げる。キリシマは私の言う態度を見て理解したのか、そうだなと言葉を零すと、席を立って私に言った。

 

「エヴァ、見せたいものが幾つかある。甲板に行こう」

「貴様が見せたい……ね。いいだろう」

 

 キリシマの言葉に私も頷き、席を立つ。奴は私が席を立ったのを見ると、ついてくるように言って、部屋を出たので、私もそれについていった。

 

 

         ◆

 

 

 キリシマの後に着いていくこと数分。私と奴は甲板に戻って来た。外はモニターで見たように日が沈み、茜色の夕焼け空が綺麗だった。

 

「少し待ってろ。島に被害が行かない様に回頭するから」

 

 そう言って、キリシマから先の戦闘で見たリングが展開される。すると、戦艦の機関に火が入り、戦艦はゆっくりと島とは反対方向に艦首を向けていった。

 

「……でだ。キリシマ、貴様は私に何を見せたいんだ?」

「何、重力子兵器を見せておこうと思ってな。威力ぐらいは知って置きたくはないか?」

 

 ちなみに、この情報は今の所お前しか知らない。とキリシマは言葉の最後にそうつけくわえた。

 

「ふむ……。そうだな。見せて貰おうか」

「ああ。なら、悪いが500m先に氷塊を作ってもらえないか?」

「分かった。……リク・ラク ラ・ラック ライラック――氷神の戦鎚(マレウス・アクイローニス)

 

 キリシマに氷塊を作って欲しいと言われたので、私は奴の言う通りの距離に氷神の戦鎚を発動し、海上に高さ25m、幅20m厚さ15m程の氷塊を作り出す。

 

「すまんな。じゃあ初めは侵食魚雷から。今から発射する」

 

 キリシマは私に感謝を述べると、氷塊に手を銃の様にして、撃つポーズをとった。すると、海面にうっすらとだが、魚雷の雷跡が見え、それが氷塊に向かって伸びていく。そして魚雷が氷塊に当たった瞬間、変化が起きた。

 

「これが……侵食魚雷か……!」

 

 氷塊の側で風船がはじけるような軽い音が聞こえた瞬間、氷塊の側にはピンク色に発光する球体が現れ、それに吸い込まれるように周りの空間が歪んでいるのが目に見える。そして、その球体が徐々に膨らみだし、破裂しそうな程に膨張したかと思った瞬間、球体は消滅した。其処に残ったのは球体に接していたであろう部分が根こそぎ消失したとわかるような断面が残された氷塊と、氷塊と同じように失われた海面があった。無論、海面はすぐさま周りから海水が流れ込み元に戻ったが、氷塊には綺麗なまでに球体の痕が残されている。

 

「あれが侵食魚雷の威力だ。爆発による殺傷じゃない、存在そのものを消し去る兵器」

「えげつない兵器だな」

 

 キリシマの言葉に、私は見て思った事をそのまま言葉にする。存在を消し去る重力子兵器。それは常人には対処する事など出来ず、魔法使いや悪魔でさえも対処困難な攻撃だ。

 

「確かにえげつないと言われても仕方ないな。次は超重力砲だが……被害が出ない様に少し近付くか」

「被害が出るほどなのか?」

 

 キリシマは私に言われた評価に苦笑しながら、戦艦を氷塊へと近づけていく。私は奴が心配する被害とやらが何なのか尋ねた。

 

「海がな……。じゃあいくぞ。――超重力砲、発射シークエンスに移行」

 

 氷塊から300m程の距離まで近付くと、キリシマは呼吸を整えてから超重力砲の準備を始めた。奴の言う、発射シークエンスと言った直後、奴の体表に緑色に光る紋様が浮かび上がり、それと同じくして戦艦の機関音が重い唸り声を上げた。

 

「船体及び重力子ビーム機展開。重力子圧縮縮退域へ」

 

 キリシマが次々と訳のわからない言葉を述べていくと共に、私の背後から何か大きな音が聞こえる。私はすぐに後ろの方に振り向くと、艦橋が左右に割れて変形し、そこから飛び発ち上空に浮かぶレンズのようなものが4つ存在した。

 

「対象を氷塊に固定。重力子ビーム照射。縮退率65%」

 

 私が艦橋の上で浮かんでいるレンズのような何かに注目していると、大きな揺れと共に水から飛び出すような音が響く。私は何が起きたのかと艦首の方に体を向けると、そこには宙に浮かんだ氷塊があり、そして驚く事に戦艦も同じ様に宙に浮いていた。いや、宙に浮いていたというよりは、戦艦と氷塊の周りの海水がなんらかの理由で退けられているといった表現が正しいのかもしれない。

 

「照準を氷塊中心に固定。エネルギーライフリング収束。縮退域――臨界」

 

 キリシマの言葉から、いよいよ例の超重力砲とやらが発射されるのだろう。私は次に起こるであろう現象をしっかりと見ようと、氷塊に目を向ける。

 

「――超重力砲、発射」

 

 キリシマのその言葉の次の瞬間、眩いまでの光が氷塊へと向かっていく。放たれた超重力砲は、海を割りながら凄まじい速度で氷塊に直撃し、光に包まれる。すぐに氷塊の後ろにも光が伸びていくが、その光は消えていき、超重力砲の発射が終わる。発射時間は7秒にも満たないほどの短い時間だったが、氷塊の中心に直径15m程の綺麗な丸い穴が貫通しており、その遥か先には割れた海面に海水が流れ込んでいくのが見える。

 余りの光景に、私は呆然としていたが、海面に着水する音と揺れで我に帰った。どうやら私が呆然としていた間に、発射後のシークエンスの全てが終わっていたようだった。全てのシークエンスを終えたキリシマは少し自慢気な表情で私に近付いて言った。

 

「どうだエヴァ。これが、超重力砲だ」

「……ああ。凄まじい威力だった」

「そうか。じゃあ、一旦島に戻ろう」

 

 私の感想を聞いたキリシマは嬉しそうに笑い、戦艦を島の方へと進める。その姿を見て、私は小さくも明確な恐怖を感じたのだった。

 

 

          ◆

 

 

 戦艦を島の側まで近付けたキリシマが、クラインフィールドを階段状に展開し、島へと降りていく。私も奴と同じ様にクラインフィールドの上を歩き、戦艦から降りると、茶々丸が私達を出迎えた。

 

「キリシマさん、そしてマスター。お帰りなさい」

「ああ。整地の方はどうだ?」

「はい。超に連絡を入れ、試作作業用ロボットを3体程借りて、先ほどまで整地作業を行ってました。この調子ですと、完全に元に戻すまでにかかる時間は2週間、現実世界で換算すると14時間程かかります」

「成程な……。茶々丸、整地に関しては多少時間が掛かってもいい。此処から出れる時間になったら一度出るぞ」

 

 茶々丸と2、3言葉を交わすと、彼女はかしこまりましたと頭を下げる。その様子を見ていたキリシマが感心しながらも何か気になったのか、私に軽く手を上げながら聞いてきた。

 

「なんと見事な主従のやりとり……魔法使いの主従というのはこんな関係が普通なのか?」

「私達のケースの方が稀だ。一般的に、魔法使いの主従は異性で組むし、そのまま夫婦になったりするものが多い」

「ほぅ……。そうなのか」

「マスター、特に何か無ければ、別荘で寛ぎになって下さい。キリシマさんもよろしければ」

 

 キリシマの質問に答えた所で、茶々丸が別荘の方を手で指しながら話す。私は特にする事がないので、構わないが、キリシマの方はどうなのか分からないので、聞く事にした。

 

「キリシマ。特にする事が無いなら別荘に行くぞ」

「ああ。じゃあちょっと待ってくれ。今船体の展開を止めるから」

 

 そういってキリシマからリングが展開されると、背後の戦艦がグズグズと崩れだす光景に私と茶々丸は言葉を失う。あっという間に、戦艦があった場所には大量の銀色の砂の様なものだけが残されていた。

 

「さ、エヴァ。別荘とやらに行こうじゃないか」

「あ、ああ。茶々丸」

「あっ、はい。此方です」

 

 キリシマの言葉に我に帰って茶々丸を促すと、茶々丸もそれを了解し、私とキリシマは別荘へと足を運ぶのだった。

 

 

 



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#09

どうも。お待たせしました。

今回の話は色々言われるでしょうが…まぁこういった方向で進んでいきます。

徐々に短くなってきていますがご勘弁ください。


 前回のあらすじ! エヴァと顔あわせがしたいので、学園長にお願いしてエヴァと会うことが出来た私は、学園長の余計な一言によって彼女と別荘で戦う羽目に! お互いに本気で戦い、辛くも勝利する事が出来た私は、彼女とお話をして、此方の情報をある程度渡す事でそれなりの友好を深める事が出来たのだった! その後は、私としても確認しておきたかった侵食魚雷や超重力砲の試射をエヴァに披露しながら確認し、エヴァと有意義な時間を過ごすのだった! そして今は、島に戻って茶々丸の後に着いて行き、修復された別荘へ案内されるのだった!

 以上でこれまでのあらすじお終い!

 

 そんな訳で別荘まで連れてこられた私だが、目の前には如何にも大富豪が持っていそうなリゾート地によくある白木の別荘があった。別荘での感想は私の語彙力ではなんとも言い表せないが、とにかく凄かった。もしかすると、何百年も生きている長寿種ってのは資産運用が途轍もなく上手くなるものなのかと考えてしまうぐらいに凄かった。

 別荘の中に入った私とエヴァは、大部屋に備えられたテーブルに座ると、別荘に入った所で別れた茶々丸が手にワインとワイングラスを持って来た。私とエヴァの前にワイングラスを置くと、茶々丸はそこにワインを注いでいく。どうやら赤ワインのようだ。

 

「これからお食事をご用意致します。マスターとキリシマさんは暫しごゆっくりなさっていて下さい」

 

 そういって茶々丸は私とエヴァに頭を下げると、部屋を退出した。

 

「さて、明日の朝まで此処にいる事になるんだ。艦内でもてなされたし、今度は此方がもてなす番だ。好きに飲め」

「そうさせて貰うよ。……美味いな」

 

 エヴァの言葉に素直に頷きながら、注がれたワインを飲む。うっわ。めっちゃ美味い。前世ではあんまりワインとか飲まなかったけど、それでもこのワインが美味い事だけは明確である。私はワインに対しての知識が全くもって知らないので変な事はいえないが、恐らくかなりの上物なんだろうなぁと思いながら味わって飲む。

 それから茶々丸が食事を持ってくるまでの間は、エヴァと他愛のない話を続けた。その会話で分かった事といえば、やはり長く生きていると、資産運用が上手くなる事が分かった。あとはエヴァには今は眠っているが、もう一体従者がいるとの事だった。名前は聞かなかったが、恐らくチャチャゼロの事だろう。

 そんな会話を暫く続けていると、茶々丸が食事を運んできた。

 

 「マスター。お待たせいたしました」

 「ああ。ご苦労だったな茶々丸」

 

 エヴァに一礼してから、茶々丸は私とエヴァの前に運んできた食事を並べていく。私とエヴァの手前に置かれたのは、海老と貝柱のトマトソーススパゲティと、イタリアンサラダ。エヴァは並べられた食事を見てから茶々丸に尋ねた。

 

 「これで全部か?」

 「はい。別荘が倒壊時に、食料の大半が駄目になってしまい簡単なものしか作れませんでした。申し訳ございません」

 「あー……仕方ないか。茶々丸、気にするな」

 

 エヴァの質問に茶々丸は頭を下げながら理由を述べる。それを聞いたエヴァは苦笑しながら茶々丸を許した。それを眺めていた私だが……うん、もの凄い罪悪感が生まれてきたわ……

 

 「まぁ、此処を出て家に戻れば本格的な食事も出来る。むしろこのぐらいの量が丁度いいか。キリシマも食べるといい」

 

 そういって自身を納得させた様子のエヴァが私にそう声をかけると、茶々丸が用意がいつのまにか置いておいたフォークとスプーンを手に取り、食事を始めた。

 

 「ああ。戴くよ。いただきます」

 

 エヴァに頷いてから、私も目の前の料理を食べ始める。食べた感想はズバリ、美味い。この一言につきる。流石茶々丸。流石ガイノイドとでもいうべきか。調理レベルがとんでもない。前世がアマチュアレベルの調理しかできない私では到底再現できないレベルの味だった。それによく考えてみれば、たしか茶々丸って、料理以外にも家事全般がとんでもないキャラだったはず……なんというパーフェクト従者だと私は戦慄してしまう。そしてエヴァが羨ましい。

 

 「どうだ? 料理の方は?」

 「目覚めてから食べたもので一番美味かったよ。エヴァ」

 「そうだろう。なんせ茶々丸は私の従者だからな。これぐらいできて当然だ」

 「羨ましい限りだ。本当にな」

 

 私の感想を聞いたエヴァがドヤ顔で茶々丸のことを自慢する。ぐぬぬ……ほんと羨ましい。そんなやりとりをエヴァとしていると、なにやら茶々丸がじっと私の事を見ている。私はそれが気になったので、茶々丸に声をかけることにした。

 

 「茶々丸だったか? 私について気になる事でもあるのかい?」

 「!……はい。もしよろしければご質問してもよろしいでしょうか?」

 「ああ。あれほど美味しい食事を食べさせてもらったんだ。構わないさ」

 「ありがとうございます」

 

 茶々丸から私に対して質問があるといわれて、私は内心驚きながらも、笑顔で対応する。茶々丸は私に感謝の言葉を述べてから質問の内容を述べた。

 

 「先ほど、キリシマさんが船体を銀の砂に変えてしまいましたが、あれは一体何なのでしょうか?」

 「あー……ナノマテリアルの崩壊現象はあれが初めてだったか」

 「ナノマテリアル? 崩壊現象?」

 

 茶々丸が聞いてきたことはさっき二人についていく前に見せた船体の展開解除によって発生した崩壊現象やらについてだった。私はどう説明したもんかと考えを少しまとめてから、説明を始めた。

 

 「まず、ナノマテリアルだが……我々が持つ特殊な資源だな。私達のみが使える資源で、どんなものにも物質を変化させることが可能な万能資源だ。食材にするもよし。鋼材にするもよしの正に万能なものさ。私のこの身体やさっきの船体も、そのナノマテリアルを使って構成してる。」

 「それが……ナノマテリアル……」

 

 「でだ。そんなナノマテリアルだが、使えなくなるとその存在は崩壊して見た目が銀の砂のようなものになるのさ。そしてナノマテリアルは再利用が出来なくてな。崩壊後の銀の砂はどう頑張っても、元のナノマテリアルにはなれない。万能だが、面倒な一面を持つ資源なんだ」

 「……」

 「まぁ、あの状態のナノマテリアルだが、人体や環境に影響はでないから、心配はいらないさ。ああなったナノマテリアルは言葉通り銀色の砂でしかないのだからな」

 「……質問に答えてくださりありがとうございます」

 

 茶々丸が私に頭を下げて感謝するので私は苦笑しながらもそれに答える。エヴァはそんな茶々丸の様子を見ながらワインを楽しんでいた。

 

 

          ◆

 

 

 エヴァとの食事後、茶々丸に案内された個室で私はのんびりしていた。なんせ、魔法球(ここ)を出るまでかなりの時間があるのだ。幾らエヴァとお話して時間を潰すにしても待つ時間の方がありすぎる。そんな訳で、私は少し早いが寝てしまう事に決めた。茶々丸に案内されたこの個室にはシャワー室なんてものがあったので、そこで身体の汚れを洗い流し、今はベッドに横になっているというわけだ。そして、ベッドで横になっている私だが、ただ横になっているわけではない。今回の戦闘で消費したナノマテリアルやら戦闘のログを確認していた。

 確認してみた結果、ナノマテリアルは神様が言っていた通りの量が消費されていた。ただし、その量は船体分のものだけで、砲撃やミサイルなんかは別だ。初めての船体での戦闘のことでかなりぶっ放した為にナノマテリアルの消費量に頭が痛くなるほどだった。また、戦闘ログを確認して思った事は、魔法使いという存在に対して慢心は許されないという事だ。

 幾らメンタルモデルとして、もしくは霧の艦隊として魔法使いに対して圧倒的なアドバンテージがあるとしても、慢心や油断をすればエヴァにやられたような奇策からの一撃で危機に陥りかねない。魔法使いに安全に勝利するには、接近させずに遠距離から叩き潰す方法を取らなくてはならないことを痛感した。

 せっかく第二の人生を歩んでいるのだ。慢心や油断で第二の人生を終わらせてしまうわけにはいかない。そんな事を私が再確認したときだった。

 

 「……ッ!? 概念伝達の受信だと!?」

 

 視界に映る突然の出来事に私は声を上げた。戦闘ログを見ていた画面に映る概念伝達の受信の文字。

 概念伝達は、アルペジオの世界でいうメンタルモデル同士の情報交換に用いられる通信手段だ。つまり、これを送って来ている相手は私と同じメンタルモデルという事になる。つまり、私以外のメンタルモデルが存在する事になるのだ。それはつまり、私のような転生者の可能性が出てきた。

 少し考えた後、私は概念伝達の受信を許可し、そこで私の意識は飛んでいった。

 

 

          ◆

 

 

 「お久しぶりですね」

 「へ? ……神様?」

 

 概念伝達を受信した結果、目の前に現れたのは私を転生させた神様とみたことのないもう一人の人物だった。

 

 「はい。神様です。ただし、あなたが今いる世界の神様ではないですが」

 「……あー、ちょーっと。頭を整理させてほしい」

 「どうぞ」

 

 神様のカミングアウトに色々ツッコみたいが、なによりも概念伝達を受けたら神様に会ったということはつまりはそういうことなのだろう。

 

 「……神様が、私を此処に呼んだんですよね? 他のメンタルモデルが呼んだのではなく」

 「そのとおりです。貴女にお話があるため、私が呼びました」

 「……では、そのお話とは一体なんなのですか?」

 「ええ。実は貴女に謝罪したいというものがいまして。ほら、さっさとしなさい」

 「ふぇぇっ!?」

 

 神様に確認を取ると、神様が頷き、もう一人の人物を私の前に押し出す。私の前に押し出された人物は女性で、顔立ちも美人というよりは幼げを感じさせる可愛い部類に入り、低身長な為か、小動物のようなイメージを彷彿させる愛らしさを私に与えた。しかし、その胸元は身長や顔立ちからは考えられない胸を持っていた。所謂ロリ巨乳の人物が私の前で慌てると、勢いよく頭を下げて謝るのだった。

 

 「ま、間違えて死なせてしまってごめんなさいーーーー!」

 「……」

 

 目の前で頭を思いっきり下げて謝罪する女性から視線をそらして、神様の方に視線を向けて訴える。これは一体どういうことか。神様は私の視線から私のいいたいことを理解したのか、はたまた理解していたが私が訴えるまで待っていたのかは定かではないが、私に対して頷くと、説明を始めた。

 

 「彼女は貴女を転生させたときに話に出した私の同僚です。変態上司というか馬鹿な先輩の神様達にむりやり酒を飲まされてから泥酔状態で残った業務を行ったもので貴女のほかにも何人も起きるはずのない死を引き起こしてしまったものでしてね」

 「あー……彼女が」

 「まぁ、この問題に関しては馬鹿神共に責任ありと判断されてこの娘は許されたのですが、本人は気にしてまして。こうやって転生させた者に謝罪したいといいまして」

 

 神様の言葉を聞いて、目の前の彼女の行動に納得がいった。もし私が間違いで管理していた人の命を奪ってしまいましたとしたら、罪悪感でまともにはいられないだろう。そして、ただの自己満足だとしても、殺めてしまった相手に謝りたいと思って目の前で謝罪しているのだ。

 

 「……」

 「あー……頭を上げてください。仕方なかったんだと思います」

 「え……」

 

 そんな相手に、私は文句を言う事が出来なかった。私の言葉に驚いた目の前の神様は困惑した表情で顔を上げた。

 

 「神様をこう……人のように扱うのはあれですが、誰だってミスする事はありますし。確かに死んだと聞かされたはじめは思うところがありましたが、こうやって私は第二の人生を歩ませてもらっていますし。これで神様に文句を言ったら、私は人でなしになってしまいますよ」

 「……」

 「――だから気にしないで下さい。今は今で神様には感謝してますし」

 

 私は思った事をそのまま言葉にして神様に言うと、神様は感極まった様子で顔を手で覆って泣き出した。ええっ!?なんか泣かせるような事いったかな!?

 

 「暫く放っておけば戻ります。にしても……殺された側なのに簡単に許してしまいますね」

 「はぁ……。今言った事が本心ですよ。」

 「実に聖人な発言ですね。まぁ構いません。それよりもお話が一つ」

 「お話ですか?」

 「ええ。本来は彼女から話す話でしたが、今はあの状態ですので。実は転生者を2人程、貴女に面倒を見て欲しいのです」

 「え゛っ」

 

 神様泣かせたことにあたふたしてたら、もう一人の神様に放っておけといわれてから嫌な話を聞かされて私は顔をしかめながら声を上げた。

 

 「貴女と同じ彼女が死なせた者達の一部でしてね。その多くを転生させたのですが、その二人は特典が貴女と同じ世界のものでしたので一つの世界で一括で纏めたほうが良いと考えましてね。勿論、その二人には貴女があの世界で平穏を得るために活動していることを告げているので、協力的でしょう」

 「……まぁ、拒否権はないんでしょうから構いませんけど」

 「貴女は実にもの分かりが良くて助かります。此方からの要請ですから、それを引き受けてくれる貴女には少し融通して差し上げましょう」 

 「具体的には?」

 「貴女の要求を聞き、許せる範囲でその要求を呑みましょう」

 

 神様からの要請なので私はその話を受ける前提で話を聞いていくと、神様の融通の内容に驚く。もはや話を受けるのは決定事項なので、私は頭をフル回転させて要求項目を上げていき、神様に述べた。

 

 「私からの要求は3つですね。1つ、非転生者として重巡洋艦マヤが居てほしい。一つ、霧の艦隊のアドミラリティ・コードの内容変更。最後は私のコアをユニオンコアからデルタコアへ更新」

 「ほう……理由を聞いても?」

 「あの世界の住人に本物の霧の艦隊の艦艇として説明する為の看板として又、戦力としてもマヤがいてほしいのがひとつ。もうひとつはわたしも含め4体も霧の艦隊がいれば、アドミラリティ・コードの件について聞かれるだろうし、その件は私がでっちあげたもので、他の面子は私とは違う事を言うかもしれない。そういった事で麻帆良側に不信感を与えない為の措置としてひとつ。もうひとつは単純に演算力の強化によって指揮通信系統の強化。余剰の演算はマヤや他の転生者のサポートに当てられたらという考えからですね」

 「……いいでしょう。では、この概念伝達が終了次第、貴女の要求を履行しましょう。それと同時に、他の転生者も貴女と同じ麻帆良の地に転生してもらいます」

 

 神様に一通りの説明をしていいという返事を貰った所で私はホッとしたのも束の間、その後に続いた言葉に私の思考が停止する。え、この通信終了後、転生者を麻帆良の地に?

 

 「は?」

 「では。お話は以上です。概念伝達も終了します。あぁそう、次に目覚めたら直ぐに概念伝達を行う事をオススメします。それでは」

 「え!? ちょっとまtt」

 

 さらっと言葉を述べながら手をふる神様にツッ込もうと声を上げた瞬間、目の前がブラックアウトし……。

 

 「ちょっと待て―――――ぃ!?」

 「……」

 

 大声をあげて飛び起きた私の前に居たのは、私の言葉を聞いて静止した茶々丸の姿だった。

 

 

 




誤字の指摘・感想・批評・書き方のアドバイス等々、頂けたら幸いです。


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#10

大変お待たせいたしました。

#10話です


「……」

「あ、あーっと……何故に此処にいるんだ?」

「あ……その、魔法球(ここ)から出られる時間になりましたので、マスターから呼んでくるようにと」

「! わざわざすまない。助かった」

 

 茶々丸と気まずい空気が流れ出していたので、彼女が何故この場にいるのかを聞くと、素晴らしい情報をもたらしてくれた。神様との概念伝達をする前は魔法球をでるまでかなり時間があったが、神様の計らいというべきなのか。もう魔法球から出れるまで時間が経っていたようだ。わたしはすぐさま寝ていたベッドから飛び起きて、茶々丸に声をかけながら部屋を飛び出した。

 

「む、どうした。随分と急いできたな」

「エヴァ。茶々丸から聞いたが、もう魔法球(ここ)からは出れるんだよな?」

「ああ。そうだが?」

「悪いが今すぐ此処から出たい。緊急事態なんだ」

 

 部屋を飛び出し、別荘のリビングへと向かう。そこには朝からワインを口にしていたエヴァがいた。その容姿や態度から実に優雅な様子なのだが、今はそんな様子にいちいち感想なんていってられない。私が慌てた様子でいることに驚いているエヴァに私はすぐさま魔法球から出たい事を告げると、エヴァが神妙な表情になる。

 

「緊急事態とは?」

「あー……アドミラリティ・コードから通達がきた。他のメンタルモデルが起動した」

「なんだとッ!?……こっちだ」

 

 神様の都合で転生者が追加されたなんていっても面倒だから、私はエヴァに緊急事態を分かりやすく説明する。すると、その効果は絶大で、エヴァは驚愕してからすぐに席を立ち上がって別荘から出て行く。私はそんなエヴァについていくのだった。

 エヴァについていって2分ほどで、私はここが魔導具の中にいることを実感させるような空間にいた。さっきまで砂浜を歩いていたと思っていたのに、とある境界を越えた瞬間に、そこは周りを滝に囲まれ、その中心に石柱が立ち、そこへと橋がかかっている幻想的な空間にかわったのだ。

 私はそんな空間に驚きながらもエヴァについていき石柱まで来ると、エヴァはその場で指を鳴らし、その瞬間、私の視界は眩い光によって白に染まった。

 

「戻ったぞ」

「……! 助かった。エヴァ」

 

 視界が白に染まってから直ぐにエヴァの声が聞こえてから視界が元に戻りだすと、そこは茶々丸につれてこられた部屋だった。私は腕を組むエヴァに感謝の言葉を述べてから、すぐさま他の転生者と連絡を取るために、概念伝達の機能を起動した。

 

 

          ◆

 

 

概念伝達の機能を起動すると、私は神様とあった時と同じ、空白空間にポツリとあるような庭園のような場所に立っていた。

 

「っと…。改めて見渡すと、見た目はアニメの世界準拠みたいだな。…さて。他の転生者は…」

 

辺りを見渡しながら、他の転生者がいないのを確認すると、視界の端に小さなウィンドウが現れる。そのウィンドウには「ハルナ・ズイカク・マヤが概念伝達を受諾」と表示されており、ウィンドウが消えると同時に、私の前にハルナ・ズイカク・マヤが現れた。

 

 

「! 来たか。ここではおはよう、というのがいいのかもしれないな。ハルナ・マヤ。そして…ズイカクだったな?」

「っ! あ、ああ。」

「成程。あの者が言っていた者はキリシマだったのか」

「おー! キリシマだー!」

 

私が現れた3人に声をかけると、ハルナは少し驚いた表情をしてから、ぎこちなく返事を返した。ズイカクは納得といった様子で、マヤはどうやら原作側の存在らしく、その場で両手を上げて喜びを表現していた。

 

「色々積もる話はあるが、今は最優先で確認したいことがある。まず、目覚めた場所と、3人共同じ場所に目覚めたかだ。どうだ?」

「そうだな…まず、私達は同じ場所で目覚めた。場所は詳しくはわからないな。気がつけばその場にいた感じだ」

「そうか。次に、目覚めた場所に他の一般人はいるか?もしくは駆け寄ってきたものはどうだ?」

「ふむ…目覚めたときは周りには誰もいなかったが…む」

「どうした?」

「我等を遠巻きながら囲んでおる連中がいるな。中々の速さだ」

「そうか。もしかしたら、接触してくる人物が、『私』が知っている人物かもしれない。とりあえず何者か聞かれたら『ハルナ』か『ズイカク』は私と同じ存在だと言ってくれ。私も今そっちに向かおう」

「!…ああ。わかった」

「ふむ…了解したぞ。相手との交渉は私に任せろ」

「そう……じゃあ頼んだ。ズイカク」

「う~…はいはーい! キリシマ。私には何か無いのー?」

 

三人の反応は今は置いておいて、私はハルナ達の現状を確認する。ハルナとズイカクを聞いて分かった事は、私とは多少違うが、突然その場にいたというもの。つまり、かつての私の様に、学園側が反応し、警戒態勢でハルナ達に向かっていることが判明した。学園側は私のような前例があるから突然しかけてはこないと思いたいが、不安は残る。せめて、わたしの時の様にタカミチが接触してくれるなら穏便に済むかも知れないが、淡い希望は持たないほうがいい。

そんな考えをしながら、ハルナ達に対処法を伝えると、ハルナとズイカクは私が言いたい事を理解したのか。頷いてくれた。マヤは、話についていけないのか、首を何度か傾げて暫く唸るが、私に対して、自分にもないかないかと聞いてきた。

 

「相手との話し合いは他の二人に比べてマヤには不向きな事だろうからな。すまないがおとなしくしてて欲しい」

「えー」

「そういうな。さて、ハルナとズイカクは確認してると思うから省くが…マヤ。アドミラリティ・コードからの命令は確認したか?」

「えっと…うん。確認できてるよー」

「そうか。一応私とお前達とで命令の違いがないか確認しておこう。私達がアドミラリティ・コードから与えられた命令は?」

「はーい。『人間を観察せよ』でーす!」

「そうだ。かつてのアドミラリティ・コードの内容とは異なっていたが、私達がすべき事として通達されているのは今の命令だ。3人共が起動したのは、人間の観察を行なうのにこの場にいる4人で人間を観察する事が効率的と判断してなんだろう。既にこの地の最高責任者には私達の活動の許可を取ってある。しかし、末端までその内容が伝わってないらしく、警戒されるだろうが、さっきいった事を伝えれば悪いようにはされないはずだ」

「了解した。む、どうやら早速接触してくるようだな」

「そうか。ハルナにズイカク。驚くようなことがあっても表情に出さずに、くれぐれも相手に不信感を与えないように頼むぞ。私もすぐに向かう」

「うむ。任せてくれ。ではまた後でな」

「キリシマー。また後でねー!」

 

マヤの質問を利用して、私はハルナとズイカクにアドミラリティ・コードの内容をそれとなく伝えると共に、転生者であることのボロを出さないようにして欲しい事を、お願いする。ハルナは頷いてはくれたが表情からは私の意図は伝わってなさそうだ。幸いな事に、ズイカクの方は私のこれまでの話の意図を理解してくれたのか、しっかりと頷く。

マヤは私がハルナとズイカクに任せておけといった事で自分を納得させたのか。特に言いたいことはない様子だ。少しして、3人共が目の前から消えた事を確認して、私も概念伝達を終了するのだった。

 概念伝達を終了させ、玄関に向かうとそこにはエヴァと茶々丸が立っていた。

 

「他のメンタルモデルと連絡はついたのか」

「ああ。3体が起動し、全員が同じ箇所にて待機中だ。だが、魔法先生達に囲まれ警戒されている」

「そうか。私としても他の連中を見てみたいが…少し遅れてから向かうとしよう。さっさといけ」

 

話す事はもうないといった様子で、エヴァは玄関の先を指差し、茶々丸はドアを開けてくれた。

私はそれに軽く頭を下げてからハルナ達の下へ向かった。

エヴァの家からでた私は、すぐさまセンサー系の全てをアクティブにする。小さなウィンドウが目の前にいくつか現れ、そこにセンサーで索敵した結果が表示される。私は表示されるセンサーの結果から、敵味方識別装置(通称:IFF)の表示を確認する。そこには、今居る所から暫く離れた所に、3人のIFF反応が確認できた。私はセンサーで表示された方向に急ぎ向かうのだった。

 

 

          ◆

 

 

 前世ではちょっと周りの女子同士とは趣味の傾向が異なっていた私は、神様のミスによって殺されてしまい、二次創作なんかで良くある神様転生によって、魔法先生ネギまの世界で二度目の生を得る事になった。前世ではそういったお話が好きだった私だが、いざ自分がその立場になると実に複雑なものだった。

神様から転生について色々と確認すると、転生ものにつきものである特典についてはテンプレのように好きなものをあげていいらしい。神様からその話を聞いたとき、私は前世で呼んでいた転生もののパターンを思い出していた。

 転生ものといっても、私の主観ではおおきくわけて3つのパターンがあると思っている。1つは所謂転生した自分が「その世界の主人公は私だ!だから好き勝手やってやるぜ!」といったもの。これは自身のその思い込みがそのまま正しければ、正に主人公として活躍できるが、そうでない場合は原作キャラたちにとっての踏み台になってしまう危険性がある。

2つ目は複数の転生者がいる場合のものだ。これは、よくあるのが、転生者同士で、殺し合いをさせたりする恐ろしい神々の娯楽(遊び)だったりするが、そうでない場合は比較的ましな転生ものといえる。まぁ踏み台的な思考を持った転生者が居た場合は大抵面倒な事になるという問題はあるが。

そして最後が、原作キャラとして2度目の生を得る、転生派生憑依?ものだ。この場合、転生したキャラがどんな立ち位置にいるかや、転生先の世界の内容によって危険度のぶれ幅がとんでもない。そんな事を思い出しながら、私は神様のお話を少し整理する。

 まず、転生先がネギまの世界であるという情報は実に重要なものだ。なんせ、あの世界は魔法を使いドンパチしまくるのだ。当然、転生すれば、そういった世界で生きていくのは大変だ。パターンでいう憑依もの?で、もし原作の3-Aのだれかにでもなったら恐ろしい目に遭うことは確実である。なので、もしそうなっても最低でも自衛は出来る程度、もしくは面倒に巻き込まれないような特典を得なくてはいけない。二度目の人生を謳歌する為にも、ここはしっかりと情報を集めて、転生しなくてはいけない。

 そんな訳で、私は神様に一つ確認を取った。その内容は「転生先には、他の転生者の方はいるのか」だ。

神様からの答えは、基本は他の転生者はいないが、特典が過去の転生者の特典と似通ったものをあげた場合は、任意で同じ世界にするといったものだった。

私はその答えに対し、転生者同士で殺し合いをして下さいとかはないかを聞くと、神様はそんな酷い事はしない。同じ境遇同士2度目の生を謳歌するならそれを応援したいといったものだった。

これを聞いた私は、安堵した。つまり、2つめのパターンを選んだ場合は比較的ましなものになる可能性がある事が分かった。

私は駄目元で神様にネギまの世界に転生していった他の転生者が、どんな特典を選んだのか聞いてみた。以外にも神様はそれに快く答えてくれた。そして、他の転生者の特典を聞いて、私の特典は決まった。神様に特典の内容を告げると、それを許可した神様の言葉の後、私の意識は急速に遠のいていった。

 

そして、気がつくと私は、並木道にいた。

「ここが…麻帆良?」

「おおっ! ハルナにマヤがいる!」

 

私は視界に映る景色を見ながら一人呟くと、すぐ隣から驚きの声が上がったので顔を向ける。そこにいたのは、童話の赤頭巾のような容姿をした黒髪の少女……マヤが地面に座り込んでいて、そんなマヤの肩に両手を置いて立っていたのは、赤のレインコートを来たツインテール少女、ズイカクだった。

 

「嘘っ。ズイカク!? それにマヤも!?」

「そういうお前はハルナか! その反応からするに、『私』と同じ存在だな?」

「『私』と同じって…もしかして、貴女も…」

「ああ。マヤはどうか知らないがな…。しかし、此処が麻帆良か…」

 

ズイカクはあっさりと自身が転生者であることを私に告げると、周りをきょろきょろと見渡している。なんというか目の前の転生者(同類)の反応に対応できないでいたら、ゆらりと目の前に座り込んでいたマヤの頭が持ち上がり、瞑っていた瞼が開き、ぼんやりとした表情で私の事を見つめてきた。

 

「ん……ふぁあぁ……。」

「……マヤ?」

「お、起きたのか?」

 

まるで寝起きのような様子のマヤに私は声をかける。ズイカクもマヤが起きた事を確認しようと、背中側から身体の乗り出してマヤの様子を見ていると、ぼんやりとしたマヤの表情が当然と活力が溢れる笑顔に変わり、突如その場から立ち上がった。当然、座り込んでいたマヤの背中に乗っかるような姿勢でいたズイカクは、突如立ち上がるマヤによって、バランスを崩し、その直後に後ろに倒れた。

 

「ハールナちゃん! おっはよー!」

「うわたっ!?」

「っ!? あ、あぁ。おはよう、マヤ」

「およ? あっ! ズーイカークちゃん! おっはよー! ……なんで倒れてるの?」

「あいたた…。おはよう、マヤ。」

 

両手を挙げ、元気を前面に押し出すマヤの挨拶に、私は少しうろたえながらも、挨拶を返した。マヤは私と挨拶を交わしたあと、振り返って自身の後ろで倒れたズイカクにも私と同じ様に元気に挨拶をした。

 

とりあえず、この場にいた全員が目を覚ましたので、いざお話でもしようと思った直後、それぞれの視界にウィンドウが表示され、そこに「キリシマから概念伝達を受信。通信を受諾しますか? yes/no」といった内容が表示された。

 

「おおっ? キリシマからの概念伝達だー!」

「……ズイカク、どうする?」

「どうやらキリシマの方も私達の存在に気づいているようだな。とりあえず話をしようじゃないか」

 

身体をいっぱい使って感情を表現するマヤを横目に、私はズイカクに概念伝達の件について相談すると、ズイカクはさらりと、それを受けると宣言し、ウィンドウに表示されたyesのボタンに指を持っていっていた。マヤもズイカクに続くので、私も彼女達に続いて、目の前に表示されるウィンドウのyesへ指を持っていった。

 

そうして、アニメで描写されたのと同じ庭園のような場所で、私達はキリシマに出会った。そこでキリシマと言葉を交わした事で、私はマヤを除く3人が転生者であることと、現在私達が魔法先生たちに遠巻きながらも包囲されていることを知るのだった。

 

あの庭園の空間から戻ってきてから、私は霧のメンタルモデルとして使用できる機能を急いで確認する。脳内に浮かぶ私が行使できる能力に目を通していると、ある人物が私達の元へ近付いてきた。

 

「あれ? 誰かこっちくるよ。ハルナ、ズイカク」

「そのようだな。ふむ……成程の。さっき言った通り、ここは私に任せろ」

「……ええ。任せるわね。ズイカク」

 

マヤの言葉を聞いて、こちらにゆっくりと近付いてくる人物に顔を向ける。まだ距離があって相手の顔が見えなかったのが、直ぐに視界の端に浮かびあがったウィンドウがその人物をはっきりと映し出してくれる。手にはナイフと拳銃を持ち、此方を警戒しながら近付いてくる黒人男性。私は原作の記憶から、彼がガンドルフィーニ先生だと判断し、ズイカクに方を見た。ズイカクも彼がガンドルフィーニ先生であることを分かっているようで、此方に軽く頷いたあと私達は彼がそばにくるまで、その場に留まっていた。

 

数分もしない内に、ガンドルフィーニ先生が私達の前に来る。それに相対するようにズイカクが先生の前に立ち、私とマヤがズイカクの後ろに並ぶ。マヤが隣でそわそわしているが、私はズイカクにこの場を任せているので、沈黙を保つ。ガンドルフィーニ先生は私達の存在もそうだが、なによりも自分に相対するズイカクに困惑した表情を見せながらも、話を切り出した。

 

「……君達に聞こう。君達は一体何者だ?」

「私達か? 私達はキリシマの仲間だ」

 

少し間をおいてから発した先生の質問に、ズイカクはすぐさま答える。すると、先生の表情が直ぐに困惑から緊張したものに変わり、その場で身構えた。

 

「……彼女の話では、君達は目覚めないと聞いていたが?」

「我々はアドミラリティ・コードの命にて活動を再開しただけだ。我々は兵器。命令があれば、それに従うのは当然だ」

「っ……」

「……ズイカク。余り……」

「おーい! お互い落ち着けー!」

 

先生の言葉にズイカクはふてぶてしくバッサリと言葉を返す。たった二度の会話だけで、お互いの雰囲気が危ない方向に傾きつつある事に、焦る私は、ズイカクに一声かけようとして、背後からかけられた声に振り向く。振り向いた先には、私達の元へ掛けてくる、キリシマの姿があった。

 

 

 



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