人外系男子のアカデミア (Noce)
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プロローグ

久しぶりの投稿の上、弓兵ほったらかし。
ごべんなさい。


ある日、人類の手の中に現れた《個性》という、新しい力。世界は生まれもつ個性によって階級が決められてしまう、完全能力主義の世界へと変貌した。強個性か、弱個性か、その差がそれまでのルックス、学力、コミュニケーション能力、財力などで作られていた『見えない壁』に追加された。無論、例外はあるが、おおむねそのように分けられるようになり、現在全人口の二割ほどを占める《無個性》は、壁がある、どころかまるで非人間であるかのように扱われてしまうこともあった。

他にも、大きく変わったところがある。

 

《ヒーロー》と《ヴィラン》

 

簡単に言えば、個性を使う警察と個性を使う犯罪者だ。ヒーローは警察とは別物だが、やることは同じだ。個性を駆使して、犯罪者を捕まえる仕事。初めは自警団、今ではヴィジランテと呼ばれる人々が、国の認可を得て、堂々と活動するのだ。今No.1ヒーローと名高いのは《オールマイト》。圧倒的パワーとスピードで一瞬で――――

 

「――――ヴィランを沈めてしまう。いつでもどこでも大絶賛だなぁ、オールマイト」

 

インターネットの記事を読んでいる少年はため息をついた。記事は『オールマイトはどんな時でも必ず助けてくれる!』とか『一日に平均八件の事件を解決!』だとか、オールマイトの活躍を書き連ねて、それをベタベタに称賛している。

 

「まるでアメリカ人じゃあないか。コレのどこが日本人何だろうかねぇ……。カッコイイ、カッコイイのは確かだけど、むさ苦しいというか、暑苦しいというか、僕には合わないんだよな」

 

誰に言うでも無く独り言をつぶやきながら、自身の長い髪を結って、玄関の前に置いておいたバックを手に取った。靴を履きながら横の棚の上の置き時計を見る。時刻は8時03分。

 

「8時15分までに入場しないと、実技試験が受けられない……走れば間に合うか。……よし、行きますか」

 

家を出て走り出す。春の暖かい空気と、花のかおりを置き去りにして、風邪のように走り抜ける。

 

(快晴とかツイてない……日差しがキモいなぁ)

 

心の中で悪態を付き、太陽を睨む。

 

彼は紫賀火神(しが かがみ)。個性《転化》、説明はまた後で。彼は日光が嫌い、まぁ、いつでもすこしも肌を日光に当てない!というわけではないが、あんまり当たりたくない。朝は弱いのは今日も四度寝くらいしてやっと起きた。ちなみに、今彼がどこに向かって走っているかというと、『雄英高校』だ。東日本最大のヒーロー科を持つ高校。数々のプロヒーローとサイドキックを輩出している。今日は雄英の実技入試の日なのだ。火神の家から雄英は歩いて20分ちょい。普通に歩くと間に合わないので、走っている。適当にでも走れば10分程で着く。

 

とくに何も考えずに、ただ走ってれば同じように走っている少女を見つける。おそらく彼女も遅刻だ。耳からイヤホンジャックが伸びていて、三白眼ぽいクール系の女の子。頑張ってるけど、速度を見るに増強系とかじゃぁなさそうだから、おそらくこれ以上速くなったりは無いだろうから、もう間に合わない。火神は追いついて話しかけた。

 

「……そこの、あー、イヤホンジャックの子。今8時11分だけど、間に合うかい?」

「へぇっ!?じゅ、11?マジ!?ま、間に合わない!どうしよ……!」

 

少女は見るからにへろへろで、多分間に合わないと思った火神は、少女に声をかけた。予想どうり、もうダメだ・・・と言い、無意識だろうがうっすらと涙を浮かべる彼女に、火神は

 

「運ぼうか?人ひとり、それも女の子なんてこのバックより軽いもんさ」

「へ?お、お願いします?」

 

何だかわかんない、って顔してる彼女を横抱きで抱え、火神は再スタート。おんぶとかだと、だいぶ揺れて酔うだろうし、何より安定性が低いので落としてしまうかもしれないので、横抱き。個性を使えば解消できるが、めんどくさいのでやらない。ブサメンとフツメンなら通報案件だが、あいにくイケメンなので許されてしまう。今も腕の中の女の子は顔を赤くしてちぢこまっている。

 

そうこうしている内に雄英に到着した。受付の前で女の子を下ろす。

 

「着いたよ」

「うえっ、あ、はい……」

 

火神は顔がまだすこし赤い女の子と一緒に受付を終えて、会場の椅子に座り、説明が始まるのを待っていた。すると、クール系女の子が話しかけてきた。

 

「あ、あの、ありがとうございました。遅刻、しないように、えっと、運んで来てくれて」

「良いよ、別に気にしなくても。敬語も良いよ」

「そう?じゃぁ、敬語無しで。ウチは耳朗響香(じろう きょうか)、よろしく。あんたは?」

「紫賀火神。よろしくね、響ちゃん」

「きょっ!響ちゃん!?」

 

響香は顔が赤くなって声が裏返っている。火神はそれを不思議そうに見ていた。

 

「あぁ、響ちゃんって呼ばれるの、嫌だった?」

「いや……ビックリしただけ。あんまりそういうかわいい呼ばれ方したこと無いから」

「へぇ、かわいいのにねぇ」

 

また響香は赤くなって言葉につまる。

 

「彼氏とかもいなかったの?」

「ま、まぁ、そうだけど」

「周りの男は見る目無いねぇ、こんなにかわいい子ほったらかしとくとか、有り得ないね」

「そ、そんなにウチかわいくないし……も、もうこの話やめ!」

 

わたわたと照れ臭そうに顔を背ける響香。火神はニコニコしながら別の話をする。

 

「今日、何で遅刻しそうだったの?」

「えっと、おばあさんに落とし物届けたら、そのまま話し出しちゃって、行かせてくれなかったんだ」

「あー、おばちゃんは話長いもんね、しかも途中で抜けようとすると長くなるし」

 

我が意を得たり、と響香は話し出す。

 

「そうそう、そうなんだよ!抜けようとすると『最近の若い人は、人の話も聞けないのかい?困ったもんだね……』って、説教見たいになっちゃってさ。こっちが言いたいよ、人の話聞けーって」

「よくあるわー、それは。俺の近所のおばちゃんもそんな感じだわ」

「みんなそんな感じっぽいよね。紫賀はどうして遅れたの?」

「寝坊。あと火神で良いよ、むしろ呼んで?」

「寝坊・・・朝弱いの?か、火神は」

 

こんな大事な日にまで寝坊するとは、と響香が聞いてくる。

 

「弱いかな。まぁ、間に合うように何とか起きるんだけども。中学ではほぼ毎日チャイムと同時に滑り込んでた」

「……怒られないの?」

「諦められた」

「うわぁ……」

 

響香は苦笑いをした。教師に勝つなんて、逆に凄いな、と思った。その時ステージにライトが点いた。

 

「始まるっぽい」

「そうだね」

 

ステージの上のスクリーンの前に、男が立っていた。

 

『受験生のリスナー達、おはよう!オレの名前はプレゼント・マイク!今日は俺のライブにヨーコソー!エディバディセイ、ヘイ!!』

 

『『『……』』』

 

『こいつぁシヴィー!ンじゃぁまぁ、リスナー達に実技試験の概要をサクッと――――』

 

「響ちゃん、僕寝るから、終わったら起こして」

「へ?ちょ……もう寝たの?」

 

火神はプレゼント・マイクの話が長くなると思って、即座に寝た。めんどくさいのは嫌いなのだ。響香が何か言う間も無く眠りに落ちた。

 

(ま、いっか)

 

なんとなく、コイツは起きないと悟った響香は、諦めて代わりに話を聞いてあげようと思った。




3点リーダー……ちゃんと使いましょう。


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規格外

先日投稿した『人外系男子のアカデミア』二話です。
半分寝た状態で投稿したらしく、無理矢理感が拭えない感じになってますが、コレから頑張ってやります。

弓兵の方は今後の展開がうまくいかず、悩んでるのでしばらくお休みです。

全然詳細な設定が見つけられないので、イロイロ独自設定が多いですがご了承ください。


「……ねぇ、起きなよ火神。終わったよ?」

 

プレゼント・マイクによる入試実技試験の概要説明が終わり、頼まれた通り響香は爆睡している火神を揺さぶって起こす。

 

「……おはようすみぃ」

「オイ寝るな」

 

流れるような二度寝に乙女らしからぬツッコミをしてしまう響香。

 

「……ナイスツッコミ」

「うるさい!ほっとけ!」

「ごっめんね!」

「えっ何そのテンション……」

「ごめん」

 

見ていて気持ちいいくらいの爆睡だったが、火神はまだ眠いのか目が半分閉じている。響香はまた寝ないようにぺしぺしと火神の肩を叩く。

 

「寝坊するくらい寝て、まだ眠いの?」

「そもそも今回夜寝てるってことが異常だからね。ほんとなら夜寝なくていいんだけど」

「個性?」

「そんな感じ。昼は調子が出ないんだ。夜行性なんだよ僕」

「えっじゃあいつ寝てるの?寝なくていいわけ?」

「基本は日中寝てる。まぁ寝なくても行けるけど、寝といた方が楽だから。今回はとくに疲れてたから、夜だけど寝たんだ。疲れててね、昼も寝れなかったし」

 

寝ぼけ眼で簡単に説明されたそれに、響香はすこし驚いた。なぜなら、眠らない個性なんて聞いたことがなかったからだ。響香もヒーロー志望のはしくれ、プロヒーローの情報も結構知っている。しかし、ヒーローにも、数人しか知らないサイドキックにもそんな個性の人物はいなかった。

 

「へぇ、珍しい個性じゃん」

「まぁね、絶対に同じような人はいないからね。で、山田……プレゼント・マイクは何て言ってた?」

「山田……?まぁいいや。プレゼント・マイクが言ってたのは、コレから『A~G』のグループに分かれて模型、大きさはそのままだけどね、の街で仮想ヴィランのロボットを破壊してポイントを競うんだってさ」

「グループに分かれるのかい?」

「そう。受付でもらったアルファベットの書かれた青いプラのカードあるでしょ。そのアルファベットに対応するゲートの前に集合する。時間までにゲート前にいなかったら失格だとさ」

「ヴィランの特徴は?」

「四種類で、0から4ポイント。0ポイントは後半に出てくるお邪魔虫、らしい。10分後開始、制限時間も10分間、受験した人の中で上位四十名が合格する。ていうか、入試要項に全部書いてあるじゃん。見てないの?」

 

説明し終えてか、そのことに思い至り、すこし響香は火神を睨見ながら聞いた。

 

「見てないし、持ってきてもないよ」

「会ってそこまで時間経ってないけど、アンタがアホの部類に入ることは解ったわ……。はぁ、んで、アンタはどこ?」

 

そう言って、響香は自分のカードを見せる。

 

「ウチは『C』だけど」

「僕は『H』さ」

「は?」

 

演習場は『A~G』なのに、『H』という存在しない演習場が自分の会場だと言った火神をいぶかしげに見る響香。

 

「ナニソレ、『H』なんてないけど?」

「事情があってね、別のところで受けなきゃいけないんだ」

「ふーん……」

 

響香は何か聞きたそうにしていたが、聞ことはしなかった。

 

「ま、『H』がどこか知らないけど、いいや。合格したら、その事情、教えてよ。できる範囲で良いけど」

「解った、合格したらね」

「それじゃ、ウチはもう行くから、アンタもさっさと行きなよ。試験ガンバ」

「ありがとう、響ちゃんも頑張って」

 

響香はヒラヒラと手を振りながら、説明会場から出て行った。

 

 

 

 

「……めんどいけど、頑張るかぁ」

 

火神も椅子から立ち上がり、説明会場をあとにする。通常の演習場と反対の方向に歩いて行くと、コロッセオのような円形の建造物と、その扉、そして一人の男が立っているのが見えた。

 

「よぉ火神。調子はどうだ?」

「やぁ我が従兄弟。調子はサイアク。でもそれは肉体的な話で、精神的には上々」

「そりゃあ良かったな」

 

黒い服に包帯のような布を首に巻き付けていて、ボサボサの髪に無精髭を生やした彼は相澤消太、個性《抹消》。ヒーロー名、イレイザーヘッド。彼は火神の従兄弟である。相澤の父親と火神の父親が兄弟なのだ。

 

「すぐ始めるぞ。内容は解っているな」

「もちろん」

「なら良い、10秒後に開ける」

 

言うことを言い終えた相澤は扉の開閉係にトランシーバーで合図を出す。

 

「10秒後に開けろ」

『……了解』

「火神、よい受難を」

「はーい」

 

相澤は火神に一声かけ、演習場をカメラを通して見れるモニタリングルームに戻っていった。

 

「さっさと終わらせよーっと」

 

扉がゆっくりと開いていく。扉の周りには誰も居ない。火神は一人で受けるのだ。

 

『……ハイスタァトォ!!』

 

急にがなり立てるスピーカーにに向きもしないで、火神は緊張など微塵もせず、ちょっとコンビニ行ってくる、くらいの足取りで扉の中へと入っていく。

 

『ほんとにダイジョブなんすかぁ?コイツは』

 

モニタリングルームに、監督役のマイクの通信が入る。火神が一人で受けることについて、椅子に座ったネズミ、根津校長に聞くためだ。

 

「大丈夫だよ。むしろ一般入試に混ぜちゃダメさ!個性詳細も経歴も見ただろう?良くも悪くも、彼は特別さ!」

『そりゃ、そうですけどねぇ……。試験内での特別措置をとる必要があるって言われてもどうも想像出来なくて』

 

マイクの疑問に、部屋にいる教師の大半が頷いて同意を示した。それに答えようと校長が口を開いたが、答えたのは校長ではなかった。

 

「もっともな意見だが、心配無用だ。あいつは強い」

 

相澤だった。普段全くといっていい程褒めない相澤がはっきり『強い』と言いきったことに、マイクや、相澤と交流がある教師は目を見開いた。

 

『オイオイオイオイ、マジかイレイザーヘッド!お前がキッパリ言い切るって、相当なことじゃぁねえか!』

「うるさいぞマイク。やり方こそ褒められたもんじゃないが、控えめに見ても、あいつは既に日本中のヒーロー達と比べても戦闘能力が高い。それに加え周辺への配慮、非戦闘員保護の手際なども下手なヒーローよりも信用できる。法律が邪魔しているが、筆記試験の勉強をさせれば今すぐにでもヒーロー免許を取れる」

『……お前、ホンモノ?』

 

驚きすぎておかしくなったマイクはほっといて、相澤はモニターを指差す。

 

「1ポイント50体、2ポイント40体、3ポイント30体、全体の2/3を倒すと出てくる0()()()()()2()()。それら全部ぶっ壊すなんて、プロヒーローでもできないようなことでも、あいつは必ずできる。モニターを見てくださいよ。ほら……」

 

モニターを見るよう促されて、相澤の指先のモニター、演習場『H』のモニターを見ると・・・。

 

 

「このとおり、すべて行動不能にできる」

 

 

〈All destroyed〉

 

 

同時に出てきた0ポイント2体の真ん中まで跳躍し、そのまま空中で()()()()()()()()()火神が写っていた。モニターには全ての仮想ヴィランを破壊したことを示す〈All destroyed〉の文字も表示されていた。

 

『ハァァン!?ウソだろ、まだ3分だぞ!?全破壊ィィ?いくらなんでも早くねぇか!?』

「……いやいや、ビックリだよ。ここまでとは思わなかった。ねぇ、オールマイト?君もそうだろう?」

「はい。まさかここまで速く、正確で、圧倒的だとは……」

 

相澤を除き、オールマイトでさえ驚愕した。入試用とは言え、ロボットは弱くない。なのに120体を3分で片付け、0ポイントを一瞬で撃破するとは、今の弱体化したオールマイトでは、絶対できる!とは言いきれない偉業だ。

 

「しかも、コレで全力ではないと……」

「そう、紫賀クンの個性《転化》は、言ってしまえば吸血鬼。日中、とくに太陽に当たっていると弱体化する。身体能力はもちろん、再生や、血を操ること、身体の形状を変化させることもやりにくくなってるだろうね」

 

火神が日光が嫌いな理由はそれだ。自分の身体に悪影響があるから当たりたくないのだ。

 

「イレイザーヘッド、この子どうやって全部倒したの?0ポイントの間に行くまで、スタート地点から動いてないけど……」

 

ミッドナイトが巻き戻して見ていて、気づいた点を相澤に聞いた。

 

「……靴を履いてるか?」

「靴?はいて……ないわねこの子」

 

何当たり前のことを、と言おうとしたミッドナイトだが、履いていないことに気づいた。

 

「なら、素足でそこらへんの石を踏んで、そこから血の網を地面に張り巡らせたんだろう。ロボットが街中に張り巡らされた血を踏めば、瞬時にそれが伝わって、あいつはそこに血の槍を打ち立てる。そうやって索敵と攻撃を同時にやったんだ。3分間は、演習場全体に血の網が張られるのにかかった時間だ」

「なるほど……その要領で0ポイントも位置を事前に知ることができて、出てきた瞬間の一番無防備なところを大技で狙えたっていうことね」

 

ミッドナイトだけでなく、ここにいる全員が感嘆の息をもらした。

 

『ところでその《大技》の変な色の炎、ありゃなんだ?』

「本来回復に使うエネルギーを燃料にして、発火能力(パイロキネシス)のマネゴトをしてるんだ。個性の詳細も憶えてないのか?……そんなんだから、お前は山田ひさしなんだよ」

『ウッヒョー、個性カンケーねぇじゃん!器用だねぇ……ン?なんで俺の名前罵倒みたいに使われ……』

「それじゃ、彼は予定どうり、『特別待遇』で4()1()()()()()()()()()として迎え入れよう。もちろん1-Aだよ。相澤クン、オールマイト、頼んだよ」

 

 

「了解しました」

「任せてください!教えること、あるかなぁ……



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先週と帰り道

「あー……疲れた。日光下での活動=ダメージだから、日中はずっと寝てたいなぁ」

 

試験を終えて、疲労を言葉に載せて吐き出しながら、帰るために校門へと歩いていた。火神の個性《転化》は根津校長の言っていた通り、『吸血鬼』と言える。ただ、世間一般に吸血鬼には弱点が多いが、火神にはほとんど当てはまらない。同じなのは『日光を嫌う』『身体の形状を変化させることができる』『血を吸う』の三つだ。もっとも一つ目は、吸血鬼が日に当たることが『絶対にできない』のに対して、火神は『()()()()()()()()』ので厳密には違う。吸血鬼が一番近いが、共通点は少ないのだ。

 

(そういえば、響ちゃんはどうだったのかな?)

 

今日知り合った少女のことを、唐突に思い出した。今、周りには同じように雄英から帰る人がたくさんいる。火神は辺りを見渡し、響香を探した。すると、耳のコードをくるくると弄りながら歩いている響香を見つけた。

 

「響ちゃん、さっきぶり。試験どうだった?」

「ん?火神……さっきぶり。そこそこかな。だいぶ上位に入れたと思うけど」

「そっか、じゃ合格してるね」

「いや、まだわかんないでしょ」

 

気が早いわ、と言う響香だが、実際手応えバッチリなようで、穏やかな表情をしている。周りの人はだいたい無理だ、終わった……と思っているのか、暗い顔をしている。

 

「あ、響ちゃん、あの人さ、ムンクの叫びみたいな顔してる」

「え、どこ?」

「右側だよ右側。腕が多めに生えてる人の、もうちょっと向こう。緑のもじゃ頭」

「……うわっホントだ!アレ、人にできる顔じゃないっしょ。何があったらあんなになんの?」

「一体も壊せなかったとかじゃない?」

「そんなレベルだったら、雄英に来ないっしょ……」

 

緑のもじゃ頭クンはそのうえ包帯だらけで、しかも上半身を動かさず脚だけを使って歩くというこれまたスゴイけど変なことをしている。周りの人がほぼ必ずと言っていい程二度見するくらい変だ。

 

「あんなに注目されてまったく気にしないとかスゴクない?慣れてんのかな。もしそうなら、ヴィラン捜査の囮とか、災害時の避難誘導とかで活躍できそう」

「ダメだよ響ちゃん、多分あの人ショックで周りが見えてないだけだよ。家に帰ったら『どこをどう通ったのか、まったく記憶がない!?』とか叫んじゃうよ」

「……アンタの言う通り、マジで一体も壊せなかったのかもね」

「非戦闘系の個性だったりしたのかもねぇ」

「あー、それはあるかも。えっと、何だっけ……わ、ワイ……ワイプシ!ワイプシみたいな?」

 

響香は『非戦闘系の個性』と言われて、プロヒーローの中から思い浮かんだのはワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ。メンバー全員、そろそろ結婚適齢期をすg……響香はなぜだか寒気がした。

 

「たしかワイプシの個性は《テレパス》、《土流》……んあー、《サーチ》に《軟体》だったかな?……まぁいいや、とにかく意外と非戦闘系の個性でもヒーローやってる人、多いよね。あの人達も雄英出身が居るんだろうけど、この試験どうやって突破したのかな」

「んー、持ち込みオッケーだったから、あらかじめ破壊力のある道具を用意していた。即興でチームを組んで戦闘系と一緒に突破した。非戦闘系個性の人には、雄英側がワザと他より弱く設定されたロボットがあたるように操作した。この試験にはロボットを破壊することで得られるポイント以外に採点されるところがある。そもそも昔はこの試験じゃなかった。非戦闘系個性の人たちのうち、雄英を受けたのはフィジカルを鍛えてきた人たちで、それ以外はほかのヒーロー科に行った。……パッと思いつくだけでこんくらいかな」

「……頭の回転早くない?」

「そうかな?」

 

たった数秒前に考え出したのに、六つも考えついて、その中に『そりゃないっしょ』となるような、適当なものがないことに響香は驚く。火神的には普通のことだが、響香が驚いて居るのを見て、スゴイのかなー、なんて思っている。それより、と火神は響香に聞いた。

 

「ワイプシって何さ」

「え?名前くらい知ってるでしょ?ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ。女性四人……四人で構成されてる、山岳地帯特化の救助を主な仕事にするヒーローグループ。みんなネコミミつけててさ、ひとりごついのがいてさ、え?しらない?」

「知らない」

「あんさんうそやろ……」

 

マジで知らない火神にとっては、響ちゃんこそ何言ってるの?だが、ワイプシの名前は世間に広く知られているはず。『オールマイトを除いた好きな男女別ヒーローランキング』のために街頭インタビューをすると、女性枠のTOP10に四人とも入ることがほぼお決まり見たいになっているほど。響香も別に熱心なファンではないが、それでも個性名や特に活躍した事件は把握している。それをまったく知らないとは、思わずキャラが変わるレベルで衝撃を受けると同時に、一つの疑問が浮かび上がった。

 

(火神、もしかしてプロヒーロー全然知らないんじゃ……)

 

響香はそれを確かめるべく、火神への尋問を開始した。

 

「……エッジショットは?」

「知らない」

「ベストジーニストも?」

「知らない」

「シンリンカムイくらいは……」

「知らない」

 

どんどんと響香の口から魂が抜けていく。火神が世間知らずなのはわかった。だが余りにも度が過ぎていて、別の考えが、ヒーローって意外と知られてないのかな?なんてばかみたいな考えが浮かんできてしまう。来る。

 

「リューキュウ、ミルコ、クラスト」

「知らない」

「ガンヘッド、デステゴロ、バックドラフト、」

「知らない」

「13号、ギャングオルカ、エクトプラズム」

「知らない」

「セメントス、ミッドナイト、プレゼント・マイク」

「後ろ二人は知ってる」

ぬゎんでその二人だけ知ってるのぉー!?

 

響香は余りの驚きに思わず叫んでしまった。どこ行ったんだクールキャラ。周りの人が何事かとこちらに注目するが、興奮している響香は気付かない。

 

「何で!?何でヒーローチャートTOP10内とか、そうじゃなくてもけっこう有名なヒーローは全然知らない中で、どうしてその二人だけ知ってるの!?」

「何でって、消太が時々話してたから」

「……ショウタ?」

「相澤消太。ヒーロー名はイレイザーヘッド」

 

響香はそれを聞くや否やケータイを取りだし、何やら操作しはじめた。何を見ているのかわからないが、凄まじい速度で下にスクロールしていく。そして、突然ピタリと止まり、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……知り合いなの?」

「従兄弟だよ」

「チョットワケワカンナインダケド」

 

ぽかんとした顔でこっちを見ながら放心状態で歩く響香に、火神は不思議そうに首をかしげる。しばらくして復活した響香が火神に聞いた。

 

「何でプロヒーローが身内にいて、プロヒーローを知らないのよ?」

「なんかスゴイ落ち着いたね、どうしたの?」

「人間驚きすぎると一周回って冷静になるんだよ。それで、どうして?」

 

響香はさっきまでの気迫はどこかに吹っ飛んだように普通の表情だ。

 

「僕、ほんとにテレビとか見なくてさ。新聞には乗ってるけど、どうにも興味が沸かなくて。だからヒーローはオールマイトくらいしかわからないんだ」

「さすがにオールマイトは知ってるかぁ」

「ま、何もしなくても目に入ってくるし。一応人気ヒーローは顔はうろ覚えくらいにはわかるよ」

「マジでテレビ見ないんだね。あーびっくりした、思わず叫んじゃったし」

「そりゃゴメンね……何にびっくりしたんだい?」

 

火神はスルッと流れるように謝罪した後、響香の言葉に疑問を持った。

 

「アンタ、今適当に謝ったでしょ……いいけど。ヒーローって意外と知られてないのかなって思っちゃった。全然知らない、なんて言われて、実はヒーローって人気ないのかなって自分の常識を疑ってた。同年代がテレビ一切見ないネットも見ないなんて想像できないから。ほんと何でそんなに見ないかな」

 

顔を背ける火神に詰め寄る響香。だが響香ちゃんはいい子である。すこしの間睨んで目線を前に戻した。けしていい子はヒーローの名前を知らないことで怒らないとか言ってはいけない、いいね?

 

「それより、さっきケータイで何見てたの?」

「プロヒーロー一覧。ヒーロー名と顔写真、事務所の場所が載ってる。そこからイレイザーヘッドを探してた。イレイザーヘッドって名前、最近どっかで見かけた気がして、確認してた」

「結局どこで見たのさ?」

「雄英の教師紹介に載ってた。ていうかアンタ知ってるでしょ」

「うん、今日も話したよ?」

「……なに」

 

白々しく聞いてくる火神を響香はジト目で睨むが、効果がないようだ。面白そうにニヤニヤ笑っているだけである。

 

「なにニヤニヤしてんの。面白いとこないじゃん」

「いや、さっきの響ちゃんの乱心っぷりを思いだしちゃってさ。クールな感じを放り投げて大声出して……なんかじわじわ来る。あれスッゴいたくさんの人に見られてたからね」

「わっ、忘れろコラァー!このこともう話すの禁止!」

 

(なんであの時叫んだんだウチのバカァ!あーもう!雄英行きたいけど行きたくないわ!くっ、火神のせいだ!)

 

響香は火神の言葉を聞いて、いまさら恥ずかしくなってきていた。思い返してみるとどうしてあんなに荒ぶってたのか響香自身にもよくわからない。雄英の入試は受かってるだろうが、高校生活が始まって、誰かにこのことを触れられたら恥ずかしくて死んでしまうかもしれない。

響香は悪いことをしたわけではないが、原因である火神をさっきより力を込めて睨む。

 

「そんなに怒らない怒らない、シワができるじゃないか。かわいいんだから、もったいないよ?」

「っ!そういうのも言うなぁ!」

 

もちろん火神には効かない。頬を赤くしている響香にかわいいかわいいと連呼するだけだ。響香はかわいいと言われるたびに頬の赤いところが、顔全体に広がっていき、まっすぐ火神を睨むために上がっていた顔もだんだんと恥ずかしさで俯いていく。そして、二十回を超えた当たりで……

 

「い、いい加減にっ、しろぉ!」

「おっと危ない」

 

恥ずかしさが臨界突破したのか、響香は火神の脇腹に肘鉄を叩き込もうとするが、しっかりと火神に受け止められる。

 

「防ぐな!」

「それは無理な相談だよ!」

 

火神は響香の肘を捕まえて、面白いことになってる響香の顔を覗き込む。目はぐるぐるとせわしなく火神の顔を避けて動き、口は、何というかもにゅもにゅしていると言えば伝わるだろうか。耳まで真っ赤に染め、おそらく睨んでいるつもりであろう目は身長差もあってただの上目遣いにしか見えない。今もうーうー唸っているが、猫っぽくてかわいく火神的には嬉しいのだが……

 

(スゴイかわいいんだけど、そろそろ本気で怒られそうだな)

 

嫌われるのは嫌なので()()()もう言うのをやめておく。

 

「わかったわかった、言わないよ」

「ふーっ、ふーっ、いつかぜったいやり返す……!」

「ごめんってば響ちゃん」

「ふんっ……ウチ、電車だから、ここ曲がる」

 

交差点で、駅へ続く方を指差しながら、まだちょっぴり頬が赤く、拗ねたように微妙に顔を背けている響香が言う。火神はそれを見て釣り上がる自分の口の端を律し言葉を返す。

 

「電車なんだ、県外?」

「……県外。アンタは?」

「ここまっすぐ行ったとこに住んでる。一軒家だよ、広いよ」

「べつにそんなこと聞いてないし」

 

やっぱりちょっと拗ねてる響香を見て、静かに笑う火神。

 

「それじゃ、入学式で」

「……ん、じゃあね」

 

クルッと方向転換して、さっさかさっさか歩いていく響香。火神は風のように遠ざかる背中に手を振った。響香は、少ししてからチラッと振り返って、火神が手を振っていることに気付くと、ちょっとの間考え、小さく手をひらひらして、ぴゃっと改札に飛び込んだ。

火神は手を下ろし、三回やり過ごした青信号をやっと渡った。




kurouさん、誤字報告ありがとうございました。


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