境界線上のIRON BLOODED(※リメイク作品あり) (メンツコアラ)
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#1 転生

葵・三日月/「ミカ」

総長補佐。
三日月・オーガスが火星で命を落とした後、どういうわけか葵・トーリの双子の弟として転生。
初めは彼らと距離を取っていたが、時間が経つにつれて『ここが俺の新しく出来た居場所』だと自覚。以後は梅組の仲間達と仲良くやっている。
彼の背中には、特徴的な突起物が三つあり。






 カメラアイの眼光を光らせながら、目の前の敵を倒していく。

 ───彼の眼は光を失っていた。

 残った片腕を振るい、迫る敵をなぎ倒していく。

 ───もはや、彼の腕が動くことは出来なかった。

 駆動音を響かせ、敵に迫る。

 ───動かす彼の耳は、既に音を捉える機能を失っていた。

 

 されど、彼は……いや。彼を乗せた白き悪魔は駆け抜ける。

 彼が仲間と共にあの場所へ辿り着くために。

 死んだ彼の仲間の命令を果たすために……。

 

 死んだ◯◯◯が、目指した場所へ行くために、▲▲▲▲は彼を乗せて───

 

 されど、終わりはやって来る。

 

 悪魔の首に翠の巨兵が持つ剣が突き刺さる。その時、悪魔の中にいた彼の腕に着けていたミサンガが彼自身の血で汚れてしまった。

 

 ───また汚れた……アトラに、怒られる……

 ───クーデリア、一緒に謝ってくれるかな……

 

 場所は火星。そこで彼は、三日月・オーガスは自身の機体である白き悪魔、バルバトスルプスレクスの中で息を引き取った…………

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 自分はそこにあり

 されど、そこは自分の知らぬ世界

 

 配点《転生》

 

 

 

 

 

◇◆◇午前3時00分◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「……懐かしいものを見た気がする」

 

 そう呟いた黒髪の小柄な少年『葵・三日月』はベッドから起き上がり、何時ものようにパジャマから袖無しアンダーウェアと少しダボついたズボンに着替え、その足で玄関へと向かう。

 しかし、そこには先客がいた。

 

「お、ミカじゃねぇか。今日も特訓か?」

 

 そう言う茶髪の青年は今の三日月の兄『葵・トーリ』だった。

 

「うん。トーリは? いつもより早いけど」

 

「俺か? 俺は今から新発売のR-元服のエロゲを買いに行くのさッ! てことで、姉ちゃんの朝飯頼んだわ」

 

 『じゃ、行ってくるぜッ!』と妙にハイテンションで出ていくトーリ。三日月は彼を見送ると自身も外に出ていった。

 まだ朝の肌寒さが残るなか、三日月は何時ものように走り出す。

 

 ここは空を飛ぶ準バハムート級航空都市艦〔武蔵〕。それを構成する八艦の内の一つにある居住区。

 そこを数時間かけて、休むことなく外周を走るのが三日月の日課であり、一日の始めでもあった。

 

 午前6時45分。

 ランニングを終え、家に帰ってきた三日月は風呂場でサッと汗を流し、教導院へ行く準備をする。

 袖無しアンダーウェアと少しダボついたズボンと、胸髄の上部……つまりは肩甲骨位の位置にあるそれをさらけ出すように改造された制服の上。彼が愛用している大剣のような鈍器『ソードメイス』は忘れないように玄関に置く。

 準備を終えた三日月。今度は台所に立ち、朝食を作り始めた。

 

(……あの時は全部アトラがやってくれてたけど、オルガたちが今の俺を見たらどう思うんだろう?)

 

 そんな事を考えながら、三日月は食卓に朝食を並べていく。

 二人分が出来た所で三日月は調理器具を片付け、とある一室に向かった。

 

「喜美、入るよ」

 

 軽くノックをしてから扉を開ける三日月。その部屋の中にあるベッドの上には一人の少女……今の彼の姉である『葵・喜美』が眠っていた。三日月は喜美に近づき、彼女の名を呼びながら軽く揺する。

 そのときだった。

 

「んん……みかぁ……」

 

 彼女がうっすらと目を開けたかと思えば、そのまま三日月をベッドの中に引きずりこんだのだ。

 あっさりと喜美の抱き枕になってしまった三日月。彼女の手が背中に……正確にはそこにある物に触れる度に走る妙な感覚に襲われ、三日月は彼女の腕から抜け出そうとする。しかし、喜美は三日月を離さない。仕方なく、三日月は喜美が起きるまで、彼女の名を呼び続けた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午前8時30分 ◇◆◇

 

 

 

 

 

『市民の皆様。準バハムート級航空都市艦〔武蔵〕が朝八時半を御知らせ致します。

 本艦は十時に情報遮断ステルス航行に入りますので、御協力をよろしくお願いします。───以上』

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午前8時40分

    武蔵アリアダスト教導院◇◆◇

 

 

 

    

   

 

 武蔵アリアダスト教導院の校庭には、その上を渡るように一本の橋が掛けられている。さらにその上、そこには一つの集団が出来ていた。

 

「三年梅組、注目ッ!」

 

 集団の側に立っていた、巨大な刀を背負う女性『オリオトライ・真喜子』が声を張ると、その集団、つまりは高等部三年梅組の生徒たちの視線が集まった。

 それを確認したオリオトライは今から行う授業の説明をする。

 

「んじゃ、これから体育の授業を始めるわよ。

 先生はこれから品川にあるヤクザの事務所まで、ちょっと全力で殴り込みに行くから全員ついて来るように。そっから先は実技ね。───わかったら返事ッ!」

 

『『『Judgementッ!』』』

 

 授業とは思えない内容を平然と言うオリオトライ。それに返答する生徒。普通なら『何で体育なのに殴り込み?』と思うだろうが、三年梅組の生徒にそんな疑問を抱く者は半数もいなかった。

 わずかにいた疑問を抱いたメンバーを代表して、生徒の一人、金髪長身の何処かむすっとした顔つきの少年、『シロジロ・ベルトーニ』が先生に質問した。

 

「教師オリオトライッ! 体育とチンピラにどのような関係が? やはり金ですか?」

 

 『目を光らせて言う台詞か?』と思う者が大半だろうが、この男は超がつくほどの守銭奴。さらには武蔵アリアダスト教導院の生徒会会計を勤めている。この質問の仕方は仕方なかっただろう。

 そんな彼の肘を隣にいた長い金髪の少女、会計補佐を勤める『ハイディ・オーゲザヴァラー』がつついた。

 

「ほらシロ君。先生、地上げにあって最下層行きになって、暴れて壁壊して、教員課にマジ叱られたから」

 

「中盤以降は全部自分のせいのようだが……報復ですか?」

 

「報復じゃないわよ~。単に腹が立ったんで仕返すだけだから」

 

『『『それを報復って言うんだよッ!』』』

 

 生徒たちの声が重なる。

 それをオリオトライは聞き流し、刀を脇に挟んで投影した出席簿を開く。

 

「で? 誰か休んでる子いる? ミリアム・ポークゥと(あずま)がいないしとして」

 

 オリオトライの質問に答えたのは、集団の前の方にいた金翼の少女『マルゴット・ナイト』と黒翼の少女『マルガ・ナルゼ』が答えた。

 

「ナイちゃんが思うにソーチョーとセージュンがいないかなぁ?」

 

「正純は小等部の講師のバイト。それから午後から酒井学長を送りに行くらしいから、今日は自由出席のはず」

 

「じゃあ、トーリについて誰か知ってる人いない?」

 

 オリオトライの言葉に、生徒たちの視線が喜美と三日月に集まる。

 

「うふふ……みんな、愚弟のこと知りたいの? 知りたいわよね? だって武蔵の総長兼生徒会会長の動向だものねぇ?

 

 ───でも教えないわッ!」

 

『『『教えないのかよッ!』』』

 

「だって、このヴェルフローレ・葵が賢弟に二四五回名前を呼ばせるまで起きなかった時には、すでに居なかったみたいだしぃ。仕方ないじゃない?」

 

『『『数えてたのッ!?』』』

 

「というか、喜美ちゃん、また芸名変えたの?」

 

「ええそうよ、マルゴット。私のことはヴェルフローレ・葵って呼ぶのよ? いいッ!? いぃいッ!!?」

 

「こ、この前はジョセフィーヌじゃ無かったかな?」

 

「あれは三軒隣の中村さんが飼い犬に付けたから無しよッ!」

 

「とりあえず、喜美は何も知らないと……三日月、あんたは何か知ってない?」

 

 オリオトライの質問に、喜美の隣にいた三日月は喜美のようにふざけるとこなく答えた。

 

「エロゲ買いに行くって言ってた」

 

「……ほ~う? 私の授業をサボって、エロゲを買いにいったねぇ~」

 

 ユラリ…ユラリ…と額に青筋を浮かべるオリオトライの背後に般若が見えたのは、梅組生徒たちの勘違いでは無いだろう。大半の者が、その場に居ないトーリに対して十字を切った。

 

「(次会ったらぶん殴ろう……)まあ、聖連の暫定支配下にある武蔵の総長ならこれくらいじゃなきゃね。

 ……さて、それじゃあ今からルールを説明するわよ。

 先生が事務所に向かっている間、先生に攻撃を当てることが出来たら出席点を五点プラス。意味わかる? 五回サボれるのよ」

 

 生徒たちに堂々と『サボれる』と言うオリオトライの言葉に、何故か表情を表す帽子を被った忍者装束の少年『点蔵・クロスユナイト』が手を挙げた。

 

「先生ッ! 攻撃を『()()』ではなく、『()()()』でいいのでござるな?」

 

「戦闘系は細かいわね~。いいわよ、それで。手段も問わないわ」

 

「では先生のパーツでぇ、何処か触れたり揉んだりしたらぁ、減点されるとこありますか?」

 

「または逆にボーナス(ポイント)出るような所は?」

 

 点蔵に並んで質問するのは、航空系半竜の少年。第二特務『キヨナリ・ウルキアガ』。

 そんな彼らに、オリオトライは笑顔を向けて一言。

 

「───授業始まる前に死にたい?」

 

「「ヒィィィッ!?」」

 

「まあ、バカどもは放っておいて……」

 

 そう言ったオリオトライは後ろに一歩。そして、

 

「───授業開始よッ!」

 

 後ろに跳躍するオリオトライ。突然の事に驚き、梅組の誰もが出遅れてしまった。

 

 

 

 ────たった一人を除いて。

 

 

 

 

「やっぱり来たわね、三日月ッ!」

 

「やれって言ったの、真喜子じゃん」

 

 跳躍し、未だ宙にいるオリオトライに、三日月は一瞬で肉薄。そして、背負っていたソードメイスを振り下ろした。

 オリオトライはすかさず刀で防御。ぶつかった二つは火花を散らし、力は三日月を押し戻し、オリオトライを先へと進ませた。

 

「くッ! 追えッ!」

 

 二人の武器がぶつかる瞬間を見ていたウルキアガが周りに号令をかけ、自身を飛翔する。

 駆け出す梅組。

 

 こうして、彼らの授業は始まった。

 

 

 

 




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#2 三年梅組

シンフォギアゴーストとかは時間がかかるのに、これは二日で書けてしまった。
これは何でなんだ?
誰か教えてくれ。






◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 かの者は導く者であり

 同時に理不尽の塊

 

 

 配点《オリオトライ》

 

 

 

 

◇◆◇午前8時50分◇◆◇

 

 

 

 

 

 三日月達の住まう武蔵は八つの艦が幾つものバイタルケーブルに繋がれて構築されている。その内の一つ、奥多摩と多摩を繋ぐケーブル付近を百メートル三秒近くの速度で走るリアルアマゾネスと、その後ろ同じスピードで走る少年が居た。

 

「逃げるなよ……ッ!」

 

「残念だけど、そうはいかないわよッ!

(といっても、手加減してるとはいえ、やっぱり三日月は速いわねぇ。……さて、そろそろシロジロから商品買ったナイト辺りが仕掛けて来るかしら?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリオトライの勘は当たっていた。

 

「いいぞ貴様らッ! もっと金を使えッ!」

 

 彼らから少し離れた場所にある商店街で、ニコニコと笑顔を浮かべるシロジロが両手では数えきれないほどの契約申請の鳥居画面を手でもみ、契約を成立させていた。

 

「契約成立ッ♪! ありがとうございましたー♪」

 

「そぅら商品だッ!」

 

「商品ありがと~」

 

 術式を上に投げるシロジロ。

 マルゴットとナルゼのコンビは自分達が乗る箒に術式を書き込み、それを発射台として、宙に浮かぶ投げられた術式に向かって射撃を開始する。

 

「行っけ~ッ!」

 

 発車された弾はシロジロの術式に当たると10個以上に分裂。弾幕となってオリオトライに襲いかかるが、彼女は僅かにスピードを落としただけでそれらを全て避けきり、その後ろを走っていた三日月は避けることが出来ずに足止めされてしまった。

 

「ごめん、ミカぁ」

 

「三日月、大丈夫ッ!?」

 

「大丈夫ッ! ちょっと足止めされただけッ!」

 

 三日月は再び走り出す。しかし、オリオトライとの距離は先ほどの倍近く。

 さて、どうしよっか……。

 そう考える三日月の横を、小さな影が走り抜いた。

 

 

 

 

 

 

 その影……穂先を潰した大型ランスを持つ、小柄なメガネ少女はバイタルケーブルを走るオリオトライと並んだ。

 

「あら、アデーレ。貴方が三番目?」

 

「はいッ! 自分、脚力自慢の従士ですんでッ!」

 

 二人はそのまま多摩の商店街に入り、オリオトライが前を、その後ろを少女が追いかける形で建物の上を走っていく。

 

「それでは従士 アデーレ・バルフェットッ! 三番槍行きますッ!」

 

 タイミングを合わせて加速術式を展開し、一気にスピードを上げてオリオトライに突撃していく。

 

 まずは初擊。アデーレが突き出した槍を、オリオトライは肩にかけていた刀を外し、一切抜くことなく防御。だが、防がれることは折り込み済み。

 二擊目。今度は槍を動かさず、自分だけが回転して、その時に生じる遠心力を槍に乗せて打ち出す。それにはオリオトライもいい意味で予想外だったのか、その顔に笑顔を浮かべるも、またもや防がれてしまう。

 それでも終わらないと攻撃を仕掛けるが、仕掛けるに連れて術式で強化された速力も徐々に落ち始めていた。

 

 そして、術式の効果が切れた瞬間、オリオトライが反撃とばかりに槍を横に蹴飛ばした。

 ここで軽く説明するが、アデーレの筋力はそこまで強い方ではない。よって、急に槍に横向きの力が加わってしまうと、槍自身の重量に振り回されてしまう。

 

「あ、あ~~~れ~~~ッ!?」

 

 槍に振り回されるアデーレ。そんな彼女の後ろから何かが上に飛び上がった。

 まさか、もう三日月が追い付いたの?、とオリオトライは構えるが、現れたのはターバンを巻いた褐色肌の少年『ハッサン・フルブシ』だった。彼の手の中には何故か、直径一三〇センチの大皿に盛られたカレーがあり、要らぬ情報かもしれないが中辛である。

 

「カレーッ! どうですカァッ!?」

 

「お昼に貰うわッ!」

 

 そう答えたオリオトライは未だにフラフラと回り続けるアデーレの襟首を掴み、力一杯振り回した。アデーレの持っていた槍はそのままハッサンの腹に命中し、彼を来た道に戻した。

 

「ふぇ~…ご、ごめんなさい~」

 

 目を回すアデーレ。そんな彼女の後ろに回ったオリオトライはプロ野球選手のバッティングフォームを思わせる整った構えをとり、

 

「よいしょッ!!!」

 

「あいたぁぁぁぁッ!?」

 

 乙女のお尻を、鞘に収まった刀で容赦なく打ち込んだ。

 アデーレは痛みの悲鳴を上げながら空に舞う。

 

「ほらほらッ! アデーレとハッサンがリタイアしたわよッ!」

 

 オリオトライの言葉に、ちゃんとした道を走っていたメガネの少年『トゥーサン・ネシンバラ』が通神を開いて、周りに指示を出していく。

 

「イトケン君ッ! ネンジ君とでハッサン君のバックアップにッ! アデーレ君は誰か救護できるッ!?」

 

『トゥーサン。アデーレが飛んできたから受け止めたけど、どうすればいい?』

 

「ナイス、三日月君ッ! 適当な所に置いといていいよッ!」

 

『分かった』

 

『あいたッ!? 三日月さん、もうちょっと優しく下ろして下さいッ!』

 

『ミカッ! レディはもっと優しく扱いなさいなッ!』

 

『あ、ごめん』

 

 

 

 

 

 一方、ネシンバラの指示で屋根の上で延びているハッサンの保護した一人の男。全裸、ハゲ、マッスルとただの変態にしか見えない、頭部にコウモリの翼を生やした一人の少年はハッサンを抱えると、商店街の人々に恭しくお辞儀をした。

 

「おはようございますッ! 怪しいものではありませんッ! 淫靡な精霊インキュバスの伊藤・健児(けんじ)と申しますッ! 商店街の皆様、ご無礼を失礼いたしますッ!」

 

 容姿とは違い、紳士的な対応をする伊藤・健児……通称『イトケン』だが、商店街の者たちは不審者を見る視線を向けていた。それを少し離れた所から見ていた赤いスライム『ネンジ』が心配そうに声をかけた。

 

『大丈夫か、イトケン殿?』

 

「大丈夫だよ、ネンジ君。こんな視線は慣れっこさ。さあ。品川に急ごうッ!」

 

『うむッ! 了解したッ!』

 

 ネンジは強く頷き、体を品川に向けて移動を開始しようとする。

 しかし、

 ───グシャリ、とその丸々とした体が喜美に踏みつけられてしまった。

 

「ネンジ君ッ!?」

 

「あら、御免ね、ネンジぃッ! 悪いとは思ってるのよッ! ええ、本当にッ!!」

 

 屋根の上を走りながら声を上げる喜美。そんな彼女に、その場で一人だけ地べたを走る、ボリュームのある銀髪の少女。第五特務『ネイト・ミトツダイラ』が叫んだ。

 

「喜美ッ! 貴方、人に謝るときは誠意を見せなさいッ! 少しはミカを見習ったらどうですのッ!」

 

「クククこの妖怪説教女めッ! しかし、ミトツダイラッ! あんたさっきからミカばっかりッ! そんなに家の賢弟の事が好きなのかしら?」

 

「な───ッ!? べ、別にそういうわけではなく確かにミカは同じ総長連合の仲間でありクラスメイトでありもちろん異性としても好意を持てますが───って、何を言わせますのッ!?」

 

「別にいいわよ? もし、あんたが賢弟と付き合うってんなら義妹として歓迎するわよ。これは本気よッ! 本気ッ! だって玩具が増えるんですものッ!!」

 

「~~~~ッ! 貴女ねぇぇぇッ!」

 

 

 

 

 

 

 

『ふぅ……今のは危ない所であった』

 

「ネンジ君。君、再生できるからって無茶したらダメだよ?」

 

『心配無用。しっかりとガード体勢をとっていたからな』

 

(ガード? その体でどうやって……?)

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇準バハムート級航空都市艦〔武蔵〕艦橋◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 それを夜に見れば、軽いホラーのように見えるだろう。

 誰が持っているわけでもないのに、ただ独りでに動く掃除用品。そんな場所から一人の女性……いや。自動人形、武蔵総艦長『武蔵』が多摩の商店街区画を見下ろしていた。

 

「武蔵さんは朝から掃除かい?」

 

 そんな彼女に声をかける男性が一人。

 

「Jud. 酒井学長。───以上」

 

 男性……酒井・忠次(ただつぐ)が煙管をふかしながら、武蔵が見下ろす多摩に視線を移した。

 

 所々から舞い上がる爆発の煙から、酒井は使われている術式を判断。答え合わせとばかりに口に出した。

 

「連射重視の非加護射撃か……術式も同様のものを用いている……屋根上一直線ならそれで十分だが、企業区画となるとねぇ。近接攻撃系の出番かな?」

 

「Jud. 恐らくはそうかと。───以上」

 

「となると、君の愛弟子が活躍するかな?」

 

「ええ。そうでないと鍛えた意味がありませんので。───以上」

 

「そうかい。……ところで、さっきから気になってたんだけど、何を見てるの?」

 

「弟子のリアルタイムの映像ですが何か? ───以上」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 多摩は品川の側にあり、オリオトライの脚力なら残り五分もしないうちに品川に到着するだろう。そこは貨物船で奥多摩や多摩のような店などが無いため、ほぼ一直線に走ることが出来る。

 そうなってしまえば、攻撃を当てることは不可能。今のうちに決めなければならない。

 

 その一番手に出たのは、

 

「ここで来るのは貴方だと思ったわ、点蔵ッ!」

 

戦種(スタイル)近接忍術師(ニンジャフォーサー)、点蔵───参るッ!」

 

 身体能力のみの加速で、一気にオリオトライとの距離を詰める点蔵に対して、彼女は刀を鞘に納めたまま振り下ろそうとすが、それが点蔵の狙いだった。

 

「今でござるよッ! ウッキー殿ッ!」

 

「応ッ!!」

 

 ほんの僅かにタイミングをずらし、空から突撃してくるのはウルキアガが突貫。

 

 刀の振り下ろす範囲とスピード。それらを考えてウルキアガを対処することは出来ない。点蔵を迎撃する時にはウルキアガの攻撃をくらうのは確定。

 

 しかし、

 

「甘い───ッ!」

 

「「───ッ!?」」

 

 点蔵たちがニヤリッと笑みを浮かべるオリオトライに気づいたときには遅く、鞘の留め具を外した事でリーチを伸ばした武器に、ウルキアガは脳天を容赦なく叩きつけられた。

 オリオトライは鞘に着けたベルトを噛み、首の捻りだけで鞘を引き戻し、そのまま点蔵に打ち付けた。

 

(───だが、それも想定済みッ!)

 

 腰に差した愛用の忍者刀を抜き、オリオトライの刀を受け止める。その際、決して押し返すことはせず、衝撃を全て関節を使って吸収し、本命を呼んだ。

 

「ノリ殿ッ!」

 

「呼ばなくてもいいッ!」

 

 点蔵の後ろから迫る少年『ノリキ』は打撃力を上げるために術式を拳に付与する。

 

「あら、ノリキが本命?」

 

「分かってるなら言わなくていいッ!」

 

 ───タイミングはバッチリ。これならッ!

 

 しかし、現実は非常だった。

 

 オリオトライが刀を離し、ノリキの顎を狙って剣先を跳ね上げたのだ。

 

「───ッ!? ちッ!」

 

 顎に直撃する前に、ノリキはオリオトライにぶつけるはずだった拳で刀を殴り飛ばす。その方向は品川方面。オリオトライは刀を追いかけ、その場を颯爽と去っていった。

 

「残念……」

 

「無念でござる……故に───後は御頼み申すッ! 浅間殿ッ!」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 点蔵が呼ぶ前に、後方組にいたその少女は動いていた。

 

 黒髪長身、左目にエメラルド色の義眼を入れた少女『浅間・智』は腰に掛けていた折り畳み式の弓を取り出し、展開、弦のチューニングを瞬時に終わらせる。

 しかし、走りながら矢を放てるはずもなく、止まってしまうと矢の射程範囲外まで逃げられてしまう。

 

「ネシンバラ君ッ!」

 

『分かってるってッ! ペルソナ君、足場をお願いッ!』

 

 ネシンバラの言葉に、一人の少女を左肩に乗せたバケツ型ヘルムを被った巨漢『ペルソナ君』が屋根の上に登り、浅間の元に駆け寄って、空いている右腕を前に突き出した。

 浅間はペルソナ君の腕に飛び乗ると、地脈接続を開始。義眼が光り、展開された照準術式越しにオリオトライの背中を見る。

 

「行きますッ! 浅間神社経由で神奏術の術式を使用しますッ!」

 

 浅間の言葉に合わせるように、彼女の襟元のコの字型端末『ハードポイント』の一部が開き、そこから巫女の姿をした二頭身の走狗(マウス)が飛び出した。

 

「浅間の神音(かのん)借りを代演奉納で用いますッ! ハナミ。射撃物の停滞と外逸と障害の三種祓いに照準添付の合計4術式を通神祈願へッ!」

 

【神音術式四つだから、代演四ついける?】

 

「代演として、昼食と夕食に五穀を奉納ッ! そのあと二時間の神楽舞とハナミとお散歩+お話ッ! オッケーだったら加護頂戴ッ!」

 

【んー…………うんッ! 許可でたよッ! ───拍手ッ!】

 

 パンッ、と優しい音が響くと同時に、浅間が構える矢に四種類の術式が付与された。

 

「義眼 " 木葉 " 会いましたッ! ───行ってッ!」

 

 放たれる光を帯びた矢。

 それに対して、オリオトライは一瞬だけ刀を僅かに抜き、すぐに戻して鞘に納めた状態で切り落とそうとする。

 

「無駄ですッ! 回り込みますッ!」

 

 振り下ろされる刀を避け、まっすぐオリオトライの元に飛ぶ矢を見て、出席点ゲットッ!、と確信した浅間だが、彼女に当たる直前、術式と共に矢が砕け散った。

 その衝撃を利用し、オリオトライは更に品川方面へと進む。

 

「そんな……ッ!? 食後のアイスが……何で……」

 

『髪だッ! あのとき刀を一瞬抜いたのは自分の髪を切って、空中にばら蒔くためだったんだッ! それがチャフとなって、先生に当たったと判断されたんだッ!』

 

「そんなのありですか……ッ!」

 

「あ、浅間、さん。だ、大丈、夫?」

 

 ペルソナ君の腕の上でへこむ浅間を、反対側に座っていた少女が心配する。

 前髪で目元を隠した少女『向井・鈴』にため息を吐きながら大丈夫と返す浅間。

 

「大丈夫です。ええ。本当に……」

 

「あ、後は、きっと、ミカ、がやって、くれる、よ」

 

「そうでしょうけど、あのリアルアマゾネスに攻撃を当てるのは至難の技だと思いますよ?」

 

「だ、大丈夫、じゃない、かな? だって、マルゴット、たちと、作戦、立てた、みたい、だし」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 多摩と品川を繋ぐバイタルケーブル。

 ついに足を踏み入れたオリオトライ。このままでは一分もしないうちに品川に入られてしまうだろう。だからこそ、これがラストチャンス。

 

「行くわよッ! マルゴットッ!」

 

「はいはいガっちゃんッ! 急ぐと危ないよッ!」

 

 飛行媒体である箒から身をのりだし、重力に従って落ちていくマルゴットとナルゼは空中で手を繋いだ。

 

遠隔魔術師(マギノガンナー)の白と黒ッ!」

 

「堕天と墜天のアンサンブルッ!」

 

 翼を広げ、空気を圧縮。ある程度溜まったところで解放し、その時に生じたエネルギーを利用してオリオトライの前に出た。

 

「術式主体の二人が追い付いたわけ? それでみんなの術式展開の時間稼ぎに、わざわざ出てきたわけだッ!」

 

「そう言うことッ! 授業だから黒嬢(シュバルツフローレン)白嬢(ヴァイスフローレン)も使わないであげるッ!」

 

「行くよガっちゃんッ!」

 

 マルゴットが箒の穂先をオリオトライに向け、それにナルゼが術式を書き込んだ弾を装填する。後は狙いをつけて放つだけ。

 

「いっけ~ッ! Herrlich(ヘルリッヒ)ッ!!」

 

 先ほどとは比べ物にならない威力の弾が発射される。しかし、その弾丸はオリオトライに当たることはなく、彼女の頭上を越えていった。

 

「ちゃんと狙いなさいッ! そんなんじゃ、全員リタイアよッ!」

 

 背後に感じる気配から他の生徒が追い付いて来ていると判断し、同時にマルゴットの弾丸が直撃コースにあると思ったオリオトライはマルゴットたちに注意をとばす。

 

 しかし、その考えは違った。

 

「かかったねッ! 先生ッ!」

 

「やっちゃって───三日月ッ!」

 

「えッ!? マジでッ!?」

 

 慌てて振り返るオリオトライ。

 

 だがしかし、その時には既にバイタルケーブルの上を走るメンバーの前に出た三日月がソードメイスで弾丸を弾き返していた。

 

『『『いっけぇぇぇぇぇッ!!』』』

 

 勝利を確信し、梅組全員の声が重なる。

 ───今日こそ、このリアル独身アマゾネスに勝てるッ! 

 ───今までの無茶ぶりの仕返しだッ! 

 そんな各々の思いを込めての叫び。打ち返した本人も『貰ったッ!』と口角が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────が、オリオトライに当たる瞬間、チンッと乾いた音が響き渡り、弾丸が左右に分裂……いや。両断された。

 

『『『────は?』』』

 

「───あれ?」

 

 全員の口から呆けた声が出ている隙に、納刀を終えたオリオトライが一瞬で三日月との距離を詰め、()()()()()を放った。

 三日月は防御するが、呆気なく隣のバイタルケーブルに叩きつけられてしまう。

 

「───あ、いっけね。マジでやっちゃった。……まっ、いっか」

 

『『『良くねえよッ!!!』』』

 

「ガっちゃんヤバイよッ!! 三日月が落ちていくよッ!!」

 

「急いで行くわよッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「惜しかったねぇ。あそこで真喜子君がマジにならなかったら勝ってたのにねぇ。……ところで、三日月君は大丈夫かな?」

 

「Jud. 既に術式を展開し、受け止める準備は出来てます。───以上。

ところで酒井学長。あのリアルアマゾネスの給料を二割カットしといてください。───以上」

 

「いや、流石にそれはやりすぎなんじゃ───ああ。Jud. やっておきますんで、モップとかを向けないでくれ」

 

「分かればよろしい。───以上」

 

「……さて。武蔵と極東を取り巻く、この果てしなく面倒な世界で、彼らはこれからどう生きてくのかね……?」

 

「推測しかねますが『聖譜』によれば、そろそろ世界の全てが終わりです。───以上」

 

「末世か……」

 

 

 

 




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#3 葵・トーリ

 ……一昨日、たった二話でランクインしたことに未だ驚いているメンツコアラです。
 たった数日でお気に入り登録者が百人越え。
 改めて言わせてください。

 ありがとうございましたm(_ _)mッ!!!!
 これからも境界線上のIRON BLOODEDの応援をよろしくお願いしますッ!



 あと、シンフォギアゴーストとハイスクールGEEDもお忘れなくッ!
 それでは本編どうぞッ!





◇◆◇午前9時00分 品川暫定居住区 ヤクザ事務所前◇◆◇

 

 

 

 

「───で、品川は貨物艦で、暫定移住区って名前の『市場街』があるの。管理もざるだからヤクザとかの自由業もあって───て、こらこらッ! 後からやって来て、勝手に寝ないッ!」

 

(((鬼畜だこの教師……ッ!)))

 

 誰もが心の中でそう叫ぶなか、梅組の生徒は力尽き、倒れ伏していた。

 戦闘系ではない生徒はもちろん、ほぼ全員が息を切らしている。もっとも、ここまでの約30分ずっと全速力でオリオトライについて走っていたのだから無理もなかった。

 

「まったく……残ってるのは二人だけ?」

 

 オリオトライが視線を向けたのは、他とは違い、呼吸が乱れていない者二名。そのうちの一人だった鈴が『私は運んでもらってたから』と否定するが、オリオトライは『それが「チームワーク」なんだから大丈夫』と教える。

 そして、オリオトライは生き残っていたもう一人に視線を移す。

 

「───で、三日月。あんた、なんで生きてるの?」

 

「? ダメだったの?」

 

「いや、そうじゃなくてね。私、結構マジで蹴ったから、少なくとも肋七本くらいは折れてると思ってたんだけど……」

 

 オリオトライは三日月が側に置いていた、刀身が折れたソードメイスを見る。それだけでもオリオトライの蹴りがどれ程の威力だったのかが分かるだろう。

 

「聞いたでござるか、ウッキー殿。この教師、ガチでミカ殿を殺すつもりだったでござるよ」

 

「まさに鬼畜の所業。リアルアマゾネスは伊達ではなかったか」

 

「そこ、聞こえてるわよ」

 

 点蔵たちを睨み付け、後でお仕置きすると決めたオリオトライは三日月に生きている理由を聞いた。

 

「多分、武蔵。受け止めてくれたとき、治療もしてくれたんだと思う」

 

「あなたの師匠は過保護ねぇ。

(まあ、()()()使()()()()()()から良しとしますかね)」

 

 オリオトライの視線が自然と三日月の背中。正確には、その一部を覆うカバーに向けられる。

 そんなとき、事務所の扉が勢いよく開き、中から四本腕の巨人……つまり、魔神族が姿を表した。

 

「うるせぇぞッ! 何処のどいつだッ!」

 

「ふひぃッ!?」

 

「あらあら魔神族も落ちたものねぇ……て、三日月? あんたは手を出さなくていいわよ」

 

「……分かった」

 

「それじゃあ皆ッ! 今から実技を始めるわよ。魔神族の倒し方、よぅく見てなさいッ!」

 

 そう言ったオリオトライは魔神族の前まで歩き、その巨体を睨み付け、一方の魔神族も負けじと睨み返した。二人は互いに歩み寄り始める。

 

「なんだ、てめえ? うちの前で遠足か?」

 

 ───互いの距離 三メートル。

 

「この前の高尾の地上げ、覚えてる?」

 

 ───二メートル。

 

「はぁ? そんなの何時ものことで覚えちゃいねぇな」

 

 ───一メートル。

 

「理由も分からずに殴られるのって大変よねぇ」

 

 明らかな挑発。それにキレた魔神族はオリオトライに殴りかかった。

 放たれた拳は右側二つ。その丸太並みの太さを持つ腕の力はかなりのもの。そんな魔神族の拳を、オリオトライは軽々と避けて見せた。

 

「野郎ぅッ!」

 

「野郎じゃないでしょ? こんな乙女に対して何を言ってんだか」

 

(((乙女? ……誰が?)))

 

 大半の生徒がオリオトライの言葉に疑問を持ったが、口に出せば自分達の首が飛びかねないので絶対に言わない。

 

 オリオトライと魔神族。二人が暴れるにつれて品川に響く騒音に、品川の住人たちが集まってくる。

 やれ『ぶっ飛ばせ』だの『なにやってんだよ』だのと野次が飛んでくるなか、オリオトライは生徒に魔神族の倒し方を説明し始める。

 

「いい? 生物には頭蓋があり、脳があるのッ! 頭蓋を揺らせば、同時に脳が揺れ、脳震盪を起こすわッ! で、魔神族の頭蓋の揺らし方は───こうねッ!」

 

 ガツンッ、とオリオトライの刀が魔神族の左角をとらえ、

 

「そんで対角線上を素早く打つッ!!」

 

 勢いよく振り上げられた刀は先程オリオトライが叩きつけた箇所の対角線上を正確に打ち付け、魔神族は白目を向いてその場に倒れ伏した。

 オリオトライはスッキリしたと言わんばかりの笑顔で生徒たちの方を向き、

 

「じゃあ、今度は皆がやってみよ───」

 

 バタンッ、とオリオトライの言葉を遮って、事務所の扉が閉まり、更には施錠までされた。

 

「あら? 警戒されたかしら? それじゃあ───」

 

 『ぶち破ってカチコミしますか』とオリオトライが続けようとしたとき、それを遮るものが野次馬たちの奥から現れた。

 

「おいおい皆。こんな所でなにやってんの?」

 

 オリオトライ、梅組全員。そして、野次馬の視線がその者、葵・トーリに集まっていき、住人たちは自然と左右に別れて道を作っていく。トーリは周りから聞こえる『武蔵の生徒会長』だの『不可能男(インポッシブル)』と自分を呼ぶ声に答えながら、出来上がった道を堂々と歩いていき、梅組とオリオトライの間で立ち止まり、梅組の生徒たちと向き合った。

 

「なんだよ皆? そんなに呼ばなくても俺、葵・トーリはここに居るぜ?

 しっかし、皆、奇遇だな。やっぱ皆も並んだのかよ?」

 

 そう言って、トーリが脇に抱えていた紙袋を皆に見せが、彼らはそれを見ていない。なにせ、彼らはトーリの後ろで怒りのオーラを放つオリオトライしか見えていなかったのだから。

 

「……で? 授業サボって堂々とエロゲ買いに行った子が、今さら何のようかな? ねぇ、トーリ?」

 

 生徒や住人たちには、オリオトライの背後に阿修羅が見えているが、トーリは見えていないのか、涼しい顔でオリオトライと向かい合う。

 

「先生、知ってたのかッ!? 俺がエロゲを買いに行ったのッ! やっぱ俺たち一心同体なんだなッ!」

 

「ハッハッハッッ! もしそうなら、君、今すぐフルボッコにされてピーーーを潰された後、武蔵から紐無しバンジーをすることになるんだけど?」

 

「おいおいッ!? いくらなんでも俺の息子を機能停止させるとか酷すぎねッ!? ならせめて先生のオパーイを揉ませてくれよッ!」

 

「オイコラ。目腐ってんの?」

 

「そんなことねぇよ。いまだってちゃんと───これが見えてるし」

 

 ───ムニュリ、と幻聴が聞こえそうなほどしっかりと、トーリはオリオトライの胸を鷲掴みした。

 

「な───」

 

『『『───』』』

 

「───あれ? これって攻撃が当たったことに?」

 

 ハイディーがそんな事を言っているが、オリオトライを含めた梅組の生徒たちは誰も聞いちゃいない。

 

 教師の……いや。オリオトライの胸を揉むという、先に死しか待っていないトーリの行動に畏怖する梅組の生徒たち(シロジロや三日月等のごく一部の生徒は『なにしてんだ?』とでも言いたげな視線を向けている)。

 

 予想していなかった行動に硬直してしまうオリオトライ。

 

 たっぷり十数秒。オリオトライの胸を堪能したトーリは梅組の方を向き、

 

「あのさぁ。皆、ちょっと聞いてくれ。前々から話してたと思うんだけど

 

 

 

 

 

 ───明日、コクろうと思うわ」

 

 

 

 

 

 

 

『『『……………………………………え?』』』

 

「フフフ愚弟? いきなり出てきてコクり予告とは、エロゲの包みを持ってる人間の言う台詞じゃ無いわね。もしかして、その相手って今持ってるエロゲのキャラ? だったら、コクる相手が画面の向こうにいるんだったらズッキャーンをコンセントにぶっ刺して感電して痺れ死ぬといいわッ! 素敵ッ!」

 

「おいおい姉ちゃんッ! これはエロゲ卒業の為に買ってきたんだぜ? 明日コクるんだから、エロゲからおさらばしないとなッ!」

 

「じゃあ愚弟、その相手とやらをさっさとゲロっちゃいなさいッ! さぁッ!」

 

「何を言ってんだよ。知ってるだろ?」

 

 

 ───ホライゾンだよ。

 

 

 そのトーリの言葉に、あるものは息を潜め、またあるものは『やっぱりか』と小さくため息をついた。問い掛けた喜美も何時もの余裕たっぷりの笑みではなく、優しく、しかし、哀れみの笑顔を向けた。三日月も少しだけ悲しそうな表情で話し掛ける。

 

「……トーリ。ホライゾンは───」

 

「知ってるよ、ブラザー。ホライゾンは十年前に、あの後悔通りで死んだ。親父たちが墓も作ってくれた。それは分かってる。

 ───だからこそ、その事からもう逃げねぇ。コクった後、皆には迷惑かけると思う。俺、何も出来ねぇしな。それに、その後やろうとしてることは世界に喧嘩売るような話だもんな。

 ……明日で十年目なんだ。ホライゾンが居なくなってから。だから、明日コクってくるッ! もう逃げねぇッ!」

 

 その目は何時もの何処か抜けた御調子者の目ではなく、決意を固めた男の目だった。

 その決意が揺らぐことはない。そう分かった喜美は静かに問い掛けた。

 

「じゃあ愚弟、今日は色々準備の日よね。そして、今日が最後の普通の日?」

 

「安心しろよ、姉ちゃん。俺、何も出来ねぇけど、高望みだけは忘れねぇからッ!」

 

 親指を立てて笑顔で答えるトーリに、何処か安心感を覚える梅組のメンバーたち。

 

 ……しかし、忘れてはいないだろうか? この男が、つい先程恐るべき所業をしたことに。

 

 ポンポンとトーリの肩が叩かれ、トーリが振り返ると、そこには俯いて、うっすらと笑みを浮かべるオリオトライの姿があった。フルフルと震えているのは先程胸を揉まれた事の恥ずかしさ……だけではない。

 

「ん? おお、先生ッ! 今の聞いてたかよッ!? 俺の恥ずかしい話ッ!」

 

「……人間って怒りが頂点に達すると音が聞こえなくなるんだけどぉ……」

 

「おいおい先生。もう一度だけ言うぞ? 今日が終わって、無事に明日になったら、俺、コクるんだ」

 

「あっそう───死亡フラグいただきぃぃぃぃぃッ!!!」

 

 ───教師オリオトライ。本日二度目の生徒をマジ蹴り。そのまま回転を加え、トーリを後ろのヤクザ事務所まで蹴り飛ばした。

 トーリは『ゴボォッ!?』や『ギャインッ!?』などの悲鳴を上げながら地面をバウンドし、そのまま事務所を貫通。裏にあった倉庫のシャッターで前衛的アートとなった。

 

「よっしゃああぁぁぁッ!」

 

『『『いやいやいやいやいやッ!!?!?』』』

 

「賢弟。愚弟を回収してらっしゃい」

 

「うん。分かった」

 

 こうして、梅組の一限目の授業は終了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

《おまけ》

 

『トーリ、大丈夫?』

 

「お、おーう……なんとか……」

 

『今から助けるからじっとしてて』

 

「……なあミカ。我が弟よ。何でお前の声が後ろから聞こえるんだ?」

 

『前から引っ張り出すよりも後ろから叩き出すのが早いって真喜子が教えてくれた。……それじゃあ、いくよ』

 

「待て待て待て待て待てッ! 『いくよ』が『逝くよ』にしか聞こえねぇよッ! 前から優しく引っ張り出してええぇぇぇぇんッ!!?!?」

 

 

 その後、事務所に新たな出入り口が出来たとか。

 

 

 

 

 




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次回『食事場の清純者』









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#4 学ぶとき

 どうも。メンツコアラです。
 たった3話でシンフォギアゴーストに勝とうとしているこの作品。
 そこで、ちょっとしたアンケートをとろうと思います。

 内容は『境ホラのキャラをMSに乗せるとしたら、何がいいのか?』と言うものです。

 対象となる境ホラのキャラは武蔵の住人(傷有りや立花夫婦も対象)。
 MSはHGのプラモで出ている機体(ビルドシリーズも可)となります。どしどしお答えください。


 

 今から遥か昔。

 神として天上へ昇った人類は争いの末、神々の力を失い、再び地球と呼ばれた大地へ戻ってきた。しかし、星の環境は酷く荒れ果て、人が住める場所は神州のみとなっていた。

 

 人々はかつての繁栄を取り戻すべく、『聖譜(せいふ)』と呼ばれる前時代の歴史を元に歴史再現を行っていた。

 しかし、ある出来事が世界各国による極東神州の分割支配を招き、各国の王はそれぞれの土地の戦国大名との合一を行ったのだ。

 

 そして現在、極東の戦国大名と世界各国の英傑たちは極東史の戦国時代と世界史の三十年戦争時代をやり直しつつ、世界の覇権を争っていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午前10時40分

   多摩・青雷亭(ブルーサンダー)◇◆◇

 

 

 

 

 日が昇り、店内に焼いたパンの香りが漂う中、出された水とパンを頬張る者が一人いた。

 

「餓死寸前はヤバいよ、正純さん。男子として通っているとはいえ、一応女の子なんだから」

 

「───ぷはぁ……いつも御迷惑おかけして申し訳ありません。この御恩は将来必ず返します」

 

「いいって。いいって。焼き損ねたパンと水を出しただけなんだから。お礼はP-01sに言ってちょうだい」

 

 店主の言葉に教導院の男子用制服を来た少女『本多・正純』の視線が、店の外にいる一体の自動人形『P-01s』に向けられた。

 

「それで、今日は生徒会の仕事? まさか、サボりじゃないでしょうね?」

 

「Jud. 三河に着いたら、副会長として酒井学長を関所まで送らないといけないので、今日は自由出席です。だから、午前中は小等部の講師のバイト。このあとは三河に着く前に母の墓参りに行こうかと」

 

「副会長さんも大変だね。そういや、親御さん、暫定議員の御偉いさんだっけ? 正純さんも卒業後はそっちに?」

 

「ええ、まあ……そのつもりです」

 

 店主は空になった正純の前に置かれたコップに水を注ぎ、自身も彼女の前に腰かけた。

 

「だったら、生徒会長になればよかったのに。総長はともかく、生徒会長は選挙でしょ?」

 

「……生徒会長には総長である葵・トーリが立候補したので。武蔵の住人たちにとっても、三河から転校して一年の私よりも武蔵生まれの彼の方が人となりを知ってるでしょうし……」 

 

 正純の言葉に、店主は『そうかい』と答えながら優しい笑みを向ける。正純の方は、今頃どうしているのだろう、と授業中であろう自分のクラスメイトたちの顔を思い浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

片や学び

 

片や教える時

 

 

 

配点《授業》

 

 

 

 

◇◆◇午前10時43分

    武蔵アリアダスト教導院◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 高等部三年梅組の教室では極東の歴史を学ぶ『極東史』の授業が行われていた。

 

 ここで一つ、オリオトライの授業方法について説明しよう。

 まず、彼女の授業は他のクラスとは違う。

 教師の質問に正しく答える事が出来れば授業点を『加点』。ここは普通だが、出来なければ、月始めに自己申告した『厳罰』を受ける事になっているのだ。

 また、厳罰の内容によって与えられる授業点も変動する。

 さらに、彼女の授業には教師の代わりに内容を説明する『ご高説』があり、此方は間違っても厳罰は受けなくてもいい。

 

 

 そして、今日もオリオトライが獲物を見定めていた。

 

「はい。じゃあ、次、ここ神州が暫定支配される経緯になった"重奏統合争乱"についてだけど……はい鈴ッ! 知ってるだけでいいから先生の代わりにお願い」

 

「ご、ご高説、ですか?」

 

「そうよー。私の代わりに授業するの」

 

 オリオトライの言葉に、Jud.と小さく答えた鈴は椅子から立ち上がり、指定された『重奏統合争乱』について説明を始めた。

 

「む、昔、世界は、現実側の神州と、べ、別の空間にコピーした、重奏神州に、分か、分かれて、ました。げ、現実側の神州には、神州の民、重奏神州には、せ、世界各国の民が住み、お互いに仲良くしてたと、思、思うんですけど……」

 

「いいわよ~その調子で続けて」

 

「安心しろよ、ベルさんッ! 危なくなったら俺が殴られるか、ミカが守ってくれっからさッ! 大丈夫ッ! 俺、今日は少なくともエロゲの最初の分岐点まで死なねぇから」

 

 そう言うトーリの手には、今朝買ったエロゲのアンケートと説明書が握られていた。

 

「また死亡フラグみたいなこと言って……てか、授業中に何やってんのよ」

 

「なんだよッ! 会員特典欲しいだけなんだからほっといてくれよッ!」

 

「そうしたいのも山々なんだけど、これもビジネスだから」

 

「きっ、汚えッ! てか、このエロゲ、主人公の名前変更できねぇのかよッ! 初プレイは『点蔵』にして、この黒髪貧乳委員長ルートをバッドエンドにしてやろうと思ってたのにッ!」

 

「何で自分でござるかッ!? 自分は金髪巨乳担当にござるよッ!?」

 

「安心しろよ。二周目は『ウルキアガ』で弟キャラ攻略すっから」

 

「貴様ァッ! 拙僧は姉キャラ担当と決まっておろうがァッ!!」

 

 いや、授業中に何やってんだよ───と普通の人なら思うだろう。しかし、このクラスにとって、このような出来事は日常茶飯事であり、また、真面目に受けている生徒は少なかった。

 

 

「貴様ら、静かにしろ。今、仕事中だ」

 

「あのね、シロくん。今、授業中でもあると思うんだけどな」

 

「おかしい……三河からの荷物がない……?」

 

 

「ねぇ、ガっちゃん。ここのネームってこんな感じ?」

 

「うーん……そこはもう少し暗くでお願いできる?」

 

 

「うるさいなぁ……原稿に集中できないじゃないか」

 

 

 ある者たちは攻略キャラはどうだのと言い合い、またある者たちは趣味を、またある者たちは夢の世界へ旅立っていた。

 そんなクラスメイトに鈴はどうしようかと困っていた。

 オリオトライが指定したのは『重奏統合争乱について知っていること』。鈴が座ろうとしないのは、まだ知っていることがあるからである。

 『あの、えっと……』と何かを言いたそうにする鈴。そんな彼女にオリオトライは助け船を出した。

 

「三日月ぃ~。皆を黙らせて、鈴を助けてあげて」

 

「Jud. 分かった」

 

 オリオトライに言われ、三日月は懐から長い筒が付いた黒い金属の塊……つまりはサイレンサー付きのピストルを取り出し、その引き金を躊躇なく引いた。

 放たれた一発のゴム弾はまっすぐトーリの頭を捉え、彼の口から『ニャバランッ!?』と悲鳴を上げさせた。

 三日月は銃を皆に見せ、次はお前だぞと無言で警告する。

 あっという間に優等生となる梅組(痛みに悶えるトーリ以外)。三日月がやるときは殺る男だというのは、すでに皆が知っていた。

 

「ミ、ミカッ! ひ、人を射っちゃ、メッ!」

 

「真喜子がやれって。それにゴム弾だし、トーリならボケ術式で防御出来るから「メッ!」……Jud. ごめん」

 

 流石の三日月も鈴には敵わなかった。

 

「鈴~? そろそろ進めて貰ってもいい?」

 

「あ、J,Jud. ご、ごめんなさいッ!そ、それじゃあ、ミカ、おね、がい」

 

 鈴のお願いにJud. と答えた三日月は通神を繋ぎ、鈴から送られてくる文章を読み上げた。

 

「えっと……『すべては、南北朝戦争です。当時、神州と呼ばれた極東の地に、二人の帝の代理人が存在し、争った戦争です。聖譜歴一四一二年に、その戦争のなかで地脈を制御していた神器が失われ、支えられていた重奏神州は地脈の制御を失って、こちら側、神州に落ちてきました。

 落ちた世界は半分以上が崩壊消滅。残った部分は神州と融合。その部分は重奏領域と呼ばれています。

 そして、重奏神州に住んでいた人々は神州に移り、事件の責任を追及。各地で争いが起きました。

 これが重奏統合争乱です』」

 

「───よろしい。言い感じね。次も鈴に頼もうかしら」

 

「あ、ありがとう、ミカ」

 

「お礼を言われることじゃないよ」

 

 それでもありがとう、と三お礼を言った鈴と言われた三日月は席に着席。それを確認したトーリは席から立ち上がり、教室にいる全員に聞こえるように声を張った。

 

「はいッ! じゃあ皆、注目ッ! 今夜は俺の告白前夜祭ってことで騒ぎまぁすッ! 場所は───」

 

「金のかからない場所にしろ」

 

 はっきりと言うシロジロの目は『金のかかる場所は許さん』と語り、金がかかる場所を選べば殺されるのでは?、と思わせるほどの気迫を感じさせた。

 

「なら、教導院(ここ)だな。去年みたいに肝試しでもすっか?」

 

「トーリくん……今時分は止めといた方がいいかもしれません。末世の影響か、去年に比べて怪異の発生率が上がっていて───」

 

「だったら、今夜は『除霊大会』だなッ! いいだろ、先生ッ!?」

 

「まあ、そろそろかなぁって思って宿直入れてたし……いいわよ」

 

「よっしゃあッ! じゃあ───」

 

「でも、その前にトーリ。君、厳罰ね」

 

「───……ほえ?」

 

 オリオトライの言葉に、トーリはなんで?、と疑問符を浮かべるが、それはクラスにいる者の大半が浮かべていた。

 

「実は、さっきの鈴のご高説、北朝の独裁が始まったのは一四一二年じゃなくて一四一三年なの。チョイミスね。まあ、その後の説明で十分挽回できたし、鈴はオッケー。そもそもご高説で失敗しても厳罰はないしね」

 

 でーもー、とオリオトライは教師が生徒に向けるべきでない悪い笑顔を浮かべ、

 

「───殴られるなら俺が代わりにって言ったバカがいたわよね~?」

 

「いやぁぁぁッ! 乱暴はらめぇぇぇぇッ!?」

 

 体をくねらせるトーリをほっといて、オリオトライは月始めに提出された自己申告した内容を確認した。

 

「えっと、トーリの今月の自己申告は───『ミカと脱ぐ』」

 

 その瞬間、教室にいた生徒たちの一部が目をキラーン☆と光らせた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 武蔵アリアダスト教導院の廊下。そこには『いかにも王様ッ!』といった格好をした中年、教導院の教頭兼 " 武蔵王 " 『ヨシナオ』。その隣には、旅行鞄を引く、女の子と見間違いそうなほど華奢な少年『東』が歩いていた。

 

「───しかし、武蔵の民も冷たいッ! 東くんが帰ってきたというのに、麻呂以外の迎えがないとは……」

 

「いや、余も静かな方が良いし、それに聖連に騒ぐなと言われてたので……でも、皆、通神で『早く帰ってこいよ』とか、色々と連絡をくれていたので」

 

 東の言う『皆』とはトーリたちのことである。ヨシナオは外道が集まる梅組に真面目な東をいれるのはどうかと思っていたが、東の言葉に自分の思い過ごしだったと判断した。

 

「ふむ……それは申し訳なかった。先の発言は聞かなかったことにしてもらえないかな?」

 

「Jud. 分かりました」

 

 そうしている内に、二人は梅組の教室前に到着した。

 

 

 

 

 ……したのだが、中から聞こえてくる声に、ヨシナオは扉を開けようとした手を止めてしまった。

 

 

『賢弟ッ! 全部脱がなくていいのよッ! そのまま机の上で片膝を抱えなさいッ!』

 

『……こう?』

 

『いいぃッ! 素敵よ賢弟ッ!』

 

『破、破、破廉恥ですわ…………ッ!』

 

『え、えッ!? み、ミカ、脱いでる、の……ッ!?』

 

 

『はだけた三日月ッ! ネタの神キタァァァァッ!!』

 

『ガッちゃんッ! 鼻血ッ! とりあえず、鼻血拭こッ!?』

 

『あの、ナイトさん? あなたも大変な事になってますよ』

 

 

『ハイディッ! 今すぐに印刷所に連絡だッ! これは売れるぞッ!』

 

『とりあえず、枚数は一冊三十枚くらいでいいかな?』

 

 

 

『おいおい皆ッ! なんで半裸のミカばっかで、全部脱いだ俺を見てくれねぇのッ!? 俺の方がヤベェだろッ!?』

 

『『『『『……はっ』』』』』

 

『鼻で笑うとか酷くねッ!?』

 

 

「なっ、何をやってるんだ、貴様らはぁぁぁぁッ!!?」

 

 ヨシナオは我慢出来なかった。もっとも学舎で『半裸』だの『全部脱いだ』だとの叫んでいたら、真面目な教師は誰だって怒るだろう。

 しかし、教室の中を見た瞬間、その怒りは明後日の方向へ吹っ飛んでいった。

 

 まず、視界に入ったのは教卓の上に立つ全裸(トーリ)。彼の彼処は術式を使っているのかモザイクがかけられている。

 次に写ったのは衣類のボタンを外し、肩や腹が見える程度に着崩し、机の上で言われたポーズをとる三日月。

 そして、鼻血を流したり、顔を赤くしたりなど、様々な反応を見せる生徒たち。東も三日月の姿を見た瞬間、顔を赤くし、両手で見ないように、しかし、隙間からチラチラと彼を見ていた。

 

(東くん、それは少女の仕草だぞ? しかし、なんと言うことかッ!? あの真面目な三日月くんまでもが……ッ!)

 

「ん? 扉が開いて───あああああああああッ!?」

 

 慌てて教室の外に出たオリオトライは扉を閉め、ヨシナオに乾いた笑みを浮かべながら挨拶した。

 

「おはようございますッ! 東を連れてきてくれたんですねッ!? ありがとうございますッ!」

 

「あ、うむ。……て、ちがぁぁぁうッ! 君、これはいったいどういう────」

 

「東、帰ってきたばかりで悪いんだけど、ちょっとだけ待っててねッ!」

 

 その言葉を残し、オリオトライは教師の中へ消えていった。

 それから数秒もしない内に破壊音が聞こえてきたのは幻聴だと思いたい。ヨシナオは胃薬を買おうかと真剣に悩むのだった。

 

 

 

 

 

《おまけ》

 

「さあ、賢弟ッ! 待ち構えている愚衆共に見せてやりなさいッ!」

 

「……これでいい?」全裸

 

「「「「───ブハァッ!?」」」」

 

「女子数名が鼻血出してぶっ倒れたでござるよッ!!!?」

 

 

 




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#5 階段下の相談者たち

すいません。
他作品の投稿で三週間近くも投稿をあけていました。
これからもこんな事が続くでしょうが、御了承ください。



アンケートの件について。

この作品関係で始めた、武蔵の住人をMSに乗せるとしたら、どんな機体がいいのだろうアンケート。
これは単純に妄想するだけ、この作品に出すという感じのものではないので、好きなように投稿してください。





◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 した者は負け組

 

 された者は勝ち組

 

 されど、した者は皆、結果がどうであれ勇者となる。

 

 

 

配点《告白》

 

 

 

◇◆◇午後1時 30分

   武蔵アリアダスト教導院 正面口前階段◇◆◇

 

 

 

 放課後。

 用事がある一部の生徒を除けて集まった梅組のメンバーは下りる者の邪魔にならないように階段を陣取り、一人だけ皆の前に立つネシンバラに視線を向けていた。

 

「それじゃあ、今日の生徒会兼総長連合会議を始めます。議題は『葵君の告白をどうやって成功させるか』。誰か、意見ある人いないかな?」

 

 議事録係りを勤めるネシンバラの言葉に、皆は近くにいた者とで、ああだこうだと相談を始める。

 そんな中、トーリは隣に座っていた三日月に問いかけた。

 

「なあ、ミカ。お前、告白された事あるんだろ? なんかアドバイスとかねぇか?」

 

『───ッ!?』

 

 突如投下された爆弾に、一部のメンバーが驚き、三日月に彼らの視線が集まる。

 

「フフフ聞く相手を間違えたわね愚弟。賢弟は『される』側よ? 『する』側と一緒にしないことね」

 

「いやいや、それくらいは分かってるよ姉ちゃん。ただ、される側の心情も把握したら成功率あがんじゃねって思ってさ」

 

「なるほど。愚弟にしては考えるじゃない」

 

「あ、あの~……ちょっといいでござるか?」

 

 三日月に視線を向けていた者達を代表して、点蔵が葵三姉弟に問い掛ける。決して、周りから任された訳ではない。

 

「なんだよテンゾー。今、結構重要な所なのに」

 

「いやまあ、あのトーリ殿が真面目に考えていることに明日は剣山でも降ってくるのかなぁ、と思わなくもないでござるが……え? 三日月殿って、そんなにモテるの?」

 

「モテるも何も、ミカは昨日、下の学年の子に告白されたばっかりだぜ」

 

 トーリの更なる投下に、一部の男女に衝撃が走る。

 

 皆は知っていた。三日月は荷物もちを率先してやったり、助けを求められたら手を貸すなど、確かに根は優しいが、一度キレたり、本気になった時は容赦が無いことを。しかし、それは付き合いの長い彼らだからこそ知っている事実で、他の者が見せられるのは優しい三日月ばかり。しかも三日月は教導院の中でもイケメンの分類に入る。結果、多くの者が告白するのだが、

 

「でも、断ったんでしょ?」

 

「Jud. 相手の事をよく知らないのに、軽い気持ちで付き合うのはダメだから」

 

 三日月の言葉に一部の女子(※誰とは言わない)は一安心。一方、日頃から性癖と色欲全快のとある三人はそんな三日月が眩しく思えた。

 

「フフフ。モテたかったら三日月を見習うことね、ロリコンに姉萌え半竜に金髪巨乳推し犬臭忍者」

 

「ちっがーうッ! 小生はロリコンではありませんッ!」

 

「貴様ッ! 姉萌えをバカにすると言うのかッ!」

 

「てか、なんで自分だけディスられてるんでござるかッ!?」

 

「ハイハイ彼女いない歴=年齢の愚衆どもは放っておいて、賢弟、愚弟に何かアドバイスある?」

 

「「「『彼女いない歴=年齢』は言うなぁぁぁぁぁッ!!!」」」

 

 ふくよかな男子『御広敷・銀二』とウルキアガ、点蔵の男子三人の叫びは無視して、三日月は喜美の問いかけに首を横に振った。

 

「俺の考えがホライゾンの考えじゃないし、それに告白するって事自体がどんな感じかよく分からないし」

 

「そっか。じゃあ、テンゾー。お前はなんか無いの? 回数だけはこなしているんだから、何かしら案はあるだろ?」

 

「ちょっッ!!? さっ、さっきから自分だけ色々と酷い扱いを受けてござらんかッ!?」

 

「いいから話してみ?」

 

 めんどくせえなぁ、とでも言いたげなトーリの顔に一発全力でぶん殴りたい気持ちに駆られ、しかし、事実なので反論できない点蔵はなんとかその気持ちを押さえ込み、落ち着いた所で懐から一組のペンとメモ帳を取り出した。

 

 彼が提案したのは手紙作戦。前もって伝えたいことをメモし、告白する代わりに手紙にして渡す。これなら失敗することもなく、相手もすぐに返事を出さなくてすむ。

 点蔵が考えた、気遣いも十分といえる作戦なのだが、トーリは、

 

「え゛───ッ!? でも、それってお前の失敗談だろ? 大丈夫かよッ!」

 

「最っ悪でござるな貴殿ッ!」

 

「まあ、エロゲ忍者のわりに方法だけは悪くないわね。()()()()()

 

「姉ちゃん、ひょっとして方法以外のテンゾーの全てを全否定じゃねッ!? 確かに犬臭いし、ござる語尾がうぜぇなぁ、とは思うけどよ、何も全否定しなくても……あれ? テンゾーのいいところって何かあったっけ?」

 

「この姉弟、最悪でござるなッ! てか、他も考え込むなッ!」

 

 点蔵が何かを叫んでいるが気にせず、梅組の外道どもは点蔵のいいところを考えるが何かあったっけ?、と首を傾げる始末。

 

 こいつら一発ずつ殴ってやろうか、と本気で考える点蔵だったが、そんな彼に救いの手が差し伸べられた。

 

「そんなこと無いよ。点蔵は仕事早いし、言われたことは出来るだけこなそうって頑張ってくれる。それに毎日鍛練に付き合ってくれる、いい奴だよ」

 

「み、三日月殿ぉぉぉぉッ! 三日月殿だけが自分の救いでござるぅぅぅぅぅッ!」

 

 どういう仕組みか、帽子から涙を流し、三日月に抱きつく点蔵と、そんな彼の頭を何気なくよしよしと撫でる三日月。そんな彼らを見ていた武蔵の同人作家は一言。

 

「ダメね。両方とも攻めには向かないから、絵にならないわ」

 

「ちょっとそこッ! これは男の友情と言うやつで、BL要素をぶちこむのは御法度でござるよッ!」

 

「は? ごはっとナニソレオイシイノ?」

 

「はいそこ~そろそろ話を戻そっか~」

 

 ネシンバラの声に皆は本来の『葵・トーリの告白を成功させるゾッ☆』という議題に思考を戻す。

 

 皆は話し合い、トーリはとりあえず点蔵が提案した方法をとってみることにした。

 

「ん~……彼女の好きな所か……。

 えーと……

 

 顔がかなり好みで上手く言葉に出来ない。

 

 朝と昼に聞く通り道歌の歌声が綺麗で上手く言葉に出来ない。

 

 風が吹いたときに靡く髪が綺麗で上手く言葉に出来ない。

 

 しゃがんだ時にエプロンの裾からインナーがパンチラみたいに覗けて上手く言葉に出来ない。

 

 触れた手がひんやり冷たくて上手く言葉に出来ない。

 

 ウエストから尻のあたりのラインが抜群で上手く言葉に出来ない。

 

 ……やっぱり言葉にするのって難しいなぁ」

 

「どこがッ!? 結構スラスラと出てたでござるよッ! しかも後半フェチっぽくてキモいッ!!」

 

「キモいってなんだよッ! しろって言ったのテンゾーだろッ!」

 

「だからって限度があるでござるッ! 見るでござるよッ! 周りのひいている顔をッ!」

 

 そう言って、点蔵が指差した梅組の者たちが眉を寄せ、トーリから距離をとっていた。

 ひいていないのはトーリの話がいまいち理解出来ず、諦めてチョコを口に運ぶ三日月や相変わらずだな、と軽く笑う一部の者たちだけだった。

 

 そんな中、たった一人だけ、トーリにある疑問を抱く者がいた。その男の名前はキヨナリ・ウルキアガ。

 

「ちょっと待てトーリ。貴様の行為には不可解があるな。貴様……

 

 

 ───おっぱい県民のくせに、何故相手の胸に対する言及がないッ!?」

 

 

 

『『『───ッ!?』』』

 

「…………あれ? 今のって驚くべきなの?」

 

 疑問符を浮かべる三日月は他所に置いておいて、皆は自他が認めるオッパイソムリエのトーリが胸に関して言及無しという事実に、やれ『あいつ、本物のトーリか?』や、『まさかのヘタレ?』などと好き勝手に口に出す。

 そんな彼らにトーリは一句。

 

「 

 

  オッパイは 揉んでみないと 分からない

 

 

 ……季語どうしよ?」

 

『『『うわぁ……』』』

 

「つまりオパーイに対してはいい加減出来ないのね?」

 

「おうッ! 俺、こうみえて真面目だからなッ!」

 

「でも、告白するならエロゲ忍者の方法以外も試すべきじゃない?」

 

「けどなぁ……試すったって、俺自身がやるのはなぁ」

 

「だったら、誰かに代役を頼むとか出来るでしょ?」

 

 そう言った喜美の視線がトーリのすぐ側でチョコレートの甘さを味わっている三日月に移り、それに気づいたトーリは喜美と顔を合わせ、ニタリ、と口元を三日月に歪めた。

 

 周りの者たちは気づいていたが、この鬼畜姉弟のターゲットが自分達に移る可能性があるので何も言わない。

 

 

 喜美とトーリが肩を寄せあって、何かを話し合う。

 

 そんなとき、教導院から一人の女子生徒……会議に参加していなかったネイトが酒井と姿を現し、階段に集まる学友たちに声をかけた。

 

「こんなところで何をしてるんですの? 通行の邪魔とか考えませんの?」

 

「あらミトツダイラ。それに酒井学長も。二人とも三河に降りるの?」

 

「いいえ。ただ三河に降りる学長に証書などか必要でしたので」

 

「まあ……昔の仲間からの呼び出しでね。そういや三日月。お前、ダっちゃんから指名されてたぞ。何でも、娘さんがお前に会いたがってるんだとさ」

 

「ダっちゃん? …………ああ、槍のおじさんの事か。

 学長。俺、こっちの方が重要だから、ごめんって伝えてくれる?」

 

「こっちが重要って事は……本当に告白するんだなトーリ?」

 

「ああ。モチのロンだぜ」

 

 トーリの真剣な表情に、酒井は問いかける。他人の空似かもしれないぞ、と。それでも、トーリは告白するのだと答えた。

 

「今朝思ったんだよ。十年前のこの頃にホライゾンがいなくなったんだなって考えたら自然と、さ。

 ホライゾンじゃなくてもいい。赤の他人でもいい。何にも出来ない俺だけど、一緒にいてくれないかなって」

 

「そっか……まあ、頑張れや。俺は今から三河に行くから、遠くから成功を祈ってるよ」

 

 そう言って、酒井は一人、その場から去っていった。

 

 

 

 ───そして、鬼畜の憐れな獲物が決定される。

 

「愚弟、話を戻すけどやらせるわよ? 答えは聞かないけどッ☆ ───賢弟、ちょっと来なさい」

 

「……?」

 

 疑問符を浮かべるが、とりあえずは喜美の元に向かう三日月。彼が到着すると、喜美は彼の耳元であることを囁き、指示を出した。

 

「……Jud. 意味はよく分からないけど、やればいいんだよね?」

 

 三日月は階段から立ち上がり、喜美が指示した通りに……憐れな獲物に選ばれたネイトの元へ行った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

(……総長、本気で()()()()()()に告白をするつもりですのね)

 

 トーリと酒井の会話を聞いていたネイトは脳裏に、とある一機の自動人形の顔を思い浮かべていた。

 恐らく、その場にいた梅組生徒の中にも同じ顔を思い浮かべていた者がいただろう。

 

 その自動人形の名は『P-01s』。青雷亭で働く彼女が武蔵に現れたのは約一年前。住民票は持っているが記憶喪失といった珍しい個体を見て、皆がまず思ったのは十年前に亡くなったホライゾンという少女の事だった。

 彼女はあまりにもそっくりだった。トーリたちが知るホライゾンの面影があった。だからこそ、トーリが告白しようと思うのも無理はないのかもしれない。

 

(私も……見習うべきでしょうか……)

 

 次に思い浮かべたのは、一人の少年。八年前、ある出来事で自分の心を射ぬいた、背中に特徴的な突起物を三つ携えた一人の男。

 

 そんなとき、その男……葵・三日月がネイトに話しかけた。

 

「ネイト、今大丈夫?」

 

「ミ、ミカッ!? な、なんですの? 私に何か話があるなら、別に今じゃなくてもよろしいのではなくて?」

 

 ネイトは出来るかぎり平常心を保ち、三日月と向かい合うが、それは無意味に終わってしまうだろう。

 何故なら、三日月が彼女の両肩を掴み、

 

 

 

 

 

「───好きだ」

 

 

 

 

 

「─────────────────ふぇ?」

 

 三日月の言葉に思考が停止し、再起動するまで10秒。そして、言葉を理解し、声が出るまで5秒。計15秒の時間が過ぎ去って、彼女の口から出てきたのは普段の彼女からは聞かないような声だった。

 もっとも止まってしまったのは彼女だけではない。一部の女子も時間が止まったかのように硬直していた。

 

 ネイトは聞き間違いかもしれないと、三日月に何と言ったのか問いかける。結果は、

 

「好きだ」

 

「……え、えええええええええええッ!!!?!?」

 

 ネイトの悲鳴……悲鳴というには妙に嬉しそうな声音だが、その声量はその場にいた者たちが耳を塞ぐのに十分なものだった。

 

「ミ、ミミ、ミミミカッ!? 今、『好きだ』とッ! 確かにそう言いましたのッ!?」

 

「Jud. そうだけど?」

 

「あ、ああ、あああのですねッ! そういうのは、もっとこうシチュエーションと言いますかッ! もう少しロマンティックな場所で───」

 

「喜美に言われてやった」

 

「───はえ?」

 

 ネイトの目がブリキの玩具のようにゆっくりと喜美の方へ向く。

 さっと目をそらす喜美を見て、彼女は確信した。自分は遊ばれていたのだと。もちろん、三日月に悪気がないのも分かっている。彼は言われたことを忠実にやる男なのだから。

 

 でも……いや。だからこそ、彼女の怒りが頂点に達するのは早かった。

 

「フ、フフ、フフフフフフフフフフフフフフフ……」

 

 口元は笑みを浮かべているが、何故か逆立っているように見える髪に梅組の者たちは皆離れる。

 

 さすがの三日月もあれ?やっちゃった?、と後悔するが、すでに遅かった。

 

「───三日月のバカァァァァァッ!」

 

 ……今さらかもしれないが、ネイトの体には半分だけ人狼の血が流れている。その影響か、彼女の力は梅組の中でもトップに立つ。

 

 そんな彼女が人狼の脚力で、ある場所を蹴り上げればどうなるだろうか?

 

 

 ───答え:言葉では表現できない。

 

 

「○@◇◆”¶〈♭━⑤☆▽ッ!!?!?!?」

 

 前世で数多くの痛みを味わい、それらを悲鳴をあげずに耐えきった三日月だったが、経験したことのないその痛みだけは……男にしか理解できないその苦痛だけは耐えることが出来ず、その場に崩れ落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 数分後。何とか立ち上がることの出来た三日月が喜美と一緒にネイト&浅間の説教を受けたのはまた別の話。

 

 

 

 




次回は各々が商店街で買い物をするシーンになると思われます。

それともうひとつ、少し前に投稿したFGO×ウルトラマンガイアの作品。あれって、もう数話くらい投稿した方がいいのでしょうか?


まあ、今回はこれにて。
お読みいただき、ありがとうございました。




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#6 本多の闇

境ホラ×鉄オル作品。
第6話の投稿です。今回は前回よりも少し時間を遡ってからのスタートです。それではどうぞ。






◇◆◇午前10時 43分 多摩・青雷亭◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 三年梅組の生徒たちが真喜子の授業を受けている頃。

 

 正純は予定していた墓参りへ行く時間が来るまでの間、店主と世間話をしていた。

 

 

「そういや正純さん。あの子はちゃんと勉強してるかい?」

 

「あの子? ……あの、一体誰の事でしょうか?」

 

「? ……──ああ、ごめんごめん。三日月の事だよ。正純さんが勉強を見てくれてるんだろ? あのバカ息子、興味のあることはちゃんとするけど、それ以外は別にいいってサボる癖があるからねぇ」

 

「ああ、三日月ですか。確かに彼はキッパリしすぎてるところはありますけd────へ? む…息、子……?」

 

「そうだよ。あの子とその兄、姉のトーリと喜美は私の子さ。驚いたかい?」

 

「い、いえ、そこまでは。言われてみると、確かにあの姉弟からはあなたの面影が感じられますから」

 

 

 しかし……と正純は三日月の顔を思い浮かべ、店主と照らし合わせてみる。だがやはり、三日月には彼女の面影が感じられないのだから。いや、もしかしたら父親似という可能性も……

 

 

 

「三日月と私、似てないだろ?」

 

「そ、そんなことは───」

 

「誤魔化さなくてもいいよ。……昔の私も、今の正純さんと同じだったからね」

 

「え───……?」

 

 

 悲しそうな表情を見せる店主に正純は思わず聞き返してしまった。すぐに誤魔化そうとするが、店主は笑って許す。

 

 

「あの子が生まれた日……初めてあの子とトーリの産声を聞いたあの日、私は二人の母親になったんだって確信した。だけど、月日が立つにつれて、三日月の異常に気づき始めたのさ。

 

 私の親族にも父親の親族にもない身体的特徴。

 時折見せる、子供とは思えない冷酷な判断力。

 他の子が遊ぶような玩具には眼もくれず、兵士がやるような武術や読書ばかり。

 まるで、こんな世の中を生き抜くための術を身に付けようとしているみたいに。

 

 そんな三日月を見るたびに、私は何度も思ったよ。本当に自分の子供なのかって……最低だろ?」

 

 

 店主の言葉に正純はどう返すべきか悩んだ。

 気を使って、『そんなことはない』と言うべきか?

 それとも冷徹に『その通りだ』とでも言うべき?

 どちらが最良であり、そうでないかなんて正純には分からない。

 しかし、

 

 

「……確かに、最低かもしれません。自分の子をそうじゃないと思うほど、子供にとって辛いことはありませんから」

 

「だよね……それは分かって───」

 

「───で、でもッ! 三日月はやっぱり店主の子供だと思いますッ! そりゃあ、アイツはぶっきらぼうで不器用で何事もキッパリしすぎてて、私の秘密を知ったときも興味なさそうに『ふーん』の一言だけでしたし……だけど、私が空腹で倒れた時とかはここまで運んでくれたり、家まで来ては飯を作ってくれたり、そう言った優しいところはあなた譲りだと思いますッ! 

 だから、その、えっと…………すいません。自分でも何を言っているのか……」

 

 

 すみません、と頭を下げる正純に、店主は気にしなくていいと笑って見せる。

 

 

「その気遣いだけで十分だよ。それに、この事は三日月にも話したことがあるんだ」

 

「あるんですかッ!? ……ほ、本人は何と……?」

 

「『別に気にしない』の一言だけさ。キッパリしすぎて、身構えてた此方がバカみたいに感じたよ」

 

「何というか……三日月らしいですね」

 

「そうだろう?」

 

 

 雲ひとつない青空に浮かぶ太陽が見守るなか、自然と笑みがこぼれる二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───くしゅッ」

 

「み、ミカ、大、丈夫?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三日月といえば、一つ聞きたいことがあるのですが……」

 

「なんだい?」

 

「あいつ、ハードポイントを着けてないじゃないですか。それで気になって聞いてみたんですけど、『俺には必要ないから』、としか答えてくれなくて……」

 

「で、詳しいことを私に聞きたいと。確かに知ってはいるけど……ごめんね。私からは教えられないよ」

 

「そう、ですか……」

 

「どうしても知りたいんならトーリとかに聞いてみたらどうだい? クラスメイトなんだろ?」

 

 

 店主に言われ『考えておきます』と答える正純だが、去年転校してきた身として、まだトーリ……いや。クラスメイト全員との距離感を掴めてはいない。故に、どう聞けばいいのか分からなかった。

 そんな正純の心情を悟ったのか、店主はある提案をする。

 

 

「正純さん。もし、今よりも皆と仲良くなりたいと思うんなら『後悔通り』を調べてみな」

 

「後悔通り……それって、あの教導院前の?」

 

「そう。そこに正純さんの知らない真実がある。あと一歩、踏み出してごらん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午前10時 54分 奥多摩・墓所◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ああ言われたが、後悔通りに何があるんだろう?)

 

 柄杓と水を入れた桶を手に、正純は自分の母親の墓へ向かう中、店主の言葉の意味を考えていた。

 あと一歩踏み出せば、何かが見えてくるかもしれない。

 

 少し開けた場所、武蔵の全体を見下ろせるその場所で正純は教導院がある方角に視線を向けた。

 

 

「後悔通り、か…………」

 

 

 呟く正純の頬を風が優しく撫でる。

 そんなとき、墓所の砂利を踏む足音が彼女の後方から聞こえた。

 

 

「誰がたそがれているのかと思えば、正純様でしたか」

 

 

 聞こえてきた知った声に振り返ってみれば、そこには知った顔が、青雷亭で働く一機の自動人形が二冊の本を脇に抱え、桶を両手で持って立っていた。

 風に靡く灰色の髪。人の手によって造形された、整った容姿。感情を表すことはない整った顔。その自動人形の名は、

 

 

「P-01s」

 

「Jud. もう空腹は大丈夫なのですか、正純様?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、こんな所で会うとはな。掃除か?」

 

「Jud. ここの掃除は日課としておりますので。また命題の一つとして正純様が御貸ししてくださった本を静かな場所で読むこともあります」

 

 

 肩を並べて本多家の墓の周りに生えた草を抜く二人。

 P-01sはその手を一旦止めて、表紙に『指導者言行録』とかかれた本を見せ、顔色一つ変えずに感想(五割……いや。八割が批判にしか聞こえない)を言った。そんな彼女にそうか、と苦笑いで答える正純だが、そんなとき、P-01sが脇に置いていた野菜の栽培に関する本が視界に写った。

 

 

「P-01s。その本はどうしたんだ? 貸した覚えがないのだが……」

 

「これは三日月様の愛読書です。これを見て、家庭菜園について勉強しているのだとか。しかし、すぐ枯らしてしまう三日月様に、P-01sは彼に農業の才能はないと判断します」

 

「は、はっきり言うんだな……」

 

 

 ───Jud. そこ答えたP-01sは抜いた草を近くの下水路まで持っていく。すると、溝蓋の隙間からジ◯リの黒丸妖怪を思わせる生物、下水処理をする黒藻の獣が姿を現し、P-01sが差し出した草を食べ始めた。その内の一匹がP-01sに一言、

 

 

『ダイジョウブ? バレテナイ? オーケー?』

 

「大丈夫です。ばれておりません。我々の活動は完璧です」

 

(バレてるぞ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、正純様はこの墓をよく手入れされているようですが、誰が眠っておられるのですか?」

 

「私の母のものだ。遺骨は無く、遺品だけ入れている……と言われても、母親のいない自動人形には意味が分かりづらいか」

 

「Jud. ですが、率直に申し上げますと、正純様はお母様がお好きなのですね?」

 

「好き、か……───」

 

 

 正純はそう一言口にしただけで質問に答えず、草むしりを再開しようとしたが、その時、P-01sが突然唄いだした。彼女が口ずさむ曲にまた手を止める正純。

 その曲は『通し道歌』。

 

 

「───この子の十の お祝いに♪

 ───両のお札を納めに参ず♪」

 

 

 その唄は正純も知っている。極東ではメジャーな童謡だ。

 幼き頃、彼女の母親が子守唄として歌ってくれた……

 

 

「───通しかな……♪」

 

 

 気がつけば、P-01sに続くように正純も通し道歌を口ずさんでいた。

 なぜ正純が歌ったのかは感情を持たないP-01sには分からない。無意識の内でなのか? はたまた……

 

 

「どうかなさいましたか、正純様」

 

「……いや。昔のことを少し思い出していたんだ。

 私は元々三河にいたんだ。三河の君主、松平には二つの本多が必要とされていた。

 

 一つめの本多は松平四天王の一人である本多・忠勝(ただかつ)を代表とする武闘系。

 もう一つは本多・正信(まさのぶ)を代表とする内政系の本多家。

 

 私の父は正信を襲名しようとしたが叶わず。代わりに私が正信の子、正純を襲名しようとしたのだが、それも叶わなかった……」

 

 

 正純は『正純』の名を襲名するため、どんな手段も厭わなかった。

 その手段が男になるための手術。

 まず胸を無くし、性別を変えるための手術を受けようとした。

 

 しかし、突然松平家が家臣の人払いを行ったため、その手段を受けることはなかった。

 

 正純の家を含めた多くの家臣が左遷や役の免除を受け、それ以降は自動人形が担当するようになり、目標を失った正純の父親は武蔵に、三河に残った母親は去年、『公主隠し』と呼ばれる神隠しにあい、姿を消した。

 

 

「ほんと……なんでだろうな……失ってばかりだ……」

 

 

 ポツリ……ポツリ……と正純の瞳から涙が溢れ出る。その滴は悲しみからか? あるいは悔しさからか? 隣で聞いていたP-01sには分からない。

 しかし、一つだけ正純に対する疑問が解けた。

 

 

「いつも男性の服を着ていらっしゃったのは、正純様の趣味ではなかったのですね」

 

『『『ヅカッ!』』』

 

「……なんで今の流れでそうなる……」

 

「いえ、ちょっとしたジョークです。それで、先程の正純様のお話ですが、なら次は失わないようにすればいいかと思われます」

 

「え……───?」

 

「失う辛さを味わった。失う怖さを知った。なら、今度は失わないように行動すればいいかと」

 

 

 P-01sの言葉に唖然とする正純。

 彼女の言葉を理解できなかった訳ではない。

 一緒だったのだ。かつて、正純が一人の少年に自身の秘密を明かした時、その少年に言われた言葉とほぼ同じ。

 

 

「P-01s。今の言葉は、三日月の……?」

 

「そうなのですか?」

 

「……ふ……ふははは───」

 

 

 正純は思わず笑ってしまった。

 偶然とはいえ、同じ言葉を二回も言われてしまったのだ。

 正純は一通り笑った後、涙を拭い、顔をあげる。そこには先程の曇った表情はなく、どこかスッキリした表情になっていた。

 

 そんなとき、ステルス航空を終えた武蔵が包んでいた術式を解除し、太陽の光が武蔵に住まう住人を照らした。

 そんな武蔵に近づく一隻の航空船。それは松平のもの。そこから通神がつながり、武蔵中に映し出されたモニターには三河の当主、松平・元信の姿があった。

 

 

『やあ、久しぶりだね、武蔵の諸君ッ! 先生の顔、覚えているかい? 毎度毎度、私が三河の当主、松平・元信たッ!

 今日はみんなの為に面白いものを見せようと思っているッ! ちょっとした花火を用意しているんだ。楽しみにしていて欲しいッ!

 

 では、本日の授業はまずこれにてッ!』

 

 

 通神が閉じ、松平の船は一足先に三河へ向かった。

 

 その後ろを墓所から眺めていた正純は相変わらずだな、と苦笑していた。その横でP-01sは船に向かって手を振っていた。

 

 

「おのぼりの観光客のようなことを……」

 

「ガラスの向こうから此方に手を振っている方がいます。その方が此方を見て笑っておりましたので」

 

 

 そんなP-01sの言葉に『へぇ……』と返す正純。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、彼女……いや。武蔵に住まう者たちは思いもしなかっただろう。

 

 彼の言っていた花火が、これから起こる出来事の狼煙になるとは。

 

 

 

 

 

 

 

 




投稿が遅くなってすいませんでした。
これからもこんなことがあるとは思われますが、何卒ご了承お願いします。

武蔵キャラ×MSのアンケートはまだやっております。皆様の想像をどんどん投稿してください。

それでは読んでいただき、ありがとうございました。
感想、評価、お気に入り登録、心からお待ちしております。



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#7 前へ

◇◆◇午後1時 06分

   三河関所前街道◇◆◇

 

 

 

 

 

 雲一つない青空の下、三河へ続く街道。多くの者が三河から足を運ぶなか中、一組だけ他の者たちとは逆……つまり、三河へ向かう二人の男性……いや。一人は男性、一人は男装をした女性のペアがいた。

 

 そう。

 三河にいる旧友に呼び出された酒井と、そんな彼を関所まで見送る事になった正純である。

 

 

 

「───ってな訳で、トーリの告白前夜祭をするんだってさ。正純くんは夜どうするの? トーリたちとバカ騒ぎする?」

 

「騒ぎません。それに、そんな事をしてると聖連に知られたら───」

 

「ま、そういう過ごし方もありだってことさ」

 

「だとしても限度が……」

 

 

 他愛のない会話をする二人。そんな中、酒井はチラチラと自分達の横を通り過ぎる者たちを見ていた。

 

 

「……どうかされましたか?」

 

「いや。シロジロの奴に聞かれたんだが……確かに今日は変だ。気づいてるかい?」

 

「変、ですか? ……そういえば、武蔵への荷はあっても三河への荷がありませんね。こう一方的だと、まるで三河が形見分けをしているような───」

 

「オイオイ。物騒な事を言わないでくれよ。俺、今その三河に行ってるんだよ?」

 

 

 たはは、と苦笑する酒井。

 そんなとき、日の光を遮り、一艦の航空艦……極東の瀬戸内付近に存在する国家『K.P.A.Italia』の教皇総長『インノケンティウス』が所有するヨルムンガンド級ガレー『栄光丸』が二人の上を通りかかった。

 

 

「栄光丸か……そういや教皇総長、大罪武装開発の交渉に来たんだって?」

 

「はい。情報が正しければ」

 

 

 ───『大罪武装』。

 それは二人が向かう三河の当主、元信公が制作した、この世のパワーバランスを担う、七大罪の原盤となった八想念をモチーフにした八つの都市破壊級個人武装。

 

 そんな強力な武装には、ある噂があった。

 

 

「人間を部品にしている、か。正純くんはどう思う? 名古屋の人たちもその材料にされたんじゃないかって言われているけど」

 

「まさか。私がいたときも住人はちゃんと転居届を出していましたし」

 

「……でもさ、正純くんがそれをただの噂だと思う根拠は何処にある?」

 

 

 倫理に反するから? 常識で考えてあり得ないから?

 ならひとつ、と酒井はちょっとした意地悪をすることにした。

 

 

「元信公には内縁の妻と子がいるとしたら……どう?」

 

「そんな馬鹿な「それだよ」───……」

 

 

 酒井に言われて気づく正純。確かに彼女は無意識ではあるが常識的にあり得ないと結論付けてしまったのだから。

 

 

「正純くんは政治家志望で結構大きいことも考えているように思えるけど、一歩踏み込むことが苦手だよね。ちょっとは大胆になってもいいんじゃないかな? トーリや三日月みたいにさ」

 

「……三日月はともかく、彼を参考にするのはどうかと」

 

 

 正純の苦笑混じりの返答に、酒井も違いないと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして、二人は三河の関所前に到着した。

 

 

「はいお疲れさん。あとは好きに遊んでいいよ」

 

「忠勝公の娘さんに会ったらよろしく伝えておいて下さい。昔、同級生だったことがあるので」

 

 

 正純の言葉にJud.と答えた酒井は彼女に証書を渡し、関所の門を通ろうとする。しかし、その足はすぐに止められる事になる。なぜなら、正純が大声で彼を呼び止めたからだ。

 

 

「さ、酒井学長ッ! このあと、後悔通りを調べようと思ってますッ! そうすれば、私も一歩進めるでしょうかッ!?」

 

 

 正純の言葉に思わず笑みがこぼれる酒井。彼は手を振って、また三河へ歩みだす。それがどう言った意味を表しているのかは正純には分からない。

 しかし、何故か言われたような気がした。

 

 

 ───それでいい。その一歩が正純くんにとって新しい動きになるだろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午後3時03分

   武蔵アリアダスト教導院学生寮◇◆◇

 

 

 

 

 

(どうしよう…………)

 

 教導院前の階段で『葵・トーリの告白成功作戦会議』が行われている中、三年梅組の一人である東は会議に参加せず、寮長から指定された寮室に荷物を置こうとしていたのだが、一つ大きな問題に直面していた。

 

 指定された部屋の場所が分からないのか?

 ───否。手に持った紙に書かれた部屋番号は目の前の部屋と同じであるため、目の前の部屋べ間違いはなかった。

 

 すでに満員だったのか?

 ───否。扉を開けたとき、二人部屋の中には一人しか居なかった。確認したところ、その一人が同居人だった。

 

 では、その同居人に問題があるのか?

 ───その通り。

 どういうわけか、その同居人は()()だったのだ。

 

 流石に、年頃の男女が一つ屋根の下で同居するのはどうか?、と真面目な東は寮長、そして、真喜子に相談したのだが、

 

 

『ああ。ミリアム・ポークゥか……まあ、いいじゃんッ! いいじゃんッ! 若いうちは体裁が大変かッ! ガッハッハッハッ!』

 

『転居届欲しいから許可下さい? いいじゃんッ! いいじゃんッ! 若いうちは体裁が大変かッ! アハハハハッ!』

 

 

「───押しきられる余も余だけど、どうしよう……?」

 

 

 深い溜め息を吐き、俯く東は頭を抱える。

 もう一度許可を貰いに行くべきか、諦めて部屋に入るか。

 

 

「余はどっちを選べばいいんだ……」

 

「なに扉の前に突っ立っているの?」

 

「うわぁ───ッ!?」

 

「……人の顔を見て驚かないでくれる?」

 

 部屋の扉を開き、中から出てきた車椅子の少女『ミリアム・ポークゥ』に咎められ、東は素直に謝る。そんな彼に『別に良いわよ』と答えたミリアムは部屋に入るよう言う。

 

 

「え、でも……大丈夫なの? 余は男だよ?」

 

「別に? ルームシェア自体は初めてじゃないもの。まあ、男の子は初めてだけど慣れればいいのよ」

 

「そ、それで片付けるのはどうかと……」

 

「でも、さっき一度来て出ていってからずっと色んな所に抗議して、それでもダメだったからこの部屋の前に立っていたんでしょう? そんな人を突き返すのも酷ってものよ」

 

 

 自分のさっきまでの行動を見事に言い当てられ、東は抗議することが出来ず、よろしくお願いしますとしか言うことが出来なかったが、そんな彼にミリアムは一つだけ条件を出した。

 その条件とは『互いの生活に口を出さないこと』。

 

 

「そうね……極端な例を言うと、あなたがここに女性を連れてきてイヤらしいことをしていても私は何も言わないわ」

 

「つ、連れてこないよッ!」

 

「でしょうね。だって、あなた真面目そうだし」

 

 

 冗談よ、とクスクス笑うミリアムに東は恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じていた。

 

 

「改めて、私はミリアム・ポークゥ。よろしくね」

 

「ぅぅぅ……東です。よろしく……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午後2時25分

     多摩・鍛冶屋 源助◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この店の店主、源助。周りからはおやっさんと親しまれている彼は極東でも指折りの鍛冶士だ。例え、どんな難しい質問でも文句を言いながら引き受けてくれる。

 

 そして、今日も…………

 

 

「おやっさん。これ、修理お願い」

 

「……あのなぁ、三日月。おめぇの武器の扱いが荒れぇことは分かってる。けどよ? なんで俺の作ったソードメイスの分厚い刀身がくの字に折れ曲がってんだ?」

 

「真喜子」

 

「……あぁ。あのおっさん娘か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰がおっさんだッ!!?」

 

「せ、先輩ッ!? 急に叫んでどうしたんですか?」

 

「いや、なんか言わなくちゃと思って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし───」

 

 

 源助は改めて無惨な姿になったソードメイスを見つめる。

 ソードメイスの刀身の厚さは6センチ。それが見事に90度曲がっていた。それだけで教師オリオトライがどれだけ人間離れしているかが分かる。

 

 

「こりゃあ、一から打ち直した方がいいな」

 

「時間かかる?」

 

「まあ、他の仕事もあるからな。少なくとも一週間以上はかかる」

 

「そう」

 

 

 そう答えた三日月は部屋の隅で纏めて立て掛けれいた武具の中から少し短めの鎚矛(メイス)を2本取り出し、軽く振って、感触を確かめる。

 

 

「───うん。おやっさん、これ幾ら?」

 

「まさかと思うが三日月、それで戦うつもりか?」

 

「うん」

 

「……二刀流の奴は何人か知ってるが、メイス二本を両手に持つ奴はお前が初めてだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 読み返すことは出来ても

 

 消すことは出来ても

 

 戻すは出来ない一ページ

 

 

 

配点《思い出》

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少しだけ遡り、鍛冶屋の前では浅間、鈴、アデーレ。そして、キセルを加えた右腕義手の少女『直政』がバイクに繋がれた荷台に座り、そのバイクの持ち主が鍛冶屋から出てくるのを待っていた。

 

 荷台の中には野菜や牛肉など、今日、明日の宴に使う食材もあった。

 

 

「しっかし、大量に買いましたねぇ。三日月さんがバイクを出してくれて良かったですよ」

 

「だけど、いくらなんでも買いすぎじゃないかねぇ?」

 

「大丈夫ですよ。だって、明日はお祭りなんですから」

 

「祭り、ね……楽しい祭りになりゃいいけど」

 

「三河の花火も気になりますけど、皆やっぱり、総長の方に行くんですかね」

 

「わ、私、行き、ます」

 

 

 アデーレの言葉に鈴が答えるが、答えなくても分かっている。

 世界が大罪武装だの、末世だのと騒いでるなかで、一人の男が告白する。通し道歌に似た怖さがそれにはあった。

 

 トーリの告白。それは心機一転の再スタートか、清算の始まりか。それの意味を知るのは告白する本人だけ。

 もっとも、その意味がどうであれ、梅組の誰もがトーリの告白が成功するかどうかを気にしていた。

 

 

「そこら辺は実の姉である喜美も覚悟してんだろ? 成功すれば一番騒ぐのはアイツさね。なのに、あのバカはここにいやしない」

 

「階段の所に座ったままでしたね」

 

「さっき解散するとき、トーリが『後悔通りに行ってみる』って言ってたからな。あのバカはあれから十年、一度もあそこを歩いた事がない。喜美の奴はそれを見守ってんだろうね。バカな弟のバカな姉として」

 

「そういえば、なんで三日月さんは総長の所に残らなかったんでしょう? 兄弟なんですから見届けてもいいと思うんですけど。ちょっと冷たくないですかね?」

 

 

 

 

 

「そ、そんなこと、ない、よ? ミカ、優しいよ」

 

「そうですか?」

 

「うん。ミカね、私に、声、かける、とき、いっつも、躊躇う、の。私、目見えない、から。脅かさない、ように、って。でも、どうすればいいか、分からなくて」

 

「「「あぁぁ…………」」」

 

 

 鈴の言う三日月の姿を容易く想像し、納得する浅間たち三人。

 

 

「でも、ね? ミカ、近づくと、ミカの匂い、するの。汗臭くて、ちょっとだけ、血の匂い、して、でも安心、出来る。そんな、匂い」

 

「安心できるかどうかはともかく、確かにアイツはそんな匂いがしそうだね」

 

「……なんでしょう? 聞いてるだけだと危ない話にしかきこえないんですけど」

 

「あははは……あ、噂をすれば、出てきたみたいですよ」

 

 

 鍛冶屋から出てくる三日月に浅間たちはお帰りなさいと手を振る。

 

 

「ごめん。待った?」

 

「いえいえ。そんな事は───て、三日月? その腰の鎚矛は?」

 

「買った。ソードメイス、直るのに一週間はかかるって言ってたから」

 

「なんで二本? 一本は予備ですか?」

 

「? 二本同時に使うからだけど?」

 

 

 何かおかしい?、とでも言いたげに首を傾げる三日月に浅間は諦めたように首を振る。

 

 

「三日月って、そういう子でしたもんねぇ」

 

「……バカにされているのは分かるけど、人を笑顔でズドンする智には言われたくない」

 

「「ブフォ……ッ!」」

 

「ちょっとそこッ!」

 

 

 穏やかな日常を彼女たちは歩んでいく。

 

 明日はいい結果になるようにと願いながら……。

 

 

 

 

 




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#8 前夜祭

まず始めに……4ヶ月近くも開けてしまい、すいませんでした。
いや、エタった訳じゃないんです。ただ、色々とありまして……はい。単純に投稿を忘れていました。申し訳ございません。

こんな私ではありますが、これからも応援してくだされば幸いです。


それではどうぞ。


◇◆◇午後2時 17分

   三河・各務原一之関への街道◇◆◇

 

 

 

 

 

 木々が立ち並び、日の光が木の葉の間から覗くその場所で、酒井と二人の初老の男性、一人の少女が対峙していた。

 

 

「これはこれは。松平四天王の内、榊原・康政殿と本多・忠勝殿の御二人がお出迎えとはねぇ。井伊の奴はどうした?」

 

 

 酒井の何気ない質問に老眼鏡を掛けた男性『榊原・康政』が答えようとするが、それを隣に立っていたがたいのいい男性『本多・忠勝』が手で制した。

 

 

「おいおい。俺には秘密なのか?」

 

「すまんな。井伊の奴は重要な用事があって席を外しているんだよ。お前にも話せないような、な」

 

「なるほどねぇ……」

 

 

 忠勝の言葉に納得したように頷く酒井だったが、老いたとはいえ彼も松平四天王の一人。忠勝の言葉に嘘が含まれていることを見抜いていた。

 

 

「(来れないのは本当で任務ってのが嘘だな……だが、井伊程の奴に何があった?)……まあ、深くは聞かないでやるよ」

 

「……すまんな。

 ───ところで、お前の方こそ、()()()はどうした?」

 

 

 ───(゜゜;)(。。;)キョロキョロ

 

 

「アイツ?」

 

「三日月のことだよ。葵・三日月。今日連れてくるように頼んだろ?」

 

 

 ───(゜.゜)ピクッ

 

 

「あー、三日月ね……」

 

「どうせ、近くに待機させているんだろ? 俺に気配を覚らせないったぁ腕を上げたもんだ」

 

 

 ───(゜_゜)ソワソワ

 

 

「いやぁ……その件なんだけど、三日月の奴、大切な用事があるからって断られちまってなぁ」

 

 

 ───(|| ゜Д゜)ガーン

 

 

「マジかよ。なんで無理矢理にでも連れて来なかったんだ?」

 

「無理に決まってるでしょ? アイツの身内の用事だったんだからそっちを優先させてあげなって。

 ……ところで───」

 

 

 酒井の視線が、忠勝の後ろであからさまに『ショックを受けています』と言いたげな少女に向けられた。

 

 

「さっきから百面相したり、オーバーリアクションしているのってダっちゃんの娘さんだよね? どうしたの?」

 

「あーいや、大した理由はないんだ。ただ、こいつと三日月にはちょっとした関係g「父上、そこからは拙者が」」

 

 

 忠勝の言葉を遮り、後ろでorz状態から立ち上がった少女が前に出で、一礼する。

 

 

「───改めて、拙者、本多・忠勝が娘、本多・二代と申す者で御座る。以後、お見知り置きを」

 

「お、おう……」

 

 

 時代錯誤な挨拶ではあるが、その堂々とした佇まいにたじろぐ酒井を無視し、少女『本多・二代(ふたよ)』は語った。

 

 

「本日、三日月殿を呼んで貰ったのは、拙者の個人的な都合で御座いまして……実は拙者にとって、三日月殿は越えるべき壁でございまして、武蔵が三河に来るこの機会を狙って、父上から酒井殿を通して、三日月に声をかけて貰ったので御座る。まあ、本人は来ませんでしたが……」

 

「越えるべき壁、ねぇ……ダ娘ちゃん、三日月とヤりあった事あるの?」

 

「いえ、一度も。しかし、三日月は()()()()()()()()()()()()()()()()()ですので、戦ってみたいと思うのh「ちょい待ち、ダ娘ちゃん」……何か?」

 

「今、ちょっと耳を疑うような事が聞こえたんだけど……誰が勝てないって?」

 

「父上で御座る」

 

「誰に?」

 

「三日月殿で御座る」

 

「……………………本気(マジ)で?」

 

 

 酒井の視線が二代から忠勝に移るが、明後日の方向を向いて下手くそな口笛を吹いて視線を合わせようとしない忠勝の姿から真実であると理解する。

 

 

「───……ふッ」

 

「てめぇッ! 笑うんじゃねぇよッ!!」

 

「いや、ごめんごめん。でも、あのダっちゃんがミカに負けるなんて……くくッ」

 

「負けてねぇッ! 勝てないってだけだッ! だいたい、あのガキ自体がおかしいんだよッ! なんだよ、あの戦い方ッ!? 何度も修羅場を潜り抜けなきゃ、あんな動き、普通は出来ねぇぞッ!」

 

「さぁ? 俺に聞かれても分からねぇよ。ただ、これで "東国無双" の称号は取上だな」

 

「取り上げられてたまるかッ! くそ……覚えてろ、葵・三日月ぃぃぃぃッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───へくちッ……」

 

「ミ、ミカ、風邪?」

 

「分かんない。急に出た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 準備はいいか?

 肝は座っているか?

 さぁ、度胸を試すときだ

 

 

 

配点《肝試し》

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午後7時30分

    武蔵アリアダスト教導院玄関前◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「さて、貴様ら。揃っているか?」

 

 

 肝試しに集まった三年梅組の顔を月明かりのみが照らすなか、シロジロの問いかけに御広敷が手を上げた。

 

 

「トーリくんがまだであります。あと、地元の小等部の子たちは何処に───」

 

「バカ者ッ! 大事なのは親だッ! 何故なら、小等部の財布は親なんだからな」

 

『お前もバカだよッ!』

 

 

 

 

 

 

 

「あの……少しいいですか?」

 

「なんだ、浅間? 金のかかることはダメだぞ」

 

「かかりませんって……最近、末世が近付いているって噂がありますよね? 実際、各地で怪異現象が起こっていまして。その現象の一つに『公主隠し』っていう神隠しがあるから、皆に気をつけて欲しくて」

 

「『公主隠し』か……基本、一昔前の都市伝説だと思ってたんだけど、去年、極東でも一件発生したと報告がある」

 

 

 ネシンバラが『公主隠し』に関する過去のスレを見返し、被害者の名前を流し見て、去年の被害者の名前の所で止める。その人物こそ、

 

 

「正純のお母さんの事ですn「ヒィィィィィッ!?」───きゃッ!? ちょっ、喜美ッ! いくら怖いからって急に叫ばないで───って、ミカッ!?」

 

「くる、しい……」

 

 

 酸素が肺に行き届いていないのか、喜美が怖さを紛らわす為に抱き枕にしていた三日月の顔が青く染まっていく。

 『離して』と何度も喜美に訴えるが、抱き締めている当人は『聞こえないッ! 聞こえないッ!』と叫び、余計に腕の力を強めていくのだった。

 浅間も必死に引き剥がそうとするが、離れる気配はなく、三日月が絞め落とされるまで後僅か……そんな時、救いの手が現れた。

 

 

「オッケーッ! 遅れた───って、なにやってんの? ブラザーが今にも姉ちゃんのハグで沈みそうなんだけど?」

 

 

 何故か階段を登っての登場でなく、教導院の扉を開けて登場するトーリに皆の意識が向けられる。当然、それには喜美も反応し、怖い話から意識が逸れ、腕の力が弱まった。

 すぐさま三日月を回収する浅間。

 

 

「だ、大丈夫ですか、三日月?」

 

「うん、なんとか」

 

「おぉおッ!? 羨ましいなぁ、ブラザーッ! 武蔵一の巨乳が揉み放題じゃねぇかッ!」

 

「なッ!? トーリくんッ! 三日月に変なことをさせようとしないでくださいッ!」

 

「智、苦しい……」

 

「あら、智ッ! 貴女、私から賢弟を奪っておいて自分も絞め落とそうとしているじゃないッ! しかも御自慢の巨乳でッ! オッパイでッ!」

 

「喜美も大声で言わないでくださいッ!」

 

「うるさいぞ、貴様ら」

 

 

 

 

 ───この場に集まっている者たちは、この時までは信じていた。

 トーリの告白が成功しようが、しまいが、自分達の日常が変わることはない。世界はずっと今まで通りの姿でいる。

 

 そう……微塵も疑っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇三河・新名古屋城◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、始めようか。最後の授業(三河崩壊)をッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まったく……トーリくんも喜美も三日月に変なことをさせ過ぎです。三日月まで変態になったらどうするつもりなんですかッ!
ここは常識人である私がしっかりと三日月を守ってあげないと───って、直政、どうしたの?
……え? 私も同類?


次回、境界線上のIRON BLOODED 
『三河の花火』



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#9 三河の花火

◇◆◇午後7時53分

    武蔵アリアダスト教導院◇◆◇

 

 

 普段、日中は生徒の声や授業の内容が聞こえてくるのだが、今この時間に限っては、

 

『ゴヨー! ゴヨー!』

 

『フフフ! この包帯をどうして欲しい!? 落ちたくなかったら全力で私を崇めなさい! さぁッ!』

 

『止めんか、貴様ら! 経費がいくらかかると思っているんだ!!?』

 

 爆発音と肝試しを楽しむ少女たちの高笑いで満たされ、何処からか守銭奴の悲鳴が聞こえてくる。

 原因はトーリの仕込み……もとい、トーリが頼んだ者の仕込みである。爆発から逃げていく様は正に百鬼夜行を思わせ、精神的正常な者たちも二次被害を受けないために中庭へ避難していた。

 

「小生が思いますに、これ全部総長の仕込みなんでしょうなぁ」

 

「まったく……トーリくんはいつもいつも……一体何を考えて……」

 

 既に気疲れにより、肩で息をしている浅間。その近くでは組だったアデーレ、直政、三日月、鈴の姿もあった。

 

「わ、わたし、水、取ってき、ます」

 

 浅間を気遣って水を取りに行こうとする鈴だったが、急ぐあまりに、自分の近くに来た()に気づかなかった。

 

「いったい何の騒ぎだ、これはッ!」

 

「ヒッ……───」

 

 騒音を聞きつけて来た彼……ヨシナオが怒りの叫びと共にやって来る。偶然にも彼のすぐ近くにいた鈴は盲目で代わりに聴力が良いため、大きな音には弱い。驚きのあまりに、その場で固まってしまう。

 だが、運悪く、彼女の顔の向きがヨシナオの方へ固定されてしまった。

 

「何かね? 言いたい事があるのならハッキリと言いなさい」

 

 威圧的なヨシナオの態度。もし、それが気弱な鈴に向けられればどうなるか、答えは火を見るよりも明らかだった。

 

「ひぁああぁぁぁ!」

 

「な───ッ!?」

 

 文字通りの号泣。

 流石のヨシナオも彼女の涙を止めようとするのだが、突然、背筋を突き刺すような殺気がヨシナオを襲った。振り返ろうとしたその瞬間、首元に鋭利な物が添えられた。

 

「───何やってるの?」

 

「み、三日月、くん……!?」

 

 何処に隠し持っていたのか、三日月の持つフォールディングナイフが首元にある。その恐怖で言葉が上手く出ないヨシナオだったが、三日月にとっては関係ない。今の彼は仲間()を泣かせた事に対する怒りしかなかった。

 

「なぁ……何やってんd───」

 

「いい加減にするさね、この慌て者」

 

 ヨシナオの首にナイフを押し付けようとした瞬間、その腕を直政が止めた。彼女の隣には既に泣き止んだ鈴の姿もある。

 

「わたし、驚い、ただけ、だから……」

 

「えっと……じゃあ、俺……」

 

「カッとなるとすぐにこれさね。気をつけな」

 

「ごめん、直政」

 

「謝る相手が違うだろ」

 

 直政に言われ、三日月はナイフから解放されたヨシナオに謝罪するが、ナイフを向けられ、それを謝罪だけで許すほど人が良い者はそうそういない。

 

「えっと……すいませんでした」

 

「すいませんでしたじゃないッ! 葵・三日月ッ! 君の仲間思いな人格は称賛に値するッ! しかし、もっと周りを見て行動しないかッ! だいたい、貴様ら葵姉弟はいつもいつも────」

 

「おおっと!? 緊急事態(ワーニング)ッ! 緊急事態(ワーニング)ッ! 麻呂が武蔵の貴重な前髪枠を泣かせ、今度は武蔵の主戦力がいじめているぞぅ! 者共ぉ! 出会え! 出会えぇ!」

 

「葵・トォォォリィィッ! また貴様かッ! いつもいつも騒ぎを起こしおってッ!」

 

 教導院の窓から頭を出すトーリにヨシナオの怒りの矛先が向けられるが、当の彼はヘラヘラと聞き流そうする。そんなとき、彼の耳が何か爆発する音を捉えた。

 

「およ?」

 

 顔を上げれば、遠方で煙が上がり、その発生源では炎が夜の闇を照らしていた。

 その煙は彼の下にいた者たちにも視認できた。

 

「あの辺りは確か、聖連の番屋があるはず。事故でもあったのかな?」

 

「……商工会に問い合わせたが、連絡が取れん状態だ。どうなっているんだ?」

 

「よーし! 続きは今度にして、今日は解散!」

 

『Judgement!』

 

「賢弟。鈴を家まで送ってあげなさい」

 

「分かった。鈴、バイク取ってくるから此処で待ってて」

 

「J、Jud. あり、がとう」

 

 三日月は皆の元を離れ、後悔通りの途中に停めている愛車の元に向かった。他の皆もその場を立ち去ろうとするのだが、突然、鈴が小さな悲鳴を上げた。彼女を見れば、ある一点を指差しながらガクガクと怯えているではないか。

 原因はなんだ? その場にいた皆が鈴の指差す方に視線を向けると、

 

『────』

 

「あの、皆……? なんで、余の顔を見るなり顔を青くするんだい?」

 

 鈴に指差されていた東は顔を青くした皆を見て首を傾げるが、皆を代表して御広敷が震えた声で教えた。

 

「あ、東殿、し、ししし、し下……!」

 

「下? 下に何かあるのk───」

 

 気になって顔を下に向けた瞬間、彼は後悔した。

 何せ、()()()()()()が東のズボンを握っていたのだから。流石の東も絶句し、そんな彼に対して幼女は涙目で問いかけた。

 

『パパ……どこ……? パパ、いないの……』

 

 次の瞬間、暗闇に包まれた教導院にトーリたちの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、後悔通りを歩いていた三日月は足を止めた。

 トーリたちの叫び声を聞いたから……という訳ではない。確かに聞こえはしたが、声音からすぐに大丈夫だろうと判断したのだ。

 では、何故足を止めたのか。その理由は、

 

「───ねぇ。あんた、誰? さっきから俺の後をつけているのバレてるよ」

 

 三日月が振り返り、暗闇に向かって声をかけると、その奥から胸の高さまで上げた掌の上に通神を開いた一体の自動人形が姿を表した。その通神に写されていたのは、数時間前に見た顔だった。

 

『やぁ。初めまして、葵・三日月くん。知っているとは思うが、私が松平・元信だ。

 君がこれを見ているということは、後数秒で始まるといったところか』

 

「始まる? 何g───」

 

 三日月が通神に写った元信に問いかけようとした瞬間、夜の闇が圧倒的な光で塗り潰された。

 

「───ッ!?」

 

 振り返ってみれば、三河の方角に夜の闇を照らす光の柱が聳え立っていた。

 

『スゴいだろう? あれが予告していた三河の花火さ』

 

「花火? あれが?」

 

『そう。世界救済に必要な花火だよ。先生はこれから最後の授業を行う。その前に、君の顔を見てみたくてね……うん。いい目をしている。目的を見つめ、それを成すための道を真っ直ぐ進む者の瞳だ。

 そんな君に、一つだけ依頼したいことがある』

 

「俺に?」

 

『……いや。正確には君……葵・三日月ではなく、()()()()()()()()にだ』

 

「───ッ!!?」

 

 三日月はすぐさま臨戦態勢に入り、何時でも武器(ツインメイス)を振るえるように構えた。

 一見冷静に見えるが、今の彼は激しく動揺している。何せ、この世界の誰もが知るはずのない自分のもうひとつの名前を出されたのだから。

 

『そう警戒しなくてもいい。先生は君の敵じゃない』

 

「じゃあ、なんで俺の名前を知っているの?」

 

『それは今知るべき事じゃない。今、君がするべき事は武蔵の進むべき道を切り開くこと。私からの依頼はそれだけだ』

 

 通神が終わり、自動人形はその場を去っていく。三日月はすぐさま追いかけようとするが、自動人形は木々の影に消えていった。

 

「逃がした、か……」

 

 三日月の心が疑問という名の闇で覆い尽くされる。

 

 そんな中、松平の言う『最後の授業』が遂に始まるのだった。

 

 

 

 




 花火、遂に始まりましたね。
 しかし、花火とは昼夜を逆転させるほどの光を放つとは。
 ……あれは花火ではない? 正純様。なら、あの光は一体───? あれは、松平・元信公?

次回、境界線上のIRON BLOODED
『私のして欲しいこと』

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#10 わたしのねがい

すいません。
諸事情で予定だった『大罪武装』を『わたしのねがい』に変更させて貰いました。
戸惑う方もいると思われますが、ご了承ください。
それではどうぞ。





◇◆◇午前8時30分

   後悔通り◇◆◇

 

 

 

 まだ太陽が真上に来ていないからなのか、少し暗く感じてしまうその道を、普段ならもう少し遅い時間に来る筈の浅間は一人で静かに歩いていた。

 彼女の顔色は良いとは言えず、しかし、足運びから風邪ではないことが分かる。では、何が原因なのか。

 全ての原因は昨夜の出来事にあった。

 

 

 昨夜、三河が消滅した。

 原因は地脈炉の暴走。犯人は三河当主である松平・元信公。

 どうして地脈炉を暴走させたのか。その理由を知る者たちは、もうこの世には居ない。

しかし、松平は最後、あるモノを残していった。

 それは『大罪武装の真実』。『人を部品にしている』と噂されていた大罪武装だったが、なんとその噂は本当だったのだ。正確には、人の感情を元にしているらしい。

 だが、問題はそこではない。その元になった人が問題なのだ。

 その者の名前は、ホライゾン・アリアダスト。十年前の今日、この後悔通りで事故死した……いや。した筈の少女。しかも、その本人は『嫉妬』を司る九つ目の大罪武装を与えられ、自動人形として武蔵に送られていたのだ。

 その自動人形こそ、P-01sである。

 

「ホライゾン……」

 

 後悔通りに作られたホライゾンの墓標の前で止まり、彼女の名前を口に出す浅間。

 

 勿論、演説の途中でトーリや三日月がP-01s……いや。ホライゾンを探しに行った。無事に彼女を見つける事が出来たが、そこにK.P.A.Italiaの兵士が乱入。ホライゾンの身柄は拘束され、トーリの総長権限や点蔵たちの特務権限など、あらゆる権限が取り上げられてしまった。

 

(本当に、どうすればいいんでしょう……)

 

 墓標をそっと撫でる浅間。

 そんなとき、彼女に通神が入った。

 

『良かった。やっと繋がった。智ちゃん、今何処にいる?』

 

「ハイディ? 後悔通りにいますけど、こんな朝早くにどうしたんですか?」

 

『早く来てくれないかな。今、ほぼ皆集まっているから』

 

「集まってる? 一体何を……」

 

『とりあえず生徒会兼総長連合会議。議題は「これからどうしよっか?」かな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午前8時43分 武蔵アリアダスト教導院◇◆◇

 

 

 

 まだ予鈴さえも鳴っていない早朝の教室に梅組のメンバーは集まっていた。しかし、普段のようにバカ騒ぎすることなく、静かに席に着いていた。

 そんな中、一人だけ教卓に立つハイディ。

 

「とりあえず、現状を確認するね?

 P-01s……ホライゾンが三河の君主権限と同時に相続した極東代表権限は武蔵の所有権限だけど、ホライゾンは三河の君主として三河消滅の責任を問われて自害させられるの。そうなったら権限は全部聖連に持ってかれて、大雑把に言うと武蔵全体のピンチなんだよね。そんな状況なのに私たちの足並みは一切揃っていない感じね……。

 えっと、ミリアムにミトにマサ、それにセージュンと東くんが欠席ね。あと……───」

 

 ハイディの視線が教室窓際の一番後ろの席で突っ伏すトーリと、その後ろで床に雑魚寝する三日月に向けられた。

 

「あの後、葵くんとミカだけ朝まで説教をくらってたんだ。しかも三日月は正当防衛とはいえ、K.P.S.Italia.の兵士を五人も重症の傷を負わせてる。先に向こうが攻撃してきたから良かったけど、一歩間違えれば牢屋行きだったからね」

 

「そう……ネシンバラくん。ついでに聞くけど、重症ってどんなの?」

 

「一番ましであばら骨や手足等の粉砕骨折。一番酷くて睾丸潰し」

 

『Oh……』

 

「───とまあ、いろいろ問題はあるけど、ホライゾンを救ったり、武蔵の異常を止めた方がいいと思う人、挙手~」

 

『………………』

 

「あ、あれ?」

 

 無音。

 誰も手を挙げない状況に気まずい空気が流れる。

 

「えっと……誰も挙げないの?」

 

「判断材料がない。それを先に言え」

 

「成る程……それもそうね」

 

 ノリキの言葉に納得するハイディだったが、彼女はそこまで具体的な判断材料を差し出すことは出来ない。なら、その手に詳しい人に頼もうと、ハイディは目の前で仕事を続けているシロジロに声を掛けた。

 

「シロくん。ちょっといい? 商人としての意見を聞きたいんだけど」

 

「見てわからんか? 今は仕事中d───」

 

「これってビックビジネスチャンスだと思うの」

 

「金か! 金だな?!」 

 

 シロジロは目を流石、『守銭奴』。ビジネスチャンスを逃すようなら、今目の前にいる男が本人かどうか疑わなくてはならない。

 

「よし、私が話してやる! 貴様ら、よく聞け!!」

 

『お前、最低だよ!』

 

「黙って聞け。私たちが聖連に敵対した場合、何が起こるか。

 第一に、武蔵は寄港地での補給が一切受けられなくなる。これは自給率十パーセント以下のこの艦にとって死に等しい」

 

「あのぉ、質問いいですか?」

 

「なんだ、アデーレ?」

 

「武蔵にも畑とかってありますよね? それじゃ無理なんですか?」

 

 頬に指を当て、疑問符を浮かべるアデーレ。彼女の質問はシロジロではなく、彼女のすぐ側の席に座っていた御広敷に答えられた。

 

「無理ですよ。武蔵の総人口は十万弱。それを支えるために高雄、青梅のいずれか一艦を農地に変えても足りませんし、それを支える人手もありません。分かりましたか?」

 

「うぅっ……なんか、負けた気が……」

 

「気にすんな。御広敷は調理部でロリコンだからな。あの程度の知識あっても不思議ではない」

 

「Jud. 流石、調理部でロリコンの御広敷殿でござるな」

 

「ちっがぁぁぁう!! 小生はロリコンではありません! 生命礼讚という欧州ではメジャーで真っ当な信仰の一種です!」

 

「犯罪者予備軍の話は放っておいて「ちょっとそこ!?」……話を戻そう。武蔵の基本備蓄は二週間分。つまり、聖連に逆らえば一発K.O.と言うことだ」

 

 シロジロの言葉に『ホライゾンは助けられないのか』と断念してしまいそうになる。だが、たった一人……会議開始から呑気にファッション雑誌を見ていた喜美だけは違った。

 

「そこの守銭奴ぉ。勿体ぶってないで教えなさいよぉ。あるんでしょ? それをどうにかする手段が」

 

「ほう……気づいていたか」

 

「当たり前よ。愚民愚衆どもと一緒にしないでくれる? デメリットから挙げたってことは、何かしらの対策があるって事でしょう?」

 

「その通りだ。聖連に敵対しながら補給を受けられるように、唯一、副長権限を剥奪されていない本多・正純を此方側に引き込む」

 

「成る程。父君が暫定議会の議員でござったからな。聖連側に着きたい連中が手駒にしたいはず」

 

「逆に言えば、それは聖連に立ち向かうための札にもなる」

 

「その通り。その為には、総長兼生徒会長のトーリ(そのバカ)をどうにかする必要があるのだが……」

 

 皆は知っている。

 かつて、ホライゾンが死んだ時、大きな精神的負荷を受けたトーリが簡単には立ち上がらない事を。それを立ち直らせる事が出来るのは、恐らくただ一人なのだが、その一人も今は起きそうにない。

 

 どうしたものか……。

 そう皆が頭を悩ませていると、教室の扉が開かれ、オリオトライが紙束を手に入ってきた。

 

「はい、はい、はい! 授業始めるから、席に着いて。今日は皆に作文をしてもらいます」

 

「作文、でござるか?」

 

「そう。タイトルは『私のしてほしいこと』。制限時間は一時間半くらいでいいかしらね。それじゃあ、用紙を配られた人から開始。足りなくなったら言ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆が作文を書き始めてから約一時間後……。

 

(ど、どうしましょう……)

 

 静かな空間にペンや鉛筆を走らせる音が響く中、浅間は一人で頭を悩ませていた。別に題材が決まらない訳ではない。むしろ、与えられた用紙を全て埋める位は出来た。

 問題は……、

 

(私のしてほしいことって題材なのに、なんで……

 ───なんで私とミカのR元服小説が出来上がっているんですか?!!)

 

 最初は真面目に書こうと思った。

 内容も『トーリが迎える筈だった今日を迎えてもらうこと』にするつもりだった。

 そうと決まれば早速書こう。そう思って筆を取ったのだが、ふと思ってしまった。その後は?……と。

 告白して成功したとしよう。その後はどうしてほしいのか。だが、流石に今のトーリでそれを考えるのは酷というものだろう、と浅間はトーリの代わりに三日月で、同時にこのままではネトラレになってしまうとホライゾンを自分と置き換え、告白した後の事を考えてみた。

 その結果である。

 

(ダメです……ダメですよ、これは! 発表どころか、提出も出来ません! ど、どうすれば───)

 

「浅間。もう埋めたみたいだけど、紙いる?」

 

「へ!? あ、いや、完成したので大丈夫です!」

 

「じゃあ、発表してくれる?」

 

「そ、それは、出来ないといいますか……じ、実は邪念を感じて、作文の代わりにそれを書いて封じたんです! しょ、焼却炉に行っていいですか?」

 

「授業終わってからね。あと、内容気になるから後で見せてね」

 

(そ、そんな……)

 

「じゃあ、代わりに……」

 

 絶望を顔に浮かべる浅間を放っておいて、教室を見渡すオリオトライ。皆はまだ出来てないと首を横に振って訴えるが、たった一人だけ……鈴だけは小さく手を挙げた。

 

「わ、わた、し、出来て、ます」

 

「……分かったわ。じゃあ、鈴。貴女の作文を読んでもいい?」

 

 オリオトライの質問に『Jud.』と答える鈴。彼女自身は喋ることがあまり得意ではないため、今回は近くに座っていた浅間に代読することになった。

 

「……では、代わりに奏上いたします。

 

『わたしのしてほしいこと』 さんねんうめぐみ むかい すず

 

 "わたしには、すきなひとがいます"」

 

 小さな少女の作文は……願いが籠められた文書は小さな告白から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

" 私には、好きな人がいます。

 

その人は不器用だけど、とても優しい人です。

 

ずっと昔のことでした。

小等部の入学式の ときでした。

 

わたしは嫌でした。教導院に行くのが嫌でした。

 

私の家は、お父さんもお母さんも朝から働いています。

二人は来られませんでした。

 

私の入学式は一人でした。

でも、二人が心配するので泣きませんでした。

でも、本当は『おめでとう』と言ってほしかった。

 

教導院は、表層部の高い所にあります。

私の嫌いな階段も長くあります。

 

だから、階段の前で考えました。

おめでとう、と言われないのなら登らなくていいか、と。

 

他の人は気づかず、お父さん、お母さんと登っていきます。

私は一人でした。

だけど───

 

 

『ねぇ。なんでないてるの?』

 

 

その人は一人でした。

一緒に来る筈だった人は寝坊して、後から来るみたいで、一人で教導院に来ていました。

その人はそっと手を取ってくれました。

 

 

『いっしょにいこう』

 

 

その人に手を引かれ、私は階段を登りました。

おぼえています。

わたしはおぼえています。

その人の大きな手のぬくもりを。

そして、

 

 

 

『お!? ミカ、さっそくかのじょを作ったのか!』

 

『三日月、その子どうしたの?』

 

 

 

二人も二人だけでした。

 

その後、私たちは四人で登って、気付けば、私は一人で階段を登っていました。

一番上にたどり着いたとき、三人は『おめでとう』と言ってくれました。"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「" 高等部にも階段はありましたが、私は一人で登れました。

 でも、ミカとトーリくんは入学式のとき、一度だけ手をとってくれました。

 

 でも、そこにホライゾンは居ませんでした。"」

 

 それは、目の見えない少女の小さな願い。

 

「"私はミカが好き。

 

  トーリくんも好き。

 

 ホライゾンも好き。

 

  みんなが好き。

 

  みんなと笑っているミカが好き。

 

 私はもう大丈夫。だから、あのとき私を助けてくれたように─── 」

 

 ガタッ、と音を上げ、鈴が勢いよく立ち上がったかと思えば、涙を流しながら続きを、思いを、願いを叫ぶ。

 

「お願い! ミカ! ホライゾンを……皆を───」

 

 そんな彼女の頭に、そっと手が置かれた。

 

「へ───」

 

 その手を鈴は知っている。昔とは違うけど、昔と同じ大きな手のぬくもり。

 

「泣かないでよ、鈴。

 

 俺はここにいる」

 

「ミカ───……あ、あのね、手を、出して」

 

「……こう?」

 

 三日月は鈴の前にそっと手を出すと、彼女はその手に自分の手を合わせた。決して大きくは無いけれど、昔と同じで、昔とは全く違う手がそこにはあった。

 

「ちゃんと、私、大きく、なってる、よ?」

 

「うん。知ってる」

 

「もう、昔、じゃない、から、だから「ごめん」───え?」

 

「俺、バカだから、どうやればホライゾンを助けられるかなんて分からない」

 

 ───でも、と三日月は手を離し、目を閉じた。。

 

「俺のしてほしいこと、それだけは分かる」

 

「へぇ? じゃあ、次は三日月に発表してもらいましょうか」

 

「発表する前に……皆。俺が言ったこと……十年前、ホライゾンが死んで、皆に言ったこと覚えてる?」

 

 皆の方を向かずに問いかける三日月の質問に、点蔵が……それに続き、浅間やマルゴット、ナルゼたちが答えて行く。

 

「Jud. 誰一人、忘れてなんかいないでござるよ」

 

「……ホライゾンが言っていた。いつの日か、皆の願いが叶う場所が出来ますようにって」

 

「ホライゾンは死んだ。でも───」

 

 

 

 ───俺の中にホライゾンの言葉が、

            まだ生きている。

 

 

 

 ホライゾンの願いが生きている。

 なら、俺はその願いを全力で叶える。

 俺の……ホライゾンの願いの邪魔をする奴は、何処の誰であろうと全力で潰す。

 何処の、誰でもだ。

 

 

 

 

「───だから、自分達の願いを叶えろ。そうすれば、そこがホライゾンの願った場所になる。

 死ぬまで生きて、自分達の願いを果たせ。

 

 あの時、俺はそう言った。

 

 でも、ホライゾンは生きていた。なら、願った本人が居なきゃ、そこはホライゾンの願った場所にはならない。だからこそ、ホライゾンを助ける。

 その為に───教えてくれよ、トーリ」

 

 三日月は振り返り、問いかける。立ち上がり、自分の後ろに立っていた兄に。

 

「そこで振るのかよ、ブラザー。ここは一人でカッコよく決めないのかよ」

 

「だって、それが俺のしてほしいこと。

 教えてくれよ、トーリ……葵・トーリ。

 俺はどうすればいいの?

 何をすればいいの?

 ホライゾンが願って、トーリが目指そうとした場所に辿り着けるのなら、俺は破壊だろうと、人殺しだろうと、何だってやるよ」

 

「なら、俺から言うことは一つだ。

 ───助けに行くぞ、ホライゾンを」

 

「Judgement.」

 

 ゴっ、と拳と拳をぶつけ合う二人。

 そんな二人の背中に迷いは無かった。

 

「───で? どうやって助けるつもりだ」

 

「それ聞いちゃう? 

 

 

 

 ───ぶっちゃけ分かりません」

 

 

 

 

 

『お前、台無しだよ!!!』

 

 

 

「まあ、まあ、まあ。そんな訳で、次は俺が発表するぜ?

 『私のしてほしいこと』 

       三年梅組葵・トーリ

 

 

 力、貸してくんね?」

 

 テヘ♪、と舌を出して手を合わせるトーリだったが、次の瞬間、クラスメイト達の手で

容赦なく簀巻きにされた。




あかん……どうやっても、()()B()G()M()が流れる……
トーリがアイツにしか見えない……
これ、大丈夫かな……
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#11 総会の開幕

今回はちょっと短いです。
ご了承ください。

それではどうぞ。





◇◆◇午後0時40分

     奥多摩・自然区◇◆◇

 

 

 

 

 昼過ぎだというのに、先日の一件で武蔵の移住区や商業区が静寂に包まれている中、正純は一人、武蔵アリアダスト教導院に向かっていた。

 

(私一人で出来るのだろうか……)

 

 正純はつい十数分前にかかった自分の父親『本多・正信』との通神内容を思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

『武蔵アリアダスト教導院で学生による反抗が生じた。臨時生徒総会だ。お前の不信任決議を行おうとしている。言わなくても、お前の役目は分かっているな? 教導院に向かい、武蔵に良い結果を得られるように皆と交渉しろ』

 

 

 

 

 

 

 

(───そう言われたが、梅組ほぼ全員を一人で相手、か……)

 

 少し心細く感じるが、今の自分は梅組の皆からすれば敵も同然。覚悟は決めている。

 少しして、正純は開けた場所に出たのだが、そこで彼女の前に二人の少女……ミトツダイラと直政が立ちふさがった。

 

「ミトツダイラ? 直政も……成る程。私の足止めと言うことか。私が出席できなければ、不審議決議はどうとでもなるからな」

 

「おいおい。そう慌てなさんなって。あたしらも一応そっち側さね」

 

「私は騎士階級の学生代表として、直政は機関部の学生代表としての立場と責任がありますの」

 

「つまり、戦闘に巻き込まれる可能性のある住民側の代弁者……自分達と相対して、聖連を相手に出来るだけの根拠を示せ……と。そういう事だな?」

 

「Jud. 話が早くて助かるよ。まあ、あたしは見ての通り力業担当だ。あんたからしても、あたしらの実力を知るいい機会だろ」

 

「───そうか……正直、私一人で敵役に回るつもりだったが安心した……私もまだまだ未熟だな」

 

 正純は額に手を当て、先程までの硬い表情ではなく、軟らかな表情をミトツダイラ達に見せる。正直な話、ミトツダイラ達は正純をもっと固い人だと思っていたのだが、その意外な一面に少し驚いていた。

 

「へぇ……そういう顔も出来るんだね」

 

「どういう意味だ?」

 

「気にしなさんな……さてと。それじゃあ、そろそろ行きますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆午後1時00分

     武蔵アリアダスト教導院◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 全世界に生中継される中、教導院前に正純たち三人、梅組の生徒たちが、今回の議会の審判兼進行人であるオリオトライと彼女の後輩『三要(さんよう)光紀(みつき)』を挟むように対峙する。

 

「武蔵アリアダスト教導院 副会長 本多・正純。臨時生徒総会を認めたうえで全生徒への提案に来ました。機関部代表の直政と騎士階級代表のネイト・ミトツダイラも参考人として来ています」

 

「元生徒会 会計 シロジロ・ベルトーニだ。この臨時生徒総会で武蔵の方向性を決めていいと、既に全生徒からの同意を得ている。何か質問はあるか?」

 

「…………Jud. では、一つ。()()は何だ?」

 

 正純は顔をひきつらせながら()()を指差す。正純の指が示す先にあったのは、

 

 

 

 ───簀巻きにされたトーリとネズミ耳を着け、フル武装した三日月だった。

 あえて、もう一度言おう。()()()()()()()()()()()だった。

 

「えっと…………」

 

「セージュン、この下が気になるのか? イヤ~ん。セージュンのえ───」

 

バカ(トーリ)は気にしなくていい。何時もの事だ」

 

「おい!? まさかの無視かよ!? ちょっとは俺の事も構って「黙ってろ」( ;´・ω・`)…………」

 

「しかし、こちら(三日月)の方はしっかりと見ておけ。武蔵の新たなるマスコットキャラになりうるであろう存在。

 

 

 ───ミカチュウだ

 

 

 

「うん。何を言っているんだ?」

 

 脳の処理が追い付かず、思わず聞き返してしまう正純だったが、正純の左では直政が口を押さえながら笑いをこらえ、逆の右隣ではミトツダイラが鼻を押さえ、その指の隙間からポタポタと血を垂らしていた。

 さらに、三日月の横ではいつの間にか奥多摩が全力で写真を取っていた。

 

「先日、後先考えずに先行した罰として着けたのだが、これが思いの外に似合っていてな。新たな商売のネタを作るとは流石と言わざる終えない」

 

「Jud. 問い掛けた私が悪かった。話を戻そう。今回の議題は不信任決議を通して聖連に逆らうか、否かを決める事だな?」

 

「その通りだ。だから、そちらは聖連側、こちらは武蔵側となる」

 

「話は終わった? それじゃあ、そろそろ始めるわよ」

 

 オリオトライの言葉を合図に三要がルール説明に入る。それを大雑把に纏めると、

 

 

・武蔵側と聖連側。その各代表三人ずつの二勝先取が勝利。

 

・聖連側が勝てば、ホライゾンの自害並びに武蔵の委譲を認め、武蔵側が勝てばホライゾン救出に向かう。

 

・相対方法は戦闘、交渉など何でもあり。

 

・相対の結果は武蔵の総意とし、異論は認めない。

 

 

「───以上が今回のルールになります。異論はありませんね?」

 

「「Judgement.」」

 

「それじゃあ、早速一回戦を始めましょうか。各陣営、一番始めは誰が来る?」

 

 オリオトライの問いかけに正純が前に出ようとするが、それを直政が肩を掴んで止めた。

 

「悪いね。一番手はあたしが貰うよ。聖連に逆らうのはいいとして、明確な武装がない武蔵がどう戦うのか見せてもらうさね!」

 

 前に出た直政は『承認』と書かれた術式を展開。

 

接続(コンタクト)───!」

 

 術式を叩き、直政は自身の力とも呼べる()()を呼び寄せ、十秒もしない内に()()は空から落ちてきた。赤と黒の女性型の武神。直政はその武神の肩に乗り、トーリたちを睨み付けた。

 

「重武神『地摺朱雀』。あたしが地上に居た頃、戦場で見つけた武神の寄せ集め。今じゃあたしの走狗(マウス)が宿って、機関部一の腕自慢さ」

 

 こいつとやり合える奴はいるか?、と直政はトーリ達に問いかける。

 

「直政殿、テンション高めでござるな」

 

「いや!? 普通に死にますよ、これは!!」

 

 流石の梅組も相手が武神と言うことで気圧されている。

 ……が、一人だけ。直政の前に出る男が居た。

 

「へぇ……あんたが相手してくれるのかい、三日月?」

 

「Jud. そうじゃなかったら前には出ないよ」

 

「み、三日月殿?! マジで行くんでござるか!? というか、トーリ殿も何か言ったらどうです!」

 

「……ミカ。やれるんだな?」

 

「……───Jud.」

 

「そうか。なら、俺はなんも言わねぇ」

 

 頼んだぜ。トーリのその一言を背負った三日月はネズミ耳を外し、装備した武装の一つのメイスを両手に一本ずつ持つ。

 

「総長連合 元総長補佐 葵・三日月。出るよ」

 

 その一言で、三日月の目は狩る者の眼に変わった。

 

 

 

 

 




次回予定『矛盾の強者』




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#12 矛盾の強者

明けましておめでとうございます。
新年早々の投稿です。
それではどうぞ。






◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 理不尽の塊

 信念の塊

 

 

 

 

配点《葵・三日月》

 

 

◇◆◇午後1時05分

     奥多摩・居住区◇◆◇

 

 

 

 

 普段なら聞こえてくる住人たちの声は消え、静寂に包まれる居住区だったが、一角だけ例外があった。

 

「チッ! ちょこまかと逃げるんじゃないよ!」

 

「逃げるに決まってるでしょ!」

 

 聞こえてくる叫び声と武神の駆動音、そして金属が固いものにぶつかった時に聞こえる金属音。現在、奥多摩は直政が操る地摺朱雀VS三日月の相対が行われていた。

 武器の大型レンチを振り回す地摺朱雀とその攻撃を避け続ける三日月。一見、前者の方が有利に見えるかもしれないが、内心焦っていたのは直政の方だった。

 

「このっ……!」

 

 屋根から屋根へ。時に地面へ降りたと思えば股下を潜って背後に回り攻撃し続ける三日月。一方の地摺朱雀の攻撃は大振りで一撃は重いが、三日月には簡単に避けられてしまう。しかも三日月は武器が使い物にならなくなったとしても、

 

「シロジロ! 武器追加購入!!」

 

『よし! どんどん金を使っていけ!』

 

『追加の片手斧とブレードを送るよ』

 

 次の瞬間、三日月の進行先に両刃の片手斧とブレードが転送され、三日月は片手斧を掴むと直政に向かって投擲。咄嗟にそれを防ぐ直政の隙をついてブレードを装備した三日月はすぐさま地摺朱雀へと迫った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、モニターで二人の戦いを眺める正純はミトツダイラに問いかけていた。

 

「ミト。三日月の戦闘スタイルは確か近接戦闘型《ストライカー》だったよな?」

 

「ええ。その通りですわ」

 

「しかし、先程の動きは点蔵と同じ忍の動きだ。それだけじゃあない。槍や斧、剣などの多種の武器を扱う者はすべてを極める事が出来ないと言うのに、戦闘には素人の私ですら分かるほど、三日月の動きは洗礼されているように思える」

 

「それは三日月が教わったからですわ。彼は強くなるためにあらゆる人物を師事していましたの。術式に関することは武蔵から、戦闘に関しては真喜子先生から、槍に関してはあの本多・忠勝から……三日月が師事する人物は少なくとも十人近く居ますわ」

 

「十人も!?」

 

 本来、師事する人物を十人も取ることなんてあり得る話ではない。違う分野だからといっても、それら全てを短期間で熟練者レベルまで鍛えるなんて無理な話だ。体は勿論の事、精神もついていけないだろう。

 

「何故、アイツはそこまで強くなろうとするんだ? 何か理由でもあるのか?」

 

「そういえば、正純は知りませんでしたわね。三日月の体質について」

 

「アイツの体質? 何か、悪い病気でも持っていたのか?」

 

「病気よりもたちが悪い。この世界において、致命的になりかねない事ですわ」

 

 ミトツダイラは真剣な目で正純に語る。

 

「───三日月は術式が効かず、自身も使うことが出来ませんの」

 

「術式が、使えない……?」

 

「正確には流体の影響を受けないと言った方が正しいですわ。どういうわけか、三日月の体は流体を体表で弾いてしまってますの」

 

 それはつまり敵の術式を受けることはないが、同時に回復や補助となる術式を受けなくなってしまうということ。同時にどういう訳なのか、三日月自身も直接術式を使えないときた。思い返してみれば、確かに三日月は通信するとき、今は使われていない通神用のデバイスを使っていた。

 

「……だが、三日月は只の人間だ。なのに加護も得ることが出来ない彼がなんで超人的な動きを出来る?」

 

「恐らくはあと少しでその理由が分かりますわ」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇ 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり硬いな……)

 

 攻撃を続ける中、三日月は直政に決定打を与えることが出来ずに攻めあぐねていた。

 武器を次々に購入していくが、これ以上は流石に財布事情がきつく、かと言ってもこのままでは体力が限界を迎えて三日月が負ける。

 

(なら、あれしかないか───)

 

 三日月は通神用デバイスを操作し、ある少女に通神を繋げた。

 

「───智、ちょっといい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「智ぉ。賢弟から電話?」

 

「えぇ……()()を投与して欲しいと……」

 

「ならしてあげなさい。あの子が必要だと思ったのなら答えてあげなきゃあ、ね?」

 

「……分かりました」

 

 浅間は術式を展開。それに連動して、モニターに写る三日月の背中……正確には、背中に付けられたカバーに同じものが浮かび上がる。

 

「三日月、今から投与を開始します。濃度は0.5割。それ以上は許可しません……後でお説教ですからね?」

 

『分かった。ホライゾンを助けた後でね』

 

 浅間は決意した顔つきで術式に浮かび上がった承認を押す。次の瞬間、三日月の様子が急変した。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「────ッ!!」

 

 地摺朱雀と戦闘する三日月だったが、突然足を止めたかと思えば、その体をビクンと大きく震わせた。

 

「ついに使ったか……!」

 

 直政は冷や汗を流し、彼女の視線の先に立つ三日月は鼻から血を多量に流し、しかし、その眼光をより鋭くしていた。

 足に力を入れる三日月。直政は身構えるのだが、次の瞬間、地摺朱雀に強力な衝撃が襲った。

 

「く───!?」

 

 建物を崩しそうになるが、ハイディが地摺朱雀の『労働』が建物に影響を与えないようにしているため、その心配ない。心配すべきは次の三日月の行動だ。

 直政は咄嗟の判断で肩に乗って操縦する自分の体を守るように地摺朱雀の片手で覆う。その瞬間、地摺朱雀……正確には、直政を守る手に衝撃が襲った。

 吹き飛ばされる地摺朱雀。何とか態勢を立て直した直政は自身を殴り飛ばした人物を睨み付けた。

 

「やってくれるじゃないか、三日月!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何をしたんだ、アイツは……!?」

 

 思わず正純が声をあげるが、無理もないだろう。何せ、三日月が十トンもある重武神を()()で殴り飛ばしたのだ。

 あえて、もう一度言おう。素手で、だ。

 先程までの戦い方を見ても三日月にそれほどの力があるとは思えない。正純は困惑するなか、ミトツダイラが説明を始めた。

 

「三日月が背中に着けているカバー。あれは何かご存知?」

 

「あ、あれは確か……背中の突起を守るために着けているんじゃあ───」

 

「それもありますが、もう一つだけ……あのカバーには細工が有りますの。それは薬品投与機。智の許可で濃度等を設定し、三日月の体に投与する装置ですわ。中身の薬品は()()()()()()()()()()()()

 

 聞けば、人の肉体は全体の数割程の力を脳で無意識にブレーキをかけている。故に、もしブレーキを外す事が出来れば、人は普段の何倍の力を発揮することが可能だろう。

 術式が使えない三日月は他の者たちと並び立つためにそのブレーキを壊す劇薬を使っているのだ。無論、何もリスクが無いわけではない。

 

「ブレーキを壊せば、連鎖的に他もダメになっていく。そんなリスクしかない投薬を、三日月は過去に何度もやっていますの。恐らく、三日月の寿命はもう……」

 

「そんな……」

 

 ミトツダイラから教えられた衝撃の事実に正純は唖然としたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ちていた大槌を手に、地摺朱雀と同等以上の戦闘を繰り広げる三日月。だが、地面や建物に塗られていくのは三日月の血だけ。そんな彼の姿に耐えられなくなったのか、直政は三日月に訴えかけた。

 

「なんであんたはそうやって自分を犠牲にする!? そんなことをして、何の意味がある!? これからの戦い、あんたは同じことをする筈さ! そうなりゃあ、あんたの残された命はどうなる!? 未来には、あんただけが居ないんだ! なんで……なんで一人だけ犠牲になろうとしている!! 答えろ! 葵・三日月!!」

 

 それは大切な仲間としての思いか、はたまた別の感情からか……どちらにせよ、直政の切実な思いが三日月に送られた。そんな彼女の思いに、三日月はこう答える。

 

「───俺は、誰の犠牲にもなっていない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 

「そこの貧乏政治家。さっさと戻って来なさい」

 

「だ、誰が貧乏政治家だ!!」

 

 唖然としていた正純だったが、喜美の理不尽な呼び名によって現実に戻される。否定は出来ないが、反射的に否定する正純だったが、喜美はそれらを無視して正純に語りかけた。

 

「セージュン! いいことを教えてあげるわ。貴女は知らない! 私たちの賢弟の事を微塵も! 欠片も!

 

 あの子はねぇ、矛盾の塊なの。人一倍生きることに意地汚い癖に、自分の命を賭ける時は潔く賭ける……でも、だからこそ、この武蔵で強者になれた。そんな『矛盾の強者』があの子なのよ」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は誰の犠牲にもなっちゃいない!」

 

「な───!?」

 

「俺は誰の犠牲にもなってない! 俺は自分と仲間のために出来ることを精一杯やってるだけだ! ……で、今は───とりあえず、直政(お前)が邪魔だ!!!」

 

 三日月は渾身の力を使い、直政に向かって大槌を投げつける。直政はそれを難なく受け止めるが、つぎの瞬間には少し目を離しただけだと言うのに三日月の姿を見失う。

 

「くそ! 何処に───」

 

 居るんだ、と続けるはずだった直政だったが、それ以上の言葉が紡がれることがなかった。何せ、後ろを振り返れば、目の前に居合いの構えを取る三日月の姿があったのだから。

 

(野郎! まさか、()()()()()使()()()───)

 

 冷静に状況を整理する間もなく、三日月は刀を抜こうとする。さすがの直政もせめて痛みだけは耐えようと固く目を閉じるのだが、彼女を襲ったのは軽い衝撃だけだった。

 

「───……はぁ?」

 

 目を開けた直政が見たのは自分の頭にチョップする三日月の姿。

 そんな彼の姿に緊張が抜け、同時に自分は敵わないと諦めるた直政は地摺朱雀の肩の上でへたりこむ。

 

「ああぁ。敗けだ、敗け。あたしの敗けさね」

 

 直政が敗けを認め、それを確認したオリオトライが勝敗をジャッジ。三日月の勝利を告げた。

 

 

 

 

 周りが勝敗を終えたことで一息ついている中、三日月はへたりこむ直政に手を差し出す。

 

「……なんだい、その手は? あたしは邪魔じゃあなかったのかい?」

 

「さっきはそうだったけど、今は違うでしょ? 直政の力が必要だ。ホライゾンを助けるために力を貸して」

 

「……はぁ。やれやれさね。そんな顔で頼まれちゃあ、断れねぇだろ」

 

 直政は三日月の手を取り、トーリたちは機関部を味方につけることが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 





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#13 騎士道

並行世界のロングヘアなクリスに心を撃ち抜かれたメンツコアラです。
まず始めに言い訳をさせてください。
別にこの作品、エタった訳ではありません。ただ一言……難しいんですよッ! 混沌と言っていい境界線上のホライゾンとキャラの濃い三日月を合わせるのがッ! 例えるならほんの僅かに分量を間違えれば大爆発するような劇薬を作っているような感じですッ!
今さら思う。なんでクロスさせようと思ったのか……でも、書き続けますけどね。

それではどうぞ。






 臨時生徒総会決議相対一回戦。無事に勝利を納めた梅組は、勝利をもたらした三日月を胴上げし労うつもりでいた。

 だがしかし……、

 

「いいですか。今回は仕方なく許可しましたが、本来なら薬を使わなくても三日月なら十分に勝てる相手でした。勿論、許可した私にも責任はあります。しかし「ねぇ、智」何ですか?」

 

「足崩して「だめです」……」

 

「しっかり反省するまで正座してください。第一、なんで三日月はあの薬をホイホイ使おうとするんですか? 前にも言いましたが、三日月は自分の命を軽く見すぎです。もっと自分を大事にですね───」

 

 投薬によって流した血の分の献血を受け、皆が見ているなかで浅間の説教を聞かされる三日月。さすがに休ませてあげたら?、と皆が思っているのだが、下手に口を出せば浅間にズドンとされかねないので傍観するしかない。

 一向に終わる気配を見せない智の説教を見かねたオリオトライは決議を進める。

 

「そろそろ次にいくわよ。第二回戦、誰が行く?」

 

「Jud. 私ですわ」

 

 オリオトライの言葉に聖連側からネイトが前に出る。

 

「武蔵の騎士代表として、"銀狼(アルジョント・ルウ)" ネイト・ミトツダイラが問います。主不在のこの極東で、あなた達は何をもって我々騎士を従えさせるつもりですの? さぁ、相対をッ!」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇同時刻 尋問艦付近 三征西班牙(トレス・エスパニア)陣営◇◆◇

 

 

 

 

 

 全国の者達が武蔵の生徒総会を見守るなか、その総会の現状を見ていた金の短髪の青年、西国無双の称号を持つ男『立花・宗茂』に宗茂の妻である両腕義手の少女『立花・誾』が問いかけた。

 

「宗茂様。武蔵の臨時総会は、姫の自害までには終了しているのでしょうね?」

 

「そうですね……戦争になった場合、我々はこの場にいる戦力のみで戦う必要があります。学生の数は此方が上回っていますが、総長連合と生徒会は健在。さらに極東には神奏術なるものが存在しているそうです。そして、なにより───」

 

「葵・三日月ですか?」

 

「昨晩相対した本多・忠勝に言われました。武蔵には娘と子供の皮を被った悪魔がいると。おそらく、その悪魔こそ彼なのでしょう」

 

「大丈夫です。薬に頼るような輩に宗茂様は負けません」

 

「……本当に薬だけなのでしょうか?」

 

 宗茂は画面に写る少年を見て、言葉では表しきれず、拭い切れない不安に襲われるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ? 騎士を従えさせようとする相手はどなたですの?」

 

 その強い眼差しからネイトがどれ程真剣で本気なのかが分かり、流石のトーリたちもオリオトライにタイムを要求し、三日月を囲むように円陣を組んで作戦会議を開く。

 

「おいおい。どうするよ? ネイトの奴、かなりノリノリなんですけど? ……んで、ネシンバラ、どうすりゃいいと思う?」

 

「……あ、うん。その事なんだけどさ。騎士であるネイトは僕たち民より身分が上なのに、なんで相対なんてするんだろう?」

 

「あ、それは自分も気になってました。それに武蔵の騎士は封建騎士じゃないですか?」

 

「アデーレとネシンバラの話を纏めるとだ。要するにネイトは俺たちよりも偉くて、俺たちを守るのが普通なんだな?」

 

「「Jud.」」

 

「じゃあ、この相対は何か理由があってのことで、その理由さえクリアしちまえば、ネイトは俺たち側につくってことか」

 

「して、誰が行くでござるか?」

 

「じゃあ、俺が「行かせると?」……智、痛い」

 

 立ち上がろうとする三日月を浅間が押さえつけ、トーリは皆に視線を向けて考える。

 

「それじゃあ…「あ、あのッ!」ほえ?」

 

 全く予想外の出来事に皆の視線が一人の少女に集まる。少女は視線に恥ずかしがりながらも髪に隠れた光を写さぬ瞳に強い意思を宿していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆様、何をしていますの? 早くしてくださいな」

 

「オッケーオッケーッ! そう慌てんなってッ! ネイトの為に最高の相手を用意したからよッ!」

 

 おちゃらけるような態度のトーリに内心イラつきながらも、ネイトは自分が相対する相手に心構えをしておく。

 

(恐らく、出てくるのは点蔵や三日月のような戦闘系のはず。相手にとって不足はありません───)

 

 しかし、前に出てきたのは三日月でも点蔵でも、ましてや戦闘系の生徒でもなく……

 ───()()()()()()だった。もう一度言わせてもらうが、戦闘系ではない鈴が前に出たのだ。

 

「ちょ、ちょっとッ!? どういうことですのッ?!」

 

「あ、あの……わ、私、じ自分で、来たんです。話、聞いた、ら、私かな、て……」

 

(まさか、気づかれましたのッ!? ……いいえ。むしろ、これは好機と言えますわ)

 

 ネイトが動き、鈴の前で片膝を着き、言葉を並べる。それはトーリ達にとって良くない流れであり、それに気づいたネシンバラはすぐさま鈴に指示を出す。

 

「向井君、彼女を止めてッ! 武蔵の騎士は負けるつもりなんだッ!」

 

「どういう事さね? そうなれば、2先勝でこっちの勝ちじゃ───」

 

「勝ち負けの問題じゃない。騎士階級が民に傅くということは、その階級を返上するということなんだッ! そうなったら武蔵に戦う力が無くなってしまうッ!」

 

「ベルさんッ! ネイトを止めてッ! ハリーッ! ハリーッ!」

 

「え、えっと、分かった……ッ!?」

 

 降伏の言葉を述べるネイトを止めようと鈴が慌てて駆け寄る。しかし、彼女の盲目もあってか、僅かにあった隙間に足を引っ掻けてしまう。それを見た梅組の皆は息を呑み、点蔵が助けようと足に力を入れるのだが、それを三日月が止めた。

 

「三日月殿、何を「大丈夫」大丈夫って───」

 

「鈴なら、大丈夫」

 

 少しずつ地面に近づく鈴の体。彼女は痛みへの恐怖のあまり助けを求める。

 

「助っ、け───」

 

 そんな彼女の言葉に答えたのは、

 

「───安心なさい」

 

 か弱き少女を受け止めた銀狼の騎士。彼女は鈴を安心させるようにそっと頭を撫でる。

 

「私は武蔵の騎士。そして、騎士の魂は必ず民を救いますわ。その歩むべき道こそ───騎士道なのですから」

 

「ミトツ、ダイラ、さん……あ、ありがとう」

 

 その後、鈴はすぐに降伏を宣言。それはネイトが騎士としてあり続ける証明となり、結果的に負けてしまうものの、トーリたちは騎士連合を引き込むことに繋がった。

 ネイトはそのまま鈴と共にトーリたちの元へ歩み、それをトーリと三日月が代表して迎えた。

 

「よ、騎士様。随分と遅い到着だな」

 

「鈴、ネイト、お帰り」

 

「た、ただいま」

 

「……ミカ、一つだけ問います。あのとき、何故点蔵を止めましたの? 私が助ける保証なんて無かった筈……」

 

「根拠ならあった。だって、ネイトは良い人だから。それに昔約束したでしょ? 俺はトーリ達を全力で守る。だけど、俺が守り切れない時は───」

 

「二人で守る、そう約束しましたわね。……まったく、貴方という人はズルいですわ」

 

「? 俺、何か卑怯な事した?」

 

「そういう意味ではなく、貴方はもう少し人の心を───」

 

 そこで彼女は周りから向けられた生暖かい視線に漸く気づく。

 

『『『じ~~~~~~……』』』

 

「な、なんですの?」

 

『『『あ、どうぞどうぞ。御構い無く』』』

 

「何がですのッ?!」

 

 思わず叫ぶネイトだったが、漸く戻ってきたのだと実感するのだった。

 

 

 

 




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#14 高嶺の鉄華

今月二回目の投稿。
いやぁ……時間がかかったなぁ。
遅くなってすいませんでした。

え? 上のサブタイトルについて?
まあ、読んでくれれば分かりますよ。







 ホライゾンを助けるための臨時生徒総会。相対二戦目は聖連側の勝利となってしまったが、無事に武蔵の騎士達を引き込むことに成功したトーリ達。

 最後となる相対で正純と相対するのはトーリだった。

 相対内容は『討論』。そこで彼はあろうことか聖連側の意見を述べ始めたのだ。正純は勿論、三日月たちや通神を通じて見ていた者達も大いに驚いた。だが、正純は切り替え、時折ピンチに陥りかけたものの見事勝利を納め、ホライゾンの救出を正当化したことにより三回戦は引き分けという形になった。

 だがしかし、そんな彼らの相対に、K.P.A.Italia総長イノケンティウスの指示を受けた副長『ガリレオ』が乱入してきた。ウルキアガ、ノリキの二人が迎撃しようとするが、ガリレオの術式と彼が持たされた大罪武装『淫蕩の御身』の前に敗れ、ガリレオは間髪入れず正純に襲いかかる。しかし、そんなガリレオの拳を弾き返す者が()()いた。

 一人は迎撃に向かわず、いざというときの為に待機していた三日月。もう一人は、

 

「あれ? あんた、槍のおじさんの……」

 

「極東警護隊総隊長本多・二代だ。はじめましてだな、葵・三日月」

 

「おいおいッ! もしかして、ミカの知り合いかッ!? ブラザーも隅に置け「トーリ、うるさい」(´・д・`)……」

 

「二代? 二代なのか?」

 

「正純か? 久しいな。中等部以来でござるな。さて……───」

 

 二代は自身の武器である神格武装『蜻蛉切』を構え、ガリレオを睨み付ける。

 そんな時だった。階段下から見守っていた民衆がざわざわと騒ぎ始めた。無理もない。何せ、あの男がやって来たのだから。

 

「おいおい。麻呂に麻呂嫁じゃねぇか。こんなところまで散歩か?」

 

「不敬な口を聴くなッ! 麻呂は武蔵王 ヨシナオであるぞッ! 御主らの暴挙を止めに参ったッ!」

 

 そこには教導院教頭ではなく、『武蔵王』としてのヨシナオが立っていた。ヨシナオは通神越しにこちらを観察していたイノケンティウスに話しかける。

 

「教皇総長。ガリレオ殿にはお帰り願いたい」

 

『ほぉ。では、どうすると言うのだ? 貴様は学生ではない故、この相対に参加する権利は無いはずだが?』

 

「問題ありません。そこにいる本多・二代は麻呂の警護隊隊長であります。本多・忠勝の薫陶を受け、大罪武装の試作品である神格武装『蜻蛉切』を持っております。この者に勝てる猛者が武蔵にいるかどうかをもって諌めようかと」

 

『その者と武蔵の学生とがグルでない証明はどうする?』

 

「おい、おっさんッ! 俺たちとコスプレボッチの麻呂を一緒にすんなよッ!」

 

『…………グルでは無さそうだな』

 

「…………分かっていただき、何よりです」

 

「し、しかし、ヨシナオ王ッ! 二代の実力は本物ッ! 私たちの中で渡り合える者など───」

 

 いや。一人だけいる。彼女の父親である忠勝でさえ勝てなかった男が一人。

 

「…………俺がやる」

 

「三日月……だが、お前は……」

 

「やらなきゃいけないんでしょ? だったらやる。槍のおじさんと同じなら分かる。それに、おじさんよりも弱いでしょ、あんた?」

 

「……確かに、拙者は父と比べるもおこがましい実力。しかし、嘗められるのも癪にさわる」

 

「じゃあ、やろっか。真喜子、試合の準備をお願い。智も薬を何時でも承認出来るようにしておいて」

 

 両者共にヤル気満々。

 浅間は嫌々承認の準備をし、三日月と二代が構えるのを確認したオリオトライが試合開始を宣言しようとする。

 ……がしかし、

 

「はい。ストップ」

 

「あ───」

 

 三日月の体が引っ張られ、抱き止められる。三日月は視線を上にあげ、自分を抱いている者の顔を見た。

 

「何するの、喜美」

 

「それはこっちのセリフよ。あんた、愚弟とは違うんだから後の事を考えなさい。ここで薬を使って、ホライゾン助けるまで体がもつわけないでしょう?」

 

「じゃあ、どうすればいいの? あいつ、槍のおじさんより弱いけど、結構強いよ」

 

「あら、そんな事も分からないの、賢弟? 目の前にいるじゃない」

 

「……まさか───」

 

「そのまさか。ダメな愚弟と賢弟と愚衆の為に私が一肌脱いで上げるッ! それにしても、一肌脱ぐって結構エロいわね」

 

 驚くような表情を向ける三日月に喜美は笑みを浮かべ、彼を離して自身が前に出る。無論、三日月も最初は反論しようと思ったが、相手は喜美。なら、恐らくは大丈夫だろうとトーリと共に皆の元に戻る。正純も彼らの後ろを着いていぐが、彼女が非戦闘系で無いことを知っている為に不安になる。それはヨシナオも同じ。

 

「(武者対変な女……勝負になるの───「おーい、マロマロッ!」)いい加減にしろッ! 麻呂は武蔵王 ヨシナオであるぞッ!」

 

「そんなことどうでもいいからさぁ、ねぇちゃんが勝ったら俺に王の座譲ってくんね?」

 

「はあッ?! 何故貴様なんぞに王の座を譲らねばならんのだッ! 麻呂がどんな思いで王になったかを知らぬ貴様なんぞに……ッ」

 

 ヨシナオはかつて、小国の領主であった。しかし、聖連に武蔵の王にならなければ領地を文字通り潰すと脅され、民を守るために断腸の思いで武蔵王になったのだ。その領地に住んでいた民も時間が経つに連れて各国に流れていき、かつての面影も無くなってしまったが……。

 

「貴様は王になってどうするのだ?」

 

「俺? そんなもん、俺のせいで奪われたホライゾンの全てを取り戻したいだけさ」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 可憐であり 誰よりも美しく

 選ばれし者だけが触れる事の出来る華は高嶺

 

 ───なら

 

 決して枯れず 決して散ることの無い華は

 

 

 配点《◯華》

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「……さて───」

 

 二代は自身の相対する敵を見る。明らかに鍛えてはいない体。本当に戦えるのかと疑いたくなる。一方の喜美は構えもせずに腰に手を当て立っているだけ。

 

「その格好から察するに白拍子でござるか?」

 

「んふふ。芸を知らないつまらない女ね。大方、私が戦えるのか心配しているんでしょうけど、意味は無いわよ。だって、私には秘密兵器があるんだから。───ウズィ、出なさい。それと『アレ』も持ってきて」

 

 喜美の呼び声にハードポイントから術式が展開され、彼女をそのまま二頭身に縮めたような走狗があるものを持って姿を現す。

 

「この子は芸能系の神であるウズメの走狗。あぁ、言っておくけど、私の術式ってエロ系とダンス系だけだから。そして、これが私の秘密兵器」

 

 それは一領の羽織だった。少し暗い緑色。

 彼女はウズィから羽織を受けとり、袖を通す。そして、トーリたちに露にされる背中の刺繍。

 

「あれは……華、でござるか?」

 

 そのマークを見て、正純たちが真っ先に連想したのは『華』だった。

 

「え? そうなの? 俺、てっきり魚かと思ったわ」

 

「あんなの何時作ったんだい?」

 

「さあ? 俺だって、あんなの持ってるの初めて知ったんだぜ。ブラザーはどうよ───て、ブラザー?」

 

「なんで……なんで、喜美が……ッ?!」

 

 三日月はそのマークを見て目を見開く。見間違う筈がない。あのマークは彼と最も因縁深い物だったのだから。

 

  

 喜美は二代に背を向け、羽織の刺繍を彼女に見せつける。

 

「はい。ここで武蔵一冴えない女のあなたに質問。このマーク、何に見える?」

 

「華、でござるか?」

 

「半分正解で半分残念。正確に言うと、これは鉄の華よ」

 

「鉄の華?」

 

「そうよ。ここで追加質問。あなたは鉄の華をどう思う?」

 

「拙者、芸能を嗜む心を持ち合わせておらぬのだが……あえて言わせてもらうと無骨。華やかさの欠片もない。華とは呼べぬ物かと」

 

「はい、残念ッ! あなたは何も分かっていないようねッ!」

 

「今の質問に外れも当たりもないと思うのでござるがな───ッ!」

 

 足に力を入れ、二代が仕掛ける。術式で強化された脚力は疾風のように速く、すれ違う瞬間に槍を振るうのだが、

 

「───無粋な女ね」

 

「な───ッ!?」

 

 振り返れば、ステップを踏みながらユラユラと体を揺らす喜美の姿。

 

(まさか幻覚ッ!? いや、そんな筈は───)

 

「驚いているわねぇ。速さが泣いているわよ」

 

「───ッ、笑止ッ!」

 

 再び加速する二代。しかし、結果は先ほどと同じ。喜美は相も変わらずステップを踏み、二代を真っ正面から見ていた。

 

「……何の術式でござるか?」

 

「何って、言ったじゃない。エロ系とダンス系だって」

 

「ならば───結べ、蜻蛉切ッ!」

 

 蜻蛉切の刀身に喜美が写され、『割断』の術式が喜美を襲う。

 ───だが、彼女の身には何も起きなかった。

 

「なにッ?!」

 

「無粋ねぇ。華は刈り取るモノじゃなくて愛でるものでしょう? 私の高嶺舞は私の体に無粋なものが触れないようにする術式。この人になら枯らされても本望だと思う人にしか触れさせないの」

 

「だとしても蜻蛉切の割断が防がれるなど───まさか……」

 

「あら? 気づいちゃった? 答え合わせしちゃう? でも、残念ッ! あなたが答える前に私が答えちゃうッ!

 言ったでしょう? この羽織が秘密兵器だって。正確にはこの背中の刺繍が秘密兵器なの」

 

「鉄の華……」

 

「ええ。そうよ。これは鉄の華。あなたが言った通り、華やかさの欠片が微塵もない鉄の華。

 だけどね、この華は枯れないの。散らないの。華としては随分と矛盾した存在なのに誰よりも誇らしく咲き続ける。それが鉄の華。高嶺と遠くかけ離れた存在。

 ───でもね、高嶺の華も変わらないの。散ったとしてもその人の心には残り続ける。

 人も同じ。肉体は滅んだとしても心は、魂は高嶺の如く、鉄の華の如くあり続ける。もし、そんな高嶺の鉄華になれたら最高にカッコいいじゃない?

 

 

 

 

 

 さあ、舞が奉納される限り、私は高嶺の鉄華であり続ける。刈り取れるものならやってみなさい」

 

 

 

 

 




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#15 Judgement<前編>

待たせたなッ!!!!

….冗談はここまでにして、誠に申し訳ございませんでしたァァァァァァァァァァァァッ!!!
本当にすいませんッ! ここまで待ってくださった方々、誠にありがとうございますッ!
それでは本編へ。


 通りませ 通りませ

 

 ───通らない。

 

 通りませ 通りませ

 

 ───通らない。いくら槍を振るっても。

 

 行かば 何処が 細道なれば

 

 ───通らない。いくら槍を突き出しても。

 

 天神元へ 至る細道

 

 ──何故だ….何故なんだッ….!

 

 ご意見ご無用 通れぬとても

 

「──なぜ届かないんだッ!?」

 

 そう叫びながらも、二代は蜻蛉切を振るい続ける。しかし、喜美が展開する術式に全て防がれる。

 戦闘において、二代は素早さ、力、反射神経、技術等…戦闘に必要な要素の殆どが喜美よりも勝っている。確かに、喜美が奉納している『高嶺舞』は外部からの干渉が彼女の舞う代演の価値を上回ってしまうと無力化出来なくなるとはいえ、二代の槍捌きは既にその領域へ突入しつつある。だというのに、彼女の槍は喜美の柔肌に傷一つどころか、触れる事すら出来ない。

 無論、その原因が分からない訳でもない。

 あの羽織…正確には、今喜美が纏っている羽織の刺繍が今の彼女の絶対防御の要となっているのだろう、と二代は目安をつけている。だが、原因が分かったとしても理屈が分からないでいた。

 理屈不明の絶対防御。過ぎ去っていく時間。この二つはじわじわと二代の集中力を削っていく。

 

「なんなのだッ!? その刺繍はッ!?」

 

「さっき鉄の華だって言ったでしょう? ほんの少し前までの会話すら覚えられないなんて、貴女、鳥頭かしら?」

 

「バカにするなッ! 一体、なんの術式を使っているッ!? 完全防御だとしても、たかが刺繍一つにそんな術式を籠めることは「ただの刺繍よ」──なん、だと….?」

 

「まさか完全防御の術式だと思った? でも残念ッ! 言ったでしょう? 私の術式はエロ系とダンス系だって」

 

「ふざけるなッ! なら、その防御力はなんなんだッ!?」

 

「知りたい? 知りたいわよねぇ? でも、残念ッ! すぐには教えないわッ! まずは前置きッ! 耳の穴をかっぽじって聞きなさいッ!」

 

 舞を奉納しながら喜美が語るのは一つの物語。

 

 

 

 ここではない、遠い何処か。

 遥か彼方の地に、二人の孤児がいた。人として扱われず、忌み嫌われ、それでも日々を過ごしていた。そんなある日、二人の内の一人が問いかける。

 

『ねぇ、次はどうすればいい?』

 

 孤児は答えた。『行くんだ』と。

 ここではない何処か、食べ物も暖かい場所も、自分達が今持っていない全てがある場所。自分達がいるべき本当の場所。

 孤児は手を差し出し、『あとは行けば分かる』と笑ってみせ、もう一人はその手を取る。

 

 やがて、孤児たちは青年となり、そんな彼らを慕い、多くの者たちが集い、ある旗印を掲げ、自分達の本当の居場所へ歩み始めるのだった。

 

 

 

「──それこそが鉄華。決して散らず、永遠に咲き続ける鉄の華。

 勿論、別れが無かった訳じゃない。仲間の死が無かった訳じゃない。それでも青年たちは止まらなかった。

 彼らには覚悟があった。

 決して折れない意志があった。

 この刺繍はその体現。私自身が皆を引き連れる高嶺であり続けるという覚悟の意思表示。この覚悟を越えない限り、私の高嶺舞を越えることはない。

 貴女にその覚悟は有るかしら?」

 

「….….….….まれ」

 

「有るわけがないわよね? 勝てないからって逃げている貴女には」

 

「──黙れぇッ!!!」

 

 槍を上段から振り下ろす二代。だが、ただ感情に任せて振り下ろされた槍が高嶺に届く訳もなく、乾いた音と共に弾かれた蜻蛉切に腕を持っていかれ、彼女の胴ががら空きになる。

 

「目を覚ましなさい。貴女は三つの間違いを犯している。

一つ目は私みたいないい女に逆らったこと。

二つ目は仕える相手を間違えていること。

最後に三つ目。これが最も重要。

 たった一回負けたからって、敵わない相手だからって諦めてんじゃないわよ。何度でもアタックして、その諦めきった覚悟を叩き直しなさい。もし無理だって言うのなら、私が叩き直してあげる。文字通りね──」

 

 喜美がハードポイントに展開された術式から飛び出した黒い棒状の何かを掴み、それを引っ張り出す。

 

 それは武器だった。長さは喜美の身長と同等。槍のように見えるが、その特徴的な形状から突き出すというよりもメイスや大槌のように叩きつける事に特化した武器だと分かる。

 

「──さあッ! 歯を食い縛りなさいッ!!」

 

 無防備な二代の胴に、喜美は武器…超大型メイスを叩きつける。

 …この日、智のズドン、直政のバコン、ネイトのドカンに加え、喜美の『ドゴシャァァァァンッ!』が武蔵の擬音に加わったのだった。

 

 

 

 




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謝罪と生存報告

いつも私の作品を読んでくださる多くの読者に感謝を。

メンツコアラです。

今回は二つほど報告がございます。

 

一つ目にまずは謝罪を。

二年程前に社会人となり、慣れぬ新生活にかかりっきりの状態。結果、どの作品も中途半端に止まってしまい、そのまま長いものだと数年近くも音沙汰無い状態。私の作品を心待にしてくださっている方々に深く謝罪を申し上げます。

誠に申し訳ありませんでした。

漸く慣れてきたところですので、少しずつではございますが、作品を投稿していこうと考えております。

 

二つ目の報告。

こちらは上記の作品投稿。そして、こちらの作品のタイトルにも関係している事なのですが、暫くは過去に投稿した作品で改めて読み返して納得できなかった物や仕事の合間に考えていた作品の再構成など、リメイクをメインとしていきます。

こちらの『境界線上のIRON BLOODED』もその対象の一つです。

大まかな流れは変えませんが、以下の事項が変わります。

 

・一部能力の変更

・文章の変更&追加

・タイトルの変更

 

あと、サブ作品として、長く続けるために私の他の趣味に関するものを題材とした作品を書いて行こうと考えております。

 

現状のサブ作品予定

・バトスピ×プリコネ

・メガミデバイス主体

・シンフォギア×ゼンカイジャー(こちらもリメイクするかも)

 

また、もし『この作品をリメイクしてくれ。』や『この作品を更新してくれ』などの要望がございましたらメッセージなどで送ってください。すべての要望に答えることは難しいですが、できる限りのことはしていくつもりです。

 

以上で報告を終わります。

長々と付き合っていただき、誠にありがとうございました。

 

最後に一つだけ。

作者はわりと誉められたりするとエンジンがかかり、頑張れるタイプです。感想などがあれば、より作成意欲が湧いてきますので感想があればどしどし送ってくれると嬉しいです。

 

では、皆様。2023年も残り僅かとなりましたが、これからもメンツコアラの応援を宜しく御願いいたします。

 

BY.メンツコアラ

 

 

 

以下、字数確保のため、サブ予定のあらすじをすこし。

 

・バトスピ×プリコネ

 バトスピの勝敗で物事がある程度決まる事が一般的常識の世界。少年は絆の力で世界の真実に近づく。

 もう一度…貴方と。今度はカードとコアで繋がる絆の物語。

 

・メガミデバイス

 メガミデバイスの存在が一般的な世界。四機のメガミと一人の青年の日常的コメディ。バトルもあるよ。

 

・シンフォギア×ゼンカイジャー

 最近まで投稿していた奴。リメイク要望ありますか?

 

 

それではまた。

バイバーイ(-_-)/~~~



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