兎と龍の幽雅な日常 (バンドリーマーV)
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兎と龍のニューライフ

思いつきと息抜きで始めた新シリーズです。



戦兎「天っ才物理学者・桐生戦兎の暮らす東都の街で、スマッシュと呼ばれる謎の怪人が市民を脅かしていた。そこに現れたのが我らがヒーロー・仮面ライダー!」 

 

龍我「自分で天才とかヒーローとかイタイんだよ。ただの記憶喪失のオッサンだろ」 

 

戦兎「うるさいよ!そう言うこいつは刑務所を脱走した殺人犯の万丈龍我」 

 

龍我「俺は殺しも脱走もしてねぇ!」 

 

戦兎「そう言ってわんわん泣いてすがるもんだから、心優し~い俺は、何と東都政府を敵にして、こいつと逃げてしまったのでありました──」 

 

 

 

──そうして始めた"記録"。

 

俺達がかけがえのない仲間達と共に生きたあの世界の記憶を、消さないために。

 

 

 

 

 

 

 

 

──新世界。

この世界にやって来てしばらくたったある日の夜、公園のベンチ。

 

龍我「ハラ減ったぁ…」

戦兎「言うな万丈。口に出すと余計に腹が減る」

 

俺は桐生戦兎。仮面ライダービルドに変身する天っ才物理学者だ。

 

隣のバカは万丈龍我。仮面ライダーグローズに変身する、元格闘家。俺の…相棒だ。

 

俺と万丈は、仲間達と共に地球外生命体・ブラッド族のエボルトを倒し、"新世界"を創造(ビルド)した。

 

 

 

龍我「てかさぁ…戦兎」

戦兎「ん?」

 

そして今…俺達は端的に言って、困っていた。

 

龍我「俺達いつまで野宿なんだよ!」

戦兎「しょうがないでしょうが。今の持ち金で部屋なんか借りられるかっての」

 

そう、宿無しなのだ。

俺が造ったペットロボットを売ってはいるが、まだまだ売り始めたばかりだからそこまでは貯まっていない。

 

戦兎「この辺は家賃高いからなぁ。どうしたもんか…」

 

俺達は二人揃って頭を抱える。

 

戦兎/龍我「「はぁ〜…」」

 

 

 

 

『──お兄ちゃん達、住むところを探してるの?』

 

戦兎/龍我「「ん?」」

 

ふと、すぐ側から声をかけられた。

子供の声だ。

 

『だったらあの店に行ってみなよ。安くていい部屋、きっとあるよ』

 

あの店?

顔を上げるが……

 

戦兎「……あれ?」

龍我「あん?今のガキどこ行った?」

 

すぐ側から声が聞こえたはずなのに、子供の姿はどこにもなかった。さらに…

 

戦兎「『前田不動産』…」

 

俺達の真正面、公園から出て道路を挟んだ先に、『アパート、マンション、下宿、空き部屋あり』の看板が見えた。

 

戦兎「……あんなとこに、あんな店あったか?」

龍我「わかんねぇ…。けど行ってみね?」

戦兎「う〜ん…まぁ、ものは試しか」

 

俺達はその『前田不動産』に向かった。

そしてそれは…俺達の新しい物語の始まりだったんだ。

 

 

 

 




いかがでしょうか。
不定期更新ですが、よろしくお願いします!


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光さすルーム

戦兎と龍我が寿荘へ…。


 

前田「さぁ、ここだよ。なかなかモダンな建物でしょ?」

戦兎/龍我「「…………」」

 

 

新世界にやって来て1ヶ月半くらい。

俺と万丈は、前田不動産の前田さんから紹介された格安アパートにやって来た。

 

『寿荘』。

鷹ノ台駅から歩いて10分。部屋は二畳の板間と六畳の和室。南向き。トイレと風呂は共同だが、賄い付きなんで、食事は作ってもらえるわけだ。

 

家賃は、ズバリ二万五千円!

しかも光熱費、水道代、賄い代込みで二万五千円!

安い!めっちゃ安いし!

 

……ただし、このアパートを紹介された時、こうも言われた。両手をだらりと垂らした前田さんから、

 

前田『出るんだ、コレが』

 

……と。

 

幽霊か妖怪でも出るというのか。

 

……まぁ、それはいい。前に会ったエグゼイドの世界にはお化けの仮面ライダーがいるくらいだからな。万丈が『命燃やす先輩』とか呼んでる奴。体脂肪みたいに言うんじゃないよ筋肉バカ。

……しかし。

 

龍我「……なんかボロくね?」

戦兎「築何年なんだ…?」

 

蔦に覆われた、古びた灰色の壁。えんじ色の屋根。窓にはステンドグラスが嵌め込まれている。玄関は木製の観音開きで、ここにもステンドグラスがあしらわれていた。

 

……なんつーか、映画のロケにでも使われそうな『大正ロマン風』の造りだ。てかいかにもその頃に作りました〜的な古さを感じる…。

 

龍我「大丈夫かここ…」

戦兎「……ま、まぁ、格安だしな……」

「おや、前田さん」

前田「やぁ、一色さん。お久しぶり」

 

玄関から竹箒を持った甚平姿の男が出てくる。子どものラクガキのような、どこかとぼけたような顔だ。

 

一色「おや、新しく入る人達かな?」

前田「今日は下見。桐生戦兎くんと万丈龍我くんだよ」

戦兎「どうも、はじめまして。ここに住んでる方ですか?」

一色「そぉ。もう十何年になるかねぇ。アタシは一色黎明。作家やってるんだ。よろしく」

戦兎「はい、よろしくお願いします」

龍我「うっス」

戦兎「ちゃんと挨拶しなさいよ…」

 

そして俺達は、前田さんの案内で部屋にやって来た。

 

龍我「……お、外から見たよりいい部屋じゃん」

 

万丈がそう言ったが、俺も同感だ。

南向きの大きな窓。その上部に埋め込まれたステンドグラスの、色とりどりの光が畳の上に落ちている。窓からは前庭が見え、様々な花が美しく咲き誇っていた。

 

戦兎「……あぁ。いい部屋だ」

 

どこか、心が安らぐ部屋だ。

ずっと戦いに身を置いてきた俺達を、この場所は癒してくれる…なんとなくだが、そんな、気がした。

 

 

 

 



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入居先のトゥルース

妖アパ主人公がやっとこさ登場です。


 

一色「やぁ、いらっしゃい」

戦兎「どうも、お世話になります」

龍我「よろしくな!」

戦兎「バカ、敬語くらい使いなさいよ!」

龍我「バカって言うなよ、せめて筋肉つけろ!」

一色「あはは!まぁ気にしないで」

 

俺と万丈は、正式に入居を決めたアパート『寿荘』にやって来た。

 

前田「はい、これ部屋の鍵。205号室ね」

龍我「あざっス!」

戦兎「ありがとうございます、でしょうが!」

前田「まぁまぁ。それじゃ、ボクはこれで」

 

前田さんは鍵を渡してくれると、そのまま帰って行った。

 

俺達は部屋に荷物を置いた。

 

戦兎「さて、住人の皆さんに挨拶だ」

龍我「夕飯の時でよくね?賄いってことはみんな来るんだろ?」

 

万丈はそう言いながら窓を開ける。

窓の外には桜の木。蕾が見えるし、もう少ししたら花が咲くだろう。綺麗だろうな。

 

木の枝には、なんか丸っこい鳥が3羽並んでいる。綺麗な瑠璃色の羽だが、こりゃなんて鳥だ?

 

そう思ってたら……

 

 

 

 

 

鳥1「お、新入りかっチュン?」

鳥2「ようこそ寿荘へっチュン!」

鳥3「夕士みたいに驚いてぶっ倒れるなよっチュン」

 

 

ピシャッ。

 

万丈は黙って窓を閉めた。

 

戦兎「…………」

龍我「…………」

 

一色「戦兎く〜ん、龍我く〜ん。お昼ごはんだよ〜」

 

廊下から一色さんの呼ぶ声が聞こえる。

 

戦兎「……メシ、行くか」

龍我「……お、おう」

 

俺達は1階の食堂に向かう。

 

戦兎「……ん?」

 

ふと、玄関の床が目に入った。

足跡がたくさん見える。さっき来た時はあんなの目に入らなかった。

……その中に、どう見ても人のものとは思えないようなものがある。

鳥の足のような三本線や、獣みたいなもの。

やたら大きかったり、小さかったり…。

 

戦兎「…………」

 

 

 

前田『出るんだ、コレが』

 

 

 

戦兎(……まさか、これが……?)

 

「ただいま〜ッス!」

 

その時、一人の少年が帰って来た。

 

『おかえりなさい』

 

誰かが出迎え……って、今の誰だ?

女性の声だったが、目が届く範囲には男しかいないぞ…?

 

「あれ?新しく入った人っスか?」

戦兎「あ…おう。俺は桐生戦兎。んでこいつが俺の助手の…」

龍我「助手じゃねぇよ!…っと、万丈龍我だ」

「はじめまして!俺、稲葉夕士っていいます。条東商業高校の2年ッス。よろしくお願いします!」

 

少年…夕士と共に食堂へ向かう。

 

 

 

そして。

 

戦兎「……なっ……」

龍我「うおおっ!?」

 

なんか満員御礼なんですけど。

しかも明らかに人じゃないっぽい奴ら混じってるんですけど。

いや、フツーに人間とか犬とかもいるんですけどね?

なんかガイコツみたいなじーさんがお茶飲んでたり、動物っぽいやつらもいるし、なんかマスコットみたいなちっこい生き物もいる。

 

一色「いらっしゃい二人共。お、夕士くんおかえり」

夕士「ただいまッス!」

 

龍我「んじゃこりゃあ!?」

一色「おや、最初から全部見えるなんてめずらしいネ」

夕士「あれ、まだご存じないんですか。一色さん説明してないんスか?」

一色「あはは、まだ」

夕士「まったくもう、俺の時もそうだったじゃないスか…」

 

戦兎「……ゆ、夕士、これは…」

夕士「はぁ……では俺から。ここはですね。人間や妖怪、幽霊なんかもいっしょに暮らしてる、『妖怪アパート』なんですよ」

 

戦兎/龍我「「妖怪アパートォオオ!?」」

 

 

 

 



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至福のランチタイム

るり子さんの料理…食べたい。


 

なんとまぁ、俺達が入居したのは、人間、妖怪、幽霊達がいっしょに暮らしてる『妖怪アパート』だったらしい。

 

龍我「マジか…」

戦兎「こいつは驚いたな…」

 

……まぁ仮面ライダーゴーストのことから幽霊の存在は知ってたが、まさかこんな場所があるとは。学者としてはなんだが、すげぇな。

 

夕士「けど意外と冷静ッスね」

一色「夕士くんなんて初日は気絶しちゃったもんね〜」

夕士「ちょ、一色さん!」

 

夕士は恥ずかしそうにしてるが、まぁ普通は気絶するレベルだよな。俺ら、スマッシュやらエボルトやら平行世界やら、色々ありすぎて慣れちゃったよ。

 

戦兎「いや、驚いたのは確かだよ」

龍我「幽霊とか妖怪は会ったことねぇけど、色々あったからなぁ。まぁ慣れだな」

一色「ほぉ〜興味深いネ」

戦兎「おいバカ」

龍我「筋肉つけろ!」

戦兎「うるさいよ筋肉バカ」

龍我「よし!」

戦兎「いやよしじゃねぇよ」

 

一色「まぁまぁ、今は食べようよ」

 

戦兎/龍我「「あ、はい」」

 

一色さんにそう言われたので、俺達は席について手を合わせる。

 

戦兎/龍我/夕士「「「いただきます!」」」

 

見るからにうまそうな…!

桜海老と空豆の炊き込みご飯に、春野菜の天ぷら…すげぇ、なんかすげぇ。

 

炊き込みご飯を口に入れ…俺達は目を見開いた。

 

戦兎/龍我「「うんめぇええ!!」

 

思わず万丈と二人して叫んじゃったよ。

え、これ賄いのレベル超越してない!?マジ美味いんだけど。天ぷらとか他のメニューもめっちゃ美味い!!

 

戦兎「最っ高だ…!」

龍我「マジ美味い!なんだこれ!?」

夕士「くぅ〜っ!今日も最高っス、るり子さん!」

一色「さすがるりるりだね〜!」

戦兎/龍我「「るり…?」」

夕士「るり子さんはここの賄いさんです」

戦兎「すっげぇ腕だな…!今は厨房にいるのか?」

夕士「あ、ちょうど来たッスよ」

戦兎「あ、どう……も……!?」

 

俺と万丈は、さっきとは違う意味で目を見開いた。

 

……白い手が2つ、宙に浮いていた。

 

龍我「……手?」

戦兎「……手だな」

戦兎/龍我「「手ぇええ!?」」

 

夕士「るり子さんは幽霊ですけど、訳あって手しかないんです」

戦兎「……そ、そうなんだ〜…」

 

訳ってなんだ。……まぁ聞かないでおこう。幽霊にも事情ってもんがあるだろうしな。

 

龍我「そういや、オーズって先輩、手しかない相棒がいたって言ってたな。似たようなもんか?」

戦兎「そりゃ幽霊じゃないから違くね?」

一色「君たちもいろんなことを経験してきたみたいだね〜」

 

正直言って手だけのるり子さんにはめっちゃビビったが、美味いもんは美味いので、俺と万丈はおかわりしまくってしまった。

 

 

 



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パーソナリティーな仲間たち

お久しぶりです!
いずれはたま〜にバトルもやりたいですが、基本的には日常です。


夕飯時。俺と万丈は、昼間会わなかった多くのアパートの住人達と出会った。

 

深瀬「はっ、物理学なんざ意味わかんねぇな」

 

深瀬明さん。暴走族みたいな見た目だが、職業は画家。ポップでパワフルな前衛アーティストであり、彼の絵は海外ではかなり人気らしい。狼の血が入った愛犬・シガーと共にバイクで旅してるとか。

 

秋音「おいひ〜!!」

龍我「どんだけ食うんだ!?」

秋音「あたし、人の3倍は食べるの!」

龍我「はぁ!?マジで!?」

 

JKのセリフとは思えないこと言ってるこの女の子は、久賀秋音ちゃん。高校3年生で、除霊師の卵だそうだ。夜は妖怪病院でバイト兼修行だとよ。すげぇ。

 

他にも、妖怪だけど人間のふりして会社務め(しかも大手)してる『佐藤さん』、小さな子どもの幽霊『クリ』とその愛犬(というかお母さんみたいな感じ)の、犬の幽霊『シロ』、黒坊主の大家さん、と個性豊かな面々が揃っている。

 

最初に会った一色黎明さんは、詩人にして童話作家。難関で高尚な詩と耽美でヤバめな大人向けの童話を書いて、一部に偏執狂的に熱狂的なファンを持つ異色作家……らしい。

夕士が持ってた一色さんの童話、一冊読ませてもらったが……ヤバい。ありゃヤバいわ。色んな意味で。

 

そして、その稲葉夕士。

中学の時に両親を亡くし、叔父の家に世話になる負い目とプレッシャーから寮のある高校を目指して受かったはいいが、その寮が燃えちまって、建て直しまでと入ったのがこの寿荘だったのだという。

 

夕士「ここに来て、俺の常識とか、意地張って作ってた壁とか…そういうもんが砕け散りましたよ。もっと広い目で世界を、未来を見るってことを教えてもらいました」

 

戦兎「未来…か」

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜、いいお湯だった〜!」

 

戦兎/龍我/夕士「「「ウグッンンッ!」」」

 

俺達は豚のシソバター焼きを危うく喉につまやせかけた。

 

なぜなら…!短パンに上半身裸、首にかけたタオルで辛うじて胸が隠れているというとんでもない格好(しかもスーパーダイナマイトボディ)の女が立っていたからだ。

 

夕士「まり子さんッ!やめてくださいッ!」

まり子「え〜いいじゃん別にぃ!るり子ちゃ〜ん!ビールちょ〜だい、ビール〜!」

 

 

 

龍我「いやなんてカッコしてんだよ!?」

 

夕士「分かります、分かります…。俺も初めて会った時アレでしたから…」

 

戦兎「おわぁ…」

 

夕士は苦笑いしながら言った。

 

夕士「まり子さん。元人間っス。幽霊になってずいぶん経つから、だんだん女性としての感覚とか恥じらいとかいうのがマヒしてったみたいで…もはや中身はオッサンです」

 

龍我「あんな美人なのに!?」

 

夕士「まり子さん、あの調子で男風呂にも平気で入ってきますからね。それもタオルすら巻かずに。覚えといてください」

 

戦兎「そ…それは、困るな…」

 

ここの住人達は、なんというか…。

 

一人残らず、個性的だ。

 

 

 

 

 

 

夕食後。

 

龍我「なんじゃこりゃあ!?」

戦兎「こ、これは…完全に物理法則無視してんな…」

夕士「はは、俺も初めて来た時は固まっちゃいましたよ」

 

共同の風呂は地下にある。夕士に連れられて来てみれば、なんと天然の洞窟風呂だった。

 

本物の温泉がこんな住宅街のど真ん中に!?

 

…さすが妖怪アパートとしか言いようがないな。

 

戦兎「料亭みたいなうまい飯に温泉…ここは最高級旅館か…?」

 

夕士「俺のダチが来た時も同じこといってました。……あ〜、いつ入ってもいい湯だ」

 

龍我「極楽だ〜…」

 

 

 

風呂に浸かりながら、俺達は夕士がこのアパートに来てからの話を聞いた。

 

夕士「一度は…『普通の人間』として、『普通の生活』をしたいって、ここを出て再建された寮に移ったんです。けど…寮生活も、何もかもうまくいかない中で、考えたんです。『普通』ってなんだろうって」

 

『普通』とは何か…か。

 

夕士「そしたら…思ったんです。俺の居場所はここだって。こっち側から、人間の世界を見てみたいって」

 

戦兎「……大事な場所なんだな。ここは」

 

夕士「はい!だって、幽霊も妖怪も、みんな…楽しい仲間だから!」

 

戦兎「そっか…そうだな」

 

 

 

 

その夜、俺と万丈は布団を並べて寝ていた。

 

龍我「なぁ、戦兎」

 

戦兎「ん?」

 

 

 

龍我「……いい場所だな、ここ」

 

戦兎「あぁ……最っ高だ」

 

 

ここに来てよかった。

 

心から、そう思う。

 

 

 



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奇跡のリユニオン

 

ある日の朝。

 

戦兎「ふわぁあ…」

龍我「ったく、俺まで起こしやがって…ふわぁああぁ…」

 

今日はなぁんか早く目ぇ覚めてしまった。まだ朝5時だよ。

 

夕士「あ、戦兎さん。うはよっス」

秋音「おはよ〜ございま〜す!」

龍我「お、夕士、秋音」

戦兎「おはよう、休みだってのに早いな」

 

万丈と廊下を歩いてたら、夕士と秋音ちゃんがいた。

 

秋音「夕士くんの修行がありますからね!」

戦兎「修行…?」

夕士「あぁ、まだ言ってませんでしたよね」

 

夕士は一冊の本を取り出す。

 

夕士「フール、挨拶しろよ」

『かしこまりましたッ!』

 

すると、ポンッと、本から手乗りサイズの小人が現れた。

 

戦兎「小人…?」

龍我「なんだコイツ?」

フール「お初にお目通り致します、桐生様、万丈様!私め、『(プチ)ヒエロゾイコン』の案内人にして、夕士様の忠実なる僕、(ニュリウス)のフールと申します」

 

万丈「プチピエロ大根?」

戦兎「プチヒエロゾイコンなバカ」

万丈「バカ言うなよ、せめて筋肉つけろ!」

戦兎「だからバカが筋肉バカに変わってなんになるんだっての!…んで、なんだそりゃあ?」

 

夕士「えっと、この本は22匹の精霊や妖魔を封じ込めた魔導書なんです」

秋音「夕士くんはこの本に選ばれた見習い魔導士ってわけです」

戦兎「なるほどな…」

龍我「魔法の本ってか?お前もすげぇじゃねぇか」

 

夕士は苦笑いした。

 

夕士「ところがプチは大した魔導書じゃなくて、精霊も妖魔も役立たずで…」

 

フール「役立たずとは手厳しい!」

 

夕士「役に立つ奴いたかよ!英知の梟はボケてるし、死神は幽霊のクリに向かって『お前は3日以内に死ぬ!』なんて言うし、ケルベロスはまだ子犬だし!」

 

戦兎「な、なるほどなぁ…」

 

この本を作った大昔の魔導士だかなんだか知らないが、どうやらかなりお茶目な奴だったようだな。

 

秋音「それでもいざという時のため、本をコントロールするための霊力トレーニングは必要なんですよ」

戦兎「へ〜え…」

 

 

 

つ〜わけで、夕士がホースの水かけられながら経文読んでる間、俺と万丈は食堂で、るり子さんが淹れてくれたコーヒーを飲んでいた。

 

戦兎「美味いな。新世界のマスターのコーヒーも美味いけど、負けてない」

 

万丈「だな。そういやエボルトの野郎、10年も喫茶店やっててなんであんな不味いコーヒーしか淹れられなかったんだろうな?」

 

戦兎「さ〜あ、けど奴がnascitaを経営してたのは、ブラックホールを連想させるコーヒーを気に入ったかららしいぞ」

 

万丈「はぁ!?んだそりゃあ!てかなんでそんなこと知ってんだよ!」

 

戦兎「エボルト本人からだよ。聞いてもないのに勝手にベラベラ喋った」

 

龍我「マジかよ。で、それがなんだってんだ」

 

戦兎「ブラックホールに近づけようとして黒さだけ追及してたらひたすら苦いだけのマズいコーヒーになったんじゃねぇの?」

 

龍我「あ〜そうか。ったく、そのせいで俺までコーヒー淹れんのド下手になっちまったじゃねぇか」

 

戦兎「遺伝子のせいにするんじゃないよ」

 

 

 

『どうも〜、お届けに来ました〜』

 

戦兎/龍我「「──ッ!?」」

 

俺達は思わずバッと顔を上げた。

 

龍我「お、おい戦兎、今の声…!」

戦兎「あぁ…!」

 

 

 

 

 

「どうも、猿渡ファームです」

一色「いつもありがとうね〜」

 

厨房の奥の裏口で、るり子さんと一色さんが野菜の入った段ボールを受け取っていた。

そして外にいたのは…!

 

龍我「カズミン!!」

 

猿渡一海…仮面ライダーグリスとして、共に戦った仲間がそこにいた。

 

しかも、三羽ガラスまで後ろにいる。

 

 

 

一色「おや、戦兎くん、万丈くん、おはよう」

 

一海「…!戦兎、龍我…!」

 

赤羽「ん?あぁ!」

青羽「マジか!」

黄羽「ホントだ!」

 

──!?

 

戦兎「お前達…俺達のことを、覚えてるのか…?」

 

一海「あ、あぁ。ついこの間思い出したんだけどな。てかお前らここに住んでんのか!?」

 

龍我「あ、あぁ…」

 

一色「そうか…君たちが一海くんの言っていた仮面ライダーだったんだね」

 

戦兎「え…知ってたんですか?」

 

一色「まぁね。…君たちは本当に、よく走りきったよ」

 

一海「俺が大体のことを話したんだ。記憶が戻った時にな」

 

 

──俺達は、一海達の話を聞いた。

 

新世界の猿渡ファームは、人間と妖怪が共に働く農場となっているらしい。

 

俺達が入居する2週間前から、寿荘に野菜を納品しているそうだ。

 

寿荘に出入りするうちに、このアパートの特殊な霊気の影響で記憶が戻ったとのことだ。

 

俺達は再会を喜びあった…しかし、俺には、喜んでばかりはいられない理由があった。

 

 

 

戦兎「──すまなかった。…いや…本当に、すいませんでした」

 

青羽「お前…」

 

 

俺は青羽──相河修也さんに、頭を下げた。

 

龍我「戦兎…」

一海「…………」

 

 

俺が……"殺して"しまった。

 

何をしても、償えることじゃない。

 

だが、それでも…。

 

 

青羽「……顔、上げろよ」

 

戦兎「……ぁ……」

 

青羽「お前は…カシラ達といっしょに、戦ってくれた。…それ以上、何もいらねぇよ」

 

戦兎「……青、羽……」

 

青羽「いつまでもジメジメしてんと…心火を燃やしてぶっ潰すかんな!」

 

 

一海「あっ、それ俺の台詞だぞ!」

青羽「ハハ!いいじゃないですかカシラ!」

赤羽/黄羽「「アハハハ!!」」

 

龍我「ハハ!……ほら、戦兎」

戦兎「……あぁ……!」

 

俺は涙を拭って、万丈の手をとって立ち上がる。

 

一海「うっし!湿っぽい話はここで終わりだ!お前らのことも聞かせろよ!」

 

龍我「おう!ここに来たのはな、公園で…」

 

 

 

一色「いい仲間を持ったね、戦兎くん」

 

戦兎「……はい……最っ高です…!」

 

 

 

 

 



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ドラゴンの言葉

 

一海、そして三羽ガラスとの再会からしばらくたった。あれからもたまに、野菜を持ってくる時に顔を合わせている。

 

ある日のこと。

 

長谷「はじめまして、長谷(はせ)泉貴(みずき)といいます」

 

戦兎「おう、よろしく。俺は桐生戦兎。んでこいつが俺の助手の…」

龍我「だから助手じゃねぇよ!…っと、万丈龍我だ」

 

夕士の幼なじみの長谷(はせ)泉貴(みずき)が遊びにやって来た。

 

夕士とは小学生時代からの親友。両親を亡くしてヤサぐれてた夕士からただ一人離れなかった友達…らしい。

 

容姿端麗、頭脳明晰、超有名大企業の社長子息のお坊ちゃん!手土産にドンペリってなんだよドンペリって。まぁ俺もちょっと飲ませてもらうけどな。

 

しかぁしただの優等生にあらずッ!中学自宅には裏番を務め、ゆくゆくは親父さんの会社を乗っ取ろうと、今は近隣の『見所のある』不良どもを着々と束ねて『組織作り』してるんだとよ。ヤベーイ。モノスゲーイ。

 

長谷「ここはホント面白いところですよね〜」

戦兎「全くだな」

 

 

 

──その時だった。

 

戦兎/長谷「「……ん?」」

 

急にあたりが静まりかえった。

まるで風の流れさえピタリと止まったような。

 

龍我「なんだ…?」

 

夕士「…!龍さんだ…!」

戦兎「それって、確か…」

 

夕士から少し話を聞いたことがある。

 

龍さん。なんでもとびきり格の高い霊能力者だとか……。

 

現れたのは、黒いジャケットに、長い黒髪を後ろで束ねた男。

 

なんというか……上手く表現できないが……雰囲気がこう、すげぇ。

 

夕士「龍さん!」

龍「やぁ、夕士くん。久しぶり。おかえり!」

 

 

 

俺達は、龍さんに挨拶をした。

 

龍「そうか。君たちが"仮面ライダー"か。話は聞いているよ」

 

戦兎「は、はぁ…」

 

龍「長い戦いの果て、君たちがここにたどり着いたのもまた、運命ということだね。これからよろしく頼むよ」

 

戦兎「は、はい!」

龍我「う、うっス」

 

 

 

そして俺達は、夕士が語る『プチ』のダメダメ話に揃って爆笑した。

 

龍「いきなりでびっくりしただろうけど、なんてことないからな」

 

夕士「古本屋さんにも同じこと言われたっス。俺としては、どうせなるなら龍さんの後輩になりたかったな〜なんて──」

 

長谷「あ」

龍「あ」

龍我「あ」

戦兎「あらぁ〜…」

 

夕士「へ?」

 

ドガッ!

 

夕士「いってぇええっ!?」

 

古本屋「よう、龍さん!久しぶり!」

龍「や〜古本屋さん。変わらないね」

古本屋「お互いサマ」

 

丸メガネに不精ヒゲのこの男、世界を旅して古今東西の奇書珍書を売買し、自身も魔導書を操る夕士の"先輩"、『古本屋』である。

 

戦兎「これを教訓に気をつけろよ、夕士」

夕士「は、ハハ……いてぇ……」

 

 

 

で、俺達は昼間っから始まってる酒盛りに混じって昼飯を食った。

 

戦兎「うまっ!初ガツオの刺身うまっ!」

龍我「だな!俺今までタタキしか食ったことねぇよ」

長谷「俺もです。カツオって足が早いしなぁ」

龍我「足?カツオに足なんかねぇぞ」

戦兎「そういう意味じゃないよバカ」

龍我「筋肉つけろ!」

戦兎「うるさいよ、黙って食ってなさいよ」

 

カツオの刺身もさることながら、海老と新生姜の挟み揚げとか最っ高じゃねぇか。

 

さらに帰って来た秋音ちゃんが、

 

秋音「このカツオのお刺身のお茶漬けが、もうサイコーにおいしいのよ〜!」

 

戦兎「え!?刺身をお茶漬けにって、生臭くならねぇの!?」

 

秋音「二、三切れ小皿にとって生姜とお醤油にしばらくつけておけば大丈夫です!」

 

一色「もうるり子ちゃんがやってくれてるよ」

 

秋音「さっすがるり子さん!わかってる〜!」

 

で、俺らも試してみたらめっちゃうまかった。

 

秋音ちゃんに倣い、生姜醤油によくつけたカツオの刺身を熱々の飯に乗っけて、ほうじ茶かけたらも〜う最っ高!腹パンパンになるまで食っちまったよ。

 

 

 

翌日、バカでかいイノシシをかついだひとつ目巨人がやってきた。なんでもありだなここは。

 

ひとつ目巨人──又十郎さんは、熊野の山奥の隠れ里で暮らしているそうだ。

 

一昔前の豪放磊落な親父といった性格。俺達の世界では、こういう人物も消えつつある。

 

あらゆるものや情報に囲まれて、不自由なく生活しているから…だろうか。

 

龍「物のあるなしじゃないんだよ。結局は……やっぱり、ココの問題だね」

 

胸をトンと叩きながら言った龍さんのその言葉は、なんだか、すげぇ印象に残った。

 

 

 

 



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怪談inスクール

妖アパ原作準拠で何話かちょっとシリアスです。


 

──夕士の高校で、ある不気味な事件が起こったそうだ。

 

誰もいない体育館の倉庫。そこから聞こえる声や、チラリと見える人影。

 

戦兎「よくある学校の怪談じゃねぇの?」

夕士「ここまでだけなら、そうなんですけどね…」

龍我「どういうことだよ?」

 

夕士「フールに焚き付けられて、その倉庫に行ってみたんですけど…途中で田代も勝手について来たんですけどね」

 

田代というのは、夕士のクラスメイトで英会話クラブでも一緒の女の子らしい。とにかく情報収集が大好きだとか。若干腐女子の気あり…らしいがそれは今は置いとこう。

 

夕士「壁にビッシリ段ボールが貼り付けてあって…それを剥がしてみたら…」

 

戦兎「みたら…?」

 

夕士「壁に文字と絵がビッシリ…それも女性を呪うものばっかり。女性を表すマークとかの上からメチャクチャに傷をつけたり、『死ね』、『殺す』、『狂え』、『苦しめ』…そんな言葉が細かい文字でビッシリと…」

 

龍我「うわ気持ちワリィ!」

 

戦兎「女を呪う念がそこに溜まってた…ってわけか…」

 

夕士「しかも、その後現れた三浦が…」

 

三浦というのは、夕士の高校にいる根暗な教師だとか。不純異性交遊に異常に厳しいらしい。

 

なんでも以前はお嬢様女子校に勤める熱血教師だったが、プライドの高い女子生徒達から陰湿な『教師いじめ』を受け続け、精神がズタボロになってしばらく引きこもり、今となっては『抜け殻』状態…らしい。

 

倉庫に入ったきた三浦は、その壁を見た瞬間…一瞬、その体か黒い煙に包まれているように見えたと言う。

 

さらには、

 

『女は、みんな死ねぇええええええッ!!』

 

とかトチ狂ったことを叫びながら田代って子を壁にブン投げたとか。

 

その時真正面で見た三浦の顔を、田代は覚えていないそうだ。

 

──『真っ黒だった』と言う。

 

 

 

戦兎「…………」

 

夕士「しかも、その後は何事もなかったように他のクラスで授業してたものの…だんだん具合が悪くなって、とうとう委員長が『大丈夫ですか?』って近づいて声かけたら…『近寄るなッ!』…って叫びながら苦しみ出したって。終いには泡吹いてぶっ倒れて、救急車で運ばれていきました」

 

龍我「んだそりゃあ…」

 

戦兎「…その委員長は女の子だった…ってわけか?」

 

夕士「はい…で、プチの精霊に探らせてみました。プチだし、詳しいことはわからないでけどね。…最初は倉庫にドロドロしたものを感じるって言ってたのに、三浦の一件の後にもう一度探らせてみたら…どこかに出ていったように、消えていると」

 

戦兎「部屋にいた『何か』が、三浦に取り憑いた…ってことか?」

 

夕士「俺はそう考えてます。さらに、さっき…」

 

なんと、三浦は帰宅中の田代を襲おうとしたらしい。

 

夕士は咄嗟にプチの精霊の力で三浦をぶっ飛ばしたらしいが、田代曰く、その顔はまた『真っ黒』だったと…。

 

秋音「夕士くんの推理は正しいと思うわ。三浦先生を抜け殻のようだと言ってたけど、その隙間に入りこまれたのよ」

 

フール「形のないものは、形あるものに入りたがるものでこざいますから」

 

両者の女への恨みがもたらした、最悪の『運命の出会い』。

 

それこそが…俺達も巻き込まれる戦いの始まりだった。

 

 

 

 



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再来のトランスフォーム

今回、ついに…!


 

○夕士視点

 

──俺と秋音ちゃんは、なんとか三浦に取り憑いた怨念を払うことに成功した。

 

しかし……

 

『なんで俺が、あんな目にあわなきゃいけないんだよ!俺は悪くないぞ!あのガキどもが全部メチャクチャにしたんだ!』

 

『なんでだよ…!俺は一生懸命やったんだぞ!一生懸命やったんだッ!』

 

奴は自分の非を一切認めなかった。

 

確かに前の学校にいた女子生徒達のやり方は陰湿だったし、傷付くのは無理がない。

 

それでも、三浦のほうも自分のやり方を信じて疑わずに押し付けたところがあったんだ。

 

両方が悪いんだ。

 

それなのに、自分を"いじめた"女子生徒達を恨むだけで自分の弱さを認めようともしない。元々甘ったれた人間だったのかもな。

 

だが、そこまでならもうほっときゃあよかったんだ。だってのに…!

 

 

 

夕士「くっ…!てめぇ、何考えてやがる…!」

 

三浦は、ナイフを手にして俺に襲いかかってきやがった。

 

三浦「わかってるよ…わかってるよッ!でも、もうどうしょうもないんだよ!気が収まらないんだよ!」

 

震える手で、泣きながらナイフを構える三浦。

その目は虚ろだった。

 

三浦「このまま、何もかもブチ壊したほうがいい気がするんだ。そうだろ?お前もそう思うだろ?」

 

夕士「バカか、てめぇッ!そりゃ逃げてるだけだろうが!てめぇも大人だってんなら、逃げないで向き合えよ!」

 

三浦「逃げてなんかないよ。なんでそんなこと言うんだ?わかんないよ」

 

チィッ…!完全にイカれてやがる!

 

三浦「アハハハッ!!」

 

ナイフを構えて突っ込んで来る三浦。

 

夕士「バカ野郎が…!」

 

俺は『プチ』を開く。

 

夕士「審判ッ!ブロンディーズッ!」

 

 

 

ドガァアンッ!!

 

 

 

三浦はぶっ飛び、俺達がいた美術室は半壊した。

 

夕士「力!ゴイエレメス!」

 

俺は魔人形ゴイエレメスを呼び出して瓦礫から助け出してもらった。

 

フール「ご主人様!ご無事ですか!」

夕士「左肩外れた…!クソッ!」

 

俺は三浦に近付くが……

 

 

 

夕士「……ん?」

 

赤黒いスライムのような"何か"が飛んできて…気絶した三浦の口から入り込んでいく…!

 

夕士「な…なんだ!?」

 

 

 

『──オォオオオッ!!』

 

三浦は、異形の怪物に姿を変えて立ち上がった。

 

夕士「なっ…!うわっ!!」

 

俺は成す術なく吹き飛ばされ、窓から放り出された。

 

夕士「うわぁあっ!!──くっ、女教皇!ジルフェ!」

 

風の精霊の力で落下の衝撃を多少やわらげて着地するが、三浦が変貌した怪物は追ってくる。

 

夕士「塔!イタカッ!」

 

俺は雷の精霊の力で雷を落とすが、一切効いた様子は無かった。

 

夕士「マジかよ…!?うわっ!!」

 

無茶苦茶に火の玉を乱射する怪物。

 

生徒達も気付いて逃げまとっている。

 

夕士「オイオイこれはマジでヤバくないか…!」

 

その時…

 

戦兎「夕士ッ!!」

夕士「戦兎さん!?」

 

戦兎さんがバイクでやって来た。

 

 

 

 

 

○戦兎視点

 

戦兎「夕士ッ!!」

夕士「戦兎さん!?」

 

謎の反応を感知し、マシンビルダーで夕士が通う条東商業高校にやって来た俺は、信じられないものを見た。

 

戦兎「スマッシュ…!?」

 

新世界に存在するはずのない存在…スマッシュがそこにいた。

 

戦兎「夕士、あれは…!」

 

夕士「三浦です…!」

 

戦兎「三浦!?」

 

夕士「三浦の野郎、ヤケ起こしてナイフ持って襲いかかってきやがったんです…!プチの力でぶっ飛ばしたんですけど、なんか赤黒いよくわかんないのが飛んできて、三浦の口から入り込んだら、あぁなって…!」

 

どういうことだ…?

 

だが今は…やるしかない!

 

戦兎「夕士…離れてろ」

 

俺はビルドドライバーを取り出し、腰に巻く。

 

 

 

戦兎「──さぁ、久々の実験を始めようか」

 

俺がフルボトルを振ると、数式が宙に現れ、流れる。

 

夕士「え、式?何!?」

 

俺はフルボトルをビルドドライバーにセットする。

 

《ラビット!》

《タンク!》

《ベストマッチ!》

 

俺はビルドドライバーのレバーを回転させる。スナップライドビルダーが形成され、そして……

 

 

《Are you ready?》

 

 

戦兎「──変身ッ!」

 

 

《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!》

 

 

 

 



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再臨のムーンサルト

超お久しぶりです!


 

 

《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!》

 

 

久々にビルドに変身した俺は、三浦が変貌したというスマッシュに向けて構えた。

 

 

夕士「せ、戦兎さん、もしかしてそれが…!」

 

ビルド「あぁ。仮面ライダービルド。"創る"、"形成する"って意味の"ビルド"だ。以後、お見知り置きを」 

 

 

葛城に倣い、そう夕士に告げた後、俺はスマッシュ目掛けて駆け出した。

 

 

ビルド「ハッ!」

 

 

俺はスマッシュに連続打撃を叩き込み、

 

 

ビルド「ハアッ!」

 

 

タンクの右足のキャタピラ攻撃でダメージを与える。

 

 

『ガァアアアアアアアッ!!』

 

 

スマッシュは火炎を放つ。

 

 

ビルド「フッ!」

 

 

俺はラビットの左足のバネで飛び上がって回避する。

 

続けて連射される火球もなんとか避けた。

 

 

ビルド「炎タイプね。なら…!」

 

 

俺はフルボトルを交換する。

 

 

《ハリネズミ!消防車!ベストマッチ!》 

 

《Are you ready?》

 

ビルド「ビルドアップ!」

 

《レスキュー剣山!ファイヤーヘッジホッグ!イェーイ!》

 

 

ファイヤーヘッジホッグフォームにチェンジし、消防車の左腕から放水。スマッシュの放つ火炎攻撃を消火しながら接近し、ハリネズミの右腕に装備した針で攻撃する。

 

 

 

『──ザケンナヨォオォオオオッ!!』

 

ビルド「──!?」

 

 

三浦か…?

 

 

『オレハ悪クナイッ!オレハ悪クナインダァッ!!』

 

ビルド「くっ…!」

 

 

攻撃の勢いが激しくなっている。

 

くっ…!心は弱いクセにパワーだけはありやがる!

 

 

『オレハイツデモ優秀ダッタ!ミンナニ支持されてキタンダッ!ソレヲアノガキドモガッ!』

 

 

……こいつにとっちゃあ、前の学校でのことは初めての挫折だったわけだ。田代って子の情報によれば、かなりいい大学出てるらしいし、在学中も評価されていたらしい。

 

 

『ナンデダヨッ!!ナニが先生のやり方ニハツイテイケナイダヨッ!お前ラノ言うコトヲ誰がキクモンカッ!フザケンナァッ!!』

 

ビルド「無茶苦茶なこと言ってんじゃねぇ!自分の弱さから目を逸らすのも大概にしろ!そりゃ前の学校の生徒だって勝手なとこあったんだろうけどな、そいつらの価値観を理解しようと努力したことが一度でもあったのかよッ!!」

 

『ンナモン知ルカァッ!!ウルサイウルサイウルサァイッ!!ゼンブメチャクチャニブッ壊レチマエェエエエエエエエエエエエエッ!!』

 

ビルド「馬鹿野郎がッ…!」

 

 

残念だか……

 

こいつは、本物のクズ野郎だ。

 

 

《ラビット!タンク!ベストマッチ!》

 

《Are you ready?》

 

ビルド「──ビルドアップ」

 

《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!》

 

 

ラビットタンクに戻り、再びレバーを回転させる。

 

 

ビルド「勝利の法則は…決まった!」

 

 

《Ready Go!》

 

《ボルテックフィニッシュ!》

 

 

ビルド「ハァアアッ!!」

 

X軸でスマッシュを拘束し、ラビットの左足で跳び上がった俺は、放物線を滑り、回転するタンクの右足を叩き込んだ。

 

 

『──オァアアアアアアアアッ!!』

 

 

大爆発が起こり、人間が倒れ込む。…こいつが三浦か。

 

ふと、足元に何かが転がって来たので見てみると……

 

 

戦兎「…!ボトル…!?」

 

 

 

 

……ボトルを拾い上げた俺も、ドライバーからボトルを抜いて、変身を解除した。

 

 

戦兎「……!?」

 

 

三浦の体から、赤黒いスライムのようなものが抜け出したかと思うと、次第に色褪せ、消滅した。

 

戦兎「今のは…?」

 

 

 

夕士が歩みより、三浦を見下ろす。

 

三浦は、まだナイフを握っていた。

 

 

 

夕士「三浦……あんたは、"ちゃんとした"病気だ。病院で見てもらって来いよ…」

 

 

三浦は、駄々こね倒して、疲れて寝落ちしたガキみたいな様子だった。

 

……実際、そうなんだろうけどな。

 

 

夕士「誰だって、色んな失敗や挫折をするんだよ。けど、そこで全部投げ出してどうすんだ?何もなかったことにするのか?また同じ失敗するだけじゃねぇか。……そんなの、バカみてぇじゃん」

 

 

そう言った夕士の顔は……悲しげだった。

 

 

 

 

 

俺が帰った後、警察が到着した。

 

警察は三浦がナイフを握りしめていたことに注目し、夕士は襲われたことを証言した。

 

警官相手に泣きながら前の学校でのことを愚痴ってたらしいが…。

 

 

深瀬「救えねぇもんは、救えねぇさ」

 

 

アパートに帰り、そのことを聞いた画家はそう言った。

 

……そう。取り憑いたものを払ったところで、三浦がいい奴になるわけじゃない。元の三浦に戻っただけ。

 

何の自覚もない甘ったれたダメ大人。それが奴の本質だったんだ。

 

俺達にできるのは…それを"受け入れる"ことだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

長谷「テメェはッ!危なくないと言っただろうがッ!それがなんだ、このザマはぁ〜ッ!!」

 

夕士「ギャアアアアアアアッ!!」

 

 

夕士が長谷から痛ぁい友情によるお仕置きを受けている横で、俺は万丈に今日のことを話していた。

 

 

龍我「なんでスマッシュが!?エボルトは消えたはずだろ!?」

 

戦兎「それはそうだ。しかし…確かに新世界になったことで、エボルト…あと伊能達に取り憑いていた三人のブラッド族も歴史ごと消えたはずだ。だか…エボルトと関係ない、他のブラッド族までは消えていないのかもしれないな」

 

龍我「マジかよ…」

 

戦兎「もちろんこれは仮説に過ぎないが…スマッシュが人を襲う危険がある以上、どちらにせよ警戒は怠れないぞ」

 

龍我「だな…」

 

 

やっと掴み取った新世界だ。

 

絶対に守ってみせる…!

 

 

 

 




バトル一区切り。またやりますが、ひとまずは日常に戻ります。


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