WITCHER Ⅲ BERSERIA (影絵師)
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第一話

 ラフィと共に旅に出て、どこかで会ったような人を知り、故郷に帰ってアーサー義兄さんとセリカ姉さん、そして二人の子供――フィーと一緒に過ごす夢を見ていたベルベット・クラウ。

 だが、吹雪と骸骨の騎士に襲われる悪夢を見せられる。 

 

 

―――

 

 ラフィとフィーが骸骨の騎士に斬られる直前に目を覚ましたベルベット。深呼吸をして自分を落ち着かせ、周囲を見渡した。

 全く知らない草原。焼け焦げた匂いと何かの腐臭が鼻につき、現実だと教えてくれる。共に封印されたはずのラフィ――姿をしたカノヌシを思い出し、探すか周りにはいなかった。

 

「お目覚めかい、お嬢さん」

 

 呼び掛けに反応し、すぐに身構えるベルベット。彼女が振り向いた先にいたのは見知らぬ男性だ。

 

ベルベット「何者よ」

 

「そう警戒するな。ただの鏡を取り扱っている商人、“鏡の達人”と呼ばれているゴウンター・オーディムさ。お嬢さんこそ何だ? 怪物や外道が彷徨いている戦場で野宿だなんて家族が心配するぞ」

 

ベルベット「……あんたには関係ないでしょ。守ってくれたとしても礼は言わないわ」

 

オーディム「そう言うと思ったぜ、お前さんはしっかりしているな。しかし、ここで話しているのも危険だ。近くにホワイト・オーチャードという村がある、そこの酒場で話をしようじゃないか」

 

 オーディムの提案を賛成する気はないベルベット。しかし、カノヌシと封印されたはずの自分が「ホワイト・オーチャード」という知らない場所で目覚め、その上世界の驚異であるカノヌシが見当たらないことに危機感を感じ、状況整理するために彼の提案を飲んだ。

 

ベルベット「いいわ。あんたを信用してないけど、全く知らない所を動くよりはマシだわ。ただし、妙な真似を見せたら――」

 

オーディム「篭手に仕込んでいる剣で、それともその左腕に隠されたナニカで俺を切り裂いてやってもいいぞ。まあ、そうされる真似を見せるつもりはないがな」

 

 オーディムの言葉に驚くベルベットだが、その感情を隠しながら問い詰める。

 

ベルベット「さっそく見せているじゃない。あたしの体を調べたかしら? もしそうだったら――」

 

オーディム「おいおい……そんなの見ただけでわかるだろ? そんな怖い顔をするなって」

 

 そう言いながらあるものをベルベットに投げ渡すオーディム。受け取ったベルベットは自分の顔が映っているそれを見つめる。

 鏡だ。それに映っている顔は少々土で汚れていたが、封印される前に見た時とは変わらない。自分の目は三白眼だとフィーに言われたことあるけど、どういう意味かしら? 

 鏡を見てから時間が経ってない時、オーディムに声をかけられた。 

 

オーディム「おい。そろそろ返してくれないか? 大事な商品でな」

 

 返そうとした時、周囲の異変に気づいた。

 戦場に立っていたはずの自分が、建物の中でテーブル席に座っていた。どうやらここがオーディムが言ってた酒場のようで、女店主が男性客達に酒を運んでいる。自分の向かい側の席にはオーディムが座っていて、酒を飲みながらこちらを見ている。

 ……ここまで来る間の記憶が全くない。ベルベットはなんとか思い出そうとすると、鏡を返してもらったオーディムが言った。

 

オーディム「ずっと鏡を見ていたからな。人間は集中すると他のことに目を向けられなくなる、お前さんは人間ってことだよ」

 

ベルベット「……あたしを人間として見てなかった言い方ね。この左腕のこともわかっていたようだし」

 

オーディム「ここでは人間じゃない連中はゴロゴロいるさ。人間に近いエルフやドワーフ、ハーフリングといった非人間族、人間に化ける吸血鬼やドップラー、ついでに悪魔、人間だった人狼、そして……怪物を殺すために怪物に近い存在に変えられた者――ウィッチャーとかな。もちろん、人間と仲良しってわけでもなく、きっかけがあれば虐殺が起こるがな」

 

 オーディムの説明に疑問を感じるベルベット。ベルベットが知る怪物――業魔の多くは元人間であり、心の負の感情が溢れた結果が理性を失った怪物だ。

 だが、その後続いたオーディムの説明ではここの怪物は別の世界から来た存在であり、人間が怪物になるのは迷信らしい。「本当に怪物になる人間もいる」と付け出したが。

 その説明にベルベットは言った。

 

ベルベット「まるで『世界はいろんな世界と繋がって出来ました』っておとぎ話ね」

 

オーディム「おとぎ話じゃない、真実さ。魔法、怪物、人間、様々な他世界の要素が大変動『天体の合』によって一つの世界に集まって出来たわけさ。あんたもその一人だろ、『災禍の顕主』ベルベット・クラウ」

 

ベルベット「……そこまで知ってるとはね」

 

 仕込み剣を出す準備をしてから質問するベルベット。

 

オーディム「正確には知り合いから聞いただけだ。冗談で言ってみたんだが、まさか他世界の魔王だったとはな……」

 

 冷や汗をかいているようなオーディムから聞き出そうとするベルベットの口が開いた時だった。

 酒場の扉が開き、そこに立っている人物を見た男性客がこう言った。

 

「なんだ? ウィッチャーか」

 

 傷が目立つ顔、猫のような瞳孔、背中に背負っている二刀。

 このウィッチャーは他世界からの喰魔と旅をするとはまだ誰も知らなかった。

 

to be continued



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第二話

「化け物汁で酒がまずくなる」

 

 入店した直後に店の中にいた客から罵倒される白髪の二人の剣士――ウィッチャーを見て、ベルベットはかつての自分達を思い出す。自分は喰魔、共に旅をしていた仲間の中には業魔、海賊、自我を得た聖隷、裏切り者とされた対魔士といった人類の敵の集まりだったが、自分から明かすまでは人々に優しく接してくれたことが多かった。

 そう思い出しているベルベットにオーディムが話しかける。

 

オーディム「あれがさっき俺が言ったウィッチャーで、若い方が白狼と呼ばれる“リヴィアのゲラルト”だ。かなり有名だ」

 

ベルベット「あたしが知るわけないでしょ……それで? どうして“ここにはいないはず”のあたしを知ってるわけ?」

 

オーディム「さっき言った通り、ある商人から聞いたんだ。そいつは『トータス、トータス』が印象的な奴だった。災禍の顕主に恨みがあるようだが、お前さん、何かやったか?」

 

 ……その人物に心当たりがあるベルベット。

 

ベルベット「さあね、あんたに関係ないわ。あいつもこの世界に来ていたとはね」

 

 そう答えるベルベット。その直後だった。

 二人のテーブルにある人物が近づいてきた。ウィッチャーのゲラルトだ。

 

ゲラルト「女性を探している」

 

オーディム「みんなそうさ。この子だったらどうだ? 少々噛み付くがな」

 

ベルベット「……冗談でも容赦しないわ」

 

ゲラルト「そんな時間はないし、誰でもいいわけじゃない。特定の女性だ。リラとスグリの香りがして、黒と白の服を着てる」

 

 そう尋ねながらベルベットの隣に座るゲラルトに対し、ベルベットは気にせず少し離れた。

 オーディムは特に答えず女店主に三杯持ってくるよう注文した。

 

オーディム「飲むと元気が出るぞ」

 

ゲラルト「いいだろう。一杯飲むか」

 

ベルベット「あたしは結構よ。まだ19歳だし」

 

 そう言って飲酒を断るベルベット。オーディムは頷き、一杯をミルクに変えるよう注文した。

 飲み物を待つ間、ゲラルトは再び尋ねた。

 

ゲラルト「単刀直入に聞く。その女性を見たか?」

 

オーディム「ヴェンガーバーグのイェネファーをか?」

 

 そう答えた直後、女店主が飲み物を持ってきてテーブルに置いていく。

 探している女性の名前が出たことに、ゲラルトはさらに尋ねる。

 

ゲラルト「どうして名前を知ってる」

 

オーディム「説明が完璧だったからさ。一度聞いたら忘れられない質でね。忘れられないんだ」

 

 そう答え、ベルベットにも言う。

 

オーディム「お嬢さんが何者なのかもいつまで経っても忘れられなくてね」

 

ベルベット「しつこいのは嫌いよ」

 

 ゲラルトは次にオーディムのことを尋ねた。

 

ゲラルト「お前はいったい何者なんだ?」

 

オーディム「ただの商人で放浪者さ。ゴウンター・オーディムとでも呼んでくれ。一応、このお嬢さんは――」

 

ベルベット「ベルベット・クラウよ。ただ一緒にいるだけよ」

 

ゲラルト「そうか。それで、何の商人なんだ?」

 

オーディム「鏡を売ってるさ。鏡の帝王とか、鏡の達人と呼ばれて熱狂的な人気を誇ったものだ」

 

ゲラルト「なぜイェネファーを知ってる?」

 

オーディム「聞くまでもない。ダンディリオンの詩で聞いたのさ。一介の商人が、偉大な世界に触れるにはそれしかない。もちろん、俺のように幸運に恵まれれば別だが」

 

ゲラルト「我慢強いウィッチャーと出会えて幸運だな」

 

オーディム「リヴィアのゲラルト、ブラビケンの殺し屋本人に会えて幸運さ。災禍の顕主にも会えてな」

 

 少々苛立っているゲラルトに対して余裕で返すオーディム。ベルベットもオーディムを信用していない。自分が災禍の顕主と呼ばれていること、それを知るきっかけである商人――かめにんと出会ったことを考え、知りすぎているとしか思えない。

 ゲラルトはベルベットを一瞥してからこう言う。

 

ゲラルト「彼女のことは知らないが、俺のことも、ダンディリオンの詩で聞いたことがあるだろ」

 

 その言葉に対し、オーディムは「乾杯」と酒を飲むだけだった。仕方なく、自分が探している女性の場所を聞いてみた。

 

ゲラルト「とにかく……イェネファーを見たのか?」

 

オーディム「ぶしつけだが聞かせてくれ。これは色恋沙汰か?」

 

ゲラルト「俺と彼女との関係を詮索してどうする」

 

オーディム「うむ。一介の商人にその資格はない」

 

ゲラルト「知ってることを教えてくれ」

 

オーディム「あんたが現れるまで、あれがイェネファーだとは思いもしなかった。想像すらしなかったよ」

 

ゲラルト「結論を言え」

 

 オーディムの話し方にゲラルトだけでなくベルベットも苛立っている。例え話を繰り返して結論を言わない人間は好きじゃない。 

 それでもオーディムは余裕を持ちながら答えた。

 

オーディム「駐屯地にいるニルフガードの偵察兵が見たらしい」

 

ゲラルト「どこでだ」

 

オーディム「駐屯地でだ。彼女は馬に乗って現れた。夜の闇の中、黒と白の服で、香りはスグリ……そのままさ。司令官と簡潔な会話を交わして、すぐ去ったそうだ」

 

ゲラルト「どこへ向かった」

 

オーディム「そこまでは知らない。駐屯地で聞くといい」

 

 ゲラルトにそう答えたあと、今度はベルベットに向かって言った。

 

オーディム「ニルフガードの駐屯地と言えば……世界と世界を行き来出来る装置を所有している組織がニルフガードに雇われてそこにいるらしい。元の世界に帰るなら行って頼んだ方がいいぞ」

 

ベルベット「……考えとくわ」

 

 ベルベットがそう返した直後、オーディムは席を立った。

 

オーディム「放浪者同士、助け合わなきゃな。いつか俺が困ってたら、今度はあんたらが助けてくれるかもしれん」

 

 ゲラルトたちの横を通り過ぎる形で立ち去るオーディム。ベルベットとゲラルトは出入り口の方を振り向くが、オーディムの姿はもうなかった。

 その場に残された二人。ゲラルトがベルベットに話しかけた。

 

ゲラルト「ベルベットと言ってたが……君はどうするんだ? あの男と一緒じゃないのか」

 

ベルベット「一緒にいただけよ。戦場で目を覚ましたあたしをここまで連れてきてくれたの」

 

ゲラルト「俺は駐屯地に行くが……君も行くよう勧められたようだが」

 

ベルベット「……怪しいと思うけど、行かない理由なんてないわ」

 

 ゲラルトとベルベットは共に駐屯地に行くことになり、店から出る。

 しかし、外で待っていたのはゲラルトを罵倒していた3人の男性客だ。

 

「楽しんだかい?」

 

ゲラルト「ああ」

 

 男の言葉にベルベットを下がらせながら答えるゲラルト。だが、ベルベットはゲラルトの後ろではなく、真横に留まる。

 男からの嫌味が続く。

 

「じゃあ失せろ」

 

「お前みたいなのはお呼びじゃない。そのよそ者の女もだ」

 

 その様子を店内から見た女店主は口元を両手で隠して心配している。

 怪物や魔法に反応するメタルが震えるのを感じ、ベルベットに視線を向けたあと3人の男に戻し、こう挑発した。

 

ゲラルト「仲間を集めてきた方がいいぞ。お前達3人では、到底勝てん。ひょっとしたら、この子にもだ」

 

「俺一人でぶちのめしてやらあ」

 

ゲラルト「頭から袋をかぶって、手を縛られてるなら負けるか……いや、それでも勝てそうだ」

 

「チェット、レッシュ、手を出すな。この化け物に思い知らせてやる。かかってこい!」

 

 そう言って殴りかかる一人の男。ゲラルトは横に回避し、素早く男の顎に拳を叩き込み、気絶させる。

 それを見た二人の男が驚くも、すぐにゲラルトとベルベットに殴りかかった。

 男の向かってくる拳を何度も受け止めるゲラルトは男の隙を見逃さず、男の頭を掴んで膝に叩きつけた。

 ベルベットはもう一人の男の連撃を躱し続け、がら空きの顎を一気に蹴り上げた。

 地面に倒れ込んだ3人にゲラルトはこう言い残す。

 

ゲラルト「楽しいひと時をありがとう」

 

ベルベット「時間を無駄にしたわ」

 

 村人達の視線が集まる中、二人は駐屯地に向かって行った。

 

To Be Continued




次回から別の作品が参加する予定です。


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第三話

※今回はMGM社シリーズのオリキャラが登場します。

「MGM社ってなに?」って人もいるかと思いますが、https://www.pixiv.net/member.php?id=17448449のMGM社シリーズを読んでください。評価低くでも構いません。


 

 愛馬のローチに乗り、ニルフガードの駐屯地へ向かうゲラルトとベルベット。その途中、後ろに乗っているベルベットは前にいるゲラルトに北方諸国やニルフガード帝国のことを聞いていた。

 

ベルベット「つまり、今は北方諸国とニルフガード帝国が戦争しているわけ?」

 

ゲラルト「ああ。ニルフガードが雇ったウィッチャーの手で北方諸国の王達が暗殺され、その隙に侵略を始めた。ここはテメリアの領土だったが、今はニルフガードの手に墜ちたものだ」

 

 ……あたしが元の世界にいた頃は戦争なんてなかった。業魔と対魔士による戦争中だったかもしれないけど、少なくとも人間同士の戦争はなかった。過去に戦争があったのはフィーから聞いたけど、アーサー義兄さんがそれを知って世界を変えようとしたかもしれない。あたし達から見れば歪んだ世界だとしても。

 そう思うベルベットにゲラルトが声をかけた。

 

ゲラルト「もうすぐだ。あの砦の跡地が駐屯地のようだ」

 

 彼が指す方向に目を向けると、確かに頑丈だったかもしれない廃墟の近くで腕立てをしている兵士や物資を運んでいる者がいる。

 ローチから降り、駐屯地の門に近づく二人。だが、彼らは二人の門番に止められた。

 

「ここは軍の基地だ。隊長の許可なく民間人が立ち入ることは禁じられてる」

 

ゲラルト「民間人に見えるか?」

 

 ゲラルトの言葉にもう一人の門番が答えた。

 

「厄介なやつには見える。女の方は尻軽に見えるがな」

 

ベルベット「我慢してあげるわ。手を出さない限りね。あたしは異世界を行き来できるという組織に会いに来たのよ」

 

ゲラルト「俺は厄介事を片つけに来た。ウィッチャーだ」

 

「ウィッチャーだと? それにMGMに会いにだと?」

 

 門番が顔を見合わせ、二人を立ち入ることを許可した。

 

「ピーター・ザール・グィンリーヴ隊長は塔にいる。門から入って右へ進め。女は場違いな服装をした奴を見つけろ、そいつがお前の探している組織の関係者だ」

 

 ウィッチャーと聞いて許可してくれたことにゲラルトは尋ねた。

 

ゲラルト「俺向けの仕事はありそうか?」

 

「ここは軍隊だ。兵士に『推測』は不要だ」

「さっさと行け。さあ」

 

 門をくぐった二人。ゲラルトはイェネファーの情報を得るために隊長を探し、ベルベットは場違いな服装の人物を探した。  

 すぐに見つかった。他の者が鎧か簡素な服を着ている中、一人だけスーツ姿の男性がいた。ベルベットはその男に近寄り、声をかけた。

 

ベルベット「ちょっといいかしら」

 

「どうしたかね。ひょっとして俺と一緒にディナーでもしたいのかい?」

 

ベルベット「失礼したわ」

 

 まさかの反応にベルベットは離れようとしたが、男性は謝りながら引き止めた。

 

「すまんすまん。久しぶりの美女に出会ってつい悪い癖が出てしまってね。この世界の女性はちょっと俺のタイプじゃなくてね」

 

ベルベット「……“この世界”と言うあたり、あんたが異世界を行き来できる組織の一人のようね」

 

「よく知っているね、お嬢さん。改めて紹介させてもらおう、次元関連専門の民間軍事兼鉄道会社――MGM社の非戦闘員――リンカーンだ。よろしくな」

 

ベルベット「てつどう?」

 

リンカーン「わかりやすく言えば乗り物を扱ってることだ。詳しい説明は長くなるぞ」

 

ベルベット「別にいいわ。その乗り物にあたしを乗せてくれる?」

 

リンカーン「済まないが、こっちの世界に来る途中に謎の大吹雪に見舞われてね。不時着時に乗り物が破損して修理が必要になった上、修理できる人材を含む多くの社員がこの世界に散らばってしまったんだ。俺は運良く仲間に見つかったからよかったが」

 

ベルベット「つまり乗れないってことね。期待して損したわ」

 

リンカーン「まあ、待ちたまえ。君がいた世界で使われている通貨や地名等をこの書類に書き込めば、世界を探し出して優先的に送るから」

 

 そう言って書類とペンを渡すリンカーン。

 ガルド……ウェイストランド……ミッドガルド……言われた通り、通貨や地名を書き込んだ書類を返すベルベット。

 

ベルベット「書いたわ。それでいつ乗れるかしら」

 

リンカーン「少なくとも……今すぐは不可能だな。修理や人材のことを考えて」

 

ベルベット「わかったわ。気長に待ってあげる」

 

 そう言うベルベット。隊長から戻ってきたらしいゲラルトに気づき、向かう。

 

ゲラルト「どうだ? 元の世界に帰れそうか?」

 

ベルベット「方法は見つけたけど、時間がかかりそうよ。そっちは情報を得られたかしら?」

 

ゲラルト「この辺りの人々を襲うグリフィンを狩ることを条件に出されたがな。君は腕がいいみたいだが、無理に手伝わなくてもいいが」

 

ベルベット「……構わないわ。時間つぶしにはなりそうだし」

 

ゲラルト「そうか。だが、すぐに狩りに行くわけじゃない。雄か雌か、奴の捨てた巣も調べなければならない。それとクロウメモドキを使った罠を張らなければ」

 

ベルベット「はいはい。手伝ってあげるから一つずつやりましょう」

 

 駐屯地から立ち去るゲラルトとベルベット。それを見届けたあと、懐から通信機を取り出し、どこかに通話するリンカーン。

 

リンカーン「こちらリンカーン。鏡の達人が言ってた『リヴィアのゲラルト』を見つけた」

 

to be continued

 

 

 

 



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第四話

 

 恋人のイェネファーを探すゲラルトの旅に付き合っている老いたウィッチャー――ヴェセミル。ホワイト・オーチャードの宿屋の外にいたところ、ゲラルトが戻ってきた。見知らぬ少女と共に。

 首に掛けているメダルが震える中、ゲラルトが話しかけた。

 

ゲラルト「ヴェセミル。良い知らせと悪い知らせがある」

 

ヴェセミル「ゲラルト……イェネファーはどうした? その子を連れ歩いてることは――」

 

ゲラルト「勘違いするな、グリフィン狩りの手伝いをしてもらっているだけだ。腕はいいさ」

 

ベルベット「ベルベット・クラウ、災禍の顕主とも呼ばれてるわ。時間つぶしに付き合ってるのよ」

 

ヴェセミル「正気か、ゲラルト? この娘を危険な目に合わせるつもりか」

 

ゲラルト「どうかな。俺は修羅場をくぐってきたと見るが、見込み違いだったが」

 

 彼の言葉にベルベットを見るヴェセミル。

 確かにゲラルトの言う通り、彼女は多くの戦いを経験してきている。そして怪物や魔法に反応するメダルが震えている。

 ゲラルトの見込みに納得するヴェセミル。

 

ヴェセミル「わかった。だが、足を引っ張られるのは勘弁だ」

 

ベルベット「そうね。命がけの狩りに信用できない者が一緒だと、気が気じゃないわね」

 

 彼女はそう答える。

 ゲラルトはヴェセミルに説明した。

 

ゲラルト「ニルフガード駐屯軍隊長が、イェネファーの行方を知ってる。グリフィンを倒すことを条件にな」

 

 ゲラルトとベルベットの調べで、グリフィンのことがわかっていた。

 グリフィンは雄で、森に巣があった。ニルフガード兵が森を焼き払い、寝ていたグリフィンのつれあいを殺し、卵を潰した。それに激怒した雄のグリフィンが巣を捨て、人々を襲うようになった。

 そんなグリフィンをおびき寄せる為にクロウメモドキを集めた。ちなみに悪臭を放つこれを集めていたのはゲラルトであり、ベルベットはしばらく彼から離れていた。

 小川の向こうに存在する畑と果樹園の広がる場所に罠を仕掛け、やってきた所を襲撃する作戦で行くことになった。

 罠を仕掛けに先に行くヴェセミル。ゲラルトも霊薬(肉体を強化する劇薬。人間にとっては毒)を調合してから行こうとする。

 だが、動こうとしないベルベットに気づき、声をかけた。

 

ゲラルト「どうした?」

 

ベルベット「……別に。少し考えてただけよ」

 

 愛する者と、まだ産まれていない子供を殺された……

 アーサー義兄さんが導師アルトリウスになったきっかけと同じだ。アバル村の人々に裏切られ、業魔化した盗賊に、妻のセリカ姉さんと、そのお腹にいた子――フィーを殺された。

 ……アーサー義兄さんとグリフィンは全く別よ。頭の中で否定する。

 

ベルベット「行くわよ」

 

 ゲラルトと共に指定した場所に向かうベルベット。

 先に着き、クロウメモドキを詰めた羊の模型を設置しているヴェセミルがやって来る二人に気づき、立ち上がる。

 

ゲラルト「小川が流れ、黄金色に波打つ畑……いい所だ。待ち伏せに最適だ」

 

ヴェセミル「場所選びなら任せろ。準備はいいか?」

 

ゲラルト「始めよう。風向きもいいし、臭いはすぐに拡がるだろう」

 

ヴェセミル「よし……あとは待つだけか。来い、身を隠してグリフィンを待つんだ」

 

 木陰に身を隠す3人。ゲラルトがベルベットに尋ねる。

 

ゲラルト「ところでベルベット、君はどういう武器を持ってるんだ? 剣を持ってるようには見えんが」

 

ベルベット「これよ」

 

 右腕の篭手から刺突刃を出し、ブーツに仕込んだ刃を見せた。

 それを見たヴェセミルは呆れた表情をする。

 

ヴェセミル「やれやれ。最近の若い者は風変わりな武器を使いたがる。それは銀で出来ているだろうな」

 

ベルベット「少なくとも、怪物に通用するわ。それに奥の手があるし」

 

ゲラルト「ほう、それは見ものだな」

 

 そういった会話を最後に皆は黙り、グリフィンが来るのを待った。

 

――――

 

 時間がある程度経った時、猛禽類に似た鳴き声が耳に入った。

 

ヴェセミル「聞こえたか? 近いぞ」

 

ゲラルト「じゃあ、暖かく歓迎してやろう」

 

ヴェセミル「待て……これを」

 

 ヴェセミルから受け取ったものを見つめるゲラルト。ベルベットから見ればボウガンと呼べるものだ。

 

ゲラルト「石弓?」

 

ヴェセミル「お前がいなかった間に、グウェント(カードゲーム)の勝負で手に入れた。役に立つはずだ」

 

ゲラルト「おやおや。いつも悪徳について説教していたお方が、賭け事とは」

 

ベルベット「そこまでよ。グリフィンがすぐ来るわ」

 

 彼女がそう言った直後、羊の模型のそばにグリフィンが着地した。大きなライオンと鷲をかけ合わせた姿の怪物だ。

 狩るか、狩られるかの時間だ。木陰から飛び出すゲラルト、ベルベット、ヴェセミル。

 

ヴェセミル「行くぞ!」

 

 銀の剣を抜刀し、素早く接近するゲラルトとヴェセミル。ゲラルトがグリフィンの頭に振り下ろす。羽根が生えている前足で防ぐグリフィン。

 もう片方の前足でゲラルトを裂こうとするグリフィンだが、左手を突き出したゲラルトがクエン(魔法の障壁)を張っていて防がれた。その隙にゲラルトは脇腹を斬りつけた。それでグリフィンが倒れるわけではなく、一旦前足を広げて飛び、ゲラルトから離れた。

 それを見たヴェセミルがゲラルトに助言する。

 

ヴェセミル「ゲラルト! 石弓を使え!」

 

 すぐさま石弓を片手で構え、矢を放つゲラルト。グリフィンの前足に刺さり、落下していく。

 地面に叩きつけられたグリフィンの眼の前にはベルベットが構えており、グリフィンは前足で薙ぎ払う。それを回避するベルベットはその後の連撃を躱し続け、篭手から出した刺突刃で疲れ切ったグリフィンの顔を斬りつける。

 大きく怯んだグリフィンにヴェセミルがアード(衝撃波)を放ち、更に体勢を崩す怪物にイグニ(火炎)を浴びせる。

 全身の羽が燃え上がる中、グリフィンは耐えながら空に飛んてゲラルト達から離れ始める。

 

ゲラルト「逃げる気か!」

 

ヴェセミル「逃がすなよ!」

 

 すぐに追い始める二人。しかし、その必要はなかった。

 ベルベットが包帯を巻いている左腕を地面に叩きつけた直後、グリフィンの真上に跳んだ。その光景に思わず足を止めるゲラルトとヴェセミル。

 ベルベットの左腕は悪魔のように禍々しく巨大化していた。その“業魔手”でグリフィンの頭をワシ掴みし、飛べなくなったグリフィンが落下する際、地面に思いっきり叩きつけた。

 それからグリフィンは少しも動くことなく絶命した。

 本来ならここで狩りは終了だ。ただし、新たな怪物が出たとなれば別だ。ゲラルトとヴェセミルは剣を鞘に戻さず、業魔手をそのままにしているベルベットに問う。

 

ゲラルト「まさか、それが奥の手だったとはな。君は何の怪物だ?」

 

ベルベット「喰魔、この左腕であらゆるものを食い殺して力を奪う業魔よ……どうせ、あの宿屋で会った時から気づいてたでしょ」

 

ゲラルト「ああ。首に掛けているこのメダルが振動してたからな、怪物や魔法に反応する物だ」

 

ヴェセミル「喰魔か……聞いたことのない名前だな。業魔という呼び名も」

 

ベルベット「知っても知らなくても、あんた達はどうでもいいでしょ。ウィッチャーとやらは怪物狩りを専門にしてるようだし。あたしは無抵抗でやられないわ」

 

 そう身構えるベルベットに対し、ゲラルトの頭に次の選択肢が浮かんだ。

 

・ああ、君も化け物だから狩るさ。

・危険とは思えんな。

 

 ゲラルトが選んだのは……

 

ゲラルト「君を倒すように依頼されたわけでもないし、危険そうに思えないがな」

 

 そう言いながら納刀する。ヴェセミルは少々驚きながらも剣をしまい、ゲラルトの言葉に同意する。

 

ヴェセミル「そうだな。人は善、怪物は悪とされてきたが、今は複雑だからな」

 

 そんな二人に驚きと呆れを見せながらも、業魔手を包帯に巻かれた状態に戻す。

 

ベルベット「多額の賞金があたしの首に懸かってると知っても?」

 

ゲラルト「君がいた世界とやらでだろ? そこまで行く暇はないさ」

 

 彼の言葉にやれやれと返すベルベット。

 ヴェセミルは先に宿屋へ戻り、ゲラルトとベルベットは倒したグリフィンの首を駐屯軍隊長に見せに行くことにした。

 

――――

 

 二人が駐屯地についた時、何やら揉め事が起こっていた。

 農民がニルフガード軍への食料を差し出したようだが、その食料の中身に問題があったらしい。

 駐屯軍隊長が問い詰める。

 

「これは一体何だ!?」

 

農民「ライ麦です」

 

「俺を騙せるとても思ったか? こいつは腐ってる」

 

農民「そ……そんな」

 

「馬鹿め、クソ、いつになったら覚える……軍規第2条第3項、不良品を納入した者は、革の鞭で鞭打ち15回とする。連れて行け!」

 

農民「嫌だ……頼む! やめてくれ!」

 

 そう悲願するも、兵士に連れて行かれる農民。それを見ていたゲラルトとベルベットに隊長が怒鳴る。

 

「なんだ!?」

 

ゲラルト「人のいいおじさんを演じるのはやめたのか」

 

「演じたのではない。手を差し伸べたのだ……その手に唾を吐かれてはな」

 

ベルベット「その手があの人達の家族の血で汚れてるからでしょ」

 

「くだらん! 貴様らが私の立場ならどうするんだ?」

 

ゲラルト「その立場にはならん」

ベルベット「あたしもね」

 

「役目は果たしたんだろうな」

 

 その言葉を肯定するゲラルト。

 

ゲラルト「役目は果たした。次はそっちの番だ。イェネファーはどこにいる?」

 

「ヴィジマ(テメリアの首都)だ。MGMの奴もそこに行った」

 

ゲラルト「馬なら1日で行ける……すぐそばじゃないか、なぜ黙っていたんだ」

 

「先に話してたら、グリフィンを退治してくれなかったかもしれんからな」

 

 その答えに何も言わず、立ち去ろうとするゲラルト。ベルベットも後を追うが、隊長に止められた。

 

「まだ話は終わってない。報酬を受け取れ、不当な条件で働かされたなどとは言わせんぞ。ウィッチャーと分けていろ」

 

 金を差し出されたベルベット。ここでの通貨は必要になるだろう。

 でも、もしアバル村の人々が一生懸命育てた作物が軍に取り上げられ、何かあってひどい目に合わされたら……

 

「いいわ。彼がその気だったらね」

 

 隊長から金を受け取り、ゲラルトの後を追う。アバル村はもうない。今は元の世界に戻れることに集中しなければ。

 ゲラルトとベルベットが駐屯地から去る中、農民の悲鳴が恐ろしく響いていた。

 

to be continued 




うーん……ベルベットがお金を受け取った理由がこれで納得できますかな?


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第五話

 ニルフガード軍駐屯地からヴェセミルが待つ宿屋へ戻ってきたゲラルトとベルベット。太陽が沈む中、宿屋へ入った二人はテーブル席に座るヴェセミルを見つけ、彼と同じ席に座った。

 ゲラルトが駐屯地で聞き出した情報をヴェセミルに教える。

 

ゲラルト「イェネファーはヴィジマにいる、ベルベットが探している者もな。現地で話を……」

 

 ヴェセミルが聞いていないことに気づき、尋ねてみる。

 

ゲラルト「どうした?」

 

ヴェセミル「周りを見ろ。一触即発だ」

 

 周囲を見渡すと、広げた手の指の間をフォークで連続に刺している男とそれを見ている男達が近くのテーブル席にいる。

 彼らに気づかれないようにベルベットがヴェセミルに聞いた。

 

ベルベット「あいつらは何者よ?」

 

ヴェセミル「愛国者さ。テメリアに7回ほど乾杯して、拳をうずいてる」

 

ゲラルト「ニルフガード人はいないようだが」

 

ヴェセミル「他の相手を探すだろうな」

 

 ……どうやらその“他の相手”がウィッチャーになることが多いようね。怪物を狩ってもらってるのに、とんだ恩知らずね。

 ベルベットがそう思うと、ヴェセミルは言う。

 

ヴェセミル「旅に必要なものを買い揃えよう。支度ができたら出発だ」

 

ベルベット「そうね、あたしも何か買っておくわ」

 

 席を立ち、女店主に向かおうとするベルベットにヴェセミルは釘を刺す。

 

ヴェセミル「ベルベット……面倒には関わるなよ、絶対だぞ」

 

 「わかってるわ」と返し、女店主の所まで行く。駐屯軍隊長からもらった金を出し、女店主に尋ねた。

 

ベルベット「これで買える物はある?」

 

「あら、これだけあれば多く売ってあげられるわ。何をお求めかしら?」

 

ベルベット「そうね……人参にじゃがいも、それと豆腐はある?」

 

「トウフ? そんな食材は聞いたことないわ」

 

ベルベット「大豆で作られた白くて四角いものよ。普通に売ってると思ったけど」

 

「ごめんなさいね、お嬢さんがどこの人なのかは知らなくて」

 

 女店主のその言葉に、ここは違う世界であることを思い出したベルベット。

 ゲラルトとヴェセミルにマーボーカレーを作ってあげようと思っていたけど、他の世界に同じ食材があるとは限らない。

 ベルベットが女店主に謝ろうとした時だった。

 

「こんなニルフガード人でもない女にも何か売るつもり!?」

 

 すぐ近くのカウンター席に座っていた女性が声を上げた。どうやらテメリアの愛国者のようだ。

 ベルベットは彼女を見るが、女店主が女性に落ち着いて話しかける。 

 

女店主「ここは旅人が来る宿屋よ、多くの場所から様々な人が来るのよ。この子に迷惑をかけないで」

 

「テメリアを滅ぼしたニルフガードにも売るってこと?」

 

女店主「……そうよ」

 

 その答えを聞いた直後、女性が女店主の頭を掴んだ。頭に血が上った女性は女店主の頭をカウンターに叩きつけようとするが、ベルベットが女性の腕を包帯に巻かれた左手でワシ掴みして阻止した。

 女店主は解放され、女性はベルベットから逃れようと暴れる。

 

「放っといて!」

 

ベルベット「いい加減にしなさい」

 

 力を込めて痛みを与えると、女性はうめき声を上げて動きを止める。あとは解放するだけで収まる、そう思っていた。

 だが突然、誰かに押されベルベットは女性を解放してしまった。別に女店主を攻撃するわけでもなく、その場を去っていった。

 自分を押したのは愛国者の一人である男性だと分かり、その人物を睨むベルベット。それを見たゲラルトとヴェセミル、他の愛国者達が席を立った。ウィッチャーはベルベットの方に行き、愛国者達はベルベット達を逃さないように出入り口への道を塞いだ。

 

ヴェセミル「このメダルが見えるか? その意味が分かったら下がっていろ」

 

ゲラルト「大丈夫か?」

 

 ヴェセミルは愛国者に警告し、ゲラルトは女店主に声をかける。女店主はなんとか頷く。

 愛国者達は次々と罵倒する。

 

「ウィッチャーは子供をさらうらしいぞ」

「本当か?」

「あの女は化け物だ! 左手を化けてウィッチャーと一緒にグリフィンを殺したのを見たぞ!」

「報酬に皇帝から何をもらった? 領地か? エルフがもらったみたいに?」

 

ヴェセミル「失せろ、全員だ」

 

「どこへも行かねえぞ」

「お前らも逃さねえ」

 

 得物を取り出す愛国者達。それを見たゲラルトとヴェセミルは人間用の鋼の剣を抜刀し、ベルベットも刺突刃を出して構える。

 

ヴェセミル「引く気はなさそうだな」

ゲラルト「そのようだ」

ベルベット「全く、勇気があるのかバカなのか」

 

 戦いは始まったが、それは一方的だった。

 怪物を殺せるウィッチャーのゲラルトとヴェセミル、普通の人間では倒せない業魔のベルベットとはレベル違いの愛国者達は次々と血を散らして宿屋の床に倒れていく。

 最後の愛国者の腕を斬り落とし、首を斬り飛ばしたゲラルト。それを見届けたベルベットは女店主に近づき、手を差し出す。

 

ベルベット「大丈夫よ、もう終わったわ」

 

 しかし、女店主は逃げるように離れ、こう言った。

 

女店主「出ていって。もう二度と来ないで」

 

 その言葉に動きを止めるベルベット。戦いに参加しなかった客からも同じように言われる。

 

「あいつらの顔を見ろ……恐ろしい……」

「放っといて! 出ていって!」

 

 ……復讐のためなら手段を選ばず、それで災禍の顕主と恐れられることには慣れていた。殺したとはいえ、人を助けても恐れられるなんてね……

 そう思うベルベットにヴェセミルが話しかける。

 

ヴェセミル「巻き込まれるのは懲り懲りだ……さあ、行くぞ」

 

 先に宿屋を出るゲラルトとヴェセミル。ベルベットも恐怖が込められた視線を浴びながら宿屋を出た。

 

ゲラルト「あの乱闘は、俺たちのせいじゃない」

 

 ゲラルトのその言葉が耳に入り、出ても面倒に巻き込まれるかと思い、待ち伏せしている者たちを見る。

 それは意外な人物達だった。思わず彼らの名を呼ぶ。

 

ベルベット「ロクロウ、マギルゥ、エレノア、アイゼン、フィー!? どうしてあんたがここに?」

 

ロクロウ「やっぱりベルベットだったか! MGMのリンカーンから聞いた時は疑心暗鬼だったが、本当にお前がいるとはな」

 

マギルゥ「じゃから言ったろう。儂の100億万ガルドがかかっておるからじゃの!」

ビエンフー「ボクのことも忘れないでほしいでフ〜〜!」

 

エレノア「でも、まさかベルベットがこの世界にいたなんて想像もつきませんでした」

 

アイゼン「俺たち自身もこの世界に流れ着くとは想像つかなかったがな」 

 

ライフィセット「でもベルベットに会えるなんて僕は嬉しいよ!」

 

To Be Continued

 



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第六話

今回はMGMシリーズのオリキャラが出ます。


 

 我が友人ゲラルトが探し続けていた恋人イェネファーと再会するように、自分の復讐に付き合っていた仲間たちと再会したベルベット。仲間がいる事を知りたい彼女だったが、ヴィジマ王城で待っている者がいるとイェネファーに言われ、ウィッチャーの砦――ケィラ・モルヘンに用事があるヴェセミルと別れてヴィジマ王城へ向かう。

 その途中、この世界で目覚める直前に見た悪夢に現れた骸骨の騎士――ワイルドハントに襲撃される。慣れない騎馬戦だが応戦し、逃げ切れたゲラルトとベルベット達は一晩かけて馬を走らせ続けた。

 

――――

 

 占領されたテメリアの首都――ヴィジマにある王城のとある部屋で、一人の聖隷――ライフィセットは椅子に座っている年上の娘――ベルベットの長い髪を梳かしていた。

 数十分前にヴィジマ王城に着いた直後、「城にいるには汚い」という理由でゲラルトとベルベットはニルフガードの召使いにそれぞれ別の風呂へ連れて行かれ、丁寧過ぎるほど洗われた。もう充分だと何度も訴え、解放されたベルベットを待っていたのは仲間の一人であるライフィセットだった。

 かつてのように髪を梳かしてもらっているベルベットはライフィセットに話した。

 

ベルベット「久しぶりね、こうして髪を梳かしてもらうのは。あれからどれくらい時間が経ったかしら?」

 

ライフィセット「この世界に来るまでは数ヶ月経ってたよ。それでもとても長く感じた、ベルベットに会うまでが」

 

 梳かす手を止め、ライフィセットが尋ねた。その質問に少々の怒りが込められている。

 

ライフィセット「ベルベット、どうして自分と一緒にカノヌシを封印しようと考えたの? 他に方法があったはずだよ」

 

ベルベット「……ごめんなさい。あんたや他の喰魔が死なずにカノヌシを止める方法があれしか思いつかなかった。あたしは自業自得だから――」

 

ライフィセット「そんなの駄目だよ。ベルベットはいつも僕や自分の弟のために無茶してるよ。あの時僕に言ったように、ベルベットも食べて、生きて、したいことを全部やってほしいよ」

 

 その言葉に何も返せないベルベット。ライフィセットの言葉は続く。

 

ライフィセット「……僕も人のことは言えないかな。カノヌシの代わりの聖主になって世界を守るために、白銀の炎を使いこなすための誓約としてドラゴンの姿になったからね」

 

 頬を掻きながら苦笑いするライフィセットの言葉に驚くベルベットだが、呆れながらも少々嬉しそうな表情を見せる。

 

ベルベット「全く、あんたも無茶してるじゃない」

 

ライフィセット「お互い様だよ」

 

 楽しそうに会話する二人。長い間会えなかった分、いっぱい話したかった。

 しかし、第三者の言葉で久しぶりの話は止まる。

 

「お話の途中で悪いけど……ちょっといいかな」

 

 いつの間にか2mの身長の男性が部屋にいた。城に来てから見てきた者達とは全く異なる服装でMGM社の者だと気づき、ベルベットは尋ねる。

 

ベルベット「あんたはMGM社の社員?」

 

「その通り。今ボスがどっちも行方不明の為、社長代理を務めている卯和。君達のことはリンカーンから聞いているよ」

 

ベルベット「そいつは時間は掛かると言ってたけど」

 

卯和「それは事実だ。僕達MGM社はとある目的でこの世界に来る途中に吹雪と共に現れたワイルドハントに襲撃され、多くの人材が世界に散らばっていった……同じ目的の協力者達もバラバラにね。僕は近かった仲間達を集め、なんとか生き延びようとした。ニルフガードに傭兵として雇われてから落ち着いたよ、北方諸国は魔女狩りとかが物騒だからね」

 

ベルベット「それも聞いた。だからあんた達に帰してもらうなんて期待できないと思ってるわ」

 

卯和「今は他世界からの漂流者を保護しながら人材を集めて乗り物の修理を進めてるけど、どれだけの時間が掛かるやら……」

 

 そこで卯和はベルベットに問いかけた。

 

卯和「君たちは待ち続けるかい? いつ終わるかは分からない乗り物の修理が終わるまで、何もせずに待ち続けるのを……」

 

ベルベット「何が言いたい?」

 

卯和「君と一緒にいたウィッチャーがニルフガード皇帝であるエルヒムからある依頼を受けた……異世界を渡り歩く娘を連れて来るようにと。その子に頼めば自分の世界に帰れる可能性があるかもしれないよ」

 

 そう言うと卯和は部屋から立ち去った、「強制じゃない」と言い残して。

 残されたベルベットとライフィセットは顔を見合わせて、話し合う。

 

ライフィセット「ウィッチャーって、ベルベットと一緒にいた――」

 

ベルベット「リヴィアのゲラルトのことね。あいつ、なんであたし達にあんな事を……とにかくアイゼン達と状況を確認するわ」

 

ライフィセット「僕が案内するよ。ベルベットの様子を見てこいって頼まれたからね」

 

 いつもの服装に着替え、ライフィセットについていくベルベット。

 廊下ですれ違うニルフガードの貴族達からの異物を見るような視線を感じながら歩き続け、大きめな扉の前につく。それを開くと、様々な服装をした他世界の者達に混ざっている仲間達の姿があった。

 彼らもベルベットとライフィセットに気づいて近づいた。

 

マギルゥ「長かったのう、ベルベット。余程丁寧に洗われたようじゃな。儂らも最初に来た時に洗われたがの」

 

ベルベット「ここの貴族は潔癖症のようね」

 

 皮肉を言ったあと、ベルベット達はこれまでの状況確認をした。

 カノヌシと共に封印したベルベットはホワイト・オーチャードで目覚め、「鏡の達人」と名乗るゴウンター・オーディムに連れてこられた宿屋でゲラルトと出会い、以後彼と共に行動してきた。

 カノヌシの代わりの聖主――マオテラスになったライフィセットは世界を見守っていたが、周囲が見えない程の謎の大吹雪に襲われる。吹雪が治まった時にはこの世界にいて、かつての少年の姿に戻っていた。

 業魔であり続け、各地で人に害をなす業魔を倒しながら剣を極めているロクロウ。崩壊した聖寮に変わって人々を支え続ける元対魔士のエレノア。死神としてアイフリード海賊団の旅路を見守っている聖隷のアイゼン。「刻遺の語り部」として世界の真実を伝承するための旅をしていた魔女のマギルゥとビエンフー。彼らもライフィセットと同じように場違いな吹雪に襲われ、この世界に迷い込んできた。

 ある共通点にベルベットが気づく。

 

ベルベット「吹雪……昨日あたし達を襲った奴らも吹雪と共に現れたわね」

 

ライフィセット「ワイルドハント……この世界ではおとぎ話に出る存在らしいけど」

 

アイゼン「実在するのは確かだ。奴らが関わってるとしか考えられん」

 

マギルゥ「とはいえどうするんじゃ? ワイルドハントやらを探さなくとも、儂らは元の世界に帰れる手段があるからのう。かなり時間は掛かるようじゃが」

 

ベルベット「ただ待ってるわけにはいかないわ。あたしが目覚めたということは、カノヌシも目覚めたかもしれない」

 

エレノア「確かに……アルトリウス様が亡くなり、ベルベットが封印から解放された今、制御されていないカノヌシが暴走しているかもしれません」

 

ロクロウ「それもそうだが、待つことしかできないぞ。世界が異なるから地脈点で行くのも無理だと思うが」

 

ベルベット「別の方法があるわ。あたしと一緒だったウィッチャーが一人の娘を探してる。そいつは他世界を行き来する力を持ってるらしいのよ」

 

アイゼン「その娘に頼んで元の世界に戻してもらう、か。待つよりはマシだろうな」

 

 そう話し合っている中、ベルベット達に近づく者がいた。話題の一つであるリヴィアのゲラルトだ。

 彼に気づいたベルベットが声をかける。

 

ベルベット「ゲラルト、あたし達に何の用?」

 

ゲラルト「災禍の顕主様が配下を引き連れて、元の世界を支配しに行くのを見届けようと来たところさ。どうやらまだ時間がかかるようだが」

 

ベルベット「そうね。だから、あんたが探してる娘の力を借りようか話していたところよ」

 

ゲラルト「……誰から聞いた?」

 

ライフィセット「卯和っていうMGM社の社長代理から聞いたよ。僕達は元の世界に戻らないといけないんだ」

 

ロクロウ「もちろん、俺達も一緒に探すぞ。ベルベットを助けてくれた恩もあるからな」

 

ゲラルト「ここでの旅は危険だ。怪物だけでなく、人間を殺さなければならない時がある。残酷なものを目にするかもしれない」

 

エレノア「ええ、覚悟しています」

 

マギルゥ「儂らのような悪人共にそんな心配はしなくともよいぞ♪」

 

アイゼン「死神の俺がいることで降りかかる不幸の心配はしとけ」

 

ゲラルト「……頼もしい仲間だな、ベルベット」

 

ベルベット「こいつらがあたしの復讐についてきただけよ」

 

 養女シリがこの世界に戻ってきたことを知った白狼は彼女を探す旅に出る。他世界からの魔王、聖主、夜叉、魔女、死神、対魔士と共に。

 

to Be Continued




 これを書いて思ったこと。
 ウィッチャー3とテイルズオブベルセリアのクロスオーバーで十分じゃない? プロジェククロスゾーンやスマブラは余計な気がする……出してほしいとコメントがあれば考えますが。
 次回辺りでキャラクター設定集でも書こうと思います。ついでにアンケートでもします。


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キャラクターまとめ(追記予定)

○災禍の顕主御一行

 

 リヴィアのゲラルト

異名:白狼、ブラビケンの殺し屋

年齢:100歳近く

種族:ウィッチャー

 「ウィッチャーシリーズ」の主人公であり、史上最高の怪物退治の専門家。義理の娘であるシリを探す旅をしており、彼女の力を必要としているベルベット達にガイドとして雇われている。

 性格はプレイヤーによるが、どんなに罵倒されても落ち着いて相手をなだめ、例え怪物でも理性や正当性があれば見逃したりする。逆に罵倒してきた人間に言い返す、殴る、殺したり、あらゆる怪物を皆殺しにしそうな短気になることもある。この作品では前者に近い方である。女好きで、隙あらば抱く(ただし、未成年であるベルベットやエレノアを除く)。子供には優しく、遊んだり肩車したりする。

 対人間の鋼の剣と、対怪物の銀の剣を一刀流、多彩な印(魔法)を使いこなす。遠距離の敵には石弓か爆薬で攻撃、特定の怪物に効くオイルを剣に塗る、霊薬を飲んで強化するなど多様性な戦いができる。人間より優れた感覚で現場に残された怪物の痕跡を調査し、怪物の正体が判明したら入念な対策をしてから戦いに臨む。

 タイトル画面では瞑想をしている。

 

 

 ベルベット・クラウ

異名:災禍の顕主、喰魔、魔王

年齢:19歳

種族:喰魔

 「テイルズオブベルセリア」の主人公であり、自身と共にカノヌシを封印していた。封印が解かれたかもしれないカノヌシのこともあり、元の世界に戻る方法としてシリの力を借りるために、ゲラルトの旅に同行する。

 アルトリウスへの復讐を果たしたため、性格は家庭的かつ気さくになっている。自分や仲間に敵意や殺意を向ける者には容赦せず、例え人間であっても殺す。業魔になった影響で食べ物の味を感じることはできないが、料理上手。家事全般が得意で、掃除の仕方にもこだわりがある。

 右手の篭手に仕込んだ刺突刃と、素早い蹴り技(ブーツに刃を仕込んでいる)を駆使して戦う。怪物を相手にする場合は、変貌した左手『業魔手』で喰らって力を我が物に出来る。また、喰らった力を操作・放出する能力を持つ。

 タイトル画面では鍋の中をお玉で混ぜながら煮込んでいる。

 

 

 ライフィセット

異名:聖主、マオテラス、カノヌシの片割れ

年齢:10歳

種族:聖主

 カノヌシが封印された後に白銀のドラゴンとなり、聖主マオテラスとして世界を見守っていた聖隷。人の姿に戻った状態で、こちらの世界に飛ばされる。元の世界に戻る気だが、久しぶりの冒険を楽しんでいる。

 子供らしく素直で優しい。好奇心旺盛で博学。世界を見守る聖主として知るために、戦争の悲惨さや残酷から目を背けない。仲間に敵意や殺意を向ける者は許さないが、命を奪うことはしない(どうしようもない悪人は見限るが)。ゲラルトの調査や錬金術を自分から手伝い、知識を吸収している。

 戦闘時は霊力を込めた紙葉(御札)と、地水火風4属性に無属性を複合した攻撃系の聖隷術を行使する。優れた回復術も持っており、仲間達の生命線として活躍している。ゲラルトの剣に属性を纏わせる事もできる。

 タイトル画面ではベルベットのそばで寝ている。

 

 

 ロクロウ・ランゲツ

異名:夜叉、業魔、赤眼の剣士

年齢:22歳

種族:業魔

 人間に戻らず剣を極めるために、人に害をなす業魔を倒し続けてきた業魔。全く異なるこちらの世界に存在する強敵に心を躍らせる。

 普通にしていれば明朗快活な好青年。他人にフォローを行ったり、細かく気配りするなど面倒見がいい。剣術バカの戦闘狂でもあり、自分の戦いを邪魔されることを嫌い、助けようとした仲間を本気で殺そうとすることもある。それを仲間に注意された時は素直に謝罪し引き下がるが、一瞬で気持ちを切り替える二面性から業魔としての狂気が垣間見える。人間を斬り殺すことに躊躇いは全く無い。

 基本的に2本の小太刀で戦うが、強敵と戦う場合は背負っている大太刀「クロガネ征嵐」を使い、本気で戦う場合はクロガネ征嵐と號嵐の二刀流で戦う。剣術だけならゲラルトを超えるレベル。

 タイトル画面では素振りをしている。

 

 

  マギルゥ(マジギギカ・ミルディン・ド・ディン・ノルルン・ドゥ)(本名マギラニカ・ルゥ・メーヴィン)

異名:魔女、大魔法使い、奇術団団長、エルフもどき

年齢:見た目は14歳(実際は30歳近く)

種族:人間

 「刻遺の語り部」として世界の真実を伝承するための旅に出ていた魔女。暇潰しと言いながらゲラルトの旅に同行する。

 いい加減で大体適当。「どーでもいい」が口癖の皮肉屋でもある。一人称が「儂」で語尾に「〜のじゃ」をつける老人口調。仲間に対し非常とも言える正論をなげかける。昔は純粋で夢見がちな性格だったらしい。殺意を向ける人間を殺すことを躊躇わない。

 自由自在に伸び縮みする紙状の式神を様々に変化させて戦うほか、聖隷ビエンフーとの契約によって火と水の聖隷術を使いこなす。敵の魔法を中断させ、その力をマギルゥ自身に吸収、一定量溜め込むことで広範囲・高威力な攻撃術が発動する「スペルアブソーバー」を持つ。

 タイトル画面ではビエンフーを弄り続ける。

 

 

 アイゼン

異名:死神、アイフリード海賊団副長

年齢:見た目は30歳(実際は1000歳)

種族:聖隷

 「死神」としてアイフリード海賊団の旅路を見守っていた。アイフリード海賊団と妹がいる世界に戻るためにゲラルトの旅に同行する。

 基本的には物静かで冷静沈着。一見堅物だがノリも良く、漫才やおふざけにも積極的に参加する。アウトロー故に目的のためなら手段を選ばないが、敵対した相手であっても認めた相手なら助言を惜しまない等面倒見も良い。「自分の舵は自分で取る」という流儀を持ち、ゲラルトがアクスィー(洗脳魔法)を使うことを好まない。

 格闘術で戦うほか、攻撃やサポート、回復の聖隷術も使いこなす。「死神の呪い」で武器が使い物にならないため、素手で戦う。身体を半分ドラゴン化させて力を解放することも。

 タイトル画面ではコイントスしながら周りを警戒している。

 

 

 エレノア・ヒューム

異名:一等対魔士、マオテラスの器、テンナンバー

年齢:18歳

種族:人間

 聖寮に代わって人々を支える活動をしていた。戦争に苦しむ人々を助けながら、元の世界に戻ろうとしている。

 真面目かつ素直な性格で他人を思いやる心を持つが、常に正しいことを正しく行おうと、一貫した強い信念の元に行動している。そのため融通の利かない堅物な面もある。感情が表に出やすく、「涙目対魔士」とからかわれている。例え殺意を向けられても、人間を殺せない。

 リーチに優れた槍による特技と、聖隷術を操り遠近どちらの攻撃もこなせる。

 タイトル画面ではゲラルトを真似て瞑想する。が、時々片目を開け、周囲を見ることがある。



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第七話

今回はプロジェクトクロスゾーン設定の版権キャラが出ます。


 

 ヴェレン、またの名を主無き地。

 北方諸国とニルフガード帝国による戦火に焼かれ、統治する者を失った広大な元テメリア領の湿地帯を、人々は「主無き地」と呼んでいる。この地には在来の多種多様な怪物たちが蔓延っているだけでなく、異界から来た外来の怪物たちも暴れまわっている。

 ウィッチャーと災禍の顕主たちは、その名を隠して活躍する皇帝の諜報員、ヘンドリックとヴェレンで接触することになっていた。その諜報員は、皇帝の命を受け、シリの情報を集める任務についていた。

 

――――

 

 ローチに乗馬し、先頭を進むゲラルト。その後ろにニルフガード帝国からもらった5頭の馬に乗ってついていくベルベットたち(マギルゥは大きくした式神に乗っている)。

 ヘンドリックがいると思われる十字路に向かう中、エレノアは心を痛めていた。多くの死体を吊るした木、道端に転がっている戦死した兵士たち、家を破壊され嘆いている村人たちなど、彼女がそれらを見過ごすことは出来ない。しかし、ゲラルトの旅に同行する目的は元の世界に帰るためであり、人助けをするためではない。ベルベットにそう言われ、なるべく惨劇を視界に入れないようしていたエレノアに、隣に並んでいるロクロウが声をかける。

 

ロクロウ「エレノア、泣いているのか?」

 

エレノア「えっ? な、泣いていませんよ」

 

ロクロウ「本当か? 涙が出てるんだが」

 

 そう言われて自分が無意識に泣いていることに気づいたエレノアは慌てて涙を拭き取る。それを見たベルベットはため息をついたあとに言った。

 

ベルベット「どうせ戦争に巻き込まれた人を助けたい気持ちでいっぱいなんでしょ。全く、お人好しなんだから」

 

エレノア「わ、悪かったですね! お人好しで!」

 

ベルベット「けど、それがあんたのいい所よ。多くの人がそれを見習うべきよ」

 

ライフィセット「僕もそう思うよ。あの戦いのあと、エレノアは多くの人たちを助けてきたんだ」

 

ビエンフー「まさに、エレノア様は女神様でフ」

 

エレノア「そ、そこまで言われる程では……」

 

 顔を赤くするエレノア。それを一瞥したゲラルトはシリを探し続けるだけでなく、怪物退治などの人の役に立つ仕事をたまに引き受けようかと考えた時だった。

 突然の呼び声がゲラルトたちに届いた。

 

「下がれ、祈祷中なのか分からんのか?」

 

 見ると、二人の傭兵に護衛されている赤い格好の司祭が祈祷している。ゲラルトたちはそれに近づき過ぎていた。離れようとしたが、司祭が傭兵に言う。

 

司祭「良いのだ、ロデリック。〈永遠の炎〉の恩寵は誰でも受けることができる。こちらへ、ウィッチャー、そして異界の者たちよ」

 

 司祭に呼ばれたゲラルトはローチから降り、一緒に呼ばれたベルベットたちも馬から降りて司祭に近づく。

 

ゲラルト「何の用だ?」

 

司祭「喜べ。お前たちのように邪悪で卑しい生き物であっても〈永遠の炎〉の栄光のために働ける」

 

 その言葉にイラっとするベルベットたち。

 

司祭「誰かが戦場の死体を始末せねばならん。集団墓地でまだ朽ちていない者を、屍鬼が穢している。けしからんことだ」

 

ゲラルト「それが俺たちの一日一善か?」

 

司祭「ついでに、かなりのもうけになる。ここで異界人を引き連れるには金が必要だろう」

 

 ……人の役に立つ仕事を引き受けようと考えた矢先にこれか。かなり失礼な奴らだが。

 ゲラルトはベルベットに振り向き、許可を求めた。

 

ゲラルト「いいか、ベルベット?」

 

ベルベット「こんな態度の連中の依頼を引き受けること? ……あんたの好きにしなさい」

 

エレノア「……私は引き受けるべきかと思います。死体がそのままでは、集まった屍鬼が人々を襲うだけでなく、伝染病が広がる恐れがあります」

 

 エレノアの言葉に頷き、司祭に向かって言った。

 

ゲラルト「引き受けよう」

 

司祭「これは功績のひとつと見なされる。人生で善行を成すほど、物事は……あー……より、神聖に……なり……まあ、とにかく、これが聖油だ」

 

 大事な部分を雑に言いながらゲラルトに聖油を渡す司祭。

 

司祭「たっぷり振りまいて火をつけろ、いいな? 空高く火を上げろ。〈永遠の炎〉の栄光や、その他諸々のために」

 

ゲラルト「死体の焼却が済んだら、どこで会えばいいわけ?」

 

司祭「ノヴィグラドへ向かう橋の近くにいる」

 

――――

 

 ヘンドリックに会う前に、死体の処理の依頼を引き受けたゲラルトたち。司祭が教えた死体の場所に向かう途中、一行は会話をする。

 

マギルゥ「全く、嫌な連中じゃったわ! 儂らを邪悪で卑しいとか言いおって! あれが人に頼む態度かえ! 『業深き罪人よ、懺悔なさい』の方がマシじゃい!」

 

ゲラルト「何だ、それは?」

 

アイゼン「俺たちの世界にいるとある司祭のお言葉だ。今思えばそいつも見た目で決めつけるような奴だったな」

 

ロクロウ「そうだな。エレノアとライフィセットはともかく、俺たちのことを『悪そうに見える』って罪の告白を強要したしな」

 

ビエンフー「人として器がちっちゃい奴だったでフー。ボクが皆の代わりに懺悔しても許さなかったでフ」

 

ゲラルト「それはそれは。変な奴に絡まれて大変だな」

 

 災禍の顕主一行は1つ目の死体の山についた。四つん這いの人間に似たような怪物――屍鬼たちが死体を食べていたが、ゲラルトたちに気づくと襲いかかってきた。

 銀の剣を構えたゲラルトは飛びかかった屍鬼の攻撃を躱し、顎を切り裂く。喉元を刺突刃で貫くベルベット。二刀の小太刀で斬り裂くロクロウ。殴り倒すアイゼン。槍で突き刺すエレノア。紙葉を屍鬼に投げ、霊力を放って攻撃するライフィセット。伸ばした式神で叩くマギルゥ。

 全ての屍鬼を倒したのを確認したゲラルトは死体の山に近づき、聖油をかける。イグニを唱えて火を付けると、死体の山が燃え上がった。

 

エレノア「これで安らかに眠ってくれるといいですが……」

 

ゲラルト「それは願うしかないさ」

 

 次の死体の山に向かう一行。ゲラルトは話し始めた。

 

ゲラルト「さっきの屍鬼が、世界の役に立つと力説し続けてた魔術師の話をしたか?」

 

ライフィセット「あの怪物が……世界の役に立つ?」

 

ベルベット「それほど重要な存在とは全く思えないわ」

 

ゲラルト「死体を食うから伝染病が流行らないだとさ」

 

マギルゥ「そやつは生きた人間を襲うとは知らなかったのかえ?」

 

ゲラルト「知った時は狼狽えてた……持論が崩壊するからな」

 

 そう話しているうちに、2つ目の死体の山についた。

 そこにも複数の屍鬼がいたが、二人の人物と戦っていた。

 カメラを首にかけている一人はチェンソーで屍鬼を斬り裂き、もう一人は袖口から伸びる鋸で斬っていた。

 ゲラルトたちが武器を構えて戦いに参加しようとした時は、屍鬼は全滅していた。カメラの男がゲラルトに気づき、声をかける。

 

カメラの男「リヴィアのゲラルトだな?」

 

ゲラルト「俺を知ってるのか?」

 

カメラの男「この世界で有名だからな。怪物退治のプロフェッショナルであるウィッチャー、その中で伝説の人物だ」

 

ゲラルト「異界人のお前がそこまで知ってるとはな」

 

カメラの男「俺はフリージャーナリストのフランク・ウェスト。あんたの言う通り、他世界から来た者だ」

 

ベルベット「他世界からって、MGM社と一緒に来たわけ?」

 

フランク「正確にはそのMGM社に協力してる組織に同行してたが……この世界に来た時にバラバラになってしまってな」

 

長袖の東洋人「本当に困ったんだよ。さっきの怪物にしつこく追われるし、ここの住人にひどく言われちゃったり……これほどの世界はアタシは初めてだよ」

 

 そう愚痴を漏らす長袖の東洋人。フランクを除くゲラルトたちの視線が東洋人たちに集まり、それに気づいた彼女は聞いた。

 

長袖の東洋人「ん? どうしたの?」

 

ゲラルト「君は……死んでいるのかい? 肌が死体と同じ色だ」

 

長袖の東洋人「そりゃあキョンシーですからね。アタシはレイレイって言うんだよ」

 

ゲラルト「キョンシー……聞いたことない種類だが、動く死体であることは否定しないのか。屍鬼に襲われるのに納得だ」

 

マギルゥ「うむ、先程の怪物は死体を食うらしいからのう。動く新鮮な死体は食べたいじゃろー」

 

エレノア「シュールな言い方ですね……ゲラルト、死体の処理をお願いします」

 

ゲラルト「わかった」

 

レイレイ「ア、アタシを処理するって!?」

 

ベルベット「あんたじゃないわよ。全く、紛らわしい」

 

 死体の山を燃やしたゲラルト。残る死体の山はあと一つだ。

 最後の死体の山に向かおうとした時、フランクは聞いた。

 

フランク「仕事の途中で悪いが、少しついて行っていいか? あんたの仕事っぷりを記録しておきたい」

 

ゲラルト「どういうつもりだ?」

 

フランク「俺たちのような他世界の者にリヴィアのゲラルトを知ってもらいたくてな。もしかしたら他世界の者がお前を助けてくれるかもしれん」

 

ゲラルト「俺を助ける? 俺が助けるじゃなくて?」

 

レイレイ「まあまあ、助け合いが出来るって思ったらいいじゃん。アタシもついていくよ」

 

 ウィッチャーと災禍の顕主が主な集まりに一時的にジャーナリストとキョンシーが加わり、最後の死体の山に向かった。

 そしてそこにも、また誰かが屍鬼と戦っていた。ゲラルトやフランクと違って怪物との戦いに向いてなさそうに見える。

 

ゲラルト「今度はなんだ?」

 

 戦いに参加し、盗賊の格好をしたその人物と共に屍鬼を倒す一行。

 倒し終えたあと、盗賊が愚痴を漏らした。

 

「クソ司祭の次は、屍喰らいか……この忌まわしい街にはこりこりだ」

 

ライフィセット「司祭?」

 

「いつもの約束だった、ブツの量がやけに多かったが……『いい客』だと思った……だが奴ら、剣を抜きやがった!」

 

 司祭……そのような人物と関わったばかりな気がする。ベルベットは何かの売人に確認した。

 

ベルベット「それは〈永遠の炎〉の司祭の話よね?」

 

「そうだ! やっぱりなまぐさ坊主は信用できん! あいつは高品質のフィスティックを3回注文した。すべて順調だった……だが4回目に手下が襲ってきた。俺たちを始末するためにな。俺は死体と一緒に捨てられた。後をグールに任せたんだろうな」

 

マギルゥ「なるほど~。で、その司祭様はウィッチャーや異界人を雇い、死人を燃やして証拠隠滅するよう命じたというわけじゃな」

 

「ウィッチャーに異界人? つまりあんたらか!? 何をする気だ?」

 

アイゼン「俺たちは動かない死体以外を燃やせとは言われてない」

 

「噂が本当でよかった。変異体や異界人でも、その生き方には信念があるってな! ありがとう!」  

 

 売人は感謝し、この場を去っていった。

 ゲラルトが死体の処理を進めている中、ロクロウが尋ねた。

 

ロクロウ「ゲラルト、さっきの男が言ったフィスティックってやつ……危ないモノか?」

 

ゲラルト「中毒性が高く、体と心がボロボロになってしまう薬だ」

 

エレノア「それって、麻薬じゃないですか!? 司祭がそんなことをするなんて……」

 

マギルゥ「麻薬取引していた司祭……儂らの世界にもおったのう。そやつは死んだが」

 

 そう思い出すマギルゥ。

 フランクはベルベット達の写真を撮りながら、先程の売人の事をゲラルトに聞いた。

 

フランク「ゲラルト、麻薬を扱ってたアイツを逃していいのか?」

 

ゲラルト「生憎、俺はウィッチャーでね。怪物退治が主な仕事で、治安維持は衛兵の仕事だ。善人だと決めつけないでくれ」

 

フランク「決めつけはしないさ。俺はただ、『真実を写す』仕事をしてるだけさ」

 

マギルゥ「おおっと、儂らのような悪人共がおる真実は映さんでくれい」

 

 死体の山が燃え上がるのを見届ける一行。

 ライフィセットはゲラルトに尋ねた。

 

ライフィセット「僕たちに依頼した司祭に報告するんだね?」

 

ゲラルト「ああ。そして、おしゃべりな死体がいたことも報告する」

 

レイレイ「それって、アタシのこと?」

 

ベルベット「……もう突っ込まないわよ」

 

――――

 

 指定された場所に向かうと、司祭と彼を護衛する傭兵たちが待っていた……その傭兵の数が二人から十人程度に増えている。死体焼却に任された者たちだろう?

 司祭がゲラルトたちに気づくと、尋ねた。

 

司祭「さて、ウィッチャーに異界人共? 仕事は完了したか?」

 

 その質問に答える前に、ゲラルトは質問をした。

 

ゲラルト「なぜ今ごろになって司祭が死体に興味を持つ?」

 

司祭「〈永遠の炎〉協会の本分は生ある者の救済だ。戦の後、我々がどれだけ貢献したか知る由もあるまい……負傷者には手当をし、難民には……宗教的援助をした。礼拝では説教を行い、寄付も募った……」

 

ベルベット「そうね。あなたがいなかったら世の中は大変だったわね」

 

マギルゥ「全く全く、なんと尊い仕事をされてるんじゃ永遠の炎とやらは」

 

アイゼン「お前がいなかったらこの世界はクソになってたな」

 

 皮肉を言う三人の言葉に笑うゲラルト。彼は司祭に報告をした。

 

ゲラルト「墓地の始末をした。実に奇妙だな。死体の一つは生き生きとしてた」

 

司祭「そこにいる肌色が悪い異界人のことか? 異界は怪物共の住処だからな」

 

レイレイ「いやいや、アタシじゃなくて、フィスティックっていう麻薬の売人が生きてたんだよ」

 

フランク「そいつが面白いネタを持っていたぞ。ヤツはそれが原因で殺されそうになったらしい」

 

 その言葉を聞いた途端、剣を抜いた傭兵たちがゲラルトたちを囲み始め、司祭も悪い笑みを浮かべながらこう持ちかけてきた。

 

司祭「ほう……興味深い。そのネタは買わせてもらうとしよう。永遠に、そして独占的にな」

 

 それに対し、ゲラルトらは強気で返した。

 

ゲラルト「俺を雇うのは自由だ。だが買収できると思うな」

 

ライフィセット「こんなことをして、見逃されると思ってるわけ?」

 

フランク「悪いが、このネタは売るつもりは無くてな」

 

 それを聞いた司祭は離れながら言う。

 

司祭「手詰まりか。それでは、殺すのが一番安上がりだな。こちらの数が上回ってる。ウィッチャーだろうが異界人だろうが、なんとかなる! 殺せ!」

 

 その言葉と同時に傭兵たちが剣を振りかざして迫ってくる。

 鋼の剣を抜刀したゲラルトは傭兵の攻撃を弾き、その隙に傭兵の両足を斬り離す。

 傭兵の攻撃を避け続けたベルベットは、顔面に飛び膝蹴りを喰らわせる。

 二人の傭兵から距離をとったライフィセットは紙葉を投げつけ、霊力で吹き飛ばす。

 ロクロウは二刀の小太刀で傭兵の剣を弾き飛ばした直後、目にも留まらぬ速さで体を斬り刻む。

 重い拳の一撃を次々と喰らわせるアイゼン。

 伸ばした式神を振り回して敵を叩き飛ばすが、味方も巻き込みそうになるマギルゥ。

 殺さないよう柄で叩き、足で蹴り飛ばすエレノア。

 袖口――暗器砲から様々な物を傭兵に投げつけるレイレイと、外れた物を掴んで投げるフランク。

 一分もしないうちに傭兵たちは全滅し、それを呆然と見ている司祭にゲラルトたちは少しずつ歩み寄る。司祭は慌てて命乞いする。

 

司祭「ま、待て! このことを永遠の炎教会が知ったら、お前たちは後悔するぞ!」

 

ゲラルト「業深き罪人よ、懺悔しろ」

 

司祭「わ、私のことか?」

 

ベルベット「ええ。そもそも胡散臭いのよ、あんたが本当に永遠の炎とやらの司祭なのか」

 

司祭「当たり前だ! 私を何だと思ってる!」

 

アイゼン「だったら罪を告白しろ。偉大なる司祭様なら自覚してるだろうな」

 

司祭「あ、ああ……私はフィスティックを買っただけでなく、その売人を殺して証拠隠滅をしたことを懺悔する。すまない」

 

マギルゥ「うーむ、たらん気がするが、まあどーでもいいかのー。さて、先程の買収に使おうとした金を寄越せ、いいや、お主が持つ金をぜーんぶじゃ」

 

司祭「ざ、懺悔してやったのにか!?」

 

ゲラルト「嫌ならいい。お前を殺して奪えばいいだけだ」

 

ロクロウ「それもそうだな。また死体の山を燃やす手間が増えるが」

 

 それを聞いたエレノア、ライフィセット、ビエンフー、フランク、レイレイはゲラルトたちのことを「鬼だ」と心の中で思った。

 司祭も諦め、懐から金が入った袋をゲラルトたちに投げ渡し、その場から逃げ去った。生き残った傭兵たちも彼のあとを追って逃げる。

 

ゲラルト「とにかく、人助けの仕事を終えて金を得た。十字路の宿屋で必要な物を買えるだろう」

 

エレノア「人助け……とは呼ぶには複雑でしたがね」

 

フランク「いや、あんたたちは俺たちを助けてくれた。ありがとうな」

 

レイレイ「そうそう。あの屍鬼に襲われてた時は助かったよ。謝謝!」

 

 そう感謝し、その場を立ち去る二人にゲラルトが声をかける。

 

ゲラルト「ここで別れるのか?」

 

フランク「まあな。あくまでウィッチャーの仕事に同行しただけだ。これから会いに行く仲間たちに、そのことを教えるつもりだ」

 

レイレイ「またどこかで会えるといいね。バイバーイ」

 

 二人の姿が見えなくなったあと、ライフィセットはつぶやいた。

 

ライフィセット「あのフランクが持ってたカメラっていう道具、どういう仕組かな」

 

アイゼン「風景を記録する道具か。旅の記録も楽しくなりそうだな」  

 

 そう会話をしながら目的地である十字路の宿屋へ向かう災禍の顕主一行であった。

 

to be continued



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第八話

 シリの情報を持つ帝国の諜報員――ヘンドリックがいる十字路の宿屋についた災禍の顕主一行。宿屋に入る前、エレノアは壁に貼られている貼り紙に気づいた。女性の似顔絵が描かれており、その下にこう書かれていた。

 

“訪ね人

 血まみれ男爵の娘 タマラ・ストランカー

 誘拐されたと思われる。

 彼女を発見したか、連れてきた者には莫大な報酬が与えられる”

 

ライフィセット「血まみれ男爵……ここを治めてる人だよね。娘さんがいなくなっているんだ」

 

アイゼン「別の貼り紙には妻も行方不明のようだ。不幸な男爵だ」

 

ベルベット「あたし達には関係ないわ。さっさとヘンドリックに会うわよ」

 

エレノア「……そうですね。私達はシリを探さないといけません」

 

 宿屋に入店し、食器を拭いている店主に尋ねた。

 

ゲラルト「ヘンドリックという男を探している」

 

「何の用だ?」

 

 ゲラルト達が入ってからコップを拭き続ける手を止めずに聞き返す店主。

 

ゲラルト「話がしたい」

 

「何について?」

 

 答えようとしない店主の態度にアイゼンがゲラルトに助言する。

 

アイゼン「ゲラルト、注文ではなく質問ばかりの客は追い払いたいだろうな」

ゲラルト「そうだな。何か強い酒を、それと子供が飲めるモノも頼む」

 

 そうして注文したのを差し出され、ゲラルト、ロクロウ、アイゼン、マギルゥは酒を、ベルベットとエレノアとライフィセットとビエンフーは果汁を口につけた。その時、外から何頭かの馬の足音が聞こえ、宿屋近くで止まると同時に他の客が立ち去っていく。

 その様子にゲラルト達が謎の来客者が入るだろう扉を見つめる。

 

エレノア「何なのでしょう?」

 

「お前ら、出ていってくれ! 裏口を開けてやる、子供を巻き込みたくない」

 

 店主の言葉に動こうとせず、ベルベットが口を開く。

 

ベルベット「あんたと喋るために注文した物をまだ飲み終わってないわ」

アイゼン「全くだ。あれこれ注文させてそれは無いはずだ」

 

 それに店主は何も言えず、店の入り口に目を向ける。扉を開けて入ってきたのは鎧を身に着け、剣を携えた兵士達だ。ニルフガードでも北方諸国でもない格好だ。

 

「おい、ウォッカだ!」

 

 そう注文するも、ゲラルト達に気づいて口々にこう言った。

 

「こいつらは誰だ?」

「剣を二本差す勇敢な戦士様二人に、鋭い目の紳士様、小せえ魔女様にちっせえ使い魔、純白な修女様と子供、そして盗賊の女か」

「おい、白髪と黒髪の兄ちゃん! 剣を二本差す意味はあるのか?」

 

 その質問に答えたのは黒髪の兄ちゃん――ロクロウだ。背を向けていた彼は明るい表情で答える。

 

ロクロウ「おう! 普段はこの小太刀二刀流で戦ってるが、本気を出すときはこの征嵐一刀流、更に本気の場合は號嵐を加えて二刀流で戦うぞ」

エレノア「ちょ、ちょっとロクロウ!」

 

 他人がいる宿屋では穏便に済ませたいエレノアが注意するが、兵士達の次の言葉が災禍の顕主一行を怒らせかける。

 

「あいつ、ナニも二本ついてるんじゃねえのか?」

「そうかもな! 男三人に女4人だと余りが出るが、二本もあれば合わせて四本でピッタリだな! ははは!」

 

 その言葉の意味を察したベルベット、アイゼンの目つきが鋭くなる中、怒りと恥ずかしさで赤い顔のエレノアに耳を塞がれていたライフィセットは破廉恥な発言と自分が女と見なされたことが聞こえず、首を傾げていた。

 

エレノア「何を言うんですか!? 幼い子供がいるんですよ!」

 

「女子供を引き連れて……何者なんだ。教えねえなら口をナイフでこじ開けてやるぞ!」

 

 兵士の脅しに笑みが消えたロクロウは小太刀に手を伸ばし、アイゼンは拳を握りしめ、ベルベットは刺突剣が納められる籠手を振ろうとする。それに気づいたエレノアとライフィセットが止めようとする中、黙って酒を飲み続けていたマギルゥが口を開いた。

 

マギルゥ「繁盛しとるのう、この店は。祝いに酒を振る舞ってやるぞ、ウィッチャーの金での♪」

 

「……どういうつもりだ?」

 

ゲラルト「そうだな……金が余ってるからな」

 

 そう言って永遠の炎の司祭から受け取った金が入った小袋を取り出すゲラルト。兵士は警戒を解かずに言い放つ。

 

「よそ者とは飲まないんでね」

 

マギルゥ「一杯だけでいいじゃろ。飲んだら皆バラバラに散っていくんじゃろうし」

 

「どこへ行くつもりだ?」

 

ゲラルト「ノヴィグラドへ向かうところだ」

 

「娼婦とエロ男の街か」

 

 兵士の言葉に再びライフィセットの耳を片方ずつ塞ぐベルベットとエレノア。店主は酒と飲み物を用意してくれた。兵士達、災禍の顕主一行の両者も手に飲み物を持った。

 ゲラルトがコップを掲げて言った。

 

ゲラルト「この出会いを祝して」

「乾杯」

ベルベット「……乾杯」

ライフィセット「乾杯!」

ロクロウ「おう、乾杯!」

アイゼン「乾杯だな」

エレノア「ええっと、乾杯です」

マギルゥ「乾杯じゃ!」

ビエンフー「乾杯でフー!」

 

 ベルベットとエレノアとアイゼンはその場に合わせ、ライフィセットとロクロウとマギルゥとビエンフーはノリで祝杯をあげた。その様子を見た店主は安心し、ゲラルトたちにこう言った。

 

「休みたいなら来てくれ。寝床を用意できる」

 

マギルゥ「気が利くのう♪ 儂らはあっちに行くのじゃあ」

 

 先頭を歩くマギルゥの後を追い、兵士から離れる一行。離れた場所で待っている店主に近寄ると感謝してきた。

 

「ありがとう。豚どもと騒ぎを起こさないでくれたな」

 

ゲラルト「人の事情に首を突っ込むつもりはない」

 

「確かヘンドリックを探していたな。そいつならヘザートンにいる」

 

ベルベット「それはどこよ」

 

「丘の向こう側だ。今朝、おかしな光が見えた。もしかしたら帝国が襲ったのかもな」

 

 店主の言葉にゲラルトたちは顔を見合わせた。ヘンドリックはニルフガード帝国の諜報員だ。帝国の攻撃に巻き込まれるのはおかしい。例の光は帝国とは別かもしれない。

 更に情報を集める。

 

ゲラルト「他に、ヘンドリックについて何か知らないか?」

 

「妙なやつだ。どこからどんな理由で来たのか、誰も知らない。パン一切れのために旦那を殺された女と一緒に住んでる」

 

アイゼン「そんな怪しい奴を男爵の手下が黙るわけがねえ」

 

「奴は身を隠すのが上手なんだ。まるでいつ来るか知ってるみたいに、うまく消えるんだ」

 

ゲラルト「そうか」

 

 店主に感謝を伝え、宿屋を出ていく。ヘンドリックがいるヘザートンへ向かう途中、エレノアはベルベット、ロクロウ、アイゼンを叱った。

 

エレノア「さっきのは何なんですか!? 確かに卑猥なことを言われて私も怒っていましたが、剣を抜いて戦うことではないでしょ!」

 

ベルベット「フィーをあんな目で見たなんて許せなかったわ」

ロクロウ「大太刀を二本差してる理由があれだと流石にカッとなるぞ」

アイゼン「あれ以上舐められねえようにするつもりだった」

 

エレノア「だからって!!」

 

 エレノアの説教はしばらく続いた。

 

 to be Continued



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第九話

今回と次回にかけてアンケートがあります。


 

 十字路の宿屋からシリの情報を掴んでいる諜報員ヘンドリックがいるヘザートンへ向かうウィッチャー&災禍の顕主一行。しかし、遠くに村が見えた瞬間、異変に気づいた。

 

ライフィセット「屋根に雪が積もってる……?」

 

マギルゥ「こーんなお日様があっちあちの天気におかしいのう。霧も出とるし」

 

エレノア「それに人の気配が感じません……店主が言っていた例の光とはこのことでしょうか?」

 

 息が白くなるほど寒くなっているヘザートンを調べ回る。地面と屋根には季節外れの雪が積もっており、人の姿が全く無い。

 いや、一人いた。獰猛な犬たちに松明で抵抗している男性だ。それぞれ馬から飛び降り、犬たちを蹴散らしていく。致命傷を負った犬は地面に転がり、残った犬はゲラルトたちに怯えて逃げ出した。

 犬に襲われていた男に近づくが、未だ松明を向けて警戒している。

 

「あっち行け! 誰かは知らんが、ほっといてくれよ!」

 

エレノア「お、落ち着いてください。私たちは危害を加えません」

 

 そう宥めるが、松明を気にせず近寄る彼らに男は腰を抜かしてしまう。ゲラルトが指先を向けて動かし始める。

 

ゲラルト「落ち着け、もう終わったんだ」

 

 洗脳魔法――アクスィーで男の精神を正常に戻すと、男は諦めた表情で言った。

 

「ああ……終わった……一度こぼれた水は元に戻らない……忘れることなどできない……」

 

 村の中心にある雪が積もった井戸の縁に座る男にベルベットが質問した。

 

ベルベット「あたしたちはヘンドリックを探しに来たけど……ここの様子じゃあ期待できそうにないわね」

 

「ああ……あんたの言う通り殺された。奴らはあの小屋で彼を捕まえて……人間があんな叫び声をあげるなんて……何をされたか想像もできん……」

 

 その言葉にエレノアは口を手で覆い、他の者たちも暗い表情をした。

 

アイゼン「ここで何かあったか話せ。言える範囲でな」

 

「みんな連れて行かれたんだ……」

 

 

 

 ……陽が落ち始めて……血のように赤い夕焼けに変わった。「おかしいな。蛙の声が聞こえない」と思った。その時、暖炉の火が突然消えてしまい、窓から何故か雪が吹き込んできたんだ。まだ冬じゃないのに。

 そしたら外から悲鳴が聞こえたんだ。外を見ていたら吹雪の中を何かから走って逃げる奴、子供を家に避難させる奴、そして……氷に覆われた馬に乗った骸骨の鎧を着た騎士共がいた。その騎士の中に、王冠の兜をつけたような奴が恐ろしかった……そいつらはヘンドリックが住む家に入っていった。

 その時、何が起こったかはわからん……ヘンドリックが叫んで……許しを求めたが……最後にはうめき声しか聞こえなかった。

 そのあと……ヘンドリックだけでなく、村人も殺されるか連れてかれてしまい、建物に火をつけられてしまった……

 

 

 

「奴らはすぐ去ったが、村は真冬みたいに凍った……」

 

 ワイルドハントが起こしたヘザートンでの惨劇を聞き終えたゲラルト達の表情は険しかった。特に故郷を滅ぼされた過去があるベルベットとエレノアの二人は怒りで拳を握りしめていた。災禍の顕主は滅ぼす側であると同時に滅ぼされた側でもある。

 ゲラルトは聞いた。

 

ゲラルト「その後、ヘンドリックの家を覗いてみたか?」

 

「いや……あそこには入らない。何があってもな……」

 

ロクロウ「わかった……お前はこれからどうするんだ?」

 

「十字路に行く。ここでは生活できないだろうし……」

 

エレノア「そうですか……あなたに平穏を」

 

 男と別れ、ヘンドリックの家へ向かう一行。入り口まで近づいたところでゲラルトが立ち止まり、ベルベットが尋ねる。

 

ベルベット「どうしたのよ?」

ゲラルト「ヘンドリックは拷問で死んだ。この中に彼の死体があるはずだ、あまり見たくない状態のがな」

 

ライフィセット「……ゲラルト、僕は大丈夫だよ。世界を見守る聖主になったからには残酷から目をそらしたら駄目なんだ。それにロクロウが斬ったので慣れてるからね」

 

ロクロウ「おっ! 流石はライフィセットだ。戦う者が一々エグいのを見ただけで隙を見せたら笑いものだぞ」

 

エレノア「ライフィセットに変な影響を与えないでください、ロクロウ!」

 

 三人の掛け合いを見ていたゲラルトにアイゼンが「俺たちはこういう感じだから気にするな」と声をかける。改めて単なる子連れ女連れではないと考えたゲラルトは先に家に入っていく。

 ヘンドリックはすぐ見つかった。血まみれの死体で。

 

エレノア「酷い……」

 

ゲラルト「何か見逃してるかもしれない……」

マギルゥ「じゃが、ワイルドハントが探られて持っていかれとるかもしれんのう」

 

 死体を調べて分かったのは真冬の凍死体のように硬直していること、上着とズボンのポケットには何もないことくらいだ。

 

ライフィセット「……ねえ、このブーツおかしくない? 片方の靴底が厚いよ」

 

 彼の指摘にブーツの靴底を掴んでみた。すると、靴底が取れて鍵が隠されてあった。

 

ゲラルト「いいぞ、ライフィセット。さて、鍵があるなら、鍵穴もあるはずだ」

 

ロクロウ「それに隠されたままってことは、ワイルドハントには気づかれてねえようだ。わざわざブーツの中に戻さねえだろうな」

 

エレノア「しかし、それを使う鍵穴はどこにあるでしょう? 機密書類が入った箱だとしたら持っていかれたら……」

 

 周囲を見渡していると、床に乱れたカーペットと散らかった家具を見つけた。そこから何かを感じてきた。

 

マギルゥ「風が感じるのう……ここの地下にありそうじゃな」

 

ベルベット「先に掃除が必要そうね。この人も弔ってやらないと」

 

 カーペットと家具を外に片付け、ヘンドリックの死体を埋めて墓標を立てたゲラルトたち。カーペットの下に隠された隠し扉にある鍵穴を先程見つけた鍵で差し込むと開けられた。

 隠された地下室に飛び降りるゲラルト。仲間が次々と降りていく中、壁の蝋燭立てが気になり、動かしてみた。すると、壁にある別の隠し扉が開いた。

 

ゲラルト「これは……面白い……」

 

ライフィセット「そうだね。こういうのってワクワクするよ!」

 

ロクロウ「ゲラルトもそういう方か。今度いろいろ話さないか」

 

アイゼン「こういったのが嫌いな野郎はいねえだろうな」

 

ビエンフー「ほんとでフ! ボクがいつも隠してる貴重な本もこういう感じで、隠してるでフ!」

 

 男のロマンを語り合おうとする男性陣。

 

ベルベット「どうして男はこういうのが好きなのかしら」

エレノア「本当です。掃除が面倒なだけなのに」

マギルゥ「ビエンフー、お主が言った本、どこにあるんじゃ~」

 

 冷ややかなに言う女性陣。

 「ビエーン!」とマギルゥの手でヘンドリックの二の舞になりそうなビエンフーを残して開いた隠し扉に向かう。そこに隠されていたのは帳簿だった。

 

ゲラルト「穀物の代金……木炭の出荷量……ヘンドリックは商人に偽装していたのか……」

 

ライフィセット「帳簿の間にメモがあるよ。重要なのか書いてあるかも」

 

 

 捜索状況……対象(シリ)はスケリッジ、及びノヴィグラドで確認された。外見に変化なし、灰色の髪、顔に傷痕。他人との接触を避けている。

 

 酔っぱらい……男爵と呼ばれる人物が自分の城に対象を招いた。城というより、不法に占拠した砦だが……理由は不明。クロウパーチで男爵と接触予定。

 

 魔女と遭遇……対象は沼地に降り立ち、魔女と遭遇した。争いが起こったようだ。原因は不明。魔女を見つけろ、ミッドコプスの村で村人と話せ。

 

 警戒……私は監視されている。相手も目的も不明。不安だ。犬が逃げた。バケツの水が凍った。空に妙な光が見える。村人は凶兆だと言う

 

 

ゲラルト「ワイルドハントはヘンドリックがシリを探していると知った……だから拷問を……」

 

 メモに書かれた内容を読み終えたゲラルトは口に出す。

 

ベルベット「口封じかもしれないわ。今わかってるのは、シリを招いた血まみれ男爵と、争いがあった魔女が何かを知ってることぐらいよ」

 

アイゼン「男爵はともかく、魔女を探すにはミッドコプス村の連中から聞き出さないといけねえようだ」

 

 

 シリの情報を持つヘンドリックは殺されてしまった。残された手がかりは血まみれ男爵、そして魔女だ。

 ゲラルトたちが次に取った行動は……

 

・血まみれ男爵に会いに行く

・魔女のことをミッドコプスで情報収集する




 今回はアンケートを取ります。次のルートはどれにしてほしいかです。それぞれのルートには参戦作品が関わる予定です。

・血まみれ男爵に会いに行く(星のカービィorゼルダの伝説)※スマブラ設定で
・魔女のことをミッドコプスで情報収集する(東方プロジェクトor魔法少女まどか☆マギカ……orINheritage)

 ちなみに参戦作品のリクエストは引き受けていますが、情報が少ない作品、出したら様々な理由で崩壊する作品は断らせていただきます。

 次回もお楽しみに。


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第十話

 ざっくり内容
・マギルゥ「儂らの年齢を当ててみろい、ウィッチャー!」
・村人「魔女の家は(カクカクシカジカ)にあるぞ」
・アイゼン「二度と俺の前でアクスィーを使うな」

 ……最後辺り、ベルセリア組にゲラルトが説教(?)されます。うちのゲラルトは洗脳をよく使う方でしたけど、ベルセリアは洗脳反対派が多い……それが正しいけど。


 ゲラルトとベルベットと合流する前にワイルドハントに殺されてしまった諜報員――ヘンドリック。彼が残したメモからシリの情報を握っている人物、“血塗れ男爵”と“魔女”がいることがわかった。

 ゲラルトらはその一人の魔女がいると思われる村――ミッドコプスに向かうのであった。

 

 

 

 愛馬ローチとニルフガード軍からのお古である複数の馬に乗ってミッドコプスに向かうゲラルトたち。その村に辿り着くまで、一行は会話し合っていた。

 

ライフィセット「ゲラルト、ちょっと気になったけど……年齢はいくつなの?」

 

ゲラルト「それは唐突だな。何故気になったんだ?」

 

ライフィセット「ゲラルトの髪が白くて、それと……皺もあったりして。でも、若々しい感じが不思議とするんだ」

 

ゲラルト「若々しいか……この髪色は老いではなく変異によるものだが、これでも100歳だ」

 

ライフィセット「へえー。じゃあ、僕らの中では三番目くらいだね」

 

 ライフィセットの言葉に疑問を抱くゲラルト。

 

ゲラルト「……三番目?」

 

ライフィセット「そっか、知らないんだった。僕らの中で年長は――」

 

マギルゥ「待てい、坊」

 

 マギルゥがライフィセットを止めてからゲラルトに問いかけた。

 

マギルゥ「ゲラルトよ、儂からのクイズじゃ。お主を除く儂らを下から年齢順に言うが良い」

 

ゲラルト「面白い。一回で当ててやろう」

 

 全員が馬から降り、横一列に並ぶ災禍の顕主御一行の正面に立つゲラルト。全員の姿を眺め、顎に手を当てて考える。数分後、考え続けていたゲラルトは口を開いた。

 

ゲラルト「外見的に見れば……一番下は一目瞭然のライフィセット、その次にマギルゥ、ベルベットとエレノア、ロクロウは近い感じで、アイゼンが一番上だ。しかし、ビエンフーのような存在がは人間と同じ年齢とは限らん。魔女のマギルゥも見た目通りとは限らん」

 

エレノア「確かに知り合ったばかりではビエンフーの年齢はわからないと思いますが、マギルゥの点に気づいたのは流石だと思います。私も知った時は驚きました」

 

マギルゥ「こらあ! ヒントをバラすでない! それでゲラルトや、そろそろ答えを出したらどうじゃ?」

 

 少々慌てるマギルゥを見つめたゲラルトは頷き、答えを出した。

 

ゲラルト「下からライフィセット、ベルベット、エレノア、ロクロウ、アイゼン、マギルゥ、そしてビエンフーだ。実年齢は言い当てられんが、どうなんだ?」

 

マギルゥ「ざーんねん、外れじゃ。確かにお主からはそう見えるのも理解できるが、外見と年齢は意外とつり合わんのじゃ」

 

ライフィセット「それじゃあ、答えを言うよ。僕は10歳だよ」

 

エレノア「私は18歳です」

 

ベルベット「19よ」

 

ロクロウ「俺は22だ。ゲラルトの答え、惜しかったな」

 

マギルゥ「……ほれ、ビエンフーの番じゃ」

 

ビエンフー「えっ? でも姐さんの――」

マギルゥ「お主の番じゃ!」

 

ビエンフー「ビエーン! ボクは150歳でフ~!」

 

アイゼン「俺は1000歳だ。ちなみにマギルゥは30歳、誓約で霊能力を得る代わりに体の成長が止まっている」

マギルゥ「お主! ついででバラすんかい!」

 

 マギルゥのツッコミは気にせず、改めて仲間の年齢を知ったゲラルトは驚きの表情を見せる。

 

ゲラルト「確かに外見と年齢はつり合わないものだな。俺の年齢の10倍がいるとは驚きだ。それに……意外と若い魔女もいるものだな」

マギルゥ「ゲラルト、それは絶対褒めておらんじゃろ」

 

 

 

 年齢当てゲームを終えた一行はようやくミッドコプスに到着した。馬から降り、村人から聞き出そうとした時だった。 ある単語が含む会話をゲラルトたちの耳に入った。

 

「魔女に診てもらえば、あの人の怠け癖も治るかしら」

 

 その言葉を口にした女性に近づき、声をかけた。

 

ゲラルト「こんにちは、奥さん」

 

「あら、こんにちは。何か御用?」

 

ゲラルト「この村の魔女に用があるんだ。知ってるか?」

 

「私は知らないけど、うちの人なら知ってるわ。聞いてみて。あの人、先週腰を痛めて、動けなかったの。魔女のところに行かせたら、元気になったのよ!」

 

ベルベット「その人はどこにいるのよ」

 

「庭にいるはずよ。痛みが引いたら、今度は怠け癖が出ちゃってね。子供らのためにコケモモでも取りに行ってほしいのに……マリアンの旦那さんは素敵だわ。この前もカワネズミを捕ってきて、何日も食べ物に困らなかったって。それから――」

 

 ……旦那への愚痴が長くなりそうなので、軽く別れを告げて庭に向かうゲラルトら。そこに一人の男――旦那が休憩、というより怠けていた。ゲラルトは話しかけた。

 

ゲラルト「この辺に住む魔女を知っているな」

 

「誰に聞いた?」

 

エレノア「あなたの奥さんからですが……」

 

「あのバカ女……放っといてくれ。女の戯言を魔に受けるな。魔女なんかいねえ。猛獣を従うシャーマンも、華奢で物知りな娘もな」

 

 魔女については知らないと言う男にゲラルトは指を上げて洗脳魔法アクスィーを使って聞き出そうとするが、アイゼンに掴まれ止められた。そして、アイゼンは男を睨みながら尋ねた。

 

アイゼン「本当に知らないのか? 仮にお前の発言が嘘だと分かった場合、それなりの代償を払えるだろうな」

 

 アイゼンの鋭すぎる視線に男は慌て出してすぐに吐いた。

 

「わ、わかった! 本当のことを言う! 村外れに小さい池があって、そこから小道が伸びてる。その先に岩が一つある。それが見えたら右に曲がって森に入れ。古い馬車を探すんだ。そこまで行けば魔女の家が見える」

 

ベルベット「……何故あたしたちに知らないって言ったわけ?」

 

「あんたらが……彼女たちに危害を加えるかもしれなかったんだ。あんたらの噂がこの辺にも届いてる」

 

ゲラルト「『俺たち』の噂?」

 

「そうだ、魔女と異界狩りの噂さ」

 

ゲラルト「魔女狩りはウィッチハンターなのはわかるが、異界狩りとはなんだ?」

 

「同じウィッチハンターがやってることだ。魔女を狩るように、最近この世界に現れたとされる連中を狩っているんだ。魔女のところにいる異界人はいい奴らなのに」

 

マギルゥ「お主の目は節穴か? 儂らは異界人で、このウィッチャーと同行しておるんじゃ。例の魔女とはちょっと話すだけじゃから安心せい」

 

「ああ、なら安心したよ。あの魔女は少し前に来たばかりで、異界人もその後に来たんだが、どれもすごい連中だ。見た目も悪くないぞ。幼いのが多いけどな」

 

ゲラルト「感謝する。それでは」

 

 情報を提供してくれた男性から離れるゲラルトら。これから魔女のところへ向かうつもりだが、その前にゲラルトがアイゼンに尋ねた。

 

ゲラルト「さっきの真似は何だったんだ?」

 

アイゼン「ゲラルト、これだけは言っておく。『自分の舵は自分で取る』、これが俺の流儀だ。混乱した人間を落ち着かせるためなら兎も角、魔法で他人を操る真似を俺の前でするな」

 

ゲラルト「確かにアクスィーは便利で危険だ。しかし、それで無意味な争いを起こさない場合もある」

 

ライフィセット「言っていることはわかるよ、ゲラルト。だけど、他の人を操るのはちょっとやめてほしいと思うよ……」

 

ロクロウ「仮に争いが起こったとしても勝てばいい話さ。まあ、人が第三者に操られるってのは俺も好かないのもあるがな」

 

エレノア「私達の世界では聖主によって多くの人々が意志を封じられ、無機質に動かされることがありました。ゲラルトのやり方は理に適っていますが……」

 

マギルゥ「儂は別にどうでもいいかの。情報を流しまくってたビエンフーの件を思い出すんじゃが」

ビエンフー「皆、特にエレノア様、ごめんなさいでフー!」

 

ベルベット「……一応言っておくけど、あたしたちは一切悪事に手を染めてないわけじゃないわ。だけど、人の意志を摘み取るような真似だけはしないわ」

 

ゲラルト「……それもそうだな。無闇にアクスィーを使えば、後で応報が来るだろう」

 

 会話を終えた一行は魔女の家へ向かうのであった。

 

 to be Continued

 

 

 

 




・Pixivとハーメルンでのアンケート結果により魔女探しルートに入りました。
・このルートでの参戦予定作品は東方プロジェクト、まどマギ、……INheritageです。
・リクエストなどがありましたら、出来る範囲でやってみます。

 


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