ぬらーり ひょーん(G)な異世界旅行記 (しゃしゃしゃ)
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プロローグ
転移前、誕生。神との会話、物語の始まり


 新連載です。初日なので2話投稿ですが、明日からはこの時間に1話ずつ、毎日投稿します。


 

………

 

 だめだな、廃棄。

 混ざりきってない、廃棄。

 誰だ! 不純物入れたの!………私か。廃棄。

 成功!―――崩れた………廃棄ぃ…

 お、おお、おおお! いけ! がんばれ! よっし!―――廃棄。

 

 やっとできたか。………容量計算ミスってるじゃん。廃棄。

 今度こそ。―――想定以下なんですけど………廃棄。

 全部ぶっこめ!! 自我無くなってるじゃん、廃棄。

 ほどほど ほどほど…よし。インストール開始………ダメか、廃棄。

 

 こっちいじるか。だめだポシャった。廃棄。

 うん…動かないな。フリーズだな。ファkk―――廃棄。

 あっはっは―――焼却処理! 増殖が止まらん! 廃棄っ!!

 あっぶね。出力調整ミスったな。出っぱなしだ。廃棄。

 だめだ、記憶リセットされた。ハードとソフトの親和性がアレか。廃棄。

 うっっっっわ………気色わる………吐き気してきた。廃棄。

 んーー…。ここは規制しとくか。そうしないと自発的行動に移らないかもしれん。惜しいけど廃棄。

 ―――だめか。耐用年数短すぎだな。もう一回最初から見直しだ。

 

 

 お猫様よ、どうか奇跡的なコードを描いてくれたまへ………無理かー。廃棄。

 

 へび吉くん、お前が頼りだ。猫畜生に負けるな!―――意外といけたな。廃棄。

 

 

 しんどい。くそ上司め、もうどうして良いか分かんねーよ。投げ出したーい。でもできなーい。   あれ?

 

 

 ―――できてる。テスト開始。………………………成功? え、まじでか。え、あ。……………終わった~~。いやいやいや。この目で確かめて、もう一回テストして、それが出来たら本当に成功だ。よし。

 

 

 

 さて、ぬか喜びもあったが、何とか成功できた。あとは説明だったりだけか。もうすぐ終わる………長かったなー。とりあえず猫とへびは丸焼きにして食おう。

 

 

………

 

 

 ここは…

 

「目覚めたかね、少年」

 

 ! なんだ?!

 

「そう驚くな、私は神だ」

 

「………知りたいこと何でも教えてくれるんですか? 」

 

「何でもは教えないし、wiki調べでもないがな」

 

 この神(仮)、ネタが通じやがる…!

 

「じゃあ質問しません。ここはどこだ」

 あれ?

 

「かっこ仮を外せ、転生者(仮)」

 

「『自分がやられて嫌なことは他人(ひと)にもしない』って教わらなかったのか、神(仮)」

 おかしいな、いやおかしくない。

 

「まだ思考がまとまりきっていないか。まぁいい、それにしても今のお前、ヒロアカのトゥワイスみたいな言動でちょっと笑えるな」

 

 トゥワイス?

「誰だそれ? 俺超好き、あのキャラめんどくさくて嫌い! 」

 テンションがおかしいな。私もっとクールだったはず。いやこんなだった。テンションってなんだ? おかしいな、いや前からそうだった。前? なんだ、前って。

 

「そーかそーか。さて、説明するぞ。()()()()は死んでいる。そこをコピーして複製して再構築して、生み出したのがお前だ」

 

「『は?』 」

 お前たち?

 

「思考がそろったか。残念。面白かったのに。やっぱりショックを与えるのが一番だな」

 

 待て、

「俺―――俺? 私? 僕? ………『自分』は、なんなんだ? 」

 

「言っただろう? キメラみたいなもんさ。死者の魂のデータを煮込んで煮詰めてごった煮にした存在。試しに答えてみ。―――問題.あなたはいつどこで誰とどんな風に死んだ? 」

 

 それは…

「…夏休みに、冬山で、孫と、ダイビングを楽しんでいたら、地震で本棚が崩れてきて、溺れて…? 死んだ………? 」

 いや、いやいや、いやいやいや。違う違う。そうだ、浮気相手と会っていたら夫が突然現れて――― 夫? 違う、犬だ。でかい犬が噛みついてきて、ライターで遊んでいたら火が移って…んん?

 

「そういうことだ」

 

 どういうことだってばよ。

 

「記憶もなんもかんも混ぜこぜ状態なわけだってばさ」

 

 まぁそれはいいや。いいことにしとこ。

 

「それで転生者ってなんね。自分転生するん? テンプレなあれです? 」

 

「せやで。けんどただの転生じゃなか」

 

 何訛りだ。わけわかんね。

「ただの転生じゃなかととは? 」

 

「転生者(仮)には転生後、様々な世界に転生してもらう」

 

 どゆことねん?

「一つの世界である程度過ごしたら、また別の世界に転移するっちゅうこと、わかる? 」

 

 わからん。

 

「カッ」

 善吉くん?

 

「正解。 で、まぁ例をあげようか。

 例として、転生者(仮)くんがドラゴンボールの世界に転生したとします」

 

 はいな。

 

「その時点で、『○○に別の世界に転移します』と神託を下します。例として「サイヤ人襲来編が終わるまで」としますね」

 

 はい。

 

「そうした場合、サイヤ人襲来編が終わるか、そもそも転生者(仮)くんが原作ブレイクしてサイヤ人襲来しなくても、その時期が来れば転移します」

 

 ? サイヤ人来なかったらベジータ来ないじゃん。トランクス産まれないじゃん。人造人間やべぇじゃん。魔神ブウやべぇじゃん。

 

「転移した後のこと気にすんな。確かに後々ドラゴンボール世界の地球滅ぶかもしれんが、転生者(仮)くんが転移した後のことだ」

 

 そりゃー、まぁ、そう、だな?

 うん。関係ないな。―――いや関係なくない。原作ブレイクとか最悪だ。ふざけるな神(仮)

 

 

「仮をつけるなっちゅーに。原作尊重系の人格もあるんだな。そしてそれが影響として残っている。統合人格が擁立しても、ノイズは残っているわけか。興味深い…」

 

 ノイズじゃない。

 

「ほう」

 

「自分の一部だ。この感情も」

 

「倒置法? かっこいいね 」

 

 恥ずい…。

 

 

「まあ、説明を続けるぞよ。とまれ、転生者(仮)くんには世界を巡ってもらうわけだ。九つの世界とは言わず、より多くの世界をね」

 

「ディケイド? 」

 

「せいかーい。1話のわくわく感と最終回の「えー」感は他の追随を許さないと思ってる」

 

 確かに1話の連続カメンライドは燃えた。

 

 

「なー。

 で、だ。当たり前だが特典を用意してる」

 

「やったー、と言うべき? 」

 

「言うべき」

 

 

「やったー(棒読み) ありがとうかみさまー(棒読み)」

 

「湯前音眼? 」

 

「たぶんそれです。とりあえずオーバーオールとガム風船とおっぱいのえろっ子です」

 

 

「脱線しまくりだな。特典は特異体質だ」

 

 体質?

 

「そ。ぬらりひょんの体質」

 

 ぬら孫かよ

 

「違う GANTZ 」

 

「そっちかよっ! 」

 大阪編のラスボスの?

 

「そう」

 

 あの、千変万化、変善自在、とんでもない柔軟性と再生能力で「やべぇ!」って思わせたあれ?

 

「そう」

 

 あの前衛的芸術 感の女体地獄で有名な?

 

「そうや ってゆうとるやろがい。

 説明すんぞー。

特質その1、『変身能力』

 おっきくなったり ちっちゃくなったり。男にも女にもなれる。外見年齢も思うがままに変化可能。服も体の一部を変化させて作れるから全裸でも安心。応用で分裂も可能。『右を見ながら左を見る』ことも可能。肉体の性質を変化させて鋭い刃を生やすこともできる」

 

 NARUTOか。伊藤淳史か。

 

「『突き抜き!』イガグリ攻撃。

 

特質その2、『再生能力』

 致命傷に見える傷を負っても、瞬時に回復し、弱点である『意識外からの攻撃』要するに不意打ちであっても再生を遅らせることしかできず、肉片一つでも残っていたらそこからノーダメージで復活する。不意打ちで攻撃しても瞬殺でないと再生能力は弱点時のノロノロ再生でなく、超速再生になる」

 

 不意打ちには気をつけろ、と。

 

「特質その3、『観察模倣再現能力』

 一度見た技術を模倣し、フィードバック、再現・最適化して見せる能力。流石に真似できないものは真似できませんが。

 まぁ、この3つは魔神ブウの能力の劣化版ですね。変身も再生も模倣も。大体魔神ブウをイメージすれば合っています」

 

 ぶっちゃけたな…おい。

 

「特質その4ー! 『不可視の衝撃波』

 念動力てきなもの。一発でガンツスーツをぶっ壊し、四肢を捥ぎ取るくらいのパワー。範囲攻撃のように放つこともできる」

 

 ………。

 

「特質その5、『分解怪光線』

 名前の通り、目からビーム。照らされたものを塵にまで分解する怪光線を目から発射することができる。Fateの愛憎のアルターエゴパッションリップのイデアスキル『トラッシュ&クラッシュ』同様に? 効果範囲は視界に収まった範囲全体で、遠距離であれば威力は減衰しない一方で効果範囲が広くなる。ただ、当たり前だが見えないところには光線は届かない。壁一枚隔てていれば“壁が分解されるまでの一瞬”は相手に効果を及ぼすことはない」

 

 ふむ、マイナスポイントは弱点の不意打ちを受けやすくなるかもしれない、ってところか。なによりこんな一撃必殺技があると知られたら、だれも目を合わせようとしなくなるし、視界に入ろうともしなくなるな。いろんな意味で使うことが躊躇われる危険な技だな。

 

 

「特質その6、『ビーム』

 眼からビームが打てる。怪光線との違いは、こっちのビームは当たったら爆発したりする一般的なビームだってこと。口や背中に眼球を配置すれば全身からビーム撃つことも可能。

 シンゴジの『内閣総辞職ビーム』をまんまイメージしてもらえれば、それで合ってる。あっちと違って長時間吐いてもスタミナが切れる? ことはないけども」

 

 ………あれかぁ。うーん? ん。仮に変身能力でゴジラになってビーム撃てば、映画の再現できるのかな。

 

「転生者(仮)くん残虐なことをサラッと思いつくね。でも再現っていうのなら、ビーム吐き出す前の火炎放射、あれ出来ないとね」

 

「あ、あー。できないんですかね」

 

「できないねー。ファンタジー的世界で火を噴くドラゴンに遭って、身体構造をコピればいけるんじゃない? 」

 

 なるほど。

「いつかやってみますわ」

 

「がんばれ。応援はしていないけど。

 

 じゃあまとめだ。

 特質まとめ、

『変身』 『再生』 『模倣』 『衝撃』 『分解』 『ビーム』 と、デフォルトの超パワー。

 アンダースタン? 」

 

 

「いえぁー」

 かなり()()()()()体質、もとい特典だ。『自分』は死にたくない。生きたい。生きる実感が欲しい。世界を楽しみたいと、自分の中の残滓が訴えている。『吾はもっと遊びたい』と。

 

「水着バラキー。

 では、転生させますよー。

 はい どーん どーん どーん」

 

 なんかキラキラしてきた。転生ってか成仏っぽいんだけど?!

 

「何か言い残すことはありますか? 」

 

 やっぱり成仏じゃねぇか!

―――っていやいや。うん。

 

「………………好きに、やらせてもらいますよ? 」

 

 

 

⁂⁂⁂ ええ、どうぞ。転生者(仮)くんのやりたいように。

そのかわり、自分の行いのツケは自分で払えよ? ああ。別に天罰とか死んだあと地獄行きとかそういう意味じゃなくて、

 何人も罪のない人々を殺傷した通り魔が、捕まった後「いやだ死にたくない! 」とか、「俺が何をしたっていうんだ! 」とか反省ゼロだったらむかつくだろ? そういうことだよ。

 悪行を働いたら、裁かれる覚悟を持て。断罪を受け入れる覚悟を持て。ということだ。⁂⁂⁂

 

 

「おう。わかった神様」

 

「やっと仮が外れたな。転生者くん」

 

「オマエモナー」

 

「あばよ」

 

「ああ」

 

(脳内イメージ音声)『モコナモドキもドッキドキ! はぁーっぷぅーー! 』

 

 きらきらーひゅーん

 

 

 



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言うならば第0話。性能実験 オタメシセカイ

 次回から、第一章スタートです。



 どうも、転生者こと ぬらりひょん(仮称)です。

 転生から1月が経過しました。(そら)の向こうの皆々様はどうお過ごしでしょうか。こちらは早くも退屈しています。なぜかと言えば―――

 

 

「なーんにもないんだもんなー、『俺』? 」

 

「だよなー。転生して異世界っていうんだから、もっとどきどきわくわく面白い日常が待ってると思ったのに何も起きないんだもんな、『自分』。神託とやらも何故か聞こえなかったし、いつまで退屈な日常に飽き飽きしなきゃいけないのか………あーあ」

 

 と自分の問いに答えたのは分裂したぬらりひょん。一人称で区別して『俺』と呼んでいる。ひとりじゃ寂しいし、かといって転生関連の話なんて他人と出来るはずもなく。

 

「なぁ、『俺』」

 

「なんだ、『自分』」

 

「自分ら、自分自身しか話し相手がいないなんて、寂しすぎじゃね? 」

 

「言うなよ…」

 

 こんなふうにため息をつくしかすることがない日々を現在自分は送っている。こうなり果てる前、転生直近の話でもするとしようか。

 

 

「あれは、転生したすぐあと、とりあえず目についた家に押し入って住処を手に入れた後のことだった…」

 

「回想? 回想シーンはいるんかい? 」

 

「『俺』うるさい。

 ぬらぬらぬらぬら ひょんひょんひょーん」

 

 

*********************

 鏡、鏡、カッガ~ミン♪

 

「………っと、あったあったありました、姿見。やっぱでかい家にはあるもんだねー」

 さて自分の今の姿は………

 

「なんつうか、地味だな。混ぜられた誰かの容姿なんだろうけど、可変式なわけだし、ここはイケメンになってみるか? 」

 

「………」

 

「いやいや、超絶エロいぼいんぼいんナイスバデイの美女になるのもありだな」

 

「………」

 

「いや、ロリだな」

 うん。Twitterで某先生も言ってた。ロリになるのは全人類の夢って。

 

「………」

 

「―――ってなわけで『へんし~ん』! ロリ九寺真宵にな~れ♪ 」

 

「………」

 

 お、おお。

「いんじゃな~い? 八九寺真宵そのものじゃない? ツインテールに年の割にはそれなりに発育のいい体! 」

 服とリュックサックも変身能力で作って………。

 

「おおおー…」

 すげぇ。なんつうか、あれだ。2.5次元というとコスプレっぽいけど、2次元のキャラを不気味の谷だのなんだのナシで実体化したような…やべぇ、これはやべぇ。

 

「………」

 

「あー、あー、あー」

 声も変えて…多分同じになったはず。聞こえてる声と実際の声は違うっていうし、これでいいんだよな?

 こほん。

 

「『話しかけないでください。あなたのことが嫌いです』………っ! 」

 

 ガッツポーズ。鏡の中の八九寺真宵が悶えております。

 

「………『全地球100億人のロリかっけー皆さんコンバトラー! どんなピンチも「まぁ、よい」の一言ですかさず解決。規制法律どんとこい。そうです、私が八九寺真宵っでーす! 』~~~! 」

 

 ゴロゴロしております。八九寺真宵が背中のリュックをものともせず転がっております。

 

 やべぇな、これ。楽しい。レイヤーさんとかの気持ちが分かったような気がする。なりきって再現するのめちゃくちゃ楽しい。

 

―――ぐちゅ

 

「っと。ぶつかっちゃった。あーあ、血で服が汚れちゃったよ」

 

「………」

 物言わぬ死体となったこの家の住人(多分娘)のところまで転がっていってしまった。

 うっかりうっかり。

 

 

 

 

―――衣・食・住は大事。

 現代的でも異世界は異世界。転生者である自分には戸籍も住所もない。衣・食は何とかなるとしても、直近で“住”を確保したくて、自分は転生場所から一番近い家に侵入したわけ。初めての変身は『ハエ』だった。ハエになって家の中にもぐりこんだってわけ。

 

 本当はねー。殺すつもりはなかったんだけどねー。ハエ叩きで襲い掛かってくるもんだから、ついビーム出しちゃって。

 で、奥さんが頭ボーンで死亡。旦那さんも突然のビームに唖然呆然しているわけだから、(能力試す的にちょうどいいなー)っておもって、念動力でグシャっと。

 

 玄関の靴から3人家族ってのは見当ついてたから、そのあと2階の娘さんの部屋に行ってみたわけ。

 ………下心がないわけじゃなかったけどね。ほら、ホラー映画では序盤のセクシーシーンでそういうのあるじゃん。金持ちの家の一人娘っていったら、期待するじゃん?

 そんで期待に胸とどこかを膨らませて入ってみたわけですが………。

 

 死人を貶めるわけじゃないけど…器量よしとは言えんでねぇ………。わかりやすく言うと「てめぇじゃ勃たないんだよ! 」という感じだった。実際無理だった。

 なので 即ころころした。 やっちまったゼ☆

 咄嗟にぶっ殺そうとすると自分はビームを出すことが分かった。それはまぁ、有意義なテストができた。

 

 

 

 今の自分と血だまりに沈む娘さんを見比べても、月とスッポンで自分(はっちー)の方が可愛いと思う。100人に「どっちがいい? 」って聞いたら100人全員が自分を選ぶと思う。ロリコンじゃなくても。

 

「まぁ、それはそれで置いておいて。情報収集といこうかな。あ、いや……情報収集としゃれこみましょう! 」

 こういうのはなりきるのが気持ちいいと思うし、全力でそれっぽくするぞー!

 

 

 

「はっけーん! 新聞を発見しました。さすが私。この程度のこと、朝飯前…いえ、時間から言って『夜食前』と言ったところでしょうか! 」

 

 さてさてー………日にちごとに整理されてますね。奥の方が日付が新しいようですし、今日の新聞はこれでしょうかね。

 えっと………今日は?平成29年6月6日(火)…?

「今時間は?! 」

―――1時32分!

 

 チャンネル番号211 BS11 !

 

『―――心の隙間をお埋め致します。さて、今日のお客様は…』

 セーフ、です。『笑ゥせぇるすまんNEW』懐かしいなぁ。

………ここ這いニャルとか一存みたいに現実世界の作品がある世界なんでしょうか………まぁいいですけれど。

 

*********************

 

 

 ………今の自分、サイコパスの殺人鬼みたいですね。

 このリビングにも死体が二つ転がってるわけですし。

*********************

 

………やっぱり藤子不二雄A先生はすごいですねー。心が…自分の心がギュッてなりましたよ。とりあえず学んだとこは結婚は人生の墓場ってことですね。

 まぁ、小学生の自分にはまだまだ関係ないですけどねっ! そういう演じること抜きにしても、世界を旅する自分には家庭を持つことは不可能でしょうね。

 

 

 さてと! 神託とやらがいつ届くのかわかりませんが、とりあえず寝ましょうかね。深夜ですし。子どもは寝る時間です。

 

 シャワーを浴びて―、替えの歯ブラシで歯を磨き~、パジャマに着替えて触覚ほどいて、キングベッドで ぐっない!はばないすでい! です!

 

 

 

 おはようございます! 八九寺真宵、覚醒です!

 気を失っても変身は解けないというのが判明しました。寝る と 気絶では違うかもしれませんが、少なくとも朝起きたら「やっべ! 」みたいな目には合わなそうなのがわかって一安心です。

 

 冷蔵庫を漁って朝食を用意します。自分は米の気分なのですが、パンしかないのでトーストにします。牛乳とウインナー、ヨーグルト。立派な朝食と言えるでしょう。

 テーブルが血でがっさがさのカピカピになっていますが、気にせず頂きます。

 

 

 

 ごちそうさまでした。

 んー。さて今日はどうしましょうか。この世界が何の世界なのかは不明ですが、派手に動かなければ問題ないでしょう。何事も用心がするに越したことはありません。

 オバロの鈴木さんばりに警戒して行動しましょう。

 

 とりあえず能力の確認といきましょう。

 

 

 

実験1・・・怪光線使用実験。

 

 さすがにこれ以上死体と一緒の家にいたくないので。6月ともなると、腐りかねませんし。

 

 ステップ1『薄目で発動』対象を絞って怪光線を照射できるかの実験です。

 目標、奥さんの首なし死体。薄目ヨーシ!

 

 照射!

 

 

―――実験結果。瞼が崩れ落ちました。全力全()しか無理なようです。くっつくほどの超近距離での照射なら細かく分解も可能と実験結果が出ました。

 他のものにも怪光線を浴びせてみました。包丁や鍋、庭の樹、色々試してみましたが簡単に分解されました。

 ついでに分かったこととしまして、どうやら自分、痛覚がない…もとい肉体の損傷による痛みを感じないようだ、ということも分かりました。実験の後試しに腕を念動力で弾いてみましたが全く痛みを感じませんでした。血はドバドバ出ていたのですが、すぐ治りましたし。

 自分 痛いのは苦手()()()()ので助かりました。

 

「神様 ありがとうございます」

 

 ええんやで、という幻聴が聞こえました。あのノリのいい神様ならこんな感じに返してくれるかな、と笑ってみます。

 

 

 

続いてー。変身能力の検証実験スタート。

 

 自分、変身能力と言って思い浮かぶのは「怪物強盗Xi」こと怪盗X(サイ)なわけだけど、その進化系である「XI(イレブン)」みたいにできるかの実験をします。

 脳波から記憶を読み取る、そして記憶の中の人物に変身する。

 ちょうど、この家の旦那さんの送迎用かな? 運転手が来たので彼を使って実験しようと思います。

 開始ー。

 

 

 

―――実験結果、「XI(イレブン)」のようにすることは不可能だった。じっと観察してみたが、『脳波を読み取る』とか、原理不明すぎて実行のしようがなかった。

 ので、直接読み取ってみようと考え、実験してみた。

 結果、成功。新しい脳みそを自分の中に作り、それと対象となる人間の脳みそを完全に一致するまで観察模倣再現する。そしてできた「新脳」を同機させる。そしたら記憶人格丸ごとコピー認識できるようになりました。

 

 やった後から、上書きされるかもしれなかった可能性を自覚して震えましたが、結果オーライです。

 運転手さんは生きたままコピーしましたが、その後、試しに下半身が爆散した旦那さんの死体でもコピーできるかやってみました。

 できました。 二回目ということもあってか、5分とかからずコピーできました。

 

 とりあえず勤め先と娘の学校にはしばらく休む旨を電話で伝えました。そうしないとバレちゃうかもしれませんからね。

 

 

 

 

実験3・・・増殖実験ー。

 腕をちぎって自分になるように念じてみます。

 

 結果、なりました。『自分』の分身だからか、気が合いました。変な自我に目覚めて争う羽目になる…というのもなさそうです。

 試しに分身体をあっちこっちに行かせて、その後統合したら、その分身体の記憶や体験がフィードバックされました。

 どうやら分身ぬらりひょんは「影分身の術」でもあったみたいです。

 

 

 分身を10体ほど作り情報収集に行かせてみます。行ってくれました。さすが『自分』、自分のためなら努力を惜しまない心根が分身たちにも備わっているようです。

 

 

 

 

 

*********************

 それと…………分身を生めたので、その………分身に超絶エロボディの女に変身してもらって(記憶はどうあれ転生して産まれなおしたため)童貞卒業をしようとしたのですが………

 

 できませんでした。

 勃ちませんでした。「勃ち上がれチンザム」な感じに、前立腺刺激してみたりしましたが、分身相手に欲情することができませんでした。

 なんていうか こう………綺麗とか、可愛いとか、このスタイル美しいとかは思うのですが、全然ムラムラしてこないんですよね。

 思えば昨日、八九寺真宵に変身した時も、全裸に全くエロい気持ちを抱きませんでしたし、トイレでもどきどきしたり「どうしたらいいんだ? 」とTSものでよくある戸惑いもありませんでした。

 

 EDにされたのかと思って、エロ妄想したり、旦那さんの記憶たどって見つけたエロ漫画読んだら普通に勃ちました。やっぱり自分では欲情しないように制限を掛けられているようです。

 くっそー、神め! 余計な真似を!

 

 悔しくて「せめて」と思って分身とおっぱい揉み合いっこしたら超絶悲しい気持ちになったじゃねぇか!

 何だあの悲壮感。賢者モードの何倍も悲しい気持ちだった。罪悪感にも似た申し訳なさが心を満たしてしばらく何もできなかったよ!

 

 エロいはずなんだけどなー! 卒業はまだ先のようです。

 

*********************

 

 

 

 気落ちしていたら分身が帰ってきました。

 

「おい、『自分』。どしたとね? 」

 

「ダルイワー…」

 

「…とりあえず統合するからな、失礼しまーす」

 

 

 情報統合中ー。

「―――なんだこれ」

 

 これは、まじか。まじなのか。えー。

 

「どしたー………『自分』」

 

「ああ、『俺』。いや超・賢者タイム(仮称)も覚めるほどの衝撃が、分身体の持ち帰った情報にあってね」

 

「………なに」

 

「この世界…少なくともこの近辺には美人がいない」

 

「は? 」

 

「言葉通りだよ、あ~~~…昨日の自分の期待は裏切られはしたものの、間違ってはなかったみたいだ」

 

「どういう―――おいおい、まさか冗談だろ…? 」

 

「冗談じゃないさ。あの娘さんは、まだマシな部類、というかこの世界基準で『美少女』だったらしい」

 

「嘘だろ…あれがか? 」

 

「信じられないがな。この世界は美形デフレを引き起こしているらしい。試しに分身の一人が美女に変身したら超注目の的になって、襲われそうになったらしい。だからよくある“美醜逆転世界”じゃない」

 

「本当に、美人のいない世界か」

 

「男女問わずな。昨日、新聞は日付とテレビ欄しか見てなかったし、テレビもアニメしか見てなかったから気づかなかったが、そうらしい」

 

「………どうする」

 

「なにがだ『俺』」

 

「お前は『俺』で『俺』はお前なんだからわかるだろ。分身する前は『自分』は金持ってキャバクラにでも行こうとしてただろ。よしんば…って考えてたろ」

 

「なしに決まってる。『私』 が知る前に入って後悔した。話していても容姿が癇に障って文字通り話にならなかったと」

 

「そか。じゃあ女になって男をたぶらかすのは? やろうと思ってただろ」

 

「さっき美女に変身したって言っただろ。その『ぼく』が電車内で痴漢されてただただ気持ち悪かったらしい。やるにしても男側に最低グレードの敬意もないんじゃ楽しくないっての。自分の中の女性の記憶残滓がそう言ってる」

 

「そっか…じゃあどうする…? 」

 

「このまま次の世界に転移するまで待つ。外を歩いて不愉快になる必要もあるまいよ」

 

「せやな。正直昨日寝たのも、今日食べたのも、習慣だからって向きが大きかったし」

 

「そういうこと。この体、たぶん食事も睡眠も本来不要なんだと思う。必要ないけど摂れるってだけで」

 

「時間の経過を待つだけか………『自分』いつまでだと思う? 」

 

「『俺』がわからないなら『自分』にもわかんねぇよ」

 

 

 

 

 

 

「「退屈だ………」」

 

 

 

「ひょーんひょんひょんひょん ぬらりぬらりぬらり

 回想パート終りょー。

 そんなわけで自分たちは次の転移をここ1か月の間、ずっと待っているのです」

 

「あ、終わった? まぁ退屈しのぎに、巨大怪獣を出してみたりしたけどねー」

 

「あれはなかなか面白かったな。分身に山の中に移動してもらって巨大変身! 巨大化の練習と、巨大化極小化の反復特訓でもあったけど、おかげでだいぶタイムが縮まった」

 

「なー。怪獣から微生物への瞬間変身、フィードバックっつーか、ぐっ! となる感覚がなかなか大変だったけど」

 

「できることが増えるのは楽しいけど、結局自分で完結してる事だからなぁ…早く外的な刺激が欲しい。美少女に遭いたい。イケメンでもいい。きれいなものが見たい」

 

「絶景すごかったんじゃないの? 」

 

「それあまぁ、そうなんだけど…」

 

「分かる、分かるよ。」

 

 せーの

 

「「性欲を持て余す」」

 

「なー」

 

「なー」

 

 

「「…」」

 

「「はぁ…」」

 

 

 

「おーい『自分』ー」

 なんだ、だれだ。あぁ、分身か。

 

「なにー」

 

「なんか手紙来てたぞー」

 

 

「………見せて」

 

 開けてみると、そこには

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの"箱庭"に来られたし』

―――と書かれていた。

 

 

 

 読み終えた後、手紙は光を放ち始めた

 

「っ来い!! 」

 咄嗟に叫び“ぬらりひょん(仮称)”が光に包まれ世界を渡る、その直前で分身体の統合に成功する。

 

 なるほど、転移する前の、この世界も含めてここは『問題児たちが(ry 』の世界だったのか

 

 

 そう自分は思った。

 思った後には自分はスカイダイビングしていた。結構怖い。でも楽しい。

 

 

 ついに始まる。自分の旅が。いうべきかな?

 

 

『俺たちの冒険はこれからだ! 』

 

 

 

 




現在の転生者(名前はまだない)の資源
・自分(ぬらりひょん ver. GANTZ )
―――以上。

感想くれると作者はとっても喜びます。返信します。


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第一章「問題児たちが異世界から来るそうですよ?」
第一話「トランプとタオルと“ごくごくごく”」


 作者はこのシリーズ、レティシアのゲームのところまでと、巻飛んで『撃て、星の光より速く!』のアジ=ダカーハ打倒しか読んでいません。
 ラスト・エンブリオ? 知らない子ですね。
 ラノベは売ってしまったのでアニメを元に書いています。




 ハァイ、調子いい?

 ぬらりひょん(仮称)でーす。現在スカイダイビングの真っ最中でーす。下には少年一人に少女一人、あと猫一匹が見えまーす。変身しておきたいし、さっと、体からカーテンを作って、自分の姿を彼らの目から隠してみまーす。で、今のうちに身体や服装を変更しておこうと思います。

 

 死ぬことはないとわかっていても怖いなぁ…。

 

 あ、それと念願の美少女見れて、心が満たされていくのを感じます。今までお預けされていたのもあって、2年後サンジ(最初期)みたいな感じな自分です。やっべまじ興奮する。強風やら何やらでよく見えないけどそれでも。

 

 あと十六夜さんイケメンだよね。………ありだな、と思う。何がって、ナニだよ。

 

 勘違いしないでよねっ! BL的な意味じゃなくて、NL的な感じなんだからねっ! 要は自分の中の女性的な部分がOKサインを出しているってわけよ。

 

 ………つってもヤるとしたらDT卒業してからにしたい。なぜというと、童貞卒業より先に処女卒業すると、精神性別が女性で固定されえそうな気がするんだよなぁ、なんとなく。

 自分は『男でもあり女でもある』。『男だと思う者には男で、女だと思う者には女』ってキャラで行きたいから固定は困るのよなー。

 

 

 てなわけで、そろそろ変身しないと。

 ………決めた。元ネタはなしで、整った容姿と、眼鏡、白衣を羽織って、さながら研究者みたいな格好に。

 水面が~が見えてきました~。

 

 はい、ざっぷ~ん!

 

 

 

………

 

………

 

「し、信じられないわ! いきなり空に放り出すなんて! 下手をすれば地面に激突して即死よ! 」

 

「ああ、まったくだ。場合によっちゃゲームオーバーコースだぜコレ」

 

 うっはー。テンプレな会話~。SSで何度見たことか。飛鳥さんと十六夜さんの会話ダー!

 

 自分はと言えば、一応の保険として湖の中に分身体を保険代わりに魚姿で放流し、3人に遅れて水中から上がったところです。

 うっは! 飛鳥さん、シャツが濡れ透けでえろっ! おっとステイステイ。息子よ、「待て、だ! 」

 待てないというのででっかくなった息子を変身能力でちっこいのにする。赤ちゃん並みの大きさ、これならフルでもポークビッツだ。安心。

 

「で、だれだよお前ら」

 

「それはこっちのセリフよ? 目つきの悪い学生くん」

 

「…一応確認しとくが、もしかしてお前らにもあの変な手紙が? 」

 

「そうだけど、その『お前』って呼び方を訂正して。

 私は久遠飛鳥よ。以後気を付けて」

「それで、そこの猫を抱きかかえているあなたは? 」

 

「春日部耀。以下同文」

 

 ………転生したんだなぁって実感が。あ、準備しておこう。

 

「そう。よろしく春日部さん。で、野蛮で凶暴そうな貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です」

「粗野で 凶悪で 快楽主義と三 拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれよ お嬢様?」

 

「………取扱説明書をくれたら考えてあげるわ」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ」

 

 そうやって、見ていると、三人の視線がこっちに、

「それであなたは? 」

 

 ふっふっふ、遂にきましたか。まぁふつうでいいか

 

「初めまして、自分は奴良(ぬら)九朗(くろう)*1。奴袴の奴に、野良犬の良、漢数字の九に朗読の朗で、奴良九朗。まずは奴良・奴良くん・奴良っちとか気安く接してくれたら嬉しい。ちなみに年は19歳11か月でぎりぎり10代。

 よろしくー」

 

「よろしく、奴良さん」

 

 

「で、呼び出されたいいけどなんで誰もいねぇんだよ」

 

「そうね」

 

 そろそろ、黒ウサギ来るはずだけど、ちょっと待ってもらおう

 

「じゃじゃーん! 手品やりまーす! 」

 

「は? 」

 

 三人がこっちむいて、明確に草むらが動いたけど、とどまってくれたらしい。

 さぁ、ショータイムだ!  つってもやることは少ないけど。

 

「はい、ここにトランプがあります」

 手にトランプを持って見せる。今さっき作った分身体トランプだ。

 

「何の変哲もないこのトランプが~? 」

 トランプを手の平に隠し、その隠したトランプをもう片方の手でつまむ。

 

 うごうごうご

「はい! トランプがタオルになりました~! 」

 3人が驚いたような表情になる。よし!

 

「はい、タオルどうぞ。乾いてるから、水気ふき取るのに使うといいよ」

 

「おう」

「ありがとう」

「ありがとう、すごいわね。いったいどんな種があるのかしら? 」

 

「種も仕掛けもございません! なんてね。まぁちょっとした、便利な力を使ったのさ」

 なんで、タオルを貸したのかって? ふっふっふ。タオルは『自分』なんだぜ? パンツに変身! とかじゃなくても、タオルに変身すれば体を舐め回すように! 全身(タオル)で感じられるじゃないか! もっとも自分はその感触を同期しなけりゃ味わえないわけだが。

―――つーわけで。

 

「言い忘れてたけど、そのタオル1分で消えるから」

 

「ハハ! 短いなそりゃ! 」

 十六夜さんはわしゃわしゃって感じに拭いて、飛鳥さんは急ぎつつ品のある感じに…おおっ!胸いったぞ! 服越しとはいえ、しゃっ! 耀さんは…三毛猫ぉ!

 

 で、一分後、タオルはすっと消えた。まぁ、ミジンコレベルに瞬間変身してこっちに向かってきているんだがね。

 

 

「じゃあ、奴良の手品も見たことだし、さっきから出てくるタイミングを見計らってたそいつに話を聞いてみるか」

 

 びくぅ! と草むらが揺れた。

 

 

「あら、あなたも気づいてたの? 」

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ。そっちの二人も気づいてたんだろ? 」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

「いやー、全然気づかなかったなー(棒読み)」

 

「へえ、まあいいか。ほらわかってんだろ、おとなしく出て来いよ」

 疑ってそうだけど、自分ガチで気づかなかったかんね。知ってはいたけど。

 

 あ、出てきた

「や、やだなあ~…そんな怖い顔で見られると―――」

 

「―――よーし出てこないんなら仕方がねぇ」

 

「へ? 」

 

 あ、十六夜さん飛び出した。

 あ、来た来た。早いな。じゃ、同期開始。

 

………お、おお~! うわなんだろうこれ。ぞくぞくする~。そういえば水滴吸ったりしたわけだし、「ごくごくごくごく」ってあれなのでは!? 何とも言えない達成感・背徳感。

 あ~、鼻血でそう。むしろ出したい。何がとは言わないけど。

 

 

「にゃぁ―――! 」

 「はぁはぁ」と悶えている間に、進行していたらしい。

 黒ウサギがうさ耳を掴まれて叫んでいる。

 ちっ、出遅れたか。

 

 まぁ、いいや。それにしても黒ウサギ…でかいな。ナイスゥ!

 

「――あ、あり得ないのですよ。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに間違いないのです……」

 四つん這いになって息を荒くするうさ耳美人。控えめに言ってエロスの塊ですね。

 

「いいからさっさと話せ」

「はぃ…」

 かわゆす。

 

*********************

 黒ウサギ、気を取り直したのか咳払いをして手を広げ高らかに宣言した。

 

「ようこそ、皆さま "箱庭の世界"へ! 」

 でかいな。

 

「箱庭? 」

 

「YES!  我々は貴方がたにギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと思いまして、この世界にご招待いたしました!」

 くどいようだがでかい。ぴょんぴょん飛び跳ねるもんだから 揺れる。眼福だ…これだけでもう箱庭に来てよかったと思える…。

 

「『ギフトゲーム』? 」

 

「既にお気づきかもしれませんが、貴方がたは皆、普通の人間ではありません。皆様の持つその特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』とはその恩恵を駆使して、あるいは賭けて競いあうゲームのこと。この箱庭の世界はその為のステージとして造られたものなのですよ! 」

 

 飛鳥さんが手を挙げて尋ねた。

「自分の力を、賭けなければいけないの? 」

 

「そうとは限りません。ゲームのチップは様々です。ギフト、金品、土地、利権、名誉、人間。賭けるチップの価値が高ければ高いほど、得られる賞品の価値も高くなるというものです。ですが当然、賞品を手に入れるためには"ホスト"の提示した条件をクリアし、ゲームに勝利しなければなりません」

 一挙手一投足がかわええ。これが愛される動きか、なるほど勉強になるなぁ。ちゃんと『観察』しておこう。

 

「はい」

 

「どうぞ」

 

「“ホスト”ってなに? 」

 

「『ギフトゲーム』を主催し、管理する人のことですね」

 

「誰でもなれるの? 」

 

「商品を用意することさえできれば。

 それこそ 修羅神仏から、商店街のご主人まで。ゲームのレベルも、凶悪かつ難解かつ命がけなものから福引き的なものまで、多種多様に揃っているのでございますよ! 」

 

 と耀さんの質問に答えた黒ウサギはこちらを見回し

「ですが、話を聞いただけではわからないことも多いでしょう、なのでここで簡単なゲームをしませんか? 」

 カードを取り出してそう言った。

 

「この世界にはコミュニティというものが存在します。

 コミュニティ・共同体・社会集団。この世界の住人は必ずどこかのコミュニティに所属しなければなりません。いえ、所属しなければ生きていくことさえ困難と言っても過言ではないのです! 」

 黒ウサギは力説してるけど、そんなことよりトランプのシャーってするやつすげぇ。『見た』からもう自分もできると思うけど、あれカッコイイな。

 

 パチン!と指を鳴らすと空からテーブルが降ってきた。結構重そう。どういう恩恵なんだよこれ。“審判なんとか”のソレなのか?

 

「みなさんを黒ウサギの所属するコミュニティに入れてさしあげても構わないのですが、ギフトゲームに勝てないような人材では困るのです。ええ、まったく本当に困るのです、むしろお荷物・邪魔者・足手まといなのです! 」

 困り顔も煽り顔もかわゆい。真似よう。

 

「俺たちを試そうってのか」

 

「ちょっと待ちなさいよ! 私たちは一言も―――」

 

「―――自信がないのであれば、断ってくださっても結構ですよ? 」

 殴りたいその笑顔。

 

(なんて言ってしまいましたが、ここで激怒されたり帰られたりしてしまっては黒ウサギ大 ピ ン チです…)

 

「随分と楽しい挑発してくれるじゃねえか」

 

「お、お気に召したようで何よりです 」

 

「ゲームのルールは? 」

 

「このトランプを使います。

 この52枚のカードの中から絵札を選んでください。

 ただし! チャンスは一回、一人につき一枚まで! 」

 

「方法はどんなことをしてもいいの? 」

 

「ルールに抵触しなければ。ちなみに黒ウサギは“審判権限(ジャッジマスター)”という特権を持っていますので、ルール違反は無理ですよ? 兎の目と耳は箱庭の中枢と繋がっているのです」

 

「チップは? お前の言う『ギフト』を賭けるのか? 」

 

「今回皆さんは箱庭に来たばかりですので、チップは免除します。強いて言うなら、あなた方の『プライド』を賭けるといったところでしょうか? 」

 

「へぇ…」

「私たちが勝った場合は? 」

 

 きた。

「そうですね…その場合は神仏の眷属であるこの黒ウサギが。なんでも一つだけ、あなた方のいうことを聞きましょう! 」

 

 

「ほう、なんでもか…」

「なんでも…ごくり」

 のっかってみる。ごくりとか口で言ってる時点で冗談だって言ってるようなものだけど。

 

「…? で、でも性的なことは駄目ですよ? 」

 

 しらー…ッとした目で見られてる。自分も。

 

「冗談だよ」

「自分もね。ごくりって口で言ってたじゃん」

 

「それで、どうする」

 

「どうもこうも」

 

「うん、やろっか」

 

「初めからそのつもりだよ」

 

 

「ゲーム成立です! 」

 そう言うと、黒ウサギの手元に羊皮紙のようなものが現れた。これがそうか。

 

「それは? 」

 

「“契約書類(ギアスロール)”です。いわばゲームに関する契約の書。ゲームのルールやクリア条件などが書かれています」

 

 見せて見せて。

 

「………OK、わかった。だがその前にカードを調べさせてもらおうか」

 

「構いませんよ? 」

 

 黒ウサギから許可が出たので、自分らは各々トランプを手に取って確認する。

 十六夜さんはそれぞれを念入りに確認し、飛鳥さんは絵札のトランプをなぞり、耀さんは連れていた三毛猫に指をなめさせ、その指でトランプを擦っていた。

 

 自分はというとクラブのキングを手に取ってちょっと仕込みをした。

 

 

「では、ゲームスタートです! 」

 あざとい。この兎あざとい。

 

「誰から行く? 」

 

「じゃ、俺から行かせてもらうぜ」

 

 …

 ………

 ……………

 

「さっきは素敵な挑発をありがとうよ」

 

「え? あ、いえいえ…」

 

「これは、お礼だ!」

 ドン!とテーブルをたたくと、トランプが舞い上がりいくらかのトランプが裏返った。

 

「な、な」

 

「じゃあ私これ」

 

「私これ」

 飛鳥さんはハートのキング、耀さんはスペードのクイーンを手に取った。自分はというと仕掛けがあるので手を伸ばしはしなかった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! い、今のは」

 

「何もルールには抵触してないぜ。

『テーブルの上のカードから絵札を選べ』『一人一回、一枚まで』違うか? 」

 

「そ、それはそうですが………」

 黒ウサギの素敵耳(自称)がピコピコと動く。

 

「………箱庭の中枢から、有効であるという判定が下されました…飛鳥さんと耀さんはクリアです」

 

「やった」

 美少女同士のハイタッチ、尊い。

 

「で、ですが! 十六夜さんと奴良さんがまだです! 」

 

「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ」

 言って、十六夜さんは手の内のカードを裏返す。スペードのキング。

 かっけーなー。こういう魅せ方出来るのはイケメンだよなー。

 と思いながら、カードの順番を覚えたという種明かしを聞く。

 

「次は奴良の番だぜ」

 

「おうともさ」

 パチン! とSPEC見てから練習しまくった指パッチンをして言う。

「『生まれろ、生命よ…』 」

 G・E、リスペクトです。

 

「何? 」

 散らばったカードの一枚の下から何かが出てくる。

それはタランチュラだった。

 

「な、なぜ?! 」

 なぜというと、さっきの手品と同じでトランプの表面に目で見えないほど小さな『自分』セットしておいて待機させておいた。

 ちなみにタランチュラな理由は『♣のカテゴリーK』だから。

 

「どうもー。はい、これで自分もクリアかね? 」

 

「はい…奴良さんもクリアです…」

 

「それじゃあ」

 ちらりと十六夜さんに目配せをする。

「ああ。おい、黒ウサギ」

 

「あ、はい! 」

 

「早速だが言うことを聞いてもらうぜ」

「自分のもね」

 

「だ、だめですよ! 性的なことは!」

 

「それも魅力的じゃあるんだが、俺の訊きたいことはただ一つ」

 

「な、なんですか? 」

 

「この世界は………面白いか?」

 十六夜さんの質問に黒ウサギは満面の笑みで答えた。

 

「―――Yes。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保障いたします♪」

 

「では自分からはお願いが」

 

「はい、なんですか? 」

 

「コミュニティってのに着いたら、卵焼き作ってください」

 

「え゛、卵焼きでございますか? 」

 

「ええ、黒ウサギの卵焼きが食べたいんです」

 

「えっと、他の料理じゃダメですか? 」

 

「卵焼きです。大丈夫。そんな不安そうにしなくてもその声ならきっと世界一うまい卵焼き作れますって」

 

「声? 一体何の話を…? 」

 

「じゃあよろしくお願いしますねー」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
イントネーションはポケモンのヌマクローで。ぬらくろー と読んでください





今回の世界では原作ブレイクはしないつもりです。
 理由は原作ブレイク級のことをするには、世界の戦闘力が強すぎるからです。
 広域攻撃や即死技、呪いだったり毒だったり、再生能力ではどうしようもない相手が多すぎる。
 +ヌラクローは生まれたばっかりで霊格がかなり低く、概念的・霊的干渉への防御力がほとんど0で、今の段階では飛鳥さんに『自殺しろ』と言われたら自殺してしまいます。
 反面、攻撃力はなかなか強いです。宇宙的エネルギーで攻撃していて、流れる法則が異なるために、既存の宇宙観による防御をスルー出来ます。必殺の分解怪光線は当たればどんな相手でも分解できます。ただし()()()()の話。

 結論として、防御が紙すぎて話にならない。ということです。
 ではまた明日。


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第二話「世界の果て()、竜と出会い死ぬ」

微妙に長かったので今日の投稿分、分割しました。19時にまた投稿します。



 はろー。いつもニコニコ皆さんの隣に這い寄る怪物、ぬらりひょん です☆

 現在ピョンピョン嬉しそうに跳ねている黒ウサギの後ろから、十六夜さん達3人と一緒について歩いているところです。

 

 さてこれからどうする?

→①十六夜さんの誘いに乗る

 ②誘いに乗らず虎に会う

 

 テンプレだとこの2つの選択肢のどちらかなわけだが…うーん。

 

『ぴろぱんぴんぽん♪

 ぴぽぱんぴんぽん♪ 』

 

 頭の中に鉄琴を叩いたような、学校のチャイムのような音が。

 

「どうしたの? 」

 

 思わず止まってしまって、耀さんに声を掛けられた。

 何でもない。と言って平静を装うものの、音はまだ続いている。

 

「(もしかしてこれ、神託ってやつ? )」

 

 

『転生者くんこんばっぱー! 神様だよー。

 神託第一回目! 張りきっていきましょー。

 だららららららららら

 だららららららららら』

 

 口でドラムロール…うざい。

 

『だん!

 この世界での滞在は「アニメの範囲が終わるまで」でーっす。

 具体的には火竜誕生祭終了と同時に転移しますのであしからずー。

 ではまた次の世界でー。ちゃおちゃおー』

 

………終わったか。それにしても短い?のかな? 原作で言うと2巻分、アニメで言うと10話分か。インフレするような世界じゃないけど、この範囲なら命の危険もさほどなさそうだな。つっても好き勝手暴れたら白夜叉みたいなどうやっても勝てなそうな強者が殺しに来るから、どうもできないけど。

 

 

「よし。世界の果てを見に行こう」

 

 十六夜さんが言ってくれました。さてどうする。

 

「別に行くなら勝手に行ってもらえるかしら?」

 

「私も今はいい」

 

「何だ、ノリ悪いな。じゃあ奴良、お前はどうだ? 」

 さてどうする。

 

「んー。行く」

 行くことにした。

 

 

*********************

 

「ジン坊ちゃーん! 新しい方を連れて来ましたよー!」

 

*********************

 

 今頃、テンプレなやり取りが行われているんだろうなぁ、と思いつつ前方を走る十六夜さんに追従する。

 

「中々早いな! まだついてこれるか! 」

 

「これ以上はしんどいけどねっ! 」

 割と全力で走っているのに彼にとってはまだまだ全速力ではないらしい。

 逆廻十六夜という主人公はほんとうにくそちーとだなと思いました まる

 

 

 そうして疲労こそないものの、精神的に疲労がたまってきたところで、滝に到達しました。

 

 ポーズとして、ひーひー言いながら地面に這いつくばってみる。

 

「どうしたんだ? 疲れたのか? 」

 

「う、うん。もう動けない。しんどかったー」

 

「オイオイつまんない嘘つくなよ。あんだけ走って、お前汗一つかいてもないじゃねぇか」

 

「………そういう十六夜さんだって、汗かいてないじゃん」

 

「俺にとってはあんなの軽い運動でしかねぇよ。けどまぁ、ついてこれたのは褒めてやるよ」

 ニヤリと笑って言う。

 はぅぅ…イケメンにしか許されないセリフと仕草だよぅ…(ロリボイス)。お腹がきゅんきゅんするよぉ…(今はないけど)。

 

 

「それはどうも…。で、どうするの。まだ進む? 」

 

「そうだな―――」

 

「おい、小僧ども」

 声と共にでかい蛇のような…いやまんま竜だな。蛇には見えん。

 竜が現れ問いかけてきた。

 水神とやらだろう。人型にもなれるようだが『自分』の知識の中には詳細な情報はない。

 

「なんだ、でかい蛇だな。世界の果てにはこんなもんまでいるのかよ」

 愉快そうに、十六夜さんは言った。

 

「いやいや竜でしょ。首にもろにしめ縄あるし。きっと神様的なサムシングだよ。ほら滝だし、(もと)鯉の(げん)竜神様だよ」

 

 水神は不快そうに言う。

 

「不愉快な小僧どもだ。人間がこんなところに迷い込むとはな。ふむ、私のギフトゲームで貴様らの力、試してやろう」

 

 えー。自分も不愉快扱いですかー。そんなー。

 

「ああ? なに人を試す気になってんだ? お前が俺を試す資格があるのか、まずは俺がおまえを試してやるよ! 」

 

 止める間もなく十六夜さんは弾丸のように水神に殴り掛かっていって、戦闘が開始した。

 水柱が立ち上り、行く手を阻もうとするがそれを拳一振りで振り払い、薙ぎ払い。その戦いぶりはまさに英雄のようだった。

 

 すげーなー、と観戦モードでいると水神が殴られ水中に沈んだ。

 

「おー」

 ぱちぱちぱち。拍手を送ると、片手をあげて応えてくれた。

 きゃーすてきーだいてー()。

 

「―――…」

 振り返ると髪をピンクに染めた黒ウサギがいた。追いつかれたらしい。

 

「あれ? お前黒ウサギか? どうしたんだ、その髪の色」

 十六夜さんも気づいたようで不思議そうに問いかける。

 

「黒ウサギお疲れー。牛乳あるけど飲む―? 」

 膝に手を突きうなだれている黒ウサギに自分は『自分』を変身させて作った牛乳(ビン)を渡す。

 

「い、頂きます」

 受け取ってごくごくと飲み干していく黒ウサギ。なんか興奮する。自分が食べられている(比喩ではない)って感じ、被虐的な悦びがあるよね。

 

「ふぅ…ではなく! お二人とも 一体どこまで来てるんですか! 」

 

「世界の果てまで来てるんですよ、っと。まぁ、そう怒るなよ」

 

「お二人が神仏にギフトゲームを挑んだんじゃないかと思って、ひやひやしてたんですよ?! 」

 瓶を回収させてもらい、同期する。

 おっふ。黒ウサギの唇の感触………いいですぞぉ。

 

「さ、ご無事でしたら早く帰りましょ―――」

「―――挑んだぞ」

 

「え? 」

 

「神仏にギフトゲーム」

「自分はついていっただけだけどね」

 

「…は? 」

 ごごごご、と水面が波打ち水神が姿を現した。

 

 

「まだ……まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ!! 」

 

 

 おこなの?

 

「水神?! って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか! 」

 

「なんか、偉そうに俺を試してやるとか言ってくれたからよ

 俺を試せるのか試させてもらったのさ」

 

「十六夜さん…」

 

「ちなみに自分は何もしてないよー。見てただけ」

―――って聞いてないな。

 

「つけあがるな人間。我がこの程度のことで、倒されるか! 」

 風が! 風が!

 

「お二方! 下がってください! 」

 いや動けないです。目が開けてらんない。

 あ! 目に! 目に砂が!

 

「何言ってやがる。下がるのはてめぇだろうが黒ウサギ」

 ホントなんで何ともないの? こっちは動けないんですが。

 目玉気持ち悪い! 仕方ない。目玉溶解! 射出!

 

 ふーきもちいー。

 

「これは俺が売って、奴が買ったケンカだ」

 ひゅーひゅー いざさまかっこいー♪(ツバサ並感)

 

「心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃をしのげば貴様の勝利を認めてやる」

 

「寝言は寝て言え。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ! 」

 くー! 素敵台詞頂きましたー!

 

「その戯言(たわごと)が貴様の最期だ!! 」

 言葉と共にでっかい水の竜巻が発生し、十六夜さんとついでに自分を狙って襲い来る。

 え、自分も?

 

「ハッ! しゃらくせぇ! 」

 拳の一振りで打ち砕いた。

 

「嘘っ! 」

「馬鹿なっ! 」

 黒ウサギは十六夜さんに目を向けて自分の方は意識から外れているらしい。

 さて目前まで迫ったわけだが…よし。

 

 自分は逆廻十六夜に変身した。

 拳を振りかぶってー。殴る!

 

「まあ、中々だったぜオマエ」

 全力の一撃を弾かれ、愕然とする水神に十六夜さんは跳び蹴りをくらわせる。空中高く打ち上げられ、川へ落下する水神。

 

 一方自分は竜巻に飲み込まれ水流によってずたずたに引き裂かれた。

 あれー?

 

「(人間が、神格を倒した…? そんなでたらめが…)」

 

「くそ、今日はよく濡れる日だ」

 水も滴るいい男。

 それはともかく気づいてー。バラバラ殺人並みにぐっちゃぐちゃですぞー。

 

「(いえ、だからこそ。この力があれば…! )」

 

 気づいてー。

 

 

 

 

 

「………」

 少し経って、十六夜さんに発見されました。じっと見られています。

 

「―――見てくださいっ! こんなに大きな水樹の苗が…十六夜さん? どうしたんですか? 」

 

「…どうしたっていうか、これ」

 

「はい? な、なんですかこの惨殺死体は! まさか十六夜さんが…? 」

 

「違ぇよ。奴良だ」

 

「ああ、奴良さんですか。そういえば姿が見えないと思ったら―――って! それは本当でございますか! 」

 

「ああ、水神の攻撃でバラバラになっちまったみたいだな」

 

「そ、そんな。死んでしまうだなんて…」

 ………そろそろかな。

 

「落ち着け黒ウサギ。死んじゃいねぇはずだ。おいそろそろ元に戻れよ」

 

「え? 」

 ご指名入りましたー!

 思いっきりグロく再生させてもらいます。

 肉片のまま動かして脳みそを中心にくっつける。そこからは肉の塊で膨張してバイオハザードのクリーチャー的にシルエットをぐちゃぐちゃしながら立つ。

 そんでもって無駄に

 

ボキボキ

 

ゴキゴキ

 

  バキバキいわせて

 さっきまでの姿に戻る。

 

「りょろりょろりっと。はい再生完了ー」

 黒ウサギが青ざめた顔をしている。よし、掴みはばっちりだ!

 

「やっぱり再生できたか」

 

「ま ねー。気づいてたの? 」

 

「おびえる様子とかがなかったからな。それにバラバラになる前、俺の姿になったろ、肉体変化ができるなら、それの応用で再生もできるんじゃないかと思ってな」

 

 さっすが十六夜さんだァー。

 

「だ、大丈夫なのですか?! 奴良さんあんなぐちゃぐちゃになって! 」

 きゃわたん~。癒されますな~。

 

「大丈夫だ、問題ない」キリッ

 

「そうですか…びっくりさせないでください」

 

 ホッとしたように息をつく。あー…突っ込んでほしかったんだけどなー。

 ともかく。

 

「で? なにがどうしたって黒ウサギ? 」

 

「は、はい。先ほどのギフトゲームの商品として、水樹の苗をいただけたんです! これがあればもう他所のコミュニティから水を買う必要もなくなります。みんな大助かりです」

 苗に頬ずりはやめておいた方が…。

 

「そうかいそうかい。喜びついでに一つ聞いていいかい」

 

「どうぞどうぞ! 」

 

「黒ウサギ、お前何か決定的ことをずっと隠してるよな」

 

「―――ッ! 」

 

「答えろよ。お前はどうして俺たちを呼び出す必要があったんだ? 」

 

「………」

 

~『かくかくしかじか

  まるまるうまうま』~

 

・昔はすごかったんだけど“魔王”に目をつけられて

・名と旗印を奪われて

・今は2人しかプレイヤーがおらず、他は120人の子どもたちだけ

・崖っぷち「ノーネーム」

 

 まとめるとこんなところ。

 話を聞いて、

「いいな、それ」

「……え?」

「え じゃねえよ。協力するって言ったんだ、もっと喜べ黒ウサギ。」

 

「で、ですが…」

 

「魔王を相手に旗と誇りを取り戻す…ああ、そいつはロマンがある。

 協力する理由としちゃあ上等な部類だ」

「せいぜい期待してろよ黒ウサギ。で、奴良 お前は? 」

 

「ん? もちろん、協力させていただきますとも。ここにいる間は、ノーネームの一員として命燃やして頑張らせていただきますよ」

 

「………! ありがとう ございます」

 きゃわわ。学ばされるなぁ、さすがピンク、あざとい。

 




 主人公の一人称は人格を統合するための楔です。『自分』という線引きをすることで自分ではないナニカに変わることを防いでいます。


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第三話「ギフト鑑定、女体地獄」

 分割、後半部分です。



 

*********************

 

「フォレス・ガロとギフトゲームをする!? なぜそんな急展開に!? 」

 

 ただいま天幕の内側に入り、合流し、ゲームをすることになったと事後報告を受けたところです。

 また黒ウサギが青ざめています。それはともかく、ジン坊ちゃんもなかなか可愛らしいですね。うん、ありだな。自分の中の男性としての意識も女性としての意識も「アリだよっ! 」と激しく主張しています。

 

「「腹が立ったから後先考えずケンカを売った。反省はしていない」」

 

「このお馬鹿様! お馬鹿様! 」

「でもどうしてこんなことに? 」

 黒ウサギ、そのポーズは少年の何かに危ないですよ。

 

「ごめん…でも僕もどうしてもあいつが許せなくて」

 

「お、お気持ちは分かりますが…。

 まぁいいです。フォレス・ガロ相手なら十六夜さん一人でも―――」

 残念。

「俺は出ねぇぞ? 」

 

「―――は? 」

 

「は じゃねぇよ。このケンカはあいつらが売ったんだ。俺が手を出すのは無粋ってもんだろ」

 

「あら、分かってるじゃない」

 

「じゃあ自分もパスで」

 

「もう好きにしてくださぃ…」

 うなだれちゃった。

 

 

 

 

「で、どこに行くんだよ」

 歩きながら、十六夜さんが問いかける。

 

「ゲームは明日ですからね。皆さんのギフト鑑定を、サウザンドアイズにお願いしようかと」

 ジンくんが答える。

 街並みを見回すだけでたのしいな、こりゃ。見るものすべてが新鮮に感じる。

 

 自分の中の何かが満たされていくような、すがすがしい気持ちだ。

 

「サウザンドアイズ? 」

 

「YES! 箱庭の東西南北、上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです! 」

 

「ふ~ん…」

 

 桜のような花びらが降ってくる。

 

「桜? この世界は今春なのね。私の世界では夏だったけど」

 

「私の世界では秋だったよ? 」

 

「「?」」

 小首傾げる美少女二人、後ろからみても分かる可愛さよ…。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのですよ。時間軸以外にも、歴史や文化など、違う箇所があるはずです」

 

「パラレルワールドってやつか」

 

「正しくは、立体交差並行世界論というものなのですけれど」

 

「へー…」

 

 さっぱりわからん。頭脳面は模倣じゃどうにもならんからなぁ…。

 

 

 

「ねえ、あれがそうかな」

 耀さんが指さす。ん?! 兎!? ラビットハウスが箱庭にも?!

 

「あ、はい。あれがサウザンドアイズの―――」

 言い終える前に、遮る声。

 

「ぃぃやっほぉおおおお!! 久しぶりだ、黒ウサギィィィ! 」

 ロリっ子もとい、白夜叉が黒ウサギにルパンダイブしてそのまま水路に突っ込んでいった。

 

「ほほほ! やっぱり黒ウサギは触り心地が違うのぉ! ほれぇ、ここがええかぁ! ここがええんかぁ! 」

 テラ新井。リアルに聞くこの声はすげぇわ。今度この声にしてみようっと。

 

「し、白夜叉様?! どうしてこんな下層に?! 」

 胸にぱふぱふしてる。いいなぁ、いいなぁ。

 

「―――っていうか、離れてください! 」

 飛んできた。

 

「ごふぅっ! 」

 蹴りで受け止められた。

 

「おんし! 飛んできた美少女を足で受け止めるとは何様じゃっ! 」

 確かに美少女。うむうむ。

 

「十六夜さまだぜ、和装ロリ。以後よろしくな」

 

「うー、私まで濡れることになろうとは…」

 

 っ! チャーンス!

「大丈夫? 黒ウサギ。はい、タオル」

 ふっふっふ。白夜叉絶賛の黒ウサギの触り心地を体感してやるぜ………!

 

 

「あ、ありがとうございま…いえ、やっぱり遠慮しておきます」

 ?! バカな、気づかれたか?

 く、兎ゆえの危機感知能力とでもいうのか…?

 畜生!

 

 

 中に案内されて、お座り。

「さて、改めて私はサウザンドアイズ幹部の白夜叉だ。四桁の門、三三四五外門に本拠を構えておる。

 そこの黒ウサギとは少々縁があってな。ちょくちょく手を貸してやっている、器の大きな美少女である! 」

 

「外門って、何?」

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強力な力を持つ者達が住んでいるのです。因みに私達のコミュニティは一番外側の七桁の外門ですね」

 

「そして私がいる四桁以上が上層と呼ばれる階層だ。その水樹を持っていた白蛇の神格も私が与えた恩恵なのだぞ」

 

 それを聞いて十六夜さんの目つきが変わる。

 やめなされ。

 

「当然だ。私は東側の”階級支配者(フロアマスター)”。この東側にある四桁以下のコミュニティで並ぶ者がいない、最強の主催者(ホスト)だからの」

 それを聞いた途端三人が立ち上がった。

 やめなされ。と思いつつ、ノリで立ち上がってみる。

 

「最強の主催者(ホスト)か、そりゃいいな」

「ええ、ぜひともお相手願いたいわね」

「うん」

「自分は、まぁ…ノリで」

 

「ちょ、ちょっと皆さん! 」

 

「よいよい黒ウサギ。私も遊び相手に窮しておる故な」

 慌てる黒ウサギを諫め、座ったまま3人の問題児たちの視線を受け流す白夜叉。

 

「そいつは奇遇だな。俺も同じだ、少し遊んでくれよ最強の主催者(ホスト)様? 」

 やばいよねー。

 

「ふふん、よかろう。じゃが一つ確認しておくことがある。

 おんしらが望むのは“挑戦”か? もしくは“決闘”か? 」

 白夜叉は懐からサウザンドアイズの紋章が描かれたカードを取り出し、次の瞬間、自分たちは水平に太陽が廻る、白い雪原と凍った湖畔の土地にいた。

 

「ここは? 」

 

「驚くことはない。ここは私が持つゲーム盤の内の一つだ」

 いや驚きますって。とりあえず驚くふりをしておく。

 

「このな土地がゲーム盤?! 」

 

「私は“白き夜の魔王”―――太陽と白夜の星霊、白夜叉。箱庭にはびこる魔王の一人よ。

 今一度問う。おんしらが望むのは試練への“挑戦”か? それとも対等な“決闘”か? 」

 やっべーよなー。自分の力じゃどうやったって勝てる気がしねーぜ。

 

 十六夜さんが苦笑して

「まいった。やられたよ白夜叉。これだけのもんを見せてくれたんだ。今回は黙って試されてやるよ」

 

 

「よかろう、ではゲームに移ろうか」

 白夜叉がそう言うと、黒ウサギとジン坊ちゃんがあからさまにほっと息を吐く。

 

 

「おんしたちには、あれの相手をしてもらおう」

 白夜叉が扇子で指示した方向には、UFO…というかグリフォンがいた。

 

「あれは!…グリフォン!?」

「如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。ギフトゲームを代表する幻獣だ。

 このグリフォンで、おんしらの力・知恵・勇気を試させてもらおうかの」

 そういうと自分たちの頭上から紙が降ってきた。

 

「クリア条件…グリフォンの背にまたがり、湖畔を一周する、か」

「誰がやる? 」

 

「私やる」

 耀さんがすっと手を挙げ、グリフォンに近づいていく。

 

「…え、ぇっと…初めまして、春日部耀です」

 

『―――』

 だーめだ。聞こえないや。

 

『――――――――――――――? 』

 

「命を賭けます」

 その時女性陣に戦慄が走る…! ここ、他の人にはグリフォンの声聞こえなくて話の流れわかんないだから、突然そんなこと言ったら戸惑うよな、普通。

 

「もし転落して生きていても、私はあなたの晩御飯になる。それじゃダメかな? 」

 

「な、なにを言っているのですか! 」

「本気なの? 春日部さ 」

 

「下がれ、二人とも」

 こっわ! 白夜叉こっわ!

 

「大丈夫だよ」

 こちらに振り返って笑いかける。美少女はええなぁ。

 

 

 

 で、始まって、すぐに遠くに行ってしまった。

「春日部さん……大丈夫かしら」

 

「さあな。だがあのスピードと山脈から吹き降ろす風。体感温度はマイナス数十度にもなっているはずだ」

 

「それはまずい。大丈夫かなー。不安だなー」

 茶化すように言ったら睨まれた。ごめんなさい。

 

「あっ、山の影に」

 

「あとは、あいつ次第だ」

 

「あれだけ激しく動いていると、身体にかかるGは相当なはずだ。普通ならとっくに失神してる」

 見えてきたと思ったら、急上昇したり回転したり、すっげえ。自分があの場にいたなら失神して落ちてたろうな。

 そんでもって染みになった後はグリフォンにむしゃむしゃされて晩御飯分食われちゃってたろう。

 

 近づいてきた。

「意識が飛びかけています! 」

「がんばってー! 春日部さーん! 」

 

 ゴールまであと十五メートル、十メートル、五メートル……。ゴール!

 そして耀さんの手がグリフォンから離れ地上に落下していく。

 駆け出そうとする黒ウサギを十六夜さんは制止する。

 

 耀さんは空の上で態勢を整え、そのまま空を踏みしめて地上まで降りてきた。

 うん、なかなかに幻想的だ。

 みんなが駆け寄っていくので自分も遅れないようについていく。

「やっぱり。お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類のものだったんだな」

 

「違う。これは友達になった証」

 

 そうしてグリフォンと少し話しているのを眺めると、白夜叉が賛辞を述べてきた。

「いやはや大したものだのう。ところで、そのギフトは先天的なものか? 」

「違う。父さんに貰った木彫りのおかげ」

「木彫り? 」

 

「これ」

 耀さんは自分のネックレスを見せる。

「ほほう。円形の系統図か」

 

「鑑定していただけますか? 」

 

「なに? 鑑定だと…? …もろに専門外なのだが………あ、いや? 」

 何か思いついたような顔になった。

 ついに来るか。

 

「よかろう! 復興の前祝いだ! 受け取るがよいっ! 」

 柏手一つ。そうすると自分たちの目の前に四角いカードが現れた。

 

「まさか、ギフトカード? 」

 

「なにそれお中元? 」

「お歳暮? 」

「お年玉? 」

「えっと、ギフト券? 」

 

「違いますよ! 顕現してるギフトを収納できる上に、各々のギフトネームが分かるといった超高価な恩恵です!! 」

 

 知ってる。要は四次元ポケットなわけだ。

 そんでもって、自分のギフトカードは乳白色のカードに『ぬらりひょん(G)』と書かれている。

 

 Gとは「GANTZ」のGかな? まぁ、なんでもいいけど。

 

「ふーん…じゃあ俺のはレアケースなわけだ」

 

「なに? 」

 

 よし、便乗しよう。

「白夜叉さまー」

 

「………ん、ああ、なんじゃ」

 

「自分の“恩恵(ギフト)”も、ちょっとわからないのがあるんですけどー」

 

「ふむ…どれどれ? 」

 

「この(G)ってなんのことだと思います? 」

 

「むむむ…なんじゃろうなぁ、ってお主――人ではなく、妖怪じゃったのか? 」

 

「妖怪? 」

 

 なんだなんだ と興味を引いたようで、皆が集まってきた。

 

「ぬらりひょん? 『奴良』って名字からして、子孫とかなのか? 」

「ぬらりひょん…ってなんだったかしら、妖怪? 」

「たしか、商人みたいな恰好をした妖怪」

「人の家に勝手に上がり込んでお茶を飲んだりする妖怪…でございましたっけ、奴良さんのギフトと全然かみ合わないような気がするのですが」

「そういえば、奴良さんのギフトってどんな力なんですか? 」

 

 ジンくん、よくぞ聞いてくれました。

 

「自分のギフト? はねー………こんなの」

 言って、自分の手のひらを皆に向ける。

 

 ?マークが浮かんだのを見て、自分の手のひらに極小の口を無数に生やす。

「ヒッ! 」

 

 イメージとしては手のひらが超小さな粒粒(つぶつぶ)に覆われて、そのすべてに歯があり舌が見え、がちん、がちん、と不規則に開いたり閉じたりして蠢いている感じ。

 集合体恐怖症の人が一瞬で正気度(SAN値)ピンチ! になる感じを思い浮かべてもらえれば。

 

「他にも~」

 キモくしていない方の手を野球のグローブみたいに膨らませ、顔を隠す。そして

 ぼとぼとり。

 

「ッ! 」

 眼球や鼻を落とし、口は顎ごと外して落とす。顔のパーツを落下させて、

じゃーん

 

「 ! 」

 

 今の自分の顔、パーツの向きを変えてみましたー。FGOのラフムや不安の種のオチョナンさんみたいな感じで。向きを変えただけなのにねー。生理的恐怖を感じずにはいられない顔面になっているのですー。

 

 さーらーにー。

 

「 ! 」

 

 あえてボキボキ音を出しながら肉体を変身させていく。特にモチーフはなく、なんとなくナイスバディな美女。それに伴い顔面と手も治して、完璧な美女に変身してみる。ちなみに全裸。

 白夜叉の目が怪しくなった。黒ウサギとジン坊ちゃんが照れてチラ見状態になった。

 

 そこで終わるはずもない! 腹からもう一人生やす! そしてもう一人! もうひとぉり!

 本家ぬらりひょんがなった女体地獄に変身!

 

「………」

 ポカーンとした目で見てくる。

 動いてみる。ぐねぐねぬるぬる動いて、頭を引きちぎって空に投げる!

 

「!」

 

 投げた頭 巨大鉄球になってもらって体をつぶす。

 桃太郎的に、パッカーンして中から元の自分登場!

 

「………」

 

「どうよ、驚いた? 」

 

「驚いたというかなんというか…なんじゃったんじゃ今のは」

 

「頭が追い付かないわ…」

 

「不思議な体験…奴良はやっぱり妖怪? 」

 

「いえ、妖怪と言ってもぬらりひょんという妖怪はあのような変身能力は持ち合わせていないと思います」

 

「まぁ驚いたけど、これぐらいは予想の範囲を超えてないな。こいつバラバラになったのに再生したし。なぁ黒ウサギ」

 

「えっ!? あ、はい」

 

 わいのわいの言ってる。話題の中心にある、注目されるって気持ちいいなぁ…。

 

「今見せた肉体変身能力がおんしのギフトという訳か? 」

 

「そうですね。もっとも、姿だけで、そのものの持っているギフトまでは真似できないようですけど」

 十六夜さんに目を向けながら言う。

 

「ふむ…すまぬが私にもさっぱりじゃ。ラプラスの紙片がそう名を差し示したのなら、ソレだけの理由があるのだろうが…」

 

「そうですか…」

 

 

 

そんなこんなでサウザンドアイズを後にし、自分らはノーネームの本拠地へと向かった。

 

 あー楽しかった。

 

 

 

 

 




 急上昇・回転で失神すると言っていましたが、初めの一回だけです。
 経験すれば、補強されます。再生能力は負傷全般に効果ありますので。
 最初のブラックアウトでも一瞬意識が遠のく程度。二回目以降は失神しそうになると、オートで再生能力(というか再起動? )が働きます。



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第三話「美少女のお風呂とお着替え。覗くのはいけないことでしょうか?」

アニメ3話~でーす。主人公が関わらない場面はスキップしていく所存です。


「では、行きますよー! 」

 

 そう言って黒ウサギは十六夜さんがゲットした水樹をコミュニティの元は竜の瞳(だったっけ? 名前までは記憶にないわ)…ともかく水源となる恩恵が備え付けられていた場所にセットした。

 

 

 はろはろー。奴良九朗こと、ぬらりひょん(G)でーす。

 現在自分は“ノーネーム”居住区の水路・貯水池に来ています。

 

 さっきまでは入り口付近の魔王の痕跡に戦慄するテンプレをしていました。読むのと見るのでは想像以上に違いましたね。感知系は持っていない自分でも「ヤヴァイ」って感じられるほどの空気がありました。

 

 そんでもってコミュニティの子どもたちと挨拶をして、現在に至るわけです。子どもたちも()()()()()だった…。キラキラした目で見てくれちゃってもーなー。『自分』はロリもショタもイケる口ですものなー………言っているように、初めては女性とラブい感じでやりたいから我慢するけども。

 

 

 そんなことを思っている間に水樹から水が湧き出し、ちょっとした湖ぐらいある貯水池に水が満ち始めた。

 

「すごい…! 」

 

「これが水樹の力…」

 

 いやほんと、すごいわ。あんな苗木程度でこれだけの水を放出できるとは、改めて恩恵(ギフト)ってすごい。

 

「これなら生活以外にも水を使える…ギフトゲームに参加しなくても着実にコミュニティを大きくしていける…! 」

 ヒトリゴトというには若干大きい声で希望に満ちた声を上げる、我らがコミュニティのリーダー ジン坊ちゃん。そして彼を見つめる十六夜さん。どうやら気に入らないようですねー(すっとぼけ)。

 

 

 卵がないということで、『黒ウサギ特製卵焼き』はまたの機会ということになった。卵を自分の体から作って手渡したのだが、気味悪がられてしまった。残念。

 

 

 

*********************

大浴場温泉以上に大きく月の見えるお風呂にて

 

「はー………本当に長い一日でしたー。新しい同志を呼ぶのが、こんなに大変だったとは想像もしておりませんでした」

 髪をピンクに染めた黒ウサギが湯に その豊満な肢体をつけ、ストレッチをするように腕や肩を動かし呟く。

 

「それって私たちへの当てつけ? 」

 からかうような飛鳥さんの声。

 

「め、滅相もございません! とんでもございません! そんなんじゃありませんからね? 」

 慌てたように黒ウサギ。

 

 にゃーにゃーと三毛猫が鳴くと耀さんがそれに応えたように

「ほんと、このお湯森林の匂いがする」

 

「水樹の水をそのまま使ってますから。気に入っていただけて、何よりです」

 

「でも、こうやってお風呂がつかえるようになったのも、あの子たちのおかげよね」

 

「お気になさらずに、ギフトゲームに参加できない者は、ギフトプレイヤーを支えるのはこの箱庭の掟なのです」

 

「ふーん……。ギフトゲーム、か……。

 楽しければそれでいいと思っていたけど、コミュニティのことを考えると、無茶できないわねぇ」

 せやですね。ギフトゲームに挑むにしても、調べてからじゃないと、怖くて参加できんわい。俺―――もとい『自分』は知恵を試すようなゲームは不得意だし。

 

「―――ねぇ、春日部さんはどう思う? 」

 

「あ、私は…とにかく勝てばいいと思う」

 こなみ。

 

「勝てば私たちも楽しい。コミュニティも嬉しい、一石二鳥」

 

「耀さんの言うとおりでございます。ゲームを楽しむのは一流プレイヤーの条件ですよ」

 

「うん。そう言ってもらえると助かるわ」

 

 

「ところでところで、こうして裸のお付き合いをしているわけですから、お二人様のことを聞いてもいいですか?

 ずっとずっと待ち望んでいた、いわゆるガールズトークでございますよ♪」

 ガールズトーク盗み聞き…漂う犯罪臭がやばいな。

 

「ガールズトーク…? 」

 

「YES ! 例えば、ご趣味や故郷のこと等々」

 

「故郷、か…」

 飛鳥さんはなぁ…言葉一つでどうにでもなる中で生きてきた感あるし。

 

「私のことより黒ウサギのこと聞かせて。髪の色が桜色になるなんて、ちょっとカッコイイ」

 桜色という表現が可愛いな。

 

「黒ウサギってばかっこいいですか? そんなことございませんよ~」

 照れ照れじゃねぇか。

 

 

 そうしてガールズトークは続いていった。

 

 

*********************

 

―――ハエになって覗きに行っていた『俺』との同期をして、悶々とした気分で発情しているのが自分です。

 どうも。

 多分ギャグ漫画なら鼻血ビュー!!です。

 

 やべぇよやべぇよ。美少女三人の裸はやべぇよ。現在DTの自分には刺激的すぎだったのだぜ………。

 

 一つ言えることはおっぱいがいっぱいだった。

 オで始まってニーで終わるそれをしたいのだが我慢。耀さんがいる以上、後黒ウサギも感覚鋭いはずだから、したら匂いでバレちゃうかもしれない。磯の匂いでバレちゃう。それはさすがの自分も恥ずかしい…。

 ムラムラはごろごろ転がることで解消します。

 

 

 ん? 「変身できるならお湯になって触りに行けよ? 」…HAHAHA☆ 無理!!

 これがファンタジーが存在しない世界なら「きゃあ! なにこれぇ! 」で触手のようにうねる水に変身した自分が、おにゃのこ達の柔肌をねっとりじっくり堪能するエロ回になれるけど、この世界じゃ無理だよ。現に釘刺されたし、「奴良さん、変身して覗きに来たらお仕置きですヨ? 」と言われました。見張り付きで部屋にいるって言って何とかなりましたが。

 

 彼女らは自分が変身できることは知っていても、増殖することまでは知らないですからね。その点で覗きには成功しましたが…。まぁ、いずれバレるかもなとも思っています。十六夜さんはなんとなく察しているでしょうし。飛鳥さんと耀さんも優秀な頭脳の持ち主ですし。だから今この時、この瞬間のえちえちな記憶を大事にしたい、自分です。

 

 

 いやー、良いもんを見た。脳内フォルダ永久保存だわ。

 

 

 こんこん、と窓の外から音がした。鳥だ。

 

「おい、開けろ」

 外に放っておいた『自分』の内の一体らしい。

 

 開けて招き入れると奴良モード(さっき名前つけた。今のこの肉体に変身すること)になった。

 

「なにかあった? 」

 

「おうあったあった。原作通り、ガルドの傘下のやつらが子ども攫いに来て、十六夜さんが石投げてドカーンして、ジンくんを打倒魔王の象徴に据える方向にもっていった」

 

「やっぱね」

 

「今頃は言い合いになって、けど説得されて、かと思ったら「俺 明日のゲームで負けたら抜けるわ」宣言されてると思う」

 

「オッケーご苦労。じゃ、来て。いったん同期して、そっからまた頼むね」

 

「おう」

 

 

 取り込んで、その後体をちぎって『自分』を生み出し、放った。

 

 

 

「おーい」

 

 またか。

 

「なにー? 」

 

「女子のおきがえ覗いてきたでー」

 

 早速同機開始!

 

 

*********************

 衣装の山。お風呂から上がった3人。

 

「お二人ともいつまでも着た切り雀じゃ、乙女心が痛みますものね」

 

 そう言って笑顔で服を並べる黒ウサギとは対照的に、並べられていくチャイナ服やメイド服といったコスプレ的な服を見て微妙な表情を浮かべる飛鳥さんと耀さん。

 

 私的にはー、可愛い服とか着てみたいなーって『自分』の中の乙女心が言っているけどね。コスプレとかそんなできることじゃないし。いや、服も体の一部だからやろうと思えばできるけど、ちゃんと服を着るといった過程を経てコスプレしてみたいのよ。

 『自分』に対して欲情はしないけど、綺麗だとは思うし、テンション上がるし。フリフリひらひらのキュートなのとか。思いっきり露出した挑発的なのとか。楽しいだろうなぁ…次の世界で機会があったらやってみーよぉっと。

 

「! ち、ちがいます! これは、白夜叉様が黒ウサギに着せようと無理矢理………」

 

「せっっかくの異世界が………あら? 」

 赤面おこ。かわい。

 と思ったら衣装の中の赤いドレスに興味がわいたようで試着。もちろん着替えシーンも覗かせていただきました。下着姿もええですな。

 

「素敵ね。それにとても動きやすい」

 

「よく似合ってる」

 

「審判用に白夜叉様から頂いた衣装の一つでございます。

 身を守るための加護が付属されておりますので、明日のギフトゲームに来ていくのもよろしいかもしれません」

 

「気に入ったわ」

 ずるり、とドレスの片側がずり落ちそうになった。うむ。サイズ差がね。

 

「あやゃ! 今晩中に飛鳥さんのサイズに直しておきます…」

 赤面てれ。かわい。

 

「お、お願いするわ――はぁ………」

 黒ウサギを見て、というか黒ウサギのたわわなおっぱいを見てため息をつく飛鳥さん。どんまい! 発育は負けてないぞ! 美少女のおっぱいはすべて平等に尊いのだから!

 男と老女の胸はおっぱいじゃないから矛盾してないセーフ。

 

 

 

*********************

 

―――ええなぁ。ええなぁ。

 

 ばったんばったん寝返り打って、じたばたじたばたして、その日は寝られませんでした。

 まぁ、自分睡眠はとらなくても大丈夫ですしね。

 

 フォレス・ガロ居住区画にて、

 “ハンティング”ゲームスタート。

 

 しゅーりょー。

 

 特に何事もなく、決着しました。

 指定武器の白銀の十字剣でもって飛鳥さんが鬼化したガルドを刺し貫いてゲームクリア。

 ただし耀さんが十字剣を奪う際怪我を負った。出血で気を失っていたので、ゲーム終了後、自分が肉と血を『変身』させて移植(くっつけ)ましたとさ。

 目を覚まさなかったので今は横にならせていますが、時期に目を覚ます…んじゃないか、なぁ?

 

 

 そして、大々的に『打倒魔王』を掲げる「ジン・ラッセルの“ノーネーム”」が発表されました。

 

 

 

 

 




 移植…傷の治癒と共にはがれていくように設定しています。要はかさぶた的なもの。
    もちろん移植した血肉を変身能力で変えて移植相手を殺すこともできます。しないけど。テレパシー的な能力はぬらりひょんにはないので、時間経過や外的刺激で活性化するようにあらかじめ決めておかないと、アクション出来ません。



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第四話「吸血姫来る! 初勝利は焼き蛸の匂いと共に」

 この世界はアニメ版を元にしています
 ぬらりひょんの口調はですますだったり、砕けていたり、まちまちです。




 ゲームが終わり、ホームに戻った自分ですが、早速暇を持て余してしまっています。

 どうも、奴良九朗こと ぬらりひょん(G)です。

 

「………暇やな」

 

「暇だな」

 

 答えたのは暇なので増やした『自分』です。

 

「次ってなんだっけー? 」

 

「次はなー、吸血鬼来て力比べで、ペルセウス?とギフトゲームだったと思うでー」

 

「そやったそやった。まだかなー、ってか乗り遅れたりせんかなー」

 

「乗り遅れはしないやろ。確かワンクッションあったはずだし、自分らも呼ばれるってーの」

 

 ぐだぐだ喋っていると轟音が鳴り、屋敷が揺れた。

「「キター!! 」」

 

 融合して扉を開け廊下に出ると、ちょうどジンくんと黒ウサギ・飛鳥さんが合流したところだった。

 

「何の騒ぎ?! 」

 

「分かりません! 」

 

「きっと十六夜さんだね、間違いない! 」

 

「奴良さん――…ええその通りでございましょうね。あの問題児様は~! 」

 

 

 ガチャっと開けて震源地到着。

 

 ………うむ。吸血姫、いいね。目の保養目の保養。

 戦闘態勢に入る十六夜さんを見て取って、黒ウサギが制止する。

「だ、駄目です十六夜さん! 」

 

「邪魔すんな黒ウサギ 」

 

「違うんです! その方が私たちの 仲間のレティシア様です! 」

 

「何? 」

 

 あ、バトル終了ですか。

 

 お茶。

「そうか、あんたが元魔王の…」

 いったん話そうということになって、現在座ってお茶しています。

 ちなみに部屋は惨状から回復していません。だれか部屋移そう言うと思ったんやけどな。誰も何も言わずそのまま話し始めるんだもん。おじさんびっくりしちゃった。

 

「YES。“箱庭の騎士”と称される貴重な吸血鬼の純血、それがレティシア様なのです」

 

 あ、風が気持ちいい。箱庭の夜は冷えるなぁ。茶がうまい。

「よせ黒ウサギ、今は他人に所有される身。単なる物にすぎん」

 モノとか、興奮しますね…。失礼、下種でした。

「そんなことありませんよ」

 

「でも…会えてよかった」

 ジンくん座ったら? ソファー座れるところあるよ?

 君仮にもリーダーだよね?

 

「………すまない、きみには合わせる顔がなかった」

 

「そんなこと――」

 ちなみに自分はレティシアさんの隣に座っています。風に乗っていい匂いが運ばれてくる位置取りです。なんでおにゃのこはいいにおいするんだろう。きっと美少女は生物的に人間とは別の生命なんだろうな。

 

「――ひとついいかしら。

 仲間のはずのあなたが、ガルドに手を貸したのはなぜ? 」

 あ、吸血鬼だった。ホントに人間じゃねぇや。

 

「友達が怪我をしたの。私には理由を聞く権利があるわ」

 強気~。ちなみに耀さん、傷はもう何ともないけど眠っています。特に苦しそうにもしていないしもう少しで目覚めるはず。

 

「………あなた方の力量を確かめたかったのだ。このコミュニティを託すに値するかどうか…。負傷した彼女には心よりお見舞い申し上げる。だが、あなた方のギフトはまだ青い果実。任せるには荷が重すぎる」

 

 侮られたと受け取ったようで、飛鳥さんの顔色が険しく。

「そもそも私がこの階層に来たのは、このコミュニティを解散するように黒ウサギを説得するためだった」

 黒ウサギが息をのむ。

 

「ノーネームからのコミュニティ再建は茨の道。これ以上ジンに苦労は掛けられぬ。

 だがその矢先、あなた方が召喚されたという噂を聞いた」

 噂早えな。

 

「…そこでまず俺らの力量を見極め、見込みがなければ…と考えたわけか」

 

 お茶がうみゃい。

「だが、あれだけジンの名前を売られては…もう、解散もできぬ…」

 せやなー。ジンくんが魔王打倒言ったみたいになってるし。解散したらそれこそ魔王本人でなくても、魔王に取り入ろうとする馬鹿から狙われることになるかもしれんしなー。

 

「でも、あなたが帰ってくれば 状況は変わるのでしょう? 」

 

「そ、そうですよ! 今度のギフトゲームに勝てば、レティシア様は堂々とここに戻れます! 」

 

「それは………」

 うむ。

 

*********************

 説明によると、賞品になるゲームが、高額買取者が出たため中止になったとのこと。

 

「ギフトゲームが中止に…」

「待ち望んだチャンスだったのに…」

 泣かないで…(泣いてないけど)

 

「このままここに匿ったらどう? 」

 

「無理な相談だ。私がここに来ていることくらい、知っているだろう。下手をすれば、“サウザンドアイズ”傘下の全てのコミュニティを敵に回すことになる」

 対面上、まぁそうするでしょうねぇ…。名無し風情に、商品を隠されたら。さ。

 

「なるほど。自分が戻れないことがはっきりしたから、急いでたのか。

 だったら要件を済ましちまおうぜ。確かめたいんだろう? 俺の力を」

 

 

「それを言うなら、『俺たちの』でしょ? 」

 

「ああ、そうだったな」

 

「ま、自分は後でいいけど。お先にどうぞ、元魔王との手合わせ、一番乗りは譲るよ」

 たぶん自分勝てないし。

 

 場所を移して、ランス投げ合い勝負。

 

 ランスを構え、上空からピッチャー・レティシア、第一球投げた!

 あーっと! キャッチャー・十六夜、ピッチャーの投げた打球をぶん殴って返した! 訳が分からない! 自分は多分受け止められないと思います!

 

………いや、自分がパワー不足なわけじゃなくてね? この世界の基準が凄まじいだけで。自分(ぬらりひょん)は物語シリーズの吸血鬼みたいに防御力=不死性って感じで、軟いんだよな。だから今の投擲も受け止めきれず肉体が破裂する。表皮を変身させれば耐えられるかもだけどなー。やっぱこの世界一発目には不釣り合いなほどレベル高ぇや。

 

 

「やはり………“純潔の吸血鬼(ロード・オブ・ヴァンパイア)”。あれだけあった恩恵(ギフト)が…神格が残っていない」

 

「吸血鬼のギフトだけってわけか。どーりで手応えのねぇわけだ」

 

「なぜです…どうしてこんなことに」

 

 黒ウサギがつぶやいたすぐ後に、空から光が地上に降り、落ちた地面が石化を始めた。

 

「『ゴーゴンの威光』…いけません! あれを浴びたら! 」

 

 光は飛鳥さんの元に迫ってくる。

 レティシアさんが身代わりになるのは察しがついたので自分は付近にスタンバイしておく。

 

「飛鳥さん! 」

 ジンくんの声、走り出すレティシアさん、飛鳥さんを押し出し身代わりになるレティシアさん。

「きゃあ! 」

 そして首から下を変身させ、クッションに変身。

 

「大丈夫? 飛鳥さん」

 

「ええ、ありがとう奴良さん…一体なにが」

 

 うっひょい! うっひょい!

  柔らかい。合法! 合法ですよ! 人助けのためだし仕方ないですね!

 バレないようにクンカクンカ。

 ………ええ匂いや。やっぱ美少女はええなあ。

 ここまで一秒弱。バレるとまずいし、名残惜しいけど変身解除して手を貸す。

 

「レ、レティシア様…?! 」

 すごいなー、まじで石化してるよ。自分これ喰らって大丈夫かー?

 ………んー、まぁなんとかなる、か?

 

「いたぞ! 」

 

「あれは…」

 

「コミュニティ“ペルセウス”! 」

 

「ゴーゴンの首に、翼の生えた靴…伝説のまんまか…」

 ひとりでにレティシアさんが浮き上がる。

 

「 レティシア様! 」

 姿を現すペルセウスの騎士。すごいな、不可視の兜。ガチで見えなかった。

 

「よし、引き上げるぞ! 」

 

「待ってください、その方をどうするつもりですか!」

 

「この吸血鬼は我々の所有物。どうしようと勝手だろう」

「これより、箱庭の外へと売却するのだ」

 

「なんですって?! ヴァンパイアは箱庭の中でしか太陽を受けられないのですよ?! 」

 

「首領が決めた売却だ。部外者は黙っていろ」

 

「ここは我らの本拠敷地内です。非礼を詫びる一言もないのですか! 」

 いいぞ黒ウサギ!(観戦モード)

 

「黙れ。こんな下層の名無しコミュニティに礼を尽くしては、我らの旗印に傷がつくわ」

 ま、せやな。舐められるわけにいかないのも分かる。でもねー、うちの兎さん怒っちゃうよー?

 

「なんですって?

―――ありえない。ええ、ありえないですよ。献身の象徴とうたわれたこの黒ウサギを、これほどまでに怒らせるなんて…! 」

 

「な、なんだ!? 」

 

「出でよ、インドラの鎗! 」

 どーん、と超すげー感じの鎗が現れる。気配云々のスキル持ってないので、自分はすごいとかすごくないとかよくわからないんだけど、すごく強そう(小学生並の感想)。

 

「あれはまさか、インドラの武具?! 」

「ありえん! レプリカだ! 」

 

「ならば、その身で確かめてみるがいいでしょうっ! 」

 振りかぶって~?

―――十六夜さんにうさ耳引っ張られてシリアスブレイクした。

 

 あらぬ方向に投擲された鎗は上空で どーん。

 

「な、何するんですか十六夜さん!」

 

「落ち着けよ。相手は仮にも“サウザンドアイズ”だ。それに、

 俺が、手を出すのを、我慢してやったのに、一人でオタノシミとは、どういう、了見だ」

 うさ耳を引っ張りながら叱る十六夜さん。何気に自分触ってないな。まあいいけど。

 

「っおっしゃることはもっともですが、あの無礼者は見逃せません! 奴らに天誅を与えねば!」

 と、指さした先には何もない空が。

 

「もう皆、帰ったみたいだけど…」

 Niceジン坊ちゃん。

 

「不可視のギフトで隠れたんだろ。見逃してやれ」

 

「しかし………」

 

「逃げる相手を攻撃したとなれば、非礼云々の前に人間としてアウトだと思うよ黒ウサギ」

 

「確かにその通りですが…」

 

「話があるのは奴らの親玉だけだろ―――御チビ! 」

 

「あ、はい! 」

 

「お前は春日部を見てろ。

 俺たちはちょっと出かけてくる」

 

「皆行くなら、自分は残ろうかね。ないとは思うけど、ペルセウスの連中がビビらされた仕返しに来るかもしれないし」

 自分で言ってて苦しい言い訳だけど、めんどくさいし、行きたくないのだよね。

 

「………そうね。まさかそんなことがあるとは思えないけれど、万が一ってこともあるもの。私たちがいない間、“ノーネーム”を頼むわよ、奴良さん」

 

「極めて了解、行ってらっしゃいませ」

 

 そういうことになった。

 

 

*********************

 

*********************

 

 交渉は決裂したという。帰ってきた3人のうち、冷静に話が聞けそうだった十六夜さんに聞いてみたところ、ペルセウスのリーダー ルイオスは面の皮厚く、ギフトゲームを行うことも嫌だと言って、レティシアを返す見返りに黒ウサギの隷属を要求したという。

 で、黒ウサギは自分たちに会いに来るためギフトを手放したレティシアさんへの負い目から、NOと言わずにいたらしい。

 

「な~るほどねぇ……それで黒ウサギと飛鳥さん、あんな感じなわけか。

 で、“ペルセウス”のリーダーはどうだった? 十六夜さんから見て」

 

「まぁ、完全に名前負けだな。個人としての脅威度はそんなでもないとは思うぜ」

 

 さよか、と答えて。口論?する二人の少女に目を向ける。

 

 目を向けた瞬間に十六夜さんがどこかへ行こうとしていたので待ったをかける。

 

「どこへいくつもり」

 

「さぁて、どこだろうね」

 

「当てようか。ペルセウスとのギフトゲームのために動くつもりなんでしょ? 」

 

「…だったら? 」

 

「自分も行く」

 多分死なないし。ここらで活躍したいし。

 

「いいのか? どこ行くかも何に挑むかも聞かずに決めちまって」

 

 なんてことはない

「役に立ちたいしね。自分の助けなんていらないかもだけど、コミュニティの為にこの力を使わせてもらいますよ」

 

「いいね、じゃあ行くか」

 

「おうとも! 」

 

 

*********************

 

 白夜叉にヒントをもらい、それを元に答えを得た感じの十六夜さんの先導受けてやってきました、“海魔(クラーケン)”と“グライアイ”との決戦試練場!

 

『挑戦者よ、よくぞ参った! 』

『汝試練を乗り越え、我らを打倒すれば―――』

 

「御託を聞いてる暇はねぇ。マジ時間ねぇからな! 」

 

「十六夜さん、自分は“海魔(クラーケン)”を潰すから、“グライアイ”の方頼む」

 

「分かった」

 超スピードで弾かれたように飛び出し“グライアイ”をぶん殴って彼方に消えていった。

 

『今のは一体なんだ…?! 』

 

 さて、

「彼も言ったが時間がない。なので早速始めさせていただこう」

 

 こちらを見るが、そこに自分はいない。

 

「ぐっ、ぬう…! 」

 念動力で自分を音もなく打ち上げ、“海魔”の頭上をとる。

 痛みは感じないが、Gがすごい。

 

「でも慣れた」

 変身、変化、肉体膨張

 

『! な、足?! 』

 

「ギガトンッ キィッーク! 」

 “海魔”と比べても巨大すぎる足で、思いっきり踏みつける!

 

「セイヤー! 」

 命中!

 

『ぐ、舐めるでないわ! この程度の攻撃で倒れてなるものか! 』

 当然だが、こんな攻撃じゃダメージは微々たるもの。軟体生物でもでかいから効くかと思ったけどそんなことはなかった。

 うだうだ考えている間に触手を足に絡めて絞め上げてきた。

 

「いたたた(棒読み)」

 

『骨を砕き、肉を喰らい、魂を喰らいつくそう! 挑戦者よ、死ねぇ! 』

 殺していいゲームだっけ。詳しいこと十六夜さんに任せてたから知らないんだけども。

 十分に絡みつかれた。今だ!

 

「脚部変身、眼球増殖―――ビーム発射」

 

―――ビィィィィ。

 

 終わった。何百本の光線で体を焼き貫かれ、“海魔”はたこ焼きになった。

 焦げた匂いしかしないけど。

 

「終わったみたいだな」

 十六夜さん。

 

「いまいちだったけどな、あの蛇の方がまだマシだったぜ」

 

「じゃあ? 」

 

「ああ、これでペルセウスをゲームに引っ張り出せる」

 

 自分はスッと手を挙げる。

 十六夜さんも応えて手を挙げてくれる。

 

―――パッァン! 

 ハイタッチ。いいね!青春ぽい。

 

*********************

 

「邪魔するぜ」

 

「い、十六夜さん…と、奴良さん?! 」

 

「どこ行ってたのよ こんな大事な時に! 」

 

「鍵、開いてたのに」

 

「あ、耀さん起きたんだ。もう平気ですか? 」

 さぁ、はよ。感謝の言葉、はよ!

 

「うん。ジンくんから聞いた、傷塞いでくれたって。

 ありがとう」

 

 はふぅ………。

 

「いいって、いいって。コミュニティの仲間として当然のことをしたまでだよ」

 

 

「黒ウサギ、これ土産な」

 

「なんですか、これ」

 

「スイカ? 」

 

「スイカね」

 

「ところがどっこいそうじゃないんだなー、ちなみに一つは自分がゲットしました」

 

 

???

 布を広げると中には。

 

 

 

*********************

 

「我々“ノーネーム”は、“ペルセウス”に決闘を申し込みます」

 

 

 ギフトゲームが始まる。

 

 

 




 明日、一巻分終了まで行きます。

前書き続き→魂闇鍋状態から生まれたので、自我が統合されても名残として口調が切り替わったりします。人への接し方も同様ですが、「さん」付けしている人はぬらりひょん的に“目上の人物”と考えている相手です。(黒ウサギは黒ウサギだからしゃーない。もといしゃーなしだな! )
・ビーム(目からビーム)について
 物理法則の違いから、このビームは肉体的頑強さがいかほどであっても防げません。者に当たれば焼き切り裂き、物に当たれば爆発します。


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第五話「ギフトゲーム、満天の星空」

『ギフトゲーム

 "FAIRYTALE in PERSEUS"

プレイヤー一覧

 逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀、奴良九朗

“ノーネーム”ゲームマスター

 ジン=ラッセル

“ペルセウス”ゲームマスター

 ルイオス=ペルセウス

 

クリア条件

 ホスト側のゲームマスターを打倒。

 

敗北条件

 プレイヤー側のゲームマスターの降参・失格

 プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなかった場合

 

 舞台詳細・ルール

 ※ホスト側のゲームマスターは、宮殿の最奥から出てはならない。

 ※ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない。

 ※プレイヤーたちは、ゲームマスターを除くホスト側の人間に姿()()()()()()()()()()()

 ※姿を見られたプレイヤーは失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う。

 ※失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけで、ゲームを続行することはできる。

 

宣誓

 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します―

 

 

 

 おはこんばんわー。ぬらりひょんでござりまするー。

 現在、ペルセウスの拠点にて、ギフトゲーム開始前の作戦会議中でーす。

 

 

「この奥に引っ込んでるルイオスをぶっ倒せば俺たちの勝ちだ」

 

「でも、姿を見られたら挑戦資格を失うだなんて…」

 

「つまりペルセウスを暗殺しろってことか? 」

 暗殺………まぁ自分できると思うんだけどなー。

 

「それならルイオスも伝説にならって睡眠中ということになりますよ。さすがにそこまで甘くないと思いますが…。それに―――」

 

「―――強そうなのがうじゃうじゃいる」

 耀さんの聴覚ヤベーな。さすがにパッシブじゃないんだろうけど、こんなんじゃあ独り言も言えないや。

 

「しかも姿が見えなくなる不可視のギフトまで持ってるし、言いたくないけどこっちは圧倒的に不利かも」

 

「仮にもギリシャ神話の英雄の兵隊だし、さぞお強いんでしょうね。怪物特攻のギフトとか持ってそうだし、自分は再生できるけども」

 

「いえ、それだけではありません。もっとも脅威となるのは、ルイオスさんが所持しているギフトなのです。もし、黒ウサギの推測が正しければ、彼の所持しているギフトは」

 

「隷属させた“元・魔王”サマ」

 

「そう…元・魔王………えっ? い、十六夜さん どうして? 」

 

「どうしてって、そりゃあ」

 ひゅー! かっくいいぜー。

「星? 」

 

「あれって…」

 

「ペルセウス座? 」

 いや、わからん。

 

「十六夜さんてば、もしかして意外に知能派でございます? 」

 

「何を今さら―――って、そんな話は後回しだ」

「今回は、3つの役割分担が必要だ。まずは、御チビと一緒にゲームマスターを倒す役」

 

「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加できませんから、それは十六夜さんにお任せします」

 自分は…?

 

「次に見えない敵を感知して撃退する役」

 

「うん」

 自分は……?

 

「最後に、囮と露払いをする役」

 

「いいわ。今回おいしい役は譲ってあげる。だけど、負けたら承知しないから」

 ………。

 

「何呆けてるんだよ、奴良 お前はこっちだ」

 へ?

 

「どゆこと」

 

「お前は御チビの護衛兼アタッカーだ。万が一にもないと思うが、俺が敵兵に姿を見られて戦闘できなくなった場合に代わりに戦ってもらう」

 

「あー………なるほど。ならこのままよりも…ジンくん? 」

 

「はい? 」

 ジンくんの首にそっと手を添える。

 うひょー細い。ええなあ。

 ―――変身。

 

「うわっ! 」

 にゅるりにゅるり、にゅるにゅる

 

「こんな感じでどうよ」

 

「なるほど、これなら『見えない』な。黒ウサギ」

 

「はい。ゲームのルール上、ペルセウスの兵の目に留まらなければ挑戦資格は剥奪されませんので」

 

 自分は今ジンくんのネックレスになっている。ひもの部分を細く透明にしているのでジンくん自身が見つかっても気づかれることはない感じだ。

 

「そんなに小さくもなれるのね…」

「重さも変わってる? 」

 飛鳥さんと耀さんが興味深そうな目で見つめてくる。かわゆい。

 

「なんにでもなれるのが自分のギフトだからね。例えばこの状態から耀さんのペンダントに変身することもできるよ………まぁ姿だけだけど」

 うねうねと動きながら喋ってみる。

……自分でもこの姿でなぜ喋れるのか不思議だわ。え? 喋れるの? え? 口ないんだけど? え? いやそもそも目がないのに見えてもいるよ?

 うわこわ(自分のことながら)

 

「あ、あの…奴良さん、くすぐったいんですけど…」

 

「あ、ごめんごめん」

 しゃーっ! くすぐったがって照れるショタきたこれ!

 なんかいいにおいするしー。くふー!

 舐めたらバレるよなー。あー! ペロリたいー!

 

 ………ふぅ。落ち着こう。

 

「じゃあ行くか」

 

 

*********************

 

「そこッ! 」

 

「ぐぁあ! 」

 耀さんの蹴りで不可視の兵士が吹っ飛び激突して気を失い、兜をドロップした。

 いやいや十分化け物じみてるよ。何この子怖い。

 

「これが不可視のギフトで間違いなさそう」

 

「ハデスの兜のレプリカです」

 

「やっぱり不可視のギフトがゲーム攻略のカギになりそうだな」

 

「このゲームじゃ、ゲームマスターまでの道のりに兵士置かれるだけで攻略難易度爆上がりだしねぇ」

 作戦会議からしばらく。

 自分・十六夜さん・耀さん・ジンくんは、少なくなった兵士を避けつつ宮殿内を探索していた。

 聞こえる水の音と兵士たちの声から、飛鳥さん大活躍らしい。兵士も減って進みやすい。ナイス!

 

「連中に見つからず、ルイオスのところにたどり着くには最低でもあと一つはこいつが欲しいとこだが」

 

「気にしなくていいから」

 

「悪いな、だが今回はソロプレイじゃ攻略できそうもねえし。これでもお嬢様や春日部には感謝してるんだぞ」

 

「ちょ、おいー。自分はー? 」

 

「奴良はまだ何もしてねぇだろ」

 ぐぬぬ…。

 あ、耀さん笑顔。

 

「埋め合わせは必ずしてもらうから、奴良にも」

 

「自分も?! 」

 え、埋め合わせ…何すれば…。

 

「あ、あの奴良さん…また…」

 おっと、

 

「御チビ、奴良 お前らは隠れてろ。もしも兵士がやってきたら奴良が何とかしろ。とにかく見つかるなよ」

 

「わ、わかりました」

「りょーかい」

 

 ジンくんは木箱の中に隠れた。

「大丈夫でしょうか…」

 

「まぁ、平気でしょあの二人なら。それよりジンくん。口とじてた方がいいよ。相手方に耳のいい奴いるかもしれないし」

 

「はい」

 

 さて…? この姿で知覚するのも慣れてきた。

 無機物に変身すると、その全身が目であり耳であり舌であり鼻であり肌、感覚器として使えるらしい。試しに眼球を生やしてみたらそっちに視覚全部持っていかれたから、両立はできないようだけど。光線出すならビーズネックレス(ビーズは眼球)に変身し直さないと撃てないかんじですね。

 

「いたぞ! 名無しの娘だ! 」

「捕らえろ! 人質にして仲間を―――! 」

 

「邪魔だ! 」

 ………声からして兵士たちが来たけど、あっさり蹴散らされたようですね。さすが十六夜さん。決して弱いわけではないはずなのに、雑魚にしか聞こえないわ…。

 

「どうだ春日部、いそうか? 」

 

「ううん。他の音が大きすぎて――きゃッ! 」

 ドゴンッ! と叩きつけられるような音。そして悲鳴。耀さん攻撃受けたな。ジンくんもびくりとしたものの、この場を動こうとはしていない。自分も出ていって殴り飛ばしてやりたいが我慢。どうせ不可視になった相手を探知することは自分には不可能なんだから。

 

「春日部、一度引くぞ」

 

「……キャッ! 」

 ………。追い打ちかけやがったな敵。

 

「あぶねーな オイッ! 」

 

 

「………前ッ! 」

 破砕音。よくわからんが敵を撃破したらしい。んー? ああ超音波がどうとかだっけか。聞こえねぇよ。自分の感覚器今は人間と同程度だからな。

 

 

「さすがだな春日部」

 

「ううん。友達のおかげ」

 いや、そこでエコロケ思いつくあなたがすごい。自分も変身すればたぶんできると思うけど、その状況で選べないよ。

 

 兵たちが向かってくる足音が聞こえる。

「ここは任せて」

 

「ああ。―――御チビ! 」

 木箱から出てきたジンくんに兜を放り投げる。

 

「はい…! 」

…危なっかしいな。

「よっ、と。どうぞ」

 キャッチして被せてやる。

 

「ありがとうございます」

 

 

「行くぞ、大将のところへ」

 自分なんもしてないなー。楽でいいけど。

 

 

*********************

 

 最奥;コロッセオ

 

「皆さん…どうかご無事でいらっしゃいますように…………

―――あっはははは! ははははは! くすぐったい!くすぐったい! 何事でございますかー! 」

 

「いやぁホントいじりがいがあるよな黒ウサギ! 」

 

「せっかくのギフトで何やってるんですか…」

 

「いやいや、男なら透明人間になれたら一度はやりたいことだし」

 

「ハハ! 奴良の言う通りだな」

 

 不可視のギフトで透明になってくすぐった十六夜さん。

 うらやま!

 自分も便乗してくすぐりついでに黒ウサギの“あんなところ”や“こんなところ”を触りたかったけど、あんまり離れるとジンくんにかかった不可視の対象外になるみたいだから、断腸の思いで我慢しました。

 

 ネックレスから“にゅるり”と人型に戻る。うう、感覚が無機物だった頃と微妙に違って混乱するな…。次の変身までには最適化されるだろうけど。

 

「ジン坊ちゃん、奴良さん…十六夜さん…!

―――って! この期に及んで緊張感なさすぎです! このお馬鹿様! お馬鹿様!」

 どこに持ってたそのハリセン。ギフトか? ツッコミの“恩恵(ギフト)”なのか?

 

「おいおいまじかよ。ノーネームも止められないなんてやっぱり全員粛清決定だ。こんな風にな」

 玉座ですか、笑えますね。部下を大切にしない上司は嫌われるぞ~?

 

「レティシアさん! 」

「レティシア様…」

 

「さて、なにはともあれ『ようこそ最上階へ! ゲームマスターとしてお相手しましょう』あれ? このセリフ言うの初めてかも」

 そう言ってルイオスは飛んだ。

 靴から翼みたいなエネルギーが出て、ふわーって。

 あれだな、空飛ぶ靴というと『家庭教師ヒットマン REBORN! 』のミルフィオーレのやつらが着けてたのを思い出すな、うん。

 

「とはいえ、実際に戦うのは僕じゃないけど。“ペルセウス”のリーダーが、わざわざ出向く相手じゃないからね、名無し君」

 高いな。 飛べない自分じゃ めんどくさい高度だ。

 

「ルイオス様の代わりに…? ということは、まさか! 」

「あァ、早速お出ましらしいな、元・魔王サマ―――ペルセウス座には昔から悪魔と呼ばれる星がある。その名は『アルゴルの悪魔』」

 

 ルイオスが首についてる首(ややこしいな)を外して天に掲げる。それは光輝き雷鳴と共になんかすごい感じになった。

 

「目覚めろ! 魔王アルゴール! 」

 雷が落ち、光が治まるとそこには拘束された魔王様がいた。

 すごいんだろうけど、すごさを感じ取れない………。

 あれだよ、「すごい気配だ…! 」とか、「なんて力…次元が違いすぎる…ッ! 」とかそういうのには力を感じ取る力が必要なんだなと思いました(こなみ)。

 

「見せてやれアルゴール。魔王の力を」

 『GYAAAAAAA! 』ってかんじで叫んでいます。アルゴール。うん、エネミーっぽさが前面に出てるせいでエロスはあまり感じないけど、拘束服ってアリだね!

 こう、ギチッて感じがさぁいいよねぇ。

 

 そういえば、Fate的に言うと、ペルセウスとゴルゴーンってどうなんだっけ? これ見たらどう思うんだろう………んー? くそぅ。『自分』の中にいる奴、エンジョイ勢かライトユーザーしかいねぇ。全員「よく知らない」ってどういうことだよ。

 

「こ、これは まずいです! 」

 へ?

 

「危ない! 」

 黒ウサギがジンくんを庇い伏せ、その上をアルゴールの石化ビームが通過していった。

 考え事してて、『不意を打たれた』自分の腕が石化した。

 

「ぅ、うおおっ!! 」

 やばいと思ったので首を引きちぎって大胆エスケープ!

 自分は間一髪石化を免れた

 

「奴良さん?! 」

 

「あー、大丈夫大丈夫。焦ったー」

 いやホント焦った。何やってんだよ自分。『ぬらりひょん』の弱点は不意を打った攻撃。それ以外は当たりさえしない。だから油断しなければ大丈夫。という油断をしてしまっていたぜ。

 

「へー、名無しにしては面白いギフト持ちだな。頭部だけで活動可能なんて。自切で石化を逃れるなんて当たったのが腕で良かったな。ま、お仲間も今頃は石になってるだろうけど」

 

「そんな…」

 …返す言葉がない。頭部に当たっていたらアウトだったかもしれない。デフォルトでは脳みそ一つしかないし、あの石化速度じゃ硬直の間に完全に石化してしまう。

 自戒しよう。自分は無敵でも最強でもない。油断は死につながるってことを。

 

「…星霊アルゴール、白夜叉様と同じく星霊の悪魔」

 

「簡単には終わらせないよ。ノーネーム風情が、僕に楯突いたらどうなるか たっぷり教えてやらないとねぇ…」

 

『AAAAAAA! 』

 アルゴールが唸ると、なんか翼がでかくなって、拘束具の紐? 見たいのを振り回して暴れ始めぇぇ! あっぶね! 『奴良九朗』が『奴良/九朗』になるところだった。

 咄嗟に変身したのがぬいぐるみなのはそのせい。

 

「ごめん無理。隠れるわ」

 華麗に再変身! モード「虫」! なんとなく蠅になってみるっ! コバエな。何気に蠅はでかいし目立つからな。

 ぬらりひょんパワーで空中で踏ん張る。風圧がすごい。飛ばされそう。

 

「奴良さん?! 」

 すまんジンくん。こそこそルイオス狙うから許して。

 

「当てが外れたな御チビ。レティシアが戻れば、何とか魔王に対抗できると思ってたんだろう? 」

 

「でも、まだ僕らにはあなたがいます! 」

 自分は、逃げたようなもんだし勘定されませんか そうですか そうですね。悲しみ。

 

「あなたの力、この舞台で証明してください! 」

 

「オーケー、よく見てなぁ! 」

 かっこいいぜ。さて移動しよう。

 

 アルゴールが十六夜さんに攻撃する。直撃か。

 答えはNO。掴んでる。やばい。紐みたいなの掴んでる。

「さて始めようか。元・魔王様」

 くわばら くわばら。

 

「~~~! どうしたアルゴール! 人間なんて捻り潰してしまえ! 」

 いやー (ヾノ・∀・`)ムリムリ

 

『GYAAAAAAA! 』

 紐を大蛇に変えて十六夜さんを拘束。うむ、あれ今度自分でもやってみよう。

 

「十六夜さん! 」

 

「―――おいおいこの程度かよ、魔王の名が泣くぜ」

 難なく蛇をぶっちぎり、拘束を脱する。

 やーん。この人強すぎー。

 

「なっ?! 貴様、どんなギフトを持っているんだ! 」

 

 アルゴール選手タックルー! 十六夜選手、迎え撃ったー!

 組合い、押し合う状況になっているぞー! 対格差は圧倒的だー!

「押しつぶせ! アルゴール! 」

 潰されてしまうのかー?! (フラグ)

 

 叫びと共にアルゴールの体が膨れ、力を増していく。しかし十六夜さんはまるで堪えた様子を見せない。

「いいぜ、いいぜ、いいなおい! いい感じで盛り上がってきたぞォ! 」

 そのまま腕力だけで持ち上げて『びたーんびたーん』。

 きゃっほー、強い。

 漫画かよ、ラノベだよ。

 

「ハッハ! どうした元魔王サマ! 今のは本当の悲鳴みたいだったぞ! 」

 うわー。

 

 背後からルイオスが迫る。手に持ったのは不死殺しの鎌だろうか。

「人間がッ! 図に乗るな! 」

「てめぇがなッ! 」

 かわす。

 

「クッ! ゥオオ! 」

「遅ぇよ」

 返す刀で切りつけたルイオスの鎌を狙って十六夜キック!

 吹っ飛んだものの、地面に落とされるまでは武器を取り落とすことなく手にしたままのルイオスはさすがというべきか。

 

「もういい…ここまでだ。全て終わらせてやる――アルゴール! 」

 ピクリとアルゴールが動き立ち上がる。

 

「奴に地獄の苦しみを、永遠の牢獄に叩き落せ! 」

 石化ビームの巨大版を放ってきた。

 

「ま、まさか世界そのものを石化できるギフトを?! 」

「十六夜さん! 」

 そのまま十六夜さんのもとにビームが迫る。

 

「………しゃらくせぇ!! 」

 

 ………蹴り砕いた。すっげー。やっぱ生で見るのは違うわー。恩恵云々よりもあんな自信満々に蹴りつけられるのがすげぇわ。なんであんな(いい意味で)傲慢に振る舞えるかなー。イヤーアコガレルワー。

 

「ハァッ! 」

 そしてそのまま飛び出してアルゴールの額を拳で砕き、撃墜。パネェ。

 

「そ、そんな…馬鹿な! 」

 あー、ルイオスくん膝ついちゃったじゃーん。完全に敗北悟っちゃってるじゃーん。

 

「………! このギフトゲーム、ノーネーム側の勝利と―――」

「おっと、そうだ。もしこのままゲームで負けたらお前らの旗印、どうなるか分かってんだろうな」

 ……読めた。自分は自分でアルゴールのところに行こう。

“さあ、実験を始めようか” つって。

 

「なに? お前らの目的は吸血鬼(あれ)じゃないのか? 」

「そんなもんいつでも取り返せるだろ。まずは手に入れた旗印をかけて次のギフトゲームといこうぜ」

 

 目標:“星霊”アルゴール

 準備よーし。

 

「今度は、ペルセウスの名をいただこうか。そうしてコミュニティ“ペルセウス”を徹底的に貶めてやる。永遠に活動できないくらい、何もかも 徹底的にな」

「ちょ、ちょっと待て、待ってくれ! 」

 

 分解光線発射!

びびびびび~。

 おー、眼球が小蠅サイズだから小さいけど確実に分解できてる。

 霊格だか神格だかでは自分は圧倒的に劣っているはずなのに。

 ………やっぱこれ格上相手でも効果あるんだな。防御力無効でイケるのか?

 

「名無し風情に歯向かうとどうなるか…たっぷり教えてやるぜ」

「くっ………! 」

「それが嫌なら、来いよ命がけで。

 俺を楽しませろ!」

 

 ルイオスさん咆哮挙げて向かっていって負けましたとさ。

ちゃんちゃん。

 

 

 

 

*********************

 

「レティシア様…! 」

「レティシアさん…! 」

 

 勝利後、コミュニティのホームにて、眠り姫が目を覚ました。

「ジン…黒ウサギ…ここは、そうか、私は帰ってこられたのだな…」

 

「「「じゃ、これからよろしくメイドさん」」

 よくハモったな。自分ハモろうとしたけどタイミング掴めなかったぜぃ。

 

「へ? 」

 

「へ? じゃないわよ。今回のゲームで活躍したの私たちでしょ」

「私なんて力いっぱい殴られたし、石になったし」

「あ、それ私も」

「つーか、挑戦権持ってきたの俺だろ」

「自分も頑張ったよー。挑戦権の方では…ゲーム本番では活躍らしい活躍はなかったけどね」

「ともかく、所有権は俺たちにある」

 

「なぁに言っちゃってんでございますか! そんな無茶苦茶な話! 」

「ふむ、仕方ないな」

 

「え? レティシア様? 」

「今回の件で皆に恩義を感じている。きみたちが家政婦をしろというなら喜んでやろうじゃないか」

 

「私金髪の使用人に憧れてたのよ。これからよろしくね」

「よろしく…いや、使用人だからよろしくお願いします…かな」

「使い勝手のいいのを使えばいいよ」

「そうか、いや そうですか…いやいや、そうでございますか…? 」

 

 メイドができました。しかし自分は所有権割り振られませんでした。ぐぬぬ。貢献度が足りなかったか~。介入し損ねた。

 

*********************

『かんぱーい! 』

 

 屋外歓迎会~。

 料理は豪華っちゃ豪華だけど~って感じ。まぁ、自分は味音痴なところもあるし全然へっちゃただけどね。極端な話何も食べなくても生きていけるし。

 

「みんな楽しそうね。でもどうして外で歓迎会なのかしら? 」

「うん。私も思った」

「黒ウサギなりの精一杯のサプライズってことじゃねぇか? 」

「いやでも中々だよ。夜に外で食事なんて、林間学校以来だ、風も気持ちいいし」

 

 言っている間に流れ星が降り始めた。

「えー、今回ゲームに負けたペルセウスは、サウザンドアイズから追放されたのです。そしてあの星空から旗を降ろすことになりました。

 星に流れを託すのもよし。じっくり観賞するのもよし。とにかく今日はみんなで楽しみましょう! 」

 言って黒ウサギは兎らしくピョンピョン跳ね始めた。ナゼェ。

 まぁ、お胸様が立派なので良し!

 

「星空から星座を無くすなんて…あの星の彼方まで、すべては箱庭を盛り上げるための舞台装置に過ぎないということなの? 」

「そう、みたい…」

「星がきれいだなぁ…舞台装置だからこそなのか、くっきり見えていてきれいな星空だ」

 

 

 

十六夜さんと黒ウサギが旗をどうとか話していたが、聞き耳は立てないでおいた。

 

 

 

 

 気づいてしまうと目を奪われる美しい星空。この世界でなければ見れなかった本当に美しい芸術。自分はこの後いくつの世界を渡ろうとも、この満天の星空を忘れることはないだろう。

 

 

 



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第六話「火竜誕生祭、導入・移動回」

ここから原作2巻の内容に入ります。アニメ準拠なので6話ですね。



 

 

 おはこんばんにちはー。ぬらりひょん(仮)こと奴良九朗どぅえーっす。

 ペルセウスとのギフトゲームからしばらく、小規模なゲームにちょいちょい手を出して勝ったり負けたり。早く次の話にならないかなーと思いながら日々を送っています。

 いやね? バトル系のゲームだと思ったら知恵を試されるゲームだったとか、よくあるのよ。自分お世辞にも頭がいいとは言えんからさぁー、ゲットした“恩恵(ギフト)”をそうやって手放すことになったりするのよねー。

 そんなこんなでプラスマイナスゼロ。うんにゃ、+であるけどその+分はコミュニティに収めているから、実質自分の手持ちギフトは増減なし…悲しみー。

 他3人が連戦連勝しているだけに、焦らずにはいられないね。黒ウサギやジンくんは総合的にはプラスだからいいって言ってくれてるけど…。

 

 

 今日は明け方に開催されるとあるギフトゲームに参加して、勝ってきました。賞品はちょっとした毒のギフトが付与されたナイフ。蔵の方に納品してホームへ。

 

 飛鳥さんに耀さんに…あー、リリ(だっけか、狐の)

「よっすー。どしたの3人ともそんな興奮と怒りが混ぜこぜになったような表情で」

 

「奴良君、帰ったのね」

「奴良さん、お帰りなさい」

「ゲームどうだった? 手ぶらってことはまた負けたの? 」

 

「ぐふう、いやいや負けてないからね。もう置いてきただけだから。それでどうしたの? 」

 

「ちょうどいいわ。詳しいことは後で話すから、今は私たちについてきてちょうだい」

 飛鳥さんはそう言って歩き出してしまった。

 とりあえず耀さんの隣に立って歩き始める。

 

「で、どこに向かってるの? 」

 

「地下の書庫に」

 

 …………ようやく始まったみたいだ。火竜誕生祭のエピソードが。

 

 

 

 

 

*********************

 

「ジ、ジンくーん! 」

 顔面に膝をもらった我らがリーダー、半泣きで くずおれました。

 

「オイオイお嬢様、寝起きにいきなり飛び蹴りは命にかかわるからやめた方が…」

 ゴメンゴメンとジンくんに謝ったのち、キッと十六夜さんを睨めつけ

 

「緊急事態よ! これを見て! 」

 手紙を十六夜さんに渡した。

 自分も見せてー。ひょっこりと後ろからのぞき込む。なんだかドキドキするよぉ………きゃっ♡(キモい)。

 

「“火竜誕生祭”だぁ? 北側の美術品展覧会及び品評会に加え、様々な主催者のギフトゲームを開催。メインは階層支配者(フロアマスター)が主催する大祭を予定しております―――だと? クソが! すこし面白そうじゃねぇか! 行ってみようかなぁ、オイ! 」

 あ、髪が顔に。あ、少し興奮すりゅ(キモイ)。

 

「ノリノリね」

 

「どうしたんだよこれ」

 そろーり、離れる。名残惜しいが。

 

「黒ウサギが秘密にしていたみたいなの。春日部さんがたまたま見つけたんだけど」

 

「たまたま見つけた」

 

「へぇ……? 秘密にねぇ……」

 流し目でジンくんを見る。素敵!

 

「だ、駄目ですよ?! ここから北の境界までどれだけの距離があると思ってるんですか」

 知らなーい(めちゃんこ遠いのは知ってる)。

 

「こんなに面白そうなお祭りを、秘密にされてたんだね私たち…くすん」

 おーっと、小芝居フェイズ。

 

「毎日コミュニティを盛り上げようと頑張っているのに、残念だわ…ぐすん」

 

「ここらで一つ黒ウサギたちには痛い目に遭ってもらうのも大事かもしれねぇなぁ!…くすん」

 もれてるもれてる。

 

「コミュニティの仲間にこんないじめ(仲間外し)を受けるなんて…ぐすん」

 

「あの、聞いてます? 」

 聞いてるけど聞いてない。

 

 

 

*********************

 

“黒ウサギへ

 近日おこなわれる箱庭の北と南の“階層支配者(フロアマスター)”による共同祭典“火竜誕生祭”に参加してきます。

 私たちにこの祭りのことを秘密にしていた罰として、

 今日中に私たちを捕まえられなかった場合4人ともコミュニティを脱退します。

 死ぬ気で探してね♪

 なおジンくんは案内に連れていきます。”

 

 

「あ、あの―――

 問っ題児様方はああああああああ!!!!」

 

 

 

*********************

 

 かっふぇ(敢えての舌足らず発音)にて、お祭りに行くための会議中。

「―――さてと、それで北側に向かう方法だが…せっかくの旅路だ。オモシロオカシク過ごすべきだと思うが」

 

「せやね」

「賛成」

「異議なし」

 

「つーわけで、何か素敵なプランはねーのか 我らがリーダー? 」

 

「予想はしてましたけど、やはり北側の境界壁までの距離を知らないのですね」

 はぁ…と肩を落としてジンくん。「この箱庭の世界は恒星級の表面積を持っています。“境界門(アストラルゲート)”を使えば外門間の行き来は楽ですが、使用料が高くて…」

 

「恒星級の表面積…? 」

「どれくらい? 」

「仮に太陽と同等だとすると、地球の約一万三千倍だな」

 どっしぇ~~。

 空間転異系能力欲しいな(唐突)。

「一万三千っ?!

 ちなみにここから北側の境界壁までの距離は…? 」

 

「大雑把でいいなら…ここは少し北寄りなので、98万kmぐらいかと」

 

「「「「わぁお」」」」

 

「そういう訳なので、今なら笑い話で済みます。諦めてもう戻りませんか? 」

「そ、その方がいいんじゃないかな…? 」

 そういえばなんでリリいるんだろう…。マジでなんでいるの?

 じー………。

 

「な、なんですか? 」

「いやいやなんでも」

 

「黒ウサギたちにあんな手紙を残して引けるものですか! 」

「おうよ! こうなったら招待状送ってきたサウザンドアイズに責任取ってもらうぞコラ! 」

「もらうぞーコラ」

 

「あっはっは。ジンくん、ここはしょうがないよ。この三人は言い出したら聞かないんだから。諦めて流れに乗っちゃおうよ、ね? 」

 ぽんぽん、とジンくんの肩をたたく。

 

「奴良さん…」

 うん どんまい。笑みが引きつっているが耐えるのだジンよ、乗り越えた先に立派なリーダーになる未来が待っているはずなのだ。

 

 

 

 移動してサウザンドアイズ支店。

「つーわけで北側まで連れてけやコラ」

「いきなり脅迫とは礼儀を知らんのぉ 小僧」

 うん…十六夜さん、よくもまぁ上から(?)言えるものだ、度胸が違う。自分はおっそろしくてそんなふうには言えんわ。

 

「まぁ座れ。招待者としてそれくらいのことは考えておった」

「おお話が早え」

「だがその前に一つ問いたい。

 おんしらが魔王に関するトラブルを引き受けるとの噂があるそうだがまことか? 」

 

「ええそれなら本当よ」

「それはコミュニティのトップとしての決定か? 」

 ええ人だよなぁ白夜叉。心配+リーダーを立ててくれてるんだろうか。わからんけど。

 

「ふむ………」

 あ、煙管をくるっと回して灰をカンッって落とすやつだ。かっけぇ、すごいロマンを感じる。今度自分も人前でやってみよう。

「その魔王打倒を掲げたコミュニティに東の階層支配者(フロアマスター)から正式に頼みたいことがある。よろしいかなジン殿」

 ニヤリとした笑み。えろい。表情でエロいっていいよね。

 

「は、はいっ! 謹んで承ります! 」

 

「ところでおんしら、階層支配者(フロアマスター)に関してはどの程度知っておる」

 

「私は全く知らないわ」

「私も」

「自分も」

「俺はそこそこ知ってる」

 さすがやでー。十六夜さんアンタさすがやでー。

 

階層支配者(かいそうしはいしゃ)―フロアマスターとは箱庭の秩序の守護者であり、下位のコミュニティの成長を促すために設けられた制度だ。そして秩序を乱す<天災>魔王が現れた際には、率先して戦う義務がある。

 差の義務と引き換えに、我々階層支配者(フロアマスター)はさまざまな特権を与えられているのだ。此度の共同祭典は北の階層支配者(フロアマスター)の一角、“サラマンドラ”の世代交代に端を発しておる」

 

「“サラマンドラ”?! 」

 

「知っているの? 」

 知っているのかジンくん!

 

「先代のリーダーがいたころに親交のあったコミュニティです」

 なるほどリリはこれを言うためにこの場に…! いや多分違うけども。

「まさか頭首が変わっていたとは知りませんでした。それで今はどなたが頭首を? 」

 

「頭首は末の娘、サンドラが火竜を襲名した」

 『サラマンドラのサンドラ』って、覚えやすいね。名前かな?名前で選んだのかな?

 

「サンドラちゃんが?!」

「ちょっと待ってください、彼女はまだ11歳ですよ? 」

 11歳とかまだ子どもだからな、確かに。自分的にはぎりぎりかな。

 

「ジンくんだって、11歳で私たちのリーダーじゃない」

「そうそう、それに能力が伴っていれば年なんて関係ないんじゃん? この箱庭では」

 たしか龍の角がどーたらこーたらでサンドラちゃんが頭首になったんじゃなかったかな? 詳しいことは覚えてないけど。

 

「それはそうですけど…」

「だーから“火竜誕生祭”か」

 

「うむ、今回の大祭は北の次代マスターであるサンドラのお披露目も兼ねておる。

 しかしその幼さ故、東の階層支配者(フロアマスター)である()()共同のホストを依頼してきたのだ」

 

「あら、それはおかしな話ね。『一角』ということは、北側にはほかにも階層支配者(フロアマスター)がいるのでしょう? そちらに頼むのが筋ではないかしら」

 

「…まぁ、そうなのだがな」

「幼い権力者をよく思わない組織があるとか…? 」

 フロアマスターのコミュニティともなれば尚更ねぇ…?

「そんなところだ」

「呆れた…」

 

「いやそれに様々な事情があってのお―――」

「ちょっと待って、その話長くなる? 」

 こら耀さん! 人の話遮っちゃダメデショー!

 

「ん? そうだの、短くともあと一時間くらいかかるかの」

 耀さんグッジョブ。一人脳内漫才たのちい。

 顔を見合わせる問題児たち(自分含む)。

 

「白夜叉! 今すぐ北側に向かってくれ! 」

「それは構わんが…依頼の件は受諾でいいのか? 」

 

「構わねぇから早く!

 事情はおいおい話す。何より、その方が面白れぇ…」

 

「そうか、面白いか。それなら仕方ないの」

 

 そう言うと白夜叉様は目をつむって柏手二つ。

 

「よし、北側に着いたぞ」

 さすがである。みんなポカーンとしているが、当然である。あんなのでなんだっけ…えー、98万㎞だっけ?を移動とかわけわからんよな。自分もわけわからん。

 

「「「「「は? 」」」」」

 

 

 



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第七話「なんちゃって、『例外の方が多い規則』」

「わー、すごーい! 」

 高台から北側の様子を眺める。景色は最高、目に映るものすべてが新鮮で、吹き抜ける風も匂いも、さっきまでいた東のものとはどこか違っていて、思わず叫びたくなる。

 

「へー、東とはずいぶん文化様式が違うんだな」

 

「やっほー!! ところ変われば文化も変わるってことかね? 」

 

「今すぐ降りましょう! あのガラスの歩廊に行ってみたいわ。いいでしょ? 白夜叉! 」

 わくわく飛鳥さんかわゆい。

「かまわんよ。続きは夜にでも」

「見ィつけたのですよぉ………っ! 」

 白夜叉の言葉を遮り空から何かが降ってきた。

 

「…ふふふふふふ………よぉやく見つけましたよ。

 問題児様方! 」

 腰に手を当てて、そのポーズはっ!

『アームアキンボー』!!

なんかの漫画で見た!親が子を叱るときにもみられる、威嚇ポーズ!!

 

「逃げろっ! 」

 十六夜さんが飛鳥さんを抱えてジャンプ! 逃走!

 

 ズルい!!飛鳥さんの柔らかい体に―――じゃなくて、お姫様抱っこまじか! くっそこのイケメンめ! するのもされるのも羨ましいじゃねーか!

 

 落ち着け、思考を加速させろ、『HUNTER×HUNTER』並みに!

 

 

 黒ウサギはこちらに駆けてきている。自分の足では多分ぎりぎりだ。

 耀さんは反応しても溜が遅れている。捕まる。

 自分が耀さんをお姫様抱っこ…無理だ、そして無意味だ。位置関係的に耀さんの方に行けば捕まる。人一人抱えて逃げられるほど黒ウサギは易しくない。くっ…! 耀さんの服装的に暖かさや柔らかさが、お姫様抱っこすれば直に味わえるのに…っ! 惜しい…惜しいが仕方ない。身代わりになるのは自分にメリットがないから無しであるし、ここは逃げよう。

 

 ここまで『10月18日に生まれた1人』十の十八乗分の一、すなわち刹那の時間しかたっていない

 

…というかっこつけ。

 実際は一秒未満程度だね。その、それでもごくわずかな時間で黒ウサギは耀さんを捕まえ、自分の方に来ようとしている。箱庭の貴族は伊達じゃない。

 もっとも自分だって普通じゃない。とっくに逃走準備は済んである。

 肉体変化の応用、オマージュ技。

『あ』『それではみなさん ご唱和ください―――』

例外の方が多い規則(アンリミテッドルールブック)

 

「―――離脱版」

 脚部を巨大化させ反動で大ジャンプ。十六夜さんが飛んで行った方向めがけて念動波でドン! 肉体がちぎれそうだが大丈夫! スピードは出た、追いつける!

 

「む……。耀さん? 後でたぁっぷりお説教タイムなのですよ…!」

「りょ、了解…」

 耀さんを白夜叉に放り投げダッシュ! 半端ねぇ。あばよ~。

 

「どうぇ! コラ黒ウサギ! 最近おんし、いささか礼儀を欠いていると思わんかっ! 」

「耀さんをお願いします! 黒ウサギは他の問題児様を捕まえに参りますので! 」

「…そか、がんばれー」

「はいッ!」

 

 

 

*********************

「どう? 」

「いねぇみたいだな。出てきていいぜ」

「まさかこんなに早く追いつかれるなんて…」

「黒ウサギを炊きつける餌としちゃあ冗談でも効果抜群だったってことだ」

「黒ウサギはトラウマがあるからねぇ…怒ってる以上に焦ってたんじゃない? 」

 ナチュラルに会話に参加する自分。案の定気づいていなかった飛鳥さんはビクッとなった。

「きゃっ! 誰?! 」

「落ち着け。姿見せろよ奴良」

 

「なっはっは。十六夜さんはやはり気づかれていましたか」

 ぬるりと変身、飾り紐から人になる。

 

「奴良くん? 驚かせないで頂戴…。捕まってなかったのね」

 驚いた様子が心地よい。ぞくぞくする、むしろ『じゅんっ…!』ってなる。何の効果音かって? 言わせんなよ♥

 

「ま ね。耀さんは残念ながら捕まっちゃったみたいだったけど」

「そう…耀さんとも町を見て回りたかったのだけど…。黒ウサギに見つかる前に、町を散策しましょう。二人とも、エスコートして下さる? 」

 

「へぇ、野蛮で凶暴そうだと思われていたはずだけどなあ? 」

「細かいことを気にしていては、素敵な紳士になれなくてよ? 」

 うっはー…こういう会話憧れるなぁー。軽口たたき合う感じ? なんていうか、こう…双方含み笑いな感じ。自分には無理だわー。

「ではでは自分は、付き人役で」

 変身。といっても服と年齢だが。服を執事的な燕尾服にして、今の自分の肉体を若返らせ少年にしたような姿に変身。ちなみにどの入ってない片眼鏡装備だ。かっくいいぜー自分。

 

「あら、雰囲気あるわね。でも少し違うわ」

「え、そうなの? 」

 飛鳥さんに正しい付き人感のある格好を指導してもらい、いざ出発。

 

 

 

 尊い…。なんかなー、美男美女が腕を組んで歩いてる姿、絵になるわ~。後ろから見ているだけでもニマニマしてしまう。オタク心が満たされていくぜ。

 

 

*********************

 一方その頃、一人捕まった耀さんは脱退脅迫諸々を白夜叉から叱られ、ギフトゲーム“造物主たちの決闘”への参加を勧められていました。

 黒ウサギと仲直りするため、賞品の“恩恵”を求め、参加を決意する耀さんでした。

 

*********************

 

「見て見て! 歩くスタンドと歩くランタン! かぼちゃのお化けはいないのかしら! 」

 飛鳥お嬢様うっきうきである。

「ハロ…何とかというお祭りに出てくる」

「オイオイかぼちゃのお化けって『ジャック・オー・ランタン』のことだろ? 今どきハロウィンくらい………ってそうか、お嬢様は戦後間もない時代から来たんだっけ? 」

「自分の時代でも『かぼちゃのお化け』って呼ぶ人いるよ。意味が分からなくても盛り上がれるのはさすが日本人だよねー」

 

「…そう、十六夜君たちは少し未来から来たのね。

 私のいたところは本当につまらなかったわ。人心を操るなんて力を持って生まれたせいで、隔離のような形で寮生の学校に閉じ込められていたもの」

 

「そうか…」

「でもっ、私箱庭に来てよかった! こんな素敵なことに出会えたんだから」

 お、おおお…。

「その『素敵なこと』には自分らとの出会いも入っているので? 」

 

「あら、言わないとわからないかしら? 」

 ありがとうございますっ!

 

「さっき奴良も言ってたが、お嬢様。ハロウィンが元々は収穫祭だってのは知ってるか? 」

 

「え? 」

 うんうん、と頷いてみる。

 見られた。なに? ドキがムネムネするからやめてほしぃ。

「ついでに言うと、“ノーネーム”の裏手には莫大な農地跡があって、あの土地を復活させられりゃコミュニティも大助かりだと思うんだが………いかがなもんかね」

 

「え、ええ…そうね」

「知らんかった。さっすが十六夜さん、よく見てますなぁ~」

 

「どうも。―――要するにだ、いつか農地を復活させて、俺たちの収穫祭(ハロウィン)をしようっていう提案なんだが、どう思う? 」

 

「素敵ね!」

「うんうん。実にロマンティックな提案だと思う! 」

「じゃあ俺たちが最初に主催するギフトゲームはハロウィンで予約しとこうぜ。箱庭で過ごす以上、やっぱり主催者(ホスト)は経験しとかないとな」

 

 は~、不覚にもときめいてしまったゼ」

 

「ええ、ええ! 素晴らしい提案だわ。それならコミュニティも助かるし、とても楽しそうだもの! 」

「そのためにもコミュニティ復興させないと。ノーネームのままじゃ参加者も集められんよ」

「だな、名を売っていくのと並行して」

 

「農地を復活させないといけませんね………♪」

 …んー?

「そうね、それから! 」

「ホストを務めるには皆さんが必要なので、おとなしく捕まってくれますよね…」

 黒ウサギキター!!

 

「「断る!」」

 逃げ―――れない⁈

 服を、掴まれている? いや抱き着かれている!!

 リリちゃん、いかんですよ。自分はロリコンではないので!

 見れば飛鳥さんは足をレティシアさんに掴まれてベチャッってなってた。南無(合掌)

 逆じゃね? 能力的にいざとなれば振りほどいて逃げられる自分には、元魔王のレティシアさんが対応するのが正解じゃね?

 まさか自分、ロリコンだと思われてる? おーまいがっ!

 

「ふふ、逃がさないぞ飛鳥」

「十六夜君! 簡単に捕まったら許さないわ! 」

「了解、任せとけお嬢様! 」

「逃がさないのです! 今日という今日は―――」

 声が遠くなっていく。

 

「放しませんっ」

 かわいい…(^ω^)

 ハッ! いかんいかん。しがみつくようにするリリが可愛くて昇天してしまうところだった。あれだな、美幼女がくっついてくれるのは良いね。自分の今の少年体形だと身長同じくらいだから全身に柔らか幸せな感触がね、うん。

 

うん。

 

 

「すまんね、飛鳥さん。簡単に捕まってしまいました」

「はぁ…まぁ仕方ないわ。リリを振りほどいて逃げろとは言えないもの」

 

「で、レティシアさん黒ウサギの手伝いに行かなくてもよろしいので? 」

 ぐぐぐっ、と元の姿に戻り、努めて優しくリリの拘束()から逃れる。

 

「黒ウサギなら大丈夫だろう。それよりも私は飛鳥たちを逃がさないと約束したからな」

「逃げないわよ。一度捕まった以上、コミュニティ脱退もなし。普通にお祭りを楽しむわ」

 立ち上がり服に着いた砂埃を払いながら言う。自分が代わりに…! いや、やましい気持ちは微塵もナイデスヨ?

 

「えっと、あの…」

「どしたのリリちゃん」

 リリ嬢が何だかもじもじしだした。お小水でござりまする…?

「ああ、これからジンがサラマンドラに挨拶に行くから、ついていきたいのだろう」

 

「サラマンドラに挨拶? ああ、確か頭首のサンドラって子」

「友達なの? それで会いに…? 」

 自分らの言葉に頷くリリちゃん。うむ、うむ。

 

「なら会ってらっしゃいな。自分らはレティシアさんがついててくれるし」

「頭首になったというなら、これからますます会えなくなるはずよ。会えるなら会って話すべきよ、友達なんでしょ? 迷惑に思われたり、そんなことはないはずよ」

 

「大丈夫だリリ。この二人は私が見ておく」

 

 

 リリちゃんはぺこりと頭を下げて行ってしまった。

 

「さてじゃあどこに行こうかしら。レティシアは行きたいところとかある? 」

「そうだな………」

 

 なんだかんだあったが、今はお祭りを楽しむとしよう。

 そういう感情がないとはいえ、美少女二人とのお祭りデート(同行してるだけ)だ。テンションが上がらないわけがない! 今この瞬間を楽しみつくすぜ!

 

 

 

 

 

 

 




 次回戦闘(ちょっぴり)。



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第八話「銀だこ」

 アニメ準拠かつオリジナルもちょいちょい。
 アニメだけだとカットされてる場面もあって…漫画版や原作も参考にしつつ書いています。



 

 頭首面会side(リリちゃんに植毛した『自分』擬態毛髪より)

・ジンくんとリリちゃんが新頭首サンドラちゃんと和気あいあいしてたら、キレられて斬り捨て御免!されそうになった。

→面子の問題だってさ。新体制はちょっと綻びあると崩れかねないからね。仕方ないね。同情。

 

・白夜叉「ウチのモンが予知したんやけど、魔王来るって。あ、確定やから。変えられない未来だから」

 

 

 

*********************

 

「そのー…その、なんだ? 小人? どうするのさ」

 肩に少し前に見つけて旅の道連れにした小人? 妖精? な見た目のあのアレ(名前忘れた)を乗せ、コロッケ(?)をぱくつく飛鳥お嬢様に尋ねてみる。

 精霊だっけ。まぁ妖精さん(出典:人類は衰退しました)と呼ぶことにしよう。

「どうするって、別にどうもしないわよ。一緒にお祭りを回ろうと思って」

 

「そですか」

 

 

 

 脱走騒ぎ終了からしばらく、自分は飛鳥さんとお祭りを回っている。

 初めはレティシアさんと三人でクレープをパクパクしていたのだが、飛鳥さんが尖がり帽子の精霊を発見し、問題児としての性質からか 追いかけて行ってしまったので。自分が付いていってレティシアさんは放置してきてしまったのだ、うむ。

 

 特に甘酸っぱいイベントもないが、見たことのない景色や展示物、東側では見られない人々。何もかもが新鮮で最高に楽しい道中。

 夜になれば話し合いの終わった黒ウサギやらが迎えに来て、温泉イベント………のはず。それまで時間はもう少しあるし、ゆったりできるというもの。

 これから黒死病の魔王襲来で月に行って槍投げてエンド。こお世界も終わりが見えてきた感があって、名残惜しい…。コミュニティの仲間たちもみんな大好きなのに別れなくちゃいけないなんて…寂しぃ。

 

 

「仲良くなった所で自己紹介をしましょうか。私は久遠飛鳥。それで…」

 ほいほい

「自分は奴良九朗、よろしく小人さん」

 

「………あすかー? くろー? 」

 ………ん? この声…エルフナインくんちゃん?!

 すき!!

 

「ちょっと伸ばしすぎね。締まりがなくてだらしないわ。最期を綺麗に区切って発音するのよ」

 

「あすか! くろう! 」

 きゃわたん。

 飛鳥さんも笑顔ですよ、無邪気でちっこい生き物は可愛いよね。うんうん、わかるわかる。

 

「あなたの名前は? 」

「らってんふぇんがー! 」

「…? それがあなたの名前? 」

「響きは可愛らしいけど…厳ついねぇ」

 

「んー…、こみゅ! 」

「コミュ………コミュニティの名前ってことかしら? 」

 聞かれたからには答えましょう。真実は知っているけど知らない体で。

 

「じゃない?

 コミュニティの、じゃなくて、あなたの名前は何ですか?」

 

 意味が分からない、という風で首をかしげる妖精さん。

「んー? ………らってんふぇんがー! 」

 飛鳥さん困ってる困ってる。うまくごまかそう。

 

 飛鳥さんにこそこそと耳打ちする。あ、これめっちゃドキドキする。

「もしかして、名前がないんじゃないの? 」

「え? 」

「ほら、コミュニティの方針なのかもよ? この子まだ子どもみたいだし、若い時は呪いを受けないように名前を与えずに育てるとか、そういうの」

「そんなコミュニティのルール、あるの? 」

「わかんないけど名前ってのは重要なものだし、飛鳥さんもなんとなくわかるでしょ? 」

 思い当たる節?記憶か知識があったのか納得してくれたようだった。

 

「そうなのね…」

 ちょっと悲しい目をしてる飛鳥さん。妖精さんは「?」って顔で可愛い。

 

 あ、おすそ分けしてる。

 

「じー…」

 

「なに…? 」

「なんでもないよ~? 」

「あげないわよ」

「えー」

「奴良くん、あなた確か年上なんでしょう? 自分の分は自分で買って食べなさい」

 ぐ、見栄張った虚言が足を引っ張るとは…。

「自分はただ、『半分こ~』とか、そういう食べ歩きでよくあるシチュエーションを体験してみたかっただけなのに~」

 しょんぼりー(ふり)

 

「………仕方ないわね、はい」

「ありがとうございます飛鳥さま~! 」

 いただけた!本当に欠片だけど!

 おいし~♪…飛鳥さんの味がする(気のせいです)。

「様はやめて。

 それじゃ、展覧会の見学に行きましょう」

 

「はーい」

「はーい! 」

 

 

*********************

 

 ところ変わって洞穴の展示場。

「すごい数…こんなに多くのコミュニティが参加しているのね」

「きれー」

「それだけデカいお祭りだってことなんかね? 展示場も、展示物も、実に興味深いものばかりですなー」

 美しい出典物にそれぞれのコミュニティの名前や旗印がぶら下がっている。“名無し(ノーネーム)”ではこうはいかんのでしょうなぁ…。

 

 燭台かな? を鑑賞するため飛鳥さんが前かがみになる。

(イコール)絶景出現。ありがとうございます…。鎮まりたまえ、下卑た視線を向ければ気づかれるぞ。美術品を鑑賞するような、ほほえましいものを見るような目で盗み見るのだ。自然なアクションで背後から、飛鳥さんの素晴らしい後ろ姿とお尻ではなく!展示品を見ようとしているかのように!!

 

「確かに素晴らしいわね………。

 制作・コミュニティ…“ウィル・オ・ウィスプ”…? 旗印がないのとあるのとでは、作品の表現も違うものなのね…」

 カモフラージュ目的で他の展示品…ランプ?ランタン?ロウソクを収める系の品々をサラッと見回す。確かに凝った可愛らしいデザインだったり、ロウソクの明かりを際立たせるような工夫がしてあったり、『自分』の記憶にもないような美しい展示物だ。美術系の知識がなく、たぶん才能もない自分でも一目でわかるすごさ。何時間でもここにいて、鑑賞していたいと思う。

 

 でもそんなことよりも! だ。花より団子ならぬ、団子より花。もとい美術品より美少女だ!

 はー…!

 はやくぶっぱなしてぇーなー!

 押し倒してぶち込んでぶっ放してーなー!

 

 

 でもそれはしたくない。好きだし。嫌われたくない。やっぱり初めてはラブラブ相思相愛でシたいよね。無理矢理とかそういうのは現実的には萎えるわ。

 自分童貞だから怖いのよなー、色々。それに襲い掛かったら撃退されるってのもある。『威光』普通に効果ありだし、自分。

 

 

「(立派な主催者を目指すなら、やっぱり旗印がないと締まらないわ。―――是が非でも魔王から旗印を取り返さないと…)」

 小さく握りこぶしを作って気合を入れる飛鳥お嬢様。

 かわー。

 

「あすかー? 」

「なんでもないわ。行きましょ」

 どこまでもお供しますとも!

 

「あれは…? 」

「おっきー! 」

「巨人…てか人型ロボ? 鎧とか…? 」

 えーっと? ディーンだっけか。飛鳥さんが後に手に入れることになる鉄人形の展示されているところに到着。実物を見ると、なんとなくすごいのが伝わってくる。

 真似させていただこう。

 装飾もすげぇし、一目で強いのがわかるのは素晴らしいよね。他の世界行ったとき、この姿で「なんだあの巨大ロボットは!? 」みたいに驚かせたい。

 実際見て、覚えたから姿だけなら『模倣』して『変身』できる。

 『自分』を怪獣にして大暴れさせて、それに合わせて変身、バトルとかな~。寸劇・マッチポンプ・ヒーローショー(被害甚大)。どこかの“愛と正義の伝道師”みたいだけど、そういうのしてみたいのよ、自分も。

 

「いったい…どこのコミュニティが……」

「あすか! ラッテンフェンガー! 」

「え? 」

「確かに、そう書いてあるね。ほら紹介のココ」

「えっと…『制作:ラッテンフェンガー、作名:ディーン』……これ、あなたのコミュニティが作ったの?! 」

 飛鳥さんの方で妖精さん〔 (・ワ・)に非ず〕が頷いて、えへん!と胸を張る。

 可愛い。

 

「ディーン………すごいのね、ラッテンフェンガーのコミュニティは」

「まさかこれだけの物を作る力のあるコミュニティとはねー。すごいね、妖精さん」

「ラッテンフェンガー!ラッテンフェンガー! ふふ! ふふっ! 」

 ただひたすらに可愛い。声も仕草も。飼いたいね、うん。

 

 

 内心ニヤニヤで眺めていると、突然風が吹き、火が消え、暗闇に。

「な、なに? 」

 観客の皆も動揺している。なんだこれ。こんなのあったか?

『見つけた…ようやく…見つけた………』

 

「卑怯者! 姿を見せなさい! 」

 ちょっ! 飛鳥さん?!

「飛鳥さん、挑発――やめ! 」

『あぁ…‼ やっと見つけた……ラッテンフェンガーの名を騙る不埒者‼ 』

 闇の中に浮かぶ無数の目。

「ネ、ネズミ? 」

 ………忘れてた! そういえばネズミあった!

 ネズミの大群が濁流のように押し寄せる。

「いくらなんでも出すぎでしょー! 」

 飛鳥さんがツッコミ、妖精さんが絶叫する。自分はというと身の振り方を考えている途中。

 間違いなく襲い掛かってくる。たしか『威光』が通じず、ピンチになるという流れだったはず。自分は何をするべきなのか…。

 

「『自分の巣に帰りなさい』! 」

 ギフト使ったな。そして通じなかった。動揺が伝わってくる。知らないふりで合わせよう。

 

「飛鳥さん、ひとまず逃げるよ! 」

 変身。モード:UMA(うま)!(鞍付き)

 

「奴良くん?! わかったわ! 」

 さすが名家のお嬢様。ひらりと飛び乗ってくれたので早速走り出す。

 背中の感触が最高です。お尻やーかーいっ!!

 横乗りだからオパーイの感触を味わえないのが残念だが…残念だがっ!

 ぱからっ ぱからっ。

 

「飛鳥さんのギフトで止めてくれない?! 」

「それが、効かなかったの! 」

「ギフト消去のギフトとか? 」

「………いいえ! ギフトカードには『威光』の恩恵がまだ確かにあるわ! 」

「だったら…操作されているものは操作できないとか そういう感じなのでは?! 」

 早い者勝ち、操作系の念能力。

 

「………(ネズミに支配の力が及ばないのは、私よりも高位の支配を既に受けているから? ) 」

 

 ぱからっ ぱからっ。

 追ってくる万単位のネズミたち。

 

 

 『振り切るぜ』―――と言いたいところだが人外の速度で駆けると、まず飛鳥さんが耐えられない。だから、なかなかどうにもできない。

 

「っ! 奴良くん、上から! 」

 天井伝いにネズミたちが飛鳥さん、もとい妖精さんを狙ってダイブ!

 

「―――させん! 」

 腹から触手を出し、落ちてくるネズミたちを蹴散らす。牙と目玉を備えた二本の触手―――参照:『SPEC~天~』伊藤淳史 「銀だこ」

 ぐぅ…一瞬速度が落ちた。咄嗟だったからって銀だこは、そりゃあバランス崩すわ。失敗した、噛まれた。痛みがなく、再生も一瞬で済み何ともないとはいえ、このままではじり貧だ。原作ではどうなったんだっけ?

 えーっと………。

 

「むぎゅ! 」

「掴まってなさい! 落ちては駄目よ! 」

 妖精さん お前ーッ!

 見たぞこの野郎! 銀だこの無数の眼球でしっかり見たもんね!

 胸の谷間に押し込められるとか! とか! とかっ!

 うらやまけしからんぞてめー!

 UMAに変身したのは失敗だったか! 揺れるからな! 落ちないように谷間にか、飛鳥さん優しッ! いやわからんけどもー! 密着してもらうため大げさに揺れたりしたせいか? 自分のバカバカ! 自分は嫉妬しぃだから、こういうの駄目なんだよ。

 幸せな思い(乙女の柔肌:密着)をしても、隣人がより幸せ(谷間にイン)だと、嫉妬の念を抱いてしまう奴なんだよ自分は!

 

 

 走る自分、追いつかんとするネズミの群れ。払っても払っても、抉っても抉っても数が減った風に見えない。

 どーしたもんか、早く出口つかないかなー、と考えていたところ黒い影が前方から押し寄せてきた。

「うぉっ! 」

「きゃあ! 」

 

「ネズミ風情が、わが同法に牙を突き立てるとは何事だ! 」

 だれ? あ、そうそう! レティシアさん!

 影はネズミたちをネギトロ()に変え、しかし壁や天井のランプを一切気づつけることなく、レティシアさん自身の足元に戻っていった。

 

「無事か、飛鳥、奴良」

「あなた…レティシアなの? 」

「大人モード…武装形態かな? 」

 vivid。

 変身を解除し、飛鳥さんを降ろす。名残惜しい…。

 

 レティシアさんは愛らしい少女の姿から凛々しい女性の姿、服装は赤いジャケットに妙な形のスカートに変わっていた。良い。

「術者はどこにいるッ!? 姿を見せろ! このような場で強襲した以上、相応の覚悟があってのものだろう。コミュニティの名を晒し、口上を述べよッ‼ 」

 レティシアさんの声が洞窟内に響く。しかし、答えは返ってこず。

 

 

 

 洞窟から出て、しばらく。戻る道中黙っていた飛鳥さんが口を開いた。

「貴女、本当にすごかったのね…」

 自分たちに背中を向けたまま、いまだ大人モードのレティシアさんがちょっと呆れたように言葉を返す。

「…あのなぁ主殿。褒められるのは嬉しいが、その反応はさすがに失礼だぞ」

 リボンを結ぶと、少女に戻った。

「私はこれでも元・魔王にして吸血鬼の純血! ネズミごとき、幾千万を相手しても問題はない」

 『ぱないの!』な元怪異殺しを連想した。

 とりあえず胸に手を当てて腰に両手をもっていってこちらを責めるように見上げてくる姿勢が可愛すぎる。

「(けど、私は……)」

 ふむ。

「いやぁ、助けてくれてありがとう、レティシアさん。あんなふうに数で攻めてくる奴もいるもんなんだねぇ」

 なんとなく飛鳥さんが落ち込んでそうなので味方アピール。『自分もあれは対処できなかったヨー』アピール。

 

「そうか? まぁ、しかし数に頼るということは全体の質は低いということ。対処法は結構あるものだぞ」

 飛鳥さんの顔に光が戻った。よし。

「飛鳥さん飛鳥さん、そろそろ出してあげたら? 妖精さん」

 

「え? あ! 」

 慌てて、恥じらうように胸元からとんがり帽子の妖精を取り出す。

 

「ぷはー! 」

「ごめんなさい、大丈夫だった? 」

「んー、暑かった! でも平気。ありがとー! あすかー! 」

 暑かっただと! 蒸れてたのかにゃ? ぐふう…!

 首元に上っていってぎゅーってしている妖精さん。その姿を見てレティシアさんがやれやれと言わんばかりに首を振る。

 

「ずいぶん懐かれたな。今日はもう日が暮れて危ない、連れて帰るべきだろう」

「そ、そうね」

 躊躇いがちに頷く。実際暗くなってこの夜道で小さな精霊一体だけで帰るのはまぁ、その、ねぇ…というものだ。

 というわけで自分ら3人と1体は町を抜け、ここにやってきたときの“サウザンドアイズ”の店に戻るのでした。

 

 

 

 

 振り返ってみると、自分にはまだまだ経験が足りないな、と実感する。とっさに最善の攻撃に移れないのは本当に経験不足ゆえだ。この肉体の能力はまだまだこんなものじゃない。『自分』がもっと戦闘の空気に慣れれば、もっともっと力を発揮することができるはずだ。

 

 まぁ、生後一か月じゃあ仕方ないけどね。

 自分の生はまだまだこれからだ。これから、いくつもの世界を越えた先で、自分は一体どうなるんだろうか…どこまでいけるんだろうな。

 

 

 

 



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第九話「♪ンーンー、フフフー。ンーンーンフフフー、ンンー、フフフーフーフフフー」

 どうも、女湯担当の()です。“サウザンドアイズ”に帰ってきた自分たちは、先に帰っていた黒ウサギや白夜叉、十六夜さん達と合流。ネズミの大群に襲われたことを話すと、温泉に入って疲れを癒すことになりました。

 

 そして、温泉と言えば恒例の覗きタイムです。この一か月弱、結構な頻度で覗いているのですが全く飽きません。肉眼で見る美少女たちの肢体はもう、ほんと もう………ッ! 生まれてきた意味とかいろいろ考えさせてくれるのです。

 で、現在「自分」は男湯でジンくん・十六夜さんと混浴…じゃなかった。男同士の裸のお付き合い(目の保養)。「僕」は温泉に生える樹に引っ付く虫に擬態して窃視中でございます。

 今いるのは飛鳥さんと妖精さん。

 何度見てもイイものだ。ふ、人の姿だったら僕のナニがおっきくなってしまうところだった。シンプルに興奮します。

 

 

 

 

 

 

 

 

(楽しい一日だった)

(自由に走り回り、見たいものを見て…だけど…)

 

(どうしてネズミには、私のギフトが通用しなかったのだろう…ルイオスの時はともかく……いくら何でも、私の霊格がネズミよりも劣るということはないはずよ)

(だとしたら、他に考えられる理由は一つ)

―――「だったら…操作されているものは操作できないとか そういう感じなのでは?! 」

(私より、強力な誰かの支配を既に受けていた………)

 

 

(やっぱり…私のギフトは使い勝手が悪いわ。…相手によって、効果が左右されてしまうのだから。私の望んだ、『ギフトを支配するギフト』なら 尚更ね)

(たとえ強力な武器のギフトを支配したとしても、十六夜君たちみたいな大立ち回りができるわけじゃなし)

 

(―――選択、誤ったかしら)

 

(でも! 私は人を操る魔女になりたいわけじゃない。心を歪ませてまで、頷かせることに価値なんかない! )

( 『ギフトを支配するギフト』 ものにしてみせる…っ! )

 

 

 

 

 ぼんやり空を眺めたりお湯の中にもぐったり、何考えてんだろうと思っていたら急に飛鳥さんが立ち上がった。

 当然、普通は見えてはいけない色々なところが丸見えになる。

 湯気? 僕の覗きを防ぎたかったらこの10倍は持ってこいッ! 全部丸っとお見通しだ! ありがとうございます!

 

―――ガラッ! と戸を開ける音。

「飛鳥さん! お怪我などは本当にないのでございますか!? 」

 桃色オパーイのエントリーだ! 豊満ボディをプルンプルンに揺らして駆けてくる。

 ありがとうございます! ありがとうございます!

 僕の目は人間以上だから余裕で捉えられるのだ。ぎょろりと動かして飛鳥さんのオパーイと黒ウサギのオパーイを同時に見ることだって出来る。

 

 勢いよく飛び込んできた黒ウサギは、

「待て待て黒ウサギ‼ 家主より先に入浴とはどういう了見だいやっほおおおお! 」

 後から飛び込んできた白夜叉に抱き着かれすごいポーズで温泉に飛び込んだ。

 白夜叉さま…ノーコメントで(こわい)。

「ちょ、ちょっと大丈夫!? 黒ウサギ! 」

だ、だびぼぶでごばいばぶ(だ、大丈夫でございます)! ぶぶぶぶぶぶ…」

 いやいや突き刺さってる突き刺さってる。

 

「…………」

 

 

 

 

 ―――ぞくり、と。

 今までに感じたことのない感覚が僕を襲った。

 ぽとり、と樹から落ちる。肢が動かない。呼吸ができない。痛みも、苦しみも、何もないのに。体に異常なんてあるはずがないのに。

 心が震える。

 魂が千切れる。

 僕が僕でなくなって、僕の形が分からなくなる。

「………」

 

 

 

 

 

「―――から臍へのボディラインには一切の崩れがなくされど触れば柔らかな女人の肉であることは間違いなくしかも臀部から腿への素晴らしい脾肉を揉み解せば 指と指の間に瑞々しい少女の」

 あれ? なんでぼく降りてるんだ? いくら目が良くてもこれじゃあ見えないよ。

 バレないようにひっそりと登って、っと。

 

 飛鳥さんが腕で胸を隠しつつ白夜叉さまに桶を投げつけていた。

 そのポーズの方がえっちぃと思う。おっぱいむぎゅっ!ってなってる。

「なに?! 白夜叉ってこんな人なの? 」

「すごい人ではあるのですが、それ以上に残念なお方なのでございます…」

 うんうん。

 

「「「うん うん」」」

 いつの間に! リリちゃん、レティシアさん、耀さん!

「あなたたちいつの間に! 」

「騒いでいる間に」

 気づかなかった。というか記憶がないんだが…?

 それにしてもレティシアさん(大人モード)、パイオツカイデーでござるな。くふ、コミュニティでは専ら少女形態なので貴重ですぞ。

 ちっちゃいおっぱいはちっちゃいおっぱいでいいものですが、おっきいおっぱいはおっきいおっぱいでまた良いものですな。再確認でござりゅ、くふ。

 

「さて! おんしらにはまだ魔王襲来の件について話しておらんかったの。裸の付き合いがてら、じっくり聞かせるとしようぞ」

 白夜叉さま、桶被って紅葉ニップレスって…。エロさが増した気がする。肉眼はやっぱいいわ。ギャグ感よりエロスが直で来る。アニメだったら欠片もエロさを感じない場面だが、現実で見るとえっちい。フェティッシュな感じ。

 

 

 

 

 

*********************

 男湯(カット)。

「眼福でした。あと普通に温泉気持ちよかった。風情があって最高。

 邪な気持ちを忘れて空と温泉に心を委ねてしまっていた。

 次の世界でも温泉旅行とか行ってみたい。

 

 

………好きな人と一緒に」

 

 

*********************

 温泉から上がった自分と十六夜さん、ジンくんは女性陣を待っていた。

 

「魔王襲来の予言…ね。ここまで来たかいがありそうな話だわ」

 湯上り飛鳥さん。えっちい。早く帰ってこい「()」! 盗撮シーンを浴衣姿と重ねて脳内再生するのだ!

 

「あ、ジン坊ちゃんに十六夜さん、奴良さんも。私たちが上がるのを待っていてくださったのですか? 」

 

「おお? これは中々いい眺めだな」

「はい? 」

 返事代わりに深く頷いてみる。

 

「黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでもわかる二の腕から乳房にかけての豊かな発育は扇情的だが相対的にスレンダーながらも健康的な素肌の春日部の髪から滴る水が鎖骨のラインをスゥッと流れ落ちる様は視線を自然に慎ましい胸の方へと誘導するのは確定的」

 そこまで言ったところでスパーンッ! と顔を赤くした黒ウサギ&飛鳥さんのツッコミ(桶)が入った。

 

「変態しかいないの! ここには! 」

「白夜叉さまも十六夜さんもみんなお馬鹿様ですッ‼ 」

 即座に復活した十六夜さんは白夜叉と変態同盟(自分命名)の固い握手を交わしていた。

 

「お、落ち着いてください二人とも」

「そうそう湯上りの皆が綺麗すぎただけだから。自分としても、心が洗われたというか。美しいものを見たというか。とにかく、ここに二人変態以外の人種がいるから落ち着いて」

 

 

 

 

 

「あれ? レティシアさんとリリは? 」

「もう少しお風呂にいるって」

 

 なるほど。それで帰ってこないのか。まぁええわ。しっかり裸を記憶して戻ってきておくれよ。

 

「まぁ、二人は抜きでもよいだろう。明日以降のことを少々おんしらと話しておかねばなるまいな」

 

「ということは」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

場所を移して、白夜叉がマジトーンで話し出す。

「―――それではこれより! 第一回、黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」

「始めません!」

「始めます」

「始めませんっ!」

 白夜叉の提案に悪乗りする十六夜。速攻で断じる黒ウサギ。漫才のノリだ。

 

「もうっ! 魔王襲来に関する重大なお話かと思ったんですよ! 」

 

「いやいや、審判の話は本当だぞ? 実は耀も出る明日のギフトゲームの審判を、黒ウサギに依頼したいのじゃ」

 

「それはまた…唐突でございますね」

 あ(察し

「おんしらの起こした騒ぎのおかげで月の兎が来ていることが公になってしまっての。そうなれば出さぬわけにはいくまい。むろん、別途報酬も用意する」

 やっぱりウサギは人気者なんだぁって。次の世界で ガワとして、大いに活用させてもらおうっと。

 

「わかりました。明日のギフトゲームの審判・進行役、この黒ウサギが承ります」

 

「感謝するぞ。で!審判衣装はシースルーのエロ可愛い黒いピスチェスカートを!」

「着ません! 」

「着ます! 」

「断固着ませんッ‼ あーもう! いい加減にして下さいお二人とも! 」

 

「「はーーい」」

 

 

 

 

 耀さんが小さく手を挙げて質問。

「白夜叉、私が明日戦う相手って…? 」

 あー、そんなのもあったな。ジャックさん出てくるやつ。あと~…メタンガスのやつ。死体から発生するガスで云々のやつ。『自分』の記憶はぼんやりしてていけねぇな。

 

「すまんが、教えられるのはコミュニティの名前だけだ。

 決勝に残ったのは“サラマンドラ”と“ノーネーム”の他に二組」

 白夜叉が指パッチンするとギアスロールが現れた。今初めて思ったんだけど、“サラマンドラ”残ってたのね。決勝っていうか準決勝? よくわかんにゃいや。

 

「“ウィル・オ・ウィスプ”と…“ラッテンフェンガー”ですって?! 」

 

 パチリ。目を膝に配置する。うん、よく眠ってやがる妖精さん。

 ………よく考えなくても飛鳥さんの膝を枕兼ベッド代わりにしてお休みとか羨ましいこと限りなしだな。

 

「“ラッテンフェンガー”…ドイツ語か。要するに、明日の敵はさしづめ『ハーメルンの笛吹き』ってことか? 」

 へぇ~、という飛鳥さん耀さんの声をかき消すように

「ハ、『ハーメルンの笛吹き』ですか?! 」

「どういうことだ小僧」

 二人が驚きの声を上げた。

 

???となる問題児たち。(自分は除外だけど、知らないふり)

「すまぬ。おんしらは知るはずもないな。『ハーメルンの笛吹き』とは、とある魔王に仕えていたコミュニティの名だ」

 

「魔王? 」

 

「その魔王は200篇以上からなる魔書から悪魔を呼び出し“幻想魔導書群(グリムグリモワール)”というコミュニティを率いておったのじゃ」

「―――けれど、とあるコミュニティとギフトゲームで敗北しこの世を去ったはずなのです」

「魔王が死んだ以上…『ハーメルンの笛吹き』も力を失ったはずじゃが………そもそも小僧、なぜ“ラッテンフェンガー”が『ハーメルンの笛吹き』なのだ」

 

 十六夜さんはにやりと笑って、ジンくんの頭に手を乗せた。いいなぁ。

「それは、我らが御チビ様が説明する! 」

「は、はい! 『ハーメルンの笛吹き』という物語がグリム童話にあることはご存知ですね。ハーメルンとは、実際にその物語のもととなる事件が起こったとされる都市の名前です。町の石碑にはこう刻まれています。

 

 

―――1284年 ヨハネとパウロの日 6月26日 あらゆる色で着飾った笛吹き男に130人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され丘の近くの処刑場で姿を消した―――

 

 

 このグリム童話の笛吹き男が“ラッテンフェンガー”が『ネズミ捕り』『ネズミを操る男』と考えられます」

 読んだ覚えあるわー。ネズミ退治したのに王さまが対価を払わなかったから子どもたちを連れて行っちゃったんだよね?

 あ、あと。『ツバサクロニクル』で見た覚えが。ん? アニメでそこやったっけか

 

♪「時の向こう 風の街へ ねぇ 連れて行って」

 

 ってフレーズがずっと耳から離れない…という記憶が浮かんできた。いらない。カット、カット。

 

 

 

「ネズミを、操る…? (まさか…)」

 飛鳥さん…。心中お察しします。

 

「ふむ…それが予言の魔王かどうかはともかく、“幻想魔導書群(グリムグリモワール)”の残党が忍んでおる可能性は高いな。サンドラの顔に泥を塗らぬよう監視は着けておくが、万一の場合はおんしらの出番じゃ。頼むぞ」

 なんて言っておきながら、並みの相手なら一瞬で片づけられるのが白夜叉なのですよね。ね?

 

 

 話は終わり、皆退室していく中で座ったままの飛鳥さん。

(ラッテンフェンガー…ハーメルンの笛吹き…まさかこの子が魔王の配下なの…? )

 

「それはないんじゃないかなぁ? 」

「きゃっ! ぬ、奴良くん! 」

 

「ごめんなさいね。てっきりその子が魔王の仲間とか、そういうことで悩んでるんじゃないかと思って」

 

「……ええ、この子がもしも魔王の配下だったなら私は」

「うん、だからそれはないと思う。全然そんな感じしないし」

「でも」

「そもそもさ、仮にもし魔王の仲間だったとして、別に何もないでしょ? 」

「え? 」

「だって妖精さん、よわっちぃしちっちゃいし。馬鹿にするわけじゃないけど、すごい子供っぽいし」

「………言われてみたら、確かにそうだわ」

「ね。悩みは晴れたみたいだし、お休み。良い夢を」

「ええ。ありがとう奴良くん、おやすみなさい」

 

 いいことをしたら気分がいいなぁ。

 明日はいよいよ魔王のゲーム。この世界もそろそろ終わりか。

 楽しかったなぁ。

 

 

 

*********************

 

 部屋に行く道中で、白夜叉に『覗き』のことで“威嚇”された。生まれて初めて『殺気』ってのを感じた。生きた心地がしなかった。

 走馬灯が流れた。自分の生涯と『自分』の生涯が流れまくった。

 こわかった。涙出てきた。

 

 思い出したら心臓が止まった。

 心臓を引っこ抜いて再生、動かす。

 

 抜いた心臓が勝手に動き出そうとしていたので食べて止める。ふぅ………。

 今日はもう眠れないかもしれないな…眠らなくても問題ないけど。

 

 こわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十話(残り話数は3話、作中時間は1週間)

―――翌日、“創造主の決闘”の決勝 舞台区画

 

『長らくお待たせいたしました! これより、火龍誕生祭のメインギフトゲーム“創造主の決闘”の決勝を始めたいと思います! 進行及び審判は“サウザンドアイズ”の専属ジャッジでお馴染み、黒ウサギが勤めさせていただきます♪ 』

 

 決勝の舞台に歓声が轟く。会場の熱量が増し、自分たちのいる一段上の運営側の特別席からでも興奮が見て取れる。

 これがスタジアム生観覧ってやつなのか。『自分』の中の記憶にはサッカーとか野球とかそういう試合に見に行った者のは少なく、実感が薄いけど確かにこんな風だった。いいな、これ。ここにいるだけで楽しいしとてもわくわくする。

 

「そういや白夜叉。黒ウサギのミニスカート、見えそうで見えないってのはどういう了見だ? チラリズムなんて趣味が悪すぎだぜ」

 うん?

「なになに何の話? 」

「ああ、実はな―――」

 ふむふむ。昨日の追いかけっこで黒ウサギのスカートの中がどうしても見えないので不審に思って尋ねたら、「白夜叉さまから鉄壁スカートのギフトを与えられている」ので絶対にパンチラしないと言われたと。

 ふむ。

 

「確かにそれはなぁ。見えそうで見えないのはそれはそれで興奮するけど…」

「だろ? で、お前はどんな考えがあって黒ウサギにあんなギフトを贈ったんだ? 」

 

 白夜叉は目を閉じ「ふん…」と落胆したように

「奴良はともかく、十六夜よ。おんしほどの男が真の芸術を解せんとは…」

「なに…? 」

 あ、さり気にサゲられた。………覗き魔ですしね。仕方ないね。

 

 

「―――芸術とはすなわち、未知なるものへの己が想像力。神秘なるものへの飽くなき探求心。そう! 何物にも勝る芸術とは()()()()()()()()()ッ! 」

 あたまわるーい!

 

「己が宇宙の中…だと…? 」

 なんで衝撃を受けてるん?

「そしてそれは乙女のスカートの中も同じこと。見えてしまえばただの下品な下着たちも、見えなければ芸術だ…ァ! 」

「見えなければ…芸術か! 」

「今こそともに確かめようぞ…ともに奇跡の起こる瞬間をな…」

「白夜叉…」

 

 

 インターセプトッ!

 

 

「ちょっと待った! 」

 なんだ? とこっちに目を向ける二人。

 

「自分の意見も聞いてもらおうか…っ! 」

「ほう? 」

 あ、昨日のトラウマが…。

 

 持ち直す!

「っ! 確かに白夜叉の言った通り、真の芸術は見る者の心の中にあるんだろうさ…でもな! 人間の想像力を越えるのはいつだって現実だ! 未知のままでは、想像は現実を越えられない! 『黒ウサギのスカートの中』という未知も、その片鱗すらつかめないなら、究極の芸術には至らない! 」

 白夜叉の表情が変わる。

 

「言うではないか。だがそれは探求の途中で挫折する意思弱き者の話ではないか? 」

 くっ!

「だったら! 十六夜さん! 」

「なんだ? 」

()()()()()()()! 」

 黒ウサギに変身する。当然ギフトなんて持ってない形だけの変身だから、高所の風にあおられミニスカートはふわりふわりと捲れそうになる。

 自分はあえて、スカートを押さえない。

「どうでございますか! 十六夜さん! 」

 ぶわりとめくれ、パンツ(黒ウサギの今日のぱんちゅ)が露わになる。

 

「………いや、本物の黒ウサギの方がいいに決まってるだろ」

 ぐっはぁ!

 

「………く、しょせん偽物は本物には勝てぬ定めか…白夜叉さま、自分の敗北です。

 どうぞ、黒ウサギの今日のパンツです」

 敗者は勝者に戦利品を渡す。悔しいがしょうがない。

 黒ウサギの姿のまま、パンツを脱いで白夜叉さまに差し出す。

 

「いや、いきなり何を言っておるんじゃ…まぁ敗北したからと言うならもらっておこう」

 目立つ席なので、普通に脱ぐところも何人かに見られていた。………ちょっと興奮した。

 スースーする。

 悪乗りしてふざけてみたけど、こういうのも楽しいな。

 

 ………飛鳥さんからの視線が痛いので元の姿に戻る。変身してみて感じたのだけど、巨乳って身体バランスが狂うね。うさ耳も、被り物ではなく実際に肉と骨で繋がってるから不思議な感覚だし。

 

 

 

 

 

『それでは入場していただきましょう! 第一ゲームのプレイヤー・“ノーネーム”の春日部耀! 』

 入場口から耀さんが歩いてくる。

 

「頑張ってー! 春日部さーん! 」

「ふれふれー」

 はぐたん的応援。緊張しているようには思えない。こういう大舞台では普通の人は緊張してしまうものだと思うが、さすがというべきか。

 

『そして、“ウィル・オ・ウィスプ”のアーシャ=イグニファトゥス! 』

 イグニ…炎って意味だっけ? 青い炎がビュン!と来た。

 

「あっははははははは! 見た見たぁ? “ノーネーム”の女が無様に尻もちついてる! さぁ、素敵に不敵に面白おかしく笑ってやろうぜ! ジャック! 」

「ヤッホッホッホッホッホ! 」

 そうそうこんな感じこんな感じ。アーシャさんもなかなか愛らしいな。ゴスロリ? いいね。特に詳しいわけではないから知らないが黒でなくてもゴスロリ服というのだろうか? そもそも定義がわからないのだが。

 自分的にはゴスロリと言うと、繭墨あざか様なのであるが、それはともかく。

 …声が、ジャックさんの声が。うん、後ろから刺されそうな声でしたね。うん。自分はダメ絶対音感もってるから、うん。それ()ともかく。

 

「それって、もしかして…」

「その通り! こいつは我が“ウィル・オ・ウィスプ”の傑作ギフトにして、名物オバケ。『ジャック・オー・ランタン』さ! 」

「YAHO? 」

 かぼちゃ頭に、燃え盛るランプ。中身なんてなさそうな青い服と白手袋。まさにジャックさん。とりあえず善い人だっていうのは『自分』の知識にもある。

 

「ジャックよ、十六夜君、奴良くん! 本物のジャック・オー・ランタンだわ! 」

 キャッキャとはしゃぐ飛鳥さんが可愛い。

 変身してどこぞのランドのマスコットみたいに対応してやりたいが、無理だな。自分浮けないし、炎にはなれないし。パチモンになっちまう。

「こんな形で見ることができるなんて素晴らしいわ!」

「分かったから落ち着けお嬢様」

 

 

 

「ホストマスターの命により、ただいまよりギフトゲームの舞台を用意しよう! 」

 白夜叉さまが運営席の柵に立って宣言した。

 そうして自然な動きで柏手一つ。

―――ぱんっ。

 

 審判の黒ウサギと、プレイヤー二人&ジャックさんが不思議なナニカに飲み込まれ、消えた。

 

 上を見上げると映像としてゲームの舞台となる木の根の中の映像が映し出されていた。すげぇ。転移(でいいんだよな? 今回のは)と内部映像の投射投影。それをたった一挙動で実行しやがった。シンプルに白夜叉すげぇ。

 

「うわー! おっきいですねー! 」

「あの馬鹿デカい樹の中が舞台ってか」

「はてさて、どんなゲームを見せてくれるのかの? 」

 確か負けちゃうんだったっけかなー?

 

 

*********************

 まったく関わらないのでギフトゲーム“アンダーウッドの迷路”はオールカット。

 以下ダイジェスト。

 

「行くぞジャック! 木の根の迷路で名無し狩りだ! 」

(“ウィル・オ・ウィスプ”のリーダーは生と死の境界に現れた悪魔。もしそうなら私じゃ太刀打ちできない。だけど彼女は違う…だったら、いける! )

「あいつ、出口が分かってるのか?! 」

「後は任せるよ! 本気でやっちゃってジャックさん! 」

「分かりました」

「失礼お嬢さん」( ' ^'c彡☆))Д´) パーン

 

「いざ来たれ、己が系統樹を持つ少女よ! 不死の怪物このジャック・オー・ランタンがお相手しましょう! 」

「これが…悪魔…」

「…………降参」

 

*********************

 

『勝者、アーシャ=イグニファトゥス‼ 』

 会場を歓声と拍手が包む。

 いやぁ…なかなか面白かった。うろ覚えだったこともあって楽しめたわ。ジャックさんマジかっけぇな。

 

 何事かを話したのち、舞台袖に消えていくアーシャさんとジャックさん、耀さんと黒ウサギ。

「ふ、あいつめ。ゲームに勝てずとも、得るところはあったようじゃの」

 すっごい優しい声音の白夜叉さま。ぬらりひょんイヤーは地獄耳。独り言も聞き逃しはしないのです。

 

「とても見ごたえのあるゲームだった。よき仲間をお持ちだ」

「ありがとうございますサンドラ様。自慢の同士です、ね」

「ええ。やっぱりすごいわね、春日部さん」

 十六夜さんが、上を見上げている。…そうか()()か。

 

「……おい、ありゃなんだ」

「何? 」

 上を見上げれば天から無数に降ってくる黒い“契約書類(ギアスロール)”。

 

「プレイヤーは現在ここにいる全コミュニティ」

「ホスト指定ゲームマスター:白夜叉」

「ホストマスター側 勝利条件:全プレイヤーの屈服・殺害?! 」

「プレイヤー側 勝利条件:偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ」

 

 ではあえて…言いましょう。

『あら、魔王襲来のお知らせ? 』

 

 

 

 

 

 

 

「魔王だ! 魔王が来るぞー! 」

 観客席は阿鼻叫喚。大混乱。運営席からはその模様がよくわかる。………やっぱり魔王ってすさまじい恐怖の大王的なものなんだなぁと感じる。いや、うん「アジ=ダカーハ」とか尋常じゃなくやばいってのは“知って”るけどもさ。こうして恐怖におののき右往左往している人々を見ると実感がわいてくるね。

 

「なんと大胆な―――何ッ!?」

 唖然としている白夜叉だが、突如黒い風が吹き荒れ、一気に広がった。

「白夜叉様!? 」

 サンドラが手を伸ばすも弾かれ、勢いを増した風に自分たちは全員バルコニーから押し出されてしまった。

「十六夜さん! 自分はリリちゃんを! 」

「ああッ! 」

 マンドラさんがサンドラちゃん庇っているが、隣で飛ばされるリリちゃんは誰もついていない。危険。

 手を伸ばし、巻き付け、体を引き寄せるように縮む。

 

「リリちゃん?! 」

「奴良様! 」

 落下。着地かっこよく決めたいところだが、そうしたら衝撃が伝わってしまう。安全第一!

 変身! <スライム的な衝撃吸収素材マット!

 

―――ぽよん。

 

「大丈夫、リリちゃん」

「はい、ありがとうございます! 」

 よかったよかった。さて、舞台側に降りた十六夜さん達とは逆方向、観客側 舞台の外に降りてしまった。

 どうするべきか…。

 

―――ドォンッ!

 逡巡していると、境界壁(かな? )から轟音が鳴り響いた。

 

「な、なんだ?! 」

 近くに降りていたマンドラさんがびっくりしたように言う。

 

「おそらく、自分の仲間が降りてくる魔王たちに奇襲を行ったのでしょう」

 

「魔王に奇襲、ですか?! 」

「何を考えてるんだ…?! 」

 

「攻撃の規模から十六夜さんかな? 」

「たしかに十六夜様ならやりそうです…」

 リリちゃんが同意する。せやよね。

 

 さて、

「サンドラ様、自分たちは何をすればいいでしょうか? フロアマスターとしてご命令を」

 

 あ、マンドラさんに睨まれた。皮肉っぽく聞こえただろうか。それとも指示待ち感が出てた?

「………私はフロアマスター、秩序の守護者として魔王を討つ使命があります。ですが今は観客の避難も無視できません。マンドラ兄さま、避難指示を任せます」

 

「わかった」

 

「リリと…」

 奴良です。

「奴良も協力してくれ。魔王が観客たちを襲わないとも限らない。その時は頼む」

 おけまるー。

 

「極めて了解。では行きましょう」

「サンドラ………。行くぞ! 遅れるな! 」

 

 

*********************

 

戦闘)十六夜VS ヴェーザー

 

戦闘)レティシアVS シュトロム&ペスト

   →↓

戦闘)レティシア&サンドラVS ペスト

 

ジン&飛鳥&耀…白夜叉のもとへ

*********************

 

「皆、うろたえるな! 我らは誇り高き“サラマンドラ”だぞ‼ 」

 現在、マンドラさんの指示の下避難誘導中。

 自分はマンドラさんの許可を得て“サラマンドラ”の旗を変身能力で作り、掲げている。目印なわけだ、こういう時も(旗印って)便利だよなぁ…と思う。

 

~~~♪

 笛の音が響く。これは…。

 

「? どうした、お前たち」

「「「「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォ‼‼ 」」」」

 笛の音に惑わされた“サラマンドラ”の兵たちが武器を手に暴れだした。

 自分には効果はない。標的にして操る相手を選んだものだったらしい。っじゃなくて! 暴れてるのを止めないと!

 

「マンドラさん! 拘束するけど構わないですよね⁈ 」

「~ッ! やれッ! 」

 では早速!

 

―――と思ったら炎がドーン!………んー?

「はぁ…殺さないように手加減するのって難しいんだよなー」

「お怪我はありませんか? 」

 アーシャちゃんとジャックさん! ここで出てくるか!

 話の流れでは~~~………よし!

「アーシャさん、ジャックさん。自分は“ノーネーム”の奴良といいます。自分は仲間が戦っている舞台の方に加勢に行こうと思うんですが、ここを任せても構わないでしょうか?! 」

 

「“ノーネーム”って…耀の仲間? いいよ、私たちに任せておきな! 」

 

「おい! サンドラの命令は避難誘導の護衛! 投げ出すつもりか! 」

 いえいえマンドラさん、どっちもやりますとも。

 

「ジャックさん。『自分』を置いておきます。自分のギフトは変身能力。おとなしくさせた後の拘束にでも使ってください」

「ヤホ? 」

 髪をちぎって、息を吹きかける。

 別にそんなことをしなくてもいいが、雰囲気だ。孫悟空的な、孫悟空といえば最終回の天竺で僧兵たちにボコられながら戦ってたの覚えてるわ。あのドラマ最高に面白かったなぁ…と自分の中の自分が申しております。

 

「増えた?! 」

「分身…いえ、変身のギフトと言いましたかな? 」

 はい、

「そうです。そんでもって、おい自分、やって見せてみろ」

「おうよ」

 分裂した自分は手錠・足枷・拘束服と変身した。

 

「こんな具合に姿形が自由自在なので使ってください。敵の操作に、強制覚醒のような意識がないものでも動かす効果がないとも限りませんし」

 

「確かにそれもあり得ますな」

「リリちゃん、自分は行くけど大丈夫だよな? 」

「はい! 奴良様頑張ってください! 」

 サムズアップ。ジャックさんに目で「リリちゃん頼みます」と送る。

 

「では失礼します! 」

 ジャンプ! 壁面にへばりつき、よじ登る。

 

 

 

 

 到着! 飛鳥さん?! 

 

*********************

 時間は少し巻き戻り、白夜叉の封じられたバルコニー。

 黒ウサギから確認を任された飛鳥、耀、ジンの三人が会いに来たものの、白夜叉は黒い風に包まれ動けないという。

 しびれを切らし飛鳥が白夜叉に向かって叫ぶ。

「白夜叉! 一体どうなっているの?! 」

「…わからん。だが、どうやら“契約書類(ギアスロール)”のルールにより、私は参戦できないらしい」

「“契約書類(ギアスロール)”の…? 」

 

「よいかおんしら。今から言うことを、一字一句違えず黒ウサギに伝えるのだ。

 第一に、このゲームは作成段階で、故意に説明不備を行っている可能性がある。…最悪の場合、このゲームにはクリア方法が存在しない」

 普段の白夜叉からは考えられない、静かで厳かな声色。

「なんですってっ?! 」

 

「―――第二に、この魔王は新興のコミュニティの可能性が高いことを伝えるのだ」

「わかりました」

「第三に、私を封印した方法はおそらく―――」

 

「はぁい、そこまでよ♪」

 

「「「!」」」

 三人が声に驚き、振り返るとバルコニーを挟んだ空中に白装束の“ラッテン”と呼ばれた女が浮かんでいた。

「あらら、最強のフロアマスターもこうなっちゃあお終いねぇ」

 

「貴様ァ! “サラマンドラ”の連中に何をした!? 」

 バルコニー下の舞台には見るからに操られた“サラマンドラ”の兵士たちが。

 

「そんなの秘密に決まってるでしょ? それよりお邪魔よ? あんたたち」

 手に持つ笛を弄ぶと、それを3人に向けた。それを合図に操られた兵士たちが3人に襲い掛かる。

 

「………! 」

 無言のまま耀は鷲獅子のギフトを用いた突風で兵士を薙ぎ払う。

 

「あら、やるじゃない」

 ラッテンは兵士たちが蹴散らされても動揺しない。

 

「行くよ、二人とも」

 耀はその間に二人と手をつなぎ、離脱を試みる。

 

 慌てず、焦らずラッテンは笛に口をつけ、鳴らす。

~~~♪

「うっ…! 」

「あうっ…! 」

「ああっ…! 」

 笛が鳴る。

 

「春日部さん…何…これ…」

「う…くっ…」

「ニャー…ニャー…」

 

(笛吹き…道化…人と、ネズミを、操る…力…)

 飛鳥が考えている間に、耀が崩れ落ちた。

 と、演奏が止まる。

「―――ふぅん? 人並み以上の聴覚が、あだになったって感じね。でも、まぁいいわ。あなた、私の駒になってもらうわよ」

 ラッテンが降りてくる。

「…ジンくん、ごめんなさいね」

 え? とジンは首をかしげる。

「『春日部さんを連れて、黒ウサギのところに行きなさい』! 」

 威光による支配。かかりかけだったラッテンの支配を上書きし、従わせる。

 ジンは耀を俵抱きに抱え、兵士たちを引き連れて走り出した。

 

「はぁん? 逃がすと思ってるの? 」

 ラッテンが急に逃げたジンを注視する。

 

「―――『全員、そこを動くな』‼ 」

 はぁ? という顔をしたラッテン。そして操られジンを追う兵士。その全員の動きが止められる。意識の隙を突いた完璧な拘束。

 

「   はぁああッ! 」

 飛鳥は破邪の白銀十字剣を手に突貫。狙いはラッテンの心臓。

 

「―――! っこの、小娘がッ! 」

 一瞬の差で拘束が弾かれ、突貫は防御され、飛鳥は弾き飛ばされ倒れた。

「飛鳥ッ‼ 」

 白夜叉は叫ぶも、何もできず。

 

「…驚いた。一瞬でもこの私を拘束するなんて奇妙な力を持ってるのね―――あなた」

「うっ………ぐっ! 」

 諦めず剣に伸ばした飛鳥の左手をラッテンは踏みつける。

(情けない…ッ! せめて春日部さんの半分でも動けたら……! )

 

「ふふっ、さっきの子もいいけどあなたの方が面白そう―――ッね! 」

 ドンッ! と飛鳥の腹を蹴り上げる。

「………っ! …………」

 衝撃に飛鳥は気を失った。

 

「貴様………! 」

 やおら白く輝き怒りをあらわにする白夜叉。だが、それを前にしてもラッテンの余裕は小動もしない。

「貴女の怪物ぶりはよく耳にしたわ。でもその力今後は我々のために使っていただきましょう。さて―――」

 ラッテンが振り返ろうとした瞬間、弾かれるように跳び退いた。

 次の瞬間、ラッテンのいた空間を無数の牙を生やす触手が切り裂いた。

 

「何? 」

 

「知っていた、分かっていたはずだが…実際に見ると、少し不快だ」

 触手は蠢き、人の形をとった。

 

「奴良! 飛鳥を連れ、黒ウサギのもとへ行け! そやつは笛で人を操る! 笛を吹かれる前に早くッ! 」

 白夜叉が助言する。

 それを聞きながら、奴良は冷静に飛鳥の様子を確認する。

(大丈夫、気絶しているだけ…多分、きっと。

 自分は、どうするべきだ? ここで飛鳥さんをを連れて行ったら、ディーンを手に入れられないかもしれない。ラッテンを倒す? どちらにしても原作から外れてしまう。自分はどうするべきなんだ…? )

 

「肉体変化系のギフト? まぁどうでもいいわ。邪魔者にはご退場願いましょう」

 ラッテンが宙に浮き、笛を口に当てる。

「まずい! 早く行け、奴良ッ! 」

 白夜叉が叫ぶ。奴良九朗はいまだに迷っていた。

 

(どうする、どうする。笛、多分逆らえない。逃げなければ。飛鳥さん? 連れて行かないのは不審? ツキヌキ銀だこ、爆発ビーム、消滅ビーム…だめだ、まだ倒しちゃ…頭が痛い

 

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………頭が、痛い? )

 

「―――ッ! ガハッ! うぅっ…!………っ」

 突然、奴良九朗は苦しみ悶えだし、倒れ込んだ。

 

「なんじゃ? どうした、奴良! 」

 白夜叉の声にも答えられない。ぬらりひょんは「なにがなんだかわからない」という表情で震えている。

 記憶の中にはあったが、実際に体験したことのない感覚にパニックを起こしている。今生で、生れて初めて感じる“痛み”・“苦痛”。

 

 朦朧とする思考。

 

 

 激しく響く頭痛。

 

 

 止まらない震えと絶え間のない悪寒。

 

 

 全身で主張する痛みを伴った腫れ。

 

 再生能力が肉体を治療し、患部を排除しようと働く。常ならば痛みなど感じなかったその肉体変化も今は激痛となって襲い来る。そして、それが終わらない。

 治らない。

 

 治せるはずなのに治らない。

 

 治らないから痛みは終わらない。

 悲鳴を上げることもできない。腫れで喉はもう塞がっている。

 

 

 ぬらりひょん、『黒死病』発症。死亡まであと―――

 

 

 

 

 

 





やめて!“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”のギフトで、死の恩恵を与えられたら、生後二か月で霊格の低いぬらりひょんの魂まで殺されちゃう!
お願い、死なないで奴良!

あんたが今ここで倒れたら、この物語はどうなっちゃうの?
話数はまだ残ってる。ここを耐えれば、次の世界に行けるんだから!

次回「ぬらりひょん死す」
 デュエルスタンバイ!




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第十一話「交渉と挑戦、ゲームの謎と消えた二人」

およそ1万字。
 主人公がロストしたので三人称で書きます。
 展開は原作通りなので、「知ってる。読むのだるい」という人は最期の「*~*」からの物を読んでください。


 

 バルコニーで奏でられる魔笛。

 ラッテンの笛の音は高く、低く、会場のみならず街の隅々まで響き渡り人心を支配していく。意識を乗っ取られた者たちは暴徒と化し、同士討ちを始めた。

 ラッテンを止められるだけの力を持つものは皆戦闘中であり、今この瞬間、誰も止められるものはいない。同士討ちによって倒れた者、屈服を強制された者が脱落していく。

 もうだめなのか、このままゲームは終わってしまうのかと思われたその瞬間、

 

「そこまでです!! 」

 笛の音をかき消すように雷鳴がとどろいた。

 

 会場の周りに突き出た柵の上に立ち、輝く金剛杵を掲げた黒ウサギが高らかに宣言する。

「“審判権限(ジャッジマスター)”の発動が受理されました! これよりギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMELIN”は一時中断し、審議決議を執り行います! レイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください! 繰り返します――――――」

 

 宣言を聞いたラッテンは演奏を止めペスト(マスター)のもとに戻ろうと踵を返す。

「(戦闘は中断するけど、この子はもらっていくわよ)」

 気絶したままの飛鳥を連れていく。しかし

 

「ん? なにかしらこれ」

 飛鳥の腕に紐のようなものが絡まり、それはさっきまで悶えていた「ぬらりひょんだった肉塊」に繋がっていた。

 

「ん! んん~? 切れない…。いいわ。離れたくないというなら一緒に連れて行ってあげる」

 道化師は去った。

 

「(飛鳥…! 奴良…! )」

 白夜叉は何もできない苛立ちに震えることしかできなかった。

 

 

 

 

*********************

 火竜誕生祭本陣営、宮殿大広間。

 ゲームの中断により魔王の攻勢が収まったため、戦えるもの、負傷したものが集まっていた。その中には黒ウサギやジンの姿も。

 黒ウサギが十六夜を見つけぴょん! と跳ねる。

「十六夜さん、ご無事でしたか!? 」

 

「こっちは問題ない。他のメンツは? 」

 

「残念ながら、十六夜さんと黒ウサギを除けば満身創痍です………すみません。僕はリーダーなのに…僕がもっとちゃんとしていれば………! 」

 ジンが悔しそうに頭を下げる。耀とレティシアは戦闘により披露しており、奴良は意識不明だという。

 

「白夜叉様の伝言を受け取り、即座に審判決議を発動させたのですが……少し遅かったようですね」

 黒ウサギが沈痛な面持ちで呟く。

 それから審判権限について少し話した後、大広間の扉が開き、マンドラとサンドラの二人がやってきた。

 

「今より魔王との審議決議に向かいます。私の他、同行者は四名です―――まずは“箱庭の貴族”である、黒ウサギ。“サラマンドラ”からはマンドラ。その他に“ハーメルンの笛吹き”に詳しい者がいるのならば交渉に協力して欲しい。誰か立候補する者はいませんか?」

 参加者にどよめきが広がる。

 神話や伝説ならともかく、童話について細部まで詳しいものは稀だ。

 

 名乗り出る者がいない中、十六夜がジンの首根っこを掴んで、

「“ハーメルンの笛吹き”についてなら、このジン=ラッセルが誰よりも知っているぞ! 」

「………は? え、ちょ、十六夜さん!? 」

 突然声を上げた十六夜に驚くジン。

 

 ジンの困惑を他所に、悪戯半分本気半分で捲し立てる。

「めっちゃ知ってるぞ! とにかく詳しいぞ! 役に立つぞ! この件で“サラマンドラ”に貢献できるのは、“ノーネーム”のリーダー、ジン=ラッセルをおいて他にいないぞ! 」

「ジンが? 」

 キョトン、とした顔を向けるサンドラ。だが、次の瞬間にはキリッ! と表情を戻す。

「他に申し出がなければ“ノーネーム”のジン=ラッセルにお願いしますが、よろしいか? 」

 サンドラの決定に再びどよめきが広がる。

「“ノーネーム”が………? 」「何処のコミュニティだよ」「信用できるのかしら」「決勝に残っていたコミュニティか? 」「ありえねえ」「おい、他に立候補者は―――」

 他の同行者を求める声が上がるも、現れる気配がない。

 ノーネームに自分たちの命運がかかった交渉を任せるのが不安なのだろう。ジンもその空気を察して手を挙げなかったのだが…。

 

「馬鹿かオマエ。毎夜毎晩書庫で勉強してたのは何のためだ。ここで生かさなくてどうする」

「そ、それは…」

 ジンの瞳が揺らぐ。必死で勉強してきた自信と経験不足から来る不安が心を揺さぶる。

 

「周りに気を使うのはまぁ、良いことだ。誰にも迷惑を掛けねぇってのが御チビの処世術なら文句言わねぇよ。

 だけどお前は俺たちの旗印なんだ。お前が我を見せつけなきゃ通らねえことが、今後も必ず来る。違うか? 」

「………っ……」

 十六夜の言葉を噛み締めジンは顔を上げる。集まる周囲の目。

 

「もう黒ウサギの寄生虫だの何だの言われたくないんだろ? 周りにかっこいい所を見せつけて、名をあげてやろうぜ、リーダー」

 ここぞとばかりにリーダー呼び。

「は、はい………! 」

 リーダーと呼ばれてうれしかったのか、勢いづいて返事をする。

 

 二人の様子を見ていたサンドラと黒ウサギは目線を合わせ笑って見守っていた。

 

 

 

 

*********************

 火竜誕生祭本陣営、貴賓室。

 

 プレイヤー側は黒ウサギ、十六夜、ジン、サンドラ、マンドラが出席。

 ホストマスター側はペストを真ん中に、両隣に軍服姿のヴェーザーと白装束痴女ルックのラッテンが座っている。

 

「ギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMELIN”の審議決議、及び交渉を始めます」

 厳かな声で黒ウサギが告げる。

 

 黒ウサギはペストたちの方に顔を向ける。

「まず“主催者(ホスト)側”に問います。此度のゲームですが、」

「不備はないわ」

 遮るように斑柄の少女(ペスト)が言い切る。

 

 一瞬呆気にとられた様子の黒ウサギだったが、表情を引き締め確認する。

「受理してもよろしいので? 黒ウサギのウサ耳は箱庭の中枢と繋がっております。嘘をついてもすぐわかってしまいますよ? 」

 

「その上で言うけど私たちは今、無実の疑いでゲームを中断させられている。こちらの言っている意味分かるわよね? 」

 黒ウサギからサンドラに、目線を送る。

 

「…不正がなかった場合、主催者(ホスト)側に有利な状況でゲームを再開させろと…? 」

 何をぬけぬけと…と言わんばかりの表情のサンドラに対し、

「新たにルールを加えるかは後で交渉しましょう? 」

 ペストは涼しい顔。まるで表情を変えない。

 

「わかりました。黒ウサギ」

「あ、はい! 」

 サンドラの要請を受け、黒ウサギが目を閉じ天を仰ぐ。ウサ耳がピコピコと揺れる。

 

 回答を待つ間、十六夜がマンドラに小声で質問をする。

「なあ、どの程度ならゲームの不備・不正に該当するんだ? 」

「………………今回のゲームに不備があるとすれば、まず白夜叉の封印。『参加』を明記しておきながら『参戦』はできぬという。そこには明文化された要因があるはず」

「しかし記されていたのは“偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ”のみ、か」

 

 黒ウサギが目を開き、気まずそうに回答を告げる。

「箱庭からの回答が届きました。此度のゲームに不備・不正はありません。白夜叉様の封印も、正当な手段で造られたものです………」

 

 平坦な声のままペストが言う。

「当然ね。じゃ、ルールは現状維持。問題はゲーム再開の日取りなのだけれど」

「日取り? 日を跨ぐと?」

 サンドラが意外と言わんばかりの声を上げる。

 耀やレティシアがそうであるように、参加者は今とても疲労している。ここで不利な条件をつけられ再開されたら…と危惧していたのに、回復する時間を与えるというのだから。

 

「ジャッジマスター、再開の日取りは最長でどのくらいまで伸ばせるの? 」

「えっ? 最長ですか? ええっと…今回の場合ですと一ヶ月くらいかと…」

「そ。じゃあ再開は一か月後で」

 

「待ちな!」

「待ってください!」

 話が纏まりかけたところ、十六夜とジンがペストの言葉を遮る。

 ジンが十六夜を見ると、顎で「お前が言え」と言っていた。ジンは正面を向き問いかける。

 

主催者(ホスト)に問います。あなたの両隣にいるのは、ラッテン・ヴェーザーだと聞きました。そして、闘技場に出現した陶器の巨人は(シュトロム)。だとしたら…あなたの名は『黒死病(ペスト)』ではないですか? 」

 

「ペストだとッ! 」

「あの黒死病の?! 」

「はい。14世紀から始まる寒冷期に大流行した、人類史上最悪の疫病」

 

 

 

「正解よ。あなた名前は? 」

 ここで初めてペストの声に感情が混じった。

 

「……“ノーネーム”のジン=ラッセルです」

「覚えておくわ。でも手遅れだったわね。私は既に参加者の一部に病原菌を潜伏させている」

 一同が息をのむ。

「つまりあなたたちの命は私の手のひらの上」

 

 サンドラが机をたたき黒ウサギに再審を要求する。

「ジャッジマスター! 彼らは意図的にゲームの説明を伏せていた疑いが―――」

「駄目ですサンドラ様! ゲーム中断時に病原菌を潜伏させていたとしても、彼らがその説明責任を負うことはありません。また有利な条件を押しつけられるだけです! 」

 ジンが制止する。サンドラは悔しそうに歯噛みする。

 

「そうね、ならこんなのはどうかしら。ここにいるメンバーと白夜叉。その全員が“グリム・グリモワール・ハーメルン”の傘下に入るなら、他のコミュニティは見逃してあげる」

 

「なっ?! 」

 

「私が捕まえた赤いドレスの子もいい感じですよマスター♪ 」

「!(飛鳥さん…)」

「なら、その子も加えてゲームは手打ち。参加者全員の命と引き換えなら安い物でしょ? 」

「従わなければ皆殺し―――ってか? 」

 十六夜の言葉にペストは微笑む。

 

 

 

 

 

*********************

 暗く冷たいどこか、攫われた飛鳥はいまだ目覚めず。

 

「あすかっ」

 尖がり帽子の精霊が興そうとする呼びかけだけがこだまする。

「あすか、あすか、起きてあすか、あすか、あすかっ」

「あすかぁ…あすか! 」

 眠り姫、いまだ目覚めず。彼女の腕には締め付けられたような痕があった。

 ただそれだけ。痕が残っているだけだった。

 

*********************

 

 

 

 

 

「一つお聞きしたいのですが」

 交渉テーブル、ジンがペストに問いかける。

「?」

「あなたたち“グリム・グリモワール・ハーメルン”は新興のコミュニティではないですか? 」

「答える義務はないわね」

 即答。その反応の速さは気づきを与えるのに十分すぎた。

 

「なるほど、新興のコミュニティ。だから人材が欲しい。俺たちや白夜叉を傘下に入れたがっているのはそのためか」

「………だからなに? 」

「黒死病は感染から発症まで最短で二日。ゲーム再開が一か月後だと、他のプレイヤーはもちろん、多分僕たちも全員死んじゃいます」

「死んじまったら手に入らないぜ、あんたらの欲しがってるもんは」

 

 少し思案して、

「それなら一か月後ではなく二十日にすれば、病死前の人材を、」

「では発症したものを殺す」

 マンドラが被せる。

「たとえサンドラであろうとこの私であろうと、発症したものは即座に殺す。例外はない」

 

 あまりにも過激な発言。一時的に場が鎮まる。

 

 

 

「おい黒ウサギ、ルールの改変はまだ可能か? 」

「え? あ、YES! 」

「交渉しようぜ、“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”。俺たちはルールに『自決・同士討ちを禁ずる』と付け加える。だから再開を三日後にしろ」

 

「却下。二週間よ」

「五日。…その代わり黒ウサギをつける」

「は? 」

 アホづら黒ウサギ。

「黒ウサギはジャッジマスターだからゲームに参加できねぇ。だが、参加を認めれば手に入る可能性はある。……どうだ? 箱庭の貴族を仲間にするチャンスだぜ? 」

 ペスト沈黙、長考。

 

「……………十日。これ以上は譲れないわ」

 ジンが立ち上がり発言する。

「ゲームに期限をつけます! 再開は一週間後、ゲーム終了はその二十四時間後。

 それまでに決着がつかなければ、ゲーム終了と同時に主催者(ホスト)側の勝利とします! 」

「ジン……? 」

 

「本気? こちらの総取りを覚悟するというの? 」

「一週間は死者が現れないギリギリのラインです。それ以上は精神的にも肉体的にも僕たちは耐えられない。だから、参加者(プレイヤー)側は無条件降伏を呑みます」

 

「………………」

 ペストは考える。

 この提案は魅力的だ。双方にとっていい落としどころであり、時間もちょうどいい。ただ、気に入らない。

 今場を支配しているのは、目の前の少年だ。自分ではない。この提案は相手からの物で、自分の目論見通りではない。それが気に入らない。

 

「ねえ、ジン? もし一週間生き残れたとして…あなたは魔王(わたし)に勝てるつもり? 」

「勝てます」

 即答だった。考えるよりも先に口に出たというようだった。

 

 

「…………………………そう、よく分かったわ」

 不満げな顔を嗜虐心たっぷりの笑顔に変えて

「宣言するわ。あなたは必ず、私の玩具にすると」

 

 

 魔王は消え、交渉は終了した。

 ゲーム開始まであと一週間。

 

 

 

 

*********************

 

「あすかっ! あすかっ! 」

「………っう。んんん…あの女ッ! 」

 飛鳥が飛び起きる。尖がり帽子の精霊は勢いに吹き飛ばされる。

「きゃーー。あすか、げんきー…? 」

 小さなお目目を丸くして、ちょっぴり驚く尖がり帽子。

「ご、ごめんね…? ………ここは? 」

 飛鳥が周りを見渡すと、正面に巨大な壁が、否。

 

「これは………展示場にあった………」

 そこにあったのは壁ではなく巨人だった。ランプの展示会場で見た、“ラッテンフェンガー”製作の。

 

「あすか」

 尖がり帽子の精霊が肩に上る。

 そして蛍のような光が舞い、声が聞こえてくる。

 

「私たちから

「貴女に贈り物

「どうか受け取ってほしい

「そして偽りの童話

「“ラッテンフェンガー”に終止符を

 

「私たちは

「ハーメルンで犠牲になった

「130人の御霊

「天災によって命を落とした者たち

「貴女にはすべてを語りましょう

「1284年6月26日にあったハーメルンの真実を

「そして、奉げましょう

「私たちが作り上げた最高傑作

「星海竜王より授かりし鉱石で鍛えあげた最後のギフトを

「131人目の同士が連れてきた

「奇跡の担い手と成り得る貴女を

 

「私たちのギフトゲームを受けてくれますか? 」

 光が集まり、一枚の“契約書類(ギアスロール)”が降ってくる。

 

「(私のギフトでこの“ディーン”を服従させろ、と…)

 一つだけ確認するわ。あなたたちの作ったギフトがあれば、奴らに勝てる? 」

 

「貴女が使えば

「貴女が従えれば

 

「「「貴女を必ずや勝利させましょう! 」」」

 群体精霊の声が重なり響く。

 

「いいわ、“ノーネーム”の久遠飛鳥。あなたたちの挑戦心して受けましょう! 」

飛鳥は挑戦的な笑みを浮かべ高らかに宣言した。

 

「貴女の“威光”で、鋼の魂に灯火を」

 巨人が動く。揺れと共に動き出し、一つ眼を不気味に輝かせる。

 久遠飛鳥のゲームが始まった。

 

 

 

 

*********************

 

 境界壁の上部。ペストたちはそこにいた。

「あれから四日、徐々に感染者が発症し始めてるみたいですね」

 ラッテンが眼下で苦しむゲーム参加者たちを見下ろしながら言う。

「そう」

 素っ気ない返答をするペスト。

 

「あーあ。何もかも順調なのに、消えたお嬢様はまだ見つからないですねぇ」

「構わないわ。どうせすぐ手に入るもの」

「こんな時にせめて『白雪』か『灰かぶり』がいればねぇ。傘下に入れた連中を使って面白おかしくオペラでも演じさせたのにぃ」

「あの灰かぶりか、奴は陰気だったがユーモアのセンスは中々だった。白雪のやつもいい感じに性格悪くて笑えたな」

 ハッハッ! とヴェーザーが笑い、それをほんの少し、興味がありそうな目で見るペスト。

 

「おやおや? どうしましたマスター? 珍しく仕草が可愛いですよ? 」

 ラッテンがペストを後ろから抱きしめる。

「…そういう貴女は普段通りムカつくわね、ラッテン」

 抱きしめられたペストは自分の頭に乗っかる二つの塊に若干イラつきながら返答する。

 

「いや~ん! 褒められちゃった♪ 」

「いや、褒めてねぇだろ」

 ラッテンがおどけ、ヴェーザーがツッコミを入れる。

 

 

「マスター、一つ大事な話をしておきます」

 おどけた様子を消して、真剣な表情になるラッテン。

 ペストの隣で屈み、

「貴女は魔王としてギフトゲームを開催しました。今後、多くのコミュニティに狙われ、戦って戦って、そしてやがて、必ず没します」

「必ずな」

「………」

 ヴェーザーの念押し。ペストは何も言わない。

 

「この神々の箱庭において、魔王とはそういうシステムだとご理解ください。でも、今の私たちはマスター一筋ですよ? 心から」

「グリムグリモワールの名を担ぐ魔王なんざ、もうあんたを除けば他にはいねぇだろうしな。ゆえに最後まで忠を尽くす」

 

「………………そう」

 絞り出した言葉。自分についてきてくれる二人の言葉を魔王は静かに噛み締めた。

 

 

 

*********************

 

 本陣営、隔離部屋個室。

 朦朧とした意識の中、春日部耀は目を覚ました。

「………十六夜? 」

「お。起きたか。」

 十六夜が振り返る。耀の寝ていたベッドの脇で本を読んでいたらしい。

「どうして、ここに? 」

「寝てばっかりで暇だと思ってな。…具合はどうだ? 」

「うん…平気。ごめんこんな時に」

 交渉からすでに六日、一日目から発症の兆しの見えていた耀は症状がここに来て悪化し、隔離部屋で安静にしているように言われてしまっていた。

 

「気にすることはねぇよ」

「ありがとう…ゲームクリアの目途は立った? 」

「大まかには分かってるんだが、核心には至ってないってところだな」

 十六夜は頭を掻いて耀に向き直る。

「ラッテンは鼠、シュトロムは嵐、ヴェーザーはヴェーザー河。ペストは黒死病。

 春日部は前に黒ウサギが言った立体交差並行世界論を覚えてるか? 」

「うん…」

 

「あれは要するに異なる時間並行線上で異なる事象が起きているにもかかわらず、ある結果に収束するポイントが存在するってことだ。

 今回で言えば、クロスポイントはハーメルンの碑文にあった『130人の死』。そしてその要因となるのがラッテン・ヴェーザー・シュトロム・ペストの四つ。この中で130人の死に繋がらないものが、偽りの伝承のはずなんだ」

 

 話を聞いた耀は、まとまらない思考の中で十六夜に尋ねる。

「なら十六夜は、どの伝承が偽りの伝承だと思う? 」

「ペストだ」

 即答、断定する。

 

「ペストだけが黒死病という長期的な死因として描かれている。『ハーメルンの笛吹き』は1284年6月26日という限られた時間内で130人の生贄が死ななければいけないんだ」

 黒死病は感染も発症も個人差でバラつきが生じる。130人が同時に黒死病で死ぬというのは考えられない。

 

「だったら、ペストを倒せばいいだけじゃないの? 」

 耀が偽りの伝承が特定できているなら……と不思議そうに言う。

「それだともう一つの勝利条件『ゲームマスターの打倒』と被る。

 ……例の一文も部分的には解明できてるんだがなぁ『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』。つまり砕き掲げることのできるもの…考えられるのは、ハーメルンのステンドグラスだ」

「ステンドグラス………? 」

「春日部は見てなかったか? 会場のあちこちに飾られてたんだが」

「うん、知ってる」

 

「しかし、会場内のステンドグラスは100枚以上。それを砕いて掲げまわるなんて、考えただけでも骨だぜ」

 十六夜はお手上げだ、というように手を広げる。

 耀はそんな十六夜を見つめ、ふふっと小さく笑った

「なんだよ、見舞いに来た人間に対して」

「ごめん、十六夜がそんなふうに拗ねるのは珍しいなって」

 笑われた十六夜はハッ、と笑って

「いざとなったら最悪魔王の首ぐらいは取ってやるさ」

「奴良がいたら………」

「………そうだな。あいつ分身できるなんて聞いてないっての」

 二人の間に重い空気が漂う。

「まだ見つからない…? 」

「ああ、ノーネームの手の空いているやつらで探しているがさっぱり」

 

 

 

「…そういえば白夜叉は? 」

「例のバルコニーに封印されたままだ」

「……どうやって封印したんだろうね? そんな一文がハーメルンの碑文にあるの? 」

「まさか。白夜叉はどちらかと言うと仏神側だぞ。本来持ってる白夜の星霊の力を封印するために、仏門に下って霊格を落としたんだと」

「本来の力? 」

 

「ああ、なんでも白夜叉は、箱庭の太陽の主権を持っているらしい。太陽尾そのものの属性と、太陽の運行を司る使命を………? 」

 ここまで考えて十六夜の中で何かが引っ掛かった。

―――「14世紀から始まる寒冷期に大流行した、人類史上最悪の疫病」

 

 

「………黒死病が大流行した原因は、太陽が氷河期に入り世界そのものが寒冷に見舞われたため…」

「十六夜…? 」

「そうか、これが白夜叉を封印したルールの正体か! 」

「わっ! 」

 十六夜は手のひらに拳を叩きつけ、得心いったと示す。

「なら連中は! グリム童話上のハーメルンの笛吹きであっても! 本物のハーメルンの笛吹きじゃなかったってことかッ!

 ナイスだ春日部! 後は任せて枕高くして寝てな! 」

 バタン! とドアを勢いよく開け飛び出していく。

 

「……うん、がんばってね」

 その背にエールを送った後、耀はこれから戦いに挑む同志を思いながらまどろみに落ちていく。

 意識が途切れる寸前、行方のしれない二人の友人を思い出す。

(飛鳥、奴良………無事だといいんだけど)

 飛鳥は敵の手に落ちているという。仲間にする気があるなら無事なはずと黒ウサギたちは言っていたが。

 奴良は本当に行方不明だ。ゲーム中断直後、リリと共に負傷者の治療に当たっていた際、彼の分身だというものが絶叫し形を失い消え去った。末期に本体は別にいると言い残していたが、まだ生きているのか、今どこにいるのかまるでわからない。

 

 不安と心配と共に、耀は父から譲り受けたペンダントを握りしめる。

 二人の無事を祈りながら眠りに就くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*********************

 

 

 東側、天幕の外の湖。

 

 そこには、悠々と泳ぐある魚の姿があった。

 それはぬらりひょんがこの世界に着いてすぐ、保険代わりに、と放した『自分』だった。

 

 そんな彼はこの一か月間、特に何をするでもなく、魚としての生を謳歌していた。

 いつものように目的もなくゆらゆらと泳いでいると突然、脳内に大きく響くものが、

 

 

 

『ぴろぱんぴんぽん♪ぴぽぱんぴんぽん♪ 』

 彼はすぐに察した。神託だ。

 

『転生者くん、こんばっぱー! 神様だよー!

 転移のお知らせだよー?! 』

『今からきっかり24時間後! オリジナルの転生者くんを次の世界に転送します! 意義は認め~っん! 』

『オリジナル以外の、分裂増殖した転生者くんたちは転移までに融合して一つになることっ! 出来なかった個体は転生者くんが転移したと同時に機能を停止して消滅するので、あしからず! 』

『無理―、できなーい! って子たちは…どんまい! 痛みはないし一瞬だから! 』

『じゃ、そゆことでー! ばいにゃら~』

 

 それっきり聞こえなくなった。

 彼は考える。原作の通りなら、「自分」は東側から北側に移動しているはず。正確な数字は忘れたが、ここから一日でたどり着ける距離ではない。融合同機は不可能。

 

 彼は考えるのをやめた。このまま、魚として消えることを選んだ。

「(『自分』は何をしているだろうか…今頃は、ペストたちと戦う準備にでもいそしんでいるのだろうか…僕の分まで、楽しんでるといいんだがなぁ)」

 

 彼は思考を止め、泳ぎ始めた。

 代わり映えのしない湖の世界を、最期にもう一度見て回るために。

 

 

 

 



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第十二話(ゲーム再開、次の世界まであと…)

 物語は終わりませんが、この主人公は世界を越えられずにこの世界で死にます。




 火竜誕生祭本陣営に参加可能なすべてのコミュニティが集結する。

 

 

 ペストの声とともに、

「ゲーム再開」

 中断されていたゲームが再び始まり参加者が一斉に駆けだす。

 

 

「ネズミの描かれたステンドグラスは偽りの伝承です! 見つけたら砕いてください! 」

 ジンが指示を出し、発見された偽りの伝承が次々に砕かれていく。

 

 

 上空からその様子を観察するラッテンはおどけて言う。

「あららら? どうやら連中、私たちの謎を解いちゃったみたいですね? 」

 チッ、と舌打ちをするヴェーザーとは対照的にペストは涼しげに見降ろし

「構わないわ。いざとなったら皆殺しにすればいいだけ」

 伝承を砕こうとする者が死ね(いなけれ)ば、謎が解かれていようと関係ないと冷酷につぶやく。

 

「そのためにもヴェーザーには神格を与えてあるんだから」

「…なんでヴェーザーにー」

 ラッテンはそっぽむいてぶー垂れる。

 

 それに構わずペストは

「さて、謎が解かれた以上温存しておく必要はないわね。

―――ハーメルンの魔書を起動する」

 右手を空に向ける。するとペストから黒いナニカが放出され、散らばったステンドグラスと共鳴し、町を一瞬にして変貌させる。

 

 

 

「な、なんだこれは?! 」

 マンドラが驚愕の声をあげる。

 それに答えるようにジンがつぶやく。

「ハーメルンの街を召喚した……? 」

「何ッ!? 」

 

「これじゃステンドグラスの場所なんてわからないぜ…」

 戸惑いの声をあげる参加者たち。

 

 ジンは意を決し声をあげる。

「落ち着いてください! まずは教会を探してください! ここがハーメルンの街であるならば縁のある場所にステンドグラスが隠されているはずですっ! 」

「よし…! 教会だ! 境界を探せ! 」

 

 ジンとマンドラの声で捜索隊が一斉に動き出す。

 

 

 

 

 

 一方、集団から離れた十六夜は建物の屋根の上から変化を見下ろし笑った。

「地殻変動…? 面白くなってきやがった…ッ! 」

「なら俺を楽しませろよッ! 」

 声とともに降ってきたのはヴェーザー。

 跳躍して回避する十六夜だが、一瞬前まで足をつけていた屋根は粉々。

 確認のため目を向けた。その一瞬で空中の十六夜に飛び迫るヴェーザー。

 あっという間に追いつき、ヴェーザーは十六夜の頭を押さえる。

「テメェ! 」

「前回のお返しだ! 」

 頭を軽く押し出し、ヴェーザーは棍の様な笛を構えフルスイング。

 空中でよけようのない十六夜はなすすべなく吹き飛ばされる。

 1、2、3、

 水面を三回バウンドし、対岸に着地。

 

―――ぽたり、ぽたり

 十六夜はここに来て初めて出血。

 ペッ、と血反吐を吐き捨てヴェーザーを睨む。

「効いたぜ、ヴェーザー。なんだよ、ちょっぴり派手になってねぇか? 」

「当たり前だ。こちとら“神格”を得たんだからな。

 しかも故郷(ホームタウン)で力も倍増してる。簡単に終わるんじゃねぇぞォ!! 」

 

 叫び、ヴェーザーが突撃、

「ハッ! テメェこそなっ! 」

 迎え撃つ十六夜。拳と笛がぶつかり合う。衝撃は拡散し大地を耕していく。

 

 

 

 

*********************

 

「あったぞ! ネズミが描かれていないステンドグラスだ! 」

 捜索隊の一人が声をあげる。

「確保してください! 十六夜さん達が魔王を引き付けている隙に、僕たちは本物のステンドグラスを! 」

 ジンが冷静に指示を出す。

 

「はーい。其処までよ♪ 」

 ハッ! と声のする方を見上げるとそこには火蜥蜴たちを従えたラッテンの姿が。

 

「現れたな! ネズミ使い! 」

 すでに戦闘形態をとったレティシアが敵を睨む。

 

「だけじゃないのよ? 」

 パチン、と指を鳴らすとどこからか陶器の巨人が降ってきた。

 

「シュトロムがこんなに…?! 」

 驚きを隠せないジン。

「行け、ジン」

「でも…! 」

 

 心配だ…という様子のリーダーにレティシアは強く言う。

「早く行けッ! 」

 

「…皆さん、行きましょう! 」

 ジンが参加者を連れ反対方向に駆けだす。

 

「そうはさせないわよ? 」

 ラッテンが笛を口に当てる。奏でられるのは支配の音色。

 支配を受けた火蜥蜴が炎を吐く。

 

 レティシアは影を操り、炎を防御する。

「(チッ! こいつらを殺してしまえば同士討ちになる…っ! )」

 改正されたルールによって、同士討ちは失格。操られているとはいえ火蜥蜴たちはいまだ“参加者(プレイヤー)”。殺してしまえばルールによりレティシアは失格。このゲームでは何もできなくなってしまう。

 

 走るジンたち。その行く手にも一体のシュトロムが降ってくる。

「っ! まだいたのか…! 」

 シュトロムが手を伸ばす。

 

「ジン! 」

 レティシアは動けない。

 

 絶体絶命。リリは目に涙を浮かべ、ジンは目をつぶって下を向く。

 

 その時、横合いから紅色の巨椀が突き出て、シュトロムを粉砕した。

「あれは…」

 ラッテンのつぶやきは小さく消えた。

 

「あ! ジンくん、あれ! 」

「え? 」

 リリが何かに気づき、ジンもつられてリリの指さす先を見上げる。

 そこには、

「飛鳥さんっ!? 」

 腕を組み、不敵に笑う同士の姿があった。

 

 

*********************

 

 

 十六夜とヴェーザー、二人の戦いは余波だけでも街を揺らし、屋根を跳躍し駆け巡る十六夜をヴェーザーが巨大な笛でもって叩き潰さんとする。

 

「ヘッ! 」

 足を止め、笑みを浮かべた十六夜は腕を交差させ一撃を受け止める。

「ウォォ! 」

 気合一喝。足場となった屋根は吹き飛び、家屋は倒壊する。笛の一撃ではダメージを負わなかった十六夜も、空中では身動きが取れず蹴り飛ばされる。

 

「っ………」

 吹き飛ばされた先、大した傷ではないが膝をつかざるを得ない。

 

 ふわりと地上に降りてきたヴェーザー。クックッと牙をむいて笑う。

「そうだ。これが“神格”を得た悪魔の力……ッ! 130人ぽっちの死の功績なんかとは比較にならねぇ!」

「来いよ、人間。お楽しみはここからだぜ! 」

 

「―――ったく。ずいぶん俺好みのバージョンアップをしてきたじゃねぇか。嬉しいぜ,

ヴェーザー河の化身。

 いや、本物の“ハーメルンの笛吹き”」

 立ち上がった十六夜は笑みと共にこのゲームの解を示す。

 

 ふん…と息を吐いてヴェーザーも笑みを返す。

「やはり謎を解いたのは貴様か」

 

「ああ。お前以外の全員が、黒死病を元に後付けされた偽モンだ」

 

―――1284年 ヨハネとパウロの日 6月26日 あらゆる色で着飾った笛吹き男に130人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され丘の近くの処刑場で姿を消した―――

 

「例の碑文には、ネズミを操る道化師“ラッテンフェンガー”は出てこない。

「ハーメルンの笛吹きにネズミを操る道化師が現れるのは、黒死病の最盛期である1500年代以降…。

「これでネズミを操る『ラッテン』と黒死病を表す『ペスト』が除外される。

「嵐の意味を持つ『シュトロム』も本物と見せかけてフェイク。

「碑文にある丘とは“ヴェーザー河”に繋がる丘を示し、天災で子どもたちが亡くなった象徴とされる。

「つまり『シュトロム』もまた、“ヴェーザー河”の存在を示す」

 

「―――とまぁ、以上の結果からお前が本物って答えが導き出されるってわけだ」

 

 考察を聞き終えたヴェーザーは深いため息をついた。

 

「なんだ? 訂正があるなら聞くぜ? 」

 

「いやぁ全然? つーかお前、やっぱこっち側に移籍しろよ。お前は絶対“魔王側”のほうが舞台映えするぜ」

 

「悪いがお断りだ。魔王も面白そうだが、今は他に目標があるからな」

 まっすぐ前を見据えた拒否。

 それに対し、さほど落胆した様子もなく、

「…そうかよ、じゃあしょうがねぇ。

 やっぱ死んどけ坊主ッ‼ 」

 ヴェーザーは鬼気迫る表情で笛を掲げ突撃する。

「こっちの台詞だ、木っ端悪魔ッ‼」

 逃げることなく、十六夜は正面から受け止め笛に拳をたたき込む。

 激突の衝撃波周囲に広がり破壊がまき散らされる。

 

 

 

 

*********************

 

「いったい今までどこに隠れていたのかしら? 私の可愛い赤ネズミさん♪ 」

 背後に3体のシュトロムを従えつつ、ラッテンは突然現れた紅い巨兵と、その肩に乗る少女に問いかける。

 

「“ラッテンフェンガー”に匿われていたのよ。

 貴女を倒すためにね」

 巨人の右肩に少女が乗り、少女の右肩に精霊が乗る。

 自身に満ち溢れた表情で飛鳥は宣言し、長い髪と赤いドレスが風に揺れる。

 

 “ラッテンフェンガー”の名を聞き、ラッテンは表情を変える。

「そう…ついに姿を現したのね『偽物』………! 」

 

 はぅぅ…っ! と精霊が震える。

 

「借りを返すわ」

「やれるものならやってみなさい? 」

 

 

「砕きなさい! ディーンッ! 」

 主の命令を受け、紅の巨人は一つ眼を輝かせながら答える。

「ディィィンッ………! 」

 

「潰せ、シュトロムッ! 」

 先頭のシュトロムが体当たりのように襲い掛かる。

「ディィィン! 」

 ディーンは体をひねり、右こぶしを叩き込む。

 それはシュトロムの陶器のような体を貫通し、打ち砕いた。

 

「なッ!? 」

 ラッテンが驚く間も巨兵たちは止まらない。

 

 ブォォォォッ! と低く鈍い音を響かせながらシュトロムの一体が風を吸い込む。

 ディーンは小動もしないものの、肩に乗る飛鳥は吸い寄せられないようにしがみついて耐える。

「っ! ううう…っ! 」

 と、右から最後の一体が奇襲を仕掛けてきた。

 

「! 右よッ! 」

 飛鳥が気付き、ディーンに知らせる。するとディーンは風をものともせず体を回し、左拳で一撃。

 シュトロムはそれだけで粉々になってしまった。

 

「ちッ! シュトロムッ! 」

 ラッテンが叫ぶと、今まで風を起こし、瓦礫をためていた残った最後のシュトロムが岩石砲を撃ちだした。

 撃ちだされた岩石塊はディーンに向かって高速で迫る。

 

「! ディーンっ! 」

 飛鳥が気付き声を上げる。

 ディーンが反応し振り向く。

 迫る岩塊、それに向かって巨人は剛腕を叩きつける。

 

 ドゴァァンッ!

 岩石では鋼を傷つけられず、振り向きざまに延ばされた拳は、そのまま()()()、最後に残ったシュトロムを粉砕した。

 

「(すごい…! )」

 自分の新たなギフトの力に驚き興奮する飛鳥。

 

「―――もらったッ! 」

 ラッテン、空からの奇襲。飛鳥は気づいていない、しかし

 

 ディーンが飛鳥の命なく動き、ラッテンを握りつぶした。飛鳥の“威光”により、強化されたディーンは主の命がなくとも動き、敵を捕らえる。

「ギッ、ヴゥッ! 」

 巨人の拳に握り込まれ、潰されたラッテンは苦悶の声を漏らした。

 

 

「もういいわ! ディーン」

 命令を受け、ディーンは拳を開く。

 解放されたラッテンは吐血し、せき込みながら飛鳥を睨みつける。

 

「これで蹴り上げられた借りは返したわ………。

 でも、このままじゃ気が収まらない…―――ゲームをしましょう」

 

 何を言っているの? と言わんばかりに見上げるラッテン。

「貴女に一曲分の演奏を許可します。

 私に服従しているディーンを魅了してみなさい」

 片手を腰に当て、挑発的な目で勝負を持ち掛ける。ただ勝つだけ―――『武器が強いから勝った』―――では気が収まらない。自分の支配に相手が及ばないのを確かめてこそ、勝利と言えるのだと。

 

「………なるほど、ね……いいわ、一曲奏でましょう…」

 飛鳥の気高い覚悟を感じ取ったラッテンはよろよろと立ち上がり、笛を構える。

 

 口の端に血をにじませながら挑発的にウインク。

「幻想曲“ハーメルンの笛吹き”……どうか、ご静聴のほどを♪ 」

 

 

 

*********************

 

 

 戦いを続けるヴェーザーと十六夜。

 ヴェーザーは大地を操り水柱を立たせ、地面を割り、追い詰めようとする。

 一方の十六夜は黒ウサギに比肩する俊足をもってそれを回避し跳躍。振りかぶり殴る。

 

 殴る十六夜、受け止めるヴェーザー。空中では、浮けるヴェーザーの方に分がある。笛を振りかぶり、お返しと言わんばかりに殴る。

 十六夜はガードしたものの衝撃で落下、地面に激突する。

 

「………」

 十六夜はついさっきまで叩いていた軽口を止め無言でたたずんでいる。

 

「おいおいどうしたよ。ずいぶんおとなしくなっちまったじゃねぇか」

「…気に入らねぇ」

「なに…? 」

「出し惜しみはやめようぜ、ヴェーザー。

 持ってんだろう? 俺が懐に飛び込むたびに狙ってた隠し玉…! 」

 

「…! 」

 息をのむヴェーザー。十六夜は声を荒げながら続ける。

「この一撃が当たれば勝てる―――っていうお前の目がッ! あァ! 気に入らねぇッ! 」

 

 十六夜のその物言いに、呆れたような疲れたような。

「はぁ………………OK…

 ―――死ね糞ガキ! 」

 血走った目で。

 

 おらぁぁぁぁッ!

 巨大な笛を掲げ、頭上で円を描くように回し始めるヴェーザー。

 それに応じ、風と揺れが今までにない規模で吹き荒れる。

 

「よしよし、いいぜ! かなり期待できそうだ! 」

 溜めに溜めた力を笛に宿し、構える。

 それに応じ、腰を落とし右腕を引き絞るように構える。

 

 

「いくぜ………! 」

 

 

 二人は今出せる全力をもって激突した。

 

 

 

*********************

 

 ラッテン、“ハーメルンの笛吹き”が全霊を込め曲を奏でる。

(………ああ。これは、少しずるいわ)

 飛鳥と精霊が目を閉じ聞き惚れる。

 

(すべてを捨てても、この甘美な音色に酔いしれたくなる………でも)

 飛鳥の瞼の裏に“ノーネーム”の仲間の姿が浮かぶ。

 そして

―――「じゃあ俺たちが最初に主催するギフトゲームはハロウィンで予約しとこうぜ。箱庭で過ごす以上、やっぱり主催者(ホスト)は経験しとかないとな」―――

 

(………そうね、私たちのハロウィンを実現させなければね…! )

 

 曲が終わる。ゲームが終わる。飛鳥は自然とラッテンに拍手を送っていた。

「とても素敵な曲だったわ」

 

「あーあ、負けちゃった。…ま、さっきの一撃で、ほとんど致命傷だったんだけど」

 ラッテンは素直に敗北を認め、足先から粒子となって消えていく。

「じゃあね、可愛いお嬢さん。マスターによろしくね」

 消えた。

 

「………。

 ……行くわよディーン! 魔王を倒すために! 」

 決着。そして次の戦場へ。

 

*********************

 

 

「……おい坊主」

「なんだ? 」

「お前、本当人間か?」

 座り込んだままのヴェーザーに対して、立ち上がる十六夜。

「分類学上ではそうなっているけどな」

 しかし十六夜の右腕はボロボロだ。治りはするだろうが無茶は出来ない。

「さ、続けようぜ。まだ戦えるだろ」

 ボロボロで、痛みが凄まじいはずなのに気丈に傲慢に続行を促す。

 

「……いや、そうでもないらしい」

 ヴェーザーの視線の先には、砕けた十六夜の右腕と同じように、砕けてしまった笛があった。

「召喚の触媒が壊れれば…そりゃあこうなるよな」

 ラッテンと同じように、ヴェーザーも粒子になって消えていく。

 

「―――消えるのか? 」

「ああ。………くそっ、くだらない挑発なんぞに乗るんじゃなかったぜ」

 

「つれないこと言うなよ」

 あん? という顔。

「こっちは結構楽しかったんだぜ? 俺と真正面から殴り合える奴なんて今までいなかったしな」

 

「………お前みたいな人間が、ホイホイいてたまるかよ。

 ………ま、達者でな」

 消えた。

 

 

 

*********************

 

 

 時間は少し、巻き戻る。

 

 

*********************

 

 ハーメルンの街を縦横無尽に駆ける3つの人影。

 一つは雷鳴轟く三又の金剛杵“疑似神格(ヴァジュラ)()金剛杵(レプリカ)”を持つ黒ウサギ。

 一つは“龍角”荒ぶる紅蓮の炎を放出させるサンドラ。

 一つは黒い風を操るペスト………ではない。

 

 ペストは3つの人影の近くで、退屈そうに、でも少しだけ愉快そうに浮かんでいる。

 

 ゲーム開始からずっと、神格級のギフトを持つ実力者二人と戦い続けている者、その姿は一言語るなら異形。

 

 牛の骨の様な頭部に怪物のような巨体、その全身は鱗でおおわれ不気味に光り輝いている。両腕は触手、蠢きのたうち飛び回る二人に襲い掛かる瞬間を今か今かと待っている。

 

「サンドラ様! 」

「ああ! 」

 固まっていた二人が左右に分かれ、左右から天雷と灼炎が彼を挟み込む。

 

「………ッ! 」

 攻撃が当たる刹那の瞬間、怪物は自爆した。

 内側から破裂するようなその自爆は、攻撃の範囲外に肉片を飛ばし、それを基点に超速再生。二人に向け触手を伸ばす。

 

「くっ! 」

「サンドラ様! 」

 黒ウサギは自慢の収束と反射神経で触手を切り払った。しかしサンドラは自爆の衝撃で飛んできた肉片を焼却していたためワンテンポ気づくのが遅れ巻き付かれてしまった。

 

「大丈夫です! 」

 サンドラは触手を燃やし拘束を解く。

 

 何度も繰り返されてきたことだった。目的は明白。時間稼ぎだ。

 

「なぜ、どうして、魔王に味方しているのですか…ッ! 」

 

 

 

「奴良さん!! 」

 

 

 

 怪物は、ぬらりひょんは、何も言わず、触手を伸ばす。

 戦闘は続く。






アニメ最終回の次回予告↓
十六夜「面白い展開だ!終わらせるのが惜しいくらいだぜ!」
黒ウサギ「魔王との決戦です! ここは一気に―――」
十六夜「―――待てよ? ………面白展開としていきなり敵に寝返るのもアリか…?! 」
黒ウサギ「はうぁあッ‼ この問題児様ーっ! 」


はい。


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最終回

ありがとう、元気で。


*********************

 

 

 死んでいく。

 肉も骨も魂も、心も記憶も死んでいく。

 呪いにむしばまれ、自分の中にあったはずの、かけがえのないものが死んでいく。

 痛みは既に遠く、しかしすぐ傍に今尚あって。

 もうとっくに諦めている自分の心とは裏腹に、体はまだ動き続けていて、自分をまだ生かそうとする。

 呪いをとって、新鮮な体に替えて、元の健康な体に戻そうとしている。ああ、でも駄目だ。肉体再生ではこの呪いを排除することはできない。代替した傍から呪いが移っている。体だけでなく魂まで侵されているんだ。魂は、どうしようもないなぁ…。

 

 

 ぐちゃぐちゃと音がする。体を作り替える音。今まで気にしたことはなかったけど怖いな、怖いな。

 

 ぐちゃぐちゃと音がする。もう自分は自分の力を自由にできない。自分の名前を書くようにすらすらできたことが、今はもう、どうやっていたのかさえ分からない。

 

 ぐちゃぐちゃと音がする。頭の中が潰されて、新しいものが生まれる。きれいですてきなものが、零れ落ちていく。きらきらの汁が舞う。大切でないものも、大切なものも平等に散らばって、もう戻らない。

 

 ぐちゃぐちゃと音がする。隣の自分が消えていた。自分の体は、いっぱい考えて考えて考えて、生かそうとする。でも駄目だ、もう助からない。

 

 

 

 もう音はしない。諦めたのか、力尽きたのか、自分にはもう何もわからない。崩れていく、ゆっくりと確実に自分という存在が消えていくのを…ああ、楽しかった、楽しかった? 楽しかったよ。過去も未来も記憶は途切れて千切れて分からないけど、この胸の高鳴りは、そうだね…本当に楽しかったんだ。

 

 

 もっと生きたかった。でもこれでいいんだ。自分は、これで満足だ。

 

 

 自分は、もう死んでもいい。

 

 

 

*********************

 

 戦いは続く。

 何度も何度も攻撃するたび、ぬらりひょんは再生し戻ってきた。

 黒ウサギの金剛杵から何度目かの雷鳴が轟く。揺蕩うペストを狙ったその攻撃は、射線上に出現したぬらりひょんの分身体に阻まれ届かなかった。

 

 雷は怪物を撃ち、消し炭に変えた。黒ウサギにとっては牽制の一撃、しかしぬらりひょんはあっさりと致命傷を与えられ、そしてあっさりと再生した。

 

 サンドラが火龍の炎を眼前の敵めがけてたたき込む、ぬらりひょんはその炎の熱量に言葉もなく消滅する。燃えカスすら残らない完全な焼却。

 渾身の一撃を放ったサンドラは、身にまとう華美な衣装で光る汗を拭い魔王のもとに向かおうとする。

 

 

 サンドラの体に触手が巻き付く。振り返ればそこには倒したはずの怪物がいた。何度も繰り返していること故に、初めほどの驚きはない。冷静に触手を焼き払い、冷静に敵を倒す。

 この怪物がどうやって復活しているか、どうすれば倒せるのかは、すでに黒ウサギから聞いている。

 最初にあったぬらりひょんの自爆。あれで一帯に散らばった、肉片一個一個からこの分身体は生まれているのだという。再生能力は底が見えず、限界があるのかも不明。倒しても倒しても、元になる体の一部が残っているならいくらでも復活・増殖する。どうにかするには肉片の散らばった範囲をまとめて焼き尽くすしかない。

 

 

「「どうすれば…! 」」

 

 黒ウサギとサンドラはいまだ魔王に挑むことさえできずにいた。どういう訳か魔王に与した元“ノーネーム”の奴良九朗ことぬらりひょん、一体一体は大したことはなく、簡単に倒すことはできる。

 だが、倒しきれない。倒せたとしても『同士討ち禁止』のルールがある以上は殺せない。拘束しようにも生中な拘束術では持っている変身能力で脱出してしまうだろう。

 

 

 

「(奴良さんは私たちを本気で殺すつもりがない。私たちへの攻撃は今まで触手を使った拘束のみ…時間稼ぎでしかない)」

 黒ウサギはウサ耳を揺らしながら考える。

 

「(黒ウサギの素敵耳が教えてくれたゲームの状況から察するに、飛鳥さんと十六夜さんの決着は近い…)」

 ゲームが始まる前、黒ウサギには魔王を打倒するための作戦があった。敵を撃破し主力が集結し、時が満ちれば実行可能だったはずの作戦は、ぬらりひょんが寝返っていたせいで成功するかどうかわからなくなっていた。

 

 黒ウサギは正面から伸びる触手を金剛杵で撃墜する。

「(てっきり、ラッテンに支配されて操り人形となっていると思っていたのですが…)」

 こちらの呼びかけに一切答えないぬらりひょんを見て、黒ウサギは初めそう思っていた。しかしそうではないと黒ウサギは感じ取った。戦闘が消極的なのに対応が速すぎるのだ。操り手が傍にいるわけではないのに。支配を受けているのであれば、『○○をしろ』『○○の指示に従え』と言われ動くはずだ。しかしその様子はない。ゲームが再開してからペストは何一つ言葉を口にせず浮かんでいる。

 

 なぜ、という気持ちもある。だが今は、魔王を倒すため余計な干渉は捨て去る。

 

 

 

 

 一際大きな衝撃が響く。ぬらりひょんが止まり、黒ウサギとサンドラが合流する。

 

「今の揺れは…」

「YES! 十六夜さん達の決着がつきました! 」

 二人の表情が明るくなり、反対にペストは沈痛な面持ちで遠くを見つめる。

 

「二人とも、倒されてしまったみたいね………」

 24時間のタイムリミットに目がくらんで、時間稼ぎを指示したのはペストだ。ラッテンとヴェーザーと共に時間稼ぎなんて考えず攻めていれば、

 

「(破壊されていないステンドグラスは………残り58枚)」

 ラッテンとヴェーザーに黙祷する。

 このままステンドグラスが破壊されればペストは死神としての霊格を失い主催者権限も失うだろう。そうなれば再起は望めない。

 

「………」

 ペストは時間稼ぎを止めて参加者を皆殺しにしようとして、

「待ってください」

 止められた。

 

「自分が何とかします。タイムリミットまでの時間稼ぎ、自分が成し遂げます。だから、待ってください」

 ペストの耳に飾られたイヤーカフ。そこから声がした。ぬらりひょん、奴良九朗の声。

 

 

 

 

 

 黒ウサギの聴覚はその声を聞き逃さなかった。

「(奴良さん?! )」

 ゲーム中断後、息絶える直前のぬらりひょんの分身体は、オリジナルと分身では一人称が違うということを明かしていた。自分のことを『自分』と呼ぶぬらりひょんが今まで仲間だった奴良九朗であると。

 そんな思考を他所に状況は動く。

 

「………ッ! 」

 突然ぬらりひょんの分身体が口を開け音もなく叫んだ。

 

「うっ……! 」

 音もなく、ではない。超音波だ。人には聞こえない周波数の音を大音量で放った。

 何のために?

 

 

*********************

 

「うっ……?! 」

 ステンドグラスを捜索していた参加者たち、その中の何人かが耳を押さえてうずくまる。

 

「何が…」

 ジンは何事かと周囲を見渡す。

 

「うわぁッ! 」

 真実の伝承のステンドグラスを確保した参加者が声をあげる。

 

 振り返って見ると、

「なっ?! 」

 

 ステンドグラスを中心に何かがうごめき脈動していた。そしてそれは膨れ上がり形を成した。

「な、なんだ…なんなんだよ?! 」

 気づけば異常が発生したステンドグラスはそれだけではなかった。

 他の真実の伝承も、偽りか真実か指示を仰ぐため持ってこられたステンドグラスも、その全てが赤い肉の塊に覆われていた。

 混乱している間に肉塊はステンドグラスを覆い尽くし足を生やしていた。

 

 「(まずい! )」

 焦ったときには既に遅く、ステンドグラスを飲み込んだ肉塊は跳躍し町中に散らばっていってしまった。

 

「なんだ?! 何がどうなったんだ? 」

「せっかく見つけたのに…! 」

 唐突に怒った異常事態に混乱する参加者たち。

 

 ジンは混乱し、呆然としそうな思考を引き戻し考える。

「(何が…いやまずはそれよりも指示を、何を言えばいいんだ…? )」

 

「ジン…」

 リリが心配そうに目を向けてくる。

 レティシアはいない。他の捜索隊のところにシュトロムが現れたから助けに向かってもらって、まだ戻っていない。

 

「皆さん! 落ち着いてください! あれが何なのかは不明ですが、僕たちのすべきことは変わりません! ステンドグラスが逃げたとしても、また見つけて捕まえればいいだけのことです! 今は落ち着いて、捜索を続行してください! 」

 

 声を張り上げ全体に指示を出すジンだが、そう簡単にはいかないだろう、と彼は感じていた。逃げる相手を捕まえるのは簡単ではない。一瞬で視界から消えたあの跳躍力、発見したとしても果たして捕まえられるのか…。

 

「(黒ウサギ…飛鳥さん…十六夜さん…サンドラ…)」

 ここだけであれが発生していると楽観することはできなかった。レティシアならば、あれらを捕まえられているかもしれない、だが彼女一人では手が足りないだろうとも思っていた。魔王を討ち、真実の伝承を掲げる。そのためには主力たちとの合流が必要だった。

 

 

 

*********************

 

 

 

「………っ。いったい何を…? 」

 黒ウサギが耳を押さえながら問いかける。

 

「プランBだよ、黒ウサギ」

 イヤーカフではない、前方にいる分身体のぬらりひょんがゲーム開始以来初めて言葉を発した。

 

「ステンドグラスを保護するための作戦でね。ステンドグラスに僕の血をくっつけておいた。僕の合図で一斉に起動し、ステンドグラスを抱えて逃げ回るように示し合わせてね」

 

「そんな! では今まで探させていたのは! 」

 サンドラが叫び睨む。

 

「時間稼ぎ。今までもこれからも。ゲームが終わるまで、ステンドガラスには手を出させない」

 

「………奴良さん、あなたは今すべてのステンドグラスを確保しているのですか? 」

「ああ、その通りだ」

「では! 偽りの伝承を砕いてください! ハーメルンの笛吹きの魔導書は複数つづりのステンドグラス! それを砕いてしまえば魔王は弱体化するはずです! 奴良さんがどうして魔王に味方しているのかは黒ウサギにはわかりません! でも、ゲームに参加できているということは」

「それ以上は言うな、黒ウサギ」

 強く言い切る。

 

「………たしかに僕はまだ“参加者(プレイヤー)”だ。屈服していない。“参加者(プレイヤー)”として、ステンドグラスを砕き、魔王を倒すことは、できるんだろうな…ああ、出来るんだろうさ。でも、やらない」

 

「………何故だ! 」

 サンドラが怒りといら立ちを込めて咆哮する。それは炎の紋章として表出し動かないままのぬらりひょんの一体を焼いた。

「なぜ、魔王の味方をする! あの魔王の撒いた黒死病によって、どれだけの同士が苦しんだか分かっているのか! 苦しんで苦しんで、それもこれも箱庭の秩序を乱す魔王の悪性ゆえにだ! なのに、何故‼ 」

 

 

 

「―――それは俺も聞きたいな、なんでそっちにいるんだ? 」

「―――私も聞きたいわね」

 

「十六夜さん、飛鳥さん! 」

 黒ウサギが喜色をにじませて名を呼ぶ。

 

 

「集まって来たわね、どうするのかしら? 」

 ペストが小さく問いかける。フラットのようでいて、その声には極々わずかに負の感情がうかがえる。方角や衝撃などから今来た二人がラッテンとヴェーザーを倒したのだと察しがついているのであろう。

 

「自分が何とか……時間を稼ぎます」

 ぬらりひょんがペストに言う。これは他人のためではない。ペストに動かれて、ペストが打倒されてしまうことを恐れてだ。

 今のぬらりひょんは、呪いによって知識を失っている。ノーネームでのなんでもない記憶であったり、原作知識であったり。彼はペストがどうやって倒されたのか覚えていないのだ。だから恐れている。

 そしてそれはオリジナルから分裂した分身体も同じ。

 

 

 

 

「土壇場で味方を裏切って、敵に寝返るとか、面白いと思わない? 」

 奴良九朗としての姿に変身した『僕』がうすら笑いを浮かべて軽口を叩く。

 

「ああ、最高だな。まぁでもそれは冗談としてならだ。本気でやったら笑えねぇよな? 」

 十六夜が獰猛な笑みと共に言い、黒ウサギたちが怒気を目に込めて送る。

 

 

「冗談だよ。まぁ、ゲームが中断する前に放った分身体たちの様子は見たかな? 結論から言うとそういうことなんだ。

 

「僕は、『自分たち』は黒死病に蝕まれている。

「死の恩恵ってのはすごいよね………。僕は本当になすすべがなかった。

「分身体たちは死んだでしょ?

「僕が今生きているのはね? ペストが抑え込んでいるからなのさ。

「僕の体と魂は既に半ば死んでいて、ぎりぎりのところで生きながらえてるだけなんだ。

「さっきのステンドグラスについても、そういうことでね。ペストが弱体化しても打倒されても、蝕まれた僕の肉体と魂は崩壊する。

「僕の力じゃこの呪いを治すことはできない。克服することもね。

「普通の病気なら楽勝で治せるんだけどね~…。

 

「分身もだめだよ。元になる『自分』が侵されているから逃れられないんだ。

「僕はさ、死にたくないんだ。

「………いや、自分たちは生きたいんだ。死にたくないんじゃなくて、生きたいんだ。生きていたい、だから僕は魔王に協力する。味方する。僕が生きるために」

 穏やかに語られる裏切りの理由(わけ)。それに我慢できなくなったのはサンドラだった。

 

 

「………命惜しさに、自分の命惜しさに! コミュニティを裏切り! 同志たちを危険に曝し! 魔王に味方したというのかッ! 」

 烈火のような怒り。

 

 それに対し、目をつむった『僕』は刹那の沈黙の後、

「…悪いのか? 」

 行き場のない感情を吐き出すように叫んだ。

「生きたいって思うのが、そんなに悪いのかよ! 生きるために! 魔王に味方するのが悪いことだっていうのかよ! 」

 

「生きて、生きて! もっともっときれいなものを見たい。綺麗で素敵で、感動するような何かと出会いたい! 」

「もっと遊びたい! もっと楽しみたい! 」

 感情が伝播する。子どもの駄々のような言葉だが、ぬらりひょんの心の叫びが場に伝わる。

 涙を流しながらぬらりひょんは訴える。

 

「世界を旅して、もっと!もっと! 何かしたかった! なんでもいい! なんでもいいんだ! 僕は、僕はまだ何をしたいかもわからないんだ! 」

「生きて! 笑って! 楽しんで! 生きている幸せを感じてみたいんだ! 」

 

 サンドラの怒りは同情に変わりかけていた。黒ウサギも、飛鳥も目を伏せて…。

 

「足りない! 足りない! こんな人生じゃ満たされない! 満ち足りない! 」

 

 

「魔王に協力しても、その先にあるのは破滅だけです。そのことを奴良さんは分かっているのですか……」

 苦し気に黒ウサギが問う。

 

 

「分かってる、分かっているさ…分かってるよ! こんなのは先送りだってことは! 」

 

 黒ウサギたちは知らないが、ぬらりひょんはあと一日と経たず次の世界に転移させられる。世界を越えれば、ペストの抑えもなくなる。つまり、協力していようが、していなかろうがぬらりひょんは死ぬのだ。

 本人もそれをわかっている。

 

 でも、もしかしたら、もしかしたら助かるのかもしれない。

 転移するとき、呪いがはがれてくれるかもしれない。

 助かるかもしれない。

 そんな希望に縋っているのだ。

 

 ペストの見立てでは彼は彼の生まれ故、歪な魂であることから、呪いが固着していると。無理にはがそうとしたら死ぬと言われている。だから、それはありえないことだ。剥がれたら死ぬしかない。

 逃げのびられて、世界を渡れたら………なんて、中身がない空っぽの希望、でも縋らずにはいられない。生きたいのだから。

 

 

 24時間、ゲーム終了までステンドグラスとペストを守って逃げ続けなければならない。

 ゲームをクリアされれば死んでしまうから。

 ペストが倒されれば死んでしまうから。

 

 

 

 自分の中の知識は呪いによって死なされている。どうやってペストが倒されるのかわからない。でも、だから、時間を稼いで、ペストを戦わせず、守る。

 

 

 

―――守って生きる。生きて、生きる。

「僕のために、ペストは倒させない。ステンドグラスは渡さない。ゲームセットまでおとなしくしていてもらう」

 

「いいな、奴良」

 十六夜が真剣な表情でまっすぐに見つめる。

 

「お前の願いは間違ってない。でも、ゲームは俺たちが勝つ。敵に回ったなら死ぬ気で抗え、俺たちも、負けるわけにはいかないからな! 」

 構える。その言葉で、3人の目にも闘志が戻る。

 

 

「………ああ、かっこいいなぁ。………羨ましい。僕もそうなりたかった。なんでこんなことになったんだ、あああ………なんで…僕は」

 顔を押さえ、頭を掻き、涙をぬぐい正面を見つめる。ぬらりひょんの目に迷いも恐れもない。

 

 

「僕は僕のために勝つ。自分たちを、ぬらりひょんを倒せるものなら倒してみろよ! 」

 瞬間、無数のぬらりひょんが出現する。

 唾液、血、肉、戦闘によってまき散らされたぬらりひょんの欠片は全て号令を待っていた。分裂し、増殖し、形を成し、怪物となる。

 

 百、千、万、

 おびただしい数のぬらりひょんが地を覆い、空を覆う。

 

「な、なんて数なの…」

「まさか、こんなに…」

 飛鳥とサンドラが呆然と呟く。

 二人の思考は一致していた。

―――「いくらなんで多すぎだ」、と。

 

 しかし黒ウサギと十六夜には微塵の恐れもない。

 ぬらりひょんがそれを不思議に思うよりも先に、黒ウサギが白黒のギフトカードを取り出し微笑む。

 

 まずい! と思い取り押さえに動く、

 その動きよりもギフトカードが輝くのが早かった。

 

 

 

 

 周囲の景色は一変し、オリジナルのぬらりひょんは混乱した。

 さっきまで、天地を埋め尽くしていた自分たちがいない。

「な………」

 イヤーカフの、無機物ゆえの感覚器は自分がいる場所を嫌味なほど正確に伝えてくる。

 

 周囲には白い彫像の散乱する神殿。

 頭上には逆さまになっている箱庭の世界。

「ここは…」

 ペストが呻くように声を出す。

 

「“月界神殿(チャンドラ・マハール)”でございますよ♪

 魔王と私たちだけを、月の世界までご招待させていただきました」

 

 

 

 ぬらりひょんは混乱する思考の中で、考える。

 これが、そうだ。これが彼らにとっての勝利の道筋で、魔王にとっての敗北の道筋だと。

 

 

―――覚えていることは、この世界が物語で、ここで区切りとなること。

―――逆廻十六夜が主人公であるということ。

 

「(最後にとどめを刺すのは、主人公のはず…! なら! )」

 ぬらりひょんは弾けるように飛び出し、十六夜に組み付き引き離す。

 

 

 

 

「十六夜…! 何もさせない! ペストはやらせない! 」

 組み付かれ、遠ざけられるまま、十六夜は笑う。

「そうきたか。だが残念だったな、本命は俺じゃない」

 

 なに?! と思い、後ろに眼球を作り見る。

 サンドラがペストに炎を放ち、それに隠れて黒ウサギと飛鳥が何か話している。

 

「………! 」

 まずい! と踵を返し戻ろうとするも、引っ張られ戻れない。

「逃がさねぇよ! 」

 はじけ飛び、破片となって戻る。

 十六夜には分身体を戦わせ足止めする。

 そんなことに構っている余裕はない。

 

「(失敗した、失敗した! 間違えたああ間に合わない! )」

 

 時間がない、離れすぎた。間に合わない。

 

 

 

 ペストの前に黒ウサギが飛び出し、黄金の輝きを放つ。

 太陽神の輝き、太陽の光がペストの死の風を消し去り、ぬらりひょんを焼く。

 

「ッ! がぁああああああああ!! 」

 激痛。ペストの力が弱まったためか、痛みが襲う。

 

 

「今です飛鳥さん! 」

 

 

「撃ちなさい、ディーン! 」

 

 

 命令を受け、鉄巨人が黄金の鎗を振りかぶる。

 それは勝利の鎗、必勝の運命(ギフト)を宿す鎗。

 

 鎗は千の雷をもって魔王を焼き、なお衰えることなく力を増し、とめどなく光を放ち続ける。

 

「やめて、」

 ああ、嘆く声は億の轟雷にかき消された。

 

 

 

「そんな………私は、まだ………! 」

「さようなら、“黒死病の魔王(ブラック・パーチャー)”」

 

 魔王は討伐された。

 呪いを抑える者はいなくなった。

 ぬらりひょんの死が確定した。

 




次回、エピローグ。


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エピローグ

第一章、これにて終了。
お付き合いいただき、ありがとうございました。


 

 

 

 ぐちゃ、ぐちゃ、

 崩れる音が、ハーメルンの街のあちこちで連鎖する。

 参加者が恐る恐る近づくと、そこには持ち去られたはずのステンドグラスがあって、それ以外には何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 人気のない路地裏の奥で、レティシアは無言のまま立ち尽くしていた。

 ステンドグラスを身の内に埋め込み逃げる怪物を追いかけ、この路地裏に追い込んだ。

 狭い場所で、逃げ場を無くし、龍の遺影でもって刈り取ろうとしていた、そうしたら怪物は突然苦しみだし、崩れて消えた。

 

「あれは…」

 崩れる瞬間、一瞬見えたあの顔は、消えた同士の物だった。

 少し考えて、忘れて。ステンドグラスをもって飛び立った。

 まだゲームは終わってはいないのだから。

 

 

 

 

 

 

*********************

 

『なにかしら、これ』

 

『…へぇ、あなた、おもしろいわね』

 

『魂が折り重なって反発せずにまとまっている…歪に見えて精巧な組み上げ方、素敵ね』

 

『あなた、どうしたい? 私に協力するなら、助けてあげてもいいわよ』

 

 

 ………。

 放っておいてくれ/助けてくれ

 もう死んでもいいんだ/まだ生きたいんだ

 

 

 ………………。

 ああ、自分はもう壊れてしまったのか。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 魔王を打倒し、月から戻った黒ウサギたちだったが、勝利を喜ぶことはできなかった

 

「………」

「………」

「………」

「………」

「………よくもやってくれたな。よくも…自分たちを、殺したな」

 

 地に伏せ、起き上がることすらできないぬらりひょんは、弱々しく恨み言を口にした。

 地上に残されたぬらりひょんの大群はすでに消滅し、血の一滴さえ残っていない。彼らはペストが月につれていかれた時点で、すでに抑えを失い呪いが一気に進行していた。

 月に行っていた時間は一分もなかったはずなのに、彼らは全員死んで消えている。

 このぬらりひょんももうすぐ死ぬ。

 黒ウサギが、駆け寄り所持する治癒のギフトを使う。

 

 

「…無駄だよ、そういうのいらないよ」

 

「そんなこと言わないでください! 奴良さん…死なないで…っ! 」

 ぬらりひょんの死がほんの少し遠のいた。

 

「…っ! 『奴良くん! 生きなさい! 死んではだめ! 』」

 飛鳥が“威光”でもって、延命を試みる。

 死にかけの体が一時的に力を与えられる。

 

「………やめてくれよ、無駄なんだ…無意味なんだよ…」

 ぬらりひょんの死がほんの少し遠のいた。

 

 力を振り絞り、体を起こし仰向けになる。

 体を動かすたび、呼吸するたび、死が身近に感じられる。なんでもない動作が激痛を伴い彼の心を掻き毟る。

 さっきまで、痛みはまるで感じなかったのに。焼かれても、弾けても、殴られても、蹴られても。痛みはなかったのに。

 今は痛くて痛くてたまらない。手の平に食い込む砂利や小石が、硬い地面の感触が痛くて痛くてたまらない。

 中身もだ。表面上取り繕っているだけで、ぬらりひょんの中身はどろどろだ。脳は蕩けて、内臓は腐り始めている。骨は砕けて筋は千切れて力が抜ける。それでも何とか目を開けて、皆を見上げる。

 

 

 

―――ごめんなさい、ありがとう。こんな自分を仲間に入れてくれて。この一ヶ月は自分にとって最高に幸せな日々だった。本当にありがとう。楽しかったよ。

 口を開く。

「死にたくない」

 

 はれ?

 

「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない! いやだいやだ誰か助けて助けて! 死にたくない! 」

 

 

 はれはれ…?

 

 

 ぬらりひょんは驚く4人を順繰りに睨んで

「(羨ましい…妬ましい…なんで生きてるんだ、こいつらは…! 自分等は死んでこいつらが生きる…ふざけるな! ふざけんな! )」

 

「なんで俺が死ななきゃなんないんだ! 僕はまだ2か月しか生きれてないんだぞ! 」

 揺れる、揺れる。ぬらりひょんの体が揺れる。

 激情が込められた叫びは崩れかけたぬらりひょんの体を揺らし崩壊を加速させる。

 

 

 泡を噴き、血を垂らしながら訴える。

「死にたくないよぉ…、死にたくないぃ…なんでなんだよ、なんで、なんで! 」

 

 

 

「自分は何も悪い事なんてしてないのに!! 」

 

 脳が崩れる。記憶が崩れる。再生はのろのろで、戻るまで五秒もかかった。

 

 

 走馬灯が巡る。忘れたことがたくさんで、たいして残ってはいないけど、今までぬらりひょんが体験したすべてが瞼の裏に映される。

 

 

―――『っと。ぶつかっちゃった。あーあ、血で服が汚れちゃったよ』

 

 

………………。

「―――ごめんなさい」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい………っ」

 この世界に来る前、人を殺したことを思い出した。

 

 こんなに痛いなんて思わなかった。

 こんなに苦しいなんて思わなかった。

 こんなに寂しいなんて思わなかった。

 

 こんなに、こんなに

 

 死ぬのが怖いだなんて、生きられないのが悲しいだなんて思わなかった。

 

 

「死にたくない」

「助けて」

「いたい」

「くるしい」

「寒い」

「さびしい」

「怖い」

 

 ごめんなさい。

 

 ぬらりひょんは崩れていく。黒ウサギが泣いて名前を呼ぶ。飛鳥が生きろと命じる。サンドラが駆けだす。十六夜は目をそらさない。

 

 

 ごめんなさい。

 

 仲間の声は彼の耳にはもう届かない。

 

 ごめんなさい。

「生まれてきて、ごめんなさい」

 

 

 べちゃ、

 

 ぬらりひょんだった肉塊は活動を停止した。

 すべて消えて、後には何も残らなかった。

 

*********************

 

 

 ゲーム再開から9時間後。

 ネズミ捕りの男と、黒死病によって倒れた者たちが描かれているステンドグラスが全て砕かれ、ヴェーザー河を描いたステンドグラスを一斉に掲げる。“偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ”の一文が成された直後、参加者達の視界は砕けた様に開けた。

 

 見渡せば、舞台区画の尖塔群とペンダントランプの灯火が見える。

 黄昏時を彷彿とさせる街並みが、そこにはあった。

 呆然とする参加者達の前に、サンドラと共に現れた白夜叉。

 恥ずかしそうに頭を掻くその姿は、外見の年齢相応に見えなくもない。

 

「皆、よく戦ってくれたの。東のフロアマスターから礼と………詫びを告げねばならん。偉そうにふんぞり返っておきながら、私は終始封印されたままだった」

 目を閉じ恥じ入る白夜叉。それに対して非難の言葉はない。

 

「故に最後の台詞はこの者に譲ろう」

 促され、サンドラが一歩前に出る。一瞬迷いを感じさせる表情を浮かべたものの、フロアマスターとしての使命感から、表情を引き締める。

 

 

 

「………魔王のゲームは終わりました。我々の勝利です!」

 

 

歓声が上がる。マスター達の言葉を聞いてようやく勝利を実感することができたのだろう。

 

呪いから解放されたもの。同士の命が救われて涙するもの。魔王の脅威が去った事で安堵するもの。それらを温かく見回した白夜叉は、“ノーネーム”の面々を見て、何かに気づいたように遠くを見つめる。

 

 

 

 

 

 

「奴良さんが…」

「そんな…」

 ジンとリリが言葉を失い、レティシアが手で顔を覆う。

 

「………」

 耀は病室を抜け出し、ゲームに参加していた。天地を覆う怪物の群れも、それが苦しみ悶えて消えていくのも見ていた。もしかしたらと思っていた。

 

 みゃー、と三毛猫が慰める。

「うん、友達が死んじゃうのは、やっぱり悲しいね…」

 三毛猫を抱きしめ、涙を流す。

 

 十六夜は無言のままどこかへと行こうとする。黒ウサギが呼び止める。

「十六夜さん! どこに…? 」

 

「なんでもねぇよ、ただちょっと、礼を言いに行こうと思ってな」

 冷たい怒りをにじませた十六夜に、黒ウサギは何も言えずに見送るしかなかった。

 

 

 

 後日、宮殿の執務室から轟音が聞こえたので衛兵が駆け付けると、そこには顔を腫らし血を吐くマンドラの姿があった。何事かと尋ねるものの、彼は何も語らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*********************

『ぴんぽんぱんぽーん♪ 』

『転移開始一分前~』

 

 

 ここは飛鳥たちが訪れた洞穴の展覧会場。ペストたちがゲーム中断後、無聊を慰めるために一時滞在していた場所でもある。

 

 ゲームがクリアされ、勝利に沸く参加者たちは祝勝会を兼ねた宴が開催され、展示会場には今人の姿は皆無だった。

 ………人の姿は。

 

「(何とか生き残れたわー)」

 ふぅ…というように動くそれは生き物ではなかった。

 

 

 パンツだった。

 耀のギフトゲームの前に、白夜叉に渡したパンツ(黒ウサギのに変身)。

 

 

「(まさか、黒死病の呪いが自分には効果抜群だとはねー。ホント焦ったわー)」

 ペストの呪いは、無機生物には効果を発揮しない。ぬらりひょんは、霊格が極端に低く特殊な成り立ち故にペストの死の呪いが効果抜群だったが黒死病の病原菌を散布される前に無機物へと変わっていた()()ぬらりひょんは無事だったのである。

 

 

 白夜叉の側で情報を収集し、黒死病が消えるのを待ち続けていた。

 自分がまさかコミュニティを裏切って敵対するシナリオになるのは彼にとっても予想外だったが。

 

「(何を思ってそんな真似をしたのやら…汚染された自分と同機するわけにはいかんし、結局何を思っていたのかはわかんなかったなぁ)」

 

『転移スタートー♪ 』

 ぬらりひょんは回収したものを自分(パンツ)の中に入れる。

 それはギフトカードだった。乳白色のギフトカード。

 町中を探して見つけた自分のカード。前のオリジナルは落としていったらしい。

 

 

 きらきらと無駄に光り輝いて消えていく。

「(次の世界はどんなだろうな…楽しい所だといいな…)」

 

 

 きらきら、ひゅーん

 

 

 




 これにて終了。

・『自分』
 オリジナルのぬらりひょんが死んだから、パンツぬらりひょんがオリジナルとしての意識を継いだよ。別に記憶とかは受け継いでないよ。ただ認識の問題だよ。
 ぬらりひょんはオリジナルも分身も、平等で同格だから頓着しないよ。小学生の学級委員長と同じレベルだよ、大差ないよ。仮に二人いるぬらりひょんのうち、どちらかが人質に取られて「動くな! こいつぶっ殺すぞ! 」と言われても(替えがいるならどうでもいいな)と二人とも思うよ。


 ちゃんちゃかちゃん。
 次章もお楽しみに。


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設定と、第一章あとがき、第二章予告

これで今回の投稿はお終いです。
 また書き上がったら。


『データ(ポケモン風)』

 

ぬらりひょん

タイプ:エスパー/フェアリー

たかさ:1.8m(可変)

おもさ:70.0kg(可変)

わざ:へんしん はかいこうせん

  サイコブレイク じこさいせい

とくせい:ちからもち

 

にくたいを へんかさせ なにものにも なることができる。 いせかいを いどうするため あいしたものと ともにいきることが できない かなしいいきもの。

 

 

 

 

 

『設定』

ぬらりひょん(奴良九朗)

 

能力

・変身能力

 老若男女、どんな姿にも変わることができる。

 生物だけでなく物にも変身可能。

 服や武器を肉体変化で作り出すこともできる。

 体を千切って分身体を作ることができる。作るときは予め『分身体になれ』と入力してからでないと動き出さない。

 

 

・再生能力

 致命傷を負っても一瞬で再生する。

 弱点として『意識外からの攻撃』がある。不意打ちや狙撃によって負傷した場合は再生がゆっくりになる。

 毒や病にも有効。オカルトな物でなければ状態異常は一瞬で回復する。

 肉片一つでも残っていればそこから何度でも再生する。

 ちなみに、彼は基本的に痛みを感じず、疲れることもない。

 常時『かいふくのくすり』と『ピーピーマックス』使ってるようなもの。

 

 

・模倣能力

 一度見ただけで技能を模倣し再現する能力。

 見稽古。

 芸術的なものに関しては、模倣してもうまくいかないことがある。

 観察し、模倣する。という順で行われるため見えないものは模倣しようがない。

 →人の記憶は、脳みそを食べて観察することでコピー可能。

 

 

・衝撃波攻撃(念動力)

 人体を弾けさせることができる。

 →「へっ! きたねえ花火だ」 

 衝撃波は力が強すぎて、最低出力でも人がはじけ飛ぶ。

 分類上は念動力なのだがコントロールできていない。

 

 

・分解光線

 目から放たれる照らされたものを塵にする怪光線。

 距離によって威力は減衰せず、視界内の全ての生命を塵に還す。

 貫通特性はないので、壁一枚でも隔てられれば効果は及ぼされない。しかし壁も分解できるので時間稼ぎにしかならない。鉄の壁で防御するより紙の束で防御する方が時間稼げる。

 圧倒的格上であろうと照らせば塵にできる。

 

 

 

・ビーム。

 目からビームが出る。

 爆発したり溶断したりする。

 こちらはレーザーポインター的なビーム。距離によって威力は減衰しないが拡散もしない。

 

 

 

 

・忘却補正

隠し能力。ぬらりひょんとして誕生してから一度見たもの、聞いたものを絶対に忘れない。ただし、思い出すのに時間がかかったりすることもある。不完全な完全記憶能力。

記憶は脳ではなく魂に刻まれて残る。そのためどんなに体を弄っても怪盗Xのように自分がわからなくなるということもない。

 

 

 

 

 

 

性格・嗜好

性格は一定しない。よくブレる。幾万幾億の死人が折り重なって自我を統一したので、善性悪性ごった煮になっている。

悪逆に憤ったりする事もあれば、幸せを引き裂いて嘲笑ってやろうとすることもある。基本的には善性寄り 素直ないい子。

 

 

好きなものは『きれいなもの』。人であったり自然であったり、美しい心・行動だったり。簡単に人を好きになって気安く接するが、愛されたいより嫌われたくないという思いが先行するので、惚れた相手には逆に奥手になる。先に手を出すことはほとんどありえない。中途半端に好きになった相手には割と手を出す。

星を愛し花を愛で、人の営みに笑みを浮かべ見守る、感受性豊かなヒト。

 

 

嫌いなものはとくになし、大体なんでも好意を持てるので嫌いなものがない。あえていうなら自分を害するものが嫌い。

 

 

本人の自覚していない精神的欠点として、生き死にについてよく分かっていないという事がある。ほぼほぼ不死身で不滅なため、同情が上手くできない。人は殺せば死ぬ という言葉にするまでもないことが本質的に理解できない。

 平気で人を殺して、特に何も思わないのは、『人でなし』だからというのもあるよ。人でなし…人間ではない、から。虫を殺して「うわ、殺しちゃった。ごめんなさい」と思うのと同じように「殺しちゃった、ごめんなさい」だよ。(別に人間と虫を同等に見下しているというわけでも、同じように見えているということではない)

 

 

LOVE的な意味では、男女両方好き。美人大好き、面食い。男の姿だと気が多くなり、女の姿だと愛が重くなる(後に発覚する事実)。

 

 

 

弱点

・物理的な力した持たないこと。

⇨オカルト的な攻撃・状態異常が効果バツグン。対抗手段がないのでボロ負ける。

 

・考えが浅い。あほ。

 能力を過信して油断することもしばしば。油断しなければ傷ひとつ負わないはずなのに負傷するのはそのため。

 

 

 

 

・童貞/処女卒業(できれば相思相愛で…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あとがき』

 

 ここまで読んでいただいて、どうもありがとうございます。

 第一章読み返して作者の感想を一言。

 一人称読み苦しいな、三人称になってから読みやすさと情景の脳内再現度が上がりまくってる。

 

 

 これを書こうと思ったのは、去年の9月にTSUTAYAで旧作になっていた『シン・ゴジラ』を見つけて、ついでにと『GANTZ:O』を借りたのがきっかけです。

 ぬらりひょんやっぱすげぇ…! ぬらりひょんで二次創作したい! という思いから、

 

 でもぬらりひょんそのものを主人公にするのはなー

 ↓

 特典にする?

 ↓

 気持ち悪いな。そんな能力もっておかしくならずにいられる? 無理だろ。そもそも分身したら「俺が俺だ! 」ってなるぞ? 全にして一、一にして全。とかそんな精神無理だよ…。

 ↓

 そういうように作られたのを主人公にしよう!

 

 で、奴良九朗が生まれました。

 

 

 

 第一章が『問題児たちが異世界から来るそうですよ? 』だったのは、チートはチートだけどぶっ壊れてチートなわけじゃないよ? ってのを示すためと、これからいろんな世界を旅していくにあたって四次元ポケットもとい『ギフトカード』が欲しかったからです。

 奴良九朗は最終回で見せたように、本気を出せばとても厄介な相手です。そう見えませんでしたか? だとしたら力不足申し訳ないと言わざるを得ないのですが、ともかく。

 いくらでも増えることができ、疲れ知らずで、変幻自在。隠し玉の分解光線は誰であろうと消し飛ばすことができ、最終回のあの大群で『分解光線』放ってれば全員消滅させることもできました。しなかったのはぬらいりひょんが好きになっていたからです。

 パンツが残っていたのでぬらりひょんは死んでも死にませんでしたが、仮にそれがなくても魚のぬらいりひょんが生きているのでそっちが転移していました。

 こんな風に、倒されても残っていれば物語が終わることがない。どこまでも続いていきます。

 

 

 なんだか書いているうちに頭がこんがらがってきましたが、このあらすじ含めて、書いてて楽しかったです。

 ありがとうございました。

 

 

 

 

 

『第二章予告』

 

 

 転移したぬらりひょんが目を覚ますと、そこは現代の日本だった。

 ここはどんな世界だ? ときょろきょろ。

 

「………んん? 」

 ひときわ目立つ未来的なタワーが。

 そして、辺りを見渡すと散見されるロゴ。

 

「………YGGDRASILL……………」

 

 ここは医療福祉産業発展新興都市『沢芽市』

 

「仮面ライダー鎧武の世界か………まじか」

 

 

 






『天を獲る。
 世界を己の色に染める。
 その栄光を君は求めるか?
 その重荷を君は背負えるか? 』

『人は、己一人の命すら思うがままにはならない。
 誰もが逃げられず、逆らえず、運命という名の荒波に押し流されていく』

『だが、もしもその運命が、君にこう命じたとしたら?
 「世界を変えろ」と。
 「未来をその手で選べ」と。
 君は運命に抗えない。
 だが、 世界は君に託される! 』

フッハッハフッハッハフッ!ハッ!
フッハッハフッハッハフッ!ハッ!


第二章『仮面ライダー鎧武』
 かみんぐすーん♪


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