きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者 (伝説の超三毛猫)
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おまけ:脇道に逸れすぎると作者も読者も絶対飽きちゃう編 UA4000突破記念閑話:三人の幼馴染

今回の話は、タイトル通り感謝の話であり、ちょっとしたおまけパートとなります。
時系列は、ソラが女神になってから~女神襲撃事件までの間です。


 最後の書類のサインを確認した私は、羽根ペンを置きふぅ、と一息をつく。筆頭神官はやることが多い。各部署からの報告を受けて政策の指示、女神候補生の教育、女神様の聖典編纂の補佐および歴代女神の聖典の管理………今日はその多忙な日々の中でも、珍しく日が沈みきる前に仕事が終わった日だった。

 

 

「お疲れ様でした、アルシーヴ様」

 

「お疲れ様でした」

 

「ああ。お疲れ、セサミ、フェンネル」

 

 

 常に仕事を補助してくれる秘書のセサミと身辺警護を欠かさず行うフェンネルに労いの言葉をかけ、書斎から出ていく。

 

 

「………二人とも、どうなさいましたか」

 

 

 扉を開けた時、そこにいたのは―――二人の幼馴染だった。

 一人はウェーブのかかった金髪を宇宙がデザインされたヴェールで包んだ、ローブ姿の女性。蒼く優しい瞳と落ち着いた佇まいは、ほぼ毎日のように忍んで街へ抜け出す奔放さがあるとは思えない、美しく儚げな印象を見る者に与える。ユニ様から女神の座を継承した私の幼馴染。名をソラという。

 もう一人は緑髪とオレンジ&金色のオッドアイの整った顔つきが特徴的で、ダークカジュアルな格好に黒い外套を纏った男。背丈は私よりも高く、腕から伺える筋肉は、私に男性的な印象を与える。黙っていれば、神殿……いや、エトワリア一の女好きなロクデナシには到底見えないだろう。彼は八賢者の黒一点で、名をローリエという。

 

 

 私はこの二人とは、幼い頃からの友人だ。幼馴染というやつである。

 生まれ育った言ノ葉の樹の都市で、三人色んな遊びをし、悪戯を仕掛け、魔法を勉強し、時に怒られながらも楽しい時期を過ごしてきた。

 

 ただ……ソラもローリエも、とんでもないトラブルメーカーだったせいで、私が高確率で巻き込まれた。

 ソラは、好奇心旺盛で、自由が好きな人だ。今も神殿を抜け出すのがいい証拠だ。ローリエも、後先考えずに思いついたことはすぐにやるのだ。それが悪戯なら尚更嬉々としてやるだろう。

 

 

 故に、今のように二人が笑顔で揃うと、禄なことがおきないと学んでいる。ふざけ半分で吹き込まれたローリエの『様式美』とかいうやつをソラは信じてしまうからだ。

 

 

「アルシーヴ!」

「アルシーヴちゃーん!」

 

 

 

「「飲まないか?」」

 

 

 二人がぶっこんだこの一言で、私はこの幼馴染たちに他人行儀とはいえ話しかけたことを後悔した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ―――私は酒は苦手だ。

 

 筆頭神官たるものが、と意外と思うかもしれないし、予想通りだと思うかもしれない。

 

 だが別に神殿の規律だから、とかそんなつまらない理由を述べるつもりはないし、飲めないからという訳でもない。

 

 むしろ、私は酒に強いほうだ。

 言ノ葉の都市に流入してきた十数種類もの様々な酒を飲み比べ、味や風味を楽しみ、それでも頬の紅潮だけで済み、両の足でまっすぐ歩いて帰れるほどには強い。少なくとも酔いつぶれた記憶はない。

 その強さは、酒豪のジンジャーにも太鼓判を押されたほどだ。

 

 

 そこまで酒に強くあるのにではなぜ苦手なのか、というと。

 

 

 

「うみゅぅ………あるしーぶ……」

 

「おいおっさん、つまみとわいんおかゎり………」

 

「はぁ……」

 

 

 誰かと飲むと、殆どの確率でそいつの介抱をせざるを得なくなるからだ。

 

 

 

 

 現在、私は『様式美』を吹き込まれたソラ様と、それをしでかした実行犯のローリエの幼馴染二人が出来上がっていくさまを、共に都市の「屋台」なる露天の酒場でため息混じりに見ていた。

 

 

「………すまないな、店主殿。神殿の重役三人で押しかけた挙句、みっともない姿を露呈させてしまって」

 

「……いや、かまいません、アルシーヴ様。

 今宵のことは、出来るだけ忘れる事にします。」

 

「有り難い」

 

 

 空気の読める店主の粋な気遣いがなければ、女神と賢者のイメージががた落ちする所だった。

 

 

「あるしーぶぅ、おしゃけの減りが遅いわよ!

 もっとのみなさい!」

 

「ソラ様はいい加減自粛なさって下さい。もう呂律が回っていないじゃあありませんか」

 

「そうだぞう、そらちゃん。『さけはのんでものまれるな』っていうし、おれのおやじとおふくろだってそのトラブルからけっこんすることになったんだぞぉ」

 

「現在進行形で酒に呑まれてる奴は黙ってろ」

 

 

 二人は、「女神なんだからお酒くらい飲めないと」とか、「心は酒に慣れた30代だぜ?」とか威勢のいい事を飲む前に言っていたが、結果はご覧の有様である。

 まさか、幼馴染が二人揃って下戸な上に絡み酒だとは思わなかった。お陰で面倒くささが倍増だ。

 

 ソラ様は現在、私に「酔いなさい」と焦点の合わない目と呂律の回らない口で迫っているが、度数の低い果実酒1杯半でこうなるのはいささか弱すぎるのではないか。

 

 ローリエもローリエで、ワイン1杯で聞いてもいないことを喋りだした。驚いて見れば、顔はトマトのごとく紅潮し様子が明らかにおかしくなっていた。

 

 

「アルシーヴ! きいてるのでしゅか!

 そんにゃにわたしはめんどくさい女ですか!!?」

 

「アルシーヴちゃん、おれのおやじとおふくろはな、さけのんでてきづいたらほてるのべっどでふたりきりでねてたんだって。そっからつきあいだしたんだよー!

 さすが、えっちからはじまる恋もあるんだねー」

 

 

 ソラ様、今回ばっかりは面倒くさい女だと言わざるを得ませんよ。

 ローリエ、自重しろ。お前の両親の話なんて聞いてないし、事実だったらただの不祥事だろうがそれは。

 

 仮にも人の上に立つ存在なのに、それが二人も酔っている状況になっても尚、正気を保てる自分が恨めしい。ここで正気を吹っ飛ばせればどれだけ良いことか。

 

 絶対明日あたりに、二人には幼馴染のよしみで忠告しておこう。「絶対に外で酒を飲むな」と………

 

 

「もういーもん! のまないなら、わたしがのんじゃうもん!」

 

「おー! いけー、そらちゃん!!」

 

「まぁせてろーりえ! ―――んっ、んっ、んっ、んっ、ぷはぁーー!!」

 

「お体に障りますよ、ソラ様」

 

「わー! わー!! そらちゃん!!! アルシーヴちゃん、体に触るって! きゃー! アルシーヴちゃんのえっち! けっこんしろー!!」

 

「黙れローリエ」

 

「ううぅっ、世界が回る……」

 

「もうフラフラじゃないですか。仕方ないですね」

 

「サイコーにハイってヤツだァァアーーーーーーーーッ!

 フハハハハハハハハ!!!」

 

「静かにしないか!」

 

 

 ただでさえ酒に弱いのに、コップに残った果実酒を一気飲みしたことがトドメとなって潰れた女神様を背負い、深夜に騒ぎ出す馬鹿一人の手を引っ張りながら、とっとと勘定を終わらせることにした。

 これ以上は、この二人が何かやらかしかねんからな。

 

 

 

 ソラ様を背負い、ローリエに肩を貸しながら、神殿への道を街灯の薄明かりのみを頼りに歩き出す。

 

 ソラ様は既に潰れてしまったため意識はない。ローリエも、肩を貸さなければ、帰ることすらかなわないだろう。

 

 初めて酒を飲んだ時に己の酒の強さが判明した時から、数回はやっていたことだ。二人の幼馴染に飲みに誘われた時からこうなるだろうとは思っていたが、二人が揃って酒が入ると悪い方向に豹変するとは思っていなかった。

 ソラ様が寝落ちしてしまったのことは、酔っぱらい一人に集中して対応できるという点では不幸中の幸いだろう。

 

 

「アルシーヴちゃぁーーん……」

 

「………抱きつくな。あと、胸を触るな」

 

 ローリエが抱きついてきて、胸に男の手がくっついてくる。ソラ様を背負っているため、下手に振りほどくことも反撃することもできない事を知った上で、わざとやっているのだろう。……明日を楽しみにしてろよ。

 

 

 この男は、なぜここまで節操のない女好きになってしまったのだろうか。出会った時は、そんな気配は微塵も感じなかったというのに。

 

 

 彼と出会ったのは、5歳くらいの時だ。

 女神になる前のソラと遊んでいた時、街の広場で一人、なにかを弄くっていたのをソラが見つけたことに始まる。

 ソラが怪しげに見えた彼を見つけるなり、『なにしてるの?』と声をかけたのだ。その時私は、『怖そうだからやめよう』と言った。

 だが彼はソラの呼びかけに対し、まず驚きに目を見開いて、その後すぐ嬉しそうに話し始めたのだ。

 それからというもの、私達は三人で仲良く遊ぶようになった。どんな悪戯も、共にした。

 

 

 ―――あの日までは。

 

 

 その日の夜、私達の元に突然盗賊が現れたのだ。ソラは腰を抜かし、ローリエもあまりの恐怖に逃げ出した時、私は思ったのだ。

 

 この二人を守らなくてはと。

 

 だが当時魔法に長け、天才扱いされていたとはいえ、まだ子供だった私がそいつにかなうはずもなく、腹をナイフで刺され、なにもできないままソラを攫われた。それ以降己の無力さを感じて、魔法の修行に打ち込んだ。

 

 

 その後、ローリエがソラを救出したことを、間もなく帰ってきたソラ本人の口から聞いた。

 数年後に、二人っきりの礼拝堂にて彼自身から事の顛末を聞いた時は、驚きと同時に、無鉄砲な彼への怒りと、親友がいなくなるかもしれない恐怖と悲しみに、気が付けば奴の首根っこをひっとらえていた。

 

 それ以来、私は更に仕事と修練に時間を費やすようになったのだ。

 もう二度と、私の幼馴染を傷つけさせない為に。

 これ以上、私の幼馴染の手を汚させない為に。

 

 

 

「アルシーヴちゃん」

 

「!」

 

 

 ローリエから声がかかる。

 

 

「俺……今度こそ、二人を守るよ」

 

 

 何から、とは言わない。酒が未だに抜けていないようで、目の焦点があっていないように見える。どうせこれもたかが酔っ払いの戯言、と笑いながら流してもいいはずなのに。

 

 彼の発言があまりに心当たりのある言葉だったせいで、その機会を失ってしまった。

 

 

 

 

「ばかなことを言うな。二人を守るのは……この私だ」

 

 

 

 だったら。

 それならば、今くらい正直に返そう。

 どうせこの会話を覚える人など私以外にはいまい。ソラは私の背中の上で眠っているし、ローリエは酔っていて覚えやしないだろう。

 

 

「そのために強くなったんだから」

 

 

 ぽつりぽつりと呟く。誰にも……隣のローリエにさえ、聞こえないように。

 こんなことを喋ってしまったのも、顔が徐々に熱くなっていくのも、酒とつぶれた親友二人が密着しているせいだと、思いたかった。

 

 

 

 

 



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プロローグ:そして伝説(変態)へ… 第1話:八人目の賢者

ドーモ、ハジメマシテ。伝説の超三毛猫デス。
ハーメルンでいろいろ作品見てるうちに自分でも書きたくなって投稿しました。ほぼ素人なので生暖かく見守ってくだされば幸いです。
それでは、物語の始まり始まり。


「次、ランプ!」

 

「はい……」

 

 俺が名前を呼ぶと赤髪の女の子が返事をし、教卓の前へ進み出る。そして、テストの答案用紙を受け取ると顔を青ざめさせる。

 

「授業をマトモに聞いてれば30点は取れる筈だぞ。次は二桁乗るように。」

 

「すいません……」

 

 俺がこっそりそう告げるとランプと呼ばれた少女は、壊滅的な点数の答案用紙を片手に、青い顔のまましょんぼりと自席に戻っていく。俺はそれを横目に次の生徒の名前を呼んだ。

 

 

 

 俺の名前はローリエ。訳あってエトワリアの神殿にて教鞭を振るっている。

担当は魔法工学。簡単に言ってしまえば、魔道具の仕組みについて学ぶ教科だ。神殿では主に杖の魔術回路の構成・修理やオリジナル魔法の作成などの授業を行っている。

 

 さっきのランプって子は俺の生徒の一人で、教師になってから初めての問題児だ。隙あらば聖典を読みふけり、授業を全く聞きやしない。……まあ、その甲斐もあってか、聖典学だけは優秀だから叱るに叱りきれないのだが。

 

 ……そう。聖典学だけは超優秀なのだ。女神ソラの目線から見たまんがタイムきららシリーズのお話について書かれているのを聖典といい、それを学ぶ教科を聖典学というのだが、その教科に限り、ランプは積極的&優秀になるというのだ。

アルシーヴが作ったテストに俺が悪ふざけ&イジワルで入れた

「メタル賽銭箱とミニ賽銭箱の違いを形状・材質・呼称の経緯に触れ説明せよ」

という問題に完璧に答えられたのもランプだけだ。

(ちなみに、この問題についてランプから『性格が悪い』と苦情が来て、アルシーヴからも『二度とやるな』と言われた)

 

 これで他の教科も優秀……いや、人並みにさえ出来れば一番有力な女神候補なのに、と思う。

 今回の魔法工学もどれだけ苦手な奴でも30点は取れるというのに、ランプは5点だった。俺でも取った事ないぞそんな点数。

 

 「平均は62点だ」と告げ、問題の解説をして教室を出る。そしてそのまま神殿の大広間へ向かうと桃髪の美しい女性の後ろ姿を見かける。

 

 この美人はアルシーヴといって、俺の上司にして筆頭神官だ。女神ソラの仕事を補佐している。

 

 

 

……でも、そんなの俺には関係ない。

 

 

 

だって。

 

 

 

 

「アルシーヴちゃーん!元気してるー?」

 

「ひゃああ!!?」

 

 

 

これくらい気安い間柄だから。

しかし、今後ろから不意打ちでブラホックを外したんだが、中々乙女なリアクションをするではないか。

 

 

「んふ~なかなかカァイイリアクションするじゃん、アルシーヴちゃん♪」

 

「ローリエ、貴様はいつも……!」

 

 

 こちらへ振り向いたアルシーヴちゃんはいつものクールな筆頭神官とは思えないほど顔を真っ赤にしてこちらを睨む。

そんな顔して睨んでも可愛いだけだぞ。

 

さて、次は彼女の意外おっぱいを揉みしだいて……

 

 

と、考えていると俺のにやけ顔の目の前をレイピアが通り過ぎ、近くの柱に刺さった。

 

 

「ローリエ!!今度はアルシーヴ様に何をしている!」

 

「やっべぇまたうるせえ奴が来た……!

今日はまだブラホックを外しただけだ!

だから……」

 

「十分です!!貴様を断罪する!!」

 

「やめろやフェンネル!俺はアルシーヴちゃん専門の百合女と事を構えるつもりはねーんだよ!」

 

「説得力がありません!今度という今度はもう許さないからね!あとアルシーヴ様と呼びなさい!!」

 

 

 怒り狂った翡翠色の髪をした兵隊風の女性ことフェンネルは、壁に刺さったレイピアを抜き俺に襲いかからんとそれを振り回しながら追いかけてくる。俺はそれに対して背を向け逃げることしかできない。

 

 しかしこのフェンネルという女性、中々いいスタイルだというのに、アタマの中はアルシーヴ様一色である。流石は『アルシーヴの盾』を自称し、筆頭神官たる彼女の為に尽くす近衛兵だ。

 

……俺の想像していた盾とは違い、かなりアグレッシブな盾だったが。なんでこの女性は()()()()()()()を本気で殺しにくるのだろうか。まぁ心当たりしかないけど。

なんて考えているとフェンネルが俺をめった斬りにするべく距離を詰めてきた。

相変わらずアルシーヴちゃんの事になると全力以上を出せるフェンネルに呆れながら、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ガードした。

 

 

「あっぶねえ!!」

 

「私にはモロに当たってるがな!?というかローリエ、なんで私なんだ!?」

 

「手頃な防具が見つからなかったからだ!あと味方も!」

 

「思いっきり肉盾にする気満々か!今回も全面的にお前が悪いんだろうが!!」

 

文句を言うジンジャーをフェンネルの方向へ押してお見合いをさせることで時間を稼ぎ、角を利用して視線を切る。勝ったな。

 

 

 

 

 そのまま走り続けること3分、やっと撒けたと思った瞬間……ゴチン、と。

 

「ぎゃああァァァーーーーッ!!?」

 

 凄まじい重さと衝撃が頭に走り、床にたたきつけられた。

 

 

「……変態、成敗。」

 

「計算通りです。」

 

「流石、ソルトだね!ローリエお兄ちゃんの逃げた先を予測しちゃった!」

 

俺に叩きつけられたのは巨大ハンマーだ。

それで俺を叩いた犯人は口数の少なさからしてハッカだろう。ソルトとシュガーの声も聞こえたことから俺のやったことを知り、先回りしてきたものと思われる。またしても女性陣のチームワークにやられてしまったという訳だ。

 

 この後、アルシーヴとソラによる説教で1時間ほど絞られる。これが俺の日常だ。

 

 

 

だが、俺は知っている。

 

 

この後、平穏な日常が一瞬で崩れ去ることを。

 

 

……女神ソラに呪いがかけられることを。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ここで俺自身について話をしよう。

 

どういう訳か俺には、エトワリアの住人・ローリエとしての記憶の他に、別の記憶がある。

 

 

ビルに囲まれた都会の中で生まれ育ち、社会人として仕事をしていた記憶。

 

所謂ミリオタというものとして、マグナム型のモデルガン片手にサバゲーというものに参加していた記憶。

 

アニメや萌え系漫画が大好きで、特にきらら関連の漫画を読んだりアニメを見たりゲームをしていたりした記憶。

 

 

 

 

何十年生きていたのかは分からないが、大体こんな感じの記憶がある。

 

 

今、一番重要なのは三つ目に挙げた記憶。

俺はその当時、よく遊んでいたゲームがあった。

 

きららファンタジア。

 

まんがタイムきららのキャラクター達がほぼオールスターで登場するゲーム。

ストーリーモードにあった、数々の魅力的なオリジナルキャラクターがエトワリアで織りなす物語に胸を踊らせた記憶はもちろんある。

 

 

 

 ここまで説明したらお分かりだろう。

 

 

 

俺は、このエトワリアが『きららファンタジア』の世界であることを知っている。

 

ランプが、アルシーヴの女神ソラ封印の瞬間を目撃することも。

 

それがきっかけで、きららと出会い、新たな『聖典』となる物語を編み出すことも。

 

……そして、アルシーヴが女神ソラを封印した理由も。

 

 

 ソラは突然、何者かに呪いをかけられる。

「体からクリエが抜けていく呪い」。

エトワリアの住人は、クリエがないと生きていけない。

アルシーヴはやむを得ずソラを呪いとともに封印した。

その間、アルシーヴは呪いの解呪方法を探し、その結果呪いを解くには大量のクリエを入手する必要があると判明した。だが女神を封印した今、聖典を読んでも意味はない。故に、クリエメイトを直接呼び出すオーダーに手を出したってワケだ。

 

 

だが、一つだけ分からなかったことがある。

女神ソラに呪いをかけた張本人だ。

初登場時はローブを被っていたため、8章の終わりまででは誰が黒幕なのかが全く分からない。

 

ハッカから逃げ切り、女神ソラの封印が解けるまで雲隠れしていた人物。

 

 

 

エトワリアに前世の記憶というべきものを持って生まれ直した身としては、その黒幕を倒してみる、もしくは女神ソラへの凶行を防いでみるのも悪くない。

 可愛い女の子を辛い目に遭わせた愚か者を成敗してやろうではないか。

 

 

 言い忘れていたが、これは『エトワリアに紛れ込んだ独りの男が、原作8章でパーフェクト・グッドエンドを目指す物語』だ。

 




ローリエ「あぁ~、すっげぇ気持ちよかった!」
アルシーヴ「本当に何なんだお前は!」
フェンネル「まったくです。今すぐ切り捨ててしまいましょう」
ローリエ「ま、待て!主人公をいきなり殺すな!!幽○白書じゃないんだから!」

次回、『少年ローリエ』

ローリエ「絶対見てくれよな!」


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エピソード1:ローリエという男~少年が賢者になるまで編~ 第2話:少年ローリエ

“俺は昔、二人の少女を守れなかったことがある。
 俺はそれを、どうしても忘れることが出来ない。”
   …八賢者・ローリエ 著 自伝『月、空、太陽』
    第1章より抜粋


 子供なのに随分ませた、不気味な奴。

 

 子供時代の俺の周りからの評価は大体そんな感じだった。

 

仕方のないことだろう。少年・ローリエのそれとは別に数十年分の記憶があり、マジで見た目は子供・頭脳は大人状態だったからだ。

 

 

 

 

 

 俺は言の葉の樹の都市の一角にて生まれた。男なのに神殿に興味を持ち、かつ機械いじりが好きな子どもだった。

 特に、魔道具というやつはエトワリアに生まれて初めて触るものだったのでのめり込んだ。

 夢はあまり見る方じゃなく、子どもはコウノトリが運んでくるだの、大人が立派な人であるだの、そう言った絵本に描いてありそうなことは何一つ信じちゃいない。そんな子どもだったのにも関わらず、育ててくれた両親には感謝しかない。

 こんな変な子どもと友人になろうとした人間も珍しいものだと思う。その内の二人が現在の女神と筆頭神官であった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「アルシーヴ、ローリエ!今日はなにするの?」

 

「もう既に楽しい事を仕掛けておいたさ!」

 

「ローリエ、お前もほんと懲りないよな……」

 

 

 

 

 服装も髪の色も三者三様の少年少女が、石畳の街道の、噴水の前に集まっていた。

 

 一人は緑色のぼさぼさはねた髪の少年。この俺、ローリエだ。

 

 一人は金色の髪を後ろでまとめた、高級そうなワンピースをきた少女、ソラ。

 

 一人は桃色のショートヘアの、魔術師見習いみたいな格好をした少女、アルシーヴ。

 

 

 いつもこの三人で俺達は遊んだり、イタズラをしかけたり、都市中を冒険したり、ゲームで遊んだりしていた。といっても、ほぼ街の人々にイタズラを仕掛けるか、その準備をする日々だが。

 この前は港町から輸入された真珠貝の真珠だけを盗み出し、芸術品に加工してから送り返す、というイタズラを敢行。真珠をすべてルネサンス期にありそうな彫像に加工する役割を引き受けた。

まぁ、エトワリアは地球と歴史が違うので完成品を見てもアルシーヴとソラは首を傾げていたが、ダビデ像を見た時の二人のリアクションが超面白かった。アルシーヴは顔を真っ赤にしながらリアルすぎだと抗議し、ソラもまた顔を朱に染めがらダビデを凝視していた。

 他にもぼったくりで金儲けをしようとした商人を嵌めて衛兵に逮捕させたり、噴水をゴージャスに緑の水晶や泪の石でライトアップしたりと数え切れないほどのイタズラをした。

 

 

「もう仕掛けたって、さっき私が雑貨屋さんのおじさんと話してる間に?」

 

「ああ。あそこのオッサン、口うるさいから、ちょいと仕返しにな。もちろん、ソラやアルシーヴも共犯だぜ?」

 

「まったく、仕方のないやつ……乗った私も私だがな」

 

 

 ちなみに今日は、雑貨屋に小型花火を仕掛け、大胆に発破させることで店を宣伝してやることにしたのだ。

 

まず人当たりの良いソラがオッサンに話しかけ、時間を稼ぐ。

そこで俺が作った時限タイプの小型花火を店前にこれでもかと設置。

最後にアルシーヴが魔法で着火し、三人で一緒に退散。ソラは少し抜けてる所があり、あらかじめ教えてたらウッカリオッサンに言ってしまう可能性があったのでアルシーヴの反対を押し切り言わないことにしたのだ。

 

 

 そうこうしている内にソラの後ろの方からパチパチパチと軽い破裂音が通りに響く。

 

 

「コラァァァこの悪ガキ共!またやりやがったなー!!」

 

「ほら出た!!逃げろーーー!!!」

 

「「きゃーーーー!!」」

 

 

 

 夏の日差しの下、ブチ切れたオッサンを尻目に俺達は一目散に逃げていく。建物、分かれ道、街のあらゆるものを利用してどうにかして撒きつつ、街中を走っていく。

 既にオッサンを撒いたのも忘れて俺達は、言の葉の樹の入口まで来ていた。都市の中心部にあるこの大樹は、頂上まで登ると神殿があり、そこでは神官達が聖典などについて学んだり、儀式を行ったり、女神候補生が教養を学んだりするのだ。

 

 

「いやぁ、愉快愉快!楽しかったねぇお二人さん!」

 

「お前いい加減に怒られろ……」

 

「アルシーヴも共犯でしょ?ふふふ…」

 

 

 俺達は、その大樹の入口のちょうど良い窪みに並んで腰をかけた。

俺が二人に笑いかけると、アルシーヴは呆れ、ソラは少し困った様子で笑っていた。

 しかし、こんな日々も続く訳じゃない。現在、俺が9歳、アルシーヴとソラが10歳。11歳になったら、二人は勉強のために神殿に住み込むことになるという。

 

 

「しかし、一年後にはアルシーヴもソラも神殿行きか……」

 

 親友と過ごせる日々も短いことを思っていたのが、いつの間にか声に出ていたようだ。

 

 

「私は女神候補生として勉強するからね。アルシーヴはどうするの?」

 

「私は女神にはならない。ソラの近くで、力になれたらそれでいい。」

 

「マー!!俺がいるのに、お熱いこと!!」

 

「ば、バカ!そういうのじゃない!」

 

「アルシーヴ、違うの?」

 

「なっ!!?いや、えっと、それは……」

 

 アルシーヴとソラがいちゃいちゃしている所を茶化すのはすごく面白い。しかも、アルシーヴは基本ソラに弱い。俺に茶化され否定しても、ソラが泣きそうな顔をすると返答に困ってしまう。俺が二人をからかうといつもこうなるからソラがわざと上目遣いをしている可能性も否めないが、それはそれでいい。

 

 

「そ、そんなことより!ローリエはどうするんだ!?どこに行くつもりだ?」

 

 

 こうやって俺とソラに挟まれて困った時、話題を変えて誤魔化そうとするのも彼女のクセだ。更に追求するのもいいが、彼女達に俺の今後を話していない。

 後が面倒なので、俺も夢を語っておこう。体は少年なので、それくらいしてもいいはずだ。

 

 

「俺は……魔法工学を極めて、誰も思いつかないような発明をする。

神殿の専属技師か、魔法工学の教師あたりになって、エトワリアを繁栄させる礎を築いてみせるさ。

そんで……三人仲良く、歴史の教科書に、史上最大の功績者として載ってみないか?」

 

 まだ高い太陽に向かって決意を固め、最後に二人に笑いかける。

 

「史上最大の功績者か……大きく出たな。

いいだろう、乗った。私は最高の筆頭神官になろう。お前も、私やソラの目につくくらい、活躍しろよ?」

 

「応援してるよ、二人とも!私も女神になれるように頑張る!」

 

 

 俺の笑みに、ソラもアルシーヴも、最高の笑顔を返してくれた。

 

 

 

 

 

 …だが、この時の俺は、前世の知識をもってしてもあの事件を予測出来なかった。

 

 

 だって、アルシーヴとソラの過去について全く知らないのだから……

 

 

 ……その事件で、俺は前世の知識を手にした傲慢さと、前世の人(日本人)特有の部外者意識に気づかされることになる。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 その日は、不自然な程に静かな夜だった。街中真っ暗で、家の明かりも街灯の光もほとんどなく、前世に見た夜の都会とは全く違う夜だった。

 

 

 俺は、アルシーヴと二人で、ソラの家に泊まりに来ており、ソラの部屋に集まっていた。この日できた俺の発明品とアルシーヴが開発したという新魔術の御披露目のためだ。

 

 

 

「二人とも、できたって言ってたけど早く見せてよー!」

 

「ま、まぁ待てよソラ。なあアルシーヴ、お前から先に見せてやれよ。」

 

「分かった。見てろ……」

 

 

 俺は発明品を出すのが今になって緊張してきてしまい、アルシーヴに先を譲ると、彼女は杖を取り出し魔力を集中させ始める。すると、部屋中が黒く染まり、紫色のエネルギーが宙に浮き始めた。

 

 俺はその見たことのある景色に驚いた。

 

 これは、ゲームでアルシーヴが使っていた『ダークマター』だ。全体に9999ダメージを与える、負け戦用の技。まさか、こんな幼い頃に開発していたとは。

 しかもこの技、凶悪なわりに発動前に集まる魔力が織りなす景色の変化が幻想的だった。まるで星空がよく見える夜に見る、森林の奥にひっそりと存在する湖とその周辺に集まる蛍を見てるかのような、絵にも描けない美しさだ。

 

 そう思っている内に周囲の景色が元に戻り、アルシーヴが杖をしまう。

 

 

「私の必殺技、『ダークマター』だ。

これさえあればどんな奴でもイチコロさ」

 

「えっ!!?攻撃技だったの!?」

 

「ああ。途中で術を解除した。最後までやると家が吹っ飛ぶからな」

 

 

 つまりあのまま続けていたら家もろとも俺らが無事じゃなかった訳だ。破壊力がデカ過ぎて戦いに使えねーじゃねぇか。

ソラ、「すごいね!」じゃないんだよ。褒める所じゃないから。攻撃されてたんだぞ?アルシーヴも微妙に照れるのやめろ。

 

 

「ローリエは何を作ったの?」

 

「ああ、俺はこの……」

 

 

 と俺の発明品……拳銃を取り出そうとした途端。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ばりぃぃん、と窓が割れ、俺達の二倍ほどある男が飛び込んできた。右頬に熊か何かに引っかかれたような傷跡のある、いかつい顔だ。

 あまりに突然のことで、三人とも動けなかった。

 

 

 

「そこのお嬢ちゃん、俺と来て貰うぜぇ……!」

 

 

 

 その凶悪そうな顔を欲望に歪ませ、ナイフを片手にヘドロのような目でこちらを見つめてきた時。

 

 俺は、エトワリアにあって日本にはない、恐るべき本物の悪意というものを感じた。

 

 

 

 

 そして直感的に思った。

 

 

 

 

 

 殺される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 早くどこかに隠れなければ。

 

 

 

 

 懐に俺の発明品が……拳銃があるのは分かっている。拳銃の扱い方もサバゲーの経験があるから分かる。そして、それをあの男に向け、引き金を引けば二人を守れることも。

 でも……頭で分かっていても、どうしても拳銃を取り出して撃つことなど出来なかった。

 サバゲーとは違う、殺し合いの世界。躊躇いのない殺意。あの男の汚れた目が、エトワリアにはそれがあることを雄弁に語っていた。

 

 

 

 

 

 俺はこの時まで忘れていた。

 かつて俺は……本物の悪意に対して、逃げることしか出来ない一般人(日本人)だったことを。

 

 

 

 

 

 気がつけば俺はソラの部屋を飛び出し、空き部屋のクローゼットの中に隠れ、衣服の中に紛れ込んでいた。

 ソラの衣服のものであろう、花の香りに包まれても、恐怖が消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 魔法の起動音と男の下品な笑い声が聞こえて、

 

 

 

 

 

 鈍い音と女性の呻き声、そして別の女性の悲鳴が聞こえて、

 

 

 

 

 

 嵐の過ぎ去った後のように何も聞こえなくなっても、

 

 

 

 

 

 

 俺は、クローゼットの中から出ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 気がついたら、夜が明けていて、盗賊による襲撃事件が明るみに出ていた。

 

 俺は、空き部屋のクローゼットで気絶していた所を、ソラの保護者に発見されたらしい。アルシーヴは、ソラの部屋で腹部から血を流して倒れていた。応急処置がなされていたため、幸いにも命に別条はないそうだ。

 

 

 そして、ソラは……見つからなかった。

 

 アルシーヴの証言により、あの盗賊に拉致された事が判明した。

 盗賊も、頬の傷跡から数年前から周囲の村を襲っている悪党だということが発覚した。

 

 

 ベッドの上で衛兵からこの話を聞いた時、ひどく混乱した。

 

 ソラは女神になる女性だぞ。

 

 こんな所で死んだら、原作が成り立たなくなる。

 

 ここはエトワリア(ゲームの世界)じゃなかったのか?

 

 そんな思いで、盗賊について詳しく教えてくれと訊いた。

 まず衛兵は、真剣な眼差しで緊張感を醸し出しながら、友達を助けに行くつもりか、と聞き返してきた。「助けたいけど、俺じゃあ無理なことくらい分かっている」と答えると、先程の緊張感が薄れた。

 

「分かっていればいい。こういうのは、私達衛兵の仕事だ。幸い、奴のアジトも検討がついている。」

 

「ど、どこにあるんですか!?」

 

「……やっぱり助けに行く気だったな?悔しいかもしれないが、私達を信じてくれ。

 なんせ相手は、分かってるだけで50人以上を殺し、20人近く子供を誘拐している凶悪犯だ」

 

 

 

 

 

 衛兵の言葉に俺は言葉を返せなかった。彼らを信じていない訳ではなかった。だが、言いようのない不安が俺の心に重荷として積み重なっていった。

 

 診断で怪我がないことが分かると、俺は街を歩き回った。体でも動かさなければ、どうにかなりそうだったからだ。でも、アルシーヴに会う気にはなれなかった。

 

 

 

 

 ソラを助けに行かなければ。

 

 自分が行かなくても衛兵が助けてくれる。

 

 彼女に何かあったらどうする。

 

 自分が行ったら衛兵達の足を引っ張ってしまい、助からないかもしれない。

 

 エトワリアには拳銃がない。だから相手も拳銃(ソレ)を知っているはずがない。そこを利用すれば間違いなく勝てる。

 

 いやいや、外すかもしれないだろう。誤射なんてしてしまったら笑えない。

 

 

 

 

 

 相反する思いがいつまでもいつまでもせめぎ合い、俺は行動することが出来ない。

 

 俺は、かつて夢を語った言の葉の樹の窪みに座りながら、俺が造った拳銃を手に取り、ただ見つめていた。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
この物語の転生者枠。モデルにしたキャラがいるとはいえ、完全にオリジナルなので少年期・学生時代期を書いておこうと思った結果、今回の話ができた。今日では異世界転生ものが多いですが、主人公の敵への容赦のなさ、勇敢すぎる所が疑問となった結果こんな形になりました。今話は情けない姿を晒しましたが、普通の人って盗賊とかいきなり現れて襲われてもなかなか戦えないと思う。格好いい姿はもうちょっと待ってて欲しいのじゃ。

アルシーヴ
最近プレイアブル側のキャラとして使える可能性が高くなった人。ソラとの仲睦まじさを見てると、二人って職務で出会う前から顔見知りだったんじゃないかと思うこの頃。この小説では、神殿に行く前から知り合いで、仲良くなってた&10歳でみんなのトラウマを習得する空前の天才という設定。ギリギリとはいえ禁呪オーダーを8回も使えた時点で天才なのだろうと私は思う。

ソラ
原作では女神だったということは、かつてはランプのように女神候補生なるものだった可能性が高い。しかも、ランプほどじゃないが、聖典学に深く通じていたんじゃないかと思う。この小説では攫われてしまったが……?



△▼△▼△▼
ローリエ「ここは、日本とは違うんだ。」

ローリエ「普通に生きていたら、守りたいものも守れやしないんだ。」

ローリエ「俺自身の手で、守るしかないんだ。」

次回、『覚悟の弾丸』

ローリエ「待っててくれ……ソラちゃん。」
▲▽▲▽▲▽



あとがき
原作1章から始めると、ローリエについて分からないと考えたので、しばらく原作開始前編として主人公を中心に掘り下げていこうと思います。
きららファンタジア、良いゲームよ。是非インストールしてね☆
あときらファン小説もっと流行れ


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第3話:覚悟の弾丸

“真の強さとは、魔法の才能にも、剣の腕にも、腕力にも、策略にも、新たな発明にもあらず。
真の強さとは、心にあり。”
  ……八賢者・ローリエ
    賢者就任演説より


 エトワリアには拳銃というものが存在しない。

 俺はそれを知るや否や、すぐさま製作に取りかかった。

 

 幼い頃からここがエトワリアだと知っていた身としては、未来にソラに降りかかるであろう、呪いの事件をなんとかしたいと思った。

 そのためには、自身が七賢者並みの強さを得る必要がある。拳銃を真っ先に造ろうとした理由はそれだ。

 拳銃がどんなものかは自分が一番よく分かっていた。自分以外で拳銃が何かを知っている者がいたとしたら、間違いなく「狂っている」と言われただろう。

だが、アルシーヴのような恵まれた魔法の才能もなく、七賢者達の実力が不明だった以上やるしかなかった。

 

 当たり前のことかもしれないが、前例のないものを造り上げる為、どうすれば開発できるかに熱中した。だが俺は、銃を組み立てることが出来、パーツや弾丸の構造について詳しく知っていても、実際に造るにはあまりにも知識と技術が不足していた。魔法工学を勉強しだしたのも、拳銃を自作するためだったりする。

 

 

拳銃を自作している時に何を作っているか両親に聞かれた時も、素直に説明した。二人とも良い人だったし、下手に隠すより良いと思ったからだ。

(もちろん、言い方はめちゃくちゃ考えたが)

 

 

 商人の父は言った。

これは間違いなく莫大な富を築ける。だが、間違いなく多くの人の命を奪うものだと。

 

 役人の母は言った。

もしこれを売ろうとするなら、それは魂を売るに等しい行いだと。

 

 

 信頼できる人以外に教えないこと、練習は一人でやらないこと、絶対に売り出さないことを条件に、拳銃を作ることを認めて貰えたのは5歳の頃だった。

 

 

 

 だが、前述の通り拳銃を実際に造ったことはなかったので、そう簡単に事は進まなかった。1ミリの狂いも許されない超精密な製作は極度の集中力と技術を要した。

 何度も失敗し、時には寝食を忘れる事もあり、ソラ達に心配されたり、両親に食事に引っ張り出されたりベッドに寝かされたりした回数も両手じゃ数え切れないほどあった。

 アルシーヴの錬成魔術による協力もあり、気分転換に小物を作りながら、4年。遂に『拳銃(ソレ)』は完成した。

 

 

 六連回転式弾倉、リボルバー式の拳銃。銃身と弾丸には「比類なき硬度を持つ」とゲームで解説されていたブラックストーンを使用。

 火薬をどうするか悩んだが薬莢(やっきょう)の尻の部分に小さな爆発魔法の紋章を書いておき、撃鉄が衝撃を与えると起動するようにしておく。これで試し撃ちした結果、しっかりと魔法が起動し、弾が発射され、銃身へのダメージもほとんどなかった。

 試し撃ちの過程でぷにぷに石を使った非殺傷性の弾丸も製作した。

 

 

 俺はこの拳銃の名前を、モデルにした拳銃から取って「パイソン」とした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 掌の中の拳銃を見ていると、これを作り出すまでの思い出が走馬灯のように蘇ってくる。

 

 

「我ながら、情けないなぁ」

 

 

 つい、何となくそう呟いた。声は震えていた。

 日が高くなり、空気が暖かくなっても俺の心を締め付けるような苦しみは全く和らがなかった。

 

 

 自分は弱い人間だ。

 

 弱かったから、親友二人を見捨てて逃げてしまった。

 

 

 この異世界は、日本なんかよりも危険で、ここの異世界人は、日本人なんかよりも簡単にヘドロの目になることを、あの事件は俺に知らしめた。

 

 エトワリア(知ってる世界)に転生(確証はないが)して、アルシーヴやソラ(知ってるキャラ達)に出会って舞い上がっていた俺に叩きつけられた、残酷な真実。

 それを目の当たりにした俺は……

 

 

 

「このままじゃあ、ダメだ」

 

 

 そう、己に言い聞かせた。

 

 気休めでも、意味がなくても、そうしなければならないと感じたから。

 

 

「なるほど、それでやたらと街中を歩き回ってたのか」

 

 

 不意に言葉をかけられて、拳銃を隠して身構えた。

 声がした方を向くと、そこに立っていたのは今朝盗賊の事件について話してくれた衛兵だった。

 

 

「安心しろ、今すぐ君をどうこうしようって訳じゃない」

 

「なら、何しにここへ?……俺をソラの救出へ連れて行ってくれるとか?」

 

「そんな危険な真似はできない。

 ただ……君が思いつめた顔をして街中を歩き回ってると皆が言っててね。キミの親友に頼まれて探してたのさ」

 

 

 衛兵は、そう言うと俺の隣に腰をかけた。『アルシーヴに頼まれたから』という、俺を探していた理由以外は何も言わなかった。おそらく、俺の方から言うことを期待しているのだろう。

 

 精神的に成人していた俺としては、30代に突入したばかりの衛兵に助けを請うのは少し恥ずかしかった。だが、同時に無意味なプライドが足を引っ張ることも知っていた。

 

 

「あの夜、俺は盗賊を追い払う事ができたはずなんです。」

 

「どうやって?」

 

「この武器です。爆発を推進力に変えて、ブラックストーンの弾丸で貫くものです。」

 

「お、おう……そうか。それは……すごいね。」

 

 

 俺から見ても衛兵が困惑しているのがよくわかる。俺が持っている拳銃は、エトワリアで初めて作られた拳銃(モノ)だから仕方ないのかもしれない。

 でも、俺が言いたいことはそこじゃない。

 

 

「でも、これがあるにも関わらず、盗賊相手に撃てなかった。逃げてしまったんです。」

 

「………。」

 

「怖かった。死にたくなかった。でも何より、あの時戦えなかった自分が嫌で嫌で仕方ないんです……!」

 

 

 その言葉を聞いて、長い……長い間が空いて、そして、ゆっくりと衛兵は口を開いた。

 

 

「仕方ないよ。人に武器を向けることは誰だって怖いことさ。私でもそうさ。

 ……だって、それで誰かを傷つけたり殺したりしたら、人として大切な何かが、壊れてしまうから。」

 

 

 そう語る衛兵の目は、真剣そのもの、何度も修羅場をくぐり抜けた熟練の戦士のそれだった。転生して人生経験がある俺よりも、長く生きてきたかのような、男の目をしていた。

 

 

「私も、初めて敵を……人を殺した日のことは覚えている。君が生まれるよりもだいぶ前だが、今でも夢に見るほどさ。

 

 だけど、男には、どんなに怖くても、自分が壊れてでも戦うべき時がある。

 

 それは……大切なものを、守る時だ。」

 

「大切なものを、守る……」

 

「君はまだ幼い。ご両親から10歳にもなってないって聞いたよ。それでも、あの恐ろしい盗賊から親友を守ろうとしたんだろう?」

 

 

 普通じゃあまずできない、と言った衛兵の大きな掌が自分の頭を撫でる。今まで胸を締め付けていた苦しみが、少しずつほどけていく気がした。それにつれて、貯まっていたものが溢れ出てくる。いくら目を拭っても、それは溢れ続けた。

 

 

「君は立派な男になれる。いや、もうなってるのかもな。いずれにせよ、大物になると思うよ。」

 

 

 最後の方は少しちゃらけた言い方になったが、しっかりと言い聞かせるような言葉だった。とうの昔に忘れ去ったと思っていた、若人特有の魂の炎が蘇った。衛兵の暖かな、頼もしい言葉が、魂だけが大人びた自分に伝わり、火にかけた鉄のフライパンのように伝わり、あっという間に情熱が燃え上がった。

 涙を拭って、真面目な顔を衛兵に向ける。

 

 

「当たり前だろ……だって俺は……七賢者になる男だからな…!

 アルシーヴもソラも、俺が守ってやるんだ!!」

 

「ふっ、そうか。なら早速行こうか。」

 

「えっ……?どこに?」

 

「盗賊のアジトに、君の親友を助けにだよ。」

 

 

 何か含みのある笑みを浮かべた後、衛兵は背中でついてくるよう促した。

 

「あ、そうそう、七賢者とか言ってたけど、賢者は八人だからね?」

 

 

……俺にとって大事な情報をさらっと口にしながら。ちなみに、このことに俺が気づくのはもう少し後のことになる。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「衛兵さん、さっき、俺は連れていけないって言ったんじゃあ……」

 

「それは衛兵としての意見だ。これから言うことは同じ男としての言葉だ。だからこれからはペッパーって名前で呼んでくれ、ローリエ君。」

 

 

 街を出た俺と衛兵改めペッパーさんは、近くの森を歩いていた。

 

 

「大切な親友を救うために戦うんだ。同じ男としては、力になってやりたいのさ。」

 

「でも、衛兵としての規約があるんじゃ……」

 

「だから俺は最小限の装備しか持って来ていない。『休暇中、君と二人で散歩していたら、偶然盗賊のアジトに連れ込まれた』ことにするためにね。

 

 ……危険な賭けになるよ。相手は何人も殺っている。見つかったら、迷わずこちらを殺しに来るだろう。いざという時は……逃げるんだ。戦おうとは考えるなよ。」

 

「分かっています。」

 

「君はソラちゃんを助ける事を優先してくれ。……さぁ、着いたぞ。」

 

 

 そこは、高さ10メートルほど切り立った崖の下にある洞穴だった。入口の高さはあの夜に現れた盗賊と同じほどで、森の薄暗さもあって外からでは中を確認することは出来なかった。

 

 入るぞ、というペッパーさんの合図に、俺は拳銃を抜いて弾を確認しながら後に続いた。

 

 弾倉は六つあり、それぞれ全てに弾を込めてある。弾丸はぷにぷに石の弾丸が五つ、残りの一発だけブラックストーンを使用したメタルジャケット弾(ブラックストーンは厳密に言うと石だからストーンジャケットだけどね)にしてある。

 あの大男にぷにぷに石の弾が効くかという不安はある。でもメタルジャケット弾は出来れば使いたくない。かつて数回だけメタルジャケット弾で試し撃ちしたことがあるが、貫通力が高過ぎて自室の壁に穴を開けてしまったことがある。人に向けて撃ったらどうなるかなど、想像に難くない。

 

 

 どうか最後の一発(メタルジャケット弾)は使わないで済みますようにと願いながら、またソラちゃんの無事を願いながらペッパーさんに続いていくと彼がこっちを振り向き、「静かに」と合図してきた。

 

 どうやら(くだん)の盗賊は眠っているようだ。自然の洞窟の地べたに直接寝転がり、仰向けでいびきをかいている。

 これなら好都合。とっととここにいるはずのソラちゃんを助けてしまおうと考えた。

 

 果たしてアジトの奥に彼女はいた。オリの中でもう一人の少女と一緒に隅に座り込んでいた。

 

 

「ソラちゃん!」

 

「ローリエ!?どうしてここに……」

 

「シッ!あいつが起きる。早くここから出るよ。」

 

「でも、このオリが……」

 

「安心してくれ、街の衛兵は力持ちでね。」

 

 

 そう言うと、ペッパーさんはオリの一部をひん曲げて、子供一人分の隙間を無理やり作る。

 そうしてできた隙間から、ソラちゃんともう一人の少女を救出する。

 

 俺はその少女をどこかで見たことがあった。

黒い髪を短く切りそろえたその少女のことを思い出せたのは、きっと子供用の和服を着ていたからだろう。

 

 

「なっ!?(ハッカちゃん……!?)」

 

「? 何?」

 

「い、いや…何でも……」

 

 

そう、後に賢者の一人となるハッカである。俺にとって、賢者の中で一番のお気に入りだったりする。まさかこんな所で会うとは思わなかった。

 名前を言いかけたのを思いとどまったのはこれが初対面だからだ。初対面で相手が名前を知っていたら誰だって驚き警戒するだろう。俺だってそうする。

 

 

 

「てめぇらッ!!何してやがる!!!」

 

「ッ!ローリエ君!!二人を連れて逃げろ!!」

 

 

 だが、驚いたり、喜んだりする暇すらないらしい。

 サバイバルナイフを抜いてさっきまで寝ていた筈の盗賊に飛びかかったペッパーさんの言葉に、素直に従うことにした。

 

 

「二人とも早く!」

 

「で、でも!」

 

「あの人の命がけの戦いを無駄にするな!!!」

 

 

 ソラちゃんが攫われたあの夜以降で初めての大声が出た。

 無茶な救出を了承してくれた(ひと)のためにも、俺達は生きて帰らなければならない。

 幼いソラちゃんとハッカちゃんの手を引き、全力で洞窟を駆け抜ける。二人がすぐ後ろで息を切らすのも構わず、かすかに見え始めた入口の光目掛けて走り続けた。

 だが、エトワリアの神はどこまでも意地が悪いようだ。

 

 

「っはぁっ!もう……無理………」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「あっ!?おい!!」

 

 

 アジトを出るより先に、二人の体力が底を尽きる方が早かったようだ。俺は、離れてしまった手をもう一度繋ぐべく二人へ近づく。

 

 

「クソ……手間かけさせやがって」

 

 

 だが、ここで最悪の事態が起きた。あの男に追いつかれてしまったのだ。

 ソラちゃんが攫われたあの夜を嫌でも思い出させるかのように、格好はその時のままだった。

 

 

「そんな!さっきの人は……」

 

「へへ……衛兵も大したことねぇなァ」

 

 

 ソラの絞り出したような言葉への答えと、大きな体のあちこちにある新しい傷跡、そして奴が手に持っているナイフに何かが滴っているのを見て、俺はペッパーさんの身に起こった結果を悟った。

 

 

「もう、ただじゃおかねェぞ……お前ら……三人まとめてじっくりいたぶって……死ぬよりも苦しいと思えるくらい、痛めつけてやる……!!

まずは二度とチョロチョロできねーように、足の骨をへし折って、

腕も曲げて、散々犯し尽くしてやるぜ、へへへへへ……」

 

 

 盗賊の欲望と憤怒に満ちた表情は、まさに地獄から湧き出でんとする悪魔そのものだった。

 

 俺の中から何かが湧き出てきた。

 

 

 勇気のような、怒りのような、憎しみのような、言葉に出来ないような静かな激情が俺の中をあっという間に駆け巡った。

 

 『パイソン』を抜いて、弾倉を()()()()()一発分だけ回し、両手で構える。

 ソラちゃんもハッカちゃんも体力切れと恐怖で動けない。俺の後ろから聞こえる息づかいで分かる。逃げるなんて論外だ。

 

 

 コイツを止めるには……()()()()()()

 

 

 

 ここは日本ではない、覚悟を決めろ。

 

 

 

 

 

 引き金を引け……大切な者を守るために!

 

 

 

 

「なんだァ?そのおも…」

 

 

   ―――バアァァン!!

 

 

 その瞬間、手元から爆音がした。

 

 始めは、外したかと思った。目の前の盗賊は何の反応も示さなかったからだ。

 だが、そうではないとすぐに気づいた。男の額に、風穴が空いている。

 

 

「な、なん………だ、そ…………」

 

 

 掠れた声で何か呟くと、目の前の盗賊(あくま)はゆっくりとうつ伏せに倒れ……そしてそのまま動かなくなった。

 これで、俺達三人の危機は去った。

 

 

「もう大丈夫だ。さぁ、帰ろう。」

 

「………!!」

 

「? どうしたんだ、ソラちゃん」

 

「う、後ろの人……一体……」

 

「あっ………!!」

 

 

 ソラちゃんに指摘されてやっと気づいた。

 俺は初めて人を殺したのだ。

 

 その事実が、倒れた盗賊の汚れた血が地面に広がっていくように、心の中にしっかりと刻まれた。

 他でもない、自分がやったことなのだ。その責任として、今は二人を落ち着かせなければならない。この時、気のきいた言葉の一つや二つ、言うことができたらどれだけ良かっただろう。しかし、数十年分の記憶があるにも関わらず、俺の頭の中ではいくつもの言葉が交差し、通り過ぎては消えていった。

 

 

「で、でもよ!こうでもしないと俺達、命なかったかもしれない、だろ?」

 

 

 最悪なことに、真っ先に出てきた言葉は、言い訳だった。だが、当時の俺からしたら、それが一番簡単に出てきた言葉だった。

 

 

「なぁ、そうだろ?そこのキミも、そう思うだろ?だから……」

 

 

そこまで言いかけたところで、ハッカちゃんの目を見て自分が致命的なミスをしたことを悟った。

 

 

 ……怯えた目を、していたのだ。

それも、明らかに俺に対する恐怖がひしひしと伝わってくるような、そんな目を。

実際にやった訳でもないのに、手を差し伸べたらその手を振り払われたような錯覚に陥った。

その時のショックはゲームの推しキャラに嫌われた!ガーン!というレベルのものではなかった。

 

 ここにきて、ペッパーさんが言っていたことの意味が少し分かった気がした。

 

 

 

「……ソラ、ちゃん。」

 

「なっ…なに?」

 

「その子を連れて、街へ行って。」

 

「……ローリエはどうするの?」

 

「しばらく、独りにさせてくれ。

その方がいい……お互いにとって。」

 

 

 

 

 

 ソラちゃんは何か言いかけたが、やがてハッカちゃんと手を取って盗賊のアジトから出て行った。俺はペッパーさんの安否を確かめてから外へ行こうと思った。

 

 やはりと言うべきか、彼は亡くなっていた。いたる所にナイフで刺された跡がある。これを見たのが俺だけで良かった。彼女たちが見たら、間違いなく吐いてしまうだろう。俺も吐きそうになった。

 

ペッパーさんを供養した後、俺も洞窟から出て、森を抜けた所で立ち止まって夕陽と向き合った。

 

 

 

 俺は今日という日を忘れないだろう。

 

 

 

 変化がありすぎた。

 自分の弱さに触れた。

 衛兵の覚悟に触れた。

 死に触れた。俺の中の、大切な何かも壊れたと思う。

 だが、沈んでいく太陽に涙は見せなかった。

 

 

「俺は……もう逃げない。必ず、ソラとアルシーヴを守る……!」

 

 

 間違いなく、俺の人生は今日を境に変わっていくだろう。それからの日々を、悔いなく生きるために。




キャラクター紹介&解説


ローリエ
親友を守る為に盗賊を倒した主人公。それと同時に人を殺したことで、大切な何かが壊れてしまったようだ。人は人を殺した時、それ以降の選択肢に『殺す』が当たり前のように出るようになる、という話を参考に今回の話の心情変化を書いた。また、前話の時点で折れかかっていたため、どう立ち直るかでかなり苦労した。元々、変態路線で行くつもりだったのにどうしてこうなった……
でも、これから美人揃いの賢者達と次々会う予定だから多分問題ないはず←


ソラ
来年には女神候補生になる少女。盗賊を一撃で倒したローリエを見て、「ローリエの魔道具がやった」と思えたのは古くから付き合いがあったため。だが、まさか自分を守るためとはいえ人を殺してしまうとは思わなかっただろう。その時の心情変化については、いつか語れる日を望んでいる(白目)


ハッカ
未来の賢者の一人。こちらはローリエとは初対面であるため、ローリエが盗賊に何をしたのか、何を持っていたのか全く分からなかった。これが恐怖に繋がり、ローリエを傷つけた。
人間、恐怖は無知から来ているという話があって、『何が起きているか分からないから恐怖を感じる』という考え方から来ているそう。怖い話やオカルトが恐怖を煽るのは「何があったのか理解できないから」ではないかと作者は分析している。皆様はどう考えるだろうか?


ペッパー
本来は登場させる予定のなかったキャラ。ローリエが立ち直るキッカケとなるために、モブの衛兵から格上げになった。ローリエに大切な者を守ることの大切さを教えて逝った(誤字ではない)。


盗賊
話を練っていた頃から銃殺される定めにあった可哀想な人。あまり触れないのは、掘り下げることで同情の余地を作らせないため。悪役を作るのに必要なのがくずセリフ。きらファンに純然たる悪はなかなか出ない為か、コイツの言葉には苦労した。モブだけど。



△▼△▼△▼
ローリエ「衝撃的すぎた盗賊事件もこれで終わり! これからは神殿で三人一緒だな! 前々から思っていたんだけど、エトワリアの女の子って皆レベルが高すぎない?いやぁ~、ここでいっちょ、ハーレムでも作ってみますか!」
アルシーヴ&ソラ「………。」

次回、『魔法工学生』

ローリエ「絶対見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
幼少期編終了。でも、まだローリエ達が賢者どころか神殿に行ってすらいないので、もう少しだけ(原作前編が)続くのじゃ。


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第4話:魔法工学生

シティーハンター見てきました。
冴羽リョウ超格好良かったなぁ……ああいう格好良さを持つ男になりたい。


“親友の二人には、迷惑をかけてしまいました。
一人は私を庇って一生跡が残る怪我を負い、一人は私を守って手を血で汚しました。
女神として、彼らに何ができるのでしょう。”
  …女神ソラの独白より


 盗賊によるソラ誘拐事件。

 その終わりはあまりに拍子抜けしていた。

 

 

 誘拐されていたソラが戻って来たのだ。しかも、同時に誘拐されていた少女を一人連れて。

 

 街は始め、ソラが盗賊の隙を突いて脱走してきたと考えていたが、衛兵隊が盗賊のアジトを調べ、盗賊と衛兵一人の亡骸を発見してからは事態が急変した。

盗賊の亡骸の致命傷となった傷が額の小さな風穴だけだったこともあり、死亡原因の特定は難航した。

調査隊では「衛兵が盗賊と相討ちになった」という説と「第三者が盗賊を殺害した」という説で話し合いが行われたが、結局結論は出ず、真相が不明のまま時が流れていった。

 

 

 

 

 

 その当時のことを、女神ソラはこう語る。

 

「私はあの時、ハッカと震えていることしか出来ませんでした。ローリエが助けてくれなければ、命はなかったのかもしれません。

 

 でも、盗賊を撃ったローリエに、幼かった私は、お礼を言うことすら出来なかった。『独りにさせてくれ』と言われた時、恐怖のあまり彼の言う通りにしてしまった。あの様子の彼を、放っておいたらいけないと直感的に分かっていたにも関わらず。

 

 街に帰ってから後悔しました。お礼くらい言えば良かったって。せめてもの償いとして、ハッカに口止めをし、衛兵たちにも何も言わないことにしました。アルシーヴに事件のことについて聞かれても、『ローリエが守ってくれた』事以外は何度聞かれても答えませんでした。

そうして、時が流れて皆が盗賊の事件を忘れていくのを待ったのです。

 

 

 事件以降、私はローリエとはあまり話さなくなりました。……話しかけづらくなってしまったんです。だって、彼が変わってしまったのは、確実に私のせいなんですから……謝りたくても、何を言われるか分からなくて、怖かったのだと思います。彼のことは、信じているはずなのに。

 

 久しぶりに会話したのが、私の誘拐から3年たった頃の、フェンネルの事件の後だったかしら……

 その頃のローリエは……やっぱりというか、案の定というか………昔とは変わっていました。例えるなら、オモチャのナイフが、一流の鍛治職人によって切れ味を得たかのような……そんな変化が。」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 時の流れとは早いもので、盗賊によるソラ誘拐事件から3年があっという間に経過した。

 

 

 俺、ローリエは魔法工学を更に勉強するために、神殿に住み込んでいる。

 神殿にある神官の教育。そこの魔法工学科に俺は入った。ちなみに、アルシーヴは魔術科、ソラは女神候補生として神殿にいる。

 

 神殿は広く、学生寮を有しており、その内の二人部屋に俺は今住んでいる。食事は基本、寮から出るが自分で何とかすることもある。

 

 そして現在、何をしているかというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゃァ!!完成だぜ!!」

 

「相変わらず元気だな。それで、今回は何を作ったんだ?」

 

「コレだ! テッテレ~!

 インスタントカ~メ~ラ~~!!!」

 

「毎回のようにそのくだりやるけど何なんだよ」

 

 

 相部屋に同居している同級生にダミ声でドラ○もんのモノマネをしながら夜なべして完成させたカメラを見せつけていた。

 

 エトワリアには小型のカメラがないらしく、持ち運びなど不可能だったらしい。だが、それでは可愛い女の子を撮る機会が十分に得られない。世界の損失である。

 そこで、俺は有り余る魔法工学の知識を用いてカメラをコンパクトにし、撮った瞬間カメラから写真が出てくる、小型インスタントカメラを作ったのだ。

 

 

「これでエトワリアの至宝の損失を防げるぜ……」

 

「お前は何を言っているんだ」

 

「いいか!このカメラというのは、いわば『時間を切り取れる』んだッ!女の子の、若い瞬間を、永遠に!代償もなく!保存できるんだッ!!

 アルシーヴやソラだけじゃないッ!!エトワリアの女の子はみんな可愛いッ!

 それを撮らない男は、男を名乗る資格なぞなぁいッ!!」

 

「分かったから落ち着こうか」

 

 

 そして、このインスタントカメラで可愛い女の子を撮ることに思いを馳せている俺に冷静に突っ込みを入れた同級生は、俺が神殿に住み込んでから出来た男友達だ。名前をコリアンダーという。

 

 神殿に入りたての頃、天才的な魔法工学の知識ゆえに孤立しかけていた俺に話しかけ、意気投合した結果信頼関係が出来上がった。

彼は真面目で女が苦手という、俺とは真逆の性格だったので、仲良くなれたことに俺自身も驚きだった。きっと、俺の発明を理解してくれたからここまで上手くいったんだろう。

 

前世の学校ではボッチだったので、今世もボッチは避けたいと思った矢先にできた友達だから、彼には感謝している。

 

 

 

「でもまぁ、普通に考えてスゴい発明だぞ?あのカメラの小型化なんて前例がない。お前、いつもトンでもない発明をするよな」

 

「マ、賢者になるためにゃ、これくらいやんなきゃだしよ。

 ……ところで、お前は何を作っているんだ?」

 

「これか。これはだな、とある人物に依頼されて製作してるモノだ。触れるなよ?万が一があるかもしれないからな。」

 

 一応コリアンダーが造っているものを聞いてはみたものの、樽のような形をした金属は、あまり精密なものには見えない。俺はこのことは頭の隅っこに追いやることにした。

 

 

 そんなものよりもやるべきことがこのローリエにはあるからだ。

 

 それは!

 

 

「美人ちゃんを写真に収めることだッ!!!」

 

「あっ、お前!迷惑だけはかけんなよ?」

 

「当然!」

 

 

 

コリアンダーの忠告をテキトーな返事で流しながら俺は部屋から走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして着いた場所は、神殿の礼拝堂である。アルシーヴは、大体ここで魔術、聖典、筆頭神官の執務について勉強している。

 

 

「アルシーヴちゃーん!」

 

 

 カメラを構えつつそう声をかけて、こっちを向いたところでシャッターを押す。

カシャッという音とともに、写真がゆっくりとカメラから出てくる。そこには、テーブルについて教科書とノートを広げてこちらを向いているアルシーヴが映っている。

 13歳になった彼女は、俺の知っているゲームのアルシーヴに比べ、少し幼さは残るものの、十分に可愛さを備えていた。

 

 

「フッ………完璧だ、これでまたエトワリアの技術は進む……」

 

「なんだローリエ。いきなり来たと思ったらまた変なことを言って…………!!?」

 

 

 俺の言葉に呆れていたアルシーヴだったが、俺が手にしているカメラと写真を見た瞬間、何かを察したかのように目を見開く。

 

 

「お前、それは……!?」

 

「お?分かるか、アルシーヴちゃん。実はこれは、さっき造ったカメラだ」

 

「は!?

 あのカメラを小型化だと……?

 少しそれを貸せ!」

 

「あっ!?

 おい、あんま乱暴に扱うなよ……?」

 

「当たり前だ!」

 

 

目の色が変わった彼女はインスタントカメラをぶん取ってあらゆる角度から見つめていた。カメラを回し、フレームの取り外しを繰り返し、時にはシャッターを押して、出てきた写真を観察しては、さっきまで勉強で使っていたノートに原理を書き込んでいる。

 

 

「そんな珍しいもんかね?」

 

「ローリエ、それは本気で言っているのか?」

 

「え?」

 

「国宝級の発明だ。これだけで、写真技術は30年進むぞ。

……自覚なしに凄まじい発明を持ってくるなといつも言っている筈なんだがな。分かってるのか?」

 

「ああ、もちろんだよ」

 

 

 そう言って警告してる間もカメラから目を離さなかったのだろう。少し無防備になっている。

 

 

 

 そのチャンスを逃す手はない。

 

 

 

 

 俺は両手で彼女の胸を後ろからがしっと掴んだ。

 

 

 

 

「きゃああ!!?」

 

「うん、この前よりも大きくなってる。将来は国宝級の隠れ巨乳になるな……5、6年後に口説かせてあべしっ!!?」

 

「ローリエのエッチ!」

 

 

 ゲームの姿に思いを馳せながらアルシーヴちゃんの成長期おっぱいを堪能していると、国宝級のビンタが炸裂した。しかもいい声のオマケ付き。沢○さんありがとう。

 

 

「いきなり何をするんだ!」

 

「いやぁ、アルシーヴちゃん……毎度のことながらご馳走様です」

 

「本当に何を言っているんだ!!」

 

 

 お礼は言ったのだが、アルシーヴは顔を真っ赤にして抗議してきた。不意を付いてやったのがダメだったのだろうか。

 

 

「こんなことしてる暇が会ったらソラの所に顔を出しに行けばいいじゃないか!」

 

「!!」

 

 

 ソラの話題を出されて、俺は思わずたじろいだ。

 確かに、あの盗賊の事件以降、アルシーヴには会っていても、ソラには会っていない。俺は避けているのだ。別にイジメとかじゃないからそこは誤解しないで欲しい。

 

 ただ―――

 

 

 

「……あんな事件(こと)があった後で簡単に会いに行けるかよ…」

 

「………っ!!」

 

 

 あの事件の影響がない訳がない。事件後すぐに会った時のあのリアクション。話しかけようとしているのだけど、喉につっかえたように見えるあの反応。

それでなんとなく分かる。

 ソラは、男に対してトラウマを抱いているはずだ。俺が自分から話しかけなかったのも彼女のトラウマを思い出さないようにするためでもある。

 

 加えて、ソラが変わった原因が、盗賊だけでなく俺にもあるかもしれないことを、俺はアルシーヴに話していた。彼女に「盗賊に襲われた時、逃げて、守ってやれなくてごめん」と謝ったところ、複雑な顔で「お前は悪くない」と返されたのは記憶に新しい。

 

 

「アルシーヴ先輩、紅茶をお持ち……あ」

 

「あっ、き、君は……!」

 

 

 あの事件に再び触れるかどうかの会話の最中、そのタイミングで、今最も話しかけ辛い女の子と出会ってしまうとは、泣きっ面に蜂とはよく言ったものだ。

 その女の子――ハッカもまた、盗賊のアジトで出会い、そして、あの衝撃的な所を見せてしまった女の子でもある。俺は、あの怯えた目を忘れることはない。

 俺を目にしたハッカも、すぐに俺が盗賊を倒した少年と気づいたようで、俺を視界から追い出そうと目を泳がせた。

 

 すぐにあの日、怖がらせたことを謝らなくては。

でも何て言って謝ればいい?そんなことばかり考えていた。心が苦しくなっていく。

 

 

「? ローリエ、ハッカ?お前達、どこかで会った事があるのか?」

 

 

 しかも最悪なことにアルシーヴが爆弾を投げ込んできた。

おいやめろ、そんな質問答えられる訳ねーだろ。ファーストコンタクト最悪なんだぞ。アルシーヴには俺がハッカちゃんと会ったことがある事を伝えていない。それが完全に裏目に出た。

 

 

「「…………。」」

 

「顔色悪いぞ、二人とも。大丈夫か?」

 

 

そら顔色も悪くなるわ。大丈夫じゃないからな。

 

ハッカの方をチラリと見るとあの頃のことを思い出したのか目から光が失いかけてる。これは、俺がオブラートに包んで答えるしかないか。

 

 

「あー……実はだな、アルシーヴ?

俺と彼女…ハッカちゃんは……」

 

「アルシーヴ様に手を出したのは貴様かアアァァァ!!!!」

 

 

 突然、軽鎧に身を包んだ少女が弾丸のように俺のほうに飛んでくる。

 俺は反射的にその場から飛び退くことで回避する。少女は奇襲が失敗したことを悟り、スピードを落としてこちらを睨みつける。

 

 

「あっぶな!?何今の!!?

当たり屋にしては殺意高過ぎない!?」

 

「とぼけても無駄よ……アルシーヴ様の悲鳴を聞き逃すほど、このフェンネル、未熟ではないわ!」

 

 

 弾丸の如く襲ってきたその少女の言葉で、俺はその正体を察した。

 

七賢者・フェンネル。賢者達の中で一番アルシーヴを信仰しており、ランプをして「アルシーヴが黒と言えば白いものも黒と言う」と言わしめた狂信者だ。現在、俺が12歳だからアルシーヴは13歳なのだが、まさかこの頃からアルシーヴの虜だったのか……!?

 

 

「私と勝負しなさい。そして、私が勝てば、もう二度とアルシーヴ様に近寄らないと誓え!」

 

 

 フェンネルのアルシーヴ信仰が原作開始のかなり前から根深いことに驚いていると、いつの間にか決闘を申し込まれていた。

 だが、俺にそれを受ける理由はない。銃の腕を上げたり、銃の改良を続けているのは、いずれ訪れるソラへの呪い事件を未然に防ぐor犯人をぶっ飛ばす為だ。感情的に叩きつけられた決闘に勝つ為じゃない。

 

 

「嫌だよ」

 

 

 だから、はっきりと断った。

 

 ソラやアルシーヴの為なら戦えるかもしれないが、それ以外となるとまともに戦える自信がなかったのも断った理由としてはある。むしろ、戦いに慣れること自体良くないことだと思う。

 

 

「貴様!何故勝負を受けないんです!馬鹿にしてるのですか!」

 

「馬鹿にするもなにも、いきなり決闘とか無理に決まってるだろう?それに……」

 

「私が、女だから!決闘を受けないと言うのか!!」

 

「違う。戦う意味がないからだ。」

 

 

 フェンネルの言ったことは合っている。女の子からの依頼やデートのお誘いは受けても決闘の申し込みは受けないようにしてるんでね。

 でも決して理由はそれだけじゃない。繰り返すようだが、必要性を感じない戦いはするべきではない、と考えているというのも理由だ。

 

 

「まただよ、フェンネル。アルシーヴ様の為とかいって、突撃して。気持ち悪いな。」

 

「いつも俺達には注意するのにな。人のこと言えねーじゃねーか。」

 

「ウィンキョウ家のお嬢様だからって調子乗ってんのか……?」

 

 

 それに、今気付いたのだが、周りの様子がおかしい。フェンネルに対する敵意をひしひしと感じる。特に、ガタイのいい男どもから刺さるような視線を感じた。そいつらの敵意が、口から漏れ出ているかのような陰口がわずかに聞き取れたのがいい証拠だ。

 

 こんな時に決闘を受けたらヤバい気がした。

 

 

「落ち着け二人とも。いきなり決闘なんてよすんだ。」

 

 

 俺たちが一触即発の空気で睨み合い、周囲も不穏になる中、アルシーヴが仲裁に入ってくる。すると、すぐさまフェンネルはスイッチを切り換えたかのように感情を抑え武器を収めた。

 

 

「フェンネル。気持ちはわからんでもないが、怒りで決闘を申し込むな」

 

「申し訳ございません……」

 

「そして……ローリエ」

 

「ん?俺?」

 

「お、女の子の……その、む、胸は……乙女の宝物なんだ。だから……あまり何度も触るな……」

 

「「ふぁっ」」

 

 

 アルシーヴが俺に向けて言った、困ったような、照れたような、そんな表情と声色でする注意に、俺とフェンネルの驚きの声がハモる。しかも、肺の奥からでた変な声がハモった。

 

 

「可愛い……」

 

「何度も…だと……?」

 

 

ただしその後にくる感情(感想)が真逆といっていいほど違った。俺はアルシーヴちゃんの意外な一面に萌えていたがフェンネルの声は殺気を孕んでいた。

 

 

「貴様……やはりアルシーヴ様のために斬った方が良さそうだな……!!」

 

「待て、ウェイト。それはダメだぜ?止めた方が良いと思うなー?さっきのアルシーヴちゃんの言葉覚えてる?感情に任せて決闘すんなって……」

 

「問答無用ッ!!!」

 

「うわあああああッ!!?」

 

 

 説得も虚しく、フェンネルにレイピア片手に斬りかかられ。

 

 この後滅茶苦茶逃げまくった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「……それで、追手を撒いてここまで逃げてきたのか。お前、学習してないだろ」

 

「えっへへー」

 

「えっへへーじゃない。いい加減にしないと、いつか捕まるぞ」

 

 

 依頼された物の制作を続けていると、親友のローリエが部屋に戻ってくる。何があったかを聞いた俺は、呆れ果てた。

 

 こいつは、女癖が悪すぎる。美人に目がなく、見かけたら片っ端から口説きにかかる。ぶっ飛んだ発明品の数々から感じる情熱や技術は本物なんだが、いつもがナンパ野郎(アレ)だからプラマイはゼロを通り越してマイナスに突入している。

 

 

「ところでコリアンダー、フェンネルについて何か知ってたら教えてほしいんだけど……」

 

「また俺頼みか。知ってる範囲でしか話せねえぞ。」

 

「それでいい。」

 

 

 ローリエは、学生の事情について無頓着だ。こいつの関心事は、自分の発明品と友人、聖典、あと美人くらいしかない。だから、こいつが誰かについて尋ねる時は大体俺の情報を当てにしている。いつものことなのでもう慣れた。

……少なくとも、こいつよりは生徒(まわり)を見ている自負はあるし。

 

「フェンネル・ウィンキョウ。ウィンキョウ家の末っ子お嬢様だ。学年は俺たちと同じ。神殿の騎士科に入っている。……というか、お嬢様なら顔次第でお前の好みになりそうだから知ってそうなものなんだがな」

 

「好きな女がいる女の子には手を出さないと決めてるんだ」

 

「なんだその決まりは……」

 

「百合は本来男の入る余地がないものなんだよ」

 

 こいつは時たまよく分からない事を言う。この時に深く聞かないのがこいつとの仲を保つ秘訣だと思っている。

 

「フェンネルは、アルシーヴちゃんをかなり信仰していた。何か心当たりはあるか?」

 

「ない。ただ、授業態度は騎士科に珍しく大真面目だったと聞くぞ」

 

 

 騎士科の生徒たちは、言い方を考慮せずハッキリ言ってしまえば授業態度などあったものではなく、無法地帯の徒となっている。生徒の9割を男が占めており、表向き授業は受けてるが、常にバレない裏取引の方法やイジメ、セックスの話ばかりしている。

中には崇高な志を持つ騎士候補がいるのかもしれないが、不良共の行いが多く、目に余りすぎているものだから、騎士科全体の印象ダウンに繋がっている。

 

「真面目……ね。あの騎士科で?

 さぞかし浮いたことでしょうな」

 

「ああ。その影響かは知らんが、別科の生徒と一緒にいることが多いらしいな。それがあのアルシーヴか」

 

「みたいだな。となると、アイツらがやりそうな事は……私刑(リンチ)かな?」

 

「可能性は高い。不真面目な連中の中にいる真面目な人間。それだけで奴らにとっては目障りだろうな。」

 

 

 しかも騎士科卒業後の就職先である衛兵・騎士・近衛兵なんかは男社会。女性が出世するのはかなり苦労するだろう。

 

 

「それじゃあ、騎士科の男をひとりとっ捕まえて情報を吐き出させるとしますか……!」

 

「出来るだけ穏便にな。お前の武器、未知な上に攻撃力高いから、無闇に使うなよ?」

 

 

 分かった、と答え部屋を出ようとするローリエの表情は、いつもの腑抜けたものとはうって変わって、研ぎたての刃物のような、鋭い面持ちとなった。

いつもそういうツラ構えなら、モテるのにな。

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を出てから少しして、食堂についた俺達は、騎士科の男の集まりを見つけた。

 ほぼ自然な流れで隅に位置取り腰をかけ、耳をすませると、男たちの笑い声の混じった会話が漏れてくる。

 

 

「今日の授業後、裏庭だな。」

 

「俺が決闘を申し込んで戦う。少ししたらお前ら出てきて袋にしろ。」

 

「あの生意気女、二度と俺らに逆らえなくしてやるぜ…!!」

 

「バカ、声がでけーよ!」

 

「構いやしねぇよ、誰が聞かれてもあの女にチクるもんか!」

 

 

 こいつらには、警戒心というものがないのだろうか。食堂で笑いながら話してたら誰かに聞かれるかもしれないのに。

 罠の可能性もあったが、下卑た笑い声と話の内容から、あり得ないと結論づけた。

 

 

「行くぞ。」

 

「ああ。」

 

 

ローリエのその声で席を立ち、部屋へ戻る。

 

その際に気になったことを聞いてみた。

 

 

「なぁローリエ」

 

「なんだ?」

 

「お前、何でフェンネル(彼女)を助けようとする?」

 

 

 俺の質問にローリエは部屋前で立ち止まり、振り向いてこう答えた。

 

 

「美人がピンチなら、助けるのが男だからだ。」

 

 

 何ともローリエらしい答えに笑みがこぼれた。そのまま俺達は、戦いの準備を進めていく……




キャラクター紹介&解説

ローリエ
成長し、かなり女好きになった魔法工学生。イメージCVは○田○和。
彼にはちゃんとモデルがおり、メインのモデルに他のキャラの要素を混ぜ込んだ感じになっているのだが、そのモデルとも差別化を図る予定。


アルシーヴ
CV.沢○○ゆきの可愛い女の子。
原作でクールな彼女が「エッチ!」なんて言わないと思うかもしれないが、不意打ちだったし仕方ない。ボイスについては、某泥棒アニメの女盗賊を参照のこと。


ソラ
CV.ゆ○なの可愛い女の子。
今回は語り部として登場するに留まる。『バキ』的な語り部ではない。
オリジナル設定として、盗賊に拉致されたトラウマで男が苦手という設定を盛り込んだ。まぁきららファンタジアに男がほとんど出てこないので原作ソラがどうなっているかは確かめようもないが。


ハッカ
CV.茅○実○の可愛い女の子。
アルシーヴの取り巻き的な存在になっており、ローリエにとっては過ちの象徴と化してしまっているが、作者は一番好きな子なのだ。しかしヒロインにできるかと言われたら不明。


フェンネル
CV.五○嵐○美の可愛い女の子。苗字の元ネタは、香草フェンネルの和名「茴香(ウイキョウ)」から取った。
アルシーヴにのめり込んでいる彼女だが、相当な理由がなければこうはならないと考えている。詳細は次の話にて。


コリアンダー
本作オリジナルキャラにして、ローリエの男友達。イメージCVは○村○一。
オリキャラは、原作キャラと比べて性格描写や環境を掘り下げる手間がかかるので大変だが、空気にならないように頑張りたい。


騎士科の生徒の授業態度
大体偏見だが、一応元ネタがあって、フランス革命期の革命軍と王国軍のモチベーションの話から。
市民を中心とした革命軍は、家族を守るという使命感が強かったので勇敢に戦ったが、王国軍は、金で雇った傭兵が中心だったため、士気が低かったという話がある(うろ覚え)。
まぁ、兵隊に限ったことではないが、人のモチベーションが落ちると汚職や不正行為に走るのは世の常ではないだろうか。



△▼△▼△▼
ローリエ「真面目すぎて周りが見えない系女子フェンネルに、騎士の男の魔の手が迫る! ここは全年齢対象だからくっころは封印だ。俺が一肌脱いで、助けるとしましょうか!」

次回、『近衛兵フェンネルの神と悪魔』

コリアンダー「必ず、チェックして欲しい。」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
やっとこの話を書けたと思ったら、執筆中の小説って所から投稿したためか、前書きとあとがきが全部消えてて萎えた。次から気をつけよう。


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第5話:近衛兵フェンネルの神と悪魔

バレンタインデー前日までに投稿間に合わなかったマン


“私の人生は二つに分けられる。
それは、アルシーヴ様に出会う前と出会った後だ。”
  …八賢者 フェンネル・ウィンキョウ
   賢者就任演説より


 小さな頃に見ていた、父や兄の姿が憧れだった。

 

 神殿の近衛兵や衛兵として働く家族を真似して、騎士ごっこをして遊びまわったのも、その憧れから来る自然なものだった。

 

 

 

 だが、最初の方こそにこやかに見守っていた父も兄も、成長していくにつれ、剣の道へ進もうとする私にあまり笑いかけなくなっていた。

 

 気付いた頃には、「ウィンキョウ家の娘として、偉い所の嫁へ行け」と言ってくるようになった。

 

 当然私はそれに反発した。

 

 繰り返すようだが、私は、誰かを守るために剣を振っている二人に憧れたのだ。誰かの元へ嫁ぐといった、そういう方向の『女の幸せ』には興味なかった。

 私の幸せとは、仕えるべき主に仕え、その主を守ることにある。そう信じていた。今もそうだ。

 

 そう親に宣言した次の日、私にとって衝撃的な宣告を下された。

 

 

“お前の縁談を纏めておいた。いい加減、現実を見ろ。”

 

 

 父からの言葉に私は目の前が真っ暗になった。いくら親とはいえ、望まぬ結婚を無理矢理させるとは思えなかった。そんな中での一方的なこの宣告(縁談)は、裏切りに等しかった。

 

 無力な子供だった私は、家を飛び出し、ひたすら走り続けた。

 

 

 家、地位のしがらみ、婚約という名の呪い……そして、あんなに好きだった剣の鍛錬からも、逃げ出したかったのだろう。

 

 

 

 その時だった。

 

 

『どうしたんだ、そこの君?

 ……何故、泣いているんだ?』

 

『……あなたは?』

 

『私は―――』

 

 

 私の神に出会ったのは。

 

 それは、桃色の髪を後ろでまとめ、魔術師を目指していると思われる服を着ており、吸い込まれそうな緋色の目をした、私と同い年くらいの、少女だった。

 

 私から事情を聞いた彼女は、黙って私の手を引いて、私の家まで行くと、

 

 

『ウィンキョウ家の当主よ、フェンネルの未来を賭けて私と戦え!』

 

 

 高らかにそう言い放った。

 

 明らかに無茶で、無謀で、傍若無人な行為。私はそれを止めようとした。父も、子供の戯れ言と取り合わなかった。しかし、彼女は『子供に負けるのが怖いか』などと挑発を続け、一対一で闘う流れとなった。

 

 はっきり言って、最初は彼女が勝てると思っていなかった。私ですら、当時は未だに父に勝ったことがなかったのだから。

 

 だが、私は信じられないものを見た。

 

 

 年齢も背丈も私と同じくらいの彼女が、あらゆる魔法、見たことのない魔術を使って、父を翻弄していたのだ。まるで……そう、猫が死にかけの鼠を転がして遊んでいるかのように。

 その光景を見ていた私の心は今でも覚えている。

初めて見た時から美しいなと思っていたが、彼女の秘めたる強さに、私は間違いなく惹かれていた。

 やがて決闘に勝った彼女は、私の元へ来てこう言った。

 

 

『これは私の我が儘から始まったものだ。だが、賭けには勝った。お前は未来を自分で切り開けるようになったのだ。

 

 さて、どうしたい?どの道を行っても、私としては悪くないと思うのだが……』

 

 

 その様子は、今まで父を翻弄していたのが嘘であるかのような、垢抜けた少女のそれだった。あの時の彼女も、可愛らしいものだった。

 

 どうしたい、と聞いてきたが、私の心は決まっていた。

 

 

 

 

『あなたに、永遠(とわ)なる忠誠を誓います―――――アルシーヴ様』

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の闘う姿を見たときから感じていた、支配者……いや、英雄としての才能。

 私はそれを、側で支えたいと本気で思った。

 

 

 恋愛物語にありがちな「運命」という言葉を、私はこの日から信じることにした。

 

 なるべくしてなる、主と従者。

 

 私はこの人に仕えるために、今まで剣を振っていたのだ。この主に仕え、主をお守りすることこそ、我が誇りであり、幸せだ。

 

 

 これが、私と私を救ってくれた神(アルシーヴ)様との出会い。

 ただし、この3年後、私の機嫌はどん底に落ちることとなる。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「うん、この前よりも大きくなってる。将来は国宝級の隠れ巨乳になるな……5、6年後に口説かせてあべしっ!!?」

 

「ローリエのエッチ!

 いきなり何をするんだ!」

 

 

 その会話は、礼拝堂の外で剣を振る私に突然聞こえてきた。

 

 話の内容からして、男がアルシーヴ様に淫らな行いをしたとわかる。

 

 到底許せるものではない。

 

 すぐさま礼拝堂に入り、アルシーヴ様の近くにいる男に向かって走ったままレイピアを構える。

 

 

 

 

 

 

「アルシーヴ様に手を出したのは貴様かアアァァァ!!!!」

 

 

 怒りの突進は件の男が飛び退くことで失敗に終わったが、奴とアルシーヴ様の間に私が入れた。

 

 

 

「あっぶな!?何今の!!?

当たり屋にしては殺意高過ぎない!?」

 

「とぼけても無駄よ……アルシーヴ様の悲鳴を聞き逃すほど、このフェンネル、未熟ではないわ!

 私と勝負しなさい。そして、私が勝てば、もう二度とアルシーヴ様に近寄らないと誓え!」

 

 

 アルシーヴ様に手を出したであろう、ぼさぼさな緑髪の男に決闘を叩きつける。これは、近衛兵を目指すもののプライドである。アルシーヴ様に仕える人間たるもの、礼節は守らなくてはならない。例え、相手が目の前の男でも。

 

 だが、そのプライドは、

 

 

「嫌だよ」

 

 

 たった一言で壊された。

 

 

「貴様!何故勝負を受けないんです!馬鹿にしてるのですか!」 

 

「馬鹿にするもなにも、いきなり決闘とか無理に決まってるだろう?それに……」

 

「私が、女だから!決闘を受けないと言うのか!!」

 

「違う。戦う意味がないからだ。」

 

 

 戦う意味がないと言いつつ、バカにされてる気がする。目がなんというか、かつての父や兄に似ている。私を女として見ている目だ。変な意味はありませんよ。

 

 だが、似ているだけだ。同じではない。まるで、私を見定めているかのような目をしていた。それが、冷静さを失っていた私を更に苛つかせた。周りが何か言っているが、この際どうでも良い。

 

 

「フェンネル。気持ちはわからんでもないが、怒りで決闘を申し込むな」

 

「申し訳ございません……」

 

 

 だが、怒りに任せた私が何か言う前にアルシーヴ様が仲裁に入った。この緑髪の男とは何か縁があるらしい。私は、すぐに武器を収めた。

 

 

「そして……ローリエ」

 

「ん?俺?」

 

「お、女の子の……その、む、胸は……乙女の宝物なんだ。だから……あまり何度も触るな……」

 

「「ふぁっ」」

 

 

 アルシーヴ様の普段は見せない乙女のテンションと言葉に肺の奥から変な声が出る。その声は、礼拝堂に見事にハモって響いた。

 

 いや、問題はそこじゃない。

 

 

「可愛い……」

 

「何度も…だと……?」

 

 

 「何度も」と言ったということは、アルシーヴ様を可愛いと言ったこの男は、何度もアルシーヴ様に対して暴挙を働いていた事に他ならない。アルシーヴ様の可愛さに萌えるだけなら構わないが、何度も前科があるとなったら話は別だ。

 

 

 「貴様……やはりアルシーヴ様のために斬った方が良さそうだな……!!」

 

「待て、ウェイト。それはダメだぜ?止めた方が良いと思うなー?さっきのアルシーヴちゃんの言葉覚えてる?感情に任せて決闘すんなって……」

 

「問答無用ッ!!!」

 

「うわあああああッ!!?」

 

 

 これ以上アルシーヴ様が汚されないためにレイピアで斬りかかったのはいいが。

 

 

 アイツの逃げ足には遅れをとった。

 

 これが、私と私の悪魔(ローリエ)との最初の出会いである。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 その日、私は騎士科の教室の隅でイライラしていた。

 

 私は現在、神殿にて兵隊のいろはを学んでいる訳だが、騎士科の連中の民度というか、授業態度というか、そういったものが低すぎたのだ。本当に衛兵になる気があるのか、と一人一人問い詰めたくなるほどに。

 

 だがまぁ、それはいつものことだ。

 

 

 

 それより、あの男だ。

 

 アルシーヴ様がローリエと呼んだあの男、アルシーヴ様の胸を揉んでいたそうではないか……それも一度や二度ではない。そうなってくると、アイツはアルシーヴ様に日常的にセクハラをしている確率が高い。

 

 私にとっての希望をやすやすと踏みにじる男に、殺意さえ湧いた。

 

 

 その時だった。

 

 

 

「なぁウィンキョウ、この後ヒマか?」

 

 

 

 不良のリーダー格の男に声をかけられた。こいつは、いつも授業態度について私に注意されている奴だ。

 

 

「……何の用だ?」

 

「俺と決闘しろよ。……連れがこの前世話になったみたいだからな。」

 

 

 下卑た声と舐めまわすような視線、馬鹿にしたような言い方で決闘を誘ってくる。

 

 この前犯罪に走りかけたコイツの手下を成敗したお礼をしに来たとのことだ。

 

 だが不良たるコイツの事だ、まともな決闘などやる訳がない。

 

 

「いいだろう。場所は?」

 

「裏庭だ。ついてこい。」

 

 

 だが、私は乗ってやることにした。むしゃくしゃしていたから、八つ当たりしたかったのかもしれない。だが、それよりも、いい加減こいつらの不真面目な言動を叩き直そうと思っていた所だ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「構えろ。」

 

「………。」

 

 

 不良のリーダー格は、裏庭に着くなり、私に向き直り、気持ち悪い笑みをしたまま剣を抜いた。私も自分の得物を抜く。

 

 

「来い!」

 

「……ッ!!」

 

 

 私はそいつの言葉を聞き終える前に、レイピアを突き出して突進した。目の前の男は、剣を正面に構え私の一撃を受け止める。

 

 だが、私はそこで終わるほど甘くはない。

 

 

 

 次々とレイピアを振り、突き、男のガードが及ばない所を攻撃していく。奴は、私のスピードについて来れていない。まともに授業を受けていれば、こうはならなかっただろうに。

 

 

「………っらあ!!」

 

「ふっ!」

 

 

 男が乱暴に剣を振ると同時に、私は距離をとる。

 

 

「うおおおおおお!!」

 

「……!!」

 

 

 男が雄叫びをあげて私に斬りかかると同時に、茂みから男が数人、飛び出してきた。

 

 ……やはりこれくらいしてくるかと思っていたが、いざやられてみると、逃げ場がなくなり少し焦った。

 

だが、所詮は有象無象。数に頼ることこそ、こいつらを雑魚たらしめる証明。一人ずつ突破すれば、活路はある。

 

 

「はっ!」

 

「ゲッ!?」

 

「…邪魔!」

 

「…ッ、くらいやがれ!」

 

「きゃっ!!?」

 

 

 だが、最初の一人に斬りかかり、剣を弾き飛ばした瞬間、顔になにかを浴びせられた。

 

 やられた、と確信した。

 

 全身から力が抜け、手からレイピアが滑り落ちる。ついに立てなくなり、膝が、肩が、背中が地面についていった。

 

 

「……ったく、焦ったぜ、この女……」

 

「貴様……なにを………!」

 

「囲むだけじゃ不安だったからな。即効性の麻酔液を全員に持たせたんだよ。

 

 ……さて、いつも舐めた態度とってくれやがった礼をしてやらねーとなぁ…!!」

 

 

 私の正面で剣を受けていた男がそう言うと、他の男たちにまで気持ち悪い笑みや不快な視線が伝染し、動けない私ににじりよってくる。

 

 

「なぁ、誰からヤる?」

 

「俺からだ!」

 

「いや俺だ!」

 

「馬鹿言うな。正面立ってこの女と闘ってたのは俺だぞ?」

 

 

 お前がやったのは闘いじゃない。そう言いたかったが、口や舌まで麻痺してきた。どうやら、さっきの液体が口に入ってしまったようだ。

 

 男たちのうちの一人の手が、私の鎧に伸びてくる。

 

 ……私の脳裏に、最悪の展開が浮かんだ。

 

 

「や……め…………たす‥……………!!」

 

 

 

 助けて、アルシーヴ様―――

 

 

 

 

 

 

 

 そう思った時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バアァァァン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 耳を(つんざ)く爆発音と。

 

 

 

「ぎゃああああああ!?目がああああああああ!!!」

 

 

 

 下劣な男の悲鳴と。

 

 

 

「戦い方も女の子の抱き方もなってないぜ。落第点代わりに鉛玉でも欲しいか?」

 

 

 

 忘れるはずのない、憎たらしい声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 準備を終え、裏庭に駆けつけた時、フェンネルが襲われそうになっていた。

 

 

 女騎士の同人誌での「くっ、殺せ!」は一時期「くっころ」と略されて愛されたが、現実(リアル)でそれは許すわけにはいかないので、とりあえず一番近くにいた男に一発ぶち込んどいた。もちろん非殺傷のぷにぷに(いし)弾だ。

 

 

「ぎゃああああああ!?目がああああああああ!!!」

 

 

 まぁ、非殺傷性とはいえ、当たれば超痛いし、今、目にあたったがその場合、余裕で失明する可能性もある。

 

 

「戦い方も女の子の抱き方もなってないぜ。落第点代わりに鉛玉でも欲しいか?」

 

 

 ついでに決め台詞もカッコ良く。騎士科崩れ共が戸惑っている隙に、もう一人の助っ人の走る足音が近づいてくる。

 

 

「フェンネル!無事か!?」

 

 

 アルシーヴだ。彼女に、コリアンダーと集めた情報を教えると、こちらが頼むよりも先に協力を申し出てくれた。

 

 彼女の騎士科の男どもを睨む目は味方なのに恐ろしいと思うほどだ。

 

 

「さて、てめーら、武器と隠し持ってる瓶を置いてとっとと失せな。こっちに向かってきた奴から撃つぜ」

 

「ただで済むと思うなよ、貴様等……」

 

 

 

 俺とアルシーヴは、奴らにそう警告する。

 

 フェンネルが動けていないということは奴らに何かされたということだ。フェンネルの傍らに転がってる瓶の中身こそその正体だろう。

 

 

 

「ど、どいつもこいつもなめやがって!お前ら!やっちまえ!!」

 

 

 リーダー格らしき男がそう吠えると、他の男達が俺達に向かってくる。

 

 

 だが、そいつらが近づく前に行動不能にしていく。俺は『パイソン』で一人ずつ狙い撃ちにする。敵は被弾した部分を抑え丸まっていく。そこをグーパンチで意識を刈り取った。アルシーヴも魔法で一人も漏らさず吹き飛ばす。

 

 俺は、あの事件から、銃の腕は地道に上げていた。その結果、動く敵の体になら大胆当てられるようになった。距離によっては狙い撃ちすら可能だ。

 

 

 

 

 

 やがて、リーダー格の男以外の奴らを戦闘不能にした俺とアルシーヴは、それぞれの武器(マグナムと杖)をそいつに突きつける。

 

 

 

 

 

「さぁ、あとはお前だけだな。」

 

「この事は上層部に報告させてもらう。観念しろ。」

 

 

「あ…あぁ………か、か、

 勘弁してくれぇぇぇーーーーーーッ!!!」

 

 

 仲間が蹂躙されていく様を見たからか、そいつは情けない声を出して泣きながら逃げていった。ああいう手合いは、自分が有利ならとことん調子に乗るが、不利になった途端弱気になるものだ。

 

 

 

「まぁ逃げてもコリアンダーが撮った証拠があるからもう駄目だろうけどな」

 

「手回し完璧だな……」

 

 

 

「……アルシーヴ、様……」

 

 

 

 弱々しい声と、ゆっくり起き上がる音で俺達二人は振り返る。

 

 

 

「大丈夫か、フェンネル?」

 

 

 

「はい……貴女のおかげです……」

 

 

 

 フェンネルを抱き上げるアルシーヴは、まるでヒロインを救った主人公で、フェンネルの表情も、アルシーヴの腕の中が、世界で最も安心できる場所であるかを語るかのように穏やかになっている。

 

 そうして二人を見ていると、フェンネルの視線が俺に移る。表情も、心なしか厳しくなった。

 

 

 

「あなたに、助けは頼んでいません……!」

 

「フェンネル!!」

 

 

 

 フェンネルの言葉にアルシーヴは声を張り上げるが、俺は気にしてはいない。

 

 フェンネルのプライドのために、俺は気になることを一つ聞いてからさっさと去ることにした。

 

 

 

 

 

「そうだな。俺は勝手に巻き込まれに行っただけだ。

 

 ……あ、そうだ。ここには、決闘の申し込みを受けたから来たんだろ?」

 

「……?そう、ですが」

 

 

 

 

 やはりそうだ。

 

 フェンネルは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。果たしてそんな勇気のある人がどれだけいるだろう。

 

 俺の思った通りの人で良かった。

 

 

 

 

 

「フェンネル・ウィンキョウ。

 ……君は、俺が知った中で最高の騎士だ。」

 

 

 

 

 

 そうはっきりと伝えて、俺は裏庭から離れた。それで、今日のドタバタは終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……のはずだったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ローリエ?」

 

 

 

「!!!

 ………ソラちゃん……!」

 

 

 

 

 

 思わぬ人物に出会ったことで、まだ終わりじゃないことが判明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、3年ぶりに会ったあの日も、本当に偶然だったんです。後から聞いた事なんですが、フェンネルの事件のタイミングが一日ずれていたら、ローリエと会うこともなかったでしょう。」

 

 

 女神ソラは、盗賊事件後のローリエについて、こう語っている。

 

 

「その時のローリエは、フェンネルを襲っていた騎士科の生徒たちと戦った後で疲れてたのか知らないけど、不穏な空気を纏っていたんです。

 

 その違和感の正体は分からなかったんですけど、確実に彼が変わったという確信は得られました。」

 

 

 

『久しぶりだね、ローリエ……

 あの日から、私に…』

 

『ッ!

 ソラちゃん、悪い!俺、急いでるから……』

 

 

 

「初め、彼は逃げようとしたんです。

 

 ――まぁ、今になって思えば、男の人が苦手な私を彼なりに気遣った結果なんでしょうけども……

 

 その時の私には逃げてるように見えて……だって、私を見るなり『急いでる』なんて言うんですもの…他にやりようはあったと思いますよね?」

 

 

『待って!ローリエ!!』

 

『………。』

 

『どうして、そんな事言うの……?』

 

『いやぁ、本当に急いでて……』

 

『ウソ。私を見るまで、「やっと仕事が終わった」みたいな顔してたくせに』

 

『……まともに会ってないのに、何でそんなん分かるんだよ…』

 

『女神たるもの観察力が必要だからね♪』

 

 

 

「彼が冗談を言ってる時も、私の冗談を聞いてる時も、何というか、笑ってはいるんですけど、心の底から笑ってなかったんです。

 

 どうにかしなきゃと思っている内に、自然と言葉が出てきたんです。」

 

 

『ねぇローリエ。

 私、怖いよ……』

 

『怖い?』

 

『うん。小さい頃は、私とアルシーヴとローリエで、沢山遊んだじゃない。今のままじゃ、三人ともバラバラになりそうで……』

 

『………そっか。また、怖がらせちゃったか』

 

『また?』

 

『初めて盗賊を撃った(殺した)時さ。あれ以降、俺は一応、ソラちゃんを気にかけてるつもりなんだぜ?』

 

『ウソだよ!私に話しかけてくれないくせに…』

 

『俺に話しかけようとするとき、全身が委縮するんだよ、君は。』

 

『!!』

 

 

 

 ソラは、この時自身のトラウマに気づいたという。ローリエが話しかけようとしなかったのは、ソラが『男と上手く話せない』ことを気遣った結果なのだと。

 

 

「その後、彼は『守ってあげられなくてごめんね』って言って部屋の方へ去っていったんです。

 

 ……はい。私もあの時言えば良かったんです。そうすれば、あんな怖い思いをせずにすんだのだから。

 

 ―――当時の私には伝えられませんでした。

 『独りにしてごめんね、助けてくれてありがとう』って。」

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
ハードボイルドさを出した(気がする)主人公。
今回はフェンネルメインの回だったので登場は控えめ。


フェンネル
アルシーヴ大好きウーマン。
その原点は、目指したい騎士の道が閉ざされようとした時、アルシーヴがその道を切り開いてくれた事、そこで仕えるべき主がアルシーヴだ、と思った事である。
というのがここでの設定よ。後に公式設定が出ませんように……
ローリエとは馬が会いません。だってアルシーヴとの接し方が真逆(アレ)だからね。


アルシーヴ
モテモテウーマン。フェンネルが危機的状況に陥っているとローリエから聞かれた時、本気で助けに行きます。こういう気遣いこそが、上司の鑑であり、フェンネルに慕われる理由なんじゃないかなと。


ソラ
今回も語り部として登場。前回とほぼ同じなので、語ることはあまりないが、彼女のお礼が言えなかったことが、ローリエにどんな影響をもたらすのか、それは誰にも分からない。


△▼△▼△▼
アルシーヴ「無事にフェンネルに向けられた悪意を打ち破った私達。次は休息回を挟んだ後で、あの飄々としていて、掴み所のない、でも変態な私の友人にフォーカスしてヤツの日常を見ていこう。」

次回『ローリエの華麗なる日常』
フェンネル「見なくてもいいですよ」
ローリエ「おいコラ!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
バレンタインデーまでに間に合わせたかった理由は、特別編を書きたかったから。明日全力出せば間に合うかな…?

ろーりえ「はぁーあ、今日はリゼちゃんとバレンタインチョコと誕生日プレゼントを交換っこしたいマンだよ僕ぅ!」
こりあん「お前は何を言ってるんだ」


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第Ex話:エトワリアのバレンタインver.ローリエ

今回の話は、バレンタインデーのために急遽作った閑話みたいなものです。時系列は、フェンネルの事件の直後あたり。本編とは別に、楽しんでいただければと。
それでは~


 バレンタインデー。

 

 その起源は、ローマ帝国の時代まで遡る。

 ローマ帝国皇帝・クラウディウス2世は、恋人がいると士気が下がるという理由で、兵士の婚姻を禁止した。

 だが、キリスト教司祭ウォレンティヌスは、そんな兵士たちの為に内緒で結婚式を行った。皇帝の禁止命令にも屈せず、兵士達の愛を祝い続けた結果、処刑されてしまう。

 その聖ウォレンティヌスの処刑日は、2月14日であった。このためこの日は祝日となり、恋人達の日になった、というのが一般論だ。

 

 

 

「――という訳だ。今までの話のどこにチョコレートが出てきた?いいか、コリアンダー。バレンタインデーは本来、チョコレートなんか要らねーんだよ!」

 

「一個しかチョコレートを貰えなかった男の僻みはよせ、ローリエ」

 

「あれは母さんからのだ。あのね、そういうのは異性から貰ったチョコとしてカウントしないの。一個も貰えてないの、俺は。

 というか、コリアンダー(おまえ)こそバレンタインチョコレートとは無縁だろうがよ?」

 

「俺は同級生の女子からいくつか貰ってる」

 

「泣きそう」

 

「余裕だな、お前」

 

 

 神殿内で恋人どもがくっつきイチャつき始めるこの時期に、俺は必死にコリアンダーにバレンタインデーの意義を説明していた。別にチョコレートを貰えなかったから悔しい訳ではない。

 リゼちゃんの誕生日を祝うのは百歩譲らなくてもよしとしよう。だが、チョコレート云々で騒ぐのは違うと思うのだ。

 

 

「まったく、リア充はとっとと部屋に引っ込んで静かにけだものフレンズやってればいいのに。

 そもそも、最初にバレンタインデーにチョコレート渡そうなんて考えたのはどこのお菓子屋だ?どーせ、ココアいじりながらガラスパイプでコカイン吸ってる変なヤツだろ?」

 

「いい加減にしないか、ローリエ」

 

「だってぇ!!おかしいと思わないか!?俺は女の子達とお近づきになりまくってるってのに!!」

 

「お前はただセクハラしてるだけだろ。そういうスタイル、絶対嫌われるぞ」

 

「そうかなぁ?

 コリアンダーみたいな草食系の男はさ、多分……女の子達から『彼は…そう、いい人よね?』みたいな、女の子がテキトーに男を褒める時の言葉ランキング1位の言葉を浴びせられて………それだけだぜ?きっと、日を跨げば忘れられちまう。

 そうなるよりは、『ガンガンいこうぜ』の方がいいと思うな。」

 

「お前はガンガンいきすぎてんだよ。そんなんだと、籍に入る前に牢屋に入るハメになるぞ?」

 

 

 コリアンダーの裏切りといきすぎ宣言を受け萎えた俺は、鬱屈した気分を晴らす為に、外をふらつく事にした。

 

 

「ちょっと外歩いてくる」

 

「女子に迷惑かけるなよ」

 

「今日はそんな気分じゃない……」

 

 

 今日の俺の足取りは、きっと一年で一番重いだろう。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「はぁ……困ったもんだ、あの男も」

 

 ローリエが立ち去り、部屋に残った俺は、ため息をひとつつく。

 

 アイツの女好きについてはもう言うことはないが、特にアルシーヴやソラという女性に対する執念じみたものを感じる。本人(ローリエ)に訊いたら「幼なじみだからだ」と言っていたが。

 

 アイツは、二人が好きなのだろうか?

それにしては、アプローチの方向性が違いすぎる気がするのだが。

 

 

「ローリエ、いるか?」

 

 

 そう考えていると、扉の方から女性の声が聞こえてきた。俺は女子の相手は話しづらいから好きじゃないのだが、ここには俺しかいないから仕方がない。

 

 

「……何か、用か?」

 

「おや、君は…確か、コリアンダーだったか。

 ローリエはいないか?」

 

 

 相手はこの前に会ったばかりの、アルシーヴという女子だった。ローリエの幼なじみの一人らしい。

 

 

「……アイツは、自分がチョコレートを貰えないことを散々愚痴ってから、出て行った……」

 

「何やってるんだ……」

 

「用があるなら、伝言するが……」

 

「いや、いい。こっちで探してみよう。見つからなかったら、また来る。」

 

「そうか。」

 

 

 アルシーヴは、扉を閉めた。

 それにしても、伝言する、か。我ながら無粋なことを言ったもんだ。

 

 伝言がいるかどうかなんて、手に隠し持っていたチョコ(モノ)を見れば分かることだろう。

 

 ローリエ。お前は案外、嫌われてないのかもな。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 私は、神殿の外を虱潰(しらみつぶ)しに探した。

 

 神殿の外にとどまらず、言の葉の樹の中の洞窟に入り、街へ下る道を歩きながらきょろきょろと探していく。

 

 そして、言の葉の街から神殿へ繋がる入口まで来た時、その姿を見つけた。

 

 

 

 

 

 

「ローリエ!」

 

 

 私がその名前を呼ぶと、緑髪の少年はゆっくりとこちらへ向いた。その表情は、驚きの感情に満ちている。

 私自身も、これからチョコレートを渡す事実を受け、緊張してきた。顔もさっき走ったせいか熱い気がする。さっさと渡してしまおう。

 

 

「なぁ……今日は何の日か、わかるか…?」

 

「今日?えっと……」

 

 

 変なことを聞いてしまった。でも、今日が何の日かなんて、答えは一つしかないはずだ。だから……

 

 

「あっ、分かった!リゼちゃんの誕生日だ!!」

 

「誰だその女は」

 

「え、ちょ、そんな顔すんな!ごちうさ……じゃない、聖典の子だよ、聖典の子!!」

 

 

 確かにバレンタインデーと誕生日が同じ聖典の人物ならいたかも知れないが、空気くらい読んで欲しい。それとも、意図的に読んでないつもりか?

 

 

「そんな事を伝えに来たんじゃない。他にもあるだろ?」

 

「他にも……ああ、アレだ!

 ふんどしの日たわば!!?」

 

 

 張り倒してやろうかと思った。というか張り倒した。

 

 

「もういい!そんなにとぼけるなら渡してやらん!!」

 

 

 そしてちょっと、冷たい言葉を叩きつけてしまう。

 いや、今のはコイツが悪い。こっちの気も知らないで、ふざけたことばかり言うからだ。

 そう考えてこのまま帰ってしまおうかと思った時。

 

 

「待てよ」

 

 

 手を掴まれた。私の足が止まる。

 

 

「……バレンタインデーだろ?知ってるよ。

 …ただ、アルシーヴちゃんが俺にくれるとは思ってなかったんだ。だって俺は……変わったからな…」

 

 

 その言い訳をしそうな表情に頭に来た。

 

 

「どんな事があっても、ローリエはローリエだろう!!これでも食べて落ち着け、バカ者!!」

 

 

 久しぶりに出した大声とともに、私はローリエにチョコレートが入った箱を押し付ける。

 これにはローリエも目を丸める。だがそれも一瞬で、すぐにかつて見た、人をからかう時に見せた笑顔になる。

 

 

「へぇ~ぇ、アルシーヴちゃん、そんな顔もするんだ?」

 

 

 その言葉を機に、私の頭が冷静さを取り戻す。

 

 

「み、見るなぁっ!!!」

 

「タコス!!?」

 

 

 ニヤニヤしていたローリエにビンタをかまし、逃げるようにその場を後にした。

 あの時ローリエが私のどんな表情を目にしたのか。

 それは神殿に戻った後で鏡を見ても、分かりそうにはないだろう。

 

 

 




キャラクター紹介&解説


ローリエ
バレンタインデーを否定しつつ、実はチョコレートが欲しかっただけの男。いるよね、こういう人。かくいう作者もこういう一面はあります。


コリアンダー
女が苦手な男。こういう人に限って、女子に丁寧な対応をするから、学生時代にクラスメート全員にチョコレート配る系女子に救われてたりする。


アルシーヴ
今年ヒロイン的ポジションを獲得した女性。幼なじみの異性とか、憧れのシチュエーションであると思う。純愛系EL同人では王道だ。ちなみに作者もそういう幼なじみがいて、もっと関係を進めたかったと後悔している。



バレンタインデーの起源
出展はWikipedia先生より引用。


『最初にバレンタインデーにチョコレート渡そうなんて考えたのはどこのお菓子屋だ?』
日本でバレンタインデーが流行したのは1958年ごろ。第二次世界大戦ののち、流通業界や製菓業界の努力によって、1970年代後半に日本社会に定着する。
なお、バレンタインデーにチョコレートを渡すのがいいのではと最初に考案して実践したのは、一説に大田区の製菓会社メリーチョコレートカムパニーであるとされる。しかし、同社が行ったとされるイベントは昭和33年であるのに対し、神戸のモロゾフ製菓が20年以上前の昭和11年2月12日に外国人向け英字新聞『ザ・ジャパン・アドバタイザー』に、「あなたの愛しい方(バレンタイン)にチョコレートを贈りましょう」というコピーの広告を既に掲載しており、モロゾフ製菓がバレンタインチョコを最初に考案した仕掛け人であるとされる説が最有力である。
ちなみに後に続く『どーせココアいじりながら~変な奴だろ?』の元ネタは、映画『デッドプール2』にて、デッドプールが『スーパーパワーを最初に考えた漫画家』に対して『どーせガラスパイプでコカイン吸ってる変な奴だろ?』と言ったことから。いずれにせよ、作者に貶す意図はございませんのでそこはご注意を。


あとがき
リゼちゃん誕生日おめでとう!!きらファンで絶対当てるマンことこの三毛猫が☆5ココアとチノに続いて迎えに行ってあげるからね!!!!!!


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第6話:ローリエの華麗なる日常

“俺が女の子達を愛するのには理由がある。下世話な欲望だけじゃなく、ちゃんとした理由があったのさ。
まぁ、こんなこと書いても誰も信じないだろうが、自伝にくらいこういう事書いてもいいだろ?”
   …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
    第1章より抜粋


「じぃぃぃぃっ………」

 

「………。」

 

「じぃぃぃぃぃぃぃっ………」

 

「………。」

 

「じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ………。」

 

「なあ、こんなの見てて楽しいのか?」

 

「うん、面白いよ。」

 

 

 俺は今、とある女子にストーキング……もとい、観察されている。エイジアンな格好をした、赤い髪の褐色系女子。名前をカルダモンという。

 ……そう、あのカルダモンだ。好奇心の塊にして、キャンプが趣味のアウトドア女子。そして、きららファンタジアでは第3章に登場した、賢者の一人である。

 

 彼女には、少し前にナイフを作る依頼をこなしてからというもの、興味を持たれたようだ。

 

 

「今度は何作ってるの?トランプゲームの台?」

 

「違うよ。別のゲームに使うものだ。」

 

「そっか。この前のゲーム、面白かったんだけどね」

 

「どれのことだ?ブラックジャック?ポーカー?それともスピード?」

 

「全部。どれも聞いたことないルールだったけど、楽しかったよ。ルール本は書かないの?」

 

「いいや。他にやることがあるから、まだ書かん」

 

「えー……」

 

 

 俺は制作物から目をそらさず、手を動かしながら勝手にベッドを占領しているであろう、カルダモンとそんな会話をしていた。コリアンダーは依頼の品が出来上がったとかで席を外している。

 飄々としており、掴み所がなく、それでもって持ち前の冷静さで学園生活部やきらら達を翻弄したが、本質は退屈嫌いな色んなものに興味を持てる()なのだ。そんな彼女を従えるアルシーヴは流石の一言に尽きる。多分俺のは発明品に対する興味が6割だろう。

 

 

 そんなことを考えている間に完成した。

 

「出来たぜカルダモン!見よ!

 テッテレ~!将棋盤~!!」

 

「なにそれ?」

 

 カルダモンは俺のモノマネをスルーして、身を乗り出してこっちを見てくる。現在マフラーをしていないため、首もとから奥がよく見える。

 ………フム、アルシーヴほどではないが女性の魅力は胸だけに非ず。カルダモンの場合は太ももがしなやかでかなり美味し……失礼、魅力的だ。(この間、0.2秒)

 

 

「駒を並べて、お互いに一つずつ動かして王を取る遊び。その、ゲームボードだ!」

 

「駒は?」

 

「もう作ってある!」

 

「よし、やろう!」

 

 

 カルダモンはベッドから飛び降りて、俺とともに出来たばかりの将棋盤に駒を並べ始める。俺の駒の並べ方を見て、真似するように並べていく。あ、飛車と角の場所が違うぞ。鏡合わせじゃないんだ。

 カルダモンが駒を正しく並べたのを確認して、さぁ、始めるか、と、そう思った時だ。

 

 

「ねぇローリエ」

 

「ん?」

 

「この、『飛車』とか『角行』とかってなに?」

 

「えっ?」

 

「あと、この……『銀将』とか、『金将』もよく分からないな……教えてくれないかな?」

 

 

 なんてこった。まさかのそこからか。

 

 カルダモンの話によると、「歩兵」や「王将」というのは雰囲気で何となく分かるらしいが、それ以外は聞いたことのない言葉らしく、誰も分からないだろうとのことだった。

 駒を分かりやすく作り直すということにして、対局はまたの機会に、ということになってしまった。

 

 

「悪いな。折角、楽しみにしてくれてたのに」

 

「いいよ。ローリエとなら、退屈しそうにないし。」

 

 

 カルダモンのその言葉に、自己史上初のスピードで手を取る。腰に手を添えて、顔を近づける。

 

 

「奇遇だな、俺もそう思っていたんだ。

 どうかな?今夜あたり、俺と一緒に、飽きない夜を…………ッ!!!?」

 

「そういう方面の『楽しいこと』は遠慮するよ」

 

 

 ……あ、ありのまま起こったことを話すぜ!

 

『カルダモンを口説いていたと思ったら、急にカルダモンが消えて、後ろから声が聞こえてきた上にナイフを突きつけられた』

 

 な、なにを言っているかわからねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった……

 

 頭がどうにかなりそうだった……

 

 瞬間移動とか超スピードとかそんなチャチな……いや、超スピードだけどチャチなもんじゃねぇ

 もっと恐ろしい3章のトラウマの片鱗を味わったぜ……

 

 

「両手を上に上げて、そのままベッドに座って」

 

 

 カルダモンの言うことに従いながら、すぐさまマジの考察に思考を切り替える。

 内容はもちろん賢者の実力についてだ。

 さっきはポルナレフ状態でボケたが、カルダモンの俺の背後に回るまでの動きは本当に何も見えなかった。

 俺の『ソラちゃんに呪いをかける奴を捕まえる』という目標を達成するには、賢者にならないといけない。

 それに必要なのは、実力だ。発明の腕だけで選ばれるとは思っていない。一応、拳銃の練習はしているが、それだけでは些か不安である。

 

 確かに拳銃は強力だ。そもそもエトワリアにそういう武器がないので、一目見ただけで何が起こるか見抜ける人は皆無だろう。まさか金属の弾が音速で飛んでくるとは誰も思うまい。その時点で、拳銃はある種の『初見殺し』となっている。

 でも、それを攻略されてしまったらただのカカシ、では少し頼りなさすぎる。せめて武器がなくても戦えるようになりたい。それがこの前、フェンネルをリンチしようとした奴らを返り討ちにした感想だ。そのためにも、拳で戦う師匠みたいなのが欲しい。

 

 

「………ローリエ?」

 

 

 そこまで考えた所で、カルダモンの声が俺を思考の海から引き上げる。彼女はもう入り口のドアにいる。

 

「…!

 ああ、悪いカルダモン、考え事してた。」

 

「えっちなこと?」

 

「違うわ、強くなる方法だよ。なんでそう思ったの?」

 

「だって、さっき私の服の中覗いてたでしょ?

 バレてないと思った?」

 

 

 やばい。カルダモンにそう言うことがバレると、ほぼ確実に誰かに言いふらすので口止めしないと、と思った瞬間に「また来るよ、じゃーねー」と言い残して部屋から去った。追いかけようとしたが、部屋から出た時点で見失ってしまった。あいつ足早すぎだろ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 その後、俺はカルダモンから報告を受けるであろう、フェンネルから(あらかじ)め逃げる事も兼ねて神殿の外れ、森の奥に作った、射撃場にて射撃の練習を行っていた。

 

 今回の練習はピンホールショットと跳弾である。某シティーハンターやイタリアのギャングがバンバンやっているが、実はこの二つ、かなり難しい。なぜかというと、拳銃というのは、連続で発砲すると、銃身に熱がこもり、弾丸が変化し、軌道が毎回微妙に変化するのだ。その微妙な変化が、着弾時に大きな着弾地点の変化に繋がるからである。俺も1年ほど前から練習しているのだが、一度も成功したことがない。

 

 

 今日も基礎練習を終え、そんな高難易度の技術の練習を始めようとした時、誰かの気配を感じて、すぐさま『パイソン』を懐のホルスターにしまった。

 拳銃というものが広めてはいけないものと知っている以上、練習風景も誰かに見られるのもマズい。森を切り開いて作った射撃場は見られても誤魔化せるが、練習風景を見られるのだけは避けなくては。

 

 そう思い周りを注意深く見回すと、木々の間から、それは見えた。

 シャツとホットパンツの上から学ランのような上着を羽織っている少女が、シャドーボクシングをしていた。俺には、その人物の正体が一目見ただけで分かった。

 ジンジャー。未来の賢者のうちの一人にして、言の葉の樹の(ふもと)にある都市の市長でもある人物だ。剛胆で豪快、街の平和と市民の幸せを第一に考えられる、政治家の鑑のような人でもある。きららファンタジア(ゲーム)では、第5章に登場し、比類なき物理攻撃力できらら達と戦う。俺も初見で必殺技を食らった時は、パーティが半壊するさまを見せつけられて度肝を抜かれた。

 

 そんな物理特化の賢者(予定)の演武を俺は木の陰から見させてもらうことにした。

 なんというか、一つ一つの動きが洗練されている。しかも、それが流れるように連続で繰り出されており、これが達人の技かと納得できた。そんな感じでジンジャーの演武に見入っていると、演武がひと段落ついたところで彼女は近くの岩に置いてあったタオルを手に取り汗を拭きながらこっちを見ている。

 ……あれ。見てたのバレてる?

 

 

「おい、そこのお前。私になにか用か?」

 

 あっ、これ見つかってるわ。茂みから出てきて挨拶するとしよう。

 

 

「悪い悪い。たまたま見つけて見入ってたわ。

 はじめまして、俺はローリエだ。」

 

「ジンジャーだ。それで、こんなところで何をしてたんだ?」

 

 

 来た。この質問は、いつか誰かに聞かれると思っていた。

 考えてみて欲しい。もし、学校の同級生が、毎日のように裏山や、ビルの路地裏などの、人目につかないところに日常的に入っていっているのを見たら。もし、人目につかないところから、同じ学校のヤツが出てきたら。お前、何してたんだ?ってなるだろう。それと同じだ。

 

 だから答え(カモフラージュ)を既に用意してある。俺は、ポケットから手のひらサイズの機械をジンジャーに見せた。

 

 

「これの試運転をしていたんだ。」

 

「なんだこれは?」

 

「センサーだよ。」

 

 

 ジンジャーには、カメラにつけることで、人が通ると自動的にシャッターが押される仕組みであると伝えた。彼女は機械の詳しい説明を聞くのは苦痛だろうと思ってひとことで説明を終えて、あとは実演した。

 こんな感じで、俺は射撃場に行くときは、いつも持ち運べる発明品を持ち歩くようにじている。何してるのと聞いたヤツにはそれを取り出して試運転だと言えば大体信用してくれる。これが俺が用意した答え(カモフラージュ)である。

 

 更に俺は、原作(みらい)のため、もう一つの作戦を実行する。

 名付けて、『ジンジャーを師匠につける大作戦』だ。

 

 

「でも、こういう発明だけじゃなくて、体も鍛えないと、と思ってるんだけど、やり方がわからなくって……あ、そうだ!ジンジャー、色々教えてくれないか?」

 

「ああ、いいぜ。私でよければな!」

 

 

 よし、成功だ!ジンジャーは拳での戦闘に最も明るいはずだから、OKを貰えて良かった。前世で見た通りの、面倒見の良い性格だから、悩んでいる人の力になろうと思うはず。そう思ってジンジャーの市民に好かれる理由である性格を少々利用させてもらった。許せ。

 

 

「……その代わり、私の半径1メートル以内に近づくなよ?」

 

 あれ?

 

「…? な、なあジンジャー、それってどういう……」

 

「分かっているはずだろう?カルダモンから聞いたぞ。

 私でよこしまな事を考えたら承知しないからな」

 

「しないよ!絶対しない!猫っぽいから面白い事はするかもしれないけど、変な事は絶対しないから!」

 

「おい!お前今なんつった!?」

 

 

 ここで作戦が失敗したら、俺の目標が遠のく。だから折れるわけにはいかない。拝み倒してお願いしまくってでもこの作戦は成功させたかったので良かったと内心安堵している。

 

 

 修行の内容?あまりにもキツ過ぎて、ここに書くとその時の辛い記憶がよみがえるから勘弁してほしい。ただ、一つだけ言えることは、室内で発明と魔法ばっかりやってたヤツが、武闘派の本気についてこれるはずがなかった、ということだ。後に俺向きに改良されるワケだけれども。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「今日も筋肉痛か、ローリエ。本当にお前は、世話のないヤツだ。どうせ、また色香に誘われたんだろ?」

 

「そんな訳ねーだろ!ただ強さが欲しかっただけだ!…イデデ……」

 

 

 ジンジャーから修行を受けた翌日。

 修行開始から数日は経ったが、案の定というべきか、情けないことにというべきか、俺は全身の筋肉痛に苦しめられていた。しかも、コリアンダーの奴、ジンジャーが可愛いから修行を受けたと思っていやがる。親友を信用できないのかコイツは。

 

 え、信用してるからそう思ったんだって?いらないよそんな嫌な信頼は。

 

 ジンジャーに師事してもらったのには明確な理由があるんだよ。

 そもそもジンジャーは、可愛さのベクトルが違う。アルシーヴやソラ、カルダモンやセサミのような「抱きたい」要素のある可愛さと違って、ジンジャーの可愛さは、人が飼い猫に向ける感情のような、そんな可愛さだ。というかまんまソレだった。

 現に、休憩中に猫じゃらしを見つけて目の前で揺らしたり、帽子にマタタビを振りかけたり、差し入れのおにぎりの具をササミやマグロっぽい赤身魚にしたり、ネズミ型木製魔道具を視界の端でチョロチョロさせたりと、そういう猫系のイタズラは大方やった。その結果、ワッハッハと笑いながら腹パンされたり、追い掛け回されたり、修行がハードになったりした。マタタビの時は理性が吹っ飛びそうだったとのことで、「マジでふざけんな」とガチトーンで怒られた。

 

 

「そんなんで大丈夫なのか、このあと図書館にいくんだろ?」

 

「ああ、残念なことにな」

 

 

 賢者のなり方はここに来て分かったことなのだが、功績を挙げるだけではダメみたいで、筆頭神官が交代する時、前任者と新任者、そして女神の三人で決めることなのだそうだ。

 ……お察しだろう。ちょっとマズいのだ。アルシーヴに認められなければならないのだ。今、俺はアルシーヴからの好感度は低めなので、ここいらで画期的かつ斬新な発明をしなければいけない。そのためのヒント探しに今日は、図書館へ行く予定だった。

 

 でも筋肉痛がヤバイ。

 

 

「だぁぁが!筋肉痛程度で、断念してたまるかってんだ!ふんぬぬぬぬぬ……!」

 

「無理すんなよー」

 

 

 コリアンダーのどうでもよさげな心配の声を背に、俺は移動(戦い)を始めた。

 

 

 

 

 

 

「やっと着いたぜ……!痛ッで!?」

 

 普通なら5分程度の図書館への道を20分かけて移動した俺は、扉から入ってすぐのカウンターに寄りかかる。道中の階段が一番キツかった。エレベーターかエスカレーターが恋しくなったほどに。早く椅子を見つけないと色々ヤバい。

 

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 

 

 椅子を探している俺に、カウンターから声がかかった。声がした方へ振り向くと、声の主は青い髪をして、端正な顔にモノクルをかけた女性だった。()()()()()()()()()()女性で名前は知っているが初対面の(てい)で言葉を返すことにする。

 

 

「俺は大丈夫…ただの筋肉痛だから……イデデ……き、君は?」

 

「私はこの図書館の司書をしているセサミというものですが……大丈夫そうに見えないんですけど…足が生まれたばかりの小鹿以上に震えているんですけど…」

 

「君は優しいんだな……じゃああそこの椅子まで肩を貸してくれないか?」

 

 

 図書館の椅子の一つを指さしてそう頼むと、分かりました、といって快く肩を貸してくれるセサミ。でかい。今の服装もゲーム同様あぶない水着の上からローブを羽織った格好である。でかい。しかし、本当に優しいものだ。前世なら、こうやって見知らぬ人に肩を貸す人など稀だろう。でかい。できるだけ彼女のことは見ないように前を向いたり、目を閉じたりするが、やっぱりチラ見してしまう。でかい。しかも近い。

 はっきり言おう。筋肉痛に耐えて図書館(ココ)に来て良かった。

 

 

「おいローリエ、何をしている?」

 

 

 そんなラブコメ主人公並みのイベント中に聞きなれた声がした。見ると目的地の椅子の近くに本の山に埋もれかけているアルシーヴがいた。入口付近からはちょうどアルシーヴの座っていた場所が見えない死角になっていたようだ。シット!

 

 

「あ、アルシーヴちゃん…!?」

 

「アルシーヴ先輩、この人を知ってるんですか?ローリエってあの“恐怖のセクハラ男”の……!?」

 

 

 ローリエと聞いた途端、セサミの様子がおかしくなった。これはもしやアレか、悪評だけ知ってるパターンか。あとその新宿あたりで聞きそうな不穏なあだ名は何だ。

 

 

「早くそいつから離れたほうがいいぞ、セサミ。お前相手ならこいつは確実に手を出す!」

 

「アルシーヴ、余計なこと言わんでいいから!!」

 

「は、離れてください!もう一人で十分椅子まで歩けるでしょう?」

 

「ば、バカ!筋肉痛なのは本当なんだって!うわわ!!?」

 

「「きゃああああ!!?」」

 

 

 どんがらがっしゃーん、とセサミが急に離れたことと筋肉痛で足がもつれた俺はいろんなものを巻き込んですッ転んだ。

 

 

 

 

 

 

 筋肉痛プラス激痛で意識が無理やり戻された俺は自分は転んだんだ、と自覚する。今の俺には本が体に落ちてきたってだけで大ダメージだ。とはいえいつまでも倒れてる訳にもいかないから立ち上がろうとして、気付く。

 両手に伝わるこの柔らかい感覚はなんだろう、と。

 神殿の床はまずない。膨らみはないし、何より温かい。

 じゃあそれらしき置物はあっただろうか? ……いや、なかった。周りにあったのは、山ほど積まれた本くらいしかなかった。あとはアルシーヴとセサミがいて……

 そこで思考に待ったがかかった。

 

 ウソだろ?そんな伝説の(スーパー)ラッキースケベ男みたいなT〇l〇veる(事故)、あるのか?試しに指を動かしてみる。俺のピンクがかった脳細胞が考えついた可能性を確かめるために。

 

 

「んんっ!?」

「あっ……!?」

 

 

 ……結果、二種類の艶やかな声が返ってきた。あ、コレは確定だわ。

 顔をあげて両手をみると、右手にアルシーヴの、左手にセサミの、それぞれの胸を鷲掴みにしていた。

 何がどうしてこうなった?転んでからこうなるまでを思い出そうとしても、なぜか思い出せない。謎のスタンド能力(キング・クリムゾン)でも受けてたかのようだ。おまけに手が胸から離れない。筋肉痛か、はたまた別のスタンド能力か……

 どちらにせよ、俺にはこの黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)を無駄にすることはできない。むしろこういう時は、離れないと考えるから駄目なんだろう。

 

 

「そうだ、逆に考えるんだ……離さなくても…揉んでもいいさと……」

 

 

 

「駄目。論外。」

 

 

 自分に言い聞かせるように口に出した言葉に後ろから答えが返ってきたことに驚いた俺は、振り向く瞬間に頭から重いものが叩きつけられ、図書館の床に再び倒れる。筋肉痛でボロボロの体にトドメを刺された。

 なにが起こったのか分からず、叩きつけられたものを見てみると、それは、いつかコリアンダーが製作していた、金属の樽のようなものによく似ていた。そこから柄が生えていることでようやくそれが大きなハンマーだと分かる。その柄を目で追っていくと、柄の端を握っていたのは、和風メイド服を着た、ハッカちゃんであった。

 

 

「は、ハッカちゃん……なんでこんなものを……」

 

「依頼した。コリアンダーの力作。」

 

 

 似てるどころか同一の品だった。つまりコリアンダーは、ハッカの依頼でハンマー(コレ)を作っていたのか。どんな意図があったか知らんが、コリアンダーめ、許さん。後でとびっきりの美女たちに囲まれた場所で、一人置き去りにしてくれる。

 

 

 そんなことを頭の中で思いながら、この後ソラちゃんを含めた4人からみっちり説教されまくった。

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説


ローリエ
カルダモンをナンパしたり、ジンジャーに猫系イタズラのオンパレードをかましたり、セサミのでかいモノをゲットしたり、ポルナレフになったりジョースター卿になったりしたセクハラ男。前書きの苗字の由来は、月桂樹(ローリエ)のドイツ名、『ロールベールブレッター』より。ラッキースケベを体験したことにより、結城〇トのことを笑えなくなった。

カルダモン
ローリエのスケベ被害者その1。でも彼の発明する物やゲームが見たことも聞いたこともないため、興味を持っている。
きらら世界のトランプって大体ババ抜きや大富豪くらいしかないと思う。理由としては、女神の書く「聖典」には、きららっ娘たちがババ抜きをするシーンがあっても、ギャンブル染みたトランプゲームをするシーンがないと(独断で)思ったからだ。そういうシーン、ないよね?あったらスミマセン。

ジンジャー
ローリエの被害者。セクハラはされなかったが猫扱いされていた。
彼女自身が豹人族とストーリーで明言していたことから、ヒントを得た。豹もトラもライオンもみんな猫科だから、猫じゃらしには弱いはず。

セサミ
ローリエのスケベ被害者その2。あぶない水着を常に装備しているのは、彼女が暑く、海の近い国の出身だからではないだろうか、と考察してみるが、彼女の種族については明言されていない。

アルシーヴ
ローリエのスケベ被害者その3。図書館にいたらセサミとローリエにバッタリ遭遇し、運の悪いことにそのままおっぱい揉まれちゃった人。少しづつ情報を小出ししていくシステムを公式が採り始めたので、作者は致命的な矛盾が出ないかとビクビクしている。

ハッカ
ローリエのスケベ制裁要員。ハンマーでローリエを成敗するシーンのモデルは、言わずとしれた冴羽リョウと槇村香のやりとりから。でも、これからはローリエのスケベに対して制裁する方法はバリエーション豊かにしていく予定。

コリアンダー
ちょこっと登場。ハッカが使ったハンマーを製作し、ローリエからしょーもない逆恨みを買った。美女の中に取り残されるのは、ローリエにとってはご褒美だがコリアンダーにとっては地獄の宴。彼には強く生きてもらおう。

ピンホールショット
一度空けた弾痕の穴にもう一度弾丸を通すように撃つこと。現実ではかなり高難易度の技である。これを行う『某シティーハンターとイタリアのギャング』についてだが、前者は『シティーハンター』を、後者は『ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風』を参照。アニメのギアッチョ戦は燃えた。

伝説の(スーパー)ラッキースケベ男
転ぶたび女の子の色んなところ(意味深)に突っ込むことに定評のある『Toloveる』の主人公・結城リトのことである。なぜああなるかは作者も疑問であるが、あの展開を思いつける原作者様は偉大である(色んな意味で)。



△▼△▼△▼
ローリエ「さぁ待ちに待った筆頭神官交代の儀が始まるぜ!」
ジンジャー「大丈夫なのか? 賢者は演説するらしいぜ?」
ローリエ「問題ない。原稿はアルシーヴちゃんに渡した。あの名演説で人々を煽動してやろうじゃんか!」
ジンジャー「いや、煽動しちゃダメだろ!?」

次回、『賢者昇格、女神誕生(前編)』
ローリエ「見逃すなよ!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
 実は投稿直前に書いてたデータが全部消えて萎えました。まじで泣きそうだった。
あと、諸事情により、投稿ペースが今年一杯は落ちると思われるので、早めに読者の皆様にお伝えします。


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第7話:賢者昇格、女神誕生 その①

 とうとうアプリに外伝が追加されましたね。
 アルシーヴ本人が、ソラちゃんを襲った賊について語っていましたが、ここではっきりさせてしまいましょう。

「きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者」の設定は、()8()()()()()()()()()()()を再現いたします。その関係上、アプリとは違う話の流れを組むことになりますので、ご了承ください。



 筆頭神官交代の儀。

 それは、文字通り筆頭神官が交代する儀式なのだが、しかし、これが何を意味するのかをまずは知って頂きたい。

 

 エトワリアにおける筆頭神官とは、神殿内の執政を通して、エトワリア全体の方向性を指示する役職だ。はっきり言って政治を担当するといってもいい。前世でいうところの内閣総理大臣にあたる。とは言っても、どこかの国みたいに数年ごとにポンポン変わるようなものではなく、条件が非常に厳しく、滅多に後継者を見つけられないものらしいのだ。歴代の筆頭神官の中にも、後継が見つけられず、死ぬ間際まで仕事を成し遂げた者もいるほどだ。

 

 つまり、筆頭神官交代の儀が執り行われるということは、稀有な才能を持った魔術師が、筆頭神官になるという志を持ち、神殿で研鑽を積み、然るべき過程を経て役職を継承する権利を勝ち取ったということだと思って頂いて構わない。

 

 そんな筆頭神官交代の儀がこれから始まろうとしている時、俺はアルシーヴの緊張を少しでもほぐせたらと彼女の控え室に入ったのだが。

 

 

「わざわざ来てもらって悪いな、ローリエ。」

 

「……。」

 

「こんにちは、ローリエさん。」

 

「こんにちわー!」

 

 

 そこにいたのはアルシーヴちゃんとハッカちゃん、そしてシュガーとソルトだった。

 

 まさか、賢者の残り二人とここで会うことになるとは。名前と容姿は知っていたが、こんな儀式の日にいきなり会ったとなると心の準備ができてないのに。だから俺は……

 

 

「……その双子はどっちの子だ?」

 

「なっ……!?」

 

「!!?」

 

 

 特大の冗談をかますことにした。ただ、その後に「結婚したのか……俺以外のヤツと」と続けるつもりだったのだが、分かりやすく頬を染め動揺したアルシーヴちゃんと目を見開いたハッカちゃんのリアクションのおかげで逆に緊張してすぐに口に出せなくなった。

 

 

「な……ぁ……っ!?」

 

「結婚したのか……俺以外の奴トブァ!!?」

 

「ローリエ、戯言(じょうだん)がきつい。」

 

 

 やっとのことで口に出せるようになったと思ったら視界が鋼鉄に覆われ、顔面に衝撃が走る。床にぶっ倒れて、ハッカちゃんの持つハンマーを見て初めてまたコリアンダーの製作物で殴られたのかと悟った。しかも、今回のハンマーには俺がお遊びで書き足した『100t』という表記が見られた。何だか少し情けなくなった。

 

 

「シュガーたちはアルシーヴ様の子どもじゃないよー!」

 

「そうです。私達には他に両親がちゃんといます。」

 

「じゃあ試しにアルシーヴちゃんのことママって呼んでみて」

 

「試しにって何ですか」

 

「これこれローリエ君、女の子をからかうものではありませんよ」

 

 

 寝転がったままシュガーとソルトの姉妹とアルシーヴちゃんを弄っていると、入ってきた扉の方から年老いた声が聞こえてきた。すぐさま立ち上がりその正体を見る。

 

 

 それは白髪を後ろで纏め、穏やかな雰囲気を纏った、皺だらけの老婆であった。腹に透き通るような紅宝石(ルビー)を抱え、翼を広げた鳥があしらわれた杖で体を支えながら、よろよろと入ってくる。俺は思わず老婆が通りやすいように部屋の隅へ移動し、ハッカちゃんに椅子を持ってくるように指示した。

 

 

「まったく、ローリエ君は変わりませんねえ……アルシーヴちゃん、筆頭神官の格好、似合ってるわよ」

 

「ありがとうございます。デトリアさんこそお元気そうで何よりです。」

 

「元…気……?俺には明日にもしん"っ」

 

「口は災いの元」

 

 

 アルシーヴちゃんがデトリアさんと呼んだこの老婆は、本日の筆頭神官交代の儀を執り行う筆頭神官である。つまり、今日の儀式で筆頭神官の地位はデトリアからアルシーヴへと受け継がれることになる。

 そんなアルシーヴちゃんと力を入れれば折れてしまいそうなデトリアとの会話に疑問を感じてると、ハッカちゃんから口を手で塞がれた。

 

 それにしても筆頭神官姿のアルシーヴちゃんはよく似合っている。きららファンタジアで見たままだ。

 

 

「……まぁ、確かにアルシーヴちゃんよく似合ってるよ。『女子三年会わざれば刮目して見よ』とはよく言ったもんだ」

 

「それ『男子三日会わざれば刮目して見よ』ですよ」

 

 

 独り言にソルトが突っ込んできた。アルシーヴちゃんとデトリアさんとの話が中々長引きそうなので、ちょうどいいと思い双子に色々聞くことにした。

 

 

「そういや、君は俺のことを知ってたみたいだけど……?」

 

「先ほど、アルシーヴ様から聞きました。友人なんだと……」

 

 

 驚いた。アルシーヴちゃんは、まだ俺のことを「友人」と言ってくれているのか。俺個人としては、ソラちゃんが誘拐されたあの事件以降、アルシーヴちゃんとソラちゃんを「友人」と呼んでいいものか微妙な所だった。もしあの夜に、勇気を出していれば、或いは胸を張って頼れる友人と言えてたかもな。

 

 

「それで、君たちは……」

 

「あぁ、申し遅れました、私はソルトと言います。こちらは妹のシュガーです。」

 

「シュガーだよ!よろしくね、ローリエお兄ちゃん!」

 

「シュガー、初対面の人にそういう話し方は……」

 

「いや、いい。しかしお兄ちゃんか、嬉しいな。よろしくねシュガーちゃん!」

 

「うん!!」

 

 

 ソルトに余計なことを悟られないように変えた話題だったが、シュガーが人懐っこく乗ってきてくれたお陰で難しいことがどうでもよくなってくる。この後は筆頭神官交代の儀だ、俺はそこで俺のやることをやればいい。

 

 

「そうだローリエ、忘れる前にこれを渡しておくよ。」

 

 

 シュガーとわちゃわちゃしていると、アルシーヴちゃんが俺を呼び手のひらサイズに折りたたまれた紙を渡してきた。それを受け取り開いてみると、そこにはお堅い文章がつらつらと書かれていた。

 

 

()()()賢者就任演説の原稿、あまりに酷いからこちらで勝手に決めさせて貰った。本番はそれを読めよ。」

 

 

 実は俺は数日前、アルシーヴちゃんから直々に呼び出され、賢者就任を言い渡された。エトワリアに生まれたときからの目標を達成できた俺は、三日三晩喜んだものだ。

 

 だが賢者就任にあたり、就任演説を行うということになり、その内容を考えて、次期筆頭神官(アルシーヴ)に見せてチェックする必要があったのだ。演説内容自体はすぐに書けたんだが……

 ……どうやら、(平和的にアレンジしたとはいえ)少佐の演説はお気に召さなかったらしい。

 

 

 そんな訳で内容を勝手に決められてしまったのだが……

『神殿の桜も咲き誇り、春の訪れを感じるこの頃、筆頭神官交代という節目に新たな賢者として――云々』。

 なにこの演説。前世でよくあった学校の卒業の言葉と何が違うんだ。本番で絶対この紙に書いてないこと言ってやる。

 

 

「そんな嫌そうな目をしても駄目だからな。」

 

 

 アルシーヴの壊滅的な演説センスに絶望しながら心の中で反逆を誓っていると、この形式的すぎる演説原稿を書いたであろう張本人は心の底を見抜くように俺に釘を差した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 そんな束の間の時間が終わり。

 

 筆頭神官交代の儀が始まった。場所は、神殿の中心部にして一番広い場所・大広間である。奥へ進むと階段の先に、儀式用の祭壇があり、その両サイドにある小さな螺旋階段は、演説用のステージとなっている。

 

 

 まず、先代筆頭神官のデトリアが祭壇に立ち色々と話す。長々と年長者の話を聞くこの構図は、前世に始業式か何かで校長の話を聞いていた時の感覚によく似ている。話に耳を傾けながら、終わる時を今か今かとゆっくり進む時計を見ながら待っていたものだ。

 つまり、何が言いたいのかというと、筆頭神官の話はまったく聞いてなかったということだ。

 

 長い話がやっと終わり、アルシーヴが現れ、デトリアから杖を受け取る。アルシーヴが今まで使っていた杖とは違い、三日月と十字架がデザインされている、あの杖だ。まさか、アルシーヴ個人の杖ではなく、筆頭神官の杖だったとは。

 

 

「続いて、賢者任命の儀に移ります。」

 

 

 賢者任命の儀とは、筆頭神官交代の儀の過程にある、筆頭神官交代の後に行われるものであり、ここで誰が賢者になるかが公開される。その際、演説も行われるのだが……俺の演説原稿は以下略。

 

 

「シュガー・ドリーマー」

 

「はい!!」

 

「ソルト・ドリーマー」

 

「はい」

 

 

 まず最初にシュガーがアルシーヴに呼ばれ、元気よく返事をしアルシーヴの元へ向かっていく。アルシーヴからネックレスっぽいものを渡され、首にかけた。続いて呼ばれたソルトも妹にならう。

 

 

「セサミ・ストラーナ」

 

「はい」

 

「カルダモン・ショーズ」

 

「はーい」

 

「ジンジャー・ヴェーラ」

 

「あいよ」

 

「フェンネル・ウィンキョウ」

 

「はいッ!」

 

「ハッカ・ペパーミン」

 

「はい」

 

 

 次々と賢者達の名前が呼ばれていき、アルシーヴからネックレスっぽいものを受け取っていく。そうして残るは俺だけになった。名前を呼ばれたら返事をする……のだが。

 

 

「ローリエ・ベルベット」

 

「はい!」

 

 

 ここでは問題なく返事をし、十字架と円が組み合わさったデザインのネックレスを受け取る。噛んでしまったらどうしようかと思っていたのでまずは一安心である。だが、問題はここからだ。

 ぶっちゃけるが、前世では仕事をソツなくこなし、きらら系漫画&アニメをこよなく愛する(もちろん、それ以外も好きだが)ただの普通の社会人だったのだ。

 目の前には、学校の体育館にも入りきるかどうか分からないほどの人の群れが、大広間を埋め尽くしている。そんな多くの人々の前でスピーチする機会など、卒業式で卒業の言葉を担当する元生徒会長でもない限りないだろう。俺も例に漏れず、未経験である。

 

 だが、現在手に握られているカンペ通りに賢者就任演説など行いたくない。理由はただ一つ。カッコ悪いからである。こんなロマン溢れる演説シーンにカンペは必要ない。今まで見てきたアニメの、どのキャラもカンペなんて使ってない。俺は、カンペを握った右手を、そのままポケットに突っ込んだ。

 

 

「以上、八名が新たな賢者となる。

 続いて、彼らによる賢者就任演説を行う。」

 

 

 さあ来たぞ、賢者就任演説。

 その単語を聞いただけで心臓が強く跳ねる。最初に指名されないように祈りながらマントの中で両手を握りしめた。

 

 

 最初に指名されたのはシュガーだった。あの超人懐っこいコミュ力の化身に、賢者就任演説なんてお固い真似ができるのだろうか。

 シュガーは演説をする場所なのであろうステージへ、螺旋階段を登っていく。そして、上へたどり着くと、

 

 

「けんじゃになったシュガーだよ!

アルシーヴ様といっしょにがんばるから、よろしくね!!」

 

 

 ――と言ってのけた。

 小学生か!!……いやまぁ、小学生に見えなくもないけれども………

 きらら漫画のキャラクターって小学生っぽい中高生(アリスやチノやかおす先生)学生に見える社会人(あおっちやねねっち)がいるから、見た目があまりアテにならない。

 確かにゲームで見た通りの性格から想像できた演説だし、シュガー自身が可愛いから許されてるのかもしれないが、もうちょっとこう、何とかならなかったのだろうか?

 

「大丈夫?」

 

 シュガーが演説台から降りてソルトが代わるようにそこに昇るところを見ていると、すぐ隣から小声が聞こえた。

 

「緊張してる?」

 

 声のした方へ顔を向けると、ハッカちゃんが相変わらずの無表情で俺の顔を覗き込んでいた。表情の変化が乏しいこともあって、何を考えているか分かりづらい。

 

「君は緊張してなさそうだな」

 

 俺自身緊張のせいでそれくらいしか言えず、乾いた笑いしか出てこなかった。それを聞いたハッカちゃんは、「緊張してるか」とすぐさま俺の緊張を見抜く。

 

「私も緊張していたが、お前のお陰で楽になった」

 

「どういう意味だ」

 

 俺の質問には答えず、ハッカちゃんは再び前を向いた。いつの間にか、ソルトの演説は終わっていた。

 

 

 そこから先は、他の賢者達の演説をこれ以上一言一句聞き逃さないように聞いていた。俺の演説の参考にするためである。

 

 セサミの演説は、言っていることは立派なのだが、真面目すぎる面が災いしたのか、形式的すぎる演説となっていた。もしかしたら、俺が儀式前に受け取ったカンペは、こいつが書いたんじゃなかろうか。

 

 カルダモンは、面倒くさがって「八賢者カルダモン、宜しく」とだけ言うとさっさと次にパスしてしまった。流石、やりたくないことはやりたくない好奇心の化身である。俺もこれくらい手短な演説にしたかったが、聴衆に同じ手は二度も通じないだろう。

 

 ジンジャーは賢者については触れず、街の政策について話していた。近いうちに言ノ葉の樹の都市の市長になるだけあって現実的な事を話している有望な人物だったが、俺の演説に使えそうな部分はない。

 

フェンネルの演説は、演説というよりアルシーヴちゃんの自慢話になっていた。しかも途中から「私の人生にはアルシーヴ様に会う前と後の二種類がある」だの「アルシーヴ様は神なのだ」だの意味不明なことを話しだして、アルシーヴ本人にやんわり止められていた。アイツの辞書に自重って言葉はねーのか。

 

 ハッカちゃんに至ってはぺこりと頭を下げ、手を振って聴衆に応えるのがメインみたいになっていた。おい、演説しろよ。

 

 

 ……最悪だ。ソルトの演説を聞き逃してしまったとはいえ、マトモな演説をしてたのはジンジャーだけではないか。おかげで、演説の「これくらいまでは話してもいい」といった基準がまったく分からん。これでは、完全なアドリブで演説するしかない。「頑張れ」というハッカちゃんの応援を背に重い足取りで演説台へ向かった。

 

 

 演説台から見下ろす聴衆は、俺と目があった途端、俺の言葉を待っているかのようにざわつきが静まったように感じた。こうなったらなるようになれだ。

 

 

「俺が、八賢者が(いち)、ローリエ・ベルベットでありゅっ」

 

 しょっぱなから盛大に噛んだ。悪いことはなぜこうも重なるのだろう。顔に熱がこもり、大広間中に沈黙でも爆笑でもない微妙な空気が蔓延する。超気まずい。とりあえず視界の端で笑いをこらえているフェンネルは後で黒光りするG(ゴキブリ)型魔道具の実験台になってもらおう。

 俺はこの気まずさを何とかするべく口を開く。

 

 

「この度の新たな筆頭神官と賢者達は、これまでよりも一段と強き者たちが集まったと思っている!」

 

 

 俺の言葉に、聴衆だけでなく、アルシーヴちゃんや賢者達からも驚きの視線が注がれる。アルシーヴちゃんからは「何故原稿通り読まない!」と睨まれてそうだが今は無視だ。

 

 

「人の心に溶け込める者、知略に優れた者、武勇に長けた者、魔法の才において常軌を逸する者………その強豪たちの中で、このローリエはただ、魔法工学分野において少々の実績があるだけである。」

 

 

 アタマの中が真っ白になり、周囲に押しつぶされそうになりつつも、俺は必死に言葉を紡ぐ。

 

 

「だが!俺は知っている。

 真の強さとは、魔法の才能にも、剣の腕にも、腕力にも、策略にも、新たな発明にもあらず。

 真の強さとは、心にあり。如何なる時も、正しき道を選択できる精神にあり。

 俺もまた、その真の強さを求める者の一人である。

 我々は、いわば暗闇の荒野に進むべき道を切り開く者たちの集まりだ!」

 

 

 静まり返った聴衆に、語りかけてるこの間も、俺は何も考えていない。いや、考える余裕がないというべきか。ただ、ピンチの時ほどふてぶてしく笑えば、どんな事態も打開できる。

 ばさっと右手でマントを翻し、これでもかというほどの大声で宣言する。

 

 

「覚悟はいいか?俺は出来てる!これからの筆頭神官と賢者達に、ついてくるがいい!!!」

 

 

 ……やりきった。少し偉そうかもしれないが、賢者なんだし、ちょっとくらい大丈夫でしょう?

 聴衆の反応は、時が止まったかのように静かだったが、俺が演説台から降り、螺旋階段を下りきったあたりで万雷の拍手という形で返ってきた。戻ってくる時、賢者達から色々言われていたが、俺自身はただ、スベらなくて良かったと安堵するだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ローリエこの野郎ッ!」

 

「わああっ!?なんでだよあるひーうひゃん(アルシーヴちゃん)!!?えんれつ(演説)は上手くいったからいい()ろ!?」

 

「いい訳ないだろ!」

 

 

 筆頭神官交代の儀が終わった後に待っていたものは、アルシーヴちゃんからの頬つねりであった。

 

 

「スベってたらどうするつもりだったんだ!?」

 

「いやだって、あの原稿クソつまらねーんだもん!アレ読んでたら確実にスベってたぜ?読んだ俺ですら2秒でダメだと気づいたわ!」

 

 

 俺がそう言ってのけると、セサミが目に見えて落ち込んだ。「クソ…つまらない……」とか言ってショックを受けている。

 

 

「お前!セサミになんてことを!」

 

「え、まさかアレ、マジでセサミが書いてたの!?内容が似てるとは思ってたけど……」

 

「……というか、ローリエもローリエだと思います。」

 

「ソルト?」

 

「ローリエの演説は、ほぼ勢いに任せたものでした。表情も余裕なさげでしたし……でも、まさか原稿を思い切り無視したノープランのアドリブだとは思いませんでしたが……」

 

 

 ソルトには俺の状況があまりにも馬鹿げていたことにため息を漏らす。だが考えてみてほしい。自分の渾身の作品が無碍にされた上に、勝手にスピーチ内容を決められたとしたら。それは、厳しすぎる校則に縛られた高校生と同じくらい、つまらないものではないだろうか。そう説明すると、ソルトもアルシーヴちゃんも納得半々、不満半々といった微妙な表情をして首を傾げた。

 

 

「アドリブだったのですか。なら、最初のアレも納得ですね。盛大にずっこけたアレ。」

 

「「ぶっ!?」」

 

 

 フェンネルが突然俺の最新の黒歴史を掘り出しやがった。後ろで吹き出したカルダモンとハッカちゃんは兎も角、俺のタブーに全力で踏み込んだコイツは許さん。

 

 

「まぁアレは……うん。仕方ないだろ。」

 

「日頃の行いです。」

 

「ところでフェンネル、ちょっと手ぇ出してくれ。」

 

「?」

 

 

 何も知らずに差し出された手のひらの上に邪悪の化身(G型魔道具)を置き、起動させると共に颯爽と部屋を立ち去る。

 

 

「いやああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「ふぇ、フェンネル!?」

 

「うわぁっ!?そ、そこにご、ゴ……!!」

 

「小さな悪魔……!」

 

「どうしたのアルシーヴ?……ってひゃああ!!?」

 

「ソラ!!!?」

 

 

 後ろで多種多様な悲鳴が聞こえると、イタズラが成功したことに笑いを漏らしながら迫り来るであろう女性陣から逃げ出し鬼ごっこと洒落込んだ。

 

 大成功だ。俺の最新作・G型魔道具は見た目的には会心の出来だったようだ。実はあの魔道具、ただのイタズラグッズではない。録画・録音機能がついており、情報収集に最適なのだ。基本的には隠密で行動し、見つかってもおぞましい見た目に相手が動揺している隙に逃げ出せる。機動力も申し分ない。

 とある海の狙撃手も、幽霊少女を撃破するのに黒光りする虫の玩具を使用していたほどだ。その時の幽霊も、その虫の玩具を本物だと思い込み、(トリモチで逃げられなかったこともあって)ひどく取り乱してしまったほどだ。

 それほどまでにあの魔道具が見た者に与える精神的ダメージは大きい。

 実に合理的な発明だと、笑いが止まらなかった。

 

 ……途中でアルシーヴちゃんやジンジャー、ソルトやハッカちゃんまで鬼に加わるとは思わず、逃走開始から5分で捕まってしまったが。

 この(イタズラ)について、必死でG型魔道具の有用性について弁解したのだが………

 

 

「心臓が止まるかと思った!!!」←ソラ

 

「あんなもの創っては駄目に決まってるでしょう!!!」←フェンネル

 

「ローリエさん、合理性を求めるあまり人として捨ててはいけないものを捨ててます……」←ソルト

 

「危険。」←ハッカ

 

「味方も混乱させてどうすんだ馬鹿!!」←ジンジャー

 

「……という訳でローリエ、今後あの…えっと……虫型の魔道具の使用を全面的に禁ずる。」←アルシーヴ

 

「ホーリーシット!!!!!!」←(ローリエ)

 

 

 ……遺憾なことに…誠に遺憾なことに、使用禁止令が出されてしまい、日の目を浴びることなく、俺の発明品倉庫行きとなったのであった……

 ……まぁそんなの関係なく使うがな。バレなきゃ命令違反(イカサマ)じゃあないんだぜ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 G型魔道具の件で新筆頭神官&賢者達にしこたま怒られた後、とぼとぼと自室に戻っていると、廊下でデトリアとすれ違った。相変わらずよぼよぼな見た目でフラフラと歩いており、見てるこっちが不安になるほどだ。

 

 

「ローリエ君、今日はお疲れ様。」

 

「ああ、デトリアさんこそ、お疲れ様です。」

 

「そうそう、ローリエ君にやって貰いたいことがあるの。聞いて貰える?」

 

「なんですか?」

 

「……魔法工学の、教師をやってくれるかしら?」

 

 

 一瞬。

 

 ほんの、一瞬だが。

 

 腰が曲がり、ぱっと見の身長が俺の半分程度しかないはずのこの老婆から、巨大なプレッシャーを感じた。まるで、自分の身長の数十倍ほどある巨人と相対した時のような、それくらいのプレッシャーだった。

 だが、それもすぐに幻のように消え失せ、目の前にはか弱い老婆がただにこにこしているだけである。

 

 俺には分からなかった。何故、今そんなプレッシャーを感じ取れたのか。何故、今()()()()()()()()()()。それも、元筆頭神官が現賢者に対して。

 

 前者はまあ、前世を含めた人生経験の成せる技とか気のせいとかの一言で無理矢理片付けられたとしても、後者がまったく分からない。本日付で交代したとはいえ、筆頭神官だったのだ。そんな人物からの頼み事なんて、まず断らない。プレッシャーなんぞかけなくても、引き受けるからだ。

 

 何を企んでいるか?何がしたいのか?それとも、これから起こることを知っているがために、変に疑ってしまっているだけなのだろうか?

 一度疑いだすと目の前で笑っている無害そうなおばあちゃんですら、腹に一物持っているように見えてくる。

 証拠なんてない。いくら考えてみても、答えは出そうになかった。

 

 だから俺は――

 

 

「分かりました。やってみましょう。」

 

 

 ――この老婆の警戒レベルを上げることにした。

 

 こう判断したのは、前世を含めた人間40年の勘に頼ったものである。これに助けられたと自覚するのは、もう少し先の話だ。

 

 




キャラクター紹介&解説


ローリエ・ベルベット
 今話でついに賢者となった男。演説を全てアドリブで乗り切り、フェンネル含めた女性陣をG型魔道具で混乱に陥れた。ローリエは前世は『きららファンタジアをやっていた、オタクの社会人』という設定ですが、彼自身の「きららファンタジア」の記憶は、リゼやポルカ、コルクが実装されたイベントで止まっています。つまり……?


アルシーヴ
 新たに筆頭神官に任命された少女。ローリエの賢者就任演説の原稿の出来に頭を抱え、セサミに代わりにローリエの原稿を書いて貰ったという裏設定がある。その結果は、本編にて書かれている。

ローリエ原稿
『諸君 私はエトワリアが好きだ
 諸君 私はエトワリアが好きだ
 諸君 私はエトワリアが大好きだ

 草原が好きだ
 都市が好きだ
 港町が好きだ
 砂漠が好きだ
 言ノ葉の樹が好きだ……
     (中略)
 よろしい ならば戦争(ク○ーク)
      (略)
 第一次エトワリア開発計画、状況を開始せよ
 さぁ諸君 楽園を創るぞ』
セサミ「まるで意味が分からない……」
アルシーヴ「どこから突っ込めばいいのだ……」


シュガー&ソルト
 きららファンタジアの賢者となった双子姉妹。シュガーとソルトの名前のモデルは確認する必要もなく砂糖と塩なのだが、この二つの調味料、驚くほど共通点が見つからない。そこで、とあるキーワードで検索した結果見つけたとあるグループのアルバム名を苗字のモデルとしました。


セサミ・ストラーナ
 ローリエの原稿を代筆したが、ローリエに秒で却下され、凹んだ所にG型魔道具の襲来という、良いところがなかった不憫枠。苗字の由来は『セサミストリート』から。


カルダモン・ショーズ
 自由人な賢者。彼女の性格からして、やりたくないことは嘘でもやりたくないと思う。しかも、賢者の就任演説なんて時間の無駄とも思っているだろう。苗字の由来は、香辛料カルダモンの和名『小荳蒄(ショウズク)』から。


ジンジャー・ヴェーラ
 豹人族のパワー賢者。この頃から市長としての手腕を発揮させた。彼女の凄いところは、すべて実行することにある。大抵の政治家は、公約を(さまざまな事情があるとはいえ)実行することは難しい。公務に真面目に取り組むことこそ、人心を長く掴む秘訣なのだろう。苗字の由来は生姜のサンスクリット語『cringa-vera』の後半部分から。


フェンネル・ウィンキョウ
 ローリエとは犬猿の仲の賢者。公式設定でも、自身の演説でアルシーヴについて熱く語る等本編くらいの事をやる可能性は十分にある。ローリエの演説に吹き出してしまったため、G型魔道具の第一被害者となってしまった。女の子いっぱいのエトワリアにおいて、Gはとても忌み嫌われており、見るだけで慌ててしまう。そこに録音・録画機能がついてても、Gを殺す事で頭が一杯になり、気づかないだろう。


ハッカ・ペパーミン
 作者のお気に入り賢者。着々とローリエのハンマーによる制裁要因になりつつある。『寡黙で古風な言い回しをする』のが公式設定である為、大○転裁○あたりで出てきそうな当て字を多用し、単語のみのセリフも使う所存。薄荷(ハッカ)が日本名であるため、苗字は英語の『ペパーミント(peppermint)』から取った。


きらら系漫画の登場人物の年齢
 全体的に、見た目と比例しない場合が多い。大人たちは大体間違われないのだが、学生たちは実年齢より幼く見られがち。代表格は『ごちうさ』のチノ、『きんモザ』のアリス、『スロウスタート』のかむちゃん、『ブレンド・S』の麻冬さん、『new game!』のあおっち 辺りだろうか。
 逆に、「実年齢よりお姉さんに見える」みたいな例外があったら情報提供求ム。


海の狙撃手と幽霊少女
 これの元ネタは、『○NE PIE○E』のスリラーバーク編のウ○ップとペ□ーナのことである。詳細は省くが、ゴキブリ(の玩具)を使用した結果、超嫌がっていたシーンがある。


G型魔道具
 人類の敵を模した、調査&隠密用魔道具。生物としての「薄暗い所を好む性質」を利用してこっそりと録画・録音を行い、見つかっても人間のGに対する恐怖・敵対意識を利用して撹乱を行い逃走できる優れた魔道具。攻撃される危険性もあるが、何より重要なのは、「監視されている」という感情・意識を別の感情で吹き飛ばすことにある。
余談だが、ローリエは後世での(正しい)活用のため、この魔道具の設計図はしっかり残している。だが、メインキャラの大多数を女性が占めているエトワリアでは、間違いなく『禁忌の発明品』の烙印を押されるだろう。






あとがき

ちょっとお話をまとめきれなかったので、前編と後編に分けます。というわけで、次回は『賢者昇格、女神誕生』の後編になります。お楽しみに~


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第8話:賢者昇格、女神誕生 その②

なかなかまとまらなかった、「賢者昇格、女神誕生」の後編となります。

今回は思いっきりギャグに振りきってみた。後悔はしていない。


 筆頭神官交代の儀と女神継承の儀は、本来同時期に行われるものではないらしい。どちらも役職に慣れていない者だと、エトワリアの危機になるからだと、デトリア様から聞いた。それが今回同時期に行われたのは、私とソラ――いや、これからはソラ様と呼ぶことにするか――ソラ様の実力を高く買っているからだともおっしゃっていた。

 

 三人で選んだ賢者はかなり個性的なものとなった。

 正直、私はローリエを賢者にするのは反対だった。だって、その……アレだし。デトリア様も当初は良く思っていなかったらしい。だが、ソラ様が必死で説得してくるものだからデトリア様が折れて、二人の説得に私が負ける形で採決された。

 曰わく、子供の頃、拉致された時に衛兵を連れてまで助けに来てくれた上に、二人の少女を守りながら戦ってくれたらしい。あの人ほど、誰かのために自分の命を懸けて、覚悟を持って戦える人はいないと、ソラ様は熱弁していた。

 

 筆頭神官交代の儀をなんとか終わらせ、ローリエが生み出したおぞましき虫の魔道具騒動も片付き、明日の女神継承の儀の準備をしながら、ソラ様の熱い説得とローリエの独白を思い出していた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

『アルシーヴちゃん。ソラちゃんのこと、色々お願いしてもいいかな?』

 

『何故だ?ソラもローリエと話したがっていたぞ?』

 

 

 それは突然だった。ローリエから、「ソラちゃんについて話がある」と礼拝堂でいつものように勉強していた私に声をかけられた時のことだった。だがその表情に、いつも私に発明品を見せたりセクハラしてきたりする時のような、チャラけた雰囲気はなかった。

 

 

『いいや、駄目だ。俺じゃあできない。ソラちゃんは男にトラウマができちまったから』

 

『男にトラウマ……って、あの時のこと、なのか?』

 

『………そうだ』

 

 

 あの時のことは、今でも……いや、一生忘れはしないだろう。たかが盗賊からソラ様を守れなかった己の非力さを痛感してからというもの、私は魔法に打ち込んだ。

 だが、あの時何があったのかはよく知らない。攫われたと思ったソラ様は、たった1日後に無事に都市まで戻ってきて、保護されたのだと聞いた。

 

 

『……なぁ、詳しく教えてくれないか?ソラに訊いても、「ローリエが助けてくれた」事以外教えてくれないんだ』

 

『………。』

 

 

 ローリエは長い沈黙の後、ようやっと話してくれた。

 一人の衛兵とともに盗賊のアジトまで助けに行ったこと。そこでソラ様を保護したこと。衛兵が自分を犠牲に逃がしてくれたこと。だが、盗賊に捕まりそうになったこと。

 ――ローリエが、自分の発明品で、盗賊を殺した事。それが、ソラ様を守るための正当防衛だったこと。

 

 

『そんな事があったからだろう。ソラちゃんは、男の人と目を合わせて話すことができないし、男の人と二人きりなんて耐えられないだろう。』

 

 

 盗賊はソラ様達を生かして帰すつもりがなかったことから、ローリエの盗賊を倒す行動は実に合理的で、命を守るためには、それしかなかったのだろうことは、彼の話からある程度は察していた。

 だが、まだ幼かった私は、それに納得できず、カッとなってローリエの首根っこをつかみ上げていた。

 

 

『馬鹿!!失敗してたら、どうするつもりだったんだ!!

 お前までいなくなったら……私は……』

 

 

 そこから先の言葉は出なかった。

 とても辛すぎて、それ以上口にしたらその最悪の結末が実現するような気がして、泣いてしまいそうだったからだ。

 

 

『大丈夫。俺は……いなくならないさ。』

 

 

 背中に手が回り、頭に暖かい手が降ってきた。その感触が、彼の言葉を裏付けているようで、無条件に安心できたのだろう。いつもはセクハラの鬼たるローリエなのに、何故なのだろうか。

 

 

『アルシーヴちゃん……あの日は、逃げちゃってゴメン。守ってやれなくて、ごめんな』

 

 

 その言葉で私はハッとなった。

 そんなこと気にしていない。君に言って欲しい言葉はそんな言葉じゃあない。ソラ様から逃げないで欲しい。

 そう思って見たローリエの顔は悲痛な表情に歪んでいて、まるで自身の処刑用の十字架を、ここまで背負ってきていたかのようであった。

 そんな彼に強く言葉を出せず、かといって何か言わなければマズい気がする、と思った私は――

 

 

『……お前は悪くない』

 

 

 深く踏み込むのを少し躊躇って、そう言うに留まるだけになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 筆頭神官交代の儀で賢者に選ばれた俺だったが、突然魔法工学の教師まで任されたので、正直戸惑っていた。

 教師といえば、ブラックな仕事の代表格である。これは前世の記憶に基づく偏見なのかもしれないが、とにかく楽な仕事ではないことは確かだ。それを全うするためには、一日でも多くの準備が必要となる。まぁこの意気込みが仕事の効率化を生み、同じ時間で多くの仕事をこなせるようになる結果、仕事の激務化を生む温床でもあるのだが。

 なんにせよ、八賢者と魔法工学教師を両立させるためには、女神継承の儀に参加せず、その準備を今からでも行っていた方が合理的だ。

 

 

「……つまり、俺はこの儀式に参加することができなくなったんだ。だから……」

 

「だから八賢者であるお前抜きで儀式をやれと?

 駄目だ。どうせサボりたいだけだろう?呆れた奴め」

 

 俺の合理的な懇願は、アルシーヴに秒で却下された。しかも本心まで見抜かれた。こいつ、読心魔法でも習得しているのだろうか?

 女神継承の儀における賢者の役割は、『新たな女神を歓迎し、敬意を示すこと』とあるが、要するに置物である。あってもなくても女神継承に響かない、どうでもいいポジションだ。さっきコリアンダーにそう言ったら、「お前、なにも分かってないな」と言われた。分かってないって、お前らが合理性をか? と返したら、「正気か?」って顔をされた。

 まぁ、俺が考えついたもっともらしい言い訳も、前世から引っ張り出してきた労働環境の課題も、すべて「サボりたい」という思いからきている。アルシーヴちゃんはそこを見抜いたのかもしれない、筆頭神官は侮れんな。

 

 

「確かにお前がデトリア様から魔法工学の教師を頼まれたのは知らなかったが、それとこれとは話が別だ。それに、そういう話は直前にするものじゃあない」

 

「そもそもスケジュールに無理があるとは思わないのかよ」

 

 筆頭神官交代の儀の翌日に女神継承の儀というスケジュールが組まれていた。そういうイベントは、間を空けないとボロが出た時にカバーできないというのに、このスケジュールを組んだ奴は何を考えているのだろうか?

 

 

「さぁ、とっとと行くぞ。お前以外の賢者と女神様のお二方はもう揃っている。」

 

「へーい」

 

 まぁ、決まってしまった事を考えていても仕方がない。アルシーヴちゃんに引きずられないように、俺も足早に目の前の彼女についていくことにした。

 ただな、遅れた理由を話す時に馬鹿正直に「ローリエがサボりたいと言い出したから」とか言わなくていいんだぞ。ソルトやジンジャーがジト目でこっちを見てくるし、シュガーさえ絶句している。フェンネルに至ってはゴミでも見るかのような目だ。俺はディーノさんみたいなMじゃないので普通に死にたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうして行われた女神継承の儀は、素晴らしいほどに上出来だったと思う。少なくても俺はそう思った。だが、ここでは女神となったソラちゃんの感想を少し述べるだけに留めたい。なぜなら、この後――あぁ、儀式の数日後のことな――その、数日後に想定外の事態が起こったからだ」

 

 

 八賢者であるローリエ・ベルベットは、女神継承の儀と、そのあとに起こった()()()()()()についてこう語っている。

 

 

「遠回しに言うのは面倒くさいから単刀直入に言おう。前任の元女神が女神継承の儀の2、3日後に、突然原因不明の衰弱死をしたと、神殿中に訃報が駆け巡ったんだ。」

 

 

 このことで、神殿は急遽葬儀を行う事となり、エトワリアの行政はぐらついた。エトワリアにおける女神というものは、いわば世界の核である。女神が異世界を『観測』し、その様子を記録することで『聖典』が生まれ、人々はそれを読んでクリエを得ることで生活することができている。また、エトワリアにおける魔法の源もクリエが役割をなしている。仮に聖典を綴る女神がいなくなりでもしたら、エトワリアは破滅してしまう。エトワリアは、女神に依存しているのだ。

 それでも、致命的な動揺とならなかったのは、一概に前筆頭神官デトリアの力が大きい。

 

「デトリアさんは、この時、慌てずなりたての賢者達やあらゆる部下たちに指示をだし、アルシーヴちゃんと一緒に元女神の……名前なんだっけな………まぁいいか……元女神の、葬儀の企画から運営までを執り行ったんだ。まるで……いや、なんでもない。どーせただの杞憂だろうしな」

 

 

 前任の元女神の早すぎる訃報。それだけでも十分に予想外だろうが、ローリエにとっての“想定外の事態”はそれだけではないという。

 

 

「あれは、元女神の葬儀中のことだった。エトワリアにおける葬式ってのは、意外と和洋ごちゃまぜなんだ。葬儀場は教会で行い、故人と別れを告げる方式だ。かと思えば、神父がお経みたいな長い呪文を唱えたり、焼香があったりする。

 

 ……で、問題の出来事のことだが、その葬儀中、神父が呪文を唱えている最中にそれは起こった。

 まず、その神父の呪文がふざけてたというか、テキトーすぎたんだ。一応世界のトップの葬儀なんだし、もうちっとマシなヤツはいないのかねと思ったよ。」

 

 

 

『なんまいだー、なんまいだー、なんまいだー、なんまんだー……

 げんまいだー、しんまいだー、だいじょぶだー……』

 

 

『……なぁコリアンダー、アイツ変なお経読んでないか?』

 

『ああ』

 

『……バチ当たらなきゃいいけど…』

 

 

 

「その時隣に座っていたコリアンダーに確認してみたんだが、あの変なお経が『普通』という認識はなかったみたいなんだ。それで、あのふざけたお経に頭を悩ませてたその時だ。

 葬儀中の棺から、身体が透けている元女神がむくりと起き上がってきたんだ。典型的な人の幽霊の格好した元女神がね。それで、虚ろな目で参列者達のほうを向いたんだ。」

 

 ローリエは、オバケや亡霊などの怪談は得意ではない。前世(むかし)から、人の怨みや憎悪のような負の感情に比較的敏感で、それに基づく亡霊関連の怪談が嫌いだったのだ。

 

「始めに俺の目と正気を疑ったね。なんてったって、お、オバケがでてきたんだから。まぁその時、オバケにビビって声を上げなかった俺を褒めて欲しい気分だったよ」

 

 

 いくら目の前で非常識な事が起こっているとはいえ、葬儀中に悲鳴をあげる訳にもいかなかったローリエは、違う行動をすぐさま起こした。

 

『ローリエ、どうした?肩を叩いて…』

 

『……おい、アレ…!

 アレ………おい……!』

 

「そう。俺がやったことは、隣にいたコリアンダーの肩を叩いた後、指を元女神の幽霊に向かって差して、アレ、と言うことだ。」

 

 彼が行ったことは実に抽象的であったが、声をうかつに出せない状況下で、何が起こったのかをコリアンダーに伝えるのに、実に簡潔な手段であった。指を差した方向を見れば、彼が何に驚いたのかが理解できるだろう。

………指差した方向にいるものが、()()()()()()()()()()()()()の話だが。

 

 

「……え? 『それで、コリアンダーに伝わったのか』って? ………………………。

 うーーん………分かってないね、俺がこの話を『想定外の事態』と言った理由を……

 伝わってて欲しかった、かな……でも現実は違ったね……」

 

 

『……?何だ?』

 

『いやアレェ!おい、アレェェェェェェッ!!』

 

『おい静かにしろローリエ、葬儀中だぞ!』

 

『いやいやいやいやいやいやいやいや、アレだってばアレ! おい!アレェェェェ!!』

 

『何やってんだコイツ…』

 

『いい歳して葬式でなにテンション上げてるんですか。心配しなくてもあとでローリエの葬式なら上げてあげます』

 

 

 ローリエの必死の訴えは、コリアンダーに届かず、彼やフェンネルには、『ただ葬式でテンションを上げているだけの人』だと思われてしまったのだ。

 

「コリアンダーには呆れられ、フェンネルからは軽い殺害予告を受けたその時、近くで元女神の幽霊に動揺する別の声を聞いた。ソラちゃんだ。彼女もまた、アルシーヴちゃんに必死に伝えようとして、失敗していた。」

 

 

『いい加減にしてくださいソラ様。何なんですかこんな時に?』

 

『みっ、見えないの!? アレ!アレだよアレ! ねぇ、アレぇぇぇぇっ!』

 

『はぁ……(もう無視しよう……)』

 

『ちょ、アルシーヴ!? そのため息なに?』

 

『……ひょっとしてソラちゃん、見えてる?』

 

 

 ローリエの言葉を受けたソラは、元女神の幽霊を指差して、ローリエが頷くのを確認すると、そこで自分とローリエだけに幽霊が見えることを理解した。

 

 

『な、なんなんだよアレ……ひょっとして、俺達だけに見えるっていうアレなのか?』

 

『い、いや、違うと思うよ……そういうアレじゃないよ、多分ああいうアレだよ、大丈夫だよ……』

 

『大丈夫じゃねーだろ……だってアレ、ももも、元女神、だろ?』

 

『違うよ!これはユニ様の葬式だよ? 絶対別人だよ』

 

 それにユニ様はあんな半透明じゃなかったし、ハッキリとハキハキした人だし、と続けるソラに、元女神をよく知らないローリエはそういうものか、と納得しかけて、アレ? と別の疑問につっかかった。

 

『……つーか、半透明の時点でおかしくね?

 元女神であるかどうか以前に半透明ってなんだよ?おかしいだろ?』

 

『じゃあユニ様でいいでしょ?そういえばここぞと言うときは優柔不断でハッキリしてない時あったし……』

 

 人は感情とともに生きており、そういう意味ではハッキリしたり、優柔不断になったりしても何らおかしくない。

 そういう意味で、ソラの言葉にそうだよな、と今度こそ納得する一歩手前で、やっぱりアレ? と、再び別の疑問につっかかるローリエ。

 

『つーか、元女神なら尚更おかしくね?

 何で死んだ元女神が、半透明であんな所にいるの??』

 

『それは……アレでしょ?

 オバケ………だからでしょ?』

 

 

「ソラちゃんと半透明の幽霊について話してるうちに、カチリ、とロジックのパズルが組み合わさる音がして、ああそうか、あそこにいるのは元女神の幽霊なんだ、と納得したわけよ。

 ……え?その後の俺らの行動?………もうね、椅子から立ち上がって一番近い真後ろの扉から逃げ出そうとしたね。でも、扉が思ったより重くて逃げられなかったさ。」

 

 

『なっ、ソラ様!ローリエ!二人とも何やっているんだ!』

 

『わ、わ、私ちょっとお手洗いに……!』

 

『正座で足痺れた……!』

 

『どいてローリエ、何してるのよ!』

 

 勿論、この時のソラはお手洗いにいく必要などなかっただろうし、ローリエに至っては正座などしていない。だが、一刻も早く幽霊のいる教会から逃げ出したかったのだ。

 ただ、扉前ではしゃいでしまったことが脳裏によぎった二人は、元女神の怒りに触れたんじゃないかと思い、棺と神父のいた方に振り向く。

 

『おいィィィィあの人、めっちゃこっち見てる!こっちガン見してるー!!!』

 

『目を合わせちゃ駄目!気づいてない振りするの!』

 

 だが、虚ろな目をした元女神は、真ん中を歩いて後ろの扉の方向……つまり、ソラとローリエがいた方へ歩いてくる。

 

『おい!こっち来たぞ!アイツこっち来たぞ!?どうすんだオイ!?』

 

『死んだフリ!死んだフリなら……!』

 

『死んだフリってお前! 死んでんのあっちだからね!? あっち本職だからね!!?』

 

 

「そうして気づかないフリするか死んだフリするかで言い争おうとした時、さらに摩訶不思議な事が起こった。

 まず元女神は、教会の真ん中あたりの列に座っていた、一人の女性をビンタしたんだ。今思えば、神父の呪文の最中に何か別の、失礼になることでもやっていたんだろう。そのビンタを食らった女性だが、壁まで吹っ飛んだよ。

 その後、元女神は幽霊装束を脱ぎ去った。その上からは、SMクラブで見かけそうな、赤いエナメル服。バタフライマスクや鞭、タバコにライターをどこからともなく取り出して、タバコを咥えてバタフライマスクを装着。あっという間に、クラブの女王が爆誕した。」

 

 

 たった一発のビンタで人を壁まで吹き飛ばして、気絶させた元女神(女王様)を見たソラもローリエも、命の危機を感じ目にも止まらぬスピードで真後ろの扉から各々の席へついた。

 

『ソラ様、お手洗いでは?』

 

『い、いや……引っ込みました』

 

『引っ込んだって、二人ともガクブルではないですか。無理しないほうがいいですよ』

 

『い、いや……引っ込んでろ』

 

 ソラもローリエも、アルシーヴやコリアンダーが見て分かるほどに震えていたが、その原因がお手洗いを我慢しているからではないことは言うまでもないだろう。

 

『み、見張りにきたんだあの女……!

 自分の葬式がキチンと執り行われるように……!』

 

『ま、まずいよ、この葬式、下手をしたら……』

 

『『元女神(ユニ様)に、(たた)り殺される!!』』

 

 この間に、クラブの女王と化した元女神は、寝落ちしかけていた神父に尖ったエナメルブーツで蹴りを入れている。神父の「ありがとうございます!」という悲鳴が教会内の参列者達のほとんどに聞かれなかったのは、神父の名誉的に幸いである。

 

『今みたいに寝ながら変なお経読んでた神父みてーに、俺達も下手やらかしたら何されるかわからんぞ……!』

 

『う、うそでしょう……夢なら覚めてよ…!

 私は、優しくて聡明なユニ様に別れを言いにきたのに……!』

 

 

「ソラちゃんの『夢なら覚めて』の悲鳴はもっともだ。元女神は、生前は誰に対しても優しく、淑やかで人気がある人だったらしい。それが、自分の葬式でひと皮どころか幽体離脱でひと肉体剥けた途端に女王化(あんなこと)されたら誰だってそうなる。

 もし、他の参列者にあの元女神の姿が見えたら皆、口を揃えてこう言っただろう。

『あんな街一つ支配できそうなクラブの女王に会いに来た覚えはない』って。

 だが現に元女神は俺とソラちゃんにしか見えなかった。だから、葬式も滞りなく進んだ。いや、()()()()()()()。」

 

 

『あの、次焼香みなさまの番ですよ?』

 

『え”っ!!?』

 

『いやだから焼香の順番。もう遺族の方も我々も終わったので、残りは皆様だけですって。』

 

 前の席の誰とも知らぬ者が知らせた焼香の順番は、ソラとローリエにとっては拷問の宣告そのものだった。元女神の幽霊は、棺に腰かけている。つまり、焼香を行うことは、元女神(女王)に近づくことに他ならない。

 

『…おい、いつの間にか焼香の順番が回ってきたぞ?どうするんだ?』

 

『……え?できるの?

 あの人の前で、焼香できるの?』

 

『無理に決まってんだろ。この距離でもチビりそうなのに、あんな間近でゆったりアロマテラピーなんてよォ。処刑台に自ら上がっていくようなもんだろーが。

 ……そもそも焼香ってどんな感じだったっけ?前出て粉パラパラするのは覚えてんだけど、記憶がフワフワしてるんだけど……』

 

『ちょっとローリエ大丈夫?社会常識だよ?

 三回おでこに粉持ってアレをアレするアレだよ?』

 

『後半アレしか言ってないよねソラ様?

 あなたもフワフワだったじゃあねーか?』

 

『焼香台の前行けばできます!

 ローリエと一緒にしないで!』

 

『じゃあ先に行って俺にお手本を見せてくださいソラ様?できるんでしょう?』

 

『嫌よ、ローリエ先に行って!』

 

 

「……とまぁ、こんな風に焼香だけで順番の押し付け合いだ。一応、俺とソラちゃんの名誉のために補足しておくけど、ただど忘れしただけだからね?『緊張してたら公式忘れちゃった』とかよくあるだろ?アレだよ。

 それで、この膠着状態を解決したのは以外や以外、ソルトだった。」

 

 

『では私が先に行くので、シュガーは見ていてください』

 

 ソラとローリエの状況は知らないだろうが、それを打開したソルトはまさしく勇者であった。だが、二人には死地に向かう少年兵のようにも見えた。

 

『待て、早まるな!』

 

『え、早まる?

 シュガーがわからないと言うので、先に手本を見せようかと思ったのですけど……』

 

『大丈夫か?いけんのか?しくじるんじゃねーぞ、必ず戻ってこいよ!?』

 

『馬鹿にしているんですか?……まぁいいです。』

 

 そう言ってソルトが焼香台の前へ行くと、慣れた手つきで遺族と僧侶に一礼、遺影に合掌、抹香を摘まんで焼香、再度遺影に合掌、遺族に一礼、といった手順で焼香をやってのけた。

 

『こんな感じ。簡単でしょ、シュガー?』

 

『おぉ~』

 

『ミッションコンプリート!

 ソルトなら必ずできるって信じてたわ。今夜は祝勝パーティね』

 

『ソラ様、恥ずかしいのでやめてください』

 

『フッ、俺から言わせりゃあまだまだだが、少しはマシな面になって帰ってきた様だな』

 

『焼香ひとつでどこまで褒めるんです? どんだけできない人だと思われてるんですか!?』

 

 

「ソルトの行動は俺とソラちゃんの心に希望の火を灯し、元女神の雰囲気も柔らかくさせた。この調子なら無事に葬儀を切り抜けられると思っていた。

 だが、その良い流れを思い切り台無しにするやつが現れた。

……シュガーだ。ソルトの次にシュガーが『次はシュガーがしょーこーいってくるよ!』と言った。ハッキリ言って不安しかなかったから、あの子にはソルトがやった通りにやれと言ったはずなんだがな。あの子は、焼香台の前に立つと、何を血迷ったのか神父をチョップでぶっ叩いたんだ。そしてこう言った。」

 

 

『意外と僧侶に一撃!』

 

最初(ハナ)からまるまる違うだろーがァァ!?』

 

 

「それで、どこからともなくマイクを出した。多分、『遺影』の意味が分かってなかったんだろうが……」

 

 

『イェーイ! さぁ、神父さんも一緒に!』

 

『イェーイ……』

 

『「イェーイで合唱」じゃねええええ!ノらなくていいからオッサン!!』

 

 その後もシュガーは、焼香台に神父を三度叩きつけたり、再びイェーイで合唱したりと、住職が見つけたらマジ切れして小一時間問い詰めてきそうな、それはそれはワイルドで無礼極まりなく、命知らずな焼香をやってのけた。ちなみにこの時点で神父はほぼ気絶している。

 

『こんな感じでいいかな?』

 

『お前は一体ソルトの何を見てたんだー!誰が神父の頭にバッチリ叩き込んでこいって言ったよ!?』

 

『ずっと座ってたから足がしびれちゃって……』

 

『足関係ねーだろ、痺れてんのお前の頭!!』

 

 勿論こんな無茶苦茶が元女神に認められるはずもなく、ソラとローリエは元女神の機嫌の悪化をいち早く感じとっていた。

 

『やばいよ……ユニ様の機嫌がみるみる……!

 早く葬儀を立て直そう!ソルトのフローチャートに作業を一つ加えます! 遺族と僧侶に一礼、その後に僧侶の蘇生! そして焼香です!』

 

『じゃあ、次はあたしが行くよ』

 

『カルダモン!? 大丈夫なの? 信じていいのよね!?』

 

『大丈夫大丈夫ー』

 

 

「シュガーがアレだったから、次のカルダモンでどうにか元女神の機嫌を挽回してほしいところだった。でもまぁ、無事焼香を終え元女神の機嫌が回復した、なんてことにはならなかった。それどころか……」

 

 

『遺族を一礼で坊主。』

 

 

「カルダモンは流れに乗った。シュガーが大分暴れても誰も止めなかったから、そういうノリなんだと思ったのかは知らないが、カルダモンは焼香台の前に行く前に、最前列に座っていた男のカツラを、礼をしながらもぎ取ったんだ。」

 

 

『そこから間違ってるぅ!!

 一歩も前に進めてないよカルダモン! 焼香はもういいから、神父さんだけ蘇生させてきて!』

 

 そのソラの指示を聞いたカルダモンは、言われた通りに焼香台に頭を突っ込んで気絶している神父に近づいて、もぎ取ったカツラを神父のツルピカな頭に帽子代わりに乗っけた。

 

『何を蘇生させてるの!? 蘇生させてって毛根のことじゃないよ!

 何も変わってないでしょ神父さんの頭にカツラ乗っかっただけじゃないの!?』

 

『ううん。神父さん、心なしか表情が穏やかになってた。』

 

『いいことあって良かったですね、神父さん……なんて言えないよ!?』

 

 ソラの言うとおりである。シュガーは滅茶滅茶な焼香をやり、カルダモンは遺族からカツラを奪い気絶した神父に乗せる。二人ともまともな焼香をしていないのである。元女神の怒りが増すのは必然だった。

 

『おいィィィィ! 元女神、もうご立腹だよ!

 伝説の(スーパー)サ○ヤ人みたいになってるよーー!?』

 

『もう神父さんの蘇生を最優先にしましょう!』

 

 ここでソラは一刻も元女神の怒りを抑えるために、葬儀を立て直しつつ焼香をやるという流れから、葬儀の立て直しに全力を注ぐ作戦に舵をきった。

 

『ちょっと待て! 遺体が一つ増えてるぞ! 遺族だ!』

 

『なんでカツラ取られただけで死んでるの!? メンタル弱すぎない!?

 というかなんで全員ガン無視!? カツラに気づいてないフリしてるの? それが優しさなの!?』

 

 だがローリエが事態の悪化を見つけ、報告すると、確かにカツラを取られた遺族の一人が確かに倒れていた。ソラは誰もこの事態に疑問を示さないことに疑問を投じる。

 そこでこの悪化した状況を食い止めるべく立ち上がった者がひとり。

 

『仕方あるまい。なら、神父と遺族の蘇生、そして神父と遺族に謝罪及び一礼に変更だな。

 このままではユニ様の葬儀がめちゃくちゃだ。私が責任を取って、必ず全て立て直してくる。』

 

 そう、アルシーヴである。

 

 

「アルシーヴちゃんが立て直すというのだ。きららファンタジアでもソラちゃんが一番信頼を寄せるあのアルシーヴがだ。今度ばかりは大丈夫だろうと思っていた。」

 

 

『まずは僧侶の蘇生…!

 

 あなたはここで呪文を詠んでいて下さい』

 

 アルシーヴが助け起こし、神父の立ち位置に立たせたのは………先程カルダモンにカツラを取られた遺族だった。

 

『それハゲてるけど遺族ーー!!』

 

 

『そして遺族の蘇生…!

 

 ご迷惑をおかけして申し訳ありません……!』

 

 アルシーヴは、遺族が座っていた席に…………先程カルダモンが取ったカツラをそっと置いた。

 

『それ遺族の遺族ーー!!』

 

 

「こればっかりは俺も予想できなかった。というか予想できるか、気絶していた神父の頭を木魚代わりに遺族に差し出すアルシーヴちゃんなんて。後になって本人に問いただしてみたんだが、『シュガーやカルダモンのパスに応じただけだ』と言っていた。ハハハ、ほんとウケる話だろ? でも個人的には全く笑えなかったけどな」

 

 

『いい加減にしろよゴラァーーーッ! どんどん状況が悪化してってんだろーが!!』

 

『というかなんであの遺族は言われるがまま神父やってるの……?』

 

『どうもショックで一時的に記憶喪失らしくてな』

 

『喪失したのは髪の毛だけじゃないの!?』

 

 アルシーヴによる葬儀の立て直しが余計酷い方向へいったことを悟ったソラとローリエは、悪化した焼香台前をみてただただ混乱していた。ただし、悪化したのは焼香台前の状況だけではない。

 

『オイィィィィィ!! 元女神(女王様)がもうカンカンだーー! 元○玉ぶちかましそうな勢いだよーーー!!?』

 

 一連の行いのすべてを見ていた元女神の幽霊もまた、怒りなのか恨みなのか、雰囲気は最悪と言っていいものになっていた。タバコを四本加え、稲妻をまとった黄金のオーラに身を包んだ元女神は、両手を天にかかげ、何かの力を貯めている。これ以上失礼な行いをしたら、両手がローリエ達に振り下ろされるのは明白だ。

 

『もう知らねー! 人の気もしらねーで勝手にやりやがって……!』

 

『な、ローリエ!? どこ行くつもりなの!』

 

 最早、ローリエもソラもこの状況を好転させることは諦めきっていた。アルシーヴでさえあんなボケをかましたのに、他の人たちに焼香の順番を回したらどうなるかなど、創造に難くない。

 

 

 

「そうして俺とソラちゃんが教会から逃げようとしたときだ。アルシーヴが引き留めようとしたんだが、『何をしている!まだ葬儀中………』と言いかけて、そのまま崩れ落ちるように白目を向いて倒れたよ。何が起こったのか分からなくて、二人でゆっくりと元女神の方を見たんだ。

 ……握ってたよね。バッチリと、アルシーヴちゃんの魂を。○気玉でくると思ったら人魂取りやがったから驚きだ。

 その後どうなったかって? それまで静かにしていたデトリアさんが『退避!ここに不可視の亡霊が現れた!』っつって皆を避難させてたぜ。アルシーヴちゃんも、心肺蘇生を繰り返してたら避難の数分後に目を覚ましたよ。 ……なにはともあれ、災難な葬儀だった。

 

 ……え? 女神継承の儀の時のソラちゃん?

 ああ、元女神の葬儀の話に夢中になってすっかり忘れてたよ。

 そうだなぁ、いつもと変わらなかったな。

 ………いつもと変わらず、美しかったよ。」

 

 どんな姿でも大切なモンは変わらねぇよ、と最後にローリエは口に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
今回はアルシーヴへ相談を持ち掛けたり、女神継承の儀をすっぽかそうとしたり、『バキ』的な語り部を担当したり、元女神の葬儀で見事なツッコミ役を披露したりと幅広く頑張ってもらった。アルシーヴへの謝罪の裏にどんな思いがあったのか…そんなの知らなくて大丈夫です。

アルシーヴ
新人筆頭神官。身長的には他の女性賢者たちやソラと比べて少し高めだが、ローリエよりは少し小さい、といったところだろうか。元女神の葬儀中にやったお茶目なボケの部分は、アニメ『銀魂』231話で近藤さんがやったボケをアルシーヴの元のキャラを出来るだけ崩さないように注意してミックスした産物。ところで、アルシーヴをデザインしたきゆづき先生は、「男装の麗人」をイメージしたそうなのだが、拙作のアルシーヴはヒロイン街道のド真ん中を突き進んでいるように感じるのは作者の気のせいだろうか?

ソラ
話の都合により、女神継承の儀を軽くキンクリされちゃった可哀そうな女神。代わりに、ローリエを筆頭とした賢者達のツッコミ役という重要ポストに就けた。出番が増えるよ、やったね!おいやめろ

コリアンダー&フェンネル
ローリエの怪奇体験を全く信じなかった人たち。作者自身、葬式には数えるほどしか行っていないため、『葬式でテンション上げている人』なんて想像もつかないわけだが。

ソルト&シュガー&カルダモン
焼香で見事な抹香さばき(?)を見せた子と夜兎族流の焼香をやってのけた子とサド王子風の立て直し()をした子。元ネタはアニメ『銀魂』231話の新八&神楽&沖田。

デトリア
拙作オリジナルキャラ。アルシーヴが筆頭神官に就く前に筆頭神官をしていた、今にも折れそうなおばあちゃん。
ローリエやソラ、アルシーヴが生まれる前から長年筆頭神官をしており、数人の女神に仕えていた。誰にでも笑顔で丁寧に対応する温和な性格もあって、神殿内での力や信頼は根強く残っている。
腰が曲がり、よぼよぼである為、すれ違う度に身体の心配をされている。

元女神
拙作オリジナルキャラ。ソラの前任の女神にして、今回の葬儀騒動の犯人。一応、「ユニ」という名前があるが、ローリエ目線がメインの為、今回はこの名称を使用。
生前は優しくて人当たりが良く、流されやすい性格だったが、幽霊になったことでクラブのドS女王と化した。この元ネタはアニメ『銀魂』231話の定食屋の親父。

「俺はディーノさんみたいなMじゃないので~」
ディーノさんとは、『ブレンド・S』の登場人物にして喫茶店スティーレの店長のことである。単行本を読んだり、アニメを見れば分かると思うが、明らかにMだと思われる描写が幾度とある。

エトワリアの葬儀
アニメ『銀魂』のネタをやりたくて、洋風な世界観のきららファンタジアと混ぜた結果、神父にお経に焼香と、かなり滅茶苦茶なものが誕生した。でも、日本発祥のきららファンタジアは、制作陣が日本人メインである以上、価値観や死生観がどうしても日本風であったり、「日本人から見た海外」のイメージが生まれるため、あながち間違っていないのかもしれない。



△▼△▼△▼
ローリエ「俺はこの後の展開を知っている。ソラちゃんが襲われる日が……来る。 全てを知っている者の責任とまでは言わないけど……女の子の危機を黙って見過ごす男じゃないのよ、俺は。」

次回、『運命の夜 その①』
ローリエ「絶対見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽



あとがき

とうとうきらファン初期作品の作者によるオリジナルストーリーが公開される運びとなりましたね!知られざる賢者やアルシーヴ、ソラの設定が飛び出そうで期待の反面、マイ設定との矛盾が出てきそうで相変わらずビクビクしとりますww
ともかくまずは全裸待機ですね!


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エピソード2:この世界でも、笑顔を~元凶大捜査線編~ 第9話:運命の夜 その①

“もし俺がもう少し容赦がなかったとしたら、アルシーヴの心に影を落とすこともなかっただろうに、何をしてたんだってこれほど俺自身を責めた時はなかったよ。”
  …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
    第2章より抜粋


 ソラ様の女神就任と、ユニ様の急逝から、あっという間に三年が経った。この三年間、私達は会う機会がぐっと減ってしまった。

 

 ソラ様は、異世界の観察及び聖典の編集を司る女神に。

 

 ローリエは、新たな技術の開発者及び魔法工学の教師に。

 

 そして私は、エトワリアの行政とクリエメイトの研究に勤しむ筆頭神官に。

 

 みんな、大人としてエトワリアを支える者となった以上、私情だけで動けなくなったのだ。

 ソラ様には、聖典関連のお話で。ローリエとは、新人神官や女神候補生の教育の場にて。全く会わないという訳ではないが、子供の頃のように、三人一緒に何かをする、ということはもうなくなってしまった。

 

 

 

「さて、これらの鉱石が採れる場所だが……」

 

 教室から、ローリエの声が聞こえてくる。あいつも三年で、だいぶ教師として成長した。最初の方は生徒が興味を持つ授業展開について何度も私に相談してきたものだ。それが今では、若手の人気教師の一人だ。

 ……時折してくる、聖典学のテストの問題追加やテストの制作のイタズラ、そして私(被害者は私だけではないらしいが…)へのセクハラは健在だが。

 あいつは、私以上ではないかと思うくらい、聖典学の知識に富んでいる所がある。この前女神候補生に出そうとした課題も、穴を見つけたのはローリエだ。一度彼に、聖典学の教師に興味はないかと尋ねたのだが、「これ以上オーバーワークして過労死してたまるか」と一蹴されてしまった。

 

 そしてセクハラについては言うまでもない。あいつは、私を筆頭に様々な女性に声をかけてはナンパしているらしい。ローリエが女好きになり始めたのが神殿に入った頃だったが、年々酷くなっている気がする。しかも、職務はしっかり遂行する上に常に予想以上の出来だからこそ(タチ)が悪い。衛兵に突き出して逮捕させることも何度も考えたが、八賢者に選んでしまった以上、筆頭神官の名誉やソラ様に泥を塗るわけにはいかない上、技術者としても教師としても優秀なため、そう簡単に手放す訳にもいかないのだ。

 

 

「アルシーヴ?」

 

「! 何でしょう、ソラ様?」

 

「またムズかしい顔してる。」

 

「……ローリエのセクハラの件でちょっと。」

 

「あはは。確かに、盛んだものね。」

 

 ソラ様が困ったように笑いながら、まったくフォローになってないフォローをする。

 

「でも、私には手を出したことないわよ、ローリエは。」

 

「もし出してたら問答無用で衛兵に突き出してますよ」

 

「手厳しいね」

 

「ソラ様が寛容すぎるのでは」

 

 ローリエは、手を出す人も選んでいることが、タチの悪さに拍車をかけている。シュガーやソルトには兄のように健全な接し方をしており……ソラ様については…やはり、あの件があるからなのか、やらしい気配を見せない。

 

 やり慣れた仕事で疲れが出るはずもないのに、ため息が出てくる。

 

「アレさえなければなぁ……」

 

「そんなに疲れているなら休憩にしましょう?」

 

 苦笑いしながら、ソラ様がそんなことを私に提案してくる。まだやるべきことがあるし、休むほど疲れていないのでそれに乗る必要はないはずなのだが、今日ばっかりはお言葉に甘えるとしよう。今日はローリエに胸を二度ほど揉まれたせいか、あいつについて頭を悩ませすぎた。ここで休まなければ、確実に後で支障をきたす。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 そうしてソラ様の言葉のままに休憩をとるつもりでいたのだが、夕食や風呂も一緒にしましょとソラ様にねだられ、断ってもついて回ってくるため、ずるずると風呂にまで入ってしまった。

 

 しかし、ああもついてこられると幼少期を思い出す。

 まだソラ様と私が女神候補生と神官に分けられる前、ローリエと三人で遊んだ頃の記憶。都市の隅々まで冒険し、イタズラを敢行したり、追いかけ回されたり、三人でしこたま怒られたり………アレ。

 

 

「酷い目に遭ったの、大体ローリエのせいなんじゃ……」

 

「ふふっ、そんなこと考えてたの?」

 

 ソラ様が私の隣で湯に浸かりながら笑う。思えば、ローリエが真珠で作った謎の男の裸像も、弁償と称して私が買い取ることになった記憶がある。不正商人の摘発の手伝いの際も、怪我こそなかったものの、商人のボディーガードに三人揃って殴られかけたし、噴水を宝石で飾った時も、翌日はソラ様、ローリエともに風邪でぶっ倒れた結果、噴水の後片付けは私一人でやった。

 ……なんというか、イタズラの代償を割を大体食わされてた気がする。

 

 

「でもさ、昔をゆっくり振り返る時間も、必要だと思うの。働きづめじゃ、倒れちゃうわ」

 

「それもそうですね」

 

 ソラ様の言うことにも一里ある、と言おうとしたところで、セサミが私のもう片方の隣のスペースに腰を下ろしながら言った。周りを見ればカルダモンやハッカ、ジンジャーやフェンネルもいる。

 

「セサミ?」

 

「アルシーヴ様、筆頭神官についてからというもの、働きづめではありませんか。定期的な休みも返上して、マトモな休みを取らないで。」

 

「変なことを言うなセサミ、私だって少しは休んでいる!」

 

「筆頭神官の仕事の合間に女神候補生の課題を作るのを休むとは言いませんよ、一般的には」

 

「くっ……!」

 

「もー、仕方ないわね、アルシーヴは」

 

 

 あはは、とソラ様の笑い声が木霊すると、それにつられるかのようにセサミも笑顔になり、私も余計なことは言えなくなっていた。ソラ様からしばらく休みを貰うことを渋々承諾した時。

 

「………。」

 

今までずっと黙っていたハッカが風呂桶を持って、集中したかと思うと、

 

「変態の気配察知……そこっ!」

 

 手にしていた風呂桶を、風呂の壁の上の方へ投げた。

 

 ハッカの手から離れた風呂桶は、綺麗な放物線を描き、壁の一番上……つまり、男湯と女湯を分ける境界のあたりで…

 

「ぶごっ!?」

 

 何かにぶつかり、いい木の音を立てた。その後、壁の向こうから、どっぱーんと水しぶきの音がしたことで確信した。ハッカが奴をどうやって察知したかは謎だが、とにかく賢者と筆頭神官を覗こうとする命知らずはアイツしかいない。

 

 

「ローリエ! また貴様か!!」

 

『うぅ、湯気でよぐ見"え"な"がっだ……

 あのディフェンスに定評のあるクソ湯気め、地獄に落ちろってんだ……!』

 

 

 悪いが、地獄に落ちるのはお前だ。そう思いながらハッカにハンドシグナルで次の覗きの撃退準備を指示していると、フェンネルが私の心の中を読み取ったかのように「地獄に落ちるのは貴様だ」と語りかけている。

 

「これ以上やったら衛兵に突き出しますよ!」

 

『衛兵と地獄が怖くて男がやれるか!!』

 

 ………。

 

 馬鹿だ。馬鹿がいる。この男湯と女湯を隔てた壁の向こう側に馬鹿がいる。

 ……残念だ。ソラ様の経験談と昔のよしみでローリエが更正する可能性に賭けていたがここまで堕ちるとは。仕事はできる奴だが仕方ない。私自身、見る目がなかったと自覚せざるを得ないな。こうなったら、私自身の手で引導を渡してやるしかない。

 

「ハッカ、そのハンマーを渡してくれ。私が奴を殺る」

 

「承知」

 

 ハッカから受け取った、柄の異様に長い、ヘッドの面に「のぞくな!」と達筆で書かれたハンマーは、見た目の割に軽く、ハッカでも自由に扱えることが伺える。

 

 私はこのハンマーをふりかぶり、そして……

 

「ハッ!」

 

 思い切り壁の方向へ振り下ろした。軽くしなったハンマーのヘッドは、壁の少し上へ向かっていくと、

 

『ドギャス!!!?』

 

 私の両手に手応えを伝えた。間違いなくクリーンヒットだろう。奴が湯船に撃沈する音も聞こえた所で、ハンマーをハッカに返し、心が冷え切った浴場から一足先に失礼することにした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 風呂から上がると、すっかり夜の帳は降りていて、いつもは神殿の窓から見えている月や星々も今日は見えない。明日はきっと晴れないだろうなと思いながら、ラストペースで残った職務をやってしまおうと書斎に向かうと、いつの間にかハッカが側にいた。彼女の助力もあってか仕事の残りは三時間ほどで片付いた。そうして一息ついていると、ドアが開く音がする。音の元を目で辿ると、そこにはソラ様がいた。

 

 

「ああ、よかった。

 アルシーヴ、まだ起きていたのね。」

 

「先ほど今日の職務を終えたところです。どうかされましたか?」

 

「ええ、少し話したいことがあるの。」

 

「分かりました。

 ハッカ、少し下がっていてくれ。」

 

 

 静かに頷き、転移魔法で席を外すハッカを見送ってからソラ様に向き直る。

 

 

「それでお話とはなんでしょうか?

 こんな時間に珍しいですね。」

 

「私もさっきまで聖典の記述をしてたの。」

 

「尚更珍しいですね。いつもはあんなにも楽しそうに早く終えているではないですか。」

 

「何だか胸騒ぎがして……どうしても観測に集中できなかったの。」

 

「なるほど……お話とはその胸騒ぎの事ですか。」

 

「えぇ。

 何か、嫌な気配がしたの。ローリエからもそう言われたし。」

 

「ローリエが?」

 

「うん。彼、昔から勘が鋭かったでしょ?」

 

 確かに。あいつは、幼い時から妙に勘が良く、世渡りが上手かった。今になって思えば本当に子どもかと疑うほどだが。きっと、私に負けないほどに幅広い勉強をしたのだろう。そうでなければデトリア様から教師なんて頼まれない。

 

「そうでしたね。しかし、私は何も感じませんでした。ですが、ソラ様の仰ることですから……そうですね、ローリエや貴女の他に何か気づいた者がいないか私から聞いてみましょう。」

 

「そうね、お願いするわ。

 杞憂ならいいのだけど――――――っ!?」

 

「どうしました?」

 

「今、そこに同じ気配が――――」

 

 

「…………。」

 

 

 ソラ様の言葉のままに部屋の入口のほうへ視線を動かすと、そこには、何者かが立っていた。

 顔は見えない。フード付きの黒いローブを顔はもちろん全身を隠すようにまとっていた。私がソラ様を庇うように杖を構えてみても、ただ静かに佇んでいるだけに見える。

 

 

「……貴様、何者だ。

 ここをどこだと心得る。」

 

 

 はち切れそうな緊張の中、そう警告をしてみても、不気味な気配が消えることはない。

 

 

「……見つけた。」

 

「えっ……」

 

 

 奴はそう言うと、ローブの中から小さな杖のようなもので、何かを呟いた。

 

 その瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バァン!

 

「がっ!!?」

 

 

 

 かつて聞いたことのある、小さな爆発音とともに、目の前のローブ姿が大きくぐらついた。

 

「アルシーヴ!! 今すぐ、そのローブ野郎を殺せ!!」

 

 何が起こったのか把握しかねていると、膝をついた、ローブの人物の後ろから、エメラルドグリーンの髪をした、見知った顔であるローリエが、切羽詰まった表情でそう叫びながら駆け込んできた。

 

 

「ローリエ!? どういうことだ!?」

 

「詳しくは後だ、早くそいつを殺せ!!」

 

「お前な……!」

 

 

 ローリエはいきなり殺せと言ってきたが、訳が分からなかった。いつもはセクハラの鬼であっても間抜けな雰囲気を醸し出しているローリエが、今回は異様な雰囲気を身にまとっていた。焦燥と執念、そして目の前の、両膝をついてうめき声をあげているローブの人物に対する憎悪と殺意。それらは、風呂で覗きを敢行した馬鹿と同一人物とは到底思えない。そんな状態でいきなり「殺せ」と言われても理解できる筈がない。

 

 

「……仕方ない!」

 

「待て、ローリエ! せめて理由を聞かせろ!」

 

 

 混乱していてトドメを刺さない私に痺れを切らしたのか、ローリエが手に持ったケンジュウとかいった武器をローブの人物に向けた。それを見て、いつまでも混乱したままではまずいと思い、ローリエを少し引き留めた。

 

 

「……コイツは呪術師(カースメーカー)。ソラちゃんに呪いをかけるつもりだ!」

 

「ローリエ、まだ殺すな! 色々聞きたいことがある!」

 

 

 ローリエの情報網については謎だが、今は目の前のローブの人物の対処が優先だ。いまだに落ち着いているとは言えないが、今の指示はこれで大丈夫なはずだ。

 

 ケンジュウから再び火と爆発が吹きだした。こんどは奴の両腕から鮮血が噴き出る。ソラ様には少々ショッキングなのでとっさに目を隠した。

 

 

「や…っと、…見…けた……んだ……! めがみ、を……!」

 

「『見つけた』はこっちの台詞だ、この不審者が!!」

 

 

 ローブの人物が息も絶え絶えに口にした言葉で、ローリエの言う通りソラ様が狙いであることを確信し、ソラ様を背中で庇う。

 床を汚していく血を気にもとめずに、ローブの人物は呪いの呪文であろう言葉を紡いでいく。

 だが、それをローブの人物の殺害にこだわるローリエが黙って見ているわけもなく、詠唱中の無防備な胴体に一発、二発、三発とケンジュウに火を吹かせた。その度に奴の体から鮮血が溢れ、鉄の臭いが激しくなり床を汚すペースが早くなったが、それでも奴は詠唱をやめない。

 

 

「っ……うっ!!

 ぐっ………かはっ…………!」

 

「「ソラ様(ちゃん)!!?」」

 

 

 そして、ついに詠唱が完成してしまった。

 私たちが膝をつき苦しみ始めたソラ様に目を奪われた隙に、奴の己の体を引きずるように部屋を出た音がした。

 

 

「ローリエ! ハッカ! 奴の後を追え!」

 

「了解!」

 

「承知!」

 

 

 逃げられる、と思いそしてすぐさま放った私の命令で、ローリエとハッカもそれに続いた。

 

 その間に私は、膝をついたソラ様を助け起こす。

 

 

「ソラ様!

 大丈夫ですか、ソラ様!」

 

「はぁ……はぁ………アルシーヴ、今の者は……」

 

「ローリエとハッカが追っています。それよりもソラ様、これは一体―――」

 

「これは、恐ろしい呪いだわ……全身から少しずつクリエが奪われていく……」

 

「な……! い、今すぐに解呪を!」

 

 クリエがなくなるということは、即ち生命がなくなること。女神であるソラがそんな呪いにかけられたと分かり、解呪を試みるが、焦っていたせいか、それとも解呪方法が間違っていたせいか、逆に私が吹き飛ばされる。

 

 

「くっ!」

 

「アルシーヴ!」

 

「私は大丈夫です、ソラ様。」

 

「これはただの呪いではないようね。しかし、これほど強烈な呪いは見たことがないわ。」

 

「……申し訳ありません、この呪いの正体、私にも見当がつきません。」

 

「いいえ、謝る必要なんてないわ。筆頭神官である貴方も知らない強力な呪い……ローリエがいなかったらと思うと……」

 

 考えたくないことだ。クリエが失われていくペースが、ローリエに攻撃されまくっていたあの状態での詠唱でさえ少しずつ減っていくのが分かる呪い。邪魔されずに放たれたらどうなるかなど想像したくはない。

 

 

「………アルシーヴ

 

 ―――――――今すぐ私を封印してちょうだい。」

 

 

 …っな!!?

 

「早計な!

 何をおっしゃいますか!貴方がいるから、民はクリエを得て、日々を過ごすことができるのです!

 貴方がいなくなってしまったら、民たちは……」

 

「落ち着いて、アルシーヴ。」

 

 

 ソラの両手が、私の肩をしっかりと持ち、ソラの目は私の目をまっすぐ見ている。

 そして私が息を整えるのを確認するとゆっくりと言い聞かせるように話し出した。

 

 

「私が一時の眠りについたとしても、エトワリアはすぐに乱れてしまう訳じゃないわ。だって、これまでの聖典があるもの。

 むしろ、このままでは私は取り殺されてしまう……

 だから、呪いごと私を封印してほしいの。そうすれば、呪いの進行を食い止めることができるはず……」

 

「しかし……!」

 

「私は、貴方を信じている。そして、この場で頼れるのはアルシーヴしかいない。

 だから……もう一度言うわ。」

 

 

 

「アルシーヴ、私を封印しなさい。」

 

 

 

 その命令は、私の頭をがつんと叩きつけた。女神を封印するなど、本来あってはならない。世界の核である彼女の封印は、世界を滅ぼすことに等しいからだ。だが、このままではソラの死が避けられないのは事実。

 だが、ソラの判断基準はもう既に分かりきっている。伊達に幼馴染だった訳じゃない。

 

 

「ソラ様、それが本当に正しい判断だとおっしゃるのですか?」

 

 

 ソラの判断基準はいつでも「みんなの為」。ソラは、どんな状況でも周りを第一に考えられる女性(ひと)だ。「私を封印して」という常識はずれなワガママも、きっと、先を見据えて()()()()言っているのだろう。

 だから、この質問は覚悟の確認だ。

 

 

「……ええ。

 アルシーヴは何があっても私を支えてくれた。おかげで私は正しい道を歩むことができたの……女神として、民を幸せに導くために。

 だから、アルシーヴ……もう少しだけ私のワガママを聞いてくれる?」

 

「そう言うのは何度目か、ソラは覚えているのか?

 ………私は覚えているぞ。」

 

「ごめんね。

 でも、誰よりも聡いアルシーヴなら、この判断の意味がわかるでしょう?

 アルシーヴ。あなたが今、為すべきことは――――」

 

 ああ、そうだった。

 

 ソラはワガママを言い出すと、絶対に頑固になるのを忘れてた。

 なら私も、腹を括るしかない。

 

 ソラ…私は、ソラを………!

 

 

 

 

「必ず、救ってみせる。」

 

 

 

 

 

 

 そうして、私は、震えるこの手で……親友(ソラ)を……封印した。

 

 

 

「ありがとう、アルシーヴ。」

 

 

 

 涙でぼやけた視界には、女神(ソラ)が満面の笑みで映っていた。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
『きららファンタジア』の発端となるソラの呪殺未遂事件をなかったことにしようと頑張った主人公。でもここでローリエがローブ野郎を倒した結果、ソラちゃんがピンピンだったら、よかったねよかったねってなってマジで連載が終わってしまうので、作者の都合で少し辛酸を舐めることとなった男。なんでローブ野郎を真っ先に殺ろうと思ったのかは次回にて詳細を語らせていただきたく。


アルシーヴ&ソラ
原作と同じように封印する&される結果となった百合CP。
幼馴染設定をいかし、最後封印する直前のやりとりがちょっと慣れあってる感じにした。その結果、ローリエがお邪魔虫だったんじゃないかってくらいの百合度が完成したんだが、その道のプロは自分の描写で満足して頂けただろうか?


セサミ&カルダモン&ハッカ&ジンジャー
ローリエの覗き被害に遭ってた方々の会。ハッカはいざという時のローリエは頼れると見直したようだが、彼女以外は今回の出来事はまったく知らないので、好感度は低め。でもカルダモンはローリエの発明品に興味津々だろうし、ジンジャーもなんだかんだ言ってローリエの特訓を見てくれる。


ローブ野郎
外伝がリリースされた今でも正体が謎に包まれている、ソラ襲撃犯の呪術師(カースメーカー)。この作品内では、全てを知っていたローリエに不意を突かれ、銃撃されまくり大怪我を負うことに。まぁ、悪い事してるし因果応報ということで。なお、この作品に出てくるローブ野郎の正体は、作者自身がメインストーリーを元に考えた妄想の産物になるとあらかじめ言っておきます。
カースメーカーの呼び方の元ネタは『世界樹の迷宮』シリーズの後衛職の名前から。命を削る呪言こそないが、「力祓い」と「軟身」は重宝する。



△▼△▼△▼
アルシーヴ「ローリエ……お前は一体、何を思ってあんなことを言ったんだ……? 私の知っているお前は、フェンネルを助けた時みたいな、優しさがあったはずなのに……」

次回「運命の夜 その②」
アルシーヴ「今はそんなことより、ソラ…の事について早く手を打たねば……!」
▲▽▲▽▲▽



あとがき
「三者三葉」が実装されて、「三者三葉」の作者が「みでし」も描いていたことがきらら関連での最近の驚きです。
ろーりえ「みでしも『きららっぽいファンタジア』か何かでエトワリアにくればいいのにー、メイ〇ラゴンやとな〇の吸〇鬼さんも連れて」
くれあ「が、がんばってみます!」
きらら「やめて!」



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第10話:運命の夜 その②

UAが、ついに1000を突破しました!
まだまだこれからです。使いたいネタがまだ山ほどある「きらファン八賢者」をよろしくお願いします!



“まだ小さかったわたしは、ベッドの中でただふるえながら、このときアルシーヴのへやで見たものをおもい出さないようにすることしかできなかった。”
  …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


 この世界が「きららファンタジア」である以上、確実に起こる事件が一つある。そう、ソラちゃん呪殺未遂事件だ。

 本家(アプリ)では、アルシーヴ共々手遅れ寸前のところでランプが書いた日記帳(聖典)によって救われる――

――いい物語(はなし)だ。……そう、()()である。

 

 終わり良ければ全て良しとはよく言ったものではあるが、そこまでのきららとランプの旅路は過酷そのものである。一歩間違えたらソラもアルシーヴも助からない。

 ソラとアルシーヴの未来を確実に明るいものにするため、俺は生まれた時から色々と策を巡らせていた。

 

 ハッカ以外の賢者に伝える?

 駄目だ、信じて貰えない可能性がある。

 

 ランプに「ソラを救えるのは君だ」と伝える?

 これも駄目。ランプの聖典は、きららとクリエメイトとの旅の日々を日記帳に書いた結果、()()できたものだ。それを知らせるのはかなり無理があるし、偶然の要素に手を加えるのは絶対マズい。

 

 そもそも、「ソラが呪いをかけられた」事には箝口令が敷かれる。誰かに言ったらアルシーヴに折檻されるし、現場にいなかった奴が呪いのことを知っていたら真っ先に疑われる。

 

 

 そんな感じでずーっと考えた結果、既にひとつの答えを導き出していた。

 あのローブ野郎を撃退すれば、アルシーヴがオーダーを使用する事態を防げるのでは? と。仮にあの事件で犯人を撃退及び捕縛できれば、ランプが旅に出ることもなくなるが、女神ソラの安泰はより確実なものとなる。

 

 

 ソラが女神になった日から、魔法工学を教える傍らで、神殿のあらゆる所に監視カメラと録音機を仕掛け、ソラとアルシーヴの()()()()を聞き逃さないようにした。……そこ、事案とか言わない。こっちは真剣なんだぞ。

 三年間も不発で、諦めかけた朝にソラから「何か怪しい気配がしない?」と話を振られた時は内心穏やかじゃあなかった。今夜あたりにあの事件が起こるだろうと確信した俺は「何か察知したら、信頼できる人の元へ逃げた方がいい」と聞かせ、戦闘準備の最終チェックを行った。

 

 

 そして、その日は来た。アルシーヴとソラのあの会話が録音機から聞こえた瞬間、「パイソン」と予備の弾丸を手にアルシーヴの部屋まで駆け付けた。着いた時に見たものは、アルシーヴの部屋から漏れ出た光に微かに照らされた、ローブ野郎の後ろ姿だった。ソレを見た俺は何の躊躇いもなく発砲。ついにあのローブ野郎に、鉛玉をブチ込むことに成功した。

 

 

「アルシーヴ!! 今すぐ、そのローブ野郎を殺せ!!」

 

「ローリエ!? どういうことだ!?」

 

「詳しくは後だ、早くそいつを殺せ!!」

 

 

 ただ、この時俺は「アルシーヴちゃんとソラちゃんの百合を引き裂こうとするモブ野郎はゆ"る"さ"ん"んんんん!」の精神が強すぎたせいか、よりにもよってアルシーヴちゃんに「殺せ!」と指示してしまった。これが彼女の混乱を招いたのだ。もう少し慎重に言葉を選んでいたら、事件を完全に防げたのかもしれない。

 

 

「……仕方ない!」

 

「待て、ローリエ! せめて理由を聞かせろ!」

 

「……コイツは呪術師(カースメーカー)。ソラちゃんに呪いをかけるつもりだ!」

 

 

 混乱していたアルシーヴちゃんをよそに真っ先にローブ野郎を倒そうとしたのも、俺自身が焦っていたためと言わざるを得ない。

 何故なら、下手人は、本家では「見つけた」と呟いた途端にソラちゃんに呪いをかけたことから、ソラちゃんの暗殺だけを目的とした呪術のプロの可能性が高いからだ。本来ならば、不意打ちで自分がどうやって攻撃されたかも分からぬ内に殺すつもりでいた。拳銃の仕組みは俺以外は知らない。アドバンテージは十分にあった。

 

 

 だが、何よりも想定外だったのが、銃弾を六発――背中に一発、両腕を一発ずつ、そして正面から胴体に三発―――を撃ち込まれたというのに、倒れるどころか詠唱をやめることもなかったローブ野郎の根性だ。急所を外したなんてことはやってない。普通弾丸を六発も貰ったら出血多量かショックで死ぬ。少なくとも集中して呪いをかけることなんてできない筈だった。

 

「や…っと、…見…けた……んだ……! めがみ、を……!」

 

「っ……うっ!!

 ぐっ………かはっ…………!」

 

「「ソラ様(ちゃん)!!?」」

 

 

 しかしそれを、あのローブ野郎は、ソラちゃんに呪いをかけるまで両足で立ち続け、しかも現場から逃げ出すことまでやってのけた。

 

 

「ローリエ! ハッカ! 奴の後を追え!」

 

「了解!」

 

「承知!」

 

 

 俺は弾をリロードしながら、ハッカとともに瀕死のローブ野郎を追うべく、赤黒い点々が続く廊下へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「……ハッカちゃん、ここから血が途切れている。」

 

「……謎。」

 

 

 ローブ野郎の追跡開始から数分。俺達二人は奴が現れたアルシーヴの部屋から血の跡を追いかけていった訳だが、神殿の出入り口から出て数歩のところでぱったりと消えている。まるでそこから一歩で別の所へワープしたかのようだ。真っ暗な中、二人で血の垂れた跡を探してみたが、他に変な痕跡は見つからなかった。つまり……

 

 

「転移魔法で逃げられたか……?」

 

「恐らく。」

 

 

 クソッ!なんてことだ。何をしていたんだ俺は。ソラちゃんとアルシーヴちゃんを守ると決めたくせに、何だこの体たらくは。原作と何も変わってないじゃないか。

 

 ―――あの日から、何も変わってないじゃないか。

 

 ローブ野郎への、何より――俺自身への怒りは内に抑えきれるものではなかったらしく、つい俺は神殿の柱に拳を叩き込む形で八つ当たりをしてしまっていた。

 

「ローリエ、落ち着いて。」

 

「これが落ち着いてられ………!」

 

 ハッカちゃんの言葉に向き直り落ち着けるかと言おうと思ったが、彼女のあまり動かない表情から、かつての怯えた表情を思い出し、俺の怒りにブレーキがかかった。ここで感情に呑まれる訳にはいかない。そう思うと怒りが自然と治まってきた。

 

「……わかった。」

 

 でも、銃弾を食らいまくったあのローブ野郎に、転移をするほどの余裕があったとは思えない。きっと、誰か別の人間の助けがあったのだろう。そいつが神殿の外でローブ野郎と合流し、すぐさま転移魔法で大怪我をしたローブ野郎とともにトンズラしたに違いない。「しかし、どうして奴はソラちゃんを狙ったのか……この段階でも分からん。情報がなさ過ぎるな……」

 

 

「ローリエ?」

 

「ふぉっ!!? な、なに?」

 

「静かに。アルシーヴ様へ報告。」

 

 

 ハッカちゃんは見失ってしまった以上アルシーヴちゃんの元へ戻って報告するのが先だと言葉少なめに促す。

 …確かに今日はもう遅い。これ以上は日を改めて調査する必要がありそうだ。

 あと、思ったことを口に出しやすいこともハッカちゃんから指摘された。……今のうちに直さないと。前世のこととか、きららファンタジア(スマホアプリ)のこととかうっかり口にして誰かに聞かれでもしたら面倒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルシーヴ様……これから如何様に?」

 

 

 ローブ野郎に逃げられてしまった事と、ローブ野郎に仲間がいた可能性があった事をアルシーヴちゃんに報告した俺達は、アルシーヴちゃんからさっきの呪いについての事件をすべて聞いた。……俺達がローブ野郎を追っている間に、呪いからソラちゃんを守るために呪いごと彼女を封印したことも。……まぁ俺にとってはきららファンタジア(ゲーム)であらかじめ知っていたことだったが、初めて聞いたかのようなリアクションにも抜かりはない。

 

「呪いの正体を解明し、解呪の策を見つけ出す。 神殿の者たちをいたずらに動揺させてはいけない。

 ハッカ、ローリエ。先ほどの出来事は他言無用だ。決して外に漏らすな。」

 

「御意。」

 

「……だな。」

 

 

 アルシーヴちゃんがこう言う気持ちも分かる。世界の中枢たるソラちゃんがこんなことになったと知ったら、神殿内は大パニック、あらゆる人間が動揺しまくった結果、色んな機関が麻痺する。その麻痺は確実に神官たちや言ノ葉の都市の民を圧迫する。それに乗じて一揆やクーデターでも起こすやつが現れたら目も当てられない。

 

 

「あとローリエ、廊下に垂れているであろう、血痕も掃除しろ」

 

 

 ……??

 

 

「……え? 何で?」

 

「何でじゃあない。あの血だまりもさっきの出来事の証拠に他ならん。それでなくても、神殿の廊下に血だまりが続いてたら誰だって驚くだろう。

 私の部屋の血の掃除は私がやるから、ここ以外を頼む。日の出までに全部終わらせろ」

 

「マジかよ……」

 

 

 完全に忘れていた。ローブ野郎を始末することだけを考えてたから、血については無策だった。少し考えてみればわかることじゃあないか。筆頭神官の部屋に血だまりがあり、そこから神殿の外まで血が続いてたらどんなアホでも「筆頭神官の部屋で流血沙汰があった」と思うに決まっている。

 こうして、真夜中の血痕掃除が始まったのである…………ちなみに、掃除に適した魔道具を開発していなかったから自分の手で掃除したわけだが、「ル〇バみたいな掃除用魔道具を造っておけばよかった」とちょっぴり後悔したのは、俺だけの秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ソラ様は現在、体調を崩されている。快癒されるまでは私が執政を代行する。」

 

 

 翌日、アルシーヴは神殿の皆を大広間に集めてそう知らせると、集まっていた神官たちはざわざわと騒ぎ出す。俺は今、コリアンダーとともに、その聴衆に混じって話を聞いていた。

 実に合理的な嘘だと感心する。ソラちゃんが襲撃され、しかも強力な死の呪いにかかったなんて、前代未聞の大事件だ。そんな大事件の結果、親友を失ったというのに、アルシーヴは平気そうな顔であんなことを言っている。

 

 

「……流石だな。」

 

「今、なにか言ったか、ローリエ?」

 

「え? いや、何も。」

 

 

 コリアンダーにちょっと気付かれかけた。なんて言ったのかまでは聞かれなかったようだが、これ以上彼といると、ウッカリ口から洩れた重要機密を聞かれそうだ。一層気を付けないと。

 

 

「……ソラ様、大丈夫なんですか?」

 

 

 シュガーがそれはそれは心配そうな声をあげると、聴衆のざわざわが治まっていく。

 

 

「ああ。今は治療に専念するため自室にこもっておられる。ソラ様の世話役はハッカが務める。何かお伝えすることがあれば、ハッカを通せ。」

 

「はーい。ソラ様、早く良くなるといいですね!」

 

 

 シュガーが無自覚に地味に心に刺さる言葉を放つ。ソラちゃんの呪いの解呪方法は、あまりに特殊だ。アルシーヴちゃんも、感情を取り繕うように微笑み、「ああ、そうだな」と返した。

 俺もすぐにここから立ち去り、アルシーヴちゃんに合流するとしよう。コリアンダーの引き留める声を無視して先を急ぐ。コリアンダーは意外と察しが良い。ソラちゃん関連のことはまだバレてはいけない。

 ――それに、今の彼女は放っておけないから。

 

 

 

 アルシーヴちゃんを探して神殿内を走り回っていると、アルシーヴにランプが話しかけているところに遭遇した。

 

「ソラ様に会わせていただけませんか!」

 

 ……そうだ。確かここで、ランプはアルシーヴに断られてしまうんだ。取り付く島もない感じで。

 

「今は無理だ。用があればハッカを通せ。」

 

「でも…私、心配で……それに…!」

 

「――すまないが、今はお前に構っている時間はない。」

 

 ……ああ、これだ。

 

「アルシーヴちゃん、さすがにその言い方はないだろう?」

 

 

 ランプもアルシーヴちゃんも悪くない。二人とも、ソラちゃんを想う気持ちがある故にぶつかってしまうのだ。ただちょっと、アルシーヴちゃんが不器用で、ランプが早とちりをしがちなだけ。それが、ランプが神殿を出てきららと会うきっかけになると思うと少々複雑なんだけど。でも、フォローせずにはいられない。

 

 

「ランプも心配しているんだ。そういう言い方は控えるべきだ。」

 

「ローリエ、お前には関係のないことだろう?」

 

 

 おっと、「関係ない」で来るか。

 ランプの手前、ソラちゃん関連の事は言えないので、別の方向から返すとしよう。

 

 

「関係あるさ。ランプはアルシーヴちゃんの生徒であると同時に、俺の生徒でもあるんだ。」

 

「………。

 とにかくランプ、女神候補生として、勉学に励め。」

 

「あっ……はい、わかりました。」

 

 

 ランプにそう言いつけると、アルシーヴちゃんはとっとと歩いていってしまった。行き先は図書館だろう。

 

 

「ランプ?」

 

「はい。」

 

 

 ランプのフォローも終わったことだし、次はアルシーヴちゃんのフォローだ。

 

 

「アルシーヴちゃんは、君の先生であると同時に、筆頭神官でもあるんだ。仕事の量は俺ら賢者の比にならない。

 忙しいんだよ。特に、ソラちゃんが病気療養に入っちゃったこの時期はさ。」

 

「………。」

 

「でも、君がソラちゃんの心配をするのも分かる。何か悩み事があったら、先生に相談しなさい。できる限り、力になってあげよう。」

 

「ローリエ先生……」

 

 生徒相談を受け付けていることのアピールも忘れない。……まぁ、ランプは筆頭神官(アルシーヴ)女神(ソラ)を封印するところを見てしまったことで悩んでいるのだろうが、こんなことで俺に相談してくるとは思えない。だから、ほんの少し。ほんの少しだけ、譲歩してあげよう。

 

()()()()()()()()なんて、言ってくれなきゃ分からない訳だしな。」

 

「……! 先生、それって……」

 

「ところで、魔法工学のレポートはやった? まだ出てないの、ランプだけなんだけど……」

 

「えっ………ああああああ! 忘れてたぁぁぁああああ!!」

 

 

 もちろん、すぐさま話題をすり替えて、言及を防ぐ。今譲歩するのはほんの半歩ほどだけだ。ランプが聖典学以外がからっきしで助かったとほんの少し思い、「早く出してねー」と自室へ急いで駆けてく背中に告げると、アルシーヴを追いかける。

 

 さて、これからどうしようか。未だに答えは出ないが、ソラちゃんの呪い事件を防げなかった以上、新たな方針を練る必要がある。そして、その方針に必要な新たな魔道具と武器の開発も必須だろう。次の行動計画と新たな魔道具の理論が口から漏れ出ぬように口を右手で隠しながら、ゆっくりと歩きだした。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ずっと、引っかかっていた。あの夜に見た光景が。

 

 

 

 床の大部分が夥しいほどの血に染まり、鉄の嫌な臭いが充満してそうな部屋の、開いた扉から見えた……アルシーヴ先生が―――ソラ様に封印を施した光景が。

 

 最初は、悪夢だと思っていた。すぐさま自室に逃げ帰って、布団にくるまりながら、そんなことありえるわけがないと、アルシーヴ先生がソラ様を殺めるわけがないと、震える体をおさえ頭の中で何度も湧き上がる疑心を否定していた。当然、眠れるわけもなかった。

 

 翌日、ソラ様が体調を崩されたと聞いた時は、ソラ様が心配で心配で、アルシーヴ先生にすぐさまソラ様に会わせて欲しいと頼んだが、取り付く島もないほどに却下された。その後、仲裁に入ってきたローリエ先生の言葉が、あの夜に見た悪夢のような光景を確信づけた。

 

 

()()()()()()()()なんて、言ってくれなきゃ分からない訳だしな。」

 

 

 どういう訳で言ったのかは、わからないけれど。

 明日……聞いてもらおう。わたしが見た、あの光景を。ローリエ先生なら、きっと信じてくれるだろうから。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
アルシーヴとソラの未来を守るために事案スレスレまで頑張った男。しかし、ローブの人物の根性までは知らず、ソラに呪いをかけることを許してしまった。自分を責めていたが、ハッカのおかげで一応落ち着きを取り戻す。
原作との違いは、ローリエがローブの人物を容赦なく攻撃したおかげで呪いが安定せず、ソラのクリエが失われるスピードが若干遅くなったということ。それでも今の所大きな違いにはなりません。そう、今のところはね。


ハッカ
この夜、アルシーヴの側についていたお陰で封印されたソラの世話係などでアルシーヴの助けになった和風メイドさん。ローリエの精神安定にも一役買っている(無自覚)。ソラの世話係に任命されたのは、全ての事情を知っている()()が彼女しかいなかったから。間違ってもアルシーヴは恐怖のセクハラ男に親友兼女神を任せないだろう。

ローリエ「俺は二人の親友じゃなかったのかよォ!!?」
アルシーヴ「ち、違う。そうじゃなくてだな……ほら、お前男だろう?」
ローリエ「ソラちゃんには手ぇ出さない!」
ハッカ「日頃の行いの報い。」
ローリエ「SHIT!!!!」


アルシーヴ
今回から仕事量が増す苦労人筆頭神官。しかも、不器用なせいでランプとの溝が深まりかける。しかも原作では一人で背負い込もうとするから、更にアルシーヴの命がマッハでヤバイことになる。拙作では、事件の目撃者が一人多いため、重荷が少しでも軽くなればいいのだが……


ランプ
アルシーヴがソラを封印する光景を見てしまった女神候補生。ローリエの何気ない一言で相談を決意。ローリエがローブの人物を銃撃しまくったせいで床に広がる血というおぞましいオプションがついた結果、血だまりの真ん中で封印が行われるという原作よりヤベー光景を目に焼き付けてしまった。そういうこともあって、確実に「ソラ様が無事じゃない」と思うようになってしまった。ローリエにとってはソラとアルシーヴを守るために侵入者を攻撃しただけなので、完全に事故であるが、この事故が巻き起こす事態とは一体……?


血痕の掃除
どう考えても証拠隠滅にしか見えない後始末。アルシーヴは「神殿の他の人々をいたずらに混乱させない為」に命じたのであって、後ろめたい気持ちはどこにもない。作者もこの部分は執筆中に思いついて、勢いで書いただけなので、これがどう繋がるのか、そもそも繋がるのかは定かではない。エトワリアにルミノールがないので多分繋がらないだろうが。



△▼△▼△▼
ローリエ「原作通り、ソラちゃんは封印されてしまい、俺達にも箝口令が敷かれた。俺はいつも通り教師をやってる訳なんだが、こうしている間にもあの瞬間は徐々に迫ってきていて……」

次回『禁忌(オーダー)と始まる物語』
ランプ「楽しみにしててください!」
▲▽▲▽▲▽



あとがき
やっと原作に片足突っ込めた…さて、次だ、次!
将来的に使いたいネタばっかり浮かんで、もう二章までは構想が練り終わっている!
ただ、書き溜めてはいないので悪しからず。


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第11話:禁忌(オーダー)と始まる物語

“誰かが言った。『覚悟』とは犠牲の心じゃあないと。”
  ……ローリエ・ベルベット


 ソラちゃんが「療養」に入ってからというもの、アルシーヴは更に忙しくなったのか、女神候補生の授業に顔を出さなくなった。代役である俺がその旨を伝えると、女神候補生たちの不安は大きくなり周りに伝播していく。中でもランプは、より一層追い込まれているような表情しか見せていない。

 

『あの、少し相談があるんですけど、いいですか?』

 

『ランプ? いいけど……この授業のあとでいいか?』

 

『ちょっとこみいった話になるので落ち着ける場所がいいんです……』

 

 授業前のそんなやりとりを思い出す。きっと、原作みたいにアルシーヴちゃんがソラちゃんを封印する瞬間を見てしまったのだろう。だとしたら彼女には悪いことをしたと反省せざるを得ない。さっき思い出したことだがアルシーヴちゃんの部屋を血で汚したのは俺だ。掃除する前に見られたとしたら、その光景はきっと彼女にはサスペンスドラマや刑事ドラマでありがちな殺人現場にしか見えなかっただろう。

 

 

「はい。じゃあね、まずはこの前の聖典学の課題を回収するから、グループ毎に集めて持ってきてー」

 

 

 後の話を頭の隅に追いやりながら、アルシーヴちゃんから託された聖典学の授業を無理やり開始した。

 といっても、新たな課題を配ってそれを見守るという自習の監督なわけだが。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 授業が終わったあと、自身の部屋に戻って新たな魔道具の製作をしていると、ノックが聞こえてきた。入室を促すと、入ってきたのは浮かない顔をしたランプだった。コリアンダーに席を外すように伝え、部屋の中心のソファにかけさせると、はぁと一息ため息をつく。コーヒーセーバーでマグカップ二つにコーヒーを注ぐと、一つをランプの目の前のテーブルに置き、もう一つをランプが座っている位置から45度のところにある席において、俺もイスに座る。

 

「先生、いいんですか?これ…」

 

「遠慮はいらない。

 あぁ、砂糖とミルクはどうする?」

 

「……両方ともお願いします。」

 

 角砂糖が入った瓶とミルクが入ったカップを冷蔵庫から取り出し、テーブルに置きながらランプの顔色をさりげなく伺う。

 ……やはり、まだ迷っている。迷いが表情にはもちろん、砂糖を入れる手にも思いっきり出ている。相談内容はきっとあの夜の件だろう。でも彼女から話し出すのは少し難しそうだ。いきなり聞くのではなく、場を温めてから話を聞く方がよさげだな。

 

 

「今日の授業……というか、課題はどうだったかな?」

 

 

 思いもよらない質問に面食らったのか、少し考え込むそぶりをしてから、ゆっくりと話し出す。

 

「イジワルな問題が多めで難しかったんですけど……アレ、途中から先生が作りました?」

 

 よし。掴みはまぁまぁといったところか。

 

 

「そうだぜ。アルシーヴちゃんの問題だけじゃあ足りなそうだったからな。追加しといた」

 

「難しすぎますよ! 誰が解けるんですかアレ!」

 

「え? ウソ………中間テストの『メタル賽銭箱とミニ賽銭箱の違い』よりも簡単に作ったつもりだったんだけど……」

 

「私以外誰も解けなかった超難問を引きあいに出さないでください!! 先生の『簡単』ってなんですか!」

 

「ぼ、ボーナス問題も加えたんだけどな……」

 

「先生のボーナス問題、ボーナスしてなかったんですけど!?」

 

 

 何たることぞ。また俺が作った聖典学の問題に「難しすぎ」とジト目のランプからツッコミを貰ってしまった。

 今回の問題は、前回の反省を踏まえて「アリス・カータレットの出身地を、国・地域ともに答えよ(完答)」とか、「放課後ティータイムの曲を、発売順に並び替えよ(ただし、使わない選択肢がある)」とか、引っ掛けなしで作った。おまけに、「聖イシドロス大学の武闘派と穏健派、巡ヶ丘学院高校の学園生活部の関係とその崩壊について、できる限り供述せよ」といった、書けば点が貰える加点式の問題まで入れたというのに駄目だというのか。

 ……意外と、聖典学の問題づくりって難しい。そう思いながら、自分のマグカップのブラックコーヒーを啜る。

 

 

「もう、先生はアルシーヴ先生に問題の作り方を教わってください!」

 

「魔法工学じゃあこうはならないんだけどな……」

 

 

 本当に、何故俺が作った聖典学の問題が不評になるのか分からないが、俺に立て続けにツッコミをしたお陰か、ランプの入ってきた時の思いつめたような、迷っているような雰囲気が少し和らいだ気がした。というか和らいでないと俺のアイスブレーキングが完全に時間の無駄になってしまう。

 

 

「ところで、今朝から悩んでるように見えるけど、どうしたの?」

 

 

 そろそろいいだろうと思って投げかけた質問でランプの雰囲気に迷いが蘇る。あまり急かすのは良くないようだ。

 

「ああ、別に無理して話さなくても……」

 

「先生は、悪夢とか見ますか?」

 

 

 ゆっくり聞こうと思って予防線を張ろうとしたらランプがそんなことを聞いてきた。俺の悪夢の話なんて聞いてどうするのだろうか?

 マグカップのコーヒーを一口飲んでから答える。

 

「うーん……あるよ。なんかの踊りをし続ける夢だろ、丸い乗り物に入ったら投げられる夢だろ、その前は『俺はここにいたい』って言ったら皆から祝われる夢も見たな」

 

「聞いてる分には面白い夢なんですけど……」

 

 それは実際に見ていないから言えるんだぞ。踊りの時は拒否したら「さてはアンチだなオメー」って言われてヘルサザンクロスでボコられたし、乗り物の夢では投げられる前に筋肉モリモリのマッチョマンに潰されたし、皆から祝われる夢に至っては最初から最後まで意味が分からなかった。

 

 

「それを聞くってことは、最近なんか悪い夢を見たってこと?」

 

「………はい。

 そ、ソラ様、が……」

 

 

 マグカップを持つ手を震わせながら、ランプはゆっくりと言葉に出していく。

 

「ソラ様が、アルシーヴ先生に………

 こ、殺される、夢を……!!」

 

 いくら俺相手でも流石にソラちゃんがアルシーヴちゃんに封印された光景を見たとそのまま相談する訳にはいかないから、夢ってことにしたのか。まぁ、気持ちは分からなくもない。

 

「よく話してくれたね。それで、ソラちゃんに会わせてほしいって頼んでたわけだ。」

 

 ランプは黙って頷く。ここで気をつけるべきは、あの夜の件を絶対に話さないのはもちろん、悪夢として相談してきた以上は()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだ。

 あの事件を未然に防げなかった以上、残された手は『ランプに日記帳を聖典に書き上げさせること』しかない。そのために必要なのは、ランプが出て行くこと。肩入れし過ぎるのは良くない………良心が超痛むけど。

 

 

「ランプ。誰かが殺される夢の暗示って知ってるかな?」

 

「……え? ………いいえ、知りません。」

 

「もし自分が誰かを殺す夢を見たら、それは『その人との関係を変えたい』って心の現れなんだ。例えば、親を殺す夢を見た場合は、親から自立したいって思っており、大人に近づいている証拠であるとも言われている」

 

「そうなんですか?」

 

「逆に自分が殺される夢は、『古い自分が死に、新しい自分が生まれる』……つまり、願いが叶ったり、新しい自分に生まれ変わる事の前触れと言われている。」

 

「でも、私の見た夢は……」

 

「そ。若干違うよね。今回ランプが見た夢が、『アルシーヴちゃんがソラちゃんを殺す夢』だったから、今挙げた二つを元に考えると……アルシーヴちゃんは、ソラちゃんとの関係を変えることを望む。そしてソラちゃんの願いが叶う!」

 

「ほ、本当なんですか?」

 

「ああ。殺す夢・殺される夢って物騒だけど、意外と悪い夢じゃあないんだ」

 

 

 これでいいはずだ。ランプも「そうなんですね」と入室時よりは一息つけたのか、安心したような顔で言っている。でも、完全に納得はしていないだろう。だって、彼女が見たのは紛れもなく現実なのだから。

 

 

「ローリエ先生、ありがとうございました。相談に乗ってくれて」

 

「いいんだよ。また何かあったら訪ねてくるといい」

 

 

 ……本当にこれでいいのだろうか。

 部屋から出て行ったランプが座っていた席のあまり減ってないコーヒーを、見つめながら考えていた。答えは、濁ったカフェオレのように未だに見えていない。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とまあ、こんなことがあったとさ」

 

「何故他人ごとのように言えるのだ……」

 

「不覚。」

 

 

 数日後、女神ソラの部屋――神殿の最上階の展望ルーム―――には、そんなことを報告する俺と報告を受けるアルシーヴちゃん、そしてハッカちゃんの姿があった。報告内容は、もちろんランプが持ちかけてきた『悪夢』の相談についてだ。現在、女神の部屋は封印されて眠っているソラちゃんをハッカが見張っているため、事件関係者の俺とアルシーヴ、そしてハッカちゃん自身しか出入りできない。

 

 

「相談内容からして、ランプにソラちゃんを封印したトコを見られてた可能性がある。」

 

「心配無用。アルシーヴ様が否定すればいい。」

 

「……そうだな。」

 

 

 ハッカちゃんの堂々とした言葉に、アルシーヴちゃんが少し躊躇い気味に続ける。まぁ、アルシーヴちゃんは何だかんだ不器用だが女神候補生の教育には熱心だ。いち女神候補生の言葉と筆頭神官の言葉、どっちが信用されているかなんて頭では分かってはいるが、やはり生徒を切り捨てるのは気が引けるようだ。……当たり前の感情だ、俺でもやりたくない。

 しかも、この数週間で辺境の鉱石や地下の秘宝なんかも俺とハッカちゃん以外の賢者総出で集めたらしいが、どちらもソラちゃんの呪いを解放できなかったとのことで、気分は目に見えて落ち込んでいる。

 

 

「ハッカ、図書館の書庫内の残りの資料を全て持ってきてくれ。」

 

「いいえ、アルシーヴ様。先ほどお持ちした物で全てです。あとは禁書の類しか残っておりません。」

 

「そうか……」

 

 

 俺が二科目の授業で追われているうちに、アルシーヴちゃんは神殿内の資料をひっくり返すようにしてクリエを大量に得る方法を探していたようだ。禁書を残すまでになって調べてもまだ出てこないところもきららファンタジアで見たとおりだ。

 そんなに禁書はヤバいものなのだろうかと思い、神殿に入りたてでコリアンダーとも会う前の頃にこっそり入ったことがあるが、確かに常軌を逸したものばかりがズラリと並んでいて、精神年齢が大人な俺でもそのえげつない内容に魂消たものだ。拷問用魔術、強制的に服従させる魔法、殺しの呪いなんかは一通り揃っており、あとは永遠に若く生き続ける不老不死の秘術『不燃の魂術』や、原作に出てきた『オーダー』なんかもあった。あの時は、デトリアさんに見つかっていつもの穏やかな雰囲気からは想像もできないほどこっぴどく叱られたっけ。

 と、そんなことを考えている場合じゃないことが、アルシーヴちゃんの葛藤から伝わってきた。

 

 

「私はこのままソラを封じ続けなければならないのか……?

 いつまで続く? いつまで保つ? ……そんなことはあってはならない。何としてもソラを救わなければ………約束したのに……!」

 

「アルシーヴちゃん。」

 

 

 やはりというか、彼女は一人で背負い込もうとしている。ならば、幼馴染としてできるだけ寄り添ってやらなくては。

 

 

 

「ソラちゃんの救出、俺にも手伝わせてくれよ。」

 

「………ローリエ……

 すまない二人とも、一人にしてくれ。少し考えたい。」

 

 

 ……!

 駄目だったのだろうか。かける言葉を、タイミングを間違えたのだろうか。一人にして考えさせた結果を知っていても、変えられなきゃ意味がないと思うと、ハッカちゃんに引っ張られながら出口へ向かう足は止められそうになかった。俺にできるのはただ、「どんな手を使ってでもソラを救わなければならない」という意思を扉越しに聞く事だけだった。

 でもね、アルシーヴちゃん。その意思はちょっと危険だ。誰かが言った……『覚悟とは犠牲の心じゃあない』と。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「い、今……何をすると仰いましたか。もう一度、言ってください。」

 

「オーダーを行う。」

 

 

 大広間に再び神殿中の人々が集められた時、ついに来たかと思った。このあと、ランプはアルシーヴがソラを手に掛けたと言い、他の皆から大バッシングを食らう。その時きっと、俺に縋るかもしれない。「ローリエ先生なら分かってくれますよね!?」とか言って。もし、そんなことをされたら、俺は事前のアルシーヴとハッカとの打ち合わせ通り、冷たく拒まなければならない。下手に肯定したら、俺も神殿を追われる。アルシーヴちゃんを孤立させないためにもそれは避けなければならない。

 

「何のために禁忌を犯す必要があるというのですか!」

 

「既に決まったことだ。お前の意見など聞いていない。」

 

「おかしいです!そんなのソラ様が許す訳がありません!」

 

「今、神殿のトップは私だ。その私が決めたことに逆らうつもりか。」

 

「当たり前です!

 ……やっぱり、ソラ様を手に掛けたのは貴方だったんですね……!」

 

 

 ランプの異議にアルシーヴが能面のような表情で冷たくあしらうと、ついにランプの告発の時は訪れた。

 

「わたし見たんです! 血まみれの部屋で、貴方がソラ様を封印する瞬間を!!」

 

「……世迷い言を。」

 

「しかもオーダーをするなんて……貴方はこの世界をどうするつもりなんですか!

 みんな信じてください! わたしは本当に―――」

 

 

 

「ランプったら、何を言っているのかしら?」

 

 そんな誰かの言葉を皮切りに、否定、侮蔑、不信……大広間中のそういった感情が言葉としてランプに次々と刺さっていく。ソルトやセサミ、フェンネルまでアルシーヴの肩を持ち、ランプの告発を信じようとしない。この構図はイジメそのものだ。前世ボッチだった俺にとっては対象が自身じゃないと分かっていても大ダメージだ。

 

 

「どうして……なんで誰も……!!

 ローリエ先生!」

 

 

 来た。ランプが俺を見つけて助けを求めてきた。

 目を瞑ったままランプを見ないようにする。瞼の向こう側ではランプが悲痛そうな顔をしているだろう。そんなものを見てしまったら、絶対に打ち合わせ通りの言葉が言えなくなる。

 

 

「先生は、分かって―――」

 

「ランプ。」

 

 

 ランプの言葉が良心をゆさぶる。これ以上は感情を抑えられる自信がないので、言いかけたランプの言葉を遮る。

 

 

 

「それはこの前の夢の話だろ。滅多な事を言うんじゃあない。」

 

 

 

 視界が閉ざされた中、ランプの息を飲む音が聞こえた。そして、アルシーヴの「お前は不要だから去れ」という非情な宣告によりランプは神殿から出て行ってしまった。

 先生たるものが、生徒の助けを求める手を振り払ってしまった。よりにもよって、孤立しているランプの手を。

 この後の展開が分かっているとはいえ……いや、分かっているからこそ、やってしまった。

 ……教師、失格だ。

 

 だが、これで俺の立場はハッキリした。ならば八賢者として、何よりアルシーヴとソラの幼馴染として決めるべき覚悟を固めよう。

 

 その後は、ジンジャーが禁忌だとわかってるんだよな? と意味深な言い方でアルシーヴに尋ねたり、アルシーヴが八賢者には追って指令を出すと通達したりして集会は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 オーダーをするという知らせをした集会の後、私は自室にてクリエケージの精製をしながら、ローリエのあの言葉を思い出していた。

 

 

『それはこの前の夢の話だろ。滅多な事を言うんじゃあない。』

 

 

 あいつにしては頑張った方だ。いつもはどうしようもなくスケベで変態な奴だが、魔法工学の教育には熱心で、生徒思いの男だ。そんな奴がランプのあの助けを拒むなんて苦渋の決断だっただろう。

 

 

「よ! アルシーヴちゃん。」

 

「……ローリエか。」

 

 

 そんな心配していると、噂をすればなんとやら、ローリエがやってきた。元気そうなのは結構だが、せめてノックくらいはしてほしい。

 

 

「私が着替えている最中とかだったらどうする積もりだ。」

 

「ん? そりゃあ、ラッキースケベに感謝して、愛の語らいを……」

 

「またハッカにハンマー叩きつけられるぞ?」

 

 

 そう言うとうっ、とばつの悪そうな声を出してっきり黙ってしまった。中断していたクリエケージの精製を再開すると、ローリエは私の隣に座って、私の手元を見ながら見よう見まねで造りかけのクリエケージを精製しだした。

 

 

「……なんのつもりだ?」

 

「言ったよね? 手伝わせてくれって。」

 

 確かにそう言ったが、ソラに「必ず助ける」と誓ったのは私であり、そのために手段を選ばないと決めたのも私だ。全ての責任は私にある。

 

 そう言おうとしてローリエに顔を向けると、ローリエの視線が既に私を捉えていた。

 

 

「いや、違うな。『手伝わせてくれ』って言い方は適切じゃあなかった。俺の心を表しきれてなかった。

 ―――一緒に助けようぜ、ソラちゃんを。」

 

 

 そう言うローリエの目を見た私は言葉を失った。

 あの夜に見た焦りや執念のようなものは感じなかった。その代わりに感じたものは、確固たるものだった。まるで、ソラが助かるという確信を持っているかのような、必ず成し遂げる覚悟のような、そんな固い意志だった。

 

 

「ああ、そうだな。」

 

 

 気づいたら、そんな事を言っていた。筆頭神官になってから、久しく忘れていた頼もしさを、この時ほんの少しだけ思い出した。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
ランプの相談に乗ったばっかりに、ランプの告発に否定せざるを得なくなった教師にして、アルシーヴを守りながらソラを救う覚悟を固めた男。こうして思考を切り替えられたのは、某ギャングスターの活躍を前世で見ていたことによる影響が大きい。


アルシーヴ
ローリエとは別の方向で、『ソラを救うこと』『それに伴う責任を一人で背負うこと』の両方を覚悟した筆頭神官。ローリエの某ギャングスターばりの決意を目の当たりにして、(ソラ襲撃事件の関係者だということもあり)ローリエに少し心を開いた。ただ、この後のギャグパートでほぼ確実に「あの時の感情を返せ」となるのでこの時点でフラグとか立ってないからね。


ランプ
皆からバッシング食らった上に信頼していた先生二人に裏切られるという折れる直前までハートフルボッコをされた可哀想な女神候補生。この後は原作通りマッチと合流。逃げてきた辺境の村にてきららと会い、彼女の「コール」の才能を発掘する。


ソルト&セサミ&フェンネル&ハッカ
全面的にアルシーヴの肩を持った賢者達。ハッカは全てを知った上でアルシーヴとローリエとの打ち合わせ通りランプをディスったが、フェンネルは間違いなく素の信仰からやったと容易に想像できる。残りの二人は普通に上司として信頼していたからだろう。


メタル賽銭箱とミニ賽銭箱の違い
詳細はアニメ『ゆるキャン△』6話を参照。
しまりんが図書館にて買っちったコンパクト炭火グリルを見てニヤニヤしている所を斎藤さんに見られ、斎藤さんが言った言葉が「なにそれ?メタル賽銭箱?」。
その後、なでしこにも見つかり出た言葉が「なにそれ?ミニ賽銭箱?」。つまり、違いはほとんどなく、斎藤さんが呼んだかなでしこが呼んだかの違いしかなく、完全なひっかけ問題である。


アリス・カータレットの出身地
イギリスだというのはこの連載を読んでいる読者の皆様なら分かると思うが、公式設定ではもう少し詳しく決められており、イギリス・コッツウォルズ地方のバイブリー(行政教区)とされている。
コッツウォルズは「羊の丘」という意味がある。蛇足になるが、イギリスでは16世紀ごろ牧羊目的で第一囲い込みという排他的な耕地統合があった。同時に農民の仕事を奪っていったため、「羊が人間を喰い殺している」との批判も生まれたほど。こうして失業した農民が土地に縛られなくなった結果、産業革命の労働者の基盤になったという見方もある(諸説アリ)。


聖イシドロス大学の武闘派・穏健派・学園生活部
詳細は「がっこうぐらし!」6巻~9巻を参照。
ローリエは、それぞれの派閥がどんなものか、お互いの関係は、最終的にはどうなるのかをアバウトで書けていれば点をあげるつもりでいた。


ローリエが見た悪夢
それぞれの元ネタは「ポプテピピック」、「劇場版ドラゴンボールZ」、「新世紀エヴァンゲリオン」。ヘルサザンクロスの元ネタは「聖剣伝説3」のゼーブルファー。この聖剣伝説3のトラウマをパロディしたのがポプテピピックであり、アニメでもいともたやすく再現した。
丸い乗り物は言わずと知れたパラガスのポッド。2018年じゃない方のブロリーはパラガスをポッドごと潰す力業をやってのけるが、このシーンは後にあらゆる所でネタにされる。
皆に祝われる夢はの元ネタはエヴァンゲリオンの最終回。本来はシンジ君がアイデンティティを確立する名シーンなのだが、銀〇や勇者ヨシ〇コがパロディした結果、ネタとして扱われる事になってしまった。



△▼△▼△▼
ローリエ「俺ちゃんに最初の指令が下された!……ってシュガーちゃんの補佐!? 子供のお守りと何が違うんだよーって思ったら、アルシーヴちゃんによると他の指令も兼ねているみたいだ。それは、二人きりの秘密ってことでいいのかな?」
アルシーヴ「誤解を招く言い方はやめろ!!」

次回『ローリエとシュガーとゆのっちと』
シュガー「つぎも見ていってね!」
▲▽▲▽▲▽



あとがき
今日のエイプリルフールイベントは意外すぎた。ディーノは兎も角、タカヒロさんはマジで来てもいいんじゃよ?(チラッチラッ)ちなみに、この連載にエイプリルフールとかはありません←
さて、次はシュガー&ひだまりスケッチ編ですね。結構昔のアニメだから細かい所が間違うかもしれない……


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第12話:ローリエとシュガーとゆのっちと

“平凡な私が、ちょっぴりはみ出した気分になれる。”
   ……ゆの


「ブーッブーッチッ、ブーッブーッチッ、ブーッブーッチッチッ、」

 

 俺が出す低いビートに合わせて、クロモン達がゆっくり回りながら情けないポーズをとる。

 

「テーテテテテーテテテテーテテテテーテテテテー」

 

 かと思えば、曲調を変えた途端に、クロモン達がゆっくり回るのはそのままに、今度は全身の筋肉に力を入れ、その小さな体から力がみなぎるかのようにマッスルポーズをとる。

 

 

「ブーッブーッチッチッ、ブーッブーッチッチッ、ブーッブーッチッチッ、テーテテテテーテテテテーテテテテーテテテテーテテッテテッテてっ痛ぇ!!!!!?」

 

「クロモンに変なことを教えないでください」

 

 

 ソルトにチョップで叩かれ、ライ○ップが中断された。IQが2ほど減った気がした。

 だが、俺の周りにいたクロモン達は、よほど俺が教えた「ライ○ップごっこ」が気に入ったのか、ソルトによってBGM(という名の俺のアカペラ)がなくなると「もっとやりたい」と言わんばかりに俺に集まってくる。

 

 

「ローリエのその知識はどこから来るのですか?」

 

「あぁ、これ? たまたま見つけた市立図書館の書庫にあったぜ。『クロモンにストレスを与えないトレーニング』って本でな」

 

 

 ソルトの情報源についての質問には、流石に本当の事を言う訳にはいかないので、クロモンを撫でながらあらかじめ用意していた超大嘘をつく。

 

 

「そうなんですね。ところで、アルシーヴ様がお探しでしたよ」

 

「アルシーヴちゃんが?」

 

 

 おっと、そんな時間になってしまっていたか。それじゃあ、ライ○ップ式訓練はソルトに任せて、アルシーヴちゃんの下へ行くとしますか………え? やらないのソルト? そんなこと言うなよ~、クロモン達も見たがってるぞ!群がってるぞ!期待してるぞ! そら、ソルトのいいとこ見ってみたい! あそーれソルト!ソ・ル・ト!!ソ・ル・ト!! ソ・ル………あ、ちょっ、待て!ハンマーをこっちに向けるな!!そしてにじり寄ってくるな! 悪かった!冗談だから!だからやめろォォォォォォォォォォォォォォッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いい加減にしろローリエ」

 

「反省はしている。後悔はしていない」

 

「余計にタチが悪いわ」

 

 あの後、ソルトを煽りすぎた結果始まった大人気ない鬼ごっこをシュガーに目撃され、鉢合わせたジンジャーに顔面パンチを食らわされ、それがアルシーヴちゃんに伝わったことで、しこたま怒られていた。俺だけが。解せぬ。

 

「まったく、指令を通達するだけのつもりだったのに……何がしたいんだお前は」

 

「指令? 早速か?」

 

 ああ、とアルシーヴは指令について話しだす。

 なんでも、近々オーダーを行うらしいので、シュガーが行うクリエメイト及び彼女らのクリエの回収の補佐をして欲しいとのことだ。シュガーは詰めが甘いところがあるので補佐役をつけた方が良いと判断したとのこと。

 ……そして俺に下された指令はそれだけじゃあなかった。

 

 

「あの夜の襲撃者の、手掛かりがあれば探してきて欲しい。」

 

 

 シュガーに感づかれないようにな、と付け加えてアルシーヴちゃんは去っていく。きっとオーダーの準備だろう。俺も早くシュガーちゃんと合流してゆのっち達を保護しに行こう。

 

 

「あぁそうだローリエ、最後に頼みを一つだけ。」

 

「?」

 

 そう思ったらアルシーヴちゃんに某刑事みたいな引き留め方をされる。

 

「お前の武器……ケンジュウとかいったか。アレは…シュガーの前では使わないでくれるか?」

 

「そんな事か…当たり前だろ? 子供に残酷シーンは見せられない。」

 

 ただでさえソルトは俺には超塩対応なのに、シュガーに何かあったりトラウマ植え付けちゃったりしたら、俺はソルトの目の前で切腹でもして詫びるしかなくなるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に俺がやらないといけないのか?」

 

「ああ。どうしても写真解析の暇がなくって、俺の次に俺の発明に詳しいお前にしか頼めなくってな。分からない事があれば取扱説明書を読んでくれ。」

 

「仕方ないな……」

 

 

 そう言うと俺の唯一の男友達は頭をかきながら呟く。これからはオーダーを行うアルシーヴ&賢者達ときらら&ランプ&マッチの戦いが始まる。賢者たる俺は確実に忙しくなる。

 ソラ襲撃事件に備え神殿中に仕掛けたカメラに何かが写っていれば、それは大きな手がかりになる。しかし、俺は暫く神殿を空ける。だから今のうちに比較的手の空いているコリアンダーに頼む、というワケだ。もしコリアンダーでも分からないことがあっても、連絡手段は用意してある。

 

 

「連絡が必要なら、この()()()()に連絡してくれ。」

 

 

 そう言ってスマホの形をした金属製の板を見せる。そう、この携帯電話があれば、迅速な連絡ができる。まぁさすがに前世(現代)のスマホみたいに万能なものは作れない。できたのはせいぜい通話機能だけ。いわばスマホ型トランシーバーといった方が正しいか。

 

 

「分かった。こっちは任せて欲しい。そっちこそ、無茶するなよ。なにかあれば、連絡する」

 

「おうよ」

 

 

 何だかんだ言いながら、コリアンダーの姿は神殿内へ消えていった。

 

 

 

「さぁおまたせシュガーちゃん!

 行こっか!」

 

「もー、遅いよローリエおにーちゃん!

 アルシーヴ様のおーだーに遅れたら大変なんだよ!早くしないとおにーちゃん、置いていくよ!」

 

 

 ゴメンゴメン、と謝りながら俺はシュガーと手を繋ぐ。これから、オーダーされる舞台で何をするべきか考え始めるうちに、俺とシュガーは神殿前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 気がついたら、私は森にいた。

 

 

 さっきまで、ひだまり荘にいたはずなのに、光に包まれたと思ったら全てが変わっていた。

 

 

 光が遮られた薄暗い森の中でひとり。

 

 沙英さんも、ヒロさんも、乃莉ちゃんも、なずなちゃんも、宮ちゃんも、みんないなくなっていた。

 

 いきなり一人ぼっちになって、訳がわからなくって、森が不穏なざわめきさえ、恐ろしく感じた。でも、更に恐ろしいものが現れた。

 

 

「グルルルル………」

 

 

 茂みをかきわけて現れたのは、いままで見たことのない、茶色の狼のような動物。それが、私を見つけると餌と認識したのか、喉をならして、鋭いキバを見せながら少しずつ近寄ってくる。

 そのキバとツメをもってすれば、私など容易く引き裂かれてしまうだろう。あまりの恐怖に視界が滲み、木にもたれかかった体が竦んで身動きがとれない。

 

 こんな森の中で、わけもわからないまま死んでしまうのだろうか。

 

 一人ぼっちのまま、目の前の恐ろしい狩人に殺されてしまうのだろうか。

 

 怖い。

 

 怖い。怖い。

 

 助けてという声さえ出せない。

 

 今にも私に飛び掛からんとする狼を前に、もうだめだという絶望とこれは夢だという思い込みから目をぎゅっと瞑った。

 

 

 

「ギャンッ!!?」

 

 

 

 ……予想していた痛みは、襲ってこなかった。

 犬の悲鳴のような声におそるおそる目を開けてみると、そこにいたのは……

 

 

「あっ、クリエメイトのおねーちゃんだ!! だいじょーぶ?ケガはない?」

 

 私と同じくらいの身長の、動物の耳を生やしたピンク髪の女の子と。

 

「間一髪だったな……。よくやったシュガー、ゆのっちを安全なところへ避難させよう。」

 

 周囲を警戒する、緑髪のたくましそうな男の人だった。

 

 

 

 ……というか今、私の事を「ゆのっち」って言った?この男の人……??

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 転移からわずか数分でゆのっちを確保。

 

 これほど重畳なことはそうそうないだろう。

 

 景色が変わったと思ったら、シュガーがいきなり「すごく甘い匂いがする!」と言って走り出したから、追いかけてみたらゆのっちが狼に襲われかけていた場面に遭遇して驚いた。

 

 シュガーはあっという間にカスタードパンチで狼をぶん殴って追い払うと、ゆのっちに人懐っこく話しかけていた。

 

 俺は俺で、少し()()()()()()を感じたもんだから、「シュガー、ゆのっちを安全なところへ避難させよう」と言いつつ周囲を警戒した。

 

 

 ………。

 

 

 やはりというべきか、俺達が助けに入ったと同時に逃走したようだ。もしかしたら、あの夜に襲撃した呪術師の仲間か何かかもしれない。そうなったら、そいつらを見つけて、尋問する必要がある。

 そこで気をつけるべきはシュガーの嗅覚だ。さっきもその嗅覚を目の当たりにしたが、彼女は「甘い匂いがする」とかいってクリエメイトをある程度探せると考えるべきだろう。となると、俺がもし拳銃で敵を蹂躙した場合、ほんの少しの返り血や、拳銃を発砲した時の焦げた臭いを嗅ぎつけられる可能性がある。

 成る程……アルシーヴちゃんが言っていたのはこういうことだったのか。シュガーのことを考えると、今回は拳銃が使えないな。ジンジャーから教わった体術だけで何とかするしかないようだ。まぁ元より子供にグロテスクなものは見せないつもりだけど。

 

 

「おにーちゃん! 本当においてくよ!」

 

「…! あぁ、ごめん! 今行く!」

 

 

 とりあえずは、先頭を行くシュガーとそれについていくゆのっちと共に、事前にアルシーヴちゃんから聞いたアジトを目指すとしよう。森を抜けたらある村の、一番大きな屋敷がそうらしいから。

 

 

「あの……」

 

 ゆのっちが俺達に話しかけてくる。

 

「どーしたの?」

 

「何だい?」

 

「どうして私の事、知っているんですか?」

 

 

 ○澄さんの声で至極当然な質問を投げかけてくる。まぁ知らん奴からいきなり名前を呼ばれたら「なんで俺(私)の名前知っているんだ!?」ってなるわな。俺でもそうなる。

 しかも、今のゆのっちは、異世界召喚されて超戸惑っているし、心細いことだろう。歩きがてら、ではなく腰を落ち着けて筋道立てて話した方がいいだろう。

 

 

「クリエメイトは捕まえてこいってアルシーヴ様から命令されたんだよ!」

 

「………???」

 

 

 ……あのなシュガー。いきなりその説明で解る奴はまずいないぞ。いるとしたら、そいつは多分盗聴(タッピング)の能力者かスタンド能力者だ。まぁそいつら右ストレートでぶっとばされるかオラオラされるけどね。

 

 

「シュガーちゃん、捕まえるなんて言い方はよせ。

 実はこの世界は、君たちがいた世界とは違うんだ。」

 

「違う世界……!?」

 

「そう。エトワリアって言ってね、君らで言うところのファンタジー世界だ。信じられないと思うけど……」

 

 そうして俺はゆのっちにこの世界のことを軽く説明した。剣と魔法のファンタジー世界であること、この世界に『聖典』という教科書のようなものがあること、その『聖典』は、女神という別世界を見ることができる人物が見たものを書いた書物であること……その「別世界」にゆのっちがいた世界があることも。

 

「証明する手段はいくらでもある。少なくとも俺達は敵じゃない。」

 

「……分かりました」

 

「……え?」

 

「何というか、この子を見ていればわかる気がするんです。」

 

「……そうか。」

 

 ……なんということだ。まさかゆのっちが俺の言葉を信じてくれるとは。シュガーの無自覚な警戒心を煽る言い方をカバーできたのは良かった。だが、ここまで素直だと、「敵じゃない」といった合理的な嘘が俺の罪悪感を掻き立てる。

 

 

「……申し遅れたね。俺はローリエ。目の前のキツネ耳のお嬢さんはシュガーちゃんだ。」

 

「シュガーだよ! よろしくね、おねーちゃん!」

 

「ゆのです。知っているみたいですけど……」

 

 

 自己紹介を通しても、まだゆのっちの作り笑いを見るに緊張と警戒は解けてないだろうなと思いながら、屋敷へ向かう。さて、どのタイミングで「あと五人のひだまり荘の住人が召喚されている」ことをゆのっちに伝えるべきか……

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をいつ、どうやってシバき倒すべきかも考えておかなくてはな………。

 

 

「シュガーちゃん。さっさと屋敷ん中に入って、優雅なティータイムと洒落込もうぜ?」

 

「いいねー! 甘~いお菓子も紅茶も用意しよう!

 ゆのおねーちゃんも、お菓子と紅茶いる?」

 

「う、うん……じゃあ、お言葉に甘えて。」

 

「これで綺麗なお姉さんもいたら文句なしなんだけどな。」

 

「もー! ローリエおにーちゃんはそういうことばっかり! シュガーやゆのおねーちゃんの何が駄目なの!?」

 

「二人とも子供だろうが。そういう台詞(こと)はゆのっちは5年後、シュガーちゃんは10年後に言うんだな!」

 

 

 何はともあれ、まずは屋内に入ろう。盗賊の殲滅はそれからだ。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 ()()()から教えてくださった情報通り、三人の男女が現れた。やはり()()()に間違いはなかった。ボスは「胡散臭いから信じるな」と言っていたが、これは一攫千金のチャンスだ。

 

 しかも、八賢者のうちの二人が直々に守るように一人の少女と歩いている。フードを被った少女が何者か知らんがこれじゃあ俺達盗賊にとっては「重要人物です、攫ってください」と言っているようなものだ。

 

 更に、その守っている賢者がよりにもよって最弱と噂されている二人だ。

 

 小さな女の子はシュガーという賢者。フレンドリーな性格は愛されるとともに大きなスキを生む。しかも本人にその自覚がない。そして男の方はローリエとかいうただの神殿の教師だ。しかも、女にうつつを抜かしている大間抜けでもあるらしい。

 そのバカ二人をかわしてあのお嬢さんを攫うなんて、赤子の手をひねるよりも簡単とみた。

 

 

 ……この仕事、楽に終わりそうだぜ。

 

 さて、もう少ししたら奴らがどこにアジトをつくるかわかるはずだ。このまま、隠密を続けるか。

 

 

 

 この時の俺達には分かるはずもなかった。

 

 

 

 

 この時の判断が………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達盗賊団を破滅に追い込むことに。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 シュガーの補佐(というのは建て前で本来は女神ソラ襲撃犯の手がかり調査)に指名された八賢者。常に飄々とした立ち振る舞いで、ソルトに追いかけられたりジンジャーにパンチされたりした。観察眼は二回の人生で培った『周りを見る力』のなせる技だと思って頂ければ幸いです。まぁ、ローリエ本人は「魂だけが古ぼけて錆び付いている」程度にしか思ってないかもしれないが。

シュガー
 第1章ボスの賢者。彼女の耳はキツネ耳らしいので、キツネの性質をある程度受け継いでいる……という設定。キツネはイヌ科の動物なので、鼻が利くという設定を生やし、速攻でゆのっちを見つけて貰った。彼女のおかげで、1章でローリエは拳銃を安易に使えません。彼の本気を早く書きたい。

ゆの
 「ひだまりスケッチ」の主人公にして、今回のとらわれのお姫様。アプリ版ではシュガーしかいなかったので、現状の把握が全くできておらず、シュガーに対しても戸惑う描写があったが、解説役のローリエのおかげで、より早く打ち解けられたという違いが生まれる。

コリアンダー&アルシーヴ
 神殿居残り組。と思ったらアルシーヴが様子を見に来た描写がアプリ版であったので、次回も出番が貰えます。コリアンダーは神殿内の調査のため、工夫して出す必要が出てくるが。


ひだまりスケッチ
 蒼樹先生による、4コマ漫画。やまぶき高校美術科に合格したゆのが、アパート『ひだまり荘』にて、宮子や沙英、ヒロやなずな、乃莉たちと日常を送るゆったりとした物語となっている。
 ちなみにうめ氏の他の作品として「魔法少女まどか☆マギカ」「こみっくがーるず」等があるが、ソラがまどマギの世界を観察しようものなら、ソラのSAN値は激減するだろう。

ライ○ップごっこ
 2013年頃から流れた独特なCMに出てくるモノマネをする、CMを見た者なら一度はやったことのある遊び。前半の低音ベースでだらしなく演じ、後半の「テーテテテテー」で全身に力を入れ、マッチョやスリムなボディを演じる。

盗聴(タッピング)の能力者かスタンド能力者
 元ネタは『幽遊白書』の室田と『ジョジョ』三部のテレンス。程度は違えど心を読む能力者は、その能力に依存する戦い方をする。能力自体が強力なこともあり、苦戦を強いられるが、能力に依存するが故に思わぬ作戦に敗れるのがテンプレ。この作品にゃ関係ないけど。

携帯電話
 ローリエが作った携帯電話は、皆さんが想像するような高性能なものではなく、見た目はスマホ・機能はトランシーバーと考えれば分かるだろうか。電気を帯びた鉱石を整形・充電し、電池代わりにすることで、電源のオンオフができるトランシーバーを開発した。


△▼△▼△▼
ローリエ「ゆのっちを確保できたシュガーは気づいていないみたいだけど、村に着いてからゆのっちを狙っている連中がついてきているみたいだ。多分村に巣食う盗賊だと思うんだけど……虫ケラにしてはあまりに持ってる情報がピンポイント過ぎて……?」

次回『Fighting Moon』
シュガー「見てくれないとおこるんだから!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
 次回から、次回予告を編集します。その都合上、ちょくちょく過去作をテコ入れします。


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第13話:Fighting Moon

“一番強い賢者?
 まず俺はないとして……やっぱハッカちゃんかな? 夢幻魔術、チートじゃない?”
   ……ローリエ・ベルベット
    「一番強い八賢者は誰?」という質問に対して。


 ここにきて、今更こんな事を言うのも何だが、俺、ローリエ・ベルベットは転生者である。生まれた時から前世の記憶があるわけだが、そのおかげか、俺には人生を長く生きている自覚がある。

 前世(日本)でおおよそ20~25年ほど(予想でしかないが)。今世(エトワリア)で20年ちょい。それだけ生きていると、体はピチピチの20代のはずなのに、食べ物や味付けの好みは年相応のそれになりがちである。つまり、何が言いたいかというと。

 

 

「……やっぱこれチョットきついな、ゆのっち…」

 

「そ、そうですね……少し甘過ぎるような……」

 

 

 ……シュガーの出す、お菓子や紅茶が甘すぎて(オッサン)には(つら)いということだ。今、シュガーの出した紅茶をゆのっちと飲んでいるのだが、いささか、いや、結構甘すぎる。紅茶はまだ温かいのに、カップの底に溶け切らなかった砂糖が溜まっているほどだ。これは紅茶としてダメだろう。

 

 

「えー、なんでよー!

 これくらいの甘さがちょうどいいんだよ?」

 

「て、程度ってものがあるよー!」

 

「そうだぜ。シュガーちゃん、このままだと俺くらいの年齢(トシ)で糖尿病になっちまうぞ?」

 

「とーにょーびょー?」

 

 

 栄養に困らない日本社会なら兎も角、どうやら中世的なエトワリアには、糖尿病や高血圧といった、いわゆる生活習慣病という概念がまだ根付いていないようだ。まぁその分それらの患者や予備軍も少ないといえるけど。将来のシュガーちゃんを健康的にするために、大人のお兄さんから一つアドバイスするとしよう。

 

 

「そう。心臓病や目の病気の元になるし、足が腐って切り落とすしかなくなることもあるんだぜ?」

 

「あ、足が……!!?

 う、うそだよ、ね……?」

 

「いや? 嘘は言ってないぞ」

 

 

 心臓病や目の病気と聞いてキョトンとしていたシュガーも、足を切り落とすと聞いて見る見るうちに顔色が青くなっていく。そして、お菓子や紅茶を口に運ばなくなった。そこで見てられなくなったのかゆのっちが俺に苦言を呈する。

 

 

「ローリエさん! 言いすぎじゃ……」

 

「シュガーちゃんの将来のためさ。これを機に砂糖の量を減らせば問題ない。

 シュガーちゃん、今から気をつければ大丈夫!」

 

「ほ、ほんと……?」

 

「ああ。今日から少しずつ紅茶に入れる砂糖や練乳を減らせば問題ないよ。」

 

「う、うん、わかった。ちょっとずつ砂糖と練乳をへらして、とーにょーびょーにならないようにする……!」

 

 

 シュガーちゃんをほんの少し脅した後のカバーをしつつ、甘い茶会の()()()()参加者に目を向ける。

 

 

「……とまぁ、こんな感じで上手くやってるよ、アルシーヴちゃん。」

 

「……あぁ、そうみたいだな。…残りの人物も頼む。」

 

 

 そう。我らがアルシーヴちゃんである。彼女もまた、甘い紅茶をいただくのに四苦八苦しながら、「どうしてこうなった」って顔をしている。

 

 まぁただ単純に俺が誘いまくっただけなんだけどね。

 当然いい顔をしなかったが、シュガーも「お菓子と紅茶をごちそうします!」とねだってきて、最終的に涙目になるもんだから、お茶会ついでに報告するという条件でアルシーヴちゃんは折れた。

 

 その結果、クロモン達に囲まれ、甘過ぎる紅茶を飲みながら、ゆのっちの前でシュガーがゆのおねーちゃんを捕まえましたー!と言い俺がゆのっちにシュガーのフォローをするという、アリスのお茶会顔負けの意味不明なシチュエーションが出来上がったケド。

 

 あと、シュガーの報告の中に気になるものがあった。

 クロモン達が一部戻ってこない、というものだ。もう既にランプはきららと合流し、きららはコールに目覚めたのか。……ランプには悪いことをしたし、これから苦労かけるだろうな。

 

 

 さて、シュガーの報告も大方終わってグダり始めたので、俺も俺で報告をしないとな。

 アルシーヴちゃんに視線で「報告したいことがある」と告げる。彼女がこっちを凛々しく一瞥したかと思うとガタッと席を立った。

 

「と、とにかく……シュガー、お前は為すべき事を為せ。分かったな?」

 

「はーい! この八賢者の一人、シュガーに任せてください!」

 

「ローリエ、神殿の友人から伝言がある。こっちに来てくれ。」

 

「オッケー。」

 

 

 クリエケージのあるお茶会の部屋から出て行くアルシーヴちゃんについていくように、俺も部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それでローリエ。報告とはなんだ?」

 

「単刀直入に言おっか。……ゆのっち達クリエメイトが何者かに狙われてる可能性がある。」

 

「何だと?」

 

 屋敷の玄関で簡潔に行われた報告は、アルシーヴの眉をひそめさせた。

 

「狙っているのは誰だ?」

 

「ただの盗賊だよ。人攫い目的かもな。でも、もしかしたら裏があるかもしれないから……調べに行ってもいいかい?」

 

 俺の言葉に目を閉じて暫し考え込んでから、目を開けて返事を返す。

 

「分かった………シュガーには素直に用件を伝えておけ。

 それと、無茶はするなよ?」

 

 よし、アルシーヴちゃんの許可は貰った。あとは、シュガーに盗賊関連の報告をするだけだ。でも、まだ時間に余裕があるな……それに、オーダーは使用者のクリエを消費する。

 

「それは一番無茶をしている君に言われたくはないかな。」

 

「っ!?」

 

 俺が出せる一番いい声で、彼女を玄関の壁に追い込み、壁ドンの体制をとる。

 

「ささっ、オーダーの疲れを癒やすために、2階にベッドを用意してある! 俺と一緒に少し休んでいくと痛”ッ!!!?

 

 

 ……いい所でおでこにハンマーが入る。

 吹っ飛ばされ床に倒れ伏した状態で顔を上げると、ここにいないはずのハッカちゃんがアルシーヴちゃんの隣でハンマーを構えていた。

 

 

「な……何故…ハッカちゃんが……」

 

「ソルトの計算通り。アルシーヴ様へのセクハラ厳禁。」

 

「お前って奴は本当に………帰るぞ、ハッカ。」

 

「あぁ待って!! 帰らないでアルシーヴちゃん!!!」

 

 俺の制止もむなしく、アルシーヴちゃんはハッカちゃんとともに転移してしまった。

 ………くそぅ。こうなったら諦めて例の盗賊どもに八つ当たりでもするか。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「とーぞくが出たの!?」

 

「ああ。狙いは恐らくゆのっちと他に召喚された人達だろう。」

 

 

 やはりというか、シュガーは気づいていなかったようだ。

 シュガーは実力自体は問題ないんだけど、何というか脇が甘くて、不安なんだよな。もしきらら達以外が来たときのためにちょっと監視役を置いていこうか。

 

 

「だから、俺は今からそいつらをぶっ倒しに行く。だから、シュガーちゃんはここでゆのっちを守りつつ、ほかの子も探して欲しいんだけど……いいかな?」

 

「シュガーが行ってローリエおにーちゃんがここを守るんじゃダメなの?」

 

「女の子同士の方が、ゆのっちも落ち着くだろう?それに、相手は怖~い人達だ。俺に任せろ。」

 

 

 そうシュガーを説得しながら、こっそりG型魔道具を部屋の隅に忍ばせる。無臭なのでシュガーに見つかる危険性は少ない。もし誰かに見つかっても脱出するように設定してある。

 

 

「そういうわけだから、行ってくるよ。」

 

 

 シュガーの「いってらっしゃーい」の言葉を背に受けながら、俺は屋敷の玄関から外に出た。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷から八賢者ローリエが出て行くのが見える。その表情は、噂通りの間抜け顔で、コイツが賢者とは到底思えなかった。しかもその表情のまま村の娘をナンパし始めた。コイツはバカだ。きっと、何かのコネで賢者になったに違いない。

 この男が屋敷を出たということは、室内に残っているのはただの子供にすぎないシュガーと誘拐対象だけだ。今すぐ引き返して、ボス含めた仲間たちに今が攻め時であることを伝える時だ。

 俺はいつも通りの行き慣れた道を通って地下の遺跡をそのまま利用したアジトへと戻った。階段を下りるとたむろしていた皆が振り返る。

 

「おい、戻ったぜ皆!

 今屋敷の守りが甘い、とっとと仕事に入ろうぜ!」

 

 そして俺がかねてより伝えていた誘拐計画の実行を仲間に急かせる。

 

「おい、お前!

 勝手なことはするなと言ったはずだぞ!」

 

 そこに異議を唱えたのはボスだった。

 

「しかしボス!

 ()()()の『賢者二人がガードする少女が現れる』って情報は間違ってなかった!」

 

「あの女の言葉は信じるなと言っただろう!

 それに、その賢者って誰だったか分かっているのか?」

 

「もちろんです! シュガーとローリエですよ!

 あんな雑魚二人、どうにでもなりますよ!!」

 

「そうです!あんなの、ただの子供と教師じゃないですか!」

 

「はやく行きましょうボス!」

 

 そうだそうだ、と俺に賛同する声が響く中で、最年長であるボスの表情だけが芳しくなかった。ボスが首を縦に振りさえすれば、すぐさま行動に移せるというのに良しと言わないその姿勢は、ぐずぐずしているように見えて、はやる心がざわつく。

 

 

「黙れお前ら!!!」

 

 

 そうして口を開いた第一声が、そんな叱責だった。

 

 

「お前もお前だ、この馬鹿野郎が!! よりにもよって、あのローリエを敵に回しやがったのか!!!」

 

 

 その次に、作戦を立案した俺を怒鳴りつけてきた。

 

 

「ぼ、ボス……? ローリエが何だって言うんです……?」

 

「あいつはな、次々と未知な発明をした男だぞ!

 小型カメラも、自動掃除機も、空飛ぶ機械も、全部あいつが作ったものだ!! 不気味な武器を創っているって噂も……」

 

「そういうこと。」

 

 

 ボスの声に知らない声が割って入ってきた。

 

 あまりに突然の声振り向いてみると、黒い外套を羽織りサングラスをかけた緑髪の男が階段に立っていた。

 何故だ。何故、ここが分かったのか。

 

 

「おたくらには悪いが、お縄についてもらうぜ。」

 

 

 俺らが臨戦態勢になるかならないかで戸惑っている隙に、奴は何か()()()()()()()()投げた。

 

 

「お前ら!!それに近づ――」

 

 ボスが言い切る前に、それから閃光が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 そこから先は、あっという間だった。

 

 目をやられている間に仲間たちの呻き声が次々と聞こえてくる。

 やっとのことで視界が回復したかと思ったら、立っている人間はかなり減っていた。

 

 俺はナイフを手に取り奴に突撃した。

 真っ直ぐに突き出した右手を、奴に吸い込まれるように伸ばしたが鋭利な切っ先がぶつかる前に奴はフッと姿を消した。

 結果ナイフは空を切り、かと思えば手首と肩を掴まれる。その下方向から、膝が俺の肘に向かって突っ込んできて、それがぶつかると同時にバキッと嫌な音がする。

 

「ひぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」

 

 肘が曲がってはいけない方向に曲がっているのが見えると、そこから焼け付くような激痛が襲いかかり、ナイフを落としてしまう。

 そこに隙ありと言わんばかりに腹に鈍痛が走る。それで足の力も抜け、地面に倒れた。

 

 

「はい、一丁あがり」

 

 

 あとに残るのは、まるで軽い仕事を終えたかのような賢者の声だけだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 さて、賢者になってから初の実戦で緊張したが、上手くいって良かった。

 

 拳銃が使えないために念のために持ってきてあった閃光手榴弾が役に立ったことも、比較的早く、こちらの被害もなしに終わらせられた要因だろう。

 

 たとえ相手が複数人いようが武器を持っていようが、“激しい光を直視した時の人間の行動”は一つしかないのだ。それは『身体を丸める』こと。老若男女、どんな人間でもやる本能のようなものだ。そしてそれは、盗みを生業として、人殺しもしている盗賊も例外じゃあない。

 

 そして、体術についても問題ないようだった。ジンジャーに教わった成果が一応あったのか、盗賊相手でもある程度は戦える事が分かった。戦い方を思い切り変えたのが正解だった。

 ジンジャーは、その有り余るパワーを利用したごり押し戦法を主としているが、俺はどうやっても単純なパワーでジンジャーに劣ってしまう。あの華奢な身体のどこにそんなパワーがあるのか不明だけど。そうなると、俺は他の部分でカバーしなければならない。

 そこで俺は不足面を技術でカバーしようとした。ジンジャーの戦い方のテクニック面を見習いつつ、人体急所や足止め用の武器など前世の知識を活用してそれっぽい戦術を組み立てた。まぁ完全に独学なのでまだ不完全なんだろうが。

 

 

 やった事は言葉にすれば簡単だ。

 

 閃光手榴弾で目を眩ませた隙に、敵の肝臓にあたる部分を腹パンしたり、顎をブン殴ったりしただけだ。盗賊のアジトには酒瓶が転がっていたことから、盗賊の大方は酒を飲んでいたことが分かったので、肝臓を叩かれるのはかなりの痛手だろう。また、顎は衝撃を加えられると、脳が振動してダメージに繋がる。

 

 

 

 そんな感じで盗賊達を無力化したのだが、少し聞きたいことができた。最後に腕を折って無力化した、下っ端の盗賊と盗賊の親玉が気になることを言っていたからだ。

 

「ねーねーちょっと、聞きたいんだけどさ」

 

「ぅぅぅ……」

 

「………。」

 

 親玉は黙ったままこっちを向くが、下っ端のほうが激痛に顔を歪ませながら睨んでくる。睨みたいのはこっちなんだけど。

 

「誰から俺たちの情報を聞いたんだ? あんたらの言ってた『あの方』とか『あの女』ってのは誰だい?」

 

「「!!!」」

 

 

 そう。さっきこの下っ端は、『あの方』なる人から俺達の情報を聞いた、と言っていた。しかも、親玉はその情報にいい顔をしていない。『あの方』を信用できない女とも言ってのけた。そこら辺の人間関係も聞いておかなければならない。

 

 

「早く言えば量刑の余地が生まれるかもよ?」

 

「ま、待ってくれ! 俺はただ……」

 

 

 下っ端の盗賊がそう言った途端―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バシュバシュッ、と。

 

 

「がっ………!!?」

 

「ぐっ……!!?」

 

 

 何かのレーザーのような魔法が、盗賊二人を貫いた。

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 すぐさま物陰に隠れて、『パイソン』を抜き、入り口を覗き見る。

 

 

「誰だ!?」

 

 

 ………返事はない。人の気配もしないことから、さっきの魔法を放って逃げ出したようだ。

 

 ――魔法! その単語で盗賊たちを思い出し、物陰から出ずに撃たれた奴らを確認する。

 ……二人とも死んでいる。確証は近づかないと分からないが、下っ端は頭にモロに食らって即死だろう。親玉のほうも、胸の辺りから床一面にどんどん広がっていく血を見るにまず助からない。

 

 今の魔法を放った奴は、この盗賊たちの口封じで来たという訳か。これであいつらから『あの方』について訊くことが永遠にできなくなってしまった。得られた情報は、『盗賊に情報を流した女がいたこと』のみ。

 

 

「やってくれたな……」

 

 

 今回は一足先に獲物を奪われたというわけだ。しかも二人も、目の前で。

 実に悔しいが、唯一の手がかりがなくなってしまった以上ここにいる意味もないので、屋敷に戻るしかない。周囲にさっきの奴がいて狙ってないか、盗賊の血や臭いが衣服についてないかを注意しながらシュガーが待っているであろう屋敷に戻ることにした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねーちゃんすごいね! なんなの、その魔法?」

 

 ずっと、悩んでいた。私の持っている力の意味を。

 物心ついた時から両親はいなかったけど、周りの人々に助けてもらってきた。気が付いたら「人と人とのつながり」を感じることができた私は、その力が何を意味するのかがわからず、怖くて怖くて仕方がないと思ったときもあった。たとえ私がそんな特別な力を持とうが、村の皆は関係なく愛してくれた。

 ランプとマッチは、それが「コール」であることを教えてくれた。もし彼らに出会わなければ、ずっと分からないままだっただろう。

 

 

 

「『コール』って言うの。 ランプが教えてくれたの。

 ―――昔からずっと悩んでいた、私の持ってる力の意味を。」

 

 

 私を育ててくれた皆を、ランプやマッチを、そして……クリエメイトの皆さんを助ける。

 それがきっと、私の力の意味だから。

 

 

「コール…………って言い伝えの魔法だよね。

 本当にあったんだ! すごいね!」

 

 

 相対しているのは、シュガーというランプと同じか、それよりちょっと幼いくらいの女の子。私が使える「伝説の力」に素直に興味を持っている。

 

 

「ねえ、沙英……。

 あの子、悪い子じゃないのよね、きっと。」

 

「……そうだね。

 戦いたくないね……。」

 

 

 ヒロさんと沙英さんの言う通り、シュガーは八賢者といいつつも、純粋な子どもだ。きっと、アルシーヴの言う事を何の疑いもなく聞いているだけなのだろう。アルシーヴを純粋に信じているからこそ、ランプを「裏切り者」だとか言うのだろう。

 

 だからこそ、この戦いは早く終わらせなければならない。

 

 

「――『コール』っ!!」

 

 

 ―――エトワリアを、救うために。

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 盗賊を一捻りしたものの、あと一歩のところで証言を逃してしまった主人公。拳銃を使わずに戦う方法として閃光手榴弾を使ったのは、とある小説で、激しい光を直視した人間の行動についての記述を思い出したので少々アレンジした次第。また、前世の記憶を持つと前世のクセを良くも悪くも引き継ぐだろうなと思い大人の舌を持つことに。本来は超甘党で某万事屋のように蜂蜜やローヤルゼリーなんかをご飯の上にこれでもかと乗っけて他の賢者達を引かせるルートにするつもりだったが、ただの思い付きでこの設定を潰してしまった。


シュガー
 将来が実に心配な不健康姉妹の妹。糖尿病についての概念はまだ根付いてないので砂糖の摂りすぎで足が壊死するなんてエトワリア人は信じないだろうが、シュガーは素直すぎるいい子なので信じた。ローリエの助言のお陰でお菓子や紅茶に入れる砂糖・練乳の量を小さじ一杯ずつ減らすことにした。後日ローリエはソルトに怒られたそう。

ソルト「シュガーに何を吹き込んでるんですか! 殴りますよ!」
ローリエ「何の事だー!?」
ソルト「砂糖の摂りすぎくらいで足が腐る訳ないでしょう!」
ローリエ「ホントよ! ソルト信じてよ!!」


ゆの&沙英&ヒロ
 ひだまりスケッチ枠から登場した人物。本家1章のストーリーが意外とあっさりしているので、これからの出番にはあまり期待できない。……いや、きららの『コール』があるか。


アルシーヴ&ハッカ
 甘すぎるお茶会に無理やり参加させられた筆頭神官とハンマー枠が定着しつつある賢者の子。ローリエの制裁に早くバリエーションを増やさないと「アレは嘘だ」と〇田ボイスで言わないといけなくなる。クリエメイトのクリエについては、生きてないと奪えないので、本家でもあまり手荒な扱いはさせなかったのではないか。


きらら
 本家『きららファンタジア』の主人公。両親がいないという設定を利用し、オリジナルキャラできららの親でも出そうかとも思ったが、絶対面倒くさいことになり、失踪の原因になりかねないので、登場させる可能性は少ない。
 コールの基盤となる「パスを感じる力」の片鱗を見つつもきららを育てた村の人々はかなり肝が据わっていると思う。人間は、自分と違う人間を許容できないこともあるからだ。



△▼△▼△▼
ローリエ「盗賊どものゆのっち誘拐計画を事前に潰せたのはいいけれど、口封じされちまって捜査は振り出しだ、アルシーヴちゃんになんて報告したもんかね。さて、あとはシュガーときらら達の戦いの後始末だけども……あいつ、凹んでないよな……?」

次回『さまざまな兆し』
シュガー「見ないとパンチだよっ!」
▲▽▲▽▲▽


さて、次だ次!


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第14話:さまざまな兆し

やっとごちうさの主要メンバーが揃いますねぇ!
待ってろよシャロちゃん千夜ちゃん………必ず当ててやるぜニェッヘッヘッ(フラグ)


“これが私のできることだから。それに――こんな気持ちのいい人達、放っておけないからね!”
   …召喚士きらら


「『コール』っ!」

 

 私は、私にしか使えない魔法を使う。こうすることで、私は戦う事ができる。

 コール。まだ見ぬ世界に住まうクリエメイトの力を借りる魔法。ほんの少し前までは、私が使えるようになるとは思っていなかったけど。

 かざした杖から光が溢れる。

 

「クリエメイトは渡してもらうよ、おねーちゃん!」

 

 シュガーが両手に動物の肉球のような武器を具現化させてそう言い放つ。周りのクロモンたちも

 クリエメイトがクリエを奪われる事が何を意味するのか分からない以上、ゆのさんや宮子さんたちの為にも、負ける訳にはいかない。

 その思いとともに、杖の光が溢れ出す。

 

 ―――光が消えた時、傍らに立っていたのは。

 

 

「み……宮子様が()()!?」

 

「いや、宮ちゃんだけじゃない! ()()()()()! それに、ヒロさんたちまで……!?」

 

「こんなことってあるの……!!?」

 

「『コール』はこんな事もできるのか……!?」

 

 

 

 オーダーで召喚されている、ひだまり荘の方々だった。

 オーダーされているということは、呼び出されたひだまり荘の皆さんもクリエメイト。そして、コールはクリエメイトの力を借りる魔法。

 だから、彼女たちの力を借りることくらいできるはずである。

 

「お願いします!」

 

「任せたまえー!」

 

 私に喚ばれた方の宮子さんが、クロモンの群れに切り込んでいく。他のクリエメイトたちも、ヒロさんの魔法を中心にクロモン達を薙ぎ払っていく。

 

「うわわわっ!?」

 

 流石のシュガーも、突然ひだまり荘の人達が増えたことに驚き戸惑っている。その隙を見逃す“コールの”クリエメイトではない。

 

「やぁっ!」

 

「食らいなさい!」

 

「ひゃああっ!?」

 

 コールの宮子さんとヒロさんの攻撃がシュガーに入り、幼い体を吹き飛ばす。一瞬、賢者とはいえ子供を吹き飛ばしてしまって大丈夫かと思ったが、すぐさまシュガーが起き上がる。その表情は明らかに不機嫌だ。

 

「もー!なんでそんなに強いの!ずるい! もういいもん、もう帰ってアルシーヴ様に言いつけてやるもん!」

 

 頬を膨らませてそんなことを言ったかと思うと、シュガーは何かを詠唱した。

 

「待ちなさい、シュガー!」

 

「べーっだ! アルシーヴ様ならまだまだクリエメイトは連れてこられるんだから!

―――ゆのおねーちゃん、ありがとうね!とっても楽しかったよ!」

 

「シュガーちゃん。

 あのね、私も嬉しかっ――」

 

「あー、でもこのまま帰るとローリエおにーちゃん置いてっちゃうなあ……まぁいいか!

 ばいばい、ゆのおねーちゃん!今度会った時も舐めさせてね!」

 

「っ!」

 

「そ、そこなの!?

 って消えちゃった………?」

 

 ランプにあっかんべーをし、ゆのさんにお礼を言うと、好き放題場を引っ掻き回していたシュガーは屋敷から姿を消した。一応、賢者を退けることができたようなので、『コール』を解除する。

 

「……転移魔法だろうね。あの幼さでよくこれだけの力を持ってるもんだよ。」

 

「とにかく、これで一件落着かな?」

 

「そうですね……おそらく、このあたりのクロモンを操っていたのもシュガーのはずですから。」

 

 それならば、後は檻に閉じ込められたゆのさんを助けるだけなのだが、宮子さんが力技で開けようとしても開かないほど頑丈なモノだったのだ。鍵を開けようにもシュガーが鍵をかけてそのまま持って帰ってしまったそう。

 

「……え? じゃあ私このままなの!?」

 

「だ、大丈夫! きっと出られるわ!」

 

「どうやってですか!?」

 

「そうだ、きららの力ならどうかな? クロモンみたいにこの檻も消したりできるんじゃないかな?」

 

 

 檻から出られる手段を失い慌てるゆのさんをヒロさんが落ち着かせていると、沙英さんが私の方を向きそんなことを提案してきた。

 確かに、私の力は『伝説の召喚士』と同じとランプから教えられて、その力で実際にクロモン達を倒してきた。でも、この巨大な檻を壊せるかどうかは分からない。

 

「試してみないとですけど……」

 

 そう言いながら、魔力を檻にぶつけてみるが、何の反応も示さない。……ダメみたいだ。

 

「……生命維持系の魔法は作用しているみたいだから中にいることで問題はないだろうけど。」

 

「あ、それはシュガーちゃんとローリエさんも言ってました。この中にいれば何の心配もいらないって。」

 

「……もっと情報がないと。他に、シュガーは何か言ってませんでしたか?」

 

「後は、みんなをこの中に入れて、クリエを奪う、とか?」

 

 ……さっきからランプの様子がおかしい。なんというか、落ち込んでいる、というのは少し違うような気がするけれど、なんというか違和感を感じるのだ。まるで、焦っているかのような、焦るキーワードでもあるかのような……

 

「きらら?」

 

「えっ! な、なに、マッチ?」

 

 考え事をしていると、白い空飛ぶ生き物・マッチに声をかけられる。

 

「話を聞いてたのかい? ほら、あそこを狙ってみようって話だよ?」

 

「ご、ごめんなさい…ちょっと、考え事を。」

 

「まったく……あの光った部分の話さ。」

 

 マッチが顔で示した部分……ゆのさんが入っている檻は上が繋がっており、その中に光っている部分があるのを乃莉さんが見つけたらしい。宮子さん曰わく「いかにも弱点っぽい」ので、私の力で狙ってみようという話になったようだ。

 

「よしっ……今度こそっ!」

 

 乃莉さんが見つけた天井部分にある、檻に繋がれた鎖の光る部分に向かって魔力を放つ。すると、光る部分が魔力によって砕かれ、鎖にヒビが入っていく。更に、そのヒビが檻にまで入っていくと、水晶玉のように粉々に砕け散った。

 

「開きました!」

 

「宮ちゃーん!」

「ゆのっち、ゆのっちーー!!」

 

 ……よかった。ちゃんと、みんなを助けることができて。宮子さんだけじゃなくて、沙英さんもヒロさんも、乃莉さんもなずなさんも、みんながゆのさんとの再会を喜んでいたり、一人ぼっちで心細くなかったか心配している。ゆのさんは、シュガーやローリエが構ってくれたから寂しくなかったそう。

 

「な、なんですかこの量のお菓子は……」

 

「あー、それもシュガーちゃんがくれたんだけど、全部食べきれなくて……ローリエさんも食べてくれたんだけど……」

 

 そうこうしていると、乃莉さんが大量のお菓子を発見したことで、話題が変わる。宮子さんが何も警戒することなくお菓子をつまむ。ヒロさんも沙英さんに促されてなずなさんと共にお菓子を手に取り口へ運んでいく。

 

「ほほう、これはこれは……しっかりとした甘味ですな。これは渋めの紅茶が合いそうだねー。」

 

「や、やっぱりそうだよね! 私がおかしいのかと思っちゃった!!」

 

 

 

「……賑やかだね。」

 

 和気藹々(わきあいあい)としたひだまり荘の皆さんを見て、ひとりそう口にする。まるで、さっきまで戦っていたのが嘘みたいだ。

 

「いいことなんじゃないかな。ね、ランプ?」

 

「…………そうだね。」

 

 マッチの言葉に、ランプが遅れて反応する。やっぱり、さっきから妙な雰囲気だ。

 

「……ランプ?」

 

「ごめんなさい。少し………ちょっと懐かしくなっちゃって。それに……」

 

「それに?」

 

「ああいえ、何でもないです!

 それより、皆様を助けることができて本当に良かったです。これも、きららさんのおかげですね。」

 

 さりげなく聞こうとしたら笑ってはぐらかされてしまった。ランプの笑顔には、まだ違和感が拭いきれないが、それでもひだまり荘の皆さんを助けることができて嬉しいという気持ちに嘘はなさそうだ。

 でも、ランプの違和感の他に私には気になった言葉がある。

 

「さっき、シュガーが言ったこと覚えてる?まだまだクリエメイトは連れてこれるって。」

 

 それはつまり、また、オーダーで連れてこられる人たちが出てくるということ。ならば、オーダーを止めるためにも、私達は神殿に急がなければならない。

 そうマッチに伝えると……

 

「きららは、面倒ごとに巻き込まれた、なんて思ったりしないのかい?」

 

 ……と彼は少し困ったように私に尋ねてきた。

 でも、大丈夫。答えは決まっているから。

 

「これが私のできることだから。

 それに……」

 

「きららさん達も一緒におかし食べようよー、いっぱいあるよー!」

「一緒に食べましょうー。食べながらこれまでのお話聞かせてくださーい!」

 

「はい!」

 

 私を呼ぶゆのさんと宮子さんに笑顔で答えてから、その表情のままマッチに顔を向ける。

 

「――こんな気持ちのいい人達、放っておけないからね!」

 

 心からの想いをマッチに伝え、私は……いや、私達は、ひだまり荘の皆さんとのお菓子パーティーに参加することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いやあああああ!!?」

「な、なに、なずなちゃん!?」

「あ、あ、あそこに……ご、ゴ……!!!」

「うわわわわわ! み、宮ちゃーん!」

「ゆ、ゆのっち!?」

「待っててみんな!今叩くものを……うわあああああ飛んだぁぁッ!!?」

「やああああ!!こっちに来ないでええぇぇぇ!!!」

「さっ、沙英さん、ヒロさん!!?」

「きっきらっ、きら、きららさん、なんとかしてください~!」

「ま、待ってランプ!今肩を揺らしたら狙いが……!」

「し、俊敏すぎる……!」

 

 

 ―――途中、少し…いや、かなり衝撃的なアクシデントに見まわれたけど、大丈夫だろう……多分。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 屋敷の中にいた、ひだまり荘のみんなときらら一行のドッタンバッタン大騒ぎを見届けた俺は、手元にG型魔道具を帰還させてから立ち去ることにする。データはばっちり撮れているだろう。

 ……しかし、シュガーちゃんめ、俺を置いて帰りおって。俺が帰る時のことを考えてないな、あんにゃろーめ。

 俺自身、転移魔法は使えない訳じゃあない。ただ、俺は転移魔法を一度しか使えないのだ。これには、俺の魔法の適正と魔力総量に理由がある。

 魔力総量とは、RPGでいうところの最大MPのようなものであり、アルシーヴちゃんの魔力総量を200とするならば、シュガーちゃんは少なく見積もっても50はある。しかし、俺には20ほどと、シュガーちゃんの魔力総量の半分もない。

 また、魔法の適正とは、きららファンタジアでいうところの属性で、ゲームと同じように炎、風、土、水、陽、月の6属性に別れる。アルシーヴちゃんは月属性、シュガーちゃんは土属性だ。ちなみに俺は陽属性と月属性が半々、その他の属性がちょっととかなり中途半端で、魔法自体と相性が良くない。そのため、アルシーヴちゃんやシュガーちゃんが消費MP1か0かで使える転移魔法を俺が使うとMPを8~15ほど消費するのだ。ドラ○エ9のベホマズンやド○クエ5のルーラ並みに燃費が悪い。

 以上のことから、俺は魔法は使わず、現代武器や体術を軸とした戦い方をしているのだ。

 ちなみにこの理論でいくと、全属性を使いこなせているハッカちゃんの消費MPが凄まじい事になりそうだが、そこら辺は大丈夫なのだろうか?

 

 

 さて、アルシーヴちゃんへの報告についてはまとまったが、やっぱり気になる。オーダーで召喚したクリエメイトを賢者達が回収もとい保護する作戦。詳細は知らなかったようだが、誰かが漏らしたという線は確定だ。放っておいたら絶対ヤバいことになる。

 

 

 そんなことを考えていると、携帯電話から通信が入る。コリアンダーからだろうか。

 

 

「もしもし? こちらローリエ。」

 

『コリアンダーだ。今シュガーが帰ってきたんだが、お前は今なにしてる?』

 

「シュガーちゃんから置いてけぼり食らっちゃってまだ村にいるの。どうしたの?何か写真に写ってた?」

 

『あぁ。すぐに転移魔法で戻ってこい。話がある』

 

「ええっ!? やだよ!俺が転移魔法苦手なの知ってんだろ……あ、切りやがった……」

 

 

 時期的に考えて、写っていたのはおそらくソラちゃん襲撃犯だろう。そうでなければコリアンダーか俺を急かすこともないはずだ。もちろん、ソラちゃん襲撃事件は俺・アルシーヴちゃん・ハッカちゃん三人の秘密。甘~い関係だったら兎も角、事件についてはマジで話すわけにはいかない。

 

 コリアンダーにどう説明するかという苦悩と、今日一杯魔法は使えないなという諦めにため息を一つつきながら、転移魔法の詠唱を始めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 神殿に戻ってくると、すぐにシュガーを見つけた。神殿の外壁に体育座りで寄りかかっている。端から見ていても、アルシーヴちゃんに怒られて落ち込んでいるのがよくわかる。

 

 

「シュガーちゃん」

 

「あ……おにーちゃん」

 

 

 俺が声をかけると、シュガーがゆっくりと顔をあげる。やはり、その表情にはいつものような溢れんばかりの活気は少し翳りを見せている。ちょっとだけ凹んでいるのだろう。

 

 

「今日はおつかれさん」

 

 何か言いたげだったシュガーに先手を打ってそう言った。驚く彼女の隣に腰を下ろし、目線の高さを合わせる。

 

「君一人でよく頑張ったな」

 

「うん。

 ……クリエメイトを逃がしちゃったのは残念だったけど、その分、ゆのおねーちゃんの絵を見たり、ローリエおにーちゃんとお茶会したから楽しかったよ!

 それにそれに、ランプが見つけてきた召喚士のおねーちゃんがね、『コール』使ったの!すごかったなぁ……!」

 

 よく頑張ったな、と付け加えると、シュガーはいつも通りの笑顔を見せる。でも、その顔は作っている感じがどうも否めず、普段の元気に影が差している気がするのは俺の気のせいなんだろうか。

 

「偉いね、シュガーちゃん」

 

 取りあえず一見楽しそうに報告するシュガーを撫でてあげることにする。シュガーは目を閉じて俺のナデナデに身を委ねている。下手な紳士のなり損ないがこの画を見たら間違いなくロリコンに目覚めるほど気持ちのいいリアクションだ。

 

 

「そのポジティブさは才能だよ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。一人で考えを切り替えられるのは一種の才能だよ。中にはね、一度失敗すると一人じゃなかなか立ち直れない人もいるんだよ。」

 

 ――例えば、俺みたいにね……とまでは言わない。

 

「……前を向こう、シュガーちゃん。きっと、なんとかなるはずさ。」

 

 

 俺がそこまで言い終わる前に、シュガーは俺のナデナデから脱出し、いつも通りの自信満々の笑みでこちらを向く。

 

 

「当たり前でしょ! シュガーはね、終わったことをくよくよ考えたりしないんだから!!」

 

 

 なんと頼もしいことか。こりゃ、俺が励ますまでもなかったかな。

 

 

「おおっ! さすがシュガーちゃん、その意気だ! もうナデナデは必要ないかな?」

 

「えー!? 待って! もう少しだけ!お願い!」

 

 

 すっかり元気いっぱいになったシュガーを抱き寄せてナデナデを再開する。感覚は猫や犬を撫でる感じなのだが、これでいいのだろうか?

 

 

 

 

「………ローリエさん?」

 

 

 シュガーを撫で続けていると、後ろから底冷えした声が響く。錆び付いたロボットのようにギギギと振り向くと、そこにはソルトがいた。田中○奈美さんってこんな声出せるのかよ、一瞬誰だか分からなかったわ。そのソルトは目から光を失っており、闇のようなオーラを醸し出していた。なんならオーラだけで人を殺せるまである。

 

「シュガーに何をしているんです?」

 

「お、おい待てソルト、何か誤解を……」

 

「遺言はそれでいいですか?」

 

 マズい。計算高いゆえに俺の合理的な考えに賛同することの多いソルトが今回は聞く耳を持っていない。それどころか、シュガーに「シュガーもシュガーです。警戒心がなさすぎます」とか言っている。逃げ切れなければ確実に殺される。

 

「あ! 今、ケーキが茂みの中へ入っていったぞ!」

 

「えっ!ほんと!?どこどこ!!?」

 

 俺のあからさまな嘘にシュガーが神殿付近の茂みの中へと走っていく。妹が破天荒な行動を取れば、姉であるソルトはそれを追うはず。そうして姉妹で鬼ごっこに興じているうちにサヨウナラ。

 この作戦なら上手くいく、そう思っていたのだが。

 

「クロモン達! シュガーを追ってください!」

 

「「「くー!」」」

 

 ソルトのクロモン達への号令で、作戦失敗を悟った。

 

「作戦にしては稚拙すぎますよ、ローリエさん」

 

「だろうな。だったら……」

 

 俺は懐から閃光手榴弾を取り出し、すかさずピンを抜く。

 

「別の手を使うまでだ」

 

 

 

 突如発生した閃光を背に俺は走り出す。悪いなソルト、俺はコリアンダーから呼び出されてるもんでね。まだ死ぬわけにはいかんのだよ!フハハハハハ!!

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 俺はあいつとの部屋の中で、ある一枚の写真を穴があくほど見つめる。あいつが神殿にいない間、調査を頼まれた写真のうちの一枚だ。

 写っているのは、杖にしては珍しい、ペンほどもない長さの杖を手に持った、ローブに身を包んだ傷だらけの男。それと、そいつに続くように床に垂れている液体のようなもの。

 色合いからして、きっとこれは血だろう。実際にこれほどまでの血を見たことは皆無だが、写真の状況から推測できる。

 

 撮影された時間は、アルシーヴが「女神ソラ様が病気療養をなされた」と発表した日の前日。それも深夜。だが、その翌日には床に垂れている血なんてどこにもなかった。

 

 他にも色々聞きたいが、俺は今からそれを目の前の親友に聞く。ローリエは真剣な表情でこちらを見ているだけで、いつものふざけた言動は見られない。

 

「ローリエ」

 

「なんだい」

 

「一番気になる質問からいこう。この写真に写っている男は誰だ?」

 

 目の前の親友は、まるでその質問をされるのが分かっていたかのように一息つく。寸刻流れた沈黙ののちに、彼が口を開く。

 

 

「アルシーヴちゃんを襲おうとした野郎だ」

 

 

 その言葉は、なるほどと説得力のあるものだった。確かに、筆頭神官になる前のアルシーヴは、神官の身でありながら破竹の勢いで悪を挫いてきた女性だ。悪徳神官を決闘で打ち負かすなんてよくある話だった。まさに文武両道を絵に描いたような存在である。

 

「動機はただの逆恨みだった。よくいるよな、自分のことを棚に上げてまず人のせいにする鋼入りの誰か(スティーリー・○ン)にも劣る小悪党ってよ」

 

 ゆえに、ローリエの言うとおり逆恨みをされることも少なくなかったらしい。

 しかし………何故だろうか。

 なぜ、ローリエの言っていることに「そうか」と納得できないのだろうか。あと鋼入りの誰か(スティーリー・ダ○)って誰だ。

 

 

「写真では深手を負っている。その理由は?」

 

「アルシーヴちゃんが対応する前に俺が追い払ったからだ。少々、手荒な門前払いをしたがね」

 

「床の血痕はどうした」

 

「奴にお帰り頂いた後、俺が掃除した。血痕あったらみんな驚くだろ?」

 

「コイツは深夜に来たと思われる。お前はそれに会ったというのか?」

 

「その日の朝にソラちゃんに相談されたんだ。嫌な予感がするってよ。それで、見回りしてたらばったり会った」

 

 

 こんな感じでしばらくローリエに質問したが、嘘は言ってないようだった。長く付き合いだから分かるようなものなのだが、コイツは嘘をつく時、話す相手の目を見ないのだ。話し相手の首か胸のあたりや、額の部分を見たりするため、違いがほとんどなく、付き合いが短いと見抜けない。

 

 今回のローリエには、そういったサインが見られなかった。つまり、少なくとも嘘はついていないということ。でも、隠し事をするために()()()()()()()()()()()()()

 

 

「本当の事を言え」

 

「さっき言ったことが本当のことさ。何ならアルシーヴちゃんにでも聞くといい」

 

 

 まっすぐ見てきたアイツの言葉を聞いても、尚真実として受け入れられそうにない。常識外れの発明を当たり前のように行うローリエの考えている事が、今回ばっかりはローリエの親友たるコリアンダー(おれ)をもってしても分かりそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけましたよローリエさん」

「ぎゃああああ!!ソルト!!?」

「さぁ、覚悟はできてますね?」

「やめて!!神様仏様ソルト様許して!!!!誤解だからー!!!!」

「問答無用ッ!!!」

「ひぎゃあああああああ!!!?」

 

 

 ………前言撤回。ソルトに何かしたから報復に怯えてただけだな、コイツ。

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 きらら達を見守ったりG型魔道具を回収したりシュガーと仲良くなったりソルトに誤解されたりした男。今回のお話は1章から2章へのクッションストーリーなので目立った活躍はない。ただ、何者かによる情報漏洩の件は重く見ている。

きらら&ランプ&マッチ&ひだまり荘一行
 無事に原作通りシュガーを退ける。原作との違いは、ローリエが記録のためG型魔道具を設置したために、なずなに見つかったことがきっかけで大混乱に陥る。ひだまり荘の中にGに耐性のあるキャラがいたら申し訳ないが、作者が不勉強な者で、Gが平気なきららキャラはひでりくんしか知らないの。

シュガー
 フレンドリー過ぎて全国の□リコンに狙われそうな賢者。彼女の性格からして、アルシーヴの頼みを果たせなかったのは申し訳ないと思っていても、落ち込むことはないだろうと思い、当初考えていたプロットをちょっと修正した。エネルギッシュな子は土壇場でプロットを狂わせるからちょっと扱いづらいけど、書いてて楽しかったから、また出したいところ。

ソルト
 自身の妹を捕まえていたローリエ(ソルト目線)を見て、一時的に殺意の波動に目覚めた賢者。公式設定でシュガーがフランクすぎて隙だらけだから彼女をカバーするような性格になった(要約)とあるので、ちょっと優しくすれば懐いてしまうシュガーが心配でもあると考えた。つまり、シュガーに手を出した(またはそう見なされる行為を行った)場合、確実に殺意ソルトから折檻されるということだろう。

コリアンダー
 ローリエに写真整理を頼まれたので、またしょうもないスケベ行為かと思ったらマジだったと判明し戸惑う男。ちなみに、コリアンダーは神殿の事務員とあんまり立場的に偉くないので、ソラの病気療養を信じきっている。しかし、察しが良いのでローリエ次第で真実に辿り着くかもしれない。取りあえず今回はソルトに救われる形でローリエは不信度アップを免れた(代わりに肉体的にひどい目に遭ったけど)。


ベホマズン&ルーラ
 某有名RPGの全体完全回復魔法と転移魔法。基本的に消費MPはそれぞれベホマズンが36、ルーラが0or1となっているのだが、ドラ○エ5のルーラの消費MPは8、ド○クエ9のベホマズンに至っては消費MPが128ととんでもない下方修正を受けていた。これには作者も誤植を疑ったほど。今回は消費MPが多いことの例えに持ち出されただけである。

鋼入りの(スティーリー・)ダ○
 ジョジョ3部に出てくる、宿敵DIOに金で雇われた刺客。弱きに強く、強きに弱い男で、主人公の仲間を人質に取った後の言動はクズそのもの。詳しくは3部アニメの「恋人(ラバーズ)」を見るべし。


△▼△▼△▼
ローリエ「はぁ~あ~~痛いなぁ~もう。ソルトはシュガーが絡むと手加減しないよな」
ソルト「当然です。シュガーはフレンドリーなのに悪意に鈍感すぎるんですよ」
ローリエ「こっち見て言うなや。さて、お次のオーダーの場所は海が見える港町だ!待ってろよ、凪の海と潮風が似合うもっこり美人ちゃん達、そしてセサミ!みんなまとめて抱i……」
ソルト「制裁が足りませんでしたか」

次回『百合の潮風』
ソルト「絶対見てくださいね」
▲▽▲▽▲▽


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エピソード3:続きから▷港町~八神コウ&りんの結婚式を邪魔するな編~ 第15話:百合の潮風

“今日も一日がんばるぞい!”
 …デデデ大王 涼風青葉


 アルシーヴちゃんに『盗賊は蹴散らしたけど口封じされた』事と『盗賊のバックに誰かがいる』事を報告してから数日。俺は、いつも通りの教師の仕事をしつつ、教材研究のために図書館に籠もる、そして森の中の射撃場に通うといった、教室と図書館と射撃場を行き来する日々に追われていた。

 

 ……ここでの『追われていた』は過去形である。

 

 実は先程、とんでもない光景を見てしまったからだ。

 

 別に某高校生探偵のように麻薬取引現場を見たとかじゃない。ただ、図書館の扉を開けただけなんだ。

 

 

 

「も、申し訳ございません、アルシーヴ様!!」

 

「問題ない。フェンネルこそ、大丈夫か?」

 

「な、な、何ともありません!!」

 

 

 そこに広がっていたのは、散らばった本の真ん中で、アルシーヴちゃんを押し倒していたフェンネルだった。

 アルシーヴちゃんは押し倒されたにも関わらず、平気な顔を……いや、慈母のような笑みさえ浮かべてフェンネルの肩に手を乗せた。それとは対照的に、フェンネルは恋する乙女のように完全に赤面しており、慌てふためいている様子であることが図書館の入り口からチラッと見ただけで分かった。

 

 俺はすぐさま扉を閉めた。

 まさか、アルシーヴちゃんとフェンネルがそこまで親密だったとはな。二人の表情と言動からしてアルシーヴちゃんが攻め、フェンネルが受けだろう。……意外だ。俺は相手がソラちゃんにしろ俺自身にしろ受けのアルシーヴちゃんしか見たことがなかった。あんな余裕綽々な攻めアルシーヴちゃんも悪くない。

 更にアルシーヴちゃんには、ソラちゃんという親友(恋人)がいる。それなのにフェンネルに手を出すとはな。アイツもなかなかのスケコマシじゃあないか。

 

 ……後で盛大に祝ってやろう。

 

 その後、「アルシーヴちゃんとはどこまで進んだ?」とフェンネルに聞いた所、顔を真っ赤にしながらレイピアを振り回した彼女に追いかけ回されたのはご愛嬌である。

 

 

 

 

 そういったことは置いといて。

 この前のコリアンダーには肝を冷やされた。ソラちゃんの襲撃犯の写真を見られたのはかなりマズかった。幸いアルシーヴちゃんの部屋での写真は渡してない……というか撮ってなかったから良いものの、危ない所まで踏み込まれ、尋問された。もしバレたらアルシーヴちゃんから何をされるか分かったもんじゃない。

 写真の解析をコリアンダーに頼んだのは失敗だったのかもしれないと、ため息を一つ。

 

 

「……ローリエ?」

 

「あぁ、アルシーヴちゃん。コリアンダーの件は口裏合わせてくれてありがとよ。」

 

「別に構わないんだが……せめて事前に一言欲しかった」

 

「ソルトにボコられててそれどころじゃあなかったの」

 

 

 ソラちゃんの部屋にて、アルシーヴちゃんと二人きりの俺は、本来なら指令の通達を受けるだけだったのだが、先日のコリアンダーの件で意外と長く話し込んでしまっていたようだ。

 

 

「それで、今回の指令は何だい?」

 

「港町にてオーダーを行う。クリエメイトの捕獲はセサミが担当する。ローリエにはセサミの補助と“例の件”の情報収集を頼みたい。」

 

 “例の件”とは、言わずもがな、ソラちゃん襲撃犯の件である。シュガーの時に殆ど情報を得られなかったので、引き続き全ての事情を知る俺が捜査役に選ばれたのだ。ハッカちゃんは原作通り、夢幻魔法という危険な魔法を使える以上、むやみに神殿の外へ出せないようだ。

 

 それにしても、セサミと二人きりか……

 よし抱こう。

 セサミとは図書館で(事故とはいえ)ロケットボインをゲットしてしまった日からあまり会話出来ていない。俺の鍛え上げたコミュ(りょく)マスタリーで口説き落とし、ヨリを戻して、二人で熱い夜を過ごそう。

 

 

「…今回は、コリアンダーも同行させる。」

 

「……え?何で?アイツ非戦闘員じゃなかったっけ?」

 

「戦闘の心得が全くないという訳ではない。コリアンダーも賢者達ほどではなくても戦えるはずだ。

 ……それに、猫に鰹節を食べられないように監視役も必要だろう?」

 

「どういう意味だ。俺がセサミに手を出すとでも思ったのか?」

 

「よく分かったな、その通りだ」

 

 

 ちくせう、と俺は心の中で頭を抱えた。モチベーションが70%低下した。

 あ、そうだ。忘れるところだった。

 

「アルシーヴちゃん、フェンネルがまた慌てた時は頭を撫でてやるんだぞ?」

 

「…? ああ、わかった……だが何故?」

 

 あ、コリャ分かってないな。アルシーヴちゃんに春が来るのは当分先だね。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 港町。

 それは、数多の船が行き着く所にして、あらゆる情報が流れる場所。地球でも、貿易を通してヨーロッパを中心に栄えていった。特にナポリは歴史的栄華の跡が伺える南イタリア最大の都市となっており、その風光明媚な景観は「ナポリを見てから死ね」とまで言われるほどだ。

 エトワリアの港町も、そのようになる可能性を持っている。住む人次第でナポリのような「死ぬ前に一度は見てみたい景観を持つ街」になるだろう。

 

 今回の俺とコリアンダーの指令とは、そんな港町にてセサミと合流し、クリエメイトとソラちゃん襲撃犯の情報を同時に集めること。まぁシュガーの時とほぼ同じだ。

 

 

「それで、何だコレは?」

 

「強盗……だと思うんだが……」

 

 

 その港町で俺達を待ち受けていたのは、地べたに寝転がる人々、並ぶ街中の一つにあるドーナツ屋を占拠?しているだらけた強盗、受付によりかかる女店主に、人質らしき僧侶姿の女性だった。

 

 

「あー……なんだ、その……金を出せぇー…じゃないと………わかるっしょ?口で説明すんのめんどいしぃ……」

 

「好きにしてください……動きたくないので……」

 

「何言ってるんですか! 駄目に決まってるでしょう!」

 

 

 どう考えても脅す気のない強盗の投げやりな要求に、好きにしろと言う女店主。そんな怠惰な状況に人質でありながら唯一声を張る僧侶姿の女性。というか一番最後の女性の姿と顔、そして優しく包みこむようなかやのんボイスに覚えがあるんだけど。

 

 

 遠山りん。

 アプリでは第2章にて登場。オーダーで呼び出されたイーグルジャンプの社員の一人にして、青葉たちのまとめ役のお姉さんだ。あとコウの恋人。つまり……彼女はクリエメイトということになる。俺達は彼女を保護しなくてはならないワケだ。

 ただ、強盗がものすごくアレなのでかなり簡単に助けられそうだけど。

 

 

「なぁ、おっさん? なんか気だるそうだからさ、強盗なんかやるよりもっと楽に食っていける場所を教えようか?」

 

「あ、ほんとぉ? なんかさ、働くのが面倒くさくなっちゃってさぁ……こんなことしてみたんだけど、やっぱり面倒でさ……で、どこなのぉ?」

 

「牢獄の中だ。あそこなら、働く必要もないだろ?」

 

「そうだねぇ……じゃあ、そうしようかなぁ……めんどくさいけど……」

 

 

 重い足取りで立ち去っていく強盗。なんというか、オーダーの影響が強力で助かった。

 この港町でのオーダーの副作用は「大人が全員、働く意欲をなくすこと」。町中の人という人がだらけてしまい、働かなくなるのだ。そして、その怠惰性を治すためには、「その人の働く理由を思い出させる」必要がある。

 さっきの俺の強盗への誘導は、おそらく強盗が労働じゃないからああなったんだろう。きっと、あの人には別に仕事があったが、数日前あたりにリストラされた、ってところか。可哀想な人だ。

 

 

「……………あの、お怪我、ありませんか?」

 

 強盗が交番へ赴くのを見届けていると、コリアンダーが口数少なめに遠山さんに話しかける。お前、女と話すの得意じゃないのに無茶すんなや。

 

「私は大丈夫です。……おふたりは?」

 

「俺はローリエ。こっちはコリアンダーだ。」

 

「……よろしく。」

 

「良かったら、俺達の拠点へ行きがてらこの世界についてお話しましょうか?」

 

「お、おい……」

 

「あぁ、ありがとうございます。私、遠山りんと言います。」

 

 

 そして、遠山さんにエトワリアの事を色々と話しながらセサミとの合流地点である、海辺に見えるコテージへと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 コテージの中では既に、いつも通りのあぶない恰好をしたセサミが椅子に座って待っており、奥の部屋の半開きになった扉の向こうのクリエケージの中で八神コウさんが珍しく下を脱いでない格好で眠っていた。

 

「コウちゃんっ!!」

 

 遠山さんは彼女を見つけるなりクリエケージに駆けつけて檻を掴む。セサミがクロモン達に命令して遠山さんを捕まえようとしているのが聞こえる。クロモン達が迫ると遠山さんは捕まるまいと逃げようとするが、コリアンダーもクロモン達と一緒に逃げ惑う遠山さんを追いつめる。

 

 俺は、はっきり言ってこのやり方は好きではないし、やりたくもない。理由は3つ。

 1つ、単純にきらら漫画の登場人物達にひどいことはできないから。前世からきらら系の漫画を読んでいた俺には、彼女たちへの愛着が湧いている。心境的にはランプに近い。だから彼女たちを傷つけたくない。

 2つ、クリエケージでクリエを奪った結果、クリエメイト達に起こる悪影響が予想できないから。エトワリアにおいて、クリエは命そのものと言っても過言ではない。そんな世界でクリエを生み出す者(クリエメイト)がクリエを奪われたらどうなるかが、アプリでは言及されていなかった。二度と元の世界に帰れなくなるとか、命がなくなるとかいう悪影響だったら笑えないからだ。

 3つ、この「きららファンタジア」の物語の結末を知っているから。最後は、ランプがオーダーで召喚されたクリエメイト達との交流を書き留めた日記が聖典となり、呪われたソラちゃんとクリエ枯渇寸前のアルシーヴちゃんを救う、という事を俺は知っている。ここで全員捕まえてクリエ回収を成功させるよりも優しくて、誰も不幸にならない方法だ。

 

 

「ローリエ! ぼさっとするな!遠山りんを捕まえろ!」

 

 

 そんな苦悩も知らずに、コリアンダーは俺を怒鳴る。何もしていない様に見えたのだろう。遠山りんも、息を切らしながら、かろうじてクロモン達から逃げられているが、捕まるのも時間の問題だろう。

 だが俺も、親友に発破をかけられた以上、仕事をしない訳にはいかなくなった。

 

 

 

 ――仕方なく、懐から「パイソン」を取り出し、誰もいない方向の窓に向かって威嚇射撃を放った。

 

 

 

 バァァン、という発砲音とパリン、というガラスの音がコテージ内に同時に響く。

 その音に、遠山さんは顔を青ざめ、動きを止めた。クロモン達も、コリアンダーも、セサミも皆同様に動きを止める。イーグルジャンプにはサバゲーの達人(うみこさん)がいる。俺のマグナムでの威嚇射撃は効果抜群であることも確信していた事だ。そして、日本ではそう簡単に実銃は手に入らない。遠山さんへの心理的ショックは容易に想像できた。

 

 

「遠山さん、俺はこういうことはしたくなかったんだ」

 

 そして、自発的に静寂を破る。慎重に話しかけて落ち着かせなければ。

 

「この世界には魔物が当たり前のようにいると言ったはずだ。中には簡単に人間を殺せる奴もいるということも、そいつらが町に入ってこないとは限らないことも。」

 

 俺はマグナムを懐のホルスターにしまって続ける。

 

「俺達は基本的にイーグルジャンプの皆に危害は加えない。魔物や不審者からも守ると言った。でも、もしそれが聞けず、好き勝手に行動するというのならば……君らの安全のため、こういう手段を取らざるを得ない。

 信用はされない行いだと分かっている。だから信用しなくてもいい。でも………分かってほしい。」

 

 遠山さんは答えるかわりに、八神さんがいる奥の部屋に入っていった。きっと納得はしていないだろう。でも、シュガーの時にもゆのっち達を狙う盗賊たちもいたからな……あながち嘘ではない。

 

 

「驚きました、ローリエ」

 

「何がだ、セサミ」

 

「あなたは、もっと女性に優しいと思っていました」

 

「優先順位と合理性の話だよ。俺だって女性に銃は向けたくない。さっきも、関係ない方向に撃ったの見たろ。

 俺はただ、アルシーヴちゃんからの任務を守っただけだ」

 

 日本人は平和ボケと某法律のせいか、銃の脅しに弱いという点を突くのも合理的だしな。

 

「あんまり俺を見くびった言動をするとまたおっぱい揉むぞ」

 

「触ったら制裁ですからね!」

 

 

 もう知りません、とセサミはそっぽを向いてしまった。

 そこにアルシーヴちゃんがちょうどやってきて、ローリエお前またセサミにセクハラしたのかと問いただされた事は割愛したい。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 コテージに入った瞬間での出来事を整理するのに、幾分かの時間を要した。

 コウちゃんが捕まっていたこと。布地の少ない水着を着た青い髪の女の人に命令された黒い小動物が私を捕まえようとしたこと。コリアンダーさんとローリエさんが掌を返したように急に私を捕まえようとしだしたこと。そして……

 

 

『遠山さん、俺はこういうことはしたくなかったんだ』

 

 

 ローリエさんが威嚇射撃をしたこと。あれはきっと、うみこさんがコウちゃんにからかわれた時の仕返しで使うようなモデルガンじゃないだろう。

 どうしてあんなものを持っているのか、どうしてあんな事を言いながら威嚇射撃を放ったのか、といった疑問もあるが、それより私はこの檻の中、コウちゃんと二人きりでいて、どうなってしまうのか不安だった。

 

「あぁりん、いたんだぁ~」

 

「いたんだぁじゃないよ! 私達捕まっちゃったのよ!どうするのよ!」

 

「私だって焦ったよ。でも、この檻からどうしても出られなくってさ。あれこれ試しているうちになんかめんどくなって……」

 

 そんな不安があるはずなのに、コウちゃんはそんな不安を感じさせない様子でだらけていた。少し様子がおかしいが、この状況はまずい。コウちゃんがこういった状態にどうするかは知っている。

 

「ねぇりん、脱いで良い?」

 

「駄目に決まってるでしょ!! 今の状況分かってるの!?」

 

「いいじゃぁ~ん! 海が近いのか、ちょっと暑かったし、いいでしょ~! ね、りん?」

 

「もおぉっ、さっきと違って何で脱ごうとする時だけそんな元気なのっ!?」

 

 私の制止も聞かずに、ズボンを脱ぎ始めるコウちゃん。それをなんとかやめさせようとしているが、時間の問題だ。捕まっているというのに、こんな格好誰かに見られる訳には……

 

 

「………ええと、お取り込み中でしたか?」

 

「きゃああああっ!?

 い、いきなり入ってこないで!」

 

「おいセサミ、お前礼儀がなってなさ過ぎるぞ! 百合CPの部屋に入るときはまず……」

 

 

 扉から顔を出すローリエさんと、セサミと呼ばれた青髪の女性と目が合う。

 

「ノッ……ク………を………」

 

 つまり……この二人にコウちゃんのあられもない姿が見られているということで……

 

 

「で、で……」

 

「あぁ! みなまで言わずとも良い、遠山さん!」

 

 

 私の悲鳴を遮るように声を張って何かを語りだしたのはローリエさんだ。

 

 

「我々は妖怪『イナイ・イナイバー』!

 ある時は存在し、またある時は存在しない、稀有な幻のポケ〇ン!!」

 

「自分でポ〇モンって言っちゃったよ」

 

「その実君らでマイサン(My son)がフィーバーするイケナイ生き物さ。

 さて、疑いが晴れた所で続きを鑑賞するとしようか。

 ―――ポップコーンください」

 

 現在進行形で疑いが確実なものになっているローリエさんは、どこからかイスを取り出してそこに座り、手足を組んでそんなことを言っている。……まさかここに居座るつもりなの!?

 ……これを見ている私の目は据わっていることだろう。〇ケモンのくだりでツッコんだ隣のコウちゃんも目から光が消えていたから。

 

「コーラもつけて、携帯電話の電源はオフに、館内禁煙、上映中はお静かに、撮影禁止。

 どんなに足が長くても、前の席は蹴らなイダァ!!?

 

 映画館の本編上映前に出てきそうな注意を口頭で暗唱するローリエさんを、セサミが後ろからイスごと蹴り飛ばす。なんというか、破廉恥な格好をしているが常識は持ち合わせているのかもしれない。

 

「何がやりたいんですか貴方は。ここは劇場じゃあないんですよ」

 

「セサミお前! せっかく『百合CPを覗いたのがバレちゃった時のフォロー』をしたというのに!!」

 

 

「あの、何もフォロー出来てなかったんですけど…」

 

「失礼……いえ、私は捕虜の貴方にそう言われる理由も無いのですが。

 それにしても、八神コウは、いつもそんな恰好を……?」

 

 自分だけ常識人ですよみたいな、そんな強調をしつつ、セサミにコウちゃんについてそう聞かれた。なんとか誤魔化さなくては。

 

「い、いつもじゃありません、たまにですっ! ほら、もう脱げかけちゃってるじゃない!」

 

 コウちゃんのズボンを直していると、更にこんな質問をしてくる。

 

「たまに……その、込み入ったことを聞きますが、下着の露出が趣味とか?」

 

「コウちゃんを変質者にしないで!!」

 

 とんでもない誤解を大声で打ち消す。

 でも、コウちゃん、会社で寝る時はいつもあんな恰好してるし……

 

「少しだけ………そうなのかも………。」

 

 声に出てしまった。しまったと思ったがもう遅い。

 

 

「……破廉恥な人なのですね。」

 

 

 セサミが何とも言えない表情でそんなことを口にした。

 コウちゃんにはもう少し女の子っぽくして欲しいけど……

 

 

 

「あなたみたいな格好の人が言わないで下さい!!」

「あんたみたいな格好の人には言われたくないかな~。」

「お前がソレを言うな、セサミ!!」

 

 

 三人のツッコミがコテージ内に響き渡る。

 賢者について、何も分からなくなってきた気がする。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 セサミやコリアンダーと共に、遠山りんを保護した百合豚。百合CPにおける彼自身の思想はかなり過激で、お膳立てするだけして、見れるだけ見る、といった業深く罪深い信条を持つ。ただ、「百合に男の入る余地はない」といった、百合の基本はおさえている(つもり)。また、同性愛にも寛容で、エトワリアで同性愛を認めるべきとも思っている。

アルシーヴ
 無自覚タラシ筆頭神官。フェンネルと図書館でぶつかっただけなのに、ローリエに百合CPを組まれ、余計なアドバイスを貰ってしまった。きららファンタジアが公式で恋愛ゲームを出す場合は、アルシーヴを操作し、七賢者を主に攻略していく形になるだろう。隠しキャラは勿論ランプで。

コリアンダー
 戦闘要員として出したつもりが、町中の人々がだらけ切っていたためにいい出番がもらえなかったオリキャラ枠。今回も女性が苦手という設定を深めただけになってしまったかもしれない。活躍はもう少し待ってほしいのじゃ。

セサミ
 原作第2章のボスたるアルシーヴの秘書兼八賢者。ローリエとはエロと制裁で軽口を叩きあう仲だが、ローリエ自身は満足していないようで、更なる親密度アップを図ったが、ガードは固い。全く関係ない話になるが、あぶない水着シリーズはやはり11以前の許されていた時代が好みなのだが、11の水着デザイン変更には許される許されないの他に、需要の問題もあるのではないだろうか。

八神コウ&遠山りん
 原作通り囚われの身となった公式百合CP。作者の得能先生も、コウとりんは意図的に百合として描いているという。原作では言及されていなかった、りんが囚われるまでを書いた。コテージに入ってからはローリエに振り回されたため、今回一番不憫なポジションなのは間違いない。


new game!
 得能氏が連載している、4コマ漫画。やる気溢れる新人・涼風青葉、無口だがネットでは饒舌な同僚・滝本ひふみ、ズボラでセクシャルな上司・八神コウ、お調子者な同僚・篠田はじめ、関西弁を話す庶民的同僚・飯島ゆんといったイーグルジャンプ社開発メンバーを中心に構成されるワーキングコメディ。「がんばるぞい!」といったフレーズや魅力的なキャラクターで社会現象を巻き起こした。



△▼△▼△▼
ローリエ「さて皆さん、百合の潮風、いかがだったかな?この後はだらけ切った住人達を叩き起こして、例の情報収集の時間だ!コリアンダーは帰ってていいよー!」
コリアンダー「ダメだ。お前とセサミを二人きりなんて、世界一安心できん」
ローリエ「だったら、手伝ってくんない? 情報収集はもちろん、きら…召喚士達の確認にコウりんの結婚式の準備、クリエケージの調整。仕事は山盛りなんだからな?」
コリアンダー「ああ、わかっ……待て、今なんて言った?」

次回『なにイロコンパス?』
ローリエ「見てくれよな~!」
コリアンダー「ま、待て!待てってば!」
▲▽▲▽▲▽

あとがき
平成最後、書ききった!!!!
前書きの台詞が陛下ボイスで再生された方はきっと私と同世代。
あと、星5シャロ千夜が当たらないのはバg……ゲフンゲフン、まだチャンスはあるからな!!


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第16話:なにイロコンパス?

“全ては『できる』って信じることから始まる。例え蜘蛛の糸並みに細いチャンスでも、最初(ハナ)から諦めて手繰り寄せることすらしなかったら何も起こりはしない。
 教育も同じ。自分(テメエ)を信じられずに生徒を信じられないし、生徒を信じられないと教師なんてやってられねェ。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第3章より抜粋


「セサミ、ちょっと頼みがある」

 

 遠山りんとローリエの無茶苦茶なやりとりがあった後。

 彼は私にそんなことを言ってきた。はっきり言ってローリエからの頼みなんて想像する限り嫌な予感しかないのでとっととつまみ出したいのが本音ですが。

 

「魔法を効率よく使う方法を教えてほしい」

 

 そう思っていた私に彼がしてきた頼みは、予想外のものだった。

 

「どうしたんですか、いきなりそんな事を聞くなんて」

 

「まったくだローリエ。お前、変なものでも食ったか?」

 

「張り倒すぞお前ら。俺だっておふざけ一辺倒じゃないの。」

 

 そう言ってローリエが説明しだす。なんでも、転移魔法を一回しか使えないのが悩みだという。自身の属性が曖昧な上に魔力の総量も少ないことが魔法を使いにくくしているのだというのだ。そこで彼は魔法が得意な賢者達に教えを請おうと考えたのだそう。

 

 

「いいんですか、私で? アルシーヴ様の方が魔法の技術はありますし、女神候補生の教育をしてるのもアルシーヴ様でしたが……」

 

「あいつにはもう根掘り葉掘り聞いたよ。属性は兎も角、魔力総量は個人差があるからどうしようもないんだと。俺個人としては心許なさすぎる魔力総量を何とかしたいんだがな」

 

 

 魔力総量は、人が魔法を使うために補充できるクリエの総量である。これは、それぞれの生まれつきによるものがとても大きい。私もまた、幼い頃から魔法を覚えるのには苦労していても、覚えた魔法を使うことに苦労した記憶はない。……ゆえに、私はもう一つの方法を彼に提案した。

 

 

「ローリエ、やはりあなたの属性を一つに絞った方が早いのではないですか……?」

 

「ええっ! エトワリアに最大MPの増加ないの? ふしぎなきのみくらいあってもいいだろ!?」

 

「不思議な木の実?」

 

「食べると魔力の総量がアップする、みたいな……」

 

「ある訳ないでしょう、そんなの」

 

 

 頓珍漢なたわ言を一蹴する。大体、そんな木の実があったら神殿の書庫の数冊にそれについての本があるはずです。記録がないということはつまり……魔力総量ばかりはどうにもならないということ。

 

 

「アルシーヴちゃんにも同じこと言われたし……やっぱ属性を絞ることしかないのか?」

 

「そもそもなぜ『魔力総量を上げる』という発想に拘るんですか」

 

「簡単なことだよセサミ。もし魔力総量を上げる方法が見つかれば、エトワリアの魔法は更に発展する」

 

 

 ふと思いついた疑問に、さも当然であるかのように答えてみせた。その時のローリエの目は、いつものちょっとやらしい目つきやふざけた気配が消え失せ、まっすぐ撃ち貫くかのように私の瞳を覗いていて、オレンジと金色のオッドアイに引き込まれそうになる。

 

「まず『魔法がどれだけ使えるか』で起こる差別は減るだろう。俺自身、経験したことだ。『魔法は使えないのに』って遠巻きに陰口叩かれてたっけ、コリアンダーと仲良くなる前は。でもまぁ、俺のケースはマシな方かな。」

 

「マシな方だと?」

 

「ああ。酷い時は、イジメが発生して、それがエスカレートして被害者を殺す、なんてことが起こり得る。」

 

「なっ……!?」

「はっ……!?」

 

 コリアンダーが魔法での差別云々に切り込んでいくと、ローリエが衝撃的な答えを返す。コリアンダーも私も、言葉に詰まってしまう。

 イジメで人殺しなんて、そんなことがあるとは到底思えない。でも、ローリエの口ぶりはまるでそういった出来事を見てきたかのような確信に満ちていた。どんな人生を送ったらこんなことが言えるのだろう。なんて言っていいか分からずにいると、ローリエは「他にも」と流れを打ち切って話題を変える。 

 

「更に強力な魔法も開発できるだろう。魔法工学に発展も望めるだろうな。 ………あ、それはそれで『魔法開発のためなら命はどうでもいいのか』みたいな別問題が生まれそうだなぁ……」

 

 私とコリアンダーを置き去りにして、一人で勝手に考察を進めていくローリエ。流石、私と同じ地位にまで登りつめただけあって画期的な発想を持つといったところだろうか。

 

「ローリエ、お前は魔力総量を上げる魔道具を作ろうと思ったことはないのか?」

 

「……!!

 なる程、手段が見つからないなら作ればいいってことか。」

 

「い、いや、なにもそこまで本気にしなくても……」

 

 コリアンダーの冗談半分な助言に何かを閃いたように表情が明るくなるローリエ。私には理解できません。

 

「無謀です! 今まで成功した試しがないというのに、魔力総量を増やす手段を探すなんて!」

 

「セサミ。確かに、道のりは厳しいものだ。君はそれを分かっていて言っているのだろう。もしかしたら、魔道具どころかヒントすら掴めないかもしれない、俺のやることが無意味になるかもしれない、と思っているんだろう?」

 

「だったら……」

 

「でもね、全ては『できる』って信じることから始まるんだ。例え蜘蛛の糸並みに細いチャンスでも、最初(ハナ)から諦めて手繰り寄せることすらしなかったら何も起こらん。

 教育も同じ。自分(テメエ)を信じられずに生徒を信じられないし、生徒を信じられないと教師なんてやってられねえ。」

 

 これでも俺はアルシーヴちゃんと同じ教師なんでな、と席を立って笑う彼からは意図やふざけた気配など感じなかった。でも、一瞬だけ、影を落としたような表情になり、それが私に違和感のようなものを残していった。一体、そんな顔をして何を考えているのか。

 

「何を考えているのですか、ローリエ……」

 

 その言葉をやっと口に出した頃には、私以外誰もいない空間に、半開きのコテージの出入り口から潮風が穏やかに吹き込んでいた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「しかし、かったりぃ~~町中の情報収集とかよ~。」

 

「お前なぁ、これはお前が言い出した事だろうがよ。いくらかったるくても何とか頑張ってくれ」

 

 

 セサミとの魔法談義から数分。

 俺達男タッグは、だらけた町へ繰り出して情報収集をすることになった。本来はもっとセサミと話をしたかったがアルシーヴちゃんに窘められた以上そうも言ってられない。でも全くといっていいほど気が進まん。俺もオーダーの影響を受け始めたのか?

 

 だとしたらマズい。こんな時に寝落ちなんてしたらやりたいことができなくなる。正気を保ってる今のうちに俺の「働く理由」を繰り返し暗唱し定着させなければ……!!

 

 理由……

 

 俺の働く理由……

 

「はぁ……神殿内でハーレムを築く…神殿内でハーレムを築く…神殿内でハーレムを築く…筆頭神官と同僚(賢者)と女神でハーレムを築く…!!!……あとハッピーエンドを目指す…

 

 おお。思った通り、だんだんダルさとか面倒くささとか、そういった怠惰な感情が抜けていく感じがする。アプリで答えを知っていたとはいえ、これで寝落ちの心配が無くなったのはデカい。

 

「おいローリエ、お前さっきから欲望がダダ漏れだぞ」

 

「コリアンダー、俺は至って真面目だ。」

 

「動機がスゴく不純だったが」

 

「寝転がってる町の連中の仲間入りをしたくなければ同じようにしろ」

 

「意味が分からん……」

 

 そうほざくコリアンダーに俺は説明をしておく。オーダーの副作用で町の人々の「働く意欲」が失われているのだとしたら、俺達にもその副作用が降りかかりかねない。それを予防するためにも、自分の働く理由を口に出して再確認させることが予防に繋がるのだ、と。

 一通り説明をするとコリアンダーは一応は納得したのか少し考える素振りをすると、自身の働く理由を口にしだした。

 

「金を稼ぐ……金を稼ぐ……おぉ、確かにやる気が復活した気がするな。」

 

 金ってお前……夢がなさすぎるだろ。そんなことを思っていたら、口に出していたのか、コリアンダーから「やりたいことを見つけた時の為の貯金だよ」との返事が返ってきた。まぁ確かに、何かやることが見つからなかったらまずは金を稼げと前世(日本)でも言われてたからな。今世(エトワリア)でも一緒という訳か。

 

 

「ところでお前、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 視界外からの鋭い視線を感じたことで、俺はまた失敗したと悟った。彼が言わんとしていることはつまり、「なんでオーダーの副作用とその予防法を知ってたの?」ってことだろう。下手な嘘は見抜かれる。

 

「俺はただ、町の人々の様子から考えられる推論を述べただけだ」

 

 前を見たまま、コリアンダーの方を向かずに答えて、「さぁ、早く聞き込み再開すんぞ!」と無理矢理会話を中断した。不安しかないが、こういうごまかし方以外この時点では思いつかなかった。

 

 

 

 

 

「お姉さん、何ボサッとしてるのさ。さぁ立って」

 

「おっさん、働かないと生活できないぜ」

 

「そこのお嬢さんも、仕事してやりたいことやるんじゃないのか?」

 

「仕事の後に何かご褒美でもあるんだろう、兄さん?」

 

「ねぇねぇ彼女、君は誰の助けになりたいんだい?」

 

「………。」

 

 

 俺達二人は、町中のだらけた人々に片っ端から声をかけて、正気に戻していた。それも、聞くべきことを聞くためである。「働く理由」を思い出させた後、“例の件”について聞いて回っているんだが、どうも良い情報は得られていない。

 往来に寝転んでいた人々だけじゃ足りず、屋内のだらけた大人たちにも声をかけようとした。まずはドーナツ屋の女店主だ。テキトーな強盗()に狙われて、投げやりになっていた人。彼女も、正気に戻さなければ。

 

「奥さん、いつまでもそうやって寝そべってないで」

 

「おいローリエ」

 

「何だよコリアンダー。俺は今、仕事中なの。見りゃ分かるだろ」

 

「にしては女にしか声をかけてないじゃないか。もうちょっとマトモにやろうとは思わないのか」

 

「……ナンパじゃあないんだけどなぁ」

 

 コリアンダーにあらぬ疑惑をまたかけられる。確かに、俺が声をかけた人の女性率は多いかもしれないが、そんな場合じゃないことくらい分かってる。仕方ない、またアルシーヴちゃんに何か言われるのも面倒だ、男にも声をかけて――

 

「ちょっとっ!」

 

「「?」」

 

 渋々ドーナツ屋を出ようとした俺に、幼い声がかかる。振り向くと、14、5くらいの女の子がカウンターの影からこちらを見ていた。

 

「お嬢さん、君は……?」

 

「あんたらね、町の人達を元に戻してるのは?」

 

「うん、まぁ、そうだけど……?」

 

「ママを元通りにするのはやめて」

 

 くせのついた銀色のショートヘアを指でくるくるさせて、俺達を睨みつけながらそんなことを言われた。

 

「………はい?」

「しかし、君の母親なんだろう?見た限り、父親はいないようだけど……」

 

「関係ない!早く出てって!!」

 

「お母さんが働かないと生活できないんじゃないのか?」

 

「うるさいわね!あんたらには関係ないでしょ!!!」

 

 コリアンダーが説得するも、彼女は聞く耳持たずと言わんばかりに「出て行って」の一点張りである。これが反抗期というやつなのだろうか。俺には前世でも今世でもこういう典型的な反抗期が来なかったため実感が湧かない。結局、俺達は中2の少女に「出てって」とドーナツ屋から追い出されてしまった。

 

 

「何なんだよ、あの子供は。」

 

「仕方ない、他を当たろう。あの子については暫く後回しだ。」

 

 しかし、珍しいな。「お母さんを助けて」なら兎も角、「お母さんを治さないで」なんて聞いたことがない。アプリでは、小学生ほどのロリがお父さんを叱咤激励してやる気を取り戻させていたが、それぞれの家庭の事情というやつなのだろう。なれば無闇に首を突っ込むべきではない。

 

「そういえばローリエ?」

 

「ん?」

 

「オーダーの副作用の件、セサミは知っているのか?」

 

「……………あっ」

 

「あ、じゃねーよ!

 早くコテージに戻って、伝えに行くぞ!」

 

 セサミにオーダーの副作用の件を伝えてなかったのはわざとではあるが、そんなことは言う必要はないだろう。あたかも忘れてたかのようにコリアンダーに引っ張られながらコテージへ戻った。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「あらら、コリャまたぐっすりお休みで……」

 

「遅かったか……」

 

 帰った俺達を待ち受けていたのは、クリエケージの中で、パンツ丸出しでぐっすりと眠りについている遠山さんと八神さん、そしてそのクリエケージの前の床で、ただでさえあぶない水着が脱げかかってきわどくなっているのも構わず、これまた気持ちよさそうに夢の中へ旅立っているセサミだった。どちらもあられもない姿となっており、目撃したコリアンダーは茹で蛸のように真っ赤になってしまっていた。俺は何の迷いもなくカメラで三人を撮る。

 

「おいお前なにやってんだッ!」

 

「さて、立て直すとしますかァ」

 

「それより写真を消せッ!!」

 

 消すワケねーだろ。男の夢だぞ。それに俺が撮ったのは彼女達の寝顔だ。なんら問題はない。それに、たとえ写真を消したとしても俺の心のフィルムは一生忘れはしない。

 

「ローリエ! いい加減に―――」

 

「うるさいぞコリアンダー、遠山さんと八神さんの睡眠妨害だ。セサミを静かに復活させることに専念しやがれ。」

 

 そう指示するとコリアンダーはさっきまで喚いていたのが嘘みたいに黙る。こうなったら今日中になんとかするのは無理だろう。コイツのような純情派はセサミみたいなあぶない美人がこうかばつぐんだ。セサミ、ありがとう。

 俺は俺でクロモンにコウりんの服について指示したり、コテージにやってくるであろう、きらら達の対応(足止め)をしなければならない。幸い、俺の記憶が正しければ、橋を直したら彼女達は次の日まで休むはずだから、猶予はまだまる一日ある。それが終わったらまた聞き込みの再開しよう、と思いつつ神父の服に着替え始めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 一方、きらら達一行は、だらけた港町にて、イーグルジャンプの社員である涼風青葉、滝本ひふみ、篠田はじめや飯島ゆんと合流し、きららの『パスを感じ取る能力』で残りの呼び出されたイーグルジャンプの社員・八神コウと遠山りんに近づきつつあった。

 しかし、彼女達はコテージの前で起こった予想外の事態により、ダメージを負ってしまったのだ。

 

「いったた……」

 

「み、みなさん……大丈夫ですか?」

 

「ううぅ……」

 

「ほんま、汚いと思うわ……」

 

「何だったんだ、今のは……?」

 

 この時の様子を、イーグルジャンプ・モーション班の篠田はじめはこう語る。

 

「気が付いたら見慣れない町に放り出されるし、いつの間にか着ていた服装は見慣れないし、ゆん以外のみんなは見つからないしで、最初こそ戸惑ったんだけど、まるで自分がゲームの中に入ったみたいで、RPG気分を味わえた。きららさんやランプちゃんのお陰でこの世界についても知れたしね。それでも――――――流石にあんなやつに出会うとは思わなかったよね」

 

 彼女は、エトワリアに召喚された後、同僚である飯島ゆんとはすぐに合流できたものの、他のブースメンバーに会うこともなく、だらけた町人たちからエトワリアのことを聞くこともできずに右往左往していた。しかし、青葉とひふみが見知らぬ人々を連れてはじめ達と合流してからは、その見知らぬ二人と不思議な一匹が、エトワリアについて教えてくれたのだ。それが、きららとランプ、そしてマッチである。

 その後ブースメンバーときらら達一行は、あらかじめはじめが見つけていた大きめのコテージへ行くために、川に架かっていたいた橋を修繕作業を始めたり、その道の職人をたずね、彼らの「やる気」を復活させるべく、手探りで仕事をする意味を思い出させようとしたりして、ようやく橋が直ったのだ。体を休めたきらら達は、ようやくコテージへ向かうことにした。

 しかし事件は、コテージの前で起こった。

 

「コテージの前まで行った時、中から……神父が出てきたんだ。金髪で、いかにも神父ーって格好の男だったよ。まるで、『フェアリーズストーリー』シリーズとか、ひと昔前の『ドラゴンクエスト』シリーズから出てきたかのような神父服だったね。それで、その男は開口一番、こんなことを言ったんだ。」

 

 

『ようこそ、マヨえる仔羊タチヨ。わが教会に何のゴ用カナ?』

 

『『『『……………………。』』』』

 

 金髪の神父は外国人のようにカタコトの日本語できらら達に話しかけてきたのだ。

 

 

「………うん、わかるよ。『まるで意味がわからない』って顔をするのは。実際私もすぐにはピンとこなかったし、青葉ちゃんやゆん、ひふみさんも私と同じ感想だったと思うよ、この時点ではね。きららさんやランプちゃん、マッチに至っては訳が分からなくて混乱してたみたいだったし。」

 

そんな混乱する一行を無視して、神父は続ける。

 

『おいのりをする?

 おつげをきく?

 いきかえらせる?

 どくのちりょう?』

 

『生き返らせるって……』

 

『見たらわかるやろ…』

 

「ゆんのツッコミでもう私は吹きだしちゃったよ。だって、エトワリアに召喚されたとはいえ、ゲームから出てきたかのような格好の男がゲームの台詞をそのまんま言うんだもの。元ネタを知っている身としては笑っちゃうよ。」

 

『あの、私たちはそのコテージの中に用があるんです。中で何が起こっているか教えてください。』

 

 きららはここでもこの金髪の男が敵である可能性を捨ててはいなかった。パスは確かにコテージの中から感じる。しかし、目の前の男はコテージの入口を遮るかのように立っている。しかも意味不明な発言。RPGネタを良く知らない彼女にとっては疑うなという方が無理な話である。

 

『オゥケイ。今、中ではケッコンシキが行われていマス。ゴサンレツの方は、招待状を見せてクダサイ。』

 

『け、結婚式っ!?』

 

 神父の衝撃発言に、今度は一行全員が目を見開く。きららのパスの探知は確かなはずなのに、なぜこんなコテージで結婚式が行われているのだろうか。きらら達が考えるより先にランプが反論する。

 

『そんなはずありません! このコテージの中にはクリエメイトがいるはずです!それなのに、結婚式なんてデタラメを言うのはやめてくださいっ!』

 

『まぁ待てランプ、いきなりそんな事を言っても、神父さんが困るだけだ。まずはもっと情報を引き出してみるべきだ。』

 

『そうデス。オつげを聞き、オいのりをしながら落ち着いてクダサイ。』

 

『まだそれやるんだ……』

 

 そうして、(誰も頼んでいないというのに)金髪の神父はおつげとおいのりを始めたのだった。

 

「ドラクエにおける「おいのりをする」はセーブ、「おつげをきく」っていうのはいわゆるあとどれだけの経験値でレベルアップするのかを知るってことなんだ。私達の作った「フェアリーズストーリー」シリーズも、セーブ時に話しかける相手が下級天使だったりと仕様はちょっと違うものの、影響を受けたのは間違いないよね」

 

 

『きららサン。アナタは、あと796Pointの経験値で次のレベルに上がるでしょう。』

 

『あの、青葉さん、レベルが上がるってどういうことですか?』

 

『えっと、レベルっていうのは、今の強さで、それが上がるってことは、強くなる……ってことなんでしょうけど。』

 

『そんな概念がエトワリアにあるんかいな?めっちゃ怪しいで。』

 

『確かに……現実は……』

 

「きららさんの疑問に青葉ちゃんは答えたものの、そもそもレベルって概念がゲームの中の物だし、ゆんは相当疑ってた。ひふみさんも、現実じゃセーブとかできないって言おうとしたみたいだけど、そういうことは考えるだけ辛いよね。」

 

『ランプサン。アナタは、あと114514Pointの経験値で次のレベルに上がるでしょう。』

 

『なんで私はそんなに経験値がいるんですか!!?』

 

 神父は、きららに続いてランプにもお告げをきかせたのだが、そのあまりにも多い経験値に、ランプは抗議の声を上げる。だが、神父のお告げはこれだけでは終わらなかった。

 

『そしてソコのモーモンは……もうレベルアップ出来まセン。』

『なんでだよ!?』

『もう上限レベルだからデス。デモ、アナタがモーモンからツッコミ役にジョブチェンジすれば、レベル上限は更に上がるデショウ。』

『僕はモーモンじゃないし、余計なお世話だよ!!』

 

 あまりにもひどすぎるマッチの扱いに、ランプは先程まで怒っていたのを一変、笑いをこぼし始めた。

 そこで「何笑ってるんだランプ!」と喧嘩になるも、神父は更に次の作業を始める。

 

「マッチへのお告げを終わらせた神父は、「つぎはお祈りをしましょう」って言って、懐から二つのものを取り出した。片方は羽根ペン。こっちはいいさ。なんせ、「フェアリーズストーリー」を筆頭とした、様々なファンタジーものには欠かせないアイテムだったから。問題はもう片方。アレは…メモ帳の1ページみたいな紙切れだったね。ここで青葉ちゃんが笑っちゃったよ。」

 

 黙々と雑な紙切れに何かを書き込んでいる神父、唖然としているきらら達、笑いをこらえるブースメンバー。この時点で混沌とした空気になっていた。

 

 そして、神父はメモを書き終えるとこう言ったのだ。

 

『ソレでは、コノまま冒険を続けマスか?』

 

 それは、セーブしたあと神父が主人公に尋ねる典型的な質問。「はい」と答えればゲームを続けられるし、「いいえ」と答えればゲームを終了できる。

 

「きららさんは、それに戸惑いながらも、「はい」って答えたんだ。そうしたら神父は「Oh!この冒険者タチにカミのゴ加護のあらんコトを!」というと、きららさんにメモを押し付けてこういったんだ。」

 

 

『…お疲れ様でした。このまま電源をお切りしやがれ』

『イヤ普通に喋れるんかいっ!!!』

 

 

「いや~~、ゆんのツッコミがエトワリアに来てから一番綺麗に決まった瞬間だったね。

 その神父はどうなったかって? ……そのまま私達の修繕した橋の方へ歩いていったよ。ほんと、なんだったんだろうね。今でもよく分からない。それでね、「なんか良く分からないけど神父さんが退いてくれたからコテージへ入ろう」ってマッチが言った途端に、聞き覚えのある効果音と共にこんな声が流れてきたんだ。」

 

 

『涼風、篠田、飯島、滝本、ランプ、OUT(アウト)-!』

 

『ええっ!?』

『な、何ですか今の声は……』

『っ! きらら、アレ!!』

 

 

「…………年末の笑っちゃいけないヤツの宣告が流れたかと思えば、黒いおもちゃのバットみたいな棒を持ったクロモンが襲いかかってきた。きららも応戦したんだけどね。数が多かったのか取りこぼしちゃってね。こっちにも来たんだけど…その時のあいつら、執拗に私たちの……お、おしりを狙ってきたんだ。

 ……そう、完全に年末のアレだった。」

 

 

『痛いっ!』

『あ"っ!』

『いたーい!』

『ひうっ!?』

『痛いですぅ…』

 

 

「地獄だったね。あいつら、一発しか殴らなかったけど、相当痛かったのを覚えてるよ。

 アレがタイキックだったらと思うと、ゾッとするよ。

 でも、今思えば、これは前座だったのかもしれない。神父さんが言ってた、『中で結婚式をやっている』ってアレ。ランプちゃんは信じてなかったけど、信じればよかったのかなって思う。

 コテージの扉を開けて見えた光景に、皆絶句したから……!」




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 エトワリアの魔法の考察を深めたり、ハーレムを諦めてなかったり、あぶないコウりんやきわどいセサミを写真に収めたり、眠ってしまったセサミの代わりを請け負ったりした、真面目と不真面目の境界を漂っている八賢者。彼の目的は「ランプが成長&アルシーヴとソラが救われるハッピーエンド」と揺るぎない。魔力総量を上げることで、エトワリアの魔法発展を望めると言っていたが、このフラグをどう回収したものか。

コリアンダー
 純情派なローリエの相棒。その性格上セサミには弱いが、ローリエの言動にある何かを見抜き、見出しつつある。人と人との絆とは不思議なもので、似たような性格同士が惹かれあうこともあれば、真逆な性格の人同士が惹かれあうのもまたありうる。事実は小説よりも奇なりとはよくいったものである。

セサミ&八神コウ&遠山りん
 オーダーの副作用という名のラリホーに負けた人たち。「働く意味」を思い出さない限り怠惰の化身となるわけだが、そんな無防備な彼女達にローリエが何もしないわけがなく、写真を撮られてしまった。写真割合はセサミ7のコウりんが3。もともとローリエが百合の心得を会得していることもあり、コウりんは比較的無事だった。セサミについては……次回に語るとしよう。

きらら&ランプ&マッチ&涼風青葉&滝本ひふみ&篠田はじめ&飯島ゆん
 ロ…金髪の神父にドラクエ風神父ごっこにさんざん付き合わされた挙句、子供の使いから輸入されたケツバットの制裁を受ける羽目になった人たち。このシーンの語り部にはじめさんを選んだのは、青葉とゆんと違って書きにくく、ひふみ先輩は性格上語り部に向かないからである。ぶっちゃけオーダーが解けたらその記憶はなくなるのだが、この語るタイミングについては言わぬが華だろう。



new game!とフェアリーズストーリーとドラクエの関係
 フェアリーズストーリーについては原作開始時に2作目まで出ていること、『3』では青葉が手掛けたソフィアが出る(しかも盗賊に殺される)こと、ラスボスが主人公の親友コナーであることぐらいしか情報がない訳だが、青葉が子供の頃プレイしたのが『フェアリーズストーリー2』で、家庭用ゲームとして広く流通していることとnew game!の世界観を考えると、ドラクエよりも後でフェアリーズストーリーが始まったと考えられる。青葉は知らなくても、はじめやコウ、りんや葉月さんがドラクエを知っている可能性は高い。少なくとも、拙作ではこういう裏設定にする所存。

『このまま電源をお切りしやがれ』
 元ネタは『ドラゴンクエスト9』のカラコタ橋の神父代行。ここでセーブをしたあとゲームを終了すると、上記のメッセージを見ることができる。『9』で初めて見られた屈指のパワーワードである。



△▼△▼△▼
セサミ「私としたことが、まさか職務中に眠ってしまうとは…しかも、働く理由すら忘れる始末……アルシーヴ様に何と言えばよいか…それに、私が寝ている間に色々してくれた彼らに感謝しなければ……って、なんですかこの内装は!?」
りん「私たちの服も変わってる…!?コウちゃん起きて!私達、大変なことになっちゃってるよ!!」
コウ「……zzz」

次回『恋仲に首を突っ込むのは野暮というもの』
りん「次回もお楽しみに……って寝てる場合じゃないよコウちゃんっ!!!」
▲▽▲▽▲▽

あとがき
 結局、千夜ちゃんもシャロちゃんも当たらなかったよ……
 令和もよろしくお願いします。
 特別編のアイデアしか浮かばないですが、本編頑張りたいと思います。

ろーりえ「ああ、これ作者が働き始めたら失踪するパターンだ」
こりあん「言っていい事と悪い事があるだろ!」


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第17話:恋仲に首を突っ込むのは野暮というもの

“あいつは好きなものの為なら命令や法律すら破る。特に女と女同士の愛の為なら命くらい投げうちそうだな。”
 …コリアンダー・コエンドロ


 俺達は、寝落ちしてしまったセサミに代わって色々準備をすることにした。

 

 ……ホントはもっとセサミの過激な写真を撮りたかった。セサミのあぶない水着が脱げかかっていて、あと少し水着を動かせば全てが見えてしまう状況。手を出さなかったら股に付いている砲台の機能不全を疑うほどだ。

 でも、良い所で(ことごと)くコリアンダーに邪魔された。水着(上)を引っ張り上げようとしたら頭を掴まれ床に叩きつけられ、水着(下)の紐を完全にほどこうとしたらその手を踏まれた。

 「添え膳食わねば男の恥」といくら説いても「セサミは添え膳じゃねーよ!」と反論される。結局、満足したものは撮れなかった。

 

 

 頭に来たので、コリアンダーには眠っているセサミを叩き起こして働く意味を思い出させる役目を押し付けた。

 結果、思った通り真っ赤になりながら寝ているセサミの傍で正座して、彼女の肩に手を伸ばしたかと思えば引っ込めるのを繰り返すだけしかできなくなっていた。

 

 …何というか、絵面が背徳的だ。あらぬ誤解をされても仕方ないだろう。人間、ああはなりたくないもんだ。

 

 

 俺も俺で、コウりんのためにやるべき事をやらねば。

 一途にコウのことを想い続けているりんと、人の気持ちを察するのが苦手なコウ。同性であることもあって、りんは本当の想いを告げられず、コウは勿論気付くはずもない。コウがフランスへ行く直前に想いの一片をりんは告げたが、言われた本人は顧みることこそすれ、りんの真意には気づいてないだろう。

 

 だったら、エトワリアに召喚されている間だけでも、二人をくっつけてやろうではないか。これについては賛否両論あるだろうが、少なくとも俺はそうしたい。しかし、俺も()()()である以上仕事はしなければならない。

 

 

 故に、行った準備は内装と二人の服装チェンジ。

 内装は、まるで教会のようにテーブルと椅子を並べる。奥に即席の神父席を用意する。

 二人の服装は、クロモン達に指示してウェディングドレスを着せておいた。遠山さんだけじゃなくて八神さんもだ。本来ならスーツかドレスか選ばせようと思ったんだが、寝ている人にそんなこと聞いても答えが返ってくるワケがない。

 本人達に尻込みされても癪だ。そうなるよりは、引き返せなくなる所までお膳立てして、関係を築く所をスタートラインに設定すればいい。

 

 要するに既成事実である。

 流石の奥手CPでも、なし崩し的に結婚式を上げてしまえば、一緒にならざるを得ない。あとは二人が愛を育むのを見守るだけ。

 式の台本も作った。あとはセサミが船を漕ぎながら司会を全うするだろう(きらら達と対決することにもなるだろうが)。

 

 更に、俺自身もきらら一行の足止めをしておく。

 金髪のカツラ、神父の服を利用して外国人風神父に変装。そして、ドラ○エごっこを思い切り演じることで、彼女達の足止めはした。笑った人をケツバットするクロモン達のオマケ付きで。

 ダメ押しに、コテージの中に隠しメッセージとして『KIRARA THAI KICK』の文字を残しておいた。まぁまず見つからないだろうし、読み上げた所でタイキックさんは現れないから意味はないけど。

 

 

 そんな訳で俺がやったことを簡単にまとめると、

 

 ①結婚式の設営

 ②コウりんのウェディング・ドレスアップ

 ③セサミ用の式の台本制作

 ④金髪の神父の演技

 

 まぁ、こんな所だ。

 ここまでやって原作が変わって(きらら達が負けて)しまわないか心配だが、G型魔道具で見守り、いざという時は金髪の神父姿で助太刀すればいい。コリアンダーはセサミ相手に赤面し続けてオーバーヒートしかかっているし、セサミは寝落ち寸前なので自前の武器(拳銃や閃光弾)を使うみたいな大ポカをやらかさない限り問題はない。

 

 

 さて、しばしLIVE観戦といきますか、と思った所で。

 

自分(テメエ)を信じられずに生徒を信じられないし、生徒を信じられないと教師なんてやってられねえ。』

 

 セサミに言った言葉を思い出した。

 

 ……生徒を信じられないと教師やってられねぇ、か。

 肝心な時に生徒(ランプ)に手を差し伸べなかったどころか、彼女を見ようともしなかった癖して、我ながら何を言ってるんだか。

 

 でも、そう思いながらも、俺は『先生』でありたいし、『アルシーヴちゃんの友人』でもありたい。

 ここで彼女達を見守ることが信じることなのか。それとも、彼女達を信じるからこそ、余計な横槍を入れるべきではないのか。

 俺はしばし魔道具と中継を繋げられないでいた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 まだ、頭がくらくらする。脳内に(もや)がかかったかのようにまだ前の記憶を思い出せない。

 

 目を覚ましてみると、コテージの内装が変わっていた。重たい目を擦ってみても、内装は変わらない。

 

 更に、自分の衣服に違和感を感じた。周囲を確認するときに、自分の手に白いグローブ―――花嫁とかが手に着けているアレである―――が着けてあることに気付いたことがきっかけだ。

 

 鏡で見た彼女、遠山りんの格好は―――

 

 

「う、ウェディングドレスぅぅぅぅぅぅぅっ!!!?」

 

 

 ―――花嫁そのものだった。

 

 (いやなんで? どうして私がこんな格好をしているの!?)

 そんな疑問が頭に浮かび、顔は熱くなり、眠気は吹っ飛ぶ。

 

 動揺を隠せないまま改めて周りを見渡すと、今度はりんと同じ格好(ウェディングドレス姿)の女性を見つけた。

 その人は金髪だが顔はこっちを向いてないためかよく見えない。さっきのりんの叫び声にも反応しなかったあたり、まだ眠っているのかもしれない。

 

 りんが回り込んでその顔を見ると、その人は意外な人物だった。

 

 

「コウちゃん………」

 

 

 りんの同僚、八神コウ。

 彼女同様純白のウェディングドレスに包まれて眠る彼女は、一番の同僚でさえも一瞬誰だか分からなくなるほど美しかった。

 いつもはファッションに全く気を使わない彼女が、オシャレ次第で綺麗になれることをりんは思い出して、ちょっと勿体ないなと思い、ふふっと少し笑みが零れる。

 

 

「すみません! 誰か、誰かいませんか!?」

 

 そこで、扉からそんな声と人が入ってくる音がした。

 

 まず入ってきたのは、赤い髪を二つにまとめた中学生くらいの女の子。そして、ベージュの髪を星の髪飾りで短いツインテールにした魔法使い風の女の子が入ってきて、その後にりんの見知った顔ぶれが現れた。

 

 

「遠山さん!」

 

「青葉ちゃん、みんな……!」

 

 

 きららとランプ、マッチ……そして、イーグルジャンプのブースメンバー・涼風青葉、篠田はじめ、飯島ゆん、滝本ひふみの6人(と1匹)である。

 急な声と見知らぬ人に驚いたりんだったが、信頼できる仲間が現れたからか、再び安心感と睡魔が蘇る。

 

 

「……って、何ですかその格好!!?」

 

「んー? あー、青葉だ~。やっほー。」

「ふぁ~あ……」

 

「やっほーじゃなくて……

 って八神さんまでウェディングドレスを……!?」

 

「なんや、二人とも様子が変やな。」

 

「遠山さんまであくびしてるし……」

 

「何か……街で会った人達と、似た感じ……さっきの、神父さんの言ったこと、本当だった……?」

 

 完全に睡魔に負け、ウェディングドレス姿を受け入れつつあるりんやコウを見て皆不思議そうな顔をしている。

 なにがそんなに不思議なんだろう。変なことをした自覚はないし、コウちゃんは……いつもよりも可愛い格好をしているだけだし……と、りんの思考は途切れつつある。

 

「ふあぁ……何なんですかさっきから。

 静かにしてください、私は寝たいんです……」

 

 そう考えていると、会話にセサミが乱入してきた。コウとりんを捕まえた賢者であるにも関わらず、その声に凛としたものはもはやなく、寝ぼけているのが丸わかりである。 

 

「あっ……!あの人は『八賢者』のセサミ!!

 アルシーヴの秘書も勤める、強敵です!」

 

「ぐぅ……ん?

 手元に何か置いてある……この本は……? ぐぅ」

 

「………強、敵……??」

 

 完全に眠りこけているセサミにひふみも首をかしげる。

 ランプの説明は間違っていないのだが、セサミもまた、オーダーの影響下に陥り、だらけきっている為、どうみてもマダオ(まるでダメなお姉さん)にしか見えないのだ。

 

「あのぅ、どうしてこんなことをするんですか…?」

 

「え………? あれ、なぜでしょう?」

 

「……どう見てもオーダーに毒されてるね。」

 

 現に、きららの質問にも、まともに答えられていない。彼女もまた、働く意欲をオーダーの副作用に奪われてしまっている。

 

「八賢者までこんなことになってるなんて……」

 

「……これ、今がチャンスなんじゃ………」

 

 

 賢者にまでオーダーの副作用が及んでいることに驚くランプに、敵である賢者が無力化されている今が二人を救出する好機なのではと考える青葉。

 

「……そうだね。今のうちに助け出してしまおう。」

 

 青葉の言葉にマッチが乗ると、きらら達一行は、その場から動こうとしないウェディングドレス姿のコウとりんに駆け寄った。

 しかしそこに待ったがかかる。

 

 

「させませんよ。

 私は八賢者。アルシーヴ様の秘書ですから………!!」

 

 

 それは、先ほどまでだらけきっていたセサミからのものであった。

 瞳はしっかりと見開かれ、両の足できらら達の退路を塞いぐように立っている。そこに、既に眠気は存在しなかった。

 

 

「復活、しちゃいましたね……。」

 

「あなたたちのお陰で私が働く意味を思い出しました…………感謝します。」

 

「しまった……!」

 

 おそらくランプが「八賢者」と口にしてしまったからだろう。それに反応して、セサミもまた、オーダーの副作用から脱したのだ。

 

 

「お二人は返して貰います! 青葉さんたちのためにも!」

 

「そんなことはさせませんわ。この二人には―――」

 

 きららが他の仲間を庇うようにセサミの前に出て、杖を構える。セサミもまた、コウとりんを取り返されまいと杖をきららに向けた。そして余裕の表情を崩さぬまま平然と

 

 

 

「―――ここで結婚式を挙げてもらいます」

 

「イヤ何でぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!?」

 

 そう言ってのける彼女に、ランプが指をつきつけて叫ぶ。

 

「働く意味を思い出したけど仕事内容忘れちゃったよこの人! なんで異国の地に呼んでまで結婚? 禁忌破るまでしてやることが結婚式!? しかもコウ様とりん様を!? どんだけおふたりの仲をいじくる気なんですかアナタは!!!」

 

「いや、だってアルシーヴ様がそうしろってこの本に……」

 

「アナタの独断じゃなくて命令だったの!!? 何がしたいんですかアルシーヴは!! オーダーして賢者派遣してまでクリエメイトの仲を深めたいとかどんだけ奥手な性格してんですか!!! しかもあらゆる順序吹っ飛ばしていきなり結婚式とかタチ悪いわ!!! もっとマシな方法いくらでもあったでしょうが!!」

 

 セサミが見せつけてきた本は、もちろんアルシーヴの命令書ではない。ローリエが一日で完成させた式の台本である。ただ、そこには「セサミの活躍を期待している。目覚めたらこの本の内容を忠実に進行してくれ  byアルシーヴ」とか書かれていたりするのだ。筆跡や訪問時間など、アラは探せば簡単に見つけられるが、寝起きのセサミにはそれができなかった。

 そんなトンデモ命令書に従うセサミに、ランプはいつもの敬語を忘れてキレる。

 

 

「こっ、コウちゃんと私が結婚……!?////」

 

「…………っ////」

 

「なんで二人ともちょっとノリ気なんですか!? 女の子同士ですよ!? 正気に戻ってください! あとコウ様は何か言ってください!!!」

 

「愛に性別は関係ありませんわ!」

 

「セサミは黙ってなさい!!」

 

 突然の結婚式宣言を受けて赤面するコウとりんを窘めているとセサミが再び会話に乱入してきたので、それを怒鳴って追い払った。

 

 このセサミとランプのコントを傍からから見ていたきらら達は。

 

 

「な、何ですかこれ……」

「ランプちゃんええツッコミしとるな」

「…えっと……」

「ランプ……」

「……これ、クリエケージを巡る戦いだよな……?」

 

 

 完全に勢いを削がれてしまっていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 コテージから立ち去った俺は、コリアンダーに連絡して合流した後、きらら達一行が直した橋を辿って再び街へと繰り出していた。

 コリアンダーからの視線が、疑いの強いものとなっている。

 

 

「なぁ、何でコテージから離れたんだ?」

 

「あそこまで演出したんだ。もう必要ないだろ?」

 

「いや、召喚士達の妨害目的とはいえ、結婚式はないだろ。セサミをいつまでも起こせなかった俺が言うのも何だが、なんであんな演出(こと)したんだ?」

 

「いやなんでってお前……『new 〇ame!(聖典)』の内容もっかい頭に叩き込んでから出直して来いや」

 

「………? 何言ってんだ? あの聖典の登場人物、恋愛関係とかないだろ?」

 

 

 ウソだろこの眼鏡、と絶句してしまう。

 コイツは、まさかコウりんに気付くことすら出来なかったというのか。そんなラノベのハーレム主人公並みの朴念仁だというのか!? 歴代ハーレム主人公でももっと察し良いぞ!?

 明らかな描写あっただろ! ひふみんが「にぶちん」っつってただろ! コウがフランスに行くシーン、見てねーのか!?

 ……コイツ、コウ以上のにぶちんだ。だが、ハーレムを譲ることは出来ない。

 

 

「……鈍感ヤローがハーレムラノベ主人公やる時代は終わったんだ。大人しくモブに甘んじてろ」

 

「なんでそんな言い方されなきゃならねーの!?」

 

 

 教えてたまるかバカ野郎。

 

 そんな事で頭を悩ませていると。

 

 

「待った。コリアンダー、あれ」

 

「?」

 

 

 町の木陰でキスをしているカップルを見つけた。

 ()()()()()()。くせのついた銀色のショートヘアの女の子と薔薇のように赤いロングヘアの女の子が、口付けを交わしていたのである。

 彼女達のしている事がストレートに分かったコリアンダーが頬を朱に染める。眼鏡の男がそんな事しても可愛くないぞ、性転換してから出直せ。

 ま、それはともかく。

 

「あの子たちは愛し合ってると思うか?」

 

「と、当然だろう……だって…き、キス、してるもんな……」

 

「さっき出したコテージに残ろうという提案は、あの二人の邪魔をすることと同義。万死に値するのだ」

 

 

 見知らぬ百合CPに感謝&見つからないように隠密しつつ、コリアンダーに小声でそう諭す。これで、コテージから離れる理由を作り出せた。

 あとは、彼女達の邪魔をすることなく立ち去るだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか、理論がゴリ押しだった気がするが……」

「気のせいだ。」

 

 この後、もうひと悶着あることを、俺達は知らない。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 ランプの先生とアルシーヴの友人の狭間で迷い続ける男。今回は百合を全面的に押し出し、コウりんを(結婚的な意味で)追い詰めた。上手く暗躍している風を装っているが、彼の目的とアルシーヴの目的のズレをコリアンダーに指摘される前に百合理論で押し通るなど、力押しの部分が否めない。ギャグだから。

コリアンダー
 ローリエの相棒とは思えないほど純情で紳士的な男。女性の交友関係に疎いハーレム主人公気質の持ち主。バレンタインデー編にアルシーヴのチョコに気づいたのは、友情にあついから。しかし、ローリエからの(ギャグ的な)ヘイト値は上がってしまった。
 名字の由来はコリアンダーの和名『コエンドロ』から。この単語が元々ポルトガル語由来でもある。

セサミ&八神コウ&遠山りん
 真面目な淑女枠からボケ役に出世した八賢者&クリエメイト。
 ローリエが用意した台本には、アルシーヴからと装ったメッセージが書いてあるお陰で、働く理由を思い出せても別のものを忘れた模様。

きらら&ランプ&マッチ&涼風青葉&篠田はじめ&飯島ゆん&滝本ひふみ
 前回に引き続き、ローリエが仕掛けたネタに翻弄される人々。ランプに至っては、ツッコミ役も引き受けた模様。前話ではマッチがツッコミ役になるとのことだったが、ニヒルな口調が難しく、ランプにツッコミ役が取られてしまうかもしれない。

マッチ「いや別にいいよ……」
ローリエ(金髪神父ver.)「レベルアップできまセンよ?」



マダオ
 元ネタは『銀魂』の長谷川泰三。政府高官だったが不祥事で失職。「まるでダメなオッサン」略してマダオとされた。エトワリアでは、マダオは「まるでダメなお姉さん」を略すことが多くなるだろう。(メインが女性だから)


△▼△▼△▼
ローリエ「さ、コウりんの結婚式は問題なく進めてるな。良き哉良き哉」
アルシーヴ「良くないわァァァァ!! 誰が許可したあのメチャクチャな命令は! 色んな人々に誤解されるだろうが!」
ローリエ「怒らないのアルシーヴちゃん。程々にしないとキャラ壊れちゃうよ?」
アルシーヴ「誰のせいだと思ってるんだ……!」
ローリエ「そうカッカしなくても、百合CPのピンチを救う位やってやるさ」

次回『愛の形』
ローリエ「(こ○)の形じゃないからな?」
アルシーヴ「どこまで好き勝手やるつもりだこの男……」
▲▽▲▽▲▽


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第18話:愛の形

 ながらくお待たせしました。
 リアルの研修がようやく終わって、一日で仕上げました。

アンケート結果
ローリエ×アルシーヴ:4
ローリエ×ハッカ  :1
ローリエ×ライネ  :0
ローリエ×ジンジャー:1
そんなことより本編だ:6
 ……はい、続き書きまーす!!!!!!←



“俺は港町で、愛の形を二つ見た。
 一つは八神さんと遠山さんの。もう一つは、そこに住むとある二人の少女のものだ。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第3章より抜粋


 くせのついた銀色ショートヘアの女の子。

 先日、俺とコリアンダーを「ママを治すのはやめて」と言って追い払った子だ。

 その子が今、薔薇(バラ)のように赤い髪の同年代くらいの女の子と接吻をしていた。まるで、桜Trickの春香と優が、お互いを愛し合うかのように。

 

 

「おいローリエ、は、早く退散した方がいいだろ?

 覗きなんて、趣味悪いぞ」

 

「顔真っ赤にして言うな、説得力が皆無なんだよ」

 

 

 俺達は、物陰から彼女達を見守っている。すぐに立ち去ってもいいんだが、もうしばらく見ていたい。

 さっきからコリアンダーが、俺の袖を引っ張ってここから立ち去ろうと何度も言っている。しつこいぞ。

 

 

「見つかったらマズいんじゃないのか?」

 

「見つかったら百合を応援する資格を失う。

 見守るのも命がけだ。だから覚悟決めろ」

 

「勘弁してくれよ、そんな覚悟いらないぞ……」

 

 

 なにか言ってるヘタレを無視して観察を再開する。

 うおっ、舌絡ませてるぞ、ガチのやつだ……!

 

 いやぁ、最高ですな。

 爽やかな潮風、町の木陰で重なる二人の影、近くに昨日見た男……

 

 ……っ!!?

 

 昨日見た男……!? それって、()()()()()()()()()()じゃ……!

 

 

「おいヘタレ! あそこにいるの、昨日の強盗じゃねーか?」

 

「なっ!? 本当だ……! あいつ、何する気だ………!?」

 

 

 交番へ行ったはずのその男は、昨日みたいにやる気を全部削ぎ落されたような雰囲気はなく、眉間にしわを寄せ、ナイフを片手に悪意を滾らせていた。きっと、なにかの拍子に正気に戻ったんだろう―――目が雄弁に語っている。

 あの目は、マズい。目が濁りかけている。かつて俺が殺した、あの盗賊を彷彿とさせる。ソラちゃんとハッカちゃんを攫い、アルシーヴちゃんを傷つけたあの野郎だ。

 あいつはきっと、銀髪の子でも攫って身代金でも要求するつもりなのだろうか。女子二人は、まだあいつに気付いていない。このまま放っておくわけにはいかない。

 

 

「コリアンダー、あいつをぶっ倒せ。二人は俺が守る」

 

「えっ!? ………あぁ、わかったよ!」

 

 

 突然の指示に目を白黒させたコリアンダーだったが、すぐに戦闘態勢に入った。アルシーヴちゃんのお墨付き通り、戦い方の基本は分かっているということだろう。

 

 

 コリアンダーはどこからともなく木剣を取り出すと、ひとっ飛びで強盗に切りかかる。強盗は木剣をナイフで受け止めたものの、女の子達を見ていてコリアンダーに気づかなかったため、初動が遅れた。

 そりゃそうだろう。だって、俺達と強盗との距離は少なくとも10メートルはあった。それを一息で接近できる奴なんてカルダモンくらいだ。

 

 その後も彼は、縦に、横に、めちゃくちゃに振り回して強盗を圧倒した。剣の達人たるフェンネルには見せられたもんじゃない(少なくとも俺はそう思った)が、相手の得物がナイフであることも相まって現段階でコリアンダーが押している。

 

「二人とも! ここから逃げるんだ!」

 

「「!!?」」

 

 俺はコリアンダーが時間を稼いでいる隙に百合CPの二人に呼びかける。案の定二人とも驚いた様子で固まる。

 お熱い所、邪魔して申し訳ないが安全確保が優先だ。

 

「こっちだ!」

 

 強盗とコリアンダーから離れるように誘導して、二人を避難させる。

 女の子二人は、突然の乱入者に混乱していた様子だったが、やがて状況を飲み込んだのか、俺についてきてくれた。

 

 コリアンダーはあのままで大丈夫だろうか………まぁ、なんとかするだろ。

 

「あのっ!」

 

「? なんだい?」

 

 赤髪の女の子に後ろから声をかけられる。

 

 

「あなたは、何者なんですか?」

 

 

 そして、そう問いかけてきた。

 なるほど、彼女達にとって俺は、危機こそ知らせてくれたものの、名乗ってない以上、素性を知らない怪しい人間には変わりないってことみたいだな。

 しかし、ここは普通に賢者と名乗って良いものか。賢者に悪いイメージはない。むしろイメージは良い。ただ、()()()()のだ。逆に、この子たちに気を遣わせちゃうんじゃなかろうか。

 

 

「俺は………」

 

 かといって、ここで嘘をつく理由も必要性もない。

 少し悩んだ結果、俺は……

 

「俺はローリエ。しがない魔法工学の教師さ。」

 

 こう名乗ることにした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「つ、強い……!」

 

「まだまだですね召喚士。」

 

 

 

「り~ん~。」

 

「うふふ。もう、コウちゃんったら~~。」

 

 すぐ近くで、そんな会話と水の音がする。

 けれど、それを確認するのも面倒くさくて、傍らのコウちゃんの体温と体重に身を委ねる。透き通ったヴェールを被った金色の髪を抱き寄せる。

 コウちゃん、可愛いなぁ……。私に、ここまで甘えてくれるなんて。

 

 

「八神さん! 八神さんっ! しっかりしてください!」

 

「ん~~帰らなきゃって気はするんだけど、仕事せずにだらだらしてるの気持ちいいんだよね~。」

 

「そうよ~青葉ちゃん。私はもうちょっとコウちゃんとだらだらしてるから~。」

 

 

 欲を言えば、ちょっとじゃなくてずっとこうしていたい。

 こんなにも幸せな瞬間はないから。めんどくさい仕事をせず、大好きなコウちゃんとこうしていられるだけで、最高の気分だ。でも私達の答えに青葉ちゃんは「な……二人とも、そんなことを言うなんて……」とショックを受けている。

 

 

「そのままだと、ダメ人間まっしぐらやないですか!」

 

「お休みの日とか……だらける時はだらけていいと思うけど………今はダメ……」

 

 

 ゆんちゃんやひふみちゃんがなにか言っているけど、私はこれでいい。

 私はこのまま、コウちゃんと一緒にいたい。

 誰かに取られるなんて、嫌……そう、思っていると。

 

 

「はあぁ………」

 

 

 ため息が聞こえた。

 私のではない。隣のコウちゃんも眠そうに目を半開きにしている。あくびはしてもため息は出さない。周りを見てみると、青葉ちゃんの視線が、ゆんちゃんやひふみちゃんの視線が、はじめちゃんに集まっていた。

 

 

「あの……はじめ?」

 

「八神さんもですけど、遠山さんもです! 遠山さんはこんな八神さんが好きなんですか?

 八神さんを甘やかして、二人のゲーム作りへの情熱はどこへ行っちゃったんですか!!」

 

 

 はじめちゃんにそう言われた時、頭の中で、昔の記憶が蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めてコウちゃんに出会ったのはイーグルジャンプに入社した時。

 

 同期なのに、物怖じせず人を寄せ付けない、ギラギラした雰囲気を持った人。でも、その瞳には情熱が燃えている。それが、コウちゃんだった。

 仕事は本当に出来る人で、入社翌月に「フェアリーズストーリー」のメインキャラデザを先輩達を押しのけて勝ち取ったほど。当時の私にとっては、それがあまりに現実離れしていたから、「あぁ、天才ってこういうひとの事を言うんだな」って思って、半ば追いつくことを諦めていたのかもしれない。

 でも、それでいいと思っていた。私は私なりに、自他に厳しく、好きなことに対して一生懸命な彼女を支えようと思ったのだ。幸い、この時からコウちゃんは私にだけは心を開いてくれてたから、大丈夫だろうと思っていた。

 

 

 そして、私達の関係が大きく変わったのが「フェアリーズストーリー2」の製作時の事。葉月さんからADを任されたコウちゃんは、今までに見たことがないくらいに頑張っていた。一切の妥協を許さず、よりよいゲームを作ろうとしていた。

 ただ……その実力を、周りの人に押し付けていたのかもしれない。当時の自分のストイックさを、後輩や部下に求め過ぎていたのかもしれない。

 そのせいで――――――入社したての後輩が半年で辞めてしまった。

 

 後輩が辞める前日、彼女はコウちゃんにこう言っていた。

 

 

『皆がみんな、先輩みたいに凄くないんですよ……?』

 

 

 苦しそうに訴えてきた後輩を、コウちゃんはその時「だから何?」と簡単にあしらっていた。その翌日から彼女が来なくなり、葉月さんから辞めたと聞いたことで、私は彼女がコウちゃんに言っていたことの意味が少し分かった気がした。

 

 そして、コウちゃんはその日から目に見えて落ち込んでいった。この時は葉月さんや他の上司に何か言われたのか、コウちゃん自身があの後輩の言葉の真意に気づいたのかまでは分からないけど。

 仕事のペースは落ち、会社を休む日も増えてしまった。

 

 そこに、葉月さんに頼まれた私がマンションのコウちゃんの部屋を訪れたのが始まりだった。

 

 

『コウちゃん……?』

 

 

 その時のコウちゃんは正直見てられなかった。部屋に引きこもり、まともにご飯を食べることすらせず、瞳の中の情熱も消えかかり、自棄(ヤケ)になっていた。

 その原因が後輩のことであることに気づくのに時間はかからなかった。

 私はすぐにご飯を用意し、コウちゃんに話しかけた。

 

 

『大丈夫? ご飯、作っておいたからね……?』

 

『………遠山さん? なんでここに……?』

 

『……りんでいいわよ。』

 

 

 その時、思ったんだ。

 

 あぁ、この人も私と同じ弱い人間なんだって。

 

 この時まで、私はコウちゃんのことを完璧超人が何かだと思っていた。

 でも、そうじゃないんだ。誰だって一人じゃ弱いままなんだって思った。

 いつだかのドラマで聞いた、「人という字は、人と人が支え合ってできるもの」という言葉を実感できた気がした。

 

 その後、私はコウちゃんの所に通い詰めて、少し話して帰るといった日々を過ごすうちに、コウちゃんの家に行くのが日課になり、毎日ご飯を作ってあげているうちに、コウちゃんは私に心を許すようになった。

 

 やがて、後輩が辞めた直後のショックから回復し職場に復帰したコウちゃんは、それまでのとげとげしい雰囲気を改め、人と接するようになった。私ともよく話すようになった。それからはコウちゃんのいろんなことを知った。

 

 

 東京出身の8月生まれで、家族以外からなかなか誕生日を祝われたことがないこと。

 

 昔から絵が上手で、小学生の頃からゲームデザイナーを目指していたということ。

 

 血液型をO型とよく誤解されること。

 

 私の手料理が大好きだと臆面もなく私に言えるくせに、鈍感なこと。

 

 

 ―――かつての後輩を、「自分を超えるキャラクターデザイナーになる」と内心では信じていたこと。

 

 彼女を自分の手で潰してしまったと知ったとき、ひどく後悔したこと。

 

 

 懺悔するように心の内を教えてくれたコウちゃんに私はただ頭を撫でて、

 

『辛かったね』

 と一言、伝えながら心で決めた。

 

 

 この人を支えようと。

 

 コウちゃんは、実力がある。それも、天才だと言われるほどに。でも、そのせいで独りになってしまう。

 だったら、せめて私だけでもそばにいようと決めた。 ……だって、独りぼっちは寂しいもの。

 

 そうして二人でまっすぐ走っていくうちに、ひふみちゃんと出会い、ゆんちゃんやはじめちゃんと出会い、そして――――――青葉ちゃんと出会った。気が付いたら、コウちゃんは独りじゃなくなっていた。

 

 

 

 それでも、私は、遠山りんは変わらない。

 

 

 私が働く理由。

 

 

 

 

 それは―――

 

 

 『八神コウと二人でゲームを作ること』

 

 

 

 

 

 頭のくらくらや、全身の気だるさ、脳の中にかかっていた(もや)も、気が付けば嘘のように消えていた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「ローリエさんですね。私はローズです。それでこっちが……」

 

「ちょっと待ってローズ!」

 

 

 さっき助けた薔薇(バラ)色髪の女の子・ローズちゃんが自己紹介しようとした時、銀髪ショートヘアの女の子の方が会話を遮ってきた。

 

 

「なによ、リリィ。私たちを助けてくれた人よ。何か問題あるの?」

 

「いや、確かに助けてくれたけど……」

 

 

 どうやら、銀髪ショートヘアちゃんはリリィというらしい。彼女とは彼女の母親に声をかけた時に既に会っているからな。あの時の「ママを治さないで」発言も気になるし、こちらから切り出してみるか。

 

 

「あー、実はね? 俺は『ある情報』を集めてるんだけど、その時に彼女のお母さんに話しかけたのを見られてしまってね………」

 

「そ、そうなの? リリィ?」

 

「うん……。」

 

 

 流石に発言についてストレートに聞かない。言いにくいだろう部分をフォローしただけ。あとは彼女達が自分から話すように誘導……もとい、話題替えするだけだ。

 

 

「ねぇ、どうしてローリエさんを警戒するの。たかがリリィのお母さんにたまたま声をかけただけじゃない。私達を助けてくれた人だよ?」

 

「でも……あたし達の関係は、秘密にしないと……!!」

 

「……お母さんと、何かあるみたいだね」

 

 

 ローズちゃんはリリィちゃんとは違い、助けてくれた俺達(主に俺)に対して肯定的のようだ。

 そこから情報を聞き出せないか、ちょっと攻めてみよう。

 

 

「あー……仲悪いんです、リリィとリリィのお母さん」

 

「ちょ、ローズ!? 他人に話すことじゃないでしょ!? それに……」

 

 

 仲が悪い……? まだ情報不足だな。もう少し情報が欲しいところだけど……

 

 

「リリィ、あなたこの人を信じてる?」

 

「信じられる訳ないでしょ! 今日初めて会ったのよ!?」

 

 

 考え事をしている間に、ローズちゃんとリリィちゃんの口論が始まってしまった。

 しかし、「信じる」か………日本人の前世を持つ俺の感覚からしたら、リリィちゃん側の「初対面の人は信用しない」タイプの方が気持ちは分かる。

 だが、初対面だから、と俺を警戒するリリィちゃんにローズちゃんはこう反論する。

 

 

「そうだね。でもね、『初対面の人を助けられる』ってなかなかできないと思うの。私でもできるかどうか分からない。この人はそれをやったの。さっきのメガネの人もそう。私には、二人をいきなり疑う理由があるとは思えないの。」

 

「でも、それはあたし達を油断させるか脅すかするためかも……!」

 

「ほぼ初対面で面識なんてないに等しい私達を?」

 

 

 リリィちゃんの「でも」にローズちゃんはそう言い返して、リリィちゃんの反論を封じた。

 

 

 ローズちゃんの言う事にも実は一理あるのだ。

 たとえば、満員電車のなか、目の前で女性が痴漢に襲われているところに出くわしたとしよう。

 その状況下で、はたして正しい行動のできる人間のどれだけいることだろう。

 普通は、逆上した痴漢に襲われたり、男だったら女性に痴漢と間違われたりする可能性が思い浮かび、見て見ぬふりをしてしまうんじゃないだろうか。俺も、前世だったらそうする可能性の方がデカい。

 まぁ、生物的に考えれば、関係ない事件に首を突っ込まないのは、逆上した痴漢から己の身を守ったり、冤罪という社会的死から自分を守ったりするためという点では合理的だ。

 

 

 ローズちゃんには俺やコリアンダーが「自分の身を顧みずに自分たちを守ってくれてる男達」に見えていることだろう。信用は高めと考えてよさそうだ。

 

 

 あとはリリィちゃんの信頼だけだな。

 

 

「じゃあさ――――これから、俺はこの街で情報収集するんだけど、二人も一緒に行くかい?

 そうすれば俺がどんな人なのか分かるかもしれないだろ?」

 

 

 俺は二人にそう提案した。一拍置いた後で、二人とも「なるほど、その手があったか!」と言わんばかりにポン、と拳を掌に収めた。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 港町の百合カップルの避難誘導を請け負った八賢者。当の百合CPには賢者であることは言わず、二人の信用を得るために行動を共にすることを提案した。次回は聖者モードのローリエが見られるかも。女が大好きで、百合CPが大好きなのだから、普段の彼だったらやらない事もやるかもしれない。

コリアンダー
 港町の百合カップルを狙う男の捕縛を請け負った神殿事務員。アルシーヴが「戦闘の心得はある」と言っていたが、彼の実力が秘密のヴェールから放たれるのはまた次回。にて。

遠山りん&八神コウ
 new gameの公式CP。今回、りんの視点から過去編を少々執筆した。得能先生は八神コウの過去編について、「ドロドロしそうだから描かない」と発言しており、作中でも大まかな流れしか書いていない。つまり今回、作者は禁忌に足を突っ込んだことになる。これから作者は得能先生に足を向けて寝られないし、アニメ版ポプ○ピピック等で再びネタにされても「おこった?」とか聞けない。

リリィ&ローズ
 拙作オリジナル百合CP。名前の由来は百合と薔薇。リリィは少々人見知りで慎重、ローズは人懐っこいが冷静。詳細の方は次回以降にて。



八神コウの過去編
 遠山りんと八神コウが一層仲良くなったきっかけになるであろう幻のエピソードにして、上記の理由から原作者によって描かれることはまずないヘビーストーリー。
 八神さんは昔は印象が違ったという遠山さんの証言と葉月しずくの存在から、今回はオリジナルエピソードとして盛り込んだ。
 要職についた八神さんの振舞いには、「ゲームをより良いものにしたい」という思いが根底にあり、それを達成するには実力を示し続けることだと思ったのではないだろうか。しかし、人間そう簡単にはいかないもので、少しのきっかけでポッキリ折れる。そういう経験があったのだろうと推測した結果このようなエピソードとなった。プロ(?)の考察班ほど高クオリティではないので悪しからず。




△▼△▼△▼
コリアンダー「俺には一人、友人がいる。そいつについて話そうと思う。―――なに、畏まらなくていい。ただの雑談だ。なにしろ、今まで会ったヤツの中で一番変な奴の話だからな。」

次回『コリアンダーの考え事』
コリアンダー「見ないと何も始まらないぞ。」
▲▽▲▽▲▽


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第19話:コリアンダーの考え事

はるか先の展開ばかり思い浮かんで、次の細かな展開が全く思い浮かばない今日この頃。


“神殿で働く人間の7割が女性で良かった。いや、良くはないが、ほぼ男よりかは断然マシだな。”
 …コリアンダー・コエンドロ


 木剣を振り払って、目の前のおっさんに向かって構える。

 おっさんは、目の前の獲物を捕らえるのを邪魔されたためか、怒りに満ちた目でナイフをこっちに向けている。今にも襲いかかってきそうな奴は、まるで獣のようだ。

 

 

「てめぇ! 邪魔しやがって!!」

 

「………。」

 

 

 無駄口は叩かない。というか叩いてる精神的余裕は必要ない。隙を作るし、時間の無駄だ。

 

「っ!!」

 

 木剣を振るい、おっさんに肉薄する。

 

「うわあああァァァァ!!!」

 

 いきなり近づいてきた俺に驚いたのか、それとも()()()()()()()()()()()()、冷静さを完全に失ったおっさんはまわりに人を近づけさせないようにナイフを振り回し始めた。

 

 自分よりリーチが長い武器相手にそれは良くない。まぁ俺が言うのも何だけど。

 

 

 すぐさまナイフのリーチ内から離れ、おっさんの手首に木剣を叩き込む。

 ゴスッ、と少々鈍い音を上げるとともに、奴が「いぎゃあああああああ!?」と汚い悲鳴をあげながら右手を抑え、奴はナイフを取り落とした。

 

 

 間髪入れずに頭部を横薙ぎにする。クリーンヒットしたそれは、おっさんから意識を刈り取るのに充分だったようだ。吹っ飛ばされるように倒れたおっさんは、白目を剥いて起き上がってくる気配は見せなかった。

 

 倒れた敵の無力化を確認して、ふぅ、と息をつく。

 

 そして、置いてきた荷物から、ロープを取り出し、のびたままのおっさんを縛り上げていく。

 

 

 ……神殿に魔法工学を学びに来た時はまさかこんな風に人と戦うことになるとは思っていなかった。

 だが、そこで出会った友人が、俺の人生を変えたと言っても過言ではない。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ローリエ・ベルベット。

 

 

 それは、俺の親友であると同時に、手強いを通り越して最強とも言えるライバルである。

 

 彼に出会ったのは、神殿に入ったばかりの年の頃だ。

 

 

 彼が神殿の図書館の、禁書の部屋から叩き出されて落ち込んでいる所に遭遇したのだ。

 

『なぁお前、なにやってるんだ……?』

 

『あ、アハハハ。禁書を調べようとしたら怒られた……

 あ、そうだ。俺は……』

 

『ローリエ、だったか。神殿内ではちょっとした有名人だぞ、お前。

 …俺はコリアンダーだ。』

 

 禁書は調べちゃいけないから禁書だっつうのに、何やってんだこのバカは、と思った。俺の彼への第一印象は『好奇心旺盛なバカ』だった。

 

 

 だが、すぐにその第一印象はすぐに覆ることになる。

 

 このファーストコンタクトの翌日、部屋替えで同じ部屋になった時のことだ。

 あいつの乱雑に散らかった机の上にあったものにふと目が留まったのだ。

 

 そこには、筒と握りがついている、妙に説明しづらい形状をした物体が置いてあった。幼い頃から魔法工学には自信があった俺でも全く見たことがないものだったので、気が付けばつい好奇心に負けて手に取ってしまっていた。掌より少し大きめなそれは、見た目に反してずっしりとした重さがあり、その感触が謎をますます深めた。

 

 これは何なのか?

 

 一体だれが造ったのか?

 

 そう思案に耽っているのに夢中で、後ろからの人物に気づけなかった。

 

 

『なぁ、それ…返してくれないか?』

 

『っ!!?』

 

 振り向くと、そこには先日、禁書を覗いて怒られていた彼が立っていた。

 

『俺の一番大切な()()()なんだ』

 

 そう言ってあはは、とプレッシャーを感じさせずに笑うローリエの言葉を俺は一瞬疑った。

 

『発明品……!? お前が、これを作ったのか……?』

 

『あぁ。秘密にしてくれるなら、それが何かを簡単に教えるけど……』

 

 そう言って彼が説明した内容は、とんでもないものだった。

 「パイソン(大蛇)」と名付けたというこの発明品は、ブラックストーン製の弾を、爆発魔法の推進力で直線状に高速で放つという。その威力は、人をも貫けるそう。非殺傷用のゴム弾もあるらしい。

 はっきり言って、恐怖した。こんな凶悪な破壊力を持った兵器を、なぜ当時の俺と年の変わらない少年が作り出せたのか。それを確かめるために、目の前の彼にすぐさま問いただす。

 

 

『こ、こんなもの造って、何が目的なんだ!? それに、どうやって造ったんだ? 推測でしかないが、これは相当……』

 

『分かってるさ。これが危険だってことくらい。』

 

『だったら、どうして……』

 

『守りたい人がいるんだ。』

 

 俺の疑問に、ローリエは即答した。

 

『俺には力も魔力も何もなかった。昔そのせいで守れなかった事があってさ。』

 

『守れなかったって……何を?』

 

『俺にとって大切な人さ。

 ………傷つけちまったんだ、その人たちを。

 だから、魔道具の力を借りている。今度こそ、大切な人を守るために。』

 

 ふざけて笑う訳ではなく、今度は真面目な表情でそう語るローリエからは、言葉の端々から真剣味と後悔のようなものを感じた。ほぼ初対面に等しい俺にそんな表情で話すローリエを見て、「大切な人を守りたいからってここまでやるか?」みたいな質問は喉から出なくなった。

 だが、彼はその感情を隠すかのように再び笑い出す。

 

『……なーんてね、アハハハ。

 えっと、この発明品のことは誰にも……』

 

『……言えるワケないだろ。こんなものは世に出回らせちゃあいけない。』

 

 

 ローリエのこの発明は、秘密にしなければいけない。

 この意見は今でも変わらない。

 だって、あの発明品は、確実にエトワリアに戦禍を招く………効率よく敵を殺せる武器が出回ったら、それを巡って戦いが起こり、より激化するに決まっているからだ。そうすれば死人が続出する。幸い、俺も彼も人並みの倫理観はあるようだ。

 

 

『でも、なんで俺なんかにここまで話してくれたんだ?』

 

『…神殿に入ってから、話しかけてくれたり、こっちの話を聞いてくれた人が君で初めてだったからかな。嬉しかったんだ。

 ……ちょっと話しすぎちゃったけど。』

 

 

 思い出したかのように「聞いてくれよ、他の連中はさぁ…」と俺以外の同級生に対する愚痴を言う彼は、どう見てもあの恐ろしい発明品を悪用するとは思えなかった。

 

 それから俺とローリエは、一緒に行動する事が多くなった。あいつの魔法工学の知識は人並みどころか俺以上で、突飛な発想をいくつも持っていた。俺はそれに感心し、何とか彼も驚く発明を造れないかと努力した。気づけば、俺達は軽口を叩き合えるような関係になっていた。

 ……この頃からずっと「女は愛するもの。サ○ジもそう言っている」とか「百合恋愛・結婚は認められるべきだ」とか訳わかんないことをしばしば言ってて理解に苦しんだけどな。

 

 その後も、あの危険な発明品を隠すかのようにローリエは様々な生活用魔道具や娯楽品を発明していった。

 円型の自律走行を行う掃除機、四枚のプロペラで空を飛ぶオモチャ、小型のインスタントカメラ、フィルムの続く限り録画を行うカメラ、ペンの形をした懐中電灯、遠くの人物と会話ができる通信機、「トランプ」と名付けたカードに「将棋」とかいうボードゲーム………中にはコレはちょっとっていうもの(G型魔道具など)もあったが、挙げ始めれば枚挙にいとまがない。

 彼は、そういった画期的かつ役に立つ物を多く発明したとのことで(後に禁忌扱いされたネタ発明もあったが)、八賢者に選ばれた。

 

 でも、その裏で日用品ではないものも開発していることも、しばしば奴のテーブルの上が爆発していたことからも伺えた。

 

 

 エトワリアの発明王ともいうべきコイツからは、どんな発明品が出てくるのか分からん。

 

 それはつまり、()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを意味している。

 

 

 

 あいつが賢者になってから、こんな質問をしたことがある。

 

 

『今の賢者の中で一番強い賢者は誰だと思う?』

 

 

 ほぼ興味本位の質問だったが、ほんの少し、彼が彼自身の強さとその可能性についてどう考えているのかを知りたいと思ったのも本音だ。その結果、彼はこう答えた。

 

 

『一番強い賢者? う~ん……まず俺はないとして………やっぱハッカちゃんかな? 夢幻魔法、チートじゃない?』

 

 

 ハッカという八賢者については、俺はほとんど知らない。故に、夢幻魔法とやらの効果も、名前から予測するしかないのだが、きっと幻術の(たぐい)だろう。だが、ローリエの発明品はそういう意味でも奇想天外で予測不可能だ。「パイソン」だって、パッと見ただけではどんなものかまでは分からなかった。

 

 俺から言わせれば、「凶悪な初見殺しの武器を作れるお前の方がチートだわ」という感じだ。

 とぼけているのか本当に自身の持つ力の意味を分かっていないのかは確信が持てないが、賢者の中でもかなり強い部類に入る男だと思う。相性次第では、格上も完封できるだろう。

 

 

 

 

 

 もし俺の見立てが間違っていなければ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ローリエは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()1()5()()()()殿()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁこの点については、あまり危険視していない。

 

 なぜって? そりゃあもちろん――

 

 

『アルシーヴちゃん! 髪型ちょっと変えた? いつもと違った可愛さだね!』

 

『……ローリエ。確かに髪型を少し変えたが、セクハラの報告からは逃れられんぞ。

 …セサミから3件、カルダモンから1件、ほか女神官から18件。あと今日、昨日、一昨日(おととい)と私の胸も揉んでくれたな。……弁明はあるか?』

 

『…ああっ、いけない! 俺、今日はデートの日だった! それじゃっ!!』

 

『逃げるな!! “ルナティック・レイ”!』

 

『ぎゃあああああああぁぁぁァァァァァッ!!!!?』

 

 

 ―――あいつがこういう性格してる(女好きだ)からに決まってるだろ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 それはともかく、だ。

 ローリエ自身、日用品だけじゃなく、未知の武器も造っているのだ。だから、俺も俺で戦うための知恵を絞らざるを得なくなった訳。

 

 そのうちの一つがさっきのおっさんと戦った時に使った木剣に仕込んだ魔法だ。

 

 錯乱魔法。

 

 敵の精神を動揺させ、混乱させる魔法だ。時間をかけてゆっくり発動させることで、相手に自覚されずに混乱させることができる。

 今回は、最初の一撃を打ち込んだ時に発動させ、じっくりと魔法をかけ、奴を前後不覚にさせた。試験的な運用もあって、少しゆっくりめだったが、魔法の完成スピードをもう少し早くしても良さそうだな。

 

 魔法の属性が未だに決まっていないローリエとは違い、俺は既に水属性で決まっているので、水属性が得意な錯乱魔法・幻影魔法・水鏡(すいきょう)魔法といった魔法を中心に覚え、練度を上げた。

 

 ちなみに、幻影魔法とは、ちょっとした幻を見せる魔法のことで、水鏡(すいきょう)魔法とは、水の反射で鏡を作ることで、相手を惑わせる魔法だ。

 

 たかがそんなこと、と思うが戦闘中は半端じゃないほど反射神経を使う。

 そんなめまぐるしく戦況が変わる時に錯乱してまともな思考ができなくなったり、上下左右が反転したり、幻に騙されたりしてみろ。たとえどんな奴が相手でも充分命取りになる。

 

 基本的には剣術で戦い、魔法は妨害に専念する。

 

 

 それがこのコリアンダー・コエンドロの戦い方だ。

 

 課題としては、まずはフェンネルあたりに俺の剣術を見てもらって、問題点を見つける所からだな。独学だったから、変なクセが出ているかもしれない。

 

 

 

 

 とにかく、今やるべきことは………

 

「ローリエの野郎、どこへ行きやがった……?」

 

 女の子二人と避難とかこつけてどこかへ行ったローリエを探すことだ。

 あいつの守備範囲は18からだそうだし、「百合CPは見守るもの」とかいって女子同士の恋愛を大切にしているから流石に14、5くらいのあの少女達には手を出さないと思うが……

 

 ……

 ………

 …………出さないよな?

 

 ………不安になってきた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ぶえっくし!!」

 

「だ、大丈夫ですか、ローリエさん?」

 

 思いっきりくしゃみをしてしまい、ローズちゃんを心配させてしまった。

 今、このローリエは彼女達の信頼を得るために頑張ってるのに、誰か良からぬ噂でもしてるのか……?

 

「誰だ、俺の噂をしてる奴は……?」

 

「そんな古典的なことってあるんですか……?」

 

 

 ボソッとリリィちゃんがそんなことを言う。

 くしゃみ=噂の等式って、エトワリア(ここ)でも古いって認識なのかよ。

 まぁいい。ちゃっちゃと聞き込みを済ませるとしますか。

 

 




キャラクター紹介&解説

コリアンダー
 今回のメイン人物。戦闘描写・解説ももちろんだが、ローリエとの出会いと賢者にまで登りつめるローリエをただの(と言っちゃあ失礼だが)エトワリア人の彼視点から書いた。ちょっとした考察回なので、物語の進展はほぼなし。その代わり、短めである。


ローリエ
 コリアンダーに意外と評価されていた男。魔法工学に自信のあったコリアンダーさえも知らない拳銃を作り上げた彼は、それだけでも脅威と思われている。だが、彼自身がとんでもない女好きなので、危険視されることなく、健全な友人付き合いを送っている。神殿内の性別割合が極端に男に傾いていたらどうなっていたことやら。
 まぁ、これ『きららファンタジア』なのであり得ないけど。
 そして、やはり彼が武器を作り、使う理由は「大切な人を守る為」であるようで……?


△▼△▼△▼
ローリエ「リリィちゃんとローズちゃんから信頼を得るべく、仕事を見学させることにした俺。」
リリィ「ちょっとでも変な真似したら通報するからね。」
ローリエ「分かった、分かったから落ち着け……」
ローズ「でも、ローリエさんの聞き込みが進むにつれて、リリィのお母さんの行動が次々と明らかになっていって……」
ローリエ「リリィちゃん。もしかして、君のお母さんは―――」

次回『ミネラ その①』
リリィ「ぜ……絶対見てね?」
▲▽▲▽▲▽

あとがき
 最近忙しくて、投稿ペースが不安定です。それに、書きたいところばかり募っていくので、ストーリーの進み具合も不安になりそう。でも、必ず完結させたいと思います。これからも「きらファン八賢者」をよろしくお願いします。


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第20話:ミネラ その①

“きららさんのキズを癒やすために港町に泊まった日に、わたしはおいしいドーナツ屋に行きました。
 その人の話には、おどろかされました。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


「お兄さん。やっぱりあんた、いい人だよ。お母さんのために、お金を稼ぐなんて。」

 

「いえいえ。僕に働く理由を思い出させてくれたあなたほどじゃあありません。」

 

 俺は、もうちょいで30代に入りそうな、八百屋のお兄さんと握手をする。こうして働く理由を思い出させた後で、話を聞き出すことが、俺の仕事だ。そこに、おふざけはない。受けた仕事は真面目にやるのみだ。

 

 

 まぁリリィちゃんとローズちゃんにかっこいい所を見せるためにやってるんだけどね!! そうじゃなけりゃ、こんな面倒なことやってられるか。コリアンダーあたりに押しつけてるわ。

 

 

(ほら見てリリィ、やっぱりローリエさんいい人よ。疑う理由なんてないでしょう?)

 

(う~ん……なんか引っかかるのよね……何というか、仮面被ってそうというか……)

 

 百合CPの二人は、俺の仕事を後ろから見学しつつ、そんなことを小声で話し合っている。

 ローズちゃんは簡単に信じるのに対し、リリィちゃんはやっぱり鋭く、慎重だ。これなら、結婚後のローズちゃんもリリィちゃんに任せられる、か。

 

 

「ところでお兄さん、聞きたいことがあるんだけど。」

 

「なんですか?」

 

「この男、知らない? 俺は今、この人を探しているんだ。」

 

 話を改めて、俺は八百屋のお兄さんにあるものを見せた。

 

「これは……?」

 

「男の人相書きだ。」

 

 そう。人相書きである。流石に、写真はまだ浸透していない上に、流血シーンがはっきり写ってしまっているので、写真を元に男の特徴を描いて、それを見せることにしたのだ。顔ははっきり写っていなかったので、分かる範囲で特徴を描いている。ただ、

 

・身長は165~170センチ

・フード付きの黒いローブを着ていた

・ペンほどの長さほどの杖を持っている

 

 俺の記憶と組合せても、はっきり分かるのはこの程度のものだ。簡単に手がかりを掴めるとは思ってないが、これは我ながらヒントが少なすぎると思う。

 

 

「う~ん……ごめんなさい、これはちょっと分からないですね……」

 

 

 俺の予想に同意するかよのうに、お兄さんは困り顔で申し訳なさそうに答える。

 いや、俺だって申し訳ねーと思うよ? でも、ローブのせいで見た目の特徴はほぼ分からなかったし、他の特徴といえば俺のマグナムで怪我を負っているだろうことくらいだ。流石にそのことは話せない。俺がその男にトドメを刺す為に探しているみたいに聞こえたら少しマズいからな。

 

 

「…そっか。せめて、魔法の杖について何か分かれば良かったんだけど……」

 

「生憎、魔法については門外漢でして……生まれてこの方、野菜の栽培にしか携わってないもので」

 

「そうでしたか。無茶なこと聞いて悪かったよ。」

 

「いえ、こちらこそ、お力になれなくて申し訳ありません。」

 

 

 丁寧に答えてくれたお兄さんにお礼を言って、二人を伴い八百屋を後にする。この調子で町の人々を片っ端から起こしていけば、二人の信頼は得られるだろうか。

 そう思いながら次の人に声をかけようとした時。

 

「ねぇ、あんた」

 

 リリィちゃんが声をかけてきた。振り向くと、訝しげな表情を浮かべた彼女が立ち止まって俺をまっすぐ見ていた。指を銀色のショートヘアに絡み付けていて、声色も穏やかじゃない。

 

 

「いつまでこんなことを続ける気?」

 

 その質問は、彼女の不安を表していたのだろうか。それとも、理解できないから思い切ったのだろうか。少なくとも、「君達が信じてくれるまで」なんて答えないようにしなきゃな、と思いながらこっちも口を開く。

 

 

「勿論、全員に聞くつもりだ。手がかりが見つかるまでやるが、骨折り損になるかもな」

 

「無駄になるかもしれないのよ……? それに、たとえあんたが真面目にやったって、ママを元通りにするのを許す訳ないんだからね?」

 

「ちょっとリリィ――」

 

「別に構わない。本来の目的は()()()()()()からな」

 

「「!?」」

 

 

 そこでリリィちゃんも、彼女を諫めようとしたローズちゃんも、驚きの表情を見せる。俺は、言葉を続ける。

 

 

「リリィちゃん、君は『情報が得られず、無駄になるかもしれない』って言ったね? 違うよ。

 俺は『結果』を求めて動いている訳じゃあない。結果を追い求めてばっかりいると、『近道』をしたくなる。『真実』を見失ってやる気もなくなっていく。

 大切なのは『真実に向かおうとする意志』だ。それさえあれば、例え今回は収穫がなかったとしてもいつかは辿り着く。だって、真実に向かっているんだからな。」

 

 

 違うかい? と微笑みかけると、二人ともあっけにとられていたが、ローズちゃんが我に返り、俺の手を握ってきた。彼女の紫水晶(アメジスト)のような瞳が少し潤んで、光を乱反射させている。

 

 

「………流石です、ローリエさん。私は、あなたを尊敬します。ただひたすらに、真実に向かうあなたを……」

 

 ……そこまで尊敬されると困るんだけどな。

 偉そうな事を言った俺だが、毎回そう上手く行動できる訳じゃない。さっきの台詞だって、前世の漫画の知識から持ってきたものだ。

 

「そんなに持ち上げないでくれ。俺も、まだ未熟だ。感情に流されて、焦って『結果』を求めちゃうこともある。」

 

 

 人間40年(仮定)、俺でもそうして何度も失敗してきた。前世では、受験、就職、人間関係………『結果』を求めて失敗し、後悔した記憶はいくつもある。今世でも、後悔したことがないと言ったら嘘になる。

 

 例えば、ローブ野郎を排除しようとして、結局アルシーヴちゃんとソラちゃんの運命を変えられなかったあの夜。

 

 もし、俺が落ち着いて行動していたら?

 

 もし、奴を倒すことができていたら?

 

 思い出すたびに、今となっては何の意味もない「たら・れば」が頭の中を駆け巡る。非合理的だからやめようと無理矢理思考を打ち切っても、思い出せばまた再燃する後悔の念。そういう感情に苛まれる度に、「人間って面倒くさい生き物だな」と思ってしまうのだ。

 

 

「ローズ、言ったわよね? 簡単に人を信じていいのかって。」

 

「リリィ。まだローリエさんを信用できないって言うの?」

 

「そう、なのかな………うーーん……」

 

 

 最愛の女の子(暫定)に説得され悩む彼女に「無理に信じなくてもいいんだよ」とフォローしたのだが、すぐさま睨まれた俺はリリィちゃんのフォローはローズちゃんに一任しようと考え、次のだらけた人に話しかけた。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 突然現れて、ママを口説こうとした男は、魔法工学教師のローリエと名乗った。彼が現れた時、せっかく得たまたとないチャンスを奪われてたまるものか、と思った。

 

 

 

 

 

 

 あたしは、少し前から「他の子たちとは違う」って自覚を持っていた。

 他の子達が好きな男のタイプについて話している時。ラブロマンスに思いを馳せている時。恋愛物語の感想を話し合っている時。あたしは、それに()()()()()()()()()()心を揺さぶられなかった。うっとりと「どんなシチュエーションがときめくか」とか「どんな男が格好いいか」とか語る同級生が理解できなかった。でも、「それの何がいいの?」なんて訊ける筈もなく、ただ隅っこで愛想笑いを浮かべる日々を送っていた。

 

 初めてローズに会ったのは2年前のこと。

 

 海辺の砂浜に座っていた、薔薇(バラ)のような深紅の髪と紫水晶(アメジスト)のような色の瞳、それを一層引き立てる白いワンピース。ハイビスカスの花に誘われる蝶のごとく、彼女に近づいてみると、彼女の方から声をかけられた。

 

 

「なーに?何か用?」

 

「えっ!? えっ、えーっと……

 ………か、可愛い子だなって、思って………

 

 

 突然のことに戸惑った勢いで、そんなことを言ってしまっていた。

 

 この直後、なんとか誤魔化して友達になったんだけど、後に聞いたことには、ローズはこの時、いきなり告白されたことに驚いて、惚れてしまったそう。当時のことをあまりにどストレートに言うもんだから、恥ずかしくなって照れ隠しにつねっちゃったけど。

 かくいうあたしも、この時にローズに一目惚れした。

 

 それと同時に、理解した。

 

 

 

 あたしは、()()()()()()()()()()()()()って。

 

 

 それが、周りと違う理由だと知った時、あたしは更に他の子達と距離を置こうとした。自分だけの秘密を、冷凍庫の奥にしまうように、凍らせておこうとした。もし、この秘密が皆にバレちゃったら……そう思うと、怖くて仕方なかった。

 

 その時、あたしのそばにいてくれたのも、ローズだった。

 

 

『どうしたの、リリィ?』

 

『ローズ、だったっけ?』

 

『そうだよ! 覚えてよ! ちょっと泣きそうなんだけど?』

 

『ご、ごめんなさい! 覚える! 覚えるから、泣かないで……ね?』

 

『友達………だよね?』

 

『う、うん! あたしたちは友達!!』

 

『えへへー、やったー! 友達、友達ー!』

 

 

 泣きそうだった彼女は嘘のように飛び跳ねて喜んだ。

 

 それ以降も友達として過ごしていく内に、ローズという少女の人間像がだんだんわかってきた。

 ローズは、人の幸福を願い、人の不幸を悲しみ、人の願いを応援し、人と愛や友情を分かち合える子だ。そう思った。少なくともあたしはそうだと信じている。

 

 だからだろうか。彼女に「あたしの秘密を話してもいい」と思えるほど、彼女を信頼したのは。

 

 

 

 

『あたしね、おかしいの。女の子なのに、女の子を好きになるの。』

『………っ』

 

 彼女と「友達」になってから1年ほどたった冬の日。あたしは「大切な話がある」とローズを二人っきりになれる場所でそう告げた。

 覚悟はしていたつもりだった。でも、秘密を話した直後のローズの目を見開いて絶句していた姿が、あたしの絶望感を掻き立てた。

 ああ、きっとこの子も同じだと。あたしが理解できるはずの友達が、理解できなくなっていく。届いていたはずの手が届かなくなっていく。全身から血が引き、冷えていく感覚に耐えながら独り、ぽつりぽつりと話していく。

 

 

『だからね……っ、これ以上、あたしと、一緒に………』

 

 

 言葉が喉につっかえてスムーズに出てこない。「一緒にちゃいけない」と言うだけなのに言えなくて、ローズを離せなくて、気が付いたら下を向いていて、涙がボロボロ(こぼ)れて、頬を冷たく濡らした、その時。

 

 

 

 

 

 

『大丈夫だよ』

 

 

 

 

 

 

 温かいものが今にも凍えそうな両頬を包んだ。

 

 

 

 

『例えどんな子を好きになっても、リリィはリリィだよ』

 

 

 

 

 その言葉に、顔を上げる。滲んだ視界には、ローズだけが映っていた。表情は分からない。でも、確かに驚いたけどね、という彼女の声色は優しかった。

 視界の全てが、虹色に色づき始めた。さっきまでの、氷河のような涙が、温かく、清らかで、春の小川のようなものに変わったことに気が付くのに時間がかかった。

 

 

 

 

『……例え、それが……ローズ…あなた、でも?』

 

 自然に出たあたしの言葉に、赤面して面食らいながらも、ぼやけたローズは答えた。

 

『………………うそ、まさかの両想い……!?』

 

 

 

 その言葉はあまりにも拍子抜けしていたが、暖炉の中の炎が凍えた体を温めるかのように、あたしの中で凍り付いていた想いが一気に溶けた気がした。溶けだした想いが両目から溢れ出して、拭っても拭っても止まらなかった。

 

 

 

『……っ、そう…だよ、ローズ………好きだよ……ローズ………』

『私も………リリィが好きっ、大好き……!!』

 

 こうして、あたし、リリィとローズは恋人になった。

 

 

 

 

 

 でも、あたしはママにそのことを報告できずにいた。

 

 パパが5年前に亡くなってからというもの、ドーナツ屋の店主として休まず働いているのだ。きっと……いや、絶対反対されるに決まっている。このことは、ローズにも相談した。複雑な顔をしたが、一応はあたしの意思を尊重してあたし達の関係は秘密にしている。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時に起こったのが大人の怠惰化である。

 

 仕事に熱心なママでさえ、「仕事したくない」って言ってだらけてしまっているのだ。おまけに、強盗(?)に押し入られた時に投げやりになっていたのも確認済みだ。普通ならピンチだけど、あたしが考えたのはそれだけじゃない。

 今なら、あたしとローズのお付き合いを認めてくれるかもしれない。もしそれが駄目でも、駆け落ちの為のお金も「面倒くさいから好きにすればー」とか言って調達できるだろう。

 

 だから―――今、ママを元通りにされるのは困る!

 

 

 

 現在、目の前でだらけきっている宝石商に話しかけている男も、昨日ママを元通りにしようとした。彼の妥協案で聞き込みに付き合わされているが、ママを元通りにされる展開だけは避けなければ。

 でも、今帰るとローズとローリエが二人っきりになってしまう。それはもっとマズい。

 一体、どうすれば………!?

 

 

「なぁ、あなたが働く理由は何だい? やっぱりお金かな?」

 

う~~~ん……

 

「……違うか。なら、あなたの仕事で喜ぶ人でもいるのか?」

 

 

 ローリエがそう宝石商に言うも反応はない。金も人の笑顔も彼の働く理由ではないと判断したのか、仕事の後の一杯はとか、結婚の為かとか様々な理由を試している。

 何人にも同じことをしたためか、手際がいい。この調子でママまで復活させられるとこっちが困るんだけど……

 

 

「ねえ、リリィ?」

 

「っ! なに、ローズ?」

 

「そろそろ信じてあげたら?」

 

「……どうして彼の肩を持つの?」

 

 

 声をかけてきたローズのそこがまだ分からない。今日、会ってから半日も経ってない筈なのに、何故なのかが妙にモヤモヤする。

 

 

「……一生懸命だからかな?」

 

「一生懸命?」

 

「そう。あの人は、初めて会った人達、見ず知らずの他人であるはずの人達に親身になって話しかけている。誰にもできることじゃあないわ。」

 

「無茶苦茶な……それに、そういうのって、慣れなんじゃあないかしら」

 

「リリィは私以外に友達を作ろうとしなかったのに?」

 

 う、と答えに困ってしまう。確かに、あたしはローズ以外に親友と呼べる存在がいない(厳密に言うと、ローズは恋人なのだから、ローズのように親しくしようとした人がいないと言うべきなんだろうけど)。

 

 

「『最初に私達の町の人々に声をかける』ってことをしなければ、慣れることすらないわよ?」

 

 ローズの言葉はきっと、的を射ているのかもしれない。あたしは嫌われること(『結果』)を恐れて、他の人々の輪の中に入らなかった。さっきのローリエが言っていたこと(『真実に向かおうとする意志』とやら)も含めて、すぐに反論が見つからず苛立ちばかりが増していく。

 

「まぁ、どれだけリリィが友達を作っても、『特別』は私だけだもんね?」

 

「もう、恥ずかしい事言わないでよ……」

 

 そんな感情を読み取ったのか、柔らかく温かい薔薇色が、あたしの腕の中に飛び込んできた。それがあたしの大切な人だと分かるとつい受け止めてしまったが、人の目があるところでするのはやめて欲しい。ローリエは宝石商と何か言い合っていて、こっちを見てないからいいが、他の誰かが見てるかもしれないのに……

 

「こういう状況って興奮しない?」

 

「しないよ!!」

 

 こんな時にローズは何を考えてるの!!

 

「でもリリィ、まんざらでもなさそう。」

 

「そ、そんなこと……」

 

 ない、と言葉が続かない。そこで初めて顔が熱いことに気づいた。

 その熱が頭にまで回ってきて、まともな判断ができなくなりそうだ。

 ローズがあたしを覗き込む。紫水晶(アメジスト)の瞳があたしを捉え、近づいてくる。

 これから唇にやってくるであろう柔らかく甘い感触を予見しつつ、目を閉じた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、オホン!」

 

 

 

「ひゃああああ!!?」

 

 

 

 

 その時、宝石商と会話をしていたはずの彼から声がかかった。

 すぐさまローズから離れる。あたしから離れたローズはにやにやしていた。

 

 

 ―――ま、まさか、気付いていて尚ローリエに見せつけていたというの……!?

 

 

「二度もお楽しみを邪魔して悪いが、聞きたい事ができた」

 

 

 心臓がバクバクと煩い中、もう宝石商を元通りにしたの、と言う前に発してきた彼の質問に―――

 

 

 

「ミネラさん、って知ってるか?」

 

 

 

 ―――あたしは時が止まった感覚を覚えた。

 ミネラ。その名前は知っている。あたしの、ママの名前だ。でも……

 

「なんで、その名前が出てくるの!?」

 

「ちょ、リリィ!?」

 

 自覚はなかったが、声を荒げていたんだろう。ローズはあたしを心配そうに見つめ、ローリエもすぐに取り乱したかのように弁解しだした。

 

「あぁ、待て待て! さっきの宝石商から聞いたんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って聞いてさ」

 

 それは、一体どういうことなの?

 あたしのママと、ローリエが探してるという、男と何の関係があるのだろう?

 そう呆けるあたしとローズをよそに、ローリエは説明しだした。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 俺は、目の前の真夏日にアスファルトの道路に落としたアイスクリームみたいになっている宝石商を相手に、手詰まりになっていた。

 

 お金も駄目、人も駄目、酒も駄目。言い方を変えても効果なし。そうなった場合のコイツの働く目的に検討がつかなかったからだ。

 

 人間、ボランティアで働くには限界がある。前世(日本)でもよく言われてきたことだ。宝石商の彼にも、必ず何かしら働く理由があるはずだ。

 

 

 考えろ……必ず、何かあるはずだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私はえっと……えっと……この橋が完成したら、約束通り幼なじみと結婚できますよ!』

 

『そんなゲームやフィクションやあらへんのやから……』

 

『ベタすぎない?』

 

『……狙ってるんじゃなくて……

 きららさんが……純粋なだけかも……?』

 

 

 突如蘇ったのは、俺が「きららファンタジア」をやっていた時の記憶。2章で、橋の職人にきららちゃんがかけた言葉。そして、死亡フラグの常套句。

 思い出した。確か、そんなやりとりがあったはずだ。

 

『そうだ!

 俺、この仕事が終わったら、結婚するんだ……!』

 

『正解しとるけど、それ死亡フラグやぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

 CV竹尾○美さんの迫真のツッコミが脳内に響き渡る。

 そう。戦争の物語などにおいて、「俺、帰ったら結婚するんだ……!」みたいな事を言った奴は、必ずといっていいほど帰ってこれない。

 その人物が死亡するための『条件』。それが死亡フラグだ。

 

 ……まさか、この宝石商にも、そういう事情があったりするのか……?

 

 

 

「……なぁ。あんた、故郷に許嫁か出産を控えた嫁さんでもいるのか?」

 

「……!

 そうだ……いる。私には、出産間近の妻がいる……!」

 

 

 おいやめろ。いきなりフラグを建てるんじゃあない。

 

「帰る頃には父親になってるだろうな……」

 

 だからやめろや! 何で連続してフラグを建てたがるの!!?

 

「子供が産まれたら、宝石商(この仕事)はやめにしようと思うんです。今回の仕事を最後に何か別の仕事に転職して……」

 

「それ以上マズい発言すんじゃねーよ!

 最()じゃなくて最()の仕事になっちまうぞ!!?」

 

 なんなの? エトワリアには死亡フラグを仕事の理由にしたがる習慣でもあるの? それ絶対長生きできねーぞ!?

 

「家族三人になったら故郷でアツアツのピザも食べたいな。ナラの木の薪で焼いた本格的なマルガリータだ。妻が大好きなボルチーニ茸も乗っけて貰おう……!」

 

「今それを言うな!! 帰れなくなるぞ!」

 

「大丈夫ですよ。わたしは死なないから」

 

「死ぬから! そういう事言う奴に限って真っ先に死ぬから!!」

 

「もう何も怖くn」

「クドいわ! 口を開く度に死亡フラグを喋ってんじゃあねーよ!!」

 

 このままでは埒があかない。さっさと本題に移って、質問に答えてもらうほうがいいだろう。

 

 

「な、なあ、嫁さんの出産はめでたい事だけどよ、ちょっとダンナに聞きたい事があるんだ。いいかな?」

 

「? ああ、質問に答えるのはいいが………別にアレを倒してしまってm」

「あの!! この人相書きに心当たりはないかな?」

 

 何を倒すつもりだったんだよこの男は。

 隙さえあれば死亡フラグをぶちこもうとしてくる既婚者の言葉を遮って、例の人相書きを見せる。

 彼は流石に死亡フラグをぶっこむのをやめ、手渡された人相書きを穴が開くかのように見つめる。

 

 時間にして数十秒ほどだろう。だが、俺には数分かのように感じた。

 

 長かった時間はようやく過ぎて、人相書きを返してきた宝石商は、神妙な顔をしながらこう言った。

 

 

 

 

 

「……杖について、心当たりがある」

 

「本当か!?」

 

 つい大声が出てしまった。

 やっと手がかりが見つかったとなれば、仕方のないことなんだろう。

 

「『ペンほどの長さの杖』………これは、山奥の魔法使いが使っていると聞いたことがある」

 

「山奥……!」

 

「わたしはこれくらいのことしか知らないが、あっちの地方から港町(ここ)に嫁いできたという彼女なら、もっと詳しく知っているかもしれない」

 

 

 

 手がかりにしては、意外に良い収穫だ。俺は、宝石商に「詳しく知っているその彼女って誰の事なんですか」と尋ねる。

 すると、宝石商は、思い出すかのように数拍置いてから、その人物の名前を口に出した。

 

 

 

「――――――ミネラ。昨日、リリィとかいう娘の為とウチで買い物をした女性だ」

 

 耳にしたことのある名前に覚えのあった俺は、手短にお礼を言うと、すぐさま確認の為に百合CPに目を向けたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 事情を説明し終わり、「なにか質問は?」と聞いても、ローズちゃんもリリィちゃんも言葉を発せずにいた。

 

 まぁ無理もないだろう。親の結婚事情なんて本人に尋ねでもしない限り知り得ないだろうからね。しかも、リリィちゃんの親子関係は良くない。こういうことを聞くのは初めてなんだろうな―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「「死亡フラグって…なに……?」」

 

「いやそっちかいぃぃぃ!!」

 

 

 この後、死亡フラグについて5分動画の塾講師のように教えたのだった。

 

 ――ミネラさんについて色々聞くつもりだったんだけどなぁ……

 

 まぁいい。この講義(?)が終わったらすぐにでもドーナツ屋へ向かおう。

 

 

 リリィちゃん。もしかしたら、君のお母さんは―――

 

 ―――――意外と、君のことを思っているのかもしれない。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 ソラ襲撃事件の手がかりを追いつつ、百合CPに『真実へ向かおうとする意志』や死亡フラグについて教えた魔法工学教師(兼八賢者)。エトワリア人ローリエとしては二十代なのに、二十代らしからぬ言動をするように心掛けた。人間40年とか言ってるけど、彼自身前世の享年は知らないので感覚である。

リリィ
 拙作オリジナルキャラにして百合CPの片割れ。慎重で疑り深く、しかし反抗的かつ短絡的な考えをしてしまう……そんな子供っぽさが抜けない中学生を意識して書いたキャラクターだと思う。自身の特殊な恋に自信を持てず、迷い続ける時期が思春期にはあると思うの。

ローズ
 拙作オリジナルキャラにして百合CPの片割れ。積極的で人懐っこく、リリィとは違った子供っぽさを書き出した。その過程で、露出系に傾きかけているが、そこまでキワモノにするつもりはないのでご安心を。まぁ、桜Trickの春香×優も授業(体育のダンス)中にキスするくらいしてるし、それ以上にならなければ恐らく大丈夫。


真実へ向かおうとする意志
 『ジョジョの奇妙な冒険・第五部』にて言及されていた、同作のテーマともいうべき意志・魂。目先の結果や偽りのゴールに惑わされることなく、真実を探求する志とされている。詳しい事は、前述した作品を読み、『心』で理解してほしい。

死亡フラグ
 死を予感させる言動のまとめ。「帰ったら結婚するんだ」というテンプレの他、亜種の「アツアツのピッツァも食いてえ!」や「私は死なないわ」、「もう何も怖くない」や「別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」にも御出張願った。
 死亡フラグとして有名すぎる「俺、この戦争が終わったら、この娘と結婚するんだ……」は映画『プラトーン』が元祖で、物語冒頭にこのセリフを言った主人公の同期の兵士は10分後に死亡した。
 ちなみに、死亡フラグの歴史は相当に古く、三国志演義や古代ギリシア叙事詩にもそれらしい描写が多数見受けられる。トロイア戦争を題材とした叙事詩「イリアス」の主人公アキレウスなどもその一つだが、そもそも古代ギリシアでは『神様の息子=生まれつき過酷な運命を背負っている=不幸・死亡フラグ』というテンプレが存在していたようだ。
 また、日本史にもそれらしい逸話があり、有名なのが上杉謙信の「死なんと戦へば生き、生きんと戦へば必ず死すものなり。家を出ずるより帰らじと思えばまた帰る、帰ると思えばぜひ帰らぬものなり」という言葉である。これは武士の心得であり、『必死の覚悟で家には二度と帰るまいと思って戦えば生き残り、生きて勝利を味わい、必ず帰ろうと思って戦えば帰らぬ人となるものだ』という意味があるのだが、死亡フラグに通ずるものもある。




△▼△▼△▼
ローリエ「遂にミネラさんと会うことになった俺! でも、リリィちゃんはまだ納得がいかないみたい。
 仕方ないから俺が譲歩しよう。ズバリ、『元通りにするチャンスは一度だけ』!」
ローズ「だ、大丈夫なんですか……?」
ローリエ「ああ。人間たるもの、自分の子供を愛さないやつはまずいないからな……!」

次回『ミネラ その②』
ローズ「絶対に見てくださいっ!」
▲▽▲▽▲▽


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第21話:ミネラ その②

“きっとあの人は、誰かの気持ちを察するのが上手いんだと思います。”
 …港町のドーナツ屋の店主・ミネラ



 宝石商から「ミネラさん」について聞いた俺は、二人を伴って、遠山さんやリリィちゃんと初めて会ったドーナツ屋に来ていた。

 ドーナツ屋の女店主改めミネラさんは、相変わらずカウンターにぐだっと寄りかかり、寝そべっていた。オーダーが解除されれば悪影響もなくなるかもしれないが、会いに行くと言った手前、彼女を元通りにせざるを得ない。それに、オーダーが解除される前にミネラさんを復活させた方が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……一度きりだからね。

 もしダメだったらママのことは諦めてもらうわよ」

 

「分かってるよ。」

 

 

 リリィちゃんにそんなことを言われ、ここに来るまでのやり取りを思い出す。

 

 

 

 

 

 

『―――という訳で、ミネラさんから話を聞こうと思う。』

 

『なによそれ! そんなの聞いてないわよ!』

 

『だろうな。俺も初耳だ。

 安心しろ、親の馴れ初めなんて本人に聞きでもしない限り知らんからな』

 

『そうじゃなくて! ママを元通りにするのはやめてって言ったでしょ!』

 

『……初めて会った時から思ってたが、何をそんなに恐れてるんだ?』

 

『ま、まあまあ二人とも、落ち着いて……』

 

『なによ、ローズ? コイツの味方をすんの?』

 

『違うよ。ちょっと折衷案を出そうかなと。』

 

『『??』』

 

 

 

 そう言ってローズちゃんが出した折衷案が、『彼女を正気に戻すチャンスを一度にする』というものだ。

 はっきり言って、この案は俺には分が悪い。だが俺はすぐさまその案に乗った。これで下手にゴネたら、リリィちゃんに難癖を付けられて、ミネラさんに会う機会すら奪われかねない。ほぼ即答に近いレベルで「いいだろう、その案に賛成だ」と答えることで、リリィちゃんが言い訳を考える時間すら与えなかった。ちょっとズルいがまぁいいだろう。

 

 そうしてミネラさんのドーナツ屋まで来たわけだが。

 

 

 俺は内心穏やかじゃあなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……失敗したらどうしよう。

 

 心配事はその一つに尽きた。

 予想はできる。だが、それが正しいという確証がない。ちょっとこれまでの情報をまとめておこう。

 

 

・ミネラさんはドーナツ屋の女店主である。バイト等は目撃しなかった。

・リリィちゃんとローズちゃんは恋人である。(自分の目撃情報による予測)

・リリィちゃんとミネラさんは仲が悪い。

・リリィちゃんはミネラさんを正気に戻すのを嫌がっている。

 

 当然、これだけじゃあ「ミネラさんが働く理由」について言及するのは難しい。

 ここで重要になってくるのが、杖についてちょっと教えてくれた、死亡フラグ乱舞マンこと宝石商とした会話である。

 

 

 

 

『――――――ミネラ。昨日、リリィとかいう娘の為とウチで買い物をした女性だ』

 

『リリィ、だと…? なあ、ミネラとリリィって他にこの町にはいないよな!?』

 

『あ、あぁ。ミネラはドーナツ屋の女店主しかいないよ。リリィも一人だけだ。』

 

『その女性、何を買っていった?』

 

『この“グリーンクリスタルのネックレス”を()()、買っていった。』

 

『……! これ、“緑の水晶”……!』

 

『宝石には石言葉ってのがあってね……お兄さん、この“緑の水晶(グリーンクリスタル)”の石言葉って知ってるかい?』

 

『? いや、石言葉なんてものは初めて聞いたぜ。』

 

 

『いいかい、緑の水晶(グリーンクリスタル)の石言葉はな―――

 ――――――――――だ…………』

 

『…………!!

 ……ありがとな、宝石商のダンナ』

 

 

 

 

 

 宝石商が言っていたあの言葉……もし、ミネラさんが()()()()()()買ったのならば、俺にも勝算はある。

 

 もし、()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()

「家族の絆は必ずある」みたいな、ひと昔前に最高視聴率を取りそうな家族ドラマのテーマをまったく信じているわけじゃない。この世には、どうしても救いようのない状況っていうものが存在してしまう。確か、哲学用語かなんかにそんなものがあった気がする。詳しくないから知らんけど。きっと、エトワリアでも、そういった問題があるのだろう。幸いなことに、俺にはまだそんな不幸は降りかかってはいない……と思う。

 

 

 不安になっても何も始まらないことは頭では分かっているが、いざミネラさんに話しかけるとなると、妙に喉が渇いた。何度深呼吸をしたことだろう。いい加減に話しかけないと、「まだ~?」と急かされてしまう。主にリリィちゃんに。

 

 

「ねぇローリエ、まだ~? とっとと話しかけて、ママのこと諦めてほしいんだけど」

 

「……うっさいな、今考えをまとめてるとこだ。あと、もっと言い方を考えろ」

 

 

 まるで俺がミネラさんにプロポーズか何かするみたいじゃあないか。彼女の夫が健在か否か知らないが、俺は未亡人もNTR(寝取り)もあまり好きじゃない。

 

 ……仕方ない、覚悟を決めるか。

 

 盗賊を殺した(あの)時よりかは、断然マシだ。

 

 

 

 

 

「ミネラさん」

 

「んぅ?」

 

 

 俺の声に、寝ぼけた声を出して反応する。娘と違って青みがかった銀髪から覗く端正な顔立ちも、健康的な体つきも、子どもを産んだとは思えない……じゃないよ。今はやる気の復活に集中しないと。

 煩悩を押し殺して、俺は組み立てた推理を述べる。

 

 

 

 

「おたく、緑の水晶……グリーンクリスタルのネックレス、買ったろ。二つも」

 

 

 

「…………。」

 

 

 

「宝石商のダンナに聞いたぜ。

 

 

 

 

 どうして、そんなものを買ったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『娘のためだ』と、言ったそうだね?」

 

 

「「!!?」」

 

 俺の言葉に二人が動揺する。

 

 

 

「それって、どういう……」

 

「そして……驚いたことに、宝石には石言葉ってのがあるみたいだな。

 

 

 

 

 

 

 緑の水晶(グリーンクリスタル)の石言葉は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――“祝福”

 

 石言葉という概念は初めて知ったが、きっと花言葉みたいなもんだろう。

 

 

「う、うそ……」

 

 

 ミネラさんにとってはネックレスを買ったことも秘密だったのか、少女二人はただただ絶句している。

 ここまで言うが、ミネラさんはカウンターに突っ伏した体勢からただ虚ろな目で俺を見上げるのみ。

 俺の考えが正しいかどうかは、全て言ってみないと分からない。それで初めて俺の予想が合っているかどうかがわかる、というものだ。

 

 

「ミネラさん、あなたは娘を……リリィちゃんを祝福したかったんじゃないのか?」

 

 

「やめて……」

 

 

 リリィちゃんが力なく呟いた。俺はそれを聞こえないフリをした。

 これはさっきの折衷案を成し遂げようとする俺のエゴだ。一度決めたことは、最後までやり抜く。たとえそれで誰かが……あるいは、自分自身が傷ついたとて、その程度の覚悟ができなければ、俺はこのエトワリアで為したい事も為せない。そのことは、あの事件で学んだつもりだ。

 推理を進めていく。

 

 

 

「本人は隠していたつもりだったけど……あなたはなんとなく察していたんだ。娘に……恋人が―――同性の恋人ができたんじゃあないかと」

 

 

「やめて……」

 

 

「つまり。あなたの働く理由は―――」

 

 

「もうやめてよっ!!」

 

 

 

 推理の最後、最終的な答えを言うより先に、悲痛ともいうべき絶叫が店内に響く。

 

 

「これ以上言わないで!! あんたなんかが、あたしの邪魔をしないでよ!」

 

 

 リリィちゃんだった。両手に拳を握り、こっちを睨んでいる。隣のローズちゃんが押さえていなければ、今にも飛び掛かってきそうだ。

 無論、だからといって、引き下がるわけにはいかない。俺は俺なりに、「真実」に向かって足を進めるだけだ。それにリリィちゃん、妙に「怖がっている」ようにも見える。

 

 

「邪魔? ローズちゃんの案を聞いてなかったのか? 俺は折衷案に則り、為すべきことを為しているだけだ。」

 

「そんなのもういい、帰って!!」

 

「いいや、帰らないね!! 一度約束したことは最後まで守ってもらう!!」

 

「ちょ、リリィ、ローリエさん……」

 

「ローズは黙ってて! 大体、ヒトの家庭の事情に首を突っ込むとかどういう神経してんの!? ふらっと現れたと思ったら分かったような口ばっかきいて……ふざけるんじゃないわよ!!!」

 

 

「俺は至って大真面目だ。モヤモヤしていることは解決しないと気が済まん。それに、教師の仕事っつーのは……ほぼ『余計なお世話』だからな!」

 

「頼んでないわよ! 自分たちだけでどうにかするわ!!」

 

「そんなことを言っているから、子どもなんだよ」

 

「っ!!?」

 

 

 

 烈火の如く怒鳴る彼女を、正論でたたっ切る。怖がらせ過ぎないように圧をかけることも忘れない。こちとら、生きた時間だけなら同年代の人々(アルシーヴや賢者達)よりも多いんだ。14、5の子どもを言い負かすことなど容易い。まぁ、こんなことばっかしてると老害の仲間入りをしてしまうのでできればやりたくないが、今は彼女を説き伏せ、ミネラさんに答え合わせをさせることが重要だ。

 

 

「聞くが、どうにかするってどうするつもりだ? 今ここで具体的なことを言ってみろ!」

 

 そう言った途端、リリィちゃんは俯いてしまう。そのリアクションが意味することは二つ。言えないか、言いたくないか。まともな手段があるならば、答えることができるはずだ。そうしないということは、何も考えていないか、考えていてもそれを実行する自信がなかったり、後ろめたい手段であるということだ。

 

 

「何も答えられないならば、それは逃げているのと変わらないさ。」

 

「あっ、あたしは逃げてなんて……!」

 

「……逃げる事自体は悪くない。だが、注意すべきことが二つある。

 一つ、逃げる時は『その後どうするか』を考えることだ。ただ闇雲に逃げるのは意味がない。逃げながら対抗策を考えるのが良いんだ――」

 

「あたしは逃げてない!!」

 

「いいや、逃げてるね。()()()()()()()()()()()……」

 

 

 意地っ張りな彼女にそう断言してから、ミネラさんの方を向く。

 彼女はもぞもぞと動いている。

 

 

「彼女を知ろうとしろ。本当の気持ちを理解しようとしろ。その上で逃げるなら仕方ない。逃げた後の事も考えていいだろう。

 だが……何も知らない先から逃げたなら、お前は一生無知な子どものままだ!!」

 

「!?」

 

 

 リリィちゃんからは、もう子供じみた言い訳は出てこなかった。ローズちゃんには、彼女のフォローをしてもらおう。

 あぁ、あと言いそびれたことがあった。

 

 

「で、逃げる時に注意する事その二だが………本当に逃げるべきかをよく見極めることだ。周りをよく見て、相談できる人に相談して、人が何を考えているかを観察することだ。

 そうすれば、案外味方になってくれる人がいるかもしれないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだろう、ミネラさん?」

 

「……そう、かもしれませんね」

 

 

「「!!!?」」

 

 

 ミネラさんなら、もう既に復活している。というかさっき気付いた。

 

 

「起きてるならそう言ってくださいよ。」

 

「だってタイミングが……」

 

 そう言いながら、ミネラさんの目とリリィちゃんの目が合う。だが、それに気づくと娘の方はすぐに目を逸らしてしまった。

 リリィちゃんが気まずそうに何と言うべきかを目で床の木目を追いながら考えていると、ミネラさんが口を開く。

 

 

「ごめんなさいね、リリィ。」

 

 

 その一言でリリィちゃんははっと我に返り、自分の母親に目を向けた。

 

 

 ……これから始まるのは、きっと家族だけの会話だ。

 

 俺はそれが終わるまで、しばらく店を出ているとしよう。ここから先に、俺の出番はない。すべては彼女達次第ってとこだろう。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――ごめんなさいね、リリィ。

 

 いきなりそう謝られた本人はどうしてそんなことを言われたのか分からなかった。

 リリィにとって、母であるミネラは相容れない存在だと思っていたからだ。

 母親という事実は、ミネラが今は亡き父親と恋に落ち、愛を育んだ先にリリィを産んだということに他ならないことは、リリィも知っていた。

 

 故に、母親の愛と、自身の愛は、全く別物だと思っていた。誰かを愛すると言えば同じだが、()()()()()()―――それによって、全くの別物になってしまう、と……リリィは思っていた。

 だから、リリィはローズとの関係はひたすらに秘密のものとしていた。

 

 その母親が……ミネラが今、リリィを真剣な眼差しで見ている。それがまた、リリィを苦しめる。

 まっすぐ娘を見る母親と、母親からつい目を逸らしてしまう娘。その様子は、子どもがたった今、人を殺めてきたかのようだ。

 店を沈黙が支配する。彼女の恋人もまた、恋人の母親の突然の謝罪の意図を量りかねているようだ。

 

 

 

「どうして、ママが謝るの……?」

 

 

 沈黙を破ったのは、娘からだった。その後に続く、「謝るべきはあたしなのに――」という言葉は罪悪感からかリリィの喉から出てこなかった。言いたい事がすべて言えず、罪悪感は更に募っていく。

 ミネラが答える。

 

「わたしね、さっきの人の言うとおり、何となく分かってたの。」

 

「わかってた……何を……?」

 

「すべてを。リリィは、小さい頃からほかの子たちとは違ったもんね。」

 

 

 ま、その頃は本当に何となくだったんだけどね、と笑うミネラにリリィは驚愕する。

 ミネラは、リリィが自覚する前から、彼女の悩みを察していたというのだ。

 ではなぜ、その事を話さなかったのかをリリィが聞こうとすると。

 

「リリィはいずれ気づくだろうから、話してくれるまで待とうかなって……その時に味方になろうって思ったんだけど……

 パパが死んじゃって、わたしが忙しくなっちゃって……いつの間にか、リリィに恋人が出来てたことにも気付けなかった。」

 

「あ………」

 

「教えてって言っても頑なに教えてくれなかったから、何に悩んでるかも分からなくって。わたしなりに調べちゃった♪」

 

「………」

 

 

 茶目っ気強くプライベートもへったくれもないことを言うミネラをリリィは先程とはうって変わってジト目で見つめる。自身は恋人のことでどれだけ悩んでいたのか分かっているのか、と言外に伝えている。

 

 

「リリィがその人との将来を考えてるかもしれないから、ネックレスを二つ買ったわ。……ちょっと値は張ったけど。」

 

 そう言いながら部屋の奥へ行く。暫くして戻ってきたミネラが持っていたのは、春の日差しを浴びた新緑の葉のような色をした水晶が飾られた、二つのネックレスだった。

 

 

「リリィ、一つだけ聞かせて。あなたは、隣のその子が―――ローズさんのことが、本当に好き?」

 

 

 

 ミネラから発せられたその質問は、明確にリリィの心を照らし出していた。

 リリィは、すぐに答えられなかった。ローズへの想いに偽りがある訳じゃない。彼女の心にあったのは―――母への罪悪感と、未来への恐怖だった。

 質問に正直に答えたら最後、町中の人々に、母にさえ、捨てられてしまうのではないか―――自分が異質であることは分かっていた。それを認めたらどうなるか………リリィはそれが分からないほど無知でもなければ、楽観的にもなれなかった。

 

 

 

 ふと、リリィの手に温かな感触が広がる。

 

 温かさの元を見ると、自身の手を握る手があり、視線を上げていくと、薔薇のように情熱的な赤髪の少女の紫水晶(アメジスト)と目が合った。

 

「大丈夫だよ」

 

 ローズがリリィに囁いた言葉は、あの時自分の心を溶かしてくれた時のそれと同じ言葉(もの)だった。

 その言葉が、禁断の接吻を交わす度に間近に見た透き通った瞳が、今はリリィに少しの勇気を与えた。

 

 

 

 

 リリィは臆病な少女だった。ローズと恋仲になった時も、それを誰にも言おうとしなかったし、ローリエと出会った時にミネラのやる気の復活を拒んだのも、ただ自分とローズを臆病な彼女なりに守ろうとしたからだ。

 

 

 だが、臆病な百合の花も、隣に一輪の薔薇が咲いている限り、美しく咲き誇ることができる。

 

 

 

 

「ママ」

 

 

 リリィはミネラをまっすぐ見つめる。

 

 

「あたしは、ローズが大好き

 

 たとえ、皆から嫌われても、

 ママにさえ認めてくれなくても、

 

 あたしを好きでいてくれるローズを、愛してるし、一生をかけてローズを愛する!

 何があってもこの気持ちに、嘘はつきたくない!」

 

 

 言った。言ってやった。

 勢いに任せた、拙く語彙に乏しいものだったが、それは確かにリリィが自身の母親に向けた決意であり、ローズに対する告白であり、二人を前に建てた“誓い”であった。

 

 リリィの決意を受け取ったミネラはしばらく目を閉じ、何も言わないでいたが、やがて目を開けると、リリィを手を取り―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――ネックレスをその手に握らせた。

 

 

「えっ……? ママ………?」

 

 

「………あなたの誓い、確かに受け止めたわ。

 

 これからのあなたの人生、きっと楽なことばかりじゃあないわ。

 あなたの言った事を一生かけて貫くなら尚更よ。中には、あなた達を認めない人もいるかもしれない。

 

 でも……わたしは、ずっとリリィの…あなたたちの味方だからね。」

 

 

 ネックレスを渡したその手で撫でられていることに気づいたリリィは、あっという間に視界がぼやける。

 

 

「ありがとう………ママ……!!」

 

 すぐに泣いていると気づかなかった。母への感謝を声に出し、その声が震えていることに気づき、母への不安と罪悪感が霧散して初めて気づいた。だが、今瞳から次々と流れていくそれは、孤独に怯える冷たい涙ではもうなかった。

 

 

 

「ローズさん」

 

「はいっ!!」

 

 そんな泣き虫な娘を優しい目で見てから、娘が得た恋人にミネラは顔を向ける。

 

「ご覧の通り、彼女は不束な娘です。それでも、娘を愛すると誓いますか?」

 

「勿論です! 私は、私が見つけた『真実()』を受け止めます! リリィを幸せにしてみせます!!」

 

 

 何の躊躇いもなく屈託のない笑顔でそう答えるローズを見て、思わずミネラから笑みがこぼれる。

 

「あなたなら心配なさそうですね。

 どうか、娘をよろしくお願いしますね。」

 

「はい!」

 

 

 ミネラは、自分を正気に戻してくれた緑髪の男に内心で感謝しながら、二人の“娘”を抱きしめた。

 

 

「でも、結婚はまだ先ですからね。」

「もう、ママったら!」

「あはは、ですよねー。」




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 見事百合CPのキューピッドを勤めた八賢者。ミネラを元に戻す為の答えは彼なりに考えた結果であり、きっと「最終的には彼女達次第」と言うだろう。石言葉を初めて知ったにしては察しが良いのは、たまたま「花とともに花言葉を送る」という日本(地球?)の文化を当てはめただけである。これもまた、彼なら「魂が古ぼけてただけだ」と言うだろうが。

リリィ&ローズ
 めでたく母親から許しを得た百合CP。リリィがミネラに決意表明をする直前まで揺れた描写の元ネタはQueenの名曲「ボヘミアン・ラプソディー」の歌詞から。2018年末に公開され、5月頃まで上映されていた映画も作者はバッチリ見て、作業用BGMにしてまで書いた。私自身は異性愛者だし、そういう人物に出会った事がないので想像の域を出ないので、そこら辺はあしからず。

ミネラ
 拙作オリジナルキャラクター。リリィの母親。未亡人でありながら、一人娘の悩みを理解しようとし、リリィの恋愛を受け入れた人格者。ローリエはこのことなど知る由もないが、もし彼女の行動を知ったのならば、彼女を「スーパー人格者」と崇めるだろう。



エトワリアでの同性愛の見方
 近年、同性愛の差別は目立たなくなってきているが、未だ残っている。それは、地球において、長い間同性愛というものが差別されていたからだと考える。感情的な理由だけでなく、生産性から見た理由で差別もされていたのだろう。戦争や国家間での経済競争などの面からも、物理的な人の数は比較的重視されていたとも考えられる。
 エトワリアでは、複数の国が存在するような描写がなく、戦争の技術はあれどはるか昔のものとなっている描写(シュガー参戦イベ等)があるため、同性愛の見方は地球よりも抵抗感がないと考えている。故に、前世の記憶を持たないエトワリア人のミネラのような、同性愛に寛大な人も多いと考えている。
 ※上文はゲームイベントを見た作者個人の考察であり、何かを侮辱する意図はないことをご理解いただきたい。



△▼△▼△▼
セサミ「ローリエさん、今回ギリギリの線を行ってませんか?」
ローリエ「何言ってんだ。どんな形であれ、愛は尊いに決まってんだろーが。で、お前の方はどうなんだ? き……召喚士には勝てそうか?」
セサミ「……………ローリエのおかげさまです。」
ローリエ「俺のお陰ェ?(ま、まさか、勝っちゃったとかじゃあないよな……?)」

次回『決着・セサミ』
ローリエ「見ないとタイキックだ!」
セサミ「タイキック………??」
▲▽▲▽▲▽


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第22話:決着・セサミ

三毛猫「前回の次回予告で『次回は「白百合(ホワイトリリー)は愛を知る」だ』と言ったな」

ローリエ・アルシーヴ・ソラ「………」

三毛猫「アレは嘘だ」
ローリエ「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
アルシーヴ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
三毛猫「ヤッダァァァバァァァ」

ソラ「……ごめんなさいね?」


―――というわけで話のサブタイトルが変更になります。ご容赦を……



 港町に住む二人の少女が、恋人として母親に認められた時とほぼ同時刻。とあるコテージの中にて。

 

「これでおしまいです……!」

「………っ!!」

 

 

 

 

 

「ハイドロカノン!!」

 

 

 

 

 

 一つの戦いの決着が着こうとしていた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 時は少々(さかのぼ)り。

 

 

 きららとセサミは激闘を繰り広げていた。

 

 

 室内にも関わらず降り注ぐ雨の中、セサミは水魔法を高速できららに飛ばし、押し流そうとする。きららはコールで呼び出したひだまり荘のクリエメイトと共にそれを防ぎ、反撃に転じる。

 力は互角。しかし、状況はセサミに傾いていた。

 

 理由は一つ。遠山(とうやま)りんと八神(やがみ)コウがやる気を復活させるまで、セサミが二人を人質代わりにしていたからである。

 戦いが始まった瞬間、セサミは無気力状態となっていたりんとコウを人質にした。かつ、お得意の水魔法できららを襲ったのだ。彼女本人は「二人を傷つけられたくなかったら大人しくしろ」といった、露骨に人質を盾にするような真似こそしなかったが、それがきららの精神的負担となり、攻撃に転ずることができず、防御に専念せざるを得なかったのは事実である。

 

 きららは親こそいなかったが、彼女を育てた村の人々は温厚で、彼女に優しく接し、愛を注いだ。彼女は間違いなくそういった村人たちの気質を受け継いでいる。人質がいるという時点で、満足に戦えないことは明白であった。

 

 

 このままではまずいと判断した涼風(すずかぜ)青葉(あおば)が、りんとコウを無気力から復活させることを提案。飯島(いいじま)ゆん、篠田(しのだ)はじめ、滝本(たきもと)ひふみのイーグルジャンプ・ブースメンバーもまた、二人を復活させるべく、声をかけ続けた。

 はじめの言葉がりんをオーダーの副作用から復活させると、りんもコウを復活させるべく必死に言葉を投げかけた。

 

 

「あーあ、もう八神さんのキャラデザが見れないなんて、残念だな~。日本中、いや、世界中のゲームファンが悲しみに暮れますよ~?」

 

「大げさやな! いや、でも……ほんまかも。弟と妹も、作ったゲームおもろいって言ってくれとるんです。自分がええと思った物をお客さんも喜んでくれてるのってもっと嬉しいやないですか。

 そないな子たちの憧れ、裏切るんですか?」

 

「うん、うん……!」

 

「ひふみ先輩も相槌だけじゃあなくて、何か言ってください!」

 

「え? あ…………えっと……そ、そうっ!

 私も、真剣に働いてる時のコウちゃんの方が………だ、大好き……だよ……!」

 

「えっ!!? だ、大好きって、ひふみちゃん、どういうことなのッ!?」

 

「遠山さんはそこで反応しなくていいですから!」

 

 

 途中、ひふみの一生懸命にコウを元通りにしようとした言葉がりんに全く違う意味で誤解されたり、

 

 

「あ、あああ…………そ、その、変な意味じゃなくて……そう、りんちゃんからも……。」

 

「え………?」

 

「りんちゃんからも言ってあげれば、コウちゃんもきっと………ううん、絶対、元に戻るはず……!」

 

「そ、そう……かしら?」

 

「肝心な所で照れないでください!

 遠山さんなら大丈夫ですから! 是非!」

 

「うん! コウちゃん! 私もね、真剣に働いてる時のコウちゃんが……好きよ………!

 あ、でも、だらしない所も決して嫌いじゃないけど……えっと――」

 

「なに、このどうみても告白タイムは。趣旨がずれてるような……」

 

 

 りんがコウに告白したりすることもあったが―――

 

 

「……あのさぁ。」

 

「コウちゃん!? 正気に戻ったの!?」

 

「……だいぶ前から戻ってたけど。

 そんなに立て続けに喋られると、タイミングってものがねぇ……。」

 

「え………じゃ、さ、さっきの私の、思いっきり聞いてたの………?」

 

「……まったく、あんな恥ずかしいこと、みんなの前で言わないでよ…………」

 

「あ、あっ、あっ……………いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!!」

 

「ええと、これは……ようやく、式を挙げる気になりましたか?」

 

「「なってないっ!!!」」

 

 

 ―――遂に、コウをも正気に戻すことに成功した。

 

 

 しかし、きらら達にとって、事態はあまり好転したとは言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ………!」

 

「きららさん!?」

「きららちゃん!?」

 

「……どうやら、先程までのダメージが祟っているようですね…!」

 

 

 そう。互角と言うにはきららはダメージを受けすぎていたのだ。人質を取ったセサミの戦法が心優しいきららに突き刺さり、不利な盤面を押し付けられ続けた結果、きららはセサミの一方的な攻撃で防ぎきれなかった分のダメージが積み重なり、膝をついた。一方のセサミは、きららのカウンターの分ほどしか、ダメージを与えられていない。

 

 

 これは本当にまずい、ときららは思った。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 体を支えるのが厳しくなり、片膝をついてしまう。

 

 

 ランプとマッチと青葉さんが、私に駆け寄ってくる。

 

 

「大丈夫ですか!?」

「立て直せるかい?」

「私も、戦うことができれば……!」

 

 

 純粋に私を心配してくれるランプ、冷静に戦況を分析するマッチ、戦う力がないばかりに歯がゆさを覚えてるだろう青葉さん、それぞれ三者三様な反応を示す。

 

 でも、今は立たなければならない。

 

 私達の中で、戦えるのは私しかいないから。

 

 戦いは、まだ終わっていないのだから。

 

 

「隙は、突かせていただきます!」

 

「危ない、みなさん!!」

 

 

 セサミの拡散水魔法弾(アクアスプレッド)が私達を襲う。私は魔力を盾状に変化させ、ランプ達に襲いかかる水の弾を防いでいく。しかし、消耗しているためか、すべてを防ぐ事が出来なかった。

 

 

「きゃっ!!」

 

「きららさん!!?」

 

 防ぎ損ねた水の弾がいくつか肌を掠る。当たった所が熱を帯び、すぐにヒリヒリとした痛みに変わる。

 

 

「今の疲弊しきったあなたではこれを真正面から受け止められません!

 これでおしまいです!」

 

「………っ!!」

 

 

 余裕の笑みさえ浮かべるセサミに魔力が集まっているのを感じる。おそらく、次の一撃でトドメを刺すつもりなのだろう。

 私は、最後の「コール」の分の魔力を残して余った魔力でありったけの障壁(バリア)を張る。

 

 ―――来る!!

 

 

 

 

「ハイドロカノン!!」

 

 

 

「皆さんっ、私の真後ろに―――――」

 

 

 私の言葉は、途中で大きな水流とバリアがぶつかる轟音にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これで流石の召喚士もおしまいでしょう。」

 

 

 霧の晴れない中、セサミの声が聞こえる。

 ゆっくりと、前を見据える。さっきの激流の衝撃のせいか、歩くのも厳しいけれど、まだ両足で立てている。()()()()()()()()()()()()()。相手はさっきの大技で私が吹っ飛んだと思っている。体中痛いけれど、今がチャンスだ。

 私は後ろにいた青葉さんに手を伸ばす。

 

 

「青葉さん………手を……!」

 

「きららさん! 大――」

 

 

 すぐさま杖を持ったまま「静かに」のハンドサインを出す。

 青葉さんが私の意図を理解しないまま手を握ったのを確認すると、私は杖に残った魔力を集中させる。

 

 

「私のコールはパスが……皆さんの絆が力を左右するもの―――今から、最後のコールを行います。このまま、大切な人を思い浮かべてください!」

 

「……はい!」

 

 

 青葉さんは返事をすると、目を閉じた。私も、『コール』に集中する。

 

 

「『コール』!」

 

 詠唱とともに、力が光となり、誰かが私の『コール』に応じているのを感じる。

 

 

 現れたのは、青葉さんと同じくらいの身長の少女。

 水色を基調として、サメをかたどったような袖の服と紺色の半ズボンを着ており、ベレー帽のような帽子をかぶった、金髪で幼さを感じる女の子だった。

 

 

 

「ねねっち!!? どうしてここに!?」

 

「あー! あおっち、こんなところにいた!」

 

 

 青葉さんはその少女のことを知っているみたいで、驚きを隠せていない。

 ねねっちと呼ばれた方も、青葉さんと親しげだ。

 

「みんな急にいなくなって心配してたんだよ! 何してたのさ!」

 

「あの、すみませんが、お願いできますか?」

 

 再開を喜ぶ暇もなさそうなので、召喚されたねねっち?さんにそう言う。

 『コール』で呼び出されたクリエメイトには、私の記憶が共有されている。また、魂の写し身を独特の力でパワーアップしているため、すぐさま戦う事が出来る。

 

 

「任せて! あの人を倒せばいいんでしょ?」

 

 ねねさん(青葉さんから名前を聞いた)がセサミに突っ込んでいくのを見て、セサミは目を見開く。明らかに動揺している。

 

 

「馬鹿な!? ハイドロカノンをどうやって!?」

 

「受け流したんですよ。正面から受け止められないなら、()()()()()()()()()()。バリアでハイドロカノンの間に角度をつけることで、激流をかわしたんです。川の水路が真っ二つに分けられて、中洲ができるように!!」

 

「そう言えば聖典の隅っこで見た事があります! 『ニホン』という国には、敵の力を利用して攻防を行う格闘技『アイキドー』なるものがあるとッ! それと同じって事ですか、きららさんッ!?」

 

 

 セサミの疑問に私が大技を防いだネタばらしをすると、ランプが聖典に載っていたという実に彼女らしい比喩を使って納得していた。その『アイキドー』が何かは知らないけど。

 

 そんな隙に、『コール』で呼んだねねさんは、セサミの目の前というところまで接近していた。

 

 

「食らえ! このスーパープログラマーねねの、必殺―――」

 

 ねねさんは銅色のサメのお腹にフォークが刺さったような形状の独特のハンマーを上段にかざし、セサミに向かって――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わだッ!!?」

 

「「「………。」」」

 

 

 

 

 ――――振り下ろそうとして、何かに躓いたのか、顔から思いっきり転んでしまった。あまりの拍子抜けした光景に、私もランプも、セサミまでもが、言葉を失う。

 

 

「ねねっち………」

 

「……よくわかりませんが、最後であろうクリエメイトが、こんなにも間抜けだったとは!」

 

 

 セサミが、我に返ると同時に魔法の準備を始める。

 流石に厳しいけれど、無茶をしてでもバリアを張るべきか………そう考えていた時。

 

 

 

 

「なっ………きゃあああああ!!?」

 

 

 セサミに、黄土色の三日月状の衝撃波が3つ直撃し、彼女を吹き飛ばした。

 

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

 

 何事かと、衝撃波が放たれた方向を見ていると、そこには、港町で出会ったクリエメイトでも、ねねさんでもない、別の女性が立っていた。

 日に焼けたのだろう健康的な小麦色の肌を動きやすい剣士の服と聖典の『和服』を彷彿とさせる袖で包んだ、茶色の長髪の女性。ねねさんよりも、はるかに大人の女性という印象が強い(少し失礼かもしれないが)。

 手には峰が赤く、(つば)のない日本刀が見え、それが更に美しさを印象付けた。

 

 

 

「まったく、桜さんはどうしてそう、詰めが甘いんでしょうか」

 

 

 

 そう呟いてからこっちを向いた彼女の颯爽(さっそう)とした登場に、イーグルジャンプの皆さんは目を丸くして、驚きのあまり言葉を発せずにいる。しかしそれも束の間、クリエメイトとランプが喜びの声をあげた。

 

 

「「「「「うみこさん(様)!!!?」」」」」

 

 

「うみこさん?」

 

「そう。阿波根(あはごん)うみこさん。うちの会社(イーグルジャンプ)のプログラマーチームのリーダーです。ねねっちの上司でもあるんですよ」

 

 

 青葉さんがうみこさんと呼ばれた女性について教えてくれる。きっと、私の『コール』で呼び出していたのだろう。

 

「皆さん、ここにいたんですね。」

 

「アハゴン! どうやってここに……?」

 

「その名前は止めて下さいと言った筈です八神さん。撃ちますよ?

 ……私は、消えた皆さんの家に連絡して回ってた時に、休憩の為に仮眠を取っていたら、誰かに呼ばれた気がしたので返事をしたらここに。」

 

 うみこさんの発言は間違っていない。『コール』は、別世界のクリエメイトの魂の写し身を呼び出す魔法。きっと、元の世界ではうみこさんは今も仮眠を取っているままでしょう。

 

 

 

「くっ………こんな、こんははずでは……!」

 

 

 うみこさんの攻撃で吹き飛ばされていたセサミがよろよろと立ち上がる。さっきの斬撃がセサミの不意を突いたこともあってか、予想以上にダメージを与えられたようだ。

 

 

「屈辱ですが、ここは退却しましょう……。クロモンたち、来なさい!」

 

「「「くー…………。」」」

 

 

 セサミはクロモンたちを自分の周囲に集めると、転移魔法でさっさと消えてしまった。

 

 

 一時は危なかったが―――――なんとか、勝利をおさめることができたようだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「やりました! すごいです、きららさん!」

 

 ランプが私をキラキラした目で見つめてくる。でも、今回の勝利もまた、私一人のものじゃあない。

 

「ううん……

 青葉さんたちが、コウさんやりんさんを正気に戻してくれたおかげだから。

 人質を取られたままだったら、もっとやりづらかったと思うし。」

 

 それに、と私は新しく来てくれた二人に視線を向ける。

 

 

「ねねさんやうみこさんのおかげで、セサミに勝つことができましたから。ありがとうございました、お二人とも。」

 

「私を呼んだのは他でもないあなたです、きららさん。」

 

「私、いいとこなかった気がするんだけど……美味しいトコ、うみこさんに持ってかれちゃったし。」

 

 

 私のお礼にうみこさんは謙虚に対応し、ねねさんはせっかくのファンタジーだったのに、と口を尖らせて愚痴る。そんなねねさんに青葉さんは「まぁまぁ、ねねっちのおかげでうみこさんが攻撃するスキが生まれたと思えばさ」とフォローする。

 

 

「それで、ねねちゃんやうみこさんはどうやってこっちに来たの?」

 

「あ、それは私の『コール』で呼び出したんです。」

 

 

 りんさんがうみこさんにそう質問する。他のクリエメイトの皆さんもりんさんと同じ不思議そうな顔をしていたので、私は割り込んで今のねねさんとうみこさんの状況の説明を始めた。

 

 二人は双方の合意の元、『コール』で呼び出した『魂の写し身』であること。

 

 『オーダー』とは違い、二人の体はもとの世界にあること。

 

 『コール』で呼び出したクリエメイトは自身の意思でもとの世界に帰れること。

 

 また、ねねさんとうみこさんにも、改めて今の状況の説明をした。

 

 

「……ということは、涼風さんや八神さん達は存在そのものがこちらに召喚されてしまっている、と?」

 

「そういうことになります。」

 

「なるほど……それで、そのクリエケージってものを壊せば、あおっち達はこっちへ帰ってこれるんだね!」

 

「はい。」

 

「そうですか……」

 

 

 

「よがっだぁ、あおっぢが帰っでこれるぅ~~!!」

「ちょ、ねねっち!?」

 

 

 一通りの説明を聞いたうみこさんは、一息ついて安心したようだった。きっと、急に行方不明になった青葉さんたちを探し続けていて、ずっと落ち着かなかったんだろう。ねねさんも、親友が帰ってこれると分かったのか、涙目になりながら青葉さんに抱き着いている。

 

 

「しかしまぁ、こっちは本当に心配していたというのに、そちらは楽しげにこの世界を満喫していたように見えますが?」

 

 

 ……あれ、うみこさんのコウさんたちの見る目がちょっと険しくなっている気が……

 

 

「わ、悪かったって! この後すぐに帰るから!!」

 

「そうね。うみこさん、ごめんなさいね。葉月さんは大丈夫でした?」

 

「はっきり言って大丈夫じゃあないかと。生気を吸われたかのようにうなだれて、『私の楽園は消えてしまったのか』とかうわごとのように言ってましたし。」

 

「「「………。」」」

 

 

 うわぁ……それは重症だ。葉月さんという人がどういう人物かは後でランプに聞くとしても、その人やうみこさん、ねねさんには今回の件で迷惑をかけてしまったみたいだ。

 

 

 

「まぁ、あの告白タイムといい、一緒にいた僕たちは楽しかったけどね。あんまり、エトワリア(ここ)に長居するのも良くないか。」

 

「ええ、あの告白はドキドキでした。あれがイーグルジャンプの日常なんですね……」

 

 

 マッチとランプが会話に混じった途端、うみこさんの表情の怖さが増す。更に、りんさんの顔も赤くなっていく。

 

 

「遠山さん……?」

 

「ち、違うの! うみこさんもランプちゃんも、違うからねッ!! やめて……言わないで……」

 

「あなたまで、何をしているんだか………」

 

 

 そんなうみこさんとりんさんのやりとりを見つつ何だか申し訳ないなぁ、と思っていると。

 

 

「あれ? なんだろう、この本?」

 

 

 という声が聞こえ、声の主を見ると、そこにはセサミが落としたのであろう分厚い本を開いて目を見開くはじめさんと。

 

 

「ッ!? こ、これは……」

「一体何を見つけて……おや、何か書いてある?」

「あ、それは……」

 

 

 はじめさんに気付き、後ろに回り込んで本に書かれていることを読もうとするマッチがいて。

 

 

「……ローマ字? いや、これは英語か……『KIRARA(きらら) THAI(たい) KICK(きっく)―――」

 

「読んじゃ駄目ッ!!!」

 

 

 読もうとしたマッチをはじめさんが遮ろうにも遅くて。

 

 というかなんではじめさんはそんなに焦っているんですか? と聞く暇もなく、

 

 

 

デデーン

 

 

 と、コテージの前で聞いたことのある効果音が流れると、

 

 

『きらら、タイキックー!』

 

 

 聞きなれない音質の声で、そう宣言された。

 

 部屋の奥から、初めて見る格好の女性が現れる。赤いグローブをつけたボクサーのような恰好で、頭と両の二の腕にハチマキのようなものを巻いている。

 

 

「「「マッチ!!!」」」

「えっ? ぼ、僕が悪いのかい!?」

「当たり前でしょう!! 何やってるんですか!!?」

「嘘やろ……た、タイキックって……女の子にやるもんやないで………」

「いや、確かベッ○ーにやってた気が……」

「今言うことじゃないでしょう……!」

「え、やるの? タイキックさん、本当にやるの?」

 

 

「あ、あの………たいきっく? って…何ですか?」

 

 

 私が皆さんにそう聞くと、イーグルジャンプの皆さんは顔を見合わせて、困ったような、可哀想なものを見る目のような、複雑な表情を見せた。目配せしても、誰も目を合わせようとしない。

 ………本当に何なのでしょう?

 そう思ってると、さっきの奇妙な格好の女性が私の肩を掴んで、広いスペースに引っ張っていく。

 

「あ、あの! な、何をするんですか??」

 

「きららさん……」

 

 

 青葉さんが申し訳なさそうな顔で話しかけてくる。

 

 

「青葉さん、たいきっくって何ですか?」

 

「きららさん、一度しか言わないので聞いてください……

 ―――これから、お尻を蹴られます」

 

「ちょ!!? た、助けてください!!!」

 

「ごめんなさい、そうしようとしてるんですけど……

 みんな、そっちへ行けないようになってるんです!」

 

「何で!!!?」

 

 

 意味が分からないよ!! その、蹴られる、っていうのが「たいきっく」というのはなんとなく分かったけど、そもそも何で蹴られないと――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアァッ!」

 

 

 

 

 

 

 ズムッ、と。

 

 お尻から全身に、鈍痛が広がった。

 

 

 

「~~~~~~~~~~っ!?!?!?」

 

 

 

 まるで、巨大な動物が、捨て身の突進をしてきたかのような衝撃だった。

 

 頭を打ったわけじゃあないのに、視界がチカチカした。涙まで出てきた。

 

 全ての動きが、スローモーションに見える。人は、死ぬ間際に走馬燈を見ると言われているが、今見ているのが多分そうなんだろう。

 

 

 

 

 ほうぼうの体で青葉さん達を帰した後でランプから聞いた話によると、その時の私の悲鳴は、女性が出してはいけない声に片足を突っ込んでいたみたいです。泣きたい……




キャラクター紹介&解説

きらら&セサミ
 セサミ相手に辛勝したもののタイキックを食らった本家主人公&敗北を喫した2章ボス。人質戦法はきらファン本家のストーリーにもあったが、人質を盾にする戦法は、一気にセサミが小物臭くなるし、彼女にそんなことしてほしくないので不採用。ただ、きららは純粋で根が優しいので、人質がいるという事実だけで動きが鈍くなって、セサミとしては「戦いにおける考えにしては甘い」くらいは思っていてもいいはず。ハイドロカノンは本家2章にも登場した水の激流のビーム。

ランプ&マッチ
 きららの旅の供。ランプは「聖典」を読みふけっており、拙作でもこの設定を活用しまくっているので、「聖典」の世界、特に日本の文化についてはきららやマッチよりも知っている設定。拙作では解説女王の地位は確立するのか? マッチは今回きららタイキックの罠を踏んでしまったが、エトワリア人(彼は人ではないが)の知識内から冷静に考えても、アレは躱せないと判断。というか、そもそもタイキックの文字を仕掛けたローリエはアレに罠としての意味はないと言っていたが……?

涼風青葉&篠田はじめ&飯島ゆん&滝本ひふみ&八神コウ&遠山りん
 オーダーでエトワリアに召喚されたイーグルジャンプの面々。オーダーではもとの世界にいた人物そのものを呼び出してしまうため、オーダー後の世界からいなくなってしまうという公式設定を利用して、もとの世界の混乱をほんの少し書いてみた。詳しくは下にて述べる。

桜ねね&阿波根うみこ&葉月しずく
 本家の第2章では当時実装すらされていなかったために登場しなかったイーグルジャンプの社員。ねねっちとうみこさんには、『コール』されたクリエメイトとして登場。特にうみこさんは(ゲームでは★4土属性であることもあって)セサミ戦の決め手となった。葉月さんはうみこさんに言及される形でちこっと登場。実際、あおっち達が原因不明の行方不明となったら、葉月さんは間違いなく『私の楽園が崩れてしまった……』と凹むだろうし、うみこさんは尋常じゃないほど心配して探しまくるだろうし、ねねっちに至っては泣くまである。そういう意味では、オーダーは許してはいけない禁忌なのだろう。



タイキック
 某子供の使いから輸入した、バラエティー番組の罰ゲーム。どこからともなくムエタイ選手が現れて、臀部にキックをかます。参加しているメンバーが全員男なだけあって、殆ど男性専用の罰ゲームとなりつつあるが、一度だけ女性がタイキックとなった際は、女性のムエタイ選手が現れ、タイキックを繰り出していった。エトワリアでのタイキックは、女性のムエタイ選手がメインとして登場するだろう。



△▼△▼△▼
ローリエ「激闘の末、きららに敗れたセサミ。その報告からアルシーヴちゃんはきらら相手に次の一手を打つことになる。その頃俺は、ミネラさんから『あの杖』について聞き出すことになった! ただ、セサミも俺と話がしたいみたいで……ムフフ、デートかな?」

次回『白百合(ホワイトリリー)は愛を知る』
セサミ「この予告、本当なんでしょうね?」
ローリエ「ああ。作者が『魂を賭ける』ってさ。」
セサミ「グッド………あと、ローリエとデートはないです」
ローリエ「いいじゃん一回ぐらい……」
▲▽▲▽▲▽

あとがき

遂にセサミが実装決定しましたね!
ただ、「石を貯める」……そういう言葉はオレたちの世界にはねーんだぜ…そんな弱虫の使う言葉はな………

「石を貯める」… そんな言葉は使う必要がねーんだ
なぜならオレや オレたちの仲間は その言葉を頭に思い浮かべた時には!
実際に石を貯めちまって もうすでに 終わってるからだッ!
だから使った事がねェ―――ッ

ペッシ オマエもそうなるよなァ~~~~~~
オレたちの仲間なら… わかるか?オレの言ってる事… え?

「石を貯める」と心の中で思ったならッ!
その時スデに行動は終わっているんだッ!

『貯めた』なら使ってもいいッ!


というわけでまた次回~


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第23話:白百合(ホワイトリリー)は愛を知る

“どんな形であれ人を愛することは素晴らしい。そのことを、きっと彼女達は証明してくれたことだろう。文句のある奴は聖典『桜Tri○k』を30回読んでから言うことだ。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第3章より抜粋


 ドーナツ屋のカウンターの奥は、八(じょう)ほどの畳のようなものが敷かれた居間にキッチンがついた部屋が広がっていて、階段を上ると、そこは住人達のパーソナルスペースになっているそうだ。

 

 

「じゃあミネラさん、お願いします。」

 

「分かりました。この『人相書き』にあった、ペンほどの杖についてですね?」

 

 

 ミネラさんの言葉に頷く。

 ミネラさんとリリィちゃんが和解したあと、俺はその居間に通されて、座布団に座り、丸いテーブルを挟んで反対側にいるミネラさんに機密に触れないように事情を説明したあと、“例の件”に関係する杖について詳しく聞いていた。階段の奥から二人ほど、こちらを覗いている少女がいるがこの際気にしなくていいだろう。

 

 

「私はここから海を渡り砂漠を抜けた先にある、渓谷の村出身です。」

 

 渓谷の村………もしかすると、4章できらら達がソルトと戦う場所か?

 

「その村には、昔からの風習がありました。

 その一つに、『夜に森に入ってはいけない。短い杖の呪術師に攫われてしまう』っていうものがあります。」

 

「……『短い杖の呪術師』?」

 

「ええ。村では呪術師の特徴として、『ローブで姿・顔を隠してること』と『短い杖を持っていること』の二つが語り継がれていたんです。」

 

 こういう語り継がれてきたものは、大抵ウソなのだが、その背景には、子どもや女性といった、村の要を守るためについた、というものが多い。命を守るための合理的な嘘だということだ。

 例えば、妖怪は文明が開化していなかった日本人のあらゆる恐怖が形になったものが多い。ルーツが古ければ古いほど恐怖の対象とされている場合が多く、「鬼」や「大蛇」がその代表例だった。

 

 ミネラさんが幼少期を過ごした渓谷の村では、その『ローブの呪術師』が妖怪のごとく怖がられたいたのだろうか。

 

「成る程。恐らく、子どもが森に入ってしまわないための方便だったのでしょう。」

 

「ええ。それに、実際に見た、という大人も一定数いましたから。」

 

 そういうミネラさんを見て、もう少し情報を慎重に引き出してもいいのかなと思った。ミネラさんの出身の村の『風習』は、門外不出で余所者には話しちゃいかんって感じのものではないらしい。

 

「ふむ、目撃情報もあったから、村の子どもはみんな、それを信じたわけですか。

 ミネラさん自身は実際に『呪術師』に会った事はありますか? あと、他にその『短い杖の呪術師』について何か知っていることは?」

 

「いいえ。子どもの頃の私はそれを信じてたから夜の森には入りませんでした。ただ………実際に見た人達は、『山の中に小屋があった』と言ってた気がします。」

 

「わかりました。」

 

 

 山小屋か………彼らがそこに住んでいるということだろうか?

 とはいえ、ミネラさんがいくら村の出身者といえども、これ以上『呪術師』について聞くことは出来ないか。

 そう踏んだ俺は、地図を取り出し、質問内容を変える。

 

 

「ミネラさんの村がどの辺にあるのか、教えていただけませんか?」

 

 次の質問は、村の場所の把握のためのもの。俺の探している『ローブ野郎』と似ている『呪術師』を探すための質問だ。

 ミネラさんは、港町から海を渡り、砂漠を突っ切った先にある、険しい山脈……そこにある、川の上流付近を指さし、「確か、この辺にあると思います」と言った。

 

 

「ありがとうございます。情報提供、感謝いたします。」

 

「あ、待ってください。」

 

 

 必要な情報を聞き終わり、立とうとすると、ミネラさんが呼び止めてくる。

 

 

 

 

「娘たちを助けてくださって、本当にありがとうございました。」

 

 

 彼女が口にしたのは、お礼だった。これ以上なく愛しいであろう我が子を助けてくれたお礼。

 きっと、何にも代えがたい宝なのだろう。

 

 前世があるから分かっていることだが、俺はそういった“代えがたい宝”を失った人々を、テレビ越しで見たことがある。大体がモザイクがかけられていたり、音声加工されていたりしているが、その悲痛さたるや、遺族の家に殺到するマスゴミに「遺族にインタビューすんのやめたげろや!」と本気で憤りを感じるほどだった。

 

 アレは所詮他人事なテレビ越しだったのもあり、感情移入は長続きしなかったが、目の前のミネラさんからは正真正銘の誠意と感謝を感じる。心がすっ、と軽くなった気がした。きっとこのミネラさんのお礼は、一生心に残るだろう。残すべきなんだ。

 ここで「お気になさらないでください」と言うのは簡単だが、それはきっと、彼女への一種の侮辱になるだろう。

 

 だから、俺は―――

 

 

 

 

「いつか、必ず―――娘さんたちの結婚式に呼んでくださいね。

 ……応援してるぞ、リリィちゃん、ローズちゃん。」

「……うるさいわね! あんたに言われなくっても、自分の恋人くらい自分で…………っ」

「……途中で恥ずかしくなって言えなくなるくらいなら最初から言うなや」

「ありがとうございます、ローリエさん。私達、頑張ります!」

「おう。その意気だ!」

「あらあら、最後までありがとうございます、ローリエさん。」

 

 

 後ろで真っ赤になっている、ミネラさんの()の未来を、全力で祝福することを誓った。どんな形であれ人を愛することは素晴らしい。そのことを、きっと彼女達は証明してくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 あ、そうだ。あとミネラさんのドーナツも買っておこう。俺の同僚たちへのお土産だ。「釣りはいりませんよ」って言ったら、「さすがに賢者様にそこまでしてもらうわけにはいきません」と笑顔ですさまじい圧をかけられ、結局屈してお釣りを貰ってしまった。

 くそぅ、いいシチュエーションだったから最後くらいカッコつけたかったのに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ん? 待てよ? ()()()、だと…!?

 

 

 

「ま、ママ? あの男が『賢者様』って………!?」

「あら、リリィ? 知らなかったの? 政治の時事問題よ?」

「そうだったんですね、お義母(かあ)さま……どうりで、素敵な筈です…!」

 

 

 ……俺の顔と名前、内閣の国務大臣感覚で覚えられてた………

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 コリアンダーと合流し、転移魔法で神殿に帰ってきた俺は、アルシーヴちゃんに今日ミネラさんから聞いたことを報告することにした。

 

 

「―――とまぁ、こんなところかな、今回の成果は。」

 

「ご苦労だった。続けて情報収集に専念してほしい。」

 

「……随分、他人行儀になったじゃあないか。ちょっと寂しいぜ、アルシーヴちゃん。」

 

「…今がどんな状況か分からないお前ではあるまい。」

 

 

 今がどんな状況か、か。

 少なくとも、アルシーヴちゃん自身が考えているよりかは深刻だ、と思う。

 

 世界の中核であるソラちゃんが封印されていて、その負担をアルシーヴちゃんが一人で背負っている状態だ。表向きはソラちゃんは『療養』しているとはいえ、エトワリアが長続きしないということだ。

 じゃあさっさと「オーダー」で呼んだクリエメイトからクリエを奪ってしまえばいい、となるかもしれないが、そうはいかない。

 

 何故なら、それではクリエメイトが確実に不幸になるからだ。クリエを奪われるのは多大な負担になる。クリエケージには生命維持装置があるから死にはしないだろうが、命の源を奪うに等しい行為だ。クリエメイトらにとっては苦痛だろう。

 

 俺自身、きらら漫画(聖典)登場人物たち(クリエメイト)を傷つける覚悟を決めていないだけかもしれないが、そんな覚悟は持ちたくない。好きな子たちの不幸を見て愉悦に浸る趣味などないし、今世(エトワリア)でできた大切な人も切り捨てたくはない。じゃあどうするつもりだと聞かれたとしても、()()()()()()()()()()()

 

 

「うん……まぁね。でも、誰にも頼れないんだろう。幼馴染に気持ちを吐き出すぐらいしてもいいと思うけど。」

 

「…余計な心配は無用だ。私はただ……為すべきことを為すのみだ。」

 

為すべきことを為す、ねぇ……

 

 

 アルシーヴちゃんに聞かれないように俺は口の中でその言葉を反芻(はんすう)する。その意味するところは明確だ。ソラちゃんを助けるために―――ってことだろう。

 これ以上話をしてこじれるのもマズいので今回はいったん引き下がろう。「失礼しました」と一言告げて、アルシーヴちゃんのいる部屋から立ち去ることにする。

 

 アルシーヴちゃん。悪いけど俺は、「為すべきを為す」だけじゃあ満足できない。

 すべてを救う。クリエメイトも、ランプも、ソラちゃんも、アルシーヴちゃん……君でさえも。

 俺は強欲なんでね。

 

 

「あ、待ってくれローリエ」

「ん?」

「セサミが今回の任務についての話で呼んでいた。行ってやれ。」

「お、おう……。」

 

 

 去り際にそんなことを言われた。セサミのやつ、()()()のこと、根に持っているのか…?

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「……ローリエ。なぜ、ここに呼び出したか分かりますか?」

 

 

 秘書室に呼び出された俺を待っていたのは、革製のイスに座り「いかにもご立腹です」って感じに眉を(ひそ)めたセサミだった。俺が持ってきたミネラさんのドーナツにも手をつけず、ゴシックな置時計の秒針の音をBGMにただこちらの返答を不機嫌そうに待っている。コーヒーセーバーでコーヒーを淹れる前に答えないと更に不機嫌度が増しそうなので何でもいいから答えるとするか。

 

 

「俺にデートのお誘いを―――」

 

「『ハイドロカノ―――」

 

「わああああああああ! 嘘、嘘!!! ジョーダンだジョーダン!!!」

 

 

 なんで思いっきり大技かまそうとしたわけ? 部屋が濁流に飲まれるだろ! 中世チックでシャレオツなインテリアが全部流れちゃうだろ!! 

 

 

「まったく、真面目に会話もできないんですか貴方は。任務の話ですよ、任務の」

 

「ああ、そっちか」

 

「この話以外ありえません」

 

 

 そう咳払いしてからセサミは話を始める。

 

 曰く。何故、コテージの家具の配置を結婚式風に変えたのか。

 何故、八神コウと遠山りんにウェディングドレスを着せたのか。

 何故、アルシーヴちゃんの名をかたってあんな『式の台本』を書いたのか。おかげでアルシーヴちゃんの前で恥をかいたそうだ。

 そもそも、自分が召喚士と戦っている最中、何処でなにをしていたのか。

 以上の疑問は、彼女がアルシーヴちゃんへの報告の際に指示の矛盾に気付いた結果、俺がやったんじゃないかと目星をつけたらしい。

 

 

「オーダーの影響で眠ってしまったり、あなたの書いた台本のアルシーヴ様の名前を寝ぼけていたとはいえ信じてしまったりした私も私ですが、あなたの今回の行動は説明してもらわないと納得いきません。」

 

「………わかった。

 まず八神さんと遠山さんにドレスを着せた理由だが……」

 

 

 …ぶっちゃけると、二人に早く結婚してもらいたかっただけなんだが、そんなことをここで言うほどバカじゃあない。建前と本音、二つを満足に使い分けて初めて大人になれるってものだ。元日本に住んでた社会人の恐ろしさってやつを見せてやる。

 

 

「主に二つ。ひとつは、行動の制限。もうひとつは、既成事実を作ることだ。」

 

「『デリュージ―――」

 

「ま、待て、話を最後まで聞け!

 遠山さんと八神さんがお互いを好きだから、ウェディングドレスを選んだんだよ!」

 

「………どういうことですか?」

 

「詳しくは『聖典』に書いてあるが、二人の間柄は『会社の同僚』とか『仲間』のひとことで片付けるにはあまりにも親しい。更に、遠山さんが八神さんを慕う描写もあった。八神さんがそれに気づかない描写もな。

 俺の目的は、遠山さんの願望を叶えて、こちら側につけることだった。仲間から説得された方が、クリエメイトも揺らぐ。セサミだって、誰とも知らぬ馬の骨よりも他の賢者やアルシーヴちゃんに言われたことを信じるだろ?」

 

「………理屈はわかりました。しかし、意味があることなのですか?」

 

「もちろん。今回は失敗しちゃったけど、目的のために利用できるものは利用するのが、合理性ってやつよ………たとえそれが、どんな感情だろうがな」

 

「アルシーヴ様の名前を勝手に使ってあの台本を書いたのもその『合理性』とやらのためですか」

 

「そうだよ。ゴメンね? 君を利用するようなマネをして……でも、セサミなら『アルシーヴ様の命令』には従うかなって思っただけなんだ」

 

 

 できるだけ邪気の無い、申し訳なさそうな笑顔を浮かべ、セサミの反応を伺う。

 

 セサミはすぐに目を逸らした。しかし、その一瞬には、懐疑の色はもうなかった。

 

 

「……信じてくれたようで助かったよ」

 

「…ええ。どうやら私は、あなたのことをほんの少しだけ誤解していたようです。

 ですが、そういったことなら(あらかじ)め私に報告してください。事後報告では後々問題が残るでしょう。

 あと、アルシーヴ様の名前を勝手に借りるのもいただけません。これっきりにしてください。」

 

 

 ……そう言いながら、こっちを見ようとしない彼女を見て、「あ、これは言い方がマズかったか」と思った。仕事に関する真面目さだけは見直してくれたみたいだが、それ以外の評価はむしろ下がっちゃったとみるべきか。

 まぁ、そうだよなぁ。「自分が利用された」って分かったら誰だって嫌な気持ちになる。俺もそうなる。

 

 

「では次の質問です。私が召喚士と戦っている間、あなたは何をしていましたか?」

 

 遂に来たか、この質問。別行動をしていた以上、避けられない質問なんだろうけど、一番答えにくい質問だ。当然本当の事を話すわけにはいかないし、セサミより遅く帰ってきた俺が「書庫に籠ってた」とかいう答えは嘘だと見抜かれるかもしれない。

 

「アルシーヴちゃんから何か聞いてない?」

 

「いいえ。むしろ『ローリエから聞け』と言われました。」

 

 

 隠す気あるのかなあの人。むしろここで全部バラしてやろうか?

 そんな感情に飲まれそうになりつつも、脳内ではなにか事情をでっちあげようと策をこねくり回していた。

 ―――あ、そうだ。

 

 

「フィールドワークだ。あの辺にある鉱物・貝・その他の漂流物が、魔法工学に使えないか色々調べていた。

 ちょっと熱中しちまって、帰るのが遅くなっちゃったけどな。」

 

「そうでしたか。あなたは教師でもありますからね」

 

 

 ……良かった。魔法工学の教師という地位が秘密を守ってくれた。セサミは、疑う様子もなく、納得してくれたようだ。

 今出まかせで「フィールドワーク」って答えたけど、このソラちゃんの事件が終わったら、きららちゃん達の旅路を巡りつつフィールドワークをするのもマジでいいかもな。

 

 

「話は以上です。もう帰って大丈夫ですよ、ローリエ。」

 

 世界旅行に想いを馳せていると、用は済んだと言わんばかりに席を立った。セサミは俺を秘書室から追い出そうとしている。これ以上俺を部屋に入れていたらおっぱい揉まれると思っているのか?

 そんな浅瀬よりも浅い考え、このローリエ・ベルベットには通じぬわ。セサミとの親密度上げは、きららファンタジアにログインするのと同じで、絶対に怠らねーよ。

 

 

「えー! もっと話そうぜ、セサミ。例えば、お互いの昔話とかよォ~~。」

 

「興味ありません。そんな時間もありませんし。」

 

「わかったよ、しょーがねーなぁ。

 ……せっかく、幼い頃のアルシーヴちゃんやソラちゃんについても話せると思ったのに。」

 

 

 これはハッカちゃんにだけ話そう、と言い切る前にセサミの耳がピクッ、と動いた。

 え、なにその可愛い反応。もっと見たい。この話題、フェンネルやセサミは食いつくとは思っていたけど、そのリアクションは想定外やで。

 

 

「それじゃあ君の言った通り、おいとますると―――」

 

「待ってください」

 

 

 席を立ってドアノブに触れ、帰るフリをすると、セサミに肩を掴まれる。

 そして―――

 

 

「………五分だけですよ」

 

 

 微かに朱に染め、「詳しく話して欲しい」と言いたげな顔を俺にむけてそう言った。

 

 

 お言葉に甘えた俺は、ドーナツとコーヒー片手に、セサミのお望み通り幼き日の俺達について話すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――こんな感じかな、俺とあの二人との馴れ初めは」

「……そんな風にあのお二方に出会えたローリエは羨ましいです。」

「んなこと言って……セサミはどこ出身なのさ?」

「私ですか? 私は、今回行った港町のような都市の出身でして……」

 …

 ……

 ………

 

 

 俺が話したのは、アルシーヴちゃんとソラちゃんと初めて会った記憶。魔法工学に没頭し、両親以外から気味悪がられていた俺に臆せずにソラちゃんが話しかけ、それにアルシーヴちゃんも乗っかる。俺の知識についてこれた二人は、あっという間に俺の友達になった。

 また、初めての冒険で言ノ葉の都市の砦へ三人で行った話では、衛兵に見つからないように幼い俺達が拙い魔法や魔道具を使いながら砦の頂まで進む姿に、セサミは喜んだり、驚いたり、ハラハラしたりしながら一生懸命に聞いてくれた。

 

 

 

 ………

 ……

 …

「……そして俺達は、初めて砦を冒険したあと、三人の両親にこっぴどく叱られたよ」

「ふふふ、そんなことが……。二人とも変わってないですね。」

「なんだ。笑えるじゃあないか、セサミ。」

「え?」

「やっぱり女の子は笑顔が似合う。特に君みたいな美人は猶更だ。」

「…………他になにかないのですか。アルシーヴ様とソラ様の話は。」

「へいへい。じゃあ次は、俺達三人が、初めていけすかねえ雑貨屋のオッサンにイタズラした時の話でもするか。」

 

 

 

 時折セサミの出身について聞いたり、口説いたりしながら、急かされるままに次の話をしようとした時。

 

 

 

「セサミ、失礼する………おや、まだローリエと話していたのか?」

 

 

 アルシーヴちゃんが秘書室に入ってきた。キリがいいし、やめにするか。話のネタが尽きたらセサミと話せなくなるかもしれんしな。

 

 

「……おっと、噂をすれば本人が来ちゃったね。それじゃ、今日はここまで。」

 

「そんな! まだ二つしか話してないではありませんか!」

 

「続きはまたの機会にってね。アルシーヴちゃん、セサミに用があるんだろ? どうぞ」

 

「いや、二人は、一体何の話を……」

 

「……二人だけの秘密♪」

 

「ローリエ、言い方!!」

 

「ローリエ、セサミにセクハラをするなとあれほど……」

 

「今日は触ってないぜ? な、セサミ?」

 

「ま、まあ確かに……」

 

「なん……だと………」

 

 

 俺の思い出話のお陰で、セサミとの親密度は上がった……ような気がする。

 絶対上がったよね!! ギャルゲーなら絶対好感度上がる系のイベントだったもん!!!

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 珍しく仕事をしたと思ったら、セサミを終始口説いていた女好き。しかし、自分の欲望や目的に合理的な理由付けをするなど、本音と建前を使い分けていた。作者がまだ大人になり切っているとは言えないので、大人の条件がいまだに分からないが、少なくとも本音と建前をある程度分けられるのが、大人の条件としてはあるのではないだろうか。

セサミ
 ローリエから、あの摩訶不思議な百合結婚作戦の真相を聞いた被害者。また、彼の「アルシーヴの幼少期エピソード作戦」に引っかかり、話し込んでしまった八賢者。前者だけを聞いたローリエの評価は「彼自身から見て合理的に動き、感情や上下関係すらも利用する」と危ない評価だったが、後者の作戦に見事に引っかかり、評価を改めた。見方によっては、後者も「セサミのアルシーヴに対する敬愛」をも利用したかのようだが、あのデカい果実とあぶないみずぎを前に合理的に動くなどローリエには無理な話である。
 余談だが、あのあぶないみずぎを『秘書としての正装』とセサミが公式で発言していたために、作者はアルシーヴちゃんの趣味を疑った。

ローリエ「正装なの? その水着」
セサミ「ええ。そうですよ?」
アルシーヴ「水着じゃあないけどな」
ローリエ「アルシーヴちゃん、セサミ……ディ・モールト・グラッツェ(本当にありがとう)
アルセサ「「???」」

アルシーヴ
 ローリエとセサミの話の場を作った筆頭神官。ローリエから甘えてもいいと提案されたが、流石にこの場では乗らなかった。また、ローリエの思い出話を勝手に話されるというちょっと不憫な一面も。相変わらず『為すべきことを為す』と言っており、まだ誰にも頼れていない模様。

ミネラ
 ローリエに自身の出身の村の言い伝えを話したドーナツ屋の強きシングルマザー。ローリエ=八賢者ということを出会った時から知っていたが、お釣りは持って行かせるなど、必要以上に媚びる事はしなかった。ちなみに、ローリエが父親に母親との馴れ初めを聞く話も考えてあるが、R-18に片足を突っ込む内容なので、書くかどうかは悩み中。


言い伝え・妖怪
 こう言った類のものは、幼い命を守るための方便や、見えない恐怖を形にしたというものが多い。
 例えばイヌイットには、クァルパリクという水中に住む人魚の妖怪の言い伝えがあり、子どもたちを氷の墓場へ引きずり込むとされていた。この言い伝えは、子どもが勝手にどこかへ行かないように利用されてきた。
 日本の妖怪も、最初は後者のようなアニミズム的な畏怖の対象だったが、中世には絵巻物や御伽草子といった絵物語により具体的な姿を持った妖怪たちが続々と登場する時代となり、寺社縁起として製作される絵巻がある一方で、信仰の対象としてではなく御伽草子などのように娯楽としての面の強く製作された絵巻もあり、妖怪たちも徐々に娯楽の対象になり始めていった。
 特に江戸時代や明治時代からはその特色が強くなり、現代でも「口裂け女」や「トイレの花子さん」、「カシマさん」など新たな妖怪が生まれつつ、娯楽としての妖怪の影響が強くなっている。代表格は『妖怪ウォッチ』のキュートな妖怪達や、『ゲゲゲの鬼太郎』で時代と共に美しくなった猫娘やトイレの花子さんだろう。
 猫姉さんかわいい。



△▼△▼△▼
ローリエ「セサミとの親密度も上がったし、次こそデートだろう!」
セサミ「調子に乗らないでください。あなたは何故そう、がっつくのでしょうか?」
ローリエ「さて、次は第3章に入りたい所なんだが、港町で休んでいるきららちゃん達に妙な変化があるそうだぞ? ……ってデトリアさん? 一体何してるんだ?」

次回『ランプとデトリア』
セサミ「次回もお楽しみに。」
▲▽▲▽▲▽




あとがき
ドーモ、読者=サン。セサミを引いた三毛猫=デス。
『ありがとう』……運営にはその言葉しか見つからない。
あの親密度イベントも、拙作を作る上で役に立つんですよ。というワケで、セサミに種(意味深ではない)を与えてきまーす!!


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第24話:ランプとデトリア

“信じるべきは自分自身。頼るべきは己の記憶。”
 …?????


「ランプちゃん。あなたは正しいわよ。」

 

「えっ――」

 

 

 わたしは時が止まった。

 いや、時は止まっていない。どんな人にも、時間は平等だっていう(聖典を読んでいると、あっという間に過ぎちゃうから、わたしは平等だとは思わないけど)から、わたしが固まったんだろう。

 腰が曲がって、わたしと同じくらいの背になってしまっている元・筆頭神官のデトリア様からそう言われたのには、ちょっと理由がある。

 

 少し時をさかのぼって話しましょう。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 きっかけは、セサミを撃退した後。

 きららさんが、お、お、お尻を……謎の格好をした女の人に蹴られてしまったことに始まる。

 

 

「だ、大丈夫ですか、きららさん……?」

 

 青葉様をはじめとした、クリエメイトの皆様が心配から声をかける。しかし、きららさんは自身の杖で体を支えながらも立ち上がったのだ。そしてこう言った。

 

「だ、大丈夫です………さぁ、早くクリエケージを壊しましょう!」

 

 

 それに、誰も素直に肯定出来なかったのは、きららさんの身を案じた優しさからなのでしょう。

 

 私と青葉様の肩を借りながらも、クリエケージを壊したきららさんには、本当に、もう、尊敬の念しか浮かびません。色んな意味で。

 

「これで、青葉さん達は元の世界へ戻れると思います……!」

 

「はい。そろそろ、ですね……

 …………きららさん、大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫。」

 

 即答。元気そうに答えるきららさんですが、杖に寄りかかって、足を震わせながら答えても意味はないと思います……

 

「……みんな、きららが心配なのは分かるけど、クリエケージを壊した以上、君たちは元の世界に戻ることになるんだ。」

 

「……帰れるのは嬉しいけど、少し残念ですね……」

 

 本当に残念そうにそう言う青葉様。

 

「では、私たちは先に戻って涼風さん達をお迎えしなければなりませんね。

 ほら、桜さん。帰りますよ。」

 

「えー! ちょっと待ってよ、うみこさん! 私まだあおっちと話したい!」

 

「だったら尚更でしょう。涼風さんが戻ってきた時に桜さんに何かあったら今度は涼風さんを心配させますよ。」

 

 

 うみこ様はそう言うと、さっさと帰ってしまった。ねね様も、「待ってうみこさーん! あ、あおっちも、早く帰ってきてよね!」と残すと帰ってしまう。名残惜しいですが、皆様にも皆様の日常がある。きららさんのお尻は心配でしょうけど。

 

 お二人が帰ってしまわれたのを見て、イーグルジャンプの皆様は、帰った後の仕事や企画、新作ゲームに想いを馳せていました。もしかしたら、わたしもキャラデザに落とし込んでいただけるかもしれません!!

 マッチがどうなるか分からない、なんて無粋なことを言っていると、きららさんが青葉様と向き合いました。

 

「青葉さん……

 私、青葉さんたちと会って、頑張ることと、一緒に頑張る仲間の大切さを教えてもらえました。

 セサミとの戦いのさなか、皆さんがコウさんに掛けた言葉………青葉さんが前向きに頑張れる理由が、見えた気がしました。」

 

 きららさんのその言葉で、わたしもコウ様への言葉を思い出す。

 はじめ様の日本(世界?)中のファンを見た言葉、青葉様の憧れ、ゆん様の子ども達への思いやり、ひふみ様の慣れないけど一生懸命な応援、りん様の告白………

 きっと、そのすべてがコウ様を元通りにしたのでしょう。きららさんも同意見でした。

 

「だから私も……まだ出会ったばかりだけどランプやマッチとそんな仲間になれるように頑張ります!」

 

「……きららさんたちなら、きっと大丈夫ですよ!

 みんないい人ですし、絶対に素敵な仲間になれると思います!

 私も、今の会社に入ってそのことを知りましたから……!」

 

 

 青葉様が、きららさんの想いに答える。

 

 その姿は……少し。わたしにとっては、羨ましい光景でした。

 

 わたしは、きららさんの『素敵な仲間』になれるでしょうか?

 青葉様に背中を押されても、心の中の不安を消しされない優柔さをごまかすように、わたしは笑顔で光に包まれるイーグルジャンプの皆様を、日記に書き綴りました。

 

「ところで……きららさん、お尻は本当に―――」

 

「大丈夫です!!」

 

 きららさんは、最後までクリエメイトからのたいきっく関連の質問を食い気味でそう答えていた。

 

 でも、やっぱりあのキックは痛かったのでしょう。

 

 

「アルシーヴのしていることは許せません。

 こんなにも世界を乱してしまうなんて………!」

 

「そうだね……私たちが、頑張らないとね!」

 

「さて、次は海を渡る訳だけども―――」

 

「「??」」

 

「ちょっとここで休んでからにしよう。

 きらら、流石に無理は良くないよ?」

 

「うっ……は、はい…」

 

 立つのがやっとの様子のきららさんの為に、休むことをマッチが提案してきました。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 マッチの提案に異論はありません。わたしも、マッチも戦うことはできない。もし無理をしてきららさんに倒れられたら、これからの旅の行く手を阻む敵と戦えなくなってしまいます。

 

 宿屋で身体を休めると言ったきららさんをマッチに任せ、わたしは軽く変装しつつ、何か食べ物でも買おうかと町へ繰り出しました。

 

 往来を行く様々な人達、賑やかな喧騒、笑顔で店を開いたり、買い物をしたりしている大人たち。いつも通りの日常を過ごしている彼らに、もう「オーダー」の影響はないように見えました。

 

 

「……? あのドーナツ屋……」

 

 青葉様達と来た時はクリエメイトを探すのに夢中で気づきませんでしたが、港町には珍しい甘味処です。お客も賑わっています。

 そんなドーナツ屋から、甘い香りがするのです。

 

 ハチミツとメープルシロップを足して、香りだけをぎゅっと凝縮したような、嗅ぐだけで小腹がすいてきそうな、いい匂い……

 

 

「………きっと、きららさんも喜びますよね!」

 

 

 わたしも、甘い匂いに誘われた行列に混ざることにしました。 

 ……これくらい大丈夫でしょう。なんてったって、女の子は甘いものが大好きなんですから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ありがとうございましたー!」」

 

 

 銀髪ショートヘアの店員さんと空色ロングヘアの店主さん(お二人は親子だそうです)の声を背に受けながら店を出たわたしは、買ったドーナツが袋に入っているのを何度も確認しながらきららさんのいる宿へと急ぐ。自然とスキップしてしまいます。

 

 だって美味しかったのですから!!!

 

 試食させていただいたのですが、その甘さの深さたるや、清純で奥ゆかしい、可憐なお姫様が頂くお菓子のような味でした……!!

 

 砂糖の甘さだけに頼らず、濃厚かつしつこすぎない甘み。店主さん曰わく、複数の砂糖と甘味料を使っているそうです。

 神殿を飛び出す前は、聖典を読みながら、『スティーレに行ってみたいなぁ』とか『甘兎庵に行って千夜様の和菓子を食べてみたい!』とか考えていましたが、こうして実際に町へ行って、人気のものを食べてみると、エトワリアもいいなぁとも思います。

 

 それに……彼女達は、少し前まで、ケンカとまではいかなくても、ギクシャクした関係だったのが、仲直りしたそうです。ソラ様をお救いした後で、詳しく聞いてみたいと思います。

 

 

 そう思いながら、スキップを踏んでいると。

 

 

「おやおや、ランプちゃん。こんな所で、何をしているんだい?」

 

 しわがれた、でも優しい声がわたしを呼んだ。

 

 一瞬で足が凍りついたように固まり、振り向くことすらも憚られる。

 

 わたしは、この声を知っている。

 

 でも、神殿を飛び出した勢いの旅先で会いたくなかった人物。

 

 

「ひ、人違いです……」

 

 声が震えそうなのを抑えながらそう言いながらようやく振り向いた先にいたのは。

 

 年のせいで腰が曲がった身体を、杖で支えたおばあさん。

 紅い宝石が目立つ、翼を広げた鳥のデザインをした杖。

 今にも折れそうなのに、にこにこと笑顔を浮かべたお姿は。

 

「変装ならもっと上手くやらないとだめだよ、ランプちゃん。」

 

 正真正銘の、元・筆頭神官―――デトリア様であった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 「最近体力がなくなってねぇ」と言いながら、近くの日陰にあったベンチに腰を下ろし、わたしもそのお隣に座らせられる。

 

 デトリア様は、わたしが神殿に入って一年ほどで引退した、歴代で一番任期の長い、アルシーヴの前任の筆頭神官でしたが、引退後も、わたし達女神候補生や新人の神官達を気にかけてくださいました。

 結構なお年を召していたので、逆にみんなから心配されていたようですけど。

 

 でも、なんてことだろう。わたしがどこにいるかは、神殿の人間には知られてはいけなかったのに。

 それとも、いち女神候補生になにができる、と言わんばかりに見逃されているだけなのだろうか?

 

 

「心配しないでも、アルシーヴちゃん達にここで会ったことは話しませんよ」

 

「………本当ですか?」

 

 

 当たり前のようにわたしの心配事を見抜いたデトリア様に面食らい、驚きと疑惑に惑いつつも、そう返した。

 

 

「本当よ。」

 

 わたしの疑いの声に、デトリア様はしわしわのお顔を(ほころ)ばせながら、朗らかに笑った。

 

「だってもう、わたしは神殿の人間じゃあありませんもの。」

 

 

 確かに。デトリア様は既に筆頭神官の地位から身を引き、それをアルシーヴに受け渡しました。引退後も新人の教育に一役買っていたとはいえ、もう神殿とは関係ないはず。

 

 いつもそうだ。この人はわたしを特に気にかけてくれている。いつだったか、どうしてと訊いたことがあった。デトリア様は、笑いながら『小さい頃のソラ様とそっくりでねぇ。あの子みたいな人が、今のエトワリアには必要なんだよ』と答えてくださった。

 さらに、これは風の噂程度でしか聞いたことがないのですが、結婚もしていないらしい。まさに、己のすべてをエトワリアのために費やしているような人でした。

 

 

「それに、ばばあは物覚えが悪いからねぇ。今日ここで誰に会ったかなんて、神殿に行く頃には忘れてしまってますよ。」

 

「……ありがとうございます。」

 

 ウインクしながらそう続けるデトリア様に、わたしはデトリア様がまだ健在であることを察しながらも、九死に一生を得たかのような感覚を覚えました。

 

 

「……今から話す内容も、忘れてくれますか?」

 

「……そうだねぇ。長話なら、忘れちゃうかもねぇ。」

 

「………。

 わたしには、悩み事があるんです。具体的には話せませんけど……」

 

 わたしは、神殿で起こったことを話した。

 

 この目で見ていたとはいえ、「アルシーヴがソラ様を封印した」というある意味クーデターのような話は、マッチ以外の皆のように信じてくれないかもしれないので、「ソラ様の病気を治す手段を探している」とちょっと嘘をついたけど。

 

 

「でも、皆認めてくれなくて、アルシーヴ…先生も、神殿の風紀を乱すなって言われて……それで、我慢ならなくて飛び出して。

 ――わたしは、飛び出した勢いで、とある村までマッチと一緒に逃げてきました。今は()()()()()()()()()()()、ソラ様を助ける手段を探して旅をしています。」

 

 

 ローリエ先生でさえも……わたしのあの話を夢扱いした。確かに、夢として彼に相談したけれど、あの時ならば本当のことだと信じてくれると思っていたのに――

 

 

 ――――だめですね。このことを考えれば考えるほど、心に、暗く分厚い雲が顔を出す。雨や雷が降る前に、追い出さなければ。

 

 心が締め付けられる痛みに耐えながら、デトリア様の答えを待った。流石にきららさんの事は話さない。「伝説の召喚士」の話や、きららさんの素性は広める訳にはいかないでしょう。

 

 

「ランプちゃん。」

 

「!」

 

 

 デトリア様から声がかかった。

 

「あなたは正しいわよ。」

 

「えっ――」

 

 

 そして、わたしは時が止まった。

 

 

「あなたが見たもの、あなたが聞いたこと。それを信じているから、ここまで来たんでしょう?」

 

「……わたしは、ただソラ様が心配で―――」

 

「そのソラちゃんが病気で、それを治すために旅をしているのでしょう?」

 

「っ!!」

 

「『信じるべきは自分自身。頼るべきは己の記憶。』

 ……ユニ様の座右の銘ですよ。」

 

 ユニ様。その名前にわたしははっと息を飲んだ。

 ソラ様が女神となって間もなく、原因不明の病で崩御なさった前任の女神様。そんなお方が、そんな座右の銘を持っていたとは。

 

 

「でも、『頼るべき己の記憶』って何ですか?」

 

「わたしが思うに、今まで培ってきた自分の経験だったり、学んできたことだったり………そう言うものを全部ひっくるめたものを、ユニ様は『記憶』っておっしゃったんでしょうねぇ。」

 

「なるほど……」

 

「『信じるべきは自分自身』っていうのも、ただ自分勝手ってわけじゃなくて、『誰かに言われたから』とかで動かないって意味なんでしょう。

 

 ―――ランプちゃんが『ソラ様を救いたい』って思ったのも、あなた自身の意志でしょう?」

 

 

 デトリア様の解説を聞いて、なるほど、意外にも自分本位に聞こえる座右の銘にはそんな意味があったのかと思いました。

 

 

 

 ……やっぱり、この人は優しいお方だ。

 この方やきららさんみたいに、わたしも誰かのことを思いやれる人になりたい。

 

 

「―――わたしは、どこにいても、ランプちゃんの味方です。応援していますよ。」

「―――はいっ!!」

 

 

 「こんなばばあだから一緒に旅はできないけどね」と笑うデトリア様に強く返事して、ベンチから立ち上がる。

 

 今はまだ、話せませんが……いつか、ソラ様をお救いした時に話したいと思います。ソラ様、デトリア様。

 伝説の召喚士となったきららさんとの出会いを。きららさんやマッチ、ゆの様や青葉様たちクリエメイトと絆を紡ぎ、旅をした日々を。ですので…………それまでお体、ご自愛くださいね?

 

 

 

 そう決心して、わたしに続いて腰を上げようとするデトリア様に、手を差し伸べた。

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ランプ
 今回のメインを務めたエトワリアの解説女王。決してス○ードワ○ンを意識しているわけではない。タイキックでダメージを受けたきららを回復させるために滞在した港町でドーナツ購入後、デトリアと遭遇。拙作オリジナルキャラであるデトリアとはアルシーヴやローリエと同じく親しい関係。例えるならば、アルシーヴが「担任の先生」で、ローリエが「気になっている(と言うと語弊を生みそうだが)異性の先生」であり、デトリアは「生徒みんなに優しく接してくれる、登下校ボランティアのおばあちゃん」といったところ。デトリアの励ましで、きららの『素敵な仲間』になる決意をする。

デトリア
 拙作最高齢のオリジナルキャラ。年齢不詳(本人曰く、『乙女はいつまでたっても乙女なのですよ』とのこと)。オリジナルキャラと既存キャラとの交流を深めるために港町に登場させ、今回の話を練り上げた。やや難産だったが、書き上げた甲斐があるほど楽しかった。今回のやりとりもまた、今後に生かす予定。

ユニ
 ソラが女神を務める前に、女神の座に就いていた女性。ソラが女神を継承したほぼ同時期に謎の衰弱死。デトリア曰く、前書きに書いた座右の銘を持っていた。



△▼△▼△▼
ローリエ「やっとミネラさんから掴んだ手がかりをもとに渓谷の村へ向かう俺。砂漠を渡れば、目的の村へ着く。だが、砂漠でまたオーダーがあるようだ。カルダモンか学園生活部の誰かと会えると楽しみにしていた俺の前に現れたのは………お、男!!?」

次回『転生者(おれ)の知らない男』
ローリエ「次回も見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽



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エピソード4:さばくぐらし?~学園生活部の黄金の意志編~ 第25話:転生者(おれ)の知らない男

“俺は気づくべきだったのだ。このローリエ・ベルベットがいる時点で、エトワリアは俺の知っているエトワリアではないことに。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第4章より抜粋


「はい、7のスリーカード」

 

「こっちは……A(エース)のスリーカード、ですか?」

 

「あッ、ジョーカー入ってる。フォーカードだぜこれ」

 

「ふふっ、やりました!」

 

「おにーちゃん、シュガーのは!?」

 

「えーっと………ああ、これは…残念、役なし(ブタ)だ」

 

「ぶー…」

 

 

 シュガーがふくれて、セサミが穏やかに喜ぶ。そして、俺とシュガーのオモチャのチップをセサミのところへ移動させる。

 俺達は今、セサミの部屋にてポーカーの真っ最中だ。

 

 エトワリアにポーカーがないので、ルールブックを暇つぶしに書いたところ、これが神殿内で大ヒット(そのせいで俺がポーカーの創始者みたいになっちゃってるが)。どうやら、エトワリアは相当娯楽に餓えていたようだ。

 

 ポーカーは究極の心理戦だ。賢者が心理的にどんな性格をしているのか判断できると意見したところ、アルシーヴちゃんも試験的に認めてくれたのだ。

 

 八賢者の中の「新しいゲーム」に目がない子の後押しもあって、少しずつ賭け金のないポーカーがブームになりつつある。少し前までは将棋ブームだったのにな。

 おっと、噂をしたらなんとやらだ。たったったっと軽い足音が聞こえてくる。

 

 

「あ、いたいた。ローリエ、楽しそうだね。イカサマはしてない?」

 

「するわけねーだろ女の子相手に。俺は紳士だぞ?」

 

 部屋のドアから顔をだしたカルダモンはいきなり失礼な事をぶっこむ。俺がイカサマするのはフェンネル相手の時だけだ。

 

 この前、勝負を持ち掛けたら拒否されたので「負けるのが怖いか」と挑発したところ、見事に乗っかった。そして、頭に血が上っている彼女相手に初歩的なイカサマ(セカンドディール)を仕掛け、見事に勝ちまくったことがある。その後、()()()()()で追っかけまわされたが。

 

 

「アルシーヴ様が呼んでたよ」

 

「おぉ、そうか」

 

 アルシーヴちゃんに呼ばれている事を知った俺は、シュガーとセサミに一言言ってトランプを片付け、洒落た部屋を後にする。

 

 

 部屋を出ると、カルダモンが付いてくる。

 俺とカルダモンの仲はジンジャーやシュガー並みに良好だ。俺のおふざけを良く思ってないソルトやセクハラを嫌うセサミ、アルシーヴちゃんの見方で徹底的に対立しているフェンネル、10年前の件があってどうしても話しにくくなってしまうハッカちゃんと比べてみると、良い関係を築けていることだろう。

 個人的には、ハッカちゃんと仲良くなりたいところだけど……

 

 

「カルダモン。そういや、アルシーヴちゃんから()()通達は来たのかい?」

 

「うん。ローリエは、最近なにをしてたの?」

 

「そうだなぁ……色んな武器を作ってそのテストをしたり、セサミと一緒にシュガーの遊び相手もしたし、授業も数回したし……あとは、ポーカーでフェンネルをカモったりしたな!!」

 

「ちょっと最後。何したのさ……」

 

「いやぁー、アレは傑作だったよ。後始末がスーパー大変だったけど」

 

「どうせまた追いかけられてたんでしょ?」

 

「正解。流石にまる一日逃げることになるとは思わなかったけどな。」

 

 

 そんな雑談をしながら入ったアルシーヴちゃんのいる大広間に着くと、案の定「オーダー」で呼び出したクリエメイトの捕獲について話し出した。

 俺は彼女の話を表向きでは聞きながら、これから呼び出される()()()について思考を巡らせた。

 

 カルダモンが出張る今回の「オーダー」で呼び出されるのは、「がっこうぐらし!」の学園生活部の4人だ。

 

 天真爛漫で笑顔なムードメーカー、ゆきこと丈槍(たけや)由紀(ゆき)

 シャベル大好きなボーイッシュガール、くるみこと恵飛須沢(えびすざわ)胡桃(くるみ)

 しっかり者な学園生活部部長、りーさんこと若狭悠里(わかさゆうり)

 クールで要領のいいみんなの後輩、みーくんこと直樹(なおき)美紀(みき)

 

 この4人が、巡が丘学院高校を舞台に、学校で寝泊まりしながらほのぼのと日常を過ごす――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――と言ったな、アレは嘘だ。

 「がっこうぐらし!」は、ゾンビが学校の外に蔓延している荒廃しきった世界で、学校に立てこもって生活している、というバイオハザードな世界観の物語なのだ。

 

 ゆきは精神を病んでいる影響で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()し、くるみちゃんは中盤から終盤にかけて大変なことになるし、りーさんやみーくんもヤバイことになる。

 

 とまあ、雑に本編を紹介したが、ネタバレを防ぐためだ、これくらいの雑さもやむなしだろう。

 

「ローリエを呼び出したのは他でもない。砂漠で任務を行うにあたり、そこで活用できる魔道具を提供して欲しいからだ。」

 

 八賢者ローリエとしては、ミネラさんの情報で渓谷の村に直接転移すればいいので、3章の舞台となる砂漠に行く理由はない。今アルシーヴちゃんが俺に命令したことも、それが終わってしまえば、とっとと村へ転移してしまえって話になるだろう。

 

 だが、()()()ローリエとしては、殺伐とした世界で、何を思って彼女達学園生活部が生きているのかを、この目で見てみたい。

 やや不謹慎な話になるが、彼女達の「全員で生き抜く」という意志を、学びたい。それはきっと、港町でリリィちゃんローズちゃんの百合夫婦(予定)に言った、「真実へ向かおうとする意志」にも通じることだろうから。

 それが、現段階における俺のやりたい事その1だ。

 

 

「頼まれてくれるか? ローリエ。」

 

「いいよ。カルダモン、ご注文は? 冷房?」

 

「私の武器をちょっとお願い。作業は現地でいいね?」

 

 

 その質問に頷くと、カルダモンはタッ、踏み切ったかと思うと一瞬で消えてしまった。

 恐ろしく早い縮地……オレでなきゃ見逃しちゃうね―――

 

 

 ―――ごめん嘘。このリハクの目をもってしても見え(読め)なかった。 

 それはさておき、俺にはまだアルシーヴちゃんに聞きたい事がある。

 

 

「ところでアルシーヴちゃん。」

 

「なんだ?」

 

「ハッカちゃんについて教えてよ。」

 

「ハッカのこと?」

 

 

 そう、ハッカちゃんの事である。さっきカルダモンにも言った、フェンネルをカモった時の話なのだが、さんざんカモった後フェンネルに追っかけまわされたきっかけが彼女にイカサマを見抜かれたことにある。

 

『ぐぬぬ……次こそは勝ちます!』

『いいだろう! どう足掻いてもこのローリエには勝てないことを思い知らせて……』

『待たれよ、フェンネル。』

 

『『!?』』

 

『ハッカですか。珍しいですね。』

『ハッカちゃんもやるかい?』

『遠慮しておく。カードの配り手がイカサマをするような遊戯は信頼できぬ。』

『な!? ハッカ、ローリエはイカサマをしていたのですか!?』

『言いがかりはやめてくれないか?』

 

『否。言いがかりではない。

 ローリエは山札の一番上ではなく二枚目を配っていた。一番上のカードとローリエの手札を見てみれば……』

『……既に10のスリーカードができている、だと………!?

 ローリエ!! 何か弁明はありますか!!?』

 

『……………バレなきゃイカサマじゃあねぇんだぜ』

『バレてから吐く言葉ではありませんね……!!』

『ローリエの(はかりごと)は明白。』

 

 以上が、その時にあったやりとりのダイジェストである。

 要するに、「俺とフェンネルがポーカーをしている最中、ハッカちゃんがその場に現れて、通りすがりのヒーローが人を騙そうとする怪人の手口をバラすかのようにイカサマの手口を見抜いた」ってことだ。

 

 

「お前な……言いたい事が色々ありすぎて何から咎めればいいのか……」

 

 事情を聞いたあとのアルシーヴちゃんは、文字通り頭を抱えて、俺の行動を何と評すればいいか決めあぐねていた。

 

「ポーカーでイカサマをするってのはただ(こす)い手を使って勝ちにいくってことじゃあない。人の『思い込み』や『錯覚』を利用しそこを突くことなんだ。」

 

 例えば俺がフェンネルにやったセカンドディールも、「山札の一番上から配られる」という心理を利用して仕掛けられるものである。

 つまりハッカちゃんは、そういう先入観・思い込みに惑わされず、俺のイカサマを見破ったという事になる。

 

「初めて会った時はソラちゃんを盗賊から助けに行った時だ。一緒に捕まっていた。

 そんな彼女が今やアルシーヴちゃんの懐刀になっている。どんな経験を積んだのか、そもそもなんであの時あそこにいたのか、気になってな……」

 

「……話している場合ではないのだが、お前がそんなことで引き下がる訳がないもんな……」

 

「そうだよ。そんなことを本気で言ったらフェンネルとセサミにアルシーヴちゃんの隠しブロマイドをこれでもかって程渡すからね」

 

「おい待て、今聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ!?」

 

 気のせいでしょ。

 

 

 

 

 

 

「……今から言う事は他言無用だ。

 ハッカは、魔人族と呼ばれる少数民族の生き残りだ。」

 

「ふぁっ」

 

 観念したのか、溜息混じりに出たアルシーヴちゃんの言葉からいきなり凄まじい設定?が出てきて戸惑いを隠せない。

 魔人族ってなに? メリ○ダス? ブ○?

 エトワリアはきららの筈なんだけど。ジャ○プとかサ○デーとかじゃあないはずなんだけど??

 

「エトワリアで20年生きた俺が聞いたことないんだけど」

 

「特定の歴史書以外にに記すことを禁じられているからな。」

 

「その魔人族ってのは……心臓が10個あるとか、細胞一つ残っていれば完全再生するとか…」

 

「ある訳ないだろ、お前はハッカを何だと思っているのだ。

 ただ、魔人族は普通の人間よりも使える属性の魔法が多いだけの種族で、人間と大差ないんだ。」

 

 あ、良かった。そこまでトンデモ設定とかじゃないのね。地球で言うところの肌の色とか髪の色程度の違いというわけか。

 

 

「中でもハッカは全属性を100%使いこなせる天才児だった。」

 

 まじかい。『ハッカちゃんが全属性を使いこなせる』って設定はきららファンタジア(スマホアプリ)でプレイしていたから知っていたけど、そんな事情があったのか。

 羨ましすぎる。俺なんて、火・水・土・風属性が5%、月・陽属性が40パーセントしか使えないのに。

 

 でも、普通の人よりも優れた少数民族がいるとなったら、多数派の「普通の人間」がやりそうな事に予想はつく。

 

「でも、魔人族は迫害された、って訳か。」

 

「知っていたのか……?」

 

「いいや。でも、予想はつくさ。」

 

 なにせ前世(地球)のテレビや教科書を通して、その手の迫害は何度も見てきたからな。

 

「動機は、自分たちより多くの魔法を使える事に対する恐れや嫉妬といったところか?」

 

「それだけじゃあない。感情の起伏で瞳の色が変わる特性を珍しがられ、奴隷にされることもあった。瞳をくり抜かれることもあったという。もう100年以上昔の話だがな。」

 

 

 それなんてク○タ族?

 ―――なんて茶々を心の中で入れないと落ち着きを失いそうになるくらいに、「普通の人」のやることに反吐が出た。奴隷とか人体コレクションとか、現実味のない非道な行いに対して、幼稚な正義感しか湧かない自分に少々腹が立つ。

 

 

「それで、物珍しさにあの盗賊に攫われてたということか………」

 

「ローリエ、お前が何を考えているかは知らないが、この事はあまりあの子の前では話さないでくれないか?

 出自にトラウマを持っているんだ、ハッカは。」

 

 

 トラウマ、ねぇ………

 きっと、酷いことがあったんだろう。

 でも、10年前の彼女のあの怯えよう。トラウマの元は出自だけじゃあないはずだ。

 

「俺に対するトラウマの間違いだろ……?」

 

「? なにか言ったか?」

 

「いいや、なーんにも。

 じゃ、カルダモンのトコヘ行ってくるぜ。」

 

 

 ハッカちゃんと話すのはもう少し先になりそうだ。

 今は大人しく、建て前を果たしに砂漠へ向かうとしましょうか。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 砂漠というものは、教科書やテレビで見ているものよりもずっと厄介である。

 直射日光がよく当たり、それを遮るものも一切ない。

また、砂は熱が籠もりやすく放射もしやすいため、昼は暑く、夜はよく冷え込むのだ。

 

 「逃げ水」というものは聞いたことがあるのではないだろうか。地上のものが浮かび上がっているように見える下位蜃気楼の一種で、近づいても水が逃げていくように見えることからその名で呼ばれている。

 砂漠を移動している時にこの「逃げ水」に引っかかったが最後、逃げ続けるオアシスを追って、無駄な体力を浪費する羽目になるだろう。

 

 

「いやぁ、ほんと……転移魔法がなければ即死だった……」

 

「即死かどうかはともかく…確かに、転移魔法なしでここをうろつくのは危険だよね」

 

 

 砂漠の真ん中に立つ教会にカルダモンと転移した俺は、砂漠の危険を遮れる建物の中にて、あまりの暑さにくたばっていた。

 

 

「ローリエ、早くクリエメイトを探そうよ」

 

「カルダモンお前……そんな民族的な格好でよく元気でいられるな…」

 

 しかし、カルダモンはそれすら許してくれない。

 無理矢理起こされ、教会の扉を開く。

 

 

 そこは、風がほとんど吹かない、一面の砂漠。

 アラビアンナイトの、アラジンやアリババに出てきそうな、砂の海が広がっていた。ただ、耳を澄ませば聞こえてくる、ゾンビのうめき声がそれらの世界観を台無しにしているが。

 

 そして、こちらにむかってくる、ひとつの人影。

 

 

「あれは………………………っ!!!」

「おや、いきなりとは運がいいね」

 

 

 俺もカルダモンも人影の正体が分かったようだ。

 緑色のボロついた、しかしサスペンダーまできっちりとつけたセーラー服を着た、パールホワイトのショートヘアの少女。

 若干白人(コーカソイド)寄りの雰囲気とスレンダーな体型からボーイッシュさを感じるが、明らかに小柄で女性的な体格、そしてセクシーなガーターベルト付きストッキングのために男と見間違うことはない少女。

 

 

「間違いない、直樹美紀だ…」

 

 俺の人相書きを見ながらそう呟くカルダモンが隣にいることを思い出し、「みーくん…!」と口に出しそうになったのをこらえる。

 

 俺達の見つけた少女――みーくんは、俺達を見つけると、すぐさま持っていた鉄パイプを握りしめ、こちらに向けて構えた。

 

 

「何者ですか、あなた達は……?」

 

「ま、待ってくれお嬢さん、俺達は……」

「直樹美紀。クリエメイトとして、捕まってもらうよ」

 

 

 おいイイィィィィィーーーッ!!? カルダモンお前! なにいきなり「捕まってもらう」とか言ってくれてるの!? 俺がせっかく説得して、武力行使なしで連れていこうかと思ったのに!

 

 

「ちょっとォォォ! いきなり実力行使で拉致しようとすなぁ!!」

 

 一瞬でみーくんに近寄り、回り込んで首の後ろに繰り出されたカルダモンの手刀は――――――空を切った。

 

 みーくんはカルダモンが動き出す直前に、ほぼ反射的に真横に飛んだのだ。そして、受け身を取ってそのまま鉄パイプを構え直した。

 

 

「ローリエ、そういうことは早く言って貰わないと」

「おめーが早すぎるんだよ!!」

 

「それに、彼女ならそういうの、嘘だって見抜きそうだからね……!」

 

 

 そう言うと、カルダモンの体が再びぶれ、今度は金属質の甲高い音が響く。

 二人が剣戟を始めて、やっとそれがナイフと鉄パイプがぶつかった音だと気づいた。

 

 

 ――もはや、説得は不可能か。

 

 そう思いながら、俺は愛用のリボルバー・パイソンにすばやく麻酔弾を装填する。そして、みーくんとカルダモンが戦っている所へ向けた。

 

 麻酔弾。柔らかい皮で、麻酔液を包んだものを弾頭にしたものであり、被弾したら、ペイント弾のように中の液体が飛び散り、その部分を麻痺させる。当たったら即座に寝落ちするような漫画みたいなものは作れなかったが、命中したらターゲットの動きを確実に鈍らせるものだ。クリエメイトを最低限傷つけないために作ったものである。

 

 

「っ!!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()を構えている俺に気づいたみーくんは、目を見開いたかと思うと、なんとカルダモンの攻撃を受け流しながら彼女の体を盾にし、俺の射線上にカルダモンが入るように立ち回り始めたのだ。このように動けば、俺はカルダモンへの誤射を防ぐために、なかなか引き金を引くことができない。

 

 ……上手いな。正直、動揺して隙を生み出すと思っていた。

 同じ日本人でも、遠山さんとはえらい違いだ。「ランダルコーポレーションが起こしたバイオハザードから生き延びている」ってだけではここまで冷静に拳銃使い相手に立ち回ることはできないだろう。ゆきちゃんやりーさんだったらこうはいかない。くるみちゃんだったら似たようなことはできるかもしれないが。

 

 みーくんは、バイオハザードが起きた時、親友の圭ちゃんとショッピングモールにいた。ゾンビ達から二人で逃げ、途中から一人になっても、学園生活部が来るまで一人で生きていた。そんな学園生活部のブレインたる彼女だからこそ、戦闘中も冷静に周りを見て、俺からの狙撃を未然に防ぐことができたのか。

 

 

 

 

 

 ―――ただ、みーくんに誤算があるとするならば。

 

 

 

「ふっ!」

「う゛っ!?」

 

 俺の狙撃の盾に、カルダモンを利用することが悪手だったという点だろう。

 

 カルダモンは、俺達八賢者の中では一番素早さが高い。メタルスライムやはぐれメタルとタメ張れるんじゃないかな? ってくらいに。そんな人物からの猛攻の中、俺の銃撃を警戒し続けてみろ。その時に生まれた僅かな隙さえも突かれてしまうだろう。

 

 ちょうど今、一瞬動きが止まった手首にナイフを握ったままの拳を叩きこまれ、鉄パイプ(武器)を落とされてしまったように。

 

 

「きゃあ!?」

「捕まえた」

 

 みーくんの武器を叩き落したカルダモンは、すぐさま彼女を砂の上に押し倒し、首筋にナイフを当てて動きを封じた。

 

 

「大人しくあたしについてきてくれる?」

「っ……。」

 

 カルダモンの一言に、みーくんは沈黙する。

 この場における勝者がどちらかは明白だった。

 ちょっと俺が手出しした分、卑怯な感じはするけど―――

 

 

「―――っ!!?

 カルダモン! みーくんっ!!()()()()()()()ッ!!!」

 

「「!!?」」

 

 

 嫌な予感がして、咄嗟に叫んだ。

 真夜中にトイレへ行くために家の廊下を歩いている時のような、底知れない不安がしたから。

 

 俺の突然の叫びにも、みーくんを捕まえたままカルダモンは反応し、その場から飛び退く。

 

 次の瞬間、カルダモンとみーくんがいた場所に、細長い矢のようなものが飛び込んできて、ざくっ、と砂の音を立てた。

 

 俺が気づかなかったらと思うと、鳥肌が立つ。

 

 

「チッ、勘のいいやつだぜ」

 

 

 俺以外の男の声が砂漠にせり出した岩のひとつから聞こえ、そちらに顔を向ける。

 

 そこには、クロスボウをひっさげ、砂漠にカモフラージュするかのような砂色のローブを着た、黒髪ロングの男がいた。朱色の双眸は、厭らしくこちらを見据えている。

 

 

「だ、誰だお前は……!?」

 

 その言葉は、本心だった。

 

 きららファンタジアには、3章どころか全章通して男の登場人物はほぼいない。故に、こんなやつが出てくるはずがない。

 そんな俺の困惑を嘲笑うかのように―――

 

「クリエメイトの命、オレ様がもらい受けるッ!!」

 

 ――きららファンタジアをプレイし尽くした筈の転生者(おれ)の知らない男が、獲物を見つけた肉食動物の瞳で、俺達に(わら)いかけた。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 カルダモンの武器整備士として砂漠に同行したら、みーくんだけでなく自分の知らない男に出会ったでござるな男。突然現れた謎の男は、ローリエにとっては完全に予想外の存在である。それが彼にどんな影響を及ぼすのだろうか。

カルダモン
 素早さが天元突破しているCV.田○○心の八賢者にして、序盤の壁と言われる3章ボス。ローリエがポーカーを広める手伝いをした賢者でもあり、面白いこと&新しいこと好き。ポーカーは表情豊かだが本心は読ませないタイプで、ローリエ曰わく「凄腕のギャンブラーに大成するタイプ」。しかし、各地を巡る調停官の仕事があるため、ポーカーばかり出来ないのが悩み。

アルシーヴ&フェンネル
 今回の不憫枠。アルシーヴはローリエにブロマイドを隠し撮りされており、フェンネルはハッカに咎められるまでローリエにカモられていた。フェンネルはアルシーヴのブロマイドは好きそうではあるが、一歩間違えれば、部屋中アルシーヴの写真だらけの典型的ヤンデレになりそうで怖い。本家ではそのような気配は欠片も感じなかったのに。

ハッカ
 ローリエのイカサマを見抜いた八賢者。複数の魔法に適正を持つ魔人族の少女。このハッカの種族については、拙作のみのオリジナル設定。寡黙な性格ができるまでを想像していると、どうしても重い過去が出来てしまうが、作者は悪くないはずだ。ハッカの過去と心は、後ほど掘り下げたい。

直樹美紀
 本家きららファンタジアでも、カルダモンに捕まっていた学園生活部2年生。カルダモンに対しては迷わずに立ち向かっていったが、原作との違いは、ローリエとカルダモンの二人の実力者を同時に対処しようとしたばかりにあっけなくカルダモンにとっ捕まってしまったこと。


ポーカー
 5枚の手札を一度だけ交換して、より強い役を揃えた方が勝利する、ギャンブルでよく使われるトランプゲーム。これに賭け金が発生した途端、レイズ(賭け金を上げる)、コール(勝負に乗る)、フォールド(勝負を降りる)の三択で相手の心理を探る心理戦になる。イカサマをするのも勝負の要素の一つとなり、その駆け引きもまた、賞賛されていた。
ローリエが発言した「バレなきゃイカサマじゃあねえんだぜ」の元ネタは『ジョジョの奇妙な冒険・第3部』の空条承太郎の台詞。

セカンドディール
 山札から配る時、一番上ではなく上から二番目を配る、初歩的なイカサマ。カードを置く場所と手首のスナップがコツで、上手い人がやると違和感なく配れるため、ディーラーの技術も問われるイカサマである。

がっこうぐらし!
 原作:海法紀○、作画:千葉サ○ルの両氏による漫画作品。2012年より連載開始し、2015年にアニメ化した。ゆき、めぐねぇによるキューティーな日常と、くるみ、りーさん、みーくんによるシリアスでバイオレンスな世紀末サバイバルを鮮やかに描き、Twitterでは表紙と内容のギャップで一世を風靡した。学園生活部がバイオハザードが起き滅んだ世界で、ささやかな幸せを探す為に奮闘する姿は、多くのきららファンを魅了した。2018年には、実写版が制作され、アニメ実写化による風評被害に遭いつつも、くるみを主人公にしたホラー映画としてリメイクされた。

魔人(魔神)族
 拙作に登場する、エトワリア人の人種。通常に比べて使用できる魔法の属性が多い。決して「七つの大罪」や「ドラゴンボール」の要素はなく、3000年前に光の聖痕(スティグマ)に封印された種族でもなければ、魔導士バビディに復活させられた最凶の食いしん坊でもない。

クルタ族
 「HUNTER×HUNTER」に登場する、少数民族の一。感情が高ぶると目が赤くなる性質のため、骨董品「緋の目」を手に入れる為に残虐な乱獲・拷問が行われた。その結果クラピカ以外のクルタ族は滅ぼされている。

メタルスライム、はぐれメタル
 いずれも、「ドラゴンクエスト」シリーズに出てくる、銀色のスライム。殆どの呪文・特技が効かず、武器攻撃も1ダメージしか与えられない上に、すぐに逃げ出そうとする経験値稼ぎスライムにしてドラクエの代名詞モンスターの一匹。ナンバーによっては、仲間に入れることができたり、メタル斬りや魔神斬り、一閃突きで狩りの対象になったりする。



△▼△▼△▼
ローリエ「俺の知ってるきららファンタジアには出てこない謎の男――――――その目的は、クリエメイトたるみーくん達の命だった!? 俺にとっては、クリエメイトは人生の一部! そう簡単に、殺らせてたまるかよッ!!」

次回『そいつの名はサルモネラ』
美紀「次回もお楽しみに。」
▲▽▲▽▲▽


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第26話:そいつの名はサルモネラ

“ハーレムを築くのは前途多難だ。”
“お前は何を言っているんだ?”

 …ローリエ・ベルベットとアルシーヴの会話


 クリエメイトの命をもらい受ける――――

 

 本当に目の前のロン毛男はそう言ったのか?

 ここですぐに攻撃できれば良かったのだが、感情とはそう簡単に割り切れるものではないらしい。

 

 あっけにとられて、敵に隙を与えてしまったようだ。

 

「ローリエ! 敵が攻撃してくる!」

 

 カルダモンの警告にはっと我に返ると、目の前のロン毛男は、既に次弾の矢を装填し終えていた。

 

「っ!!」

 

 反射的にパイソンの引き金を引く。

 

 パンパンパンと、ゴム弾や実弾よりも軽い発砲音が響き、それと同時に矢の発射音がした。

 

 

「うおっ!?」

 

「ぐッ!!?」

 

 

 クロスボウから放たれた矢は、咄嗟の判断で逸らした俺の顔の、わずかに横を掠って通り過ぎていった。

 あまりに一瞬、しかし確かな死の恐怖が刹那の時にやってきたことに頭の中がクリアになっていって、頬に残ったであろう焼けるような痛みにも気を払えなくなる。

 

 だが、今俺だけじゃなくて、奴の声もした。それから察するに、何発か当たったのだろうか? 矢を避けるのにほぼ全神経を集中させていたから、どうなったかまでは分からない。

 

 

「こ、これは……麻酔弾か…? よくもやってくれたな!!」

 

 男は、しゃがみ込み両手を震わせながらも、すばやく矢を装填して、その先をカルダモンとみーくんに向ける。

 

 俺の麻酔弾を2、3発食らったこの状況でも、クリエメイト(みーくん)の命を狙うつもりか!?

 

 

「させないよ」

 

 しかし、それはあっという間に距離を詰めたカルダモンがクロスボウを蹴り飛ばすことで未遂に終わる。

 

 

「クソッ!! いい気になりやがって……!」

 

「逃がさない……!」

 

 

 最後の足掻きが無駄に終わったことを悟った男が転移魔法で逃走を図る。

 

 カルダモンが、二本のナイフを投げそれを防ごうとするも、間一髪、男の方が早かったようだ。ナイフがざくざくと砂に刺さる音がそれを証明していた。

 

「あいつ……」

 

「………とりあえず、拠点に戻ろう。」

 

 そうして、視界から謎のロン毛男が消えた後も、誰も言葉を発することはできず、ただ砂漠気候特有の、穏やかで、乾いた熱風が肌を撫でるだけであった。

 そんな真夏のような日差しと気休め程度の微風が撫ぜるなか、俺の心の中の警鐘はいまだに鳴りやんでいなかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 あの後、砂漠の教会に戻った俺達は、みーくんを泣く泣く(俺のみ)クリエケージに閉じ込め、アルシーヴちゃんにクリエメイトを捕獲したことと、砂色のローブを着た、朱色の瞳の黒髪ロン毛男に襲撃され、クリエメイト(みーくん)を狙われたことを報告する。

 

 

「一応聞くけど、これってぶっちゃけかなりヤバイんじゃあないのか?」

 

「……そうだな。クリエメイトからクリエを回収するのは、できるだけ秘密裏に、迅速に行いたい。

 ローリエ。お前には、その男の始末を頼みたい。再起不能にできればいい。」

 

「……それはアイツの正体次第だな。一般人を殺すようなマネは賢者としてマズいだろう?」

 

 

 まぁ、クロスボウ抱えてクリエメイトの殺害宣言するようなヤツが一般人だったらエトワリアはかなり世紀末状態だけどな。

 どこからかモヒカンが出てきて「ヒャッハー! 食い物を寄越せぇ!」とか言いそう。

 

 

「ローリエ、それについては心配いらない。あたしはアイツの顔に心当たりがある。」

 

「カルダモン?」

 

 

 まじか。まさか、転生者(おれ)の知らない男の正体がこんな早くに判明するのか?

 

 そうして、カルダモンは説明を始めた。

 

 

「これは、あたしが調停官で砂漠付近の村を回っていた時に聞いた情報(コト)なんだけどね。

 

 なんでも、砂漠を通って行商している商人の馬車が何組も襲われてるんだって。

 被害の状況は甚大で、馬や人には矢が刺さった上に甚振られるように傷つけられいずれも大怪我か死亡、積んでいた荷物も殆ど持ち去られたそうだ。

 

 わずかに生き残った目撃者は、みんな口を揃えて『砂と同じ色のローブを身にまとい、クロスボウを持った黒い長髪の人間にあっという間に殺られた』と言っていたそうだよ。そういった悲惨な事件が多発したから、行商人は砂漠を通らなくなった。

 手書きの手配書にもその特徴が描かれててね。さっき思い出したよ」

 

「それはそれは……」

 

 

 俺の知らないところで、大変なことが起こっていたんだな。俺のよく知っている『きららファンタジア』では、そんな血なまぐささは一切出てこなかった。ちょっとした欺瞞やイタズラ心、そして孤独みたいなものはあっても、純粋な悪意みたいなものとは無縁の世界だとばっかし思っていた。まぁ、そんなのを純粋に信じていたのは()()()()()だけど。

 

 でも、俺は一刻も早く男の名前が知りたかった。

 

 行商人連続襲撃事件で亡くなってしまった人については……まぁ、確かに気の毒だと思うし、下手人は許せないと思う。でも、エトワリア(ここ)はテレビが少なく写真技術も(俺の開発したインスタントカメラがあるとはいえ)まだまだ発展途上だ。新聞も、日本のものよりも断然読みにくい。そういった遠くの情報を手に入れる手段があまりにも少なすぎる。故に、感情移入がなかなかできなかった。

 

 だが、きっとカルダモンは、このことを調停官として、周囲の人々から聞き込みをし、もしくはその目で見てきたのだろう。……そして、その結果、ある程度の情が湧いたのだろう。

 

 はっきり言うと、目が怒っている。

 

 その威圧感というか、覇気というか……そのスゴ味たるや、まるで親しい友人をそいつに何度も奪われたかようだ。しかし、その激しい怒りのわりには、雰囲気が静かだ。嵐の前の静けさとは、こういうことを言うのだろう。

 

 

「砂漠に現れ、行商人たちの営みを……彼らの家族の幸せをゴミくずのように壊す男。

 ……そいつの名前は――――――」

 

 

 そして、カルダモンは静かに、そいつの名前を口に出した。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 一方その頃、砂漠のとあるアジト――鏡を利用して姿を隠した、簡易版のテントだ――にて。

 

「ぐうぅぅ………これは…麻痺毒か……」

 

 狭いテントの中でびっこを引き、震え覚束ない両手で何かを探している黒い長髪の男がいた。

 

 

 彼の名は――――サルモネラ。

 

 彼は、物心がついた時には両親の顔を知らない物乞いだった。

 大都市の路地裏で、物好きな人間に恵んでもらったり、また奪いながらこれまでを生きてきたチンピラである。だから、サルモネラにとって「誰かから奪う」という考えは至極当然の摂理だったのだ。それも、狩猟民族が狩りでも行うかのように。我々一般人が、食料品や日用品を買ってくるように。

 ただサルモネラの場合は、その生活に必要な略奪に趣味と実益(勿論彼自身にとっての)を見出していた。行商人の動きをクロスボウの矢で封じてから痛めつける………できるだけ殺さないように。彼に襲われたと思われる人や動物が矢による傷以外の打撲痕が残っていたのはそのためであった。

 

 今回も、やや事情が違うと言えども、同じことをするはずであった。

 クリエメイトの情報は、ある日、強盗(狩り)から帰ってきた時に、アジトの入口に依頼書と彼には一生拝めないであろう金額の()()とともに置いてあった。

 クリエメイトが召喚されることと、その殺害の依頼を旨にした文がしたためられていたそれを見て、サルモネラは信じようとはしなかったが、成功した暁にと記されていた報酬が()()()()()()()()()()()()()()()。欲望に忠実だったサルモネラが乗らない理由はなかった。

 

 

 彼自身、自分の実力には自信があった。誰かから奪い取るには力がいる。たとえ自己流でもサルモネラが自らを研鑽しない訳などなかった。 

 だが、初回の襲撃の結果は散々だった。クリエメイトは仕留め損ね、ローリエからは麻酔銃の弾を4発食らい、命からがら転移魔法で逃げ帰ってきてしまった。

 

 

「あった。……クッソ、指先が痺れてフタが取りづれえ………」

 

 しかし、サルモネラは諦めてはいなかった。

 自分は常に、狩る側だった。生まれた時から、物心ついた時から、砂漠に拠点を構えた時も、そして………これからも。

 そのプライドを掲げつつ、サルモネラは先日馬車から奪っていた解毒薬をあおった。

 

 

「まずは痺れを取ってからだ。体を休めて、その先は………様子見だな。

 流石に、お荷物ひとり抱えてるとはいえ、賢者二人相手はちっと分が悪い……か……」

 

 

 先の襲撃での反省点を自分なりに挙げつつ、毛布に横たわり、痺れが取れるまで休む。

 その表情は、まだ肉食動物が獲物を楽しみにしているようなもののままだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「サルモネラ、かぁ……そうか、あの野郎はそんな名前なんだね。」

 

 

 確か、鶏の卵のカラの表面に付着している菌だかの名前だったか?

 みーくんを狙うようなクソ野郎にはピッタリの名前じゃあないか。

 

 

「なるほどな。カルダモン、ローリエ、しばらくは召喚士だけではなくそのサルモネラとやらにも気を付けた方がいいな。

 ローリエには、カルダモンの武器整備が終わり次第別の命令を下すつもりだったが……クリエメイトをサルモネラから守る任を任せてもいいか?」

 

 アルシーヴちゃんも、カルダモンからサルモネラ(バイ菌野郎)の報告を受け、俺にそう告げた。この命令は、合法的にここに留まれることを意味する。

 

「まっかせなさい! 必ずあのバイ菌のドタマに風穴開けてやる……!」

 

「……過激なことは控えろよ。」

 

 大丈夫大丈夫。クリエメイトの前で本当にそんなことはしないから。

 

 

「あとは……なにかあるか?」

 

「あ、そうだ。

 ……ねえ、アルシーヴ様。あのクリエメイト、あたしがもらっちゃダメ?」

 

 

 アルシーヴちゃんの確認に、カルダモンがそう尋ねる。確か、本家でもこういうシーンはあった。「あたしに立ち向かってきたクリエメイトは初めてだよ」とか言って。

 けど、カルダモンのやつ、みーくんで何をするつもりだったんだ?

 

 

「一人くらい減っても、それなりにクリエは集められるんじゃあないの?」

 

「わあぁーーーカルダモンったら大胆!!

 みーくんを貰うなんて!!」

 

 茶化すようにあげた大声で二人(みーくんを含めると三人だ)の視線を独り占めする。

 みんな、何か言いたげだか無視だ無視。最後まで言わせてもらおう。

 

 

「でも、ダメだぜカルダモン。クリエメイトは全員コンプしないとクリエは取れないし、公私混同はいい仕事の敵だ。

 それに――――

 

 

 

 カルダモンは、俺が貰う゛ゥゥッ!!?」

 

 

 良い声を出そうと頑張っていた腹に激痛が走り、立てなくなってうずくまる。確認せんでもわかる、腹パンされたやつやん……

 

 

「あはは、ローリエは冗談が上手いね。

 でも、あたしを口説きたかったらその浮気癖直した方がいいよ?」

 

「か、かっ……甲斐性があると言って欲しいな………」

 

「それを自分で言うな、ローリエ………

 とはいえ、前半の意見はその通りだ。カルダモン、まさかクリエメイトに情が湧いたわけではあるまい?」

 

「どうだろう。ただ、これまでに出会った中では一番面白い相手かなって。」

 

「……そのようなことを考えるな。

 残りの三人を早く見つけろ。八賢者としての責務を果たせ。

 ローリエ、お前もお前だ。日頃言っていることだが、自重しろ。」

 

「……仰せのままに。」

 

「りょ、りょうか……ぐふっ!」

 

「……ねぇ、アルシーヴ様? ローリエが死にそうになってるけど、いいの?」

 

「あの状態のローリエはまだ余裕だ。無視で構わん」

 

 

 割と大丈夫じゃないのに、アルシーヴちゃんには無視されたまま、転移魔法で帰られた。泣きそう。

 

 

「八賢者としての責務か……

 しょうがないって、直樹美紀もわかってくれるよね?」

 

「っ……。」

 

 

 クリエケージに入れられたみーくんが、反逆の瞳で俺とカルダモンを睨みつけてくるのが、非常に辛かった。

 

 

「それで、直樹美紀……

 あなたのことはなんて呼べばいい?

 なおなお? みきみき? みっきー? みーくん?」

「おいやめろ、みっきー呼びだけはダメだ。

 オ○エン○ルラ○ドの人たちとOHASHIすることになってそのまま行方不明になる!」

「なんでローリエさんはそれを知ってるんですか……

 あとみーくんはやめてください」

 

 

 あと、仕方ないとはいえ、本人にみーくん呼びを封印されて「直樹さん」と呼ばざるを得なくなったのはかなり辛かった。この時ばかりは気安く「美紀」と呼べるカルダモンをちょっと羨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、今、あたしの手下が美紀の仲間たちを探してるんだけど、居場所に心当たりはない?」

 

「……私が、答えると思いますか?」

 

「ううん、美紀なら答えないと思ってる。美紀は強い人だから。

 まさか、捕まえるのにあんなに苦労するとは思わなかった。ローリエがいなかったら捕まえられなかったかも。」

 

 

 心の中で呼び慣れないみーくんへのあだ名を練習をしていると、カルダモンがみーくんへの尋問?を始めていた。

 

 

「クリエメイトはもっと弱い存在だと思っていたけど、考えを改めないといけないね。

 ただ……美紀が特別なだけかもしれないけど。あんな世界で生きているんだから。」

 

「私たちのこと知っているんですね。」

 

「聖典で一通りのことはね。だから、美紀たちにとっても悪い話じゃないと思う。」

 

「何が、ですか。」

 

「ここにいることが、だよ。」

 

 

 来たか。やっぱり、そんなことを聞くんじゃあないかと思っていたよ。

 学園生活部(がっこうぐらし!)の世界は、既に全世界がほぼ滅んでいると言っても過言じゃない。ランダルコーポレーションのウイルスが流出したことにより、全世界バイオハザードが起きて、生存者よりも“かれら(ゾンビ)”の方が多いんじゃないかってほどに荒れ果てている。冗談でも住みたいと思える環境じゃないだろう。

 そこで出てくるのが「ヘイガールズ、エトワリアに移住してみないか?」という提案だ。治安は現代日本ほど良くはないかもしれないが、バイオハザードで滅んだあそこよりはマシだろう。

 

 

「さっきは盗賊が出ちゃったけど、中心部へ行けば治安も良くなる。美紀たちはそこで何事もなく生きればいい。

 あたしたちは美紀たちからクリエをいただく。

 ここから逃げ出してどうする? 元の世界に戻ったところで何がある?」

 

「それは………」

 

「答えられないなら、そんな世界なんて捨ててしまえ。このまま……あたしの元に居ればいい。」

 

 

 みーくんが暮らしていた世界に何があるのか……聞かれて簡単に答えられるわけがない。99%壊れてなくなってしまったような世界だ。「何もない」と分かっていても、認めたくないのが本音なのだろうか。

 しかし、みーくんは最終的に「学園生活部全員で一緒に生きる」ことを選び、元の世界へ帰っていく。よくそんな英断ができると思う。

 俺だったら絶対逃げ出すね。常に命の危機があるバイオハザード世界になんていられるか。自身や周りの大切な人の命を考えたら、こっちに移住するのが合理的な選択だと思う。

 

 

「カルダモン。彼女を独り占めにして、何する気だ?」

 

「あれ、妬いてる? ダメだよローリエ。美紀に手を出すつもり?」

 

「出すかバカヤロウ。俺の守備範囲は18からだ。」

 

「……あたしも範囲内じゃないか。狙ってるの?」

 

「………つかぬ事を伺うけど、カルダモンっていくつなの?」

 

「乙女に年齢聞いたらダメだよ。………あたしは18だけどさ」

 

「まさかの年下ッ!!?」

 

 

 衝撃的な事実に固まる。カルダモンの言葉で深く考えていたみーくんも、目を白黒させて俺達のやりとりを見ている。

 「驚いた?」と訊かれたので、「調停官なんてやってるから、同い年か1、2コ上だと思ってた」と正直な回答を返せば、「そんなに年とってるように見えるの?」と不服そうにむくれた。かわいい。それだけしっかりしてるように見えるんだよ、とフォローしておいた。

 

 

「あたし、そろそろ離れて他のクリエメイトを探しに行くから、武器の整備ついでに頼みたいんだけど、美紀を説得してくれないかな?」

 

「俺に? カルダモンの言うことには従うけど……彼女、俺の話聞いてくれるかなぁ?」

 

「大丈夫。

 美紀、気が向いたらあたしかローリエに言ってね?」

 

 

 そう言うと、カルダモンはたッ、と足音一つで消えてしまった。相変わらずの速さに、まだ目は追い付かない。

 そして、クロモン達という癒し要素はありつつも、言葉を交わせる生物という意味では俺とみーくんの二人っきりになってしまった。

 とりあえず、改めて挨拶程度はしておこう。

 

 

「八賢者ローリエだ。さっきの変なロン毛野郎からは守ってやるから、安心しな、みーくん」

 

「みーくんはやめてください」

 

「し、しまった……! 聖典での君はいつも『みーくん』って呼んでたからなぁ……『直樹さん』呼びなんて慣れなさすぎて呼びづらいんだ。呼びやすい『みーくん』でいいだろ?」

 

「駄目です」

 

「駄目か……」

 

 

 またうっかりみーくんと呼んでしまった。

 そもそも『みーくん』はゆきちゃんが付けたんだ。慣れないけど、『直樹さん』呼びに慣れるしかないか。

 

 あと、説得を聞くとは思えない。でも、学園生活部の意志を知るためだ。ほんのちょっぴり、悪役を演じるとするか。

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 カルダモンに言い寄っていたネタ枠兼主人公20歳。みーくんに出会えた事に内心テンションが上がりながらも、サルモネラという謎の男には敵意をいだいている。

カルダモン
 三章の壁となる八賢者18歳。面白いものが大好きで、新しいことに興味が湧く彼女としては、各地を回る調停官の仕事を行いつつも、交友関係は一番広いのではないだろうか。サルモネラについても、知り合った人達が殺され、死んでいく様子を見たら間違いなく怒るだろう。

直樹美紀
 捕虜となったクリエメイト16歳。みーくん。彼女とローリエの会話フェイズでは、向かうべき二つの道におおいに迷うことになる。サルモネラに襲われたせいで、エトワリア人への不信感半端ないけど。

サルモネラ
 拙作オリジナルキャラクターにして、三人目のオリ男。幼い頃からの環境が良くなかったせいで、盗賊に身を落とさざるを得なかった人間。砂漠を拠点に、荷馬車を襲って糧を得ている。チンピラでしかないが、欲望に忠実で、趣味と(個人的な)実益を兼ねて強盗をしている、悪人の典型である。また、考える頭もないので、破格の報酬目当てにこのオーダーの事件に乱入することになる。名前のモデルは同名の菌から。


サルモネラ菌
 食肉や卵、家畜や人の腸内に生息している、食中毒を引き起こす菌。特に鶏からの汚染率が高い。食中毒を防ぐ三原則「つけない・増やさない・やっつける」を守り、清潔な手と迅速な調理、低温保存や加熱処理で防ぐことができる。

みっきー
 創作物では使用することが禁忌とされる、アメリカで生まれたアニメの主人公のネズミの名前。現在のハーメルンの規約では、「ディズニーを題材にした作品の投稿を禁止」を削除されているため、こうして解説することができるが、取り扱う際には、最大限の敬意と注意が必要である。

バイオハザード
 生物的危害、生物災害と訳されるが、日本では1996年よりカプ○ン社より発売されているサバイバルホラーゲームシリーズが連想されるだろう。ゲームの世界観でも、とある製薬会社の実験によりゾンビだらけの街になった舞台や、未開の地でゾンビと戦いながら目的を遂行する、という物語になっており、ナンバー次第では「製薬会社の薬によるゾンビ災害」というがっこうぐらし!との共通点を見いだすことができる。



△▼△▼△▼
ローリエ「カルダモンに、みーくんの説得を頼まれちまった!はっきり言って気が進まないし、効果があるとは思えないな……」
美紀「みーくんじゃありません」
ローリエ「でも、彼女達にはあるはずだ……結果に惑わされずに、真実へ向かおうとする『黄金の意志』が!」
カルダモン「なに、それ?」
ローリエ「口で説明する前に行動で示して心で理解するべきだろうな。」

次回『転がる石(ローリング・ストーン)黄金の意志(ゴールデン・マインド)
カルダモン「また見てね?」
▲▽▲▽▲▽


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第27話:転がる石(ローリング・ストーン)黄金の意志(ゴールデン・マインド)

“生きていれば、それでいいの?”
 …祠堂 圭


 カルダモンさんが去ってしまった後、私はただ、クリエケージと呼ばれていた檻の中で、暇を持て余していた。

 

「………。」

 

「…………。」

 

 一応、ローリエさんがいて、例の盗賊が再び襲ってこないように守ってやると言われたが、敵と話すつもりもなく、だからといって檻から出ようとするとクロモンと呼ばれる二足歩行で帽子をかぶった黒い子猫のような生き物がくーくーと警告してくるため、動くこともできない。

 

 誰かが話してくるわけでもない、ローリエさんがしているであろう、何かの作業音以外のない、静寂が支配した空間。そんな雰囲気は久しぶりだった。

 

 二人っきりでいるのも、こうして一人で考えるのも、久しぶりだ。

 

 

 

 

 

 先輩たち、大丈夫かな。

 カルダモンさんの話だと、まだ見つかってないみたいだけど……

 

 

 もし、ここに連れてこられたのが私だけだったら、どうしてたんだろう。

 

 

 

『元の世界に戻って何になる。』

 

『このままあたしの元にいればいい。』

 

 

 

 カルダモンさんの言葉が蘇る。

 

 檻の中にいればお腹も空かない。

 備えるようにして寝なくてもいい………

 

 

 ……でも、それでいいのかな。

 私は……」

 

 

「確かに、クリエケージはそこだけが欠点だよな。」

 

「!!?」

 

 ローリエさんにいきなり話しかけられ、思わず身構える。元の世界では、圭と二人きりになって以降、男の人と出会わなかったから警戒してしまう。

 

 

「あ、あの……」

 

「……! あぁ、ゴメン。

 一言声をかけてからの方が良かったかな。途中から声に出てたもんだから……」

 

「あ…………す、すみません……」

 

「気にしないで。……まぁ、男が二人っきりの状況で『気にするな』ってのもなんだけどさ。」

 

 

 さっきまでの考えが口に出ていたとは知らず、顔が熱くなってしまう。

 

 

「……今の君にはきっと、進むべき二つの道がある。」

 

 ローリエさんが、手元の何かを作りながらいきなりそう始めた。

 

「進むべき……二つの道?」

 

「そう。一つは、『全員で元の世界に帰る』道。さもなくば―――『全員でここに残る』道……。」

 

 

 それは、カルダモンさんからの提案を受けて、どうすべきか迷う私が決めるべき選択肢を、簡単にまとめているようだった。

 

「全員で、って所は確定なんですね。」

 

「違うのかい?」

 

 気になったところを尋ね、返ってきた答えは、あたかも「私達ならその選択肢以外はありえない」と言葉なくして語っているかのようで、しかし温かい表情だからか威圧感も感じなかった。

 

 

「……カルダモンさんは先輩たちを捕まえるために、探しに行ったんですよね。」

 

「……ああ、そうだ。」

 

「なら、私たちが取るべき道は一つです。

 私は、行かなきゃならない。先輩たちのところへ。

 ここにいたら、ダメなんです。ただ、ここで生きているだけじゃあダメなんです!」

 

 

 カルダモンさんとローリエさんについて、確かな事が一つだけある。

 

 それは、サルモネラとかいう盗賊から私を守ってくれたこと。

 

 この場所はとてもやさしい場所だ。

 

 食事や寝る場所で困ることは無いし、手足を伸ばして入れるお風呂だってある。

 

 こんな日々を過ごすのは、元の世界では当分難しいかもしれない。

 

 でも――――――

 

 

「―――()()()()()()?」

 

「え?」

 

 

 突然、ローリエさんの目が険しくなった。

 カルダモンさんがしていた、興味と好奇心の目じゃない。ヒトを試すかのような挑発的なそれに見えた。おそらく彼はそのつもりなんだろう。

 

 

「ルネサンス芸術の頂点の一角として歴史に名を残したかのミケランジェロが言った言葉がある……」

 

「!!?」

 

「『私は大理石を彫刻する時、着想をもたない………「石」自体がすでに彫るべき形の限界を定めているからだ……………わたしの手はその形を石の中から取り出してやるだけなのだ』と」

 

「え……ろ、ローリエさん……!?」

 

 

 突然ローリエさんから語られた、こちらの歴史の―――()()()()()()()()()()()()()は、私を混乱させるのには十分だった。

 なぜ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな疑問の前には、ミケランジェロはそんなことを言っていたのか、という新たな豆知識の開拓など些細な事にすぎなかった。

 

 

「ミケランジェロは『究極の形』は考えてから彫るのではなく、すでに石の中に運命として『内在している』と言ったんだ。彼は彫りながら運命を見ることができた芸術家といってもいいだろう」

 

「………なにが、言いたいんですか?」

 

 

 次に出てきた疑問は、その一点に尽きた。彼が一体何を考えているのかが分からなくて、ちょっと声が震えてしまったかもしれない。

 

 

「あー……つまりだな? えーーっと……帰ったところで運命は変わらん、ってこった。

 みー…直樹さんは運命を信じるかい?」

 

「………。」

 

 

 ローリエさんの答えが、未だに要領を得なくて、沈黙してしまう。

 いきなり運命とか、そんな話をされても困ってしまう。

 

 

「うーん、何て言えば伝わるかな………俺は聖典について、ここに住む人よりもよく知っている。

 だから、この先君達の身に何が起こり、それに対して君達がどう行動するかも知っている。」

 

「!?」

 

 

 にわかには信じがたい話だった。

 おそらく、事前に二人から「聖典」の話を聞いていなければ取り合うことすらもしなかっただろう。

 

 

「詳しくは言わないし、知りたくもないだろうからアレだけど……生存者同士で争うこともあるだろう。君達を騙そうとする輩も現れるし、全員の生存が絶望的って状況にも陥るかもしれない。」

 

 

 次々と告げられるのは、きっと私達に待ち受けるであろう未来のことなのだろう。「聖典」を実物で見て、それで……

 だんだんと考えがまとまらなくなる。未来のことを抽象的とはいえ淡々と宣告されて、戸惑うなって方が無理な話だ。彼の言葉を遮りたいのに、止めなきゃならないのに、制止の声が出ない。変わらず真剣で、だが試すような表情をしているからだろうか。

 

 

「だからこれは……千載一遇のチャンスと取ることもできる。

 ここにいれば、確実にその運命を変えることができる。」

 

「………!!」

 

 

 その言葉でやっと、ローリエさんの言わんとしている事が理解できた。

 

 

「ゾンビに襲われることも、生存者同士の醜い争いに巻き込まれることも、子供数人ではどうしようもない組織が悪意をもって近づいてくることも、まず回避できないだろう………それも、別世界に転移でもしない限り。」

 

「………それが、運命だとでも言うんですか?」

 

「運命のようではあるがね。ただまぁ……俺の言う事に間違いがないのは断言できる。」

 

 

 私達の未来を知るという者から突然提示されたその誘惑は、カルダモンさんの提案とまったく同じ筈なのに、惹かれそうな甘さを感じた。

 まるで、「帰っても辛い事が待っているだけだ」と諭し、「辛い目に遭ったのなら逃げても良いのだ」と甘やかそうとしているかのようだ。

 

 でも、仮に彼が言っているような未来が待っていたとしても……私は間違っていたとは思わないし、曲げるつもりもない。私は―――

 

 

「あなたの言いたいことは分かりました。

 きっと、あなたの知っている私達は……元の世界で辛い目に遭う。その運命を、ここに移住すれば変えられる。

 そう言いたいんですよね?」

 

「………その通りだ。」

 

 

 

 

 

 

 

「……それは、逃げているのと変わらないじゃあないですか。」

 

「……!」

 

 

 私は、もう逃げたくない。

 

 あの日、モールで声が聞こえた時、思わず追いかけていた。

 

 もし、あの声に気づかなかったのなら。今もあの扉の内側にいたのなら―――

 

 ―――きっと、私はここに残ることを選んでいるだろう。ただ逃げて、生き残るために。

 

 

 

 

 けれど。

 

 

 

 

 あの日―――私は先輩たちに助けられたのだ。そして、たくさんのものを貰った。

 

 生きていて良かったのだと、今の私なら答えられる。

 

 

 

「もう、すごく昔のことに思えちゃうんですけど、『あの時』、私は友達と一緒にいたんです。

 ………私達のことを知っているんなら、圭のことも知っていますよね。」

 

「……ああ、知っているとも。

 でも……君の口から、聞かせてくれないか?」

 

 

 もとよりそのつもりだった言葉を聞き、私は今も離れ離れになっている親友について話し始めた。

 

 祠堂(しどう)(けい)。私の、大切な友達の話を。

 

 

「圭は……クラスメートで調子が良くて、元気な子で……今は離れ離れになっちゃってるんですけどね。圭と別れた時に聞かれたんです。『生きてればそれでいいの?』って。

 

 何も答えられなくて、止めることもできなくて………それで、カルダモンさんに聞かれて考えてました。

 たとえば……別の世界に行っても、生きてればそれでいいのかって。」

 

 

 あの言葉は、一度は私を抉り、圭との別れにおいて、忘れられない言葉となった。

 でも、モールでゆき先輩たちと出会い、学園生活部に入って数々の思い出を得るきっかけとなった。

 

 そして――――――今。その言葉は、私に絡みつこうとする、甘い誘惑を跳ねのけてくれる。

 

 

「『生きてればそれでいいのか』………か。

 散々邪魔した俺が言うのもなんだけど………答えは出たかい?」

 

「はい。ローリエさんの話で、自信が持てました。

 たとえ私達の運命が、『ピエタ』や『ダヴィデ像』に掘られる運命にある大理石のように、定まっているものだとしても………

 ―――私には帰るべき場所が、きっと待ってくれてる人たちがいますから。」

 

 

 

 きっと、圭と別れたばかりの私だったら、危ないからってこの世界に残っていたと思う。

 

 でも、今は―――

 

 

 

 

 

「今の私は―――先輩たちと一緒に、生きたいんです。」

 

「……そうか。だったら、俺から言えることは一つだけだ。」

 

 

 私の決意を聞いたローリエさんの表情には、もう挑発的な感情も試すような態度も残っていなかった。

 

 

 

「俺は君と、学園生活部の諸君に敬意を表する」

 

 

 

 さっきまでとは打って変わって、爽やかに口角を上げる彼の、豹変した態度に面食らってしまった。

 

 

「あの………私を説得するつもりだったのでは?」

 

「はて……? そんなこと言ったかなぁ?

 俺が頼まれたのは君の護衛とバイ菌野郎の排除だけだった気がするぜ!!」

 

 

 わかりやすくしらばっくれるローリエさんに、ため息が出て、肩の力が抜けてしまう。

 そんな私に目もくれず、荷物をまとめて彼は教会の入口へと向かった。

 

 

「とぼけないでください。さっきまで私を試すような口ぶりをしていたくせに。

 あと、なんでミケランジェロのことを知ってたんですか」

 

「俺はエトワリアで教師をしているんだ。聖典の研究は欠かせないさ。

 ……まぁ君たちのめぐねぇ(先生)程、生徒に寄り添える人じゃあないがね」

 

「……先生、だったんですね。」

 

 

 私の言葉ににそっけなく、しかしまっすぐこっちを見て頷くと入り口の扉を開けて、外に出て行ってしまった。おそらく、件の盗賊と戦うためだろう。

 

 ―――それにしても、不思議な人だった。

 私をここに残らせようとしたカルダモンさんとは違い、彼は「先輩たちと一緒に生きる」と決めた私の決断を喜んでいるみたいだった。

 かといって、どこかに嘘があったという訳でもない。

 迷う私に、道を示した言葉も、私を試したかのような鋭い眼差しも、「敬意を表する」と言った時の笑顔にも、悪意も敵意も感じなかった。

 

 目的は分からないけれど、クリエを集める道具ではなく、一人の生きている人として接してくれた、不思議な人だった。

 

 

「……行かないと。」

 

 

 とにかく、私も行かなければ。

 今もどこかで、先輩たちが探してるはずだから。

 

 ローリエさんに話した決意を、カルダモンさんにも伝えなければ。

 

 

 先輩たち3人と一緒に、生きるために。

 

 




キャラクター紹介&解説

直樹美紀
 ローリエとの対話の先に、『学園生活部全員で一緒に生きる』ことを決意したみーくん。彼が語った「ミケランジェロの彫刻論」や「自分たちの未来の話」で精神的大ダメージを受けてもなお、「運命を変える=その運命から逃げる」という解釈に目をつけて、最終的には原作と変わらない結論を導き出せた。また、親友の圭が言っていた「あの言葉」の役割や功績がきらファン原作ストーリーよりも大きい。

ローリエ
 「がっこうぐらし!」を読破&アニメ視聴済の転生者たる八賢者兼魔法工学教師。その記憶を利用すれば、みーくんにピンポイントなフォローも致命的な誘惑もできた。彼がみーくんに大ダメージを与えた二つの話も、「直樹美紀は逃げることを良しとせず、学園生活部の仲間を何よりも大切にする」ことを知っていたから話せたようなものである。しかし、下手をしたら結果が正反対になっていたかもしれないので、内心冷や汗ダラダラでもある。

祠堂圭
 図らずして親友を救った、未だ行方不明中のみーくんの友達。彼女は出ていく準備をしていたことから、自殺の意図はなく、「がっこうぐらし!」において誰よりも早く「生きる」よりも「よく生きる」ことを優先することを体現した『黄金の意志』を見せたのではないだろうか。冒頭に書いた彼女の言葉が、みーくんとゆき達を巡り合わせ、そして拙作のエトワリアではローリエの甘美な誘惑を振り払った。こうして見ると、圭の『黄金の意志』は、みーくんに受け継がれているとも見ることができる。

佐倉恵
 学園生活部を導いた、巡が丘学院高校の教師。めぐねえ。ゆき達の心を守るために学園生活部の設立を提案し、自分の亡き後も学園生活部が生き残れるように手を回していた(実写版ではそれが顕著に見られる)。ゾンビからゆき、くるみ、りーさんを庇い、この世を去る。しかし、物語の中では、主にゆきを守っている保護者ポジション。原作者の海法氏曰く、「人間的にボンクラだけど、生徒目線に立ってくれる先生」。誰かの裏の努力が見られるとはいえ、作者は彼女もまた、『黄金の意志』なるものを持っていたと考察する。それが誰に受け継がれたかは、ここに記すまでもないだろう。


ミケランジェロの彫刻論
 作中の発言の元ネタは『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』のスコリッピ。彼自身のスタンド『ローリング・ストーンズ』の能力を説明する時に用いた歴史の逸話である。この発言・彫刻論は、19世紀のロマン派美術美学研究者、ウォルター・ペイターの「ルネッサンス」という書物などに記述があり、そこにはミケランジェロの言葉として「大理石の中には天使が見える。彫刻家は彼を自由にさせてあげるまで彫るのだ」とある。この件はいろいろな形で引用されており、また様々な言葉に翻訳されているため、諸説ある。

『生きてれば、それでいいの?』
 モールの部屋に閉じこもっていたみーくんに対し、外に出る圭が告げた言葉。ゾンビパンデミックが起こり、滅んだ世界において、外で生きる事はゾンビに襲われる危険が伴う。だが、それに怯えて部屋に引きこもることを圭は良しとしなかった。この言葉はみーくんの心の迷いを突き、後に学園生活部に救出されるきっかけとなる。



△▼△▼△▼
ローリエ「みーくんは、示してくれた。彼女なりの答えを……」
美紀「だから、みーくんじゃありません」
ローリエ「だから、次は俺が男を見せる番だ。気高く生きる彼女達を、邪魔させはしない………学園生活部を狙う奴を逃しはしない。必ず、再起不能になってもらう。」

次回『気高き少女を守れ』
カルダモン「見ないと置いてっちゃうよ?」
▲▽▲▽▲▽


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第28話:気高き少女を守れ

お久しぶりです。UA数閑話書いたり試験とその後始末に追われたりしているうちに一か月が過ぎてしまった。しかも総合UAも5000突破していた。スミマセン…









“そのシャベルは、女王を守る近衛の盾のように、ゆき様を狙った不届きな矢を弾き飛ばした。そして、振り返った姿はまさしく戦乙女のそれであり、わたしは心のどこかで必ず助かるという確信をこの時、得ていた。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


『今の私は―――先輩たちと一緒に生きたいんです。』

 

 

 そう強く宣言したみーくんの瞳は、何よりも輝いていた。俺は、それを見ることが出来て安心した。

 なんせ、慣れない悪役をやったんだ。人間云十年、基本的には法を守って社会人として生きてきた俺が、だ。言葉のチョイスやさじ加減を間違えてみーくんの心を折っちゃったらどうしようと内心ビクビクだったのだが、あの強い決意ならそう簡単には揺らがないだろう。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 しかし、なぜみーくんはあんな事を真っすぐ俺の眼を見ながら言えたのだろうか? バイオハザード的世界で生きてきたからだろうか?

 

 否。それだけではあるまい。

 

 俺自身が、そんな世紀末で生きてきた訳ではない。前世はボケるほど平和な日本育ちだったし、今もバイオハザードな世界とは程遠い。でも、あの時のみーくんには、全てを乗り越えんとする逞しさが―――『黄金の意志』が、そこにはあった。

 

 それはきっと、彼女を変えるきっかけをくれた人が、支えてくれた人がいたからだろう。圭ちゃん、ゆきちゃん、くるみちゃん、りーさん、あと……直接的ではないが、めぐねえも。

 

 

 なんにせよ、みーくんは俺に彼女の生き方を見せてくれた。

 だったら、俺も見せなくてはならない。俺なりの覚悟を、行動で示さなくてはならない。

 

「……サルモネラ。覚悟はいいか?」

 

 

 俺は、教会の展望台に登って、あるものを組み立て始める。

 

 それは、俺が開発した『パイソン』よりも一回り大きく、銃身の長い……いわゆる、()()()()()()()()と呼ばれるものである。ロシアがまだ、ソビエトと呼ばれていた頃に生まれた、対人狙撃銃を元に生み出したスナイパーライフル。

 

 モデルにした銃からとって、『ドラグーン』と名付けた狙撃銃。これに、スコープを取り付けて準備完了。

 

 

 まずはドラグーンを一度置いて、俺は双眼鏡であるものを探し始める。

 それは、()()()()()()()()だ。

 きらら達一行は、直射日光の当たらない洞窟を抜けた後、みーくんを助けるために向かってくるだろう。学園生活部のみんなも一緒に来る。故に、単独の人影が見えたら、十中八九それはヤツであると確信できる。

 

 

 きらら達はすぐに確認できた。

 猛暑の中、複数人で歩いているのを見つけたのだ。まぁ、彼女達の格好が格好なんで砂漠でも見つけやすいといったところかな。

 

 問題は―――サルモネラだ。

 今思い出したことだが、あいつは砂漠の景色に溶け込める色のローブを着ていた。クソ暑いってのに、それを脱ごうとしないのは、行商人などを襲う時、できる限り気付かれないまま獲物に近づくためだろう。通気性や涼しさをかなぐり捨てたメリットが奴にはあるのだ。

 

 そんな探しにくい奴がクリエメイトと出会ったらどうなるのか。

 

 きっと、容赦なく、そしてしぶとく学園生活部のみんなやきらら達を殺しに来るだろう。

 

 特に純粋なきららや戦う力のないランプ、悪意への耐性ゼロのゆきちゃん、意外とメンタルの弱いりーさんあたりが心配だ。ゆきちゃんはめぐねえ(という名のゆきちゃんの本能)がなんとかするかもしれないが、それだけで安心するのは希望的観測がすぎる、というものだろう。

 

 

 奴がクリエメイトを見つける前に、俺が奴を見つけるんだ。もたもたしていたら誰かが死ぬ。

 

 これほどまでに焦燥感をおぼえたのはソラちゃんを呪いから守ろうとした日以来だろうか。

 

 あの日のように悲惨な結果を出さないために、双眼鏡を顔にくっつけ、目を皿にして探し始めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「まさか、あそこまで追い詰めたのに逃げられるなんてな。」

 

「最後、すっごい速かったよね……」

 

 

 洞窟でカルダモンと交戦した私達は、出口から再び砂漠へと出ていた。圧倒的なスピードを誇り、私でも目で追うのが精一杯だった。でも、心に引っかかっている、この違和感はなんだろうか?

 

 

「でも…あれは……」

 

「あれは?」

 

「まだ、余裕があったようにも見えて……」

 

 

 くるみさんに聞かれたので、まとまらない考えを、思いついたままに口に出していく。

 

 

「カルダモンが本気を出さない理由なんてあるかい?」

 

 

 私の言葉を聞いたマッチがそう尋ねてくる。確かに、現在私達とアルシーヴは敵対している。である以上、アルシーヴの部下である賢者が、敵である私達に、手心を加える道理などない。

 ランプもくるみさんも悠里さんも、マッチの疑問に明確な答えを出せずにいると、ゆきさんが突然沈黙を破った。

 

 

「わかった! 出さないんじゃなく、出せなかったんだよ!」

 

 ………()()()()()()

 

「……どうしてだ?」

 

「そ、それは……わからないけど、なんとなく!」

 

「なんとなくかよ……」

 

「でも、ゆき様の言う通り、出さないよりも出せなかったという方が納得はできます。」

 

 

 ゆきさん自身は思い付きで言ったようだけど、ランプは腑に落ちたようだ。

 私も、ゆきさんやランプと同意見だ。カルダモンもシュガーやセサミと同様クリエメイト確保が狙いだったようだし、全力で奪いに来るのが普通だ。でも、洞窟内では全力を出せなかったと考えるのならば合点がいく。

 もしかして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 でも、なぜ? 暗かったから? それとも―――

 

 

 パンッパンッ

 

 

「はーい、みんな。考えるのもいいけど、準備は出来たかしら?」

 

「おう、あたしはもう大丈夫。」

 

 

 悠里さんが手を叩く音で考えを中断し、意識をそっちに向ける。

 

 

「くるみちゃんはシャベルさえあれば百人力!

 鬼に金棒、くるみちゃんにシャベルだもんね!」

 

「誰が鬼じゃい!」

 

「お喋りはそこまで。今度は理由があってだけど、砂漠を一気に抜けなくちゃならないもの。」

 

 

 学園生活部のみなさんのやりとりを見ていると、とてもほほえましい気持ちになる。特に、ゆきさんの笑顔や言葉は、学園生活部の心の支えになっているようで、その絆がパスを通じて感じ取れた。こうして見ると、とても彼女たちの世界が滅んでしまったとは思えない。

 

 

「きららさん、美紀さんの方向ってわかるかしら?」

 

「うん……ここならハッキリとわかるよ。このまま真っすぐ東に行ったところにいる。」

 

「もう本当にはっきりと感じられるようになってたんだな。」

 

 

 くるみさんの言う通り、洞窟を抜けた今、美紀さんのパスは明確に察知できる。あとは、パスの感じる方向に向かって歩を進めるだけだ。そこにはきっと、美紀さんだけでなく、カルダモンもいるはずだ。

 

 

「……洞窟を抜けたと思ったらまた砂漠だった時は正直、どうなることかと思ったけどね。」

 

「本当にきららさんがいてくれて良かったです。」

 

 

 マッチが心配する通り、この砂漠は広い。手がかりなしで探すのはかなりの無茶だ。そういう意味では、クリエメイトの皆さんの居場所が分かるこの力で、みんなの助けになれることがとても嬉しい。

 

 

「よーし! 学園生活部、砂漠遠足の始まりだよ!」

 

 

 私達と出会ってから、様々なことを学校の行事というものに見立てて(ランプ談)ムードを盛り上げてきたゆきさんが右手を振り上げ、そう宣言する。

 遠足………ランプによると、学校でのイベントの一つで、クラスなどの同年代の仲間と共に遠出をすることらしい。

 戦いの予感を感じさせない、ゆるやかで優しい雰囲気に私たちの笑顔が綻んだ――――その時。

 

 

 

「いつの間にそんな名前――――ッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンッ、と。

 

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

 

 

 何かが激しくぶつかったような音がした。

 

 

 音のした方を見てみると、くるみさんが、ゆきさんの前に立って、シャベルを盾にするように構えていた。

 

 宙に舞う細長い何かを見て、ようやくそれがどこからか飛んできて、くるみさんがそれを防いだことを悟る。

 

 

 砂上に落ちたそれは、木の棒に金属の(やじり)がついた、まさしく矢であると一目でわかるものだった。

 

 

「走れ!!」

 

 

 くるみさんがさっきとは打って変わって緊迫した声を発したことで、みんなに緊張が走った。

 

 

「ゆき! 私のそばから離れるな!! 避難訓練だ!!」

 

「えっ? えっ……??」

 

 状況が未だ飲み込めてないゆきさんの手を引っ張り、走り出すくるみさん。

 

「みんな! 早く!」

 

 私達に声をかけることを忘れずに、くるみさんの言うとおりに走る悠里さん。

 突然のことに理解が追い付いていないが、それでも分かったことがひとつだけある。

 

 

 

 ―――――――私達は今、何者かに攻撃されている。

 

 

「ランプ! マッチ! 走るよ!!」

 

「は、はい!」

「分かった!!」

 

 

 ()()()()()()()()ものの、みんなに話している余裕はない。再び矢が飛んでくる前に、私はその足で、東に向かって駆け出すことにした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「「盗賊ぅー!!?」」

 

「……はい。皆さんと出会う前、砂漠に住み着く盗賊がいると、聞いたことがあるんです。」

 

 

 しばらく走り続けて、岩場にまで逃げ込むと、あれ以降続いていた矢の攻撃が止んだ。そこで、私は歩みを止めずに学園生活部の皆さんに、港町からの船の上で聞いた話について教えておくことにした。

 

 

「砂漠にはやり手の盗賊がいて、行商人達を襲うという噂を、この砂漠行きの船の上で聞きました。なんでも、積んでいる食料や衣服、薬品などを中心に奪っているそうです。」

 

「……なんであの矢を放ったのがそいつだって分かるんだ?」

 

「砂のような色のローブ、黒い髪。そして……クロスボウのような、矢を撃つ武器がその盗賊の特徴だと聞きました。」

 

「美紀さんや賢者のことに加えて、盗賊も出てくるのね……この遠足、厳しいものになるかしら。」

 

「いや、待てよりーさん。その盗賊とやらは、食料とかを狙うんだろ? あたしたち、目ぼしい食料(もの)なんて持ってないぜ。」

 

「えぇ。私達は、危険を覚悟で神殿への近道である砂漠を進みましたが、召喚された皆様はそんなに多くのものを持って来れなかったはずです。

 しかし、くるみ様が防いだ最初の矢は、明らかにゆき様を狙っていました………」

 

「ああ。どうやら、一刻も早く美紀の元へ向かった方が良さそうだ。」

 

 

 新たな脅威に頭を悩ませる悠里さんに、盗賊に狙われる理由を探るくるみさんとランプ、迅速な行動を促すマッチ。ここまで静かに皆の話を聞いていたゆきさん。

 みんながみんな、不安に感じている。私が、先頭に立って皆さんを安心させなければ。

 

 

「……大丈夫です。私が『コール』で、みなさんを守りますから。」

 

「おおっ! きららちゃん、先生みたい!」

 

 私の言葉に、ゆきさんが明るく反応する。先生って、私が教えられることなんて全然ないと思うんだけど……

 

「先生というより……外部協力者ね、きららさんは。」

 

「がいぶきょうりょくしゃ?」

 

「ええ、部活の時だけお手伝いに来ますよーっていう人ね。運動部のコーチとか、指導員さんみたいな。」

 

 

 首を傾げるゆきさんに悠里さんが説明をしている間、くるみさんはずっと少し遠い場所にある岩陰をずっと睨んでいた。

 

 

「………あの、くるみさん。どうかしたんですか?」

 

「…出てこいよ。さっきからコソコソ狙いやがって……!」

 

「!?」

 

 

 そう言うとシャベルを構えて近づこうとする。

 

 

「く、くるみ様……!?」

 

「まさか、そこにいるっていうのかい?」

 

「っていうか、マッチが確認してくださいよ!」

 

「無理だよ! 高く飛んでる時に撃たれたりしたらどうするんだ!」

 

 

 ランプとマッチのその会話をきっかけに、また雰囲気は一変する。悠里さんがゆきさんをさりげなく庇い、くるみさんはゆっくりと、だが確実に岩に近づいていく。

 

 すると、岩の向こうから何かが見えた。まるで弓のような形の―――っ!!

 

 

「くるみさん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンッ

 

 

 

 再び、金属同士の音がした。

 

 

 そして、くるみさんが岩陰にむかって走り出し、そこにシャベルを振り下ろした。

 

「あっぶね!? ……んだよ、ただの子供だったんじゃねーのかよ」

 

 シャベルの風切り音と共に、裏から表情が驚愕に満ちた何者かが飛び出してきた。そしてそれは、私が聞いた、盗賊の特徴と一致していた。

 

 砂色のローブ、黒く長い髪、右手に持ったクロスボウ……

 

 

 何よりも確信した決め手になったのはその表情だ。

 嗤っている。今までの人生の中で、ここまで人の顔が醜く見えたのは初めてだ。

 シュガーやセサミ、カルダモンは敵だったが、楽しそうに、もしくは何かしらの誇りをもって戦っていた。シュガーは楽しそうに戦い、セサミも今考えると卑怯な戦い方を嫌っているようだった。カルダモンについてはまだ本気を出してない可能性があるから分からないけど。

 

 でも、目の前の男は違う。私達を「敵」として見てはいない。力の差、ということではない。

 見ていると気分が悪くなってくる。心が不穏にざわついてきて、自分であることの価値が、少しずつ削れていくような感覚がする。本当に同じ人間なんだろうかと、疑問さえ湧いてくる。

 

 これが、盗賊なのか。

 

 

「『コール』!!」

 

 

 そんな気味の悪さをおぼえながら、私は戦いの準備を始める。

 宮子さんと青葉さん、そしてりんさんの魂の写し身が、力を持って現れる。

 そして、コールの宮子さんが男に肉薄する。

 

 

「チッ!! めんどくせえ!」

 

 バックステップで身を躱した男は、悪態をつきながら、矢を込めたクロスボウを向けた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――悠里さんの方に。

 

 

 

「きゃあっ!!!」

 

「悠里さん!!?」

「悠里様!!?」

 

 

 バシュッ、という風切り音がしたかと思えば、あっという間に矢は悠里さんの制服を切り裂き、肩に細くない紅い線を残した。

 

「あいつ、ゆきを庇っている悠里が動けないのを知ってて……!!」

 

 

「おまええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「よくもッ!!!」

 

 

 カッ、と頭に血が上っていく。くるみさんも完全に怒っており、真っすぐに男の方へ走っていく。

 私も、『コール』したクリエメイトに魔力を注ぐ。

 男は、矢を取り出しながら、こちらの攻撃を食らうまいと距離をとりつつ―――

 

 

「ハッ! なに怒ってやがる? 動けないヤツから殺る……この程度、()()じゃあ定石だろうがッ!!」

 

 

 ―――()()

 

 それはつまり……私達のことを、獲物か何かと見ているということだ。

 

 体中の血が熱くなり、心が煮えたぎっているかのような不快感が自身を襲う。

 

 

「………許せない」

 

 

 更に魔力をクリエメイトに注ぎ込む。この後のカルダモンとの戦いなんて関係ない。

 目の前の男を、一刻も早く倒さなければ。

 出来るだけ迅速に、この外道を、こ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 バキン

 

 

「「「!!!?」」」

 

 

 突如、男が持っていたクロスボウの弓が折れる。

 

 

「…はっ?」

 

 

 思いもよらない出来事だったのか、折れた弓を見た男が素っ頓狂な声を上げて一瞬、固まる。

 その様子を見たお陰か、私にほんの少しだけ、冷静さが戻る。

 

「宮子さん、くるみさん!」

 

「…! おう!」

 

 男が呆けた隙を突き、私の合図で宮子さんの武器とくるみさんのシャベルがその体に迫る。直前で男が攻撃に気づくも、その時には既に避けたり防いだりするには遅すぎた。

 

 

「ぐッ!!?」

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

「はあああああああああああああっ!!」

 

「ぐおはァァーーーーーーーーッ!!!!?」

 

 

 二人の武器が、男の鳩尾に食い込み、そのまま吹き飛ばす。ローブが脱げ、クロスボウが手から離れ、空中で錐揉み回転しながら吹っ飛んでいく。

 やがて砂上に落ち、その衝撃で起こした砂煙が晴れても、彼が起きてくる気配がなくなった。

 

 

「……やりました! さすが、きららさんです!」

「すごーい! きららちゃん、本当に強いね!」

「ありがとう、きららさん。」

 

 ひとしきりの沈黙の後、ランプが歓喜する。それで私達が勝ったことを確信したのか、りんさんに傷を治してもらっている悠里さんとゆきさんは安堵の息をつく。

 

「皆さんが無事で良かったです。」

 

「……なぁ、きらら。こいつ、どうする?」

 

 

 くるみさんが、先ほどの男を親指で指しながらそう尋ねる。彼は今まで何度も強奪を繰り返してきた盗賊だ。どこかの治安機関に引き渡すべきなのだろう。 

 

 

「仮に縄で縛ったとしても、連れて行く余裕なんてないよ。それに他にやることがあるだろ、きらら?」

 

「うん。分かってるよ、マッチ。」

 

 

 だが、マッチの言うとおり、先にやるべきことがある。東に反応があるクリエメイト――恐らく美紀さんだ――の元へ向かわなくてはならない。

 

 

「この人は、ひとまず念入りに縛っておこう。その後、美紀さんの所へ向かいましょう。」

 

「オッケー。カルダモンとコイツから挟み打ちを食らったらたまらないからな。」

 

「私も手伝います、きららさん。

 一刻も早く、美紀様を迎えに行かなくては。」

 

 

 突然襲いかかってきた男を、再び誰かを傷つけることのないように縛り上げた後、私達は美紀さんの反応のある東へ急いだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ………嫌なものを見てしまった。

 サルモネラの野郎、ゆきちゃん達に向かって矢を放ちやがった。しかも、何の躊躇いもなく。

 

 幸い、誰も大怪我を負っていないが、そんなものは結果論だ。

 

 見つけた時は、ゆきちゃんに矢が撃ち込まれたことで皆が走り出しており、狙撃の準備に入り再び奴を見つけた時はりーさんに向かってクロスボウを構えていた。

 

 スコープ越しから、汚い本性を感じ取れるかのような奴だった。

 サルモネラに狙いをつけて撃った弾は――――どうやら、奴の持っていたクロスボウの弓に直撃し、それをへし折ったようだ………体を狙ったはずなんだけど、まぁそこはよしとしよう。

 それがきっかけで、宮ちゃん(多分、きららがコールで呼んだのだ)とくるみちゃんのダブルアタックで、仕留めることが出来たのだから。

 

 

 さて。

 

 

 きらら達がカルダモンとみーくんの所へ行っているスキに、あのバイ菌野郎には……洗いざらい吐いて貰おうか。

 

 

 

 ―――楽に死ねると思うなよ?

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 クリエメイト達を害そうとしたサルモネラを発見し始末するべく、教会の展望台からゴルゴした(訳:狙撃を敢行した)八賢者。間一髪でサルモネラの攻撃には間に合わなかったものの、結果的にはサルモネラの武器を折り、きらら達の勝利に貢献する。しかし、まだ任務も彼自身の怒りもまだ終わっていないようだ……

きらら&ランプ&マッチ
 原作主人公一行。砂漠で学園生活部と出会い、洞窟でのやりとりを通じて情報交換を行い、学園生活部への仮入部を果たす。拙作では語らなかったが、洞窟内で一度カルダモンと交戦済みであり、そこで美紀が彼女に捕らわれていることを知った。『コール』を使った戦闘の描写はいまだ模索中。

恵飛須沢胡桃
 きらら達と合流した学園生活部のシャベルの子。今回の話に出てきた、胡桃がクロスボウの矢を弾き飛ばすシーンは、原作「がっこうぐらし!」の大学編の序盤を意識している。また、尾行するサルモネラに気付いたり、コールの宮子と同時にとはいえ人ひとり吹っ飛ばすシーンもあったが、原作中に出てきたとある事件をきっかけに身体能力が向上したことに起因するものである。時系列? 気にするな!(魔王ヴォイス)

丈槍由紀&若狭悠里
 きらら達と合流した学園生活部の部長&ムードメーカー。本家にはないサルモネラ襲撃でもあまり活躍する場を与えられなかったが、そもそもこの二人は戦闘に向いていないので仕方ない部分もある。ゆきについては、カルダモン戦にて出番が増えるかもしれない。

サルモネラ
 クリエメイトを連れた女子供を襲ったと思ったら、案外手ごわかった上に『コール』とくるみの身体能力に押され、更に戦闘中に武器が折れた隙を突かれ敗北した盗賊。しかし、弱い者・動けない者を積極的に狙い、きららとローリエの地雷を踏んだ。彼への受難は、まだこれで終わりではない―――。



△▼△▼△▼
ローリエ「紆余曲折こそあったものの、サルモネラを無力化したきらら達。彼女達はこの後、カルダモンに挑むことだろう。俺は俺で―――やることがある。そう……色々とやることが、な。」

次回『依頼の謎』
ローリエ「…絶対、見てくれよな」
▲▽▲▽▲▽


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第29話:依頼の謎

“あの時の俺の中にあったのは、『きららファンタジア』に出てこない人物への理不尽な怒り……だけじゃないと信じたい。もしそうじゃないのなら、コリアンダーと友達になることさえしなかったから。”
 …八賢者ローリエ・ベルベットの独白


 おぼろげな意識が覚醒する。

 

 見慣れた砂漠の水平線が縦に見える。片頬に熱い砂の感覚を感じて、初めて自身が倒れていることに気が付いた。

 

 立ち上がろうとするが、腕も足も言う事を聞かない。頭は動くので、体を見てみると、入念に縛られているのが分かった。

 

 彼は、必死にさっきまでの記憶を辿った。

 

 

 体の痺れが取れた後、破格の報酬の依頼をこなすため、クリエメイトなる人間を追っていた。

 そこで、ターゲットの三人が見慣れぬ人間たちと共に歩いているのを見つけ、先制攻撃を行い、そして………

 

 

「よう、サルモネラ。さっきぶりだな」

 

「!!?」

 

 

 自分以外の男の声で、名前を呼ばれた。

 声のした方へ首を向けると、そこには確かに、男がいた。

 緑色のはねた髪に、暑さに考慮したのか、グレーを基調としたカジュアルなを格好をしている。

 なにより、その男の表情は、彼―――サルモネラにとっては初めてのものだった。

 

 自身を見下す()()()()()()()()()()()は、吸い込まれるように暗く、しかし氷河のように冷たく、優れた刀匠が研ぎあげた剣のごとく鋭いものだった。それが、サルモネラにとっては異次元のもののようで、冷え切った表情で見下す男の意図を測りかねていた。

 

 

「て……テメェは…?」

 

「話してもらうことがたんまりある。おたくのアジトまで案内しろ」

 

 

 男は、有無を言わせぬ態度で要求してきた。

 

 なぜ、そんなことをしなくてはならないのか。言う事を聞くメリットなんてあるわけがない。サルモネラの心にあった、反骨心がむくむくと膨れ上がる感覚がした。

 

 

「なんでテメェの言う事なんざ聞かなきゃ―――」

 

 

 

 バァァン!!

 

 

「ぐあっ!!?」

 

 

 突如、一瞬のうちに右肩に激痛が走った。これまでに経験したことのない、そして今までのどんな怪我よりも激しい痛みだった。まるで、高温の生き物か何かが骨の髄まで突撃してきて、そこにある神経やら何やらを根こそぎ食いちぎっていくかのような……。

 

 

「早くしろ」

 

 

 そして、その激痛を引き起こしたのだろう、見かけない面妖な形をした何かをこちらに向けている張本人は、変わらず冷たく、淡々とした態度で了承を促す。

 その態度や、瞳や、表情は、まるで人間の皮を被った機械のようであった。

 

 そこにいるから攻撃する。

 そこに腹があるから殴る。

 そこに肩があるから壊す。

 そこに首があるから切る。

 そこに命があるから殺す。

 

 幾度となく命を奪ってきたはずの自分が、情けなく息を乱し、体が震えている。激痛と気味の悪さと恐怖ゆえに目の前の男から目を逸らせずにいる。

 

 

「な……なんなんだよ、テメェは!?」

 

「なんなんだって……忘れたのか? さっき麻酔弾をくれてやったの」

 

 

 その言葉にサルモネラは耳を疑う。目の前にいる男は、自分をほんの少し苦しめた麻酔弾を撃っただけの、ローリエと呼ばれていたあの男だというのかと。

 初めて会ったのは、クリエメイトなる人間を殺す依頼を受けた後、最初に見つけたクリエメイトを巡って戦った時である。自分の登場にこれ以上なく狼狽え、あと一歩のところで命拾いしただけの男。反撃こそしてきたものの、非殺傷性の液体麻酔弾しか撃ってこなかったあの男が………なぜ、ここまで豹変するのか? 豹変できるのか?

 八賢者の一人ということは知っていたが、はっきり言ってカルダモンのスピードの方を警戒すべきと考えていた。しかし、目の前のこの男が放っているのは何だ?

 

 

「そんなことより、とっととアジトへ案内しろ」

 

「ひっ………!!?」

 

 

 想像以上の殺気。居合わせるだけで竦んでしまうほどの覇気。まるで、子熊を傷つけられた母熊のように激しく、重いプレッシャーがのしかかる。

 生まれてこの方、自分は狩る側だと思っていた。そしてそれは、息を吸ったら吐くかのごとく、人に食べ物が必要であるかのごとく、当たり前のことだと思っていた。

 だから、サルモネラは自分が普段行っている略奪(こと)が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だが、目の前の異常な男を前にして気付いたのだ。

 

 奪うということは、奪われた誰かが悲しむことを。

 また、自分もまた、より強い力に淘汰されるだけの、ちっぽけな存在なのだと。

 

 故に。

 

 

「わ、わかった。わかったから……」

 

 

 殺さないでくれ、と言外に懇願するようにローリエの言葉に従うことにした。

 恐怖に縮こまり掠れたその言葉を聞くと同時に、異常な殺気が治まっていくのを感じた。

 

 

「それでいい。」

 

 

 そう言うと、サルモネラの足を縛っている部分の縄だけを解いたローリエは、サルモネラの背中にマグナムを突き付けながら、砂漠の盗賊のアジトへと歩かせていった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 怯えきったサルモネラを『パイソン』で押しながら歩いた先で、突然人影が現れた。二人組の男のようだ……ってアレ。

 

 何事かと思ってよく見てみれば、そこには俺とサルモネラが映っていた。

 

 

「……鏡か」

 

 

 サルモネラが頷く。このやり方は砂漠や森などの背景に変化のないようなところで身を隠すのには効果的なものだ。ジョジョ3部でも似たようなことやってる敵が出てきたし。確か小石の投擲で再起不能になってたけど。

 鏡をどけると、そこは簡易的なテントとなっており、その中は強奪してきたであろう食料や薬、日用品などの様々なものが所狭しと雑多に散らかっていた。かろうじて毛布のまとまっているところが寝床だと分かるくらいだ。

 

 

「……なんでみー…じゃない、クリエメイト(あの子達)を襲った」

 

「………。」

 

 

 相変わらず引きつった表情をしながらサルモネラが毛布の一枚をめくったところにあったのは、漫画みたいに積まれていた札束の山と、何かが書かれた一枚の紙。つまり、こいつは何者かから雇われていたことになる。

 

 

「依頼書を渡せ。そいつを読みたい。」

 

「っ!!」

 

 

 拳銃を持っている右手に揺れが伝わる。動揺が体に出た証拠だ。

 間違いない。その依頼書に確実に()()がある。

 

 

「……今更隠しても無駄だ。」

 

 

 そう言うと、観念したのか、その紙を手渡してきた。

 

 『パイソン』を片手に持ったまま、その紙の内容に目を移す。

 

 

 そこに書いてあったのは、驚きの―――それも、冗談では済まないレベルで書いてあったらマズい事が記されていた。

 

 

「『クリエメイトの殺害依頼』……『殺害リスト』………!? こ、これ…クリエメイトの名前と似顔絵がある……!!?」

 

 

 クリエメイトを殺せって依頼は予想できたが、まさか召喚されるクリエメイトまで把握されてるとは思わなかった。というか把握されてちゃダメだろコレ絶対。

 『オーダーを使う』というのは、神殿内の人間なら分かっていてもおかしくはない。ただ、『今回、学園生活部をオーダーで呼ぶ』ことは、アルシーヴちゃんとカルダモン、そして俺以外に知っている奴がいるはずがない。それが、サルモネラのようなちょっと悪名高い盗賊に漏れた時点でかなりヤバイ。

 ここまででもぶったまげるには十分だったが、報酬の欄を見た時、俺はスタンドも月までブッ飛ぶ衝撃を受けた。

 

 

「…………『報酬―――――現在までの罪状の全恩赦及び無期限の私掠の許可』……だと…!?」

 

 

 ここまで破格で、越権行為そのもののような報酬は見たことがない。

 つまり……もし今回、サルモネラが依頼を達成した場合、誰もやつの略奪を咎められなくなるどころか、法がサルモネラの味方をすることになっていたのだ。あまりにも非常識だが、サルモネラが受ける理由はなんとなく想像できた。

 そして―――この報酬を書いたってことは、依頼主はサルモネラを利用しようと画策していたか、一人の指名手配犯の罪状などどうにでも操作できるほどの権力を持っている、ということになる。

 

 

「………っ!!」

 

 そこで、視界の端で誰かが動いたような気がして、『パイソン』をその方に向け、引き金を引く。

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああっ!!!?」

 

 バァアンと重厚な爆音と汚い悲鳴が同時に響き渡り、サルモネラは粉々になった両膝を、寝っ転がりながら押さえていた。

 奴は、逃げようとしたのだ。

 

 

「ったく、油断も隙も無い。」

 

 

 悪いが、コイツを逃がすわけにはいかない。重要機密を(意図せず)知っている人間だ。どのような手段を取るにせよ、迂闊に喋らないように手は打たないといけない。

 

 それに……俺は大好きなクリエメイトを傷つける奴を許せるほど、冷血にはなっていない。

 

 

「サルモネラ。これからお前を中央へ引き渡し、犯罪者として裁く」

 

 そう宣言すると、サルモネラはヒュッ、みたいな変な声を出しながら自身の傷から俺へと目を移した。

 その顔には、初めて出会った時のような嘲笑う笑みなどどこにもなく、ただ蛇に睨まれた蛙のように怯え、涙やら何やらでぐしゃぐしゃになった表情がしっかりと張り付いていた。

 

「『金を積まれてクリエメイトを狙ったこと』以外、証言するな。そしてこれから一生、牢獄の奥の奥でひっそりと誰にも迷惑かけないように暮らすが良い。」

 

 

 鼻先に『パイソン』をつきつけて、凄みをかける。自然と、声のトーンが1オクターブ下がった。

 

 

「もし余計な事を喋ったり、脱獄か釈放かで一歩でも外に出てみろ。

 

 ――――――俺はどんな手を使ってでもお前を殺す

 

 

 こいつの懐に幼虫サイズのG型魔道具を忍ばせる。この魔道具からの定期連絡や盗聴を利用すれば、いつでも情報の知ることができる。

 俺がそう脅すと、サルモネラは痙攣(けいれん)のように首を上下した。ようやく敵対の意志をへし折ることが出来たようだ。

 

 ふぅ、と一息ついて、サルモネラを脅した時の肩の力を抜くと、俺はこのままこのバイ菌野郎を引き取ってもらうべく、トランシーバーでコリアンダーに繋いだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 コリアンダー経由でアルシーヴちゃんに連絡し、コリアンダーや衛兵を呼んで貰って、サルモネラを引き渡す。

 

 俺は結局、依頼書の件については報告せず、独自で隠し持っておくことにした。

 召喚されるクリエメイトの顔と名前、破格すぎて怪しさ満点の報酬。アレは今のアルシーヴちゃんに見せたら絶対マズい。

 元社会人なだけあり、報連相を怠ることに僅かな罪悪感はある。でも、彼女の精神状態からして、ソラちゃんを一刻も早く助けなければならないのに神殿内の人間も簡単に信用できない、となったら、ますます一人で抱え込んでしまう。あいつの幼馴染としては、そんなことにはさせたくない。ソラちゃんも望まないだろうしな。

 

 

 それに、この問題の答え(裏切り者の正体)は俺が最も知っているのではなかろうか。

 

 メタ視点で考えると、アルシーヴちゃんはソラちゃんの呪いを解くために『オーダー』を行使する。直属の部下たる賢者達は、『オーダー』で召喚されたクリエメイトからクリエを奪うために動く。アルシーヴちゃんの思惑を知っていたのは、女神襲撃事件に偶然立ち会ったハッカちゃんのみ。

 つまり――――俺の予想では、盗賊団やサルモネラに依頼した黒幕は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』ということになる。

 

 だが、これは犯人を絞り込めた、ということにはならない。

 なぜなら、神殿の人間は下っ端や女神候補生もあわせると2万近くはおり、罪人の処罰関連で絞っても数百人はいるからだ。とても一人で調べる気にはなれない。

 色々と偉そうな異世界転生主人公ヅラをして考察してみたが、結局のところ、俺の持っている知識では、『賢者達とアルシーヴちゃん、ソラちゃんは白だ』ということしか分からないのだ。

 

 

「ローリエ、そんな顔をしてどうした? 悩み事か?」

 

「ッ!!!?」

 

 

 意識外から突然かけられた言葉に体全体が跳ねる。

 

 

「お、おい、そこまであからさまだと逆に聞きたくなくなるぞ」

 

「なら、そのままそっとしておいてくれませんかねぇ……?」

 

 そこでコリアンダーの方に顔を向ける。すると、俺の顔を見るや否や、ちょっと心配そうな表情が、だんだんと不思議そうなものに変わっていく。え、なに?

 

 

「ローリエ……お前、そんな目してたか?」

 

 

 いきなりそんな意味の分からないことを言ってきた。つまり……アレか。喧嘩売ってるんだな?

 

 

「なんだ? 俺の目がいつもの小宇宙(コスモ)みたいにきらきらとときめく目になってねーとでも言いてーのか?」

 

「言ってねーよ! なんだコスモって!? そんな話じゃないわ!」

 

「喧嘩を売っているのなら言い値で買おうか。G型魔道具(ゴ○ブリ)払いで。神殿中の美女を巻き込んで」

 

「マジでやめろ。お前なら本気でやりかねない……」

 

 当然だろ。脅しみたいなのは実行しなければ意味がない。

 

「俺が言ってるのはそういうことじゃない。()()()()()()()()()()()()()ってことだ」

 

「……ひょ?」

 

 コリアンダーの言った意味が理解できなくて、インセクターみたいな変な声をあげてしまう。

 

「それって、どういう……」