きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者 (伝説の超三毛猫)
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おまけ:脇道に逸れすぎると作者も読者も絶対飽きちゃう編
ゲーム・きららファンタジア風ボイス集:ローリエ


これは、『もしローリエがきららファンタジアに登場したら』をコンセプトにしたセリフ集です。逐一更新していきたいと思います。

2020/3/20:称号を追記しました。
2020/4/8:プロフィールとCVを追記しました。
2020/4/23:挿絵を追記しました。兎秤さん、素敵なイラストをありがとうございます。
2020/4/24:クリエメイトコミュを追記しました。それに伴い、称号を追記および称号取得条件を明記しました。


プロフィール&登場作品&CV

神殿の技術開発を行う、八賢者唯一の男性。

見目麗しい女性が大好きで、よくナンパをする。

前世からの知識と技術を活用し、敵を圧倒する。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:中途半端な田舎の魔獣

 

 

【挿絵表示】

 

 

召喚時(☆5せんし)

「可愛い女の子が出てくると思った?

 残念!俺でしたー!ハハハハ!!

 クーリングオフはないから、

 諦めるんだな!せんしとして活躍

 できるのだけは確かだから、そんな

 この世の終わりみたいな顔すんな!」

 

 

タイトルコール

「きららファンタジア。さぁ、ゲームの始まりだ!」

 

ゲーム起動時挨拶

「待ってたぜ……歓迎しよう、盛大にな!」

「おはようさん。今日の調子はいかがかな?」

「寝る時間はしっかり確保しとくんだぞ?」

 

ホーム画面会話

①「俺はローリエ。八賢者唯一の男だ。それなりの腕を持つ技術者兼発明家でもある。」

②「画面の前の君にだけ教えよう。実は俺も…かつては君と同じプレイヤーだったんだ。*1

③「アルシーヴちゃんとソラちゃんはね、俺の幼馴染なんだ。羨ましいだろ?」

④「誰もが夢見る『転生』。体験した身から言わせてもらうが……考えものだよ、本当に。」

 

ルーム会話

「女の子だらけの部屋に男は俺一人………閃いた!」

「あ、シュガーとソルト用のおやつ買うの忘れてた……」

「セサミのアレ…()()とは言わんが……悪魔的だよな」

「カルダモンはお得意様だよ。ナイフのメンテをしてるんだ」

「ジンジャーの前で猫じゃらしを揺らしたい!……殴られそうだけど」

「流石のフェンネルもここまで追ってはこねーだろ」

「ハッカちゃんとはゲームの趣味が会うんだよな」

「アルシーヴちゃんの可愛い所? ……フフ、秘密だ♪」

「ソラちゃんめ……また神殿を抜け出しおったな」

「うぅむ、まさか俺がここに来ることを許されるとはね……」

 

里訪問

「クリエメイトと研究と称して親睦を深めるのは最高だな!」

「クリエメイトの百合カップルは基本ノータッチだ」

「次の授業教材はなににしましょうかねぇ……」

「ほう…この教材、使えるな……ッ!!」

 

クエスト出発

「エスコートは必要かな、マドモアゼル?」

 

バトル開始or交代時

「このローリエに万事任せなさい!」

「敵は倒すのみ。合理的に行こう」

 

サクッと攻撃

「そらっ!」

「そいやっ!」

 

ガッツリ攻撃

「オラァッ!」

 

攻撃スキル

「さて…避けるなよ!」

「コレで決めるぜ!」

「ソー○スキル…発動ッ!」

 

補助スキル

「打てる手は打っておこう」

「もう大丈夫だ」

 

応援スキル

「君ならできるさ…!」

 

とっておき発動

「さぁ……お仕置きの時間だ!!」

「俺ちゃんのカッコいいところ、見せちゃいましょうか!」

 

ダメージ

「おうっふ」

「タコス!?」

「ぎゃーす!?」

「おいやめろ!」

 

状態異常

「味な真似を…ッ!」

 

戦闘不能

「ば、バカな……!?」

 

バトル勝利

「いつもこうありたいねぇ」

「みんななら出来ると信じてたよ」

 

バトル敗北

「だぁ~~! 負けた負けた!!」

「作戦の練り直しだな、こりゃあ」

 

タッチボイス

「野郎をつつくなんて…君も物好きだねぇ」

「悪いが俺は女の子しか愛せないんでね」

「君って、女の子を喘がせるまでタッチするタイプかな?」

「お前絶対全員をタッチしまくるタイプでしょ〜?」

 

レベルアップ時

「テッテレー! ローリエはレベルが上がった!」

「ほうほう………なるほどね…!」

 

限界突破時

「このローリエに限界などないのだ!」

「新たな境地を見たぜ……!」

 

進化時

「この俺に惚れないように気をつけな?」

 

ミッション表示時

「君に頼みたい事がある。手を貸してくれないか?」

 

ミッション達成時

「流石だね。君ならやれると信じていたよ。」

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

クリエメイトコミュ

 

No.1:ローリエをパーティに編成し任意のクエストを50回クリアする

報酬:ローリエのポスター(ルームアイテム)

 

No.2:ローリエのとっておきのレベルを20にする

報酬:

 

No.3:同じCVのキャラクターを3人以上パーティに編成して任意のクエストを20回クリアする

報酬:称号『お嬢さん、俺とお茶しないかい?』

 

No.4:同じCVのキャラクターを6人パーティに編成(助っ人含む)して任意のクエストを5回クリアする

報酬:エトワリウム

 

No.5:きららとアルシーヴをパーティに編成してローリエに1回勝利する(助っ人でも可)

報酬:称号『輪廻する魂の銃士』

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

獲得できる称号

 

【八賢者】

称号取得条件:ローリエ(☆5・せんし・陽)を加入させる

 

【エトワリアの発明王】

称号取得条件:ローリエ(☆5・せんし・陽)のLv.を最大にする

 

【お嬢さん、俺とお茶しないかい?】

称号取得条件:ローリエのクリエメイトコミュNo.3をクリアする

 

【輪廻する魂の銃士】

称号取得条件:ローリエのクリエメイトコミュNo.5をクリアする

*1
ローリエには、ゲーム『きららファンタジア』の記憶がある。故にこのような第四の壁の破壊の真似事が可能。



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ゲーム・きららファンタジア風ボイス集:アリサ

こちらは、『もしアリサがきららファンタジアに登場したら』をコンセプトにしたセリフ集です。


※拙作のネタバレ要素を一部含んでおります! 先にプロローグから始まる本編を読んでおくことをお勧めします!!











2020/4/23:挿絵を追記しました。兎秤さん、素敵なイラストをありがとうございます。
2020/4/24:クリエメイトコミュを追記しました。それに伴い、称号を追記しました。


プロフィール&登場作品&CV

人里離れた森の中に住んでいた、呪術師の末裔の少女。

天涯孤独になった所をローリエに誘われ、八賢者の助手となる。

呪術だけでなく、攻撃魔法の才にも長ける。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:声優姉弟のまれいたそ

 

 

【挿絵表示】

 

 

召喚時(☆5まほうつかい)

「初めまして。

 呪術師のアリサ・ジャグランテと申します。

 呪術といっても、怖いものばかりじゃないんですよ?

 包丁と一緒。上手く使えば、

 人を感動させることも出来るんですから!」

 

タイトルコール

「きららファンタジア。必ず、不燃の魂術を滅ぼす…!」

 

ゲーム起動時挨拶

「行こう、みなさん。準備は万端です。」

「おはようございます。今日の職務を始めましょう。」

「すぅ……すぅ…はっ! ご、ごめんなさい!!」

 

ホーム画面会話

①「アリサです。神殿で賢者の助手として働いています。」

②「いつか呪術が、偏見なく怖いものじゃないって分かってくれたらいいなぁ……」

③「兄さんは、私の憧れなの。私を守ってくれたし、誇ってくれたから……」

④「ずっと森の中で暮らしてたから、人が賑わう場所って憧れるんです!」

 

ルーム会話

「またローリエさんが綺麗な人に声をかけてました…」

「女神様って、思ったよりも破天荒な人ですね」

「筆頭神官さまっていつお休みになっているんだろう…」

 

里訪問

「賢者って、仕事多いんですね……助手が欲しがられる訳です……」

「ローリエさんの女癖には、ほとほと困ってしまいます…」

「こ、この光は……!!」

 

クエスト出発

「それでは行きますよ。」

 

バトル開始or交代時

「敵が出ましたね…」

 

サクッと攻撃

「はっ!」

「てやっ!」

 

ガッツリ攻撃

「はああっ!!」

 

攻撃スキル

「ムズいこと言ってくれる……っはっ!!」

「楽には反撃させないわ!」

 

補助スキル

「落ち着け…精神を統一させるの…!」

「私がやらなきゃ…!」

 

応援スキル

「頑張ってください!」

 

とっておき発動

「兄さん見てて。きっとやり遂げるから…!」

「手加減ナシで行きます!せーのっ!」

 

ダメージ

「やば!!?」

「ぐっ!?」

 

状態異常

「なんなの……!?」

 

戦闘不能

「きゃあああああっ!!?」

 

バトル勝利

「やりました! 勝てましたよ!」

「皆さんと…兄さんのお陰です…!」

 

バトル敗北

「私が…守らなきゃ………私、が……っ」

 

タッチボイス

「やめてください。」

「真面目に戦ってください!」

 

レベルアップ時

「兄さんのように…強く……!」

「兄さん…私、強くなれたかな……?」

 

限界突破時

「殻が破れた音がしました……!!」

 

進化時

「これより更に……強くなる……!?」

 

ミッション表示時

「すみません。手が空いていましたら、こちらをお願いいたします。」

 

ミッション達成時

「ありがとうございます。またお願いしますね。」

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

クリエメイトコミュ

 

No.1:アリサをパーティに編成し任意のクエストを50回クリアする

報酬:アリサのポスター(ルームアイテム)

 

No.2:アリサをパーティに編成し任意のクエストを200回クリアする

報酬:

 

No.3:アリサの専用ぶきのレベルを45にする

報酬:称号『兄さんは私の心の中に』

 

No.4:アリサのとっておきのレベルを25にする

報酬:エトワリウム

 

No.5:水属性のキャラを6人パーティに編成(助っ人含む)してアリサに5回勝利する

報酬:称号『私が守ります!』

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

獲得できる称号

 

【賢者の助手】

称号取得条件:アリサ(☆5・まほうつかい・風)を加入させる

 

【誇り高き魂の妹】

称号取得条件:アリサ(☆5・まほうつかい・風)のLv.を最大にする

 

【兄さんは私の心の中に】

称号取得条件:アリサのクリエメイトコミュNo.3をクリアする

 

【私が守ります!】

称号取得条件:アリサのクリエメイトコミュNo.5をクリアする



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ゲーム・きららファンタジア風資料集:敵編その①

こちらは、『もしオリジナルの敵キャラがきららファンタジアに登場したら』をコンセプトにした設定資料集です。


※拙作のネタバレ要素を盛大に含んでおります! 先にプロローグから始まる本編を読んでおくことをお勧めします!!


































攻略本風に書いているので、ご了承ください。では、どうぞ。
※2020-8-2:ビブリオの鉄球攻撃の威力を修正しました。



 

〜サルモネラ〜

 

プロフィール&登場作品&CV

砂漠にたった一人で住まい、そこを通る商人や旅人を襲う、一匹狼の盗賊。朱色の目と男らしからぬ黒いロングヘア、砂漠にて自然色になる砂色のフード付ローブが特徴。

趣味と実益を兼ねて襲撃を行い、人からものを奪う事を当然のことと考えている。

本編では『エピソード4(さばくぐらし?)』に登場。戦えないクリエメイトを優先的に狙った。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:しょうなのぉ!?で有名なあの人

 

 

エネミー情報・サルモネラ

属性:炎

HP:24500(メイン)

   198875(ハード)

   ???(チャレンジ)

チャージカウント:3

 

[行動]

 

クリエメイトの命、貰い受ける!……自身のCRI率が中アップ

射る……一体に炎属性(物理)ダメージ

連続で射る……一体に炎属性(物理)の連続ダメージ

ハイド・ミラー……自身のCRI率が中アップ&全体のATKが中ダウン

精密射撃……自身の次回行動時の攻撃を確定クリティカルにする

【必殺技】弱い奴からやるのは狩りの定石だろ……一体に炎属性(物理)ダメージ。そうりょ・まほうつかい・アルケミストが狙われる確率が高い。

 

 

[解説]

 サルモネラは、とにかくクリティカル率のバフを上げて襲いかかってくる。その為思わぬ大ダメージに注意だ。

 また、必殺技の『弱い奴からやるのは狩りの定石だろ』は、ナイトの挑発をそれなりの確率で抜いて後衛キャラを狙ってくる。運が悪いとナイトを無視してそうりょやまほうつかいが倒されてしまうことも。火力を重視して矢を数打たれる前に押し切ってしまうと良いだろう。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

〜ビブリオ〜

 

プロフィール&登場作品&CV

顔にまで脂肪が回るほどの肥満体型と成金趣味のコーディネート・宝石飾りが特徴の大男。

かつて『イモルト・ドーロ』と数々の商会を経営し、悪辣な方法で私財を肥やしていた悪徳商人。ドリアーテの資金源になることで彼女に取り入る。

本編では『エピソード6(ブレンド・I)』に登場。苺香を商品化しようとしたり、人質としたり、金にものを言わせて数で取り囲んだりと、あくどく卑怯なことを積極的に行う。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:二代目波平

 

 

エネミー情報・ビブリオ

属性:陽

HP:48530(メイン)

   159900(ハード)

   ???(チャレンジ)

チャージカウント:6

 

[行動]

ただで済むと思わないことだぁな!……自身に7回まで攻撃を無効化するバリアを張る

薙刀払い……一体に陽属性(物理)ダメージ

金は出してやるんだぁぁな!……味方全体のDEFとMDFが大アップ

やっちまうんだぁぁな!……味方全体のATKが大アップ

強制開放―怪力……自身以外の味方のDEFとMDFを特大ダウン、次回行動時のATKを特大アップ

強制開放―剛脚……自身以外の味方のCRI率を特大ダウン、SPDを特大アップ

か、金をやる…だから見逃して、……自身のチャージカウントを−1する

かかったな、バァァァカ!……全体に陽属性(物理)ダメージ&SPDを大ダウン

サブジェクト……一体にこんらん付与

お、オラを守るんだぁぁな!……自身に3回まで攻撃を無効化するバリアを張る

鉄球ぶん回し……全体に陽属性(物理)の割合ダメージ(残りHPの10%)

はげしい鉄球ぶん回し……全体に陽属性(物理)の割合ダメージ(最大HPの25%)

も…もう、許して… ……自身のチャージカウントをゼロにする。

全財産あげますから… ……自身のチャージカウントをゼロにする。

助けてほしいんだぁぁなぁぁ……自身のチャージカウントをゼロにする。

【必殺技】正しい仲間の使い方……全体に陽属性(物理)ダメージ&自分以外のキャラのDEFが小ダウン。

 

 

[解説]

 ビブリオは、おともにクロモンソルジャーと同じ見た目の「やとわれ傭兵(陽属性、HP7000[ノーマル]、20000[ハード])」×2と共に出現する。基本的には味方へのバフを撒き、高みの見物を行うが、やとわれ傭兵が倒されて自分だけになると「か、金をやる…だから見逃して、」を使い、その後「かかったな、バァァァカ!」を使ってから鉄球をぶん回したり「サブジェクト」を使うようになる。鉄球を使った攻撃は、軽減する事が出来ないので注意。

 なお、やとわれ傭兵がいる状態でHPが半分以下になると「お、オラを守るんだぁぁな!」を使い始める。また、やとわれ傭兵がいない状態でHPが10%を切ると「も…もう、許して…」「全財産あげますから…」「助けてほしいんだぁぁなぁぁ」しか使わなくなる。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

〜セレウス〜

 

プロフィール&登場作品&CV

みすぼらしい格好と無精ひげをたくわえた、怪しい男。

かつて神殿に所属していたが、高すぎる自尊心と歪んだ価値観が災いし追放された。慇懃無礼な性格で己を何よりも最上とし、あらゆる人間を見下している。

本編では『エピソード7(きんいろパニック)』に登場。霧の分身を作り、視界を遮る魔法でローリエときらら達を苦しめた。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:天元突破派手柱の人

 

 

エネミー情報・セレウス

属性:水

HP:52070(メイン)

   200000(ハード)

   ???(チャレンジ)

チャージカウント:4

 

[行動]

煙霞(えんか)……自身の土属性耐性&DEF&MDFがアップ

斑蛇腹(まだらじゃばら)……一体に水属性(物理)ダメージ&低確率でかなしばり付与

霧裂き……一体に水属性(物理)ダメージ

霞初月(かすみそめづき)……一体に水属性(物理)ダメージ&中確率でかなしばり付与

ここを死に場所と愚考しろ……何もしない。

瞬技(しゅんぎ)霧々舞(きりきりま)い……全体に水属性(物理)ダメージ&全体の状態異常を解除

渦巻霧(うずまきり)……自身に1回までダメージを−80%するバリアを張る&自身の炎・陽属性耐性を中ダウン

水鎌霧(みずかまきり)……全体に水属性(魔法)の固定ダメージ(700)

雲合霧集(うんごうむしゅう)……全体のCRI率と水属性耐性を特大ダウン、自身の炎・陽属性耐性を中ダウン

五里霧中……自身の次回行動時のATKが大アップ

【必殺技】幻影霧揉矢刃嵐(きりもみやばあらし)……全体に水属性(物理)ダメージ&低確率でかなしばり付与&自身の炎・陽属性耐性を中ダウン

 

 

[解説]

 セレウスは、土属性耐性と防御力を上げつつ状態異常(かなしばり)を絡めた厭らしい攻めをしてくる。かなしばりになる事がある斑蛇腹と霞初月はかなしばりでないクリエメイトを狙ってくるため、ナイトのヘイト効果を絶やせない。また、こちらのクリエメイト全員がかなしばりになると、ひと行動置いた後に「瞬技・霧々舞い」という高火力の全体攻撃をしてくるので、状態異常には十分注意しよう。

 セレウスは戦闘中に炎属性と陽属性の耐性が徐々に下がっていく。また、長期戦になると「煙霞」の土属性耐性が上がっていくので土属性の仲間だけでなく陽属性、最悪炎属性の仲間も入れておくといいだろう。

 

 

 



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UA4000突破記念閑話:三人の幼馴染

今回の話は、タイトル通り感謝の話であり、ちょっとしたおまけパートとなります。
時系列は、ソラが女神になってから~女神襲撃事件までの間です。


 最後の書類のサインを確認した私は、羽根ペンを置きふぅ、と一息をつく。筆頭神官はやることが多い。各部署からの報告を受けて政策の指示、女神候補生の教育、女神様の聖典編纂の補佐および歴代女神の聖典の管理………今日はその多忙な日々の中でも、珍しく日が沈みきる前に仕事が終わった日だった。

 

 

「お疲れ様でした、アルシーヴ様」

 

「お疲れ様でした」

 

「ああ。お疲れ、セサミ、フェンネル」

 

 

 常に仕事を補助してくれる秘書のセサミと身辺警護を欠かさず行うフェンネルに労いの言葉をかけ、書斎から出ていく。

 

 

「………二人とも、どうなさいましたか」

 

 

 扉を開けた時、そこにいたのは―――二人の幼馴染だった。

 一人はウェーブのかかった金髪を宇宙がデザインされたヴェールで包んだ、ローブ姿の女性。蒼く優しい瞳と落ち着いた佇まいは、ほぼ毎日のように忍んで街へ抜け出す奔放さがあるとは思えない、美しく儚げな印象を見る者に与える。ユニ様から女神の座を継承した人。名をソラという。

 もう一人は緑髪とオレンジ&金色のオッドアイの整った顔つきが特徴的で、ダークカジュアルな格好に黒い外套を纏った男。背丈は私よりも高く、腕から伺える筋肉は、私に男性的な印象を与える。黙っていれば、神殿……いや、エトワリア一の女好きなロクデナシには到底見えないだろう。彼は八賢者の黒一点で、名をローリエという。

 

 

 私はこの二人とは、幼い頃からの友人だ。幼馴染というやつである。

 生まれ育った言ノ葉の樹の都市で、三人色んな遊びをし、悪戯を仕掛け、魔法を勉強し、時に怒られながらも楽しい時期を過ごしてきた。

 

 ただ……ソラもローリエも、とんでもないトラブルメーカーだったせいで、私が高確率で巻き込まれた。

 ソラは、好奇心旺盛で、自由が好きな人だ。今も神殿を抜け出すのがいい証拠だ。ローリエも、後先考えずに思いついたことはすぐにやるのだ。それが悪戯なら尚更嬉々としてやるだろう。

 

 

 故に、今のように二人が笑顔で揃うと、禄なことがおきないと学んでいる。ふざけ半分で吹き込まれたローリエの『様式美』とかいうやつをソラは信じてしまうからだ。

 

 

「アルシーヴ!」

「アルシーヴちゃーん!」

 

 

 

「「飲まないか?」」

 

 

 二人がぶっこんだこの一言で、私はこの幼馴染たちに他人行儀とはいえ話しかけたことを後悔した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ―――私は酒は苦手だ。

 

 筆頭神官たるものが、と意外と思うかもしれないし、予想通りだと思うかもしれない。

 

 だが別に神殿の規律だから、とかそんなつまらない理由を述べるつもりはないし、飲めないからという訳でもない。

 

 むしろ、私は酒に強いほうだ。

 言ノ葉の都市に流入してきた十数種類もの様々な酒を飲み比べ、味や風味を楽しみ、それでも頬の紅潮だけで済み、両の足でまっすぐ歩いて帰れるほどには強い。少なくとも酔いつぶれた記憶はない。

 その強さは、酒豪のジンジャーにも太鼓判を押されたほどだ。

 

 

 そこまで酒に強くあるのにではなぜ苦手なのか、というと。

 

 

 

「うみゅぅ………あるしーぶ……」

 

「おいおっさん、つまみとわいんおかゎり………」

 

「はぁ……」

 

 

 誰かと飲むと、殆どの確率でそいつの介抱をせざるを得なくなるからだ。

 

 

 

 

 現在、私は『様式美』を吹き込まれたソラ様と、それをしでかした実行犯のローリエの幼馴染二人が出来上がっていくさまを、共に都市の「屋台」なる露天の酒場でため息混じりに見ていた。

 

 

「………すまないな、店主殿。神殿の重役三人で押しかけた挙句、みっともない姿を露呈させてしまって」

 

「……いや、かまいません、アルシーヴ様。

 今宵のことは、出来るだけ忘れる事にします。」

 

「有り難い」

 

 

 空気の読める店主の粋な気遣いがなければ、女神と賢者のイメージががた落ちする所だった。

 

 

「あるしーぶぅ、おしゃけの減りが遅いわよ!

 もっとのみなさい!」

 

「ソラ様はいい加減自粛なさって下さい。もう呂律が回っていないじゃあありませんか」

 

「そうだぞう、そらちゃん。『さけはのんでものまれるな』っていうし、おれのおやじとおふくろだってそのトラブルからけっこんすることになったんだぞぉ」

 

「現在進行形で酒に呑まれてる奴は黙ってろ」

 

 

 二人は、「女神なんだからお酒くらい飲めないと」とか、「心は酒に慣れた30代だぜ?」とか威勢のいい事を飲む前に言っていたが、結果はご覧の有様である。

 まさか、幼馴染が二人揃って下戸な上に絡み酒だとは思わなかった。お陰で面倒くささが倍増だ。

 

 ソラ様は現在、私に「酔いなさい」と焦点の合わない目と呂律の回らない口で迫っているが、度数の低い果実酒1杯半でこうなるのはいささか弱すぎるのではないか。

 

 ローリエもローリエで、ワイン1杯で聞いてもいないことを喋りだした。驚いて見れば、顔はトマトのごとく紅潮し様子が明らかにおかしくなっていた。

 

 

「アルシーヴ! きいてるのでしゅか!

 そんにゃにわたしはめんどくさい女ですか!!?」

 

「アルシーヴちゃん、おれのおやじとおふくろはな、さけのんでてきづいたらほてるのべっどでふたりきりでねてたんだって。そっからつきあいだしたんだよー!

 さすが、えっちからはじまる恋もあるんだねー」

 

 

 ソラ様、今回ばっかりは面倒くさい女だと言わざるを得ませんよ。

 ローリエ、自重しろ。お前の両親の話なんて聞いてないし、事実だったらただの不祥事だろうがそれは。

 

 仮にも人の上に立つ存在なのに、それが二人も酔っている状況になっても尚、正気を保てる自分が恨めしい。ここで正気を吹っ飛ばせればどれだけ良いことか。

 

 絶対明日あたりに、二人には幼馴染のよしみで忠告しておこう。「絶対に外で酒を飲むな」と………

 

 

「もういーもん! のまないなら、わたしがのんじゃうもん!」

 

「おー! いけー、そらちゃん!!」

 

「まぁせてろーりえ! ―――んっ、んっ、んっ、んっ、ぷはぁーー!!」

 

「お体に障りますよ、ソラ様」

 

「わー! わー!! そらちゃん!!! アルシーヴちゃん、体に触るって! きゃー! アルシーヴちゃんのえっち! けっこんしろー!!」

 

「黙れローリエ」

 

「ううぅっ、世界が回る……」

 

「もうフラフラじゃないですか。仕方ないですね」

 

「サイコーにハイってヤツだァァアーーーーーーーーッ!

 フハハハハハハハハ!!!」

 

「静かにしないか!」

 

 

 ただでさえ酒に弱いのに、コップに残った果実酒を一気飲みしたことがトドメとなって潰れた女神様を背負い、深夜に騒ぎ出す馬鹿一人の手を引っ張りながら、とっとと勘定を終わらせることにした。

 これ以上は、この二人が何かやらかしかねんからな。

 

 

 

 ソラ様を背負い、ローリエに肩を貸しながら、神殿への道を街灯の薄明かりのみを頼りに歩き出す。

 

 ソラ様は既に潰れてしまったため意識はない。ローリエも、肩を貸さなければ、帰ることすらかなわないだろう。

 

 初めて酒を飲んだ時に己の酒の強さが判明した時から、数回はやっていたことだ。二人の幼馴染に飲みに誘われた時からこうなるだろうとは思っていたが、二人が揃って酒が入ると悪い方向に豹変するとは思っていなかった。

 ソラ様が寝落ちしてしまったのことは、酔っぱらい一人に集中して対応できるという点では不幸中の幸いだろう。

 

 

「アルシーヴちゃぁーーん……」

 

「………抱きつくな。あと、胸を触るな」

 

 ローリエが抱きついてきて、胸に男の手がくっついてくる。ソラ様を背負っているため、下手に振りほどくことも反撃することもできない事を知った上で、わざとやっているのだろう。……明日を楽しみにしてろよ。

 

 

 この男は、なぜここまで節操のない女好きになってしまったのだろうか。出会った時は、そんな気配は微塵も感じなかったというのに。

 

 

 彼と出会ったのは、5歳くらいの時だ。

 女神になる前のソラと遊んでいた時、街の広場で一人、なにかを弄くっていたのをソラが見つけたことに始まる。

 ソラが怪しげに見えた彼を見つけるなり、『なにしてるの?』と声をかけたのだ。その時私は、『怖そうだからやめよう』と言った。

 だが彼はソラの呼びかけに対し、まず驚きに目を見開いて、その後すぐ嬉しそうに話し始めたのだ。

 それからというもの、私達は三人で仲良く遊ぶようになった。どんな悪戯も、共にした。

 

 

 ―――あの日までは。

 

 

 その日の夜、私達の元に突然盗賊が現れたのだ。ソラは腰を抜かし、ローリエもあまりの恐怖に逃げ出した時、私は思ったのだ。

 

 この二人を守らなくてはと。

 

 だが当時魔法に長け、天才扱いされていたとはいえ、まだ子供だった私がそいつにかなうはずもなく、腹をナイフで刺され、なにもできないままソラを攫われた。それ以降己の無力さを感じて、魔法の修行に打ち込んだ。

 

 

 その後、ローリエがソラを救出したことを、間もなく帰ってきたソラ本人の口から聞いた。

 数年後に、二人っきりの礼拝堂にて彼自身から事の顛末を聞いた時は、驚きと同時に、無鉄砲な彼への怒りと、親友がいなくなるかもしれない恐怖と悲しみに、気が付けば奴の首根っこをひっとらえていた。

 

 それ以来、私は更に仕事と修練に時間を費やすようになったのだ。

 もう二度と、私の幼馴染を傷つけさせない為に。

 これ以上、私の幼馴染の手を汚させない為に。

 

 

 

「アルシーヴちゃん」

 

「!」

 

 

 ローリエから声がかかる。

 

 

「俺……今度こそ、二人を守るよ」

 

 

 何から、とは言わない。酒が未だに抜けていないようで、目の焦点があっていないように見える。どうせこれもたかが酔っ払いの戯言、と笑いながら流してもいいはずなのに。

 

 彼の発言があまりに心当たりのある言葉だったせいで、その機会を失ってしまった。

 

 

 

 

「ばかなことを言うな。二人を守るのは……この私だ」

 

 

 

 だったら。

 それならば、今くらい正直に返そう。

 どうせこの会話を覚える人など私以外にはいまい。ソラは私の背中の上で眠っているし、ローリエは酔っていて覚えやしないだろう。

 

 

「そのために強くなったんだから」

 

 

 ぽつりぽつりと呟く。誰にも……隣のローリエにさえ、聞こえないように。

 こんなことを喋ってしまったのも、顔が徐々に熱くなっていくのも、酒とつぶれた親友二人が密着しているせいだと、思いたかった。

 

 

 

 

 



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UA10000突破記念閑話:ごせんぞ、夢を歩く

「きらファン八賢者」総合UAが1万を突破しました!応援、ありがとうございます!!
これからも、より面白い執筆を心掛けていきたいと思います!

今回の特別編は、リリスの親密度イベントを元に作りました。
それでは、どうぞ。


 余の名はリリス。

 偉大なる闇の一族の始祖である。

 

 現在、余はエトワリアなる異世界にシャミ子と宿敵の魔法少女二人と共に召喚され、実体を得ていつもより力が使える状態だ。

 

 

 ならば……始めようか。

 ―――『エトワリア征服計画』を!

 

 だが、桃やミカンにバレてしまっては上手くいく気がしないので、夢の中に入りこむ力を使って情報収集から始めるとしよう。

 

 ターゲットは決めている。

 ―――ローリエ・ベルベット。この男だ。

 最初は次期女神候補生という優秀な肩書を持ち、クリエメイトの知識量に長けたランプの夢に入ろうと思ったのだが、有力な情報が手に入ったのだ。

 この男、ランプの教師らしい。それでもって、奴の作る聖典学とやらの問題に、ランプが頭を悩ませているのを目撃した、との情報を手に入れた。クリエメイトの知識は、ランプよりあると見た。

 更にこの男、筆頭神官アルシーヴや女神ソラ、そして他の賢者達からも信頼を得ているようなのだ。

 

 つまり、奴から情報を集め、崩せば、エトワリアは簡単に我が物になるやもしれない……!

 

 ちょうど、奴は眠っているしな。そうと決まれば、早速奴の夢へ潜入だ!!

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 そこは、シャミ子の住んでいたマンションの片隅の、居間のような場所だった。

 ただでさえ狭い部屋の整理整頓は行き届いておらず、本が散乱している。表紙の絵柄から察するに、マンガ、だろうな。しかし、多いな。こやつ、どれだけ集めておるのだ?

 

 部屋の奥から音がする。ローリエだろうなと思いながら待ち構えていると、やってきたのは違う男だった。

 

 緑とは世辞にもいえない、真っ黒なはねっ毛の頭髪と、両方とも黒い目をした、冴えない男だったのだ。ここはローリエの夢のはずなのに………誰だこやつは?

 

 

「……??? あれ、お客さん、ですか?」

 

 目の前の男は、きょとんとした不思議そうな顔で尋ねてくる。

 どういう事だ……夢の中なのに、余のことを認識しているだと!? 相当の強い意志があるか、こちらから話しかけでもしない限り気づかれないと思ったのだが……まぁいい。こやつも、余について完全にバレた訳ではなさそうだ。

 

「そうだ。事前に連絡したであろう?」

 

「あれ、そう……でしたっけ?」

 

「今日がその日だろうが」

 

「そうか……もうそんな日か……ちょっとそこらの本でも読んで待っててください。お茶を用意しますんで」

 

 そう言って黒髪の男はキッチンへ引っ込んでしまった。

 存在を認識されたとしても、余がリリスであると認識されなければ、まったく違う人物として忍び込む事ができる。これなら問題ない。

 

 さて、情報収集を再開しようか。

 

 奴のお言葉に甘える形で、近くのマンガを手に取る。

 表紙には、「ひだまりスケッチ」と書かれていた。

 

 私立高校の美術科に通う学生、ゆのと宮子、ヒロに沙英の小アパート・ひだまり荘での日常を描いたマンガ作品か……

 マンガを読み進めていくと、気になる事ができた。

 

 

「余の出会った人物に酷似してないか……?」

 

 例えば、このマンガに描かれているヒロと沙英。余の邪神像騒動で出会った二人とよく似ている。

 特に―――このヒロの常に体重を気にしている所など、余の知っている、体重が増えなくなる像に心が揺れていた彼女そのものだ。

 

 何故、こんなものがあるのだ?

 不思議に思い、マンガから目を離すと、偶然目に入ったものに度肝を抜かれた。

 

 

「……()()()()()()()()()()()()()だとッ!!?」

 

 

 そう。散らばる本の中に、シャミ子と変身した桃が描かれている本を見つけたのだ。タイトルには「まちカドまぞく」と書かれている。

 

 何のためらいもなくそのマンガを手に取ると、すぐに開いて中を確認する。

 そこに書かれていたことは、余を更に混迷の道へと誘い込んだ。

 

 

「封印された魔族……15歳で魔族に目覚めた吉田優子……魔法少女の千代田桃……なんだ、なんだコレは……!!?」

 

 

 そこに描かれていたシャミ子や桃の容姿や性格から、出会いの過程、地名、そして、余やシャミ子、桃やミカンの()()()()()()()()()が………余の記憶と一致していた。

 聖典なるものがあり、確かにエトワリアではこちらの様子を知ることができるとはいえ、これは異常だ。()()()()()()()()()()

 

 それに……夢というのは、記憶の整理であるとされるほど、記憶と密接な関係を持つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまりこの男は―――

 

 

「―――ええい! 偉大なる魔族の余がこの程度で恐れてたまるかっ!」

 

 そこまで考えて、マンガを投げ捨てる。そして、嫌な可能性を己を奮い立たせることで怖い想像を振り払う。

 

 そうして、マンガから再び目を離すことで気づいた。先ほどまで汚く散らかっていた、埋め尽くすほどのマンガの山が綺麗さっぱり、なくなってしまっていたのだ。

 いや、違う。一冊だけある。そこの表紙には、こう書かれていた。

 

 

ららフジア 密』

 

「要……密…………? 重要機密か!!」

 

 ところどころファミコンのバグのように文字化けしてて読めないが、おそらく、ローリエの記憶のうち、重要なものと奴が判断しているヤツに違いない!

 さ、さっき、ちょっと恐ろしい目に遭ったのだ。コレの内容くらい記憶して帰らないと割に合わん!!

 

「せめてこの情報だけでも持ち帰ってやる!」

 

 ページをめくる。

 

警告(けいこく)】これより(さき)()んではいけない

 

「……フン! 余がそんな注意書きに従うと思うたか!」

 

 ご丁寧に注意してきたそれを無視して、再びページをめくる。一体、何が書かれているのか……

 

 ランプの秘密か?

 仲間たちの弱点か?

 はたまた、神殿の最重要機密(トップシークレット)か!?

 

 余がスリルと期待に胸を膨らませながら、()くった先のページには―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エトワリアに生まれて最高の気分だ

 

 ―――と、たったその一文だけが書かれていた。

 

「………………………………は?」

 

 意味が分からなかった。

 なぜだ、この男はエトワリアの重要人物であるはずだぞ!? 

 そんな人物の最重要機密がコレだと!? そんなバカな!

 記憶はウソをつけぬ! 口先だけでは誤魔化す事ができたとしても、嘘をついた者の記憶が書き変わるなんてあり得ない! 記憶の勘違いはあったとしても、意図的に記憶を改竄(かいざん)することなどできる訳がない!

 

 だとすればこの一文は本当にローリエが思っている事だし、奴が周りに隠すべきと判断している事なのだ………

 ………が、だとするとより意味が分からん! 何だこれは!?

 

 そう思いながらページをめくる。

 

 

アルシーヴちゃんも、ソラちゃんも、賢者の皆も、きららちゃんも、ランプも、クリエメイト達も――

 ……みんながいる。それだけで俺は救われているんだ

 

「な……何だこれは…何だこれはッ!!?」

 

俺は皆の力になろう。かつてみんなが、俺の力になってくれたように

 

「クリエメイトの情報は……神殿の秘密はどこだっ!?」

 

俺の記憶は、墓まで持っていこう

 

「くそぅ! こんな情報では、エトワリア征服など出来るはずがない!」

 

彼女達が知っても、弊害を生むだけだ。俺のこの―――

 

「こんなことなら、ランプの夢に入っておけば………おや?」

 

 

 そこまで来て、さらっと入った情報が余の意識に引っかかった。

 今、重要な事が書かれていた気がするぞ。

 ページを先ほどとは逆方向にめくって、なんと書いてあったか確かめようとする。

 

 えー………っと、確か、これのひとつ前のページだったはず……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 夢 魔 リ リ ス は シ バ か れ た 』

 

 

「………………へっ??」

 

『 変 身 し た 千 代 田 桃 に シ バ か れ た 』

 

 

 背筋が凍った。

 シバかれたってなんだ!? 何故ここで今、あの魔法少女が出てくるのだ!? こんな事が書かれていたなら、余は見逃しはしなかった! 一体いつ―――

 

 

「―――この覗き魔め」

 

「ひっ!!?」

 

 聞き覚えのあり、かつ底冷えした声が響いた。

 ゆっくりと、錆びた人形のように振り向くと。

 

 そこには、変身を終えイメージカラーが合ってない桃色魔法少女な桃がいた。目は黒の絵の具で塗り潰した以上に暗い。

 しかも、そんな桃の後ろには見たこともない程に筋肉隆々な男が二人もいるではないか。意味不明過ぎて逆に恐ろしい。

 

 

「裁いてやるッ! まな板の上でナマス切りにされるのを待つだけのサバのようにッ!!」

「くたばりやがれベネット……」

「はいッ、サイドチェスト!!!」

 

 

「うわあああああーーーーーーーーーッ!!!!?

 知らない筋肉が二人もついてるぅーーーーッ!!」

 

 

 余は、あっという間に襲いかかってきた桃と見たこともない筋肉モリモリ・マッチョマン二人に捕まって。

 

 

「まぞく裁きじゃあァァァァァアアアアアァァァァァーーーーーーーーーーーーーッ!!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーッ!!?」

 

「地獄に落ちろベネットおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

「ベネットって誰ぇぇぇぇぇ(いだ)だだだだだだァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

「はいッッッッ‼‼ サイドチェストーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

「ひぎゃあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーー!!!?」

 

 

 

 関節やら投げ技やら……余は、これまでないほどにボコボコにされた。

 ―――覚えてろ、ローリエ・ベルベット!!

 これで勝ったと思うなよぉぉぉーーーッ!!!

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――今日という朝ほど、心臓が凍るという言葉が相応しい朝はない。

 

 ベッドから飛び起き、ある事実を―――『シャミ子のごせんぞ・リリスに夢の中に入られた』という事実を認識した俺は、既に細かい部分がおぼろげになっている夢を思い出していた。

 

 完全に油断していた。

 前世の夢を見ている最中にごせんぞがやって来て、前世の頃の俺の姿を見られた上に、かつて愛読していたまんがタ○ムきららの漫画(ひだまりスケッチやらまちカドまぞくやら)を読まれるとは。

 危うく()()()()()()()()()()()()()()()()()()すら読まれそうになった。もんも・大佐・街雄さんのジェットストリームアタックという名のセコムが間に合わなかったら冗談抜きで大変な事になっていたかもしれない。

 あらかじめごせんぞに侵入された時の対策用セコムを考えておいて本当に助かった。だが、念には念を入れなければ。

 

 

 身支度を済ませた俺は、きららちゃん達の里に転移して、シャミ子を探した。

 

「お、いたいた。シャミ子ー!」

 

「あれ? ローリエさん、でしたよね?」

 

「あぁ、そうだ。実は、君のご先祖様にお話があるんだけど……ちょっと像を貸してくれないかな? 話したいことが出来たんだ」

 

「話したいこと?」

 

「ちょっとプライベートな相談事でな……二人きりにしてくれると助かる」

 

「そういう事なら……でも、その像は大事に扱ってくださいね?」

 

「りょーかい」

 

 そうしてシャミ子から距離を取り、周りに誰もいないことを確認すると、ごせん像に話しかける。

 

 

「おいごせんぞ」

 

「誰が貴様のご先祖だ」

 

「昨晩、俺の夢に入りましたか?」

 

「…………入ってない」

 

「…………………『魔法少女千代田桃・サイドチェスト~ベネットを地獄へ落とせ~』」

 

「うわあああああああああああああ! 筋肉はヤメロオオオオォォォォォォッ!!」

 

「バッチリ入ってんじゃねーか」

 

 

 俺が夢の中で編み出したセコムの名前を出すと、トラウマレベルで反応した。下手にすっとぼけても無駄だと分からせた所で、本題に入る。

 

 

「―――あの夢の内容、誰にも話すなよ?」

 

「話すかァッ!! 思い出したくもないわあんな夢ッ!!! 何だったのだアレは!!? あんなに意味不明で屈辱的な目に遭ったのは初めてだぞ!!?」

 

 

 あらら。予想以上に俺のセコムがごせんぞに効いてるな。宿敵として知っている桃と、初見の筋肉モリモリ・マッチョマン二人が、ベストマッチに融合していたお陰かもな。

 

 

「もし誰かに話したら、夢に入られた事を桃ちゃんとミカンちゃんに伝えて、現実世界でも折檻して貰うからな」

 

「なんで脅すの!? 追い打ちの脅迫がエグ過ぎない!!?」

 

「言っとくけど拒否権はないぞ。何ならここでお前の像を粉々にしてもいいまである」

 

「怖い! この男怖い! シャミ子や、助けてくれーー!!! ローリエ貴様ァ、これで勝ったと思うなよぉぉーーーー!!」

 

「もう勝負ついてるから」

 

 

 像を粉々にする下りは流石にシャミ子に泣かれるから嘘だが、この様子なら、別に釘を刺す必要はなかったかもな。

 おそらくもう二度と俺の夢に入ってくる事はないだろう。仮に入ってきたとしても、もう一度筋肉モリモリなジェットストリームアタックで再び歓迎(ボコ)してやればいいだけだ。

 

 

 俺の秘密―――前世の記憶は、きっと今の仲間達には教えない方がいい。もう過ぎた事だし、慎重に伝えなければ幻滅されるだけだ。仮に秘密を話してもいいと思える程に信頼出来る仲に発展したとしても、話すかどうか、何を話すかは俺次第だ。

 

「ご、ごせんぞ!? 何があったんですかごせんぞぉ〜!!」

 

 そう改めて認識すると、自分のご先祖の声を聞いて慌てて助けに来たシャミ子の声が遠くから聞こえるのを確認し、どうやってシャミ子に言い訳しようかなと思いながら、秘密が守られたことに安堵のため息を一つついた。

 




キャラクター紹介&解説

リリス
 「まちカドまぞく」に登場する、主人公シャミ子のご先祖様。ランプより豊富な情報を求めローリエの夢に忍び込んだ結果、ローリエのドリームセコムに返り討ちにされるという、原作のランプの夢侵入イベントよりも酷い目に遭った哀れなまぞく。ローリエの前世の記憶に一番近づいた人物でもあるのだが、エトワリア征服のための情報収集に執心していたため、気づく事はなかった。

ローリエ
 リリスの夢侵入の標的にされた八賢者。一応、リリスの能力自体は知っていたので対策してはいたが、タイミングを誤ったため、リリスにあと一歩の所まで情報収集をされた。目覚めた後、リリスとの会話でセコムが有能だった事を知り安心する。

千代田桃
 ローリエの前世の記憶に『まちカドまぞく』の記憶がバッチリあった為に、ローリエの夢のセコムに採用された脳筋魔法少女。「桃はこんな事言わない」という台詞があったのも、全てはローリエの夢補正である。ちなみにローリエは「シャミ子が悪いんだよ」発言については「原作とアニメで言ってないだけ」派である。

ジョン・メイトリックス
 ローリエのセコムに採用された、筋肉の人その1。
 アメリカ映画『コマンドー』に登場する、元コマンドー部隊隊長にして大佐。娘の為に軍を退役するなど家族(娘)想いな性格で、拉致された娘を助ける為に敵一派をほぼ一人で壊滅させるという筋肉モリモリマッチョマンの変態っぷりを発揮する。シュワルツェネッガー氏が演じ、日本語版でのCVは屋良氏と玄田氏が担当した。
 ちなみにベネットとは、メイトリックスの元部下にして宿敵である。

街雄鳴造
 ローリエのセコムに採用された、筋肉の人その2。
 漫画『ダンベル何キロ持てる?』に登場する、シルバーマンジムのトレーナーを務める好青年。絵に描いたような人格者であり、服を着ていれば普通に無敵のイケメン。普通のイケメンフェイスに超絶筋肉モリモリなボディという合成写真を疑うレベルの体が特徴。「はいッ‼ サイドチェスト!」の元祖でもある。
 ローリエのセコムの街雄さんの場合、彼の本家に対する情報不足のせいで「はいッ‼ サイドチェスト!」しか言わない超強い警備兵となってしまった。



ジェットストリームアタック
 『機動戦士ガンダム』に登場する、黒い三連星が使用した攻撃フォーメーションの名前であり、もともとは宇宙での対艦船戦闘用に考案されたものである。 三者三様に異なる彼らのパイロット特性を、最大限に生かすかたちでフォーメーションが構成されている。

ふたば「葉子様! 葉山ちゃん! ジェットストリームアタックを仕掛けるよ!」
よーこさま「わかりましたわ!」
はやま「二人に何吹き込んでるの!?」
ろーりえ「いやだって、三人で“三者三葉”だったから、つい………」


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UA15000突破記念閑話:奇跡が生まれる流星群(ほしわたり)

きらファンのみらあおが尊すぎてトートになったので初投稿です。

きららファンタジアのイベントストーリー「奇跡が生まれる星」をクリアしてから見ることをお勧めします。


「ローリエ、星を見に行かないか」

 

「ふぁっ!?!?!?」

 

 

 始まりはその一言であった。

 アルシーヴちゃんが、俺の部屋を訪ねてきたかと思えばそんな事を言い出した。俺がアルシーヴちゃんに、ではない。アルシーヴちゃんが俺に、である。

 え?なに? デート?デートなのかな??

 

「よし行こうすぐ行こう、準備はいいか? 俺は出来て」

 

「出来てる訳あるか大馬鹿者。出かけるのは明後日だ」

 

 半ば呆れながら、しかし軽い足取りで部屋を出ていく。一体、どういう事なのだろうか? まぁいい。できるだけ準備しておこうじゃあないか。

 

 

 

 

 

「―――流星群が見える街?」

 

「あぁ、その街の新月の頃でしか見ることの出来ない流星群があるんだ。中々有名で、観光客も多く集まる」

 

「その流星群って、どういうものなんだ?」

 

「見てのお楽しみさ」

 

 

 アルシーヴちゃんからの誘いがあってから2日後。約束の日になった所でアルシーヴちゃんの書斎に行くと、そんな話を教えてくれた。

 流星群というと、空から降り注ぐアレをイメージする。一つの街でしか見られない限定的なものとは到底想像しにくい。

 

 

「さ、準備は出来たか? 町の近くまで転移したら、観察の穴場まで案内するぞ」

 

「ちょっと待て」

 

 

 珍しいもの見たさを抑え、アルシーヴちゃんを引き止める。町に入るって事は……姿を見られるということだ。……筆頭神官アルシーヴと八賢者ローリエの姿を。

 それが何を意味するかを理解できない俺ではない。

 

 

「少し変装くらいしよう。筆頭神官と賢者が来たと知られたら町の人達を萎縮させちまう」

 

「むっ、そう、か………」

 

 筆頭神官も八賢者も、エトワリアでは上位の地位にあたる。そんな人達が町の中に入ったとしたならば、町の人々は一体何事かと恐れてしまう。観光客でごった返しているのなら尚更だ。流星群を見るどころの話じゃあなくなるかもしれない。

 

 

「安心してくれ。変装といっても、変なものは選ばないつもりだ。」

 

 

 ―――というのは、建前なんだけどな!

 準備を手早く終え、残った時間で考えた俺の作戦をいま実行する時!!

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 件の町へ転移する。

 町の入口に入ろうとすると、自警団と思われる男に呼び止められる。

 

「やあ旦那ァ、流星群を見に来たのかい?」

 

「ええ。()()と一緒に見に来ましたとも。毎年恒例ですからね」

 

「そうだな、ガハハハ! ()()()とはぐれないようにするんだな!」

 

「…………………………」

 

 

 豪快に笑う自警団のおっさんに見送られる、俺とアルシーヴちゃん。

 涼しげなベストが似合うスーツ姿の俺は黒いシルクハットを取っておっさんに一礼し。

 いつもはまとめている髪を全ておろし、慎ましい装飾の、淡紅色(たんこうしょく)のドレスを着たアルシーヴちゃんは、口角を震わせながら俺に手を引かれた。

 

 

「…………おい、ローリエ」

 

「なにかな、()()()()。今の俺のことは()()()()と呼びたまえ」

 

「この格好……いつまでやらせるつもりだ」

 

「勿論、穴場だという小高い丘に行くまでだ」

 

「すぐに行かないか?」

 

「何を言う。日はまだ高いぞ? それに、もったいないじゃあないか。

 アル……いや、クラリス。いつもの君とは違う今の姿はとても可愛いよ」

 

「お前はっっっ!!! どうして、こんな往来の中でそんなことが言えるんだっ!!」

 

「事実だからさ」

 

 

 肩をバンバン叩いてくるアルシーヴちゃん。そう。これが目的だったのだ。

 仲睦まじい夫婦に変装して、デートを楽しむ作戦。町の人達を動揺させる事もなく、かといって怪しまれる事もない。時間は潰せるし、誰かと鉢合わせる事故防止にもなる。

 一石で鳥がボトボト落ちてくるようなものだ。しかも、この作戦、俺が幸せだ。趣味と実益を兼ね備えた魅力的な案である。

 最初この変装を提案した時はアルシーヴちゃんは猛反対したが、ソラちゃんとシュガーとカルダモンの三人がかりで着替えさせたのだ。アルシーヴちゃん自身も流星群は見たかったからなのか、再び転移して戻る気配もない。

 

 

「いじらしい君はとても可愛いよ。美しい一面も素敵だけど今日の格好もよく似合っている。君とここに来られて良かった」

 

「やめてくれ恥ずかしいッ!!!!」

 

「あ゛あ゛あァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!?!!? ヒールーーーッ!!!!」

 

「なっ!? す、すまない! でも今のはロ……ラウールが悪いだろう!」

 

 

 調子に乗り過ぎた。

 ヒールのついた靴で思いっきり踏まれた足が痛い。指がちぎれそう。

 

「あらまぁ。災難ね、旦那さん。

 ほしわたりクッキーでも買っていくかい?」

 

「ほしわたりクッキー?」

 

 今の騒ぎでやってきたと思われるオバチャンが、包装紙に包まれた箱を持ってきていた。試食スペースもあるらしく、そこには鳥を模したクッキーが並んでいた。

 

「この町の土産の品だ。意外と美味しいぞ。

 ひとつ、買っていくか? ラウール」

 

「帰りにしよう、クラリス。お土産は大体かさばるものだから。

 ご婦人。また後ほど、買いに来るよ」

 

「まいどあり、イケてる旦那さん」

 

 

 オバチャンの『イケてる旦那さん』扱いに、俺はすっかり気を良くし、アルシーヴちゃんは真っ赤な表情で俯く。

 こうして俺達二人は、日が暮れていく町並みを楽しみながらデートを続行する。

 

「うんま!!? 何コレ!?」

「特産の魚介で作られたステーキ定食だ」

「一体何をしたらここまでジューシーなステーキが焼ける…? 本物の肉顔負けだぞ?」

 

 ありえない調理をされた魚料理に舌鼓を打ち。

 

「お」

「どうした?」

「この置物、変な形をしてるぜ」

「……そうだな。ラウール、これを見てくれ」

「…あっ! それ、将棋……」

「この町らしい、星と鳥と海のデザインが施されている。お前が作った無骨なデザインも悪くはないが、こっちの方が彩りがある」

「俺のデザインって、そんなに無骨か………?」

 

 この街ならではのお土産を見て回ったりした。

 

「そろそろ丘に向かおうか。」

「分かった。クラリス、手を。人混みが激しくなってきた。」

「………夫婦の真似事はもういいだろう」

「違う。はぐれないように、だ。」

「それならいい………が、変な手の繋ぎ方をしたら置いてくぞ」

「へぇ…………例えば?」

「本当に置いていくぞ!!?」

「なんで!?」

 

 

 後に、街で絵にも描けないほどの紳士と聖女の夫婦が散策していったことが噂になっていったのだが、そんなことは知ったことではない。知ったこっちゃないのだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 小高い丘にたどり着き、髪型だけをもとのようにまとめ上げたアルシーヴちゃんは、紫色の薔薇のようなデザインのオーブを取り出し、腰にかける。

 

 

「……武器? なんで―――」

 

「本来は防具も欲しかったのだがな。何処かの馬鹿のせいでこれしか持ってこれなかった」

 

「悪かったって。

 でも、何か危険でもあるのか?」

 

 ジト目でこっちを見るアルシーヴちゃんを誤魔化しながら、オーブを取り出した意味を聞いてみる。護身の必要があるのなら、ちょっと困るな。今の俺は、パイソンと必要最低限の鉛弾と非殺傷弾しか持ってきていない。

 

 

「危険……というほどではないが、巻き込まれたらかなり面倒な事になる。もうじき、近くを()()が通るのでな」

 

「………群れ?」

 

「見た方が早いだろう」

 

 

 アルシーヴちゃんは、それだけ言うと視線をそらす。俺も彼女が見た方向と同じ場所を見てみる。すると。

 

 

 ―――がさり。

 

 

 と、茂みの音がしたかと思えば、

 

 

 ――がさがさっ!

 ――ばばばばっ!!

 

 

 と、光る何かが飛び出して来た。

 

 

「!!!!」

「始まったか」

 

 

 それは、鳥の群れだった。

 しかし、ただの鳥の群れではない。光る鳥だ。

 夜の帳がすっかり降りて、町の明かりと星の光が遠目に見えるだけの真っ暗な夜景の中、鮮やかな光を纏ったモコモコな鳥の群れが地面すれすれを飛んでいくではないか。

 

 茶色に、緑に、黄色。赤に、紫色に、青色。

 綺麗な光を放つ鳥たちは、通り道を真っ直ぐに、一糸乱れぬ動きで丘を飛び、女子を二人ほど巻き込み、町の上空を飛び………っておい。

 

 

「いま、誰か鳥の群れに轢かれたぞ!?」

「なんだと!?」

 

 

 

 

 

 大慌てで駆けつけると、二人は既に救出されたようで、肩で息をしていた。

 

 

「大丈夫ですか、みらさん、あおさん?」

 

 

 救出したと思われる少女―――きららちゃんが二人をそう呼んだのを聞いて、はっとなる。俺の知ってる中で、その組み合わせは一つしかない。

 

 木ノ幡(このはた)みら。真中(まなか)あお。

 聖典(漫画)『恋する小惑星(アステロイド)』の登場人物。星咲高校の地学部に所属する高校1年生にして、『新しい小惑星を見つける』という夢を持つ二人だ。

 なるほどな。二人なら、ここでしか見られない流星群と聞いたら調べに来るのは明白だな。

 

 

「そこにいるのは……きららたちか? こんな所で会うとは。」

 

「アルシーヴさん、ローリエさん………どうしたんですか、その格好は…??」

 

「似合うだろ? さっきまでデーどおぉぅっ!!?

 

「そこは引っかからなくていい。私達は、鳥達が海を渡るのを見に来たのだ」

 

 

 きららちゃんの質問に答えようとしたら思い切り腹パンされた。いいじゃんデートで。何が嫌なのさ?

 

「それって、どういう……?」

 

「なんだ、知らないのか。

 あの魔物達は夜行性の渡り鳥でな。毎年、この時期の新月に群れを作って暖かい南の国へと飛んでいく。この山は羽休めをする場所で、ここから一斉に飛んでいく姿は、まるで流星のようだと有名なんだ。その習性から“星渡り”なんて呼ばれている」

 

 夜行性の渡り鳥、かぁ。

 それが一斉に飛ぶ姿が流星群に例えられるなら、この街でしか見られないといわれるのも納得だ。

 前世では見ることのない光景に、目を奪われる。

 

「成る程なぁ。だから『ここでしか見られない流星群』ということなのか。」

「鳥の光が海に反射して……すごく綺麗。」

「見たことないようなすっごーく綺麗な眺めだったね。」

 

 みらとあおも、鳥達の姿に感動している。

 他のクリエメイトもさっきの鮮やかな渡り鳥に感動しているようだった。

 

「乃々さんと一緒に見る、このステキな眺め…」

「本当に素晴らしい眺めですね。みなさん『いいね』お願いしますねー。」

「ああ! もっとアイデアが降りてきたかも!」

「うーん、もっとケミカルな味かと思ったけど、案外普通に美味しいわね。」

 

 乃々ちゃんガチ恋ムーブで眺めるまつりちゃん。

 恋詩露咲(こいしろさき)るるならしく配信している乃々ちゃん。

 ネタが浮かぶIri§(アイリス)先生ことあやめちゃん。

 変なものを混ぜ合わせて食べてる椎奈ちゃん。

 

 ……だが、きららちゃんだけはあまり晴れやかな表情になっていないようだ。

 

 

「……きららちゃん、どったの?」

 

「すごく綺麗だけど……ここも本当の星じゃありませんでしたね。

 みらさんとあおさんは星が見たくてここに来たというのに……」

 

 

 話を聞いてみると、きららちゃんはみらあおと共に『星』にちなんだ名所を巡っていたそうだ。

 『人が作る星』、『星屑が広がる水辺』と探してきたらしいのだが、いずれも花火・蛍と星ではなかったみたいだ。みらもあおも、気にしてなさげだし、異世界らしくて良いと励ましたが、きららちゃんの表情が晴れない。

 

 かくいう俺もアルシーヴちゃんとデート中だし、あんまりきららちゃんに口出しして機嫌を損ねられる訳にはいかないしなぁ。

 

 

「もうすぐ面白いものが見られる。北の空に……ほら。」

 

 悩んでいると、アルシーヴちゃんが北を指差す。何事かとその方向を見てみると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 きらり、と光った星が、流れた。

 

「流れ星!」

 

 みらの嬉しそうな声に続いて、流れる星も増えていく。

 

「しかも、どんどん増えて……」

 

「「流星群だ!」」

 

 そう。本物の流星群である。比喩でもなんでもない。まるで星々が、海へ落ちていくかのようだ。海上にも、光る渡り鳥達が、まだ遠目に見える。海の流れ星と、空の流れ星。それらが、水平線上に集まっていくかのようなその夜景は、まさに圧巻の一言であった。

 

 

「あれは数十年に一度見られる流星群だ。

 今年はたまたま、星渡り達が南に向かうのと同じ日だったんだ。同時に見られるのは、数百年に一度しかないだろうな。」

 

「すごい偶然! ラッキーだね、あお!」

 

「うん!」

 

 

 みらとあおは、流星群に近づくように歩いていく。そして僅かに、二人の話し声が聞こえてきた。

 

 二人は、一体何を話しているのだろうか?

 二度と見られないだろう奇跡の流星群に思いを馳せているのだろうか?

 それとも、二人の出会いや小惑星を見つけるという夢を再確認しているのだろうか? 「こうして二人で空を見上げている事自体が奇跡だよ」みたいな?

 

 

 ―――真実は、のちに『小惑星あお』を見つける、二人の天文学者のみが知ることだ。

 

 

 二人の尊い後ろ姿を心のフィルムにおさめながら、俺は空と海の流星群に向かって、自作のカメラのシャッターを切った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「いやぁ〜〜、良いもん見れたぜ。

 ……ありがとな、アルシーヴちゃん。誘ってくれて」

 

 流星群が終わり、鳥達が見えなくなって、きららちゃん達と別れた後。帰りに夜遅くまでやってるお土産屋に寄る最中は二人ともずっと無言だったが、余韻に浸り終えた俺が先に口を開く。

 

 

「……ローリエ、私は……」

 

「?」

 

「私は、お前が何かを隠しているのを知っている。」

 

「……へ?」

 

「そして、お前の隠し事について……こうなんじゃあないか、という予測をもう立てている。

 ローリエ。お前は…幼い時からもの知りだったな。まるで最初から知っていたかのように。魔法工学の腕前もそうだ。全て知っていたから、様々なものを作り出せたのだろう?」

 

「……!!!」

 

 

 う……嘘…?

 これ、バレてない? バレたよね?

 突然の彼女の告白に、俺は面食らう。

 

 

「ただ、な。

 言うべきか否か迷っていた。だって……お前は頑なに言わないのだから。知られたくない事なのかもしれないと思ったんだ」

 

 隣の彼女の苦悩を見た俺は、急激に思考の落ち着きが蘇る。

 俺が前世の記憶の持ち主だと言わない理由。

 それは……まぁほとんど身勝手な理由だけど、強いて挙げるとするならば、『もう終わった事だから』だ。俺の前世の人生は、もう終わっている。しかも別世界の、しょうもないいち個人の人生。そんな奴の人生を語ったところで、意味のないことだ、と思う。

 

 

「でも私は安心した。星渡りと流星群を見たお前の顔……『初めて知った』って顔を、しっかり覚えたからな。

 ……私は待つぞ。

 いつか気が変わって、お前が……ローリエが全てを話してくれる日を。」

 

 なんてこった。女の子にこんな事言わせるなんてな。情けないぜ、ローリエ・ベルベット。

 だからといってじゃあすぐに話そう、なんて言える空気でもないからなぁ。

 

 

「…………ありがとう、アルシーヴ。いつか必ず、約束は守るぞ」

 

 

 ―――これしか、言えないじゃんか。

 

 

「……ちなみに、俺その…流星群見た時、変な顔してたのか?」

「…………♪」

「おいなんだそのリアクション。なんなんだよ、言えよ!」

「……内緒だ」

「本当に何なんだよ!?」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ―――後日。

 先日の流星群を思い出した俺は、聖闘士○矢の必殺技を再現しようとして。

 

「……ローリエさん、何やってるんですか?」

「え? オー○ラエクス○ューション」

「お、おーろら? なんて?」

 

 きららちゃんに練習光景を見られたのでペ○サス流星○を教えようとしてアルシーヴちゃんに止められたのはまた別の話。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 アルシーヴにデートに誘われ、変装夫婦旅行作戦で驚かしてあげようと思ったら星渡り&リアル流星群で逆に驚かされた八賢者。アルシーヴの不安を真摯に受け止めて、自分の秘密をいつか話す約束を交わした。偽名のモデルはアルセーヌ・ルパンの本名から。

アルシーヴ
 ローリエの挙動を確かめるため、星渡りを見に行かないかと誘った筆頭神官。アルシーヴは「昔からもの知りなローリエは、知ってることが多いから知る喜びが少なくつまらない人生を送っているんじゃないか」と考えた。しかし、星渡りと流星群はローリエも初めて知ったため、安心して約束を取り付ける。偽名のモデルは『アルセーヌ・ルパン』のラウールの恋人から。

きらら&木ノ幡みら&真中あお
 星にまつわる噂を探し、珍しい星を求めて旅をしていた召喚士&クリエメイト。ローリエがみらあおの尊さからかあまり触れていないが、そこはイベントストーリーもしくは「恋アス」を見れば尊さが分かるというもの。
 余談になるが、ローリエの助言から、きららは光で剣を作り流れ星のような連撃を放つとっておき『ペガ○ス流星剣』を本気で編みだそうとしたという。ランプに止められたが。

関あやめ&村上椎奈&池谷乃々&鶴瀬まつり
 きららやみらあおと共に星を見たステまのクリエメイト。乃々は動画のネタを、あやめはゲームプロットのネタを探しにこの町に来ていた。




星渡り
 夜行性の鳥の魔物。だが人間に積極的な被害は与えず、せいぜい群れたら人を面白く轢くことができる程度。新月の夜になると暖かい南へ渡るという。

恋する小惑星(アステロイド)
 Qur○先生による、学園4コマ漫画。
 幼い頃『小惑星を見つける』約束を交わしたみらとあおが、星咲高校地学部で再び出会い、モンロー先輩こと森野真理、イノ先輩こと猪瀬舞、桜先輩こと桜井美景と地学にハマりながらもまだ見ぬ小惑星に向かって進んでいく百合青春物語。

小惑星ミラ
 実際に存在する、脈動変光星として知られるくじら座の恒星。「恋する小惑星」の木ノ幡みらの名前の由来であると明言されている。

小惑星あお
 未だ発見されていない小惑星。いずれ、木ノ幡みらと真中あおの二人が見つけるであろう小惑星。

オーロラエクスキューション&ペガサス流星拳
 どちらも「聖闘士星矢」に登場する必殺技。ペガサス流星拳は星矢の、オーロラエクスキューションはカミュと氷河が使用する。


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UA20000突破記念閑話:恋愛成就の“双神”

今回のお話はだいぶ昔のイベントストーリー『Fairies Trick』のお話を見てから読むことを薦めます! イベント名から分かるかも知れませんが、『桜Trick』初参戦イベントです。
知らんぞそんな話!という貴方はきらファン図書館から探してみよう!



 とある祠には、こんなお話がある。

 恋愛に関する妖精が2匹いて、彼女たちに叶えられない恋はないという。

 

 片や、ピンクの髪と包容力のありそうな女性の姿をした、人々の恋愛の成就を司る妖精。名をアモル。

 片や、青色の髪と金の大ハサミが特徴のスレンダーな少女の姿の、人々の恋愛の破局を司る妖精。名をオルバ。

 

 二人一組で、人間の恋愛を叶え続けた妖精には、一種の信仰さえできたのだという。

 

 だが……残念なことに、人間というのは自分勝手だ。己の欲望を―――『あの男/女を、私/俺のものにしたい!』という願いをかけ……そして、ライバルの破局を願う人間のなんと多かったことか。

 お陰でオルバが強大になってしまい……なんとか、一組の百合カップルのお陰で大事には至らなかったものの、パワーバランスの調整中だという。

 

 

 で、だ。ここまで長々と語っておいて今どういう状況かというと―――

 

 

 

 

「……他に、その、オルバちゃんのどこが好きなんよ?」

 

「人間達の幸せを願えるのが好き。破局の力を持ったっていうのに、健気に願えるのよ、オルバ。

 あと、ちょっと素直じゃあない所もあるけど、可愛げがあるの」

 

 

 成就の妖精・アモルの惚気を聞いていた。

 神殿の八賢者たる俺としては、二人の恋は実に興味深いものだ。バランスを取り続けることもまた、八賢者の使命の一つだろう。

 俺は、ここ数ヶ月、アモルが封印されてる箱だけ開けては彼女と話をし、アモルとオルバの恋愛成就を願って箱に帰還させるという、地味に高度なお参りを続けていたのだ。

 アモルとは仲良くなっていき……俺からは他の八賢者やアルシーヴちゃん&ソラちゃんのこと、アモルからはオルバの事や先日の事件の経緯を教えあうほどまでに仲良くなれた。

 

 

「うんうん! アモルちゃんがオルバちゃんを大好きな事は伝わった! だから今回は、その数多ある『大好き』をひとまとめにする言葉を教えようと思う!」

 

「ひ、ひとまとめにする? そんな事が出来るんですか? でも……」

 

「勿論、君自身の想いはひとまとめに出来ないかもしれないが、長話が好きな人間だけとは限らない。だから、覚えておいても損はないはずだ」

 

「そうですね……それで、どんな言葉なんですか?」

 

「『ムラムラします』だ」

 

「む、ムラムラ…!?」

 

「恥ずかしがってはダメだぞ。言葉にしなけりゃ、伝わるものも伝わらない」

 

「そ、そう、ですね……………

 ……………む、ムラムラ、します……」

「良いぞ! もっとハッキリ言ってみよう」

「…ムラムラします…」

「『ムラムラします』」

「ムラムラします…」

「『オルバの事を想うと』?」

「『ムラムラします』」

 

 

「アモルになに教えてんだこの野郎!!!」

「うわあぁァァァァッぶねええええ!?!?!?」

 

 

 すんでのところで飛んできた金色の裁ちバサミを回避する。俺じゃあなかったら、頭と胴体が泣き別れになっていたかもしれない。

 ハサミが飛んできた方向を見れば―――案の定、オルバが顔を真っ赤にしながら箱から飛び出していた。流石、一時期アモルよりも力が強かっただけのことはある。

 

「おおう、おはようオルバちゃん。随分と荒っぽい起き方だな?」

 

「誰のせいでこうなってると思ってんだテメェ…!

 さっきからムラムラムラムラうっせーんだよ! アモルの声で『ムラムラします』って聞こえた時は耳を疑ったぞ!!」

 

「安心してくれ、事実だ」

 

「よしぶった斬ってやる」

 

 もー、オルバはちょっと暴力的だぞ☆

 そんな事だから力が強まる一方なんだ。多分。

 

「オルバ、ローリエさんを許してあげてよ。この人、春香達以外で私達の成就を願ってくれるのよ。それに、私はローリエさんから色々教わったし……」

 

「……確かに、コイツはアモルだけの封印を器用に解いては恋愛成就を祈っていく奇特なヤツだが―――ちょっと待てアモル? お前今なんて言った? 色々教わったって言ったのか!!?」

 

 ちなみに、俺が初めて来てから数ヶ月、オルバが『ムラムラします』の下りの拍子で目覚めるまで、オルバの封印を解いてない。つまりオルバはさっき目覚めたばっかである。おまけに……どういうわけか、妖精は貞操観念が人間とは違う構造をしていたのだ。

 数ヶ月……それだけあれば、前世も含めて知識豊富な俺が貞操観念の低めなアモルに色々教え込むには十分であった。

 

 この後めちゃくちゃオルバが怒り狂った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ―――閑話休題。

 

「さて、オルバちゃんも自然に目覚めて怒りも収まった事だし、ようやく()()に移れるな」

 

「「本題??」」

 

 妖精二人が首をかしげる。

 そう。俺は、二人のパワーバランスを変えるため、とある計画を立てていたのだ。その為には、起きている二人の了承が必要だった訳で。

 

 

「とりあえず……これを見てくれ」

 

 

 指をさしたのは祠のすぐそばにあった、木の立て札。

 そこには、以下のような文字が書かれている。

 

『恋愛成就の妖精

 成就の妖精たるアモルと、破局の妖精たるオルバ、ここに封印す

 願わくば彼女たちが、悪しき人間に利用されぬ事を』

 

 オルバとアモルがここにいる事をシンプルに記した立て札である。これを見た時……俺は思った。

 

 不公平だと。

 

 

「なんだよ、成就と破局の妖精って! 明らかに破局が不利じゃねえか!!

 なんだよ『悪しき人間に利用されぬ事を』って説得力ねーな!! こんなの悪しき人間が見つけたら真っ先に悪用するに決まってんだろ! …勿論、オルバちゃんをな」

 

「っ………」

 

 

 オルバが俯き、唇を噛む。そんなオルバにアモルは寄り添い、背中を撫でる。なんていたたまれないのか。きっと、何度も悪用されたからに決まっている。

 ―――だから、その悪しき流れを断つ。

 

 

「……俺が提案することはズバリ、この立て札に書いてある内容を思い切って変えることだ。

 具体的には、アモルの力とオルバの力を公平に見えるようにしたい。特にオルバの『破局を司る力』は地雷だ! コレをそのまま真正面から書いたとて、正しい心を持つ人の食いつきが良い訳がない!」

 

「分かってるよ…でも、なんて書く気だ? 言っておくが、オレが破局を司るのは変えようのない事実だぜ」

 

「そうね……妖精の力に嘘をついても意味なんてありませんよ」

 

 嘘? 嘘、ねぇ……

 分かってないな。

 

「ウソ? そんな意味のない罰当たりなこと書けるか。

 ただ、文章というのは、言い方と言葉選びを変えるだけでだいぶ印象が変わると言っているんだ。

 例えば―――」

 

 

 と、持ってきた紙にペンを滑らせる。

 あっという間に書き終えたそれを、妖精二人の目の前にバッと見せてやった。

 俺が書いた内容とは、こうだ。

 

 

恋愛の双神・アモルとオルバの祠

 アモルは縁を結び、恋を実らせます。貴方と想い人の心を引き寄せ合い、良縁と言う名の幸福をお招きになることでしょう。

 オルバは縁を切り、新たな出会いの糧とします。未練や悪縁、貴方を過去に縛り付ける鎖を断つことで先に進む力をお与えになることでしょう。

 恋愛の双神さまの加持力(かじりき)をいただき繁栄の利益にあずかることを祈念いたします。

 

「え、『縁を切る』…!? 」

 

「おお……私達の力をほぼ正確に表しているのに悪い印象が全く浮かばない……!?」

 

 

 そうなのだ。

 オルバの「破局を司る力」を聞き、金色のハサミを目にした時、真っ先にイメージしたものは人々に繋がっている縁の紐を切るイメージだ。故にこの表現にした。

 縁切りというと悪いイメージが湧くだろうが、こと仏教においてはそうでもない。詳しくは省くが、「悩みに悩み抜いた先で悪縁を切ることを願うのは悪くない」らしいのだ。

 勿論自分勝手な縁切りはダメだが、『縁を切りたい…でも、そういう事を願うのは悪い事なんじゃあなかろうか』という罪悪感と戦った後の願いを聞くのは何も悪くない。

 それを懇切丁寧に説明すると、アモルもオルバも物凄くビックリしたような顔をした。

 

 

「な、なるほど……そう考えると、オレの破局の力……いや、縁を切る力、か? 悪いモンじゃない…のか?」

 

「目から鱗ですね……」

 

「でもよ、オレ達『神』なんて大層なモンじゃあねーぞ??」

 

「問題ない。要はご利益があるかどうかなんだ。聖典に乗っている神様も、元から神様だったヤツばっかじゃあないんだ。

 元々は悪魔だったり、やんちゃな猿だったり、果ては人間だった神様もいるんだ。元は妖精だった神様もいて良いだろう」

 

「そうなんですね!」

「…………ホントか?」

 

 

 二人を勝手に神様に祀り上げた事についてそう補足する。オルバは疑惑の眼差しを向けているが、嘘はついていないぞ? 実際にそういうのいるしな。クリエメイトに尋ねれば一発で証拠が出るだろう。

 

 

 結局、俺の提案した『オルバとアモルの紹介文書き換え計画』は二人の了承を得ることで実行される事となった。祠を整備し、新しい立て札には俺が考えた文面が綴られた。

 だが、それで終わりではない。

 

 ―――神になるには、ご利益だけではなく、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――時は流れて。

 恋愛の双神についての信仰が浸透していき、二人の信仰が徐々に、()()()上がっていった。二柱については、以下のように伝わっている。

 

 

 アモルは縁を結び、恋を実らせる。願った者とその想い人の心を引き寄せ合い、良縁と言う名の幸福を招く―――成就の象徴。

 オルバは縁を切り、新たな出会いの糧にする。未練や悪縁、願い人を過去に縛り付ける鎖を断つことで先に進む力を与える―――未来の象徴。

 

 だが、決して軽視することなかれ。己の欲望と他者の転落を願い、悪意を隠して縋ろうとする者を二人は許しはしないだろう。

 アモルの怒りに触れれば、その者は()()()()()()()()、たちまち破滅の未来へ進んでいくだろう。

 オルバの機嫌を損ねれば、その者は()()()()()()()()()()()()()、たちまち孤立していくだろう。

 

 

 

 しかも、恐るべきことに…恋愛の双神であるアモル・オルバは、()()()()()1()0()()()のひとり・()()()()()()()()である事だ。

 

 エトワリア10栄神。

 アモル・オルバの神社の神職の人間がアモルとオルバの神託を受けたことで広まった信仰だが、意外な事に多くの人々に伝わり、信じられるようになった。神々が人間じみた性格を持っていたことが、大衆にウケたようである。

 

 神託とは、神が人間に伝えるお告げのようなものだ。未来のことから自分のこと、自分の上司の事まで話題はなんでもいい。つまり、そういう事だ。

 

 

 そして、神託を伝えた()二人はというと……

 

 

「まさか本当に崇められる事になるとはな……嘘から出た真とはこのことだな」

「ローリエさんにはお世話になったわね。春香さん達の事も伝えたいけど…そっちは聖典があるからね」

「確かにな。……にしても、ローリエの野郎、勝手にオレ達の祟りを書き加えやがって。身に覚えがねーぞ。確かに、縁を切るのは得意分野だが…」

「その事は、ね?

 ローリエさんの事を神話にしたからそれでおあいこって事で」

(したた)かになったな、お前。十中八九ローリエの入れ知恵だろうが………

 ……お、参拝者だ。行くぞ、アモル。」

「分かったわ、オルバ。」

 

 

 

「「私(オレ)達の神社へようこそ!」」

 

「貴方が望むのは…縁結び?」

「それとも…悪縁切り?」

 

「正しい心からの願いなら―――」

「―――必ず、オレ達が叶えるぜ?」

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 アモルとオルバの伝承を生み出した八賢者。「成就」と「破局」では明らかにオルバが不利であり、悪しき人間の狙う的になり得ることを危惧して、「縁結び」と「悪縁切り」に認識させた。後に、知らぬ間にアモルとオルバの上司の神にされてしまう。

アモル
 「恋の成就」の妖精。ローリエに性の知恵を教わり、後に「縁結びの神」となる。なお、変な知識を教わったり恋人の祟りを勝手に書き加えられた仕返しに、ローリエを仲間ごと上司に祀り上げた模様。

オルバ
 「恋の破局」の妖精。ローリエに力の解釈を教わり、後に「悪縁切りの神」となる。なお、恋人に変な知識を吹き込んだり祟りを勝手に書き加えられた仕返しに、ローリエを仲間ごと上司に祀り上げた模様。



エトワリア10栄神
 アモルとオルバの神託によって生まれた信仰。神々が、地味に人間味のある性格をしているのが特徴。全能神ソラ、その補佐の暗黒神アルシーヴを筆頭に、友好神シュガー、智慧の神セサミ、駿足の神カルダモン、計略の軍神ソルト、豪傑の軍神ジンジャー、守護神フェンネル、夢幻神ハッカ、情愛の神ローリエからなる。
 ローリエ以外の八賢者と筆頭神官、そして女神からすれば、「なんか知らない間に祀られてた」状態であり、いい迷惑である。つまり、ローリエを責めて良い。

ろーりえ「お前らァァァァ! 確かに祟りを勝手に書き加えたことは悪かったと思うよ? でもその仕返しのつもりかァァァ!!?」
おるば「その件について、怒ってないっつったら嘘になる。でも、オレ達は感謝してるんだぜ?」
あもる「そうよ。パワーバランスが平等になって、私達は一緒にいられるようになった。そのお礼です」
ろーりえ「…物は言いようだなコラァ………!!」


元は神じゃなかった神々
 実は結構いる。仏教や日本神話はその手の例が結構多い。
元は人間だった→天満大自在天神。人間だった頃の名前は菅原道真。皆さんご存知の学問の天神様のこと。
元は猿だった→斉天大聖。孫悟空のこと。寿命なんか知らんと天帝をボコって不老不死になったという。
元は悪魔だった→阿修羅。厳密には悪魔ではないが、正義に妄執し続けた悪神から仏教を以て守護神にジョブチェンジしたという。


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お気に入り50突破記念:ローリエの魔法研究大作戦

拙作のお気に入りが50を超え、総合UAも7000に手が届きそうです。
読者の皆さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも、どうかこの「きらファン八賢者」をご贔屓いただければ幸いです。


今回のお話は、「この世界でも、笑顔を」と「続きから▷港町」の間のお話です。キャラ崩壊がいつもより甚だしいです。
※『勇者ヨシヒコ』シリーズとのクロスオーバー要素がチョコッと含まれております。ぶっちゃけタグをつけた方がいいのか?ってレベルで。


 意識を集中させる。

 

 人差し指を立てると、その指先に魔力が集まる。

 

 魔法陣が形成されて、魔力が熱を帯びる。

 

 ―――そして。

 

 

「………メラ」

 

 

 呪文と共に、指先から小さな火の玉が飛んでいく。

 それは、狙いをつけていた数メートル先の円い的に当たり、燃え上がって消えた。

 同時に、体内の魔力がそこそこ減っていくのがわかる。

 

 

「……低級の魔法一つでこれとは……

 ローリエ、あなたやはり純粋な魔法に向いてませんよ?」

 

 セサミに心配されてしまう。

 でも、向いてないからって、諦める訳にはいかない。

 なぜなら。

 

「おいおい、セサミ。忘れたのか?

 これはただの魔法の練習だっつってんだろ?」

 

 そう。自分を知るための魔法練習だからだ。

 きっかけは、シュガーちゃんとの任務を終えた日。転移魔法一回で、俺の魔力総量(最大MP)がほぼスッカラカンになってしまったことに始まる。

 俺は生まれてこの方魔法工学ばっかやって、現代兵器の製作しかしてこなかったもんだから、エトワリアの魔法があまり使えないのだ。

 そこで翌日、俺はどれだけ魔法が使えるかを実験及び練習していた。そこにセサミが通りかかり、今に至る。

 

 

「それにしたって、一通り全属性の低級魔法を見させていただきましたが、私もあなたみたいな人は初めて見ます」

 

「そうなの?」

 

「はい。まずあなた自身が呪文を唱えないと発動しないというのが特徴的です。本来『呪文を唱える』というのは、発動した魔法のイメージを固めるためのものです。

 ローリエのは何というか……その言葉一つでどういう魔法かを決めているのではないでしょうか?

 そのままだと、無言で魔法を使うということが出来ないですよ?」

 

 

 それは分かる気がする。前世持ちの俺が、魔法と聞いて最初に浮かんだのはやはり、俺が物心ついた時にやっていた、ゲームの魔法だ。単純で覚えやすい呪文が、俺の中に根強く覚えられているのだろう。

 

 

「それに、他にも気になる点があります。『めら』とか『ばぎ』、『いお』など詠唱は私の聞いたことのない単語でしたし、水属性魔法が使えない代わりに氷属性魔法が低級とはいえ使えるというのは、かなりのレアケースだと思います。」

 

 

 セサミは俺が使った氷属性魔法「ヒャド」に興味を持ったようだ。

 でも、今教えて、きらら達のハードルが上がるのは嫌だな………よし。

 

 

「なるほどな………でも、真似しようと思うなよ?

 詠唱は一人ひとり違うかもしれないし、何より敵に放ったと思ったら自分が冷凍保存されてたとか笑えないだろ?」

 

「私とて、氷の呪文は難易度が高いですよ。

 ローリエはきっと、魔力の適性が固まる前から氷属性の魔法が身近にあったからできただけです。

 普通の人間はまず習得できません。水属性魔法と風属性魔法の併用ですしね」

 

 

 へぇ。ここでは、ヒャド系呪文ってそういう扱いなんだ。ドラ○エでもポ○モンでも「ヒャド系(こおりタイプ)」で独立してたから、考えたこともなかったな。

 

 

「しかし、ローリエ。先程も言いましたが、このままでは戦闘に魔法は使えませんよ?」

 

「問題ない。俺には他の武器がある。」

 

 

 ―――とはいえ、これではい終わり、では魔法の練習兼研究の意味がない。自分が転移魔法を日に一度しか使えないのには訳がある。理由は判明しているのだが、現状を確認したい。

 でも、これ以上魔法を使ったら、俺の魔力が底をついてしまう。ただでさえ魔力を回復させながら行った低級魔法連打だ。こんなしょうもない理由でまほうのせいすいは使いたくない。

 

「……待てよ?」

 

 動きが止まる。

 

 

 自分の魔力総量(最大MP)が低級魔法でもキツいほど少ない?

 

 それはねジョ○ョ、無理矢理低級魔法を使おうとするからだよ。

 

 逆に考えるんだ。

 

 ―――更にレベルを下げた魔法を編み出せばいいさと。

 

「……ローリエ? どうしたんですかローリエ?」

 

 

 俺の中の○ョースター卿が俺を諭す。

 簡単に言ってくれる。

 だが、不可能ではない。それはなぜか?

 

 ―――あるからだ。そのビミョーな魔法が。

 

 予算が少ないと自称する、冒険活劇の魔法使いが使っていたからだ………そんな呪文の数々を。

 俺は、おもむろにセサミを指差す。

 

 

「!!? ローリエ、一体何を!?」

 

 

 少し、お借りしますよ。

 面白おかしく冒険を彩った、愛すべきビミョーな呪文達を。

 

 

「………チョヒャド」

 

 

 そう呟いた刹那、セサミの髪とローブを、風が揺らした。

 

「……? ちょっと寒くなった……??」

 

 ローブをしっかりと羽織ったセサミは、放たれた冷風に少し耐えた後、口を開く。

 

「い、今のは……?」

 

「氷の呪文……ヒャドの一つ下の魔法だ。

 カーディガン一つ羽織る程度の冷風を与える………名をチョヒャド。」

 

「………。」

 

「………。」

 

 

 懇切丁寧にしたはずの冷風呪文の説明に、空気が凍る。マヒャドレベルで。

 うわぁ……沈黙が痛い。勇者がいないから尚更だ。あの魔法使いは、こんな空気を毎回味わっていたのか。尊敬してしまうぜ。

 

 

「それ………………戦闘に使えるのですか??」

 

 

 ……うん、まぁそうだよね。そうなるよね。

 でも、その質問については答えを控えさせていただきますよっと。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ビミョーな氷(?)呪文でコキュートス並みに凍った空気から逃げてきた俺は、次の呪文の実験をするべくとある人物を探していた。

 

 彼女がどんなリアクションを取るか―――今からでも楽しみだ。

 

 神殿内をスキップしていると、たぬき耳の少女が向こうから歩いてくる。すぐに見つけられるとは、今日はついている。

 

 

 

「スイーツ」

 

「………??」

 

 

 すれ違いざまにかけられた魔法にソルトは気づきやしない。いや、指先を向けられ「スイーツ」と言われた程度では魔法というより何かのイタズラを企んでいると思われてはいそうだけど。

 

 甘味魔法・スイーツ。

 どんな奴でも、甘いものを食べたくて仕方なくなるという凶悪(笑)な呪文だ。多分シュガーには効かない(というか元々甘党だから意味がない)呪文の一つ。

 だが、ソルトにかけたら絶対面白いことになるだろう。元々おやつに塩気のあるものを好む彼女だ。甘いものが食べたいと言い出した日には、シュガーから熱の心配でもされるに決まっている。

 

 でも、結果の確認は後ほど行うとしよう。今はこのまま、スキップで次の実験台……もとい、協力者を探すとしましょうか。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ソルトに通りスイーツ(魔法)をお見舞いした後、俺はハッカちゃんと通路で出会い……

 

 

「……ローリエ。此度は何を企んでいる」

 

 

 いきなりそんなことを言われた。

 俺は魔法の実験をしているだけだぞ。それを「何か企む」とは失礼な。

 

「なに、俺でも使える呪……魔法の協力者探しだよ。ただそれだけ」

 

 そう言っても、疑いの眼は俺に向いたままだ。

 疑り深いハッカちゃんめ。そんな子にはこいつをくれてやる。

 

 

「………ゲラ」

 

「……ローリエ、戯れはそこまでに……ぷっ…!」

 

 俺が魔法をかけた途端、ハッカちゃんは口元を抑えて笑いをこらえ始める。周りを見ても何もおかしいものはない。ハッカちゃん自身は、俺に何かされたと思いながらも、彼女の中に沸々と湧き上がる愉快さで吹き出しそうになるのをこらえずにはいられないだろう。

 

 笑い誘発呪文・ゲラ。

 術者の言った言葉を聞くとそれがなんであったとしても爆笑してしまうこれまた凶悪(笑)な呪文だ。

 

 

「それでは、俺は協力者探しを再開するから……」

 

「ブッフゥ!!」

 

 

 ……あれ。

 ちょっと効きすぎじゃない? ゲラってここまで強かったっけ?

 

 

「あの、ハッカちゃん?」

 

「や……やめ………ックッ……ブファッ」

 

 

 おい、まだ何も言ってないんだけど。これ絶対効きすぎだよ。

 笑わせる呪文と思ってたけれどここまでとは思わなかった。薬を作ったと思ったら劇薬だったでござるって気分だ。

 こんなことなら転生する前に「勇者ヨシ○コ」を見返しておけばよかった。

 

 

「じゃ……じゃあ、俺はこの辺で。またね、ハッカちゃん」

 

「ブッフハハハ…………!!!」

 

 未だに口元とお腹を押さえ、キャラ崩壊してんじゃないかってくらい爆笑しているハッカちゃんに心の中で謝りながら、俺は早足で立ち去った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ハッカちゃんから逃げるように自室に戻ってきた俺は、頭を悩ませていた。

 あとどんな呪文があったっけか、とノートに呪文名と効果を書き連ねていたのだ。

 

 言動を○ート何某(なにがし)にする呪文・タケシズン。

 眉毛を太くする呪文・ヨシズミ。

 顎をしゃくれさせる呪文・シャクレナ。

 ポリフェノールを与える呪文・ポリコズン。

 攻撃力を1.2倍にする呪文・チョイキルト。

 ブラがズレているような感覚を相手に与える魔法・ブラズーレ。

 冷え切ったご飯をレンジでチンしたかのような熱を与える呪文・メラチン。

 

 あとは……なんだったか。思い出せないが、今はこれでいいだろう。

 だが、これだけじゃなくて、もっと魔法が欲しいな。

 前世の記憶から引っ張ってきたものだけじゃなくて、自分独自に開発した魔法か何かが―――

 

 

「ローリエおにーちゃん!!」

 

「……なんだシュガーちゃん。俺は今、魔法の開発中だ。遊びなら後に……」

 

「遊びじゃないよ!」

 

 ―――ほわっつ?

 

「ソルトに何をしたの? ソルトったら、『甘いものが食べたい』って言ってて大変だったんだよ!

 アルシーヴ様やフェンネルも怒ってたんだから!」

 

 シュガーはぷんぷんと効果音がつきそうな様子で怒っていた。まったく怖くない。

 

 

「シュガーちゃん。ソルトだってたまには甘いものを食べたくなる時があるかもしれないだろ? いきなり俺がなにかしたって考えるのはおかしいと思うんだが…」

 

「だからってシュガーの激甘超特大どら焼きを食べたいって言いだすなんて変だよ! 普段のソルトなら絶対食べようとしないもん!」

 

「いや、もしかしたら目覚めたのかもしれない。甘党に」

 

「それにしたっておかしいよ! いきなりシュガーのおやつを欲しがるなんて!!」

 

 

 甘いものを食べたいと言い出したソルト。それは間違いなく、俺の開発した魔法「スイーツ」によって甘いものが食べたくなったのが原因だろう。

 だが、そんなことは俺が自白でもしない限りバレることはない。俺が「人の好みなんて年とともに変わるものだよ」と反論しようとした………その時。

 

 

「その通りだ。それに、ソルトとハッカから微量の魔力が残っていた。故に、二人には何らかの魔法学的干渉……つまり、何かの魔法をかけられていることは予想できた。」

 

 

 底冷えした声が、扉から入ってきた。

 声の主は、アルシーヴ。俺の幼馴染にして、現筆頭神官だ。後ろにはカルダモンとフェンネルもいる。

 

 

「ソルトとハッカの証言からローリエ、お前が何かしたと判断した。

 貴様、こんな時に何を考えている?」

 

「何を企んでいるのか知りませんが、洗いざらい吐いてもらいますわよ!」

 

「面白いことをするなら、あたしにも教えてよ、ローリエ。水臭いじゃん」

 

 

 なんか一人違う事を言っているが、ほぼ俺がなにか後ろ暗いことを企んでいると思っている。これは大変なことになった。

 今日、俺が『実験』で使った魔法は、それこそ大したことなどない。効果が微妙ということは、アルシーヴちゃんやフェンネルが思っているような悪用もできない(というより、地味なイタズラ程度で大それたことなどできない)ということだ。

 

 このまま変な勘違いをされて、する必要のない対立をするよりかは、今ここですべて教えてしまった方がマシだろう。

 

 

「企むもなにも、俺はただ『俺でも使える魔法』の開発に(いそ)しんでただけだ。まぁ、俺の魔法適正は皆無に等しい(お察しだ)から、チョットしたことにしか使えないけどな」

 

「…なに?」

 

「たとえば……ほいっ」

 

「?」

「おい、ローリエ!」

 

 

 シュガーに「スイーツ」をかけてから、自分のおやつ用の粒あん団子をパックごと渡す。

 

 

「はいシュガーちゃん、あげる」

 

「えっ!! いいの?」

 

「うん。いま、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「すごい! シュガーの考えてることがわかったの!?」

 

 

 突然の甘味に目を輝かせるシュガーちゃんに微笑みを返したところでアルシーヴちゃん達に目を向ければ、アルシーヴちゃんは信じられない、という顔をしていた。カルダモンはどうやら俺がしたことを理解したようで笑いをこらえており、フェンネルは今起こったことが理解できておらず混乱している。

 

 

「今、俺が使った魔法は『スイーツ』といって、甘いものが食べたくなる魔法だ」

 

「あはは! なにそれ!」

 

「まったくもって理解できません……」

 

「ローリエ、お前な………

 …なら、ハッカにかけたのも似たようなイタズラ魔法か」

 

「そ。術者の言葉に反応して爆笑しちゃう魔法で、『ゲラ』って名付けた」

 

 

 実演したイタズラ魔法に呆れるアルシーヴちゃんとフェンネルに、ツボにハマったのかお腹を抱えてくっくと笑いだすカルダモン。ハッカちゃんを笑わせた魔法の正体もついでに教えると、アルシーヴちゃんはますます呆れた様子で片手で頭痛を抑えるかのように頭を抱えた。

 

 

「他にも色々開発しててね。効果次第ではすぐに実現できる魔法もあるかもしれない。詳しくはここのノートに書いたんだが………」

 

「言わなくていいです。アルシーヴ様、たかがイタズラといえども、勝手な行動は咎められるべきでは」

 

「あッ!!? フェンネルお前、余計なことを!!」

 

 

 一ヵ月間ブラズーレの刑を食らわせてやろうか!?

 ずーーっとブラジャーがズレているかのような感覚を味わわせ続け、刑期を過ぎた頃には逆にブラジャーがズレてないことに違和感を持つほど、しつこくやってやろうか!? 

 

 

「ふふふ……そうだな……そうだな、フェンネル。」

 

 

 そう思った時、アルシーヴちゃんがフェンネルに笑い声で答える。

 その笑いは、いつもアルシーヴちゃんがしてそうなうっすらとした美しい笑みでも、しょうもないダジャレで吹きだしそうになるのを堪える笑みでもなく。

 

 

「ローリエ……魔法の開発はとても興味深い。お前でも使えるということは、効果と原理を知っていれば、誰でも使えるということだからな……!」

 

 

 いい事を思いついた俺の顔を、鏡で見た時のような笑みだったのだ。

 

 

「ゲラ!」

 

「だァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハッハ!!!!!」

 

 

 魔法特有の不思議な感覚とともに、自分の意思と反して口角が上がり、腹筋が震える。立つことも困難になり、呼吸が上手くできなくなる。

 

 

「しばらくそうやって笑っていろ。それが仕置だ」

 

「こうしてみると、笑わせる魔法とは不気味ですね…」

 

「ヒィーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

「うわぁ………」

 

「おにーちゃん………」

 

 

 このままでは、確かに腹筋と頬が死ぬ!

 だが………やられたまま終わるヤツだと思うなよ!

 

 笑いが治まってきた時を見計らって残り少ない魔力に集中する。

 イメージは、前世のアキバにいそうなメイド………それも、猫耳のッ!!

 練習などしていないが、やり返すなら今、ぶっつけ本番でしかない!!

 猫耳メイドの言葉を鮮明に思い出しながら、密かに魔法を組み立てる。

 

 食らえ! 俺の新呪文……!

 

 

「………ルカ、ニャン……!」

 

「「「!!?」」」

 

 

 完全に後ろを取られたはずのアルシーヴちゃんは、俺の魔法に即座に反応して、防御魔法を無詠唱で展開する。

 

 でも残念。俺の新魔法は、攻撃魔法ではないのだ。

 

 

「…………?? ローリエ、今の魔法はにゃんだ……っ」

 

「「「…………。」」」

 

 

 口を開いてそう言ったアルシーヴちゃんが固まり、シュガー、カルダモン、フェンネルも同様に沈黙する。

 はたから見れば、アルシーヴちゃんが噛んだように聞こえるだろう。でも、彼女は噛んだわけでも意図的ににゃんと言った訳でもない。

 

 

「………………おい」

 

「………なん………だいっ……フフッ」

 

「今、ニャにを……

 …ニャに………

 …ニャ……」

 

「あ、アルシーヴ様……?」

 

「……にゃぜだ…? にゃぜ、にゃって言えニャい……?

 フェンネル、違うんだ。こ、これは……さっき、ニャんらかの魔法を……っ!!」

 

 

 鼻血でもだしそうな程に真っ赤になったフェンネルを見ながら、弁解の言葉を口に出すことでな行がなぜか言えなくなったことを少しずつ理解したのか、その表情はだんだん赤くなっていく。そして。

 

 

「ローリエエエ!! 今すぐこの魔法を解けェェーー!」

 

 そう掴みかかってきた。未知の魔法を身に受けたせいか、かなり動揺している。

 アルシーヴちゃんが言ってきたことは全て正しい。

 猫語魔法・ルカニャン。俺が思いついた、萌え特化の魔法だ。原理と効果がぶっつけ本番でまだ不安定だが、研究次第でもっと言動を猫に近づけることができるだろう。

 面白いからもうちょっとからかってやろう。

 

「知らない! 知らないよォォーーーッ!」

 

「嘘をつくにゃッ!!

 お前が私にさっきの……『ルカニャン』だかをかけた結果、ニャ行が言えニャくニャったんだろうが!!!」

 

「いいじゃあないか。可愛いよ、アルシーヴ」

 

「貴様、とうとう開きニャおったな……!!」

 

 開き直りじゃあなくて事実だから。後ろにいるフェンネルも、直立不動のまま鼻血を静かに流している。猫語のアルシーヴちゃんに脳がオーバーフローしたんだろう。カルダモンも複雑な顔をしながらシュガーと共に部屋を出ていった。

 

「反省が足りニャいようだニャ………」

 

「ちょ、待て!! 可愛いから! 可愛いから許して!!」

 

「許さんッ!! 私の魔力が尽きるまで、貴様の開発した魔法(ゲラ)の餌食にしてくれる!!!」

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 アルシーヴちゃんの宣言通り、俺は『ゲラ』でひとしきり笑った結果、腹筋と頬の筋肉が地味に筋肉痛になった。

 

 

 

 

 追記。

 アルシーヴちゃんにゲラをかけられたせいで腹筋と頬肉が死んだ俺は、腹いせに計画通りフェンネルにブラズーレをかけまくって、いつも通り追いかけ回されたのは言うまでもない。

 彼女を撒いた後俺は、人目を気にしながらズレているような気がするブラジャーを直そうとするフェンネルを一度G型魔道具を通して見たのだが、いつもの彼女とは全く違う、羞恥に染まった一面に不覚にもときめいてしまった。

 セサミに「あまりにも可哀想だからやめてあげなさい」と言われた後も、ごくたまにコッソリやっている。

 

 なお、この一件があってから、『ブラズーレ』と『ゲラ』、そして『ルカニャン』が準禁忌(無許可の使用が発覚した場合、軽度の罪に問われる)の魔法として登録された。おかげで新開発の魔法の研究もできなくなった。納得いかねぇ。

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 前世で見ていたビミョーな魔法を再現すべく好き放題開発した諸悪(笑)の根源たる八賢者。そして準禁忌の魔法を三つも編み出した凶悪な一面(笑)は、後のエトワリア魔法史にしっかりと記されることになる。後世にてそれを学ぶ未来の神殿の新人たちは、あまりにもショボい真実を知る事は絶対にないだろう。

ソルト&ハッカ&アルシーヴ
 ローリエの魔法(笑)の被害者(笑)。どうして彼女達になったかというと、ただ単純に作者が「甘味を躊躇しながら欲しがるソルトが見たい」「まったく笑わないであろうハッカの爆笑シーンを見てみたい」「アルシーヴにニャンニャン言わせたい」と思ったからである。そういった欲望と魔法は、実に相性が良かったわけだ。

フェンネル
 アルシーヴを崇拝している八賢者。今回はただ忠誠心を鼻から流すだけで終わってしまったが、あまりにも扱いが雑だと思ったため、最後の最後に『ブラズーレ』によって見る人によっては女を感じる一面を作った。作者はハッカちゃん一筋なので上手く演出できたかは自身がない。

セサミ
 ローリエの魔法の検証に付き合った八賢者。氷の魔法には興味こそ湧いたものの、難易度とローリエがネタに走ったことから、拙作の港町編では普通にきららと戦った。



ローリエの魔法
 元ネタは『勇者ヨシヒコ』シリーズの魔法使い、メレブの魔法から。効果の低い魔法は、往々にして消費MPも低いという法則がある(メガンテなどの例外はあるが)。ローリエの元々の魔力総量(最大MP)が少ない事に注目して登場させた。

勇者ヨシヒコシリーズ
 深夜に放送されていた、ドラゴンクエストのパロディドラマ。勇者としての素質を持ったヨシヒコが、熱血戦士ダンジョーやタイラームネなただの村娘ムラサキ、そしてビミョーな金髪ほくろ魔法使いメレブとともに魔王を倒す……という話のはず。2019年現在では『魔王の城』『悪霊の鍵』『導かれし七人』の3シリーズが存在する。



あとがき

随分更新が遅くなった上にパロディをパロった番外編で申し訳が立ちません……w
いや、別にドラクエウォークや東方CBが面白かったから、とかではないんですよ?ええ。……違いますとも。
………スライムナイトのこころ集めなきゃ。あとルーミアもゲットしなければ。
という冗談はさておき、筆が進まないのはプロットが完成してないからです。プロットだけでも完結させてから筆を進ませた方がいいのかなぁ。
では、次回もお楽しみに!


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お気に入り100突破記念&クリスマス特別編:ローリエときららのクリスマス・キャロル

 みなさま、メリークリスマス。
 今回のお話は、特別に色んなキャラが出てきます。
 本編後のイベントと思ってください。「きらファン」でいうところの、イベントクエストのストーリーみたいな。
 文字数は拙作最大の1万8千は行きました。その分、きらファン愛をたっぷり詰めた所存です。

 それでは、どうぞ。
 


「お願いします、ローリエさん! 力を貸してしていただけませんか!」

 

「いや、無理だろ」

 

 きららちゃんのお願いを俺はバッサリと切り捨てる。

 きららちゃんは予想通り、「そんなぁ…」としょぼくれてしまう。目に涙も浮かべているような気がする。はっきり言って可哀想だ。

 しかし………俺は断じて、意地悪で言っているわけじゃあない。

 

 

(きららちゃんがサプライズでプレゼントなんて、誰が相手でも無理に決まってる……)

 

 

 そう。この子は今、俺に対して「来るクリスマスパーティーのために、サプライズでプレゼントをしたいから協力してほしい」と頼んできたのだ。

 俺は、女の子の頼み事は普通は断らない主義だ。だから、きららちゃんから「お願いがあるので後で部屋に来てくれませんか」と言ってきたときには、例えどんなことだろうと二つ返事で引き受けるつもりだった。だが…………きららちゃんがサプライズ、となると話は変わってくる。

 

 

 

 

 そう―――きららちゃんは、あらゆるウソや隠し事の類が絶望的にヘタクソなのだ。

 

 夏に、彼女の知り合いが建てたという、『リュウグウランド』のアトラクションに参加したときに、案内役がきららちゃんだったのだが……なんともまぁ、ひどすぎた。

 

『え? だめですか? 私、うそつけませんか?

 でもだからといって、今更、これがオトヒメさんによるドッキリだなんて口が裂けても……』

『脱出ゲームをドッキリで体験してもらおうってオトヒメさんの提案でできたアトラクションの、仕掛け人をやっているだなんてことはありません!』

『手はず通り、あっちに人影が!』

『そういう設定なので、大丈夫ですよ?』

『ウミさんの役目はもう終わったので。』

 

 彼女の露骨すぎるばっくれようが、脳裏に蘇る。

 どうしてここまで、ドッキリやら仕掛け人やら、手はずやら設定やら役目やら、ポロポロ言えるものなのか。ウッカリなんてレベルじゃない。普通なら意図してやらない限り……いや、意図してやってもこんなにボロは出せない。でも、きららちゃんは意識せずにやってのける。もはや才能だ。

 

 

 どうせ彼女のことだ。

 クリスマスパーティー用のプレゼントを買うのに『クリスマス用のプレゼントにぴったりなものを買いに来ました!』って言ったり、ちょっと尋ねられたら『サプライズでプレゼントなんてありません!』って言ったり、直前になって『今からプレゼントを持ってきますのでここで待っててください!』って言うに決まっている。そこにサプライズもクソもない。

 微笑ましいプレゼントとしてはOKかもしれないが、きららちゃんは『サプライズでやりたい』と言ったのだ。手を貸さない選択肢はありえない。

 

 

「すみません、ローリエさん。わざわざお呼びしたのに……」

 

「何を勘違いしてるんだ?」

 

「え?」

 

「無理だろとはいったが、一人ならって意味だ。手伝わないとは言ってない」

 

「そ、それってつまり……!」

 

「ああ。できるだけサプライズになるように全力を尽くそう」

 

「本当ですか! ありがとうございます!!」

 

 

 きららちゃんを味方にして、どこまでサプライズできるのか。

 そんな不安に満ちている俺が差し出した手を、きららちゃんは満面の笑みをして両手で取り、包む。

 ここに、サプライズ作戦のチームが完成した。

 

 

 

 さて、きららちゃんと同盟を組めたことだし、まずは彼女から何をするか、どのような作戦で行くかを聞き出さなきゃな。

 

「さて、きららちゃん。サプライズとは言ったが、具体的にどうするつもりなんだ?」

 

「あ、はい。実は、明日皆のプレゼントを買いに出かける予定だったんですよ」

 

「なるほどな。誰に何のプレゼントを買うつもりだったんだ?」

 

「まず……ランプには、栞を。マッチには、専用の蝶ネクタイを。クレアには、髪飾りを。ライネさんには、新しい鍋敷きを。カンナさんには、筆記用具を。コルクには、計算機を。ポルカには、熱に強い団扇を。当日来てくれたクリエメイトの皆さんには、お菓子をプレゼントする予定です!」

 

「結構買うな。アテはあるのか?」

 

「はい。コルクさんのお店がありますので。」

 

「………」

 

 

 早速穴を見つけたんですけど。

 コルクの店で全部買おうものなら、コルク本人にそれを見られる。そこから、サプライズがバレるとは思わないのだろうか。

 

 

店主(コルク)にバレるぞ。というか、コルクへのプレゼントをコルクの店で買うのか……?」

 

「えっ………あっ! そ、そうか……」

 

「嘘でしょ、そこまで考えてなかったの?」

 

「は、はい……」

 

 何というか、きららちゃんは隠し事をしてるととことんポンコツになる気がしてきた。

 

「あー……まぁ、安心しろ。言ノ葉の都市になら、きららちゃんが買いたいものは全部揃ってる」

 

「本当ですか!」

 

「ああ。髪飾りとか電卓とか、あと宴会芸用の蝶ネクタイなんかも俺が作って流行らせたからな」

 

 コレでなんとか、コルクにサプライズがバレるという事態は避ける事ができた。

 だが、まったくもって安心出来ない。

 都市だと、ランプやアルシーヴちゃん、ジンジャーを始め、ハッカちゃん以外の八賢者と鉢合わせる危険性がある。もしかしたら『コール』中のクリエメイトもいるかもしれない。もしそうなった時に、きららちゃんに何か聞かれたら、サプライズとしてはオシマイだ。

 

 だから、先に手を打たせてもらう。明日、アレを持ってくるとしますか。

 

 

 

 

 

 翌日。

 言ノ葉の都市の中心部・噴水前、温かさと見た目を兼ね備えたハイカラな格好のいわゆる「シティーボーイ」となった俺は、待ちぼうけを食らった彼女持ちの男のようにベンチに座り込んだ。12月の風とが身に染みる。

 そうして数分ぼーっとしていると、こちらに向かって星型の髪飾りでツインテをつくった少女がやってくる。

 

「お待たせしました!」

 

 きららちゃんだ。いつもの魔導士のローブ姿ではなく、ベージュのレディースコートにモコモコな手袋、耳当てと温かい格好に身を包んでいる。

 

「大丈夫。こっちもさっき来たところだ」

 

「そうなんですね。では、早速行きましょう!」

 

「待ってくれきららちゃん。飴ちゃんでも食べるか?」

 

「わぁ、ありがとうございます!」

 

 俺は、真っ赤な飴玉をきららちゃんに食べさせようとする。

 

「はい、あーん」

 

「え?」

 

「ほら、あーんだよ、あーん」

 

「え、えっと………あーん」

 

 チョロい。

 俺が差し出した飴玉を見事に口にしたきららちゃんは、しばらく飴玉の甘さを堪能している。これで下準備は完了。

 

「な…なんだか恥ずかしいです……」

 

「気にすんな。この時期、どこもかしこもこんなムードさ」

 

 さて、買い物と行きますか。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 まずきららちゃんは、ランプの栞とカンナの筆記用具を買うために文房具屋に来ている。そこでは、パステルジュエルを削ったものをちりばめたカラフルな栞や金属で動物や魚の形をかたどった特徴的な栞、また多種多様な筆記具などを取りそろえてある。きららちゃんなら、これまでの旅の相棒やお世話になった建築家のお気に入りを決めることができるだろう。

 ちなみに俺は、「サプライズがバレないように別行動を取ろう」ときららちゃんに言って別れておき、隣の本屋で本を見ているフリをしながら、きららちゃんの様子を見ている。万が一、誰かに話しかけられた時に、一応()()はしているが、念には念をというやつだ。

 

「あら、きらら。何を見ているの?」

 

 きららちゃんに話しかけてきたのは、黒髪を細いツインテールにした少女。

 クリエメイトの小路綾だ。

 アヤヤの危険度は低め……といったところか。『きんモザ』の中では彼女は常識人だし、隣に陽子もいないから夫婦漫才が始まって暴走する危険性もない。

 

「綾さん。栞を見ていたんです。」

 

「何のために?」

 

 さて、アヤヤが栞を見ていた理由を聞いてきたな。

 ()()()()()だ。

 

自分用ですよ。私、本を読むんですけど、栞一枚も持ってなかったなって思って。」

 

「? あら、そうだったの。意外ね。」

 

「??? え、えーっと……??」

 

 突然、きららが混乱しだす。自分の口を抑え、はたから見ても分かるように動揺しだした。

 

「……なにやってるのよ? まあいいわ。じゃあね。」

 

「え、あ、はい……またこんど……??」

 

 きららちゃんは、わけもわからないまま急いでいるであろうアヤヤを見送った。

 しきりに自分の口を気にしている。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのようだ。

 まぁ……当の本人にとっちゃ、わけもわからなくなるだろう。なにせ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 飴玉型変形取付魔道具・嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)

 俺がお遊びで製作した、飴玉のような形と甘味でカモフラージュされたこの魔道具は、誰かの口の中に入ると、飴玉が溶けたフリをして舌に取り付き、その人に思ったことと逆のこと―――つまり嘘を言わせる、という強烈な効果を持つ魔道具である。舌と同化する迷彩色を持つため第三者からの目視は困難で、解除するには、持ち主が「とある合い言葉」を言う必要がある。要するに某イタリアンギャングのスタ〇ド能力みたいなものだ。

 

 きららちゃんがどこまでも嘘をつけないことは知っている。それは立派な美点なのだが、サプライズやドッキリにはまるっきり向いてないのが欠点だ。

 だったら、罰ゲーム用の魔道具で喋れないようにするか? いや……それだと限界がある。できるだけ自然に……かつ、サプライズがバレないようにしなきゃならない。そこで登場するのがこの嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)だ。

 

 買い物を始める前にきららちゃんに食べさせた赤い飴ちゃんが、その魔道具だ。つまり今、きららちゃんの舌にはこの嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)がくっついているのだ。事前に言わなかったのは、余計なトラブルを回避するための合理的虚偽。今の彼女は、うっかり「サプライズプレゼントを探している」と言うことはできないし、それに関連した本当のことも喋れないようになっている。

 

 

「ローリエさん、さっきの綾さんとの話なのですが……」

 

「問題ない。次の店に行こう。」

 

 

 栞と筆記用具を無事買ったきららちゃんは会話の異変に気付き始めたが、サプライズの用意がバレない為にも、俺はさっさと次へ行くことを提案した。

 

 

 

 

 

 次にきららちゃんと俺は、蝶ネクタイと髪飾り、電卓と団扇を買うために雑貨屋に来ていた。大きめの雑貨店のため、きららちゃんが目的のモノを探している間、近くのコーナーで買うものを探すフリをする。

 

「えっと……電卓と髪飾り、うちわはオッケーだから………あとは、蝶ネクタイ、蝶ネクタイ………」

 

「…………。」

 

 きららちゃんの声が聞こえてくる。

 何というか、この買い物の最後までサプライズを隠し通せるか心配になってきた。そうやって買うものを呟いてたら察しの言い奴に気づかれるぞ。常にフォローに回るように動いて正解だったな。

 

 

「きらら! こんなところで何をしているのかしら?」

 

「あっ、メリーさん、勇魚さん! こんにちは。」

 

「きららちゃん、こんにちは。」

 

 

 おおっと、ここでまたきららちゃんに話しかける人物が現れたか。隣のコーナーからチラリと声のした方を見る。そこにいたのは、夢魔メリー・ナイトメアと(たちばな)勇魚(いさな)だ。

 勇魚は兎も角、メリーの危険度は少し高めだろう。彼女は聖典(漫画)『夢喰いメリー』の主人公の一人にして、藤原(ふじわら)夢路(ゆめじ)と共に数々の戦いを潜り抜けてきた猛者だ。並みの人間以上の身体能力や観察眼の前では下手な誤魔化しは逆効果になりかねない。

 

「アンタも宴会芸の小道具を買いに来たの?」

 

「『も』?」

 

「実は私達、クリスマスパーティーでちょっと、ね。」

 

「あんま言わないでよ勇魚。本番までのお楽しみがなくなっちゃうじゃない。それで、きららは何を買いに来たの?」

 

 メリー達はクリスマスパーティーで何か行うようだ。こちらも、クリスマスパーティーのプレゼントの用意なのだが、嘘をつかせていただきますよ。きららが。

 

「色々と。おおかた見つけて、あとは蝶ネクタイを探している所なんです。」

 

「へぇ、何のために?」

 

自分用です! ……え?」

 

「自分用? つまり、一発芸か何かで使うってことかな?」

 

はい、そうなんです。………???」

 

 

 相変わらず、きららちゃんは自分の口が勝手に嘘をつく現象に慣れていないようだった。

 だが、慣れてほしい。もしきららちゃんの「自らサプライズを暴露していくスタイル」に付き合っていたら、彼女の「サプライズでプレゼントを渡したい」という願いが叶えられないからだ。

 きららちゃんのこれでもかというほどの嘘に、勇魚もメリーも不思議そうな顔をしている。

 今のでバレるか………?

 

 

「どうしたの、きらら? 口ばっかり押さえて」

 

 メリーが首を傾げてそう尋ねるが……きららちゃん、そんなことをしていたら怪しまれるよ。

 嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)には欠点がいくつかある。その一つが、『対象の行動までは完璧には操れない』ということだ。例えば筆談であったり「あっちにだれそれがいるぞォーッ」って指をさす場合は筆談内容や指をさす方向を変えることはできるが、表情や口を押さえるといった『真偽のはっきりしない行動』に干渉することはできない。

 だが、多少怪しまれた所で問題ない。きららちゃんが次に口にすることは容易に想像できる。

 

 

「メリーさん、私はいつも通り至って普通ですよ。だって、思ったことがそのまま口に出るんですから! …………?」

 

 

 それは、言動の違和感をそのまま訴えること。

 嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)には欠点があるとはいえ、「思ったことと逆のことを言葉を言わせる」点だけは確かなのだ。だから……

 

『さっきからなんかおかしいんです。だって、思ったことと逆のことが勝手に口から出るんですから』

 

といったきららちゃんの言葉の方向性を、ここまで真逆にすることなどわけないのだ。

 

 きららちゃん、今は作戦中だ。必ずサプライズを隠し通してみせようぞ。

 

 

「い、いつも通り、思ったことが口に出る……?」

 

「何を言ってるの? それ、当たり前のことよ?」

 

「えっ!? えーっと………そ、そうですけど、そうじゃなくて……」

 

 

 きららちゃん、弁明しなくていい。早くプレゼントを買ってしまえ? 頓珍漢な嘘で勇魚が混乱し、メリーがちょっと呆れている今がチャンスだぞ?

 

 

「疲れてるなら、とっとと帰って休みなさい。いいわね。」

 

「メリーさん、分かりました。そうさせていただきます! ………あれぇ?」

 

「お大事にね、きららちゃん。」

 

 

 メリーが忠告し、勇魚が心配しながら立ち去った。

 はぁ、危なかった。ちょっと怪しまれたけど、この調子なら最後まで上手くいきそうだ。

 隠れていた隣のコーナーから姿を現し、きららちゃんと合流する。

 

 

「あ、あの、ローリエさん!」

 

「なんだ?」

 

「やっぱりおかしいです!」

 

「なにがおかしいのさ? ここまで、買うべきモノは順調に買えてるだろう?」

 

「そこじゃないです! メリーさんと勇魚さんとの会話です! 綾さんとの会話もおかしかったし!」

 

 やはり、違和感には気づくか。でも、まだ教えることはできないな。

 

「なにがどうおかしかったんだ?」

 

「さっきから思った通りのことを喋れる……………えっと……」

 

「何だ、いつものきららちゃんじゃあないか。きららちゃん、()()()()()()()()?」

 

「うう……確かにランプやマッチからそう言われたことありますけど………」

 

「さて、後は鍋敷きとお菓子だっけ。織物屋の方が近いから、先にそっちへ行こうか。」

 

「は、はい………」

 

 

 全く納得のいってない様子のきららちゃんの手を取り、俺達はライネさんへのプレゼントを買うために次の目的地まで歩いていく。

 

 

 

 

 

 俺達が織物屋に着くとそこには店主の他に、既に先客がいた。

 

 

「あれ、きららに……ローリエさん? 珍しい組み合わせだね」

 

「桃さん、こんにちは!」

 

「よ、桃ちゃん!」

 

 

 魔法少女の千代田桃だ。

 最近、きららがコールに成功した、聖典(漫画)『まちカドまぞく』の世界の住人である。

 桃は、戦いの後にほつれた服を直していた影響で、裁縫は得意なのだ。

 会計が済んだのであろう、何かが入った袋を持っている。きっとシャミ子かミカンに送るものを自作するために必要なものを買いに来てたのだろう。

 

「桃ちゃんは何を買いに来たの?」

 

「裁縫道具の補充に。お二人は?」

 

「俺達は完成品に用があるんだ。いいデザインのがあればいいんだけど……」

 

「………! あ、そうだローリエさん、一緒に行動しましょう、マンネリと分かるように。 ……うーん」

 

 きららちゃんがまた頓珍漢な嘘をつく。おおかた『サプライズだとバレないように別行動しましょう!』とでも言うつもりで、真逆の事でも言おうとしたのだろうが、そんな小手先の手段で俺の嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)を破れると思うたか。

 つーかサプライズがバレないように動いていることを自覚しろってーの。桃が目の前にいるのにそんな事を言おうとするなし。大義を見失って貰っては困る。

 

 

「………?? きららは何を言ってるの? なんかおかしくない?」

 

「気にすんな、桃ちゃん。いつもの事だろう?」

 

「何を言ってるんですかローリエさん! まるで私がおかしな子みたいじゃないですか!」

 

「いや、そうじゃなくて。何か声か…しゃべり方?そういうのが変……とまではいかないけど、いつもとは違うなって。」

 

「「っ!!?」」

 

 ヤベェ。この桃色魔法少女、思ったよりも鋭いぞ!?

 あまりに鋭く切り込んでくるから、一瞬心情がシャミ子に寄ってしまった。どうしよう。

 

 

「そ、そうか…? 今日のきら――」

そんなことありませんよ? いつもこんな感じです!!

 

「…………。」

 

「やっぱり、何か違和感がある。風邪かな?」

 

「……!」

 

 完全に終わったと思ったが、桃は風邪だと思い込んでいる。思わぬ誤算だが、利用しない手はない。

 きららちゃん、後で償いはいくらでもするから、今だけは許してくれよ。

 

 

「そう……かもしれない。きららちゃん、ちょっといいか?」

「えっ?」

 

 返事を待たずに近づいておでこで熱を測る―――のはちょっと恥ずかしいので、両手で熱を測る。

 

「あの、私、熱なんてあり――」

「静かに。サプライズ、成功させたいんだろ? なら今桃ちゃんにバレるのは良くない」

「でも、ここまでしなくても――」

「いいから。……俺を信じてくれ」

 

 

 きららちゃんの言葉を遮り、彼女にしか聞こえないように囁く。それで納得がいったのか、きららちゃんはそれ以降反論することはなかった。

 そして熱を測るフリをして、きららちゃんから離れると、桃にも聞こえる音量でこう言った。

 

 

「熱自体はないみたいだ。のどにでも、問題があるのかな?」

 

「なら、風邪の引き始めかもね。気を付けたほうがいいよ、きらら。」

 

「えっと……分かりました。気を付けますね。風邪ひいてますけど

 

「引いちゃ駄目なんだって。じゃあ、お大事にね。」

 

「じゃーねー、桃ちゃん!」

 

 

 俺たちに手を振って、桃は帰っていく。その表情は、ちょっときららちゃんを心配しているようでもあった。

 危なかった。もし、桃にきららちゃんに仕込んだ嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)の事がバレたら、裁かれていたかもしれない。サバのように…。

 

 

「………行ったか。さて、鍋敷きを買うとしますか……きららちゃん?」

 

「………。」

 

 

 桃が離れたところを見計らって俺は織物屋の奥に入ろうとするが、きららちゃんは動かない。

 よく見ると、きららちゃんは罪悪感のにじみ出る表情で、桃が立ち去った方向をずっと見続けている。

 

 

「……きららちゃん」

 

「あ、はい! …なんですか?」

 

「…そんなに、嘘をついたのが嫌だったか?」

 

「………っ」

 

 

 きららちゃんが俯く。

 サプライズを隠し通すためとはいえ、ちょっと嘘をつかせすぎたか。

 彼女のリアクションで俺はようやく分かった。

 

 彼女は、嘘や隠し事がただヘタクソなだけじゃあない。純粋に仲間を信じることが…人の持つ善なる部分を信じることができるのだ。だから…仲間を騙したり、裏切ろうとすることができないんだ。だから……嘘や隠し事が全くできないのだ。

 

 

「きららちゃん……俺は、謝らないといけない。今、君の身に起こっている現象を引き起こしたのは間違いなく、俺だ。」

 

「……やっぱり、ローリエさんの魔道具だったんですね。始めに食べさせてくれた、飴ですか?」

 

「そうだ。詳しくは買い物がすべて終わった後に話すが、君に説明も許可もなく、騙すような形で魔道具を取り付けたことを、謝らないといけない。すまなかった」

 

「どうして、そんなことを?」

 

「きららちゃんが隠し事が全くできないのは知っていた。そんな君から、サプライズをしたいと頼まれた時に最も必要だと思ったんだ。何も聞かせずに食べさせたのは、事前に説明したらそれをそのまま誰かに話すと思ったからだ。」

 

「そう………ですか。そんな気はしていたんです。」

 

 ……?

 つまり……きららちゃんは自分が嘘や隠し事がびっくりするほど苦手だってことを知っていたのだろうか?

 

「どういうことだ?」

 

「私は……サプライズやドッキリなんて、できない人なんじゃあないかって思ってたんです。」

 

「!!」

 

「オトヒメさんのドッキリアトラクションで案内役をしたあとで、マッチがランプに話しているのを、たまたま聞いてしまったんです。」

 

 

『ランプ、アトラクション試遊のフィードバック、読んだよ。』

『どうでした?』

『うん……大体は高評価だったけど……』

『けど?』

『胡桃の意見に書いてあった、この「案内役がネタバラシをどんどんやってた」って意見が気になるかな。』

『案内役って、確か……』

『きららだよ。彼女、嘘とかつけない人だから心配してたけど……まさかドッキリだってすぐにバラしてたなんてね。』

『マッチ!!! きららさんがいない所でそんなことッ――!!』

『待ってくれ、非難したいわけじゃあない。でも僕も知らなかっただけなんだ―――』

 

 

「だから……みんなを驚かせたかったのかもしれない。私だって、サプライズできるんだーって。」

 

 そんなことがあったのか。そんなことを聞いてしまったら、発言者の意図はどうあれ、気にしてしまうに決まっている。とりあえずマッチ、お前は後で魔法実験台の刑に処してやる。

 

 きららちゃんのその表情は、笑顔を繕っている―――いや、繕おうとしているが、悔しさがにじみ出ていて、まったく誤魔化せていない。そのせいで、自嘲気味な笑いになっている。こんなところまで誤魔化しがへたくそな彼女の表情に、なぜか俺は急に罪悪感に襲われた。

 

 

「でも……嘘をつくのも、なんか嫌でした。さっきメリーさん達や桃さんに心配されたこともです。本当に元気で、風邪も引いてないのに風邪を引いたって言ってしまって……まるで、三人を騙してるみたいでした。」

 

「………それは100%俺が悪いわ。マジでごめんよ」

 

「いいんです。私は、嘘をつくことを、覚えなければいけないんでしょう。それが、サプライズを成功させることに繋がるから……」

 

 

 繋がらないよ。

 そんな大袈裟に覚悟を決めないでくれ。頼むから、普通に「ローリエさんに変なもの食べさせられたー!」って言ってくれない?

 これ以上きららちゃんが変な方向に歪まないように、修正しなければ。

 

「それは違うぞ」

 

「違う、って……?」

 

「サプライズを成功させることが目的だろ? 嘘をつけるようになることが目的じゃあない」

 

「!!!」

 

 

 俺の言葉できららちゃんは目を見開く。

 

 

「それに俺は……嘘がとんでもなく上手な人より、素直な子の方が好きだ。」

 

 俺の思いをそのまま伝えると、きららちゃんは、自身の暗雲が晴れたのか、さっきの自嘲的な笑いが嘘であるかのように笑う。冬の寒さのせいか、顔がほんのり赤い。

 

 

「ありがとうございます、ローリエさん。

 ……そうですね。確かに私は、そう頼んでたんでした。」

 

「さ、中に入るぞ。ここで鍋敷きを買ったら、あとはお菓子だけだ」

 

「はい!」

 

 俺たちは、二人でライネさんが好むであろうデザインの鍋敷きを選び、会計を済ませた。

 

 

 

 

 織物屋を後にして、お菓子の店が見えてきた時、後ろから声をかけられた。

 

「ローリエ! やっと見つけた…!」

 

 ソラちゃんだ。封印が解かれた後もはたまに神殿を抜け出したり、別世界の観測&記述をしたり、きららちゃんとランプをお茶会に呼んだりしている。

 

「あ、ソラ様!」

 

「きららちゃんと一緒だったのね。」

 

「あぁ。どうしたんだ、ソラちゃん?」

 

「ちょっと二人で話したいことがあるの。付き合ってくれないかしら?」

 

「……悪いけど、きららちゃんの先約があるんだ。日を改めてくれないか?」

 

「……ほんの数分で終わることなの。お願い。」

 

「…………きららちゃん、先に行っててくれ。ソラちゃんが手短に済ませるみたいだから」

 

「分かりました。じゃあ、先にお菓子屋さんに行ってきますね。」

 

 きららちゃんがお菓子屋に歩いていくのを見送った後、俺はソラちゃんに話しかける。

 

「……それで、なんの用なんだい?」

 

 俺の言葉に、ソラちゃんはなんでもないように尋ねる。

 

「ローリエって、欲しいものとかある?」

 

 ……その質問は、クリスマスプレゼントのことを訊いているのだろうか?

 時期も相まって、あまりにも露骨すぎるその質問は、裏があるんじゃないかって思うほどだ。

 だから、適当にはぐらかして早くきららちゃんと合流するとしますか。

 

 

「……そうだな―――」

 

「言っておくけど、『体にリボンを巻くだけでいい』とか言って、私や他の女の子をねだるのはナシよ。現金も夢がないから駄目。準禁忌の魔法(ブラズーレやルカニャン)の解禁も私一人の一存じゃ行えないし、『何でもいい』が一番面倒なの知ってるでしょ」

 

「………なんで誤魔化しのレパートリーを全部知ってんだよ」

 

「何年幼馴染やってると思ってるの?」

 

 どうやらこの幼馴染も、俺が彼女を知っているように、俺のことはだいたい分かっているようだ。

 仕方がない。

 

「ソラちゃんが好きなものをくれないか?」

 

「………そんなことを、色んな人に言うからダメなのよ、あなたは」

 

「ンなこと言われたって、思いつかねぇんだよ。形になるものなんて、その気になれば大方作れるしなぁ」

 

「でも、人から貰ったものって、思い出に残るものよ。ローリエは何でも作れちゃうけどさ、たまには、こういうのもいいんじゃないかしら?」

 

「……そうかな。」

 

「引き止めてごめんね。それじゃ、クリスマスを楽しみにしててね!」

 

 そう言うと、ソラちゃんは走っていってしまった。

 俺は、彼女の言葉を反芻する。

 

「『人から貰ったモンは思い出に残る』……かぁ……」

 

 確かにそうかもしれない。思えば、俺は必要なものは全部自作していた。

 パイソン&イーグルの二丁拳銃に始まり、ルーンドローンやル○バもどき、トランプとか将棋に至るまで。エトワリアは、俺が転生前に住んでいた日本よりも不便だったのだ。まぁ、それはそれで良いところもあったりするのだが、どうも日本で培った便利な生活観が足を引っ張っている節がある。早いところ、改めないとな。

 

 これ以上きららちゃんを待たせるわけにはいかないなと思い、早足で駄菓子屋に行くと。

 

 

どーぞ、どーぞ! ぜひ全部見ていってください!

 

「あ、ああ……だから、今から見ようとしているのだが………きらら、何故抵抗するんだ?」

 

「きららさん、言葉と行動が完全に矛盾してますけど………」

 

「……………」

 

 

 店先には、袋の中を見ようとしているアルシーヴちゃん、それに抵抗するきららちゃん、見たまんまの状況に呆れかえるソルトがいた。俺はその光景に顔を覆った。

 

 

 

 

 ……結論から言おう。

 バレた。バレてしまった。

 終わった。今度こそ何の誤魔化しも効かないくらいに、しっかりと終わった。

 

「…成る程。道理できららの言動が不自然だったわけだ……」

 

「ごめんなさい、ローリエさん……私が誤魔化せなかったばかりに……」

 

「いや、きららちゃんは悪くねぇよ。ソラちゃんの話を切り抜けられなかった俺の落ち度だ……」

 

「全くです。無許可で魔道具食べさせるとか正気ですかあなたは」

 

 辛辣なソルトの正論に俺となぜかきららちゃんもこれから尋問を受ける犯罪者のように縮こまってしまう。

 

「とりあえず、きららに付けてる魔道具を戻せ、ローリエ」

 

「はいはい………『戻れ、トーキングヘッド』」

 

「んぶぅ!!?」

 

 若干津田健さんのモノマネをしながら合言葉を言うと、きららちゃんの口から赤いものが飛び出した。

 ソレは、ナメクジのような姿で、一本釣りされたマグロのように1、2秒ほどピチピチしたかと思えば、もとの真ん丸の飴玉の姿に戻った。

 

「………もう少しビジュアルを何とかしろ」

 

「G型よりマシだろ?」

 

「アレは最底辺だ馬鹿者。口から飛び出すところといい魚のような動きといい、コレも十分気持ち悪いわ」

 

 アルシーヴちゃんにそう言われて残り二人の顔をうかがうと、きららちゃんは青い顔で、ソルトも引きつった顔を真顔に装って頷いていた。

 今度は鳥山先生作のスライム顔でもつけてみるかな。

 

「それで? 何故、この様なキモイ魔道具をつけてたんですか?」

 

「あぁ、それはだな………」

 

 俺の魔道具をディスったソルトに若干イラっとしながらも、話を円滑に進めるために全部教えることにした。バレてしまった以上正直に話すほかないし、そうなったらなったで口止めすりゃいいだけだ。

 

「「はぁ…………」」

 

「あ、アルシーヴさん? ソルトちゃん?」

 

 二人揃ってため息をつかれた。なんだよ、何か問題あるのか?

 

「問題大ありだ。何故、二人きりでやろうとする」

 

「え、だって、サプライズですよ? バレたら意味がなくなるってローリエさんが」

 

「おいきららちゃん。最初にサプライズしたいって言ったのは君だろう」

 

「そうではありません。何故、ソルト達を頼ろうとしないのですか」

 

 ソルトの意外な言葉に俺達二人は面食らう。

 

「ど、どういうことですか??」

 

「あなた達はいつもそうです。二人とも、誰かを頼ることに躊躇してしまう。特にローリエ。あなたの方がその傾向が強いです。」

 

 ぐうの音も出ねぇ。現にきららちゃんのサプライズも俺一人でサポートしたし。

 

「でもよ、俺達のことは、ソルトやアルシーヴちゃんには関係ないことだろう?」

 

 とはいえ黙るわけにもいかずそう返すと、アルシーヴちゃんは軽く手を上げる。

 

「そう言うな。実は私達も、()()()()で買い物に出ていたのだ。」

 

「ある目的?」

 

「お前たちと()()だ。」

 

「同じって……?」

 

「少し提案があるのだがな………」

 

 そう笑うアルシーヴちゃんが出した提案に、俺ときららちゃんは迷わずOKを出した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 アルシーヴちゃんの提案に乗ってから数日。

 とうとうきららちゃんが待ちに待ったクリスマスパーティの日がやってきた。

 きららちゃんはミニスカが特徴的なサンタ服に、俺は白いシルクハットにタキシード、モノクルに申し訳程度のサンタ髭というアルセーヌ・ルパンばりのコスプレに着替え、現在二人揃って外で待機中だ。

 

 今回のパーティ、俺ときららちゃんはわざとパーティに遅れて、会場内が停電になったタイミングに突入、復旧した瞬間に盛大にプレゼントをする、という手はずになっている。

 無論、きららちゃんは計画を喋るに決まっているのでその朝再び嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)を無理矢理食べさせておいた。彼女は嫌がったが、受けた仕事は最後までやるのみだ。最後の最後でサプライズがバレてたまるか。

 

『い、いや! 絶対に嫌です!!』

『………ビジュアルは改善した。見ろ、この愛くるしいスライム顔を』

『……いや、改善になってないような…というか、私はこんなものに頼らなくても――』

『誤魔化せるって? 悪いけど、今までの君の言動からしてコレは絶対に必要だ。なんなら根拠を解説付きで全部説明してやろうか?』

『うっ………』

『……別に嘘がつけないことが悪いことじゃあないんだ。ただ、今回に関してはちょっと不利だってだけなんだ。』

 

 説得の様子が思い出される。

 あの時ほどきららちゃんに申し訳ないと思ったことはない。だからきららちゃんよ、顔を若干赤くしながら、涙目でこっちを睨まないでくれますかな。俺はただ魔道具を食べさせただけなのに、性的にヒドいことをしたかのような罪悪感に苛まれる。

 

 

「さぁ、準備はいいか?」

 

「……ええ、もう口に魔道具もありませんしね」

 

「悪かったって」

 

 どんだけ根に持ってるんだよ。仕方ないけどさ。

 そんなやりとりのうちに、もう一人の仕掛け人とも合流する。

 

「ローリエ、きらら、いけるか?」

 

「はい、アルシーヴさん」

 

「あぁ、モチロン。ソルトは?」

 

「そろそろ準備が終わる頃だろう」

 

 そう。アルシーヴちゃんだ。露出の多めなサンタ服がよく似合っている。

 アルシーヴちゃんの提案。それは―――『きらら達とアルシーヴ主催のクリスマスパーティを合同で行う事』だった。そして、きららちゃんのサプライズの仕掛け人にアルシーヴちゃんとソルトもなってもらう。それが、あの時に彼女が提案したことであり、俺ときららちゃんが賛成した作戦でもあった。

 

 つまり……今、会場になっているライネさんの食堂には、ランプやクレア等の里の住人やクリエメイトの他にソラちゃんやソルトと俺を除いた八賢者がいる。結構広いからスペース的には問題ないとはいえ、仲良くしてるといいのだが………

 

 

『アルシーヴ様、こちら、準備整いました。いつでもいけます。』

 

「よくやった。では、作戦開始だ、二人とも!」

 

「おう!」「はい!」

 

 

 アルシーヴちゃんが持ってた無線(俺作)に、ソルトからの連絡が入った。

 作戦、開始だ。

 

 食堂の窓から漏れ出ていた光が、一斉に消えた。

 それと同時に、俺たちは扉を開け侵入。

 動揺する声、悲鳴、ブレーカーを探せと指示する声が会場内に響く中、人の隙間をスルスルと走っていく。

 

 二人は見つかりにくい脇の方へ、俺は人目の集まる簡設ステージの上に立ち、小型のルーンドローンのスポットライトで自身を照らす。

 

 

 

「レディ~~~ス、エ~~~ン、ジェントルメ~~~~~ン!!!」

 

 

 

 声色を某泥棒三世風に変え、高らかに宣言し、会場内の視線を独り占めする………はずが。

 

 

「だ、誰だお前は! 怪しいヤツめ!」

 

「動かないでください。動いたら撃ちます」

 

「何だか知らないけど、アタシ達のパーティの邪魔はさせないわ!」

 

「ここに乗り込むたぁ、いい度胸じゃねーか?」

 

「動くなかれ」

 

 

 何も知らないクリエメイトと賢者達に囲まれた。

 リゼちゃんが、桃が、メリーが、ジンジャーが、ハッカちゃんがそれぞれ武器をこっちに向けている。

 

 ヤベェ。ここまで来て、逃げたらサプライズが台無しに…………

 …………いや、待てよ?

 この状況、いける。

 

 

「俺ぁアルセーヌ・ルパン。ここにきたのはプレゼントのためだ」

 

「プレゼント……?」

 

「あんま近づくとヤケドすっぜぇ?」

 

 

 マントを翻すと、囲んでいた5人が全員目を見開く。

 当然だろう。マントが裏がえったそこに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだから。

 

 

「しっかり食らいな」

 

「みんなっ、逃げ―――」

 

 

 ジンジャーが指示を出そうとした瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンッ!パンッ!パパパパパッ!パンッ!パパパパパパパパパパパパパパパッ!パパンッ!

 

 

 

 

 

 

 会場に、紙吹雪が舞った。

 

「ハーッハッハッハッハッハッハッ!! メリークリスマス!!! 俺達のサプライズだ!!!!」

 

「「「「「「「………………へ?」」」」」」」

 

 サンタ髭とモノクルを取って素顔を晒した俺の高笑いに、皆はしばし言葉を失い、それは端からサンタ姿のきららちゃんとアルシーヴちゃんが出てくるまで続いた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 その後、きららちゃんとアルシーヴちゃんの説明で、さっきまでの侵入者がドッキリの演出であったことを知ったクリエメイトや参加者達は、本当に様々な反応を示してくれた。

 

 

「なんだ、不審者じゃなかったってことか………」

「リゼ、落ち込んでない……?」

「リゼさんだけじゃありません。『妹たちを守ろう』って張り切ってましたね、ココアさん?」

「そうだったねーココアさん」

「言わないでー!」

 

 何だよ、驚かせやがって! と言わんばかり落ち込んだり一息ついて安心する子たち。

 

「なによ、ただのドッキリだったの? つまんないわね、本物の不審者ならアタシがとっちめたってのに」

「そう言わないで、メリーちゃん………!」

「これがサプライズってやつか。悪い奴をぶちのめすのも悪かねーけど、こういうのも良いな! ワッハッハ!!」

 

 本物の不審者もドンと来い! と大笑いする子たち。

 

「桃、停電は……さっきの怖い人は……?」

「ドッキリだって、シャミ子。はいこれ、お菓子」

「うぅぅぅぅ……これで勝ったと思うなよ……でもお菓子はいただきます…」

「ひぃぃぃぃぃ………ウチ、ほんまにもう無理……」

「ドッキリだってば、ユー子…」

 

 怖がってしまった子たち、それを慰めている子たち。

 

「これがランプ。マッチはこれね。コルクさんとポルカさんがコレとこれで……」

「これは…栞!? きららさん、ありがとうございます!」

「いいプレゼントだね。ありがとう、きらら。」

「感謝する。ありがとう。」

「おれのもあるのか!? ありがとな、きらら!」

「それで……あれ? あとは…どれが誰へのだったっけ??」

「きららちゃん、手伝おうか?」

「あ……ライネさん、すみません。ありがとうございます。」

「いいのよ♪」

 

「こっちはシュガー、こっちはセサミ。ハッカのはこっちだ」

「ありがとーございます!」

「私まで、いいんですか!?」

「アルシーヴ様、感謝感激。」

「あああああ、アルあるあるあるアルシ、シーヴ、アルシーヴさ、ままままままま」

「落ち着けフェンネル、ほら」

 

 ちょっとぎこちなくプレゼントを配るサンタきららちゃんとテキパキ配るサンタアルシーヴちゃんのプレゼントに喜ぶ子たち(約一名ほどサンタアルシーヴちゃんからプレゼントを貰って感情がオーバーフローしてるヤツがいたけど無視だ無視)。

 

「ローリエさん、でしたよね!? さっきのアルセーヌ・ルパン、凄かったデース!! 良ければ、サインをくれまセンか?」

「か、カレン……! そんなグイグイ行ったら…!」

「それくらいならお安い御用だ。カレンちゃんだけでいいのかい?」

「ほら! アリスも貰っちゃいましょうよ! シノとアヤヤもどうですか~?」

「はい、アリスとカレンが貰うのでしたら!」

「わ、私、陽子を探してくるわ!」

 

 中には、ルパンを演じた俺にサインをねだってくる子たちもいた。

 色んな表情をしているとはいえ、みんな間違いなく楽しんでいる。

 

 ひふみんがコウとりんと三人で静かにお酒を飲んでいる隣で、あおっちがシャンパンで小悪魔になったのか、ねねっちとほたるんにじゃれかかっている。

 千矢ちゃんと(かむ)ちゃんと宮ちゃんが一心不乱にごちそうを美味しそうに食べ、それを紺と栄依子(えーこ)とゆのっちが見ながら談笑している。

 カレンが俺から借りたシルクハットをかぶり、ルパンの演技をして、それを見たシノや陽子がやんややんや、ヒューヒューと騒いでいる。

 メリーと勇魚が、鼻メガネとその他諸々の小道具を使って漫才をしている。舞台端を見れば千夜ちゃんが、いつの間にラパンの衣装を着せたシャロちゃんの背を押し、次の演目に彼女を入れようとしている。

 

 こんな光景が目の前で起こることなど、どうして想像できただろうか?

 ここまで賑やかで、見ているだけで楽しくなるクリスマスは()()()()初めてだ。

 それもこれも全て………

 

「ローリエさん。今回は本当にありがとうございました。」

 

 俺にお礼を言っている、きらら(この子)のおかげだ。

 

 

「お礼が言いたいのは俺の方だ。

 見てみろよ、パーティの参加者を」

 

「えっ?」

 

「今、目の前にいる人達は、きららちゃんが呼びだし、戦い、勝ち取ったり、絆を繋げたりした結果ここにいるんだ。パーティがここまで盛り上がったのは、君がいたからこそだ。本当にありがとう」

 

「いいえ。あなたが協力してくださったから、ドッキリが成功したんです。私だけじゃあ、途中でドッキリがバレて、ここまで上手くいきませんでした。」

 

「……ははっ」

「……ふふっ」

 

「あははははっ!」

「ふふふっ……!」

 

 

 お礼を言うつもりだったのに、お互いが変に譲り合いそうになり、つい笑ってしまう。きららちゃんもそれにつられたかのように笑い出す。

 

「何してるんだ、こんな所で?」

 

「アルシーヴさん、ソルトちゃん。二人とも、今日はありがとうございました。」

 

「ああ。二人のお陰だ。本当にありがとう」

 

「気にするな。」

 

「サプライズの企画はお二人です。ソルト達はそれに便乗しただけですので」

 

「それでも、だよ。二人には助けられた。だよな?」

 

「はい!」

 

 

 アルシーヴちゃんやトナカイの付け角をつけたソルトとも合流し、そんな事を話していくうちに、クリスマス・イヴの夜は、楽しく更けていった。

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。マッチはどこだ?」

「? ローリエ、僕に何か用かい?」

「明後日あたりの魔道具の実験に付き合ってほしいんだ」

「ま、待ってよ……そ、それって………」

「安心しろ、実験台だけはない。実験台だけは」

「信用できないんだけど!? 目が怖い!!」

「大丈夫だってビビリだなぁ。別にマッチのさり気ない一言がきららちゃんを傷つけたとかじゃあないしそれに対する報復でもない、実験台なら他にちゃんとした動物がいるしお前を殺す」

「いや最後!! 殺意を1ミリも隠せてないよッ!!?」

「ローリエさん! マッチは悪くないから許してあげてください!!」

「いや、マッチが悪いんだよ」

「程々にしろローリエ」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ローリエ、メリークリスマス」

 

 ローリエときららちゃん、アルシーヴのサプライズはとても驚いてしまった。

 

 突然の停電。

 ローリエの紳士服のコスチュームに演技とは思えない立ち振る舞い。

 二人のよく似合っていたサンタ服。

 アルシーヴからのイヤリングのプレゼント。

 そのすべてにクリエメイトや里のみんな、賢者だけじゃなくて私も、心奪われてしまった。あっという間にパーティが始まり、プレゼントを渡しそびれてしまうかと思うくらいには。

 

 

 宴もたけなわになった頃、私は、楽しそうにはしゃぐクリエメイトたちを、ひとり壁際で眺め、微笑んでいるローリエにこっそり近づく。

 

 

「ソラちゃん。気に入ってくれたかい? 今日のパーティーは」

 

「もちろん。カッコよかったわよ。あのサプライズ。心盗まれるかと思ったわ、アルセーヌ・ルパンさん♪」

 

「……知ってるのか、ソラちゃん?」

 

 

 確か…小説に出てくる、怪盗紳士だったかしら? 日々異世界を観察している女神を甘く見ないことね。

 そんなことを思いながら、ローリエの呆れるような驚くような質問には答えず、持ってきていたプレゼントを渡すことにした。

 赤と緑、金色のクリスマスカラーにデザインされた小包を渡す。

 

 

「これは……?」

 

「貴方へのプレゼント。開けていいわよ」

 

 

 私がそう言うと、「それなら遠慮なく」と包装を解いていく。

 すべての包みを外し、箱を開けると、ローリエはそこにあったものを見て目を見開いた。

 

 

「これは……ブレスレット…?」

 

 

 そう。彼によく似合う、太陽をイメージしたデザインがなされた、赤と金色のブレスレットだ。

 

 

「ローリエにはそのデザインが合うかなって。私はコレね」

 

 

 呆けたままの彼に私は右手を見せる。そこには、星々がデザインされた、紫が上品に使われているブレスレットだ。アルシーヴにも、さっき月のデザインのブレスレットを渡した。

 

 

「星のブレスレット………お揃いってことか」

 

「私だけじゃあないわ。アルシーヴにも月のブレスレットを渡しておいたの。三人でお揃いよ」

 

 

 そう言うと、ローリエの表情がだんだんと笑顔に変わり、太陽のブレスレットを撫で始めた。その撫で方は……大切なものを手に入れることができたかのような、優しい手つきだった。

 

 

「そうか……そいつぁいいな。ありがとう、ソラちゃん。」

 

「思い出に残りそう?」

 

 

 私が前日にローリエから訊いたことを尋ねる。

 気に入ってくれると嬉しいな、と期待しながら。

 どうやら、この様子だと、答えは一つみたいだけど。

 

 

「おいおい。訊くまでもないだろう?

 

 ―――最高の思い出だ。絶対に、忘れやしねぇよ」




キャラクター紹介&解説

きらら&ローリエ
 今回のサプライズを主催した原作主人公&拙作主人公。今回の話を思いついたきっかけが2019年夏のイベント『リュウグウアドベンチャー』にて、きららがネタバレ甚だしい案内をしたことである。アプリでは胡桃とイヌ子がフォローしていたが、拙作ではローリエも参加していたという設定。

アルシーヴ&ソルト
 神殿でのクリスマスで賢者とソラのプレゼントを買いに来ていた筆頭神官と賢者。ローリエときららと合流し、きららの矛盾しきった言動から異変を見抜く。二人がやろうとしたことを知り、合同クリスマスサプライズを提案した。

小路綾
 買い出しの日に、きららと文房具屋で出会った女子高生。彼女はただ顔を出し、買うものを探していた。一人で行動していたため、陽子にペースを乱されることなく暴走もなかったため、怪しまれなかった。なお、クリスマスパーティーにもシノ達と共に参加した。

メリー・ナイトメア&橘勇魚
 大きな雑貨屋にてきららが出会った夢魔&人間。彼女たちはクリスマスパーティーで行う漫才のため、小道具を買いに来ていた。きららの不自然な行動で少し怪しまれていたが、ローリエの魔道具と機転、きららの言葉で誤魔化すことに成功する。なお、クリスマスパーティーでは二人の出し物は絶賛だったようだ。

千代田桃
 織物屋にてきららとローリエが出会った桃色魔法少女。きららの言葉を少し聞いただけで違和感を感じ取ったが風邪と勘違いしていたことでローリエに誤魔化される。この後、参加したパーティーの日に風邪は治ったと知る。また、サプライズにビビったシャミ子の為にお菓子を貰ってきていた。また自作のシャミ子ぬいぐるみもプレゼントした。桃マジシャミ子の旦那。

しゃみこ「桃は私の宿敵です!旦那ではありません!」
ろーりえ「いやだってお前、かよいづまぞくじゃん」
しゃみこ「誰がかよいづまぞくですか!!ぽがー!」
もんも「通い妻ぞく……!」
しゃみこ「もも!!?」

ランプ&マッチ
 きららがサプライズを行うきっかけを作った二人。完全にマッチの失言が原因なのでマッチが悪い。ランプはそれを窘めていたようだが、きららには聞かれてしまった。とはいえ、それがローリエが作戦を練り、アルシーヴやソルトと出会う起因でもあるので一概に悪いとは言えないが。ただしきららの親密度イベに割り込み隊長したことは許さん。
 尚、マッチはその後の年明け前にローリエの魔道具開発実験にしっかり付き合わされた模様。

ろーりえ「さて、マッチの処刑方法…もとい付き合って貰う実験だが……」
らんぷ「処刑方法って言いました、今……?」
ろーりえ「まずはゴーレム制作キットとレンガで作った“怪力ゴレムス”。ちょっと衝撃を与えるだけで大爆発する『爆弾岩のカケラ』。ロードローラーに対戦車ライフル、嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)の一ヶ月間耐久テスト。さぁ、どれがいい!?」
まっち「全部最悪じゃないか!!?」

ソラ
 秘密裏にプレゼントを探しに神殿を抜け出していた女神。ちなみに、幼馴染のローリエやアルシーヴだけじゃなく、他の八賢者にもプレゼントは用意していた。

保登心愛&天々座理世&条河麻耶&奈津恵&香風智乃&桐間紗路&宇治松千夜
 クリスマスパーティーに参加したごちうさ勢のクリエメイト。ローリエのサプライズにココアとリゼはいち早く行動した。結果、見事にサプライズされたが。ちなみにシャロはこの後、カフェインハイテンション状態でラパンをやった(やらされた)。

シャドウミストレス優子&ユー子&トオル
 クリスマスパーティーに参加したものの、ローリエのサプライズにマジでビビり、桃とトオルが落ち着かせ慰めた。シャミ子はまたこれで桃に弱みを握られた模様。

シュガー&セサミ&カルダモン&ジンジャー&フェンネル&ハッカ
 八賢者のうち、サプライズにかけられた方々。カルダモンだけセリフがないが、きっと参加してるし、アルシーヴからプレゼントを貰ってるし、さりげなくパーティーを一番楽しんでいる。ちなみに、フェンネルのオーバーフローは二日酔い並みに続いた。

九条カレン&アリス・カータレット&大宮忍&猪熊陽子
 アヤヤと一緒にクリスマスパーティーに参加したきんモザ勢のクリエメイト。ローリエのルパンの演技に感服し、サインを貰ったりシルクハットを借りてルパンになりきったりした。

涼風青葉&桜ねね&星川ほたる&滝本ひふみ&八神コウ&遠山りん
 クリスマスパーティーに参加したNewgame勢のクリエメイト。ひふみんコウりんは静かに飲むのに対し、あおっちはねねっちあたりに煽られてシャンパンを飲み、その結果小悪魔青葉が爆誕した。ウイスキーボンボンで酔うツインテロリならこれくらい余裕と判断。

千矢&千石冠&宮子&巽紺&十倉栄依子&ゆの
 クリスマスパーティーに参加した、ごちそうを食べる側とそれを眺めて談笑する側のクリエメイト。なお、この後お肉ハンターのるんちゃんと滅びの使者の双葉が合流し、会場内のごちそうが一気に消えた。




嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)
 ローリエがお遊びで開発した魔道具。飴玉状だが、口の中に入ると舌にとりつき、その人の思っている事と逆のことを言わせる。『戻れ、トーキングヘッド』の合図で口から飛び出し元の飴玉姿に戻る。なお、今話のあと、きららとアルシーヴ、ソルトによって見た目の改善が最課題となった。
 元ネタは『ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風』に登場する、ギャングのボスの親衛隊員ティッツァーノのスタンド能力。というかマンマソレ。アニメ版のCVは某社長でおなじみ津田氏。海外では声優とその演技力もあってやや人気があり、ファンもいたりする。


アルセーヌ・ルパン
 1905年よりフランスの推理小説家モーリス・ルブランによって発表された「アルセーヌ・ルパンシリーズ」の主人公。紳士にして冒険家、さらに義賊。変装の達人とされている。
 彼の美学、人生、盗みの技術などは作品内の価値あるものだけでなく多くの人々の心を盗んでおり、後世への影響も大きい。『名探偵コナン』『まじっく快斗』の怪盗キッドの衣装や『ルパン三世』などがその最たる例である。


マッチが悪いんだよ
 元ネタは爆発的に人気になり、ネット流行語100のニコニコ賞を受賞した「シャミ子が悪いんだよ」から。伊藤先生作の「まちカドまぞく」においては、原作にもアニメにも一度も登場していないにもかかわらず流行し、作者や桃役の声優・鬼頭女史が拾い、ネット流行語の賞を受賞したというオチがついた。ここまで流行したパワーワードに対し、いづも先生は「みんなが楽しんでくれれば誰も悪くなくなるよ」「シャミ子がわる…ワールドワイドで羽ばたいてくれることを心から祈っています」と寛大な態度を取った。我々は、同氏に最大限の敬意と注意を払いながら、この言葉の使いどころを考えなくてはならないだろう。


ローリエと太陽のブレスレット
 もともと、月桂樹(ローリエ)はギリシャ神話の太陽神アポロンの物語に由来し、ギリシャやローマ時代からアポロンの聖樹として神聖視された樹木である。古代ギリシアでは勝者や栄光のシンボルとしてこの樹で冠を作った。これを「月桂冠」という。
 ローリエの名前もまた、月桂樹から取られたもので、いわば太陽のブレスレットは縁が深いのである。
 ちなみに、アルシーヴのイメージは月、ソラのイメージは夜空または星々である。



あとがき
 ハングリークリスマスでは神殿の子たちのまだ見ぬ設定が見れて大満足です。セサミのキャラ弁にソラちゃんのダークマター………いいインスピレーションでさぁ。

そら「じゃーん! 穫れたてピチピチのケーキを作ってみました!」
ろーりえ「こりゃすげえ! 新たな魔道具に使えそうだな…………して、これはなんていう毒物だい?」
そら「毒じゃない! ケーキ!!」
あるしーぶ「お前、辛辣だな……」
ろーりえ「まぁ、アレ以上のダークマターを俺ちゃん知ってっからな…………お妙とか千棘とか小野寺とかジャイアンとか」
せさみ「ソラ様のアレ以上が存在するんですか………!?」
あるしーぶ「人間の食べ物じゃないな………」


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お気に入り150突破記念:激突!球詠コンビVS転生賢者

例によってイベント『エトワリア野球対決』の後日談的なナニカになっております。ほぼノリで書ききった。悔いはない。


「はぁ!? なんで俺に……!?」

 

 その日、俺はとんでもない申し入れを受けたのだ。

 

「だって、神殿野球部を育てた名監督と勝負してみたいと詠深(よみ)様と珠姫(たまき)様たってのご希望がありまして……」

 

 申し訳なさそうに言うのはマイスチューデントのランプ。詠深と珠姫というのはもちろんクリエメイトの名前だ。

 

 

 そう。言ってしまえば俺は、聖典(漫画)球詠(たまよみ)』のメインバッテリーから直々の指名を受け、勝負を申し込まれたのだ。

 だが、はっきり言って俺は不服である。なぜなら……

 

 

「………俺、野球部の連中にはルールを教えるのと道具を作るくらいしかやってねーぞ?」

 

 ―――と言うことであるから。

 今世の俺の体は、筋肉の付き方から経験から、前世のそれとは比べ物にならないくらいにはスペックが高い。

 だが、それだけだ。野球をやっていた訳ではない。せいぜい、前世で野球のニュースを見ていた程度だ。そんな今も昔もド素人な人間に珠詠は何を求めているんだ。

 

 

「ですが、神殿野球部がエトワリア内で野球ガチ勢になったのは事実です。そんなガチ勢チームの監督として皆様からの期待が高まっています。

 野球の民との試合も終わって、里のチームも湧き上がっていますし」

 

「俺はスタートラインを教えただけだ。それをアイツらが自分で走ってっただけに過ぎない。ランプの方でいい感じに本当の事を伝えて、期待が上がり過ぎないようにしてくんねぇか?」

 

「それでも、監督は監督です。それに、今更本当のことを教えたって、信じてくれるような気はしませんが」

 

「やってみなきゃ分からないだろ! 伝えといてくれないか、『ローリエは何もしてない』って!? というか伝えてください!!」

 

「わ、分かりましたけど……その程度で詠深様と珠姫様が勝負を取りやめるとは思えませんよ?」

 

 ランプが引くほどお願いしたが、これははっきり言って重要なことなのだ。有耶無耶にすれば後で絶対に痛い目を見る。

 ランプの語彙力だけでは不安が残るので神殿野球部の出席記録と言うべきことのメモを見せて、ちゃんと伝えるように念を押して帰した。

 

 

 

 

 

 ―――そして、数日後。

 

 

 エトワリアのマウンドには、ピッチャーとキャッチャー、そしてバッターが立ち、少なくない観客が集まっていた。

 ピッチャーは勿論、ヨミちゃんこと武田(たけだ)詠深(よみ)ちゃん。

 キャッチャーも当然、タマちゃんこと山崎(やまざき)珠姫(たまき)ちゃん。

 審判には、きららちゃんが。

 

『さぁ、待ちに待ったこの勝負が開催されることとなりました! 私はどうでもいいですが』

『私情を持ち込むな、フェンネル』

『実況はわたくしフェンネルが。解説はアルシーヴ様、よろしくお願いいたします』

『えー、一打席の勝負ではあるが、解説していこうと思う。』

 

 そしてバッターボックスには―――俺が。

 

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「プレイボール!」

 

「いやなんでだアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!?」

 

 

 

 理不尽。圧倒的理不尽に対する咆哮が、マウンドに轟いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 それは、『野球の民』と『里のクリエメイト選抜チーム』との対戦の後。野球ブームが始まる少し前に召喚されたクリエメイト・武田詠深と山崎珠姫はとある噂を聞いた。

 

 

「選抜チームでローズちゃん達と試合をした後でね、神殿野球部にいたシュガーちゃんとソルトちゃんっていう双子の姉妹から、『神殿野球部に野球のルールと道具を授けた人がいる』って話を聞いたんだ」

 

 

 シュガーもソルトも、詠深との野球トークの延長線上でローリエ―――神殿に野球をもたらした男―――の話を出しただけに過ぎない。

 だが、それが詠深の好奇心をくすぐったのだ。

 

『すごいね、そのローリエさんって人……そんなに野球について詳しかったの?』

『ソルトの細かな疑問にもそれなりに上手く答えていたようですし、道具のクオリティも高かったです。まぁ、練習などはアルシーヴ様主導でしたが』

『…なるほど。流石ランプちゃんにガチ勢って言われるだけはあるね。その人も、野球が好きなのかな?』

『そーだね。きっとローリエおにーちゃんは野球が好きだからシュガー達に教えられたんだよ! ヨミおねーちゃんもタマおねーちゃんも勝負しに行ってみたら? きっと強いよ!』

 

 残念ながら、この時この場の4人はとんでもない誤解をしてしまった。ローリエはプレイヤーにおいてはド素人だったのだ。「I like (to watch) baseball !(私は野球(の観戦)が好きなんだ!)」と言ったら「あぁ、この人は野球を()()のが好きなんだな」と思われるという鉄板にしてヒドい誤解だったのである。しかも、更に残念な事にここで誤解を指摘できる人間はいなかった。

 

 そして詠深と珠姫は、ローリエに勝負を申し込んだのである。その結果が冒頭のランプとのやり取りである。

 

 ランプはなんとかローリエの伝言を里の皆に伝えようとしたが、里の皆はマトモに信じてくれず。

 ローリエもローリエで神殿に助けを求めたが、「分かっている。謙遜するな」と言われたり「勝負から逃げるなんて男じゃねぇ」と言われたり「わたくしとの真剣勝負に差し替えても良いのですよ」とレイピアを抜かれたりした。彼は泣きそうだった。

 

 

 かくして、詠深&珠姫とローリエの一打席勝負が始まったのである。その一部始終を、勝負に参加した投手・武田詠深はこう語る。

 

 

「ローリエさんは、勝負当日、気合の入った白と黒のユニフォーム姿で現れたんだ。表情はうっすらと笑顔で、どこか厳格な立ち振る舞いだったんだけど、強者の貫禄っていうのかな? そういうオーラ的なものを感じたよ!」

 

 

 ……詠深の語りに水を差すようだが、そんなものはない。ローリエはただ緊張に表情と動きが固まりつつあっただけである。だが、そんな事は彼女達に知る由もない。

 

 審判によってルールが告げられる。四死球*1か外野に飛ばせばローリエの勝ち。それ以外なら詠深と珠姫の勝ち。二人が岡田(おかだ)(れい)や野球の民・ローズと戦った時と同じルールとなった。

 

 

「私とタマちゃんが定位置に立って、そこでゆっくりとローリエさんが右打ちのバッターボックスに入った。準備完了のサインが出て勝負が始まった時、観客は静かだった。」

 

 片や聖典に記された伝説のバッテリー。

 片や謎に包まれた男子バッター(仮)。

 何が起こるか分からないこの勝負を、観客は一秒たりとも、瞬きすら許さない勢いで見逃すまいと注目していたのだ。

 

 

「まず一球目。

 タマちゃんからストレートのサインを貰った私は、全力を込めてストレートを投げた。それに対してローリエさんは……その球を見送ったの。」

 

 パン、とミットにボールが収まる気持ち良い音が、いやにマウンドに強く響いた。そして、数テンポ遅れてきららが「す、ストライク!!」と判定を下す。

 

『…ストレートを見送りましたね、ローリエ。打てそうなら打つべきでは?』

『打つべきタイミングを測っているのだろう。だが、一球目を見送ったのは痛かったな。』

 

「…なんか余裕があるなぁと思って次を投げるタイミングをタマちゃんと測っていると、ローリエさんは動いたの」

 

 

 ローリエは、一言……「なるほど」と言い……そして、驚くべき行動に出た。

 左手に持ったバットを掲げ―――そのバットの先を、詠深の真後ろ側、その天に向けたのだ。

 

 

『『『『『『『!?!?!?!?』』』』』』』

 

『いっ……今の構え?で…観客という観客がざわつき始めました! これは一体…?』

『確か、野球の民から聞いた事がある……アレは「次でホームランを打つ事」を予告している動作だと。だとしたら、この場でホームラン予告をした事になる!』

『なんですって!!?』

 

 観客及び実況席のフェンネルとアルシーヴが驚くのも無理はない。この男、大胆にも球詠の名バッテリーからホームランを取ってやると宣言したのだ。これが試合だったら前代未聞の名勝負である。

 その大胆な予告をした男は、そんな観客達のリアクションなどどこ吹く風と言わんばかりに打つ準備に入っている。

 

 

「いやー、燃えたよね。だって私達からホームランを奪うって言うんだもん………タマちゃんも同じだったと思うよ。

 そんな興奮やまない2球目は、内角低めのカーブ。対してローリエさんは…一本足打法って言って分かるかな? フラミンゴみたいにピッチャー側の片足を上げる打ち方の構えなんだけどね。それで………打ったの。」

 

 

 詠深が投げた2球目は、ローリエが力強く打ち返した。飛んでいったボールは、ぐんぐん飛距離を伸ばしていき―――

 

 ―――観客席のすぐそば、フェア地域の外にぽとりと落ちた。

 

 

『……ファール!』

 

『うーん…惜しいなぁ。もうちょっとでホームラン行きそうだったのに』

 

『なんとローリエ! 今の球を打ちました! ファールです!』

『惜しくもホームランには届かなかったが、運が良ければ余裕で飛ばせるな、アレは』

 

 

 てっきり打たれてしまったと思ったバッテリー二人は、まだ勝負がついていないことに胸をなでおろす。ローリエは、先程の会心の一撃がファールに終わってしまったことに悔しがっているようだった。

 

 

「この2球目は私もタマちゃんもビックリしたよ。なにせ……打った玉の軌道がホームランのそれだったんだもん。ファールボールにならなかったら負けてたよ、正直。

 いよいよ楽しくなってきたんだけど……3球目と4球目はちょっと、ね………あはは」

 

 

 これを受けた3球目は、外角低め・ストレートを放ったがボールの判定を貰ってしまう。続く4球目も再びボール。詠深も珠姫も2球目の衝撃に動揺が走っている証拠であった。

 

 

「この流れは良くないと思って、『あの球』を使って決めに行こうと考えた。タマちゃんも同じ考えだったみたいで、ミットでサインを出してくれたの。だから、思いっきり投げたんだ………『あの球』を」

 

 『あの球』。それは、武田詠深が最も得意とする特殊な軌道を描く変化球のことである。

 頭部死球(ビーンボール)になるコースから首を斬り落とすかのように鋭く曲がってストライクゾーンに落ちるという軌道を通る、魔球と呼ぶに相応しい変化球だ。

 初めてこれを投げられたバッターからすれば、「まさかの顔面デッドボール!!?」と思いとっさに防御か回避かスイングをしてしまう。どの道たまったものではないのだ。ましてや初見で打つなどという芸当はまず出来ない。

 

 珠姫と詠深、そしてローリエの間を沈黙が支配する。

 そして。 ―――詠深が、足を上げた。

 

 

 力強い投球フォームから放たれたストレートの球は、ストライクゾーンから大幅に離れて、ローリエの頭部に真っ直ぐ向かった。このままではデッドボール確実だ。しかし………詠深の魔球は、ここからストライクゾーンに真っ直ぐに落ちる。

 

 

 魔球を使った勝負の一瞬。そこで詠深は、信じられないものを目撃したのだ。

 

 

「私はそこでローリエさんの動きを見たよ。

 『あの球』に対してローリエさんは、バットをね……こう、()()()()構え直したの。例えるなら……そう、白菊(しらぎく)ちゃんが剣道の竹刀を握るかのような持ち方だった。」

 

 野球をやっている者なら……否、知っているだけの者でさえ、明らかにおかしいと思える持ち方に躊躇いなく切り替えたローリエ。その突飛な行動は観客たちの印象に深く残ることとなる。そして―――野球に特に精通している詠深と珠姫の精神を再び揺さぶった。

 

「そこからね……そう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()をして。

 ストライクゾーンに()()()()に投球を打ったんだ。信じられないことに」

 

 

 まるで、刀で一刀両断するかのように。

 強大な敵に斬りかかる剣士のように。

 上段に構えたバットを振り下ろして―――

 

『な、なんとローリエ!! 詠深選手の魔球を……打ったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?』

 

 ―――そして、ボールを打ち返す音が綺麗に響いた。

 

 

「でもこの打ち方……よく考えれば当然なんだけど、飛距離が出ないんだよね。ローリエさんの勝利条件は、フォアボールとデッドボール以外だと外野へ飛ばすしかない。つまり……」

 

『あぁ、今確かに打ったが……外野に飛ばなければ意味がない。縦斬りのような打ち方をしてしまえば……!』

『確かに! 外野に届かなければ、ローリエさんの敗北は必至となるッ!!』

 

「―――勝負を捨てたのかな、って思ってさ。

 そんなのってないじゃんって思いながらローリエさんを見たら……あの人の目が、まだ諦めてなかった。」

 

 

 未だ消えぬローリエの瞳の火を一瞥した詠深は、今度は打球の行方を追う。

 マウンド上を低く滑空するかのように飛んだボールは、どんどん高度を落としていき、やがてポン、と地面を跳ねた。

 

 

 その地点は―――――――――外野と呼ばれるゾーン……その、内側。

 

 

 

『げ……ゲームセット!

 勝者、詠深さん・珠姫さんペア!!』

 

『―――一刀流・大辰撼(だいしんかん)

 

 

 審判のきららが勝敗を告げる。

 珠姫は呆然とし、ローリエは静かに呟く。そして、詠深もまた、あっけにとられていた。

 詠深側が勝ったはずなのに、三者三様に、まるでローリエが勝ったかのようなリアクションをとっていた。

 

 

「―――私達が勝ったには勝ったんだけど……こんなに悔しい勝利は初めてだった。『試合に勝って、戦いに負けた』っていうのは何度か聞いたことあったけど、この勝負ではそれを実感させられたかな」

 

「でも、そう思ったのも束の間……次はこう考えていた。『感動した。こんな人がいたなんて』って。何度も色んな人に会って、色んなチームと戦ってきたけど、あの人みたいなタイプは初めてだった。やっぱり、野球は楽しいや。」

 

 こうして、異例の一打席勝負は、聖典のバッテリーの勝利で幕を下ろした。

 武田詠深と山崎珠姫は、ローリエのプレーで覚えた衝撃と一握りの悔しさ……そして、これまで以上の意欲をもって野球の練習に打ち込んでいくのである。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――あの勝負から、俺の取り巻く環境が変わった。

 ひとつ、クリエメイト達に野球が驚くほど浸透していった。野球をしなさそうな『イーグルジャンプ』の社員達や『けいおん!』の放課後ティータイムのみんなまで野球をしている。でもみんな大丈夫か? 体力続かなそうだし、この前チラッと牡丹ちゃんがバットを振るのを見つけたからやめさせた。下手すりゃ死ぬぞ?

 

 ……そして、もうひとつ。

 それは、俺が何故か『野球監督』として評価されてきたせいで、指導を頼まれまくった事。この前の珠詠との勝負で素人だって事を証明したはずなのに何故だ。

 

 

「ローリエ」

 

「―――ん、どったの? アルシーヴちゃん」

 

「…随分と暇そうだな」

 

「なわきゃねーだろ。どいつもこいつもド素人に頼みやがって。野球のコツなんて知るか。みんなまとめて人を見る目がなさすぎだろ」

 

 今日なんて、神殿野球部ときららちゃん達のチームの合同練習を見てくれなんて言われてしまったのだ。一体俺に何をやらせろと? 基礎的なメニューさえ想像で補うしかないのに、その上の発展練習なんざ分かるわけねーだろ。

 

 

「そうだったのか。なら、今後は研究が必要だな。必要なら私がいくらでも手伝ってやる。

 とりあえず今日は私達のいつもやっているメニューをいくらか改造して行おう。だから―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「かーめー○ーめー波ーっ!!」」」」」」

「「「「「「「「「「くーっ!!」」」」」」」」」」

 

 

 

「―――だからローリエ。今すぐあの馬鹿げた真似をやめさせろ……!!」

 

 だから俺は、想像できるだけ厳しいトレーニングを課すことにした。なのになんだその目は。まるで俺を『死んだ魚の目をしたジャンプ好きのマダオ』を見る目で見つめてくれるじゃねーか。

 

「馬鹿げた真似とは言ってくれるな。アレは世界一厳しいトレーニングの一環だと言うのに」

 

「どこがだ!? 私とフェンネルのいない間に何を好き放題やってくれてるんだ!! だいたい『○めはめ波』とはなんだ! アレになんの意味がある!?」

 

「野球を甘く見すぎだ。宇宙レベルの野球チームはパワープレイなんて当たり前だぞ。ヤ○チャみてーに試合中に屍を晒したくなかったらこれくらい覚えて当然だろ」

 

「そんな野球があってたまるか!!!」

 

 いやあるだろ。実際○ムチャはパワープレイに巻き込まれた結果ヤムチャシヤガッタからね。エトワリアの可愛い彼女達にソレと同じ道は辿らせたくない。最初に「かめは○波」の練習を提案した所、案の定訝しがられたが、理由を説明したら納得してくれたのだ。

 

 

「おにーちゃーん! なんか掌から出たような気がする!!」

 

「よーし、いいぞシュガー! 次は界○拳(かい○うけん)だー!」

 

「『次は○王拳だ』じゃないわ!!」

 

「ウボァーーーーーーーーーーー!!!?」

 

 

 だというのに、アルシーヴちゃんったら俺を速攻でルナティック・レイである。解せぬ。嗚呼、全身が痛い………

 

 

 

*1
フォアボールとデッドボールの事をまとめた呼称。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 誤解の解けぬまま新越谷高校の名バッテリーと戦い、名監督というレッテルを貼られた八賢者。彼自身野球は特段好きというほどでもなく、観戦するほうが好きなのだが、練習メニューをアルシーヴと考えるハメになった。ラストの練習の下りの元ネタは「銀魂」と「ドラゴンボール超」から。

きらら&ランプ
 異色の一打席勝負を行うきっかけを作った人と審判を行った人。この一件でローリエを見直すことになり、練習にも参加している。もちろん、最後の「かめはめ波」もローリエに騙されて行った。

武田詠深&山崎珠姫
 ローリエとの勝負を通して、エトワリアにいる野球選手の強さを確信したバッテリー。新越谷高校のメンツは未だ二人しか召喚されていないが、これからも精進を続ける所存。

岡田怜
 新越谷高校女子野球部のキャプテン。部の存続のため、強い風当たりに耐えつつグラウンドの整備や備品の点検をしていた。詠深達と一打席勝負をした。2020年6月20日現在、未だエトワリアに召喚されていない。

大村白菊
 新越谷高校女子野球部のメンバーの一人。姫カットの黒髪が特徴で、剣道では全国優勝の経験を持つ野球初心者。豪快なスイングでかっ飛ばすスタイルを得意とする。2020年6月20日現在、未だエトワリアに召喚されていない。




球詠
 マウンテンプク○チ先生による、(おそらく)きらら初の野球漫画。
 女子野球がメジャーになっている現代日本の埼玉県新越谷高校の女子野球部を舞台に、幼馴染の武田詠深と山崎珠姫が、個性的な仲間とともに全国大会の頂点を目指す、王道野球物語。

一本足打法
 野球のバッティングの一つ。片足を上げることから「フラミンゴ打法」とも言われる。足を上げることによってボールを手元まで引きつけたり、打つタイミングを取りやすくなるというメリットがある一方、下半身への負担が大きく、下半身の弱い選手は軸もぶれやすいため習得が難しい。上半身に頼らず、強靭な下半身とバランス感覚が要求される。日本では、「世界の王」と後に言われる野球選手が使った事がきっかけで知られるようになる。

一刀流・大辰撼(だいしんかん)
 ローリエが一打席勝負にて放った、縦方向のスイング。元ネタは「ONE PIECE」のゾロの技。というかマンマソレ。「ONE PIECE」に野球回が来たら、間違いなくゾロが使うであろう技の一つ。

アニメ「ドラゴンボール超」の野球回
 ビルス率いる第7宇宙とシャンパ率いる第8宇宙の野球回であり、視聴者の混乱と笑いを招いた謎の回。この回でヤムチャが色々な意味で輝くこととなる。


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きらら誕生日記念2020:チャラい彦星

滑り込み投稿じゃあああ!!!!
きららちゃん誕生日オメデト☆


 ランプとマッチとともに巻き込まれた七夕の衣装騒動の後。

 私は、彦星について考えていた。そして―――

 

 その昔、織姫という女性と好きあっていて、やがて結ばれた男性。

 

 男性、というだけでひとり連想してしまったのだ。このエトワリアでは女性の方のほうが多いから、余計に目立つ。だから記憶に残っていた。

 その名をローリエ。

 八賢者唯一の男性で、彦星と比べるとその……浮気性、いえ…飽き性の、じゃない……女たらし…でもなかった。えーと………気の多い人だけど。有名な男の人、だと思う。

 だからか、彦星の……しいては男の人の感覚についてちょっとお話するために、私は神殿に顔を出していた。

 

 

「あ、きららちゃん。誕生日おめでとう!

 これ、プレゼントな」

 

「ありがとうございます、ローリエさん。」

 

 ローリエさんが綺麗に包装された直方体を手渡してくれた。形と重さからして本かな? ランプとマッチに続いて、プレゼントしてくれるとは本当にありがたい。

 

「しかし、どうして俺のところに?

 七夕祭りは終わっただろう?」

 

「えっとですね……」

 

 私は、七夕祭りの前に起こった騒動について、包み隠さずローリエさんに教えた。彼は、目を丸くして楽しそうに相槌を打ち、話を聞いてくれた。

 

「はぁ〜…ハッカちゃんがこの前不在だったのはそういう事だったのか……しかし、きららちゃんがランプを口説くとは」

 

「ち、違います!口説いてません! 織姫と彦星を演じてただけでした!!」

 

「あ、良いよ。俺応援するから。なんなら牧師役もやるぞ。」

 

「違うって言ってるのに!!」

 

「……それで、この土産話について、何か思うことでもあったのか?」

 

「!!」

 

 図星でした。

 彦星は演じられたけど、彦星のように本当に好きな人が現れる感覚が分からなかった。だから、同じ男の人であるローリエさんに聞きに来た。

 そうして悩み――というにはちょっとしたものだけど――を話し終えると、ローリエさんはため息をついて、

 

 

「そんなん気にするだけ無駄だ」

 

 

 ―――と。ず、ずいぶんバッサリです。

 

「それを言われてはおしまいのような…」

 

「でも事実だ。だいたい、きららちゃんは誰かを好きになりたいのか?」

 

「え? いえ、そういう訳では……」

 

「だったら良いだろ。彦星は彦星、きららちゃんはきららちゃんだ。ヒトを気にしてたらいつまでたっても恋愛なんざできやしねぇ。

 聖典の中にも、女の子同士でちゅっちゅしてるのあんだろ。どんな理由であれ、人を愛するのは素晴らしい事よ。理屈で考えちゃあいけないのさ」

 

 確かに、春香さんや優さんの出てくる聖典では、キスをしている描写はいくらかあった。でも……

 

「そういう、ものなんですか?」

 

「あぁ。春香と優ちゃんは恋人になるしコトネとしずくは最終的に結婚するからな。あの二組はお互いを愛し合っていた。彦星と織姫も似たようなモンだろ」

 

 確かに。コトネさんとしずくさんの結婚のくだりは初耳だけど、自分の好きになりたい人を好きになるって意味では、あながち間違いでもないのかも。

 

「……ところで、ローリエさんはそういった恋愛とかはしたことは?」

 

「ない、って訳じゃあないけど、俺の場合ちょっと特殊だからねぇ」

 

「……………………複数人いますもんね」

 

「オイなんだその凄まじいジト目は。確かに俺は好きな人いっぱいいるけどさ。そーゆー事じゃなくてさ。もっとこう……『幸せにしたい』じゃなくて『幸せになってほしい』って感情なのよねー」

 

「………???」

 

 

 ローリエさんのその答えには要領を得なかったけれど、それなりの意見を得ることができた。夜も遅くなるといけないので、この辺で失礼することにした。

 

 

 

 

 

 ……そして、夜。自宅にて。

 今日は色んなことがあったなぁ。ランプとマッチを始め、皆からプレゼントを貰った。こんな賑やかな誕生日は生まれて初めてかもしれない。

 

 そういえば、ローリエさんからは本を貰ったっけ。袋はまだ開いてないから確定じゃあないけど、何の本だろう。ちょっと包装を開けてみようかな――――

 

 

 

灰獣〜ハーレム王に俺はなる〜

 

「」

 

 

 全身が凍った。

 い、いや! そんなはずはない!

 ローリエさんは軟派なイメージが強いけど、年齢を弁えることのできる人です! 幼いクリエメイトには紳士的だし、女性の意思を最優先してお話をする!

 ……そんな人が、大人の本を私に渡すはずがない!たとえ妖しいタイトルだったとしても、例え表紙絵が危ない感じだったとしても………

 これは、ローリエさんからの善意の誕生日プレゼントなんだ!!

 

 そう決意しながら本を開いて。

 

 ――――――私はその行動を後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、きららちゃん!!渡す本間違えた!!

 コリアンダーに渡すはずのものが手違いになって………」

「そうですか」

「お、おや? そんな爽やかな笑みをして……まさか……」

「はい。読みました。ちょっとだけ」

「OH………読んじゃったか…」

「読んじゃいました」

「こっちを渡すつもりだったんだけど……」

「……『七夕物語』?」

「全年齢向けの童話集だ。持ち運べる文庫版を探すのには苦労したぜ」

「そうでしたか、分かりました。許しましょう。でも後ろの二人が許すでしょうか?」

「へ?後ろ? なんの―――」

 

「先生?」

「覚悟は出来たかローリエ」

 

「おーまいぐっねす」

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

きらら
 七夕の主役。ローリエに恋する気持ちを相談したが、それは己次第と知り誕生日を終える。しかし、夜にとんでもないバースデーテロを受け、爽やかな笑顔でキレかけた。誤解が解けたことと制裁要員が来た事で矛を収める。

ローリエ
 きららからの相談を請け負った変態。その裏でコリアンダーにちょっとただれたハーレム官能小説を送りつけようとしたが、きららのバースデープレゼントと混同する痛恨のミスを犯す。このことで、制裁要員からOHANASIを受ける羽目になった。

ランプ&アルシーヴ
 制裁要員。



桜Trick
 タチ先生によって2011年〜17年まで連載されていた百合ラブコメ。高山春香と園田優の『特別な友達の証』としてキスをすることから始まる純愛の軌跡を描く。飯塚ゆずと池野楓の片思い恋愛や野田コトネと南しずくの家庭の事情が絡むディープなラブストーリーも見物である。


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コラボ編
男三人のブルース その①


皆さん、こんばんわ。社会人になってまったく執筆出来てないMIKE猫です。

今回は……まさかのコラボ決定です!
strawberrycake様が連載している『白河心儀のエトワリア冒険記』とコラボ致します。一話にまとめようとしたのですが、とんでもなく長くなりそうなので、ひとまず『その①』として区切ります!後編は後ほど、お楽しみに―――


 クリエメイトは、ほとんどが女性である。

 なぜならば、聖典の登場人物達が、ほぼ女性だから。

 しかし―――()()女性、である。そこを強調する理由は―――数えるほどしかいないが、男性のクリエメイトもいるにはいるからだ。

 

 例えば、「ブレンド・S」のディーノさん。あと、秋月くんとひでりくん。特にひでりくんは、実際にエトワリアに召喚されている。

 他にも、「三者三葉」の山路。「夢喰いメリー」の夢路君。「ごちうさ」のタカヒロさん。果ては「まちカドまぞく」の白澤(しろさわ)さんまで。白澤さんはオスのバクだけど。

 

 でだ。なんで急にこんな話をしだしたのかというと……

 

 

「どうしました、ローリエさん?」

 

「……あぁいや、何でもないよ、心儀」

 

「またナンパ関連ですか? 自重してくださいよ」

 

「うるせー。可愛い子を可愛いと言って何が悪い」

 

 

 目の前で俺と共に食堂でメシを食っているこの男。

 ランプ曰く『期間限定で観測できるクリエメイト』。

 白河(しらかわ)心儀(しんぎ)という、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、最近友達(ダチ)になったからだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 出会いのきっかけは数ヵ月前、たまたまきららちゃんの里に寄った時だ。シノやアリス、カレンやクレアと召喚の館前で談笑している男を見つけたのだ。

 髪色も目の色も黒い、典型的な日本人の特徴をした、ファンタジックな格好をするにはちょっと浮く姿の男だ。

 

『おはようクレアちゃん。その男は誰かな?』

 

『あ、ローリエさん。彼は白河心儀さん。クリエメイトですよ。』

 

『ど、どうも………』

 

 クレアの紹介に、俺は内心眉を顰めた。

 コイツがクリエメイト? どこの漫画(せかい)からやって来たんだ? と。ディーノさんや秋月くん、山Gや夢路、タカヒロさんとも違う。となると、何者なんだ? と。

 

『………そうか。俺はローリエ。神殿で八賢者を務めている』

 

 自己紹介はしたにはしたが、俺は彼を徹底的に調べることにした。G型魔道具とルーンドローンを駆使して、音声や映像を集めた。その結果、彼がクリエメイトについて知識を持っている事が明らかになった。

 

 怪しいと踏んだ俺は、路地裏で一人になったタイミングで彼に接触することにした。

 

 

『ハロォ〜〜〜、白河くーん?』

 

『ひゃっ!? ろ、ローリエさん!? い、いきなり何ですか?!』

 

『ちょいと俺とお話しようや』

 

 ぷにぷに石弾が3発装填されてるパイソンで後ろから脅すと、振り返った彼は俺の持ってるモノを見て顔の血の気が引いていった。

 

『単刀直入に聞こう。―――お前ホントにクリエメイトなのか?』

 

『な…何を……!? 私は本当にクリエメイトですよ!!』

 

『じゃあ、()()()()()()()()を片っ端から言ってみてよ? 娘や嫁の名前でもいいぞ』

 

『………?? え……えーっ、と………』

 

 

 俺の質問に心儀は律儀に答えてくれた。まぁ、逃げたら撃たれると思っていたからかもしれんけど。

 結婚はしていないと言ってから一人ずつ丁寧に思い出し、聞いたことのない名前ばっかり挙げる心儀に内心ため息が出そうだった。

 

 

 ―――コイツはクリエメイトじゃあない。

 

 目的は未だ分からないが、クリエメイトを騙るなんて、前世きららオタクの俺からすれば処刑モンだ。「もういい」と語調強めに遮り、パイソンの撃鉄を起こそうとしたその時。

 

 

『コラ〜〜〜〜ッ!!!』

 

『『!!?』』

 

 俺の生徒であるランプと、召喚士のきらら、そして神殿からまた勝手に抜け出てきたソラちゃんが現れた。

 

 

『ローリエ先生っ!! 心儀様に何をしているんですか!! クリエメイトに手を上げようなんて許しませんよ!!』

 

『いいや、コイツ絶対クリエメイトじゃねーよ。こんな一般人みたいなクリエメイトいる訳ねーだろ。せめて秋月君くらいキャラ立たないと』

 

『ローリエさん。彼は……心儀さんはクリエメイトです。

 パスで分かります……………信じてください。』

 

『ローリエ、私……彼を観測したのよ。ほら…これが証拠』

 

 

 きららちゃんの本気の瞳に不思議な感覚を覚えながら、ソラちゃんが開いた聖典のページを注視する。

 ―――そこには、確かに「白河心儀」の名前が書かれていて、物語調の観察記録がソラちゃんの字でびっしりと書かれていた。

 

 

『そんなバカな……!?』

 

 

 それを見た俺の感想はその一言に尽きた。

 ソラちゃんの聖典という決定的証拠が出てしまった以上、彼はクリエメイトであるし、俺の予想が間違っていた事は明らかだ。しかし……謝罪し、神殿に撤収した後も俺の心に確かなしこりが残っていた。

 

 きらら系の漫画において、最も重要視されるのは「キャラクターがどれだけ個性的で、印象に残るか」なのだ、と聞いたことがある。例え男性でも、そのキャラクターが魅力的なら十分「きらら男子」になりうるし、彼らが物語を面白くする事も確かなのだと。俺も大体合っていると思う。

 

 夢路君なら、ヒーローのような精神性。

 ディーノさんなら、ネタレベルでの苺香ちゃんと深夜アニメへの愛。

 タカヒロさんなら、娘・チノとのギャップ。

 山路さんなら、無駄なハイスペックさと葉子様ストーカーetc。

 

 といった感じで、きらら男子のキャラは濃いが好感が持てる人々だ。

 

 だったら、あの謎のクリエメイト・白河心儀とは何だろうか?

 彼の人間性に注目しながら分析すると、妙な違和感を抱きだした。

 

 

(………初対面の女の子には緊張しているものの、何だかんだで仲良く付き合えてる……?)

 

 彼は、クリエメイトの女性に初対面では見てて面白いくらいに緊張こそしているものの、そのほとんどと良い付き合いをしている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に………

 

(まさか……)

 

 一つの可能性を見出した俺は、それを確実なものにすべく、様々な実験をした。

 

 

『心儀ー! は○れメ○ル見なかったー!?』

『え、○ぐれメタ○?』

『さっきメグとチノと見かけたんだよー! 挨拶したらすぐに逃げられて……』

『ひょっとしてして……あれのこと?』

『あっ!!』

『コンニチワ、ぼくはぐりん! 悪いスライムじゃないよ?』

『ンンッ』

 

 

 魔道具「はぐりん」を目の前で泳がせ、スライムネタでリアクションを見たり。

 

 

『ローリエ! お前はいつもいつも私の胸を……っ! 反省しているのか!?』

『(心儀は……いるな。よし…)

 反省してます。反省しすぎてるかもしれません!』

『……っ』

『心儀様?』

『ど、どうしたの……ランプちゃん?』

 

 

 心儀の前で、転生者(おれ)にしか通じないネタをぶっこんだり。(この後滅茶苦茶ルナティックミーティアされたが……)

 

 他にもいろいろやったが、実験すればするほど、俺の中の仮説が確信に変わっていった。その仮説……もとい確信。それは――――――

 

 

 ―――こいつ、俺と似たような記憶を持っている、ということ。「きららファンタジア」の記憶も持っているかもしれない、ということ。

 

 その確信を手に入れた夜、俺は再び白河心儀と接触した。

 

 

『おひさー、心儀くん』

 

『ろ、ローリエさん!!!?』

 

『おい逃げんなよ。今回はリボルバーは置いてきた。丸腰だぜ、俺』

 

『び、ビビった………

 それはそうと……私に何の用ですか?』

 

 やはり、早い段階で脅したのが良くなかったのか、いつでも逃げられるように周囲を確認している。俺も、逃げられる前に新たな仮説をここで確かめた。

 

 

『――芳○社』

 

『……えっ?』

 

『○ニプレ○クス。ド○コム。ご案内です。』

 

『ええっ……!!!?』

 

 それは、アプリ「きららファンタジア」を起動した時に一度は必ず聞く、スポンサーとご案内……そしてタイトルコールだ。

 

『―――きららファンタジア。………やっぱり、お前も同じ記憶を持っていたか……!』

 

『ど、どうして………!!?』

 

『簡単な事だ。お前と同じ、プレイヤーだったんだよ。「きららファンタジア」のな』

 

 

 それからは、案外早かった。

 お互いが、お互いの真の自己紹介を行った。

 

 ローリエ・ベルベット。

 エトワリアに生まれエトワリアで育ったが、日本で過ごした前世の記憶持ちの転生者。アニメ・ゲーム、きららファンタジアの記憶も勿論持っている。

 

 白河心儀。

 日本で社会人として働いていたが、エトワリアにクリエメイトとして召喚された召喚者。きららファンタジアのプレイヤーだったため、きらら達の里にすぐに住み慣れた(本人は謙遜してたケド)。

 

 こうして、俺らは「日本で暮らし、きららファンタジアをプレイした事のある仲間」として、あっという間に意気投合したのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 そして、今に至るまでにちょくちょく会ったり、きららファンタジアのストーリーや超強敵戦について語っていくうちに、今のような昼飯を一緒にするような間柄になったのである。

 

「ローリエさんはあまりにも節操がなさすぎですよ。噂では神殿の女性の7割がローリエさんにナンパされたとか、それから、賢者の皆さんやアルシーヴ様にも言い寄ってると聞きますし……」

 

「噂じゃない、事実だ」

 

「尚更ダメでしょ! 何やってるんですか……大体、あなた元日本人ですよね? 股掛けは駄目だって普通分かるはずでしょう?」

 

「心儀、よく聞け」

 

「何ですか…?」

 

「エトワリアに重婚を禁ずる民法は存在しない」

 

「おいおい……それって、法律がなければ好き放題しても良いって事ですよね!? 八賢者がそんなんで良いんですか!?」

 

「むしろ賢者も法を守ってばかりじゃいられんしな」

 

 でも、彼は根っからのマジメ人間なのか、俺のナンパ―――もとい、ライフワークには良い顔をしない。物語ごとに推しがいないのかね、心儀は。俺だって、百合の邪魔みたいな野暮は万死に値するからしない。そこを弁えれば少しくらいいいだろうと言ったが、許されなかった。彼曰く―――

 

『バタフライ効果って知ってますか? 蝶の羽ばたきが、別の場所で竜巻を起こす可能性があるっていうアレです。

 私達がいる事で、きららさん達が本来とは違う道筋を辿るかもしれないんですよ? その為にも、下手な事は慎まないといけないんです』

 

 ―――とのこと。

 でもなぁ……もうバタフライ効果を受けまくっている俺からすれば、今俺たちがいる世界は既に()()()()エトワリアなんだと思う。

 だってローリエや心儀を筆頭として、俺の知らなかった連中が多く現れまくったから。コリアンダーもそうだし、先代女神のユニ様もそう。ソラちゃん封印事件の黒幕側の面子はサルモネラやビブリオなど、漏れなく全員が俺の記憶(知ってる聖典)には出てない奴らだ。

 ここまで行ってる以上、今更バタフライ効果を恐れて萎縮しても仕方ないと思うんだけどね。

 

 

 その後は、法がなんだ、ナンパがなんだと色々話し合ったものの、特にいつも以上の進展はなく、食事を終えた俺達は、里に新しく建ったらしい建物の人だかりに目が移った。

 

「あの、ローリエさん、あれは……」

 

「何で集まってるんだろうな、行ってみようぜ」

 

 集まっている人たちは、皆建物内に入ろうとせず、ただ周りから様子を伺っている。

 

「何で集まってるんだ?」

 

 その中にいた、顔見知りの美少女―――コルクに事情を聞いてみる。きらら達の里にて行商人をしている彼女ならば、確実になにか知ってると踏んでのことだ。

 

「里に新しい商人が来た。防具職人だ。しかし、ガタイが良い上にやや強面でな。みんな、ここから観察しているにとどまっている」

 

「コルクさん……?」

 

「ローリエさんと心儀も店に?」

 

「あぁ。もっとも、俺達は野次馬してはいおしまいじゃあないけどなッ!!」

 

「えっ、ちょっ…ちょっと!?」

 

 コルクから簡単に事情を聞いた俺は、戸惑う心儀の首根っこを引っ張って、人混みを抜けて店の扉を開ける。見ていた人々は感嘆の声を漏らした。

 

 

「………らっしゃい」

 

「………わーお」

「……う、うわぁ…!」

 

 店に入ると、カウンターにいた男が俺達にぶっきらぼうに挨拶してきた。

 年は俺らよりも遥か上。40か50代ってところだ。身長は転生して背が伸びた俺よりも高い。190余裕であるんじゃないかな? それでいて年齢の衰えを感じさせない筋肉隆々さと、ショートカットに三白眼と職人気質の頑固さが滲み出ている顔付き。

 その様相は、ファンタジーなどで一般的に「オーガ」と呼ばれる鬼系モンスターを彷彿とさせた。人間だけど。

 

 

「……ご注文はなんでしょう」

 

「えーーーっと………ここの防具を見てから決めてもいいかな?」

 

「………ご自由に。うちは防具以外にも装飾品や道具も取り扱ってるんで、何かあれば訊いてください」

 

 低く渋めな、楠○典さん寄りの声で敬語って違和感あるな……と思いながらも、俺は店に展示してある防具に触れ始めた。

 

 飾られている防具は、革製や爬虫類の鱗製のものを中心に、様々なものが陳列していた。

 

「おい……この革の鎧、だよな……?

 これ叩いたらキンキンって金属みてぇな音が鳴ったぞ。コンコンじゃなくて」

 

「ゴールデンホーンっつう金色(こんじき)の鹿の革を(なめ)すとそうなんだよ」

 

「じゃあおっさん、この鱗の盾は……」

 

「大岩トカゲのウロコをふんだんに使ったものだ。並大抵の刃物なら受け止めてそのまま折る事ができる」

 

「……俺の知ってるかわのよろいとうろこのたてじゃねえ……」

「随分ハイレベルな装備ですね……!」

 

「『限りなく軽く・丈夫に』がウチの防具の信条なんでね」

 

 

 なんとまぁ、エトワリアにハイレベルな防具屋が爆誕したものだ。

 

 

「………で、何を買ってくんだい?」

 

「あぁ……えっと、じゃあこの銀色の小さな盾とあそこのオレンジのマントをくださいな!」

 

「金属生命虫の翅の小盾(バックラー)と飛竜のマントか。合計金貨15枚だ」

 

「はいお代。釣りはないはずだ。ほれ心儀、この盾つけてみろ」

 

「わ、私がですか!?」

 

「ここにはおめー以外にその盾装備できるせんしはいないだろ。飛竜のマントとかいういかにもカッコよさ気なマントは俺が貰うから、早よ」

 

「そんな…悪いですよ、お金まで出して貰って……あ、でもこの盾軽い♪…やっぱりこんな良い盾、タダでは貰えませんよ!」

 

「じゃあ後でお代出してよ。盾は金貨5枚だってさ」

 

 

 何も買っていかないのも失礼なので、楕円形の銀の盾と、紺色に濃紅色裏地のマントを購入して、その日は失礼することにした。

 ……なお、店主の強烈なビジュアルに圧されたためか、俺達は二人とも店主の名前を聞くのを忘れたわけだが、それに気づいたのは店を出てから数十分してからの話。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 その夜。

 里に泊まっていくことにした俺は、気まぐれに夜の散歩をしていた。夜風に当たりながら里を歩いていると、木が突然変異を起こしたような建物―――クリエメイトやきららちゃん達が住む『ルーム』と呼ばれるものだ―――の周囲でうろうろしている人間がいた。

 

 

「んぁ? ……あのおっさん、なにやってんだ、あんなところで……?」

 

 

 そう。昼頃にお邪魔した防具屋の店主だった。

 部屋の中の様子を探るように動いているその姿は、変質者と勘違いされ、衛兵あたりに通報されてもおかしくはない。

 俺はきららちゃんたちの夜の生活(意味深ではない)を守るため、防具屋の店主に近づいてみる。

 

 

「くっ……!」

 

「は? え、ちょっ!!」

 

 店主は、俺に気づくと逃走を始めやがった。何だか知らないが、そんなリアクションをとったら自白と何ら変わらない。容疑確定だ。

 突然の逃亡に驚いたものの、俺はすぐさま後を追いかけた。

 体格がでかく、筋肉質な男。まったくノロいわけではなかったが、この八賢者相手だと流石に相手が悪い。しかも、本気になってG型魔道具やルーンドローンを使えばどこへ逃げようとも追いつける。平成・令和の防犯技術は有能だ。筋肉ムキムキな大男ひとりを里から見つけだし捕まえる事など朝飯前である。夕食時を過ぎてるけど。

 

 

 

 

 

 

 ―――そして場所は、誰もいないルームのロビーに移る。

 

 

「………で、あそこでウロついていた理由を教えてもらおうか?」

 

「「…………」」

 

 俺の言葉に、防具屋の店主も「男手が必要だから」と引きずってまで連れてきた心儀も黙り込んでしまっている。心儀については正直悪かったと思っている。

 ちなみに、他のクリエメイトに話を聞かれないように、佐久隊長にベッドルーム(個室)へ続く廊下からロビーへの入口に立ってもらっている。本人も話を聞きたがっていたが、「男同士のワイ談に混ざりたいのか?」と冗談めいて茶化しながら言ったら「は、破廉恥な〜〜〜!!!!」と逃げていった。でも入口を警邏(けいら)しているあたり流石仕事人である。他の子をワイ談から守ろうと張り切ったのかな?

 

 

「…………」

 

「おっさん、っていつまでも呼ぶわけにはいかないしな……頼むから、いい加減教えてくれないか?」

 

「………ホーブン」

 

「はい?」

 

「私の名前だ。」

 

 

 コーヒーを吹き出しそうになる。た、ただの偶然だ。

 

 

「……それなら、ホーブンさん。なぜ、夜にあの辺をウロついていたんだ。サカリついたのか?」

 

「ちょっと、ローリエさん―――」

莫迦を言うな!私は死ぬまで妻一筋だ!!

「ひぃっ!!?」

 

 テーブルを叩いて怒鳴るホーブンさんに俺を諌めようとした心儀が震え上がる。それに気づいたホーブンさんは、すぐに落ち着きを取り戻し心儀に「すまない」と謝罪した。

 まぁ、俺としても予想できた答えだ。もし、この質問で頷くようであったならば、既に俺が暗殺している。勿論、証拠が一つも残らないようにだ。

 

「そうでしたか。愛妻家の貴方に不躾なことを聞いてしまい申し訳無い。

 ……だが、だとするとより分からなくなる。なぜ、夜遅くにルーム前にいたのかが」

 

 外堀を埋める言い方をして改めて尋ねると、今度はホーブンさんが言葉に詰まる。

 

 

「……これは私の問題なのだ。安易にお二人に教えて良いものではないと思っている。

 …生き別れた娘を探すためにさる噂を聞いてここにやってきて、夕食時から探していただなんて。」

 

 …………………全部言った?いま、全部言わなかったか?

 

「…………娘さんを探すため、と?」

 

「っ!!? な、何故娘のことを……!?」

 

 いや何故じゃねえだろ。間違いなく聞いたぞオイ。

 

「と、とにかく。私は生き別れた娘を探すために、防具屋で生計を立てつつ各地を転々としていたのだ」

 

「娘さん探してるって認めちゃったよ」

 

「持っている手がかりは赤子の頃彼女のオレンジの髪につけていた星の髪飾りと名前のみ。成長してしまっているだろう彼女はなかなか見つからなかった」

 

「あ、あの………もし良ければその娘さんのお名前をお聞きしても?」

 

「流石に、『()()()』だとは教えられない」

 

「え゛っ?!!」

「!?!?……ッ! ゴッハゴホ!!」

 

 

 コーヒーを吹き出し、むせる。変なところに入ってしまった。心儀も、動揺からか席から立ち上がってしまっていた。

 

「………どうかなさいましたか? 心儀さん、ローリエさん」

 

「………な、何でもない……ゴホッ!」

 

「えっと…その…お、お構いなく………!」

 

 今すぐ心儀とここからエスケープして二人きりで現代社会人会議を開きたかった。きらら、ホーブンさん、きららファンタジア、そしてまんがタ○ムきららの出版社。その知識を持ってすれば、ホーブンさんの娘の名前が何を意味するかなど想像に難くない。

 しかも、彼が持っている娘の手がかりは()()()()()と「()()()」という名前。偶然にも程がない?

 

 

「……と、とにかく! 明日、詳しい事情を聞きます! 今日は、もう遅いですから」

 

「分かりました。では、それまでに話をまとめようと思います。おやすみなさい」

 

 

 ホーブンさんは、実に紳士的に一礼してから、防具屋へ帰るべく出入口のドアを開き出ていった。ホーブンさんが見えなくなってから、俺は佐久隊長と心儀に声をかける。

 

「……佐久隊長」

 

「どうした?」

 

「あの話は、あまり言いふらさないでほしい」

 

「……安心しろ。()()()()()()()()()()

 

「悪ぃな。ワイ談とかいって追い払っちゃってよ」

 

「まったくだ」

 

 佐久隊長は、拗ねたように言うとそのまま廊下へ引っ込んだ。おそらく自室へ行くだろう。

 

「心儀」

 

「……何ですか?」

 

「…まさかのきららちゃんのお父さんだよ。どうしよう…??」

 

「どうしよう…私もまだ動揺がおさまらなくて……」

 

「取りあえずきららちゃんは母親似だったんだなと思うとしよっか。きららちゃんのお父さんと聞いて普通アレは連想できない。

 あと秘密を全部暴露するスタイルが遺伝とか意外すぎるわ」

 

「そ…そうですね……」

 

 きららちゃんのお父さんとは思わないに決まってるだろ。だって作画からして別人だもん。きららちゃんを「ひだまりスケッチ」や「まどマギ」風だとするならば、ホーブンさんは「北斗の拳」や「ジョジョ」に出てきてもおかしくないくらいのレベルで作画が違う。なんでホーブンって名前なのに集○社の週刊誌(少年○ャンプ)に出てきそうなデザインなんだよ。ぶっちゃけ、ここまでくるときららちゃんが父親に1ミリも似なくて良かったと思うまである。

 

 

 




To be continued……
Next Collaborate Story is
『男三人のブルース その②』


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プロローグ:そして伝説(変態)へ…
第1話:八人目の賢者


ドーモ、ハジメマシテ。伝説の超三毛猫デス。
ハーメルンでいろいろ作品見てるうちに自分でも書きたくなって投稿しました。ほぼ素人なので生暖かく見守ってくだされば幸いです。
それでは、物語の始まり始まり。


「次、ランプ!」

 

「はい……」

 

 俺が名前を呼ぶと赤髪の女の子が返事をし、教卓の前へ進み出る。そして、テストの答案用紙を受け取ると顔を青ざめさせる。

 

「授業をマトモに聞いてれば30点は取れる筈だぞ。次は二桁乗るように。」

 

「すいません……」

 

 俺がこっそりそう告げるとランプと呼ばれた少女は、壊滅的な点数の答案用紙を片手に、青い顔のまましょんぼりと自席に戻っていく。俺はそれを横目に次の生徒の名前を呼んだ。

 

 

 

 俺の名前はローリエ。訳あってエトワリアの神殿にて教鞭を振るっている。

担当は魔法工学。簡単に言ってしまえば、魔道具の仕組みについて学ぶ教科だ。神殿では主に杖の魔術回路の構成・修理やオリジナル魔法の作成などの授業を行っている。

 

 さっきのランプって子は俺の生徒の一人で、教師になってから初めての問題児だ。隙あらば聖典を読みふけり、授業を全く聞きやしない。……まあ、その甲斐もあってか、聖典学だけは優秀だから叱るに叱りきれないのだが。

 

 ……そう。聖典学だけは超優秀なのだ。女神ソラの目線から見たまんがタイムきららシリーズのお話について書かれているのを聖典といい、それを学ぶ教科を聖典学というのだが、その教科に限り、ランプは積極的&優秀になるというのだ。

アルシーヴが作ったテストに俺が悪ふざけ&イジワルで入れた

「メタル賽銭箱とミニ賽銭箱の違いを形状・材質・呼称の経緯に触れ説明せよ」

という問題に完璧に答えられたのもランプだけだ。

(ちなみに、この問題についてランプから『性格が悪い』と苦情が来て、アルシーヴからも『二度とやるな』と言われた)

 

 これで他の教科も優秀……いや、人並みにさえ出来れば一番有力な女神候補なのに、と思う。

 今回の魔法工学もどれだけ苦手な奴でも30点は取れるというのに、ランプは5点だった。俺でも取った事ないぞそんな点数。

 

 「平均は62点だ」と告げ、問題の解説をして教室を出る。そしてそのまま神殿の大広間へ向かうと桃髪の美しい女性の後ろ姿を見かける。

 

 この美人はアルシーヴといって、俺の上司にして筆頭神官だ。女神ソラの仕事を補佐している。

 

 

 

……でも、そんなの俺には関係ない。

 

 

 

だって。

 

 

 

 

「アルシーヴちゃーん!元気してるー?」

 

「ひゃああ!!?」

 

 

 

これくらい気安い間柄だから。

しかし、今後ろから不意打ちでブラホックを外したんだが、中々乙女なリアクションをするではないか。

 

 

「んふ~なかなかカァイイリアクションするじゃん、アルシーヴちゃん♪」

 

「ローリエ、貴様はいつも……!」

 

 

 こちらへ振り向いたアルシーヴちゃんはいつものクールな筆頭神官とは思えないほど顔を真っ赤にしてこちらを睨む。

そんな顔して睨んでも可愛いだけだぞ。

 

さて、次は彼女の意外おっぱいを揉みしだいて……

 

 

と、考えていると俺のにやけ顔の目の前をレイピアが通り過ぎ、近くの柱に刺さった。

 

 

「ローリエ!!今度はアルシーヴ様に何をしている!」

 

「やっべぇまたうるせえ奴が来た……!

今日はまだブラホックを外しただけだ!

だから……」

 

「十分です!!貴様を断罪する!!」

 

「やめろやフェンネル!俺はアルシーヴちゃん専門の百合女と事を構えるつもりはねーんだよ!」

 

「説得力がありません!今度という今度はもう許さないからね!あとアルシーヴ様と呼びなさい!!」

 

 

 怒り狂った翡翠色の髪をした兵隊風の女性ことフェンネルは、壁に刺さったレイピアを抜き俺に襲いかからんとそれを振り回しながら追いかけてくる。俺はそれに対して背を向け逃げることしかできない。

 

 しかしこのフェンネルという女性、中々いいスタイルだというのに、アタマの中はアルシーヴ様一色である。流石は『アルシーヴの盾』を自称し、筆頭神官たる彼女の為に尽くす近衛兵だ。

 

……俺の想像していた盾とは違い、かなりアグレッシブな盾だったが。なんでこの女性は()()()()()()()を本気で殺しにくるのだろうか。まぁ心当たりしかないけど。

なんて考えているとフェンネルが俺をめった斬りにするべく距離を詰めてきた。

相変わらずアルシーヴちゃんの事になると全力以上を出せるフェンネルに呆れながら、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ガードした。

 

 

「あっぶねえ!!」

 

「私にはモロに当たってるがな!?というかローリエ、なんで私なんだ!?」

 

「手頃な防具が見つからなかったからだ!あと味方も!」

 

「思いっきり肉盾にする気満々か!今回も全面的にお前が悪いんだろうが!!」

 

文句を言うジンジャーをフェンネルの方向へ押してお見合いをさせることで時間を稼ぎ、角を利用して視線を切る。勝ったな。

 

 

 

 

 そのまま走り続けること3分、やっと撒けたと思った瞬間……ゴチン、と。

 

「ぎゃああァァァーーーーッ!!?」

 

 凄まじい重さと衝撃が頭に走り、床にたたきつけられた。

 

 

「……変態、成敗。」

 

「計算通りです。」

 

「流石、ソルトだね!ローリエお兄ちゃんの逃げた先を予測しちゃった!」

 

俺に叩きつけられたのは巨大ハンマーだ。

それで俺を叩いた犯人は口数の少なさからしてハッカだろう。ソルトとシュガーの声も聞こえたことから俺のやったことを知り、先回りしてきたものと思われる。またしても女性陣のチームワークにやられてしまったという訳だ。

 

 この後、アルシーヴとソラによる説教で1時間ほど絞られる。これが俺の日常だ。

 

 

 

だが、俺は知っている。

 

 

この後、平穏な日常が一瞬で崩れ去ることを。

 

 

……女神ソラに呪いがかけられることを。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ここで俺自身について話をしよう。

 

どういう訳か俺には、エトワリアの住人・ローリエとしての記憶の他に、別の記憶がある。

 

 

ビルに囲まれた都会の中で生まれ育ち、社会人として仕事をしていた記憶。

 

所謂ミリオタというものとして、マグナム型のモデルガン片手にサバゲーというものに参加していた記憶。

 

アニメや萌え系漫画が大好きで、特にきらら関連の漫画を読んだりアニメを見たりゲームをしていたりした記憶。

 

 

 

 

何十年生きていたのかは分からないが、大体こんな感じの記憶がある。

 

 

今、一番重要なのは三つ目に挙げた記憶。

俺はその当時、よく遊んでいたゲームがあった。

 

きららファンタジア。

 

まんがタイムきららのキャラクター達がほぼオールスターで登場するゲーム。

ストーリーモードにあった、数々の魅力的なオリジナルキャラクターがエトワリアで織りなす物語に胸を踊らせた記憶はもちろんある。

 

 

 

 ここまで説明したらお分かりだろう。

 

 

 

俺は、このエトワリアが『きららファンタジア』の世界であることを知っている。

 

ランプが、アルシーヴの女神ソラ封印の瞬間を目撃することも。

 

それがきっかけで、きららと出会い、新たな『聖典』となる物語を編み出すことも。

 

……そして、アルシーヴが女神ソラを封印した理由も。

 

 

 ソラは突然、何者かに呪いをかけられる。

「体からクリエが抜けていく呪い」。

エトワリアの住人は、クリエがないと生きていけない。

アルシーヴはやむを得ずソラを呪いとともに封印した。

その間、アルシーヴは呪いの解呪方法を探し、その結果呪いを解くには大量のクリエを入手する必要があると判明した。だが女神を封印した今、聖典を読んでも意味はない。故に、クリエメイトを直接呼び出すオーダーに手を出したってワケだ。

 

 

だが、一つだけ分からなかったことがある。

女神ソラに呪いをかけた張本人だ。

初登場時はローブを被っていたため、8章の終わりまででは誰が黒幕なのかが全く分からない。

 

ハッカから逃げ切り、女神ソラの封印が解けるまで雲隠れしていた人物。

 

 

 

エトワリアに前世の記憶というべきものを持って生まれ直した身としては、その黒幕を倒してみる、もしくは女神ソラへの凶行を防いでみるのも悪くない。

 可愛い女の子を辛い目に遭わせた愚か者を成敗してやろうではないか。

 

 

 言い忘れていたが、これは『エトワリアに紛れ込んだ独りの男が、原作8章でパーフェクト・グッドエンドを目指す物語』だ。

 




ローリエ「あぁ~、すっげぇ気持ちよかった!」
アルシーヴ「本当に何なんだお前は!」
フェンネル「まったくです。今すぐ切り捨ててしまいましょう」
ローリエ「ま、待て!主人公をいきなり殺すな!!幽○白書じゃないんだから!」

次回、『少年ローリエ』

ローリエ「絶対見てくれよな!」


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エピソード1:ローリエという男~少年が賢者になるまで編~
第2話:少年ローリエ


“俺は昔、二人の少女を守れなかったことがある。
 俺はそれを、どうしても忘れることが出来ない。”
   …八賢者・ローリエ 著 自伝『月、空、太陽』
    第1章より抜粋


 子供なのに随分ませた、不気味な奴。

 

 子供時代の俺の周りからの評価は大体そんな感じだった。

 

仕方のないことだろう。少年・ローリエのそれとは別に数十年分の記憶があり、マジで見た目は子供・頭脳は大人状態だったからだ。

 

 

 

 

 

 俺は言の葉の樹の都市の一角にて生まれた。男なのに神殿に興味を持ち、かつ機械いじりが好きな子どもだった。

 特に、魔道具というやつはエトワリアに生まれて初めて触るものだったのでのめり込んだ。

 夢はあまり見る方じゃなく、子どもはコウノトリが運んでくるだの、大人が立派な人であるだの、そう言った絵本に描いてありそうなことは何一つ信じちゃいない。そんな子どもだったのにも関わらず、育ててくれた両親には感謝しかない。

 こんな変な子どもと友人になろうとした人間も珍しいものだと思う。その内の二人が現在の女神と筆頭神官であった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「アルシーヴ、ローリエ!今日はなにするの?」

 

「もう既に楽しい事を仕掛けておいたさ!」

 

「ローリエ、お前もほんと懲りないよな……」

 

 

 

 

 服装も髪の色も三者三様の少年少女が、石畳の街道の、噴水の前に集まっていた。

 

 一人は緑色のぼさぼさはねた髪の少年。この俺、ローリエだ。

 

 一人は金色の髪を後ろでまとめた、高級そうなワンピースをきた少女、ソラ。

 

 一人は桃色のショートヘアの、魔術師見習いみたいな格好をした少女、アルシーヴ。

 

 

 いつもこの三人で俺達は遊んだり、イタズラをしかけたり、都市中を冒険したり、ゲームで遊んだりしていた。といっても、ほぼ街の人々にイタズラを仕掛けるか、その準備をする日々だが。

 この前は港町から輸入された真珠貝の真珠だけを盗み出し、芸術品に加工してから送り返す、というイタズラを敢行。真珠をすべてルネサンス期にありそうな彫像に加工する役割を引き受けた。

まぁ、エトワリアは地球と歴史が違うので完成品を見てもアルシーヴとソラは首を傾げていたが、ダビデ像を見た時の二人のリアクションが超面白かった。アルシーヴは顔を真っ赤にしながらリアルすぎだと抗議し、ソラもまた顔を朱に染めがらダビデを凝視していた。

 他にもぼったくりで金儲けをしようとした商人を嵌めて衛兵に逮捕させたり、噴水をゴージャスに緑の水晶や泪の石でライトアップしたりと数え切れないほどのイタズラをした。

 

 

「もう仕掛けたって、さっき私が雑貨屋さんのおじさんと話してる間に?」

 

「ああ。あそこのオッサン、口うるさいから、ちょいと仕返しにな。もちろん、ソラやアルシーヴも共犯だぜ?」

 

「まったく、仕方のないやつ……乗った私も私だがな」

 

 

 ちなみに今日は、雑貨屋に小型花火を仕掛け、大胆に発破させることで店を宣伝してやることにしたのだ。

 

まず人当たりの良いソラがオッサンに話しかけ、時間を稼ぐ。

そこで俺が作った時限タイプの小型花火を店前にこれでもかと設置。

最後にアルシーヴが魔法で着火し、三人で一緒に退散。ソラは少し抜けてる所があり、あらかじめ教えてたらウッカリオッサンに言ってしまう可能性があったのでアルシーヴの反対を押し切り言わないことにしたのだ。

 

 

 そうこうしている内にソラの後ろの方からパチパチパチと軽い破裂音が通りに響く。

 

 

「コラァァァこの悪ガキ共!またやりやがったなー!!」

 

「ほら出た!!逃げろーーー!!!」

 

「「きゃーーーー!!」」

 

 

 

 夏の日差しの下、ブチ切れたオッサンを尻目に俺達は一目散に逃げていく。建物、分かれ道、街のあらゆるものを利用してどうにかして撒きつつ、街中を走っていく。

 既にオッサンを撒いたのも忘れて俺達は、言の葉の樹の入口まで来ていた。都市の中心部にあるこの大樹は、頂上まで登ると神殿があり、そこでは神官達が聖典などについて学んだり、儀式を行ったり、女神候補生が教養を学んだりするのだ。

 

 

「いやぁ、愉快愉快!楽しかったねぇお二人さん!」

 

「お前いい加減に怒られろ……」

 

「アルシーヴも共犯でしょ?ふふふ…」

 

 

 俺達は、その大樹の入口のちょうど良い窪みに並んで腰をかけた。

俺が二人に笑いかけると、アルシーヴは呆れ、ソラは少し困った様子で笑っていた。

 しかし、こんな日々も続く訳じゃない。現在、俺が9歳、アルシーヴとソラが10歳。11歳になったら、二人は勉強のために神殿に住み込むことになるという。

 

 

「しかし、一年後にはアルシーヴもソラも神殿行きか……」

 

 親友と過ごせる日々も短いことを思っていたのが、いつの間にか声に出ていたようだ。

 

 

「私は女神候補生として勉強するからね。アルシーヴはどうするの?」

 

「私は女神にはならない。ソラの近くで、力になれたらそれでいい。」

 

「マー!!俺がいるのに、お熱いこと!!」

 

「ば、バカ!そういうのじゃない!」

 

「アルシーヴ、違うの?」

 

「なっ!!?いや、えっと、それは……」

 

 アルシーヴとソラがいちゃいちゃしている所を茶化すのはすごく面白い。しかも、アルシーヴは基本ソラに弱い。俺に茶化され否定しても、ソラが泣きそうな顔をすると返答に困ってしまう。俺が二人をからかうといつもこうなるからソラがわざと上目遣いをしている可能性も否めないが、それはそれでいい。

 

 

「そ、そんなことより!ローリエはどうするんだ!?どこに行くつもりだ?」

 

 

 こうやって俺とソラに挟まれて困った時、話題を変えて誤魔化そうとするのも彼女のクセだ。更に追求するのもいいが、彼女達に俺の今後を話していない。

 後が面倒なので、俺も夢を語っておこう。体は少年なので、それくらいしてもいいはずだ。

 

 

「俺は……魔法工学を極めて、誰も思いつかないような発明をする。

神殿の専属技師か、魔法工学の教師あたりになって、エトワリアを繁栄させる礎を築いてみせるさ。

そんで……三人仲良く、歴史の教科書に、史上最大の功績者として載ってみないか?」

 

 まだ高い太陽に向かって決意を固め、最後に二人に笑いかける。

 

「史上最大の功績者か……大きく出たな。

いいだろう、乗った。私は最高の筆頭神官になろう。お前も、私やソラの目につくくらい、活躍しろよ?」

 

「応援してるよ、二人とも!私も女神になれるように頑張る!」

 

 

 俺の笑みに、ソラもアルシーヴも、最高の笑顔を返してくれた。

 

 

 

 

 

 …だが、この時の俺は、前世の知識をもってしてもあの事件を予測出来なかった。

 

 

 だって、アルシーヴとソラの過去について全く知らないのだから……

 

 

 ……その事件で、俺は前世の知識を手にした傲慢さと、前世の人(日本人)特有の部外者意識に気づかされることになる。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 その日は、不自然な程に静かな夜だった。街中真っ暗で、家の明かりも街灯の光もほとんどなく、前世に見た夜の都会とは全く違う夜だった。

 

 

 俺は、アルシーヴと二人で、ソラの家に泊まりに来ており、ソラの部屋に集まっていた。この日できた俺の発明品とアルシーヴが開発したという新魔術の御披露目のためだ。

 

 

 

「二人とも、できたって言ってたけど早く見せてよー!」

 

「ま、まぁ待てよソラ。なあアルシーヴ、お前から先に見せてやれよ。」

 

「分かった。見てろ……」

 

 

 俺は発明品を出すのが今になって緊張してきてしまい、アルシーヴに先を譲ると、彼女は杖を取り出し魔力を集中させ始める。すると、部屋中が黒く染まり、紫色のエネルギーが宙に浮き始めた。

 

 俺はその見たことのある景色に驚いた。

 

 これは、ゲームでアルシーヴが使っていた『ダークマター』だ。全体に9999ダメージを与える、負け戦用の技。まさか、こんな幼い頃に開発していたとは。

 しかもこの技、凶悪なわりに発動前に集まる魔力が織りなす景色の変化が幻想的だった。まるで星空がよく見える夜に見る、森林の奥にひっそりと存在する湖とその周辺に集まる蛍を見てるかのような、絵にも描けない美しさだ。

 

 そう思っている内に周囲の景色が元に戻り、アルシーヴが杖をしまう。

 

 

「私の必殺技、『ダークマター』だ。

これさえあればどんな奴でもイチコロさ」

 

「えっ!!?攻撃技だったの!?」

 

「ああ。途中で術を解除した。最後までやると家が吹っ飛ぶからな」

 

 

 つまりあのまま続けていたら家もろとも俺らが無事じゃなかった訳だ。破壊力がデカ過ぎて戦いに使えねーじゃねぇか。

ソラ、「すごいね!」じゃないんだよ。褒める所じゃないから。攻撃されてたんだぞ?アルシーヴも微妙に照れるのやめろ。

 

 

「ローリエは何を作ったの?」

 

「ああ、俺はこの……」

 

 

 と俺の発明品……拳銃を取り出そうとした途端。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ばりぃぃん、と窓が割れ、俺達の二倍ほどある男が飛び込んできた。右頬に熊か何かに引っかかれたような傷跡のある、いかつい顔だ。

 あまりに突然のことで、三人とも動けなかった。

 

 

 

「そこのお嬢ちゃん、俺と来て貰うぜぇ……!」

 

 

 

 その凶悪そうな顔を欲望に歪ませ、ナイフを片手にヘドロのような目でこちらを見つめてきた時。

 

 俺は、エトワリアにあって日本にはない、恐るべき本物の悪意というものを感じた。

 

 

 

 

 そして直感的に思った。

 

 

 

 

 

 殺される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 早くどこかに隠れなければ。

 

 

 

 

 懐に俺の発明品が……拳銃があるのは分かっている。拳銃の扱い方もサバゲーの経験があるから分かる。そして、それをあの男に向け、引き金を引けば二人を守れることも。

 でも……頭で分かっていても、どうしても拳銃を取り出して撃つことなど出来なかった。

 サバゲーとは違う、殺し合いの世界。躊躇いのない殺意。あの男の汚れた目が、エトワリアにはそれがあることを雄弁に語っていた。

 

 

 

 

 

 俺はこの時まで忘れていた。

 かつて俺は……本物の悪意に対して、逃げることしか出来ない一般人(日本人)だったことを。

 

 

 

 

 

 気がつけば俺はソラの部屋を飛び出し、空き部屋のクローゼットの中に隠れ、衣服の中に紛れ込んでいた。

 ソラの衣服のものであろう、花の香りに包まれても、恐怖が消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 魔法の起動音と男の下品な笑い声が聞こえて、

 

 

 

 

 

 鈍い音と女性の呻き声、そして別の女性の悲鳴が聞こえて、

 

 

 

 

 

 嵐の過ぎ去った後のように何も聞こえなくなっても、

 

 

 

 

 

 

 俺は、クローゼットの中から出ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 気がついたら、夜が明けていて、盗賊による襲撃事件が明るみに出ていた。

 

 俺は、空き部屋のクローゼットで気絶していた所を、ソラの保護者に発見されたらしい。アルシーヴは、ソラの部屋で腹部から血を流して倒れていた。応急処置がなされていたため、幸いにも命に別条はないそうだ。

 

 

 そして、ソラは……見つからなかった。

 

 アルシーヴの証言により、あの盗賊に拉致された事が判明した。

 盗賊も、頬の傷跡から数年前から周囲の村を襲っている悪党だということが発覚した。

 

 

 ベッドの上で衛兵からこの話を聞いた時、ひどく混乱した。

 

 ソラは女神になる女性だぞ。

 

 こんな所で死んだら、原作が成り立たなくなる。

 

 ここはエトワリア(ゲームの世界)じゃなかったのか?

 

 そんな思いで、盗賊について詳しく教えてくれと訊いた。

 まず衛兵は、真剣な眼差しで緊張感を醸し出しながら、友達を助けに行くつもりか、と聞き返してきた。「助けたいけど、俺じゃあ無理なことくらい分かっている」と答えると、先程の緊張感が薄れた。

 

「分かっていればいい。こういうのは、私達衛兵の仕事だ。幸い、奴のアジトも検討がついている。」

 

「ど、どこにあるんですか!?」

 

「……やっぱり助けに行く気だったな?悔しいかもしれないが、私達を信じてくれ。

 なんせ相手は、分かってるだけで50人以上を殺し、20人近く子供を誘拐している凶悪犯だ」

 

 

 

 

 

 衛兵の言葉に俺は言葉を返せなかった。彼らを信じていない訳ではなかった。だが、言いようのない不安が俺の心に重荷として積み重なっていった。

 

 診断で怪我がないことが分かると、俺は街を歩き回った。体でも動かさなければ、どうにかなりそうだったからだ。でも、アルシーヴに会う気にはなれなかった。

 

 

 

 

 ソラを助けに行かなければ。

 

 自分が行かなくても衛兵が助けてくれる。

 

 彼女に何かあったらどうする。

 

 自分が行ったら衛兵達の足を引っ張ってしまい、助からないかもしれない。

 

 エトワリアには拳銃がない。だから相手も拳銃(ソレ)を知っているはずがない。そこを利用すれば間違いなく勝てる。

 

 いやいや、外すかもしれないだろう。誤射なんてしてしまったら笑えない。

 

 

 

 

 

 相反する思いがいつまでもいつまでもせめぎ合い、俺は行動することが出来ない。

 

 俺は、かつて夢を語った言の葉の樹の窪みに座りながら、俺が造った拳銃を手に取り、ただ見つめていた。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
この物語の転生者枠。モデルにしたキャラがいるとはいえ、完全にオリジナルなので少年期・学生時代期を書いておこうと思った結果、今回の話ができた。今日では異世界転生ものが多いですが、主人公の敵への容赦のなさ、勇敢すぎる所が疑問となった結果こんな形になりました。今話は情けない姿を晒しましたが、普通の人って盗賊とかいきなり現れて襲われてもなかなか戦えないと思う。格好いい姿はもうちょっと待ってて欲しいのじゃ。

アルシーヴ
最近プレイアブル側のキャラとして使える可能性が高くなった人。ソラとの仲睦まじさを見てると、二人って職務で出会う前から顔見知りだったんじゃないかと思うこの頃。この小説では、神殿に行く前から知り合いで、仲良くなってた&10歳でみんなのトラウマを習得する空前の天才という設定。ギリギリとはいえ禁呪オーダーを8回も使えた時点で天才なのだろうと私は思う。

ソラ
原作では女神だったということは、かつてはランプのように女神候補生なるものだった可能性が高い。しかも、ランプほどじゃないが、聖典学に深く通じていたんじゃないかと思う。この小説では攫われてしまったが……?



△▼△▼△▼
ローリエ「ここは、日本とは違うんだ。」

ローリエ「普通に生きていたら、守りたいものも守れやしないんだ。」

ローリエ「俺自身の手で、守るしかないんだ。」

次回、『覚悟の弾丸』

ローリエ「待っててくれ……ソラちゃん。」
▲▽▲▽▲▽



あとがき
原作1章から始めると、ローリエについて分からないと考えたので、しばらく原作開始前編として主人公を中心に掘り下げていこうと思います。
きららファンタジア、良いゲームよ。是非インストールしてね☆
あときらファン小説もっと流行れ


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第3話:覚悟の弾丸

“真の強さとは、魔法の才能にも、剣の腕にも、腕力にも、策略にも、新たな発明にもあらず。
真の強さとは、心にあり。”
  ……八賢者・ローリエ
    賢者就任演説より


 エトワリアには拳銃というものが存在しない。

 俺はそれを知るや否や、すぐさま製作に取りかかった。

 

 幼い頃からここがエトワリアだと知っていた身としては、未来にソラに降りかかるであろう、呪いの事件をなんとかしたいと思った。

 そのためには、自身が七賢者並みの強さを得る必要がある。拳銃を真っ先に造ろうとした理由はそれだ。

 拳銃がどんなものかは自分が一番よく分かっていた。自分以外で拳銃が何かを知っている者がいたとしたら、間違いなく「狂っている」と言われただろう。

だが、アルシーヴのような恵まれた魔法の才能もなく、七賢者達の実力が不明だった以上やるしかなかった。

 

 当たり前のことかもしれないが、前例のないものを造り上げる為、どうすれば開発できるかに熱中した。だが俺は、銃を組み立てることが出来、パーツや弾丸の構造について詳しく知っていても、実際に造るにはあまりにも知識と技術が不足していた。魔法工学を勉強しだしたのも、拳銃を自作するためだったりする。

 

 

拳銃を自作している時に何を作っているか両親に聞かれた時も、素直に説明した。二人とも良い人だったし、下手に隠すより良いと思ったからだ。

(もちろん、言い方はめちゃくちゃ考えたが)

 

 

 商人の父は言った。

これは間違いなく莫大な富を築ける。だが、間違いなく多くの人の命を奪うものだと。

 

 役人の母は言った。

もしこれを売ろうとするなら、それは魂を売るに等しい行いだと。

 

 

 信頼できる人以外に教えないこと、練習は一人でやらないこと、絶対に売り出さないことを条件に、拳銃を作ることを認めて貰えたのは5歳の頃だった。

 

 

 

 だが、前述の通り拳銃を実際に造ったことはなかったので、そう簡単に事は進まなかった。1ミリの狂いも許されない超精密な製作は極度の集中力と技術を要した。

 何度も失敗し、時には寝食を忘れる事もあり、ソラ達に心配されたり、両親に食事に引っ張り出されたりベッドに寝かされたりした回数も両手じゃ数え切れないほどあった。

 アルシーヴの錬成魔術による協力もあり、気分転換に小物を作りながら、4年。遂に『拳銃(ソレ)』は完成した。

 

 

 六連回転式弾倉、リボルバー式の拳銃。銃身と弾丸には「比類なき硬度を持つ」とゲームで解説されていたブラックストーンを使用。

 火薬をどうするか悩んだが薬莢(やっきょう)の尻の部分に小さな爆発魔法の紋章を書いておき、撃鉄が衝撃を与えると起動するようにしておく。これで試し撃ちした結果、しっかりと魔法が起動し、弾が発射され、銃身へのダメージもほとんどなかった。

 試し撃ちの過程でぷにぷに石を使った非殺傷性の弾丸も製作した。

 

 

 俺はこの拳銃の名前を、モデルにした拳銃から取って「パイソン」とした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 掌の中の拳銃を見ていると、これを作り出すまでの思い出が走馬灯のように蘇ってくる。

 

 

「我ながら、情けないなぁ」

 

 

 つい、何となくそう呟いた。声は震えていた。

 日が高くなり、空気が暖かくなっても俺の心を締め付けるような苦しみは全く和らがなかった。

 

 

 自分は弱い人間だ。

 

 弱かったから、親友二人を見捨てて逃げてしまった。

 

 

 この異世界は、日本なんかよりも危険で、ここの異世界人は、日本人なんかよりも簡単にヘドロの目になることを、あの事件は俺に知らしめた。

 

 エトワリア(知ってる世界)に転生(確証はないが)して、アルシーヴやソラ(知ってるキャラ達)に出会って舞い上がっていた俺に叩きつけられた、残酷な真実。

 それを目の当たりにした俺は……

 

 

 

「このままじゃあ、ダメだ」

 

 

 そう、己に言い聞かせた。

 

 気休めでも、意味がなくても、そうしなければならないと感じたから。

 

 

「なるほど、それでやたらと街中を歩き回ってたのか」

 

 

 不意に言葉をかけられて、拳銃を隠して身構えた。

 声がした方を向くと、そこに立っていたのは今朝盗賊の事件について話してくれた衛兵だった。

 

 

「安心しろ、今すぐ君をどうこうしようって訳じゃない」

 

「なら、何しにここへ?……俺をソラの救出へ連れて行ってくれるとか?」

 

「そんな危険な真似はできない。

 ただ……君が思いつめた顔をして街中を歩き回ってると皆が言っててね。キミの親友に頼まれて探してたのさ」

 

 

 衛兵は、そう言うと俺の隣に腰をかけた。『アルシーヴに頼まれたから』という、俺を探していた理由以外は何も言わなかった。おそらく、俺の方から言うことを期待しているのだろう。

 

 精神的に成人していた俺としては、30代に突入したばかりの衛兵に助けを請うのは少し恥ずかしかった。だが、同時に無意味なプライドが足を引っ張ることも知っていた。

 

 

「あの夜、俺は盗賊を追い払う事ができたはずなんです。」

 

「どうやって?」

 

「この武器です。爆発を推進力に変えて、ブラックストーンの弾丸で貫くものです。」

 

「お、おう……そうか。それは……すごいね。」

 

 

 俺から見ても衛兵が困惑しているのがよくわかる。俺が持っている拳銃は、エトワリアで初めて作られた拳銃(モノ)だから仕方ないのかもしれない。

 でも、俺が言いたいことはそこじゃない。

 

 

「でも、これがあるにも関わらず、盗賊相手に撃てなかった。逃げてしまったんです。」

 

「………。」

 

「怖かった。死にたくなかった。でも何より、あの時戦えなかった自分が嫌で嫌で仕方ないんです……!」

 

 

 その言葉を聞いて、長い……長い間が空いて、そして、ゆっくりと衛兵は口を開いた。

 

 

「仕方ないよ。人に武器を向けることは誰だって怖いことさ。私でもそうさ。

 ……だって、それで誰かを傷つけたり殺したりしたら、人として大切な何かが、壊れてしまうから。」

 

 

 そう語る衛兵の目は、真剣そのもの、何度も修羅場をくぐり抜けた熟練の戦士のそれだった。転生して人生経験がある俺よりも、長く生きてきたかのような、男の目をしていた。

 

 

「私も、初めて敵を……人を殺した日のことは覚えている。君が生まれるよりもだいぶ前だが、今でも夢に見るほどさ。

 

 だけど、男には、どんなに怖くても、自分が壊れてでも戦うべき時がある。

 

 それは……大切なものを、守る時だ。」

 

「大切なものを、守る……」

 

「君はまだ幼い。ご両親から10歳にもなってないって聞いたよ。それでも、あの恐ろしい盗賊から親友を守ろうとしたんだろう?」

 

 

 普通じゃあまずできない、と言った衛兵の大きな掌が自分の頭を撫でる。今まで胸を締め付けていた苦しみが、少しずつほどけていく気がした。それにつれて、貯まっていたものが溢れ出てくる。いくら目を拭っても、それは溢れ続けた。

 

 

「君は立派な男になれる。いや、もうなってるのかもな。いずれにせよ、大物になると思うよ。」

 

 

 最後の方は少しちゃらけた言い方になったが、しっかりと言い聞かせるような言葉だった。とうの昔に忘れ去ったと思っていた、若人特有の魂の炎が蘇った。衛兵の暖かな、頼もしい言葉が、魂だけが大人びた自分に伝わり、火にかけた鉄のフライパンのように伝わり、あっという間に情熱が燃え上がった。

 涙を拭って、真面目な顔を衛兵に向ける。

 

 

「当たり前だろ……だって俺は……七賢者になる男だからな…!

 アルシーヴもソラも、俺が守ってやるんだ!!」

 

「ふっ、そうか。なら早速行こうか。」

 

「えっ……?どこに?」

 

「盗賊のアジトに、君の親友を助けにだよ。」

 

 

 何か含みのある笑みを浮かべた後、衛兵は背中でついてくるよう促した。

 

「あ、そうそう、七賢者とか言ってたけど、賢者は八人だからね?」

 

 

……俺にとって大事な情報をさらっと口にしながら。ちなみに、このことに俺が気づくのはもう少し後のことになる。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「衛兵さん、さっき、俺は連れていけないって言ったんじゃあ……」

 

「それは衛兵としての意見だ。これから言うことは同じ男としての言葉だ。だからこれからはペッパーって名前で呼んでくれ、ローリエ君。」

 

 

 街を出た俺と衛兵改めペッパーさんは、近くの森を歩いていた。

 

 

「大切な親友を救うために戦うんだ。同じ男としては、力になってやりたいのさ。」

 

「でも、衛兵としての規約があるんじゃ……」

 

「だから俺は最小限の装備しか持って来ていない。『休暇中、君と二人で散歩していたら、偶然盗賊のアジトに連れ込まれた』ことにするためにね。

 

 ……危険な賭けになるよ。相手は何人も殺っている。見つかったら、迷わずこちらを殺しに来るだろう。いざという時は……逃げるんだ。戦おうとは考えるなよ。」

 

「分かっています。」

 

「君はソラちゃんを助ける事を優先してくれ。……さぁ、着いたぞ。」

 

 

 そこは、高さ10メートルほど切り立った崖の下にある洞穴だった。入口の高さはあの夜に現れた盗賊と同じほどで、森の薄暗さもあって外からでは中を確認することは出来なかった。

 

 入るぞ、というペッパーさんの合図に、俺は拳銃を抜いて弾を確認しながら後に続いた。

 

 弾倉は六つあり、それぞれ全てに弾を込めてある。弾丸はぷにぷに石の弾丸が五つ、残りの一発だけブラックストーンを使用したメタルジャケット弾(ブラックストーンは厳密に言うと石だからストーンジャケットだけどね)にしてある。

 あの大男にぷにぷに石の弾が効くかという不安はある。でもメタルジャケット弾は出来れば使いたくない。かつて数回だけメタルジャケット弾で試し撃ちしたことがあるが、貫通力が高過ぎて自室の壁に穴を開けてしまったことがある。人に向けて撃ったらどうなるかなど、想像に難くない。

 

 

 どうか最後の一発(メタルジャケット弾)は使わないで済みますようにと願いながら、またソラちゃんの無事を願いながらペッパーさんに続いていくと彼がこっちを振り向き、「静かに」と合図してきた。

 

 どうやら(くだん)の盗賊は眠っているようだ。自然の洞窟の地べたに直接寝転がり、仰向けでいびきをかいている。

 これなら好都合。とっととここにいるはずのソラちゃんを助けてしまおうと考えた。

 

 果たしてアジトの奥に彼女はいた。オリの中でもう一人の少女と一緒に隅に座り込んでいた。

 

 

「ソラちゃん!」

 

「ローリエ!?どうしてここに……」

 

「シッ!あいつが起きる。早くここから出るよ。」

 

「でも、このオリが……」

 

「安心してくれ、街の衛兵は力持ちでね。」

 

 

 そう言うと、ペッパーさんはオリの一部をひん曲げて、子供一人分の隙間を無理やり作る。

 そうしてできた隙間から、ソラちゃんともう一人の少女を救出する。

 

 俺はその少女をどこかで見たことがあった。

黒い髪を短く切りそろえたその少女のことを思い出せたのは、きっと子供用の和服を着ていたからだろう。

 

 

「なっ!?(ハッカちゃん……!?)」

 

「? 何?」

 

「い、いや…何でも……」

 

 

そう、後に賢者の一人となるハッカである。俺にとって、賢者の中で一番のお気に入りだったりする。まさかこんな所で会うとは思わなかった。

 名前を言いかけたのを思いとどまったのはこれが初対面だからだ。初対面で相手が名前を知っていたら誰だって驚き警戒するだろう。俺だってそうする。

 

 

 

「てめぇらッ!!何してやがる!!!」

 

「ッ!ローリエ君!!二人を連れて逃げろ!!」

 

 

 だが、驚いたり、喜んだりする暇すらないらしい。

 サバイバルナイフを抜いてさっきまで寝ていた筈の盗賊に飛びかかったペッパーさんの言葉に、素直に従うことにした。

 

 

「二人とも早く!」

 

「で、でも!」

 

「あの人の命がけの戦いを無駄にするな!!!」

 

 

 ソラちゃんが攫われたあの夜以降で初めての大声が出た。

 無茶な救出を了承してくれた(ひと)のためにも、俺達は生きて帰らなければならない。

 幼いソラちゃんとハッカちゃんの手を引き、全力で洞窟を駆け抜ける。二人がすぐ後ろで息を切らすのも構わず、かすかに見え始めた入口の光目掛けて走り続けた。

 だが、エトワリアの神はどこまでも意地が悪いようだ。

 

 

「っはぁっ!もう……無理………」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「あっ!?おい!!」

 

 

 アジトを出るより先に、二人の体力が底を尽きる方が早かったようだ。俺は、離れてしまった手をもう一度繋ぐべく二人へ近づく。

 

 

「クソ……手間かけさせやがって」

 

 

 だが、ここで最悪の事態が起きた。あの男に追いつかれてしまったのだ。

 ソラちゃんが攫われたあの夜を嫌でも思い出させるかのように、格好はその時のままだった。

 

 

「そんな!さっきの人は……」

 

「へへ……衛兵も大したことねぇなァ」

 

 

 ソラの絞り出したような言葉への答えと、大きな体のあちこちにある新しい傷跡、そして奴が手に持っているナイフに何かが滴っているのを見て、俺はペッパーさんの身に起こった結果を悟った。

 

 

「もう、ただじゃおかねェぞ……お前ら……三人まとめてじっくりいたぶって……死ぬよりも苦しいと思えるくらい、痛めつけてやる……!!

まずは二度とチョロチョロできねーように、足の骨をへし折って、

腕も曲げて、散々犯し尽くしてやるぜ、へへへへへ……」

 

 

 盗賊の欲望と憤怒に満ちた表情は、まさに地獄から湧き出でんとする悪魔そのものだった。

 

 俺の中から何かが湧き出てきた。

 

 

 勇気のような、怒りのような、憎しみのような、言葉に出来ないような静かな激情が俺の中をあっという間に駆け巡った。

 

 『パイソン』を抜いて、弾倉を()()()()()一発分だけ回し、両手で構える。

 ソラちゃんもハッカちゃんも体力切れと恐怖で動けない。俺の後ろから聞こえる息づかいで分かる。逃げるなんて論外だ。

 

 

 コイツを止めるには……()()()()()()

 

 

 

 ここは日本ではない、覚悟を決めろ。

 

 

 

 

 

 引き金を引け……大切な者を守るために!

 

 

 

 

「なんだァ?そのおも…」

 

 

   ―――バアァァン!!

 

 

 その瞬間、手元から爆音がした。

 

 始めは、外したかと思った。目の前の盗賊は何の反応も示さなかったからだ。

 だが、そうではないとすぐに気づいた。男の額に、風穴が空いている。

 

 

「な、なん………だ、そ…………」

 

 

 掠れた声で何か呟くと、目の前の盗賊(あくま)はゆっくりとうつ伏せに倒れ……そしてそのまま動かなくなった。

 これで、俺達三人の危機は去った。

 

 

「もう大丈夫だ。さぁ、帰ろう。」

 

「………!!」

 

「? どうしたんだ、ソラちゃん」

 

「う、後ろの人……一体……」

 

「あっ………!!」

 

 

 ソラちゃんに指摘されてやっと気づいた。

 俺は初めて人を殺したのだ。

 

 その事実が、倒れた盗賊の汚れた血が地面に広がっていくように、心の中にしっかりと刻まれた。

 他でもない、自分がやったことなのだ。その責任として、今は二人を落ち着かせなければならない。この時、気のきいた言葉の一つや二つ、言うことができたらどれだけ良かっただろう。しかし、数十年分の記憶があるにも関わらず、俺の頭の中ではいくつもの言葉が交差し、通り過ぎては消えていった。

 

 

「で、でもよ!こうでもしないと俺達、命なかったかもしれない、だろ?」

 

 

 最悪なことに、真っ先に出てきた言葉は、言い訳だった。だが、当時の俺からしたら、それが一番簡単に出てきた言葉だった。

 

 

「なぁ、そうだろ?そこのキミも、そう思うだろ?だから……」

 

 

そこまで言いかけたところで、ハッカちゃんの目を見て自分が致命的なミスをしたことを悟った。

 

 

 ……怯えた目を、していたのだ。

それも、明らかに俺に対する恐怖がひしひしと伝わってくるような、そんな目を。

実際にやった訳でもないのに、手を差し伸べたらその手を振り払われたような錯覚に陥った。

その時のショックはゲームの推しキャラに嫌われた!ガーン!というレベルのものではなかった。

 

 ここにきて、ペッパーさんが言っていたことの意味が少し分かった気がした。

 

 

 

「……ソラ、ちゃん。」

 

「なっ…なに?」

 

「その子を連れて、街へ行って。」

 

「……ローリエはどうするの?」

 

「しばらく、独りにさせてくれ。

その方がいい……お互いにとって。」

 

 

 

 

 

 ソラちゃんは何か言いかけたが、やがてハッカちゃんと手を取って盗賊のアジトから出て行った。俺はペッパーさんの安否を確かめてから外へ行こうと思った。

 

 やはりと言うべきか、彼は亡くなっていた。いたる所にナイフで刺された跡がある。これを見たのが俺だけで良かった。彼女たちが見たら、間違いなく吐いてしまうだろう。俺も吐きそうになった。

 

ペッパーさんを供養した後、俺も洞窟から出て、森を抜けた所で立ち止まって夕陽と向き合った。

 

 

 

 俺は今日という日を忘れないだろう。

 

 

 

 変化がありすぎた。

 自分の弱さに触れた。

 衛兵の覚悟に触れた。

 死に触れた。俺の中の、大切な何かも壊れたと思う。

 だが、沈んでいく太陽に涙は見せなかった。

 

 

「俺は……もう逃げない。必ず、ソラとアルシーヴを守る……!」

 

 

 間違いなく、俺の人生は今日を境に変わっていくだろう。それからの日々を、悔いなく生きるために。




キャラクター紹介&解説


ローリエ
親友を守る為に盗賊を倒した主人公。それと同時に人を殺したことで、大切な何かが壊れてしまったようだ。人は人を殺した時、それ以降の選択肢に『殺す』が当たり前のように出るようになる、という話を参考に今回の話の心情変化を書いた。また、前話の時点で折れかかっていたため、どう立ち直るかでかなり苦労した。元々、変態路線で行くつもりだったのにどうしてこうなった……
でも、これから美人揃いの賢者達と次々会う予定だから多分問題ないはず←


ソラ
来年には女神候補生になる少女。盗賊を一撃で倒したローリエを見て、「ローリエの魔道具がやった」と思えたのは古くから付き合いがあったため。だが、まさか自分を守るためとはいえ人を殺してしまうとは思わなかっただろう。その時の心情変化については、いつか語れる日を望んでいる(白目)


ハッカ
未来の賢者の一人。こちらはローリエとは初対面であるため、ローリエが盗賊に何をしたのか、何を持っていたのか全く分からなかった。これが恐怖に繋がり、ローリエを傷つけた。
人間、恐怖は無知から来ているという話があって、『何が起きているか分からないから恐怖を感じる』という考え方から来ているそう。怖い話やオカルトが恐怖を煽るのは「何があったのか理解できないから」ではないかと作者は分析している。皆様はどう考えるだろうか?


ペッパー
本来は登場させる予定のなかったキャラ。ローリエが立ち直るキッカケとなるために、モブの衛兵から格上げになった。ローリエに大切な者を守ることの大切さを教えて逝った(誤字ではない)。


盗賊
話を練っていた頃から銃殺される定めにあった可哀想な人。あまり触れないのは、掘り下げることで同情の余地を作らせないため。悪役を作るのに必要なのがくずセリフ。きらファンに純然たる悪はなかなか出ない為か、コイツの言葉には苦労した。モブだけど。



△▼△▼△▼
ローリエ「衝撃的すぎた盗賊事件もこれで終わり! これからは神殿で三人一緒だな! 前々から思っていたんだけど、エトワリアの女の子って皆レベルが高すぎない?いやぁ~、ここでいっちょ、ハーレムでも作ってみますか!」
アルシーヴ&ソラ「………。」

次回、『魔法工学生』

ローリエ「絶対見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
幼少期編終了。でも、まだローリエ達が賢者どころか神殿に行ってすらいないので、もう少しだけ(原作前編が)続くのじゃ。


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第4話:魔法工学生

シティーハンター見てきました。
冴羽リョウ超格好良かったなぁ……ああいう格好良さを持つ男になりたい。


“親友の二人には、迷惑をかけてしまいました。
一人は私を庇って一生跡が残る怪我を負い、一人は私を守って手を血で汚しました。
女神として、彼らに何ができるのでしょう。”
  …女神ソラの独白より


 盗賊によるソラ誘拐事件。

 その終わりはあまりに拍子抜けしていた。

 

 

 誘拐されていたソラが戻って来たのだ。しかも、同時に誘拐されていた少女を一人連れて。

 

 街は始め、ソラが盗賊の隙を突いて脱走してきたと考えていたが、衛兵隊が盗賊のアジトを調べ、盗賊と衛兵一人の亡骸を発見してからは事態が急変した。

盗賊の亡骸の致命傷となった傷が額の小さな風穴だけだったこともあり、死亡原因の特定は難航した。

調査隊では「衛兵が盗賊と相討ちになった」という説と「第三者が盗賊を殺害した」という説で話し合いが行われたが、結局結論は出ず、真相が不明のまま時が流れていった。

 

 

 

 

 

 その当時のことを、女神ソラはこう語る。

 

「私はあの時、ハッカと震えていることしか出来ませんでした。ローリエが助けてくれなければ、命はなかったのかもしれません。

 

 でも、盗賊を撃ったローリエに、幼かった私は、お礼を言うことすら出来なかった。『独りにさせてくれ』と言われた時、恐怖のあまり彼の言う通りにしてしまった。あの様子の彼を、放っておいたらいけないと直感的に分かっていたにも関わらず。

 

 街に帰ってから後悔しました。お礼くらい言えば良かったって。せめてもの償いとして、ハッカに口止めをし、衛兵たちにも何も言わないことにしました。アルシーヴに事件のことについて聞かれても、『ローリエが守ってくれた』事以外は何度聞かれても答えませんでした。

そうして、時が流れて皆が盗賊の事件を忘れていくのを待ったのです。

 

 

 事件以降、私はローリエとはあまり話さなくなりました。……話しかけづらくなってしまったんです。だって、彼が変わってしまったのは、確実に私のせいなんですから……謝りたくても、何を言われるか分からなくて、怖かったのだと思います。彼のことは、信じているはずなのに。

 

 久しぶりに会話したのが、私の誘拐から3年たった頃の、フェンネルの事件の後だったかしら……

 その頃のローリエは……やっぱりというか、案の定というか………昔とは変わっていました。例えるなら、オモチャのナイフが、一流の鍛治職人によって切れ味を得たかのような……そんな変化が。」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 時の流れとは早いもので、盗賊によるソラ誘拐事件から3年があっという間に経過した。

 

 

 俺、ローリエは魔法工学を更に勉強するために、神殿に住み込んでいる。

 神殿にある神官の教育。そこの魔法工学科に俺は入った。ちなみに、アルシーヴは魔術科、ソラは女神候補生として神殿にいる。

 

 神殿は広く、学生寮を有しており、その内の二人部屋に俺は今住んでいる。食事は基本、寮から出るが自分で何とかすることもある。

 

 そして現在、何をしているかというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゃァ!!完成だぜ!!」

 

「相変わらず元気だな。それで、今回は何を作ったんだ?」

 

「コレだ! テッテレ~!

 インスタントカ~メ~ラ~~!!!」

 

「毎回のようにそのくだりやるけど何なんだよ」

 

 

 相部屋に同居している同級生にダミ声でドラ○もんのモノマネをしながら夜なべして完成させたカメラを見せつけていた。

 

 エトワリアには小型のカメラがないらしく、持ち運びなど不可能だったらしい。だが、それでは可愛い女の子を撮る機会が十分に得られない。世界の損失である。

 そこで、俺は有り余る魔法工学の知識を用いてカメラをコンパクトにし、撮った瞬間カメラから写真が出てくる、小型インスタントカメラを作ったのだ。

 

 

「これでエトワリアの至宝の損失を防げるぜ……」

 

「お前は何を言っているんだ」

 

「いいか!このカメラというのは、いわば『時間を切り取れる』んだッ!女の子の、若い瞬間を、永遠に!代償もなく!保存できるんだッ!!

 アルシーヴやソラだけじゃないッ!!エトワリアの女の子はみんな可愛いッ!

 それを撮らない男は、男を名乗る資格なぞなぁいッ!!」

 

「分かったから落ち着こうか」

 

 

 そして、このインスタントカメラで可愛い女の子を撮ることに思いを馳せている俺に冷静に突っ込みを入れた同級生は、俺が神殿に住み込んでから出来た男友達だ。名前をコリアンダーという。

 

 神殿に入りたての頃、天才的な魔法工学の知識ゆえに孤立しかけていた俺に話しかけ、意気投合した結果信頼関係が出来上がった。

彼は真面目で女が苦手という、俺とは真逆の性格だったので、仲良くなれたことに俺自身も驚きだった。きっと、俺の発明を理解してくれたからここまで上手くいったんだろう。

 

前世の学校ではボッチだったので、今世もボッチは避けたいと思った矢先にできた友達だから、彼には感謝している。

 

 

 

「でもまぁ、普通に考えてスゴい発明だぞ?あのカメラの小型化なんて前例がない。お前、いつもトンでもない発明をするよな」

 

「マ、賢者になるためにゃ、これくらいやんなきゃだしよ。

 ……ところで、お前は何を作っているんだ?」

 

「これか。これはだな、とある人物に依頼されて製作してるモノだ。触れるなよ?万が一があるかもしれないからな。」

 

 一応コリアンダーが造っているものを聞いてはみたものの、樽のような形をした金属は、あまり精密なものには見えない。俺はこのことは頭の隅っこに追いやることにした。

 

 

 そんなものよりもやるべきことがこのローリエにはあるからだ。

 

 それは!

 

 

「美人ちゃんを写真に収めることだッ!!!」

 

「あっ、お前!迷惑だけはかけんなよ?」

 

「当然!」

 

 

 

コリアンダーの忠告をテキトーな返事で流しながら俺は部屋から走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして着いた場所は、神殿の礼拝堂である。アルシーヴは、大体ここで魔術、聖典、筆頭神官の執務について勉強している。

 

 

「アルシーヴちゃーん!」

 

 

 カメラを構えつつそう声をかけて、こっちを向いたところでシャッターを押す。

カシャッという音とともに、写真がゆっくりとカメラから出てくる。そこには、テーブルについて教科書とノートを広げてこちらを向いているアルシーヴが映っている。

 13歳になった彼女は、俺の知っているゲームのアルシーヴに比べ、少し幼さは残るものの、十分に可愛さを備えていた。

 

 

「フッ………完璧だ、これでまたエトワリアの技術は進む……」

 

「なんだローリエ。いきなり来たと思ったらまた変なことを言って…………!!?」

 

 

 俺の言葉に呆れていたアルシーヴだったが、俺が手にしているカメラと写真を見た瞬間、何かを察したかのように目を見開く。

 

 

「お前、それは……!?」

 

「お?分かるか、アルシーヴちゃん。実はこれは、さっき造ったカメラだ」

 

「は!?

 あのカメラを小型化だと……?

 少しそれを貸せ!」

 

「あっ!?

 おい、あんま乱暴に扱うなよ……?」

 

「当たり前だ!」

 

 

目の色が変わった彼女はインスタントカメラをぶん取ってあらゆる角度から見つめていた。カメラを回し、フレームの取り外しを繰り返し、時にはシャッターを押して、出てきた写真を観察しては、さっきまで勉強で使っていたノートに原理を書き込んでいる。

 

 

「そんな珍しいもんかね?」

 

「ローリエ、それは本気で言っているのか?」

 

「え?」

 

「国宝級の発明だ。これだけで、写真技術は30年進むぞ。

……自覚なしに凄まじい発明を持ってくるなといつも言っている筈なんだがな。分かってるのか?」

 

「ああ、もちろんだよ」

 

 

 そう言って警告してる間もカメラから目を離さなかったのだろう。少し無防備になっている。

 

 

 

 そのチャンスを逃す手はない。

 

 

 

 

 俺は両手で彼女の胸を後ろからがしっと掴んだ。

 

 

 

 

「きゃああ!!?」

 

「うん、この前よりも大きくなってる。将来は国宝級の隠れ巨乳になるな……5、6年後に口説かせてあべしっ!!?」

 

「ローリエのエッチ!」

 

 

 ゲームの姿に思いを馳せながらアルシーヴちゃんの成長期おっぱいを堪能していると、国宝級のビンタが炸裂した。しかもいい声のオマケ付き。沢○さんありがとう。

 

 

「いきなり何をするんだ!」

 

「いやぁ、アルシーヴちゃん……毎度のことながらご馳走様です」

 

「本当に何を言っているんだ!!」

 

 

 お礼は言ったのだが、アルシーヴは顔を真っ赤にして抗議してきた。不意を付いてやったのがダメだったのだろうか。

 

 

「こんなことしてる暇が会ったらソラの所に顔を出しに行けばいいじゃないか!」

 

「!!」

 

 

 ソラの話題を出されて、俺は思わずたじろいだ。

 確かに、あの盗賊の事件以降、アルシーヴには会っていても、ソラには会っていない。俺は避けているのだ。別にイジメとかじゃないからそこは誤解しないで欲しい。

 

 ただ―――

 

 

 

「……あんな事件(こと)があった後で簡単に会いに行けるかよ…」

 

「………っ!!」

 

 

 あの事件の影響がない訳がない。事件後すぐに会った時のあのリアクション。話しかけようとしているのだけど、喉につっかえたように見えるあの反応。

それでなんとなく分かる。

 ソラは、男に対してトラウマを抱いているはずだ。俺が自分から話しかけなかったのも彼女のトラウマを思い出さないようにするためでもある。

 

 加えて、ソラが変わった原因が、盗賊だけでなく俺にもあるかもしれないことを、俺はアルシーヴに話していた。彼女に「盗賊に襲われた時、逃げて、守ってやれなくてごめん」と謝ったところ、複雑な顔で「お前は悪くない」と返されたのは記憶に新しい。

 

 

「アルシーヴ先輩、紅茶をお持ち……あ」

 

「あっ、き、君は……!」

 

 

 あの事件に再び触れるかどうかの会話の最中、そのタイミングで、今最も話しかけ辛い女の子と出会ってしまうとは、泣きっ面に蜂とはよく言ったものだ。

 その女の子――ハッカもまた、盗賊のアジトで出会い、そして、あの衝撃的な所を見せてしまった女の子でもある。俺は、あの怯えた目を忘れることはない。

 俺を目にしたハッカも、すぐに俺が盗賊を倒した少年と気づいたようで、俺を視界から追い出そうと目を泳がせた。

 

 すぐにあの日、怖がらせたことを謝らなくては。

でも何て言って謝ればいい?そんなことばかり考えていた。心が苦しくなっていく。

 

 

「? ローリエ、ハッカ?お前達、どこかで会った事があるのか?」

 

 

 しかも最悪なことにアルシーヴが爆弾を投げ込んできた。

おいやめろ、そんな質問答えられる訳ねーだろ。ファーストコンタクト最悪なんだぞ。アルシーヴには俺がハッカちゃんと会ったことがある事を伝えていない。それが完全に裏目に出た。

 

 

「「…………。」」

 

「顔色悪いぞ、二人とも。大丈夫か?」

 

 

そら顔色も悪くなるわ。大丈夫じゃないからな。

 

ハッカの方をチラリと見るとあの頃のことを思い出したのか目から光が失いかけてる。これは、俺がオブラートに包んで答えるしかないか。

 

 

「あー……実はだな、アルシーヴ?

俺と彼女…ハッカちゃんは……」

 

「アルシーヴ様に手を出したのは貴様かアアァァァ!!!!」

 

 

 突然、軽鎧に身を包んだ少女が弾丸のように俺のほうに飛んでくる。

 俺は反射的にその場から飛び退くことで回避する。少女は奇襲が失敗したことを悟り、スピードを落としてこちらを睨みつける。

 

 

「あっぶな!?何今の!!?

当たり屋にしては殺意高過ぎない!?」

 

「とぼけても無駄よ……アルシーヴ様の悲鳴を聞き逃すほど、このフェンネル、未熟ではないわ!」

 

 

 弾丸の如く襲ってきたその少女の言葉で、俺はその正体を察した。

 

七賢者・フェンネル。賢者達の中で一番アルシーヴを信仰しており、ランプをして「アルシーヴが黒と言えば白いものも黒と言う」と言わしめた狂信者だ。現在、俺が12歳だからアルシーヴは13歳なのだが、まさかこの頃からアルシーヴの虜だったのか……!?

 

 

「私と勝負しなさい。そして、私が勝てば、もう二度とアルシーヴ様に近寄らないと誓え!」

 

 

 フェンネルのアルシーヴ信仰が原作開始のかなり前から根深いことに驚いていると、いつの間にか決闘を申し込まれていた。

 だが、俺にそれを受ける理由はない。銃の腕を上げたり、銃の改良を続けているのは、いずれ訪れるソラへの呪い事件を未然に防ぐor犯人をぶっ飛ばす為だ。感情的に叩きつけられた決闘に勝つ為じゃない。

 

 

「嫌だよ」

 

 

 だから、はっきりと断った。

 

 ソラやアルシーヴの為なら戦えるかもしれないが、それ以外となるとまともに戦える自信がなかったのも断った理由としてはある。むしろ、戦いに慣れること自体良くないことだと思う。

 

 

「貴様!何故勝負を受けないんです!馬鹿にしてるのですか!」

 

「馬鹿にするもなにも、いきなり決闘とか無理に決まってるだろう?それに……」

 

「私が、女だから!決闘を受けないと言うのか!!」

 

「違う。戦う意味がないからだ。」

 

 

 フェンネルの言ったことは合っている。女の子からの依頼やデートのお誘いは受けても決闘の申し込みは受けないようにしてるんでね。

 でも決して理由はそれだけじゃない。繰り返すようだが、必要性を感じない戦いはするべきではない、と考えているというのも理由だ。

 

 

「まただよ、フェンネル。アルシーヴ様の為とかいって、突撃して。気持ち悪いな。」

 

「いつも俺達には注意するのにな。人のこと言えねーじゃねーか。」

 

「ウィンキョウ家のお嬢様だからって調子乗ってんのか……?」

 

 

 それに、今気付いたのだが、周りの様子がおかしい。フェンネルに対する敵意をひしひしと感じる。特に、ガタイのいい男どもから刺さるような視線を感じた。そいつらの敵意が、口から漏れ出ているかのような陰口がわずかに聞き取れたのがいい証拠だ。

 

 こんな時に決闘を受けたらヤバい気がした。

 

 

「落ち着け二人とも。いきなり決闘なんてよすんだ。」

 

 

 俺たちが一触即発の空気で睨み合い、周囲も不穏になる中、アルシーヴが仲裁に入ってくる。すると、すぐさまフェンネルはスイッチを切り換えたかのように感情を抑え武器を収めた。

 

 

「フェンネル。気持ちはわからんでもないが、怒りで決闘を申し込むな」

 

「申し訳ございません……」

 

「そして……ローリエ」

 

「ん?俺?」

 

「お、女の子の……その、む、胸は……乙女の宝物なんだ。だから……あまり何度も触るな……」

 

「「ふぁっ」」

 

 

 アルシーヴが俺に向けて言った、困ったような、照れたような、そんな表情と声色でする注意に、俺とフェンネルの驚きの声がハモる。しかも、肺の奥からでた変な声がハモった。

 

 

「可愛い……」

 

「何度も…だと……?」

 

 

ただしその後にくる感情(感想)が真逆といっていいほど違った。俺はアルシーヴちゃんの意外な一面に萌えていたがフェンネルの声は殺気を孕んでいた。

 

 

「貴様……やはりアルシーヴ様のために斬った方が良さそうだな……!!」

 

「待て、ウェイト。それはダメだぜ?止めた方が良いと思うなー?さっきのアルシーヴちゃんの言葉覚えてる?感情に任せて決闘すんなって……」

 

「問答無用ッ!!!」

 

「うわあああああッ!!?」

 

 

 説得も虚しく、フェンネルにレイピア片手に斬りかかられ。

 

 この後滅茶苦茶逃げまくった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「……それで、追手を撒いてここまで逃げてきたのか。お前、学習してないだろ」

 

「えっへへー」

 

「えっへへーじゃない。いい加減にしないと、いつか捕まるぞ」

 

 

 依頼された物の制作を続けていると、親友のローリエが部屋に戻ってくる。何があったかを聞いた俺は、呆れ果てた。

 

 こいつは、女癖が悪すぎる。美人に目がなく、見かけたら片っ端から口説きにかかる。ぶっ飛んだ発明品の数々から感じる情熱や技術は本物なんだが、いつもがナンパ野郎(アレ)だからプラマイはゼロを通り越してマイナスに突入している。

 

 

「ところでコリアンダー、フェンネルについて何か知ってたら教えてほしいんだけど……」

 

「また俺頼みか。知ってる範囲でしか話せねえぞ。」

 

「それでいい。」

 

 

 ローリエは、学生の事情について無頓着だ。こいつの関心事は、自分の発明品と友人、聖典、あと美人くらいしかない。だから、こいつが誰かについて尋ねる時は大体俺の情報を当てにしている。いつものことなのでもう慣れた。

……少なくとも、こいつよりは生徒(まわり)を見ている自負はあるし。

 

「フェンネル・ウィンキョウ。ウィンキョウ家の末っ子お嬢様だ。学年は俺たちと同じ。神殿の騎士科に入っている。……というか、お嬢様なら顔次第でお前の好みになりそうだから知ってそうなものなんだがな」

 

「好きな女がいる女の子には手を出さないと決めてるんだ」

 

「なんだその決まりは……」

 

「百合は本来男の入る余地がないものなんだよ」

 

 こいつは時たまよく分からない事を言う。この時に深く聞かないのがこいつとの仲を保つ秘訣だと思っている。

 

「フェンネルは、アルシーヴちゃんをかなり信仰していた。何か心当たりはあるか?」

 

「ない。ただ、授業態度は騎士科に珍しく大真面目だったと聞くぞ」

 

 

 騎士科の生徒たちは、言い方を考慮せずハッキリ言ってしまえば授業態度などあったものではなく、無法地帯の徒となっている。生徒の9割を男が占めており、表向き授業は受けてるが、常にバレない裏取引の方法やイジメ、セックスの話ばかりしている。

中には崇高な志を持つ騎士候補がいるのかもしれないが、不良共の行いが多く、目に余りすぎているものだから、騎士科全体の印象ダウンに繋がっている。

 

「真面目……ね。あの騎士科で?

 さぞかし浮いたことでしょうな」

 

「ああ。その影響かは知らんが、別科の生徒と一緒にいることが多いらしいな。それがあのアルシーヴか」

 

「みたいだな。となると、アイツらがやりそうな事は……私刑(リンチ)かな?」

 

「可能性は高い。不真面目な連中の中にいる真面目な人間。それだけで奴らにとっては目障りだろうな。」

 

 

 しかも騎士科卒業後の就職先である衛兵・騎士・近衛兵なんかは男社会。女性が出世するのはかなり苦労するだろう。

 

 

「それじゃあ、騎士科の男をひとりとっ捕まえて情報を吐き出させるとしますか……!」

 

「出来るだけ穏便にな。お前の武器、未知な上に攻撃力高いから、無闇に使うなよ?」

 

 

 分かった、と答え部屋を出ようとするローリエの表情は、いつもの腑抜けたものとはうって変わって、研ぎたての刃物のような、鋭い面持ちとなった。

いつもそういうツラ構えなら、モテるのにな。

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を出てから少しして、食堂についた俺達は、騎士科の男の集まりを見つけた。

 ほぼ自然な流れで隅に位置取り腰をかけ、耳をすませると、男たちの笑い声の混じった会話が漏れてくる。

 

 

「今日の授業後、裏庭だな。」

 

「俺が決闘を申し込んで戦う。少ししたらお前ら出てきて袋にしろ。」

 

「あの生意気女、二度と俺らに逆らえなくしてやるぜ…!!」

 

「バカ、声がでけーよ!」

 

「構いやしねぇよ、誰が聞かれてもあの女にチクるもんか!」

 

 

 こいつらには、警戒心というものがないのだろうか。食堂で笑いながら話してたら誰かに聞かれるかもしれないのに。

 罠の可能性もあったが、下卑た笑い声と話の内容から、あり得ないと結論づけた。

 

 

「行くぞ。」

 

「ああ。」

 

 

ローリエのその声で席を立ち、部屋へ戻る。

 

その際に気になったことを聞いてみた。

 

 

「なぁローリエ」

 

「なんだ?」

 

「お前、何でフェンネル(彼女)を助けようとする?」

 

 

 俺の質問にローリエは部屋前で立ち止まり、振り向いてこう答えた。

 

 

「美人がピンチなら、助けるのが男だからだ。」

 

 

 何ともローリエらしい答えに笑みがこぼれた。そのまま俺達は、戦いの準備を進めていく……




キャラクター紹介&解説

ローリエ
成長し、かなり女好きになった魔法工学生。イメージCVは○田○和。
彼にはちゃんとモデルがおり、メインのモデルに他のキャラの要素を混ぜ込んだ感じになっているのだが、そのモデルとも差別化を図る予定。


アルシーヴ
CV.沢○○ゆきの可愛い女の子。
原作でクールな彼女が「エッチ!」なんて言わないと思うかもしれないが、不意打ちだったし仕方ない。ボイスについては、某泥棒アニメの女盗賊を参照のこと。


ソラ
CV.ゆ○なの可愛い女の子。
今回は語り部として登場するに留まる。『バキ』的な語り部ではない。
オリジナル設定として、盗賊に拉致されたトラウマで男が苦手という設定を盛り込んだ。まぁきららファンタジアに男がほとんど出てこないので原作ソラがどうなっているかは確かめようもないが。


ハッカ
CV.茅○実○の可愛い女の子。
アルシーヴの取り巻き的な存在になっており、ローリエにとっては過ちの象徴と化してしまっているが、作者は一番好きな子なのだ。しかしヒロインにできるかと言われたら不明。


フェンネル
CV.五○嵐○美の可愛い女の子。苗字の元ネタは、香草フェンネルの和名「茴香(ウイキョウ)」から取った。
アルシーヴにのめり込んでいる彼女だが、相当な理由がなければこうはならないと考えている。詳細は次の話にて。


コリアンダー
本作オリジナルキャラにして、ローリエの男友達。イメージCVは○村○一。
オリキャラは、原作キャラと比べて性格描写や環境を掘り下げる手間がかかるので大変だが、空気にならないように頑張りたい。


騎士科の生徒の授業態度
大体偏見だが、一応元ネタがあって、フランス革命期の革命軍と王国軍のモチベーションの話から。
市民を中心とした革命軍は、家族を守るという使命感が強かったので勇敢に戦ったが、王国軍は、金で雇った傭兵が中心だったため、士気が低かったという話がある(うろ覚え)。
まぁ、兵隊に限ったことではないが、人のモチベーションが落ちると汚職や不正行為に走るのは世の常ではないだろうか。



△▼△▼△▼
ローリエ「真面目すぎて周りが見えない系女子フェンネルに、騎士の男の魔の手が迫る! ここは全年齢対象だからくっころは封印だ。俺が一肌脱いで、助けるとしましょうか!」

次回、『近衛兵フェンネルの神と悪魔』

コリアンダー「必ず、チェックして欲しい。」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
やっとこの話を書けたと思ったら、執筆中の小説って所から投稿したためか、前書きとあとがきが全部消えてて萎えた。次から気をつけよう。


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第5話:近衛兵フェンネルの神と悪魔

バレンタインデー前日までに投稿間に合わなかったマン


“私の人生は二つに分けられる。
それは、アルシーヴ様に出会う前と出会った後だ。”
  …八賢者 フェンネル・ウィンキョウ
   賢者就任演説より


 小さな頃に見ていた、父や兄の姿が憧れだった。

 

 神殿の近衛兵や衛兵として働く家族を真似して、騎士ごっこをして遊びまわったのも、その憧れから来る自然なものだった。

 

 

 

 だが、最初の方こそにこやかに見守っていた父も兄も、成長していくにつれ、剣の道へ進もうとする私にあまり笑いかけなくなっていた。

 

 気付いた頃には、「ウィンキョウ家の娘として、偉い所の嫁へ行け」と言ってくるようになった。

 

 当然私はそれに反発した。

 

 繰り返すようだが、私は、誰かを守るために剣を振っている二人に憧れたのだ。誰かの元へ嫁ぐといった、そういう方向の『女の幸せ』には興味なかった。

 私の幸せとは、仕えるべき主に仕え、その主を守ることにある。そう信じていた。今もそうだ。

 

 そう親に宣言した次の日、私にとって衝撃的な宣告を下された。

 

 

“お前の縁談を纏めておいた。いい加減、現実を見ろ。”

 

 

 父からの言葉に私は目の前が真っ暗になった。いくら親とはいえ、望まぬ結婚を無理矢理させるとは思えなかった。そんな中での一方的なこの宣告(縁談)は、裏切りに等しかった。

 

 無力な子供だった私は、家を飛び出し、ひたすら走り続けた。

 

 

 家、地位のしがらみ、婚約という名の呪い……そして、あんなに好きだった剣の鍛錬からも、逃げ出したかったのだろう。

 

 

 

 その時だった。

 

 

『どうしたんだ、そこの君?

 ……何故、泣いているんだ?』

 

『……あなたは?』

 

『私は―――』

 

 

 私の神に出会ったのは。

 

 それは、桃色の髪を後ろでまとめ、魔術師を目指していると思われる服を着ており、吸い込まれそうな緋色の目をした、私と同い年くらいの、少女だった。

 

 私から事情を聞いた彼女は、黙って私の手を引いて、私の家まで行くと、

 

 

『ウィンキョウ家の当主よ、フェンネルの未来を賭けて私と戦え!』

 

 

 高らかにそう言い放った。

 

 明らかに無茶で、無謀で、傍若無人な行為。私はそれを止めようとした。父も、子供の戯れ言と取り合わなかった。しかし、彼女は『子供に負けるのが怖いか』などと挑発を続け、一対一で闘う流れとなった。

 

 はっきり言って、最初は彼女が勝てると思っていなかった。私ですら、当時は未だに父に勝ったことがなかったのだから。

 

 だが、私は信じられないものを見た。

 

 

 年齢も背丈も私と同じくらいの彼女が、あらゆる魔法、見たことのない魔術を使って、父を翻弄していたのだ。まるで……そう、猫が死にかけの鼠を転がして遊んでいるかのように。

 その光景を見ていた私の心は今でも覚えている。

初めて見た時から美しいなと思っていたが、彼女の秘めたる強さに、私は間違いなく惹かれていた。

 やがて決闘に勝った彼女は、私の元へ来てこう言った。

 

 

『これは私の我が儘から始まったものだ。だが、賭けには勝った。お前は未来を自分で切り開けるようになったのだ。

 

 さて、どうしたい?どの道を行っても、私としては悪くないと思うのだが……』

 

 

 その様子は、今まで父を翻弄していたのが嘘であるかのような、垢抜けた少女のそれだった。あの時の彼女も、可愛らしいものだった。

 

 どうしたい、と聞いてきたが、私の心は決まっていた。

 

 

 

 

『あなたに、永遠(とわ)なる忠誠を誓います―――――アルシーヴ様』

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の闘う姿を見たときから感じていた、支配者……いや、英雄としての才能。

 私はそれを、側で支えたいと本気で思った。

 

 

 恋愛物語にありがちな「運命」という言葉を、私はこの日から信じることにした。

 

 なるべくしてなる、主と従者。

 

 私はこの人に仕えるために、今まで剣を振っていたのだ。この主に仕え、主をお守りすることこそ、我が誇りであり、幸せだ。

 

 

 これが、私と私を救ってくれた神(アルシーヴ)様との出会い。

 ただし、この3年後、私の機嫌はどん底に落ちることとなる。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「うん、この前よりも大きくなってる。将来は国宝級の隠れ巨乳になるな……5、6年後に口説かせてあべしっ!!?」

 

「ローリエのエッチ!

 いきなり何をするんだ!」

 

 

 その会話は、礼拝堂の外で剣を振る私に突然聞こえてきた。

 

 話の内容からして、男がアルシーヴ様に淫らな行いをしたとわかる。

 

 到底許せるものではない。

 

 すぐさま礼拝堂に入り、アルシーヴ様の近くにいる男に向かって走ったままレイピアを構える。

 

 

 

 

 

 

「アルシーヴ様に手を出したのは貴様かアアァァァ!!!!」

 

 

 怒りの突進は件の男が飛び退くことで失敗に終わったが、奴とアルシーヴ様の間に私が入れた。

 

 

 

「あっぶな!?何今の!!?

当たり屋にしては殺意高過ぎない!?」

 

「とぼけても無駄よ……アルシーヴ様の悲鳴を聞き逃すほど、このフェンネル、未熟ではないわ!

 私と勝負しなさい。そして、私が勝てば、もう二度とアルシーヴ様に近寄らないと誓え!」

 

 

 アルシーヴ様に手を出したであろう、ぼさぼさな緑髪の男に決闘を叩きつける。これは、近衛兵を目指すもののプライドである。アルシーヴ様に仕える人間たるもの、礼節は守らなくてはならない。例え、相手が目の前の男でも。

 

 だが、そのプライドは、

 

 

「嫌だよ」

 

 

 たった一言で壊された。

 

 

「貴様!何故勝負を受けないんです!馬鹿にしてるのですか!」 

 

「馬鹿にするもなにも、いきなり決闘とか無理に決まってるだろう?それに……」

 

「私が、女だから!決闘を受けないと言うのか!!」

 

「違う。戦う意味がないからだ。」

 

 

 戦う意味がないと言いつつ、バカにされてる気がする。目がなんというか、かつての父や兄に似ている。私を女として見ている目だ。変な意味はありませんよ。

 

 だが、似ているだけだ。同じではない。まるで、私を見定めているかのような目をしていた。それが、冷静さを失っていた私を更に苛つかせた。周りが何か言っているが、この際どうでも良い。

 

 

「フェンネル。気持ちはわからんでもないが、怒りで決闘を申し込むな」

 

「申し訳ございません……」

 

 

 だが、怒りに任せた私が何か言う前にアルシーヴ様が仲裁に入った。この緑髪の男とは何か縁があるらしい。私は、すぐに武器を収めた。

 

 

「そして……ローリエ」

 

「ん?俺?」

 

「お、女の子の……その、む、胸は……乙女の宝物なんだ。だから……あまり何度も触るな……」

 

「「ふぁっ」」

 

 

 アルシーヴ様の普段は見せない乙女のテンションと言葉に肺の奥から変な声が出る。その声は、礼拝堂に見事にハモって響いた。

 

 いや、問題はそこじゃない。

 

 

「可愛い……」

 

「何度も…だと……?」

 

 

 「何度も」と言ったということは、アルシーヴ様を可愛いと言ったこの男は、何度もアルシーヴ様に対して暴挙を働いていた事に他ならない。アルシーヴ様の可愛さに萌えるだけなら構わないが、何度も前科があるとなったら話は別だ。

 

 

 「貴様……やはりアルシーヴ様のために斬った方が良さそうだな……!!」

 

「待て、ウェイト。それはダメだぜ?止めた方が良いと思うなー?さっきのアルシーヴちゃんの言葉覚えてる?感情に任せて決闘すんなって……」

 

「問答無用ッ!!!」

 

「うわあああああッ!!?」

 

 

 これ以上アルシーヴ様が汚されないためにレイピアで斬りかかったのはいいが。

 

 

 アイツの逃げ足には遅れをとった。

 

 これが、私と私の悪魔(ローリエ)との最初の出会いである。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 その日、私は騎士科の教室の隅でイライラしていた。

 

 私は現在、神殿にて兵隊のいろはを学んでいる訳だが、騎士科の連中の民度というか、授業態度というか、そういったものが低すぎたのだ。本当に衛兵になる気があるのか、と一人一人問い詰めたくなるほどに。

 

 だがまぁ、それはいつものことだ。

 

 

 

 それより、あの男だ。

 

 アルシーヴ様がローリエと呼んだあの男、アルシーヴ様の胸を揉んでいたそうではないか……それも一度や二度ではない。そうなってくると、アイツはアルシーヴ様に日常的にセクハラをしている確率が高い。

 

 私にとっての希望をやすやすと踏みにじる男に、殺意さえ湧いた。

 

 

 その時だった。

 

 

 

「なぁウィンキョウ、この後ヒマか?」

 

 

 

 不良のリーダー格の男に声をかけられた。こいつは、いつも授業態度について私に注意されている奴だ。

 

 

「……何の用だ?」

 

「俺と決闘しろよ。……連れがこの前世話になったみたいだからな。」

 

 

 下卑た声と舐めまわすような視線、馬鹿にしたような言い方で決闘を誘ってくる。

 

 この前犯罪に走りかけたコイツの手下を成敗したお礼をしに来たとのことだ。

 

 だが不良たるコイツの事だ、まともな決闘などやる訳がない。

 

 

「いいだろう。場所は?」

 

「裏庭だ。ついてこい。」

 

 

 だが、私は乗ってやることにした。むしゃくしゃしていたから、八つ当たりしたかったのかもしれない。だが、それよりも、いい加減こいつらの不真面目な言動を叩き直そうと思っていた所だ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「構えろ。」

 

「………。」

 

 

 不良のリーダー格は、裏庭に着くなり、私に向き直り、気持ち悪い笑みをしたまま剣を抜いた。私も自分の得物を抜く。

 

 

「来い!」

 

「……ッ!!」

 

 

 私はそいつの言葉を聞き終える前に、レイピアを突き出して突進した。目の前の男は、剣を正面に構え私の一撃を受け止める。

 

 だが、私はそこで終わるほど甘くはない。

 

 

 

 次々とレイピアを振り、突き、男のガードが及ばない所を攻撃していく。奴は、私のスピードについて来れていない。まともに授業を受けていれば、こうはならなかっただろうに。

 

 

「………っらあ!!」

 

「ふっ!」

 

 

 男が乱暴に剣を振ると同時に、私は距離をとる。

 

 

「うおおおおおお!!」

 

「……!!」

 

 

 男が雄叫びをあげて私に斬りかかると同時に、茂みから男が数人、飛び出してきた。

 

 ……やはりこれくらいしてくるかと思っていたが、いざやられてみると、逃げ場がなくなり少し焦った。

 

だが、所詮は有象無象。数に頼ることこそ、こいつらを雑魚たらしめる証明。一人ずつ突破すれば、活路はある。

 

 

「はっ!」

 

「ゲッ!?」

 

「…邪魔!」

 

「…ッ、くらいやがれ!」

 

「きゃっ!!?」

 

 

 だが、最初の一人に斬りかかり、剣を弾き飛ばした瞬間、顔になにかを浴びせられた。

 

 やられた、と確信した。

 

 全身から力が抜け、手からレイピアが滑り落ちる。ついに立てなくなり、膝が、肩が、背中が地面についていった。

 

 

「……ったく、焦ったぜ、この女……」

 

「貴様……なにを………!」

 

「囲むだけじゃ不安だったからな。即効性の麻酔液を全員に持たせたんだよ。

 

 ……さて、いつも舐めた態度とってくれやがった礼をしてやらねーとなぁ…!!」

 

 

 私の正面で剣を受けていた男がそう言うと、他の男たちにまで気持ち悪い笑みや不快な視線が伝染し、動けない私ににじりよってくる。

 

 

「なぁ、誰からヤる?」

 

「俺からだ!」

 

「いや俺だ!」

 

「馬鹿言うな。正面立ってこの女と闘ってたのは俺だぞ?」

 

 

 お前がやったのは闘いじゃない。そう言いたかったが、口や舌まで麻痺してきた。どうやら、さっきの液体が口に入ってしまったようだ。

 

 男たちのうちの一人の手が、私の鎧に伸びてくる。

 

 ……私の脳裏に、最悪の展開が浮かんだ。

 

 

「や……め…………たす‥……………!!」

 

 

 

 助けて、アルシーヴ様―――

 

 

 

 

 

 

 

 そう思った時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バアァァァン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 耳を(つんざ)く爆発音と。

 

 

 

「ぎゃああああああ!?目がああああああああ!!!」

 

 

 

 下劣な男の悲鳴と。

 

 

 

「戦い方も女の子の抱き方もなってないぜ。落第点代わりに鉛玉でも欲しいか?」

 

 

 

 忘れるはずのない、憎たらしい声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 準備を終え、裏庭に駆けつけた時、フェンネルが襲われそうになっていた。

 

 

 女騎士の同人誌での「くっ、殺せ!」は一時期「くっころ」と略されて愛されたが、現実(リアル)でそれは許すわけにはいかないので、とりあえず一番近くにいた男に一発ぶち込んどいた。もちろん非殺傷のぷにぷに(いし)弾だ。

 

 

「ぎゃああああああ!?目がああああああああ!!!」

 

 

 まぁ、非殺傷性とはいえ、当たれば超痛いし、今、目にあたったがその場合、余裕で失明する可能性もある。

 

 

「戦い方も女の子の抱き方もなってないぜ。落第点代わりに鉛玉でも欲しいか?」

 

 

 ついでに決め台詞もカッコ良く。騎士科崩れ共が戸惑っている隙に、もう一人の助っ人の走る足音が近づいてくる。

 

 

「フェンネル!無事か!?」

 

 

 アルシーヴだ。彼女に、コリアンダーと集めた情報を教えると、こちらが頼むよりも先に協力を申し出てくれた。

 

 彼女の騎士科の男どもを睨む目は味方なのに恐ろしいと思うほどだ。

 

 

「さて、てめーら、武器と隠し持ってる瓶を置いてとっとと失せな。こっちに向かってきた奴から撃つぜ」

 

「ただで済むと思うなよ、貴様等……」

 

 

 

 俺とアルシーヴは、奴らにそう警告する。

 

 フェンネルが動けていないということは奴らに何かされたということだ。フェンネルの傍らに転がってる瓶の中身こそその正体だろう。

 

 

 

「ど、どいつもこいつもなめやがって!お前ら!やっちまえ!!」

 

 

 リーダー格らしき男がそう吠えると、他の男達が俺達に向かってくる。

 

 

 だが、そいつらが近づく前に行動不能にしていく。俺は『パイソン』で一人ずつ狙い撃ちにする。敵は被弾した部分を抑え丸まっていく。そこをグーパンチで意識を刈り取った。アルシーヴも魔法で一人も漏らさず吹き飛ばす。

 

 俺は、あの事件から、銃の腕は地道に上げていた。その結果、動く敵の体になら大胆当てられるようになった。距離によっては狙い撃ちすら可能だ。

 

 

 

 

 

 やがて、リーダー格の男以外の奴らを戦闘不能にした俺とアルシーヴは、それぞれの武器(マグナムと杖)をそいつに突きつける。

 

 

 

 

 

「さぁ、あとはお前だけだな。」

 

「この事は上層部に報告させてもらう。観念しろ。」

 

 

「あ…あぁ………か、か、

 勘弁してくれぇぇぇーーーーーーッ!!!」

 

 

 仲間が蹂躙されていく様を見たからか、そいつは情けない声を出して泣きながら逃げていった。ああいう手合いは、自分が有利ならとことん調子に乗るが、不利になった途端弱気になるものだ。

 

 

 

「まぁ逃げてもコリアンダーが撮った証拠があるからもう駄目だろうけどな」

 

「手回し完璧だな……」

 

 

 

「……アルシーヴ、様……」

 

 

 

 弱々しい声と、ゆっくり起き上がる音で俺達二人は振り返る。

 

 

 

「大丈夫か、フェンネル?」

 

 

 

「はい……貴女のおかげです……」

 

 

 

 フェンネルを抱き上げるアルシーヴは、まるでヒロインを救った主人公で、フェンネルの表情も、アルシーヴの腕の中が、世界で最も安心できる場所であるかを語るかのように穏やかになっている。

 

 そうして二人を見ていると、フェンネルの視線が俺に移る。表情も、心なしか厳しくなった。

 

 

 

「あなたに、助けは頼んでいません……!」

 

「フェンネル!!」

 

 

 

 フェンネルの言葉にアルシーヴは声を張り上げるが、俺は気にしてはいない。

 

 フェンネルのプライドのために、俺は気になることを一つ聞いてからさっさと去ることにした。

 

 

 

 

 

「そうだな。俺は勝手に巻き込まれに行っただけだ。

 

 ……あ、そうだ。ここには、決闘の申し込みを受けたから来たんだろ?」

 

「……?そう、ですが」

 

 

 

 

 やはりそうだ。

 

 フェンネルは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。果たしてそんな勇気のある人がどれだけいるだろう。

 

 俺の思った通りの人で良かった。

 

 

 

 

 

「フェンネル・ウィンキョウ。

 ……君は、俺が知った中で最高の騎士だ。」

 

 

 

 

 

 そうはっきりと伝えて、俺は裏庭から離れた。それで、今日のドタバタは終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……のはずだったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ローリエ?」

 

 

 

「!!!

 ………ソラちゃん……!」

 

 

 

 

 

 思わぬ人物に出会ったことで、まだ終わりじゃないことが判明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、3年ぶりに会ったあの日も、本当に偶然だったんです。後から聞いた事なんですが、フェンネルの事件のタイミングが一日ずれていたら、ローリエと会うこともなかったでしょう。」

 

 

 女神ソラは、盗賊事件後のローリエについて、こう語っている。

 

 

「その時のローリエは、フェンネルを襲っていた騎士科の生徒たちと戦った後で疲れてたのか知らないけど、不穏な空気を纏っていたんです。

 

 その違和感の正体は分からなかったんですけど、確実に彼が変わったという確信は得られました。」

 

 

 

『久しぶりだね、ローリエ……

 あの日から、私に…』

 

『ッ!

 ソラちゃん、悪い!俺、急いでるから……』

 

 

 

「初め、彼は逃げようとしたんです。

 

 ――まぁ、今になって思えば、男の人が苦手な私を彼なりに気遣った結果なんでしょうけども……

 

 その時の私には逃げてるように見えて……だって、私を見るなり『急いでる』なんて言うんですもの…他にやりようはあったと思いますよね?」

 

 

『待って!ローリエ!!』

 

『………。』

 

『どうして、そんな事言うの……?』

 

『いやぁ、本当に急いでて……』

 

『ウソ。私を見るまで、「やっと仕事が終わった」みたいな顔してたくせに』

 

『……まともに会ってないのに、何でそんなん分かるんだよ…』

 

『女神たるもの観察力が必要だからね♪』

 

 

 

「彼が冗談を言ってる時も、私の冗談を聞いてる時も、何というか、笑ってはいるんですけど、心の底から笑ってなかったんです。

 

 どうにかしなきゃと思っている内に、自然と言葉が出てきたんです。」

 

 

『ねぇローリエ。

 私、怖いよ……』

 

『怖い?』

 

『うん。小さい頃は、私とアルシーヴとローリエで、沢山遊んだじゃない。今のままじゃ、三人ともバラバラになりそうで……』

 

『………そっか。また、怖がらせちゃったか』

 

『また?』

 

『初めて盗賊を撃った(殺した)時さ。あれ以降、俺は一応、ソラちゃんを気にかけてるつもりなんだぜ?』

 

『ウソだよ!私に話しかけてくれないくせに…』

 

『俺に話しかけようとするとき、全身が委縮するんだよ、君は。』

 

『!!』

 

 

 

 ソラは、この時自身のトラウマに気づいたという。ローリエが話しかけようとしなかったのは、ソラが『男と上手く話せない』ことを気遣った結果なのだと。

 

 

「その後、彼は『守ってあげられなくてごめんね』って言って部屋の方へ去っていったんです。

 

 ……はい。私もあの時言えば良かったんです。そうすれば、あんな怖い思いをせずにすんだのだから。

 

 ―――当時の私には伝えられませんでした。

 『独りにしてごめんね、助けてくれてありがとう』って。」

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
ハードボイルドさを出した(気がする)主人公。
今回はフェンネルメインの回だったので登場は控えめ。


フェンネル
アルシーヴ大好きウーマン。
その原点は、目指したい騎士の道が閉ざされようとした時、アルシーヴがその道を切り開いてくれた事、そこで仕えるべき主がアルシーヴだ、と思った事である。
というのがここでの設定よ。後に公式設定が出ませんように……
ローリエとは馬が会いません。だってアルシーヴとの接し方が真逆(アレ)だからね。


アルシーヴ
モテモテウーマン。フェンネルが危機的状況に陥っているとローリエから聞かれた時、本気で助けに行きます。こういう気遣いこそが、上司の鑑であり、フェンネルに慕われる理由なんじゃないかなと。


ソラ
今回も語り部として登場。前回とほぼ同じなので、語ることはあまりないが、彼女のお礼が言えなかったことが、ローリエにどんな影響をもたらすのか、それは誰にも分からない。


△▼△▼△▼
アルシーヴ「無事にフェンネルに向けられた悪意を打ち破った私達。次は休息回を挟んだ後で、あの飄々としていて、掴み所のない、でも変態な私の友人にフォーカスしてヤツの日常を見ていこう。」

次回『ローリエの華麗なる日常』
フェンネル「見なくてもいいですよ」
ローリエ「おいコラ!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
バレンタインデーまでに間に合わせたかった理由は、特別編を書きたかったから。明日全力出せば間に合うかな…?

ろーりえ「はぁーあ、今日はリゼちゃんとバレンタインチョコと誕生日プレゼントを交換っこしたいマンだよ僕ぅ!」
こりあん「お前は何を言ってるんだ」


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第Ex話:エトワリアのバレンタインver.ローリエ

今回の話は、バレンタインデーのために急遽作った閑話みたいなものです。時系列は、フェンネルの事件の直後あたり。本編とは別に、楽しんでいただければと。
それでは~


 バレンタインデー。

 

 その起源は、ローマ帝国の時代まで遡る。

 ローマ帝国皇帝・クラウディウス2世は、恋人がいると士気が下がるという理由で、兵士の婚姻を禁止した。

 だが、キリスト教司祭ウォレンティヌスは、そんな兵士たちの為に内緒で結婚式を行った。皇帝の禁止命令にも屈せず、兵士達の愛を祝い続けた結果、処刑されてしまう。

 その聖ウォレンティヌスの処刑日は、2月14日であった。このためこの日は祝日となり、恋人達の日になった、というのが一般論だ。

 

 

 

「――という訳だ。今までの話のどこにチョコレートが出てきた?いいか、コリアンダー。バレンタインデーは本来、チョコレートなんか要らねーんだよ!」

 

「一個しかチョコレートを貰えなかった男の僻みはよせ、ローリエ」

 

「あれは母さんからのだ。あのね、そういうのは異性から貰ったチョコとしてカウントしないの。一個も貰えてないの、俺は。

 というか、コリアンダー(おまえ)こそバレンタインチョコレートとは無縁だろうがよ?」

 

「俺は同級生の女子からいくつか貰ってる」

 

「泣きそう」

 

「余裕だな、お前」

 

 

 神殿内で恋人どもがくっつきイチャつき始めるこの時期に、俺は必死にコリアンダーにバレンタインデーの意義を説明していた。別にチョコレートを貰えなかったから悔しい訳ではない。

 リゼちゃんの誕生日を祝うのは百歩譲らなくてもよしとしよう。だが、チョコレート云々で騒ぐのは違うと思うのだ。

 

 

「まったく、リア充はとっとと部屋に引っ込んで静かにけだものフレンズやってればいいのに。

 そもそも、最初にバレンタインデーにチョコレート渡そうなんて考えたのはどこのお菓子屋だ?どーせ、ココアいじりながらガラスパイプでコカイン吸ってる変なヤツだろ?」

 

「いい加減にしないか、ローリエ」

 

「だってぇ!!おかしいと思わないか!?俺は女の子達とお近づきになりまくってるってのに!!」

 

「お前はただセクハラしてるだけだろ。そういうスタイル、絶対嫌われるぞ」

 

「そうかなぁ?

 コリアンダーみたいな草食系の男はさ、多分……女の子達から『彼は…そう、いい人よね?』みたいな、女の子がテキトーに男を褒める時の言葉ランキング1位の言葉を浴びせられて………それだけだぜ?きっと、日を跨げば忘れられちまう。

 そうなるよりは、『ガンガンいこうぜ』の方がいいと思うな。」

 

「お前はガンガンいきすぎてんだよ。そんなんだと、籍に入る前に牢屋に入るハメになるぞ?」

 

 

 コリアンダーの裏切りといきすぎ宣言を受け萎えた俺は、鬱屈した気分を晴らす為に、外をふらつく事にした。

 

 

「ちょっと外歩いてくる」

 

「女子に迷惑かけるなよ」

 

「今日はそんな気分じゃない……」

 

 

 今日の俺の足取りは、きっと一年で一番重いだろう。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「はぁ……困ったもんだ、あの男も」

 

 ローリエが立ち去り、部屋に残った俺は、ため息をひとつつく。

 

 アイツの女好きについてはもう言うことはないが、特にアルシーヴやソラという女性に対する執念じみたものを感じる。本人(ローリエ)に訊いたら「幼なじみだからだ」と言っていたが。

 

 アイツは、二人が好きなのだろうか?

それにしては、アプローチの方向性が違いすぎる気がするのだが。

 

 

「ローリエ、いるか?」

 

 

 そう考えていると、扉の方から女性の声が聞こえてきた。俺は女子の相手は話しづらいから好きじゃないのだが、ここには俺しかいないから仕方がない。

 

 

「……何か、用か?」

 

「おや、君は…確か、コリアンダーだったか。

 ローリエはいないか?」

 

 

 相手はこの前に会ったばかりの、アルシーヴという女子だった。ローリエの幼なじみの一人らしい。

 

 

「……アイツは、自分がチョコレートを貰えないことを散々愚痴ってから、出て行った……」

 

「何やってるんだ……」

 

「用があるなら、伝言するが……」

 

「いや、いい。こっちで探してみよう。見つからなかったら、また来る。」

 

「そうか。」

 

 

 アルシーヴは、扉を閉めた。

 それにしても、伝言する、か。我ながら無粋なことを言ったもんだ。

 

 伝言がいるかどうかなんて、手に隠し持っていたチョコ(モノ)を見れば分かることだろう。

 

 ローリエ。お前は案外、嫌われてないのかもな。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 私は、神殿の外を虱潰(しらみつぶ)しに探した。

 

 神殿の外にとどまらず、言の葉の樹の中の洞窟に入り、街へ下る道を歩きながらきょろきょろと探していく。

 

 そして、言の葉の街から神殿へ繋がる入口まで来た時、その姿を見つけた。

 

 

 

 

 

 

「ローリエ!」

 

 

 私がその名前を呼ぶと、緑髪の少年はゆっくりとこちらへ向いた。その表情は、驚きの感情に満ちている。

 私自身も、これからチョコレートを渡す事実を受け、緊張してきた。顔もさっき走ったせいか熱い気がする。さっさと渡してしまおう。

 

 

「なぁ……今日は何の日か、わかるか…?」

 

「今日?えっと……」

 

 

 変なことを聞いてしまった。でも、今日が何の日かなんて、答えは一つしかないはずだ。だから……

 

 

「あっ、分かった!リゼちゃんの誕生日だ!!」

 

「誰だその女は」

 

「え、ちょ、そんな顔すんな!ごちうさ……じゃない、聖典の子だよ、聖典の子!!」

 

 

 確かにバレンタインデーと誕生日が同じ聖典の人物ならいたかも知れないが、空気くらい読んで欲しい。それとも、意図的に読んでないつもりか?

 

 

「そんな事を伝えに来たんじゃない。他にもあるだろ?」

 

「他にも……ああ、アレだ!

 ふんどしの日たわば!!?」

 

 

 張り倒してやろうかと思った。というか張り倒した。

 

 

「もういい!そんなにとぼけるなら渡してやらん!!」

 

 

 そしてちょっと、冷たい言葉を叩きつけてしまう。

 いや、今のはコイツが悪い。こっちの気も知らないで、ふざけたことばかり言うからだ。

 そう考えてこのまま帰ってしまおうかと思った時。

 

 

「待てよ」

 

 

 手を掴まれた。私の足が止まる。

 

 

「……バレンタインデーだろ?知ってるよ。

 …ただ、アルシーヴちゃんが俺にくれるとは思ってなかったんだ。だって俺は……変わったからな…」

 

 

 その言い訳をしそうな表情に頭に来た。

 

 

「どんな事があっても、ローリエはローリエだろう!!これでも食べて落ち着け、バカ者!!」

 

 

 久しぶりに出した大声とともに、私はローリエにチョコレートが入った箱を押し付ける。

 これにはローリエも目を丸める。だがそれも一瞬で、すぐにかつて見た、人をからかう時に見せた笑顔になる。

 

 

「へぇ~ぇ、アルシーヴちゃん、そんな顔もするんだ?」

 

 

 その言葉を機に、私の頭が冷静さを取り戻す。

 

 

「み、見るなぁっ!!!」

 

「タコス!!?」

 

 

 ニヤニヤしていたローリエにビンタをかまし、逃げるようにその場を後にした。

 あの時ローリエが私のどんな表情を目にしたのか。

 それは神殿に戻った後で鏡を見ても、分かりそうにはないだろう。

 

 

 




キャラクター紹介&解説


ローリエ
バレンタインデーを否定しつつ、実はチョコレートが欲しかっただけの男。いるよね、こういう人。かくいう作者もこういう一面はあります。


コリアンダー
女が苦手な男。こういう人に限って、女子に丁寧な対応をするから、学生時代にクラスメート全員にチョコレート配る系女子に救われてたりする。


アルシーヴ
今年ヒロイン的ポジションを獲得した女性。幼なじみの異性とか、憧れのシチュエーションであると思う。純愛系EL同人では王道だ。ちなみに作者もそういう幼なじみがいて、もっと関係を進めたかったと後悔している。



バレンタインデーの起源
出展はWikipedia先生より引用。


『最初にバレンタインデーにチョコレート渡そうなんて考えたのはどこのお菓子屋だ?』
日本でバレンタインデーが流行したのは1958年ごろ。第二次世界大戦ののち、流通業界や製菓業界の努力によって、1970年代後半に日本社会に定着する。
なお、バレンタインデーにチョコレートを渡すのがいいのではと最初に考案して実践したのは、一説に大田区の製菓会社メリーチョコレートカムパニーであるとされる。しかし、同社が行ったとされるイベントは昭和33年であるのに対し、神戸のモロゾフ製菓が20年以上前の昭和11年2月12日に外国人向け英字新聞『ザ・ジャパン・アドバタイザー』に、「あなたの愛しい方(バレンタイン)にチョコレートを贈りましょう」というコピーの広告を既に掲載しており、モロゾフ製菓がバレンタインチョコを最初に考案した仕掛け人であるとされる説が最有力である。
ちなみに後に続く『どーせココアいじりながら~変な奴だろ?』の元ネタは、映画『デッドプール2』にて、デッドプールが『スーパーパワーを最初に考えた漫画家』に対して『どーせガラスパイプでコカイン吸ってる変な奴だろ?』と言ったことから。いずれにせよ、作者に貶す意図はございませんのでそこはご注意を。


あとがき
リゼちゃん誕生日おめでとう!!きらファンで絶対当てるマンことこの三毛猫が☆5ココアとチノに続いて迎えに行ってあげるからね!!!!!!


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第6話:ローリエの華麗なる日常

“俺が女の子達を愛するのには理由がある。下世話な欲望だけじゃなく、ちゃんとした理由があったのさ。
まぁ、こんなこと書いても誰も信じないだろうが、自伝にくらいこういう事書いてもいいだろ?”
   …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
    第1章より抜粋


「じぃぃぃぃっ………」

 

「………。」

 

「じぃぃぃぃぃぃぃっ………」

 

「………。」

 

「じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ………。」

 

「なあ、こんなの見てて楽しいのか?」

 

「うん、面白いよ。」

 

 

 俺は今、とある女子にストーキング……もとい、観察されている。エイジアンな格好をした、赤い髪の褐色系女子。名前をカルダモンという。

 ……そう、あのカルダモンだ。好奇心の塊にして、キャンプが趣味のアウトドア女子。そして、きららファンタジアでは第3章に登場した、賢者の一人である。

 

 彼女には、少し前にナイフを作る依頼をこなしてからというもの、興味を持たれたようだ。

 

 

「今度は何作ってるの?トランプゲームの台?」

 

「違うよ。別のゲームに使うものだ。」

 

「そっか。この前のゲーム、面白かったんだけどね」

 

「どれのことだ?ブラックジャック?ポーカー?それともスピード?」

 

「全部。どれも聞いたことないルールだったけど、楽しかったよ。ルール本は書かないの?」

 

「いいや。他にやることがあるから、まだ書かん」

 

「えー……」

 

 

 俺は制作物から目をそらさず、手を動かしながら勝手にベッドを占領しているであろう、カルダモンとそんな会話をしていた。コリアンダーは依頼の品が出来上がったとかで席を外している。

 飄々としており、掴み所がなく、それでもって持ち前の冷静さで学園生活部やきらら達を翻弄したが、本質は退屈嫌いな色んなものに興味を持てる()なのだ。そんな彼女を従えるアルシーヴは流石の一言に尽きる。多分俺のは発明品に対する興味が6割だろう。

 

 

 そんなことを考えている間に完成した。

 

「出来たぜカルダモン!見よ!

 テッテレ~!将棋盤~!!」

 

「なにそれ?」

 

 カルダモンは俺のモノマネをスルーして、身を乗り出してこっちを見てくる。現在マフラーをしていないため、首もとから奥がよく見える。

 ………フム、アルシーヴほどではないが女性の魅力は胸だけに非ず。カルダモンの場合は太ももがしなやかでかなり美味し……失礼、魅力的だ。(この間、0.2秒)

 

 

「駒を並べて、お互いに一つずつ動かして王を取る遊び。その、ゲームボードだ!」

 

「駒は?」

 

「もう作ってある!」

 

「よし、やろう!」

 

 

 カルダモンはベッドから飛び降りて、俺とともに出来たばかりの将棋盤に駒を並べ始める。俺の駒の並べ方を見て、真似するように並べていく。あ、飛車と角の場所が違うぞ。鏡合わせじゃないんだ。

 カルダモンが駒を正しく並べたのを確認して、さぁ、始めるか、と、そう思った時だ。

 

 

「ねぇローリエ」

 

「ん?」

 

「この、『飛車』とか『角行』とかってなに?」

 

「えっ?」

 

「あと、この……『銀将』とか、『金将』もよく分からないな……教えてくれないかな?」

 

 

 なんてこった。まさかのそこからか。

 

 カルダモンの話によると、「歩兵」や「王将」というのは雰囲気で何となく分かるらしいが、それ以外は聞いたことのない言葉らしく、誰も分からないだろうとのことだった。

 駒を分かりやすく作り直すということにして、対局はまたの機会に、ということになってしまった。

 

 

「悪いな。折角、楽しみにしてくれてたのに」

 

「いいよ。ローリエとなら、退屈しそうにないし。」

 

 

 カルダモンのその言葉に、自己史上初のスピードで手を取る。腰に手を添えて、顔を近づける。

 

 

「奇遇だな、俺もそう思っていたんだ。

 どうかな?今夜あたり、俺と一緒に、飽きない夜を…………ッ!!!?」

 

「そういう方面の『楽しいこと』は遠慮するよ」

 

 

 ……あ、ありのまま起こったことを話すぜ!

 

『カルダモンを口説いていたと思ったら、急にカルダモンが消えて、後ろから声が聞こえてきた上にナイフを突きつけられた』

 

 な、なにを言っているかわからねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった……

 

 頭がどうにかなりそうだった……

 

 瞬間移動とか超スピードとかそんなチャチな……いや、超スピードだけどチャチなもんじゃねぇ

 もっと恐ろしい3章のトラウマの片鱗を味わったぜ……

 

 

「両手を上に上げて、そのままベッドに座って」

 

 

 カルダモンの言うことに従いながら、すぐさまマジの考察に思考を切り替える。

 内容はもちろん賢者の実力についてだ。

 さっきはポルナレフ状態でボケたが、カルダモンの俺の背後に回るまでの動きは本当に何も見えなかった。

 俺の『ソラちゃんに呪いをかける奴を捕まえる』という目標を達成するには、賢者にならないといけない。

 それに必要なのは、実力だ。発明の腕だけで選ばれるとは思っていない。一応、拳銃の練習はしているが、それだけでは些か不安である。

 

 確かに拳銃は強力だ。そもそもエトワリアにそういう武器がないので、一目見ただけで何が起こるか見抜ける人は皆無だろう。まさか金属の弾が音速で飛んでくるとは誰も思うまい。その時点で、拳銃はある種の『初見殺し』となっている。

 でも、それを攻略されてしまったらただのカカシ、では少し頼りなさすぎる。せめて武器がなくても戦えるようになりたい。それがこの前、フェンネルをリンチしようとした奴らを返り討ちにした感想だ。そのためにも、拳で戦う師匠みたいなのが欲しい。

 

 

「………ローリエ?」

 

 

 そこまで考えた所で、カルダモンの声が俺を思考の海から引き上げる。彼女はもう入り口のドアにいる。

 

「…!

 ああ、悪いカルダモン、考え事してた。」

 

「えっちなこと?」

 

「違うわ、強くなる方法だよ。なんでそう思ったの?」

 

「だって、さっき私の服の中覗いてたでしょ?

 バレてないと思った?」

 

 

 やばい。カルダモンにそう言うことがバレると、ほぼ確実に誰かに言いふらすので口止めしないと、と思った瞬間に「また来るよ、じゃーねー」と言い残して部屋から去った。追いかけようとしたが、部屋から出た時点で見失ってしまった。あいつ足早すぎだろ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 その後、俺はカルダモンから報告を受けるであろう、フェンネルから(あらかじ)め逃げる事も兼ねて神殿の外れ、森の奥に作った、射撃場にて射撃の練習を行っていた。

 

 今回の練習はピンホールショットと跳弾である。某シティーハンターやイタリアのギャングがバンバンやっているが、実はこの二つ、かなり難しい。なぜかというと、拳銃というのは、連続で発砲すると、銃身に熱がこもり、弾丸が変化し、軌道が毎回微妙に変化するのだ。その微妙な変化が、着弾時に大きな着弾地点の変化に繋がるからである。俺も1年ほど前から練習しているのだが、一度も成功したことがない。

 

 

 今日も基礎練習を終え、そんな高難易度の技術の練習を始めようとした時、誰かの気配を感じて、すぐさま『パイソン』を懐のホルスターにしまった。

 拳銃というものが広めてはいけないものと知っている以上、練習風景も誰かに見られるのもマズい。森を切り開いて作った射撃場は見られても誤魔化せるが、練習風景を見られるのだけは避けなくては。

 

 そう思い周りを注意深く見回すと、木々の間から、それは見えた。

 シャツとホットパンツの上から学ランのような上着を羽織っている少女が、シャドーボクシングをしていた。俺には、その人物の正体が一目見ただけで分かった。

 ジンジャー。未来の賢者のうちの一人にして、言の葉の樹の(ふもと)にある都市の市長でもある人物だ。剛胆で豪快、街の平和と市民の幸せを第一に考えられる、政治家の鑑のような人でもある。きららファンタジア(ゲーム)では、第5章に登場し、比類なき物理攻撃力できらら達と戦う。俺も初見で必殺技を食らった時は、パーティが半壊するさまを見せつけられて度肝を抜かれた。

 

 そんな物理特化の賢者(予定)の演武を俺は木の陰から見させてもらうことにした。

 なんというか、一つ一つの動きが洗練されている。しかも、それが流れるように連続で繰り出されており、これが達人の技かと納得できた。そんな感じでジンジャーの演武に見入っていると、演武がひと段落ついたところで彼女は近くの岩に置いてあったタオルを手に取り汗を拭きながらこっちを見ている。

 ……あれ。見てたのバレてる?

 

 

「おい、そこのお前。私になにか用か?」

 

 あっ、これ見つかってるわ。茂みから出てきて挨拶するとしよう。

 

 

「悪い悪い。たまたま見つけて見入ってたわ。

 はじめまして、俺はローリエだ。」

 

「ジンジャーだ。それで、こんなところで何をしてたんだ?」

 

 

 来た。この質問は、いつか誰かに聞かれると思っていた。

 考えてみて欲しい。もし、学校の同級生が、毎日のように裏山や、ビルの路地裏などの、人目につかないところに日常的に入っていっているのを見たら。もし、人目につかないところから、同じ学校のヤツが出てきたら。お前、何してたんだ?ってなるだろう。それと同じだ。

 

 だから答え(カモフラージュ)を既に用意してある。俺は、ポケットから手のひらサイズの機械をジンジャーに見せた。

 

 

「これの試運転をしていたんだ。」

 

「なんだこれは?」

 

「センサーだよ。」

 

 

 ジンジャーには、カメラにつけることで、人が通ると自動的にシャッターが押される仕組みであると伝えた。彼女は機械の詳しい説明を聞くのは苦痛だろうと思ってひとことで説明を終えて、あとは実演した。

 こんな感じで、俺は射撃場に行くときは、いつも持ち運べる発明品を持ち歩くようにじている。何してるのと聞いたヤツにはそれを取り出して試運転だと言えば大体信用してくれる。これが俺が用意した答え(カモフラージュ)である。

 

 更に俺は、原作(みらい)のため、もう一つの作戦を実行する。

 名付けて、『ジンジャーを師匠につける大作戦』だ。

 

 

「でも、こういう発明だけじゃなくて、体も鍛えないと、と思ってるんだけど、やり方がわからなくって……あ、そうだ!ジンジャー、色々教えてくれないか?」

 

「ああ、いいぜ。私でよければな!」

 

 

 よし、成功だ!ジンジャーは拳での戦闘に最も明るいはずだから、OKを貰えて良かった。前世で見た通りの、面倒見の良い性格だから、悩んでいる人の力になろうと思うはず。そう思ってジンジャーの市民に好かれる理由である性格を少々利用させてもらった。許せ。

 

 

「……その代わり、私の半径1メートル以内に近づくなよ?」

 

 あれ?

 

「…? な、なあジンジャー、それってどういう……」

 

「分かっているはずだろう?カルダモンから聞いたぞ。

 私でよこしまな事を考えたら承知しないからな」

 

「しないよ!絶対しない!猫っぽいから面白い事はするかもしれないけど、変な事は絶対しないから!」

 

「おい!お前今なんつった!?」

 

 

 ここで作戦が失敗したら、俺の目標が遠のく。だから折れるわけにはいかない。拝み倒してお願いしまくってでもこの作戦は成功させたかったので良かったと内心安堵している。

 

 

 修行の内容?あまりにもキツ過ぎて、ここに書くとその時の辛い記憶がよみがえるから勘弁してほしい。ただ、一つだけ言えることは、室内で発明と魔法ばっかりやってたヤツが、武闘派の本気についてこれるはずがなかった、ということだ。後に俺向きに改良されるワケだけれども。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「今日も筋肉痛か、ローリエ。本当にお前は、世話のないヤツだ。どうせ、また色香に誘われたんだろ?」

 

「そんな訳ねーだろ!ただ強さが欲しかっただけだ!…イデデ……」

 

 

 ジンジャーから修行を受けた翌日。

 修行開始から数日は経ったが、案の定というべきか、情けないことにというべきか、俺は全身の筋肉痛に苦しめられていた。しかも、コリアンダーの奴、ジンジャーが可愛いから修行を受けたと思っていやがる。親友を信用できないのかコイツは。

 

 え、信用してるからそう思ったんだって?いらないよそんな嫌な信頼は。

 

 ジンジャーに師事してもらったのには明確な理由があるんだよ。

 そもそもジンジャーは、可愛さのベクトルが違う。アルシーヴやソラ、カルダモンやセサミのような「抱きたい」要素のある可愛さと違って、ジンジャーの可愛さは、人が飼い猫に向ける感情のような、そんな可愛さだ。というかまんまソレだった。

 現に、休憩中に猫じゃらしを見つけて目の前で揺らしたり、帽子にマタタビを振りかけたり、差し入れのおにぎりの具をササミやマグロっぽい赤身魚にしたり、ネズミ型木製魔道具を視界の端でチョロチョロさせたりと、そういう猫系のイタズラは大方やった。その結果、ワッハッハと笑いながら腹パンされたり、追い掛け回されたり、修行がハードになったりした。マタタビの時は理性が吹っ飛びそうだったとのことで、「マジでふざけんな」とガチトーンで怒られた。

 

 

「そんなんで大丈夫なのか、このあと図書館にいくんだろ?」

 

「ああ、残念なことにな」

 

 

 賢者のなり方はここに来て分かったことなのだが、功績を挙げるだけではダメみたいで、筆頭神官が交代する時、前任者と新任者、そして女神の三人で決めることなのだそうだ。

 ……お察しだろう。ちょっとマズいのだ。アルシーヴに認められなければならないのだ。今、俺はアルシーヴからの好感度は低めなので、ここいらで画期的かつ斬新な発明をしなければいけない。そのためのヒント探しに今日は、図書館へ行く予定だった。

 

 でも筋肉痛がヤバイ。

 

 

「だぁぁが!筋肉痛程度で、断念してたまるかってんだ!ふんぬぬぬぬぬ……!」

 

「無理すんなよー」

 

 

 コリアンダーのどうでもよさげな心配の声を背に、俺は移動(戦い)を始めた。

 

 

 

 

 

 

「やっと着いたぜ……!痛ッで!?」

 

 普通なら5分程度の図書館への道を20分かけて移動した俺は、扉から入ってすぐのカウンターに寄りかかる。道中の階段が一番キツかった。エレベーターかエスカレーターが恋しくなったほどに。早く椅子を見つけないと色々ヤバい。

 

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 

 

 椅子を探している俺に、カウンターから声がかかった。声がした方へ振り向くと、声の主は青い髪をして、端正な顔にモノクルをかけた女性だった。()()()()()()()()()()女性で名前は知っているが初対面の(てい)で言葉を返すことにする。

 

 

「俺は大丈夫…ただの筋肉痛だから……イデデ……き、君は?」

 

「私はこの図書館の司書をしているセサミというものですが……大丈夫そうに見えないんですけど…足が生まれたばかりの小鹿以上に震えているんですけど…」

 

「君は優しいんだな……じゃああそこの椅子まで肩を貸してくれないか?」

 

 

 図書館の椅子の一つを指さしてそう頼むと、分かりました、といって快く肩を貸してくれるセサミ。でかい。今の服装もゲーム同様あぶない水着の上からローブを羽織った格好である。でかい。しかし、本当に優しいものだ。前世なら、こうやって見知らぬ人に肩を貸す人など稀だろう。でかい。できるだけ彼女のことは見ないように前を向いたり、目を閉じたりするが、やっぱりチラ見してしまう。でかい。しかも近い。

 はっきり言おう。筋肉痛に耐えて図書館(ココ)に来て良かった。

 

 

「おいローリエ、何をしている?」

 

 

 そんなラブコメ主人公並みのイベント中に聞きなれた声がした。見ると目的地の椅子の近くに本の山に埋もれかけているアルシーヴがいた。入口付近からはちょうどアルシーヴの座っていた場所が見えない死角になっていたようだ。シット!

 

 

「あ、アルシーヴちゃん…!?」

 

「アルシーヴ先輩、この人を知ってるんですか?ローリエってあの“恐怖のセクハラ男”の……!?」

 

 

 ローリエと聞いた途端、セサミの様子がおかしくなった。これはもしやアレか、悪評だけ知ってるパターンか。あとその新宿あたりで聞きそうな不穏なあだ名は何だ。

 

 

「早くそいつから離れたほうがいいぞ、セサミ。お前相手ならこいつは確実に手を出す!」

 

「アルシーヴ、余計なこと言わんでいいから!!」

 

「は、離れてください!もう一人で十分椅子まで歩けるでしょう?」

 

「ば、バカ!筋肉痛なのは本当なんだって!うわわ!!?」

 

「「きゃああああ!!?」」

 

 

 どんがらがっしゃーん、とセサミが急に離れたことと筋肉痛で足がもつれた俺はいろんなものを巻き込んですッ転んだ。

 

 

 

 

 

 

 筋肉痛プラス激痛で意識が無理やり戻された俺は自分は転んだんだ、と自覚する。今の俺には本が体に落ちてきたってだけで大ダメージだ。とはいえいつまでも倒れてる訳にもいかないから立ち上がろうとして、気付く。

 両手に伝わるこの柔らかい感覚はなんだろう、と。

 神殿の床はまずない。膨らみはないし、何より温かい。

 じゃあそれらしき置物はあっただろうか? ……いや、なかった。周りにあったのは、山ほど積まれた本くらいしかなかった。あとはアルシーヴとセサミがいて……

 そこで思考に待ったがかかった。

 

 ウソだろ?そんな伝説の(スーパー)ラッキースケベ男みたいなT〇l〇veる(事故)、あるのか?試しに指を動かしてみる。俺のピンクがかった脳細胞が考えついた可能性を確かめるために。

 

 

「んんっ!?」

「あっ……!?」

 

 

 ……結果、二種類の艶やかな声が返ってきた。あ、コレは確定だわ。

 顔をあげて両手をみると、右手にアルシーヴの、左手にセサミの、それぞれの胸を鷲掴みにしていた。

 何がどうしてこうなった?転んでからこうなるまでを思い出そうとしても、なぜか思い出せない。謎のスタンド能力(キング・クリムゾン)でも受けてたかのようだ。おまけに手が胸から離れない。筋肉痛か、はたまた別のスタンド能力か……

 どちらにせよ、俺にはこの黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)を無駄にすることはできない。むしろこういう時は、離れないと考えるから駄目なんだろう。

 

 

「そうだ、逆に考えるんだ……離さなくても…揉んでもいいさと……」

 

 

 

「駄目。論外。」

 

 

 自分に言い聞かせるように口に出した言葉に後ろから答えが返ってきたことに驚いた俺は、振り向く瞬間に頭から重いものが叩きつけられ、図書館の床に再び倒れる。筋肉痛でボロボロの体にトドメを刺された。

 なにが起こったのか分からず、叩きつけられたものを見てみると、それは、いつかコリアンダーが製作していた、金属の樽のようなものによく似ていた。そこから柄が生えていることでようやくそれが大きなハンマーだと分かる。その柄を目で追っていくと、柄の端を握っていたのは、和風メイド服を着た、ハッカちゃんであった。

 

 

「は、ハッカちゃん……なんでこんなものを……」

 

「依頼した。コリアンダーの力作。」

 

 

 似てるどころか同一の品だった。つまりコリアンダーは、ハッカの依頼でハンマー(コレ)を作っていたのか。どんな意図があったか知らんが、コリアンダーめ、許さん。後でとびっきりの美女たちに囲まれた場所で、一人置き去りにしてくれる。

 

 

 そんなことを頭の中で思いながら、この後ソラちゃんを含めた4人からみっちり説教されまくった。

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説


ローリエ
カルダモンをナンパしたり、ジンジャーに猫系イタズラのオンパレードをかましたり、セサミのでかいモノをゲットしたり、ポルナレフになったりジョースター卿になったりしたセクハラ男。前書きの苗字の由来は、月桂樹(ローリエ)のドイツ名、『ロールベールブレッター』より。ラッキースケベを体験したことにより、結城〇トのことを笑えなくなった。

カルダモン
ローリエのスケベ被害者その1。でも彼の発明する物やゲームが見たことも聞いたこともないため、興味を持っている。
きらら世界のトランプって大体ババ抜きや大富豪くらいしかないと思う。理由としては、女神の書く「聖典」には、きららっ娘たちがババ抜きをするシーンがあっても、ギャンブル染みたトランプゲームをするシーンがないと(独断で)思ったからだ。そういうシーン、ないよね?あったらスミマセン。

ジンジャー
ローリエの被害者。セクハラはされなかったが猫扱いされていた。
彼女自身が豹人族とストーリーで明言していたことから、ヒントを得た。豹もトラもライオンもみんな猫科だから、猫じゃらしには弱いはず。

セサミ
ローリエのスケベ被害者その2。あぶない水着を常に装備しているのは、彼女が暑く、海の近い国の出身だからではないだろうか、と考察してみるが、彼女の種族については明言されていない。

アルシーヴ
ローリエのスケベ被害者その3。図書館にいたらセサミとローリエにバッタリ遭遇し、運の悪いことにそのままおっぱい揉まれちゃった人。少しづつ情報を小出ししていくシステムを公式が採り始めたので、作者は致命的な矛盾が出ないかとビクビクしている。

ハッカ
ローリエのスケベ制裁要員。ハンマーでローリエを成敗するシーンのモデルは、言わずとしれた冴羽リョウと槇村香のやりとりから。でも、これからはローリエのスケベに対して制裁する方法はバリエーション豊かにしていく予定。

コリアンダー
ちょこっと登場。ハッカが使ったハンマーを製作し、ローリエからしょーもない逆恨みを買った。美女の中に取り残されるのは、ローリエにとってはご褒美だがコリアンダーにとっては地獄の宴。彼には強く生きてもらおう。

ピンホールショット
一度空けた弾痕の穴にもう一度弾丸を通すように撃つこと。現実ではかなり高難易度の技である。これを行う『某シティーハンターとイタリアのギャング』についてだが、前者は『シティーハンター』を、後者は『ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風』を参照。アニメのギアッチョ戦は燃えた。

伝説の(スーパー)ラッキースケベ男
転ぶたび女の子の色んなところ(意味深)に突っ込むことに定評のある『Toloveる』の主人公・結城リトのことである。なぜああなるかは作者も疑問であるが、あの展開を思いつける原作者様は偉大である(色んな意味で)。



△▼△▼△▼
ローリエ「さぁ待ちに待った筆頭神官交代の儀が始まるぜ!」
ジンジャー「大丈夫なのか? 賢者は演説するらしいぜ?」
ローリエ「問題ない。原稿はアルシーヴちゃんに渡した。あの名演説で人々を煽動してやろうじゃんか!」
ジンジャー「いや、煽動しちゃダメだろ!?」

次回、『賢者昇格、女神誕生(前編)』
ローリエ「見逃すなよ!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
 実は投稿直前に書いてたデータが全部消えて萎えました。まじで泣きそうだった。
あと、諸事情により、投稿ペースが今年一杯は落ちると思われるので、早めに読者の皆様にお伝えします。


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第7話:賢者昇格、女神誕生 その①

 とうとうアプリに外伝が追加されましたね。
 アルシーヴ本人が、ソラちゃんを襲った賊について語っていましたが、ここではっきりさせてしまいましょう。

「きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者」の設定は、()8()()()()()()()()()()()を再現いたします。その関係上、アプリとは違う話の流れを組むことになりますので、ご了承ください。



 筆頭神官交代の儀。

 それは、文字通り筆頭神官が交代する儀式なのだが、しかし、これが何を意味するのかをまずは知って頂きたい。

 

 エトワリアにおける筆頭神官とは、神殿内の執政を通して、エトワリア全体の方向性を指示する役職だ。はっきり言って政治を担当するといってもいい。前世でいうところの内閣総理大臣にあたる。とは言っても、どこかの国みたいに数年ごとにポンポン変わるようなものではなく、条件が非常に厳しく、滅多に後継者を見つけられないものらしいのだ。歴代の筆頭神官の中にも、後継が見つけられず、死ぬ間際まで仕事を成し遂げた者もいるほどだ。

 

 つまり、筆頭神官交代の儀が執り行われるということは、稀有な才能を持った魔術師が、筆頭神官になるという志を持ち、神殿で研鑽を積み、然るべき過程を経て役職を継承する権利を勝ち取ったということだと思って頂いて構わない。

 

 そんな筆頭神官交代の儀がこれから始まろうとしている時、俺はアルシーヴの緊張を少しでもほぐせたらと彼女の控え室に入ったのだが。

 

 

「わざわざ来てもらって悪いな、ローリエ。」

 

「……。」

 

「こんにちは、ローリエさん。」

 

「こんにちわー!」

 

 

 そこにいたのはアルシーヴちゃんとハッカちゃん、そしてシュガーとソルトだった。

 

 まさか、賢者の残り二人とここで会うことになるとは。名前と容姿は知っていたが、こんな儀式の日にいきなり会ったとなると心の準備ができてないのに。だから俺は……

 

 

「……その双子はどっちの子だ?」

 

「なっ……!?」

 

「!!?」

 

 

 特大の冗談をかますことにした。ただ、その後に「結婚したのか……俺以外のヤツと」と続けるつもりだったのだが、分かりやすく頬を染め動揺したアルシーヴちゃんと目を見開いたハッカちゃんのリアクションのおかげで逆に緊張してすぐに口に出せなくなった。

 

 

「な……ぁ……っ!?」

 

「結婚したのか……俺以外の奴トブァ!!?」

 

「ローリエ、戯言(じょうだん)がきつい。」

 

 

 やっとのことで口に出せるようになったと思ったら視界が鋼鉄に覆われ、顔面に衝撃が走る。床にぶっ倒れて、ハッカちゃんの持つハンマーを見て初めてまたコリアンダーの製作物で殴られたのかと悟った。しかも、今回のハンマーには俺がお遊びで書き足した『100t』という表記が見られた。何だか少し情けなくなった。

 

 

「シュガーたちはアルシーヴ様の子どもじゃないよー!」

 

「そうです。私達には他に両親がちゃんといます。」

 

「じゃあ試しにアルシーヴちゃんのことママって呼んでみて」

 

「試しにって何ですか」

 

「これこれローリエ君、女の子をからかうものではありませんよ」

 

 

 寝転がったままシュガーとソルトの姉妹とアルシーヴちゃんを弄っていると、入ってきた扉の方から年老いた声が聞こえてきた。すぐさま立ち上がりその正体を見る。

 

 

 それは白髪を後ろで纏め、穏やかな雰囲気を纏った、皺だらけの老婆であった。腹に透き通るような紅宝石(ルビー)を抱え、翼を広げた鳥があしらわれた杖で体を支えながら、よろよろと入ってくる。俺は思わず老婆が通りやすいように部屋の隅へ移動し、ハッカちゃんに椅子を持ってくるように指示した。

 

 

「まったく、ローリエ君は変わりませんねえ……アルシーヴちゃん、筆頭神官の格好、似合ってるわよ」

 

「ありがとうございます。デトリアさんこそお元気そうで何よりです。」

 

「元…気……?俺には明日にもしん"っ」

 

「口は災いの元」

 

 

 アルシーヴちゃんがデトリアさんと呼んだこの老婆は、本日の筆頭神官交代の儀を執り行う筆頭神官である。つまり、今日の儀式で筆頭神官の地位はデトリアからアルシーヴへと受け継がれることになる。

 そんなアルシーヴちゃんと力を入れれば折れてしまいそうなデトリアとの会話に疑問を感じてると、ハッカちゃんから口を手で塞がれた。

 

 それにしても筆頭神官姿のアルシーヴちゃんはよく似合っている。きららファンタジアで見たままだ。

 

 

「……まぁ、確かにアルシーヴちゃんよく似合ってるよ。『女子三年会わざれば刮目して見よ』とはよく言ったもんだ」

 

「それ『男子三日会わざれば刮目して見よ』ですよ」

 

 

 独り言にソルトが突っ込んできた。アルシーヴちゃんとデトリアさんとの話が中々長引きそうなので、ちょうどいいと思い双子に色々聞くことにした。

 

 

「そういや、君は俺のことを知ってたみたいだけど……?」

 

「先ほど、アルシーヴ様から聞きました。友人なんだと……」

 

 

 驚いた。アルシーヴちゃんは、まだ俺のことを「友人」と言ってくれているのか。俺個人としては、ソラちゃんが誘拐されたあの事件以降、アルシーヴちゃんとソラちゃんを「友人」と呼んでいいものか微妙な所だった。もしあの夜に、勇気を出していれば、或いは胸を張って頼れる友人と言えてたかもな。

 

 

「それで、君たちは……」

 

「あぁ、申し遅れました、私はソルトと言います。こちらは妹のシュガーです。」

 

「シュガーだよ!よろしくね、ローリエお兄ちゃん!」

 

「シュガー、初対面の人にそういう話し方は……」

 

「いや、いい。しかしお兄ちゃんか、嬉しいな。よろしくねシュガーちゃん!」

 

「うん!!」

 

 

 ソルトに余計なことを悟られないように変えた話題だったが、シュガーが人懐っこく乗ってきてくれたお陰で難しいことがどうでもよくなってくる。この後は筆頭神官交代の儀だ、俺はそこで俺のやることをやればいい。

 

 

「そうだローリエ、忘れる前にこれを渡しておくよ。」

 

 

 シュガーとわちゃわちゃしていると、アルシーヴちゃんが俺を呼び手のひらサイズに折りたたまれた紙を渡してきた。それを受け取り開いてみると、そこにはお堅い文章がつらつらと書かれていた。

 

 

()()()賢者就任演説の原稿、あまりに酷いからこちらで勝手に決めさせて貰った。本番はそれを読めよ。」

 

 

 実は俺は数日前、アルシーヴちゃんから直々に呼び出され、賢者就任を言い渡された。エトワリアに生まれたときからの目標を達成できた俺は、三日三晩喜んだものだ。

 

 だが賢者就任にあたり、就任演説を行うということになり、その内容を考えて、次期筆頭神官(アルシーヴ)に見せてチェックする必要があったのだ。演説内容自体はすぐに書けたんだが……

 ……どうやら、(平和的にアレンジしたとはいえ)少佐の演説はお気に召さなかったらしい。

 

 

 そんな訳で内容を勝手に決められてしまったのだが……

『神殿の桜も咲き誇り、春の訪れを感じるこの頃、筆頭神官交代という節目に新たな賢者として――云々』。

 なにこの演説。前世でよくあった学校の卒業の言葉と何が違うんだ。本番で絶対この紙に書いてないこと言ってやる。

 

 

「そんな嫌そうな目をしても駄目だからな。」

 

 

 アルシーヴの壊滅的な演説センスに絶望しながら心の中で反逆を誓っていると、この形式的すぎる演説原稿を書いたであろう張本人は心の底を見抜くように俺に釘を差した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 そんな束の間の時間が終わり。

 

 筆頭神官交代の儀が始まった。場所は、神殿の中心部にして一番広い場所・大広間である。奥へ進むと階段の先に、儀式用の祭壇があり、その両サイドにある小さな螺旋階段は、演説用のステージとなっている。

 

 

 まず、先代筆頭神官のデトリアが祭壇に立ち色々と話す。長々と年長者の話を聞くこの構図は、前世に始業式か何かで校長の話を聞いていた時の感覚によく似ている。話に耳を傾けながら、終わる時を今か今かとゆっくり進む時計を見ながら待っていたものだ。

 つまり、何が言いたいのかというと、筆頭神官の話はまったく聞いてなかったということだ。

 

 長い話がやっと終わり、アルシーヴが現れ、デトリアから杖を受け取る。アルシーヴが今まで使っていた杖とは違い、三日月と十字架がデザインされている、あの杖だ。まさか、アルシーヴ個人の杖ではなく、筆頭神官の杖だったとは。

 

 

「続いて、賢者任命の儀に移ります。」

 

 

 賢者任命の儀とは、筆頭神官交代の儀の過程にある、筆頭神官交代の後に行われるものであり、ここで誰が賢者になるかが公開される。その際、演説も行われるのだが……俺の演説原稿は以下略。

 

 

「シュガー・ドリーマー」

 

「はい!!」

 

「ソルト・ドリーマー」

 

「はい」

 

 

 まず最初にシュガーがアルシーヴに呼ばれ、元気よく返事をしアルシーヴの元へ向かっていく。アルシーヴからネックレスっぽいものを渡され、首にかけた。続いて呼ばれたソルトも妹にならう。

 

 

「セサミ・ストラーナ」

 

「はい」

 

「カルダモン・ショーズ」

 

「はーい」

 

「ジンジャー・ヴェーラ」

 

「あいよ」

 

「フェンネル・ウィンキョウ」

 

「はいッ!」

 

「ハッカ・ペパーミン」

 

「はい」

 

 

 次々と賢者達の名前が呼ばれていき、アルシーヴからネックレスっぽいものを受け取っていく。そうして残るは俺だけになった。名前を呼ばれたら返事をする……のだが。

 

 

「ローリエ・ベルベット」

 

「はい!」

 

 

 ここでは問題なく返事をし、十字架と円が組み合わさったデザインのネックレスを受け取る。噛んでしまったらどうしようかと思っていたのでまずは一安心である。だが、問題はここからだ。

 ぶっちゃけるが、前世では仕事をソツなくこなし、きらら系漫画&アニメをこよなく愛する(もちろん、それ以外も好きだが)ただの普通の社会人だったのだ。

 目の前には、学校の体育館にも入りきるかどうか分からないほどの人の群れが、大広間を埋め尽くしている。そんな多くの人々の前でスピーチする機会など、卒業式で卒業の言葉を担当する元生徒会長でもない限りないだろう。俺も例に漏れず、未経験である。

 

 だが、現在手に握られているカンペ通りに賢者就任演説など行いたくない。理由はただ一つ。カッコ悪いからである。こんなロマン溢れる演説シーンにカンペは必要ない。今まで見てきたアニメの、どのキャラもカンペなんて使ってない。俺は、カンペを握った右手を、そのままポケットに突っ込んだ。

 

 

「以上、八名が新たな賢者となる。

 続いて、彼らによる賢者就任演説を行う。」

 

 

 さあ来たぞ、賢者就任演説。

 その単語を聞いただけで心臓が強く跳ねる。最初に指名されないように祈りながらマントの中で両手を握りしめた。

 

 

 最初に指名されたのはシュガーだった。あの超人懐っこいコミュ力の化身に、賢者就任演説なんてお固い真似ができるのだろうか。

 シュガーは演説をする場所なのであろうステージへ、螺旋階段を登っていく。そして、上へたどり着くと、

 

 

「けんじゃになったシュガーだよ!

アルシーヴ様といっしょにがんばるから、よろしくね!!」

 

 

 ――と言ってのけた。

 小学生か!!……いやまぁ、小学生に見えなくもないけれども………

 きらら漫画のキャラクターって小学生っぽい中高生(アリスやチノやかおす先生)学生に見える社会人(あおっちやねねっち)がいるから、見た目があまりアテにならない。

 確かにゲームで見た通りの性格から想像できた演説だし、シュガー自身が可愛いから許されてるのかもしれないが、もうちょっとこう、何とかならなかったのだろうか?

 

「大丈夫?」

 

 シュガーが演説台から降りてソルトが代わるようにそこに昇るところを見ていると、すぐ隣から小声が聞こえた。

 

「緊張してる?」

 

 声のした方へ顔を向けると、ハッカちゃんが相変わらずの無表情で俺の顔を覗き込んでいた。表情の変化が乏しいこともあって、何を考えているか分かりづらい。

 

「君は緊張してなさそうだな」

 

 俺自身緊張のせいでそれくらいしか言えず、乾いた笑いしか出てこなかった。それを聞いたハッカちゃんは、「緊張してるか」とすぐさま俺の緊張を見抜く。

 

「私も緊張していたが、お前のお陰で楽になった」

 

「どういう意味だ」

 

 俺の質問には答えず、ハッカちゃんは再び前を向いた。いつの間にか、ソルトの演説は終わっていた。

 

 

 そこから先は、他の賢者達の演説をこれ以上一言一句聞き逃さないように聞いていた。俺の演説の参考にするためである。

 

 セサミの演説は、言っていることは立派なのだが、真面目すぎる面が災いしたのか、形式的すぎる演説となっていた。もしかしたら、俺が儀式前に受け取ったカンペは、こいつが書いたんじゃなかろうか。

 

 カルダモンは、面倒くさがって「八賢者カルダモン、宜しく」とだけ言うとさっさと次にパスしてしまった。流石、やりたくないことはやりたくない好奇心の化身である。俺もこれくらい手短な演説にしたかったが、聴衆に同じ手は二度も通じないだろう。

 

 ジンジャーは賢者については触れず、街の政策について話していた。近いうちに言ノ葉の樹の都市の市長になるだけあって現実的な事を話している有望な人物だったが、俺の演説に使えそうな部分はない。

 

フェンネルの演説は、演説というよりアルシーヴちゃんの自慢話になっていた。しかも途中から「私の人生にはアルシーヴ様に会う前と後の二種類がある」だの「アルシーヴ様は神なのだ」だの意味不明なことを話しだして、アルシーヴ本人にやんわり止められていた。アイツの辞書に自重って言葉はねーのか。

 

 ハッカちゃんに至ってはぺこりと頭を下げ、手を振って聴衆に応えるのがメインみたいになっていた。おい、演説しろよ。

 

 

 ……最悪だ。ソルトの演説を聞き逃してしまったとはいえ、マトモな演説をしてたのはジンジャーだけではないか。おかげで、演説の「これくらいまでは話してもいい」といった基準がまったく分からん。これでは、完全なアドリブで演説するしかない。「頑張れ」というハッカちゃんの応援を背に重い足取りで演説台へ向かった。

 

 

 演説台から見下ろす聴衆は、俺と目があった途端、俺の言葉を待っているかのようにざわつきが静まったように感じた。こうなったらなるようになれだ。

 

 

「俺が、八賢者が(いち)、ローリエ・ベルベットでありゅっ」

 

 しょっぱなから盛大に噛んだ。悪いことはなぜこうも重なるのだろう。顔に熱がこもり、大広間中に沈黙でも爆笑でもない微妙な空気が蔓延する。超気まずい。とりあえず視界の端で笑いをこらえているフェンネルは後で黒光りするG(ゴキブリ)型魔道具の実験台になってもらおう。

 俺はこの気まずさを何とかするべく口を開く。

 

 

「この度の新たな筆頭神官と賢者達は、これまでよりも一段と強き者たちが集まったと思っている!」

 

 

 俺の言葉に、聴衆だけでなく、アルシーヴちゃんや賢者達からも驚きの視線が注がれる。アルシーヴちゃんからは「何故原稿通り読まない!」と睨まれてそうだが今は無視だ。

 

 

「人の心に溶け込める者、知略に優れた者、武勇に長けた者、魔法の才において常軌を逸する者………その強豪たちの中で、このローリエはただ、魔法工学分野において少々の実績があるだけである。」

 

 

 アタマの中が真っ白になり、周囲に押しつぶされそうになりつつも、俺は必死に言葉を紡ぐ。

 

 

「だが!俺は知っている。

 真の強さとは、魔法の才能にも、剣の腕にも、腕力にも、策略にも、新たな発明にもあらず。

 真の強さとは、心にあり。如何なる時も、正しき道を選択できる精神にあり。

 俺もまた、その真の強さを求める者の一人である。

 我々は、いわば暗闇の荒野に進むべき道を切り開く者たちの集まりだ!」

 

 

 静まり返った聴衆に、語りかけてるこの間も、俺は何も考えていない。いや、考える余裕がないというべきか。ただ、ピンチの時ほどふてぶてしく笑えば、どんな事態も打開できる。

 ばさっと右手でマントを翻し、これでもかというほどの大声で宣言する。

 

 

「覚悟はいいか?俺は出来てる!これからの筆頭神官と賢者達に、ついてくるがいい!!!」

 

 

 ……やりきった。少し偉そうかもしれないが、賢者なんだし、ちょっとくらい大丈夫でしょう?

 聴衆の反応は、時が止まったかのように静かだったが、俺が演説台から降り、螺旋階段を下りきったあたりで万雷の拍手という形で返ってきた。戻ってくる時、賢者達から色々言われていたが、俺自身はただ、スベらなくて良かったと安堵するだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ローリエこの野郎ッ!」

 

「わああっ!?なんでだよあるひーうひゃん(アルシーヴちゃん)!!?えんれつ(演説)は上手くいったからいい()ろ!?」

 

「いい訳ないだろ!」

 

 

 筆頭神官交代の儀が終わった後に待っていたものは、アルシーヴちゃんからの頬つねりであった。

 

 

「スベってたらどうするつもりだったんだ!?」

 

「いやだって、あの原稿クソつまらねーんだもん!アレ読んでたら確実にスベってたぜ?読んだ俺ですら2秒でダメだと気づいたわ!」

 

 

 俺がそう言ってのけると、セサミが目に見えて落ち込んだ。「クソ…つまらない……」とか言ってショックを受けている。

 

 

「お前!セサミになんてことを!」

 

「え、まさかアレ、マジでセサミが書いてたの!?内容が似てるとは思ってたけど……」

 

「……というか、ローリエもローリエだと思います。」

 

「ソルト?」

 

「ローリエの演説は、ほぼ勢いに任せたものでした。表情も余裕なさげでしたし……でも、まさか原稿を思い切り無視したノープランのアドリブだとは思いませんでしたが……」

 

 

 ソルトには俺の状況があまりにも馬鹿げていたことにため息を漏らす。だが考えてみてほしい。自分の渾身の作品が無碍にされた上に、勝手にスピーチ内容を決められたとしたら。それは、厳しすぎる校則に縛られた高校生と同じくらい、つまらないものではないだろうか。そう説明すると、ソルトもアルシーヴちゃんも納得半々、不満半々といった微妙な表情をして首を傾げた。

 

 

「アドリブだったのですか。なら、最初のアレも納得ですね。盛大にずっこけたアレ。」

 

「「ぶっ!?」」

 

 

 フェンネルが突然俺の最新の黒歴史を掘り出しやがった。後ろで吹き出したカルダモンとハッカちゃんは兎も角、俺のタブーに全力で踏み込んだコイツは許さん。

 

 

「まぁアレは……うん。仕方ないだろ。」

 

「日頃の行いです。」

 

「ところでフェンネル、ちょっと手ぇ出してくれ。」

 

「?」

 

 

 何も知らずに差し出された手のひらの上に邪悪の化身(G型魔道具)を置き、起動させると共に颯爽と部屋を立ち去る。

 

 

「いやああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「ふぇ、フェンネル!?」

 

「うわぁっ!?そ、そこにご、ゴ……!!」

 

「小さな悪魔……!」

 

「どうしたのアルシーヴ?……ってひゃああ!!?」

 

「ソラ!!!?」

 

 

 後ろで多種多様な悲鳴が聞こえると、イタズラが成功したことに笑いを漏らしながら迫り来るであろう女性陣から逃げ出し鬼ごっこと洒落込んだ。

 

 大成功だ。俺の最新作・G型魔道具は見た目的には会心の出来だったようだ。実はあの魔道具、ただのイタズラグッズではない。録画・録音機能がついており、情報収集に最適なのだ。基本的には隠密で行動し、見つかってもおぞましい見た目に相手が動揺している隙に逃げ出せる。機動力も申し分ない。

 とある海の狙撃手も、幽霊少女を撃破するのに黒光りする虫の玩具を使用していたほどだ。その時の幽霊も、その虫の玩具を本物だと思い込み、(トリモチで逃げられなかったこともあって)ひどく取り乱してしまったほどだ。

 それほどまでにあの魔道具が見た者に与える精神的ダメージは大きい。

 実に合理的な発明だと、笑いが止まらなかった。

 

 ……途中でアルシーヴちゃんやジンジャー、ソルトやハッカちゃんまで鬼に加わるとは思わず、逃走開始から5分で捕まってしまったが。

 この(イタズラ)について、必死でG型魔道具の有用性について弁解したのだが………

 

 

「心臓が止まるかと思った!!!」←ソラ

 

「あんなもの創っては駄目に決まってるでしょう!!!」←フェンネル

 

「ローリエさん、合理性を求めるあまり人として捨ててはいけないものを捨ててます……」←ソルト

 

「危険。」←ハッカ

 

「味方も混乱させてどうすんだ馬鹿!!」←ジンジャー

 

「……という訳でローリエ、今後あの…えっと……虫型の魔道具の使用を全面的に禁ずる。」←アルシーヴ

 

「ホーリーシット!!!!!!」←(ローリエ)

 

 

 ……遺憾なことに…誠に遺憾なことに、使用禁止令が出されてしまい、日の目を浴びることなく、俺の発明品倉庫行きとなったのであった……

 ……まぁそんなの関係なく使うがな。バレなきゃ命令違反(イカサマ)じゃあないんだぜ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 G型魔道具の件で新筆頭神官&賢者達にしこたま怒られた後、とぼとぼと自室に戻っていると、廊下でデトリアとすれ違った。相変わらずよぼよぼな見た目でフラフラと歩いており、見てるこっちが不安になるほどだ。

 

 

「ローリエ君、今日はお疲れ様。」

 

「ああ、デトリアさんこそ、お疲れ様です。」

 

「そうそう、ローリエ君にやって貰いたいことがあるの。聞いて貰える?」

 

「なんですか?」

 

「……魔法工学の、教師をやってくれるかしら?」

 

 

 一瞬。

 

 ほんの、一瞬だが。

 

 腰が曲がり、ぱっと見の身長が俺の半分程度しかないはずのこの老婆から、巨大なプレッシャーを感じた。まるで、自分の身長の数十倍ほどある巨人と相対した時のような、それくらいのプレッシャーだった。

 だが、それもすぐに幻のように消え失せ、目の前にはか弱い老婆がただにこにこしているだけである。

 

 俺には分からなかった。何故、今そんなプレッシャーを感じ取れたのか。何故、今()()()()()()()()()()。それも、元筆頭神官が現賢者に対して。

 

 前者はまあ、前世を含めた人生経験の成せる技とか気のせいとかの一言で無理矢理片付けられたとしても、後者がまったく分からない。本日付で交代したとはいえ、筆頭神官だったのだ。そんな人物からの頼み事なんて、まず断らない。プレッシャーなんぞかけなくても、引き受けるからだ。

 

 何を企んでいるか?何がしたいのか?それとも、これから起こることを知っているがために、変に疑ってしまっているだけなのだろうか?

 一度疑いだすと目の前で笑っている無害そうなおばあちゃんですら、腹に一物持っているように見えてくる。

 証拠なんてない。いくら考えてみても、答えは出そうになかった。

 

 だから俺は――

 

 

「分かりました。やってみましょう。」

 

 

 ――この老婆の警戒レベルを上げることにした。

 

 こう判断したのは、前世を含めた人間40年の勘に頼ったものである。これに助けられたと自覚するのは、もう少し先の話だ。

 

 




キャラクター紹介&解説


ローリエ・ベルベット
 今話でついに賢者となった男。演説を全てアドリブで乗り切り、フェンネル含めた女性陣をG型魔道具で混乱に陥れた。ローリエは前世は『きららファンタジアをやっていた、オタクの社会人』という設定ですが、彼自身の「きららファンタジア」の記憶は、リゼやポルカ、コルクが実装されたイベントで止まっています。つまり……?


アルシーヴ
 新たに筆頭神官に任命された少女。ローリエの賢者就任演説の原稿の出来に頭を抱え、セサミに代わりにローリエの原稿を書いて貰ったという裏設定がある。その結果は、本編にて書かれている。

ローリエ原稿
『諸君 私はエトワリアが好きだ
 諸君 私はエトワリアが好きだ
 諸君 私はエトワリアが大好きだ

 草原が好きだ
 都市が好きだ
 港町が好きだ
 砂漠が好きだ
 言ノ葉の樹が好きだ……
     (中略)
 よろしい ならば戦争(ク○ーク)
      (略)
 第一次エトワリア開発計画、状況を開始せよ
 さぁ諸君 楽園を創るぞ』
セサミ「まるで意味が分からない……」
アルシーヴ「どこから突っ込めばいいのだ……」


シュガー&ソルト
 きららファンタジアの賢者となった双子姉妹。シュガーとソルトの名前のモデルは確認する必要もなく砂糖と塩なのだが、この二つの調味料、驚くほど共通点が見つからない。そこで、とあるキーワードで検索した結果見つけたとあるグループのアルバム名を苗字のモデルとしました。


セサミ・ストラーナ
 ローリエの原稿を代筆したが、ローリエに秒で却下され、凹んだ所にG型魔道具の襲来という、良いところがなかった不憫枠。苗字の由来は『セサミストリート』から。


カルダモン・ショーズ
 自由人な賢者。彼女の性格からして、やりたくないことは嘘でもやりたくないと思う。しかも、賢者の就任演説なんて時間の無駄とも思っているだろう。苗字の由来は、香辛料カルダモンの和名『小荳蒄(ショウズク)』から。


ジンジャー・ヴェーラ
 豹人族のパワー賢者。この頃から市長としての手腕を発揮させた。彼女の凄いところは、すべて実行することにある。大抵の政治家は、公約を(さまざまな事情があるとはいえ)実行することは難しい。公務に真面目に取り組むことこそ、人心を長く掴む秘訣なのだろう。苗字の由来は生姜のサンスクリット語『cringa-vera』の後半部分から。


フェンネル・ウィンキョウ
 ローリエとは犬猿の仲の賢者。公式設定でも、自身の演説でアルシーヴについて熱く語る等本編くらいの事をやる可能性は十分にある。ローリエの演説に吹き出してしまったため、G型魔道具の第一被害者となってしまった。女の子いっぱいのエトワリアにおいて、Gはとても忌み嫌われており、見るだけで慌ててしまう。そこに録音・録画機能がついてても、Gを殺す事で頭が一杯になり、気づかないだろう。


ハッカ・ペパーミン
 作者のお気に入り賢者。着々とローリエのハンマーによる制裁要因になりつつある。『寡黙で古風な言い回しをする』のが公式設定である為、大○転裁○あたりで出てきそうな当て字を多用し、単語のみのセリフも使う所存。薄荷(ハッカ)が日本名であるため、苗字は英語の『ペパーミント(peppermint)』から取った。


きらら系漫画の登場人物の年齢
 全体的に、見た目と比例しない場合が多い。大人たちは大体間違われないのだが、学生たちは実年齢より幼く見られがち。代表格は『ごちうさ』のチノ、『きんモザ』のアリス、『スロウスタート』のかむちゃん、『ブレンド・S』の麻冬さん、『new game!』のあおっち 辺りだろうか。
 逆に、「実年齢よりお姉さんに見える」みたいな例外があったら情報提供求ム。


海の狙撃手と幽霊少女
 これの元ネタは、『○NE PIE○E』のスリラーバーク編のウ○ップとペ□ーナのことである。詳細は省くが、ゴキブリ(の玩具)を使用した結果、超嫌がっていたシーンがある。


G型魔道具
 人類の敵を模した、調査&隠密用魔道具。生物としての「薄暗い所を好む性質」を利用してこっそりと録画・録音を行い、見つかっても人間のGに対する恐怖・敵対意識を利用して撹乱を行い逃走できる優れた魔道具。攻撃される危険性もあるが、何より重要なのは、「監視されている」という感情・意識を別の感情で吹き飛ばすことにある。
余談だが、ローリエは後世での(正しい)活用のため、この魔道具の設計図はしっかり残している。だが、メインキャラの大多数を女性が占めているエトワリアでは、間違いなく『禁忌の発明品』の烙印を押されるだろう。






あとがき

ちょっとお話をまとめきれなかったので、前編と後編に分けます。というわけで、次回は『賢者昇格、女神誕生』の後編になります。お楽しみに~


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第8話:賢者昇格、女神誕生 その②

なかなかまとまらなかった、「賢者昇格、女神誕生」の後編となります。

今回は思いっきりギャグに振りきってみた。後悔はしていない。


 筆頭神官交代の儀と女神継承の儀は、本来同時期に行われるものではないらしい。どちらも役職に慣れていない者だと、エトワリアの危機になるからだと、デトリア様から聞いた。それが今回同時期に行われたのは、私とソラ――いや、これからはソラ様と呼ぶことにするか――ソラ様の実力を高く買っているからだともおっしゃっていた。

 

 三人で選んだ賢者はかなり個性的なものとなった。

 正直、私はローリエを賢者にするのは反対だった。だって、その……アレだし。デトリア様も当初は良く思っていなかったらしい。だが、ソラ様が必死で説得してくるものだからデトリア様が折れて、二人の説得に私が負ける形で採決された。

 曰わく、子供の頃、拉致された時に衛兵を連れてまで助けに来てくれた上に、二人の少女を守りながら戦ってくれたらしい。あの人ほど、誰かのために自分の命を懸けて、覚悟を持って戦える人はいないと、ソラ様は熱弁していた。

 

 筆頭神官交代の儀をなんとか終わらせ、ローリエが生み出したおぞましき虫の魔道具騒動も片付き、明日の女神継承の儀の準備をしながら、ソラ様の熱い説得とローリエの独白を思い出していた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

『アルシーヴちゃん。ソラちゃんのこと、色々お願いしてもいいかな?』

 

『何故だ?ソラもローリエと話したがっていたぞ?』

 

 

 それは突然だった。ローリエから、「ソラちゃんについて話がある」と礼拝堂でいつものように勉強していた私に声をかけられた時のことだった。だがその表情に、いつも私に発明品を見せたりセクハラしてきたりする時のような、チャラけた雰囲気はなかった。

 

 

『いいや、駄目だ。俺じゃあできない。ソラちゃんは男にトラウマができちまったから』

 

『男にトラウマ……って、あの時のこと、なのか?』

 

『………そうだ』

 

 

 あの時のことは、今でも……いや、一生忘れはしないだろう。たかが盗賊からソラ様を守れなかった己の非力さを痛感してからというもの、私は魔法に打ち込んだ。

 だが、あの時何があったのかはよく知らない。攫われたと思ったソラ様は、たった1日後に無事に都市まで戻ってきて、保護されたのだと聞いた。

 

 

『……なぁ、詳しく教えてくれないか?ソラに訊いても、「ローリエが助けてくれた」事以外教えてくれないんだ』

 

『………。』

 

 

 ローリエは長い沈黙の後、ようやっと話してくれた。

 一人の衛兵とともに盗賊のアジトまで助けに行ったこと。そこでソラ様を保護したこと。衛兵が自分を犠牲に逃がしてくれたこと。だが、盗賊に捕まりそうになったこと。

 ――ローリエが、自分の発明品で、盗賊を殺した事。それが、ソラ様を守るための正当防衛だったこと。

 

 

『そんな事があったからだろう。ソラちゃんは、男の人と目を合わせて話すことができないし、男の人と二人きりなんて耐えられないだろう。』

 

 

 盗賊はソラ様達を生かして帰すつもりがなかったことから、ローリエの盗賊を倒す行動は実に合理的で、命を守るためには、それしかなかったのだろうことは、彼の話からある程度は察していた。

 だが、まだ幼かった私は、それに納得できず、カッとなってローリエの首根っこをつかみ上げていた。

 

 

『馬鹿!!失敗してたら、どうするつもりだったんだ!!

 お前までいなくなったら……私は……』

 

 

 そこから先の言葉は出なかった。

 とても辛すぎて、それ以上口にしたらその最悪の結末が実現するような気がして、泣いてしまいそうだったからだ。

 

 

『大丈夫。俺は……いなくならないさ。』

 

 

 背中に手が回り、頭に暖かい手が降ってきた。その感触が、彼の言葉を裏付けているようで、無条件に安心できたのだろう。いつもはセクハラの鬼たるローリエなのに、何故なのだろうか。

 

 

『アルシーヴちゃん……あの日は、逃げちゃってゴメン。守ってやれなくて、ごめんな』

 

 

 その言葉で私はハッとなった。

 そんなこと気にしていない。君に言って欲しい言葉はそんな言葉じゃあない。ソラ様から逃げないで欲しい。

 そう思って見たローリエの顔は悲痛な表情に歪んでいて、まるで自身の処刑用の十字架を、ここまで背負ってきていたかのようであった。

 そんな彼に強く言葉を出せず、かといって何か言わなければマズい気がする、と思った私は――

 

 

『……お前は悪くない』

 

 

 深く踏み込むのを少し躊躇って、そう言うに留まるだけになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 筆頭神官交代の儀で賢者に選ばれた俺だったが、突然魔法工学の教師まで任されたので、正直戸惑っていた。

 教師といえば、ブラックな仕事の代表格である。これは前世の記憶に基づく偏見なのかもしれないが、とにかく楽な仕事ではないことは確かだ。それを全うするためには、一日でも多くの準備が必要となる。まぁこの意気込みが仕事の効率化を生み、同じ時間で多くの仕事をこなせるようになる結果、仕事の激務化を生む温床でもあるのだが。

 なんにせよ、八賢者と魔法工学教師を両立させるためには、女神継承の儀に参加せず、その準備を今からでも行っていた方が合理的だ。

 

 

「……つまり、俺はこの儀式に参加することができなくなったんだ。だから……」

 

「だから八賢者であるお前抜きで儀式をやれと?

 駄目だ。どうせサボりたいだけだろう?呆れた奴め」

 

 俺の合理的な懇願は、アルシーヴに秒で却下された。しかも本心まで見抜かれた。こいつ、読心魔法でも習得しているのだろうか?

 女神継承の儀における賢者の役割は、『新たな女神を歓迎し、敬意を示すこと』とあるが、要するに置物である。あってもなくても女神継承に響かない、どうでもいいポジションだ。さっきコリアンダーにそう言ったら、「お前、なにも分かってないな」と言われた。分かってないって、お前らが合理性をか? と返したら、「正気か?」って顔をされた。

 まぁ、俺が考えついたもっともらしい言い訳も、前世から引っ張り出してきた労働環境の課題も、すべて「サボりたい」という思いからきている。アルシーヴちゃんはそこを見抜いたのかもしれない、筆頭神官は侮れんな。

 

 

「確かにお前がデトリア様から魔法工学の教師を頼まれたのは知らなかったが、それとこれとは話が別だ。それに、そういう話は直前にするものじゃあない」

 

「そもそもスケジュールに無理があるとは思わないのかよ」

 

 筆頭神官交代の儀の翌日に女神継承の儀というスケジュールが組まれていた。そういうイベントは、間を空けないとボロが出た時にカバーできないというのに、このスケジュールを組んだ奴は何を考えているのだろうか?

 

 

「さぁ、とっとと行くぞ。お前以外の賢者と女神様のお二方はもう揃っている。」

 

「へーい」

 

 まぁ、決まってしまった事を考えていても仕方がない。アルシーヴちゃんに引きずられないように、俺も足早に目の前の彼女についていくことにした。

 ただな、遅れた理由を話す時に馬鹿正直に「ローリエがサボりたいと言い出したから」とか言わなくていいんだぞ。ソルトやジンジャーがジト目でこっちを見てくるし、シュガーさえ絶句している。フェンネルに至ってはゴミでも見るかのような目だ。俺はディーノさんみたいなMじゃないので普通に死にたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうして行われた女神継承の儀は、素晴らしいほどに上出来だったと思う。少なくても俺はそう思った。だが、ここでは女神となったソラちゃんの感想を少し述べるだけに留めたい。なぜなら、この後――あぁ、儀式の数日後のことな――その、数日後に想定外の事態が起こったからだ」

 

 

 八賢者であるローリエ・ベルベットは、女神継承の儀と、そのあとに起こった()()()()()()についてこう語っている。

 

 

「遠回しに言うのは面倒くさいから単刀直入に言おう。前任の元女神が女神継承の儀の2、3日後に、突然原因不明の衰弱死をしたと、神殿中に訃報が駆け巡ったんだ。」

 

 

 このことで、神殿は急遽葬儀を行う事となり、エトワリアの行政はぐらついた。エトワリアにおける女神というものは、いわば世界の核である。女神が異世界を『観測』し、その様子を記録することで『聖典』が生まれ、人々はそれを読んでクリエを得ることで生活することができている。また、エトワリアにおける魔法の源もクリエが役割をなしている。仮に聖典を綴る女神がいなくなりでもしたら、エトワリアは破滅してしまう。エトワリアは、女神に依存しているのだ。

 それでも、致命的な動揺とならなかったのは、一概に前筆頭神官デトリアの力が大きい。

 

「デトリアさんは、この時、慌てずなりたての賢者達やあらゆる部下たちに指示をだし、アルシーヴちゃんと一緒に元女神の……名前なんだっけな………まぁいいか……元女神の、葬儀の企画から運営までを執り行ったんだ。まるで……いや、なんでもない。どーせただの杞憂だろうしな」

 

 

 前任の元女神の早すぎる訃報。それだけでも十分に予想外だろうが、ローリエにとっての“想定外の事態”はそれだけではないという。

 

 

「あれは、元女神の葬儀中のことだった。エトワリアにおける葬式ってのは、意外と和洋ごちゃまぜなんだ。葬儀場は教会で行い、故人と別れを告げる方式だ。かと思えば、神父がお経みたいな長い呪文を唱えたり、焼香があったりする。

 

 ……で、問題の出来事のことだが、その葬儀中、神父が呪文を唱えている最中にそれは起こった。

 まず、その神父の呪文がふざけてたというか、テキトーすぎたんだ。一応世界のトップの葬儀なんだし、もうちっとマシなヤツはいないのかねと思ったよ。」

 

 

 

『なんまいだー、なんまいだー、なんまいだー、なんまんだー……

 げんまいだー、しんまいだー、だいじょぶだー……』

 

 

『……なぁコリアンダー、アイツ変なお経読んでないか?』

 

『ああ』

 

『……バチ当たらなきゃいいけど…』

 

 

 

「その時隣に座っていたコリアンダーに確認してみたんだが、あの変なお経が『普通』という認識はなかったみたいなんだ。それで、あのふざけたお経に頭を悩ませてたその時だ。

 葬儀中の棺から、身体が透けている元女神がむくりと起き上がってきたんだ。典型的な人の幽霊の格好した元女神がね。それで、虚ろな目で参列者達のほうを向いたんだ。」

 

 ローリエは、オバケや亡霊などの怪談は得意ではない。前世(むかし)から、人の怨みや憎悪のような負の感情に比較的敏感で、それに基づく亡霊関連の怪談が嫌いだったのだ。

 

「始めに俺の目と正気を疑ったね。なんてったって、お、オバケがでてきたんだから。まぁその時、オバケにビビって声を上げなかった俺を褒めて欲しい気分だったよ」

 

 

 いくら目の前で非常識な事が起こっているとはいえ、葬儀中に悲鳴をあげる訳にもいかなかったローリエは、違う行動をすぐさま起こした。

 

『ローリエ、どうした?肩を叩いて…』

 

『……おい、アレ…!

 アレ………おい……!』

 

「そう。俺がやったことは、隣にいたコリアンダーの肩を叩いた後、指を元女神の幽霊に向かって差して、アレ、と言うことだ。」

 

 彼が行ったことは実に抽象的であったが、声をうかつに出せない状況下で、何が起こったのかをコリアンダーに伝えるのに、実に簡潔な手段であった。指を差した方向を見れば、彼が何に驚いたのかが理解できるだろう。

………指差した方向にいるものが、()()()()()()()()()()()()()の話だが。

 

 

「……え? 『それで、コリアンダーに伝わったのか』って? ………………………。

 うーーん………分かってないね、俺がこの話を『想定外の事態』と言った理由を……

 伝わってて欲しかった、かな……でも現実は違ったね……」

 

 

『……?何だ?』

 

『いやアレェ!おい、アレェェェェェェッ!!』

 

『おい静かにしろローリエ、葬儀中だぞ!』

 

『いやいやいやいやいやいやいやいや、アレだってばアレ! おい!アレェェェェ!!』

 

『何やってんだコイツ…』

 

『いい歳して葬式でなにテンション上げてるんですか。心配しなくてもあとでローリエの葬式なら上げてあげます』

 

 

 ローリエの必死の訴えは、コリアンダーに届かず、彼やフェンネルには、『ただ葬式でテンションを上げているだけの人』だと思われてしまったのだ。

 

「コリアンダーには呆れられ、フェンネルからは軽い殺害予告を受けたその時、近くで元女神の幽霊に動揺する別の声を聞いた。ソラちゃんだ。彼女もまた、アルシーヴちゃんに必死に伝えようとして、失敗していた。」

 

 

『いい加減にしてくださいソラ様。何なんですかこんな時に?』

 

『みっ、見えないの!? アレ!アレだよアレ! ねぇ、アレぇぇぇぇっ!』

 

『はぁ……(もう無視しよう……)』

 

『ちょ、アルシーヴ!? そのため息なに?』

 

『……ひょっとしてソラちゃん、見えてる?』

 

 

 ローリエの言葉を受けたソラは、元女神の幽霊を指差して、ローリエが頷くのを確認すると、そこで自分とローリエだけに幽霊が見えることを理解した。

 

 

『な、なんなんだよアレ……ひょっとして、俺達だけに見えるっていうアレなのか?』

 

『い、いや、違うと思うよ……そういうアレじゃないよ、多分ああいうアレだよ、大丈夫だよ……』

 

『大丈夫じゃねーだろ……だってアレ、ももも、元女神、だろ?』

 

『違うよ!これはユニ様の葬式だよ? 絶対別人だよ』

 

 それにユニ様はあんな半透明じゃなかったし、ハッキリとハキハキした人だし、と続けるソラに、元女神をよく知らないローリエはそういうものか、と納得しかけて、アレ? と別の疑問につっかかった。

 

『……つーか、半透明の時点でおかしくね?

 元女神であるかどうか以前に半透明ってなんだよ?おかしいだろ?』

 

『じゃあユニ様でいいでしょ?そういえばここぞと言うときは優柔不断でハッキリしてない時あったし……』

 

 人は感情とともに生きており、そういう意味ではハッキリしたり、優柔不断になったりしても何らおかしくない。

 そういう意味で、ソラの言葉にそうだよな、と今度こそ納得する一歩手前で、やっぱりアレ? と、再び別の疑問につっかかるローリエ。

 

『つーか、元女神なら尚更おかしくね?

 何で死んだ元女神が、半透明であんな所にいるの??』

 

『それは……アレでしょ?

 オバケ………だからでしょ?』

 

 

「ソラちゃんと半透明の幽霊について話してるうちに、カチリ、とロジックのパズルが組み合わさる音がして、ああそうか、あそこにいるのは元女神の幽霊なんだ、と納得したわけよ。

 ……え?その後の俺らの行動?………もうね、椅子から立ち上がって一番近い真後ろの扉から逃げ出そうとしたね。でも、扉が思ったより重くて逃げられなかったさ。」

 

 

『なっ、ソラ様!ローリエ!二人とも何やっているんだ!』

 

『わ、わ、私ちょっとお手洗いに……!』

 

『正座で足痺れた……!』

 

『どいてローリエ、何してるのよ!』

 

 勿論、この時のソラはお手洗いにいく必要などなかっただろうし、ローリエに至っては正座などしていない。だが、一刻も早く幽霊のいる教会から逃げ出したかったのだ。

 ただ、扉前ではしゃいでしまったことが脳裏によぎった二人は、元女神の怒りに触れたんじゃないかと思い、棺と神父のいた方に振り向く。

 

『おいィィィィあの人、めっちゃこっち見てる!こっちガン見してるー!!!』

 

『目を合わせちゃ駄目!気づいてない振りするの!』

 

 だが、虚ろな目をした元女神は、真ん中を歩いて後ろの扉の方向……つまり、ソラとローリエがいた方へ歩いてくる。

 

『おい!こっち来たぞ!アイツこっち来たぞ!?どうすんだオイ!?』

 

『死んだフリ!死んだフリなら……!』

 

『死んだフリってお前! 死んでんのあっちだからね!? あっち本職だからね!!?』

 

 

「そうして気づかないフリするか死んだフリするかで言い争おうとした時、さらに摩訶不思議な事が起こった。

 まず元女神は、教会の真ん中あたりの列に座っていた、一人の女性をビンタしたんだ。今思えば、神父の呪文の最中に何か別の、失礼になることでもやっていたんだろう。そのビンタを食らった女性だが、壁まで吹っ飛んだよ。

 その後、元女神は幽霊装束を脱ぎ去った。その上からは、SMクラブで見かけそうな、赤いエナメル服。バタフライマスクや鞭、タバコにライターをどこからともなく取り出して、タバコを咥えてバタフライマスクを装着。あっという間に、クラブの女王が爆誕した。」

 

 

 たった一発のビンタで人を壁まで吹き飛ばして、気絶させた元女神(女王様)を見たソラもローリエも、命の危機を感じ目にも止まらぬスピードで真後ろの扉から各々の席へついた。

 

『ソラ様、お手洗いでは?』

 

『い、いや……引っ込みました』

 

『引っ込んだって、二人ともガクブルではないですか。無理しないほうがいいですよ』

 

『い、いや……引っ込んでろ』

 

 ソラもローリエも、アルシーヴやコリアンダーが見て分かるほどに震えていたが、その原因がお手洗いを我慢しているからではないことは言うまでもないだろう。

 

『み、見張りにきたんだあの女……!

 自分の葬式がキチンと執り行われるように……!』

 

『ま、まずいよ、この葬式、下手をしたら……』

 

『『元女神(ユニ様)に、(たた)り殺される!!』』

 

 この間に、クラブの女王と化した元女神は、寝落ちしかけていた神父に尖ったエナメルブーツで蹴りを入れている。神父の「ありがとうございます!」という悲鳴が教会内の参列者達のほとんどに聞かれなかったのは、神父の名誉的に幸いである。

 

『今みたいに寝ながら変なお経読んでた神父みてーに、俺達も下手やらかしたら何されるかわからんぞ……!』

 

『う、うそでしょう……夢なら覚めてよ…!

 私は、優しくて聡明なユニ様に別れを言いにきたのに……!』

 

 

「ソラちゃんの『夢なら覚めて』の悲鳴はもっともだ。元女神は、生前は誰に対しても優しく、淑やかで人気がある人だったらしい。それが、自分の葬式でひと皮どころか幽体離脱でひと肉体剥けた途端に女王化(あんなこと)されたら誰だってそうなる。

 もし、他の参列者にあの元女神の姿が見えたら皆、口を揃えてこう言っただろう。

『あんな街一つ支配できそうなクラブの女王に会いに来た覚えはない』って。

 だが現に元女神は俺とソラちゃんにしか見えなかった。だから、葬式も滞りなく進んだ。いや、()()()()()()()。」

 

 

『あの、次焼香みなさまの番ですよ?』

 

『え”っ!!?』

 

『いやだから焼香の順番。もう遺族の方も我々も終わったので、残りは皆様だけですって。』

 

 前の席の誰とも知らぬ者が知らせた焼香の順番は、ソラとローリエにとっては拷問の宣告そのものだった。元女神の幽霊は、棺に腰かけている。つまり、焼香を行うことは、元女神(女王)に近づくことに他ならない。

 

『…おい、いつの間にか焼香の順番が回ってきたぞ?どうするんだ?』

 

『……え?できるの?

 あの人の前で、焼香できるの?』

 

『無理に決まってんだろ。この距離でもチビりそうなのに、あんな間近でゆったりアロマテラピーなんてよォ。処刑台に自ら上がっていくようなもんだろーが。

 ……そもそも焼香ってどんな感じだったっけ?前出て粉パラパラするのは覚えてんだけど、記憶がフワフワしてるんだけど……』

 

『ちょっとローリエ大丈夫?社会常識だよ?

 三回おでこに粉持ってアレをアレするアレだよ?』

 

『後半アレしか言ってないよねソラ様?

 あなたもフワフワだったじゃあねーか?』

 

『焼香台の前行けばできます!

 ローリエと一緒にしないで!』

 

『じゃあ先に行って俺にお手本を見せてくださいソラ様?できるんでしょう?』

 

『嫌よ、ローリエ先に行って!』

 

 

「……とまぁ、こんな風に焼香だけで順番の押し付け合いだ。一応、俺とソラちゃんの名誉のために補足しておくけど、ただど忘れしただけだからね?『緊張してたら公式忘れちゃった』とかよくあるだろ?アレだよ。

 それで、この膠着状態を解決したのは以外や以外、ソルトだった。」

 

 

『では私が先に行くので、シュガーは見ていてください』

 

 ソラとローリエの状況は知らないだろうが、それを打開したソルトはまさしく勇者であった。だが、二人には死地に向かう少年兵のようにも見えた。

 

『待て、早まるな!』

 

『え、早まる?

 シュガーがわからないと言うので、先に手本を見せようかと思ったのですけど……』

 

『大丈夫か?いけんのか?しくじるんじゃねーぞ、必ず戻ってこいよ!?』

 

『馬鹿にしているんですか?……まぁいいです。』

 

 そう言ってソルトが焼香台の前へ行くと、慣れた手つきで遺族と僧侶に一礼、遺影に合掌、抹香を摘まんで焼香、再度遺影に合掌、遺族に一礼、といった手順で焼香をやってのけた。

 

『こんな感じ。簡単でしょ、シュガー?』

 

『おぉ~』

 

『ミッションコンプリート!

 ソルトなら必ずできるって信じてたわ。今夜は祝勝パーティね』

 

『ソラ様、恥ずかしいのでやめてください』

 

『フッ、俺から言わせりゃあまだまだだが、少しはマシな面になって帰ってきた様だな』

 

『焼香ひとつでどこまで褒めるんです? どんだけできない人だと思われてるんですか!?』

 

 

「ソルトの行動は俺とソラちゃんの心に希望の火を灯し、元女神の雰囲気も柔らかくさせた。この調子なら無事に葬儀を切り抜けられると思っていた。

 だが、その良い流れを思い切り台無しにするやつが現れた。

……シュガーだ。ソルトの次にシュガーが『次はシュガーがしょーこーいってくるよ!』と言った。ハッキリ言って不安しかなかったから、あの子にはソルトがやった通りにやれと言ったはずなんだがな。あの子は、焼香台の前に立つと、何を血迷ったのか神父をチョップでぶっ叩いたんだ。そしてこう言った。」

 

 

『意外と僧侶に一撃!』

 

最初(ハナ)からまるまる違うだろーがァァ!?』

 

 

「それで、どこからともなくマイクを出した。多分、『遺影』の意味が分かってなかったんだろうが……」

 

 

『イェーイ! さぁ、神父さんも一緒に!』

 

『イェーイ……』

 

『「イェーイで合唱」じゃねええええ!ノらなくていいからオッサン!!』

 

 その後もシュガーは、焼香台に神父を三度叩きつけたり、再びイェーイで合唱したりと、住職が見つけたらマジ切れして小一時間問い詰めてきそうな、それはそれはワイルドで無礼極まりなく、命知らずな焼香をやってのけた。ちなみにこの時点で神父はほぼ気絶している。

 

『こんな感じでいいかな?』

 

『お前は一体ソルトの何を見てたんだー!誰が神父の頭にバッチリ叩き込んでこいって言ったよ!?』

 

『ずっと座ってたから足がしびれちゃって……』

 

『足関係ねーだろ、痺れてんのお前の頭!!』

 

 勿論こんな無茶苦茶が元女神に認められるはずもなく、ソラとローリエは元女神の機嫌の悪化をいち早く感じとっていた。

 

『やばいよ……ユニ様の機嫌がみるみる……!

 早く葬儀を立て直そう!ソルトのフローチャートに作業を一つ加えます! 遺族と僧侶に一礼、その後に僧侶の蘇生! そして焼香です!』

 

『じゃあ、次はあたしが行くよ』

 

『カルダモン!? 大丈夫なの? 信じていいのよね!?』

 

『大丈夫大丈夫ー』

 

 

「シュガーがアレだったから、次のカルダモンでどうにか元女神の機嫌を挽回してほしいところだった。でもまぁ、無事焼香を終え元女神の機嫌が回復した、なんてことにはならなかった。それどころか……」

 

 

『遺族を一礼で坊主。』

 

 

「カルダモンは流れに乗った。シュガーが大分暴れても誰も止めなかったから、そういうノリなんだと思ったのかは知らないが、カルダモンは焼香台の前に行く前に、最前列に座っていた男のカツラを、礼をしながらもぎ取ったんだ。」

 

 

『そこから間違ってるぅ!!

 一歩も前に進めてないよカルダモン! 焼香はもういいから、神父さんだけ蘇生させてきて!』

 

 そのソラの指示を聞いたカルダモンは、言われた通りに焼香台に頭を突っ込んで気絶している神父に近づいて、もぎ取ったカツラを神父のツルピカな頭に帽子代わりに乗っけた。

 

『何を蘇生させてるの!? 蘇生させてって毛根のことじゃないよ!

 何も変わってないでしょ神父さんの頭にカツラ乗っかっただけじゃないの!?』

 

『ううん。神父さん、心なしか表情が穏やかになってた。』

 

『いいことあって良かったですね、神父さん……なんて言えないよ!?』

 

 ソラの言うとおりである。シュガーは滅茶滅茶な焼香をやり、カルダモンは遺族からカツラを奪い気絶した神父に乗せる。二人ともまともな焼香をしていないのである。元女神の怒りが増すのは必然だった。

 

『おいィィィィ! 元女神、もうご立腹だよ!

 伝説の(スーパー)サ○ヤ人みたいになってるよーー!?』

 

『もう神父さんの蘇生を最優先にしましょう!』

 

 ここでソラは一刻も元女神の怒りを抑えるために、葬儀を立て直しつつ焼香をやるという流れから、葬儀の立て直しに全力を注ぐ作戦に舵をきった。

 

『ちょっと待て! 遺体が一つ増えてるぞ! 遺族だ!』

 

『なんでカツラ取られただけで死んでるの!? メンタル弱すぎない!?

 というかなんで全員ガン無視!? カツラに気づいてないフリしてるの? それが優しさなの!?』

 

 だがローリエが事態の悪化を見つけ、報告すると、確かにカツラを取られた遺族の一人が確かに倒れていた。ソラは誰もこの事態に疑問を示さないことに疑問を投じる。

 そこでこの悪化した状況を食い止めるべく立ち上がった者がひとり。

 

『仕方あるまい。なら、神父と遺族の蘇生、そして神父と遺族に謝罪及び一礼に変更だな。

 このままではユニ様の葬儀がめちゃくちゃだ。私が責任を取って、必ず全て立て直してくる。』

 

 そう、アルシーヴである。

 

 

「アルシーヴちゃんが立て直すというのだ。きららファンタジアでもソラちゃんが一番信頼を寄せるあのアルシーヴがだ。今度ばかりは大丈夫だろうと思っていた。」

 

 

『まずは僧侶の蘇生…!

 

 あなたはここで呪文を詠んでいて下さい』

 

 アルシーヴが助け起こし、神父の立ち位置に立たせたのは………先程カルダモンにカツラを取られた遺族だった。

 

『それハゲてるけど遺族ーー!!』

 

 

『そして遺族の蘇生…!

 

 ご迷惑をおかけして申し訳ありません……!』

 

 アルシーヴは、遺族が座っていた席に…………先程カルダモンが取ったカツラをそっと置いた。

 

『それ遺族の遺族ーー!!』

 

 

「こればっかりは俺も予想できなかった。というか予想できるか、気絶していた神父の頭を木魚代わりに遺族に差し出すアルシーヴちゃんなんて。後になって本人に問いただしてみたんだが、『シュガーやカルダモンのパスに応じただけだ』と言っていた。ハハハ、ほんとウケる話だろ? でも個人的には全く笑えなかったけどな」

 

 

『いい加減にしろよゴラァーーーッ! どんどん状況が悪化してってんだろーが!!』

 

『というかなんであの遺族は言われるがまま神父やってるの……?』

 

『どうもショックで一時的に記憶喪失らしくてな』

 

『喪失したのは髪の毛だけじゃないの!?』

 

 アルシーヴによる葬儀の立て直しが余計酷い方向へいったことを悟ったソラとローリエは、悪化した焼香台前をみてただただ混乱していた。ただし、悪化したのは焼香台前の状況だけではない。

 

『オイィィィィィ!! 元女神(女王様)がもうカンカンだーー! 元○玉ぶちかましそうな勢いだよーーー!!?』

 

 一連の行いのすべてを見ていた元女神の幽霊もまた、怒りなのか恨みなのか、雰囲気は最悪と言っていいものになっていた。タバコを四本加え、稲妻をまとった黄金のオーラに身を包んだ元女神は、両手を天にかかげ、何かの力を貯めている。これ以上失礼な行いをしたら、両手がローリエ達に振り下ろされるのは明白だ。

 

『もう知らねー! 人の気もしらねーで勝手にやりやがって……!』

 

『な、ローリエ!? どこ行くつもりなの!』

 

 最早、ローリエもソラもこの状況を好転させることは諦めきっていた。アルシーヴでさえあんなボケをかましたのに、他の人たちに焼香の順番を回したらどうなるかなど、創造に難くない。

 

 

 

「そうして俺とソラちゃんが教会から逃げようとしたときだ。アルシーヴが引き留めようとしたんだが、『何をしている!まだ葬儀中………』と言いかけて、そのまま崩れ落ちるように白目を向いて倒れたよ。何が起こったのか分からなくて、二人でゆっくりと元女神の方を見たんだ。

 ……握ってたよね。バッチリと、アルシーヴちゃんの魂を。○気玉でくると思ったら人魂取りやがったから驚きだ。

 その後どうなったかって? それまで静かにしていたデトリアさんが『退避!ここに不可視の亡霊が現れた!』っつって皆を避難させてたぜ。アルシーヴちゃんも、心肺蘇生を繰り返してたら避難の数分後に目を覚ましたよ。 ……なにはともあれ、災難な葬儀だった。

 

 ……え? 女神継承の儀の時のソラちゃん?

 ああ、元女神の葬儀の話に夢中になってすっかり忘れてたよ。

 そうだなぁ、いつもと変わらなかったな。

 ………いつもと変わらず、美しかったよ。」

 

 どんな姿でも大切なモンは変わらねぇよ、と最後にローリエは口に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
今回はアルシーヴへ相談を持ち掛けたり、女神継承の儀をすっぽかそうとしたり、『バキ』的な語り部を担当したり、元女神の葬儀で見事なツッコミ役を披露したりと幅広く頑張ってもらった。アルシーヴへの謝罪の裏にどんな思いがあったのか…そんなの知らなくて大丈夫です。

アルシーヴ
新人筆頭神官。身長的には他の女性賢者たちやソラと比べて少し高めだが、ローリエよりは少し小さい、といったところだろうか。元女神の葬儀中にやったお茶目なボケの部分は、アニメ『銀魂』231話で近藤さんがやったボケをアルシーヴの元のキャラを出来るだけ崩さないように注意してミックスした産物。ところで、アルシーヴをデザインしたきゆづき先生は、「男装の麗人」をイメージしたそうなのだが、拙作のアルシーヴはヒロイン街道のド真ん中を突き進んでいるように感じるのは作者の気のせいだろうか?

ソラ
話の都合により、女神継承の儀を軽くキンクリされちゃった可哀そうな女神。代わりに、ローリエを筆頭とした賢者達のツッコミ役という重要ポストに就けた。出番が増えるよ、やったね!おいやめろ

コリアンダー&フェンネル
ローリエの怪奇体験を全く信じなかった人たち。作者自身、葬式には数えるほどしか行っていないため、『葬式でテンション上げている人』なんて想像もつかないわけだが。

ソルト&シュガー&カルダモン
焼香で見事な抹香さばき(?)を見せた子と夜兎族流の焼香をやってのけた子とサド王子風の立て直し()をした子。元ネタはアニメ『銀魂』231話の新八&神楽&沖田。

デトリア
拙作オリジナルキャラ。アルシーヴが筆頭神官に就く前に筆頭神官をしていた、今にも折れそうなおばあちゃん。
ローリエやソラ、アルシーヴが生まれる前から長年筆頭神官をしており、数人の女神に仕えていた。誰にでも笑顔で丁寧に対応する温和な性格もあって、神殿内での力や信頼は根強く残っている。
腰が曲がり、よぼよぼである為、すれ違う度に身体の心配をされている。

元女神
拙作オリジナルキャラ。ソラの前任の女神にして、今回の葬儀騒動の犯人。一応、「ユニ」という名前があるが、ローリエ目線がメインの為、今回はこの名称を使用。
生前は優しくて人当たりが良く、流されやすい性格だったが、幽霊になったことでクラブのドS女王と化した。この元ネタはアニメ『銀魂』231話の定食屋の親父。

「俺はディーノさんみたいなMじゃないので~」
ディーノさんとは、『ブレンド・S』の登場人物にして喫茶店スティーレの店長のことである。単行本を読んだり、アニメを見れば分かると思うが、明らかにMだと思われる描写が幾度とある。

エトワリアの葬儀
アニメ『銀魂』のネタをやりたくて、洋風な世界観のきららファンタジアと混ぜた結果、神父にお経に焼香と、かなり滅茶苦茶なものが誕生した。でも、日本発祥のきららファンタジアは、制作陣が日本人メインである以上、価値観や死生観がどうしても日本風であったり、「日本人から見た海外」のイメージが生まれるため、あながち間違っていないのかもしれない。



△▼△▼△▼
ローリエ「俺はこの後の展開を知っている。ソラちゃんが襲われる日が……来る。 全てを知っている者の責任とまでは言わないけど……女の子の危機を黙って見過ごす男じゃないのよ、俺は。」

次回、『運命の夜 その①』
ローリエ「絶対見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽



あとがき

とうとうきらファン初期作品の作者によるオリジナルストーリーが公開される運びとなりましたね!知られざる賢者やアルシーヴ、ソラの設定が飛び出そうで期待の反面、マイ設定との矛盾が出てきそうで相変わらずビクビクしとりますww
ともかくまずは全裸待機ですね!


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エピソード2:この世界でも、笑顔を~元凶大捜査線編~
第9話:運命の夜 その①


“もし俺がもう少し容赦がなかったとしたら、アルシーヴの心に影を落とすこともなかっただろうに、何をしてたんだってこれほど俺自身を責めた時はなかったよ。”
  …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
    第2章より抜粋


 ソラ様の女神就任と、ユニ様の急逝から、あっという間に三年が経った。この三年間、私達は会う機会がぐっと減ってしまった。

 

 ソラ様は、異世界の観察及び聖典の編集を司る女神に。

 

 ローリエは、新たな技術の開発者及び魔法工学の教師に。

 

 そして私は、エトワリアの行政とクリエメイトの研究に勤しむ筆頭神官に。

 

 みんな、大人としてエトワリアを支える者となった以上、私情だけで動けなくなったのだ。

 ソラ様には、聖典関連のお話で。ローリエとは、新人神官や女神候補生の教育の場にて。全く会わないという訳ではないが、子供の頃のように、三人一緒に何かをする、ということはもうなくなってしまった。

 

 

 

「さて、これらの鉱石が採れる場所だが……」

 

 教室から、ローリエの声が聞こえてくる。あいつも三年で、だいぶ教師として成長した。最初の方は生徒が興味を持つ授業展開について何度も私に相談してきたものだ。それが今では、若手の人気教師の一人だ。

 ……時折してくる、聖典学のテストの問題追加やテストの制作のイタズラ、そして私(被害者は私だけではないらしいが…)へのセクハラは健在だが。

 あいつは、私以上ではないかと思うくらい、聖典学の知識に富んでいる所がある。この前女神候補生に出そうとした課題も、穴を見つけたのはローリエだ。一度彼に、聖典学の教師に興味はないかと尋ねたのだが、「これ以上オーバーワークして過労死してたまるか」と一蹴されてしまった。

 

 そしてセクハラについては言うまでもない。あいつは、私を筆頭に様々な女性に声をかけてはナンパしているらしい。ローリエが女好きになり始めたのが神殿に入った頃だったが、年々酷くなっている気がする。しかも、職務はしっかり遂行する上に常に予想以上の出来だからこそ(タチ)が悪い。衛兵に突き出して逮捕させることも何度も考えたが、八賢者に選んでしまった以上、筆頭神官の名誉やソラ様に泥を塗るわけにはいかない上、技術者としても教師としても優秀なため、そう簡単に手放す訳にもいかないのだ。

 

 

「アルシーヴ?」

 

「! 何でしょう、ソラ様?」

 

「またムズかしい顔してる。」

 

「……ローリエのセクハラの件でちょっと。」

 

「あはは。確かに、盛んだものね。」

 

 ソラ様が困ったように笑いながら、まったくフォローになってないフォローをする。

 

「でも、私には手を出したことないわよ、ローリエは。」

 

「もし出してたら問答無用で衛兵に突き出してますよ」

 

「手厳しいね」

 

「ソラ様が寛容すぎるのでは」

 

 ローリエは、手を出す人も選んでいることが、タチの悪さに拍車をかけている。シュガーやソルトには兄のように健全な接し方をしており……ソラ様については…やはり、あの件があるからなのか、やらしい気配を見せない。

 

 やり慣れた仕事で疲れが出るはずもないのに、ため息が出てくる。

 

「アレさえなければなぁ……」

 

「そんなに疲れているなら休憩にしましょう?」

 

 苦笑いしながら、ソラ様がそんなことを私に提案してくる。まだやるべきことがあるし、休むほど疲れていないのでそれに乗る必要はないはずなのだが、今日ばっかりはお言葉に甘えるとしよう。今日はローリエに胸を二度ほど揉まれたせいか、あいつについて頭を悩ませすぎた。ここで休まなければ、確実に後で支障をきたす。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 そうしてソラ様の言葉のままに休憩をとるつもりでいたのだが、夕食や風呂も一緒にしましょとソラ様にねだられ、断ってもついて回ってくるため、ずるずると風呂にまで入ってしまった。

 

 しかし、ああもついてこられると幼少期を思い出す。

 まだソラ様と私が女神候補生と神官に分けられる前、ローリエと三人で遊んだ頃の記憶。都市の隅々まで冒険し、イタズラを敢行したり、追いかけ回されたり、三人でしこたま怒られたり………アレ。

 

 

「酷い目に遭ったの、大体ローリエのせいなんじゃ……」

 

「ふふっ、そんなこと考えてたの?」

 

 ソラ様が私の隣で湯に浸かりながら笑う。思えば、ローリエが真珠で作った謎の男の裸像も、弁償と称して私が買い取ることになった記憶がある。不正商人の摘発の手伝いの際も、怪我こそなかったものの、商人のボディーガードに三人揃って殴られかけたし、噴水を宝石で飾った時も、翌日はソラ様、ローリエともに風邪でぶっ倒れた結果、噴水の後片付けは私一人でやった。

 ……なんというか、イタズラの代償を割を大体食わされてた気がする。

 

 

「でもさ、昔をゆっくり振り返る時間も、必要だと思うの。働きづめじゃ、倒れちゃうわ」

 

「それもそうですね」

 

 ソラ様の言うことにも一里ある、と言おうとしたところで、セサミが私のもう片方の隣のスペースに腰を下ろしながら言った。周りを見ればカルダモンやハッカ、ジンジャーやフェンネルもいる。

 

「セサミ?」

 

「アルシーヴ様、筆頭神官についてからというもの、働きづめではありませんか。定期的な休みも返上して、マトモな休みを取らないで。」

 

「変なことを言うなセサミ、私だって少しは休んでいる!」

 

「筆頭神官の仕事の合間に女神候補生の課題を作るのを休むとは言いませんよ、一般的には」

 

「くっ……!」

 

「もー、仕方ないわね、アルシーヴは」

 

 

 あはは、とソラ様の笑い声が木霊すると、それにつられるかのようにセサミも笑顔になり、私も余計なことは言えなくなっていた。ソラ様からしばらく休みを貰うことを渋々承諾した時。

 

「………。」

 

今までずっと黙っていたハッカが風呂桶を持って、集中したかと思うと、

 

「変態の気配察知……そこっ!」

 

 手にしていた風呂桶を、風呂の壁の上の方へ投げた。

 

 ハッカの手から離れた風呂桶は、綺麗な放物線を描き、壁の一番上……つまり、男湯と女湯を分ける境界のあたりで…

 

「ぶごっ!?」

 

 何かにぶつかり、いい木の音を立てた。その後、壁の向こうから、どっぱーんと水しぶきの音がしたことで確信した。ハッカが奴をどうやって察知したかは謎だが、とにかく賢者と筆頭神官を覗こうとする命知らずはアイツしかいない。

 

 

「ローリエ! また貴様か!!」

 

『うぅ、湯気でよぐ見"え"な"がっだ……

 あのディフェンスに定評のあるクソ湯気め、地獄に落ちろってんだ……!』

 

 

 悪いが、地獄に落ちるのはお前だ。そう思いながらハッカにハンドシグナルで次の覗きの撃退準備を指示していると、フェンネルが私の心の中を読み取ったかのように「地獄に落ちるのは貴様だ」と語りかけている。

 

「これ以上やったら衛兵に突き出しますよ!」

 

『衛兵と地獄が怖くて男がやれるか!!』

 

 ………。

 

 馬鹿だ。馬鹿がいる。この男湯と女湯を隔てた壁の向こう側に馬鹿がいる。

 ……残念だ。ソラ様の経験談と昔のよしみでローリエが更正する可能性に賭けていたがここまで堕ちるとは。仕事はできる奴だが仕方ない。私自身、見る目がなかったと自覚せざるを得ないな。こうなったら、私自身の手で引導を渡してやるしかない。

 

「ハッカ、そのハンマーを渡してくれ。私が奴を殺る」

 

「承知」

 

 ハッカから受け取った、柄の異様に長い、ヘッドの面に「のぞくな!」と達筆で書かれたハンマーは、見た目の割に軽く、ハッカでも自由に扱えることが伺える。

 

 私はこのハンマーをふりかぶり、そして……

 

「ハッ!」

 

 思い切り壁の方向へ振り下ろした。軽くしなったハンマーのヘッドは、壁の少し上へ向かっていくと、

 

『ドギャス!!!?』

 

 私の両手に手応えを伝えた。間違いなくクリーンヒットだろう。奴が湯船に撃沈する音も聞こえた所で、ハンマーをハッカに返し、心が冷え切った浴場から一足先に失礼することにした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 風呂から上がると、すっかり夜の帳は降りていて、いつもは神殿の窓から見えている月や星々も今日は見えない。明日はきっと晴れないだろうなと思いながら、ラストペースで残った職務をやってしまおうと書斎に向かうと、いつの間にかハッカが側にいた。彼女の助力もあってか仕事の残りは三時間ほどで片付いた。そうして一息ついていると、ドアが開く音がする。音の元を目で辿ると、そこにはソラ様がいた。

 

 

「ああ、よかった。

 アルシーヴ、まだ起きていたのね。」

 

「先ほど今日の職務を終えたところです。どうかされましたか?」

 

「ええ、少し話したいことがあるの。」

 

「分かりました。

 ハッカ、少し下がっていてくれ。」

 

 

 静かに頷き、転移魔法で席を外すハッカを見送ってからソラ様に向き直る。

 

 

「それでお話とはなんでしょうか?

 こんな時間に珍しいですね。」

 

「私もさっきまで聖典の記述をしてたの。」

 

「尚更珍しいですね。いつもはあんなにも楽しそうに早く終えているではないですか。」

 

「何だか胸騒ぎがして……どうしても観測に集中できなかったの。」

 

「なるほど……お話とはその胸騒ぎの事ですか。」

 

「えぇ。

 何か、嫌な気配がしたの。ローリエからもそう言われたし。」

 

「ローリエが?」

 

「うん。彼、昔から勘が鋭かったでしょ?」

 

 確かに。あいつは、幼い時から妙に勘が良く、世渡りが上手かった。今になって思えば本当に子どもかと疑うほどだが。きっと、私に負けないほどに幅広い勉強をしたのだろう。そうでなければデトリア様から教師なんて頼まれない。

 

「そうでしたね。しかし、私は何も感じませんでした。ですが、ソラ様の仰ることですから……そうですね、ローリエや貴女の他に何か気づいた者がいないか私から聞いてみましょう。」

 

「そうね、お願いするわ。

 杞憂ならいいのだけど――――――っ!?」

 

「どうしました?」

 

「今、そこに同じ気配が――――」

 

 

「…………。」

 

 

 ソラ様の言葉のままに部屋の入口のほうへ視線を動かすと、そこには、何者かが立っていた。

 顔は見えない。フード付きの黒いローブを顔はもちろん全身を隠すようにまとっていた。私がソラ様を庇うように杖を構えてみても、ただ静かに佇んでいるだけに見える。

 

 

「……貴様、何者だ。

 ここをどこだと心得る。」

 

 

 はち切れそうな緊張の中、そう警告をしてみても、不気味な気配が消えることはない。

 

 

「……見つけた。」

 

「えっ……」

 

 

 奴はそう言うと、ローブの中から小さな杖のようなもので、何かを呟いた。

 

 その瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バァン!

 

「がっ!!?」

 

 

 

 かつて聞いたことのある、小さな爆発音とともに、目の前のローブ姿が大きくぐらついた。

 

「アルシーヴ!! 今すぐ、そのローブ野郎を殺せ!!」

 

 何が起こったのか把握しかねていると、膝をついた、ローブの人物の後ろから、エメラルドグリーンの髪をした、見知った顔であるローリエが、切羽詰まった表情でそう叫びながら駆け込んできた。

 

 

「ローリエ!? どういうことだ!?」

 

「詳しくは後だ、早くそいつを殺せ!!」

 

「お前な……!」

 

 

 ローリエはいきなり殺せと言ってきたが、訳が分からなかった。いつもはセクハラの鬼であっても間抜けな雰囲気を醸し出しているローリエが、今回は異様な雰囲気を身にまとっていた。焦燥と執念、そして目の前の、両膝をついてうめき声をあげているローブの人物に対する憎悪と殺意。それらは、風呂で覗きを敢行した馬鹿と同一人物とは到底思えない。そんな状態でいきなり「殺せ」と言われても理解できる筈がない。

 

 

「……仕方ない!」

 

「待て、ローリエ! せめて理由を聞かせろ!」

 

 

 混乱していてトドメを刺さない私に痺れを切らしたのか、ローリエが手に持ったケンジュウとかいった武器をローブの人物に向けた。それを見て、いつまでも混乱したままではまずいと思い、ローリエを少し引き留めた。

 

 

「……コイツは呪術師(カースメーカー)。ソラちゃんに呪いをかけるつもりだ!」

 

「ローリエ、まだ殺すな! 色々聞きたいことがある!」

 

 

 ローリエの情報網については謎だが、今は目の前のローブの人物の対処が優先だ。いまだに落ち着いているとは言えないが、今の指示はこれで大丈夫なはずだ。

 

 ケンジュウから再び火と爆発が吹きだした。こんどは奴の両腕から鮮血が噴き出る。ソラ様には少々ショッキングなのでとっさに目を隠した。

 

 

「や…っと、…見…けた……んだ……! めがみ、を……!」

 

「『見つけた』はこっちの台詞だ、この不審者が!!」

 

 

 ローブの人物が息も絶え絶えに口にした言葉で、ローリエの言う通りソラ様が狙いであることを確信し、ソラ様を背中で庇う。

 床を汚していく血を気にもとめずに、ローブの人物は呪いの呪文であろう言葉を紡いでいく。

 だが、それをローブの人物の殺害にこだわるローリエが黙って見ているわけもなく、詠唱中の無防備な胴体に一発、二発、三発とケンジュウに火を吹かせた。その度に奴の体から鮮血が溢れ、鉄の臭いが激しくなり床を汚すペースが早くなったが、それでも奴は詠唱をやめない。

 

 

「っ……うっ!!

 ぐっ………かはっ…………!」

 

「「ソラ様(ちゃん)!!?」」

 

 

 そして、ついに詠唱が完成してしまった。

 私たちが膝をつき苦しみ始めたソラ様に目を奪われた隙に、奴の己の体を引きずるように部屋を出た音がした。

 

 

「ローリエ! ハッカ! 奴の後を追え!」

 

「了解!」

 

「承知!」

 

 

 逃げられる、と思いそしてすぐさま放った私の命令で、ローリエとハッカもそれに続いた。

 

 その間に私は、膝をついたソラ様を助け起こす。

 

 

「ソラ様!

 大丈夫ですか、ソラ様!」

 

「はぁ……はぁ………アルシーヴ、今の者は……」

 

「ローリエとハッカが追っています。それよりもソラ様、これは一体―――」

 

「これは、恐ろしい呪いだわ……全身から少しずつクリエが奪われていく……」

 

「な……! い、今すぐに解呪を!」

 

 クリエがなくなるということは、即ち生命がなくなること。女神であるソラがそんな呪いにかけられたと分かり、解呪を試みるが、焦っていたせいか、それとも解呪方法が間違っていたせいか、逆に私が吹き飛ばされる。

 

 

「くっ!」

 

「アルシーヴ!」

 

「私は大丈夫です、ソラ様。」

 

「これはただの呪いではないようね。しかし、これほど強烈な呪いは見たことがないわ。」

 

「……申し訳ありません、この呪いの正体、私にも見当がつきません。」

 

「いいえ、謝る必要なんてないわ。筆頭神官である貴方も知らない強力な呪い……ローリエがいなかったらと思うと……」

 

 考えたくないことだ。クリエが失われていくペースが、ローリエに攻撃されまくっていたあの状態での詠唱でさえ少しずつ減っていくのが分かる呪い。邪魔されずに放たれたらどうなるかなど想像したくはない。

 

 

「………アルシーヴ

 

 ―――――――今すぐ私を封印してちょうだい。」

 

 

 …っな!!?

 

「早計な!

 何をおっしゃいますか!貴方がいるから、民はクリエを得て、日々を過ごすことができるのです!

 貴方がいなくなってしまったら、民たちは……」

 

「落ち着いて、アルシーヴ。」

 

 

 ソラの両手が、私の肩をしっかりと持ち、ソラの目は私の目をまっすぐ見ている。

 そして私が息を整えるのを確認するとゆっくりと言い聞かせるように話し出した。

 

 

「私が一時の眠りについたとしても、エトワリアはすぐに乱れてしまう訳じゃないわ。だって、これまでの聖典があるもの。

 むしろ、このままでは私は取り殺されてしまう……

 だから、呪いごと私を封印してほしいの。そうすれば、呪いの進行を食い止めることができるはず……」

 

「しかし……!」

 

「私は、貴方を信じている。そして、この場で頼れるのはアルシーヴしかいない。

 だから……もう一度言うわ。」

 

 

 

「アルシーヴ、私を封印しなさい。」

 

 

 

 その命令は、私の頭をがつんと叩きつけた。女神を封印するなど、本来あってはならない。世界の核である彼女の封印は、世界を滅ぼすことに等しいからだ。だが、このままではソラの死が避けられないのは事実。

 だが、ソラの判断基準はもう既に分かりきっている。伊達に幼馴染だった訳じゃない。

 

 

「ソラ様、それが本当に正しい判断だとおっしゃるのですか?」

 

 

 ソラの判断基準はいつでも「みんなの為」。ソラは、どんな状況でも周りを第一に考えられる女性(ひと)だ。「私を封印して」という常識はずれなワガママも、きっと、先を見据えて()()()()言っているのだろう。

 だから、この質問は覚悟の確認だ。

 

 

「……ええ。

 アルシーヴは何があっても私を支えてくれた。おかげで私は正しい道を歩むことができたの……女神として、民を幸せに導くために。

 だから、アルシーヴ……もう少しだけ私のワガママを聞いてくれる?」

 

「そう言うのは何度目か、ソラは覚えているのか?

 ………私は覚えているぞ。」

 

「ごめんね。

 でも、誰よりも聡いアルシーヴなら、この判断の意味がわかるでしょう?

 アルシーヴ。あなたが今、為すべきことは――――」

 

 ああ、そうだった。

 

 ソラはワガママを言い出すと、絶対に頑固になるのを忘れてた。

 なら私も、腹を括るしかない。

 

 ソラ…私は、ソラを………!

 

 

 

 

「必ず、救ってみせる。」

 

 

 

 

 

 

 そうして、私は、震えるこの手で……親友(ソラ)を……封印した。

 

 

 

「ありがとう、アルシーヴ。」

 

 

 

 涙でぼやけた視界には、女神(ソラ)が満面の笑みで映っていた。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
『きららファンタジア』の発端となるソラの呪殺未遂事件をなかったことにしようと頑張った主人公。でもここでローリエがローブ野郎を倒した結果、ソラちゃんがピンピンだったら、よかったねよかったねってなってマジで連載が終わってしまうので、作者の都合で少し辛酸を舐めることとなった男。なんでローブ野郎を真っ先に殺ろうと思ったのかは次回にて詳細を語らせていただきたく。


アルシーヴ&ソラ
原作と同じように封印する&される結果となった百合CP。
幼馴染設定をいかし、最後封印する直前のやりとりがちょっと慣れあってる感じにした。その結果、ローリエがお邪魔虫だったんじゃないかってくらいの百合度が完成したんだが、その道のプロは自分の描写で満足して頂けただろうか?


セサミ&カルダモン&ハッカ&ジンジャー
ローリエの覗き被害に遭ってた方々の会。ハッカはいざという時のローリエは頼れると見直したようだが、彼女以外は今回の出来事はまったく知らないので、好感度は低め。でもカルダモンはローリエの発明品に興味津々だろうし、ジンジャーもなんだかんだ言ってローリエの特訓を見てくれる。


ローブ野郎
外伝がリリースされた今でも正体が謎に包まれている、ソラ襲撃犯の呪術師(カースメーカー)。この作品内では、全てを知っていたローリエに不意を突かれ、銃撃されまくり大怪我を負うことに。まぁ、悪い事してるし因果応報ということで。なお、この作品に出てくるローブ野郎の正体は、作者自身がメインストーリーを元に考えた妄想の産物になるとあらかじめ言っておきます。
カースメーカーの呼び方の元ネタは『世界樹の迷宮』シリーズの後衛職の名前から。命を削る呪言こそないが、「力祓い」と「軟身」は重宝する。



△▼△▼△▼
アルシーヴ「ローリエ……お前は一体、何を思ってあんなことを言ったんだ……? 私の知っているお前は、フェンネルを助けた時みたいな、優しさがあったはずなのに……」

次回「運命の夜 その②」
アルシーヴ「今はそんなことより、ソラ…の事について早く手を打たねば……!」
▲▽▲▽▲▽



あとがき
「三者三葉」が実装されて、「三者三葉」の作者が「みでし」も描いていたことがきらら関連での最近の驚きです。
ろーりえ「みでしも『きららっぽいファンタジア』か何かでエトワリアにくればいいのにー、メイ〇ラゴンやとな〇の吸〇鬼さんも連れて」
くれあ「が、がんばってみます!」
きらら「やめて!」



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第10話:運命の夜 その②

UAが、ついに1000を突破しました!
まだまだこれからです。使いたいネタがまだ山ほどある「きらファン八賢者」をよろしくお願いします!



“まだ小さかったわたしは、ベッドの中でただふるえながら、このときアルシーヴのへやで見たものをおもい出さないようにすることしかできなかった。”
  …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


 この世界が「きららファンタジア」である以上、確実に起こる事件が一つある。そう、ソラちゃん呪殺未遂事件だ。

 本家(アプリ)では、アルシーヴ共々手遅れ寸前のところでランプが書いた日記帳(聖典)によって救われる――

――いい物語(はなし)だ。……そう、()()である。

 

 終わり良ければ全て良しとはよく言ったものではあるが、そこまでのきららとランプの旅路は過酷そのものである。一歩間違えたらソラもアルシーヴも助からない。

 ソラとアルシーヴの未来を確実に明るいものにするため、俺は生まれた時から色々と策を巡らせていた。

 

 ハッカ以外の賢者に伝える?

 駄目だ、信じて貰えない可能性がある。

 

 ランプに「ソラを救えるのは君だ」と伝える?

 これも駄目。ランプの聖典は、きららとクリエメイトとの旅の日々を日記帳に書いた結果、()()できたものだ。それを知らせるのはかなり無理があるし、偶然の要素に手を加えるのは絶対マズい。

 

 そもそも、「ソラが呪いをかけられた」事には箝口令が敷かれる。誰かに言ったらアルシーヴに折檻されるし、現場にいなかった奴が呪いのことを知っていたら真っ先に疑われる。

 

 

 そんな感じでずーっと考えた結果、既にひとつの答えを導き出していた。

 あのローブ野郎を撃退すれば、アルシーヴがオーダーを使用する事態を防げるのでは? と。仮にあの事件で犯人を撃退及び捕縛できれば、ランプが旅に出ることもなくなるが、女神ソラの安泰はより確実なものとなる。

 

 

 ソラが女神になった日から、魔法工学を教える傍らで、神殿のあらゆる所に監視カメラと録音機を仕掛け、ソラとアルシーヴの()()()()を聞き逃さないようにした。……そこ、事案とか言わない。こっちは真剣なんだぞ。

 三年間も不発で、諦めかけた朝にソラから「何か怪しい気配がしない?」と話を振られた時は内心穏やかじゃあなかった。今夜あたりにあの事件が起こるだろうと確信した俺は「何か察知したら、信頼できる人の元へ逃げた方がいい」と聞かせ、戦闘準備の最終チェックを行った。

 

 

 そして、その日は来た。アルシーヴとソラのあの会話が録音機から聞こえた瞬間、「パイソン」と予備の弾丸を手にアルシーヴの部屋まで駆け付けた。着いた時に見たものは、アルシーヴの部屋から漏れ出た光に微かに照らされた、ローブ野郎の後ろ姿だった。ソレを見た俺は何の躊躇いもなく発砲。ついにあのローブ野郎に、鉛玉をブチ込むことに成功した。

 

 

「アルシーヴ!! 今すぐ、そのローブ野郎を殺せ!!」

 

「ローリエ!? どういうことだ!?」

 

「詳しくは後だ、早くそいつを殺せ!!」

 

 

 ただ、この時俺は「アルシーヴちゃんとソラちゃんの百合を引き裂こうとするモブ野郎はゆ"る"さ"ん"んんんん!」の精神が強すぎたせいか、よりにもよってアルシーヴちゃんに「殺せ!」と指示してしまった。これが彼女の混乱を招いたのだ。もう少し慎重に言葉を選んでいたら、事件を完全に防げたのかもしれない。

 

 

「……仕方ない!」

 

「待て、ローリエ! せめて理由を聞かせろ!」

 

「……コイツは呪術師(カースメーカー)。ソラちゃんに呪いをかけるつもりだ!」

 

 

 混乱していたアルシーヴちゃんをよそに真っ先にローブ野郎を倒そうとしたのも、俺自身が焦っていたためと言わざるを得ない。

 何故なら、下手人は、本家では「見つけた」と呟いた途端にソラちゃんに呪いをかけたことから、ソラちゃんの暗殺だけを目的とした呪術のプロの可能性が高いからだ。本来ならば、不意打ちで自分がどうやって攻撃されたかも分からぬ内に殺すつもりでいた。拳銃の仕組みは俺以外は知らない。アドバンテージは十分にあった。

 

 

 だが、何よりも想定外だったのが、銃弾を六発――背中に一発、両腕を一発ずつ、そして正面から胴体に三発―――を撃ち込まれたというのに、倒れるどころか詠唱をやめることもなかったローブ野郎の根性だ。急所を外したなんてことはやってない。普通弾丸を六発も貰ったら出血多量かショックで死ぬ。少なくとも集中して呪いをかけることなんてできない筈だった。

 

「や…っと、…見…けた……んだ……! めがみ、を……!」

 

「っ……うっ!!

 ぐっ………かはっ…………!」

 

「「ソラ様(ちゃん)!!?」」

 

 

 しかしそれを、あのローブ野郎は、ソラちゃんに呪いをかけるまで両足で立ち続け、しかも現場から逃げ出すことまでやってのけた。

 

 

「ローリエ! ハッカ! 奴の後を追え!」

 

「了解!」

 

「承知!」

 

 

 俺は弾をリロードしながら、ハッカとともに瀕死のローブ野郎を追うべく、赤黒い点々が続く廊下へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「……ハッカちゃん、ここから血が途切れている。」

 

「……謎。」

 

 

 ローブ野郎の追跡開始から数分。俺達二人は奴が現れたアルシーヴの部屋から血の跡を追いかけていった訳だが、神殿の出入り口から出て数歩のところでぱったりと消えている。まるでそこから一歩で別の所へワープしたかのようだ。真っ暗な中、二人で血の垂れた跡を探してみたが、他に変な痕跡は見つからなかった。つまり……

 

 

「転移魔法で逃げられたか……?」

 

「恐らく。」

 

 

 クソッ!なんてことだ。何をしていたんだ俺は。ソラちゃんとアルシーヴちゃんを守ると決めたくせに、何だこの体たらくは。原作と何も変わってないじゃないか。

 

 ―――あの日から、何も変わってないじゃないか。

 

 ローブ野郎への、何より――俺自身への怒りは内に抑えきれるものではなかったらしく、つい俺は神殿の柱に拳を叩き込む形で八つ当たりをしてしまっていた。

 

「ローリエ、落ち着いて。」

 

「これが落ち着いてられ………!」

 

 ハッカちゃんの言葉に向き直り落ち着けるかと言おうと思ったが、彼女のあまり動かない表情から、かつての怯えた表情を思い出し、俺の怒りにブレーキがかかった。ここで感情に呑まれる訳にはいかない。そう思うと怒りが自然と治まってきた。

 

「……わかった。」

 

 でも、銃弾を食らいまくったあのローブ野郎に、転移をするほどの余裕があったとは思えない。きっと、誰か別の人間の助けがあったのだろう。そいつが神殿の外でローブ野郎と合流し、すぐさま転移魔法で大怪我をしたローブ野郎とともにトンズラしたに違いない。「しかし、どうして奴はソラちゃんを狙ったのか……この段階でも分からん。情報がなさ過ぎるな……」

 

 

「ローリエ?」

 

「ふぉっ!!? な、なに?」

 

「静かに。アルシーヴ様へ報告。」

 

 

 ハッカちゃんは見失ってしまった以上アルシーヴちゃんの元へ戻って報告するのが先だと言葉少なめに促す。

 …確かに今日はもう遅い。これ以上は日を改めて調査する必要がありそうだ。

 あと、思ったことを口に出しやすいこともハッカちゃんから指摘された。……今のうちに直さないと。前世のこととか、きららファンタジア(スマホアプリ)のこととかうっかり口にして誰かに聞かれでもしたら面倒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルシーヴ様……これから如何様に?」

 

 

 ローブ野郎に逃げられてしまった事と、ローブ野郎に仲間がいた可能性があった事をアルシーヴちゃんに報告した俺達は、アルシーヴちゃんからさっきの呪いについての事件をすべて聞いた。……俺達がローブ野郎を追っている間に、呪いからソラちゃんを守るために呪いごと彼女を封印したことも。……まぁ俺にとってはきららファンタジア(ゲーム)であらかじめ知っていたことだったが、初めて聞いたかのようなリアクションにも抜かりはない。

 

「呪いの正体を解明し、解呪の策を見つけ出す。 神殿の者たちをいたずらに動揺させてはいけない。

 ハッカ、ローリエ。先ほどの出来事は他言無用だ。決して外に漏らすな。」

 

「御意。」

 

「……だな。」

 

 

 アルシーヴちゃんがこう言う気持ちも分かる。世界の中枢たるソラちゃんがこんなことになったと知ったら、神殿内は大パニック、あらゆる人間が動揺しまくった結果、色んな機関が麻痺する。その麻痺は確実に神官たちや言ノ葉の都市の民を圧迫する。それに乗じて一揆やクーデターでも起こすやつが現れたら目も当てられない。

 

 

「あとローリエ、廊下に垂れているであろう、血痕も掃除しろ」

 

 

 ……??

 

 

「……え? 何で?」

 

「何でじゃあない。あの血だまりもさっきの出来事の証拠に他ならん。それでなくても、神殿の廊下に血だまりが続いてたら誰だって驚くだろう。

 私の部屋の血の掃除は私がやるから、ここ以外を頼む。日の出までに全部終わらせろ」

 

「マジかよ……」

 

 

 完全に忘れていた。ローブ野郎を始末することだけを考えてたから、血については無策だった。少し考えてみればわかることじゃあないか。筆頭神官の部屋に血だまりがあり、そこから神殿の外まで血が続いてたらどんなアホでも「筆頭神官の部屋で流血沙汰があった」と思うに決まっている。

 こうして、真夜中の血痕掃除が始まったのである…………ちなみに、掃除に適した魔道具を開発していなかったから自分の手で掃除したわけだが、「ル〇バみたいな掃除用魔道具を造っておけばよかった」とちょっぴり後悔したのは、俺だけの秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ソラ様は現在、体調を崩されている。快癒されるまでは私が執政を代行する。」

 

 

 翌日、アルシーヴは神殿の皆を大広間に集めてそう知らせると、集まっていた神官たちはざわざわと騒ぎ出す。俺は今、コリアンダーとともに、その聴衆に混じって話を聞いていた。

 実に合理的な嘘だと感心する。ソラちゃんが襲撃され、しかも強力な死の呪いにかかったなんて、前代未聞の大事件だ。そんな大事件の結果、親友を失ったというのに、アルシーヴは平気そうな顔であんなことを言っている。

 

 

「……流石だな。」

 

「今、なにか言ったか、ローリエ?」

 

「え? いや、何も。」

 

 

 コリアンダーにちょっと気付かれかけた。なんて言ったのかまでは聞かれなかったようだが、これ以上彼といると、ウッカリ口から洩れた重要機密を聞かれそうだ。一層気を付けないと。

 

 

「……ソラ様、大丈夫なんですか?」

 

 

 シュガーがそれはそれは心配そうな声をあげると、聴衆のざわざわが治まっていく。

 

 

「ああ。今は治療に専念するため自室にこもっておられる。ソラ様の世話役はハッカが務める。何かお伝えすることがあれば、ハッカを通せ。」

 

「はーい。ソラ様、早く良くなるといいですね!」

 

 

 シュガーが無自覚に地味に心に刺さる言葉を放つ。ソラちゃんの呪いの解呪方法は、あまりに特殊だ。アルシーヴちゃんも、感情を取り繕うように微笑み、「ああ、そうだな」と返した。

 俺もすぐにここから立ち去り、アルシーヴちゃんに合流するとしよう。コリアンダーの引き留める声を無視して先を急ぐ。コリアンダーは意外と察しが良い。ソラちゃん関連のことはまだバレてはいけない。

 ――それに、今の彼女は放っておけないから。

 

 

 

 アルシーヴちゃんを探して神殿内を走り回っていると、アルシーヴにランプが話しかけているところに遭遇した。

 

「ソラ様に会わせていただけませんか!」

 

 ……そうだ。確かここで、ランプはアルシーヴに断られてしまうんだ。取り付く島もない感じで。

 

「今は無理だ。用があればハッカを通せ。」

 

「でも…私、心配で……それに…!」

 

「――すまないが、今はお前に構っている時間はない。」

 

 ……ああ、これだ。

 

「アルシーヴちゃん、さすがにその言い方はないだろう?」

 

 

 ランプもアルシーヴちゃんも悪くない。二人とも、ソラちゃんを想う気持ちがある故にぶつかってしまうのだ。ただちょっと、アルシーヴちゃんが不器用で、ランプが早とちりをしがちなだけ。それが、ランプが神殿を出てきららと会うきっかけになると思うと少々複雑なんだけど。でも、フォローせずにはいられない。

 

 

「ランプも心配しているんだ。そういう言い方は控えるべきだ。」

 

「ローリエ、お前には関係のないことだろう?」

 

 

 おっと、「関係ない」で来るか。

 ランプの手前、ソラちゃん関連の事は言えないので、別の方向から返すとしよう。

 

 

「関係あるさ。ランプはアルシーヴちゃんの生徒であると同時に、俺の生徒でもあるんだ。」

 

「………。

 とにかくランプ、女神候補生として、勉学に励め。」

 

「あっ……はい、わかりました。」

 

 

 ランプにそう言いつけると、アルシーヴちゃんはとっとと歩いていってしまった。行き先は図書館だろう。

 

 

「ランプ?」

 

「はい。」

 

 

 ランプのフォローも終わったことだし、次はアルシーヴちゃんのフォローだ。

 

 

「アルシーヴちゃんは、君の先生であると同時に、筆頭神官でもあるんだ。仕事の量は俺ら賢者の比にならない。

 忙しいんだよ。特に、ソラちゃんが病気療養に入っちゃったこの時期はさ。」

 

「………。」

 

「でも、君がソラちゃんの心配をするのも分かる。何か悩み事があったら、先生に相談しなさい。できる限り、力になってあげよう。」

 

「ローリエ先生……」

 

 生徒相談を受け付けていることのアピールも忘れない。……まぁ、ランプは筆頭神官(アルシーヴ)女神(ソラ)を封印するところを見てしまったことで悩んでいるのだろうが、こんなことで俺に相談してくるとは思えない。だから、ほんの少し。ほんの少しだけ、譲歩してあげよう。

 

()()()()()()()()なんて、言ってくれなきゃ分からない訳だしな。」

 

「……! 先生、それって……」

 

「ところで、魔法工学のレポートはやった? まだ出てないの、ランプだけなんだけど……」

 

「えっ………ああああああ! 忘れてたぁぁぁああああ!!」

 

 

 もちろん、すぐさま話題をすり替えて、言及を防ぐ。今譲歩するのはほんの半歩ほどだけだ。ランプが聖典学以外がからっきしで助かったとほんの少し思い、「早く出してねー」と自室へ急いで駆けてく背中に告げると、アルシーヴを追いかける。

 

 さて、これからどうしようか。未だに答えは出ないが、ソラちゃんの呪い事件を防げなかった以上、新たな方針を練る必要がある。そして、その方針に必要な新たな魔道具と武器の開発も必須だろう。次の行動計画と新たな魔道具の理論が口から漏れ出ぬように口を右手で隠しながら、ゆっくりと歩きだした。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ずっと、引っかかっていた。あの夜に見た光景が。

 

 

 

 床の大部分が夥しいほどの血に染まり、鉄の嫌な臭いが充満してそうな部屋の、開いた扉から見えた……アルシーヴ先生が―――ソラ様に封印を施した光景が。

 

 最初は、悪夢だと思っていた。すぐさま自室に逃げ帰って、布団にくるまりながら、そんなことありえるわけがないと、アルシーヴ先生がソラ様を殺めるわけがないと、震える体をおさえ頭の中で何度も湧き上がる疑心を否定していた。当然、眠れるわけもなかった。

 

 翌日、ソラ様が体調を崩されたと聞いた時は、ソラ様が心配で心配で、アルシーヴ先生にすぐさまソラ様に会わせて欲しいと頼んだが、取り付く島もないほどに却下された。その後、仲裁に入ってきたローリエ先生の言葉が、あの夜に見た悪夢のような光景を確信づけた。

 

 

()()()()()()()()なんて、言ってくれなきゃ分からない訳だしな。」

 

 

 どういう訳で言ったのかは、わからないけれど。

 明日……聞いてもらおう。わたしが見た、あの光景を。ローリエ先生なら、きっと信じてくれるだろうから。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
アルシーヴとソラの未来を守るために事案スレスレまで頑張った男。しかし、ローブの人物の根性までは知らず、ソラに呪いをかけることを許してしまった。自分を責めていたが、ハッカのおかげで一応落ち着きを取り戻す。
原作との違いは、ローリエがローブの人物を容赦なく攻撃したおかげで呪いが安定せず、ソラのクリエが失われるスピードが若干遅くなったということ。それでも今の所大きな違いにはなりません。そう、今のところはね。


ハッカ
この夜、アルシーヴの側についていたお陰で封印されたソラの世話係などでアルシーヴの助けになった和風メイドさん。ローリエの精神安定にも一役買っている(無自覚)。ソラの世話係に任命されたのは、全ての事情を知っている()()が彼女しかいなかったから。間違ってもアルシーヴは恐怖のセクハラ男に親友兼女神を任せないだろう。

ローリエ「俺は二人の親友じゃなかったのかよォ!!?」
アルシーヴ「ち、違う。そうじゃなくてだな……ほら、お前男だろう?」
ローリエ「ソラちゃんには手ぇ出さない!」
ハッカ「日頃の行いの報い。」
ローリエ「SHIT!!!!」


アルシーヴ
今回から仕事量が増す苦労人筆頭神官。しかも、不器用なせいでランプとの溝が深まりかける。しかも原作では一人で背負い込もうとするから、更にアルシーヴの命がマッハでヤバイことになる。拙作では、事件の目撃者が一人多いため、重荷が少しでも軽くなればいいのだが……


ランプ
アルシーヴがソラを封印する光景を見てしまった女神候補生。ローリエの何気ない一言で相談を決意。ローリエがローブの人物を銃撃しまくったせいで床に広がる血というおぞましいオプションがついた結果、血だまりの真ん中で封印が行われるという原作よりヤベー光景を目に焼き付けてしまった。そういうこともあって、確実に「ソラ様が無事じゃない」と思うようになってしまった。ローリエにとってはソラとアルシーヴを守るために侵入者を攻撃しただけなので、完全に事故であるが、この事故が巻き起こす事態とは一体……?


血痕の掃除
どう考えても証拠隠滅にしか見えない後始末。アルシーヴは「神殿の他の人々をいたずらに混乱させない為」に命じたのであって、後ろめたい気持ちはどこにもない。作者もこの部分は執筆中に思いついて、勢いで書いただけなので、これがどう繋がるのか、そもそも繋がるのかは定かではない。エトワリアにルミノールがないので多分繋がらないだろうが。



△▼△▼△▼
ローリエ「原作通り、ソラちゃんは封印されてしまい、俺達にも箝口令が敷かれた。俺はいつも通り教師をやってる訳なんだが、こうしている間にもあの瞬間は徐々に迫ってきていて……」

次回『禁忌(オーダー)と始まる物語』
ランプ「楽しみにしててください!」
▲▽▲▽▲▽



あとがき
やっと原作に片足突っ込めた…さて、次だ、次!
将来的に使いたいネタばっかり浮かんで、もう二章までは構想が練り終わっている!
ただ、書き溜めてはいないので悪しからず。


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第11話:禁忌(オーダー)と始まる物語

“誰かが言った。『覚悟』とは犠牲の心じゃあないと。”
  ……ローリエ・ベルベット


 ソラちゃんが「療養」に入ってからというもの、アルシーヴは更に忙しくなったのか、女神候補生の授業に顔を出さなくなった。代役である俺がその旨を伝えると、女神候補生たちの不安は大きくなり周りに伝播していく。中でもランプは、より一層追い込まれているような表情しか見せていない。

 

『あの、少し相談があるんですけど、いいですか?』

 

『ランプ? いいけど……この授業のあとでいいか?』

 

『ちょっとこみいった話になるので落ち着ける場所がいいんです……』

 

 授業前のそんなやりとりを思い出す。きっと、原作みたいにアルシーヴちゃんがソラちゃんを封印する瞬間を見てしまったのだろう。だとしたら彼女には悪いことをしたと反省せざるを得ない。さっき思い出したことだがアルシーヴちゃんの部屋を血で汚したのは俺だ。掃除する前に見られたとしたら、その光景はきっと彼女にはサスペンスドラマや刑事ドラマでありがちな殺人現場にしか見えなかっただろう。

 

 

「はい。じゃあね、まずはこの前の聖典学の課題を回収するから、グループ毎に集めて持ってきてー」

 

 

 後の話を頭の隅に追いやりながら、アルシーヴちゃんから託された聖典学の授業を無理やり開始した。

 といっても、新たな課題を配ってそれを見守るという自習の監督なわけだが。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 授業が終わったあと、自身の部屋に戻って新たな魔道具の製作をしていると、ノックが聞こえてきた。入室を促すと、入ってきたのは浮かない顔をしたランプだった。コリアンダーに席を外すように伝え、部屋の中心のソファにかけさせると、はぁと一息ため息をつく。コーヒーセーバーでマグカップ二つにコーヒーを注ぐと、一つをランプの目の前のテーブルに置き、もう一つをランプが座っている位置から45度のところにある席において、俺もイスに座る。

 

「先生、いいんですか?これ…」

 

「遠慮はいらない。

 あぁ、砂糖とミルクはどうする?」

 

「……両方ともお願いします。」

 

 角砂糖が入った瓶とミルクが入ったカップを冷蔵庫から取り出し、テーブルに置きながらランプの顔色をさりげなく伺う。

 ……やはり、まだ迷っている。迷いが表情にはもちろん、砂糖を入れる手にも思いっきり出ている。相談内容はきっとあの夜の件だろう。でも彼女から話し出すのは少し難しそうだ。いきなり聞くのではなく、場を温めてから話を聞く方がよさげだな。

 

 

「今日の授業……というか、課題はどうだったかな?」

 

 

 思いもよらない質問に面食らったのか、少し考え込むそぶりをしてから、ゆっくりと話し出す。

 

「イジワルな問題が多めで難しかったんですけど……アレ、途中から先生が作りました?」

 

 よし。掴みはまぁまぁといったところか。

 

 

「そうだぜ。アルシーヴちゃんの問題だけじゃあ足りなそうだったからな。追加しといた」

 

「難しすぎますよ! 誰が解けるんですかアレ!」

 

「え? ウソ………中間テストの『メタル賽銭箱とミニ賽銭箱の違い』よりも簡単に作ったつもりだったんだけど……」

 

「私以外誰も解けなかった超難問を引きあいに出さないでください!! 先生の『簡単』ってなんですか!」

 

「ぼ、ボーナス問題も加えたんだけどな……」

 

「先生のボーナス問題、ボーナスしてなかったんですけど!?」

 

 

 何たることぞ。また俺が作った聖典学の問題に「難しすぎ」とジト目のランプからツッコミを貰ってしまった。

 今回の問題は、前回の反省を踏まえて「アリス・カータレットの出身地を、国・地域ともに答えよ(完答)」とか、「放課後ティータイムの曲を、発売順に並び替えよ(ただし、使わない選択肢がある)」とか、引っ掛けなしで作った。おまけに、「聖イシドロス大学の武闘派と穏健派、巡ヶ丘学院高校の学園生活部の関係とその崩壊について、できる限り供述せよ」といった、書けば点が貰える加点式の問題まで入れたというのに駄目だというのか。

 ……意外と、聖典学の問題づくりって難しい。そう思いながら、自分のマグカップのブラックコーヒーを啜る。

 

 

「もう、先生はアルシーヴ先生に問題の作り方を教わってください!」

 

「魔法工学じゃあこうはならないんだけどな……」

 

 

 本当に、何故俺が作った聖典学の問題が不評になるのか分からないが、俺に立て続けにツッコミをしたお陰か、ランプの入ってきた時の思いつめたような、迷っているような雰囲気が少し和らいだ気がした。というか和らいでないと俺のアイスブレーキングが完全に時間の無駄になってしまう。

 

 

「ところで、今朝から悩んでるように見えるけど、どうしたの?」

 

 

 そろそろいいだろうと思って投げかけた質問でランプの雰囲気に迷いが蘇る。あまり急かすのは良くないようだ。

 

「ああ、別に無理して話さなくても……」

 

「先生は、悪夢とか見ますか?」

 

 

 ゆっくり聞こうと思って予防線を張ろうとしたらランプがそんなことを聞いてきた。俺の悪夢の話なんて聞いてどうするのだろうか?

 マグカップのコーヒーを一口飲んでから答える。

 

「うーん……あるよ。なんかの踊りをし続ける夢だろ、丸い乗り物に入ったら投げられる夢だろ、その前は『俺はここにいたい』って言ったら皆から祝われる夢も見たな」

 

「聞いてる分には面白い夢なんですけど……」

 

 それは実際に見ていないから言えるんだぞ。踊りの時は拒否したら「さてはアンチだなオメー」って言われてヘルサザンクロスでボコられたし、乗り物の夢では投げられる前に筋肉モリモリのマッチョマンに潰されたし、皆から祝われる夢に至っては最初から最後まで意味が分からなかった。

 

 

「それを聞くってことは、最近なんか悪い夢を見たってこと?」

 

「………はい。

 そ、ソラ様、が……」

 

 

 マグカップを持つ手を震わせながら、ランプはゆっくりと言葉に出していく。

 

「ソラ様が、アルシーヴ先生に………

 こ、殺される、夢を……!!」

 

 いくら俺相手でも流石にソラちゃんがアルシーヴちゃんに封印された光景を見たとそのまま相談する訳にはいかないから、夢ってことにしたのか。まぁ、気持ちは分からなくもない。

 

「よく話してくれたね。それで、ソラちゃんに会わせてほしいって頼んでたわけだ。」

 

 ランプは黙って頷く。ここで気をつけるべきは、あの夜の件を絶対に話さないのはもちろん、悪夢として相談してきた以上は()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだ。

 あの事件を未然に防げなかった以上、残された手は『ランプに日記帳を聖典に書き上げさせること』しかない。そのために必要なのは、ランプが出て行くこと。肩入れし過ぎるのは良くない………良心が超痛むけど。

 

 

「ランプ。誰かが殺される夢の暗示って知ってるかな?」

 

「……え? ………いいえ、知りません。」

 

「もし自分が誰かを殺す夢を見たら、それは『その人との関係を変えたい』って心の現れなんだ。例えば、親を殺す夢を見た場合は、親から自立したいって思っており、大人に近づいている証拠であるとも言われている」

 

「そうなんですか?」

 

「逆に自分が殺される夢は、『古い自分が死に、新しい自分が生まれる』……つまり、願いが叶ったり、新しい自分に生まれ変わる事の前触れと言われている。」

 

「でも、私の見た夢は……」

 

「そ。若干違うよね。今回ランプが見た夢が、『アルシーヴちゃんがソラちゃんを殺す夢』だったから、今挙げた二つを元に考えると……アルシーヴちゃんは、ソラちゃんとの関係を変えることを望む。そしてソラちゃんの願いが叶う!」

 

「ほ、本当なんですか?」

 

「ああ。殺す夢・殺される夢って物騒だけど、意外と悪い夢じゃあないんだ」

 

 

 これでいいはずだ。ランプも「そうなんですね」と入室時よりは一息つけたのか、安心したような顔で言っている。でも、完全に納得はしていないだろう。だって、彼女が見たのは紛れもなく現実なのだから。

 

 

「ローリエ先生、ありがとうございました。相談に乗ってくれて」

 

「いいんだよ。また何かあったら訪ねてくるといい」

 

 

 ……本当にこれでいいのだろうか。

 部屋から出て行ったランプが座っていた席のあまり減ってないコーヒーを、見つめながら考えていた。答えは、濁ったカフェオレのように未だに見えていない。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とまあ、こんなことがあったとさ」

 

「何故他人ごとのように言えるのだ……」

 

「不覚。」

 

 

 数日後、女神ソラの部屋――神殿の最上階の展望ルーム―――には、そんなことを報告する俺と報告を受けるアルシーヴちゃん、そしてハッカちゃんの姿があった。報告内容は、もちろんランプが持ちかけてきた『悪夢』の相談についてだ。現在、女神の部屋は封印されて眠っているソラちゃんをハッカが見張っているため、事件関係者の俺とアルシーヴ、そしてハッカちゃん自身しか出入りできない。

 

 

「相談内容からして、ランプにソラちゃんを封印したトコを見られてた可能性がある。」

 

「心配無用。アルシーヴ様が否定すればいい。」

 

「……そうだな。」

 

 

 ハッカちゃんの堂々とした言葉に、アルシーヴちゃんが少し躊躇い気味に続ける。まぁ、アルシーヴちゃんは何だかんだ不器用だが女神候補生の教育には熱心だ。いち女神候補生の言葉と筆頭神官の言葉、どっちが信用されているかなんて頭では分かってはいるが、やはり生徒を切り捨てるのは気が引けるようだ。……当たり前の感情だ、俺でもやりたくない。

 しかも、この数週間で辺境の鉱石や地下の秘宝なんかも俺とハッカちゃん以外の賢者総出で集めたらしいが、どちらもソラちゃんの呪いを解放できなかったとのことで、気分は目に見えて落ち込んでいる。

 

 

「ハッカ、図書館の書庫内の残りの資料を全て持ってきてくれ。」

 

「いいえ、アルシーヴ様。先ほどお持ちした物で全てです。あとは禁書の類しか残っておりません。」

 

「そうか……」

 

 

 俺が二科目の授業で追われているうちに、アルシーヴちゃんは神殿内の資料をひっくり返すようにしてクリエを大量に得る方法を探していたようだ。禁書を残すまでになって調べてもまだ出てこないところもきららファンタジアで見たとおりだ。

 そんなに禁書はヤバいものなのだろうかと思い、神殿に入りたてでコリアンダーとも会う前の頃にこっそり入ったことがあるが、確かに常軌を逸したものばかりがズラリと並んでいて、精神年齢が大人な俺でもそのえげつない内容に魂消たものだ。拷問用魔術、強制的に服従させる魔法、殺しの呪いなんかは一通り揃っており、あとは永遠に若く生き続ける不老不死の秘術『不燃の魂術』や、原作に出てきた『オーダー』なんかもあった。あの時は、デトリアさんに見つかっていつもの穏やかな雰囲気からは想像もできないほどこっぴどく叱られたっけ。

 と、そんなことを考えている場合じゃないことが、アルシーヴちゃんの葛藤から伝わってきた。

 

 

「私はこのままソラを封じ続けなければならないのか……?

 いつまで続く? いつまで保つ? ……そんなことはあってはならない。何としてもソラを救わなければ………約束したのに……!」

 

「アルシーヴちゃん。」

 

 

 やはりというか、彼女は一人で背負い込もうとしている。ならば、幼馴染としてできるだけ寄り添ってやらなくては。

 

 

 

「ソラちゃんの救出、俺にも手伝わせてくれよ。」

 

「………ローリエ……

 すまない二人とも、一人にしてくれ。少し考えたい。」

 

 

 ……!

 駄目だったのだろうか。かける言葉を、タイミングを間違えたのだろうか。一人にして考えさせた結果を知っていても、変えられなきゃ意味がないと思うと、ハッカちゃんに引っ張られながら出口へ向かう足は止められそうになかった。俺にできるのはただ、「どんな手を使ってでもソラを救わなければならない」という意思を扉越しに聞く事だけだった。

 でもね、アルシーヴちゃん。その意思はちょっと危険だ。誰かが言った……『覚悟とは犠牲の心じゃあない』と。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「い、今……何をすると仰いましたか。もう一度、言ってください。」

 

「オーダーを行う。」

 

 

 大広間に再び神殿中の人々が集められた時、ついに来たかと思った。このあと、ランプはアルシーヴがソラを手に掛けたと言い、他の皆から大バッシングを食らう。その時きっと、俺に縋るかもしれない。「ローリエ先生なら分かってくれますよね!?」とか言って。もし、そんなことをされたら、俺は事前のアルシーヴとハッカとの打ち合わせ通り、冷たく拒まなければならない。下手に肯定したら、俺も神殿を追われる。アルシーヴちゃんを孤立させないためにもそれは避けなければならない。

 

「何のために禁忌を犯す必要があるというのですか!」

 

「既に決まったことだ。お前の意見など聞いていない。」

 

「おかしいです!そんなのソラ様が許す訳がありません!」

 

「今、神殿のトップは私だ。その私が決めたことに逆らうつもりか。」

 

「当たり前です!

 ……やっぱり、ソラ様を手に掛けたのは貴方だったんですね……!」

 

 

 ランプの異議にアルシーヴが能面のような表情で冷たくあしらうと、ついにランプの告発の時は訪れた。

 

「わたし見たんです! 血まみれの部屋で、貴方がソラ様を封印する瞬間を!!」

 

「……世迷い言を。」

 

「しかもオーダーをするなんて……貴方はこの世界をどうするつもりなんですか!

 みんな信じてください! わたしは本当に―――」

 

 

 

「ランプったら、何を言っているのかしら?」

 

 そんな誰かの言葉を皮切りに、否定、侮蔑、不信……大広間中のそういった感情が言葉としてランプに次々と刺さっていく。ソルトやセサミ、フェンネルまでアルシーヴの肩を持ち、ランプの告発を信じようとしない。この構図はイジメそのものだ。前世ボッチだった俺にとっては対象が自身じゃないと分かっていても大ダメージだ。

 

 

「どうして……なんで誰も……!!

 ローリエ先生!」

 

 

 来た。ランプが俺を見つけて助けを求めてきた。

 目を瞑ったままランプを見ないようにする。瞼の向こう側ではランプが悲痛そうな顔をしているだろう。そんなものを見てしまったら、絶対に打ち合わせ通りの言葉が言えなくなる。

 

 

「先生は、分かって―――」

 

「ランプ。」

 

 

 ランプの言葉が良心をゆさぶる。これ以上は感情を抑えられる自信がないので、言いかけたランプの言葉を遮る。

 

 

 

「それはこの前の夢の話だろ。滅多な事を言うんじゃあない。」

 

 

 

 視界が閉ざされた中、ランプの息を飲む音が聞こえた。そして、アルシーヴの「お前は不要だから去れ」という非情な宣告によりランプは神殿から出て行ってしまった。

 先生たるものが、生徒の助けを求める手を振り払ってしまった。よりにもよって、孤立しているランプの手を。

 この後の展開が分かっているとはいえ……いや、分かっているからこそ、やってしまった。

 ……教師、失格だ。

 

 だが、これで俺の立場はハッキリした。ならば八賢者として、何よりアルシーヴとソラの幼馴染として決めるべき覚悟を固めよう。

 

 その後は、ジンジャーが禁忌だとわかってるんだよな? と意味深な言い方でアルシーヴに尋ねたり、アルシーヴが八賢者には追って指令を出すと通達したりして集会は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 オーダーをするという知らせをした集会の後、私は自室にてクリエケージの精製をしながら、ローリエのあの言葉を思い出していた。

 

 

『それはこの前の夢の話だろ。滅多な事を言うんじゃあない。』

 

 

 あいつにしては頑張った方だ。いつもはどうしようもなくスケベで変態な奴だが、魔法工学の教育には熱心で、生徒思いの男だ。そんな奴がランプのあの助けを拒むなんて苦渋の決断だっただろう。

 

 

「よ! アルシーヴちゃん。」

 

「……ローリエか。」

 

 

 そんな心配していると、噂をすればなんとやら、ローリエがやってきた。元気そうなのは結構だが、せめてノックくらいはしてほしい。

 

 

「私が着替えている最中とかだったらどうする積もりだ。」

 

「ん? そりゃあ、ラッキースケベに感謝して、愛の語らいを……」

 

「またハッカにハンマー叩きつけられるぞ?」

 

 

 そう言うとうっ、とばつの悪そうな声を出してっきり黙ってしまった。中断していたクリエケージの精製を再開すると、ローリエは私の隣に座って、私の手元を見ながら見よう見まねで造りかけのクリエケージを精製しだした。

 

 

「……なんのつもりだ?」

 

「言ったよね? 手伝わせてくれって。」

 

 確かにそう言ったが、ソラに「必ず助ける」と誓ったのは私であり、そのために手段を選ばないと決めたのも私だ。全ての責任は私にある。

 

 そう言おうとしてローリエに顔を向けると、ローリエの視線が既に私を捉えていた。

 

 

「いや、違うな。『手伝わせてくれ』って言い方は適切じゃあなかった。俺の心を表しきれてなかった。

 ―――一緒に助けようぜ、ソラちゃんを。」

 

 

 そう言うローリエの目を見た私は言葉を失った。

 あの夜に見た焦りや執念のようなものは感じなかった。その代わりに感じたものは、確固たるものだった。まるで、ソラが助かるという確信を持っているかのような、必ず成し遂げる覚悟のような、そんな固い意志だった。

 

 

「ああ、そうだな。」

 

 

 気づいたら、そんな事を言っていた。筆頭神官になってから、久しく忘れていた頼もしさを、この時ほんの少しだけ思い出した。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
ランプの相談に乗ったばっかりに、ランプの告発に否定せざるを得なくなった教師にして、アルシーヴを守りながらソラを救う覚悟を固めた男。こうして思考を切り替えられたのは、某ギャングスターの活躍を前世で見ていたことによる影響が大きい。


アルシーヴ
ローリエとは別の方向で、『ソラを救うこと』『それに伴う責任を一人で背負うこと』の両方を覚悟した筆頭神官。ローリエの某ギャングスターばりの決意を目の当たりにして、(ソラ襲撃事件の関係者だということもあり)ローリエに少し心を開いた。ただ、この後のギャグパートでほぼ確実に「あの時の感情を返せ」となるのでこの時点でフラグとか立ってないからね。


ランプ
皆からバッシング食らった上に信頼していた先生二人に裏切られるという折れる直前までハートフルボッコをされた可哀想な女神候補生。この後は原作通りマッチと合流。逃げてきた辺境の村にてきららと会い、彼女の「コール」の才能を発掘する。


ソルト&セサミ&フェンネル&ハッカ
全面的にアルシーヴの肩を持った賢者達。ハッカは全てを知った上でアルシーヴとローリエとの打ち合わせ通りランプをディスったが、フェンネルは間違いなく素の信仰からやったと容易に想像できる。残りの二人は普通に上司として信頼していたからだろう。


メタル賽銭箱とミニ賽銭箱の違い
詳細はアニメ『ゆるキャン△』6話を参照。
しまりんが図書館にて買っちったコンパクト炭火グリルを見てニヤニヤしている所を斎藤さんに見られ、斎藤さんが言った言葉が「なにそれ?メタル賽銭箱?」。
その後、なでしこにも見つかり出た言葉が「なにそれ?ミニ賽銭箱?」。つまり、違いはほとんどなく、斎藤さんが呼んだかなでしこが呼んだかの違いしかなく、完全なひっかけ問題である。


アリス・カータレットの出身地
イギリスだというのはこの連載を読んでいる読者の皆様なら分かると思うが、公式設定ではもう少し詳しく決められており、イギリス・コッツウォルズ地方のバイブリー(行政教区)とされている。
コッツウォルズは「羊の丘」という意味がある。蛇足になるが、イギリスでは16世紀ごろ牧羊目的で第一囲い込みという排他的な耕地統合があった。同時に農民の仕事を奪っていったため、「羊が人間を喰い殺している」との批判も生まれたほど。こうして失業した農民が土地に縛られなくなった結果、産業革命の労働者の基盤になったという見方もある(諸説アリ)。


聖イシドロス大学の武闘派・穏健派・学園生活部
詳細は「がっこうぐらし!」6巻~9巻を参照。
ローリエは、それぞれの派閥がどんなものか、お互いの関係は、最終的にはどうなるのかをアバウトで書けていれば点をあげるつもりでいた。


ローリエが見た悪夢
それぞれの元ネタは「ポプテピピック」、「劇場版ドラゴンボールZ」、「新世紀エヴァンゲリオン」。ヘルサザンクロスの元ネタは「聖剣伝説3」のゼーブルファー。この聖剣伝説3のトラウマをパロディしたのがポプテピピックであり、アニメでもいともたやすく再現した。
丸い乗り物は言わずと知れたパラガスのポッド。2018年じゃない方のブロリーはパラガスをポッドごと潰す力業をやってのけるが、このシーンは後にあらゆる所でネタにされる。
皆に祝われる夢はの元ネタはエヴァンゲリオンの最終回。本来はシンジ君がアイデンティティを確立する名シーンなのだが、銀〇や勇者ヨシ〇コがパロディした結果、ネタとして扱われる事になってしまった。



△▼△▼△▼
ローリエ「俺ちゃんに最初の指令が下された!……ってシュガーちゃんの補佐!? 子供のお守りと何が違うんだよーって思ったら、アルシーヴちゃんによると他の指令も兼ねているみたいだ。それは、二人きりの秘密ってことでいいのかな?」
アルシーヴ「誤解を招く言い方はやめろ!!」

次回『ローリエとシュガーとゆのっちと』
シュガー「つぎも見ていってね!」
▲▽▲▽▲▽



あとがき
今日のエイプリルフールイベントは意外すぎた。ディーノは兎も角、タカヒロさんはマジで来てもいいんじゃよ?(チラッチラッ)ちなみに、この連載にエイプリルフールとかはありません←
さて、次はシュガー&ひだまりスケッチ編ですね。結構昔のアニメだから細かい所が間違うかもしれない……


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第12話:ローリエとシュガーとゆのっちと

“平凡な私が、ちょっぴりはみ出した気分になれる。”
   ……ゆの


「ブーッブーッチッ、ブーッブーッチッ、ブーッブーッチッチッ、」

 

 俺が出す低いビートに合わせて、クロモン達がゆっくり回りながら情けないポーズをとる。

 

「テーテテテテーテテテテーテテテテーテテテテー」

 

 かと思えば、曲調を変えた途端に、クロモン達がゆっくり回るのはそのままに、今度は全身の筋肉に力を入れ、その小さな体から力がみなぎるかのようにマッスルポーズをとる。

 

 

「ブーッブーッチッチッ、ブーッブーッチッチッ、ブーッブーッチッチッ、テーテテテテーテテテテーテテテテーテテテテーテテッテテッテてっ痛ぇ!!!!!?」

 

「クロモンに変なことを教えないでください」

 

 

 ソルトにチョップで叩かれ、ライ○ップが中断された。IQが2ほど減った気がした。

 だが、俺の周りにいたクロモン達は、よほど俺が教えた「ライ○ップごっこ」が気に入ったのか、ソルトによってBGM(という名の俺のアカペラ)がなくなると「もっとやりたい」と言わんばかりに俺に集まってくる。

 

 

「ローリエのその知識はどこから来るのですか?」

 

「あぁ、これ? たまたま見つけた市立図書館の書庫にあったぜ。『クロモンにストレスを与えないトレーニング』って本でな」

 

 

 ソルトの情報源についての質問には、流石に本当の事を言う訳にはいかないので、クロモンを撫でながらあらかじめ用意していた超大嘘をつく。

 

 

「そうなんですね。ところで、アルシーヴ様がお探しでしたよ」

 

「アルシーヴちゃんが?」

 

 

 おっと、そんな時間になってしまっていたか。それじゃあ、ライ○ップ式訓練はソルトに任せて、アルシーヴちゃんの下へ行くとしますか………え? やらないのソルト? そんなこと言うなよ~、クロモン達も見たがってるぞ!群がってるぞ!期待してるぞ! そら、ソルトのいいとこ見ってみたい! あそーれソルト!ソ・ル・ト!!ソ・ル・ト!! ソ・ル………あ、ちょっ、待て!ハンマーをこっちに向けるな!!そしてにじり寄ってくるな! 悪かった!冗談だから!だからやめろォォォォォォォォォォォォォォッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いい加減にしろローリエ」

 

「反省はしている。後悔はしていない」

 

「余計にタチが悪いわ」

 

 あの後、ソルトを煽りすぎた結果始まった大人気ない鬼ごっこをシュガーに目撃され、鉢合わせたジンジャーに顔面パンチを食らわされ、それがアルシーヴちゃんに伝わったことで、しこたま怒られていた。俺だけが。解せぬ。

 

「まったく、指令を通達するだけのつもりだったのに……何がしたいんだお前は」

 

「指令? 早速か?」

 

 ああ、とアルシーヴは指令について話しだす。

 なんでも、近々オーダーを行うらしいので、シュガーが行うクリエメイト及び彼女らのクリエの回収の補佐をして欲しいとのことだ。シュガーは詰めが甘いところがあるので補佐役をつけた方が良いと判断したとのこと。

 ……そして俺に下された指令はそれだけじゃあなかった。

 

 

「あの夜の襲撃者の、手掛かりがあれば探してきて欲しい。」

 

 

 シュガーに感づかれないようにな、と付け加えてアルシーヴちゃんは去っていく。きっとオーダーの準備だろう。俺も早くシュガーちゃんと合流してゆのっち達を保護しに行こう。

 

 

「あぁそうだローリエ、最後に頼みを一つだけ。」

 

「?」

 

 そう思ったらアルシーヴちゃんに某刑事みたいな引き留め方をされる。

 

「お前の武器……ケンジュウとかいったか。アレは…シュガーの前では使わないでくれるか?」

 

「そんな事か…当たり前だろ? 子供に残酷シーンは見せられない。」

 

 ただでさえソルトは俺には超塩対応なのに、シュガーに何かあったりトラウマ植え付けちゃったりしたら、俺はソルトの目の前で切腹でもして詫びるしかなくなるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に俺がやらないといけないのか?」

 

「ああ。どうしても写真解析の暇がなくって、俺の次に俺の発明に詳しいお前にしか頼めなくってな。分からない事があれば取扱説明書を読んでくれ。」

 

「仕方ないな……」

 

 

 そう言うと俺の唯一の男友達は頭をかきながら呟く。これからはオーダーを行うアルシーヴ&賢者達ときらら&ランプ&マッチの戦いが始まる。賢者たる俺は確実に忙しくなる。

 ソラ襲撃事件に備え神殿中に仕掛けたカメラに何かが写っていれば、それは大きな手がかりになる。しかし、俺は暫く神殿を空ける。だから今のうちに比較的手の空いているコリアンダーに頼む、というワケだ。もしコリアンダーでも分からないことがあっても、連絡手段は用意してある。

 

 

「連絡が必要なら、この()()()()に連絡してくれ。」

 

 

 そう言ってスマホの形をした金属製の板を見せる。そう、この携帯電話があれば、迅速な連絡ができる。まぁさすがに前世(現代)のスマホみたいに万能なものは作れない。できたのはせいぜい通話機能だけ。いわばスマホ型トランシーバーといった方が正しいか。

 

 

「分かった。こっちは任せて欲しい。そっちこそ、無茶するなよ。なにかあれば、連絡する」

 

「おうよ」

 

 

 何だかんだ言いながら、コリアンダーの姿は神殿内へ消えていった。

 

 

 

「さぁおまたせシュガーちゃん!

 行こっか!」

 

「もー、遅いよローリエおにーちゃん!

 アルシーヴ様のおーだーに遅れたら大変なんだよ!早くしないとおにーちゃん、置いていくよ!」

 

 

 ゴメンゴメン、と謝りながら俺はシュガーと手を繋ぐ。これから、オーダーされる舞台で何をするべきか考え始めるうちに、俺とシュガーは神殿前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 気がついたら、私は森にいた。

 

 

 さっきまで、ひだまり荘にいたはずなのに、光に包まれたと思ったら全てが変わっていた。

 

 

 光が遮られた薄暗い森の中でひとり。

 

 沙英さんも、ヒロさんも、乃莉ちゃんも、なずなちゃんも、宮ちゃんも、みんないなくなっていた。

 

 いきなり一人ぼっちになって、訳がわからなくって、森が不穏なざわめきさえ、恐ろしく感じた。でも、更に恐ろしいものが現れた。

 

 

「グルルルル………」

 

 

 茂みをかきわけて現れたのは、いままで見たことのない、茶色の狼のような動物。それが、私を見つけると餌と認識したのか、喉をならして、鋭いキバを見せながら少しずつ近寄ってくる。

 そのキバとツメをもってすれば、私など容易く引き裂かれてしまうだろう。あまりの恐怖に視界が滲み、木にもたれかかった体が竦んで身動きがとれない。

 

 こんな森の中で、わけもわからないまま死んでしまうのだろうか。

 

 一人ぼっちのまま、目の前の恐ろしい狩人に殺されてしまうのだろうか。

 

 怖い。

 

 怖い。怖い。

 

 助けてという声さえ出せない。

 

 今にも私に飛び掛からんとする狼を前に、もうだめだという絶望とこれは夢だという思い込みから目をぎゅっと瞑った。

 

 

 

「ギャンッ!!?」

 

 

 

 ……予想していた痛みは、襲ってこなかった。

 犬の悲鳴のような声におそるおそる目を開けてみると、そこにいたのは……

 

 

「あっ、クリエメイトのおねーちゃんだ!! だいじょーぶ?ケガはない?」

 

 私と同じくらいの身長の、動物の耳を生やしたピンク髪の女の子と。

 

「間一髪だったな……。よくやったシュガー、ゆのっちを安全なところへ避難させよう。」

 

 周囲を警戒する、緑髪のたくましそうな男の人だった。

 

 

 

 ……というか今、私の事を「ゆのっち」って言った?この男の人……??

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 転移からわずか数分でゆのっちを確保。

 

 これほど重畳なことはそうそうないだろう。

 

 景色が変わったと思ったら、シュガーがいきなり「すごく甘い匂いがする!」と言って走り出したから、追いかけてみたらゆのっちが狼に襲われかけていた場面に遭遇して驚いた。

 

 シュガーはあっという間にカスタードパンチで狼をぶん殴って追い払うと、ゆのっちに人懐っこく話しかけていた。

 

 俺は俺で、少し()()()()()()を感じたもんだから、「シュガー、ゆのっちを安全なところへ避難させよう」と言いつつ周囲を警戒した。

 

 

 ………。

 

 

 やはりというべきか、俺達が助けに入ったと同時に逃走したようだ。もしかしたら、あの夜に襲撃した呪術師の仲間か何かかもしれない。そうなったら、そいつらを見つけて、尋問する必要がある。

 そこで気をつけるべきはシュガーの嗅覚だ。さっきもその嗅覚を目の当たりにしたが、彼女は「甘い匂いがする」とかいってクリエメイトをある程度探せると考えるべきだろう。となると、俺がもし拳銃で敵を蹂躙した場合、ほんの少しの返り血や、拳銃を発砲した時の焦げた臭いを嗅ぎつけられる可能性がある。

 成る程……アルシーヴちゃんが言っていたのはこういうことだったのか。シュガーのことを考えると、今回は拳銃が使えないな。ジンジャーから教わった体術だけで何とかするしかないようだ。まぁ元より子供にグロテスクなものは見せないつもりだけど。

 

 

「おにーちゃん! 本当においてくよ!」

 

「…! あぁ、ごめん! 今行く!」

 

 

 とりあえずは、先頭を行くシュガーとそれについていくゆのっちと共に、事前にアルシーヴちゃんから聞いたアジトを目指すとしよう。森を抜けたらある村の、一番大きな屋敷がそうらしいから。

 

 

「あの……」

 

 ゆのっちが俺達に話しかけてくる。

 

「どーしたの?」

 

「何だい?」

 

「どうして私の事、知っているんですか?」

 

 

 ○澄さんの声で至極当然な質問を投げかけてくる。まぁ知らん奴からいきなり名前を呼ばれたら「なんで俺(私)の名前知っているんだ!?」ってなるわな。俺でもそうなる。

 しかも、今のゆのっちは、異世界召喚されて超戸惑っているし、心細いことだろう。歩きがてら、ではなく腰を落ち着けて筋道立てて話した方がいいだろう。

 

 

「クリエメイトは捕まえてこいってアルシーヴ様から命令されたんだよ!」

 

「………???」

 

 

 ……あのなシュガー。いきなりその説明で解る奴はまずいないぞ。いるとしたら、そいつは多分盗聴(タッピング)の能力者かスタンド能力者だ。まぁそいつら右ストレートでぶっとばされるかオラオラされるけどね。

 

 

「シュガーちゃん、捕まえるなんて言い方はよせ。

 実はこの世界は、君たちがいた世界とは違うんだ。」

 

「違う世界……!?」

 

「そう。エトワリアって言ってね、君らで言うところのファンタジー世界だ。信じられないと思うけど……」

 

 そうして俺はゆのっちにこの世界のことを軽く説明した。剣と魔法のファンタジー世界であること、この世界に『聖典』という教科書のようなものがあること、その『聖典』は、女神という別世界を見ることができる人物が見たものを書いた書物であること……その「別世界」にゆのっちがいた世界があることも。

 

「証明する手段はいくらでもある。少なくとも俺達は敵じゃない。」

 

「……分かりました」

 

「……え?」

 

「何というか、この子を見ていればわかる気がするんです。」

 

「……そうか。」

 

 ……なんということだ。まさかゆのっちが俺の言葉を信じてくれるとは。シュガーの無自覚な警戒心を煽る言い方をカバーできたのは良かった。だが、ここまで素直だと、「敵じゃない」といった合理的な嘘が俺の罪悪感を掻き立てる。

 

 

「……申し遅れたね。俺はローリエ。目の前のキツネ耳のお嬢さんはシュガーちゃんだ。」

 

「シュガーだよ! よろしくね、おねーちゃん!」

 

「ゆのです。知っているみたいですけど……」

 

 

 自己紹介を通しても、まだゆのっちの作り笑いを見るに緊張と警戒は解けてないだろうなと思いながら、屋敷へ向かう。さて、どのタイミングで「あと五人のひだまり荘の住人が召喚されている」ことをゆのっちに伝えるべきか……

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をいつ、どうやってシバき倒すべきかも考えておかなくてはな………。

 

 

「シュガーちゃん。さっさと屋敷ん中に入って、優雅なティータイムと洒落込もうぜ?」

 

「いいねー! 甘~いお菓子も紅茶も用意しよう!

 ゆのおねーちゃんも、お菓子と紅茶いる?」

 

「う、うん……じゃあ、お言葉に甘えて。」

 

「これで綺麗なお姉さんもいたら文句なしなんだけどな。」

 

「もー! ローリエおにーちゃんはそういうことばっかり! シュガーやゆのおねーちゃんの何が駄目なの!?」

 

「二人とも子供だろうが。そういう台詞(こと)はゆのっちは5年後、シュガーちゃんは10年後に言うんだな!」

 

 

 何はともあれ、まずは屋内に入ろう。盗賊の殲滅はそれからだ。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 ()()()から教えてくださった情報通り、三人の男女が現れた。やはり()()()に間違いはなかった。ボスは「胡散臭いから信じるな」と言っていたが、これは一攫千金のチャンスだ。

 

 しかも、八賢者のうちの二人が直々に守るように一人の少女と歩いている。フードを被った少女が何者か知らんがこれじゃあ俺達盗賊にとっては「重要人物です、攫ってください」と言っているようなものだ。

 

 更に、その守っている賢者がよりにもよって最弱と噂されている二人だ。

 

 小さな女の子はシュガーという賢者。フレンドリーな性格は愛されるとともに大きなスキを生む。しかも本人にその自覚がない。そして男の方はローリエとかいうただの神殿の教師だ。しかも、女にうつつを抜かしている大間抜けでもあるらしい。

 そのバカ二人をかわしてあのお嬢さんを攫うなんて、赤子の手をひねるよりも簡単とみた。

 

 

 ……この仕事、楽に終わりそうだぜ。

 

 さて、もう少ししたら奴らがどこにアジトをつくるかわかるはずだ。このまま、隠密を続けるか。

 

 

 

 この時の俺達には分かるはずもなかった。

 

 

 

 

 この時の判断が………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達盗賊団を破滅に追い込むことに。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 シュガーの補佐(というのは建て前で本来は女神ソラ襲撃犯の手がかり調査)に指名された八賢者。常に飄々とした立ち振る舞いで、ソルトに追いかけられたりジンジャーにパンチされたりした。観察眼は二回の人生で培った『周りを見る力』のなせる技だと思って頂ければ幸いです。まぁ、ローリエ本人は「魂だけが古ぼけて錆び付いている」程度にしか思ってないかもしれないが。

シュガー
 第1章ボスの賢者。彼女の耳はキツネ耳らしいので、キツネの性質をある程度受け継いでいる……という設定。キツネはイヌ科の動物なので、鼻が利くという設定を生やし、速攻でゆのっちを見つけて貰った。彼女のおかげで、1章でローリエは拳銃を安易に使えません。彼の本気を早く書きたい。

ゆの
 「ひだまりスケッチ」の主人公にして、今回のとらわれのお姫様。アプリ版ではシュガーしかいなかったので、現状の把握が全くできておらず、シュガーに対しても戸惑う描写があったが、解説役のローリエのおかげで、より早く打ち解けられたという違いが生まれる。

コリアンダー&アルシーヴ
 神殿居残り組。と思ったらアルシーヴが様子を見に来た描写がアプリ版であったので、次回も出番が貰えます。コリアンダーは神殿内の調査のため、工夫して出す必要が出てくるが。


ひだまりスケッチ
 蒼樹先生による、4コマ漫画。やまぶき高校美術科に合格したゆのが、アパート『ひだまり荘』にて、宮子や沙英、ヒロやなずな、乃莉たちと日常を送るゆったりとした物語となっている。
 ちなみにうめ氏の他の作品として「魔法少女まどか☆マギカ」「こみっくがーるず」等があるが、ソラがまどマギの世界を観察しようものなら、ソラのSAN値は激減するだろう。

ライ○ップごっこ
 2013年頃から流れた独特なCMに出てくるモノマネをする、CMを見た者なら一度はやったことのある遊び。前半の低音ベースでだらしなく演じ、後半の「テーテテテテー」で全身に力を入れ、マッチョやスリムなボディを演じる。

盗聴(タッピング)の能力者かスタンド能力者
 元ネタは『幽遊白書』の室田と『ジョジョ』三部のテレンス。程度は違えど心を読む能力者は、その能力に依存する戦い方をする。能力自体が強力なこともあり、苦戦を強いられるが、能力に依存するが故に思わぬ作戦に敗れるのがテンプレ。この作品にゃ関係ないけど。

携帯電話
 ローリエが作った携帯電話は、皆さんが想像するような高性能なものではなく、見た目はスマホ・機能はトランシーバーと考えれば分かるだろうか。電気を帯びた鉱石を整形・充電し、電池代わりにすることで、電源のオンオフができるトランシーバーを開発した。


△▼△▼△▼
ローリエ「ゆのっちを確保できたシュガーは気づいていないみたいだけど、村に着いてからゆのっちを狙っている連中がついてきているみたいだ。多分村に巣食う盗賊だと思うんだけど……虫ケラにしてはあまりに持ってる情報がピンポイント過ぎて……?」

次回『Fighting Moon』
シュガー「見てくれないとおこるんだから!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
 次回から、次回予告を編集します。その都合上、ちょくちょく過去作をテコ入れします。


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第13話:Fighting Moon

“一番強い賢者?
 まず俺はないとして……やっぱハッカちゃんかな? 夢幻魔術、チートじゃない?”
   ……ローリエ・ベルベット
    「一番強い八賢者は誰?」という質問に対して。


 ここにきて、今更こんな事を言うのも何だが、俺、ローリエ・ベルベットは転生者である。生まれた時から前世の記憶があるわけだが、そのおかげか、俺には人生を長く生きている自覚がある。

 前世(日本)でおおよそ20~25年ほど(予想でしかないが)。今世(エトワリア)で20年ちょい。それだけ生きていると、体はピチピチの20代のはずなのに、食べ物や味付けの好みは年相応のそれになりがちである。つまり、何が言いたいかというと。

 

 

「……やっぱこれチョットきついな、ゆのっち…」

 

「そ、そうですね……少し甘過ぎるような……」

 

 

 ……シュガーの出す、お菓子や紅茶が甘すぎて(オッサン)には(つら)いということだ。今、シュガーの出した紅茶をゆのっちと飲んでいるのだが、いささか、いや、結構甘すぎる。紅茶はまだ温かいのに、カップの底に溶け切らなかった砂糖が溜まっているほどだ。これは紅茶としてダメだろう。

 

 

「えー、なんでよー!

 これくらいの甘さがちょうどいいんだよ?」

 

「て、程度ってものがあるよー!」

 

「そうだぜ。シュガーちゃん、このままだと俺くらいの年齢(トシ)で糖尿病になっちまうぞ?」

 

「とーにょーびょー?」

 

 

 栄養に困らない日本社会なら兎も角、どうやら中世的なエトワリアには、糖尿病や高血圧といった、いわゆる生活習慣病という概念がまだ根付いていないようだ。まぁその分それらの患者や予備軍も少ないといえるけど。将来のシュガーちゃんを健康的にするために、大人のお兄さんから一つアドバイスするとしよう。

 

 

「そう。心臓病や目の病気の元になるし、足が腐って切り落とすしかなくなることもあるんだぜ?」

 

「あ、足が……!!?

 う、うそだよ、ね……?」

 

「いや? 嘘は言ってないぞ」

 

 

 心臓病や目の病気と聞いてキョトンとしていたシュガーも、足を切り落とすと聞いて見る見るうちに顔色が青くなっていく。そして、お菓子や紅茶を口に運ばなくなった。そこで見てられなくなったのかゆのっちが俺に苦言を呈する。

 

 

「ローリエさん! 言いすぎじゃ……」

 

「シュガーちゃんの将来のためさ。これを機に砂糖の量を減らせば問題ない。

 シュガーちゃん、今から気をつければ大丈夫!」

 

「ほ、ほんと……?」

 

「ああ。今日から少しずつ紅茶に入れる砂糖や練乳を減らせば問題ないよ。」

 

「う、うん、わかった。ちょっとずつ砂糖と練乳をへらして、とーにょーびょーにならないようにする……!」

 

 

 シュガーちゃんをほんの少し脅した後のカバーをしつつ、甘い茶会の()()()()参加者に目を向ける。

 

 

「……とまぁ、こんな感じで上手くやってるよ、アルシーヴちゃん。」

 

「……あぁ、そうみたいだな。…残りの人物も頼む。」

 

 

 そう。我らがアルシーヴちゃんである。彼女もまた、甘い紅茶をいただくのに四苦八苦しながら、「どうしてこうなった」って顔をしている。

 

 まぁただ単純に俺が誘いまくっただけなんだけどね。

 当然いい顔をしなかったが、シュガーも「お菓子と紅茶をごちそうします!」とねだってきて、最終的に涙目になるもんだから、お茶会ついでに報告するという条件でアルシーヴちゃんは折れた。

 

 その結果、クロモン達に囲まれ、甘過ぎる紅茶を飲みながら、ゆのっちの前でシュガーがゆのおねーちゃんを捕まえましたー!と言い俺がゆのっちにシュガーのフォローをするという、アリスのお茶会顔負けの意味不明なシチュエーションが出来上がったケド。

 

 あと、シュガーの報告の中に気になるものがあった。

 クロモン達が一部戻ってこない、というものだ。もう既にランプはきららと合流し、きららはコールに目覚めたのか。……ランプには悪いことをしたし、これから苦労かけるだろうな。

 

 

 さて、シュガーの報告も大方終わってグダり始めたので、俺も俺で報告をしないとな。

 アルシーヴちゃんに視線で「報告したいことがある」と告げる。彼女がこっちを凛々しく一瞥したかと思うとガタッと席を立った。

 

「と、とにかく……シュガー、お前は為すべき事を為せ。分かったな?」

 

「はーい! この八賢者の一人、シュガーに任せてください!」

 

「ローリエ、神殿の友人から伝言がある。こっちに来てくれ。」

 

「オッケー。」

 

 

 クリエケージのあるお茶会の部屋から出て行くアルシーヴちゃんについていくように、俺も部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それでローリエ。報告とはなんだ?」

 

「単刀直入に言おっか。……ゆのっち達クリエメイトが何者かに狙われてる可能性がある。」

 

「何だと?」

 

 屋敷の玄関で簡潔に行われた報告は、アルシーヴの眉をひそめさせた。

 

「狙っているのは誰だ?」

 

「ただの盗賊だよ。人攫い目的かもな。でも、もしかしたら裏があるかもしれないから……調べに行ってもいいかい?」

 

 俺の言葉に目を閉じて暫し考え込んでから、目を開けて返事を返す。

 

「分かった………シュガーには素直に用件を伝えておけ。

 それと、無茶はするなよ?」

 

 よし、アルシーヴちゃんの許可は貰った。あとは、シュガーに盗賊関連の報告をするだけだ。でも、まだ時間に余裕があるな……それに、オーダーは使用者のクリエを消費する。

 

「それは一番無茶をしている君に言われたくはないかな。」

 

「っ!?」

 

 俺が出せる一番いい声で、彼女を玄関の壁に追い込み、壁ドンの体制をとる。

 

「ささっ、オーダーの疲れを癒やすために、2階にベッドを用意してある! 俺と一緒に少し休んでいくと痛”ッ!!!?

 

 

 ……いい所でおでこにハンマーが入る。

 吹っ飛ばされ床に倒れ伏した状態で顔を上げると、ここにいないはずのハッカちゃんがアルシーヴちゃんの隣でハンマーを構えていた。

 

 

「な……何故…ハッカちゃんが……」

 

「ソルトの計算通り。アルシーヴ様へのセクハラ厳禁。」

 

「お前って奴は本当に………帰るぞ、ハッカ。」

 

「あぁ待って!! 帰らないでアルシーヴちゃん!!!」

 

 俺の制止もむなしく、アルシーヴちゃんはハッカちゃんとともに転移してしまった。

 ………くそぅ。こうなったら諦めて例の盗賊どもに八つ当たりでもするか。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「とーぞくが出たの!?」

 

「ああ。狙いは恐らくゆのっちと他に召喚された人達だろう。」

 

 

 やはりというか、シュガーは気づいていなかったようだ。

 シュガーは実力自体は問題ないんだけど、何というか脇が甘くて、不安なんだよな。もしきらら達以外が来たときのためにちょっと監視役を置いていこうか。

 

 

「だから、俺は今からそいつらをぶっ倒しに行く。だから、シュガーちゃんはここでゆのっちを守りつつ、ほかの子も探して欲しいんだけど……いいかな?」

 

「シュガーが行ってローリエおにーちゃんがここを守るんじゃダメなの?」

 

「女の子同士の方が、ゆのっちも落ち着くだろう?それに、相手は怖~い人達だ。俺に任せろ。」

 

 

 そうシュガーを説得しながら、こっそりG型魔道具を部屋の隅に忍ばせる。無臭なのでシュガーに見つかる危険性は少ない。もし誰かに見つかっても脱出するように設定してある。

 

 

「そういうわけだから、行ってくるよ。」

 

 

 シュガーの「いってらっしゃーい」の言葉を背に受けながら、俺は屋敷の玄関から外に出た。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷から八賢者ローリエが出て行くのが見える。その表情は、噂通りの間抜け顔で、コイツが賢者とは到底思えなかった。しかもその表情のまま村の娘をナンパし始めた。コイツはバカだ。きっと、何かのコネで賢者になったに違いない。

 この男が屋敷を出たということは、室内に残っているのはただの子供にすぎないシュガーと誘拐対象だけだ。今すぐ引き返して、ボス含めた仲間たちに今が攻め時であることを伝える時だ。

 俺はいつも通りの行き慣れた道を通って地下の遺跡をそのまま利用したアジトへと戻った。階段を下りるとたむろしていた皆が振り返る。

 

「おい、戻ったぜ皆!

 今屋敷の守りが甘い、とっとと仕事に入ろうぜ!」

 

 そして俺がかねてより伝えていた誘拐計画の実行を仲間に急かせる。

 

「おい、お前!

 勝手なことはするなと言ったはずだぞ!」

 

 そこに異議を唱えたのはボスだった。

 

「しかしボス!

 ()()()の『賢者二人がガードする少女が現れる』って情報は間違ってなかった!」

 

「あの女の言葉は信じるなと言っただろう!

 それに、その賢者って誰だったか分かっているのか?」

 

「もちろんです! シュガーとローリエですよ!

 あんな雑魚二人、どうにでもなりますよ!!」

 

「そうです!あんなの、ただの子供と教師じゃないですか!」

 

「はやく行きましょうボス!」

 

 そうだそうだ、と俺に賛同する声が響く中で、最年長であるボスの表情だけが芳しくなかった。ボスが首を縦に振りさえすれば、すぐさま行動に移せるというのに良しと言わないその姿勢は、ぐずぐずしているように見えて、はやる心がざわつく。

 

 

「黙れお前ら!!!」

 

 

 そうして口を開いた第一声が、そんな叱責だった。

 

 

「お前もお前だ、この馬鹿野郎が!! よりにもよって、あのローリエを敵に回しやがったのか!!!」

 

 

 その次に、作戦を立案した俺を怒鳴りつけてきた。

 

 

「ぼ、ボス……? ローリエが何だって言うんです……?」

 

「あいつはな、次々と未知な発明をした男だぞ!

 小型カメラも、自動掃除機も、空飛ぶ機械も、全部あいつが作ったものだ!! 不気味な武器を創っているって噂も……」

 

「そういうこと。」

 

 

 ボスの声に知らない声が割って入ってきた。

 

 あまりに突然の声振り向いてみると、黒い外套を羽織りサングラスをかけた緑髪の男が階段に立っていた。

 何故だ。何故、ここが分かったのか。

 

 

「おたくらには悪いが、お縄についてもらうぜ。」

 

 

 俺らが臨戦態勢になるかならないかで戸惑っている隙に、奴は何か()()()()()()()()投げた。

 

 

「お前ら!!それに近づ――」

 

 ボスが言い切る前に、それから閃光が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 そこから先は、あっという間だった。

 

 目をやられている間に仲間たちの呻き声が次々と聞こえてくる。

 やっとのことで視界が回復したかと思ったら、立っている人間はかなり減っていた。

 

 俺はナイフを手に取り奴に突撃した。

 真っ直ぐに突き出した右手を、奴に吸い込まれるように伸ばしたが鋭利な切っ先がぶつかる前に奴はフッと姿を消した。

 結果ナイフは空を切り、かと思えば手首と肩を掴まれる。その下方向から、膝が俺の肘に向かって突っ込んできて、それがぶつかると同時にバキッと嫌な音がする。

 

「ひぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」

 

 肘が曲がってはいけない方向に曲がっているのが見えると、そこから焼け付くような激痛が襲いかかり、ナイフを落としてしまう。

 そこに隙ありと言わんばかりに腹に鈍痛が走る。それで足の力も抜け、地面に倒れた。

 

 

「はい、一丁あがり」

 

 

 あとに残るのは、まるで軽い仕事を終えたかのような賢者の声だけだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 さて、賢者になってから初の実戦で緊張したが、上手くいって良かった。

 

 拳銃が使えないために念のために持ってきてあった閃光手榴弾が役に立ったことも、比較的早く、こちらの被害もなしに終わらせられた要因だろう。

 

 たとえ相手が複数人いようが武器を持っていようが、“激しい光を直視した時の人間の行動”は一つしかないのだ。それは『身体を丸める』こと。老若男女、どんな人間でもやる本能のようなものだ。そしてそれは、盗みを生業として、人殺しもしている盗賊も例外じゃあない。

 

 そして、体術についても問題ないようだった。ジンジャーに教わった成果が一応あったのか、盗賊相手でもある程度は戦える事が分かった。戦い方を思い切り変えたのが正解だった。

 ジンジャーは、その有り余るパワーを利用したごり押し戦法を主としているが、俺はどうやっても単純なパワーでジンジャーに劣ってしまう。あの華奢な身体のどこにそんなパワーがあるのか不明だけど。そうなると、俺は他の部分でカバーしなければならない。

 そこで俺は不足面を技術でカバーしようとした。ジンジャーの戦い方のテクニック面を見習いつつ、人体急所や足止め用の武器など前世の知識を活用してそれっぽい戦術を組み立てた。まぁ完全に独学なのでまだ不完全なんだろうが。

 

 

 やった事は言葉にすれば簡単だ。

 

 閃光手榴弾で目を眩ませた隙に、敵の肝臓にあたる部分を腹パンしたり、顎をブン殴ったりしただけだ。盗賊のアジトには酒瓶が転がっていたことから、盗賊の大方は酒を飲んでいたことが分かったので、肝臓を叩かれるのはかなりの痛手だろう。また、顎は衝撃を加えられると、脳が振動してダメージに繋がる。

 

 

 

 そんな感じで盗賊達を無力化したのだが、少し聞きたいことができた。最後に腕を折って無力化した、下っ端の盗賊と盗賊の親玉が気になることを言っていたからだ。

 

「ねーねーちょっと、聞きたいんだけどさ」

 

「ぅぅぅ……」

 

「………。」

 

 親玉は黙ったままこっちを向くが、下っ端のほうが激痛に顔を歪ませながら睨んでくる。睨みたいのはこっちなんだけど。

 

「誰から俺たちの情報を聞いたんだ? あんたらの言ってた『あの方』とか『あの女』ってのは誰だい?」

 

「「!!!」」

 

 

 そう。さっきこの下っ端は、『あの方』なる人から俺達の情報を聞いた、と言っていた。しかも、親玉はその情報にいい顔をしていない。『あの方』を信用できない女とも言ってのけた。そこら辺の人間関係も聞いておかなければならない。

 

 

「早く言えば量刑の余地が生まれるかもよ?」

 

「ま、待ってくれ! 俺はただ……」

 

 

 下っ端の盗賊がそう言った途端―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バシュバシュッ、と。

 

 

「がっ………!!?」

 

「ぐっ……!!?」

 

 

 何かのレーザーのような魔法が、盗賊二人を貫いた。

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 すぐさま物陰に隠れて、『パイソン』を抜き、入り口を覗き見る。

 

 

「誰だ!?」

 

 

 ………返事はない。人の気配もしないことから、さっきの魔法を放って逃げ出したようだ。

 

 ――魔法! その単語で盗賊たちを思い出し、物陰から出ずに撃たれた奴らを確認する。

 ……二人とも死んでいる。確証は近づかないと分からないが、下っ端は頭にモロに食らって即死だろう。親玉のほうも、胸の辺りから床一面にどんどん広がっていく血を見るにまず助からない。

 

 今の魔法を放った奴は、この盗賊たちの口封じで来たという訳か。これであいつらから『あの方』について訊くことが永遠にできなくなってしまった。得られた情報は、『盗賊に情報を流した女がいたこと』のみ。

 

 

「やってくれたな……」

 

 

 今回は一足先に獲物を奪われたというわけだ。しかも二人も、目の前で。

 実に悔しいが、唯一の手がかりがなくなってしまった以上ここにいる意味もないので、屋敷に戻るしかない。周囲にさっきの奴がいて狙ってないか、盗賊の血や臭いが衣服についてないかを注意しながらシュガーが待っているであろう屋敷に戻ることにした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねーちゃんすごいね! なんなの、その魔法?」

 

 ずっと、悩んでいた。私の持っている力の意味を。

 物心ついた時から両親はいなかったけど、周りの人々に助けてもらってきた。気が付いたら「人と人とのつながり」を感じることができた私は、その力が何を意味するのかがわからず、怖くて怖くて仕方がないと思ったときもあった。たとえ私がそんな特別な力を持とうが、村の皆は関係なく愛してくれた。

 ランプとマッチは、それが「コール」であることを教えてくれた。もし彼らに出会わなければ、ずっと分からないままだっただろう。

 

 

 

「『コール』って言うの。 ランプが教えてくれたの。

 ―――昔からずっと悩んでいた、私の持ってる力の意味を。」

 

 

 私を育ててくれた皆を、ランプやマッチを、そして……クリエメイトの皆さんを助ける。

 それがきっと、私の力の意味だから。

 

 

「コール…………って言い伝えの魔法だよね。

 本当にあったんだ! すごいね!」

 

 

 相対しているのは、シュガーというランプと同じか、それよりちょっと幼いくらいの女の子。私が使える「伝説の力」に素直に興味を持っている。

 

 

「ねえ、沙英……。

 あの子、悪い子じゃないのよね、きっと。」

 

「……そうだね。

 戦いたくないね……。」

 

 

 ヒロさんと沙英さんの言う通り、シュガーは八賢者といいつつも、純粋な子どもだ。きっと、アルシーヴの言う事を何の疑いもなく聞いているだけなのだろう。アルシーヴを純粋に信じているからこそ、ランプを「裏切り者」だとか言うのだろう。

 

 だからこそ、この戦いは早く終わらせなければならない。

 

 

「――『コール』っ!!」

 

 

 ―――エトワリアを、救うために。

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 盗賊を一捻りしたものの、あと一歩のところで証言を逃してしまった主人公。拳銃を使わずに戦う方法として閃光手榴弾を使ったのは、とある小説で、激しい光を直視した人間の行動についての記述を思い出したので少々アレンジした次第。また、前世の記憶を持つと前世のクセを良くも悪くも引き継ぐだろうなと思い大人の舌を持つことに。本来は超甘党で某万事屋のように蜂蜜やローヤルゼリーなんかをご飯の上にこれでもかと乗っけて他の賢者達を引かせるルートにするつもりだったが、ただの思い付きでこの設定を潰してしまった。


シュガー
 将来が実に心配な不健康姉妹の妹。糖尿病についての概念はまだ根付いてないので砂糖の摂りすぎで足が壊死するなんてエトワリア人は信じないだろうが、シュガーは素直すぎるいい子なので信じた。ローリエの助言のお陰でお菓子や紅茶に入れる砂糖・練乳の量を小さじ一杯ずつ減らすことにした。後日ローリエはソルトに怒られたそう。

ソルト「シュガーに何を吹き込んでるんですか! 殴りますよ!」
ローリエ「何の事だー!?」
ソルト「砂糖の摂りすぎくらいで足が腐る訳ないでしょう!」
ローリエ「ホントよ! ソルト信じてよ!!」


ゆの&沙英&ヒロ
 ひだまりスケッチ枠から登場した人物。本家1章のストーリーが意外とあっさりしているので、これからの出番にはあまり期待できない。……いや、きららの『コール』があるか。


アルシーヴ&ハッカ
 甘すぎるお茶会に無理やり参加させられた筆頭神官とハンマー枠が定着しつつある賢者の子。ローリエの制裁に早くバリエーションを増やさないと「アレは嘘だ」と〇田ボイスで言わないといけなくなる。クリエメイトのクリエについては、生きてないと奪えないので、本家でもあまり手荒な扱いはさせなかったのではないか。


きらら
 本家『きららファンタジア』の主人公。両親がいないという設定を利用し、オリジナルキャラできららの親でも出そうかとも思ったが、絶対面倒くさいことになり、失踪の原因になりかねないので、登場させる可能性は少ない。
 コールの基盤となる「パスを感じる力」の片鱗を見つつもきららを育てた村の人々はかなり肝が据わっていると思う。人間は、自分と違う人間を許容できないこともあるからだ。



△▼△▼△▼
ローリエ「盗賊どものゆのっち誘拐計画を事前に潰せたのはいいけれど、口封じされちまって捜査は振り出しだ、アルシーヴちゃんになんて報告したもんかね。さて、あとはシュガーときらら達の戦いの後始末だけども……あいつ、凹んでないよな……?」

次回『さまざまな兆し』
シュガー「見ないとパンチだよっ!」
▲▽▲▽▲▽


さて、次だ次!


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第14話:さまざまな兆し

やっとごちうさの主要メンバーが揃いますねぇ!
待ってろよシャロちゃん千夜ちゃん………必ず当ててやるぜニェッヘッヘッ(フラグ)


“これが私のできることだから。それに――こんな気持ちのいい人達、放っておけないからね!”
   …召喚士きらら


「『コール』っ!」

 

 私は、私にしか使えない魔法を使う。こうすることで、私は戦う事ができる。

 コール。まだ見ぬ世界に住まうクリエメイトの力を借りる魔法。ほんの少し前までは、私が使えるようになるとは思っていなかったけど。

 かざした杖から光が溢れる。

 

「クリエメイトは渡してもらうよ、おねーちゃん!」

 

 シュガーが両手に動物の肉球のような武器を具現化させてそう言い放つ。周りのクロモンたちも

 クリエメイトがクリエを奪われる事が何を意味するのか分からない以上、ゆのさんや宮子さんたちの為にも、負ける訳にはいかない。

 その思いとともに、杖の光が溢れ出す。

 

 ―――光が消えた時、傍らに立っていたのは。

 

 

「み……宮子様が()()!?」

 

「いや、宮ちゃんだけじゃない! ()()()()()! それに、ヒロさんたちまで……!?」

 

「こんなことってあるの……!!?」

 

「『コール』はこんな事もできるのか……!?」

 

 

 

 オーダーで召喚されている、ひだまり荘の方々だった。

 オーダーされているということは、呼び出されたひだまり荘の皆さんもクリエメイト。そして、コールはクリエメイトの力を借りる魔法。

 だから、彼女たちの力を借りることくらいできるはずである。

 

「お願いします!」

 

「任せたまえー!」

 

 私に喚ばれた方の宮子さんが、クロモンの群れに切り込んでいく。他のクリエメイトたちも、ヒロさんの魔法を中心にクロモン達を薙ぎ払っていく。

 

「うわわわっ!?」

 

 流石のシュガーも、突然ひだまり荘の人達が増えたことに驚き戸惑っている。その隙を見逃す“コールの”クリエメイトではない。

 

「やぁっ!」

 

「食らいなさい!」

 

「ひゃああっ!?」

 

 コールの宮子さんとヒロさんの攻撃がシュガーに入り、幼い体を吹き飛ばす。一瞬、賢者とはいえ子供を吹き飛ばしてしまって大丈夫かと思ったが、すぐさまシュガーが起き上がる。その表情は明らかに不機嫌だ。

 

「もー!なんでそんなに強いの!ずるい! もういいもん、もう帰ってアルシーヴ様に言いつけてやるもん!」

 

 頬を膨らませてそんなことを言ったかと思うと、シュガーは何かを詠唱した。

 

「待ちなさい、シュガー!」

 

「べーっだ! アルシーヴ様ならまだまだクリエメイトは連れてこられるんだから!

―――ゆのおねーちゃん、ありがとうね!とっても楽しかったよ!」

 

「シュガーちゃん。

 あのね、私も嬉しかっ――」

 

「あー、でもこのまま帰るとローリエおにーちゃん置いてっちゃうなあ……まぁいいか!

 ばいばい、ゆのおねーちゃん!今度会った時も舐めさせてね!」

 

「っ!」

 

「そ、そこなの!?

 って消えちゃった………?」

 

 ランプにあっかんべーをし、ゆのさんにお礼を言うと、好き放題場を引っ掻き回していたシュガーは屋敷から姿を消した。一応、賢者を退けることができたようなので、『コール』を解除する。

 

「……転移魔法だろうね。あの幼さでよくこれだけの力を持ってるもんだよ。」

 

「とにかく、これで一件落着かな?」

 

「そうですね……おそらく、このあたりのクロモンを操っていたのもシュガーのはずですから。」

 

 それならば、後は檻に閉じ込められたゆのさんを助けるだけなのだが、宮子さんが力技で開けようとしても開かないほど頑丈なモノだったのだ。鍵を開けようにもシュガーが鍵をかけてそのまま持って帰ってしまったそう。

 

「……え? じゃあ私このままなの!?」

 

「だ、大丈夫! きっと出られるわ!」

 

「どうやってですか!?」

 

「そうだ、きららの力ならどうかな? クロモンみたいにこの檻も消したりできるんじゃないかな?」

 

 

 檻から出られる手段を失い慌てるゆのさんをヒロさんが落ち着かせていると、沙英さんが私の方を向きそんなことを提案してきた。

 確かに、私の力は『伝説の召喚士』と同じとランプから教えられて、その力で実際にクロモン達を倒してきた。でも、この巨大な檻を壊せるかどうかは分からない。

 

「試してみないとですけど……」

 

 そう言いながら、魔力を檻にぶつけてみるが、何の反応も示さない。……ダメみたいだ。

 

「……生命維持系の魔法は作用しているみたいだから中にいることで問題はないだろうけど。」

 

「あ、それはシュガーちゃんとローリエさんも言ってました。この中にいれば何の心配もいらないって。」

 

「……もっと情報がないと。他に、シュガーは何か言ってませんでしたか?」

 

「後は、みんなをこの中に入れて、クリエを奪う、とか?」

 

 ……さっきからランプの様子がおかしい。なんというか、落ち込んでいる、というのは少し違うような気がするけれど、なんというか違和感を感じるのだ。まるで、焦っているかのような、焦るキーワードでもあるかのような……

 

「きらら?」

 

「えっ! な、なに、マッチ?」

 

 考え事をしていると、白い空飛ぶ生き物・マッチに声をかけられる。

 

「話を聞いてたのかい? ほら、あそこを狙ってみようって話だよ?」

 

「ご、ごめんなさい…ちょっと、考え事を。」

 

「まったく……あの光った部分の話さ。」

 

 マッチが顔で示した部分……ゆのさんが入っている檻は上が繋がっており、その中に光っている部分があるのを乃莉さんが見つけたらしい。宮子さん曰わく「いかにも弱点っぽい」ので、私の力で狙ってみようという話になったようだ。

 

「よしっ……今度こそっ!」

 

 乃莉さんが見つけた天井部分にある、檻に繋がれた鎖の光る部分に向かって魔力を放つ。すると、光る部分が魔力によって砕かれ、鎖にヒビが入っていく。更に、そのヒビが檻にまで入っていくと、水晶玉のように粉々に砕け散った。

 

「開きました!」

 

「宮ちゃーん!」

「ゆのっち、ゆのっちーー!!」

 

 ……よかった。ちゃんと、みんなを助けることができて。宮子さんだけじゃなくて、沙英さんもヒロさんも、乃莉さんもなずなさんも、みんながゆのさんとの再会を喜んでいたり、一人ぼっちで心細くなかったか心配している。ゆのさんは、シュガーやローリエが構ってくれたから寂しくなかったそう。

 

「な、なんですかこの量のお菓子は……」

 

「あー、それもシュガーちゃんがくれたんだけど、全部食べきれなくて……ローリエさんも食べてくれたんだけど……」

 

 そうこうしていると、乃莉さんが大量のお菓子を発見したことで、話題が変わる。宮子さんが何も警戒することなくお菓子をつまむ。ヒロさんも沙英さんに促されてなずなさんと共にお菓子を手に取り口へ運んでいく。

 

「ほほう、これはこれは……しっかりとした甘味ですな。これは渋めの紅茶が合いそうだねー。」

 

「や、やっぱりそうだよね! 私がおかしいのかと思っちゃった!!」

 

 

 

「……賑やかだね。」

 

 和気藹々(わきあいあい)としたひだまり荘の皆さんを見て、ひとりそう口にする。まるで、さっきまで戦っていたのが嘘みたいだ。

 

「いいことなんじゃないかな。ね、ランプ?」

 

「…………そうだね。」

 

 マッチの言葉に、ランプが遅れて反応する。やっぱり、さっきから妙な雰囲気だ。

 

「……ランプ?」

 

「ごめんなさい。少し………ちょっと懐かしくなっちゃって。それに……」

 

「それに?」

 

「ああいえ、何でもないです!

 それより、皆様を助けることができて本当に良かったです。これも、きららさんのおかげですね。」

 

 さりげなく聞こうとしたら笑ってはぐらかされてしまった。ランプの笑顔には、まだ違和感が拭いきれないが、それでもひだまり荘の皆さんを助けることができて嬉しいという気持ちに嘘はなさそうだ。

 でも、ランプの違和感の他に私には気になった言葉がある。

 

「さっき、シュガーが言ったこと覚えてる?まだまだクリエメイトは連れてこれるって。」

 

 それはつまり、また、オーダーで連れてこられる人たちが出てくるということ。ならば、オーダーを止めるためにも、私達は神殿に急がなければならない。

 そうマッチに伝えると……

 

「きららは、面倒ごとに巻き込まれた、なんて思ったりしないのかい?」

 

 ……と彼は少し困ったように私に尋ねてきた。

 でも、大丈夫。答えは決まっているから。

 

「これが私のできることだから。

 それに……」

 

「きららさん達も一緒におかし食べようよー、いっぱいあるよー!」

「一緒に食べましょうー。食べながらこれまでのお話聞かせてくださーい!」

 

「はい!」

 

 私を呼ぶゆのさんと宮子さんに笑顔で答えてから、その表情のままマッチに顔を向ける。

 

「――こんな気持ちのいい人達、放っておけないからね!」

 

 心からの想いをマッチに伝え、私は……いや、私達は、ひだまり荘の皆さんとのお菓子パーティーに参加することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いやあああああ!!?」

「な、なに、なずなちゃん!?」

「あ、あ、あそこに……ご、ゴ……!!!」

「うわわわわわ! み、宮ちゃーん!」

「ゆ、ゆのっち!?」

「待っててみんな!今叩くものを……うわあああああ飛んだぁぁッ!!?」

「やああああ!!こっちに来ないでええぇぇぇ!!!」

「さっ、沙英さん、ヒロさん!!?」

「きっきらっ、きら、きららさん、なんとかしてください~!」

「ま、待ってランプ!今肩を揺らしたら狙いが……!」

「し、俊敏すぎる……!」

 

 

 ―――途中、少し…いや、かなり衝撃的なアクシデントに見まわれたけど、大丈夫だろう……多分。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 屋敷の中にいた、ひだまり荘のみんなときらら一行のドッタンバッタン大騒ぎを見届けた俺は、手元にG型魔道具を帰還させてから立ち去ることにする。データはばっちり撮れているだろう。

 ……しかし、シュガーちゃんめ、俺を置いて帰りおって。俺が帰る時のことを考えてないな、あんにゃろーめ。

 俺自身、転移魔法は使えない訳じゃあない。ただ、俺は転移魔法を一度しか使えないのだ。これには、俺の魔法の適正と魔力総量に理由がある。

 魔力総量とは、RPGでいうところの最大MPのようなものであり、アルシーヴちゃんの魔力総量を200とするならば、シュガーちゃんは少なく見積もっても50はある。しかし、俺には20ほどと、シュガーちゃんの魔力総量の半分もない。

 また、魔法の適正とは、きららファンタジアでいうところの属性で、ゲームと同じように炎、風、土、水、陽、月の6属性に別れる。アルシーヴちゃんは月属性、シュガーちゃんは土属性だ。ちなみに俺は陽属性と月属性が半々、その他の属性がちょっととかなり中途半端で、魔法自体と相性が良くない。そのため、アルシーヴちゃんやシュガーちゃんが消費MP1か0かで使える転移魔法を俺が使うとMPを8~15ほど消費するのだ。ドラ○エ9のベホマズンやド○クエ5のルーラ並みに燃費が悪い。

 以上のことから、俺は魔法は使わず、現代武器や体術を軸とした戦い方をしているのだ。

 ちなみにこの理論でいくと、全属性を使いこなせているハッカちゃんの消費MPが凄まじい事になりそうだが、そこら辺は大丈夫なのだろうか?

 

 

 さて、アルシーヴちゃんへの報告についてはまとまったが、やっぱり気になる。オーダーで召喚したクリエメイトを賢者達が回収もとい保護する作戦。詳細は知らなかったようだが、誰かが漏らしたという線は確定だ。放っておいたら絶対ヤバいことになる。

 

 

 そんなことを考えていると、携帯電話から通信が入る。コリアンダーからだろうか。

 

 

「もしもし? こちらローリエ。」

 

『コリアンダーだ。今シュガーが帰ってきたんだが、お前は今なにしてる?』

 

「シュガーちゃんから置いてけぼり食らっちゃってまだ村にいるの。どうしたの?何か写真に写ってた?」

 

『あぁ。すぐに転移魔法で戻ってこい。話がある』

 

「ええっ!? やだよ!俺が転移魔法苦手なの知ってんだろ……あ、切りやがった……」

 

 

 時期的に考えて、写っていたのはおそらくソラちゃん襲撃犯だろう。そうでなければコリアンダーか俺を急かすこともないはずだ。もちろん、ソラちゃん襲撃事件は俺・アルシーヴちゃん・ハッカちゃん三人の秘密。甘~い関係だったら兎も角、事件についてはマジで話すわけにはいかない。

 

 コリアンダーにどう説明するかという苦悩と、今日一杯魔法は使えないなという諦めにため息を一つつきながら、転移魔法の詠唱を始めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 神殿に戻ってくると、すぐにシュガーを見つけた。神殿の外壁に体育座りで寄りかかっている。端から見ていても、アルシーヴちゃんに怒られて落ち込んでいるのがよくわかる。

 

 

「シュガーちゃん」

 

「あ……おにーちゃん」

 

 

 俺が声をかけると、シュガーがゆっくりと顔をあげる。やはり、その表情にはいつものような溢れんばかりの活気は少し翳りを見せている。ちょっとだけ凹んでいるのだろう。

 

 

「今日はおつかれさん」

 

 何か言いたげだったシュガーに先手を打ってそう言った。驚く彼女の隣に腰を下ろし、目線の高さを合わせる。

 

「君一人でよく頑張ったな」

 

「うん。

 ……クリエメイトを逃がしちゃったのは残念だったけど、その分、ゆのおねーちゃんの絵を見たり、ローリエおにーちゃんとお茶会したから楽しかったよ!

 それにそれに、ランプが見つけてきた召喚士のおねーちゃんがね、『コール』使ったの!すごかったなぁ……!」

 

 よく頑張ったな、と付け加えると、シュガーはいつも通りの笑顔を見せる。でも、その顔は作っている感じがどうも否めず、普段の元気に影が差している気がするのは俺の気のせいなんだろうか。

 

「偉いね、シュガーちゃん」

 

 取りあえず一見楽しそうに報告するシュガーを撫でてあげることにする。シュガーは目を閉じて俺のナデナデに身を委ねている。下手な紳士のなり損ないがこの画を見たら間違いなくロリコンに目覚めるほど気持ちのいいリアクションだ。

 

 

「そのポジティブさは才能だよ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。一人で考えを切り替えられるのは一種の才能だよ。中にはね、一度失敗すると一人じゃなかなか立ち直れない人もいるんだよ。」

 

 ――例えば、俺みたいにね……とまでは言わない。

 

「……前を向こう、シュガーちゃん。きっと、なんとかなるはずさ。」

 

 

 俺がそこまで言い終わる前に、シュガーは俺のナデナデから脱出し、いつも通りの自信満々の笑みでこちらを向く。

 

 

「当たり前でしょ! シュガーはね、終わったことをくよくよ考えたりしないんだから!!」

 

 

 なんと頼もしいことか。こりゃ、俺が励ますまでもなかったかな。

 

 

「おおっ! さすがシュガーちゃん、その意気だ! もうナデナデは必要ないかな?」

 

「えー!? 待って! もう少しだけ!お願い!」

 

 

 すっかり元気いっぱいになったシュガーを抱き寄せてナデナデを再開する。感覚は猫や犬を撫でる感じなのだが、これでいいのだろうか?

 

 

 

 

「………ローリエさん?」

 

 

 シュガーを撫で続けていると、後ろから底冷えした声が響く。錆び付いたロボットのようにギギギと振り向くと、そこにはソルトがいた。田中○奈美さんってこんな声出せるのかよ、一瞬誰だか分からなかったわ。そのソルトは目から光を失っており、闇のようなオーラを醸し出していた。なんならオーラだけで人を殺せるまである。

 

「シュガーに何をしているんです?」

 

「お、おい待てソルト、何か誤解を……」

 

「遺言はそれでいいですか?」

 

 マズい。計算高いゆえに俺の合理的な考えに賛同することの多いソルトが今回は聞く耳を持っていない。それどころか、シュガーに「シュガーもシュガーです。警戒心がなさすぎます」とか言っている。逃げ切れなければ確実に殺される。

 

「あ! 今、ケーキが茂みの中へ入っていったぞ!」

 

「えっ!ほんと!?どこどこ!!?」

 

 俺のあからさまな嘘にシュガーが神殿付近の茂みの中へと走っていく。妹が破天荒な行動を取れば、姉であるソルトはそれを追うはず。そうして姉妹で鬼ごっこに興じているうちにサヨウナラ。

 この作戦なら上手くいく、そう思っていたのだが。

 

「クロモン達! シュガーを追ってください!」

 

「「「くー!」」」

 

 ソルトのクロモン達への号令で、作戦失敗を悟った。

 

「作戦にしては稚拙すぎますよ、ローリエさん」

 

「だろうな。だったら……」

 

 俺は懐から閃光手榴弾を取り出し、すかさずピンを抜く。

 

「別の手を使うまでだ」

 

 

 

 突如発生した閃光を背に俺は走り出す。悪いなソルト、俺はコリアンダーから呼び出されてるもんでね。まだ死ぬわけにはいかんのだよ!フハハハハハ!!

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 俺はあいつとの部屋の中で、ある一枚の写真を穴があくほど見つめる。あいつが神殿にいない間、調査を頼まれた写真のうちの一枚だ。

 写っているのは、杖にしては珍しい、ペンほどもない長さの杖を手に持った、ローブに身を包んだ傷だらけの男。それと、そいつに続くように床に垂れている液体のようなもの。

 色合いからして、きっとこれは血だろう。実際にこれほどまでの血を見たことは皆無だが、写真の状況から推測できる。

 

 撮影された時間は、アルシーヴが「女神ソラ様が病気療養をなされた」と発表した日の前日。それも深夜。だが、その翌日には床に垂れている血なんてどこにもなかった。

 

 他にも色々聞きたいが、俺は今からそれを目の前の親友に聞く。ローリエは真剣な表情でこちらを見ているだけで、いつものふざけた言動は見られない。

 

「ローリエ」

 

「なんだい」

 

「一番気になる質問からいこう。この写真に写っている男は誰だ?」

 

 目の前の親友は、まるでその質問をされるのが分かっていたかのように一息つく。寸刻流れた沈黙ののちに、彼が口を開く。

 

 

「アルシーヴちゃんを襲おうとした野郎だ」

 

 

 その言葉は、なるほどと説得力のあるものだった。確かに、筆頭神官になる前のアルシーヴは、神官の身でありながら破竹の勢いで悪を挫いてきた女性だ。悪徳神官を決闘で打ち負かすなんてよくある話だった。まさに文武両道を絵に描いたような存在である。

 

「動機はただの逆恨みだった。よくいるよな、自分のことを棚に上げてまず人のせいにする鋼入りの誰か(スティーリー・○ン)にも劣る小悪党ってよ」

 

 ゆえに、ローリエの言うとおり逆恨みをされることも少なくなかったらしい。

 しかし………何故だろうか。

 なぜ、ローリエの言っていることに「そうか」と納得できないのだろうか。あと鋼入りの誰か(スティーリー・ダ○)って誰だ。

 

 

「写真では深手を負っている。その理由は?」

 

「アルシーヴちゃんが対応する前に俺が追い払ったからだ。少々、手荒な門前払いをしたがね」

 

「床の血痕はどうした」

 

「奴にお帰り頂いた後、俺が掃除した。血痕あったらみんな驚くだろ?」

 

「コイツは深夜に来たと思われる。お前はそれに会ったというのか?」

 

「その日の朝にソラちゃんに相談されたんだ。嫌な予感がするってよ。それで、見回りしてたらばったり会った」

 

 

 こんな感じでしばらくローリエに質問したが、嘘は言ってないようだった。長く付き合いだから分かるようなものなのだが、コイツは嘘をつく時、話す相手の目を見ないのだ。話し相手の首か胸のあたりや、額の部分を見たりするため、違いがほとんどなく、付き合いが短いと見抜けない。

 

 今回のローリエには、そういったサインが見られなかった。つまり、少なくとも嘘はついていないということ。でも、隠し事をするために()()()()()()()()()()()()()

 

 

「本当の事を言え」

 

「さっき言ったことが本当のことさ。何ならアルシーヴちゃんにでも聞くといい」

 

 

 まっすぐ見てきたアイツの言葉を聞いても、尚真実として受け入れられそうにない。常識外れの発明を当たり前のように行うローリエの考えている事が、今回ばっかりはローリエの親友たるコリアンダー(おれ)をもってしても分かりそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけましたよローリエさん」

「ぎゃああああ!!ソルト!!?」

「さぁ、覚悟はできてますね?」

「やめて!!神様仏様ソルト様許して!!!!誤解だからー!!!!」

「問答無用ッ!!!」

「ひぎゃあああああああ!!!?」

 

 

 ………前言撤回。ソルトに何かしたから報復に怯えてただけだな、コイツ。

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 きらら達を見守ったりG型魔道具を回収したりシュガーと仲良くなったりソルトに誤解されたりした男。今回のお話は1章から2章へのクッションストーリーなので目立った活躍はない。ただ、何者かによる情報漏洩の件は重く見ている。

きらら&ランプ&マッチ&ひだまり荘一行
 無事に原作通りシュガーを退ける。原作との違いは、ローリエが記録のためG型魔道具を設置したために、なずなに見つかったことがきっかけで大混乱に陥る。ひだまり荘の中にGに耐性のあるキャラがいたら申し訳ないが、作者が不勉強な者で、Gが平気なきららキャラはひでりくんしか知らないの。

シュガー
 フレンドリー過ぎて全国の□リコンに狙われそうな賢者。彼女の性格からして、アルシーヴの頼みを果たせなかったのは申し訳ないと思っていても、落ち込むことはないだろうと思い、当初考えていたプロットをちょっと修正した。エネルギッシュな子は土壇場でプロットを狂わせるからちょっと扱いづらいけど、書いてて楽しかったから、また出したいところ。

ソルト
 自身の妹を捕まえていたローリエ(ソルト目線)を見て、一時的に殺意の波動に目覚めた賢者。公式設定でシュガーがフランクすぎて隙だらけだから彼女をカバーするような性格になった(要約)とあるので、ちょっと優しくすれば懐いてしまうシュガーが心配でもあると考えた。つまり、シュガーに手を出した(またはそう見なされる行為を行った)場合、確実に殺意ソルトから折檻されるということだろう。

コリアンダー
 ローリエに写真整理を頼まれたので、またしょうもないスケベ行為かと思ったらマジだったと判明し戸惑う男。ちなみに、コリアンダーは神殿の事務員とあんまり立場的に偉くないので、ソラの病気療養を信じきっている。しかし、察しが良いのでローリエ次第で真実に辿り着くかもしれない。取りあえず今回はソルトに救われる形でローリエは不信度アップを免れた(代わりに肉体的にひどい目に遭ったけど)。


ベホマズン&ルーラ
 某有名RPGの全体完全回復魔法と転移魔法。基本的に消費MPはそれぞれベホマズンが36、ルーラが0or1となっているのだが、ドラ○エ5のルーラの消費MPは8、ド○クエ9のベホマズンに至っては消費MPが128ととんでもない下方修正を受けていた。これには作者も誤植を疑ったほど。今回は消費MPが多いことの例えに持ち出されただけである。

鋼入りの(スティーリー・)ダ○
 ジョジョ3部に出てくる、宿敵DIOに金で雇われた刺客。弱きに強く、強きに弱い男で、主人公の仲間を人質に取った後の言動はクズそのもの。詳しくは3部アニメの「恋人(ラバーズ)」を見るべし。


△▼△▼△▼
ローリエ「はぁ~あ~~痛いなぁ~もう。ソルトはシュガーが絡むと手加減しないよな」
ソルト「当然です。シュガーはフレンドリーなのに悪意に鈍感すぎるんですよ」
ローリエ「こっち見て言うなや。さて、お次のオーダーの場所は海が見える港町だ!待ってろよ、凪の海と潮風が似合うもっこり美人ちゃん達、そしてセサミ!みんなまとめて抱i……」
ソルト「制裁が足りませんでしたか」

次回『百合の潮風』
ソルト「絶対見てくださいね」
▲▽▲▽▲▽


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エピソード3:続きから▷港町~八神コウ&りんの結婚式を邪魔するな編~
第15話:百合の潮風


“今日も一日がんばるぞい!”
 …デデデ大王 涼風青葉


 アルシーヴちゃんに『盗賊は蹴散らしたけど口封じされた』事と『盗賊のバックに誰かがいる』事を報告してから数日。俺は、いつも通りの教師の仕事をしつつ、教材研究のために図書館に籠もる、そして森の中の射撃場に通うといった、教室と図書館と射撃場を行き来する日々に追われていた。

 

 ……ここでの『追われていた』は過去形である。

 

 実は先程、とんでもない光景を見てしまったからだ。

 

 別に某高校生探偵のように麻薬取引現場を見たとかじゃない。ただ、図書館の扉を開けただけなんだ。

 

 

 

「も、申し訳ございません、アルシーヴ様!!」

 

「問題ない。フェンネルこそ、大丈夫か?」

 

「な、な、何ともありません!!」

 

 

 そこに広がっていたのは、散らばった本の真ん中で、アルシーヴちゃんを押し倒していたフェンネルだった。

 アルシーヴちゃんは押し倒されたにも関わらず、平気な顔を……いや、慈母のような笑みさえ浮かべてフェンネルの肩に手を乗せた。それとは対照的に、フェンネルは恋する乙女のように完全に赤面しており、慌てふためいている様子であることが図書館の入り口からチラッと見ただけで分かった。

 

 俺はすぐさま扉を閉めた。

 まさか、アルシーヴちゃんとフェンネルがそこまで親密だったとはな。二人の表情と言動からしてアルシーヴちゃんが攻め、フェンネルが受けだろう。……意外だ。俺は相手がソラちゃんにしろ俺自身にしろ受けのアルシーヴちゃんしか見たことがなかった。あんな余裕綽々な攻めアルシーヴちゃんも悪くない。

 更にアルシーヴちゃんには、ソラちゃんという親友(恋人)がいる。それなのにフェンネルに手を出すとはな。アイツもなかなかのスケコマシじゃあないか。

 

 ……後で盛大に祝ってやろう。

 

 その後、「アルシーヴちゃんとはどこまで進んだ?」とフェンネルに聞いた所、顔を真っ赤にしながらレイピアを振り回した彼女に追いかけ回されたのはご愛嬌である。

 

 

 

 

 そういったことは置いといて。

 この前のコリアンダーには肝を冷やされた。ソラちゃんの襲撃犯の写真を見られたのはかなりマズかった。幸いアルシーヴちゃんの部屋での写真は渡してない……というか撮ってなかったから良いものの、危ない所まで踏み込まれ、尋問された。もしバレたらアルシーヴちゃんから何をされるか分かったもんじゃない。

 写真の解析をコリアンダーに頼んだのは失敗だったのかもしれないと、ため息を一つ。

 

 

「……ローリエ?」

 

「あぁ、アルシーヴちゃん。コリアンダーの件は口裏合わせてくれてありがとよ。」

 

「別に構わないんだが……せめて事前に一言欲しかった」

 

「ソルトにボコられててそれどころじゃあなかったの」

 

 

 ソラちゃんの部屋にて、アルシーヴちゃんと二人きりの俺は、本来なら指令の通達を受けるだけだったのだが、先日のコリアンダーの件で意外と長く話し込んでしまっていたようだ。

 

 

「それで、今回の指令は何だい?」

 

「港町にてオーダーを行う。クリエメイトの捕獲はセサミが担当する。ローリエにはセサミの補助と“例の件”の情報収集を頼みたい。」

 

 “例の件”とは、言わずもがな、ソラちゃん襲撃犯の件である。シュガーの時に殆ど情報を得られなかったので、引き続き全ての事情を知る俺が捜査役に選ばれたのだ。ハッカちゃんは原作通り、夢幻魔法という危険な魔法を使える以上、むやみに神殿の外へ出せないようだ。

 

 それにしても、セサミと二人きりか……

 よし抱こう。

 セサミとは図書館で(事故とはいえ)ロケットボインをゲットしてしまった日からあまり会話出来ていない。俺の鍛え上げたコミュ(りょく)マスタリーで口説き落とし、ヨリを戻して、二人で熱い夜を過ごそう。

 

 

「…今回は、コリアンダーも同行させる。」

 

「……え?何で?アイツ非戦闘員じゃなかったっけ?」

 

「戦闘の心得が全くないという訳ではない。コリアンダーも賢者達ほどではなくても戦えるはずだ。

 ……それに、猫に鰹節を食べられないように監視役も必要だろう?」

 

「どういう意味だ。俺がセサミに手を出すとでも思ったのか?」

 

「よく分かったな、その通りだ」

 

 

 ちくせう、と俺は心の中で頭を抱えた。モチベーションが70%低下した。

 あ、そうだ。忘れるところだった。

 

「アルシーヴちゃん、フェンネルがまた慌てた時は頭を撫でてやるんだぞ?」

 

「…? ああ、わかった……だが何故?」

 

 あ、コリャ分かってないな。アルシーヴちゃんに春が来るのは当分先だね。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 港町。

 それは、数多の船が行き着く所にして、あらゆる情報が流れる場所。地球でも、貿易を通してヨーロッパを中心に栄えていった。特にナポリは歴史的栄華の跡が伺える南イタリア最大の都市となっており、その風光明媚な景観は「ナポリを見てから死ね」とまで言われるほどだ。

 エトワリアの港町も、そのようになる可能性を持っている。住む人次第でナポリのような「死ぬ前に一度は見てみたい景観を持つ街」になるだろう。

 

 今回の俺とコリアンダーの指令とは、そんな港町にてセサミと合流し、クリエメイトとソラちゃん襲撃犯の情報を同時に集めること。まぁシュガーの時とほぼ同じだ。

 

 

「それで、何だコレは?」

 

「強盗……だと思うんだが……」

 

 

 その港町で俺達を待ち受けていたのは、地べたに寝転がる人々、並ぶ街中の一つにあるドーナツ屋を占拠?しているだらけた強盗、受付によりかかる女店主に、人質らしき僧侶姿の女性だった。

 

 

「あー……なんだ、その……金を出せぇー…じゃないと………わかるっしょ?口で説明すんのめんどいしぃ……」

 

「好きにしてください……動きたくないので……」

 

「何言ってるんですか! 駄目に決まってるでしょう!」

 

 

 どう考えても脅す気のない強盗の投げやりな要求に、好きにしろと言う女店主。そんな怠惰な状況に人質でありながら唯一声を張る僧侶姿の女性。というか一番最後の女性の姿と顔、そして優しく包みこむようなかやのんボイスに覚えがあるんだけど。

 

 

 遠山りん。

 アプリでは第2章にて登場。オーダーで呼び出されたイーグルジャンプの社員の一人にして、青葉たちのまとめ役のお姉さんだ。あとコウの恋人。つまり……彼女はクリエメイトということになる。俺達は彼女を保護しなくてはならないワケだ。

 ただ、強盗がものすごくアレなのでかなり簡単に助けられそうだけど。

 

 

「なぁ、おっさん? なんか気だるそうだからさ、強盗なんかやるよりもっと楽に食っていける場所を教えようか?」

 

「あ、ほんとぉ? なんかさ、働くのが面倒くさくなっちゃってさぁ……こんなことしてみたんだけど、やっぱり面倒でさ……で、どこなのぉ?」

 

「牢獄の中だ。あそこなら、働く必要もないだろ?」

 

「そうだねぇ……じゃあ、そうしようかなぁ……めんどくさいけど……」

 

 

 重い足取りで立ち去っていく強盗。なんというか、オーダーの影響が強力で助かった。

 この港町でのオーダーの副作用は「大人が全員、働く意欲をなくすこと」。町中の人という人がだらけてしまい、働かなくなるのだ。そして、その怠惰性を治すためには、「その人の働く理由を思い出させる」必要がある。

 さっきの俺の強盗への誘導は、おそらく強盗が労働じゃないからああなったんだろう。きっと、あの人には別に仕事があったが、数日前あたりにリストラされた、ってところか。可哀想な人だ。

 

 

「……………あの、お怪我、ありませんか?」

 

 強盗が交番へ赴くのを見届けていると、コリアンダーが口数少なめに遠山さんに話しかける。お前、女と話すの得意じゃないのに無茶すんなや。

 

「私は大丈夫です。……おふたりは?」

 

「俺はローリエ。こっちはコリアンダーだ。」

 

「……よろしく。」

 

「良かったら、俺達の拠点へ行きがてらこの世界についてお話しましょうか?」

 

「お、おい……」

 

「あぁ、ありがとうございます。私、遠山りんと言います。」

 

 

 そして、遠山さんにエトワリアの事を色々と話しながらセサミとの合流地点である、海辺に見えるコテージへと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 コテージの中では既に、いつも通りのあぶない恰好をしたセサミが椅子に座って待っており、奥の部屋の半開きになった扉の向こうのクリエケージの中で八神コウさんが珍しく下を脱いでない格好で眠っていた。

 

「コウちゃんっ!!」

 

 遠山さんは彼女を見つけるなりクリエケージに駆けつけて檻を掴む。セサミがクロモン達に命令して遠山さんを捕まえようとしているのが聞こえる。クロモン達が迫ると遠山さんは捕まるまいと逃げようとするが、コリアンダーもクロモン達と一緒に逃げ惑う遠山さんを追いつめる。

 

 俺は、はっきり言ってこのやり方は好きではないし、やりたくもない。理由は3つ。

 1つ、単純にきらら漫画の登場人物達にひどいことはできないから。前世からきらら系の漫画を読んでいた俺には、彼女たちへの愛着が湧いている。心境的にはランプに近い。だから彼女たちを傷つけたくない。

 2つ、クリエケージでクリエを奪った結果、クリエメイト達に起こる悪影響が予想できないから。エトワリアにおいて、クリエは命そのものと言っても過言ではない。そんな世界でクリエを生み出す者(クリエメイト)がクリエを奪われたらどうなるかが、アプリでは言及されていなかった。二度と元の世界に帰れなくなるとか、命がなくなるとかいう悪影響だったら笑えないからだ。

 3つ、この「きららファンタジア」の物語の結末を知っているから。最後は、ランプがオーダーで召喚されたクリエメイト達との交流を書き留めた日記が聖典となり、呪われたソラちゃんとクリエ枯渇寸前のアルシーヴちゃんを救う、という事を俺は知っている。ここで全員捕まえてクリエ回収を成功させるよりも優しくて、誰も不幸にならない方法だ。

 

 

「ローリエ! ぼさっとするな!遠山りんを捕まえろ!」

 

 

 そんな苦悩も知らずに、コリアンダーは俺を怒鳴る。何もしていない様に見えたのだろう。遠山りんも、息を切らしながら、かろうじてクロモン達から逃げられているが、捕まるのも時間の問題だろう。

 だが俺も、親友に発破をかけられた以上、仕事をしない訳にはいかなくなった。

 

 

 

 ――仕方なく、懐から「パイソン」を取り出し、誰もいない方向の窓に向かって威嚇射撃を放った。

 

 

 

 バァァン、という発砲音とパリン、というガラスの音がコテージ内に同時に響く。

 その音に、遠山さんは顔を青ざめ、動きを止めた。クロモン達も、コリアンダーも、セサミも皆同様に動きを止める。イーグルジャンプにはサバゲーの達人(うみこさん)がいる。俺のマグナムでの威嚇射撃は効果抜群であることも確信していた事だ。そして、日本ではそう簡単に実銃は手に入らない。遠山さんへの心理的ショックは容易に想像できた。

 

 

「遠山さん、俺はこういうことはしたくなかったんだ」

 

 そして、自発的に静寂を破る。慎重に話しかけて落ち着かせなければ。

 

「この世界には魔物が当たり前のようにいると言ったはずだ。中には簡単に人間を殺せる奴もいるということも、そいつらが町に入ってこないとは限らないことも。」

 

 俺はマグナムを懐のホルスターにしまって続ける。

 

「俺達は基本的にイーグルジャンプの皆に危害は加えない。魔物や不審者からも守ると言った。でも、もしそれが聞けず、好き勝手に行動するというのならば……君らの安全のため、こういう手段を取らざるを得ない。

 信用はされない行いだと分かっている。だから信用しなくてもいい。でも………分かってほしい。」

 

 遠山さんは答えるかわりに、八神さんがいる奥の部屋に入っていった。きっと納得はしていないだろう。でも、シュガーの時にもゆのっち達を狙う盗賊たちもいたからな……あながち嘘ではない。

 

 

「驚きました、ローリエ」

 

「何がだ、セサミ」

 

「あなたは、もっと女性に優しいと思っていました」

 

「優先順位と合理性の話だよ。俺だって女性に銃は向けたくない。さっきも、関係ない方向に撃ったの見たろ。

 俺はただ、アルシーヴちゃんからの任務を守っただけだ」

 

 日本人は平和ボケと某法律のせいか、銃の脅しに弱いという点を突くのも合理的だしな。

 

「あんまり俺を見くびった言動をするとまたおっぱい揉むぞ」

 

「触ったら制裁ですからね!」

 

 

 もう知りません、とセサミはそっぽを向いてしまった。

 そこにアルシーヴちゃんがちょうどやってきて、ローリエお前またセサミにセクハラしたのかと問いただされた事は割愛したい。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 コテージに入った瞬間での出来事を整理するのに、幾分かの時間を要した。

 コウちゃんが捕まっていたこと。布地の少ない水着を着た青い髪の女の人に命令された黒い小動物が私を捕まえようとしたこと。コリアンダーさんとローリエさんが掌を返したように急に私を捕まえようとしだしたこと。そして……

 

 

『遠山さん、俺はこういうことはしたくなかったんだ』

 

 

 ローリエさんが威嚇射撃をしたこと。あれはきっと、うみこさんがコウちゃんにからかわれた時の仕返しで使うようなモデルガンじゃないだろう。

 どうしてあんなものを持っているのか、どうしてあんな事を言いながら威嚇射撃を放ったのか、といった疑問もあるが、それより私はこの檻の中、コウちゃんと二人きりでいて、どうなってしまうのか不安だった。

 

「あぁりん、いたんだぁ~」

 

「いたんだぁじゃないよ! 私達捕まっちゃったのよ!どうするのよ!」

 

「私だって焦ったよ。でも、この檻からどうしても出られなくってさ。あれこれ試しているうちになんかめんどくなって……」

 

 そんな不安があるはずなのに、コウちゃんはそんな不安を感じさせない様子でだらけていた。少し様子がおかしいが、この状況はまずい。コウちゃんがこういった状態にどうするかは知っている。

 

「ねぇりん、脱いで良い?」

 

「駄目に決まってるでしょ!! 今の状況分かってるの!?」

 

「いいじゃぁ~ん! 海が近いのか、ちょっと暑かったし、いいでしょ~! ね、りん?」

 

「もおぉっ、さっきと違って何で脱ごうとする時だけそんな元気なのっ!?」

 

 私の制止も聞かずに、ズボンを脱ぎ始めるコウちゃん。それをなんとかやめさせようとしているが、時間の問題だ。捕まっているというのに、こんな格好誰かに見られる訳には……

 

 

「………ええと、お取り込み中でしたか?」

 

「きゃああああっ!?

 い、いきなり入ってこないで!」

 

「おいセサミ、お前礼儀がなってなさ過ぎるぞ! 百合CPの部屋に入るときはまず……」

 

 

 扉から顔を出すローリエさんと、セサミと呼ばれた青髪の女性と目が合う。

 

「ノッ……ク………を………」

 

 つまり……この二人にコウちゃんのあられもない姿が見られているということで……

 

 

「で、で……」

 

「あぁ! みなまで言わずとも良い、遠山さん!」

 

 

 私の悲鳴を遮るように声を張って何かを語りだしたのはローリエさんだ。

 

 

「我々は妖怪『イナイ・イナイバー』!

 ある時は存在し、またある時は存在しない、稀有な幻のポケ〇ン!!」

 

「自分でポ〇モンって言っちゃったよ」

 

「その実君らでマイサン(My son)がフィーバーするイケナイ生き物さ。

 さて、疑いが晴れた所で続きを鑑賞するとしようか。

 ―――ポップコーンください」

 

 現在進行形で疑いが確実なものになっているローリエさんは、どこからかイスを取り出してそこに座り、手足を組んでそんなことを言っている。……まさかここに居座るつもりなの!?

 ……これを見ている私の目は据わっていることだろう。〇ケモンのくだりでツッコんだ隣のコウちゃんも目から光が消えていたから。

 

「コーラもつけて、携帯電話の電源はオフに、館内禁煙、上映中はお静かに、撮影禁止。

 どんなに足が長くても、前の席は蹴らなイダァ!!?

 

 映画館の本編上映前に出てきそうな注意を口頭で暗唱するローリエさんを、セサミが後ろからイスごと蹴り飛ばす。なんというか、破廉恥な格好をしているが常識は持ち合わせているのかもしれない。

 

「何がやりたいんですか貴方は。ここは劇場じゃあないんですよ」

 

「セサミお前! せっかく『百合CPを覗いたのがバレちゃった時のフォロー』をしたというのに!!」

 

 

「あの、何もフォロー出来てなかったんですけど…」

 

「失礼……いえ、私は捕虜の貴方にそう言われる理由も無いのですが。

 それにしても、八神コウは、いつもそんな恰好を……?」

 

 自分だけ常識人ですよみたいな、そんな強調をしつつ、セサミにコウちゃんについてそう聞かれた。なんとか誤魔化さなくては。

 

「い、いつもじゃありません、たまにですっ! ほら、もう脱げかけちゃってるじゃない!」

 

 コウちゃんのズボンを直していると、更にこんな質問をしてくる。

 

「たまに……その、込み入ったことを聞きますが、下着の露出が趣味とか?」

 

「コウちゃんを変質者にしないで!!」

 

 とんでもない誤解を大声で打ち消す。

 でも、コウちゃん、会社で寝る時はいつもあんな恰好してるし……

 

「少しだけ………そうなのかも………。」

 

 声に出てしまった。しまったと思ったがもう遅い。

 

 

「……破廉恥な人なのですね。」

 

 

 セサミが何とも言えない表情でそんなことを口にした。

 コウちゃんにはもう少し女の子っぽくして欲しいけど……

 

 

 

「あなたみたいな格好の人が言わないで下さい!!」

「あんたみたいな格好の人には言われたくないかな~。」

「お前がソレを言うな、セサミ!!」

 

 

 三人のツッコミがコテージ内に響き渡る。

 賢者について、何も分からなくなってきた気がする。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 セサミやコリアンダーと共に、遠山りんを保護した百合豚。百合CPにおける彼自身の思想はかなり過激で、お膳立てするだけして、見れるだけ見る、といった業深く罪深い信条を持つ。ただ、「百合に男の入る余地はない」といった、百合の基本はおさえている(つもり)。また、同性愛にも寛容で、エトワリアで同性愛を認めるべきとも思っている。

アルシーヴ
 無自覚タラシ筆頭神官。フェンネルと図書館でぶつかっただけなのに、ローリエに百合CPを組まれ、余計なアドバイスを貰ってしまった。きららファンタジアが公式で恋愛ゲームを出す場合は、アルシーヴを操作し、七賢者を主に攻略していく形になるだろう。隠しキャラは勿論ランプで。

コリアンダー
 戦闘要員として出したつもりが、町中の人々がだらけ切っていたためにいい出番がもらえなかったオリキャラ枠。今回も女性が苦手という設定を深めただけになってしまったかもしれない。活躍はもう少し待ってほしいのじゃ。

セサミ
 原作第2章のボスたるアルシーヴの秘書兼八賢者。ローリエとはエロと制裁で軽口を叩きあう仲だが、ローリエ自身は満足していないようで、更なる親密度アップを図ったが、ガードは固い。全く関係ない話になるが、あぶない水着シリーズはやはり11以前の許されていた時代が好みなのだが、11の水着デザイン変更には許される許されないの他に、需要の問題もあるのではないだろうか。

八神コウ&遠山りん
 原作通り囚われの身となった公式百合CP。作者の得能先生も、コウとりんは意図的に百合として描いているという。原作では言及されていなかった、りんが囚われるまでを書いた。コテージに入ってからはローリエに振り回されたため、今回一番不憫なポジションなのは間違いない。


new game!
 得能氏が連載している、4コマ漫画。やる気溢れる新人・涼風青葉、無口だがネットでは饒舌な同僚・滝本ひふみ、ズボラでセクシャルな上司・八神コウ、お調子者な同僚・篠田はじめ、関西弁を話す庶民的同僚・飯島ゆんといったイーグルジャンプ社開発メンバーを中心に構成されるワーキングコメディ。「がんばるぞい!」といったフレーズや魅力的なキャラクターで社会現象を巻き起こした。



△▼△▼△▼
ローリエ「さて皆さん、百合の潮風、いかがだったかな?この後はだらけ切った住人達を叩き起こして、例の情報収集の時間だ!コリアンダーは帰ってていいよー!」
コリアンダー「ダメだ。お前とセサミを二人きりなんて、世界一安心できん」
ローリエ「だったら、手伝ってくんない? 情報収集はもちろん、きら…召喚士達の確認にコウりんの結婚式の準備、クリエケージの調整。仕事は山盛りなんだからな?」
コリアンダー「ああ、わかっ……待て、今なんて言った?」

次回『なにイロコンパス?』
ローリエ「見てくれよな~!」
コリアンダー「ま、待て!待てってば!」
▲▽▲▽▲▽

あとがき
平成最後、書ききった!!!!
前書きの台詞が陛下ボイスで再生された方はきっと私と同世代。
あと、星5シャロ千夜が当たらないのはバg……ゲフンゲフン、まだチャンスはあるからな!!


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第16話:なにイロコンパス?

“全ては『できる』って信じることから始まる。例え蜘蛛の糸並みに細いチャンスでも、最初(ハナ)から諦めて手繰り寄せることすらしなかったら何も起こりはしない。
 教育も同じ。自分(テメエ)を信じられずに生徒を信じられないし、生徒を信じられないと教師なんてやってられねェ。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第3章より抜粋


「セサミ、ちょっと頼みがある」

 

 遠山りんとローリエの無茶苦茶なやりとりがあった後。

 彼は私にそんなことを言ってきた。はっきり言ってローリエからの頼みなんて想像する限り嫌な予感しかないのでとっととつまみ出したいのが本音ですが。

 

「魔法を効率よく使う方法を教えてほしい」

 

 そう思っていた私に彼がしてきた頼みは、予想外のものだった。

 

「どうしたんですか、いきなりそんな事を聞くなんて」

 

「まったくだローリエ。お前、変なものでも食ったか?」

 

「張り倒すぞお前ら。俺だっておふざけ一辺倒じゃないの。」

 

 そう言ってローリエが説明しだす。なんでも、転移魔法を一回しか使えないのが悩みだという。自身の属性が曖昧な上に魔力の総量も少ないことが魔法を使いにくくしているのだというのだ。そこで彼は魔法が得意な賢者達に教えを請おうと考えたのだそう。

 

 

「いいんですか、私で? アルシーヴ様の方が魔法の技術はありますし、女神候補生の教育をしてるのもアルシーヴ様でしたが……」

 

「あいつにはもう根掘り葉掘り聞いたよ。属性は兎も角、魔力総量は個人差があるからどうしようもないんだと。俺個人としては心許なさすぎる魔力総量を何とかしたいんだがな」

 

 

 魔力総量は、人が魔法を使うために補充できるクリエの総量である。これは、それぞれの生まれつきによるものがとても大きい。私もまた、幼い頃から魔法を覚えるのには苦労していても、覚えた魔法を使うことに苦労した記憶はない。……ゆえに、私はもう一つの方法を彼に提案した。

 

 

「ローリエ、やはりあなたの属性を一つに絞った方が早いのではないですか……?」

 

「ええっ! エトワリアに最大MPの増加ないの? ふしぎなきのみくらいあってもいいだろ!?」

 

「不思議な木の実?」

 

「食べると魔力の総量がアップする、みたいな……」

 

「ある訳ないでしょう、そんなの」

 

 

 頓珍漢なたわ言を一蹴する。大体、そんな木の実があったら神殿の書庫の数冊にそれについての本があるはずです。記録がないということはつまり……魔力総量ばかりはどうにもならないということ。

 

 

「アルシーヴちゃんにも同じこと言われたし……やっぱ属性を絞ることしかないのか?」

 

「そもそもなぜ『魔力総量を上げる』という発想に拘るんですか」

 

「簡単なことだよセサミ。もし魔力総量を上げる方法が見つかれば、エトワリアの魔法は更に発展する」

 

 

 ふと思いついた疑問に、さも当然であるかのように答えてみせた。その時のローリエの目は、いつものちょっとやらしい目つきやふざけた気配が消え失せ、まっすぐ撃ち貫くかのように私の瞳を覗いていて、オレンジと金色のオッドアイに引き込まれそうになる。

 

「まず『魔法がどれだけ使えるか』で起こる差別は減るだろう。俺自身、経験したことだ。『魔法は使えないのに』って遠巻きに陰口叩かれてたっけ、コリアンダーと仲良くなる前は。でもまぁ、俺のケースはマシな方かな。」

 

「マシな方だと?」

 

「ああ。酷い時は、イジメが発生して、それがエスカレートして被害者を殺す、なんてことが起こり得る。」

 

「なっ……!?」

「はっ……!?」

 

 コリアンダーが魔法での差別云々に切り込んでいくと、ローリエが衝撃的な答えを返す。コリアンダーも私も、言葉に詰まってしまう。

 イジメで人殺しなんて、そんなことがあるとは到底思えない。でも、ローリエの口ぶりはまるでそういった出来事を見てきたかのような確信に満ちていた。どんな人生を送ったらこんなことが言えるのだろう。なんて言っていいか分からずにいると、ローリエは「他にも」と流れを打ち切って話題を変える。 

 

「更に強力な魔法も開発できるだろう。魔法工学に発展も望めるだろうな。 ………あ、それはそれで『魔法開発のためなら命はどうでもいいのか』みたいな別問題が生まれそうだなぁ……」

 

 私とコリアンダーを置き去りにして、一人で勝手に考察を進めていくローリエ。流石、私と同じ地位にまで登りつめただけあって画期的な発想を持つといったところだろうか。

 

「ローリエ、お前は魔力総量を上げる魔道具を作ろうと思ったことはないのか?」

 

「……!!

 なる程、手段が見つからないなら作ればいいってことか。」

 

「い、いや、なにもそこまで本気にしなくても……」

 

 コリアンダーの冗談半分な助言に何かを閃いたように表情が明るくなるローリエ。私には理解できません。

 

「無謀です! 今まで成功した試しがないというのに、魔力総量を増やす手段を探すなんて!」

 

「セサミ。確かに、道のりは厳しいものだ。君はそれを分かっていて言っているのだろう。もしかしたら、魔道具どころかヒントすら掴めないかもしれない、俺のやることが無意味になるかもしれない、と思っているんだろう?」

 

「だったら……」

 

「でもね、全ては『できる』って信じることから始まるんだ。例え蜘蛛の糸並みに細いチャンスでも、最初(ハナ)から諦めて手繰り寄せることすらしなかったら何も起こらん。

 教育も同じ。自分(テメエ)を信じられずに生徒を信じられないし、生徒を信じられないと教師なんてやってられねえ。」

 

 これでも俺はアルシーヴちゃんと同じ教師なんでな、と席を立って笑う彼からは意図やふざけた気配など感じなかった。でも、一瞬だけ、影を落としたような表情になり、それが私に違和感のようなものを残していった。一体、そんな顔をして何を考えているのか。

 

「何を考えているのですか、ローリエ……」

 

 その言葉をやっと口に出した頃には、私以外誰もいない空間に、半開きのコテージの出入り口から潮風が穏やかに吹き込んでいた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「しかし、かったりぃ~~町中の情報収集とかよ~。」

 

「お前なぁ、これはお前が言い出した事だろうがよ。いくらかったるくても何とか頑張ってくれ」

 

 

 セサミとの魔法談義から数分。

 俺達男タッグは、だらけた町へ繰り出して情報収集をすることになった。本来はもっとセサミと話をしたかったがアルシーヴちゃんに窘められた以上そうも言ってられない。でも全くといっていいほど気が進まん。俺もオーダーの影響を受け始めたのか?

 

 だとしたらマズい。こんな時に寝落ちなんてしたらやりたいことができなくなる。正気を保ってる今のうちに俺の「働く理由」を繰り返し暗唱し定着させなければ……!!

 

 理由……

 

 俺の働く理由……

 

「はぁ……神殿内でハーレムを築く…神殿内でハーレムを築く…神殿内でハーレムを築く…筆頭神官と同僚(賢者)と女神でハーレムを築く…!!!……あとハッピーエンドを目指す…

 

 おお。思った通り、だんだんダルさとか面倒くささとか、そういった怠惰な感情が抜けていく感じがする。アプリで答えを知っていたとはいえ、これで寝落ちの心配が無くなったのはデカい。

 

「おいローリエ、お前さっきから欲望がダダ漏れだぞ」

 

「コリアンダー、俺は至って真面目だ。」

 

「動機がスゴく不純だったが」

 

「寝転がってる町の連中の仲間入りをしたくなければ同じようにしろ」

 

「意味が分からん……」

 

 そうほざくコリアンダーに俺は説明をしておく。オーダーの副作用で町の人々の「働く意欲」が失われているのだとしたら、俺達にもその副作用が降りかかりかねない。それを予防するためにも、自分の働く理由を口に出して再確認させることが予防に繋がるのだ、と。

 一通り説明をするとコリアンダーは一応は納得したのか少し考える素振りをすると、自身の働く理由を口にしだした。

 

「金を稼ぐ……金を稼ぐ……おぉ、確かにやる気が復活した気がするな。」

 

 金ってお前……夢がなさすぎるだろ。そんなことを思っていたら、口に出していたのか、コリアンダーから「やりたいことを見つけた時の為の貯金だよ」との返事が返ってきた。まぁ確かに、何かやることが見つからなかったらまずは金を稼げと前世(日本)でも言われてたからな。今世(エトワリア)でも一緒という訳か。

 

 

「ところでお前、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 視界外からの鋭い視線を感じたことで、俺はまた失敗したと悟った。彼が言わんとしていることはつまり、「なんでオーダーの副作用とその予防法を知ってたの?」ってことだろう。下手な嘘は見抜かれる。

 

「俺はただ、町の人々の様子から考えられる推論を述べただけだ」

 

 前を見たまま、コリアンダーの方を向かずに答えて、「さぁ、早く聞き込み再開すんぞ!」と無理矢理会話を中断した。不安しかないが、こういうごまかし方以外この時点では思いつかなかった。

 

 

 

 

 

「お姉さん、何ボサッとしてるのさ。さぁ立って」

 

「おっさん、働かないと生活できないぜ」

 

「そこのお嬢さんも、仕事してやりたいことやるんじゃないのか?」

 

「仕事の後に何かご褒美でもあるんだろう、兄さん?」

 

「ねぇねぇ彼女、君は誰の助けになりたいんだい?」

 

「………。」

 

 

 俺達二人は、町中のだらけた人々に片っ端から声をかけて、正気に戻していた。それも、聞くべきことを聞くためである。「働く理由」を思い出させた後、“例の件”について聞いて回っているんだが、どうも良い情報は得られていない。

 往来に寝転んでいた人々だけじゃ足りず、屋内のだらけた大人たちにも声をかけようとした。まずはドーナツ屋の女店主だ。テキトーな強盗()に狙われて、投げやりになっていた人。彼女も、正気に戻さなければ。

 

「奥さん、いつまでもそうやって寝そべってないで」

 

「おいローリエ」

 

「何だよコリアンダー。俺は今、仕事中なの。見りゃ分かるだろ」

 

「にしては女にしか声をかけてないじゃないか。もうちょっとマトモにやろうとは思わないのか」

 

「……ナンパじゃあないんだけどなぁ」

 

 コリアンダーにあらぬ疑惑をまたかけられる。確かに、俺が声をかけた人の女性率は多いかもしれないが、そんな場合じゃないことくらい分かってる。仕方ない、またアルシーヴちゃんに何か言われるのも面倒だ、男にも声をかけて――

 

「ちょっとっ!」

 

「「?」」

 

 渋々ドーナツ屋を出ようとした俺に、幼い声がかかる。振り向くと、14、5くらいの女の子がカウンターの影からこちらを見ていた。

 

「お嬢さん、君は……?」

 

「あんたらね、町の人達を元に戻してるのは?」

 

「うん、まぁ、そうだけど……?」

 

「ママを元通りにするのはやめて」

 

 くせのついた銀色のショートヘアを指でくるくるさせて、俺達を睨みつけながらそんなことを言われた。

 

「………はい?」

「しかし、君の母親なんだろう?見た限り、父親はいないようだけど……」

 

「関係ない!早く出てって!!」

 

「お母さんが働かないと生活できないんじゃないのか?」

 

「うるさいわね!あんたらには関係ないでしょ!!!」

 

 コリアンダーが説得するも、彼女は聞く耳持たずと言わんばかりに「出て行って」の一点張りである。これが反抗期というやつなのだろうか。俺には前世でも今世でもこういう典型的な反抗期が来なかったため実感が湧かない。結局、俺達は中2の少女に「出てって」とドーナツ屋から追い出されてしまった。

 

 

「何なんだよ、あの子供は。」

 

「仕方ない、他を当たろう。あの子については暫く後回しだ。」

 

 しかし、珍しいな。「お母さんを助けて」なら兎も角、「お母さんを治さないで」なんて聞いたことがない。アプリでは、小学生ほどのロリがお父さんを叱咤激励してやる気を取り戻させていたが、それぞれの家庭の事情というやつなのだろう。なれば無闇に首を突っ込むべきではない。

 

「そういえばローリエ?」

 

「ん?」

 

「オーダーの副作用の件、セサミは知っているのか?」

 

「……………あっ」

 

「あ、じゃねーよ!

 早くコテージに戻って、伝えに行くぞ!」

 

 セサミにオーダーの副作用の件を伝えてなかったのはわざとではあるが、そんなことは言う必要はないだろう。あたかも忘れてたかのようにコリアンダーに引っ張られながらコテージへ戻った。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「あらら、コリャまたぐっすりお休みで……」

 

「遅かったか……」

 

 帰った俺達を待ち受けていたのは、クリエケージの中で、パンツ丸出しでぐっすりと眠りについている遠山さんと八神さん、そしてそのクリエケージの前の床で、ただでさえあぶない水着が脱げかかってきわどくなっているのも構わず、これまた気持ちよさそうに夢の中へ旅立っているセサミだった。どちらもあられもない姿となっており、目撃したコリアンダーは茹で蛸のように真っ赤になってしまっていた。俺は何の迷いもなくカメラで三人を撮る。

 

「おいお前なにやってんだッ!」

 

「さて、立て直すとしますかァ」

 

「それより写真を消せッ!!」

 

 消すワケねーだろ。男の夢だぞ。それに俺が撮ったのは彼女達の寝顔だ。なんら問題はない。それに、たとえ写真を消したとしても俺の心のフィルムは一生忘れはしない。

 

「ローリエ! いい加減に―――」

 

「うるさいぞコリアンダー、遠山さんと八神さんの睡眠妨害だ。セサミを静かに復活させることに専念しやがれ。」

 

 そう指示するとコリアンダーはさっきまで喚いていたのが嘘みたいに黙る。こうなったら今日中になんとかするのは無理だろう。コイツのような純情派はセサミみたいなあぶない美人がこうかばつぐんだ。セサミ、ありがとう。

 俺は俺でクロモンにコウりんの服について指示したり、コテージにやってくるであろう、きらら達の対応(足止め)をしなければならない。幸い、俺の記憶が正しければ、橋を直したら彼女達は次の日まで休むはずだから、猶予はまだまる一日ある。それが終わったらまた聞き込みの再開しよう、と思いつつ神父の服に着替え始めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 一方、きらら達一行は、だらけた港町にて、イーグルジャンプの社員である涼風青葉、滝本ひふみ、篠田はじめや飯島ゆんと合流し、きららの『パスを感じ取る能力』で残りの呼び出されたイーグルジャンプの社員・八神コウと遠山りんに近づきつつあった。

 しかし、彼女達はコテージの前で起こった予想外の事態により、ダメージを負ってしまったのだ。

 

「いったた……」

 

「み、みなさん……大丈夫ですか?」

 

「ううぅ……」

 

「ほんま、汚いと思うわ……」

 

「何だったんだ、今のは……?」

 

 この時の様子を、イーグルジャンプ・モーション班の篠田はじめはこう語る。

 

「気が付いたら見慣れない町に放り出されるし、いつの間にか着ていた服装は見慣れないし、ゆん以外のみんなは見つからないしで、最初こそ戸惑ったんだけど、まるで自分がゲームの中に入ったみたいで、RPG気分を味わえた。きららさんやランプちゃんのお陰でこの世界についても知れたしね。それでも――――――流石にあんなやつに出会うとは思わなかったよね」

 

 彼女は、エトワリアに召喚された後、同僚である飯島ゆんとはすぐに合流できたものの、他のブースメンバーに会うこともなく、だらけた町人たちからエトワリアのことを聞くこともできずに右往左往していた。しかし、青葉とひふみが見知らぬ人々を連れてはじめ達と合流してからは、その見知らぬ二人と不思議な一匹が、エトワリアについて教えてくれたのだ。それが、きららとランプ、そしてマッチである。

 その後ブースメンバーときらら達一行は、あらかじめはじめが見つけていた大きめのコテージへ行くために、川に架かっていたいた橋を修繕作業を始めたり、その道の職人をたずね、彼らの「やる気」を復活させるべく、手探りで仕事をする意味を思い出させようとしたりして、ようやく橋が直ったのだ。体を休めたきらら達は、ようやくコテージへ向かうことにした。

 しかし事件は、コテージの前で起こった。

 

「コテージの前まで行った時、中から……神父が出てきたんだ。金髪で、いかにも神父ーって格好の男だったよ。まるで、『フェアリーズストーリー』シリーズとか、ひと昔前の『ドラゴンクエスト』シリーズから出てきたかのような神父服だったね。それで、その男は開口一番、こんなことを言ったんだ。」

 

 

『ようこそ、マヨえる仔羊タチヨ。わが教会に何のゴ用カナ?』

 

『『『『……………………。』』』』

 

 金髪の神父は外国人のようにカタコトの日本語できらら達に話しかけてきたのだ。

 

 

「………うん、わかるよ。『まるで意味がわからない』って顔をするのは。実際私もすぐにはピンとこなかったし、青葉ちゃんやゆん、ひふみさんも私と同じ感想だったと思うよ、この時点ではね。きららさんやランプちゃん、マッチに至っては訳が分からなくて混乱してたみたいだったし。」

 

そんな混乱する一行を無視して、神父は続ける。

 

『おいのりをする?

 おつげをきく?

 いきかえらせる?

 どくのちりょう?』

 

『生き返らせるって……』

 

『見たらわかるやろ…』

 

「ゆんのツッコミでもう私は吹きだしちゃったよ。だって、エトワリアに召喚されたとはいえ、ゲームから出てきたかのような格好の男がゲームの台詞をそのまんま言うんだもの。元ネタを知っている身としては笑っちゃうよ。」

 

『あの、私たちはそのコテージの中に用があるんです。中で何が起こっているか教えてください。』

 

 きららはここでもこの金髪の男が敵である可能性を捨ててはいなかった。パスは確かにコテージの中から感じる。しかし、目の前の男はコテージの入口を遮るかのように立っている。しかも意味不明な発言。RPGネタを良く知らない彼女にとっては疑うなという方が無理な話である。

 

『オゥケイ。今、中ではケッコンシキが行われていマス。ゴサンレツの方は、招待状を見せてクダサイ。』

 

『け、結婚式っ!?』

 

 神父の衝撃発言に、今度は一行全員が目を見開く。きららのパスの探知は確かなはずなのに、なぜこんなコテージで結婚式が行われているのだろうか。きらら達が考えるより先にランプが反論する。

 

『そんなはずありません! このコテージの中にはクリエメイトがいるはずです!それなのに、結婚式なんてデタラメを言うのはやめてくださいっ!』

 

『まぁ待てランプ、いきなりそんな事を言っても、神父さんが困るだけだ。まずはもっと情報を引き出してみるべきだ。』

 

『そうデス。オつげを聞き、オいのりをしながら落ち着いてクダサイ。』

 

『まだそれやるんだ……』

 

 そうして、(誰も頼んでいないというのに)金髪の神父はおつげとおいのりを始めたのだった。

 

「ドラクエにおける「おいのりをする」はセーブ、「おつげをきく」っていうのはいわゆるあとどれだけの経験値でレベルアップするのかを知るってことなんだ。私達の作った「フェアリーズストーリー」シリーズも、セーブ時に話しかける相手が下級天使だったりと仕様はちょっと違うものの、影響を受けたのは間違いないよね」

 

 

『きららサン。アナタは、あと796Pointの経験値で次のレベルに上がるでしょう。』

 

『あの、青葉さん、レベルが上がるってどういうことですか?』

 

『えっと、レベルっていうのは、今の強さで、それが上がるってことは、強くなる……ってことなんでしょうけど。』

 

『そんな概念がエトワリアにあるんかいな?めっちゃ怪しいで。』

 

『確かに……現実は……』

 

「きららさんの疑問に青葉ちゃんは答えたものの、そもそもレベルって概念がゲームの中の物だし、ゆんは相当疑ってた。ひふみさんも、現実じゃセーブとかできないって言おうとしたみたいだけど、そういうことは考えるだけ辛いよね。」

 

『ランプサン。アナタは、あと114514Pointの経験値で次のレベルに上がるでしょう。』

 

『なんで私はそんなに経験値がいるんですか!!?』

 

 神父は、きららに続いてランプにもお告げをきかせたのだが、そのあまりにも多い経験値に、ランプは抗議の声を上げる。だが、神父のお告げはこれだけでは終わらなかった。

 

『そしてソコのモーモンは……もうレベルアップ出来まセン。』

『なんでだよ!?』

『もう上限レベルだからデス。デモ、アナタがモーモンからツッコミ役にジョブチェンジすれば、レベル上限は更に上がるデショウ。』

『僕はモーモンじゃないし、余計なお世話だよ!!』

 

 あまりにもひどすぎるマッチの扱いに、ランプは先程まで怒っていたのを一変、笑いをこぼし始めた。

 そこで「何笑ってるんだランプ!」と喧嘩になるも、神父は更に次の作業を始める。

 

「マッチへのお告げを終わらせた神父は、「つぎはお祈りをしましょう」って言って、懐から二つのものを取り出した。片方は羽根ペン。こっちはいいさ。なんせ、「フェアリーズストーリー」を筆頭とした、様々なファンタジーものには欠かせないアイテムだったから。問題はもう片方。アレは…メモ帳の1ページみたいな紙切れだったね。ここで青葉ちゃんが笑っちゃったよ。」

 

 黙々と雑な紙切れに何かを書き込んでいる神父、唖然としているきらら達、笑いをこらえるブースメンバー。この時点で混沌とした空気になっていた。

 

 そして、神父はメモを書き終えるとこう言ったのだ。

 

『ソレでは、コノまま冒険を続けマスか?』

 

 それは、セーブしたあと神父が主人公に尋ねる典型的な質問。「はい」と答えればゲームを続けられるし、「いいえ」と答えればゲームを終了できる。

 

「きららさんは、それに戸惑いながらも、「はい」って答えたんだ。そうしたら神父は「Oh!この冒険者タチにカミのゴ加護のあらんコトを!」というと、きららさんにメモを押し付けてこういったんだ。」

 

 

『…お疲れ様でした。このまま電源をお切りしやがれ』

『イヤ普通に喋れるんかいっ!!!』

 

 

「いや~~、ゆんのツッコミがエトワリアに来てから一番綺麗に決まった瞬間だったね。

 その神父はどうなったかって? ……そのまま私達の修繕した橋の方へ歩いていったよ。ほんと、なんだったんだろうね。今でもよく分からない。それでね、「なんか良く分からないけど神父さんが退いてくれたからコテージへ入ろう」ってマッチが言った途端に、聞き覚えのある効果音と共にこんな声が流れてきたんだ。」

 

 

『涼風、篠田、飯島、滝本、ランプ、OUT(アウト)-!』

 

『ええっ!?』

『な、何ですか今の声は……』

『っ! きらら、アレ!!』

 

 

「…………年末の笑っちゃいけないヤツの宣告が流れたかと思えば、黒いおもちゃのバットみたいな棒を持ったクロモンが襲いかかってきた。きららも応戦したんだけどね。数が多かったのか取りこぼしちゃってね。こっちにも来たんだけど…その時のあいつら、執拗に私たちの……お、おしりを狙ってきたんだ。

 ……そう、完全に年末のアレだった。」

 

 

『痛いっ!』

『あ"っ!』

『いたーい!』

『ひうっ!?』

『痛いですぅ…』

 

 

「地獄だったね。あいつら、一発しか殴らなかったけど、相当痛かったのを覚えてるよ。

 アレがタイキックだったらと思うと、ゾッとするよ。

 でも、今思えば、これは前座だったのかもしれない。神父さんが言ってた、『中で結婚式をやっている』ってアレ。ランプちゃんは信じてなかったけど、信じればよかったのかなって思う。

 コテージの扉を開けて見えた光景に、皆絶句したから……!」




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 エトワリアの魔法の考察を深めたり、ハーレムを諦めてなかったり、あぶないコウりんやきわどいセサミを写真に収めたり、眠ってしまったセサミの代わりを請け負ったりした、真面目と不真面目の境界を漂っている八賢者。彼の目的は「ランプが成長&アルシーヴとソラが救われるハッピーエンド」と揺るぎない。魔力総量を上げることで、エトワリアの魔法発展を望めると言っていたが、このフラグをどう回収したものか。

コリアンダー
 純情派なローリエの相棒。その性格上セサミには弱いが、ローリエの言動にある何かを見抜き、見出しつつある。人と人との絆とは不思議なもので、似たような性格同士が惹かれあうこともあれば、真逆な性格の人同士が惹かれあうのもまたありうる。事実は小説よりも奇なりとはよくいったものである。

セサミ&八神コウ&遠山りん
 オーダーの副作用という名のラリホーに負けた人たち。「働く意味」を思い出さない限り怠惰の化身となるわけだが、そんな無防備な彼女達にローリエが何もしないわけがなく、写真を撮られてしまった。写真割合はセサミ7のコウりんが3。もともとローリエが百合の心得を会得していることもあり、コウりんは比較的無事だった。セサミについては……次回に語るとしよう。

きらら&ランプ&マッチ&涼風青葉&滝本ひふみ&篠田はじめ&飯島ゆん
 ロ…金髪の神父にドラクエ風神父ごっこにさんざん付き合わされた挙句、子供の使いから輸入されたケツバットの制裁を受ける羽目になった人たち。このシーンの語り部にはじめさんを選んだのは、青葉とゆんと違って書きにくく、ひふみ先輩は性格上語り部に向かないからである。ぶっちゃけオーダーが解けたらその記憶はなくなるのだが、この語るタイミングについては言わぬが華だろう。



new game!とフェアリーズストーリーとドラクエの関係
 フェアリーズストーリーについては原作開始時に2作目まで出ていること、『3』では青葉が手掛けたソフィアが出る(しかも盗賊に殺される)こと、ラスボスが主人公の親友コナーであることぐらいしか情報がない訳だが、青葉が子供の頃プレイしたのが『フェアリーズストーリー2』で、家庭用ゲームとして広く流通していることとnew game!の世界観を考えると、ドラクエよりも後でフェアリーズストーリーが始まったと考えられる。青葉は知らなくても、はじめやコウ、りんや葉月さんがドラクエを知っている可能性は高い。少なくとも、拙作ではこういう裏設定にする所存。

『このまま電源をお切りしやがれ』
 元ネタは『ドラゴンクエスト9』のカラコタ橋の神父代行。ここでセーブをしたあとゲームを終了すると、上記のメッセージを見ることができる。『9』で初めて見られた屈指のパワーワードである。



△▼△▼△▼
セサミ「私としたことが、まさか職務中に眠ってしまうとは…しかも、働く理由すら忘れる始末……アルシーヴ様に何と言えばよいか…それに、私が寝ている間に色々してくれた彼らに感謝しなければ……って、なんですかこの内装は!?」
りん「私たちの服も変わってる…!?コウちゃん起きて!私達、大変なことになっちゃってるよ!!」
コウ「……zzz」

次回『恋仲に首を突っ込むのは野暮というもの』
りん「次回もお楽しみに……って寝てる場合じゃないよコウちゃんっ!!!」
▲▽▲▽▲▽

あとがき
 結局、千夜ちゃんもシャロちゃんも当たらなかったよ……
 令和もよろしくお願いします。
 特別編のアイデアしか浮かばないですが、本編頑張りたいと思います。

ろーりえ「ああ、これ作者が働き始めたら失踪するパターンだ」
こりあん「言っていい事と悪い事があるだろ!」


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第17話:恋仲に首を突っ込むのは野暮というもの

“あいつは好きなものの為なら命令や法律すら破る。特に女と女同士の愛の為なら命くらい投げうちそうだな。”
 …コリアンダー・コエンドロ


 俺達は、寝落ちしてしまったセサミに代わって色々準備をすることにした。

 

 ……ホントはもっとセサミの過激な写真を撮りたかった。セサミのあぶない水着が脱げかかっていて、あと少し水着を動かせば全てが見えてしまう状況。手を出さなかったら股に付いている砲台の機能不全を疑うほどだ。

 でも、良い所で(ことごと)くコリアンダーに邪魔された。水着(上)を引っ張り上げようとしたら頭を掴まれ床に叩きつけられ、水着(下)の紐を完全にほどこうとしたらその手を踏まれた。

 「添え膳食わねば男の恥」といくら説いても「セサミは添え膳じゃねーよ!」と反論される。結局、満足したものは撮れなかった。

 

 

 頭に来たので、コリアンダーには眠っているセサミを叩き起こして働く意味を思い出させる役目を押し付けた。

 結果、思った通り真っ赤になりながら寝ているセサミの傍で正座して、彼女の肩に手を伸ばしたかと思えば引っ込めるのを繰り返すだけしかできなくなっていた。

 

 …何というか、絵面が背徳的だ。あらぬ誤解をされても仕方ないだろう。人間、ああはなりたくないもんだ。

 

 

 俺も俺で、コウりんのためにやるべき事をやらねば。

 一途にコウのことを想い続けているりんと、人の気持ちを察するのが苦手なコウ。同性であることもあって、りんは本当の想いを告げられず、コウは勿論気付くはずもない。コウがフランスへ行く直前に想いの一片をりんは告げたが、言われた本人は顧みることこそすれ、りんの真意には気づいてないだろう。

 

 だったら、エトワリアに召喚されている間だけでも、二人をくっつけてやろうではないか。これについては賛否両論あるだろうが、少なくとも俺はそうしたい。しかし、俺も()()()である以上仕事はしなければならない。

 

 

 故に、行った準備は内装と二人の服装チェンジ。

 内装は、まるで教会のようにテーブルと椅子を並べる。奥に即席の神父席を用意する。

 二人の服装は、クロモン達に指示してウェディングドレスを着せておいた。遠山さんだけじゃなくて八神さんもだ。本来ならスーツかドレスか選ばせようと思ったんだが、寝ている人にそんなこと聞いても答えが返ってくるワケがない。

 本人達に尻込みされても癪だ。そうなるよりは、引き返せなくなる所までお膳立てして、関係を築く所をスタートラインに設定すればいい。

 

 要するに既成事実である。

 流石の奥手CPでも、なし崩し的に結婚式を上げてしまえば、一緒にならざるを得ない。あとは二人が愛を育むのを見守るだけ。

 式の台本も作った。あとはセサミが船を漕ぎながら司会を全うするだろう(きらら達と対決することにもなるだろうが)。

 

 更に、俺自身もきらら一行の足止めをしておく。

 金髪のカツラ、神父の服を利用して外国人風神父に変装。そして、ドラ○エごっこを思い切り演じることで、彼女達の足止めはした。笑った人をケツバットするクロモン達のオマケ付きで。

 ダメ押しに、コテージの中に隠しメッセージとして『KIRARA THAI KICK』の文字を残しておいた。まぁまず見つからないだろうし、読み上げた所でタイキックさんは現れないから意味はないけど。

 

 

 そんな訳で俺がやったことを簡単にまとめると、

 

 ①結婚式の設営

 ②コウりんのウェディング・ドレスアップ

 ③セサミ用の式の台本制作

 ④金髪の神父の演技

 

 まぁ、こんな所だ。

 ここまでやって原作が変わって(きらら達が負けて)しまわないか心配だが、G型魔道具で見守り、いざという時は金髪の神父姿で助太刀すればいい。コリアンダーはセサミ相手に赤面し続けてオーバーヒートしかかっているし、セサミは寝落ち寸前なので自前の武器(拳銃や閃光弾)を使うみたいな大ポカをやらかさない限り問題はない。

 

 

 さて、しばしLIVE観戦といきますか、と思った所で。

 

自分(テメエ)を信じられずに生徒を信じられないし、生徒を信じられないと教師なんてやってられねえ。』

 

 セサミに言った言葉を思い出した。

 

 ……生徒を信じられないと教師やってられねぇ、か。

 肝心な時に生徒(ランプ)に手を差し伸べなかったどころか、彼女を見ようともしなかった癖して、我ながら何を言ってるんだか。

 

 でも、そう思いながらも、俺は『先生』でありたいし、『アルシーヴちゃんの友人』でもありたい。

 ここで彼女達を見守ることが信じることなのか。それとも、彼女達を信じるからこそ、余計な横槍を入れるべきではないのか。

 俺はしばし魔道具と中継を繋げられないでいた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 まだ、頭がくらくらする。脳内に(もや)がかかったかのようにまだ前の記憶を思い出せない。

 

 目を覚ましてみると、コテージの内装が変わっていた。重たい目を擦ってみても、内装は変わらない。

 

 更に、自分の衣服に違和感を感じた。周囲を確認するときに、自分の手に白いグローブ―――花嫁とかが手に着けているアレである―――が着けてあることに気付いたことがきっかけだ。

 

 鏡で見た彼女、遠山りんの格好は―――

 

 

「う、ウェディングドレスぅぅぅぅぅぅぅっ!!!?」

 

 

 ―――花嫁そのものだった。

 

 (いやなんで? どうして私がこんな格好をしているの!?)

 そんな疑問が頭に浮かび、顔は熱くなり、眠気は吹っ飛ぶ。

 

 動揺を隠せないまま改めて周りを見渡すと、今度はりんと同じ格好(ウェディングドレス姿)の女性を見つけた。

 その人は金髪だが顔はこっちを向いてないためかよく見えない。さっきのりんの叫び声にも反応しなかったあたり、まだ眠っているのかもしれない。

 

 りんが回り込んでその顔を見ると、その人は意外な人物だった。

 

 

「コウちゃん………」

 

 

 りんの同僚、八神コウ。

 彼女同様純白のウェディングドレスに包まれて眠る彼女は、一番の同僚でさえも一瞬誰だか分からなくなるほど美しかった。

 いつもはファッションに全く気を使わない彼女が、オシャレ次第で綺麗になれることをりんは思い出して、ちょっと勿体ないなと思い、ふふっと少し笑みが零れる。

 

 

「すみません! 誰か、誰かいませんか!?」

 

 そこで、扉からそんな声と人が入ってくる音がした。

 

 まず入ってきたのは、赤い髪を二つにまとめた中学生くらいの女の子。そして、ベージュの髪を星の髪飾りで短いツインテールにした魔法使い風の女の子が入ってきて、その後にりんの見知った顔ぶれが現れた。

 

 

「遠山さん!」

 

「青葉ちゃん、みんな……!」

 

 

 きららとランプ、マッチ……そして、イーグルジャンプのブースメンバー・涼風青葉、篠田はじめ、飯島ゆん、滝本ひふみの6人(と1匹)である。

 急な声と見知らぬ人に驚いたりんだったが、信頼できる仲間が現れたからか、再び安心感と睡魔が蘇る。

 

 

「……って、何ですかその格好!!?」

 

「んー? あー、青葉だ~。やっほー。」

「ふぁ~あ……」

 

「やっほーじゃなくて……

 って八神さんまでウェディングドレスを……!?」

 

「なんや、二人とも様子が変やな。」

 

「遠山さんまであくびしてるし……」

 

「何か……街で会った人達と、似た感じ……さっきの、神父さんの言ったこと、本当だった……?」

 

 完全に睡魔に負け、ウェディングドレス姿を受け入れつつあるりんやコウを見て皆不思議そうな顔をしている。

 なにがそんなに不思議なんだろう。変なことをした自覚はないし、コウちゃんは……いつもよりも可愛い格好をしているだけだし……と、りんの思考は途切れつつある。

 

「ふあぁ……何なんですかさっきから。

 静かにしてください、私は寝たいんです……」

 

 そう考えていると、会話にセサミが乱入してきた。コウとりんを捕まえた賢者であるにも関わらず、その声に凛としたものはもはやなく、寝ぼけているのが丸わかりである。 

 

「あっ……!あの人は『八賢者』のセサミ!!

 アルシーヴの秘書も勤める、強敵です!」

 

「ぐぅ……ん?

 手元に何か置いてある……この本は……? ぐぅ」

 

「………強、敵……??」

 

 完全に眠りこけているセサミにひふみも首をかしげる。

 ランプの説明は間違っていないのだが、セサミもまた、オーダーの影響下に陥り、だらけきっている為、どうみてもマダオ(まるでダメなお姉さん)にしか見えないのだ。

 

「あのぅ、どうしてこんなことをするんですか…?」

 

「え………? あれ、なぜでしょう?」

 

「……どう見てもオーダーに毒されてるね。」

 

 現に、きららの質問にも、まともに答えられていない。彼女もまた、働く意欲をオーダーの副作用に奪われてしまっている。

 

「八賢者までこんなことになってるなんて……」

 

「……これ、今がチャンスなんじゃ………」

 

 

 賢者にまでオーダーの副作用が及んでいることに驚くランプに、敵である賢者が無力化されている今が二人を救出する好機なのではと考える青葉。

 

「……そうだね。今のうちに助け出してしまおう。」

 

 青葉の言葉にマッチが乗ると、きらら達一行は、その場から動こうとしないウェディングドレス姿のコウとりんに駆け寄った。

 しかしそこに待ったがかかる。

 

 

「させませんよ。

 私は八賢者。アルシーヴ様の秘書ですから………!!」

 

 

 それは、先ほどまでだらけきっていたセサミからのものであった。

 瞳はしっかりと見開かれ、両の足できらら達の退路を塞いぐように立っている。そこに、既に眠気は存在しなかった。

 

 

「復活、しちゃいましたね……。」

 

「あなたたちのお陰で私が働く意味を思い出しました…………感謝します。」

 

「しまった……!」

 

 おそらくランプが「八賢者」と口にしてしまったからだろう。それに反応して、セサミもまた、オーダーの副作用から脱したのだ。

 

 

「お二人は返して貰います! 青葉さんたちのためにも!」

 

「そんなことはさせませんわ。この二人には―――」

 

 きららが他の仲間を庇うようにセサミの前に出て、杖を構える。セサミもまた、コウとりんを取り返されまいと杖をきららに向けた。そして余裕の表情を崩さぬまま平然と

 

 

 

「―――ここで結婚式を挙げてもらいます」

 

「イヤ何でぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!?」

 

 そう言ってのける彼女に、ランプが指をつきつけて叫ぶ。

 

「働く意味を思い出したけど仕事内容忘れちゃったよこの人! なんで異国の地に呼んでまで結婚? 禁忌破るまでしてやることが結婚式!? しかもコウ様とりん様を!? どんだけおふたりの仲をいじくる気なんですかアナタは!!!」

 

「いや、だってアルシーヴ様がそうしろってこの本に……」

 

「アナタの独断じゃなくて命令だったの!!? 何がしたいんですかアルシーヴは!! オーダーして賢者派遣してまでクリエメイトの仲を深めたいとかどんだけ奥手な性格してんですか!!! しかもあらゆる順序吹っ飛ばしていきなり結婚式とかタチ悪いわ!!! もっとマシな方法いくらでもあったでしょうが!!」

 

 セサミが見せつけてきた本は、もちろんアルシーヴの命令書ではない。ローリエが一日で完成させた式の台本である。ただ、そこには「セサミの活躍を期待している。目覚めたらこの本の内容を忠実に進行してくれ  byアルシーヴ」とか書かれていたりするのだ。筆跡や訪問時間など、アラは探せば簡単に見つけられるが、寝起きのセサミにはそれができなかった。

 そんなトンデモ命令書に従うセサミに、ランプはいつもの敬語を忘れてキレる。

 

 

「こっ、コウちゃんと私が結婚……!?////」

 

「…………っ////」

 

「なんで二人ともちょっとノリ気なんですか!? 女の子同士ですよ!? 正気に戻ってください! あとコウ様は何か言ってください!!!」

 

「愛に性別は関係ありませんわ!」

 

「セサミは黙ってなさい!!」

 

 突然の結婚式宣言を受けて赤面するコウとりんを窘めているとセサミが再び会話に乱入してきたので、それを怒鳴って追い払った。

 

 このセサミとランプのコントを傍からから見ていたきらら達は。

 

 

「な、何ですかこれ……」

「ランプちゃんええツッコミしとるな」

「…えっと……」

「ランプ……」

「……これ、クリエケージを巡る戦いだよな……?」

 

 

 完全に勢いを削がれてしまっていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 コテージから立ち去った俺は、コリアンダーに連絡して合流した後、きらら達一行が直した橋を辿って再び街へと繰り出していた。

 コリアンダーからの視線が、疑いの強いものとなっている。

 

 

「なぁ、何でコテージから離れたんだ?」

 

「あそこまで演出したんだ。もう必要ないだろ?」

 

「いや、召喚士達の妨害目的とはいえ、結婚式はないだろ。セサミをいつまでも起こせなかった俺が言うのも何だが、なんであんな演出(こと)したんだ?」

 

「いやなんでってお前……『new 〇ame!(聖典)』の内容もっかい頭に叩き込んでから出直して来いや」

 

「………? 何言ってんだ? あの聖典の登場人物、恋愛関係とかないだろ?」

 

 

 ウソだろこの眼鏡、と絶句してしまう。

 コイツは、まさかコウりんに気付くことすら出来なかったというのか。そんなラノベのハーレム主人公並みの朴念仁だというのか!? 歴代ハーレム主人公でももっと察し良いぞ!?

 明らかな描写あっただろ! ひふみんが「にぶちん」っつってただろ! コウがフランスに行くシーン、見てねーのか!?

 ……コイツ、コウ以上のにぶちんだ。だが、ハーレムを譲ることは出来ない。

 

 

「……鈍感ヤローがハーレムラノベ主人公やる時代は終わったんだ。大人しくモブに甘んじてろ」

 

「なんでそんな言い方されなきゃならねーの!?」

 

 

 教えてたまるかバカ野郎。

 

 そんな事で頭を悩ませていると。

 

 

「待った。コリアンダー、あれ」

 

「?」

 

 

 町の木陰でキスをしているカップルを見つけた。

 ()()()()()()。くせのついた銀色のショートヘアの女の子と薔薇のように赤いロングヘアの女の子が、口付けを交わしていたのである。

 彼女達のしている事がストレートに分かったコリアンダーが頬を朱に染める。眼鏡の男がそんな事しても可愛くないぞ、性転換してから出直せ。

 ま、それはともかく。

 

「あの子たちは愛し合ってると思うか?」

 

「と、当然だろう……だって…き、キス、してるもんな……」

 

「さっき出したコテージに残ろうという提案は、あの二人の邪魔をすることと同義。万死に値するのだ」

 

 

 見知らぬ百合CPに感謝&見つからないように隠密しつつ、コリアンダーに小声でそう諭す。これで、コテージから離れる理由を作り出せた。

 あとは、彼女達の邪魔をすることなく立ち去るだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか、理論がゴリ押しだった気がするが……」

「気のせいだ。」

 

 この後、もうひと悶着あることを、俺達は知らない。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 ランプの先生とアルシーヴの友人の狭間で迷い続ける男。今回は百合を全面的に押し出し、コウりんを(結婚的な意味で)追い詰めた。上手く暗躍している風を装っているが、彼の目的とアルシーヴの目的のズレをコリアンダーに指摘される前に百合理論で押し通るなど、力押しの部分が否めない。ギャグだから。

コリアンダー
 ローリエの相棒とは思えないほど純情で紳士的な男。女性の交友関係に疎いハーレム主人公気質の持ち主。バレンタインデー編にアルシーヴのチョコに気づいたのは、友情にあついから。しかし、ローリエからの(ギャグ的な)ヘイト値は上がってしまった。
 名字の由来はコリアンダーの和名『コエンドロ』から。この単語が元々ポルトガル語由来でもある。

セサミ&八神コウ&遠山りん
 真面目な淑女枠からボケ役に出世した八賢者&クリエメイト。
 ローリエが用意した台本には、アルシーヴからと装ったメッセージが書いてあるお陰で、働く理由を思い出せても別のものを忘れた模様。

きらら&ランプ&マッチ&涼風青葉&篠田はじめ&飯島ゆん&滝本ひふみ
 前回に引き続き、ローリエが仕掛けたネタに翻弄される人々。ランプに至っては、ツッコミ役も引き受けた模様。前話ではマッチがツッコミ役になるとのことだったが、ニヒルな口調が難しく、ランプにツッコミ役が取られてしまうかもしれない。

マッチ「いや別にいいよ……」
ローリエ(金髪神父ver.)「レベルアップできまセンよ?」



マダオ
 元ネタは『銀魂』の長谷川泰三。政府高官だったが不祥事で失職。「まるでダメなオッサン」略してマダオとされた。エトワリアでは、マダオは「まるでダメなお姉さん」を略すことが多くなるだろう。(メインが女性だから)


△▼△▼△▼
ローリエ「さ、コウりんの結婚式は問題なく進めてるな。良き哉良き哉」
アルシーヴ「良くないわァァァァ!! 誰が許可したあのメチャクチャな命令は! 色んな人々に誤解されるだろうが!」
ローリエ「怒らないのアルシーヴちゃん。程々にしないとキャラ壊れちゃうよ?」
アルシーヴ「誰のせいだと思ってるんだ……!」
ローリエ「そうカッカしなくても、百合CPのピンチを救う位やってやるさ」

次回『愛の形』
ローリエ「(こ○)の形じゃないからな?」
アルシーヴ「どこまで好き勝手やるつもりだこの男……」
▲▽▲▽▲▽


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第18話:愛の形

 ながらくお待たせしました。
 リアルの研修がようやく終わって、一日で仕上げました。

アンケート結果
ローリエ×アルシーヴ:4
ローリエ×ハッカ  :1
ローリエ×ライネ  :0
ローリエ×ジンジャー:1
そんなことより本編だ:6
 ……はい、続き書きまーす!!!!!!←



“俺は港町で、愛の形を二つ見た。
 一つは八神さんと遠山さんの。もう一つは、そこに住むとある二人の少女のものだ。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第3章より抜粋


 くせのついた銀色ショートヘアの女の子。

 先日、俺とコリアンダーを「ママを治すのはやめて」と言って追い払った子だ。

 その子が今、薔薇(バラ)のように赤い髪の同年代くらいの女の子と接吻をしていた。まるで、桜Trickの春香と優が、お互いを愛し合うかのように。

 

 

「おいローリエ、は、早く退散した方がいいだろ?

 覗きなんて、趣味悪いぞ」

 

「顔真っ赤にして言うな、説得力が皆無なんだよ」

 

 

 俺達は、物陰から彼女達を見守っている。すぐに立ち去ってもいいんだが、もうしばらく見ていたい。

 さっきからコリアンダーが、俺の袖を引っ張ってここから立ち去ろうと何度も言っている。しつこいぞ。

 

 

「見つかったらマズいんじゃないのか?」

 

「見つかったら百合を応援する資格を失う。

 見守るのも命がけだ。だから覚悟決めろ」

 

「勘弁してくれよ、そんな覚悟いらないぞ……」

 

 

 なにか言ってるヘタレを無視して観察を再開する。

 うおっ、舌絡ませてるぞ、ガチのやつだ……!

 

 いやぁ、最高ですな。

 爽やかな潮風、町の木陰で重なる二人の影、近くに昨日見た男……

 

 ……っ!!?

 

 昨日見た男……!? それって、()()()()()()()()()()じゃ……!

 

 

「おいヘタレ! あそこにいるの、昨日の強盗じゃねーか?」

 

「なっ!? 本当だ……! あいつ、何する気だ………!?」

 

 

 交番へ行ったはずのその男は、昨日みたいにやる気を全部削ぎ落されたような雰囲気はなく、眉間にしわを寄せ、ナイフを片手に悪意を滾らせていた。きっと、なにかの拍子に正気に戻ったんだろう―――目が雄弁に語っている。

 あの目は、マズい。目が濁りかけている。かつて俺が殺した、あの盗賊を彷彿とさせる。ソラちゃんとハッカちゃんを攫い、アルシーヴちゃんを傷つけたあの野郎だ。

 あいつはきっと、銀髪の子でも攫って身代金でも要求するつもりなのだろうか。女子二人は、まだあいつに気付いていない。このまま放っておくわけにはいかない。

 

 

「コリアンダー、あいつをぶっ倒せ。二人は俺が守る」

 

「えっ!? ………あぁ、わかったよ!」

 

 

 突然の指示に目を白黒させたコリアンダーだったが、すぐに戦闘態勢に入った。アルシーヴちゃんのお墨付き通り、戦い方の基本は分かっているということだろう。

 

 

 コリアンダーはどこからともなく木剣を取り出すと、ひとっ飛びで強盗に切りかかる。強盗は木剣をナイフで受け止めたものの、女の子達を見ていてコリアンダーに気づかなかったため、初動が遅れた。

 そりゃそうだろう。だって、俺達と強盗との距離は少なくとも10メートルはあった。それを一息で接近できる奴なんてカルダモンくらいだ。

 

 その後も彼は、縦に、横に、めちゃくちゃに振り回して強盗を圧倒した。剣の達人たるフェンネルには見せられたもんじゃない(少なくとも俺はそう思った)が、相手の得物がナイフであることも相まって現段階でコリアンダーが押している。

 

「二人とも! ここから逃げるんだ!」

 

「「!!?」」

 

 俺はコリアンダーが時間を稼いでいる隙に百合CPの二人に呼びかける。案の定二人とも驚いた様子で固まる。

 お熱い所、邪魔して申し訳ないが安全確保が優先だ。

 

「こっちだ!」

 

 強盗とコリアンダーから離れるように誘導して、二人を避難させる。

 女の子二人は、突然の乱入者に混乱していた様子だったが、やがて状況を飲み込んだのか、俺についてきてくれた。

 

 コリアンダーはあのままで大丈夫だろうか………まぁ、なんとかするだろ。

 

「あのっ!」

 

「? なんだい?」

 

 赤髪の女の子に後ろから声をかけられる。

 

 

「あなたは、何者なんですか?」

 

 

 そして、そう問いかけてきた。

 なるほど、彼女達にとって俺は、危機こそ知らせてくれたものの、名乗ってない以上、素性を知らない怪しい人間には変わりないってことみたいだな。

 しかし、ここは普通に賢者と名乗って良いものか。賢者に悪いイメージはない。むしろイメージは良い。ただ、()()()()のだ。逆に、この子たちに気を遣わせちゃうんじゃなかろうか。

 

 

「俺は………」

 

 かといって、ここで嘘をつく理由も必要性もない。

 少し悩んだ結果、俺は……

 

「俺はローリエ。しがない魔法工学の教師さ。」

 

 こう名乗ることにした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「つ、強い……!」

 

「まだまだですね召喚士。」

 

 

 

「り~ん~。」

 

「うふふ。もう、コウちゃんったら~~。」

 

 すぐ近くで、そんな会話と水の音がする。

 けれど、それを確認するのも面倒くさくて、傍らのコウちゃんの体温と体重に身を委ねる。透き通ったヴェールを被った金色の髪を抱き寄せる。

 コウちゃん、可愛いなぁ……。私に、ここまで甘えてくれるなんて。

 

 

「八神さん! 八神さんっ! しっかりしてください!」

 

「ん~~帰らなきゃって気はするんだけど、仕事せずにだらだらしてるの気持ちいいんだよね~。」

 

「そうよ~青葉ちゃん。私はもうちょっとコウちゃんとだらだらしてるから~。」

 

 

 欲を言えば、ちょっとじゃなくてずっとこうしていたい。

 こんなにも幸せな瞬間はないから。めんどくさい仕事をせず、大好きなコウちゃんとこうしていられるだけで、最高の気分だ。でも私達の答えに青葉ちゃんは「な……二人とも、そんなことを言うなんて……」とショックを受けている。

 

 

「そのままだと、ダメ人間まっしぐらやないですか!」

 

「お休みの日とか……だらける時はだらけていいと思うけど………今はダメ……」

 

 

 ゆんちゃんやひふみちゃんがなにか言っているけど、私はこれでいい。

 私はこのまま、コウちゃんと一緒にいたい。

 誰かに取られるなんて、嫌……そう、思っていると。

 

 

「はあぁ………」

 

 

 ため息が聞こえた。

 私のではない。隣のコウちゃんも眠そうに目を半開きにしている。あくびはしてもため息は出さない。周りを見てみると、青葉ちゃんの視線が、ゆんちゃんやひふみちゃんの視線が、はじめちゃんに集まっていた。

 

 

「あの……はじめ?」

 

「八神さんもですけど、遠山さんもです! 遠山さんはこんな八神さんが好きなんですか?

 八神さんを甘やかして、二人のゲーム作りへの情熱はどこへ行っちゃったんですか!!」

 

 

 はじめちゃんにそう言われた時、頭の中で、昔の記憶が蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めてコウちゃんに出会ったのはイーグルジャンプに入社した時。

 

 同期なのに、物怖じせず人を寄せ付けない、ギラギラした雰囲気を持った人。でも、その瞳には情熱が燃えている。それが、コウちゃんだった。

 仕事は本当に出来る人で、入社翌月に「フェアリーズストーリー」のメインキャラデザを先輩達を押しのけて勝ち取ったほど。当時の私にとっては、それがあまりに現実離れしていたから、「あぁ、天才ってこういうひとの事を言うんだな」って思って、半ば追いつくことを諦めていたのかもしれない。

 でも、それでいいと思っていた。私は私なりに、自他に厳しく、好きなことに対して一生懸命な彼女を支えようと思ったのだ。幸い、この時からコウちゃんは私にだけは心を開いてくれてたから、大丈夫だろうと思っていた。

 

 

 そして、私達の関係が大きく変わったのが「フェアリーズストーリー2」の製作時の事。葉月さんからADを任されたコウちゃんは、今までに見たことがないくらいに頑張っていた。一切の妥協を許さず、よりよいゲームを作ろうとしていた。

 ただ……その実力を、周りの人に押し付けていたのかもしれない。当時の自分のストイックさを、後輩や部下に求め過ぎていたのかもしれない。

 そのせいで――――――入社したての後輩が半年で辞めてしまった。

 

 後輩が辞める前日、彼女はコウちゃんにこう言っていた。

 

 

『皆がみんな、先輩みたいに凄くないんですよ……?』

 

 

 苦しそうに訴えてきた後輩を、コウちゃんはその時「だから何?」と簡単にあしらっていた。その翌日から彼女が来なくなり、葉月さんから辞めたと聞いたことで、私は彼女がコウちゃんに言っていたことの意味が少し分かった気がした。

 

 そして、コウちゃんはその日から目に見えて落ち込んでいった。この時は葉月さんや他の上司に何か言われたのか、コウちゃん自身があの後輩の言葉の真意に気づいたのかまでは分からないけど。

 仕事のペースは落ち、会社を休む日も増えてしまった。

 

 そこに、葉月さんに頼まれた私がマンションのコウちゃんの部屋を訪れたのが始まりだった。

 

 

『コウちゃん……?』

 

 

 その時のコウちゃんは正直見てられなかった。部屋に引きこもり、まともにご飯を食べることすらせず、瞳の中の情熱も消えかかり、自棄(ヤケ)になっていた。

 その原因が後輩のことであることに気づくのに時間はかからなかった。

 私はすぐにご飯を用意し、コウちゃんに話しかけた。

 

 

『大丈夫? ご飯、作っておいたからね……?』

 

『………遠山さん? なんでここに……?』

 

『……りんでいいわよ。』

 

 

 その時、思ったんだ。

 

 あぁ、この人も私と同じ弱い人間なんだって。

 

 この時まで、私はコウちゃんのことを完璧超人が何かだと思っていた。

 でも、そうじゃないんだ。誰だって一人じゃ弱いままなんだって思った。

 いつだかのドラマで聞いた、「人という字は、人と人が支え合ってできるもの」という言葉を実感できた気がした。

 

 その後、私はコウちゃんの所に通い詰めて、少し話して帰るといった日々を過ごすうちに、コウちゃんの家に行くのが日課になり、毎日ご飯を作ってあげているうちに、コウちゃんは私に心を許すようになった。

 

 やがて、後輩が辞めた直後のショックから回復し職場に復帰したコウちゃんは、それまでのとげとげしい雰囲気を改め、人と接するようになった。私ともよく話すようになった。それからはコウちゃんのいろんなことを知った。

 

 

 東京出身の8月生まれで、家族以外からなかなか誕生日を祝われたことがないこと。

 

 昔から絵が上手で、小学生の頃からゲームデザイナーを目指していたということ。

 

 血液型をO型とよく誤解されること。

 

 私の手料理が大好きだと臆面もなく私に言えるくせに、鈍感なこと。

 

 

 ―――かつての後輩を、「自分を超えるキャラクターデザイナーになる」と内心では信じていたこと。

 

 彼女を自分の手で潰してしまったと知ったとき、ひどく後悔したこと。

 

 

 懺悔するように心の内を教えてくれたコウちゃんに私はただ頭を撫でて、

 

『辛かったね』

 と一言、伝えながら心で決めた。

 

 

 この人を支えようと。

 

 コウちゃんは、実力がある。それも、天才だと言われるほどに。でも、そのせいで独りになってしまう。

 だったら、せめて私だけでもそばにいようと決めた。 ……だって、独りぼっちは寂しいもの。

 

 そうして二人でまっすぐ走っていくうちに、ひふみちゃんと出会い、ゆんちゃんやはじめちゃんと出会い、そして――――――青葉ちゃんと出会った。気が付いたら、コウちゃんは独りじゃなくなっていた。

 

 

 

 それでも、私は、遠山りんは変わらない。

 

 

 私が働く理由。

 

 

 

 

 それは―――

 

 

 『八神コウと二人でゲームを作ること』

 

 

 

 

 

 頭のくらくらや、全身の気だるさ、脳の中にかかっていた(もや)も、気が付けば嘘のように消えていた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「ローリエさんですね。私はローズです。それでこっちが……」

 

「ちょっと待ってローズ!」

 

 

 さっき助けた薔薇(バラ)色髪の女の子・ローズちゃんが自己紹介しようとした時、銀髪ショートヘアの女の子の方が会話を遮ってきた。

 

 

「なによ、リリィ。私たちを助けてくれた人よ。何か問題あるの?」

 

「いや、確かに助けてくれたけど……」

 

 

 どうやら、銀髪ショートヘアちゃんはリリィというらしい。彼女とは彼女の母親に声をかけた時に既に会っているからな。あの時の「ママを治さないで」発言も気になるし、こちらから切り出してみるか。

 

 

「あー、実はね? 俺は『ある情報』を集めてるんだけど、その時に彼女のお母さんに話しかけたのを見られてしまってね………」

 

「そ、そうなの? リリィ?」

 

「うん……。」

 

 

 流石に発言についてストレートに聞かない。言いにくいだろう部分をフォローしただけ。あとは彼女達が自分から話すように誘導……もとい、話題替えするだけだ。

 

 

「ねぇ、どうしてローリエさんを警戒するの。たかがリリィのお母さんにたまたま声をかけただけじゃない。私達を助けてくれた人だよ?」

 

「でも……あたし達の関係は、秘密にしないと……!!」

 

「……お母さんと、何かあるみたいだね」

 

 

 ローズちゃんはリリィちゃんとは違い、助けてくれた俺達(主に俺)に対して肯定的のようだ。

 そこから情報を聞き出せないか、ちょっと攻めてみよう。

 

 

「あー……仲悪いんです、リリィとリリィのお母さん」

 

「ちょ、ローズ!? 他人に話すことじゃないでしょ!? それに……」

 

 

 仲が悪い……? まだ情報不足だな。もう少し情報が欲しいところだけど……

 

 

「リリィ、あなたこの人を信じてる?」

 

「信じられる訳ないでしょ! 今日初めて会ったのよ!?」

 

 

 考え事をしている間に、ローズちゃんとリリィちゃんの口論が始まってしまった。

 しかし、「信じる」か………日本人の前世を持つ俺の感覚からしたら、リリィちゃん側の「初対面の人は信用しない」タイプの方が気持ちは分かる。

 だが、初対面だから、と俺を警戒するリリィちゃんにローズちゃんはこう反論する。

 

 

「そうだね。でもね、『初対面の人を助けられる』ってなかなかできないと思うの。私でもできるかどうか分からない。この人はそれをやったの。さっきのメガネの人もそう。私には、二人をいきなり疑う理由があるとは思えないの。」

 

「でも、それはあたし達を油断させるか脅すかするためかも……!」

 

「ほぼ初対面で面識なんてないに等しい私達を?」

 

 

 リリィちゃんの「でも」にローズちゃんはそう言い返して、リリィちゃんの反論を封じた。

 

 

 ローズちゃんの言う事にも実は一理あるのだ。

 たとえば、満員電車のなか、目の前で女性が痴漢に襲われているところに出くわしたとしよう。

 その状況下で、はたして正しい行動のできる人間のどれだけいることだろう。

 普通は、逆上した痴漢に襲われたり、男だったら女性に痴漢と間違われたりする可能性が思い浮かび、見て見ぬふりをしてしまうんじゃないだろうか。俺も、前世だったらそうする可能性の方がデカい。

 まぁ、生物的に考えれば、関係ない事件に首を突っ込まないのは、逆上した痴漢から己の身を守ったり、冤罪という社会的死から自分を守ったりするためという点では合理的だ。

 

 

 ローズちゃんには俺やコリアンダーが「自分の身を顧みずに自分たちを守ってくれてる男達」に見えていることだろう。信用は高めと考えてよさそうだ。

 

 

 あとはリリィちゃんの信頼だけだな。

 

 

「じゃあさ――――これから、俺はこの街で情報収集するんだけど、二人も一緒に行くかい?

 そうすれば俺がどんな人なのか分かるかもしれないだろ?」

 

 

 俺は二人にそう提案した。一拍置いた後で、二人とも「なるほど、その手があったか!」と言わんばかりにポン、と拳を掌に収めた。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 港町の百合カップルの避難誘導を請け負った八賢者。当の百合CPには賢者であることは言わず、二人の信用を得るために行動を共にすることを提案した。次回は聖者モードのローリエが見られるかも。女が大好きで、百合CPが大好きなのだから、普段の彼だったらやらない事もやるかもしれない。

コリアンダー
 港町の百合カップルを狙う男の捕縛を請け負った神殿事務員。アルシーヴが「戦闘の心得はある」と言っていたが、彼の実力が秘密のヴェールから放たれるのはまた次回。にて。

遠山りん&八神コウ
 new gameの公式CP。今回、りんの視点から過去編を少々執筆した。得能先生は八神コウの過去編について、「ドロドロしそうだから描かない」と発言しており、作中でも大まかな流れしか書いていない。つまり今回、作者は禁忌に足を突っ込んだことになる。これから作者は得能先生に足を向けて寝られないし、アニメ版ポプ○ピピック等で再びネタにされても「おこった?」とか聞けない。

リリィ&ローズ
 拙作オリジナル百合CP。名前の由来は百合と薔薇。リリィは少々人見知りで慎重、ローズは人懐っこいが冷静。詳細の方は次回以降にて。



八神コウの過去編
 遠山りんと八神コウが一層仲良くなったきっかけになるであろう幻のエピソードにして、上記の理由から原作者によって描かれることはまずないヘビーストーリー。
 八神さんは昔は印象が違ったという遠山さんの証言と葉月しずくの存在から、今回はオリジナルエピソードとして盛り込んだ。
 要職についた八神さんの振舞いには、「ゲームをより良いものにしたい」という思いが根底にあり、それを達成するには実力を示し続けることだと思ったのではないだろうか。しかし、人間そう簡単にはいかないもので、少しのきっかけでポッキリ折れる。そういう経験があったのだろうと推測した結果このようなエピソードとなった。プロ(?)の考察班ほど高クオリティではないので悪しからず。




△▼△▼△▼
コリアンダー「俺には一人、友人がいる。そいつについて話そうと思う。―――なに、畏まらなくていい。ただの雑談だ。なにしろ、今まで会ったヤツの中で一番変な奴の話だからな。」

次回『コリアンダーの考え事』
コリアンダー「見ないと何も始まらないぞ。」
▲▽▲▽▲▽


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第19話:コリアンダーの考え事

はるか先の展開ばかり思い浮かんで、次の細かな展開が全く思い浮かばない今日この頃。


“神殿で働く人間の7割が女性で良かった。いや、良くはないが、ほぼ男よりかは断然マシだな。”
 …コリアンダー・コエンドロ


 木剣を振り払って、目の前のおっさんに向かって構える。

 おっさんは、目の前の獲物を捕らえるのを邪魔されたためか、怒りに満ちた目でナイフをこっちに向けている。今にも襲いかかってきそうな奴は、まるで獣のようだ。

 

 

「てめぇ! 邪魔しやがって!!」

 

「………。」

 

 

 無駄口は叩かない。というか叩いてる精神的余裕は必要ない。隙を作るし、時間の無駄だ。

 

「っ!!」

 

 木剣を振るい、おっさんに肉薄する。

 

「うわあああァァァァ!!!」

 

 いきなり近づいてきた俺に驚いたのか、それとも()()()()()()()()()()()()、冷静さを完全に失ったおっさんはまわりに人を近づけさせないようにナイフを振り回し始めた。

 

 自分よりリーチが長い武器相手にそれは良くない。まぁ俺が言うのも何だけど。

 

 

 すぐさまナイフのリーチ内から離れ、おっさんの手首に木剣を叩き込む。

 ゴスッ、と少々鈍い音を上げるとともに、奴が「いぎゃあああああああ!?」と汚い悲鳴をあげながら右手を抑え、奴はナイフを取り落とした。

 

 

 間髪入れずに頭部を横薙ぎにする。クリーンヒットしたそれは、おっさんから意識を刈り取るのに充分だったようだ。吹っ飛ばされるように倒れたおっさんは、白目を剥いて起き上がってくる気配は見せなかった。

 

 倒れた敵の無力化を確認して、ふぅ、と息をつく。

 

 そして、置いてきた荷物から、ロープを取り出し、のびたままのおっさんを縛り上げていく。

 

 

 ……神殿に魔法工学を学びに来た時はまさかこんな風に人と戦うことになるとは思っていなかった。

 だが、そこで出会った友人が、俺の人生を変えたと言っても過言ではない。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ローリエ・ベルベット。

 

 

 それは、俺の親友であると同時に、手強いを通り越して最強とも言えるライバルである。

 

 彼に出会ったのは、神殿に入ったばかりの年の頃だ。

 

 

 彼が神殿の図書館の、禁書の部屋から叩き出されて落ち込んでいる所に遭遇したのだ。

 

『なぁお前、なにやってるんだ……?』

 

『あ、アハハハ。禁書を調べようとしたら怒られた……

 あ、そうだ。俺は……』

 

『ローリエ、だったか。神殿内ではちょっとした有名人だぞ、お前。

 …俺はコリアンダーだ。』

 

 禁書は調べちゃいけないから禁書だっつうのに、何やってんだこのバカは、と思った。俺の彼への第一印象は『好奇心旺盛なバカ』だった。

 

 

 だが、すぐにその第一印象はすぐに覆ることになる。

 

 このファーストコンタクトの翌日、部屋替えで同じ部屋になった時のことだ。

 あいつの乱雑に散らかった机の上にあったものにふと目が留まったのだ。

 

 そこには、筒と握りがついている、妙に説明しづらい形状をした物体が置いてあった。幼い頃から魔法工学には自信があった俺でも全く見たことがないものだったので、気が付けばつい好奇心に負けて手に取ってしまっていた。掌より少し大きめなそれは、見た目に反してずっしりとした重さがあり、その感触が謎をますます深めた。

 

 これは何なのか?

 

 一体だれが造ったのか?

 

 そう思案に耽っているのに夢中で、後ろからの人物に気づけなかった。

 

 

『なぁ、それ…返してくれないか?』

 

『っ!!?』

 

 振り向くと、そこには先日、禁書を覗いて怒られていた彼が立っていた。

 

『俺の一番大切な()()()なんだ』

 

 そう言ってあはは、とプレッシャーを感じさせずに笑うローリエの言葉を俺は一瞬疑った。

 

『発明品……!? お前が、これを作ったのか……?』

 

『あぁ。秘密にしてくれるなら、それが何かを簡単に教えるけど……』

 

 そう言って彼が説明した内容は、とんでもないものだった。

 「パイソン(大蛇)」と名付けたというこの発明品は、ブラックストーン製の弾を、爆発魔法の推進力で直線状に高速で放つという。その威力は、人をも貫けるそう。非殺傷用のゴム弾もあるらしい。

 はっきり言って、恐怖した。こんな凶悪な破壊力を持った兵器を、なぜ当時の俺と年の変わらない少年が作り出せたのか。それを確かめるために、目の前の彼にすぐさま問いただす。

 

 

『こ、こんなもの造って、何が目的なんだ!? それに、どうやって造ったんだ? 推測でしかないが、これは相当……』

 

『分かってるさ。これが危険だってことくらい。』

 

『だったら、どうして……』

 

『守りたい人がいるんだ。』

 

 俺の疑問に、ローリエは即答した。

 

『俺には力も魔力も何もなかった。昔そのせいで守れなかった事があってさ。』

 

『守れなかったって……何を?』

 

『俺にとって大切な人さ。

 ………傷つけちまったんだ、その人たちを。

 だから、魔道具の力を借りている。今度こそ、大切な人を守るために。』

 

 ふざけて笑う訳ではなく、今度は真面目な表情でそう語るローリエからは、言葉の端々から真剣味と後悔のようなものを感じた。ほぼ初対面に等しい俺にそんな表情で話すローリエを見て、「大切な人を守りたいからってここまでやるか?」みたいな質問は喉から出なくなった。

 だが、彼はその感情を隠すかのように再び笑い出す。

 

『……なーんてね、アハハハ。

 えっと、この発明品のことは誰にも……』

 

『……言えるワケないだろ。こんなものは世に出回らせちゃあいけない。』

 

 

 ローリエのこの発明は、秘密にしなければいけない。

 この意見は今でも変わらない。

 だって、あの発明品は、確実にエトワリアに戦禍を招く………効率よく敵を殺せる武器が出回ったら、それを巡って戦いが起こり、より激化するに決まっているからだ。そうすれば死人が続出する。幸い、俺も彼も人並みの倫理観はあるようだ。

 

 

『でも、なんで俺なんかにここまで話してくれたんだ?』

 

『…神殿に入ってから、話しかけてくれたり、こっちの話を聞いてくれた人が君で初めてだったからかな。嬉しかったんだ。

 ……ちょっと話しすぎちゃったけど。』

 

 

 思い出したかのように「聞いてくれよ、他の連中はさぁ…」と俺以外の同級生に対する愚痴を言う彼は、どう見てもあの恐ろしい発明品を悪用するとは思えなかった。

 

 それから俺とローリエは、一緒に行動する事が多くなった。あいつの魔法工学の知識は人並みどころか俺以上で、突飛な発想をいくつも持っていた。俺はそれに感心し、何とか彼も驚く発明を造れないかと努力した。気づけば、俺達は軽口を叩き合えるような関係になっていた。

 ……この頃からずっと「女は愛するもの。サ○ジもそう言っている」とか「百合恋愛・結婚は認められるべきだ」とか訳わかんないことをしばしば言ってて理解に苦しんだけどな。

 

 その後も、あの危険な発明品を隠すかのようにローリエは様々な生活用魔道具や娯楽品を発明していった。

 円型の自律走行を行う掃除機、四枚のプロペラで空を飛ぶオモチャ、小型のインスタントカメラ、フィルムの続く限り録画を行うカメラ、ペンの形をした懐中電灯、遠くの人物と会話ができる通信機、「トランプ」と名付けたカードに「将棋」とかいうボードゲーム………中にはコレはちょっとっていうもの(G型魔道具など)もあったが、挙げ始めれば枚挙にいとまがない。

 彼は、そういった画期的かつ役に立つ物を多く発明したとのことで(後に禁忌扱いされたネタ発明もあったが)、八賢者に選ばれた。

 

 でも、その裏で日用品ではないものも開発していることも、しばしば奴のテーブルの上が爆発していたことからも伺えた。

 

 

 エトワリアの発明王ともいうべきコイツからは、どんな発明品が出てくるのか分からん。

 

 それはつまり、()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを意味している。

 

 

 

 あいつが賢者になってから、こんな質問をしたことがある。

 

 

『今の賢者の中で一番強い賢者は誰だと思う?』

 

 

 ほぼ興味本位の質問だったが、ほんの少し、彼が彼自身の強さとその可能性についてどう考えているのかを知りたいと思ったのも本音だ。その結果、彼はこう答えた。

 

 

『一番強い賢者? う~ん……まず俺はないとして………やっぱハッカちゃんかな? 夢幻魔法、チートじゃない?』

 

 

 ハッカという八賢者については、俺はほとんど知らない。故に、夢幻魔法とやらの効果も、名前から予測するしかないのだが、きっと幻術の(たぐい)だろう。だが、ローリエの発明品はそういう意味でも奇想天外で予測不可能だ。「パイソン」だって、パッと見ただけではどんなものかまでは分からなかった。

 

 俺から言わせれば、「凶悪な初見殺しの武器を作れるお前の方がチートだわ」という感じだ。

 とぼけているのか本当に自身の持つ力の意味を分かっていないのかは確信が持てないが、賢者の中でもかなり強い部類に入る男だと思う。相性次第では、格上も完封できるだろう。

 

 

 

 

 

 もし俺の見立てが間違っていなければ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ローリエは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()1()5()()()()殿()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁこの点については、あまり危険視していない。

 

 なぜって? そりゃあもちろん――

 

 

『アルシーヴちゃん! 髪型ちょっと変えた? いつもと違った可愛さだね!』

 

『……ローリエ。確かに髪型を少し変えたが、セクハラの報告からは逃れられんぞ。

 …セサミから3件、カルダモンから1件、ほか女神官から18件。あと今日、昨日、一昨日(おととい)と私の胸も揉んでくれたな。……弁明はあるか?』

 

『…ああっ、いけない! 俺、今日はデートの日だった! それじゃっ!!』

 

『逃げるな!! “ルナティック・レイ”!』

 

『ぎゃあああああああぁぁぁァァァァァッ!!!!?』

 

 

 ―――あいつがこういう性格してる(女好きだ)からに決まってるだろ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 それはともかく、だ。

 ローリエ自身、日用品だけじゃなく、未知の武器も造っているのだ。だから、俺も俺で戦うための知恵を絞らざるを得なくなった訳。

 

 そのうちの一つがさっきのおっさんと戦った時に使った木剣に仕込んだ魔法だ。

 

 錯乱魔法。

 

 敵の精神を動揺させ、混乱させる魔法だ。時間をかけてゆっくり発動させることで、相手に自覚されずに混乱させることができる。

 今回は、最初の一撃を打ち込んだ時に発動させ、じっくりと魔法をかけ、奴を前後不覚にさせた。試験的な運用もあって、少しゆっくりめだったが、魔法の完成スピードをもう少し早くしても良さそうだな。

 

 魔法の属性が未だに決まっていないローリエとは違い、俺は既に水属性で決まっているので、水属性が得意な錯乱魔法・幻影魔法・水鏡(すいきょう)魔法といった魔法を中心に覚え、練度を上げた。

 

 ちなみに、幻影魔法とは、ちょっとした幻を見せる魔法のことで、水鏡(すいきょう)魔法とは、水の反射で鏡を作ることで、相手を惑わせる魔法だ。

 

 たかがそんなこと、と思うが戦闘中は半端じゃないほど反射神経を使う。

 そんなめまぐるしく戦況が変わる時に錯乱してまともな思考ができなくなったり、上下左右が反転したり、幻に騙されたりしてみろ。たとえどんな奴が相手でも充分命取りになる。

 

 基本的には剣術で戦い、魔法は妨害に専念する。

 

 

 それがこのコリアンダー・コエンドロの戦い方だ。

 

 課題としては、まずはフェンネルあたりに俺の剣術を見てもらって、問題点を見つける所からだな。独学だったから、変なクセが出ているかもしれない。

 

 

 

 

 とにかく、今やるべきことは………

 

「ローリエの野郎、どこへ行きやがった……?」

 

 女の子二人と避難とかこつけてどこかへ行ったローリエを探すことだ。

 あいつの守備範囲は18からだそうだし、「百合CPは見守るもの」とかいって女子同士の恋愛を大切にしているから流石に14、5くらいのあの少女達には手を出さないと思うが……

 

 ……

 ………

 …………出さないよな?

 

 ………不安になってきた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ぶえっくし!!」

 

「だ、大丈夫ですか、ローリエさん?」

 

 思いっきりくしゃみをしてしまい、ローズちゃんを心配させてしまった。

 今、このローリエは彼女達の信頼を得るために頑張ってるのに、誰か良からぬ噂でもしてるのか……?

 

「誰だ、俺の噂をしてる奴は……?」

 

「そんな古典的なことってあるんですか……?」

 

 

 ボソッとリリィちゃんがそんなことを言う。

 くしゃみ=噂の等式って、エトワリア(ここ)でも古いって認識なのかよ。

 まぁいい。ちゃっちゃと聞き込みを済ませるとしますか。

 

 




キャラクター紹介&解説

コリアンダー
 今回のメイン人物。戦闘描写・解説ももちろんだが、ローリエとの出会いと賢者にまで登りつめるローリエをただの(と言っちゃあ失礼だが)エトワリア人の彼視点から書いた。ちょっとした考察回なので、物語の進展はほぼなし。その代わり、短めである。


ローリエ
 コリアンダーに意外と評価されていた男。魔法工学に自信のあったコリアンダーさえも知らない拳銃を作り上げた彼は、それだけでも脅威と思われている。だが、彼自身がとんでもない女好きなので、危険視されることなく、健全な友人付き合いを送っている。神殿内の性別割合が極端に男に傾いていたらどうなっていたことやら。
 まぁ、これ『きららファンタジア』なのであり得ないけど。
 そして、やはり彼が武器を作り、使う理由は「大切な人を守る為」であるようで……?


△▼△▼△▼
ローリエ「リリィちゃんとローズちゃんから信頼を得るべく、仕事を見学させることにした俺。」
リリィ「ちょっとでも変な真似したら通報するからね。」
ローリエ「分かった、分かったから落ち着け……」
ローズ「でも、ローリエさんの聞き込みが進むにつれて、リリィのお母さんの行動が次々と明らかになっていって……」
ローリエ「リリィちゃん。もしかして、君のお母さんは―――」

次回『ミネラ その①』
リリィ「ぜ……絶対見てね?」
▲▽▲▽▲▽

あとがき
 最近忙しくて、投稿ペースが不安定です。それに、書きたいところばかり募っていくので、ストーリーの進み具合も不安になりそう。でも、必ず完結させたいと思います。これからも「きらファン八賢者」をよろしくお願いします。


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第20話:ミネラ その①

“きららさんのキズを癒やすために港町に泊まった日に、わたしはおいしいドーナツ屋に行きました。
 その人の話には、おどろかされました。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


「お兄さん。やっぱりあんた、いい人だよ。お母さんのために、お金を稼ぐなんて。」

 

「いえいえ。僕に働く理由を思い出させてくれたあなたほどじゃあありません。」

 

 俺は、もうちょいで30代に入りそうな、八百屋のお兄さんと握手をする。こうして働く理由を思い出させた後で、話を聞き出すことが、俺の仕事だ。そこに、おふざけはない。受けた仕事は真面目にやるのみだ。

 

 

 まぁリリィちゃんとローズちゃんにかっこいい所を見せるためにやってるんだけどね!! そうじゃなけりゃ、こんな面倒なことやってられるか。コリアンダーあたりに押しつけてるわ。

 

 

(ほら見てリリィ、やっぱりローリエさんいい人よ。疑う理由なんてないでしょう?)

 

(う~ん……なんか引っかかるのよね……何というか、仮面被ってそうというか……)

 

 百合CPの二人は、俺の仕事を後ろから見学しつつ、そんなことを小声で話し合っている。

 ローズちゃんは簡単に信じるのに対し、リリィちゃんはやっぱり鋭く、慎重だ。これなら、結婚後のローズちゃんもリリィちゃんに任せられる、か。

 

 

「ところでお兄さん、聞きたいことがあるんだけど。」

 

「なんですか?」

 

「この男、知らない? 俺は今、この人を探しているんだ。」

 

 話を改めて、俺は八百屋のお兄さんにあるものを見せた。

 

「これは……?」

 

「男の人相書きだ。」

 

 そう。人相書きである。流石に、写真はまだ浸透していない上に、流血シーンがはっきり写ってしまっているので、写真を元に男の特徴を描いて、それを見せることにしたのだ。顔ははっきり写っていなかったので、分かる範囲で特徴を描いている。ただ、

 

・身長は165~170センチ

・フード付きの黒いローブを着ていた

・ペンほどの長さほどの杖を持っている

 

 俺の記憶と組合せても、はっきり分かるのはこの程度のものだ。簡単に手がかりを掴めるとは思ってないが、これは我ながらヒントが少なすぎると思う。

 

 

「う~ん……ごめんなさい、これはちょっと分からないですね……」

 

 

 俺の予想に同意するかよのうに、お兄さんは困り顔で申し訳なさそうに答える。

 いや、俺だって申し訳ねーと思うよ? でも、ローブのせいで見た目の特徴はほぼ分からなかったし、他の特徴といえば俺のマグナムで怪我を負っているだろうことくらいだ。流石にそのことは話せない。俺がその男にトドメを刺す為に探しているみたいに聞こえたら少しマズいからな。

 

 

「…そっか。せめて、魔法の杖について何か分かれば良かったんだけど……」

 

「生憎、魔法については門外漢でして……生まれてこの方、野菜の栽培にしか携わってないもので」

 

「そうでしたか。無茶なこと聞いて悪かったよ。」

 

「いえ、こちらこそ、お力になれなくて申し訳ありません。」

 

 

 丁寧に答えてくれたお兄さんにお礼を言って、二人を伴い八百屋を後にする。この調子で町の人々を片っ端から起こしていけば、二人の信頼は得られるだろうか。

 そう思いながら次の人に声をかけようとした時。

 

「ねぇ、あんた」

 

 リリィちゃんが声をかけてきた。振り向くと、訝しげな表情を浮かべた彼女が立ち止まって俺をまっすぐ見ていた。指を銀色のショートヘアに絡み付けていて、声色も穏やかじゃない。

 

 

「いつまでこんなことを続ける気?」

 

 その質問は、彼女の不安を表していたのだろうか。それとも、理解できないから思い切ったのだろうか。少なくとも、「君達が信じてくれるまで」なんて答えないようにしなきゃな、と思いながらこっちも口を開く。

 

 

「勿論、全員に聞くつもりだ。手がかりが見つかるまでやるが、骨折り損になるかもな」

 

「無駄になるかもしれないのよ……? それに、たとえあんたが真面目にやったって、ママを元通りにするのを許す訳ないんだからね?」

 

「ちょっとリリィ――」

 

「別に構わない。本来の目的は()()()()()()からな」

 

「「!?」」

 

 

 そこでリリィちゃんも、彼女を諫めようとしたローズちゃんも、驚きの表情を見せる。俺は、言葉を続ける。

 

 

「リリィちゃん、君は『情報が得られず、無駄になるかもしれない』って言ったね? 違うよ。

 俺は『結果』を求めて動いている訳じゃあない。結果を追い求めてばっかりいると、『近道』をしたくなる。『真実』を見失ってやる気もなくなっていく。

 大切なのは『真実に向かおうとする意志』だ。それさえあれば、例え今回は収穫がなかったとしてもいつかは辿り着く。だって、真実に向かっているんだからな。」

 

 

 違うかい? と微笑みかけると、二人ともあっけにとられていたが、ローズちゃんが我に返り、俺の手を握ってきた。彼女の紫水晶(アメジスト)のような瞳が少し潤んで、光を乱反射させている。

 

 

「………流石です、ローリエさん。私は、あなたを尊敬します。ただひたすらに、真実に向かうあなたを……」

 

 ……そこまで尊敬されると困るんだけどな。

 偉そうな事を言った俺だが、毎回そう上手く行動できる訳じゃない。さっきの台詞だって、前世の漫画の知識から持ってきたものだ。

 

「そんなに持ち上げないでくれ。俺も、まだ未熟だ。感情に流されて、焦って『結果』を求めちゃうこともある。」

 

 

 人間40年(仮定)、俺でもそうして何度も失敗してきた。前世では、受験、就職、人間関係………『結果』を求めて失敗し、後悔した記憶はいくつもある。今世でも、後悔したことがないと言ったら嘘になる。

 

 例えば、ローブ野郎を排除しようとして、結局アルシーヴちゃんとソラちゃんの運命を変えられなかったあの夜。

 

 もし、俺が落ち着いて行動していたら?

 

 もし、奴を倒すことができていたら?

 

 思い出すたびに、今となっては何の意味もない「たら・れば」が頭の中を駆け巡る。非合理的だからやめようと無理矢理思考を打ち切っても、思い出せばまた再燃する後悔の念。そういう感情に苛まれる度に、「人間って面倒くさい生き物だな」と思ってしまうのだ。

 

 

「ローズ、言ったわよね? 簡単に人を信じていいのかって。」

 

「リリィ。まだローリエさんを信用できないって言うの?」

 

「そう、なのかな………うーーん……」

 

 

 最愛の女の子(暫定)に説得され悩む彼女に「無理に信じなくてもいいんだよ」とフォローしたのだが、すぐさま睨まれた俺はリリィちゃんのフォローはローズちゃんに一任しようと考え、次のだらけた人に話しかけた。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 突然現れて、ママを口説こうとした男は、魔法工学教師のローリエと名乗った。彼が現れた時、せっかく得たまたとないチャンスを奪われてたまるものか、と思った。

 

 

 

 

 

 

 あたしは、少し前から「他の子たちとは違う」って自覚を持っていた。

 他の子達が好きな男のタイプについて話している時。ラブロマンスに思いを馳せている時。恋愛物語の感想を話し合っている時。あたしは、それに()()()()()()()()()()心を揺さぶられなかった。うっとりと「どんなシチュエーションがときめくか」とか「どんな男が格好いいか」とか語る同級生が理解できなかった。でも、「それの何がいいの?」なんて訊ける筈もなく、ただ隅っこで愛想笑いを浮かべる日々を送っていた。

 

 初めてローズに会ったのは2年前のこと。

 

 海辺の砂浜に座っていた、薔薇(バラ)のような深紅の髪と紫水晶(アメジスト)のような色の瞳、それを一層引き立てる白いワンピース。ハイビスカスの花に誘われる蝶のごとく、彼女に近づいてみると、彼女の方から声をかけられた。

 

 

「なーに?何か用?」

 

「えっ!? えっ、えーっと……

 ………か、可愛い子だなって、思って………

 

 

 突然のことに戸惑った勢いで、そんなことを言ってしまっていた。

 

 この直後、なんとか誤魔化して友達になったんだけど、後に聞いたことには、ローズはこの時、いきなり告白されたことに驚いて、惚れてしまったそう。当時のことをあまりにどストレートに言うもんだから、恥ずかしくなって照れ隠しにつねっちゃったけど。

 かくいうあたしも、この時にローズに一目惚れした。

 

 それと同時に、理解した。

 

 

 

 あたしは、()()()()()()()()()()()()()って。

 

 

 それが、周りと違う理由だと知った時、あたしは更に他の子達と距離を置こうとした。自分だけの秘密を、冷凍庫の奥にしまうように、凍らせておこうとした。もし、この秘密が皆にバレちゃったら……そう思うと、怖くて仕方なかった。

 

 その時、あたしのそばにいてくれたのも、ローズだった。

 

 

『どうしたの、リリィ?』

 

『ローズ、だったっけ?』

 

『そうだよ! 覚えてよ! ちょっと泣きそうなんだけど?』

 

『ご、ごめんなさい! 覚える! 覚えるから、泣かないで……ね?』

 

『友達………だよね?』

 

『う、うん! あたしたちは友達!!』

 

『えへへー、やったー! 友達、友達ー!』

 

 

 泣きそうだった彼女は嘘のように飛び跳ねて喜んだ。

 

 それ以降も友達として過ごしていく内に、ローズという少女の人間像がだんだんわかってきた。

 ローズは、人の幸福を願い、人の不幸を悲しみ、人の願いを応援し、人と愛や友情を分かち合える子だ。そう思った。少なくともあたしはそうだと信じている。

 

 だからだろうか。彼女に「あたしの秘密を話してもいい」と思えるほど、彼女を信頼したのは。

 

 

 

 

『あたしね、おかしいの。女の子なのに、女の子を好きになるの。』

『………っ』

 

 彼女と「友達」になってから1年ほどたった冬の日。あたしは「大切な話がある」とローズを二人っきりになれる場所でそう告げた。

 覚悟はしていたつもりだった。でも、秘密を話した直後のローズの目を見開いて絶句していた姿が、あたしの絶望感を掻き立てた。

 ああ、きっとこの子も同じだと。あたしが理解できるはずの友達が、理解できなくなっていく。届いていたはずの手が届かなくなっていく。全身から血が引き、冷えていく感覚に耐えながら独り、ぽつりぽつりと話していく。

 

 

『だからね……っ、これ以上、あたしと、一緒に………』

 

 

 言葉が喉につっかえてスムーズに出てこない。「一緒にいちゃいけない」と言うだけなのに言えなくて、ローズを離せなくて、気が付いたら下を向いていて、涙がボロボロ(こぼ)れて、頬を冷たく濡らした、その時。

 

 

 

 

 

 

『大丈夫だよ』

 

 

 

 

 

 

 温かいものが今にも凍えそうな両頬を包んだ。

 

 

 

 

『例えどんな子を好きになっても、リリィはリリィだよ』

 

 

 

 

 その言葉に、顔を上げる。滲んだ視界には、ローズだけが映っていた。表情は分からない。でも、確かに驚いたけどね、という彼女の声色は優しかった。

 視界の全てが、虹色に色づき始めた。さっきまでの、氷河のような涙が、温かく、清らかで、春の小川のようなものに変わったことに気が付くのに時間がかかった。

 

 

 

 

『……例え、それが……ローズ…あなた、でも?』

 

 自然に出たあたしの言葉に、赤面して面食らいながらも、ぼやけたローズは答えた。

 

『………………うそ、まさかの両想い……!?』

 

 

 

 その言葉はあまりにも拍子抜けしていたが、暖炉の中の炎が凍えた体を温めるかのように、あたしの中で凍り付いていた想いが一気に溶けた気がした。溶けだした想いが両目から溢れ出して、拭っても拭っても止まらなかった。

 

 

 

『……っ、そう…だよ、ローズ………好きだよ……ローズ………』

『私も………リリィが好きっ、大好き……!!』

 

 こうして、あたし、リリィとローズは恋人になった。

 

 

 

 

 

 でも、あたしはママにそのことを報告できずにいた。

 

 パパが5年前に亡くなってからというもの、ドーナツ屋の店主として休まず働いているのだ。きっと……いや、絶対反対されるに決まっている。このことは、ローズにも相談した。複雑な顔をしたが、一応はあたしの意思を尊重してあたし達の関係は秘密にしている。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時に起こったのが大人の怠惰化である。

 

 仕事に熱心なママでさえ、「仕事したくない」って言ってだらけてしまっているのだ。おまけに、強盗(?)に押し入られた時に投げやりになっていたのも確認済みだ。普通ならピンチだけど、あたしが考えたのはそれだけじゃない。

 今なら、あたしとローズのお付き合いを認めてくれるかもしれない。もしそれが駄目でも、駆け落ちの為のお金も「面倒くさいから好きにすればー」とか言って調達できるだろう。

 

 だから―――今、ママを元通りにされるのは困る!

 

 

 

 現在、目の前でだらけきっている宝石商に話しかけている男も、昨日ママを元通りにしようとした。彼の妥協案で聞き込みに付き合わされているが、ママを元通りにされる展開だけは避けなければ。

 でも、今帰るとローズとローリエが二人っきりになってしまう。それはもっとマズい。

 一体、どうすれば………!?

 

 

「なぁ、あなたが働く理由は何だい? やっぱりお金かな?」

 

う~~~ん……

 

「……違うか。なら、あなたの仕事で喜ぶ人でもいるのか?」

 

 

 ローリエがそう宝石商に言うも反応はない。金も人の笑顔も彼の働く理由ではないと判断したのか、仕事の後の一杯はとか、結婚の為かとか様々な理由を試している。

 何人にも同じことをしたためか、手際がいい。この調子でママまで復活させられるとこっちが困るんだけど……

 

 

「ねえ、リリィ?」

 

「っ! なに、ローズ?」

 

「そろそろ信じてあげたら?」

 

「……どうして彼の肩を持つの?」

 

 

 声をかけてきたローズのそこがまだ分からない。今日、会ってから半日も経ってない筈なのに、何故なのかが妙にモヤモヤする。

 

 

「……一生懸命だからかな?」

 

「一生懸命?」

 

「そう。あの人は、初めて会った人達、見ず知らずの他人であるはずの人達に親身になって話しかけている。誰にもできることじゃあないわ。」

 

「無茶苦茶な……それに、そういうのって、慣れなんじゃあないかしら」

 

「リリィは私以外に友達を作ろうとしなかったのに?」

 

 う、と答えに困ってしまう。確かに、あたしはローズ以外に親友と呼べる存在がいない(厳密に言うと、ローズは恋人なのだから、ローズのように親しくしようとした人がいないと言うべきなんだろうけど)。

 

 

「『最初に私達の町の人々に声をかける』ってことをしなければ、慣れることすらないわよ?」

 

 ローズの言葉はきっと、的を射ているのかもしれない。あたしは嫌われること(『結果』)を恐れて、他の人々の輪の中に入らなかった。さっきのローリエが言っていたこと(『真実に向かおうとする意志』とやら)も含めて、すぐに反論が見つからず苛立ちばかりが増していく。

 

「まぁ、どれだけリリィが友達を作っても、『特別』は私だけだもんね?」

 

「もう、恥ずかしい事言わないでよ……」

 

 そんな感情を読み取ったのか、柔らかく温かい薔薇色が、あたしの腕の中に飛び込んできた。それがあたしの大切な人だと分かるとつい受け止めてしまったが、人の目があるところでするのはやめて欲しい。ローリエは宝石商と何か言い合っていて、こっちを見てないからいいが、他の誰かが見てるかもしれないのに……

 

「こういう状況って興奮しない?」

 

「しないよ!!」

 

 こんな時にローズは何を考えてるの!!

 

「でもリリィ、まんざらでもなさそう。」

 

「そ、そんなこと……」

 

 ない、と言葉が続かない。そこで初めて顔が熱いことに気づいた。

 その熱が頭にまで回ってきて、まともな判断ができなくなりそうだ。

 ローズがあたしを覗き込む。紫水晶(アメジスト)の瞳があたしを捉え、近づいてくる。

 これから唇にやってくるであろう柔らかく甘い感触を予見しつつ、目を閉じた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、オホン!」

 

 

 

「ひゃああああ!!?」

 

 

 

 

 その時、宝石商と会話をしていたはずの彼か