きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者 (伝説の超三毛猫)
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おまけ:脇道に逸れすぎると作者も読者も絶対飽きちゃう編
ゲーム・きららファンタジア風ボイス集:ローリエ


これは、『もしローリエがきららファンタジアに登場したら』をコンセプトにしたセリフ集です。逐一更新していきたいと思います。

2020/3/20:称号を追記しました。
2020/4/8:プロフィールとCVを追記しました。
2020/4/23:挿絵を追記しました。兎秤さん、素敵なイラストをありがとうございます。
2020/4/24:クリエメイトコミュを追記しました。それに伴い、称号を追記および称号取得条件を明記しました。
2020/9/27:クリエメイトコミュの報酬を追記しました。
2020/10/28:台詞を追記しました。
2021/4/2:ローリエ【第二部】の台詞・称号を追記しました。
2022/8/27:ローリエ【第二部】のクリエメイトコミュを追記しました。それに伴い、新たな称号および称号取得条件を追記しました。


プロフィール&登場作品&CV

神殿の技術開発を行う、八賢者唯一の男性。

見目麗しい女性が大好きで、よくナンパをする。

前世からの知識と技術を活用し、敵を圧倒する。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:中途半端な田舎の魔獣

 

 

【挿絵表示】

 

 

召喚時(☆5せんし)

「可愛い女の子が出てくると思った?

 残念!俺でしたー!ハハハハ!!

 クーリングオフはないから、

 諦めるんだな!せんしとして活躍

 できるのだけは確かだから、そんな

 この世の終わりみたいな顔すんな!」

 

召喚時(【第二部】☆5アルケミスト)

「エトワリアの新たな危機において、

 このローリエの目的はただ一つ。

 大好きなみんなを守ること。

 その為に…えーと、敵味方関係なく驚かす事も

 あるかもしれないけど…まぁ、ここは

 未来の為と思って一つ、笑って許して欲しい。」

 

 

タイトルコール

「きららファンタジア。さぁ、ゲームの始まりだ!」

 

ゲーム起動時挨拶

「待ってたぜ……歓迎しよう、盛大にな!」

「おはようさん。今日の調子はいかがかな?」

「寝る時間はしっかり確保しとくんだぞ?」

 

ホーム画面会話

①「俺はローリエ。八賢者唯一の男だ。それなりの腕を持つ技術者兼発明家でもある。」

②「画面の前の君にだけ教えよう。実は俺も…かつては君と同じプレイヤーだったんだ。*1

③「アルシーヴちゃんとソラちゃんはね、俺の幼馴染なんだ。羨ましいだろ?」

④「誰もが夢見る『転生』。体験した身から言わせてもらうが……考えものだよ、本当に。」

 

ルーム会話

「女の子だらけの部屋に男は俺一人………閃いた!」

「あ、シュガーとソルト用のおやつ買うの忘れてた……」

「セサミのアレ…()()とは言わんが……悪魔的だよな」

「カルダモンはお得意様だよ。ナイフのメンテをしてるんだ」

「ジンジャーの前で猫じゃらしを揺らしたい!……殴られそうだけど」

「流石のフェンネルもここまで追ってはこねーだろ」

「ハッカちゃんとはゲームの趣味が会うんだよな」

「アルシーヴちゃんの可愛い所? ……フフ、秘密だ♪」

「ソラちゃんめ……また神殿を抜け出しおったな」

「うぅむ、まさか俺がここに来ることを許されるとはね……」

 

里訪問

「クリエメイトと研究と称して親睦を深めるのは最高だな!」

「クリエメイトの百合カップルは基本ノータッチだ」

「次の授業教材はなににしましょうかねぇ……」

「ほう…この教材、使えるな……ッ!!」

 

クエスト出発

「エスコートは必要かな、マドモアゼル?」

 

バトル開始or交代時

「このローリエに万事任せなさい!」

「敵は倒すのみ。合理的に行こう」

 

サクッと攻撃

「そらっ!」

「そいやっ!」

 

ガッツリ攻撃

「オラァッ!」

 

攻撃スキル

「さて…避けるなよ!」

「コレで決めるぜ!」

「ソー○スキル…発動ッ!」

 

補助スキル

「打てる手は打っておこう」

「もう大丈夫だ」

 

応援スキル

「君ならできるさ…!」

 

とっておき発動

「さぁ……お仕置きの時間だ!!」

「俺ちゃんのカッコいいところ、見せちゃいましょうか!」

 

ダメージ

「おうっふ」

「タコス!?」

「ぎゃーす!?」

「おいやめろ!」

 

状態異常

「味な真似を…ッ!」

 

戦闘不能

「ば、バカな……!?」

 

バトル勝利

「いつもこうありたいねぇ」

「みんななら出来ると信じてたよ」

 

バトル敗北

「だぁ~~! 負けた負けた!!」

「作戦の練り直しだな、こりゃあ」

 

タッチボイス

「野郎をつつくなんて…君も物好きだねぇ」

「悪いが俺は女の子しか愛せないんでね」

「君って、女の子を喘がせるまでタッチするタイプかな?」

「お前絶対全員をタッチしまくるタイプでしょ〜?」

 

レベルアップ時

「テッテレー! ローリエはレベルが上がった!」

「ほうほう………なるほどね…!」

 

限界突破時

「このローリエに限界などないのだ!」

「新たな境地を見たぜ……!」

 

進化時

「この俺に惚れないように気をつけな?」

 

ミッション表示時

「君に頼みたい事がある。手を貸してくれないか?」

 

ミッション達成時

「流石だね。君ならやれると信じていたよ。」

 

トレーニング出発

「んじゃま、ちょっくら行ってくるわ」

 

トレーニング終了

「ただいま〜〜っと。待たせてゴメンよ、カワイ子ちゃん♪」

 

ルーム挨拶

「おはよう!今日も色々頑張ろうぜ!色々と、な……フフフ」

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

クリエメイトコミュ

ローリエ(☆5・せんし・陽)編

No.1:ローリエをパーティに編成し任意のクエストを50回クリアする

報酬:ローリエのポスター・進化前(ルームアイテム)

 

No.2:ローリエのとっておきのレベルを20にする

報酬:ローリエのポスター・進化後(ルームアイテム)

 

No.3:同じCVのキャラクターを3人以上パーティに編成して任意のクエストを20回クリアする

報酬:称号『お嬢さん、俺とお茶しないかい?』

 

No.4:同じCVのキャラクターを6人パーティに編成(助っ人含む)して任意のクエストを5回クリアする

報酬:エトワリウム

 

No.5:きららとアルシーヴをパーティに編成してローリエに1回勝利する(助っ人でも可)

報酬:称号『輪廻する魂の銃士』

 

 

 

ローリエ【第二部】(☆5・アルケミスト・月)編

No.1:ローリエ【第二部】をパーティに編成し任意のクエストを50回クリアする

報酬:ローリエ【第二部】のポスター・進化前(ルームアイテム)

 

No.2:ローリエ【第二部】をパーティに編成し任意のクエストを200回クリアする

報酬:ローリエ【第二部】のポスター・進化後(ルームアイテム)

 

No.3:ローリエ【第二部】のとっておきレベルを20にする

報酬:称号『天使たちとの出会いに乾杯!』

 

No.4:同じCVのキャラクターを6人パーティに編成(助っ人含む)して任意のクエストを5回クリアする

報酬:エトワリウム

 

No.5:????????????(※現在調査中…)

報酬:称号『????????????(※現在調査中…)

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

獲得できる称号

 

【八賢者】

称号取得条件:ローリエ(☆5・せんし・陽)を加入させる

 

【エトワリアの発明王】

称号取得条件:ローリエ(☆5・せんし・陽)のLv.を最大にする

 

【お嬢さん、俺とお茶しないかい?】

称号取得条件:ローリエのクリエメイトコミュNo.3をクリアする

 

【輪廻する魂の銃士】

称号取得条件:ローリエのクリエメイトコミュNo.5をクリアする

 

【新たな危機に立ち向かう八賢者】

称号取得条件:ローリエ【第二部】(☆5・アルケミスト・月)を加入させる

 

【日ノ本の大総統】

称号取得条件:ローリエ【第二部】(☆5・アルケミスト・月)のLv.を最大にする&????????????(※現在調査中…)

 

【天使たちとの出会いに乾杯!】

称号取得条件:ローリエ【第二部】のクリエメイトコミュNo.3をクリアする

 

????????????(※現在調査中…)

称号取得条件:ローリエ【第二部】のクリエメイトコミュNo.5をクリアする?

*1
ローリエには、ゲーム『きららファンタジア』の記憶がある。故にこのような第四の壁の破壊の真似事が可能。



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ゲーム・きららファンタジア風ボイス集:アリサ

こちらは、『もしアリサがきららファンタジアに登場したら』をコンセプトにしたセリフ集です。


※拙作のネタバレ要素を一部含んでおります! 先にプロローグから始まる本編を読んでおくことをお勧めします!!











2020/4/23:挿絵を追記しました。兎秤さん、素敵なイラストをありがとうございます。
2020/4/24:クリエメイトコミュを追記しました。それに伴い、称号を追記しました。
2020/9/27:クリエメイトコミュの報酬を追記しました。
2020/10/28:台詞を追記しました。


プロフィール&登場作品&CV

人里離れた森の中に住んでいた、呪術師の末裔の少女。

天涯孤独になった所をローリエに誘われ、八賢者の助手となる。

呪術だけでなく、攻撃魔法の才にも長ける。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:声優姉弟のまれいたそ

 

 

【挿絵表示】

 

 

召喚時(☆5まほうつかい)

「初めまして。

 呪術師のアリサ・ジャグランテと申します。

 呪術といっても、怖いものばかりじゃないんですよ?

 包丁と一緒。上手く使えば、

 人を感動させることも出来るんですから!」

 

タイトルコール

「きららファンタジア。必ず、不燃の魂術を滅ぼす…!」

 

ゲーム起動時挨拶

「行こう、みなさん。準備は万端です。」

「おはようございます。今日の職務を始めましょう。」

「すぅ……すぅ…はっ! ご、ごめんなさい!!」

 

ホーム画面会話

①「アリサです。神殿で賢者の助手として働いています。」

②「いつか呪術が、偏見なく怖いものじゃないって分かってくれたらいいなぁ……」

③「兄さんは、私の憧れなの。私を守ってくれたし、誇ってくれたから……」

④「ずっと森の中で暮らしてたから、人が賑わう場所って憧れるんです!」

 

ルーム会話

「またローリエさんが綺麗な人に声をかけてました…」

「女神様って、思ったよりも破天荒な人ですね」

「筆頭神官さまっていつお休みになっているんだろう…」

 

里訪問

「賢者って、仕事多いんですね……助手が欲しがられる訳です……」

「ローリエさんの女癖には、ほとほと困ってしまいます…」

「こ、この光は……!!」

 

クエスト出発

「それでは行きますよ。」

 

バトル開始or交代時

「敵が出ましたね…」

 

サクッと攻撃

「はっ!」

「てやっ!」

 

ガッツリ攻撃

「はああっ!!」

 

攻撃スキル

「ムズいこと言ってくれる……っはっ!!」

「楽には反撃させないわ!」

 

補助スキル

「落ち着け…精神を統一させるの…!」

「私がやらなきゃ…!」

 

応援スキル

「頑張ってください!」

 

とっておき発動

「兄さん見てて。きっとやり遂げるから…!」

「手加減ナシで行きます!せーのっ!」

 

ダメージ

「やば!!?」

「ぐっ!?」

 

状態異常

「なんなの……!?」

 

戦闘不能

「きゃあああああっ!!?」

 

バトル勝利

「やりました! 勝てましたよ!」

「皆さんと…兄さんのお陰です…!」

 

バトル敗北

「私が…守らなきゃ………私、が……っ」

 

タッチボイス

「やめてください。」

「真面目に戦ってください!」

 

レベルアップ時

「兄さんのように…強く……!」

「兄さん…私、強くなれたかな……?」

 

限界突破時

「殻が破れた音がしました……!!」

 

進化時

「これより更に……強くなる……!?」

 

ミッション表示時

「すみません。手が空いていましたら、こちらをお願いいたします。」

 

ミッション達成時

「ありがとうございます。またお願いしますね。」

 

トレーニング出発

「行って参ります。お土産を期待していてください」

 

トレーニング終了

「ただいま戻りました。こちらが戦利品です」

 

ルーム挨拶

「おはようございます!コーヒー淹れてきますね!」

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

クリエメイトコミュ

 

No.1:アリサをパーティに編成し任意のクエストを50回クリアする

報酬:アリサのポスター・進化前(ルームアイテム)

 

No.2:アリサをパーティに編成し任意のクエストを200回クリアする

報酬:アリサのポスター・進化後(ルームアイテム)

 

No.3:アリサの専用ぶきのレベルを45にする

報酬:称号『兄さんは私の心の中に』

 

No.4:アリサのとっておきのレベルを25にする

報酬:エトワリウム

 

No.5:水属性のキャラを6人パーティに編成(助っ人含む)してアリサに5回勝利する

報酬:称号『私が守ります!』

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

獲得できる称号

 

【賢者の助手】

称号取得条件:アリサ(☆5・まほうつかい・風)を加入させる

 

【誇り高き魂の妹】

称号取得条件:アリサ(☆5・まほうつかい・風)のLv.を最大にする

 

【兄さんは私の心の中に】

称号取得条件:アリサのクリエメイトコミュNo.3をクリアする

 

【私が守ります!】

称号取得条件:アリサのクリエメイトコミュNo.5をクリアする



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ゲーム・きららファンタジア風ボイス集:コリアンダー

こちらは、『もしコリアンダーがきららファンタジアに登場したら』をコンセプトにしたセリフ集です。


※拙作のネタバレ要素を一部含んでおります! 先にプロローグから始まる本編を読んでおくことをお勧めします!!













プロフィール&登場作品&CV

 

ローリエの同級生にして同僚である神殿事務員の男性。

常識的で女性が苦手な眼鏡の偉丈夫。

いざという時は木刀に付与した状態異常魔法で戦う。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

 

CV:磁石コンビのNのほうの人

 

 

召喚時(☆5ナイト)

「神殿事務員のコリアンダーだ。

 ナイトとして君たちの戦いに―――って!

 なんで俺がナイトなんだ!

 普通アルケミストだろ……ッチ、わかったよ。

 なったからには出来るだけの仕事はするよ!」

 

タイトルコール

「きららファンタジア。……今日も始めますか…。」

 

ゲーム起動時挨拶

「今日も出かけるのかい? 頑張りな。応援してるぜ」

「随分忙しいんだな。まさか朝っぱらから働くとは……」

「もう夜も遅い。無理のし過ぎだけはするんじゃないぞ?」

 

ホーム画面会話

①「俺はコリアンダー・コエンドロ。神殿事務員として働いてるんだ」

②「神殿事務員の仕事? あー……まぁ、目立つモンでもないしな…気が向いたら話すよ」

③「ローリエの野郎が、なんであんな気安く女と話せるのかが分からない…!」

④「いざという時に戦う準備は出来ている。剣術と魔法工学の合わせ技が、俺の戦法だ。」

 

ルーム会話

「す、すまん…ちょっと、席を外してもいいかな……?」

「ここまで女性だらけだと息が詰まりそうだ……緊張で」

「男同士は話がしやすい。女相手だと…何話せばいいのかわからない…」

 

里訪問

「神殿事務員の仕事も楽じゃあない…視察にも一苦労だ」

「ローリエのヤツ、また仕事押し付けやがって……」

「ふーん。今日は良い事ありそうだな」

 

クエスト出発

「準備はいいな?行くぞ。」

 

バトル開始or交代時

「魔物が出てきたな…」

 

サクッと攻撃

「いくぞっ!」

「はッ!」

 

ガッツリ攻撃

「全力を込めるっ!」

 

攻撃スキル

「無駄口は叩かない…!」

「スキありだ…っ!」

 

補助スキル

「ここは態勢を立て直す!」

「頭を冷やせ…!」

 

応援スキル

「後方支援は任せろ!」

 

とっておき発動

「行くぞ! 俺が先導する!」

「これが俺のとっておき……受けてみろ!」

 

ダメージ

「チッ!」

「ぐあっ!?」

 

状態異常

「何だコリャア……!?」

 

戦闘不能

「くっ…そ……ここまで、か…」

 

バトル勝利

「ま、こんなところか」

「ふぅ……危なかった…」

 

バトル敗北

「やっぱり俺じゃあ駄目だったのか…」

 

タッチボイス

「おい、仕事しろよ。」

「今はそんな余裕ないだろ!」

 

レベルアップ時

「いつか必ず…アイツに並ぶ!」

「これもまた一歩……!」

 

限界突破時

「試行錯誤、一念通天ってね。」

 

進化時

「よし、次だ。」

 

ミッション表示時

「悪い、ちょっと、手伝ってくれないか?」

 

ミッション達成時

「助かった。またなんかあったら声かけるからな。」

 

トレーニング出発

「了解。ちょっと出かけてくる。」

 

トレーニング終了

「ただいま。いない間、迷惑かけて悪かったな。」

 

ルーム挨拶

「よう。朝から精が出るな。手伝おうか?」

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

クリエメイトコミュ

 

No.1:コリアンダーをパーティに編成し任意のクエストを50回クリアする

報酬:コリアンダーのポスター・進化前(ルームアイテム)

 

No.2:コリアンダーをパーティに編成し任意のクエストを200回クリアする

報酬:コリアンダーのポスター・進化後(ルームアイテム)

 

No.3:コリアンダーの専用ぶきのレベルを45にする

報酬:称号『一刀両断!』

 

No.4:コリアンダーのとっておきのレベルを25にする

報酬:エトワリウム

 

No.5:土属性のキャラを1人も編成せずに(助っ人含む)コリアンダーに3回勝利する

報酬:称号『螢雪と幻影の魔剣士』

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

獲得できる称号

 

【神殿事務員】

称号取得条件:コリアンダー(☆5・ナイト・水)を加入させる

 

【幽幻なる魔法戦士】

称号取得条件:コリアンダー(☆5・ナイト・水)のLv.を最大にする

 

【一刀両断!】

称号取得条件:コリアンダーのクリエメイトコミュNo.3をクリアする

 

【螢雪と幻影の魔剣士】

称号取得条件:コリアンダーのクリエメイトコミュNo.5をクリアする

 

 



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ゲーム・きららファンタジア風資料集:敵編その①

こちらは、『もしオリジナルの敵キャラがきららファンタジアに登場したら』をコンセプトにした設定資料集です。


※拙作のネタバレ要素を盛大に含んでおります! 先にプロローグから始まる本編を読んでおくことをお勧めします!!


































攻略本風に書いているので、ご了承ください。では、どうぞ。
※2020-8-2:ビブリオの鉄球攻撃の威力を修正しました。
※2021-2-26:サルモネラ・ビブリオ・セレウスの専用称号とその入手法を追記しました。難易度は低めです。
※2021-9-5:キャラ説明に名前の由来を追記しました。


 

〜サルモネラ〜

 

プロフィール&登場作品&CV

砂漠にたった一人で住まい、そこを通る商人や旅人を襲う、一匹狼の盗賊。朱色の目と男らしからぬ黒いロングヘア、砂漠にて自然色になる砂色のフード付ローブが特徴。

趣味と実益を兼ねて襲撃を行い、人からものを奪う事を当然のことと考えている。

本編では『エピソード4(さばくぐらし?)』に登場。戦えないクリエメイトを優先的に狙った。

名前の由来はサルモネラ菌から。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:しょうなのぉ!?で有名なあの人

 

 

エネミー情報・サルモネラ

属性:炎

HP:24500(メイン)

   198875(ハード)

   ???(チャレンジ)

チャージカウント:3

 

[行動]

 

クリエメイトの命、貰い受ける!……自身のCRI率が中アップ

射る……一体に炎属性(物理)ダメージ

連続で射る……一体に炎属性(物理)の連続ダメージ

ハイド・ミラー……自身のCRI率が中アップ&全体のATKが中ダウン

精密射撃……自身の次回行動時の攻撃を確定クリティカルにする

【必殺技】弱い奴からやるのは狩りの定石だろ……一体に炎属性(物理)ダメージ。そうりょ・まほうつかい・アルケミストが狙われる確率が高い。

 

 

[解説]

 サルモネラは、とにかくクリティカル率のバフを上げて襲いかかってくる。その為思わぬ大ダメージに注意だ。

 また、必殺技の『弱い奴からやるのは狩りの定石だろ』は、ナイトの挑発をそれなりの確率で抜いて後衛キャラを狙ってくる。運が悪いとナイトを無視してそうりょやまほうつかいが倒されてしまうことも。火力を重視して矢を数打たれる前に押し切ってしまうと良いだろう。

 

 

備考:称号『砂漠の一匹狼』を手に入れる為には、「がっこうぐらし!」のキャラのみのパーティで彼に1回勝つ必要があります。

 

条件達成必須キャラについて

 「がっこうぐらし!」のクリエメイトは現時点で☆5の水属性ナイトがいない。そのため、一見難しい……ように見えるが、実はくるみ(☆5土せんし)が役に立つ。バフを持って攻撃スキルor最終進化武器スキルorとっておきであっという間にサルモネラを溶かすことが出来るのだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

〜ビブリオ〜

 

プロフィール&登場作品&CV

顔にまで脂肪が回るほどの肥満体型と成金趣味のコーディネート・宝石飾りが特徴の大男。

かつて『イモルト・ドーロ』と数々の商会を経営し、悪辣な方法で私財を肥やしていた悪徳商人。ドリアーテの資金源になることで彼女に取り入る。

本編では『エピソード6(ブレンド・I)』に登場。苺香を商品化しようとしたり、人質としたり、金にものを言わせて数で取り囲んだりと、あくどく卑怯なことを積極的に行う。

名前の由来は腸炎ビブリオから。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:二代目波平

 

 

エネミー情報・ビブリオ

属性:陽

HP:48530(メイン)

   159900(ハード)

   ???(チャレンジ)

チャージカウント:6

 

[行動]

ただで済むと思わないことだぁな!……自身に7回まで攻撃を無効化するバリアを張る

薙刀払い……一体に陽属性(物理)ダメージ

金は出してやるんだぁぁな!……味方全体のDEFとMDFが大アップ

やっちまうんだぁぁな!……味方全体のATKが大アップ

強制開放―怪力……自身以外の味方のDEFとMDFを特大ダウン、次回行動時のATKを特大アップ

強制開放―剛脚……自身以外の味方のCRI率を特大ダウン、SPDを特大アップ

か、金をやる…だから見逃して、……自身のチャージカウントを−1する

かかったな、バァァァカ!……全体に陽属性(物理)ダメージ&SPDを大ダウン

サブジェクト……一体にこんらん付与

お、オラを守るんだぁぁな!……自身に3回まで攻撃を無効化するバリアを張る

鉄球ぶん回し……全体に陽属性(物理)の割合ダメージ(残りHPの10%)

はげしい鉄球ぶん回し……全体に陽属性(物理)の割合ダメージ(最大HPの25%)

も…もう、許して… ……自身のチャージカウントをゼロにする。

全財産あげますから… ……自身のチャージカウントをゼロにする。

助けてほしいんだぁぁなぁぁ……自身のチャージカウントをゼロにする。

【必殺技】正しい仲間の使い方……全体に陽属性(物理)ダメージ&自分以外のキャラのDEFが小ダウン。

 

 

[解説]

 ビブリオは、おともにクロモンソルジャーと同じ見た目の「やとわれ傭兵(陽属性、HP7000[ノーマル]、20000[ハード])」×2と共に出現する。基本的には味方へのバフを撒き、高みの見物を行うが、やとわれ傭兵が倒されて自分だけになると「か、金をやる…だから見逃して、」を使い、その後「かかったな、バァァァカ!」を使ってから鉄球をぶん回したり「サブジェクト」を使うようになる。鉄球を使った攻撃は、軽減する事が出来ないので注意。

 なお、やとわれ傭兵がいる状態でHPが半分以下になると「お、オラを守るんだぁぁな!」を使い始める。また、やとわれ傭兵がいない状態でHPが10%を切ると「も…もう、許して…」「全財産あげますから…」「助けてほしいんだぁぁなぁぁ」しか使わなくなる。

 

 

備考:称号『とんだ豚野郎ですね』を手に入れる為には、「桜ノ宮苺香」をパーティに編成して彼に1回勝つ必要があります。

 

条件達成必須キャラについて

 ☆5や☆4に恵まれていない場合は☆3水そうりょの苺香をサブに編成するだけで条件を達成出来るのだが、メインで編成する場合は☆5陽まほうつかいがおすすめ。ビブリオが開幕に張る7回バリアを剥がした後ならば、バフ次第でとっておきでワンパンが狙える。最終進化武器スキルを使えればワンパンにグッと近づくだろう。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

〜セレウス〜

 

プロフィール&登場作品&CV

みすぼらしい格好と無精ひげをたくわえた、怪しい男。

かつて神殿に所属していたが、高すぎる自尊心と歪んだ価値観が災いし追放された。慇懃無礼な性格で己を何よりも最上とし、あらゆる人間を見下している。

本編では『エピソード7(きんいろパニック)』に登場。霧の分身を作り、視界を遮る魔法でローリエときらら達を苦しめた。

名前の由来はセレウス菌から。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:天元突破派手柱の人

 

 

エネミー情報・セレウス

属性:水

HP:52070(メイン)

   200000(ハード)

   ???(チャレンジ)

チャージカウント:4

 

[行動]

煙霞(えんか)……自身の土属性耐性&DEF&MDFがアップ

斑蛇腹(まだらじゃばら)……一体に水属性(物理)ダメージ&低確率でかなしばり付与

霧裂き……一体に水属性(物理)ダメージ

霞初月(かすみそめづき)……一体に水属性(物理)ダメージ&中確率でかなしばり付与

ここを死に場所と愚考しろ……何もしない。

瞬技(しゅんぎ)霧々舞(きりきりま)い……全体に水属性(物理)ダメージ&全体の状態異常を解除

渦巻霧(うずまきり)……自身に1回までダメージを−80%するバリアを張る&自身の炎・陽属性耐性を中ダウン

水鎌霧(みずかまきり)……全体に水属性(魔法)の固定ダメージ(700)

雲合霧集(うんごうむしゅう)……全体のCRI率と水属性耐性を特大ダウン、自身の炎・陽属性耐性を中ダウン

五里霧中……自身の次回行動時のATKが大アップ

【必殺技】幻影霧揉矢刃嵐(きりもみやばあらし)……全体に水属性(物理)ダメージ&低確率でかなしばり付与&自身の炎・陽属性耐性を中ダウン

 

 

[解説]

 セレウスは、土属性耐性と防御力を上げつつ状態異常(かなしばり)を絡めた厭らしい攻めをしてくる。かなしばりになる事がある斑蛇腹と霞初月はかなしばりでないクリエメイトを狙ってくるため、ナイトのヘイト効果を絶やせない。また、こちらのクリエメイト全員がかなしばりになると、ひと行動置いた後に「瞬技・霧々舞い」という高火力の全体攻撃をしてくるので、状態異常には十分注意しよう。

 セレウスは戦闘中に炎属性と陽属性の耐性が徐々に下がっていく。また、長期戦になると「煙霞」の土属性耐性が上がっていくので土属性の仲間だけでなく陽属性、最悪炎属性の仲間も入れておくといいだろう。

 

 

備考:称号『尊大にして傲慢な凡骨』を手に入れる為には、土属性のキャラが二人以内(助っ人含む)のパーティで彼に勝つ必要があります。

 

条件達成必須キャラについて

 土属性枠をくるみ(☆5土せんし)や珠輝(☆5土まほうつかい)にして一気撃墜を狙うのも、やすな(☆5土ナイト)やかおす(☆5土そうりょ)にして強力なサポートを使うのも自由。他のキャラの属性はセレウスの性質から陽属性を選ぼう。炎属性も下がっていくが元々水属性と相性が良くないため、旨味はほとんどないかもしれない。ちなみに、陽属性の大ダメージ枠ならチノ(☆5陽まほうつかい)や宮子(☆5陽せんし)がオススメだ。

 

 



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ゲーム・きららファンタジア風資料集:敵編その②

こちらは、『もしオリジナルの敵キャラがきららファンタジアに登場したら』をコンセプトにした設定資料集です。


※拙作のネタバレ要素を盛大に含んでおります! 先にプロローグから始まる本編を読んでおくことをお勧めします!!


































攻略本風に書いていますので、ご了承ください。


〜アリサ〜

 

プロフィール&登場作品&イメージCV

※既に紹介済のため、割愛*1

 

エネミー情報・アリサ

属性:風

HP:25000(メイン)

   210000(ハード)

   275650(チャレンジ)

チャージカウント:3

 

[行動]

ウインドベール……自身を風属性に変更&自身のバフデバフを解除&自身の炎属性耐性&SPDを中アップ&自身に10回まで攻撃を25%カットするバリアを張る。

ウインドカッター……一体に風属性(魔法)のダメージ

ハリケーン……全体に風属性(魔法)のダメージ

ソニックレイド……一体に風属性(魔法)のダメージ&自身の次攻撃時のMATを特大アップ。ドロウが物凄く早い

【必殺技】ストームドライブ……全体に風属性(魔法)の大ダメージ。自身が風属性でチャージカウントがMAXの時に使用。

イグニッション……自身を炎属性に変更&自身のバフデバフを解除&自身の水属性耐性&MAT&クリティカル率を中アップ

ファイアーボール……一体に炎属性(魔法)のダメージ

スプレッドファイア……全体に炎属性(魔法)のダメージ

ガンズフレイム……全体にランダムで2〜5回炎属性(魔法)のダメージ

【必殺技】フレアドライブ……全体に炎属性(魔法)の大ダメージ。自身が炎属性でチャージカウントがMAXの時に使用。

オーバーヒート……自身のSPDが中ダウン、チャージカウントをゼロにする&自身に5513ダメージ&全体の炎・風属性耐性を大ダウン。HPが55%、30%を切ると一度ずつ使用。次に『プロミネンス』を使用。

プロミネンス……一体に炎属性(魔法)大ダメージを与えるスキルカード(1)を1枚設置*2。次に『クロスガスト』を使用。

クロスガスト……一体に風属性(魔法)のダメージ&MDFが小ダウン。次に『オーバードライブ』を使用。

【必殺技】オーバードライブ……全体に風属性の割合ダメージ(残りHPの40%)&全体に炎属性の割合ダメージ(残りHPの40%)。次に『ウインドベール』を使用。

魔力が暴発した……自身にこんらん付与&チャージカウントをゼロにする。『クロスガスト』を使用してチャージカウントがMAXになった後、チャージダウンされた時に使用。次に『アリサは体勢を立て直した』を使用。

アリサは体勢を立て直した……自身の状態異常を回復&チャージカウントをゼロにする&自身を風or炎属性に変更

 

 

 

 

[解説]

 アリサは、自身の属性を風・炎と交互にチェンジして攻撃してくる(要はきらファン本家外伝のテンペストのようなものである)。風属性時は機動力と防御力、炎属性時には攻撃力を強化して緩急ある攻めを展開する。属性チェンジを行う際にバリア以外のバフ・デバフをかき消すので、デバフのタイミングは考えなくてはならない。

 自パーティの耐久力に不安があるならば、水属性を多めに組むと意識すれば良いだろう。ただし、どちらの属性時も攻撃が劣るという訳ではないのでそこには注意だ。

 HPが55%または30%を切ると『オーバーヒート』を使用して特殊な行動をとり始める。『プロミネンス』『クロスガスト』の多重攻撃ののち、計80%の体力を削る『オーバードライブ』が脅威だ。危ないと思った時はチャージダウンを狙い、『オーバードライブ』の不発を狙うと良いだろう。

 

 

備考:称号『私が守ります!』を手に入れる為には、アリサのクリエメイトコミュ依頼No.5を受け、助っ人を含めた全てのキャラを水属性で統一した上で彼女に5回勝つ必要があります。

 

条件達成必須キャラについて

 水属性は炎属性の攻撃を半減してくれる為、攻略を行う上ではそこまで苦戦する程ではない。ただし、風属性になった時にアリサに連続行動をさせるのは危険だ。クイックドロウ兼チャージ付きの『ソニックレイド』からの『ハリケーン』や『ストームドライブ』などの全体攻撃には要注意。なお、炎属性にチェンジした時はキャラとバフとデバフ次第でワンパンを狙う事は一応可能である。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

〜コリアンダー〜

 

プロフィール&登場作品&イメージCV

※既に紹介済のため、割愛*3

 

エネミー情報・コリアンダー

属性:水

HP:87735(メイン)

   255773(チャレンジ)

チャージカウント:4

 

[行動]

水龍の陣……自身の土属性耐性が中アップ&状態異常を無効化&全体の状態異常抵抗率がダウン

霧双剣鬼……全体に水属性の割合ダメージ(土属性キャラには残りHPの1%×3、それ以外の属性には残りHPの33%×3)

錯乱剣……一体に水属性(物理)のダメージ&中確率でこんらん付与

水鏡剣……一体に水属性(物理)のダメージ&中確率でこりつ付与&自身に2回だけ攻撃を無効化するバリアを張る

次元斬……一体に水属性(物理)のダメージ&一体に水属性(物理)ダメージを与えるスキルカード(3)を1枚設置

幻影剣……一体に水属性(物理)のダメージ&中確率でふこう付与

一刀両断……一体に水属性(物理)の固定ダメージ。使用回数ごとにダメージが増加する。(222→555→777→1111→1555→2000→2555)

【必殺技】明鏡止水……自身にクイックドロウ・リジェネ(20000)を付与&自身にATK&DEF&MDFが特大アップ。

【必殺技】刹那……一体に水属性(物理)の特大ダメージ&自身のバフを解除し、DEF&MDFが特大ダウン。次に『水龍の陣』を使用。

 

 

 

[解説]

 コリアンダーは一体への攻撃&状態異常付与をメインに行い、いやらしくも手堅い攻撃をしてくる。こんらん・ふこう・こりつとどれも厄介な状態異常なので、回復手段を持っておこう。

 必殺技は『明鏡止水』と『刹那』を交互に使用してくる。『明鏡止水』は超強化に等しいバフ効果を持ち、『刹那』は超威力の単体物理攻撃であり、どちらも驚異的だ。また、『明鏡止水』のあとに放ってくる『一刀両断』は、使用するごとに威力が高まり、最大で2500以上の固定ダメージを受けることとなる。ダメージによる発狂がないので、土属性でダメージを軽減しつつ、『刹那』使用後のスキを突いて三連とっておきで大ダメージを狙おう。

 

 

備考:称号『螢雪と幻影の魔剣士』を手に入れる為には、コリアンダーのクリエメイトコミュ依頼No.5を受け、土属性を一人も編成せずに彼に3回勝つ必要があります。

 

条件達成必須キャラについて

 「土属性を一人も編成せずに」は助っ人も含めるため、助っ人にくるみ(☆5土せんし)やソーニャ(☆5土せんし)等を選択してバフデバフ→とっておきのワンパン戦法が使えない。

 また、土属性を一人も編成しないこの攻略では、『霧双剣鬼』が最も脅威度が増す。土以外の属性キャラにHPの99%ダメージを与えてくるこの技を開幕の『水龍の陣』の直後に放ってくるので、全体回復がいないとあっという間に切り崩されてしまうだろう。また、『刹那』の被ダメージが馬鹿にならないので、炎以外のナイトをしっかり育てなければ攻略はキツイと言っても過言ではない。

 

 

*1
『ゲーム・きららファンタジア風ボイス集・アリサ』を確認のこと

*2
このスキルカード攻撃のターゲットは『クロスガスト』を当てたキャラに依存する。

*3
『ゲーム・きららファンタジア風ボイス集・コリアンダー』を確認のこと



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ゲーム・きららファンタジア風資料集:敵編その③

こちらは、『もしオリジナルの敵キャラがきららファンタジアに登場したら』をコンセプトにした設定資料集です。


※拙作のネタバレ要素を盛大に含んでおります! 先にプロローグから始まる本編を読んでおくことをお勧めします!!


































例のごとく攻略本風に書いているので、ご了承ください。

※2021-2-27:ナットと01型57号の専用称号とその入手法を追記しました。入手難易度は低めです。
※2021-6-3:57号の自傷ダメージの具体的な数値を追記しました。
※2021-9-5:キャラ説明に名前の由来を追記しました。


 

 

〜ナット〜

 

プロフィール&登場作品&CV

面倒なことを嫌う、一暴十寒で怠惰なオッサン。

実は、かつて大地の神兵と呼ばれた最強の傭兵である。

エイダという姪っ子がいる。

本編では、『エピソード8(進め!デバッグ探検隊)』に登場。ある目的の為に依頼を受け、言ノ葉の樹の中できらら・フェンネル達を待ち構え(笑)ていた。

名前の由来は納豆菌から。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:麦わら一味のコック役

 

 

エネミー情報・ナット

属性:土

HP:65000(メイン)

   239620(ハード)

チャージカウント:5

 

[行動]

アダマンタイト……自身のATK&DEFが大アップ&全体に炎属性(魔法)の極小ダメージを与えるスキルカード(99)を設置。最初に使用する。以降、スキルカードの効果が切れた時に再使用する。

ダイヤモンド・ダスト……全体に土属性(物理)ダメージ&DEFが小ダウン

ナットは力をためている……次の自身の攻撃を確定クリティカルにする&チャージカウントを1ダウン。次に『緋々色(ひひいろ)の金槌』を使用。

緋々色(ひひいろ)の金槌……全体に土属性(物理)の大ダメージ。

モード・オリハルコン……自身に1回まで攻撃を99%カットするバリアを張る&チャージカウントを1ダウン。次に『イレイズ・カウンター』を使用。

イレイズ・カウンター……一体に土属性(物理)のダメージ&バフ・デバフを解除。『モード・オリハルコン』使用後、最初に攻撃したキャラに対して確定で使用

ミスリル・ラッシュ……全体にランダムで1〜5回の土属性(物理)ダメージ。HPが少なくなればなるほどヒット数が増える。

【必殺技】大地震……全体に土属性の割合ダメージ(残りHPの50%)

 

 

[解説]

 ナットは、ステータスにモノを言わせたパワフルな戦法を取ってくる。そのため主に土属性の攻撃をしてくるので風属性で対策が可能なのだが、一番最初に確定で使用する『アダマンタイト』は、風属性の弱点である炎属性ダメージをジワジワと与えてくる

 だからといって、風属性以外のキャラは『緋々色(ひひいろ)の金槌』や『イレイズ・カウンター』のダメージが痛い。スタンゲージが溜まりやすくなることを覚悟しながらも風属性の有利を得るしかないだろう。

 『イレイズ・カウンター』は、ナットが『モード・オリハルコン』を使用した後、最初に攻撃してきたキャラを狙って攻撃してくる。ナイトのヘイト効果もすり抜けるため、ナイトに引きつけたい場合は『モード・オリハルコン』使用後、最初にナイトがナットを攻撃しよう。ちなみに、攻撃したキャラがナットの行動前に交代した場合は、『イレイズ・カウンター』がヘイト効果に左右されるようになる。

 最初のバフの都合上、物理攻撃よりも魔法攻撃の方が良く効くが、まほうつかいの被ダメージも高いので、とっておきで仕留める時以外はサブに引っ込めておくのが無難だろう。

 

 

備考:称号『大地の神兵』を手に入れる為には、「きんいろモザイク」のキャラのみのパーティで彼に1回勝つ必要があります。

 

条件達成必須キャラについて

 そもそもナットが高火力の敵なので、久世橋先生(☆4風ナイト)や水着綾(☆5陽ナイト)、正月アリス(☆5土ナイト)などの防御力の高いキャラは不可欠。また、全体割合攻撃や『緋々色の金槌』などの凶悪な全体攻撃も持つため、そうりょの育成も忘れてはならないだろう。『モード・オリハルコン』でバリアを張ったナットをそうりょが殴ってしまったら、手痛い反撃でワンパンされてしまう事もあるので、そこにも注意。

 三連とっておきでの攻撃役は、綾(☆4風まほうつかい)などの風属性の魔法攻撃ができるキャラを選ぼう。

 

 

 

 

 

 

〜ナット(若返った姿)〜

 

プロフィール&登場作品&CV

ナットが全力を振り絞り、最盛期の強さを取り戻した姿。

あらゆるものを寄せ付けぬ無双の力を誇るが、

オッサンになった今ではこの姿で5分も戦えない。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:麦わら一味のコック役

 

エネミー情報・ナット(若返った姿)

属性:土

HP:306800(チャレンジ)

チャージカウント:5

 

[行動]

全力で行くぞオラァ!……自身のATK&DEF&風属性耐性が大アップ(半永続バフ)

大地震……全体に土属性の割合ダメージ(残りHPの50%)

しゃらくせェ!!……全体のDEF&MDFを特大ダウン&自身の次の攻撃をクリティカルにする&自身の状態異常を回復。自分が何らかの状態異常を受けると使用。

御武死出庵(オブシディアン)……一体に土属性(物理)のダメージ

大矢紋土堕須斗(ダイヤモンドダスト)……一体に土属性(物理)の連続ダメージ&DEFが小ダウン。必殺技を使う度に威力が減っていく。

猛怒(モード)織破琉魂(オリハルコン)……自身に1回まで攻撃を99%カットするバリアを張る&チャージカウントを1ダウン。次に『慰霊圖(イレイズ)寡運汰亜(カウンター)』を使用。

慰霊圖(イレイズ)寡運汰亜(カウンター)……一体に土属性(物理)のダメージ&バフ・デバフを解除。猛怒(モード)織破琉魂(オリハルコン)』使用後、最初に攻撃したキャラに対して確定で使用。必殺技を使う度に威力が減っていく。

御須利琉(ミスリル)羅襲(ラッシュ)……全体にランダムで2〜5回の土属性(物理)ダメージ。必殺技を使う度にヒット数が減っていく。

極怒陰破苦斗(ゴッドインパクト)……全体に土属性(物理)の大ダメージ&確率でふこう付与

【必殺技】冥土印兵琉(メイドインヘル)……全体に土属性(物理)の特大ダメージ。使う度に威力が減少していく。

ナットの若々しさに陰りが見え始めた……自身のATKバフ解除&自身のSPDが中ダウン。必殺技を2回使って以降にチャージ0の時に使用。

ナットは思った通りの力が出せない… ……自身の全バフ解除&風属性耐性が超特大ダウン。必殺技を5回以上使って以降にチャージ0の時に使用。

 

 

[解説]

 若返ったナットは、若返る前以上の高ステータスに任せた力技の猛攻で怒涛に攻めてくる。風属性以外かつナイト以外のクリエメイトは、ほぼ1発で沈むと思った方がいい。たとえ風属性であったとしても、物理防御の低いまほうつかい・そうりょ・アルケミストはレベル・バフデバフ次第で1撃撤退が見えてくるほどに攻撃力が危険である。この形態では炎属性攻撃をしてこないので、遠慮なく風属性で固めよう。

 このナットの他の特徴として、必殺技を使う度にあらゆる攻撃の威力が減少する傾向にある最初だけ耐えることが出来れば後は怖くないので、最初の防御はこれでもかというほど万全にしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

〜01型57号〜

 

プロフィール&登場作品&CV

元々は言ノ葉の都市に生まれた赤子だったが、

ドリアーテの調教によって主の命を果たす為だけに動く心無い機械に。

名前さえ与えられず、道具として使われた哀れな人形。

本編では、『エピソード9(エトワリア学園情報処理部)』に登場。己の怪我を顧みずに主命を果たさんと襲いかかり、罪の意識を微塵も覚えない歪んだ純真さは、目の当たりにした全ての人間を戦慄させた。

名前の由来は腸管出血性大腸菌O-157から。

 

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:キャラより有名になった時を自由に行き来できる系男性声優

 

 

エネミー情報・01型57号

属性:月

HP:70000(メイン)

   227000(ハード)

   299999(チャレンジ)

チャージカウント:7

 

[行動]

一撃……一体に月属性(物理)のダメージ&自身のSPDが小アップ&自身の状態異常耐性が特大ダウン

二撃……一体に月属性(物理)の連続ダメージ

三撃……一体に月属性(物理)の連続ダメージ&ATKを小ダウン

四撃……一体に月属性(物理)の小ダメージ&クリティカル率を小ダウン

五撃……全体に月属性(物理)のダメージ&月属性耐性を中ダウン

六撃……全体に月属性(物理)の連続ダメージ&よわき付与

七撃……一体に月属性(物理)のダメージ&DEFが大ダウン

強心の秘薬……自身の状態異常を回復&自身の陽属性耐性が超特大ダウン&チャージカウントをゼロにする。自身が「よわき」になると使用。

満身の麻薬……自身の状態異常を回復&自身のDEF&MDFが超特大ダウン&チャージカウントをゼロにする。自身が「はらぺこ」になると使用。

解痺の金丹……自身の状態異常を回復&自身に(最大HPの2%*1)のダメージ&チャージカウントをゼロにする。自身が「かなしばり」になると使用。

気付の仙丹……自身の状態異常を回復&自身のATK&SPDが特大ダウン&チャージカウントをゼロにする。自身が「こんらん」になると使用。

滅殺の狂剤……自身のATK&クリティカル率&クリティカル時ダメージが特大アップ&デバフを解除&状態異常を無効化&チャージカウントをゼロにする。『強心の秘薬』『満身の麻薬』『解痺の金丹』『気付の仙丹』のいずれかを合計4回使用した後に使用する。

【必殺技】乱撃・抗魔結界……全体に月属性(物理)のダメージ&自身のMDFが特大アップ(永続バフ)。初めてチャージカウントがMAXになった時のみこの技を使用。

【必殺技】終撃……全体に月属性(物理)の大ダメージ&自身のATKが極小アップ。

 

 

[解説]

 01型57号は、基本的な行動パターンが全て決まっている。一撃→二撃→三撃→四撃……と順番に攻撃していって、必殺技は一回目のみ『乱撃・抗魔結界』、それ以降は『終撃』を使用する。

 状態異常耐性が著しく低く、あらゆる状態異常スキルにほとんどの確率でかかる。次の行動で状態異常を回復するものの、デバフやダメージがかかるので使わない手はない。おすすめはこんらんとはらぺこだ。『強心の秘薬』『満身の麻薬』で防御が下がりまくれば、陽属性物理攻撃によるワンパンが容易になる。

 ただし、何度も状態異常にかけてると『滅殺の狂剤』を使いデバフを解除&凶暴化する。手に負えなくなるので、状態異常にハメるのは3回までにしておこう。ちなみに、状態異常を回復した後の行動は『二撃』からルーティーンを再開する。

 

 

備考:称号『人形の生』を手に入れる為には、01型57号に「滅殺の狂剤」を使わせてから1回勝利する必要があります。

 

条件達成必須キャラについて

 作品的な縛りは特にないが、57号に『滅殺の狂剤』を使わせる為には、57号を計4回以上、状態異常にかける必要がある。ただし、『滅殺の狂剤』は強力なバフ効果があり、一度使われたら手が付けられなくなる。その為、3回までは状態異常にかけてデバフを活用し、4回目はトドメを刺す寸前に使って、『滅殺の狂剤』を使った直後にHPを削り切る……という戦法が一番安全である。

 

 

*1
メイン:1400、ハード:4540、チャレンジ:6000



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ゲーム・きららファンタジア風資料集:敵編その④

こちらは、『もしオリジナルの敵キャラがきららファンタジアに登場したら』をコンセプトにした設定資料集です。


※拙作のネタバレ要素を盛大に含んでおります!というかラスボスの情報が載っています。先にプロローグから始まる本編を読んでおくことを強くお勧めします!!












































ラスボスも例のごとく攻略本風に書いているので、ご了承ください。
ストーリーはしっかり読みましたね?………では、どうぞ。








〜デトリア(ドリアーテ)〜

 

プロフィール&登場作品&CV

アルシーヴの前任の筆頭神官であった人の良い老婆。

その正体は『禁忌』を破って不老不死になった、

邪悪な元女神候補生ドリアーテである。

拙作における黒幕。アリサの兄・ソウマを脅迫し女神ソラが呪われる原因を作った他、サルモネラやセレウス、57号等の刺客を差し向けてクリエメイトを害そうとした張本人。

その目的は『エトワリアとは違う世界(自身が不死身であることを知らない世界)に行き、そこを征服すること』『自身が不死身だと知っている(=不燃の魂術という概念が存在する)エトワリア及びその住人を滅ぼすこと』である。他人は勿論部下を一切信用せず、利用するコトのみを考える性格。

 

登場作品:きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者

CV:杉田ホイホイのKさん

 

 

エネミー情報・デトリア(ドリアーテ)

属性:炎

HP:135772(メイン)

   222222(ハード)

チャージカウント:4

 

[行動]

消え失せろカス共が!……自身のチャージカウントをMAXにする&自身のDEF&水属性耐性が大アップ&自身に5回まで攻撃を50%カットするバリアを張る。一番最初に使用し、次に『ティタノマキア』を使用。チャージカウントをダウンされても再使用する。

ブラックファイア……一体に炎属性(魔法)のダメージ。

ブレイズ・ラッツ……全体に炎属性(魔法)の小ダメージ&クリティカル率が極小ダウン。

ギガントフレア……全体に炎属性(魔法)のダメージ。

アドラスクレイモア……自身のMATが小アップ&全体に炎属性(魔法)のダメージ。

ルーヴェンボルケーノ……全体に炎属性(魔法)のダメージ&MDFが小ダウン。

フランベルージュ……全体の炎属性耐性が中ダウン&自身の水属性耐性が中アップ&全体に炎属性(魔法)小ダメージを与えるスキルカード(99)*1を1枚設置。

ボイルウォーター……一体に水属性(魔法)のダメージ。

ラーヴァ……一体に土属性(魔法)のダメージ。

ヒートウィンド……一体に風属性(魔法)のダメージ。

ドリアーテの全身が光り輝いた……自身のチャージカウントをゼロにする。次に『エクスプロウド』を使用する。

エクスプロウド……全体に炎属性(魔法)の固定ダメージ(1250)&自身に残りHPの90%の割合ダメージ&自身に2回まで攻撃を90%カットするバリアを張る。次に『再生の炎』を使用する。

再生の炎……自身のHPを全回復&チャージカウントをゼロにする。

禁忌の炎がおぞましく煌めく…!……自身にクイックドロウを付与&自身のDEF&MDFが超特大ダウン。『再生の炎』を5回以上使用すると一度だけ使用。以降『エクスプロウド』『再生の炎』を使用しなくなり、使用する必殺技が『ラース・オブ・ラグナロク』になる。

【必殺技】プロミネントバースト……全体に炎属性(魔法)の固定ダメージ(999)

どこまで私の邪魔をする!……自身のチャージカウントをMAXにする。次に『ティタノマキア』を使用。チャージカウントをダウンされても再使用する。

【必殺技】ティタノマキア……全体に残りHPの33%×3(計99%)の炎属性(魔法)割合ダメージ&自身のSPDが大ダウン。

ドリアーテの炎が弱まっていく……自身にふこうを付与

炎が爆発的に勢いを取り戻した……自身の状態異常とデバフを回復&チャージカウントをゼロにする。

炎が今にも消えそうに小さくなる……自身にふこう・こりつを付与

ドリアーテが悪魔のごとく燃え上がる!……自身の状態異常とデバフを回復&チャージカウントをゼロにする。

この世界ごと、焼き尽くしてくれようッ!……自身のチャージカウントをMAXにする。次に『ラース・オブ・ラグナロク』を使用する。

【必殺技】ラース・オブ・ラグナロク……全体に炎属性(魔法)の固定ダメージ(666×2)&自身に最大HPの2.5%*2の炎属性固定ダメージ。この行動でHPは0以下にならない。

 

 

[解説]

『きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者』の第1部最終章に登場するラスボス。本家ラスボスのアルシーヴを踏襲してはいるが、開幕から行動が特殊なので詳しく解説していく。

 

(第一段階 開幕〜必殺技1回目まで)

 『消え失せろカス共が!』→『ティタノマキア』→『ドリアーテの炎が弱まっていく』→『炎が爆発的に勢いを取り戻した』の順に使用する。『ティタノマキア』はHPを99%削る凶悪な技だが、その後2ターンは攻撃をしてこないため、しっかりと回復を行おう。『炎が爆発的に勢いを取り戻した』使用後、第二段階へ移行する。

 

(第二段階 第一段階直後~『再生の炎』2回使用まで)

 基本的な攻撃は『ブラックファイア』『ブレイズ・ラッツ』『ギガントフレア』で、必殺技に『プロミネントバースト』を使用する。ただし、HPが85%以下になると光り輝いた後に『エクスプロウド』という自爆を敢行する。1250ダメとそれなりに高い固定ダメなので注意。しかもその自爆直後に『再生の炎』で全回復を行う。この一連の流れが厄介だが、バトル全体を通して5回目以降は使わないので使用した回数を覚えておこう。『再生の炎』を2回使用した後、第三段階へ移行する。

 

(第三段階 『再生の炎』2回使用~『再生の炎』3回使用)

 『フランベルージュ』を使用した後、使用してくる通常技が『ボイルウォーター』『ラーヴァ』『ヒートウィンド』に変化する。それぞれ水・土・風属性攻撃ではあるが、こちらが水属性で固めても土属性の『ラーヴァ』を連発してくるなんてことはなく、技の使用頻度は完全ランダムとなっている。再び『ドリアーテの全身が光り輝いた』『エクスプロウド』『再生の炎』を使用後、第四段階へ移行する。

 

(第四段階 『再生の炎』3回使用~『再生の炎』4回使用)

 『どこまで私の邪魔をする!』を使用後、必殺技に『ティタノマキア』を放ち、その後『炎が今にも消えそうに小さくなる』→『ドリアーテが悪魔のごとく燃え上がる!』を使用する。この際、直前に受けた『エクスプロウド』による固定ダメージは最悪回復する必要はない。通常技が『ブラックファイア』『ブレイズ・ラッツ』『ギガントフレア』に戻るが、この段階で稀に『アドラスクレイモア』を使用してくるようになる。

 

(第五段階 『再生の炎』4回使用~『再生の炎』5回使用)

 4回目の自爆&全回復をした後、『この世界ごと、焼き尽くしてくれようッ!』→『ラース・オブ・ラグナロク』を使用する。この段階の通常技は『ブラックファイア』『ブレイズ・ラッツ』『ギガントフレア』に加え、『アドラスクレイモア』『ルーヴェンボルケーノ』も使用してくるようになる。MATバフとMDFデバフが入ってしまうと耐久が厳しくなるので、これまで以上にHP管理に気を付けよう。なお、この段階での必殺技はまだ『プロミネントバースト』である。

 

(最終段階 『再生の炎』5回使用~)

 5回目の『エクスプロウド』『再生の炎』を使用した後、『禁忌の炎がおぞましく煌めく…!』でクイックドロウを付与してくる。これ以降『エクスプロウド』『再生の炎』『プロミネントバースト』を使ってこなくなるが、必殺技が『ラース・オブ・ラグナロク』になる。またドリアーテが連続行動してくるようになるので、回復が難しくなってしまうだろう。だが防御面が紙になるので、貯まった攻撃スキル・バフデバフ・とっておきをつぎ込んで、一気にスタンor撃破までの大ダメージを狙ってしまえば、ドリアーテに何もさせずに勝つことができる。

 

 

 全体的に攻撃力はさほどでもないが、『再生の炎』によるHP全回復と『プロミネントバースト』『ティタノマキア』『エクスプロウド』『ラース・オブ・ラグナロク』による固定ダメージがとにかく面倒。

 固定ダメージによって仲間がやられてしまわないようにHP管理をしっかりしつつ、根気よく戦おう。特に『ティタノマキア』を受けた後、『フランベルージュ』のスキルカード攻撃を受けると致命的なので要注意

 ちなみにだが、状態異常ははらぺことふこうがそれなりに効く。なので『再生の炎』の全回復をふこうで阻止する事が可能。自分でHPも削ってくれるので自滅に近い形で倒す事も出来る。ただしこの戦法を使うとドリアーテが『エクスプロウド』のルーチンを連発してくるようになるのでそれなりのリスクは伴うが。

 他にも何度も全回復する都合上最大HPは低めなので『ティタノマキア』に気をつけつつ最初からバフデバフを積んでとっておきでワンパンを狙う戦法も比較的容易ではある

 

 

 

 

 

 

*1
スキルカードメッセージは『燃えさかる炎が身体を蝕む!』

*2
メイン:3395、ハード:5556



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ゲーム・きららファンタジア風資料集:敵編その⑤

こちらは、『もしオリジナルの敵キャラがきららファンタジアに登場したら』『もしローリエが裏ボスとしてきららファンタジアに実装されたら』をコンセプトにした設定資料集です。


※拙作の根幹に関わるネタバレ要素を盛大に含んでおります! 先にプロローグから始まる本編を読んでおくことを強くお勧めします!!
















これまで同様、攻略本風に書いてあります。
こうかいしませんね? ……では、どうぞ。


2022/06/15:温泉アルシーヴ実装をすっかり忘れていたため備考欄を追記しました。
2022/07/18:きらら【第2部】実装に伴い、備考欄を追記しました。


 

木月(きづき)桂一(けいいち)

 

プロフィール&登場作品&イメージCV

ローリエの前世である、日本人の男性。

努力と工夫で政治・経済を掌握し、「優しい世界」を作ろうとした傑物。

好きなものは勿論、きらら漫画&ゲームだ。

 

彼の人生

 恵まれた才こそなかったが幼い頃から努力を続けた男。血族が経営していたとある企業の代表取締役にわずか20歳で着任。画期的な発明と経営戦略で外国から資産をこれでもかと巻き上げ、あっという間に企業をトップ入りさせた。長期を見据えた非道なまでな合理的経営に反して給与や保障はしっかりしたので社員や一定層からの人望はあった。私生活では、まんがタイムきららの漫画と『きららファンタジア』を好んだ。

 30歳ごろから企業を兄妹に任せて政治に進出。きらら漫画のような『優しい世界』を作るため、腐敗の温床たる環境を正し、腐敗政治家や己の障害になる人物を片っ端から牢屋に放り込むか闇に葬ってきたが、あまりに非道とも言うべき合理的手段が一部の反感を生む。だが反論の余地なきド正論を武器についに総理大臣にまで登りつめる。政治が軌道に乗るかと思ったところで過激で向こう見ずな活動家の凶弾に倒れてしまう。享年37歳。皮肉なことに、『優しい世界』を目指した彼は…誰よりも優しさに欠けていた。

 木月桂一の功績は、腐敗していた日本政治を一新させたという点では評価が出来るだろう。反対派の暗殺によって長期政権こそ叶わなかったが、もし彼がトップの座を握り続けていたならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()多くの日本国民の生活水準や日本自体の国際的地位が大いに上がっていた事には間違いない。現代版織田信長。

 

彼のその後

 そんな木月の様子を人知れず覗く存在がいた。女神ソラの前任女神ユニ(当時の女神候補生)である。ユニはたまたま観測した世界にいた人間・木月桂一の人生について複雑な感情を持っていた。自分のように聖典を愛しているのは良いのだが、反対派の人間には容赦のない木月と話がしたかった。しかし、ユニが目を離している間に木月は殺されてしまう。「このままでは木月と話す機会が永久に失われてしまう」そう思ったユニは大慌てで極秘裏にオーダーを行った。しかし、呼び出されたのは肉体から離れ半壊状態の木月の魂のみ。壊れた魂だけでは会話さえもできず、元の世界に帰す事も不可能なので、仕方なくユニはその日に参拝していたローリエの母に宿る新たな命と木月の魂をこっそり融合させたのである。これが『転生者ローリエ』誕生の経緯である。

 

 

登場作品:???

イメージCV:中途半端な田舎の魔獣

 

 

 

 

エネミー情報・ローリエ

属性:陽

HP:550000(メイン、チャレンジ)

チャージカウント:4

 

[行動]

 

俺が勝ったらデートの約束だぜ?………自身の全属性耐性が大アップ、状態異常無効、チャージカウントをMAXにする

バーストチャージ………自身のチャージカウントをMAXにする。チャージカウントがMAXになった後、チャージダウンされた時に使用。

【必殺技】宣戦布告………全体に999の陽属性固定ダメージ。最初に一度しか使わない

フレイムショット………一体に炎属性(物理)ダメージ

ファイアーバラージ………全体に炎属性(物理)ダメージ

ウォーターショット………一体に水属性(物理)ダメージ

アイスバラージ………全体に水属性(物理)ダメージ

ウィンドショット………一体に風属性(物理)ダメージ

ストームバラージ………全体に風属性(物理)ダメージ

ストーンショット………一体に土属性(物理)ダメージ

クエイクバラージ………全体に土属性(物理)ダメージ

ブラックショット………一体に月属性(物理)ダメージ

ダークバラージ………全体に月属性(物理)ダメージ

シャドースナイプ………一体に陽属性(魔法)ダメージ&高確率でねむり付与&状態異常耐性低下。こちらのパーティに月属性せんしがいる場合、そのキャラに対して使用。

ナイトオブバレット………一体に陽属性(物理)ダメージ&MAT&SPDが特大ダウン。こちらのパーティに月属性まほうつかいorアルケミストがいる場合、そのキャラに対して使用。

ギア・オリジナル………自身のATKが中アップ、次攻撃時クリティカル確定、自身のDEF、MDFが中ダウン

【必殺技】メタルジャケット・フルファイア………敵全体に陽属性(物理)の中ダメージ

【必殺技】メタルジャケット・ザ・ファイナル………敵全体に陽属性の割合ダメージ(残りHPの10分の9)

ローリエは弾薬を補充している………何もしない。『メタルジャケット・ザ・ファイナル』使用後に確定で使用。

なりふり構ってられないか… ………自身のDEF、MDF、SPDが中アップ、チャージカウントをゼロにする。自身の残りHPが385000以下になると使用。

G型魔道具………全体に555の陽属性固定ダメージ&高確率でよわき、ふこう、かなしばり付与。『なりふり構ってられないか…』使用後に確定で使用。

ハイドクローク………自身に1回だけダメージを無効化するバリアを張る。

ファントムバレット………一体に陽属性(物理)ダメージ&DEF、SPD中ダウン付与。『ハイドクローク』使用後に確定で使用

錯乱弾幕………一体に月属性(物理)小ダメージ&こりつ付与&DEF、MDFが大ダウン&狙われやすさ特大ダウン

跳弾………全体にランダムで3〜8回の陽属性(物理)ダメージ

至高の魔弾………一体に【残りHP−1】の陽属性固定ダメージ&リキャスト大アップ&陽・月属性耐性が特大ダウン、チャージカウントを1ダウン

心無き血戦………全体に【残りHP−1】の陽属性固定ダメージ&自身のチャージカウントを2ダウン。自身の残りHPが180000以下になると一度だけ使用。

サイレンサー………一体に月属性(物理)ダメージ&高確率でちんもく付与

ルーンドローン起動………全体に陽属性(物理)ダメージを与えるスキルカード(3)を1~3枚設置

ニトロアント起動………一体に陽属性(物理)大ダメージを与えるスキルカード(1)を1〜2枚設置

閃光弾………全体に陽属性(物理)ダメージ&こんらん付与&クリティカル率ダウン

明滅弾………全体に月属性(物理)ダメージ&こりつ付与&SPDが中ダウン

一気に終わらせるしかないか…!………自身のチャージカウントをゼロにする。残りHPが100000を切ると一度だけ使用。次に『3』を使用する。

3………自身に状態異常無効化を付与&SPDを中ダウン。次に『2』を使用する。

2………自身の次行動時のATK、MATを特大アップ。次に『1』を使用する。

1………自身のDEF、MDFを中アップ。次に『真・天衣無縫の魔弾(メタルジャケット・エクス・マキナ)』を使用。

【必殺技】真・天衣無縫の魔弾(メタルジャケット・エクス・マキナ)………全体に99999の陽属性(物理)固定ダメージ。一度これを使用すると、以降これしか使わなくなる。

ホント、いい性格してるよ………自身のMAT、DEFを特大アップ、リカバリー付与(5000)、チャージカウントをゼロにする。『一気に終わらせるしかないか…!』『3』『2』『1』使用後にチャージダウンされた時に使用。次に『なら、こっちにも考えがある』を使用。

なら、こっちにも考えがある………全体にはらぺこ、ねむり、かなしばり付与。次に『ジ・エクリプス』を使用。

ジ・エクリプス………自身を月属性にする&全体にランダムで16回の月属性(魔法)ダメージ。以降これと『ブルームーン』、『メタルジャケット・ムーンフォース』しか使わない。

ブルームーン………自身のデバフを回復&HPを5000回復&自身の次行動時のMATが大アップ

【必殺技】メタルジャケット・ムーンフォース………全体に月属性(魔法)の特大ダメージ。自身が月属性でチャージカウントがMAXの時に使用。

 

 

[解説]

 八賢者・ローリエ(木月桂一)戦は拙作の実質的な裏ボス戦。ドラクエにおけるエス○ークやダーク○レアム、FFにおけるエメ○ルド&ル○ーウェポン、ペルソナにおけるベルベットルームの住人達(エリ○ベス&○オドア&マー○レット等)と同じポジションである。

 木月桂一(ローリエ)の行動の特徴として、残りHPに応じて行動パターンが大きく変化することが挙げられる。それはつまり、攻略法も変わるということ。彼に勝つためには行動パターンの把握が一番重要である。

 詳細は以下に記すが、HPの多さやパターン変化の都合上とにかく長丁場になるので注意。スピードが全体的に見てやや遅いのと、チャージMAXの回数制限で即死必殺技を放ってこないのが救いか。

 

(第一段階(フェーズ)…HP550000〜385001)

 最初に『俺が勝ったらデートの約束だぜ?』→『宣戦布告』を使用、のちに全属性のショット&バラージを展開してくる。的確にこちらの弱点を突いてくるため、ナイトのヘイト上昇が欠かせず、しかも属性の統一は危険である。また、月属性のキャラ(ナイト・そうりょ以外)がいるとヘイトや行動ルーチンを無視して全力でメタって倒しに来るため、ワンパン戦法がかなり使いづらくなっている。

 必殺技は全体陽属性物理ダメージの『メタルジャケット・フルファイア』か全体割合ダメージの『メタルジャケット・ザ・ファイナル』のどちらかを使用。『メタルジャケット・ザ・ファイナル』でキャラが戦闘不能になることはないが、スタンゲージに注意。

 なお、厳しい言い方になるがこの段階で苦戦するようではローリエを完全撃破することはかなり難しいだろう。

 

 

(第ニ段階(フェーズ)…HP385000〜180001)

 『なりふり構ってられないか…』→『G型魔道具』を使用して、行動パターンが変化する。G型魔道具は対策していなければほぼ確実によわき・ふこう・かなしばりのどれかにかかってしまう。この段階の行動パターンは決まっており、以下の通りとなっている。

 

A:『なりふり構ってられないか…』→『G型魔道具』→『ハイドクローク』→『ファントムバレット』→『メタルジャケット・フルファイア』→Bへ移行

B:『ハイドクローク』→『ファントムバレット』→『至高の魔弾』→『錯乱弾幕』→『跳弾』→『メタルジャケット・ザ・ファイナル』→Cへ移行

C:『ローリエは弾薬を補充している』→『ハイドクローク』→『ファントムバレット』→『跳弾』→『メタルジャケット・フルファイア』→BかDへ移行

D:『ハイドクローク』→『ファントムバレット』→『跳弾』→『跳弾』→『メタルジャケット・フルファイア』→BかDの最初へ移行

 

 特に注意すべき行動は一人の残りHPを1にする上にスキル封じをする『至高の魔弾』最大8回ランダム攻撃の『跳弾』である。

 

 

(第三段階(フェーズ)…HP180000〜100000)

 『心無き血戦』を使用して、行動パターンが変化する。この『心無き血戦』だが、全員のHPを残り1にしてくるという、どこかのこころない天使を彷彿とさせる凶悪技なので、この段階に突入する時はとっておきゲージに気を配ろう。使われたらすぐに回復とっておきを使う気概でないとあっという間に壊滅する。

 その他の使用技は、『閃光弾』『明滅弾』『錯乱弾幕』『サイレンサー』といったデバフと『ギア・オリジナル』、『ルーンドローン起動』や『ニトロアント起動』などのディレイ攻撃を行ってくる。『至高の魔弾』や月属性メタ攻撃こそしてこないものの、タイミングの読めない攻撃と状態異常を絶妙に混ぜ合わせて攻撃してくる為、気は抜けない。

 

 

(第四段階(フェーズ)…HP99999〜)

 ここまで来れたらあと一息……かと思いきや、ローリエもカタをつけにくる。

 3から始まるカウントダウンの後、『真・天衣無縫の魔弾(メタルジャケット・エクス・マキナ)』という全体99999ダメージとかいう即死技を連発してくるのだ。これ自体はカウントダウン中のチャージダウンで阻止できるが、そうなったらなったで厄介である。

 『真・天衣無縫の魔弾(メタルジャケット・エクス・マキナ)』を阻止された場合、自身が月属性になった後、『ジ・エクリプス』というランダム16回攻撃を放ってくる。ヘイト効果でほぼ全弾ナイトに逸らせる上ナイトなら全弾当たっても余裕で耐えられるが、ヘイト効果が切れた時に使われたら悲惨なことになる。月属性になったらこの『ジ・エクリプス』とチャージ技の『ブルームーン』しか使わなくなり、必殺技が『メタルジャケット・ムーンフォース』になる。何気にすべて魔法攻撃なので、今まで出張っていたせんしではどうしてもキツくなる。一気に残りHPを削り切るか、大人しくそうりょに代わろう。

 

 

 

 

 

 

備考:称号『輪廻する魂の銃士』を手に入れる為には、ローリエのクリエメイトコミュ依頼No.5を受け、きららとアルシーヴをパーティに組んだ上で彼に勝つ必要があります。

 

条件達成必須キャラについて

きらら:【マンガ版】(☆5陽そうりょ)と【クロスキャラ】(☆5陽ナイト)、【第2部】(☆5陽まほうつかい)が使用可能。

☆5陽そうりょ……二つのスキルが役に立つ上、状態異常無効付与&回復カード設置のとっておきがかなり役に立つ。ただし、ブラックショットやダークバラージ、明滅弾でスタンさせられないように注意。また、第四段階の『ジ・エクリプス』使用後は相性的にかなりキツくなる。

☆5陽ナイト ……二つの防御スキルが敵の攻撃としっかり噛み合わさっており、そのおかげで『至高の魔弾』『心無き血戦』以外のダメージを幅広く軽減できる。ただし、陽属性なので『ジ・エクリプス』使用後はスタンゲージが溜まりやすくなる点に注意。

☆5陽魔法使い……ブラックショット、ダークバラージ、明滅弾に要注意。ギア・オリジナルが乗っていると更に危険。スキルカードを設置するスキルやリキャストダウンが便利と言えば便利だが、他の僧侶などと合わせて緊急時にカバーできるようにしたい。『ジ・エクリプス』以降は有効属性になるが、弱点を突かれやすいのも注意。

 

アルシーヴ:(☆5月まほうつかい)と【お正月版】(☆5月そうりょ)、【クロスキャラ】(☆5月せんし)、【温泉】(☆5月アルケミスト)が使用可能。

☆5月魔法使い……下手に最初から出すと、『ナイトオブバレット』の餌食になるので、少なくとも『心無き血戦』を使用するまではサブに引っ込めておこう。ワイルドカードは与ダメージが上がる半面、陽属性攻撃を受けやすくなるので、使用するタイミングをよく考えるか、ヘイトダウンスキル等の対策は取りたい。

☆5月そうりょ……ローリエの弱点属性ではあり、攻撃スキルも持つが、そうりょの為鬼畜メタ攻撃の的にはならない。回復もできるので月属性の中では比較的安全に立ち回ることができる。ただし、『宣戦布告』や『閃光弾』、『メタルジャケット・フルファイア』などを連続で受けるとあっという間にスタンもしくは撤退になってしまうので守りは堅牢に。

☆5月せんし ……せんしにしては爆裂に遅いSPDが文字通り足を引っ張り、『シャドースナイプ』の的になってしまう。『心無き血戦』を使用するまではサブに引っ込めておこう。また、とっておきで倒す際はSPDをカバーする戦法を用意することを薦める。

☆5月アルケミスト…陽・月属性耐性のダウンがローリエのダメージ増加に貢献してはくれるが、例のごとく交代のタイミングを誤ると『ナイトオブバレット』の餌食になるため『心無き血戦』使用後まではサブに引っ込めておこう。装備はレプリカor達人のフラスコを装備させてデバフを充実させると尚良し。

 

 

 

 




きらら「…強すぎません?」
ろーりえ「当たり前だろ。ダークドレアムやエスタークが楽に倒せてたまるか」
きらら「だーくどれあむ?えすたーく?って何ですか?」
ろーりえ「ダークドレアムは悪夢から生まれた破壊と殺戮の神だ。鎧を纏った筋肉モリモリマッチョマンの姿をしている。エスタークは地獄の帝王と呼ばれる異形だ。どちらも聖典の世界に存在している」
きらら「えっ!? でも、クリエメイトの皆さんから聞いたことないです…」
ろーりえ「世界を救った英雄達(全クリした主人公PT)すらも返り討ちにする最強最悪の敵(代表的な裏ボス)だからな。その手の道に詳しくない人は名前姿くらいしか知らないだろうな。しずくさんやはじめ、百地のたまちゃんやシャミ子あたりは知ってるんじゃないか?」
きらら「せ、聖典世界こわいです……((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」
そら「こら!ものすごい嘘つかないの!!」
ろーりえ「嘘じゃないぜ。堀井○二さん(伝説を生んだ神)存在を保証(せってい)した奴らだからな」
そら「ちゃんとゲームのボスだって言いなさい!!!」


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UA4000突破記念閑話:三人の幼馴染

今回の話は、タイトル通り感謝の話であり、ちょっとしたおまけパートとなります。
時系列は、ソラが女神になってから~女神襲撃事件までの間です。


 最後の書類のサインを確認した私は、羽根ペンを置きふぅ、と一息をつく。筆頭神官はやることが多い。各部署からの報告を受けて政策の指示、女神候補生の教育、女神様の聖典編纂の補佐および歴代女神の聖典の管理………今日はその多忙な日々の中でも、珍しく日が沈みきる前に仕事が終わった日だった。

 

 

「お疲れ様でした、アルシーヴ様」

 

「お疲れ様でした」

 

「ああ。お疲れ、セサミ、フェンネル」

 

 

 常に仕事を補助してくれる秘書のセサミと身辺警護を欠かさず行うフェンネルに労いの言葉をかけ、書斎から出ていく。

 

 

「………二人とも、どうなさいましたか」

 

 

 扉を開けた時、そこにいたのは―――二人の幼馴染だった。

 一人はウェーブのかかった金髪を宇宙がデザインされたヴェールで包んだ、ローブ姿の女性。蒼く優しい瞳と落ち着いた佇まいは、ほぼ毎日のように忍んで街へ抜け出す奔放さがあるとは思えない、美しく儚げな印象を見る者に与える。ユニ様から女神の座を継承した人。名をソラという。

 もう一人は緑髪とオレンジ&金色のオッドアイの整った顔つきが特徴的で、ダークカジュアルな格好に黒い外套を纏った男。背丈は私よりも高く、腕から伺える筋肉は、私に男性的な印象を与える。黙っていれば、神殿……いや、エトワリア一の女好きなロクデナシには到底見えないだろう。彼は八賢者の黒一点で、名をローリエという。

 

 

 私はこの二人とは、幼い頃からの友人だ。幼馴染というやつである。

 生まれ育った言ノ葉の樹の都市で、三人色んな遊びをし、悪戯を仕掛け、魔法を勉強し、時に怒られながらも楽しい時期を過ごしてきた。

 

 ただ……ソラもローリエも、とんでもないトラブルメーカーだったせいで、私が高確率で巻き込まれた。

 ソラは、好奇心旺盛で、自由が好きな人だ。今も神殿を抜け出すのがいい証拠だ。ローリエも、後先考えずに思いついたことはすぐにやるのだ。それが悪戯なら尚更嬉々としてやるだろう。

 

 

 故に、今のように二人が笑顔で揃うと、禄なことがおきないと学んでいる。ふざけ半分で吹き込まれたローリエの『様式美』とかいうやつをソラは信じてしまうからだ。

 

 

「アルシーヴ!」

「アルシーヴちゃーん!」

 

 

 

「「飲まないか?」」

 

 

 二人がぶっこんだこの一言で、私はこの幼馴染たちに他人行儀とはいえ話しかけたことを後悔した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ―――私は酒は苦手だ。

 

 筆頭神官たるものが、と意外と思うかもしれないし、予想通りだと思うかもしれない。

 

 だが別に神殿の規律だから、とかそんなつまらない理由を述べるつもりはないし、飲めないからという訳でもない。

 

 むしろ、私は酒に強いほうだ。

 言ノ葉の都市に流入してきた十数種類もの様々な酒を飲み比べ、味や風味を楽しみ、それでも頬の紅潮だけで済み、両の足でまっすぐ歩いて帰れるほどには強い。少なくとも酔いつぶれた記憶はない。

 その強さは、酒豪のジンジャーにも太鼓判を押されたほどだ。

 

 

 そこまで酒に強くあるのにではなぜ苦手なのか、というと。

 

 

 

「うみゅぅ………あるしーぶ……」

 

「おいおっさん、つまみとわいんおかゎり………」

 

「はぁ……」

 

 

 誰かと飲むと、殆どの確率でそいつの介抱をせざるを得なくなるからだ。

 

 

 

 

 現在、私は『様式美』を吹き込まれたソラ様と、それをしでかした実行犯のローリエの幼馴染二人が出来上がっていくさまを、共に都市の「屋台」なる露天の酒場でため息混じりに見ていた。

 

 

「………すまないな、店主殿。神殿の重役三人で押しかけた挙句、みっともない姿を露呈させてしまって」

 

「……いや、かまいません、アルシーヴ様。

 今宵のことは、出来るだけ忘れる事にします。」

 

「有り難い」

 

 

 空気の読める店主の粋な気遣いがなければ、女神と賢者のイメージががた落ちする所だった。

 

 

「あるしーぶぅ、おしゃけの減りが遅いわよ!

 もっとのみなさい!」

 

「ソラ様はいい加減自粛なさって下さい。もう呂律が回っていないじゃあありませんか」

 

「そうだぞう、そらちゃん。『さけはのんでものまれるな』っていうし、おれのおやじとおふくろだってそのトラブルからけっこんすることになったんだぞぉ」

 

「現在進行形で酒に呑まれてる奴は黙ってろ」

 

 

 二人は、「女神なんだからお酒くらい飲めないと」とか、「心は酒に慣れた30代だぜ?」とか威勢のいい事を飲む前に言っていたが、結果はご覧の有様である。

 まさか、幼馴染が二人揃って下戸な上に絡み酒だとは思わなかった。お陰で面倒くささが倍増だ。

 

 ソラ様は現在、私に「酔いなさい」と焦点の合わない目と呂律の回らない口で迫っているが、度数の低い果実酒1杯半でこうなるのはいささか弱すぎるのではないか。

 

 ローリエもローリエで、ワイン1杯で聞いてもいないことを喋りだした。驚いて見れば、顔はトマトのごとく紅潮し様子が明らかにおかしくなっていた。

 

 

「アルシーヴ! きいてるのでしゅか!

 そんにゃにわたしはめんどくさい女ですか!!?」

 

「アルシーヴちゃん、おれのおやじとおふくろはな、さけのんでてきづいたらほてるのべっどでふたりきりでねてたんだって。そっからつきあいだしたんだよー!

 さすが、えっちからはじまる恋もあるんだねー」

 

 

 ソラ様、今回ばっかりは面倒くさい女だと言わざるを得ませんよ。

 ローリエ、自重しろ。お前の両親の話なんて聞いてないし、事実だったらただの不祥事だろうがそれは。

 

 仮にも人の上に立つ存在なのに、それが二人も酔っている状況になっても尚、正気を保てる自分が恨めしい。ここで正気を吹っ飛ばせればどれだけ良いことか。

 

 絶対明日あたりに、二人には幼馴染のよしみで忠告しておこう。「絶対に外で酒を飲むな」と………

 

 

「もういーもん! のまないなら、わたしがのんじゃうもん!」

 

「おー! いけー、そらちゃん!!」

 

「まぁせてろーりえ! ―――んっ、んっ、んっ、んっ、ぷはぁーー!!」

 

「お体に障りますよ、ソラ様」

 

「わー! わー!! そらちゃん!!! アルシーヴちゃん、体に触るって! きゃー! アルシーヴちゃんのえっち! けっこんしろー!!」

 

「黙れローリエ」

 

「ううぅっ、世界が回る……」

 

「もうフラフラじゃないですか。仕方ないですね」

 

「サイコーにハイってヤツだァァアーーーーーーーーッ!

 フハハハハハハハハ!!!」

 

「静かにしないか!」

 

 

 ただでさえ酒に弱いのに、コップに残った果実酒を一気飲みしたことがトドメとなって潰れた女神様を背負い、深夜に騒ぎ出す馬鹿一人の手を引っ張りながら、とっとと勘定を終わらせることにした。

 これ以上は、この二人が何かやらかしかねんからな。

 

 

 

 ソラ様を背負い、ローリエに肩を貸しながら、神殿への道を街灯の薄明かりのみを頼りに歩き出す。

 

 ソラ様は既に潰れてしまったため意識はない。ローリエも、肩を貸さなければ、帰ることすらかなわないだろう。

 

 初めて酒を飲んだ時に己の酒の強さが判明した時から、数回はやっていたことだ。二人の幼馴染に飲みに誘われた時からこうなるだろうとは思っていたが、二人が揃って酒が入ると悪い方向に豹変するとは思っていなかった。

 ソラ様が寝落ちしてしまったのことは、酔っぱらい一人に集中して対応できるという点では不幸中の幸いだろう。

 

 

「アルシーヴちゃぁーーん……」

 

「………抱きつくな。あと、胸を触るな」

 

 ローリエが抱きついてきて、胸に男の手がくっついてくる。ソラ様を背負っているため、下手に振りほどくことも反撃することもできない事を知った上で、わざとやっているのだろう。……明日を楽しみにしてろよ。

 

 

 この男は、なぜここまで節操のない女好きになってしまったのだろうか。出会った時は、そんな気配は微塵も感じなかったというのに。

 

 

 彼と出会ったのは、5歳くらいの時だ。

 女神になる前のソラと遊んでいた時、街の広場で一人、なにかを弄くっていたのをソラが見つけたことに始まる。

 ソラが怪しげに見えた彼を見つけるなり、『なにしてるの?』と声をかけたのだ。その時私は、『怖そうだからやめよう』と言った。

 だが彼はソラの呼びかけに対し、まず驚きに目を見開いて、その後すぐ嬉しそうに話し始めたのだ。

 それからというもの、私達は三人で仲良く遊ぶようになった。どんな悪戯も、共にした。

 

 

 ―――あの日までは。

 

 

 その日の夜、私達の元に突然盗賊が現れたのだ。ソラは腰を抜かし、ローリエもあまりの恐怖に逃げ出した時、私は思ったのだ。

 

 この二人を守らなくてはと。

 

 だが当時魔法に長け、天才扱いされていたとはいえ、まだ子供だった私がそいつにかなうはずもなく、腹をナイフで刺され、なにもできないままソラを攫われた。それ以降己の無力さを感じて、魔法の修行に打ち込んだ。

 

 

 その後、ローリエがソラを救出したことを、間もなく帰ってきたソラ本人の口から聞いた。

 数年後に、二人っきりの礼拝堂にて彼自身から事の顛末を聞いた時は、驚きと同時に、無鉄砲な彼への怒りと、親友がいなくなるかもしれない恐怖と悲しみに、気が付けば奴の首根っこをひっとらえていた。

 

 それ以来、私は更に仕事と修練に時間を費やすようになったのだ。

 もう二度と、私の幼馴染を傷つけさせない為に。

 これ以上、私の幼馴染の手を汚させない為に。

 

 

 

「アルシーヴちゃん」

 

「!」

 

 

 ローリエから声がかかる。

 

 

「俺……今度こそ、二人を守るよ」

 

 

 何から、とは言わない。酒が未だに抜けていないようで、目の焦点があっていないように見える。どうせこれもたかが酔っ払いの戯言、と笑いながら流してもいいはずなのに。

 

 彼の発言があまりに心当たりのある言葉だったせいで、その機会を失ってしまった。

 

 

 

 

「ばかなことを言うな。二人を守るのは……この私だ」

 

 

 

 だったら。

 それならば、今くらい正直に返そう。

 どうせこの会話を覚える人など私以外にはいまい。ソラは私の背中の上で眠っているし、ローリエは酔っていて覚えやしないだろう。

 

 

「そのために強くなったんだから」

 

 

 ぽつりぽつりと呟く。誰にも……隣のローリエにさえ、聞こえないように。

 こんなことを喋ってしまったのも、顔が徐々に熱くなっていくのも、酒とつぶれた親友二人が密着しているせいだと、思いたかった。

 

 

 

 

 



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UA10000突破記念閑話:ごせんぞ、夢を歩く

「きらファン八賢者」総合UAが1万を突破しました!応援、ありがとうございます!!
これからも、より面白い執筆を心掛けていきたいと思います!

今回の特別編は、リリスの親密度イベントを元に作りました。
それでは、どうぞ。


 余の名はリリス。

 偉大なる闇の一族の始祖である。

 

 現在、余はエトワリアなる異世界にシャミ子と宿敵の魔法少女二人と共に召喚され、実体を得ていつもより力が使える状態だ。

 

 

 ならば……始めようか。

 ―――『エトワリア征服計画』を!

 

 だが、桃やミカンにバレてしまっては上手くいく気がしないので、夢の中に入りこむ力を使って情報収集から始めるとしよう。

 

 ターゲットは決めている。

 ―――ローリエ・ベルベット。この男だ。

 最初は次期女神候補生という優秀な肩書を持ち、クリエメイトの知識量に長けたランプの夢に入ろうと思ったのだが、有力な情報が手に入ったのだ。

 この男、ランプの教師らしい。それでもって、奴の作る聖典学とやらの問題に、ランプが頭を悩ませているのを目撃した、との情報を手に入れた。クリエメイトの知識は、ランプよりあると見た。

 更にこの男、筆頭神官アルシーヴや女神ソラ、そして他の賢者達からも信頼を得ているようなのだ。

 

 つまり、奴から情報を集め、崩せば、エトワリアは簡単に我が物になるやもしれない……!

 

 ちょうど、奴は眠っているしな。そうと決まれば、早速奴の夢へ潜入だ!!

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 そこは、シャミ子の住んでいたマンションの片隅の、居間のような場所だった。

 ただでさえ狭い部屋の整理整頓は行き届いておらず、本が散乱している。表紙の絵柄から察するに、マンガ、だろうな。しかし、多いな。こやつ、どれだけ集めておるのだ?

 

 部屋の奥から音がする。ローリエだろうなと思いながら待ち構えていると、やってきたのは違う男だった。

 

 緑とは世辞にもいえない、真っ黒なはねっ毛の頭髪と、両方とも黒い目をした、冴えない男だったのだ。ここはローリエの夢のはずなのに………誰だこやつは?

 

 

「……??? あれ、お客さん、ですか?」

 

 目の前の男は、きょとんとした不思議そうな顔で尋ねてくる。

 どういう事だ……夢の中なのに、余のことを認識しているだと!? 相当の強い意志があるか、こちらから話しかけでもしない限り気づかれないと思ったのだが……まぁいい。こやつも、余について完全にバレた訳ではなさそうだ。

 

「そうだ。事前に連絡したであろう?」

 

「あれ、そう……でしたっけ?」

 

「今日がその日だろうが」

 

「そうか……もうそんな日か……ちょっとそこらの本でも読んで待っててください。お茶を用意しますんで」

 

 そう言って黒髪の男はキッチンへ引っ込んでしまった。

 存在を認識されたとしても、余がリリスであると認識されなければ、まったく違う人物として忍び込む事ができる。これなら問題ない。

 

 さて、情報収集を再開しようか。

 

 奴のお言葉に甘える形で、近くのマンガを手に取る。

 表紙には、「ひだまりスケッチ」と書かれていた。

 

 私立高校の美術科に通う学生、ゆのと宮子、ヒロに沙英の小アパート・ひだまり荘での日常を描いたマンガ作品か……

 マンガを読み進めていくと、気になる事ができた。

 

 

「余の出会った人物に酷似してないか……?」

 

 例えば、このマンガに描かれているヒロと沙英。余の邪神像騒動で出会った二人とよく似ている。

 特に―――このヒロの常に体重を気にしている所など、余の知っている、体重が増えなくなる像に心が揺れていた彼女そのものだ。

 

 何故、こんなものがあるのだ?

 不思議に思い、マンガから目を離すと、偶然目に入ったものに度肝を抜かれた。

 

 

「……()()()()()()()()()()()()()だとッ!!?」

 

 

 そう。散らばる本の中に、シャミ子と変身した桃が描かれている本を見つけたのだ。タイトルには「まちカドまぞく」と書かれている。

 

 何のためらいもなくそのマンガを手に取ると、すぐに開いて中を確認する。

 そこに書かれていたことは、余を更に混迷の道へと誘い込んだ。

 

 

「封印された魔族……15歳で魔族に目覚めた吉田優子……魔法少女の千代田桃……なんだ、なんだコレは……!!?」

 

 

 そこに描かれていたシャミ子や桃の容姿や性格から、出会いの過程、地名、そして、余やシャミ子、桃やミカンの()()()()()()()()()が………余の記憶と一致していた。

 聖典なるものがあり、確かにエトワリアではこちらの様子を知ることができるとはいえ、これは異常だ。()()()()()()()()()()

 

 それに……夢というのは、記憶の整理であるとされるほど、記憶と密接な関係を持つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまりこの男は―――

 

 

「―――ええい! 偉大なる魔族の余がこの程度で恐れてたまるかっ!」

 

 そこまで考えて、マンガを投げ捨てる。そして、嫌な可能性を己を奮い立たせることで怖い想像を振り払う。

 

 そうして、マンガから再び目を離すことで気づいた。先ほどまで汚く散らかっていた、埋め尽くすほどのマンガの山が綺麗さっぱり、なくなってしまっていたのだ。

 いや、違う。一冊だけある。そこの表紙には、こう書かれていた。

 

 

ららフジア 密』

 

「要……密…………? 重要機密か!!」

 

 ところどころファミコンのバグのように文字化けしてて読めないが、おそらく、ローリエの記憶のうち、重要なものと奴が判断しているヤツに違いない!

 さ、さっき、ちょっと恐ろしい目に遭ったのだ。コレの内容くらい記憶して帰らないと割に合わん!!

 

「せめてこの情報だけでも持ち帰ってやる!」

 

 ページをめくる。

 

警告(けいこく)】これより(さき)()んではいけない

 

「……フン! 余がそんな注意書きに従うと思うたか!」

 

 ご丁寧に注意してきたそれを無視して、再びページをめくる。一体、何が書かれているのか……

 

 ランプの秘密か?

 仲間たちの弱点か?

 はたまた、神殿の最重要機密(トップシークレット)か!?

 

 余がスリルと期待に胸を膨らませながら、()くった先のページには―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エトワリアに生まれて最高の気分だ

 

 ―――と、たったその一文だけが書かれていた。

 

「………………………………は?」

 

 意味が分からなかった。

 なぜだ、この男はエトワリアの重要人物であるはずだぞ!? 

 そんな人物の最重要機密がコレだと!? そんなバカな!

 記憶はウソをつけぬ! 口先だけでは誤魔化す事ができたとしても、嘘をついた者の記憶が書き変わるなんてあり得ない! 記憶の勘違いはあったとしても、意図的に記憶を改竄(かいざん)することなどできる訳がない!

 

 だとすればこの一文は本当にローリエが思っている事だし、奴が周りに隠すべきと判断している事なのだ………

 ………が、だとするとより意味が分からん! 何だこれは!?

 

 そう思いながらページをめくる。

 

 

アルシーヴちゃんも、ソラちゃんも、賢者の皆も、きららちゃんも、ランプも、クリエメイト達も――

 ……みんながいる。それだけで俺は救われているんだ

 

「な……何だこれは…何だこれはッ!!?」

 

俺は皆の力になろう。かつてみんなが、俺の力になってくれたように

 

「クリエメイトの情報は……神殿の秘密はどこだっ!?」

 

俺の記憶は、墓まで持っていこう

 

「くそぅ! こんな情報では、エトワリア征服など出来るはずがない!」

 

彼女達が知っても、弊害を生むだけだ。俺のこの―――

 

「こんなことなら、ランプの夢に入っておけば………おや?」

 

 

 そこまで来て、さらっと入った情報が余の意識に引っかかった。

 今、重要な事が書かれていた気がするぞ。

 ページを先ほどとは逆方向にめくって、なんと書いてあったか確かめようとする。

 

 えー………っと、確か、これのひとつ前のページだったはず……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 夢 魔 リ リ ス は シ バ か れ た 』

 

 

「………………へっ??」

 

『 変 身 し た 千 代 田 桃 に シ バ か れ た 』

 

 

 背筋が凍った。

 シバかれたってなんだ!? 何故ここで今、あの魔法少女が出てくるのだ!? こんな事が書かれていたなら、余は見逃しはしなかった! 一体いつ―――

 

 

「―――この覗き魔め」

 

「ひっ!!?」

 

 聞き覚えのあり、かつ底冷えした声が響いた。

 ゆっくりと、錆びた人形のように振り向くと。

 

 そこには、変身を終えイメージカラーが合ってない桃色魔法少女な桃がいた。目は黒の絵の具で塗り潰した以上に暗い。

 しかも、そんな桃の後ろには見たこともない程に筋肉隆々な男が二人もいるではないか。意味不明過ぎて逆に恐ろしい。

 

 

「裁いてやるッ! まな板の上でナマス切りにされるのを待つだけのサバのようにッ!!」

「くたばりやがれベネット……」

「はいッ、サイドチェスト!!!」

 

 

「うわあああああーーーーーーーーーッ!!!!?

 知らない筋肉が二人もついてるぅーーーーッ!!」

 

 

 余は、あっという間に襲いかかってきた桃と見たこともない筋肉モリモリ・マッチョマン二人に捕まって。

 

 

「まぞく裁きじゃあァァァァァアアアアアァァァァァーーーーーーーーーーーーーッ!!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーッ!!?」

 

「地獄に落ちろベネットおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

「ベネットって誰ぇぇぇぇぇ(いだ)だだだだだだァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

「はいッッッッ‼‼ サイドチェストーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

「ひぎゃあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーー!!!?」

 

 

 

 関節やら投げ技やら……余は、これまでないほどにボコボコにされた。

 ―――覚えてろ、ローリエ・ベルベット!!

 これで勝ったと思うなよぉぉぉーーーッ!!!

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――今日という朝ほど、心臓が凍るという言葉が相応しい朝はない。

 

 ベッドから飛び起き、ある事実を―――『シャミ子のごせんぞ・リリスに夢の中に入られた』という事実を認識した俺は、既に細かい部分がおぼろげになっている夢を思い出していた。

 

 完全に油断していた。

 前世の夢を見ている最中にごせんぞがやって来て、前世の頃の俺の姿を見られた上に、かつて愛読していたまんがタ○ムきららの漫画(ひだまりスケッチやらまちカドまぞくやら)を読まれるとは。

 危うく()()()()()()()()()()()()()()()()()()すら読まれそうになった。もんも・大佐・街雄さんのジェットストリームアタックという名のセコムが間に合わなかったら冗談抜きで大変な事になっていたかもしれない。

 あらかじめごせんぞに侵入された時の対策用セコムを考えておいて本当に助かった。だが、念には念を入れなければ。

 

 

 身支度を済ませた俺は、きららちゃん達の里に転移して、シャミ子を探した。

 

「お、いたいた。シャミ子ー!」

 

「あれ? ローリエさん、でしたよね?」

 

「あぁ、そうだ。実は、君のご先祖様にお話があるんだけど……ちょっと像を貸してくれないかな? 話したいことが出来たんだ」

 

「話したいこと?」

 

「ちょっとプライベートな相談事でな……二人きりにしてくれると助かる」

 

「そういう事なら……でも、その像は大事に扱ってくださいね?」

 

「りょーかい」

 

 そうしてシャミ子から距離を取り、周りに誰もいないことを確認すると、ごせん像に話しかける。

 

 

「おいごせんぞ」

 

「誰が貴様のご先祖だ」

 

「昨晩、俺の夢に入りましたか?」

 

「…………入ってない」

 

「…………………『魔法少女千代田桃・サイドチェスト~ベネットを地獄へ落とせ~』」

 

「うわあああああああああああああ! 筋肉はヤメロオオオオォォォォォォッ!!」

 

「バッチリ入ってんじゃねーか」

 

 

 俺が夢の中で編み出したセコムの名前を出すと、トラウマレベルで反応した。下手にすっとぼけても無駄だと分からせた所で、本題に入る。

 

 

「―――あの夢の内容、誰にも話すなよ?」

 

「話すかァッ!! 思い出したくもないわあんな夢ッ!!! 何だったのだアレは!!? あんなに意味不明で屈辱的な目に遭ったのは初めてだぞ!!?」

 

 

 あらら。予想以上に俺のセコムがごせんぞに効いてるな。宿敵として知っている桃と、初見の筋肉モリモリ・マッチョマン二人が、ベストマッチに融合していたお陰かもな。

 

 

「もし誰かに話したら、夢に入られた事を桃ちゃんとミカンちゃんに伝えて、現実世界でも折檻して貰うからな」

 

「なんで脅すの!? 追い打ちの脅迫がエグ過ぎない!!?」

 

「言っとくけど拒否権はないぞ。何ならここでお前の像を粉々にしてもいいまである」

 

「怖い! この男怖い! シャミ子や、助けてくれーー!!! ローリエ貴様ァ、これで勝ったと思うなよぉぉーーーー!!」

 

「もう勝負ついてるから」

 

 

 像を粉々にする下りは流石にシャミ子に泣かれるから嘘だが、この様子なら、別に釘を刺す必要はなかったかもな。

 おそらくもう二度と俺の夢に入ってくる事はないだろう。仮に入ってきたとしても、もう一度筋肉モリモリなジェットストリームアタックで再び歓迎(ボコ)してやればいいだけだ。

 

 

 俺の秘密―――前世の記憶は、きっと今の仲間達には教えない方がいい。もう過ぎた事だし、慎重に伝えなければ幻滅されるだけだ。仮に秘密を話してもいいと思える程に信頼出来る仲に発展したとしても、話すかどうか、何を話すかは俺次第だ。

 

「ご、ごせんぞ!? 何があったんですかごせんぞぉ〜!!」

 

 そう改めて認識すると、自分のご先祖の声を聞いて慌てて助けに来たシャミ子の声が遠くから聞こえるのを確認し、どうやってシャミ子に言い訳しようかなと思いながら、秘密が守られたことに安堵のため息を一つついた。

 




キャラクター紹介&解説

リリス
 「まちカドまぞく」に登場する、主人公シャミ子のご先祖様。ランプより豊富な情報を求めローリエの夢に忍び込んだ結果、ローリエのドリームセコムに返り討ちにされるという、原作のランプの夢侵入イベントよりも酷い目に遭った哀れなまぞく。ローリエの前世の記憶に一番近づいた人物でもあるのだが、エトワリア征服のための情報収集に執心していたため、気づく事はなかった。

ローリエ
 リリスの夢侵入の標的にされた八賢者。一応、リリスの能力自体は知っていたので対策してはいたが、タイミングを誤ったため、リリスにあと一歩の所まで情報収集をされた。目覚めた後、リリスとの会話でセコムが有能だった事を知り安心する。

千代田桃
 ローリエの前世の記憶に『まちカドまぞく』の記憶がバッチリあった為に、ローリエの夢のセコムに採用された脳筋魔法少女。「桃はこんな事言わない」という台詞があったのも、全てはローリエの夢補正である。ちなみにローリエは「シャミ子が悪いんだよ」発言については「原作とアニメで言ってないだけ」派である。

ジョン・メイトリックス
 ローリエのセコムに採用された、筋肉の人その1。
 アメリカ映画『コマンドー』に登場する、元コマンドー部隊隊長にして大佐。娘の為に軍を退役するなど家族(娘)想いな性格で、拉致された娘を助ける為に敵一派をほぼ一人で壊滅させるという筋肉モリモリマッチョマンの変態っぷりを発揮する。シュワルツェネッガー氏が演じ、日本語版でのCVは屋良氏と玄田氏が担当した。
 ちなみにベネットとは、メイトリックスの元部下にして宿敵である。

街雄鳴造
 ローリエのセコムに採用された、筋肉の人その2。
 漫画『ダンベル何キロ持てる?』に登場する、シルバーマンジムのトレーナーを務める好青年。絵に描いたような人格者であり、服を着ていれば普通に無敵のイケメン。普通のイケメンフェイスに超絶筋肉モリモリなボディという合成写真を疑うレベルの体が特徴。「はいッ‼ サイドチェスト!」の元祖でもある。
 ローリエのセコムの街雄さんの場合、彼の本家に対する情報不足のせいで「はいッ‼ サイドチェスト!」しか言わない超強い警備兵となってしまった。



ジェットストリームアタック
 『機動戦士ガンダム』に登場する、黒い三連星が使用した攻撃フォーメーションの名前であり、もともとは宇宙での対艦船戦闘用に考案されたものである。 三者三様に異なる彼らのパイロット特性を、最大限に生かすかたちでフォーメーションが構成されている。

ふたば「葉子様! 葉山ちゃん! ジェットストリームアタックを仕掛けるよ!」
よーこさま「わかりましたわ!」
はやま「二人に何吹き込んでるの!?」
ろーりえ「いやだって、三人で“三者三葉”だったから、つい………」


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UA15000突破記念閑話:奇跡が生まれる流星群(ほしわたり)

きらファンのみらあおが尊すぎてトートになったので初投稿です。

きららファンタジアのイベントストーリー「奇跡が生まれる星」をクリアしてから見ることをお勧めします。


「ローリエ、星を見に行かないか」

 

「ふぁっ!?!?!?」

 

 

 始まりはその一言であった。

 アルシーヴちゃんが、俺の部屋を訪ねてきたかと思えばそんな事を言い出した。俺がアルシーヴちゃんに、ではない。アルシーヴちゃんが俺に、である。

 え?なに? デート?デートなのかな??

 

「よし行こうすぐ行こう、準備はいいか? 俺は出来て」

 

「出来てる訳あるか大馬鹿者。出かけるのは明後日だ」

 

 半ば呆れながら、しかし軽い足取りで部屋を出ていく。一体、どういう事なのだろうか? まぁいい。できるだけ準備しておこうじゃあないか。

 

 

 

 

 

「―――流星群が見える街?」

 

「あぁ、その街の新月の頃でしか見ることの出来ない流星群があるんだ。中々有名で、観光客も多く集まる」

 

「その流星群って、どういうものなんだ?」

 

「見てのお楽しみさ」

 

 

 アルシーヴちゃんからの誘いがあってから2日後。約束の日になった所でアルシーヴちゃんの書斎に行くと、そんな話を教えてくれた。

 流星群というと、空から降り注ぐアレをイメージする。一つの街でしか見られない限定的なものとは到底想像しにくい。

 

 

「さ、準備は出来たか? 町の近くまで転移したら、観察の穴場まで案内するぞ」

 

「ちょっと待て」

 

 

 珍しいもの見たさを抑え、アルシーヴちゃんを引き止める。町に入るって事は……姿を見られるということだ。……筆頭神官アルシーヴと八賢者ローリエの姿を。

 それが何を意味するかを理解できない俺ではない。

 

 

「少し変装くらいしよう。筆頭神官と賢者が来たと知られたら町の人達を萎縮させちまう」

 

「むっ、そう、か………」

 

 筆頭神官も八賢者も、エトワリアでは上位の地位にあたる。そんな人達が町の中に入ったとしたならば、町の人々は一体何事かと恐れてしまう。観光客でごった返しているのなら尚更だ。流星群を見るどころの話じゃあなくなるかもしれない。

 

 

「安心してくれ。変装といっても、変なものは選ばないつもりだ。」

 

 

 ―――というのは、建前なんだけどな!

 準備を手早く終え、残った時間で考えた俺の作戦をいま実行する時!!

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 件の町へ転移する。

 町の入口に入ろうとすると、自警団と思われる男に呼び止められる。

 

「やあ旦那ァ、流星群を見に来たのかい?」

 

「ええ。()()と一緒に見に来ましたとも。毎年恒例ですからね」

 

「そうだな、ガハハハ! ()()()とはぐれないようにするんだな!」

 

「…………………………」

 

 

 豪快に笑う自警団のおっさんに見送られる、俺とアルシーヴちゃん。

 涼しげなベストが似合うスーツ姿の俺は黒いシルクハットを取っておっさんに一礼し。

 いつもはまとめている髪を全ておろし、慎ましい装飾の、淡紅色(たんこうしょく)のドレスを着たアルシーヴちゃんは、口角を震わせながら俺に手を引かれた。

 

 

「…………おい、ローリエ」

 

「なにかな、()()()()。今の俺のことは()()()()と呼びたまえ」

 

「この格好……いつまでやらせるつもりだ」

 

「勿論、穴場だという小高い丘に行くまでだ」

 

「すぐに行かないか?」

 

「何を言う。日はまだ高いぞ? それに、もったいないじゃあないか。

 アル……いや、クラリス。いつもの君とは違う今の姿はとても可愛いよ」

 

「お前はっっっ!!! どうして、こんな往来の中でそんなことが言えるんだっ!!」

 

「事実だからさ」

 

 

 肩をバンバン叩いてくるアルシーヴちゃん。そう。これが目的だったのだ。

 仲睦まじい夫婦に変装して、デートを楽しむ作戦。町の人達を動揺させる事もなく、かといって怪しまれる事もない。時間は潰せるし、誰かと鉢合わせる事故防止にもなる。

 一石で鳥がボトボト落ちてくるようなものだ。しかも、この作戦、俺が幸せだ。趣味と実益を兼ね備えた魅力的な案である。

 最初この変装を提案した時はアルシーヴちゃんは猛反対したが、ソラちゃんとシュガーとカルダモンの三人がかりで着替えさせたのだ。アルシーヴちゃん自身も流星群は見たかったからなのか、再び転移して戻る気配もない。

 

 

「いじらしい君はとても可愛いよ。美しい一面も素敵だけど今日の格好もよく似合っている。君とここに来られて良かった」

 

「やめてくれ恥ずかしいッ!!!!」

 

「あ゛あ゛あァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!?!!? ヒールーーーッ!!!!」

 

「なっ!? す、すまない! でも今のはロ……ラウールが悪いだろう!」

 

 

 調子に乗り過ぎた。

 ヒールのついた靴で思いっきり踏まれた足が痛い。指がちぎれそう。

 

「あらまぁ。災難ね、旦那さん。

 ほしわたりクッキーでも買っていくかい?」

 

「ほしわたりクッキー?」

 

 今の騒ぎでやってきたと思われるオバチャンが、包装紙に包まれた箱を持ってきていた。試食スペースもあるらしく、そこには鳥を模したクッキーが並んでいた。

 

「この町の土産の品だ。意外と美味しいぞ。

 ひとつ、買っていくか? ラウール」

 

「帰りにしよう、クラリス。お土産は大体かさばるものだから。

 ご婦人。また後ほど、買いに来るよ」

 

「まいどあり、イケてる旦那さん」

 

 

 オバチャンの『イケてる旦那さん』扱いに、俺はすっかり気を良くし、アルシーヴちゃんは真っ赤な表情で俯く。

 こうして俺達二人は、日が暮れていく町並みを楽しみながらデートを続行する。

 

「うんま!!? 何コレ!?」

「特産の魚介で作られたステーキ定食だ」

「一体何をしたらここまでジューシーなステーキが焼ける…? 本物の肉顔負けだぞ?」

 

 ありえない調理をされた魚料理に舌鼓を打ち。

 

「お」

「どうした?」

「この置物、変な形をしてるぜ」

「……そうだな。ラウール、これを見てくれ」

「…あっ! それ、将棋……」

「この町らしい、星と鳥と海のデザインが施されている。お前が作った無骨なデザインも悪くはないが、こっちの方が彩りがある」

「俺のデザインって、そんなに無骨か………?」

 

 この街ならではのお土産を見て回ったりした。

 

「そろそろ丘に向かおうか。」

「分かった。クラリス、手を。人混みが激しくなってきた。」

「………夫婦の真似事はもういいだろう」

「違う。はぐれないように、だ。」

「それならいい………が、変な手の繋ぎ方をしたら置いてくぞ」

「へぇ…………例えば?」

「本当に置いていくぞ!!?」

「なんで!?」

 

 

 後に、街で絵にも描けないほどの紳士と聖女の夫婦が散策していったことが噂になっていったのだが、そんなことは知ったことではない。知ったこっちゃないのだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 小高い丘にたどり着き、髪型だけをもとのようにまとめ上げたアルシーヴちゃんは、紫色の薔薇のようなデザインのオーブを取り出し、腰にかける。

 

 

「……武器? なんで―――」

 

「本来は防具も欲しかったのだがな。何処かの馬鹿のせいでこれしか持ってこれなかった」

 

「悪かったって。

 でも、何か危険でもあるのか?」

 

 ジト目でこっちを見るアルシーヴちゃんを誤魔化しながら、オーブを取り出した意味を聞いてみる。護身の必要があるのなら、ちょっと困るな。今の俺は、パイソンと必要最低限の鉛弾と非殺傷弾しか持ってきていない。

 

 

「危険……というほどではないが、巻き込まれたらかなり面倒な事になる。もうじき、近くを()()が通るのでな」

 

「………群れ?」

 

「見た方が早いだろう」

 

 

 アルシーヴちゃんは、それだけ言うと視線をそらす。俺も彼女が見た方向と同じ場所を見てみる。すると。

 

 

 ―――がさり。

 

 

 と、茂みの音がしたかと思えば、

 

 

 ――がさがさっ!

 ――ばばばばっ!!

 

 

 と、光る何かが飛び出して来た。

 

 

「!!!!」

「始まったか」

 

 

 それは、鳥の群れだった。

 しかし、ただの鳥の群れではない。光る鳥だ。

 夜の帳がすっかり降りて、町の明かりと星の光が遠目に見えるだけの真っ暗な夜景の中、鮮やかな光を纏ったモコモコな鳥の群れが地面すれすれを飛んでいくではないか。

 

 茶色に、緑に、黄色。赤に、紫色に、青色。

 綺麗な光を放つ鳥たちは、通り道を真っ直ぐに、一糸乱れぬ動きで丘を飛び、女子を二人ほど巻き込み、町の上空を飛び………っておい。

 

 

「いま、誰か鳥の群れに轢かれたぞ!?」

「なんだと!?」

 

 

 

 

 

 大慌てで駆けつけると、二人は既に救出されたようで、肩で息をしていた。

 

 

「大丈夫ですか、みらさん、あおさん?」

 

 

 救出したと思われる少女―――きららちゃんが二人をそう呼んだのを聞いて、はっとなる。俺の知ってる中で、その組み合わせは一つしかない。

 

 木ノ幡(このはた)みら。真中(まなか)あお。

 聖典(漫画)『恋する小惑星(アステロイド)』の登場人物。星咲高校の地学部に所属する高校1年生にして、『新しい小惑星を見つける』という夢を持つ二人だ。

 なるほどな。二人なら、ここでしか見られない流星群と聞いたら調べに来るのは明白だな。

 

 

「そこにいるのは……きららたちか? こんな所で会うとは。」

 

「アルシーヴさん、ローリエさん………どうしたんですか、その格好は…??」

 

「似合うだろ? さっきまでデーどおぉぅっ!!?

 

「そこは引っかからなくていい。私達は、鳥達が海を渡るのを見に来たのだ」

 

 

 きららちゃんの質問に答えようとしたら思い切り腹パンされた。いいじゃんデートで。何が嫌なのさ?

 

「それって、どういう……?」

 

「なんだ、知らないのか。

 あの魔物達は夜行性の渡り鳥でな。毎年、この時期の新月に群れを作って暖かい南の国へと飛んでいく。この山は羽休めをする場所で、ここから一斉に飛んでいく姿は、まるで流星のようだと有名なんだ。その習性から“星渡り”なんて呼ばれている」

 

 夜行性の渡り鳥、かぁ。

 それが一斉に飛ぶ姿が流星群に例えられるなら、この街でしか見られないといわれるのも納得だ。

 前世では見ることのない光景に、目を奪われる。

 

「成る程なぁ。だから『ここでしか見られない流星群』ということなのか。」

「鳥の光が海に反射して……すごく綺麗。」

「見たことないようなすっごーく綺麗な眺めだったね。」

 

 みらとあおも、鳥達の姿に感動している。

 他のクリエメイトもさっきの鮮やかな渡り鳥に感動しているようだった。

 

「乃々さんと一緒に見る、このステキな眺め…」

「本当に素晴らしい眺めですね。みなさん『いいね』お願いしますねー。」

「ああ! もっとアイデアが降りてきたかも!」

「うーん、もっとケミカルな味かと思ったけど、案外普通に美味しいわね。」

 

 乃々ちゃんガチ恋ムーブで眺めるまつりちゃん。

 恋詩露咲(こいしろさき)るるならしく配信している乃々ちゃん。

 ネタが浮かぶIri§(アイリス)先生ことあやめちゃん。

 変なものを混ぜ合わせて食べてる椎奈ちゃん。

 

 ……だが、きららちゃんだけはあまり晴れやかな表情になっていないようだ。

 

 

「……きららちゃん、どったの?」

 

「すごく綺麗だけど……ここも本当の星じゃありませんでしたね。

 みらさんとあおさんは星が見たくてここに来たというのに……」

 

 

 話を聞いてみると、きららちゃんはみらあおと共に『星』にちなんだ名所を巡っていたそうだ。

 『人が作る星』、『星屑が広がる水辺』と探してきたらしいのだが、いずれも花火・蛍と星ではなかったみたいだ。みらもあおも、気にしてなさげだし、異世界らしくて良いと励ましたが、きららちゃんの表情が晴れない。

 

 かくいう俺もアルシーヴちゃんとデート中だし、あんまりきららちゃんに口出しして機嫌を損ねられる訳にはいかないしなぁ。

 

 

「もうすぐ面白いものが見られる。北の空に……ほら。」

 

 悩んでいると、アルシーヴちゃんが北を指差す。何事かとその方向を見てみると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 きらり、と光った星が、流れた。

 

「流れ星!」

 

 みらの嬉しそうな声に続いて、流れる星も増えていく。

 

「しかも、どんどん増えて……」

 

「「流星群だ!」」

 

 そう。本物の流星群である。比喩でもなんでもない。まるで星々が、海へ落ちていくかのようだ。海上にも、光る渡り鳥達が、まだ遠目に見える。海の流れ星と、空の流れ星。それらが、水平線上に集まっていくかのようなその夜景は、まさに圧巻の一言であった。

 

 

「あれは数十年に一度見られる流星群だ。

 今年はたまたま、星渡り達が南に向かうのと同じ日だったんだ。同時に見られるのは、数百年に一度しかないだろうな。」

 

「すごい偶然! ラッキーだね、あお!」

 

「うん!」

 

 

 みらとあおは、流星群に近づくように歩いていく。そして僅かに、二人の話し声が聞こえてきた。

 

 二人は、一体何を話しているのだろうか?

 二度と見られないだろう奇跡の流星群に思いを馳せているのだろうか?

 それとも、二人の出会いや小惑星を見つけるという夢を再確認しているのだろうか? 「こうして二人で空を見上げている事自体が奇跡だよ」みたいな?

 

 

 ―――真実は、のちに『小惑星あお』を見つける、二人の天文学者のみが知ることだ。

 

 

 二人の尊い後ろ姿を心のフィルムにおさめながら、俺は空と海の流星群に向かって、自作のカメラのシャッターを切った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「いやぁ〜〜、良いもん見れたぜ。

 ……ありがとな、アルシーヴちゃん。誘ってくれて」

 

 流星群が終わり、鳥達が見えなくなって、きららちゃん達と別れた後。帰りに夜遅くまでやってるお土産屋に寄る最中は二人ともずっと無言だったが、余韻に浸り終えた俺が先に口を開く。

 

 

「……ローリエ、私は……」

 

「?」

 

「私は、お前が何かを隠しているのを知っている。」

 

「……へ?」

 

「そして、お前の隠し事について……こうなんじゃあないか、という予測をもう立てている。

 ローリエ。お前は…幼い時からもの知りだったな。まるで最初から知っていたかのように。魔法工学の腕前もそうだ。全て知っていたから、様々なものを作り出せたのだろう?」

 

「……!!!」

 

 

 う……嘘…?

 これ、バレてない? バレたよね?

 突然の彼女の告白に、俺は面食らう。

 

 

「ただ、な。

 言うべきか否か迷っていた。だって……お前は頑なに言わないのだから。知られたくない事なのかもしれないと思ったんだ」

 

 隣の彼女の苦悩を見た俺は、急激に思考の落ち着きが蘇る。

 俺が前世の記憶の持ち主だと言わない理由。

 それは……まぁほとんど身勝手な理由だけど、強いて挙げるとするならば、『もう終わった事だから』だ。俺の前世の人生は、もう終わっている。しかも別世界の、しょうもないいち個人の人生。そんな奴の人生を語ったところで、意味のないことだ、と思う。

 

 

「でも私は安心した。星渡りと流星群を見たお前の顔……『初めて知った』って顔を、しっかり覚えたからな。

 ……私は待つぞ。

 いつか気が変わって、お前が……ローリエが全てを話してくれる日を。」

 

 なんてこった。女の子にこんな事言わせるなんてな。情けないぜ、ローリエ・ベルベット。

 だからといってじゃあすぐに話そう、なんて言える空気でもないからなぁ。

 

 

「…………ありがとう、アルシーヴ。いつか必ず、約束は守るぞ」

 

 

 ―――これしか、言えないじゃんか。

 

 

「……ちなみに、俺その…流星群見た時、変な顔してたのか?」

「…………♪」

「おいなんだそのリアクション。なんなんだよ、言えよ!」

「……内緒だ」

「本当に何なんだよ!?」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ―――後日。

 先日の流星群を思い出した俺は、聖闘士○矢の必殺技を再現しようとして。

 

「……ローリエさん、何やってるんですか?」

「え? オー○ラエクス○ューション」

「お、おーろら? なんて?」

 

 きららちゃんに練習光景を見られたのでペ○サス流星○を教えようとしてアルシーヴちゃんに止められたのはまた別の話。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 アルシーヴにデートに誘われ、変装夫婦旅行作戦で驚かしてあげようと思ったら星渡り&リアル流星群で逆に驚かされた八賢者。アルシーヴの不安を真摯に受け止めて、自分の秘密をいつか話す約束を交わした。偽名のモデルはアルセーヌ・ルパンの本名から。

アルシーヴ
 ローリエの挙動を確かめるため、星渡りを見に行かないかと誘った筆頭神官。アルシーヴは「昔からもの知りなローリエは、知ってることが多いから知る喜びが少なくつまらない人生を送っているんじゃないか」と考えた。しかし、星渡りと流星群はローリエも初めて知ったため、安心して約束を取り付ける。偽名のモデルは『アルセーヌ・ルパン』のラウールの恋人から。

きらら&木ノ幡みら&真中あお
 星にまつわる噂を探し、珍しい星を求めて旅をしていた召喚士&クリエメイト。ローリエがみらあおの尊さからかあまり触れていないが、そこはイベントストーリーもしくは「恋アス」を見れば尊さが分かるというもの。
 余談になるが、ローリエの助言から、きららは光で剣を作り流れ星のような連撃を放つとっておき『ペガ○ス流星剣』を本気で編みだそうとしたという。ランプに止められたが。

関あやめ&村上椎奈&池谷乃々&鶴瀬まつり
 きららやみらあおと共に星を見たステまのクリエメイト。乃々は動画のネタを、あやめはゲームプロットのネタを探しにこの町に来ていた。




星渡り
 夜行性の鳥の魔物。だが人間に積極的な被害は与えず、せいぜい群れたら人を面白く轢くことができる程度。新月の夜になると暖かい南へ渡るという。

恋する小惑星(アステロイド)
 Qur○先生による、学園4コマ漫画。
 幼い頃『小惑星を見つける』約束を交わしたみらとあおが、星咲高校地学部で再び出会い、モンロー先輩こと森野真理、イノ先輩こと猪瀬舞、桜先輩こと桜井美景と地学にハマりながらもまだ見ぬ小惑星に向かって進んでいく百合青春物語。

小惑星ミラ
 実際に存在する、脈動変光星として知られるくじら座の恒星。「恋する小惑星」の木ノ幡みらの名前の由来であると明言されている。

小惑星あお
 未だ発見されていない小惑星。いずれ、木ノ幡みらと真中あおの二人が見つけるであろう小惑星。

オーロラエクスキューション&ペガサス流星拳
 どちらも「聖闘士星矢」に登場する必殺技。ペガサス流星拳は星矢の、オーロラエクスキューションはカミュと氷河が使用する。


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UA20000突破記念閑話:恋愛成就の“双神”

今回のお話はだいぶ昔のイベントストーリー『Fairies Trick』のお話を見てから読むことを薦めます! イベント名から分かるかも知れませんが、『桜Trick』初参戦イベントです。
知らんぞそんな話!という貴方はきらファン図書館から探してみよう!



 とある祠には、こんなお話がある。

 恋愛に関する妖精が2匹いて、彼女たちに叶えられない恋はないという。

 

 片や、ピンクの髪と包容力のありそうな女性の姿をした、人々の恋愛の成就を司る妖精。名をアモル。

 片や、青色の髪と金の大ハサミが特徴のスレンダーな少女の姿の、人々の恋愛の破局を司る妖精。名をオルバ。

 

 二人一組で、人間の恋愛を叶え続けた妖精には、一種の信仰さえできたのだという。

 

 だが……残念なことに、人間というのは自分勝手だ。己の欲望を―――『あの男/女を、私/俺のものにしたい!』という願いをかけ……そして、ライバルの破局を願う人間のなんと多かったことか。

 お陰でオルバが強大になってしまい……なんとか、一組の百合カップルのお陰で大事には至らなかったものの、パワーバランスの調整中だという。

 

 

 で、だ。ここまで長々と語っておいて今どういう状況かというと―――

 

 

 

 

「……他に、その、オルバちゃんのどこが好きなんよ?」

 

「人間達の幸せを願えるのが好き。破局の力を持ったっていうのに、健気に願えるのよ、オルバ。

 あと、ちょっと素直じゃあない所もあるけど、可愛げがあるの」

 

 

 成就の妖精・アモルの惚気を聞いていた。

 神殿の八賢者たる俺としては、二人の恋は実に興味深いものだ。バランスを取り続けることもまた、八賢者の使命の一つだろう。

 俺は、ここ数ヶ月、アモルが封印されてる箱だけ開けては彼女と話をし、アモルとオルバの恋愛成就を願って箱に帰還させるという、地味に高度なお参りを続けていたのだ。

 アモルとは仲良くなっていき……俺からは他の八賢者やアルシーヴちゃん&ソラちゃんのこと、アモルからはオルバの事や先日の事件の経緯を教えあうほどまでに仲良くなれた。

 

 

「うんうん! アモルちゃんがオルバちゃんを大好きな事は伝わった! だから今回は、その数多ある『大好き』をひとまとめにする言葉を教えようと思う!」

 

「ひ、ひとまとめにする? そんな事が出来るんですか? でも……」

 

「勿論、君自身の想いはひとまとめに出来ないかもしれないが、長話が好きな人間だけとは限らない。だから、覚えておいても損はないはずだ」

 

「そうですね……それで、どんな言葉なんですか?」

 

「『ムラムラします』だ」

 

「む、ムラムラ…!?」

 

「恥ずかしがってはダメだぞ。言葉にしなけりゃ、伝わるものも伝わらない」

 

「そ、そう、ですね……………

 ……………む、ムラムラ、します……」

「良いぞ! もっとハッキリ言ってみよう」

「…ムラムラします…」

「『ムラムラします』」

「ムラムラします…」

「『オルバの事を想うと』?」

「『ムラムラします』」

 

 

「アモルになに教えてんだこの野郎!!!」

「うわあぁァァァァッぶねええええ!?!?!?」

 

 

 すんでのところで飛んできた金色の裁ちバサミを回避する。俺じゃあなかったら、頭と胴体が泣き別れになっていたかもしれない。

 ハサミが飛んできた方向を見れば―――案の定、オルバが顔を真っ赤にしながら箱から飛び出していた。流石、一時期アモルよりも力が強かっただけのことはある。

 

「おおう、おはようオルバちゃん。随分と荒っぽい起き方だな?」

 

「誰のせいでこうなってると思ってんだテメェ…!

 さっきからムラムラムラムラうっせーんだよ! アモルの声で『ムラムラします』って聞こえた時は耳を疑ったぞ!!」

 

「安心してくれ、事実だ」

 

「よしぶった斬ってやる」

 

 もー、オルバはちょっと暴力的だぞ☆

 そんな事だから力が強まる一方なんだ。多分。

 

「オルバ、ローリエさんを許してあげてよ。この人、春香達以外で私達の成就を願ってくれるのよ。それに、私はローリエさんから色々教わったし……」

 

「……確かに、コイツはアモルだけの封印を器用に解いては恋愛成就を祈っていく奇特なヤツだが―――ちょっと待てアモル? お前今なんて言った? 色々教わったって言ったのか!!?」

 

 ちなみに、俺が初めて来てから数ヶ月、オルバが『ムラムラします』の下りの拍子で目覚めるまで、オルバの封印を解いてない。つまりオルバはさっき目覚めたばっかである。おまけに……どういうわけか、妖精は貞操観念が人間とは違う構造をしていたのだ。

 数ヶ月……それだけあれば、前世も含めて知識豊富な俺が貞操観念の低めなアモルに色々教え込むには十分であった。

 

 この後めちゃくちゃオルバが怒り狂った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ―――閑話休題。

 

「さて、オルバちゃんも自然に目覚めて怒りも収まった事だし、ようやく()()に移れるな」

 

「「本題??」」

 

 妖精二人が首をかしげる。

 そう。俺は、二人のパワーバランスを変えるため、とある計画を立てていたのだ。その為には、起きている二人の了承が必要だった訳で。

 

 

「とりあえず……これを見てくれ」

 

 

 指をさしたのは祠のすぐそばにあった、木の立て札。

 そこには、以下のような文字が書かれている。

 

『恋愛成就の妖精

 成就の妖精たるアモルと、破局の妖精たるオルバ、ここに封印す

 願わくば彼女たちが、悪しき人間に利用されぬ事を』

 

 オルバとアモルがここにいる事をシンプルに記した立て札である。これを見た時……俺は思った。

 

 不公平だと。

 

 

「なんだよ、成就と破局の妖精って! 明らかに破局が不利じゃねえか!!

 なんだよ『悪しき人間に利用されぬ事を』って説得力ねーな!! こんなの悪しき人間が見つけたら真っ先に悪用するに決まってんだろ! …勿論、オルバちゃんをな」

 

「っ………」

 

 

 オルバが俯き、唇を噛む。そんなオルバにアモルは寄り添い、背中を撫でる。なんていたたまれないのか。きっと、何度も悪用されたからに決まっている。

 ―――だから、その悪しき流れを断つ。

 

 

「……俺が提案することはズバリ、この立て札に書いてある内容を思い切って変えることだ。

 具体的には、アモルの力とオルバの力を公平に見えるようにしたい。特にオルバの『破局を司る力』は地雷だ! コレをそのまま真正面から書いたとて、正しい心を持つ人の食いつきが良い訳がない!」

 

「分かってるよ…でも、なんて書く気だ? 言っておくが、オレが破局を司るのは変えようのない事実だぜ」

 

「そうね……妖精の力に嘘をついても意味なんてありませんよ」

 

 嘘? 嘘、ねぇ……

 分かってないな。

 

「ウソ? そんな意味のない罰当たりなこと書けるか。

 ただ、文章というのは、言い方と言葉選びを変えるだけでだいぶ印象が変わると言っているんだ。

 例えば―――」

 

 

 と、持ってきた紙にペンを滑らせる。

 あっという間に書き終えたそれを、妖精二人の目の前にバッと見せてやった。

 俺が書いた内容とは、こうだ。

 

 

恋愛の双神・アモルとオルバの祠

 アモルは縁を結び、恋を実らせます。貴方と想い人の心を引き寄せ合い、良縁と言う名の幸福をお招きになることでしょう。

 オルバは縁を切り、新たな出会いの糧とします。未練や悪縁、貴方を過去に縛り付ける鎖を断つことで先に進む力をお与えになることでしょう。

 恋愛の双神さまの加持力(かじりき)をいただき繁栄の利益にあずかることを祈念いたします。

 

「え、『縁を切る』…!? 」

 

「おお……私達の力をほぼ正確に表しているのに悪い印象が全く浮かばない……!?」

 

 

 そうなのだ。

 オルバの「破局を司る力」を聞き、金色のハサミを目にした時、真っ先にイメージしたものは人々に繋がっている縁の紐を切るイメージだ。故にこの表現にした。

 縁切りというと悪いイメージが湧くだろうが、こと仏教においてはそうでもない。詳しくは省くが、「悩みに悩み抜いた先で悪縁を切ることを願うのは悪くない」らしいのだ。

 勿論自分勝手な縁切りはダメだが、『縁を切りたい…でも、そういう事を願うのは悪い事なんじゃあなかろうか』という罪悪感と戦った後の願いを聞くのは何も悪くない。

 それを懇切丁寧に説明すると、アモルもオルバも物凄くビックリしたような顔をした。

 

 

「な、なるほど……そう考えると、オレの破局の力……いや、縁を切る力、か? 悪いモンじゃない…のか?」

 

「目から鱗ですね……」

 

「でもよ、オレ達『神』なんて大層なモンじゃあねーぞ??」

 

「問題ない。要はご利益があるかどうかなんだ。聖典に乗っている神様も、元から神様だったヤツばっかじゃあないんだ。

 元々は悪魔だったり、やんちゃな猿だったり、果ては人間だった神様もいるんだ。元は妖精だった神様もいて良いだろう」

 

「そうなんですね!」

「…………ホントか?」

 

 

 二人を勝手に神様に祀り上げた事についてそう補足する。オルバは疑惑の眼差しを向けているが、嘘はついていないぞ? 実際にそういうのいるしな。クリエメイトに尋ねれば一発で証拠が出るだろう。

 

 

 結局、俺の提案した『オルバとアモルの紹介文書き換え計画』は二人の了承を得ることで実行される事となった。祠を整備し、新しい立て札には俺が考えた文面が綴られた。

 だが、それで終わりではない。

 

 ―――神になるには、ご利益だけではなく、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――時は流れて。

 恋愛の双神についての信仰が浸透していき、二人の信仰が徐々に、()()()上がっていった。二柱については、以下のように伝わっている。

 

 

 アモルは縁を結び、恋を実らせる。願った者とその想い人の心を引き寄せ合い、良縁と言う名の幸福を招く―――成就の象徴。

 オルバは縁を切り、新たな出会いの糧にする。未練や悪縁、願い人を過去に縛り付ける鎖を断つことで先に進む力を与える―――未来の象徴。

 

 だが、決して軽視することなかれ。己の欲望と他者の転落を願い、悪意を隠して縋ろうとする者を二人は許しはしないだろう。

 アモルの怒りに触れれば、その者は()()()()()()()()、たちまち破滅の未来へ進んでいくだろう。

 オルバの機嫌を損ねれば、その者は()()()()()()()()()()()()()、たちまち孤立していくだろう。

 

 

 

 しかも、恐るべきことに…恋愛の双神であるアモル・オルバは、()()()()()1()0()()()のひとり・()()()()()()()()である事だ。

 

 エトワリア10栄神。

 アモル・オルバの神社の神職の人間がアモルとオルバの神託を受けたことで広まった信仰だが、意外な事に多くの人々に伝わり、信じられるようになった。神々が人間じみた性格を持っていたことが、大衆にウケたようである。

 

 神託とは、神が人間に伝えるお告げのようなものだ。未来のことから自分のこと、自分の上司の事まで話題はなんでもいい。つまり、そういう事だ。

 

 

 そして、神託を伝えた()二人はというと……

 

 

「まさか本当に崇められる事になるとはな……嘘から出た真とはこのことだな」

「ローリエさんにはお世話になったわね。春香さん達の事も伝えたいけど…そっちは聖典があるからね」

「確かにな。……にしても、ローリエの野郎、勝手にオレ達の祟りを書き加えやがって。身に覚えがねーぞ。確かに、縁を切るのは得意分野だが…」

「その事は、ね?

 ローリエさんの事を神話にしたからそれでおあいこって事で」

(したた)かになったな、お前。十中八九ローリエの入れ知恵だろうが………

 ……お、参拝者だ。行くぞ、アモル。」

「分かったわ、オルバ。」

 

 

 

「「私(オレ)達の神社へようこそ!」」

 

「貴方が望むのは…縁結び?」

「それとも…悪縁切り?」

 

「正しい心からの願いなら―――」

「―――必ず、オレ達が叶えるぜ?」

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 アモルとオルバの伝承を生み出した八賢者。「成就」と「破局」では明らかにオルバが不利であり、悪しき人間の狙う的になり得ることを危惧して、「縁結び」と「悪縁切り」に認識させた。後に、知らぬ間にアモルとオルバの上司の神にされてしまう。

アモル
 「恋の成就」の妖精。ローリエに性の知恵を教わり、後に「縁結びの神」となる。なお、変な知識を教わったり恋人の祟りを勝手に書き加えられた仕返しに、ローリエを仲間ごと上司に祀り上げた模様。

オルバ
 「恋の破局」の妖精。ローリエに力の解釈を教わり、後に「悪縁切りの神」となる。なお、恋人に変な知識を吹き込んだり祟りを勝手に書き加えられた仕返しに、ローリエを仲間ごと上司に祀り上げた模様。



エトワリア10栄神
 アモルとオルバの神託によって生まれた信仰。神々が、地味に人間味のある性格をしているのが特徴。全能神ソラ、その補佐の暗黒神アルシーヴを筆頭に、友好神シュガー、智慧の神セサミ、駿足の神カルダモン、計略の軍神ソルト、豪傑の軍神ジンジャー、守護神フェンネル、夢幻神ハッカ、情愛の神ローリエからなる。
 ローリエ以外の八賢者と筆頭神官、そして女神からすれば、「なんか知らない間に祀られてた」状態であり、いい迷惑である。つまり、ローリエを責めて良い。

ろーりえ「お前らァァァァ! 確かに祟りを勝手に書き加えたことは悪かったと思うよ? でもその仕返しのつもりかァァァ!!?」
おるば「その件について、怒ってないっつったら嘘になる。でも、オレ達は感謝してるんだぜ?」
あもる「そうよ。パワーバランスが平等になって、私達は一緒にいられるようになった。そのお礼です」
ろーりえ「…物は言いようだなコラァ………!!」


元は神じゃなかった神々
 実は結構いる。仏教や日本神話はその手の例が結構多い。
元は人間だった→天満大自在天神。人間だった頃の名前は菅原道真。皆さんご存知の学問の天神様のこと。
元は猿だった→斉天大聖。孫悟空のこと。寿命なんか知らんと天帝をボコって不老不死になったという。
元は悪魔だった→阿修羅。厳密には悪魔ではないが、正義に妄執し続けた悪神から仏教を以て守護神にジョブチェンジしたという。


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UA25000突破記念閑話:結集!八賢者会議

例のごとくハッカちゃん参戦イベント『結集!七賢者会議』と関連した物語です。ストーリーを把握してから読むと良いかもしれません。
また、賢者達の誕生日と過去を盛大に捏造します。


 

 

 

『ローリエ。少し、話がしたいのです。

 ここに、後ほど来てくれますか……?』

 

 

 頬をやや赤らめたセサミからそんな招集(意味深)が来たのが数十分前。

 俺は身なりを整えてホール前に来ていた。

 

 彼女になんの話があるのかは分からない。

 だが、このお誘いを断るような奴は、男じゃあないぜ……!

 あの反則的な豊満ボディ――じゃなかった、煽情的…でもない、勇気を出して声をかけた淑女の期待に応えてこそ、真の紳士ってやつだと思わないか?

 

 故に、俺は指定されたホールに続く扉の前に立っている。

 扉の前でひとつ…ふたつ……深呼吸………!!

 

 

「……ローリエ?」

 

「ふぉっ!!!!?」

 

 

 小さく声が聞こえてきたので、驚いて振り向いたらハッカちゃんが。

 ……ん?

 

「ハッカちゃん……? なんでここに…?」

 

「セサミからの突然の招集。

 ローリエは?」

 

「え、ハッカちゃんもセサミに呼ばれて来たの?

 セサミのやつ、一体なんの用なんだ……?」

 

 

「……ああ、来ましたか、ハッカ、ローリエ。

 これで全員揃いましたね」

 

「セサミ?」

 

 

 扉の前の会話が聞こえていたのか、扉を開けて出てきたセサミがそんなことを言う。

 セサミが出てきた所を見てみると、大きな円形テーブルが置かれており、そこには………

 

 

「ねえねえ、セサミ。

 なんでわざわざ八賢者全員を集めたの?」

 

「ソルトも疑問です。8人で集まる用件なんてありましたか?」

 

 

 シュガーと、ソルトと……それだけじゃあない。

 カルダモンも、ジンジャーも、フェンネルも、座っていて。

 俺とハッカちゃんを合わせれば、八賢者全員が集まる状態が出来ていた。

 みんながみんな、なにゆえここに呼ばれたかが分かっていない様子だった。

 

 

「………なんだこの絵面? え、なに?

 これからこのメンバーで会議でも始めんの?」

 

 前世で似たような構図を見てきただけに、思ったことをそのまま呟くと、セサミが目を見開いた。

 

「…! よく分かりましたね。

 とりあえず、お二人とも席について下さい。今回の集まりの主旨を説明しますから」

 

 

 そうして、セサミが語ることには。

 今まで自分たちは八賢者と称しながらも、普段はバラバラに行動しており、あまりそれぞれが勝手に動くのも良くないだろう。

 だから、連携と結束を高める意味でも、情報交換の会を定期的に設けたいと考えた。

 ―――ということだった。

 

 

「なるほどね。題して『八賢者会議』ってところかな。

 でも、あたしは普段紛争地帯に出かけてるから、毎回は参加できないよ?」

 

「もちろん、それは承知しています。

 欠席者には私から後日共有いたします。」

 

「それはありがたい。私も、いつも神殿まで出向けるわけじゃねえからな」

 

 

 毎回会議に出れない人のため、情報共有がしっかりしている救済付きでもある。

 俺も、もしかしたら女神候補生や神官たちの授業や成績処理でやむなく出れない……なんてこともあるかもしれないからな。正直助かる。他にも、フェンネルのアルシーヴちゃん外出時の護衛とかが『やむなき欠席』にあたるだろう。カルダモン・ジンジャーの次くらいの頻度で『救済措置』のお世話になりそうだ。

 ただなシュガー、君の『お昼寝したいから欠席』は許されないだろ。むしろ俺がその欠席理由で許されたいくらいだわ。

 

 

「…………。」

 

「………?」

 

 

 それはそれとして、俺にはどうも気になることがある。

 それは……ハッカちゃんが、この会議が始まってから、何一つ喋っていないこと。

 ハッカちゃんは、確かに寡黙で話すことが得意じゃあないことは知っている。

 だが、それでもシュガーやソルトやジンジャーがわいのわいの騒いでる隣でだんまりしていたら、嫌でも気になってしまうのは俺だけなのだろうか?

 

 

「ねえ、ハッカ。気になる事があるなら、言ってもいいんだよ?」

 

 おっと、カルダモンもハッカちゃんの無言が気になったらしい。ハッカちゃんは静かにカルダモンを見つめると、ふるふると首を振る。

 

「配慮に感謝。されど、特段語るべきことは無し。」

 

「そっか、ならいいけど。

 そういえば、あたしたち7人は前々から何だかんだ付き合いがあったけど、ハッカは最近まで、全然交流がなかったんだよね。

 この機に、色々訊いても良いかな?」

 

「……禁則事項は返答不可。」

 

「別に、言えないならそれでもいいよ。

 それで、夢幻魔法ってそもそもどんなもの?

 アルシーヴ様に訊いてもなかなか教えてくれないから、ずっと気になってたんだ。

 夢幻魔法で作った世界に入るのってどんな感じなの?」

 

「秘匿。」

 

「えーいいじゃんー。

 シュガーも気になる。教えて教えてー!」

 

「不用意に語るものに非ず。」

 

 

 カルダモンがハッカちゃんに夢幻魔法について尋ねる流れで質問コーナーが始まる。

 シュガーもそれに便乗して、「お昼寝はどこでしてるのー?」なんて聞いている。

 シュガーとカルダモンだけじゃない。ソルトもフェンネルもジンジャーも、ハッカちゃんに興味津々だ。

 かくいう俺もハッカちゃんとはたまに将棋を指す仲ってだけだからな。この際に何でもいいから訊いてみるか。

 

 

「ハッカちゃん。俺も質問いいか?」

 

「肯定。但し、禁則事項は返答不可。それと―――」

 

 瞬間、ハッカちゃんの目のハイライトが消えた。何故だ。

 

「―――痴漢せくはらお断り。」

 

「お前ら……」

 

 本当に、俺のことをなんだと思っているのか。ハッカちゃんのその発言をうけて、他の賢者達(シュガー以外)も目から光が消える。

 そんなに疑心暗鬼に取りつかれた目で見るんならその目を鳩が豆鉄砲食ったような顔つきにしたやる。

 

 

「…はぁ。じゃあ質問。ハッカちゃん、誕生日いつ?」

 

「……え?」

 

「いやだから誕生日。何日生まれなのかなーって。ひょっとして禁則事項だった?」

 

「い…否。それは禁則事項に非ず。しかし……」

 

 俺の質問にハッカちゃんは初めて戸惑いの様子を見せる。そして、困ったように、参ったように口角を少し上げて……

 

 

「……すまぬ。答える事能わず。」

 

 そう答えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 初回の会議――ほぼハッカちゃんへの質問タイムだったが――がつつがなく終わり、ハッカちゃんが速やかに去ると、カルダモンがジンジャーと俺とセサミに声をかけてきた。

 

 

「ねぇ、3人とも。ハッカの事、色々聞いててどう思った?」

 

「うーん、難しいな。言葉もあんま話さないし、表情も対して変わらなかったからな。セサミはどうだ?」

 

「心を開いていない訳ではないのですが、いかんせん今までが人との交流が希薄すぎたので………夢幻魔法なんて危ういものを扱っている以上、本人の判断だけで話せないものも多いのでしょう。」

 

「ま、慣れだね。俺は前々からハッカちゃんとは将棋を指してたからある程度は読み取れるから言えるけど……ハッカちゃん自身も、皆と仲良くなりたい筈だ。」

 

 

 カルダモンから「ハッカが考えてることがわかるの?」みたいな視線を向けられるが、将棋の時のハッカちゃんを知ってるだけだぞ。

 ま、とにかく俺は用事ができたので、一足先に失礼することにしようか。

 

 

「じゃ、俺はこの辺で」

 

「ローリエ? そっちは貴方の部屋では……」

 

「アルシーヴちゃんに聞きたいことができたからねー」

 

 

 振り向くことなく、俺はさっさと筆頭神官がいそうなところを手当たり次第に周る作業に突入した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ハッカ、見参。」

 

「お疲れ様です。では、本日の会議を始めましょう。」

 

「今日もカルダモンとジンジャーが欠席か。」

 

「仕方ありません。

 あの二人の仕事は主に神殿から離れるものですから。」

 

 

 新たに生まれた責務である、八賢者会議。

 それは、私にとっては実りある会合であると言える。

 アルシーヴ様に秘蔵されている身である私には、外部の情報を入手する術が無かった故。

 前述した通り、八賢者の責務ゆえ、都合がつく限り参る所存。

 

 この八賢者会議で議題となるは行事等の予定やそれに伴う我々の行動が主。

 セサミの近々の予定。カルダモンの調停の進捗。ジンジャーの街内政策。ローリエの魔道具開発・授業計画……いずれも、為になるものばかり。

 

 また、皆で集まり、アルシーヴ様にまつわる話をしながらセサミやフェンネルの持って来る甘味や茶を喫すること、嫌いにあらず。

 セサミの菓子は非常に美味。形も一流、茶の淹れるさまもいとゆかし。まさに秘書の鑑なり。

 フェンネルの菓子は…努力が垣間見ゆる出来なり。例えば本日の焼菓子、5分程焼成時間を短くすれば、より甘き仕上がり。しかし、この甘味と苦味が存在する菓子も好む者もあらん。

 

 

「じゃあ次は俺からな。来週の魔法工学の授業の『魔道具理論』で、ゲスト出演を依頼したいんだ。授業日に手の空いている人に頼みたいんだが……」

 

 会議に話を戻そう。

 いまの議題は、ローリエの講義の助っ人出演依頼。

 彼は、神殿の技術開発の傍ら、女神候補生や神官候補の人間に魔法工学の講義を開いている。

 その為の人員を募集しているようだが……

 

 

「申し訳ありません、ローリエ。その日は、私はほぼ一日中会議が入っておりまして…」

 

「わたくしも、セサミに付き添いアルシーヴ様の身辺警護をする形になりますわ」

 

「ソルトも、用事が入っているのです…」

 

「マジか……」

 

「シュガー、おべんきょーきらーい!」

 

「シュガー、今の発言は俺とアルシーヴちゃんへの挑戦ってことでいいんだな?」

 

「え、ちょ、違う! そうじゃなくって……」

 

「明日のお前の宿題、5倍な」

 

「うわーん!! ソルト!おにーちゃんがいじめるー!!」

 

 

 全員返事は芳しくあらじ。

 会議と日が重なるようでは、セサミもフェンネルもソルトも、助力は困難。

 シュガーでは、意欲的に助っ人が務まるか不安の様子。

 カルダモンとジンジャーは本日欠席の為、不確定要素多し。

 ……と、なると。

 

 

「ローリエ」

 

「……ん? ま、まさか…助っ人に来てくれるの? ハッカちゃんが!?」

 

 手を挙げてローリエの確認に頷けば、「よっしゃあ!!」と目に見えて喜んだ。

 私はローリエの授業日の予定が何もなかった故に立候補したのだが、何か悪い気がしてきた。

 

 ……悪い気と言えば、先日の問答もそうだ。

 ローリエからさり気なく訊かれた誕生日の質問。答えられなかったのはただ単純な理由あり。

 

 ―――知らぬのだ。

 私が、我が誕生日を。

 存ぜぬものは、いくら禁則に触れてなくったって答えること能わず。

 

 

 

 物心ついた頃には、あらゆる家庭をたらい回しにされていた。

 滅んだ魔人族の生き残り………災いを呼ぶから口さえ開くなと忌み嫌われたものなり。

 無論…嫌っていた者の誕生日を祝う奇特な人間などいはしなかったし、そんなものに興味を持つものが現れる事は無かった。

 そして、とある盗賊に攫われた時は、あぁ、やはり救いはないと希望を放棄した。

 諦めていたのだ………幼きソラ様とローリエに会うまでは。

 私の目の前で、盗賊をローリエが斃すまでは。

 

 あの時は誠に彼を信じ切れぬせいで彼を傷つけてしまったが……ソラ様とアルシーヴ様のおかげもあり、ローリエとは盤の遊戯で楽しめるようになった程にまで、信頼を回復したと推察する。

 

 

「ハッカちゃん、来週のこと、よろしくな!」

 

 会議が終わった後、楽し気に語り掛けるローリエを見ていると、私も安心するのだ。

 

「あ、そうそう。あとさ……」

 

「?」

 

 

 ローリエが呼び止める。いまだ何用だろうか?

 

 

「ハッカちゃんの誕生日。2月28日な」

 

「!!?」

 

 

 ……なんと?

 いや、しかし、なぜ、そんなことをローリエが――

 

 

「アルシーヴちゃんとソラちゃんから聞いたぜ。

 誕生日の話を聞いたことがないってよ。もしや誕生日ないんじゃってソラちゃんが泣きだしてからは大騒ぎだったよ。

 …苦労したんだぜ。ハッカちゃんとアルシーヴちゃんが初めて出会った日が何日か思い出させるの。」

 

 

 何でもないように言ってのけるローリエに絶句する。

 何故、そこまでのことがこの男に出来るのだ……?

 

 

「な…何故、私が誕生日を知らぬことを知っている……?」

 

「いやいや、『誕生日いつ?』って聞かれて『答えられない』なんてまず答えないぜ。

 ……マジに自分の誕生日を知らない人でもない限りはな」

 

「………されど、そのような推理のみで荒唐無稽な結論―――」

 

「ハッカ」

 

「!!? アルシーヴ様……」

 

 背中からお声がかかった。

 アルシーヴ様だ。振り向けばお顔が曇っておられて…

 

 

「すまなかった。お前の大事な日に気づけなかったのは私の責任だ。

 ソラ様とローリエがとんでもない事を言い出した時は半信半疑だったが……

 いまの話から察するに…まさか本当に誕生日を知らなかったとは。」

 

 !!?

 

「何を……アルシーヴ様、全て、我が責任。

 過去の追憶を恐れ、秘匿してきた怠惰の負債……」

 

「いいえ、私はそうは思わないわ」

 

 アルシーヴ様の頭を下げる姿に弁明してると、驚くべき事に、ソラ様のお姿まで。

 

 

「貴女との出会いから察するに…そんな可能性は考えていた。

 でも、色んな言い訳をつけて、後回しにしていたの。

 誕生日は、その人が生まれた記念日なんだから……後回しなんてダメなはずなのに。

 ………ごめんなさい、ハッカ。」

 

 

 ソラ様まで謝罪!!?

 アルシーヴ様に頭を下げられるだけでも失態。

 お二人に恥をかかせるなど、賢者の名折れ。

 この汚名、どのように返上すれば………

 

 

「…そんな顔をするな。」

 

「…アルシーヴ様?」

 

「ハッカはこれまでもよくやってきた。八賢者会議も皆勤していることは知っている。

 これからの活躍に期待しているぞ。」

 

「……………アルシーヴ様。

 寛大な温情に感謝。」

 

 

「ハッカちゃん。まだ気が済まないならさ。

 ――俺たちの誕生日も覚えてくれよ。それでおあいこにしようじゃん?」

 

 

 ローリエが、我が心情を見透かしたようにそんな提案をしてくる。

 アルシーヴ様もソラ様もこれには流石に驚きの表情。

 

 

「ハッカが、私達の誕生日を…?」

「いいの?」

 

「……………………ハッカに異議なし。」

 

「……だってさ!」

 

 

 ローリエがはにかんだ。

 三人の誕生日……成る程。

 

「覚えておいてくれ。俺の誕生日は――10月5日だ。」

「私は―――12月22日生まれ、だ。」

「私はね、―――9月12日生まれ!よろしくね!」

 

 それで温情を頂けるなら、それ以上の幸福なし。

 

 

「―――了解。ハッカ・ペパーミン。誕生日2月28日。これからも、八賢者の責務を務める所存……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ハッカ
 誕生日:2月28日。ようやく己の大事な日が決まった。筆頭神官・女神・男賢者の間に生まれた絆は強固であり、今回の件で覚えた日は絶対に忘れることはない。なお、初めてハッカの一人称視点を書いてみたのだが上手く行っただろうか?
 誕生日の由来はただの思いつき。

ローリエ
 誕生日:10月5日。たった一つの問答でハッカの誕生日について鋭い予想を立ててのけた推察力の化身。『ハッカの誕生日をアルシーヴと初めて会った日にする』と提案したのも彼である。他の賢者達よりひと足早く、アルシーヴとソラに便乗する形で誕生日をハッカに教えた。

アルシーヴ
 誕生日:12月22日。ローリエに振り回され、ハッカと初めて出会った日のことを無理やり思い出させられた。誕生日の由来はただの思いつき(その2)

ろーりえ「アルシーヴちゃーん。ハッカちゃんと初めて出会った日はいつ?」
あるしーぶ「ふーむ…あれはたしか冬の寒さがほんの少し和らぎ始めた…」
ろーりえ「具体的に」
あるしーぶ「えっ」
ろーりえ「具体的に何月何日!」
あるしーぶ「」

ソラ
 誕生日:9月12日。ハッカとの初対面が盗賊のアジトの中だった(本編2話参照)ので、『ハッカは自分の誕生日を知らないかもしれない』という考えに最初に行き着き、泣き出してしまう。その後、ハッカに誕生日を覚えて貰った。
 誕生日の由来は『宇宙の日』から。


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UA30000突破&100話突破記念閑話:ガリックとオリーブ

今回のUA記念閑話は、100話記念も兼ねています。
100話目の今回は、珍しくオリジナルです。
本編には登場予定のない、ローリエの父・母を登場させ、ローリエを始めとしたさまざまなキャラと絡ませたいと思います。

出来る限りギャグに振り切った日常パートです。それでは、どうぞ。


「アルシーヴちゃん、ソラちゃん。明後日父さんと母さんが神殿に来るから、よろしくね」

 

「「はい?????」」

 

 

 どーも、八賢者ローリエです。そして、突然の父母襲来予告に「ちょっと何言ってるか分からない」って顔をしている美少女二人は、俺の幼馴染・筆頭神官アルシーヴと女神ソラだ。

 

 

「と…唐突だな。ガリックさんとオリーブさんが何故、神殿に…?」

 

「商談があるんだってよ。あと、息子の様子も見に来るんだと。まったく気にしないでもいいのに……」

 

「いいじゃない。私も久しぶりに、おじさんとおばさんと話したいわ!!」

 

 そう。今世での俺の両親はそれぞれ、ガリック・ベルベットとオリーブ・ベルベットと名乗っている。

 父さんは商会『ベルベットパートナーズ』の会長として、辣腕を振るっている。俺の発明品……それも日用品関連が売れているのも父さんのお陰だ。その伝手で、俺は経営も学んでいる。

 母さんは役人だ。とある街やエトワリア全体を良くするために動いているのだとか。ちなみに同じ賢者のジンジャーともたまに顔を合わせることがあるらしい。ジンジャーはまったく気づいてないけど。

 

「ローリエの両親のことだ。お前が私達に迷惑かけてないかが気が気でならないのだろう」

 

「何言ってんだアルシーヴちゃんよ。俺は日頃から紳士的に接しているだろう」

 

「お前が紳士ならお前以外の男すべては神になるぞ」

 

「おいそこに直れ、おっぱい揉んでやる」

 

「そういうとこだぞ」

 

「あはははは」

 

 

 しかし、来るのかぁ。父さんと母さんが。

 嫌な予感しかしないので逃げたいが、そんなことをしたら後が面倒になるに決まっている。

 ま、変な事をしに来るわけでもなし、大人しく普通に過ごすとしましょうかね。………ちょっと恥ずかしいけど、事態がややこしくなるよりマシかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そう思っていた時期がありました。

 

 

「久しぶりだな、ローリエ! 立派に成長したじゃあないか!! 父さん似のイケメンだぞ!

 ………ところで、いま何人娶ったんだ???」

 

「父さん………息子との久しぶりの開口一番に『何人娶った?』はないだろ…」

 

 

 まさかの、父さんが商談を秒で終わらせて(本人談)、俺の居場所へすっ飛んできたのだ。

 しかも、イイ笑顔で。凄まじい質問をハキハキと口にしながら。

 

 この、色んな意味でアカン登場をした男が俺の父――ガリック・ベルベットである。

 俺と同じライトグリーンの髪が逆立ち、目力の強いオレンジ色の目と筋骨隆々な佇まいの偉丈夫は、40ちょっとに突入した年頃とは到底思えない。

 ちなみにだが…俺の口説き術はこの人から教わった。まぁ、個人的にはまだまだ努力の余地アリだけど。

 

 

「あー……じゃあ、『何人侍らせた?』の方が良かった? もしくは、『何人はらまs―――」

 

「どんどん言い方が悪くなってるだけじゃねーかよ!! ヤメロ!!!」

 

「何故だ! ハーレムを築き上げて何が悪い! 男の理想郷だろうが!!」

 

 

 前世で言っていたら確実に男女差別で炎上しているであろうコトを堂々と言う父さん。

 いや、言う事を全否定はしないけどもさ……物事には順序ってモノがあるだろう?

 

 

「いいかローリエ。何度も言うようだが……男と女がする事自体は悪くない。何人も娶る事はむしろ、男の甲斐性の象徴だ。褒められるべきことだと言ってもいい。ただ、責任を取るつもりもないのにそういう事をするのが良くないだけなんだ!

 ローリエ、お前は八賢者にまで上り詰めた。様々な発明品が売れ、一番儲かっている八賢者といっても過言じゃあない。今のお前ならば、余程のことがない限り4、5人の責任くらいは簡単に取れるだろうな!!」

 

「おう、そういうことは母さんの前で言わない方がいいぞ。絶対ブチ転がされるから」

 

「はっはっは!こやつめ、乗り気なくせに何を言うか!だが、そこはよくわかるぞ!! だからこそ、日々のご機嫌取りも重要だ!

 いいかローリエ、女の子はなにかしら褒められる事を好む! だから、毎日よく見て、些細な変化も褒めちぎれ!! もしかしたら、ネイルが変わっているかもしれないぞ!!」

 

「ネイル…! そっか、そこまでは見てなかった!!」

 

 …とはいえ、まだまだ父さんからも学ぶことはある。

 こんな風に、父さんは色んな口説きテクニックを伝授してくれる。

 独り身だった頃、商人仲間から色んな方法を学んだとのことだったが、それを実践しているこの人もこの人という訳だ。

 

 

「お前には俺の全てを教え込むつもりでいる! なにせ、今の俺が持ってても宝の持ち腐れになってしまったからな!!」

 

「母さんとのこともあるし、ってことか」

 

「そうだ!! 俺と母さんの馴れ初めは覚えてるか? 俺の場合、知らぬ間に責任を取る形で身を固めることになったが……とりあえず、酒は飲み過ぎるなよ!!」

 

「忘れられる訳ねーだろあんな馴れ初め」

 

 

 両親の馴れ初めだが………父さん曰く、酒を飲み過ぎた次の朝、気づいたら母さんとベッドで寝ていたらしい。しかも裸で。それから責任を取る形で付き合いだしたんだと。なんつー典型的なスキャンダルだ。

 

 

「さて、話を戻すが……ローリエは誰を娶るつもりなんだ?」

 

「え? えーとまず…って言うと思ってんのか」

 

「かからないか! だが、想像はつくぞ!! アルシーヴちゃんとソラちゃんは確実だろう?」

 

「なっ!!?」

 

「なにせ昔は仲良しだったからな! 二人がお前を取り合ってたから『アルシーヴちゃんもソラちゃんも仲良くローリエの嫁になるといい』って言った覚えがあるぞ!! 後で母さんに殴られたが!!」

 

「い、いつの話をしてるんだ!!」

 

 

 父さんが話してるのは、本当に小さい頃の話だっただろ!

 今は…どう思ってるか分からないし。だからこそ日々口説いている。まぁ、取るべき責任が生まれたらちゃんと取るよ。

 

 

「今では二人とも超絶美少女だ!! 二人とも娶る線も現実味が増してきてるかもな!」

 

「いやな、父さん……アルシーヴちゃんはともかく、ソラちゃんは女神だぞ? 結婚の前例なんてないのに、危なすぎねーか?」

 

「前例は生み出すためにある! 人妻の女神、意外と需要あるかもしれないぞ!!」

 

「なんの需要だ!!?」

 

 

 なんてこと抜かすんだこの親父は。業が深すぎる。

 これまで、エトワリアの女神のは結婚していたとかそういう資料がない。していても女神の座を退いた後だとかそういう話が多い。先代女神のユニ様だって最期まで未婚だったからな。

 人妻系は好みが分かれる。NTR耐性持ち、特に人妻好きには女神(既婚者)は文字通り神の恩寵かもしれないが、所謂ユニコーン系と言われる人々にとっては地獄の宴だ。

 残念ながら、俺は極まったギャンブラーではない。

 

 

「危険な賭けがすぎると思うよ。同僚なら許されるだろうし、筆頭神官でもまぁ良いかもしれないけど、女神はヤバすぎる」

 

「残念だな、ローリエ! 狙ったエモノは逃さないとばっかし思っていたが!!」

 

「なんだって?」

 

「5歳の頃より臆病になったな!!」

 

「やってやろうじゃねぇかこの野郎」

 

 

 この瞬間、俺はソラちゃんまで口説くことが決定してしまった。

 見えきった挑発に乗るからって? いや、そうなんだけど。子供の頃の自分よりも成長した証を見せたいと思うのは当然だろう?

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――ローリエとガリックがしょうもない猥談を繰り広げていた頃。

 アルシーヴとソラは、一人の女性の相手をしていた。

 

 

「そう…ユニ様がお亡くなりに……二人とも、頑張ったわね」

 

「ありがとうございます、オリーブさん」

「私は、為すべきを為したまでですよ」

 

 相手の少女は、光に反射する銀髪と、金色の瞳を持ち、神々しさとあどけなさが際立つ顔つきだ。

 アルシーヴとソラは()()()()()が、彼女の見た目は、ぱっと見ではどう見ても2()0()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 ―――そう、彼女こそローリエの実の母、オリーブ・ベルベットである。

 

 

「失礼します……お茶をお持ちしまし……あら?アルシーヴ様、その方は…?」

 

「フェンネルか。この人は―――」

 

オリーブですっ! よろしくね、おねえちゃんっ!

 

「え、は、はいっ!! よ、よろしくお願いいたしますわ!」

 

 

 このオリーブという女性、先述した通り、黙っていればかなり……否、とんでもなく幼く見える。

 ゆえに、彼女がロリムーブをかまそうものなら、まず騙されてしまうだろう。

 ソラとアルシーヴにこっそり人差し指を立てて「静かにしててね☆」のジェスチャーをするお茶目な母親。

 ソラはくすりと笑い、アルシーヴは呆れたようにため息をついた。

 哀れ、騙されたフェンネルのフォローをする者はいなくなってしまったわけだ。

 

 

「そ、それではごゆっくり!!」

 

は~~い! ……よし。じゃあ二人とも、私そろそろ行かないと」

 

「え、もうですか?」

 

「もう少しゆっくりしていっても良いんですよ?」

 

「あの人が………お父さんが何しでかすか分からないからね…」

 

「「あぁ…………」」

 

 

 アルシーヴとソラはローリエのセクハラの元凶をなんとなく知ってしまった。

 それもそのはず、ガリックは二人のもとに訪れはしたものの、凄まじい手腕で神殿とベルベットパートナーズの商談を平等にまとめあげるなり―――

 

『そういえば二人とも、気になる男はできたかな? まだだというんなら、ウチのローリエをお勧めするぞ!! 一人だろうが二人以上だろうが大歓迎だ!!!』

 

 ―――と、堂々と言ってのけたのだから。

 思いっきり妻に引っぱたかれる笑顔のガリックを見ながら、アルシーヴとソラは察したのだ。

 ……あぁ、これは間違いなくローリエの親だわ、と。

 しかもその直後、「息子のとこに顔を出してくる!!」とガリックは嵐のように去っていったため、オリーブは父子の暴走を止める必要があるのだ。

 

 

「それじゃあ、ウチの人を回収しに行ってくるわ」

 

「お供しましょう。神殿は広い。お一人だと迷子になりかねません」

 

「私も行くわ」

 

「…いいの? 会ったら間違いなく口説かれるわよ」

 

「……慣れておりますので」

 

「ほんっっとにウチの男どもがごめんなさいね。二人とも、下半身に脳があるんだからまったくもう…」

 

「あははは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで神殿を歩くは銀髪金眼の美少女と女神ソラ、そして筆頭神官アルシーヴ。

 通りすがった神官たちが何事かと振り返って三度見するレベルである。

 

 

「わぁ! アルシーヴ様、ソラ様!その子誰!?」

 

「シュガーにソルトじゃないか。こちらは…」

 

ベルベットパートナーズのオリーブだよっ! よろしくね!!

 

「うん! よろしくオリーブちゃん!」

「え、えぇ、宜しくお願いします……?」

 

 

 シュガーやソルトも声をかければ、合法ロリのオリーブに見事に騙される。

 アルシーヴは当然誤解を解こうとしたが、面白いもの見たさのソラと演者本人にジェスチャーで阻止される。その正体が知られた時にどんなリアクションを取るのかを予見してため息が出た。

 

 

「おや、アルシーヴ様、ソラ様。お客様をお見送りですか?」

「アルシーヴ様、もうお客様のお帰りなんですの?」

 

「あぁ。そうだ、セサミ、フェンネル」

 

――ってやれば甘いキッシュができるんだよっ!

「へぇ~~~!!! オリーブちゃんって物知りなんだぁ~!!」

「勉強になりました。今度、作ってみてもいいですか?」

 

「……随分シュガーやソルトと仲良くなっているあの人が…?」

 

「………そうだ。あの人の連れを探しているところだ」

 

「オリーブさんの連れ…? 保護者の方でしょうか?」

 

「…………」

「………っ、……っ!」

 

「ソラ様?」

 

「なんっ………でもない………っ」

 

「「???」」

 

 

 オリーブの旦那(ガリック)探しにセサミとフェンネルまで加わり、それに伴って誤解も広まっていく。

 ここまでくると、アルシーヴは誤解を解くのを諦めた。どうせ、ローリエやガリックとご対面したら正体が明らかになるからだ。

 なお、我らがソラ様は笑いを必死でこらえており、オリーブ本人に至ってはノリノリで女子トークという名のお料理講座を開いていたりする。

 

 だが、楽しい時間は長くは続かない。

 ガリックとローリエが猥談を繰り広げているのを見つけたからだ。

 

 

「―――なるほど! 光源氏に結城○ト!! 既にハーレムは築き上げられていたのか!!」

「うん、実はそうなんだ。だから俺もできると信じている。名付けて『結城・源氏計画』…!」

「できると信じているぞ!!! お前は俺の自慢の息子だ!!!」

 

「…………はぁ……」

 

 

 オリーブはため息を一つつくと、その場から一瞬で消えるようにガリックとローリエの合間に飛び込んで―――

 

 

「おバカな話はそこまでよ!!

 トルネードキック!!!」

 

「「ウボァーーーーーーー!!!!?」」

 

「「「「「「!!!!!?」」」」」」

 

 

 竜巻を思わせる回し蹴りで、自身の夫と息子をけり倒したのである!!!

 

 

「お、オリーブちゃん!!?」

「い、一体どうしたのです!?」

「というか、今蹴とばされた二人、ローリエと見知らぬ人だったのですが……」

「み、見えませんでしたわ……今の動きは一体…!?」

 

「ふぅ……成敗、ってね。

 ほら、起きなさい。帰るわよ」

 

 

 オリーブの豹変ぶりに完全に呆けた賢者四人。

 そんな視線を無視してオリーブは倒れたガリックの首根っこを掴み上げる。

 

 

「ぐふっ………お、オリーブ!!!

 首根っこを引っ張るのは痛いからやめるんだ!!!」

 

「自業自得よ。ローリエもさっさと起きなさい」

 

「うぐぉぉぉ………い、今の技なんか見たことあるんだけど………」

 

「あ、あの、ローリエ? このお二方は一体……?」

 

 

 勇気をもってセサミが訊けば、ローリエとガリックが立ち上がる。

 そうして…気まずそうに、紹介を始めた。

 

 

「えーと…まず、このベ○ータ王みたいな髪型のおっさんが、俺の父さん」

 

「ガリック・ベルベットだ!! ベルベットパートナーズの会長をしている! この度は神殿との商談に参った!!」

 

「まぁ…この方が? なんとなく似ている気が…あ、私アルシーヴ様の秘書のセサミといいます」

「アルシーヴ様の護衛のフェンネルと申しますわ」

「八賢者のシュガーだよ! よろしくね、おにーちゃんのおとーさん!」

「八賢者のソルトと申します。妹のシュガー共々よろしくお願いします」

 

「可愛いどころがいっぱいだな、ローリエ!! 他の賢者も可愛いのか?」

 

「おう。ハッカちゃんとかジンジャーとかな」

 

「そうか!! 紹介の日に会えるのを楽しみにしていグフッ!!?

 

「父さん!?」

 

「バカ言わないの」

 

「あの……オリーブさん?」

 

 

 ガリックが義娘として会えるといいな(意訳)と言おうとして腹を殴られる。

 さっきからガリックに当たりの強い同年代(ぱっと見)の少女にソルトが疑問符を立てるが。

 

 

「なんだかさっきからどうも…ローリエさんとガリックさんに厳しい気がするのですが…」

 

「………え? 待って()()()。シュガー達になんて自己紹介したの?」

 

「「「「―――え゛!!?」」」」

 

「……はっはっはっは!!! 相変わらず、オリーブはお茶目さ~んだな!!!」

 

 

 テヘペロするオリーブ。大声で笑うガリック。そして、頭を抑えまたかよ、と呟くローリエ。

 そうして、オリーブの肩を持って真面目な顔で賢者達に向き直るローリエ。

 シュガーもソルトもセサミもフェンネルも、信じられないような顔付きで固まっている。

 

 

「じゃ、改めて紹介すっけど……

 ―――この、どう見てもシュガーソルト位にしか見えない女の子が、()()()()()()

 

「オリーブ・ベルベットです。四人とも、さっきはゴメンね?」

 

 

 ………

 

 

 …………

 

 

 ……………

 

 

「「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?!?!?」」」」

 

 

 神殿に、賢者達の驚愕の絶叫が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談になるが。

 

「―――ローリエ。言っとくけど、ハーレムなんて許しませんからね。

 義娘の紹介はひとりまでにしておくこと。それ以上連れてきたら張り倒します。いいわね?」

 

「いや、でも母さん、男の夢を―――」

 

「い・い・わ・ね?????」

 

「ハイ…………」

 

「オリーブ! それはあんまりだ!! ローリエの自由に―――」

 

「それ以上喋ったらこの前みたいにバスターするわよ」

 

「ナンデモナイデス!!!」

 

 

 

「あっ、オリーブさん、真面目な方ですわ」

「オリーブさんはあんな感じなんだ。お前達もローリエに困ったら彼女に頼ると良い」

「なんてこと言うんだアルシーヴちゃん!!!?」

「おにーちゃんのおかーさんつよーい!」

「しかし……どのようにあの若さを保っているのでしょう?

 気になりますね…………」

 

 

 オリーブは、女性賢者の中では人気になっていたりする。

 その影響で、文通でオリーブから若さの秘訣を聞き出す八賢者と筆頭神官と女神がいたとか。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 突然の両親襲来に困惑する八賢者。父親とはナンパや猥談をする仲ではあるが、母親はハーレムに厳しく、若干苦手意識はある。とはいえ、前世の記憶持ちを(知らないとはいえ)育ててくれた恩義はちゃんとあり、両親の結婚記念日にはそれなりのプレゼントを毎年贈っているのだとか。

アルシーヴ&ソラ
 オリーブの合法ロリロールプレイングを傍から見ていた筆頭神官&女神。二人はオリーブの正体を知っていたので、ローリエからの紹介では驚いていない。ちなみに二人は、オリーブが義母ならこの上なく頼もしいとは思っているが、その場合義父と旦那に不安要素しかないと思っている。

シュガー&ソルト&セサミ&フェンネル
 神殿のお客様たる銀髪金眼ロリがまさかの同僚の母親であることをしって吃驚仰天した八賢者たち。特にシュガーとソルトは自身と同年代であるとばっかし思っていたため、衝撃が大きい。その後、性格のウケも良かったこともあり、こぞって若さの秘訣を聞く仲になる。

ガリック・ベルベット
 ローリエの父親。○ジータみたいな逆立ったライトグリーンの髪(M字ハゲに非ず)、オレンジの瞳、ムッキムキの40台に見えない偉丈夫。ローリエに寄った女好きだが堂々とし過ぎた性格で、ハキハキと喋る。イメージCVは玄田○章。モデルとしては300億の男こと煉獄さんとサンジを足して3乗をイメージしたが、とりあえず筆者は無限列車編に土下座だ。
 名前の由来は「ガーリック(大蒜)」から。

オリーブ・ベルベット
 ローリエの母親。銀髪金眼のフェミニンな体型の少女であるが、演技をすれば絶対に20歳の子持ちだと思われないくらいに見た目が若い。というより幼い。自身の結婚の経緯と旦那の性癖からか、ローリエが二人以上の嫁を持つことを許可していない。「義娘をふたり以上紹介したらシバき倒すわよ」とは彼女の言。ガリックもこのスタイルの彼女にはタジタジのようだ。イメージCVは日高○菜。なお、夫婦仲はむしろめっちゃ良いらしい。
 名前の由来はそのままオイル等に使われる「オリーブ」から。
 彼女には必殺技もあり、作中で放った『トルネード・キック』の他にパンチから衝撃波を放つ『バスターストーム』もある(ガリックに言った「バスターする」とはこのこと)。ローリエの幼い頃のノートに書かれていた「こまんど」なるものを元に夫・息子の抑止用に開発したという。



トルネード・キック
バスターストーム
 技のモデルは「ストリートファイターシリーズ」の竜巻旋風脚と「餓狼伝説シリーズ」のバスターウルフ。↓↙←+Kボタンと↓↘→↓↘→+Kボタンのコマンド表記でどうやって開発したと思うだろうが、そこは愛の力である。





あとがき
 突然ですが皆さんは、「好きな戦闘曲・ラスボス戦BGM」はありますか?
 私は、ドラクエで育ってきたような世代だったので一番はドラクエⅧの『おおぞらに戦う』がベストなのですが…個人的には、ドラクエとFFは神曲が多い気がします。『ビッグブリッジの死闘』しかり『片翼の天使』しかり『勇者の挑戦』しかり………
 ただ、知名度的に「そんなん知ってるよ!」という方も多そうなので、勧めるという意味では―――『決戦 世界の行末』『眠らずの戦場』この二つを勧めたいと思います。きららファンタジアもいい曲あるんだけどね、アルシーヴ戦とか。
 ちなみに、「きららVSコリアンダー」は『戦場 そびえ立つ双つ』をイメージに執筆したので、良かったらそちらもお聞きください。


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UA35000突破記念閑話:Hの誕生/魔法少女大戦

最終決戦真っ最中なのにこんなの書いて投稿しちゃいます。
今回の閑話はWとディケイドのサブタイトルをごっちゃに混ぜました。

このお話では、テレビを見る都合上、テレビの登場人物の台詞と実際に見ている人達のリアクションを同時に行うところがあります。
番組スタートから終わりまでは
「」←番組の台詞
『』←番組を見ている人の台詞
 で行きます。地の文で説明もしますが、混乱しないようお願いします。


「ルーラー?」

 

 記憶を失った少女・灯守唯彩(ともりゆあ)は突如、世界の崩壊に巻き込まれる!

 阻止するには、8つの世界を旅して、世界崩壊の謎を解き明かすしかない!!

 果たして、唯彩に身についた力の謎とは…?

 そして、世界崩壊の真実とは……?

 

 

 ―――新番組・魔法少女ルーラー!! このあとすぐ!!!

 

 

 

「「「「「…………………」」」」」

 

 

 場所は神殿・大広間にて。

 特設されたテレビの前で、賢者の全員とアルシーヴちゃん、ソラちゃん、きららちゃんにランプ、マッチ、アリサが集まっていた。

 勿論、俺が呼んだ。新たなヒーロー……魔法少女の誕生を見てもらうためだ。

 

 

「魔法少女……ルーラー?」

 

「そうだ。聖典の世界にも魔法少女はいたにはいたんだが……なにせ、皆別々の世界から来てる上に資料がないからな。エトワリアでも新たに特撮を一本作ったワケよ」

 

「つ…つまり、この魔法少女がエトワリア魔法少女の第一号になるってこと!!?」

 

「そーいうこった」

 

 

 聖典の元になった世界を観測していたソラちゃんは大興奮だ。この後始まる番組が楽しみそうだ。

 ……それに対して、面食らったという顔をしていたのは、フェンネル、カルダモン、アルシーヴちゃん、ジンジャーだ。

 

 

「いや、それよりも、今の番宣………」

 

「見間違いじゃないと思うけど…ソルト映ってなかった?」

 

「髪型や服装は違っていたけどな…」

 

「なぁソルト、なにしてんだ?」

 

 そんな彼女たちの質問に、ソルトは真っ赤になりながらも答える。

 

「え、えっと………………実は、この『魔法少女ルーラー』……ソルトが主役を演じておりまして…」

 

「「「「「「「………ええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!?」」」」」」」

 

 

 ソルトから投下されたトンデモな爆弾情報に声を張り上げて驚くしかない一同。

 驚いていないのは、俺と主演ソルトを除くとクリエメイトとの連絡役を担ったランプと、とある役で『魔法少女ルーラー』に登場するシュガーだけだ。

 

 

「ソルトってばすごいよねー! ま、シュガーも『魔法少女ルーラー』に出るから知ってたけど!」

 

「シュガー。まだお前の役は言うなよ?」

 

「う。わ、わかってるよー!」

 

「え、シュガーも出るの!?」

 

「ランプは、知ってたの?」

 

「一応、制作スタッフですので」

 

 

 明らかになるシュガーの出演とランプのスタッフ判明に驚く一同をよそに、そろそろ放送が始まる。

 この『魔法少女ルーラー』だが……ストーリーは中々特殊だ。

 

 主人公はソルト演じる灯守唯彩(ともりゆあ)。記憶喪失の彼女は演者のソルトとは程遠い自信家で、誰に対しても尊大かつ傲岸不遜な態度を崩さない……魔法少女らしからぬ性格だ。画家を名乗ってはいるが、人物画も風景画もマトモな出来にならない。彼女曰く、『世界が私に描かれるのを拒んでいる』とのこと。実力不足の言い訳にしか聞こえないが、『上手く描けないから、上手く描けるまで描き続ける』を信条にしている故、知っている者からすれば言い訳ではないと察することができる。

 そんな唯彩だったが、ある日突然世界がバラバラに分断され、魔物たちに襲われ、世界が崩壊する…いわゆる終末の日(アポカリプス)を経験する。そこで『魔法少女ルーラー』になる為の道具を手に入れ、世界を渡る力を得る―――というプロローグだ。

 

 さて、色々言ったが、もうじき上映開始だ。

 

 

「さ、そろそろ放送が始まるぞ。しっかり見てってくれよな」

 

「「「!!」」」

 

 俺が声をかけると、みんながCMが流れるテレビに視線を移した。いつ始まるのだとCMが終わるのを今か今かと待っている。そして――――――始まった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 物語は、一人の少女の夢から始まる。

 そこでは、様々な姿をした魔法少女が戦っていた。

 リボンが特徴的な少女。ゴシックでモノクロだがオシャレなデザインの少女。桃をモチーフとした姿で、魔力を両手に纏って戦う少女。

 だが……それら全ての魔法少女を圧倒する魔法少女がいた。襲いくるリボンを難なく躱し、星型の魔法を跳ね返して宙を舞う魔法少女を撃ち落とし、拳の接近戦でも汗一つ流さない。

 やがて、戦いが終わると…立っていたのは、一人の魔法少女と、夢の主である筈の変身していない少女だけだった。

 

「……ルーラー……!」

 

 夢は、変身していない方がそう呟く場面で終わる。

 

 

 

「……またあの夢…」

 

 呟いたのは、夢を見ていた少女・青野凛(あおのりん)(演:斎藤恵那)だ。長い髪をした恵那―――否、凛は突っ伏していたカウンターから起き上がり、先程の夢に思いを馳せようとしていた……が。

 

「ちょっと!寝てる場合!?」

 

「!?」

 

 どう見ても不機嫌な客(演:スクライブの少女)に意識を叩き戻されてしまう。凛は察した。自身の店・『青空堂』へのクレームだと。

 

「なによこの絵!! こんなのにお金を出せっていうの!?」

 

「ちょっと描いてあげましょうかーって言ってきて…!」

 

「それで任せたらコレかよ!納得いかないわ!」

 

「前衛芸術って言われたほうが納得出来るくらいよ!!」

 

 凛はまた頭を抱える。こんなトラブルを招くのはアイツしかいない、と。

 

 

「もしかして…唯彩ちゃん、ですか?」

 

「そうだ、そうだ!」

「酷いと思わないの!?」

 

「……うん、酷い。コレは酷すぎる!!!」

 

 

 客が出してきた前衛芸術の絵(笑)を全て受け取り、『唯彩のダメ絵入れ!!』とある箱にブチ込むと、客の対応を母・たか子(演:町子リョウ)に任せて走っていく。こんなクレームを招き入れた元凶の元へ。凛曰く、

 

「(灯守唯彩(ともりゆあ)。ちょっと前にフラット現れてうちに住み着いた変なヤツ。自分が何者なのか、なんの目的があるのか……いまだに喋らない! しかもウチの店を出して変な絵ばっかり描く女! 今日こそはとっちめてやる!)」

 

 ―――とのことだ。

 

 

 

 …その頃。

 一人の少女がスケッチブックに筆を走らせていた。

 彼女こそ主人公・灯守唯彩(ともりゆあ)。演者はソルトだが、様相はかなり違う。ふわふわにウェーブがかかった髪はストレートに、かつ後ろでまとめてポニーテールになっており、魔法かウィッグか不明だが特徴的な狸耳が見当たらない。また、服装もゆったりとしたワンピースから一転、白地の半袖・薄い青ジーンズを身に着け、オレンジ色がベースのチェックのスカーフを首に巻いていた。

 

 

『おぉぉ、いつものソルトと全然違うぜ』

『ソルトさん、オシャレですね』

『でも、知ってる人が別人を演じるとなんだか違和感が拭えませんわね……』

『見ないでください…』

『何言ってんだ主役。主役見ないとお話分かんないだろ』

 

 なお、いつもと違うソルトを見た反応は三者三様。普通にギャップに驚く者、唯彩のファッションセンスを良しと捉える者、よく知る仲間の違う姿に戸惑う者……。

 当の本人は顔を更に赤くして「見ないで」などと言っているが、主役を見ない特撮など何分残るだろうか。

 

 そんな真っ赤になっているソルトだが、映像の向こう側では、失敗作の絵を見て「またダメかぁ」とのたまいながら、見るからに怖そうな男二人――当然、唯彩の絵のクレーマーだ――の暴力を華麗にかわしている。

 

 

「どうやっても上手く描けないんだ。描けるようになるまで描くのは当然でしょ?」

 

 そしてスケッチブックに向き直る。しかし……スケッチブックに描いた歪んだ風景から、謎の少女(演:神崎ひでり)が現れ、こう告げた。

 

 

「ルーラー。今日、貴方の世界が終わります」

 

「!? ………ルーラー…?」

 

「? どうしたんだオメー」

 

 

 そこにやって来た凛が唯彩の耳の付け根に親指を突き刺して“笑いのツボ”を刺激、凛が謝罪することでその場は上手く(?)収まった。

 

 

「やめてよね、青リンゴ。無理矢理笑わされるこっちの身にもなってよ」

 

「あ・な・た・に・言われたくありません! これに懲りたら、『青空堂』を広告するのをやめてください。」

 

「善処する―――」

 

「……」(←無言の“笑いのツボ”用意)

 

「分かった、分かった!!」

 

 いくら尊大かつ傲岸不遜な唯彩も、凛の笑いのツボにはタジタジだ。彼女は、ツボを押されることで無理矢理笑わされるのを嫌う。だが、凛がその手を使うのは唯彩が変な絵を客に売りつけるからであって……要するに、自業自得だった。

 

「唯彩。どうして、あんなヘンな絵を描くんですか?」

 

「私はこの世界をありのまま描きたいだけよ。でも世界は私に描かれたがってない。勝手に歪んじゃうの」

 

「…え?」

 

「街も光も、自然も人も。私から逃げてく。……ここも、私の世界じゃあない」

 

「貴方の、世界?」

 

「私に描かれる資格を持った世界ってこった」

 

「……とにかく! 今後私達の店を代理店扱いしないでください!

 今までに無駄遣いした画材の費用やら立て替えたお金を合わせて…」

 

「成程。大体わかった」

 

「大体じゃなくって!!」

 

 

『…随分偉そうですわね、この唯彩って娘』

『主役とは思えぬ尊大さ。』

『…えぇ、お気持ちはわかります』

 

 

 テレビの唯彩の不遜っぷりにいささか不快感を口に出すフェンネルとハッカを、ソルトはやんわりと肯定した。

 まぁ、こんな性格の人間、現実にいたらなかなかにとっつきにくく嫌な奴である。「満足いく作品を描き続ける」という芸術家気質を差し置いても、だ。それを視聴者の誰もが大体察していた。

 そんな中、突然番組の事態は急変する。

 

 

「……え?」

 

 なんと、空から降ってきた壁か天井のようで、しかも水面のように揺らいでいるそれが……背の高い建物を押しつぶして破壊しだしたではないか。更に、破壊された建物の残骸の一片一片が、翼竜のような魔物に変化するオマケ付きである。

 

 そして、その壁のようなものは、唯彩と凛にも襲い掛かる。二人を分け隔てるように立ち塞がった。

 

 

「唯彩ちゃん!唯彩ちゃん!!」

 

「凛ーーーーーー!!」

 

 

 二人も、お互いの心配をしている余裕はない。

 凛は多くの人々と合流できたものの、次々と景色や場所が変わる現象に見舞われながら、正体不明の魔物に襲われ続ける。

 唯彩は、再び現れた謎の少女と出会い、不可解な言葉をかけられた。

 

 

「ルーラー。今日がその日です。……バックルとメダルはどうしました?」

 

「? ゲーセンには行かない主義だ」

 

「世界を救うには、貴方の力が必要です」

 

 

 そして再び唯彩の前から消えた少女。

 唯彩はわけのわからないまま、景色が切り替わっていくのを眺めているだけであった。

 

 

『こ、これは……』

『ここまでくると、訳が分からないね』

『でも、世界が終わる、ってことですよね?』

『でしょうね。ここから唯彩はどうするつもりなのかしら?』

 

 

 景色が次々変わる現象、人々を襲う魔物。殺されていく人間たち。

 パニックに陥りながらも逃げた先で、凛はあるものを見つける。

 

「これ……私の夢の! どうして…?」

 

 それは、夢で他の魔法少女を相手に無双していた魔法少女が身につけていたバックルとケースだった。

 

「おい!青リンゴ!」

 

「! 唯彩ちゃん!! 無事だったんですね!」

 

「無事って状況じゃないでしょこれ!」

 

 壁を隔てて、再び唯彩と凛が合流する。

 しかし、その安心もつかの間、脅威は訪れる。

 

『あっ…後ろ…!』

 

 

「ひっ…!」

 

「おい!凛!!凛!!!!」

 

 

 凛の後ろに迫っていたのは、不気味な笑みを浮かべた、真っ黒い怪人だった。更に二体、三体、四体と現れ、凛の逃げ場を無くす。

 唯彩は壁を叩き壊して凛を助けようとするも、壁はまったく壊れる気配がない。全力のキックでも、全然効いていないようだ。

 

 

「こんな…こんなものなのか!! 世界が終わる日ってのは!!!」

 

 

 そう叫ぶ唯彩だったが……下ろした視界に入ってきた、凛の持つバックルとケースを見て、思い出した。

 ―――貴方のバックルとメダルはどうしたと、あの少女に言われたことに。

 

 

『なるほど。ここで凛に渡してもらうんだ。』

『おっ、そろそろソルトの変身シーンか?』

『ソルトじゃなくって唯彩の変身です…』

『みんな、見ててよ? こっからのバトル、すっごいびっくりしたんだから』

 

「世界を救ってやる!……多分」

 

 凛からバックルとケースを受け取った唯彩は、右腕にバックルを巻きつける。

 そしてケースから一枚のメダルを取り出した。メダルには、9つのメダルのデザインと共に、『RULER』とアルファベットが刻まれている。

 それを手に持つと、唯彩は叫んだ。人々を理不尽な悪から守るための、あの言葉を。

 

 

「変身!」

 

MAGICAL(マジカル) GIRL(ガール)

 

 メダルをバックルに入れると、女の子が好みそうなカワイイ電子音声がなる。迷う暇はない、と唯彩はバックルを閉じた。

 

RULER(ルーラー)

 

 瞬間、8つの人影が唯彩に集まり、彼女の服装に変化をもたらした。

 半袖・ジーンズ・スカーフの姿から一転、スカイブルーを基調とし、フリルやリボン、桔梗の花飾りが目立つコスチュームに身を包む。髪型はポニーテールが解け、ウェーブがかった長髪になり。髪色も、変身前の薄い青色が、変身したら濃くなっている。

 そして、先ほどまでヒビすら入らなかった壁が、いとも簡単に砕け散った。

 これが―――『魔法少女ルーラー』。世界を旅して、世界を救う使命を持った魔法少女である!!

 

 

『『『おおおお……!!』』』

『や、やめてください…恥ずかしい……!』

『これ、まんまソルトじゃないのか?』

『違います、ソルトではありません! 現に服のデザインも派手だし、耳が生えていません!』

『いえ、ですから耳が生えていないだけのソルトなのではと……』

『み、見ないでください………』

『主役の戦闘シーン見るなとか無理だろ』

 

 

 エトワリアに新たに生まれた第一号魔法少女・ルーラーの変身に歓声が出る。ソルト本人は顔を覆って倒れ、耳まで真っ赤になっているが、主役の戦闘シーンのところで「見ないでください」は流石に無い。

 

 そんな真っ赤になって倒れているソルトだが、映像の向こう側では、素早く怪人に近づき凛を害そうとする者から殴りかかって、凛を救いだしている。

 凛を解放されて不利を悟った怪人が逃げ出そうとするも、ルーラーは逃がすまいと二枚目のメダルを取り出した。そして()()()()()()()それを()()()()()()()()バックルに入れる。

 

 

「ちょこまかと……!」

 

MAGICAL(マジカル) GIRL(ガール)

 

FRILL(フリル)

 

 

 すると、先ほどまでルーラーだった唯彩の姿形が、大きな赤いリボンに包まれて変わっていくではないか!

 長い黒髪に大きなリボン、へそ出しのコスチューム、白・赤・ピンクがバランス良く映えたデザイン……先ほどまでとは全くの別人に変身したのだ。

 

 

『べ、別の魔法少女になっちゃいましたよ!?』

『ソルトの変身魔法……なのか?』

『おや、アルシーヴちゃん鋭いね』

『別人になる魔法少女………アリね!素晴らしい初代エトワリア魔法少女じゃない!』

『そ、ソラ様……?』

 

 そして、銀縁の青いメダルをバックルに挿し込んでフリルの武器を構えたルーラーは。

 

ATTACK(アタック) MAGIC(マジック)

 

FLAME(フレイム) RIBBON(リボン)

 

「ハァッ! セヤッ!!」

 

「「「「ぎゃあアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」」

 

 伸びた炎上するリボンを新体操選手のように振るい、怪人達に当てていく。鞭のようにしなったリボンと炎を受け、爆発する怪人達。

 攻撃を終えると、バックルからメダルが飛び出し、色を失っていく。それに伴い、フリルだった姿も元のルーラーの姿に戻った。灰色になってしまったメダルを手にした唯彩は、ただ戸惑っていた。

 

 

「なんで私、()()()()()()()()()()……?」

 

『…意図して選んだものではない……?』

 

 不思議そうにしていたのは、唯彩だけではない。慣れた手付きで怪人達をぶちのめしたルーラーの戦いを見た視聴者達もだ。

 

『強いですね、ルーラー。』

『なかなか面白い戦い方をするね』

『ソルトも、ローリエさんの提案を聞いて驚きました。まぁ、これは撮影ですからね』

『カッコいいわ、ルーラー!』

 

 

「ルーラー…!」

 

「おい、なんでその名前知ってんのよ」

 

「………一体、何処に行けば…?」

 

「帰るんだよ。ウチへ」

 

 ルーラーの戦い方に惹かれていく視聴者達。

 その間にも、物語は進む。ルーラーの姿のまま、唯彩は凛をハスを模したスクーターに乗せ、『青空堂』に帰ろうとする。しかし、また別の怪人達が後ろに乗っていた凛をスクーターから落とし、攫おうとする。

 

 

「チッ、またか!」

 

MAGICAL(マジカル) GIRL(ガール)

 

MOON(ムーン) RANGER(レンジャー)

 

 再び、ルーラーが別のメダルをバックルにはめて変身する。

 今度は、紫がメインの露出の少ないウィッチデザイン。月のエンブレムや白のフリルこそ見受けられるが、よりスタンダードなデザインだ。

 ルーラー本人の顔付きもより勝ち気なものに変わり、髪色も青から金色に変化した。

 

ATTACK(アタック) MAGIC(マジック)

 

REQUIEM(レクイエム) SHOOT(シュート)

 

「そこだぁぁ!!」

 

「「「「ぐわあぁぁぁ!!!?」」」」

 

 

 杖を誘拐犯の怪人に向けると、杖先が分身して複数のビームが放たれた。

 ビームが命中した怪人達は、「たまらん…」などとのたまいながら、紫色の光に包まれて消滅した。

 だが、安心できない。今度は崩壊した都市のガレキの中から、グロテスクで見るものを不安にさせるデザインの怪物が現れ、生き残りの人間達に遅いかかろうとしている。また、空を飛ぶ怪物の個体も現れ始め、逃げ惑う人間をつけ狙う。

 だから、ルーラーは再びメダルをバックルに入れる。

 

 

MAGICAL(マジカル) GIRL(ガール)

 

MADOKA(マドカ)

 

ATTACK(アタック) MAGIC(マジック)

 

SHINING(シャイニング) ARROW(アロー)

 

 

 桜色と白を基調としたツインテールの魔法少女となったルーラーは、花のつぼみがついた木の枝のような弓をどこからともなく取り出して、光の矢を放った。矢は一本残らず、怪物達を追尾して貫き、爆散させていく。

 

「(どうして……? 私は、戦い方を知っている……しかも、一度や二度じゃない、常に戦場に身を置いてるヤツの戦い方だ…………!!)」

 

 

 最後の怪物を撃ち落とすのを確認すると、ルーラーの姿は元の唯彩のそれになる。同時にバックルからメダルが飛び出し、「MADOKA」と描かれたメダルからまた色が消え、灰色になってしまった。

 

「なんでだ…?」

 

「何がですか?」

 

「どうしてか、力が長続きしない…!」

 

「それは、かつて貴方がすべてを失ったからですよ、ルーラー」

 

「「!!!?」」

 

 凛と唯彩が『青空堂』へ歩みを進める中交わした会話に、再び謎の少女が介入してきた。かと思えば、都市を巻き込む大爆発が起き―――そして、場面は宇宙空間のような場所に変わる。

 だが、地球のような青と緑の惑星が8個も見えるのは一体どういう事なのか。そう思っていると、唯彩がスケッチブックで見た、謎の少女の姿が現れる。

 

 

「お前……!」

 

「まだ、少しは時間があります」

 

「私が、世界を救えるって言ったよね?」

 

「えぇ。すごい光景ですね。…なにか、思い出しましたか?」

 

「いや。戦い方だけよ。……ところで、アレらは何? 地球が8つあるように見えるけど」

 

「全部地球ですよ。コレは、魔法少女を筆頭とした、特別な戦士が8人、生まれたことでできた8つの地球。それらは独立した別々の物語。ですが今…物語が融合し、世界が一つになろうとしています。やがて………全ての世界が消滅します」

 

『なんだか、盛大なお話ね…!!』

『ソラ様、とてもハマっていますね?』

『このままだと、全部消えちゃうみたいだね』

『成程、それを止めるのがルーラーの役割か』

 

「ルーラー。貴方は、8つの世界を旅しなければなりません。それが世界を救う、たった一つの方法です」

 

「……なぜ私?」

 

「貴方は全ての魔法少女を統べる者だからです。魔法も、時空も、世界も……それが統治者(ルーラー)ですからねぇ。」

 

 

 要領を得ない答えを言いながら消えていく謎の少女。「貴方が旅を終えるまで、私と、私の仲間がこの世界を生きながらえさせておきます」と告げて、場面は転換する。そこは、爆風も逃げ惑う人も何もかもが時間を止めたかのように静止した……唯彩と凛のよく知る『青空堂』の前の通りだった。

 

 

「つまり…貴方が世界を救うんですね?」

 

「まぁ…そういうことらしいよ? 8つの世界か……描いてみるか。もしかしたら……」

 

「わかりました。行きましょう」

 

「なーんで青リンゴまで行くんだよ!」

 

「唯彩ちゃん、アテになりませんから。それに………(あの夢が、夢じゃなかったら…)」

 

「…?」

 

「それに! 唯彩ちゃん、この機会に借金を踏み倒すかも!」

 

 

 唯彩と凛は、世界を救うたびに出なければならないことが分かったようだ。そして、視聴者も壮大な物語を理解し始めてきている。ローリエ自身、元にした物語が物語なだけに理解してもらえるかどうか、そしてウケるかどうか不安だったが、一応は杞憂で済んだらしい。

 

 やがて、第一話は唯彩が手にした『魔法少女ルーラー』の力――真っ白な巨大キャンバスに触れたところ、唯彩も凛も凛の母も知らない街並みが現れ、それに伴い外の『青空堂』の位置も変わっていた――で『青空堂』ごと世界を渡り、「まちカドまぞく」のパラレルワールドに辿り着いたことを唯彩が察した時点で幕を閉じる。

 

 

 ―――次回、魔法少女ルーラー!

「巡査・灯守唯彩……この世界で私に与えられた“役割”らしい…」

「どうでした? 今日の私の変身!」

「美晴……今日はゆっくり休んでね」

「あれは…魔法少女……?」

「契約とかはしてないよ」

「聞いていた通りだな――『支配者』!」

「やめて!!二人が戦ったら…!」

「ルーラー……お前はこの世界にあってはならない…!」

―――全てを統治し、全てを繋げ!!

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「えええっ!! こ、ここで終わり!?」

 

「まちカドまぞくって言った……」

 

「でも、シャミ子が魔法少女に変身してたぞ…最後チラッとだけだけど…」

 

「桃さんも魔族の格好してましたね……我々の知る聖典とは正反対です」

 

「それがパラレルワールドってことね」

 

「そういえば、シュガーは出ていませんでしたね」

 

「し、シュガーは中盤から出てくるもーん!」

 

 

 ―――いやぁ、初回放送が終わった。

 視聴者の皆様方の反応からして、まったくウケないなんて結果にならなくて良かった…!

 特にソラちゃんときららちゃんには大好評……に見える。ルーラーの戦闘シーンとか心奪われてんのが見え見えだったし。

 

 

「次回が楽しみです、ルーラー!」

 

「まちカドまぞくの世界でなにするつもりなの、ルーラー?」

 

「や、やめてくださいソラ様! きららさんも……あの格好、恥ずかしいんですよ!!」

 

「何を言ってるの! とても似合ってたわよ。ねぇ、みんな?」

 

「……まぁ、似合っていたよ」

「すごく良いイメチェンだったよ。最初気づかなかった」

「たまにはああいう洋服も良いと思うぜ?」

「印象がガラリと変わるのも、悪くありませんわ」

「今度またイメチェンしようね、ソルト!」

「……ソルトさん、素敵でした」

 

「うああぁぁぁぁ…………ろ、ローリエさん…助けてください……………」

 

「何言ってんだソルト。『魔法少女ルーラー』はもう最終回まで撮ってあるんだから、これから毎週あの姿を見られるんだぞ。慣れとけ」

 

「わぁぁぁぁぁぁ!!! ローリエさんのバカ!!!嫌いです!!もう!!!!!」

 

「何故だァァ!!?」

 

 

 ……トマトみたいに顔を真っ赤にしたソルトにぼこぼこ殴られたのは納得いかないけどな!

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ……『魔法少女ルーラー』の放送の影響は大きかった。

 

 エトワリアにはもともと()()()()()()()()()()聖典があるため、『別々の世界があり、そこを転々と渡って世界を救う魔法少女』は実にウケたようである。クリエメイトについても……

 

 

「!! ふ、フリルちゃんだわ…!」

 

「うおぉぉすげぇー! ムーンレンジャーに変身したぞ!?」

「ムーンレンジャーの知識をローリエさんに渡して良かったですね!」

 

「と、特撮だ…特撮やってる!?」

 

 ……とまぁ、魔法少女アニメや特撮ファンを中心に大ウケしたのである。

 いくつか反省点こそあれど、結果として『魔法少女ルーラー』は大成功。ソルト・ドリーマーは、八賢者ではなく『灯守唯彩』として有名になっていった。

 

 

 ちなみに、次回作の魔法少女も、数多くのスタッフを元に作られるわけだが……

 

「次の魔法少女の変身道具をいくつか作っているんだが……ソラちゃん、アルシーヴちゃん、ちょっと見ていってくれないか?

 どれが一番魔法少女に相応しいか女の子目線で選んでほしい」

 

サイクロン! ジョーカー!

 

タカ!トラ!バッタ!

! ! バ!

 

シャバドゥビタッチヘンシーン!シャバドゥビタッチヘンシーン!

 

DRIVE(ドラ――イブ)TYPE(タイプ)SPEED(スピ―――ド)!!

 

ラビットショートケーキ!ベストマッチ!】

 

「…………………全部ボツだ、やり直せ」

「……………そうね、ローリエ。もっと可愛くお願いできる?」

「えぇ〜…ダメ?」

「「ダメ」」

 

 

 その間、実に様々なボツ変身道具が生まれたことは言うまでもない。




キャラクター紹介&解説

ソルト・ドリーマー/魔法少女ルーラー/灯守唯彩(ともりゆあ)
 ローリエによってエトワリア産魔法少女特撮の主役にスカウト―――もとい、大抜擢された八賢者。変身魔法使用中の演技力向上のために最終回まで撮影したものの、本人としては恥ずかしいようだ。
 ちなみに「魔法少女ルーラー」の変身は、ソルトの変身魔法とローリエ謹製のバックル&変身メダルを使って変身している。例えば「魔法少女フリルメダル」でフリルに変身する際はソルト本人は桜ノ宮苺香に変身し、コスチュームと装飾品はローリエのバックルで変身するといった原理になっている。なお、ソルトは律儀にも変身元の人間に変身許可を貰いに行っていた。
 主役「灯守唯彩(ともりゆあ)」の名前の由来は、「ルーラー」の日本語訳からのアナグラムから取っている。ただ、近年の子供の名付けには変わった読みを当てることも多々あり、それも参考にしている。

 統治者
→TO U CHI SHA
→TO SHU CHI A
→灯 守 唯 彩
灯守唯彩(ともりゆあ)

斎藤恵那/青野凛(あおのりん)
 『魔法少女ルーラー』の主人公の親友・第2ヒロイン役で出演。ちなみにオーディションには「面白そうだから」とリンとなでしこを巻き込んで参加し、自分だけが受かった。友情出演にちくわも出して良いか頼んだが、ほんのちょっとだけの出演しか許可してくれなかった。しかし、現場には必ずちくわがいた。

神崎ひでり/謎の少女
 女の子役を難なくこなせる男の娘。オーディションにはノリノリで参加し、余裕で受かった。

町子リョウ/青野(あおの)たか子
 オーディションに参加した椎名に差し入れをしに行ったら、スタッフにオーディション参加者だと間違われた女。そのままオーディションを受け、なぜか合格する。

シュガー・ドリーマー/魔法少女ルーヴェル/西山イツキ
 『魔法少女ルーラー』第一話では出番がなかったいわゆる2号の魔法少女。この時点ではシュガーの見栄だと思っている人が多半を占めていたが、ホントに魔法少女役として登場人物した時はその全員が面食らった。しかも、普段のシュガーには似合わぬ飄々としたキャラであったから更に驚きだ。

ローリエ・ベルベット
 『魔法少女ルーラー』の脚本&監督。キャストはソルトはスカウトしたが、それ以外はオーディションで決めた。この『魔法少女ルーラー』成功により、以降もエトワリアの魔法少女シリーズ構成に携わっていくことになる。





魔法少女ルーラー
 エトワリアで始まった新番組。記憶喪失の少女・灯守唯彩(ともりゆあ)が、様々な世界を渡り、『魔法少女ルーラー』に変身して世界崩壊を防ぐ物語。旅する世界は『聖典の世界で放送されていた作品』つまりきらら漫画の劇中作が中心で、ローリエは制作にあたり様々なクリエメイトから話を聞いている。旅する世界はそれぞれ、
・魔法少女フリルの世界(ブレンド・S)
・魔法少女ムーンレンジャーの世界(NEW GAME!)
・おしゃれ探偵ラブリーショコラの世界(ひだまりスケッチ)
・怪盗ラパンの世界(ご注文はうさぎですか?)
・プリティ☆プロジェクトの世界(こみっくがーるず)
・色彩戦隊イロドルンジャーの世界(GA芸術科アートデザインクラス)
・魔法少女まどか☆マギカ(のパラレルワールド)
・まちカドまぞく(のパラレルワールド)
―――となっている。ちなみにだが、初回放送でクリエメイトもエトワリア人もほぼ大絶賛だったとのこと。
元ネタは「おのれディケイド」で有名な『仮面ライダーディケイド』。キャッチコピーは「通りすがりの魔法少女だ。覚えときなさい!」「新たな魔法少女の旅が、今始まる」。当然だがスーパー説教タイムも存在する。

     キャスト(モブ略)
灯守唯彩/魔法少女ルーラー
 ソルト・ドリーマー
青野凛
 斎藤恵那
謎の少女
 神崎ひでり
青野たか子
 町子リョウ
千代田美晴
 シャドウミストレス優子
吉田麗花
 千代田桃
西山イツキ/魔法少女ルーヴェル
 シュガー・ドリーマー

     魔法少女アドバイザー
 星川麻冬
 篠田はじめ
 桜ねね
 ランプ
 秋月紅葉

     脚本/監督
 ローリエ・ベルベット


ボツを食らった変身道具の数々
 元ネタはそれぞれ「仮面ライダーW」「仮面ライダーオーズ」「仮面ライダーウィザード」「仮面ライダードライブ」「仮面ライダービルド」。見事に仮面ライダーしかいないが、ビルドのラビット・ショートケーキの組み合わせは、「キラキラ☆プリキュアアラモード」のキュアホイップから取っていたりする。


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UA40000突破記念閑話:ハーレム王に俺はなる!ローリエとコミマの鳥の野望!

お久しぶりのこちらの更新。少し見ない間にUAが4万突破してたので、こういう形になりました。この物語は、少々前のイベント「大騒動!エトワリア同人誌即売会」を見てからお楽しみください。


 諸君は、同人誌と聞いた時、どんなものを浮かべるだろうか?

 ……あぁ、ひYな想像も大歓迎だ。むしろ、そういうものを含めてこそ同人誌だろう。

 さて、俺の好みの話になるが……大抵、ハーレムものの大人向け同人誌が大好きだ。夢があるよね。特に女性が皆巨乳だと尚更ね。

 

 …………え? 急になんの話をしてるんだって?

 あぁ、言ってなかったな。俺は今―――

 

 

「畜生メェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!」

 

 

 ―――エトワリア同人誌即売会会場・別館にいます。

 …さて、いい加減状況を説明しよう。

 始まりは、ランプが発起人となり、同人即売会をやりたいと言い出したことだ。そこに俺が「手伝ってやろうか?」的なノリで参加したのだが……そこからが悪夢だった。

 まず、布田裕美音率いる「ユミーネ教」の連中がどこから俺のスタッフ参加を聞きつけたのか、「ローリエ様に作品を保護してもらえるぞ!」と参加を表明した。……もうこの時点で最悪だ。

 別に俺はBL好きじゃあないからね!?むしろ地雷だからね!!?それなのに裕美音ちゃんとその連中ったら、俺がオッサンと初めて出会った時のあの事件の借りを返してとか言いながら、BLの保護を手厚くしろとか言い出しやがった。

 更に過激すぎて引く同人誌を書くことで有名な「花園フォルダ」こと天野美雨さんまでも参戦した。正直ブチ切れるかと思ったが、アルシーヴちゃん達が意外にも手伝いを申し出てくれた。それによって他の賢者やその部下たちもスタッフとして動いてくれて、そのお陰で大規模な同人誌即売会を開くまでになったのだが…………まぁ、ユミーネ教の人達や美雨さんらの描く同人誌は、ことごとくR-18モノだった。そのため、別館を用意し、そっちをR-18ゾーンにすることで性の平穏を守ることになったのだ。

 

 1000歩譲ってそこはいい。そこはいいんだけど………なんでなんだ。

 なんで―――

 

 

「なんでNLハーレムが一冊もねぇんだ……!!」

 

 

 そう。ここだ。

 今回出展してきたのは、裕美音ちゃんが作ったユミーネ教と美雨さん率いるサークル「あっしゅくふぉるだ」の二大勢力がメインだ。だから、嫌な予感はしていた。

 まずユミーネ教だが、予想通り全てがBLだった。テーマは奴ららしく逞しさ旺盛で「ソラ(男)×アル(男)」「フェンネル(男)×アルシーヴ(男)」「きら(男)×ラン(男)」などのかわい子ちゃんの男体化BLに始まり、「ソラ(男)×ロー」「ロー×アル(男)」みたいな俺と男体化した女の子のBLがズラリと並んでいた。挙句の果てには「ナット×ロー」というおぞましいものまで見つけてしまった。……観察眼の良さを今日ほど後悔した日はない。

 さらに「あっしゅくふぉるだ」の方だが……こっちもこっちで最悪だった。アルシーヴちゃんならぬ「アルシーフちゃん」がオークに○○(ピーーーッ)される「くっころモノ」が陳列していた。この手の凌(ピー)モノは手が進まなかったが、表情だけは似合っていた。正直、美雨さん狙ってやってやがると思った。

 

 だがなぁ……ぶっちゃけ俺は…どちらの同人誌も、好みじゃあないんだよ!

 しかも、ユミーネ教徒も「あっしゅくふぉるだ」の皆さんも俺を見かけるなりいい顔したり「是非買ってってくださいませ!」とまるで神様でももてなすように接してきやがる。だが絶対買わねぇからなこの馬鹿野郎共!誰が好き好んで地雷モノを買うか。食べ物の食わず嫌いは許されないけど、同人誌の読まず嫌いは許されるんだよ!節度を守ればな!

 

 

「嗚呼……水○○(ピーーーッ)ランドが欲しい…あとオ○ナのハーレム物語も欲しい……」

 

 

 エトワリアの誰にも絶対に伝わらないであろう愚痴を呟きながら、とぼとぼと別館を後にして、本館へ戻っていく。

 今の俺のテンションは、ゼロを通り越してマイナスだ。-100といっても過言ではない。どっかにスーパーハイテンションになるような本か何か落ちてねぇかな………と、思っていると。

 

 

「さぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。レアものがそろってるギャー!」

 

「これなんか珍しいグー。何と、西の遺跡で盗掘した本だグー!」

 

「さぁどうだどうだ!手に入るのは今だけギャー!」

 

 

 変なのと遭遇した。

 なんでギャングー団がいるんだここに。この前しばかれたばっかだろうが。

 

「良い催しだギャー。盗品を売りさばくのにもってこいだギャー!」

 

「まったくだグー。チョロいもんだグー!」

 

 しかも盗品売ってるし。ええい、こっちは思い通りのモンが手に入らなくってムシャクシャしてるってのに堂々と犯罪しやがって。販売停止処分にしてやる。

 こう思ったことが。―――まさか、あぁなるとは、誰が予想できるだろうか。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 かつて、大規模な本の太市で発生し、封印された魔鳥がいた。

 その名は「ダダ・モラシ鳥」。本に書かれた妄想を近くの人間に実行させる能力を持った、ある意味創作者の天敵ともいえる存在である。

 そんなダダ・モラシ鳥が封印解除後に初めて見たのは、凄まじいオーラを秘めながらこちらを見る一人の男の姿だった。

 

 

「…お前、ひょっとしてダダ・モラシ鳥か?」

 

 

 男はダダ・モラシ鳥を知っていた。

 ダダ・モラシ鳥は言葉が分からぬ。だが、彼の凄まじいオーラとは裏腹の落ち着いた雰囲気は、ダダ・モラシ鳥から警戒心を奪った。

 

 

「ぽろぇぇ〜?」

 

「お前に頼みたい事がある。俺の願望を叶えてくれ」

 

「ぽろぇぇ〜〜」

 

 

 ダダ・モラシ鳥は言葉が分からぬ。だが、己の本能は知っていた。……妄想を現実にする。ただそれだけだ。

 かつて、己を封印した者たちが向けてきた感情は……敵意、悪意、怒り、悲しみ……といった、負の感情だった。大手作家たちの妄想が解き放たれたのだ。創作者の集まりから、良い感情を持たれるはずもない。だが、目の前の男にはそれがない。それだけでも、ダダ・モラシ鳥が警戒を解くのには十分な理由だった。

 

 男が、己の頭に触れる。すると、突然不思議なことが起こった。

 なんと、彼の妄想が流れ込んできたのだ。しかも……それを叶えて欲しいという欲望までも読み取れた。

 

 

「ぽろ……!」

 

 

 ダダ・モラシ鳥にとって、ここまで嬉しい事はなかった。同人誌即売会で生まれたのに、すぐに誰にも必要とされずに封印されたのだ。久しぶりに封印から解き放たれて、初めて求められたことに、これまで感じた事のない心の高ぶりを―――「嬉しさ」を、感じたのだ!

 

「ぽろえぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

 

 故に、ダダ・モラシ鳥は本能の求めるがままに、求められるがままに、男の妄想を現実にしようと考えたのである。そして手始めに、近くの少女に、自身の能力を使う事にしたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ……やったぜ。

 ギャングー団をふん縛っていたら、コイツらが売っていた封印の書が光り出し、クジャクサイズの鳥が出てきた。しかもそいつを、幸運にも俺は知っていた。

 

 ダダ・モラシ鳥。

 本に書かれたことを実体化できるという、ロマンと危険が合わさった力を持った鳥。あまりに節操がなかったために即座に封印されたと聞いた時は色々もったいねぇなと思った。

 だが、コイツはかつての同人即売会で生まれた魔物だ。当たり前だが、魔物にも心はある。生まれてすぐに周りから忌み嫌われ、封印された時……コイツはどう思っただろうか。

 クロモンと心を通じ合わせるように、コイツとも仲良くできないか。

 

 そうして俺の全力を以ってダダ・モラシ鳥と触れ合い、思念伝達魔法で前世で読んだハーレムものの漫画の記憶を見せると―――ダダ・モラシ鳥は、早速能力でもって結果を示してくれた。

 

「ローリエさん……♥」

 

「ら、ライネさん…?」

 

「お願い…私を見て…?♥」

 

 効果抜群すぎない?これ。

 ライネさんが目にハートを浮かべながら、艷っぽく俺に迫ってきたのだ。しかも、左腕に抱きついてきたから、服越しのメロンちゃんが俺に当たる当たる。

 

「ライネさん…当たってるよ」

 

「当ててるのよ…♥♥♥」

 

「ダメですよローリエ先生……私をほっといちゃ嫌です…♥♥」

 

 更に右腕には、同人即売会に参加していたアリサが息多めに俺に抱きついている。おかしいぞ、そんな筈がないのに早めに成長期の来たアリサボディがエロく見えてきた。服越しのリンゴちゃんも俺に当たってるし。

 

「アリサ……君にこれは早いだろ。もっと自分を大切にしなさい」

 

「貴方以外に身持ちが固いのは駄目ですか?♥ 貴方だけに愛してほしいって我が儘を言っちゃあ駄目ですか?♥♥」

 

 おいこれ最高すぎないか? 両手に花じゃん。代われって言われても代わってあげないくらいには最高だぞコレ。

 その後もダダ・モラシ鳥は飛び回っていたが……不思議なことに、他の本を実現させるばっかで俺の妄想を叶えてくれない。

 ひょっとしてと思った俺はこっちに降りてきたダダ・モラシ鳥に訊いてみた。

 

 

「やっぱり、本じゃあないと実現しにくいのか?」

 

「ぽろぇぇ〜〜」

 

「……肯定してるっぽいな」

 

 

 仕方ない。俺の考えたハーレムもののプロットを簡単に書くとしよう。

 

「…ライネさん、アリサ。ちょっと離れて」

 

「嫌よ♥」

「嫌です♥」

 

「……………………じゃあ、手伝ってくれない?」

 

 離れてと言ったら即効で拒否され、悩んだ末に選んだのは共同作業だった。ライネさんに鉛筆を、アリサに紙とハサミを頼んで持ってきてもらい、即席で本を作ってプロットを書き込んでいく。内容は当然、ハーレムものだ。

 プロの(?)エ□漫画家さん方のネタを詰め込みまくった、俺好みのハーレム物語。内容は駄作も良い所だが、書き終わったものを見せればダダ・モラシ鳥も嬉しそうに鳴いた。「これなら実現できるよ!」とでも言いたげだ。

 だが、そこに障害が立ち塞がる。

 

 

「そこまでだ!」

 

 アルシーヴちゃんだ。他の八賢者や裕美音ちゃん、美雨さんやひでりくん、たまちゃんもいる。

 

「ローリエ…! ダダ・モラシ鳥の力を悪用するのはやめなさい!」

 

「是は夢幻魔法…儚き幻に過ぎぬ。被害の拡大の阻止の為、その鳥を封印すべし」

 

「ローリエさん…どうして、こんな事をするんですか?あんなにユミーネ教の皆や、『あっしゅくふぉるだ』を応援してくれてたのに……BLと陵○への愛は、どこに行ったんですか?」

 

「もともとねーよそんなモン!!いいか、何度も言わせて貰ったが……俺は、BLと陵○は地雷なんだよ!!」

 

「!!!!」

 

 

 裏切られたようなリアクションをする裕美音。だが、俺は何度も言ったからな?BLは地雷だって。だが彼女やユミーネ教のメンツはそれを言う度に冗談か何かだと思って信じてくんなかった。言わなかった場合はソッチが悪いが、今回に限っては何度も言ったのに聞き流してた方が悪いだろ。

 

 

「あの馬鹿……ダダ・モラシ鳥の魔力に真っ先にやられたか…

 セサミ!フェンネル! 魔物を捕まえろ!」

 

「はっ!!」

 

 

 セサミとフェンネルが俺とダダ・モラシ鳥を取り押さえる為に挟み撃ちの陣形をとった。

 

「ほう……向かってくるのか……逃げずにこのローリエに立ち向かってくるのか……!」

 

「近づかなければ、貴方を叩きのめせないですからね……!」

 

 感動的なセリフだな、フェンネル。だが無意味だ。

 

「こんなこともあろうかと、既に仕組んでいたのだ―――ジンジャー!アリサ!」

 

「はい、ご主人様ー!」

「はい、先生!」

 

 

 俺の呼び声に、ジンジャーとアリサが飛んでくる。

 ジンジャーはいつもの市長スタイルではなく、メイド姿、である。

 実は最初にダダ・モラシ鳥が力を使った時、ジンジャーも魔法の影響を受けているのを見逃さなかったのだ。ハーレム物語のプロットを作りながらも、俺はジンジャーを口説いてメイド服に着替えるように言っておいたのだ。こうして、メイドジンジャーが爆誕した。そして。

 

 

「この二人も“仲間”に加えてあげよう。動きを止めるんだ。やってくれるね?」

 

「任せてください、ご主人様♪」

 

「分かりました、先生♥」

 

「くっ!なんて、卑劣なことを…!!」

 

「そこまで堕ちたか、この外道!!」

 

「堕ちる?違うな。俺はBLと凌○が栄えるエトワリアの18禁事情に風穴を空けただけだ。『ハーレム』と言う名の風穴をな……!!!」

 

「い、意味の分からない事を!」

 

「すぐに理解できなくっても仕方ない。創造は破壊からしか生まれないからねぇ……」

 

 

 今回の同人即売会は残念ながらジャンルは少ないが、いずれ様々なジャンルが生まれるだろう。その為には、ユミーネ教と『あっしゅくふぉるだ』にはほんのちょっぴり、力を落としてもらう。

 まぁ、直接的な手は使わないさ。ただ、俺がイイ思いをするついでに、新たに巻き起こった風に便乗して新ジャンルの開拓を手伝おうというだけのことだ。

 その為には……今ここで、セサミとフェンネルに捕まるわけにはいかないなァッ!!

 

 

「今だ!」

 

「ぽろえぇぇぇぇぇぇぇ~~~~!!!」

 

「なっ―――」

 

「しまっ―――」

 

 

 ダダ・モラシ鳥の鳴き声が、魔法を発動し、俺のハーレム物語プロットから光が放たれる。

 眩いほどの光が治まった後、アリサとジンジャーに押さえつけられていたセサミとフェンネルからは、敵対の感情はとうに消えていて、その瞳がとろんとしたものになった。

 

「あぁ…ローリエ…♥ローリエ♥」

 

「なんだ、セサミ? 俺はここにいるぞ」

 

「くっ…わたくしにはアルシーヴ様がいるというのに……なんで、この男から目が離せないのっ…♥♥」

 

「フフフ…口ではどう繕えても、体は正直だな、フェンネル…!」

 

「なんということだ…更に八賢者が二人もやられてしまった!」

 

 

 勝ったなガハハ、風呂入ってくる。

 そう言えるくらいに、詰みの状況へと迫っていた。

 セサミは、息が荒くなりながら自ら俺の背にたわわなスイカちゃんを押し付けてくる。フェンネルは、口では嫌がってるが、抱き寄せても一切抵抗しない。見事にダダ・モラシ鳥の催淫能力を受けてるぜ。

 さぁ、次はセサミとフェンネルの変貌を見て驚き戸惑っているクリエメイト………のひとり、神崎ひでりだ。あいつ男だからな。この時点で手を打っておかなければ。

 

 

「さぁ…次はお前だ…神崎ひでり!」

 

「ええええええっ!? ボクですかぁ~!!? ま、まさかボクを洗脳してあんなことやこんなこと―――」

 

「お前は女にしてやる…それも、ただの女じゃあない。黒髪ツインテの、東京ドームや紅白歌合戦が似合うスーパーアイドル的な美少女にしてくれるわ!」

 

「なにぃぃぃーーー!!? それは…………………………そんなの嫌ですぅ~!!」

 

「だいぶ迷いましたね、ひでりちゃん」

 

 そうだろうな。ひでりくんは自己承認欲求強めだし。

 俺は、ダダ・モラシ鳥の頭に手を置いて、ひでりくんが変化する様子を思念伝達する。すると、ダダ・モラシ鳥が「任せろ!」と言わんばかりにぽろえぇ~と鳴いた。

 

「食らえ神崎ひでり! 矢澤○こ(ピ―――――ッ)になるがいい!!」

 

「うわあああああああああああっ!!! よく分からないけどその名前はヤメロォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!?」

 

 

 俺のイメージを十分に反映させ、ダダ・モラシ鳥が放った魔法は、ひでりくんをあっという間に包み、銀色のロングヘアを黒のツインテールにした。

 

「にっ○○っこに○でもやっていろ!」

 

「うわあああああああ体が勝手にいいいいいいいぃぃぃぃ○っこに○こー○ー♪」

 

 俺の指示を受け、ラブ○イブで見たことのある見た目になったひでりくんは、そのまま楽しそうにどこかへ行ってしまった。これで良し。

 セサミとフェンネルの魅了にひでりくんのに○化……それらを見た皆は、ダダ・モラシ鳥を最優先でひっ捕える方針に固め、俺を一切無視するようだ。だがそうは問屋が卸さない。麗しき美少女達を手篭めにしてこのままベッドエンドだ。

 

 

「こら!ローリエ!!」

 

「! ソラちゃんか……」

 

「今すぐこんなことやめなさい!」

 

 

 セサミとフェンネルを篭絡して混乱している本館に、ソラちゃんがやってきた。

 やはりというべきか、君もこの同人即売会に参加していたか。現に別館を回っている時に、グラサンとマスクの怪しい人を見かけたし。

 だが、今回ばっかりはソラちゃんといえど「わかりました」と退くわけにはいかないなぁ……!

 

 

「ソラちゃん。なぜ、そんなことを言う?」

 

「え、なぜって。ダダ・モラシ鳥は迷惑な魔物だって裕美音も美雨も言ってたし……」

 

「よく考えてみろ。なぜ、お前達はクロモンと仲良くなろうとした?」

 

「それは、私達にとって無害だから……」

 

「思い出せ。ダダ・モラシ鳥が()()()()()()()()()()()を」

 

「なにを…」

 

 

 ソラちゃんは慈悲深い。話をすれば必ず答えてくれる。

 俺の言葉を聞いてくれる限り勝機はある。このまま説得してやろう!

 

 

「かつて大規模な同人即売会で生まれ、即座に封印され、能力ゆえに忌み嫌われ続けた存在。

 だが、お生憎にも…()()()()()()()()()()()()()()

 

「!!?」

 

「生まれてすぐに嫌われ憎まれ、封印されたんだ。どんな心も荒み枯れるに決まっている」

 

「そ、そんなの……ウソよ!」

 

「嘘じゃあない。現にコイツは、『俺の妄想を叶えてくれ』って言ったら、()()()()()()()()()()?」

 

「騙されないでソラ様! 妄想は、妄想だからいいんですよ!」

 

「そうです。大惨事を巻き起こしかねない、危険な存在を止めない訳にはいかないでしょう?」

 

 

 裕美音ちゃんと美雨さんまでやってきてソラちゃんを冷静にさせようとするが、手は緩めん。

 むしろ、全員言いくるめてハーレムに取り込んでくれるわ!

 

 

「フフ…裕美音ちゃんも美雨さんも、()()()()()()()()()()()()()()()()ことにいい加減気付いた方が良いぞ?」

 

「いきなり何を…」

 

「ニホンオオカミ。二ホンカワウソ。ドードー。リョコウバト。聞いたことくらいあるだろう? 全部()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 いくら俺達人間が技術と魔法に優れているからといって……別の生き物を絶滅させてもいいなんて考えているなら、これ程おこがましい事は無い」

 

「い、今その話は関係ないでしょ!?」

 

「そもそも、何故エトワリアに住む貴方がそのことを知って……」

 

「知ってたら何か問題かな? 細かい事を気にしている時間があるなら、俺は野望を為し遂げるぞ。…なぁ、ダダ・モラシ鳥?」

 

「ぽろえぇぇ~~」

 

「「「!?!?!?!?」」」

 

 

 ハッハッハ、掛ったな。俺は勝ちを手にするためなら手は一切抜かないのだ。

 俺の説得に言いくるめられようが惑わされまいが、ダダ・モラシ鳥が『妄想を現実にする能力』で俺のハーレムプロット本を反映させれば勝ち確だ。

 それを見抜けなかったどころか、言いくるめられそうになったソラちゃんについては、相手が悪かったとしか言いようがない。俺が本気で相手の篭絡を狙えばこんなモンよ。

 反省会はコスプレごっこ(意味深)の後に開こうな。ソラちゃんには着せたい服が色々あるからな。リュウグウの人魚姫とか初代プリ○ュアとかギアスの女とか。

 

 

「ソラ様、危ない!」

 

「ローリエ、貴様の凶行、其処まで!」

 

「お」

 

 

 しかし、アルシーヴちゃんとハッカちゃんがソラちゃん達を庇うように躍り出て、魔法陣を展開したり魔法符を取り出したりする。

 だが甘い! 俺の好みのシチュエーションを生み出したいという欲望と、ダダ・モラシ鳥の能力をその程度で止められると思っていたのか!

 

 

「飛んで火にいる夏の虫だな……催淫術にかけた後は2人もコスプレごっこ(意味深)に巻き込んでくれる!!」

 

「ぽろえぇぇぇ~~~!!」

 

 

 ダダ・モラシ鳥の魔力がソラちゃんとアルシーヴちゃんとハッカちゃん、そして裕美音と美雨さんを包んでいく。もう勝利確定だ。

 アルシーヴちゃんにはピチピチのライダースーツを着せよう。隠れ巨乳の彼女の全てが浮き彫りになる筈だ。そんで、ハッカちゃんには第6の精霊服と北○治高校の制服を用意してある。絶対「だーりん」って言わせてやるからなぁ………!

 

「ローリエ…♥♥ 私、もう我慢できません…♥」

「くっ、悔しい……でも、感じちゃう♥♥♥♥」

「ご主人様ぁ…頑張ったジンジャーにご褒美ください…♥♥」

「先生……はやく……♥♥」

「ねぇ……誰からいくのかしら?♥♥♥」

「うぅ…頭がくらくらする♥♥」

「お姉さんに…何をするつもりなの…?♥悪い子ね♥」

 

「焦るなよ、みんな。夜まで待ってくれ。それから夢のような時間を過ごそうじゃあないか♪」

 

 おっとっと、もう女性陣が限界だ。これ以上おあずけを食らわせるのも忍びない状態に仕上がっているじゃあないか。俺もそろそろ期待に答えなくっちゃあな。なんせ、(今世の)父さんは言っていた。「男がやってはいけないことは二つある。女の子を泣かせることと、添え膳を食わないことだ」とな。

 さて、読者の皆さん。お待たせ致しました……! これより、小説ページをR-18専用に切り変えて、連載『きらファン八賢者 ルナティックミッドナイト』の開始を宣言する*1ッ!!

 悪いな諸君。俺は今夜を以って、光源氏と結城○トを超越する―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みっともない姿だな、親友」

 

「なに?」

 

 

 突如、聞き覚えのある声が俺の勝利宣言を遮った。

 清潔感のある服装。地味な顔立ち。本体疑惑のあるメガネ。俺に突きつけられた木刀。

 声のした方に目を向けると………

 

 

「早く正気に戻って、彼女たちを解放しろ」

 

「…コリアンダー、か」

 

 

 シャイな筈の親友・コリアンダーが立っていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ローリエがおかしくなる様は俺も大体見ていた。

 アルシーヴ様やソラ様にダダ・モラシ鳥をけしかけた時点で俺は決意したよ。『あぁ、この馬鹿ぶん殴って止めよう』ってな」

 

 

 突如現れたダダ・モラシ鳥とそれに加担して私欲を満たそうとしたローリエによってもたらされた大混乱。

 それを収めた―――否、収まるところを目撃した数少ない正気の人物のひとり、コリアンダー・コエンドロは、第一回エトワリアコミマ終了後、医務室にいたきらら一行と正気に戻った女性陣を相手にこう語る。

 

 

「あの後どうなったかって?

 長くなるから最初に結論を言っちまうが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ。

 ……まぁ落ち着いて聞いてくれ。これは結論だって言っただろ?」

 

 

 ローリエがダダ・モラシ鳥を討伐及び封印をした。

 ダダ・モラシ鳥の能力を悪用してハーレムを作ろうと画策していたローリエからは想像も出来ない結末だ。例えるならば、某仮面の騎士が自分の戦艦を堕とすくらい意味不明な所業。

 だが、これには理由があるとコリアンダーは続けた。

 

「まず、だが……ローリエはこの時、致命的な勘違いをしていたそうなんだ。アイツが自白していたから間違いない。

 アイツは、封印が解かれた直後のダダ・モラシ鳥に自分の妄想を見せて『実現させてほしい』って言ったから尚更なんだろうな。

 ダダ・モラシ鳥の能力は『()()()()()()()()()()()()()()()()』だ。決して『異性への催淫』じゃあない。似ているようだが、本質はだいぶ違う……らしいぞ。アイツ曰く」

 

『…なにしに来た? 嫉妬か?』

 

『馬鹿かお前は。こんな手を使ってハーレム作っても微塵も羨ましくない。そもそも、男女の付き合いは一対一が基本だろ』

 

『そういう事は美女と二人っきりでも気の利いた会話が出来るようになってからにしろ』

 

 

 軽口を叩きあいながら向き合うローリエとコリアンダー。

 この直後、異変は始まった。その元は、ダダ・モラシ鳥の能力を受けたアルシーヴ・ソラ・ハッカだ。

 

 

「あいつの頭の中では、メロメロになった三人を想像でもしてたんだろ。だが、実際に三人に起こったことは別のことだった。………あー、俺もあの時のことは1ミリも理解できなかったからありのまま言うぞ?

 まずアルシーヴ様が、男になった……そして、ソラ様も、男になった………顔はほぼ元のまま、だ。それでハッカだが…………『うほっ、俺は森のオーク!この美少女にあんなことやこんなことさせて「くっ、殺せ!」と言わせてやるぜ!』と………言ったんだ。

 ………そんな目で俺を見るな。俺は見たままを語っただけだ。その当時は俺もローリエも固まったよ。今のお前らみたいな表情をしてな」

 

『なんだこれは……体が……熱い……!』

『うううぅっ……ダメ……アルシーヴを、押し倒したい……アルシーヴは、私の、モノ……』

『うほほっ、こいつらまとめて【自主規制(ピーーーッ)】してやるぜー!』

 

『『―――は????』』

 

『ぽろええぇぇぇぇ~~~~♪』

 

 

 胸がしぼむなどの言葉に形容しがたい異変に全身を襲われているアルシーヴとソラ、蛮族のようなセリフを真顔で言ってのけるハッカ、自身の本能(?)を満たせてご満悦のダダ・モラシ鳥、そして、それらを目の当たりにしてスペースキャットのような顔をするローリエとコリアンダー。二人とも、何故このような事態に陥ったのかまるで分かっていなかった。原因は、この時ソラが持っていた同人誌にある。

 実は彼女、この時点でもう既に布田裕美音と天野美雨の同人誌を持っていたのだ。内容は……『ソラ(♂)×アルシーヴ(♂)*2』と『アルシーフちゃんくっころ物語*3』の二つを複数冊。読書・鑑賞・布教用に揃える猛者ぶりであった。だが、今回ばかりはそれが仇になった(?)のだ。

 更に重要なのは、ダダ・モラシ鳥は()()()()()()()()()()()()()し、()()()()()()()()()()()()()()()。ゆえに……ローリエのハーレム物語プロットよりも裕美音と美雨のBL&凌○モノの反映を優先してしまったのだ。だから…このようなカオス空間が生まれてしまった。

 

『アルシーヴっ…』

『へっへっへー』

『くっ……殺せ!』

 

『『………』』

 

 男体化したアルシーヴが、総受けの覚悟が出来たようにしか聞こえないことを言い、ソラとハッカが押し倒す。

 目の前で地獄絵図を見せられて、ローリエもコリアンダーも戦うなんて雰囲気ではなくなった。

 

 

「そんなアホみたいな地獄絵図を見たローリエはな……何を思ったのか紙で作った小冊子を捨てたんだ。

 そんで、新しい小冊子を取り出すと、何かを書き込んでいって……で、唐突に謝ったんだ。『ごめんコリアンダー、俺が間違っていた』ってな」

 

『…ローリエ? 急にどうしたんだ? 何を言っている?』

 

「そうしてダダ・モラシ鳥に近づいたローリエはな、こう…ダダ・モラシ鳥の首根っこを掴んだんだよ。これまでに見たことのない怒りを込めてな。

 ……ローリエの“地雷”、公言してるから知ってるだろう? それを踏みぬかれたからだって言ってたけど、まさか、それだけでああなるとはな」

 

『この地獄のような状況をみてやっと分かったんだ。俺はたまたま運が良かった事。

 そして―――ダダ・モラシ鳥。お前は存在してはいけない生き物なんだってな』

 

『ぽろ!?!?!?!?!?』

 

 

 ダダ・モラシ鳥からすれば、信じていた相手からの突然の裏切り。

 何故だ、と思った。自分はただ、妄想を現実にしただけなのに。メスをメロメロにしたのと今の妄想の実現では何が違うんだと言わんばかりの驚きようであった。だが、それが逆にローリエの逆鱗に触れた!

 ローリエはダダ・モラシ鳥の首を絞める力を強める。

 

 

「敵意をもって首を絞めれば、誰だって反撃する。ダダ・モラシ鳥も、能力でローリエを無力化しようとした。だが…光を放ったらローリエが逆に強くなったんだ。おそらく、直前に書いた小冊子で対策したんだろうな。

 そっから先は―――暴力の嵐だった。そうとしか言えないくらい、苛烈で派手な拳の連撃で、あっという間にダダ・モラシ鳥をぶっ飛ばしやがった」

 

 

 ダダ・モラシ鳥は能力を使った。『本の妄想を近くの人間に実行させる能力』を。

 だが、ローリエに反映されたのはソラのBL本の内容ではなかった。

 ローリエがコリアンダーに謝る前に書き込んだ本―――小冊子その②に込められた強い想いから……それが、ローリエに反映されるようになった。

 小冊子その②の内容―――それは、とある格闘ゲームのコマンド表であった。

 

 格闘ゲームのコマンド表をローリエに反映させた結果、どうなるか…………ダダ・モラシ鳥は、それを身をもって思い知ることになる。

 

 

『オオラァ!!』

 

『ぽろえぇ!?』

 

『フッ! ハッ! ヤッ! デヤァ!!』

 

『ぽろ~!!?』

 

 最初は、巨大な風船が割れたような豪快な音が響く平手打ち・超ぱちきでダダ・モラシ鳥の身体が浮く。

 続いて、目にも止まらぬ踏み込みからのアッパーカット。コリアンダーからは、それが命中した瞬間、ダダ・モラシ鳥の身体がブレたように見えた。しかし、ダダ・モラシ鳥自身は、全身を強烈な痺れが襲っている。これでは、次の攻撃を回避することもできない。

 その直後ローリエは軽く跳んでダダ・モラシ鳥の翼の根本に向かって鋭い手刀を繰り出し、これを命中させて地面に叩きつける。更に、鳥の足に向かって剛脚を繰り出し、砕くような音をあげながらこれをヒットさせた。そして、再び最速の風を切るアッパーカット。更に、雷を纏った重い拳で、ダダ・モラシ鳥を転倒させた。

 

『デヤァァァァッ!!!!』

 

『ぽろ゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇ~~~!?!?!?!?!?!?』

 

 連撃を受け、かろうじて立ち上がったところに、トドメの踏み込みながらの右ストレート。拳を額のど真ん中に受けたダダ・モラシ鳥は、衝撃を殺しきれずに、錐揉み回転しながら本館の壁へ突っ込んだ。そして……再び動く気配は、なかった。

 

 

「初めてだったよ。鳥の魔物をブチのめす親友に悪魔の羽が生えてるように見えたのは。たぶん、あれは幻覚だな。ひょっとしたら、ダダ・モラシ鳥の能力か何かの影響を受けたのかもしれないが………とにかく。ローリエは封印の書をコルクの店から貰ってきて、ボコボコにしたダダ・モラシ鳥を封印した後、俺に対して自首したんだ。それがあの時に起こったことの全てだな。

 ……なんだその目は。まさか、俺が嘘をついていると思っているのか? 自慢じゃあないが、俺はここまで面白おかしい嘘はついたことないし、つけないぞ。どうしてもってんなら、他の人にも聞いてみればいい」

 

 

 コリアンダーの報告は、ローリエのハーレムメンバーにされてた面々からすれば信じがたいことではあった。普通に考えて、ローリエが自らハーレムを手放すとは思えないからだ。

 だが、コリアンダー以外にも、かおすや珠輝、翼や琉姫、ユミーネ教徒たちからもまったく同じ証言が得られたことで、ローリエはダダ・モラシ鳥を討伐・封印したことが認められた。

 しかしそれとこれとは話が別である。ローリエはぶっちゃけ、悪事を企んであらゆる人を巻き込んだ挙句、不始末を自分で片づけただけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああん!!俺が悪かったから助けてくれェェェェェェ!!!!

 あ、ランプ!!? これ解いてくれえええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「ごめんなさい先生……それ解いたら私もお仕置きされますので」

 

「マ・ジ・で!!? 誰だそんな意地悪言ったのは!!」

 

「コリアンダーさんです」

 

「あの野郎覚えとけよ…」

 

「……ホントに反省してるんですか?」

 

 

 第一回エトワリアコミマ終了後。

 ローリエは、書庫の天井から布団に簀巻きにされ、逆さづりにされていた。

 当然、第二回のエトワリアコミックマーケットでは、彼は出禁になったことは言うまでもない。

 ―――しかし。彼はこの時、まだ知らなかった。

 

 

「…その手に持ってるものは?小冊子?」

「たまたま拾ったんだけど……」

「けど?」

「ここに書いてある事、天才的なんだよ。俺、次回はハーレムもの描いてみようかな…」

 

 

 エトワリアに新たなジャンルが芽生えたことを。

*1
ローリエの戯言です。本気にしてはいけません

*2
作:FudaFuda(布田裕美音)

*3
作:花園フォルダ(天野美雨)




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 最低な計画を築き上げ、あと一歩のところまで進めた変態主人公。ハーレムものが欲しかったが故にハーレムを作り出したが、協力者であるダダ・モラシ鳥との好みの違いで決定的に対立し、ダダ・モラシ鳥をみずから退治した。いちおう自分のケツは自分で拭いた形にはなっているが、当然簀巻きや次回コミケ出禁などのお仕置きを食らう。

ダダ・モラシ鳥
 イベント「大騒動!エトワリア同人誌即売会」で登場した、妄想を実現させる力を持った魔鳥。公式とは違い、拙作では悪感情をぶつけてこないローリエと出会い、心を開ける仲間を(一時的にとはいえ)得たお陰で手当たり次第に能力を使ったりはしてないが、それでもフリーダムに暴れている。その結果、原作よりも更に痛めつけられて封印された可哀想(?)な魔物である。

アルシーヴ
 男体化と「くっ、殺せ!」の定めから逃げられなかった筆頭神官。原作とは違ってソラとハッカに押し倒された。

ソラ&ハッカ
 公式通りに男体化した女神&オーク化した八賢者。奇しくもソラが持っていた同人誌が悲劇の原因であり、ローリエが目を覚ますきっかけにもなった。

セサミ&フェンネル&ジンジャー&アリサ&ライネ
 作者が選定したハーレム要員。全員おっぱいがそれなりに大きいという共通点を持つ。なお、ジンジャーは未来のイベントを先取りしてメイド服を着せた。ちなみにだが、この事件以降、ローリエは彼女達とやや慎重に接するようになった。

神崎ひでり
 中の人ネタをやる為だけに犠牲になった男の娘。きららファンタジアにはラブライブ系は現段階できららしかいないと思われるが…?

コリアンダー
 ローリエの計画完遂に待ったをかけた男。その実、「バキ」的なただの説明要員だったりする。この後、女性陣からの好感度はあがったが、どうすればいいか分からず、チャンスをふいにする。



人間の都合で絶滅した動物
 ローリエが言及した動物を解説しておくと、
・ニホンオオカミ→日本人が西洋から持ち込んだ「狼=悪」の価値観のせいで狩り尽くされる
・ニホンカワウソ→生息地開拓のせいで絶滅
・ドードー→卵もヒナも犬等に食われ、成鳥も食料として人間に乱獲され絶滅
・リョコウバト→人間が羽毛布団を欲しがるから狩り尽くされ絶滅
 …といったところ。人間が動物達を鑑みて過ごさなければならないのは、地球でもエトワリアでも一緒なのかもしれない。ただし、今回はローリエが欲望を満たすためだけに使った詭弁だけれども。

中の人ネタ
 神崎ひでり→矢澤にこはもちろんのこと、今回はソラ・アルシーヴ・ハッカをご用意。アルシーヴは言わずとしれた日本の悪女・峰不二子。ハッカはデート・ア・ライブより誘宵美九と、響け!ユーフォニアムより中世古香織。ソラはONE PIECEのしらほし姫とふたりはプリキュアの雪城ほのか、コードギアスのC.C.。

ローリエの格闘ゲームコマンド
 元ネタは『鉄拳』の三島一八と『大乱闘スマッシュブラザーズSP』から。カズヤ参戦を受け、カズヤが使用する技の中から、スマブラにも登場するものをピックアップして使用した。個人的なイメージとしては、超ぱちき→最速風神拳→獅子切り包丁→褪砕き→最速風神拳→魔神拳→魔人閃焦拳。どんな相手でもほぼ確実に撃墜する。


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お気に入り50突破記念:ローリエの魔法研究大作戦

拙作のお気に入りが50を超え、総合UAも7000に手が届きそうです。
読者の皆さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも、どうかこの「きらファン八賢者」をご贔屓いただければ幸いです。


今回のお話は、「この世界でも、笑顔を」と「続きから▷港町」の間のお話です。キャラ崩壊がいつもより甚だしいです。
※『勇者ヨシヒコ』シリーズとのクロスオーバー要素がチョコッと含まれております。ぶっちゃけタグをつけた方がいいのか?ってレベルで。


 意識を集中させる。

 

 人差し指を立てると、その指先に魔力が集まる。

 

 魔法陣が形成されて、魔力が熱を帯びる。

 

 ―――そして。

 

 

「………メラ」

 

 

 呪文と共に、指先から小さな火の玉が飛んでいく。

 それは、狙いをつけていた数メートル先の円い的に当たり、燃え上がって消えた。

 同時に、体内の魔力がそこそこ減っていくのがわかる。

 

 

「……低級の魔法一つでこれとは……

 ローリエ、あなたやはり純粋な魔法に向いてませんよ?」

 

 セサミに心配されてしまう。

 でも、向いてないからって、諦める訳にはいかない。

 なぜなら。

 

「おいおい、セサミ。忘れたのか?

 これはただの魔法の練習だっつってんだろ?」

 

 そう。自分を知るための魔法練習だからだ。

 きっかけは、シュガーちゃんとの任務を終えた日。転移魔法一回で、俺の魔力総量(最大MP)がほぼスッカラカンになってしまったことに始まる。

 俺は生まれてこの方魔法工学ばっかやって、現代兵器の製作しかしてこなかったもんだから、エトワリアの魔法があまり使えないのだ。

 そこで翌日、俺はどれだけ魔法が使えるかを実験及び練習していた。そこにセサミが通りかかり、今に至る。

 

 

「それにしたって、一通り全属性の低級魔法を見させていただきましたが、私もあなたみたいな人は初めて見ます」

 

「そうなの?」

 

「はい。まずあなた自身が呪文を唱えないと発動しないというのが特徴的です。本来『呪文を唱える』というのは、発動した魔法のイメージを固めるためのものです。

 ローリエのは何というか……その言葉一つでどういう魔法かを決めているのではないでしょうか?

 そのままだと、無言で魔法を使うということが出来ないですよ?」

 

 

 それは分かる気がする。前世持ちの俺が、魔法と聞いて最初に浮かんだのはやはり、俺が物心ついた時にやっていた、ゲームの魔法だ。単純で覚えやすい呪文が、俺の中に根強く覚えられているのだろう。

 

 

「それに、他にも気になる点があります。『めら』とか『ばぎ』、『いお』など詠唱は私の聞いたことのない単語でしたし、水属性魔法が使えない代わりに氷属性魔法が低級とはいえ使えるというのは、かなりのレアケースだと思います。」

 

 

 セサミは俺が使った氷属性魔法「ヒャド」に興味を持ったようだ。

 でも、今教えて、きらら達のハードルが上がるのは嫌だな………よし。

 

 

「なるほどな………でも、真似しようと思うなよ?

 詠唱は一人ひとり違うかもしれないし、何より敵に放ったと思ったら自分が冷凍保存されてたとか笑えないだろ?」

 

「私とて、氷の呪文は難易度が高いですよ。

 ローリエはきっと、魔力の適性が固まる前から氷属性の魔法が身近にあったからできただけです。

 普通の人間はまず習得できません。水属性魔法と風属性魔法の併用ですしね」

 

 

 へぇ。ここでは、ヒャド系呪文ってそういう扱いなんだ。ドラ○エでもポ○モンでも「ヒャド系(こおりタイプ)」で独立してたから、考えたこともなかったな。

 

 

「しかし、ローリエ。先程も言いましたが、このままでは戦闘に魔法は使えませんよ?」

 

「問題ない。俺には他の武器がある。」

 

 

 ―――とはいえ、これではい終わり、では魔法の練習兼研究の意味がない。自分が転移魔法を日に一度しか使えないのには訳がある。理由は判明しているのだが、現状を確認したい。

 でも、これ以上魔法を使ったら、俺の魔力が底をついてしまう。ただでさえ魔力を回復させながら行った低級魔法連打だ。こんなしょうもない理由でまほうのせいすいは使いたくない。

 

「……待てよ?」

 

 動きが止まる。

 

 

 自分の魔力総量(最大MP)が低級魔法でもキツいほど少ない?

 

 それはねジョ○ョ、無理矢理低級魔法を使おうとするからだよ。

 

 逆に考えるんだ。

 

 ―――更にレベルを下げた魔法を編み出せばいいさと。

 

「……ローリエ? どうしたんですかローリエ?」

 

 

 俺の中の○ョースター卿が俺を諭す。

 簡単に言ってくれる。

 だが、不可能ではない。それはなぜか?

 

 ―――あるからだ。そのビミョーな魔法が。

 

 予算が少ないと自称する、冒険活劇の魔法使いが使っていたからだ………そんな呪文の数々を。

 俺は、おもむろにセサミを指差す。

 

 

「!!? ローリエ、一体何を!?」

 

 

 少し、お借りしますよ。

 面白おかしく冒険を彩った、愛すべきビミョーな呪文達を。

 

 

「………チョヒャド」

 

 

 そう呟いた刹那、セサミの髪とローブを、風が揺らした。

 

「……? ちょっと寒くなった……??」

 

 ローブをしっかりと羽織ったセサミは、放たれた冷風に少し耐えた後、口を開く。

 

「い、今のは……?」

 

「氷の呪文……ヒャドの一つ下の魔法だ。

 カーディガン一つ羽織る程度の冷風を与える………名をチョヒャド。」

 

「………。」

 

「………。」

 

 

 懇切丁寧にしたはずの冷風呪文の説明に、空気が凍る。マヒャドレベルで。

 うわぁ……沈黙が痛い。勇者がいないから尚更だ。あの魔法使いは、こんな空気を毎回味わっていたのか。尊敬してしまうぜ。

 

 

「それ………………戦闘に使えるのですか??」

 

 

 ……うん、まぁそうだよね。そうなるよね。

 でも、その質問については答えを控えさせていただきますよっと。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ビミョーな氷(?)呪文でコキュートス並みに凍った空気から逃げてきた俺は、次の呪文の実験をするべくとある人物を探していた。

 

 彼女がどんなリアクションを取るか―――今からでも楽しみだ。

 

 神殿内をスキップしていると、たぬき耳の少女が向こうから歩いてくる。すぐに見つけられるとは、今日はついている。

 

 

 

「スイーツ」

 

「………??」

 

 

 すれ違いざまにかけられた魔法にソルトは気づきやしない。いや、指先を向けられ「スイーツ」と言われた程度では魔法というより何かのイタズラを企んでいると思われてはいそうだけど。

 

 甘味魔法・スイーツ。

 どんな奴でも、甘いものを食べたくて仕方なくなるという凶悪(笑)な呪文だ。多分シュガーには効かない(というか元々甘党だから意味がない)呪文の一つ。

 だが、ソルトにかけたら絶対面白いことになるだろう。元々おやつに塩気のあるものを好む彼女だ。甘いものが食べたいと言い出した日には、シュガーから熱の心配でもされるに決まっている。

 

 でも、結果の確認は後ほど行うとしよう。今はこのまま、スキップで次の実験台……もとい、協力者を探すとしましょうか。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ソルトに通りスイーツ(魔法)をお見舞いした後、俺はハッカちゃんと通路で出会い……

 

 

「……ローリエ。此度は何を企んでいる」

 

 

 いきなりそんなことを言われた。

 俺は魔法の実験をしているだけだぞ。それを「何か企む」とは失礼な。

 

「なに、俺でも使える呪……魔法の協力者探しだよ。ただそれだけ」

 

 そう言っても、疑いの眼は俺に向いたままだ。

 疑り深いハッカちゃんめ。そんな子にはこいつをくれてやる。

 

 

「………ゲラ」

 

「……ローリエ、戯れはそこまでに……ぷっ…!」

 

 俺が魔法をかけた途端、ハッカちゃんは口元を抑えて笑いをこらえ始める。周りを見ても何もおかしいものはない。ハッカちゃん自身は、俺に何かされたと思いながらも、彼女の中に沸々と湧き上がる愉快さで吹き出しそうになるのをこらえずにはいられないだろう。

 

 笑い誘発呪文・ゲラ。

 術者の言った言葉を聞くとそれがなんであったとしても爆笑してしまうこれまた凶悪(笑)な呪文だ。

 

 

「それでは、俺は協力者探しを再開するから……」

 

「ブッフゥ!!」

 

 

 ……あれ。

 ちょっと効きすぎじゃない? ゲラってここまで強かったっけ?

 

 

「あの、ハッカちゃん?」

 

「や……やめ………ックッ……ブファッ」

 

 

 おい、まだ何も言ってないんだけど。これ絶対効きすぎだよ。

 笑わせる呪文と思ってたけれどここまでとは思わなかった。薬を作ったと思ったら劇薬だったでござるって気分だ。

 こんなことなら転生する前に「勇者ヨシ○コ」を見返しておけばよかった。

 

 

「じゃ……じゃあ、俺はこの辺で。またね、ハッカちゃん」

 

「ブッフハハハ…………!!!」

 

 未だに口元とお腹を押さえ、キャラ崩壊してんじゃないかってくらい爆笑しているハッカちゃんに心の中で謝りながら、俺は早足で立ち去った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ハッカちゃんから逃げるように自室に戻ってきた俺は、頭を悩ませていた。

 あとどんな呪文があったっけか、とノートに呪文名と効果を書き連ねていたのだ。

 

 言動を○ート何某(なにがし)にする呪文・タケシズン。

 眉毛を太くする呪文・ヨシズミ。

 顎をしゃくれさせる呪文・シャクレナ。

 ポリフェノールを与える呪文・ポリコズン。

 攻撃力を1.2倍にする呪文・チョイキルト。

 ブラがズレているような感覚を相手に与える魔法・ブラズーレ。

 冷え切ったご飯をレンジでチンしたかのような熱を与える呪文・メラチン。

 

 あとは……なんだったか。思い出せないが、今はこれでいいだろう。

 だが、これだけじゃなくて、もっと魔法が欲しいな。

 前世の記憶から引っ張ってきたものだけじゃなくて、自分独自に開発した魔法か何かが―――

 

 

「ローリエおにーちゃん!!」

 

「……なんだシュガーちゃん。俺は今、魔法の開発中だ。遊びなら後に……」

 

「遊びじゃないよ!」

 

 ―――ほわっつ?

 

「ソルトに何をしたの? ソルトったら、『甘いものが食べたい』って言ってて大変だったんだよ!

 アルシーヴ様やフェンネルも怒ってたんだから!」

 

 シュガーはぷんぷんと効果音がつきそうな様子で怒っていた。まったく怖くない。

 

 

「シュガーちゃん。ソルトだってたまには甘いものを食べたくなる時があるかもしれないだろ? いきなり俺がなにかしたって考えるのはおかしいと思うんだが…」

 

「だからってシュガーの激甘超特大どら焼きを食べたいって言いだすなんて変だよ! 普段のソルトなら絶対食べようとしないもん!」

 

「いや、もしかしたら目覚めたのかもしれない。甘党に」

 

「それにしたっておかしいよ! いきなりシュガーのおやつを欲しがるなんて!!」

 

 

 甘いものを食べたいと言い出したソルト。それは間違いなく、俺の開発した魔法「スイーツ」によって甘いものが食べたくなったのが原因だろう。

 だが、そんなことは俺が自白でもしない限りバレることはない。俺が「人の好みなんて年とともに変わるものだよ」と反論しようとした………その時。

 

 

「その通りだ。それに、ソルトとハッカから微量の魔力が残っていた。故に、二人には何らかの魔法学的干渉……つまり、何かの魔法をかけられていることは予想できた。」

 

 

 底冷えした声が、扉から入ってきた。

 声の主は、アルシーヴ。俺の幼馴染にして、現筆頭神官だ。後ろにはカルダモンとフェンネルもいる。

 

 

「ソルトとハッカの証言からローリエ、お前が何かしたと判断した。

 貴様、こんな時に何を考えている?」

 

「何を企んでいるのか知りませんが、洗いざらい吐いてもらいますわよ!」

 

「面白いことをするなら、あたしにも教えてよ、ローリエ。水臭いじゃん」

 

 

 なんか一人違う事を言っているが、ほぼ俺がなにか後ろ暗いことを企んでいると思っている。これは大変なことになった。

 今日、俺が『実験』で使った魔法は、それこそ大したことなどない。効果が微妙ということは、アルシーヴちゃんやフェンネルが思っているような悪用もできない(というより、地味なイタズラ程度で大それたことなどできない)ということだ。

 

 このまま変な勘違いをされて、する必要のない対立をするよりかは、今ここですべて教えてしまった方がマシだろう。

 

 

「企むもなにも、俺はただ『俺でも使える魔法』の開発に(いそ)しんでただけだ。まぁ、俺の魔法適正は皆無に等しい(お察しだ)から、チョットしたことにしか使えないけどな」

 

「…なに?」

 

「たとえば……ほいっ」

 

「?」

「おい、ローリエ!」

 

 

 シュガーに「スイーツ」をかけてから、自分のおやつ用の粒あん団子をパックごと渡す。

 

 

「はいシュガーちゃん、あげる」

 

「えっ!! いいの?」

 

「うん。いま、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「すごい! シュガーの考えてることがわかったの!?」

 

 

 突然の甘味に目を輝かせるシュガーちゃんに微笑みを返したところでアルシーヴちゃん達に目を向ければ、アルシーヴちゃんは信じられない、という顔をしていた。カルダモンはどうやら俺がしたことを理解したようで笑いをこらえており、フェンネルは今起こったことが理解できておらず混乱している。

 

 

「今、俺が使った魔法は『スイーツ』といって、甘いものが食べたくなる魔法だ」

 

「あはは! なにそれ!」

 

「まったくもって理解できません……」

 

「ローリエ、お前な………

 …なら、ハッカにかけたのも似たようなイタズラ魔法か」

 

「そ。術者の言葉に反応して爆笑しちゃう魔法で、『ゲラ』って名付けた」

 

 

 実演したイタズラ魔法に呆れるアルシーヴちゃんとフェンネルに、ツボにハマったのかお腹を抱えてくっくと笑いだすカルダモン。ハッカちゃんを笑わせた魔法の正体もついでに教えると、アルシーヴちゃんはますます呆れた様子で片手で頭痛を抑えるかのように頭を抱えた。

 

 

「他にも色々開発しててね。効果次第ではすぐに実現できる魔法もあるかもしれない。詳しくはここのノートに書いたんだが………」

 

「言わなくていいです。アルシーヴ様、たかがイタズラといえども、勝手な行動は咎められるべきでは」

 

「あッ!!? フェンネルお前、余計なことを!!」

 

 

 一ヵ月間ブラズーレの刑を食らわせてやろうか!?

 ずーーっとブラジャーがズレているかのような感覚を味わわせ続け、刑期を過ぎた頃には逆にブラジャーがズレてないことに違和感を持つほど、しつこくやってやろうか!? 

 

 

「ふふふ……そうだな……そうだな、フェンネル。」

 

 

 そう思った時、アルシーヴちゃんがフェンネルに笑い声で答える。

 その笑いは、いつもアルシーヴちゃんがしてそうなうっすらとした美しい笑みでも、しょうもないダジャレで吹きだしそうになるのを堪える笑みでもなく。

 

 

「ローリエ……魔法の開発はとても興味深い。お前でも使えるということは、効果と原理を知っていれば、誰でも使えるということだからな……!」

 

 

 いい事を思いついた俺の顔を、鏡で見た時のような笑みだったのだ。

 

 

「ゲラ!」

 

「だァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハッハ!!!!!」

 

 

 魔法特有の不思議な感覚とともに、自分の意思と反して口角が上がり、腹筋が震える。立つことも困難になり、呼吸が上手くできなくなる。

 

 

「しばらくそうやって笑っていろ。それが仕置だ」

 

「こうしてみると、笑わせる魔法とは不気味ですね…」

 

「ヒィーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

「うわぁ………」

 

「おにーちゃん………」

 

 

 このままでは、確かに腹筋と頬が死ぬ!

 だが………やられたまま終わるヤツだと思うなよ!

 

 笑いが治まってきた時を見計らって残り少ない魔力に集中する。

 イメージは、前世のアキバにいそうなメイド………それも、猫耳のッ!!

 練習などしていないが、やり返すなら今、ぶっつけ本番でしかない!!

 猫耳メイドの言葉を鮮明に思い出しながら、密かに魔法を組み立てる。

 

 食らえ! 俺の新呪文……!

 

 

「………ルカ、ニャン……!」

 

「「「!!?」」」

 

 

 完全に後ろを取られたはずのアルシーヴちゃんは、俺の魔法に即座に反応して、防御魔法を無詠唱で展開する。

 

 でも残念。俺の新魔法は、攻撃魔法ではないのだ。

 

 

「…………?? ローリエ、今の魔法はにゃんだ……っ」

 

「「「…………。」」」

 

 

 口を開いてそう言ったアルシーヴちゃんが固まり、シュガー、カルダモン、フェンネルも同様に沈黙する。

 はたから見れば、アルシーヴちゃんが噛んだように聞こえるだろう。でも、彼女は噛んだわけでも意図的ににゃんと言った訳でもない。

 

 

「………………おい」

 

「………なん………だいっ……フフッ」

 

「今、ニャにを……

 …ニャに………

 …ニャ……」

 

「あ、アルシーヴ様……?」

 

「……にゃぜだ…? にゃぜ、にゃって言えニャい……?

 フェンネル、違うんだ。こ、これは……さっき、ニャんらかの魔法を……っ!!」

 

 

 鼻血でもだしそうな程に真っ赤になったフェンネルを見ながら、弁解の言葉を口に出すことでな行がなぜか言えなくなったことを少しずつ理解したのか、その表情はだんだん赤くなっていく。そして。

 

 

「ローリエエエ!! 今すぐこの魔法を解けェェーー!」

 

 そう掴みかかってきた。未知の魔法を身に受けたせいか、かなり動揺している。

 アルシーヴちゃんが言ってきたことは全て正しい。

 猫語魔法・ルカニャン。俺が思いついた、萌え特化の魔法だ。原理と効果がぶっつけ本番でまだ不安定だが、研究次第でもっと言動を猫に近づけることができるだろう。

 面白いからもうちょっとからかってやろう。

 

「知らない! 知らないよォォーーーッ!」

 

「嘘をつくにゃッ!!

 お前が私にさっきの……『ルカニャン』だかをかけた結果、ニャ行が言えニャくニャったんだろうが!!!」

 

「いいじゃあないか。可愛いよ、アルシーヴ」

 

「貴様、とうとう開きニャおったな……!!」

 

 開き直りじゃあなくて事実だから。後ろにいるフェンネルも、直立不動のまま鼻血を静かに流している。猫語のアルシーヴちゃんに脳がオーバーフローしたんだろう。カルダモンも複雑な顔をしながらシュガーと共に部屋を出ていった。

 

「反省が足りニャいようだニャ………」

 

「ちょ、待て!! 可愛いから! 可愛いから許して!!」

 

「許さんッ!! 私の魔力が尽きるまで、貴様の開発した魔法(ゲラ)の餌食にしてくれる!!!」

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 アルシーヴちゃんの宣言通り、俺は『ゲラ』でひとしきり笑った結果、腹筋と頬の筋肉が地味に筋肉痛になった。

 

 

 

 

 追記。

 アルシーヴちゃんにゲラをかけられたせいで腹筋と頬肉が死んだ俺は、腹いせに計画通りフェンネルにブラズーレをかけまくって、いつも通り追いかけ回されたのは言うまでもない。

 彼女を撒いた後俺は、人目を気にしながらズレているような気がするブラジャーを直そうとするフェンネルを一度G型魔道具を通して見たのだが、いつもの彼女とは全く違う、羞恥に染まった一面に不覚にもときめいてしまった。

 セサミに「あまりにも可哀想だからやめてあげなさい」と言われた後も、ごくたまにコッソリやっている。

 

 なお、この一件があってから、『ブラズーレ』と『ゲラ』、そして『ルカニャン』が準禁忌(無許可の使用が発覚した場合、軽度の罪に問われる)の魔法として登録された。おかげで新開発の魔法の研究もできなくなった。納得いかねぇ。

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 前世で見ていたビミョーな魔法を再現すべく好き放題開発した諸悪(笑)の根源たる八賢者。そして準禁忌の魔法を三つも編み出した凶悪な一面(笑)は、後のエトワリア魔法史にしっかりと記されることになる。後世にてそれを学ぶ未来の神殿の新人たちは、あまりにもショボい真実を知る事は絶対にないだろう。

ソルト&ハッカ&アルシーヴ
 ローリエの魔法(笑)の被害者(笑)。どうして彼女達になったかというと、ただ単純に作者が「甘味を躊躇しながら欲しがるソルトが見たい」「まったく笑わないであろうハッカの爆笑シーンを見てみたい」「アルシーヴにニャンニャン言わせたい」と思ったからである。そういった欲望と魔法は、実に相性が良かったわけだ。

フェンネル
 アルシーヴを崇拝している八賢者。今回はただ忠誠心を鼻から流すだけで終わってしまったが、あまりにも扱いが雑だと思ったため、最後の最後に『ブラズーレ』によって見る人によっては女を感じる一面を作った。作者はハッカちゃん一筋なので上手く演出できたかは自身がない。

セサミ
 ローリエの魔法の検証に付き合った八賢者。氷の魔法には興味こそ湧いたものの、難易度とローリエがネタに走ったことから、拙作の港町編では普通にきららと戦った。



ローリエの魔法
 元ネタは『勇者ヨシヒコ』シリーズの魔法使い、メレブの魔法から。効果の低い魔法は、往々にして消費MPも低いという法則がある(メガンテなどの例外はあるが)。ローリエの元々の魔力総量(最大MP)が少ない事に注目して登場させた。

勇者ヨシヒコシリーズ
 深夜に放送されていた、ドラゴンクエストのパロディドラマ。勇者としての素質を持ったヨシヒコが、熱血戦士ダンジョーやタイラームネなただの村娘ムラサキ、そしてビミョーな金髪ほくろ魔法使いメレブとともに魔王を倒す……という話のはず。2019年現在では『魔王の城』『悪霊の鍵』『導かれし七人』の3シリーズが存在する。



あとがき

随分更新が遅くなった上にパロディをパロった番外編で申し訳が立ちません……w
いや、別にドラクエウォークや東方CBが面白かったから、とかではないんですよ?ええ。……違いますとも。
………スライムナイトのこころ集めなきゃ。あとルーミアもゲットしなければ。
という冗談はさておき、筆が進まないのはプロットが完成してないからです。プロットだけでも完結させてから筆を進ませた方がいいのかなぁ。
では、次回もお楽しみに!


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お気に入り100突破記念&クリスマス2019特別編:ローリエときららのクリスマス・キャロル

 みなさま、メリークリスマス。
 今回のお話は、特別に色んなキャラが出てきます。
 本編後のイベントと思ってください。「きらファン」でいうところの、イベントクエストのストーリーみたいな。
 文字数は拙作最大の1万8千は行きました。その分、きらファン愛をたっぷり詰めた所存です。

 それでは、どうぞ。
 


「お願いします、ローリエさん! 力を貸してしていただけませんか!」

 

「いや、無理だろ」

 

 きららちゃんのお願いを俺はバッサリと切り捨てる。

 きららちゃんは予想通り、「そんなぁ…」としょぼくれてしまう。目に涙も浮かべているような気がする。はっきり言って可哀想だ。

 しかし………俺は断じて、意地悪で言っているわけじゃあない。

 

 

(きららちゃんがサプライズでプレゼントなんて、誰が相手でも無理に決まってる……)

 

 

 そう。この子は今、俺に対して「来るクリスマスパーティーのために、サプライズでプレゼントをしたいから協力してほしい」と頼んできたのだ。

 俺は、女の子の頼み事は普通は断らない主義だ。だから、きららちゃんから「お願いがあるので後で部屋に来てくれませんか」と言ってきたときには、例えどんなことだろうと二つ返事で引き受けるつもりだった。だが…………きららちゃんがサプライズ、となると話は変わってくる。

 

 

 

 

 そう―――きららちゃんは、あらゆるウソや隠し事の類が絶望的にヘタクソなのだ。

 

 夏に、彼女の知り合いが建てたという、『リュウグウランド』のアトラクションに参加したときに、案内役がきららちゃんだったのだが……なんともまぁ、ひどすぎた。

 

『え? だめですか? 私、うそつけませんか?

 でもだからといって、今更、これがオトヒメさんによるドッキリだなんて口が裂けても……』

『脱出ゲームをドッキリで体験してもらおうってオトヒメさんの提案でできたアトラクションの、仕掛け人をやっているだなんてことはありません!』

『手はず通り、あっちに人影が!』

『そういう設定なので、大丈夫ですよ?』

『ウミさんの役目はもう終わったので。』

 

 彼女の露骨すぎるばっくれようが、脳裏に蘇る。

 どうしてここまで、ドッキリやら仕掛け人やら、手はずやら設定やら役目やら、ポロポロ言えるものなのか。ウッカリなんてレベルじゃない。普通なら意図してやらない限り……いや、意図してやってもこんなにボロは出せない。でも、きららちゃんは意識せずにやってのける。もはや才能だ。

 

 

 どうせ彼女のことだ。

 クリスマスパーティー用のプレゼントを買うのに『クリスマス用のプレゼントにぴったりなものを買いに来ました!』って言ったり、ちょっと尋ねられたら『サプライズでプレゼントなんてありません!』って言ったり、直前になって『今からプレゼントを持ってきますのでここで待っててください!』って言うに決まっている。そこにサプライズもクソもない。

 微笑ましいプレゼントとしてはOKかもしれないが、きららちゃんは『サプライズでやりたい』と言ったのだ。手を貸さない選択肢はありえない。

 

 

「すみません、ローリエさん。わざわざお呼びしたのに……」

 

「何を勘違いしてるんだ?」

 

「え?」

 

「無理だろとはいったが、一人ならって意味だ。手伝わないとは言ってない」

 

「そ、それってつまり……!」

 

「ああ。できるだけサプライズになるように全力を尽くそう」

 

「本当ですか! ありがとうございます!!」

 

 

 きららちゃんを味方にして、どこまでサプライズできるのか。

 そんな不安に満ちている俺が差し出した手を、きららちゃんは満面の笑みをして両手で取り、包む。

 ここに、サプライズ作戦のチームが完成した。

 

 

 

 さて、きららちゃんと同盟を組めたことだし、まずは彼女から何をするか、どのような作戦で行くかを聞き出さなきゃな。

 

「さて、きららちゃん。サプライズとは言ったが、具体的にどうするつもりなんだ?」

 

「あ、はい。実は、明日皆のプレゼントを買いに出かける予定だったんですよ」

 

「なるほどな。誰に何のプレゼントを買うつもりだったんだ?」

 

「まず……ランプには、栞を。マッチには、専用の蝶ネクタイを。クレアには、髪飾りを。ライネさんには、新しい鍋敷きを。カンナさんには、筆記用具を。コルクには、計算機を。ポルカには、熱に強い団扇を。当日来てくれたクリエメイトの皆さんには、お菓子をプレゼントする予定です!」

 

「結構買うな。アテはあるのか?」

 

「はい。コルクさんのお店がありますので。」

 

「………」

 

 

 早速穴を見つけたんですけど。

 コルクの店で全部買おうものなら、コルク本人にそれを見られる。そこから、サプライズがバレるとは思わないのだろうか。

 

 

店主(コルク)にバレるぞ。というか、コルクへのプレゼントをコルクの店で買うのか……?」

 

「えっ………あっ! そ、そうか……」

 

「嘘でしょ、そこまで考えてなかったの?」

 

「は、はい……」

 

 何というか、きららちゃんは隠し事をしてるととことんポンコツになる気がしてきた。

 

「あー……まぁ、安心しろ。言ノ葉の都市になら、きららちゃんが買いたいものは全部揃ってる」

 

「本当ですか!」

 

「ああ。髪飾りとか電卓とか、あと宴会芸用の蝶ネクタイなんかも俺が作って流行らせたからな」

 

 コレでなんとか、コルクにサプライズがバレるという事態は避ける事ができた。

 だが、まったくもって安心出来ない。

 都市だと、ランプやアルシーヴちゃん、ジンジャーを始め、ハッカちゃん以外の八賢者と鉢合わせる危険性がある。もしかしたら『コール』中のクリエメイトもいるかもしれない。もしそうなった時に、きららちゃんに何か聞かれたら、サプライズとしてはオシマイだ。

 

 だから、先に手を打たせてもらう。明日、アレを持ってくるとしますか。

 

 

 

 

 

 翌日。

 言ノ葉の都市の中心部・噴水前、温かさと見た目を兼ね備えたハイカラな格好のいわゆる「シティーボーイ」となった俺は、待ちぼうけを食らった彼女持ちの男のようにベンチに座り込んだ。12月の風とが身に染みる。

 そうして数分ぼーっとしていると、こちらに向かって星型の髪飾りでツインテをつくった少女がやってくる。

 

「お待たせしました!」

 

 きららちゃんだ。いつもの魔導士のローブ姿ではなく、ベージュのレディースコートにモコモコな手袋、耳当てと温かい格好に身を包んでいる。

 

「大丈夫。こっちもさっき来たところだ」

 

「そうなんですね。では、早速行きましょう!」

 

「待ってくれきららちゃん。飴ちゃんでも食べるか?」

 

「わぁ、ありがとうございます!」

 

 俺は、真っ赤な飴玉をきららちゃんに食べさせようとする。

 

「はい、あーん」

 

「え?」

 

「ほら、あーんだよ、あーん」

 

「え、えっと………あーん」

 

 チョロい。

 俺が差し出した飴玉を見事に口にしたきららちゃんは、しばらく飴玉の甘さを堪能している。これで下準備は完了。

 

「な…なんだか恥ずかしいです……」

 

「気にすんな。この時期、どこもかしこもこんなムードさ」

 

 さて、買い物と行きますか。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 まずきららちゃんは、ランプの栞とカンナの筆記用具を買うために文房具屋に来ている。そこでは、パステルジュエルを削ったものをちりばめたカラフルな栞や金属で動物や魚の形をかたどった特徴的な栞、また多種多様な筆記具などを取りそろえてある。きららちゃんなら、これまでの旅の相棒やお世話になった建築家のお気に入りを決めることができるだろう。

 ちなみに俺は、「サプライズがバレないように別行動を取ろう」ときららちゃんに言って別れておき、隣の本屋で本を見ているフリをしながら、きららちゃんの様子を見ている。万が一、誰かに話しかけられた時に、一応()()はしているが、念には念をというやつだ。

 

「あら、きらら。何を見ているの?」

 

 きららちゃんに話しかけてきたのは、黒髪を細いツインテールにした少女。

 クリエメイトの小路綾だ。

 アヤヤの危険度は低め……といったところか。『きんモザ』の中では彼女は常識人だし、隣に陽子もいないから夫婦漫才が始まって暴走する危険性もない。

 

「綾さん。栞を見ていたんです。」

 

「何のために?」

 

 さて、アヤヤが栞を見ていた理由を聞いてきたな。

 ()()()()()だ。

 

自分用ですよ。私、本を読むんですけど、栞一枚も持ってなかったなって思って。」

 

「? あら、そうだったの。意外ね。」

 

「??? え、えーっと……??」

 

 突然、きららが混乱しだす。自分の口を抑え、はたから見ても分かるように動揺しだした。

 

「……なにやってるのよ? まあいいわ。じゃあね。」

 

「え、あ、はい……またこんど……??」

 

 きららちゃんは、わけもわからないまま急いでいるであろうアヤヤを見送った。

 しきりに自分の口を気にしている。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのようだ。

 まぁ……当の本人にとっちゃ、わけもわからなくなるだろう。なにせ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 飴玉型変形取付魔道具・嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)

 俺がお遊びで製作した、飴玉のような形と甘味でカモフラージュされたこの魔道具は、誰かの口の中に入ると、飴玉が溶けたフリをして舌に取り付き、その人に思ったことと逆のこと―――つまり嘘を言わせる、という強烈な効果を持つ魔道具である。舌と同化する迷彩色を持つため第三者からの目視は困難で、解除するには、持ち主が「とある合い言葉」を言う必要がある。要するに某イタリアンギャングのスタ〇ド能力みたいなものだ。

 

 きららちゃんがどこまでも嘘をつけないことは知っている。それは立派な美点なのだが、サプライズやドッキリにはまるっきり向いてないのが欠点だ。

 だったら、罰ゲーム用の魔道具で喋れないようにするか? いや……それだと限界がある。できるだけ自然に……かつ、サプライズがバレないようにしなきゃならない。そこで登場するのがこの嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)だ。

 

 買い物を始める前にきららちゃんに食べさせた赤い飴ちゃんが、その魔道具だ。つまり今、きららちゃんの舌にはこの嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)がくっついているのだ。事前に言わなかったのは、余計なトラブルを回避するための合理的虚偽。今の彼女は、うっかり「サプライズプレゼントを探している」と言うことはできないし、それに関連した本当のことも喋れないようになっている。

 

 

「ローリエさん、さっきの綾さんとの話なのですが……」

 

「問題ない。次の店に行こう。」

 

 

 栞と筆記用具を無事買ったきららちゃんは会話の異変に気付き始めたが、サプライズの用意がバレない為にも、俺はさっさと次へ行くことを提案した。

 

 

 

 

 

 次にきららちゃんと俺は、蝶ネクタイと髪飾り、電卓と団扇を買うために雑貨屋に来ていた。大きめの雑貨店のため、きららちゃんが目的のモノを探している間、近くのコーナーで買うものを探すフリをする。

 

「えっと……電卓と髪飾り、うちわはオッケーだから………あとは、蝶ネクタイ、蝶ネクタイ………」

 

「…………。」

 

 きららちゃんの声が聞こえてくる。

 何というか、この買い物の最後までサプライズを隠し通せるか心配になってきた。そうやって買うものを呟いてたら察しの言い奴に気づかれるぞ。常にフォローに回るように動いて正解だったな。

 

 

「きらら! こんなところで何をしているのかしら?」

 

「あっ、メリーさん、勇魚さん! こんにちは。」

 

「きららちゃん、こんにちは。」

 

 

 おおっと、ここでまたきららちゃんに話しかける人物が現れたか。隣のコーナーからチラリと声のした方を見る。そこにいたのは、夢魔メリー・ナイトメアと(たちばな)勇魚(いさな)だ。

 勇魚は兎も角、メリーの危険度は少し高めだろう。彼女は聖典(漫画)『夢喰いメリー』の主人公の一人にして、藤原(ふじわら)夢路(ゆめじ)と共に数々の戦いを潜り抜けてきた猛者だ。並みの人間以上の身体能力や観察眼の前では下手な誤魔化しは逆効果になりかねない。

 

「アンタも宴会芸の小道具を買いに来たの?」

 

「『も』?」

 

「実は私達、クリスマスパーティーでちょっと、ね。」

 

「あんま言わないでよ勇魚。本番までのお楽しみがなくなっちゃうじゃない。それで、きららは何を買いに来たの?」

 

 メリー達はクリスマスパーティーで何か行うようだ。こちらも、クリスマスパーティーのプレゼントの用意なのだが、嘘をつかせていただきますよ。きららが。

 

「色々と。おおかた見つけて、あとは蝶ネクタイを探している所なんです。」

 

「へぇ、何のために?」

 

自分用です! ……え?」

 

「自分用? つまり、一発芸か何かで使うってことかな?」

 

はい、そうなんです。………???」

 

 

 相変わらず、きららちゃんは自分の口が勝手に嘘をつく現象に慣れていないようだった。

 だが、慣れてほしい。もしきららちゃんの「自らサプライズを暴露していくスタイル」に付き合っていたら、彼女の「サプライズでプレゼントを渡したい」という願いが叶えられないからだ。

 きららちゃんのこれでもかというほどの嘘に、勇魚もメリーも不思議そうな顔をしている。

 今のでバレるか………?

 

 

「どうしたの、きらら? 口ばっかり押さえて」

 

 メリーが首を傾げてそう尋ねるが……きららちゃん、そんなことをしていたら怪しまれるよ。

 嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)には欠点がいくつかある。その一つが、『対象の行動までは完璧には操れない』ということだ。例えば筆談であったり「あっちにだれそれがいるぞォーッ」って指をさす場合は筆談内容や指をさす方向を変えることはできるが、表情や口を押さえるといった『真偽のはっきりしない行動』に干渉することはできない。

 だが、多少怪しまれた所で問題ない。きららちゃんが次に口にすることは容易に想像できる。

 

 

「メリーさん、私はいつも通り至って普通ですよ。だって、思ったことがそのまま口に出るんですから! …………?」

 

 

 それは、言動の違和感をそのまま訴えること。

 嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)には欠点があるとはいえ、「思ったことと逆のことを言葉を言わせる」点だけは確かなのだ。だから……

 

『さっきからなんかおかしいんです。だって、思ったことと逆のことが勝手に口から出るんですから』

 

といったきららちゃんの言葉の方向性を、ここまで真逆にすることなどわけないのだ。

 

 きららちゃん、今は作戦中だ。必ずサプライズを隠し通してみせようぞ。

 

 

「い、いつも通り、思ったことが口に出る……?」

 

「何を言ってるの? それ、当たり前のことよ?」

 

「えっ!? えーっと………そ、そうですけど、そうじゃなくて……」

 

 

 きららちゃん、弁明しなくていい。早くプレゼントを買ってしまえ? 頓珍漢な嘘で勇魚が混乱し、メリーがちょっと呆れている今がチャンスだぞ?

 

 

「疲れてるなら、とっとと帰って休みなさい。いいわね。」

 

「メリーさん、分かりました。そうさせていただきます! ………あれぇ?」

 

「お大事にね、きららちゃん。」

 

 

 メリーが忠告し、勇魚が心配しながら立ち去った。

 はぁ、危なかった。ちょっと怪しまれたけど、この調子なら最後まで上手くいきそうだ。

 隠れていた隣のコーナーから姿を現し、きららちゃんと合流する。

 

 

「あ、あの、ローリエさん!」

 

「なんだ?」

 

「やっぱりおかしいです!」

 

「なにがおかしいのさ? ここまで、買うべきモノは順調に買えてるだろう?」

 

「そこじゃないです! メリーさんと勇魚さんとの会話です! 綾さんとの会話もおかしかったし!」

 

 やはり、違和感には気づくか。でも、まだ教えることはできないな。

 

「なにがどうおかしかったんだ?」

 

「さっきから思った通りのことを喋れる……………えっと……」

 

「何だ、いつものきららちゃんじゃあないか。きららちゃん、()()()()()()()()?」

 

「うう……確かにランプやマッチからそう言われたことありますけど………」

 

「さて、後は鍋敷きとお菓子だっけ。織物屋の方が近いから、先にそっちへ行こうか。」

 

「は、はい………」

 

 

 全く納得のいってない様子のきららちゃんの手を取り、俺達はライネさんへのプレゼントを買うために次の目的地まで歩いていく。

 

 

 

 

 

 俺達が織物屋に着くとそこには店主の他に、既に先客がいた。

 

 

「あれ、きららに……ローリエさん? 珍しい組み合わせだね」

 

「桃さん、こんにちは!」

 

「よ、桃ちゃん!」

 

 

 魔法少女の千代田桃だ。

 最近、きららがコールに成功した、聖典(漫画)『まちカドまぞく』の世界の住人である。

 桃は、戦いの後にほつれた服を直していた影響で、裁縫は得意なのだ。

 会計が済んだのであろう、何かが入った袋を持っている。きっとシャミ子かミカンに送るものを自作するために必要なものを買いに来てたのだろう。

 

「桃ちゃんは何を買いに来たの?」

 

「裁縫道具の補充に。お二人は?」

 

「俺達は完成品に用があるんだ。いいデザインのがあればいいんだけど……」

 

「………! あ、そうだローリエさん、一緒に行動しましょう、マンネリと分かるように。 ……うーん」

 

 きららちゃんがまた頓珍漢な嘘をつく。おおかた『サプライズだとバレないように別行動しましょう!』とでも言うつもりで、真逆の事でも言おうとしたのだろうが、そんな小手先の手段で俺の嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)を破れると思うたか。

 つーかサプライズがバレないように動いていることを自覚しろってーの。桃が目の前にいるのにそんな事を言おうとするなし。大義を見失って貰っては困る。

 

 

「………?? きららは何を言ってるの? なんかおかしくない?」

 

「気にすんな、桃ちゃん。いつもの事だろう?」

 

「何を言ってるんですかローリエさん! まるで私がおかしな子みたいじゃないですか!」

 

「いや、そうじゃなくて。何か声か…しゃべり方?そういうのが変……とまではいかないけど、いつもとは違うなって。」

 

「「っ!!?」」

 

 ヤベェ。この桃色魔法少女、思ったよりも鋭いぞ!?

 あまりに鋭く切り込んでくるから、一瞬心情がシャミ子に寄ってしまった。どうしよう。

 

 

「そ、そうか…? 今日のきら――」

そんなことありませんよ? いつもこんな感じです!!

 

「…………。」

 

「やっぱり、何か違和感がある。風邪かな?」

 

「……!」

 

 完全に終わったと思ったが、桃は風邪だと思い込んでいる。思わぬ誤算だが、利用しない手はない。

 きららちゃん、後で償いはいくらでもするから、今だけは許してくれよ。

 

 

「そう……かもしれない。きららちゃん、ちょっといいか?」

「えっ?」

 

 返事を待たずに近づいておでこで熱を測る―――のはちょっと恥ずかしいので、両手で熱を測る。

 

「あの、私、熱なんてあり――」

「静かに。サプライズ、成功させたいんだろ? なら今桃ちゃんにバレるのは良くない」

「でも、ここまでしなくても――」

「いいから。……俺を信じてくれ」

 

 

 きららちゃんの言葉を遮り、彼女にしか聞こえないように囁く。それで納得がいったのか、きららちゃんはそれ以降反論することはなかった。

 そして熱を測るフリをして、きららちゃんから離れると、桃にも聞こえる音量でこう言った。

 

 

「熱自体はないみたいだ。のどにでも、問題があるのかな?」

 

「なら、風邪の引き始めかもね。気を付けたほうがいいよ、きらら。」

 

「えっと……分かりました。気を付けますね。風邪ひいてますけど

 

「引いちゃ駄目なんだって。じゃあ、お大事にね。」

 

「じゃーねー、桃ちゃん!」

 

 

 俺たちに手を振って、桃は帰っていく。その表情は、ちょっときららちゃんを心配しているようでもあった。

 危なかった。もし、桃にきららちゃんに仕込んだ嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)の事がバレたら、裁かれていたかもしれない。サバのように…。

 

 

「………行ったか。さて、鍋敷きを買うとしますか……きららちゃん?」

 

「………。」

 

 

 桃が離れたところを見計らって俺は織物屋の奥に入ろうとするが、きららちゃんは動かない。

 よく見ると、きららちゃんは罪悪感のにじみ出る表情で、桃が立ち去った方向をずっと見続けている。

 

 

「……きららちゃん」

 

「あ、はい! …なんですか?」

 

「…そんなに、嘘をついたのが嫌だったか?」

 

「………っ」

 

 

 きららちゃんが俯く。

 サプライズを隠し通すためとはいえ、ちょっと嘘をつかせすぎたか。

 彼女のリアクションで俺はようやく分かった。

 

 彼女は、嘘や隠し事がただヘタクソなだけじゃあない。純粋に仲間を信じることが…人の持つ善なる部分を信じることができるのだ。だから…仲間を騙したり、裏切ろうとすることができないんだ。だから……嘘や隠し事が全くできないのだ。

 

 

「きららちゃん……俺は、謝らないといけない。今、君の身に起こっている現象を引き起こしたのは間違いなく、俺だ。」

 

「……やっぱり、ローリエさんの魔道具だったんですね。始めに食べさせてくれた、飴ですか?」

 

「そうだ。詳しくは買い物がすべて終わった後に話すが、君に説明も許可もなく、騙すような形で魔道具を取り付けたことを、謝らないといけない。すまなかった」

 

「どうして、そんなことを?」

 

「きららちゃんが隠し事が全くできないのは知っていた。そんな君から、サプライズをしたいと頼まれた時に最も必要だと思ったんだ。何も聞かせずに食べさせたのは、事前に説明したらそれをそのまま誰かに話すと思ったからだ。」

 

「そう………ですか。そんな気はしていたんです。」

 

 ……?

 つまり……きららちゃんは自分が嘘や隠し事がびっくりするほど苦手だってことを知っていたのだろうか?

 

「どういうことだ?」

 

「私は……サプライズやドッキリなんて、できない人なんじゃあないかって思ってたんです。」

 

「!!」

 

「オトヒメさんのドッキリアトラクションで案内役をしたあとで、マッチがランプに話しているのを、たまたま聞いてしまったんです。」

 

 

『ランプ、アトラクション試遊のフィードバック、読んだよ。』

『どうでした?』

『うん……大体は高評価だったけど……』

『けど?』

『胡桃の意見に書いてあった、この「案内役がネタバラシをどんどんやってた」って意見が気になるかな。』

『案内役って、確か……』

『きららだよ。彼女、嘘とかつけない人だから心配してたけど……まさかドッキリだってすぐにバラしてたなんてね。』

『マッチ!!! きららさんがいない所でそんなことッ――!!』

『待ってくれ、非難したいわけじゃあない。でも僕も知らなかっただけなんだ―――』

 

 

「だから……みんなを驚かせたかったのかもしれない。私だって、サプライズできるんだーって。」

 

 そんなことがあったのか。そんなことを聞いてしまったら、発言者の意図はどうあれ、気にしてしまうに決まっている。とりあえずマッチ、お前は後で魔法実験台の刑に処してやる。

 

 きららちゃんのその表情は、笑顔を繕っている―――いや、繕おうとしているが、悔しさがにじみ出ていて、まったく誤魔化せていない。そのせいで、自嘲気味な笑いになっている。こんなところまで誤魔化しがへたくそな彼女の表情に、なぜか俺は急に罪悪感に襲われた。

 

 

「でも……嘘をつくのも、なんか嫌でした。さっきメリーさん達や桃さんに心配されたこともです。本当に元気で、風邪も引いてないのに風邪を引いたって言ってしまって……まるで、三人を騙してるみたいでした。」

 

「………それは100%俺が悪いわ。マジでごめんよ」

 

「いいんです。私は、嘘をつくことを、覚えなければいけないんでしょう。それが、サプライズを成功させることに繋がるから……」

 

 

 繋がらないよ。

 そんな大袈裟に覚悟を決めないでくれ。頼むから、普通に「ローリエさんに変なもの食べさせられたー!」って言ってくれない?

 これ以上きららちゃんが変な方向に歪まないように、修正しなければ。

 

「それは違うぞ」

 

「違う、って……?」

 

「サプライズを成功させることが目的だろ? 嘘をつけるようになることが目的じゃあない」

 

「!!!」

 

 

 俺の言葉できららちゃんは目を見開く。

 

 

「それに俺は……嘘がとんでもなく上手な人より、素直な子の方が好きだ。」

 

 俺の思いをそのまま伝えると、きららちゃんは、自身の暗雲が晴れたのか、さっきの自嘲的な笑いが嘘であるかのように笑う。冬の寒さのせいか、顔がほんのり赤い。

 

 

「ありがとうございます、ローリエさん。

 ……そうですね。確かに私は、そう頼んでたんでした。」

 

「さ、中に入るぞ。ここで鍋敷きを買ったら、あとはお菓子だけだ」

 

「はい!」

 

 俺たちは、二人でライネさんが好むであろうデザインの鍋敷きを選び、会計を済ませた。

 

 

 

 

 織物屋を後にして、お菓子の店が見えてきた時、後ろから声をかけられた。

 

「ローリエ! やっと見つけた…!」

 

 ソラちゃんだ。封印が解かれた後もはたまに神殿を抜け出したり、別世界の観測&記述をしたり、きららちゃんとランプをお茶会に呼んだりしている。

 

「あ、ソラ様!」

 

「きららちゃんと一緒だったのね。」

 

「あぁ。どうしたんだ、ソラちゃん?」

 

「ちょっと二人で話したいことがあるの。付き合ってくれないかしら?」

 

「……悪いけど、きららちゃんの先約があるんだ。日を改めてくれないか?」

 

「……ほんの数分で終わることなの。お願い。」

 

「…………きららちゃん、先に行っててくれ。ソラちゃんが手短に済ませるみたいだから」

 

「分かりました。じゃあ、先にお菓子屋さんに行ってきますね。」

 

 きららちゃんがお菓子屋に歩いていくのを見送った後、俺はソラちゃんに話しかける。

 

「……それで、なんの用なんだい?」

 

 俺の言葉に、ソラちゃんはなんでもないように尋ねる。

 

「ローリエって、欲しいものとかある?」

 

 ……その質問は、クリスマスプレゼントのことを訊いているのだろうか?

 時期も相まって、あまりにも露骨すぎるその質問は、裏があるんじゃないかって思うほどだ。

 だから、適当にはぐらかして早くきららちゃんと合流するとしますか。

 

 

「……そうだな―――」

 

「言っておくけど、『体にリボンを巻くだけでいい』とか言って、私や他の女の子をねだるのはナシよ。現金も夢がないから駄目。準禁忌の魔法(ブラズーレやルカニャン)の解禁も私一人の一存じゃ行えないし、『何でもいい』が一番面倒なの知ってるでしょ」

 

「………なんで誤魔化しのレパートリーを全部知ってんだよ」

 

「何年幼馴染やってると思ってるの?」

 

 どうやらこの幼馴染も、俺が彼女を知っているように、俺のことはだいたい分かっているようだ。

 仕方がない。

 

「ソラちゃんが好きなものをくれないか?」

 

「………そんなことを、色んな人に言うからダメなのよ、あなたは」

 

「ンなこと言われたって、思いつかねぇんだよ。形になるものなんて、その気になれば大方作れるしなぁ」

 

「でも、人から貰ったものって、思い出に残るものよ。ローリエは何でも作れちゃうけどさ、たまには、こういうのもいいんじゃないかしら?」

 

「……そうかな。」

 

「引き止めてごめんね。それじゃ、クリスマスを楽しみにしててね!」

 

 そう言うと、ソラちゃんは走っていってしまった。

 俺は、彼女の言葉を反芻する。

 

「『人から貰ったモンは思い出に残る』……かぁ……」

 

 確かにそうかもしれない。思えば、俺は必要なものは全部自作していた。

 パイソン&イーグルの二丁拳銃に始まり、ルーンドローンやル○バもどき、トランプとか将棋に至るまで。エトワリアは、俺が転生前に住んでいた日本よりも不便だったのだ。まぁ、それはそれで良いところもあったりするのだが、どうも日本で培った便利な生活観が足を引っ張っている節がある。早いところ、改めないとな。

 

 これ以上きららちゃんを待たせるわけにはいかないなと思い、早足で駄菓子屋に行くと。

 

 

どーぞ、どーぞ! ぜひ全部見ていってください!

 

「あ、ああ……だから、今から見ようとしているのだが………きらら、何故抵抗するんだ?」

 

「きららさん、言葉と行動が完全に矛盾してますけど………」

 

「……………」

 

 

 店先には、袋の中を見ようとしているアルシーヴちゃん、それに抵抗するきららちゃん、見たまんまの状況に呆れかえるソルトがいた。俺はその光景に顔を覆った。

 

 

 

 

 ……結論から言おう。

 バレた。バレてしまった。

 終わった。今度こそ何の誤魔化しも効かないくらいに、しっかりと終わった。

 

「…成る程。道理できららの言動が不自然だったわけだ……」

 

「ごめんなさい、ローリエさん……私が誤魔化せなかったばかりに……」

 

「いや、きららちゃんは悪くねぇよ。ソラちゃんの話を切り抜けられなかった俺の落ち度だ……」

 

「全くです。無許可で魔道具食べさせるとか正気ですかあなたは」

 

 辛辣なソルトの正論に俺となぜかきららちゃんもこれから尋問を受ける犯罪者のように縮こまってしまう。

 

「とりあえず、きららに付けてる魔道具を戻せ、ローリエ」

 

「はいはい………『戻れ、トーキングヘッド』」

 

「んぶぅ!!?」

 

 若干津田健さんのモノマネをしながら合言葉を言うと、きららちゃんの口から赤いものが飛び出した。

 ソレは、ナメクジのような姿で、一本釣りされたマグロのように1、2秒ほどピチピチしたかと思えば、もとの真ん丸の飴玉の姿に戻った。

 

「………もう少しビジュアルを何とかしろ」

 

「G型よりマシだろ?」

 

「アレは最底辺だ馬鹿者。口から飛び出すところといい魚のような動きといい、コレも十分気持ち悪いわ」

 

 アルシーヴちゃんにそう言われて残り二人の顔をうかがうと、きららちゃんは青い顔で、ソルトも引きつった顔を真顔に装って頷いていた。

 今度は鳥山先生作のスライム顔でもつけてみるかな。

 

「それで? 何故、この様なキモイ魔道具をつけてたんですか?」

 

「あぁ、それはだな………」

 

 俺の魔道具をディスったソルトに若干イラっとしながらも、話を円滑に進めるために全部教えることにした。バレてしまった以上正直に話すほかないし、そうなったらなったで口止めすりゃいいだけだ。

 

「「はぁ…………」」

 

「あ、アルシーヴさん? ソルトちゃん?」

 

 二人揃ってため息をつかれた。なんだよ、何か問題あるのか?

 

「問題大ありだ。何故、二人きりでやろうとする」

 

「え、だって、サプライズですよ? バレたら意味がなくなるってローリエさんが」

 

「おいきららちゃん。最初にサプライズしたいって言ったのは君だろう」

 

「そうではありません。何故、ソルト達を頼ろうとしないのですか」

 

 ソルトの意外な言葉に俺達二人は面食らう。

 

「ど、どういうことですか??」

 

「あなた達はいつもそうです。二人とも、誰かを頼ることに躊躇してしまう。特にローリエ。あなたの方がその傾向が強いです。」

 

 ぐうの音も出ねぇ。現にきららちゃんのサプライズも俺一人でサポートしたし。

 

「でもよ、俺達のことは、ソルトやアルシーヴちゃんには関係ないことだろう?」

 

 とはいえ黙るわけにもいかずそう返すと、アルシーヴちゃんは軽く手を上げる。

 

「そう言うな。実は私達も、()()()()で買い物に出ていたのだ。」

 

「ある目的?」

 

「お前たちと()()だ。」

 

「同じって……?」

 

「少し提案があるのだがな………」

 

 そう笑うアルシーヴちゃんが出した提案に、俺ときららちゃんは迷わずOKを出した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 アルシーヴちゃんの提案に乗ってから数日。

 とうとうきららちゃんが待ちに待ったクリスマスパーティの日がやってきた。

 きららちゃんはミニスカが特徴的なサンタ服に、俺は白いシルクハットにタキシード、モノクルに申し訳程度のサンタ髭というアルセーヌ・ルパンばりのコスプレに着替え、現在二人揃って外で待機中だ。

 

 今回のパーティ、俺ときららちゃんはわざとパーティに遅れて、会場内が停電になったタイミングに突入、復旧した瞬間に盛大にプレゼントをする、という手はずになっている。

 無論、きららちゃんは計画を喋るに決まっているのでその朝再び嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)を無理矢理食べさせておいた。彼女は嫌がったが、受けた仕事は最後までやるのみだ。最後の最後でサプライズがバレてたまるか。

 

『い、いや! 絶対に嫌です!!』

『………ビジュアルは改善した。見ろ、この愛くるしいスライム顔を』

『……いや、改善になってないような…というか、私はこんなものに頼らなくても――』

『誤魔化せるって? 悪いけど、今までの君の言動からしてコレは絶対に必要だ。なんなら根拠を解説付きで全部説明してやろうか?』

『うっ………』

『……別に嘘がつけないことが悪いことじゃあないんだ。ただ、今回に関してはちょっと不利だってだけなんだ。』

 

 説得の様子が思い出される。

 あの時ほどきららちゃんに申し訳ないと思ったことはない。だからきららちゃんよ、顔を若干赤くしながら、涙目でこっちを睨まないでくれますかな。俺はただ魔道具を食べさせただけなのに、性的にヒドいことをしたかのような罪悪感に苛まれる。

 

 

「さぁ、準備はいいか?」

 

「……ええ、もう口に魔道具もありませんしね」

 

「悪かったって」

 

 どんだけ根に持ってるんだよ。仕方ないけどさ。

 そんなやりとりのうちに、もう一人の仕掛け人とも合流する。

 

「ローリエ、きらら、いけるか?」

 

「はい、アルシーヴさん」

 

「あぁ、モチロン。ソルトは?」

 

「そろそろ準備が終わる頃だろう」

 

 そう。アルシーヴちゃんだ。露出の多めなサンタ服がよく似合っている。

 アルシーヴちゃんの提案。それは―――『きらら達とアルシーヴ主催のクリスマスパーティを合同で行う事』だった。そして、きららちゃんのサプライズの仕掛け人にアルシーヴちゃんとソルトもなってもらう。それが、あの時に彼女が提案したことであり、俺ときららちゃんが賛成した作戦でもあった。

 

 つまり……今、会場になっているライネさんの食堂には、ランプやクレア等の里の住人やクリエメイトの他にソラちゃんやソルトと俺を除いた八賢者がいる。結構広いからスペース的には問題ないとはいえ、仲良くしてるといいのだが………

 

 

『アルシーヴ様、こちら、準備整いました。いつでもいけます。』

 

「よくやった。では、作戦開始だ、二人とも!」

 

「おう!」「はい!」

 

 

 アルシーヴちゃんが持ってた無線(俺作)に、ソルトからの連絡が入った。

 作戦、開始だ。

 

 食堂の窓から漏れ出ていた光が、一斉に消えた。

 それと同時に、俺たちは扉を開け侵入。

 動揺する声、悲鳴、ブレーカーを探せと指示する声が会場内に響く中、人の隙間をスルスルと走っていく。

 

 二人は見つかりにくい脇の方へ、俺は人目の集まる簡設ステージの上に立ち、小型のルーンドローンのスポットライトで自身を照らす。

 

 

 

「レディ~~~ス、エ~~~ン、ジェントルメ~~~~~ン!!!」

 

 

 

 声色を某泥棒三世風に変え、高らかに宣言し、会場内の視線を独り占めする………はずが。

 

 

「だ、誰だお前は! 怪しいヤツめ!」

 

「動かないでください。動いたら撃ちます」

 

「何だか知らないけど、アタシ達のパーティの邪魔はさせないわ!」

 

「ここに乗り込むたぁ、いい度胸じゃねーか?」

 

「動くなかれ」

 

 

 何も知らないクリエメイトと賢者達に囲まれた。

 リゼちゃんが、桃が、メリーが、ジンジャーが、ハッカちゃんがそれぞれ武器をこっちに向けている。

 

 ヤベェ。ここまで来て、逃げたらサプライズが台無しに…………

 …………いや、待てよ?

 この状況、いける。

 

 

「俺ぁアルセーヌ・ルパン。ここにきたのはプレゼントのためだ」

 

「プレゼント……?」

 

「あんま近づくとヤケドすっぜぇ?」

 

 

 マントを翻すと、囲んでいた5人が全員目を見開く。

 当然だろう。マントが裏がえったそこに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだから。

 

 

「しっかり食らいな」

 

「みんなっ、逃げ―――」

 

 

 ジンジャーが指示を出そうとした瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンッ!パンッ!パパパパパッ!パンッ!パパパパパパパパパパパパパパパッ!パパンッ!

 

 

 

 

 

 

 会場に、紙吹雪が舞った。

 

「ハーッハッハッハッハッハッハッ!! メリークリスマス!!! 俺達のサプライズだ!!!!」

 

「「「「「「「………………へ?」」」」」」」

 

 サンタ髭とモノクルを取って素顔を晒した俺の高笑いに、皆はしばし言葉を失い、それは端からサンタ姿のきららちゃんとアルシーヴちゃんが出てくるまで続いた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 その後、きららちゃんとアルシーヴちゃんの説明で、さっきまでの侵入者がドッキリの演出であったことを知ったクリエメイトや参加者達は、本当に様々な反応を示してくれた。

 

 

「なんだ、不審者じゃなかったってことか………」

「リゼ、落ち込んでない……?」

「リゼさんだけじゃありません。『妹たちを守ろう』って張り切ってましたね、ココアさん?」

「そうだったねーココアさん」

「言わないでー!」

 

 何だよ、驚かせやがって! と言わんばかり落ち込んだり一息ついて安心する子たち。

 

「なによ、ただのドッキリだったの? つまんないわね、本物の不審者ならアタシがとっちめたってのに」

「そう言わないで、メリーちゃん………!」

「これがサプライズってやつか。悪い奴をぶちのめすのも悪かねーけど、こういうのも良いな! ワッハッハ!!」

 

 本物の不審者もドンと来い! と大笑いする子たち。

 

「桃、停電は……さっきの怖い人は……?」

「ドッキリだって、シャミ子。はいこれ、お菓子」

「うぅぅぅぅ……これで勝ったと思うなよ……でもお菓子はいただきます…」

「ひぃぃぃぃぃ………ウチ、ほんまにもう無理……」

「ドッキリだってば、ユー子…」

 

 怖がってしまった子たち、それを慰めている子たち。

 

「これがランプ。マッチはこれね。コルクさんとポルカさんがコレとこれで……」

「これは…栞!? きららさん、ありがとうございます!」

「いいプレゼントだね。ありがとう、きらら。」

「感謝する。ありがとう。」

「おれのもあるのか!? ありがとな、きらら!」

「それで……あれ? あとは…どれが誰へのだったっけ??」

「きららちゃん、手伝おうか?」

「あ……ライネさん、すみません。ありがとうございます。」

「いいのよ♪」

 

「こっちはシュガー、こっちはセサミ。ハッカのはこっちだ」

「ありがとーございます!」

「私まで、いいんですか!?」

「アルシーヴ様、感謝感激。」

「あああああ、アルあるあるあるアルシ、シーヴ、アルシーヴさ、ままままままま」

「落ち着けフェンネル、ほら」

 

 ちょっとぎこちなくプレゼントを配るサンタきららちゃんとテキパキ配るサンタアルシーヴちゃんのプレゼントに喜ぶ子たち(約一名ほどサンタアルシーヴちゃんからプレゼントを貰って感情がオーバーフローしてるヤツがいたけど無視だ無視)。

 

「ローリエさん、でしたよね!? さっきのアルセーヌ・ルパン、凄かったデース!! 良ければ、サインをくれまセンか?」

「か、カレン……! そんなグイグイ行ったら…!」

「それくらいならお安い御用だ。カレンちゃんだけでいいのかい?」

「ほら! アリスも貰っちゃいましょうよ! シノとアヤヤもどうですか~?」

「はい、アリスとカレンが貰うのでしたら!」

「わ、私、陽子を探してくるわ!」

 

 中には、ルパンを演じた俺にサインをねだってくる子たちもいた。

 色んな表情をしているとはいえ、みんな間違いなく楽しんでいる。

 

 ひふみんがコウとりんと三人で静かにお酒を飲んでいる隣で、あおっちがシャンパンで小悪魔になったのか、ねねっちとほたるんにじゃれかかっている。

 千矢ちゃんと(かむ)ちゃんと宮ちゃんが一心不乱にごちそうを美味しそうに食べ、それを紺と栄依子(えーこ)とゆのっちが見ながら談笑している。

 カレンが俺から借りたシルクハットをかぶり、ルパンの演技をして、それを見たシノや陽子がやんややんや、ヒューヒューと騒いでいる。

 メリーと勇魚が、鼻メガネとその他諸々の小道具を使って漫才をしている。舞台端を見れば千夜ちゃんが、いつの間にラパンの衣装を着せたシャロちゃんの背を押し、次の演目に彼女を入れようとしている。

 

 こんな光景が目の前で起こることなど、どうして想像できただろうか?

 ここまで賑やかで、見ているだけで楽しくなるクリスマスは()()()()初めてだ。

 それもこれも全て………

 

「ローリエさん。今回は本当にありがとうございました。」

 

 俺にお礼を言っている、きらら(この子)のおかげだ。

 

 

「お礼が言いたいのは俺の方だ。

 見てみろよ、パーティの参加者を」

 

「えっ?」

 

「今、目の前にいる人達は、きららちゃんが呼びだし、戦い、勝ち取ったり、絆を繋げたりした結果ここにいるんだ。パーティがここまで盛り上がったのは、君がいたからこそだ。本当にありがとう」

 

「いいえ。あなたが協力してくださったから、ドッキリが成功したんです。私だけじゃあ、途中でドッキリがバレて、ここまで上手くいきませんでした。」

 

「……ははっ」

「……ふふっ」

 

「あははははっ!」

「ふふふっ……!」

 

 

 お礼を言うつもりだったのに、お互いが変に譲り合いそうになり、つい笑ってしまう。きららちゃんもそれにつられたかのように笑い出す。

 

「何してるんだ、こんな所で?」

 

「アルシーヴさん、ソルトちゃん。二人とも、今日はありがとうございました。」

 

「ああ。二人のお陰だ。本当にありがとう」

 

「気にするな。」

 

「サプライズの企画はお二人です。ソルト達はそれに便乗しただけですので」

 

「それでも、だよ。二人には助けられた。だよな?」

 

「はい!」

 

 

 アルシーヴちゃんやトナカイの付け角をつけたソルトとも合流し、そんな事を話していくうちに、クリスマス・イヴの夜は、楽しく更けていった。

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。マッチはどこだ?」

「? ローリエ、僕に何か用かい?」

「明後日あたりの魔道具の実験に付き合ってほしいんだ」

「ま、待ってよ……そ、それって………」

「安心しろ、実験台だけはない。実験台だけは」

「信用できないんだけど!? 目が怖い!!」

「大丈夫だってビビリだなぁ。別にマッチのさり気ない一言がきららちゃんを傷つけたとかじゃあないしそれに対する報復でもない、実験台なら他にちゃんとした動物がいるしお前を殺す」

「いや最後!! 殺意を1ミリも隠せてないよッ!!?」

「ローリエさん! マッチは悪くないから許してあげてください!!」

「いや、マッチが悪いんだよ」

「程々にしろローリエ」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ローリエ、メリークリスマス」

 

 ローリエときららちゃん、アルシーヴのサプライズはとても驚いてしまった。

 

 突然の停電。

 ローリエの紳士服のコスチュームに演技とは思えない立ち振る舞い。

 二人のよく似合っていたサンタ服。

 アルシーヴからのイヤリングのプレゼント。

 そのすべてにクリエメイトや里のみんな、賢者だけじゃなくて私も、心奪われてしまった。あっという間にパーティが始まり、プレゼントを渡しそびれてしまうかと思うくらいには。

 

 

 宴もたけなわになった頃、私は、楽しそうにはしゃぐクリエメイトたちを、ひとり壁際で眺め、微笑んでいるローリエにこっそり近づく。

 

 

「ソラちゃん。気に入ってくれたかい? 今日のパーティーは」

 

「もちろん。カッコよかったわよ。あのサプライズ。心盗まれるかと思ったわ、アルセーヌ・ルパンさん♪」

 

「……知ってるのか、ソラちゃん?」

 

 

 確か…小説に出てくる、怪盗紳士だったかしら? 日々異世界を観察している女神を甘く見ないことね。

 そんなことを思いながら、ローリエの呆れるような驚くような質問には答えず、持ってきていたプレゼントを渡すことにした。

 赤と緑、金色のクリスマスカラーにデザインされた小包を渡す。

 

 

「これは……?」

 

「貴方へのプレゼント。開けていいわよ」

 

 

 私がそう言うと、「それなら遠慮なく」と包装を解いていく。

 すべての包みを外し、箱を開けると、ローリエはそこにあったものを見て目を見開いた。

 

 

「これは……ブレスレット…?」

 

 

 そう。彼によく似合う、太陽をイメージしたデザインがなされた、赤と金色のブレスレットだ。

 

 

「ローリエにはそのデザインが合うかなって。私はコレね」

 

 

 呆けたままの彼に私は右手を見せる。そこには、星々がデザインされた、紫が上品に使われているブレスレットだ。アルシーヴにも、さっき月のデザインのブレスレットを渡した。

 

 

「星のブレスレット………お揃いってことか」

 

「私だけじゃあないわ。アルシーヴにも月のブレスレットを渡しておいたの。三人でお揃いよ」

 

 

 そう言うと、ローリエの表情がだんだんと笑顔に変わり、太陽のブレスレットを撫で始めた。その撫で方は……大切なものを手に入れることができたかのような、優しい手つきだった。

 

 

「そうか……そいつぁいいな。ありがとう、ソラちゃん。」

 

「思い出に残りそう?」

 

 

 私が前日にローリエから訊いたことを尋ねる。

 気に入ってくれると嬉しいな、と期待しながら。

 どうやら、この様子だと、答えは一つみたいだけど。

 

 

「おいおい。訊くまでもないだろう?

 

 ―――最高の思い出だ。絶対に、忘れやしねぇよ」




キャラクター紹介&解説

きらら&ローリエ
 今回のサプライズを主催した原作主人公&拙作主人公。今回の話を思いついたきっかけが2019年夏のイベント『リュウグウアドベンチャー』にて、きららがネタバレ甚だしい案内をしたことである。アプリでは胡桃とイヌ子がフォローしていたが、拙作ではローリエも参加していたという設定。

アルシーヴ&ソルト
 神殿でのクリスマスで賢者とソラのプレゼントを買いに来ていた筆頭神官と賢者。ローリエときららと合流し、きららの矛盾しきった言動から異変を見抜く。二人がやろうとしたことを知り、合同クリスマスサプライズを提案した。

小路綾
 買い出しの日に、きららと文房具屋で出会った女子高生。彼女はただ顔を出し、買うものを探していた。一人で行動していたため、陽子にペースを乱されることなく暴走もなかったため、怪しまれなかった。なお、クリスマスパーティーにもシノ達と共に参加した。

メリー・ナイトメア&橘勇魚
 大きな雑貨屋にてきららが出会った夢魔&人間。彼女たちはクリスマスパーティーで行う漫才のため、小道具を買いに来ていた。きららの不自然な行動で少し怪しまれていたが、ローリエの魔道具と機転、きららの言葉で誤魔化すことに成功する。なお、クリスマスパーティーでは二人の出し物は絶賛だったようだ。

千代田桃
 織物屋にてきららとローリエが出会った桃色魔法少女。きららの言葉を少し聞いただけで違和感を感じ取ったが風邪と勘違いしていたことでローリエに誤魔化される。この後、参加したパーティーの日に風邪は治ったと知る。また、サプライズにビビったシャミ子の為にお菓子を貰ってきていた。また自作のシャミ子ぬいぐるみもプレゼントした。桃マジシャミ子の旦那。

しゃみこ「桃は私の宿敵です!旦那ではありません!」
ろーりえ「いやだってお前、かよいづまぞくじゃん」
しゃみこ「誰がかよいづまぞくですか!!ぽがー!」
もんも「通い妻ぞく……!」
しゃみこ「もも!!?」

ランプ&マッチ
 きららがサプライズを行うきっかけを作った二人。完全にマッチの失言が原因なのでマッチが悪い。ランプはそれを窘めていたようだが、きららには聞かれてしまった。とはいえ、それがローリエが作戦を練り、アルシーヴやソルトと出会う起因でもあるので一概に悪いとは言えないが。ただしきららの親密度イベに割り込み隊長したことは許さん。
 尚、マッチはその後の年明け前にローリエの魔道具開発実験にしっかり付き合わされた模様。

ろーりえ「さて、マッチの処刑方法…もとい付き合って貰う実験だが……」
らんぷ「処刑方法って言いました、今……?」
ろーりえ「まずはゴーレム制作キットとレンガで作った“怪力ゴレムス”。ちょっと衝撃を与えるだけで大爆発する『爆弾岩のカケラ』。ロードローラーに対戦車ライフル、嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)の一ヶ月間耐久テスト。さぁ、どれがいい!?」
まっち「全部最悪じゃないか!!?」

ソラ
 秘密裏にプレゼントを探しに神殿を抜け出していた女神。ちなみに、幼馴染のローリエやアルシーヴだけじゃなく、他の八賢者にもプレゼントは用意していた。

保登心愛&天々座理世&条河麻耶&奈津恵&香風智乃&桐間紗路&宇治松千夜
 クリスマスパーティーに参加したごちうさ勢のクリエメイト。ローリエのサプライズにココアとリゼはいち早く行動した。結果、見事にサプライズされたが。ちなみにシャロはこの後、カフェインハイテンション状態でラパンをやった(やらされた)。

シャドウミストレス優子&ユー子&トオル
 クリスマスパーティーに参加したものの、ローリエのサプライズにマジでビビり、桃とトオルが落ち着かせ慰めた。シャミ子はまたこれで桃に弱みを握られた模様。

シュガー&セサミ&カルダモン&ジンジャー&フェンネル&ハッカ
 八賢者のうち、サプライズにかけられた方々。カルダモンだけセリフがないが、きっと参加してるし、アルシーヴからプレゼントを貰ってるし、さりげなくパーティーを一番楽しんでいる。ちなみに、フェンネルのオーバーフローは二日酔い並みに続いた。

九条カレン&アリス・カータレット&大宮忍&猪熊陽子
 アヤヤと一緒にクリスマスパーティーに参加したきんモザ勢のクリエメイト。ローリエのルパンの演技に感服し、サインを貰ったりシルクハットを借りてルパンになりきったりした。

涼風青葉&桜ねね&星川ほたる&滝本ひふみ&八神コウ&遠山りん
 クリスマスパーティーに参加したNewgame勢のクリエメイト。ひふみんコウりんは静かに飲むのに対し、あおっちはねねっちあたりに煽られてシャンパンを飲み、その結果小悪魔青葉が爆誕した。ウイスキーボンボンで酔うツインテロリならこれくらい余裕と判断。

千矢&千石冠&宮子&巽紺&十倉栄依子&ゆの
 クリスマスパーティーに参加した、ごちそうを食べる側とそれを眺めて談笑する側のクリエメイト。なお、この後お肉ハンターのるんちゃんと滅びの使者の双葉が合流し、会場内のごちそうが一気に消えた。




嘘吐きの赤い舌(トーキングヘッド)
 ローリエがお遊びで開発した魔道具。飴玉状だが、口の中に入ると舌にとりつき、その人の思っている事と逆のことを言わせる。『戻れ、トーキングヘッド』の合図で口から飛び出し元の飴玉姿に戻る。なお、今話のあと、きららとアルシーヴ、ソルトによって見た目の改善が最課題となった。
 元ネタは『ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風』に登場する、ギャングのボスの親衛隊員ティッツァーノのスタンド能力。というかマンマソレ。アニメ版のCVは某社長でおなじみ津田氏。海外では声優とその演技力もあってやや人気があり、ファンもいたりする。


アルセーヌ・ルパン
 1905年よりフランスの推理小説家モーリス・ルブランによって発表された「アルセーヌ・ルパンシリーズ」の主人公。紳士にして冒険家、さらに義賊。変装の達人とされている。
 彼の美学、人生、盗みの技術などは作品内の価値あるものだけでなく多くの人々の心を盗んでおり、後世への影響も大きい。『名探偵コナン』『まじっく快斗』の怪盗キッドの衣装や『ルパン三世』などがその最たる例である。


マッチが悪いんだよ
 元ネタは爆発的に人気になり、ネット流行語100のニコニコ賞を受賞した「シャミ子が悪いんだよ」から。伊藤先生作の「まちカドまぞく」においては、原作にもアニメにも一度も登場していないにもかかわらず流行し、作者や桃役の声優・鬼頭女史が拾い、ネット流行語の賞を受賞したというオチがついた。ここまで流行したパワーワードに対し、いづも先生は「みんなが楽しんでくれれば誰も悪くなくなるよ」「シャミ子がわる…ワールドワイドで羽ばたいてくれることを心から祈っています」と寛大な態度を取った。我々は、同氏に最大限の敬意と注意を払いながら、この言葉の使いどころを考えなくてはならないだろう。


ローリエと太陽のブレスレット
 もともと、月桂樹(ローリエ)はギリシャ神話の太陽神アポロンの物語に由来し、ギリシャやローマ時代からアポロンの聖樹として神聖視された樹木である。古代ギリシアでは勝者や栄光のシンボルとしてこの樹で冠を作った。これを「月桂冠」という。
 ローリエの名前もまた、月桂樹から取られたもので、いわば太陽のブレスレットは縁が深いのである。
 ちなみに、アルシーヴのイメージは月、ソラのイメージは夜空または星々である。



あとがき
 ハングリークリスマスでは神殿の子たちのまだ見ぬ設定が見れて大満足です。セサミのキャラ弁にソラちゃんのダークマター………いいインスピレーションでさぁ。

そら「じゃーん! 穫れたてピチピチのケーキを作ってみました!」
ろーりえ「こりゃすげえ! 新たな魔道具に使えそうだな…………して、これはなんていう毒物だい?」
そら「毒じゃない! ケーキ!!」
あるしーぶ「お前、辛辣だな……」
ろーりえ「まぁ、アレ以上のダークマターを俺ちゃん知ってっからな…………お妙とか千棘とか小野寺とかジャイアンとか」
せさみ「ソラ様のアレ以上が存在するんですか………!?」
あるしーぶ「人間の食べ物じゃないな………」


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お気に入り150突破記念:激突!球詠コンビVS転生賢者

例によってイベント『エトワリア野球対決』の後日談的なナニカになっております。ほぼノリで書ききった。悔いはない。


「はぁ!? なんで俺に……!?」

 

 その日、俺はとんでもない申し入れを受けたのだ。

 

「だって、神殿野球部を育てた名監督と勝負してみたいと詠深(よみ)様と珠姫(たまき)様たってのご希望がありまして……」

 

 申し訳なさそうに言うのはマイスチューデントのランプ。詠深と珠姫というのはもちろんクリエメイトの名前だ。

 

 

 そう。言ってしまえば俺は、聖典(漫画)球詠(たまよみ)』のメインバッテリーから直々の指名を受け、勝負を申し込まれたのだ。

 だが、はっきり言って俺は不服である。なぜなら……

 

 

「………俺、野球部の連中にはルールを教えるのと道具を作るくらいしかやってねーぞ?」

 

 ―――と言うことであるから。

 今世の俺の体は、筋肉の付き方から経験から、前世のそれとは比べ物にならないくらいにはスペックが高い。

 だが、それだけだ。野球をやっていた訳ではない。せいぜい、前世で野球のニュースを見ていた程度だ。そんな今も昔もド素人な人間に珠詠は何を求めているんだ。

 

 

「ですが、神殿野球部がエトワリア内で野球ガチ勢になったのは事実です。そんなガチ勢チームの監督として皆様からの期待が高まっています。

 野球の民との試合も終わって、里のチームも湧き上がっていますし」

 

「俺はスタートラインを教えただけだ。それをアイツらが自分で走ってっただけに過ぎない。ランプの方でいい感じに本当の事を伝えて、期待が上がり過ぎないようにしてくんねぇか?」

 

「それでも、監督は監督です。それに、今更本当のことを教えたって、信じてくれるような気はしませんが」

 

「やってみなきゃ分からないだろ! 伝えといてくれないか、『ローリエは何もしてない』って!? というか伝えてください!!」

 

「わ、分かりましたけど……その程度で詠深様と珠姫様が勝負を取りやめるとは思えませんよ?」

 

 ランプが引くほどお願いしたが、これははっきり言って重要なことなのだ。有耶無耶にすれば後で絶対に痛い目を見る。

 ランプの語彙力だけでは不安が残るので神殿野球部の出席記録と言うべきことのメモを見せて、ちゃんと伝えるように念を押して帰した。

 

 

 

 

 

 ―――そして、数日後。

 

 

 エトワリアのマウンドには、ピッチャーとキャッチャー、そしてバッターが立ち、少なくない観客が集まっていた。

 ピッチャーは勿論、ヨミちゃんこと武田(たけだ)詠深(よみ)ちゃん。

 キャッチャーも当然、タマちゃんこと山崎(やまざき)珠姫(たまき)ちゃん。

 審判には、きららちゃんが。

 

『さぁ、待ちに待ったこの勝負が開催されることとなりました! 私はどうでもいいですが』

『私情を持ち込むな、フェンネル』

『実況はわたくしフェンネルが。解説はアルシーヴ様、よろしくお願いいたします』

『えー、一打席の勝負ではあるが、解説していこうと思う。』

 

 そしてバッターボックスには―――俺が。

 

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「プレイボール!」

 

「いやなんでだアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!?」

 

 

 

 理不尽。圧倒的理不尽に対する咆哮が、マウンドに轟いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 それは、『野球の民』と『里のクリエメイト選抜チーム』との対戦の後。野球ブームが始まる少し前に召喚されたクリエメイト・武田詠深と山崎珠姫はとある噂を聞いた。

 

 

「選抜チームでローズちゃん達と試合をした後でね、神殿野球部にいたシュガーちゃんとソルトちゃんっていう双子の姉妹から、『神殿野球部に野球のルールと道具を授けた人がいる』って話を聞いたんだ」

 

 

 シュガーもソルトも、詠深との野球トークの延長線上でローリエ―――神殿に野球をもたらした男―――の話を出しただけに過ぎない。

 だが、それが詠深の好奇心をくすぐったのだ。

 

『すごいね、そのローリエさんって人……そんなに野球について詳しかったの?』

『ソルトの細かな疑問にもそれなりに上手く答えていたようですし、道具のクオリティも高かったです。まぁ、練習などはアルシーヴ様主導でしたが』

『…なるほど。流石ランプちゃんにガチ勢って言われるだけはあるね。その人も、野球が好きなのかな?』

『そーだね。きっとローリエおにーちゃんは野球が好きだからシュガー達に教えられたんだよ! ヨミおねーちゃんもタマおねーちゃんも勝負しに行ってみたら? きっと強いよ!』

 

 残念ながら、この時この場の4人はとんでもない誤解をしてしまった。ローリエはプレイヤーにおいてはド素人だったのだ。「I like (to watch) baseball !(私は野球(の観戦)が好きなんだ!)」と言ったら「あぁ、この人は野球を()()のが好きなんだな」と思われるという鉄板にしてヒドい誤解だったのである。しかも、更に残念な事にここで誤解を指摘できる人間はいなかった。

 

 そして詠深と珠姫は、ローリエに勝負を申し込んだのである。その結果が冒頭のランプとのやり取りである。

 

 ランプはなんとかローリエの伝言を里の皆に伝えようとしたが、里の皆はマトモに信じてくれず。

 ローリエもローリエで神殿に助けを求めたが、「分かっている。謙遜するな」と言われたり「勝負から逃げるなんて男じゃねぇ」と言われたり「わたくしとの真剣勝負に差し替えても良いのですよ」とレイピアを抜かれたりした。彼は泣きそうだった。

 

 

 かくして、詠深&珠姫とローリエの一打席勝負が始まったのである。その一部始終を、勝負に参加した投手・武田詠深はこう語る。

 

 

「ローリエさんは、勝負当日、気合の入った白と黒のユニフォーム姿で現れたんだ。表情はうっすらと笑顔で、どこか厳格な立ち振る舞いだったんだけど、強者の貫禄っていうのかな? そういうオーラ的なものを感じたよ!」

 

 

 ……詠深の語りに水を差すようだが、そんなものはない。ローリエはただ緊張に表情と動きが固まりつつあっただけである。だが、そんな事は彼女達に知る由もない。

 

 審判によってルールが告げられる。四死球*1か外野に飛ばせばローリエの勝ち。それ以外なら詠深と珠姫の勝ち。二人が岡田(おかだ)(れい)や野球の民・ローズと戦った時と同じルールとなった。

 

 

「私とタマちゃんが定位置に立って、そこでゆっくりとローリエさんが右打ちのバッターボックスに入った。準備完了のサインが出て勝負が始まった時、観客は静かだった。」

 

 片や聖典に記された伝説のバッテリー。

 片や謎に包まれた男子バッター(仮)。

 何が起こるか分からないこの勝負を、観客は一秒たりとも、瞬きすら許さない勢いで見逃すまいと注目していたのだ。

 

 

「まず一球目。

 タマちゃんからストレートのサインを貰った私は、全力を込めてストレートを投げた。それに対してローリエさんは……その球を見送ったの。」

 

 パン、とミットにボールが収まる気持ち良い音が、いやにマウンドに強く響いた。そして、数テンポ遅れてきららが「す、ストライク!!」と判定を下す。

 

『…ストレートを見送りましたね、ローリエ。打てそうなら打つべきでは?』

『打つべきタイミングを測っているのだろう。だが、一球目を見送ったのは痛かったな。』

 

「…なんか余裕があるなぁと思って次を投げるタイミングをタマちゃんと測っていると、ローリエさんは動いたの」

 

 

 ローリエは、一言……「なるほど」と言い……そして、驚くべき行動に出た。

 左手に持ったバットを掲げ―――そのバットの先を、詠深の真後ろ側、その天に向けたのだ。

 

 

『『『『『『『!?!?!?!?』』』』』』』

 

『いっ……今の構え?で…観客という観客がざわつき始めました! これは一体…?』

『確か、野球の民から聞いた事がある……アレは「次でホームランを打つ事」を予告している動作だと。だとしたら、この場でホームラン予告をした事になる!』

『なんですって!!?』

 

 観客及び実況席のフェンネルとアルシーヴが驚くのも無理はない。この男、大胆にも球詠の名バッテリーからホームランを取ってやると宣言したのだ。これが試合だったら前代未聞の名勝負である。

 その大胆な予告をした男は、そんな観客達のリアクションなどどこ吹く風と言わんばかりに打つ準備に入っている。

 

 

「いやー、燃えたよね。だって私達からホームランを奪うって言うんだもん………タマちゃんも同じだったと思うよ。

 そんな興奮やまない2球目は、内角低めのカーブ。対してローリエさんは…一本足打法って言って分かるかな? フラミンゴみたいにピッチャー側の片足を上げる打ち方の構えなんだけどね。それで………打ったの。」

 

 

 詠深が投げた2球目は、ローリエが力強く打ち返した。飛んでいったボールは、ぐんぐん飛距離を伸ばしていき―――

 

 ―――観客席のすぐそば、フェア地域の外にぽとりと落ちた。

 

 

『……ファール!』

 

『うーん…惜しいなぁ。もうちょっとでホームラン行きそうだったのに』

 

『なんとローリエ! 今の球を打ちました! ファールです!』

『惜しくもホームランには届かなかったが、運が良ければ余裕で飛ばせるな、アレは』

 

 

 てっきり打たれてしまったと思ったバッテリー二人は、まだ勝負がついていないことに胸をなでおろす。ローリエは、先程の会心の一撃がファールに終わってしまったことに悔しがっているようだった。

 

 

「この2球目は私もタマちゃんもビックリしたよ。なにせ……打った玉の軌道がホームランのそれだったんだもん。ファールボールにならなかったら負けてたよ、正直。

 いよいよ楽しくなってきたんだけど……3球目と4球目はちょっと、ね………あはは」

 

 

 これを受けた3球目は、外角低め・ストレートを放ったがボールの判定を貰ってしまう。続く4球目も再びボール。詠深も珠姫も2球目の衝撃に動揺が走っている証拠であった。

 

 

「この流れは良くないと思って、『あの球』を使って決めに行こうと考えた。タマちゃんも同じ考えだったみたいで、ミットでサインを出してくれたの。だから、思いっきり投げたんだ………『あの球』を」

 

 『あの球』。それは、武田詠深が最も得意とする特殊な軌道を描く変化球のことである。

 頭部死球(ビーンボール)になるコースから首を斬り落とすかのように鋭く曲がってストライクゾーンに落ちるという軌道を通る、魔球と呼ぶに相応しい変化球だ。

 初めてこれを投げられたバッターからすれば、「まさかの顔面デッドボール!!?」と思いとっさに防御か回避かスイングをしてしまう。どの道たまったものではないのだ。ましてや初見で打つなどという芸当はまず出来ない。

 

 珠姫と詠深、そしてローリエの間を沈黙が支配する。

 そして。 ―――詠深が、足を上げた。

 

 

 力強い投球フォームから放たれたストレートの球は、ストライクゾーンから大幅に離れて、ローリエの頭部に真っ直ぐ向かった。このままではデッドボール確実だ。しかし………詠深の魔球は、ここからストライクゾーンに真っ直ぐに落ちる。

 

 

 魔球を使った勝負の一瞬。そこで詠深は、信じられないものを目撃したのだ。

 

 

「私はそこでローリエさんの動きを見たよ。

 『あの球』に対してローリエさんは、バットをね……こう、()()()()構え直したの。例えるなら……そう、白菊(しらぎく)ちゃんが剣道の竹刀を握るかのような持ち方だった。」

 

 野球をやっている者なら……否、知っているだけの者でさえ、明らかにおかしいと思える持ち方に躊躇いなく切り替えたローリエ。その突飛な行動は観客たちの印象に深く残ることとなる。そして―――野球に特に精通している詠深と珠姫の精神を再び揺さぶった。

 

「そこからね……そう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()をして。

 ストライクゾーンに()()()()に投球を打ったんだ。信じられないことに」

 

 

 まるで、刀で一刀両断するかのように。

 強大な敵に斬りかかる剣士のように。

 上段に構えたバットを振り下ろして―――

 

『な、なんとローリエ!! 詠深選手の魔球を……打ったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?』

 

 ―――そして、ボールを打ち返す音が綺麗に響いた。

 

 

「でもこの打ち方……よく考えれば当然なんだけど、飛距離が出ないんだよね。ローリエさんの勝利条件は、フォアボールとデッドボール以外だと外野へ飛ばすしかない。つまり……」

 

『あぁ、今確かに打ったが……外野に飛ばなければ意味がない。縦斬りのような打ち方をしてしまえば……!』

『確かに! 外野に届かなければ、ローリエさんの敗北は必至となるッ!!』

 

「―――勝負を捨てたのかな、って思ってさ。

 そんなのってないじゃんって思いながらローリエさんを見たら……あの人の目が、まだ諦めてなかった。」

 

 

 未だ消えぬローリエの瞳の火を一瞥した詠深は、今度は打球の行方を追う。

 マウンド上を低く滑空するかのように飛んだボールは、どんどん高度を落としていき、やがてポン、と地面を跳ねた。

 

 

 その地点は―――――――――外野と呼ばれるゾーン……その、内側。

 

 

 

『げ……ゲームセット!

 勝者、詠深さん・珠姫さんペア!!』

 

『―――一刀流・大辰撼(だいしんかん)

 

 

 審判のきららが勝敗を告げる。

 珠姫は呆然とし、ローリエは静かに呟く。そして、詠深もまた、あっけにとられていた。

 詠深側が勝ったはずなのに、三者三様に、まるでローリエが勝ったかのようなリアクションをとっていた。

 

 

「―――私達が勝ったには勝ったんだけど……こんなに悔しい勝利は初めてだった。『試合に勝って、戦いに負けた』っていうのは何度か聞いたことあったけど、この勝負ではそれを実感させられたかな」

 

「でも、そう思ったのも束の間……次はこう考えていた。『感動した。こんな人がいたなんて』って。何度も色んな人に会って、色んなチームと戦ってきたけど、あの人みたいなタイプは初めてだった。やっぱり、野球は楽しいや。」

 

 こうして、異例の一打席勝負は、聖典のバッテリーの勝利で幕を下ろした。

 武田詠深と山崎珠姫は、ローリエのプレーで覚えた衝撃と一握りの悔しさ……そして、これまで以上の意欲をもって野球の練習に打ち込んでいくのである。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――あの勝負から、俺の取り巻く環境が変わった。

 ひとつ、クリエメイト達に野球が驚くほど浸透していった。野球をしなさそうな『イーグルジャンプ』の社員達や『けいおん!』の放課後ティータイムのみんなまで野球をしている。でもみんな大丈夫か? 体力続かなそうだし、この前チラッと牡丹ちゃんがバットを振るのを見つけたからやめさせた。下手すりゃ死ぬぞ?

 

 ……そして、もうひとつ。

 それは、俺が何故か『野球監督』として評価されてきたせいで、指導を頼まれまくった事。この前の珠詠との勝負で素人だって事を証明したはずなのに何故だ。

 

 

「ローリエ」

 

「―――ん、どったの? アルシーヴちゃん」

 

「…随分と暇そうだな」

 

「なわきゃねーだろ。どいつもこいつもド素人に頼みやがって。野球のコツなんて知るか。みんなまとめて人を見る目がなさすぎだろ」

 

 今日なんて、神殿野球部ときららちゃん達のチームの合同練習を見てくれなんて言われてしまったのだ。一体俺に何をやらせろと? 基礎的なメニューさえ想像で補うしかないのに、その上の発展練習なんざ分かるわけねーだろ。

 

 

「そうだったのか。なら、今後は研究が必要だな。必要なら私がいくらでも手伝ってやる。

 とりあえず今日は私達のいつもやっているメニューをいくらか改造して行おう。だから―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「かーめー○ーめー波ーっ!!」」」」」」

「「「「「「「「「「くーっ!!」」」」」」」」」」

 

 

 

「―――だからローリエ。今すぐあの馬鹿げた真似をやめさせろ……!!」

 

 だから俺は、想像できるだけ厳しいトレーニングを課すことにした。なのになんだその目は。まるで俺を『死んだ魚の目をしたジャンプ好きのマダオ』を見る目で見つめてくれるじゃねーか。

 

「馬鹿げた真似とは言ってくれるな。アレは世界一厳しいトレーニングの一環だと言うのに」

 

「どこがだ!? 私とフェンネルのいない間に何を好き放題やってくれてるんだ!! だいたい『○めはめ波』とはなんだ! アレになんの意味がある!?」

 

「野球を甘く見すぎだ。宇宙レベルの野球チームはパワープレイなんて当たり前だぞ。ヤ○チャみてーに試合中に屍を晒したくなかったらこれくらい覚えて当然だろ」

 

「そんな野球があってたまるか!!!」

 

 いやあるだろ。実際○ムチャはパワープレイに巻き込まれた結果ヤムチャシヤガッタからね。エトワリアの可愛い彼女達にソレと同じ道は辿らせたくない。最初に「かめは○波」の練習を提案した所、案の定訝しがられたが、理由を説明したら納得してくれたのだ。

 

 

「おにーちゃーん! なんか掌から出たような気がする!!」

 

「よーし、いいぞシュガー! 次は界○拳(かい○うけん)だー!」

 

「『次は○王拳だ』じゃないわ!!」

 

「ウボァーーーーーーーーーーー!!!?」

 

 

 だというのに、アルシーヴちゃんったら俺を速攻でルナティック・レイである。解せぬ。嗚呼、全身が痛い………

 

 

 

*1
フォアボールとデッドボールの事をまとめた呼称。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 誤解の解けぬまま新越谷高校の名バッテリーと戦い、名監督というレッテルを貼られた八賢者。彼自身野球は特段好きというほどでもなく、観戦するほうが好きなのだが、練習メニューをアルシーヴと考えるハメになった。ラストの練習の下りの元ネタは「銀魂」と「ドラゴンボール超」から。

きらら&ランプ
 異色の一打席勝負を行うきっかけを作った人と審判を行った人。この一件でローリエを見直すことになり、練習にも参加している。もちろん、最後の「かめはめ波」もローリエに騙されて行った。

武田詠深&山崎珠姫
 ローリエとの勝負を通して、エトワリアにいる野球選手の強さを確信したバッテリー。新越谷高校のメンツは未だ二人しか召喚されていないが、これからも精進を続ける所存。

岡田怜
 新越谷高校女子野球部のキャプテン。部の存続のため、強い風当たりに耐えつつグラウンドの整備や備品の点検をしていた。詠深達と一打席勝負をした。2020年6月20日現在、未だエトワリアに召喚されていない。

大村白菊
 新越谷高校女子野球部のメンバーの一人。姫カットの黒髪が特徴で、剣道では全国優勝の経験を持つ野球初心者。豪快なスイングでかっ飛ばすスタイルを得意とする。2020年6月20日現在、未だエトワリアに召喚されていない。




球詠
 マウンテンプク○チ先生による、(おそらく)きらら初の野球漫画。
 女子野球がメジャーになっている現代日本の埼玉県新越谷高校の女子野球部を舞台に、幼馴染の武田詠深と山崎珠姫が、個性的な仲間とともに全国大会の頂点を目指す、王道野球物語。

一本足打法
 野球のバッティングの一つ。片足を上げることから「フラミンゴ打法」とも言われる。足を上げることによってボールを手元まで引きつけたり、打つタイミングを取りやすくなるというメリットがある一方、下半身への負担が大きく、下半身の弱い選手は軸もぶれやすいため習得が難しい。上半身に頼らず、強靭な下半身とバランス感覚が要求される。日本では、「世界の王」と後に言われる野球選手が使った事がきっかけで知られるようになる。

一刀流・大辰撼(だいしんかん)
 ローリエが一打席勝負にて放った、縦方向のスイング。元ネタは「ONE PIECE」のゾロの技。というかマンマソレ。「ONE PIECE」に野球回が来たら、間違いなくゾロが使うであろう技の一つ。

アニメ「ドラゴンボール超」の野球回
 ビルス率いる第7宇宙とシャンパ率いる第8宇宙の野球回であり、視聴者の混乱と笑いを招いた謎の回。この回でヤムチャが色々な意味で輝くこととなる。


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きらら誕生日記念2020:チャラい彦星

滑り込み投稿じゃあああ!!!!
きららちゃん誕生日オメデト☆


 ランプとマッチとともに巻き込まれた七夕の衣装騒動の後。

 私は、彦星について考えていた。そして―――

 

 その昔、織姫という女性と好きあっていて、やがて結ばれた男性。

 

 男性、というだけでひとり連想してしまったのだ。このエトワリアでは女性の方のほうが多いから、余計に目立つ。だから記憶に残っていた。

 その名をローリエ。

 八賢者唯一の男性で、彦星と比べるとその……浮気性、いえ…飽き性の、じゃない……女たらし…でもなかった。えーと………気の多い人だけど。有名な男の人、だと思う。

 だからか、彦星の……しいては男の人の感覚についてちょっとお話するために、私は神殿に顔を出していた。

 

 

「あ、きららちゃん。誕生日おめでとう!

 これ、プレゼントな」

 

「ありがとうございます、ローリエさん。」

 

 ローリエさんが綺麗に包装された直方体を手渡してくれた。形と重さからして本かな? ランプとマッチに続いて、プレゼントしてくれるとは本当にありがたい。

 

「しかし、どうして俺のところに?

 七夕祭りは終わっただろう?」

 

「えっとですね……」

 

 私は、七夕祭りの前に起こった騒動について、包み隠さずローリエさんに教えた。彼は、目を丸くして楽しそうに相槌を打ち、話を聞いてくれた。

 

「はぁ〜…ハッカちゃんがこの前不在だったのはそういう事だったのか……しかし、きららちゃんがランプを口説くとは」

 

「ち、違います!口説いてません! 織姫と彦星を演じてただけでした!!」

 

「あ、良いよ。俺応援するから。なんなら牧師役もやるぞ。」

 

「違うって言ってるのに!!」

 

「……それで、この土産話について、何か思うことでもあったのか?」

 

「!!」

 

 図星でした。

 彦星は演じられたけど、彦星のように本当に好きな人が現れる感覚が分からなかった。だから、同じ男の人であるローリエさんに聞きに来た。

 そうして悩み――というにはちょっとしたものだけど――を話し終えると、ローリエさんはため息をついて、

 

 

「そんなん気にするだけ無駄だ」

 

 

 ―――と。ず、ずいぶんバッサリです。

 

「それを言われてはおしまいのような…」

 

「でも事実だ。だいたい、きららちゃんは誰かを好きになりたいのか?」

 

「え? いえ、そういう訳では……」

 

「だったら良いだろ。彦星は彦星、きららちゃんはきららちゃんだ。ヒトを気にしてたらいつまでたっても恋愛なんざできやしねぇ。

 聖典の中にも、女の子同士でちゅっちゅしてるのあんだろ。どんな理由であれ、人を愛するのは素晴らしい事よ。理屈で考えちゃあいけないのさ」

 

 確かに、春香さんや優さんの出てくる聖典では、キスをしている描写はいくらかあった。でも……

 

「そういう、ものなんですか?」

 

「あぁ。春香と優ちゃんは恋人になるしコトネとしずくは最終的に結婚するからな。あの二組はお互いを愛し合っていた。彦星と織姫も似たようなモンだろ」

 

 確かに。コトネさんとしずくさんの結婚のくだりは初耳だけど、自分の好きになりたい人を好きになるって意味では、あながち間違いでもないのかも。

 

「……ところで、ローリエさんはそういった恋愛とかはしたことは?」

 

「ない、って訳じゃあないけど、俺の場合ちょっと特殊だからねぇ」

 

「……………………複数人いますもんね」

 

「オイなんだその凄まじいジト目は。確かに俺は好きな人いっぱいいるけどさ。そーゆー事じゃなくてさ。もっとこう……『幸せにしたい』じゃなくて『幸せになってほしい』って感情なのよねー」

 

「………???」

 

 

 ローリエさんのその答えには要領を得なかったけれど、それなりの意見を得ることができた。夜も遅くなるといけないので、この辺で失礼することにした。

 

 

 

 

 

 ……そして、夜。自宅にて。

 今日は色んなことがあったなぁ。ランプとマッチを始め、皆からプレゼントを貰った。こんな賑やかな誕生日は生まれて初めてかもしれない。

 

 そういえば、ローリエさんからは本を貰ったっけ。袋はまだ開いてないから確定じゃあないけど、何の本だろう。ちょっと包装を開けてみようかな――――

 

 

 

灰獣〜ハーレム王に俺はなる〜

 

「」

 

 

 全身が凍った。

 い、いや! そんなはずはない!

 ローリエさんは軟派なイメージが強いけど、年齢を弁えることのできる人です! 幼いクリエメイトには紳士的だし、女性の意思を最優先してお話をする!

 ……そんな人が、大人の本を私に渡すはずがない!たとえ妖しいタイトルだったとしても、例え表紙絵が危ない感じだったとしても………

 これは、ローリエさんからの善意の誕生日プレゼントなんだ!!

 

 そう決意しながら本を開いて。

 

 ――――――私はその行動を後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、きららちゃん!!渡す本間違えた!!

 コリアンダーに渡すはずのものが手違いになって………」

「そうですか」

「お、おや? そんな爽やかな笑みをして……まさか……」

「はい。読みました。ちょっとだけ」

「OH………読んじゃったか…」

「読んじゃいました」

「こっちを渡すつもりだったんだけど……」

「……『七夕物語』?」

「全年齢向けの童話集だ。持ち運べる文庫版を探すのには苦労したぜ」

「そうでしたか、分かりました。許しましょう。でも後ろの二人が許すでしょうか?」

「へ?後ろ? なんの―――」

 

「先生?」

「覚悟は出来たかローリエ」

 

「おーまいぐっねす」

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

きらら
 七夕の主役。ローリエに恋する気持ちを相談したが、それは己次第と知り誕生日を終える。しかし、夜にとんでもないバースデーテロを受け、爽やかな笑顔でキレかけた。誤解が解けたことと制裁要員が来た事で矛を収める。

ローリエ
 きららからの相談を請け負った変態。その裏でコリアンダーにちょっとただれたハーレム官能小説を送りつけようとしたが、きららのバースデープレゼントと混同する痛恨のミスを犯す。このことで、制裁要員からOHANASIを受ける羽目になった。

ランプ&アルシーヴ
 制裁要員。



桜Trick
 タチ先生によって2011年〜17年まで連載されていた百合ラブコメ。高山春香と園田優の『特別な友達の証』としてキスをすることから始まる純愛の軌跡を描く。飯塚ゆずと池野楓の片思い恋愛や野田コトネと南しずくの家庭の事情が絡むディープなラブストーリーも見物である。


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夏休み特別編2020:ローリエのクイズコーナー

夏休みアルティメットクイズをやっていたので、こっちもクイズコーナーを設けてみました。どうか、挑戦されてみては如何でしょうか?


2020/8/16:一部の選択肢の漢字の誤字を修正しました。
2020/8/23:解答編が完成しました。活動報告の方を参照するか後書きを一読ください。


 神殿の企画によって「大陸横断ウルトラクイズ」なるものが行われている頃。ローリエは、ランプと共に舞台裏にいた。

 彼も彼で出題者として参加する気マンマンだったのだが、ほぼ満場一致の反対によりそれは叶わぬ夢となったのだ。唯一賛成したシュガーには、甘いお菓子をこれでもかとプレゼントすると決めていた。

 

 

 しかし…ローリエが大人しくしている筈もなく。

 

 彼は、脱落していったクリエメイトへ向けるVTRを……ひいては画面の向こう側(読者の皆様側)へのVTRをジャックした。

 どうやったかは聞かないで欲しい。これはあくまで特別編だ。

 

 

 

「やぁ、麗しきクリエメイトのみんな。そして、画面の目の前の美男美女の読者の皆々様。こんにちわ!!! ローリエだ。

 今回のアルティメットクイズ、盛り上がってるぜ。……一部趣旨を間違えてる賢者がいるがな…………脱落しちゃった皆も、そもそも参加してーのにできねーって皆様も、そんなに落ち込まないで欲しい。

 ランプだけでなく、俺もクイズを用意しておいたんだ。」

 

「―――名付けて、

『ローリエのアルティメットクイズ』!!」

 

「聖典の知識を総動員してやっと解ける問題を絞りに絞って10問! 用意したぜ! 俺の活躍が描かれたこの『きらファン八賢者』にも、ヒントがのっているかもしれないな!

 そんな10問、皆様ぜひ解いていって欲しい!

 それでは、出題していくぞー!」

 

 

 

 

「第1問。アリス・カータレットちゃんの出身地は当然イギリスなんだが、じゃあ具体的にイギリスのどこと言われているか?」

 

①ロンドン

②コッツウォルズ

③リヴァプール

④ストーンヘンジ

 

 

 

「第2問。次の青山ブルーマウンテン先生の著作を、発表された(登場した)順に並べ替えてみよ。」

 

①ベーカリークイーン

②カフェインファイター

③うさぎになったバリスタ

④怪盗ラパン

 

 

 

「第3問。元旦からスタートした時に最初に誕生日が来るのは、次の女の子達のうち誰か。」

 

①吉田良子

②野田コトネ

③中町ぬあ

④万年大会

 

 

 

「第4問。『樹海』の二つ名を持つ夢魔の名前は?」

 

①ミストルティン

②ノワール

③エルクレス

④ジョン・ドゥ

⑤ランズボロー

 

 

 

「第5問。アリサ・ジャグランテと同じ(CV)を持つ子を次から選べ。」

 

①丈槍由紀

②志摩リン

③滝本ひふみ

④桐間紗路

 

 

 

「第6問。カルダモンの好物・ツンツーン。スバリ、コイツの別名はなにか?」

 

①鷹の爪

②辛子

③山葵

④獅子唐

 

 

 

「第7問。俺が港町で出会った百合CPの片割れ・ローズちゃん。彼女の瞳の色を、宝石で例えるなら?」

 

①ダイヤモンド

②トパーズ

③アメジスト

④エメラルド

 

 

 

「第8問。俺の親友・コリアンダーが得意とする魔法のうち、正しくないモノは次のうちどれか。」

 

①錯乱魔法

②霧化魔法

③水鏡魔法

④幻影魔法

 

 

「第9問。クリエメイトの皆はグループを作ってほぼほぼ新曲をリリースしている訳だが、次のグループのうち、メンバーが最も多いグループは?」

 

①Petit Rabbit

②コーロまちカド

③Rhodanthe*

④STARTails☆

⑤ギニュー特戦隊

 

 

 

「第10問。俺がエトワリアに持ち込んだ将棋と筆頭神官&八賢者の実力について、正しい事を書いてある文を次から選べ。」

 

①カルダモンとソルトは輸入者であるローリエの実力をあっという間に越していった。特にカルダモンが強い。

②ハッカは元々秘蔵されている身であり、将棋に触れる機会が多かったため、ローリエよりも強い。

③ジンジャーは「頭を使う」と言い将棋を苦手としているが、それでもフェンネルよりは強い。

④アルシーヴは多忙のため、将棋に触れる機会があまりない。また、シュガーはオセロ派である。

 

 

 

 

 

 

 

「以上、10問だ!

 みんな、分かっただろうか?『まったくわからん!』と言う人もいるかもしれないし、『簡単すぎる!』と言う人もいるかもしれない。

 正解は後ほど発表するから、楽しみに待っててくれ!!

 

 ―――では、皆様良い夏とバカンスを!ローリエでした!!」

 

 

 

 

 

 ……この後ローリエは滅茶苦茶怒られたという。ランプに。




答えは、後日活動報告に載せてまいります。
→答えを公開します。活動報告を見るか、以下のURLを参照ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=244920&uid=246937


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冬休み特別編2020:ローリエ先生の年末宿題大作戦

みなさんこんばんは。
今回は、我慢できずに投稿しちゃいました。








2020/12/26:解答編が完成しました。活動報告の方を参照するか後書きを一読ください。


「はひぃ〜〜」

 

 ランプが小さな悲鳴をあげる。

 その原因は、手元の紙であった。

 それは、風が肌に突き刺さるほどに寒くなってきた頃、ランプが己の師から出された「宿題」だ。

 的確な量・質を出すアルシーヴに対して、宿題を出した師―――ローリエの出すそれは比較的量は出さないが………時々、目を疑うレベルで難易度が高いものが混ざるときがある。

 今回ランプ達女神候補生が貰った宿題がその実例であった。

 

「ローリエ先生……こんな年の瀬にハイレベル宿題出さなくても良いじゃないですか。

 こんなの、きっと誰も解けませんよ………?」

 

 ランプは、恨めしそうに宿題の紙一枚を見た。

 

 

 

 

『冬休みに入る女神候補生諸君へ

 こんな時期に大量の宿題など嫌すぎてやりたくない気持ちは十分に分かるので、魔法工学と聖典学については俺が担当して宿題を紙一枚に済ませることにした。

 これすらもやらないんなら流石に庇えないので大人しくやるかアルシーヴちゃんのお説教初売りセールを覚悟するように。』

 

「……確かに、魔法工学はわたしでも楽でしたけど、聖典学がコレじゃあ割に合いませんよ……」

 

 そう嘆くランプが苦戦する問題が、以下の数々である。

 

 

 

 

 

 ローリエの聖典学問題・冬休み編。

※画面の前の皆様もやってみよう。★の数が多いほど難問だ!

 

『第1問。次のうち、本名が判明している人は誰?』★★★★

 

①青葉の母

②橘のおやっさん

③チノのおじいちゃん(人間の姿)

④くるみの先輩

 

 

『第2問。木組みの街の人達の名前のモデルとなったハーブ・コーヒー・香辛料について書かれた文で、正しいものを全て選びなさい。』★★★

 

①テデザリゼは、紅茶にキーウィと白桃のチップを加えたフレーバー紅茶である。

②マンデリンとは、インドネシア・スマトラ島産のコーヒーの銘柄である。

③フィーバーフューは英名で、日本名はシロツメクサという。

④カレンデュラは、別名キンセンカとも呼ばれる。

⑤ナツメグとは、ニクズクの木の種子のことである。

 

 

『第3問。星咲高校新聞部の宇佐美ちゃんの将来の夢は?』★

 

①ルポライター

②小説家

③新聞記者

④漫画家

 

 

『第4問。伊御が縁日の型抜きで描いたものとして正しいものを次から選べ。』★★★

 

①平沢唯

②百木るん

③ゆの

④メリー・ナイトメア

 

 

『第5問。次の選択肢の聖典(漫画)を、エトワリアと繋がりを持ち始めた(『きららファンタジア』に参戦した)順に並び替えよ。』★★

 

①けいおん!

②こみっくがーるず

③ハナヤマタ

④あんハピ♪

 

 

『第6問。次のクリエメイトを、背の順に並び替えよ。』★★★★

 

①かおす

②星川麻冬

③トオル

④千石冠

⑤アリス・カータレット

 

 

『第7問。「きらファン八賢者」オリジナルストーリー「ブレンド・I」について、誤った文を一つ選べ。』★★

 

①日向夏帆は、ドラ○エⅤをスマホ版でプレイしたことがある。彼女は、人生の選択イベントでフローラを選んだ。

②ビブリオは、『オーダー』で呼び出された苺香を商品価値の高い女として気に入り、木の牢屋に幽閉した。しかし、彼女のドSの目がどうしても気に入らなかったため調教しようとするも、苺香にとっては恩人であるディーノを貶したことで地雷を踏んでしまった。

③『イモルト・ドーロ』は、ビブリオが経営していた大型カジノ施設の名前である。3年前にアルシーヴがビブリオを捕らえた際に取り壊されたが、『オーダー』によって一時的に復活した。なお、『イモルト・ドーロ』にはイタリア語で『金の亡者』という意味がある。

④ローリエは、神崎ひでりがちょっとだけ苦手である。ひでりがあざとい女子アイドルを装って挨拶した際は、「黒髪女子になってツインテにして『にっこにっこにー』を習得してから出直してこい」とソフト腹パンを敢行した。

⑤ローリエがビブリオの部屋に突入する際に使用した『ニトロアント』は、山道でソルト撃破後のきららと戦った時にも用いられた。名前の初期案として『甲冑アリ』というのもあったが、流石に著作権的にマズいと思ったローリエはそれを自重した。

 

 

『第8問。ジンジャーの爆裂猛打三連撃は3つの技で構成されている。その3つを全て答えよ。』★★

 

 

『第9問。ローリエ・コリアンダー・ナットの3人のCVの組み合わせで正しいものを選べ。』★★

 

①ロ:杉田智和 コ:中村悠一  ナ:小山力也

②ロ:子安武人 コ:中村悠一  ナ:小山力也

③ロ:杉田智和 コ:中村悠一  ナ:平田広明

④ロ:子安武人 コ:三木眞一郎 ナ:平田広明

⑤ロ:杉田智和 コ:三木眞一郎 ナ:藤原啓治

⑥ロ:子安武人 コ:三木眞一郎 ナ:藤原啓治

 

 

『第10問。クリエメイトの皆と縁深い人たちの名前で、九郎、ヨシュア、渉、健、直正……と言ったらなんでしょう?』★★★

 

①父

②兄

③祖父

④弟

 

 

『第11問。新越谷高校女子野球部と熱戦を繰り広げた「りょうゆうかん高校」。正しく漢字で書くと?』★

 

①梁友館

②梁幽館

③梁勇館

④両雄館

 

 

『第12問。みらちゃんの名前のモデルになった小惑星ミラについて、誤っているものを選べ。』★★★★

 

①歴史上最初に発見された変光星である。

②小惑星ミラの光度変化の発見は、コペルニクス地動説の追い風になった。

③ミラと関係の深いくじら座は、古代から知られており、ケトスという名でギリシャ神話に登場する。

④ケトスはカシオペアを食べようとするが、通りかかったペルセウスにメデューサの首を突き付けられ石にされてしまった。

 

 

『第13問。次のうち、最も多くのクリエメイトが誕生日を迎える日は次のうちどれか?』★★★

 

①4月5日

②8月1日

③11月11日

④12月25日

 

 

『第14問。次の中から、実在する地名をすべて選びなさい。』★

 

①丈槍

②大宮

③保登

④各務原

⑤一之瀬

 

 

『第15問。日向夏帆ちゃん→?→くるみちゃん→祠堂圭ちゃん→小夢ちゃんと続く時、「?」に入る人の名前は?』★★★

 

①きらら

②ランプ

③アルシーヴ

④ソラ

 

 

『第16問。クリエメイトのみんなは色んなペットを飼っているが、次のうち、犬を全て選びなさい。』★

 

①なごみ

②オーナー

③アレキサンドライト

④ミカエル

 

 

『第17問。次のうち、ローリエが変装した事のある人物として正しいものを選びなさい。』★★★

 

①東方仗助

②虹村億泰

③広瀬康一

④空条承太郎

⑤岸辺露伴

 

 

『第18問。しまリンが買ったコンパクト炭火グリルを見た恵那ちゃんは最初なんと言った?』★★

 

①賽銭箱もどき

②ミニ賽銭箱

③メタル賽銭箱

④スチール賽銭箱

 

 

『第19問。聖典に関係のある楽曲で「アフターグロウ」「SWEET VIOLET」「ピンクのハートボール」といえば?』★★★★

 

①桜Trick

②ご注文はうさぎですか?

③がっこうぐらし!

④夢喰いメリー

⑤けいおん!

⑥スロウスタート

 

 

『第20問。このローリエはO型の天秤座なんだが、次のうち、俺と同じ星座・血液型のクリエメイトは誰か。』★★★★

 

①江古田蓮

②大和・クリスティーナ・和子

③久世橋朱里

④西御門多美

⑤花小泉杏

⑥青山ブルーマウンテン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当然のことながら、他の女神候補生からも悲鳴が上がり、休み明けのテストでは聖典学の平均が15点下がったとも言われている。

 当たり前だがローリエはアルシーヴに怒られ、以降無茶な難易度の宿題や問題やテストの頻度が減った(なくなったとは言ってない)。

 

 

 




また例のごとく、後日に答えを活動報告内で出します。
→答えが出来ました。確認した上で丸付けをしてみてはいかがでしょうか?今年もきらファン八賢者をありがとうございました。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=252422&uid=246937


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コラボ編
男三人のブルース その①


皆さん、こんばんわ。社会人になってまったく執筆出来てないMIKE猫です。

今回は……まさかのコラボ決定です!
strawberrycake様が連載している『白河心儀のエトワリア冒険記』とコラボ致します。一話にまとめようとしたのですが、とんでもなく長くなりそうなので、ひとまず『その①』として区切ります!後編は後ほど、お楽しみに―――


 クリエメイトは、ほとんどが女性である。

 なぜならば、聖典の登場人物達が、ほぼ女性だから。

 しかし―――()()女性、である。そこを強調する理由は―――数えるほどしかいないが、男性のクリエメイトもいるにはいるからだ。

 

 例えば、「ブレンド・S」のディーノさん。あと、秋月くんとひでりくん。特にひでりくんは、実際にエトワリアに召喚されている。

 他にも、「三者三葉」の山路。「夢喰いメリー」の夢路君。「ごちうさ」のタカヒロさん。果ては「まちカドまぞく」の白澤(しろさわ)さんまで。白澤さんはオスのバクだけど。

 

 でだ。なんで急にこんな話をしだしたのかというと……

 

 

「どうしました、ローリエさん?」

 

「……あぁいや、何でもないよ、心儀」

 

「またナンパ関連ですか? 自重してくださいよ」

 

「うるせー。可愛い子を可愛いと言って何が悪い」

 

 

 目の前で俺と共に食堂でメシを食っているこの男。

 ランプ曰く『期間限定で観測できるクリエメイト』。

 白河(しらかわ)心儀(しんぎ)という、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、最近友達(ダチ)になったからだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 出会いのきっかけは数ヵ月前、たまたまきららちゃんの里に寄った時だ。シノやアリス、カレンやクレアと召喚の館前で談笑している男を見つけたのだ。

 髪色も目の色も黒い、典型的な日本人の特徴をした、ファンタジックな格好をするにはちょっと浮く姿の男だ。

 

『おはようクレアちゃん。その男は誰かな?』

 

『あ、ローリエさん。彼は白河心儀さん。クリエメイトですよ。』

 

『ど、どうも………』

 

 クレアの紹介に、俺は内心眉を顰めた。

 コイツがクリエメイト? どこの漫画(せかい)からやって来たんだ? と。ディーノさんや秋月くん、山Gや夢路、タカヒロさんとも違う。となると、何者なんだ? と。

 

『………そうか。俺はローリエ。神殿で八賢者を務めている』

 

 自己紹介はしたにはしたが、俺は彼を徹底的に調べることにした。G型魔道具とルーンドローンを駆使して、音声や映像を集めた。その結果、彼がクリエメイトについて知識を持っている事が明らかになった。

 

 怪しいと踏んだ俺は、路地裏で一人になったタイミングで彼に接触することにした。

 

 

『ハロォ〜〜〜、白河くーん?』

 

『ひゃっ!? ろ、ローリエさん!? い、いきなり何ですか?!』

 

『ちょいと俺とお話しようや』

 

 ぷにぷに石弾が3発装填されてるパイソンで後ろから脅すと、振り返った彼は俺の持ってるモノを見て顔の血の気が引いていった。

 

『単刀直入に聞こう。―――お前ホントにクリエメイトなのか?』

 

『な…何を……!? 私は本当にクリエメイトですよ!!』

 

『じゃあ、()()()()()()()()を片っ端から言ってみてよ? 娘や嫁の名前でもいいぞ』

 

『………?? え……えーっ、と………』

 

 

 俺の質問に心儀は律儀に答えてくれた。まぁ、逃げたら撃たれると思っていたからかもしれんけど。

 結婚はしていないと言ってから一人ずつ丁寧に思い出し、聞いたことのない名前ばっかり挙げる心儀に内心ため息が出そうだった。

 

 

 ―――コイツはクリエメイトじゃあない。

 

 目的は未だ分からないが、クリエメイトを騙るなんて、前世きららオタクの俺からすれば処刑モンだ。「もういい」と語調強めに遮り、パイソンの撃鉄を起こそうとしたその時。

 

 

『コラ〜〜〜〜ッ!!!』

 

『『!!?』』

 

 俺の生徒であるランプと、召喚士のきらら、そして神殿からまた勝手に抜け出てきたソラちゃんが現れた。

 

 

『ローリエ先生っ!! 心儀様に何をしているんですか!! クリエメイトに手を上げようなんて許しませんよ!!』

 

『いいや、コイツ絶対クリエメイトじゃねーよ。こんな一般人みたいなクリエメイトいる訳ねーだろ。せめて秋月君くらいキャラ立たないと』

 

『ローリエさん。彼は……心儀さんはクリエメイトです。

 パスで分かります……………信じてください。』

 

『ローリエ、私……彼を観測したのよ。ほら…これが証拠』

 

 

 きららちゃんの本気の瞳に不思議な感覚を覚えながら、ソラちゃんが開いた聖典のページを注視する。

 ―――そこには、確かに「白河心儀」の名前が書かれていて、物語調の観察記録がソラちゃんの字でびっしりと書かれていた。

 

 

『そんなバカな……!?』

 

 

 それを見た俺の感想はその一言に尽きた。

 ソラちゃんの聖典という決定的証拠が出てしまった以上、彼はクリエメイトであるし、俺の予想が間違っていた事は明らかだ。しかし……謝罪し、神殿に撤収した後も俺の心に確かなしこりが残っていた。

 

 きらら系の漫画において、最も重要視されるのは「キャラクターがどれだけ個性的で、印象に残るか」なのだ、と聞いたことがある。例え男性でも、そのキャラクターが魅力的なら十分「きらら男子」になりうるし、彼らが物語を面白くする事も確かなのだと。俺も大体合っていると思う。

 

 夢路君なら、ヒーローのような精神性。

 ディーノさんなら、ネタレベルでの苺香ちゃんと深夜アニメへの愛。

 タカヒロさんなら、娘・チノとのギャップ。

 山路さんなら、無駄なハイスペックさと葉子様ストーカーetc。

 

 といった感じで、きらら男子のキャラは濃いが好感が持てる人々だ。

 

 だったら、あの謎のクリエメイト・白河心儀とは何だろうか?

 彼の人間性に注目しながら分析すると、妙な違和感を抱きだした。

 

 

(………初対面の女の子には緊張しているものの、何だかんだで仲良く付き合えてる……?)

 

 彼は、クリエメイトの女性に初対面では見てて面白いくらいに緊張こそしているものの、そのほとんどと良い付き合いをしている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に………

 

(まさか……)

 

 一つの可能性を見出した俺は、それを確実なものにすべく、様々な実験をした。

 

 

『心儀ー! は○れメ○ル見なかったー!?』

『え、○ぐれメタ○?』

『さっきメグとチノと見かけたんだよー! 挨拶したらすぐに逃げられて……』

『ひょっとしてして……あれのこと?』

『あっ!!』

『コンニチワ、ぼくはぐりん! 悪いスライムじゃないよ?』

『ンンッ』

 

 

 魔道具「はぐりん」を目の前で泳がせ、スライムネタでリアクションを見たり。

 

 

『ローリエ! お前はいつもいつも私の胸を……っ! 反省しているのか!?』

『(心儀は……いるな。よし…)

 反省してます。反省しすぎてるかもしれません!』

『……っ』

『心儀様?』

『ど、どうしたの……ランプちゃん?』

 

 

 心儀の前で、転生者(おれ)にしか通じないネタをぶっこんだり。(この後滅茶苦茶ルナティックミーティアされたが……)

 

 他にもいろいろやったが、実験すればするほど、俺の中の仮説が確信に変わっていった。その仮説……もとい確信。それは――――――

 

 

 ―――こいつ、俺と似たような記憶を持っている、ということ。「きららファンタジア」の記憶も持っているかもしれない、ということ。

 

 その確信を手に入れた夜、俺は再び白河心儀と接触した。

 

 

『おひさー、心儀くん』

 

『ろ、ローリエさん!!!?』

 

『おい逃げんなよ。今回はリボルバーは置いてきた。丸腰だぜ、俺』

 

『び、ビビった………

 それはそうと……私に何の用ですか?』

 

 やはり、早い段階で脅したのが良くなかったのか、いつでも逃げられるように周囲を確認している。俺も、逃げられる前に新たな仮説をここで確かめた。

 

 

『――芳○社』

 

『……えっ?』

 

『○ニプレ○クス。ド○コム。ご案内です。』

 

『ええっ……!!!?』

 

 それは、アプリ「きららファンタジア」を起動した時に一度は必ず聞く、スポンサーとご案内……そしてタイトルコールだ。

 

『―――きららファンタジア。………やっぱり、お前も同じ記憶を持っていたか……!』

 

『ど、どうして………!!?』

 

『簡単な事だ。お前と同じ、プレイヤーだったんだよ。「きららファンタジア」のな』

 

 

 それからは、案外早かった。

 お互いが、お互いの真の自己紹介を行った。

 

 ローリエ・ベルベット。

 エトワリアに生まれエトワリアで育ったが、日本で過ごした前世の記憶持ちの転生者。アニメ・ゲーム、きららファンタジアの記憶も勿論持っている。

 

 白河心儀。

 日本で社会人として働いていたが、エトワリアにクリエメイトとして召喚された召喚者。きららファンタジアのプレイヤーだったため、きらら達の里にすぐに住み慣れた(本人は謙遜してたケド)。

 

 こうして、俺らは「日本で暮らし、きららファンタジアをプレイした事のある仲間」として、あっという間に意気投合したのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 そして、今に至るまでにちょくちょく会ったり、きららファンタジアのストーリーや超強敵戦について語っていくうちに、今のような昼飯を一緒にするような間柄になったのである。

 

「ローリエさんはあまりにも節操がなさすぎですよ。噂では神殿の女性の7割がローリエさんにナンパされたとか、それから、賢者の皆さんやアルシーヴ様にも言い寄ってると聞きますし……」

 

「噂じゃない、事実だ」

 

「尚更ダメでしょ! 何やってるんですか……大体、あなた元日本人ですよね? 股掛けは駄目だって普通分かるはずでしょう?」

 

「心儀、よく聞け」

 

「何ですか…?」

 

「エトワリアに重婚を禁ずる民法は存在しない」

 

「おいおい……それって、法律がなければ好き放題しても良いって事ですよね!? 八賢者がそんなんで良いんですか!?」

 

「むしろ賢者も法を守ってばかりじゃいられんしな」

 

 でも、彼は根っからのマジメ人間なのか、俺のナンパ―――もとい、ライフワークには良い顔をしない。物語ごとに推しがいないのかね、心儀は。俺だって、百合の邪魔みたいな野暮は万死に値するからしない。そこを弁えれば少しくらいいいだろうと言ったが、許されなかった。彼曰く―――

 

『バタフライ効果って知ってますか? 蝶の羽ばたきが、別の場所で竜巻を起こす可能性があるっていうアレです。

 私達がいる事で、きららさん達が本来とは違う道筋を辿るかもしれないんですよ? その為にも、下手な事は慎まないといけないんです』

 

 ―――とのこと。

 でもなぁ……もうバタフライ効果を受けまくっている俺からすれば、今俺たちがいる世界は既に()()()()エトワリアなんだと思う。

 だってローリエや心儀を筆頭として、俺の知らなかった連中が多く現れまくったから。コリアンダーもそうだし、先代女神のユニ様もそう。ソラちゃん封印事件の黒幕側の面子はサルモネラやビブリオなど、漏れなく全員が俺の記憶(知ってる聖典)には出てない奴らだ。

 ここまで行ってる以上、今更バタフライ効果を恐れて萎縮しても仕方ないと思うんだけどね。

 

 

 その後は、法がなんだ、ナンパがなんだと色々話し合ったものの、特にいつも以上の進展はなく、食事を終えた俺達は、里に新しく建ったらしい建物の人だかりに目が移った。

 

「あの、ローリエさん、あれは……」

 

「何で集まってるんだろうな、行ってみようぜ」

 

 集まっている人たちは、皆建物内に入ろうとせず、ただ周りから様子を伺っている。

 

「何で集まってるんだ?」

 

 その中にいた、顔見知りの美少女―――コルクに事情を聞いてみる。きらら達の里にて行商人をしている彼女ならば、確実になにか知ってると踏んでのことだ。

 

「里に新しい商人が来た。防具職人だ。しかし、ガタイが良い上にやや強面でな。みんな、ここから観察しているにとどまっている」

 

「コルクさん……?」

 

「ローリエさんと心儀も店に?」

 

「あぁ。もっとも、俺達は野次馬してはいおしまいじゃあないけどなッ!!」

 

「えっ、ちょっ…ちょっと!?」

 

 コルクから簡単に事情を聞いた俺は、戸惑う心儀の首根っこを引っ張って、人混みを抜けて店の扉を開ける。見ていた人々は感嘆の声を漏らした。

 

 

「………らっしゃい」

 

「………わーお」

「……う、うわぁ…!」

 

 店に入ると、カウンターにいた男が俺達にぶっきらぼうに挨拶してきた。

 年は俺らよりも遥か上。40か50代ってところだ。身長は転生して背が伸びた俺よりも高い。190余裕であるんじゃないかな? それでいて年齢の衰えを感じさせない筋肉隆々さと、ショートカットに三白眼と職人気質の頑固さが滲み出ている顔付き。

 その様相は、ファンタジーなどで一般的に「オーガ」と呼ばれる鬼系モンスターを彷彿とさせた。人間だけど。

 

 

「……ご注文はなんでしょう」

 

「えーーーっと………ここの防具を見てから決めてもいいかな?」

 

「………ご自由に。うちは防具以外にも装飾品や道具も取り扱ってるんで、何かあれば訊いてください」

 

 低く渋めな、楠○典さん寄りの声で敬語って違和感あるな……と思いながらも、俺は店に展示してある防具に触れ始めた。

 

 飾られている防具は、革製や爬虫類の鱗製のものを中心に、様々なものが陳列していた。

 

「おい……この革の鎧、だよな……?

 これ叩いたらキンキンって金属みてぇな音が鳴ったぞ。コンコンじゃなくて」

 

「ゴールデンホーンっつう金色(こんじき)の鹿の革を(なめ)すとそうなんだよ」

 

「じゃあおっさん、この鱗の盾は……」

 

「大岩トカゲのウロコをふんだんに使ったものだ。並大抵の刃物なら受け止めてそのまま折る事ができる」

 

「……俺の知ってるかわのよろいとうろこのたてじゃねえ……」

「随分ハイレベルな装備ですね……!」

 

「『限りなく軽く・丈夫に』がウチの防具の信条なんでね」

 

 

 なんとまぁ、エトワリアにハイレベルな防具屋が爆誕したものだ。

 

 

「………で、何を買ってくんだい?」

 

「あぁ……えっと、じゃあこの銀色の小さな盾とあそこのオレンジのマントをくださいな!」

 

「金属生命虫の翅の小盾(バックラー)と飛竜のマントか。合計金貨15枚だ」

 

「はいお代。釣りはないはずだ。ほれ心儀、この盾つけてみろ」

 

「わ、私がですか!?」

 

「ここにはおめー以外にその盾装備できるせんしはいないだろ。飛竜のマントとかいういかにもカッコよさ気なマントは俺が貰うから、早よ」

 

「そんな…悪いですよ、お金まで出して貰って……あ、でもこの盾軽い♪…やっぱりこんな良い盾、タダでは貰えませんよ!」

 

「じゃあ後でお代出してよ。盾は金貨5枚だってさ」

 

 

 何も買っていかないのも失礼なので、楕円形の銀の盾と、紺色に濃紅色裏地のマントを購入して、その日は失礼することにした。

 ……なお、店主の強烈なビジュアルに圧されたためか、俺達は二人とも店主の名前を聞くのを忘れたわけだが、それに気づいたのは店を出てから数十分してからの話。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 その夜。

 里に泊まっていくことにした俺は、気まぐれに夜の散歩をしていた。夜風に当たりながら里を歩いていると、木が突然変異を起こしたような建物―――クリエメイトやきららちゃん達が住む『ルーム』と呼ばれるものだ―――の周囲でうろうろしている人間がいた。

 

 

「んぁ? ……あのおっさん、なにやってんだ、あんなところで……?」

 

 

 そう。昼頃にお邪魔した防具屋の店主だった。

 部屋の中の様子を探るように動いているその姿は、変質者と勘違いされ、衛兵あたりに通報されてもおかしくはない。

 俺はきららちゃんたちの夜の生活(意味深ではない)を守るため、防具屋の店主に近づいてみる。

 

 

「くっ……!」

 

「は? え、ちょっ!!」

 

 店主は、俺に気づくと逃走を始めやがった。何だか知らないが、そんなリアクションをとったら自白と何ら変わらない。容疑確定だ。

 突然の逃亡に驚いたものの、俺はすぐさま後を追いかけた。

 体格がでかく、筋肉質な男。まったくノロいわけではなかったが、この八賢者相手だと流石に相手が悪い。しかも、本気になってG型魔道具やルーンドローンを使えばどこへ逃げようとも追いつける。平成・令和の防犯技術は有能だ。筋肉ムキムキな大男ひとりを里から見つけだし捕まえる事など朝飯前である。夕食時を過ぎてるけど。

 

 

 

 

 

 

 ―――そして場所は、誰もいないルームのロビーに移る。

 

 

「………で、あそこでウロついていた理由を教えてもらおうか?」

 

「「…………」」

 

 俺の言葉に、防具屋の店主も「男手が必要だから」と引きずってまで連れてきた心儀も黙り込んでしまっている。心儀については正直悪かったと思っている。

 ちなみに、他のクリエメイトに話を聞かれないように、佐久隊長にベッドルーム(個室)へ続く廊下からロビーへの入口に立ってもらっている。本人も話を聞きたがっていたが、「男同士のワイ談に混ざりたいのか?」と冗談めいて茶化しながら言ったら「は、破廉恥な〜〜〜!!!!」と逃げていった。でも入口を警邏(けいら)しているあたり流石仕事人である。他の子をワイ談から守ろうと張り切ったのかな?

 

 

「…………」

 

「おっさん、っていつまでも呼ぶわけにはいかないしな……頼むから、いい加減教えてくれないか?」

 

「………ホーブン」

 

「はい?」

 

「私の名前だ。」

 

 

 コーヒーを吹き出しそうになる。た、ただの偶然だ。

 

 

「……それなら、ホーブンさん。なぜ、夜にあの辺をウロついていたんだ。サカリついたのか?」

 

「ちょっと、ローリエさん―――」

莫迦を言うな!私は死ぬまで妻一筋だ!!

「ひぃっ!!?」

 

 テーブルを叩いて怒鳴るホーブンさんに俺を諌めようとした心儀が震え上がる。それに気づいたホーブンさんは、すぐに落ち着きを取り戻し心儀に「すまない」と謝罪した。

 まぁ、俺としても予想できた答えだ。もし、この質問で頷くようであったならば、既に俺が暗殺している。勿論、証拠が一つも残らないようにだ。

 

「そうでしたか。愛妻家の貴方に不躾なことを聞いてしまい申し訳無い。

 ……だが、だとするとより分からなくなる。なぜ、夜遅くにルーム前にいたのかが」

 

 外堀を埋める言い方をして改めて尋ねると、今度はホーブンさんが言葉に詰まる。

 

 

「……これは私の問題なのだ。安易にお二人に教えて良いものではないと思っている。

 …生き別れた娘を探すためにさる噂を聞いてここにやってきて、夕食時から探していただなんて。」

 

 …………………全部言った?いま、全部言わなかったか?

 

「…………娘さんを探すため、と?」

 

「っ!!? な、何故娘のことを……!?」

 

 いや何故じゃねえだろ。間違いなく聞いたぞオイ。

 

「と、とにかく。私は生き別れた娘を探すために、防具屋で生計を立てつつ各地を転々としていたのだ」

 

「娘さん探してるって認めちゃったよ」

 

「持っている手がかりは赤子の頃彼女のオレンジの髪につけていた星の髪飾りと名前のみ。成長してしまっているだろう彼女はなかなか見つからなかった」

 

「あ、あの………もし良ければその娘さんのお名前をお聞きしても?」

 

「流石に、『()()()』だとは教えられない」

 

「え゛っ?!!」

「!?!?……ッ! ゴッハゴホ!!」

 

 

 コーヒーを吹き出し、むせる。変なところに入ってしまった。心儀も、動揺からか席から立ち上がってしまっていた。

 

「………どうかなさいましたか? 心儀さん、ローリエさん」

 

「………な、何でもない……ゴホッ!」

 

「えっと…その…お、お構いなく………!」

 

 今すぐ心儀とここからエスケープして二人きりで現代社会人会議を開きたかった。きらら、ホーブンさん、きららファンタジア、そしてまんがタ○ムきららの出版社。その知識を持ってすれば、ホーブンさんの娘の名前が何を意味するかなど想像に難くない。

 しかも、彼が持っている娘の手がかりは()()()()()と「()()()」という名前。偶然にも程がない?

 

 

「……と、とにかく! 明日、詳しい事情を聞きます! 今日は、もう遅いですから」

 

「分かりました。では、それまでに話をまとめようと思います。おやすみなさい」

 

 

 ホーブンさんは、実に紳士的に一礼してから、防具屋へ帰るべく出入口のドアを開き出ていった。ホーブンさんが見えなくなってから、俺は佐久隊長と心儀に声をかける。

 

「……佐久隊長」

 

「どうした?」

 

「あの話は、あまり言いふらさないでほしい」

 

「……安心しろ。()()()()()()()()()()

 

「悪ぃな。ワイ談とかいって追い払っちゃってよ」

 

「まったくだ」

 

 佐久隊長は、拗ねたように言うとそのまま廊下へ引っ込んだ。おそらく自室へ行くだろう。

 

「心儀」

 

「……何ですか?」

 

「…まさかのきららちゃんのお父さんだよ。どうしよう…??」

 

「どうしよう…私もまだ動揺がおさまらなくて……」

 

「取りあえずきららちゃんは母親似だったんだなと思うとしよっか。きららちゃんのお父さんと聞いて普通アレは連想できない。

 あと秘密を全部暴露するスタイルが遺伝とか意外すぎるわ」

 

「そ…そうですね……」

 

 きららちゃんのお父さんとは思わないに決まってるだろ。だって作画からして別人だもん。きららちゃんを「ひだまりスケッチ」や「まどマギ」風だとするならば、ホーブンさんは「北斗の拳」や「ジョジョ」に出てきてもおかしくないくらいのレベルで作画が違う。なんでホーブンって名前なのに集○社の週刊誌(少年○ャンプ)に出てきそうなデザインなんだよ。ぶっちゃけ、ここまでくるときららちゃんが父親に1ミリも似なくて良かったと思うまである。

 

 

 




To be continued……
Next Collaborate Story is
『男三人のブルース その②』


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男三人のブルース その②

さて皆さん。お待たせしました。
(作者が)待ちに待ったコラボ編後半の始まりですぞ!!



2020/10/3:本文を一部修正しました。


 ―――翌日。

 

 日を改め、人払いをした食堂の隅にて行われた男三人の会談は、ホーブンさんの家族の話から始まった。

 

 

「娘は……きららは生まれた時から不思議な力を持っていた。どんな力かすらも分からなかった故、その力のせいで災厄が起こったり、悪事に巻き込まれたりするのを何よりも恐れたよ。私は各地を巡る商売をしていたから、なおさらな」

 

「そうだったんですか……」

 

「悩みに悩んだ末、私はとある田舎の村人達に見つかるであろう入口付近に、まだ赤子だったあの子を…託した……」

 

「あの……奥様はそのとき、どちらに…?」

 

「産後の肥立(ひだ)ちが悪くてね…長生き出来なかったのだ。

 不思議な力を持つ娘を身籠っていたから、なにか悪い影響を受けたのかもしれない。」

 

「…ごめんなさい……」

 

「謝らなくていい。私とて、あの時の判断が正しいのか間違っているのか、今も分からないままだ。

 ―――だが、少なからず後悔はある」

 

 

 ホーブンさんは、娘を連れ回していたら、何かあった時に彼女を守れないと思ったのだろう。故に、田舎の集落に彼女を託したのだそうだ。

 

 

「なるほど。で、もし娘さんに会えたら何をする気なんだ?」

 

「娘はきっと私の事など知らない。自己紹介したら、すぐに謝りたいと思っている。」

 

 

 俺が娘と会ったらのことを聞けば、ホーブンさんは合間を置かずにそう答える。

 なるほどな。ホーブンさんとしては、きららちゃんとの絆を作り直したいと思っているのか。

 

 

「……心儀、お前はどう思う」

 

「えっ!? どう、って……」

 

 いちおう、心儀に訊いてみるが言葉を濁す。モロ家族の事情だ、こうなるのも当たり前である。

 ―――だったら先に、俺の考えを言ってしまおう。

 

 

「……ホーブンさん、あなたの気持ちはよく分かった。

 良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」

 

「……? では、良い知らせから…」

 

「あなたの娘、きららという少女。俺はおそらくその子を知っている」

 

「!!! ほ、本当ですか!?」

 

「ここでの嘘は不誠実というものだ。

 ―――だが、あなたが親として彼女と会うことは許さない。これが悪い知らせだ。」

 

「「!?!?!?」」

 

 

 俺の言葉に二人が動揺する。それはすぐに、『何故だ』という眼差しに変わる。その理由も、しっかり説明しておこう。

 

 

「俺の知っている『きらら』は……元気に、逞しく育った。生まれ持った力を上手く使いこなし、人との絆を繋げていっている。親無しで、仲間たちと共に。仲間たち()()でな」

 

「た、確かにそうではありますけど………」

 

「簡単なことだ、心儀。きららちゃんは『両親がおらず、村の人に育てて貰った』子なんだ。そして今は多くの仲間がいる。そんな彼女に『父親』をすげつけるとどうなるか?

 ―――そこで生まれるのは、ただのすれ違いだけだ」

 

「…そんな、ことって……!」

 

 

 そこまで聞いたホーブンさんが拳を握りしめる。握力で拳が白くなっているのがわかる。それは俺への怒りというよりも、彼女を捨てた自分自身へ向かう怒りのようだ。頭では分かっていたとしても、理屈でどうにもならないのが感情というものだ。

 

 

「こうなる予感はあった。娘は私の事を忘れて……いや、覚える機会すらなかったのだ。覚悟はしていた。だが……ままならぬものだな」

 

「ホーブンさん……?」

 

 ホーブンさんが口を開く。心儀は心配そうに見ているが、俺は何も言わない。

 

 妻を失い、娘の恐ろしい未来を案じたのであろうホーブンさんの行動。それが全て裏目に出たと思う。同情はするし可哀想だとは思う。

 だが彼をきららちゃんの父親として紹介するかは別だ。彼女の意思次第では、ホーブンさんは奥さんの忘れ形見を家族として扱う事が出来なくなる。

 

 

「で、でも! だからといってすぐに決めてしまうのはどう、なんでしょう……」

 

「……!」

 

「もう少し色々話し合って……決めたほうが……良いんじゃないかなって……」

 

「心儀さんは優しいお人だ」

 

「えっ? いや、人として思った事を言っただけですので……」

 

 

 心儀が恐る恐るながらも俺の意見に反対する。ホーブンさんはどちらかというと心儀に心が傾いている。まあ当然だな。ここで素直に俺の言うことを聞いてしまったら逆に怖い。

 心儀はホーブンさんのことを気遣っての発言なのだろうが、俺だって意地悪で言ってはいない。きららちゃんの幸せを第一に考えているのだ。とはいえ、このままでは折り合いがつかない。どうしようか。

 

 

「ローリエさん。貴方の意見はよく分かりました。父親にも関わらず、その責任を果たせなかった者にとっては耳が痛い話です。―――しかし……

 この世でたった一人の家族には変わらないのです。親子としてではなくてもいい。もしくは一度でもいい。どうか合わせていただけませんか…?」

 

「ホーブンさん……」

「……………」

 

 大の大人の懇願に、心儀も俺も絶句する。娘のために土下座までするとは。

 困った。これでは、俺が悪人みたいじゃあないか。だがコレばっかりはきららちゃんの心持ち次第でしかないのは変わりないし………ん?ちょっと待て。

 

 

「……親子としてではなく……?」

 

「ローリエさん?」

 

「ホーブンさん。少し良いだろうか。」

 

 ホーブンさんと心儀に耳打ちする。男同士でこういうことはあんましたくねーが、妙案が思いついたのだから仕方がない。細かいことは後にすべきだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 俺が思いついた妙案。

 それは、ホーブンさんの防具屋にきららちゃん達を呼ぶことであった。これなら、客と店主という関係できららちゃんをホーブンさんに会わせることができる。

 

 

「これが新しくできた防具屋ですか……!」

 

「凄い品揃えですね、きららさん!」

 

「ローリエも心儀も、いい店を知ってるね。」

 

「……おい、本当に大丈夫なんだろうな?」

 

 ……ランプとマッチ、あと佐久隊長も来ているけど想定内だ。あとはホーブンさんの露骨な暴露に気をつければ良いだけである。

 

 

「お客さん……何を、お求めだろうか……?」

 

 ホーブンさんが明らかに動揺した声で4人に話しかけているのを見て、頭を抱えたくなる。彼としては、すぐにでもきららちゃんを抱きしめたいのだろうが、事前に「そんな事したら彼女が驚く」と釘を刺してある。でもコレ時間の問題だな。場合によっちゃあ、刺した釘が秒ですっぽ抜けるぞ。

 

 

「わ! 見てくださいきららさん! この星の首飾り、とても可愛いです!」

 

 ランプが手に取ったのは、星の首飾り。それをきららちゃんに見せた途端……

 

 ―――ガラガラガシャーン!!

 

「「「「「!?!?!?」」」」」

 

 ……ホーブンさんのいる場所から荷物やらなんやらが崩れ落ちる音がした。動揺のしすぎでは?

 密かに心儀が助けに行ってるのを横目に見ながら、きららちゃんのやり取りを聞いていると、こんな話が聞こえた。

 

「何だろう、この首飾り……なんだか、安心する気がします……!」

 

「安心……? また、変な表現だな。」

 

「やはり、きららさんが星の髪飾りをつけているからじゃないですか?」

 

 ―――ホーブンさん、ステイステイ。出てこようとしないの。心儀君を困らせるんじゃあありません。

 

「そうなのかな…?

 とにかく、これを買おうかな。」

 

「!!! ありがとうございます…!」

 

「……………動揺のしすぎだろ…」

 

「先生、なにか言いました?」

 

「いや、なにも言ってねぇ」

 

 傍から見たら怪しさ150%のホーブンさんがきららちゃんから星の首飾りを受け取り、値札を取って会計を済ませる。そして、首飾りをきららちゃんに渡した―――その時。

 

 

「よおおおお! ジャマするぜぇ!」

 

 如何にも三下なガラの悪い男が5、6人入ってくると、いきなり店に飾ってある商品を片っ端から壊し始めた。

 

「なっ……!? ちょっと、何やってるんですか!?」

 

「おい、警邏隊たる私の前で乱暴狼藉を働く気か?」

 

「アァン!!? 乱暴狼藉じゃありませ〜〜ん!!

 俺たちゃ、正式な契約に基づいてやってんだ!コレを見ろ!!」

 

 当然のように注意したランプと佐久隊長に男Aが見せつけてきたのは、一枚の紙。商会や店同士で行われる契約書だ。そこには………借金の旨と『返せなかったら店を明け渡す』という文言――そしてホーブンさんのサインが。

 

「なっ!!? ど、どうして……ホーブンさんのサインが…!?」

 

「書いたからに決まってんだろ、バァァァカ!!」

 

 三下の男連中が殴り倒したくなるほどウザいが、真偽の程はホーブンさんに聞かなければならない。目配せをすると、ホーブンさんは厳つい表情のまま軽く首を横に振った。

 

 ―――成る程、偽造か。

 ならば、そんな事をする商会を突き止めなくちゃな。

 

 カウンターから男達の前にずんずんと進み出るホーブンさんの服にさり気なく触って発信器をつける。

 

「……話は分かった。

 私がそちらに出向けば良いのだろう。これ以上、店の商品に手を出すのは止めていただこう。お互い、穏便に話を済ませたい筈だ」

 

「さっすがダンナ! 話が分かるゥ〜!!」

 

「そ、そんな、店主さん……!」

 

「下がっていなさい、お客さん。たとえ身に覚えのない書類だったとしても、ここはまだ私の店だ。客も商品も私が守る」

 

 きららちゃんの前に立ち、男達を睨むホーブンさん。穏やかな口調とは裏腹に、凄まじい怒りが店内に漂う。だが男達は言葉だけは従順な様子に気を良くし、明らかに怒るホーブンさんの様子に気づくはずもなく、彼を連れ去っていってしまった。

 

 ……時間にして、わずか3分程度だった。

 しかし、あらゆる状況が一気に変わった。

 ホーブンさんはいずこかに連れて行かれ、店の前には閉め出されたきららちゃん達と心儀が立ち尽くすのみ。

 

 

「……どうして、ホーブンさんは連れて行かれなきゃいけなかったのでしょうか……?」

 

 きららちゃんが呟き、星の首飾りを握りしめる。

 

「助けに行きましょう!」

 

 ランプが奮い立つ。俺もそれに異論はない。

 奴らがやったのは、完全な違法行為だ。『借金の返済に店をかけてはならない』という法に触れているし、契約書があるからといって乱暴狼藉を許す理由にはならない。ソレを迷路帖の警邏隊や八賢者の前で堂々と勇敢なことである。

 つまり、違法の証拠を目の前で見せてくれた。すぐさま捕まえる事ができる。やりやすいったらありゃしない。後は発信器の反応を追って商会の場所を突き止めるだけだ。

 

 ―――ただし、きららちゃんには聞きたいことがある。

 

 

「ランプ、マッチ。佐久隊長を連れて馬車を引く馬を調達してくれ。できるか?」

 

「あ、はい! 分かりました!」

 

 俺の生徒は、正直に俺の言うことを聞いてくれた。本当に、成績以外は良くできた生徒である。

 そして、ランプが店を出ていき、店内に俺と心儀ときららちゃんの3人だけが残ったタイミングを見計らって、きららちゃんに話しかけた。勿論、戦いの準備を始めながら、だ。

 

 

「きららちゃん。…やっぱり、助けに行くのか?」

 

「…何を言っているんですか? そんなの、当たり前でしょう。」

 

「その人が例えば―――君のお父さん、とかだったとしても?」

 

「ローリエさん!!」

 

 心儀のリアクションからして、ちょっとストレートすぎたか。俺の質問に、きららちゃんは一瞬、苦虫を噛んだような苦しさのような表情をした。けど、すぐににへらと笑う。

 

「あはは、私にはお父さんはいませんよ。」

 

「……」

 

「村にいた頃はずっと思っていましたよ。『どうして、私には皆みたいにお父さんもお母さんもいないんだろう』って。でも……今は仲間がいます。その仲間が『助けたい』って言ったんです。私も助けたいですよ……勿論、私自身の意思で、です。

 ましてやその……助ける人が、本当に私のお父さんだったとしたら……助けない理由がないじゃないですか」

 

 

 ……嗚呼、なんていい答えなんだ。

 ソレを聞ければ、十分かな?

 

「分かった。行こうか、きららちゃん。

 このローリエが、君の意思を全力で手助けしよう」

 

「ありがとうございます!!」

 

 こうして、俺達の『ホーブンさん奪還作戦』が開始した。

 

 

「――ところできららちゃんは、子供の作り方って知ってる?」

「ちょ!?!? 藪から棒になんてこと訊いてるんですか!!!」

「え? えっと…川を流れるおっきな桃をコウノトリが運んできて、それを割ったら生まれるって聞いたことが……」

「あれ、随分と混じってませんか?」

「……悲しいな、心儀。俺はきっと数年後に、この子に【自主規制(ピッーーーーーー)】のことを教えないといけない」

「なに言ってるんですかぁぁぁーーー!!? 目の前にきららさんがいるのに!!」

「あの、ローリエさん、心儀さん? 何ですか、そのせっ……」

「わーーー!わーーー!! 言わないで!言わないで良いから!!」

「あーーー、子供作りの儀式?」

「誰がギリギリの線を攻めろと言いました!?!?!?」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 言ノ葉の都市・とある商会の地下室にて。

 

 二人の男が対面していた。

 一人は痩せぎすの男。豪奢な服飾に身を包み、厭らしい笑みを浮かべている。

 もう一人は筋肉隆々の男。全身を鎖で縛られ、檻の中で痩せた男を見上げている。

 

「ふっふっふ………やっと手に入れましたよ。ホーブンさん。あなたの技術。そしてコネクションをね。」

 

「………」

 

 鎖で縛られた男・ホーブンは、睨んだ瞳で、痩せぎすの男に詰め寄った。

 

「ビレッツ……あんたは…自分がなにをしようとしているのか分かっているのか…!?」

 

 筋肉質の大男も、鎖と檻に遮られているせいか、痩せぎすの男―――ビレッツにとっては恐怖の対象になりえないようだ。

 

「当然です。ゴールデンホーンに岩トカゲ…金属生命虫に飛竜!!

 ここまで良質な素材などどこにいるでしょうか!!

 あなたのお陰です。コレで我々『ビレッツ大商団』も、大いに賑わい儲かることでしょう!!!」

 

「……あんたらの素材の乱獲の噂はかねがね聞いている。動物たちが絶滅するまで乱獲を続けるつもりか………!!?」

 

「知ったことではありませんね。

 私達は商売人なんですよ? 商人は金を稼ぐものではありませんかッ!!

 まぁ……確かに金になる生き物が死に絶えるのは嫌なのでこちらで管理させていただきましょうかね」

 

 

 ビレッツの底知れない、なによりも汚れた欲望にホーブンは後ずさる。

 それと同時にホーブンは、目の前の男は自分と相いれないものだと確信を得た。

 ホーブンは、防具を作る時、素材となった生き物たちに感謝を込めて、それらを無駄にしないように、素材の力を100%以上引き出すことを信条にしている。また、多くの人々に愛され使われることこそ奪った命への礼儀であり、一番大切にしていることなのだ。そうして生まれたホーブンの防具の信条が『限りなく軽く・丈夫に』だ。

 ホーブンは防具の素材を大切にしている。だから防具の素材となる動物や魔物の採取は適度に抑えて乱獲を避けるし、他の商会にもホーブン独自の素材調達のルートは内緒にしてきた。弟子さえとってない徹底ぶりである。

 

 だが自分を捕らえたビレッツにはそれがない。素材になる動物たちを、金のなる木かなにかと勘違いしているのだ。彼はおそらくホーブンのコネクションを最大限活用して動物たちを狩りつくす腹積もりだろう。文字通り絶滅はさせないだろうが、それでもロクな事にならないのは目に見えている。

 

 これはまずい、とホーブンが思った、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォ――――――――――――――ン!!!!

 

 

「「!!?」」

 

 地下室が大きく揺れた。

 何事かと驚愕に表情を変える二人。

 揺れが収まったかと思った途端、地下室の入り口の扉が乱暴に開かれ、そこから大慌てで男が一人、転がり込んできた。状況からしてビレッツの部下である。

 

「何事ですか!」

 

「敵襲です! 八賢者と警邏隊と言っていましたが……ぐわぁぁあ!!?」

 

 報告が終わる前に背中から吹き飛ばされて地下室の壁に叩きつけられて意識を奪われるビレッツの部下。

 

 

「ハァーーーーーーーーーーッハッハッハッハッハッハ!!!

 貴様らの悪だくみもここまでだ!!!」

 

 もうもうと流れる煙の中から現れたのは、髪を二つの星の髪飾りでまとめた少女・きららと、卸したてのマントを靡かせて高笑いする八賢者・ローリエだった。

 

 

「何故って? ―――私が来た!!!」

 

「「「…………」」」

 

 

 何処ぞのヒーローの顔マネ&声マネを盛大にかましたローリエは………ものの見事にスベッていた。

 

 

 

 

 

 

 

 呆気に取られていたホーブンとビレッツをよそに、すぐさまローリエは懐の拳銃を抜き、クイックドロウで4連射。

 

「ぐぎゃああぁ!!?」

 

 放たれた4つの弾丸は、ビレッツが隠し持っていた武器―――クリスタル2つと、大小のナイフを弾き飛ばし、彼を丸腰にした。ビレッツがコッソリと手をナイフに伸ばした瞬間には既に着弾していたので、実力の差は一目瞭然だ。

 

 

「……さ、大人しく縄につこうか?」

 

「…無駄ですよ。仮に商団長の私だけを捕まえたところで、商団の警備達は止まりません。

 みんな、この商団を守るために必死になれる方々です。私を取り返すために躍起になるでしょう」

 

 

 ローリエの降伏宣告に、渋々従うビレッツ。

 だがビレッツは、己の部下たちを信頼していた。たった二人にどうこうできるほどの質と人数ではない。伊達に大商団を名乗っていない。

 しかし……そう言うビレッツに対して、ローリエは余裕の笑みを崩さない。

 

 

「それはなんとも…忠誠心が高いこって。」

 

「…そんな笑みができるのも今のうちです」

 

「心配ならいらないよ。なぜなら―――」

 

 

 ローリエは、ビレッツの知らない事実を、今ここで教えてやることにした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 …場面をビレッツ大商団の本拠地、その建物内・ロビーに移す。

 少々時が遡ったそこでは、現在………

 

 

「ひいいいいいいいいいいいい!!!」

「心儀、目を閉じるな! いざという時に目を閉じてたら対応ができないぞ!」

「で、でも! 怖いです!!」

「だいじょーぶ! 精一杯サポートするよ!だから頑張って!」

「無理はしないでくださいね!」

「由紀ちゃん、青葉ちゃん、気持ちは有り難いけど…想像以上にキツいぞ、この戦い……」

 

 

 ……四人のクリエメイトが大立ち回りを演じていた。

 異世界に来ても町の治安を守る警邏隊のような恰好の色井佐久。

 シロクマのコートが良く似合うツインテールの少女・涼風青葉。

 動物耳が生えたようなニット帽のトレードマークはそのままに、天使のような羽衣をまとう丈槍由紀。

 そして―――異世界の戦士装備が自前の黒髪にあまりマッチしていない男性・白河心儀。

 

 それぞれが、商団お抱えの傭兵や忠誠心の高い従業員たちと戦っていた。

 

 佐久は己の身を盾にしつつ、敵を槍の刃以外の部分で敵を殴って昏倒させ。

 青葉は雪を伴う突風を起こして相手を吹き飛ばし。

 由紀は他のクリエメイトの傷を癒したり、防御力を上げる加護を与えるなどして補助に回る。

 他の三人が奮戦している中、心儀はというと………

 

 

「ローリエさん……いくらホーブンさんときららさんのためとはいえども、『表に立って戦え』なんて無理があるよもう……!」

 

「心儀さん!後ろ!!」

 

「うわあっ!!?」

 

「ギャアアアアアアアアアアア!!?」

 

「うわあああああああああごめんなさいっ!!」

 

「心儀落ち着け、今殴ったのは敵だ」

 

「えっ……あれっ……?ほ、ほんとだ……」

 

 

 他の三人にアシストされながら、危なげに戦っていた。今、後ろからの危機を青葉から指摘されて、振り向きざまに敵を一人撃破したのだが、味方だと思って慌てて謝罪してしまう必死っぷりだ。

 まぁ、無理もない。彼はもともと、社会人のクリエメイトだ。そして、エトワリアに召喚されてから比較的日が浅く、こっちでも戦闘経験も少ない。マウスの代わりに剣を握ってキーボードではなく敵を叩けと言われても困ってしまうのだ。

 

 

「うぅ…他のクリエメイトの皆さんの足を引っ張ってしまって申し訳ない……」

 

「弱音は終わってから言え!」

 

「は…はい!!」

 

 

 こうなった訳を説明するには、突入前のきらら達について少し語っておく必要がある。

 

 

 

 まず、ホーブンの保護にはローリエときららが動くことにした。

 彼が囚われているそこには、間違いなく強い敵か商会の長がいると予想したからだ。

 続いて、ランプとマッチには建物の外で避難誘導を行うことになった。二人(一人と一匹)は非戦闘員であるから、建物に突入するのはよろしくないときららとローリエが話し合った結果である。

 だが、そうなると……建物1階で、部下たちを引き止め戦う人数が圧倒的に足りない。荒事に慣れた警邏隊の佐久がいるとはいえ、戦いに慣れてない心儀と二人で……はさすがに心配であった。

 

 そこできららが『コール』で呼び出したのが青葉と由紀である。

 二人はそれぞれ「まほうつかい」と「そうりょ」のクラスであった。きららが広範囲制圧と味方の補助を考えて『コール』した結果である。

 

 そうして………

 

 

『ちわー、三○屋でーす。

 この度は―――神殿から、手錠のお届け物だァァァァァァァ!!!』

 

『『『『『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!?!?!?』』』』』

 

『『『『『その挨拶必要あるーーーーーーーーーーーー!!?』』』』』

 

 

 ローリエがニトロアントの群れで盛大に入り口をぶっ飛ばし、ガサ入れと称した戦闘が始まった。

 

 

 

 ―――そして、四人の大乱闘に至る。

 大乱闘と言っても、攻撃をしまくってダメージのパーセンテージを貯め、吹き飛ばす技で敵を場外にすればいいというワケではない。

 しかも、相手は数十人といる。佐久と青葉を中心にかなりの数を撃破してきたが、一向に数が減る気配がないと心儀は思っていた。

 

 

「倒しても倒しても、全然減りませんよ!?」

 

「…確かに、いささか数が多いな……青葉、また魔法で一掃できそうか?」

 

「すみません……もうちょっと待ってください!」

 

「うぅ、こっちも回復が尽きそうだよ~…」

 

 

 まさしく多勢に無勢。

 いくら『コール』によって強化されたクリエメイトでも、あまりの数の多さに、少しずつ押されていく。

 このままでは時間の問題だ。

 ローリエときららに早く来てくれと佐久や心儀が心の中だけで願った時……

 

 

「カスタードスマッシュ!!」

「ソルティードッグ!!」

 

 

 地を揺らすような、思い一撃が二発。

 ソレをまともに受けたビレッツ大商団の兵たちが派手に吹っ飛んだ。

 

 

「い、今のは!?」

 

「お待たせしました、クリエメイトの皆さん」

「おにーちゃんの言う通りだー! ドンパチやってるね!」

 

「シュガーちゃん、ソルトちゃん!!?」

 

 

 姉妹でお揃いの戦槌をひっさげて登場したのは、ローリエと同じ八賢者のシュガーとソルトだった。

 あまりにもタイミングの良い、しかも強力な助っ人の登場にクリエメイトは皆、言葉を失うも。

 

 

「あ、あの……お二人はどうしてここに?」

 

「心儀おにーちゃん! 実はね、ローリエおにーちゃんが教えてくれたの!ここが悪い商会だって!」

 

「ビレッツ大商団の悪事とその決定的な証拠の数々が神殿に届いたのですよ。あまりにも手際が良すぎるので、確認に来ました。もっとも………この状況を鑑みるにその必要もなさそうですが」

 

 

 心儀が疑問を投げかけることで、詳細が明らかになる。

 まさか、ローリエが応援要請を出していたとは。

 しかも、そのやり取りを聞かれていたのか、傭兵たちに動揺が走る。

 

「八賢者のシュガーとソルトだと!?」

「なんでここに入ってきたんだよ! 俺達がなにかしたってのか!?」

「ええい、所詮はガキ共だろう! 囲んで叩いちまえ!!」

 

 

 八賢者が三人も現れて及び腰になる者が現れ始める。だが、それでもまだ戦おうとする無謀な者たちがいた。

 その数だけでも十分数えきれない。再びクリエメイトと幼い姉妹賢者を取り囲み、襲い掛かろうとする……が。

 

 

「ディープレイン!!」

「隙ありだね」

 

 

 暴威を雨が流し、熱風が侵略する。

 

「ギャアアア!?」

「くそっ、今度は何だ!また新手か!?」

「なんなんだよ、コイツはぁッ!!?」

 

「こ…これって、まさか……!?」

 

 心儀は、やはりというべきか、『きららファンタジア』のプレイヤーとして当然だったというべきか、これらの攻撃に心当たりがあった。どちらも、ストーリーモードで見た強敵だった。

 

「八賢者・セサミ推参。あなた方の悪意を押し流す清流です」

「八賢者・カルダモン。覚えなくていいよ。どうせ君たちはすぐに捕まる」

 

「セサミさんにカルダモンさん!?」

 

 心儀の声に他のクリエメイトが驚く。

 シュガーとソルトが現れただけでも十分驚きなのに、更に二人のおまけがつくとは!

 この時点でローリエ含めてこの建物に5人の八賢者が集合したことになる。たかが一つの商会相手に戦力過剰どころの話ではない。

 

「あれー、セサミもカルダモンも来ちゃったの? シュガー達だけで良いと思ったのにー」

「今日は予定がなくて暇を持て余しそうだったからね。それに……ローリエが、こんな素敵なものを送ってくれたから」

 

 カルダモンが取り出した紙には、『ビレッツ大商団の悪党を包囲殲滅しようキャンペーン』と称した文言が書かれていた。しかも、『一番多くの悪党を捕まえた子には俺が自腹で好きなだけボーナスしてやろう!』とまで書いてある。色んな意味で問題のある招待状だが、カルダモンを焚きつける燃料には十分すぎた。

 

「うわぁ…」

「馬鹿かあいつは…」

「ローリエさん……」

 

 クリエメイトたちは正直、引いていた。商会ひとつのガサ入れ(戦闘)のためにここまで八賢者を動員していいものなのか? ……と。

 ちなみにローリエはこの時、カルダモンに送った招待状()を、シュガーやソルト、セサミには勿論、他の八賢者全員に送っていた。

 また、G型魔道具による短期間の諜報記録や悪事の書類の写真を、ルーンドローンで神殿に届けたのも彼である。

 この作戦を発案した彼曰く―――

 

『戦力の集中は戦いの基本だろ。ならどんな手を使ってでも最強の布陣を作るだけだ』

 

 ―――とのこと。何なのお前。発想が頭の冴えた馬鹿のそれなんですけど。

 ちなみに、当時の筆頭神官はこう語る……『どう転んでも、ローリエの財布が死ぬ以上の打撃はないだろう』……と。とりあえず、後処理をしてくれるだろう彼女を崇めよう。

 

 

「……というワケだから、後はあたしたちに任せてよ。」

「あーっ、ずるいカルダモン! ローリエおにーちゃんのごほーびはシュガーがもらうもんッ!」

「あ、こらシュガー!!独断専行するんじゃありません!」

「やれやれ……私も、行きますか。ローリエには灸をすえる必要もありますしね」

 

 

 八賢者4人はそれぞれ、本格的に戦う準備を始めた。

 何でも奢ってもらうというご褒美は単純だが効果覿面だ。

 ビレッツ大商団の面々は絶望した。派手に侵入してきた不届きな客たちと戦う仕事かと思ったら、援軍に八賢者が半分も来たのだから。もう殆どの敵に、積極的な戦意は残っていない。

 

「うわあぁぁぁーー!!俺は帰るぞ!」

「か、勝てるか!こんな連中に勝てるかよ!!」

「八賢者たちと戦うなんて聞いてねぇ!!」

「これで戦ったら俺達、犯罪者じゃねえか!」

「もう犯罪者扱いされてんだよ!逃げるしかねーじゃねぇか!?」

 

 そんな弱音を吐きながら逃げていく傭兵達。

 だが―――絶望は、終わらない。

 

 

「逃がさねぇよ! シュートバースト!!」

 

「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?」」」」」

 

「ハッハッハッハッハ! 往生際が悪いな悪党ども!

 このジンジャーから逃れられると思うなよ!!」

 

「「「「「ヒィィィーーーーーッ!!!!?」」」」」

 

「「「「……………」」」」

 

 

 市長、降臨。

 そもそも、ビレッツ大商団の本店が言ノ葉の都市に構えられているのだから、そこで悪事を働けば遅かれ早かれこの市長がやって来る事は当然だ。

 

 シュガー、ソルト、セサミ、カルダモン………そしてジンジャー。

 ここまで八賢者が揃ってしまえば、戦力差は歴然というレベルではない。天元突破した差はどうしても埋まることはない。

 ここから先の詳細はあまり記す必要はないだろう。

 なぜならそれから始まるのは、戦闘ではなく蹂躙なのだから。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――ビレッツ大商団は、アレからたった1時間足らずで潰れた。

 

 え、嘘でしょ?こんなのにホーブンさんが攫われたの? ってくらいにそれはもうアッサリと。

 さすがのビレッツも雇われ共も、八賢者半分以上相手に事を構えられる程に肝は据わっていなかったようだ。

 

 

「八賢者のみなさん、ありがとうございました。お陰で助かりました…!」

 

「気にすんな! 私は私なりに市長の仕事をしただけだ!」

「ソルト達もソルト達で仕事をしただけなのです。」

「そうだね。あたしに至っては退屈しのぎだったし。まぁ……おかげで、いいものを貰えそうだけど」

「むーー……! カルダモンに負けたぁ…あと二人多かったらシュガーの勝ちだったのにぃ…!」

 

 

 心儀が律義にも八賢者のみんなにお礼を言う。

 ちなみに、俺発信の『ビレッツ大商団の悪党を捕まえようキャンペーン』のMVP賞は僅差でカルダモンになった。賞品としてカルダモンは俺に各地の高級お土産を要求してきた。しかも財布がカラになるまでという注文つきで。チクショウ。タダより高いものはなかった件。

 

 

「……ローリエさん、ありがとうございます。」

 

「…ホーブンさん」

 

 

 ビレッツによって囚われていたホーブンさんも解放された。

 これで万事解決……じゃなかったな。まだひとつ、あったわ。

 

 

「……言うのか?」

 

「…はい」

 

 俺の質問に短く答えると、ホーブンさんは金色のペンダントをポケットから出して、開く。

 そこにあったのは、きららちゃんにそっくりな――きっと2、30代のきららちゃんがなるであろう雰囲気を持った――女性と、その隣に立ち不器用に笑うホーブンさんの写真。

 よく見てみると、写真の中の彼女は、お腹が少し膨らんでいた。

 

 

 俺も心儀も、「その女性が誰か」とは、聞かなかった。分かり切っていることを訊く必要はないだろう。

 

 ホーブンさんはがれきと化したビレッツ大商団の本拠地跡の真ん中に一人立っていたきららちゃんのもとへ歩いていき、彼女に話しかけていた。遠いからあまり聞き取れないが、野暮も必要ないだろう。

 

「あ、きららさーん!」

「あんなところにいたのか。おーい、きら――」

「はいストップ」

「うわあっ! せ、先生!?」

「しっぽっ……またしっぽを引っ張ったな!!」

 

 二人の元へ行こうとしたランプとマッチを引き止める。

 きららちゃんは、家族がいなかった分、仲間に恵まれたが……それでも良いタイミングに割って入る必要はないだろう。

 

「よしてやれ、ランプ、マッチ。実はあの人はな――――」

 

 その為に、二人には一足先にホーブンさんの正体を教えることにした。

 

「……ええええええええええッ!!? あのホーブンさんが…きららさんの、おとうぐっ

「声がデカい。今、ホーブンさんの大事なところなんだ。しばらくはあの二人っきりにしてやってくれないか」

「しかし…意外だね。まったく似てないはずなのに……

 でも、それならきららが星の首飾りに『安心する』って言ってた意味が分かった気がするよ」

 

 マッチとランプも加わり、俺達は夕日に照らされだしたきららちゃんとホーブンさんが、やや躊躇(ためら)いがちに抱きあうのを、しばらく見守っていた。

 

 

「心儀。今日はありがとさん」

 

「いえいえ、とんでもないです。寧ろ私が戦い慣れしていないせいで、クリエメイトの皆さんや八賢者の方々に助けてもらってばかりで……なんだか面目ないです」

 

「それでもだ。馴れないながらも上で大乱闘スマッシュブラザーズしてたらしいじゃあないか。佐久隊長から聞いている」

 

「あ、あはは…」

 

「じゃあ、帰ろうか」

 

「……そうですね、帰りましょうか」

 

「あぁ。()()()()()帰ろうぜ」

 

 

 ……?

 ちょっと待て、()()()()()()()()()……

 元の世界だって?

 

 自分の言ったことなのに、違和感を抱かずにいられなくなり、そのまま―――

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ……目がぱちりと開く感覚がする。

 起き上がるとそこは神殿の俺の部屋で、寝てたところは俺のベッドで、そして……カーテンを開けば、朝日が眩しく俺に差し込んできた。

 つまるところ…………

 

 

「……………夢オチなんてサイテー……」

 

 

 こんな事を言う日が来るとは思わなかった。

 だが、夢と言うには、かなりリアルだった。それも……直前まで、夢だと気づかないくらいには。だから俺は、どうしてもこの出来事を鮮明に覚えていられるし、夢のままで終わらせるには勿体ないと思った。

 まぁ、だからといって何も出来ることはない。ホーブンさんの手がかりはない上にきららちゃんとの関係を証明できないし、心儀に至っては別次元だ。()()()手も足もでない。

 

 なので―――

 

 

「おっはよーソラちゃん!」

「あら、ローリエ? 珍しいのね。

 今日は一体どうしたの?」

「探して欲しいクリエメイトが……聖典に書いてほしいクリエメイトがいる。それをちょっと見つけてくれないか?」

「ええっ!!? ど、どうしたの急に!

 クリエメイトを探すって結構大変なのよ?見た目の特徴はもちろん、どこの世界かも探さないと……」

「頼む。ソラちゃんにしか出来ないんだ」

「……そう。なら、一応聞くわ。

 …なんて名前の、どんな人なの?」

 

「とある会社に勤めていて、『きららファンタジア』の聖典を愛する、黒髪の優男だ。

 ―――名を、白河心儀という」

 

 

 ―――手を出せる人に、ちょこっとお願いをしておく事にした。

 さて、飛竜のマントでも買いに行きますかね。

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 奇妙な邂逅を果たした拙作の主人公。もう一人の主人公とともに、いまだ確認されていないきららの父親を助け出した。なお、この後カルダモンのリクエストに律義に答え、各地を回ってお土産ツアーを開催し、財布が死ぬことになった―――夢が正夢になったならば。

白河心儀
 今回コラボしたきらファン原作二次創作『白河心儀のエトワリア冒険記』の主人公。至って常識的で温厚な性格をしているため、ホーブンの相談にもビレッツ大商団との戦いでも手堅い功績を積み立てた。なお、こちらの女神の根気次第ではもしかすることがあるかもしれない。

ホーブン
 今回のコラボ編でローリエと心儀が出会った、いかつい顔の防具屋の店主。その正体は『きららファンタジア』の主人公にして、両親がいないはずのきららの父親。それもそのはず、彼の名の由来は『まんがタイムきらら』の系統の雑誌を出している「芳文社」から取ったのだから(限りなくアウトに近いアウト)
 彼は妻が命と引き換えに産み落としたきららに宿った力が災いの種になるかもしれないと考え、生まれたばかりの娘を辺境の村に託す。しかし、いずれ再び会って彼女に謝ることを想って各地を旅する。
 …そして、願いは果たされた。

「私には生き別れた娘がいる。今日までずっと探していた」
「…見つかったんですか?」
「星の髪飾りと『きらら』の名だけを頼りに探していたんだが……友人たちのお陰で見つかってね」
「……!! それじゃあ、私が…!? ホーブンさんと、私は………!!?」
「……嫌、だろうか? 会って日も浅い、仕方ないとは思うが…」
「…………い、いえ!ちょっと驚いただけです。
 ただ、おっしゃる通りまだ会って日も浅いので…えと、ホーブンさんの事、色々と教えてください。
 …『お父さん』と呼ぶのは、それからでもいいですか?」
「……ありがたい。…ありがとう」

きらら&ランプ&マッチ
 主人公勢として当たり前な人助けをした結果、衝撃的な事実を知った原作主人公とその仲間たち。ビレッツ大商団の騒動の後、ランプとマッチはきららからホーブンとの関係を聞き、ゆっくりと親子関係を築いていく………ことになればいいなぁ。

シュガー&ソルト&セサミ&カルダモン&ジンジャー
 ローリエの証拠付きの応援要請に応じてくれた賢者達。別名・莫大なご褒美(奢り)に釣られた子たち。もちろん彼女たちは不正を許さない心意気でビレッツ大商団の警備を圧倒していったが、撃破数で優勝したらしたでローリエに遠慮をする気はなかった。ちなみにフェンネルはアルシーヴの警護のため、ハッカは秘蔵されている身分上外に出にくいという理由で応援に来れなかった。

ビレッツ
 ホーブンを拉致って、ホーブンが取り扱う武具の材料を奪い取ろうとした悪徳な商会「ビレッツ大商団」の商会長。しかし、ホーブンの拉致の過程をローリエに捕捉された上に悪事の証拠をG型魔道具に奪われたせいで賢者8人中6人を敵に回すこととなり、あっけなく商団は崩壊、本人もローリエに逮捕された。名前の由来は『卑劣』から。劇場版ドラゴンボールZの敵役並みに安直であるのはご愛嬌。



夢オチ?
 ローリエは夢だと思っていたようだが、心儀はそもそも『クリエメイト』なのである。クリエメイトとは、女神の聖典に描かれる人物であり……召喚士が『コール』をすることでエトワリアに顕現させることができる存在なのだ。いつか、この日の出来事が夢という一言で片づけられない日がやってくるだろう。
 ……まぁ、『これコラボですよね』とか言われたら身も蓋もないのだが。



あとがき
 まずは、長々と本文のご愛読ありがとうございました。そして、快くコラボの許可を下さったstrawberrycake様にこの場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました!



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神殿名物露天風呂建設顛末

今回は、山崎五郎様の『きららファンタジア 三つ子三銃士の冒険物語』とのコラボになります。この場を借りて、快く承諾してくれたお礼を言わせてください。ありがとうございました。

「そうだ、露天風呂作ろう」の一言で始まるシグレとローリエの物語を、どうぞお楽しみください。


 三銃士。

 

 それは、神殿で新たに設立された職位である。決して、A・デュマの小説ではない。

 八賢者に匹敵する実力者でありながら賢者の席が定員オーバーとなったため、特別措置的に生まれた幹部だ。偶然、賢者候補が三つ子だったために「三銃士」の名を冠することにもなっている。

 

 複数の剣を巧みに操る嵐の剣士・ヤナギ。

 影を司り闇に忍んで敵を討つ月花の剣士・コノハ。

 そして三銃士のリーダーにして三つ子の長男・シグレ。

 

 彼らは前世の記憶なるものを三つ子揃って持っており、それと各々の鍛錬によって賢者と肩を並べる三銃士にまで上り詰めた……のだが。

 

 

「シグレさぁ、神殿に露天風呂欲しくない?」

 

 

 その三つ子三銃士のひとり・シグレは、神殿の大広間にて八賢者ローリエにそう呼び掛けられていた。

 

 八賢者ローリエ。

 賢者唯一の男にして、桁違いな発明を次々と生み出す「エトワリアの発明王」だ。彼の発想はそのどれもが革新的で、()()()()()()()()()()()()()である。―――事実そうなのだが。

 

 実はシグレらとローリエは平成・令和で生きてきた人間の前世を持つ仲間なのだ。スマホアプリ「きららファンタジア」の記憶までお互い持っていると知った時はなんの偶然だとも思った。ローリエは仰天したが、三つ子は反応は薄かった。三人にとって「異世界転生モノ」はテンプレになりつつある。

 

 話を戻そう。

 露天風呂が欲しいか? と「力が欲しいか」的なノリで話を持ち掛けられたシグレはというと。

 

 

「良いんじゃねーっすか?

 キレイな夜景を眺めながらグイっと…想像しただけでもええやん!!」

 

「…お前、何年生まれだ?」

 

 実に厳しい…!

 ローリエもシグレも、精神年齢はとうに20歳を超えているが、今世の肉体年齢的にはギリギリだ。何も事情を知らない人間からすれば飲酒姿を見られるのはヤバい。ローリエが許されてもシグレは許されないかもしれない。

 

「ま、露天風呂に酒みたいな風流なマネは()()()やってみたいと思うんだよね。俺も大好きだ」

 

「分かってくれて嬉しいよ」

 

「それに、シュガーやソルトみたいな未成年の()()()も、広い温泉で足伸ばして温まりたいと思うのよ」

 

 やけにクソデカ主語を使って露天風呂をアピールするローリエ。それに違和感を感じるシグレ。きらら一筋の彼とて、神殿の噂くらい知っている。だからローリエがどんな人物なのかは……既に知っていた。

 

 

「それで………本心は?」

 

アルシーヴちゃんの風呂覗きたい

 

ちょっと急用が出来ましたので失礼します

 

「待てェゐ」

 

 席を離れようとするシグレを逃がすまいと掴むローリエ。

 やはりローリエが安定のローリエだったのはもう安心しかないのだが、シグレにとっては一大事だ。きららの裸を自分以外の誰かに覗かれる危険性など許せる訳がない。

 

「離して、離してくださいローリエさん?

 僕はNOZOKIなんて許さねぇからな!!?」

 

「フッ……そう言うと思ってな、用意しておいたのさ。語り継がれるべきスーパーウルトラグレイトフルマジックアイテムをな」

 

「語り継ぐのは恥ずべき痴態ですかァ!?」

 

「まぁまぁ………シグレ、きららの風呂を覗きたくはないのか?」

 

「っ!?!?!?」

 

 まさしく悪魔の囁きである。

 しかも、ローリエのこの囁き、シグレには確実に効いている………!それは、まるでメタルスライムにメタル斬りを放つがごとく。

 しかし、それだけではシグレの理性を断ち切ることはできない。

 

「……仮に、だ。

 一億歩譲ってその質問に頷いたとしても、その……きららを他の誰かに見られるのだけは許せないぞ。なんなら覗いたヤツを片っ端からブチ殺すまである」

 

「君ならそう言うと信じていたよ。

 で、コレの出番だ。

 ……テッテレ〜〜!!マジック○ラー!!」

 

「ちょ!!?」

 

 ローリエが取り出したのは一枚の鏡だ。

 しかも、ただの鏡じゃない。

 片方からは見えるようになっているが、反対側からは光が反射して鏡にしか見えないようになっているアレである。

 世が世なら大人の見るビデオに四方がこの鏡張りの車が現れていたことだろう。限りなくアウトに近い。

 

「ちょいと設定を弄れば……湯気タイプのモザイクさんがシグレ以外の男の目からきららを守る仕様も実現できる」

 

「う、ウソだろ!!?」

 

「俺は意味のないウソは言わない。さぁ、どうだ?」

 

 

 流石は前世で国を統治していただけはある。

 シグレの弱点を的確に突き、誘惑たっぷりの提案で惑わせている。ここまでされると、シグレもなかなか効いている。まさしくはぐれメタルにハヤブサの剣でメタル斬りをするかの如しだ。

 しかし―――シグレ、粘る。

 

 

「でも…ヤナギなんかに見られたら…」

 

「コレはただのマジックミラーなんかじゃあない。

 パスワードで可視化するタイプだ。つまり…方法を知らなきゃ、ヤナギや他の真面目な連中にバレることはない」

 

 だがしかし、ローリエは先読みしていたかのように手を打っていた。

 ヤナギにはシグレのような惚れた相手がいない。だからマジックミラーを見つけたら女性に報告する危険性があるとローリエは既に考えていた。対策はバッチリである。

 なお、コリアンダーは女体への耐性のなさから問題視すらされてなかったりする。哀れ。

 

「パスワードだが……『お前の大好きな女の名前』だ。間違いようがないだろう?」

 

 青年に想い人(きらら)の名を呼ばせて想い人(きらら)を覗かせようとする悪い大人がここに現れる。

 シグレの理性という名のメタルキングに魔神斬りが炸裂した。

 

 

「…………………………はい……」

 

 シグレはついにYOKUBOUに負けてしまった。

 擁護させてもらうと、彼は彼の最大限に理性を振り絞り、頑張った方である。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ローリエとシグレの猥d――否、男の話はまだ続く。

 

 

「そもそもなんだが…なんで、僕の好きな人を知ってるんだよ?」

 

「え、なにその質問。ひょっとしてバレてないと思ったの? 多分、きららちゃん本人以外なんとなく察してると思うよ」

 

「!!?」

 

 シグレの初恋話はシュガーやソルト、同じ三つ子のヤナギ・コノハには嫌というほど話しており、噂はどんどん広まってきている。ローリエの耳に入らない訳がなかった。

 というか、シグレの話していた『好きな人』についてはヤナギもコノハも本人が訊いてこない限り尋ねれば基本的に教えてくれた。

 

「この前お揃いのアクセサリーつけてどっかへお出かけした事だって、シュガーやコノハが嬉々として話していたよ。しかも帰りは翌朝だったんだって?

 何かあったのかな?ファイナルファンタジーしたのかな?初々しいねぇ、ヒューヒュー」

 

「……………っ、…!!!」

 

 だから、こんな事もローリエは知っていたりする。

 

 

「まぁでも……きららちゃんって大分控えめだよね。

 何というか、今後に期待というか発展途上というか…

 覗き甲斐があるのかと言われると――」

 

ブチ殺すぞ

 

「怖………かつての神殿の敵(ドリアーテやギドラ)の時以上の殺気じゃないか」

 

 

 きららは覗き甲斐のある絶世の美少女に決まってるだろ(断定)。

 ローリエはシグレの凄まじい威圧から、彼の奥深くになる本気の()の声を感じた。

 

 ローリエはシグレの覇王色の覇気に肩をひそめて謝る。覇気に対して耐性のあるローリエだからこその大人の対応だ。伊達にほぼ毎日フェンネルから「女(アルシーヴ様)の敵」と殺害宣言されていない。

 

 

「悪かった悪かった。マジに覗き甲斐がなけりゃシグレ専用の仕様なんてこのマジックミ○ーにはつけないよ」

 

「当たり前だ。その機能がなかったり不備があったら命はないと思えよ」

 

「はいはい。………ところで、シグレっておっぱいの好みとかあったりする?」

 

「なっ!!?」

 

 シグレが赤面する。ここで誰のものを想像してしまったかがわかるあたり、彼の精神は男子高校生である。

 

「そ、そんなこと……いま言う必要ないだろう?」

 

「気取るなよ今更~。おっぱいの嫌いな男なんている訳ないだろ~?

 今なら小声で言えば、誰にも聞こえないよ。ほらほら~」

 

「…………そりゃ、小さいよりは大きめの方が好きだけど。

 ……イチバン重要なのは…誰のかとか、そういう質になるだろ……?」

 

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 

 

 ローリエがシグレの(欲望に)正直な答えに大きな息をついて納得する。地味にウザいと思ったシグレであったが、欲望に正直に答えた結果なので表立って反論できない。

 

 

「そういうローリエさんはどうなのさ?」

 

「モチロンおっきいおっぱいが大好きに決まってるだろ。

 貧乳はステータスだ希少価値だって言葉もあるし、それを否定はしないけど、個人的な話になると大きいのに軍配が上がるんだ」

 

「やっぱり………それでよくセサミにイタズラしてるもんな…」

 

「セサミもそうだけどね。アルシーヴちゃんのおっぱいも俺が育てたようなモンだ」

 

「はっ!!? おま、なん…だと……!!?」

 

 ローリエはアルシーヴやソラと幼馴染である。セクハラ関係は神殿に入ってからだが、それでもアルシーヴの胸を揉み続けた成果は出ているというものだ。揉めば大きくなるというのは俗説とはよく言われているが、正確には正しい揉み方で大きくなるのだとローリエは言う。

 

「脇腹や肩からこう……脂肪やら何やらをおっぱいに引き寄せて、集める感じで揉むんだ。

 重要なのは、力加減。決して、女の子を痛がらせてはいけない。女の子の身体は案外デリケートなんだ」

 

「はぁ……」

 

 シグレが、ローリエからおっぱいの揉み方講座を受けている。その内容を覚えようとしているように見えるのは、きっと目の錯覚だろう。シグレが学んだことを活かすか否かも、本人の名誉のため伏せさせていただく。

 その後も、男子トークは続く。

 

「太もも!? ほぇ~~なるほど……」

「わ、悪いかよ!? きららはどんなところも好きだけど……また膝枕して欲しい…って思うんだよ。ローリエさんはそこんトコロどうなん? アルシーヴ様とか」

「アルシーヴちゃんを抱き枕にしたい。夜戦の後で」

「欲望に忠実すぎてやばいですよ!」

「いーんだよコレで。むしろ、俺から欲望を取ったら成り代わりを疑われるわ!」

「えぇ………」

 

 それは、続けていくたびに危険な内容になっていく。もし、八賢者と三銃士の猥談を聞く男神官がいたとしたら、耳を疑い、内容に共感した上で、見込みのある勇者なら参戦していたことだろう。

 

 

「……まったく。何の話してんだよ!露天風呂の話じゃないのか!」

 

 一通り男子トークにオチが付いたところで、シグレが脱線しまくっていた話を戻す。………が、二人ともノリは男子中高生そのものだ。名誉的なカバーはできていない。

 おっとそうだったな、わりぃわりぃと笑いながらローリエは露天風呂の図面を机の上に広げる。

 

「コレが露天風呂の図面だ。石畳を敷いて広い浴槽・風情のある日本の秘湯をイメージしたデザインにしつつ、滑り止めと雨天後の掃除のしやすさも兼ね備えた素材を使う予定だ。

 ―――で、最初に話していた例の鏡の位置はココだ」

 

 ローリエは、男湯と女湯を隔てる壁側にある、洗い場の鏡をいくつか指さした。

 一見洗い場の鏡に見えるそれは、露天風呂が完成した際に、自分自身を映すだけの鏡がマジックミラー化することで、NOZOKIができることを意味していた。位置取りもバッチリで、広く女湯を見渡せる予定となっている。パスワード機能とシグレ専門仕様も無論完備だ。

 

「こっからここまでが、見れる範囲。で、パスワードで可視化をオンオフできる」

 

「ま、マジに作れるのか……?」

 

「勿論だシグレ。これに問題はないだろう?」

 

「…………」

 

 シグレは息をのんだ。

 これで後は自分が頷けば恐るべき露天風呂が完成する。

 今話したことも、黙っていれば男二人の秘密のままになる。

 興奮しないわけがなかった。

 

「………………まぁ、良いんじゃねーか? 日本の風流たっぷりで、良さそうだ!!」

 

 シグレは、最初に「露天風呂欲しくない?」と言われた時のように、爽やかな笑顔でそう答えた。

 

 

 

 

 

「私は、反対ですね~。覗きができちゃう鏡はちょっと」

「私も反対だ。そんな特殊な鏡を使う必要性が理解できない」

 

「「!?!?!?!?!?」」

 

 

 今、聞こえるはずのない声がした。

 シグレとローリエは後ろを振り返る。―――すると、そこには。

 

 

「どんな話で盛り上がっているのかと思えば……」

「随分、不埒で邪なコトを企んでいるじゃないか」

 

 恐ろしいくらいにイイ笑顔を浮かべているきららと。

 恐ろしいくらいの無表情で怒りを抑えるアルシーヴが。

 そこには、いた。

 

「あ、あの~~、き、きららさん? 一体、いつからそこに―――」

 

「アルシーヴさんのおっぱいをローリエさんが育てたって断言するくだりからです」

 

 

 詰んだ。野郎二人は、そう確信した。

 

 

「どうして逃げようとするんですか、シグレ? …私の膝なら、空いてますよ~?」

 

「遠慮しているのか? 来ると良い、ローリエ。抱き枕にしたいんだろう?この私を」

 

 

 美少女二人から、お誘いがかけられる。だが、ここまで嬉しくないお誘いは二人とも生まれて初めてだった。

 だから、シグレとローリエは瞬間に逃走を敢行した。

 

 ―――数時間後、大広間で「女の敵」と書かれたプラカードを首にさげて正座をさせられている八賢者と三銃士が見かけられていたとかいなかったとか。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――時は流れ。

 

 神殿に新たに建設された露天風呂にて、二人の美女が湯に浸かっていた。

 

 

「……ってことがありましたね…あの後、主人が変態さんになって困りものでした」

 

「あぁ……間違いなくうちの馬鹿がバカやったせいだ。…申し訳ない」

 

 

 桃髪の美女がオレンジ髪の美女に頭を下げる。

 当たり前だが、洗い場の鏡は、普通の鏡だ。伝説の召喚士の名を呼んだとしても、裏側の景色を映し出すことはない。

 しかし、もう気にしていないかのように、オレンジの美女はたおやかに笑う。

 

 

「もういいんです。今、こうやってアルシーヴさんと綺麗な星々を見れるのですから」

 

「きらら………そう言ってくれるなら、こちらも助かる」

 

 

 二人は、お互いの盃に徳利から酒を注ぐ。

 そうして、左手がそれを掴み。

 

 きぃん、という陶器の音が、静かな浴場と星空に響いた。

 

 

「あの後、旦那さんはどうなんです?」

「浮名を流していた奴も鳴りを潜めてな。みんなに『どんな魔法を使った』って疑われたよ」

「あはは、あの人らしいですね。」

「お前の生活についても話して貰うぞ。私だけでは不公平だ」

「ええ、そうですね。最近はですね―――」

 

 

 二人の薬指には、キラリと輝く指輪がはまっており。

 

『L・A』『S・K』

 

 それぞれに、こう刻印されていた。

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 全ての元凶たるHENTAI八賢者。コラボでやるべきではないことを積極的に行い、○ジックミラーまで使って露天風呂のNOZOKIの計画まで立てる。だが、最後の最後でアルシーヴときららに作戦を聞かれるという大ポカをやらかし、制裁を受けた。

シグレ
 今回コラボしたきらファン原作二次創作『きららファンタジア 三つ子三銃士の冒険物語』の主人公。きららが前世からの最推しで、今世でも恋に落ちる。基本的には頼れる三つ子三銃士の長男なのだが、きららのことになると暴走しがちで、ローリエにはそこを付け込まれる。結果、仲良く折檻される羽目になった。

きらら&アルシーヴ
 制裁役。二人としてはもともと制裁の気はなかったが、ローリエとシグレが仲良く語っているのを見て、話の内容を聞こうと近づいた結果、露天風呂建設の裏でとんでもない計画が進んでいたことを知る。そして女性の尊厳のため手を組み、全力で阻止した。




マジッ○ミラー
 ローリエがNOZOKIに使おうとした恐ろしいアイテム。アダルトなビデオで知っているかもしれないが、片方からは鏡、片方からはガラス、という構造のアイテム。コレを洗い場の鏡に組み込もうとしたが、きららとアルシーヴにより未然に防がれた。ついでに設計図も焼かれて、ローリエが泣いてたりする。


ローリエとシグレ・ヤナギ・コノハの前世の関係
 彼らは前世での面識はない。ないはずだが………?

ローリエ「…なぁ、ちょっっと出来心で訊くんだが。君らの前世の日本でその…えーと、政治家が銃撃とかで暗殺された事件ってあった?」
ヤナギ「そういや…こっちに来る前、日本じゃ珍しい銃撃事件があったのは覚えてるな」
コノハ「あ、私も覚えてる!とっても偉い人が……アレ?どんなだっけ?シグレお兄ちゃん」
シ「……さーて、どうだっけ?ただ、現代には珍しい織田信長みたいな人がいたって話は聞いたことあるケド。熱意があって、一つ一つの問題に真剣に向き合ってて…あんな人と友達になりたかったよ――なーんてね」
ローリエ「そうか………そうか…」
三つ子「「「??」」」





あとがき
 今回コラボの許可をくださった山崎五郎さん、快く許可をくださって誠にありがとうございました。シグレ・ヤナギ・コノハの人柄とオリジナリティ溢れるストーリーはとても素晴らしいです。本当にありがとうございました!


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本編・プロローグ:そして伝説(変態)へ…
第1話:八人目の賢者


ドーモ、ハジメマシテ。伝説の超三毛猫デス。
ハーメルンでいろいろ作品見てるうちに自分でも書きたくなって投稿しました。ほぼ素人なので生暖かく見守ってくだされば幸いです。
それでは、物語の始まり始まり。


「次、ランプ!」

 

「はい……」

 

 俺が名前を呼ぶと赤髪の女の子が返事をし、教卓の前へ進み出る。そして、テストの答案用紙を受け取ると顔を青ざめさせる。

 

「授業をマトモに聞いてれば30点は取れる筈だぞ。次は二桁乗るように。」

 

「すいません……」

 

 俺がこっそりそう告げるとランプと呼ばれた少女は、壊滅的な点数の答案用紙を片手に、青い顔のまましょんぼりと自席に戻っていく。俺はそれを横目に次の生徒の名前を呼んだ。

 

 

 

 俺の名前はローリエ。訳あってエトワリアの神殿にて教鞭を振るっている。

担当は魔法工学。簡単に言ってしまえば、魔道具の仕組みについて学ぶ教科だ。神殿では主に杖の魔術回路の構成・修理やオリジナル魔法の作成などの授業を行っている。

 

 さっきのランプって子は俺の生徒の一人で、教師になってから初めての問題児だ。隙あらば聖典を読みふけり、授業を全く聞きやしない。……まあ、その甲斐もあってか、聖典学だけは優秀だから叱るに叱りきれないのだが。

 

 ……そう。聖典学だけは超優秀なのだ。女神ソラの目線から見たまんがタイムきららシリーズのお話について書かれているのを聖典といい、それを学ぶ教科を聖典学というのだが、その教科に限り、ランプは積極的&優秀になるというのだ。

アルシーヴが作ったテストに俺が悪ふざけ&イジワルで入れた

「メタル賽銭箱とミニ賽銭箱の違いを形状・材質・呼称の経緯に触れ説明せよ」

という問題に完璧に答えられたのもランプだけだ。

(ちなみに、この問題についてランプから『性格が悪い』と苦情が来て、アルシーヴからも『二度とやるな』と言われた)

 

 これで他の教科も優秀……いや、人並みにさえ出来れば一番有力な女神候補なのに、と思う。

 今回の魔法工学もどれだけ苦手な奴でも30点は取れるというのに、ランプは5点だった。俺でも取った事ないぞそんな点数。

 

 「平均は62点だ」と告げ、問題の解説をして教室を出る。そしてそのまま神殿の大広間へ向かうと桃髪の美しい女性の後ろ姿を見かける。

 

 この美人はアルシーヴといって、俺の上司にして筆頭神官だ。女神ソラの仕事を補佐している。

 

 

 

……でも、そんなの俺には関係ない。

 

 

 

だって。

 

 

 

 

「アルシーヴちゃーん!元気してるー?」

 

「ひゃああ!!?」

 

 

 

これくらい気安い間柄だから。

しかし、今後ろから不意打ちでブラホックを外したんだが、中々乙女なリアクションをするではないか。

 

 

「んふ~なかなかカァイイリアクションするじゃん、アルシーヴちゃん♪」

 

「ローリエ、貴様はいつも……!」

 

 

 こちらへ振り向いたアルシーヴちゃんはいつものクールな筆頭神官とは思えないほど顔を真っ赤にしてこちらを睨む。

そんな顔して睨んでも可愛いだけだぞ。

 

さて、次は彼女の意外おっぱいを揉みしだいて……

 

 

と、考えていると俺のにやけ顔の目の前をレイピアが通り過ぎ、近くの柱に刺さった。

 

 

「ローリエ!!今度はアルシーヴ様に何をしている!」

 

「やっべぇまたうるせえ奴が来た……!

今日はまだブラホックを外しただけだ!

だから……」

 

「十分です!!貴様を断罪する!!」

 

「やめろやフェンネル!俺はアルシーヴちゃん専門の百合女と事を構えるつもりはねーんだよ!」

 

「説得力がありません!今度という今度はもう許さないからね!あとアルシーヴ様と呼びなさい!!」

 

 

 怒り狂った翡翠色の髪をした兵隊風の女性ことフェンネルは、壁に刺さったレイピアを抜き俺に襲いかからんとそれを振り回しながら追いかけてくる。俺はそれに対して背を向け逃げることしかできない。

 

 しかしこのフェンネルという女性、中々いいスタイルだというのに、アタマの中はアルシーヴ様一色である。流石は『アルシーヴの盾』を自称し、筆頭神官たる彼女の為に尽くす近衛兵だ。

 

……俺の想像していた盾とは違い、かなりアグレッシブな盾だったが。なんでこの女性は()()()()()()()を本気で殺しにくるのだろうか。まぁ心当たりしかないけど。

なんて考えているとフェンネルが俺をめった斬りにするべく距離を詰めてきた。

相変わらずアルシーヴちゃんの事になると全力以上を出せるフェンネルに呆れながら、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ガードした。

 

 

「あっぶねえ!!」

 

「私にはモロに当たってるがな!?というかローリエ、なんで私なんだ!?」

 

「手頃な防具が見つからなかったからだ!あと味方も!」

 

「思いっきり肉盾にする気満々か!今回も全面的にお前が悪いんだろうが!!」

 

文句を言うジンジャーをフェンネルの方向へ押してお見合いをさせることで時間を稼ぎ、角を利用して視線を切る。勝ったな。

 

 

 

 

 そのまま走り続けること3分、やっと撒けたと思った瞬間……ゴチン、と。

 

「ぎゃああァァァーーーーッ!!?」

 

 凄まじい重さと衝撃が頭に走り、床にたたきつけられた。

 

 

「……変態、成敗。」

 

「計算通りです。」

 

「流石、ソルトだね!ローリエお兄ちゃんの逃げた先を予測しちゃった!」

 

俺に叩きつけられたのは巨大ハンマーだ。

それで俺を叩いた犯人は口数の少なさからしてハッカだろう。ソルトとシュガーの声も聞こえたことから俺のやったことを知り、先回りしてきたものと思われる。またしても女性陣のチームワークにやられてしまったという訳だ。

 

 この後、アルシーヴとソラによる説教で1時間ほど絞られる。これが俺の日常だ。

 

 

 

だが、俺は知っている。

 

 

この後、平穏な日常が一瞬で崩れ去ることを。

 

 

……女神ソラに呪いがかけられることを。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ここで俺自身について話をしよう。

 

どういう訳か俺には、エトワリアの住人・ローリエとしての記憶の他に、別の記憶がある。

 

 

ビルに囲まれた都会の中で生まれ育ち、社会人として仕事をしていた記憶。

 

所謂ミリオタというものとして、マグナム型のモデルガン片手にサバゲーというものに参加していた記憶。

 

アニメや萌え系漫画が大好きで、特にきらら関連の漫画を読んだりアニメを見たりゲームをしていたりした記憶。

 

 

 

 

何十年生きていたのかは分からないが、大体こんな感じの記憶がある。

 

 

今、一番重要なのは三つ目に挙げた記憶。

俺はその当時、よく遊んでいたゲームがあった。

 

きららファンタジア。

 

まんがタイムきららのキャラクター達がほぼオールスターで登場するゲーム。

ストーリーモードにあった、数々の魅力的なオリジナルキャラクターがエトワリアで織りなす物語に胸を踊らせた記憶はもちろんある。

 

 

 

 ここまで説明したらお分かりだろう。

 

 

 

俺は、このエトワリアが『きららファンタジア』の世界であることを知っている。

 

ランプが、アルシーヴの女神ソラ封印の瞬間を目撃することも。

 

それがきっかけで、きららと出会い、新たな『聖典』となる物語を編み出すことも。

 

……そして、アルシーヴが女神ソラを封印した理由も。

 

 

 ソラは突然、何者かに呪いをかけられる。

「体からクリエが抜けていく呪い」。

エトワリアの住人は、クリエがないと生きていけない。

アルシーヴはやむを得ずソラを呪いとともに封印した。

その間、アルシーヴは呪いの解呪方法を探し、その結果呪いを解くには大量のクリエを入手する必要があると判明した。だが女神を封印した今、聖典を読んでも意味はない。故に、クリエメイトを直接呼び出すオーダーに手を出したってワケだ。

 

 

だが、一つだけ分からなかったことがある。

女神ソラに呪いをかけた張本人だ。

初登場時はローブを被っていたため、8章の終わりまででは誰が黒幕なのかが全く分からない。

 

ハッカから逃げ切り、女神ソラの封印が解けるまで雲隠れしていた人物。

 

 

 

エトワリアに前世の記憶というべきものを持って生まれ直した身としては、その黒幕を倒してみる、もしくは女神ソラへの凶行を防いでみるのも悪くない。

 可愛い女の子を辛い目に遭わせた愚か者を成敗してやろうではないか。

 

 

 言い忘れていたが、これは『エトワリアに紛れ込んだ独りの男が、原作8章でパーフェクト・グッドエンドを目指す物語』だ。

 




ローリエ「あぁ~、すっげぇ気持ちよかった!」
アルシーヴ「本当に何なんだお前は!」
フェンネル「まったくです。今すぐ切り捨ててしまいましょう」
ローリエ「ま、待て!主人公をいきなり殺すな!!幽○白書じゃないんだから!」

次回、『少年ローリエ』

ローリエ「絶対見てくれよな!」


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エピソード1:ローリエという男~少年が賢者になるまで編~
第2話:少年ローリエ


“俺は昔、二人の少女を守れなかったことがある。
 俺はそれを、どうしても忘れることが出来ない。”
   …八賢者・ローリエ 著 自伝『月、空、太陽』
    第1章より抜粋


 子供なのに随分ませた、不気味な奴。

 

 子供時代の俺の周りからの評価は大体そんな感じだった。

 

仕方のないことだろう。少年・ローリエのそれとは別に数十年分の記憶があり、マジで見た目は子供・頭脳は大人状態だったからだ。

 

 

 

 

 

 俺は言の葉の樹の都市の一角にて生まれた。男なのに神殿に興味を持ち、かつ機械いじりが好きな子どもだった。

 特に、魔道具というやつはエトワリアに生まれて初めて触るものだったのでのめり込んだ。

 夢はあまり見る方じゃなく、子どもはコウノトリが運んでくるだの、大人が立派な人であるだの、そう言った絵本に描いてありそうなことは何一つ信じちゃいない。そんな子どもだったのにも関わらず、育ててくれた両親には感謝しかない。

 こんな変な子どもと友人になろうとした人間も珍しいものだと思う。その内の二人が現在の女神と筆頭神官であった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「アルシーヴ、ローリエ!今日はなにするの?」

 

「もう既に楽しい事を仕掛けておいたさ!」

 

「ローリエ、お前もほんと懲りないよな……」

 

 

 

 

 服装も髪の色も三者三様の少年少女が、石畳の街道の、噴水の前に集まっていた。

 

 一人は緑色のぼさぼさはねた髪の少年。この俺、ローリエだ。

 

 一人は金色の髪を後ろでまとめた、高級そうなワンピースをきた少女、ソラ。

 

 一人は桃色のショートヘアの、魔術師見習いみたいな格好をした少女、アルシーヴ。

 

 

 いつもこの三人で俺達は遊んだり、イタズラをしかけたり、都市中を冒険したり、ゲームで遊んだりしていた。といっても、ほぼ街の人々にイタズラを仕掛けるか、その準備をする日々だが。

 この前は港町から輸入された真珠貝の真珠だけを盗み出し、芸術品に加工してから送り返す、というイタズラを敢行。真珠をすべてルネサンス期にありそうな彫像に加工する役割を引き受けた。

まぁ、エトワリアは地球と歴史が違うので完成品を見てもアルシーヴとソラは首を傾げていたが、ダビデ像を見た時の二人のリアクションが超面白かった。アルシーヴは顔を真っ赤にしながらリアルすぎだと抗議し、ソラもまた顔を朱に染めがらダビデを凝視していた。

 他にもぼったくりで金儲けをしようとした商人を嵌めて衛兵に逮捕させたり、噴水をゴージャスに緑の水晶や泪の石でライトアップしたりと数え切れないほどのイタズラをした。

 

 

「もう仕掛けたって、さっき私が雑貨屋さんのおじさんと話してる間に?」

 

「ああ。あそこのオッサン、口うるさいから、ちょいと仕返しにな。もちろん、ソラやアルシーヴも共犯だぜ?」

 

「まったく、仕方のないやつ……乗った私も私だがな」

 

 

 ちなみに今日は、雑貨屋に小型花火を仕掛け、大胆に発破させることで店を宣伝してやることにしたのだ。

 

まず人当たりの良いソラがオッサンに話しかけ、時間を稼ぐ。

そこで俺が作った時限タイプの小型花火を店前にこれでもかと設置。

最後にアルシーヴが魔法で着火し、三人で一緒に退散。ソラは少し抜けてる所があり、あらかじめ教えてたらウッカリオッサンに言ってしまう可能性があったのでアルシーヴの反対を押し切り言わないことにしたのだ。

 

 

 そうこうしている内にソラの後ろの方からパチパチパチと軽い破裂音が通りに響く。

 

 

「コラァァァこの悪ガキ共!またやりやがったなー!!」

 

「ほら出た!!逃げろーーー!!!」

 

「「きゃーーーー!!」」

 

 

 

 夏の日差しの下、ブチ切れたオッサンを尻目に俺達は一目散に逃げていく。建物、分かれ道、街のあらゆるものを利用してどうにかして撒きつつ、街中を走っていく。

 既にオッサンを撒いたのも忘れて俺達は、言の葉の樹の入口まで来ていた。都市の中心部にあるこの大樹は、頂上まで登ると神殿があり、そこでは神官達が聖典などについて学んだり、儀式を行ったり、女神候補生が教養を学んだりするのだ。

 

 

「いやぁ、愉快愉快!楽しかったねぇお二人さん!」

 

「お前いい加減に怒られろ……」

 

「アルシーヴも共犯でしょ?ふふふ…」

 

 

 俺達は、その大樹の入口のちょうど良い窪みに並んで腰をかけた。

俺が二人に笑いかけると、アルシーヴは呆れ、ソラは少し困った様子で笑っていた。

 しかし、こんな日々も続く訳じゃない。現在、俺が9歳、アルシーヴとソラが10歳。11歳になったら、二人は勉強のために神殿に住み込むことになるという。

 

 

「しかし、一年後にはアルシーヴもソラも神殿行きか……」

 

 親友と過ごせる日々も短いことを思っていたのが、いつの間にか声に出ていたようだ。

 

 

「私は女神候補生として勉強するからね。アルシーヴはどうするの?」

 

「私は女神にはならない。ソラの近くで、力になれたらそれでいい。」

 

「マー!!俺がいるのに、お熱いこと!!」

 

「ば、バカ!そういうのじゃない!」

 

「アルシーヴ、違うの?」

 

「なっ!!?いや、えっと、それは……」

 

 アルシーヴとソラがいちゃいちゃしている所を茶化すのはすごく面白い。しかも、アルシーヴは基本ソラに弱い。俺に茶化され否定しても、ソラが泣きそうな顔をすると返答に困ってしまう。俺が二人をからかうといつもこうなるからソラがわざと上目遣いをしている可能性も否めないが、それはそれでいい。

 

 

「そ、そんなことより!ローリエはどうするんだ!?どこに行くつもりだ?」

 

 

 こうやって俺とソラに挟まれて困った時、話題を変えて誤魔化そうとするのも彼女のクセだ。更に追求するのもいいが、彼女達に俺の今後を話していない。

 後が面倒なので、俺も夢を語っておこう。体は少年なので、それくらいしてもいいはずだ。

 

 

「俺は……魔法工学を極めて、誰も思いつかないような発明をする。

神殿の専属技師か、魔法工学の教師あたりになって、エトワリアを繁栄させる礎を築いてみせるさ。

そんで……三人仲良く、歴史の教科書に、史上最大の功績者として載ってみないか?」

 

 まだ高い太陽に向かって決意を固め、最後に二人に笑いかける。

 

「史上最大の功績者か……大きく出たな。

いいだろう、乗った。私は最高の筆頭神官になろう。お前も、私やソラの目につくくらい、活躍しろよ?」

 

「応援してるよ、二人とも!私も女神になれるように頑張る!」

 

 

 俺の笑みに、ソラもアルシーヴも、最高の笑顔を返してくれた。

 

 

 

 

 

 …だが、この時の俺は、前世の知識をもってしてもあの事件を予測出来なかった。

 

 

 だって、アルシーヴとソラの過去について全く知らないのだから……

 

 

 ……その事件で、俺は前世の知識を手にした傲慢さと、前世の人(日本人)特有の部外者意識に気づかされることになる。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 その日は、不自然な程に静かな夜だった。街中真っ暗で、家の明かりも街灯の光もほとんどなく、前世に見た夜の都会とは全く違う夜だった。

 

 

 俺は、アルシーヴと二人で、ソラの家に泊まりに来ており、ソラの部屋に集まっていた。この日できた俺の発明品とアルシーヴが開発したという新魔術の御披露目のためだ。

 

 

 

「二人とも、できたって言ってたけど早く見せてよー!」

 

「ま、まぁ待てよソラ。なあアルシーヴ、お前から先に見せてやれよ。」

 

「分かった。見てろ……」

 

 

 俺は発明品を出すのが今になって緊張してきてしまい、アルシーヴに先を譲ると、彼女は杖を取り出し魔力を集中させ始める。すると、部屋中が黒く染まり、紫色のエネルギーが宙に浮き始めた。

 

 俺はその見たことのある景色に驚いた。

 

 これは、ゲームでアルシーヴが使っていた『ダークマター』だ。全体に9999ダメージを与える、負け戦用の技。まさか、こんな幼い頃に開発していたとは。

 しかもこの技、凶悪なわりに発動前に集まる魔力が織りなす景色の変化が幻想的だった。まるで星空がよく見える夜に見る、森林の奥にひっそりと存在する湖とその周辺に集まる蛍を見てるかのような、絵にも描けない美しさだ。

 

 そう思っている内に周囲の景色が元に戻り、アルシーヴが杖をしまう。

 

 

「私の必殺技、『ダークマター』だ。

これさえあればどんな奴でもイチコロさ」

 

「えっ!!?攻撃技だったの!?」

 

「ああ。途中で術を解除した。最後までやると家が吹っ飛ぶからな」

 

 

 つまりあのまま続けていたら家もろとも俺らが無事じゃなかった訳だ。破壊力がデカ過ぎて戦いに使えねーじゃねぇか。

ソラ、「すごいね!」じゃないんだよ。褒める所じゃないから。攻撃されてたんだぞ?アルシーヴも微妙に照れるのやめろ。

 

 

「ローリエは何を作ったの?」

 

「ああ、俺はこの……」

 

 

 と俺の発明品……拳銃を取り出そうとした途端。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ばりぃぃん、と窓が割れ、俺達の二倍ほどある男が飛び込んできた。右頬に熊か何かに引っかかれたような傷跡のある、いかつい顔だ。

 あまりに突然のことで、三人とも動けなかった。

 

 

 

「そこのお嬢ちゃん、俺と来て貰うぜぇ……!」

 

 

 

 その凶悪そうな顔を欲望に歪ませ、ナイフを片手にヘドロのような目でこちらを見つめてきた時。

 

 俺は、エトワリアにあって日本にはない、恐るべき本物の悪意というものを感じた。

 

 

 

 

 そして直感的に思った。

 

 

 

 

 

 殺される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 早くどこかに隠れなければ。

 

 

 

 

 懐に俺の発明品が……拳銃があるのは分かっている。拳銃の扱い方もサバゲーの経験があるから分かる。そして、それをあの男に向け、引き金を引けば二人を守れることも。

 でも……頭で分かっていても、どうしても拳銃を取り出して撃つことなど出来なかった。

 サバゲーとは違う、殺し合いの世界。躊躇いのない殺意。あの男の汚れた目が、エトワリアにはそれがあることを雄弁に語っていた。

 

 

 

 

 

 俺はこの時まで忘れていた。

 かつて俺は……本物の悪意に対して、逃げることしか出来ない一般人(日本人)だったことを。

 

 

 

 

 

 気がつけば俺はソラの部屋を飛び出し、空き部屋のクローゼットの中に隠れ、衣服の中に紛れ込んでいた。

 ソラの衣服のものであろう、花の香りに包まれても、恐怖が消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 魔法の起動音と男の下品な笑い声が聞こえて、

 

 

 

 

 

 鈍い音と女性の呻き声、そして別の女性の悲鳴が聞こえて、

 

 

 

 

 

 嵐の過ぎ去った後のように何も聞こえなくなっても、

 

 

 

 

 

 

 俺は、クローゼットの中から出ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 気がついたら、夜が明けていて、盗賊による襲撃事件が明るみに出ていた。

 

 俺は、空き部屋のクローゼットで気絶していた所を、ソラの保護者に発見されたらしい。アルシーヴは、ソラの部屋で腹部から血を流して倒れていた。応急処置がなされていたため、幸いにも命に別条はないそうだ。

 

 

 そして、ソラは……見つからなかった。

 

 アルシーヴの証言により、あの盗賊に拉致された事が判明した。

 盗賊も、頬の傷跡から数年前から周囲の村を襲っている悪党だということが発覚した。

 

 

 ベッドの上で衛兵からこの話を聞いた時、ひどく混乱した。

 

 ソラは女神になる女性だぞ。

 

 こんな所で死んだら、原作が成り立たなくなる。

 

 ここはエトワリア(ゲームの世界)じゃなかったのか?

 

 そんな思いで、盗賊について詳しく教えてくれと訊いた。

 まず衛兵は、真剣な眼差しで緊張感を醸し出しながら、友達を助けに行くつもりか、と聞き返してきた。「助けたいけど、俺じゃあ無理なことくらい分かっている」と答えると、先程の緊張感が薄れた。

 

「分かっていればいい。こういうのは、私達衛兵の仕事だ。幸い、奴のアジトも検討がついている。」

 

「ど、どこにあるんですか!?」

 

「……やっぱり助けに行く気だったな?悔しいかもしれないが、私達を信じてくれ。

 なんせ相手は、分かってるだけで50人以上を殺し、20人近く子供を誘拐している凶悪犯だ」

 

 

 

 

 

 衛兵の言葉に俺は言葉を返せなかった。彼らを信じていない訳ではなかった。だが、言いようのない不安が俺の心に重荷として積み重なっていった。

 

 診断で怪我がないことが分かると、俺は街を歩き回った。体でも動かさなければ、どうにかなりそうだったからだ。でも、アルシーヴに会う気にはなれなかった。

 

 

 

 

 ソラを助けに行かなければ。

 

 自分が行かなくても衛兵が助けてくれる。

 

 彼女に何かあったらどうする。

 

 自分が行ったら衛兵達の足を引っ張ってしまい、助からないかもしれない。

 

 エトワリアには拳銃がない。だから相手も拳銃(ソレ)を知っているはずがない。そこを利用すれば間違いなく勝てる。

 

 いやいや、外すかもしれないだろう。誤射なんてしてしまったら笑えない。

 

 

 

 

 

 相反する思いがいつまでもいつまでもせめぎ合い、俺は行動することが出来ない。

 

 俺は、かつて夢を語った言の葉の樹の窪みに座りながら、俺が造った拳銃を手に取り、ただ見つめていた。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
この物語の転生者枠。モデルにしたキャラがいるとはいえ、完全にオリジナルなので少年期・学生時代期を書いておこうと思った結果、今回の話ができた。今日では異世界転生ものが多いですが、主人公の敵への容赦のなさ、勇敢すぎる所が疑問となった結果こんな形になりました。今話は情けない姿を晒しましたが、普通の人って盗賊とかいきなり現れて襲われてもなかなか戦えないと思う。格好いい姿はもうちょっと待ってて欲しいのじゃ。

アルシーヴ
最近プレイアブル側のキャラとして使える可能性が高くなった人。ソラとの仲睦まじさを見てると、二人って職務で出会う前から顔見知りだったんじゃないかと思うこの頃。この小説では、神殿に行く前から知り合いで、仲良くなってた&10歳でみんなのトラウマを習得する空前の天才という設定。ギリギリとはいえ禁呪オーダーを8回も使えた時点で天才なのだろうと私は思う。

ソラ
原作では女神だったということは、かつてはランプのように女神候補生なるものだった可能性が高い。しかも、ランプほどじゃないが、聖典学に深く通じていたんじゃないかと思う。この小説では攫われてしまったが……?



△▼△▼△▼
ローリエ「ここは、日本とは違うんだ。」

ローリエ「普通に生きていたら、守りたいものも守れやしないんだ。」

ローリエ「俺自身の手で、守るしかないんだ。」

次回、『覚悟の弾丸』

ローリエ「待っててくれ……ソラちゃん。」
▲▽▲▽▲▽



あとがき
原作1章から始めると、ローリエについて分からないと考えたので、しばらく原作開始前編として主人公を中心に掘り下げていこうと思います。
きららファンタジア、良いゲームよ。是非インストールしてね☆
あときらファン小説もっと流行れ


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第3話:覚悟の弾丸

“真の強さとは、魔法の才能にも、剣の腕にも、腕力にも、策略にも、新たな発明にもあらず。
真の強さとは、心にあり。”
  ……八賢者・ローリエ
    賢者就任演説より


 エトワリアには拳銃というものが存在しない。

 俺はそれを知るや否や、すぐさま製作に取りかかった。

 

 幼い頃からここがエトワリアだと知っていた身としては、未来にソラに降りかかるであろう、呪いの事件をなんとかしたいと思った。

 そのためには、自身が七賢者並みの強さを得る必要がある。拳銃を真っ先に造ろうとした理由はそれだ。

 拳銃がどんなものかは自分が一番よく分かっていた。自分以外で拳銃が何かを知っている者がいたとしたら、間違いなく「狂っている」と言われただろう。

だが、アルシーヴのような恵まれた魔法の才能もなく、七賢者達の実力が不明だった以上やるしかなかった。

 

 当たり前のことかもしれないが、前例のないものを造り上げる為、どうすれば開発できるかに熱中した。だが俺は、銃を組み立てることが出来、パーツや弾丸の構造について詳しく知っていても、実際に造るにはあまりにも知識と技術が不足していた。魔法工学を勉強しだしたのも、拳銃を自作するためだったりする。

 

 

拳銃を自作している時に何を作っているか両親に聞かれた時も、素直に説明した。二人とも良い人だったし、下手に隠すより良いと思ったからだ。

(もちろん、言い方はめちゃくちゃ考えたが)

 

 

 商人の父は言った。

これは間違いなく莫大な富を築ける。だが、間違いなく多くの人の命を奪うものだと。

 

 役人の母は言った。

もしこれを売ろうとするなら、それは魂を売るに等しい行いだと。

 

 

 信頼できる人以外に教えないこと、練習は一人でやらないこと、絶対に売り出さないことを条件に、拳銃を作ることを認めて貰えたのは5歳の頃だった。

 

 

 

 だが、前述の通り拳銃を実際に造ったことはなかったので、そう簡単に事は進まなかった。1ミリの狂いも許されない超精密な製作は極度の集中力と技術を要した。

 何度も失敗し、時には寝食を忘れる事もあり、ソラ達に心配されたり、両親に食事に引っ張り出されたりベッドに寝かされたりした回数も両手じゃ数え切れないほどあった。

 アルシーヴの錬成魔術による協力もあり、気分転換に小物を作りながら、4年。遂に『拳銃(ソレ)』は完成した。

 

 

 六連回転式弾倉、リボルバー式の拳銃。銃身と弾丸には「比類なき硬度を持つ」とゲームで解説されていたブラックストーンを使用。

 火薬をどうするか悩んだが薬莢(やっきょう)の尻の部分に小さな爆発魔法の紋章を書いておき、撃鉄が衝撃を与えると起動するようにしておく。これで試し撃ちした結果、しっかりと魔法が起動し、弾が発射され、銃身へのダメージもほとんどなかった。

 試し撃ちの過程でぷにぷに石を使った非殺傷性の弾丸も製作した。

 

 

 俺はこの拳銃の名前を、モデルにした拳銃から取って「パイソン」とした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 掌の中の拳銃を見ていると、これを作り出すまでの思い出が走馬灯のように蘇ってくる。

 

 

「我ながら、情けないなぁ」

 

 

 つい、何となくそう呟いた。声は震えていた。

 日が高くなり、空気が暖かくなっても俺の心を締め付けるような苦しみは全く和らがなかった。

 

 

 自分は弱い人間だ。

 

 弱かったから、親友二人を見捨てて逃げてしまった。

 

 

 この異世界は、日本なんかよりも危険で、ここの異世界人は、日本人なんかよりも簡単にヘドロの目になることを、あの事件は俺に知らしめた。

 

 エトワリア(知ってる世界)に転生(確証はないが)して、アルシーヴやソラ(知ってるキャラ達)に出会って舞い上がっていた俺に叩きつけられた、残酷な真実。

 それを目の当たりにした俺は……

 

 

 

「このままじゃあ、ダメだ」

 

 

 そう、己に言い聞かせた。

 

 気休めでも、意味がなくても、そうしなければならないと感じたから。

 

 

「なるほど、それでやたらと街中を歩き回ってたのか」

 

 

 不意に言葉をかけられて、拳銃を隠して身構えた。

 声がした方を向くと、そこに立っていたのは今朝盗賊の事件について話してくれた衛兵だった。

 

 

「安心しろ、今すぐ君をどうこうしようって訳じゃない」

 

「なら、何しにここへ?……俺をソラの救出へ連れて行ってくれるとか?」

 

「そんな危険な真似はできない。

 ただ……君が思いつめた顔をして街中を歩き回ってると皆が言っててね。キミの親友に頼まれて探してたのさ」

 

 

 衛兵は、そう言うと俺の隣に腰をかけた。『アルシーヴに頼まれたから』という、俺を探していた理由以外は何も言わなかった。おそらく、俺の方から言うことを期待しているのだろう。

 

 精神的に成人していた俺としては、30代に突入したばかりの衛兵に助けを請うのは少し恥ずかしかった。だが、同時に無意味なプライドが足を引っ張ることも知っていた。

 

 

「あの夜、俺は盗賊を追い払う事ができたはずなんです。」

 

「どうやって?」

 

「この武器です。爆発を推進力に変えて、ブラックストーンの弾丸で貫くものです。」

 

「お、おう……そうか。それは……すごいね。」

 

 

 俺から見ても衛兵が困惑しているのがよくわかる。俺が持っている拳銃は、エトワリアで初めて作られた拳銃(モノ)だから仕方ないのかもしれない。

 でも、俺が言いたいことはそこじゃない。

 

 

「でも、これがあるにも関わらず、盗賊相手に撃てなかった。逃げてしまったんです。」

 

「………。」

 

「怖かった。死にたくなかった。でも何より、あの時戦えなかった自分が嫌で嫌で仕方ないんです……!」

 

 

 その言葉を聞いて、長い……長い間が空いて、そして、ゆっくりと衛兵は口を開いた。

 

 

「仕方ないよ。人に武器を向けることは誰だって怖いことさ。私でもそうさ。

 ……だって、それで誰かを傷つけたり殺したりしたら、人として大切な何かが、壊れてしまうから。」

 

 

 そう語る衛兵の目は、真剣そのもの、何度も修羅場をくぐり抜けた熟練の戦士のそれだった。転生して人生経験がある俺よりも、長く生きてきたかのような、男の目をしていた。

 

 

「私も、初めて敵を……人を殺した日のことは覚えている。君が生まれるよりもだいぶ前だが、今でも夢に見るほどさ。

 

 だけど、男には、どんなに怖くても、自分が壊れてでも戦うべき時がある。

 

 それは……大切なものを、守る時だ。」

 

「大切なものを、守る……」

 

「君はまだ幼い。ご両親から10歳にもなってないって聞いたよ。それでも、あの恐ろしい盗賊から親友を守ろうとしたんだろう?」

 

 

 普通じゃあまずできない、と言った衛兵の大きな掌が自分の頭を撫でる。今まで胸を締め付けていた苦しみが、少しずつほどけていく気がした。それにつれて、貯まっていたものが溢れ出てくる。いくら目を拭っても、それは溢れ続けた。

 

 

「君は立派な男になれる。いや、もうなってるのかもな。いずれにせよ、大物になると思うよ。」

 

 

 最後の方は少しちゃらけた言い方になったが、しっかりと言い聞かせるような言葉だった。とうの昔に忘れ去ったと思っていた、若人特有の魂の炎が蘇った。衛兵の暖かな、頼もしい言葉が、魂だけが大人びた自分に伝わり、火にかけた鉄のフライパンのように伝わり、あっという間に情熱が燃え上がった。

 涙を拭って、真面目な顔を衛兵に向ける。

 

 

「当たり前だろ……だって俺は……七賢者になる男だからな…!

 アルシーヴもソラも、俺が守ってやるんだ!!」

 

「ふっ、そうか。なら早速行こうか。」

 

「えっ……?どこに?」

 

「盗賊のアジトに、君の親友を助けにだよ。」

 

 

 何か含みのある笑みを浮かべた後、衛兵は背中でついてくるよう促した。

 

「あ、そうそう、七賢者とか言ってたけど、賢者は八人だからね?」

 

 

……俺にとって大事な情報をさらっと口にしながら。ちなみに、このことに俺が気づくのはもう少し後のことになる。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「衛兵さん、さっき、俺は連れていけないって言ったんじゃあ……」

 

「それは衛兵としての意見だ。これから言うことは同じ男としての言葉だ。だからこれからはペッパーって名前で呼んでくれ、ローリエ君。」

 

 

 街を出た俺と衛兵改めペッパーさんは、近くの森を歩いていた。

 

 

「大切な親友を救うために戦うんだ。同じ男としては、力になってやりたいのさ。」

 

「でも、衛兵としての規約があるんじゃ……」

 

「だから俺は最小限の装備しか持って来ていない。『休暇中、君と二人で散歩していたら、偶然盗賊のアジトに連れ込まれた』ことにするためにね。

 

 ……危険な賭けになるよ。相手は何人も殺っている。見つかったら、迷わずこちらを殺しに来るだろう。いざという時は……逃げるんだ。戦おうとは考えるなよ。」

 

「分かっています。」

 

「君はソラちゃんを助ける事を優先してくれ。……さぁ、着いたぞ。」

 

 

 そこは、高さ10メートルほど切り立った崖の下にある洞穴だった。入口の高さはあの夜に現れた盗賊と同じほどで、森の薄暗さもあって外からでは中を確認することは出来なかった。

 

 入るぞ、というペッパーさんの合図に、俺は拳銃を抜いて弾を確認しながら後に続いた。

 

 弾倉は六つあり、それぞれ全てに弾を込めてある。弾丸はぷにぷに石の弾丸が五つ、残りの一発だけブラックストーンを使用したメタルジャケット弾(ブラックストーンは厳密に言うと石だからストーンジャケットだけどね)にしてある。

 あの大男にぷにぷに石の弾が効くかという不安はある。でもメタルジャケット弾は出来れば使いたくない。かつて数回だけメタルジャケット弾で試し撃ちしたことがあるが、貫通力が高過ぎて自室の壁に穴を開けてしまったことがある。人に向けて撃ったらどうなるかなど、想像に難くない。

 

 

 どうか最後の一発(メタルジャケット弾)は使わないで済みますようにと願いながら、またソラちゃんの無事を願いながらペッパーさんに続いていくと彼がこっちを振り向き、「静かに」と合図してきた。

 

 どうやら(くだん)の盗賊は眠っているようだ。自然の洞窟の地べたに直接寝転がり、仰向けでいびきをかいている。

 これなら好都合。とっととここにいるはずのソラちゃんを助けてしまおうと考えた。

 

 果たしてアジトの奥に彼女はいた。オリの中でもう一人の少女と一緒に隅に座り込んでいた。

 

 

「ソラちゃん!」

 

「ローリエ!?どうしてここに……」

 

「シッ!あいつが起きる。早くここから出るよ。」

 

「でも、このオリが……」

 

「安心してくれ、街の衛兵は力持ちでね。」

 

 

 そう言うと、ペッパーさんはオリの一部をひん曲げて、子供一人分の隙間を無理やり作る。

 そうしてできた隙間から、ソラちゃんともう一人の少女を救出する。

 

 俺はその少女をどこかで見たことがあった。

黒い髪を短く切りそろえたその少女のことを思い出せたのは、きっと子供用の和服を着ていたからだろう。

 

 

「なっ!?(ハッカちゃん……!?)」

 

「? 何?」

 

「い、いや…何でも……」

 

 

そう、後に賢者の一人となるハッカである。俺にとって、賢者の中で一番のお気に入りだったりする。まさかこんな所で会うとは思わなかった。

 名前を言いかけたのを思いとどまったのはこれが初対面だからだ。初対面で相手が名前を知っていたら誰だって驚き警戒するだろう。俺だってそうする。

 

 

 

「てめぇらッ!!何してやがる!!!」

 

「ッ!ローリエ君!!二人を連れて逃げろ!!」

 

 

 だが、驚いたり、喜んだりする暇すらないらしい。

 サバイバルナイフを抜いてさっきまで寝ていた筈の盗賊に飛びかかったペッパーさんの言葉に、素直に従うことにした。

 

 

「二人とも早く!」

 

「で、でも!」

 

「あの人の命がけの戦いを無駄にするな!!!」

 

 

 ソラちゃんが攫われたあの夜以降で初めての大声が出た。

 無茶な救出を了承してくれた(ひと)のためにも、俺達は生きて帰らなければならない。

 幼いソラちゃんとハッカちゃんの手を引き、全力で洞窟を駆け抜ける。二人がすぐ後ろで息を切らすのも構わず、かすかに見え始めた入口の光目掛けて走り続けた。

 だが、エトワリアの神はどこまでも意地が悪いようだ。

 

 

「っはぁっ!もう……無理………」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「あっ!?おい!!」

 

 

 アジトを出るより先に、二人の体力が底を尽きる方が早かったようだ。俺は、離れてしまった手をもう一度繋ぐべく二人へ近づく。

 

 

「クソ……手間かけさせやがって」

 

 

 だが、ここで最悪の事態が起きた。あの男に追いつかれてしまったのだ。

 ソラちゃんが攫われたあの夜を嫌でも思い出させるかのように、格好はその時のままだった。

 

 

「そんな!さっきの人は……」

 

「へへ……衛兵も大したことねぇなァ」

 

 

 ソラの絞り出したような言葉への答えと、大きな体のあちこちにある新しい傷跡、そして奴が手に持っているナイフに何かが滴っているのを見て、俺はペッパーさんの身に起こった結果を悟った。

 

 

「もう、ただじゃおかねェぞ……お前ら……三人まとめてじっくりいたぶって……死ぬよりも苦しいと思えるくらい、痛めつけてやる……!!

まずは二度とチョロチョロできねーように、足の骨をへし折って、

腕も曲げて、散々犯し尽くしてやるぜ、へへへへへ……」

 

 

 盗賊の欲望と憤怒に満ちた表情は、まさに地獄から湧き出でんとする悪魔そのものだった。

 

 俺の中から何かが湧き出てきた。

 

 

 勇気のような、怒りのような、憎しみのような、言葉に出来ないような静かな激情が俺の中をあっという間に駆け巡った。

 

 『パイソン』を抜いて、弾倉を()()()()()一発分だけ回し、両手で構える。

 ソラちゃんもハッカちゃんも体力切れと恐怖で動けない。俺の後ろから聞こえる息づかいで分かる。逃げるなんて論外だ。

 

 

 コイツを止めるには……()()()()()()

 

 

 

 ここは日本ではない、覚悟を決めろ。

 

 

 

 

 

 引き金を引け……大切な者を守るために!

 

 

 

 

「なんだァ?そのおも…」

 

 

   ―――バアァァン!!

 

 

 その瞬間、手元から爆音がした。

 

 始めは、外したかと思った。目の前の盗賊は何の反応も示さなかったからだ。

 だが、そうではないとすぐに気づいた。男の額に、風穴が空いている。

 

 

「な、なん………だ、そ…………」

 

 

 掠れた声で何か呟くと、目の前の盗賊(あくま)はゆっくりとうつ伏せに倒れ……そしてそのまま動かなくなった。

 これで、俺達三人の危機は去った。

 

 

「もう大丈夫だ。さぁ、帰ろう。」

 

「………!!」

 

「? どうしたんだ、ソラちゃん」

 

「う、後ろの人……一体……」

 

「あっ………!!」

 

 

 ソラちゃんに指摘されてやっと気づいた。

 俺は初めて人を殺したのだ。

 

 その事実が、倒れた盗賊の汚れた血が地面に広がっていくように、心の中にしっかりと刻まれた。

 他でもない、自分がやったことなのだ。その責任として、今は二人を落ち着かせなければならない。この時、気のきいた言葉の一つや二つ、言うことができたらどれだけ良かっただろう。しかし、数十年分の記憶があるにも関わらず、俺の頭の中ではいくつもの言葉が交差し、通り過ぎては消えていった。

 

 

「で、でもよ!こうでもしないと俺達、命なかったかもしれない、だろ?」

 

 

 最悪なことに、真っ先に出てきた言葉は、言い訳だった。だが、当時の俺からしたら、それが一番簡単に出てきた言葉だった。

 

 

「なぁ、そうだろ?そこのキミも、そう思うだろ?だから……」

 

 

そこまで言いかけたところで、ハッカちゃんの目を見て自分が致命的なミスをしたことを悟った。

 

 

 ……怯えた目を、していたのだ。

それも、明らかに俺に対する恐怖がひしひしと伝わってくるような、そんな目を。

実際にやった訳でもないのに、手を差し伸べたらその手を振り払われたような錯覚に陥った。

その時のショックはゲームの推しキャラに嫌われた!ガーン!というレベルのものではなかった。

 

 ここにきて、ペッパーさんが言っていたことの意味が少し分かった気がした。

 

 

 

「……ソラ、ちゃん。」

 

「なっ…なに?」

 

「その子を連れて、街へ行って。」

 

「……ローリエはどうするの?」

 

「しばらく、独りにさせてくれ。

その方がいい……お互いにとって。」

 

 

 

 

 

 ソラちゃんは何か言いかけたが、やがてハッカちゃんと手を取って盗賊のアジトから出て行った。俺はペッパーさんの安否を確かめてから外へ行こうと思った。

 

 やはりと言うべきか、彼は亡くなっていた。いたる所にナイフで刺された跡がある。これを見たのが俺だけで良かった。彼女たちが見たら、間違いなく吐いてしまうだろう。俺も吐きそうになった。

 

ペッパーさんを供養した後、俺も洞窟から出て、森を抜けた所で立ち止まって夕陽と向き合った。

 

 

 

 俺は今日という日を忘れないだろう。

 

 

 

 変化がありすぎた。

 自分の弱さに触れた。

 衛兵の覚悟に触れた。

 死に触れた。俺の中の、大切な何かも壊れたと思う。

 だが、沈んでいく太陽に涙は見せなかった。

 

 

「俺は……もう逃げない。必ず、ソラとアルシーヴを守る……!」

 

 

 間違いなく、俺の人生は今日を境に変わっていくだろう。それからの日々を、悔いなく生きるために。




キャラクター紹介&解説


ローリエ
親友を守る為に盗賊を倒した主人公。それと同時に人を殺したことで、大切な何かが壊れてしまったようだ。人は人を殺した時、それ以降の選択肢に『殺す』が当たり前のように出るようになる、という話を参考に今回の話の心情変化を書いた。また、前話の時点で折れかかっていたため、どう立ち直るかでかなり苦労した。元々、変態路線で行くつもりだったのにどうしてこうなった……
でも、これから美人揃いの賢者達と次々会う予定だから多分問題ないはず←


ソラ
来年には女神候補生になる少女。盗賊を一撃で倒したローリエを見て、「ローリエの魔道具がやった」と思えたのは古くから付き合いがあったため。だが、まさか自分を守るためとはいえ人を殺してしまうとは思わなかっただろう。その時の心情変化については、いつか語れる日を望んでいる(白目)


ハッカ
未来の賢者の一人。こちらはローリエとは初対面であるため、ローリエが盗賊に何をしたのか、何を持っていたのか全く分からなかった。これが恐怖に繋がり、ローリエを傷つけた。
人間、恐怖は無知から来ているという話があって、『何が起きているか分からないから恐怖を感じる』という考え方から来ているそう。怖い話やオカルトが恐怖を煽るのは「何があったのか理解できないから」ではないかと作者は分析している。皆様はどう考えるだろうか?


ペッパー
本来は登場させる予定のなかったキャラ。ローリエが立ち直るキッカケとなるために、モブの衛兵から格上げになった。ローリエに大切な者を守ることの大切さを教えて逝った(誤字ではない)。


盗賊
話を練っていた頃から銃殺される定めにあった可哀想な人。あまり触れないのは、掘り下げることで同情の余地を作らせないため。悪役を作るのに必要なのがくずセリフ。きらファンに純然たる悪はなかなか出ない為か、コイツの言葉には苦労した。モブだけど。



△▼△▼△▼
ローリエ「衝撃的すぎた盗賊事件もこれで終わり! これからは神殿で三人一緒だな! 前々から思っていたんだけど、エトワリアの女の子って皆レベルが高すぎない?いやぁ~、ここでいっちょ、ハーレムでも作ってみますか!」
アルシーヴ&ソラ「………。」

次回、『魔法工学生』

ローリエ「絶対見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
幼少期編終了。でも、まだローリエ達が賢者どころか神殿に行ってすらいないので、もう少しだけ(原作前編が)続くのじゃ。


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第4話:魔法工学生

シティーハンター見てきました。
冴羽リョウ超格好良かったなぁ……ああいう格好良さを持つ男になりたい。


“親友の二人には、迷惑をかけてしまいました。
一人は私を庇って一生跡が残る怪我を負い、一人は私を守って手を血で汚しました。
女神として、彼らに何ができるのでしょう。”
  …女神ソラの独白より


 盗賊によるソラ誘拐事件。

 その終わりはあまりに拍子抜けしていた。

 

 

 誘拐されていたソラが戻って来たのだ。しかも、同時に誘拐されていた少女を一人連れて。

 

 街は始め、ソラが盗賊の隙を突いて脱走してきたと考えていたが、衛兵隊が盗賊のアジトを調べ、盗賊と衛兵一人の亡骸を発見してからは事態が急変した。

盗賊の亡骸の致命傷となった傷が額の小さな風穴だけだったこともあり、死亡原因の特定は難航した。

調査隊では「衛兵が盗賊と相討ちになった」という説と「第三者が盗賊を殺害した」という説で話し合いが行われたが、結局結論は出ず、真相が不明のまま時が流れていった。

 

 

 

 

 

 その当時のことを、女神ソラはこう語る。

 

「私はあの時、ハッカと震えていることしか出来ませんでした。ローリエが助けてくれなければ、命はなかったのかもしれません。

 

 でも、盗賊を撃ったローリエに、幼かった私は、お礼を言うことすら出来なかった。『独りにさせてくれ』と言われた時、恐怖のあまり彼の言う通りにしてしまった。あの様子の彼を、放っておいたらいけないと直感的に分かっていたにも関わらず。

 

 街に帰ってから後悔しました。お礼くらい言えば良かったって。せめてもの償いとして、ハッカに口止めをし、衛兵たちにも何も言わないことにしました。アルシーヴに事件のことについて聞かれても、『ローリエが守ってくれた』事以外は何度聞かれても答えませんでした。

そうして、時が流れて皆が盗賊の事件を忘れていくのを待ったのです。

 

 

 事件以降、私はローリエとはあまり話さなくなりました。……話しかけづらくなってしまったんです。だって、彼が変わってしまったのは、確実に私のせいなんですから……謝りたくても、何を言われるか分からなくて、怖かったのだと思います。彼のことは、信じているはずなのに。

 

 久しぶりに会話したのが、私の誘拐から3年たった頃の、フェンネルの事件の後だったかしら……

 その頃のローリエは……やっぱりというか、案の定というか………昔とは変わっていました。例えるなら、オモチャのナイフが、一流の鍛治職人によって切れ味を得たかのような……そんな変化が。」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 時の流れとは早いもので、盗賊によるソラ誘拐事件から3年があっという間に経過した。

 

 

 俺、ローリエは魔法工学を更に勉強するために、神殿に住み込んでいる。

 神殿にある神官の教育。そこの魔法工学科に俺は入った。ちなみに、アルシーヴは魔術科、ソラは女神候補生として神殿にいる。

 

 神殿は広く、学生寮を有しており、その内の二人部屋に俺は今住んでいる。食事は基本、寮から出るが自分で何とかすることもある。

 

 そして現在、何をしているかというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゃァ!!完成だぜ!!」

 

「相変わらず元気だな。それで、今回は何を作ったんだ?」

 

「コレだ! テッテレ~!

 インスタントカ~メ~ラ~~!!!」

 

「毎回のようにそのくだりやるけど何なんだよ」

 

 

 相部屋に同居している同級生にダミ声でドラ○もんのモノマネをしながら夜なべして完成させたカメラを見せつけていた。

 

 エトワリアには小型のカメラがないらしく、持ち運びなど不可能だったらしい。だが、それでは可愛い女の子を撮る機会が十分に得られない。世界の損失である。

 そこで、俺は有り余る魔法工学の知識を用いてカメラをコンパクトにし、撮った瞬間カメラから写真が出てくる、小型インスタントカメラを作ったのだ。

 

 

「これでエトワリアの至宝の損失を防げるぜ……」

 

「お前は何を言っているんだ」

 

「いいか!このカメラというのは、いわば『時間を切り取れる』んだッ!女の子の、若い瞬間を、永遠に!代償もなく!保存できるんだッ!!

 アルシーヴやソラだけじゃないッ!!エトワリアの女の子はみんな可愛いッ!

 それを撮らない男は、男を名乗る資格なぞなぁいッ!!」

 

「分かったから落ち着こうか」

 

 

 そして、このインスタントカメラで可愛い女の子を撮ることに思いを馳せている俺に冷静に突っ込みを入れた同級生は、俺が神殿に住み込んでから出来た男友達だ。名前をコリアンダーという。

 

 神殿に入りたての頃、天才的な魔法工学の知識ゆえに孤立しかけていた俺に話しかけ、意気投合した結果信頼関係が出来上がった。

彼は真面目で女が苦手という、俺とは真逆の性格だったので、仲良くなれたことに俺自身も驚きだった。きっと、俺の発明を理解してくれたからここまで上手くいったんだろう。

 

前世の学校ではボッチだったので、今世もボッチは避けたいと思った矢先にできた友達だから、彼には感謝している。

 

 

 

「でもまぁ、普通に考えてスゴい発明だぞ?あのカメラの小型化なんて前例がない。お前、いつもトンでもない発明をするよな」

 

「マ、賢者になるためにゃ、これくらいやんなきゃだしよ。

 ……ところで、お前は何を作っているんだ?」

 

「これか。これはだな、とある人物に依頼されて製作してるモノだ。触れるなよ?万が一があるかもしれないからな。」

 

 一応コリアンダーが造っているものを聞いてはみたものの、樽のような形をした金属は、あまり精密なものには見えない。俺はこのことは頭の隅っこに追いやることにした。

 

 

 そんなものよりもやるべきことがこのローリエにはあるからだ。

 

 それは!

 

 

「美人ちゃんを写真に収めることだッ!!!」

 

「あっ、お前!迷惑だけはかけんなよ?」

 

「当然!」

 

 

 

コリアンダーの忠告をテキトーな返事で流しながら俺は部屋から走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして着いた場所は、神殿の礼拝堂である。アルシーヴは、大体ここで魔術、聖典、筆頭神官の執務について勉強している。

 

 

「アルシーヴちゃーん!」

 

 

 カメラを構えつつそう声をかけて、こっちを向いたところでシャッターを押す。

カシャッという音とともに、写真がゆっくりとカメラから出てくる。そこには、テーブルについて教科書とノートを広げてこちらを向いているアルシーヴが映っている。

 13歳になった彼女は、俺の知っているゲームのアルシーヴに比べ、少し幼さは残るものの、十分に可愛さを備えていた。

 

 

「フッ………完璧だ、これでまたエトワリアの技術は進む……」

 

「なんだローリエ。いきなり来たと思ったらまた変なことを言って…………!!?」

 

 

 俺の言葉に呆れていたアルシーヴだったが、俺が手にしているカメラと写真を見た瞬間、何かを察したかのように目を見開く。

 

 

「お前、それは……!?」

 

「お?分かるか、アルシーヴちゃん。実はこれは、さっき造ったカメラだ」

 

「は!?

 あのカメラを小型化だと……?

 少しそれを貸せ!」

 

「あっ!?

 おい、あんま乱暴に扱うなよ……?」

 

「当たり前だ!」

 

 

目の色が変わった彼女はインスタントカメラをぶん取ってあらゆる角度から見つめていた。カメラを回し、フレームの取り外しを繰り返し、時にはシャッターを押して、出てきた写真を観察しては、さっきまで勉強で使っていたノートに原理を書き込んでいる。

 

 

「そんな珍しいもんかね?」

 

「ローリエ、それは本気で言っているのか?」

 

「え?」

 

「国宝級の発明だ。これだけで、写真技術は30年進むぞ。

……自覚なしに凄まじい発明を持ってくるなといつも言っている筈なんだがな。分かってるのか?」

 

「ああ、もちろんだよ」

 

 

 そう言って警告してる間もカメラから目を離さなかったのだろう。少し無防備になっている。

 

 

 

 そのチャンスを逃す手はない。

 

 

 

 

 俺は両手で彼女の胸を後ろからがしっと掴んだ。

 

 

 

 

「きゃああ!!?」

 

「うん、この前よりも大きくなってる。将来は国宝級の隠れ巨乳になるな……5、6年後に口説かせてあべしっ!!?」

 

「ローリエのエッチ!」

 

 

 ゲームの姿に思いを馳せながらアルシーヴちゃんの成長期おっぱいを堪能していると、国宝級のビンタが炸裂した。しかもいい声のオマケ付き。沢○さんありがとう。

 

 

「いきなり何をするんだ!」

 

「いやぁ、アルシーヴちゃん……毎度のことながらご馳走様です」

 

「本当に何を言っているんだ!!」

 

 

 お礼は言ったのだが、アルシーヴは顔を真っ赤にして抗議してきた。不意を付いてやったのがダメだったのだろうか。

 

 

「こんなことしてる暇が会ったらソラの所に顔を出しに行けばいいじゃないか!」

 

「!!」

 

 

 ソラの話題を出されて、俺は思わずたじろいだ。

 確かに、あの盗賊の事件以降、アルシーヴには会っていても、ソラには会っていない。俺は避けているのだ。別にイジメとかじゃないからそこは誤解しないで欲しい。

 

 ただ―――

 

 

 

「……あんな事件(こと)があった後で簡単に会いに行けるかよ…」

 

「………っ!!」

 

 

 あの事件の影響がない訳がない。事件後すぐに会った時のあのリアクション。話しかけようとしているのだけど、喉につっかえたように見えるあの反応。

それでなんとなく分かる。

 ソラは、男に対してトラウマを抱いているはずだ。俺が自分から話しかけなかったのも彼女のトラウマを思い出さないようにするためでもある。

 

 加えて、ソラが変わった原因が、盗賊だけでなく俺にもあるかもしれないことを、俺はアルシーヴに話していた。彼女に「盗賊に襲われた時、逃げて、守ってやれなくてごめん」と謝ったところ、複雑な顔で「お前は悪くない」と返されたのは記憶に新しい。

 

 

「アルシーヴ先輩、紅茶をお持ち……あ」

 

「あっ、き、君は……!」

 

 

 あの事件に再び触れるかどうかの会話の最中、そのタイミングで、今最も話しかけ辛い女の子と出会ってしまうとは、泣きっ面に蜂とはよく言ったものだ。

 その女の子――ハッカもまた、盗賊のアジトで出会い、そして、あの衝撃的な所を見せてしまった女の子でもある。俺は、あの怯えた目を忘れることはない。

 俺を目にしたハッカも、すぐに俺が盗賊を倒した少年と気づいたようで、俺を視界から追い出そうと目を泳がせた。

 

 すぐにあの日、怖がらせたことを謝らなくては。

でも何て言って謝ればいい?そんなことばかり考えていた。心が苦しくなっていく。

 

 

「? ローリエ、ハッカ?お前達、どこかで会った事があるのか?」

 

 

 しかも最悪なことにアルシーヴが爆弾を投げ込んできた。

おいやめろ、そんな質問答えられる訳ねーだろ。ファーストコンタクト最悪なんだぞ。アルシーヴには俺がハッカちゃんと会ったことがある事を伝えていない。それが完全に裏目に出た。

 

 

「「…………。」」

 

「顔色悪いぞ、二人とも。大丈夫か?」

 

 

そら顔色も悪くなるわ。大丈夫じゃないからな。

 

ハッカの方をチラリと見るとあの頃のことを思い出したのか目から光が失いかけてる。これは、俺がオブラートに包んで答えるしかないか。

 

 

「あー……実はだな、アルシーヴ?

俺と彼女…ハッカちゃんは……」

 

「アルシーヴ様に手を出したのは貴様かアアァァァ!!!!」

 

 

 突然、軽鎧に身を包んだ少女が弾丸のように俺のほうに飛んでくる。

 俺は反射的にその場から飛び退くことで回避する。少女は奇襲が失敗したことを悟り、スピードを落としてこちらを睨みつける。

 

 

「あっぶな!?何今の!!?

当たり屋にしては殺意高過ぎない!?」

 

「とぼけても無駄よ……アルシーヴ様の悲鳴を聞き逃すほど、このフェンネル、未熟ではないわ!」

 

 

 弾丸の如く襲ってきたその少女の言葉で、俺はその正体を察した。

 

七賢者・フェンネル。賢者達の中で一番アルシーヴを信仰しており、ランプをして「アルシーヴが黒と言えば白いものも黒と言う」と言わしめた狂信者だ。現在、俺が12歳だからアルシーヴは13歳なのだが、まさかこの頃からアルシーヴの虜だったのか……!?

 

 

「私と勝負しなさい。そして、私が勝てば、もう二度とアルシーヴ様に近寄らないと誓え!」

 

 

 フェンネルのアルシーヴ信仰が原作開始のかなり前から根深いことに驚いていると、いつの間にか決闘を申し込まれていた。

 だが、俺にそれを受ける理由はない。銃の腕を上げたり、銃の改良を続けているのは、いずれ訪れるソラへの呪い事件を未然に防ぐor犯人をぶっ飛ばす為だ。感情的に叩きつけられた決闘に勝つ為じゃない。

 

 

「嫌だよ」

 

 

 だから、はっきりと断った。

 

 ソラやアルシーヴの為なら戦えるかもしれないが、それ以外となるとまともに戦える自信がなかったのも断った理由としてはある。むしろ、戦いに慣れること自体良くないことだと思う。

 

 

「貴様!何故勝負を受けないんです!馬鹿にしてるのですか!」

 

「馬鹿にするもなにも、いきなり決闘とか無理に決まってるだろう?それに……」

 

「私が、女だから!決闘を受けないと言うのか!!」

 

「違う。戦う意味がないからだ。」

 

 

 フェンネルの言ったことは合っている。女の子からの依頼やデートのお誘いは受けても決闘の申し込みは受けないようにしてるんでね。

 でも決して理由はそれだけじゃない。繰り返すようだが、必要性を感じない戦いはするべきではない、と考えているというのも理由だ。

 

 

「まただよ、フェンネル。アルシーヴ様の為とかいって、突撃して。気持ち悪いな。」

 

「いつも俺達には注意するのにな。人のこと言えねーじゃねーか。」

 

「ウィンキョウ家のお嬢様だからって調子乗ってんのか……?」

 

 

 それに、今気付いたのだが、周りの様子がおかしい。フェンネルに対する敵意をひしひしと感じる。特に、ガタイのいい男どもから刺さるような視線を感じた。そいつらの敵意が、口から漏れ出ているかのような陰口がわずかに聞き取れたのがいい証拠だ。

 

 こんな時に決闘を受けたらヤバい気がした。

 

 

「落ち着け二人とも。いきなり決闘なんてよすんだ。」

 

 

 俺たちが一触即発の空気で睨み合い、周囲も不穏になる中、アルシーヴが仲裁に入ってくる。すると、すぐさまフェンネルはスイッチを切り換えたかのように感情を抑え武器を収めた。

 

 

「フェンネル。気持ちはわからんでもないが、怒りで決闘を申し込むな」

 

「申し訳ございません……」

 

「そして……ローリエ」

 

「ん?俺?」

 

「お、女の子の……その、む、胸は……乙女の宝物なんだ。だから……あまり何度も触るな……」

 

「「ふぁっ」」

 

 

 アルシーヴが俺に向けて言った、困ったような、照れたような、そんな表情と声色でする注意に、俺とフェンネルの驚きの声がハモる。しかも、肺の奥からでた変な声がハモった。

 

 

「可愛い……」

 

「何度も…だと……?」

 

 

ただしその後にくる感情(感想)が真逆といっていいほど違った。俺はアルシーヴちゃんの意外な一面に萌えていたがフェンネルの声は殺気を孕んでいた。

 

 

「貴様……やはりアルシーヴ様のために斬った方が良さそうだな……!!」

 

「待て、ウェイト。それはダメだぜ?止めた方が良いと思うなー?さっきのアルシーヴちゃんの言葉覚えてる?感情に任せて決闘すんなって……」

 

「問答無用ッ!!!」

 

「うわあああああッ!!?」

 

 

 説得も虚しく、フェンネルにレイピア片手に斬りかかられ。

 

 この後滅茶苦茶逃げまくった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「……それで、追手を撒いてここまで逃げてきたのか。お前、学習してないだろ」

 

「えっへへー」

 

「えっへへーじゃない。いい加減にしないと、いつか捕まるぞ」

 

 

 依頼された物の制作を続けていると、親友のローリエが部屋に戻ってくる。何があったかを聞いた俺は、呆れ果てた。

 

 こいつは、女癖が悪すぎる。美人に目がなく、見かけたら片っ端から口説きにかかる。ぶっ飛んだ発明品の数々から感じる情熱や技術は本物なんだが、いつもがナンパ野郎(アレ)だからプラマイはゼロを通り越してマイナスに突入している。

 

 

「ところでコリアンダー、フェンネルについて何か知ってたら教えてほしいんだけど……」

 

「また俺頼みか。知ってる範囲でしか話せねえぞ。」

 

「それでいい。」

 

 

 ローリエは、学生の事情について無頓着だ。こいつの関心事は、自分の発明品と友人、聖典、あと美人くらいしかない。だから、こいつが誰かについて尋ねる時は大体俺の情報を当てにしている。いつものことなのでもう慣れた。

……少なくとも、こいつよりは生徒(まわり)を見ている自負はあるし。

 

「フェンネル・ウィンキョウ。ウィンキョウ家の末っ子お嬢様だ。学年は俺たちと同じ。神殿の騎士科に入っている。……というか、お嬢様なら顔次第でお前の好みになりそうだから知ってそうなものなんだがな」

 

「好きな女がいる女の子には手を出さないと決めてるんだ」

 

「なんだその決まりは……」

 

「百合は本来男の入る余地がないものなんだよ」

 

 こいつは時たまよく分からない事を言う。この時に深く聞かないのがこいつとの仲を保つ秘訣だと思っている。

 

「フェンネルは、アルシーヴちゃんをかなり信仰していた。何か心当たりはあるか?」

 

「ない。ただ、授業態度は騎士科に珍しく大真面目だったと聞くぞ」

 

 

 騎士科の生徒たちは、言い方を考慮せずハッキリ言ってしまえば授業態度などあったものではなく、無法地帯の徒となっている。生徒の9割を男が占めており、表向き授業は受けてるが、常にバレない裏取引の方法やイジメ、セックスの話ばかりしている。

中には崇高な志を持つ騎士候補がいるのかもしれないが、不良共の行いが多く、目に余りすぎているものだから、騎士科全体の印象ダウンに繋がっている。

 

「真面目……ね。あの騎士科で?

 さぞかし浮いたことでしょうな」

 

「ああ。その影響かは知らんが、別科の生徒と一緒にいることが多いらしいな。それがあのアルシーヴか」

 

「みたいだな。となると、アイツらがやりそうな事は……私刑(リンチ)かな?」

 

「可能性は高い。不真面目な連中の中にいる真面目な人間。それだけで奴らにとっては目障りだろうな。」

 

 

 しかも騎士科卒業後の就職先である衛兵・騎士・近衛兵なんかは男社会。女性が出世するのはかなり苦労するだろう。

 

 

「それじゃあ、騎士科の男をひとりとっ捕まえて情報を吐き出させるとしますか……!」

 

「出来るだけ穏便にな。お前の武器、未知な上に攻撃力高いから、無闇に使うなよ?」

 

 

 分かった、と答え部屋を出ようとするローリエの表情は、いつもの腑抜けたものとはうって変わって、研ぎたての刃物のような、鋭い面持ちとなった。

いつもそういうツラ構えなら、モテるのにな。

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を出てから少しして、食堂についた俺達は、騎士科の男の集まりを見つけた。

 ほぼ自然な流れで隅に位置取り腰をかけ、耳をすませると、男たちの笑い声の混じった会話が漏れてくる。

 

 

「今日の授業後、裏庭だな。」

 

「俺が決闘を申し込んで戦う。少ししたらお前ら出てきて袋にしろ。」

 

「あの生意気女、二度と俺らに逆らえなくしてやるぜ…!!」

 

「バカ、声がでけーよ!」

 

「構いやしねぇよ、誰が聞かれてもあの女にチクるもんか!」

 

 

 こいつらには、警戒心というものがないのだろうか。食堂で笑いながら話してたら誰かに聞かれるかもしれないのに。

 罠の可能性もあったが、下卑た笑い声と話の内容から、あり得ないと結論づけた。

 

 

「行くぞ。」

 

「ああ。」

 

 

ローリエのその声で席を立ち、部屋へ戻る。

 

その際に気になったことを聞いてみた。

 

 

「なぁローリエ」

 

「なんだ?」

 

「お前、何でフェンネル(彼女)を助けようとする?」

 

 

 俺の質問にローリエは部屋前で立ち止まり、振り向いてこう答えた。

 

 

「美人がピンチなら、助けるのが男だからだ。」

 

 

 何ともローリエらしい答えに笑みがこぼれた。そのまま俺達は、戦いの準備を進めていく……




キャラクター紹介&解説

ローリエ
成長し、かなり女好きになった魔法工学生。イメージCVは○田○和。
彼にはちゃんとモデルがおり、メインのモデルに他のキャラの要素を混ぜ込んだ感じになっているのだが、そのモデルとも差別化を図る予定。


アルシーヴ
CV.沢○○ゆきの可愛い女の子。
原作でクールな彼女が「エッチ!」なんて言わないと思うかもしれないが、不意打ちだったし仕方ない。ボイスについては、某泥棒アニメの女盗賊を参照のこと。


ソラ
CV.ゆ○なの可愛い女の子。
今回は語り部として登場するに留まる。『バキ』的な語り部ではない。
オリジナル設定として、盗賊に拉致されたトラウマで男が苦手という設定を盛り込んだ。まぁきららファンタジアに男がほとんど出てこないので原作ソラがどうなっているかは確かめようもないが。


ハッカ
CV.茅○実○の可愛い女の子。
アルシーヴの取り巻き的な存在になっており、ローリエにとっては過ちの象徴と化してしまっているが、作者は一番好きな子なのだ。しかしヒロインにできるかと言われたら不明。


フェンネル
CV.五○嵐○美の可愛い女の子。苗字の元ネタは、香草フェンネルの和名「茴香(ウイキョウ)」から取った。
アルシーヴにのめり込んでいる彼女だが、相当な理由がなければこうはならないと考えている。詳細は次の話にて。


コリアンダー
本作オリジナルキャラにして、ローリエの男友達。イメージCVは○村○一。
オリキャラは、原作キャラと比べて性格描写や環境を掘り下げる手間がかかるので大変だが、空気にならないように頑張りたい。


騎士科の生徒の授業態度
大体偏見だが、一応元ネタがあって、フランス革命期の革命軍と王国軍のモチベーションの話から。
市民を中心とした革命軍は、家族を守るという使命感が強かったので勇敢に戦ったが、王国軍は、金で雇った傭兵が中心だったため、士気が低かったという話がある(うろ覚え)。
まぁ、兵隊に限ったことではないが、人のモチベーションが落ちると汚職や不正行為に走るのは世の常ではないだろうか。



△▼△▼△▼
ローリエ「真面目すぎて周りが見えない系女子フェンネルに、騎士の男の魔の手が迫る! ここは全年齢対象だからくっころは封印だ。俺が一肌脱いで、助けるとしましょうか!」

次回、『近衛兵フェンネルの神と悪魔』

コリアンダー「必ず、チェックして欲しい。」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
やっとこの話を書けたと思ったら、執筆中の小説って所から投稿したためか、前書きとあとがきが全部消えてて萎えた。次から気をつけよう。


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第5話:近衛兵フェンネルの神と悪魔

バレンタインデー前日までに投稿間に合わなかったマン


“私の人生は二つに分けられる。
それは、アルシーヴ様に出会う前と出会った後だ。”
  …八賢者 フェンネル・ウィンキョウ
   賢者就任演説より


 小さな頃に見ていた、父や兄の姿が憧れだった。

 

 神殿の近衛兵や衛兵として働く家族を真似して、騎士ごっこをして遊びまわったのも、その憧れから来る自然なものだった。

 

 

 

 だが、最初の方こそにこやかに見守っていた父も兄も、成長していくにつれ、剣の道へ進もうとする私にあまり笑いかけなくなっていた。

 

 気付いた頃には、「ウィンキョウ家の娘として、偉い所の嫁へ行け」と言ってくるようになった。

 

 当然私はそれに反発した。

 

 繰り返すようだが、私は、誰かを守るために剣を振っている二人に憧れたのだ。誰かの元へ嫁ぐといった、そういう方向の『女の幸せ』には興味なかった。

 私の幸せとは、仕えるべき主に仕え、その主を守ることにある。そう信じていた。今もそうだ。

 

 そう親に宣言した次の日、私にとって衝撃的な宣告を下された。

 

 

“お前の縁談を纏めておいた。いい加減、現実を見ろ。”

 

 

 父からの言葉に私は目の前が真っ暗になった。いくら親とはいえ、望まぬ結婚を無理矢理させるとは思えなかった。そんな中での一方的なこの宣告(縁談)は、裏切りに等しかった。

 

 無力な子供だった私は、家を飛び出し、ひたすら走り続けた。

 

 

 家、地位のしがらみ、婚約という名の呪い……そして、あんなに好きだった剣の鍛錬からも、逃げ出したかったのだろう。

 

 

 

 その時だった。

 

 

『どうしたんだ、そこの君?

 ……何故、泣いているんだ?』

 

『……あなたは?』

 

『私は―――』

 

 

 私の神に出会ったのは。

 

 それは、桃色の髪を後ろでまとめ、魔術師を目指していると思われる服を着ており、吸い込まれそうな緋色の目をした、私と同い年くらいの、少女だった。

 

 私から事情を聞いた彼女は、黙って私の手を引いて、私の家まで行くと、

 

 

『ウィンキョウ家の当主よ、フェンネルの未来を賭けて私と戦え!』

 

 

 高らかにそう言い放った。

 

 明らかに無茶で、無謀で、傍若無人な行為。私はそれを止めようとした。父も、子供の戯れ言と取り合わなかった。しかし、彼女は『子供に負けるのが怖いか』などと挑発を続け、一対一で闘う流れとなった。

 

 はっきり言って、最初は彼女が勝てると思っていなかった。私ですら、当時は未だに父に勝ったことがなかったのだから。

 

 だが、私は信じられないものを見た。

 

 

 年齢も背丈も私と同じくらいの彼女が、あらゆる魔法、見たことのない魔術を使って、父を翻弄していたのだ。まるで……そう、猫が死にかけの鼠を転がして遊んでいるかのように。

 その光景を見ていた私の心は今でも覚えている。

初めて見た時から美しいなと思っていたが、彼女の秘めたる強さに、私は間違いなく惹かれていた。

 やがて決闘に勝った彼女は、私の元へ来てこう言った。

 

 

『これは私の我が儘から始まったものだ。だが、賭けには勝った。お前は未来を自分で切り開けるようになったのだ。

 

 さて、どうしたい?どの道を行っても、私としては悪くないと思うのだが……』

 

 

 その様子は、今まで父を翻弄していたのが嘘であるかのような、垢抜けた少女のそれだった。あの時の彼女も、可愛らしいものだった。

 

 どうしたい、と聞いてきたが、私の心は決まっていた。

 

 

 

 

『あなたに、永遠(とわ)なる忠誠を誓います―――――アルシーヴ様』

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の闘う姿を見たときから感じていた、支配者……いや、英雄としての才能。

 私はそれを、側で支えたいと本気で思った。

 

 

 恋愛物語にありがちな「運命」という言葉を、私はこの日から信じることにした。

 

 なるべくしてなる、主と従者。

 

 私はこの人に仕えるために、今まで剣を振っていたのだ。この主に仕え、主をお守りすることこそ、我が誇りであり、幸せだ。

 

 

 これが、私と私を救ってくれた神(アルシーヴ)様との出会い。

 ただし、この3年後、私の機嫌はどん底に落ちることとなる。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「うん、この前よりも大きくなってる。将来は国宝級の隠れ巨乳になるな……5、6年後に口説かせてあべしっ!!?」

 

「ローリエのエッチ!

 いきなり何をするんだ!」

 

 

 その会話は、礼拝堂の外で剣を振る私に突然聞こえてきた。

 

 話の内容からして、男がアルシーヴ様に淫らな行いをしたとわかる。

 

 到底許せるものではない。

 

 すぐさま礼拝堂に入り、アルシーヴ様の近くにいる男に向かって走ったままレイピアを構える。

 

 

 

 

 

 

「アルシーヴ様に手を出したのは貴様かアアァァァ!!!!」

 

 

 怒りの突進は件の男が飛び退くことで失敗に終わったが、奴とアルシーヴ様の間に私が入れた。

 

 

 

「あっぶな!?何今の!!?

当たり屋にしては殺意高過ぎない!?」

 

「とぼけても無駄よ……アルシーヴ様の悲鳴を聞き逃すほど、このフェンネル、未熟ではないわ!

 私と勝負しなさい。そして、私が勝てば、もう二度とアルシーヴ様に近寄らないと誓え!」

 

 

 アルシーヴ様に手を出したであろう、ぼさぼさな緑髪の男に決闘を叩きつける。これは、近衛兵を目指すもののプライドである。アルシーヴ様に仕える人間たるもの、礼節は守らなくてはならない。例え、相手が目の前の男でも。

 

 だが、そのプライドは、

 

 

「嫌だよ」

 

 

 たった一言で壊された。

 

 

「貴様!何故勝負を受けないんです!馬鹿にしてるのですか!」 

 

「馬鹿にするもなにも、いきなり決闘とか無理に決まってるだろう?それに……」

 

「私が、女だから!決闘を受けないと言うのか!!」

 

「違う。戦う意味がないからだ。」

 

 

 戦う意味がないと言いつつ、バカにされてる気がする。目がなんというか、かつての父や兄に似ている。私を女として見ている目だ。変な意味はありませんよ。

 

 だが、似ているだけだ。同じではない。まるで、私を見定めているかのような目をしていた。それが、冷静さを失っていた私を更に苛つかせた。周りが何か言っているが、この際どうでも良い。

 

 

「フェンネル。気持ちはわからんでもないが、怒りで決闘を申し込むな」

 

「申し訳ございません……」

 

 

 だが、怒りに任せた私が何か言う前にアルシーヴ様が仲裁に入った。この緑髪の男とは何か縁があるらしい。私は、すぐに武器を収めた。

 

 

「そして……ローリエ」

 

「ん?俺?」

 

「お、女の子の……その、む、胸は……乙女の宝物なんだ。だから……あまり何度も触るな……」

 

「「ふぁっ」」

 

 

 アルシーヴ様の普段は見せない乙女のテンションと言葉に肺の奥から変な声が出る。その声は、礼拝堂に見事にハモって響いた。

 

 いや、問題はそこじゃない。

 

 

「可愛い……」

 

「何度も…だと……?」

 

 

 「何度も」と言ったということは、アルシーヴ様を可愛いと言ったこの男は、何度もアルシーヴ様に対して暴挙を働いていた事に他ならない。アルシーヴ様の可愛さに萌えるだけなら構わないが、何度も前科があるとなったら話は別だ。

 

 

 「貴様……やはりアルシーヴ様のために斬った方が良さそうだな……!!」

 

「待て、ウェイト。それはダメだぜ?止めた方が良いと思うなー?さっきのアルシーヴちゃんの言葉覚えてる?感情に任せて決闘すんなって……」

 

「問答無用ッ!!!」

 

「うわあああああッ!!?」

 

 

 これ以上アルシーヴ様が汚されないためにレイピアで斬りかかったのはいいが。

 

 

 アイツの逃げ足には遅れをとった。

 

 これが、私と私の悪魔(ローリエ)との最初の出会いである。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 その日、私は騎士科の教室の隅でイライラしていた。

 

 私は現在、神殿にて兵隊のいろはを学んでいる訳だが、騎士科の連中の民度というか、授業態度というか、そういったものが低すぎたのだ。本当に衛兵になる気があるのか、と一人一人問い詰めたくなるほどに。

 

 だがまぁ、それはいつものことだ。

 

 

 

 それより、あの男だ。

 

 アルシーヴ様がローリエと呼んだあの男、アルシーヴ様の胸を揉んでいたそうではないか……それも一度や二度ではない。そうなってくると、アイツはアルシーヴ様に日常的にセクハラをしている確率が高い。

 

 私にとっての希望をやすやすと踏みにじる男に、殺意さえ湧いた。

 

 

 その時だった。

 

 

 

「なぁウィンキョウ、この後ヒマか?」

 

 

 

 不良のリーダー格の男に声をかけられた。こいつは、いつも授業態度について私に注意されている奴だ。

 

 

「……何の用だ?」

 

「俺と決闘しろよ。……連れがこの前世話になったみたいだからな。」

 

 

 下卑た声と舐めまわすような視線、馬鹿にしたような言い方で決闘を誘ってくる。

 

 この前犯罪に走りかけたコイツの手下を成敗したお礼をしに来たとのことだ。

 

 だが不良たるコイツの事だ、まともな決闘などやる訳がない。

 

 

「いいだろう。場所は?」

 

「裏庭だ。ついてこい。」

 

 

 だが、私は乗ってやることにした。むしゃくしゃしていたから、八つ当たりしたかったのかもしれない。だが、それよりも、いい加減こいつらの不真面目な言動を叩き直そうと思っていた所だ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「構えろ。」

 

「………。」

 

 

 不良のリーダー格は、裏庭に着くなり、私に向き直り、気持ち悪い笑みをしたまま剣を抜いた。私も自分の得物を抜く。

 

 

「来い!」

 

「……ッ!!」

 

 

 私はそいつの言葉を聞き終える前に、レイピアを突き出して突進した。目の前の男は、剣を正面に構え私の一撃を受け止める。

 

 だが、私はそこで終わるほど甘くはない。

 

 

 

 次々とレイピアを振り、突き、男のガードが及ばない所を攻撃していく。奴は、私のスピードについて来れていない。まともに授業を受けていれば、こうはならなかっただろうに。

 

 

「………っらあ!!」

 

「ふっ!」

 

 

 男が乱暴に剣を振ると同時に、私は距離をとる。

 

 

「うおおおおおお!!」

 

「……!!」

 

 

 男が雄叫びをあげて私に斬りかかると同時に、茂みから男が数人、飛び出してきた。

 

 ……やはりこれくらいしてくるかと思っていたが、いざやられてみると、逃げ場がなくなり少し焦った。

 

だが、所詮は有象無象。数に頼ることこそ、こいつらを雑魚たらしめる証明。一人ずつ突破すれば、活路はある。

 

 

「はっ!」

 

「ゲッ!?」

 

「…邪魔!」

 

「…ッ、くらいやがれ!」

 

「きゃっ!!?」

 

 

 だが、最初の一人に斬りかかり、剣を弾き飛ばした瞬間、顔になにかを浴びせられた。

 

 やられた、と確信した。

 

 全身から力が抜け、手からレイピアが滑り落ちる。ついに立てなくなり、膝が、肩が、背中が地面についていった。

 

 

「……ったく、焦ったぜ、この女……」

 

「貴様……なにを………!」

 

「囲むだけじゃ不安だったからな。即効性の麻酔液を全員に持たせたんだよ。

 

 ……さて、いつも舐めた態度とってくれやがった礼をしてやらねーとなぁ…!!」

 

 

 私の正面で剣を受けていた男がそう言うと、他の男たちにまで気持ち悪い笑みや不快な視線が伝染し、動けない私ににじりよってくる。

 

 

「なぁ、誰からヤる?」

 

「俺からだ!」

 

「いや俺だ!」

 

「馬鹿言うな。正面立ってこの女と闘ってたのは俺だぞ?」

 

 

 お前がやったのは闘いじゃない。そう言いたかったが、口や舌まで麻痺してきた。どうやら、さっきの液体が口に入ってしまったようだ。

 

 男たちのうちの一人の手が、私の鎧に伸びてくる。

 

 ……私の脳裏に、最悪の展開が浮かんだ。

 

 

「や……め…………たす‥……………!!」

 

 

 

 助けて、アルシーヴ様―――

 

 

 

 

 

 

 

 そう思った時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バアァァァン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 耳を(つんざ)く爆発音と。

 

 

 

「ぎゃああああああ!?目がああああああああ!!!」

 

 

 

 下劣な男の悲鳴と。

 

 

 

「戦い方も女の子の抱き方もなってないぜ。落第点代わりに鉛玉でも欲しいか?」

 

 

 

 忘れるはずのない、憎たらしい声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 準備を終え、裏庭に駆けつけた時、フェンネルが襲われそうになっていた。

 

 

 女騎士の同人誌での「くっ、殺せ!」は一時期「くっころ」と略されて愛されたが、現実(リアル)でそれは許すわけにはいかないので、とりあえず一番近くにいた男に一発ぶち込んどいた。もちろん非殺傷のぷにぷに(いし)弾だ。

 

 

「ぎゃああああああ!?目がああああああああ!!!」

 

 

 まぁ、非殺傷性とはいえ、当たれば超痛いし、今、目にあたったがその場合、余裕で失明する可能性もある。

 

 

「戦い方も女の子の抱き方もなってないぜ。落第点代わりに鉛玉でも欲しいか?」

 

 

 ついでに決め台詞もカッコ良く。騎士科崩れ共が戸惑っている隙に、もう一人の助っ人の走る足音が近づいてくる。

 

 

「フェンネル!無事か!?」

 

 

 アルシーヴだ。彼女に、コリアンダーと集めた情報を教えると、こちらが頼むよりも先に協力を申し出てくれた。

 

 彼女の騎士科の男どもを睨む目は味方なのに恐ろしいと思うほどだ。

 

 

「さて、てめーら、武器と隠し持ってる瓶を置いてとっとと失せな。こっちに向かってきた奴から撃つぜ」

 

「ただで済むと思うなよ、貴様等……」

 

 

 

 俺とアルシーヴは、奴らにそう警告する。

 

 フェンネルが動けていないということは奴らに何かされたということだ。フェンネルの傍らに転がってる瓶の中身こそその正体だろう。

 

 

 

「ど、どいつもこいつもなめやがって!お前ら!やっちまえ!!」

 

 

 リーダー格らしき男がそう吠えると、他の男達が俺達に向かってくる。

 

 

 だが、そいつらが近づく前に行動不能にしていく。俺は『パイソン』で一人ずつ狙い撃ちにする。敵は被弾した部分を抑え丸まっていく。そこをグーパンチで意識を刈り取った。アルシーヴも魔法で一人も漏らさず吹き飛ばす。

 

 俺は、あの事件から、銃の腕は地道に上げていた。その結果、動く敵の体になら大胆当てられるようになった。距離によっては狙い撃ちすら可能だ。

 

 

 

 

 

 やがて、リーダー格の男以外の奴らを戦闘不能にした俺とアルシーヴは、それぞれの武器(マグナムと杖)をそいつに突きつける。

 

 

 

 

 

「さぁ、あとはお前だけだな。」

 

「この事は上層部に報告させてもらう。観念しろ。」

 

 

「あ…あぁ………か、か、

 勘弁してくれぇぇぇーーーーーーッ!!!」

 

 

 仲間が蹂躙されていく様を見たからか、そいつは情けない声を出して泣きながら逃げていった。ああいう手合いは、自分が有利ならとことん調子に乗るが、不利になった途端弱気になるものだ。

 

 

 

「まぁ逃げてもコリアンダーが撮った証拠があるからもう駄目だろうけどな」

 

「手回し完璧だな……」

 

 

 

「……アルシーヴ、様……」

 

 

 

 弱々しい声と、ゆっくり起き上がる音で俺達二人は振り返る。

 

 

 

「大丈夫か、フェンネル?」

 

 

 

「はい……貴女のおかげです……」

 

 

 

 フェンネルを抱き上げるアルシーヴは、まるでヒロインを救った主人公で、フェンネルの表情も、アルシーヴの腕の中が、世界で最も安心できる場所であるかを語るかのように穏やかになっている。

 

 そうして二人を見ていると、フェンネルの視線が俺に移る。表情も、心なしか厳しくなった。

 

 

 

「あなたに、助けは頼んでいません……!」

 

「フェンネル!!」

 

 

 

 フェンネルの言葉にアルシーヴは声を張り上げるが、俺は気にしてはいない。

 

 フェンネルのプライドのために、俺は気になることを一つ聞いてからさっさと去ることにした。

 

 

 

 

 

「そうだな。俺は勝手に巻き込まれに行っただけだ。

 

 ……あ、そうだ。ここには、決闘の申し込みを受けたから来たんだろ?」

 

「……?そう、ですが」

 

 

 

 

 やはりそうだ。

 

 フェンネルは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。果たしてそんな勇気のある人がどれだけいるだろう。

 

 俺の思った通りの人で良かった。

 

 

 

 

 

「フェンネル・ウィンキョウ。

 ……君は、俺が知った中で最高の騎士だ。」

 

 

 

 

 

 そうはっきりと伝えて、俺は裏庭から離れた。それで、今日のドタバタは終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……のはずだったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ローリエ?」

 

 

 

「!!!

 ………ソラちゃん……!」

 

 

 

 

 

 思わぬ人物に出会ったことで、まだ終わりじゃないことが判明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、3年ぶりに会ったあの日も、本当に偶然だったんです。後から聞いた事なんですが、フェンネルの事件のタイミングが一日ずれていたら、ローリエと会うこともなかったでしょう。」

 

 

 女神ソラは、盗賊事件後のローリエについて、こう語っている。

 

 

「その時のローリエは、フェンネルを襲っていた騎士科の生徒たちと戦った後で疲れてたのか知らないけど、不穏な空気を纏っていたんです。

 

 その違和感の正体は分からなかったんですけど、確実に彼が変わったという確信は得られました。」

 

 

 

『久しぶりだね、ローリエ……

 あの日から、私に…』

 

『ッ!

 ソラちゃん、悪い!俺、急いでるから……』

 

 

 

「初め、彼は逃げようとしたんです。

 

 ――まぁ、今になって思えば、男の人が苦手な私を彼なりに気遣った結果なんでしょうけども……

 

 その時の私には逃げてるように見えて……だって、私を見るなり『急いでる』なんて言うんですもの…他にやりようはあったと思いますよね?」

 

 

『待って!ローリエ!!』

 

『………。』

 

『どうして、そんな事言うの……?』

 

『いやぁ、本当に急いでて……』

 

『ウソ。私を見るまで、「やっと仕事が終わった」みたいな顔してたくせに』

 

『……まともに会ってないのに、何でそんなん分かるんだよ…』

 

『女神たるもの観察力が必要だからね♪』

 

 

 

「彼が冗談を言ってる時も、私の冗談を聞いてる時も、何というか、笑ってはいるんですけど、心の底から笑ってなかったんです。

 

 どうにかしなきゃと思っている内に、自然と言葉が出てきたんです。」

 

 

『ねぇローリエ。

 私、怖いよ……』

 

『怖い?』

 

『うん。小さい頃は、私とアルシーヴとローリエで、沢山遊んだじゃない。今のままじゃ、三人ともバラバラになりそうで……』

 

『………そっか。また、怖がらせちゃったか』

 

『また?』

 

『初めて盗賊を撃った(殺した)時さ。あれ以降、俺は一応、ソラちゃんを気にかけてるつもりなんだぜ?』

 

『ウソだよ!私に話しかけてくれないくせに…』

 

『俺に話しかけようとするとき、全身が委縮するんだよ、君は。』

 

『!!』

 

 

 

 ソラは、この時自身のトラウマに気づいたという。ローリエが話しかけようとしなかったのは、ソラが『男と上手く話せない』ことを気遣った結果なのだと。

 

 

「その後、彼は『守ってあげられなくてごめんね』って言って部屋の方へ去っていったんです。

 

 ……はい。私もあの時言えば良かったんです。そうすれば、あんな怖い思いをせずにすんだのだから。

 

 ―――当時の私には伝えられませんでした。

 『独りにしてごめんね、助けてくれてありがとう』って。」

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
ハードボイルドさを出した(気がする)主人公。
今回はフェンネルメインの回だったので登場は控えめ。


フェンネル
アルシーヴ大好きウーマン。
その原点は、目指したい騎士の道が閉ざされようとした時、アルシーヴがその道を切り開いてくれた事、そこで仕えるべき主がアルシーヴだ、と思った事である。
というのがここでの設定よ。後に公式設定が出ませんように……
ローリエとは馬が会いません。だってアルシーヴとの接し方が真逆(アレ)だからね。


アルシーヴ
モテモテウーマン。フェンネルが危機的状況に陥っているとローリエから聞かれた時、本気で助けに行きます。こういう気遣いこそが、上司の鑑であり、フェンネルに慕われる理由なんじゃないかなと。


ソラ
今回も語り部として登場。前回とほぼ同じなので、語ることはあまりないが、彼女のお礼が言えなかったことが、ローリエにどんな影響をもたらすのか、それは誰にも分からない。


△▼△▼△▼
アルシーヴ「無事にフェンネルに向けられた悪意を打ち破った私達。次は休息回を挟んだ後で、あの飄々としていて、掴み所のない、でも変態な私の友人にフォーカスしてヤツの日常を見ていこう。」

次回『ローリエの華麗なる日常』
フェンネル「見なくてもいいですよ」
ローリエ「おいコラ!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
バレンタインデーまでに間に合わせたかった理由は、特別編を書きたかったから。明日全力出せば間に合うかな…?

ろーりえ「はぁーあ、今日はリゼちゃんとバレンタインチョコと誕生日プレゼントを交換っこしたいマンだよ僕ぅ!」
こりあん「お前は何を言ってるんだ」


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第Ex話:エトワリアのバレンタインver.ローリエ

今回の話は、バレンタインデーのために急遽作った閑話みたいなものです。時系列は、フェンネルの事件の直後あたり。本編とは別に、楽しんでいただければと。
それでは~


 バレンタインデー。

 

 その起源は、ローマ帝国の時代まで遡る。

 ローマ帝国皇帝・クラウディウス2世は、恋人がいると士気が下がるという理由で、兵士の婚姻を禁止した。

 だが、キリスト教司祭ウォレンティヌスは、そんな兵士たちの為に内緒で結婚式を行った。皇帝の禁止命令にも屈せず、兵士達の愛を祝い続けた結果、処刑されてしまう。

 その聖ウォレンティヌスの処刑日は、2月14日であった。このためこの日は祝日となり、恋人達の日になった、というのが一般論だ。

 

 

 

「――という訳だ。今までの話のどこにチョコレートが出てきた?いいか、コリアンダー。バレンタインデーは本来、チョコレートなんか要らねーんだよ!」

 

「一個しかチョコレートを貰えなかった男の僻みはよせ、ローリエ」

 

「あれは母さんからのだ。あのね、そういうのは異性から貰ったチョコとしてカウントしないの。一個も貰えてないの、俺は。

 というか、コリアンダー(おまえ)こそバレンタインチョコレートとは無縁だろうがよ?」

 

「俺は同級生の女子からいくつか貰ってる」

 

「泣きそう」

 

「余裕だな、お前」

 

 

 神殿内で恋人どもがくっつきイチャつき始めるこの時期に、俺は必死にコリアンダーにバレンタインデーの意義を説明していた。別にチョコレートを貰えなかったから悔しい訳ではない。

 リゼちゃんの誕生日を祝うのは百歩譲らなくてもよしとしよう。だが、チョコレート云々で騒ぐのは違うと思うのだ。

 

 

「まったく、リア充はとっとと部屋に引っ込んで静かにけだものフレンズやってればいいのに。

 そもそも、最初にバレンタインデーにチョコレート渡そうなんて考えたのはどこのお菓子屋だ?どーせ、ココアいじりながらガラスパイプでコカイン吸ってる変なヤツだろ?」

 

「いい加減にしないか、ローリエ」

 

「だってぇ!!おかしいと思わないか!?俺は女の子達とお近づきになりまくってるってのに!!」

 

「お前はただセクハラしてるだけだろ。そういうスタイル、絶対嫌われるぞ」

 

「そうかなぁ?

 コリアンダーみたいな草食系の男はさ、多分……女の子達から『彼は…そう、いい人よね?』みたいな、女の子がテキトーに男を褒める時の言葉ランキング1位の言葉を浴びせられて………それだけだぜ?きっと、日を跨げば忘れられちまう。

 そうなるよりは、『ガンガンいこうぜ』の方がいいと思うな。」

 

「お前はガンガンいきすぎてんだよ。そんなんだと、籍に入る前に牢屋に入るハメになるぞ?」

 

 

 コリアンダーの裏切りといきすぎ宣言を受け萎えた俺は、鬱屈した気分を晴らす為に、外をふらつく事にした。

 

 

「ちょっと外歩いてくる」

 

「女子に迷惑かけるなよ」

 

「今日はそんな気分じゃない……」

 

 

 今日の俺の足取りは、きっと一年で一番重いだろう。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「はぁ……困ったもんだ、あの男も」

 

 ローリエが立ち去り、部屋に残った俺は、ため息をひとつつく。

 

 アイツの女好きについてはもう言うことはないが、特にアルシーヴやソラという女性に対する執念じみたものを感じる。本人(ローリエ)に訊いたら「幼なじみだからだ」と言っていたが。

 

 アイツは、二人が好きなのだろうか?

それにしては、アプローチの方向性が違いすぎる気がするのだが。

 

 

「ローリエ、いるか?」

 

 

 そう考えていると、扉の方から女性の声が聞こえてきた。俺は女子の相手は話しづらいから好きじゃないのだが、ここには俺しかいないから仕方がない。

 

 

「……何か、用か?」

 

「おや、君は…確か、コリアンダーだったか。

 ローリエはいないか?」

 

 

 相手はこの前に会ったばかりの、アルシーヴという女子だった。ローリエの幼なじみの一人らしい。

 

 

「……アイツは、自分がチョコレートを貰えないことを散々愚痴ってから、出て行った……」

 

「何やってるんだ……」

 

「用があるなら、伝言するが……」

 

「いや、いい。こっちで探してみよう。見つからなかったら、また来る。」

 

「そうか。」

 

 

 アルシーヴは、扉を閉めた。

 それにしても、伝言する、か。我ながら無粋なことを言ったもんだ。

 

 伝言がいるかどうかなんて、手に隠し持っていたチョコ(モノ)を見れば分かることだろう。

 

 ローリエ。お前は案外、嫌われてないのかもな。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 私は、神殿の外を虱潰(しらみつぶ)しに探した。

 

 神殿の外にとどまらず、言の葉の樹の中の洞窟に入り、街へ下る道を歩きながらきょろきょろと探していく。

 

 そして、言の葉の街から神殿へ繋がる入口まで来た時、その姿を見つけた。

 

 

 

 

 

 

「ローリエ!」

 

 

 私がその名前を呼ぶと、緑髪の少年はゆっくりとこちらへ向いた。その表情は、驚きの感情に満ちている。

 私自身も、これからチョコレートを渡す事実を受け、緊張してきた。顔もさっき走ったせいか熱い気がする。さっさと渡してしまおう。

 

 

「なぁ……今日は何の日か、わかるか…?」

 

「今日?えっと……」

 

 

 変なことを聞いてしまった。でも、今日が何の日かなんて、答えは一つしかないはずだ。だから……

 

 

「あっ、分かった!リゼちゃんの誕生日だ!!」

 

「誰だその女は」

 

「え、ちょ、そんな顔すんな!ごちうさ……じゃない、聖典の子だよ、聖典の子!!」

 

 

 確かにバレンタインデーと誕生日が同じ聖典の人物ならいたかも知れないが、空気くらい読んで欲しい。それとも、意図的に読んでないつもりか?

 

 

「そんな事を伝えに来たんじゃない。他にもあるだろ?」

 

「他にも……ああ、アレだ!

 ふんどしの日たわば!!?」

 

 

 張り倒してやろうかと思った。というか張り倒した。

 

 

「もういい!そんなにとぼけるなら渡してやらん!!」

 

 

 そしてちょっと、冷たい言葉を叩きつけてしまう。

 いや、今のはコイツが悪い。こっちの気も知らないで、ふざけたことばかり言うからだ。

 そう考えてこのまま帰ってしまおうかと思った時。

 

 

「待てよ」

 

 

 手を掴まれた。私の足が止まる。

 

 

「……バレンタインデーだろ?知ってるよ。

 …ただ、アルシーヴちゃんが俺にくれるとは思ってなかったんだ。だって俺は……変わったからな…」

 

 

 その言い訳をしそうな表情に頭に来た。

 

 

「どんな事があっても、ローリエはローリエだろう!!これでも食べて落ち着け、バカ者!!」

 

 

 久しぶりに出した大声とともに、私はローリエにチョコレートが入った箱を押し付ける。

 これにはローリエも目を丸める。だがそれも一瞬で、すぐにかつて見た、人をからかう時に見せた笑顔になる。

 

 

「へぇ~ぇ、アルシーヴちゃん、そんな顔もするんだ?」

 

 

 その言葉を機に、私の頭が冷静さを取り戻す。

 

 

「み、見るなぁっ!!!」

 

「タコス!!?」

 

 

 ニヤニヤしていたローリエにビンタをかまし、逃げるようにその場を後にした。

 あの時ローリエが私のどんな表情を目にしたのか。

 それは神殿に戻った後で鏡を見ても、分かりそうにはないだろう。

 

 

 




キャラクター紹介&解説


ローリエ
バレンタインデーを否定しつつ、実はチョコレートが欲しかっただけの男。いるよね、こういう人。かくいう作者もこういう一面はあります。


コリアンダー
女が苦手な男。こういう人に限って、女子に丁寧な対応をするから、学生時代にクラスメート全員にチョコレート配る系女子に救われてたりする。


アルシーヴ
今年ヒロイン的ポジションを獲得した女性。幼なじみの異性とか、憧れのシチュエーションであると思う。純愛系EL同人では王道だ。ちなみに作者もそういう幼なじみがいて、もっと関係を進めたかったと後悔している。



バレンタインデーの起源
出展はWikipedia先生より引用。


『最初にバレンタインデーにチョコレート渡そうなんて考えたのはどこのお菓子屋だ?』
日本でバレンタインデーが流行したのは1958年ごろ。第二次世界大戦ののち、流通業界や製菓業界の努力によって、1970年代後半に日本社会に定着する。
なお、バレンタインデーにチョコレートを渡すのがいいのではと最初に考案して実践したのは、一説に大田区の製菓会社メリーチョコレートカムパニーであるとされる。しかし、同社が行ったとされるイベントは昭和33年であるのに対し、神戸のモロゾフ製菓が20年以上前の昭和11年2月12日に外国人向け英字新聞『ザ・ジャパン・アドバタイザー』に、「あなたの愛しい方(バレンタイン)にチョコレートを贈りましょう」というコピーの広告を既に掲載しており、モロゾフ製菓がバレンタインチョコを最初に考案した仕掛け人であるとされる説が最有力である。
ちなみに後に続く『どーせココアいじりながら~変な奴だろ?』の元ネタは、映画『デッドプール2』にて、デッドプールが『スーパーパワーを最初に考えた漫画家』に対して『どーせガラスパイプでコカイン吸ってる変な奴だろ?』と言ったことから。いずれにせよ、作者に貶す意図はございませんのでそこはご注意を。


あとがき
リゼちゃん誕生日おめでとう!!きらファンで絶対当てるマンことこの三毛猫が☆5ココアとチノに続いて迎えに行ってあげるからね!!!!!!


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第6話:ローリエの華麗なる日常

“俺が女の子達を愛するのには理由がある。下世話な欲望だけじゃなく、ちゃんとした理由があったのさ。
まぁ、こんなこと書いても誰も信じないだろうが、自伝にくらいこういう事書いてもいいだろ?”
   …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
    第1章より抜粋


「じぃぃぃぃっ………」

 

「………。」

 

「じぃぃぃぃぃぃぃっ………」

 

「………。」

 

「じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ………。」

 

「なあ、こんなの見てて楽しいのか?」

 

「うん、面白いよ。」

 

 

 俺は今、とある女子にストーキング……もとい、観察されている。エイジアンな格好をした、赤い髪の褐色系女子。名前をカルダモンという。

 ……そう、あのカルダモンだ。好奇心の塊にして、キャンプが趣味のアウトドア女子。そして、きららファンタジアでは第3章に登場した、賢者の一人である。

 

 彼女には、少し前にナイフを作る依頼をこなしてからというもの、興味を持たれたようだ。

 

 

「今度は何作ってるの?トランプゲームの台?」

 

「違うよ。別のゲームに使うものだ。」

 

「そっか。この前のゲーム、面白かったんだけどね」

 

「どれのことだ?ブラックジャック?ポーカー?それともスピード?」

 

「全部。どれも聞いたことないルールだったけど、楽しかったよ。ルール本は書かないの?」

 

「いいや。他にやることがあるから、まだ書かん」

 

「えー……」

 

 

 俺は制作物から目をそらさず、手を動かしながら勝手にベッドを占領しているであろう、カルダモンとそんな会話をしていた。コリアンダーは依頼の品が出来上がったとかで席を外している。

 飄々としており、掴み所がなく、それでもって持ち前の冷静さで学園生活部やきらら達を翻弄したが、本質は退屈嫌いな色んなものに興味を持てる()なのだ。そんな彼女を従えるアルシーヴは流石の一言に尽きる。多分俺のは発明品に対する興味が6割だろう。

 

 

 そんなことを考えている間に完成した。

 

「出来たぜカルダモン!見よ!

 テッテレ~!将棋盤~!!」

 

「なにそれ?」

 

 カルダモンは俺のモノマネをスルーして、身を乗り出してこっちを見てくる。現在マフラーをしていないため、首もとから奥がよく見える。

 ………フム、アルシーヴほどではないが女性の魅力は胸だけに非ず。カルダモンの場合は太ももがしなやかでかなり美味し……失礼、魅力的だ。(この間、0.2秒)

 

 

「駒を並べて、お互いに一つずつ動かして王を取る遊び。その、ゲームボードだ!」

 

「駒は?」

 

「もう作ってある!」

 

「よし、やろう!」

 

 

 カルダモンはベッドから飛び降りて、俺とともに出来たばかりの将棋盤に駒を並べ始める。俺の駒の並べ方を見て、真似するように並べていく。あ、飛車と角の場所が違うぞ。鏡合わせじゃないんだ。

 カルダモンが駒を正しく並べたのを確認して、さぁ、始めるか、と、そう思った時だ。

 

 

「ねぇローリエ」

 

「ん?」

 

「この、『飛車』とか『角行』とかってなに?」

 

「えっ?」

 

「あと、この……『銀将』とか、『金将』もよく分からないな……教えてくれないかな?」

 

 

 なんてこった。まさかのそこからか。

 

 カルダモンの話によると、「歩兵」や「王将」というのは雰囲気で何となく分かるらしいが、それ以外は聞いたことのない言葉らしく、誰も分からないだろうとのことだった。

 駒を分かりやすく作り直すということにして、対局はまたの機会に、ということになってしまった。

 

 

「悪いな。折角、楽しみにしてくれてたのに」

 

「いいよ。ローリエとなら、退屈しそうにないし。」

 

 

 カルダモンのその言葉に、自己史上初のスピードで手を取る。腰に手を添えて、顔を近づける。

 

 

「奇遇だな、俺もそう思っていたんだ。

 どうかな?今夜あたり、俺と一緒に、飽きない夜を…………ッ!!!?」

 

「そういう方面の『楽しいこと』は遠慮するよ」

 

 

 ……あ、ありのまま起こったことを話すぜ!

 

『カルダモンを口説いていたと思ったら、急にカルダモンが消えて、後ろから声が聞こえてきた上にナイフを突きつけられた』

 

 な、なにを言っているかわからねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった……

 

 頭がどうにかなりそうだった……

 

 瞬間移動とか超スピードとかそんなチャチな……いや、超スピードだけどチャチなもんじゃねぇ

 もっと恐ろしい3章のトラウマの片鱗を味わったぜ……

 

 

「両手を上に上げて、そのままベッドに座って」

 

 

 カルダモンの言うことに従いながら、すぐさまマジの考察に思考を切り替える。

 内容はもちろん賢者の実力についてだ。

 さっきはポルナレフ状態でボケたが、カルダモンの俺の背後に回るまでの動きは本当に何も見えなかった。

 俺の『ソラちゃんに呪いをかける奴を捕まえる』という目標を達成するには、賢者にならないといけない。

 それに必要なのは、実力だ。発明の腕だけで選ばれるとは思っていない。一応、拳銃の練習はしているが、それだけでは些か不安である。

 

 確かに拳銃は強力だ。そもそもエトワリアにそういう武器がないので、一目見ただけで何が起こるか見抜ける人は皆無だろう。まさか金属の弾が音速で飛んでくるとは誰も思うまい。その時点で、拳銃はある種の『初見殺し』となっている。

 でも、それを攻略されてしまったらただのカカシ、では少し頼りなさすぎる。せめて武器がなくても戦えるようになりたい。それがこの前、フェンネルをリンチしようとした奴らを返り討ちにした感想だ。そのためにも、拳で戦う師匠みたいなのが欲しい。

 

 

「………ローリエ?」

 

 

 そこまで考えた所で、カルダモンの声が俺を思考の海から引き上げる。彼女はもう入り口のドアにいる。

 

「…!

 ああ、悪いカルダモン、考え事してた。」

 

「えっちなこと?」

 

「違うわ、強くなる方法だよ。なんでそう思ったの?」

 

「だって、さっき私の服の中覗いてたでしょ?

 バレてないと思った?」

 

 

 やばい。カルダモンにそう言うことがバレると、ほぼ確実に誰かに言いふらすので口止めしないと、と思った瞬間に「また来るよ、じゃーねー」と言い残して部屋から去った。追いかけようとしたが、部屋から出た時点で見失ってしまった。あいつ足早すぎだろ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 その後、俺はカルダモンから報告を受けるであろう、フェンネルから(あらかじ)め逃げる事も兼ねて神殿の外れ、森の奥に作った、射撃場にて射撃の練習を行っていた。

 

 今回の練習はピンホールショットと跳弾である。某シティーハンターやイタリアのギャングがバンバンやっているが、実はこの二つ、かなり難しい。なぜかというと、拳銃というのは、連続で発砲すると、銃身に熱がこもり、弾丸が変化し、軌道が毎回微妙に変化するのだ。その微妙な変化が、着弾時に大きな着弾地点の変化に繋がるからである。俺も1年ほど前から練習しているのだが、一度も成功したことがない。

 

 

 今日も基礎練習を終え、そんな高難易度の技術の練習を始めようとした時、誰かの気配を感じて、すぐさま『パイソン』を懐のホルスターにしまった。

 拳銃というものが広めてはいけないものと知っている以上、練習風景も誰かに見られるのもマズい。森を切り開いて作った射撃場は見られても誤魔化せるが、練習風景を見られるのだけは避けなくては。

 

 そう思い周りを注意深く見回すと、木々の間から、それは見えた。

 シャツとホットパンツの上から学ランのような上着を羽織っている少女が、シャドーボクシングをしていた。俺には、その人物の正体が一目見ただけで分かった。

 ジンジャー。未来の賢者のうちの一人にして、言の葉の樹の(ふもと)にある都市の市長でもある人物だ。剛胆で豪快、街の平和と市民の幸せを第一に考えられる、政治家の鑑のような人でもある。きららファンタジア(ゲーム)では、第5章に登場し、比類なき物理攻撃力できらら達と戦う。俺も初見で必殺技を食らった時は、パーティが半壊するさまを見せつけられて度肝を抜かれた。

 

 そんな物理特化の賢者(予定)の演武を俺は木の陰から見させてもらうことにした。

 なんというか、一つ一つの動きが洗練されている。しかも、それが流れるように連続で繰り出されており、これが達人の技かと納得できた。そんな感じでジンジャーの演武に見入っていると、演武がひと段落ついたところで彼女は近くの岩に置いてあったタオルを手に取り汗を拭きながらこっちを見ている。

 ……あれ。見てたのバレてる?

 

 

「おい、そこのお前。私になにか用か?」

 

 あっ、これ見つかってるわ。茂みから出てきて挨拶するとしよう。

 

 

「悪い悪い。たまたま見つけて見入ってたわ。

 はじめまして、俺はローリエだ。」

 

「ジンジャーだ。それで、こんなところで何をしてたんだ?」

 

 

 来た。この質問は、いつか誰かに聞かれると思っていた。

 考えてみて欲しい。もし、学校の同級生が、毎日のように裏山や、ビルの路地裏などの、人目につかないところに日常的に入っていっているのを見たら。もし、人目につかないところから、同じ学校のヤツが出てきたら。お前、何してたんだ?ってなるだろう。それと同じだ。

 

 だから答え(カモフラージュ)を既に用意してある。俺は、ポケットから手のひらサイズの機械をジンジャーに見せた。

 

 

「これの試運転をしていたんだ。」

 

「なんだこれは?」

 

「センサーだよ。」

 

 

 ジンジャーには、カメラにつけることで、人が通ると自動的にシャッターが押される仕組みであると伝えた。彼女は機械の詳しい説明を聞くのは苦痛だろうと思ってひとことで説明を終えて、あとは実演した。

 こんな感じで、俺は射撃場に行くときは、いつも持ち運べる発明品を持ち歩くようにじている。何してるのと聞いたヤツにはそれを取り出して試運転だと言えば大体信用してくれる。これが俺が用意した答え(カモフラージュ)である。

 

 更に俺は、原作(みらい)のため、もう一つの作戦を実行する。

 名付けて、『ジンジャーを師匠につける大作戦』だ。

 

 

「でも、こういう発明だけじゃなくて、体も鍛えないと、と思ってるんだけど、やり方がわからなくって……あ、そうだ!ジンジャー、色々教えてくれないか?」

 

「ああ、いいぜ。私でよければな!」

 

 

 よし、成功だ!ジンジャーは拳での戦闘に最も明るいはずだから、OKを貰えて良かった。前世で見た通りの、面倒見の良い性格だから、悩んでいる人の力になろうと思うはず。そう思ってジンジャーの市民に好かれる理由である性格を少々利用させてもらった。許せ。

 

 

「……その代わり、私の半径1メートル以内に近づくなよ?」

 

 あれ?

 

「…? な、なあジンジャー、それってどういう……」

 

「分かっているはずだろう?カルダモンから聞いたぞ。

 私でよこしまな事を考えたら承知しないからな」

 

「しないよ!絶対しない!猫っぽいから面白い事はするかもしれないけど、変な事は絶対しないから!」

 

「おい!お前今なんつった!?」

 

 

 ここで作戦が失敗したら、俺の目標が遠のく。だから折れるわけにはいかない。拝み倒してお願いしまくってでもこの作戦は成功させたかったので良かったと内心安堵している。

 

 

 修行の内容?あまりにもキツ過ぎて、ここに書くとその時の辛い記憶がよみがえるから勘弁してほしい。ただ、一つだけ言えることは、室内で発明と魔法ばっかりやってたヤツが、武闘派の本気についてこれるはずがなかった、ということだ。後に俺向きに改良されるワケだけれども。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「今日も筋肉痛か、ローリエ。本当にお前は、世話のないヤツだ。どうせ、また色香に誘われたんだろ?」

 

「そんな訳ねーだろ!ただ強さが欲しかっただけだ!…イデデ……」

 

 

 ジンジャーから修行を受けた翌日。

 修行開始から数日は経ったが、案の定というべきか、情けないことにというべきか、俺は全身の筋肉痛に苦しめられていた。しかも、コリアンダーの奴、ジンジャーが可愛いから修行を受けたと思っていやがる。親友を信用できないのかコイツは。

 

 え、信用してるからそう思ったんだって?いらないよそんな嫌な信頼は。

 

 ジンジャーに師事してもらったのには明確な理由があるんだよ。

 そもそもジンジャーは、可愛さのベクトルが違う。アルシーヴやソラ、カルダモンやセサミのような「抱きたい」要素のある可愛さと違って、ジンジャーの可愛さは、人が飼い猫に向ける感情のような、そんな可愛さだ。というかまんまソレだった。

 現に、休憩中に猫じゃらしを見つけて目の前で揺らしたり、帽子にマタタビを振りかけたり、差し入れのおにぎりの具をササミやマグロっぽい赤身魚にしたり、ネズミ型木製魔道具を視界の端でチョロチョロさせたりと、そういう猫系のイタズラは大方やった。その結果、ワッハッハと笑いながら腹パンされたり、追い掛け回されたり、修行がハードになったりした。マタタビの時は理性が吹っ飛びそうだったとのことで、「マジでふざけんな」とガチトーンで怒られた。

 

 

「そんなんで大丈夫なのか、このあと図書館にいくんだろ?」

 

「ああ、残念なことにな」

 

 

 賢者のなり方はここに来て分かったことなのだが、功績を挙げるだけではダメみたいで、筆頭神官が交代する時、前任者と新任者、そして女神の三人で決めることなのだそうだ。

 ……お察しだろう。ちょっとマズいのだ。アルシーヴに認められなければならないのだ。今、俺はアルシーヴからの好感度は低めなので、ここいらで画期的かつ斬新な発明をしなければいけない。そのためのヒント探しに今日は、図書館へ行く予定だった。

 

 でも筋肉痛がヤバイ。

 

 

「だぁぁが!筋肉痛程度で、断念してたまるかってんだ!ふんぬぬぬぬぬ……!」

 

「無理すんなよー」

 

 

 コリアンダーのどうでもよさげな心配の声を背に、俺は移動(戦い)を始めた。

 

 

 

 

 

 

「やっと着いたぜ……!痛ッで!?」

 

 普通なら5分程度の図書館への道を20分かけて移動した俺は、扉から入ってすぐのカウンターに寄りかかる。道中の階段が一番キツかった。エレベーターかエスカレーターが恋しくなったほどに。早く椅子を見つけないと色々ヤバい。

 

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 

 

 椅子を探している俺に、カウンターから声がかかった。声がした方へ振り向くと、声の主は青い髪をして、端正な顔にモノクルをかけた女性だった。()()()()()()()()()()女性で名前は知っているが初対面の(てい)で言葉を返すことにする。

 

 

「俺は大丈夫…ただの筋肉痛だから……イデデ……き、君は?」

 

「私はこの図書館の司書をしているセサミというものですが……大丈夫そうに見えないんですけど…足が生まれたばかりの小鹿以上に震えているんですけど…」

 

「君は優しいんだな……じゃああそこの椅子まで肩を貸してくれないか?」

 

 

 図書館の椅子の一つを指さしてそう頼むと、分かりました、といって快く肩を貸してくれるセサミ。でかい。今の服装もゲーム同様あぶない水着の上からローブを羽織った格好である。でかい。しかし、本当に優しいものだ。前世なら、こうやって見知らぬ人に肩を貸す人など稀だろう。でかい。できるだけ彼女のことは見ないように前を向いたり、目を閉じたりするが、やっぱりチラ見してしまう。でかい。しかも近い。

 はっきり言おう。筋肉痛に耐えて図書館(ココ)に来て良かった。

 

 

「おいローリエ、何をしている?」

 

 

 そんなラブコメ主人公並みのイベント中に聞きなれた声がした。見ると目的地の椅子の近くに本の山に埋もれかけているアルシーヴがいた。入口付近からはちょうどアルシーヴの座っていた場所が見えない死角になっていたようだ。シット!

 

 

「あ、アルシーヴちゃん…!?」

 

「アルシーヴ先輩、この人を知ってるんですか?ローリエってあの“恐怖のセクハラ男”の……!?」

 

 

 ローリエと聞いた途端、セサミの様子がおかしくなった。これはもしやアレか、悪評だけ知ってるパターンか。あとその新宿あたりで聞きそうな不穏なあだ名は何だ。

 

 

「早くそいつから離れたほうがいいぞ、セサミ。お前相手ならこいつは確実に手を出す!」

 

「アルシーヴ、余計なこと言わんでいいから!!」

 

「は、離れてください!もう一人で十分椅子まで歩けるでしょう?」

 

「ば、バカ!筋肉痛なのは本当なんだって!うわわ!!?」

 

「「きゃああああ!!?」」

 

 

 どんがらがっしゃーん、とセサミが急に離れたことと筋肉痛で足がもつれた俺はいろんなものを巻き込んですッ転んだ。

 

 

 

 

 

 

 筋肉痛プラス激痛で意識が無理やり戻された俺は自分は転んだんだ、と自覚する。今の俺には本が体に落ちてきたってだけで大ダメージだ。とはいえいつまでも倒れてる訳にもいかないから立ち上がろうとして、気付く。

 両手に伝わるこの柔らかい感覚はなんだろう、と。

 神殿の床はまずない。膨らみはないし、何より温かい。

 じゃあそれらしき置物はあっただろうか? ……いや、なかった。周りにあったのは、山ほど積まれた本くらいしかなかった。あとはアルシーヴとセサミがいて……

 そこで思考に待ったがかかった。

 

 ウソだろ?そんな伝説の(スーパー)ラッキースケベ男みたいなT〇l〇veる(事故)、あるのか?試しに指を動かしてみる。俺のピンクがかった脳細胞が考えついた可能性を確かめるために。

 

 

「んんっ!?」

「あっ……!?」

 

 

 ……結果、二種類の艶やかな声が返ってきた。あ、コレは確定だわ。

 顔をあげて両手をみると、右手にアルシーヴの、左手にセサミの、それぞれの胸を鷲掴みにしていた。

 何がどうしてこうなった?転んでからこうなるまでを思い出そうとしても、なぜか思い出せない。謎のスタンド能力(キング・クリムゾン)でも受けてたかのようだ。おまけに手が胸から離れない。筋肉痛か、はたまた別のスタンド能力か……

 どちらにせよ、俺にはこの黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)を無駄にすることはできない。むしろこういう時は、離れないと考えるから駄目なんだろう。

 

 

「そうだ、逆に考えるんだ……離さなくても…揉んでもいいさと……」

 

 

 

「駄目。論外。」

 

 

 自分に言い聞かせるように口に出した言葉に後ろから答えが返ってきたことに驚いた俺は、振り向く瞬間に頭から重いものが叩きつけられ、図書館の床に再び倒れる。筋肉痛でボロボロの体にトドメを刺された。

 なにが起こったのか分からず、叩きつけられたものを見てみると、それは、いつかコリアンダーが製作していた、金属の樽のようなものによく似ていた。そこから柄が生えていることでようやくそれが大きなハンマーだと分かる。その柄を目で追っていくと、柄の端を握っていたのは、和風メイド服を着た、ハッカちゃんであった。

 

 

「は、ハッカちゃん……なんでこんなものを……」

 

「依頼した。コリアンダーの力作。」

 

 

 似てるどころか同一の品だった。つまりコリアンダーは、ハッカの依頼でハンマー(コレ)を作っていたのか。どんな意図があったか知らんが、コリアンダーめ、許さん。後でとびっきりの美女たちに囲まれた場所で、一人置き去りにしてくれる。

 

 

 そんなことを頭の中で思いながら、この後ソラちゃんを含めた4人からみっちり説教されまくった。

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説


ローリエ
カルダモンをナンパしたり、ジンジャーに猫系イタズラのオンパレードをかましたり、セサミのでかいモノをゲットしたり、ポルナレフになったりジョースター卿になったりしたセクハラ男。前書きの苗字の由来は、月桂樹(ローリエ)のドイツ名、『ロールベールブレッター』より。ラッキースケベを体験したことにより、結城〇トのことを笑えなくなった。

カルダモン
ローリエのスケベ被害者その1。でも彼の発明する物やゲームが見たことも聞いたこともないため、興味を持っている。
きらら世界のトランプって大体ババ抜きや大富豪くらいしかないと思う。理由としては、女神の書く「聖典」には、きららっ娘たちがババ抜きをするシーンがあっても、ギャンブル染みたトランプゲームをするシーンがないと(独断で)思ったからだ。そういうシーン、ないよね?あったらスミマセン。

ジンジャー
ローリエの被害者。セクハラはされなかったが猫扱いされていた。
彼女自身が豹人族とストーリーで明言していたことから、ヒントを得た。豹もトラもライオンもみんな猫科だから、猫じゃらしには弱いはず。

セサミ
ローリエのスケベ被害者その2。あぶない水着を常に装備しているのは、彼女が暑く、海の近い国の出身だからではないだろうか、と考察してみるが、彼女の種族については明言されていない。

アルシーヴ
ローリエのスケベ被害者その3。図書館にいたらセサミとローリエにバッタリ遭遇し、運の悪いことにそのままおっぱい揉まれちゃった人。少しづつ情報を小出ししていくシステムを公式が採り始めたので、作者は致命的な矛盾が出ないかとビクビクしている。

ハッカ
ローリエのスケベ制裁要員。ハンマーでローリエを成敗するシーンのモデルは、言わずとしれた冴羽リョウと槇村香のやりとりから。でも、これからはローリエのスケベに対して制裁する方法はバリエーション豊かにしていく予定。

コリアンダー
ちょこっと登場。ハッカが使ったハンマーを製作し、ローリエからしょーもない逆恨みを買った。美女の中に取り残されるのは、ローリエにとってはご褒美だがコリアンダーにとっては地獄の宴。彼には強く生きてもらおう。

ピンホールショット
一度空けた弾痕の穴にもう一度弾丸を通すように撃つこと。現実ではかなり高難易度の技である。これを行う『某シティーハンターとイタリアのギャング』についてだが、前者は『シティーハンター』を、後者は『ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風』を参照。アニメのギアッチョ戦は燃えた。

伝説の(スーパー)ラッキースケベ男
転ぶたび女の子の色んなところ(意味深)に突っ込むことに定評のある『Toloveる』の主人公・結城リトのことである。なぜああなるかは作者も疑問であるが、あの展開を思いつける原作者様は偉大である(色んな意味で)。



△▼△▼△▼
ローリエ「さぁ待ちに待った筆頭神官交代の儀が始まるぜ!」
ジンジャー「大丈夫なのか? 賢者は演説するらしいぜ?」
ローリエ「問題ない。原稿はアルシーヴちゃんに渡した。あの名演説で人々を煽動してやろうじゃんか!」
ジンジャー「いや、煽動しちゃダメだろ!?」

次回、『賢者昇格、女神誕生(前編)』
ローリエ「見逃すなよ!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
 実は投稿直前に書いてたデータが全部消えて萎えました。まじで泣きそうだった。
あと、諸事情により、投稿ペースが今年一杯は落ちると思われるので、早めに読者の皆様にお伝えします。


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第7話:賢者昇格、女神誕生 その①

 とうとうアプリに外伝が追加されましたね。
 アルシーヴ本人が、ソラちゃんを襲った賊について語っていましたが、ここではっきりさせてしまいましょう。

「きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者」の設定は、()8()()()()()()()()()()()を再現いたします。その関係上、アプリとは違う話の流れを組むことになりますので、ご了承ください。


2021/6/30:今後の展開との矛盾が目立つ描写があったため、改稿しました。


 筆頭神官交代の儀。

 それは、文字通り筆頭神官が交代する儀式なのだが、しかし、これが何を意味するのかをまずは知って頂きたい。

 

 エトワリアにおける筆頭神官とは、神殿内の執政を通して、エトワリア全体の方向性を指示する役職だ。はっきり言って政治を担当するといってもいい。前世でいうところの内閣総理大臣にあたる。とは言っても、どこかの国みたいに数年ごとにポンポン変わるようなものではなく、条件が非常に厳しく、滅多に後継者を見つけられないものらしいのだ。歴代の筆頭神官の中にも、後継が見つけられず、死ぬ間際まで仕事を成し遂げた者もいるほどだ。

 

 つまり、筆頭神官交代の儀が執り行われるということは、稀有な才能を持った魔術師が、筆頭神官になるという志を持ち、神殿で研鑽を積み、然るべき過程を経て役職を継承する権利を勝ち取ったということだと思って頂いて構わない。

 

 そんな筆頭神官交代の儀がこれから始まろうとしている時、俺はアルシーヴの緊張を少しでもほぐせたらと彼女の控え室に入ったのだが。

 

 

「わざわざ来てもらって悪いな、ローリエ。」

 

「……。」

 

「こんにちは、ローリエさん。」

 

「こんにちわー!」

 

 

 そこにいたのはアルシーヴちゃんとハッカちゃん、そしてシュガーとソルトだった。

 

 まさか、賢者の残り二人とここで会うことになるとは。名前と容姿は知っていたが、こんな儀式の日にいきなり会ったとなると心の準備ができてないのに。だから俺は……

 

 

「……その双子はどっちの子だ?」

 

「なっ……!?」

 

「!!?」

 

 

 特大の冗談をかますことにした。ただ、その後に「結婚したのか……俺以外のヤツと」と続けるつもりだったのだが、分かりやすく頬を染め動揺したアルシーヴちゃんと目を見開いたハッカちゃんのリアクションのおかげで逆に緊張してすぐに口に出せなくなった。

 

 

「な……ぁ……っ!?」

 

「結婚したのか……俺以外の奴トブァ!!?」

 

「ローリエ、戯言(じょうだん)がきつい。」

 

 

 やっとのことで口に出せるようになったと思ったら視界が鋼鉄に覆われ、顔面に衝撃が走る。床にぶっ倒れて、ハッカちゃんの持つハンマーを見て初めてまたコリアンダーの製作物で殴られたのかと悟った。しかも、今回のハンマーには俺がお遊びで書き足した『100t』という表記が見られた。何だか少し情けなくなった。

 

 

「シュガーたちはアルシーヴ様の子どもじゃないよー!」

 

「そうです。私達には他に両親がちゃんといます。」

 

「じゃあ試しにアルシーヴちゃんのことママって呼んでみて」

 

「試しにって何ですか」

 

「これこれローリエ君、女の子をからかうものではありませんよ」

 

 

 寝転がったままシュガーとソルトの姉妹とアルシーヴちゃんを弄っていると、入ってきた扉の方から年老いた声が聞こえてきた。すぐさま立ち上がりその正体を見る。

 

 

 それは白髪を後ろで纏め、穏やかな雰囲気を纏った、皺だらけの老婆であった。腹に透き通るような紅宝石(ルビー)を抱え、翼を広げた鳥があしらわれた杖で体を支えながら、よろよろと入ってくる。俺は思わず老婆が通りやすいように部屋の隅へ移動し、ハッカちゃんに椅子を持ってくるように指示した。

 

 

「まったく、ローリエ君は変わりませんねえ……アルシーヴちゃん、筆頭神官の格好、似合ってるわよ」

 

「ありがとうございます。デトリアさんこそお元気そうで何よりです。」

 

「元…気……?俺には明日にもしん"っ」

 

「口は災いの元」

 

 

 アルシーヴちゃんがデトリアさんと呼んだこの老婆は、本日の筆頭神官交代の儀を執り行う筆頭神官である。つまり、今日の儀式で筆頭神官の地位はデトリアからアルシーヴへと受け継がれることになる。

 そんなアルシーヴちゃんと力を入れれば折れてしまいそうなデトリアとの会話に疑問を感じてると、ハッカちゃんから口を手で塞がれた。

 

 それにしても筆頭神官姿のアルシーヴちゃんはよく似合っている。きららファンタジアで見たままだ。

 

 

「……まぁ、確かにアルシーヴちゃんよく似合ってるよ。『女子三年会わざれば刮目して見よ』とはよく言ったもんだ」

 

「それ『男子三日会わざれば刮目して見よ』ですよ」

 

 

 独り言にソルトが突っ込んできた。アルシーヴちゃんとデトリアさんとの話が中々長引きそうなので、ちょうどいいと思い双子に色々聞くことにした。

 

 

「そういや、君は俺のことを知ってたみたいだけど……?」

 

「先ほど、アルシーヴ様から聞きました。友人なんだと……」

 

 

 驚いた。アルシーヴちゃんは、まだ俺のことを「友人」と言ってくれているのか。俺個人としては、ソラちゃんが誘拐されたあの事件以降、アルシーヴちゃんとソラちゃんを「友人」と呼んでいいものか微妙な所だった。もしあの夜に、勇気を出していれば、或いは胸を張って頼れる友人と言えてたかもな。

 

 

「それで、君たちは……」

 

「あぁ、申し遅れました、私はソルトと言います。こちらは妹のシュガーです。」

 

「シュガーだよ!よろしくね、ローリエお兄ちゃん!」

 

「シュガー、初対面の人にそういう話し方は……」

 

「いや、いい。しかしお兄ちゃんか、嬉しいな。よろしくねシュガーちゃん!」

 

「うん!!」

 

 

 ソルトに余計なことを悟られないように変えた話題だったが、シュガーが人懐っこく乗ってきてくれたお陰で難しいことがどうでもよくなってくる。この後は筆頭神官交代の儀だ、俺はそこで俺のやることをやればいい。

 

 

「そうだローリエ、忘れる前にこれを渡しておくよ。」

 

 

 シュガーとわちゃわちゃしていると、アルシーヴちゃんが俺を呼び手のひらサイズに折りたたまれた紙を渡してきた。それを受け取り開いてみると、そこにはお堅い文章がつらつらと書かれていた。

 

 

()()()賢者就任演説の原稿、あまりに酷いからこちらで勝手に決めさせて貰った。本番はそれを読めよ。」

 

 

 実は俺は数日前、アルシーヴちゃんから直々に呼び出され、賢者就任を言い渡された。エトワリアに生まれたときからの目標を達成できた俺は、三日三晩喜んだものだ。

 

 だが賢者就任にあたり、就任演説を行うということになり、その内容を考えて、次期筆頭神官(アルシーヴ)に見せてチェックする必要があったのだ。演説内容自体はすぐに書けたんだが……

 ……どうやら、(平和的にアレンジしたとはいえ)少佐の演説はお気に召さなかったらしい。

 

 

 そんな訳で内容を勝手に決められてしまったのだが……

『神殿の桜も咲き誇り、春の訪れを感じるこの頃、筆頭神官交代という節目に新たな賢者として――云々』。

 なにこの演説。前世でよくあった学校の卒業の言葉と何が違うんだ。本番で絶対この紙に書いてないこと言ってやる。

 

 

「そんな嫌そうな目をしても駄目だからな。」

 

 

 アルシーヴの壊滅的な演説センスに絶望しながら心の中で反逆を誓っていると、この形式的すぎる演説原稿を書いたであろう張本人は心の底を見抜くように俺に釘を差した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 そんな束の間の時間が終わり。

 

 筆頭神官交代の儀が始まった。場所は、神殿の中心部にして一番広い場所・大広間である。奥へ進むと階段の先に、儀式用の祭壇があり、その両サイドにある小さな螺旋階段は、演説用のステージとなっている。

 

 

 まず、先代筆頭神官のデトリアが祭壇に立ち色々と話す。長々と年長者の話を聞くこの構図は、前世に始業式か何かで校長の話を聞いていた時の感覚によく似ている。話に耳を傾けながら、終わる時を今か今かとゆっくり進む時計を見ながら待っていたものだ。

 つまり、何が言いたいのかというと、筆頭神官の話はまったく聞いてなかったということだ。

 

 長い話がやっと終わり、アルシーヴが現れ、デトリアから杖を受け取る。アルシーヴが今まで使っていた杖とは違い、三日月と十字架がデザインされている、あの杖だ。まさか、アルシーヴ個人の杖ではなく、筆頭神官の杖だったとは。

 

 

「続いて、賢者任命の儀に移ります。」

 

 

 賢者任命の儀とは、筆頭神官交代の儀の過程にある、筆頭神官交代の後に行われるものであり、ここで誰が賢者になるかが公開される。その際、演説も行われるのだが……俺の演説原稿は以下略。

 

 

「シュガー・ドリーマー」

 

「はい!!」

 

「ソルト・ドリーマー」

 

「はい」

 

 

 まず最初にシュガーがアルシーヴに呼ばれ、元気よく返事をしアルシーヴの元へ向かっていく。アルシーヴからネックレスっぽいものを渡され、首にかけた。続いて呼ばれたソルトも妹にならう。

 

 

「セサミ・ストラーナ」

 

「はい」

 

「カルダモン・ショーズ」

 

「はーい」

 

「ジンジャー・ヴェーラ」

 

「あいよ」

 

「フェンネル・ウィンキョウ」

 

「はいッ!」

 

「ハッカ・ペパーミン」

 

「はい」

 

 

 次々と賢者達の名前が呼ばれていき、アルシーヴからネックレスっぽいものを受け取っていく。そうして残るは俺だけになった。名前を呼ばれたら返事をする……のだが。

 

 

「ローリエ・ベルベット」

 

「はい!」

 

 

 ここでは問題なく返事をし、十字架と円が組み合わさったデザインのネックレスを受け取る。噛んでしまったらどうしようかと思っていたのでまずは一安心である。だが、問題はここからだ。

 ぶっちゃけるが、前世では仕事をソツなくこなし、きらら系漫画&アニメをこよなく愛する(もちろん、それ以外も好きだが)ただの普通の社会人だったのだ。

 目の前には、学校の体育館にも入りきるかどうか分からないほどの人の群れが、大広間を埋め尽くしている。そんな多くの人々の前でスピーチする機会など()()()()だ。長いことこの手の事はやってなかったため、上手く出来るかどうか不安である。

 

 だが、現在手に握られているカンペ通りに賢者就任演説など行いたくない。理由はただ一つ。カッコ悪いからである。こんなロマン溢れる演説シーンにカンペは必要ない。今まで見てきたアニメの、どのキャラもカンペなんて使ってない。俺は、カンペを握った右手を、そのままポケットに突っ込んだ。

 

 

「以上、八名が新たな賢者となる。

 続いて、彼らによる賢者就任演説を行う。」

 

 

 さあ来たぞ、賢者就任演説。

 その単語を聞いただけで心臓が強く跳ねる。最初に指名されないように祈りながらマントの中で両手を握りしめた。

 

 

 最初に指名されたのはシュガーだった。あの超人懐っこいコミュ力の化身に、賢者就任演説なんてお固い真似ができるのだろうか。

 シュガーは演説をする場所なのであろうステージへ、螺旋階段を登っていく。そして、上へたどり着くと、

 

 

「けんじゃになったシュガーだよ!

アルシーヴ様といっしょにがんばるから、よろしくね!!」

 

 

 ――と言ってのけた。

 小学生か!!……いやまぁ、小学生に見えなくもないけれども………

 きらら漫画のキャラクターって小学生っぽい中高生(アリスやチノやかおす先生)学生に見える社会人(あおっちやねねっち)がいるから、見た目があまりアテにならない。

 確かにゲームで見た通りの性格から想像できた演説だし、シュガー自身が可愛いから許されてるのかもしれないが、もうちょっとこう、何とかならなかったのだろうか?

 

「大丈夫?」

 

 シュガーが演説台から降りてソルトが代わるようにそこに昇るところを見ていると、すぐ隣から小声が聞こえた。

 

「緊張してる?」

 

 声のした方へ顔を向けると、ハッカちゃんが相変わらずの無表情で俺の顔を覗き込んでいた。表情の変化が乏しいこともあって、何を考えているか分かりづらい。

 

「君は緊張してなさそうだな」

 

 俺自身緊張のせいでそれくらいしか言えず、乾いた笑いしか出てこなかった。それを聞いたハッカちゃんは、「緊張してるか」とすぐさま俺の緊張を見抜く。

 

「私も緊張していたが、お前のお陰で楽になった」

 

「どういう意味だ」

 

 俺の質問には答えず、ハッカちゃんは再び前を向いた。いつの間にか、ソルトの演説は終わっていた。

 

 

 そこから先は、他の賢者達の演説をこれ以上一言一句聞き逃さないように聞いていた。俺の演説の参考にするためである。

 

 セサミの演説は、言っていることは立派なのだが、真面目すぎる面が災いしたのか、形式的すぎる演説となっていた。もしかしたら、俺が儀式前に受け取ったカンペは、こいつが書いたんじゃなかろうか。

 

 カルダモンは、面倒くさがって「八賢者カルダモン、宜しく」とだけ言うとさっさと次にパスしてしまった。流石、やりたくないことはやりたくない好奇心の化身である。俺もこれくらい手短な演説にしたかったが、聴衆に同じ手は二度も通じないだろう。

 

 ジンジャーは賢者については触れず、街の政策について話していた。近いうちに言ノ葉の樹の都市の市長になるだけあって現実的な事を話している有望な人物だったが、俺の演説に使えそうな部分はない。

 

フェンネルの演説は、演説というよりアルシーヴちゃんの自慢話になっていた。しかも途中から「私の人生にはアルシーヴ様に会う前と後の二種類がある」だの「アルシーヴ様は神なのだ」だの意味不明なことを話しだして、アルシーヴ本人にやんわり止められていた。アイツの辞書に自重って言葉はねーのか。

 

 ハッカちゃんに至ってはぺこりと頭を下げ、手を振って聴衆に応えるのがメインみたいになっていた。おい、演説しろよ。

 

 

 ……最悪だ。ソルトの演説を聞き逃してしまったとはいえ、マトモな演説をしてたのはジンジャーだけではないか。おかげで、演説の「これくらいまでは話してもいい」といった基準がまったく分からん。これでは、完全なアドリブで演説するしかない。「頑張れ」というハッカちゃんの応援を背に重い足取りで演説台へ向かった。

 

 

 演説台から見下ろす聴衆は、俺と目があった途端、俺の言葉を待っているかのようにざわつきが静まったように感じた。こうなったらなるようになれだ。

 

 

「俺が、八賢者が(いち)、ローリエ・ベルベットでありゅっ」

 

 しょっぱなから盛大に噛んだ。悪いことはなぜこうも重なるのだろう。顔に熱がこもり、大広間中に沈黙でも爆笑でもない微妙な空気が蔓延する。超気まずい。とりあえず視界の端で笑いをこらえているフェンネルは後で黒光りするG(ゴキブリ)型魔道具の実験台になってもらおう。

 俺はこの気まずさを何とかするべく口を開く。

 

 

「この度の新たな筆頭神官と賢者達は、これまでよりも一段と強き者たちが集まったと思っている!」

 

 

 俺の言葉に、聴衆だけでなく、アルシーヴちゃんや賢者達からも驚きの視線が注がれる。アルシーヴちゃんからは「何故原稿通り読まない!」と睨まれてそうだが今は無視だ。

 

 

「人の心に溶け込める者、知略に優れた者、武勇に長けた者、魔法の才において常軌を逸する者………その強豪たちの中で、このローリエはただ、魔法工学分野において少々の実績があるだけである。」

 

 

 アタマの中が真っ白になり、周囲に押しつぶされそうになりつつも、俺は必死に言葉を紡ぐ。

 

 

「だが!俺は知っている。

 真の強さとは、魔法の才能にも、剣の腕にも、腕力にも、策略にも、新たな発明にもあらず。

 真の強さとは、心にあり。如何なる時も、正しき道を選択できる精神にあり。

 俺もまた、その真の強さを求める者の一人である。

 我々は、いわば暗闇の荒野に進むべき道を切り開く者たちの集まりだ!」

 

 

 静まり返った聴衆に、語りかけてるこの間も、俺は何も考えていない。いや、考える余裕がないというべきか。ただ、ピンチの時ほどふてぶてしく笑えば、どんな事態も打開できる。

 ばさっと右手でマントを翻し、これでもかというほどの大声で宣言する。

 

 

「覚悟はいいか?俺は出来てる!これからの筆頭神官と賢者達に、ついてくるがいい!!!」

 

 

 ……やりきった。少し偉そうかもしれないが、賢者なんだし、ちょっとくらい大丈夫でしょう?

 聴衆の反応は、時が止まったかのように静かだったが、俺が演説台から降り、螺旋階段を下りきったあたりで万雷の拍手という形で返ってきた。戻ってくる時、賢者達から色々言われていたが、俺自身はただ、スベらなくて良かったと安堵するだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ローリエこの野郎ッ!」

 

「わああっ!?なんでだよあるひーうひゃん(アルシーヴちゃん)!!?えんれつ(演説)は上手くいったからいい()ろ!?」

 

「いい訳ないだろ!」

 

 

 筆頭神官交代の儀が終わった後に待っていたものは、アルシーヴちゃんからの頬つねりであった。

 

 

「スベってたらどうするつもりだったんだ!?」

 

「いやだって、あの原稿クソつまらねーんだもん!アレ読んでたら確実にスベってたぜ?読んだ俺ですら2秒でダメだと気づいたわ!」

 

 

 俺がそう言ってのけると、セサミが目に見えて落ち込んだ。「クソ…つまらない……」とか言ってショックを受けている。

 

 

「お前!セサミになんてことを!」

 

「え、まさかアレ、マジでセサミが書いてたの!?内容が似てるとは思ってたけど……」

 

「……というか、ローリエもローリエだと思います。」

 

「ソルト?」

 

「ローリエの演説は、ほぼ勢いに任せたものでした。表情も余裕なさげでしたし……でも、まさか原稿を思い切り無視したノープランのアドリブだとは思いませんでしたが……」

 

 

 ソルトには俺の状況があまりにも馬鹿げていたことにため息を漏らす。だが考えてみてほしい。自分の渾身の作品が無碍にされた上に、勝手にスピーチ内容を決められたとしたら。それは、厳しすぎる校則に縛られた高校生と同じくらい、つまらないものではないだろうか。そう説明すると、ソルトもアルシーヴちゃんも納得半々、不満半々といった微妙な表情をして首を傾げた。

 

 

「アドリブだったのですか。なら、最初のアレも納得ですね。盛大にずっこけたアレ。」

 

「「ぶっ!?」」

 

 

 フェンネルが突然俺の最新の黒歴史を掘り出しやがった。後ろで吹き出したカルダモンとハッカちゃんは兎も角、俺のタブーに全力で踏み込んだコイツは許さん。

 

 

「まぁアレは……うん。仕方ないだろ。」

 

「日頃の行いです。」

 

「ところでフェンネル、ちょっと手ぇ出してくれ。」

 

「?」

 

 

 何も知らずに差し出された手のひらの上に邪悪の化身(G型魔道具)を置き、起動させると共に颯爽と部屋を立ち去る。

 

 

「いやああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「ふぇ、フェンネル!?」

 

「うわぁっ!?そ、そこにご、ゴ……!!」

 

「小さな悪魔……!」

 

「どうしたのアルシーヴ?……ってひゃああ!!?」

 

「ソラ!!!?」

 

 

 後ろで多種多様な悲鳴が聞こえると、イタズラが成功したことに笑いを漏らしながら迫り来るであろう女性陣から逃げ出し鬼ごっこと洒落込んだ。

 

 大成功だ。俺の最新作・G型魔道具は見た目的には会心の出来だったようだ。実はあの魔道具、ただのイタズラグッズではない。録画・録音機能がついており、情報収集に最適なのだ。基本的には隠密で行動し、見つかってもおぞましい見た目に相手が動揺している隙に逃げ出せる。機動力も申し分ない。

 とある海の狙撃手も、幽霊少女を撃破するのに黒光りする虫の玩具を使用していたほどだ。その時の幽霊も、その虫の玩具を本物だと思い込み、(トリモチで逃げられなかったこともあって)ひどく取り乱してしまったほどだ。

 それほどまでにあの魔道具が見た者に与える精神的ダメージは大きい。

 実に合理的な発明だと、笑いが止まらなかった。

 

 ……途中でアルシーヴちゃんやジンジャー、ソルトやハッカちゃんまで鬼に加わるとは思わず、逃走開始から5分で捕まってしまったが。

 この(イタズラ)について、必死でG型魔道具の有用性について弁解したのだが………

 

 

「心臓が止まるかと思った!!!」←ソラ

 

「あんなもの創っては駄目に決まってるでしょう!!!」←フェンネル

 

「ローリエさん、合理性を求めるあまり人として捨ててはいけないものを捨ててます……」←ソルト

 

「危険。」←ハッカ

 

「味方も混乱させてどうすんだ馬鹿!!」←ジンジャー

 

「……という訳でローリエ、今後あの…えっと……虫型の魔道具の使用を全面的に禁ずる。」←アルシーヴ

 

「ホーリーシット!!!!!!」←(ローリエ)

 

 

 ……遺憾なことに…誠に遺憾なことに、使用禁止令が出されてしまい、日の目を浴びることなく、俺の発明品倉庫行きとなったのであった……

 ……まぁそんなの関係なく使うがな。バレなきゃ命令違反(イカサマ)じゃあないんだぜ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 G型魔道具の件で新筆頭神官&賢者達にしこたま怒られた後、とぼとぼと自室に戻っていると、廊下でデトリアとすれ違った。相変わらずよぼよぼな見た目でフラフラと歩いており、見てるこっちが不安になるほどだ。

 

 

「ローリエ君、今日はお疲れ様。」

 

「ああ、デトリアさんこそ、お疲れ様です。」

 

「そうそう、ローリエ君にやって貰いたいことがあるの。聞いて貰える?」

 

「なんですか?」

 

「……魔法工学の、教師をやってくれるかしら?」

 

 

 一瞬。

 

 ほんの、一瞬だが。

 

 腰が曲がり、ぱっと見の身長が俺の半分程度しかないはずのこの老婆から、巨大なプレッシャーを感じた。まるで、自分の身長の数十倍ほどある巨人と相対した時のような、それくらいのプレッシャーだった。

 だが、それもすぐに幻のように消え失せ、目の前にはか弱い老婆がただにこにこしているだけである。

 

 俺には分からなかった。何故、今そんなプレッシャーを感じ取れたのか。何故、今()()()()()()()()()()。それも、元筆頭神官が現賢者に対して。

 

 前者はまあ、前世を含めた人生経験の成せる技とか気のせいとかの一言で無理矢理片付けられたとしても、後者がまったく分からない。本日付で交代したとはいえ、筆頭神官だったのだ。そんな人物からの頼み事なんて、まず断らない。プレッシャーなんぞかけなくても、引き受けるからだ。

 

 何を企んでいるか?何がしたいのか?それとも、これから起こることを知っているがために、変に疑ってしまっているだけなのだろうか?

 一度疑いだすと目の前で笑っている無害そうなおばあちゃんですら、腹に一物持っているように見えてくる。

 証拠なんてない。いくら考えてみても、答えは出そうになかった。

 

 だから俺は――

 

 

「分かりました。やってみましょう。」

 

 

 ――この老婆の警戒レベルを上げることにした。

 

 こう判断したのは、前世を含めた人間40年の勘に頼ったものである。これに助けられたと自覚するのは、もう少し先の話だ。

 

 




キャラクター紹介&解説


ローリエ・ベルベット
 今話でついに賢者となった男。演説を全てアドリブで乗り切り、フェンネル含めた女性陣をG型魔道具で混乱に陥れた。ローリエは前世は『きららファンタジアをやっていた、オタクの社会人』という設定ですが、彼自身の「きららファンタジア」の記憶は、リゼやポルカ、コルクが実装されたイベントで止まっています。つまり……?


アルシーヴ
 新たに筆頭神官に任命された少女。ローリエの賢者就任演説の原稿の出来に頭を抱え、セサミに代わりにローリエの原稿を書いて貰ったという裏設定がある。その結果は、本編にて書かれている。

ローリエ原稿
『諸君 私はエトワリアが好きだ
 諸君 私はエトワリアが好きだ
 諸君 私はエトワリアが大好きだ

 草原が好きだ
 都市が好きだ
 港町が好きだ
 砂漠が好きだ
 言ノ葉の樹が好きだ……
     (中略)
 よろしい ならば戦争(ク○ーク)
      (略)
 第一次エトワリア開発計画、状況を開始せよ
 さぁ諸君 楽園を創るぞ』
セサミ「まるで意味が分からない……」
アルシーヴ「どこから突っ込めばいいのだ……」


シュガー&ソルト
 きららファンタジアの賢者となった双子姉妹。シュガーとソルトの名前のモデルは確認する必要もなく砂糖と塩なのだが、この二つの調味料、驚くほど共通点が見つからない。そこで、とあるキーワードで検索した結果見つけたとあるグループのアルバム名を苗字のモデルとしました。


セサミ・ストラーナ
 ローリエの原稿を代筆したが、ローリエに秒で却下され、凹んだ所にG型魔道具の襲来という、良いところがなかった不憫枠。苗字の由来は『セサミストリート』から。


カルダモン・ショーズ
 自由人な賢者。彼女の性格からして、やりたくないことは嘘でもやりたくないと思う。しかも、賢者の就任演説なんて時間の無駄とも思っているだろう。苗字の由来は、香辛料カルダモンの和名『小荳蒄(ショウズク)』から。


ジンジャー・ヴェーラ
 豹人族のパワー賢者。この頃から市長としての手腕を発揮させた。彼女の凄いところは、すべて実行することにある。大抵の政治家は、公約を(さまざまな事情があるとはいえ)実行することは難しい。公務に真面目に取り組むことこそ、人心を長く掴む秘訣なのだろう。苗字の由来は生姜のサンスクリット語『cringa-vera』の後半部分から。


フェンネル・ウィンキョウ
 ローリエとは犬猿の仲の賢者。公式設定でも、自身の演説でアルシーヴについて熱く語る等本編くらいの事をやる可能性は十分にある。ローリエの演説に吹き出してしまったため、G型魔道具の第一被害者となってしまった。女の子いっぱいのエトワリアにおいて、Gはとても忌み嫌われており、見るだけで慌ててしまう。そこに録音・録画機能がついてても、Gを殺す事で頭が一杯になり、気づかないだろう。


ハッカ・ペパーミン
 作者のお気に入り賢者。着々とローリエのハンマーによる制裁要因になりつつある。『寡黙で古風な言い回しをする』のが公式設定である為、大○転裁○あたりで出てきそうな当て字を多用し、単語のみのセリフも使う所存。薄荷(ハッカ)が日本名であるため、苗字は英語の『ペパーミント(peppermint)』から取った。


きらら系漫画の登場人物の年齢
 全体的に、見た目と比例しない場合が多い。大人たちは大体間違われないのだが、学生たちは実年齢より幼く見られがち。代表格は『ごちうさ』のチノ、『きんモザ』のアリス、『スロウスタート』のかむちゃん、『ブレンド・S』の麻冬さん、『new game!』のあおっち 辺りだろうか。
 逆に、「実年齢よりお姉さんに見える」みたいな例外があったら情報提供求ム。


海の狙撃手と幽霊少女
 これの元ネタは、『○NE PIE○E』のスリラーバーク編のウ○ップとペ□ーナのことである。詳細は省くが、ゴキブリ(の玩具)を使用した結果、超嫌がっていたシーンがある。


G型魔道具
 人類の敵を模した、調査&隠密用魔道具。生物としての「薄暗い所を好む性質」を利用してこっそりと録画・録音を行い、見つかっても人間のGに対する恐怖・敵対意識を利用して撹乱を行い逃走できる優れた魔道具。攻撃される危険性もあるが、何より重要なのは、「監視されている」という感情・意識を別の感情で吹き飛ばすことにある。
余談だが、ローリエは後世での(正しい)活用のため、この魔道具の設計図はしっかり残している。だが、メインキャラの大多数を女性が占めているエトワリアでは、間違いなく『禁忌の発明品』の烙印を押されるだろう。






あとがき

ちょっとお話をまとめきれなかったので、前編と後編に分けます。というわけで、次回は『賢者昇格、女神誕生』の後編になります。お楽しみに~


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第8話:賢者昇格、女神誕生 その②

なかなかまとまらなかった、「賢者昇格、女神誕生」の後編となります。

今回は思いっきりギャグに振りきってみた。後悔はしていない。


 筆頭神官交代の儀と女神継承の儀は、本来同時期に行われるものではないらしい。どちらも役職に慣れていない者だと、エトワリアの危機になるからだと、デトリア様から聞いた。それが今回同時期に行われたのは、私とソラ――いや、これからはソラ様と呼ぶことにするか――ソラ様の実力を高く買っているからだともおっしゃっていた。

 

 三人で選んだ賢者はかなり個性的なものとなった。

 正直、私はローリエを賢者にするのは反対だった。だって、その……アレだし。デトリア様も当初は良く思っていなかったらしい。だが、ソラ様が必死で説得してくるものだからデトリア様が折れて、二人の説得に私が負ける形で採決された。

 曰わく、子供の頃、拉致された時に衛兵を連れてまで助けに来てくれた上に、二人の少女を守りながら戦ってくれたらしい。あの人ほど、誰かのために自分の命を懸けて、覚悟を持って戦える人はいないと、ソラ様は熱弁していた。

 

 筆頭神官交代の儀をなんとか終わらせ、ローリエが生み出したおぞましき虫の魔道具騒動も片付き、明日の女神継承の儀の準備をしながら、ソラ様の熱い説得とローリエの独白を思い出していた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

『アルシーヴちゃん。ソラちゃんのこと、色々お願いしてもいいかな?』

 

『何故だ?ソラもローリエと話したがっていたぞ?』

 

 

 それは突然だった。ローリエから、「ソラちゃんについて話がある」と礼拝堂でいつものように勉強していた私に声をかけられた時のことだった。だがその表情に、いつも私に発明品を見せたりセクハラしてきたりする時のような、チャラけた雰囲気はなかった。

 

 

『いいや、駄目だ。俺じゃあできない。ソラちゃんは男にトラウマができちまったから』

 

『男にトラウマ……って、あの時のこと、なのか?』

 

『………そうだ』

 

 

 あの時のことは、今でも……いや、一生忘れはしないだろう。たかが盗賊からソラ様を守れなかった己の非力さを痛感してからというもの、私は魔法に打ち込んだ。

 だが、あの時何があったのかはよく知らない。攫われたと思ったソラ様は、たった1日後に無事に都市まで戻ってきて、保護されたのだと聞いた。

 

 

『……なぁ、詳しく教えてくれないか?ソラに訊いても、「ローリエが助けてくれた」事以外教えてくれないんだ』

 

『………。』

 

 

 ローリエは長い沈黙の後、ようやっと話してくれた。

 一人の衛兵とともに盗賊のアジトまで助けに行ったこと。そこでソラ様を保護したこと。衛兵が自分を犠牲に逃がしてくれたこと。だが、盗賊に捕まりそうになったこと。

 ――ローリエが、自分の発明品で、盗賊を殺した事。それが、ソラ様を守るための正当防衛だったこと。

 

 

『そんな事があったからだろう。ソラちゃんは、男の人と目を合わせて話すことができないし、男の人と二人きりなんて耐えられないだろう。』

 

 

 盗賊はソラ様達を生かして帰すつもりがなかったことから、ローリエの盗賊を倒す行動は実に合理的で、命を守るためには、それしかなかったのだろうことは、彼の話からある程度は察していた。

 だが、まだ幼かった私は、それに納得できず、カッとなってローリエの首根っこをつかみ上げていた。

 

 

『馬鹿!!失敗してたら、どうするつもりだったんだ!!

 お前までいなくなったら……私は……』

 

 

 そこから先の言葉は出なかった。

 とても辛すぎて、それ以上口にしたらその最悪の結末が実現するような気がして、泣いてしまいそうだったからだ。

 

 

『大丈夫。俺は……いなくならないさ。』

 

 

 背中に手が回り、頭に暖かい手が降ってきた。その感触が、彼の言葉を裏付けているようで、無条件に安心できたのだろう。いつもはセクハラの鬼たるローリエなのに、何故なのだろうか。

 

 

『アルシーヴちゃん……あの日は、逃げちゃってゴメン。守ってやれなくて、ごめんな』

 

 

 その言葉で私はハッとなった。

 そんなこと気にしていない。君に言って欲しい言葉はそんな言葉じゃあない。ソラ様から逃げないで欲しい。

 そう思って見たローリエの顔は悲痛な表情に歪んでいて、まるで自身の処刑用の十字架を、ここまで背負ってきていたかのようであった。

 そんな彼に強く言葉を出せず、かといって何か言わなければマズい気がする、と思った私は――

 

 

『……お前は悪くない』

 

 

 深く踏み込むのを少し躊躇って、そう言うに留まるだけになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 筆頭神官交代の儀で賢者に選ばれた俺だったが、突然魔法工学の教師まで任されたので、正直戸惑っていた。

 教師といえば、ブラックな仕事の代表格である。これは前世の記憶に基づく偏見なのかもしれないが、とにかく楽な仕事ではないことは確かだ。それを全うするためには、一日でも多くの準備が必要となる。まぁこの意気込みが仕事の効率化を生み、同じ時間で多くの仕事をこなせるようになる結果、仕事の激務化を生む温床でもあるのだが。

 なんにせよ、八賢者と魔法工学教師を両立させるためには、女神継承の儀に参加せず、その準備を今からでも行っていた方が合理的だ。

 

 

「……つまり、俺はこの儀式に参加することができなくなったんだ。だから……」

 

「だから八賢者であるお前抜きで儀式をやれと?

 駄目だ。どうせサボりたいだけだろう?呆れた奴め」

 

 俺の合理的な懇願は、アルシーヴに秒で却下された。しかも本心まで見抜かれた。こいつ、読心魔法でも習得しているのだろうか?

 女神継承の儀における賢者の役割は、『新たな女神を歓迎し、敬意を示すこと』とあるが、要するに置物である。あってもなくても女神継承に響かない、どうでもいいポジションだ。さっきコリアンダーにそう言ったら、「お前、なにも分かってないな」と言われた。分かってないって、お前らが合理性をか? と返したら、「正気か?」って顔をされた。

 まぁ、俺が考えついたもっともらしい言い訳も、前世から引っ張り出してきた労働環境の課題も、すべて「サボりたい」という思いからきている。アルシーヴちゃんはそこを見抜いたのかもしれない、筆頭神官は侮れんな。

 

 

「確かにお前がデトリア様から魔法工学の教師を頼まれたのは知らなかったが、それとこれとは話が別だ。それに、そういう話は直前にするものじゃあない」

 

「そもそもスケジュールに無理があるとは思わないのかよ」

 

 筆頭神官交代の儀の翌日に女神継承の儀というスケジュールが組まれていた。そういうイベントは、間を空けないとボロが出た時にカバーできないというのに、このスケジュールを組んだ奴は何を考えているのだろうか?

 

 

「さぁ、とっとと行くぞ。お前以外の賢者と女神様のお二方はもう揃っている。」

 

「へーい」

 

 まぁ、決まってしまった事を考えていても仕方がない。アルシーヴちゃんに引きずられないように、俺も足早に目の前の彼女についていくことにした。

 ただな、遅れた理由を話す時に馬鹿正直に「ローリエがサボりたいと言い出したから」とか言わなくていいんだぞ。ソルトやジンジャーがジト目でこっちを見てくるし、シュガーさえ絶句している。フェンネルに至ってはゴミでも見るかのような目だ。俺はディーノさんみたいなMじゃないので普通に死にたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうして行われた女神継承の儀は、素晴らしいほどに上出来だったと思う。少なくても俺はそう思った。だが、ここでは女神となったソラちゃんの感想を少し述べるだけに留めたい。なぜなら、この後――あぁ、儀式の数日後のことな――その、数日後に想定外の事態が起こったからだ」

 

 

 八賢者であるローリエ・ベルベットは、女神継承の儀と、そのあとに起こった()()()()()()についてこう語っている。

 

 

「遠回しに言うのは面倒くさいから単刀直入に言おう。前任の元女神が女神継承の儀の2、3日後に、突然原因不明の衰弱死をしたと、神殿中に訃報が駆け巡ったんだ。」

 

 

 このことで、神殿は急遽葬儀を行う事となり、エトワリアの行政はぐらついた。エトワリアにおける女神というものは、いわば世界の核である。女神が異世界を『観測』し、その様子を記録することで『聖典』が生まれ、人々はそれを読んでクリエを得ることで生活することができている。また、エトワリアにおける魔法の源もクリエが役割をなしている。仮に聖典を綴る女神がいなくなりでもしたら、エトワリアは破滅してしまう。エトワリアは、女神に依存しているのだ。

 それでも、致命的な動揺とならなかったのは、一概に前筆頭神官デトリアの力が大きい。

 

「デトリアさんは、この時、慌てずなりたての賢者達やあらゆる部下たちに指示をだし、アルシーヴちゃんと一緒に元女神の……名前なんだっけな………まぁいいか……元女神の、葬儀の企画から運営までを執り行ったんだ。まるで……いや、なんでもない。どーせただの杞憂だろうしな」

 

 

 前任の元女神の早すぎる訃報。それだけでも十分に予想外だろうが、ローリエにとっての“想定外の事態”はそれだけではないという。

 

 

「あれは、元女神の葬儀中のことだった。エトワリアにおける葬式ってのは、意外と和洋ごちゃまぜなんだ。葬儀場は教会で行い、故人と別れを告げる方式だ。かと思えば、神父がお経みたいな長い呪文を唱えたり、焼香があったりする。

 

 ……で、問題の出来事のことだが、その葬儀中、神父が呪文を唱えている最中にそれは起こった。

 まず、その神父の呪文がふざけてたというか、テキトーすぎたんだ。一応世界のトップの葬儀なんだし、もうちっとマシなヤツはいないのかねと思ったよ。」

 

 

 

『なんまいだー、なんまいだー、なんまいだー、なんまんだー……

 げんまいだー、しんまいだー、だいじょぶだー……』

 

 

『……なぁコリアンダー、アイツ変なお経読んでないか?』

 

『ああ』

 

『……バチ当たらなきゃいいけど…』

 

 

 

「その時隣に座っていたコリアンダーに確認してみたんだが、あの変なお経が『普通』という認識はなかったみたいなんだ。それで、あのふざけたお経に頭を悩ませてたその時だ。

 葬儀中の棺から、身体が透けている元女神がむくりと起き上がってきたんだ。典型的な人の幽霊の格好した元女神がね。それで、虚ろな目で参列者達のほうを向いたんだ。」

 

 ローリエは、オバケや亡霊などの怪談は得意ではない。前世(むかし)から、人の怨みや憎悪のような負の感情に比較的敏感で、それに基づく亡霊関連の怪談が嫌いだったのだ。

 

「始めに俺の目と正気を疑ったね。なんてったって、お、オバケがでてきたんだから。まぁその時、オバケにビビって声を上げなかった俺を褒めて欲しい気分だったよ」

 

 

 いくら目の前で非常識な事が起こっているとはいえ、葬儀中に悲鳴をあげる訳にもいかなかったローリエは、違う行動をすぐさま起こした。

 

『ローリエ、どうした?肩を叩いて…』

 

『……おい、アレ…!

 アレ………おい……!』

 

「そう。俺がやったことは、隣にいたコリアンダーの肩を叩いた後、指を元女神の幽霊に向かって差して、アレ、と言うことだ。」

 

 彼が行ったことは実に抽象的であったが、声をうかつに出せない状況下で、何が起こったのかをコリアンダーに伝えるのに、実に簡潔な手段であった。指を差した方向を見れば、彼が何に驚いたのかが理解できるだろう。

………指差した方向にいるものが、()()()()()()()()()()()()()の話だが。

 

 

「……え? 『それで、コリアンダーに伝わったのか』って? ………………………。

 うーーん………分かってないね、俺がこの話を『想定外の事態』と言った理由を……

 伝わってて欲しかった、かな……でも現実は違ったね……」

 

 

『……?何だ?』

 

『いやアレェ!おい、アレェェェェェェッ!!』

 

『おい静かにしろローリエ、葬儀中だぞ!』

 

『いやいやいやいやいやいやいやいや、アレだってばアレ! おい!アレェェェェ!!』

 

『何やってんだコイツ…』

 

『いい歳して葬式でなにテンション上げてるんですか。心配しなくてもあとでローリエの葬式なら上げてあげます』

 

 

 ローリエの必死の訴えは、コリアンダーに届かず、彼やフェンネルには、『ただ葬式でテンションを上げているだけの人』だと思われてしまったのだ。

 

「コリアンダーには呆れられ、フェンネルからは軽い殺害予告を受けたその時、近くで元女神の幽霊に動揺する別の声を聞いた。ソラちゃんだ。彼女もまた、アルシーヴちゃんに必死に伝えようとして、失敗していた。」

 

 

『いい加減にしてくださいソラ様。何なんですかこんな時に?』

 

『みっ、見えないの!? アレ!アレだよアレ! ねぇ、アレぇぇぇぇっ!』

 

『はぁ……(もう無視しよう……)』

 

『ちょ、アルシーヴ!? そのため息なに?』

 

『……ひょっとしてソラちゃん、見えてる?』

 

 

 ローリエの言葉を受けたソラは、元女神の幽霊を指差して、ローリエが頷くのを確認すると、そこで自分とローリエだけに幽霊が見えることを理解した。

 

 

『な、なんなんだよアレ……ひょっとして、俺達だけに見えるっていうアレなのか?』

 

『い、いや、違うと思うよ……そういうアレじゃないよ、多分ああいうアレだよ、大丈夫だよ……』

 

『大丈夫じゃねーだろ……だってアレ、ももも、元女神、だろ?』

 

『違うよ!これはユニ様の葬式だよ? 絶対別人だよ』

 

 それにユニ様はあんな半透明じゃなかったし、ハッキリとハキハキした人だし、と続けるソラに、元女神をよく知らないローリエはそういうものか、と納得しかけて、アレ? と別の疑問につっかかった。

 

『……つーか、半透明の時点でおかしくね?

 元女神であるかどうか以前に半透明ってなんだよ?おかしいだろ?』

 

『じゃあユニ様でいいでしょ?そういえばここぞと言うときは優柔不断でハッキリしてない時あったし……』

 

 人は感情とともに生きており、そういう意味ではハッキリしたり、優柔不断になったりしても何らおかしくない。

 そういう意味で、ソラの言葉にそうだよな、と今度こそ納得する一歩手前で、やっぱりアレ? と、再び別の疑問につっかかるローリエ。

 

『つーか、元女神なら尚更おかしくね?

 何で死んだ元女神が、半透明であんな所にいるの??』

 

『それは……アレでしょ?

 オバケ………だからでしょ?』

 

 

「ソラちゃんと半透明の幽霊について話してるうちに、カチリ、とロジックのパズルが組み合わさる音がして、ああそうか、あそこにいるのは元女神の幽霊なんだ、と納得したわけよ。

 ……え?その後の俺らの行動?………もうね、椅子から立ち上がって一番近い真後ろの扉から逃げ出そうとしたね。でも、扉が思ったより重くて逃げられなかったさ。」

 

 

『なっ、ソラ様!ローリエ!二人とも何やっているんだ!』

 

『わ、わ、私ちょっとお手洗いに……!』

 

『正座で足痺れた……!』

 

『どいてローリエ、何してるのよ!』

 

 勿論、この時のソラはお手洗いにいく必要などなかっただろうし、ローリエに至っては正座などしていない。だが、一刻も早く幽霊のいる教会から逃げ出したかったのだ。

 ただ、扉前ではしゃいでしまったことが脳裏によぎった二人は、元女神の怒りに触れたんじゃないかと思い、棺と神父のいた方に振り向く。

 

『おいィィィィあの人、めっちゃこっち見てる!こっちガン見してるー!!!』

 

『目を合わせちゃ駄目!気づいてない振りするの!』

 

 だが、虚ろな目をした元女神は、真ん中を歩いて後ろの扉の方向……つまり、ソラとローリエがいた方へ歩いてくる。

 

『おい!こっち来たぞ!アイツこっち来たぞ!?どうすんだオイ!?』

 

『死んだフリ!死んだフリなら……!』

 

『死んだフリってお前! 死んでんのあっちだからね!? あっち本職だからね!!?』

 

 

「そうして気づかないフリするか死んだフリするかで言い争おうとした時、さらに摩訶不思議な事が起こった。

 まず元女神は、教会の真ん中あたりの列に座っていた、一人の女性をビンタしたんだ。今思えば、神父の呪文の最中に何か別の、失礼になることでもやっていたんだろう。そのビンタを食らった女性だが、壁まで吹っ飛んだよ。

 その後、元女神は幽霊装束を脱ぎ去った。その上からは、SMクラブで見かけそうな、赤いエナメル服。バタフライマスクや鞭、タバコにライターをどこからともなく取り出して、タバコを咥えてバタフライマスクを装着。あっという間に、クラブの女王が爆誕した。」

 

 

 たった一発のビンタで人を壁まで吹き飛ばして、気絶させた元女神(女王様)を見たソラもローリエも、命の危機を感じ目にも止まらぬスピードで真後ろの扉から各々の席へついた。

 

『ソラ様、お手洗いでは?』

 

『い、いや……引っ込みました』

 

『引っ込んだって、二人ともガクブルではないですか。無理しないほうがいいですよ』

 

『い、いや……引っ込んでろ』

 

 ソラもローリエも、アルシーヴやコリアンダーが見て分かるほどに震えていたが、その原因がお手洗いを我慢しているからではないことは言うまでもないだろう。

 

『み、見張りにきたんだあの女……!

 自分の葬式がキチンと執り行われるように……!』

 

『ま、まずいよ、この葬式、下手をしたら……』

 

『『元女神(ユニ様)に、(たた)り殺される!!』』

 

 この間に、クラブの女王と化した元女神は、寝落ちしかけていた神父に尖ったエナメルブーツで蹴りを入れている。神父の「ありがとうございます!」という悲鳴が教会内の参列者達のほとんどに聞かれなかったのは、神父の名誉的に幸いである。

 

『今みたいに寝ながら変なお経読んでた神父みてーに、俺達も下手やらかしたら何されるかわからんぞ……!』

 

『う、うそでしょう……夢なら覚めてよ…!

 私は、優しくて聡明なユニ様に別れを言いにきたのに……!』

 

 

「ソラちゃんの『夢なら覚めて』の悲鳴はもっともだ。元女神は、生前は誰に対しても優しく、淑やかで人気がある人だったらしい。それが、自分の葬式でひと皮どころか幽体離脱でひと肉体剥けた途端に女王化(あんなこと)されたら誰だってそうなる。

 もし、他の参列者にあの元女神の姿が見えたら皆、口を揃えてこう言っただろう。

『あんな街一つ支配できそうなクラブの女王に会いに来た覚えはない』って。

 だが現に元女神は俺とソラちゃんにしか見えなかった。だから、葬式も滞りなく進んだ。いや、()()()()()()()。」

 

 

『あの、次焼香みなさまの番ですよ?』

 

『え”っ!!?』

 

『いやだから焼香の順番。もう遺族の方も我々も終わったので、残りは皆様だけですって。』

 

 前の席の誰とも知らぬ者が知らせた焼香の順番は、ソラとローリエにとっては拷問の宣告そのものだった。元女神の幽霊は、棺に腰かけている。つまり、焼香を行うことは、元女神(女王)に近づくことに他ならない。

 

『…おい、いつの間にか焼香の順番が回ってきたぞ?どうするんだ?』

 

『……え?できるの?

 あの人の前で、焼香できるの?』

 

『無理に決まってんだろ。この距離でもチビりそうなのに、あんな間近でゆったりアロマテラピーなんてよォ。処刑台に自ら上がっていくようなもんだろーが。

 ……そもそも焼香ってどんな感じだったっけ?前出て粉パラパラするのは覚えてんだけど、記憶がフワフワしてるんだけど……』

 

『ちょっとローリエ大丈夫?社会常識だよ?

 三回おでこに粉持ってアレをアレするアレだよ?』

 

『後半アレしか言ってないよねソラ様?

 あなたもフワフワだったじゃあねーか?』

 

『焼香台の前行けばできます!

 ローリエと一緒にしないで!』

 

『じゃあ先に行って俺にお手本を見せてくださいソラ様?できるんでしょう?』

 

『嫌よ、ローリエ先に行って!』

 

 

「……とまぁ、こんな風に焼香だけで順番の押し付け合いだ。一応、俺とソラちゃんの名誉のために補足しておくけど、ただど忘れしただけだからね?『緊張してたら公式忘れちゃった』とかよくあるだろ?アレだよ。

 それで、この膠着状態を解決したのは以外や以外、ソルトだった。」

 

 

『では私が先に行くので、シュガーは見ていてください』

 

 ソラとローリエの状況は知らないだろうが、それを打開したソルトはまさしく勇者であった。だが、二人には死地に向かう少年兵のようにも見えた。

 

『待て、早まるな!』

 

『え、早まる?

 シュガーがわからないと言うので、先に手本を見せようかと思ったのですけど……』

 

『大丈夫か?いけんのか?しくじるんじゃねーぞ、必ず戻ってこいよ!?』

 

『馬鹿にしているんですか?……まぁいいです。』

 

 そう言ってソルトが焼香台の前へ行くと、慣れた手つきで遺族と僧侶に一礼、遺影に合掌、抹香を摘まんで焼香、再度遺影に合掌、遺族に一礼、といった手順で焼香をやってのけた。

 

『こんな感じ。簡単でしょ、シュガー?』

 

『おぉ~』

 

『ミッションコンプリート!

 ソルトなら必ずできるって信じてたわ。今夜は祝勝パーティね』

 

『ソラ様、恥ずかしいのでやめてください』

 

『フッ、俺から言わせりゃあまだまだだが、少しはマシな面になって帰ってきた様だな』

 

『焼香ひとつでどこまで褒めるんです? どんだけできない人だと思われてるんですか!?』

 

 

「ソルトの行動は俺とソラちゃんの心に希望の火を灯し、元女神の雰囲気も柔らかくさせた。この調子なら無事に葬儀を切り抜けられると思っていた。

 だが、その良い流れを思い切り台無しにするやつが現れた。

……シュガーだ。ソルトの次にシュガーが『次はシュガーがしょーこーいってくるよ!』と言った。ハッキリ言って不安しかなかったから、あの子にはソルトがやった通りにやれと言ったはずなんだがな。あの子は、焼香台の前に立つと、何を血迷ったのか神父をチョップでぶっ叩いたんだ。そしてこう言った。」

 

 

『意外と僧侶に一撃!』

 

最初(ハナ)からまるまる違うだろーがァァ!?』

 

 

「それで、どこからともなくマイクを出した。多分、『遺影』の意味が分かってなかったんだろうが……」

 

 

『イェーイ! さぁ、神父さんも一緒に!』

 

『イェーイ……』

 

『「イェーイで合唱」じゃねええええ!ノらなくていいからオッサン!!』

 

 その後もシュガーは、焼香台に神父を三度叩きつけたり、再びイェーイで合唱したりと、住職が見つけたらマジ切れして小一時間問い詰めてきそうな、それはそれはワイルドで無礼極まりなく、命知らずな焼香をやってのけた。ちなみにこの時点で神父はほぼ気絶している。

 

『こんな感じでいいかな?』

 

『お前は一体ソルトの何を見てたんだー!誰が神父の頭にバッチリ叩き込んでこいって言ったよ!?』

 

『ずっと座ってたから足がしびれちゃって……』

 

『足関係ねーだろ、痺れてんのお前の頭!!』

 

 勿論こんな無茶苦茶が元女神に認められるはずもなく、ソラとローリエは元女神の機嫌の悪化をいち早く感じとっていた。

 

『やばいよ……ユニ様の機嫌がみるみる……!

 早く葬儀を立て直そう!ソルトのフローチャートに作業を一つ加えます! 遺族と僧侶に一礼、その後に僧侶の蘇生! そして焼香です!』

 

『じゃあ、次はあたしが行くよ』

 

『カルダモン!? 大丈夫なの? 信じていいのよね!?』

 

『大丈夫大丈夫ー』

 

 

「シュガーがアレだったから、次のカルダモンでどうにか元女神の機嫌を挽回してほしいところだった。でもまぁ、無事焼香を終え元女神の機嫌が回復した、なんてことにはならなかった。それどころか……」

 

 

『遺族を一礼で坊主。』

 

 

「カルダモンは流れに乗った。シュガーが大分暴れても誰も止めなかったから、そういうノリなんだと思ったのかは知らないが、カルダモンは焼香台の前に行く前に、最前列に座っていた男のカツラを、礼をしながらもぎ取ったんだ。」

 

 

『そこから間違ってるぅ!!

 一歩も前に進めてないよカルダモン! 焼香はもういいから、神父さんだけ蘇生させてきて!』

 

 そのソラの指示を聞いたカルダモンは、言われた通りに焼香台に頭を突っ込んで気絶している神父に近づいて、もぎ取ったカツラを神父のツルピカな頭に帽子代わりに乗っけた。

 

『何を蘇生させてるの!? 蘇生させてって毛根のことじゃないよ!

 何も変わってないでしょ神父さんの頭にカツラ乗っかっただけじゃないの!?』

 

『ううん。神父さん、心なしか表情が穏やかになってた。』

 

『いいことあって良かったですね、神父さん……なんて言えないよ!?』

 

 ソラの言うとおりである。シュガーは滅茶滅茶な焼香をやり、カルダモンは遺族からカツラを奪い気絶した神父に乗せる。二人ともまともな焼香をしていないのである。元女神の怒りが増すのは必然だった。

 

『おいィィィィ! 元女神、もうご立腹だよ!

 伝説の(スーパー)サ○ヤ人みたいになってるよーー!?』

 

『もう神父さんの蘇生を最優先にしましょう!』

 

 ここでソラは一刻も元女神の怒りを抑えるために、葬儀を立て直しつつ焼香をやるという流れから、葬儀の立て直しに全力を注ぐ作戦に舵をきった。

 

『ちょっと待て! 遺体が一つ増えてるぞ! 遺族だ!』

 

『なんでカツラ取られただけで死んでるの!? メンタル弱すぎない!?

 というかなんで全員ガン無視!? カツラに気づいてないフリしてるの? それが優しさなの!?』

 

 だがローリエが事態の悪化を見つけ、報告すると、確かにカツラを取られた遺族の一人が確かに倒れていた。ソラは誰もこの事態に疑問を示さないことに疑問を投じる。

 そこでこの悪化した状況を食い止めるべく立ち上がった者がひとり。

 

『仕方あるまい。なら、神父と遺族の蘇生、そして神父と遺族に謝罪及び一礼に変更だな。

 このままではユニ様の葬儀がめちゃくちゃだ。私が責任を取って、必ず全て立て直してくる。』

 

 そう、アルシーヴである。

 

 

「アルシーヴちゃんが立て直すというのだ。きららファンタジアでもソラちゃんが一番信頼を寄せるあのアルシーヴがだ。今度ばかりは大丈夫だろうと思っていた。」

 

 

『まずは僧侶の蘇生…!

 

 あなたはここで呪文を詠んでいて下さい』

 

 アルシーヴが助け起こし、神父の立ち位置に立たせたのは………先程カルダモンにカツラを取られた遺族だった。

 

『それハゲてるけど遺族ーー!!』

 

 

『そして遺族の蘇生…!

 

 ご迷惑をおかけして申し訳ありません……!』

 

 アルシーヴは、遺族が座っていた席に…………先程カルダモンが取ったカツラをそっと置いた。

 

『それ遺族の遺族ーー!!』

 

 

「こればっかりは俺も予想できなかった。というか予想できるか、気絶していた神父の頭を木魚代わりに遺族に差し出すアルシーヴちゃんなんて。後になって本人に問いただしてみたんだが、『シュガーやカルダモンのパスに応じただけだ』と言っていた。ハハハ、ほんとウケる話だろ? でも個人的には全く笑えなかったけどな」

 

 

『いい加減にしろよゴラァーーーッ! どんどん状況が悪化してってんだろーが!!』

 

『というかなんであの遺族は言われるがまま神父やってるの……?』

 

『どうもショックで一時的に記憶喪失らしくてな』

 

『喪失したのは髪の毛だけじゃないの!?』

 

 アルシーヴによる葬儀の立て直しが余計酷い方向へいったことを悟ったソラとローリエは、悪化した焼香台前をみてただただ混乱していた。ただし、悪化したのは焼香台前の状況だけではない。

 

『オイィィィィィ!! 元女神(女王様)がもうカンカンだーー! 元○玉ぶちかましそうな勢いだよーーー!!?』

 

 一連の行いのすべてを見ていた元女神の幽霊もまた、怒りなのか恨みなのか、雰囲気は最悪と言っていいものになっていた。タバコを四本加え、稲妻をまとった黄金のオーラに身を包んだ元女神は、両手を天にかかげ、何かの力を貯めている。これ以上失礼な行いをしたら、両手がローリエ達に振り下ろされるのは明白だ。

 

『もう知らねー! 人の気もしらねーで勝手にやりやがって……!』

 

『な、ローリエ!? どこ行くつもりなの!』

 

 最早、ローリエもソラもこの状況を好転させることは諦めきっていた。アルシーヴでさえあんなボケをかましたのに、他の人たちに焼香の順番を回したらどうなるかなど、創造に難くない。

 

 

 

「そうして俺とソラちゃんが教会から逃げようとしたときだ。アルシーヴが引き留めようとしたんだが、『何をしている!まだ葬儀中………』と言いかけて、そのまま崩れ落ちるように白目を向いて倒れたよ。何が起こったのか分からなくて、二人でゆっくりと元女神の方を見たんだ。

 ……握ってたよね。バッチリと、アルシーヴちゃんの魂を。○気玉でくると思ったら人魂取りやがったから驚きだ。

 その後どうなったかって? それまで静かにしていたデトリアさんが『退避!ここに不可視の亡霊が現れた!』っつって皆を避難させてたぜ。アルシーヴちゃんも、心肺蘇生を繰り返してたら避難の数分後に目を覚ましたよ。 ……なにはともあれ、災難な葬儀だった。

 

 ……え? 女神継承の儀の時のソラちゃん?

 ああ、元女神の葬儀の話に夢中になってすっかり忘れてたよ。

 そうだなぁ、いつもと変わらなかったな。

 ………いつもと変わらず、美しかったよ。」

 

 どんな姿でも大切なモンは変わらねぇよ、と最後にローリエは口に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
今回はアルシーヴへ相談を持ち掛けたり、女神継承の儀をすっぽかそうとしたり、『バキ』的な語り部を担当したり、元女神の葬儀で見事なツッコミ役を披露したりと幅広く頑張ってもらった。アルシーヴへの謝罪の裏にどんな思いがあったのか…そんなの知らなくて大丈夫です。

アルシーヴ
新人筆頭神官。身長的には他の女性賢者たちやソラと比べて少し高めだが、ローリエよりは少し小さい、といったところだろうか。元女神の葬儀中にやったお茶目なボケの部分は、アニメ『銀魂』231話で近藤さんがやったボケをアルシーヴの元のキャラを出来るだけ崩さないように注意してミックスした産物。ところで、アルシーヴをデザインしたきゆづき先生は、「男装の麗人」をイメージしたそうなのだが、拙作のアルシーヴはヒロイン街道のド真ん中を突き進んでいるように感じるのは作者の気のせいだろうか?

ソラ
話の都合により、女神継承の儀を軽くキンクリされちゃった可哀そうな女神。代わりに、ローリエを筆頭とした賢者達のツッコミ役という重要ポストに就けた。出番が増えるよ、やったね!おいやめろ

コリアンダー&フェンネル
ローリエの怪奇体験を全く信じなかった人たち。作者自身、葬式には数えるほどしか行っていないため、『葬式でテンション上げている人』なんて想像もつかないわけだが。

ソルト&シュガー&カルダモン
焼香で見事な抹香さばき(?)を見せた子と夜兎族流の焼香をやってのけた子とサド王子風の立て直し()をした子。元ネタはアニメ『銀魂』231話の新八&神楽&沖田。

デトリア
拙作オリジナルキャラ。アルシーヴが筆頭神官に就く前に筆頭神官をしていた、今にも折れそうなおばあちゃん。
ローリエやソラ、アルシーヴが生まれる前から長年筆頭神官をしており、数人の女神に仕えていた。誰にでも笑顔で丁寧に対応する温和な性格もあって、神殿内での力や信頼は根強く残っている。
腰が曲がり、よぼよぼである為、すれ違う度に身体の心配をされている。

元女神
拙作オリジナルキャラ。ソラの前任の女神にして、今回の葬儀騒動の犯人。一応、「ユニ」という名前があるが、ローリエ目線がメインの為、今回はこの名称を使用。
生前は優しくて人当たりが良く、流されやすい性格だったが、幽霊になったことでクラブのドS女王と化した。この元ネタはアニメ『銀魂』231話の定食屋の親父。

「俺はディーノさんみたいなMじゃないので~」
ディーノさんとは、『ブレンド・S』の登場人物にして喫茶店スティーレの店長のことである。単行本を読んだり、アニメを見れば分かると思うが、明らかにMだと思われる描写が幾度とある。

エトワリアの葬儀
アニメ『銀魂』のネタをやりたくて、洋風な世界観のきららファンタジアと混ぜた結果、神父にお経に焼香と、かなり滅茶苦茶なものが誕生した。でも、日本発祥のきららファンタジアは、制作陣が日本人メインである以上、価値観や死生観がどうしても日本風であったり、「日本人から見た海外」のイメージが生まれるため、あながち間違っていないのかもしれない。



△▼△▼△▼
ローリエ「俺はこの後の展開を知っている。ソラちゃんが襲われる日が……来る。 全てを知っている者の責任とまでは言わないけど……女の子の危機を黙って見過ごす男じゃないのよ、俺は。」

次回、『運命の夜 その①』
ローリエ「絶対見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽



あとがき

とうとうきらファン初期作品の作者によるオリジナルストーリーが公開される運びとなりましたね!知られざる賢者やアルシーヴ、ソラの設定が飛び出そうで期待の反面、マイ設定との矛盾が出てきそうで相変わらずビクビクしとりますww
ともかくまずは全裸待機ですね!


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エピソード2:この世界でも、笑顔を~元凶大捜査線編~
第9話:運命の夜 その①


“もし俺がもう少し容赦がなかったとしたら、アルシーヴの心に影を落とすこともなかっただろうに、何をしてたんだってこれほど俺自身を責めた時はなかったよ。”
  …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
    第2章より抜粋


 ソラ様の女神就任と、ユニ様の急逝から、あっという間に三年が経った。この三年間、私達は会う機会がぐっと減ってしまった。

 

 ソラ様は、異世界の観察及び聖典の編集を司る女神に。

 

 ローリエは、新たな技術の開発者及び魔法工学の教師に。

 

 そして私は、エトワリアの行政とクリエメイトの研究に勤しむ筆頭神官に。

 

 みんな、大人としてエトワリアを支える者となった以上、私情だけで動けなくなったのだ。

 ソラ様には、聖典関連のお話で。ローリエとは、新人神官や女神候補生の教育の場にて。全く会わないという訳ではないが、子供の頃のように、三人一緒に何かをする、ということはもうなくなってしまった。

 

 

 

「さて、これらの鉱石が採れる場所だが……」

 

 教室から、ローリエの声が聞こえてくる。あいつも三年で、だいぶ教師として成長した。最初の方は生徒が興味を持つ授業展開について何度も私に相談してきたものだ。それが今では、若手の人気教師の一人だ。

 ……時折してくる、聖典学のテストの問題追加やテストの制作のイタズラ、そして私(被害者は私だけではないらしいが…)へのセクハラは健在だが。

 あいつは、私以上ではないかと思うくらい、聖典学の知識に富んでいる所がある。この前女神候補生に出そうとした課題も、穴を見つけたのはローリエだ。一度彼に、聖典学の教師に興味はないかと尋ねたのだが、「これ以上オーバーワークして過労死してたまるか」と一蹴されてしまった。

 

 そしてセクハラについては言うまでもない。あいつは、私を筆頭に様々な女性に声をかけてはナンパしているらしい。ローリエが女好きになり始めたのが神殿に入った頃だったが、年々酷くなっている気がする。しかも、職務はしっかり遂行する上に常に予想以上の出来だからこそ(タチ)が悪い。衛兵に突き出して逮捕させることも何度も考えたが、八賢者に選んでしまった以上、筆頭神官の名誉やソラ様に泥を塗るわけにはいかない上、技術者としても教師としても優秀なため、そう簡単に手放す訳にもいかないのだ。

 

 

「アルシーヴ?」

 

「! 何でしょう、ソラ様?」

 

「またムズかしい顔してる。」

 

「……ローリエのセクハラの件でちょっと。」

 

「あはは。確かに、盛んだものね。」

 

 ソラ様が困ったように笑いながら、まったくフォローになってないフォローをする。

 

「でも、私には手を出したことないわよ、ローリエは。」

 

「もし出してたら問答無用で衛兵に突き出してますよ」

 

「手厳しいね」

 

「ソラ様が寛容すぎるのでは」

 

 ローリエは、手を出す人も選んでいることが、タチの悪さに拍車をかけている。シュガーやソルトには兄のように健全な接し方をしており……ソラ様については…やはり、あの件があるからなのか、やらしい気配を見せない。

 

 やり慣れた仕事で疲れが出るはずもないのに、ため息が出てくる。

 

「アレさえなければなぁ……」

 

「そんなに疲れているなら休憩にしましょう?」

 

 苦笑いしながら、ソラ様がそんなことを私に提案してくる。まだやるべきことがあるし、休むほど疲れていないのでそれに乗る必要はないはずなのだが、今日ばっかりはお言葉に甘えるとしよう。今日はローリエに胸を二度ほど揉まれたせいか、あいつについて頭を悩ませすぎた。ここで休まなければ、確実に後で支障をきたす。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 そうしてソラ様の言葉のままに休憩をとるつもりでいたのだが、夕食や風呂も一緒にしましょとソラ様にねだられ、断ってもついて回ってくるため、ずるずると風呂にまで入ってしまった。

 

 しかし、ああもついてこられると幼少期を思い出す。

 まだソラ様と私が女神候補生と神官に分けられる前、ローリエと三人で遊んだ頃の記憶。都市の隅々まで冒険し、イタズラを敢行したり、追いかけ回されたり、三人でしこたま怒られたり………アレ。

 

 

「酷い目に遭ったの、大体ローリエのせいなんじゃ……」

 

「ふふっ、そんなこと考えてたの?」

 

 ソラ様が私の隣で湯に浸かりながら笑う。思えば、ローリエが真珠で作った謎の男の裸像も、弁償と称して私が買い取ることになった記憶がある。不正商人の摘発の手伝いの際も、怪我こそなかったものの、商人のボディーガードに三人揃って殴られかけたし、噴水を宝石で飾った時も、翌日はソラ様、ローリエともに風邪でぶっ倒れた結果、噴水の後片付けは私一人でやった。

 ……なんというか、イタズラの代償を割を大体食わされてた気がする。

 

 

「でもさ、昔をゆっくり振り返る時間も、必要だと思うの。働きづめじゃ、倒れちゃうわ」

 

「それもそうですね」

 

 ソラ様の言うことにも一里ある、と言おうとしたところで、セサミが私のもう片方の隣のスペースに腰を下ろしながら言った。周りを見ればカルダモンやハッカ、ジンジャーやフェンネルもいる。

 

「セサミ?」

 

「アルシーヴ様、筆頭神官についてからというもの、働きづめではありませんか。定期的な休みも返上して、マトモな休みを取らないで。」

 

「変なことを言うなセサミ、私だって少しは休んでいる!」

 

「筆頭神官の仕事の合間に女神候補生の課題を作るのを休むとは言いませんよ、一般的には」

 

「くっ……!」

 

「もー、仕方ないわね、アルシーヴは」

 

 

 あはは、とソラ様の笑い声が木霊すると、それにつられるかのようにセサミも笑顔になり、私も余計なことは言えなくなっていた。ソラ様からしばらく休みを貰うことを渋々承諾した時。

 

「………。」

 

今までずっと黙っていたハッカが風呂桶を持って、集中したかと思うと、

 

「変態の気配察知……そこっ!」

 

 手にしていた風呂桶を、風呂の壁の上の方へ投げた。

 

 ハッカの手から離れた風呂桶は、綺麗な放物線を描き、壁の一番上……つまり、男湯と女湯を分ける境界のあたりで…

 

「ぶごっ!?」

 

 何かにぶつかり、いい木の音を立てた。その後、壁の向こうから、どっぱーんと水しぶきの音がしたことで確信した。ハッカが奴をどうやって察知したかは謎だが、とにかく賢者と筆頭神官を覗こうとする命知らずはアイツしかいない。

 

 

「ローリエ! また貴様か!!」

 

『うぅ、湯気でよぐ見"え"な"がっだ……

 あのディフェンスに定評のあるクソ湯気め、地獄に落ちろってんだ……!』

 

 

 悪いが、地獄に落ちるのはお前だ。そう思いながらハッカにハンドシグナルで次の覗きの撃退準備を指示していると、フェンネルが私の心の中を読み取ったかのように「地獄に落ちるのは貴様だ」と語りかけている。

 

「これ以上やったら衛兵に突き出しますよ!」

 

『衛兵と地獄が怖くて男がやれるか!!』

 

 ………。

 

 馬鹿だ。馬鹿がいる。この男湯と女湯を隔てた壁の向こう側に馬鹿がいる。

 ……残念だ。ソラ様の経験談と昔のよしみでローリエが更正する可能性に賭けていたがここまで堕ちるとは。仕事はできる奴だが仕方ない。私自身、見る目がなかったと自覚せざるを得ないな。こうなったら、私自身の手で引導を渡してやるしかない。

 

「ハッカ、そのハンマーを渡してくれ。私が奴を殺る」

 

「承知」

 

 ハッカから受け取った、柄の異様に長い、ヘッドの面に「のぞくな!」と達筆で書かれたハンマーは、見た目の割に軽く、ハッカでも自由に扱えることが伺える。

 

 私はこのハンマーをふりかぶり、そして……

 

「ハッ!」

 

 思い切り壁の方向へ振り下ろした。軽くしなったハンマーのヘッドは、壁の少し上へ向かっていくと、

 

『ドギャス!!!?』

 

 私の両手に手応えを伝えた。間違いなくクリーンヒットだろう。奴が湯船に撃沈する音も聞こえた所で、ハンマーをハッカに返し、心が冷え切った浴場から一足先に失礼することにした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 風呂から上がると、すっかり夜の帳は降りていて、いつもは神殿の窓から見えている月や星々も今日は見えない。明日はきっと晴れないだろうなと思いながら、ラストペースで残った職務をやってしまおうと書斎に向かうと、いつの間にかハッカが側にいた。彼女の助力もあってか仕事の残りは三時間ほどで片付いた。そうして一息ついていると、ドアが開く音がする。音の元を目で辿ると、そこにはソラ様がいた。

 

 

「ああ、よかった。

 アルシーヴ、まだ起きていたのね。」

 

「先ほど今日の職務を終えたところです。どうかされましたか?」

 

「ええ、少し話したいことがあるの。」

 

「分かりました。

 ハッカ、少し下がっていてくれ。」

 

 

 静かに頷き、転移魔法で席を外すハッカを見送ってからソラ様に向き直る。

 

 

「それでお話とはなんでしょうか?

 こんな時間に珍しいですね。」

 

「私もさっきまで聖典の記述をしてたの。」

 

「尚更珍しいですね。いつもはあんなにも楽しそうに早く終えているではないですか。」

 

「何だか胸騒ぎがして……どうしても観測に集中できなかったの。」

 

「なるほど……お話とはその胸騒ぎの事ですか。」

 

「えぇ。

 何か、嫌な気配がしたの。ローリエからもそう言われたし。」

 

「ローリエが?」

 

「うん。彼、昔から勘が鋭かったでしょ?」

 

 確かに。あいつは、幼い時から妙に勘が良く、世渡りが上手かった。今になって思えば本当に子どもかと疑うほどだが。きっと、私に負けないほどに幅広い勉強をしたのだろう。そうでなければデトリア様から教師なんて頼まれない。

 

「そうでしたね。しかし、私は何も感じませんでした。ですが、ソラ様の仰ることですから……そうですね、ローリエや貴女の他に何か気づいた者がいないか私から聞いてみましょう。」

 

「そうね、お願いするわ。

 杞憂ならいいのだけど――――――っ!?」

 

「どうしました?」

 

「今、そこに同じ気配が――――」

 

 

「…………。」

 

 

 ソラ様の言葉のままに部屋の入口のほうへ視線を動かすと、そこには、何者かが立っていた。

 顔は見えない。フード付きの黒いローブを顔はもちろん全身を隠すようにまとっていた。私がソラ様を庇うように杖を構えてみても、ただ静かに佇んでいるだけに見える。

 

 

「……貴様、何者だ。

 ここをどこだと心得る。」

 

 

 はち切れそうな緊張の中、そう警告をしてみても、不気味な気配が消えることはない。

 

 

「……見つけた。」

 

「えっ……」

 

 

 奴はそう言うと、ローブの中から小さな杖のようなもので、何かを呟いた。

 

 その瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バァン!

 

「がっ!!?」

 

 

 

 かつて聞いたことのある、小さな爆発音とともに、目の前のローブ姿が大きくぐらついた。

 

「アルシーヴ!! 今すぐ、そのローブ野郎を殺せ!!」

 

 何が起こったのか把握しかねていると、膝をついた、ローブの人物の後ろから、エメラルドグリーンの髪をした、見知った顔であるローリエが、切羽詰まった表情でそう叫びながら駆け込んできた。

 

 

「ローリエ!? どういうことだ!?」

 

「詳しくは後だ、早くそいつを殺せ!!」

 

「お前な……!」

 

 

 ローリエはいきなり殺せと言ってきたが、訳が分からなかった。いつもはセクハラの鬼であっても間抜けな雰囲気を醸し出しているローリエが、今回は異様な雰囲気を身にまとっていた。焦燥と執念、そして目の前の、両膝をついてうめき声をあげているローブの人物に対する憎悪と殺意。それらは、風呂で覗きを敢行した馬鹿と同一人物とは到底思えない。そんな状態でいきなり「殺せ」と言われても理解できる筈がない。

 

 

「……仕方ない!」

 

「待て、ローリエ! せめて理由を聞かせろ!」

 

 

 混乱していてトドメを刺さない私に痺れを切らしたのか、ローリエが手に持ったケンジュウとかいった武器をローブの人物に向けた。それを見て、いつまでも混乱したままではまずいと思い、ローリエを少し引き留めた。

 

 

「……コイツは呪術師(カースメーカー)。ソラちゃんに呪いをかけるつもりだ!」

 

「ローリエ、まだ殺すな! 色々聞きたいことがある!」

 

 

 ローリエの情報網については謎だが、今は目の前のローブの人物の対処が優先だ。いまだに落ち着いているとは言えないが、今の指示はこれで大丈夫なはずだ。

 

 ケンジュウから再び火と爆発が吹きだした。こんどは奴の両腕から鮮血が噴き出る。ソラ様には少々ショッキングなのでとっさに目を隠した。

 

 

「や…っと、…見…けた……んだ……! めがみ、を……!」

 

「『見つけた』はこっちの台詞だ、この不審者が!!」

 

 

 ローブの人物が息も絶え絶えに口にした言葉で、ローリエの言う通りソラ様が狙いであることを確信し、ソラ様を背中で庇う。

 床を汚していく血を気にもとめずに、ローブの人物は呪いの呪文であろう言葉を紡いでいく。

 だが、それをローブの人物の殺害にこだわるローリエが黙って見ているわけもなく、詠唱中の無防備な胴体に一発、二発、三発とケンジュウに火を吹かせた。その度に奴の体から鮮血が溢れ、鉄の臭いが激しくなり床を汚すペースが早くなったが、それでも奴は詠唱をやめない。

 

 

「っ……うっ!!

 ぐっ………かはっ…………!」

 

「「ソラ様(ちゃん)!!?」」

 

 

 そして、ついに詠唱が完成してしまった。

 私たちが膝をつき苦しみ始めたソラ様に目を奪われた隙に、奴の己の体を引きずるように部屋を出た音がした。

 

 

「ローリエ! ハッカ! 奴の後を追え!」

 

「了解!」

 

「承知!」

 

 

 逃げられる、と思いそしてすぐさま放った私の命令で、ローリエとハッカもそれに続いた。

 

 その間に私は、膝をついたソラ様を助け起こす。

 

 

「ソラ様!

 大丈夫ですか、ソラ様!」

 

「はぁ……はぁ………アルシーヴ、今の者は……」

 

「ローリエとハッカが追っています。それよりもソラ様、これは一体―――」

 

「これは、恐ろしい呪いだわ……全身から少しずつクリエが奪われていく……」

 

「な……! い、今すぐに解呪を!」

 

 クリエがなくなるということは、即ち生命がなくなること。女神であるソラがそんな呪いにかけられたと分かり、解呪を試みるが、焦っていたせいか、それとも解呪方法が間違っていたせいか、逆に私が吹き飛ばされる。

 

 

「くっ!」

 

「アルシーヴ!」

 

「私は大丈夫です、ソラ様。」

 

「これはただの呪いではないようね。しかし、これほど強烈な呪いは見たことがないわ。」

 

「……申し訳ありません、この呪いの正体、私にも見当がつきません。」

 

「いいえ、謝る必要なんてないわ。筆頭神官である貴方も知らない強力な呪い……ローリエがいなかったらと思うと……」

 

 考えたくないことだ。クリエが失われていくペースが、ローリエに攻撃されまくっていたあの状態での詠唱でさえ少しずつ減っていくのが分かる呪い。邪魔されずに放たれたらどうなるかなど想像したくはない。

 

 

「………アルシーヴ

 

 ―――――――今すぐ私を封印してちょうだい。」

 

 

 …っな!!?

 

「早計な!

 何をおっしゃいますか!貴方がいるから、民はクリエを得て、日々を過ごすことができるのです!

 貴方がいなくなってしまったら、民たちは……」

 

「落ち着いて、アルシーヴ。」

 

 

 ソラの両手が、私の肩をしっかりと持ち、ソラの目は私の目をまっすぐ見ている。

 そして私が息を整えるのを確認するとゆっくりと言い聞かせるように話し出した。

 

 

「私が一時の眠りについたとしても、エトワリアはすぐに乱れてしまう訳じゃないわ。だって、これまでの聖典があるもの。

 むしろ、このままでは私は取り殺されてしまう……

 だから、呪いごと私を封印してほしいの。そうすれば、呪いの進行を食い止めることができるはず……」

 

「しかし……!」

 

「私は、貴方を信じている。そして、この場で頼れるのはアルシーヴしかいない。

 だから……もう一度言うわ。」

 

 

 

「アルシーヴ、私を封印しなさい。」

 

 

 

 その命令は、私の頭をがつんと叩きつけた。女神を封印するなど、本来あってはならない。世界の核である彼女の封印は、世界を滅ぼすことに等しいからだ。だが、このままではソラの死が避けられないのは事実。

 だが、ソラの判断基準はもう既に分かりきっている。伊達に幼馴染だった訳じゃない。

 

 

「ソラ様、それが本当に正しい判断だとおっしゃるのですか?」

 

 

 ソラの判断基準はいつでも「みんなの為」。ソラは、どんな状況でも周りを第一に考えられる女性(ひと)だ。「私を封印して」という常識はずれなワガママも、きっと、先を見据えて()()()()言っているのだろう。

 だから、この質問は覚悟の確認だ。

 

 

「……ええ。

 アルシーヴは何があっても私を支えてくれた。おかげで私は正しい道を歩むことができたの……女神として、民を幸せに導くために。

 だから、アルシーヴ……もう少しだけ私のワガママを聞いてくれる?」

 

「そう言うのは何度目か、ソラは覚えているのか?

 ………私は覚えているぞ。」

 

「ごめんね。

 でも、誰よりも聡いアルシーヴなら、この判断の意味がわかるでしょう?

 アルシーヴ。あなたが今、為すべきことは――――」

 

 ああ、そうだった。

 

 ソラはワガママを言い出すと、絶対に頑固になるのを忘れてた。

 なら私も、腹を括るしかない。

 

 ソラ…私は、ソラを………!

 

 

 

 

「必ず、救ってみせる。」

 

 

 

 

 

 

 そうして、私は、震えるこの手で……親友(ソラ)を……封印した。

 

 

 

「ありがとう、アルシーヴ。」

 

 

 

 涙でぼやけた視界には、女神(ソラ)が満面の笑みで映っていた。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
『きららファンタジア』の発端となるソラの呪殺未遂事件をなかったことにしようと頑張った主人公。でもここでローリエがローブ野郎を倒した結果、ソラちゃんがピンピンだったら、よかったねよかったねってなってマジで連載が終わってしまうので、作者の都合で少し辛酸を舐めることとなった男。なんでローブ野郎を真っ先に殺ろうと思ったのかは次回にて詳細を語らせていただきたく。


アルシーヴ&ソラ
原作と同じように封印する&される結果となった百合CP。
幼馴染設定をいかし、最後封印する直前のやりとりがちょっと慣れあってる感じにした。その結果、ローリエがお邪魔虫だったんじゃないかってくらいの百合度が完成したんだが、その道のプロは自分の描写で満足して頂けただろうか?


セサミ&カルダモン&ハッカ&ジンジャー
ローリエの覗き被害に遭ってた方々の会。ハッカはいざという時のローリエは頼れると見直したようだが、彼女以外は今回の出来事はまったく知らないので、好感度は低め。でもカルダモンはローリエの発明品に興味津々だろうし、ジンジャーもなんだかんだ言ってローリエの特訓を見てくれる。


ローブ野郎
外伝がリリースされた今でも正体が謎に包まれている、ソラ襲撃犯の呪術師(カースメーカー)。この作品内では、全てを知っていたローリエに不意を突かれ、銃撃されまくり大怪我を負うことに。まぁ、悪い事してるし因果応報ということで。なお、この作品に出てくるローブ野郎の正体は、作者自身がメインストーリーを元に考えた妄想の産物になるとあらかじめ言っておきます。
カースメーカーの呼び方の元ネタは『世界樹の迷宮』シリーズの後衛職の名前から。命を削る呪言こそないが、「力祓い」と「軟身」は重宝する。



△▼△▼△▼
アルシーヴ「ローリエ……お前は一体、何を思ってあんなことを言ったんだ……? 私の知っているお前は、フェンネルを助けた時みたいな、優しさがあったはずなのに……」

次回「運命の夜 その②」
アルシーヴ「今はそんなことより、ソラ…の事について早く手を打たねば……!」
▲▽▲▽▲▽



あとがき
「三者三葉」が実装されて、「三者三葉」の作者が「みでし」も描いていたことがきらら関連での最近の驚きです。
ろーりえ「みでしも『きららっぽいファンタジア』か何かでエトワリアにくればいいのにー、メイ〇ラゴンやとな〇の吸〇鬼さんも連れて」
くれあ「が、がんばってみます!」
きらら「やめて!」



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第10話:運命の夜 その②

UAが、ついに1000を突破しました!
まだまだこれからです。使いたいネタがまだ山ほどある「きらファン八賢者」をよろしくお願いします!



“まだ小さかったわたしは、ベッドの中でただふるえながら、このときアルシーヴのへやで見たものをおもい出さないようにすることしかできなかった。”
  …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


 この世界が「きららファンタジア」である以上、確実に起こる事件が一つある。そう、ソラちゃん呪殺未遂事件だ。

 本家(アプリ)では、アルシーヴ共々手遅れ寸前のところでランプが書いた日記帳(聖典)によって救われる――

――いい物語(はなし)だ。……そう、()()である。

 

 終わり良ければ全て良しとはよく言ったものではあるが、そこまでのきららとランプの旅路は過酷そのものである。一歩間違えたらソラもアルシーヴも助からない。

 ソラとアルシーヴの未来を確実に明るいものにするため、俺は生まれた時から色々と策を巡らせていた。

 

 ハッカ以外の賢者に伝える?

 駄目だ、信じて貰えない可能性がある。

 

 ランプに「ソラを救えるのは君だ」と伝える?

 これも駄目。ランプの聖典は、きららとクリエメイトとの旅の日々を日記帳に書いた結果、()()できたものだ。それを知らせるのはかなり無理があるし、偶然の要素に手を加えるのは絶対マズい。

 

 そもそも、「ソラが呪いをかけられた」事には箝口令が敷かれる。誰かに言ったらアルシーヴに折檻されるし、現場にいなかった奴が呪いのことを知っていたら真っ先に疑われる。

 

 

 そんな感じでずーっと考えた結果、既にひとつの答えを導き出していた。

 あのローブ野郎を撃退すれば、アルシーヴがオーダーを使用する事態を防げるのでは? と。仮にあの事件で犯人を撃退及び捕縛できれば、ランプが旅に出ることもなくなるが、女神ソラの安泰はより確実なものとなる。

 

 

 ソラが女神になった日から、魔法工学を教える傍らで、神殿のあらゆる所に監視カメラと録音機を仕掛け、ソラとアルシーヴの()()()()を聞き逃さないようにした。……そこ、事案とか言わない。こっちは真剣なんだぞ。

 三年間も不発で、諦めかけた朝にソラから「何か怪しい気配がしない?」と話を振られた時は内心穏やかじゃあなかった。今夜あたりにあの事件が起こるだろうと確信した俺は「何か察知したら、信頼できる人の元へ逃げた方がいい」と聞かせ、戦闘準備の最終チェックを行った。

 

 

 そして、その日は来た。アルシーヴとソラのあの会話が録音機から聞こえた瞬間、「パイソン」と予備の弾丸を手にアルシーヴの部屋まで駆け付けた。着いた時に見たものは、アルシーヴの部屋から漏れ出た光に微かに照らされた、ローブ野郎の後ろ姿だった。ソレを見た俺は何の躊躇いもなく発砲。ついにあのローブ野郎に、鉛玉をブチ込むことに成功した。

 

 

「アルシーヴ!! 今すぐ、そのローブ野郎を殺せ!!」

 

「ローリエ!? どういうことだ!?」

 

「詳しくは後だ、早くそいつを殺せ!!」

 

 

 ただ、この時俺は「アルシーヴちゃんとソラちゃんの百合を引き裂こうとするモブ野郎はゆ"る"さ"ん"んんんん!」の精神が強すぎたせいか、よりにもよってアルシーヴちゃんに「殺せ!」と指示してしまった。これが彼女の混乱を招いたのだ。もう少し慎重に言葉を選んでいたら、事件を完全に防げたのかもしれない。

 

 

「……仕方ない!」

 

「待て、ローリエ! せめて理由を聞かせろ!」

 

「……コイツは呪術師(カースメーカー)。ソラちゃんに呪いをかけるつもりだ!」

 

 

 混乱していたアルシーヴちゃんをよそに真っ先にローブ野郎を倒そうとしたのも、俺自身が焦っていたためと言わざるを得ない。

 何故なら、下手人は、本家では「見つけた」と呟いた途端にソラちゃんに呪いをかけたことから、ソラちゃんの暗殺だけを目的とした呪術のプロの可能性が高いからだ。本来ならば、不意打ちで自分がどうやって攻撃されたかも分からぬ内に殺すつもりでいた。拳銃の仕組みは俺以外は知らない。アドバンテージは十分にあった。

 

 

 だが、何よりも想定外だったのが、銃弾を六発――背中に一発、両腕を一発ずつ、そして正面から胴体に三発―――を撃ち込まれたというのに、倒れるどころか詠唱をやめることもなかったローブ野郎の根性だ。急所を外したなんてことはやってない。普通弾丸を六発も貰ったら出血多量かショックで死ぬ。少なくとも集中して呪いをかけることなんてできない筈だった。

 

「や…っと、…見…けた……んだ……! めがみ、を……!」

 

「っ……うっ!!

 ぐっ………かはっ…………!」

 

「「ソラ様(ちゃん)!!?」」

 

 

 しかしそれを、あのローブ野郎は、ソラちゃんに呪いをかけるまで両足で立ち続け、しかも現場から逃げ出すことまでやってのけた。

 

 

「ローリエ! ハッカ! 奴の後を追え!」

 

「了解!」

 

「承知!」

 

 

 俺は弾をリロードしながら、ハッカとともに瀕死のローブ野郎を追うべく、赤黒い点々が続く廊下へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「……ハッカちゃん、ここから血が途切れている。」

 

「……謎。」

 

 

 ローブ野郎の追跡開始から数分。俺達二人は奴が現れたアルシーヴの部屋から血の跡を追いかけていった訳だが、神殿の出入り口から出て数歩のところでぱったりと消えている。まるでそこから一歩で別の所へワープしたかのようだ。真っ暗な中、二人で血の垂れた跡を探してみたが、他に変な痕跡は見つからなかった。つまり……

 

 

「転移魔法で逃げられたか……?」

 

「恐らく。」

 

 

 クソッ!なんてことだ。何をしていたんだ俺は。ソラちゃんとアルシーヴちゃんを守ると決めたくせに、何だこの体たらくは。原作と何も変わってないじゃないか。

 

 ―――あの日から、何も変わってないじゃないか。

 

 ローブ野郎への、何より――俺自身への怒りは内に抑えきれるものではなかったらしく、つい俺は神殿の柱に拳を叩き込む形で八つ当たりをしてしまっていた。

 

「ローリエ、落ち着いて。」

 

「これが落ち着いてられ………!」

 

 ハッカちゃんの言葉に向き直り落ち着けるかと言おうと思ったが、彼女のあまり動かない表情から、かつての怯えた表情を思い出し、俺の怒りにブレーキがかかった。ここで感情に呑まれる訳にはいかない。そう思うと怒りが自然と治まってきた。

 

「……わかった。」

 

 でも、銃弾を食らいまくったあのローブ野郎に、転移をするほどの余裕があったとは思えない。きっと、誰か別の人間の助けがあったのだろう。そいつが神殿の外でローブ野郎と合流し、すぐさま転移魔法で大怪我をしたローブ野郎とともにトンズラしたに違いない。「しかし、どうして奴はソラちゃんを狙ったのか……この段階でも分からん。情報がなさ過ぎるな……」

 

 

「ローリエ?」

 

「ふぉっ!!? な、なに?」

 

「静かに。アルシーヴ様へ報告。」

 

 

 ハッカちゃんは見失ってしまった以上アルシーヴちゃんの元へ戻って報告するのが先だと言葉少なめに促す。

 …確かに今日はもう遅い。これ以上は日を改めて調査する必要がありそうだ。

 あと、思ったことを口に出しやすいこともハッカちゃんから指摘された。……今のうちに直さないと。前世のこととか、きららファンタジア(スマホアプリ)のこととかうっかり口にして誰かに聞かれでもしたら面倒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルシーヴ様……これから如何様に?」

 

 

 ローブ野郎に逃げられてしまった事と、ローブ野郎に仲間がいた可能性があった事をアルシーヴちゃんに報告した俺達は、アルシーヴちゃんからさっきの呪いについての事件をすべて聞いた。……俺達がローブ野郎を追っている間に、呪いからソラちゃんを守るために呪いごと彼女を封印したことも。……まぁ俺にとってはきららファンタジア(ゲーム)であらかじめ知っていたことだったが、初めて聞いたかのようなリアクションにも抜かりはない。

 

「呪いの正体を解明し、解呪の策を見つけ出す。 神殿の者たちをいたずらに動揺させてはいけない。

 ハッカ、ローリエ。先ほどの出来事は他言無用だ。決して外に漏らすな。」

 

「御意。」

 

「……だな。」

 

 

 アルシーヴちゃんがこう言う気持ちも分かる。世界の中枢たるソラちゃんがこんなことになったと知ったら、神殿内は大パニック、あらゆる人間が動揺しまくった結果、色んな機関が麻痺する。その麻痺は確実に神官たちや言ノ葉の都市の民を圧迫する。それに乗じて一揆やクーデターでも起こすやつが現れたら目も当てられない。

 

 

「あとローリエ、廊下に垂れているであろう、血痕も掃除しろ」

 

 

 ……??

 

 

「……え? 何で?」

 

「何でじゃあない。あの血だまりもさっきの出来事の証拠に他ならん。それでなくても、神殿の廊下に血だまりが続いてたら誰だって驚くだろう。

 私の部屋の血の掃除は私がやるから、ここ以外を頼む。日の出までに全部終わらせろ」

 

「マジかよ……」

 

 

 完全に忘れていた。ローブ野郎を始末することだけを考えてたから、血については無策だった。少し考えてみればわかることじゃあないか。筆頭神官の部屋に血だまりがあり、そこから神殿の外まで血が続いてたらどんなアホでも「筆頭神官の部屋で流血沙汰があった」と思うに決まっている。

 こうして、真夜中の血痕掃除が始まったのである…………ちなみに、掃除に適した魔道具を開発していなかったから自分の手で掃除したわけだが、「ル〇バみたいな掃除用魔道具を造っておけばよかった」とちょっぴり後悔したのは、俺だけの秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ソラ様は現在、体調を崩されている。快癒されるまでは私が執政を代行する。」

 

 

 翌日、アルシーヴは神殿の皆を大広間に集めてそう知らせると、集まっていた神官たちはざわざわと騒ぎ出す。俺は今、コリアンダーとともに、その聴衆に混じって話を聞いていた。

 実に合理的な嘘だと感心する。ソラちゃんが襲撃され、しかも強力な死の呪いにかかったなんて、前代未聞の大事件だ。そんな大事件の結果、親友を失ったというのに、アルシーヴは平気そうな顔であんなことを言っている。

 

 

「……流石だな。」

 

「今、なにか言ったか、ローリエ?」

 

「え? いや、何も。」

 

 

 コリアンダーにちょっと気付かれかけた。なんて言ったのかまでは聞かれなかったようだが、これ以上彼といると、ウッカリ口から洩れた重要機密を聞かれそうだ。一層気を付けないと。

 

 

「……ソラ様、大丈夫なんですか?」

 

 

 シュガーがそれはそれは心配そうな声をあげると、聴衆のざわざわが治まっていく。

 

 

「ああ。今は治療に専念するため自室にこもっておられる。ソラ様の世話役はハッカが務める。何かお伝えすることがあれば、ハッカを通せ。」

 

「はーい。ソラ様、早く良くなるといいですね!」

 

 

 シュガーが無自覚に地味に心に刺さる言葉を放つ。ソラちゃんの呪いの解呪方法は、あまりに特殊だ。アルシーヴちゃんも、感情を取り繕うように微笑み、「ああ、そうだな」と返した。

 俺もすぐにここから立ち去り、アルシーヴちゃんに合流するとしよう。コリアンダーの引き留める声を無視して先を急ぐ。コリアンダーは意外と察しが良い。ソラちゃん関連のことはまだバレてはいけない。

 ――それに、今の彼女は放っておけないから。

 

 

 

 アルシーヴちゃんを探して神殿内を走り回っていると、アルシーヴにランプが話しかけているところに遭遇した。

 

「ソラ様に会わせていただけませんか!」

 

 ……そうだ。確かここで、ランプはアルシーヴに断られてしまうんだ。取り付く島もない感じで。

 

「今は無理だ。用があればハッカを通せ。」

 

「でも…私、心配で……それに…!」

 

「――すまないが、今はお前に構っている時間はない。」

 

 ……ああ、これだ。

 

「アルシーヴちゃん、さすがにその言い方はないだろう?」

 

 

 ランプもアルシーヴちゃんも悪くない。二人とも、ソラちゃんを想う気持ちがある故にぶつかってしまうのだ。ただちょっと、アルシーヴちゃんが不器用で、ランプが早とちりをしがちなだけ。それが、ランプが神殿を出てきららと会うきっかけになると思うと少々複雑なんだけど。でも、フォローせずにはいられない。

 

 

「ランプも心配しているんだ。そういう言い方は控えるべきだ。」

 

「ローリエ、お前には関係のないことだろう?」

 

 

 おっと、「関係ない」で来るか。

 ランプの手前、ソラちゃん関連の事は言えないので、別の方向から返すとしよう。

 

 

「関係あるさ。ランプはアルシーヴちゃんの生徒であると同時に、俺の生徒でもあるんだ。」

 

「………。

 とにかくランプ、女神候補生として、勉学に励め。」

 

「あっ……はい、わかりました。」

 

 

 ランプにそう言いつけると、アルシーヴちゃんはとっとと歩いていってしまった。行き先は図書館だろう。

 

 

「ランプ?」

 

「はい。」

 

 

 ランプのフォローも終わったことだし、次はアルシーヴちゃんのフォローだ。

 

 

「アルシーヴちゃんは、君の先生であると同時に、筆頭神官でもあるんだ。仕事の量は俺ら賢者の比にならない。

 忙しいんだよ。特に、ソラちゃんが病気療養に入っちゃったこの時期はさ。」

 

「………。」

 

「でも、君がソラちゃんの心配をするのも分かる。何か悩み事があったら、先生に相談しなさい。できる限り、力になってあげよう。」

 

「ローリエ先生……」

 

 生徒相談を受け付けていることのアピールも忘れない。……まぁ、ランプは筆頭神官(アルシーヴ)女神(ソラ)を封印するところを見てしまったことで悩んでいるのだろうが、こんなことで俺に相談してくるとは思えない。だから、ほんの少し。ほんの少しだけ、譲歩してあげよう。

 

()()()()()()()()なんて、言ってくれなきゃ分からない訳だしな。」

 

「……! 先生、それって……」

 

「ところで、魔法工学のレポートはやった? まだ出てないの、ランプだけなんだけど……」

 

「えっ………ああああああ! 忘れてたぁぁぁああああ!!」

 

 

 もちろん、すぐさま話題をすり替えて、言及を防ぐ。今譲歩するのはほんの半歩ほどだけだ。ランプが聖典学以外がからっきしで助かったとほんの少し思い、「早く出してねー」と自室へ急いで駆けてく背中に告げると、アルシーヴを追いかける。

 

 さて、これからどうしようか。未だに答えは出ないが、ソラちゃんの呪い事件を防げなかった以上、新たな方針を練る必要がある。そして、その方針に必要な新たな魔道具と武器の開発も必須だろう。次の行動計画と新たな魔道具の理論が口から漏れ出ぬように口を右手で隠しながら、ゆっくりと歩きだした。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ずっと、引っかかっていた。あの夜に見た光景が。

 

 

 

 床の大部分が夥しいほどの血に染まり、鉄の嫌な臭いが充満してそうな部屋の、開いた扉から見えた……アルシーヴ先生が―――ソラ様に封印を施した光景が。

 

 最初は、悪夢だと思っていた。すぐさま自室に逃げ帰って、布団にくるまりながら、そんなことありえるわけがないと、アルシーヴ先生がソラ様を殺めるわけがないと、震える体をおさえ頭の中で何度も湧き上がる疑心を否定していた。当然、眠れるわけもなかった。

 

 翌日、ソラ様が体調を崩されたと聞いた時は、ソラ様が心配で心配で、アルシーヴ先生にすぐさまソラ様に会わせて欲しいと頼んだが、取り付く島もないほどに却下された。その後、仲裁に入ってきたローリエ先生の言葉が、あの夜に見た悪夢のような光景を確信づけた。

 

 

()()()()()()()()なんて、言ってくれなきゃ分からない訳だしな。」

 

 

 どういう訳で言ったのかは、わからないけれど。

 明日……聞いてもらおう。わたしが見た、あの光景を。ローリエ先生なら、きっと信じてくれるだろうから。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
アルシーヴとソラの未来を守るために事案スレスレまで頑張った男。しかし、ローブの人物の根性までは知らず、ソラに呪いをかけることを許してしまった。自分を責めていたが、ハッカのおかげで一応落ち着きを取り戻す。
原作との違いは、ローリエがローブの人物を容赦なく攻撃したおかげで呪いが安定せず、ソラのクリエが失われるスピードが若干遅くなったということ。それでも今の所大きな違いにはなりません。そう、今のところはね。


ハッカ
この夜、アルシーヴの側についていたお陰で封印されたソラの世話係などでアルシーヴの助けになった和風メイドさん。ローリエの精神安定にも一役買っている(無自覚)。ソラの世話係に任命されたのは、全ての事情を知っている()()が彼女しかいなかったから。間違ってもアルシーヴは恐怖のセクハラ男に親友兼女神を任せないだろう。

ローリエ「俺は二人の親友じゃなかったのかよォ!!?」
アルシーヴ「ち、違う。そうじゃなくてだな……ほら、お前男だろう?」
ローリエ「ソラちゃんには手ぇ出さない!」
ハッカ「日頃の行いの報い。」
ローリエ「SHIT!!!!」


アルシーヴ
今回から仕事量が増す苦労人筆頭神官。しかも、不器用なせいでランプとの溝が深まりかける。しかも原作では一人で背負い込もうとするから、更にアルシーヴの命がマッハでヤバイことになる。拙作では、事件の目撃者が一人多いため、重荷が少しでも軽くなればいいのだが……


ランプ
アルシーヴがソラを封印する光景を見てしまった女神候補生。ローリエの何気ない一言で相談を決意。ローリエがローブの人物を銃撃しまくったせいで床に広がる血というおぞましいオプションがついた結果、血だまりの真ん中で封印が行われるという原作よりヤベー光景を目に焼き付けてしまった。そういうこともあって、確実に「ソラ様が無事じゃない」と思うようになってしまった。ローリエにとってはソラとアルシーヴを守るために侵入者を攻撃しただけなので、完全に事故であるが、この事故が巻き起こす事態とは一体……?


血痕の掃除
どう考えても証拠隠滅にしか見えない後始末。アルシーヴは「神殿の他の人々をいたずらに混乱させない為」に命じたのであって、後ろめたい気持ちはどこにもない。作者もこの部分は執筆中に思いついて、勢いで書いただけなので、これがどう繋がるのか、そもそも繋がるのかは定かではない。エトワリアにルミノールがないので多分繋がらないだろうが。



△▼△▼△▼
ローリエ「原作通り、ソラちゃんは封印されてしまい、俺達にも箝口令が敷かれた。俺はいつも通り教師をやってる訳なんだが、こうしている間にもあの瞬間は徐々に迫ってきていて……」

次回『禁忌(オーダー)と始まる物語』
ランプ「楽しみにしててください!」
▲▽▲▽▲▽



あとがき
やっと原作に片足突っ込めた…さて、次だ、次!
将来的に使いたいネタばっかり浮かんで、もう二章までは構想が練り終わっている!
ただ、書き溜めてはいないので悪しからず。


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第11話:禁忌(オーダー)と始まる物語

“誰かが言った。『覚悟』とは犠牲の心じゃあないと。”
  ……ローリエ・ベルベット


 ソラちゃんが「療養」に入ってからというもの、アルシーヴは更に忙しくなったのか、女神候補生の授業に顔を出さなくなった。代役である俺がその旨を伝えると、女神候補生たちの不安は大きくなり周りに伝播していく。中でもランプは、より一層追い込まれているような表情しか見せていない。

 

『あの、少し相談があるんですけど、いいですか?』

 

『ランプ? いいけど……この授業のあとでいいか?』

 

『ちょっとこみいった話になるので落ち着ける場所がいいんです……』

 

 授業前のそんなやりとりを思い出す。きっと、原作みたいにアルシーヴちゃんがソラちゃんを封印する瞬間を見てしまったのだろう。だとしたら彼女には悪いことをしたと反省せざるを得ない。さっき思い出したことだがアルシーヴちゃんの部屋を血で汚したのは俺だ。掃除する前に見られたとしたら、その光景はきっと彼女にはサスペンスドラマや刑事ドラマでありがちな殺人現場にしか見えなかっただろう。

 

 

「はい。じゃあね、まずはこの前の聖典学の課題を回収するから、グループ毎に集めて持ってきてー」

 

 

 後の話を頭の隅に追いやりながら、アルシーヴちゃんから託された聖典学の授業を無理やり開始した。

 といっても、新たな課題を配ってそれを見守るという自習の監督なわけだが。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 授業が終わったあと、自身の部屋に戻って新たな魔道具の製作をしていると、ノックが聞こえてきた。入室を促すと、入ってきたのは浮かない顔をしたランプだった。コリアンダーに席を外すように伝え、部屋の中心のソファにかけさせると、はぁと一息ため息をつく。コーヒーセーバーでマグカップ二つにコーヒーを注ぐと、一つをランプの目の前のテーブルに置き、もう一つをランプが座っている位置から45度のところにある席において、俺もイスに座る。

 

「先生、いいんですか?これ…」

 

「遠慮はいらない。

 あぁ、砂糖とミルクはどうする?」

 

「……両方ともお願いします。」

 

 角砂糖が入った瓶とミルクが入ったカップを冷蔵庫から取り出し、テーブルに置きながらランプの顔色をさりげなく伺う。

 ……やはり、まだ迷っている。迷いが表情にはもちろん、砂糖を入れる手にも思いっきり出ている。相談内容はきっとあの夜の件だろう。でも彼女から話し出すのは少し難しそうだ。いきなり聞くのではなく、場を温めてから話を聞く方がよさげだな。

 

 

「今日の授業……というか、課題はどうだったかな?」

 

 

 思いもよらない質問に面食らったのか、少し考え込むそぶりをしてから、ゆっくりと話し出す。

 

「イジワルな問題が多めで難しかったんですけど……アレ、途中から先生が作りました?」

 

 よし。掴みはまぁまぁといったところか。

 

 

「そうだぜ。アルシーヴちゃんの問題だけじゃあ足りなそうだったからな。追加しといた」

 

「難しすぎますよ! 誰が解けるんですかアレ!」

 

「え? ウソ………中間テストの『メタル賽銭箱とミニ賽銭箱の違い』よりも簡単に作ったつもりだったんだけど……」

 

「私以外誰も解けなかった超難問を引きあいに出さないでください!! 先生の『簡単』ってなんですか!」

 

「ぼ、ボーナス問題も加えたんだけどな……」

 

「先生のボーナス問題、ボーナスしてなかったんですけど!?」

 

 

 何たることぞ。また俺が作った聖典学の問題に「難しすぎ」とジト目のランプからツッコミを貰ってしまった。

 今回の問題は、前回の反省を踏まえて「アリス・カータレットの出身地を、国・地域ともに答えよ(完答)」とか、「放課後ティータイムの曲を、発売順に並び替えよ(ただし、使わない選択肢がある)」とか、引っ掛けなしで作った。おまけに、「聖イシドロス大学の武闘派と穏健派、巡ヶ丘学院高校の学園生活部の関係とその崩壊について、できる限り供述せよ」といった、書けば点が貰える加点式の問題まで入れたというのに駄目だというのか。

 ……意外と、聖典学の問題づくりって難しい。そう思いながら、自分のマグカップのブラックコーヒーを啜る。

 

 

「もう、先生はアルシーヴ先生に問題の作り方を教わってください!」

 

「魔法工学じゃあこうはならないんだけどな……」

 

 

 本当に、何故俺が作った聖典学の問題が不評になるのか分からないが、俺に立て続けにツッコミをしたお陰か、ランプの入ってきた時の思いつめたような、迷っているような雰囲気が少し和らいだ気がした。というか和らいでないと俺のアイスブレーキングが完全に時間の無駄になってしまう。

 

 

「ところで、今朝から悩んでるように見えるけど、どうしたの?」

 

 

 そろそろいいだろうと思って投げかけた質問でランプの雰囲気に迷いが蘇る。あまり急かすのは良くないようだ。

 

「ああ、別に無理して話さなくても……」

 

「先生は、悪夢とか見ますか?」

 

 

 ゆっくり聞こうと思って予防線を張ろうとしたらランプがそんなことを聞いてきた。俺の悪夢の話なんて聞いてどうするのだろうか?

 マグカップのコーヒーを一口飲んでから答える。

 

「うーん……あるよ。なんかの踊りをし続ける夢だろ、丸い乗り物に入ったら投げられる夢だろ、その前は『俺はここにいたい』って言ったら皆から祝われる夢も見たな」

 

「聞いてる分には面白い夢なんですけど……」

 

 それは実際に見ていないから言えるんだぞ。踊りの時は拒否したら「さてはアンチだなオメー」って言われてヘルサザンクロスでボコられたし、乗り物の夢では投げられる前に筋肉モリモリのマッチョマンに潰されたし、皆から祝われる夢に至っては最初から最後まで意味が分からなかった。

 

 

「それを聞くってことは、最近なんか悪い夢を見たってこと?」

 

「………はい。

 そ、ソラ様、が……」

 

 

 マグカップを持つ手を震わせながら、ランプはゆっくりと言葉に出していく。

 

「ソラ様が、アルシーヴ先生に………

 こ、殺される、夢を……!!」

 

 いくら俺相手でも流石にソラちゃんがアルシーヴちゃんに封印された光景を見たとそのまま相談する訳にはいかないから、夢ってことにしたのか。まぁ、気持ちは分からなくもない。

 

「よく話してくれたね。それで、ソラちゃんに会わせてほしいって頼んでたわけだ。」

 

 ランプは黙って頷く。ここで気をつけるべきは、あの夜の件を絶対に話さないのはもちろん、悪夢として相談してきた以上は()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだ。

 あの事件を未然に防げなかった以上、残された手は『ランプに日記帳を聖典に書き上げさせること』しかない。そのために必要なのは、ランプが出て行くこと。肩入れし過ぎるのは良くない………良心が超痛むけど。

 

 

「ランプ。誰かが殺される夢の暗示って知ってるかな?」

 

「……え? ………いいえ、知りません。」

 

「もし自分が誰かを殺す夢を見たら、それは『その人との関係を変えたい』って心の現れなんだ。例えば、親を殺す夢を見た場合は、親から自立したいって思っており、大人に近づいている証拠であるとも言われている」

 

「そうなんですか?」

 

「逆に自分が殺される夢は、『古い自分が死に、新しい自分が生まれる』……つまり、願いが叶ったり、新しい自分に生まれ変わる事の前触れと言われている。」

 

「でも、私の見た夢は……」

 

「そ。若干違うよね。今回ランプが見た夢が、『アルシーヴちゃんがソラちゃんを殺す夢』だったから、今挙げた二つを元に考えると……アルシーヴちゃんは、ソラちゃんとの関係を変えることを望む。そしてソラちゃんの願いが叶う!」

 

「ほ、本当なんですか?」

 

「ああ。殺す夢・殺される夢って物騒だけど、意外と悪い夢じゃあないんだ」

 

 

 これでいいはずだ。ランプも「そうなんですね」と入室時よりは一息つけたのか、安心したような顔で言っている。でも、完全に納得はしていないだろう。だって、彼女が見たのは紛れもなく現実なのだから。

 

 

「ローリエ先生、ありがとうございました。相談に乗ってくれて」

 

「いいんだよ。また何かあったら訪ねてくるといい」

 

 

 ……本当にこれでいいのだろうか。

 部屋から出て行ったランプが座っていた席のあまり減ってないコーヒーを、見つめながら考えていた。答えは、濁ったカフェオレのように未だに見えていない。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とまあ、こんなことがあったとさ」

 

「何故他人ごとのように言えるのだ……」

 

「不覚。」

 

 

 数日後、女神ソラの部屋――神殿の最上階の展望ルーム―――には、そんなことを報告する俺と報告を受けるアルシーヴちゃん、そしてハッカちゃんの姿があった。報告内容は、もちろんランプが持ちかけてきた『悪夢』の相談についてだ。現在、女神の部屋は封印されて眠っているソラちゃんをハッカが見張っているため、事件関係者の俺とアルシーヴ、そしてハッカちゃん自身しか出入りできない。

 

 

「相談内容からして、ランプにソラちゃんを封印したトコを見られてた可能性がある。」

 

「心配無用。アルシーヴ様が否定すればいい。」

 

「……そうだな。」

 

 

 ハッカちゃんの堂々とした言葉に、アルシーヴちゃんが少し躊躇い気味に続ける。まぁ、アルシーヴちゃんは何だかんだ不器用だが女神候補生の教育には熱心だ。いち女神候補生の言葉と筆頭神官の言葉、どっちが信用されているかなんて頭では分かってはいるが、やはり生徒を切り捨てるのは気が引けるようだ。……当たり前の感情だ、俺でもやりたくない。

 しかも、この数週間で辺境の鉱石や地下の秘宝なんかも俺とハッカちゃん以外の賢者総出で集めたらしいが、どちらもソラちゃんの呪いを解放できなかったとのことで、気分は目に見えて落ち込んでいる。

 

 

「ハッカ、図書館の書庫内の残りの資料を全て持ってきてくれ。」

 

「いいえ、アルシーヴ様。先ほどお持ちした物で全てです。あとは禁書の類しか残っておりません。」

 

「そうか……」

 

 

 俺が二科目の授業で追われているうちに、アルシーヴちゃんは神殿内の資料をひっくり返すようにしてクリエを大量に得る方法を探していたようだ。禁書を残すまでになって調べてもまだ出てこないところもきららファンタジアで見たとおりだ。

 そんなに禁書はヤバいものなのだろうかと思い、神殿に入りたてでコリアンダーとも会う前の頃にこっそり入ったことがあるが、確かに常軌を逸したものばかりがズラリと並んでいて、精神年齢が大人な俺でもそのえげつない内容に魂消たものだ。拷問用魔術、強制的に服従させる魔法、殺しの呪いなんかは一通り揃っており、あとは永遠に若く生き続ける不老不死の秘術『不燃の魂術』や、原作に出てきた『オーダー』なんかもあった。あの時は、デトリアさんに見つかっていつもの穏やかな雰囲気からは想像もできないほどこっぴどく叱られたっけ。

 と、そんなことを考えている場合じゃないことが、アルシーヴちゃんの葛藤から伝わってきた。

 

 

「私はこのままソラを封じ続けなければならないのか……?

 いつまで続く? いつまで保つ? ……そんなことはあってはならない。何としてもソラを救わなければ………約束したのに……!」

 

「アルシーヴちゃん。」

 

 

 やはりというか、彼女は一人で背負い込もうとしている。ならば、幼馴染としてできるだけ寄り添ってやらなくては。

 

 

 

「ソラちゃんの救出、俺にも手伝わせてくれよ。」

 

「………ローリエ……

 すまない二人とも、一人にしてくれ。少し考えたい。」

 

 

 ……!

 駄目だったのだろうか。かける言葉を、タイミングを間違えたのだろうか。一人にして考えさせた結果を知っていても、変えられなきゃ意味がないと思うと、ハッカちゃんに引っ張られながら出口へ向かう足は止められそうになかった。俺にできるのはただ、「どんな手を使ってでもソラを救わなければならない」という意思を扉越しに聞く事だけだった。

 でもね、アルシーヴちゃん。その意思はちょっと危険だ。誰かが言った……『覚悟とは犠牲の心じゃあない』と。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「い、今……何をすると仰いましたか。もう一度、言ってください。」

 

「オーダーを行う。」

 

 

 大広間に再び神殿中の人々が集められた時、ついに来たかと思った。このあと、ランプはアルシーヴがソラを手に掛けたと言い、他の皆から大バッシングを食らう。その時きっと、俺に縋るかもしれない。「ローリエ先生なら分かってくれますよね!?」とか言って。もし、そんなことをされたら、俺は事前のアルシーヴとハッカとの打ち合わせ通り、冷たく拒まなければならない。下手に肯定したら、俺も神殿を追われる。アルシーヴちゃんを孤立させないためにもそれは避けなければならない。

 

「何のために禁忌を犯す必要があるというのですか!」

 

「既に決まったことだ。お前の意見など聞いていない。」

 

「おかしいです!そんなのソラ様が許す訳がありません!」

 

「今、神殿のトップは私だ。その私が決めたことに逆らうつもりか。」

 

「当たり前です!

 ……やっぱり、ソラ様を手に掛けたのは貴方だったんですね……!」

 

 

 ランプの異議にアルシーヴが能面のような表情で冷たくあしらうと、ついにランプの告発の時は訪れた。

 

「わたし見たんです! 血まみれの部屋で、貴方がソラ様を封印する瞬間を!!」

 

「……世迷い言を。」

 

「しかもオーダーをするなんて……貴方はこの世界をどうするつもりなんですか!

 みんな信じてください! わたしは本当に―――」

 

 

 

「ランプったら、何を言っているのかしら?」

 

 そんな誰かの言葉を皮切りに、否定、侮蔑、不信……大広間中のそういった感情が言葉としてランプに次々と刺さっていく。ソルトやセサミ、フェンネルまでアルシーヴの肩を持ち、ランプの告発を信じようとしない。この構図はイジメそのものだ。前世ボッチだった俺にとっては対象が自身じゃないと分かっていても大ダメージだ。

 

 

「どうして……なんで誰も……!!

 ローリエ先生!」

 

 

 来た。ランプが俺を見つけて助けを求めてきた。

 目を瞑ったままランプを見ないようにする。瞼の向こう側ではランプが悲痛そうな顔をしているだろう。そんなものを見てしまったら、絶対に打ち合わせ通りの言葉が言えなくなる。

 

 

「先生は、分かって―――」

 

「ランプ。」

 

 

 ランプの言葉が良心をゆさぶる。これ以上は感情を抑えられる自信がないので、言いかけたランプの言葉を遮る。

 

 

 

「それはこの前の夢の話だろ。滅多な事を言うんじゃあない。」

 

 

 

 視界が閉ざされた中、ランプの息を飲む音が聞こえた。そして、アルシーヴの「お前は不要だから去れ」という非情な宣告によりランプは神殿から出て行ってしまった。

 先生たるものが、生徒の助けを求める手を振り払ってしまった。よりにもよって、孤立しているランプの手を。

 この後の展開が分かっているとはいえ……いや、分かっているからこそ、やってしまった。

 ……教師、失格だ。

 

 だが、これで俺の立場はハッキリした。ならば八賢者として、何よりアルシーヴとソラの幼馴染として決めるべき覚悟を固めよう。

 

 その後は、ジンジャーが禁忌だとわかってるんだよな? と意味深な言い方でアルシーヴに尋ねたり、アルシーヴが八賢者には追って指令を出すと通達したりして集会は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 オーダーをするという知らせをした集会の後、私は自室にてクリエケージの精製をしながら、ローリエのあの言葉を思い出していた。

 

 

『それはこの前の夢の話だろ。滅多な事を言うんじゃあない。』

 

 

 あいつにしては頑張った方だ。いつもはどうしようもなくスケベで変態な奴だが、魔法工学の教育には熱心で、生徒思いの男だ。そんな奴がランプのあの助けを拒むなんて苦渋の決断だっただろう。

 

 

「よ! アルシーヴちゃん。」

 

「……ローリエか。」

 

 

 そんな心配していると、噂をすればなんとやら、ローリエがやってきた。元気そうなのは結構だが、せめてノックくらいはしてほしい。

 

 

「私が着替えている最中とかだったらどうする積もりだ。」

 

「ん? そりゃあ、ラッキースケベに感謝して、愛の語らいを……」

 

「またハッカにハンマー叩きつけられるぞ?」

 

 

 そう言うとうっ、とばつの悪そうな声を出してっきり黙ってしまった。中断していたクリエケージの精製を再開すると、ローリエは私の隣に座って、私の手元を見ながら見よう見まねで造りかけのクリエケージを精製しだした。

 

 

「……なんのつもりだ?」

 

「言ったよね? 手伝わせてくれって。」

 

 確かにそう言ったが、ソラに「必ず助ける」と誓ったのは私であり、そのために手段を選ばないと決めたのも私だ。全ての責任は私にある。

 

 そう言おうとしてローリエに顔を向けると、ローリエの視線が既に私を捉えていた。

 

 

「いや、違うな。『手伝わせてくれ』って言い方は適切じゃあなかった。俺の心を表しきれてなかった。

 ―――一緒に助けようぜ、ソラちゃんを。」

 

 

 そう言うローリエの目を見た私は言葉を失った。

 あの夜に見た焦りや執念のようなものは感じなかった。その代わりに感じたものは、確固たるものだった。まるで、ソラが助かるという確信を持っているかのような、必ず成し遂げる覚悟のような、そんな固い意志だった。

 

 

「ああ、そうだな。」

 

 

 気づいたら、そんな事を言っていた。筆頭神官になってから、久しく忘れていた頼もしさを、この時ほんの少しだけ思い出した。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
ランプの相談に乗ったばっかりに、ランプの告発に否定せざるを得なくなった教師にして、アルシーヴを守りながらソラを救う覚悟を固めた男。こうして思考を切り替えられたのは、某ギャングスターの活躍を前世で見ていたことによる影響が大きい。


アルシーヴ
ローリエとは別の方向で、『ソラを救うこと』『それに伴う責任を一人で背負うこと』の両方を覚悟した筆頭神官。ローリエの某ギャングスターばりの決意を目の当たりにして、(ソラ襲撃事件の関係者だということもあり)ローリエに少し心を開いた。ただ、この後のギャグパートでほぼ確実に「あの時の感情を返せ」となるのでこの時点でフラグとか立ってないからね。


ランプ
皆からバッシング食らった上に信頼していた先生二人に裏切られるという折れる直前までハートフルボッコをされた可哀想な女神候補生。この後は原作通りマッチと合流。逃げてきた辺境の村にてきららと会い、彼女の「コール」の才能を発掘する。


ソルト&セサミ&フェンネル&ハッカ
全面的にアルシーヴの肩を持った賢者達。ハッカは全てを知った上でアルシーヴとローリエとの打ち合わせ通りランプをディスったが、フェンネルは間違いなく素の信仰からやったと容易に想像できる。残りの二人は普通に上司として信頼していたからだろう。


メタル賽銭箱とミニ賽銭箱の違い
詳細はアニメ『ゆるキャン△』6話を参照。
しまりんが図書館にて買っちったコンパクト炭火グリルを見てニヤニヤしている所を斎藤さんに見られ、斎藤さんが言った言葉が「なにそれ?メタル賽銭箱?」。
その後、なでしこにも見つかり出た言葉が「なにそれ?ミニ賽銭箱?」。つまり、違いはほとんどなく、斎藤さんが呼んだかなでしこが呼んだかの違いしかなく、完全なひっかけ問題である。


アリス・カータレットの出身地
イギリスだというのはこの連載を読んでいる読者の皆様なら分かると思うが、公式設定ではもう少し詳しく決められており、イギリス・コッツウォルズ地方のバイブリー(行政教区)とされている。
コッツウォルズは「羊の丘」という意味がある。蛇足になるが、イギリスでは16世紀ごろ牧羊目的で第一囲い込みという排他的な耕地統合があった。同時に農民の仕事を奪っていったため、「羊が人間を喰い殺している」との批判も生まれたほど。こうして失業した農民が土地に縛られなくなった結果、産業革命の労働者の基盤になったという見方もある(諸説アリ)。


聖イシドロス大学の武闘派・穏健派・学園生活部
詳細は「がっこうぐらし!」6巻~9巻を参照。
ローリエは、それぞれの派閥がどんなものか、お互いの関係は、最終的にはどうなるのかをアバウトで書けていれば点をあげるつもりでいた。


ローリエが見た悪夢
それぞれの元ネタは「ポプテピピック」、「劇場版ドラゴンボールZ」、「新世紀エヴァンゲリオン」。ヘルサザンクロスの元ネタは「聖剣伝説3」のゼーブルファー。この聖剣伝説3のトラウマをパロディしたのがポプテピピックであり、アニメでもいともたやすく再現した。
丸い乗り物は言わずと知れたパラガスのポッド。2018年じゃない方のブロリーはパラガスをポッドごと潰す力業をやってのけるが、このシーンは後にあらゆる所でネタにされる。
皆に祝われる夢はの元ネタはエヴァンゲリオンの最終回。本来はシンジ君がアイデンティティを確立する名シーンなのだが、銀〇や勇者ヨシ〇コがパロディした結果、ネタとして扱われる事になってしまった。



△▼△▼△▼
ローリエ「俺ちゃんに最初の指令が下された!……ってシュガーちゃんの補佐!? 子供のお守りと何が違うんだよーって思ったら、アルシーヴちゃんによると他の指令も兼ねているみたいだ。それは、二人きりの秘密ってことでいいのかな?」
アルシーヴ「誤解を招く言い方はやめろ!!」

次回『ローリエとシュガーとゆのっちと』
シュガー「つぎも見ていってね!」
▲▽▲▽▲▽



あとがき
今日のエイプリルフールイベントは意外すぎた。ディーノは兎も角、タカヒロさんはマジで来てもいいんじゃよ?(チラッチラッ)ちなみに、この連載にエイプリルフールとかはありません←
さて、次はシュガー&ひだまりスケッチ編ですね。結構昔のアニメだから細かい所が間違うかもしれない……


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第12話:ローリエとシュガーとゆのっちと

“平凡な私が、ちょっぴりはみ出した気分になれる。”
   ……ゆの


「ブーッブーッチッ、ブーッブーッチッ、ブーッブーッチッチッ、」

 

 俺が出す低いビートに合わせて、クロモン達がゆっくり回りながら情けないポーズをとる。

 

「テーテテテテーテテテテーテテテテーテテテテー」

 

 かと思えば、曲調を変えた途端に、クロモン達がゆっくり回るのはそのままに、今度は全身の筋肉に力を入れ、その小さな体から力がみなぎるかのようにマッスルポーズをとる。

 

 

「ブーッブーッチッチッ、ブーッブーッチッチッ、ブーッブーッチッチッ、テーテテテテーテテテテーテテテテーテテテテーテテッテテッテてっ痛ぇ!!!!!?」

 

「クロモンに変なことを教えないでください」

 

 

 ソルトにチョップで叩かれ、ライ○ップが中断された。IQが2ほど減った気がした。

 だが、俺の周りにいたクロモン達は、よほど俺が教えた「ライ○ップごっこ」が気に入ったのか、ソルトによってBGM(という名の俺のアカペラ)がなくなると「もっとやりたい」と言わんばかりに俺に集まってくる。

 

 

「ローリエのその知識はどこから来るのですか?」

 

「あぁ、これ? たまたま見つけた市立図書館の書庫にあったぜ。『クロモンにストレスを与えないトレーニング』って本でな」

 

 

 ソルトの情報源についての質問には、流石に本当の事を言う訳にはいかないので、クロモンを撫でながらあらかじめ用意していた超大嘘をつく。

 

 

「そうなんですね。ところで、アルシーヴ様がお探しでしたよ」

 

「アルシーヴちゃんが?」

 

 

 おっと、そんな時間になってしまっていたか。それじゃあ、ライ○ップ式訓練はソルトに任せて、アルシーヴちゃんの下へ行くとしますか………え? やらないのソルト? そんなこと言うなよ~、クロモン達も見たがってるぞ!群がってるぞ!期待してるぞ! そら、ソルトのいいとこ見ってみたい! あそーれソルト!ソ・ル・ト!!ソ・ル・ト!! ソ・ル………あ、ちょっ、待て!ハンマーをこっちに向けるな!!そしてにじり寄ってくるな! 悪かった!冗談だから!だからやめろォォォォォォォォォォォォォォッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いい加減にしろローリエ」

 

「反省はしている。後悔はしていない」

 

「余計にタチが悪いわ」

 

 あの後、ソルトを煽りすぎた結果始まった大人気ない鬼ごっこをシュガーに目撃され、鉢合わせたジンジャーに顔面パンチを食らわされ、それがアルシーヴちゃんに伝わったことで、しこたま怒られていた。俺だけが。解せぬ。

 

「まったく、指令を通達するだけのつもりだったのに……何がしたいんだお前は」

 

「指令? 早速か?」

 

 ああ、とアルシーヴは指令について話しだす。

 なんでも、近々オーダーを行うらしいので、シュガーが行うクリエメイト及び彼女らのクリエの回収の補佐をして欲しいとのことだ。シュガーは詰めが甘いところがあるので補佐役をつけた方が良いと判断したとのこと。

 ……そして俺に下された指令はそれだけじゃあなかった。

 

 

「あの夜の襲撃者の、手掛かりがあれば探してきて欲しい。」

 

 

 シュガーに感づかれないようにな、と付け加えてアルシーヴちゃんは去っていく。きっとオーダーの準備だろう。俺も早くシュガーちゃんと合流してゆのっち達を保護しに行こう。

 

 

「あぁそうだローリエ、最後に頼みを一つだけ。」

 

「?」

 

 そう思ったらアルシーヴちゃんに某刑事みたいな引き留め方をされる。

 

「お前の武器……ケンジュウとかいったか。アレは…シュガーの前では使わないでくれるか?」

 

「そんな事か…当たり前だろ? 子供に残酷シーンは見せられない。」

 

 ただでさえソルトは俺には超塩対応なのに、シュガーに何かあったりトラウマ植え付けちゃったりしたら、俺はソルトの目の前で切腹でもして詫びるしかなくなるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に俺がやらないといけないのか?」

 

「ああ。どうしても写真解析の暇がなくって、俺の次に俺の発明に詳しいお前にしか頼めなくってな。分からない事があれば取扱説明書を読んでくれ。」

 

「仕方ないな……」

 

 

 そう言うと俺の唯一の男友達は頭をかきながら呟く。これからはオーダーを行うアルシーヴ&賢者達ときらら&ランプ&マッチの戦いが始まる。賢者たる俺は確実に忙しくなる。

 ソラ襲撃事件に備え神殿中に仕掛けたカメラに何かが写っていれば、それは大きな手がかりになる。しかし、俺は暫く神殿を空ける。だから今のうちに比較的手の空いているコリアンダーに頼む、というワケだ。もしコリアンダーでも分からないことがあっても、連絡手段は用意してある。

 

 

「連絡が必要なら、この()()()()に連絡してくれ。」

 

 

 そう言ってスマホの形をした金属製の板を見せる。そう、この携帯電話があれば、迅速な連絡ができる。まぁさすがに前世(現代)のスマホみたいに万能なものは作れない。できたのはせいぜい通話機能だけ。いわばスマホ型トランシーバーといった方が正しいか。

 

 

「分かった。こっちは任せて欲しい。そっちこそ、無茶するなよ。なにかあれば、連絡する」

 

「おうよ」

 

 

 何だかんだ言いながら、コリアンダーの姿は神殿内へ消えていった。

 

 

 

「さぁおまたせシュガーちゃん!

 行こっか!」

 

「もー、遅いよローリエおにーちゃん!

 アルシーヴ様のおーだーに遅れたら大変なんだよ!早くしないとおにーちゃん、置いていくよ!」

 

 

 ゴメンゴメン、と謝りながら俺はシュガーと手を繋ぐ。これから、オーダーされる舞台で何をするべきか考え始めるうちに、俺とシュガーは神殿前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 気がついたら、私は森にいた。

 

 

 さっきまで、ひだまり荘にいたはずなのに、光に包まれたと思ったら全てが変わっていた。

 

 

 光が遮られた薄暗い森の中でひとり。

 

 沙英さんも、ヒロさんも、乃莉ちゃんも、なずなちゃんも、宮ちゃんも、みんないなくなっていた。

 

 いきなり一人ぼっちになって、訳がわからなくって、森が不穏なざわめきさえ、恐ろしく感じた。でも、更に恐ろしいものが現れた。

 

 

「グルルルル………」

 

 

 茂みをかきわけて現れたのは、いままで見たことのない、茶色の狼のような動物。それが、私を見つけると餌と認識したのか、喉をならして、鋭いキバを見せながら少しずつ近寄ってくる。

 そのキバとツメをもってすれば、私など容易く引き裂かれてしまうだろう。あまりの恐怖に視界が滲み、木にもたれかかった体が竦んで身動きがとれない。

 

 こんな森の中で、わけもわからないまま死んでしまうのだろうか。

 

 一人ぼっちのまま、目の前の恐ろしい狩人に殺されてしまうのだろうか。

 

 怖い。

 

 怖い。怖い。

 

 助けてという声さえ出せない。

 

 今にも私に飛び掛からんとする狼を前に、もうだめだという絶望とこれは夢だという思い込みから目をぎゅっと瞑った。

 

 

 

「ギャンッ!!?」

 

 

 

 ……予想していた痛みは、襲ってこなかった。

 犬の悲鳴のような声におそるおそる目を開けてみると、そこにいたのは……

 

 

「あっ、クリエメイトのおねーちゃんだ!! だいじょーぶ?ケガはない?」

 

 私と同じくらいの身長の、動物の耳を生やしたピンク髪の女の子と。

 

「間一髪だったな……。よくやったシュガー、ゆのっちを安全なところへ避難させよう。」

 

 周囲を警戒する、緑髪のたくましそうな男の人だった。

 

 

 

 ……というか今、私の事を「ゆのっち」って言った?この男の人……??

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 転移からわずか数分でゆのっちを確保。

 

 これほど重畳なことはそうそうないだろう。

 

 景色が変わったと思ったら、シュガーがいきなり「すごく甘い匂いがする!」と言って走り出したから、追いかけてみたらゆのっちが狼に襲われかけていた場面に遭遇して驚いた。

 

 シュガーはあっという間にカスタードパンチで狼をぶん殴って追い払うと、ゆのっちに人懐っこく話しかけていた。

 

 俺は俺で、少し()()()()()()を感じたもんだから、「シュガー、ゆのっちを安全なところへ避難させよう」と言いつつ周囲を警戒した。

 

 

 ………。

 

 

 やはりというべきか、俺達が助けに入ったと同時に逃走したようだ。もしかしたら、あの夜に襲撃した呪術師の仲間か何かかもしれない。そうなったら、そいつらを見つけて、尋問する必要がある。

 そこで気をつけるべきはシュガーの嗅覚だ。さっきもその嗅覚を目の当たりにしたが、彼女は「甘い匂いがする」とかいってクリエメイトをある程度探せると考えるべきだろう。となると、俺がもし拳銃で敵を蹂躙した場合、ほんの少しの返り血や、拳銃を発砲した時の焦げた臭いを嗅ぎつけられる可能性がある。

 成る程……アルシーヴちゃんが言っていたのはこういうことだったのか。シュガーのことを考えると、今回は拳銃が使えないな。ジンジャーから教わった体術だけで何とかするしかないようだ。まぁ元より子供にグロテスクなものは見せないつもりだけど。

 

 

「おにーちゃん! 本当においてくよ!」

 

「…! あぁ、ごめん! 今行く!」

 

 

 とりあえずは、先頭を行くシュガーとそれについていくゆのっちと共に、事前にアルシーヴちゃんから聞いたアジトを目指すとしよう。森を抜けたらある村の、一番大きな屋敷がそうらしいから。

 

 

「あの……」

 

 ゆのっちが俺達に話しかけてくる。

 

「どーしたの?」

 

「何だい?」

 

「どうして私の事、知っているんですか?」

 

 

 ○澄さんの声で至極当然な質問を投げかけてくる。まぁ知らん奴からいきなり名前を呼ばれたら「なんで俺(私)の名前知っているんだ!?」ってなるわな。俺でもそうなる。

 しかも、今のゆのっちは、異世界召喚されて超戸惑っているし、心細いことだろう。歩きがてら、ではなく腰を落ち着けて筋道立てて話した方がいいだろう。

 

 

「クリエメイトは捕まえてこいってアルシーヴ様から命令されたんだよ!」

 

「………???」

 

 

 ……あのなシュガー。いきなりその説明で解る奴はまずいないぞ。いるとしたら、そいつは多分盗聴(タッピング)の能力者かスタンド能力者だ。まぁそいつら右ストレートでぶっとばされるかオラオラされるけどね。

 

 

「シュガーちゃん、捕まえるなんて言い方はよせ。

 実はこの世界は、君たちがいた世界とは違うんだ。」

 

「違う世界……!?」

 

「そう。エトワリアって言ってね、君らで言うところのファンタジー世界だ。信じられないと思うけど……」

 

 そうして俺はゆのっちにこの世界のことを軽く説明した。剣と魔法のファンタジー世界であること、この世界に『聖典』という教科書のようなものがあること、その『聖典』は、女神という別世界を見ることができる人物が見たものを書いた書物であること……その「別世界」にゆのっちがいた世界があることも。

 

「証明する手段はいくらでもある。少なくとも俺達は敵じゃない。」

 

「……分かりました」

 

「……え?」

 

「何というか、この子を見ていればわかる気がするんです。」

 

「……そうか。」

 

 ……なんということだ。まさかゆのっちが俺の言葉を信じてくれるとは。シュガーの無自覚な警戒心を煽る言い方をカバーできたのは良かった。だが、ここまで素直だと、「敵じゃない」といった合理的な嘘が俺の罪悪感を掻き立てる。

 

 

「……申し遅れたね。俺はローリエ。目の前のキツネ耳のお嬢さんはシュガーちゃんだ。」

 

「シュガーだよ! よろしくね、おねーちゃん!」

 

「ゆのです。知っているみたいですけど……」

 

 

 自己紹介を通しても、まだゆのっちの作り笑いを見るに緊張と警戒は解けてないだろうなと思いながら、屋敷へ向かう。さて、どのタイミングで「あと五人のひだまり荘の住人が召喚されている」ことをゆのっちに伝えるべきか……

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をいつ、どうやってシバき倒すべきかも考えておかなくてはな………。

 

 

「シュガーちゃん。さっさと屋敷ん中に入って、優雅なティータイムと洒落込もうぜ?」

 

「いいねー! 甘~いお菓子も紅茶も用意しよう!

 ゆのおねーちゃんも、お菓子と紅茶いる?」

 

「う、うん……じゃあ、お言葉に甘えて。」

 

「これで綺麗なお姉さんもいたら文句なしなんだけどな。」

 

「もー! ローリエおにーちゃんはそういうことばっかり! シュガーやゆのおねーちゃんの何が駄目なの!?」

 

「二人とも子供だろうが。そういう台詞(こと)はゆのっちは5年後、シュガーちゃんは10年後に言うんだな!」

 

 

 何はともあれ、まずは屋内に入ろう。盗賊の殲滅はそれからだ。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 ()()()から教えてくださった情報通り、三人の男女が現れた。やはり()()()に間違いはなかった。ボスは「胡散臭いから信じるな」と言っていたが、これは一攫千金のチャンスだ。

 

 しかも、八賢者のうちの二人が直々に守るように一人の少女と歩いている。フードを被った少女が何者か知らんがこれじゃあ俺達盗賊にとっては「重要人物です、攫ってください」と言っているようなものだ。

 

 更に、その守っている賢者がよりにもよって最弱と噂されている二人だ。

 

 小さな女の子はシュガーという賢者。フレンドリーな性格は愛されるとともに大きなスキを生む。しかも本人にその自覚がない。そして男の方はローリエとかいうただの神殿の教師だ。しかも、女にうつつを抜かしている大間抜けでもあるらしい。

 そのバカ二人をかわしてあのお嬢さんを攫うなんて、赤子の手をひねるよりも簡単とみた。

 

 

 ……この仕事、楽に終わりそうだぜ。

 

 さて、もう少ししたら奴らがどこにアジトをつくるかわかるはずだ。このまま、隠密を続けるか。

 

 

 

 この時の俺達には分かるはずもなかった。

 

 

 

 

 この時の判断が………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達盗賊団を破滅に追い込むことに。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 シュガーの補佐(というのは建て前で本来は女神ソラ襲撃犯の手がかり調査)に指名された八賢者。常に飄々とした立ち振る舞いで、ソルトに追いかけられたりジンジャーにパンチされたりした。観察眼は二回の人生で培った『周りを見る力』のなせる技だと思って頂ければ幸いです。まぁ、ローリエ本人は「魂だけが古ぼけて錆び付いている」程度にしか思ってないかもしれないが。

シュガー
 第1章ボスの賢者。彼女の耳はキツネ耳らしいので、キツネの性質をある程度受け継いでいる……という設定。キツネはイヌ科の動物なので、鼻が利くという設定を生やし、速攻でゆのっちを見つけて貰った。彼女のおかげで、1章でローリエは拳銃を安易に使えません。彼の本気を早く書きたい。

ゆの
 「ひだまりスケッチ」の主人公にして、今回のとらわれのお姫様。アプリ版ではシュガーしかいなかったので、現状の把握が全くできておらず、シュガーに対しても戸惑う描写があったが、解説役のローリエのおかげで、より早く打ち解けられたという違いが生まれる。

コリアンダー&アルシーヴ
 神殿居残り組。と思ったらアルシーヴが様子を見に来た描写がアプリ版であったので、次回も出番が貰えます。コリアンダーは神殿内の調査のため、工夫して出す必要が出てくるが。


ひだまりスケッチ
 蒼樹先生による、4コマ漫画。やまぶき高校美術科に合格したゆのが、アパート『ひだまり荘』にて、宮子や沙英、ヒロやなずな、乃莉たちと日常を送るゆったりとした物語となっている。
 ちなみにうめ氏の他の作品として「魔法少女まどか☆マギカ」「こみっくがーるず」等があるが、ソラがまどマギの世界を観察しようものなら、ソラのSAN値は激減するだろう。

ライ○ップごっこ
 2013年頃から流れた独特なCMに出てくるモノマネをする、CMを見た者なら一度はやったことのある遊び。前半の低音ベースでだらしなく演じ、後半の「テーテテテテー」で全身に力を入れ、マッチョやスリムなボディを演じる。

盗聴(タッピング)の能力者かスタンド能力者
 元ネタは『幽遊白書』の室田と『ジョジョ』三部のテレンス。程度は違えど心を読む能力者は、その能力に依存する戦い方をする。能力自体が強力なこともあり、苦戦を強いられるが、能力に依存するが故に思わぬ作戦に敗れるのがテンプレ。この作品にゃ関係ないけど。

携帯電話
 ローリエが作った携帯電話は、皆さんが想像するような高性能なものではなく、見た目はスマホ・機能はトランシーバーと考えれば分かるだろうか。電気を帯びた鉱石を整形・充電し、電池代わりにすることで、電源のオンオフができるトランシーバーを開発した。


△▼△▼△▼
ローリエ「ゆのっちを確保できたシュガーは気づいていないみたいだけど、村に着いてからゆのっちを狙っている連中がついてきているみたいだ。多分村に巣食う盗賊だと思うんだけど……虫ケラにしてはあまりに持ってる情報がピンポイント過ぎて……?」

次回『Fighting Moon』
シュガー「見てくれないとおこるんだから!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
 次回から、次回予告を編集します。その都合上、ちょくちょく過去作をテコ入れします。


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第13話:Fighting Moon

“一番強い賢者?
 まず俺はないとして……やっぱハッカちゃんかな? 夢幻魔術、チートじゃない?”
   ……ローリエ・ベルベット
    「一番強い八賢者は誰?」という質問に対して。


 ここにきて、今更こんな事を言うのも何だが、俺、ローリエ・ベルベットは転生者である。生まれた時から前世の記憶があるわけだが、そのおかげか、俺には人生を長く生きている自覚がある。

 前世(日本)でおおよそ20~25年ほど(予想でしかないが)。今世(エトワリア)で20年ちょい。それだけ生きていると、体はピチピチの20代のはずなのに、食べ物や味付けの好みは年相応のそれになりがちである。つまり、何が言いたいかというと。

 

 

「……やっぱこれチョットきついな、ゆのっち…」

 

「そ、そうですね……少し甘過ぎるような……」

 

 

 ……シュガーの出す、お菓子や紅茶が甘すぎて(オッサン)には(つら)いということだ。今、シュガーの出した紅茶をゆのっちと飲んでいるのだが、いささか、いや、結構甘すぎる。紅茶はまだ温かいのに、カップの底に溶け切らなかった砂糖が溜まっているほどだ。これは紅茶としてダメだろう。

 

 

「えー、なんでよー!

 これくらいの甘さがちょうどいいんだよ?」

 

「て、程度ってものがあるよー!」

 

「そうだぜ。シュガーちゃん、このままだと俺くらいの年齢(トシ)で糖尿病になっちまうぞ?」

 

「とーにょーびょー?」

 

 

 栄養に困らない日本社会なら兎も角、どうやら中世的なエトワリアには、糖尿病や高血圧といった、いわゆる生活習慣病という概念がまだ根付いていないようだ。まぁその分それらの患者や予備軍も少ないといえるけど。将来のシュガーちゃんを健康的にするために、大人のお兄さんから一つアドバイスするとしよう。

 

 

「そう。心臓病や目の病気の元になるし、足が腐って切り落とすしかなくなることもあるんだぜ?」

 

「あ、足が……!!?

 う、うそだよ、ね……?」

 

「いや? 嘘は言ってないぞ」

 

 

 心臓病や目の病気と聞いてキョトンとしていたシュガーも、足を切り落とすと聞いて見る見るうちに顔色が青くなっていく。そして、お菓子や紅茶を口に運ばなくなった。そこで見てられなくなったのかゆのっちが俺に苦言を呈する。

 

 

「ローリエさん! 言いすぎじゃ……」

 

「シュガーちゃんの将来のためさ。これを機に砂糖の量を減らせば問題ない。

 シュガーちゃん、今から気をつければ大丈夫!」

 

「ほ、ほんと……?」

 

「ああ。今日から少しずつ紅茶に入れる砂糖や練乳を減らせば問題ないよ。」

 

「う、うん、わかった。ちょっとずつ砂糖と練乳をへらして、とーにょーびょーにならないようにする……!」

 

 

 シュガーちゃんをほんの少し脅した後のカバーをしつつ、甘い茶会の()()()()参加者に目を向ける。

 

 

「……とまぁ、こんな感じで上手くやってるよ、アルシーヴちゃん。」

 

「……あぁ、そうみたいだな。…残りの人物も頼む。」

 

 

 そう。我らがアルシーヴちゃんである。彼女もまた、甘い紅茶をいただくのに四苦八苦しながら、「どうしてこうなった」って顔をしている。

 

 まぁただ単純に俺が誘いまくっただけなんだけどね。

 当然いい顔をしなかったが、シュガーも「お菓子と紅茶をごちそうします!」とねだってきて、最終的に涙目になるもんだから、お茶会ついでに報告するという条件でアルシーヴちゃんは折れた。

 

 その結果、クロモン達に囲まれ、甘過ぎる紅茶を飲みながら、ゆのっちの前でシュガーがゆのおねーちゃんを捕まえましたー!と言い俺がゆのっちにシュガーのフォローをするという、アリスのお茶会顔負けの意味不明なシチュエーションが出来上がったケド。

 

 あと、シュガーの報告の中に気になるものがあった。

 クロモン達が一部戻ってこない、というものだ。もう既にランプはきららと合流し、きららはコールに目覚めたのか。……ランプには悪いことをしたし、これから苦労かけるだろうな。

 

 

 さて、シュガーの報告も大方終わってグダり始めたので、俺も俺で報告をしないとな。

 アルシーヴちゃんに視線で「報告したいことがある」と告げる。彼女がこっちを凛々しく一瞥したかと思うとガタッと席を立った。

 

「と、とにかく……シュガー、お前は為すべき事を為せ。分かったな?」

 

「はーい! この八賢者の一人、シュガーに任せてください!」

 

「ローリエ、神殿の友人から伝言がある。こっちに来てくれ。」

 

「オッケー。」

 

 

 クリエケージのあるお茶会の部屋から出て行くアルシーヴちゃんについていくように、俺も部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それでローリエ。報告とはなんだ?」

 

「単刀直入に言おっか。……ゆのっち達クリエメイトが何者かに狙われてる可能性がある。」

 

「何だと?」

 

 屋敷の玄関で簡潔に行われた報告は、アルシーヴの眉をひそめさせた。

 

「狙っているのは誰だ?」

 

「ただの盗賊だよ。人攫い目的かもな。でも、もしかしたら裏があるかもしれないから……調べに行ってもいいかい?」

 

 俺の言葉に目を閉じて暫し考え込んでから、目を開けて返事を返す。

 

「分かった………シュガーには素直に用件を伝えておけ。

 それと、無茶はするなよ?」

 

 よし、アルシーヴちゃんの許可は貰った。あとは、シュガーに盗賊関連の報告をするだけだ。でも、まだ時間に余裕があるな……それに、オーダーは使用者のクリエを消費する。

 

「それは一番無茶をしている君に言われたくはないかな。」

 

「っ!?」

 

 俺が出せる一番いい声で、彼女を玄関の壁に追い込み、壁ドンの体制をとる。

 

「ささっ、オーダーの疲れを癒やすために、2階にベッドを用意してある! 俺と一緒に少し休んでいくと痛”ッ!!!?

 

 

 ……いい所でおでこにハンマーが入る。

 吹っ飛ばされ床に倒れ伏した状態で顔を上げると、ここにいないはずのハッカちゃんがアルシーヴちゃんの隣でハンマーを構えていた。

 

 

「な……何故…ハッカちゃんが……」

 

「ソルトの計算通り。アルシーヴ様へのセクハラ厳禁。」

 

「お前って奴は本当に………帰るぞ、ハッカ。」

 

「あぁ待って!! 帰らないでアルシーヴちゃん!!!」

 

 俺の制止もむなしく、アルシーヴちゃんはハッカちゃんとともに転移してしまった。

 ………くそぅ。こうなったら諦めて例の盗賊どもに八つ当たりでもするか。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「とーぞくが出たの!?」

 

「ああ。狙いは恐らくゆのっちと他に召喚された人達だろう。」

 

 

 やはりというか、シュガーは気づいていなかったようだ。

 シュガーは実力自体は問題ないんだけど、何というか脇が甘くて、不安なんだよな。もしきらら達以外が来たときのためにちょっと監視役を置いていこうか。

 

 

「だから、俺は今からそいつらをぶっ倒しに行く。だから、シュガーちゃんはここでゆのっちを守りつつ、ほかの子も探して欲しいんだけど……いいかな?」

 

「シュガーが行ってローリエおにーちゃんがここを守るんじゃダメなの?」

 

「女の子同士の方が、ゆのっちも落ち着くだろう?それに、相手は怖~い人達だ。俺に任せろ。」

 

 

 そうシュガーを説得しながら、こっそりG型魔道具を部屋の隅に忍ばせる。無臭なのでシュガーに見つかる危険性は少ない。もし誰かに見つかっても脱出するように設定してある。

 

 

「そういうわけだから、行ってくるよ。」

 

 

 シュガーの「いってらっしゃーい」の言葉を背に受けながら、俺は屋敷の玄関から外に出た。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷から八賢者ローリエが出て行くのが見える。その表情は、噂通りの間抜け顔で、コイツが賢者とは到底思えなかった。しかもその表情のまま村の娘をナンパし始めた。コイツはバカだ。きっと、何かのコネで賢者になったに違いない。

 この男が屋敷を出たということは、室内に残っているのはただの子供にすぎないシュガーと誘拐対象だけだ。今すぐ引き返して、ボス含めた仲間たちに今が攻め時であることを伝える時だ。

 俺はいつも通りの行き慣れた道を通って地下の遺跡をそのまま利用したアジトへと戻った。階段を下りるとたむろしていた皆が振り返る。

 

「おい、戻ったぜ皆!

 今屋敷の守りが甘い、とっとと仕事に入ろうぜ!」

 

 そして俺がかねてより伝えていた誘拐計画の実行を仲間に急かせる。

 

「おい、お前!

 勝手なことはするなと言ったはずだぞ!」

 

 そこに異議を唱えたのはボスだった。

 

「しかしボス!

 ()()()の『賢者二人がガードする少女が現れる』って情報は間違ってなかった!」

 

「あの女の言葉は信じるなと言っただろう!

 それに、その賢者って誰だったか分かっているのか?」

 

「もちろんです! シュガーとローリエですよ!

 あんな雑魚二人、どうにでもなりますよ!!」

 

「そうです!あんなの、ただの子供と教師じゃないですか!」

 

「はやく行きましょうボス!」

 

 そうだそうだ、と俺に賛同する声が響く中で、最年長であるボスの表情だけが芳しくなかった。ボスが首を縦に振りさえすれば、すぐさま行動に移せるというのに良しと言わないその姿勢は、ぐずぐずしているように見えて、はやる心がざわつく。

 

 

「黙れお前ら!!!」

 

 

 そうして口を開いた第一声が、そんな叱責だった。

 

 

「お前もお前だ、この馬鹿野郎が!! よりにもよって、あのローリエを敵に回しやがったのか!!!」

 

 

 その次に、作戦を立案した俺を怒鳴りつけてきた。

 

 

「ぼ、ボス……? ローリエが何だって言うんです……?」

 

「あいつはな、次々と未知な発明をした男だぞ!

 小型カメラも、自動掃除機も、空飛ぶ機械も、全部あいつが作ったものだ!! 不気味な武器を創っているって噂も……」

 

「そういうこと。」

 

 

 ボスの声に知らない声が割って入ってきた。

 

 あまりに突然の声振り向いてみると、黒い外套を羽織りサングラスをかけた緑髪の男が階段に立っていた。

 何故だ。何故、ここが分かったのか。

 

 

「おたくらには悪いが、お縄についてもらうぜ。」

 

 

 俺らが臨戦態勢になるかならないかで戸惑っている隙に、奴は何か()()()()()()()()投げた。

 

 

「お前ら!!それに近づ――」

 

 ボスが言い切る前に、それから閃光が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 そこから先は、あっという間だった。

 

 目をやられている間に仲間たちの呻き声が次々と聞こえてくる。

 やっとのことで視界が回復したかと思ったら、立っている人間はかなり減っていた。

 

 俺はナイフを手に取り奴に突撃した。

 真っ直ぐに突き出した右手を、奴に吸い込まれるように伸ばしたが鋭利な切っ先がぶつかる前に奴はフッと姿を消した。

 結果ナイフは空を切り、かと思えば手首と肩を掴まれる。その下方向から、膝が俺の肘に向かって突っ込んできて、それがぶつかると同時にバキッと嫌な音がする。

 

「ひぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」

 

 肘が曲がってはいけない方向に曲がっているのが見えると、そこから焼け付くような激痛が襲いかかり、ナイフを落としてしまう。

 そこに隙ありと言わんばかりに腹に鈍痛が走る。それで足の力も抜け、地面に倒れた。

 

 

「はい、一丁あがり」

 

 

 あとに残るのは、まるで軽い仕事を終えたかのような賢者の声だけだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 さて、賢者になってから初の実戦で緊張したが、上手くいって良かった。

 

 拳銃が使えないために念のために持ってきてあった閃光手榴弾が役に立ったことも、比較的早く、こちらの被害もなしに終わらせられた要因だろう。

 

 たとえ相手が複数人いようが武器を持っていようが、“激しい光を直視した時の人間の行動”は一つしかないのだ。それは『身体を丸める』こと。老若男女、どんな人間でもやる本能のようなものだ。そしてそれは、盗みを生業として、人殺しもしている盗賊も例外じゃあない。

 

 そして、体術についても問題ないようだった。ジンジャーに教わった成果が一応あったのか、盗賊相手でもある程度は戦える事が分かった。戦い方を思い切り変えたのが正解だった。

 ジンジャーは、その有り余るパワーを利用したごり押し戦法を主としているが、俺はどうやっても単純なパワーでジンジャーに劣ってしまう。あの華奢な身体のどこにそんなパワーがあるのか不明だけど。そうなると、俺は他の部分でカバーしなければならない。

 そこで俺は不足面を技術でカバーしようとした。ジンジャーの戦い方のテクニック面を見習いつつ、人体急所や足止め用の武器など前世の知識を活用してそれっぽい戦術を組み立てた。まぁ完全に独学なのでまだ不完全なんだろうが。

 

 

 やった事は言葉にすれば簡単だ。

 

 閃光手榴弾で目を眩ませた隙に、敵の肝臓にあたる部分を腹パンしたり、顎をブン殴ったりしただけだ。盗賊のアジトには酒瓶が転がっていたことから、盗賊の大方は酒を飲んでいたことが分かったので、肝臓を叩かれるのはかなりの痛手だろう。また、顎は衝撃を加えられると、脳が振動してダメージに繋がる。

 

 

 

 そんな感じで盗賊達を無力化したのだが、少し聞きたいことができた。最後に腕を折って無力化した、下っ端の盗賊と盗賊の親玉が気になることを言っていたからだ。

 

「ねーねーちょっと、聞きたいんだけどさ」

 

「ぅぅぅ……」

 

「………。」

 

 親玉は黙ったままこっちを向くが、下っ端のほうが激痛に顔を歪ませながら睨んでくる。睨みたいのはこっちなんだけど。

 

「誰から俺たちの情報を聞いたんだ? あんたらの言ってた『あの方』とか『あの女』ってのは誰だい?」

 

「「!!!」」

 

 

 そう。さっきこの下っ端は、『あの方』なる人から俺達の情報を聞いた、と言っていた。しかも、親玉はその情報にいい顔をしていない。『あの方』を信用できない女とも言ってのけた。そこら辺の人間関係も聞いておかなければならない。

 

 

「早く言えば量刑の余地が生まれるかもよ?」

 

「ま、待ってくれ! 俺はただ……」

 

 

 下っ端の盗賊がそう言った途端―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バシュバシュッ、と。

 

 

「がっ………!!?」

 

「ぐっ……!!?」

 

 

 何かのレーザーのような魔法が、盗賊二人を貫いた。

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 すぐさま物陰に隠れて、『パイソン』を抜き、入り口を覗き見る。

 

 

「誰だ!?」

 

 

 ………返事はない。人の気配もしないことから、さっきの魔法を放って逃げ出したようだ。

 

 ――魔法! その単語で盗賊たちを思い出し、物陰から出ずに撃たれた奴らを確認する。

 ……二人とも死んでいる。確証は近づかないと分からないが、下っ端は頭にモロに食らって即死だろう。親玉のほうも、胸の辺りから床一面にどんどん広がっていく血を見るにまず助からない。

 

 今の魔法を放った奴は、この盗賊たちの口封じで来たという訳か。これであいつらから『あの方』について訊くことが永遠にできなくなってしまった。得られた情報は、『盗賊に情報を流した女がいたこと』のみ。

 

 

「やってくれたな……」

 

 

 今回は一足先に獲物を奪われたというわけだ。しかも二人も、目の前で。

 実に悔しいが、唯一の手がかりがなくなってしまった以上ここにいる意味もないので、屋敷に戻るしかない。周囲にさっきの奴がいて狙ってないか、盗賊の血や臭いが衣服についてないかを注意しながらシュガーが待っているであろう屋敷に戻ることにした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねーちゃんすごいね! なんなの、その魔法?」

 

 ずっと、悩んでいた。私の持っている力の意味を。

 物心ついた時から両親はいなかったけど、周りの人々に助けてもらってきた。気が付いたら「人と人とのつながり」を感じることができた私は、その力が何を意味するのかがわからず、怖くて怖くて仕方がないと思ったときもあった。たとえ私がそんな特別な力を持とうが、村の皆は関係なく愛してくれた。

 ランプとマッチは、それが「コール」であることを教えてくれた。もし彼らに出会わなければ、ずっと分からないままだっただろう。

 

 

 

「『コール』って言うの。 ランプが教えてくれたの。

 ―――昔からずっと悩んでいた、私の持ってる力の意味を。」

 

 

 私を育ててくれた皆を、ランプやマッチを、そして……クリエメイトの皆さんを助ける。

 それがきっと、私の力の意味だから。

 

 

「コール…………って言い伝えの魔法だよね。

 本当にあったんだ! すごいね!」

 

 

 相対しているのは、シュガーというランプと同じか、それよりちょっと幼いくらいの女の子。私が使える「伝説の力」に素直に興味を持っている。

 

 

「ねえ、沙英……。

 あの子、悪い子じゃないのよね、きっと。」

 

「……そうだね。

 戦いたくないね……。」

 

 

 ヒロさんと沙英さんの言う通り、シュガーは八賢者といいつつも、純粋な子どもだ。きっと、アルシーヴの言う事を何の疑いもなく聞いているだけなのだろう。アルシーヴを純粋に信じているからこそ、ランプを「裏切り者」だとか言うのだろう。

 

 だからこそ、この戦いは早く終わらせなければならない。

 

 

「――『コール』っ!!」

 

 

 ―――エトワリアを、救うために。

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 盗賊を一捻りしたものの、あと一歩のところで証言を逃してしまった主人公。拳銃を使わずに戦う方法として閃光手榴弾を使ったのは、とある小説で、激しい光を直視した人間の行動についての記述を思い出したので少々アレンジした次第。また、前世の記憶を持つと前世のクセを良くも悪くも引き継ぐだろうなと思い大人の舌を持つことに。本来は超甘党で某万事屋のように蜂蜜やローヤルゼリーなんかをご飯の上にこれでもかと乗っけて他の賢者達を引かせるルートにするつもりだったが、ただの思い付きでこの設定を潰してしまった。


シュガー
 将来が実に心配な不健康姉妹の妹。糖尿病についての概念はまだ根付いてないので砂糖の摂りすぎで足が壊死するなんてエトワリア人は信じないだろうが、シュガーは素直すぎるいい子なので信じた。ローリエの助言のお陰でお菓子や紅茶に入れる砂糖・練乳の量を小さじ一杯ずつ減らすことにした。後日ローリエはソルトに怒られたそう。

ソルト「シュガーに何を吹き込んでるんですか! 殴りますよ!」
ローリエ「何の事だー!?」
ソルト「砂糖の摂りすぎくらいで足が腐る訳ないでしょう!」
ローリエ「ホントよ! ソルト信じてよ!!」


ゆの&沙英&ヒロ
 ひだまりスケッチ枠から登場した人物。本家1章のストーリーが意外とあっさりしているので、これからの出番にはあまり期待できない。……いや、きららの『コール』があるか。


アルシーヴ&ハッカ
 甘すぎるお茶会に無理やり参加させられた筆頭神官とハンマー枠が定着しつつある賢者の子。ローリエの制裁に早くバリエーションを増やさないと「アレは嘘だ」と〇田ボイスで言わないといけなくなる。クリエメイトのクリエについては、生きてないと奪えないので、本家でもあまり手荒な扱いはさせなかったのではないか。


きらら
 本家『きららファンタジア』の主人公。両親がいないという設定を利用し、オリジナルキャラできららの親でも出そうかとも思ったが、絶対面倒くさいことになり、失踪の原因になりかねないので、登場させる可能性は少ない。
 コールの基盤となる「パスを感じる力」の片鱗を見つつもきららを育てた村の人々はかなり肝が据わっていると思う。人間は、自分と違う人間を許容できないこともあるからだ。



△▼△▼△▼
ローリエ「盗賊どものゆのっち誘拐計画を事前に潰せたのはいいけれど、口封じされちまって捜査は振り出しだ、アルシーヴちゃんになんて報告したもんかね。さて、あとはシュガーときらら達の戦いの後始末だけども……あいつ、凹んでないよな……?」

次回『さまざまな兆し』
シュガー「見ないとパンチだよっ!」
▲▽▲▽▲▽


さて、次だ次!


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第14話:さまざまな兆し

やっとごちうさの主要メンバーが揃いますねぇ!
待ってろよシャロちゃん千夜ちゃん………必ず当ててやるぜニェッヘッヘッ(フラグ)


“これが私のできることだから。それに――こんな気持ちのいい人達、放っておけないからね!”
   …召喚士きらら


「『コール』っ!」

 

 私は、私にしか使えない魔法を使う。こうすることで、私は戦う事ができる。

 コール。まだ見ぬ世界に住まうクリエメイトの力を借りる魔法。ほんの少し前までは、私が使えるようになるとは思っていなかったけど。

 かざした杖から光が溢れる。

 

「クリエメイトは渡してもらうよ、おねーちゃん!」

 

 シュガーが両手に動物の肉球のような武器を具現化させてそう言い放つ。周りのクロモンたちも

 クリエメイトがクリエを奪われる事が何を意味するのか分からない以上、ゆのさんや宮子さんたちの為にも、負ける訳にはいかない。

 その思いとともに、杖の光が溢れ出す。

 

 ―――光が消えた時、傍らに立っていたのは。

 

 

「み……宮子様が()()!?」

 

「いや、宮ちゃんだけじゃない! ()()()()()! それに、ヒロさんたちまで……!?」

 

「こんなことってあるの……!!?」

 

「『コール』はこんな事もできるのか……!?」

 

 

 

 オーダーで召喚されている、ひだまり荘の方々だった。

 オーダーされているということは、呼び出されたひだまり荘の皆さんもクリエメイト。そして、コールはクリエメイトの力を借りる魔法。

 だから、彼女たちの力を借りることくらいできるはずである。

 

「お願いします!」

 

「任せたまえー!」

 

 私に喚ばれた方の宮子さんが、クロモンの群れに切り込んでいく。他のクリエメイトたちも、ヒロさんの魔法を中心にクロモン達を薙ぎ払っていく。

 

「うわわわっ!?」

 

 流石のシュガーも、突然ひだまり荘の人達が増えたことに驚き戸惑っている。その隙を見逃す“コールの”クリエメイトではない。

 

「やぁっ!」

 

「食らいなさい!」

 

「ひゃああっ!?」

 

 コールの宮子さんとヒロさんの攻撃がシュガーに入り、幼い体を吹き飛ばす。一瞬、賢者とはいえ子供を吹き飛ばしてしまって大丈夫かと思ったが、すぐさまシュガーが起き上がる。その表情は明らかに不機嫌だ。

 

「もー!なんでそんなに強いの!ずるい! もういいもん、もう帰ってアルシーヴ様に言いつけてやるもん!」

 

 頬を膨らませてそんなことを言ったかと思うと、シュガーは何かを詠唱した。

 

「待ちなさい、シュガー!」

 

「べーっだ! アルシーヴ様ならまだまだクリエメイトは連れてこられるんだから!

―――ゆのおねーちゃん、ありがとうね!とっても楽しかったよ!」

 

「シュガーちゃん。

 あのね、私も嬉しかっ――」

 

「あー、でもこのまま帰るとローリエおにーちゃん置いてっちゃうなあ……まぁいいか!

 ばいばい、ゆのおねーちゃん!今度会った時も舐めさせてね!」

 

「っ!」

 

「そ、そこなの!?

 って消えちゃった………?」

 

 ランプにあっかんべーをし、ゆのさんにお礼を言うと、好き放題場を引っ掻き回していたシュガーは屋敷から姿を消した。一応、賢者を退けることができたようなので、『コール』を解除する。

 

「……転移魔法だろうね。あの幼さでよくこれだけの力を持ってるもんだよ。」

 

「とにかく、これで一件落着かな?」

 

「そうですね……おそらく、このあたりのクロモンを操っていたのもシュガーのはずですから。」

 

 それならば、後は檻に閉じ込められたゆのさんを助けるだけなのだが、宮子さんが力技で開けようとしても開かないほど頑丈なモノだったのだ。鍵を開けようにもシュガーが鍵をかけてそのまま持って帰ってしまったそう。

 

「……え? じゃあ私このままなの!?」

 

「だ、大丈夫! きっと出られるわ!」

 

「どうやってですか!?」

 

「そうだ、きららの力ならどうかな? クロモンみたいにこの檻も消したりできるんじゃないかな?」

 

 

 檻から出られる手段を失い慌てるゆのさんをヒロさんが落ち着かせていると、沙英さんが私の方を向きそんなことを提案してきた。

 確かに、私の力は『伝説の召喚士』と同じとランプから教えられて、その力で実際にクロモン達を倒してきた。でも、この巨大な檻を壊せるかどうかは分からない。

 

「試してみないとですけど……」

 

 そう言いながら、魔力を檻にぶつけてみるが、何の反応も示さない。……ダメみたいだ。

 

「……生命維持系の魔法は作用しているみたいだから中にいることで問題はないだろうけど。」

 

「あ、それはシュガーちゃんとローリエさんも言ってました。この中にいれば何の心配もいらないって。」

 

「……もっと情報がないと。他に、シュガーは何か言ってませんでしたか?」

 

「後は、みんなをこの中に入れて、クリエを奪う、とか?」

 

 ……さっきからランプの様子がおかしい。なんというか、落ち込んでいる、というのは少し違うような気がするけれど、なんというか違和感を感じるのだ。まるで、焦っているかのような、焦るキーワードでもあるかのような……

 

「きらら?」

 

「えっ! な、なに、マッチ?」

 

 考え事をしていると、白い空飛ぶ生き物・マッチに声をかけられる。

 

「話を聞いてたのかい? ほら、あそこを狙ってみようって話だよ?」

 

「ご、ごめんなさい…ちょっと、考え事を。」

 

「まったく……あの光った部分の話さ。」

 

 マッチが顔で示した部分……ゆのさんが入っている檻は上が繋がっており、その中に光っている部分があるのを乃莉さんが見つけたらしい。宮子さん曰わく「いかにも弱点っぽい」ので、私の力で狙ってみようという話になったようだ。

 

「よしっ……今度こそっ!」

 

 乃莉さんが見つけた天井部分にある、檻に繋がれた鎖の光る部分に向かって魔力を放つ。すると、光る部分が魔力によって砕かれ、鎖にヒビが入っていく。更に、そのヒビが檻にまで入っていくと、水晶玉のように粉々に砕け散った。

 

「開きました!」

 

「宮ちゃーん!」

「ゆのっち、ゆのっちーー!!」

 

 ……よかった。ちゃんと、みんなを助けることができて。宮子さんだけじゃなくて、沙英さんもヒロさんも、乃莉さんもなずなさんも、みんながゆのさんとの再会を喜んでいたり、一人ぼっちで心細くなかったか心配している。ゆのさんは、シュガーやローリエが構ってくれたから寂しくなかったそう。

 

「な、なんですかこの量のお菓子は……」

 

「あー、それもシュガーちゃんがくれたんだけど、全部食べきれなくて……ローリエさんも食べてくれたんだけど……」

 

 そうこうしていると、乃莉さんが大量のお菓子を発見したことで、話題が変わる。宮子さんが何も警戒することなくお菓子をつまむ。ヒロさんも沙英さんに促されてなずなさんと共にお菓子を手に取り口へ運んでいく。

 

「ほほう、これはこれは……しっかりとした甘味ですな。これは渋めの紅茶が合いそうだねー。」

 

「や、やっぱりそうだよね! 私がおかしいのかと思っちゃった!!」

 

 

 

「……賑やかだね。」

 

 和気藹々(わきあいあい)としたひだまり荘の皆さんを見て、ひとりそう口にする。まるで、さっきまで戦っていたのが嘘みたいだ。

 

「いいことなんじゃないかな。ね、ランプ?」

 

「…………そうだね。」

 

 マッチの言葉に、ランプが遅れて反応する。やっぱり、さっきから妙な雰囲気だ。

 

「……ランプ?」

 

「ごめんなさい。少し………ちょっと懐かしくなっちゃって。それに……」

 

「それに?」

 

「ああいえ、何でもないです!

 それより、皆様を助けることができて本当に良かったです。これも、きららさんのおかげですね。」

 

 さりげなく聞こうとしたら笑ってはぐらかされてしまった。ランプの笑顔には、まだ違和感が拭いきれないが、それでもひだまり荘の皆さんを助けることができて嬉しいという気持ちに嘘はなさそうだ。

 でも、ランプの違和感の他に私には気になった言葉がある。

 

「さっき、シュガーが言ったこと覚えてる?まだまだクリエメイトは連れてこれるって。」

 

 それはつまり、また、オーダーで連れてこられる人たちが出てくるということ。ならば、オーダーを止めるためにも、私達は神殿に急がなければならない。

 そうマッチに伝えると……

 

「きららは、面倒ごとに巻き込まれた、なんて思ったりしないのかい?」

 

 ……と彼は少し困ったように私に尋ねてきた。

 でも、大丈夫。答えは決まっているから。

 

「これが私のできることだから。

 それに……」

 

「きららさん達も一緒におかし食べようよー、いっぱいあるよー!」

「一緒に食べましょうー。食べながらこれまでのお話聞かせてくださーい!」

 

「はい!」

 

 私を呼ぶゆのさんと宮子さんに笑顔で答えてから、その表情のままマッチに顔を向ける。

 

「――こんな気持ちのいい人達、放っておけないからね!」

 

 心からの想いをマッチに伝え、私は……いや、私達は、ひだまり荘の皆さんとのお菓子パーティーに参加することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いやあああああ!!?」

「な、なに、なずなちゃん!?」

「あ、あ、あそこに……ご、ゴ……!!!」

「うわわわわわ! み、宮ちゃーん!」

「ゆ、ゆのっち!?」

「待っててみんな!今叩くものを……うわあああああ飛んだぁぁッ!!?」

「やああああ!!こっちに来ないでええぇぇぇ!!!」

「さっ、沙英さん、ヒロさん!!?」

「きっきらっ、きら、きららさん、なんとかしてください~!」

「ま、待ってランプ!今肩を揺らしたら狙いが……!」

「し、俊敏すぎる……!」

 

 

 ―――途中、少し…いや、かなり衝撃的なアクシデントに見まわれたけど、大丈夫だろう……多分。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 屋敷の中にいた、ひだまり荘のみんなときらら一行のドッタンバッタン大騒ぎを見届けた俺は、手元にG型魔道具を帰還させてから立ち去ることにする。データはばっちり撮れているだろう。

 ……しかし、シュガーちゃんめ、俺を置いて帰りおって。俺が帰る時のことを考えてないな、あんにゃろーめ。

 俺自身、転移魔法は使えない訳じゃあない。ただ、俺は転移魔法を一度しか使えないのだ。これには、俺の魔法の適正と魔力総量に理由がある。

 魔力総量とは、RPGでいうところの最大MPのようなものであり、アルシーヴちゃんの魔力総量を200とするならば、シュガーちゃんは少なく見積もっても50はある。しかし、俺には20ほどと、シュガーちゃんの魔力総量の半分もない。

 また、魔法の適正とは、きららファンタジアでいうところの属性で、ゲームと同じように炎、風、土、水、陽、月の6属性に別れる。アルシーヴちゃんは月属性、シュガーちゃんは土属性だ。ちなみに俺は陽属性と月属性が半々、その他の属性がちょっととかなり中途半端で、魔法自体と相性が良くない。そのため、アルシーヴちゃんやシュガーちゃんが消費MP1か0かで使える転移魔法を俺が使うとMPを8~15ほど消費するのだ。ドラ○エ9のベホマズンやド○クエ5のルーラ並みに燃費が悪い。

 以上のことから、俺は魔法は使わず、現代武器や体術を軸とした戦い方をしているのだ。

 ちなみにこの理論でいくと、全属性を使いこなせているハッカちゃんの消費MPが凄まじい事になりそうだが、そこら辺は大丈夫なのだろうか?

 

 

 さて、アルシーヴちゃんへの報告についてはまとまったが、やっぱり気になる。オーダーで召喚したクリエメイトを賢者達が回収もとい保護する作戦。詳細は知らなかったようだが、誰かが漏らしたという線は確定だ。放っておいたら絶対ヤバいことになる。

 

 

 そんなことを考えていると、携帯電話から通信が入る。コリアンダーからだろうか。

 

 

「もしもし? こちらローリエ。」

 

『コリアンダーだ。今シュガーが帰ってきたんだが、お前は今なにしてる?』

 

「シュガーちゃんから置いてけぼり食らっちゃってまだ村にいるの。どうしたの?何か写真に写ってた?」

 

『あぁ。すぐに転移魔法で戻ってこい。話がある』

 

「ええっ!? やだよ!俺が転移魔法苦手なの知ってんだろ……あ、切りやがった……」

 

 

 時期的に考えて、写っていたのはおそらくソラちゃん襲撃犯だろう。そうでなければコリアンダーか俺を急かすこともないはずだ。もちろん、ソラちゃん襲撃事件は俺・アルシーヴちゃん・ハッカちゃん三人の秘密。甘~い関係だったら兎も角、事件についてはマジで話すわけにはいかない。

 

 コリアンダーにどう説明するかという苦悩と、今日一杯魔法は使えないなという諦めにため息を一つつきながら、転移魔法の詠唱を始めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 神殿に戻ってくると、すぐにシュガーを見つけた。神殿の外壁に体育座りで寄りかかっている。端から見ていても、アルシーヴちゃんに怒られて落ち込んでいるのがよくわかる。

 

 

「シュガーちゃん」

 

「あ……おにーちゃん」

 

 

 俺が声をかけると、シュガーがゆっくりと顔をあげる。やはり、その表情にはいつものような溢れんばかりの活気は少し翳りを見せている。ちょっとだけ凹んでいるのだろう。

 

 

「今日はおつかれさん」

 

 何か言いたげだったシュガーに先手を打ってそう言った。驚く彼女の隣に腰を下ろし、目線の高さを合わせる。

 

「君一人でよく頑張ったな」

 

「うん。

 ……クリエメイトを逃がしちゃったのは残念だったけど、その分、ゆのおねーちゃんの絵を見たり、ローリエおにーちゃんとお茶会したから楽しかったよ!

 それにそれに、ランプが見つけてきた召喚士のおねーちゃんがね、『コール』使ったの!すごかったなぁ……!」

 

 よく頑張ったな、と付け加えると、シュガーはいつも通りの笑顔を見せる。でも、その顔は作っている感じがどうも否めず、普段の元気に影が差している気がするのは俺の気のせいなんだろうか。

 

「偉いね、シュガーちゃん」

 

 取りあえず一見楽しそうに報告するシュガーを撫でてあげることにする。シュガーは目を閉じて俺のナデナデに身を委ねている。下手な紳士のなり損ないがこの画を見たら間違いなくロリコンに目覚めるほど気持ちのいいリアクションだ。

 

 

「そのポジティブさは才能だよ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。一人で考えを切り替えられるのは一種の才能だよ。中にはね、一度失敗すると一人じゃなかなか立ち直れない人もいるんだよ。」

 

 ――例えば、俺みたいにね……とまでは言わない。

 

「……前を向こう、シュガーちゃん。きっと、なんとかなるはずさ。」

 

 

 俺がそこまで言い終わる前に、シュガーは俺のナデナデから脱出し、いつも通りの自信満々の笑みでこちらを向く。

 

 

「当たり前でしょ! シュガーはね、終わったことをくよくよ考えたりしないんだから!!」

 

 

 なんと頼もしいことか。こりゃ、俺が励ますまでもなかったかな。

 

 

「おおっ! さすがシュガーちゃん、その意気だ! もうナデナデは必要ないかな?」

 

「えー!? 待って! もう少しだけ!お願い!」

 

 

 すっかり元気いっぱいになったシュガーを抱き寄せてナデナデを再開する。感覚は猫や犬を撫でる感じなのだが、これでいいのだろうか?

 

 

 

 

「………ローリエさん?」

 

 

 シュガーを撫で続けていると、後ろから底冷えした声が響く。錆び付いたロボットのようにギギギと振り向くと、そこにはソルトがいた。田中○奈美さんってこんな声出せるのかよ、一瞬誰だか分からなかったわ。そのソルトは目から光を失っており、闇のようなオーラを醸し出していた。なんならオーラだけで人を殺せるまである。

 

「シュガーに何をしているんです?」

 

「お、おい待てソルト、何か誤解を……」

 

「遺言はそれでいいですか?」

 

 マズい。計算高いゆえに俺の合理的な考えに賛同することの多いソルトが今回は聞く耳を持っていない。それどころか、シュガーに「シュガーもシュガーです。警戒心がなさすぎます」とか言っている。逃げ切れなければ確実に殺される。

 

「あ! 今、ケーキが茂みの中へ入っていったぞ!」

 

「えっ!ほんと!?どこどこ!!?」

 

 俺のあからさまな嘘にシュガーが神殿付近の茂みの中へと走っていく。妹が破天荒な行動を取れば、姉であるソルトはそれを追うはず。そうして姉妹で鬼ごっこに興じているうちにサヨウナラ。

 この作戦なら上手くいく、そう思っていたのだが。

 

「クロモン達! シュガーを追ってください!」

 

「「「くー!」」」

 

 ソルトのクロモン達への号令で、作戦失敗を悟った。

 

「作戦にしては稚拙すぎますよ、ローリエさん」

 

「だろうな。だったら……」

 

 俺は懐から閃光手榴弾を取り出し、すかさずピンを抜く。

 

「別の手を使うまでだ」

 

 

 

 突如発生した閃光を背に俺は走り出す。悪いなソルト、俺はコリアンダーから呼び出されてるもんでね。まだ死ぬわけにはいかんのだよ!フハハハハハ!!

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 俺はあいつとの部屋の中で、ある一枚の写真を穴があくほど見つめる。あいつが神殿にいない間、調査を頼まれた写真のうちの一枚だ。

 写っているのは、杖にしては珍しい、ペンほどもない長さの杖を手に持った、ローブに身を包んだ傷だらけの男。それと、そいつに続くように床に垂れている液体のようなもの。

 色合いからして、きっとこれは血だろう。実際にこれほどまでの血を見たことは皆無だが、写真の状況から推測できる。

 

 撮影された時間は、アルシーヴが「女神ソラ様が病気療養をなされた」と発表した日の前日。それも深夜。だが、その翌日には床に垂れている血なんてどこにもなかった。

 

 他にも色々聞きたいが、俺は今からそれを目の前の親友に聞く。ローリエは真剣な表情でこちらを見ているだけで、いつものふざけた言動は見られない。

 

「ローリエ」

 

「なんだい」

 

「一番気になる質問からいこう。この写真に写っている男は誰だ?」

 

 目の前の親友は、まるでその質問をされるのが分かっていたかのように一息つく。寸刻流れた沈黙ののちに、彼が口を開く。

 

 

「アルシーヴちゃんを襲おうとした野郎だ」

 

 

 その言葉は、なるほどと説得力のあるものだった。確かに、筆頭神官になる前のアルシーヴは、神官の身でありながら破竹の勢いで悪を挫いてきた女性だ。悪徳神官を決闘で打ち負かすなんてよくある話だった。まさに文武両道を絵に描いたような存在である。

 

「動機はただの逆恨みだった。よくいるよな、自分のことを棚に上げてまず人のせいにする鋼入りの誰か(スティーリー・○ン)にも劣る小悪党ってよ」

 

 ゆえに、ローリエの言うとおり逆恨みをされることも少なくなかったらしい。

 しかし………何故だろうか。

 なぜ、ローリエの言っていることに「そうか」と納得できないのだろうか。あと鋼入りの誰か(スティーリー・ダ○)って誰だ。

 

 

「写真では深手を負っている。その理由は?」

 

「アルシーヴちゃんが対応する前に俺が追い払ったからだ。少々、手荒な門前払いをしたがね」

 

「床の血痕はどうした」

 

「奴にお帰り頂いた後、俺が掃除した。血痕あったらみんな驚くだろ?」

 

「コイツは深夜に来たと思われる。お前はそれに会ったというのか?」

 

「その日の朝にソラちゃんに相談されたんだ。嫌な予感がするってよ。それで、見回りしてたらばったり会った」

 

 

 こんな感じでしばらくローリエに質問したが、嘘は言ってないようだった。長く付き合いだから分かるようなものなのだが、コイツは嘘をつく時、話す相手の目を見ないのだ。話し相手の首か胸のあたりや、額の部分を見たりするため、違いがほとんどなく、付き合いが短いと見抜けない。

 

 今回のローリエには、そういったサインが見られなかった。つまり、少なくとも嘘はついていないということ。でも、隠し事をするために()()()()()()()()()()()()()

 

 

「本当の事を言え」

 

「さっき言ったことが本当のことさ。何ならアルシーヴちゃんにでも聞くといい」

 

 

 まっすぐ見てきたアイツの言葉を聞いても、尚真実として受け入れられそうにない。常識外れの発明を当たり前のように行うローリエの考えている事が、今回ばっかりはローリエの親友たるコリアンダー(おれ)をもってしても分かりそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけましたよローリエさん」

「ぎゃああああ!!ソルト!!?」

「さぁ、覚悟はできてますね?」

「やめて!!神様仏様ソルト様許して!!!!誤解だからー!!!!」

「問答無用ッ!!!」

「ひぎゃあああああああ!!!?」

 

 

 ………前言撤回。ソルトに何かしたから報復に怯えてただけだな、コイツ。

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 きらら達を見守ったりG型魔道具を回収したりシュガーと仲良くなったりソルトに誤解されたりした男。今回のお話は1章から2章へのクッションストーリーなので目立った活躍はない。ただ、何者かによる情報漏洩の件は重く見ている。

きらら&ランプ&マッチ&ひだまり荘一行
 無事に原作通りシュガーを退ける。原作との違いは、ローリエが記録のためG型魔道具を設置したために、なずなに見つかったことがきっかけで大混乱に陥る。ひだまり荘の中にGに耐性のあるキャラがいたら申し訳ないが、作者が不勉強な者で、Gが平気なきららキャラはひでりくんしか知らないの。

シュガー
 フレンドリー過ぎて全国の□リコンに狙われそうな賢者。彼女の性格からして、アルシーヴの頼みを果たせなかったのは申し訳ないと思っていても、落ち込むことはないだろうと思い、当初考えていたプロットをちょっと修正した。エネルギッシュな子は土壇場でプロットを狂わせるからちょっと扱いづらいけど、書いてて楽しかったから、また出したいところ。

ソルト
 自身の妹を捕まえていたローリエ(ソルト目線)を見て、一時的に殺意の波動に目覚めた賢者。公式設定でシュガーがフランクすぎて隙だらけだから彼女をカバーするような性格になった(要約)とあるので、ちょっと優しくすれば懐いてしまうシュガーが心配でもあると考えた。つまり、シュガーに手を出した(またはそう見なされる行為を行った)場合、確実に殺意ソルトから折檻されるということだろう。

コリアンダー
 ローリエに写真整理を頼まれたので、またしょうもないスケベ行為かと思ったらマジだったと判明し戸惑う男。ちなみに、コリアンダーは神殿の事務員とあんまり立場的に偉くないので、ソラの病気療養を信じきっている。しかし、察しが良いのでローリエ次第で真実に辿り着くかもしれない。取りあえず今回はソルトに救われる形でローリエは不信度アップを免れた(代わりに肉体的にひどい目に遭ったけど)。


ベホマズン&ルーラ
 某有名RPGの全体完全回復魔法と転移魔法。基本的に消費MPはそれぞれベホマズンが36、ルーラが0or1となっているのだが、ドラ○エ5のルーラの消費MPは8、ド○クエ9のベホマズンに至っては消費MPが128ととんでもない下方修正を受けていた。これには作者も誤植を疑ったほど。今回は消費MPが多いことの例えに持ち出されただけである。

鋼入りの(スティーリー・)ダ○
 ジョジョ3部に出てくる、宿敵DIOに金で雇われた刺客。弱きに強く、強きに弱い男で、主人公の仲間を人質に取った後の言動はクズそのもの。詳しくは3部アニメの「恋人(ラバーズ)」を見るべし。


△▼△▼△▼
ローリエ「はぁ~あ~~痛いなぁ~もう。ソルトはシュガーが絡むと手加減しないよな」
ソルト「当然です。シュガーはフレンドリーなのに悪意に鈍感すぎるんですよ」
ローリエ「こっち見て言うなや。さて、お次のオーダーの場所は海が見える港町だ!待ってろよ、凪の海と潮風が似合うもっこり美人ちゃん達、そしてセサミ!みんなまとめて抱i……」
ソルト「制裁が足りませんでしたか」

次回『百合の潮風』
ソルト「絶対見てくださいね」
▲▽▲▽▲▽


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エピソード3:続きから▷港町~八神コウ&りんの結婚式を邪魔するな編~
第15話:百合の潮風


“今日も一日がんばるぞい!”
 …デデデ大王 涼風青葉


 アルシーヴちゃんに『盗賊は蹴散らしたけど口封じされた』事と『盗賊のバックに誰かがいる』事を報告してから数日。俺は、いつも通りの教師の仕事をしつつ、教材研究のために図書館に籠もる、そして森の中の射撃場に通うといった、教室と図書館と射撃場を行き来する日々に追われていた。

 

 ……ここでの『追われていた』は過去形である。

 

 実は先程、とんでもない光景を見てしまったからだ。

 

 別に某高校生探偵のように麻薬取引現場を見たとかじゃない。ただ、図書館の扉を開けただけなんだ。

 

 

 

「も、申し訳ございません、アルシーヴ様!!」

 

「問題ない。フェンネルこそ、大丈夫か?」

 

「な、な、何ともありません!!」

 

 

 そこに広がっていたのは、散らばった本の真ん中で、アルシーヴちゃんを押し倒していたフェンネルだった。

 アルシーヴちゃんは押し倒されたにも関わらず、平気な顔を……いや、慈母のような笑みさえ浮かべてフェンネルの肩に手を乗せた。それとは対照的に、フェンネルは恋する乙女のように完全に赤面しており、慌てふためいている様子であることが図書館の入り口からチラッと見ただけで分かった。

 

 俺はすぐさま扉を閉めた。

 まさか、アルシーヴちゃんとフェンネルがそこまで親密だったとはな。二人の表情と言動からしてアルシーヴちゃんが攻め、フェンネルが受けだろう。……意外だ。俺は相手がソラちゃんにしろ俺自身にしろ受けのアルシーヴちゃんしか見たことがなかった。あんな余裕綽々な攻めアルシーヴちゃんも悪くない。

 更にアルシーヴちゃんには、ソラちゃんという親友(恋人)がいる。それなのにフェンネルに手を出すとはな。アイツもなかなかのスケコマシじゃあないか。

 

 ……後で盛大に祝ってやろう。

 

 その後、「アルシーヴちゃんとはどこまで進んだ?」とフェンネルに聞いた所、顔を真っ赤にしながらレイピアを振り回した彼女に追いかけ回されたのはご愛嬌である。

 

 

 

 

 そういったことは置いといて。

 この前のコリアンダーには肝を冷やされた。ソラちゃんの襲撃犯の写真を見られたのはかなりマズかった。幸いアルシーヴちゃんの部屋での写真は渡してない……というか撮ってなかったから良いものの、危ない所まで踏み込まれ、尋問された。もしバレたらアルシーヴちゃんから何をされるか分かったもんじゃない。

 写真の解析をコリアンダーに頼んだのは失敗だったのかもしれないと、ため息を一つ。

 

 

「……ローリエ?」

 

「あぁ、アルシーヴちゃん。コリアンダーの件は口裏合わせてくれてありがとよ。」

 

「別に構わないんだが……せめて事前に一言欲しかった」

 

「ソルトにボコられててそれどころじゃあなかったの」

 

 

 ソラちゃんの部屋にて、アルシーヴちゃんと二人きりの俺は、本来なら指令の通達を受けるだけだったのだが、先日のコリアンダーの件で意外と長く話し込んでしまっていたようだ。

 

 

「それで、今回の指令は何だい?」

 

「港町にてオーダーを行う。クリエメイトの捕獲はセサミが担当する。ローリエにはセサミの補助と“例の件”の情報収集を頼みたい。」

 

 “例の件”とは、言わずもがな、ソラちゃん襲撃犯の件である。シュガーの時に殆ど情報を得られなかったので、引き続き全ての事情を知る俺が捜査役に選ばれたのだ。ハッカちゃんは原作通り、夢幻魔法という危険な魔法を使える以上、むやみに神殿の外へ出せないようだ。

 

 それにしても、セサミと二人きりか……

 よし抱こう。

 セサミとは図書館で(事故とはいえ)ロケットボインをゲットしてしまった日からあまり会話出来ていない。俺の鍛え上げたコミュ(りょく)マスタリーで口説き落とし、ヨリを戻して、二人で熱い夜を過ごそう。

 

 

「…今回は、コリアンダーも同行させる。」

 

「……え?何で?アイツ非戦闘員じゃなかったっけ?」

 

「戦闘の心得が全くないという訳ではない。コリアンダーも賢者達ほどではなくても戦えるはずだ。

 ……それに、猫に鰹節を食べられないように監視役も必要だろう?」

 

「どういう意味だ。俺がセサミに手を出すとでも思ったのか?」

 

「よく分かったな、その通りだ」

 

 

 ちくせう、と俺は心の中で頭を抱えた。モチベーションが70%低下した。

 あ、そうだ。忘れるところだった。

 

「アルシーヴちゃん、フェンネルがまた慌てた時は頭を撫でてやるんだぞ?」

 

「…? ああ、わかった……だが何故?」

 

 あ、コリャ分かってないな。アルシーヴちゃんに春が来るのは当分先だね。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 港町。

 それは、数多の船が行き着く所にして、あらゆる情報が流れる場所。地球でも、貿易を通してヨーロッパを中心に栄えていった。特にナポリは歴史的栄華の跡が伺える南イタリア最大の都市となっており、その風光明媚な景観は「ナポリを見てから死ね」とまで言われるほどだ。

 エトワリアの港町も、そのようになる可能性を持っている。住む人次第でナポリのような「死ぬ前に一度は見てみたい景観を持つ街」になるだろう。

 

 今回の俺とコリアンダーの指令とは、そんな港町にてセサミと合流し、クリエメイトとソラちゃん襲撃犯の情報を同時に集めること。まぁシュガーの時とほぼ同じだ。

 

 

「それで、何だコレは?」

 

「強盗……だと思うんだが……」

 

 

 その港町で俺達を待ち受けていたのは、地べたに寝転がる人々、並ぶ街中の一つにあるドーナツ屋を占拠?しているだらけた強盗、受付によりかかる女店主に、人質らしき僧侶姿の女性だった。

 

 

「あー……なんだ、その……金を出せぇー…じゃないと………わかるっしょ?口で説明すんのめんどいしぃ……」

 

「好きにしてください……動きたくないので……」

 

「何言ってるんですか! 駄目に決まってるでしょう!」

 

 

 どう考えても脅す気のない強盗の投げやりな要求に、好きにしろと言う女店主。そんな怠惰な状況に人質でありながら唯一声を張る僧侶姿の女性。というか一番最後の女性の姿と顔、そして優しく包みこむようなかやのんボイスに覚えがあるんだけど。

 

 

 遠山りん。

 アプリでは第2章にて登場。オーダーで呼び出されたイーグルジャンプの社員の一人にして、青葉たちのまとめ役のお姉さんだ。あとコウの恋人。つまり……彼女はクリエメイトということになる。俺達は彼女を保護しなくてはならないワケだ。

 ただ、強盗がものすごくアレなのでかなり簡単に助けられそうだけど。

 

 

「なぁ、おっさん? なんか気だるそうだからさ、強盗なんかやるよりもっと楽に食っていける場所を教えようか?」

 

「あ、ほんとぉ? なんかさ、働くのが面倒くさくなっちゃってさぁ……こんなことしてみたんだけど、やっぱり面倒でさ……で、どこなのぉ?」

 

「牢獄の中だ。あそこなら、働く必要もないだろ?」

 

「そうだねぇ……じゃあ、そうしようかなぁ……めんどくさいけど……」

 

 

 重い足取りで立ち去っていく強盗。なんというか、オーダーの影響が強力で助かった。

 この港町でのオーダーの副作用は「大人が全員、働く意欲をなくすこと」。町中の人という人がだらけてしまい、働かなくなるのだ。そして、その怠惰性を治すためには、「その人の働く理由を思い出させる」必要がある。

 さっきの俺の強盗への誘導は、おそらく強盗が労働じゃないからああなったんだろう。きっと、あの人には別に仕事があったが、数日前あたりにリストラされた、ってところか。可哀想な人だ。

 

 

「……………あの、お怪我、ありませんか?」

 

 強盗が交番へ赴くのを見届けていると、コリアンダーが口数少なめに遠山さんに話しかける。お前、女と話すの得意じゃないのに無茶すんなや。

 

「私は大丈夫です。……おふたりは?」

 

「俺はローリエ。こっちはコリアンダーだ。」

 

「……よろしく。」

 

「良かったら、俺達の拠点へ行きがてらこの世界についてお話しましょうか?」

 

「お、おい……」

 

「あぁ、ありがとうございます。私、遠山りんと言います。」

 

 

 そして、遠山さんにエトワリアの事を色々と話しながらセサミとの合流地点である、海辺に見えるコテージへと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 コテージの中では既に、いつも通りのあぶない恰好をしたセサミが椅子に座って待っており、奥の部屋の半開きになった扉の向こうのクリエケージの中で八神コウさんが珍しく下を脱いでない格好で眠っていた。

 

「コウちゃんっ!!」

 

 遠山さんは彼女を見つけるなりクリエケージに駆けつけて檻を掴む。セサミがクロモン達に命令して遠山さんを捕まえようとしているのが聞こえる。クロモン達が迫ると遠山さんは捕まるまいと逃げようとするが、コリアンダーもクロモン達と一緒に逃げ惑う遠山さんを追いつめる。

 

 俺は、はっきり言ってこのやり方は好きではないし、やりたくもない。理由は3つ。

 1つ、単純にきらら漫画の登場人物達にひどいことはできないから。前世からきらら系の漫画を読んでいた俺には、彼女たちへの愛着が湧いている。心境的にはランプに近い。だから彼女たちを傷つけたくない。

 2つ、クリエケージでクリエを奪った結果、クリエメイト達に起こる悪影響が予想できないから。エトワリアにおいて、クリエは命そのものと言っても過言ではない。そんな世界でクリエを生み出す者(クリエメイト)がクリエを奪われたらどうなるかが、アプリでは言及されていなかった。二度と元の世界に帰れなくなるとか、命がなくなるとかいう悪影響だったら笑えないからだ。

 3つ、この「きららファンタジア」の物語の結末を知っているから。最後は、ランプがオーダーで召喚されたクリエメイト達との交流を書き留めた日記が聖典となり、呪われたソラちゃんとクリエ枯渇寸前のアルシーヴちゃんを救う、という事を俺は知っている。ここで全員捕まえてクリエ回収を成功させるよりも優しくて、誰も不幸にならない方法だ。

 

 

「ローリエ! ぼさっとするな!遠山りんを捕まえろ!」

 

 

 そんな苦悩も知らずに、コリアンダーは俺を怒鳴る。何もしていない様に見えたのだろう。遠山りんも、息を切らしながら、かろうじてクロモン達から逃げられているが、捕まるのも時間の問題だろう。

 だが俺も、親友に発破をかけられた以上、仕事をしない訳にはいかなくなった。

 

 

 

 ――仕方なく、懐から「パイソン」を取り出し、誰もいない方向の窓に向かって威嚇射撃を放った。

 

 

 

 バァァン、という発砲音とパリン、というガラスの音がコテージ内に同時に響く。

 その音に、遠山さんは顔を青ざめ、動きを止めた。クロモン達も、コリアンダーも、セサミも皆同様に動きを止める。イーグルジャンプにはサバゲーの達人(うみこさん)がいる。俺のマグナムでの威嚇射撃は効果抜群であることも確信していた事だ。そして、日本ではそう簡単に実銃は手に入らない。遠山さんへの心理的ショックは容易に想像できた。

 

 

「遠山さん、俺はこういうことはしたくなかったんだ」

 

 そして、自発的に静寂を破る。慎重に話しかけて落ち着かせなければ。

 

「この世界には魔物が当たり前のようにいると言ったはずだ。中には簡単に人間を殺せる奴もいるということも、そいつらが町に入ってこないとは限らないことも。」

 

 俺はマグナムを懐のホルスターにしまって続ける。

 

「俺達は基本的にイーグルジャンプの皆に危害は加えない。魔物や不審者からも守ると言った。でも、もしそれが聞けず、好き勝手に行動するというのならば……君らの安全のため、こういう手段を取らざるを得ない。

 信用はされない行いだと分かっている。だから信用しなくてもいい。でも………分かってほしい。」

 

 遠山さんは答えるかわりに、八神さんがいる奥の部屋に入っていった。きっと納得はしていないだろう。でも、シュガーの時にもゆのっち達を狙う盗賊たちもいたからな……あながち嘘ではない。

 

 

「驚きました、ローリエ」

 

「何がだ、セサミ」

 

「あなたは、もっと女性に優しいと思っていました」

 

「優先順位と合理性の話だよ。俺だって女性に銃は向けたくない。さっきも、関係ない方向に撃ったの見たろ。

 俺はただ、アルシーヴちゃんからの任務を守っただけだ」

 

 日本人は平和ボケと某法律のせいか、銃の脅しに弱いという点を突くのも合理的だしな。

 

「あんまり俺を見くびった言動をするとまたおっぱい揉むぞ」

 

「触ったら制裁ですからね!」

 

 

 もう知りません、とセサミはそっぽを向いてしまった。

 そこにアルシーヴちゃんがちょうどやってきて、ローリエお前またセサミにセクハラしたのかと問いただされた事は割愛したい。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 コテージに入った瞬間での出来事を整理するのに、幾分かの時間を要した。

 コウちゃんが捕まっていたこと。布地の少ない水着を着た青い髪の女の人に命令された黒い小動物が私を捕まえようとしたこと。コリアンダーさんとローリエさんが掌を返したように急に私を捕まえようとしだしたこと。そして……

 

 

『遠山さん、俺はこういうことはしたくなかったんだ』

 

 

 ローリエさんが威嚇射撃をしたこと。あれはきっと、うみこさんがコウちゃんにからかわれた時の仕返しで使うようなモデルガンじゃないだろう。

 どうしてあんなものを持っているのか、どうしてあんな事を言いながら威嚇射撃を放ったのか、といった疑問もあるが、それより私はこの檻の中、コウちゃんと二人きりでいて、どうなってしまうのか不安だった。

 

「あぁりん、いたんだぁ~」

 

「いたんだぁじゃないよ! 私達捕まっちゃったのよ!どうするのよ!」

 

「私だって焦ったよ。でも、この檻からどうしても出られなくってさ。あれこれ試しているうちになんかめんどくなって……」

 

 そんな不安があるはずなのに、コウちゃんはそんな不安を感じさせない様子でだらけていた。少し様子がおかしいが、この状況はまずい。コウちゃんがこういった状態にどうするかは知っている。

 

「ねぇりん、脱いで良い?」

 

「駄目に決まってるでしょ!! 今の状況分かってるの!?」

 

「いいじゃぁ~ん! 海が近いのか、ちょっと暑かったし、いいでしょ~! ね、りん?」

 

「もおぉっ、さっきと違って何で脱ごうとする時だけそんな元気なのっ!?」

 

 私の制止も聞かずに、ズボンを脱ぎ始めるコウちゃん。それをなんとかやめさせようとしているが、時間の問題だ。捕まっているというのに、こんな格好誰かに見られる訳には……

 

 

「………ええと、お取り込み中でしたか?」

 

「きゃああああっ!?

 い、いきなり入ってこないで!」

 

「おいセサミ、お前礼儀がなってなさ過ぎるぞ! 百合CPの部屋に入るときはまず……」

 

 

 扉から顔を出すローリエさんと、セサミと呼ばれた青髪の女性と目が合う。

 

「ノッ……ク………を………」

 

 つまり……この二人にコウちゃんのあられもない姿が見られているということで……

 

 

「で、で……」

 

「あぁ! みなまで言わずとも良い、遠山さん!」

 

 

 私の悲鳴を遮るように声を張って何かを語りだしたのはローリエさんだ。

 

 

「我々は妖怪『イナイ・イナイバー』!

 ある時は存在し、またある時は存在しない、稀有な幻のポケ〇ン!!」

 

「自分でポ〇モンって言っちゃったよ」

 

「その実君らでマイサン(My son)がフィーバーするイケナイ生き物さ。

 さて、疑いが晴れた所で続きを鑑賞するとしようか。

 ―――ポップコーンください」

 

 現在進行形で疑いが確実なものになっているローリエさんは、どこからかイスを取り出してそこに座り、手足を組んでそんなことを言っている。……まさかここに居座るつもりなの!?

 ……これを見ている私の目は据わっていることだろう。〇ケモンのくだりでツッコんだ隣のコウちゃんも目から光が消えていたから。

 

「コーラもつけて、携帯電話の電源はオフに、館内禁煙、上映中はお静かに、撮影禁止。

 どんなに足が長くても、前の席は蹴らなイダァ!!?

 

 映画館の本編上映前に出てきそうな注意を口頭で暗唱するローリエさんを、セサミが後ろからイスごと蹴り飛ばす。なんというか、破廉恥な格好をしているが常識は持ち合わせているのかもしれない。

 

「何がやりたいんですか貴方は。ここは劇場じゃあないんですよ」

 

「セサミお前! せっかく『百合CPを覗いたのがバレちゃった時のフォロー』をしたというのに!!」

 

 

「あの、何もフォロー出来てなかったんですけど…」

 

「失礼……いえ、私は捕虜の貴方にそう言われる理由も無いのですが。

 それにしても、八神コウは、いつもそんな恰好を……?」

 

 自分だけ常識人ですよみたいな、そんな強調をしつつ、セサミにコウちゃんについてそう聞かれた。なんとか誤魔化さなくては。

 

「い、いつもじゃありません、たまにですっ! ほら、もう脱げかけちゃってるじゃない!」

 

 コウちゃんのズボンを直していると、更にこんな質問をしてくる。

 

「たまに……その、込み入ったことを聞きますが、下着の露出が趣味とか?」

 

「コウちゃんを変質者にしないで!!」

 

 とんでもない誤解を大声で打ち消す。

 でも、コウちゃん、会社で寝る時はいつもあんな恰好してるし……

 

「少しだけ………そうなのかも………。」

 

 声に出てしまった。しまったと思ったがもう遅い。

 

 

「……破廉恥な人なのですね。」

 

 

 セサミが何とも言えない表情でそんなことを口にした。

 コウちゃんにはもう少し女の子っぽくして欲しいけど……

 

 

 

「あなたみたいな格好の人が言わないで下さい!!」

「あんたみたいな格好の人には言われたくないかな~。」

「お前がソレを言うな、セサミ!!」

 

 

 三人のツッコミがコテージ内に響き渡る。

 賢者について、何も分からなくなってきた気がする。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 セサミやコリアンダーと共に、遠山りんを保護した百合豚。百合CPにおける彼自身の思想はかなり過激で、お膳立てするだけして、見れるだけ見る、といった業深く罪深い信条を持つ。ただ、「百合に男の入る余地はない」といった、百合の基本はおさえている(つもり)。また、同性愛にも寛容で、エトワリアで同性愛を認めるべきとも思っている。

アルシーヴ
 無自覚タラシ筆頭神官。フェンネルと図書館でぶつかっただけなのに、ローリエに百合CPを組まれ、余計なアドバイスを貰ってしまった。きららファンタジアが公式で恋愛ゲームを出す場合は、アルシーヴを操作し、七賢者を主に攻略していく形になるだろう。隠しキャラは勿論ランプで。

コリアンダー
 戦闘要員として出したつもりが、町中の人々がだらけ切っていたためにいい出番がもらえなかったオリキャラ枠。今回も女性が苦手という設定を深めただけになってしまったかもしれない。活躍はもう少し待ってほしいのじゃ。

セサミ
 原作第2章のボスたるアルシーヴの秘書兼八賢者。ローリエとはエロと制裁で軽口を叩きあう仲だが、ローリエ自身は満足していないようで、更なる親密度アップを図ったが、ガードは固い。全く関係ない話になるが、あぶない水着シリーズはやはり11以前の許されていた時代が好みなのだが、11の水着デザイン変更には許される許されないの他に、需要の問題もあるのではないだろうか。

八神コウ&遠山りん
 原作通り囚われの身となった公式百合CP。作者の得能先生も、コウとりんは意図的に百合として描いているという。原作では言及されていなかった、りんが囚われるまでを書いた。コテージに入ってからはローリエに振り回されたため、今回一番不憫なポジションなのは間違いない。


new game!
 得能氏が連載している、4コマ漫画。やる気溢れる新人・涼風青葉、無口だがネットでは饒舌な同僚・滝本ひふみ、ズボラでセクシャルな上司・八神コウ、お調子者な同僚・篠田はじめ、関西弁を話す庶民的同僚・飯島ゆんといったイーグルジャンプ社開発メンバーを中心に構成されるワーキングコメディ。「がんばるぞい!」といったフレーズや魅力的なキャラクターで社会現象を巻き起こした。



△▼△▼△▼
ローリエ「さて皆さん、百合の潮風、いかがだったかな?この後はだらけ切った住人達を叩き起こして、例の情報収集の時間だ!コリアンダーは帰ってていいよー!」
コリアンダー「ダメだ。お前とセサミを二人きりなんて、世界一安心できん」
ローリエ「だったら、手伝ってくんない? 情報収集はもちろん、きら…召喚士達の確認にコウりんの結婚式の準備、クリエケージの調整。仕事は山盛りなんだからな?」
コリアンダー「ああ、わかっ……待て、今なんて言った?」

次回『なにイロコンパス?』
ローリエ「見てくれよな~!」
コリアンダー「ま、待て!待てってば!」
▲▽▲▽▲▽

あとがき
平成最後、書ききった!!!!
前書きの台詞が陛下ボイスで再生された方はきっと私と同世代。
あと、星5シャロ千夜が当たらないのはバg……ゲフンゲフン、まだチャンスはあるからな!!


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第16話:なにイロコンパス?

“全ては『できる』って信じることから始まる。例え蜘蛛の糸並みに細いチャンスでも、最初(ハナ)から諦めて手繰り寄せることすらしなかったら何も起こりはしない。
 教育も同じ。自分(テメエ)を信じられずに生徒を信じられないし、生徒を信じられないと教師なんてやってられねェ。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第3章より抜粋


「セサミ、ちょっと頼みがある」

 

 遠山りんとローリエの無茶苦茶なやりとりがあった後。

 彼は私にそんなことを言ってきた。はっきり言ってローリエからの頼みなんて想像する限り嫌な予感しかないのでとっととつまみ出したいのが本音ですが。

 

「魔法を効率よく使う方法を教えてほしい」

 

 そう思っていた私に彼がしてきた頼みは、予想外のものだった。

 

「どうしたんですか、いきなりそんな事を聞くなんて」

 

「まったくだローリエ。お前、変なものでも食ったか?」

 

「張り倒すぞお前ら。俺だっておふざけ一辺倒じゃないの。」

 

 そう言ってローリエが説明しだす。なんでも、転移魔法を一回しか使えないのが悩みだという。自身の属性が曖昧な上に魔力の総量も少ないことが魔法を使いにくくしているのだというのだ。そこで彼は魔法が得意な賢者達に教えを請おうと考えたのだそう。

 

 

「いいんですか、私で? アルシーヴ様の方が魔法の技術はありますし、女神候補生の教育をしてるのもアルシーヴ様でしたが……」

 

「あいつにはもう根掘り葉掘り聞いたよ。属性は兎も角、魔力総量は個人差があるからどうしようもないんだと。俺個人としては心許なさすぎる魔力総量を何とかしたいんだがな」

 

 

 魔力総量は、人が魔法を使うために補充できるクリエの総量である。これは、それぞれの生まれつきによるものがとても大きい。私もまた、幼い頃から魔法を覚えるのには苦労していても、覚えた魔法を使うことに苦労した記憶はない。……ゆえに、私はもう一つの方法を彼に提案した。

 

 

「ローリエ、やはりあなたの属性を一つに絞った方が早いのではないですか……?」

 

「ええっ! エトワリアに最大MPの増加ないの? ふしぎなきのみくらいあってもいいだろ!?」

 

「不思議な木の実?」

 

「食べると魔力の総量がアップする、みたいな……」

 

「ある訳ないでしょう、そんなの」

 

 

 頓珍漢なたわ言を一蹴する。大体、そんな木の実があったら神殿の書庫の数冊にそれについての本があるはずです。記録がないということはつまり……魔力総量ばかりはどうにもならないということ。

 

 

「アルシーヴちゃんにも同じこと言われたし……やっぱ属性を絞ることしかないのか?」

 

「そもそもなぜ『魔力総量を上げる』という発想に拘るんですか」

 

「簡単なことだよセサミ。もし魔力総量を上げる方法が見つかれば、エトワリアの魔法は更に発展する」

 

 

 ふと思いついた疑問に、さも当然であるかのように答えてみせた。その時のローリエの目は、いつものちょっとやらしい目つきやふざけた気配が消え失せ、まっすぐ撃ち貫くかのように私の瞳を覗いていて、オレンジと金色のオッドアイに引き込まれそうになる。

 

「まず『魔法がどれだけ使えるか』で起こる差別は減るだろう。俺自身、経験したことだ。『魔法は使えないのに』って遠巻きに陰口叩かれてたっけ、コリアンダーと仲良くなる前は。でもまぁ、俺のケースはマシな方かな。」

 

「マシな方だと?」

 

「ああ。酷い時は、イジメが発生して、それがエスカレートして被害者を殺す、なんてことが起こり得る。」

 

「なっ……!?」

「はっ……!?」

 

 コリアンダーが魔法での差別云々に切り込んでいくと、ローリエが衝撃的な答えを返す。コリアンダーも私も、言葉に詰まってしまう。

 イジメで人殺しなんて、そんなことがあるとは到底思えない。でも、ローリエの口ぶりはまるでそういった出来事を見てきたかのような確信に満ちていた。どんな人生を送ったらこんなことが言えるのだろう。なんて言っていいか分からずにいると、ローリエは「他にも」と流れを打ち切って話題を変える。 

 

「更に強力な魔法も開発できるだろう。魔法工学に発展も望めるだろうな。 ………あ、それはそれで『魔法開発のためなら命はどうでもいいのか』みたいな別問題が生まれそうだなぁ……」

 

 私とコリアンダーを置き去りにして、一人で勝手に考察を進めていくローリエ。流石、私と同じ地位にまで登りつめただけあって画期的な発想を持つといったところだろうか。

 

「ローリエ、お前は魔力総量を上げる魔道具を作ろうと思ったことはないのか?」

 

「……!!

 なる程、手段が見つからないなら作ればいいってことか。」

 

「い、いや、なにもそこまで本気にしなくても……」

 

 コリアンダーの冗談半分な助言に何かを閃いたように表情が明るくなるローリエ。私には理解できません。

 

「無謀です! 今まで成功した試しがないというのに、魔力総量を増やす手段を探すなんて!」

 

「セサミ。確かに、道のりは厳しいものだ。君はそれを分かっていて言っているのだろう。もしかしたら、魔道具どころかヒントすら掴めないかもしれない、俺のやることが無意味になるかもしれない、と思っているんだろう?」

 

「だったら……」

 

「でもね、全ては『できる』って信じることから始まるんだ。例え蜘蛛の糸並みに細いチャンスでも、最初(ハナ)から諦めて手繰り寄せることすらしなかったら何も起こらん。

 教育も同じ。自分(テメエ)を信じられずに生徒を信じられないし、生徒を信じられないと教師なんてやってられねえ。」

 

 これでも俺はアルシーヴちゃんと同じ教師なんでな、と席を立って笑う彼からは意図やふざけた気配など感じなかった。でも、一瞬だけ、影を落としたような表情になり、それが私に違和感のようなものを残していった。一体、そんな顔をして何を考えているのか。

 

「何を考えているのですか、ローリエ……」

 

 その言葉をやっと口に出した頃には、私以外誰もいない空間に、半開きのコテージの出入り口から潮風が穏やかに吹き込んでいた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「しかし、かったりぃ~~町中の情報収集とかよ~。」

 

「お前なぁ、これはお前が言い出した事だろうがよ。いくらかったるくても何とか頑張ってくれ」

 

 

 セサミとの魔法談義から数分。

 俺達男タッグは、だらけた町へ繰り出して情報収集をすることになった。本来はもっとセサミと話をしたかったがアルシーヴちゃんに窘められた以上そうも言ってられない。でも全くといっていいほど気が進まん。俺もオーダーの影響を受け始めたのか?

 

 だとしたらマズい。こんな時に寝落ちなんてしたらやりたいことができなくなる。正気を保ってる今のうちに俺の「働く理由」を繰り返し暗唱し定着させなければ……!!

 

 理由……

 

 俺の働く理由……

 

「はぁ……神殿内でハーレムを築く…神殿内でハーレムを築く…神殿内でハーレムを築く…筆頭神官と同僚(賢者)と女神でハーレムを築く…!!!……あとハッピーエンドを目指す…

 

 おお。思った通り、だんだんダルさとか面倒くささとか、そういった怠惰な感情が抜けていく感じがする。アプリで答えを知っていたとはいえ、これで寝落ちの心配が無くなったのはデカい。

 

「おいローリエ、お前さっきから欲望がダダ漏れだぞ」

 

「コリアンダー、俺は至って真面目だ。」

 

「動機がスゴく不純だったが」

 

「寝転がってる町の連中の仲間入りをしたくなければ同じようにしろ」

 

「意味が分からん……」

 

 そうほざくコリアンダーに俺は説明をしておく。オーダーの副作用で町の人々の「働く意欲」が失われているのだとしたら、俺達にもその副作用が降りかかりかねない。それを予防するためにも、自分の働く理由を口に出して再確認させることが予防に繋がるのだ、と。

 一通り説明をするとコリアンダーは一応は納得したのか少し考える素振りをすると、自身の働く理由を口にしだした。

 

「金を稼ぐ……金を稼ぐ……おぉ、確かにやる気が復活した気がするな。」

 

 金ってお前……夢がなさすぎるだろ。そんなことを思っていたら、口に出していたのか、コリアンダーから「やりたいことを見つけた時の為の貯金だよ」との返事が返ってきた。まぁ確かに、何かやることが見つからなかったらまずは金を稼げと前世(日本)でも言われてたからな。今世(エトワリア)でも一緒という訳か。

 

 

「ところでお前、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 視界外からの鋭い視線を感じたことで、俺はまた失敗したと悟った。彼が言わんとしていることはつまり、「なんでオーダーの副作用とその予防法を知ってたの?」ってことだろう。下手な嘘は見抜かれる。

 

「俺はただ、町の人々の様子から考えられる推論を述べただけだ」

 

 前を見たまま、コリアンダーの方を向かずに答えて、「さぁ、早く聞き込み再開すんぞ!」と無理矢理会話を中断した。不安しかないが、こういうごまかし方以外この時点では思いつかなかった。

 

 

 

 

 

「お姉さん、何ボサッとしてるのさ。さぁ立って」

 

「おっさん、働かないと生活できないぜ」

 

「そこのお嬢さんも、仕事してやりたいことやるんじゃないのか?」

 

「仕事の後に何かご褒美でもあるんだろう、兄さん?」

 

「ねぇねぇ彼女、君は誰の助けになりたいんだい?」

 

「………。」

 

 

 俺達二人は、町中のだらけた人々に片っ端から声をかけて、正気に戻していた。それも、聞くべきことを聞くためである。「働く理由」を思い出させた後、“例の件”について聞いて回っているんだが、どうも良い情報は得られていない。

 往来に寝転んでいた人々だけじゃ足りず、屋内のだらけた大人たちにも声をかけようとした。まずはドーナツ屋の女店主だ。テキトーな強盗()に狙われて、投げやりになっていた人。彼女も、正気に戻さなければ。

 

「奥さん、いつまでもそうやって寝そべってないで」

 

「おいローリエ」

 

「何だよコリアンダー。俺は今、仕事中なの。見りゃ分かるだろ」

 

「にしては女にしか声をかけてないじゃないか。もうちょっとマトモにやろうとは思わないのか」

 

「……ナンパじゃあないんだけどなぁ」

 

 コリアンダーにあらぬ疑惑をまたかけられる。確かに、俺が声をかけた人の女性率は多いかもしれないが、そんな場合じゃないことくらい分かってる。仕方ない、またアルシーヴちゃんに何か言われるのも面倒だ、男にも声をかけて――

 

「ちょっとっ!」

 

「「?」」

 

 渋々ドーナツ屋を出ようとした俺に、幼い声がかかる。振り向くと、14、5くらいの女の子がカウンターの影からこちらを見ていた。

 

「お嬢さん、君は……?」

 

「あんたらね、町の人達を元に戻してるのは?」

 

「うん、まぁ、そうだけど……?」

 

「ママを元通りにするのはやめて」

 

 くせのついた銀色のショートヘアを指でくるくるさせて、俺達を睨みつけながらそんなことを言われた。

 

「………はい?」

「しかし、君の母親なんだろう?見た限り、父親はいないようだけど……」

 

「関係ない!早く出てって!!」

 

「お母さんが働かないと生活できないんじゃないのか?」

 

「うるさいわね!あんたらには関係ないでしょ!!!」

 

 コリアンダーが説得するも、彼女は聞く耳持たずと言わんばかりに「出て行って」の一点張りである。これが反抗期というやつなのだろうか。俺には前世でも今世でもこういう典型的な反抗期が来なかったため実感が湧かない。結局、俺達は中2の少女に「出てって」とドーナツ屋から追い出されてしまった。

 

 

「何なんだよ、あの子供は。」

 

「仕方ない、他を当たろう。あの子については暫く後回しだ。」

 

 しかし、珍しいな。「お母さんを助けて」なら兎も角、「お母さんを治さないで」なんて聞いたことがない。アプリでは、小学生ほどのロリがお父さんを叱咤激励してやる気を取り戻させていたが、それぞれの家庭の事情というやつなのだろう。なれば無闇に首を突っ込むべきではない。

 

「そういえばローリエ?」

 

「ん?」

 

「オーダーの副作用の件、セサミは知っているのか?」

 

「……………あっ」

 

「あ、じゃねーよ!

 早くコテージに戻って、伝えに行くぞ!」

 

 セサミにオーダーの副作用の件を伝えてなかったのはわざとではあるが、そんなことは言う必要はないだろう。あたかも忘れてたかのようにコリアンダーに引っ張られながらコテージへ戻った。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「あらら、コリャまたぐっすりお休みで……」

 

「遅かったか……」

 

 帰った俺達を待ち受けていたのは、クリエケージの中で、パンツ丸出しでぐっすりと眠りについている遠山さんと八神さん、そしてそのクリエケージの前の床で、ただでさえあぶない水着が脱げかかってきわどくなっているのも構わず、これまた気持ちよさそうに夢の中へ旅立っているセサミだった。どちらもあられもない姿となっており、目撃したコリアンダーは茹で蛸のように真っ赤になってしまっていた。俺は何の迷いもなくカメラで三人を撮る。

 

「おいお前なにやってんだッ!」

 

「さて、立て直すとしますかァ」

 

「それより写真を消せッ!!」

 

 消すワケねーだろ。男の夢だぞ。それに俺が撮ったのは彼女達の寝顔だ。なんら問題はない。それに、たとえ写真を消したとしても俺の心のフィルムは一生忘れはしない。

 

「ローリエ! いい加減に―――」

 

「うるさいぞコリアンダー、遠山さんと八神さんの睡眠妨害だ。セサミを静かに復活させることに専念しやがれ。」

 

 そう指示するとコリアンダーはさっきまで喚いていたのが嘘みたいに黙る。こうなったら今日中になんとかするのは無理だろう。コイツのような純情派はセサミみたいなあぶない美人がこうかばつぐんだ。セサミ、ありがとう。

 俺は俺でクロモンにコウりんの服について指示したり、コテージにやってくるであろう、きらら達の対応(足止め)をしなければならない。幸い、俺の記憶が正しければ、橋を直したら彼女達は次の日まで休むはずだから、猶予はまだまる一日ある。それが終わったらまた聞き込みの再開しよう、と思いつつ神父の服に着替え始めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 一方、きらら達一行は、だらけた港町にて、イーグルジャンプの社員である涼風青葉、滝本ひふみ、篠田はじめや飯島ゆんと合流し、きららの『パスを感じ取る能力』で残りの呼び出されたイーグルジャンプの社員・八神コウと遠山りんに近づきつつあった。

 しかし、彼女達はコテージの前で起こった予想外の事態により、ダメージを負ってしまったのだ。

 

「いったた……」

 

「み、みなさん……大丈夫ですか?」

 

「ううぅ……」

 

「ほんま、汚いと思うわ……」

 

「何だったんだ、今のは……?」

 

 この時の様子を、イーグルジャンプ・モーション班の篠田はじめはこう語る。

 

「気が付いたら見慣れない町に放り出されるし、いつの間にか着ていた服装は見慣れないし、ゆん以外のみんなは見つからないしで、最初こそ戸惑ったんだけど、まるで自分がゲームの中に入ったみたいで、RPG気分を味わえた。きららさんやランプちゃんのお陰でこの世界についても知れたしね。それでも――――――流石にあんなやつに出会うとは思わなかったよね」

 

 彼女は、エトワリアに召喚された後、同僚である飯島ゆんとはすぐに合流できたものの、他のブースメンバーに会うこともなく、だらけた町人たちからエトワリアのことを聞くこともできずに右往左往していた。しかし、青葉とひふみが見知らぬ人々を連れてはじめ達と合流してからは、その見知らぬ二人と不思議な一匹が、エトワリアについて教えてくれたのだ。それが、きららとランプ、そしてマッチである。

 その後ブースメンバーときらら達一行は、あらかじめはじめが見つけていた大きめのコテージへ行くために、川に架かっていたいた橋を修繕作業を始めたり、その道の職人をたずね、彼らの「やる気」を復活させるべく、手探りで仕事をする意味を思い出させようとしたりして、ようやく橋が直ったのだ。体を休めたきらら達は、ようやくコテージへ向かうことにした。

 しかし事件は、コテージの前で起こった。

 

「コテージの前まで行った時、中から……神父が出てきたんだ。金髪で、いかにも神父ーって格好の男だったよ。まるで、『フェアリーズストーリー』シリーズとか、ひと昔前の『ドラゴンクエスト』シリーズから出てきたかのような神父服だったね。それで、その男は開口一番、こんなことを言ったんだ。」

 

 

『ようこそ、マヨえる仔羊タチヨ。わが教会に何のゴ用カナ?』

 

『『『『……………………。』』』』

 

 金髪の神父は外国人のようにカタコトの日本語できらら達に話しかけてきたのだ。

 

 

「………うん、わかるよ。『まるで意味がわからない』って顔をするのは。実際私もすぐにはピンとこなかったし、青葉ちゃんやゆん、ひふみさんも私と同じ感想だったと思うよ、この時点ではね。きららさんやランプちゃん、マッチに至っては訳が分からなくて混乱してたみたいだったし。」

 

そんな混乱する一行を無視して、神父は続ける。

 

『おいのりをする?

 おつげをきく?

 いきかえらせる?

 どくのちりょう?』

 

『生き返らせるって……』

 

『見たらわかるやろ…』

 

「ゆんのツッコミでもう私は吹きだしちゃったよ。だって、エトワリアに召喚されたとはいえ、ゲームから出てきたかのような格好の男がゲームの台詞をそのまんま言うんだもの。元ネタを知っている身としては笑っちゃうよ。」

 

『あの、私たちはそのコテージの中に用があるんです。中で何が起こっているか教えてください。』

 

 きららはここでもこの金髪の男が敵である可能性を捨ててはいなかった。パスは確かにコテージの中から感じる。しかし、目の前の男はコテージの入口を遮るかのように立っている。しかも意味不明な発言。RPGネタを良く知らない彼女にとっては疑うなという方が無理な話である。

 

『オゥケイ。今、中ではケッコンシキが行われていマス。ゴサンレツの方は、招待状を見せてクダサイ。』

 

『け、結婚式っ!?』

 

 神父の衝撃発言に、今度は一行全員が目を見開く。きららのパスの探知は確かなはずなのに、なぜこんなコテージで結婚式が行われているのだろうか。きらら達が考えるより先にランプが反論する。

 

『そんなはずありません! このコテージの中にはクリエメイトがいるはずです!それなのに、結婚式なんてデタラメを言うのはやめてくださいっ!』

 

『まぁ待てランプ、いきなりそんな事を言っても、神父さんが困るだけだ。まずはもっと情報を引き出してみるべきだ。』

 

『そうデス。オつげを聞き、オいのりをしながら落ち着いてクダサイ。』

 

『まだそれやるんだ……』

 

 そうして、(誰も頼んでいないというのに)金髪の神父はおつげとおいのりを始めたのだった。

 

「ドラクエにおける「おいのりをする」はセーブ、「おつげをきく」っていうのはいわゆるあとどれだけの経験値でレベルアップするのかを知るってことなんだ。私達の作った「フェアリーズストーリー」シリーズも、セーブ時に話しかける相手が下級天使だったりと仕様はちょっと違うものの、影響を受けたのは間違いないよね」

 

 

『きららサン。アナタは、あと796Pointの経験値で次のレベルに上がるでしょう。』

 

『あの、青葉さん、レベルが上がるってどういうことですか?』

 

『えっと、レベルっていうのは、今の強さで、それが上がるってことは、強くなる……ってことなんでしょうけど。』

 

『そんな概念がエトワリアにあるんかいな?めっちゃ怪しいで。』

 

『確かに……現実は……』

 

「きららさんの疑問に青葉ちゃんは答えたものの、そもそもレベルって概念がゲームの中の物だし、ゆんは相当疑ってた。ひふみさんも、現実じゃセーブとかできないって言おうとしたみたいだけど、そういうことは考えるだけ辛いよね。」

 

『ランプサン。アナタは、あと114514Pointの経験値で次のレベルに上がるでしょう。』

 

『なんで私はそんなに経験値がいるんですか!!?』

 

 神父は、きららに続いてランプにもお告げをきかせたのだが、そのあまりにも多い経験値に、ランプは抗議の声を上げる。だが、神父のお告げはこれだけでは終わらなかった。

 

『そしてソコのモーモンは……もうレベルアップ出来まセン。』

『なんでだよ!?』

『もう上限レベルだからデス。デモ、アナタがモーモンからツッコミ役にジョブチェンジすれば、レベル上限は更に上がるデショウ。』

『僕はモーモンじゃないし、余計なお世話だよ!!』

 

 あまりにもひどすぎるマッチの扱いに、ランプは先程まで怒っていたのを一変、笑いをこぼし始めた。

 そこで「何笑ってるんだランプ!」と喧嘩になるも、神父は更に次の作業を始める。

 

「マッチへのお告げを終わらせた神父は、「つぎはお祈りをしましょう」って言って、懐から二つのものを取り出した。片方は羽根ペン。こっちはいいさ。なんせ、「フェアリーズストーリー」を筆頭とした、様々なファンタジーものには欠かせないアイテムだったから。問題はもう片方。アレは…メモ帳の1ページみたいな紙切れだったね。ここで青葉ちゃんが笑っちゃったよ。」

 

 黙々と雑な紙切れに何かを書き込んでいる神父、唖然としているきらら達、笑いをこらえるブースメンバー。この時点で混沌とした空気になっていた。

 

 そして、神父はメモを書き終えるとこう言ったのだ。

 

『ソレでは、コノまま冒険を続けマスか?』

 

 それは、セーブしたあと神父が主人公に尋ねる典型的な質問。「はい」と答えればゲームを続けられるし、「いいえ」と答えればゲームを終了できる。

 

「きららさんは、それに戸惑いながらも、「はい」って答えたんだ。そうしたら神父は「Oh!この冒険者タチにカミのゴ加護のあらんコトを!」というと、きららさんにメモを押し付けてこういったんだ。」

 

 

『…お疲れ様でした。このまま電源をお切りしやがれ』

『イヤ普通に喋れるんかいっ!!!』

 

 

「いや~~、ゆんのツッコミがエトワリアに来てから一番綺麗に決まった瞬間だったね。

 その神父はどうなったかって? ……そのまま私達の修繕した橋の方へ歩いていったよ。ほんと、なんだったんだろうね。今でもよく分からない。それでね、「なんか良く分からないけど神父さんが退いてくれたからコテージへ入ろう」ってマッチが言った途端に、聞き覚えのある効果音と共にこんな声が流れてきたんだ。」

 

 

『涼風、篠田、飯島、滝本、ランプ、OUT(アウト)-!』

 

『ええっ!?』

『な、何ですか今の声は……』

『っ! きらら、アレ!!』

 

 

「…………年末の笑っちゃいけないヤツの宣告が流れたかと思えば、黒いおもちゃのバットみたいな棒を持ったクロモンが襲いかかってきた。きららも応戦したんだけどね。数が多かったのか取りこぼしちゃってね。こっちにも来たんだけど…その時のあいつら、執拗に私たちの……お、おしりを狙ってきたんだ。

 ……そう、完全に年末のアレだった。」

 

 

『痛いっ!』

『あ"っ!』

『いたーい!』

『ひうっ!?』

『痛いですぅ…』

 

 

「地獄だったね。あいつら、一発しか殴らなかったけど、相当痛かったのを覚えてるよ。

 アレがタイキックだったらと思うと、ゾッとするよ。

 でも、今思えば、これは前座だったのかもしれない。神父さんが言ってた、『中で結婚式をやっている』ってアレ。ランプちゃんは信じてなかったけど、信じればよかったのかなって思う。

 コテージの扉を開けて見えた光景に、皆絶句したから……!」




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 エトワリアの魔法の考察を深めたり、ハーレムを諦めてなかったり、あぶないコウりんやきわどいセサミを写真に収めたり、眠ってしまったセサミの代わりを請け負ったりした、真面目と不真面目の境界を漂っている八賢者。彼の目的は「ランプが成長&アルシーヴとソラが救われるハッピーエンド」と揺るぎない。魔力総量を上げることで、エトワリアの魔法発展を望めると言っていたが、このフラグをどう回収したものか。

コリアンダー
 純情派なローリエの相棒。その性格上セサミには弱いが、ローリエの言動にある何かを見抜き、見出しつつある。人と人との絆とは不思議なもので、似たような性格同士が惹かれあうこともあれば、真逆な性格の人同士が惹かれあうのもまたありうる。事実は小説よりも奇なりとはよくいったものである。

セサミ&八神コウ&遠山りん
 オーダーの副作用という名のラリホーに負けた人たち。「働く意味」を思い出さない限り怠惰の化身となるわけだが、そんな無防備な彼女達にローリエが何もしないわけがなく、写真を撮られてしまった。写真割合はセサミ7のコウりんが3。もともとローリエが百合の心得を会得していることもあり、コウりんは比較的無事だった。セサミについては……次回に語るとしよう。

きらら&ランプ&マッチ&涼風青葉&滝本ひふみ&篠田はじめ&飯島ゆん
 ロ…金髪の神父にドラクエ風神父ごっこにさんざん付き合わされた挙句、子供の使いから輸入されたケツバットの制裁を受ける羽目になった人たち。このシーンの語り部にはじめさんを選んだのは、青葉とゆんと違って書きにくく、ひふみ先輩は性格上語り部に向かないからである。ぶっちゃけオーダーが解けたらその記憶はなくなるのだが、この語るタイミングについては言わぬが華だろう。



new game!とフェアリーズストーリーとドラクエの関係
 フェアリーズストーリーについては原作開始時に2作目まで出ていること、『3』では青葉が手掛けたソフィアが出る(しかも盗賊に殺される)こと、ラスボスが主人公の親友コナーであることぐらいしか情報がない訳だが、青葉が子供の頃プレイしたのが『フェアリーズストーリー2』で、家庭用ゲームとして広く流通していることとnew game!の世界観を考えると、ドラクエよりも後でフェアリーズストーリーが始まったと考えられる。青葉は知らなくても、はじめやコウ、りんや葉月さんがドラクエを知っている可能性は高い。少なくとも、拙作ではこういう裏設定にする所存。

『このまま電源をお切りしやがれ』
 元ネタは『ドラゴンクエスト9』のカラコタ橋の神父代行。ここでセーブをしたあとゲームを終了すると、上記のメッセージを見ることができる。『9』で初めて見られた屈指のパワーワードである。



△▼△▼△▼
セサミ「私としたことが、まさか職務中に眠ってしまうとは…しかも、働く理由すら忘れる始末……アルシーヴ様に何と言えばよいか…それに、私が寝ている間に色々してくれた彼らに感謝しなければ……って、なんですかこの内装は!?」
りん「私たちの服も変わってる…!?コウちゃん起きて!私達、大変なことになっちゃってるよ!!」
コウ「……zzz」

次回『恋仲に首を突っ込むのは野暮というもの』
りん「次回もお楽しみに……って寝てる場合じゃないよコウちゃんっ!!!」
▲▽▲▽▲▽

あとがき
 結局、千夜ちゃんもシャロちゃんも当たらなかったよ……
 令和もよろしくお願いします。
 特別編のアイデアしか浮かばないですが、本編頑張りたいと思います。

ろーりえ「ああ、これ作者が働き始めたら失踪するパターンだ」
こりあん「言っていい事と悪い事があるだろ!」


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第17話:恋仲に首を突っ込むのは野暮というもの

“あいつは好きなものの為なら命令や法律すら破る。特に女と女同士の愛の為なら命くらい投げうちそうだな。”
 …コリアンダー・コエンドロ


 俺達は、寝落ちしてしまったセサミに代わって色々準備をすることにした。

 

 ……ホントはもっとセサミの過激な写真を撮りたかった。セサミのあぶない水着が脱げかかっていて、あと少し水着を動かせば全てが見えてしまう状況。手を出さなかったら股に付いている砲台の機能不全を疑うほどだ。

 でも、良い所で(ことごと)くコリアンダーに邪魔された。水着(上)を引っ張り上げようとしたら頭を掴まれ床に叩きつけられ、水着(下)の紐を完全にほどこうとしたらその手を踏まれた。

 「添え膳食わねば男の恥」といくら説いても「セサミは添え膳じゃねーよ!」と反論される。結局、満足したものは撮れなかった。

 

 

 頭に来たので、コリアンダーには眠っているセサミを叩き起こして働く意味を思い出させる役目を押し付けた。

 結果、思った通り真っ赤になりながら寝ているセサミの傍で正座して、彼女の肩に手を伸ばしたかと思えば引っ込めるのを繰り返すだけしかできなくなっていた。

 

 …何というか、絵面が背徳的だ。あらぬ誤解をされても仕方ないだろう。人間、ああはなりたくないもんだ。

 

 

 俺も俺で、コウりんのためにやるべき事をやらねば。

 一途にコウのことを想い続けているりんと、人の気持ちを察するのが苦手なコウ。同性であることもあって、りんは本当の想いを告げられず、コウは勿論気付くはずもない。コウがフランスへ行く直前に想いの一片をりんは告げたが、言われた本人は顧みることこそすれ、りんの真意には気づいてないだろう。

 

 だったら、エトワリアに召喚されている間だけでも、二人をくっつけてやろうではないか。これについては賛否両論あるだろうが、少なくとも俺はそうしたい。しかし、俺も()()()である以上仕事はしなければならない。

 

 

 故に、行った準備は内装と二人の服装チェンジ。

 内装は、まるで教会のようにテーブルと椅子を並べる。奥に即席の神父席を用意する。

 二人の服装は、クロモン達に指示してウェディングドレスを着せておいた。遠山さんだけじゃなくて八神さんもだ。本来ならスーツかドレスか選ばせようと思ったんだが、寝ている人にそんなこと聞いても答えが返ってくるワケがない。

 本人達に尻込みされても癪だ。そうなるよりは、引き返せなくなる所までお膳立てして、関係を築く所をスタートラインに設定すればいい。

 

 要するに既成事実である。

 流石の奥手CPでも、なし崩し的に結婚式を上げてしまえば、一緒にならざるを得ない。あとは二人が愛を育むのを見守るだけ。

 式の台本も作った。あとはセサミが船を漕ぎながら司会を全うするだろう(きらら達と対決することにもなるだろうが)。

 

 更に、俺自身もきらら一行の足止めをしておく。

 金髪のカツラ、神父の服を利用して外国人風神父に変装。そして、ドラ○エごっこを思い切り演じることで、彼女達の足止めはした。笑った人をケツバットするクロモン達のオマケ付きで。

 ダメ押しに、コテージの中に隠しメッセージとして『KIRARA THAI KICK』の文字を残しておいた。まぁまず見つからないだろうし、読み上げた所でタイキックさんは現れないから意味はないけど。

 

 

 そんな訳で俺がやったことを簡単にまとめると、

 

 ①結婚式の設営

 ②コウりんのウェディング・ドレスアップ

 ③セサミ用の式の台本制作

 ④金髪の神父の演技

 

 まぁ、こんな所だ。

 ここまでやって原作が変わって(きらら達が負けて)しまわないか心配だが、G型魔道具で見守り、いざという時は金髪の神父姿で助太刀すればいい。コリアンダーはセサミ相手に赤面し続けてオーバーヒートしかかっているし、セサミは寝落ち寸前なので自前の武器(拳銃や閃光弾)を使うみたいな大ポカをやらかさない限り問題はない。

 

 

 さて、しばしLIVE観戦といきますか、と思った所で。

 

自分(テメエ)を信じられずに生徒を信じられないし、生徒を信じられないと教師なんてやってられねえ。』

 

 セサミに言った言葉を思い出した。

 

 ……生徒を信じられないと教師やってられねぇ、か。

 肝心な時に生徒(ランプ)に手を差し伸べなかったどころか、彼女を見ようともしなかった癖して、我ながら何を言ってるんだか。

 

 でも、そう思いながらも、俺は『先生』でありたいし、『アルシーヴちゃんの友人』でもありたい。

 ここで彼女達を見守ることが信じることなのか。それとも、彼女達を信じるからこそ、余計な横槍を入れるべきではないのか。

 俺はしばし魔道具と中継を繋げられないでいた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 まだ、頭がくらくらする。脳内に(もや)がかかったかのようにまだ前の記憶を思い出せない。

 

 目を覚ましてみると、コテージの内装が変わっていた。重たい目を擦ってみても、内装は変わらない。

 

 更に、自分の衣服に違和感を感じた。周囲を確認するときに、自分の手に白いグローブ―――花嫁とかが手に着けているアレである―――が着けてあることに気付いたことがきっかけだ。

 

 鏡で見た彼女、遠山りんの格好は―――

 

 

「う、ウェディングドレスぅぅぅぅぅぅぅっ!!!?」

 

 

 ―――花嫁そのものだった。

 

 (いやなんで? どうして私がこんな格好をしているの!?)

 そんな疑問が頭に浮かび、顔は熱くなり、眠気は吹っ飛ぶ。

 

 動揺を隠せないまま改めて周りを見渡すと、今度はりんと同じ格好(ウェディングドレス姿)の女性を見つけた。

 その人は金髪だが顔はこっちを向いてないためかよく見えない。さっきのりんの叫び声にも反応しなかったあたり、まだ眠っているのかもしれない。

 

 りんが回り込んでその顔を見ると、その人は意外な人物だった。

 

 

「コウちゃん………」

 

 

 りんの同僚、八神コウ。

 彼女同様純白のウェディングドレスに包まれて眠る彼女は、一番の同僚でさえも一瞬誰だか分からなくなるほど美しかった。

 いつもはファッションに全く気を使わない彼女が、オシャレ次第で綺麗になれることをりんは思い出して、ちょっと勿体ないなと思い、ふふっと少し笑みが零れる。

 

 

「すみません! 誰か、誰かいませんか!?」

 

 そこで、扉からそんな声と人が入ってくる音がした。

 

 まず入ってきたのは、赤い髪を二つにまとめた中学生くらいの女の子。そして、ベージュの髪を星の髪飾りで短いツインテールにした魔法使い風の女の子が入ってきて、その後にりんの見知った顔ぶれが現れた。

 

 

「遠山さん!」

 

「青葉ちゃん、みんな……!」

 

 

 きららとランプ、マッチ……そして、イーグルジャンプのブースメンバー・涼風青葉、篠田はじめ、飯島ゆん、滝本ひふみの6人(と1匹)である。

 急な声と見知らぬ人に驚いたりんだったが、信頼できる仲間が現れたからか、再び安心感と睡魔が蘇る。

 

 

「……って、何ですかその格好!!?」

 

「んー? あー、青葉だ~。やっほー。」

「ふぁ~あ……」

 

「やっほーじゃなくて……

 って八神さんまでウェディングドレスを……!?」

 

「なんや、二人とも様子が変やな。」

 

「遠山さんまであくびしてるし……」

 

「何か……街で会った人達と、似た感じ……さっきの、神父さんの言ったこと、本当だった……?」

 

 完全に睡魔に負け、ウェディングドレス姿を受け入れつつあるりんやコウを見て皆不思議そうな顔をしている。

 なにがそんなに不思議なんだろう。変なことをした自覚はないし、コウちゃんは……いつもよりも可愛い格好をしているだけだし……と、りんの思考は途切れつつある。

 

「ふあぁ……何なんですかさっきから。

 静かにしてください、私は寝たいんです……」

 

 そう考えていると、会話にセサミが乱入してきた。コウとりんを捕まえた賢者であるにも関わらず、その声に凛としたものはもはやなく、寝ぼけているのが丸わかりである。 

 

「あっ……!あの人は『八賢者』のセサミ!!

 アルシーヴの秘書も勤める、強敵です!」

 

「ぐぅ……ん?

 手元に何か置いてある……この本は……? ぐぅ」

 

「………強、敵……??」

 

 完全に眠りこけているセサミにひふみも首をかしげる。

 ランプの説明は間違っていないのだが、セサミもまた、オーダーの影響下に陥り、だらけきっている為、どうみてもマダオ(まるでダメなお姉さん)にしか見えないのだ。

 

「あのぅ、どうしてこんなことをするんですか…?」

 

「え………? あれ、なぜでしょう?」

 

「……どう見てもオーダーに毒されてるね。」

 

 現に、きららの質問にも、まともに答えられていない。彼女もまた、働く意欲をオーダーの副作用に奪われてしまっている。

 

「八賢者までこんなことになってるなんて……」

 

「……これ、今がチャンスなんじゃ………」

 

 

 賢者にまでオーダーの副作用が及んでいることに驚くランプに、敵である賢者が無力化されている今が二人を救出する好機なのではと考える青葉。

 

「……そうだね。今のうちに助け出してしまおう。」

 

 青葉の言葉にマッチが乗ると、きらら達一行は、その場から動こうとしないウェディングドレス姿のコウとりんに駆け寄った。

 しかしそこに待ったがかかる。

 

 

「させませんよ。

 私は八賢者。アルシーヴ様の秘書ですから………!!」

 

 

 それは、先ほどまでだらけきっていたセサミからのものであった。

 瞳はしっかりと見開かれ、両の足できらら達の退路を塞いぐように立っている。そこに、既に眠気は存在しなかった。

 

 

「復活、しちゃいましたね……。」

 

「あなたたちのお陰で私が働く意味を思い出しました…………感謝します。」

 

「しまった……!」

 

 おそらくランプが「八賢者」と口にしてしまったからだろう。それに反応して、セサミもまた、オーダーの副作用から脱したのだ。

 

 

「お二人は返して貰います! 青葉さんたちのためにも!」

 

「そんなことはさせませんわ。この二人には―――」

 

 きららが他の仲間を庇うようにセサミの前に出て、杖を構える。セサミもまた、コウとりんを取り返されまいと杖をきららに向けた。そして余裕の表情を崩さぬまま平然と

 

 

 

「―――ここで結婚式を挙げてもらいます」

 

「イヤ何でぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!?」

 

 そう言ってのける彼女に、ランプが指をつきつけて叫ぶ。

 

「働く意味を思い出したけど仕事内容忘れちゃったよこの人! なんで異国の地に呼んでまで結婚? 禁忌破るまでしてやることが結婚式!? しかもコウ様とりん様を!? どんだけおふたりの仲をいじくる気なんですかアナタは!!!」

 

「いや、だってアルシーヴ様がそうしろってこの本に……」

 

「アナタの独断じゃなくて命令だったの!!? 何がしたいんですかアルシーヴは!! オーダーして賢者派遣してまでクリエメイトの仲を深めたいとかどんだけ奥手な性格してんですか!!! しかもあらゆる順序吹っ飛ばしていきなり結婚式とかタチ悪いわ!!! もっとマシな方法いくらでもあったでしょうが!!」

 

 セサミが見せつけてきた本は、もちろんアルシーヴの命令書ではない。ローリエが一日で完成させた式の台本である。ただ、そこには「セサミの活躍を期待している。目覚めたらこの本の内容を忠実に進行してくれ  byアルシーヴ」とか書かれていたりするのだ。筆跡や訪問時間など、アラは探せば簡単に見つけられるが、寝起きのセサミにはそれができなかった。

 そんなトンデモ命令書に従うセサミに、ランプはいつもの敬語を忘れてキレる。

 

 

「こっ、コウちゃんと私が結婚……!?////」

 

「…………っ////」

 

「なんで二人ともちょっとノリ気なんですか!? 女の子同士ですよ!? 正気に戻ってください! あとコウ様は何か言ってください!!!」

 

「愛に性別は関係ありませんわ!」

 

「セサミは黙ってなさい!!」

 

 突然の結婚式宣言を受けて赤面するコウとりんを窘めているとセサミが再び会話に乱入してきたので、それを怒鳴って追い払った。

 

 このセサミとランプのコントを傍からから見ていたきらら達は。

 

 

「な、何ですかこれ……」

「ランプちゃんええツッコミしとるな」

「…えっと……」

「ランプ……」

「……これ、クリエケージを巡る戦いだよな……?」

 

 

 完全に勢いを削がれてしまっていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 コテージから立ち去った俺は、コリアンダーに連絡して合流した後、きらら達一行が直した橋を辿って再び街へと繰り出していた。

 コリアンダーからの視線が、疑いの強いものとなっている。

 

 

「なぁ、何でコテージから離れたんだ?」

 

「あそこまで演出したんだ。もう必要ないだろ?」

 

「いや、召喚士達の妨害目的とはいえ、結婚式はないだろ。セサミをいつまでも起こせなかった俺が言うのも何だが、なんであんな演出(こと)したんだ?」

 

「いやなんでってお前……『new 〇ame!(聖典)』の内容もっかい頭に叩き込んでから出直して来いや」

 

「………? 何言ってんだ? あの聖典の登場人物、恋愛関係とかないだろ?」

 

 

 ウソだろこの眼鏡、と絶句してしまう。

 コイツは、まさかコウりんに気付くことすら出来なかったというのか。そんなラノベのハーレム主人公並みの朴念仁だというのか!? 歴代ハーレム主人公でももっと察し良いぞ!?

 明らかな描写あっただろ! ひふみんが「にぶちん」っつってただろ! コウがフランスに行くシーン、見てねーのか!?

 ……コイツ、コウ以上のにぶちんだ。だが、ハーレムを譲ることは出来ない。

 

 

「……鈍感ヤローがハーレムラノベ主人公やる時代は終わったんだ。大人しくモブに甘んじてろ」

 

「なんでそんな言い方されなきゃならねーの!?」

 

 

 教えてたまるかバカ野郎。

 

 そんな事で頭を悩ませていると。

 

 

「待った。コリアンダー、あれ」

 

「?」

 

 

 町の木陰でキスをしているカップルを見つけた。

 ()()()()()()。くせのついた銀色のショートヘアの女の子と薔薇のように赤いロングヘアの女の子が、口付けを交わしていたのである。

 彼女達のしている事がストレートに分かったコリアンダーが頬を朱に染める。眼鏡の男がそんな事しても可愛くないぞ、性転換してから出直せ。

 ま、それはともかく。

 

「あの子たちは愛し合ってると思うか?」

 

「と、当然だろう……だって…き、キス、してるもんな……」

 

「さっき出したコテージに残ろうという提案は、あの二人の邪魔をすることと同義。万死に値するのだ」

 

 

 見知らぬ百合CPに感謝&見つからないように隠密しつつ、コリアンダーに小声でそう諭す。これで、コテージから離れる理由を作り出せた。

 あとは、彼女達の邪魔をすることなく立ち去るだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか、理論がゴリ押しだった気がするが……」

「気のせいだ。」

 

 この後、もうひと悶着あることを、俺達は知らない。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 ランプの先生とアルシーヴの友人の狭間で迷い続ける男。今回は百合を全面的に押し出し、コウりんを(結婚的な意味で)追い詰めた。上手く暗躍している風を装っているが、彼の目的とアルシーヴの目的のズレをコリアンダーに指摘される前に百合理論で押し通るなど、力押しの部分が否めない。ギャグだから。

コリアンダー
 ローリエの相棒とは思えないほど純情で紳士的な男。女性の交友関係に疎いハーレム主人公気質の持ち主。バレンタインデー編にアルシーヴのチョコに気づいたのは、友情にあついから。しかし、ローリエからの(ギャグ的な)ヘイト値は上がってしまった。
 名字の由来はコリアンダーの和名『コエンドロ』から。この単語が元々ポルトガル語由来でもある。

セサミ&八神コウ&遠山りん
 真面目な淑女枠からボケ役に出世した八賢者&クリエメイト。
 ローリエが用意した台本には、アルシーヴからと装ったメッセージが書いてあるお陰で、働く理由を思い出せても別のものを忘れた模様。

きらら&ランプ&マッチ&涼風青葉&篠田はじめ&飯島ゆん&滝本ひふみ
 前回に引き続き、ローリエが仕掛けたネタに翻弄される人々。ランプに至っては、ツッコミ役も引き受けた模様。前話ではマッチがツッコミ役になるとのことだったが、ニヒルな口調が難しく、ランプにツッコミ役が取られてしまうかもしれない。

マッチ「いや別にいいよ……」
ローリエ(金髪神父ver.)「レベルアップできまセンよ?」



マダオ
 元ネタは『銀魂』の長谷川泰三。政府高官だったが不祥事で失職。「まるでダメなオッサン」略してマダオとされた。エトワリアでは、マダオは「まるでダメなお姉さん」を略すことが多くなるだろう。(メインが女性だから)


△▼△▼△▼
ローリエ「さ、コウりんの結婚式は問題なく進めてるな。良き哉良き哉」
アルシーヴ「良くないわァァァァ!! 誰が許可したあのメチャクチャな命令は! 色んな人々に誤解されるだろうが!」
ローリエ「怒らないのアルシーヴちゃん。程々にしないとキャラ壊れちゃうよ?」
アルシーヴ「誰のせいだと思ってるんだ……!」
ローリエ「そうカッカしなくても、百合CPのピンチを救う位やってやるさ」

次回『愛の形』
ローリエ「(こ○)の形じゃないからな?」
アルシーヴ「どこまで好き勝手やるつもりだこの男……」
▲▽▲▽▲▽


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第18話:愛の形

 ながらくお待たせしました。
 リアルの研修がようやく終わって、一日で仕上げました。

アンケート結果
ローリエ×アルシーヴ:4
ローリエ×ハッカ  :1
ローリエ×ライネ  :0
ローリエ×ジンジャー:1
そんなことより本編だ:6
 ……はい、続き書きまーす!!!!!!←



“俺は港町で、愛の形を二つ見た。
 一つは八神さんと遠山さんの。もう一つは、そこに住むとある二人の少女のものだ。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第3章より抜粋


 くせのついた銀色ショートヘアの女の子。

 先日、俺とコリアンダーを「ママを治すのはやめて」と言って追い払った子だ。

 その子が今、薔薇(バラ)のように赤い髪の同年代くらいの女の子と接吻をしていた。まるで、桜Trickの春香と優が、お互いを愛し合うかのように。

 

 

「おいローリエ、は、早く退散した方がいいだろ?

 覗きなんて、趣味悪いぞ」

 

「顔真っ赤にして言うな、説得力が皆無なんだよ」

 

 

 俺達は、物陰から彼女達を見守っている。すぐに立ち去ってもいいんだが、もうしばらく見ていたい。

 さっきからコリアンダーが、俺の袖を引っ張ってここから立ち去ろうと何度も言っている。しつこいぞ。

 

 

「見つかったらマズいんじゃないのか?」

 

「見つかったら百合を応援する資格を失う。

 見守るのも命がけだ。だから覚悟決めろ」

 

「勘弁してくれよ、そんな覚悟いらないぞ……」

 

 

 なにか言ってるヘタレを無視して観察を再開する。

 うおっ、舌絡ませてるぞ、ガチのやつだ……!

 

 いやぁ、最高ですな。

 爽やかな潮風、町の木陰で重なる二人の影、近くに昨日見た男……

 

 ……っ!!?

 

 昨日見た男……!? それって、()()()()()()()()()()じゃ……!

 

 

「おいヘタレ! あそこにいるの、昨日の強盗じゃねーか?」

 

「なっ!? 本当だ……! あいつ、何する気だ………!?」

 

 

 交番へ行ったはずのその男は、昨日みたいにやる気を全部削ぎ落されたような雰囲気はなく、眉間にしわを寄せ、ナイフを片手に悪意を滾らせていた。きっと、なにかの拍子に正気に戻ったんだろう―――目が雄弁に語っている。

 あの目は、マズい。目が濁りかけている。かつて俺が殺した、あの盗賊を彷彿とさせる。ソラちゃんとハッカちゃんを攫い、アルシーヴちゃんを傷つけたあの野郎だ。

 あいつはきっと、銀髪の子でも攫って身代金でも要求するつもりなのだろうか。女子二人は、まだあいつに気付いていない。このまま放っておくわけにはいかない。

 

 

「コリアンダー、あいつをぶっ倒せ。二人は俺が守る」

 

「えっ!? ………あぁ、わかったよ!」

 

 

 突然の指示に目を白黒させたコリアンダーだったが、すぐに戦闘態勢に入った。アルシーヴちゃんのお墨付き通り、戦い方の基本は分かっているということだろう。

 

 

 コリアンダーはどこからともなく木剣を取り出すと、ひとっ飛びで強盗に切りかかる。強盗は木剣をナイフで受け止めたものの、女の子達を見ていてコリアンダーに気づかなかったため、初動が遅れた。

 そりゃそうだろう。だって、俺達と強盗との距離は少なくとも10メートルはあった。それを一息で接近できる奴なんてカルダモンくらいだ。

 

 その後も彼は、縦に、横に、めちゃくちゃに振り回して強盗を圧倒した。剣の達人たるフェンネルには見せられたもんじゃない(少なくとも俺はそう思った)が、相手の得物がナイフであることも相まって現段階でコリアンダーが押している。

 

「二人とも! ここから逃げるんだ!」

 

「「!!?」」

 

 俺はコリアンダーが時間を稼いでいる隙に百合CPの二人に呼びかける。案の定二人とも驚いた様子で固まる。

 お熱い所、邪魔して申し訳ないが安全確保が優先だ。

 

「こっちだ!」

 

 強盗とコリアンダーから離れるように誘導して、二人を避難させる。

 女の子二人は、突然の乱入者に混乱していた様子だったが、やがて状況を飲み込んだのか、俺についてきてくれた。

 

 コリアンダーはあのままで大丈夫だろうか………まぁ、なんとかするだろ。

 

「あのっ!」

 

「? なんだい?」

 

 赤髪の女の子に後ろから声をかけられる。

 

 

「あなたは、何者なんですか?」

 

 

 そして、そう問いかけてきた。

 なるほど、彼女達にとって俺は、危機こそ知らせてくれたものの、名乗ってない以上、素性を知らない怪しい人間には変わりないってことみたいだな。

 しかし、ここは普通に賢者と名乗って良いものか。賢者に悪いイメージはない。むしろイメージは良い。ただ、()()()()のだ。逆に、この子たちに気を遣わせちゃうんじゃなかろうか。

 

 

「俺は………」

 

 かといって、ここで嘘をつく理由も必要性もない。

 少し悩んだ結果、俺は……

 

「俺はローリエ。しがない魔法工学の教師さ。」

 

 こう名乗ることにした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「つ、強い……!」

 

「まだまだですね召喚士。」

 

 

 

「り~ん~。」

 

「うふふ。もう、コウちゃんったら~~。」

 

 すぐ近くで、そんな会話と水の音がする。

 けれど、それを確認するのも面倒くさくて、傍らのコウちゃんの体温と体重に身を委ねる。透き通ったヴェールを被った金色の髪を抱き寄せる。

 コウちゃん、可愛いなぁ……。私に、ここまで甘えてくれるなんて。

 

 

「八神さん! 八神さんっ! しっかりしてください!」

 

「ん~~帰らなきゃって気はするんだけど、仕事せずにだらだらしてるの気持ちいいんだよね~。」

 

「そうよ~青葉ちゃん。私はもうちょっとコウちゃんとだらだらしてるから~。」

 

 

 欲を言えば、ちょっとじゃなくてずっとこうしていたい。

 こんなにも幸せな瞬間はないから。めんどくさい仕事をせず、大好きなコウちゃんとこうしていられるだけで、最高の気分だ。でも私達の答えに青葉ちゃんは「な……二人とも、そんなことを言うなんて……」とショックを受けている。

 

 

「そのままだと、ダメ人間まっしぐらやないですか!」

 

「お休みの日とか……だらける時はだらけていいと思うけど………今はダメ……」

 

 

 ゆんちゃんやひふみちゃんがなにか言っているけど、私はこれでいい。

 私はこのまま、コウちゃんと一緒にいたい。

 誰かに取られるなんて、嫌……そう、思っていると。

 

 

「はあぁ………」

 

 

 ため息が聞こえた。

 私のではない。隣のコウちゃんも眠そうに目を半開きにしている。あくびはしてもため息は出さない。周りを見てみると、青葉ちゃんの視線が、ゆんちゃんやひふみちゃんの視線が、はじめちゃんに集まっていた。

 

 

「あの……はじめ?」

 

「八神さんもですけど、遠山さんもです! 遠山さんはこんな八神さんが好きなんですか?

 八神さんを甘やかして、二人のゲーム作りへの情熱はどこへ行っちゃったんですか!!」

 

 

 はじめちゃんにそう言われた時、頭の中で、昔の記憶が蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めてコウちゃんに出会ったのはイーグルジャンプに入社した時。

 

 同期なのに、物怖じせず人を寄せ付けない、ギラギラした雰囲気を持った人。でも、その瞳には情熱が燃えている。それが、コウちゃんだった。

 仕事は本当に出来る人で、入社翌月に「フェアリーズストーリー」のメインキャラデザを先輩達を押しのけて勝ち取ったほど。当時の私にとっては、それがあまりに現実離れしていたから、「あぁ、天才ってこういうひとの事を言うんだな」って思って、半ば追いつくことを諦めていたのかもしれない。

 でも、それでいいと思っていた。私は私なりに、自他に厳しく、好きなことに対して一生懸命な彼女を支えようと思ったのだ。幸い、この時からコウちゃんは私にだけは心を開いてくれてたから、大丈夫だろうと思っていた。

 

 

 そして、私達の関係が大きく変わったのが「フェアリーズストーリー2」の製作時の事。葉月さんからADを任されたコウちゃんは、今までに見たことがないくらいに頑張っていた。一切の妥協を許さず、よりよいゲームを作ろうとしていた。

 ただ……その実力を、周りの人に押し付けていたのかもしれない。当時の自分のストイックさを、後輩や部下に求め過ぎていたのかもしれない。

 そのせいで――――――入社したての後輩が半年で辞めてしまった。

 

 後輩が辞める前日、彼女はコウちゃんにこう言っていた。

 

 

『皆がみんな、先輩みたいに凄くないんですよ……?』

 

 

 苦しそうに訴えてきた後輩を、コウちゃんはその時「だから何?」と簡単にあしらっていた。その翌日から彼女が来なくなり、葉月さんから辞めたと聞いたことで、私は彼女がコウちゃんに言っていたことの意味が少し分かった気がした。

 

 そして、コウちゃんはその日から目に見えて落ち込んでいった。この時は葉月さんや他の上司に何か言われたのか、コウちゃん自身があの後輩の言葉の真意に気づいたのかまでは分からないけど。

 仕事のペースは落ち、会社を休む日も増えてしまった。

 

 そこに、葉月さんに頼まれた私がマンションのコウちゃんの部屋を訪れたのが始まりだった。

 

 

『コウちゃん……?』

 

 

 その時のコウちゃんは正直見てられなかった。部屋に引きこもり、まともにご飯を食べることすらせず、瞳の中の情熱も消えかかり、自棄(ヤケ)になっていた。

 その原因が後輩のことであることに気づくのに時間はかからなかった。

 私はすぐにご飯を用意し、コウちゃんに話しかけた。

 

 

『大丈夫? ご飯、作っておいたからね……?』

 

『………遠山さん? なんでここに……?』

 

『……りんでいいわよ。』

 

 

 その時、思ったんだ。

 

 あぁ、この人も私と同じ弱い人間なんだって。

 

 この時まで、私はコウちゃんのことを完璧超人が何かだと思っていた。

 でも、そうじゃないんだ。誰だって一人じゃ弱いままなんだって思った。

 いつだかのドラマで聞いた、「人という字は、人と人が支え合ってできるもの」という言葉を実感できた気がした。

 

 その後、私はコウちゃんの所に通い詰めて、少し話して帰るといった日々を過ごすうちに、コウちゃんの家に行くのが日課になり、毎日ご飯を作ってあげているうちに、コウちゃんは私に心を許すようになった。

 

 やがて、後輩が辞めた直後のショックから回復し職場に復帰したコウちゃんは、それまでのとげとげしい雰囲気を改め、人と接するようになった。私ともよく話すようになった。それからはコウちゃんのいろんなことを知った。

 

 

 東京出身の8月生まれで、家族以外からなかなか誕生日を祝われたことがないこと。

 

 昔から絵が上手で、小学生の頃からゲームデザイナーを目指していたということ。

 

 血液型をO型とよく誤解されること。

 

 私の手料理が大好きだと臆面もなく私に言えるくせに、鈍感なこと。

 

 

 ―――かつての後輩を、「自分を超えるキャラクターデザイナーになる」と内心では信じていたこと。

 

 彼女を自分の手で潰してしまったと知ったとき、ひどく後悔したこと。

 

 

 懺悔するように心の内を教えてくれたコウちゃんに私はただ頭を撫でて、

 

『辛かったね』

 と一言、伝えながら心で決めた。

 

 

 この人を支えようと。

 

 コウちゃんは、実力がある。それも、天才だと言われるほどに。でも、そのせいで独りになってしまう。

 だったら、せめて私だけでもそばにいようと決めた。 ……だって、独りぼっちは寂しいもの。

 

 そうして二人でまっすぐ走っていくうちに、ひふみちゃんと出会い、ゆんちゃんやはじめちゃんと出会い、そして――――――青葉ちゃんと出会った。気が付いたら、コウちゃんは独りじゃなくなっていた。

 

 

 

 それでも、私は、遠山りんは変わらない。

 

 

 私が働く理由。

 

 

 

 

 それは―――

 

 

 『八神コウと二人でゲームを作ること』

 

 

 

 

 

 頭のくらくらや、全身の気だるさ、脳の中にかかっていた(もや)も、気が付けば嘘のように消えていた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「ローリエさんですね。私はローズです。それでこっちが……」

 

「ちょっと待ってローズ!」

 

 

 さっき助けた薔薇(バラ)色髪の女の子・ローズちゃんが自己紹介しようとした時、銀髪ショートヘアの女の子の方が会話を遮ってきた。

 

 

「なによ、リリィ。私たちを助けてくれた人よ。何か問題あるの?」

 

「いや、確かに助けてくれたけど……」

 

 

 どうやら、銀髪ショートヘアちゃんはリリィというらしい。彼女とは彼女の母親に声をかけた時に既に会っているからな。あの時の「ママを治さないで」発言も気になるし、こちらから切り出してみるか。

 

 

「あー、実はね? 俺は『ある情報』を集めてるんだけど、その時に彼女のお母さんに話しかけたのを見られてしまってね………」

 

「そ、そうなの? リリィ?」

 

「うん……。」

 

 

 流石に発言についてストレートに聞かない。言いにくいだろう部分をフォローしただけ。あとは彼女達が自分から話すように誘導……もとい、話題替えするだけだ。

 

 

「ねぇ、どうしてローリエさんを警戒するの。たかがリリィのお母さんにたまたま声をかけただけじゃない。私達を助けてくれた人だよ?」

 

「でも……あたし達の関係は、秘密にしないと……!!」

 

「……お母さんと、何かあるみたいだね」

 

 

 ローズちゃんはリリィちゃんとは違い、助けてくれた俺達(主に俺)に対して肯定的のようだ。

 そこから情報を聞き出せないか、ちょっと攻めてみよう。

 

 

「あー……仲悪いんです、リリィとリリィのお母さん」

 

「ちょ、ローズ!? 他人に話すことじゃないでしょ!? それに……」

 

 

 仲が悪い……? まだ情報不足だな。もう少し情報が欲しいところだけど……

 

 

「リリィ、あなたこの人を信じてる?」

 

「信じられる訳ないでしょ! 今日初めて会ったのよ!?」

 

 

 考え事をしている間に、ローズちゃんとリリィちゃんの口論が始まってしまった。

 しかし、「信じる」か………日本人の前世を持つ俺の感覚からしたら、リリィちゃん側の「初対面の人は信用しない」タイプの方が気持ちは分かる。

 だが、初対面だから、と俺を警戒するリリィちゃんにローズちゃんはこう反論する。

 

 

「そうだね。でもね、『初対面の人を助けられる』ってなかなかできないと思うの。私でもできるかどうか分からない。この人はそれをやったの。さっきのメガネの人もそう。私には、二人をいきなり疑う理由があるとは思えないの。」

 

「でも、それはあたし達を油断させるか脅すかするためかも……!」

 

「ほぼ初対面で面識なんてないに等しい私達を?」

 

 

 リリィちゃんの「でも」にローズちゃんはそう言い返して、リリィちゃんの反論を封じた。

 

 

 ローズちゃんの言う事にも実は一理あるのだ。

 たとえば、満員電車のなか、目の前で女性が痴漢に襲われているところに出くわしたとしよう。

 その状況下で、はたして正しい行動のできる人間のどれだけいることだろう。

 普通は、逆上した痴漢に襲われたり、男だったら女性に痴漢と間違われたりする可能性が思い浮かび、見て見ぬふりをしてしまうんじゃないだろうか。俺も、前世だったらそうする可能性の方がデカい。

 まぁ、生物的に考えれば、関係ない事件に首を突っ込まないのは、逆上した痴漢から己の身を守ったり、冤罪という社会的死から自分を守ったりするためという点では合理的だ。

 

 

 ローズちゃんには俺やコリアンダーが「自分の身を顧みずに自分たちを守ってくれてる男達」に見えていることだろう。信用は高めと考えてよさそうだ。

 

 

 あとはリリィちゃんの信頼だけだな。

 

 

「じゃあさ――――これから、俺はこの街で情報収集するんだけど、二人も一緒に行くかい?

 そうすれば俺がどんな人なのか分かるかもしれないだろ?」

 

 

 俺は二人にそう提案した。一拍置いた後で、二人とも「なるほど、その手があったか!」と言わんばかりにポン、と拳を掌に収めた。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 港町の百合カップルの避難誘導を請け負った八賢者。当の百合CPには賢者であることは言わず、二人の信用を得るために行動を共にすることを提案した。次回は聖者モードのローリエが見られるかも。女が大好きで、百合CPが大好きなのだから、普段の彼だったらやらない事もやるかもしれない。

コリアンダー
 港町の百合カップルを狙う男の捕縛を請け負った神殿事務員。アルシーヴが「戦闘の心得はある」と言っていたが、彼の実力が秘密のヴェールから放たれるのはまた次回。にて。

遠山りん&八神コウ
 new gameの公式CP。今回、りんの視点から過去編を少々執筆した。得能先生は八神コウの過去編について、「ドロドロしそうだから描かない」と発言しており、作中でも大まかな流れしか書いていない。つまり今回、作者は禁忌に足を突っ込んだことになる。これから作者は得能先生に足を向けて寝られないし、アニメ版ポプ○ピピック等で再びネタにされても「おこった?」とか聞けない。

リリィ&ローズ
 拙作オリジナル百合CP。名前の由来は百合と薔薇。リリィは少々人見知りで慎重、ローズは人懐っこいが冷静。詳細の方は次回以降にて。



八神コウの過去編
 遠山りんと八神コウが一層仲良くなったきっかけになるであろう幻のエピソードにして、上記の理由から原作者によって描かれることはまずないヘビーストーリー。
 八神さんは昔は印象が違ったという遠山さんの証言と葉月しずくの存在から、今回はオリジナルエピソードとして盛り込んだ。
 要職についた八神さんの振舞いには、「ゲームをより良いものにしたい」という思いが根底にあり、それを達成するには実力を示し続けることだと思ったのではないだろうか。しかし、人間そう簡単にはいかないもので、少しのきっかけでポッキリ折れる。そういう経験があったのだろうと推測した結果このようなエピソードとなった。プロ(?)の考察班ほど高クオリティではないので悪しからず。




△▼△▼△▼
コリアンダー「俺には一人、友人がいる。そいつについて話そうと思う。―――なに、畏まらなくていい。ただの雑談だ。なにしろ、今まで会ったヤツの中で一番変な奴の話だからな。」

次回『コリアンダーの考え事』
コリアンダー「見ないと何も始まらないぞ。」
▲▽▲▽▲▽


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第19話:コリアンダーの考え事

はるか先の展開ばかり思い浮かんで、次の細かな展開が全く思い浮かばない今日この頃。


“神殿で働く人間の7割が女性で良かった。いや、良くはないが、ほぼ男よりかは断然マシだな。”
 …コリアンダー・コエンドロ


 木剣を振り払って、目の前のおっさんに向かって構える。

 おっさんは、目の前の獲物を捕らえるのを邪魔されたためか、怒りに満ちた目でナイフをこっちに向けている。今にも襲いかかってきそうな奴は、まるで獣のようだ。

 

 

「てめぇ! 邪魔しやがって!!」

 

「………。」

 

 

 無駄口は叩かない。というか叩いてる精神的余裕は必要ない。隙を作るし、時間の無駄だ。

 

「っ!!」

 

 木剣を振るい、おっさんに肉薄する。

 

「うわあああァァァァ!!!」

 

 いきなり近づいてきた俺に驚いたのか、それとも()()()()()()()()()()()()、冷静さを完全に失ったおっさんはまわりに人を近づけさせないようにナイフを振り回し始めた。

 

 自分よりリーチが長い武器相手にそれは良くない。まぁ俺が言うのも何だけど。

 

 

 すぐさまナイフのリーチ内から離れ、おっさんの手首に木剣を叩き込む。

 ゴスッ、と少々鈍い音を上げるとともに、奴が「いぎゃあああああああ!?」と汚い悲鳴をあげながら右手を抑え、奴はナイフを取り落とした。

 

 

 間髪入れずに頭部を横薙ぎにする。クリーンヒットしたそれは、おっさんから意識を刈り取るのに充分だったようだ。吹っ飛ばされるように倒れたおっさんは、白目を剥いて起き上がってくる気配は見せなかった。

 

 倒れた敵の無力化を確認して、ふぅ、と息をつく。

 

 そして、置いてきた荷物から、ロープを取り出し、のびたままのおっさんを縛り上げていく。

 

 

 ……神殿に魔法工学を学びに来た時はまさかこんな風に人と戦うことになるとは思っていなかった。

 だが、そこで出会った友人が、俺の人生を変えたと言っても過言ではない。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ローリエ・ベルベット。

 

 

 それは、俺の親友であると同時に、手強いを通り越して最強とも言えるライバルである。

 

 彼に出会ったのは、神殿に入ったばかりの年の頃だ。

 

 

 彼が神殿の図書館の、禁書の部屋から叩き出されて落ち込んでいる所に遭遇したのだ。

 

『なぁお前、なにやってるんだ……?』

 

『あ、アハハハ。禁書を調べようとしたら怒られた……

 あ、そうだ。俺は……』

 

『ローリエ、だったか。神殿内ではちょっとした有名人だぞ、お前。

 …俺はコリアンダーだ。』

 

 禁書は調べちゃいけないから禁書だっつうのに、何やってんだこのバカは、と思った。俺の彼への第一印象は『好奇心旺盛なバカ』だった。

 

 

 だが、すぐにその第一印象はすぐに覆ることになる。

 

 このファーストコンタクトの翌日、部屋替えで同じ部屋になった時のことだ。

 あいつの乱雑に散らかった机の上にあったものにふと目が留まったのだ。

 

 そこには、筒と握りがついている、妙に説明しづらい形状をした物体が置いてあった。幼い頃から魔法工学には自信があった俺でも全く見たことがないものだったので、気が付けばつい好奇心に負けて手に取ってしまっていた。掌より少し大きめなそれは、見た目に反してずっしりとした重さがあり、その感触が謎をますます深めた。

 

 これは何なのか?

 

 一体だれが造ったのか?

 

 そう思案に耽っているのに夢中で、後ろからの人物に気づけなかった。

 

 

『なぁ、それ…返してくれないか?』

 

『っ!!?』

 

 振り向くと、そこには先日、禁書を覗いて怒られていた彼が立っていた。

 

『俺の一番大切な()()()なんだ』

 

 そう言ってあはは、とプレッシャーを感じさせずに笑うローリエの言葉を俺は一瞬疑った。

 

『発明品……!? お前が、これを作ったのか……?』

 

『あぁ。秘密にしてくれるなら、それが何かを簡単に教えるけど……』

 

 そう言って彼が説明した内容は、とんでもないものだった。

 「パイソン(大蛇)」と名付けたというこの発明品は、ブラックストーン製の弾を、爆発魔法の推進力で直線状に高速で放つという。その威力は、人をも貫けるそう。非殺傷用のゴム弾もあるらしい。

 はっきり言って、恐怖した。こんな凶悪な破壊力を持った兵器を、なぜ当時の俺と年の変わらない少年が作り出せたのか。それを確かめるために、目の前の彼にすぐさま問いただす。

 

 

『こ、こんなもの造って、何が目的なんだ!? それに、どうやって造ったんだ? 推測でしかないが、これは相当……』

 

『分かってるさ。これが危険だってことくらい。』

 

『だったら、どうして……』

 

『守りたい人がいるんだ。』

 

 俺の疑問に、ローリエは即答した。

 

『俺には力も魔力も何もなかった。昔そのせいで守れなかった事があってさ。』

 

『守れなかったって……何を?』

 

『俺にとって大切な人さ。

 ………傷つけちまったんだ、その人たちを。

 だから、魔道具の力を借りている。今度こそ、大切な人を守るために。』

 

 ふざけて笑う訳ではなく、今度は真面目な表情でそう語るローリエからは、言葉の端々から真剣味と後悔のようなものを感じた。ほぼ初対面に等しい俺にそんな表情で話すローリエを見て、「大切な人を守りたいからってここまでやるか?」みたいな質問は喉から出なくなった。

 だが、彼はその感情を隠すかのように再び笑い出す。

 

『……なーんてね、アハハハ。

 えっと、この発明品のことは誰にも……』

 

『……言えるワケないだろ。こんなものは世に出回らせちゃあいけない。』

 

 

 ローリエのこの発明は、秘密にしなければいけない。

 この意見は今でも変わらない。

 だって、あの発明品は、確実にエトワリアに戦禍を招く………効率よく敵を殺せる武器が出回ったら、それを巡って戦いが起こり、より激化するに決まっているからだ。そうすれば死人が続出する。幸い、俺も彼も人並みの倫理観はあるようだ。

 

 

『でも、なんで俺なんかにここまで話してくれたんだ?』

 

『…神殿に入ってから、話しかけてくれたり、こっちの話を聞いてくれた人が君で初めてだったからかな。嬉しかったんだ。

 ……ちょっと話しすぎちゃったけど。』

 

 

 思い出したかのように「聞いてくれよ、他の連中はさぁ…」と俺以外の同級生に対する愚痴を言う彼は、どう見てもあの恐ろしい発明品を悪用するとは思えなかった。

 

 それから俺とローリエは、一緒に行動する事が多くなった。あいつの魔法工学の知識は人並みどころか俺以上で、突飛な発想をいくつも持っていた。俺はそれに感心し、何とか彼も驚く発明を造れないかと努力した。気づけば、俺達は軽口を叩き合えるような関係になっていた。

 ……この頃からずっと「女は愛するもの。サ○ジもそう言っている」とか「百合恋愛・結婚は認められるべきだ」とか訳わかんないことをしばしば言ってて理解に苦しんだけどな。

 

 その後も、あの危険な発明品を隠すかのようにローリエは様々な生活用魔道具や娯楽品を発明していった。

 円型の自律走行を行う掃除機、四枚のプロペラで空を飛ぶオモチャ、小型のインスタントカメラ、フィルムの続く限り録画を行うカメラ、ペンの形をした懐中電灯、遠くの人物と会話ができる通信機、「トランプ」と名付けたカードに「将棋」とかいうボードゲーム………中にはコレはちょっとっていうもの(G型魔道具など)もあったが、挙げ始めれば枚挙にいとまがない。

 彼は、そういった画期的かつ役に立つ物を多く発明したとのことで(後に禁忌扱いされたネタ発明もあったが)、八賢者に選ばれた。

 

 でも、その裏で日用品ではないものも開発していることも、しばしば奴のテーブルの上が爆発していたことからも伺えた。

 

 

 エトワリアの発明王ともいうべきコイツからは、どんな発明品が出てくるのか分からん。

 

 それはつまり、()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを意味している。

 

 

 

 あいつが賢者になってから、こんな質問をしたことがある。

 

 

『今の賢者の中で一番強い賢者は誰だと思う?』

 

 

 ほぼ興味本位の質問だったが、ほんの少し、彼が彼自身の強さとその可能性についてどう考えているのかを知りたいと思ったのも本音だ。その結果、彼はこう答えた。

 

 

『一番強い賢者? う~ん……まず俺はないとして………やっぱハッカちゃんかな? 夢幻魔法、チートじゃない?』

 

 

 ハッカという八賢者については、俺はほとんど知らない。故に、夢幻魔法とやらの効果も、名前から予測するしかないのだが、きっと幻術の(たぐい)だろう。だが、ローリエの発明品はそういう意味でも奇想天外で予測不可能だ。「パイソン」だって、パッと見ただけではどんなものかまでは分からなかった。

 

 俺から言わせれば、「凶悪な初見殺しの武器を作れるお前の方がチートだわ」という感じだ。

 とぼけているのか本当に自身の持つ力の意味を分かっていないのかは確信が持てないが、賢者の中でもかなり強い部類に入る男だと思う。相性次第では、格上も完封できるだろう。

 

 

 

 

 

 もし俺の見立てが間違っていなければ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ローリエは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()1()5()()()()殿()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁこの点については、あまり危険視していない。

 

 なぜって? そりゃあもちろん――

 

 

『アルシーヴちゃん! 髪型ちょっと変えた? いつもと違った可愛さだね!』

 

『……ローリエ。確かに髪型を少し変えたが、セクハラの報告からは逃れられんぞ。

 …セサミから3件、カルダモンから1件、ほか女神官から18件。あと今日、昨日、一昨日(おととい)と私の胸も揉んでくれたな。……弁明はあるか?』

 

『…ああっ、いけない! 俺、今日はデートの日だった! それじゃっ!!』

 

『逃げるな!! “ルナティック・レイ”!』

 

『ぎゃあああああああぁぁぁァァァァァッ!!!!?』

 

 

 ―――あいつがこういう性格してる(女好きだ)からに決まってるだろ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 それはともかく、だ。

 ローリエ自身、日用品だけじゃなく、未知の武器も造っているのだ。だから、俺も俺で戦うための知恵を絞らざるを得なくなった訳。

 

 そのうちの一つがさっきのおっさんと戦った時に使った木剣に仕込んだ魔法だ。

 

 錯乱魔法。

 

 敵の精神を動揺させ、混乱させる魔法だ。時間をかけてゆっくり発動させることで、相手に自覚されずに混乱させることができる。

 今回は、最初の一撃を打ち込んだ時に発動させ、じっくりと魔法をかけ、奴を前後不覚にさせた。試験的な運用もあって、少しゆっくりめだったが、魔法の完成スピードをもう少し早くしても良さそうだな。

 

 魔法の属性が未だに決まっていないローリエとは違い、俺は既に水属性で決まっているので、水属性が得意な錯乱魔法・幻影魔法・水鏡(すいきょう)魔法といった魔法を中心に覚え、練度を上げた。

 

 ちなみに、幻影魔法とは、ちょっとした幻を見せる魔法のことで、水鏡(すいきょう)魔法とは、水の反射で鏡を作ることで、相手を惑わせる魔法だ。

 

 たかがそんなこと、と思うが戦闘中は半端じゃないほど反射神経を使う。

 そんなめまぐるしく戦況が変わる時に錯乱してまともな思考ができなくなったり、上下左右が反転したり、幻に騙されたりしてみろ。たとえどんな奴が相手でも充分命取りになる。

 

 基本的には剣術で戦い、魔法は妨害に専念する。

 

 

 それがこのコリアンダー・コエンドロの戦い方だ。

 

 課題としては、まずはフェンネルあたりに俺の剣術を見てもらって、問題点を見つける所からだな。独学だったから、変なクセが出ているかもしれない。

 

 

 

 

 とにかく、今やるべきことは………

 

「ローリエの野郎、どこへ行きやがった……?」

 

 女の子二人と避難とかこつけてどこかへ行ったローリエを探すことだ。

 あいつの守備範囲は18からだそうだし、「百合CPは見守るもの」とかいって女子同士の恋愛を大切にしているから流石に14、5くらいのあの少女達には手を出さないと思うが……

 

 ……

 ………

 …………出さないよな?

 

 ………不安になってきた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ぶえっくし!!」

 

「だ、大丈夫ですか、ローリエさん?」

 

 思いっきりくしゃみをしてしまい、ローズちゃんを心配させてしまった。

 今、このローリエは彼女達の信頼を得るために頑張ってるのに、誰か良からぬ噂でもしてるのか……?

 

「誰だ、俺の噂をしてる奴は……?」

 

「そんな古典的なことってあるんですか……?」

 

 

 ボソッとリリィちゃんがそんなことを言う。

 くしゃみ=噂の等式って、エトワリア(ここ)でも古いって認識なのかよ。

 まぁいい。ちゃっちゃと聞き込みを済ませるとしますか。

 

 




キャラクター紹介&解説

コリアンダー
 今回のメイン人物。戦闘描写・解説ももちろんだが、ローリエとの出会いと賢者にまで登りつめるローリエをただの(と言っちゃあ失礼だが)エトワリア人の彼視点から書いた。ちょっとした考察回なので、物語の進展はほぼなし。その代わり、短めである。


ローリエ
 コリアンダーに意外と評価されていた男。魔法工学に自信のあったコリアンダーさえも知らない拳銃を作り上げた彼は、それだけでも脅威と思われている。だが、彼自身がとんでもない女好きなので、危険視されることなく、健全な友人付き合いを送っている。神殿内の性別割合が極端に男に傾いていたらどうなっていたことやら。
 まぁ、これ『きららファンタジア』なのであり得ないけど。
 そして、やはり彼が武器を作り、使う理由は「大切な人を守る為」であるようで……?


△▼△▼△▼
ローリエ「リリィちゃんとローズちゃんから信頼を得るべく、仕事を見学させることにした俺。」
リリィ「ちょっとでも変な真似したら通報するからね。」
ローリエ「分かった、分かったから落ち着け……」
ローズ「でも、ローリエさんの聞き込みが進むにつれて、リリィのお母さんの行動が次々と明らかになっていって……」
ローリエ「リリィちゃん。もしかして、君のお母さんは―――」

次回『ミネラ その①』
リリィ「ぜ……絶対見てね?」
▲▽▲▽▲▽

あとがき
 最近忙しくて、投稿ペースが不安定です。それに、書きたいところばかり募っていくので、ストーリーの進み具合も不安になりそう。でも、必ず完結させたいと思います。これからも「きらファン八賢者」をよろしくお願いします。


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第20話:ミネラ その①

“きららさんのキズを癒やすために港町に泊まった日に、わたしはおいしいドーナツ屋に行きました。
 その人の話には、おどろかされました。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


「お兄さん。やっぱりあんた、いい人だよ。お母さんのために、お金を稼ぐなんて。」

 

「いえいえ。僕に働く理由を思い出させてくれたあなたほどじゃあありません。」

 

 俺は、もうちょいで30代に入りそうな、八百屋のお兄さんと握手をする。こうして働く理由を思い出させた後で、話を聞き出すことが、俺の仕事だ。そこに、おふざけはない。受けた仕事は真面目にやるのみだ。

 

 

 まぁリリィちゃんとローズちゃんにかっこいい所を見せるためにやってるんだけどね!! そうじゃなけりゃ、こんな面倒なことやってられるか。コリアンダーあたりに押しつけてるわ。

 

 

(ほら見てリリィ、やっぱりローリエさんいい人よ。疑う理由なんてないでしょう?)

 

(う~ん……なんか引っかかるのよね……何というか、仮面被ってそうというか……)

 

 百合CPの二人は、俺の仕事を後ろから見学しつつ、そんなことを小声で話し合っている。

 ローズちゃんは簡単に信じるのに対し、リリィちゃんはやっぱり鋭く、慎重だ。これなら、結婚後のローズちゃんもリリィちゃんに任せられる、か。

 

 

「ところでお兄さん、聞きたいことがあるんだけど。」

 

「なんですか?」

 

「この男、知らない? 俺は今、この人を探しているんだ。」

 

 話を改めて、俺は八百屋のお兄さんにあるものを見せた。

 

「これは……?」

 

「男の人相書きだ。」

 

 そう。人相書きである。流石に、写真はまだ浸透していない上に、流血シーンがはっきり写ってしまっているので、写真を元に男の特徴を描いて、それを見せることにしたのだ。顔ははっきり写っていなかったので、分かる範囲で特徴を描いている。ただ、

 

・身長は165~170センチ

・フード付きの黒いローブを着ていた

・ペンほどの長さほどの杖を持っている

 

 俺の記憶と組合せても、はっきり分かるのはこの程度のものだ。簡単に手がかりを掴めるとは思ってないが、これは我ながらヒントが少なすぎると思う。

 

 

「う~ん……ごめんなさい、これはちょっと分からないですね……」

 

 

 俺の予想に同意するかよのうに、お兄さんは困り顔で申し訳なさそうに答える。

 いや、俺だって申し訳ねーと思うよ? でも、ローブのせいで見た目の特徴はほぼ分からなかったし、他の特徴といえば俺のマグナムで怪我を負っているだろうことくらいだ。流石にそのことは話せない。俺がその男にトドメを刺す為に探しているみたいに聞こえたら少しマズいからな。

 

 

「…そっか。せめて、魔法の杖について何か分かれば良かったんだけど……」

 

「生憎、魔法については門外漢でして……生まれてこの方、野菜の栽培にしか携わってないもので」

 

「そうでしたか。無茶なこと聞いて悪かったよ。」

 

「いえ、こちらこそ、お力になれなくて申し訳ありません。」

 

 

 丁寧に答えてくれたお兄さんにお礼を言って、二人を伴い八百屋を後にする。この調子で町の人々を片っ端から起こしていけば、二人の信頼は得られるだろうか。

 そう思いながら次の人に声をかけようとした時。

 

「ねぇ、あんた」

 

 リリィちゃんが声をかけてきた。振り向くと、訝しげな表情を浮かべた彼女が立ち止まって俺をまっすぐ見ていた。指を銀色のショートヘアに絡み付けていて、声色も穏やかじゃない。

 

 

「いつまでこんなことを続ける気?」

 

 その質問は、彼女の不安を表していたのだろうか。それとも、理解できないから思い切ったのだろうか。少なくとも、「君達が信じてくれるまで」なんて答えないようにしなきゃな、と思いながらこっちも口を開く。

 

 

「勿論、全員に聞くつもりだ。手がかりが見つかるまでやるが、骨折り損になるかもな」

 

「無駄になるかもしれないのよ……? それに、たとえあんたが真面目にやったって、ママを元通りにするのを許す訳ないんだからね?」

 

「ちょっとリリィ――」

 

「別に構わない。本来の目的は()()()()()()からな」

 

「「!?」」

 

 

 そこでリリィちゃんも、彼女を諫めようとしたローズちゃんも、驚きの表情を見せる。俺は、言葉を続ける。

 

 

「リリィちゃん、君は『情報が得られず、無駄になるかもしれない』って言ったね? 違うよ。

 俺は『結果』を求めて動いている訳じゃあない。結果を追い求めてばっかりいると、『近道』をしたくなる。『真実』を見失ってやる気もなくなっていく。

 大切なのは『真実に向かおうとする意志』だ。それさえあれば、例え今回は収穫がなかったとしてもいつかは辿り着く。だって、真実に向かっているんだからな。」

 

 

 違うかい? と微笑みかけると、二人ともあっけにとられていたが、ローズちゃんが我に返り、俺の手を握ってきた。彼女の紫水晶(アメジスト)のような瞳が少し潤んで、光を乱反射させている。

 

 

「………流石です、ローリエさん。私は、あなたを尊敬します。ただひたすらに、真実に向かうあなたを……」

 

 ……そこまで尊敬されると困るんだけどな。

 偉そうな事を言った俺だが、毎回そう上手く行動できる訳じゃない。さっきの台詞だって、前世の漫画の知識から持ってきたものだ。

 

「そんなに持ち上げないでくれ。俺も、まだ未熟だ。感情に流されて、焦って『結果』を求めちゃうこともある。」

 

 

 人間40年(仮定)、俺でもそうして何度も失敗してきた。前世では、受験、就職、人間関係………『結果』を求めて失敗し、後悔した記憶はいくつもある。今世でも、後悔したことがないと言ったら嘘になる。

 

 例えば、ローブ野郎を排除しようとして、結局アルシーヴちゃんとソラちゃんの運命を変えられなかったあの夜。

 

 もし、俺が落ち着いて行動していたら?

 

 もし、奴を倒すことができていたら?

 

 思い出すたびに、今となっては何の意味もない「たら・れば」が頭の中を駆け巡る。非合理的だからやめようと無理矢理思考を打ち切っても、思い出せばまた再燃する後悔の念。そういう感情に苛まれる度に、「人間って面倒くさい生き物だな」と思ってしまうのだ。

 

 

「ローズ、言ったわよね? 簡単に人を信じていいのかって。」

 

「リリィ。まだローリエさんを信用できないって言うの?」

 

「そう、なのかな………うーーん……」

 

 

 最愛の女の子(暫定)に説得され悩む彼女に「無理に信じなくてもいいんだよ」とフォローしたのだが、すぐさま睨まれた俺はリリィちゃんのフォローはローズちゃんに一任しようと考え、次のだらけた人に話しかけた。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 突然現れて、ママを口説こうとした男は、魔法工学教師のローリエと名乗った。彼が現れた時、せっかく得たまたとないチャンスを奪われてたまるものか、と思った。

 

 

 

 

 

 

 あたしは、少し前から「他の子たちとは違う」って自覚を持っていた。

 他の子達が好きな男のタイプについて話している時。ラブロマンスに思いを馳せている時。恋愛物語の感想を話し合っている時。あたしは、それに()()()()()()()()()()心を揺さぶられなかった。うっとりと「どんなシチュエーションがときめくか」とか「どんな男が格好いいか」とか語る同級生が理解できなかった。でも、「それの何がいいの?」なんて訊ける筈もなく、ただ隅っこで愛想笑いを浮かべる日々を送っていた。

 

 初めてローズに会ったのは2年前のこと。

 

 海辺の砂浜に座っていた、薔薇(バラ)のような深紅の髪と紫水晶(アメジスト)のような色の瞳、それを一層引き立てる白いワンピース。ハイビスカスの花に誘われる蝶のごとく、彼女に近づいてみると、彼女の方から声をかけられた。

 

 

「なーに?何か用?」

 

「えっ!? えっ、えーっと……

 ………か、可愛い子だなって、思って………

 

 

 突然のことに戸惑った勢いで、そんなことを言ってしまっていた。

 

 この直後、なんとか誤魔化して友達になったんだけど、後に聞いたことには、ローズはこの時、いきなり告白されたことに驚いて、惚れてしまったそう。当時のことをあまりにどストレートに言うもんだから、恥ずかしくなって照れ隠しにつねっちゃったけど。

 かくいうあたしも、この時にローズに一目惚れした。

 

 それと同時に、理解した。

 

 

 

 あたしは、()()()()()()()()()()()()()って。

 

 

 それが、周りと違う理由だと知った時、あたしは更に他の子達と距離を置こうとした。自分だけの秘密を、冷凍庫の奥にしまうように、凍らせておこうとした。もし、この秘密が皆にバレちゃったら……そう思うと、怖くて仕方なかった。

 

 その時、あたしのそばにいてくれたのも、ローズだった。

 

 

『どうしたの、リリィ?』

 

『ローズ、だったっけ?』

 

『そうだよ! 覚えてよ! ちょっと泣きそうなんだけど?』

 

『ご、ごめんなさい! 覚える! 覚えるから、泣かないで……ね?』

 

『友達………だよね?』

 

『う、うん! あたしたちは友達!!』

 

『えへへー、やったー! 友達、友達ー!』

 

 

 泣きそうだった彼女は嘘のように飛び跳ねて喜んだ。

 

 それ以降も友達として過ごしていく内に、ローズという少女の人間像がだんだんわかってきた。

 ローズは、人の幸福を願い、人の不幸を悲しみ、人の願いを応援し、人と愛や友情を分かち合える子だ。そう思った。少なくともあたしはそうだと信じている。

 

 だからだろうか。彼女に「あたしの秘密を話してもいい」と思えるほど、彼女を信頼したのは。

 

 

 

 

『あたしね、おかしいの。女の子なのに、女の子を好きになるの。』

『………っ』

 

 彼女と「友達」になってから1年ほどたった冬の日。あたしは「大切な話がある」とローズを二人っきりになれる場所でそう告げた。

 覚悟はしていたつもりだった。でも、秘密を話した直後のローズの目を見開いて絶句していた姿が、あたしの絶望感を掻き立てた。

 ああ、きっとこの子も同じだと。あたしが理解できるはずの友達が、理解できなくなっていく。届いていたはずの手が届かなくなっていく。全身から血が引き、冷えていく感覚に耐えながら独り、ぽつりぽつりと話していく。

 

 

『だからね……っ、これ以上、あたしと、一緒に………』

 

 

 言葉が喉につっかえてスムーズに出てこない。「一緒にいちゃいけない」と言うだけなのに言えなくて、ローズを離せなくて、気が付いたら下を向いていて、涙がボロボロ(こぼ)れて、頬を冷たく濡らした、その時。

 

 

 

 

 

 

『大丈夫だよ』

 

 

 

 

 

 

 温かいものが今にも凍えそうな両頬を包んだ。

 

 

 

 

『例えどんな子を好きになっても、リリィはリリィだよ』

 

 

 

 

 その言葉に、顔を上げる。滲んだ視界には、ローズだけが映っていた。表情は分からない。でも、確かに驚いたけどね、という彼女の声色は優しかった。

 視界の全てが、虹色に色づき始めた。さっきまでの、氷河のような涙が、温かく、清らかで、春の小川のようなものに変わったことに気が付くのに時間がかかった。

 

 

 

 

『……例え、それが……ローズ…あなた、でも?』

 

 自然に出たあたしの言葉に、赤面して面食らいながらも、ぼやけたローズは答えた。

 

『………………うそ、まさかの両想い……!?』

 

 

 

 その言葉はあまりにも拍子抜けしていたが、暖炉の中の炎が凍えた体を温めるかのように、あたしの中で凍り付いていた想いが一気に溶けた気がした。溶けだした想いが両目から溢れ出して、拭っても拭っても止まらなかった。

 

 

 

『……っ、そう…だよ、ローズ………好きだよ……ローズ………』

『私も………リリィが好きっ、大好き……!!』

 

 こうして、あたし、リリィとローズは恋人になった。

 

 

 

 

 

 でも、あたしはママにそのことを報告できずにいた。

 

 パパが5年前に亡くなってからというもの、ドーナツ屋の店主として休まず働いているのだ。きっと……いや、絶対反対されるに決まっている。このことは、ローズにも相談した。複雑な顔をしたが、一応はあたしの意思を尊重してあたし達の関係は秘密にしている。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時に起こったのが大人の怠惰化である。

 

 仕事に熱心なママでさえ、「仕事したくない」って言ってだらけてしまっているのだ。おまけに、強盗(?)に押し入られた時に投げやりになっていたのも確認済みだ。普通ならピンチだけど、あたしが考えたのはそれだけじゃない。

 今なら、あたしとローズのお付き合いを認めてくれるかもしれない。もしそれが駄目でも、駆け落ちの為のお金も「面倒くさいから好きにすればー」とか言って調達できるだろう。

 

 だから―――今、ママを元通りにされるのは困る!

 

 

 

 現在、目の前でだらけきっている宝石商に話しかけている男も、昨日ママを元通りにしようとした。彼の妥協案で聞き込みに付き合わされているが、ママを元通りにされる展開だけは避けなければ。

 でも、今帰るとローズとローリエが二人っきりになってしまう。それはもっとマズい。

 一体、どうすれば………!?

 

 

「なぁ、あなたが働く理由は何だい? やっぱりお金かな?」

 

う~~~ん……

 

「……違うか。なら、あなたの仕事で喜ぶ人でもいるのか?」

 

 

 ローリエがそう宝石商に言うも反応はない。金も人の笑顔も彼の働く理由ではないと判断したのか、仕事の後の一杯はとか、結婚の為かとか様々な理由を試している。

 何人にも同じことをしたためか、手際がいい。この調子でママまで復活させられるとこっちが困るんだけど……

 

 

「ねえ、リリィ?」

 

「っ! なに、ローズ?」

 

「そろそろ信じてあげたら?」

 

「……どうして彼の肩を持つの?」

 

 

 声をかけてきたローズのそこがまだ分からない。今日、会ってから半日も経ってない筈なのに、何故なのかが妙にモヤモヤする。

 

 

「……一生懸命だからかな?」

 

「一生懸命?」

 

「そう。あの人は、初めて会った人達、見ず知らずの他人であるはずの人達に親身になって話しかけている。誰にもできることじゃあないわ。」

 

「無茶苦茶な……それに、そういうのって、慣れなんじゃあないかしら」

 

「リリィは私以外に友達を作ろうとしなかったのに?」

 

 う、と答えに困ってしまう。確かに、あたしはローズ以外に親友と呼べる存在がいない(厳密に言うと、ローズは恋人なのだから、ローズのように親しくしようとした人がいないと言うべきなんだろうけど)。

 

 

「『最初に私達の町の人々に声をかける』ってことをしなければ、慣れることすらないわよ?」

 

 ローズの言葉はきっと、的を射ているのかもしれない。あたしは嫌われること(『結果』)を恐れて、他の人々の輪の中に入らなかった。さっきのローリエが言っていたこと(『真実に向かおうとする意志』とやら)も含めて、すぐに反論が見つからず苛立ちばかりが増していく。

 

「まぁ、どれだけリリィが友達を作っても、『特別』は私だけだもんね?」

 

「もう、恥ずかしい事言わないでよ……」

 

 そんな感情を読み取ったのか、柔らかく温かい薔薇色が、あたしの腕の中に飛び込んできた。それがあたしの大切な人だと分かるとつい受け止めてしまったが、人の目があるところでするのはやめて欲しい。ローリエは宝石商と何か言い合っていて、こっちを見てないからいいが、他の誰かが見てるかもしれないのに……

 

「こういう状況って興奮しない?」

 

「しないよ!!」

 

 こんな時にローズは何を考えてるの!!

 

「でもリリィ、まんざらでもなさそう。」

 

「そ、そんなこと……」

 

 ない、と言葉が続かない。そこで初めて顔が熱いことに気づいた。

 その熱が頭にまで回ってきて、まともな判断ができなくなりそうだ。

 ローズがあたしを覗き込む。紫水晶(アメジスト)の瞳があたしを捉え、近づいてくる。

 これから唇にやってくるであろう柔らかく甘い感触を予見しつつ、目を閉じた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、オホン!」

 

 

 

「ひゃああああ!!?」

 

 

 

 

 その時、宝石商と会話をしていたはずの彼から声がかかった。

 すぐさまローズから離れる。あたしから離れたローズはにやにやしていた。

 

 

 ―――ま、まさか、気付いていて尚ローリエに見せつけていたというの……!?

 

 

「二度もお楽しみを邪魔して悪いが、聞きたい事ができた」

 

 

 心臓がバクバクと煩い中、もう宝石商を元通りにしたの、と言う前に発してきた彼の質問に―――

 

 

 

「ミネラさん、って知ってるか?」

 

 

 

 ―――あたしは時が止まった感覚を覚えた。

 ミネラ。その名前は知っている。あたしの、ママの名前だ。でも……

 

「なんで、その名前が出てくるの!?」

 

「ちょ、リリィ!?」

 

 自覚はなかったが、声を荒げていたんだろう。ローズはあたしを心配そうに見つめ、ローリエもすぐに取り乱したかのように弁解しだした。

 

「あぁ、待て待て! さっきの宝石商から聞いたんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って聞いてさ」

 

 それは、一体どういうことなの?

 あたしのママと、ローリエが探してるという、男と何の関係があるのだろう?

 そう呆けるあたしとローズをよそに、ローリエは説明しだした。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 俺は、目の前の真夏日にアスファルトの道路に落としたアイスクリームみたいになっている宝石商を相手に、手詰まりになっていた。

 

 お金も駄目、人も駄目、酒も駄目。言い方を変えても効果なし。そうなった場合のコイツの働く目的に検討がつかなかったからだ。

 

 人間、ボランティアで働くには限界がある。前世(日本)でもよく言われてきたことだ。宝石商の彼にも、必ず何かしら働く理由があるはずだ。

 

 

 考えろ……必ず、何かあるはずだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私はえっと……えっと……この橋が完成したら、約束通り幼なじみと結婚できますよ!』

 

『そんなゲームやフィクションやあらへんのやから……』

 

『ベタすぎない?』

 

『……狙ってるんじゃなくて……

 きららさんが……純粋なだけかも……?』

 

 

 突如蘇ったのは、俺が「きららファンタジア」をやっていた時の記憶。2章で、橋の職人にきららちゃんがかけた言葉。そして、死亡フラグの常套句。

 思い出した。確か、そんなやりとりがあったはずだ。

 

『そうだ!

 俺、この仕事が終わったら、結婚するんだ……!』

 

『正解しとるけど、それ死亡フラグやぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

 CV竹尾○美さんの迫真のツッコミが脳内に響き渡る。

 そう。戦争の物語などにおいて、「俺、帰ったら結婚するんだ……!」みたいな事を言った奴は、必ずといっていいほど帰ってこれない。

 その人物が死亡するための『条件』。それが死亡フラグだ。

 

 ……まさか、この宝石商にも、そういう事情があったりするのか……?

 

 

 

「……なぁ。あんた、故郷に許嫁か出産を控えた嫁さんでもいるのか?」

 

「……!

 そうだ……いる。私には、出産間近の妻がいる……!」

 

 

 おいやめろ。いきなりフラグを建てるんじゃあない。

 

「帰る頃には父親になってるだろうな……」

 

 だからやめろや! 何で連続してフラグを建てたがるの!!?

 

「子供が産まれたら、宝石商(この仕事)はやめにしようと思うんです。今回の仕事を最後に何か別の仕事に転職して……」

 

「それ以上マズい発言すんじゃねーよ!

 最()じゃなくて最()の仕事になっちまうぞ!!?」

 

 なんなの? エトワリアには死亡フラグを仕事の理由にしたがる習慣でもあるの? それ絶対長生きできねーぞ!?

 

「家族三人になったら故郷でアツアツのピザも食べたいな。ナラの木の薪で焼いた本格的なマルガリータだ。妻が大好きなボルチーニ茸も乗っけて貰おう……!」

 

「今それを言うな!! 帰れなくなるぞ!」

 

「大丈夫ですよ。わたしは死なないから」

 

「死ぬから! そういう事言う奴に限って真っ先に死ぬから!!」

 

「もう何も怖くn」

「クドいわ! 口を開く度に死亡フラグを喋ってんじゃあねーよ!!」

 

 このままでは埒があかない。さっさと本題に移って、質問に答えてもらうほうがいいだろう。

 

 

「な、なあ、嫁さんの出産はめでたい事だけどよ、ちょっとダンナに聞きたい事があるんだ。いいかな?」

 

「? ああ、質問に答えるのはいいが………別にアレを倒してしまってm」

「あの!! この人相書きに心当たりはないかな?」

 

 何を倒すつもりだったんだよこの男は。

 隙さえあれば死亡フラグをぶちこもうとしてくる既婚者の言葉を遮って、例の人相書きを見せる。

 彼は流石に死亡フラグをぶっこむのをやめ、手渡された人相書きを穴が開くかのように見つめる。

 

 時間にして数十秒ほどだろう。だが、俺には数分かのように感じた。

 

 長かった時間はようやく過ぎて、人相書きを返してきた宝石商は、神妙な顔をしながらこう言った。

 

 

 

 

 

「……杖について、心当たりがある」

 

「本当か!?」

 

 つい大声が出てしまった。

 やっと手がかりが見つかったとなれば、仕方のないことなんだろう。

 

「『ペンほどの長さの杖』………これは、山奥の魔法使いが使っていると聞いたことがある」

 

「山奥……!」

 

「わたしはこれくらいのことしか知らないが、あっちの地方から港町(ここ)に嫁いできたという彼女なら、もっと詳しく知っているかもしれない」

 

 

 

 手がかりにしては、意外に良い収穫だ。俺は、宝石商に「詳しく知っているその彼女って誰の事なんですか」と尋ねる。

 すると、宝石商は、思い出すかのように数拍置いてから、その人物の名前を口に出した。

 

 

 

「――――――ミネラ。昨日、リリィとかいう娘の為とウチで買い物をした女性だ」

 

 耳にしたことのある名前に覚えのあった俺は、手短にお礼を言うと、すぐさま確認の為に百合CPに目を向けたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 事情を説明し終わり、「なにか質問は?」と聞いても、ローズちゃんもリリィちゃんも言葉を発せずにいた。

 

 まぁ無理もないだろう。親の結婚事情なんて本人に尋ねでもしない限り知り得ないだろうからね。しかも、リリィちゃんの親子関係は良くない。こういうことを聞くのは初めてなんだろうな―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「「死亡フラグって…なに……?」」

 

「いやそっちかいぃぃぃ!!」

 

 

 この後、死亡フラグについて5分動画の塾講師のように教えたのだった。

 

 ――ミネラさんについて色々聞くつもりだったんだけどなぁ……

 

 まぁいい。この講義(?)が終わったらすぐにでもドーナツ屋へ向かおう。

 

 

 リリィちゃん。もしかしたら、君のお母さんは―――

 

 ―――――意外と、君のことを思っているのかもしれない。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 ソラ襲撃事件の手がかりを追いつつ、百合CPに『真実へ向かおうとする意志』や死亡フラグについて教えた魔法工学教師(兼八賢者)。エトワリア人ローリエとしては二十代なのに、二十代らしからぬ言動をするように心掛けた。人間40年とか言ってるけど、彼自身前世の享年は知らないので感覚である。

リリィ
 拙作オリジナルキャラにして百合CPの片割れ。慎重で疑り深く、しかし反抗的かつ短絡的な考えをしてしまう……そんな子供っぽさが抜けない中学生を意識して書いたキャラクターだと思う。自身の特殊な恋に自信を持てず、迷い続ける時期が思春期にはあると思うの。

ローズ
 拙作オリジナルキャラにして百合CPの片割れ。積極的で人懐っこく、リリィとは違った子供っぽさを書き出した。その過程で、露出系に傾きかけているが、そこまでキワモノにするつもりはないのでご安心を。まぁ、桜Trickの春香×優も授業(体育のダンス)中にキスするくらいしてるし、それ以上にならなければ恐らく大丈夫。


真実へ向かおうとする意志
 『ジョジョの奇妙な冒険・第五部』にて言及されていた、同作のテーマともいうべき意志・魂。目先の結果や偽りのゴールに惑わされることなく、真実を探求する志とされている。詳しい事は、前述した作品を読み、『心』で理解してほしい。

死亡フラグ
 死を予感させる言動のまとめ。「帰ったら結婚するんだ」というテンプレの他、亜種の「アツアツのピッツァも食いてえ!」や「私は死なないわ」、「もう何も怖くない」や「別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」にも御出張願った。
 死亡フラグとして有名すぎる「俺、この戦争が終わったら、この娘と結婚するんだ……」は映画『プラトーン』が元祖で、物語冒頭にこのセリフを言った主人公の同期の兵士は10分後に死亡した。
 ちなみに、死亡フラグの歴史は相当に古く、三国志演義や古代ギリシア叙事詩にもそれらしい描写が多数見受けられる。トロイア戦争を題材とした叙事詩「イリアス」の主人公アキレウスなどもその一つだが、そもそも古代ギリシアでは『神様の息子=生まれつき過酷な運命を背負っている=不幸・死亡フラグ』というテンプレが存在していたようだ。
 また、日本史にもそれらしい逸話があり、有名なのが上杉謙信の「死なんと戦へば生き、生きんと戦へば必ず死すものなり。家を出ずるより帰らじと思えばまた帰る、帰ると思えばぜひ帰らぬものなり」という言葉である。これは武士の心得であり、『必死の覚悟で家には二度と帰るまいと思って戦えば生き残り、生きて勝利を味わい、必ず帰ろうと思って戦えば帰らぬ人となるものだ』という意味があるのだが、死亡フラグに通ずるものもある。




△▼△▼△▼
ローリエ「遂にミネラさんと会うことになった俺! でも、リリィちゃんはまだ納得がいかないみたい。
 仕方ないから俺が譲歩しよう。ズバリ、『元通りにするチャンスは一度だけ』!」
ローズ「だ、大丈夫なんですか……?」
ローリエ「ああ。人間たるもの、自分の子供を愛さないやつはまずいないからな……!」

次回『ミネラ その②』
ローズ「絶対に見てくださいっ!」
▲▽▲▽▲▽


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第21話:ミネラ その②

“きっとあの人は、誰かの気持ちを察するのが上手いんだと思います。”
 …港町のドーナツ屋の店主・ミネラ



 宝石商から「ミネラさん」について聞いた俺は、二人を伴って、遠山さんやリリィちゃんと初めて会ったドーナツ屋に来ていた。

 ドーナツ屋の女店主改めミネラさんは、相変わらずカウンターにぐだっと寄りかかり、寝そべっていた。オーダーが解除されれば悪影響もなくなるかもしれないが、会いに行くと言った手前、彼女を元通りにせざるを得ない。それに、オーダーが解除される前にミネラさんを復活させた方が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……一度きりだからね。

 もしダメだったらママのことは諦めてもらうわよ」

 

「分かってるよ。」

 

 

 リリィちゃんにそんなことを言われ、ここに来るまでのやり取りを思い出す。

 

 

 

 

 

 

『―――という訳で、ミネラさんから話を聞こうと思う。』

 

『なによそれ! そんなの聞いてないわよ!』

 

『だろうな。俺も初耳だ。

 安心しろ、親の馴れ初めなんて本人に聞きでもしない限り知らんからな』

 

『そうじゃなくて! ママを元通りにするのはやめてって言ったでしょ!』

 

『……初めて会った時から思ってたが、何をそんなに恐れてるんだ?』

 

『ま、まあまあ二人とも、落ち着いて……』

 

『なによ、ローズ? コイツの味方をすんの?』

 

『違うよ。ちょっと折衷案を出そうかなと。』

 

『『??』』

 

 

 

 そう言ってローズちゃんが出した折衷案が、『彼女を正気に戻すチャンスを一度にする』というものだ。

 はっきり言って、この案は俺には分が悪い。だが俺はすぐさまその案に乗った。これで下手にゴネたら、リリィちゃんに難癖を付けられて、ミネラさんに会う機会すら奪われかねない。ほぼ即答に近いレベルで「いいだろう、その案に賛成だ」と答えることで、リリィちゃんが言い訳を考える時間すら与えなかった。ちょっとズルいがまぁいいだろう。

 

 そうしてミネラさんのドーナツ屋まで来たわけだが。

 

 

 俺は内心穏やかじゃあなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……失敗したらどうしよう。

 

 心配事はその一つに尽きた。

 予想はできる。だが、それが正しいという確証がない。ちょっとこれまでの情報をまとめておこう。

 

 

・ミネラさんはドーナツ屋の女店主である。バイト等は目撃しなかった。

・リリィちゃんとローズちゃんは恋人である。(自分の目撃情報による予測)

・リリィちゃんとミネラさんは仲が悪い。

・リリィちゃんはミネラさんを正気に戻すのを嫌がっている。

 

 当然、これだけじゃあ「ミネラさんが働く理由」について言及するのは難しい。

 ここで重要になってくるのが、杖についてちょっと教えてくれた、死亡フラグ乱舞マンこと宝石商とした会話である。

 

 

 

 

『――――――ミネラ。昨日、リリィとかいう娘の為とウチで買い物をした女性だ』

 

『リリィ、だと…? なあ、ミネラとリリィって他にこの町にはいないよな!?』

 

『あ、あぁ。ミネラはドーナツ屋の女店主しかいないよ。リリィも一人だけだ。』

 

『その女性、何を買っていった?』

 

『この“グリーンクリスタルのネックレス”を()()、買っていった。』

 

『……! これ、“緑の水晶”……!』

 

『宝石には石言葉ってのがあってね……お兄さん、この“緑の水晶(グリーンクリスタル)”の石言葉って知ってるかい?』

 

『? いや、石言葉なんてものは初めて聞いたぜ。』

 

 

『いいかい、緑の水晶(グリーンクリスタル)の石言葉はな―――

 ――――――――――だ…………』

 

『…………!!

 ……ありがとな、宝石商のダンナ』

 

 

 

 

 

 宝石商が言っていたあの言葉……もし、ミネラさんが()()()()()()買ったのならば、俺にも勝算はある。

 

 もし、()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()

「家族の絆は必ずある」みたいな、ひと昔前に最高視聴率を取りそうな家族ドラマのテーマをまったく信じているわけじゃない。この世には、どうしても救いようのない状況っていうものが存在してしまう。確か、哲学用語かなんかにそんなものがあった気がする。詳しくないから知らんけど。きっと、エトワリアでも、そういった問題があるのだろう。幸いなことに、俺にはまだそんな不幸は降りかかってはいない……と思う。

 

 

 不安になっても何も始まらないことは頭では分かっているが、いざミネラさんに話しかけるとなると、妙に喉が渇いた。何度深呼吸をしたことだろう。いい加減に話しかけないと、「まだ~?」と急かされてしまう。主にリリィちゃんに。

 

 

「ねぇローリエ、まだ~? とっとと話しかけて、ママのこと諦めてほしいんだけど」

 

「……うっさいな、今考えをまとめてるとこだ。あと、もっと言い方を考えろ」

 

 

 まるで俺がミネラさんにプロポーズか何かするみたいじゃあないか。彼女の夫が健在か否か知らないが、俺は未亡人もNTR(寝取り)もあまり好きじゃない。

 

 ……仕方ない、覚悟を決めるか。

 

 盗賊を殺した(あの)時よりかは、断然マシだ。

 

 

 

 

 

「ミネラさん」

 

「んぅ?」

 

 

 俺の声に、寝ぼけた声を出して反応する。娘と違って青みがかった銀髪から覗く端正な顔立ちも、健康的な体つきも、子どもを産んだとは思えない……じゃないよ。今はやる気の復活に集中しないと。

 煩悩を押し殺して、俺は組み立てた推理を述べる。

 

 

 

 

「おたく、緑の水晶……グリーンクリスタルのネックレス、買ったろ。二つも」

 

 

 

「…………。」

 

 

 

「宝石商のダンナに聞いたぜ。

 

 

 

 

 どうして、そんなものを買ったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『娘のためだ』と、言ったそうだね?」

 

 

「「!!?」」

 

 俺の言葉に二人が動揺する。

 

 

 

「それって、どういう……」

 

「そして……驚いたことに、宝石には石言葉ってのがあるみたいだな。

 

 

 

 

 

 

 緑の水晶(グリーンクリスタル)の石言葉は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――“祝福”

 

 石言葉という概念は初めて知ったが、きっと花言葉みたいなもんだろう。

 

 

「う、うそ……」

 

 

 ミネラさんにとってはネックレスを買ったことも秘密だったのか、少女二人はただただ絶句している。

 ここまで言うが、ミネラさんはカウンターに突っ伏した体勢からただ虚ろな目で俺を見上げるのみ。

 俺の考えが正しいかどうかは、全て言ってみないと分からない。それで初めて俺の予想が合っているかどうかがわかる、というものだ。

 

 

「ミネラさん、あなたは娘を……リリィちゃんを祝福したかったんじゃないのか?」

 

 

「やめて……」

 

 

 リリィちゃんが力なく呟いた。俺はそれを聞こえないフリをした。

 これはさっきの折衷案を成し遂げようとする俺のエゴだ。一度決めたことは、最後までやり抜く。たとえそれで誰かが……あるいは、自分自身が傷ついたとて、その程度の覚悟ができなければ、俺はこのエトワリアで為したい事も為せない。そのことは、あの事件で学んだつもりだ。

 推理を進めていく。

 

 

 

「本人は隠していたつもりだったけど……あなたはなんとなく察していたんだ。娘に……恋人が―――同性の恋人ができたんじゃあないかと」

 

 

「やめて……」

 

 

「つまり。あなたの働く理由は―――」

 

 

「もうやめてよっ!!」

 

 

 

 推理の最後、最終的な答えを言うより先に、悲痛ともいうべき絶叫が店内に響く。

 

 

「これ以上言わないで!! あんたなんかが、あたしの邪魔をしないでよ!」

 

 

 リリィちゃんだった。両手に拳を握り、こっちを睨んでいる。隣のローズちゃんが押さえていなければ、今にも飛び掛かってきそうだ。

 無論、だからといって、引き下がるわけにはいかない。俺は俺なりに、「真実」に向かって足を進めるだけだ。それにリリィちゃん、妙に「怖がっている」ようにも見える。

 

 

「邪魔? ローズちゃんの案を聞いてなかったのか? 俺は折衷案に則り、為すべきことを為しているだけだ。」

 

「そんなのもういい、帰って!!」

 

「いいや、帰らないね!! 一度約束したことは最後まで守ってもらう!!」

 

「ちょ、リリィ、ローリエさん……」

 

「ローズは黙ってて! 大体、ヒトの家庭の事情に首を突っ込むとかどういう神経してんの!? ふらっと現れたと思ったら分かったような口ばっかきいて……ふざけるんじゃないわよ!!!」

 

 

「俺は至って大真面目だ。モヤモヤしていることは解決しないと気が済まん。それに、教師の仕事っつーのは……ほぼ『余計なお世話』だからな!」

 

「頼んでないわよ! 自分たちだけでどうにかするわ!!」

 

「そんなことを言っているから、子どもなんだよ」

 

「っ!!?」

 

 

 

 烈火の如く怒鳴る彼女を、正論でたたっ切る。怖がらせ過ぎないように圧をかけることも忘れない。こちとら、生きた時間だけなら同年代の人々(アルシーヴや賢者達)よりも多いんだ。14、5の子どもを言い負かすことなど容易い。まぁ、こんなことばっかしてると老害の仲間入りをしてしまうのでできればやりたくないが、今は彼女を説き伏せ、ミネラさんに答え合わせをさせることが重要だ。

 

 

「聞くが、どうにかするってどうするつもりだ? 今ここで具体的なことを言ってみろ!」

 

 そう言った途端、リリィちゃんは俯いてしまう。そのリアクションが意味することは二つ。言えないか、言いたくないか。まともな手段があるならば、答えることができるはずだ。そうしないということは、何も考えていないか、考えていてもそれを実行する自信がなかったり、後ろめたい手段であるということだ。

 

 

「何も答えられないならば、それは逃げているのと変わらないさ。」

 

「あっ、あたしは逃げてなんて……!」

 

「……逃げる事自体は悪くない。だが、注意すべきことが二つある。

 一つ、逃げる時は『その後どうするか』を考えることだ。ただ闇雲に逃げるのは意味がない。逃げながら対抗策を考えるのが良いんだ――」

 

「あたしは逃げてない!!」

 

「いいや、逃げてるね。()()()()()()()()()()()……」

 

 

 意地っ張りな彼女にそう断言してから、ミネラさんの方を向く。

 彼女はもぞもぞと動いている。

 

 

「彼女を知ろうとしろ。本当の気持ちを理解しようとしろ。その上で逃げるなら仕方ない。逃げた後の事も考えていいだろう。

 だが……何も知らない先から逃げたなら、お前は一生無知な子どものままだ!!」

 

「!?」

 

 

 リリィちゃんからは、もう子供じみた言い訳は出てこなかった。ローズちゃんには、彼女のフォローをしてもらおう。

 あぁ、あと言いそびれたことがあった。

 

 

「で、逃げる時に注意する事その二だが………本当に逃げるべきかをよく見極めることだ。周りをよく見て、相談できる人に相談して、人が何を考えているかを観察することだ。

 そうすれば、案外味方になってくれる人がいるかもしれないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだろう、ミネラさん?」

 

「……そう、かもしれませんね」

 

 

「「!!!?」」

 

 

 ミネラさんなら、もう既に復活している。というかさっき気付いた。

 

 

「起きてるならそう言ってくださいよ。」

 

「だってタイミングが……」

 

 そう言いながら、ミネラさんの目とリリィちゃんの目が合う。だが、それに気づくと娘の方はすぐに目を逸らしてしまった。

 リリィちゃんが気まずそうに何と言うべきかを目で床の木目を追いながら考えていると、ミネラさんが口を開く。

 

 

「ごめんなさいね、リリィ。」

 

 

 その一言でリリィちゃんははっと我に返り、自分の母親に目を向けた。

 

 

 ……これから始まるのは、きっと家族だけの会話だ。

 

 俺はそれが終わるまで、しばらく店を出ているとしよう。ここから先に、俺の出番はない。すべては彼女達次第ってとこだろう。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――ごめんなさいね、リリィ。

 

 いきなりそう謝られた本人はどうしてそんなことを言われたのか分からなかった。

 リリィにとって、母であるミネラは相容れない存在だと思っていたからだ。

 母親という事実は、ミネラが今は亡き父親と恋に落ち、愛を育んだ先にリリィを産んだということに他ならないことは、リリィも知っていた。

 

 故に、母親の愛と、自身の愛は、全く別物だと思っていた。誰かを愛すると言えば同じだが、()()()()()()―――それによって、全くの別物になってしまう、と……リリィは思っていた。

 だから、リリィはローズとの関係はひたすらに秘密のものとしていた。

 

 その母親が……ミネラが今、リリィを真剣な眼差しで見ている。それがまた、リリィを苦しめる。

 まっすぐ娘を見る母親と、母親からつい目を逸らしてしまう娘。その様子は、子どもがたった今、人を殺めてきたかのようだ。

 店を沈黙が支配する。彼女の恋人もまた、恋人の母親の突然の謝罪の意図を量りかねているようだ。

 

 

 

「どうして、ママが謝るの……?」

 

 

 沈黙を破ったのは、娘からだった。その後に続く、「謝るべきはあたしなのに――」という言葉は罪悪感からかリリィの喉から出てこなかった。言いたい事がすべて言えず、罪悪感は更に募っていく。

 ミネラが答える。

 

「わたしね、さっきの人の言うとおり、何となく分かってたの。」

 

「わかってた……何を……?」

 

「すべてを。リリィは、小さい頃からほかの子たちとは違ったもんね。」

 

 

 ま、その頃は本当に何となくだったんだけどね、と笑うミネラにリリィは驚愕する。

 ミネラは、リリィが自覚する前から、彼女の悩みを察していたというのだ。

 ではなぜ、その事を話さなかったのかをリリィが聞こうとすると。

 

「リリィはいずれ気づくだろうから、話してくれるまで待とうかなって……その時に味方になろうって思ったんだけど……

 パパが死んじゃって、わたしが忙しくなっちゃって……いつの間にか、リリィに恋人が出来てたことにも気付けなかった。」

 

「あ………」

 

「教えてって言っても頑なに教えてくれなかったから、何に悩んでるかも分からなくって。わたしなりに調べちゃった♪」

 

「………」

 

 

 茶目っ気強くプライベートもへったくれもないことを言うミネラをリリィは先程とはうって変わってジト目で見つめる。自身は恋人のことでどれだけ悩んでいたのか分かっているのか、と言外に伝えている。

 

 

「リリィがその人との将来を考えてるかもしれないから、ネックレスを二つ買ったわ。……ちょっと値は張ったけど。」

 

 そう言いながら部屋の奥へ行く。暫くして戻ってきたミネラが持っていたのは、春の日差しを浴びた新緑の葉のような色をした水晶が飾られた、二つのネックレスだった。

 

 

「リリィ、一つだけ聞かせて。あなたは、隣のその子が―――ローズさんのことが、本当に好き?」

 

 

 

 ミネラから発せられたその質問は、明確にリリィの心を照らし出していた。

 リリィは、すぐに答えられなかった。ローズへの想いに偽りがある訳じゃない。彼女の心にあったのは―――母への罪悪感と、未来への恐怖だった。

 質問に正直に答えたら最後、町中の人々に、母にさえ、捨てられてしまうのではないか―――自分が異質であることは分かっていた。それを認めたらどうなるか………リリィはそれが分からないほど無知でもなければ、楽観的にもなれなかった。

 

 

 

 ふと、リリィの手に温かな感触が広がる。

 

 温かさの元を見ると、自身の手を握る手があり、視線を上げていくと、薔薇のように情熱的な赤髪の少女の紫水晶(アメジスト)と目が合った。

 

「大丈夫だよ」

 

 ローズがリリィに囁いた言葉は、あの時自分の心を溶かしてくれた時のそれと同じ言葉(もの)だった。

 その言葉が、禁断の接吻を交わす度に間近に見た透き通った瞳が、今はリリィに少しの勇気を与えた。

 

 

 

 

 リリィは臆病な少女だった。ローズと恋仲になった時も、それを誰にも言おうとしなかったし、ローリエと出会った時にミネラのやる気の復活を拒んだのも、ただ自分とローズを臆病な彼女なりに守ろうとしたからだ。

 

 

 だが、臆病な百合の花も、隣に一輪の薔薇が咲いている限り、美しく咲き誇ることができる。

 

 

 

 

「ママ」

 

 

 リリィはミネラをまっすぐ見つめる。

 

 

「あたしは、ローズが大好き

 

 たとえ、皆から嫌われても、

 ママにさえ認めてくれなくても、

 

 あたしを好きでいてくれるローズを、愛してるし、一生をかけてローズを愛する!

 何があってもこの気持ちに、嘘はつきたくない!」

 

 

 言った。言ってやった。

 勢いに任せた、拙く語彙に乏しいものだったが、それは確かにリリィが自身の母親に向けた決意であり、ローズに対する告白であり、二人を前に建てた“誓い”であった。

 

 リリィの決意を受け取ったミネラはしばらく目を閉じ、何も言わないでいたが、やがて目を開けると、リリィを手を取り―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――ネックレスをその手に握らせた。

 

 

「えっ……? ママ………?」

 

 

「………あなたの誓い、確かに受け止めたわ。

 

 これからのあなたの人生、きっと楽なことばかりじゃあないわ。

 あなたの言った事を一生かけて貫くなら尚更よ。中には、あなた達を認めない人もいるかもしれない。

 

 でも……わたしは、ずっとリリィの…あなたたちの味方だからね。」

 

 

 ネックレスを渡したその手で撫でられていることに気づいたリリィは、あっという間に視界がぼやける。

 

 

「ありがとう………ママ……!!」

 

 すぐに泣いていると気づかなかった。母への感謝を声に出し、その声が震えていることに気づき、母への不安と罪悪感が霧散して初めて気づいた。だが、今瞳から次々と流れていくそれは、孤独に怯える冷たい涙ではもうなかった。

 

 

 

「ローズさん」

 

「はいっ!!」

 

 そんな泣き虫な娘を優しい目で見てから、娘が得た恋人にミネラは顔を向ける。

 

「ご覧の通り、彼女は不束な娘です。それでも、娘を愛すると誓いますか?」

 

「勿論です! 私は、私が見つけた『真実()』を受け止めます! リリィを幸せにしてみせます!!」

 

 

 何の躊躇いもなく屈託のない笑顔でそう答えるローズを見て、思わずミネラから笑みがこぼれる。

 

「あなたなら心配なさそうですね。

 どうか、娘をよろしくお願いしますね。」

 

「はい!」

 

 

 ミネラは、自分を正気に戻してくれた緑髪の男に内心で感謝しながら、二人の“娘”を抱きしめた。

 

 

「でも、結婚はまだ先ですからね。」

「もう、ママったら!」

「あはは、ですよねー。」




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 見事百合CPのキューピッドを勤めた八賢者。ミネラを元に戻す為の答えは彼なりに考えた結果であり、きっと「最終的には彼女達次第」と言うだろう。石言葉を初めて知ったにしては察しが良いのは、たまたま「花とともに花言葉を送る」という日本(地球?)の文化を当てはめただけである。これもまた、彼なら「魂が古ぼけてただけだ」と言うだろうが。

リリィ&ローズ
 めでたく母親から許しを得た百合CP。リリィがミネラに決意表明をする直前まで揺れた描写の元ネタはQueenの名曲「ボヘミアン・ラプソディー」の歌詞から。2018年末に公開され、5月頃まで上映されていた映画も作者はバッチリ見て、作業用BGMにしてまで書いた。私自身は異性愛者だし、そういう人物に出会った事がないので想像の域を出ないので、そこら辺はあしからず。
 イメージCVはリリィが○宮有○さん、ローズが降○愛さん。

ミネラ
 拙作オリジナルキャラクター。リリィの母親。未亡人でありながら、一人娘の悩みを理解しようとし、リリィの恋愛を受け入れた人格者。ローリエはこのことなど知る由もないが、もし彼女の行動を知ったのならば、彼女を「スーパー人格者」と崇めるだろう。
 イメージCVは井○喜○子お姉ちゃん。



エトワリアでの同性愛の見方
 近年、同性愛の差別は目立たなくなってきているが、未だ残っている。それは、地球において、長い間同性愛というものが差別されていたからだと考える。感情的な理由だけでなく、生産性から見た理由で差別もされていたのだろう。戦争や国家間での経済競争などの面からも、物理的な人の数は比較的重視されていたとも考えられる。
 エトワリアでは、複数の国が存在するような描写がなく、戦争の技術はあれどはるか昔のものとなっている描写(シュガー参戦イベ等)があるため、同性愛の見方は地球よりも抵抗感がないと考えている。故に、前世の記憶を持たないエトワリア人のミネラのような、同性愛に寛大な人も多いと考えている。
 ※上文はゲームイベントを見た作者個人の考察であり、何かを侮辱する意図はないことをご理解いただきたい。



△▼△▼△▼
セサミ「ローリエさん、今回ギリギリの線を行ってませんか?」
ローリエ「何言ってんだ。どんな形であれ、愛は尊いに決まってんだろーが。で、お前の方はどうなんだ? き……召喚士には勝てそうか?」
セサミ「……………ローリエのおかげさまです。」
ローリエ「俺のお陰ェ?(ま、まさか、勝っちゃったとかじゃあないよな……?)」

次回『決着・セサミ』
ローリエ「見ないとタイキックだ!」
セサミ「タイキック………??」
▲▽▲▽▲▽


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第22話:決着・セサミ

三毛猫「前回の次回予告で『次回は「白百合(ホワイトリリー)は愛を知る」だ』と言ったな」

ローリエ・アルシーヴ・ソラ「………」

三毛猫「アレは嘘だ」
ローリエ「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
アルシーヴ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
三毛猫「ヤッダァァァバァァァ」

ソラ「……ごめんなさいね?」


―――というわけで話のサブタイトルが変更になります。ご容赦を……



 港町に住む二人の少女が、恋人として母親に認められた時とほぼ同時刻。とあるコテージの中にて。

 

「これでおしまいです……!」

「………っ!!」

 

 

 

 

 

「ハイドロカノン!!」

 

 

 

 

 

 一つの戦いの決着が着こうとしていた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 時は少々(さかのぼ)り。

 

 

 きららとセサミは激闘を繰り広げていた。

 

 

 室内にも関わらず降り注ぐ雨の中、セサミは水魔法を高速できららに飛ばし、押し流そうとする。きららはコールで呼び出したひだまり荘のクリエメイトと共にそれを防ぎ、反撃に転じる。

 力は互角。しかし、状況はセサミに傾いていた。

 

 理由は一つ。遠山(とうやま)りんと八神(やがみ)コウがやる気を復活させるまで、セサミが二人を人質代わりにしていたからである。

 戦いが始まった瞬間、セサミは無気力状態となっていたりんとコウを人質にした。かつ、お得意の水魔法できららを襲ったのだ。彼女本人は「二人を傷つけられたくなかったら大人しくしろ」といった、露骨に人質を盾にするような真似こそしなかったが、それがきららの精神的負担となり、攻撃に転ずることができず、防御に専念せざるを得なかったのは事実である。

 

 きららは親こそいなかったが、彼女を育てた村の人々は温厚で、彼女に優しく接し、愛を注いだ。彼女は間違いなくそういった村人たちの気質を受け継いでいる。人質がいるという時点で、満足に戦えないことは明白であった。

 

 

 このままではまずいと判断した涼風(すずかぜ)青葉(あおば)が、りんとコウを無気力から復活させることを提案。飯島(いいじま)ゆん、篠田(しのだ)はじめ、滝本(たきもと)ひふみのイーグルジャンプ・ブースメンバーもまた、二人を復活させるべく、声をかけ続けた。

 はじめの言葉がりんをオーダーの副作用から復活させると、りんもコウを復活させるべく必死に言葉を投げかけた。

 

 

「あーあ、もう八神さんのキャラデザが見れないなんて、残念だな~。日本中、いや、世界中のゲームファンが悲しみに暮れますよ~?」

 

「大げさやな! いや、でも……ほんまかも。弟と妹も、作ったゲームおもろいって言ってくれとるんです。自分がええと思った物をお客さんも喜んでくれてるのってもっと嬉しいやないですか。

 そないな子たちの憧れ、裏切るんですか?」

 

「うん、うん……!」

 

「ひふみ先輩も相槌だけじゃあなくて、何か言ってください!」

 

「え? あ…………えっと……そ、そうっ!

 私も、真剣に働いてる時のコウちゃんの方が………だ、大好き……だよ……!」

 

「えっ!!? だ、大好きって、ひふみちゃん、どういうことなのッ!?」

 

「遠山さんはそこで反応しなくていいですから!」

 

 

 途中、ひふみの一生懸命にコウを元通りにしようとした言葉がりんに全く違う意味で誤解されたり、

 

 

「あ、あああ…………そ、その、変な意味じゃなくて……そう、りんちゃんからも……。」

 

「え………?」

 

「りんちゃんからも言ってあげれば、コウちゃんもきっと………ううん、絶対、元に戻るはず……!」

 

「そ、そう……かしら?」

 

「肝心な所で照れないでください!

 遠山さんなら大丈夫ですから! 是非!」

 

「うん! コウちゃん! 私もね、真剣に働いてる時のコウちゃんが……好きよ………!

 あ、でも、だらしない所も決して嫌いじゃないけど……えっと――」

 

「なに、このどうみても告白タイムは。趣旨がずれてるような……」

 

 

 りんがコウに告白したりすることもあったが―――

 

 

「……あのさぁ。」

 

「コウちゃん!? 正気に戻ったの!?」

 

「……だいぶ前から戻ってたけど。

 そんなに立て続けに喋られると、タイミングってものがねぇ……。」

 

「え………じゃ、さ、さっきの私の、思いっきり聞いてたの………?」

 

「……まったく、あんな恥ずかしいこと、みんなの前で言わないでよ…………」

 

「あ、あっ、あっ……………いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!!」

 

「ええと、これは……ようやく、式を挙げる気になりましたか?」

 

「「なってないっ!!!」」

 

 

 ―――遂に、コウをも正気に戻すことに成功した。

 

 

 しかし、きらら達にとって、事態はあまり好転したとは言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ………!」

 

「きららさん!?」

「きららちゃん!?」

 

「……どうやら、先程までのダメージが祟っているようですね…!」

 

 

 そう。互角と言うにはきららはダメージを受けすぎていたのだ。人質を取ったセサミの戦法が心優しいきららに突き刺さり、不利な盤面を押し付けられ続けた結果、きららはセサミの一方的な攻撃で防ぎきれなかった分のダメージが積み重なり、膝をついた。一方のセサミは、きららのカウンターの分ほどしか、ダメージを与えられていない。

 

 

 これは本当にまずい、ときららは思った。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 体を支えるのが厳しくなり、片膝をついてしまう。

 

 

 ランプとマッチと青葉さんが、私に駆け寄ってくる。

 

 

「大丈夫ですか!?」

「立て直せるかい?」

「私も、戦うことができれば……!」

 

 

 純粋に私を心配してくれるランプ、冷静に戦況を分析するマッチ、戦う力がないばかりに歯がゆさを覚えてるだろう青葉さん、それぞれ三者三様な反応を示す。

 

 でも、今は立たなければならない。

 

 私達の中で、戦えるのは私しかいないから。

 

 戦いは、まだ終わっていないのだから。

 

 

「隙は、突かせていただきます!」

 

「危ない、みなさん!!」

 

 

 セサミの拡散水魔法弾(アクアスプレッド)が私達を襲う。私は魔力を盾状に変化させ、ランプ達に襲いかかる水の弾を防いでいく。しかし、消耗しているためか、すべてを防ぐ事が出来なかった。

 

 

「きゃっ!!」

 

「きららさん!!?」

 

 防ぎ損ねた水の弾がいくつか肌を掠る。当たった所が熱を帯び、すぐにヒリヒリとした痛みに変わる。

 

 

「今の疲弊しきったあなたではこれを真正面から受け止められません!

 これでおしまいです!」

 

「………っ!!」

 

 

 余裕の笑みさえ浮かべるセサミに魔力が集まっているのを感じる。おそらく、次の一撃でトドメを刺すつもりなのだろう。

 私は、最後の「コール」の分の魔力を残して余った魔力でありったけの障壁(バリア)を張る。

 

 ―――来る!!

 

 

 

 

「ハイドロカノン!!」

 

 

 

「皆さんっ、私の真後ろに―――――」

 

 

 私の言葉は、途中で大きな水流とバリアがぶつかる轟音にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これで流石の召喚士もおしまいでしょう。」

 

 

 霧の晴れない中、セサミの声が聞こえる。

 ゆっくりと、前を見据える。さっきの激流の衝撃のせいか、歩くのも厳しいけれど、まだ両足で立てている。()()()()()()()()()()()()()。相手はさっきの大技で私が吹っ飛んだと思っている。体中痛いけれど、今がチャンスだ。

 私は後ろにいた青葉さんに手を伸ばす。

 

 

「青葉さん………手を……!」

 

「きららさん! 大――」

 

 

 すぐさま杖を持ったまま「静かに」のハンドサインを出す。

 青葉さんが私の意図を理解しないまま手を握ったのを確認すると、私は杖に残った魔力を集中させる。

 

 

「私のコールはパスが……皆さんの絆が力を左右するもの―――今から、最後のコールを行います。このまま、大切な人を思い浮かべてください!」

 

「……はい!」

 

 

 青葉さんは返事をすると、目を閉じた。私も、『コール』に集中する。

 

 

「『コール』!」

 

 詠唱とともに、力が光となり、誰かが私の『コール』に応じているのを感じる。

 

 

 現れたのは、青葉さんと同じくらいの身長の少女。

 水色を基調として、サメをかたどったような袖の服と紺色の半ズボンを着ており、ベレー帽のような帽子をかぶった、金髪で幼さを感じる女の子だった。

 

 

 

「ねねっち!!? どうしてここに!?」

 

「あー! あおっち、こんなところにいた!」

 

 

 青葉さんはその少女のことを知っているみたいで、驚きを隠せていない。

 ねねっちと呼ばれた方も、青葉さんと親しげだ。

 

「みんな急にいなくなって心配してたんだよ! 何してたのさ!」

 

「あの、すみませんが、お願いできますか?」

 

 再開を喜ぶ暇もなさそうなので、召喚されたねねっち?さんにそう言う。

 『コール』で呼び出されたクリエメイトには、私の記憶が共有されている。また、魂の写し身を独特の力でパワーアップしているため、すぐさま戦う事が出来る。

 

 

「任せて! あの人を倒せばいいんでしょ?」

 

 ねねさん(青葉さんから名前を聞いた)がセサミに突っ込んでいくのを見て、セサミは目を見開く。明らかに動揺している。

 

 

「馬鹿な!? ハイドロカノンをどうやって!?」

 

「受け流したんですよ。正面から受け止められないなら、()()()()()()()()()()。バリアでハイドロカノンの間に角度をつけることで、激流をかわしたんです。川の水路が真っ二つに分けられて、中洲ができるように!!」

 

「そう言えば聖典の隅っこで見た事があります! 『ニホン』という国には、敵の力を利用して攻防を行う格闘技『アイキドー』なるものがあるとッ! それと同じって事ですか、きららさんッ!?」

 

 

 セサミの疑問に私が大技を防いだネタばらしをすると、ランプが聖典に載っていたという実に彼女らしい比喩を使って納得していた。その『アイキドー』が何かは知らないけど。

 

 そんな隙に、『コール』で呼んだねねさんは、セサミの目の前というところまで接近していた。

 

 

「食らえ! このスーパープログラマーねねの、必殺―――」

 

 ねねさんは銅色のサメのお腹にフォークが刺さったような形状の独特のハンマーを上段にかざし、セサミに向かって――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わだッ!!?」

 

「「「………。」」」

 

 

 

 

 ――――振り下ろそうとして、何かに躓いたのか、顔から思いっきり転んでしまった。あまりの拍子抜けした光景に、私もランプも、セサミまでもが、言葉を失う。

 

 

「ねねっち………」

 

「……よくわかりませんが、最後であろうクリエメイトが、こんなにも間抜けだったとは!」

 

 

 セサミが、我に返ると同時に魔法の準備を始める。

 流石に厳しいけれど、無茶をしてでもバリアを張るべきか………そう考えていた時。

 

 

 

 

「なっ………きゃあああああ!!?」

 

 

 セサミに、黄土色の三日月状の衝撃波が3つ直撃し、彼女を吹き飛ばした。

 

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

 

 何事かと、衝撃波が放たれた方向を見ていると、そこには、港町で出会ったクリエメイトでも、ねねさんでもない、別の女性が立っていた。

 日に焼けたのだろう健康的な小麦色の肌を動きやすい剣士の服と聖典の『和服』を彷彿とさせる袖で包んだ、茶色の長髪の女性。ねねさんよりも、はるかに大人の女性という印象が強い(少し失礼かもしれないが)。

 手には峰が赤く、(つば)のない日本刀が見え、それが更に美しさを印象付けた。

 

 

 

「まったく、桜さんはどうしてそう、詰めが甘いんでしょうか」

 

 

 

 そう呟いてからこっちを向いた彼女の颯爽(さっそう)とした登場に、イーグルジャンプの皆さんは目を丸くして、驚きのあまり言葉を発せずにいる。しかしそれも束の間、クリエメイトとランプが喜びの声をあげた。

 

 

「「「「「うみこさん(様)!!!?」」」」」

 

 

「うみこさん?」

 

「そう。阿波根(あはごん)うみこさん。うちの会社(イーグルジャンプ)のプログラマーチームのリーダーです。ねねっちの上司でもあるんですよ」

 

 

 青葉さんがうみこさんと呼ばれた女性について教えてくれる。きっと、私の『コール』で呼び出していたのだろう。

 

「皆さん、ここにいたんですね。」

 

「アハゴン! どうやってここに……?」

 

「その名前は止めて下さいと言った筈です八神さん。撃ちますよ?

 ……私は、消えた皆さんの家に連絡して回ってた時に、休憩の為に仮眠を取っていたら、誰かに呼ばれた気がしたので返事をしたらここに。」

 

 うみこさんの発言は間違っていない。『コール』は、別世界のクリエメイトの魂の写し身を呼び出す魔法。きっと、元の世界ではうみこさんは今も仮眠を取っているままでしょう。

 

 

 

「くっ………こんな、こんははずでは……!」

 

 

 うみこさんの攻撃で吹き飛ばされていたセサミがよろよろと立ち上がる。さっきの斬撃がセサミの不意を突いたこともあってか、予想以上にダメージを与えられたようだ。

 

 

「屈辱ですが、ここは退却しましょう……。クロモンたち、来なさい!」

 

「「「くー…………。」」」

 

 

 セサミはクロモンたちを自分の周囲に集めると、転移魔法でさっさと消えてしまった。

 

 

 一時は危なかったが―――――なんとか、勝利をおさめることができたようだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「やりました! すごいです、きららさん!」

 

 ランプが私をキラキラした目で見つめてくる。でも、今回の勝利もまた、私一人のものじゃあない。

 

「ううん……

 青葉さんたちが、コウさんやりんさんを正気に戻してくれたおかげだから。

 人質を取られたままだったら、もっとやりづらかったと思うし。」

 

 それに、と私は新しく来てくれた二人に視線を向ける。

 

 

「ねねさんやうみこさんのおかげで、セサミに勝つことができましたから。ありがとうございました、お二人とも。」

 

「私を呼んだのは他でもないあなたです、きららさん。」

 

「私、いいとこなかった気がするんだけど……美味しいトコ、うみこさんに持ってかれちゃったし。」

 

 

 私のお礼にうみこさんは謙虚に対応し、ねねさんはせっかくのファンタジーだったのに、と口を尖らせて愚痴る。そんなねねさんに青葉さんは「まぁまぁ、ねねっちのおかげでうみこさんが攻撃するスキが生まれたと思えばさ」とフォローする。

 

 

「それで、ねねちゃんやうみこさんはどうやってこっちに来たの?」

 

「あ、それは私の『コール』で呼び出したんです。」

 

 

 りんさんがうみこさんにそう質問する。他のクリエメイトの皆さんもりんさんと同じ不思議そうな顔をしていたので、私は割り込んで今のねねさんとうみこさんの状況の説明を始めた。

 

 二人は双方の合意の元、『コール』で呼び出した『魂の写し身』であること。

 

 『オーダー』とは違い、二人の体はもとの世界にあること。

 

 『コール』で呼び出したクリエメイトは自身の意思でもとの世界に帰れること。

 

 また、ねねさんとうみこさんにも、改めて今の状況の説明をした。

 

 

「……ということは、涼風さんや八神さん達は存在そのものがこちらに召喚されてしまっている、と?」

 

「そういうことになります。」

 

「なるほど……それで、そのクリエケージってものを壊せば、あおっち達はこっちへ帰ってこれるんだね!」

 

「はい。」

 

「そうですか……」

 

 

 

「よがっだぁ、あおっぢが帰っでこれるぅ~~!!」

「ちょ、ねねっち!?」

 

 

 一通りの説明を聞いたうみこさんは、一息ついて安心したようだった。きっと、急に行方不明になった青葉さんたちを探し続けていて、ずっと落ち着かなかったんだろう。ねねさんも、親友が帰ってこれると分かったのか、涙目になりながら青葉さんに抱き着いている。

 

 

「しかしまぁ、こっちは本当に心配していたというのに、そちらは楽しげにこの世界を満喫していたように見えますが?」

 

 

 ……あれ、うみこさんのコウさんたちの見る目がちょっと険しくなっている気が……

 

 

「わ、悪かったって! この後すぐに帰るから!!」

 

「そうね。うみこさん、ごめんなさいね。葉月さんは大丈夫でした?」

 

「はっきり言って大丈夫じゃあないかと。生気を吸われたかのようにうなだれて、『私の楽園は消えてしまったのか』とかうわごとのように言ってましたし。」

 

「「「………。」」」

 

 

 うわぁ……それは重症だ。葉月さんという人がどういう人物かは後でランプに聞くとしても、その人やうみこさん、ねねさんには今回の件で迷惑をかけてしまったみたいだ。

 

 

 

「まぁ、あの告白タイムといい、一緒にいた僕たちは楽しかったけどね。あんまり、エトワリア(ここ)に長居するのも良くないか。」

 

「ええ、あの告白はドキドキでした。あれがイーグルジャンプの日常なんですね……」

 

 

 マッチとランプが会話に混じった途端、うみこさんの表情の怖さが増す。更に、りんさんの顔も赤くなっていく。

 

 

「遠山さん……?」

 

「ち、違うの! うみこさんもランプちゃんも、違うからねッ!! やめて……言わないで……」

 

「あなたまで、何をしているんだか………」

 

 

 そんなうみこさんとりんさんのやりとりを見つつ何だか申し訳ないなぁ、と思っていると。

 

 

「あれ? なんだろう、この本?」

 

 

 という声が聞こえ、声の主を見ると、そこにはセサミが落としたのであろう分厚い本を開いて目を見開くはじめさんと。

 

 

「ッ!? こ、これは……」

「一体何を見つけて……おや、何か書いてある?」

「あ、それは……」

 

 

 はじめさんに気付き、後ろに回り込んで本に書かれていることを読もうとするマッチがいて。

 

 

「……ローマ字? いや、これは英語か……『KIRARA(きらら) THAI(たい) KICK(きっく)―――」

 

「読んじゃ駄目ッ!!!」

 

 

 読もうとしたマッチをはじめさんが遮ろうにも遅くて。

 

 というかなんではじめさんはそんなに焦っているんですか? と聞く暇もなく、

 

 

 

デデーン

 

 

 と、コテージの前で聞いたことのある効果音が流れると、

 

 

『きらら、タイキックー!』

 

 

 聞きなれない音質の声で、そう宣言された。

 

 部屋の奥から、初めて見る格好の女性が現れる。赤いグローブをつけたボクサーのような恰好で、頭と両の二の腕にハチマキのようなものを巻いている。

 

 

「「「マッチ!!!」」」

「えっ? ぼ、僕が悪いのかい!?」

「当たり前でしょう!! 何やってるんですか!!?」

「嘘やろ……た、タイキックって……女の子にやるもんやないで………」

「いや、確かベッ○ーにやってた気が……」

「今言うことじゃないでしょう……!」

「え、やるの? タイキックさん、本当にやるの?」

 

 

「あ、あの………たいきっく? って…何ですか?」

 

 

 私が皆さんにそう聞くと、イーグルジャンプの皆さんは顔を見合わせて、困ったような、可哀想なものを見る目のような、複雑な表情を見せた。目配せしても、誰も目を合わせようとしない。

 ………本当に何なのでしょう?

 そう思ってると、さっきの奇妙な格好の女性が私の肩を掴んで、広いスペースに引っ張っていく。

 

「あ、あの! な、何をするんですか??」

 

「きららさん……」

 

 

 青葉さんが申し訳なさそうな顔で話しかけてくる。

 

 

「青葉さん、たいきっくって何ですか?」

 

「きららさん、一度しか言わないので聞いてください……

 ―――これから、お尻を蹴られます」

 

「ちょ!!? た、助けてください!!!」

 

「ごめんなさい、そうしようとしてるんですけど……

 みんな、そっちへ行けないようになってるんです!」

 

「何で!!!?」

 

 

 意味が分からないよ!! その、蹴られる、っていうのが「たいきっく」というのはなんとなく分かったけど、そもそも何で蹴られないと――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアァッ!」

 

 

 

 

 

 

 ズムッ、と。

 

 お尻から全身に、鈍痛が広がった。

 

 

 

「~~~~~~~~~~っ!?!?!?」

 

 

 

 まるで、巨大な動物が、捨て身の突進をしてきたかのような衝撃だった。

 

 頭を打ったわけじゃあないのに、視界がチカチカした。涙まで出てきた。

 

 全ての動きが、スローモーションに見える。人は、死ぬ間際に走馬燈を見ると言われているが、今見ているのが多分そうなんだろう。

 

 

 

 

 ほうぼうの体で青葉さん達を帰した後でランプから聞いた話によると、その時の私の悲鳴は、女性が出してはいけない声に片足を突っ込んでいたみたいです。泣きたい……




キャラクター紹介&解説

きらら&セサミ
 セサミ相手に辛勝したもののタイキックを食らった本家主人公&敗北を喫した2章ボス。人質戦法はきらファン本家のストーリーにもあったが、人質を盾にする戦法は、一気にセサミが小物臭くなるし、彼女にそんなことしてほしくないので不採用。ただ、きららは純粋で根が優しいので、人質がいるという事実だけで動きが鈍くなって、セサミとしては「戦いにおける考えにしては甘い」くらいは思っていてもいいはず。ハイドロカノンは本家2章にも登場した水の激流のビーム。

ランプ&マッチ
 きららの旅の供。ランプは「聖典」を読みふけっており、拙作でもこの設定を活用しまくっているので、「聖典」の世界、特に日本の文化についてはきららやマッチよりも知っている設定。拙作では解説女王の地位は確立するのか? マッチは今回きららタイキックの罠を踏んでしまったが、エトワリア人(彼は人ではないが)の知識内から冷静に考えても、アレは躱せないと判断。というか、そもそもタイキックの文字を仕掛けたローリエはアレに罠としての意味はないと言っていたが……?

涼風青葉&篠田はじめ&飯島ゆん&滝本ひふみ&八神コウ&遠山りん
 オーダーでエトワリアに召喚されたイーグルジャンプの面々。オーダーではもとの世界にいた人物そのものを呼び出してしまうため、オーダー後の世界からいなくなってしまうという公式設定を利用して、もとの世界の混乱をほんの少し書いてみた。詳しくは下にて述べる。

桜ねね&阿波根うみこ&葉月しずく
 本家の第2章では当時実装すらされていなかったために登場しなかったイーグルジャンプの社員。ねねっちとうみこさんには、『コール』されたクリエメイトとして登場。特にうみこさんは(ゲームでは★4土属性であることもあって)セサミ戦の決め手となった。葉月さんはうみこさんに言及される形でちこっと登場。実際、あおっち達が原因不明の行方不明となったら、葉月さんは間違いなく『私の楽園が崩れてしまった……』と凹むだろうし、うみこさんは尋常じゃないほど心配して探しまくるだろうし、ねねっちに至っては泣くまである。そういう意味では、オーダーは許してはいけない禁忌なのだろう。



タイキック
 某子供の使いから輸入した、バラエティー番組の罰ゲーム。どこからともなくムエタイ選手が現れて、臀部にキックをかます。参加しているメンバーが全員男なだけあって、殆ど男性専用の罰ゲームとなりつつあるが、一度だけ女性がタイキックとなった際は、女性のムエタイ選手が現れ、タイキックを繰り出していった。エトワリアでのタイキックは、女性のムエタイ選手がメインとして登場するだろう。



△▼△▼△▼
ローリエ「激闘の末、きららに敗れたセサミ。その報告からアルシーヴちゃんはきらら相手に次の一手を打つことになる。その頃俺は、ミネラさんから『あの杖』について聞き出すことになった! ただ、セサミも俺と話がしたいみたいで……ムフフ、デートかな?」

次回『白百合(ホワイトリリー)は愛を知る』
セサミ「この予告、本当なんでしょうね?」
ローリエ「ああ。作者が『魂を賭ける』ってさ。」
セサミ「グッド………あと、ローリエとデートはないです」
ローリエ「いいじゃん一回ぐらい……」
▲▽▲▽▲▽

あとがき

遂にセサミが実装決定しましたね!
ただ、「石を貯める」……そういう言葉はオレたちの世界にはねーんだぜ…そんな弱虫の使う言葉はな………

「石を貯める」… そんな言葉は使う必要がねーんだ
なぜならオレや オレたちの仲間は その言葉を頭に思い浮かべた時には!
実際に石を貯めちまって もうすでに 終わってるからだッ!
だから使った事がねェ―――ッ

ペッシ オマエもそうなるよなァ~~~~~~
オレたちの仲間なら… わかるか?オレの言ってる事… え?

「石を貯める」と心の中で思ったならッ!
その時スデに行動は終わっているんだッ!

『貯めた』なら使ってもいいッ!


というわけでまた次回~


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第23話:白百合(ホワイトリリー)は愛を知る

“どんな形であれ人を愛することは素晴らしい。そのことを、きっと彼女達は証明してくれたことだろう。文句のある奴は聖典『桜Tri○k』を30回読んでから言うことだ。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第3章より抜粋


 ドーナツ屋のカウンターの奥は、八(じょう)ほどの畳のようなものが敷かれた居間にキッチンがついた部屋が広がっていて、階段を上ると、そこは住人達のパーソナルスペースになっているそうだ。

 

 

「じゃあミネラさん、お願いします。」

 

「分かりました。この『人相書き』にあった、ペンほどの杖についてですね?」

 

 

 ミネラさんの言葉に頷く。

 ミネラさんとリリィちゃんが和解したあと、俺はその居間に通されて、座布団に座り、丸いテーブルを挟んで反対側にいるミネラさんに機密に触れないように事情を説明したあと、“例の件”に関係する杖について詳しく聞いていた。階段の奥から二人ほど、こちらを覗いている少女がいるがこの際気にしなくていいだろう。

 

 

「私はここから海を渡り砂漠を抜けた先にある、渓谷の村出身です。」

 

 渓谷の村………もしかすると、4章できらら達がソルトと戦う場所か?

 

「その村には、昔からの風習がありました。

 その一つに、『夜に森に入ってはいけない。短い杖の呪術師に攫われてしまう』っていうものがあります。」

 

「……『短い杖の呪術師』?」

 

「ええ。村では呪術師の特徴として、『ローブで姿・顔を隠してること』と『短い杖を持っていること』の二つが語り継がれていたんです。」

 

 こういう語り継がれてきたものは、大抵ウソなのだが、その背景には、子どもや女性といった、村の要を守るためについた、というものが多い。命を守るための合理的な嘘だということだ。

 例えば、妖怪は文明が開化していなかった日本人のあらゆる恐怖が形になったものが多い。ルーツが古ければ古いほど恐怖の対象とされている場合が多く、「鬼」や「大蛇」がその代表例だった。

 

 ミネラさんが幼少期を過ごした渓谷の村では、その『ローブの呪術師』が妖怪のごとく怖がられたいたのだろうか。

 

「成る程。恐らく、子どもが森に入ってしまわないための方便だったのでしょう。」

 

「ええ。それに、実際に見た、という大人も一定数いましたから。」

 

 そういうミネラさんを見て、もう少し情報を慎重に引き出してもいいのかなと思った。ミネラさんの出身の村の『風習』は、門外不出で余所者には話しちゃいかんって感じのものではないらしい。

 

「ふむ、目撃情報もあったから、村の子どもはみんな、それを信じたわけですか。

 ミネラさん自身は実際に『呪術師』に会った事はありますか? あと、他にその『短い杖の呪術師』について何か知っていることは?」

 

「いいえ。子どもの頃の私はそれを信じてたから夜の森には入りませんでした。ただ………実際に見た人達は、『山の中に小屋があった』と言ってた気がします。」

 

「わかりました。」

 

 

 山小屋か………彼らがそこに住んでいるということだろうか?

 とはいえ、ミネラさんがいくら村の出身者といえども、これ以上『呪術師』について聞くことは出来ないか。

 そう踏んだ俺は、地図を取り出し、質問内容を変える。

 

 

「ミネラさんの村がどの辺にあるのか、教えていただけませんか?」

 

 次の質問は、村の場所の把握のためのもの。俺の探している『ローブ野郎』と似ている『呪術師』を探すための質問だ。

 ミネラさんは、港町から海を渡り、砂漠を突っ切った先にある、険しい山脈……そこにある、川の上流付近を指さし、「確か、この辺にあると思います」と言った。

 

 

「ありがとうございます。情報提供、感謝いたします。」

 

「あ、待ってください。」

 

 

 必要な情報を聞き終わり、立とうとすると、ミネラさんが呼び止めてくる。

 

 

 

 

「娘たちを助けてくださって、本当にありがとうございました。」

 

 

 彼女が口にしたのは、お礼だった。これ以上なく愛しいであろう我が子を助けてくれたお礼。

 きっと、何にも代えがたい宝なのだろう。

 

 前世があるから分かっていることだが、俺はそういった“代えがたい宝”を失った人々を、テレビ越しで見たことがある。大体がモザイクがかけられていたり、音声加工されていたりしているが、その悲痛さたるや、遺族の家に殺到するマスゴミに「遺族にインタビューすんのやめたげろや!」と本気で憤りを感じるほどだった。

 

 アレは所詮他人事なテレビ越しだったのもあり、感情移入は長続きしなかったが、目の前のミネラさんからは正真正銘の誠意と感謝を感じる。心がすっ、と軽くなった気がした。きっとこのミネラさんのお礼は、一生心に残るだろう。残すべきなんだ。

 ここで「お気になさらないでください」と言うのは簡単だが、それはきっと、彼女への一種の侮辱になるだろう。

 

 だから、俺は―――

 

 

 

 

「いつか、必ず―――娘さんたちの結婚式に呼んでくださいね。

 ……応援してるぞ、リリィちゃん、ローズちゃん。」

「……うるさいわね! あんたに言われなくっても、自分の恋人くらい自分で…………っ」

「……途中で恥ずかしくなって言えなくなるくらいなら最初から言うなや」

「ありがとうございます、ローリエさん。私達、頑張ります!」

「おう。その意気だ!」

「あらあら、最後までありがとうございます、ローリエさん。」

 

 

 後ろで真っ赤になっている、ミネラさんの()の未来を、全力で祝福することを誓った。どんな形であれ人を愛することは素晴らしい。そのことを、きっと彼女達は証明してくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 あ、そうだ。あとミネラさんのドーナツも買っておこう。俺の同僚たちへのお土産だ。「釣りはいりませんよ」って言ったら、「さすがに賢者様にそこまでしてもらうわけにはいきません」と笑顔ですさまじい圧をかけられ、結局屈してお釣りを貰ってしまった。

 くそぅ、いいシチュエーションだったから最後くらいカッコつけたかったのに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ん? 待てよ? ()()()、だと…!?

 

 

 

「ま、ママ? あの男が『賢者様』って………!?」

「あら、リリィ? 知らなかったの? 政治の時事問題よ?」

「そうだったんですね、お義母(かあ)さま……どうりで、素敵な筈です…!」

 

 

 ……俺の顔と名前、内閣の国務大臣感覚で覚えられてた………

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 コリアンダーと合流し、転移魔法で神殿に帰ってきた俺は、アルシーヴちゃんに今日ミネラさんから聞いたことを報告することにした。

 

 

「―――とまぁ、こんなところかな、今回の成果は。」

 

「ご苦労だった。続けて情報収集に専念してほしい。」

 

「……随分、他人行儀になったじゃあないか。ちょっと寂しいぜ、アルシーヴちゃん。」

 

「…今がどんな状況か分からないお前ではあるまい。」

 

 

 今がどんな状況か、か。

 少なくとも、アルシーヴちゃん自身が考えているよりかは深刻だ、と思う。

 

 世界の中核であるソラちゃんが封印されていて、その負担をアルシーヴちゃんが一人で背負っている状態だ。表向きはソラちゃんは『療養』しているとはいえ、エトワリアが長続きしないということだ。

 じゃあさっさと「オーダー」で呼んだクリエメイトからクリエを奪ってしまえばいい、となるかもしれないが、そうはいかない。

 

 何故なら、それではクリエメイトが確実に不幸になるからだ。クリエを奪われるのは多大な負担になる。クリエケージには生命維持装置があるから死にはしないだろうが、命の源を奪うに等しい行為だ。クリエメイトらにとっては苦痛だろう。

 

 俺自身、きらら漫画(聖典)登場人物たち(クリエメイト)を傷つける覚悟を決めていないだけかもしれないが、そんな覚悟は持ちたくない。好きな子たちの不幸を見て愉悦に浸る趣味などないし、今世(エトワリア)でできた大切な人も切り捨てたくはない。じゃあどうするつもりだと聞かれたとしても、()()()()()()()()()()()

 

 

「うん……まぁね。でも、誰にも頼れないんだろう。幼馴染に気持ちを吐き出すぐらいしてもいいと思うけど。」

 

「…余計な心配は無用だ。私はただ……為すべきことを為すのみだ。」

 

為すべきことを為す、ねぇ……

 

 

 アルシーヴちゃんに聞かれないように俺は口の中でその言葉を反芻(はんすう)する。その意味するところは明確だ。ソラちゃんを助けるために―――ってことだろう。

 これ以上話をしてこじれるのもマズいので今回はいったん引き下がろう。「失礼しました」と一言告げて、アルシーヴちゃんのいる部屋から立ち去ることにする。

 

 アルシーヴちゃん。悪いけど俺は、「為すべきを為す」だけじゃあ満足できない。

 すべてを救う。クリエメイトも、ランプも、ソラちゃんも、アルシーヴちゃん……君でさえも。

 俺は強欲なんでね。

 

 

「あ、待ってくれローリエ」

「ん?」

「セサミが今回の任務についての話で呼んでいた。行ってやれ。」

「お、おう……。」

 

 

 去り際にそんなことを言われた。セサミのやつ、()()()のこと、根に持っているのか…?

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「……ローリエ。なぜ、ここに呼び出したか分かりますか?」

 

 

 秘書室に呼び出された俺を待っていたのは、革製のイスに座り「いかにもご立腹です」って感じに眉を(ひそ)めたセサミだった。俺が持ってきたミネラさんのドーナツにも手をつけず、ゴシックな置時計の秒針の音をBGMにただこちらの返答を不機嫌そうに待っている。コーヒーセーバーでコーヒーを淹れる前に答えないと更に不機嫌度が増しそうなので何でもいいから答えるとするか。

 

 

「俺にデートのお誘いを―――」

 

「『ハイドロカノ―――」

 

「わああああああああ! 嘘、嘘!!! ジョーダンだジョーダン!!!」

 

 

 なんで思いっきり大技かまそうとしたわけ? 部屋が濁流に飲まれるだろ! 中世チックでシャレオツなインテリアが全部流れちゃうだろ!! 

 

 

「まったく、真面目に会話もできないんですか貴方は。任務の話ですよ、任務の」

 

「ああ、そっちか」

 

「この話以外ありえません」

 

 

 そう咳払いしてからセサミは話を始める。

 

 曰く。何故、コテージの家具の配置を結婚式風に変えたのか。

 何故、八神コウと遠山りんにウェディングドレスを着せたのか。

 何故、アルシーヴちゃんの名をかたってあんな『式の台本』を書いたのか。おかげでアルシーヴちゃんの前で恥をかいたそうだ。

 そもそも、自分が召喚士と戦っている最中、何処でなにをしていたのか。

 以上の疑問は、彼女がアルシーヴちゃんへの報告の際に指示の矛盾に気付いた結果、俺がやったんじゃないかと目星をつけたらしい。

 

 

「オーダーの影響で眠ってしまったり、あなたの書いた台本のアルシーヴ様の名前を寝ぼけていたとはいえ信じてしまったりした私も私ですが、あなたの今回の行動は説明してもらわないと納得いきません。」

 

「………わかった。

 まず八神さんと遠山さんにドレスを着せた理由だが……」

 

 

 …ぶっちゃけると、二人に早く結婚してもらいたかっただけなんだが、そんなことをここで言うほどバカじゃあない。建前と本音、二つを満足に使い分けて初めて大人になれるってものだ。元日本に住んでた社会人の恐ろしさってやつを見せてやる。

 

 

「主に二つ。ひとつは、行動の制限。もうひとつは、既成事実を作ることだ。」

 

「『デリュージ―――」

 

「ま、待て、話を最後まで聞け!

 遠山さんと八神さんがお互いを好きだから、ウェディングドレスを選んだんだよ!」

 

「………どういうことですか?」

 

「詳しくは『聖典』に書いてあるが、二人の間柄は『会社の同僚』とか『仲間』のひとことで片付けるにはあまりにも親しい。更に、遠山さんが八神さんを慕う描写もあった。八神さんがそれに気づかない描写もな。

 俺の目的は、遠山さんの願望を叶えて、こちら側につけることだった。仲間から説得された方が、クリエメイトも揺らぐ。セサミだって、誰とも知らぬ馬の骨よりも他の賢者やアルシーヴちゃんに言われたことを信じるだろ?」

 

「………理屈はわかりました。しかし、意味があることなのですか?」

 

「もちろん。今回は失敗しちゃったけど、目的のために利用できるものは利用するのが、合理性ってやつよ………たとえそれが、どんな感情だろうがな」

 

「アルシーヴ様の名前を勝手に使ってあの台本を書いたのもその『合理性』とやらのためですか」

 

「そうだよ。ゴメンね? 君を利用するようなマネをして……でも、セサミなら『アルシーヴ様の命令』には従うかなって思っただけなんだ」

 

 

 できるだけ邪気の無い、申し訳なさそうな笑顔を浮かべ、セサミの反応を伺う。

 

 セサミはすぐに目を逸らした。しかし、その一瞬には、懐疑の色はもうなかった。

 

 

「……信じてくれたようで助かったよ」

 

「…ええ。どうやら私は、あなたのことをほんの少しだけ誤解していたようです。

 ですが、そういったことなら(あらかじ)め私に報告してください。事後報告では後々問題が残るでしょう。

 あと、アルシーヴ様の名前を勝手に借りるのもいただけません。これっきりにしてください。」

 

 

 ……そう言いながら、こっちを見ようとしない彼女を見て、「あ、これは言い方がマズかったか」と思った。仕事に関する真面目さだけは見直してくれたみたいだが、それ以外の評価はむしろ下がっちゃったとみるべきか。

 まぁ、そうだよなぁ。「自分が利用された」って分かったら誰だって嫌な気持ちになる。俺もそうなる。

 

 

「では次の質問です。私が召喚士と戦っている間、あなたは何をしていましたか?」

 

 遂に来たか、この質問。別行動をしていた以上、避けられない質問なんだろうけど、一番答えにくい質問だ。当然本当の事を話すわけにはいかないし、セサミより遅く帰ってきた俺が「書庫に籠ってた」とかいう答えは嘘だと見抜かれるかもしれない。

 

「アルシーヴちゃんから何か聞いてない?」

 

「いいえ。むしろ『ローリエから聞け』と言われました。」

 

 

 隠す気あるのかなあの人。むしろここで全部バラしてやろうか?

 そんな感情に飲まれそうになりつつも、脳内ではなにか事情をでっちあげようと策をこねくり回していた。

 ―――あ、そうだ。

 

 

「フィールドワークだ。あの辺にある鉱物・貝・その他の漂流物が、魔法工学に使えないか色々調べていた。

 ちょっと熱中しちまって、帰るのが遅くなっちゃったけどな。」

 

「そうでしたか。あなたは教師でもありますからね」

 

 

 ……良かった。魔法工学の教師という地位が秘密を守ってくれた。セサミは、疑う様子もなく、納得してくれたようだ。

 今出まかせで「フィールドワーク」って答えたけど、このソラちゃんの事件が終わったら、きららちゃん達の旅路を巡りつつフィールドワークをするのもマジでいいかもな。

 

 

「話は以上です。もう帰って大丈夫ですよ、ローリエ。」

 

 世界旅行に想いを馳せていると、用は済んだと言わんばかりに席を立った。セサミは俺を秘書室から追い出そうとしている。これ以上俺を部屋に入れていたらおっぱい揉まれると思っているのか?

 そんな浅瀬よりも浅い考え、このローリエ・ベルベットには通じぬわ。セサミとの親密度上げは、きららファンタジアにログインするのと同じで、絶対に怠らねーよ。

 

 

「えー! もっと話そうぜ、セサミ。例えば、お互いの昔話とかよォ~~。」

 

「興味ありません。そんな時間もありませんし。」

 

「わかったよ、しょーがねーなぁ。

 ……せっかく、幼い頃のアルシーヴちゃんやソラちゃんについても話せると思ったのに。」

 

 

 これはハッカちゃんにだけ話そう、と言い切る前にセサミの耳がピクッ、と動いた。

 え、なにその可愛い反応。もっと見たい。この話題、フェンネルやセサミは食いつくとは思っていたけど、そのリアクションは想定外やで。

 

 

「それじゃあ君の言った通り、おいとますると―――」

 

「待ってください」

 

 

 席を立ってドアノブに触れ、帰るフリをすると、セサミに肩を掴まれる。

 そして―――

 

 

「………五分だけですよ」

 

 

 微かに朱に染め、「詳しく話して欲しい」と言いたげな顔を俺にむけてそう言った。

 

 

 お言葉に甘えた俺は、ドーナツとコーヒー片手に、セサミのお望み通り幼き日の俺達について話すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――こんな感じかな、俺とあの二人との馴れ初めは」

「……そんな風にあのお二方に出会えたローリエは羨ましいです。」

「んなこと言って……セサミはどこ出身なのさ?」

「私ですか? 私は、今回行った港町のような都市の出身でして……」

 …

 ……

 ………

 

 

 俺が話したのは、アルシーヴちゃんとソラちゃんと初めて会った記憶。魔法工学に没頭し、両親以外から気味悪がられていた俺に臆せずにソラちゃんが話しかけ、それにアルシーヴちゃんも乗っかる。俺の知識についてこれた二人は、あっという間に俺の友達になった。

 また、初めての冒険で言ノ葉の都市の砦へ三人で行った話では、衛兵に見つからないように幼い俺達が拙い魔法や魔道具を使いながら砦の頂まで進む姿に、セサミは喜んだり、驚いたり、ハラハラしたりしながら一生懸命に聞いてくれた。

 

 

 

 ………

 ……

 …

「……そして俺達は、初めて砦を冒険したあと、三人の両親にこっぴどく叱られたよ」

「ふふふ、そんなことが……。二人とも変わってないですね。」

「なんだ。笑えるじゃあないか、セサミ。」

「え?」

「やっぱり女の子は笑顔が似合う。特に君みたいな美人は猶更だ。」

「…………他になにかないのですか。アルシーヴ様とソラ様の話は。」

「へいへい。じゃあ次は、俺達三人が、初めていけすかねえ雑貨屋のオッサンにイタズラした時の話でもするか。」

 

 

 

 時折セサミの出身について聞いたり、口説いたりしながら、急かされるままに次の話をしようとした時。

 

 

 

「セサミ、失礼する………おや、まだローリエと話していたのか?」

 

 

 アルシーヴちゃんが秘書室に入ってきた。キリがいいし、やめにするか。話のネタが尽きたらセサミと話せなくなるかもしれんしな。

 

 

「……おっと、噂をすれば本人が来ちゃったね。それじゃ、今日はここまで。」

 

「そんな! まだ二つしか話してないではありませんか!」

 

「続きはまたの機会にってね。アルシーヴちゃん、セサミに用があるんだろ? どうぞ」

 

「いや、二人は、一体何の話を……」

 

「……二人だけの秘密♪」

 

「ローリエ、言い方!!」

 

「ローリエ、セサミにセクハラをするなとあれほど……」

 

「今日は触ってないぜ? な、セサミ?」

 

「ま、まあ確かに……」

 

「なん……だと………」

 

 

 俺の思い出話のお陰で、セサミとの親密度は上がった……ような気がする。

 絶対上がったよね!! ギャルゲーなら絶対好感度上がる系のイベントだったもん!!!

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 珍しく仕事をしたと思ったら、セサミを終始口説いていた女好き。しかし、自分の欲望や目的に合理的な理由付けをするなど、本音と建前を使い分けていた。作者がまだ大人になり切っているとは言えないので、大人の条件がいまだに分からないが、少なくとも本音と建前をある程度分けられるのが、大人の条件としてはあるのではないだろうか。

セサミ
 ローリエから、あの摩訶不思議な百合結婚作戦の真相を聞いた被害者。また、彼の「アルシーヴの幼少期エピソード作戦」に引っかかり、話し込んでしまった八賢者。前者だけを聞いたローリエの評価は「彼自身から見て合理的に動き、感情や上下関係すらも利用する」と危ない評価だったが、後者の作戦に見事に引っかかり、評価を改めた。見方によっては、後者も「セサミのアルシーヴに対する敬愛」をも利用したかのようだが、あのデカい果実とあぶないみずぎを前に合理的に動くなどローリエには無理な話である。
 余談だが、あのあぶないみずぎを『秘書としての正装』とセサミが公式で発言していたために、作者はアルシーヴちゃんの趣味を疑った。

ローリエ「正装なの? その水着」
セサミ「ええ。そうですよ?」
アルシーヴ「水着じゃあないけどな」
ローリエ「アルシーヴちゃん、セサミ……ディ・モールト・グラッツェ(本当にありがとう)
アルセサ「「???」」

アルシーヴ
 ローリエとセサミの話の場を作った筆頭神官。ローリエから甘えてもいいと提案されたが、流石にこの場では乗らなかった。また、ローリエの思い出話を勝手に話されるというちょっと不憫な一面も。相変わらず『為すべきことを為す』と言っており、まだ誰にも頼れていない模様。

ミネラ
 ローリエに自身の出身の村の言い伝えを話したドーナツ屋の強きシングルマザー。ローリエ=八賢者ということを出会った時から知っていたが、お釣りは持って行かせるなど、必要以上に媚びる事はしなかった。ちなみに、ローリエが父親に母親との馴れ初めを聞く話も考えてあるが、R-18に片足を突っ込む内容なので、書くかどうかは悩み中。


言い伝え・妖怪
 こう言った類のものは、幼い命を守るための方便や、見えない恐怖を形にしたというものが多い。
 例えばイヌイットには、クァルパリクという水中に住む人魚の妖怪の言い伝えがあり、子どもたちを氷の墓場へ引きずり込むとされていた。この言い伝えは、子どもが勝手にどこかへ行かないように利用されてきた。
 日本の妖怪も、最初は後者のようなアニミズム的な畏怖の対象だったが、中世には絵巻物や御伽草子といった絵物語により具体的な姿を持った妖怪たちが続々と登場する時代となり、寺社縁起として製作される絵巻がある一方で、信仰の対象としてではなく御伽草子などのように娯楽としての面の強く製作された絵巻もあり、妖怪たちも徐々に娯楽の対象になり始めていった。
 特に江戸時代や明治時代からはその特色が強くなり、現代でも「口裂け女」や「トイレの花子さん」、「カシマさん」など新たな妖怪が生まれつつ、娯楽としての妖怪の影響が強くなっている。代表格は『妖怪ウォッチ』のキュートな妖怪達や、『ゲゲゲの鬼太郎』で時代と共に美しくなった猫娘やトイレの花子さんだろう。
 猫姉さんかわいい。



△▼△▼△▼
ローリエ「セサミとの親密度も上がったし、次こそデートだろう!」
セサミ「調子に乗らないでください。あなたは何故そう、がっつくのでしょうか?」
ローリエ「さて、次は第3章に入りたい所なんだが、港町で休んでいるきららちゃん達に妙な変化があるそうだぞ? ……ってデトリアさん? 一体何してるんだ?」

次回『ランプとデトリア』
セサミ「次回もお楽しみに。」
▲▽▲▽▲▽




あとがき
ドーモ、読者=サン。セサミを引いた三毛猫=デス。
『ありがとう』……運営にはその言葉しか見つからない。
あの親密度イベントも、拙作を作る上で役に立つんですよ。というワケで、セサミに種(意味深ではない)を与えてきまーす!!


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第24話:ランプとデトリア

“信じるべきは自分自身。頼るべきは己の記憶。”
 …?????


「ランプちゃん。あなたは正しいわよ。」

 

「えっ――」

 

 

 わたしは時が止まった。

 いや、時は止まっていない。どんな人にも、時間は平等だっていう(聖典を読んでいると、あっという間に過ぎちゃうから、わたしは平等だとは思わないけど)から、わたしが固まったんだろう。

 腰が曲がって、わたしと同じくらいの背になってしまっている元・筆頭神官のデトリア様からそう言われたのには、ちょっと理由がある。

 

 少し時をさかのぼって話しましょう。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 きっかけは、セサミを撃退した後。

 きららさんが、お、お、お尻を……謎の格好をした女の人に蹴られてしまったことに始まる。

 

 

「だ、大丈夫ですか、きららさん……?」

 

 青葉様をはじめとした、クリエメイトの皆様が心配から声をかける。しかし、きららさんは自身の杖で体を支えながらも立ち上がったのだ。そしてこう言った。

 

「だ、大丈夫です………さぁ、早くクリエケージを壊しましょう!」

 

 

 それに、誰も素直に肯定出来なかったのは、きららさんの身を案じた優しさからなのでしょう。

 

 私と青葉様の肩を借りながらも、クリエケージを壊したきららさんには、本当に、もう、尊敬の念しか浮かびません。色んな意味で。

 

「これで、青葉さん達は元の世界へ戻れると思います……!」

 

「はい。そろそろ、ですね……

 …………きららさん、大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫。」

 

 即答。元気そうに答えるきららさんですが、杖に寄りかかって、足を震わせながら答えても意味はないと思います……

 

「……みんな、きららが心配なのは分かるけど、クリエケージを壊した以上、君たちは元の世界に戻ることになるんだ。」

 

「……帰れるのは嬉しいけど、少し残念ですね……」

 

 本当に残念そうにそう言う青葉様。

 

「では、私たちは先に戻って涼風さん達をお迎えしなければなりませんね。

 ほら、桜さん。帰りますよ。」

 

「えー! ちょっと待ってよ、うみこさん! 私まだあおっちと話したい!」

 

「だったら尚更でしょう。涼風さんが戻ってきた時に桜さんに何かあったら今度は涼風さんを心配させますよ。」

 

 

 うみこ様はそう言うと、さっさと帰ってしまった。ねね様も、「待ってうみこさーん! あ、あおっちも、早く帰ってきてよね!」と残すと帰ってしまう。名残惜しいですが、皆様にも皆様の日常がある。きららさんのお尻は心配でしょうけど。

 

 お二人が帰ってしまわれたのを見て、イーグルジャンプの皆様は、帰った後の仕事や企画、新作ゲームに想いを馳せていました。もしかしたら、わたしもキャラデザに落とし込んでいただけるかもしれません!!

 マッチがどうなるか分からない、なんて無粋なことを言っていると、きららさんが青葉様と向き合いました。

 

「青葉さん……

 私、青葉さんたちと会って、頑張ることと、一緒に頑張る仲間の大切さを教えてもらえました。

 セサミとの戦いのさなか、皆さんがコウさんに掛けた言葉………青葉さんが前向きに頑張れる理由が、見えた気がしました。」

 

 きららさんのその言葉で、わたしもコウ様への言葉を思い出す。

 はじめ様の日本(世界?)中のファンを見た言葉、青葉様の憧れ、ゆん様の子ども達への思いやり、ひふみ様の慣れないけど一生懸命な応援、りん様の告白………

 きっと、そのすべてがコウ様を元通りにしたのでしょう。きららさんも同意見でした。

 

「だから私も……まだ出会ったばかりだけどランプやマッチとそんな仲間になれるように頑張ります!」

 

「……きららさんたちなら、きっと大丈夫ですよ!

 みんないい人ですし、絶対に素敵な仲間になれると思います!

 私も、今の会社に入ってそのことを知りましたから……!」

 

 

 青葉様が、きららさんの想いに答える。

 

 その姿は……少し。わたしにとっては、羨ましい光景でした。

 

 わたしは、きららさんの『素敵な仲間』になれるでしょうか?

 青葉様に背中を押されても、心の中の不安を消しされない優柔さをごまかすように、わたしは笑顔で光に包まれるイーグルジャンプの皆様を、日記に書き綴りました。

 

「ところで……きららさん、お尻は本当に―――」

 

「大丈夫です!!」

 

 きららさんは、最後までクリエメイトからのたいきっく関連の質問を食い気味でそう答えていた。

 

 でも、やっぱりあのキックは痛かったのでしょう。

 

 

「アルシーヴのしていることは許せません。

 こんなにも世界を乱してしまうなんて………!」

 

「そうだね……私たちが、頑張らないとね!」

 

「さて、次は海を渡る訳だけども―――」

 

「「??」」

 

「ちょっとここで休んでからにしよう。

 きらら、流石に無理は良くないよ?」

 

「うっ……は、はい…」

 

 立つのがやっとの様子のきららさんの為に、休むことをマッチが提案してきました。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 マッチの提案に異論はありません。わたしも、マッチも戦うことはできない。もし無理をしてきららさんに倒れられたら、これからの旅の行く手を阻む敵と戦えなくなってしまいます。

 

 宿屋で身体を休めると言ったきららさんをマッチに任せ、わたしは軽く変装しつつ、何か食べ物でも買おうかと町へ繰り出しました。

 

 往来を行く様々な人達、賑やかな喧騒、笑顔で店を開いたり、買い物をしたりしている大人たち。いつも通りの日常を過ごしている彼らに、もう「オーダー」の影響はないように見えました。

 

 

「……? あのドーナツ屋……」

 

 青葉様達と来た時はクリエメイトを探すのに夢中で気づきませんでしたが、港町には珍しい甘味処です。お客も賑わっています。

 そんなドーナツ屋から、甘い香りがするのです。

 

 ハチミツとメープルシロップを足して、香りだけをぎゅっと凝縮したような、嗅ぐだけで小腹がすいてきそうな、いい匂い……

 

 

「………きっと、きららさんも喜びますよね!」

 

 

 わたしも、甘い匂いに誘われた行列に混ざることにしました。 

 ……これくらい大丈夫でしょう。なんてったって、女の子は甘いものが大好きなんですから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ありがとうございましたー!」」

 

 

 銀髪ショートヘアの店員さんと空色ロングヘアの店主さん(お二人は親子だそうです)の声を背に受けながら店を出たわたしは、買ったドーナツが袋に入っているのを何度も確認しながらきららさんのいる宿へと急ぐ。自然とスキップしてしまいます。

 

 だって美味しかったのですから!!!

 

 試食させていただいたのですが、その甘さの深さたるや、清純で奥ゆかしい、可憐なお姫様が頂くお菓子のような味でした……!!

 

 砂糖の甘さだけに頼らず、濃厚かつしつこすぎない甘み。店主さん曰わく、複数の砂糖と甘味料を使っているそうです。

 神殿を飛び出す前は、聖典を読みながら、『スティーレに行ってみたいなぁ』とか『甘兎庵に行って千夜様の和菓子を食べてみたい!』とか考えていましたが、こうして実際に町へ行って、人気のものを食べてみると、エトワリアもいいなぁとも思います。

 

 それに……彼女達は、少し前まで、ケンカとまではいかなくても、ギクシャクした関係だったのが、仲直りしたそうです。ソラ様をお救いした後で、詳しく聞いてみたいと思います。

 

 

 そう思いながら、スキップを踏んでいると。

 

 

「おやおや、ランプちゃん。こんな所で、何をしているんだい?」

 

 しわがれた、でも優しい声がわたしを呼んだ。

 

 一瞬で足が凍りついたように固まり、振り向くことすらも憚られる。

 

 わたしは、この声を知っている。

 

 でも、神殿を飛び出した勢いの旅先で会いたくなかった人物。

 

 

「ひ、人違いです……」

 

 声が震えそうなのを抑えながらそう言いながらようやく振り向いた先にいたのは。

 

 年のせいで腰が曲がった身体を、杖で支えたおばあさん。

 紅い宝石が目立つ、翼を広げた鳥のデザインをした杖。

 今にも折れそうなのに、にこにこと笑顔を浮かべたお姿は。

 

「変装ならもっと上手くやらないとだめだよ、ランプちゃん。」

 

 正真正銘の、元・筆頭神官―――デトリア様であった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 「最近体力がなくなってねぇ」と言いながら、近くの日陰にあったベンチに腰を下ろし、わたしもそのお隣に座らせられる。

 

 デトリア様は、わたしが神殿に入って一年ほどで引退した、歴代で一番任期の長い、アルシーヴの前任の筆頭神官でしたが、引退後も、わたし達女神候補生や新人の神官達を気にかけてくださいました。

 結構なお年を召していたので、逆にみんなから心配されていたようですけど。

 

 でも、なんてことだろう。わたしがどこにいるかは、神殿の人間には知られてはいけなかったのに。

 それとも、いち女神候補生になにができる、と言わんばかりに見逃されているだけなのだろうか?

 

 

「心配しないでも、アルシーヴちゃん達にここで会ったことは話しませんよ」

 

「………本当ですか?」

 

 

 当たり前のようにわたしの心配事を見抜いたデトリア様に面食らい、驚きと疑惑に惑いつつも、そう返した。

 

 

「本当よ。」

 

 わたしの疑いの声に、デトリア様はしわしわのお顔を(ほころ)ばせながら、朗らかに笑った。

 

「だってもう、わたしは神殿の人間じゃあありませんもの。」

 

 

 確かに。デトリア様は既に筆頭神官の地位から身を引き、それをアルシーヴに受け渡しました。引退後も新人の教育に一役買っていたとはいえ、もう神殿とは関係ないはず。

 

 いつもそうだ。この人はわたしを特に気にかけてくれている。いつだったか、どうしてと訊いたことがあった。デトリア様は、笑いながら『小さい頃のソラ様とそっくりでねぇ。あの子みたいな人が、今のエトワリアには必要なんだよ』と答えてくださった。

 さらに、これは風の噂程度でしか聞いたことがないのですが、結婚もしていないらしい。まさに、己のすべてをエトワリアのために費やしているような人でした。

 

 

「それに、ばばあは物覚えが悪いからねぇ。今日ここで誰に会ったかなんて、神殿に行く頃には忘れてしまってますよ。」

 

「……ありがとうございます。」

 

 ウインクしながらそう続けるデトリア様に、わたしはデトリア様がまだ健在であることを察しながらも、九死に一生を得たかのような感覚を覚えました。

 

 

「……今から話す内容も、忘れてくれますか?」

 

「……そうだねぇ。長話なら、忘れちゃうかもねぇ。」

 

「………。

 わたしには、悩み事があるんです。具体的には話せませんけど……」

 

 わたしは、神殿で起こったことを話した。

 

 この目で見ていたとはいえ、「アルシーヴがソラ様を封印した」というある意味クーデターのような話は、マッチ以外の皆のように信じてくれないかもしれないので、「ソラ様の病気を治す手段を探している」とちょっと嘘をついたけど。

 

 

「でも、皆認めてくれなくて、アルシーヴ…先生も、神殿の風紀を乱すなって言われて……それで、我慢ならなくて飛び出して。

 ――わたしは、飛び出した勢いで、とある村までマッチと一緒に逃げてきました。今は()()()()()()()()()()()、ソラ様を助ける手段を探して旅をしています。」

 

 

 ローリエ先生でさえも……わたしのあの話を夢扱いした。確かに、夢として彼に相談したけれど、あの時ならば本当のことだと信じてくれると思っていたのに――

 

 

 ――――だめですね。このことを考えれば考えるほど、心に、暗く分厚い雲が顔を出す。雨や雷が降る前に、追い出さなければ。

 

 心が締め付けられる痛みに耐えながら、デトリア様の答えを待った。流石にきららさんの事は話さない。「伝説の召喚士」の話や、きららさんの素性は広める訳にはいかないでしょう。

 

 

「ランプちゃん。」

 

「!」

 

 

 デトリア様から声がかかった。

 

「あなたは正しいわよ。」

 

「えっ――」

 

 

 そして、わたしは時が止まった。

 

 

「あなたが見たもの、あなたが聞いたこと。それを信じているから、ここまで来たんでしょう?」

 

「……わたしは、ただソラ様が心配で―――」

 

「そのソラちゃんが病気で、それを治すために旅をしているのでしょう?」

 

「っ!!」

 

「『信じるべきは自分自身。頼るべきは己の記憶。』

 ……ユニ様の座右の銘ですよ。」

 

 ユニ様。その名前にわたしははっと息を飲んだ。

 ソラ様が女神となって間もなく、原因不明の病で崩御なさった前任の女神様。そんなお方が、そんな座右の銘を持っていたとは。

 

 

「でも、『頼るべき己の記憶』って何ですか?」

 

「わたしが思うに、今まで培ってきた自分の経験だったり、学んできたことだったり………そう言うものを全部ひっくるめたものを、ユニ様は『記憶』っておっしゃったんでしょうねぇ。」

 

「なるほど……」

 

「『信じるべきは自分自身』っていうのも、ただ自分勝手ってわけじゃなくて、『誰かに言われたから』とかで動かないって意味なんでしょう。

 

 ―――ランプちゃんが『ソラ様を救いたい』って思ったのも、あなた自身の意志でしょう?」

 

 

 デトリア様の解説を聞いて、なるほど、意外にも自分本位に聞こえる座右の銘にはそんな意味があったのかと思いました。

 

 

 

 ……やっぱり、この人は優しいお方だ。

 この方やきららさんみたいに、わたしも誰かのことを思いやれる人になりたい。

 

 

「―――わたしは、どこにいても、ランプちゃんの味方です。応援していますよ。」

「―――はいっ!!」

 

 

 「こんなばばあだから一緒に旅はできないけどね」と笑うデトリア様に強く返事して、ベンチから立ち上がる。

 

 今はまだ、話せませんが……いつか、ソラ様をお救いした時に話したいと思います。ソラ様、デトリア様。

 伝説の召喚士となったきららさんとの出会いを。きららさんやマッチ、ゆの様や青葉様たちクリエメイトと絆を紡ぎ、旅をした日々を。ですので…………それまでお体、ご自愛くださいね?

 

 

 

 そう決心して、わたしに続いて腰を上げようとするデトリア様に、手を差し伸べた。

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ランプ
 今回のメインを務めたエトワリアの解説女王。決してス○ードワ○ンを意識しているわけではない。タイキックでダメージを受けたきららを回復させるために滞在した港町でドーナツ購入後、デトリアと遭遇。拙作オリジナルキャラであるデトリアとはアルシーヴやローリエと同じく親しい関係。例えるならば、アルシーヴが「担任の先生」で、ローリエが「気になっている(と言うと語弊を生みそうだが)異性の先生」であり、デトリアは「生徒みんなに優しく接してくれる、登下校ボランティアのおばあちゃん」といったところ。デトリアの励ましで、きららの『素敵な仲間』になる決意をする。

デトリア
 拙作最高齢のオリジナルキャラ。年齢不詳(本人曰く、『乙女はいつまでたっても乙女なのですよ』とのこと)。オリジナルキャラと既存キャラとの交流を深めるために港町に登場させ、今回の話を練り上げた。やや難産だったが、書き上げた甲斐があるほど楽しかった。今回のやりとりもまた、今後に生かす予定。

ユニ
 ソラが女神を務める前に、女神の座に就いていた女性。ソラが女神を継承したほぼ同時期に謎の衰弱死。デトリア曰く、前書きに書いた座右の銘を持っていた。



△▼△▼△▼
ローリエ「やっとミネラさんから掴んだ手がかりをもとに渓谷の村へ向かう俺。砂漠を渡れば、目的の村へ着く。だが、砂漠でまたオーダーがあるようだ。カルダモンか学園生活部の誰かと会えると楽しみにしていた俺の前に現れたのは………お、男!!?」

次回『転生者(おれ)の知らない男』
ローリエ「次回も見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽



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エピソード4:さばくぐらし?~学園生活部の黄金の意志編~
第25話:転生者(おれ)の知らない男


“俺は気づくべきだったのだ。このローリエ・ベルベットがいる時点で、エトワリアは俺の知っているエトワリアではないことに。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第4章より抜粋



※2020-7-23:フェンネルの口調を微修正しました。


「はい、7のスリーカード」

 

「こっちは……A(エース)のスリーカード、ですか?」

 

「あッ、ジョーカー入ってる。フォーカードだぜこれ」

 

「ふふっ、やりました!」

 

「おにーちゃん、シュガーのは!?」

 

「えーっと………ああ、これは…残念、役なし(ブタ)だ」

 

「ぶー…」

 

 

 シュガーがふくれて、セサミが穏やかに喜ぶ。そして、俺とシュガーのオモチャのチップをセサミのところへ移動させる。

 俺達は今、セサミの部屋にてポーカーの真っ最中だ。

 

 エトワリアにポーカーがないので、ルールブックを暇つぶしに書いたところ、これが神殿内で大ヒット(そのせいで俺がポーカーの創始者みたいになっちゃってるが)。どうやら、エトワリアは相当娯楽に餓えていたようだ。

 

 ポーカーは究極の心理戦だ。賢者が心理的にどんな性格をしているのか判断できると意見したところ、アルシーヴちゃんも試験的に認めてくれたのだ。

 

 八賢者の中の「新しいゲーム」に目がない子の後押しもあって、少しずつ賭け金のないポーカーがブームになりつつある。少し前までは将棋ブームだったのにな。

 おっと、噂をしたらなんとやらだ。たったったっと軽い足音が聞こえてくる。

 

 

「あ、いたいた。ローリエ、楽しそうだね。イカサマはしてない?」

 

「するわけねーだろ女の子相手に。俺は紳士だぞ?」

 

 部屋のドアから顔をだしたカルダモンはいきなり失礼な事をぶっこむ。俺がイカサマするのはフェンネル相手の時だけだ。

 

 この前、勝負を持ち掛けたら拒否されたので「負けるのが怖いか」と挑発したところ、見事に乗っかった。そして、頭に血が上っている彼女相手に初歩的なイカサマ(セカンドディール)を仕掛け、見事に勝ちまくったことがある。その後、()()()()()で追っかけまわされたが。

 

 

「アルシーヴ様が呼んでたよ」

 

「おぉ、そうか」

 

 アルシーヴちゃんに呼ばれている事を知った俺は、シュガーとセサミに一言言ってトランプを片付け、洒落た部屋を後にする。

 

 

 部屋を出ると、カルダモンが付いてくる。

 俺とカルダモンの仲はジンジャーやシュガー並みに良好だ。俺のおふざけを良く思ってないソルトやセクハラを嫌うセサミ、アルシーヴちゃんの見方で徹底的に対立しているフェンネル、10年前の件があってどうしても話しにくくなってしまうハッカちゃんと比べてみると、良い関係を築けていることだろう。

 個人的には、ハッカちゃんと仲良くなりたいところだけど……

 

 

「カルダモン。そういや、アルシーヴちゃんから()()通達は来たのかい?」

 

「うん。ローリエは、最近なにをしてたの?」

 

「そうだなぁ……色んな武器を作ってそのテストをしたり、セサミと一緒にシュガーの遊び相手もしたし、授業も数回したし……あとは、ポーカーでフェンネルをカモったりしたな!!」

 

「ちょっと最後。何したのさ……」

 

「いやぁー、アレは傑作だったよ。後始末がスーパー大変だったけど」

 

「どうせまた追いかけられてたんでしょ?」

 

「正解。流石にまる一日逃げることになるとは思わなかったけどな。」

 

 

 そんな雑談をしながら入ったアルシーヴちゃんのいる大広間に着くと、案の定「オーダー」で呼び出したクリエメイトの捕獲について話し出した。

 俺は彼女の話を表向きでは聞きながら、これから呼び出される()()()について思考を巡らせた。

 

 カルダモンが出張る今回の「オーダー」で呼び出されるのは、「がっこうぐらし!」の学園生活部の4人だ。

 

 天真爛漫で笑顔なムードメーカー、ゆきこと丈槍(たけや)由紀(ゆき)

 シャベル大好きなボーイッシュガール、くるみこと恵飛須沢(えびすざわ)胡桃(くるみ)

 しっかり者な学園生活部部長、りーさんこと若狭悠里(わかさゆうり)

 クールで要領のいいみんなの後輩、みーくんこと直樹(なおき)美紀(みき)

 

 この4人が、巡が丘学院高校を舞台に、学校で寝泊まりしながらほのぼのと日常を過ごす――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――と言ったな、アレは嘘だ。

 「がっこうぐらし!」は、ゾンビが学校の外に蔓延している荒廃しきった世界で、学校に立てこもって生活している、というバイオハザードな世界観の物語なのだ。

 

 ゆきは精神を病んでいる影響で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()し、くるみちゃんは中盤から終盤にかけて大変なことになるし、りーさんやみーくんもヤバイことになる。

 

 とまあ、雑に本編を紹介したが、ネタバレを防ぐためだ、これくらいの雑さもやむなしだろう。

 

「ローリエを呼び出したのは他でもない。砂漠で任務を行うにあたり、そこで活用できる魔道具を提供して欲しいからだ。」

 

 八賢者ローリエとしては、ミネラさんの情報で渓谷の村に直接転移すればいいので、3章の舞台となる砂漠に行く理由はない。今アルシーヴちゃんが俺に命令したことも、それが終わってしまえば、とっとと村へ転移してしまえって話になるだろう。

 

 だが、()()()ローリエとしては、殺伐とした世界で、何を思って彼女達学園生活部が生きているのかを、この目で見てみたい。

 やや不謹慎な話になるが、彼女達の「全員で生き抜く」という意志を、学びたい。それはきっと、港町でリリィちゃんローズちゃんの百合夫婦(予定)に言った、「真実へ向かおうとする意志」にも通じることだろうから。

 それが、現段階における俺のやりたい事その1だ。

 

 

「頼まれてくれるか? ローリエ。」

 

「いいよ。カルダモン、ご注文は? 冷房?」

 

「私の武器をちょっとお願い。作業は現地でいいね?」

 

 

 その質問に頷くと、カルダモンはタッ、踏み切ったかと思うと一瞬で消えてしまった。

 恐ろしく早い縮地……オレでなきゃ見逃しちゃうね―――

 

 

 ―――ごめん嘘。このリハクの目をもってしても見え(読め)なかった。 

 それはさておき、俺にはまだアルシーヴちゃんに聞きたい事がある。

 

 

「ところでアルシーヴちゃん。」

 

「なんだ?」

 

「ハッカちゃんについて教えてよ。」

 

「ハッカのこと?」

 

 

 そう、ハッカちゃんの事である。さっきカルダモンにも言った、フェンネルをカモった時の話なのだが、さんざんカモった後フェンネルに追っかけまわされたきっかけが彼女にイカサマを見抜かれたことにある。

 

『ぐぬぬ……次こそは勝ちますわ!』

『いいだろう! どう足掻いてもこのローリエには勝てないことを思い知らせて……』

『待たれよ、フェンネル。』

 

『『!?』』

 

『ハッカですか。珍しいですね。』

『ハッカちゃんもやるかい?』

『遠慮しておく。カードの配り手がイカサマをするような遊戯は信頼できぬ。』

『な!? ハッカ、ローリエはイカサマをしていたのですか!?』

『言いがかりはやめてくれないか?』

 

『否。言いがかりではない。

 ローリエは山札の一番上ではなく二枚目を配っていた。一番上のカードとローリエの手札を見てみれば……』

『……既に10のスリーカードができている、ですって………!?

 ローリエ!! 何か弁明はありますか!!?』

 

『………バレなきゃイカサマじゃあねぇんだぜ』

『バレてから吐く言葉ではありませんね……!!』

『ローリエの(はかりごと)は明白。』

 

 以上が、その時にあったやりとりのダイジェストである。

 要するに、「俺とフェンネルがポーカーをしている最中、ハッカちゃんがその場に現れて、通りすがりのヒーローが人を騙そうとする怪人の手口をバラすかのようにイカサマの手口を見抜いた」ってことだ。

 

 

「お前な……言いたい事が色々ありすぎて何から咎めればいいのか……」

 

 事情を聞いたあとのアルシーヴちゃんは、文字通り頭を抱えて、俺の行動を何と評すればいいか決めあぐねていた。

 

「ポーカーでイカサマをするってのはただ(こす)い手を使って勝ちにいくってことじゃあない。人の『思い込み』や『錯覚』を利用しそこを突くことなんだ。」

 

 例えば俺がフェンネルにやったセカンドディールも、「山札の一番上から配られる」という心理を利用して仕掛けられるものである。

 つまりハッカちゃんは、そういう先入観・思い込みに惑わされず、俺のイカサマを見破ったという事になる。

 

「初めて会った時はソラちゃんを盗賊から助けに行った時だ。一緒に捕まっていた。

 そんな彼女が今やアルシーヴちゃんの懐刀になっている。どんな経験を積んだのか、そもそもなんであの時あそこにいたのか、気になってな……」

 

「……話している場合ではないのだが、お前がそんなことで引き下がる訳がないもんな……」

 

「そうだよ。そんなことを本気で言ったらフェンネルとセサミにアルシーヴちゃんの隠しブロマイドをこれでもかって程渡すからね」

 

「おい待て、今聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ!?」

 

 気のせいでしょ。

 

 

 

 

 

 

「……今から言う事は他言無用だ。

 ハッカは、魔人族と呼ばれる少数民族の生き残りだ。」

 

「ふぁっ」

 

 観念したのか、溜息混じりに出たアルシーヴちゃんの言葉からいきなり凄まじい設定?が出てきて戸惑いを隠せない。

 魔人族ってなに? メリ○ダス? ブ○?

 エトワリアはきららの筈なんだけど。ジャ○プとかサ○デーとかじゃあないはずなんだけど??

 

「エトワリアで20年生きた俺が聞いたことないんだけど」

 

「特定の歴史書以外に記すことを禁じられているからな。」

 

「その魔人族ってのは……心臓が10個あるとか、細胞一つ残っていれば完全再生するとか…」

 

「ある訳ないだろ、お前はハッカを何だと思っているのだ。

 ただ、魔人族は普通の人間よりも使える属性の魔法が多いだけの種族で、人間と大差ないんだ。」

 

 あ、良かった。そこまでトンデモ設定とかじゃないのね。地球で言うところの肌の色とか髪の色程度の違いというわけか。

 

 

「中でもハッカは全属性を100%使いこなせる天才児だった。」

 

 まじかい。『ハッカちゃんが全属性を使いこなせる』って設定はきららファンタジア(スマホアプリ)でプレイしていたから知っていたけど、そんな事情があったのか。

 羨ましすぎる。俺なんて、火・水・土・風属性が5%、月・陽属性が40パーセントしか使えないのに。

 

 でも、普通の人よりも優れた少数民族がいるとなったら、多数派の「普通の人間」がやりそうな事に予想はつく。

 

「でも、魔人族は迫害された、って訳か。」

 

「知っていたのか……?」

 

「いいや。でも、予想はつくさ。」

 

 なにせ前世(地球)のテレビや教科書を通して、その手の迫害は何度も見てきたからな。

 

「動機は、自分たちより多くの魔法を使える事に対する恐れや嫉妬といったところか?」

 

「それだけじゃあない。感情の起伏で瞳の色が変わる特性を珍しがられ、奴隷にされることもあった。瞳をくり抜かれることもあったという。もう100年以上昔の話だがな。」

 

 

 それなんてク○タ族?

 ―――なんて茶々を心の中で入れないと落ち着きを失いそうになるくらいに、「普通の人」のやることに反吐が出た。奴隷とか人体コレクションとか、現実味のない非道な行いに対して、幼稚な正義感しか湧かない自分に少々腹が立つ。

 

 

「それで、物珍しさにあの盗賊に攫われてたということか………」

 

「ローリエ、お前が何を考えているかは知らないが、この事はあまりあの子の前では話さないでくれないか?

 出自にトラウマを持っているんだ、ハッカは。」

 

 

 トラウマ、ねぇ………

 きっと、酷いことがあったんだろう。

 でも、10年前の彼女のあの怯えよう。トラウマの元は出自だけじゃあないはずだ。

 

「俺に対するトラウマの間違いだろ……?」

 

「? なにか言ったか?」

 

「いいや、なーんにも。

 じゃ、カルダモンのトコヘ行ってくるぜ。」

 

 

 ハッカちゃんと話すのはもう少し先になりそうだ。

 今は大人しく、建て前を果たしに砂漠へ向かうとしましょうか。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 砂漠というものは、教科書やテレビで見ているものよりもずっと厄介である。

 直射日光がよく当たり、それを遮るものも一切ない。

また、砂は熱が籠もりやすく放射もしやすいため、昼は暑く、夜はよく冷え込むのだ。

 

 「逃げ水」というものは聞いたことがあるのではないだろうか。地上のものが浮かび上がっているように見える下位蜃気楼の一種で、近づいても水が逃げていくように見えることからその名で呼ばれている。

 砂漠を移動している時にこの「逃げ水」に引っかかったが最後、逃げ続けるオアシスを追って、無駄な体力を浪費する羽目になるだろう。

 

 

「いやぁ、ほんと……転移魔法がなければ即死だった……」

 

「即死かどうかはともかく…確かに、転移魔法なしでここをうろつくのは危険だよね」

 

 

 砂漠の真ん中に立つ教会にカルダモンと転移した俺は、砂漠の危険を遮れる建物の中にて、あまりの暑さにくたばっていた。

 

 

「ローリエ、早くクリエメイトを探そうよ」

 

「カルダモンお前……そんな民族的な格好でよく元気でいられるな…」

 

 しかし、カルダモンはそれすら許してくれない。

 無理矢理起こされ、教会の扉を開く。

 

 

 そこは、風がほとんど吹かない、一面の砂漠。

 アラビアンナイトの、アラジンやアリババに出てきそうな、砂の海が広がっていた。ただ、耳を澄ませば聞こえてくる、ゾンビのうめき声がそれらの世界観を台無しにしているが。

 

 そして、こちらにむかってくる、ひとつの人影。

 

 

「あれは………………………っ!!!」

「おや、いきなりとは運がいいね」

 

 

 俺もカルダモンも人影の正体が分かったようだ。

 緑色のボロついた、しかしサスペンダーまできっちりとつけたセーラー服を着た、パールホワイトのショートヘアの少女。

 若干白人(コーカソイド)寄りの雰囲気とスレンダーな体型からボーイッシュさを感じるが、明らかに小柄で女性的な体格、そしてセクシーなガーターベルト付きストッキングのために男と見間違うことはない少女。

 

 

「間違いない、直樹美紀だ…」

 

 俺の人相書きを見ながらそう呟くカルダモンが隣にいることを思い出し、「みーくん…!」と口に出しそうになったのをこらえる。

 

 俺達の見つけた少女――みーくんは、俺達を見つけると、すぐさま持っていた鉄パイプを握りしめ、こちらに向けて構えた。

 

 

「何者ですか、あなた達は……?」

 

「ま、待ってくれお嬢さん、俺達は……」

「直樹美紀。クリエメイトとして、捕まってもらうよ」

 

 

 おいイイィィィィィーーーッ!!? カルダモンお前! なにいきなり「捕まってもらう」とか言ってくれてるの!? 俺がせっかく説得して、武力行使なしで連れていこうかと思ったのに!

 

 

「ちょっとォォォ! いきなり実力行使で拉致しようとすなぁ!!」

 

 一瞬でみーくんに近寄り、回り込んで首の後ろに繰り出されたカルダモンの手刀は――――――空を切った。

 

 みーくんはカルダモンが動き出す直前に、ほぼ反射的に真横に飛んだのだ。そして、受け身を取ってそのまま鉄パイプを構え直した。

 

 

「ローリエ、そういうことは早く言って貰わないと」

「おめーが早すぎるんだよ!!」

 

「それに、彼女ならそういうの、嘘だって見抜きそうだからね……!」

 

 

 そう言うと、カルダモンの体が再びぶれ、今度は金属質の甲高い音が響く。

 二人が剣戟を始めて、やっとそれがナイフと鉄パイプがぶつかった音だと気づいた。

 

 

 ――もはや、説得は不可能か。

 

 そう思いながら、俺は愛用のリボルバー・パイソンにすばやく麻酔弾を装填する。そして、みーくんとカルダモンが戦っている所へ向けた。

 

 麻酔弾。柔らかい皮で、麻酔液を包んだものを弾頭にしたものであり、被弾したら、ペイント弾のように中の液体が飛び散り、その部分を麻痺させる。当たったら即座に寝落ちするような漫画みたいなものは作れなかったが、命中したらターゲットの動きを確実に鈍らせるものだ。クリエメイトを最低限傷つけないために作ったものである。

 

 

「っ!!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()を構えている俺に気づいたみーくんは、目を見開いたかと思うと、なんとカルダモンの攻撃を受け流しながら彼女の体を盾にし、俺の射線上にカルダモンが入るように立ち回り始めたのだ。このように動けば、俺はカルダモンへの誤射を防ぐために、なかなか引き金を引くことができない。

 

 ……上手いな。正直、動揺して隙を生み出すと思っていた。

 同じ日本人でも、遠山さんとはえらい違いだ。「ランダルコーポレーションが起こしたバイオハザードから生き延びている」ってだけではここまで冷静に拳銃使い相手に立ち回ることはできないだろう。ゆきちゃんやりーさんだったらこうはいかない。くるみちゃんだったら似たようなことはできるかもしれないが。

 

 みーくんは、バイオハザードが起きた時、親友の圭ちゃんとショッピングモールにいた。ゾンビ達から二人で逃げ、途中から一人になっても、学園生活部が来るまで一人で生きていた。そんな学園生活部のブレインたる彼女だからこそ、戦闘中も冷静に周りを見て、俺からの狙撃を未然に防ぐことができたのか。

 

 

 

 

 

 ―――ただ、みーくんに誤算があるとするならば。

 

 

 

「ふっ!」

「う゛っ!?」

 

 俺の狙撃の盾に、カルダモンを利用することが悪手だったという点だろう。

 

 カルダモンは、俺達八賢者の中では一番素早さが高い。メタルスライムやはぐれメタルとタメ張れるんじゃないかな? ってくらいに。そんな人物からの猛攻の中、俺の銃撃を警戒し続けてみろ。その時に生まれた僅かな隙さえも突かれてしまうだろう。

 

 ちょうど今、一瞬動きが止まった手首にナイフを握ったままの拳を叩きこまれ、鉄パイプ(武器)を落とされてしまったように。

 

 

「きゃあ!?」

「捕まえた」

 

 みーくんの武器を叩き落したカルダモンは、すぐさま彼女を砂の上に押し倒し、首筋にナイフを当てて動きを封じた。

 

 

「大人しくあたしについてきてくれる?」

「っ……。」

 

 カルダモンの一言に、みーくんは沈黙する。

 この場における勝者がどちらかは明白だった。

 ちょっと俺が手出しした分、卑怯な感じはするけど―――

 

 

「―――っ!!?

 カルダモン! みーくんっ!!()()()()()()()ッ!!!」

 

「「!!?」」

 

 

 嫌な予感がして、咄嗟に叫んだ。

 真夜中にトイレへ行くために家の廊下を歩いている時のような、底知れない不安がしたから。

 

 俺の突然の叫びにも、みーくんを捕まえたままカルダモンは反応し、その場から飛び退く。

 

 次の瞬間、カルダモンとみーくんがいた場所に、細長い矢のようなものが飛び込んできて、ざくっ、と砂の音を立てた。

 

 俺が気づかなかったらと思うと、鳥肌が立つ。

 

 

「チッ、勘のいいやつだぜ」

 

 

 俺以外の男の声が砂漠にせり出した岩のひとつから聞こえ、そちらに顔を向ける。

 

 そこには、クロスボウをひっさげ、砂漠にカモフラージュするかのような砂色のローブを着た、黒髪ロングの男がいた。朱色の双眸は、厭らしくこちらを見据えている。

 

 

「だ、誰だお前は……!?」

 

 その言葉は、本心だった。

 

 きららファンタジアには、3章どころか全章通して男の登場人物はほぼいない。故に、こんなやつが出てくるはずがない。

 そんな俺の困惑を嘲笑うかのように―――

 

「クリエメイトの命、オレ様がもらい受けるッ!!」

 

 ――きららファンタジアをプレイし尽くした筈の転生者(おれ)の知らない男が、獲物を見つけた肉食動物の瞳で、俺達に(わら)いかけた。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 カルダモンの武器整備士として砂漠に同行したら、みーくんだけでなく自分の知らない男に出会ったでござるな男。突然現れた謎の男は、ローリエにとっては完全に予想外の存在である。それが彼にどんな影響を及ぼすのだろうか。

カルダモン
 素早さが天元突破しているCV.田○○心の八賢者にして、序盤の壁と言われる3章ボス。ローリエがポーカーを広める手伝いをした賢者でもあり、面白いこと&新しいこと好き。ポーカーは表情豊かだが本心は読ませないタイプで、ローリエ曰わく「凄腕のギャンブラーに大成するタイプ」。しかし、各地を巡る調停官の仕事があるため、ポーカーばかり出来ないのが悩み。

アルシーヴ&フェンネル
 今回の不憫枠。アルシーヴはローリエにブロマイドを隠し撮りされており、フェンネルはハッカに咎められるまでローリエにカモられていた。フェンネルはアルシーヴのブロマイドは好きそうではあるが、一歩間違えれば、部屋中アルシーヴの写真だらけの典型的ヤンデレになりそうで怖い。本家ではそのような気配は欠片も感じなかったのに。

ハッカ
 ローリエのイカサマを見抜いた八賢者。複数の魔法に適正を持つ魔人族の少女。このハッカの種族については、拙作のみのオリジナル設定。寡黙な性格ができるまでを想像していると、どうしても重い過去が出来てしまうが、作者は悪くないはずだ。ハッカの過去と心は、後ほど掘り下げたい。

直樹美紀
 本家きららファンタジアでも、カルダモンに捕まっていた学園生活部2年生。カルダモンに対しては迷わずに立ち向かっていったが、原作との違いは、ローリエとカルダモンの二人の実力者を同時に対処しようとしたばかりにあっけなくカルダモンにとっ捕まってしまったこと。


ポーカー
 5枚の手札を一度だけ交換して、より強い役を揃えた方が勝利する、ギャンブルでよく使われるトランプゲーム。これに賭け金が発生した途端、レイズ(賭け金を上げる)、コール(勝負に乗る)、フォールド(勝負を降りる)の三択で相手の心理を探る心理戦になる。イカサマをするのも勝負の要素の一つとなり、その駆け引きもまた、賞賛されていた。
ローリエが発言した「バレなきゃイカサマじゃあねえんだぜ」の元ネタは『ジョジョの奇妙な冒険・第3部』の空条承太郎の台詞。

セカンドディール
 山札から配る時、一番上ではなく上から二番目を配る、初歩的なイカサマ。カードを置く場所と手首のスナップがコツで、上手い人がやると違和感なく配れるため、ディーラーの技術も問われるイカサマである。

がっこうぐらし!
 原作:海法紀○、作画:千葉サ○ルの両氏による漫画作品。2012年より連載開始し、2015年にアニメ化した。ゆき、めぐねぇによるキューティーな日常と、くるみ、りーさん、みーくんによるシリアスでバイオレンスな世紀末サバイバルを鮮やかに描き、Twitterでは表紙と内容のギャップで一世を風靡した。学園生活部がバイオハザードが起き滅んだ世界で、ささやかな幸せを探す為に奮闘する姿は、多くのきららファンを魅了した。2018年には、実写版が制作され、アニメ実写化による風評被害に遭いつつも、くるみを主人公にしたホラー映画としてリメイクされた。

魔人(魔神)族
 拙作に登場する、エトワリア人の人種。通常に比べて使用できる魔法の属性が多い。決して「七つの大罪」や「ドラゴンボール」の要素はなく、3000年前に光の聖痕(スティグマ)に封印された種族でもなければ、魔導士バビディに復活させられた最凶の食いしん坊でもない。

クルタ族
 「HUNTER×HUNTER」に登場する、少数民族の一。感情が高ぶると目が赤くなる性質のため、骨董品「緋の目」を手に入れる為に残虐な乱獲・拷問が行われた。その結果クラピカ以外のクルタ族は滅ぼされている。

メタルスライム、はぐれメタル
 いずれも、「ドラゴンクエスト」シリーズに出てくる、銀色のスライム。殆どの呪文・特技が効かず、武器攻撃も1ダメージしか与えられない上に、すぐに逃げ出そうとする経験値稼ぎスライムにしてドラクエの代名詞モンスターの一匹。ナンバーによっては、仲間に入れることができたり、メタル斬りや魔神斬り、一閃突きで狩りの対象になったりする。



△▼△▼△▼
ローリエ「俺の知ってるきららファンタジアには出てこない謎の男――――――その目的は、クリエメイトたるみーくん達の命だった!? 俺にとっては、クリエメイトは人生の一部! そう簡単に、殺らせてたまるかよッ!!」

次回『そいつの名はサルモネラ』
美紀「次回もお楽しみに。」
▲▽▲▽▲▽


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第26話:そいつの名はサルモネラ

“ハーレムを築くのは前途多難だ。”
“お前は何を言っているんだ?”

 …ローリエ・ベルベットとアルシーヴの会話


 クリエメイトの命をもらい受ける――――

 

 本当に目の前のロン毛男はそう言ったのか?

 ここですぐに攻撃できれば良かったのだが、感情とはそう簡単に割り切れるものではないらしい。

 

 あっけにとられて、敵に隙を与えてしまったようだ。

 

「ローリエ! 敵が攻撃してくる!」

 

 カルダモンの警告にはっと我に返ると、目の前のロン毛男は、既に次弾の矢を装填し終えていた。

 

「っ!!」

 

 反射的にパイソンの引き金を引く。

 

 パンパンパンと、ゴム弾や実弾よりも軽い発砲音が響き、それと同時に矢の発射音がした。

 

 

「うおっ!?」

 

「ぐッ!!?」

 

 

 クロスボウから放たれた矢は、咄嗟の判断で逸らした俺の顔の、わずかに横を掠って通り過ぎていった。

 あまりに一瞬、しかし確かな死の恐怖が刹那の時にやってきたことに頭の中がクリアになっていって、頬に残ったであろう焼けるような痛みにも気を払えなくなる。

 

 だが、今俺だけじゃなくて、奴の声もした。それから察するに、何発か当たったのだろうか? 矢を避けるのにほぼ全神経を集中させていたから、どうなったかまでは分からない。

 

 

「こ、これは……麻酔弾か…? よくもやってくれたな!!」

 

 男は、しゃがみ込み両手を震わせながらも、すばやく矢を装填して、その先をカルダモンとみーくんに向ける。

 

 俺の麻酔弾を2、3発食らったこの状況でも、クリエメイト(みーくん)の命を狙うつもりか!?

 

 

「させないよ」

 

 しかし、それはあっという間に距離を詰めたカルダモンがクロスボウを蹴り飛ばすことで未遂に終わる。

 

 

「クソッ!! いい気になりやがって……!」

 

「逃がさない……!」

 

 

 最後の足掻きが無駄に終わったことを悟った男が転移魔法で逃走を図る。

 

 カルダモンが、二本のナイフを投げそれを防ごうとするも、間一髪、男の方が早かったようだ。ナイフがざくざくと砂に刺さる音がそれを証明していた。

 

「あいつ……」

 

「………とりあえず、拠点に戻ろう。」

 

 そうして、視界から謎のロン毛男が消えた後も、誰も言葉を発することはできず、ただ砂漠気候特有の、穏やかで、乾いた熱風が肌を撫でるだけであった。

 そんな真夏のような日差しと気休め程度の微風が撫ぜるなか、俺の心の中の警鐘はいまだに鳴りやんでいなかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 あの後、砂漠の教会に戻った俺達は、みーくんを泣く泣く(俺のみ)クリエケージに閉じ込め、アルシーヴちゃんにクリエメイトを捕獲したことと、砂色のローブを着た、朱色の瞳の黒髪ロン毛男に襲撃され、クリエメイト(みーくん)を狙われたことを報告する。

 

 

「一応聞くけど、これってぶっちゃけかなりヤバイんじゃあないのか?」

 

「……そうだな。クリエメイトからクリエを回収するのは、できるだけ秘密裏に、迅速に行いたい。

 ローリエ。お前には、その男の始末を頼みたい。再起不能にできればいい。」

 

「……それはアイツの正体次第だな。一般人を殺すようなマネは賢者としてマズいだろう?」

 

 

 まぁ、クロスボウ抱えてクリエメイトの殺害宣言するようなヤツが一般人だったらエトワリアはかなり世紀末状態だけどな。

 どこからかモヒカンが出てきて「ヒャッハー! 食い物を寄越せぇ!」とか言いそう。

 

 

「ローリエ、それについては心配いらない。あたしはアイツの顔に心当たりがある。」

 

「カルダモン?」

 

 

 まじか。まさか、転生者(おれ)の知らない男の正体がこんな早くに判明するのか?

 

 そうして、カルダモンは説明を始めた。

 

 

「これは、あたしが調停官で砂漠付近の村を回っていた時に聞いた情報(コト)なんだけどね。

 

 なんでも、砂漠を通って行商している商人の馬車が何組も襲われてるんだって。

 被害の状況は甚大で、馬や人には矢が刺さった上に甚振られるように傷つけられいずれも大怪我か死亡、積んでいた荷物も殆ど持ち去られたそうだ。

 

 わずかに生き残った目撃者は、みんな口を揃えて『砂と同じ色のローブを身にまとい、クロスボウを持った黒い長髪の人間にあっという間に殺られた』と言っていたそうだよ。そういった悲惨な事件が多発したから、行商人は砂漠を通らなくなった。

 手書きの手配書にもその特徴が描かれててね。さっき思い出したよ」

 

「それはそれは……」

 

 

 俺の知らないところで、大変なことが起こっていたんだな。俺のよく知っている『きららファンタジア』では、そんな血なまぐささは一切出てこなかった。ちょっとした欺瞞やイタズラ心、そして孤独みたいなものはあっても、純粋な悪意みたいなものとは無縁の世界だとばっかし思っていた。まぁ、そんなのを純粋に信じていたのは()()()()()だけど。

 

 でも、俺は一刻も早く男の名前が知りたかった。

 

 行商人連続襲撃事件で亡くなってしまった人については……まぁ、確かに気の毒だと思うし、下手人は許せないと思う。でも、エトワリア(ここ)はテレビが少なく写真技術も(俺の開発したインスタントカメラがあるとはいえ)まだまだ発展途上だ。新聞も、日本のものよりも断然読みにくい。そういった遠くの情報を手に入れる手段があまりにも少なすぎる。故に、感情移入がなかなかできなかった。

 

 だが、きっとカルダモンは、このことを調停官として、周囲の人々から聞き込みをし、もしくはその目で見てきたのだろう。……そして、その結果、ある程度の情が湧いたのだろう。

 

 はっきり言うと、目が怒っている。

 

 その威圧感というか、覇気というか……そのスゴ味たるや、まるで親しい友人をそいつに何度も奪われたかようだ。しかし、その激しい怒りのわりには、雰囲気が静かだ。嵐の前の静けさとは、こういうことを言うのだろう。

 

 

「砂漠に現れ、行商人たちの営みを……彼らの家族の幸せをゴミくずのように壊す男。

 ……そいつの名前は――――――」

 

 

 そして、カルダモンは静かに、そいつの名前を口に出した。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 一方その頃、砂漠のとあるアジト――鏡を利用して姿を隠した、簡易版のテントだ――にて。

 

「ぐうぅぅ………これは…麻痺毒か……」

 

 狭いテントの中でびっこを引き、震え覚束ない両手で何かを探している黒い長髪の男がいた。

 

 

 彼の名は――――サルモネラ。

 

 彼は、物心がついた時には両親の顔を知らない物乞いだった。

 大都市の路地裏で、物好きな人間に恵んでもらったり、また奪いながらこれまでを生きてきたチンピラである。だから、サルモネラにとって「誰かから奪う」という考えは至極当然の摂理だったのだ。それも、狩猟民族が狩りでも行うかのように。我々一般人が、食料品や日用品を買ってくるように。

 ただサルモネラの場合は、その生活に必要な略奪に趣味と実益(勿論彼自身にとっての)を見出していた。行商人の動きをクロスボウの矢で封じてから痛めつける………できるだけ殺さないように。彼に襲われたと思われる人や動物が矢による傷以外の打撲痕が残っていたのはそのためであった。

 

 今回も、やや事情が違うと言えども、同じことをするはずであった。

 クリエメイトの情報は、ある日、強盗(狩り)から帰ってきた時に、アジトの入口に依頼書と彼には一生拝めないであろう金額の()()とともに置いてあった。

 クリエメイトが召喚されることと、その殺害の依頼を旨にした文がしたためられていたそれを見て、サルモネラは信じようとはしなかったが、成功した暁にと記されていた報酬が()()()()()()()()()()()()()()()。欲望に忠実だったサルモネラが乗らない理由はなかった。

 

 

 彼自身、自分の実力には自信があった。誰かから奪い取るには力がいる。たとえ自己流でもサルモネラが自らを研鑽しない訳などなかった。 

 だが、初回の襲撃の結果は散々だった。クリエメイトは仕留め損ね、ローリエからは麻酔銃の弾を4発食らい、命からがら転移魔法で逃げ帰ってきてしまった。

 

 

「あった。……クッソ、指先が痺れてフタが取りづれえ………」

 

 しかし、サルモネラは諦めてはいなかった。

 自分は常に、狩る側だった。生まれた時から、物心ついた時から、砂漠に拠点を構えた時も、そして………これからも。

 そのプライドを掲げつつ、サルモネラは先日馬車から奪っていた解毒薬をあおった。

 

 

「まずは痺れを取ってからだ。体を休めて、その先は………様子見だな。

 流石に、お荷物ひとり抱えてるとはいえ、賢者二人相手はちっと分が悪い……か……」

 

 

 先の襲撃での反省点を自分なりに挙げつつ、毛布に横たわり、痺れが取れるまで休む。

 その表情は、まだ肉食動物が獲物を楽しみにしているようなもののままだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「サルモネラ、かぁ……そうか、あの野郎はそんな名前なんだね。」

 

 

 確か、鶏の卵のカラの表面に付着している菌だかの名前だったか?

 みーくんを狙うようなクソ野郎にはピッタリの名前じゃあないか。

 

 

「なるほどな。カルダモン、ローリエ、しばらくは召喚士だけではなくそのサルモネラとやらにも気を付けた方がいいな。

 ローリエには、カルダモンの武器整備が終わり次第別の命令を下すつもりだったが……クリエメイトをサルモネラから守る任を任せてもいいか?」

 

 アルシーヴちゃんも、カルダモンからサルモネラ(バイ菌野郎)の報告を受け、俺にそう告げた。この命令は、合法的にここに留まれることを意味する。

 

「まっかせなさい! 必ずあのバイ菌のドタマに風穴開けてやる……!」

 

「……過激なことは控えろよ。」

 

 大丈夫大丈夫。クリエメイトの前で本当にそんなことはしないから。

 

 

「あとは……なにかあるか?」

 

「あ、そうだ。

 ……ねえ、アルシーヴ様。あのクリエメイト、あたしがもらっちゃダメ?」

 

 

 アルシーヴちゃんの確認に、カルダモンがそう尋ねる。確か、本家でもこういうシーンはあった。「あたしに立ち向かってきたクリエメイトは初めてだよ」とか言って。

 けど、カルダモンのやつ、みーくんで何をするつもりだったんだ?

 

 

「一人くらい減っても、それなりにクリエは集められるんじゃあないの?」

 

「わあぁーーーカルダモンったら大胆!!

 みーくんを貰うなんて!!」

 

 茶化すようにあげた大声で二人(みーくんを含めると三人だ)の視線を独り占めする。

 みんな、何か言いたげだか無視だ無視。最後まで言わせてもらおう。

 

 

「でも、ダメだぜカルダモン。クリエメイトは全員コンプしないとクリエは取れないし、公私混同はいい仕事の敵だ。

 それに――――

 

 

 

 カルダモンは、俺が貰う゛ゥゥッ!!?」

 

 

 良い声を出そうと頑張っていた腹に激痛が走り、立てなくなってうずくまる。確認せんでもわかる、腹パンされたやつやん……

 

 

「あはは、ローリエは冗談が上手いね。

 でも、あたしを口説きたかったらその浮気癖直した方がいいよ?」

 

「か、かっ……甲斐性があると言って欲しいな………」

 

「それを自分で言うな、ローリエ………

 とはいえ、前半の意見はその通りだ。カルダモン、まさかクリエメイトに情が湧いたわけではあるまい?」

 

「どうだろう。ただ、これまでに出会った中では一番面白い相手かなって。」

 

「……そのようなことを考えるな。

 残りの三人を早く見つけろ。八賢者としての責務を果たせ。

 ローリエ、お前もお前だ。日頃言っていることだが、自重しろ。」

 

「……仰せのままに。」

 

「りょ、りょうか……ぐふっ!」

 

「……ねぇ、アルシーヴ様? ローリエが死にそうになってるけど、いいの?」

 

「あの状態のローリエはまだ余裕だ。無視で構わん」

 

 

 割と大丈夫じゃないのに、アルシーヴちゃんには無視されたまま、転移魔法で帰られた。泣きそう。

 

 

「八賢者としての責務か……

 しょうがないって、直樹美紀もわかってくれるよね?」

 

「っ……。」

 

 

 クリエケージに入れられたみーくんが、反逆の瞳で俺とカルダモンを睨みつけてくるのが、非常に辛かった。

 

 

「それで、直樹美紀……

 あなたのことはなんて呼べばいい?

 なおなお? みきみき? みっきー? みーくん?」

「おいやめろ、みっきー呼びだけはダメだ。

 オ○エン○ルラ○ドの人たちとOHASHIすることになってそのまま行方不明になる!」

「なんでローリエさんはそれを知ってるんですか……

 あとみーくんはやめてください」

 

 

 あと、仕方ないとはいえ、本人にみーくん呼びを封印されて「直樹さん」と呼ばざるを得なくなったのはかなり辛かった。この時ばかりは気安く「美紀」と呼べるカルダモンをちょっと羨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、今、あたしの手下が美紀の仲間たちを探してるんだけど、居場所に心当たりはない?」

 

「……私が、答えると思いますか?」

 

「ううん、美紀なら答えないと思ってる。美紀は強い人だから。

 まさか、捕まえるのにあんなに苦労するとは思わなかった。ローリエがいなかったら捕まえられなかったかも。」

 

 

 心の中で呼び慣れないみーくんへのあだ名を練習をしていると、カルダモンがみーくんへの尋問?を始めていた。

 

 

「クリエメイトはもっと弱い存在だと思っていたけど、考えを改めないといけないね。

 ただ……美紀が特別なだけかもしれないけど。あんな世界で生きているんだから。」

 

「私たちのこと知っているんですね。」

 

「聖典で一通りのことはね。だから、美紀たちにとっても悪い話じゃないと思う。」

 

「何が、ですか。」

 

「ここにいることが、だよ。」

 

 

 来たか。やっぱり、そんなことを聞くんじゃあないかと思っていたよ。

 学園生活部(がっこうぐらし!)の世界は、既に全世界がほぼ滅んでいると言っても過言じゃない。ランダルコーポレーションのウイルスが流出したことにより、全世界バイオハザードが起きて、生存者よりも“かれら(ゾンビ)”の方が多いんじゃないかってほどに荒れ果てている。冗談でも住みたいと思える環境じゃないだろう。

 そこで出てくるのが「ヘイガールズ、エトワリアに移住してみないか?」という提案だ。治安は現代日本ほど良くはないかもしれないが、バイオハザードで滅んだあそこよりはマシだろう。

 

 

「さっきは盗賊が出ちゃったけど、中心部へ行けば治安も良くなる。美紀たちはそこで何事もなく生きればいい。

 あたしたちは美紀たちからクリエをいただく。

 ここから逃げ出してどうする? 元の世界に戻ったところで何がある?」

 

「それは………」

 

「答えられないなら、そんな世界なんて捨ててしまえ。このまま……あたしの元に居ればいい。」

 

 

 みーくんが暮らしていた世界に何があるのか……聞かれて簡単に答えられるわけがない。99%壊れてなくなってしまったような世界だ。「何もない」と分かっていても、認めたくないのが本音なのだろうか。

 しかし、みーくんは最終的に「学園生活部全員で一緒に生きる」ことを選び、元の世界へ帰っていく。よくそんな英断ができると思う。

 俺だったら絶対逃げ出すね。常に命の危機があるバイオハザード世界になんていられるか。自身や周りの大切な人の命を考えたら、こっちに移住するのが合理的な選択だと思う。

 

 

「カルダモン。彼女を独り占めにして、何する気だ?」

 

「あれ、妬いてる? ダメだよローリエ。美紀に手を出すつもり?」

 

「出すかバカヤロウ。俺の守備範囲は18からだ。」

 

「……あたしも範囲内じゃないか。狙ってるの?」

 

「………つかぬ事を伺うけど、カルダモンっていくつなの?」

 

「乙女に年齢聞いたらダメだよ。………あたしは18だけどさ」

 

「まさかの年下ッ!!?」

 

 

 衝撃的な事実に固まる。カルダモンの言葉で深く考えていたみーくんも、目を白黒させて俺達のやりとりを見ている。

 「驚いた?」と訊かれたので、「調停官なんてやってるから、同い年か1、2コ上だと思ってた」と正直な回答を返せば、「そんなに年とってるように見えるの?」と不服そうにむくれた。かわいい。それだけしっかりしてるように見えるんだよ、とフォローしておいた。

 

 

「あたし、そろそろ離れて他のクリエメイトを探しに行くから、武器の整備ついでに頼みたいんだけど、美紀を説得してくれないかな?」

 

「俺に? カルダモンの言うことには従うけど……彼女、俺の話聞いてくれるかなぁ?」

 

「大丈夫。

 美紀、気が向いたらあたしかローリエに言ってね?」

 

 

 そう言うと、カルダモンはたッ、と足音一つで消えてしまった。相変わらずの速さに、まだ目は追い付かない。

 そして、クロモン達という癒し要素はありつつも、言葉を交わせる生物という意味では俺とみーくんの二人っきりになってしまった。

 とりあえず、改めて挨拶程度はしておこう。

 

 

「八賢者ローリエだ。さっきの変なロン毛野郎からは守ってやるから、安心しな、みーくん」

 

「みーくんはやめてください」

 

「し、しまった……! 聖典での君はいつも『みーくん』って呼んでたからなぁ……『直樹さん』呼びなんて慣れなさすぎて呼びづらいんだ。呼びやすい『みーくん』でいいだろ?」

 

「駄目です」

 

「駄目か……」

 

 

 またうっかりみーくんと呼んでしまった。

 そもそも『みーくん』はゆきちゃんが付けたんだ。慣れないけど、『直樹さん』呼びに慣れるしかないか。

 

 あと、説得を聞くとは思えない。でも、学園生活部の意志を知るためだ。ほんのちょっぴり、悪役を演じるとするか。

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 カルダモンに言い寄っていたネタ枠兼主人公20歳。みーくんに出会えた事に内心テンションが上がりながらも、サルモネラという謎の男には敵意をいだいている。

カルダモン
 三章の壁となる八賢者18歳。面白いものが大好きで、新しいことに興味が湧く彼女としては、各地を回る調停官の仕事を行いつつも、交友関係は一番広いのではないだろうか。サルモネラについても、知り合った人達が殺され、死んでいく様子を見たら間違いなく怒るだろう。

直樹美紀
 捕虜となったクリエメイト16歳。みーくん。彼女とローリエの会話フェイズでは、向かうべき二つの道におおいに迷うことになる。サルモネラに襲われたせいで、エトワリア人への不信感半端ないけど。

サルモネラ
 拙作オリジナルキャラクターにして、三人目のオリ男。幼い頃からの環境が良くなかったせいで、盗賊に身を落とさざるを得なかった人間。砂漠を拠点に、荷馬車を襲って糧を得ている。チンピラでしかないが、欲望に忠実で、趣味と(個人的な)実益を兼ねて強盗をしている、悪人の典型である。また、考える頭もないので、破格の報酬目当てにこのオーダーの事件に乱入することになる。名前のモデルは同名の菌から。


サルモネラ菌
 食肉や卵、家畜や人の腸内に生息している、食中毒を引き起こす菌。特に鶏からの汚染率が高い。食中毒を防ぐ三原則「つけない・増やさない・やっつける」を守り、清潔な手と迅速な調理、低温保存や加熱処理で防ぐことができる。

みっきー
 創作物では使用することが禁忌とされる、アメリカで生まれたアニメの主人公のネズミの名前。現在のハーメルンの規約では、「ディズニーを題材にした作品の投稿を禁止」を削除されているため、こうして解説することができるが、取り扱う際には、最大限の敬意と注意が必要である。

バイオハザード
 生物的危害、生物災害と訳されるが、日本では1996年よりカプ○ン社より発売されているサバイバルホラーゲームシリーズが連想されるだろう。ゲームの世界観でも、とある製薬会社の実験によりゾンビだらけの街になった舞台や、未開の地でゾンビと戦いながら目的を遂行する、という物語になっており、ナンバー次第では「製薬会社の薬によるゾンビ災害」というがっこうぐらし!との共通点を見いだすことができる。



△▼△▼△▼
ローリエ「カルダモンに、みーくんの説得を頼まれちまった!はっきり言って気が進まないし、効果があるとは思えないな……」
美紀「みーくんじゃありません」
ローリエ「でも、彼女達にはあるはずだ……結果に惑わされずに、真実へ向かおうとする『黄金の意志』が!」
カルダモン「なに、それ?」
ローリエ「口で説明する前に行動で示して心で理解するべきだろうな。」

次回『転がる石(ローリング・ストーン)黄金の意志(ゴールデン・マインド)
カルダモン「また見てね?」
▲▽▲▽▲▽


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第27話:転がる石(ローリング・ストーン)黄金の意志(ゴールデン・マインド)

“生きていれば、それでいいの?”
 …祠堂 圭


 カルダモンさんが去ってしまった後、私はただ、クリエケージと呼ばれていた檻の中で、暇を持て余していた。

 

「………。」

 

「…………。」

 

 一応、ローリエさんがいて、例の盗賊が再び襲ってこないように守ってやると言われたが、敵と話すつもりもなく、だからといって檻から出ようとするとクロモンと呼ばれる二足歩行で帽子をかぶった黒い子猫のような生き物がくーくーと警告してくるため、動くこともできない。

 

 誰かが話してくるわけでもない、ローリエさんがしているであろう、何かの作業音以外のない、静寂が支配した空間。そんな雰囲気は久しぶりだった。

 

 二人っきりでいるのも、こうして一人で考えるのも、久しぶりだ。

 

 

 

 

 

 先輩たち、大丈夫かな。

 カルダモンさんの話だと、まだ見つかってないみたいだけど……

 

 

 もし、ここに連れてこられたのが私だけだったら、どうしてたんだろう。

 

 

 

『元の世界に戻って何になる。』

 

『このままあたしの元にいればいい。』

 

 

 

 カルダモンさんの言葉が蘇る。

 

 檻の中にいればお腹も空かない。

 備えるようにして寝なくてもいい………

 

 

 ……でも、それでいいのかな。

 私は……」

 

 

「確かに、クリエケージはそこだけが欠点だよな。」

 

「!!?」

 

 ローリエさんにいきなり話しかけられ、思わず身構える。元の世界では、圭と二人きりになって以降、男の人と出会わなかったから警戒してしまう。

 

 

「あ、あの……」

 

「……! あぁ、ゴメン。

 一言声をかけてからの方が良かったかな。途中から声に出てたもんだから……」

 

「あ…………す、すみません……」

 

「気にしないで。……まぁ、男が二人っきりの状況で『気にするな』ってのもなんだけどさ。」

 

 

 さっきまでの考えが口に出ていたとは知らず、顔が熱くなってしまう。

 

 

「……今の君にはきっと、進むべき二つの道がある。」

 

 ローリエさんが、手元の何かを作りながらいきなりそう始めた。

 

「進むべき……二つの道?」

 

「そう。一つは、『全員で元の世界に帰る』道。さもなくば―――『全員でここに残る』道……。」

 

 

 それは、カルダモンさんからの提案を受けて、どうすべきか迷う私が決めるべき選択肢を、簡単にまとめているようだった。

 

「全員で、って所は確定なんですね。」

 

「違うのかい?」

 

 気になったところを尋ね、返ってきた答えは、あたかも「私達ならその選択肢以外はありえない」と言葉なくして語っているかのようで、しかし温かい表情だからか威圧感も感じなかった。

 

 

「……カルダモンさんは先輩たちを捕まえるために、探しに行ったんですよね。」

 

「……ああ、そうだ。」

 

「なら、私たちが取るべき道は一つです。

 私は、行かなきゃならない。先輩たちのところへ。

 ここにいたら、ダメなんです。ただ、ここで生きているだけじゃあダメなんです!」

 

 

 カルダモンさんとローリエさんについて、確かな事が一つだけある。

 

 それは、サルモネラとかいう盗賊から私を守ってくれたこと。

 

 この場所はとてもやさしい場所だ。

 

 食事や寝る場所で困ることは無いし、手足を伸ばして入れるお風呂だってある。

 

 こんな日々を過ごすのは、元の世界では当分難しいかもしれない。

 

 でも――――――

 

 

「―――()()()()()()?」

 

「え?」

 

 

 突然、ローリエさんの目が険しくなった。

 カルダモンさんがしていた、興味と好奇心の目じゃない。ヒトを試すかのような挑発的なそれに見えた。おそらく彼はそのつもりなんだろう。

 

 

「ルネサンス芸術の頂点の一角として歴史に名を残したかのミケランジェロが言った言葉がある……」

 

「!!?」

 

「『私は大理石を彫刻する時、着想をもたない………「石」自体がすでに彫るべき形の限界を定めているからだ……………わたしの手はその形を石の中から取り出してやるだけなのだ』と」

 

「え……ろ、ローリエさん……!?」

 

 

 突然ローリエさんから語られた、こちらの歴史の―――()()()()()()()()()()()()()は、私を混乱させるのには十分だった。

 なぜ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな疑問の前には、ミケランジェロはそんなことを言っていたのか、という新たな豆知識の開拓など些細な事にすぎなかった。

 

 

「ミケランジェロは『究極の形』は考えてから彫るのではなく、すでに石の中に運命として『内在している』と言ったんだ。彼は彫りながら運命を見ることができた芸術家といってもいいだろう」

 

「………なにが、言いたいんですか?」

 

 

 次に出てきた疑問は、その一点に尽きた。彼が一体何を考えているのかが分からなくて、ちょっと声が震えてしまったかもしれない。

 

 

「あー……つまりだな? えーーっと……帰ったところで運命は変わらん、ってこった。

 みー…直樹さんは運命を信じるかい?」

 

「………。」

 

 

 ローリエさんの答えが、未だに要領を得なくて、沈黙してしまう。

 いきなり運命とか、そんな話をされても困ってしまう。

 

 

「うーん、何て言えば伝わるかな………俺は聖典について、ここに住む人よりもよく知っている。

 だから、この先君達の身に何が起こり、それに対して君達がどう行動するかも知っている。」

 

「!?」

 

 

 にわかには信じがたい話だった。

 おそらく、事前に二人から「聖典」の話を聞いていなければ取り合うことすらもしなかっただろう。

 

 

「詳しくは言わないし、知りたくもないだろうからアレだけど……生存者同士で争うこともあるだろう。君達を騙そうとする輩も現れるし、全員の生存が絶望的って状況にも陥るかもしれない。」

 

 

 次々と告げられるのは、きっと私達に待ち受けるであろう未来のことなのだろう。「聖典」を実物で見て、それで……

 だんだんと考えがまとまらなくなる。未来のことを抽象的とはいえ淡々と宣告されて、戸惑うなって方が無理な話だ。彼の言葉を遮りたいのに、止めなきゃならないのに、制止の声が出ない。変わらず真剣で、だが試すような表情をしているからだろうか。

 

 

「だからこれは……千載一遇のチャンスと取ることもできる。

 ここにいれば、確実にその運命を変えることができる。」

 

「………!!」

 

 

 その言葉でやっと、ローリエさんの言わんとしている事が理解できた。

 

 

「ゾンビに襲われることも、生存者同士の醜い争いに巻き込まれることも、子供数人ではどうしようもない組織が悪意をもって近づいてくることも、まず回避できないだろう………それも、別世界に転移でもしない限り。」

 

「………それが、運命だとでも言うんですか?」

 

「運命のようではあるがね。ただまぁ……俺の言う事に間違いがないのは断言できる。」

 

 

 私達の未来を知るという者から突然提示されたその誘惑は、カルダモンさんの提案とまったく同じ筈なのに、惹かれそうな甘さを感じた。

 まるで、「帰っても辛い事が待っているだけだ」と諭し、「辛い目に遭ったのなら逃げても良いのだ」と甘やかそうとしているかのようだ。

 

 でも、仮に彼が言っているような未来が待っていたとしても……私は間違っていたとは思わないし、曲げるつもりもない。私は―――

 

 

「あなたの言いたいことは分かりました。

 きっと、あなたの知っている私達は……元の世界で辛い目に遭う。その運命を、ここに移住すれば変えられる。

 そう言いたいんですよね?」

 

「………その通りだ。」

 

 

 

 

 

 

 

「……それは、逃げているのと変わらないじゃあないですか。」

 

「……!」

 

 

 私は、もう逃げたくない。

 

 あの日、モールで声が聞こえた時、思わず追いかけていた。

 

 もし、あの声に気づかなかったのなら。今もあの扉の内側にいたのなら―――

 

 ―――きっと、私はここに残ることを選んでいるだろう。ただ逃げて、生き残るために。

 

 

 

 

 けれど。

 

 

 

 

 あの日―――私は先輩たちに助けられたのだ。そして、たくさんのものを貰った。

 

 生きていて良かったのだと、今の私なら答えられる。

 

 

 

「もう、すごく昔のことに思えちゃうんですけど、『あの時』、私は友達と一緒にいたんです。

 ………私達のことを知っているんなら、圭のことも知っていますよね。」

 

「……ああ、知っているとも。

 でも……君の口から、聞かせてくれないか?」

 

 

 もとよりそのつもりだった言葉を聞き、私は今も離れ離れになっている親友について話し始めた。

 

 祠堂(しどう)(けい)。私の、大切な友達の話を。

 

 

「圭は……クラスメートで調子が良くて、元気な子で……今は離れ離れになっちゃってるんですけどね。圭と別れた時に聞かれたんです。『生きてればそれでいいの?』って。

 

 何も答えられなくて、止めることもできなくて………それで、カルダモンさんに聞かれて考えてました。

 たとえば……別の世界に行っても、生きてればそれでいいのかって。」

 

 

 あの言葉は、一度は私を抉り、圭との別れにおいて、忘れられない言葉となった。

 でも、モールでゆき先輩たちと出会い、学園生活部に入って数々の思い出を得るきっかけとなった。

 

 そして――――――今。その言葉は、私に絡みつこうとする、甘い誘惑を跳ねのけてくれる。

 

 

「『生きてればそれでいいのか』………か。

 散々邪魔した俺が言うのもなんだけど………答えは出たかい?」

 

「はい。ローリエさんの話で、自信が持てました。

 たとえ私達の運命が、『ピエタ』や『ダヴィデ像』に掘られる運命にある大理石のように、定まっているものだとしても………

 ―――私には帰るべき場所が、きっと待ってくれてる人たちがいますから。」

 

 

 

 きっと、圭と別れたばかりの私だったら、危ないからってこの世界に残っていたと思う。

 

 でも、今は―――

 

 

 

 

 

「今の私は―――先輩たちと一緒に、生きたいんです。」

 

「……そうか。だったら、俺から言えることは一つだけだ。」

 

 

 私の決意を聞いたローリエさんの表情には、もう挑発的な感情も試すような態度も残っていなかった。

 

 

 

「俺は君と、学園生活部の諸君に敬意を表する」

 

 

 

 さっきまでとは打って変わって、爽やかに口角を上げる彼の、豹変した態度に面食らってしまった。

 

 

「あの………私を説得するつもりだったのでは?」

 

「はて……? そんなこと言ったかなぁ?

 俺が頼まれたのは君の護衛とバイ菌野郎の排除だけだった気がするぜ!!」

 

 

 わかりやすくしらばっくれるローリエさんに、ため息が出て、肩の力が抜けてしまう。

 そんな私に目もくれず、荷物をまとめて彼は教会の入口へと向かった。

 

 

「とぼけないでください。さっきまで私を試すような口ぶりをしていたくせに。

 あと、なんでミケランジェロのことを知ってたんですか」

 

「俺はエトワリアで教師をしているんだ。聖典の研究は欠かせないさ。

 ……まぁ君たちのめぐねぇ(先生)程、生徒に寄り添える人じゃあないがね」

 

「……先生、だったんですね。」

 

 

 私の言葉ににそっけなく、しかしまっすぐこっちを見て頷くと入り口の扉を開けて、外に出て行ってしまった。おそらく、件の盗賊と戦うためだろう。

 

 ―――それにしても、不思議な人だった。

 私をここに残らせようとしたカルダモンさんとは違い、彼は「先輩たちと一緒に生きる」と決めた私の決断を喜んでいるみたいだった。

 かといって、どこかに嘘があったという訳でもない。

 迷う私に、道を示した言葉も、私を試したかのような鋭い眼差しも、「敬意を表する」と言った時の笑顔にも、悪意も敵意も感じなかった。

 

 目的は分からないけれど、クリエを集める道具ではなく、一人の生きている人として接してくれた、不思議な人だった。

 

 

「……行かないと。」

 

 

 とにかく、私も行かなければ。

 今もどこかで、先輩たちが探してるはずだから。

 

 ローリエさんに話した決意を、カルダモンさんにも伝えなければ。

 

 

 先輩たち3人と一緒に、生きるために。

 

 




キャラクター紹介&解説

直樹美紀
 ローリエとの対話の先に、『学園生活部全員で一緒に生きる』ことを決意したみーくん。彼が語った「ミケランジェロの彫刻論」や「自分たちの未来の話」で精神的大ダメージを受けてもなお、「運命を変える=その運命から逃げる」という解釈に目をつけて、最終的には原作と変わらない結論を導き出せた。また、親友の圭が言っていた「あの言葉」の役割や功績がきらファン原作ストーリーよりも大きい。

ローリエ
 「がっこうぐらし!」を読破&アニメ視聴済の転生者たる八賢者兼魔法工学教師。その記憶を利用すれば、みーくんにピンポイントなフォローも致命的な誘惑もできた。彼がみーくんに大ダメージを与えた二つの話も、「直樹美紀は逃げることを良しとせず、学園生活部の仲間を何よりも大切にする」ことを知っていたから話せたようなものである。しかし、下手をしたら結果が正反対になっていたかもしれないので、内心冷や汗ダラダラでもある。

祠堂圭
 図らずして親友を救った、未だ行方不明中のみーくんの友達。彼女は出ていく準備をしていたことから、自殺の意図はなく、「がっこうぐらし!」において誰よりも早く「生きる」よりも「よく生きる」ことを優先することを体現した『黄金の意志』を見せたのではないだろうか。冒頭に書いた彼女の言葉が、みーくんとゆき達を巡り合わせ、そして拙作のエトワリアではローリエの甘美な誘惑を振り払った。こうして見ると、圭の『黄金の意志』は、みーくんに受け継がれているとも見ることができる。

佐倉恵
 学園生活部を導いた、巡が丘学院高校の教師。めぐねえ。ゆき達の心を守るために学園生活部の設立を提案し、自分の亡き後も学園生活部が生き残れるように手を回していた(実写版ではそれが顕著に見られる)。ゾンビからゆき、くるみ、りーさんを庇い、この世を去る。しかし、物語の中では、主にゆきを守っている保護者ポジション。原作者の海法氏曰く、「人間的にボンクラだけど、生徒目線に立ってくれる先生」。誰かの裏の努力が見られるとはいえ、作者は彼女もまた、『黄金の意志』なるものを持っていたと考察する。それが誰に受け継がれたかは、ここに記すまでもないだろう。


ミケランジェロの彫刻論
 作中の発言の元ネタは『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』のスコリッピ。彼自身のスタンド『ローリング・ストーンズ』の能力を説明する時に用いた歴史の逸話である。この発言・彫刻論は、19世紀のロマン派美術美学研究者、ウォルター・ペイターの「ルネッサンス」という書物などに記述があり、そこにはミケランジェロの言葉として「大理石の中には天使が見える。彫刻家は彼を自由にさせてあげるまで彫るのだ」とある。この件はいろいろな形で引用されており、また様々な言葉に翻訳されているため、諸説ある。

『生きてれば、それでいいの?』
 モールの部屋に閉じこもっていたみーくんに対し、外に出る圭が告げた言葉。ゾンビパンデミックが起こり、滅んだ世界において、外で生きる事はゾンビに襲われる危険が伴う。だが、それに怯えて部屋に引きこもることを圭は良しとしなかった。この言葉はみーくんの心の迷いを突き、後に学園生活部に救出されるきっかけとなる。



△▼△▼△▼
ローリエ「みーくんは、示してくれた。彼女なりの答えを……」
美紀「だから、みーくんじゃありません」
ローリエ「だから、次は俺が男を見せる番だ。気高く生きる彼女達を、邪魔させはしない………学園生活部を狙う奴を逃しはしない。必ず、再起不能になってもらう。」

次回『気高き少女を守れ』
カルダモン「見ないと置いてっちゃうよ?」
▲▽▲▽▲▽


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第28話:気高き少女を守れ

お久しぶりです。UA数閑話書いたり試験とその後始末に追われたりしているうちに一か月が過ぎてしまった。しかも総合UAも5000突破していた。スミマセン…









“そのシャベルは、女王を守る近衛の盾のように、ゆき様を狙った不届きな矢を弾き飛ばした。そして、振り返った姿はまさしく戦乙女のそれであり、わたしは心のどこかで必ず助かるという確信をこの時、得ていた。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


『今の私は―――先輩たちと一緒に生きたいんです。』

 

 

 そう強く宣言したみーくんの瞳は、何よりも輝いていた。俺は、それを見ることが出来て安心した。

 なんせ、慣れない悪役をやったんだ。人間云十年、基本的には法を守って社会人として生きてきた俺が、だ。言葉のチョイスやさじ加減を間違えてみーくんの心を折っちゃったらどうしようと内心ビクビクだったのだが、あの強い決意ならそう簡単には揺らがないだろう。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 しかし、なぜみーくんはあんな事を真っすぐ俺の眼を見ながら言えたのだろうか? バイオハザード的世界で生きてきたからだろうか?

 

 否。それだけではあるまい。

 

 俺自身が、そんな世紀末で生きてきた訳ではない。前世はボケるほど平和な日本育ちだったし、今もバイオハザードな世界とは程遠い。でも、あの時のみーくんには、全てを乗り越えんとする逞しさが―――『黄金の意志』が、そこにはあった。

 

 それはきっと、彼女を変えるきっかけをくれた人が、支えてくれた人がいたからだろう。圭ちゃん、ゆきちゃん、くるみちゃん、りーさん、あと……直接的ではないが、めぐねえも。

 

 

 なんにせよ、みーくんは俺に彼女の生き方を見せてくれた。

 だったら、俺も見せなくてはならない。俺なりの覚悟を、行動で示さなくてはならない。

 

「……サルモネラ。覚悟はいいか?」

 

 

 俺は、教会の展望台に登って、あるものを組み立て始める。

 

 それは、俺が開発した『パイソン』よりも一回り大きく、銃身の長い……いわゆる、()()()()()()()()と呼ばれるものである。ロシアがまだ、ソビエトと呼ばれていた頃に生まれた、対人狙撃銃を元に生み出したスナイパーライフル。

 

 モデルにした銃からとって、『ドラグーン』と名付けた狙撃銃。これに、スコープを取り付けて準備完了。

 

 

 まずはドラグーンを一度置いて、俺は双眼鏡であるものを探し始める。

 それは、()()()()()()()()だ。

 きらら達一行は、直射日光の当たらない洞窟を抜けた後、みーくんを助けるために向かってくるだろう。学園生活部のみんなも一緒に来る。故に、単独の人影が見えたら、十中八九それはヤツであると確信できる。

 

 

 きらら達はすぐに確認できた。

 猛暑の中、複数人で歩いているのを見つけたのだ。まぁ、彼女達の格好が格好なんで砂漠でも見つけやすいといったところかな。

 

 問題は―――サルモネラだ。

 今思い出したことだが、あいつは砂漠の景色に溶け込める色のローブを着ていた。クソ暑いってのに、それを脱ごうとしないのは、行商人などを襲う時、できる限り気付かれないまま獲物に近づくためだろう。通気性や涼しさをかなぐり捨てたメリットが奴にはあるのだ。

 

 そんな探しにくい奴がクリエメイトと出会ったらどうなるのか。

 

 きっと、容赦なく、そしてしぶとく学園生活部のみんなやきらら達を殺しに来るだろう。

 

 特に純粋なきららや戦う力のないランプ、悪意への耐性ゼロのゆきちゃん、意外とメンタルの弱いりーさんあたりが心配だ。ゆきちゃんはめぐねえ(という名のゆきちゃんの本能)がなんとかするかもしれないが、それだけで安心するのは希望的観測がすぎる、というものだろう。

 

 

 奴がクリエメイトを見つける前に、俺が奴を見つけるんだ。もたもたしていたら誰かが死ぬ。

 

 これほどまでに焦燥感をおぼえたのはソラちゃんを呪いから守ろうとした日以来だろうか。

 

 あの日のように悲惨な結果を出さないために、双眼鏡を顔にくっつけ、目を皿にして探し始めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「まさか、あそこまで追い詰めたのに逃げられるなんてな。」

 

「最後、すっごい速かったよね……」

 

 

 洞窟でカルダモンと交戦した私達は、出口から再び砂漠へと出ていた。圧倒的なスピードを誇り、私でも目で追うのが精一杯だった。でも、心に引っかかっている、この違和感はなんだろうか?

 

 

「でも…あれは……」

 

「あれは?」

 

「まだ、余裕があったようにも見えて……」

 

 

 くるみさんに聞かれたので、まとまらない考えを、思いついたままに口に出していく。

 

 

「カルダモンが本気を出さない理由なんてあるかい?」

 

 

 私の言葉を聞いたマッチがそう尋ねてくる。確かに、現在私達とアルシーヴは敵対している。である以上、アルシーヴの部下である賢者が、敵である私達に、手心を加える道理などない。

 ランプもくるみさんも悠里さんも、マッチの疑問に明確な答えを出せずにいると、ゆきさんが突然沈黙を破った。

 

 

「わかった! 出さないんじゃなく、出せなかったんだよ!」

 

 ………()()()()()()

 

「……どうしてだ?」

 

「そ、それは……わからないけど、なんとなく!」

 

「なんとなくかよ……」

 

「でも、ゆき様の言う通り、出さないよりも出せなかったという方が納得はできます。」

 

 

 ゆきさん自身は思い付きで言ったようだけど、ランプは腑に落ちたようだ。

 私も、ゆきさんやランプと同意見だ。カルダモンもシュガーやセサミと同様クリエメイト確保が狙いだったようだし、全力で奪いに来るのが普通だ。でも、洞窟内では全力を出せなかったと考えるのならば合点がいく。

 もしかして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 でも、なぜ? 暗かったから? それとも―――

 

 

 パンッパンッ

 

 

「はーい、みんな。考えるのもいいけど、準備は出来たかしら?」

 

「おう、あたしはもう大丈夫。」

 

 

 悠里さんが手を叩く音で考えを中断し、意識をそっちに向ける。

 

 

「くるみちゃんはシャベルさえあれば百人力!

 鬼に金棒、くるみちゃんにシャベルだもんね!」

 

「誰が鬼じゃい!」

 

「お喋りはそこまで。今度は理由があってだけど、砂漠を一気に抜けなくちゃならないもの。」

 

 

 学園生活部のみなさんのやりとりを見ていると、とてもほほえましい気持ちになる。特に、ゆきさんの笑顔や言葉は、学園生活部の心の支えになっているようで、その絆がパスを通じて感じ取れた。こうして見ると、とても彼女たちの世界が滅んでしまったとは思えない。

 

 

「きららさん、美紀さんの方向ってわかるかしら?」

 

「うん……ここならハッキリとわかるよ。このまま真っすぐ東に行ったところにいる。」

 

「もう本当にはっきりと感じられるようになってたんだな。」

 

 

 くるみさんの言う通り、洞窟を抜けた今、美紀さんのパスは明確に察知できる。あとは、パスの感じる方向に向かって歩を進めるだけだ。そこにはきっと、美紀さんだけでなく、カルダモンもいるはずだ。

 

 

「……洞窟を抜けたと思ったらまた砂漠だった時は正直、どうなることかと思ったけどね。」

 

「本当にきららさんがいてくれて良かったです。」

 

 

 マッチが心配する通り、この砂漠は広い。手がかりなしで探すのはかなりの無茶だ。そういう意味では、クリエメイトの皆さんの居場所が分かるこの力で、みんなの助けになれることがとても嬉しい。

 

 

「よーし! 学園生活部、砂漠遠足の始まりだよ!」

 

 

 私達と出会ってから、様々なことを学校の行事というものに見立てて(ランプ談)ムードを盛り上げてきたゆきさんが右手を振り上げ、そう宣言する。

 遠足………ランプによると、学校でのイベントの一つで、クラスなどの同年代の仲間と共に遠出をすることらしい。

 戦いの予感を感じさせない、ゆるやかで優しい雰囲気に私たちの笑顔が綻んだ――――その時。

 

 

 

「いつの間にそんな名前――――ッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンッ、と。

 

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

 

 

 何かが激しくぶつかったような音がした。

 

 

 音のした方を見てみると、くるみさんが、ゆきさんの前に立って、シャベルを盾にするように構えていた。

 

 宙に舞う細長い何かを見て、ようやくそれがどこからか飛んできて、くるみさんがそれを防いだことを悟る。

 

 

 砂上に落ちたそれは、木の棒に金属の(やじり)がついた、まさしく矢であると一目でわかるものだった。

 

 

「走れ!!」

 

 

 くるみさんがさっきとは打って変わって緊迫した声を発したことで、みんなに緊張が走った。

 

 

「ゆき! 私のそばから離れるな!! 避難訓練だ!!」

 

「えっ? えっ……??」

 

 状況が未だ飲み込めてないゆきさんの手を引っ張り、走り出すくるみさん。

 

「みんな! 早く!」

 

 私達に声をかけることを忘れずに、くるみさんの言うとおりに走る悠里さん。

 突然のことに理解が追い付いていないが、それでも分かったことがひとつだけある。

 

 

 

 ―――――――私達は今、何者かに攻撃されている。

 

 

「ランプ! マッチ! 走るよ!!」

 

「は、はい!」

「分かった!!」

 

 

 ()()()()()()()()ものの、みんなに話している余裕はない。再び矢が飛んでくる前に、私はその足で、東に向かって駆け出すことにした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「「盗賊ぅー!!?」」

 

「……はい。皆さんと出会う前、砂漠に住み着く盗賊がいると、聞いたことがあるんです。」

 

 

 しばらく走り続けて、岩場にまで逃げ込むと、あれ以降続いていた矢の攻撃が止んだ。そこで、私は歩みを止めずに学園生活部の皆さんに、港町からの船の上で聞いた話について教えておくことにした。

 

 

「砂漠にはやり手の盗賊がいて、行商人達を襲うという噂を、この砂漠行きの船の上で聞きました。なんでも、積んでいる食料や衣服、薬品などを中心に奪っているそうです。」

 

「……なんであの矢を放ったのがそいつだって分かるんだ?」

 

「砂のような色のローブ、黒い髪。そして……クロスボウのような、矢を撃つ武器がその盗賊の特徴だと聞きました。」

 

「美紀さんや賢者のことに加えて、盗賊も出てくるのね……この遠足、厳しいものになるかしら。」

 

「いや、待てよりーさん。その盗賊とやらは、食料とかを狙うんだろ? あたしたち、目ぼしい食料(もの)なんて持ってないぜ。」

 

「えぇ。私達は、危険を覚悟で神殿への近道である砂漠を進みましたが、召喚された皆様はそんなに多くのものを持って来れなかったはずです。

 しかし、くるみ様が防いだ最初の矢は、明らかにゆき様を狙っていました………」

 

「ああ。どうやら、一刻も早く美紀の元へ向かった方が良さそうだ。」

 

 

 新たな脅威に頭を悩ませる悠里さんに、盗賊に狙われる理由を探るくるみさんとランプ、迅速な行動を促すマッチ。ここまで静かに皆の話を聞いていたゆきさん。

 みんながみんな、不安に感じている。私が、先頭に立って皆さんを安心させなければ。

 

 

「……大丈夫です。私が『コール』で、みなさんを守りますから。」

 

「おおっ! きららちゃん、先生みたい!」

 

 私の言葉に、ゆきさんが明るく反応する。先生って、私が教えられることなんて全然ないと思うんだけど……

 

「先生というより……外部協力者ね、きららさんは。」

 

「がいぶきょうりょくしゃ?」

 

「ええ、部活の時だけお手伝いに来ますよーっていう人ね。運動部のコーチとか、指導員さんみたいな。」

 

 

 首を傾げるゆきさんに悠里さんが説明をしている間、くるみさんはずっと少し遠い場所にある岩陰をずっと睨んでいた。

 

 

「………あの、くるみさん。どうかしたんですか?」

 

「…出てこいよ。さっきからコソコソ狙いやがって……!」

 

「!?」

 

 

 そう言うとシャベルを構えて近づこうとする。

 

 

「く、くるみ様……!?」

 

「まさか、そこにいるっていうのかい?」

 

「っていうか、マッチが確認してくださいよ!」

 

「無理だよ! 高く飛んでる時に撃たれたりしたらどうするんだ!」

 

 

 ランプとマッチのその会話をきっかけに、また雰囲気は一変する。悠里さんがゆきさんをさりげなく庇い、くるみさんはゆっくりと、だが確実に岩に近づいていく。

 

 すると、岩の向こうから何かが見えた。まるで弓のような形の―――っ!!

 

 

「くるみさん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンッ

 

 

 

 再び、金属同士の音がした。

 

 

 そして、くるみさんが岩陰にむかって走り出し、そこにシャベルを振り下ろした。

 

「あっぶね!? ……んだよ、ただの子供だったんじゃねーのかよ」

 

 シャベルの風切り音と共に、裏から表情が驚愕に満ちた何者かが飛び出してきた。そしてそれは、私が聞いた、盗賊の特徴と一致していた。

 

 砂色のローブ、黒く長い髪、右手に持ったクロスボウ……

 

 

 何よりも確信した決め手になったのはその表情だ。

 嗤っている。今までの人生の中で、ここまで人の顔が醜く見えたのは初めてだ。

 シュガーやセサミ、カルダモンは敵だったが、楽しそうに、もしくは何かしらの誇りをもって戦っていた。シュガーは楽しそうに戦い、セサミも今考えると卑怯な戦い方を嫌っているようだった。カルダモンについてはまだ本気を出してない可能性があるから分からないけど。

 

 でも、目の前の男は違う。私達を「敵」として見てはいない。力の差、ということではない。

 見ていると気分が悪くなってくる。心が不穏にざわついてきて、自分であることの価値が、少しずつ削れていくような感覚がする。本当に同じ人間なんだろうかと、疑問さえ湧いてくる。

 

 これが、盗賊なのか。

 

 

「『コール』!!」

 

 

 そんな気味の悪さをおぼえながら、私は戦いの準備を始める。

 宮子さんと青葉さん、そしてりんさんの魂の写し身が、力を持って現れる。

 そして、コールの宮子さんが男に肉薄する。

 

 

「チッ!! めんどくせえ!」

 

 バックステップで身を躱した男は、悪態をつきながら、矢を込めたクロスボウを向けた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――悠里さんの方に。

 

 

 

「きゃあっ!!!」

 

「悠里さん!!?」

「悠里様!!?」

 

 

 バシュッ、という風切り音がしたかと思えば、あっという間に矢は悠里さんの制服を切り裂き、肩に細くない紅い線を残した。

 

「あいつ、ゆきを庇っている悠里が動けないのを知ってて……!!」

 

 

「おまええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「よくもッ!!!」

 

 

 カッ、と頭に血が上っていく。くるみさんも完全に怒っており、真っすぐに男の方へ走っていく。

 私も、『コール』したクリエメイトに魔力を注ぐ。

 男は、矢を取り出しながら、こちらの攻撃を食らうまいと距離をとりつつ―――

 

 

「ハッ! なに怒ってやがる? 動けないヤツから殺る……この程度、()()じゃあ定石だろうがッ!!」

 

 

 ―――()()

 

 それはつまり……私達のことを、獲物か何かと見ているということだ。

 

 体中の血が熱くなり、心が煮えたぎっているかのような不快感が自身を襲う。

 

 

「………許せない」

 

 

 更に魔力をクリエメイトに注ぎ込む。この後のカルダモンとの戦いなんて関係ない。

 目の前の男を、一刻も早く倒さなければ。

 出来るだけ迅速に、この外道を、こ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 バキン

 

 

「「「!!!?」」」

 

 

 突如、男が持っていたクロスボウの弓が折れる。

 

 

「…はっ?」

 

 

 思いもよらない出来事だったのか、折れた弓を見た男が素っ頓狂な声を上げて一瞬、固まる。

 その様子を見たお陰か、私にほんの少しだけ、冷静さが戻る。

 

「宮子さん、くるみさん!」

 

「…! おう!」

 

 男が呆けた隙を突き、私の合図で宮子さんの武器とくるみさんのシャベルがその体に迫る。直前で男が攻撃に気づくも、その時には既に避けたり防いだりするには遅すぎた。

 

 

「ぐッ!!?」

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

「はあああああああああああああっ!!」

 

「ぐおはァァーーーーーーーーッ!!!!?」

 

 

 二人の武器が、男の鳩尾に食い込み、そのまま吹き飛ばす。ローブが脱げ、クロスボウが手から離れ、空中で錐揉み回転しながら吹っ飛んでいく。

 やがて砂上に落ち、その衝撃で起こした砂煙が晴れても、彼が起きてくる気配がなくなった。

 

 

「……やりました! さすが、きららさんです!」

「すごーい! きららちゃん、本当に強いね!」

「ありがとう、きららさん。」

 

 ひとしきりの沈黙の後、ランプが歓喜する。それで私達が勝ったことを確信したのか、りんさんに傷を治してもらっている悠里さんとゆきさんは安堵の息をつく。

 

「皆さんが無事で良かったです。」

 

「……なぁ、きらら。こいつ、どうする?」

 

 

 くるみさんが、先ほどの男を親指で指しながらそう尋ねる。彼は今まで何度も強奪を繰り返してきた盗賊だ。どこかの治安機関に引き渡すべきなのだろう。 

 

 

「仮に縄で縛ったとしても、連れて行く余裕なんてないよ。それに他にやることがあるだろ、きらら?」

 

「うん。分かってるよ、マッチ。」

 

 

 だが、マッチの言うとおり、先にやるべきことがある。東に反応があるクリエメイト――恐らく美紀さんだ――の元へ向かわなくてはならない。

 

 

「この人は、ひとまず念入りに縛っておこう。その後、美紀さんの所へ向かいましょう。」

 

「オッケー。カルダモンとコイツから挟み打ちを食らったらたまらないからな。」

 

「私も手伝います、きららさん。

 一刻も早く、美紀様を迎えに行かなくては。」

 

 

 突然襲いかかってきた男を、再び誰かを傷つけることのないように縛り上げた後、私達は美紀さんの反応のある東へ急いだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ………嫌なものを見てしまった。

 サルモネラの野郎、ゆきちゃん達に向かって矢を放ちやがった。しかも、何の躊躇いもなく。

 

 幸い、誰も大怪我を負っていないが、そんなものは結果論だ。

 

 見つけた時は、ゆきちゃんに矢が撃ち込まれたことで皆が走り出しており、狙撃の準備に入り再び奴を見つけた時はりーさんに向かってクロスボウを構えていた。

 

 スコープ越しから、汚い本性を感じ取れるかのような奴だった。

 サルモネラに狙いをつけて撃った弾は――――どうやら、奴の持っていたクロスボウの弓に直撃し、それをへし折ったようだ………体を狙ったはずなんだけど、まぁそこはよしとしよう。

 それがきっかけで、宮ちゃん(多分、きららがコールで呼んだのだ)とくるみちゃんのダブルアタックで、仕留めることが出来たのだから。

 

 

 さて。

 

 

 きらら達がカルダモンとみーくんの所へ行っているスキに、あのバイ菌野郎には……洗いざらい吐いて貰おうか。

 

 

 

 ―――楽に死ねると思うなよ?

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 クリエメイト達を害そうとしたサルモネラを発見し始末するべく、教会の展望台からゴルゴした(訳:狙撃を敢行した)八賢者。間一髪でサルモネラの攻撃には間に合わなかったものの、結果的にはサルモネラの武器を折り、きらら達の勝利に貢献する。しかし、まだ任務も彼自身の怒りもまだ終わっていないようだ……

きらら&ランプ&マッチ
 原作主人公一行。砂漠で学園生活部と出会い、洞窟でのやりとりを通じて情報交換を行い、学園生活部への仮入部を果たす。拙作では語らなかったが、洞窟内で一度カルダモンと交戦済みであり、そこで美紀が彼女に捕らわれていることを知った。『コール』を使った戦闘の描写はいまだ模索中。

恵飛須沢胡桃
 きらら達と合流した学園生活部のシャベルの子。今回の話に出てきた、胡桃がクロスボウの矢を弾き飛ばすシーンは、原作「がっこうぐらし!」の大学編の序盤を意識している。また、尾行するサルモネラに気付いたり、コールの宮子と同時にとはいえ人ひとり吹っ飛ばすシーンもあったが、原作中に出てきたとある事件をきっかけに身体能力が向上したことに起因するものである。時系列? 気にするな!(魔王ヴォイス)

丈槍由紀&若狭悠里
 きらら達と合流した学園生活部の部長&ムードメーカー。本家にはないサルモネラ襲撃でもあまり活躍する場を与えられなかったが、そもそもこの二人は戦闘に向いていないので仕方ない部分もある。ゆきについては、カルダモン戦にて出番が増えるかもしれない。

サルモネラ
 クリエメイトを連れた女子供を襲ったと思ったら、案外手ごわかった上に『コール』とくるみの身体能力に押され、更に戦闘中に武器が折れた隙を突かれ敗北した盗賊。しかし、弱い者・動けない者を積極的に狙い、きららとローリエの地雷を踏んだ。彼への受難は、まだこれで終わりではない―――。



△▼△▼△▼
ローリエ「紆余曲折こそあったものの、サルモネラを無力化したきらら達。彼女達はこの後、カルダモンに挑むことだろう。俺は俺で―――やることがある。そう……色々とやることが、な。」

次回『依頼の謎』
ローリエ「…絶対、見てくれよな」
▲▽▲▽▲▽


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第29話:依頼の謎

“あの時の俺の中にあったのは、『きららファンタジア』に出てこない人物への理不尽な怒り……だけじゃないと信じたい。もしそうじゃないのなら、コリアンダーと友達になることさえしなかったから。”
 …八賢者ローリエ・ベルベットの独白


 おぼろげな意識が覚醒する。

 

 見慣れた砂漠の水平線が縦に見える。片頬に熱い砂の感覚を感じて、初めて自身が倒れていることに気が付いた。

 

 立ち上がろうとするが、腕も足も言う事を聞かない。頭は動くので、体を見てみると、入念に縛られているのが分かった。

 

 彼は、必死にさっきまでの記憶を辿った。

 

 

 体の痺れが取れた後、破格の報酬の依頼をこなすため、クリエメイトなる人間を追っていた。

 そこで、ターゲットの三人が見慣れぬ人間たちと共に歩いているのを見つけ、先制攻撃を行い、そして………

 

 

「よう、サルモネラ。さっきぶりだな」

 

「!!?」

 

 

 自分以外の男の声で、名前を呼ばれた。

 声のした方へ首を向けると、そこには確かに、男がいた。

 緑色のはねた髪に、暑さに考慮したのか、グレーを基調としたカジュアルなを格好をしている。

 なにより、その男の表情は、彼―――サルモネラにとっては初めてのものだった。

 

 自身を見下す()()()()()()()()()()()は、吸い込まれるように暗く、しかし氷河のように冷たく、優れた刀匠が研ぎあげた剣のごとく鋭いものだった。それが、サルモネラにとっては異次元のもののようで、冷え切った表情で見下す男の意図を測りかねていた。

 

 

「て……テメェは…?」

 

「話してもらうことがたんまりある。おたくのアジトまで案内しろ」

 

 

 男は、有無を言わせぬ態度で要求してきた。

 

 なぜ、そんなことをしなくてはならないのか。言う事を聞くメリットなんてあるわけがない。サルモネラの心にあった、反骨心がむくむくと膨れ上がる感覚がした。

 

 

「なんでテメェの言う事なんざ聞かなきゃ―――」

 

 

 

 バァァン!!

 

 

「ぐあっ!!?」

 

 

 突如、一瞬のうちに右肩に激痛が走った。これまでに経験したことのない、そして今までのどんな怪我よりも激しい痛みだった。まるで、高温の生き物か何かが骨の髄まで突撃してきて、そこにある神経やら何やらを根こそぎ食いちぎっていくかのような……。

 

 

「早くしろ」

 

 

 そして、その激痛を引き起こしたのだろう、見かけない面妖な形をした何かをこちらに向けている張本人は、変わらず冷たく、淡々とした態度で了承を促す。

 その態度や、瞳や、表情は、まるで人間の皮を被った機械のようであった。

 

 そこにいるから攻撃する。

 そこに腹があるから殴る。

 そこに肩があるから壊す。

 そこに首があるから切る。

 そこに命があるから殺す。

 

 幾度となく命を奪ってきたはずの自分が、情けなく息を乱し、体が震えている。激痛と気味の悪さと恐怖ゆえに目の前の男から目を逸らせずにいる。

 

 

「な……なんなんだよ、テメェは!?」

 

「なんなんだって……忘れたのか? さっき麻酔弾をくれてやったの」

 

 

 その言葉にサルモネラは耳を疑う。目の前にいる男は、自分をほんの少し苦しめた麻酔弾を撃っただけの、ローリエと呼ばれていたあの男だというのかと。

 初めて会ったのは、クリエメイトなる人間を殺す依頼を受けた後、最初に見つけたクリエメイトを巡って戦った時である。自分の登場にこれ以上なく狼狽え、あと一歩のところで命拾いしただけの男。反撃こそしてきたものの、非殺傷性の液体麻酔弾しか撃ってこなかったあの男が………なぜ、ここまで豹変するのか? 豹変できるのか?

 八賢者の一人ということは知っていたが、はっきり言ってカルダモンのスピードの方を警戒すべきと考えていた。しかし、目の前のこの男が放っているのは何だ?

 

 

「そんなことより、とっととアジトへ案内しろ」

 

「ひっ………!!?」

 

 

 想像以上の殺気。居合わせるだけで竦んでしまうほどの覇気。まるで、子熊を傷つけられた母熊のように激しく、重いプレッシャーがのしかかる。

 生まれてこの方、自分は狩る側だと思っていた。そしてそれは、息を吸ったら吐くかのごとく、人に食べ物が必要であるかのごとく、当たり前のことだと思っていた。

 だから、サルモネラは自分が普段行っている略奪(こと)が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だが、目の前の異常な男を前にして気付いたのだ。

 

 奪うということは、奪われた誰かが悲しむことを。

 また、自分もまた、より強い力に淘汰されるだけの、ちっぽけな存在なのだと。

 

 故に。

 

 

「わ、わかった。わかったから……」

 

 

 殺さないでくれ、と言外に懇願するようにローリエの言葉に従うことにした。

 恐怖に縮こまり掠れたその言葉を聞くと同時に、異常な殺気が治まっていくのを感じた。

 

 

「それでいい。」

 

 

 そう言うと、サルモネラの足を縛っている部分の縄だけを解いたローリエは、サルモネラの背中にマグナムを突き付けながら、砂漠の盗賊のアジトへと歩かせていった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 怯えきったサルモネラを『パイソン』で押しながら歩いた先で、突然人影が現れた。二人組の男のようだ……ってアレ。

 

 何事かと思ってよく見てみれば、そこには俺とサルモネラが映っていた。

 

 

「……鏡か」

 

 

 サルモネラが頷く。このやり方は砂漠や森などの背景に変化のないようなところで身を隠すのには効果的なものだ。ジョジョ3部でも似たようなことやってる敵が出てきたし。確か小石の投擲で再起不能になってたけど。

 鏡をどけると、そこは簡易的なテントとなっており、その中は強奪してきたであろう食料や薬、日用品などの様々なものが所狭しと雑多に散らかっていた。かろうじて毛布のまとまっているところが寝床だと分かるくらいだ。

 

 

「……なんでみー…じゃない、クリエメイト(あの子達)を襲った」

 

「………。」

 

 

 相変わらず引きつった表情をしながらサルモネラが毛布の一枚をめくったところにあったのは、漫画みたいに積まれていた札束の山と、何かが書かれた一枚の紙。つまり、こいつは何者かから雇われていたことになる。

 

 

「依頼書を渡せ。そいつを読みたい。」

 

「っ!!」

 

 

 拳銃を持っている右手に揺れが伝わる。動揺が体に出た証拠だ。

 間違いない。その依頼書に確実に()()がある。

 

 

「……今更隠しても無駄だ。」

 

 

 そう言うと、観念したのか、その紙を手渡してきた。

 

 『パイソン』を片手に持ったまま、その紙の内容に目を移す。

 

 

 そこに書いてあったのは、驚きの―――それも、冗談では済まないレベルで書いてあったらマズい事が記されていた。

 

 

「『クリエメイトの殺害依頼』……『殺害リスト』………!? こ、これ…クリエメイトの名前と似顔絵がある……!!?」

 

 

 クリエメイトを殺せって依頼は予想できたが、まさか召喚されるクリエメイトまで把握されてるとは思わなかった。というか把握されてちゃダメだろコレ絶対。

 『オーダーを使う』というのは、神殿内の人間なら分かっていてもおかしくはない。ただ、『今回、学園生活部をオーダーで呼ぶ』ことは、アルシーヴちゃんとカルダモン、そして俺以外に知っている奴がいるはずがない。それが、サルモネラのようなちょっと悪名高い盗賊に漏れた時点でかなりヤバイ。

 ここまででもぶったまげるには十分だったが、報酬の欄を見た時、俺はスタンドも月までブッ飛ぶ衝撃を受けた。

 

 

「…………『報酬―――――現在までの罪状の全恩赦及び無期限の私掠の許可』……だと…!?」

 

 

 ここまで破格で、越権行為そのもののような報酬は見たことがない。

 つまり……もし今回、サルモネラが依頼を達成した場合、誰もやつの略奪を咎められなくなるどころか、法がサルモネラの味方をすることになっていたのだ。あまりにも非常識だが、サルモネラが受ける理由はなんとなく想像できた。

 そして―――この報酬を書いたってことは、依頼主はサルモネラを利用しようと画策していたか、一人の指名手配犯の罪状などどうにでも操作できるほどの権力を持っている、ということになる。

 

 

「………っ!!」

 

 そこで、視界の端で誰かが動いたような気がして、『パイソン』をその方に向け、引き金を引く。

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああっ!!!?」

 

 バァアンと重厚な爆音と汚い悲鳴が同時に響き渡り、サルモネラは粉々になった両膝を、寝っ転がりながら押さえていた。

 奴は、逃げようとしたのだ。

 

 

「ったく、油断も隙も無い。」

 

 

 悪いが、コイツを逃がすわけにはいかない。重要機密を(意図せず)知っている人間だ。どのような手段を取るにせよ、迂闊に喋らないように手は打たないといけない。

 

 それに……俺は大好きなクリエメイトを傷つける奴を許せるほど、冷血にはなっていない。

 

 

「サルモネラ。これからお前を中央へ引き渡し、犯罪者として裁く」

 

 そう宣言すると、サルモネラはヒュッ、みたいな変な声を出しながら自身の傷から俺へと目を移した。

 その顔には、初めて出会った時のような嘲笑う笑みなどどこにもなく、ただ蛇に睨まれた蛙のように怯え、涙やら何やらでぐしゃぐしゃになった表情がしっかりと張り付いていた。

 

「『金を積まれてクリエメイトを狙ったこと』以外、証言するな。そしてこれから一生、牢獄の奥の奥でひっそりと誰にも迷惑かけないように暮らすが良い。」

 

 

 鼻先に『パイソン』をつきつけて、凄みをかける。自然と、声のトーンが1オクターブ下がった。

 

 

「もし余計な事を喋ったり、脱獄か釈放かで一歩でも外に出てみろ。

 

 ――――――俺はどんな手を使ってでもお前を殺す

 

 

 こいつの懐に幼虫サイズのG型魔道具を忍ばせる。この魔道具からの定期連絡や盗聴を利用すれば、いつでも情報の知ることができる。

 俺がそう脅すと、サルモネラは痙攣(けいれん)のように首を上下した。ようやく敵対の意志をへし折ることが出来たようだ。

 

 ふぅ、と一息ついて、サルモネラを脅した時の肩の力を抜くと、俺はこのままこのバイ菌野郎を引き取ってもらうべく、トランシーバーでコリアンダーに繋いだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 コリアンダー経由でアルシーヴちゃんに連絡し、コリアンダーや衛兵を呼んで貰って、サルモネラを引き渡す。

 

 俺は結局、依頼書の件については報告せず、独自で隠し持っておくことにした。

 召喚されるクリエメイトの顔と名前、破格すぎて怪しさ満点の報酬。アレは今のアルシーヴちゃんに見せたら絶対マズい。

 元社会人なだけあり、報連相を怠ることに僅かな罪悪感はある。でも、彼女の精神状態からして、ソラちゃんを一刻も早く助けなければならないのに神殿内の人間も簡単に信用できない、となったら、ますます一人で抱え込んでしまう。あいつの幼馴染としては、そんなことにはさせたくない。ソラちゃんも望まないだろうしな。

 

 

 それに、この問題の答え(裏切り者の正体)は俺が最も知っているのではなかろうか。

 

 メタ視点で考えると、アルシーヴちゃんはソラちゃんの呪いを解くために『オーダー』を行使する。直属の部下たる賢者達は、『オーダー』で召喚されたクリエメイトからクリエを奪うために動く。アルシーヴちゃんの思惑を知っていたのは、女神襲撃事件に偶然立ち会ったハッカちゃんのみ。

 つまり――――俺の予想では、盗賊団やサルモネラに依頼した黒幕は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』ということになる。

 

 だが、これは犯人を絞り込めた、ということにはならない。

 なぜなら、神殿の人間は下っ端や女神候補生もあわせると2万近くはおり、罪人の処罰関連で絞っても数百人はいるからだ。とても一人で調べる気にはなれない。

 色々と偉そうな異世界転生主人公ヅラをして考察してみたが、結局のところ、俺の持っている知識では、『賢者達とアルシーヴちゃん、ソラちゃんは白だ』ということしか分からないのだ。

 

 

「ローリエ、そんな顔をしてどうした? 悩み事か?」

 

「ッ!!!?」

 

 

 意識外から突然かけられた言葉に体全体が跳ねる。

 

 

「お、おい、そこまであからさまだと逆に聞きたくなくなるぞ」

 

「なら、そのままそっとしておいてくれませんかねぇ……?」

 

 そこでコリアンダーの方に顔を向ける。すると、俺の顔を見るや否や、ちょっと心配そうな表情が、だんだんと不思議そうなものに変わっていく。え、なに?

 

 

「ローリエ……お前、そんな目してたか?」

 

 

 いきなりそんな意味の分からないことを言ってきた。つまり……アレか。喧嘩売ってるんだな?

 

 

「なんだ? 俺の目がいつもの小宇宙(コスモ)みたいにきらきらとときめく目になってねーとでも言いてーのか?」

 

「言ってねーよ! なんだコスモって!? そんな話じゃないわ!」

 

「喧嘩を売っているのなら言い値で買おうか。G型魔道具(ゴ○ブリ)払いで。神殿中の美女を巻き込んで」

 

「マジでやめろ。お前なら本気でやりかねない……」

 

 当然だろ。脅しみたいなのは実行しなければ意味がない。

 

「俺が言ってるのはそういうことじゃない。()()()()()()()()()()()()()ってことだ」

 

「……ひょ?」

 

 コリアンダーの言った意味が理解できなくて、インセクターみたいな変な声をあげてしまう。

 

「それって、どういう……」

 

「これを見ろ。その方が早い」

 

 渡された手鏡を見ると、そこにはしっかりと前世よりもイケメンないつものローリエ(おれ)の顔があった。

 

 

 ―――ただし、瞳の色だけは別物の。

 

 

 生まれてから自宅や神殿で鏡を覗き込んできたが、そこに映っていたのは、決まって緑色のはねっ毛に日本人よりもやや白い肌、そして()()()()()()()()()()()()()だった。背丈手足が伸びてジャ○ーズのイケメンもびっくりな男になっても、髪色や肌色、目の色などの基本形は変わらなかった。

 

 

 ……だが、今鏡を見ている俺の瞳は、()()()()()()()()()()()となっていた。

 

 初めて見る色に言葉を失い呆気にとられていると、瞳の色が徐々に明るさを取り戻していく。そのまま十数秒ジッと鏡の俺を見つめてもいると、むかし夜のテレビで定期的にやっていた、少しずつ実写の写真が変化するア○体験のように、もとの俺の知る金色とオレンジに戻っていった。

 

 答えが分かりきっているが信じがたいア○体験を見ながら、俺はアルシーヴちゃんがしていたハッカちゃんの話を思い出していた。

 

 

『ハッカは、魔人族と呼ばれる少数民族の生き残りだ。』

『魔人族は普通の人間よりも使える属性の魔法が多いだけの種族で、それ以外は人間と大差ないんだ。』

『感情の起伏で瞳の色が変わる特性を珍しがられ、奴隷にされることもあった。瞳をくり抜かれることもあったという。もう100年以上昔の話だがな。』

 

 

 ………。

 

 ……俺、魔人族やん!!!?

 

 

 え、なに、どゆこと?? 発覚した事実が歴史的にヤバすぎて理解が追いつかない。混乱していく感情に任せて言いたいことは色々あるが、全部まとめて一言にするとこうだ。

 

 

 そんなバカな。

 

 

 ローリエ・ベルベットとして20年生きてきたが、目の色が変わるどころか、そのような兆候すら現れなかったし、指摘されることもなかった。

 今になってここまでハッキリと変化するなんておかしい。感情によって目が変色するならば、今までのどこかでそういった瞳の変化があるはず。ない方がおかしいのだ。

 

 

 いくら考えても、思い当たる節がない。

 仕方ない、こうなったら……

 

 

「……遂にこのローリエもギアス能力が使えるようになったか」

 

「は? ぎあす能力?」

 

「あ、でも俺、ルルーシュ並みに頭良くないから使いこなせないかな……多分」

 

「ルルーシュって誰だ!!?」

 

 全力ではぐらかすしかないな。

 

「まぁ邪眼でも写輪眼でも大歓迎だったんだがな!」

「そうポンポン出てくるお前の謎の知識の源を知りたいよ……」

「ちなみにギアスと邪眼と写輪眼の違いはだな……」

「聞いてない。聞いてないから」

 

 ありったけのアニメ知識(ざいりょう)を駆使して、コリアンダーを置き去りにしつつ、煙に巻く。

 

 

 

 しかし。

 

 

 

 

 この時の判断―――自分の体についてよく調べなかったこと―――を、後に俺は、渓谷の村の外れにて後悔することになる。

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 サルモネラを未知の武器(拳銃)で脅した結果、敵の重要機密を手に入れてしまった八賢者。これの扱いに追われたり、サルモネラの口封じ(殺しじゃないぞ)を行ったりしたこともあり、自身の目については後回しになってしまった。クリエメイトの命を狙った盗賊相手とはいえ、人間に拳銃の引き金を引けるようになったことについてはまだ気づいていない。

サルモネラ
 ――再起不能(リタイア)。右肩と両膝をマグナムで破壊され、車椅子が手放せなくなった。また、人と接するのがトラウマになったのか、牢獄内でも会話をしようとしないそうだ。詳細は次々回くらいにて。

コリアンダー
 ローリエからの連絡を受け、盗賊を引き取るために衛兵とともにちょこっと参上。拙作のオリジナルキャラ(=ローリエの知る『きららファンタジア』に出ていない人物)ではあるが、ローリエは彼のことを友人と見ている。


ローリエ=魔人族説
 この設定は、比較的最近思いつき、ストーリーに埋め込んだもの。とはいえ、仰々しい漢字とは対照的に、『他の人よりも使える魔法の属性が違う』『感情の起伏や特定の感情で目の色が変わる』という特徴だけなので、もともと髪色や目の色、肌の色に寛容なエトワリアでは表向き差別の対象にならない。昔はどうだか知らないが。

ギアス能力&邪眼&写輪眼
 いずれも目を使用した強力な能力(目を使用するギアス能力はルルーシュのみ)で、それぞれの元ネタは『コードギアス』シリーズ、『幽遊白書』、『NARUTO』。中二の男女に人気で、のちに確立されるいわゆる「中二キャラ」には、多くの目を使った能力(を持つと自称する)者が現れた。


△▼△▼△▼
きらら「謎の盗賊を無力化した私達は、遂に残りのクリエメイト、美紀さんの元へ辿り着きます。相手は八賢者カルダモン。洞窟内での戦闘よりも素早い動き、全く目で追えない強敵を相手に私は……!!」

次回『赤い旋風、奇跡の炎』
きらら「次回もお楽しみに。」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
 台風が直撃したおかげで執筆環境が大きく乱れ、投稿が遅れました。幸い最悪ではないですが、執筆すらできないという事態に陥らなくて良かった。


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第30話:赤い旋風、奇跡の炎

“誰だって、誰かのヒーローになれる。”
 …ダリオマン


 砂漠の真ん中にぽつりと立つ、ひとつの教会。

 

 間違いなく感じるパスの気配のままに扉を開けば、そこは糸がはちきれそうなくらいに緊張していた。

 

 真ん中に立っていたのは、赤い髪にカラフルな民族的な衣服を着た、焼けた肌の少女――カルダモンだ。彼女は私達を見とめると、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「よく、たどり着いたね。」

 

 

 その一言で、緊張していた空気に、更にプレッシャーがかかる。

 

 

「わざわざお出迎えか………。りーさん、今度は離すなよ。」

 

「わかってるわ。」 

 

 

 普通の人なら、震え上がってしまうこの状況。ランプも、私の後ろへ動くだけで精いっぱいのようだ。滝のように流れている冷や汗がそう言っている。

 そんな時でも、くるみさんはシャベルを構え、悠里さんはゆきさんの手を離すまいと握っている。

 

 

「………もうお互いの狙いは分かってる。なら、隠す必要はない。」

 

 

 そんな緊張すらも、カルダモンは気にもとめずにそう言い、檻を見せてくる。それは、村の屋敷や港町のコテージで見たそれと全く同じ、クリエケージと呼ばれるものだった。

 そして、今回のクリエケージの中にいるのは、ゆきさん達と同じ制服を着た、宝石のような白銀の髪の少女。

 

 

「先輩!」

 

「みーくん!」

 

 

 「みーくん」とは、学園生活部の残り一人の美紀さんのあだ名だと悠里さんから聞いた。つまり、今捕らわれているあの少女こそ、美紀さんということになる。

 ゆきさんが真っ先に美紀さんのもとへ向かおうとするも、悠里さんに片手を掴まれそれは叶わない。しかも、くるみさんもゆきさんの前に立って、進路を妨害する。

 

 

「り、りーさん離して! くるみちゃんもそこどいて!」

 

「ダメよ、離したら絶対に美紀さんのところへ行っちゃうでしょう?」

 

「当たり前だよ! だって、みーくんを助けないと! わたしたちは先輩なんだもん!」

 

 

 ゆきさんの気持ちは分かる。でも、今美紀さんのもとへ行ってしまったら、傍らに立っているカルダモンにあっさり捕まってしまうだろう。

 ゆきさんもあるいは、内心分かっているのかもしれない。もとの世界では、学園生活部の皆さんはいつも一緒にいた。でもエトワリアに召喚されてからは、美紀さんは一人だったはずだ。一刻も早くそばにいってやりたいのでしょう。

 

 でも。そのためにはゆきさんにはもう少し待ってもらう必要がある。

 

 

「……っ!」

 

「まぁまぁまぁ、少し待てゆき。きららを信じろって。」

 

 

 杖を構え戦闘体制をとる後ろで、くるみさんがゆきさんをなだめた。

 

 

「召喚士……きららって言うんだね。」

 

「覚えておいた方が良いですよ。なんてったって、きららさんはコールを使えるんですから!」

 

「……それは知ってる。さっき何度も見たから。

 でも―――あれならあたしの方が上。」

 

 

 ランプの言葉を軽く流したカルダモンは、タンと軽く教会の床を踏んだかと思うと、縦横無尽に走り出した。

 

 

「お、おいっ……。こんなに速かったっけ、あいつ……」

 

「やっぱり、さっきは本気を出していなかったみたいね。」

 

 

 驚くべきは、そのスピードだ。洞窟で戦った時は、姿を目で追うのがやっとというレベルだったのに、今のカルダモンの速さは、もはや残像がみえるほどだ。ほんの少し油断……いや、一切油断しなかったとしても、今の私ではほぼ確実に見失ってしまう。

 

 

「洞窟は狭すぎるから………ここなら、あたしはもっと速く動ける。」

 

 

 残像しか見えていないカルダモンの、不敵な笑みが脳裏に浮かぶような、そんな挑戦的な声でそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――瞬間。杖に衝撃が走る。

 

「~~っ!!」

 

「……へぇ」

 

 私の両手に持っていた杖と、カルダモンの持っている二振りのナイフが、鍔迫り合いを起こしていたのだ。

 攻撃が来る気配がしたから咄嗟に杖を構えただけで、攻撃の瞬間が見えなかった。目も慣れていない。正面から攻撃してきたあたり、カルダモンにとってはまだ小手調べのようだ。

 

 

「……『コール』っ!」

 

「!!」

 

 呟くような私の詠唱が耳に入ったのか、カルダモンはひとっ飛びで距離をとる。

 

 それと同時に、呼び出されたクリエメイトの三人が、円陣を組むように召喚される。

 

「おおーっすごい! 私が出てきた!」

 

「すげぇな、きららは……」

 

「あれは、ゆの様達を助けた時に見せた……!」

 

 ゆきさんの魂の写し身を、力を与えて召喚した『コールのゆきさん』だ。オーダーで呼び出されたゆきさんと違って、天使のような羽が生え、羽衣のような服を着ている。残り二人は、白い騎士装束のコウさんと和風チックな剣士の服のうみこさんだ。

 

 こうして召喚された三人と共に、お互いに背中を守るように陣を組む。カルダモンのスピードにものを言わせた回り込みに対応するためだ。

 

 

「なるほど、そういう手を使うんだ。」

 

 

 陣形を組んでも尚、姿の見えないカルダモンの飄々とした声の様子は変わらない。私は、視界に入った全てに反応出来るよう、そして『コール』したクリエメイトが全力を出せるよう、精神を研ぎ澄ませ、魔力の放出を続ける。

 

 しかし。

 

「悪いけど、そういう戦い方はもう見飽きたよ」

 

 そう聞こえた瞬間、カルダモンがナイフを構えて私に迫る。再び攻撃を防ごうと反射的に杖を盾にする―――が。

 

「……?」

 

 予想した衝撃はやってこない。一体カルダモンはどこへ行ったのか? そんな事をまともに考える暇もなく。

 

 

 

「うわあああ!!?」

 

「ゆきさん!?」

 

 

 ゆきさんの悲鳴に振り替える。

 すると、既にカルダモンの両の手の得物によって攻撃が終わったあとだった。

 カルダモンが私に向かってきたのは、フェイントだったのか!

 両膝をついたのは、私の『コール』で呼び出された方のゆきさん。彼女の状態は、かなり危険なものだった。

 

 私の『コール』で呼び出されたクリエメイトは、死にはしない。ただ、戦闘などでダメージを受けすぎてしまうと、煙とともに消滅してしまう。時間をかければ再召喚することはできるが、同じ戦闘で再び召喚することはできない。

 

 幸い、『コール』のゆきさんはそうりょ……回復魔法が使えるし、消滅もしていないので、回復を行えば大丈夫―――

 

 

「――っ!!」

 

「余所見は禁物だよ」

 

 

 すぐさま敵意が放たれた方向へ杖を向け、攻撃を受け止めようとしたが、今度は間に合わなかった。

 斬られたと思った刹那、左肩に浅くない刃の感覚と焼けつくような痛みに思考が途切れそうになる。

 

 しかし……それでは、クリエメイトの命の源が奪われることになる。

 

 私だって負けてはいられない。

 

 

 …だから、斬られた直後。時間にして0.1秒あるかないかの一瞬。私は、魔力を弾にしてカルダモンへ放った。

 

 

「―――っふぅー。」

 

「さすが、シュガーとセサミを破っただけあるね。」

 

 

 崩れた体勢を整えるのに必死で、魔弾の行方は見ていないが、カルダモンがちょっと驚いたようにそう言う。

 

 

 ―――戦いは、まだまだ激しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「由紀の言った通りだったか……

 流石はカルダモンと言うべきかな………。」

 

 きららとカルダモンが戦っている光景を目にしながら、白く浮遊する猫のような生命体、マッチはそう言った。

 きらら、ランプ、マッチの三人と美紀を除いた学園生活部の三人は、既に洞窟の中できららとカルダモンの交戦を見ている。しかし、その時と今ではカルダモンのスピードがまるで違うのだ。

 由紀は、洞窟内ではカルダモンは本気を出せなかったと言った。彼女の言うとおり、カルダモンはある程度広い場所じゃないと本来のスピードを発揮できないようだ。

 

 

「でも、きららさんだって負けていません。

 いえ、絶対に勝ってくれます。」

 

 

 しかし、きららも、カルダモンのスピードに全く反応できていないわけではない。カルダモンが攻撃してくる瞬間、きららはその方向に体を向けて防御するなり、回避するなり、カウンターを狙うなりのリアクションを取っているのだ。

 現に、カルダモンに一撃を入れられたきららは、体勢を崩しながらも、咄嗟に魔力を玉にして反撃を行ったのだ。放出された魔力の玉は、カルダモンに直撃こそしなかったが、彼女の体を掠り……また追い打ちを防いだのだ。

 それを、ランプは見逃さなかった。

 

 

「頑張って、きららちゃん! 誰だって、誰かのヒーローになれるってダリオマンも言ってたよ!」

 

「ゆ、ゆきさん! ダリオマンって何のこと!?」

 

「このタイミングでする話か!?」

 

「もう……お願い、きららさん!

 私たちの大切な後輩を助けて!」

 

 

 由紀が美紀のために戦っているきららに声援を送る。

 きららにとって微妙に伝わらない応援であって、くるみからツッコミを貰うようなものであっても、学園生活部の心は同じ。

 

 

 

 

 

 

 ――――四人で、一緒に生きたい。

 

 

 

 その願いは、確実にきららの内にある力の何かを、変えつつある。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ゆきさん達の声を後ろに聞いて、私に力が満ちてくる。

 カルダモンの目にも止まらないスピードを前にして、余裕なんてある筈もないのに、心に余裕が生まれてくる。

 背中に誰かがいることが、こんなにも頼もしいなんて。

 

 カルダモンに決定的な一撃を与えられていないことも、こっちの体力が徐々に削られていっていることも関係ない。

 

 

 

 

 くるみさんは、“かれら”に戸惑う私達に対処の仕方を教えてくれた。盗賊に襲われた時は共に戦ってくれた。

 

 悠里さんは、学園生活部の部長として私達を信用し、美紀さん探しに協力してくれた。

 

 ゆきさんは………『私を外部協力者として、学園生活部に入れてくれた』。

 

 

 

 

 だから、私は――――――

 

 

 

「『コール』っ!!」

 

 

 

 ―――負けるわけにはいかない。

 

 

 呼び出していたコウさんとうみこさんを引っ込めて、宮子さんと沙英さんを召喚する。

 

 

 そして、貯めていた力を開放する。

 

 

 

「みなさん、今です!」

 

 

 

 

「ひだまりウォーターフロント!!」

「アーーロハーーー!!!」

 

 

 宮子さんがカルダモンに向かって突撃していくのを、沙英さんの持つマーライオンがレーザー状に水魔法を吹き出して援護する。無数の水のレーザーと水流の勢いに乗った宮子さんがカルダモンに突撃していく。

 

 ただ闇雲に狙っているわけじゃない。

 はっきり言うが、今の私には、カルダモンのスピードなどとうてい目ですら追えそうにない。でも……速すぎるなら、()()()()()()()()()()()

 宮子さんと沙英さんには、カルダモンをクリエケージの方に追い込むように攻撃してほしいと指示しておいたのだ。私自身も、カルダモンを少しずつ誘導するように動いている。

 

 カルダモンは襲いかかる水魔法を目にも止まらぬ身のこなしで避けていくが、水流に身を任せた宮子さんにまでは気が回らなかったようだ。おまけに、狭くなっていることに気付いたのか、一瞬動きが止まった。

 

 宮子さんの剣が、賢者の二振りのナイフの防御をくぐり抜けてその身を切り裂く。

 

 

 カルダモンの表情が歪む。遠目から見ても、この二人の「とっておき」が、カルダモンに大ダメージを与えたことには間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――だからこそ。

 

 私は油断してしまった。

 

 

 

「…さっきのお返し」

 

「!!!?」

 

 

 カルダモンが、目の前まで迫っていた。

 あまりに一瞬で、しかも私自身が迂闊だったこともあり、何が起こったのか分からなかった。

 

 さっき宮子さんの必殺の一撃が入ったと思ったら、その宮子さんを抜いて、私に向かってナイフを振り下ろしていたのだ。

 

 

「「「きららさん(ちゃん)!!?」」」

 

 

 目の前の光景の速度が落ちていく。

 躱すか防御するか反撃するかするためには、あまりに遅すぎて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ッ!!?」」

 

 

 突然、私とカルダモンの間を遮るかのように火柱が上がる。

 

 それは、何の予兆もなく、私の背の2倍以上の大きさの、野営とかで見る赤でも黄色でもなくピンクがかった炎で、なにより()()()()()()()()()

 

 あまりに突然の発火に、カルダモンは反射的に飛び退いたが、それが決め手になった。

 

 

 

 

 

 

「……いつの間にかクリエケージの方に寄ってきていたなんてね。それに今の炎は驚いた。熱くなかったけど、つい飛び退いちゃった。」

 

「狭いところに追いやれば、動きを鈍らせることができるって思ったんです。」

 

 

 

 逃げ場のなくなったカルダモンに私と宮子さんと沙英さんがそれぞれの武器を向ける。

 はっきり言って、あの土壇場で出た炎がなんなのかはわからない。でも、そのおかげで今、こういう状況にできた。

 

 

「……きららも、強かったんだね。ただ力を借りてるだけじゃないんだ?」

 

「……。」

 

 

 カルダモンは、感心したようにそう言う。

 そして、

 

 

 

 

「でも、詰めは甘いかな。」

 

 

 そう笑うと、

 

 

「き、消えた!?」

 

「きららさん、上です!」

 

「一瞬であんなところに!」

 

 

 教会の天井付近の柱へ移動し、

 

 

「今はダメでも、あたしにはまだ、果たすべき役目があるから。

 美紀! 美紀ならきっと、どんな世界でも生きていけるよ――――――じゃあね。」

 

「カルダモンさん………」

 

 

 一瞬で見えなくなってしまった。

 

 ……戻ってくる気配はない。カルダモンを捕らえてアルシーヴについて聞く機会を失ってしまった。

 でも……

 

 

 

「みーくぅううううううううん!!!」

「……先輩、まだ檻が開いてないですから。」

「くるみちゃん! 早く開けてよ! こうシャベルでスパーンって!!」

「流石に無理があるだろ……」

「えっと…………開けても大丈夫ですか?」

「ええ……お願いするわ。」

 

 

 クリエメイトの皆さんを無事救出できてよかった、と思うことにしよう。

 

 

 

 

「それにしても、さっきの炎は一体、誰だったんだろう………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丈槍さん、恵飛須沢さん、若狭さん、直樹さん……私は、いつでもみんなを見守っているわ。

 ―――そして、きららさん……みんなを守ってくれてありがとう……

 

 ――負けないで、美紀。

 

 

 

「―――!!」

 

 

 

 どこからか、声がした。

 

 

 

 

「……? どうしたんだい、きらら? 嬉しそうな顔をして。」

 

「あれ、そんな顔してたかな?」

 

「―――してましたよ、きららさん。まぁ、ゆき様たちを救えたのはわかりますけど。」

 

「あ、あはは……」

 

「えー、変なきららちゃーん!」

 

 

 

 

 どうやら、他のみんなには聞こえていなかったみたいだけれど。

 

 

 誰の声かは分からない。もし、この声がランプやゆきさん達に聞こえていたら、分かるかもしれないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 でも、二人ともとても優しい声だった。

 

 

 

 

 

 それだけは、確かだった。




キャラクター紹介&解説

きらら
 カルダモンとの激戦を経た原作主人公。今回では、HPがなくなった『コール』のクリエメイトやとっておき、きららスキルといった、ちょっとゲームシステムを書き起こした。彼女のレベルアップについては、ほぼオリジナル要素。

カルダモン
 一応任務を失敗した八賢者。美紀に入れ込んでおり、こちらでも、ローリエに話したような『皆で生きる』決意を、美紀から聞いている。

丈槍由紀
 今回は2種類登場。オーダーで呼ばれた彼女と、コールで呼ばれた彼女である。魂の写し身を使うコールにおいては、理論上可能な立ち回りだが、自分のコピーが目の前にいたら、高確率で恥ずかしくなるだろう。

八神コウ&阿波根うみこ&宮子&沙英
 今回はきららにコールされたクリエメイトとして登場。この作品を書くに当たって、「今までオーダーされたキャラのみコール可能」という縛りを設けているが、そのせいで水属性★5トオルが使えなかった。これ以降の八賢者戦に支障が出るなら、縛りを緩くするかもしれない。


きららが聞いた声
 一体誰なんだろーねー(すっとぼけ) というのはさておき、この演出は絶対やっておきたかった。きららの『パスを感じる力』の可能性の一つ。



△▼△▼△▼
カルダモン「あーあ。任務に失敗しちゃったあたしは、収穫なしで神殿に帰ることになっちゃった。そこで横槍を入れたサルモネラがローリエに捕らえられた事を知る。でも、捕まえた彼の様子がおかしくて……?
 ローリエ、君は一体何をしたの?」

次回『機械の心』
カルダモン「何を隠しているの………ローリエ?」
▲▽▲▽▲▽



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第31話:機械の心

“人間の…しかも心なんて、作り出せるわけがないだろう?”
 …ローリエ・ベルベット

※2019-9-30:サルモネラのイメージCVを追記しました。


 砂漠の教会で召喚士・きららと戦ったカルダモン。

 彼女は激戦の末、クリエメイトを奪うことに失敗した。

 しかし、彼女自身、『面白い相手が見つかった』から、今回の任務が失敗して悔しいという感情は比較的薄かった。

 カルダモンがアルシーヴに仕えている理由は、主に彼女の知的欲求や好奇心を満たしてくれるからである。彼女が積極的にローリエと話し、良好な関係を築けたのも、彼の発明が彼女にとって実に興味深いものであったからこそだ。

 

 

「あたしはアルシーヴ様へ報告をしたあと、アルシーヴ様からサルモネラが捕縛されたという話を聞いたんだ。

 それから、奴の異常な態度を一緒に見て、ローリエに話に行ったんだ。 ……それからだったかな。ローリエの違和感に気付き始めたのは。」

 

「違和感、か?」

 

「そう。あたしの勘だとね―――ローリエ、何か隠していると思うよ。」

 

「何かってなんだよ?」

 

「分からない。でも、聞いて欲しい。」

 

 

 カルダモンは同僚である八賢者・ジンジャーを落ち着かせながら、砂漠の教会の出来事の後日談ともいうべき出来事を、ひとつずつ語り始める。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「……あたしは役目を果たせなかった。すまない。」

 

 アルシーヴ様にそう報告せざるを得なくなったのが、残念でならない。

 

「いや………お前にできないのであれば、他の者でも同じ結果だっただろう。

 『為すべきことを為せ』。お前は、この命令に自ら背いたわけじゃあない。」

 

 でも、アルシーヴ様はあたしを責めるでもなく、冷静に省みて次に繋げようとしている。

 あたしは面白い事があると、たまに命令をほったらかしちゃうことがあって、そういう時は注意してくるけど、今回はちゃんと任務を優先した。だから、こう言ってくれるんだろうね。

 

 

「……あぁ、そうだ。

 ローリエが、サルモネラを捕らえた。」

 

「!!」

 

 

 ―――へえ。

 ローリエって、ちゃんと戦えたんだ。

 盗賊団を倒したって話は聞いていたから、全く戦えないとまでは思ってなかったけど、強さにおいてはあんまり信用してなかった。評価を改めないといけないね。

 

 

「現在、ジンジャーが奴に聴取を行っている。」

 

「行ってみてもいい?」

 

「くれぐれも仕事の邪魔だけはするなよ。」

 

「分かった。」

 

 

 あたしは、アルシーヴ様にひとこと言うと、大広間を出て、牢獄のある言ノ葉の都市の牢獄へまっすぐ向かった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 牢獄へ向かったあたしは、すぐさま取調室へ向かい、ドアの小窓から中の様子を伺ってみた。

 

 そこには、机を挟んで向かい合うジンジャーとサルモネラがいた。ジンジャーは後ろを向き、サルモネラは俯いているため共に表情は見えない。

 

 まだ取り調べ中だろうなと思ったから、ジンジャーが出てくるまで、しばし待ってみるとしようか。

 

 

 

 

 

 そうして待つこと10分弱、ジンジャーとサルモネラが出てきた。囚人服に身を包み、車椅子に乗ったサルモネラは部下の兵士に連れて行かれた。ジンジャーは困ったような顔をしている。

 

 

「どうしたの、ジンジャー?」

 

「あぁ、カルダモン。実はだな……」

 

 頭を掻く仕草をしながら、ジンジャーはキレのなくなっている言葉で話し始めた。

 

「あいつ、全く口を割らねえんだ」

 

「……口を割らない?

 それは……誰かの忠義とかで?」

 

「いや、そんな様子じゃあなかった。

 なんつーか、何かに脅えているみたいだった。

 面倒な奴だよ。ああいう手合いは、下手に脅すとありもしないことを口走るからなぁ……」

 

 驚きを隠せなかった。

 あたしの知るサルモネラは、自身の営みの為に人々から奪うことに何の抵抗も持たない、最低なヤツだった。

 美紀を殺す為にあたしたちの前に現れた時も、傲岸な態度と最後の最後まで美紀を狙う狡猾さ、そして相当場数をこなしたであろう引き際の良さ………そういうものを持った歪んだ人間だったはずだ。

 

 そんな男が―――脅えている?

 

 

「……見に行ってもいい?」

 

 生まれた時から人一倍強い好奇心が顔を覗かせ、気がついたらそう言っていた。

 ジンジャーは腕を組み、目を閉じて少しの間うーんと唸ると、こう言った。

 

「構わないが、新しい情報は得られないと思うぞ?」

 

 

 

 

 

 ジンジャーと一旦別れ、衛兵に案内された面会室の椅子に腰かけ、しばし待っていると、看守に連れられて、サルモネラが入ってきた。

 ローリエと戦ったときの傷なのか、右腕と両足全体に包帯をしている。

 車椅子に乗ったそいつは、ゆっくりと車椅子を動かして、ガラス越しのあたしの前につこうとする。でもどういう訳か、右手が上手く動かせないのか左手を積極的に動かして車椅子を進めようとしている。

 

 そして……なにより、表情がおかしい。

 

 美紀を捕まえた直後に出会った時は、自信に満ち溢れ、格上を知らない……愚かで、いけ好かない面持ちだった。

 

 でも今、長い黒髪からのぞかせる顔は、そんないけ好かない表情から一変、何かに怯えきっているそれに変貌していた。見開かれた目は忙しなく泳ぎ、とめどなく流れる冷や汗も、ときおり髪をかきあげるような仕草も、それを裏付けていた。

 

 

「な、なんの用だよ………」

 

 

 つっかえつっかえの消え入りそうな震え声でサルモネラは尋ねる。

 どうやら、あたしと衛兵数人がついている空間の沈黙にすら耐えられなくなってるみたいだ。

 

 

「さっき、ジンジャーに……あなたの取り調べをした人に言ったことを全部あたしに教えてよ」

 

 奴の体がビクッと震えた。別に変なことは聞いてないと思うけど……

 

「か………金を積まれて、頼まれたんだ……『数日以内に通りかかるだろう人間を殺せ』って……それだけなんだ………!」

 

 自分は金を貰って依頼されただけだ。

 

 そう答えるサルモネラは、今にも泣き出しそうだ。

 嘘は言っていない。というより、こんな極限状態にされたら、まともに嘘もつけなくなる。

 でも………なんでここまで怯えているのだろう?

 

「嘘じゃあないね。

 でも……それだけ?」

 

「あ、ああ………それだけだ。さっきの女に言ったことも、それだけだ!」

 

 サルモネラは、言葉一つ一つの語尾の強さから、あたしを拒絶しようとしている。まるで、とっとと話を終わらせたいみたいじゃないか。

 

 

「……ねぇ、他に知ってることってないの?」

 

「それだけだって言ってるだろ! 話すことはない!!」

 

 

 ……やっぱり、何かおかしい。話を切り上げようとしているところといい、ちょっと踏み入ったところを聞こうとした瞬間声を荒げるところといい………。

 

 

「ふぅん……依頼主とか、依頼書とか、分かれば良かったんだけど」

 

「―――っ!!」

 

 

 軽く揺さぶっただけでこれだ。欲望に忠実に生きてきただけあって、隠し事は苦手らしい。

 

 

「何か知ってるね。依頼主?」

 

「…………。」

 

「それとも、依頼書について?」

 

「………………………………………。」

 

 

 あたしの質問に、サルモネラは答えようとしない。ただ縮こまっているだけ。でも……日頃から調停官として色んな場所に行き色んな人に会っているあたしからすれば、それで十分。

 

 

「………依頼書に何かあるんだね。」

 

「っ!!?」

 

 あたしの観察眼から導き出した答えを言えば、再びサルモネラの体が大きく揺れた。

 あとは依頼書について聞こうと―――そう思った時。

 

 

「まっ……待ってくれ……!

 それ以上聞かないでくれ!!!」

 

「!?」

 

 突然、サルモネラがより一層声を荒げた。

 それは、絶叫にも近い悲鳴のようでもあった。

 

「や、やめろ! やめてくれ!!

 どこだ!? いるのは分かってるんだぞ!!」

 

「???」

 

 かと思えば、周りをきょろきょろと見回し何かを探し始め、更に怯え始めた。

 そこであたしは、違和感の正体に気づいた。

 ―――この男、()()()()()()()()()

 

 さっきまで、この怯えようは神殿やこれから身にふりかかるであろう、逃れられない法の裁きへの恐怖からくるものだとばかり思っていた。

 でも、これは一体……

 

 

「ねぇちょっと、『いるのは分かってる』ってどういうこと?」

 

「おい5392番、どうした? 落ち着け!」

 

「触るんじゃあないッ! 俺に声をかけようとするなッ!!」

 

 

 看守の手を払いのけ、私達から逃げようとするサルモネラは、結果車椅子からガッシャンと大きな音をたてて落ちてしまった。

 落下したダメージと恐怖に涙を流しながら、イモムシのように看守から逃げ、面会室の角までにげると、ありったけとも言うべき大声でまくし立てる。

 

 

「も……もうたくさんだ! 強盗も、脱獄も、痛めつけられるのも、人と会うことさえ!!

 

 もう何も話さない!! 何もしない!!!

 

 この牢獄の奥でじっとしているから……

 

 だから……だから殺さないでくれ!!」

 

 

 それは、ここにはいない誰かへの命がけの懇願であり……

 

 

「俺は…………俺は…………

 

 

 

 

 俺のそばに近寄るなァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」 

 

 

 ここにいる私達への拒絶そのものだった。

 ……あまりに強烈で悲惨な悲鳴に、あたしはただ、尋常ではない怯えようのサルモネラをただ目を見開いて記憶に焼き付けることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

「……見たか? あいつの異常な態度を……」

 

 

 面会室から出たあたしは、すぐにジンジャーから声をかけられる。

 どうやら、あたしがサルモネラの現状を否応なく理解させられたことを察したようだった。

 

 

「うん。あれは絶対おかしいよ。」

 

 

 かつてあたしが転々としていた、紛争地帯でも拷問みたいなことはあったが………あそこまで―――人間すべてを恐れるまで精神を甚振るほど―――の拷問は見たことがなかった。そもそも、拷問は敵に情報を吐かせるためのものだ。トラウマを植え付けすぎて心を壊してしまったら意味がない。

 

 

「これからは、宥めて、優しく接する形の取り調べを行うつもりだったが……望み薄だな。」

 

 

 そういうジンジャーをよそに、あたしは考え始める。サルモネラの錯乱……何かあるはずだ。

 それを知るためには、あの人に詳しく聞く必要がある。

 

 

「あたし、これからローリエにサルモネラの事、訊きに行ってくる。」

 

「……!! なるほど、ヤツを捕まえた本人ならば、何か知っているかもしれねぇな。」

 

 

 それもあるけど……『調停官』の勘が言っているんだ。

 

 

 ―――ローリエが()()()()可能性が高いって。

 ローリエは、日用品から最新鋭の娯楽まで、面白い発明をいくつも作っていて、結構気に入ってるんだけどね。

 もし、()()()()()()()()()()()()()()―――という疑問は何度か持ったことがある。普段の画期的な発想や斬新なアイデアを、()()()()()()()()()()()()使()()()()……そう考えると背筋が凍る。

 

 

 ……職業病かな。

 あたしが、アルシーヴ様の命令ならどんなこともやってきたから、それで考えちゃうだけかな。

 

 

 そんな言いようのない不安を振り切るために、ローリエのいそうな彼の部屋へ駆け出した。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 果たして、ローリエは部屋にいた。いつも通り机に向き合って、細長い何かのメンテナンスをしている。

 

 

「ローリエ」

 

 声をかけると、その作業を中断して、こっちを向いた。

 そして……驚きの表情を見せる。

 

「……どうしたんだ、カルダモン」

 

 

 あたしの顔が、いつもより怖かったのだろうか?

 首をもたげた不安が顔まで現れてしまっているのだろうか?

 部屋に備え付けられていた鏡を見る気にはなれなかった。

 

 

「サルモネラと会ってきたよ」

 

「……そうか」

 

「ひとつ、訊いても良い?」

 

「なんだ?」

 

 

 

「―――なんで奴がああなったのか。心当たり、ある?」

 

 

 あたしの質問に、ローリエは何を思ってるのか、目を閉じて、顎を撫でる。

 そして、一呼吸するとこう答えた。

 

 

「詳しいことは分からない。おそらく、依頼主に―――」

 

「嘘」

 

 理由はない。直感だった。まぁ、『調停官』の勘がまだ彼を信じ切ってないだけかもしれないけど。

 

 

「ねえ……どうして嘘をつくの?」

 

 

 何の根拠もないのに、口は次の言葉を既に出していた。

 

 次の瞬間だった。ローリエは表情を変えないままこう言ったのだ。

 

 

「何も……何も、してないよ。

 俺はただ……アルシーヴちゃんのために…学園生活部の皆を守るためにサルモネラの武器をぶっ壊しただけだ。

 その後、()()()()()()()()()、事情を聞いたが………」

 

 

 「サルモネラの武器を壊した」……? それは、どういう意味なんだろうか? クロスボウを使いものにならなくしたって事? それとも―――あいつの武器である狡猾な性格を壊すほど、何かしたって事……?

 それに、「お話」とやらも、ちょっとではああならない。

 

 

「そもそも、なんでアイツの事を気にしてるんだ? 投獄される様子は見たが、ああいう悪党は、アレくらいが丁度いいだろ」

 

「確かにサルモネラは悪党だったけど、あの怯えようは異常だよ」

 

「そうか? 学園生活部のみんなを手に掛けようとしたんだし……当然の報いだと思うけど」

 

 

 ローリエの言動にひどい違和感を覚えた。

 彼は今、「美紀たちを殺そうとしたから精神が壊されても自業自得だ」と言ってのけたのだ。言葉は選んでるみたいだけど、言いたい事は同じだろう。

 あたしも、美紀は気に入った。だからこそ、サルモネラがあたしの前に現れた時は捕縛するつもりだったけど、あたしなら死角からの一撃で意識を奪って終わりにする。精神が壊れるまで痛めつけたりはしない。

 

 クリエメイトを特別扱いしている。最近会ったランプみたいだ。クリエメイトを様付けで呼んではいないけど、同じ人―――いや、それ以上の扱いをしている………気がする。美紀と会ったローリエの緊張感マシマシな姿を見れば一目瞭然だ。

 だから、そんなクリエメイトを傷つけようとしたサルモネラを……痛めつけた、んだと思う。

 

 

 ここまで非情なローリエは初めて見た。

 サルモネラを野放しにしていたら、きららと行動していた悠里たちが危なかった。

 だから、その危険を排除したのだろう。徹底的に、二度と悪さができないように。

 でも、そこにはあるべき『血の通った法の裁き』がない。もしくは、更生の可能性すら不確実だから潰しているのかも。

 

 

 あたしが言えたことじゃないけど………そんなの、悲しいよ。

 あたしは、アルシーヴ様の命令には従うけど、できるだけ救いのある道を模索する習慣をつけている。もちろん面白さ優先だけど。

 

 

「ねぇローリエ」

 

「ん? 今度はどうした?」

 

 

 クリエメイトを守るためとはいえ、サルモネラを救いがないほどに、徹底的に攻撃し、再起不能にした。

 本当のところは分からないけど……もし―――もし、本当にそういうことをしたのなら……

 それじゃあまるで――――――クリエメイトを守る『機械』だよ。

 

 

 

「ローリエは……機械の心を、魔法工学で作れるの?」

 

「?????」

 

 

 あたしには、ローリエにそうなって欲しくない。そんなの、何の面白みもない……ただ、(むな)しいだけだから。

 

 自然と、左手がマフラーに行く。あたしの質問の意味が分からず、首を傾げるローリエを見ながら、質問の真意を悟られまいとポーカーフェイスを崩さないよう努める。

 

 あたしのこの質問には、気付かないでほしい。

 

 

 

「急に何言ってるんだ、カルダモン。人間の…しかも心なんて、作り出せるわけがないだろう??」

 

 

 

 ローリエには、その答えを言って欲しかったから。

 

 あたしでも捨てていない、人間の心を捨てないで欲しかったから。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

カルダモン
 今回のヒロイン。ちょっと卑怯な言い方で、ローリエに「機械の心なんて作り出せない」と言わせ、人間として当たり前の優しさを忘れないように希望を持ったが、これは数々の発明品を世に出すローリエから“面白さ”を失わせないためであり、乙女心とは無関係。……そこ、無関係だって言ってるだろ!

ろーりえ「大丈夫? 結婚する?」
かるだもん「じょーだんは女癖の悪さだけにしたら?」
ろーりえ「がーん!!」

ローリエ
 サルモネラを再起不能(リタイア)に追い込んだ張本人。前世の知識のおかげで思考回路がランプと似たものとなり、心身の安全の優先順位は クリエメイト=女神(ソラ)筆頭神官(アルシーヴ)、賢者達>自分≧コリアンダーなど>>>サルモネラとなっている。これはエトワリア人がはたから見れば異様なものであり、その片鱗にカルダモンは気付いた。

サルモネラ
 ローリエの脅しと監視に屈して、G・E・レ○イエムに囚われたディア○ロみたいになったイメージCV.○久保○太郎氏の元盗賊。下手な事を喋ってローリエに○されないか日々怯えており、一人で詩や裁縫を行っている時だけ心が落ち着くようになった。

ジンジャー
 ビビりまくっているサルモネラの聴取に難航していた八賢者。アレ以降、有用な情報は得られなかったようだ。


△▼△▼△▼
ローリエ「カルダモンのやつ、なんだったんだ? いきなり『機械の心』って……造って欲しかったのか? 変なの。 ―――いや、やめるか。人造人間とかドラ○ンボールやドラ○もんじゃないんだから。
 さて……ようやく、ミネラさんに聞いた渓谷の村付近の呪術師捜索だ! 顔が割れてる可能性があっから、入念に変装しないとな……!」
ソルト「ソルトも忘れないで欲しいのです」

次回『変装と変身』
ソルト「次回もお楽しみに。」
▲▽▲▽▲▽

あとがき
 めっっっっっっちゃ重くなってしまいましたね……スミマセンでしたァァァァァ!!!
 でもしょうがなかったんや………前世日本人のローリエの変化フラグは立てたかったんや…!
 次章もヘビー路線なので(予定)、胃もたれしないようにボケられるところでボケなくては……たとえスベっても関係ない!!

 ――というわけで、これからも「きらファン八賢者」よろしくねー!





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エピソード5:Aのはざまにて~呪いの裏に潜む巨大な影編~
第32話:変装と変身


“今になって思えば、おかしい所はいろいろありました。聖典のレシピを難なく再現したことといい、クリエメイトとあまりに早く仲良くなったことといい、ローリエは普通の人とは常軌を逸していると言っても過言ではないでしょう。”
 …ソルト・ドリーマーのローリエ・ベルベット調査報告書・序説より抜粋


「………こんなものか」

 

 俺は女神官たちをナンパせず、可愛い賢者達に声もかけず、あらゆる武器のメンテナンスや新たな武器の新調の大体を終わらせた。

 

 ―――おいそこ、熱あるのかとか言わない。ハードディスクにあるお宝データ全部SNSにバラ撒くぞ。

 

 ……というデッド○ールみたいな次元超越ジョークはさておき。

 なんで俺がこんな事をしているのかというと、来る事件の真相に迫るためだ。

 

 そもそも、今のオーダー事件が起きているのは、とある事件がきっかけだ。

 

 ―――女神ソラ呪殺未遂事件。

 

 ローブ野郎の企ての阻止に失敗した俺は、その時撮った写真を手掛かりにあらゆる人々に聞いて回った。

 運のいいことに、港町にてローブ野郎の特徴に一致する人物を知るミネラさんという人物から、渓谷の村の風習について知ることができた。

 これから俺は、そこに潜入し、黒幕を―――ソラちゃんを呪い、盗賊どもをけしかけた野郎をとっちめる。

 

 

「問題は俺の知名度だな……」

 

 そこで浮上するのが、八賢者ローリエの知名度問題だった。港町のいち大人のミネラさんが知っていた以上、賢者の知名度は高めだと考えていいだろう。ましてローブ野郎はあの事件の夜、直接顔を合わせたんだ。俺の顔を覚えていることを前提に行動した方がいい。

 

「……まぁ、そこはもう手を打っているがな!」

 

 でも、問題ない。俺にはとっておきの秘策がある!

 

 

 

 

 

 ほどなくして。

 

 

「おーいローリエ、ソルトが話が……ある…………」

 

「ロー、リエ………さん………」

 

 

 部屋に入ってきたコリアンダーとソルトが固まった。

 

 理由はいわずもがな。俺の秘策を目の当たりにしたからだ。

 

 俺の秘策……その名も―――

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――テキーラ娘作戦!!

 

 

 か弱い乙女に変装し、相手の油断を誘う作戦だ。

 

「ふっふっふ、コリアンダーもソルトも、あたしの変化に驚きを隠せないようねッ!

 ……俺だよ、二人とも」

 

 ……ここまで言っても、二人とも何も言わない。どうした?

 

 

「―――趣味か?」

 

「趣味じゃない、変装だ!! まったく、失礼なやつめ…」

 

「あなたの今の格好の方が女性に失礼ですよ」

 

「ゑ?」

 

「随分と下手な女装ですねローリエさん」

 

「え゛っ」

 

「あなたみたいな大きくて筋肉質で声の低い女なんていませんよ」

 

「……。」

 

 そう言ったソルトの目は、いわゆるジト目というやつで、俺を呆れたように見つめていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ……それから俺は、変装を変えざるを得なくなった。

 

 無論、そのまま諦めたわけじゃない。あれから他の賢者達にも勝負を挑んだのだ。

 

 結果は―――全敗。以下が俺の自信の変装を見たみんなのリアクションである。

 

 

セサミ「誰ですか、この気持ち悪いオカマは」

 

フェンネル「……」(無言でレイピアを突き付ける)

 

ジンジャー「うわっ!? ローリエ! なんだそのきもい仮装は!!」

 

カルダモン「ムダ毛の処理くらい当たり前でしょ、しっかりやって」

 

シュガー「おにーちゃん、なにしてるの?」

 

ハッカ「ローリエ、不気味。」

 

アルシーヴ「もっと客観的に自分を見ろ、このバカ者」

 

 

 ……全員に一発でバレた上に誰一人として変装した俺をか弱い乙女として見てくれなかった。泣けるぜ。

 テキーラ娘はジョ○フだから色んな意味で凄まじい恰好になっただけで、細マッチョ程度の俺ならワンチャンと思ったけれど、そんなものはなかった。

 あと気持ち悪いオカマとか抜かしおったセサミはしっかりおっぱい揉んどいた。

 

 

 で、だ。テキーラ娘を断念した俺は何に変装しているかと言うと……

 

 

「どうかね、今度の変装は」

「…何ですか、その頭についている……バランみたいなものは」

「こういうヘアースタイルなんだよ」

「あと、その鼻につく喋り方は……?」

「変装は、見た目だけ似せればいいってものじゃあない。できるだけ本物を理解し、言葉遣い、態度、必要ならば技術さえトレースすることが重要なんだ。そうすれば、マンガを描くときにも参考にできる。わかったかい康一くん」

「誰がコーイチ君ですか」

 

 

「ふははは! この(オレ)を呼ぶとは運を使い果たしたな、雑種!!」

「ド派手な鎧にその口調……今度は誰ですか」

「英雄王」

「ホントに誰ですか」

 

 

「こういうのなんかどうだ?」

「……和服ですか。でも、その半分脱いでいるのは何なのですか?」

「デフォルトだ」

「そうですか。 ………ところで、ここにある死んだ魚の目をした筒状の人形は…?」

「ジャスタウェイだな」

「ジャスタウェイ?」

「先に言っておくけど、ジャスタウェイはジャスタウェイだからな。それ以外のなにものでもない」

「………はぁ」

 

 

 見事に迷走していた。

 

 

 結局、伊達メガネに普段は身に付けない革の鎧の上から白衣を身に纏い、護身用に安い剣(どうのつるぎみたいなものだ)を差した冴えない下っ端調査員風の変装に落ち着いた。

 

 

「まったく、ローリエは変装をナメているのですか。あなたの発案した変装は、みんなことごとく聖典にあった『こすぷれ』みたいでしたよ」

 

 

 狸耳&しっぽ+水色ワンピースの、俺からしたらよりコスプレみたいな格好をしたソルトにそう言われた後で、渓谷の村へ行く最終確認を始めた。

 

 

「まず、ソルトの転移魔法で俺達は渓谷の村へ行く。」

 

「そして、そこからは別行動、と言ってましたね」

 

「あぁ。俺はアルシーヴちゃんに頼まれて、村周辺の地質調査を行わないといけない。クリエメイトの捜索と保……捕獲はソルト一人に任せることになる」

 

「はい。ソルトもクリエメイトを集めないといけないので、ローリエへの援護や支援はほぼ不可能だと思っていて下さい」

 

「分かった。俺は俺で、用が済み次第、村へ行くことにする」

 

「ソルト一人でクリエメイトを集める計算を立てておきますが………わかりました。では……作戦を開始する前に、もう一つ。」

 

「??」

 

 ソルトは渓谷の村の地図の乗ったテーブルから少し離れると、魔法陣を形成し、なにかを呟く。

 すると、狸耳ロリのソルトの姿が、みるみるうちに背が伸び、髪色が変わり、顔つきが変わって………まったくの別人になったではないか。

 

「もし早い段階でクリエメイトを捕まえた場合……ローリエに変身の出来栄えを見ていただくかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。」

 

 あっという間にアルシーヴちゃんに変身したソルトはそう言った。

 

 

 俺はわかった、と言いつつも心の隅がざわついていた。

 

 俺の知っている物語の筋書きでは、渓谷の村にて「オーダー」されるのは、漫画(聖典)『Aチャンネル』のるんちゃん、トオル、ナギ、ユー子の四人。

 ソルトが捕らえることに成功するのは、ハイパーぶっ込み天然娘のるんちゃんだけ。そこでソルトはお得意の変身魔法でるんちゃんに化け、他のクリエメイトを騙して一網打尽にすることを画策する。しかし、クリエメイトのパスが分かるきららちゃんに見破られて失敗。しかもトオルの逆鱗に触れ、敗北する。

 

 もし、るんちゃんが俺とソルトが別行動開始する前に捕まり、ソルトの変身の確認をしたとしても、不自然な点を指摘してはいけない。それは即ち、きららちゃん達の勝利のピースを欠くことになるから。

 

 でも……ソルトに隠し通せるだろうか?

 

 相手がシュガーやジンジャーならまだいい。ゴリ押しがよく通る。セサミやカルダモン、ハッカちゃんでも誤魔化しようはいくらでもある。セクハラで誤魔化してもよし、ゲームで釣るもよし、話題を切り替えるもよしだ。フェンネルならまぁ……アルシーヴちゃん関連の話題を振ればなんとかならんでもない。

 でも今回組むのはソルトだ。計算高く、俺よりも複雑な作戦を組める策略家を前にして、一体どこまで隠せるのだろうか?

 

 

 実は地質調査ではなく呪術師調査でしたと見抜かれるだけならまだいい。理由を適当にでっち上げて丸め込むだけだから。

 アルシーヴちゃんとハッカちゃんの三人で交わした秘密の誓いに踏み込まれたらアウトだ。絶対に混乱を招く。

 俺がこの先何が起こるかを知っていることを悟られるのはもっとマズい。それは即ち、()()()()()()()()()()()だから。せめて、きららちゃん達が神殿に辿り着くまではバレないようにしなければ。

 

 

 サルモネラに送られた依頼書は、俺の秘密の隠し場所に隠してあるから問題ない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 故に、ソルトと別れるまでの行動が重要になるはずだ。

 

 自然に……自然に振舞うんだ!

 

 

 

 俺と手を繋いだソルトの、「では作戦を開始しましょう」という合図とともに、目の前が神殿内から村へと変わる。それは、俺の中の秘密裏の作戦のスタートの合図でもあった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 転移したソルトとローリエは、水車小屋を拠点に決めた後、すぐさまクロモン達を村中に展開させ、アルシーヴ様のオーダーに備えます。

 

 

「後は待つだけなんて、楽チンな作戦だな、ソルト!」

 

「待つのは一人を捕まえるまでだと言ったはずですよ」

 

「まぁ知ってるんだけどさ。しかし、捕まえたクリエメイトに化けるとは考えたな」

 

 

 心底嬉しそうに……いや、安心したかのようにローリエは笑う。

 なぜ、ローリエは安心しているのでしょう? ソルトが無茶な作戦を立てるとでも思っているのでしょうか? そう思われているみたいでちょっと不快です。

 

 

 思えば、ローリエはファーストコンタクトの時からシュガーとソルトを子供扱いしていた気がします。アルシーヴ様とハッカのどちらの子だと訊いてきたり、アルシーヴ様を母と呼ばせようとしたり……

 シュガーは兄が出来たかのように喜び、さほど気にしてはいませんでしたが……ソルトも同じだと思わないで欲しいのです。

 

 確かに、私達()()にとって、拾ってくださったアルシーヴ様は母親のようなものなのかもしれませんが。

 

 シュガーはソルトたちの両親の顔を知りません。ソルトも、母の顔の輪郭やおぼろげな声の記憶しかありませんし、父に至ってはまったく記憶がありません。確かな事は、ソルト達の両親は紛争に巻き込まれ、生存が絶望的だろうということだけです。

 戦場で非力な私達が生きていくためには、頭を使い、力を身に付けるしかありませんでした。シュガーは力を、ソルトは策略を身に付けて協力しあって生き延びてきました。他の人間をソルトの策略で嵌めて、シュガーがそれを一掃して食料を得る、ということもやってきました。生きるためには仕方なかったことです。

 

 そんな生活を続けていたある日、ソルト達は身なりの良い、戦場に不釣り合いな神官を見つけました。彼女はソルトの策を次々と見破り、シュガーと二人がかりで襲っても敵いませんでした。しかし、彼女は倒れ伏したソルト達にこう言ったのです。

 

 

『周りに怯え、自分を守るためだけの力になんの意味がある。』

『ついてこい。私が生きる意味というものを教えようじゃないか。』

 

 

 その人こそ、後に筆頭神官になるアルシーヴ様でした。

 

 アルシーヴ様は、ソルト達に神殿の部屋を与え生活のルールを教えてくださいました。当時からそれなりの地位にいたため、それ以上に接することこそありませんでしたが、それでも、ソルト達姉妹にとってはアルシーヴ様は恩人だったのです。

 

 

 ローリエとは、賢者に任命される日に出会いましたが、ことあるごとに子供扱いしてくる、腹の立つ人でした。

 その上、セサミやカルダモン、アルシーヴ様にセクハラを仕掛け、他の見目麗しい女神官をも息をするように口説こうとする女の敵です。はっきり言って、マイナスイメージしかありませんでした。

 

 しかし。ローリエを賢者から解任して欲しいと提言した時、意外にもアルシーヴ様はローリエの肩を持ったのです。

 

『ソルトの気持ちは分からんでもない…私も、ヤツの女癖の悪さは自重してほしいと思うばかりだ………ただ、ああ見えてローリエの発明品が世間に与えた影響は大きい。カメラに照明、掃除機に偵察機、娯楽………はっきり言って、ローリエなしではそのような技術は生まれなかっただろう。』

 

 あいつの技術は一体何十年先のものなのだろうな、と冗談めいて笑うアルシーヴ様に、ソルトはただただ衝撃を受けました。

 

 

 あの、何も考えてなさそうな男が、そんなに発明を?

 到底信じることができませんでした。本当に彼が発明に携わっているのかを調べるために、ローリエの部屋に行って同室のコリアンダーさんに色々聞いたり、魔法工学の授業を覗いた時期もありました。

 その結果、ローリエが神殿の技術革新に貢献しているのは間違いないということはわかりました。

 

 

「……ソルト?」

 

 

 ―――でも何故でしょうか。ソルトは、その間違いない事実に違和感を覚えるのです。 

 

 シュガーと行動を共にした時は盗賊団の殆どを捕らえ、カルダモンと一緒に砂漠へ行った時は悪名高いサルモネラを捕らえ、再起不能にまで追い詰めたそうです。その実績がどうしても、普段はちゃらんぽらんで女性について節操のないダメ男(ローリエ)と結びつかないのです。それは、ソルトが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょうか……?

 

 

「おい、どうしたんだ? 急に黙りこんじまってよ……」

 

「……ローリエ」

 

 

 不思議そうにソルトを見るローリエは、きっと自分が不審がられているなんて知らないことでしょうけれど。

 なんというか、ローリエについて知っておかなければいけない気がします。

 ソラ様が病気療養中で神殿が不安定である以上、不確定要素はできるだけなくしたいですから。

 

 

「どーしたんだ? まるで『シュガーの蜂蜜饅頭とソルトの塩饅頭をすり替えるイタズラをしたのは貴方ですか』みたいな顔をして」

 

「どんな顔ですか。というか、あれローリエがやったんですか」

 

 

 ローリエがさっと目を逸らす。

 先日の地味に効いたイタズラの犯人がこんな形でわかるとは思いませんでした。その件については、この任務が終わった後でじっくりお話しするとして。

 

 

「ローリエが魔法工学に手を出し始めたのはいつ頃ですか?」

 

 

 先に、ローリエの魔法工学についていくつか訊いておきましょう。

 

 

「え、俺?

 え~っと………7歳ぐらいからだな」

 

 ……微妙に間がありましたね。

 

「その時、なにを作ったんですか?」

 

「別に、大したもんじゃあないよ。ここで言うまでもない。ただの子供の玩具(オモチャ)さ」

 

 ……ローリエの答えは模範的な子供が行いそうな答えでした。

 ありふれた子供が興味を持ち始める時期に、機能性などない子供の玩具。

 

 ―――()()()()()()()()()()()()

 

 

 ローリエがとんでもない技術を数多く持ち、それを形にしてきたことが事実である以上、逆算してもローリエが答えた模範的な内容では計算が合いません。

 

 それこそ、常識はずれに急成長したか、あるいは初めからそのような知識を持ち合わせていたかでもない限り、彼の技術に説明がつきません。

 

 ソルトとしては、前者だと思います。後者は一応考えつきましたが、あり得ません。生まれた時から自我でも持っていないと出来ない芸当です。

 だから、次にローリエの子供時代について尋ねてみましょう。

 

 

「ローリエは、どちらのご出身ですか?」

 

「はい? …どうしたんだいきなり」

 

「いいから、答えてください。」

 

 

 ローリエは暫くソルトを見つめると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――()()()()()()()()()って言ったら信じるか?」

 

「は!!?」

 

 予想外の答えに言葉が出ない。

 というか、こ、この男、今なんて………聞き間違いではなければ……聖典って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぷっ、」

 

 ………は?

 

 

「あっははははははははははははははははははは!!!!」

 

 

 

「嘘だよウソ! 冗談だよォォ~~ン!!」

 

「………。」

 

 

 突然、ローリエはけらけらと人を喰ったように大爆笑し始める。

 

 

「『聖典からやってきた』とかオーダーとかファンタジーやメルヘンじゃああるまいし!!

 ……あ、これファンタジーだった!! あははははははははははははははははは!!!!!」

 

 

 こちらの事情なんて知ったことかとばかりにお腹を抱えて大笑いする。

 ……ほんの一瞬でもこの男の話を真剣に聞こうと思ったソルトが馬鹿でした。

 

 

「……真面目に答えてください!」

 

「あーお腹痛い。

 悪い悪い、本当は言ノ葉の都市出身だよ。アルシーヴちゃんが幼馴染だったから証人になってくれる。」

 

「アーハイソウデスカ」

 

 

 これ以上饒舌なダメ男の話に付き合うまいとプイッと背中を向ける。

 こっちはクリエメイトを集めてクリエを奪うという、大事な役目を任されているというのに、ローリエはそんなものはどうでもいいとでも言っているかのようにソルトをからかい倒して。

 本当に空気を読んで欲しい。これだから、この男は苦手なのです。どうして、シュガーが彼に懐いたのやら。

 

 

 

「くー、くー!」

 

「なんですか、こんな時に………」

 

「くっ!? くー……」

 

「ああっ、ごめんなさい、ちょっとローリエにおちょくられてて………え、クリエメイトを捕らえた?」

 

 苛立っているところで、クリエメイト捕獲の報告が入る。そのせいで報告しに来たクロモン達をちょっと怖がらせてしまいました。

 まったく、ローリエが余計なことをするからです。

 

 

「ローリエ! クリエメイトを捕らえました。クリエケージの準備をしてください」

 

「あいよ」

 

 クリエケージの準備で、ローリエがソルトの指示に従ってくれたのはある意味幸運でした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「へー、じゃあここって異世界なんだ。」

 

「ええ、そうです。だから逃げても無駄。あなたに帰る場所はありません。」

 

 

 簡潔に、かつはっきりと事実を告げる。それは、クリエメイトの抵抗の意志を削ぐのに最も合理的な言葉のはず―――

 

 

「そっかー。じゃあお仕事見つけないと。」

 

「え……なぜそうなるのです。」

 

「だってほら、働かざる者食うべからずって言うし。ごはんが食べられないと困るでしょ。」

 

 

 そう力説する色素の薄い髪のクリエメイト――るんは、クロモン達に捕らえられ、クリエケージの中にいながら、どうやら今のこの状況が分かっていないようです。

 

 

「あ! そう言えば、この世界ってどんなもの食べるんだろう?

 牛とか豚っているのかなぁ。

 ………あ、もしかしたらもっとすごいお肉が!?」

 

「何か勘違いしているようですが、あなたにはもっと差し迫った問題があるでしょう。」

 

「…そう………だね………。」

 

「やっとわかってくれましたか。」

 

 るんが下を向いた。自分の状況をようやく理解しましたか――

 

 

 

 ぐ~~~~~~~~~~~

 

 

 

「今のは………」

 

「お腹すいた……」

 

 

 るんがお腹を抱えてソルトに目で訴えかけます。

 クリエケージの中にいれば食事も睡眠も不要なのですが………

 

 

「フフフ……こんな事もあろうかと……作っておいたのさ……」

 

 

 そこに、香ばしい匂いと共に現れたのは……

 

 

 

「ハンバーーーーーグ!!」

 

 

 丸く固めて焼いた何かを乗せた皿を持ち、ハイテンションに大声を出すローリエでした。うるさいです。

 

 

「というか厨房を勝手に使って何作ってるんですか」

 

「ふおああああ~~! ハンバーグだぁ~~!!」

 

 

 ローリエさんのお皿の料理――ハンバーグというそうです――を見て、るんが目を輝かせている。

 

 

「るんちゃん。もし、大人しくしていればこんな感じの食事を日に3回、持ってきてあげよう。ソルトが」

 

「さらっとソルトに押し付けましたね、今。

 というか……何です、ハンバーグって」

 

「聖典にレシピの載ってた料理だ。挽き肉とタマネギ、パン粉、卵を混ぜて練り、小判状に丸め焼き上げた肉料理。ソースはケチャップとウスターソースから作ったデミグラス系だ!」

 

「ありがとう、ローリエさん!! 私、大人しくしてるね!!」

 

「いい子だ。俺は今から出かけるから、他に困ったことがあったら、そこのソルトに頼むといい。トオルちゃんのように小さいがしっかりしてる子だ」

 

「わかった! よろしくね、ソルトちゃん!」

 

「………。」

 

 

 なんというか、ローリエはクリエメイトと打ち解けるのが上手いですね。シュガーと似ていますが、根本的にちょっと違う気がします。

 シュガーは自分から心を開いて、警戒心や緊張をほぐすやり方。ローリエはクリエメイトの好きなものの話題を振って、情熱を伝えるやり方。クリエメイトの好きなものを知っているかのような接し方です。彼女についてよく知らないとできません。

 ソルト一人だけだったら、るんと会話がかみ合わなかったかもしれません。

 

 

「ソルトちゃん、トオルはどうしてるかなぁ。ナギちゃんもユー子ちゃんも大丈夫かなあ。」

 

「……その方々もすぐに見つけてここに連れてきます。」

 

「ほんとに!? ありがとうソルトちゃん!」

 

 

 るんが無警戒に感謝しているところで、計算は立ちました。彼女がこっちの手中にある限り、状況を一気に覆されることはありません。

 

 ……召喚士のきらら、でしたか。彼女達はこれまでにおいて、正確にクリエメイトの場所を探り当てています。どのように見つけ出しているのか。ソルトはその秘密を理解する必要があるのです。理解してしまえばソルトがシュガーのように失敗することはあり得ません。

 どんな手を使っているのかは分かりませんが、ソルトは甘くありませんよ。

 

 

「そういえば、ローリエさんは……」

 

「ローリエさんなら、いま外で準備してるんじゃあないかなー」

 

 

 るんの言葉にため息が出る。もう少し我慢ってものをして欲しいものです。

 変身の出来栄えを見るって言ったじゃあないですか。

 これ以上計算を狂わせるような真似をしないでほしいと願いながら、ローリエに逃げられないうちに小屋の戸を開けました。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 テキーラ娘作戦を堂々と決行しようとしたり、ソルトをおちょくったり、ハン○ーグ師匠をぶっこんだりとふざけまくっていた八賢者。ソルトの計算はトオルの絆を計算に入れてなかったために失敗するとわかっているため、非協力的である。ただ、自身がこれから元凶を叩きに行くため、ただの悪ふざけでこんなにはっちゃけたりはしていない。詳細は次話にて。

ソルト
 シュガーの姉であり八賢者でもあるCV.○中真○美の女の子。ローリエに子ども扱いされていると思われており、彼との仲は良好とはいえない。ただ、ローリエの活躍と言動・性格のギャップに違和感を抱き始めている。原作での計算高さを再現するため、シュガーとローリエのクリエメイトへの近づき方を分析するシーンも盛り込んだ。
 過去については、完全にオリジナル。シュガーの脇の甘い性格のために用心深く計算高い性格になったとあったため、そうでなければ自身や妹が危険に陥る可能性の高い環境で育ったと思われる。

るん
 本名・百木(ももき)るん。警戒心ゼロのハイパーぶっこみ天然娘。原作者も認める電波マスタリーと善意のかたまりから、ソルトを困惑させるが、クリエメイト大好きなローリエとは馬が合った。ただ、ローリエからはあまりに悪意に鈍感かつ耐性がないため、その部分を密かに心配されている。


ローリエの変装
 登場順から、ジョセフのテキーラ娘(ジョジョ2部)、岸辺露伴(ジョジョ4部)、ギルガメッシュ(Fateシリーズ)、坂田銀時(銀魂)。ローリエは変装といえばどうしても日本に根付いているコスプレのイメージが強く、またエトワリアはま○がタイ○きららだけと知っているため、元ネタがわかるはずはないと変装。しかし、ソルトに『不自然』と尽く却下を食らった。

Aチャンネル
 黒○bb氏により2008年から連載されているきらら作品。るん、トオル、ユー子、ナギの女子高生4人による日常を描いたもので、るんが放つ天然ボケに周囲がツッコむギャグが中心となっている。
 余談であるが、きららファンタジアの☆5ユー子のデザインを担当から依頼された時、同氏は『☆4ユー子で結構脱がしたのに、これ以上脱がせたら大変なことになる』と勘違いをしていた時期があった模様。

エトワリアの食文化
 2019年10月現在開催中の作家クエスト『からみねーしょん』では、『焼きそばやたこ焼き、エトワリアニンジンはあるが、カレーライスは存在せず、エトワリアジャガイモは流通しておらず、エトワリアタマネギは希少』という情報が明らかになった。また、葉子様御用達のマヨネーズが瓶詰めになっていたりと現代日本よりも文化は進んでいないようだ。しかし、現代日本のわさびが、エトワリアでは『ツンツーン』と呼ばれ調理法もほぼ同じだあったりと共通点は多い。拙作中に出たハンバーグも、エトワリアでは希少なタマネギを使用するため、メジャー料理ではなく、仮に料理として存在したとしても、味はあまり良くないのかもしれない。

△▼△▼△▼
ローリエ「さぁ、ソルトの変身を見た後は晴れて独自行動! 村周囲にあると思われる呪術師の隠れ里を探して、そこにいるローブ野郎を始末してやる! ……と思ったんだけど…まさかの意外な出会いが俺を行く手を阻む! 一体誰が……!!? ま、まさか…主人公のきららちゃん!?」

次回『セカンド・エンカウント』
ランプ「次回もお楽しみに!」
▲▽▲▽▲▽


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第33話:セカンド・エンカウント

“ウチらのことが聖典に描かれてるなんて、ちょっと変な気分やね。”
 …西由宇子


「……ありがとうございました、ローリエさん。後はご自由にどうぞ。」

 

 

 自然に満ち溢れた田舎の村に降り注ぐ日差しの下、るんちゃんのそっけない声を聞き、俺は両手を組んでそのまま伸びをした。

 それと同時に、るんちゃんの姿がどんどん縮んでいき、ソルトのそれへと変わっていった。

 

 

「……うん。あとはアドリブ次第で上手くいくだろう。」

 

 

 るんちゃんにハンバーグを奢った後、俺は流れでそのまま村の外に出ることを計画していたが、ソルトに捕まり結局ソルトの変身チェックに付き合わされた。

 

 ソルトの変身は、見た目は完璧。瓜二つ。るんちゃんを一目見ただけでそんな風に変身できるあたり、分かっていたとはいえ、流石は八賢者だ。

 俺が懸念していた演技に対するチェックは、基本的な会話ばっかりで、俺の記憶でトオルちゃんが言ってた「お肉もいいけど、たまにはさっぱりとしたものはどう?」という質問も、「そうだね~、たまにはお野菜も食べないとね~」という答え(誤答)をスルーしたら上手くいった。

 

 むしろ、変身チェックを終えて俺がより不安になったのは、その前のソルトとのやりとりである。

 

 

『ローリエが魔法工学に手を出し始めたのはいつ頃ですか?』

『その時、なにを作ったんですか?』

 

 

 急に黙り込んだと思ったソルトからそう尋ねられた時は、一瞬頭が真っ白になり、神経が凍ったような心地になった。

 そんな事をこのタイミングで聞かれるとは思っておらず、もし聞かれた時のカモフラージュを用意してなかったからだ。

 

 一応、「7歳ぐらいの頃に、オモチャを自作したのが最初だった」と答えておいたが、それをソルトがそのまま信じたのかは怪しい。

 

 何度も言うがソルトは作戦を練るのが得意な策士だ。同じCVと言えども、シノとくっつければ丸め込めそうなアリスとはわけが違う。俺の小手先の嘘をそのまま信じるなんて寝ぼけてるか熱でもないとありえない。たちまち本当の事を吐かなければいけなくなっていたかもしれない。

 

 その直後の俺の出身を聞かれた時に、「聖典からやってきた」という超大嘘を思いついていなければ、どうなってたか想像したくはない。もっとも、その嘘のおかげでソルトが呆れたことから、命拾いしたと考えるべきか。

 

 

 これ以上考え事をしてソルトに怪しまれまいと、俺は早足に村の出口へ向かっていった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 掛け慣れないメガネにちょっと困惑しつつも、俺は村を出て、周囲の捜索に踏み出している。

 

 呪術師の隠れ家はまだ見つかっていない。だが、開始してからまだ十数分しか経っていない。この程度で見つかるのなら、それはもう隠れ家じゃあない。隠れ家(笑)だ。古くから、どのRPGでも、ダンジョンの奥へ行くには謎解きやレベル上げが必要であると相場が決まっている。まぁ、某○をみるひとみたいに隠れ家が鬼畜仕様並みに隠蔽されてたら俺では手も足も出ないのでそうでないことを祈るばかりだけど。

 

 

 ―――それにしても。

 

 

『――――()()()()()()()()()って言ったら信じるか?』

 

 

 なんであんな嘘が真っ先に思いついたんだろう。

 ()くにしたって、もうちょいマシというか、別の大嘘があるだろうに。

 それとも、俺の魂の出身―――つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()を考えてしまっているのだろうか。

 

 魂の出身自体は分かっている。聖典に描かれていた都会のような、『現実世界』だろう。普通に生まれて、普通に生きて、普通に死ぬ。そんな人間しかいない世界。

 ひだまり荘も、イーグルジャンプも、ランダルコーポレーションも、金髪美少女留学生も、情報処理部も、迷路帖も、スティーレも、魔法少女やまぞくも、まんが家寮も、キャンプするJKも、天之御船学園も、うるま高校ビーチバレー部も、魔法も……すべて、創作のものでしかないとされてきた世界だ。

 それでも“俺”は、不満じゃあなかった。数々のきらら作品は、一つの例外もなく俺の心を躍らせた。理不尽な仕事に追われ、無味乾燥な生活を送っていた俺の生きる糧となった。そして、その心躍った作品がギュッと集結したスマホアプリが出ると聞いた時は、迷うことなく事前登録をしたものだ。

 

 

 そして。何の因果か、エトワリアに生まれ直したと知った時は1ヶ月以上心の中で狂喜乱舞したものだ。

 更に、一度見たことのあるキャラクター達と出会ってからは、俺は積極的に仲良くなろうとした。まぁ、エトワリアはモブの女の子もカワイ子ちゃんが多かったから手当たり次第に声をかけてしまったけど。

 

 ただ、楽しいことだけじゃなかった。

 ソラちゃんとハッカちゃんを助けるためとはいえ、この手を血で汚してしまった。元の世界では殺人罪で逮捕・起訴・有罪確定の事案だ。たとえ正当防衛が認められても、周りの人々は人殺しと関わろうとしないだろう。今でもあの血の広がる光景を思い出すだけで吐き気がしてくる。

 ソラちゃんに呪いがかかるのも防げなかった。あの時、彼女がどうなるのかを知っていたのは俺を除いて他になかった。救うことが、できたはずだと思っていたのに。

 サルモネラ?知らん。学園生活部の命を狙った輩に慈悲はない。

 それと―――

 

 

『ローリエは……機械の心を、魔法工学で作れるの?』

 

 

 ―――不可解なこともできた。

 カルダモンが砂漠の教会から帰ってきた直後に俺を訪ねそう訊いてきたのだ。質問の意図がどうにも理解できず「ちょっとなに言ってるかわかんない」状態のまま、「作れる訳がない」と答えてしまった。そういう発明品を作ってほしいのかと思ったが、トレードマークの緑のマフラーで口元を隠す仕草と、陰の差したとも言うべき雰囲気、そして見事なまでのポーカーフェイスが妙に引っかかる。

 ……結局、あの時のカルダモンは何が言いたかったんだ?

 

 

「………あの、すみません。大丈夫ですか?」

 

 

 ……声をかけられる。どうやら色々考えすぎたせいで顔にまで出ていたようだ。

 

 

「――あっ、はい! すみません、ご心配をおかけしたようで……」

 

 それに答えようと顔を上げた所で。

 

 

「………? な、何ですか?」

 

 その見覚えのありすぎる顔と目があった。

 明るいオレンジヘアーを星の髪飾りでツインテールにした、たれ目の女の子。黒いローブを身に纏い、片手に特徴的な星の杖を持っている。

 

 

「な………ぁっ………!!?」

 

「ど、どうなさったんですか!?」

 

 

 そう。

 俺と目があったその女の子こそ。

 紛れもない、『きららファンタジア』の主人公。

 きららちゃんその人だった。

 

 

「きららさん、その人、村人ですか?」

 

「いや、彼の格好……白衣だね。」

 

 

 ……おまけにランプとマッチまで来た!?

 

 マズい。もし、ここで俺が八賢者ローリエだってバレたら、彼女たちがどのような行動に出るか分からない。

 純粋なきららちゃんに根は良い子のランプ、常識的なマッチならそこまで非道な手に出ることはないだろうが、正体がバレないに越したことはない。

 

 

「……すみません。雰囲気が少し…知人に似ていたもので。そんなわけはないと思ってはいたのですが……つい。」

 

 

 声を低めに出したのと、きららちゃん一行にいきなりエンカウントした動揺で、声が中○譲○さんみたいになる。

 これで様子見といきたいところだが……

 

 

「そ…そうですか?」

 

「はい。」

 

「…………。」

 

 少し戸惑いながらも、きららちゃん自身は信じてくれたようだ。

 

「……きららさん?」

 

 だが、妙な事に、きららちゃんは俺から目を逸らそうとしない。足も一歩も動かず、ランプの呼びかけにも反応していない。マッチも困惑しているようだ。

 

 

「……まだ何か?」

 

「あ、あの………

 あなた、私達とどこかで会いませんでした?」

 

 

「はい?」

「え、きららさん?」

「きらら??」

 

 きららの予想外の質問に、俺だけでなく、ランプとマッチも声をあげる。

 何それ、新しいタイプの逆ナン? でもきららちゃんって何歳なんだろう。15~17歳くらいだろうか? もっと若いかもしれないし、大人かもしれない。デートはしても良いけど、それ以上となるとあと2、3年の辛抱が必要そうだな……

 ……じゃなくて! 「初対面です」って言わねーと!!

 

 

「……他人の空似だと思いますよ。

 私は言ノ葉の都市から出たことはありませんし、ここに来たのも、今回の調査で初めてきたのですから。」

 

「……港町に行った事は?」

 

「…ありませんよ。いつか行ってみたいと思いますがね。」

 

「そう……ですか。

 すみません。変な事を訊いてしまって。」

 

「構いませんよ。

 では、私はこの辺で。」

 

 

 そう言って、きららちゃん達とすれ違うように森の奥に入っていくフリをして。

 

 

「あぁ、そうだ。出会いついでに一つだけ。」

 

「「「???」」」

 

「ここに来るまでに、森の中で小屋や不自然な結界の跡を見かけませんでしたか?」

 

 

 本題の質問をぶつける。

 きららちゃん達は不思議そうな顔でお互いを見合わせると、

 

 

「いいえ。そういったものは見かけなかったと思います。」

「ええ。もし見かけていたら、覚えていますから。」

「まぁ、わけあって僕たちも急いでいるから、そんな余裕なかっただけかもしれないけど。」

 

 

 三者三様の答えを返してくれる。

 「ご協力ありがとうございます」とひとこと言い、きららちゃんたちが見えなくなるまで距離を取る。

 

 ―――きららちゃんの能力からして、俺のパスを読み取れるのであれば、怪しまれるかもしれないけど、さすがに俺が八賢者ローリエだとまでは見破られなかったようだ。ランプも、まだ自身が女神候補生だときららちゃんに打ち明けていないから、見覚えのあるパスから八賢者ローリエまではたどり着けないだろう。

 大きく息を吐く。超ドキドキした。きららちゃんってあんないい声してたんだ。流石楠木と○りさんやでぇ。

 

 なんて中の人談義は置いといて。

 

 

 ワンチャンきららちゃん達が隠れ家を見かけてないかなー……って思ったけど、流石にそこまで甘くはないか。

 

 仕方ない。

 

 

 周囲に誰もいないことを確認すると、白衣の前を開いた。

 

「……出てこい」

 

 

 その声を皮切りに、懐から…G型魔道具がカサカサと這い出てくる。それは次から次へと湧き出てくるかのように現れ、はたから見れば俺はテラ○ォーマー○か全身がGでできているやべーやつに見えることだろう。こんなことを神殿内でやろうものなら、全ての女性から絶交される。

 だが、そういうリスクを負ってでも、俺は呪術師の隠れ家を探し当てたかった。ソラちゃんの呪殺未遂には、ほぼ確実にこの辺りに住む呪術師が関わっているだろうから。というか黒幕だと踏んでいる。ミネラさんの情報が裏付けしている。

 そこで俺がとるのはサーチ機能がついているG型魔道具による物量作戦だった。眼前を埋め尽くす黒い塊のようになるまで膨れ上がった数ならば、ローラー的に探し当てることもできるだろう。G自体が魔道具なので、魔法の結界もある程度探せる。

 

「…お前ら、ゴー」

 

 そうして、俺の号令とともに渓谷の村周辺の森に、黒い群れが波のように舞った。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……きらら、なんでさっきの男にあんなこと聞いたんだい?」

 

 

 眼鏡をかけた研究員風の男が見えなくなった後。

 マッチは、きららにふと尋ねたのだ。

 理由は、ひとつ。

 

「ちょっと不用心だよ…どう見ても初対面の男に対して、『どこかで会わなかったか』なんて聞くなんて。あの人は紳士的だったから良かったものの、変な勘違いをされていたかもしれないぞ?」

 

「マッチ!」

 

 贔屓目(ひいきめ)なしに見ても、きららは顔立ちの整った美少女である。そんな彼女が、もし初対面の男性に透き通るような声で「どこかで会いませんでしたか?」などと訊いたらどうなっていたことか。

 思春期の男子だったならば、間違いなく「彼女は自分に気があるのかもしれない」という思い込みを生むだろう。それが盛大な勘違いであることに気付く由もなく。

 そういった危惧をマッチがやんわりと指摘するが、ランプにはそれがいささかデリカシーに欠けているように見えたみたいだ。

 

 

「ううん、違うの……ランプ、マッチ、私、あの人のパスには見覚えがあるの」

 

「パスに……」

 

「見覚えがある、ですか?」

 

 

 きららは、そう言ったマッチに対して根拠があると言い、それについて話し始める。

 

 

「パスの力が、人と人との間にある繋がりや絆だって話は、ランプからしてくれたよね?」

 

「はい………ってことはさっきの方は…?」

 

「港町で同じパスの持ち主を見かけたんです……!

 その人と、よく似ていました。……同一人物かと思うくらいに」

 

 

 きららの確信を持った言葉にランプはなるほどと頷く。だが、マッチはそれだけでは「同じパスの持ち主だ」と断定できないと察したようだ。

 

 

「きらら、パスは絆のようなものだ。誰にでもある。

 その中から同じパスの持ち主だって気付くのはなかなか難しいと思うんだけど……?」

 

「わかるよ、マッチ。あの人のパスほどアンバランスで……悲しいパスは見たことがない…」

 

「え………?」

 

「……どういうことかな?」

 

 きららの発言があまりに意外だったので、ランプは呆気に取られる。マッチはきららの言葉の意図を知るべく話を進める。

 

 

「あの人は……誰かを想う力が誰かに想われる力よりも圧倒的に強いんです……!」

 

 

 マッチの質問に悲しそうにそう答えるきららに対して、ランプはきららの言葉の意味をいまいち量りかねていた。

 

「マッチ、どういうこと?」

 

「人は助け合って生きている。誰だってそうだ。ランプだって、勉強はあまり得意じゃあないだろう? 僕がいなかったらどうなってたことやら。」

 

「ちょっと!それ今言う事じゃないでしょ!!」

 

「でも、さっきの男の人はそうじゃなかった。つまり……」

 

 ランプに尋ねられたマッチは、身近な例えをもって人々の助け合いの生き方を説いた。しかし、ランプにとってそれは若干触れて欲しくない部分だったようで、顔を赤らめ声を荒げる。しかし、これに反応していたら話が進まないと判断したマッチによってそれは無視される。

 きららの言う『想う力が想われる力より圧倒的に勝る』(パス)……

 そのパスが意味するところは……

 

 

「―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()……なおかつ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()人物………!」

 

 

 マッチの答えは、的確に……残酷なまでに的確にとある人物を指していた。

 

 

「き、きららさん、ど、どうすれば……!」

 

「どうすれば、って聞かれても……」

 

「ランプ。僕たちが彼に出来ることは何もないよ。」

 

「……マッチ?」

 

「……何を、言っているの…? もっと話せば、何か分かるかもしれないじゃん……」

 

「そうは言ってもね。見ず知らずの他人だよ?

 それに、僕達は急いでいる。クリエメイトなら兎も角、ただすれ違っただけの人をカウンセリングしているヒマなんてない。そんなことをしてソラ様が助からなかったら本末転倒だ。」

 

「マッチ、あなたって人は!!!」

 

「なんだよ、僕は間違ったことを言っているか!?」

 

 

 男の人を助けようとするランプと、本来のソラ救出のために先を急ごうとするマッチ。白衣の男の人物像がある程度判明した途端、あっという間に口論に発展した。

 ランプの顔を見れば、その破滅的な人物を何とかしたいという焦燥にかられていることは明白だった。

 だが、きららは困惑していた。

 マッチの言っていることは正論である。男の人は、きらら達とは先程出会ったばかりなのだ。お互いの名前も知らない。知り合ったとも言えない間柄なのだ。しかも、何か困っているようには見えなかった。

 ましてや自分達は女神を救うため、一刻も早く神殿に行かなければならない。

 だが、ランプの困った人物を見過ごせない性格は、これまでの冒険の中で分かってきているのだ。きらら自身も、このままあの男を忘れてしまったら、寝覚めが悪くなりそうだった。

 

 迷った末に、きららが取った行動は。

 

 

「落ち着いて、二人とも。」

 

「「!」」

 

「ランプ、確かにあの人は私も気になるよ。いやな予感もする。

 でもね、マッチの言うとおり、私達はソラ様を助けるための旅をしているの。だから――――

 

 

 ―――あの人とは、言ノ葉の都市で会えることを祈ろう?」

 

 

 旅の先を急ぐことだった。

 しかし、マッチのようにストレートに先を急かすことはせず、再び会える可能性に賭けることで、ランプの機嫌を損なわないまま急ぐ選択肢を取ったのだ。

 

 

「それにね……今、クリエメイトのパスを感じたの。」

 

「クリエメイトのパスですか!?」

 

 駄目押しに、今見つけたクリエメイトの反応を二人に伝えれば、ランプの目の色が変わる。心優しいランプといえども、クリエメイトの窮地は見過ごせず、最優先で駆けつけようとするようだ。

 

 

「なんでやのー!?」

 

「………声も聞こえる。確かに、クリエメイトは近くにいるのかもね。」

 

「そうだ………ね?」

 

 声のする方へ視線を向けると、そこにいたのは……

 

 

「うぅ……なんでみんな逃げてまうのやろ……

 やっぱり、この格好のせいやろか……

 もう、ほんまどうなっとるん……気づいたら知らん場所やし……」

 

 

 一人の少女がいた。黒い長髪につり目で、青と黄色、裏地に紫の魔女帽子とマントを着ている。マントからのぞくビスチェは、露出が多めで、彼女のプロポーションの良さを際だたせている。

 

「トオル……るん………ナギ………お願いやから誰か出てきてー。」

 

 

 だが、漂わせる雰囲気は妖しさや大人っぽさからは程遠く、むしろ迷子の子供のようであった。

 

 そんな少女にランプは……

 

 

「ユー子さまあああああああああああああああああ!!」

 

 

 後ろから急に抱きつこうとし……

 

 

「ひっ……いやああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 ユー子様と呼んだ少女に思い切り逃げられた。

 

「あ、逃げた。もの凄く速いね、彼女。」

「なぜですかァァーーーーッ!?」

 

 逃げ出したユー子を追いかけたきらら達は、あの奇妙な男と再び出会う時が、案外すぐやってくることを、未だ知らない。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 前世に思いを馳せる八賢者。今回は彼自身の行動の整理回も兼ねていたので、話に進展があまりなかったかもしれない。また、禁止されていたハズの魔道具も『バレなきゃ犯罪じゃないんですよ』の精神で量産していた。きららと出会った時の声のモデルは、とある声優のモノマネから。

きらら
 中の人が○サシンズ○ライドでヒロインを張っていたきららファンタジアの主人公。パスを感じる能力については、今回で言及した以上のことを深く掘り下げると頭がおかしくなって死ぬので注意する所存。

ランプ&マッチ
 男の人の異常に気づきつつも、先を急ぐか否かで喧嘩した二人。なお、きららから男のパスが誰に似ていたかを聞いて固まった模様。

らんぷ「ところで、男の人のパスは港町の誰に似ていたんですか?」
きらら「えーっと…」
まっち「どうしたんだい?」
きらら「……神父さん」
らんぷ「え」
きらら「…せーぶとか言ってた神父さん」
らんぷ&まっち「」
ゆーこ「???」

ユー子
 本名、西由宇子。関西弁で話す、長身の女の子。基本的にいい子なのだが、ホラー耐性ゼロの弱気さと不幸体質のせいで誤解されやすい。女子高生にしてはプロポーションが良く、トオルによく弄られている。



Aチャンネル
 2008年末からまんがタ○ム○ららキャラットで連載されている日常系作品。るん、トオル、ナギ、ユー子の四人を中心に描かれており、るんが放つ天然ボケに、周囲の人間がツッコむギャグが主な内容となっている。



△▼△▼△▼
ローリエ「さぁ、たどり着いたぜ、呪術師の小屋!そこに住んでいたのは二人。大怪我している男とその身内らしき女性………どうやら、ビンゴのようだ。ソラちゃんを呪った報いをくれてやるぜ……!」

次回『呪術師』
ローリエ「お前らの企みを……潰す!」
▲▽▲▽▲▽


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第34話:呪術師

10月27日、日間ランキングで21位を獲得しました。それに伴い、閲覧者が一気に増えた気がします。皆様、本当にありがとうございます!これからもこの「きらファン八賢者」をよろしくお願いいたします。


“俺とて、初めからすべて分かった時点で呪術師を探していたわけではない。逆だ。死にもの狂いで呪術師を探したのは、全てを解明するためだ。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第4章より抜粋


 渓谷の森に大量のGを解き放った俺は……ってコレ字面にするとかなりヤバいな。

 

 魔道具で空中偵察をした結果、呪術師がいると思われる小屋は案外早く見つかった。

 空中から鳥の群れのように探せば、航空写真に写るように小屋が丸見えだったのだ。川から少し離れたところ、木や岩で巧妙に隠されているようだが、流石に空からの偵察への対策はされてないようだ。

 

 魔道具が見つけ出した座標と、俺の現在地を元に、方角を割り出し足を進めることにした。途中、自分の第六感のようなものに「この方角じゃない」と言われまくったが、データに間違いはないのでまるっと無視した。

 

 

 そうして違和感を無視しまくって歩いていると、開けた場所に出た。

 

 そこは小さく浅い川がいくつも流れており、川辺の石や岩にはコケが程よく茂っている。だからといって滑りやすくて進むのに危険というほどでもなく、むしろ絶えず流れる水音や心地よい太陽の光、時折聞こえてくる鳥の声といった自然がそのまま残る光景は、前世(日本)の侘び寂びを思い出すように安心できた。また、周囲の所々に見える倒木は、かつてそれが人工物であったかのような感覚を覚える。それもまた、日本独自の諸行無常の価値観を彷彿とさせた。

 

 

 そして、川の側に、現在でも使われてそうな一軒の小屋があるのを見つけた。

 丸太を積み重ねて造られた、明らかに人工物だとわかる家。前世でいうところの、ログハウスというやつだ。

 外観からして、一人か二人住むには十分と言わんばかりにこじんまりとした家。

 

 ―――ここに、ソラちゃんに呪いをかけ、クリエメイト集めをクリエメイトの命を狙ってまで妨害した、黒幕がいるかもしれない。

 今すぐに家に火を放ってやりたい衝動と、黒幕への明確な殺意を抑えながら、戸をノックした。

 ヤツらに八賢者と悟られないように、笑顔の仮面を被る。

 

 

「は~い……どちらさま?」

 

 森の静かな雰囲気に似合わぬ明るい声とともに小屋から出てきたのは、俺よりもいくらか幼い少女であった。

 背は小さい。150いってないんじゃないかと思うほどだ。エトワリアに来てからはめっきり見かけなくなった茶髪を金の髪飾りでおさげにしていて、新緑のような色の瞳は、見慣れない来訪者に対しても不自然な距離を感じさせない、底抜けの善意が伺える。服装は地味な色の半袖長スカートに薄い水色のエプロンと家庭的で、そのせいか少女とは思えないほどの巨乳が主張していた。

 

 

「すみません。私、この辺に地質調査に参りました、言ノ葉研究所の者でございます。

 少々、この地方についてのお話を伺いに参りました。」

 

 

 正直言ってエロいが、油断はしない。笑顔のまま、偽造した名刺を差し出す。

 

 

「…『言ノ葉研究所 ペッパー・K・ショウドルトン』……

 …………ここで立ち話もなんだし、中に入ってよ。お茶くらい出すわ」

 

 差しだした名前を呟くように暗唱した少女は、少し考える素振りをしてからそう言った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 少女は、アリサと名乗った。

 この森で、兄と二人暮らしらしい。

 お茶を出されたが、敵地のど真ん中で出されたものを飲むほどアホじゃない。やんわりと断ったものの、最終的にはテーブルに口のつけられない湯呑が二つ並ぶことになった。

 

「それで、お兄さんはどちらに?」

 

「……風邪で寝込んでるわ。お客さんの前に出れる状態じゃあないの。」

 

「そうでしたか。ここの地理について何か聞けると思いましたが……仕方ありませんね。」

 

 

 自己紹介も含めていくらか会話をしたが、目の前のアリサという少女は、あの夜に現れたローブ野郎ではありえないだろうと断定した。理由は三つ。

 

 一つ目、単純に身長が足りないことだ。あの夜に現れたローブ野郎は、身長は165~170センチで、アルシーヴちゃんと同じくらいだ。アリサの身長ではどう見ても足りない。まぁ、身長の低い人が高く誤魔化す方法がないわけではないが。

 

 二つ目は声。ローブ野郎の声は男だった。少なくともアリサのような高い声ではない。声色を誤魔化せる魔法かなにかを使われたらどうしようもないが、攻撃されたらその拍子に解けそうではある。

 

 三つ目。これが一番重要だ。怪我をした跡、および怪我の部分を庇っているような仕草がないことだ。ローブ野郎は、俺のマグナムを胴体に4発、両腕に1発ずつの計6発も食らうという大怪我を追っている。つまり、もしローブ野郎が今も生きているのならば、まだ傷が癒え切っているはずがない。怪我も痛む素振りも見せないことから、彼女はローブ野郎ではありえない。

 以上が彼女を『容疑者』から外した理由だ。

 

 

「……これでお話は以上になります。ご協力ありがとうございました。」

 

「…いいえ、こちらこそ。」

 

「あとは私のほうで独自に調査させていただきます。テントは持参してきているので、ご心配なく」

 

「あ、あの……」

 

「お二人については、下手に口外は致しませんので」

 

「…ありがとうございます」

 

 

 地質調査の話をしながら、直接の潜入ではここいらが限界だと悟ったので、さっさとお暇するとしよう。

 下手にもう一人の『容疑者』であるアリサの兄について尋ねると、不審がられるからな。

 湧き上がる疑念と蘇るローブ野郎への殺意を面に出すことなく、そのまま小屋を出ていった。

 

 

「……。」

 

 

 扉が閉まっていくのを確認すると、小屋から距離を取った所で杭が入り、柔らかすぎない地面を探してテントを建てる。そして懐からG型魔道具を四、五匹呼び出して、そいつらにアリサの小屋にいるであろう彼女の兄を確認するため、家宅捜索を命じた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 潜入したGの視界をテント内から中継を繋げる。

 映像には木造の部屋と二人分のベッド、そしてそのベッドの一つに寝転がっている人物。顔色は真っ白と言えるほど悪く、だがゆっくりと掛け布団が上下に動いていることからかろうじて生きていることが伺えた。

 なぜ顔色が悪いのか。俺は、掛け布団から出ている彼の両腕にしっかり巻かれた包帯を見た途端に一つの可能性――グレーに近い確信じみたもの――に至った。

 

 

 ―――こいつがローブ野郎か。

 

 

 神殿内に残していった血痕から、ローブ野郎のダメージ度合いはある程度予測していたが、あの運命の夜からいくらか日にちが過ぎた今でも、ほとんど回復していないようだった。

 まぁ、拳銃という人間の殺意と技術が生んだ現代紛争の申し子みたいな武器から放たれる、音速を超える鉛玉をこれでもかというほど食らったのだ。普通は即死してもおかしくないだろう。むしろ、今までよく死なずに生き延びていてくれたといったところか。

 

 と、なると……アリサはおそらく、あの夜にいたと思われる、実行犯を神殿から逃がした共犯だ。

 

 そう考えていると、部屋の扉が開き、誰かの足音が聞こえた。おそらくアリサだろう。俺は中継している魔道具に「彼女に見つからないように姿を隠し、監視を続けろ」と命じた。

 

 

 

『兄さん』

 

 

 アリサの声が魔道具の盗聴器を通して聞こえてくる。モニターの視界は、いずれもアリサに見つからないよう移動したためか、半分以上戸棚やタンスに隠れていて、ベッドの一部とアリサの後ろ姿しか見えない。

 

 

『あぁ、アリサか。……どうした? 何かあったのか?』

 

 

 映像が良く見えるように、かつ住人に見つからないように工夫して魔道具の場所を探っていると、今度はアリサのとは違う男の声がした。おそらく彼女の声に反応して、目を覚ましたのだろう。俺は魔道具の操作を中断して耳を傾ける。

 

 

『人が、来たの』

 

『人?』

 

『言ノ葉の都市から来た、研究員さんだって言ってたけど……兄さんを追ってきた人かもしれない』

 

 

 アリサの心配するような声が聞こえた瞬間、無意識に立ち上がり、息を呑んだ。

 バレている。その事実が、体を硬直させた。

 一体、いつ見破った? どこでボロを出した? アリサとのやりとりを思い出すも、いくら記憶をさかのぼっても、心当たりがない。

 

 

『兄さん、一体何があったの? いい加減話してくれてもいいじゃない』

 

『……すまない』

 

 ―――ん?

 アリサの言葉から察するに、彼女、状況を分かってない?

 

『緊急信号を拾ったと思ったら、神殿から血塗れで帰ってくるなんて……』

 

『……体が治ったら、必ず話す』

 

『約束よ?』

 

『ああ』

 

 どういうことだ? なぜ、彼女は何も知らないんだ?

 

 アリサは俺が追手である可能性を考えながら、自身の兄が何をしたのかを全く知らない。確かに、『女神ソラに呪いをかけてきました』なんて、そう簡単に言えることではない。彼女を手に掛けようとしたということは、エトワリアという世界に仇なすも同然だからだ。だが……もしアリサの兄が黒幕であるのならば、身内のアリサに話していない訳がない。それとも、家族だからこそ話せないのか……はたまた、妹すらも駒扱いしているのか………?

 

 いずれにせよ、断定するにはまだ足りない。ジグソーパズルの重要な部分のピースを無くしたかのように、何か決定的なものが欠けているような気がするのだ。

 

 ……そう…何か、ひとつ。

 見つければ、事件の真相が見えてきそうなものが。

 

 気を抜いたら気分が悪くなりそうな、そんな嫌な予感というか、もやもやした晴れない気分が俺の心にしこりを残していた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 日が落ちた森は、暗闇と大差がない。

 その森の中を、親の仇を探すように―――いや、兄の仇をランタン片手に探す少女がいた。

 

 背は低く、茶髪を金の髪飾りでまとめ、昼間の家庭的な格好とは裏腹に、黒いローブと金の装飾具を身に纏っている。

 

 彼女の名は、アリサ。

 

 かつて、神殿に迫害され人っ子一人来ないような森林の中へ逃れてきた、呪術師の末裔―――その一人である。

 

 

 

 

 彼女は、兄・ソウマと母とで三人暮らしをしていた。森の中に住んでいたため、人との交流こそ少なかったが、社交的な少女に育った、と二人は言っていた。そのためか、礼節とコミュニケーションに長け、たまに現れた迷い人の心を開かせることも得意だった。母が病に倒れた後も、兄と二人で生活していた。彼女に不満はなかった。ただ、一つを除いて。

 

『兄さん! 私、言ノ葉の都市に行きたい!』

『……アリサ。分かっているだろう? 俺達は……』

『…分かってるよ。でも、呪術に頼らなくっても、生きていける方法を探して、引っ越しして、皆で仲良く暮らしていけたらいいなって思うの。』

 

 アリサは、いつか街に行きたいと思っていた。

 ソウマに窘められ、自分達が何者かを聞かされてもなお、彼女は夢を諦めきれなかったのだ。

 そんな妹の夢を叶えるため、ソウマは様々な仕事を受け引っ越し資金を稼ごうとしたのだ。

 ソウマは妹に仕事について多くを語らなかった。彼女もまた、兄の帰りが遅くなった程度の認識しかなかったのだ。

 

 

 そんなある日、アリサは兄から緊急信号を受け取った。迎えにいった先にいたのは、全身から血を流すという、ぱっと見で大怪我を負っていることが分かる程傷ついたソウマだった。

 すぐさま転移で自宅へ戻り、出来るだけの治療をした。

 その結果、かろうじて命は助かったものの、未だにベッドから離れることができずにいる。

 兄は息も絶え絶えに事情を説明しだした。

 

 曰く。とある仕事で手痛い反撃にあった、と。()()()()()()()()()()()()()()()()()にやられた、とも。だが、肝心の仕事内容について、ソウマが語る事はなかった。

 

 突然の兄の負傷。危険な仕事をしているとは露とも思わなかった彼女は、混乱を紛らわすため、ただ唯一の肉親を救わんとするために必死に看護した。

 

 そうして兄を看病する日が続いた頃にやってきたのが、ペッパー・K・ショウドルトンと名乗った、白衣に緑髪、金とオレンジのオッドアイが特徴的な男だった。研究所の職員と名乗った彼を、半信半疑でアリサは迎え入れた。

 

 そもそも、意図的に自分たちの家に来たこと自体怪しいと思っていた。自宅周辺には、無意識に働きかける微弱で感知されにくい結界が張られており、「呪術師を見つけよう」と考える人間の第六感に呼びかけ、誘導に近い形で迷わせるようになっているのだ。それをものともせずやってきたこの男に対して、ただの迷い人の可能性も加味しつつ警戒していたのだ。

 

 だが、アリサの兄について話してしばらくして、アリサは異変に気づいた。

 ペッパーと名乗った男の眼鏡越しの瞳の色が、段々と変わっていき、最終的に()()()()()に変わっていったのだ。アリサは動揺を悟られないようにするのが精一杯だった。

 

 そして、確信した。あの男こそ、兄を、ソウマを亡き者にしようとした人間であると!

 

 ただでさえ兄を半殺しにしたというのに、今度はその命をも奪おうというのか。

 

 

 彼女の心にあるのは、唯一の家族を守ろうとする意志と、その命を狙う男への強い憎悪であった。

 

 

 

 真っ暗な外に出て、僅か数分のところに、そのテントはあった。月の光も届かぬ闇の中、黄色という比較的明るい色であるために、ある程度距離があっても見つけることができた。

 感づかれないように近づきすぎず、見られにくい場所に立ち、足元にランタンを置く。

 

(安心して……兄さんを殺させはしないわ…ッ!)

 

 両手をかざし、魔力を集める。それは、やがてソフトボール大の火球になり。

 彼女の手から、放たれた。

 

 火球は、暗闇の先を照らしながら、木々の間をすり抜けていって、寸分違わずテントに直撃した。

 

 ボオォオ、と軽い爆発音と共に、火の手が上がる。

 

 炎の中の三角形のシルエットが、パチ、パチ、という破裂音に伴って少しずつ崩れていく。

 

 燃え上がる炎に照らされた表情に、昼間にペッパーに見せたような明るさなど微塵もなかった。あったのは、兄を守るために人をも手に掛けることすら躊躇うことのない、漆黒の意思の宿る顔だった。

 

 

 それも、兄を害そうとした人間を先手を打って焼き殺したことで、安堵する―――

 

 

 

 

「おいおい、随分なご挨拶だな」

 

 

 ―――ことなく、振り返った先にいた人物を見て、再び険しい表情になる。

 

 

「追手にはこれで充分よ」

 

「戦うつもりはない」

 

「信用できると思う?」

 

 

 予め避難していたのか、火傷どころか衣服の焦げもない男―――ペッパーもといローリエを見て、アリサの表情は再び憎しみに染まる。

 

 

「俺はただ聞きたいことがあるだけだ」

 

「奇遇ね。私もなの。

 ―――兄さんを殺そうとしたのは、お前でいいのよね?」

 

 

 そして、指先を一振りすると、彼女の周囲に浮遊する火球が5、6つ現れ、敵を焼き尽くさんとごうごうと燃え盛る。

 ここに人知れず、八賢者と呪術師の死闘が始まった。

 




キャラクター紹介&解説


ローリエ/ペッパー・K・ショウドルトン
 偽名をこさえてまで八賢者ローリエの正体を隠し、呪術師の隠れ小屋に接触した男。その実、やったことは『虫型魔道具で盗撮・盗聴』と現代なら法に触れることをやっており、もしバレたら穏便に情報収集することが絶望的になることをやっていたのである。彼自身としては、「ソラに呪いをかけた人物の正体と目的を知りたい」という一心でやっているので手っ取り早いといえば手っ取り早いのだが、後述する呪術師一家からの不信度はかなり高く、そういう意味では非合理的であるが、彼自身もともと呪術師をかなり疑ってかかっていたので、今回の事態はある意味予想外だった。
 偽名の元ネタはペッパーと胡椒(コショウ)から。

アリサ
 森に住んでいた、呪術師の末裔の一人。兄と二人暮らしだが、明るい性格に育ち、それが迷い人を穏便に送り返すことに役立っている。兄が何をしていたのかはまったく知らされておらず、突然兄が大怪我を負って帰ってきた時は、「よく分からないが兄は殺されかけた」と思っており、彼の証言から似た身体特徴の追手がやってくるだろうことは予想していた。ペッパー(ローリエ)がやってきた時、目の色だけが違うことが気になっていたが、あるきっかけで彼の目が変色したことで追手と確信、先制攻撃に至った。ローリエの身バレする危険を回避する慎重さが皮肉にも彼女に攻撃のチャンスを与えてしまったのだ。

ソウマ
 アリサの兄にして、呪術師の末裔の一人。アリサに黙って仕事をしていたが、現在とある事情でベッドから離れられないという。ローリエは魔道具の偵察とアリサとの会話から彼が「ローブ野郎」だと推測しているが、はたして……?



△▼△▼△▼
ローリエ「どういうことだ? ローブ野郎はおそらくアリサの兄さんで間違いないんだろうが、どうも、しっくりこない………まるで、全部が明らかになっていないような……とにかく、まずはアリサからだ。殺意に塗れて、復讐者のごとく襲いかかってきたら、できる情報整理もまともにできやしない。しかし、相手は呪術師。簡単にいくとは思えないが……」


次回『八賢者(ローリエ)VS復讐者(アリサ)
ローリエ「絶対見てくれよな?」
▲▽▲▽▲▽


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第35話:八賢者(ローリエ)VS復讐者(アリサ)

“なんてことはない。俺も彼女も、守りたい者のために戦った。それだけの筈なのに、俺には吐き気を催す最悪な気分しか残らなかった。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第4章より抜粋


「―――兄さんを殺そうとしたのは、お前でいいのよね?」

 

 アリサが、人なんて簡単に殺してしまいそうな憎悪の瞳で睨みつけてくる。

 その心の奥底では、身を焦がす程の怒りが、悲しみが、憎しみが、燃え上がっていることだろう。

 

 手先が震える。

 当然だ、オーラにまで出てきそうな殺意をぶつけられるなんて―――前世(むかし)は勿論、今世(いま)でもそうそう無い。幼き日の盗賊以上かもしれない。

 きっと彼女との殺し合いは避けられないだろう。彼女には俺が兄の命を狙う追手に見えるだろうからな。

 まさか、心構え一つでここまで敵を威圧できるとは。ハッキリ言って、前世で唾棄されていた、精神論をちょっと舐め過ぎていた。

 

 正直、怖い。ここまで激しく、研ぎ澄まされた日本刀のような殺意相手に、手加減なんてしている余裕などないのかもしれない。

 そんな恐怖に飲まれないよう、一度震える手で拳を握ったあと、銅の剣を握る。

 

 アリサの質問だが、正直に『ソラちゃんに呪いをかけやがった理由を聞いてから判断するから、どっちともいえない』と答えるのが一番俺の心境的に合っているのだが……すさまじい殺気を当ててくる今の彼女にそう言っても信じてくれる気がしない。

 

 

「……なんのことか分からないな」

 

「とぼけないで。緑髪に紫と群青の目………いまさら違う色に誤魔化したって言い逃れはできないわ」

 

「!!?」

 

 紫と群青色の目、だと……?

 つまり、俺は無意識のうちに彼女の前で目の色を(文字通り)変えてしまったというのか!?

 自身の正体が兄の追手であることは(若干の誤解があるとはいえ)おおむね当たっている。ワンチャンスの望みをかけてすっとぼけてみたが、まさか疑いの決め手が目の色だったとはな。

 しかし、こうなった以上はやむを得ない……のか。

 

「……そうだと言ったら?」

 

「お前を殺す。そんなナマクラでどうにかできると思わないことねッ!」

 

 

 挑発とも取れる答えを口にして、銅の剣を正眼に構えると、アリサが啖呵を切るとともに、火の玉の群れが俺目掛けて襲いかかってくる。命中したら骨まで焼き尽くされるのは目に見えている。

 

 故に、取る選択は一つ。

 

「―――ッハ!」

 

 横っ飛びに、その火の玉の群れの直線ルートから逃れること。防御は出来ない。銅の剣が温度に耐えられそうにないからね。剣自身にちょっと()()してあるけど、防御用じゃあない。

 

 これで反撃、と思ったんだが。

 

「……うそん」

 

 

 火の玉達が、俺を追いかけるように追尾していたのだ。いくつかは方向転換の過程なのか木にぶつかって燃え上がったが、視界いっぱいに映る炎が、間違いなく俺を殺しに来ている。

 

 

「どチクショウ!!」

 

 それを、シンプルな身体能力で火の玉の間をすり抜けるようにかわしていく。ジンジャーの修行の成果が身にしみて感じられた瞬間だった。

 

 しかし、まだ火球は俺を追跡している。

 

 態勢を立て直してパイソンを抜き、それらに向かって発砲する。

 

 ただの弾丸が、火球と相殺できる道理はない。

 だが、俺の弾丸は特別製だ。

 

 

 バシュッ! バシュッ! バシュッ!

 

 森に風が吹き抜けるような音が響き渡る。弾丸が命中した火球が一気にしぼみ、消滅したのだ。

 

 

 これが、俺の特別製の弾丸。

 簡単に言ってしまえば、属性付与魔法によって、魔法の属性を得た弾丸である。渓谷の村へ発つ前に、火・水・土・風・陽・月と全属性を揃えておいたのだ。魔法工学の本領を発揮した発明の一つではあるが、作成時にはアルシーヴちゃんやシュガー、セサミなどの手をだいぶ借りた。その代わり、時と場所に応じて使い分けることができる汎用性の高い代物だ。今みたいに、魔法に対して使い、攻撃を相殺したり防御魔法を突破することもできる。

 

 だが……火球を撃ち払った後、俺は気づいた。

 

 

 周囲は薄暗い夜の森で、光源が全くないこと。

 魔法を放ったアリサを完全に見失っていること。

 それの意味する所とは―――

 

「―――既に術中ってことか」

 

 

 周囲を見渡し、彼女の姿を見つけ出さんとするも、「そんな暇など与えてたまるか」と言わんばかりに、四方八方から炎が飛んでくる。

 

 切れ間ない憎悪の炎に飛んだり、屈んだり、魔法弾で相殺したりして、着実に躱し防いでいく。しかし、マズい。

 

 いくらジンジャーにしごき上げられた人間とはいえ、体力に限界はある。このまま千日手のような真似を繰り返していれば、いずれ体力が底をつくだけだ。

 アリサの狙いはそれだ。敵がどこにいるかも分からず、周囲の確認もさせないまま、押し切るつもりなのだろう。

 

 防戦一方と呼んで差し支えのないこの状況。早く手を打たなければジリ貧確定だ。

 

 

「………アレを使うか」

 

 俺は、炎に囲まれたこの苦しい戦況を打破するため、最初のカードを切ることにした。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 ペッパーと名乗った男を、火球で囲んで攻撃するアリサ。その作戦は、森で生きてきた彼女にとっては、得意中の得意戦法だった。

 

 炎とは、古代から人間が利用してきたものでありながら、人間の命を奪い続けてきたものである。高温は言うまでもなく、燃焼する際に人間の呼吸に必要な酸素を消費することも、人間の命を危険に晒す所以でもある。また、一度燃えると有機物から有機物へ燃え移る性質も厄介なものである。

 

 その性質を森の中で発揮しようものなら、木から木へあっという間に燃え移り、燃え盛った炎は使用者にすらも無差別に牙をむくだろう。しかし、未だそうなっていない辺り、アリサの場数と魔法の精密さには目を見張るものがあった。

 

 また、光源のまったくない森の中では、人は敵を見失うものである。人間は、昼に活動し、夜は隠れ家で眠る生活をしてきた生き物だからだ。そうなった場合、人間は光を頼りにするものだ。それが例え―――敵が放ってきた、炎の魔法だったとしても。

 

 

 ……つまり、今の彼は『夜の森、視界がまともに働かない状況で、炎の球に襲われまくっている』ことになる。

 

 敵を見失い、視界も悪く、攻撃は凶悪かつどこからやってくるのか分からない。普通の――いや、並大抵の人間が相手であるならば、このまま逆転の一手も与えずに、アリサは敵を焼き殺すことができただろう。

 

 

 しかし――――――彼女は知らない。

 

 今回の敵が、アリサの予想や予測など簡単に凌駕する道具を山ほど持ってきているのを。

 

 彼の知能が、「並大抵」ではないことを。

 

 彼が、言ノ葉の都市でなんと呼ばれているかを。

 

 彼の正体が―――黒一点の八賢者にして若き発明家、ローリエ・ベルベットであることを。

 

 

 

 

 ブイイィィィィィ……

 

「……音?」

 

 それは、炎魔法を放ち続けているアリサの耳に入ってきた、聞きなれない音だった。思わず魔法の詠唱を中断し、耳を澄ませて音の正体を確かめようとする。だが、周りを見渡してもそれらしいものは見当たらない。

 

 

 ブイイィィィィィ……

 

 

 やはり、アリサにとっては聞きなれない音である。しかし、どこかで聞いたことのあるような音でもある……ような気がする。

 奇妙な音は大きくなったり小さくなったりを繰り返す。

 

 やがてアリサは思い出す。

 この音はクリエで動く扇風機の風切り音に似ている、と。

 そこで、視線を少し上に移してみる。すると、なんとそこに音の正体がいた。

 

 

 それは、アリサにとって見たことのないものだった。

 金属質のボディーに4つの円盤のようなものがくっついており、生い繁る木々の枝を器用に避けながら浮遊している。よくよく見れば、円盤と思われるものは、高速回転しているプロペラと、それを守るためのカバーだった。彼女は風切り音がプロペラから鳴っていることに気づく。

 

 しかし、何故こんな時に、こんな面妖なものが森を飛行しているのか。

 無論そんなことをアリサが分かるはずもなく、それに釘付けになっているうちに、答えは突きつけられた。

 

 飛行する物体が、アリサの近くへ移動した時、宙に浮いたままピタリ、と止まった。

 何事かと思い様子を窺っていると、ボディの一部がパカリ、と空き……その内部から筒のようなものが出てきた。

 それはまるで――小さな大砲の砲身のように見えた。

 

 

「っ、やば!!?」

 

 

 嫌な予感がしたアリサは、咄嗟にその場から飛び退く。それと同時に砲身から光が発射され、アリサがいた地点に直撃した。

 

「なんなのっ!?」

 

 反撃とばかりに石を投げるが、ひらりとかわされてしまう。飛行物体が再び砲身を向けると、射線から逃れるために体を翻す。

 わけも分からぬまま、アリサは飛行物体の追撃から逃れるために足を動かし、魔法を練った。

 

 アリサが放ったのは、先程まで男を攻撃していた炎の球の魔法ではなく、攻撃範囲の広い、風の魔法だった。炎を拡散して攻撃する事もできるが、燃え移るものの多い森の中で、そのような魔法は使えないと判断したからだ。

 

 風魔法で作られた数多の真空の刃は、寸分違わず飛行物体に命中した。

 旋風が巻き起こる。そして、命中した飛行物体が破壊できたかどうかを確認した時………アリサは絶句した。

 

 

 確かにさっきまでアリサをつけ回していた飛行物体は撃墜させることに成功した。しかし、同じような形状の飛行物体が数十機というレベルで集まりつつあり、それらすべての砲身がアリサを狙っていた。

 アリサは、それが分かった瞬間、一目散に駆け出した。

 

 

 彼女には知る由もないことではあるが。

 この飛行物体は、ローリエが製作した魔道具で、彼が生まれ変わる前に住んでいた、コンクリートジャングルの世界で生まれたもの……それを、彼なりにアレンジしたものである。――――その世界では、『ドローン』と呼ばれていたものだ。

 

 現代日本の科学の結晶が、牙をむいた。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 火球に四苦八苦していた俺は、どうにか隙をついて『ルーンドローン』の起動に成功していた。

 

 ルーンドローン。

 前世の日本で一時期話題になっていた小型飛行機を、ボディを金属系のカラーで塗装した太古の骨、動力を電気と魔力のハイブリッドで再現した、偵察兼戦闘用魔道具。自動索敵と半手動の攻撃が可能で、ボディに内蔵されたミニ砲台を使えば、魔力を利用した砲撃を行える。また、発信機も搭載されており、破壊された場合やこちらの命令を受けた場合に、信号を送信・受信ができるのだ。

 

 起動したルーンドローンに、俺は「森にいる、背の小さい少女を攻撃しろ」という命令を与え解き放ったが、さきほどルーンドローンの一機が破壊されたと信号があり、そこへ残りのルーンドローンが自動的に駆けつけていることを知る。彼女にとっては見たこともないものからいきなり攻撃されたことになる。動揺のひとつはしているだろう。というかして貰わないと困る。

 

 アリサの状況を確かめるべく、俺はルーンドローン達が集合した地点へ駆けつける。隙さえあれば、属性魔法を付与したぷにぷに石弾を撃ち込むつもりだ。

 

 そして、ルーンドローンの信号の受信機の反応を追い続けること数十秒、俺はアリサとルーンドローンの群れの戦いに合流した。

 

 彼女はルーンドローンを自身の敵だと認識し、一機ずつ撃ち落としながら立ち回っていた。三次元的な一斉攻撃の網の目をくぐり、さっきまでは使っていなかった別の魔法で攻撃していっている。ただ、数機撃破しても全く数の減る気配のないドローンを相手にしているのに夢中で、俺に気づいた様子はない。

 これ以上魔道具(ドローン)の数を減らされても困るので、アリサが立ち止まった瞬間に俺はすぐさまパイソンの撃鉄を起こし、彼女に照準を合わせ、引き金を引いた。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 銃声とほぼ同時にくぐもった声がして、アリサが片膝をつく。被弾したであろう左脇腹を左手で抑え、右手をいつでも魔法を放てるように構える。再び発砲すると、今度は炎魔法で相殺され、アリサは再び身を隠そうとする。

 

 しかし、ルーンドローンと俺自身からの、スパイ映画か何かに出てきそうなセンサーの如く怒涛のレーザーと弾丸の波を『マトリックス』のスパイさながらな動きでかわすのに精一杯で、なかなか思い通りに動くことができないように見える。

 

 俺は、別の魔道具のスイッチがオンになっていることを確認しつつ、パイソンをしまい、銅の剣を抜き、それを振りかぶってアリサに近づいた。

 

 

「うおおおおッ!!」

 

「!!?」

 

 

 振り下ろされた銅の剣は、アリサが突然近づいてきた俺に面食らいながら後ろへ飛びのくことで大きく空ぶる。

 必要以上に力んだ結果、叩きつけられた地面が剣筋に沿って凹んだ。すぐに剣を抜くが、その一瞬は、アリサが炎を俺に撃ち込むのに十分な時間だった。

 

 

「今ッ!!」

 

 右手で風魔法を生成するアリサに目を見開く。

 そして、動けない俺に向かって、骨さえ切り刻まんとする刃が放たれる―――

 

 

 

「うああああああああっ!!?」

 

 

 ―――筈が、逆に彼女が風に吹き飛ばされる。

 ()()()()。近づけば隙を突いて魔法を撃ってくると思っていた。それでこそ、もう一つの魔道具の意味があったというもの。

 

 リフレクタービット。

 対象の周囲を警護するように飛び回るシールド○ットのような魔道具で、その効果は『()()()()()()()()()()()()()()()』というもの。今回は飛行機能は使わずに白衣の内ポケットへ忍ばせ、魔法反射機能のみを利用した。

 

 魔法を跳ね返すという魔法使いや呪術師特攻のような性能を持ち、一度しか発動しないため、最初の一回が肝心で、反射した魔法を当てる確率を上げるため銅の剣で攻撃するフリをして近づいたのだ。それは、的が大きく、近くなっていたため反射が起動しやすい事と、自分の魔法が突然自身に牙をむいた時に対抗策を考える時間をできるだけ奪うことを意味していた。

 

 まぁ、武器攻撃には対応してないからかなりのリスクはあったし、俺の演技力の全てをもってしても見破られる可能性もあったからいい策とは言えないだろうけどな。リフレクタービットはまだまだ改善の余地アリだ。

 

「はあッ!」

 

「うっ!! ふっ!」

 

 それ以上の考えを端に放っぽった俺は、反射した魔法で態勢を大きく崩されたアリサに接近し、銅の剣を脇腹に向けて横薙ぎに振るう。追撃に気づいたアリサは、完全に回避は無理だと悟ったのか攻撃の衝撃を殺すかのように横っ飛びにジャンプした。元々切れ味は悪く、殺傷能力の小さい銅剣だったこともあり、ダメージは浅い。

 

 俺は着地したアリサの魔法を行使する態勢を見て、すぐさま攻撃手段をパイソンに切り替える。

 

 そして、射撃と魔法が同時に発動すると思われたその時―――()()は起動した。

 

 

 

 

 

「…ッ!? きゃあああっ!!」

 

 

 アリサが魔法の発動に失敗し、俺の水属性のぷにぷに石弾数発をモロに食らったのだ。

 

 

 ……決して、コレはアリサの魔力総量が底をついたからでも、ましてや焦って呪文を間違えたからでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――これが、俺の隠していた魔道具の効果だからだ。

 

 

 剣型魔道具・サイレンサー(コリアンダー命名)。

 見た目は市販されている銅の剣だが、これにもまた、魔法が付与されているのだ。その効果は、『5分間、攻撃された人物の魔法行使を著しく妨げること』。攻撃した人物の魔法適正を一時的に下げ、魔法に使用する消費魔力(クリエ)を引き上げる機能を持つ。つまり今、アリサはどんな魔法を使おうが「しかしMPがたりなかった!」状態になっているのだ。

 

 これを作成するにあたり、コリアンダー君にはかなりの回数、実験台になって貰った。魔法封じの犠牲になった(半強制的)親友に尊敬の念を覚える。

 

 

 俺の銃撃をマトモに受けたアリサは、魔法の反射から積み重なっていたダメージが効いたのか、その場で片膝をついて肩を揺らしながら息をしていた。だが瞳は俺を睨みつけ、是が非でも獲物の喉笛に食らいつこうとするオオカミを彷彿とさせる。

 

 なんという精神力だろう。ただひたすらに、「兄の仇を()る」ために、俺に襲いかかろうとする執念。命を奪ってでもやり遂げようとする漆黒の意志。家族の為に必死で戦い続けようとする彼女の一種の気高さ。

 

 俺は、アルシーヴちゃんやソラちゃん、賢者のみんな、きららちゃんやランプ、そしてクリエメイトの為に、ここまで必死になれるだろうか? 前世の記憶が人間らしい感情の足枷になって、ひとり取り残されないように祈るしかない。

 

 

 とは言え、個人的にはアリサとの戦いを出来るだけ早く終わらせ、例の事件の真実を確かめたい。俺は、マグナムを向けたまま口を開いた。

 

 

「君のお兄さんを傷つけてしまったかもしれない事は、申し訳なかったと思っている」

 

「なにを……今更ッ!!」

 

「訳があったんだ。俺が撃ったのは……女神ソラを襲撃した呪術師。」

 

「っ!!!?」

 

 

 今まで動じなかった瞳の奥が揺れる。やっぱりか。

 

 

「俺の名はローリエ・ベルベット。筆頭神官アルシーヴの命で、女神を呪った呪術師の調査に来た。」

 

「は…………?」

 

「黒いフード付きのローブを着た、身長165~170センチの推定男。ペンほどの長さの短めの杖。それらの手がかりを元に、ここまでたどり着いた。」

 

「なにを………言ってるの? 分かんない!! 何を言ってるのか、分かんないよッ!!!」

 

 

 かぶりを振って俺の言葉を否定するアリサ。

 もしかしたら、彼女は分かっていたのかもしれない。まぁ、分からなかったのかもしれないが。

 どの道、何を言ってるのか理解したくないのだろう。

 

 俺は今から、最低な事をする。

 少女アリサの信じていたものを壊す。

 だが今になって怖気づくわけにはいかない。

 何故なら……あのローブ野郎…呪術師を「殺せ」と言ったのは、躊躇なく発砲したのは、紛れもなく俺なのだから。

 

 

 

 

「君のお兄さんが女神ソラを呪った可能性がある」

 

「――――ッ!!!!!!」

 

 

 アリサの視線の殺意がより濃厚になった。

 

 

「嘘だ……うそだうそだうそだ嘘だッ!!!! 兄さんが、そんな……」

 

 そうして威圧感を増していく彼女に、俺は二枚の写真を叩きつけた。

 

「―――ッ!?」

 

 一枚目は、あの夜に撮った、神殿の廊下を血を垂らしながら逃げていくローブの人物の写真。

 二枚目は、数日前に撮った―――呪いと共に封印された、眠っているかのようなソラちゃんの写真だ。

 ローブ野郎がソラちゃんに呪いをかけた証拠として、呪いをかける瞬間でも撮れたら決定的だったのだが、ローブ野郎関連の写真は生憎これしかなかった。

 そこで、ソラちゃんの写真を撮り、どこかに呪いを受けた証拠でもあればと考えた。アルシーヴちゃんに「呪いの証拠を手に入れて、呪術師を炙り出す手がかりにしたい」と申請して「いざという時以外では使わない」ことを条件に手に入れたものが、この眠るように封印された女神の写真だ。

 

 

 二つの写真を見たアリサの顔は、信じられないものをみたかのような―――いや、実際信じられないものを見ているのだろう―――茫然自失とした表情となっていた。

 

 

「信じようが信じまいが……俺のやることは変わらない。君のお兄さんに、真実を聞きに行くだけだ」

 

「行かせない………兄さんを殺させはしないッ………」

 

 

 神殿での出来事を突き付けられて尚、よろよろと立ち上がりながら、手をかざし、俺を止めようとするアリサ。

 

 兄が世界の敵になっていたなんて思いたくないのだろうか。それとも、証拠を提示されながらも、信じていないのだろうか。

 

 それとも―――

 

 

 

「兄さんは、私が守るッ!!!」

 

 

 

 アリサの力強い宣言に、俺は体が固まった。

 サイレンサーの効果がまだ続いているのだろうか、かざした手のひらに魔力がわずかに集まっては、霧散していく。

 

 

 その目に再び宿ったのは、憎しみと殺意だけじゃなかった。たとえどんな事情があろうと、自身の全てを賭けて、大切な家族(もの)を守ろうとする意志があることを、彼女の決意の言葉が如実に示していた。

 

 

 

 

 ―――嗚呼(ああ)、とても嫌な気分だ。

 

 

 分かっている。彼女は本気だ。ここで手が鈍り、躊躇おうものなら、サイレンサーの魔封じ効果が切れた途端に殺されてしまうことは……解っている。

 

 だが………どれだけボロボロになっても決して諦めようとしない、言わば「黄金の意志」をもって立ち上がるアリサに、どうして引き金を引けようか。

 

 

 

 でも―――俺は引き金を引かなければならない。アリサを倒し、彼女の兄にことの真相を聞きに行くために。

 

 ここが八賢者(おれ)復讐者(てき)の戦場なら尚更だ。

 

 

「――――――ごめん」

 

 

 呟きながら放った非殺傷(ぷにぷに石)弾は、寸分違わずアリサの額に命中した。

 何かに気付いたように目を見開いたアリサは、そのまま仰向けに倒れ、起き上がることはなかった。

 

 

「…………」

 

 

 気絶させただけで、アリサの命を奪った訳ではない。黒幕へ近づくために必要だったことの筈だ。

 なのに―――

 

 

「―――最悪な気分だ」

 

 

 なんで、ここまで嫌な気分になるのだろう?

 熱くなる目頭をごまかしながら、気絶したアリサをどうするか決めあぐねていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 森が嫌に明るい。

 散々迷った結果アリサは彼女の兄との交渉材料として、気を失ったまま手だけを後ろ手に縛って背負うことにした。

 しかし―――

 

「……なんっだ、コリャ」

 

 戻った先で見たものは、火の手の上がるログハウスだった。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 呪術師アリサがどのような心境で自分と戦っていたのかを知った転生八賢者。現代科学を知る者の視点から様々な魔道具を作り、アリサからのアドバンテージを保ち続けた。転生者にして魔法工学者の本領の一部を発揮できた事には満足しているが、最後の最後で後味が悪くなってしまったような気がする。

アリサ
 自身の兄が女神ソラを呪った可能性を突きつけられながらも、倒れるまで家族の為に戦った呪術師の少女。決して弱いわけではないが、魔道具に対して警戒がなかった事が仇となり、敗北する。まぁ、ド□ーンは兎も角、最初からマホカンタ状態や攻撃されたら魔法を封じられる剣など、呪術師にとっては初見殺しもいいところだったんだが。


ルーンドローン
 要するに戦闘用ドローン。電気を帯びた鉱石を加工した電池を動力源とし、飛び回りながら魔力を使ったレーザー的な魔法攻撃を放つ。元々、ドローン自体が戦闘用として開発されていた節があり、空からの奇襲などに重宝された。まぁ本格的に軍事利用されようものなら、『劇場版シティーハンター 新宿プライベートアイズ』のウォーフェアみたいに民間人が「いつ戦闘が起こるか分からない」という恐怖に支配される未来しか見えないが。

リフレクタービット
 簡単に言ってしまえば「マホカンタがかかっているシールドビット」。ファンネルやシールドビットのように持ち主に追従し、攻撃・防御を行う機械はロマンという思想から生まれた。魔法反射という反則的な機能については、『魔法が魔法に干渉することが出来る』点に注目したローリエが、コリアンダーを巻き込んで魔法反射という機能を生み出したという設定がある。

サイレンサー(銅の剣)
 簡単に言ってしまえば『マホトーン効果が付与されたどうのつるぎ』。元々コスプレ用のカモフラージュだったが、「それだけでは勿体ない」と思った作者が、「最初からこの為の伏線だったのだ」という予定調和兼フラグ回収を演出するために生み出したノープランの産物。章ごとに大まかなプロットこそ書いているものの、基本的には何も考えずに書いている為、このような汚い手が思いつく。いずれこのツケが回ってこないように祈るしかない。

作者「両手を上げて走れ!ノープラン万歳!」
ゆき「そうだよ!やるべき事よりやりたい事だよ!」
夏帆「ゲーマーの思考だね!」
ローリエ「…………」


△▼△▼△▼
ローリエ「激闘の果て、アリサを下した俺は、彼女のお兄さんがいる筈の家が燃え上がっているのを見て唖然とする。まるで意味が分からないが、今お兄さんに死なれたら真実へたどり着けなくなる!どうにかして、助け出さねえと!
そして現れる、第三の人物。女神襲撃事件の真実とは、一体……?」

次回『ソウマの真実』
ローリエ「次回も見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽


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第36話:ソウマの真実

“俺の魂はいつも、アリサの心と共にある。”
 …ソウマ・ジャグランテ


 アリサが兄と二人で暮らしていた筈のログハウスの火事。それを目にした俺は、少しの間動けずにいた。

 

 だが、それも束の間、すぐに行動を開始する。

 アリサをすぐそばの木に寄りかからせるように寝かせ、俺は火の手の上がる家へ突入した。

 

 アリサの兄は、おそらく怪我(十中八九俺の弾丸によるものだ)をしているためベッドから離れられない。彼は確実に家の中にいる。

 

 このままでは、彼が死んでしまう。

 アリサにとっては勿論、俺にとってもそれはマズい。

 

 女神ソラ呪殺未遂事件の容疑者として、アリサの兄を挙げてはいるが、

 ①本当に彼がやったのか。

 ②仮にやったとして、その動機は何か。

 ③やっていなかったとして、容疑者に他の心当たりはないか。

 この三つがまだ明らかになっていないまま死なれてしまったら、事件の真実を追うことが困難になってしまう。

 

 迷う理由なんて、なかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 家の中にも火の手が上がっている中、アリサの兄を探すべく奥の扉を蹴破って入ると、そこには驚きの光景が広がっていた。

 

 

 まず、屋根と壁が殆ど吹き飛ばされていた。

 ベッドに目を向けると、上半身だけを起こして、包帯だらけの手を向けながら息を切らす茶髪の青年がおり、

彼の手の先を注視すると黒を基調として高級感ただようローブを身にまとった長いオレンジ髪の美女がいて、お互いが魔法をバカスカ撃ち合っていた。

 

 

 この場で俺がどっちの味方をするべきか、迷うはずなどない。

 

 すぐさまオレンジ髪の美女に非殺傷弾を発砲し、顔色の悪い男を背にかばう。

 

 

「あ、あなたは……!?」

 

「お前、アリサのお兄さんだろう? 今、あんたに死なれたら困る。手を貸そう」

 

「あ、あぁ。ありがとう。俺はソウマという」

 

「ローリエだ」

 

「っ!!」

 

 

 俺の名前に心当たりがあるのか、敵前にも関わらず動揺していまうアリサのお兄さん改めソウマ。まぁ、自分を殺そうとした奴の名前くらい覚えてしまうか。アリサには伝えなかったみたいだけど。

 

 そして、軽く名前だけをソウマに告げながらも俺の視線はオレンジ髪の美女から逸らさなかった。

 彼女は、先程俺が撃ち込んだ弾丸を、魔力を卵のカラのように丸みを帯びた盾にすることで、すべてを防ぎきっていた。

 リロードする手を休めずに尋ねる。

 

 

「おいねーちゃん、手を引いてくんな。この男からは、聞きたいことが山ほどある」

 

「……フフ。そいつには是が非でも死んでもらうわ」

 

 

 オレンジ髪の美女は、俺の言葉にそう返すと、炎を矢のように引き伸ばしたかと思うと、そのまま炎の矢を雨のように放ってきた。

 

 水属性の弾丸で応戦するも、いかんせん数が多い。全てを相殺することが出来ず、弾丸をすり抜けてきた炎の矢は、俺とソウマの目の前で防壁のようなものに弾かれ消えた。

 

 

「助かった」

 

「こちらこそ。さっきよりも楽になりました」

 

「で、あいつお前さんの何なの? 女?」

 

「ご冗談をッ!!」

 

 

 撃ち漏らした炎の矢を防いだソウマは、ジョークをご丁寧に返しながら、禍々しい人魂のような魔法をオレンジ髪の女に向けて反撃とばかりに放つ。それに対して女は、おびただしい数のレーザーで応じる。人魂とレーザーが激突すると、大爆発を起こした。

 

 俺は、あの女が放つレーザーに何故か見覚えがあった。

 

 一体、いつどこで見たのだろうか?

 

 そう思った時、女が煙の中から飛び出し、こちらに向かって迫ってくる。手に何か持っているのが見えたが、この女の目的が「ソウマの口封じ」であろう以上、どの道ロクな物ではないことは確かだ。

 

「ッ!!」

 

「甘い!」

 

 牽制の為にパイソンで全弾発砲するも、女のスピードが落ちることはない。そもそもパイソンは回転式(リボルバー)なので思うように素早い連射ができない。それもまた、あの女の隙を突けない原因にもなっていた。

 ソウマもさっきの人魂の魔法で女を近づけまいとしているが、それすらもものともしない。

 

「危ないっ!」

 

 突然、押しのけられる。

 バランスを崩した俺は、何事かと思い突き飛ばされた方を見ると、そこには何か―――暗殺用ナイフを振り下ろすオレンジ女と、袈裟懸けに切り裂かれるソウマがいた。

 

「この野郎っ!!」

 

 怪我人がなぜ俺を庇ったのかは知らないが、無茶しやがって!!

 すぐにサイレンサーで攻撃するも、あっという間に距離を取られてしまい、更に魔法の詠唱まで始めた。

 

 それを見てパイソンのリロードを行うも、状況は不利になるばかり。

 雨のように攻撃してくる魔法を防ぐ為には、どうしても俺一人じゃ限界がある。

 さっきはソウマの防壁が守ってくれたが、ただでさえ怪我人のソウマがダメージを受けた以上あまり期待はできない。

 

 底の見えない女相手に()()()を使いたくはないが、()()()()()()()()使()()しかない……と思った時、相手の異変に気づいた。

 

 なかなか魔法を撃ってこない。それどころか、こっちを見ていない。何より、ニヤニヤとした不気味な笑みを浮かべていた。

 数秒その意味を考える。アイツの視線の先に何かあったか―――そう考えて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全身の毛が逆立った。

 

 

「てめぇっ!!!」

 

 最悪の光景が頭に思い浮かび、突き動かされるようにその方向に走り出す。だが……数秒、足りなかった。

 

 

「アリサっ!!」

 

「……フフフ。さぁ、私と一緒にこの子も殺したくば、存分に戦いなさい。まぁ……つい、ウッカリ、この子を盾にしてしまうかも、だけど……」

 

「―――ッ!!」

 

 

 女の手に未だ意識が戻らないアリサが渡ってしまい、攻撃を封じられてしまった。なんて女だ。ソウマを確実に口封じするためなら何でもしようとするオレンジ髪の女のあまりの執着に戦慄するとともに、俺は自分自身の失策を悟った。

 

 燃え盛る家の中に気絶中のアリサを連れ込むのはマズいと判断したのは俺だ。つまり、俺があの時、アリサを連れてきていたならば、こんな事は起こりえなかった………ッ!!!

 

 だが、そんな事を悔やんでも後の祭り。どうしようもない。

 

 俺としてはソウマを連れて転移魔法で撤退しても良いんだが……ソウマは絶対に許可しないだろうから、そんな事は提案できない。

 

 

「妹を……放せっ……!

 アリサは、()()()については何も知らない………!!」

 

「なら、あなたの命と引き換えよ」

 

 ソウマは妹を人質にした女を睨みつけてそう言うと、女はあっけらかんとそう言ってのける。

 

 

「わかった」

 

「なっ!!?」

 

 

 即答だった。

 あの女が素直に約束を守るとは思えない。

 口封じなんて企む輩だ。ソウマを殺した後、アリサや俺を始末しにかかるに決まっている。

 それでも……ソウマは、自分の命と引き換えに、妹を守る選択を躊躇なく選んだ。

 

 

「だが、アリサの解放が先だ」

 

「ふむ………まぁいいわ」

 

 

 ソウマの言葉に女が考えるそぶりを見せると、了承の意を見せるとともに、こちらへアリサを無造作に投げてきた。それをキャッチしたソウマは、俺にアリサを渡す。そして―――

 

 

「後は、お願いします」

 

「お前、正気か………!?」

 

「はい。それと――――――」

 

 

 

 

 ―――アリサを抱えた俺にとんでもないことを任せてきやがった。

 

 

 

 

「さぁ、あとはお前が殺るだけだ……!」

 

「潔いのは好ましいわ」

 

 

 床の無事な部分にアリサを寝かせる俺をよそにソウマは覚悟が決まったと言わんばかりにオレンジ髪の女の方へ歩いていきそう言った。

 女の方はというと、約束を律義に守ったソウマを偉そうに評価しつつ、少しずつソウマに近づいていく。

 どうあがいても、ソウマが殺される未来しか見えないが、もし今、ここで動いたらあの女と本格的な殺し合いになる。「不気味」「不可解」という言葉が何より似合う目の前の女と戦うには、手札も仲間も状況も、全てが整ってなさすぎる。

 

 

 それに…

 

 

 ソウマが俺に残したあの一言が、気になる。

 

 

 

 そうして、迂闊に動くことができないまま、

 

 

 ソウマは、光のレーザーに貫かれた。

 

 

「がっ………!」

 

「………ッ!!」

 

 

 急所を貫かれ、膝から崩れ落ち……うつ伏せに倒れた。

 おそらく……もう二度と、起き上がることはないだろう。

 

 

 

 

「………あは…

 アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」

 

 

 女が狂ったように笑いだす。

 俺はただ、目の前が真っ暗になりそうな錯覚を振り払いながら、武器を手放していないかを確認する。

 

 

 

「ほんっと、潔く、律義な男だった。

 でも……それだけ。本当に――――――救えないほどの愚か者だったなッ!!!」

 

 

 そう言いながら歩み寄ってくる女を見て、俺は確信した。

 やっぱり、俺達を生かして帰す気は―――最初からソウマの約束を守る気などなかったな、と。

 

 分かり切っていた。

 

 あの女がアリサを人質に取った時から、だ。

 

 

「誇り、仁義、やさしさ………そんなものこの世界では必要ないものよ。

 そんな幻想を抱くから呆気なく死ぬのだ。この男も、お前も………!」

 

 

 目の前の女は、勝ち誇った顔で笑う。

 

 確かにそうなのだ。現実は、思ったよりも甘くない。よく言われることだ。実際、「甘くない」と想定し、あらゆる予測と努力をしても尚、思った通りの結果がまったく出ない程には厳しかった。俺も、前世は社会人であったため、それを嫌というほど思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

 ―――だけど、それが何だ。

 

 

 現実は甘くない。だからこそ人は、支えあいを、義理人情を、優しさの重要性を説き、それを持ち続けようとする。その結果生まれたのが、転生者(おれ)の大好きなきらら作品であり、エトワリアなのだ。

 

 目の前の女は、それを否定した。

 

 コイツが何者かは分からない。ソウマを口封じした目的も不明だ。だが………

 

 

 俺の目の前で、あまりこの世界を――――――エトワリアを馬鹿にするなよ。

 

 

「死ぬのは、お前だ」

 

 

 両手に持った()()()()()で、ありったけの弾丸を浴びせてやる。銃声と鉛玉の嵐が、オレンジ女を襲う。

 片方はいままで愛用していた『パイソン』で、もう片方は、最近完成させた俺の自信作だ。

 

 回転式(リボルバー)拳銃をモデルとしたパイソンと違って、こちらは自動拳銃(オートマチック)をモデルとし、試行錯誤を幼少期のように繰り返しながら完成させた拳銃だ。パイソンよりも素早い連射が可能となっていて、威力も申し分ない。

 俺はこの二丁目の拳銃を……モデルにした銃から『イーグル』と名付けた。

 

 

 両手の拳銃から放たれた弾丸は、一発も違えることなく、女の体に命中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――しかし、力なく倒れるかと思った体はぐらついた後、しっかりと立て直し、目は依然とこっちを睨んでいた!

 

 

「は!!?」

 

「クックック………滑稽じゃなあ!!」

 

 ありえない、と思い被弾した箇所を観察していると、どの銃創からもしっかりと血は噴き出している。なら何故、と思ったとたん、銃創から炎が燃え上がり、数秒たったかと思えば、炎が晴れたところには先ほどまであったはずの銃創が綺麗さっぱり消えていた。

 

 

「……不死の力!? 何でもありだな………!!」

 

 

 万事休すか、と思った刹那、今度は女に異変が起こった。

 

 

「「ッ!!!!!!!?」」

 

 

 女が光の柱に包まれたのだ。

 彼女の動揺ぶりからして、自身が意図して起こした魔法ではないのは確かなのだろうが、なぜそんなことが起こったのか、俺も奴も分かっていない。もちろん俺はまだ何もしていない。

 

 

「兄さんの、封印結界…!」

 

「!!!」

 

 声がして振り返ってみると、アリサが意識を取り戻していた。どうやら、今起こっている現象に心当たりがあるようだ。

 

「本来は危険な動物を閉じ込めたり実験の被害を出さないようにする呪術なのに、どうして……!?」

 

 

 アリサが驚く一方で、俺はソウマがアリサと己の命の交換を強引に迫るというあの女の取引に応じた謎が解けた。

 ソウマ自身も、一種の確信を持っていたんだ。「この女は、自分を殺した後に約束を反古にするだろう」と。だから、あの女が俺やアリサに襲い掛かろうとした時にアリサを守れるよう、あらかじめこの魔法をしかけていたんだ。

 

 ―――妹に牙をむく悪意を、永遠に封印するために。

 

 

「頭が下がるぜ、お前のお兄さんにはよ」

 

 

 命を落とした後でも妹を守ろうとするとは。

 彼が女神呪殺未遂事件の容疑者とはとても思えない。

 

 

「おのれ、死にぞこないがぁ………!!」

 

 封印結界に包まれた女は、心底恨めしそうにそうつぶやくと、転移魔法の詠唱を始めた。

 中から破壊することができなかったのだろう。そうである以上このまま封印されてはたまらないと思っての行動だ。

 

 

「私自身のために、次は必ず殺すぞ、ゴミ共………!」

 

 

 その恨みのひとことと共に、転移の光に包まれて女は消えてしまった。

 典型的な小物な悪役の捨て台詞のはずなのに、それを全く感じさせないスゴ味があった。

 

 夜の森林に、再び静寂と暗闇が戻ってきた。

 生き残った。

 静寂は、その事実をひしひしと痛感させられた。

 

 

「兄さんッ!!!」

 

 

 思い出したかのように、アリサがソウマに駆け寄る。

 「兄さん、兄さん」と何度も体を揺さぶるが、返事はない。

 

「兄さああああああん!!! うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 そう。ソウマは、死んでしまった。その事実が、俺に重くのしかかる。

 彼は、女神呪殺未遂の容疑があった。にもかかわらず、何も語ることなく、語る暇さえ貰えず、あのオレンジ女に口封じと称し殺されてしまった。

 アリサの悲鳴のような慟哭が、むなしく森に響き渡った。風に揺られる木々のざわめきも、まるで親しい親戚の死を悼むように、さめざめと泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こつん、と足に何かがぶつかる感覚がある。

 それに気づいて足元を見れば、俺のG型魔道具があった。

 

「…………………っ!!」

 

 そこで、ソウマが最期に俺に対して言った言葉を思い出した。

 

 

『それと…魔道具、お借りしました。アリサのこと、頼みます。』

 

 

 

 アリサのことはどうすればいいのか分からないが、「魔道具を借りた」と言ったのだ。

 なんであのタイミングで言ったのか、いったい何を借りたのか……それが分からなかったが、このタイミングで、雷が落ちたかのように閃いた。

 

 

「ま、まさか……!!」

 

 

 俺の思い付きが、当たっていて欲しい。一縷の望みにかけて、俺はG型魔道具とプロジェクタを持ってきて繋げ、焼け落ちた家の壁だったであろう残骸に映し出した。

 

 

 

『これは………!!? すごい作りだな……!』

 

 そこには、驚きの表情をしたソウマが映し出されていた。

 

「兄さんっ!!?」

 

 あまりに突然のソウマの声に、さっきまで打ちひしがれていたアリサがすっ飛んでくる。

 それからしばらく、ソウマが俺のG型魔道具を観察している様子が移されていたかと思うと、俺たちに向けて―――搭載されているカメラに向かって、の方が正しいか―――話し出した。

 

 

『これを作った人が聞いてくれることを期待して、メッセージを残したい。

 きっと、あなたがこのメッセージを聞いている頃には、私はもう死んでしまっているだろうから』

 

「「ッ!!!!?」」

 

 

 何たることぞ。ソウマは、さっきの観察で魔道具にカメラが搭載されていることまでも見抜いていたのだ。

 いや、カメラじゃあないな。録音機能みたいなものがあると分かったのか。

 

 

『私は、とんでもないことをしてしまった。女神ソラ様に、「体内のクリエが減っていく呪い」をかけてしまったのだ。

 とある女に妹の命を盾に脅されていたとはいえ、罪は罪だ。だが…妹はこの件については知らない。酌量を、かけてやってくれないだろうか……!』

 

「そんな……兄さんっ!!」

 

『私は……自分自身が許せないのは勿論だが………ソラ様のお命を私に狙うように脅してきたあの女を許しはしない。

 あの女は一切自分を語るようなことこそしなかったが……私に分かったことは一つだけある。

 

 あの女は、「不燃の魂術」を自分自身にかけている』

 

「「!!!」」

 

 

 不燃の魂術。永遠に若く生き続ける不老不死の魔術。神殿の禁書にそんなものがあったのを、見たことがある。

 

『平たく「自分の肉体を不滅の炎にする不老不死の術」とされているが……アレはそれだけじゃあない。

 自分の肉体年齢を、自由自在に操作することができるのだ。自分の精神をそのままに。』

 

「なん、だと……」

 

 

 初耳だ。禁書の所には幼いころ、デトリアさんに烈火のように怒られて以降、入ったことがないので不老不死、という認識しかなかったが……そんな効果もあったとは。

 オレンジ女が銃の傷を炎に包まれながら治していたのは実際に見たが、あの姿さえ、何かを偽っている可能性が大きいのか。

 

 

『だが、見分ける方法はある。それは、「どんな傷も炎と共に再生する」特性を逆手に取った方法だ。「不燃の魂術」使用者は、どんな小さな傷も……擦り傷や紙で切った程度の切り傷さえ再生する。炎を伴ってな。私はそれであの女の魔法に気づいた。

 あの女はエトワリアを滅ぼすつもりだ。どうか……この事実を誰かに伝えてほしい。

 そして、最後に………アリサへ。』

 

「ッ!!!」

 

『一人にしてすまない。だが、俺の魂はいつも、アリサの心と共にある―――っ!!』

 

 

 アリサへのメッセージを残した直後、魔法の直撃音とともにソウマが布団の中へG型魔道具を隠す映像が映り、再生が終了した。

 

 

 ……これが、最後に残した「ソウマの真実」というやつか。

 

 ソウマの犯行の動機、女が我が身に施した「不燃の魂術」の本質、それの見分け方。

 

 彼自身の命を守ることはできなかったが……重要な手がかりを彼は残してくれた。

 

 俺は……彼の遺した手がかりを生かさなくてはならない。

 

 

「……アリサ。」

 

「!!」

 

「俺は今から、不燃の魂術について調べ上げ、あの女の野望を食い止めるために動く。

 ―――君はどうしたい?」

 

「………」

 

 

 俺の質問に、アリサはすぐに答えを返せずにいる。

 まぁ、突然唯一の家族を失って、衝撃の真実を知って。そんな状況で心の整理なんてつくわけがないか。

 

 

「わ…私は!!」

 

「!」

 

「私は―――――――――」

 

 

 ―――アリサの答えに、俺は驚きのあまりその場から動けなくなる。

 

 振り返ると、その目には既に覚悟が宿っていた。

 

 

「……マジかよ」

 

 スゴ味の宿った少女に、「なんでこんな子が森で隠居暮らし染みたことしてたんだ」って思いを表情に隠せないまま、ようやく俺はそう言った。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 呪術師ソウマの真実を知り、改めて黒幕を討つことを決心した男。そして、黒幕が自身に施している可能性の高い「不燃の魂術」について調べることも目標とした。

アリサ・ジャグランテ
 兄の死と彼が経験した真実を知った少女。初めは家族の喪失に打ちひしがれていたが、兄がどのような事情があったかを知り、覚悟を決めた模様。彼女はいったい何を決意したのか、それは次回以降に持ち越したいと思う。
 というのも、本来の予定ではアリサもソウマとともに死ぬ予定ではあったのだが、いざ登場人物を殺してみたら心が痛んだのと、生かしておけば後の伏線になるだろうと思い生存ルートへ。

アリサ「怖い! 作者怖いよ!」
作者「登場人物をあっさり殺せる漫画家・作家の皆さんすげぇや…」

ソウマ・ジャグランテ
 ローリエとアリサに重要な手がかりを遺して逝った呪術師。女神ソラに「クリエが減る」呪いをかけた張本人ではあるが、その背景には、妹の命を人質に取られていたことで、仕事をやらざるを得なくなったという事情があった。もちろんそんな事を彼が許せる筈もなく、二人に自分の調べられるだけの黒幕についての情報を与えた。

オレンジ髪の女
 ソウマを口封じし、「エトワリアを滅ぼす」目的を達成しようとしていた人物。彼女は自身についてソウマに語ることはしなかったが、後述する性質を逆手に取られ、自身が不老不死であるということを見抜かれた。狡猾なのか間抜けなのか分からないかもしれないが、ここはソウマの方が上手だったということで一つ。



不燃の魂術
 拙作オリジナル魔法の一つ。神殿では禁忌のひとつとして登録されている。寿命やケガ、病気によって死ぬことがなくなり、肉体の年齢操作を行うことで見た目を変化させることができる魔法。ただし、いかなる小さなケガも立ちどころに炎と共に修復するという特徴ももち、それが一般人と「不燃の魂術」を施した人間を見分ける方法にもされている。

イーグル
 さらっと登場したローリエの二丁目の拳銃。回転式(リボルバー)拳銃をモデルとしたパイソンと違って、こちらは自動拳銃(オートマチック)タイプにしたことで、連射時間とリロードの手間が省ける。作者の独断による、二丁拳銃のロマンを実現させた結果生まれたオートマのマグナム。
 ローリエの使用する銃のモデルは両方とも実在した拳銃を元にしているのだが、二丁拳銃の名前のモデルはメジャーな所から借りたので詳しくない人でもわかるだろうか。


△▼△▼△▼
きらら「突然召喚されたクリエメイトのユー子さん、ナギさん、トオルさんと出会った私たちは、八賢者・ソルトとクリエメイトを巡って戦います。しかし、突然不穏なクリエを感じたかと思えば、思わぬ人物たちが立ち塞がりました。
 一人は……オーダーの事件を引き起こした、筆頭神官アルシーヴ。そしてもう一人は……“黒一点”の八賢者……ローリエでした。」

次回『ソルトの策略/発明王ローリエ』
ローリエ「次回も見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽


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第37話:ソルトの策略/発明王ローリエ その①

ろーりえ「……『その①』?」
そると「なんですか、これは?」
作者「ま……待ってくれ。これは、読者の読みやすさと俺の書きやすさを兼ね備えた文章の量を計った結果、こうなっただけであって……」
ろーりえ「……『ノープラン万歳』をした結果がこれかよ……」
そると「合理性に欠けるのです。」
作者「……………」

 というワケで、今回からは全くノータッチだったきらら・ソルト側を描いていきます。すぐにローリエ・アリサと合流させたいと思いますので、よろしくお願いします。







“物騒にも『ヤる』といった彼女の瞳は、夕陽を背にして親友の姿を借りながら見下し笑う賢者に対する炎よりも激しい怒りが燃え上がっていることを、一目でわたしに見せてくれた。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


 必死に逃げたユー子さんを追いかけて暫く。

 案外粘る彼女に驚愕しながら、ようやく追いついた私たちは、再びオーダーが使われたことを悟りました。

 

 アルシーヴの企みを再び阻止するため、クリエメイトの皆さんを探し始めました。

 

 

 ユー子さんを落ち着かせた後は、街中で子供に群がられている、露出度の高い服装のトオルさんを見つけ、召喚されているクリエメイトはあと二人であることを確認します。

 

 まずは、目撃情報のあったナギさんという方の行方を探すため、ランプやマッチ、トオルさんと別れユー子さんと村の人々に聞き込みを始めたのですが……

 

 

「ああ、その子なら見かけたよ。北の川の方に行ってたね。」

「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」

 

「えっ、東の町の方に行った? さっきは北の川って言わへんかったっけ……?」

 

「南の渓谷に行った、ですか………」

 

 

 

「ど、どういうことなん……?

 みんなナギを見かけとるのに、話がバラバラなんやけど……」

 

 そう。村の人たちから得た情報が、何一つとして噛み合わないのです。この不可解な状況を戻ってきたランプ達に説明すると、三人も同じ感じだったと言いました。

 

「私たちの方も似たような感じだった。ついさっき見かけたなんて話もあったし……

 ……私たちが知らないだけで、ナギって双子だったり、三つ子だったり、五つ子か六つ子だったりするのかな?」

 

「そんなことあらへんやろ! 5人も6人もおらへん!

 ウチの知ってるナギは一人だけや!」

 

「分からないよ、ユー子。性格がてんでバラバラな五つ子なのかもしれない。」

 

「ある訳ないやろ! それにもしナギが5、6人もおったりしたら、コタツがナギに独占されてまうやん!」

 

「気にするのそこ……?」

 

「けど、町の人が嘘をついてる感じもしなかった。見間違い、にしても数が多すぎるな。」

 

 

 トオルさんとユー子さんの話からして、双子とかの線はなし。

 マッチの言う通り、私たちが聞いた人たちも聞いたことに素直に答えてくれてた感じだったし、見間違いも多すぎて不自然です。

 うーん……こんなにたくさんの情報があると、どれを信じていいか分からないね。

 

 

「どれを信じるか……きららさんはパスを感じてるんだよね。ナギのもわかるの?」

 

「ごめんなさい、誰のパスなのかとか詳しいところまでは分からなくて……

 なんとなくこっちかなーとか、なんとなく近づいたかなーぐらいはわかるんですけど…」

 

 トオルさんが私に聞いてくるが、私のパスによるクリエメイトの探知はなんとなく、大体でしかわからないものなのです。それも、ここに住んでいる人達とはパスの構造がまるで違うからわかるようなもの。

 村へ入るときにすれ違った白衣の男の人のアレは、なにか乱れてるってほどじゃあないんですけど、普通の人にはない歪さがあったからわかったようなものなのです。

 

「でも、感じてはいるんだよね。なら、きららさんのそれを信じようよ。私はそうしたいし。」 

 

「トオルさん……」

 

 私のパス探知は確かに、誰がいるかまでは分からない。でも、その先にクリエメイトがいるのも確か。これまでの旅路でも、その力が役に立ったのは事実。

 それに、トオルさんの真っすぐな目は、私を信じてくれているような気がするんです。

 

「分かりました。そういうことなら……

 ………多分、こっちだと思います。」

 

「南の方やね。行ってみよか。」

 

 トオルさんの期待に答える為にも、私はパス探知を行う事にしました。

 

 そして、パスを頼りに南の森を探していると、森の中にひっそりとあった洞窟の中から反応を感じ、そこにクリエメイトがいることを確信します。

 私達は洞窟の中に入ろうとしますが、クリエメイトのお二人は、なかなか入ろうとしません。

 

 

「………ユー子、お先にどうぞ。」

 

「えええええっ!!? 急に何やの!? こんな暗い洞窟一人で入るん無理や!!」

 

「あぁ、洞窟が怖かったんだね。」

 

「うう…お化けとか、熊とかおるかもしらんやん!?」

 

 

 洞窟にお化けがいるかもしれないと震えるユー子さん。なんとかして落ち着かせたいけど、流石にお化けのパスは感じ取れないからいるかどうかはわからない。クリエメイトがいるのは確実なんだけど。

 

「せやから怖いんや。けど中にナギがおるんよね……なら、勇気をだして………うう。

 や、やっぱりトオル一緒に行かへん?」

 

「そうだね、このままだといつまでたっても動けなさそうだし。」

 

 

 そうして覚悟を決めた二人が洞窟に踏み入ろうとした時―――

 

「なあ、そこに誰かいるのかー?」

 

「「「「「!」」」」」

 

 洞窟の奥から、聞きなれない声が聞こえてきました。

 それが聞こえた途端、ユー子さんとトオルさんの表情が明るくなる。

 

 

「あ、この声は……!

 ナギー! ウチや、ユー子やー!」

 

「な、なんでユー子がここにいるんだッ!?」

 

「それはえっとー………せ、説明するのが難しいんやー!」

 

「そこら辺はきららさんに任せた方が早いかな。ナギー、早く出てきなよー。」

 

「トオルまでいるのか!? もしかして夢かッ!?」

 

「夢じゃあなくて異世界なんだってさ。説明したいから早く出てきなよ。」

 

「いやー………けどなぁ……」

 

 

 ユー子さんとトオルさんの知るナギさんに出会えて良かったのだが、肝心のナギさんは突然オーダーによって召喚されたことに動揺しているのか、ユー子さんやトオルさんの呼びかけにも言葉を濁らせ、奥から出てこようとしない。

 

 

「どうしたの、何か出てこれない理由でもあるの?」

 

「も、もしかして……中で熊に襲われたりしとるんやないの?」

 

「そんなことない! 無事だよ! ただ……その、外って風が冷たいだろ?」

 

「……え、そんな理由?」

 

「大事だろ! 真っ先に雨風を凌げる場所を私は探したんだからな!」

 

「「「「…………」」」」

 

 ……何だろう。ナギさんの言っていることは間違っていない。むしろ正しい。旅などでは、必ずしもテントが建てられる場所にありつけるとは限らない。崩れにくい洞窟の中などに野営することも多々ある。

 なのに、なんでこう……微妙な空気が流れているんだろう。

 

「なるほど……それは確かに一理あるね。」

 

「そうだろそうだろ……って今の声、聞いたことないな。誰か他にいるのか?」

 

「うん。炭酸2号とあと二人いるよ。」

 

「炭酸2号って…なんだ?」

 

 マッチの納得したような声がナギさんに届き、トオルさんの軽い紹介で、ナギさんは炭酸2号……もといマッチに興味を持ったようです。

 ちなみに炭酸というのは、トオルさんが元いた世界で飼っていた猫ちゃんの名前なんだそう。

 

 

「ほら炭酸2号、鳴いてごらん。」

 

「……にゃー。」

 

「さっきの声と同じ!? 炭酸2号って、喋れるのかッ!!?」

 

「うん、気になるでしょ?」

 

「……分かった、出るよ。」

 

 

 よほど炭酸2号……もといマッチが気になるのか、洞窟の奥のナギさんは、出てくることに決めたようだ。

 そうして奥の方からゆらりと動く影が見えて、それがこちらへやってくる。

 それは一人の少女だった。

 茶色い髪を、首筋あたりでおさげにしている、眼鏡をかけた少女。金縁に紺色の、研究員のような恰好が知的な雰囲気を醸し出している。

 

 彼女から、ユー子さんとトオルさんとのつながりを―――パスを感じる。間違いない。彼女こそ、二人が言っていた、ナギさんだ。

 

 

「あ! 出てこられました! ナギ様です!」

 

「うわ、さむっ!!? ……………」

 

 

 ランプが喜ぶと同時に、ナギさんが体を震わせ悲鳴を上げると、すごすごと洞窟の中へ戻っていって……

 ………ってアレ。

 

 

「ナギ! 戻ったらあかんて!?」

 

「………」

 

 

 ………この後、ナギさんを外へ連れ出すのに五分ちょっとくらいかかりました。

 

 

 

 ナギさんにエトワリアにオーダーで呼び出された事情を話すと、ナギさんは理解してくれた。

 ナギさんとトオルさんが、「炭酸の方が可愛い」という意見で一致し、マッチがちょっと不憫な目にあったり、ユー子さんの「寒い」発言に来ている衣服のせいだろとナギさんがユー子さんの脇腹をつつきながら指摘したり、ランプが「ここでいくら太っても元の世界へ戻れば無かったことになる」とか「太ってるじゃなくて、デブじゃなくて……」とか言ったせいでナギさんがひどく落ち込んだりもしたけど……

 

 ここで、不穏な事件が発生する。

 

 

 それは夕方頃、残りのクリエメイトがるんさんだけとなって、静かだったトオルさんが、私に「パスを感じる力を使って、早くるんちゃんを探して」と熱心に迫り、言うとおりにるんさんのパスを探知しようとした時であった。

 

 

「るんちゃんの笑顔を……一緒にいると元気が出てくるような笑顔を思い浮かべて!」

 

「えっと………こう?」

 

「違う! もっときらきらしてる感じ!!」

 

「……パスを感じるのって、イメージの問題なんだっけ…」

 

「トオルさんがそう仰るのなら、そういうこともあるのかも!」

 

「……やれやれ、ランプに聞いた僕がバカだったよ。

 …………って、あれ?」

 

「どうしたの、マッ―――――と、トオルさん!!」

 

 

 るんさんのパスを感じようとしている私とアドバイスをするトオルさんを見ていたマッチが声をあげ、続いてランプがトオルさんを呼ぶ。

 

 

「どうしたの、ランプ。」

 

「あ、あそこに! るん様がッ!!!」

 

「えっ――――――」

 

 

 ランプの指をさした方向を見てみると、そこに立っていたのは、エトワリアの僧侶のような恰好をした、色素の薄いオレンジのような髪をした一人の少女だった。

 

「っ………! るんちゃん!」

 

 トオルさんが彼女を見るなり、花が咲いたような笑顔になって駆け出していく。

 

「ったく、いい表情になっちゃって。」

「トオルは、ほんまにるんちゃんのことが大好きやなぁ。」

 

 私にしていたパスを感じるときのアドバイスや、ナギさんやユー子さんの言葉から考えて、トオルさんはるんさんのことが大好きなのだろう。

 

 

 

 でも、ここで私が感じたのは……安堵や安心などではない。

 ―――底知れない不気味さと恐怖だった。

 

 

「待ってください、トオルさんッ!!」

 

 

 突き動かされるように走り出し、トオルさんの前に立ちふさがる。

 私に邪魔されたと思ったトオルさんは、花のような表情から一変し、まるで敵を見るかのような顔になる。

 

 

「………なに?」

 

「お、おい、きらら? 今のトオルを止めるのは危ないぞ……!」

 

 

 ナギさんが忠告してくれる。

 でも……私は、止めないといけなかった。

 なぜなら。

 

 

「その方は………………違います。

 その方はクリエメイトじゃ――――――るんさんじゃありません!!!」

 

「なっ!?」

 

 

 私の言葉に、ナギさんだけじゃなくて、ユー子さんもトオルさんも、ランプもマッチも驚きに表情が変わる。

 

 

「嘘やろ!? えっ………どう見てもるんやん。せやんな?」

 

「そうだよー、るんだよー。」

 

「ほ、ほら、本人もそう言ってるやん!」

 

 

 目の前のるんさんの言葉にユー子さんが戸惑うが、私には分かる。

 

 このるんさんからは―――クリエメイトのパスを感じない。

 ナギさんとユー子さん、そしてトオルさんとのつながりを……パスを感じられない。

 原理は分からない。でも、ここに現れたるんさんが偽物だってことは確かだ。

 

 

「でも、違うんです! トオルさん、私を信じてください!」

 

「………」

 

 

 トオルさんは―――私を振り切って、るんさんの偽物の元まで走っていってしまった。

 違うのに……その人はるんさんじゃないのに……!

 

 

「……待たせてごめんね、るんちゃん。

 ここまで来て疲れたでしょ、お腹減ってない?」

 

「トオル……うん、お腹減っちゃったよー。」

 

「るんちゃんは、食べるとしたら何がいい?」

 

「お肉! お肉!」

 

 トオルさんとるんさんの偽物の会話が弾んでいる。まるで、本物の親友みたいに。

 

「そうだよね。いいよ、お肉食べよ。

 けど、間にさっぱりしたものも挟まないとね。」

 

「そうだねー、お野菜とかも食べないとねー。」

 

 突然、トオルさんがるんさんの偽物から離れる。

 表情は暗く、親友に出会えて、会話を交わした後だとは思えない。

 

 

「きららさんの言うとおりだったね。

 ―――()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「………っ」

「!!」

 

 

 るんさんの偽物も含め、全員が息を呑む。

 

 

「るんちゃんはお肉の合間に『()()()()()()()()ー!』って食べだすんだから!」

 

 

 トオルさんがるんさんの偽物にそう言い放つ。

 つまり……さっきの会話は、るんさんが本物かどうか確かめるため、わざとかかったフリをしていたんだ。

 私の言葉を、確かめるために!

 

 

「全然さっぱりしとらんやん! 普通はサラダとか甘いものやあらへんの?」

「いや! るんはそう言いだしてもおかしくないッ! つまり、本当にこのるんは―――」

 

 

「……よく、わかりましたね。」

 

 

 ユー子さんとナギさんが警戒を強めたあたりで、るんさんが底冷えした声でそう言う。

 それと同時にるんさんの姿が光に包まれたと思ったら、シルエットが小さくなり、全く違う姿の少女になった。

 

 背丈はランプと同じくらい。水色のウェーブがかった髪にタヌキのような丸耳が生え、白いワンピースに身を包んだ少女。

 

 

「る、るんがるんやなくなって……誰やの、この子は!」

 

「ソルト……!」

 

 

 ランプが苛立たしげに少女の名前を呟く。

 名を呼ばれた少女―――ソルトはランプを無視して続ける。

 

 

「ソルトの変身は完璧でした。見破られるなんて計算外です。計算が狂ったのは―――あなたのせいです。」

 

 ソルトの指は、まっすぐ私に向けられる。

 

「コールを使う召喚士。アルシーヴ様の敵。名前は確か……きららといいましたか。

 ソルトはそう甘くありません。シュガーとは違うのです。

 シュガーの邪魔をし、今度はソルトの邪魔をする。………計算外の要素は、ここで排除します。」

 

「「「「「「「くーーーーー!!!!!」」」」」」」

 

 ソルトの宣言と共に、クロモン達がクリエメイトの皆さんと私達に飛びかかってくる。

 それを―――

 

 

 

「「「「「「「くーーーーー!?!?!?」」」」」」」

 

 『コール』したクリエメイトの、炎属性魔法で弾き飛ばしていく。

 

「そうはさせません!」

「ソルト、ここで捕まって貰います!」

 

 私とランプがそう言い返すと、ソルトはしかし、何かを企むような目でほくそ笑む。

 

 

「この程度で勝てると思うなど、計算が甘いのです。」

 

 

 ソルトの後ろから、伏兵のクロモン達が飛び出した。

 私達は、統率されたクロモン達を前に、クリエメイト達を守るのに精一杯で、ソルトにまで手が届かない。

 

 

「なら、私が―――!!」

 

 私達の状態を察したトオルさんが、バット片手にソルトに飛びかかる。

 

「あなたはもっとも計算しやすい。」

 

 その一言と共に、ソルトの姿がるんさんに変わる。

 

「―――っ!!!」

 

 トオルさんが振り上げたバットが止まる。

 その隙に、ソルトはトオルさんから距離をとった。逃げるつもりなのだ。

 

「頭では違うと分かっているのに、攻撃できない。やはり計算通りです。

 本物のるんは私が預かっています。あなたがたはしばらくクロモン達と踊っていてください。

 ―――さようなら、おバカさんたち。」

 

 

 るんさんの姿のまま、ソルトは見下すように笑う。

 陽が落ちかけている赤い空を背にしたその光景は、ほんの少しだけだが、一種の美しさを覚える。

 トオルさんも、私も、他のみんなも、動けなかった。

 

 そしてソルトは、そのまま森の茂みの中へ入り、そのままどこかへ行ってしまった。

 

 

 

 その後も、襲い来るクロモン達の相手に手一杯で、ソルトを追いかけることも叶わず、全てのクロモンを倒した頃には完全に日が沈んでしまっていた。

 

 

「偽物だって、分かっていたのに…………動けなかった………」

 

「トオル……」

 

 トオルさんは、るんさんに変身したソルトを攻撃出来なかった事を悔いているみたい。でも、すぐにその目には決意の炎が灯る。

 

 

「次は………絶対にヤる。

 るんちゃんを騙ったこと……後悔させてやる。」

 

「や、ヤるって……もうちょっと穏便に…」

 

「やめとけユー子。こうなったらトオルは止まらないぞ。それに、こっちの方が頼もしい。」

 

 トオルさんのちょっと物騒な宣言におっかなびっくり宥めようとするユー子さんと逆に味方にするナギさんを見て、この三人はもう大丈夫だと思った。

 

 るんさんのパスを追えば、村のだいたいどの辺にいるのかは分かる。だから、後は追うだけだ。

 

「水を差すようで悪いけど、今日はもう休んだ方がいい。夜の森は、迷いやすいからね。下手に動かない方が得策だ。」

 

「でも……ソルトは八賢者いちの策士です。

 あんまり時間を与えると後が怖い気もするけど…」

 

「い、嫌やで、ウチは。

 こ……こないな暗い森の中進むんは…」

 

 

 でも、マッチは追いかける事をせずに、ここで休むことを提案する。ユー子さんもいるし、夜の森を進むのは確かに難しいから私も異論はないけど………ランプの懸念も分かる。

 

 

 

 

 敵襲の後、私達はランプからソルトの事を聞いた。

 “計算高い”八賢者と呼ばれている少女・ソルト。

 曰わく、自由奔放で人懐っこかった、最初に戦った賢者シュガーの双子の姉であると。

 また、あらゆる政略・策略・計略に精通しており、計算高い攻め方をしてくること。

 

 

『おそらく、私達の情報はさっきの襲撃で集められていると思います。』

 

『私たちの情報? 何かあったか?』

 

『………例えば私が、ソルトの変身を見破ったこと、とかですか。』

 

『はい。ソルトはおそらく……きららさんを、一番危険視すると思います。』

 

『そっか。なら、アイツがきららさんに注意を向けている間に、私がヤればいいだけだね』

 

『『『『『……………』』』』』

 

 ……まぁ、トオルさんのただでさえ高くなっている戦意を滾らせる結果になったけど、戦いの前はそれでいいと思う。

 

 

 

 

「それで……休むにしたって、どうするつもりなんだ?」

 

「ああ、それなんだけど……」

 

 

 私がソルトの話を思い出している間に、マッチはナギさんの疑問に視線で答える。

 マッチの視線の先には、ナギさんが私たちと合流するまでこもっていた洞窟があった。

 

 

「洞窟で一休みですか!?」

 

「なるほど。あそこなら絶対カゼはひかないな。ソースは私」

 

「そう……ですね。テントでもあれば良かったんですが……」

 

「問題は、ユー子だけど……ユー子?」

 

「………」

 

「ねえ、ユー子? ユー子ったら」

 

「……………………………………」

 

 

 トオルさんがユー子さんを叩く。

 さっきから静かだったユー子さんは、トオルさんが叩いた勢いにしたがって、ゆっくりと倒れて―――って!?

 

「ユー子さん!!?」

 

 倒れそうになったユー子さんを、私が支える。

 体制を整えながら顔を見ると、ユー子さんの表情は魂が抜けたかのように虚ろなものになっていた。体を揺さぶっても返事がない。

 

「ゆ、ユー子さん!! 大丈夫ですか、ユー子さん!!」

 

「ユー子が気絶した!!?」

 

「…………」

 

 ナギさんが驚く。

 出会って間もないけど、怖いものが苦手だとなんとなくわかっていましたが、ここまでストレスが溜まっていたなんて……

 

 

「……まぁ、また逃げ回られるよりかはマシかもね。みんな、中に入るよ。」

 

「マッチ…ちょっと空気読んでよ……」

 

「これで良かったんでしょうか……」

 

 

 マッチの呆れた様子をランプが非難しつつ、みんなは洞窟の中に入っていく。私も、気を失ったユー子さんを背負って、あとに続く。

 気になることは多い。でも…るんさんを見つけ出して、ソルトを下すためにも、今日はしっかり休まないと。

 

 




キャラクター紹介&解説

きらら&ランプ&マッチ/炭酸2号
 原作とあまり変わらない動きで、ユー子、トオル、ナギと合流できた原作主人公サイド三人(?)組。初めてるん(の偽物)と会った時のきららの心情の変化には特に力をいれて書いた。その分、作者の想像もあるが、この章のきららの活躍から察するに、一目でクリエメイトか否かを見分けることなど容易いのではと考える。

トオル
 本名・一井(いちい)(とおる)。一つ年上の幼馴染のるんが大好きで基本クールで良い子な反面、るんちゃん絡みになると物騒になる。特にるんに近づく男子には顕著で、金属バットを持ってきたことも。
 拙作のソルトがるんちゃんの姿で「るんちゃんはそんなこと言わない」的なことをやってしまったため、攻撃性が増してしまっている。

ナギ
 本名・天王寺(てんのうじ)(なぎさ)。『きららファンタジア』では、寒がりなところと体重やスタイルなどの女子独特の悩みを持つところがデフォルトとして描かれていた。原作との違いで、トオルによって後述するナギ五人姉妹説が提唱されている。

ユー子
 ビビリーな関西JK。拙作の流れでは真っ暗な洞窟に野宿せざるを得ない状況になり、逃げだすこともできない(夜の森を迷走することになるため)ので、精神の強制シャットダウン(=気絶)を選択した。アワレなり。しかし、公式設定に不幸体質とあるので、日常的にこれ以上の酷い目に遭っているのではないだろうか。

ソルト
 るんちゃんで見下すという、「るんちゃんはそんなこと言わない」ことを実行したため、トオルに「お前をコ□す(CV.〇川光)」的宣言をされた計算高い八賢者。原作とは違い、きらら達について計算をし直す時間が約一日分与えられているので、なんとかして原作とは違う作戦を実行したいところ。



ナギ五人姉妹説
 元ネタは、「おそ松さん」と「五等分の花嫁」。どちらも「年の同じ複数きょうだい」という設定があり、それぞれ一人ひとりの個性が強い傾向にある。
 彼女のダメ人間っぷりからして実装するなら「おそ松さん」的な五つ子(松野家は六つ子だが)だろうが、もし「五等分の花嫁」的な五つ子にナギがなったら、間違いなく父親の涙が枯れる上に、親バカが過ぎてエライことになるだろうから、ナギが一人っ子なのはある意味救いなのかもしれない。

ナギ1「お姉さんに話してごらん?」
ナギ2「フッ……己との戦い…孤独の試練……」
ナギ3「はいはい……ごみは動きませんよっと」
ナギ4「ちょっとくらい、頼ってもいいでしょ?」

ナギ(本物)「うわああああドッペルゲンガーだああ!!?」
ナギ父「(尊死中)」
作者「やべぇ、おそ松さんと五等分の花嫁混ぜちゃった」



あとがき
まえがきに書いた通り、ノープ…じゃない、切りのいいところで分けたら複数パートになったので、次回は『ソルトの策略/発明王ローリエ その②』をお送りいたします。




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第38話:ソルトの策略/発明王ローリエ その②

作者「さて、切りの良いところで終わらせられたぜ」
ろーりえ「ノープランだよね?」
作者「いや、これは、俺と読者を配慮した、合理的な……」
ろーりえ「ノープランだよね?」
作者「………………………………………………ハイ……」


 洞窟の中で夜を明かした私たちは、ユー子さんを起こし、外へ出るのを渋るナギさんを引っ張り出して、るんさんの捜索を再開します。

 

 まず、森から脱出して、村へ戻らなければなりません。

 

 るんさんのパスも、その村の北部――私たちがまだ行ってないところです―――から感じました。

 それを頼りに、村まで戻ってきた私達は、今まで行っていなかった北部へ向かってみることにします。

 

 

「ようやく戻ってこれたね……」

 

「きらら、るんのパスは感じられるかい?」

 

「感じられるけど、さっきから動かないままだね。」

 

「るんちゃんが……動かない?

 それって、大人しくしてるって意味だよね。本当に動かないわけじゃないよね?」

 

 

 ここに来て、戦意を漲らせていたトオルさんが目に見えて落ち込んでしまう。よっぽど、るんさんの事が心配なんだ。

 

 

「その、危ない目にあってるということではなくて、捕まってしまってるだけだと思います!」

 

「トオルもるんが心配なんはわかるけど、きららさんに当たったり、一人で無茶したらあかんよ?」

 

「…そんなことしないってば。子供じゃあないんだからいきなり突っ込んだりしないって。だからはーなーせー。」

 

「あかんって」

 

 私とユー子さんでトオルさんを元気づけようとするも、ユー子さんが一人で専行しようとするトオルさんを掴んで離さない。

 

「なんだこの村! 宿屋もよろず屋もセーブポイントも何もないじゃあないか!」

 

「そりゃあ、外から人が来るなんてほとんどないだろうしね……」

 

「あとNPCはどこだ!? 話しかけたら情報教えてくれそうなやつ!」

 

「……それ、ナギのやってるRPGの話でしょ?」

 

「ナギが寒さでおかしくなりかけとる……」

 

 ナギさんも、寒さのせいかよく分からないことを言い始めている(港町の神父さんも似たようなコトを言っていたケド……)。

 早くるんさんを見つけて、皆さんを元の世界に帰した方が良さそうだ。

 

 

「…………。」

 

「……子供?」

 

 

 そう思った時、パッと見て6、7歳ほどの女の子がこちらを見ているのに気づいた。

 ベージュのウェーブがかった長い髪と白い花と葉っぱの髪飾り、赤いリボンとスカートが特徴的だ。

 家の扉から覗き込むかのように、つぶらな瞳でこちらを見ている。

 

 視線に気づいた私が少女を見つめ返すと、家の中に少し引っ込んでしまう。

 

 

「……きららさん、どうしたんですか?」

 

「ランプ。あの子に話を聞きたいんだけどね。」

 

「!」

 

「……この村の子かな?」

 

「多分。でも、なかなか出てきてくれないね。」

 

 

 ランプとマッチの言う通り、少女はちょっと引っ込み思案なのかもしれない。私に見られただけで引っ込んでしまうような子だ。どうにかして、るんさんの手がかりを見つけたいけど、周りにはほかに尋ねられそうな人はいないし、どうしよう………

 

 

「ねえ、きみどうしたのかな?」

 

「……っ!」

 

「あーあ、引っ込んじゃった。」

 

「うう……ちょっと傷つきます………」

 

 

 ランプが声をかけるも、女の子は家の中に引っ込んでしまう。でも、まだこっちが気になるみたいで、ドアの隙間からチラチラ見てるよ。

 

 

「うちに任せとき!

 なぁ君、うちとお話せぇへん?」

 

「………っ」

 

「あ、逃げられた。」

 

「ちゃ、ちゃうねんて!? あれはきっとナギの性格に影響を受けたんやって!」

 

 

 ユー子さんが声をかけると、女の子は扉を閉めてしまった。トオルさんがユー子さんを見てそう言ったのに対し、ユー子さんはナギさんの性格の影響だと弁明する。

 確かに、ここの村の人々は様々な影響を受けていた。トオルさんの周りは子供であふれてたし、ナギさんを探す時は村人たちが家から出てこようとしませんでした。

 

 

「それを言うなら怖がりなユー子の影響だろ?」

 

「どっちでもいいよ。

 ………ねぇ、大丈夫だよ。怖くないから。」

 

「…………うん。」

 

 

 トオルさんが近づいて扉越しに呼びかけると、女の子は恐る恐る出て来て、そしてうっすらと笑みを浮かべて現れる。

 

 

「出て来てくれました! さすがトオルさんです!」

 

「同じくらいちっこいと安心するんだろうな。」

 

「ナギ、うっさい。」

 

 

 トオルさんにひと睨みされたナギさんの言い方はさすがにどうかと思うけど、スラリとして背の高いユー子さんが思いっきり警戒されたことを考えると、トオルさんの方が女の子にとっては安心するのかもしれない。

 

 

「おねえちゃんたち、なにしてたの?」

 

「…人を探してたんだ。るんちゃん………私の、大切な友達を。きみは?」

 

「……昨日の人に言われた通りの人が来たから、見てたの。」

 

「昨日の人?」

 

「綺麗なおねえさんがね、『ランプって人が来たら助けてあげなさい』って言ってたの。」

 

「「「!!!?」」」

 

 

 女の子の口から、よく知る名前が飛び出てきたという事実に動揺してしまう。

 

 

「そ、それってどんな人だった!?」

 

「え、………っと……腰くらいの長いオレンジの髪をした、綺麗な人だった。あと、身長は……」

 

「身長は?」

 

「この人と同じくらい。」

 

 

 ユー子さんを指さして女の子は言う。

 オレンジの長髪でユー子さんぐらいの背の女性が言っていた、『ランプを助けてあげなさい』という言葉……

 これって、どういう意味なんだろう?

 

 

「ランプ、知り合い?」

 

「いいえ。わたしは知りませんよ、そんな人?」

 

「……ソルトの罠かもしれない。」

 

「マッチ?」

 

「どうしてこんな女の子が『ランプ』の名前を知っているんだい? ソルトが変身して、この子にそう言った可能性もあるじゃあないか。」

 

 

 ランプと一緒に悩んでいるとマッチがそう言った。女の子に疑いの目を向けるマッチのプレッシャーにおされたのか、女の子が涙目になってしまっている。今にも家に引っ込みそうだ。

 

 

「マッチ、あんまり睨まないでよ。この子が可哀想じゃん!」

 

「……それもそうか。彼女は話をきいただけだしね」

 

「それも違うよ、炭酸2号」

 

 ランプがマッチを窘めていると、トオルさんが話に参加してくる。

 

「……僕は炭酸でも2号でもないんだけど」

 

「この子を見てあげなよ。ユー子やランプが話しかけたら逃げちゃうような子だよ。

 私たちに話しかけるだけでも勇気を振り絞ったに違いない。そんな子が、嘘をつくわけない。」

 

「いや、だからね、その子が見たものが―――」

 

「アイツなら、もっと分かりやすい手を使う。とりあえず、この子の話を聞こう?」

 

 まずは女の子の話を聞こうとするトオルさんの言葉に、マッチは一応納得したのかそれ以上は何も言わなかった。確かに、その子は「オレンジの長髪の綺麗なおねえさん」から頼まれたとはいえ、頼みはマッチの助けになることだ。

 もしソルトの罠だとしたら、るんさんに変身して女の子に話しかける方がそれっぽい。

 トオルさんが近づくと、女の子は再び扉を開けて出てきた。

 

 

「君。聞きたいことがあるんだけど、いい?」

 

「………うん。」

 

「そのおねえさんの名前とか、わかる?」

 

「……ううん、わからない。ごめんね?」

 

「謝らなくて大丈夫だよ」

 

 

 トオルさんが少しずつ話を聞いていく。

 この女の子はどうやら、女の人に呼びかけられただけのようで、「ランプという少女が困っていたら助けてあげてほしい」程度のことしか知らないらしい。それが昨日のこと。ソルトによる罠の可能性は低いだろう。

 

 

「じゃあ………そのおねえさん以外で、見慣れない人、見なかった?」

 

「えっとね………」

 

 

 女の子は、幼い両手で前髪をかきあげて、おでこが見えるように押さえつけながら、こう言った。

 

 

「きのうね、こーんなおでこの女の子が、水車小屋のほうに連れてかれたのを見たよ」

 

「「「!!!!」」」

 

 

 女の子がそう言うと、トオルさん、ユー子さん、ナギさんの様子が急変した。

 

 

「おでこって……!」

 

「るんちゃん………!! ありがとう、きみ。」

 

「ううん。おねえちゃんたちも気を付けて~」

 

「急ごう、みんな!」

 

 

 水車小屋に連れていかれたという、おでこが見える女の子が、るんさんの可能性が高い。ナギさんとトオルさんの反応から、それは明らかだ。早く残り一人のクリエメイトを救出するため、みんなに呼びかける。

 

 

「水車小屋はこの先です。間に合うといいのですが………」

 

「今は心配するより足を動かそう。きっと間に合うと信じてね。」

 

「マッチさんはええこと言うなあ。」

 

「…なんだか最近、妙に前向きな人たちと出会うことが増えたからね。」

 

「うん。さすが炭酸2号」

 

「だから炭酸2号じゃないってば」

 

 

 心配するランプにマッチはそう励ます。マッチも少しは変わったのかな。

 確かにユー子さんの言う通り、出会ったばかりのマッチはもうちょっとニヒルな感じがあった気がする。ひだまり荘の皆さんやイーグルジャンプの皆さん、そして学園生活部の4人との出会いが、私たち三人の中の何かを変えているのかもしれない。

 

 そう思っていると、後ろからぐっぐっと何かを踏む音が聞こえる。

 

 

「……見送ってくれるの?」

 

「なんだか、この扉のとこの段差が気持ちよくて…なかなか閉められないの。」

 

 トオルさんの声に振り替えると、さっきの女の子が、気持ちよさそうに扉の段差を交互に踏み踏みしている。

 

 

「なんや珍し……い?」

 

「おーい、どうしたユー子。」

 

「ちゃ、ちゃう………この子だけやないッ! ここいら一帯の人たち、みんな似たようなことやっとる!」

 

 ユー子さんの驚愕の声に周りを見てみると……確かに、今まで家にいたであろう人たちが、玄関先で何かを踏んでいます。それも全員。あまりに異常な光景に、みんな言葉を失ってしまいました。

 

「何をしてるんだろう……」

 

「青竹踏み………やないかな。」

 

「るん、いつもトオルん家から帰る時に引っかかってるよな……」

 

「………間違いない! るんちゃんの影響だ!」

 

「これでそう思うのか!!?」

 

 この異常な光景がオーダーの影響であるならば、ありえると頷ける。

 ひだまり荘の皆さんが召喚された村での、灰色の空。

 青葉さんたちが召喚された港町での、大人たちの怠惰化。

 学園生活部が召喚された砂漠での、“かれら”の大量発生。

 それらと同じことが、今この村でも、起こっているんだ。そして、それは間違いなく、水車小屋にるんさんがいることの証明。

 

 

「くー!」

 

「案の定だ! そう簡単にはいかせてくれないみたいだね。るんが近いって証拠かも…!」

 

「皆さん、()()()()に行きます!!」

 

 

 それが正しいと言わんばかりにクロモンが現れたことをマッチが警告すると、私はそう言いながら『コール』をすぐさま発動して、昨夜話した作戦決行の合図を出した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

『まず、私の「コール」で全体攻撃ができるクリエメイトを呼び出します。それで、クロモン達をできるだけ減らしたいと思います。』

『それだと、いつものきららさんだね。』

『はい。()()()()()()()()()んです。この作戦はきっと……トオルさん。あなたが一番重要なポジションにあると考えています。』

『私?』

『でも、危険じゃありませんか?』

『そう……かもしれません。でも、ソルトは私を警戒しています。』

『……そうか! こっちが警戒していることを、悟らせない為に……!』

『そういうことです、ナギさん。』

 

 

 

「メガ粒子レクイエムシュート!!」

「よぉーし、行っけー!!!」

「はああああああっ!!!」

 

「「「「「くーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?」」」」」

 

 きららが呼び出した青葉とはじめ、美紀の範囲攻撃で、クロモンの群れが吹き飛んでいく。

 その脳裏には、昨日の夜、森で話した作戦会議の内容が浮かんでいた。

 

「……こうして見ると、私たち、きららさんだけが頼みの綱みたいだね。」

 

「………そう、ですよね……」

 

「気に病まないでやランプちゃん。ウチらにも役目はあるやろ?」

 

 きららだけが前線に立ち、クロモンを薙ぎ払いながら突き進む状況にランプが無力感で落ち込むのをユー子がなだめる。

 彼女達ももちろん、作戦に参加しており、それぞれの役目をしっかりと持っている。

 

 

『皆さんには、トオルさんを囲むように陣形を組んで移動して欲しいんです。』

『え? どうしてですか?』

『トオルさんが作戦の要であることは言ったと思います。ギリギリまでソルトに悟られないようにするために、ユー子さんやナギさん、ランプのフォローが必要です。』

………………………………るんちゃんを騙ったアイツ、絶対ヤる……

『……一人だと、トオルさんが突っ走りそうですので』

『…………せやな。』

 

 

 トオルがるん奪還の鍵になると踏んだきららは、ランプやユー子達に対して、彼女のストッパー兼フォロワーを頼んでいる。

 故に、こうしてトオルを守るようにきららの後ろに下がり、きららについていく事が、ランプ達が作戦の遂行に協力している証拠に他ならない。

 

 やがて、水車小屋が目視で確認できるほどの距離になると、ランプがその方向を指さす。

 

 

「あれが水車小屋です!」

 

「ここまで来たらはっきりと感じるよ! あそこにるんさんがいる!」

 

「絶対に―――るんちゃんを助けるッ!」

 

「せやね、ウチももう怖がって逃げてられへん………!」

 

「こんな寒いとこもう嫌だ。さっさと家に帰る!」

 

 

 きららがるんの正確な位置を探知し、確信を持つと、トオル、ユー子、ナギもそれぞれの意気込みをする。

 

 

「ソルト、クリエメイトを開放するんだ!」

 

「そうです! るん様をイジメたら許しませんよッ!」

 

 やがて、一行が水車小屋にたどり着くと、マッチとランプが水車小屋に向かってそう叫ぶ。

 返ってきたのは、呟くような一言だった。

 

 

「……すべて、計算通りです。」

 

「なんだって…………!?」

 

 

 ソルトにとっては、この展開すらも計画通りであったのだ。

 無駄なく最適解を導き出し、合理的に最善策を割り出す。それがいつでもソルトのやり方であった。今回もそれは変わらない。

 

 

「あなた達は、こうしてわざわざ残りのクリエメイトを連れてきてくれた。計算通りです。」

 

 きらら達とは違って、ソルトはクリエメイトを探知する術を持っていない。また、きららがクリエメイトを探し出す何かを持っている事を推測していた。

 故に、予想していたのだ。るんを――クリエメイトを一人確保しておけば、残りのクリエメイトを連れてきらら達がやって来ることを。

 そこを一網打尽にする。それがソルトが今回考えついた計略であった。

 

 全てを計算づくで行い、相手さえも利用する。それがソルトのやり方だったのだ。

 

 

「シュガーと一緒ではこうはいきません。あの子はいつも、想定外の行動をする………でも、今日は違います。もうあなた達の動きは計算済みです。」

 

「くるよ! 気をつけてきらら!」

 

「分かった! 皆、力を貸して……!!」

 

 

 きららが『コール』を使うべく集中したのと、ソルトがハンマーを持って襲いかかったのは同時であった。

 振り下ろされたハンマーは、きららにまっすぐ向かっていき―――

 

「させないよっ!」

 

 呼び出されたクリエメイト―――はじめの持っていた盾に遮られた。小さな体躯に見合わぬハンマーの衝撃が、盾を通してはじめの全身に響く。

 

「えいっ!」

「スキありっ!」

 

 しかし、はじめの影から、ソルトに向かって攻撃した者がいた。

 青葉とねねである。

 

 青葉の魔法の波とねねのハンマーの一撃をジャンプでかわし、距離を取るソルト。

 今度はハンマーをぶん回し、遠心力を利用して風を巻き起こした。

 そのつむじ風が、魔力を持って襲いかかる。甲高い音と共に迫る風の刃達を、はじめの盾が受け止める。そのしかし、その風の刃の大きさと数は、『コール』で強化されているとはいえ、一人のクリエメイトが受け止めきれるものではなかった。

 

 ソルトは、はじめと後ろにいた二人のクリエメイトの消滅を予見していた。しかし、風がおさまった後には、はじめが盾を構えたままきらら達の前に仁王立ちしていたのだ。己が計算ミスを犯したのかと再演算を行うも、答えはすぐに明らかになった。

 

「はじめちゃん、無理しちゃ駄目よ」

 

「でも助かりました、遠山さん!」

 

 はじめの後ろで、僧侶の力を得た遠山りんが、杖の先端を光らせていたのだ。はじめがソルトの風の刃を一身に受けつつも、その後ろでりんがはじめを回復していた。ソルトの攻撃を受け切ったカラクリを一瞬で理解したソルトは頭の中で舌打ちする。

 

 

 しかし、ここで手詰まりになっていては、ソルトは「計算高き賢者」と呼ばれてなどいない。彼女には、現在の不利になりつつある盤面をひっくり返す秘策を既に講じていた。

 

 

「っ………なかなかやりますね、召喚士。でも、すでにあなたについては解析が完了している。

 その力はクリエメイトの力。あなた自身が戦えるわけではありません。」

 

「!!」

 

「つまり……ソルトをあなたが捕まえることはできないのです。」

 

 

 ソルトはそう言うと、突然背を向けて、素早い動きで水車小屋の中に走って逃げていったのだ。中に入ると、ご丁寧に入り口の戸を閉めた。

 ソルトの解析は、ほぼ的を射ていた。「コール」は、クリエメイトを魂の写し身として召喚する魔法ではあるが、成立するにはクリエメイト側の同意が必要になる。つまり、クリエメイトが「コール」の呼びかけに拒否した場合、召喚は失敗してしまうのだ。それを理解した上で「あなたは戦えない」と言えば、それはある種の挑発になりうる。

 

 

「アイツ水車小屋の中に逃げていったぞ!」

 

「追いかけます! ついてきてください!」

 

「待て、ソルトのことだ。何か企んで―――」

 

 逃げていったソルトの背を追いかけるきらら。マッチはソルトの計略を警戒して引き留めようとする。それはマッチの本心ではあるが、()()()()()でもあるのだ。

 

 

『ソルトが現れたら、私がわざとソルトの罠に引っかかりたいと思います。』

『危険すぎるよ、きらら! 致死性の罠があったらどうするつもりだ!』

『ひっ………致死性って………!』

『考え直してくれ、きららさん!』

『大丈夫です、ユー子さん、ナギさん。クリエメイトがかかる可能性を考えると、危険な罠は仕掛けられないと思います。クリエメイトが一人でも欠けたら、クリエを集められないから……!』

『そう……でしょうか……?』

 

 自己犠牲ともいえるこの作戦。結局、ランプとマッチは最後まであまりいい顔はしなかったものの、ソルトがきららを警戒している以上、仕方ないと判断した。

 

 しかし、罠にかからない事に越したことはない。きららはソルトによって閉じられた水車小屋の扉を開き、すぐに中に入ることはせず、何が飛び出してきてもいいように様子を伺った。時間がたっても何かが飛んでくる気配がないことを察したきららは、ソルトに追いつくために、室内に踏み出した――――――その時。

 

 

「あっ………!!!?」

 

 

 きららが踏み出した床が、消えた。

 

 

「ひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!?」

 

 

「き、きららさんっ!!?」

 

 

 重力に従い、きららが落ちた先は、地面を掘った後の穴のようであった。

 

 

「き、きららさんが消えてもうた!? なんや、神隠しか!?」

 

「違う! 水車小屋に入ったところに落とし穴があったんだ!」

 

「なんて古典的な手だよ!」

 

 

 きららは、マッチに忠告された通り罠に警戒しながら入った。しかし……閉めた扉を開けた途端、何かが飛び出してくると踏んでいたのだ。マッチの危惧したように当たったら致命傷になりそうなものではなくとも、自分の動きを封じる何かが飛び出してくると思ったきららは、予想した罠がないことに安心して、「家の中に落とし穴がある」という可能性にたどり着けなかったのだ。

 

 

「トオルとマッチはソルトを探し! ウチらはきららさんを引き上げるわ!」

 

「ユー子、ナギ、大丈夫? 手伝おうか!?」

 

「大丈夫だトオル! こっちは任せろ!」

 

 

 とはいえ、きららが罠にかかった事は想定内。ユー子とナギは作戦の鍵であるトオルと空を飛べるマッチにソルトを任せ、きららを罠から出そうとする。しかし、思ったよりもずっときららを罠から引き上げることに戸惑ってしまっている。

 

(助けに行くか………?)

 

 トオルがそう考えた時、更なる予想外の事態が発生した。

 

 

「あれ、みんなどうしたの?」

 

「るん! 無事やったんやね!」

 

 それは、ユー子がるんを見つけたことがきっかけだった。

 るんは、いつもの様子でユー子に歩み寄ってくる。

 しかし―――

 

「おい、待てって。なんだかおかしいって。」

 

「そうだよ。だって―――」

 

 

 異変を最初に感じたナギとマッチが声をあげる。どうしたことかと残りのメンバーが顔を上げると……

 

 

「トオル、来てくれたんだー。」

「ナギちゃん、もしかして痩せた!?」

「えっとー、どこに行こうかなー。」

「ほらほらー、ユー子ちゃんこっちだよー。」

 

「多すぎるよ!!」

 

 

 そこにあったのは、るんが何人にも増えて、ランプやクリエメイト達に群がっている光景だった。

 

 

「帰ったら何食べようー? やっぱりお寿司かな。」

「どうしよう……源三さんが、動かないの……」

「バルサミコ酢~!」

「ポプテピピックに栄光あれ~!」

「ダーリン! 来ちゃった♪」

「それは残像だよ。」

「ふたりとも~! ふ、ふれんちですぅ~!」

 

 

「るん様が、いちにーさんしーごーろくななはちきゅう………ま、まだまだ増えてます!?」

 

「ソルトの変身魔法だ! この中の誰かが本物のるんだよ!」

 

「いくらなんでもこの中からすぐに本物を見つけるのは無理だろ!?」

 

「うっ………うぅ~………っ。」

 

「ど、どのるんが本物なん!? どないしたらええの!?」

 

 

 まるで忍者の影分身のように増えるるんに、ランプたちは困惑するばかりである。そうして手をこまねいている間に、るんの群れは一行をまるで逃げ道をふさいでいくかのように囲んでしまっている。

 

 

「まずい……囲まれた! 早く抜け出さないと!」

 

「でも、この中の誰かが本物のるんさんなんですよ!? 無理矢理抜け出したとして、もし傷つけてしまったら……!」

 

「今はそんなこと言ってる場合じゃあないだろ!

 ……って、どんどん逃げ場がなくなってきてるよ!」

 

 マッチの言う通り、わらわらと群がるるんに皆がじりじりと追い詰められていくが、ランプの懸念のせいで誰もるんの群れにつっこむことができず二の足を踏んでいる。本物のるんを見分けられるきららはいまだソルトの落とし穴の中。このままでは、偽物のるんの群れに捕まってしまう。

 

 そしてそれは、ソルトの作戦の成功を意味していた。

 

 

「計算通りです……クリエメイトであるかどうかを見極められるのはやはり召喚士しかいない。

 ソルトの変身を見た彼女たちは、二人のるん―――本物とソルトが出てくることは想定したでしょう。ですが、その想定を超える状況、大量のるんを揃えれば動揺する……計算通りです。」

 

 本物のるんを見極められるのはきららだけであるが、彼女は既にソルトが仕掛けた落とし穴の中。

 もし、きららが行動不能になれば、残りの一行は囲まれるほどのるんの群れに動揺し、全ての判断が遅れる。

 それもまた、ソルトの計算内であったのだ。

 

「クリエメイトたちに逃げ場はありません。あとは捕まえるだけ……ソルトの勝ちですね。」

 

 作戦の成功を確信したソルトは、小屋の裏口で、ひとりほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――っ!! 皆さん! その中に本物のるんさんはいません! 本物は小屋の裏手ですッ!!!」

 

「……っ!!?」

 

 

 それと同時、きららが落とし穴の中からありったけの大声で叫んだ。

 

 きららは、落とし穴の中にいながら、パスを探って本物のるんの居場所を探り当て、それを仲間に知らせた。ソルトの作戦を、理解したから。

 本来ならば、ソルトがきららに目を向けている隙にトオルがソルトを捕らえる手筈だった。しかし、仲間達の困ったような動揺するような声しか耳に届かず、トオルやランプの作戦完了の合図が聞こえてこなかった。だから、なにか想定外の事態が起こったのだろうと考えていた。

 そこに、わずかながらソルトの声が聞こえてきた。「計算通り」とか「大量のるん」とかしか聞こえてこなかったが、それで十分。きららは、すぐさま本物のるんを探し始めたのだった。

 

 

 そして、その声は、仲間たちにしっかり届いた。

 

 

「今の聞いたか!?」

 

「つまり…これみんな偽物のるんなん!?」

 

「………言ったよね。」

 

「と、トオルさん?」

 

「次、るんちゃんを騙ったら――――――ヤるって。

 

 

 きららの言葉が聞こえた瞬間、トオルが怒気―――否、殺気を放ち始めた。

 

 

「………何、この数……。その分、何倍にしても怒っていいよね?」

 

「あ、ああ……うん……」

「え、ええんじゃないかな……」

「こ、こ、これがトオルさんの本気……!」

「凄まじいな、コレは……」

 

 側にいた、ランプ達ですら怯んでしまうほどのものだ。

 ならば、トオルが殺気を向けた対象である、るんの偽物達が感じるプレッシャーの程は?

 

 

「え…えっと………」

 

「くー!」

「くー! くー!」

「くー!!」

 

「こ、こいつら…みんなクロモンだったのか!?」

 

 怒りを向けられたるんの偽物達は、みんな正体―――クロモンの姿を晒して、一目散に逃げ出していく。

 

 

 

「お、おまえたち動揺するんじゃありません! 逃げるんじゃありません!

 それではソルトのかけた変身が解けてしまいます! 他者の変身はソルトのとっておきなんですよ!」

 

 トオルが怒気だけでクロモン達を震え上がらせた様子を見て、我先に逃げ出すクロモン達を引き止めるソルト。しかし、トオルがよほど恐ろしかったのか、クロモン達は一匹たりともソルトに耳を貸そうとしない。

 

「この秘策に対応出来るわけがありません! それに戦力ではソルト達の方が勝って……」

 

 

「………それで?」

 

「ひっ!!?」

 

 

 ソルトの肩に手が置かれる。

 油の切れたブリキ人形のようにぎこちなく振り返ると………そこには、笑顔のまま、オーラとして具現化する程の怒気を放つトオルが。

 

 

「なんで―――るんちゃんを騙ったの……?」

 

「そ…それは……その……」

 

 

 あまりの怒りのオーラに、流石の賢者ソルトも、どうする事もできず。

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさーーーーい!!!!!!」

 

 

 トオルに謝る事しか出来なかった。

 こうして、きらら一行と八賢者ソルトの戦いは、きらら達に軍配が上がった。




キャラクター紹介&解説

きらら&ランプ&マッチ&ナギ&ユー子&トオル
 ソルト戦に一日空けていたので、ソルトがしてくるであろう作戦を予測していた主人公一行。しかし、家の中の落とし穴やるんちゃんが大量に出てくることは予想できず、だいたい原作通りの流れに。トオルについては、「お前をコ□す」とは言わせませんでした。だって自爆趣味のパイロットじゃあないんだもの。

村の少女
 原作では、きらら達にクロモンを追い払ったお礼とるんちゃんの情報提供をした地元のロリ。拙作では、「長いオレンジ髪をした、ユー子ばりにスラッとしたお姉さん」に何か言われたようだが……?

ソルト
 原作通りに敗北を喫した八賢者。しかし、このまま原作通りの流れを組んでも面白くないので、次回以降、大幅に流れを変えたい所。



「オレンジの長い髪をした、綺麗なおねえさん」
 村の少女に、『ランプという少女の手助け』をお願いしたという謎の女性。彼女の正体も意図も、全てが謎のままである………今のところは。

るんの大量発生作戦
 ソルトが考えついた、ランプとクリエメイトを足止めしながら確保する為の作戦。偽物のるんの中には、るんの声を担当している福原女史の中の人ネタをいくつか仕込んでおいた。これは完全に作者の遊び心ではあるが、るんならどれも大体言いそうではある。

とおる「るんちゃんは『ダーリン』なんて言わない…! 『ダーリン』を作らせない…!」
作者「え”ッ!!? あ、そ、そうか………と、トオルがダーリンだもんね…」
とおる「は?」
作者「ひっ!!」



あとがき
 次回は『ソルトの策略/発明王ローリエ その③』をお送りします。
 ―――ようやく、きららとローリエが対峙するぜッ!!!(予定←)


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第39話:ソルトの策略/発明王ローリエ その③

 ソルトの策略/発明王ローリエ、完ッ結!


“破裂音のする魔道具、空飛ぶ機械、爆弾、忌むべき虫型魔道具………ローリエは、一体どうしてこのような魔道具を発明できたのでしょう?”
 …ソルト・ドリーマー


 きらら達は、トオルを中心としたクリエメイトとの協力をもって、計算高い賢者、八賢者いちの策士・ソルトを下した。

 

 しかし、その後現れた『黒一点の』八賢者・ローリエとの戦いで……

 

 

 

「うっ…………………」

 

「きららさん! しっかりしてください、きららさん!きららさんッ!!」

 

「『コール』じゃ何も得られない………だっけ? アルシーヴちゃん」

 

 

「……あぁ。ローリエ、よくやった。」

「…ありがとうございます、ローリエさん、アルシーヴ様……」

 

 

 

 ―――無残にも敗れ去ってしまった。

 

 その時の、辛酸を舐めるが如く苦過ぎる戦いを、ランプの保護者にして空飛ぶマスコット・マッチはこう振り返る。

 

 

「あの時ほど、僕は自分の無力さを呪ったことはないよ。なんてったって、『コール』を使ったきららが、わけもわからないまま倒されるのを、見ていることしか出来なかったんだから。」

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 ソルトに勝利したあと、きらら達はソルトを縄で縛り、クリエケージを壊してるん達を元の世界に帰した。

 トオルは、次はるんと冒険すると約束した。

 るんは、まだ見ぬ冒険を夢見た。

 ナギは、村の人たちが引きこもりのままでなくなることに安堵した。

 ユー子は、「ランプに会うために頑張って召喚される」と約束した。

 

「るん達が帰り、オーダーの影響がなくなった後、ランプがソルトに勝利の事実を告げると、ソルトはきららの力に興味を持つような素振りをしだしたんだ。」

 

 

『落とし穴におちたあの状況から判別して見せた、あなたの力―――

 あなたには何が見えているのか……それをソルトは知りたいのです。』

 

『……あなたに教えるわけにはいきません。』

 

 ソルトの質問にきららはそう答えた。

 至極当然のことである。敵に有利かつ自身が不利になる情報を教えることは、誰がどう考えても愚策であることは明らかだ。

 

『当然ですね。ソルトもあっさり教えてもらえるとは思っていません。

 しかし―――今の口振り、ランプたちは知っているということですね。そして何より、あなたは否定しませんでした。クリエメイトを見抜く力を持っていることを。これは大きな収穫です。』

 

 

「ソルトはカマをかけたんだ。『きららのクリエメイトを見抜く力を知っているかのように振舞って、その力を持っていることを確認させる』という手を使ってね。……まったく、捕まえたあとも厄介なんて、本当に面倒な相手だよ、ソルトは。」

 

 

 パスの力を知っているのは、きららとランプとマッチだけ。それを知られたら、間違いなくきららが狙われる。そうでなくとも、きららがクリエメイトを見つけ出す要を思われれば一緒である。

 

 コールがなければ、彼女たちは戦えない。

 

 ソルトの言う通り、きららを押さえられたら、ランプもマッチも何もできないのだ。

 

 その危うさを、村から離れた、言ノ葉の都市方面へ続く下りの山道で再確認したところで。

 

 

『っ!!?』

 

『きららさん?』

 

『誰が……来るの…!? このパスは…!』

 

 

「このタイミングできららがパスを感じたのは、いわば異常だった。るん達は帰った後だし、オーダーは新たに使われていない。しかも、きららは『ぐちゃぐちゃで無理矢理繋げたようなパス』だと言ったんだ。僕には、すぐに分かったよ。繋がりのない相手を無理矢理呼び出す魔法を知ってたんだから。

 ―――オーダー。誰であろうと関係なく、世界を歪めて召喚する魔法だよ。」

 

 

『………』

 

『アルシーヴ…!』

 

『この人が、そうなんだね。』

 

 

 きらら達が目指していた敵、オーダーを使っている元凶であるアルシーヴは、きらら達の前に現れると、まずランプを見、感情のない声で言った。

 

 

『ランプ。お前は神殿に帰っていろ。』

 

『嫌です! あなたのやっていることは、絶対に間違っている!』

 

『私のいうことが、聞けぬというのだな。』

 

『当たり前です!』

 

『……馬鹿者が。』

 

 

 ランプが反発し続けているのを一瞥し、今度はきららに目を向けるアルシーヴ。

 

 

『……お前が、召喚士か。』

 

『…あなたを、止めます。』

 

『ランプに請われたからか?』

 

『最初はそうでした。でも今は……私の意志です!』

 

『大人しく言うことを聞けば、赦すつもりだったが…………そうか。刃向かうのならば、容赦はしない。』

 

 きららの意志を聞いたアルシーヴは、目の前の敵を薙ぎ払うべく、魔力を高める。

 

「そうして、桁違いの魔力を高めてきたアルシーヴが、コールを発動させるきららに襲いかかろうとしたその時―――声がかかったんだ。

 この緊迫した空気に似合わない、おちゃらけた声だった。」

 

 

『ちょ~~~っと待った!!』

 

『『『『!!?』』』』

 

『アルシーヴちゃん……君はまだ戦うべきじゃあない。』

 

『なに……!? それは、どういう意味だ――――――ローリエ?』

 

 

「声の主……ローリエは、黒いローブの少女を伴って、こっちへ歩いてくると、まるでナンパでも始めるかのようにアルシーヴの肩に手を乗せた。

 ……あんな空気で、筆頭神官のアルシーヴに、よくそんな事が出来たと思うよ。自分の上司の筈なのにさ。」

 

 ローリエ自身、神殿内では上下関係に頓着しない傾向があり、ある程度は認識されている。部下であろうと上司であろうと、見目麗しい女性を口説いて回る姿が目撃されているからだ。

 とはいえ、こんなタイミングでローリエに水を差されたアルシーヴの機嫌が、悪くならないはずがない。押し潰されそうなプレッシャーを更に強めて、アルシーヴはこう言った。

 

 

『私の邪魔をするつもりか……ローリエ?』

 

『違ぇよ、だからおっかねぇ顔すんな。美人が台無しだぜ? ただな…………』

 

 

「怒りを滲ませたアルシーヴを宥めるローリエは、こう……アルシーヴに何かを耳打ちしたんだ。すると―――それだけでさっきまでのプレッシャーが嘘のように霧散していった。そして……こう言ったんだ。」

 

 

『……なら、お前が代わりに召喚士達を倒せ。ソルトの救出までの時間を稼ぐだけでも構わん。ただし少しでも失態を晒したら私に交代だからな』

 

『りょーかいっと』

 

 

「ローリエがアルシーヴに何を言ったかは分からない。でも………全く油断は出来なかった。黒いローブの少女もさっきから動かなかったしね。アルシーヴを逃がすわけにはいかなかったけど、きららは黒いローブの少女とローリエを警戒して動けなかったんだ。」

 

 

 アルシーヴが転移で消えてもなお、ローリエは両手をポケットに突っこんだまま動かない。敵の目の前であるはずなのに、彼はリラックスしていた。まるで、ピクニックにでも来ているかのようだ。

 

『きららちゃん、か。こんな状況じゃなけりゃ、君をお茶にでも誘いたかったがな……』

 

『へ………? お、お茶……?』

『無視で大丈夫です、きららさん。』

『ローリエは神殿いちの女好きだからね。』

 

 むしろ、敵であるはずのきららを前にこんな事を言う始末である。

 

「いつまでたっても向こうから攻撃してこないと思ったきららは、『コール』を使用した。

 呼びかけに応じたのは、さっきまで『オーダー』によってエトワリアに召喚されていた、るん・トオル・ナギ・ユー子の四人だ。」

 

 きららの召喚に応じ、魂の写し身に『コール』によって力を与えられた四人は、それぞれの個性に応じた会話をきららとしながら、ピリピリとし始めた戦いの雰囲気に備え始めた。

 

 

『ランプちゃん! ずいぶんと早い再会やったなぁ!』

 

『よーし! 冒険の始まりだ!』

 

『そうは言ってられないみたいだよ、るんちゃん、ユー子。』

 

『だな。私たちが「コール」で呼ばれたってことは……寒ッ!?』

 

『皆様!!』

 

 

「呼び出されたクリエメイトも、いつでも戦える―――ってなったその時だ。

 ありのままを……本当にありのまま僕の目の前で起こったことを説明するならば………『クリエメイト達が各々の武器を構えたと思ったら、その武器が何かの破裂音と共に()()()()()()()()()』……

 何を言っているのか分からないと思うけど、僕も何が起こったのか分からなかったよ。」

 

 

『『『―――っ!!?』』』

 

『―――次は、体に当てるぜ?』

 

『ユー子、ナギ、るんちゃん! ……アイツ、なんであんなモノを…!』

 

『え? え? え???』

 

『今のは……攻撃、なの……??』

 

 戦闘は、ナギのフラスコとユー子のクリスタル、そしてるんの杖が弾き飛ばされる所から始まった。きららもランプもマッチも、何が起こったのか全く理解できてない状況で、ローリエを冷静に分析できたのは、唯一持っている武器(バット)を弾き飛ばされなかったトオルであった。

 ユー子たちの武器を弾き飛ばしたもの。それは、ローリエが持っていた回転式拳銃(リボルバー)、パイソンの弾丸の衝撃によるものだ。しかし―――それを初めて見るきらら達が分かるはずもない。

 

 

『気を付けて、きららさん。アイツの持ってる武器、ヤバいよ…!』

 

『あーら、トオルちゃん。もう教えちゃうの? 無粋だねぇ』

 

『るんちゃんに()()を向けておいて―――何を言ってんのッ!!!』

 

 

「トオルは、ローリエの持っていた物について、何かを知っている様子だった。しかし、ローリエがトオルに持っていた物を向けると、トオルはジグザグに動きながらローリエへ突撃していった。

 トオルはローリエにバットを振り下ろしたり、ぶん回したりしていたけど、それにローリエは格闘技の技で危なげなく躱したり受け流したりしていたんだ。」

 

 

『るんちゃんにそんな危ない物を向けて……ただで済むと思わない方がいい。』

 

 

 るんを攻撃された怒りをオーラにしながら、ローリエに攻撃し続けるトオル。バットを振るいまくり、ローリエが舞うように避け続ける応酬の中………トオルは確かに聞いた。

 

 

『なるほど、強いな……でも、()()()ほどじゃあない。』

『このまま順調に強くなったとして、()()()に勝てるか……?』

 

 ―――ローリエのその呟きを。

 

『……何の話?』

 

『いんや、こっちの話さ』

 

 

 気になったトオルは言葉をかけるも、ローリエはそれをはぐらかす。その一言でさっきの言葉の意味を教える気はないと踏んだトオルが、再びバットによる攻撃を仕掛けようとする。

 

 

『皆さん…今のうちに、武器を拾ってください。』

『『『!』』』

 

「トオルがローリエと戦っている時、他の三人も棒立ちだったわけじゃない。それぞれ、弾き飛ばされた武器を広いに行こうとした。それも、きららの指示だ。でも……それも、ローリエには予測されていたんだろうな。」

 

 

『いやあああああああああああああああああ!!?』

 

『『『『ユー子(さん)!!?』』』』

 

「武器を拾いに行ったユー子の悲鳴が響き渡ったんだ。何事かと思って彼女を見てみると………おぞましい程の数の、その……ご、ゴキ……虫にまとわりつかれていたんだ。」

 

『ひいいいいいいいい! 何でウチにひっついてくるん!!? 堪忍してやーーーーっ!!!』

 

 ユー子はゴキブリに追いつかれそうになる度に逃げるスピードを上げて、振りきろうとするも、ゴキブリ達はユー子について回り、追い縋ろうとする。まるで、ユー子を狙っているかのように。

 

『ユー子(ちゃん)!』

 

 ナギとるんがユー子を追いかけて救出するべく、走り出したその瞬間である。

 

 

「虫に追われるユー子めがけて走り出すナギとるんの足元が突然、爆発したんだ。モロに爆発に巻き込まれた二人は、立ち上がることすら困難なダメージを受けてしまった。」

 

 

『きゃあああああああああ!!?』

『わああああああああああ!!?』

 

『ナギさん! るんさん!』

 

『……ローリエの発明品だ! あいつ、爆弾も作っていたのか!?』

 

『二人とも、大丈夫ですか!? 無理そうなら戻ってください。私達なら大丈夫ですから』

 

 吹き飛ばされるるんとナギに駆け寄るランプときらら。マッチは爆発の原因を分析していた。

 ―――そして、彼女・一井透はというと。

 

 

『るんちゃんだけじゃ飽き足らず、ユー子とナギまで……!! 絶対に許さない…!』

 

 るんやナギ、ユー子への仕打ちを行ったローリエにこれ以上無い程の怒りを露わにし、それを目の前にいる男にぶつけんとしていた。

 そのプレッシャーは、ソルトを震え上がらせた時とは比べ物にならないだろう。

 

『おぉ〜、怖い怖い。』

 

『……ッ!! はあああぁぁぁぁぁっ!!』

 

 それすらも、口先だけで怖がりまったく歯牙にかけないローリエにトオルが再び突っ込んで行こうとした、その時に、戦況は変化した。

 

『待って、トオルさんっ!!』

 

 

「るんとナギ、ユー子が撤退し、トオルが今まで以上の怒気を放ち始めたその時だ。きららがそう叫んだ。」

 

『うわあああっ!!?』

『と、トオルさんっ!?』

 

「その次の瞬間、トオルにレーザーのような直線状の魔法が降り注いだんだ。何事かと思って空を仰いだら……そこに、何がいたと思う?

 四つ足の小さな魔道具のようなもの? が大量に空を飛んでいて、小さな大砲のような物をトオルに向けていたんだ。正体は全く分からない。でも、ローリエが作った事だけは確かだ…と思う。」

 

 

 トオルは怒りでパワーアップしている状態であった。しかし、怒りは時に、人の視界を狭めてしまう。

 目の前のローリエに集中するあまり、上空を浮遊していた魔道具―――ルーンドローンの砲撃にまるで対応出来なかったのだ。

 ローリエとトオルの戦いを距離を取って見ていたきららが気づいたが、忠告が間に合わなかったのだ。

 

「そして、レーザーの雨を食らったトオルに向かってね……ローリエは持っている何かを向けた。ユー子達の武器を弾き飛ばした時とおんなじ破裂音が響いたと思ったら、トオルの体がぐらついて………煙と共に消えてしまった。

 『コール』で呼び出したクリエメイトの、ダメージ超過だ。きらら曰く、戦闘不能になったクリエメイトがそうやって消えて、復活には時間がかかるらしい。」

 

 クリエメイトを退けたローリエは、パイソンの弾を込め直す。それが終わると、銃口を向けたきらら達に問うた。

 

 

『まだ続けるかい? その、「コール」の力で。』

 

『当然です。この力で、あなたやアルシーヴを止めます。そして……世界を救ってみせます!』

 

 

「きららの即答に、ローリエが見せた表情は………怒りでも敵意でも、憐れみでもなかった。あれは……焦燥。きらら達の力を確かめて、何かマズい事態を予見した時のような……そんな雰囲気を、ほんの僅かながら感じたんだ。」

 

『……だとしたら、足りなすぎる。力も、知恵も、知識も―――情報さえも。』

 

『足りるから、足りないからで決めたりしません!

 自分が出来ることを……皆の為にしたいんです!!』

 

『……やめときな。本当に守りたいものが、指の間からこぼれ落ちるだけだ。』

 

 ローリエのその言葉には、重みがあった。まるで、過去に何度も経験し、魂に刻みつけた教訓であるかのように。

 その言葉が風に流されるや否や、ローリエはパイソンを発砲。きららはすぐに魔法で防壁を張るが、その構築速度が銃弾速度(毎秒340メートル)に届くはずもなく。

 

『ぐうぅっ!!?』

 

『きららさんっ!?』

 

 放たれたぷにぷに石の弾丸は、きららの脇腹を捉えた。抉るような痛みが、きららの全身を走っていく。

 

『敵は強い。この程度で遅れを取るようじゃあ、殺されるだけだ。』

 

『何を、言われようと……私は……!!』

 

「激痛に支配されても、ローリエに弾丸を浴びせられ続けても防御を崩さなかったきららに対して、ローリエは親指だけを立てて、人差し指の付け根に向かって倒す動作をした。そう―――そこにあるスイッチを押すかのような、そんな動作だ。

 次の瞬間、きららの足元にいた、虫か何かが急に光りだし、爆発を巻き起こした。」

 

 

『きゃああああああああああああああああっ!!!』

 

 

 きららの体が空を舞い、地面に叩きつけられる。

 

『きららさん、きららさんっ……!』

 

『うっ…………………』

 

『きららさん! しっかりしてください、きららさん!きららさんッ!!』

 

『「コール」じゃ何も得られない………だっけ? アルシーヴちゃん』

 

 

『……あぁ。ローリエ、よくやった。』

『…ありがとうございます、ローリエさん、アルシーヴ様……』

 

「きららが倒れ、ランプがそれに縋る姿に呆然としたよ。負ける姿が想像出来なかったんだ。アルシーヴなら兎も角、いち賢者にね。

 ……思えば、僕は甘かったんだ。既に四回、賢者達を退けている。なら八賢者ローリエくらい、なんてことないと心の何処かで思っていたんだ。―――その結果がこれだよ。」

 

 己の慢心と無力を自嘲するようにため息をついたマッチは、ローリエがきららに向けた言葉に何の意味を持つのか、それにはまだ気づかなかった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ―――はぁ。死にたい。

 ユー子を怖がらせちゃった。

 ナギとるんちゃんをぶっ飛ばしちゃった。

 トオルを撃っちゃった。

 ランプを泣かせちゃった。

 何より、きららちゃんに酷いことしちゃったなぁ。

 

 これだからきららちゃんとは戦いたくなかった。

 でも、そうも言ってられなくなったんだ。

 

 ソウマをソラちゃんへの呪いに利用し、その後口封じに現れた、オレンジの長髪の女。ヤツの目的は―――エトワリアの滅亡。

 これからはきららちゃんとアルシーヴちゃんの戦いに横槍を入れてくるだろう。それも―――漁夫の利を得られるタイミングで。

 それに対抗するべく、アルシーヴちゃんには早く真実を伝えて力の消耗をおさえ、きららちゃん達も時間をかけて説得する必要がある。モチロン、ソラちゃんの呪いを解除することも忘れちゃならないが。

 

 そこで思いついたのが、きららちゃん達の実力を測ること。アルシーヴちゃんにソラちゃんの事件の犯人が分かったと言えば、矛を収めてくれるだろうと思ったから、耳打ちで報告した。そしたら代わりに戦えとか言われた。その結果がこのズルい戦いである。

 

 アルシーヴちゃんは既にソルトを助けた。もうこの山道に用はない。

 

 まぁ、このままじゃあ可哀相だし、ランプにちょっと助言してから帰りますか。

 

 

「ランプ。英雄気取りの時間は終わりだ。」

 

「まだ…まだ終わりじゃない! これから……これから……!」

 

 と、思ったらアルシーヴちゃんがランプを言葉責めしようとしてるんだけど。

 

「じゃ、次は君が戦う? 言っとくけど、超痛いよ?」

 

「……っ!!」

 

「……自ら何も為し得ない者が未来を語るなど、笑わせる。もう一度言う。私の邪魔をするな。」

 

 俺の言葉に言い返せないランプにアルシーヴちゃんはそれだけ言うと、背を向け歩き始める。俺からも何か伝えておくか。ランプが立ち直る取っ掛かりになることを。

 

 

「ランプ。じゃあ俺は…先生らしく宿題を出して帰ろうかな。」

 

「何を……」

 

「問題。君は、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「………っ!」

 

「ヒントは、()()()にある。」

 

 

「ローリエ、何をしている。置いていくぞ?」

 

「ワリぃワリぃ。ちょっと待ってよ。……それじゃあね〜」

 

 今言うべき事は言った。あとは、きららちゃんとマッチが何とかするだろ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 帰りの道中、ソルトが呟いた。

 

「お二人とも、申し訳ございません。」

 

「んあ?」

「ソルト?」

 

「ランプ程度に遅れを取るなんて……八賢者失格です。」

 

 あらら、これは結構ダメージ入ってるな。自分じゃ勝てなかったきららちゃん達を俺が倒しちゃったのを見ていたのかな?

 黒ローブのアリサについて言及するより先に謝罪が出るとは、相当だ。

 とはいえ、だ。

 

 

「なんだ、ンな事気にしてたのか? 大丈夫だって。アルシーヴちゃんはそんなの気にしないイイ女なんだぜ?」

 

「うわっぷ、ろ、ローリエ、手を…手を離してください!」

 

 ソルトをちょいとわしわし撫でてあげると、口でそんな事を言いつつすぐに手をどかそうとしない。ソルトはシュガーちゃんと違って大人っぽいけど、やっぱりこういう所はまだ子供だ。

 

「ローリエ、手を離してやれ。ソルト、それを決めるのはお前じゃあない。次のオーダーの準備を進める。戻るぞ。」

 

 

 転移魔法を展開するアルシーヴちゃんの指示に返事をしようとしたその時。

 

 俺の視界に、()()()()()()()()が映り込んできた。

 

 

「はぁっ!!?」

 

 

 目をこすり、その方向をよく見る。それは、見間違いなどではなかった。

 

 

「な……なぁ、アルシーヴちゃん? お前も人が悪いぜ? 既にやったならやったって言えよ………なぁ?」

 

「い…イヤ違うッ! アレは………私のオーダーではないッ!!」

 

「アルシーヴ様以外の……オーダー………!?」

 

「た、建物が……凄い勢いで出来上がっていく……!?」

 

 

 俺達四人の視線の先には、山道を降りた麓から、遠目に見える言ノ葉の樹と周囲の都市。その2つを結ぶように繋がっている街道。その、中間地点で。

 

 ―――ひときわ大きな、写真で見たラスベガスのカジノのような建物が、超スピードで出来上がっていく光景だった。

 俺もアルシーヴちゃんも、ソルトもアリサも、しばし言葉を失っていた。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 きらら達を下した八賢者。ソウマとの共闘を経て、味方のパワーアップと対策を練ろうと考え続けていた。ランプに『宿題』を出して帰ろうとした所、異常な現象を見つける。

アルシーヴ
 原作とは違い、ダークマター無双をしなかった筆頭神官。原作四章でも、あの時点で物凄く腹が立ってたと考え、ローリエの報告でソルトの救出に向かう形に。

きらら&ランプ&マッチ
 アルシーヴの代わりにローリエに敗北した主人公一行。ローリエの言葉は、ただの敵ではないと思うような言動を意識して書いた。ランプが最後にローリエから課された『宿題』は、一体どんな意味を持つのだろうか?

アリサ
 ほとんどただのカカシだった呪術師の女の子。格好はローリエと戦った時の黒いローブに金の装飾具のままで、見た目は不気味だったこともあり、きららがアルシーヴを深追いするのを防ぐ役割を無自覚に果たしている。



ローリエVS.トオル&るん&ナギ&ユー子
 コールの力で強化されたクリエメイトとはいえ、現代兵器と属性相性を熟知していたこともあり、ローリエが勝利。るんとナギは爆発に巻き込まれ、ユー子はG型魔道具になすすべもなく、トオルは隙を突かれて土属性魔法弾を撃ち込まれた結果、一回休みに。




△▼△▼△▼
アルシーヴ「突然行われた私以外のオーダー……これは、ローリエの報告が現実味を帯びてきたか。謎のオーダーに即時対応してくれたローリエ。仕方なく私は、呪術師だという、アリサという少女から話を聞くことにした……」

次回『呪いの裏の不死鳥』
アルシーヴ「次回もお楽しみに。」
▲▽▲▽▲▽

あとがき
 まちカドまぞくの二次小説を書いてたり八賢者のクリスマス特別編を書いているうちに、ちょっとペースが落ちてしまったかと思います。
 でもまぁ、クリスマス特別編は完成しました!12/24の11時以降に予約投稿なるものをしてみましたが、新しい試みが上手く行くか心配です。
 では皆様、体に気をつけて〜


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第40話:呪いの裏の不死鳥

“目の前で、誰かが死にかけていたとしよう。貴方なら、どうするだろうか? 俺の知っている世界なら、十中八九みんなが我関せずの態度で無視するだろう。俺はそうなりたくない。絶対に。 ”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第5章・草案より抜粋


 禁呪オーダー。

 

 別の世界から、クリエメイトの実体を直接召喚し、クリエケージなどの楔で縛り付ける大魔法。

 呪われたソラを救う為に、クリエメイトから大量のクリエを奪う事を考えついた時に、必要になる魔法。

 

 そんな大魔法がなぜ、私以外の者の手によって行われているのだ……!!?

 私は、街道の中間点に出来上がっていく、()()()()()()()()()()()()()を信じられない気持ちで見つめていた。

 

 

「アルシーヴちゃん。俺……ちょっくらあそこ行ってくる」

 

 すぐさま行動しようとしたローリエの手を掴む。

 こんな事態が起こってなお、迷わず動ける彼を評価したいが、ちょっと待ってほしかった。

 

 

「ま……待て、ローリエ……」

 

 この男は、一人で何でも出来るのだろう。幼い頃からそうだ。ソラが盗賊に攫われたあの日も、私に何も言わずに助けに行った大馬鹿だ。

 今回の件も、一人であのカジノに乗り込むに決まっている。

 

「まさか、一人で行くつもりか…?」

 

「あの建物さ……例の件が関わってるだろ、確実に」

 

「!!」

 

「俺だけで何とかする。それとも……相棒にハッカちゃんが来てくれるのか?」

 

 それを言われると辛い。

 ソラの封印については、私とローリエの他にはハッカしか知らない。しかし、ハッカは夢幻魔法と種族の危険性から秘蔵されている。流石に彼女を連れ出す訳にはいかない。だからと言ってソルトに話すには重大過ぎる秘密だ。

 

 

「……ところで、このローブの少女は?」

 

「そう言えば、ソルトも気になっていました。彼女は誰なのですか?」

 

「あー……えっと…」

 

「アリサです。行商人だったんですけど、大雨でみんなバラバラになっちゃったんです。」

 

「そうだったのですか。」

 

 黒いローブの少女が名乗ったのをソルトが納得した所で、ローリエが私にだけに聞こえる小声で再び呟く。

 

「……例の件の重要参考人だ。丁重にな。」

 

 ―――と。

 なるほどな。私達は帰って、アリサという少女からソラの事件の犯人について訊けということか。その間にあの建物はローリエが調査する、と。

 

 勝手で、ずるい男だ。

 お前はそうやって、進んで独りになろうとする。まぁ……彼に単独行動を命じている私が言えたことではないがな。

 

「出来るだけ早くに、助っ人を送る。それまで、無理はするなよ」

 

「俺は無理しないさ」

 

 最後に釘を刺すと、返事をしたローリエはさっさと山道を降りて行ってしまった。

 

「アルシーヴ様……良いのですか?」

 

「釘は刺しておいた。すぐに助っ人を送るためにも、一旦神殿へ戻るぞ。……それから、アリサも、私達について来てくれ」

 

「分かりました」

 

 

 出来るだけ早くローリエの助っ人を確保する為にも私達三人は、すぐさま転移魔法を使い、神殿まで戻った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 神殿に戻ってきた私は、まずソルトに任務終了と待機の旨を伝えて帰らせた後、アリサと共にソラが封印されているソラの展望室へ向かい、入り口の鍵を掛けた。

 

 

「さて、ローリエからはソラ様の事件の重要参考人と聞いている。話せる事を話して欲しい。」

 

 適当な椅子を二つ見繕って片方に座ると、アリサも空いている椅子に座る。そして、ローブのフードを取ると、きっと前を向いた。

 

「えっと……私は、呪術師のアリサ・ジャグランテと申します。

 この度は……兄が、ご迷惑をおかけ致しまして、誠に申し訳ございませんでした。」

 

 そうして、礼儀正しく頭を下げる。

 しっかりした礼節を持っている事に舌を巻きそうになりながらも、少しずつ情報を引き出していく。

 

 

「『兄が迷惑をかけた』というのは……?」

 

「ソラ様が呪われたのはご存知でしょうか? 兄がその呪いをかけた、と告白しまして………」

 

「証拠はあるか?」

 

「はい……これを…………」

 

 アリサは、持っていた袋から、虫――いや、ローリエが作った虫型魔道具だな。それを取り出し、四角い箱と繋げた。ただ、虫の形が形なのか、汚物でも触っているかのようにつまみながら扱っている。

 

 

「……………その魔道具の形状に不満があったら言ってくれ。あのバカにきつく言っておく」

 

「お気遣いなく……」

 

 無表情でそう答えながら四角い箱のスイッチを入れると、部屋の壁に映像が映し出された。

 

 

『これは………!!? すごい作りだな……!』

 

 それは、木製の内装をバックにし、興味深そうにこちらを覗く、茶髪の男の映像だった。

 

「……この男が?」

 

「はい。兄です。」

 

『これを作った人が聞いてくれることを期待して、メッセージを残したい。

 きっと、あなたがこのメッセージを聞いている頃には、私はもう死んでしまっているだろうから』

 

 アリサに目配せをすると、悔しそうに首を振る。どうやら、アリサの兄・ソウマ氏からはもう話は聞けないようだ。

 映像へ再び目を向けるとこちらに向かってソウマ氏は語り始めた。

 

 妹の命を人質に取られ、ソラ様に「クリエが減る呪い」をかけたこと。

 自分を脅してきた女が、「不燃の魂術」という禁呪をその身に施していること。

 「不燃の魂術」は、不死身になると共に、肉体年齢を操作することが可能になる呪術であるということ。そして、それを身に宿した者とそうでない者の見分け方。

 ……そして、ソウマ氏を脅した女の目的が、エトワリアを滅ぼすこと。

 

 

 映像の彼の、必死な顔からして、彼が本気で、誰かに伝えるつもりでこのメッセージを残したことは明らかだ。

 

 

「実行犯の裏の黒幕に、不燃の魂術か……」

 

 

 はっきり言って、衝撃的もいいところだ。つまり私は、この「エトワリアの滅亡」を企む女とやらに体よく利用されていたという訳だ。なんと、舐めた真似をしてくれたものだ。

 それに、「不燃の魂術」が関わっていたとは。術の性質そのものは全て知っていたが、ここで出てくるとは思わなかった。

 黒幕の女がエトワリア崩壊を目論んでいるのであれば、先程見たあの「オーダー」も、この黒幕、もしくはその配下の者が行ったことだろう。

 

 

「情報提供、感謝する。貴方が持ってきた情報は、極めて有用なものだった。」

 

「いえ……顔を上げてください、筆頭神官さま。私としましても、兄の仇を討ちたい一心で、ここまで参りましたから」

 

 そう言うアリサの顔は、まさに真剣そのもので、兄を殺めたのであろう黒幕の女に対する殺意をひしひしと感じる。

 

「現在、ローリエがあの建物を調べている。アリサには、ここで待機して貰いたい。護衛は付けよう」

 

「いいえ、筆頭神官さま。それよりもっと良い提案がございます」

 

 

 黒幕の女とやらは、ソウマ氏を口封じしたことから、アリサも口封じをしに来ると踏んで、神殿で守ろうと発言したのだが、アリサはそれを蹴って予想外の提案をしてきた。

 

 

「ローリエの助っ人に私を選んでください」

 

「……それが何を意味するのか分かっているのか?」

 

「勿論です。」

 

 ローリエの助っ人にアリサを選ぶこと。それは、保護したばかりのこの少女を神殿の人間として扱うことであり、黒幕の女に狙われる危険性を高めることでもある。

 

「……許可できないな。何故、そんな事を考えついた」

 

「私が兄の仇を討たずしてなんとすべきか、考えた結果です。それに私は天涯孤独の身。未練などありません」

 

 

 私に宣言するアリサは、どれほど凄まじかったか。瞳には復讐の炎が宿り、威圧はシュガーやソルトと同年代とは思えない程に大きかった。何が彼女をそうさせたのか。

 

「……ローリエの指示には従え。独断専行した結果、命の危機に晒されても庇い立てはしないからな」

 

「…………ありがとうございます」

 

「では最初の仕事だ。転移魔法は使えるか?」

 

「は、はい、一応………」

 

「なら良い。実は私は、あの建物を知っている。今から言う情報をメモして、ローリエに伝えて欲しい。」

 

「はい」

 

 

 小さな体に見合わぬオーラに押される形で、私はそう答え、突然現れたあの建物の情報を教えた。

 とはいえ、アリサはまだ不確定要素だ。今回の件を通して、使えるかどうかを判断しなくてはならん。

 ソラの呪いの裏で暗躍する不死鳥の女。女神の復活の邪魔はさせぬぞ……!!

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ……油断していなかったと言えば嘘になる。

 思えば、あの時から様子がおかしかった。ぼやける視界で、おぼつかない思考回路で、痛みに耐えながらさっきまでの事を思い出していた。

 

 

 

 いつも通り、バイトの為に店に来たと思ったら、周りの景色がガラリと変わっていた。

 

 フローリングの床は、赤とオレンジが基調のカーペットの床に。

 蛍光灯の白色電灯は、暖色系の光を放つシャンデリアに。

 木製の机と椅子は、ルーレット台と毛皮(ファー)がついて、より豪華に。

 

 自身が場違い感を感じるほどの高級感と落ち着いたオトナな空気に戸惑うばかりで。

 それでも奥へと歩いていったのは、見慣れない空間を確かめる為なのか…見慣れた、けど安心しそうなあの店を探したからなのか…それともただ、誘虫灯に蝶や蛾が誘われるかのように、なんとなくだったのだろうか。

 

「くーー!!」

 

 そこで出会ったのは、二本足で立つ、赤い目をした黒い猫のような愛らしい生き物。私を見つけると、興奮したようにこっちに向かってくる。

 ……そして。

 

 

「くーー!!!」

 

「ぐっふ………!!?」

 

 

 私の鳩尾(みぞおち)に、体当たりをかました。

 それは、あの可愛らしい見た目からは到底想像出来ないような威力で。

 軽自動車あたりに()ねられたら、こんな感じなんだろうな、って思える程に強烈で。

 私のお腹が、あっという間に熱くなった。

 

 あり得ないくらいに、体が宙を舞い、壁に叩きつけられる。

 

 

 全身の骨が痛む。

 口の中が鉄の味でいっぱいになる。

 足腰が言う事を聞かない。

 視界までぼやけてきた。

 

「くー!」「くーくー!」「くーー!」

 

 いつの間に増えたさっきの猫たちのくーくー煩いはずの声が少し遠くなってきて、私もう死ぬんだ、って思った。

 

 

 その時。

 

 バンッ! バンッ!

 

 何かの破裂音のような音が聞こえた。

 

「くー!?」

「くーー!」

「くぅっ!?」

 

 目の前でぼやけた猫たちが次々と消えていく。

 夢でも見ているのだろうか?

 

 

「もう大丈夫だ、お嬢さんッ!」

 

 声が聞こえてくる。男の人の声だ。でも店長の声でも秋月くんの声でもない。誰だろう?

 

「何故って? ……俺が来た!! もうちょいの辛抱だ、間に合ってくれよ……ッ!!」

 

 

 お腹が温かい。

 さっきの猫の突進とは違う。心の底から暖まるような、安心できるものだった。

 

「あな、たは………」

 

 やっとの思いで顔を向けると、かろうじて明るい緑の髪の男性が見えた。まだ不安そうな表情だ。

 

「良かった。だが、まだ喋らないで安静にした方がいい。回復魔法をかけたばっかりだ。」

 

 魔法? そんな物があるのでしょうか? それとも、夢だから何でもありとか?

 でも、それを聞いて、助かったと確信したためか、急に睡魔が襲ってきた。

 

「『ブレンド・S』のスティーレの皆がやって来たっつーのか……!」

 

 意識を手放す直前、彼がなにか言った気がしたが、聞き取れはしなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 時は少々遡り。

 ローリエとアルシーヴ、ソルトとアリサが、急激に造られていく巨大な建物目撃した頃。

 その「急造されたカジノのような建物」内………その、最深部のオーナールームにて。

 

 黒革のベンチに座る二人の人間が密談を行っていた。

 

 

 一人は、オレンジの髪を腰まで伸ばし、高級感溢れるローブを身に纏った手足のスラッと伸びた美女。

 

 もう一人は、身長190センチほどもありながら、明らかなメタボ体質と言っても過言ではないほどに丸々と太り、成金趣味の服装をした大男。

 

「『オーダー』はうまくいったみたいですねぇ。」

 

 女は上機嫌に言う。しかし、男の方はその女の顔をチラチラと見ていて、身長差・座高差ともに男が勝っているのに、女の顔を伺っているかのようだった。

 

「しかし……『オーダー』を使った魔術師三人がクリエ枯渇で死んだんだぁな……アルシーヴの魔力の総量はバケモノなんだぁな………!」

 

 男が締まらない口調でそう報告すると、女はフンッと鼻を鳴らす。

 

「アナタの雇った魔術師がそれだけ木っ端だったってことじゃあなくて?」

 

「うっ……反論できん…。でも、『オーダー』は成功。クリエメイトもじきに始末するんだぁぁぁな!!」

 

 女の言ったことは、思い切り的を射ていた。男は、この時のために金にモノを言わせ、魔術師を雇ったのだ。しかし……報奨金があまりに法外だったため、普通の魔術師には怪しまれたのだろう。その結果が、雇った魔術師三人の「オーダー」の反動による自滅だ。

 図星を突かれた男は、追及されてはたまらないと、これでもかと強引に話を逸らした。女はそのあまりの露骨さに眉を(ひそ)める。

 

 

(……しょせん、金を稼ぐしか能の無い俗物か。配下に加えたのは失敗だったかもねぇ)

 

 彼女は、男を全く信用していなかった。しかし、()()()()()で金が不足していた時、工面して貰ったのも彼だ。取り返しのつかない短所が彼女に露見した時、既に男は彼女の幹部だったのだ。

 女は、自分に人を見る目がなかったと諦念のため息をつきつつ、彼に命じた。

 

 

「それじゃ、ここは頼みますよ、ビブリオ。クリエメイトと召喚士、そして賢者。出来るだけ多くの邪魔者の排除を任せたわ。」

 

「お任せください、ご主人様!

 オラとご主人様に歯向かう奴ら全て、このビブリオが始末してやるんだぁぁぁな!!!」

 

 

 誇らしげに大笑いする男には、オーナールームから転移した、不死鳥の如き女がどのような表情をしていたのかなど、知る由もなかっただろう。

 




キャラクター紹介&解説

アルシーヴ
 アリサから事情を聞き、黒幕の不死鳥を認識した筆頭神官。アリサからの提案は飲み込んだが、今回の「オーダー」でできた建物を知っているようで、遣いを任せた。黒幕に備えこそするだろうが、「オーダー」を行わなければ、ソラは封印されたままだろうし、エトワリアが滅ぶだけなので、より慎重に「オーダー」を行うだろう。

アリサ
 黒幕への復讐に燃える呪術師の少女。アルシーヴへ要求を押し通す代わりに、実力チェックを課されている。なお、本人は知らない模様。

オレンジ髪の女&メタボ男(ビブリオ)
 ともに拙作オリジナル敵キャラ。ビブリオの詳細は次回以降にて。



目の赤いクロモン
 とあるクリエメイト視点で登場した、クリエメイトを害するクロモン。クリエメイトを見つけるなり興奮して攻撃をしかけてくる。どうも様子がおかしい。

とあるクリエメイト
 ビブリオが金で雇った魔術師の命がけ(強制)の「オーダー」で呼び出された女性。攻撃性マシマシのクロモンに殺されかけるが、明るい緑髪の謎の男性(ヒーロー)によって助けられる。彼女が誰なのか? ヒントは撒いておきましたが、正解は次回のお話と、次章名とともに発表する予定。

もう大丈夫!
 数年前から一躍有名になったアニメ「僕のヒーローアカデミア」に登場するヒーロー・オールマイトの決め台詞。CV三宅さんから発せられるそのセリフは、聞いた人に安心感を等しくもたらす。



△▼△▼△▼
ローリエ「……クリエメイトが召喚された。まずは一人、かろうじて間に合ったが、他の人の命も危ないな、コリャ……! 皆を助けるため、出し惜しみはナシで行くぜ!
 そして、カジノにきららちゃん達も合流。ちょびっとばっかし気まずいけど……クリエメイトのため、贅沢は言ってられねぇってか!?」

次回『一人目のクリエメイト』
ローリエ「ぜってぇ見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽


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エピソード6:ブレンド・I〜誰も知らない物語編〜
第41話:一人目のクリエメイト


“これから記すのは、召喚士も、クリエメイトも、俺ですら知らなかった物語―――その一部始終である。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第5章より抜粋


※2019/12/27:今後の展開の辻褄合わせのため、『イモルト・ドーロ』の取り壊し時期をズラしました。スミマセン!


 カジノの入り口の扉の一つを開いた時、広がった光景に、俺は肝を冷やした。

 

 なんてったって……明らかに様子のおかしいクロモン達が、ぐったりしていたクリエメイト―――日向夏帆ちゃんを、囲んで襲いかかろうとしていた場面だったのだから。

 

 すぐさまクロモン達を銃撃し、消滅させると、夏帆ちゃんに駆け寄りなけなしの魔力で回復魔法を使う。ドラクエで例えると、俺のMPでは満タンからでもホイミ数発、あるいはベホイミ二、三発程度しかできないから、回復が間に合って良かった。

 

 

「もう大丈夫だ、お嬢さんッ! 何故って? ……俺が来た!」

 

 

 俺は、何処ぞのヒーローの胸と言葉を借りて、出来るだけの笑顔を作った。彼女が安心できるように。

 ―――いつか、俺も大切なものを守れるようになる為に。

 

 

 夏帆ちゃんの容体が安定した後、近くの仮眠室に彼女を寝かせ、厨房で軽食を作っておく。両方に敵がいなくて良かった。

 その後、俺は探索ができる魔道具(G型やドローン)を出来るだけ展開した。

 

 今回の「オーダー」、誰が召喚されたかは、一人目を保護した時点で明らかだ。

 

 日向(ひなた)夏帆(かほ)ちゃん。

 彼女は、聖典(漫画)『ブレンド・S』の登場人物にして、属性喫茶スティーレで働くJKホールスタッフである。「ツンデレ属性」を担当し、その演技力はスティーレいちの人気者になるほどだ。秋月くんと共にオープニングスタッフだったりする。

 今はオーダーで召喚されたからか、兎の付け耳に赤と黒のバニースーツ風の鎧と、ちょっとアダルティな格好になっていた。麻冬さんとは比べ物にならないくらい発育がいいといっても、この子まだ高校生のはずなんだけど。

 

 あと呼ばれた可能性があるキャラとしては、

 「ドS属性」の桜ノ宮(さくらのみや)苺香(まいか)ちゃん。

 「妹属性」の星川(ほしかわ)麻冬(まふゆ)さん。

 「お姉さん属性」の天野(あまの)美雨(みう)さん。

 「アイドル属性」の神崎(かんざき)ひでりクン。

 キッチンスタッフの秋月紅葉(あきづきこうよう)氏に店長のディーノさん。

 

 苺香ちゃん、麻冬さん、美雨さん、ひでりくんは確定だろう。保険として秋月くんとディーノさんが呼ばれた可能性も考えておいた方が良い。

 

 彼ら彼女らでは、ハッキリ言って赤目のクロモンなどの魔物たちに見つかって攻撃でもされたらひとたまりもない。あの魔物どもより先に、俺のG型魔道具やルーンドローンで、先に見つけて、守る必要がありそうだ。

 

 

「う、う……ん…………あ…」

 

 お、夏帆ちゃんが目覚めたようだ。

 

「………知らない天井だ」

 

「ブフゥッ!!?」

 

「ふぇっ!!?」

 

 最初の一言がまさかの異世界転生テンプレ!?

 夏帆ちゃん、あなたさっき死にかけてましたよね? 何で起きた最初の一言目でそれかませるんだよ! お陰で吹き出したわ!

 

「あの、あなたは……?」

 

 吹き出した俺に反応したのか、横になったままこちらを見て、驚きの表情をする夏帆ちゃん。

 彼女は、ここに呼ばれて間もない。一つずつ、落ち着いて説明しなければ。

 

「俺の名はローリエ。気が付いたようで良かった。あなたは?」

 

「えっと………日向夏帆、です…」

 

「夏帆ちゃんですね。急なことになるが、今から話すことは全て真実だ。よく聞いてくれ」

 

 

 俺は、夏帆ちゃんに話せるだけの事を話した。

 

 ここが「エトワリア」という剣と魔法の世界である事。

 夏帆ちゃんは、「オーダー」という魔法で元の世界から召喚されたこと。他のスティーレの店員も召喚された可能性が高いこと。

 エトワリアには「聖典」というものがあり、そこには女神が異世界を観察したものが書かれていること。その中に、夏帆ちゃん達の世界の著述も含まれていること(このあたりは、実物の聖典を見てもらった)。

 

 

「……つまり私は今、ラノベとかでよくある異世界召喚を体験してるってこと!!?」

 

「あー………まぁ、その認識でいいか、うん」

 

 かくいう俺も、異世界転生者の人生を現在進行形で送ってるしな。

 

「……なにか、質問はあるか?」

 

「ローリエさんって、魔法使えるの!?」

 

 質問コーナーを設けると、やはりというか、その質問が飛んできた。俺、純粋な魔法苦手なんだけどな……

 とはいえ、彼女の期待に答えるためだ。夏帆ちゃんのお腹に手をかざして―――

 

 

「……ホイミ」

 

 

 前世の頃に知った回復魔法を唱えた。

 魔力が減る独特の感覚を覚えると、手から緑色の温かな回復の光が出てきて、夏帆ちゃんのお腹に伝わり吸収された。

 

 

「わぁ……すごい…! ホイミが出た!!」

 

「ははは。まぁ、ざっとこんな感じかな」

 

 その様子を見た夏帆ちゃんは、まるで子供のように喜んだ。そこまでいいリアクションをされると、こちらまで気持ちが良い。

 

 

「ドラクエ知ってるんですか!?」

 

 ほぉ? 夏帆ちゃんよ。まさかその話を振るつもりか?

 ソシャゲにハマる夏帆ちゃん以上に熱く語れる自信があるぞ、俺には。

 

「………言っとくが超詳しいぞ?」

 

「大丈夫! 最近はスマホで出来るようになったんですから! 好きなナンバリング、聞いてもいいですか!?」

 

(ファイブ)一択だな」

 

「分かります! スマホでやって超感動しました! 人生を生きてるって感じがしますよね!」

 

「あぁ。ビアンカはいい女になったしな」

 

「え、ローリエさん、ビアンカ派なんですか?」

 

「……ん、夏帆ちゃんは違うのか?」

 

「フローラ派、なんです……」

 

「………………………ほぅ」

 

 

 ………これは、思ったよりも長いトークになりそうだな。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 目が覚めたら、ランプが心配そうな顔でこっちを覗き込んでいた。そして、旅をやめようと言ってきた。

 

「アルシーヴに言われました。この旅で何も得られていないって。ローリエには、『きららさんの為に何が出来るか』って言われました。

 ―――わたしは、アルシーヴに言い返す事もあの問いに答える事も出来ませんでした。」

 

「ちょっと、ランプ―――」

 

「結局、わたしは無駄な事をしていただけなんですね―――」

 

「そんなことないっ!!!」

 

 

 どんどん落ち込んでいくランプを見ていられなくて、私はランプの弱気を振り払うように話し始める。

 

 

「だって私は……ランプにたくさんのものを貰ったから。

 コールの力だけじゃない。たくさんのクリエメイト達と出会えたし、友達にもなれた。オーダーで混乱した世界も、ほんのちょっとだけど助けられた。だから……そんな悲しい事、言わないで……!」

 

 

 私は、これまでずっと、自分がなにもできない子だと思っていた。

 平和で、なにも悪いことのない村で育って、みんなが何でもしてくれて……

 でも、そんな当たり前のことも、色んな人が守ってくれてたって、この旅でわかった。

 

 

「私は、その平和を守ることができる。今はまだ、できるかもしれない―――だけど。

 それでも、やろうって思ってる。そのためには、ランプと一緒じゃないとダメなの。あの時、言ってくれたよね。一緒なら頑張れるって。私も、ランプと一緒に頑張りたいの。

 私は……私が出来ることをする。すべての力を出し切って。

 だから、行こうよ――――世界を救いに。」

 

 

「…………………………ひ、ひっく。」

 

「ランプ?」

 

「うっ、ううっ、うわあああああああああああんっ!!」

 

「わあああああっ、ど、どうしたのランプっ!?」

 

 私は、自分の出来ることをすると、そう言って、ランプに手を差し伸べた。……そのあと、ランプに思いっきり泣かれて、泣き止ませるのにものすごく苦労したけど。

 

 

 そして………その後、私は、ランプから女神候補生のことを聞いた。

 

 女神様の後継者になるために、神殿で学んでいる生徒。

 聖典が好きだから、女神候補生になったこと。

 そして―――

 

「先生がいたんだ。」

 

「はい。わたしは、女神候補生として、アルシーヴとローリエの元で学んでいたんです。」

 

 ランプの先生が、今は敵となっているアルシーヴとローリエであること。

 この事を今まで話さなかったのは、マッチが私を混乱させないようにと、口止めしていたからであること。今私に打ち明けたのは、ランプが一緒に立ち向かった私を見て「この人だけは裏切っちゃいけない」って思ったからであること。

 

 そんな事情を話したランプは、私に対して申し訳なさそうにしていたけれど………それはつまり、私を信じてくれたってことだよね。

 

 

「大好きな仲間が大切だって思う人を一緒に助けるためなら、私はもっと頑張れるよ。」

 

「……きらら『らしい』ね。」

 

「きららさん、一緒にソラ様を救いましょう! アルシーヴを止めましょう!」

 

 

 私がランプにそう言葉を送ると、マッチとランプの顔にも光が戻った。こうして、私たちは、旅を続ける決心を固めた―――その時。

 

 

「きららさん、今、クリエメイトは………パスは感じますか!?」

 

「待ってよ、ランプ。今はね―――」

 

 ――――――感じたのです。クリエメイトの、パスを。

 

 

「えっ………」

 

「な、何ですか? その意味深な『えっ』は?」

 

「まさか………感じる、のかい!?」

 

 マッチの言うとおり、パスは、今いる場所から降りて少し歩く所から、感じたのだ。

 

 

「うん、感じるよ! ついて来て!!」

 

「そんな……ペースが早すぎる………!」

「やれやれ、こんな展開になるとはね……!

 きらら、無理はするなよ! さっき戦ったばっかりなんだから!」

 

 ランプとマッチがついて来るのを確認してから、私は急いで坂道を勢いに任せて走り出した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 パスの感じる場所に向かって足を進めると、そこには、見たこともない建物が立っていた。

 金一色の外壁に窓がたくさんあり、昼なのに目が眩む程に光り輝いていて、そして見上げたら首が痛くなるほどに背の高い建物だった。

 

 

「これは………!?」

 

「こんな建物、前通った時にはなかったはずなのに………!?」

 

「『イモルト・ドーロ』………!!?

 4年前に壊された建物がなぜ……!?」

 

 

 ランプは初めて見た建物に、目を白黒させている。マッチは、どうやら何か知っているみたいだけど……

 とにかく、今はこの建物内のどこかにいるクリエメイトを、いち早く見つけ出さないと!

 

 

「この中からクリエメイトのパスを感じるよ!」

 

「こ、この建物に入るんですか!?」

 

「ま、まぁ、ここは元々カジノだったしねぇ……」

 

 

 ランプとマッチが、何故か入るのを躊躇っている。どうしたんだろう?

 

「ねぇ、二人ともどうしたの? 中に入らないの?」

 

「えっ!!? えーーっとですね……」

 

「…………きらら、ここがどんな建物か、知ってるかい?」

 

「………? いいえ、知りませんけど……」

 

 そんなことを聞かれたので意図がよく分からず素直に答えると、マッチが物凄く複雑な顔をしながら、私にこう言った。

 

「カジノって言えば分かるかな?」

 

「かじの?」

 

「……………大人がお金を賭けて遊ぶ場所なんだよ。」

 

「………………そんな場所があるんだ…」

 

 知らなかったな……そんな場所があるなんて。

 また一つ、変わった知識を得た気がする。

 確かに、そういう場所ならば、ランプとマッチが入るのを遠慮するのも分かるね。なんというか、私達が入っていいのか、迷ってしまう。

 ――――でも。

 

 

「パスは確かに感じるの! お願い、信じて!」

 

 クリエメイトが危険に晒されているかもしれないと思うと、迷ってる暇はないことくらい、わかる。

 その思いに任せてそう言うと。

 

「――もちろんです、きららさん。今さら、疑うわけありませんよ!」

「……そうだね。今は、子供がカジノにとか言ってる場合じゃあない。」

 

 ランプもマッチも、そう返してくれた。

 

 

「よし、行こう!」

 

 

 

 入口の扉を開けると、そこはピンクの壁と白いカーペットが目に入る空間だった。

 お姫様のようなチェストやドレッサー、ベッドがあり、それ以上にフリフリのドレスを着た少女やカラフルな色の覆面をした人々の人形が目立つ。

 

 そして、その真ん中で。

 

 

「「「「「くーーーー!!!!」」」」」

 

「くっ………マズい、囲まれた…………!!」

 

 

 うさぎの耳のついた帽子が特徴的な、小さな茶髪のショートカットの少女が、興奮した様子の目の赤いクロモン達に囲まれてしまっていた。

 

 

「なっ……!!?」

 

「あれは……麻冬様!!」

 

 

 ランプが様付けしたことから、囲まれている少女がクリエメイトであると察知して、すぐさま私の一番の魔法を使う。

 

「『コール』っ!!!」

 

 それが、目の前のクリエメイトを救うと信じて。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「助かったわ。どなたか知らないけれど、ありがとう」

 

 赤い目のクロモンを大方片付けた後、少女の安否を確認すると、少女は礼儀正しくそうお礼を言った。

 まだ小さいのにしっかりしているなぁ。

 

「きみ、ケガはない? 大丈夫?」

 

「……………」

 

 目線を合わせてそう尋ねると、どうしてか、表情が複雑なものになる。

 

 

「ま、まさか、どこかケガを!?」

 

「ち、違うわよ。ただ……その………」

 

「きららさん! ダメですよ、麻冬様を子供扱いなさったら!!」

 

 少女の様子が変なことに、嫌な可能性を予想するが、ランプが突然、大声で私と麻冬様、と呼んだ少女の間に割り込んできた。

 

 

「麻冬様は、こう見ると子供みたいですが、実は成人になっていて、わたしやきららさんよりも年上なんですよ! 見た目は子供みたいですが(いだ)ぁ!!?

 

「『子供みたい』って連呼しないでくれる?」

 

 さらっととんでもない事と失礼な事を言ったランプを、麻冬さんがチョップでぶっ叩く。ゴスッと、人間から鳴っていいのか分からない音がした気がする。

 頭を抱え痛そうにしているランプを「というかどうして私のことを知っているのかしら」と一瞥しながら……

 

 

「とりあえず、改めまして。

 星川(ほしかわ)麻冬(まふゆ)よ。こう見えて、成人済みの大学生なの」

 

 

 私達にそう自己紹介をした。

 その佇まいは、確かに言われてみれば、大人のように見える………と、思うことにしよう。私も流石に、ランプのように痛い一撃は貰いたくない。

 

 

 

 各々の情報交換が終わり、麻冬さんにエトワリアのこと、「オーダー」のこと、聖典のこと、そして私達のことを話すと、なるほどと納得してくれた。

 

 

「それなら、空飛ぶこのマッチちゃんやさっきのクロモン? だっけかにも納得ね。」

 

「え? 僕かい?」

 

「しゃべる猫なんて私達の世界にはいないわよ。まぁ、私は『魔法少女フリル』に出てきそうな使い魔みたいで好きだけどね。」

 

「そ、そうかな……? ははは……」

 

「あー! マッチが褒められて照れてる!」

 

「か、からかうなよ。」

 

 

 麻冬さんは、マッチのしゃべる点と、空を飛ぶ点と、小ささが、なんだか気に入ったみたいだけど。「魔法少女」? というのはよく分からない。

 それよりも、私には気になる点があった。

 

 

「私はさっきのクロモンがなんかおかしいと思いました。何というか、ただ目が赤いだけじゃあない気がするんです。」

 

「……確かに、さっきのクロモン達は、明らかに麻冬に攻撃していた。それも、当たったらただじゃすまないレベルの攻撃でだ。」

 

「私も、きらら達が着くまではあいつらの攻撃を部屋のものを使って凌いでいたけど……もう少し遅かったら危なかった、ってことね。」

 

「そんな……っ!!

 それじゃ、今頃、他のクリエメイト達は……

 きららさんっ!」

 

 私の違和感を、マッチと麻冬さんが、冷静に思い返している。

 ランプが顔を真っ青にして私に縋りついてくる。それを見て、麻冬さん以外のクリエメイトのパスを探る。

 もし、命の危機が迫っているなら、パスの反応に違いが出るし、すぐに助けに向かわなければならない。

 

 パスを探ると、皆―――いちおう無事そうだ。

 

 

「大丈夫。麻冬さん含めて、7人……全員、今のところは無事だよ。」

 

「苺香たちも来ているのね………」

 

「一刻も早く、助け出しましょう!!」

 

「そうだね。今回ばっかりは、クリエメイトの命の問題もある。急がなくっちゃね。」

 

 

 これまでの賢者達は、クリエメイトを捕らえることはしても、命を狙うことはなかった。でも、今度の敵はクリエメイトを殺そうとさえしている。

 今回は、いつも以上に気を引き締めないといけないのかもしれない。

 

 いつも以上に深刻な事態を自覚しながら、新たに麻冬さんを仲間に、女の子のメルヘンチックな部屋を進んでいった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 私、呪術師アリサは、ローリエの助っ人になるべく、筆頭神官さまから仕事を与えられました。

 

 仕事内容は、筆頭神官さまが知っている、急造された巨大な建物―――『イモルト・ドーロ』とその元経営者・ビブリオの情報を、ローリエに伝えること。

 

 

 カジノに入り、イメージ通りのエントランスを抜けると、踏んでいいのか躊躇うくらいにふかふかなカーペットを踏みしめ、ルーレット台やトランプ台のついたテーブルや、毛皮をふんだんに使った椅子の間を歩いていく。

 

 

 その先の、小さな扉から、話し声が聞こえてきます。

 小さな扉を開ける。私の目に飛び込んできたのは。

 

 

「いやいやいやいや夏帆ちゃんよ、ビアンカが主人公を何年待ったと思ってるのよ。男としてはさ、待ち続けた幼馴染の気持ちを汲んで答えてあげるべきでしょーよ」

 

 何かを力説する緑髪で金とオレンジのオッドアイの男、ローリエさんと。

 

「ローリエさんこそどうして頑なにビアンカを勧めるのよ。清楚で、献身的でいい人じゃない、フローラ。あとイオナズン使えるし、実家から仕送り貰えるし」

 

 そんなローリエさんに反論する、バニーガールを彷彿とさせる鎧姿の、金髪ツインテールの長身の女性でした。

 

 

「イオナズンは娘やヘルバトラーも使えんだろうが。そんな理由や仕送り目当てで嫁に選ばれたらフローラ泣くぞ? 大体一目惚れから色々すっ飛ばして結婚なんておかしいでしょ」

 

「一目惚れしたから炎のリングと水のリングを取りに行ったんでしょ? その途中でたまたま出会った幼馴染に惚れたから結婚しますーって、ルドマンさんに失礼だと思うんだけど」

 

「ビアンカは幼い時に主人公と冒険したでしょ。その時にもう布石は打ってあるの。フローラに至ってはオープニングでちょろっと出会っただけでしょうが。それで一目惚れからのラブロマンスなんてベタじゃないかな」

 

「どっちかっていうと、異性の幼馴染とラブロマンスの方がベタだと思うんだけどなぁ………実際はそんな幼馴染いないし、一目惚れの方が今どき現実的だと思うよ、私」

 

「そうなの? でも、存在しないからこそ、ゲームならではのファンタジーを楽しみたいと思わないか? そもそも、フローラにはアンディといういい男が―――」

 

 

「何こんな時に訳分からない話で盛り上がってるんですか二人とも!! 誰ですかビアンカとフローラって!! 幼馴染とか一目惚れとかどうでもいいですよ!!!」

 

 

 私が一喝すると、ローリエも金髪の女性も、談義をやめてこっちを向く。

 

 

「あら? アリサ? 何でこんな所に?」

「ローリエさん、知り合い?」

「あぁ。だが一体………?」

 

 不思議そうな顔をするローリエに、私は言ってやる。

 兄さんの仇であるオレンジ髪の女。そいつを、絶対に討ってやるんですから。

 

 

「ローリエさん、この度、助っ人を仰せつかった、アリサです。筆頭神官さまから情報を預かって来ました。」

 

「アリサが………助っ人……!?」

 

 ローリエさんは、今まで見たことがないほどに目を見開いた。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 紙一重で夏帆を救出した八賢者。現在、他のクリエメイトをG型とルーンドローンで捜索中。ちなみに、ドラクエ5ではビアンカ派。

日向夏帆
 前回ローリエに救出された、スティーレのホールスタッフにして、ゲーマー女子高生。いちおう、スマホでドラクエもプレイ済みで、拙作における夏帆ちゃんは、ドラクエ5ではフローラ派。

きらら&ランプ&マッチ
 アルシーヴとローリエの襲撃から立ち直った直後に、オーダーで出来たと思われる建築物に突入した原作主人公組。ローリエとは違う入口から入り、メルヘンチックな部屋の中で赤目のクロモンに襲われていた麻冬を救出する。そして、クリエメイトの数は7人……一体誰が召喚されたんだ???

星川麻冬
 きらら達に救出され、彼女達から事情を聞いた合法ロリ20歳。スティーレの妹属性ホールスタッフなだけあり、きららは初見では子供としか思わなかった。解説をしながら的確に地雷を踏むランプへの対応を目の当たりにし、大人として接する事を心に決めたそう。

アリサ
 ローリエの助っ人として転移してきたら、とんでもないドラクエ談義に巻き込まれた呪術師の少女。アルシーヴからの初仕事である情報伝達を行うつもりが、出鼻をくじかれてしまった。



クリエメイト・ディーノ
 元ネタは、2019年にきららファンタジア運営が行ったエイプリルフール企画から。この時はディーノを含めて夢路、山路、タカヒロというきらら男子が参戦するのか!? というネタだった。原作では参戦ならずで不発に終わったようだが……

魔法少女フリル
 麻冬が神聖視している、ニチアサのキッズアニメ。「ブレンド・S」内のアニメで放送されており、フィギュア化もされている。フリルのCVは、ロリボイスに定評のある小倉さん。なお、一度だけ闇堕ちした回があり、ちゃっかり苺香のドS調教にも使われていた。キッズアニメなのに。

イモルト・ドーロとオーダー
 『イモルト・ドーロ』とは、現在、ローリエときらら達が突入している、巨大カジノの名前。オーナーはビブリオなるものが務めていたが、4年前に取り壊されたようだ。今回、急造されたのは、オーダーの影響である。
 夏帆がいた空間は、本格的なカジノを彷彿とさせるインテリアやゲームテーブルが並び、麻冬がいた空間には、女児チックな家具と、魔法少女や戦隊ものなどの日曜朝アニメ&ドラマのフィギュアが現れた。

ビアンカ・フローラ論争
 ドラゴンクエスト5をプレイした人物なら誰もが避けては通れない、結婚と言う名の人生の選択。金髪で勝ち気な幼馴染・ビアンカか淑やかで物腰の柔らかいお嬢様・フローラのどちらと結婚するか、プレイヤー内で常に割れている。なお、DS版以降では、フローラの姉である第三の女・デボラが加わるが、未だに初期の嫁候補である二人の派閥が根強く残っている。

ブレンド・S
 中○幸氏によって連載されている4コマ漫画作品。桜ノ宮苺香と個性的なオタク仲間と共に属性喫茶・スティーレで働くワーキング・ラブコメディ。苺香のドS表情や他の登場人物たちの個性、オタクあるある等が魅力的に描かれている。


△▼△▼△▼
ローリエ「俺は夏帆ちゃんを、きららちゃん達は麻冬さんを保護した。しかし、残るクリエメイトは少なくとも3人!アリサから話を聞いた俺たちも、保護のために動き出す!
 その時、偵察機達が映し出したのは………ま、まさかのあの二人、だと……!!?」

次回『ぼなぺてぃーとD』
夏帆「次回もお楽しみに!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
とうとう、年末ムードになりましたね…
アプリでは、まさかの年末生放送からのクリエメイトによる定番コーナー。こちらの創作のインスピレーションを十分に掻き立てられるものでした。いつもありがとう、きららファンタジア。

ろーりえ「シュガーとジンジャーの笑いのトラップは温すぎる……! ここは、前世の年末テレビでガキ使を見てきた俺が真の恐怖を見せてやる……! まずは、参加者一人ひとりの黒歴史を抉って……」
しゅがー「おにーちゃん、かわいそうだよ!」
ろーりえ「りーさんやるんちゃんを強制アウトにする笑い袋やジンジャーのビンタも取り入れて……」
じんじゃー「それは流石にイジメだろ!?」
ろーりえ「最後に『Alice Thai Kick』のメッセージ付き録画を……」
あるしーぶ「そこまでだ、ローリエ!!」

タイキックさん「出番ないんですか?」
四人「「「「!!!?」」」」


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第42話:ぼなぺてぃーとD

明けましておめでとうございます。
まちカドまぞくに恋する小惑星……2020も面白いきらら漫画がいっぱいですね。
今年も、拙作のきらファン八賢者をよろしくお願いします。


 ドラクエ5において、ビアンカとフローラ、どっちが嫁としていい女か。

 その論争は、アリサの乱入……もとい助っ人参戦によって終結させざるを得なくなった。何故なら、アリサが今潜入中の建物についての情報を持ってきたから。

 

 

「一度しか言わないから、よく聞いてよね?」

 

 

 そうして、アリサは話しだした。

 

「この建物の名前は、『イモルト・ドーロ』。4年前に取り壊された、エトワリアのカジノだった場所よ」

 

「カジノ?」

 

 エトワリアにカジノ……そんな話は、前世の記憶にはなかった。原因に心当たりは、ある。

 なんてったって、俺の知らない名前の人物が、このエトワリアにはわんさかいるのだ。ペッパーにコリアンダー、デトリアにサルモネラ、ソウマにアリサ。そして―――この俺、ローリエさえも。そういった人物たちがエトワリアに影響を及ぼしている可能性は大きい。

 

 

「そして、このカジノの元支配人だったのは……『ビブリオ』という男よ。この男は元々、『イモルト・ドーロ』が取り壊されたのと同じタイミングで逮捕された、って筆頭神官さまが言ってたわ」

 

「容疑は汚い金稼ぎが祟ったから、って所か」

 

「ええ」

 

「なるほど……で、今はそいつがここにいる可能性がデカいと?」

 

「うん。収監されてからわずか1年で女神交代の恩赦で釈放されてたことが分かったの」

 

「はぁ!?」

 

 いやいや、明らかにおかしい。

 ビブリオ釈放の時期が、収監されてから時間が経ってなさすぎる上に、女神がソラちゃんに代わる時期……そして、元女神が亡くなった時期と一致している。

 そのビブリオとかいう輩の仲間が神殿内にいて、女神交代及び元女神死亡のどさくさに紛れて脱出の手引きをしたと考えた方がいいかもしれない。

 

 神殿ヤベェな。内通者誰だ。

 気になる所ではあるが、全てはこのオーダーを引き起こした野郎―――おそらくビブリオだろうが―――をとっちめれば分かる話だ。

 そのためにも、俺達は一刻も早くクリエメイト達を保護しなければならない。幸い、()()()()()()()()()()()

 

 

 俺はアリサに現在の状況を話した。

 

 

「アリサ、夏帆ちゃん。今から、スティーレの店員たちを助けに向かう。俺について来てくれないか?」

 

 そして、二人に改めて確認する。

 スティーレのメンバーから信頼を得るには、他のメンバーから信頼を得ている事を証明するのが一番良い。そのためにも、多少危険でも夏帆ちゃんにはついて来て貰いたい。

 また、彼女や他のスティーレのメンバーを守る為に人数は多いほうが良い。アリサは、見た目に反してなかなか強い。助っ人と名乗らせるには不安はあるが、ついて来させない手はない。

 

 

「うん! 苺香ちゃん達を助けに行こう!」

「当然です! ローリエさんの助っ人なんだから!」

 

 二人とも、いい返事を返してくれた。さて、動くとしますか。

 

 

「まず、作戦開始に至って、鍵を握ることになるだろう人達を紹介しておくよ。」

 

 部屋から出て、移動しながらモニターを二人に見せる。

 そこには、メルヘンチックな部屋を移動しているきららちゃん、ランプ、マッチ………そして、麻冬さんがいた。

 

 

「あっ! 麻冬さんだっ!」

 

「きららちゃんご一行だ。彼女達もまた、クリエメイトを守ろうとしている。」

 

 

現在きららちゃん達御一行は、西側の1階から2階へ向かう長い階段の途中だ。ちなみに俺達は、東側1階・階段前の小部屋にいる。

 東側と西側は分断されており、合流するには4階まで登る必要がある。

 

 

 実は夏帆ちゃんとビアンカ・フローラ論争をしている最中、なにも無策だった訳じゃあない。ルーンドローンとG型魔道具を展開し、クリエメイトを探すだけじゃなく、『赤い目の魔物から逃げられるよう、護衛しろ』と命令しておいたのだ。

 

 アリサの報告が入るまでドラクエ談義をしていたのも、スティーレのメンバーが全員見つかるのを待っていたからだ。

 

 さっきも、麻冬さんが赤い目の魔物に囲まれていた所をステルス迷彩タイプのルーンドローンが見つけていたのだ。すぐさまルーンドローンの一斉掃射でクロモンだけをぶっ飛ばしてやるつもりだった。寸前できららちゃん達が助けに入ったから、援護射撃モードに切り替えたが。

 

 

「彼女達はこのまま、次の階へ行くだろう。そして、その階には、()()()がいる」

 

 俺はモニターを切り替える。

 するとカメラは、イタリアン・レストランを彷彿とさせるようなテーブル席やカウンター、キッチンが映し出した。動くものは、正面付近に映る、金髪で背の高い男性だけである。彫りの深さからして、外国人……いや、()()()()()だろう。

 属性喫茶店スティーレ。その店長の、ディーノさんだ。

 

 

「店長!!」

 

「この人がいることには驚きだが……」

 

『苺香サ~~~ン!! どこデスか~~!!!?』

 

「……相変わらず聖典通りだな、この人」

「あぁ~………」

 

 さっきから画面上のディーノさんは、両手をメガホンのように口に当て、そう叫んでいる。そんな事をしたら苺香さんより先に魔物達が集まって来ちゃうでしょうが、このおバカ。

 

 

「このままだと魔物が集まりそうなんで、早いところきららちゃん達と合流させよう」

 

「どうやって?」

 

「こうするのさ」

 

 俺がパチンと指を鳴らすと、画面越しに指示が聞こえたかのように、俺のG型魔道具たちが現れ、ディーノさんににじりよっている。

 ディーノさんは、それを見るなり、顔面蒼白になりながら逃げ出した。

 

『ギャアアアアアアアアアーーーーーーッ!!!? ごっ、ご、ゴキっ、ゴキ―――ッ!!!!!!』

 

 これぞ、『Gの逆誘導作戦』だ。Gの生理的嫌悪感を利用して、きららちゃんの元へ誘い込む作戦だ。ひでりくんには効かないのが難点だが。

 

「………ねぇ、これ逆効果なんじゃないの?」

 

「逃げ道の先にはきららちゃん達がいる。一応ドローンの援護射撃もあるが、彼女達なら大丈夫さ」

 

「「…………………………」」

 

 

 そう言うが、夏帆ちゃんもアリサも、目のハイライトが消えている気がする。二人とも、そのネイティみたいなジト目でこっちを見るな。

 

 

「………オホン。で、だ。俺達は今から、この子を―――苺香ちゃんを救いに行く」

 

「苺香ちゃんを?」

 

「そう。モニターを見せるが……ちょっとショッキングだぞ」

 

 

 モニターに映し出されたのは、江戸が舞台の時代劇に出てきそうな木製のクリエケージモドキに、両手を繋がれて閉じ込められている、白鳥のようなドレス姿の苺香だった。

 彼女を見つけた時には既にこうなっていた。おそらく、俺が夏帆ちゃんを助けるまでの間に敵の手中に落ちてしまったのだろうか?

 

 

「苺香ちゃんッ!!!?」

 

「息はドローンで確認した。それに、ウッカリ見つけたGにも反応していたから、まだ生きている」

 

「どうして? 私は死にかけたと思ったんだけど、なんで苺香ちゃんが無事なの?」

 

「わからん。多分、この子がビブリオとやらの何かに触れたんじゃあないのか」

 

 と、夏帆ちゃんにはオブラートに包んだが、見目麗しかったから気に入られたとか、そんな気持ち悪い想像しかつかない。ビブリオがどんなヤツかは知らないが、苺香ちゃんを好きにしていいのはディーノさんだけだ。俺が見つけた以上、これ以上好きにはさせんぞ。

 

「作戦は分かった。それで、ローリエさんはどうするの?」

 

「いいか、アリサ。今から、最上階に捕われている苺香ちゃんの元へ向かうつもりだが、その道中で最初に()()()と合流する」

 

 アリサに答えてモニターを切り替えると、二人ともジト目をやめてモニターに視線を戻した。

 そこの部屋には女の子同志がイチャイチャしているポスターやらタペストリーやらがそこら中に飾ってある。更に、さっきのディーノさんよりもやや背の低い、俺より濃い()()()()がチラチラとこっちを見ている様子が映っていた。

 

 

「おお! 秋月くんか!」

 

「その通り! 行くぞ、二人とも!」

 

 

 秋月くんを確認した俺達三人は、急いで階段を駆けのぼった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……?」

 

「麻冬様? きららさん? どうかしたのですか?」

 

「あのねランプ、さっきから、何かに見られてる気がするの。」

 

「……奇遇ね、私もよ。……あと様付けはやめて」

 

 階段をのぼっている最中、ランプに尋ねられ、思ったことを口にする。麻冬さんも、妙な違和感を覚えているみたい。

 気のせいじゃなければ、さっきから私達の上空が揺らいでるような気がする。………パスも感じないし、十中八九見間違いだと思うけど。

 

「………敵の手先がついているかもしれない。気を付けるに越したことはない―――」

 

 マッチがそう言って注意を促そうとした時。

 わずかに、前方から騒音を感じた。

 

 

「………サ〜〜イ……」

 

「……なんの音だ?」

「……聞き覚えのある声ね」

 

 それと同時に……パスがこっちにやって来るのを感じる!

 

 

「クリエメイトがこっちに向かってきてる!!」

 

「「「!!!」」」

 

 間違いのない感覚を頼りにして、皆に知らせる。

 そうして、また一人のクリエメイトが無事にやって来たという安心感と何が出てくるか分からない微かな不安を胸に抱いている時にやって来たのは。

 

 

「ヒヤアアアアアアアアーーーーーーッ!! 助けてくだ……あ、あれ? ま、麻冬サン!? とりあえず、逃げて下さいィィィィーーーっ!!」

 

「ディーノ様!!?」

「……店長?」

 

 半べそをかきながらこっちへ走ってくる、彫りがちょっと深く背の高い、銀の鎧姿をした金髪の男性と。

 

 

「なっ―――!!?」

 

「い、いやあああああああああああああああああああああああっ!!!!? きららさん、あれっ、ごっ、ゴ、ゴゴゴゴゴキッ、ゴっ―――!!」

 

「「―――っ!?!?!?!?」」

 

 その男性を追いかける、ゆのさん達を助けた後に見かけた黒光りする虫の大群でした。

 

 

「きららさん!きららさん!無敵の『コール』で何とかしてくださいっ!」

 

「ええっ!!? そんな事言われても―――」

 

「で、でも、いっ、いいいい今戦えるのは、きららしかいないッ! だから―――」

 

「待って」

 

 

 ランプとマッチにしがみつかれ、身動きが取れず、「コールは別に無敵ってわけじゃない」と言おうとした時に、真っ青になっている麻冬さんが私達を呼んだ。

 

 

「店長とゴキ以外で何かが来てない?」

 

 そのひとことで、私はハッとし、前を見る。

 すると。

 

「くー!!」

「グギャ!」

 

「―――っ! 魔物が!」

 

 クロモンやリザーといった魔物が数匹、こちらに向かってきている。そいつらは漏れなく、目が赤い。きっと、逃げ回るさっきの男性を見つけて、追いかけてきたのだ。

 

「あの……麻冬サン? どうしてここに? 彼女達は一体………?」

 

「落ち着いて。ひとまず彼女達は味方よ。」

 

「詳しい話は後だ! まずは魔物を何とかしないと―――」

 

 

 戸惑う男性に、麻冬さんが要点を伝え、マッチが魔物の相手を優先する。

 魔物と虫達を退ける為に、戦いの態勢に入る。

 

 ―――その時、不思議な事が起こった。

 

「くーーーーーーーーーーーー!?!?!?」

「グワーーーーーーーーーーッ!?!?!?」

 

「「「「「!!!!?」」」」」

 

 どこからともなく放たれた直線上の何かが、クロモン達を貫いた。

 

「な…………!?」

 

「これは……!?」

 

「レーザー……?」

 

 突然のレーザービームのような攻撃に、咄嗟に体が動かない。雨のような攻撃に、魔物達は一人も耐えることなく消滅していく。

 

「一体……これは、どういう……!?」

 

「……っ!! みんな、アレ!」

 

「麻冬サン、どうしたんで――――!!?」

 

 麻冬さんが最初に空を見上げ、男性も続いて空を仰いで言葉を失う。二人にならって私も空を見上げた。

 天井付近にいたそいつは、小さな4つのプロペラを回し、砲台にも見える筒をクロモン達に向け、そこからレーザーのような魔法の砲撃を放っていた。

 

 

「ランプ、マッチ、これは……!!」

「トオルに攻撃していた機械だ! こんなものを使いこなせるのは一人しかいないっ!!」

 

「なぜ……あんなものが、異世界にあるのよ…!?」

「ドローン、ですよね…アレ……!?」

 

 私達に見られている事に気づいた空飛ぶ物体は、まるで景色に溶け込むかのように自身の色を変え、姿を消していったが、私達は誰一人見逃すことなくその姿を視界に収めていた。

 その中、私は一向に襲ってくる気配がないどころかいつの間にかいなくなってしまっていた黒光りする虫と、麻冬さんとディーノさんの言葉が微妙に引っかかっていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 私達は、新たに合流したクリエメイト・ディーノさんに、麻冬さんに説明したように異世界エトワリアと今起こっている事件を説明した。しかし、あの機械について、麻冬さんとディーノさんに説明したところ……

 

 

「知ってますよ。アレはドローンという小型飛行機です」

 

「小型、飛行機……!?」

 

「元々私達の世界で開発されていたもののはずよ。それがどうして、エトワリアにあるのかは知らないけど。」

 

「それについては検討がついている。神殿の中に一人だけ、あんなものを造れる人物に心当たりがある。」

 

「ローリエ………八賢者の一人にして、賢者唯一の男です……!」

 

 

 ローリエ………その名前を聞いて、表情が固まりました。

 忘れるはずもない―――山道での戦いで、召喚したクリエメイトを次々と破り、私を謎の武器で倒した男。実際に経験した今でも、何であんな事が起こったのか、半分以上もわからない。

 

 そんな男が、今回のオーダーに関わっているというのだろうか………?

 

 

「……アルシーヴのやつ、見境がなくなったか……? 気を引き締めよう、きらら。こんな状況を生み出した奴を、放ってはおけないよ。」

 

「うん、そうだね………!」

 

「さっきから見る魔物の赤い目……どこかで聞いたことがあると思ったんですけど……」

 

 今までとはまるで違うやり方。麻冬さんやディーノさんが知る『ドローン』という機械。そして、赤い目について、ランプも何かを思い出そうとしている。

 一刻も早く次のクリエメイトを見つけ出すため、すぐに新たなパスの探知を始めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 仕込みをしている最中で、キッチンの様子がいつもとは違うなと思った瞬間、全てがあっという間に変わった。

 壁に百合もののポスターやタペストリーが貼りめぐらされ、床も知らない大理石のような高級感に溢れる。何より、鏡でみた俺の格好は、見覚えがなさすぎてビックリした。

 赤と黒、金で彩られた和服と袴を身に着けていて、腰にはデカく細長い出刃包丁が差さっている。手を見ると、袴に合ったデザインの武士の小手がはめられていた。

 

 

 あまりに現実離れした事態に、ハッキリ言ってフリーズした。5分かそこいらの時間、固まった後、俺は周囲がどれだけ変わったかの観察を始めた。

 その最中で空中に浮かぶ機械―――ドローンを見つけ、これはいよいよ何かあると思い距離を取りながらドローンの様子を見ていると、聞き慣れた声がした。

 

 

「いたいた! 秋月くーん!!」

 

「……日向? どうしてここに――って!! 何だその格好は!!?」

 

 振り向くと、そこにいたのは、バニーガールを彷彿とさせる、子供がしちゃいけない服装をした日向と。

 

「おぉっ、相変わらず秋月君はヘタ……じゃない、ウブですな、アハハ」

 

「彼が……クリエメイト、秋月紅葉……?」

 

 なんか当たり前のように俺の名前を言い当てたライトグリーンの髪の男と小さな茶髪の女だった。

 

 

 

 男と女はそれぞれ、ローリエとアリサと名乗った。彼らから聞いた話によると、俺は『オーダー』という魔法によってエトワリアという俺達の世界とは別の世界に召喚されてしまったのだという。『聖典』という書物が重要視されているようだ。ちなみに、俺が見つけたドローンは、ローリエが造ったものらしい。

 実際に聖典なるものを見たが、俺達スティーレのメンバーが書かれている部分は流石にちょっと引いた。

 

「質問は?」

 

 その一言で、俺達を気遣っているのがわかる。突然召喚された俺達は、この世界・エトワリアについて何も知らないからだ。だったら、こっちも遠慮なく質問させてもらおう。

 

「……何が目的だ?」

 

「ちょっと秋月くん……!」

 

 日向が宥めようとする。でもこの質問に答えられないようでは、悪いが信用できない。

 その意図を知ってか知らずか、さっきまで笑みを浮かべていたローリエは、俺の質問を聞いた瞬間笑うのをやめ、まっすぐこちらを向く。そして、こう答えたのだ。

 

 

「スティーレの皆に、元の世界へ帰ってもらうこと。それだけだ。」

 

「!!?」

 

 

 迷う様子もなく、男ローリエは続ける。

 

 

「君達は、いつも通り接客して、いつも通り料理を振る舞って、いつも通りの日常を過ごして欲しいんだ。」

 

「……それなら何で俺達を召喚したんだ?」

 

「俺達神殿の人間は、『オーダー』する場所を予め決めておき、召喚されるクリエメイトを予測し、実際に召喚したらすぐに命の危険のないように保護する。だが……今回の『オーダー』は、第三者が勝手に行ったもの。神殿も把握しきれていないし、危険もある。だから……今の危険な状態で呼ばれた君達を、早めに帰すのが、今の俺達の仕事であり……使命なんだ。」

 

 

 つまり、ローリエは、俺達を勝手に召喚した奴を見つけて捕らえ、俺達は帰そうとしているというのか。

 俺から見た賢者を名乗るこの男は、純粋に良いやつには見えない。だが、ひとまず背中から襲われることはなさそうだ。

 

「あ、ちょっと待って秋月君、夏帆ちゃん、その物陰に隠れて」

「…? 一体何を……」

「あそこの魔物どもを掃除する」

「えっ!!? どうして分かったん……ってそれ、拳銃―――」

 

 

「くーー!!?」「アバーーッ!?」「ウボァー!」

 

 

「よし。ターゲット、クリア」

「……マジか。拳銃まで持ってんのかよ」

 

 ………安心して良いんだよな?

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 カジノ『イモルト・ドーロ』の最奥、最上階にて。

 白鳥のようなドレスをした、整った黒髪と顔立ちをした少女・苺香を木製の檻ごしに見下(みお)ろす、一人の男がいた。

 

 彼の名はビブリオ。身長だけでなく、恰幅が良すぎて不健康さを感じるほどの肥満な体が特徴的だ。

 

 彼は己が仕える主に、クリエメイトや召喚士、賢者の始末を頼まれていた。それなのに、クリエメイトであるはずの苺香を捕えて、檻に閉じ込めている。それはなぜか?

 

 ローリエの予想は、ニアピンどころか大正解といっていいほど当たっていた。彼は、端正な顔立ちと美しい黒髪、バランスのいい体型を持つ苺香を気に入ったのだ。そして、こう思ったのだ。

 

(この女は商品価値が高いんだぁな……!! どれだけ高値をつけたとしても、闇に生きる客の需要を間違いなく得られるんだぁぁな!!)

 

 

 最初は、ビブリオとてクリエメイトを始末するつもりだった。しかし、一番最初に、召喚されたばかりの苺香を見つけた途端、彼に雷光が迸ったのだ。

 すぐさま苺香を捕え、木の檻に繋げたところまでは良かった。しかし、すぐに問題が発覚することになる。

 

 

「な、何が目的なんですか……? 怖いので近寄らないでください……」

 

「……っ!! その目! 今すぐやめるんだぁな!! 腹が立つんだぁな!!!」

 

「ひぃっ!?」

 

 

 それは―――苺香の目つきが、非常に悪いこと。

 普段、苺香はその目つきを利用して(?)ドS接客を行っている。需要はちゃんと生まれているし、それなりに指名は入っているのだが………それは元いた世界での話。

 ビブリオは、苺香の養豚場の豚を見るような目つきを求めるようなMではなかった。むしろ、その逆であった。故に、苺香の瞳から放たれる冷たい視線は、ビブリオにとってはプライドを傷つけるばかりである。

 

 しかし、彼は苺香に手を上げない。商品価値が下がるからである。とはいえ、苺香の見下(みくだ)すような目に、堪忍袋の緒が切れそうであった。

 もちろん、苺香に蔑む意図はまったくない。彼女はただ、見知らぬ場所に召喚された上、見知らぬ男に捕らえられた不安と緊張が顔に出てしまっているだけである。だが、ビブリオにはそんな事など知る由もない。

 

 

「いいか娘! お前はオラの商会の()()なんだぁな!!! わかるか?……売り手に歯向かう商品なんぞいなぁい!! 商品は! 黙って!! 商品棚に並んでればいいんだぁぁな!!!

 オラが上! お前が下なんだぁな!! 分かったらオラの事をそんな目で見るのはやめて愛想よく―――む?」

 

 

 苺香の悪い目つきをやめさせるべく、怒鳴り散らそうとしたビブリオの視界にふと、素早く動く黒い影が映る。

 

 足元を見てみると―――なんと、ビブリオの丸太のような足を、黒い虫の………ゴキブリの群れが、登っているではないか。

 

 

「ひぃぃぃいいいいいいいっ!!!!?

 な、なんっ、どこから、入り込んで来たんだぁぁな!!!?」

 

 ビブリオはすぐさま足の虫を手で払い落とそうとするも、それが分かっているかのように虫達は飛び立ち、今度はビブリオの周りを旋回し始めた。

 

「ぬわああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!?」

 

 忌むべき虫にたかられるビブリオはただ、虫を殺そうとこっちへジタバタ、あっちへジタバタと暴れまわる。しかし、虫達はビブリオで遊んでいるかのように飛び回り、ひっつき、服の中へ潜入して動き回る。

 

 

「こんの、虫ケラどもが!! このビブリオ様の崇高な『イモルト・ドーロ』の中に、入ってくるんじゃあ―――ギャアァ!? ふ、服の中に虫がああああああ!!?」

 

 わめくビブリオを好き放題する虫のしぶとさに、音を上げまくる。

 実はこの虫一匹一匹の全てが、厳密には虫ではない。

 ローリエが開発した、G型魔道具という、れっきとした自律行動型の偵察機なのだ。ビブリオの攻撃をかわすように組まれている思考回路と、本物のGに勝るとも劣らないほどのしぶとさが組み合わさったこの魔道具が、しぶとくて当然である。

 

 ビブリオは、あまりに突然の虫の襲撃に、苺香への調教のことなど、頭からすっぽ抜けてしまっていた。

 

 

 なお、この様子を目にした苺香はというと……

 

(ごっ、ごき、Gが、男の人にたかっ、て………………………………!!!)

 

 ゴキブリの群れが人を襲う光景のビジュアルがあまりに恐ろしかったため、次は自分の番だ、と勘違いし、15年ほどの走馬灯を目にしながら、しめやかに意識を手放した。

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ&アリサ&日向夏帆
 魔道具を使ってクリエメイトを守っていた八賢者と彼と同行している女性達。ディーノと秋月が呼ばれたことに驚きながらも、彼らに無事に帰って貰うために魔道具を操る。苺香の異変を察知し、救出するためにカジノの最上階へ急ぐ。その道中で秋月を拾う。

きらら&ランプ&マッチ&星川麻冬
 原作主人公勢。今回のオーダーでは、ローリエは彼女達と戦う意志はなく、サポートに回っているが、彼女達はまだローリエが犯人側に関わっていると思っている。この誤解は、ローリエときららが再び出会うまで続く。

ディーノ&秋月紅葉
 「ブレンド・S」からまさかまさかの参戦を果たしたスティーレのキッチンを担う男性陣。扱いは女性のクリエメイトとほぼ同じで、オーダーによる影響もある。ディーノの召喚への影響は内装のイタリアンキッチン化、秋月の召喚への影響は百合ものの量産。エトワリアスタイルのイメージとしては、ディーノは中世の重戦士=ナイト、秋月は派手な和服の武士=せんしといったところ。

桜ノ宮苺香
 「ブレンド・S」の主人公にして、「ドS属性」のホールスタッフ。今回は、敵に囚われの身となっているポジションに。ひだまりスケッチ編のゆのっちやNew game編のコウりん、がっこうぐらし編のみーくんやAチャンネル編のるんちゃんと同じ立ち位置だが、危険度はトップクラス。その為、緊張と不安によるドSフェイスはいつもよりも強烈となっており、ディーノにそれを見られようものなら、彼は鼻血の出血多量で死ぬ。

ビブリオ
 謎の女の配下にして、苺香の見た目の良さに奴隷としてこれほどまでにない価値を見出したメタボ男。言いつけは守るつもりだったのに、苺香を見た途端に野心が溢れ出て、ただ始末するよりも有効(だと本人は思っている)な活用方法を実践しようとした。苺香の目つきの悪さだけがお気に召さず、調教しようとした所でGの群れに襲われる。




△▼△▼△▼
ローリエ「秋月君を確保した俺達は、更に上へと突き進む。そこに広がっていたのは、あらゆる同人誌の販売ブースがところ狭しと並ぶ空間だった。」
秋月「それ絶対天野がいるだろ……」
ローリエ「ああ。だとしたらマズい。」
秋月「何だ? 天野の命を狙う奴がいるとか!!?」
ローリエ「いや、アリサはまだ子供だ。それに大人が歪んだ知識を教えて良いものか……」
秋月「何の心配してんだ!! で、桜ノ宮は!?」
ローリエ「俺のG型にかかってる。時間稼ぎを無駄にしない為にも、早く美雨さんを連れてくぞ!!」

次回『花園フォルダは知を授ける』
秋月「次回もお楽しみに〜」
▲▽▲▽▲▽


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第43話:花園フォルダは知を授ける

“花園フォルダという人間―――否、これはペンネームという偽名の一種なのだが、本書では作家としてのクリエメイト・天野美雨のことを花園フォルダという呼び名で統一する―――を知るためには、年齢が18は必要であることをここに明記しておく。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第5章より抜粋


 秋月君を保護し、同じエリアにいた魔物達を撃ち倒した後、視線を感じて振り返ると、秋月君、夏帆ちゃん、アリサの3人の視線が『パイソン』に注がれていた。

 

 まぁ、そうか。拳銃なんて、日本では銃刀法もあってまず見ないしちょっとしたアレルゲンか。

 

 

「……驚かせてすまない。俺はこういう戦い方をするんだ。」

 

「随分モダンな戦い方だな……」

「魔法はどうしたの? ホイミが使えたんだし、他の魔法は使えないの?」

 

「元々俺は魔法は得意じゃあないんだよ、夏帆ちゃん。だから俺は、魔法工学―――簡単に言うと物作りだな。それを極めて、こういうものを造った」

 

「そうなんだ……」

「いや、物作りのレベルを優に超えてるだろ……」

 

 

 二人は無理やり自分を納得させたのか、それ以上は何も言わなかった。異世界召喚なんて無茶苦茶な体験を現在進行形でしているから、拳銃の一丁や二丁は今更なのかもしれない。秋月君のほうは「いやでも、なんで拳銃……?」って呟きが聞こえるから敢えてスルーしてる感がスゴいけど。

 

 現在、俺は率先して先頭を進んでいる。クリエメイトの場所と様子ならルーンドローンの生中継カメラで分かるし、現段階で戦える人は俺とアリサだけ。そして、アリサを殿(しんがり)においたことによる消去法の結果だ。何より拳銃を持ってる人を背中に立たせるのは二人の精神的に良くないだろうと思ってのことだ。

 

 

「お」

 

「どうしたの?」

 

「次のフロアが見えた」

 

 

 階段を一番最初に登りきった俺は、「3F」と書かれた入口に入り、見渡す限りに広い、コミケのような同人誌販売ブースに思わず声が出た。アリサの問いかけに簡潔に答えながら、周囲のブースと新たなクリエメイトが映るモニターを見比べる。

 

 

「おぉう、これは……」

 

「コミケみてーな階層だな。ここにも誰かいるのか? ………なんとなく予想つくけど」

 

「秋月君の思った通りだよ」

 

 俺に続いて登ってきた夏帆ちゃんと秋月君にクリエメイト―――天野美雨さんが映るモニターを見せる。

 彼女はモニター越しに………売り子がいるスペースでパイプ椅子から立ち上がりこっちを見ていた。

 

 

「天野………」

 

「何してるんだろう?」

 

「詳しくは見つけてからだな」

 

 

 オーダーの影響で変な事になっていたら面倒だなと思いながら、カジノの中とは思えない階層に一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――私はいつ、今の原稿を脱稿したのでしょうか?

 最初の疑問はソレでした。なぜなら……視界が切り替わった時、見覚えのある建物の内装をしていたから。

 18禁の本の山が積まれ、値段や広告が貼り出され、今にも販売を開始できそうなほどに整ったブース。その真ん中のパイプ椅子に、私は座っていました。

 

 次に浮かんできた疑問は―――ここは何処でしょう? というものでした。なぜなら………周りを見ても、私以外の出店者が誰もいないから。

 普通ならあり得ない現象です。コミケというものは、もはや日本の文化です。開かれる度に連日満員。それが、休日のお店みたいに、がらんとしている。周りを見回しても、私以外の人間の気配がない。まるで、私だけを残して、人がすべて消えてしまったような不気味な感覚を覚えました。

 

 目の前で何が起きたのか、把握することも出来なければ、取り乱すことも出来なかった。

 

 誰かが私を見ているならば、落ち着き払っているように見えるかもしれませんが、とんでもない。

 

 人は、恐怖が過ぎると笑ってしまうことは良く聞く話ですが、今回みたいに理解を超えた事態が起こると、ブレーカーが落ちるかのように動けなくなるのかもしれません。

 

 誰か、私に今の状況を説明してほしかった。

 

 

 そう思った時、ブィィィという機械の風を切る不思議な音がして、周りを見回す。

 

「………あれは…!?」

 

 視点を上に向けたとき、飛んでいるものに私は目を奪われました。その形状が、私の記憶にあるものだからです。

 ―――ドローン。実際に見たことはありませんが、ニュースで何度か見ました。

 

 

 どうして、こんなものが。

 椅子から立ちつつ、じっとドローンを見つめる。いつでも、逃げられるように。

 

 

 突然、ドローンがピカッ、と光る。

 

「ギョワァァァァァァ!!?」

「!?」

 

 その次の瞬間、空中から悲鳴が聞こえた。

 すぐにその方向を見ると、いつの間にかいた、白い布を被ったオバケのような生き物がレーザーに貫かれ、光の粒子となって消えていく姿がありました。

 

「攻撃……っ!?」

 

 正直、突っ込みたい所は山ほどありました。ドローンは攻撃するものなのかとか、レーザーは何かとか、さっきのオバケのようなものは何かとか、何故消えるのかとか。

 でも、攻撃をしてきた今、あのドローンが私を攻撃してくるかもしれない。

 

 

「ギャアアアァァァァァァ!!!」

「くーーーーーーーーーー!!?」

 

「っ、また………!」

 

 ドローンのレーザーがオバケだけでなく、黒い猫のような謎の生き物を貫き、再び光の粒子に変える。

 

 これ以上ここにいるのはマズいと思った私はここではないどこかに駆け出そうとして―――

 

 

 

 

「良ければエスコートさせてくださいますか、お若いレディ?」

 

「!!!」

 

 男の人の声に呼び止められた。

 声のした方へ振り向くと、そこには驚くほどのイケメンがいた。髪は秋月さんのよりも明るいライトグリーンで、目の色がオレンジに金色と左右で違う、いわゆるオッドアイの男性。

 まるで、漫画かアニメから出てきたかのようなイケメンに「エスコートさせてくれ」と言われた事実に、言葉を失うばかりでした。

 いや、それよりも。危険なドローンがいると教えなければ、と思ったところで。

 

 

「ローリエさん……ナンパは良くないと思います」

 

「ナンパじゃない救助活動だ、アリサ! さっきの魔物、見たろ? 早いところ全員片付けて……」

 

「いやぁ、今のはナンパにしか見えなかったよ?」

 

「夏帆ちゃん!?」

 

「なに天野をナンパしてんだお前は」

 

「秋月くんまで……! 違うって言ってるでしょうが!」

 

 

 イケメンさんの仲間らしき少女と、なんと夏帆さんと秋月さんが現れました。

 

 

「えっと………これは、どういう状況、なんですか?」

 

「えーーとね、美雨さん? 私達……別世界に召喚されちゃったらしいよ?」

 

「そんな同人誌の王道みたいなネタが!?」

 

 

 そして私は、今自分が置かれている状況を知ることになったのです。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 同人誌販売ブースと化した階層で美雨さんを見つけた俺達は、彼女にも夏帆ちゃんや秋月くんにした時のように、大まかな説明をしてあげた。ドローンで美雨さんを護衛していたこと。そして、現在苺香ちゃん救出のため、突如現れた建物『イモルト・ドーロ』の階層をのぼっていることも。

 

 

「異世界召喚で喜んでる場合じゃありませんね……」

 

「あぁ。出来るだけ早く、残りのメンバーを回収したい。」

 

「苺香ちゃんについては…分かったけど、残りの三人は?」

 

「そうだな。店長と星川、あと神崎はどこに……?」

 

「全員把握済みだ」

 

 

 苺香ちゃんの身を案じる美雨さんに、他の三人の心配をする秋月くん。俺は三人のクリエメイトにお探しのメンバーが映ったモニターを見せた。

 

 まずはディーノさんと麻冬さん。二人は、きらら・ランプ・マッチの三人組と上の階層を目指している。時折襲ってくる魔物から、きららちゃんが二人を守っていて、彼女達を撮っているルーンドローンも、援護射撃をたまに行っている。

 

「この方々は?」

 

「訳あって別行動してるが、スティーレの店員達を守ろうとしている人達だ」

 

「……さっきからこっちをチラチラ見てねぇか?」

 

「迷彩式のルーンドローンだったんだけどな。おおかた、見つかったんだろう。」

 

「おーい、店長、麻冬さん! 私達だよー!」

 

「……悪い夏帆ちゃん、彼女達を撮っているルーンドローンに、スピーカーはつけてないんだ」

 

「えー!」

 

 えーじゃないよ。勘弁してくれ。

 次に、神崎ひでりくん。彼は、4F……つまり、今俺達がいるひとつ上の階にいた。

 4階はアイドルの室内ステージのような作りになっていて、そのステージの真ん中でひでりくんがパフォーマンスをしている。撮影しているルーンドローンにウインクしたり、客席には赤目のクロモン達が座っていてアイドルオタクさながらに盛り上がっていたりと、正直ツッコミどころしかない。

 

 

「何やってんだアイツ……」

 

「なんでクロモン達は神崎ひでりを襲わないの……?」

 

「オーダーの影響だろ、多分。つーか、俺だってこの光景はツッコミてーよ」

 

「あ、ひでりちゃんこっちにウインクした」

 

「俺のルーンドローンは撮影用じゃねーっての」

 

 

 ひでりくんはちょっとあざと過ぎるせいで、無自覚に人を煽りがちな性格だ。お陰で美雨さんにソフト腹パンされてたりする。ぶっちゃけ俺もちょっと苦手だ。

 

 

「言いたい事は色々あるけど……1つ上の階に行けば分かることだ。取り敢えず階段を探そう。」

 

 苺香ちゃんのこともあるしね、という意味も含めてそう言うと、夏帆ちゃんも秋月くんも美雨さんも、異議は無いようだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば……なんでここら辺の本…………その、裸の人の表紙ばっかり、なんですか……?」

 

「「「「!!!!?」」」」

 

 

 ―――アリサから、そんな爆弾のような質問が飛んでくるまでは。

 俺はある意味、失念していたのだ………「花園フォルダ」という同人作家さんが、どんなジャンルを中心に書いているのか、を。

 

 彼女の手がけた本はノーマル(NL)薔薇(BL)百合(GL )と愛のジャンルは多岐に渡る。しかも―――()()()()()1()8()()()()()()()

 

 しかも……アリサは、パッと見まだ18には行っていない……! 胸こそ夏帆ちゃん並みだが、精神はまだ18いってないんじゃ……!!

 

 

「あれ、アリサさん……もしかして、知らないんですか?」

 

「天野さん、知ってるんですか?」

 

「美雨で良いですよ。」

 

 

 ヤベェ。この同人作家、案の定アリサの無知さに食らいついてきやがった。このままではアリサが歪んだ知識を得てしまうのと同時に、美雨さんの「無知シチュNL(R18)」の同人誌のネタにされてしまうッ!!

 

 

「是非、一冊読んでみウグッ

 

「天野! お前子供になに教えようとしてんだ!!」

 

 ナイスブロック、秋月君。俺はアリサを美雨さんから遠ざけて、ちょっと聞いてみるとしよう。

 

 

「………アリサ。赤ちゃんの作り方って知ってるか?」

 

「え、なんですかいきなり? それは勿論、コウノトリが運んでくるんですよね?」

 

「「「「!!!!?」」」」

 

 アリサの自信満々な答えに、俺も、夏帆ちゃんも、本を差し出そうとする美雨さんも、それを羽交い締めにする秋月くんも、皆が固まる。う、ウソだよね?

 

「……その赤ちゃんは、どこから来ると思う?」

 

「キャベツ畑です! 私も兄さんもキャベツ畑から来たって、母さんもそう言ってました!!」

 

「「「「…………………」」」」

 

 ―――これはアカンわ。

 まさかここまで性知識が遅れているとは思わなんだよ。

 

「………アリサ。早いところ、上り階段を見つけてしまおう」

 

「え? でもさっき、美雨さんに―――」

「君にはまだ早いことだ」

 

 妹の性教育くらいしっかりしてくれないかと亡きソウマ氏に思うも、今は美雨さんの邪な知識から彼女を守るのが優先だと思い階段の捜索を促す。

 

 

「ちょっと、アリサちゃん! 待って……」

 

「駄目だって美雨さん!! それだけは駄目だ! 幽○白書の(いつき)みてーな外道に成り下がってしまう!!」

 

「階段探すよ美雨さん!!」

 

「つーか、ローリエさん○々白書知ってんのか……?」

 

 

 こんな感じで俺らは、アリサを花園フォルダ(美雨さん)の知識から守りつつ、上り階段を探す作業に戻るのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ローリエ達が美雨を探し始めた頃。きらら達はどうしているかというと……

 

「………パスが、動いてる?」

 

 パスが動き……自分達と同様に階層をのぼっているという事実に困惑していた。

 これまで自分達は、パスの動きを頼りにクリエメイトを探してきた。現に今回のオーダーでも、ディーノと麻冬を見つけ、保護してきた。しかし、今回はより、動きが激しいのだ。

 

「どう動いているんデスか?」

 

「えーと……まず私達と同じ階層に三人。ディーノさんと麻冬さん以外で、です。次に、この上の階にひとり。あとは……最上階にひとりです。」

 

「合計5人……ってことは…」

 

 これまで進んだなかで、きらら達は二人以上のクリエメイトを見つけることができていない。しかし、ランプやディーノ、麻冬は既に、呼び出されたクリエメイトに大体予想がついていた。

 

 

「苺香と夏帆とひでりちゃん…そして美雨と秋月くん。5人ピッタリね。」

 

「スティーレの店員、全員が喚ばれたという訳デスか……」

 

「それを、こんな広い建物から探すなんて……きららのパスがなければ、すぐにでも迷ってしまいそうだ」

 

 マッチの言うとおり、階層の一つ一つが大きく、例えるならば大型ショッピングモール並み……否、それ以上に広い。きららの力がなければ、人探しはかなり骨が折れる作業になっていただろう。

 

 

「すごく大きな建物だったんだね。『イモルト・ドーロ』って」

 

「……店長、顔色が良くないわよ?」

 

「苺香様が心配ですか、ディーノさん?」

 

「そう…ですね…麻冬サン、ランプさん。苺香サンが今どこでどんな状況にあるのか分からないとなると………なにせ、建物の名前…i morti d’oro(イモルト・ドーロ)からして不吉デスから」

 

「なんて意味なんです?」

 

「イタリア語で『金の亡者』という意味デス」

 

「うわぁ………」

 

 

 きららのパス探知がありながら、なかなかメンバーが集まらない事実に、ディーノが焦り始める。イモルト・ドーロという建物の名前を聞いた瞬間からその意味を唯一分かっていただけあって、不安はますます膨らんでいく。

 

 

「大丈夫です!!」

 

 

 しかし、その不安を振払おうとする者もいた。

 きららである。

 

 

「確かに、私の『パス』を感じてクリエメイトを探す方法は大ざっぱな事しか分かりません。

 でも……他のクリエメイトの皆さんは必ず生きています! それだけは確信を持って言えます!」

 

 ローリエに敗北した後、今まで通りで良いのかずっと考えていた。

 

「ですから歩みを止めずに、このまま進んで行きましょう! そうすれば―――必ず、誰かに会えます!」

 

 今もなお、答えは出ていなかった。

 しかし、目の前の危機に瀕するクリエメイトを放ってはおかない。

 

 それが、今のきららに出来ることだから。

 

 

「………そう、デスね。その通りです。ワタシ達がウジウジ悩んでいても、何も進展しまセンしね!」

 

「そうよ、店長。私達が、苺香達を見つけてやらないと。私達は、大人なんだから…!」

 

 

 きららの言葉に、落ち込んでいたディーノに活気が戻る。それが、麻冬に伝播し、きらら達の士気を鼓舞する。そして、一行の上の階へ進む足に力が入った。

 

 

 きらら達は、3階から4階に続く階段を登っていき……4階のフロアへ続く扉の前まで辿り着いた。

 

 

「このフロアのどこかに……クリエメイトが一人、います!」

 

 きららの宣言と共に、扉が開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みーんなー!! 今日はボクのライブに来てくれて、ア・リ・ガ・ト〜〜!!!♡♡」

 

「「「「「「「くーーーーーー!!!」」」」」」」

 

 

 

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 きららはすぐに開けた扉を閉めた。

 

 

「………………あの、きららさん?」

 

「…な、なにかな?」

 

「なんで閉めちゃったんですか?」

 

「え、えっと……な、なんか…なんとなく、です………ごめんなさい……」

 

「いや…謝らないでください、きららサン。この状況でアレを見てリアクションに困るなって方が無理な話デス………」

 

「なにやってんのかしら、あの子………」

 

 

 扉の先に見えた、コンサート会場。ステージに一人立つアイドルのようなボクっ子(ただし男である)に、観客のように湧き上がる大量のクロモン。

 アイドルオンステージのような光景に、きらら達一行が困るのも無理はなかった。しかも、ステージ上で()()()()()()()ディーノと麻冬は尚更である。

 

 

「……ディーノ、麻冬、ステージ上に立っていたのが、まさか………?」

 

「ええ。ウチのホールスタッフよ」

 

「神崎ひでり様。いつの日かアイドルになることを目指してスティーレで働いている、所謂男の娘のクリエメイトです……!

 こんな事があるなら、応援のうちわとサイリウムとサイン用の紙とペンと横断幕を持ってくれば良かったっ……!! このままじゃあ、ひでり様のサインどころかウインクが、貰えないっ………!!!!」

 

「ランプさん……何故興奮してるんデスか?」

 

「無視でいいよ。ランプはクリエメイトが絡むといつもこうだから」

 

 

 ―――訂正。約1名ほど、困惑するどころかライブに参加する気マンマンだった人物がいたことをここに明記する。

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ&アリサ&日向夏帆&秋月紅葉
 コミケ会場と化したフロアで天野美雨を探すべく奮闘した八賢者&助っ人&クリエメイト。アリサの無垢さに驚愕しつつも美雨からの知識の授与(アブない性教育)からアリサを守ろうとした。

きらら&ランプ&マッチ&星川麻冬&ディーノ
 建物の構造をよく知らず、二人目以降のクリエメイトが見つからず地味に焦っていた主人公組。しかし、きららは負けイベントから少し変化し、「自分の出来ることをやる」事に決める。それが、ディーノの迷いを晴らした。……その後、衝撃的な光景を目の当たりにして戸惑いまくる事になるケド。

天野美雨
 喫茶店スティーレのホールスタッフのひとり。担当は「お姉さん」。同人漫画家『花園フォルダ』として創作サークル活動をしており、主にRー18の漫画を描いている。スティーレには変わった日常に触れネタを仕入れるために就職した。
 苺香とディーノのやり取りからで『Sデレメイドとヘタレ執事』シリーズを描いたり、男の娘のひでりで腹パンものを妄想したり、ビーチの砂浜に埋まった秋月で砂中触手プレイを妄想するなど、作家として人気を博しているが業も深い。アリサに同人誌を授けようとしたくだりも、日常の言動に下ネタが入りやすい性格から来たものだろう。
 ちなみにローリエが言及していた『幽々白書の樹』は、同作で(いつき)という妖怪が漫画にて「『キャベツ畑』や『コウノトリ』を信じている可愛い女のコに無修正のポルノをつきつける時を想像するような下卑た快感」を堕ちていく相方に対して抱いた(アニメでは流石に放送コードに引っかかり台詞が変更されたが)事が元ネタ。

神崎ひでり
 アイドル志望の男の娘にして、スティーレのホールスタッフ。担当はやはり「アイドル」。農家の両親を納得させるべく人気を得るためにスティーレにバイトに入る。アイドルらしく振る舞おうとしているが、たまに素が出る上にあざといため、無自覚で人を煽りがち。そのため美雨にソフト腹パンされたりする。
 拙作では、凶暴化していたはずのクロモンをオーダーの影響も相まって魅力し、アイドルとしての才能をエトワリアに見せつけた。だが男だ。
 なお、実家の都合上Gの耐性はカンストしている。


△▼△▼△▼
ディーノ「きららサンのパスを感じる能力のお陰で皆サンの無事は確認できましたし、神崎さんも発見出来ました。」

ディーノ「でも!! ワタシは苺香サンが心配です! いきなりこんな世界に一人で召喚されて……心細くない訳がありまセン!!」

ディーノ「嗚呼……今すぐに、苺香サンに会いたい!!!!」

次回『金の亡者(イモルト・ドーロ)の呪い』
ディーノ「またのお越しをお待ちしております(Venite da noi ancora)!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
 今回のお話、地味に難産でした。次回以降も難産になりそうです。ぶっちゃけ、ビブリオをどれだけ醜く書くか……自重すべきか、しないべきか……悩んでおります。


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第44話:金の亡者(イモルト・ドーロ)の呪い

 今回は少し思うところもあり、2話連続投稿です。


“それは、あまりにも早い再会でした。クロモン達を次々と撃ち、消滅させる死神のごときその姿は、お星様を隠して弄ぶ真っ黒な雨雲を彷彿とさせました。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


 

 イモルト・ドーロ、最上階。

 ビブリオは、ローリエのG型魔道具にたかられ続けた結果、視覚的及び生理的ダメージの耐性を獲得しつつあった。

 

「ううっ……この、この!!」

 

 体に貼り付くG型魔道具を引っぺがし、木製の檻を見ると、やはり苺香はビブリオのことを汚物を見るような目で睨んでいた。……なお、実際のところビブリオとG型魔道具に怯えているだけである。

 

 

「お前の目つき……頭に来るからやめろって言ったよなぁ……?」

 

「ご、ごめんなさい……でも…これは生まれつきで……」

 

「ハッ!! 生まれた時からそんな怖い目か! よく両親に捨てられっぬわぁぁぁ!!?」

 

 ビブリオがそんな苺香を睨み返しながら罵倒しようとする度、G型魔道具達はそれを妨害する。それもその筈―――この魔道具の主は、誰よりもクリエメイトを愛する男。彼ら彼女らを貶める言動を、許すはずもない。

 しかし、ビブリオは諦めなかった。長年己の商会で金と権力を築き上げ、甘い汁を啜り、商売敵をことごとく潰し、従業員や奴隷の人生を食い物にしてきた過去と矜持が、彼の口を回したのだ。

 

 

「常日頃からそんな……っぺっ、恐ろしい顔してるんだ……っ、…友達、からもっ、仲間からも……ぬぅぅん! …家族ですら、お前を疎んでただろォなァ!!」

 

 体にまとわりつく虫を引き剥がし、口の中に入ってくる虫を吐き捨て、顔を蠢く虫を手で払いながら、何匹か虫を飲み込んでしまっても尚ビブリオは言葉を続ける。

 

「そんなこと………っ!!」

 

「あるにっ、決まってるん、だぁぁぁな!!! 口先だけではイイ事言ってる風、でも……距離を取られた事、なかったか!?」

 

「………!」

 

 

 ビブリオのその問いに苺香は目線を地面に下げた。答えることは出来なかった。………その経験があるからだ。幼い頃から目つきの鋭かった苺香は、小学生・中学生時代に目つきや天然で言葉足らずな部分が原因で距離を取られたり、怖がられたりした過去があった。

 彼女の反応から何かあると踏んだビブリオは、G型にたかられながらも口撃を続ける。

 

 

「ジャマだ虫共! このオラにたかるな!!

 ……思い当たる節はあるって顔だぁぁな……!」

 

「………っ!!」

 

「『顔には性格が出る』……お前のその顔! 随分周りを……ふん! 見下してるみたいだぁぁな!!」

 

「そんなっ……! そんな事、思って―――」

 

「思ってなくてもみんな思うんだぁぁな!! 『コイツいつも嫌な顔してるな』『この人僕・私を見下してるんじゃないか』ってぇぇな! お前は表情を治す努力が不足してるんだよ!! 自分中心に世界が回ってると思っているのか!!?」

 

 体に群がるG型を払いのけながら、苺香に反論をさせないように脂肪が回った顔を憤怒に歪ませ喋り続ける。口に入るG型等を吐き出し、再びうっかり飲み込んでしまっても、ビブリオは苺香を睨み返していた。

 

「そんなこと―――っ! 私はっ……店長さんや、スティーレの皆さんや…家族のみんなには、感謝しています!!」

 

「店長?」

 

 苺香が悲痛そうな声でようやく言い返した内容を、ビブリオは反芻する。正直、彼は驚いたのだ。こんな目つきの悪い少女を雇い入れる人間がいたことに。そして、それに感謝している事に。

 それを聞くと同時に、ビブリオの脂肪質な顔から怒りがすとんと落ちた。しかし、そんなきょとんとした顔をしたのも束の間、彼に下卑た笑みが宿り始める。

 

「驚いた……お前みたいな社会に適合しないカスを雇う………? とんだ物好きがいたとはぁぁぁな……オラには真似出来ないんだぁぁな……!」

 

「………?」

 

()()()()()()()()()()()()……!!」

 

 そんなビブリオに苺香は嫌な予感を抱いた。

 G型が何かを察したように再び激しくビブリオに群がる。ビブリオは、G型の相手をしながら苺香に話しかけた。

 

 

「お前を雇ったっていう『店長』……何を考えてこんな役立たずをっ、招き入れたん、だろぉぉなぁ〜〜!!

 お前は幸い、見た目()()はイイからな……! お前の体目的だったりして……!!」

 

「―――っ! 店長さんは……そんな人じゃありませんっ!」

 

 

 苺香をスティーレのホールスタッフとしてスカウトしたディーノは、彼女のドSな言動に鼻血を吹き出して興奮する点こそあるものの、基本紳士的に接するのだ。不器用で、時々職務質問されながらも、ディーノは苺香に優しくし続けた。………ただヘタレだっただけとも言うが。

 

 ともあれ、ディーノの人物像を知る苺香がビブリオの侮辱を黙って聞いていられるはずもなく、エトワリアに来て初めてビブリオに言い返した。

 

 

「店長さんは……目つきの悪い私を見てくれた……『必要です』って受け入れてくれた良い人です! 私だけじゃありません! 他のメンバーだって店長さんを尊敬して……!」

 

「そんなもの、()()()()()()()()()()に決まってるんだぁぁな。」

 

「えっ……」

 

「オラだって自分の商会を持ってるから分かるんだぁぁな。笑顔を貼り付けっ、良い人を演じ! 『()()()()()()()()』っつう恩義と『上司を()()()()()』ってぇ罪悪感で従業員(しもべ)を縛る!!」

 

()()()()()()()()……?」

 

「そう。従業員(しもべ)はオラの為に馬車馬のように働く。オラはカネを()()()()()。生活()()()()()。普通のことなんだぁぁぁぁな!!!」

 

 

 苺香はビブリオの言っていることが理解出来なかった。まるで自分が商会長という名の玉座に座る王様のごとく好き放題しているかのような言動に、苺香は言葉を失う。

 

 

「……店長さんとやらも、裏ではどんな顔してるか分かったモンじゃあないん、だぁぁぁぁな!!!」

 

「………」

 

「声も出ないか?図星か? 言われたことはなかったか? 『貴女みたいな人が必要です』ってぇぇな!」

 

「……」

 

「何度だって言ってやるんだぁぁな!! 雇用主(オラ)が上!商品(おまえ)が下だとな! しょせんお前のいう店長さんとやらも―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――いい加減にしてください

 

「ひっ………!!?」

 

 

 突如、ビブリオは殺気を感じた。情けない悲鳴が出かかり、体が硬直する。たかってくるG型を振り払うのすら中断する。

 

 殺気の元は檻の木枠の奥の少女だった。黙っていれば麗しい美少女で、ちょっと目つきが悪いだけだと思っていたのに。ビブリオは一抹の不安と恐怖すら覚えた。

 

 

 桜ノ宮苺香という少女は、ここ数年怒った事がない。彼女自身、目つきが悪く、相手にドSな印象を与えてしまう事を自覚していたからだ。また、苺香の本来の性格が優しく温厚であることも相まって、滅多に怒らないのだ。

 しかし、目の前のビブリオという男は、苺香の(ある意味)恩人であるディーノをここまで貶したのだ。流石の苺香も許せなかったということである。仏の顔も3度までという言葉もあるが、まさにそういう事だろう。

 

 では、緊張でドSな印象を相手に与えるほどの目つきの苺香が本気で怒った時、相手はそれをどう受け取るか?

 

 

さっきからブーブーブーブーと………あなたと店長さんを一緒にしないでくださいますか……甚だ不愉快です……!

 

 

 ―――その答えが、ビブリオが感じた殺気である。

 つまり、苺香は今、本気で怒っているという事である。彼女の本気の怒りに、ビブリオの丸太のような足がすくみ、脂汗がだらだら流れる。声が詰まり、体が震えた。

 

 ……しかし、今の苺香は囚われの身。両手は繋がれ、木枠の檻から出ることもできない。

 

 ビブリオがそれに気づいたのは、苺香の発言が数分間の沈黙をもたらした後だった。

 

 

(なんだ……、よく考えてみればこの小娘、手錠を破れてないじゃあないか………つまり、今のは……見かけが怖いだけのハッタリ、なんだぁぁな……!)

 

 脂肪たっぷりの顔が、再び醜く歪む。

 

 

(異世界から『オーダー』で連れてきてやったガキの分際で愛想良くしてれば許してやったものを……)

 

「ふぅーーん。そんなコトを言うんだぁぁな?」

 

「…………?」

 

「ちょぉーーーッと見た目が良いからってこのオラに歯向かうなんて…身の程を知るといいんだぁぁぁな!」

 

 

 ビブリオは、ゲヘゲヘと下心満載の笑顔で左手の指に一個ずつはめられた指輪を見る。そのうちの、中指にはめられた赤い宝石の指輪を、右手でいじった。

 ……商品価値が下がるかもしれないが、仕方がないと思いながら。

 

 

「―――――――――!」

 

 

 赤い宝石が妖しく光るのと、蜂の巣をつついたようにG型魔道具達が一斉にビブリオに群がったのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――時間がない。

 ビブリオと苺香ちゃんの会話をG型を通して垣間見た感想がそれだ。早く最上階へ向かい、苺香ちゃんを保護しなければ。

 

 そのためにも―――

 

 

 

 

 

「それじゃあ今度はぁ、この2曲いっちゃうよ! 続けて聞いてください! 『夏色Fighting!!』そして『ワク☆ドキSHOOTER』!!」

 

 「「「「「くーーーーーーーーーー!!!!!」」」」」

 

 

 

 ………あのステージ上で歌って踊ってるあの男の娘を何とかしなければ。放っておきたい気もするが、ライブが終わった瞬間クロモンの群れに襲われました、じゃあお話にならない。

 

 

「さぁーーーて………どうしようか?」

 

「え、私たちに振るんですか!?」

 

「スティーレのメンバーならひでりくんについて何かないかなーって思って。それに、アリサの意見も聞きたいしねー」

 

「何かと言われましても……何とかしてライブをやめさせないと、ひでりちゃんと話す事もできそうにないですねぇ」

 

「だな。そもそも、このクロモンとやらの観客まみれのこの状況で、どうやって神崎に連絡するんだ?」

 

「普通にステージに上がる! ……って訳にはいかないよね、きっと……」

 

 

 美雨さんと秋月くんの言うとおり、今のひでりくんに話しかけるのはどう足掻いても無理だ。距離もあるし、人も騒音もある(クロモンだけど)から生半可な話し声では届かない。かといって、夏帆ちゃんの思った通り、普通にステージに上がるのは迂闊すぎる気がする。

 

 

「アリサならどうする?」

 

「そうですね……ローリエさんのどろーんとやらで囮をしつつ、神崎ひでりを保護するのはどうでしょう」

 

「………それが一番現実的な手かな?」

 

 

 早速ルーンドローンを起動するか、と思った所で。

 観客席の別入口―――つまり、俺達が入ってきたのとは別の入口付近で爆発が起こった。ルーンドローンのモニターを切り替えると、そこにはクリエメイト達を『コール』して戦うきららちゃんと後ろに下がるランプとマッチ、ディーノさんに麻冬さんがいた。

 

 

「…………作戦変更。俺とアリサが囮役だ。ディーノさんと麻冬さんにも合流するぞ!」

 

 

 俺はそう伝えるとすぐに走り出した。きららちゃん達のところで、ランプがなにかしでかしたのだろうと確信した行動だった。

 

 

 

 

 きららちゃん達がクロモンの群れと戦う現場に辿り着いた俺は、行く手を遮る赤目のクロモンやド・クロモン、クロモンソルジャー達の眉間に、すれ違いざまに魔法弾を寸分違わず撃ち込んでいく。撃たれたクロモン達が光の粒子となって消えていく中、俺は後続のアリサやクリエメイトの安全を確認しつつ、きららちゃんの元へ辿り着いた。

 

 

「なっ、あなたは……!?」

 

「二度も説明する時間が惜しい。聞いてくれ」

 

 きららちゃんだけでなく、ランプやマッチ、ディーノさんや麻冬さんも目を見開いて驚く。俺がここに現れたからだろうな。

 

「アリサ! ドデカい魔法でクロモンだけを吹っ飛ばして時間稼いでくれ! 1分でいい!」

 

「ムズいこと言ってくれる……っはっ!!」

 

 アリサがステージを巻き込まないように風の魔法でクロモン軍団を吹き飛ばし、できた時間できららちゃん達に説明する。と言っても、短く、分かりやすく伝えなければ。

 

 

「今回のオーダー…俺達神殿は関わってない!」

 

「「「!!!!?」」」

 

 そう断言して、続ける。

 

「現在、日向夏帆・秋月紅葉・天野美雨を保護している! 神殿側は神崎ひでりと桜ノ宮苺香を可及的速やかに救出し、元の世界へ帰す考えだ!」

 

 知った名前が出てきて、表情が和らぐディーノさんと麻冬さん。遅れて俺とアリサが保護したクリエメイト達もやってくる。

 

「店長!」

「麻冬さん!」

「秋月サン!」

「夏帆に美雨も……無事で何よりだわ。」

「えぇ、お陰様で……」

 

 スティーレの店員達は、それぞれ再開を喜び合っている。きららちゃんも、これまでの賢者との対峙を思い出して「まったく違う」と思っているのか、判断に困っている。マッチは何だか考えているようだけど。

 それで、一番の懸念だけど………

 

 

「きららさん。私は―――ローリエを信用できません」

 

 

 ―――やっぱりか。

 異議を唱えてくるのならば、ランプがやってくるだろうとは思っていた。ランプが神殿を出ていったあの日に、あんまりな仕打ちをしたのだ。更に、きららちゃんを叩きのめした前科もある。トントン拍子に行くとは思ってなかった。

 

「ちょっと、ローリエさん。あの子になにしたのよ……?」

 

「悪いな夏帆ちゃん。流石にいまそれを説明してる時間がない」

 

 とはいえ、心証的にはマズい状況だ。揉めれば揉めるほど、苺香ちゃんが危ない。

 

 

「今回のオーダー、誰がやったのかは調べがついている。」

 

「―――ビブリオ、だろ? このカジノ『イモルト・ドーロ』のオーナーだった悪辣商人の」

 

「!!」

 

 情報のカードを切った時、俺の話に割って入ってきたのは、意外にも空飛ぶ猫的マスコットのマッチであった。突然喋り始めた保護者に、ランプもマッチを見やる。

 

「そもそも…今回のオーダー、今までとはやり方が変だった事に違和感は持ってたんだ。今まではクリエメイトに危害を加えようとしなかった魔物たちが今回はクリエメイトの命を狙おうとしていた。

 アルシーヴが見境なくなったのかとも思ったが……オーダーをしでかした人物が違うとなれば納得がいく」

 

「マッチ……何を言ってるの!? 納得いく訳ないじゃない! ローリエが私達を騙そうとしてるのかもしれないでしょ!?」

 

「もしローリエが本当に敵ならドローンがディーノか麻冬を攻撃していたはずだ。でも、ドローンはむしろきららと共闘するかのように魔物を狙撃していた。しかも、さっきの赤目の魔物たちをローリエが躊躇なく撃ち倒していたことやクリエメイト3人をディーノや麻冬と会わせたことに説明がつかない」

 

「ローリエが私達の味方だと思わせる罠かもしれないじゃない!」

 

「ならもっと最初のタイミングでローリエ本人が現れてきてもおかしくはない。それに―――」

 

「もういい! マッチの分からず屋!!」

 

 

 ランプがまくし立てるように疑惑を立てるのを、マッチが冷静に分析していたが、どうもランプには自分の心を否定されてるように感じたようだ。マッチのことを怒鳴りつけると、そのままひでりくんのいるステージの方へ走り去ってしまった。

 

 

「ちょっ……ランプ! 一人は危ないって!」

 

「ランプサン!」

 

「待ちなさいランプ!」

 

 それを追いかけるように、マッチとディーノさんと麻冬さんも行ってしまった。

 ……ランプの気持ちは分からなくもないが、クロモンが攻めてきているこの状況で非戦闘員の単独行動はマズい。

 

「きららちゃん! 夏帆ちゃん達を連れてランプを追いかけろ! あとひでりくんを頼む!!!」

 

「えっ!!? ろ、ローリエさん、どうして……」

 

「いいから! きららちゃんの大切な『仲間』なんだろ?」

 

 

 きららちゃんだけでなく、夏帆ちゃんや秋月くん、美雨さんもなにか言いたげではあったものの、きららちゃんはランプが心配だからか、残り3人はひでりくんと合流すべきだと思ったからか了承はしてくれた。

 

「後で色々聞くからね!!」

 

 夏帆ちゃんの声を背に受け、俺は一人クロモン軍団と戦っていたアリサの隣につく。

 

 

「遅いですローリエさん! 3分たってますよ!」

 

「でも何だかんだ持ちこたえてるあたりスゴいよ、アリサちゃん」

 

「…………良かったんですか? ランプって子…」

 

「今は仕方がない。ああいう年頃の子は、『何を言ってるか』より『誰が言ってるか』で判断しちまいがちだ」

 

「……不安なんですけど」

 

「ならイイ事を教えてやろう。

 ―――ランプは俺と同じくらいかそれ以上に、クリエメイトを愛している」

 

 

 悔しいが、俺が真実を話して説得したところで無駄だろう。むしろ逆効果まである。だからこそ、おれはきららちゃんにクリエメイトをまるごと任せたのだから。

 俺は『ドラグーン』を取り出すと、弾を込める。そして、近寄ってくるクロモンの隊列に向かって引き金を引いた。

 轟音と共に、弾丸は大小さまざまなクロモン達を十数匹単位で一気に貫くと、そいつらを光の粒子に変えた。それを確認すると、戦闘用のルーンドローンを展開。

 

 俺は堂々と宣言した。

 

 

「さぁ――――――ショータイムだ!!!」

 

「もう私が始めてますけどね」

 

 

 いいんだよアリサ、こういうのは雰囲気が大事なんだから。

 




キャラクター紹介&解説

桜ノ宮苺香
 本来は菩薩のように優しい性格ではあるが、ビブリオのあまりにディーノを貶める発言にちょいとブチ切れた「ブレンド・S」の主人公。笑顔や緊張フェイスがことごとく怖くなってしまう苺香が怒ると相手に「殺ス」というイメージを与えてしまうのを元ネタに少し怒らせてみた次第。

ビブリオ
 苺香やディーノを散々ディスってくれたデブ野郎。彼はとんでもない守銭奴であり、金さえあれば何でも許されると思っている。ただしデカめな商会長であることもあり、ただの守銭奴ではなく、従業員を有無を言わさぬブラック環境で働かせる「稼げる守銭奴」である。そのブラック社長気質を持っているのか、人の自尊心を削ったり不信感を植え付けるのが得意。
 ……と、色々書いたものの、誰かからのヘイトを買う覚悟で今回の彼の言動を書いた。今回の話で彼の人物像を分かって頂ければ何より。

ローリエ&アリサ
 きらら達と再会した八賢者&助手コンビ。神崎ひでりを救出するべく、きらら達が動きやすくするために囮役をみずから引き受けた。

ランプ
 かつての自分の先生に不信感を抱く女神候補生。その根底には『ソラ様のことを相談したのに、信じてくれなかった!』というのがある。もっとも、決定的瞬間を「夢」としてローリエに相談しだしたのがランプである以上、「夢として相談したのは君の方じゃあないか」と反論できるが、ローリエはそんな事はしない。全てを知っているが故に。

マッチ
 今回の「オーダー」に違和感を持ち始めているマスコット。4章でのあの戦いも今回の行動も知っていて、かつ冷静に分析できるのはマッチのみ。つまり、「あの言葉」も聞いているわけで……



ド・クロモン
 クロモンの変異種。羽が生えてる大柄のクロモンで、羽ばたいたり妖視線を放ったりしてかなしばりを狙ってくる、地味に嫌な敵である。

クロモンソルジャー
 クロモンの変異種。兜と剣を装備した戦士のような出で立ちのクロモンで、「黒紋剣」や「特急剣」などの剣技で襲いかかってくる。



△▼△▼△▼
夏帆「ランプちゃんは、ローリエさんが信用できないと走り去ってしまった。彼もまた、私達をきららちゃんに預けてクロモン軍団に突貫してっちゃうし……ランプちゃん、一体ローリエさんと何があったの……?」

ひでり「そして! 次回は満を持してスーパーアイドルのこのボクも登場するよ!!」

次回『今日も異世界の真ん中で』
夏帆・ひでり「「せーの、次回もお楽しみに!」」
▲▽▲▽▲▽


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第45話:今日も異世界の真ん中で

さて、連続2話目の投稿になります。


“いつかトップアイドルになるのが夢なんです!ボクの可愛さは、その為に神様が与えてくれたものなんです!”
 …神崎ひでり


 

 

 ローリエさんが「私達を守ろうとしている助っ人」と言っていたきららちゃん達のリアクションは、助っ人と呼ぶにはあまりに不信感に満ちていた。

 特に「ランプ」って呼ばれてた子の不信感がすごくて、本当に助っ人なのかと思ってしまった。秋月くんや美雨さんもそう思ったんじゃないかな。

 

 口を挟まなかったのは……まぁ、魔物達に襲われている緊急事態だったからで。

 

「後で色々聞くからね!!」

 

 この言葉は、私と秋月くんと美雨さんの総意でもあった。

 

 

「あの、三人もディーノさんや麻冬さんと同じ店で働いてるのですか?」

 

 きららちゃんが、私達に聞いてくる。ランプちゃんが遠目に空飛ぶ猫っぽい何かや麻冬さんに捕まってるのが見えた。

 

「あぁ。俺はキッチン担当。日向と天野が星川と同じホールスタッフだ。担当はそれぞれツンデレとお姉さんだ」

 

 今は急ぐべき時なのか、秋月くんが簡単に私達を紹介する。

 

 

「離してください、麻冬さん!」

 

「駄目よランプ、一回落ち着きなさい。」

 

 赤目の髪をおさげにしたランプちゃんと麻冬さんの言い争う声が聞こえてくる。二人とも背が同じくらいだからか、子供のケンカにしか見えない。こんな事言おうものならまた麻冬さんに怒られそうだなぁ。

 

 

「ランプ!」

 

 

 きららちゃんの呼びかけに二人とも動きを止める。そこでようやく私達が追いつくと、ランプちゃんが慌ててきららちゃんに近寄った。

 

 

「き……きららさん!? ローリエは……ローリエはどうしたんですかっ!!?」

 

「このクリエメイト3人を私に預けて、女の子とクロモン達の中へ突っ込んでいったんだけど……

 私は、ランプがいきなり走っていっちゃったから追いかけてきたの。」

 

「元はといえばランプが勝手に行動したからだろう?」

 

「ご…ごめんなさい、マッチ……」

 

 

 マッチと呼ばれた空飛ぶ猫がランプちゃんの行動を諌める。でも、ランプちゃんが飛び出した理由の方が私的には気になる。「ローリエさんが信用できない」って一体……

 

 

「そもそもランプ、あなたとあのローリエって男とはどういう関係で、なんで信用できないのか教えてくれるかしら?」

 

「……そう、ですね。スティーレの皆さまにも改めて説明した方が良いかもしれません」

 

 

 私の代わりに麻冬さんが尋ねると、ランプちゃんは話しだした。

 

 ローリエさんが、ランプちゃんの先生であること。

 筆頭神官って役職の、アルシーヴという人が女神ソラを封印したこと。

 アルシーヴは、「オーダー」で私達のようなクリエメイトを呼び出し、クリエを集めようとしていること。

 そのアルシーヴの直属の部下の賢者という八人の中に、ローリエさんがいること。

 今まで敵対していた賢者が、今になって掌を返してきたとしても、信用するに値しないこと。

 

 それを聞いた私は、正直驚いた。あのローリエさんが、世界を乱す側の人間だったなんて。

 

 

「………まぁ、おおむね予想通りってトコか」

 

 

 ランプちゃんの説明が終わり、最初にそんなことを口にしたのは秋月くんだった。

 

 

「秋月サン、予想通りとは………?」

 

「俺、あいつに『何が目的だ』って聞いたんだ。あいつは『勝手にオーダーを使用した奴を捕らえて、俺達を帰す事が目的』って答えた。でも、あいつは『神殿は入念に準備してからオーダーを使う』とも言っていた。『今回は不測の事態だ』って事もな。

 つまり……本来なら、俺達を呼び出す立場は神殿であって、ローリエさんは俺達と敵対するはずだったんだろう」

 

 

 確かに秋月くんは最初ローリエさんを疑ってかかっていた。でもローリエさんは、それに真摯に答えた。秋月くんは信用したと思ったのに。

 

 

「つまり……予定通り神殿が『オーダー』していたとしたなら、ワタシ達は、ローリエさんに命を狙われてたかもしれないって事デスか!?」

 

「いいえ………流石にそれはないと思います。アルシーヴの目的はクリエメイトの皆さんのクリエです。クリエは絆の力にして命の源。命を奪ってしまっては、クリエを得られません」

 

 ローリエさんに命を狙われるという店長の懸念はきららさんが否定したものの、ローリエさんへの疑心は強まっていく。それが、なんか納得いかない。

 

 

「でも………私は信じられないなぁ」

 

「夏帆さん?」

「それは、どういうことですか?」

 

「ローリエさんを、ってことじゃなくてね………ローリエさんがそんな事をする人間とは思えない、って意味でさ」

 

「……理由があるのね、夏帆」

 

「うん。

 ………私ね、この世界に呼び出されてすぐに殺されかけたんだ」

 

 

 私はローリエさんと出会った数時間前を思い出す。私の恐ろしい告白に、聞いてた皆が一斉に血相を変えた。

 

 

「なっ………んなこと聞いてねぇぞ、日向……!」

 

「そうデスよ夏帆さん!! こ、殺されかけたって……!!!」

 

「簡単に言える事じゃあなかったからね。」

 

 

 クロモンに攻撃された時のことはしっかりと思い出せる。ゲームとはまったく違う、ダメージを受けたあのリアルな経験は。

 怖かった。全身が痛くて、血を吐くって経験をして。もう駄目だって思った。死にたくないって本気で思った。

 

 

「夏帆の身にそんな事が起こってたなんて……」

「大丈夫だったんですか?」

 

「うん。その時にね、ローリエさんに助けて貰ったから。」

 

 

 あの人は、私に「もう大丈夫」って声をかけてくれた。

 傷の治療と、軽食の用意をしてくれた。

 この世界の……エトワリアのことについても、色々と教えてくれたし、魔法も見せてくれた。

 

 

「ローリエが、夏帆様を………

 いやでも、それは―――」

 

「だから信じてって訳じゃあないんだけどね。

 ただ…ゲーム談義をしたときのローリエさんは―――全然悪い人には見えなかったからさ………私は、信じたいかな、って思ったの。」

 

 

 彼の知識量にはビックリしたけど、私達が聖典に載ってるくらいなんだし、私達がプレイしてたゲームも載ってたりしたのかな。私が見たのは私達のページだけだったから断定できないけど。

 

 とにかく、私がローリエさんとアリサさんと共に秋月くんを見つけるまでの一連の出来事を話すと、皆言葉を失っていた。

 

 

「それにね、いま上の階で苺香ちゃんが捕まってるんだって。ローリエさんは苺香ちゃんを助けようとしてるんだ。」

 

「捕まった苺香様を、助けようとしてる……?」

 

「それは本当かい、夏帆!?」

 

「あぁ。それなら俺と天野も見た。映像越しだけど、桜ノ宮が木の檻の中に捕まってたのをな」

 

 

 マッチの質問に秋月くんが答え、それに美雨さんも頷く。ランプちゃんとマッチがそれを信じる決め手になったのは、きららちゃんのこんな言葉だった。

 

 

「捕まってる………それなら、パスの不安定さも、納得がいくね……!」

 

「わかるの?」

 

 

 なんでも、きららちゃんは「パス」を使ってクリエメイトがどこにいるのか、どんな感情でそこにいるのかをなんとなく察知することができるみたい。例えば、心細さや寂しさの感情がクリエメイトにあると、感じるパスにも多少影響が出るらしい。

 

 

「―――きららさんがそう言うなら、そうなんでしょう。苺香様の危機ならば尚更行かなければなりませんね……!

 ……マッチ、きららさん、さっきはごめんなさい。」

 

「無理もない。いきなり先生に出くわしたんだから」

 

「私なら平気だよ。それよりも、ランプは大丈夫なの?」

 

「……正直、ローリエの言動には不可解な事が多すぎます。でも……少なくとも、夏帆様を助けたことは本当のようですから。

 色々聞くのは、全てが終わってからにしたいと思います。」

 

 

 どうやら、いま一気に解決するのは難しそうだけど。

 いつか、和解できる日がくるといいなぁと。そう思いながら、ステージ脇へと進むきららちゃん達の後へ続いた。

 

 

「……なぁ、日向」

 

 私の少し後ろを歩く、秋月くんが話しかけてくる。

 

「なに? 秋月くん」

 

「お前が無事で良かったよ、ほんとに」

 

「なに〜〜? 秋月くん、異世界初のデレモード?」

 

「うっせぇ、スティーレのメンバー全員で帰れねぇと意味ねーだろ? 店長も星川も天野もみんなそう思ってる。それだけだ」

 

 相変わらず、秋月くんはツンデレだなぁ。こんな時まで、徹底しなくてもいいのにね。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――気がつけば、一面猫のような生き物がいっぱいで。

 

 ボクはステージの上に立っていた。猫達みんなが、スポットライトに照らされたボクを見ていた。

 

 神様からアイドルの可愛さを授かり、ナンバーワンアイドルを目指すボクにとって、その状況が意味することを察するのはカンタンだ。

 

 

 ―――そう! ボクだけのステージ!!!

 

 ボクの格好を見たら、赤と黒と白をベースに、フリフリがかわいくあしらわれているアイドルコーデでした。これならイケる!

 武道館を満員にした伝説のアイドルグループ達のように、ボクを見に来てくれた萌え豚さん達に、サイッコーの時間をお届けするッ!!

 

 

「みーんなー!! 今日はボクのライブ、めいっぱい楽しんでいってね?♡♡」

 

「「「「「「「くーーーーーー!!!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 歌はオリジナル、カバー、隔てなくやった。猫達は、ボクに魅力されて、うちわやらサイリウムやらを振る。モチロン、『撃って♡』と書かれたうちわを撃つみたいなサービスもアイドルとして忘れません!

 人間のお客さんは一人も見えませんでしたが、それでも猫達は人間のお客さんのように熱狂している。萌え豚に種族の境はなかったんですね!!

 

 

 

 

 そして、何曲やったか分からないくらいに歌い踊って、そろそろ休憩したいなーって思った時。

 

 

 

 ふと横を見たら、何故か苺香さん以外のスティーレのメンバーがいました。数人知らない顔がいますけど。

 

 ―――しかも、美雨さんが拳を振り上げている。あ、あれはまさか……腹パンの構え!!

 美雨さんのイイ笑顔が、「このままライブを続けてたら、()()()()()()()()()()()()()()」って言ってます! な、なんとか上手いこと切り上げなくては!!

 

 

 

 

「い、以上をもちまして、『神崎ひでり・ウルトラフェスタライブ 午前の部』を終了します! 午後の部も、ひでりんの魅力に集まってね♡」

 

「「「「「「「くーーーーーー!!!」」」」」」」

 

 

 

 よし! 我ながら上手く行った!

 あとは、舞台袖に一目散に走っていって―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐふぅっ」

 

 そして、ボクのおなかに美雨さんの拳がポスンと。

 

 

「あっ………腹パン……腹パンやめてください……っ

 あっ……………うっ……………」

 

「なにが『午前の部』なんですか? 午後もやるつもりでしたか? ひでりちゃん???」

 

「ご、ごめんなさい……!」

 

 

 仕方ないじゃないですか! 区切りをつけるって形で舞台からいなくならないと、アイドルとしては不祥事なんですよ!

 そういう『ステージ上のミス』は熱愛報道や裏接待みたいなスキャンダルほど致命的じゃあありませんが、時にはイメージダウンにも繋がるんですよ!!

 

 

「はううううう〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!

 さ、流石はひでり様………サービス精神半端ないです………!!

 ひでり様の生ライブですぅ〜〜〜………………!!!!!!!!!!!!!!」

 

 ほら、イメージを大事にした結果がこれです! ボクのファンと思われる赤い髪の女の子すら悩殺できるんです! 萌え豚野郎なんてイチコロですよ!!

 

 ……だから美雨さん、腹パンをやめてくださいお願いします。

 

 

 

 

 

 ボクが赤髪の女の子の日記にサインをあげて、場が一段落ついたところで、星の髪飾りをつけた女の子―――きららさんが、自己紹介と共に今のボクの状況について教えてくれました。

 

 

「エトワリアに…オーダー、ですか。

 どうりで、ボクのライブに人間のお客さんがいなかったワケです。」

 

「……他のメンバーは敵に囲まれたり殺されかけたり捕まったりしてる中で、一面の敵相手にライブなんてイチバンたくましいわね」

 

 麻冬さんが呆れたジト目でこっちを見ています。まぁまぁ、夏帆さんも麻冬さんも無事で良かったじゃないですか! そりゃ、日本よりも治安が悪いのはひでりん怖いけど……

 

「それで……ひでりさん。皆さんを元の世界へ帰すためについて来てくれませんか?」

 

 きららさんはボクに手を差し出す。こっちの世界でもう少しアイドル活動したかったんですが、仕方ありませんね。

 

 

「ボクだって、世界が壊れるのは望みません。それに、苺香さんがまだ捕まってるんでしょう? ボク達全員が元の世界へ帰れないと、色々心配ですからね」

 

 特に店長が。店長は苺香さんの事が大好きですからね。今でもかなり心配なんじゃないですかね?

 店長に目を向けると、どういう訳か目をそらす。そんなゴマカさなくってもボクにはわかってますってー。

 

 

「……これで6人。あとは苺香さんだけですね。」

 

「はい。そして、苺香様は捕らわれている、らしいですね……」

 

「そうだね。後は、苺香と一緒にいる可能性の高いビブリオだけど………」

 

 ビブリオ。ボク達スティーレの店員全員を「オーダー」したと思われる、悪徳商人と聞きました。豪華な服を身にまとい、膝で猫を撫でている太ったオジサンをイメージさせられますね。

 

 

「―――ああいう手合いは思いつく中で一番汚い手を想定するべきだ。実際は更に上をいくことが往々にしてあるからな」

 

「「「「「!!!!!」」」」」

 

 

 突然会話に割って入ってきたのは、黒いスーツに見を包んだ、ライトグリーンのはねっ毛にオレンジとゴールドのオッドアイの男性でした。顔は黙ったままの店長並に整っています! イケメンです!

 

 

「ローリエさん、クロモン達は?」

 

「大方片付いたよ。助っ人が頼もしすぎた」

 

「それはどうも」

 

 ローリエさん、謎多き賢者とさっきの説明で聞きました。このイケメンさんがそうなのか、と顔と名前を一致させてると、彼の後ろから小柄な茶髪少女が現れました。ボクより背が低いのに出るとこ出てます。ズルいです。

 

 

「そっちの女の子は誰だ?」

 

「初めまして、八賢者ローリエ助手を勤めています、アリサと申します」

 

「アリサさんとローリエさんですね。ボクはスティーレのアイドル、神崎ひでりです。ひでりんって呼んでね?♡」

 

 ボクも初対面なので自己紹介をしておく。萌え豚どもを落とす研究をし尽くしたこの動き・声色・アイコンタクト。イケメンなローリエさんもこれで流石に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうっふ」

 

 返事はソフト腹パンでした。

 

「あっ………腹パン…やめてください………

 腹パンはやめてください………………」

 

「やかましい。黒髪女子に生まれ直して髪型ツインテにして『にっこにっこにー』を習得してから出直しな」

 

 チクショウ!! 黒髪ツインテとか「にっこにっこにー」とかよく分からないけど、男だって見抜かれてやがる! ボクのどこが駄目だったんだ!!?

 

 

「ローリエさん、そのくらいに」

 

「わ、悪い。さっきの自己紹介、ちょっとイラッとしちゃったからつい」

 

「分かります。ローリエさんがやってなかったら私がやってました〜」

 

「美雨さん!!?」

 

 

 そこまでダメだったんですか!? ううん、異世界に来て、ライブを終えた後だから調子狂ってるのかなぁ?

 

 考え事をしているうちに脱線しかかってた話が戻ったみたいだ。なんでも、汚い手を予想しておけって話だったけど……

 

 

「汚い手を想定しておく……?」

 

「例えば、ヤツは苺香ちゃんが手元にいるから、彼女を人質に取る事が出来る。それで動きを封じられたら十分にピンチだ。」

 

「そうですね。人質を取られた時の対処法を考えておくなら、それがいいかもしれませんね」

 

「苺香サンが人質とか考えたくありまセンが………」

 

 

 なるほど。ボクのイメージしていたビブリオって、案外正解に近かったりするのかな……

 

 人質もそうだけど、エトワリアには魔法があるんですから何でもアリなんじゃあないですか? 例を挙げるなら―――

 

 

「人質を利用して攻撃してくるとか、ですかね?」

 

「もっと考えたくありまセン!!!」

 

「いいぞひでりくん、その調子だ」

 

「ローリエサン!!?」

 

 

 どうせならこんなことよりも容姿の可愛さやダンスの振り付けとかを褒めて欲しかったです………!

 このことを振り返った感想ですけど……正直、思いついた事は何でも言ってみるものだな、って思いました。




キャラクター紹介&解説

日向夏帆
 ローリエの立場に困惑しつつも、自分が体感したローリエの優しさを信じたいと決意する女子高生兼前半の語り手。最初はローリエに戸惑っていたものの、救ってくれた事を彼女なりに恩義を感じている。

ランプ
 夏帆の体験談と秋月のやり取りを聞き、苺香の危機がきららのパス反応によって確実なものと知って、苺香を救うべく前を向いて清濁合わせ飲む事を知るきっかけを得た女神候補生。今回は問題が解決するまで先送りという形になっていて、いちおう今回はローリエを敵じゃないと認めたが、スティーレの皆様を帰した直後にローリエを質問攻めにするつもりでいる。ちなみに、ひでりの直筆サインが書かれた日記帳は、のちに聖典的価値が急騰する。

神崎ひでり
 他のスティーレのメンバーがことごとくピンチに陥る中、そんな事はつゆ知らずに個人ライブと称して好き放題やっていた男の娘。その結果、持ちネタのソフト腹パンを美雨とローリエから貰うことになる。ライブで歌っていた曲名の元ネタはひでりんの中の人が歌うシングルから。

天野美雨
 腹パン担当お姉さん。彼女がひでりんを腹パンするくだりは「ブレンド・S」を愛する者として必須と考えた。つまり書きたかっただけ。



黒髪ツインテ&「にっこにっこにー」
 元ネタは言わずと知れた初代「ラブライブ!」の矢澤にこ。彼女の中の人がひでりんと同じであることから、リアルイベント「ブレンド・FES」でも秋月君の中の人にイジられていた。


△▼△▼△▼
ローリエ「ひでりくんもきららちゃんたちによって回収された。あとは……囚われの苺香ちゃんを残すのみ。」

きらら「私達は、苺香さんのパスの場所―――『イモルト・ドーロ』の最上階へ向かいます。」

ローリエ「そこには、果たして苺香ちゃんとドデカいデブ男―――ビブリオがいた。」

きらら「そしてやってきた私達に、ビブリオの悪意が向けられる。」

次回『悪徳商人ビブリオ』
ローリエ「決して、見逃すな。」
きらら「次回を…お楽しみに。」
▲▽▲▽▲▽


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第46話:悪徳商人ビブリオ

きららファンタジア参戦記念とはいえ幸腹グラフィティが期間限定で3巻まで無料で読めるの、太っ腹すぎませんかね?川井先生に感謝しなくっちゃ。



“私はこの旅でいろんなことを学びました。それは、クリエメイトの皆様のような素晴らしい点だけではありません。―――ヒキョウで、許せないと思える人間のきたない一面もです。”
  …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


 ひでりくんを保護したきららちゃん一行とスティーレの皆は、どうやら俺達を一時的に仲間と認識したようであった。

 そして、とうとう最上階のドアの前に辿り着いた。金と赤のクドいくらいに派手な装飾からビブリオの趣味の悪さが伺える。

 

「鍵がかかってますね……」

 

「ちょっといいか? 俺が吹き飛ばす」

 

 袖から蟻を取り出し、地面に置く。蟻たちは、ドアの鍵部分と蝶番(ちょうつがい)の中に入っていく。

 

「みんな、ドアから離れて、耳を塞いで。今から()()()()()()()()()

 

「え、ちょ、まさかさっきのアリが……」

 

「そう。()()さ」

 

 左手でスイッチを押す動作をすると、爆音が鳴り響く。ドアを見れば、黒焦げになったドアが、ゆっくりと部屋の奥へ倒れた。

 

 蟻型小型爆弾・ニトロアント。

 基本的にはG型魔道具とほぼ同じだが、俺のスイッチを押す動作で爆発する魔道具だ。山道でるんちゃんやきららちゃんを吹っ飛ばしたのもコレだ。ちなみに最初名前を「甲冑アリ」にしようと思ったが、某有名なゲーム会社(スク○ェア・○ニックス)に怒られそうだから改名した。

 

 

「ドアが開いた!」

 

「突入します!」

 

 こじ開けたドアを確認した俺ときららちゃんを先頭に、部屋の中へ突入した。

 

 そこは、一言で言うなら和室だった。畳の床に洋風のソファや社長テーブルが置かれている上、一部ガラス張りの壁をしているので、ミスマッチ感半端ないが。おそらく、日本家屋で生まれ育った苺香ちゃんの影響だろう。

 

 そして……無駄に広いその部屋には、やはりというべきか、苺香ちゃんともう一人、目に優しくない装飾の服を着た、メタボリック体質の大男がいた。ほぼ間違いなくアイツがビブリオだろう。

 そして、俺達を待ち構えるように取り囲む、武装した人相の悪い男たち。17、8人はいるな。

 

「「苺香ちゃん(サン)!!」」

 

「……………………ぁ……!」

 

「よくもまぁ、ここまで来たんだぁぁぁな!」

 

 そして、苺香ちゃんは、やはり木の檻の中にいた。

 夏帆ちゃんとディーノさんの呼びかけに反応こそするが、なにか様子がおかしい。一体なんなんだ?

 しかし、こっちを見据えたビブリオはそれについて深く考える時間も与えてくれないようだ。

 

 

「このビブリオ様の崇高な『イモルト・ドーロ』に小汚い足で踏み込んできておいて、ただですむと思わないことだぁぁな!」

 

 苺香ちゃんに檻越しに薙刀を突きつけて続ける。

 

「この小娘に傷をつけられたくなかったら、武器を捨てて大人しくするんだぁぁな!!」

 

 

 そして……やはり、人質を盾にしてきたか。

 

「召喚士と賢者とやらの命を差し出せば、この小娘をオリから出してやらんでもないんだぁぁな! たぁだし! ほんの少しでも変な事をしたと()()()()()()()瞬間――この小娘のノドをかっ切ってやるんだぁぁな!!」

 

「ダンナぁ、こいつら殺すのはまだですかい?」

「こちとら早く金もらって帰りたいんでねぇ」

 

「まぁ待つんだぁぁな。コイツらにやられたら、折角の報酬も貰えなくなるんだぁぁな。言うことを聞けば、しっかり金は出してやるんだぁな!」

 

「ヘヘッ、それもそうだなぁ。」

 

 

「―――っ、そんな……!」

「なんて、汚い……!」

「卑怯よ!!」

 

「黙るんだぁぁな! そんなに小娘を殺してほしいのかぁ!!?」

 

 ビブリオと雇われた傭兵らしき男達の厭らしい笑い声に、ランプが悲痛な声を漏らす。

 想像はしていたが、あまりに卑劣な手段にきららもマッチも、スティーレのみんなも、怒りの籠もった眼差しでビブリオを睨む。夏帆ちゃんや麻冬さんが抗議したくなるのも分かることだ。

 

「おーら、早くしろ9人と1匹! この小娘が死んでも良いのか!?」

 

 しかし、ビブリオに煽られるようにそんな脅しをされてしまっては、クリエメイト達は言うことに従わざるを得ない。ディーノさんはランスと盾を、秋月くんは日本刀のような出刃包丁を、夏帆ちゃんや麻冬さん、美雨さんやひでりくんも持っていた武器を地面に捨てていく。

 

 しかし……俺ときららちゃんは、武器を捨てない。

 

 ここで武器を捨てようものなら、苺香ちゃんを助けることが出来なくなってしまう。クリエメイト達はそもそも戦うことができないので捨てようが捨てまいが問題ないのだが、俺達は違う。

 俺の強みは相手の未知な武器と手札の数であるから、自らそれを見せるような真似はしない。きららちゃんも、『コール』の力は無闇やたらに見せたりはしないだろう。―――それに、お互い形は違うとはいえ世界の命運を背負っている身。ここで命を差し出す訳にはいかない。

 

 

「おい、そこのお前とお前!! 早く武器を捨てるんだぁぁな! じゃないとこの小娘をぶっ殺すぞ!?」

 

「……よく言うよ。どっちにしろ僕達を殺す気しかないくせに。」

 

「あ゛ぁん!!!? なんか言ったかクソ猫ォッ!?」

 

 ぼそりと呟いたマッチの言うことは思い切り的を射ている。今ビブリオが行っているのは成立した取引などではない。たちの悪い脅迫だ。言うことを聞こうが聞くまいが、『全員殺す』という結論ありきの言動である。

 

 ビブリオに雇われた傭兵達が雇い主にも負けぬほどのゲスな笑みでじりじりと近づいてくる中で、俺は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ………!!?」

「ちょっと!!?」

「先生っ!!!!?」

「何やってるの、ローリエさんッ!?」

 

 

 一歩、前へ出た。

 

 

「おいおい、雇い主の話聞いてなかったのか!?」

「あーあー、あの小娘死んだな! この男もだけど!」

「テメエから死にてぇってことだな!?」

 

「………話を聞いていたのかぁぁな? 変なことをしたらどうなるか分かっての行動なのかァァァァァなぁ!!!!?」

 

 

 傭兵達が嘲笑い、ビブリオが勝ち誇る中、俺は言葉を発した。

 

 

 

「………そんなシャバい脅しが八賢者に通用するかどうかはテメー自身がよく知っている筈だ。

 筆頭神官アルシーヴ……他でもないテメーを一度逮捕した女だぜ。」

 

 他にカルダモンか、セサミか、フェンネルか、誰が出向いたかまではまだ分からないが………ともかく、そんな子供の癇癪みてーな脅迫だけで勝てると思うなよ。

 

 

「やめれば許してやる。……だが苺香ちゃんに手ェ出した瞬間…テメーの命も取る………!!!」

 

「ちょ、待ってくださいローリエサン!! あまり挑発しては苺香サンが……!」

 

 

 ディーノさんの言うことは正しい。この絶体絶命の盤面、彼にとっては俺が悪手を打ったようにしか見えないだろう。流石の俺もルーンドローンをいま起動させたところでこの状況を打開するのは難しい。

 

 

「……ぶっっっ殺してやるんだぁぁぁな!!!!」

 

「やってみろッ! ()()()()()()()なッ!!」

 

 

 ―――そう、一人ならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごっぱァァ!!?」

「ぐうっ!? があああぁぁぁ!!?」

「ギャアアァァァァアアア!!?」

 

 

 まず、苺香ちゃんを刺そうとしたビブリオは、()()()()()()()()()()()()()()()()の数々を顔面に食らい、盛大に頭を爆発させながらノックバックした。

 俺は素早く非殺傷(ぷにぷに石)弾を込めたパイソンとイーグルの二丁拳銃の早撃ちで傭兵二人を攻撃。動きを止めて蹴り倒し。

 残った傭兵達は()()()()()()()()()()()()()をくらい、不意を突かれて大きく体勢を崩した。

 

 

 スティーレの皆は敵勢が大きく体勢を崩した原因を探るべく周りを見渡して―――

 

「見てくだサイ! 外にドローンが!」

「アリサさん……そこにいたのですか?」

 

 不意打ちの為に建物外を浮遊していたルーンドローンと入口に隠れていたアリサを見つけ出した。

 そう。さっきの突入、バカ正直に全員突入した訳ではない。アリサには待機して貰い、相手が勝ちを確信・もしくは怒りで冷静さを失ったところで風魔法で吹っ飛ばしてもらったのだ。

 

 

「アリサ! きららちゃん!」

 

「了解…!」

「えっ!? あっ、はい!」

 

 

 一瞬のうちに出鼻を挫かれたビブリオ側に呆気に取られているきららちゃんに声をかければ、『コール』されたくるみちゃんとあおっち、乃莉ちゃんが出てきて、つむじ風のような剣の一閃と雪だるまが起こす吹雪が巻き起こる。クリエメイトの強大な力に、傭兵たちは再び吹き飛ばされ、たじろいだ。割れた大窓から転落する傭兵も2人ほど見受けられたが誰も気づいてないと思いたい。

 

 きららちゃんが呼び出した乃莉ちゃんとくるみちゃんが苺香ちゃんとビブリオの間に入り、あおっちが魔法で撹乱しつつ、俺ときららちゃん、アリサがクリエメイトに近づく傭兵を一人ずつ薙ぎ倒していく。

 

 

「おいビブリオさん! こんなの聞いてねぇぜ!? 相手が強すぎる!」

「そうだ!この仕事降りさせて貰うぜ!」

 

 そうして降りかかる火の粉を振り払っていくと、傭兵の何人かはビブリオに声をかけ、逃げ出し始めようとする。

 

「黙れ! このオラが雇ってやったってのに給料泥棒する気か!? 役立たずがッ!!」

 

「いや、でも――――ッ!!?」

「お、おいどうし―――っ」

 

 突然、ビブリオの手―――その、指輪、だろうか? が妖しく光った……気がした。あまりに一瞬だったからよく見えなかったけど。

 

「……命令だ。何に替えてもアイツらを皆殺しにするんだぁぁな!」

 

「「……………はい。」」

 

 逃げ腰だったはずの傭兵達が直立不動になり、ビブリオの命令を受けた途端まっすぐこっちに向かって武器を構えながら近づいてくる。その表情と足取りはまるで幽鬼のようで、生気が感じられなかった。

 

 

「味方を洗脳した……!?」

 

「洗脳………まさか、『サブジェクト』……!?」

 

 そんな風にこちらに向かってくる傭兵達は、みんな……目が赤くなっていた。

 ソイツらに向かって非殺傷弾を発砲する。当たりはするものの、さっきまでの傭兵達のように痛がる素振りもなく、武器を弾き飛ばしても傷んでいる手を気にすることなく得物を拾い、まるで効いていないかのように襲いかかってくる。これは、ランプの心当たりの通り、洗脳魔法を使われてる可能性がデカいな。

 

 洗脳魔法・サブジェクト。

 対象をほぼ物言わぬ傀儡にする魔法。この魔法を受けた人間の特徴として、目の充血・意識の朦朧・足取りの不安定などが挙げられるが、命令させれば本来のスペックを大幅に超える力を引き出すことも可能性である。存在が判明してすぐに準禁忌に指定されたため、詳細がいまだ不透明な部分が多い。

 

「地味に嫌なことしやがる……」

 

「なんて奴だ……!」

 

 うっかり愚痴が溢れる。マッチも少し悪態をついたようだ。痛覚を無視して戦わせる真似も出来るのか、ビブリオは……いや、多分指輪にその『サブジェクト』が起動する仕掛けがあるんだろうな。

 

 

「炎魔法で装備や体が焼けるのも厭わず向かってくる……!」

 

「アリサ、風魔法で吹き飛ばせ! そっちの方が有効だ!」

 

「わ、分かりました!」

 

 アリサが攻撃を風魔法に切り替えて傭兵を吹き飛ばしたのを見計らって、スキだらけのビブリオの左手にパイソンの照準を合わせる。そのまま引き金を引いて放たれた非殺傷弾はまっすぐビブリオの方へ飛んでいって――――――命中する目の前で、なにか見えない壁のようなものに弾かれた。

 

 

「………やっぱり対策してくるか……!」

 

「…さっきは油断したが、同じ手はもう食らわないんだぁぁな! この魔術師が生きてる限り、魔力のカベがオラを守ってくれてるんだぁぁな!!」

 

 頬の脂肪を震わせてビブリオは笑う。言われて見てみれば、確かにビブリオの影に誰かがいる。おそらく、さっきの顔面集中砲火で痛い目を見て学習したのだろう。ならばソイツをと狙おうとするも、ビブリオの肥満そのものな体に隠れている為、撃ってもまた防がれてしまうだろう。

 

 

「きらら! この檻、壊せるけどいいか?」

「お願いします、くるみさん!」

 

 

 召喚(コール)されたくるみちゃんが、きららちゃんのお願いで木の檻をバラバラにせんとシャベルを大上段に構える。

 

 

「その檻に手を出すんじゃねぇーーーーー!!!」

 

「おっと。ここから先には行かせませんよ!」

 

「邪魔するんじゃあねぇんだぁぁな! この人身商売のセンスを1ミリたりとも理解できねぇ偽善者が!!」

 

「口悪っ!!? 人身売買とか怖すぎでしょ!」

 

 

 勿論、ビブリオはそれを止めようとするが、ナイトの乃莉ちゃんがビブリオの攻撃を全て受け止め、または受け流してくるみちゃんの方へ攻撃を通せていない。

 

 

「ま、待て、そこのシャベルの娘! 金を…金をやるんだぁぁな! だから、それを壊すのは……!」

 

「おりゃあっ!!」

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーっ!!!!?」

 

 

 やがて、くるみちゃんの斬撃で木の檻がバラバラになり、苺香ちゃんを繋げている手錠の鎖を断ち切ると。

 

 

「やったッ! 苺香ちゃんを救い出せた!」

「はい、やりました! 流石です、きららさん!」

「苺香、こっちよ!!」

「苺香サ〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!!!」

 

 

 スティーレの皆とランプが喜びに湧き上がる。それと同時にビブリオが俯いたまま動きを止め、苺香ちゃんが両手を広げたディーノさんに向かって無言で走り出した。

 

 ―――そう、()()()。俺は、すぐさま苺香ちゃんとディーノさんの元へ駆けつける。

 

 

「えっ!!? まっ、まままま苺香サンっ!!!?」

 

 ディーノさんが彼女を受け止めると、まさか自分の方に走ってくるとは思わなかったのか、鼻血を出すまいと我慢しつつもテンパっている。そして、苺香ちゃんは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()かと思えば、そこから()()()()()()()()て……!

 

 

「っ、させるか!!」

 

「……っえい!!」

 

 それ以上行動させないように俺といつの間にか近付いてたのだろう、きららちゃんが苺香ちゃんを取り押さえた。

 手首を押さえられた彼女の右手には……白鳥のような姿の彼女には全く似合わない、コテコテに装飾された金色のナイフが。

 

 

「え…………!?」

 

「苺香、サン………? きらら、サン……?」

 

「ローリエ先生……………??」

 

 

 他の皆は、呆気に取られて何が起こったのか分からないという面持ちだった。………というよりも、ナイフを見て苺香ちゃんが()()()()()()()()()()を理解したくないという心情もあるのかもしれないが。

 

 

「…………ビブリオ。テメェ、()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 その質問でアリサときららちゃん、そしてランプが息を呑む。

 

 

「………はぁぁて? なんの事か分からないんだぁぁぁな??」

 

「とぼけるなよブタ野郎。ディーノさんに刺そうとしたナイフと苺香ちゃんの()()()()。何が起こったのかは丸わかりなんだよ……!!」

 

 

 その宣言で、マッチやクリエメイト達が信じられないものを見る目でビブリオを見る。その目つきは、だんだん怒りを帯びていった。

 ……嫌な予想は当たるものとはよく言われていることだが、今回ばかりはこの予想は当たって欲しくなかった。

 ビブリオの舌打ちの音が聞こえる。

 

 

「……小娘。こっちに戻ってくるんだぁぁな。」

 

「……………はい。」

 

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

 

 苺香ちゃんが、ビブリオの命令を聞くと取り押さえていた俺ときららちゃんを振り払って跳躍する。その動きは、おおよそ普通の女子高生ではなかった。

 

 

「今の小娘は、オラが『死ね』と言ったら死ぬ。普段なら出せない力で、躊躇なく自分のノドをかっさばくんだろぉぉな。」

 

 

 ビブリオの説明の中、確信する。苺香ちゃんには、すでにブタ野郎(ビブリオ)のサブジェクトがかけられてしまったのだと。

 

 

「命令だ小娘。

 ―――賢者を殺すんだぁぁな。勝てそうにないと判断したら、すぐにノドをかっ切っても構わん。

 

 オラは……こっちのガキ共をなぶり殺すッ!!」

 

「………………………………………はい。」

 

 

「そんな…苺香ちゃん……っ!」

「苺香………!!」

「苺香様、目を覚ましてください!!」

「正気に戻ってくだサイ、苺香サンっ!!!」

 

 俺の前には無表情でナイフを構える苺香ちゃんが。

 きららちゃん達の前には自身の薙刀を特大のモーニングスターを持ち替えたビブリオが迫る。

 

 今の苺香ちゃんは体のリミッターが全て外れている状態だ。元々の体力もなさそうだし、あんまり激しい動きはさせられない。彼女の体力が尽きたら、自害されるかもしれない。

 

 

 ………ビブリオは後で殺すのは確定として。

 さて。―――どうやって彼女を正気に戻そうか?




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 苺香救出に手を貸し、敵に不意打ちのファーストアタックを決めた八賢者。ビブリオに洗脳された苺香と戦うことになるが、戦力としては雲泥の差がある。しかし、傷つけられないクリエメイトであり、自害も防がなくてはならない為、今までで一番集中力を要する戦いを強いられることだろう。

桜ノ宮苺香
 人質だとおもったら洗脳され敵の伏兵にされた「ブレンド・S」主人公。体力や戦いの経験はきららやローリエと比べて格段劣るが、ビブリオの「サブジェクト」の影響でリミッターが外れている上、姉の事もあり日本武術の心得はありそう。しかも、傷つけないように、自害されないように戦わないといけないので苦戦は必至。

ビブリオ
 すごく汚い悪徳商人。作者自身、「吐き気を催す邪悪」とか「皆に嫌われるゲス野郎」みたいなキャラは初めて書く故、どこまで醜く書けたかは自信がないが、基本的な性格(金が一番・従業員は道具・少し馬鹿)が決まっているので、そこから嫌われる行動を弾き出して今回の話の行動を書いた。彼の言動にキレそうになったりキレたりした方が大勢いたら一応悪役としては成功だろうか?

きらら&アリサ&乃莉&恵飛須沢胡桃&涼風青葉
 ローリエと共に戦った呪術師&召喚士および召喚されたクリエメイト。初めて人(というよりモブ)と戦った訳だが、攻撃しても致命傷は与えず、いい感じで気絶させる補正みたいなものがかかっているのだろう。間違いない。

ランプ&マッチ&日向夏帆&星川麻冬&天野美雨&神崎ひでり&ディーノ&秋月紅葉
 ほぼ出番が与えられなかった被保護勢。正直悪いと思っているが、苺香救出に誰かが活躍するかもしれない。



ニトロアント
 ローリエの魔道具の一つ。基本的にはG型魔道具とほぼ同じだが、所持者のスイッチを押す動作(ジョジョ4部の吉良を連想すれば分かりやすい)で爆発する魔道具。数によって爆発の威力が変わる。

『サブジェクト』
 対象をほぼ物言わぬ傀儡にする洗脳魔法。この魔法を受けた人間の特徴として、目の充血・意識の朦朧・足取りの不安定などが挙げられるが、命令させれば本来のスペックを大幅に超える力を引き出すことも可能性である。存在が判明してすぐに神殿によって準禁忌に指定され、使用を忌避されたため、詳細がいまだ不透明な部分が多い。



△▼△▼△▼
苺香「…物心ついた時から、分かっていました。私の目つきが、好かれていないことは。」

苺香「独りになったわたしは……わたしなりに変わろうとしました。変わらなければならないって思っていたのかもしれません。」

苺香「でも、あの人だけは違いました。あの日のことは、昨日のことのように思い出せます……」

次回『ポジティブ・レボリューション』
苺香「次回をお楽しみに……」
▲▽▲▽▲▽


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第47話:ポジティブ・レボリューション

“――なにジロジロ見てるんですか? この駄犬”
 …桜ノ宮苺香


 目の前で起こった光景に、全く理解が追いつかなかった。行動ができたのは、救出したにも関わらず苺香さんのパスが不安定でおかしかったからで。

 

 

「今の小娘は、オラが『死ね』と言ったら死ぬ。普段なら出せない力で、躊躇なく自分のノドをかっさばくだろぉぉな。」

 

 

 感情が消え去った表情と赤い瞳でこちらを見つつ、ナイフを構える苺香さんを見ても、目の前のビブリオという人が何をしようとしているのかが理解出来なかった。

 

「命令だ小娘。

 ―――賢者を殺すんだぁぁな。勝てそうにないと判断したら、すぐにノドをかっ切っても構わん。

 オラは……こっちのガキ共をなぶり殺すッ!!」

 

 ビブリオの命令と共に、苺香さんがローリエさんに襲いかかる。ローリエさんは、彼女の刃に当たらないように、かつ彼女を消耗させないように攻撃を受け流す。

 苺香さんのナイフの使い方は、素人そのもの。ただひたすらに急所を狙っているようで、分かりやすい。ただし、普通のクリエメイトが繰り出すよりも素早く攻撃しているからか、二人の戦況は硬直状態にある。おまけに、自分の首にナイフをつき立てられないように気を配らなければならない。

 

 

「きらら、前!!!」

 

「―――っ!!」

 

 マッチの声にすぐさま乃莉さんと一緒に防御態勢を取る。

 ――直後、大きな棘つきの鉄球が、乃莉さんの盾に食い込んだ。

 

 

「ううーーーっ……!!」

 

「くっ……!!」

 

「うおおおおおおらァァァッ!!」

 

 くるみさんがビブリオに攻撃するも、直前で弾かれてしまう。

 

 

「チッ……! 青葉!」

「駄目です! 魔術師もバリアの中にいます!」

 

「無駄だ! オラが雇ったこの魔術師がいる限り、オラに傷はつかねえんだぁぁな!!」

 

 確かに、魔術師のバリアが攻撃を防いでいるせいで、こちらからの攻撃はほぼ通用しない。

 

 

「きらら、あんなハイクオリティのバリアをずっと出し続けられると思うかい?」

 

「マッチ?」

 

「……あ! あの魔術師、目が赤いです! つまり、洗脳されて力を使い続けてるということ………!?」

 

「あぁ。『やめろ』と命令しない限り、あの魔術師は倒れるまであぁやってバリアを出し続けてるだろうさ。」

 

「だからどうしたんだぁぁぁぁな、このクソ雑魚どもが!!」

 

「させない!」

 

 

 ヒントをくれたランプとマッチ。二人の間に割って入って、魔力のバリアでビブリオの攻撃を弾く。

 

 

 ……それにしても。

 

「傭兵さん達といい苺香さんといい、みんな『サブジェクト』で無理矢理従わせて……人をなんだと思ってるんですか!」

 

「ガキが、偉そうに説教か!? なら教えてやるんだぁぁな……………人は、自分(オラ)がのし上がるための道具だ!踏み台だ!!かませ犬だ!!!」

 

 

 乃莉さんと一緒に盾でモーニングスターの猛攻を弾いていく。

 

 

「人間、腹の底で何考えてるか分からねぇだろ!? だったら使い倒して、踏みつけて、二度と歯向かえねぇように調教する! それが()()()()()()使()()()なんだぁぁな!!!!」

 

 

 

 

 ――――――プチン、と。

 

 

 不快な程に大笑いするビブリオの言葉は―――私の中の何かを断ち切った。

 

 

「―――っ!!

 あなたみたいな人を……許すわけにはいかない!!!」

 

 

 全身の血液が沸騰したみたいに熱くなる。まるで、砂漠で男盗賊と戦ったときと同じみたいだ。

 それに呼応する形で、体が軽くなったような気がした。

 

 まっすぐビブリオに向かうと、いつもより早く走ることが出来ている事に気づく。

 

 

「バカめ、ぶっ潰れるんだぁぁな!!」

 

 

 ―――私に襲いかかる鉄球が、何だか遅い。

 

 

「「「!!?」」」

 

 

 最低限の動きで躱せば、ビブリオだけでなく、ランプやマッチや、『コール』した三人も驚いた顔をしていることに気づく。

 目の前のビブリオの顔を蹴ってみれば、直前でなにかに止められた感覚こそあるものの、ビブリオをよろめかせることに成功していた。

 

 

「なっ……!? なんなんだァァァな今のはッ!!?」

 

「きららさん、今……!」

 

「え?なに? 何かあった、かな?」

 

「……物凄いスピードでビブリオに近づいていってたよ。目で追えなかった。いつの間にそんな技を覚えたんだい?」

 

 

 着地してからランプとマッチに聞けば、そんな風に返ってくる。

 目で追えないスピード? それって、まるでカルダモンみたいだ。

 私自身、自分を強化する力なんて心当たりがない。でも、もし今この場で覚えたのであるならば、これ程心強い力はない。

 

 ソルト戦から、私が言われていたことだ。『コール』だけでは、私自身が無防備になってしまう。それを解決できるかもしれないからだ。

 

 

「ディーノさん! こっちへ来てくれ!」

 

 

 そんなことを考えていると、思わぬ方向からディーノさんへ声がかかる。声の主を見てみれば、それはローリエさんだった。苺香さんの持っているナイフをはたき落とし、明後日の方向へ蹴り飛ばしながら、新たにナイフを取り出そうとしている苺香さんの動きを警戒している。

 

「どうして!?」

 

「苺香ちゃんを救える可能性がある!」

 

 麻冬さんが問えば、まるで確信を得ているかのように答えが返ってくる。ローリエさんにとって、ディーノさんが苺香さん奪還の切り札に見えるのだろうか。

 

 

 

「………ディーノさん、お願いします」

 

 

 私も、ローリエさんの考えには賛成であり、同意見です。何故なら……パスが、そう伝えているから。

 相変わらず感覚的な話になっちゃうけど……苺香さんとディーノさんの間には、特別な絆がある、ように思う。その力ならば、もしかしたらビブリオの『サブジェクト』をも何とかすると思ったから。

 

 

「えええええっ!!? 本気デスかきららサン!? わ、ワタシにはそんな……」

 

「行ってやれ店長。桜ノ宮を救えるチャンスなんだぞ?」

 

「苺香さんが大好きな店長ならぁ、愛の力でなんとか出来るんじゃあないですか〜?」

 

「店長ならできるって!」

 

「しゃんとしなさい、店長。男でしょ?」

 

「応援しています、店長!」

 

 最初は渋っていたディーノさんでしたが、秋月さんやひでりちゃん、夏帆さんや麻冬さんや美雨さんが背中を押してくれる。

 

 

「―――分かりマシたよ、行ってきマス!! 苺香サンを取り戻すために!!!」

 

 

 そんな声援に勇気を貰ったのか、ディーノさんは苺香さんとローリエさんの元へ走り出した。

 

 

「させるかってんだぁぁ―――ぬおおっ!?」

「あなたの相手は私です!!」

 

 もちろん、ビブリオが邪魔しようとするのは想定内。さっきの強化の魔法とクリエメイトの攻撃で、少しでも注意を逸らします。

 

 

「オラの、邪魔をっ、するなぁぁぁ!!」

 

「それは……こっちの台詞ですッ!!」

 

 ディーノさんが勇気を振り絞って苺香さんの元へ駆けつけていくのを、こんな人間に邪魔されたくない。

 

 その一心で、目の前の巨漢に何度も攻撃を仕掛けていく。

 攻撃といっても、ダメージは与えられなくていい、ディーノさんに攻撃が飛んでいかないように、攻撃するふりをして防御であったり注意を逸らしたりするタイプのものだけど。

 

 

「そらっ、最後の一本! 今だ、ディーノさんッ!!」

 

 やがて、ローリエさんのその声が聞こえる。

 ビブリオのモーニングスターを弾き飛ばしてから声のした方を見れば、ディーノさんが苺香さんの元まで辿り着き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「苺香サンっ!!!」

 

 

 最後のナイフを手放されて、無防備になったのであろう苺香さんを抱きしめていました。

 

 それと同時に、ビブリオが指輪だらけの左手を苺香さんにかざす。

 

 

 

 

スティーレ(ワタシ達)には貴女が必要です、苺香サンっ!!!」

道具(お前)は黙ってオラに従えぇぇッ!!!」

 

 

 二人の男性の声が、部屋に響いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 そこは、今までで見たことのない、生まれ育った日本家屋とはまるで違う、洋画のような世界でした。

 白と金色と赤色が上品に彩られた洋室の中、わたしはただ椅子に座り、目の前の紅茶から立ちのぼる湯気を見ている。何度か席を立とうと思いましたが、席を立つ理由がどうしても思い出せず、立ってもすぐに席に座ってしまいます。

 そこに、突然謎の音が入り込んできました。

 

 

あるところに、ひとりの女の子がいました。

 

 

 同時に、前方にモニターが現れ、映像が流れ出しました。

 それは、ひとりの女の子の物語でした。わたしはそれを、映画でも見ているかのような気分で見ていました。

 機械的だけれども、どこか温かいような声が、子供に絵本を読み聞かせる母親のように語りかけます。

 

 

女の子は和の伝統あふれるおおきな家で、蝶よ花よと育てられました。

 でも、女の子に友達はできませんでした。…それは何故でしょう?

 

『あの、■■■■■■さん……その顔は……』

 

『怖い、ですか? 笑顔のつもりですけど……』

 

『うっ…!』

 

【―――そう。その女の子は…目つきがとても悪かったのです。

 

私も仲間に入れてください!

 

『ひっ……ご、ごめんなさぁぁぁぁぁい!!』

 

『ええっ!?』

 

あまりに怖い目つきに、友達はみんな怯えてしまい…

 

『すげー! ■■■■■■の髪、静電気やべーぞ!』

『タワシウニだ!』

 

『ど……どうしてそんなことを言うんですか?

 

『ギャアアァァァアアアアアアアアアアアア!? 怖ええええええええ!!!』

『メデューサだ! タワシウニじゃなくてメデューサだ!! いやあぁぁぁぁぁ!!』

 

いじめっ子達も、その目つきに一言添えるだけでみんな逃げていきました。野良猫さえも、表情ひとつで逃げられる始末。

 

 

 ただ、物語の主人公になっている女の子に何となく見覚えがあるのが気になります。名前が聞き取れないのと顔と表情以外が真っ黒なシルエットになっているのもあり、どうして親近感が湧くのかがいくら考えても分かりません。

 

 

そんな彼女にも、夢がありました。

 海外旅行に行くことです。

 お金はありましたが、独りで何もできなくなる事を恐れて、自分でバイトをすることを決意したのです。

 

 

 そこからシルエットの少女は、バイトの面接を次々に受けていきます。

 ですが……なんと言いますか……。唯一見える目や口、その表情が、お世辞にも「爽やか」とは言えなくて、面接官さん達を威嚇しているように見えてしまいます。そんな面接時の表情が祟ったのか、結果はいずれも好ましいものではありませんでした。

 

 

来る日も来る日も、バイトの面接に落ちる日々。しかし一つの出会いが、それを変えました。

 

 

 その女の子は、バイトの面接に落ちたためか、ため息をひとつつきながら、喫茶店の窓を鏡代わりに目つきを見ながら悩んでいました。

 すると突然、喫茶店から金髪の男性が飛び出てきて―――

 

好きデス!!!

 

『えええええええええええええええっ!!!?』

 

 

 鼻血を出しながら女の子に告白したところで、フィルムが燃え尽きたかのように映像が消えました。

 なんだか微妙なところで映像が消えてしまって、不完全燃焼のような気持ちを味わいながらも、何か大切なことを忘れてしまっているような気がする。そう思っていると。

 

 

 

 

 

『外で大事な人が待ってますよ』

 

 

 どこからともなく私を呼ぶ声がしたのでそちらを向くと、そこには黒髪の和服美人がいました。

 

 

「…どちら様でしょうか」

 

『それはないでしょう!? 共に過ごした家族じゃありませんか!』

 

 

 家族。そう言われましても、こんな綺麗な身内なんていましたっけ―――

 

 

 

『桜ノ宮愛香(あいか)。苺香の姉ですよ』

 

「あっ――――――」

 

 

 和服美人が、わたしに抱きついてきました。その時に鼻をくすぐった香りや、不思議な温かさ。そして、愛香・苺香という名前。全てを体感した瞬間―――

 

 

 

 

 

 ―――じわっ、と。

 今まで忘れていた記憶が、脳裏に染み付くように蘇ってきました。

 

 

『さっきの物語は、今まで苺香が経験してきたものですよ』

 

 生まれてからの記憶。

 目つきで怖がられた記憶。

 髪の毛の静電気に関する、思い出したくないトラウマ。

 

『いやな記憶もあるみたいですけど、それ以上に良い記憶があるはずです』

 

 元気が貰えるような夏帆さんとひでりちゃんとの記憶。

 頼もしい先輩である麻冬さんや秋月さん、オトナな美雨さんとの記憶。

 店長さんとの出会いや、思い出の数々。

 

 すべてが戻ってきて、ようやく思い出せました。

 私が、スティーレのホールスタッフの()()()()()だという事に。

 

 

「お姉さん……!」

 

『思い出せたみたいですね? さぁ、戻ってあげてください。あなたの店長さんがそれを望んでいます』

 

「あの、どうして分かるんですか、私がここにいる事……?」

 

『私が「苺香が思う桜ノ宮愛香」だからです。厳密には愛香そのものではありませんが……私のこと、大事な家族と思ってくれてたんですね』

 

 

 お姉さんの言ったことはよく分かりませんでしたが、わたしは戻らなければならないみたいです。

 でも、テーブルと椅子と紅茶以外が気がつけば消えてしまって、周囲が真っ暗になっています。このままでは、どこへ行けばいいのかわかりません。

 

 

 

スティーレ(ワタシ達)には貴女が必要です、苺香サンっ!!』

 

「あっ………店長さんの声……!!」

 

『さぁ、声のした方へ行きましょう。椅子から立って歩くだけですよ』

 

 

 お姉さんが差し出してきた手を取ると、不思議と椅子から立ち上がろうとする気力が貰えて、気がついたら椅子から立って、お姉さんに連れられて真っ暗な道の中歩き続けていました。

 

 

「お姉さん、ありがとう、ござい、ます………!?)

 

 

 

 どういうわけか、言葉が喉から出にくくなり始め、全身に力が入らず立つことが少し困難になった時―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅーん………?」

 

「苺香サン!!」

 

「へっ!?」

 

 

 ―――わたしは、店長さんに抱きしめられていました。

 

 

「えと…は……離れてくれますか?

 

ブハァッ!?!?!?!?!?

 

「「「「「店長ーーーーーーーッ!!!?」」」」」

 

 ちょっと息苦しさを感じたのでそう言ったら店長さんが倒れました……

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 やった!……のか? これ。

 ディーノさんが苺香ちゃんに抱きついたと思ったら、鼻血を吹き出してぶっ倒れた。

 

 はたから見ればディーノさんが死んだようにしか見えないんだけど。そんでもって心配しているであろう苺香ちゃんの表情も「大丈夫ですか?(笑)」みたいな顔にしか見えないんですけど。

 

 

 俺が苺香ちゃんと戦っている時に思いついたのは、ディーノさんの力を借りる、いわば「苺香サンの愛を取り戻しマス!(声マネ)作戦」である。

 ビブリオに操られている状態の苺香ちゃんの攻撃は、一言で言うなら「センスがあるだけのド素人」であった。愛香ちゃん(お姉さん)が薙刀を使っていたこともあってか、磨けば日本武道はそこそこ良い所行きそう。まぁ、茶道や華道の方が似合ってそうだし、本人は外国好きだけどな。

 そんな素人の攻撃をかわしたり受け流したりするのは俺からすれば簡単。ジンジャーの猛攻の方が5000兆倍はキツかった。完成された武道の動きの瞬間火力が頭おかしいんだもん。カルダモンとフェンネルまでジンジャー側で参戦した時は地獄を見たね。

 

 ……話を戻そう。作戦内容というのは、俺が苺香ちゃんから武器をすべて取り上げる事から始まる。突き出してきた手からナイフを叩き落としたり、新たに取り出したナイフをしっかり持たれる前に叩き落としたり、隠し持っているナイフの予備(ストック)を奪い取って明後日の方向へ投げ捨てたりする。

 攻撃もそうだが、自害にも気を配らなければならなかったので精密な魔道具を組み立てる時以上に気を遣った。ゆえに、武装解除させる過程で苺香ちゃんの色んなところを触っちゃったのは勘弁してほしい。そんな余裕なかったし。

 で、次にディーノさんを呼んで、苺香ちゃんと対話させる。『サブジェクト』の解除条件はおそらく二つだ。

①術者の無力化あるいは魔道具の破壊。

②術をかけられた本人が精神的に解除。

 ①が魔術師バリアがあって不可能であった以上、②一択での解除となるが、これが途轍もなく難易度が高いと思われる。自力での脱出はほぼ無理だろう。故に、苺香ちゃんがスティーレで働くきっかけを作った店長(ディーノ)さんに助力してもらおうと考えたのだ。

 

 ディーノさんがこっちに来る際、ビブリオが邪魔してきたが、きららちゃんがそれを阻止する。その時点で、もしかしたら上手く行くのではと思った。

 『サブジェクト』を使うビブリオが苺香ちゃんの元へ向かうディーノさんを邪魔しようとしたということは、「もしかしたら洗脳を解かれるかもしれない」とほんの少しでも思ったからだ。

 

 

 

 ―――そして、ディーノさんが苺香ちゃんに抱きつき「貴女が必要デス」と言った結果が……

 

 

「はぁぁ……苺香サン…………」

「店長さん! しっかりーー!!!」

 

 

 ……これである。何ともしまらない洗脳解除だったが、俺が両手で(マル)を作ってみれば……

 

 

「「「「「「やったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」」

 

 

 スティーレの店員とランプとマッチ、「コール」されたクリエメイトときららちゃんが湧き上がった。

 

 

「ありえない……ありえない……オラの『サブジェクト』が…あんな、あっさり………」

 

 皆が喜びに満ちる中ビブリオを見てみれば、そんな事をうわ言のように呟いている。そして、急に顔を上げ、左手の赤い宝石の指輪に右手で触れる。

 

 

「クソォッ!! こうなったら、召喚士達をこの『サブジェクト』で―――」

 

 

 すぐさまパイソンの引き金を引いた。ほぼ反射的であった。

 弾は魔術師のバリアに弾かれるかと思ったが、なんとバリアが起動することなく、ビブリオの左手の指と右の掌を貫き、指輪を弾き飛ばした。

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 手ぇ! オラの手えええええええええええええええええッ!!!?」

 

 

 豚のような悲鳴をあげるビブリオをよそに、『サブジェクト』のトリガーになっていたであろう赤い宝石の指輪を拾い、ポケットにしまう。これでもう、『サブジェクト』を悪用することは出来ない。

 魔術師はどうしたかというと、いつの間にか倒れていた。近づいて軽く診てみれば、重度のクリエ不足に陥っている。死ぬ一歩手前で本能がセーブをかけ、気絶したのだろう。医療機関で治療を受ければまだ助かる。運のいい奴だ。

 

 ……さて、と。

 

 

「な、なにしてるんだぁぁな! そこのお前! 早く立ち上がって、バリアを張るんだぁぁな!! さっさと……ひっ!!!?」

 

 ようやくコイツを料理できるぜ。まだ苺香ちゃん達の帰還問題があるけど、それもコイツから聞き出そう。

 

「俺の質問に答えな、ビブリオ。『オーダー』した苺香ちゃん達を繋ぎ止めている()は何だ?」

 

「そ、それを言えば、た、助けてくれるんだぁぁな?」

 

「いいから早く言え」

 

「小娘の手錠!! 小娘の手錠を壊せば……クリエメイトは元の世界へ戻れるんだぁぁな!!!」

 

 苺香ちゃんの手錠?と振り返ってみれば、確かにまだ苺香ちゃんの手首に何か金属質な手錠がついたままだ。きららちゃんに目配せすれば、彼女が頷き、苺香ちゃんに近づく。きっと、きららちゃんの魔力で壊してくれるだろう。

 

 

「い……言った! 言ったからた、助けて…助けてほしいんだぁぁぁなぁぁぁぁぁ……」

 

 

 ビブリオが土下座のまま何度も己の頭を叩きつける。

 俺はそれを、ただ無表情で……無の感情でそれを見ていた。

 考えているのは「何を言っているんだコイツは?」という呆れだけ。

 

 

「俺は最初に言ったはずだ。『やめれば許してやる。苺香ちゃんに手を出したら命を取る』ってな………」

 

「ひっ………!?

 か…金をやる。オラの持っている、金……ぜんぶ……

 だ、だから………」

 

「所詮は金だけの男か…」

 

 ビブリオの命乞いには耳を貸さず、ただ目を見てやれば、ビブリオは目を逸らした。でもそれで十分だ。

 

 ビブリオにパイソンを向ければ、クリエメイトたちの息を呑む声が伝わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、俺の視界に、誰かの手が映り、パイソンを持っていた俺の手を掴む。その人を撃つのは待てよ、と言っているかのように。

 

 その手の主を追うように顔を向ければ、そこにいたのは、意外というべきか、予想通りというべきか。

 

 

「………ディーノさん」

 

「ローリエサン。ちょっとだけ、ワタシのお話にお付き合い願えマスか?」

 

 

 ディーノさんはさっき苺香ちゃんのドSに見惚れていたのが嘘であるかのような、真剣な表情で俺を見ていた。

 

 

「……………いいけど、鼻血は拭けよ」

「えっ!? ……アハハハ、申し訳ありまセン」

 

 ―――けどほんとしまらないなこの人。




キャラクター紹介&解説

桜ノ宮苺香
 姉の愛香の記憶とディーノの声によって、洗脳状態から戻ってきたCV.和氣さんのドS担当。中盤の苺香がいた不思議な空間や自分の事を忘れていた事はいわば「サブジェクトの効果」のようなもので、それから解放されていくさまを苺香本人の視点から書いた。この解説なしで伝わった人はスゴイと思う。なお、今回のサブタイトルは苺香ちゃんのキャラソンから採用。

桜ノ宮愛香
 苺香の姉。苺香とは違いタレ目で優しげな印象を与えるが妹のことになると薙刀を取り出して和風ホラーの殺人鬼みが増す。また天然Sなところもあり、ディーノをお茶&煎餅責めにもした。
 拙作では苺香の『記憶』として登場。『オーダー』で呼び出せなかったぶん、ここで登場させることができて満足。

ディーノ
 苺香サン大好きなCV.前野氏のイタリア人店長。彼の声がなかったら、苺香ちゃんがどこへ行けばいいか分からず、記憶の中で迷子になっていただろう。喜べ店長、苺香サンが助かったのは店長のお陰だぞ。あと、ローリエに話があるようだが……?

秋月紅葉&神崎ひでり&星川麻冬&日向夏帆&天野美雨
 ディーノの背中を押したスティーレの店員たち。彼らの想いもまた、苺香救出に役立った。

きらら
 ビブリオへの怒りから自強化の魔法を覚えた原作主人公。自分の速度を重点とした加速魔法は、かの『最速の八賢者』を彷彿とさせる。これが、のちの『きららフォワード』である(アウト)。

ローリエ
 苺香絶対傷つけないマンとビブリオ絶対殺すマンを兼ねる主人公。今回ばかりは大真面目に戦った。その過程で苺香の太ももに装備されていたナイフの予備を奪って捨てたり、苺香の手首を握ったり、苺香の手を払ったりしたが、いつものローリエの意図的な行動ではない。違うよ。

でぃーの「なに苺香サンにべたべた触ってるんデスか!」
まふゆ「うわぁ……そういう目で戦ってたの?」
みう「良くないと思います」
あきづき「お前…」
きらら「えぇっ………」
らんぷ・ひでり「「さいてーですね!」」
ろーりえ「違うっつってんだろお!?!?!? 今回ばっかりは大真面目だわ!!!!!」
かほ「信用ないよねー、ろーりえさん」

ビブリオ
 金が全てだと思った結果がこれだよ! な悪徳商人。負の成功体験を捨てなかった報いがここに来たというべきか、因果応報というべきか。金だけを集め、人をこき使い、操ろうとまでした結果が皮肉にも誰もいなくなってしまったのは、定番の小悪党の末路に似たものがある。



ジンジャーとローリエの特訓
 第6話参照。といっても具体的な表記はなく、修行していたという手抜きも良い所な修行でしかなかったが、ジンジャーは基礎練を積んでから実践というやり方くらいは踏んでいそう。もちろん、体力がなかった頃のローリエにとっては地獄そのもの。なお、ジンジャー&カルダモン&フェンネルの組手で大地獄を見た模様。特にフェンネルは日頃の鬱憤を晴らすが如く容赦がなかったらしい(ローリエ談)。



△▼△▼△▼
麻冬「ビブリオを倒し、苺香の手にはめられた手錠もきららが壊す。そろそろ私達もエトワリアや、きららさんやランプちゃんやマッチ、ローリエさんやアリサちゃんにもお別れを言わないといけないわね。
 ……この世界のことはきららちゃん達が何とかするべき事。でも…もし、『コール』で呼ばれたのなら……協力くらいはしてあげるわ。」

次回『オーダー(ブレンド)の終わり』
麻冬「おにーちゃん、おねーちゃん、またきてねっ☆」
▲▽▲▽▲▽


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第48話:オーダー(ブレンド)の終わり

“ローリエ先生は、いったいなにを考えているんだろう。『不燃の魂術』という禁忌が新たに出てきて、旅の行く先が不安だった。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋



※2020-5-22:ビブリオのイメージCVを追記しました。


 

「……ディーノさん、やっぱり…拳銃(こういうの)は見慣れてるんですかね?」

 

「偏見デスよ、ローリエサン。イタリアの銃規制は、日本(ジャッポーネ)の銃規制よりほんの少し緩い程度でしかありまセン」

 

 

 俺の手を掴んだのは、ディーノさんだった。

 

 

「……で、話ってなんだい?」

 

「貴方のこと、夏帆サンから聞きマシた。

 ……命を救ってくださったそうデスね?」

 

 なんと、そんな事を話していたのか、夏帆ちゃんは。

 殺されかけた記憶なんて、下手すりゃトラウマになりかねないというのに。

 夏帆ちゃんの方を見たら、こちらの視線に気づいた夏帆ちゃんが話しだした。

 

「ローリエさんがエトワリアの平和を乱す筆頭神官の部下だって聞いた時はびっくりしたよ。でも、私を助けてくれた事は事実だから……」

 

「……夏帆サンだけじゃありません。秋月サンや美雨サンを見つけてくださったのも、ローリエサンですよね」

 

「ああ」

 

「ワタシや麻冬さんをドローンを通して見守っていたのも、神崎さんを救出する時にクロモン達を引き受けたのもローリエさんデスよね」

 

「………よく見てんな」

 

「仮にも店長デスから。それに…今回のオーダーは神殿は関わっていないそうデスね?」

 

「ああ。すべてビブリオが勝手にやったことだ」

 

「……ワタシはその言葉を信用しマスし、どんな意図があれスティーレの店員を三人も見つけて、守ってくれた事に感謝していマス。」

 

 ディーノさんはビブリオを一瞥してから、俺を真正面から見つめ結論づけた。

 

 

「だから……ワタシは、貴方に手を汚してほしくありまセン。ましてや……あんな人間のために。」

 

 

 それは、聖典(漫画)でも見たことのないほど真剣な、ディーノさんの「説教」であった。普段から『苺香サン〜〜〜』って言いながら鼻血を出してぶっ倒れたり、深夜アニメの見すぎで徹夜し、結果仕事をサボって秋月くんや麻冬さんにボコられてるような残念な人とは到底思えない。そんな人が変わったような雰囲気に、思わず面食らってしまった。

 

 ……最初からビブリオを()()()()()()()()()殺すつもりはなかったけど……そうだな。

 

 

「ディーノさん。俺はもとより、クリエメイトの前で人を殺すつもりはありません。

 でも…貴方の言う事も一理あります。もしこんなヤツ撃っちゃったら………俺の(パイソン)が汚れちまう。

 ……というワケだ、ビブリオ。大人しくしておくことだ」

 

 

 パイソンからトリガーに指をかけた人差し指以外を放す。ぶらん、とパイソンがぶら下がり、それは懐のホルスターに戻された。

 

 

「よ、良かったです……ローリエ先生、本当に撃っちゃうかと思いました…」

 

 ランプがため息をひとつ。それは、クリエメイトの総意でもあるかのようで、ディーノさん以外のスティーレの店員も、同時に胸を撫でおろした。

 

「はい、苺香さん。手錠、外せましたよ」

 

「ありがとうございます、きららさん」

 

「これで、私達は帰れるってことね」

 

 きららちゃんと苺香ちゃんのそんな会話が聞こえた。そろそろ、お別れの時間なのか。

 

「スティーレのみんな。元の世界に帰る時なんだけどね……ここでの記憶は忘れ去られてしまうんだ」

 

「ええええーーーーっ!!? イヤですぅ! ライブの記憶を消したくありません!!」

 

 マッチの最後の説明にひでりくんがワガママを言う。

 でも、そうも言ってられないでしょ。

 

「記憶は無い方がいいんじゃないか。今回、『オーダー』で呼ばれた間の記憶は、ちょっと過酷だっただろう?」

 

 特に苺香ちゃんと夏帆ちゃん。とまでは言わないが、スティーレの大人たちは俺の言葉の真意をなんとなく理解したようだ。4人とも何も反論しないあたり、彼ら彼女らに異論はないようだ。

 

「待ってよ!」

 

 しかし……反論の声があがる。夏帆ちゃんだ。

 

「じゃあ……私がローリエさんに助けられた事も、ゲーム談義も、きららちゃん達も、みんな忘れちゃうってこと!?」

 

「……おそらく、ね。」

 

 夏帆ちゃんの不安を、マッチは肯定する。悲しい気持ちは分からなくもないけど、怖い記憶なんてない方がいいんじゃあないだろうか? 世の中、知らない方が幸せな事など掃いて捨てるほどある。

 

 

 ―――でも、だ。

 

 

「大丈夫です、夏帆様。わたし達はまた会えます。

 だって……きららさんがいますから。」

 

 彼女達が得たものが、まったくもって無駄だったわけでもない。

 ランプが夏帆ちゃんの手を取る。きららの『コール』があれば、再びエトワリアに参上することが出来る。そう考えれば、彼女達はかけがえのない『絆』を得られたとは思う。

 

「でもランプちゃん、私―――」

 

 俺も、人の心は忘れたくないものだ。空いている夏帆ちゃんの手を両手でとり、ありのままの気持ちを口にする。

 

 

「大丈夫、夏帆ちゃん。」

 

「ローリエさん……?」

 

「人はな、一度あったことは忘れないのさ。ただ、()()()()()()()()だけ。

 『飯を食べた記憶はあっても、何を食べたか思い出せない』みたいなことがあるだろ? アレと一緒さ」

 

「……!!」

 

「帰った後で、いい思い出を思い出せるようになるように祈ってる。

 夏帆ちゃん………イイ女になれよ。5年後くらいにお茶でもしようぜ」

 

「……もうっ! 最後の最後(ナンパ)でいい言葉が台無し!!」

 

 いい笑顔でそう言う夏帆ちゃんが、光に包まれ始める。早くしないとみんなが帰ってしまう。俺もスティーレの皆に言いたい事は全部言わないと。

 

 

「麻冬さん。今度『コール』で呼ばれた時は色々お話させてください。今回はあまり会話が出来ませんでしたから」

「あら、目線を合わせるなんて紳士らしい事できるのね。でも、軟派な男は好きじゃないの」

「はは、手厳しいなぁ」

 

 

「美雨さん。今度は貴女の……『花園フォルダ先生』の同人誌についてじっくりお伺いしたい。」

「あら、いいですよ。なんならアリサちゃんも――」

「それは駄目」

 

 

「ひでりくん、アイドル活動、精進しろよ。応援してるからな……主にランプが。

 秋月くん、怪我には気をつけな。特に足の」

「ローリエさんも盛大に応援してくれてもいいんですよ? カワイイボクの名前をエトワリアにまで轟かせて――って腹パンはやめてェ!!?」

「なんか俺だけ雑じゃねーか?」

 

 

「ディーノさん……………苺香ちゃん、絶対ゲットしろよな?」

「ちょっ!!? ろ、ローリエサン…!?」

「苺香ちゃん、超いい女だからな。モタモタしてるとかっ攫われるぞ。俺は応援に徹するが、他の野郎どもは保障できん」

「………………は、ハイ……絶対、ものにしマス…!!」

 

 

 あとは苺香ちゃんだけ、という所できららちゃんとランプがディーノさんと苺香ちゃんの前に進んでいる事に気づく。

 

 

「苺香さん、ディーノさん。お二人は、随分お互いを信頼しているんですね」

 

「はい。店長さんがいなかったら、ここの仲間に会うことすら出来ませんでしたから」

 

「ワタシも…苺香サンをスカウトできて良かった。お陰で……毎日が幸せデス!!!」

 

 苺香ちゃんの言葉に、鼻血を流しながら涙目で感動しているディーノさん。言葉だけを見ればそれなりに感動できるはずなのに、ディーノさんの鼻血ですべてが台無しである。

 

「苺香様、ディーノ様、スティーレの皆様……!

 どうか…どうかお元気で!!!」

 

「きららさん、ローリエさん、ありがとうございました!」

「ローリエさんのこと、絶対忘れないから!」

「いつでも、『コール』で呼びなさい。きっと力になるわ!」

「みなさん、またいつか!」

「ボクのこと、忘れないでくださいね!」

「きらら達も、頑張れよ!」

「きららサン、ランプサン、マッチサン、ローリエサン、アリササン、お世話になりました!!」

 

 

 ランプが涙でぐしゃぐしゃになりながら手を振る。俺やきららちゃんもそれに倣う。スティーレのみんなも笑顔で手を振りながら、光に包まれて消えていった。これで、ようやく俺にとっては大番狂わせの物語―――メタ的に考えると4.5章というべきか―――が終わった。

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 未だにスティーレのメンバーとの別れの余韻に浸っているランプをよそに、俺ときららちゃん、マッチとアリサの4人を沈黙が支配する。

 

 

「アリサ。ビブリオの書斎へ行って、例の件の調査をしてきて欲しい。俺はこの二人に用事がある」

 

「は、はい」

 

 最初に沈黙を破った俺は、アリサに証拠探しを頼んで、実質的な人払いをする。そして、きららちゃんとマッチに向き合う。

 

 

「さて……スティーレの皆が帰ったことだし。

 ――色々聞きたいこと、あるんじゃあないの?」

 

 

 一人と一匹は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

 これからの物語の知識と『オレンジ髪の女の一派』の情報。最大限に活かしつつ、アルシーヴちゃんの命令に背かないように情報を教えてあげよう。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 きららちゃんとマッチ、そして余韻から戻ってきたランプ。3人が集まり、囲んで作戦会議をしている。やれどういう事だのやれ罠だの言っていたが、やがて3人がこっちを向くと、きららちゃんが口を開いた。

 

 

「……どういう、つもりですか?」

 

「いやに抽象的だな。もっと具体的に聞いたほうが良いぞ」

 

「……アルシーヴを裏切るつもりなんですか?」

 

「いいや? 15年以上付き合う幼馴染だぜ、裏切りはしないさ」

 

「先生同士で幼馴染だったんですか!?」

 

「あ〜ら、言わなかったっけ?」

 

 我ながらの爆弾情報に、ランプは完全に冷静さを失う。それでもなお、静かにこっちを見るきららちゃんはなかなかのものだ。

 

 

「じゃあ………山道で、アルシーヴを止めてまで私と戦った理由は?」

 

「第三勢力が現れたからだ。君たちの実力と俺の実力を把握する必要があったんだ」

 

「第三勢力ってのは……」

 

「心当たりがあるだろう。クリエメイトの命を狙ってきた奴らを。例えば……砂漠で会った黒髪ロングの男盗賊。そして―――そこで跪いてるビブリオ、とか。」

 

「「「!!!」」」

 

 

 二人と一匹がビブリオを見る。見られた本人はすぐさま目をそらした。しかし、いま何かを隠すような所作があったな。警戒は解かないでおこう。

 

 

「でも、ビブリオはもう倒したんだし、第三勢力の心配はないんじゃあ………」

 

「ランプ。ローリエがこの話をしているってことは……まだ、その勢力が残ってる可能性がある、ってことじゃないか?」

 

「その通りだ、マッチ。俺はその第三勢力の首領に会って戦った事がある。そして運良く逃げられた。ゆえに教えられる。

 ―――あの女は、エトワリアを滅ぼす気だ」

 

 その瞬間、彼女達に動揺が走る。当然だろう。

 今までアルシーヴが敵だとばっかし思っていたら、エトワリアを滅ぼそうとする勢力が現れたと聞いたんだから。

 

「どんな人だったか、訊いても良いですか」

 

「オレンジの長髪をした、背の高い女。黒を基調とした高級ローブを身にまとい、不気味で不可解な雰囲気を放っている。魔法の実力はすさまじい。そして………自身の体に『不燃の魂術』を施している」

 

「なっ…………!!!?」

 

「お? ビブリオ。お前、心当たりあるのか? お前に『オーダー』を命令した、上司とか?」

 

「!!!!…………………………………し、知らない………知らない、ん、だぁな……………」

 

 

 図星みたいだな。まぁちょうど良い。きららちゃん達に『オレンジ髪の女とビブリオやサルモネラに繋がりがある』って説明を省けたし、確信も持てた。

 

 

「ふ、『不燃の魂術』って……確か、不老不死になれる、『オーダー』と同じ禁忌ですよね…?」

 

「そう。どんな小さな傷も炎と共に再生する。おまけに自分の肉体年齢を操作することが出来るから、驚くレベルの変装が可能。つまり、あどけない幼女から今にも死にそうな婆さんにまで自由自在になれるってことだ。」

 

「厄介すぎないか……? 普通、子供とおばあさんが同一人物とは思わないだろう。」

 

「そうだな。だが頭の隅に置いておけば、不意打ちを防ぐくらいは出来るかもしれない。

 とにかく、これからクリエメイトを害する奴が出てきたら、そいつは第三勢力と考えた方がいいだろう」

 

 

 マッチの言うとおり、『不燃の魂術』による肉体年齢操作は、下手な変装よりもはるかに人を騙せる。別人になるわけではないので、法則性を掴めれば見破れるかもしれないが。

 

 

「では、次に……どうしてアルシーヴは、ソラ様を封印したんでしょうか?」

 

「悪いがそれは言えない」

 

「アルシーヴの目的は?」

 

「それも言えない」

 

「この世界をどうするつもりなんですか」

 

「言えない」

 

 

 きららちゃんが質問を切り替えるが、俺はそのことごとくを切り捨てる。アルシーヴちゃんの命令と義理を守るためには、これらの質問にはこう答えるしかない。「言い忘れたけど、言えない範囲のことは言えないからね」と付け足せば、「それ、ちょっとずるいんじゃない」って目で見られた。

 

 

「じゃあ、僕から。この前にランプに出した『宿題』………アレはどういう意図で出したんだい?」

 

 

 続いてマッチが聞いてきたのは、山道でのやり取りだ。「きららちゃんの為に何ができるか」……そして、「ヒントは君自身にある」と言ったあの事だろう。

 きららちゃんは、6章でフェンネルに石化される。そして、その石化したきららちゃんを元に戻すのがランプなのだ。また、最終章では、ランプの書いた日記が、新たな聖典となってアルシーヴちゃんとソラちゃんを救う。でもそれを馬鹿正直に伝えても信じて貰えないに決まってる。頭の病院を紹介されて終わりだ。

 

 

「さてね。ランプ自身は何も出来ないと思っているかもしれないが、案外そうじゃないかもってことだ。

 クリエメイトに託されたものについて、ランプがどう思うか……どうしたいか。フェンネルに会うまでに考えておくといい。

 これが、スペシャルヒントってところだよ」

 

「クリエメイトから託される……私が、ですか?」

 

「さーて、どうだか。他に聞きたい事は?」

 

 話を逸らして他の質問を探ってみれば、きららちゃんが手を挙げる。

 

「ローリエさんご自身の、目的は?」

 

 誤魔化しは許さない。

 その質問には、そんな気概があった。俺はそれに同じ真剣な面持ちで答えよう。

 

「世界の平和。そして、大切な人の平穏。これに尽きる。」

 

 俺の言葉は、静かに響き渡った。

 

 

「さて………他に聞くことがないなら失礼させてもらうがその前に。」

 

 それ以外に聞くことがないようなので、俺はそう言って目にも止まらぬスピードでイーグルを抜き―――

 

 

 バァァン!

 

 

 引き金を引いた。狙いはランプ――――――の後ろでナイフを掲げ、今にも彼女にそれを振りおろそうとしていた()()()()

 

 

「いぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーッ!!!!?」

 

 

 肩に被弾したビブリオは、ナイフを取り落とし、数歩後ずさると腰を抜かしたように仰向けに倒れる。後ろを取って、しかも見た目一番幼そうなランプを刺そうとするあたり、コイツの性根の悪さが伺える。

 

 

「えっ、えっ……!!!?」

 

「ら、ランプ!! 大丈夫!?」

 

「……警告なしで撃っておいてアレだけど、もう少し周りに気を配った方がいい。気持ちは分からないでもないけどさ。」

 

「……正直助かったよ。僕もきららも全く気づかなかった。」

 

「気をつけてくれよな」

 

 

 そう言って、アリサのいる書斎へ歩いていく。

 彼女は既に調査をあらかた済ましているらしく、やって来た俺に書類をいくつか渡してきた。

 

 

「はいこれ、ローリエさん。ビブリオって人、決定的な証拠をいくつも雑に隠してた。」

 

「え、そんな事ある……?」

 

 書類に目を通す。

 サルモネラへの依頼書の原本。恩赦で釈放した時の証明書・筆頭神官デトリアのサイン付き。そして、『改造兵士計画書』とやらの計画書たちに違法取引の通帳。

 出るわ出るわ証拠の山である。これは、明らかにビブリオらにとって不利な証拠だろ。なんで燃やすなりバラバラにするなりしなかった?

 

 

「これは確かに……うん。」

 

「見つけといて何だけど……有利すぎて裏がありそう」

 

「大丈夫だ。神殿の資料と照らし合わせれば、真偽を調べるのは簡単だ。他に証拠は?」

 

「それで全部よ」

 

 

 ともかくこの情報、アルシーヴちゃんやジンジャー、ハッカちゃんも動員して調べる価値大アリだな。黒幕に一気に近づけたような気がするぜ。

 あとは―――

 

「さて……」

 

「ひっ………!?」

 

 ―――ビブリオ(このデブ)をどうするか、だな。

 きららちゃん達も帰った以上、多少は過激なことができる。

 

「黒幕の名前と正体を言えば、命()()()助けてやらんでもない。」

 

「へ……!?あ、あああ……え……

 あ、あ……ど、ドリ…ドリアーテと、名乗ってたん、だぁぁな……」

 

「それは本名か?」

 

「わ………分からない……で、でも、きっと、偽名、なんだぁぁな……住民票が、見つからなかったからぁぁな………『不燃の魂術』については……」

 

「知ってるから言わなくていい。お前は神殿の名のもとに逮捕する。証拠は十分だ」

 

 

 背を向けた瞬間、殺気を感じ取った。イーグルを持ったまま振り向けば、ビブリオがナイフをこちらに向ける。まるで、『かかったなアホがッ!』と言わんばかりにナイフが迫り―――

 

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?」

 

 

 そのまま、ビブリオの両手が槍の形をした炎によって地面に縫い付けられた。

 

 

「アリサ、助かった。」

 

「普通に間に合ってたように見えたけど、手を出しちゃいました。ごめんなさい」

 

「いいや、謝らなくていい」

 

 弾を節約出来たしね。それにしても、苺香ちゃんを洗脳して人質にした上、戦えないランプの背中をナイフで狙い、おまけに反省すらしないとはな。

 

 

「ディーノさんは言った。『お前のために手を汚すな』と。つまり『ビブリオには殺す価値もない』って言外では言ってたんだ……」

 

「ゆ、ゆ、ゆゆゆ許してください………全財産あげますからァァ〜〜〜!!!!」

 

 再びビブリオが土下座体勢で頭を床に叩きつけ謝るがもう遅い。

 

 

「確かにディーノさんは正しかった………

 お前には、殺す価値もない。だが……生きる価値もなかったようだな」

 

「ひっ…い、生きる、価値も………」

 

 

 

 バァァンと、銃声が鳴り響く。

 

 

 

 

 

「あ………り゛え゛なぃ…ん……だ………な………………」

 

 

 眉間に開けられた一発の風穴は、ビブリオに紛れもない死を与えた。うつ伏せに斃れて、そのまま動かなくなる。

 銃口から出る硝煙(火薬は使ってないケド)を吹き消して、イーグルをしまう。初めてではないとはいえ、人を殺したというのに何ともない。これは毒されてるな。

 

 

「……なぜ、ビブリオを始末したのでしょう? 神殿に任せれば良かったのでは……?」

 

「不死身の女・ドリアーテとやらに、こっちの情報を与えない為…だな。ビブリオが神殿の牢獄にいたら、コンタクトを取られる可能性がある」

 

「それって……!」

 

「神殿のどこかにいるかもしれない。エトワリアの滅亡を企むあの女が……!

 急ぐぞ。黒幕にビブリオの死を感知される前に情報の真偽を照らし合わせねーと」

 

「は、はい…!!」

 

 手に入れた情報を精査するため、すぐさまアリサの転移魔法を行使する。俺達の姿は、『オーダー』の効果が切れて崩れ去りつつあるイモルト・ドーロから姿を消した。

 

「あ、そうそう。黒幕が調べられないように、『イモルト・ドーロ』は爆破させるから」

 

「そういう話はもっと早く言ってください!!」

 

 転移した直後に、ニトロアントの爆発を確認する。崩壊しかかっていた『イモルト・ドーロ』は、崩壊スピードが加速される。これで、しばらく時間稼ぎは出来るはずだ。




ローリエ
 クリエメイト・きらら一行に対する優しさとビブリオに対する容赦のなさの二面性が激しい主人公。己の『聖典』の人物を尊ぶ一方で、己の『大切』に手を出す輩や誇りを捨てた外道には一切の慈悲もない。戦場においてはその切り替えこそが肝要なのかも知れないが、平和を享受する者たちからは受け入れられないと知っている。

桜ノ宮苺香&日向夏帆&星川麻冬&天野美雨&神崎ひでり&ディーノ&秋月紅葉
 無事、元の世界へ戻ったクリエメイトたち。これからは、きらら達の戦いに『コールされたクリエメイト』として助力するだろう。

きらら&ランプ&マッチ
 ローリエからのまさかの情報提供で少なからず混乱している原作主人公一行。ただ、サルモネラの襲撃やビブリオの一件についてある程度納得したので、ローリエの言う『第三勢力と不燃の魂術を身に着けた女』の存在を信じる事にした。

ドリアーテ(仮)
 『不燃の魂術を身に施す、オレンジ髪の女』のこと。エトワリアの滅亡を企んでいる。不燃の魂術の特性上、オレンジの長い髪の背の高い女の姿さえも肉体年齢操作からくる変装の可能性が高く、また名前も本名かは不明。

ビブリオ
 ランプの背を狙ったりローリエの背を狙ったりして、死に際まで醜かった悪徳商人。イメージCVは茶○林氏。アリサが見つけた証拠は、破棄しておけと言われていたが、ちょっと見えない所に隠す程度のことしかしてなかった。それもそのはず、そもそもビブリオは『クリエメイトを人質にして数で攻めれば勝てる』とばっかし思っていたため、もしもの時の証拠隠滅などしていなかったのだ。名前の由来は同名の細菌から。






日本とイタリアの銃規制
 日本にはお馴染み銃刀法があるのはご存知だろうが、イタリアは少し特殊。EUに所属しているため、EUの銃規制の基準があり、各国で更に厳しくするかどうかという形を取っている。特にイタリアは警察と軍隊を除けば持てる銃の種類は少なく、理由がしっかりした「銃所持許可証」が必要になる。まぁ、マフィアなど武器商人の一面もあるため一概に日本並みに安全とは確証できないが。



△▼△▼△▼
ローリエ「ビブリオから手に入れた証拠……それを精査するためには、協力が必要だ。アルシーヴちゃんは勿論のこと、ジンジャーやコリアンダー、ハッカちゃんにも手を貸して貰おうかな。さて、何を伝えて何を伝えないか。それが問題だな……」

次回『黒幕を探れ その①』
ローリエ「絶対見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽


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第48.5話:インスタント・マイヒーロー

今回のお話は、個人的に書きたかった番外編です。
オーダーが終わった後のスティーレ、その様子はいつもより繁盛していて……?


※2021/6/12:本文の誤字を修正しました。誤字報告ありがとうございます。


「…また来たの? 物好きね。いま満席だから、どこか空くまで待ってれば?」

 

 属性喫茶店・スティーレ。

 今日は、いつも以上にお客さんが多い。私は、そんな人達に、いつも通りにツンデレの接客をする。

 

「こちら、ご注文のエサになります。せめて綺麗に食べてくださいね」

「おにーちゃん、これが会計だよ!」

「もうちょっと待っててね。お姉さんとのや・く・そ・く。」

「注文は決まりましたか? みんなのアイドル・ひでりんが聞いちゃいますよ?」

 

 ―――みんなもなかなか、忙しそうだ。今日一日だけで、二日分のお客さんを、苺香ちゃんや麻冬さん、美雨さんやひでりちゃんが応対する。料理作る秋月くんと店長が大変そうだなぁ。

 

 

「夏帆ちゃーん! 注文いいー?」

 

「ひ、ヒトの名前を気安く呼ばないでよね!」

 

 私もまた、お客さんに引っ張りだこで、注文と料理を運ぶので忙しいんだけどね。

 

 

 ……そうして、客足が落ち着いてきて、私達は交代で休憩を取れるようになった時、ちょっと店長に聞いてみることにした。なんで、今日はこんなに繁盛してるのか。

 

「ねぇ、店長」

 

「なんデスか夏帆サン?」

 

「今日って、なんでこんなにお客さん多いの?」

 

「い、いえ……ワタシにはさっぱり。ただ、『昨日はどうしたんだ』とか、『臨時休業だったか』とかよく言われマシたが……」

 

 う〜ん、店長もこの事態の原因をよく分かってない、って感じなのかな。臨時休業の話はよく知らないけど。

 

「昨日、臨時休業だったの?」

 

「通常営業のつもりだったのデスが……昨日は、店が閉まっていて誰もいなかったそうなんデス。お客様から聞きマシた。ワタシも昨日のことはよく覚えていなくて……」

 

「なにそれ。昨日の事くらい、普通忘れなくない?

 昨日、私は学校だったし―――」

 

「昨日は祝日デスよ?」

 

「…え?」

 

 スマホを立ち上げ、カレンダーと画面を見比べる。今日が土曜日で、その日にちをカレンダーから探してみれば………確かに、前日が赤いインクで記されていて、祝日であることが伺えた。

 お、おかしいな。祝日なら、どんなゲームやったとか、何時まで徹夜したかとか、覚えているはずなんだけど。おじいちゃんおばあちゃんじゃあるまいし…………

 

 ………

 ……

 …

 

 ……あ、あれ?

 

 

「う、ウソ……?」

 

「……夏帆サン()、思い出せまセンか?」

 

「う、うん……私()って……?」

 

「さっき神崎サンにも聞いたんデスが、昨日の事は覚えていまセンでした。」

 

「そんなことある……?」

 

 

 店長や私みたいな、アニメやゲームのために徹夜する人が、今日何日だっけって忘れかけて日付を確認することはあっても、ひでりちゃんまで忘れるなんて。

 

 

「理由がわからないのが、より不気味デスね……

 スタッフの健康管理にも気を配らないといけないのに……」

 

「ちょっと私も聞いて回ってみていい?」

 

「大丈夫デスよ、夏帆サン。これは店長であるワタシの責任問題デス」

 

 いつも寝ながら仕事して麻冬さんや秋月くんに怒られてる店長が言っても説得力ないなぁ。

 

「じゃあじゃあ、私と店長で聞いて回ればいいじゃない!」

 

「良いんデスか?」

 

「もちろん!」

 

 私としても、気になる事があるしね。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「体調ですか? ご覧の通り元気です!

 え、昨日、ですか……? えーと……きっと、元気だったと思います。」

 

「昨日かしら? そうね、大学……もなかったし、過去の見逃したニチアサを見てた……と思うわ」

 

「体調? 心配してくださってるんですか?

 ふふ、大丈夫ですよ。あーでも締め切りが近づいてきてますから……こんなことなら昨日進めれば良かった……」

 

 

 苺香ちゃんも麻冬さんと美雨さんも、似たように「昨日のことはあまり覚えていない」と言った。

 皆おんなじ事を言うので、指し示してあるのかとさえ思ったほどだ。

 

「え、体調? 問題ねーけど……昨日のこと? そんなことを考えてるヒマがあったら買い出しにいってくれないか? 買うモンはここにメモってあるから」

 

 

 秋月くんには、何故かメモを押し付けられておつかいを頼まれるし。お店が忙しくなくなったのもあって、引き受けざるを得なくなったし。まぁ、妙にスッキリしない気分を紛らわせられるかもとは思ったけどさ。

 

 いつもスティーレが御用達にしている業務スーパーはすぐ近くにあるので、車や自転車は必要ない。あまりに多く買い出しに出る時は店長のを出すこともあるけど、今回は調味料と香辛料の買い出しなので、問題ない。

 

 

『腸炎ビブリオに注意!

 手はこまめに洗おう!』

 

 

 自動ドアの隅に貼ってあった、長い間日に晒されたからか少し変色した張り紙にふと目が映る。

 そこに書かれていた注意喚起を目にした途端、また妙な感覚に襲われた。

 何だろう、この気持ち。モヤモヤして、感情の名前が分からないからより一層気分が沈む。

 

 

「……いけない、早く買って来ないと!」

 

 モタモタしてると秋月くんあたりを怒らせてしまう。さっさと買い出しを終わらせるべく、スーパーの中に入ることにした。入口にあったアルコール除菌はちゃんと使った。

 

 

 メモを見ながら、目当ての品を探し歩く。

 

「粉チーズに、バジル。タイム………えーとタイム、タイム………はあった。次は…」

 

 メモを目で追っていくと、タイムの下にはローリエと書かれていた。

 

 ローリエ。

 ローリエ……

 ローリエ―――

 

 

「!!?」

 

 

 体が固まった。理由は分からない。

 目当ての品は、タイムのすぐ近くに置いてあった。それを、カゴに入れればいい。そのはずなのに。

 体が―――動かない。

 

(な、なんで…? ただの香辛料でしょ?)

 

 ただの、香辛料のはずなのに。その名前が、不思議と私の中に引っかかる。でも、その理由が分からない。一体どうして?

 

 

『人はな、一度あったことは忘れないのさ。ただ、()()()()()()()()だけ。

 「飯を食べた記憶はあっても、何を食べたか思い出せない」みたいなことがあるだろ? アレと一緒さ』

 

 

 知らない人の、でもどこかで聞いたことあるような声が聞こえた、気がした。

 

 彼は、一体誰なの。

 この声は、どこで聞いたの。

 どうして、こんな記憶が今、出てくるの。

 

 幻聴なのかもと思った。聞こえるはずのない声が聞こえるし、体はどうしてか動いてくれないし、気分がどうにも悪い…というか変な感じがするからありえなくはない。

 でも、私の直感が『それはない』って言っている。心当たりがまったくないはずなのに。まるでワケが分からない……

 

 

 

 

ブーッブーッ

 

「ふおわぁぁっ!!!?」

 

 ビックリした。いきなり、ポケットが震える。

 それが私のスマホのものだとわかると、落としそうになりながらも手に取って通知を見る。あまりにモタモタしてたから、秋月くんを待たせてしまったのかもしれない……!

 

 

「……なんだ、ゲームの通知かぁ」

 

 

 それは、SNSで発表された、インストールしてるゲームの一つにて「新キャラが出るよ!」という通知だった。秋月くんからの催促とかじゃなくて良かったけど、地味に心臓に悪い。

 

「……あっ、また開いちゃった」

 

 それは、体がスマホゲーをやっていくうちに覚えた一連の動作。習慣に刻み込まれた無意識の動作をしたあとで買い出し中なのを思い出して開いたお知らせを閉じようとしたときだった。

 

 

 

 通知に添えられていた画像の中に、その人はいた。

 緑色の髪に、左右非対称の色をした―――オッドアイ。整った顔つきに優しい笑み。文を読めば新しいガチャに実装されるキャラであることは確か。

 

 だけど。

 

 そのキャラを見た瞬間、私の奥から何かが放出されたような感覚を覚えた。

 きつく締められていた記憶の蓋が徐々に緩み、その中にあった記憶が飛び出てきたかのような……、

 

 

「―――――――――っ、!!」

 

 

 飛び出てきた記憶は、ファンタジー色が強かった。

 日本では見られないようなカジノ、イタリアのレストランの厨房、コミケのブース、そして…ガラスの大窓がついたビルの最上階にある和室。そこで起きた様々な記憶。

 

『くーー!!!』

『ぐっふ………!!?』

 

 小さな猫のような生き物に、軽自動車が突っ込んできたかのような体当たりを受けたこと。

 

『あな、たは………』

『良かった。だが、まだ喋らないで安静にした方がいい。回復魔法をかけたばっかりだ。』

 

 その直後に、緑色の髪でオッドアイの男の人に助けられたこと。

 

『いやいやいやいや夏帆ちゃんよ、ビアンカが主人公を何年待ったと思ってるのよ。男としてはさ、待ち続けた幼馴染の気持ちを汲んで答えてあげるべきでしょーよ』

ローリエさんこそどうして頑なにビアンカを勧めるのよ。清楚で、献身的でいい人じゃない、フローラ。あとイオナズン使えるし、実家から仕送り貰えるし』

 

 その人と、推しを巡ってゲーム談義をしたこと。

 

『君達は、いつも通り接客して、いつも通り料理を振る舞って、いつも通りの日常を過ごして欲しいんだ。』

『今の危険な状態で呼ばれた君達を、早めに帰すのが、今の俺達の仕事であり……使命なんだ。』

 

 私達全員を()()()()()()()と、約束してくれたこと。きららちゃん達と一緒に戦ったこと。

 

『帰った後で、いい思い出を思い出せるようになるように祈ってる。

 夏帆ちゃん………イイ女になれよ。5年後くらいにお茶でもしようぜ』

 

 ―――そして、最後に私にそう声をかけて、送ってくれたこと。

 

 

 あぁ、そうだ。

 

 全部…全部、思い出した……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ロー、リエ、さん……………」

 

 

 目の前が滲む。鼻がツーンと痛くなる。喉が腫れたようにうまく呼吸が出来なくなりそうだ。胸が、圧迫感を覚える。

 どうして……今まで忘れちゃってたのかな?

 私を、ヒーローのように救ってくれたのに。

 

 ……でも、もう大丈夫。

 だって、思い出せたんだから。

 

 

「あり、がとう……」

 

 

 私を助けてくれてありがとう。

 みんなを探すのを手伝ってくれてありがとう。

 守ってくれて、ありがとう。

 

 その言葉を伝えることは、おそらくもう出来ないけれど。思い出すことができて、本当に良かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの後スティーレで待っていた秋月君は、戻ってきた私を見るなりうろたえて、店長と苺香ちゃんを呼びに行った。何事かと思ってみれば、鏡に映った私の目は真っ赤に泣きはらした後だった。

 3人に色々質問ぜめにされた。エトワリアの事を話したけれど、信じてくれなかった。まるで、「そんなもの知らない」とでも言うかのように。他の皆も私のように思い出すかもと考え、それとなく仕掛けてみたけれど、ついに皆がエトワリアについて思い出すことはなかった。

 

 

「……はぁ。

 みんないい加減、思い出してくれてもいいのに」

 

 バイトが終わり、家に戻った私はスマホのRPGゲームを立ち上げている。久しぶりにログイン以上のことをするゲームだ。ストーリーモードのエンディング前で止めていたから、ラスボス戦からだったけど、ゲーマーにとっては朝飯前だった。もともと難易度の高いやつじゃあなかったしね。

 

 そして、エンディングのテロップを流し読みしている。

 

 

『私にとってのあの人ってなんなんだろう。

 あの人をもっと知りたいのに、謎めいていて欲しい。

 そばにいたいのに…私だけのものになったら、きっとがっかりする。』

 

 ヒロインの台詞に、タップする指が止まる。しっかり読んでからタップすれば、ヒロインの執事らしき人の、らしくない口調の台詞が流れた。

 

『お嬢。俺は……そういう人をなんて言うか知ってます。』

 

 ……!!

 

『本当ですか!?』

 

『はい。

 ―――ヒーロー、って言うんすよ。そういう人のこと』

 

 

 やけに軽い言葉に、ゲーム内のヒロインだけじゃなくて、私も腑に落ちたみたい。

 

「……ふふっ、ヒーロー、かぁ。」

 

 

 ローリエさん達の……エトワリアでの思い出を胸に抱いて―――

 

 ―――私、良い女になってみせるよ。

 

 




―――エトワリア、召喚の館にて

くれあ「開きますよー!」
きらら「お願いします!」
らんぷ「楽しみです!どんなクリエメイトが来てくれるのか…!」

きらら「あっ…ゲートが金色に!」
くれあ「これはひょっとするかもです!」

かほ「………。」
くれあ「や、やりました!!」
らんぷ「きたーーーーーー!!!!」
きらら「落ち着いて、ランプ。この人にオーダーの記憶はないから、一応初めましてだよ――」


かほ「―――()()()()()()、きららちゃん、ランプちゃん。日向夏帆、ナイトとして力を貸すよ」


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エピソード7:きんいろパニック〜烏丸先生とくっしーちゃんが舞台袖で凹んでますよ編〜
第49話:黒幕を探れ その①


ウイルスの影響凄まじいですね。大々的に報道されたからか、どこもかしこも自粛ムード。大相撲も無観客試合で不自然感パなかった。オリンピック採火式も無観客でしたね。治安も悪くなっている気がします。
マスクはしてもウイルス素通りだと思ってるんで作者は手洗いうがいを徹底させてます。あとアルコールも。出かける前にガムを噛んで喉を湿らせるのも有効だそうです。皆様もお気をつけて。
追記:2020/3/13…日間ランキング30位を獲得しました。ご愛読ありがとうございます。









“とある国の古き兵法書にはこう書かれている。『勝敗というのは、戦う前に全て決定している』と。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第9章より抜粋


 

 

 

「―――ビブリオ本人も逮捕しようとしたが、激しく抵抗されたため、やむを得ず殺害した。そこは申し訳ない」

 

「いや、いい。むしろ、よくここまで証拠を集めてくれた。アリサも、ローリエの補佐、見事だった」

 

「ありがとうございます。」

 

 

 転移魔法で神殿に戻った俺達は、まっすぐソラちゃんの展望室へ行きアルシーヴちゃんに事の顛末を(()()()()()())すべて話した。これから黒幕を探るのに邪魔になりそうだったからとはいえ、己の意志でビブリオを殺したことに、ほんの少しだけの後ろめたさが背中によりかかる。前世の道徳観がしっかりしている証拠だ……と思いたい。

 そして、イモルト・ドーロで見つけた証拠資料についてもここで報告する。神殿の資料と比較して調べることで、情報の裏を取る考えだという事も。

 

 

「―――というワケで、手の空いている者をこちらに回して、至急調査がしたい」

 

「成る程……だったら、コリアンダーとハッカが手が空いているはずだ。セサミやジンジャーにも話を通しておこう。ただし、ジンジャーは市長官邸からは離れられないから、二人が出向いて欲しい」

 

「りょーかい」

「畏まりました」

 

 

 アルシーヴちゃんからそう返事したことだし、協力は得られたと見て良さそうだ。

 

 

「あぁ、そうだローリエ。アリサの働きは如何様(いかよう)だった?」

 

「魔法の才は半端ねーぞ。アルシーヴちゃんに勝るとも劣らない。精神的にも今のところ問題はない」

 

「そうか。アリサ、ローリエとの仕事はどうだった?」

 

「……ビアンカとかフローラとか言ってたし天野美雨や日向夏帆をナンパしてましたが戦闘面では彼は頼りになりました」

 

「おい」

 

「アリサぁ!? 余計なことを報告しなくていいだろォ!!?」

 

 この後滅茶苦茶追いかけっこをした。

 

 

 神殿側から資料の協力が貰えたところで、俺達は人を集めることにした。最初に声をかけるのはもちろんコリアンダー。続いてセサミ。そして……ハッカちゃん。

 分かってる。10年前のあの事件があったとはいえ、いつまでも彼女から逃げ続けちゃいられない。

 

 

 最初に声をかけるのは、俺の男友達・コリアンダーからの予定だった。

 コリアンダーに会おうとしたところで、一人の老婆に出くわす。まとめた白髪、曲がった腰に縮んだ背、腹に紅宝石(ルビー)を抱えた鳥があしらわれた杖で体を支えている。まぎれもなく、デトリアさんだ。

 

「お疲れさま。ローリエ君」

 

「……デトリアさん? 何してるんですかこんな所で」

 

「子供たちの様子を見たり、神殿の様子を確認したり……色々とね」

 

 デトリアさんは、オーダーを行う事を知っても珍しいことに何も言っていないのだ。引退しているから、現役の神殿関係者の決断にはあまり口出ししようとしないのだろうか? しかし―――それはあまりに不自然だ。

 

「いま、アルシーヴちゃん忙しいじゃない? こんなばばあの手でも貸せればと思ったのよ」

 

「無理をされて途中で倒れでもされたら困る。御年を考えてほしい」

 

「ええ、分かってる。『悪い人を捕まえる』とかいった、体を動かすのは若い子に任せるわ。」

 

「最近は治安悪いからな」

 

 例を挙げるならサルモネラやビブリオ。あいつらはエトワリアにいちゃダメだろって性格をしてたからな。サルモネラは人から奪うのを当然としてるし、ビブリオは人を見下す阿漕(あこぎ)な商売でズルいくらいにボロ儲けしていた。秩序を守る立場としては、共に取り締まり対象だ。

 

 

「まぁ砂漠の盗賊も悪徳商会も捕まえた。治安が悪いといえども、やるべき仕事はしている。俺達賢者と筆頭神官を信頼して欲しい。あなたが指名しただろ、アルシーヴちゃんは」

 

「わたしも信じたいんだけどねぇ。砂漠の盗賊、変な依頼を受けてたそうじゃない。なんか、()()()()()()()()()って言ってたわよ」

 

「!!?」

 

 アリサが信じられないくらいに動揺する。俺も、追及する声が荒くなる。

 

「デトリアさん! (いたずら)に混乱を招く発言は慎んでください!! だいたい、どこ情報なんですか、それ?」

 

「砂漠の盗賊と面会した時に錯乱しながら言ってたわ」

 

「……そうですか。アリサ、今の会話は可及的すぐに忘れろ。いいな?」

 

「はい。」

 

 

 アリサは素直に返事する。とはいえ、後でサルモネラの件を混じえながら話をしつつフォローが必要だな。

 

 

「デトリアさん。今はとても大切な時期です。手伝ってくださるお気持ちは嬉しいですが、許可なく動かれると困ります。俺でもアルシーヴちゃんでも他の賢者でもいいから、話を通してください」

 

 小さな背中をぽんと叩く。デトリアさんは、年相応の穏やかな表情でニコニコしたまま、何も言わずに去っていった。

 ちょっとしたハプニングもあったが、予定通りコリアンダーとハッカちゃんとセサミの元に向かうとしようか。

 

 

 

「……帰ってきたかと思えば、誰だその少女は? どこで(かどわ)かした? 俺も一緒に謝るからちょっと来い」

 

「違うわァッ!! 子供の誘拐じゃねーよ俺の助手なの! 張り倒したろか!?」

 

 ……久しぶりに会ったと思ったら人をロリコン扱いしやがったコリアンダーこの野郎。

 だがこういう場合、俺の意見はまず通らない。アリサ、君が弁明すんのが一番効果的なんだよ。さっさと事情を言えっての。言ってくださいお願いします。

 

「……あの、『かどわかす』とか、『ゆうかい』、って何ですか?」

 

「「…………………………」」

 

 

 あ、そうだ忘れてた。この子超純粋っ娘だった。子供の作り方について、コウノトリを本気で信じてたくらいだ。その手の知識はまるでなかった。まぁ……誤解を解くには十分だったみたいだけど。

 コリアンダーに変な知識を植え込むなと17回も忠告されたものの、事情を話せば快く引き受けてくれた。

 

 

 

 コリアンダーを仲間に加えた後にセサミを探してみれば、彼女は自身の部屋にいた。

 事情を話して、証拠を見せれば「よくここまで集められましたね」と一言。俺もそう思う。立場が違えば、その手の証拠は綺麗さっぱり焼き捨てるだろう。

 そして調査してみれば、デトリアのビブリオ恩赦証明書や違法取引の通帳等などの裏を取ることができた。

 

 

「ビブリオという者が何をしていたのかはジンジャーの方がよく知っているでしょうが、デトリア様は何を思ってこの男を釈放したのでしょう」

 

「知らね。もう年なモンだから、耄碌してたんだろーよ」

 

 とは言ったものの、それなりに疑う材料は揃いつつあるけどな。

 

「そんなことより、これだ。クリエメイトの殺害依頼に、改造兵士計画書。両方とも大変なものだぞ」

 

 コリアンダーの言うとおり、オーダーを行ってクリエメイトを回収する筆頭神官と八賢者に、第三勢力は喧嘩を売った事が明らかになる。サルモネラの辺りから邪魔はしていたのだろうが、ビブリオのオーダーで決定的になった。

 

「クリエメイトを害する者たちの存在は、アルシーヴ様に報告して、全ての賢者にそれとなく伝えるべきだと思います」

 

「安心しろ、セサミ。その点は既に問題なく報告した。

 あと……この計画書だが……『魔法による洗脳を行う事で、人間の感情を持たず、機械的に殺人ができる人間を育て上げる』って……ぶっちゃけどう思う?」

 

 

 初めてこの計画書を見たときは、俺の目と計画書を書いた奴の精神を疑った。俺にとって感情のない兵器のような人間とかそういうのは、アニメの中だけの存在だったのだ。非人道的ゆえに現実でやることは今世(いま)前世(むかし)も許されていない。それを実現させようなんて正気の沙汰ではなかったのだ。

 

 

「……魔法は万能とは限りません。この計画書自体も、机上の空論部分が多くて成功出来るとは思えませんし。

 仮にこれを本当に実行できたとしても、許されることではありません。人の尊厳を踏みにじる行為です。」

 

「だよなぁ。それこそ、心が未発達な幼い子供に、徹底して洗脳じみた教育でもしない限り、出来ないよな」

 

 俺の言葉に、セサミもアリサもコリアンダーも静かになる。俺を信じられないものでも見るかのような目で見る。どったの?

 

「お、お前…そんな事よく思いつくな……」

 

「ローリエさん、やったことあるんですか………? ひょっとしてローリエさんの前世って、悪魔かなにかだったり……?」

 

「しねーよおバカ! れっきとした人間だったしンな非道なことしないわ!! これくらい普通に思いつくだろ? セサミもなにか言ってくれ!」

 

「……ノーコメントです」

 

「セサミ?」

 

 三人は突き刺さるようなジト目で黙ったまま俺を見るだけであった。嘘だと言ってよ○ーニィ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 セサミとの話が一段落つき、ハッカちゃんの部屋へと向かう。心臓の音が近づくたびにバクバク言ってうるさくなってきた。

 

「……ローリエさん、大丈夫ですか?

 そんなにハッカさんとやらが苦手なのでしたら、私が―――」

 

「心配はいらない。俺がやるべき事だから」

 

 手には土産代わりのお菓子に将棋盤。

 

「……ローリエに限って女が苦手なんてありえない………と言いたいが、彼女となにかあったのか?」

 

「…………まぁ、色々とね」

 

 10年前のソラちゃんハッカちゃん救出の出来事は、話すには勇気と心の整理とハッカちゃんとの和解が要る。コリアンダーが知りたげに聞いてくるが、これは流石に二人の問題だ。

 

 

 

 

 扉を開けたハッカちゃんのリアクションは怯えるでも嫌な顔をするでもなく、ただ少し憂いを帯びた無表情で、こちらを見つめるのみだった。

 

「やあ、ハッカちゃん」

 

「ローリエ」

 

 お互いが名前を呼ぶだけで、会話が途切れる。

 ヤベェ。黙っていても気まずくなるだけだ。なにか話さないと……

 

「お、お土産のドーナツだ。ハチミツ味と牛乳風味がある」

 

「感謝する。」

 

 お土産のお菓子を広げても、特に表情の変化がないままモクモクとドーナツを食べていた。かわいいけど、もっと余裕のあるタイミングでそういう姿を愛でたかった。

 

 

「………ローリエ」

 

 ハッカちゃんが俺に指をさす。その意味を一瞬考える。しなやかな指の先を追って見てみると、その延長線上には俺が持ってきていた将棋盤があった。

 

「………やりたいのか?」

 

 ハッカちゃんは一度だけ頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――パチン、パチンと音がし始める。

 

「………」

「………」

 

 先程までと同じ無言の時間が流れるも、それは今までの気まずい空気ではなく、集中した沈黙が流れる心地良い無音の時間だった。こういう意味では、将棋やチェスなどの対局ゲームは人に良いものなのかもしれない。

 将棋。俺が前世の記憶をもとにして編み出したボードゲームだ。というか前世の娯楽を輸入しただけなんだけどな。カルダモンの意見も取り入れ価値観をエトワリアに合わせる以上、泣く泣く「金将」や「銀将」、「香車」や「桂馬」などの駒には改名願った。そのおかげもあり、将棋の文化がエトワリアに根付きつつある。

 

 賢者間でこういうゲームが流行りだした時は俺が一番強かったが、ルールを理解するやいなや、ソルトとカルダモンがあっという間に俺より強くなってしまった。ソルトは『戦略や計算の勉強になるのです』と、カルダモンは『面白いよね』と言いながら、何処かの名人もビックリの対局を繰り広げてきおる。

 そして…………すぐに将棋が強くなっていった子がここにもひとり。

 

 

「………頂き」

 

「ぬあーーーーっ!!? やられたッ! その桂馬(騎馬)が本命だったか!!」

 

「……ローリエは己の陣形で攻撃してくる方向が読みやすい」

 

 

 ―――そう。ハッカちゃんである。

 秘蔵されてて表に出られず、こういうゲームに触れる機会が多かったためか、ボードゲーム系が得意な節がある。しかも、彼女は俺のイカサマを初見で破る程の思い込みに惑わされない観察力と考察力がある。それを最大限活用して強くなっていった。

 おかげで俺のハッカちゃんとの戦歴は今や五分五分だ。流石魔人族の天才………それは関係ないか。

 

 

(くそ……このままじゃあ詰まされる……!

 守ってばかりでも駄目だ! 攻めるしかないッ!!)

 

「―――っ!?」

 

(お? 動揺したッ! いける……いけるぞ……!!)

 

 

 一進一退の攻防が盤上で繰り広げられる。

 ハッカちゃんの打つ将棋は、変幻自在という言葉がよく似合う。相手の攻撃を把握し、状況に応じたカウンターを展開してくる。それがまた、彼女との対局が楽しくなる理由であり、この手のボードゲームが得意になる所以だと思う。

 ちなみにこのあと何手番か回り、最終的には俺が負けた。

 

 

「いやぁ〜〜〜、ハッカちゃんまた強くなった?」

 

「それ程でも。

 ローリエ…………楽しい対局であった。またやりたい」

 

 

 ほんのりと顔が赤くなる。口角も僅かに上がっていることから、本気で楽しんでくれたようだ。その笑顔を見た途端、心の重しがほんの少し、軽くなった気がした。

 

「あぁ……ハッカちゃんが望むなら、喜んで」

 

 ハッカちゃんの頭を撫でる。綺麗な黒髪が指を通る感覚が少し心地良かった。

 

 肝心の10年前の謝罪はまだ出来そうにないけれど。

 ほんの少しだけ事態が好転したような気がして、軽くなった足取りで部屋を出ようとしたところで。

 

 

「…しまった……最初の要件忘れてた…………」

 

「何やってるんですか……」

 

 

 当初の目的を思い出してアリサやコリアンダーを伴ってハッカちゃんの部屋に戻った。恥ずかしくて死にそう。

 

 

 

 

 

 

 

 ハッカちゃんの部屋に入って入口の扉をしっかり閉めると、俺は今まであった出来事―――主に第三勢力についての出来事を、順に話すことにした。

 

 砂漠で出会った、サルモネラのこと。依頼されてクリエメイトを狙ったという事件。

 ドリアーテと名乗るオレンジ髪の女性との遭遇戦。不燃の魂術について。そして彼女の目的も。

 ビブリオという悪徳商人によるオーダーの事件。クリエメイト殺害依頼を出したと思われる張本人と黒幕との繋がりのこと。

 

 コリアンダーがいるので、ソラちゃんの封印(療養)や、封印解除に大量のクリエが必要で、その為にクリエメイトを召喚(オーダー)していることについては口にしていない。

 

 

「―――以上が今まで俺の任務中に起こったことだ」

 

 

 そうまとめると、最初にコリアンダーが口を開いた。

 

 

「……言いたい事は色々あるが。

 ローリエは俺に何を望むんだ?」

 

「………コリアンダーさん、どういうことですか?」

 

「コイツは何の目的もなしに俺達に今までの話はしないって事だよ」

 

 疑り深い、というより、長年の友人としての信頼からくる発言だな。フェンネルに乱暴を働こうとした暴漢達を引っ捕える時も、コリアンダーには証拠の確保(現場の録画)を頼んだし。

 

「何を望む………というより、第三勢力と本格的に事を構える前に情報の共有をしたかったんだ。」

 

「情報はそれだけか、ローリエ。何故、他の者には伝えぬ」

 

 ハッカちゃんに続きを促される。勿体ぶるつもりはないので、とっとと話してしまおう。

 

 

「ハッカちゃんの懸念は尤もだ。この情報は、他の賢者にも伝えた方が良い。現に、今までの話はアルシーヴちゃんにも伝えて、他の賢者にも伝えるよう頼んである」

 

「……つまり、どういうことですか?」

 

「これから話す事は、ぶっちゃけ俺の()()に過ぎない。本格的に調べたり、周りに伝えたりする前に3人の意見や推理が欲しい」

 

 アルシーヴちゃんにも伝えたかったが、()()()、知らない方が敵に情報を与えずに済む。

 

「じゃあ……話すぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒幕の―――ドリアーテの正体が、わかったかもしれない

 

「「「!?!?!?!?!?」」」

 

 

 俺が投下した特大の爆弾は、3人を間違いなく揺さぶった。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
アリサを認め、セサミとコリアンダーと証拠裏付けをし、ハッカと一局打って秘密会議を開いた八賢者。事実と推察をしっかり分けて、事実のみを上司に報告し、推察を確かめようとしているその姿は、部下の鑑といっていい。最後に『黒幕の正体が分かった』と言っているが、これまでの話にいくつか伏線を散りばめてあるので探してみよう。「あ、もしかしてこの人かも」と思ったそこの推理力がカンストしている読者=サン。皆様が楽しめるようにする為、明言は避けていただけると助かります。

アリサ&コリアンダー&ハッカ
ローリエの推理と科学の実験劇場に付き合わされる羽目になったお三方。ハッカとアリサはソラ襲撃未遂事件の関係者であるのでまだ分からなくもないかも知れないが、コリアンダーは長年の友人としての付き合いや人柄、仕事への信頼や意外性などから抜擢される。彼からすればとんだとばっちりである。

セサミ
 ローリエ達と共に、証拠の精査をした八賢者。今回調べた事もしっかりアルシーヴに報告して欲しいとローリエに後押しされている。

デトリア
 神殿の慌ただしい雰囲気を感じとって善意でボランティアを行う元筆頭神官。ローリエやアルシーヴ、他の賢者達からすればいつ年寄りの冷水をしでかさないか不安だが、ローリエがしっかりと釘を刺すことで自重を促した。



将棋
 ローリエが前世の知識から輸入した戦略型ボードゲーム。長年日本で愛されることもあり、エトワリアでも一定数の人気を勝ち取った。賢者やアルシーヴにも浸透し、中には輸入者よりも強くなった者もいる。
〜〜〜八賢者+筆頭神官+女神将棋の強さ格付け〜〜〜
1位:ソルト「戦略や計略の予行演習にピッタリです」
2位:カルダモン「ローリエのゲームって面白いよね」
3位:ハッカ「秘蔵されている故」
   ローリエ「亀の甲より(前世を含めた)年の功ってね」
5位:セサミ「作戦の立案に役立ちそうです」
6位:アルシーヴ「やってる時間がない……」
7位:フェンネル「アルシーヴ様にお付き合いする位には嗜めます」
8位:ジンジャー「頭使うのあんま得意じゃねーんだけどな」
9位:シュガー「シュガーはオセロ派なの!」
   ソラ「乗り遅れた! でも絶対強くなるからね!」



△▼△▼△▼
きらら「イモルト・ドーロにて八賢者ローリエから告げられた、『クリエメイトの命を狙う第三勢力』の存在。一体、どうしてそんな事を私に……?」
ランプ「撹乱を狙った嘘……って訳じゃないですよね」
マッチ「あぁ。現に、心当たりのある人間と何度か出会ってる。砂漠の盗賊しかり、ビブリオしかりだ。僕たちも、クリエメイトを守る時は気をつけないとな………」

次回『黒幕を探れ その②』
きらら「見てくださいね!」
▲▽▲▽▲▽


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第50話:黒幕を探れ その②

原悠衣先生。私達の心に残る、かけがえのない煌めく金色の日常をありがとう。




兎秤さんがローリエを描いてくれました。なかなかカッコいいです。

【挿絵表示】


“不燃の魂術、という魔法は、マッチによると思った以上にヤッカイな魔法みたいです。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


 

 

 苺香さん達をもとの世界へ帰し、マッチに促されビブリオから避難する形でイモルト・ドーロを後にした私達は、『オーダー』が解けて崩れていく大きなカジノの崩壊音を背に言ノ葉の都市へ足を進める。

 その途中で、私はランプのクリエメイトに対する態度を、もっと普通にしても良いんじゃないかなと伝える。私達に接するみたいに、普通に元気に明るく、ね。

 

 

「あんまりかしこまっちゃうと、クリエメイトの皆さんもどう接していいか分からないから……きゃっ!?」

 

「きららさん!?」

 

「ご、ごめん、ランプ……ちょっと、転んじゃった。」

 

 膝に擦り傷ができてないかを確かめて立ち上がる。普段だったら、こんなふうに会話中に(つまづ)いて転ぶ事なんて滅多にないはずなんだけどなぁ。

 

 

「……きらら。

 やっぱり、気になるのかい? あの、ローリエの態度が。」

 

「……うん。正直ものすごく気がかりだよ。」

 

 

 そう。原因なんて分かりきっていた。

 八賢者ローリエの、情報提供の数々。その内容。

 

『さて……スティーレの皆が帰ったことだし。

 ――色々聞きたいこと、あるんじゃあないの?』

 

 確かに、私達が苺香さんを助ける際、ローリエとその助手だといったアリサさんの手を借りたのは事実。ランプもまた、ビブリオを倒しスティーレの皆さんを帰した後でローリエに聞きたいことを尋ねるつもりだったのも事実。ただ、自ら質問を受け入れて答えたあの態度があまりに予想外だった。

 

 しかも、そこで明らかになったのは―――喚び出されたクリエメイトの命を狙う『第三勢力』の存在。私達にとっては……本当に、青天の霹靂といってもいいくらいの衝撃だった。

 

 

「気付くきっかけはあった。一番最初は、砂漠で出会った、あの男盗賊。」

 

「……! 確かに、あの盗賊はゆき様や悠里様を狙っていました。しかも…直撃したら大ケガになるレベルの箇所を狙って……」

 

「決定的になったのは、『イモルト・ドーロ』内で出会った魔物やビブリオだね。」

 

 

 ローリエを除いた賢者4人とその部下は、クリエメイトを捕まえることはあっても、怪我をするような攻撃をすることはなかった。今思えば、ビブリオが苺香さんを人質にしてしてきた要求もアルシーヴの配下とは思えないものだった。

 

『この小娘に傷をつけられたくなかったら、武器を捨てて大人しくするんだぁぁな!!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、この小娘をオリから出してやらんでもないんだぁぁな!』

 

 そう。ビブリオが警戒したのは私とローリエの二人。アルシーヴの配下であるならば、少なくともローリエの命を狙う必要はない。私達が追い込まれたあの状況ならば、ローリエと手を組めばいい。でもビブリオはそうしなかった。むしろ、ローリエさんの命を狙った。…理由は一つ。

 

 

「ローリエの……ローリエさんの言っていた、『第三勢力』が動いていて…なおかつ、エトワリアを滅ぼそうとする女の人がいるって話。―――本当なんじゃないかな」

 

 ローリエさんの所属する神殿。

 砂漠の盗賊やビブリオの所属する組織。

 それらが別物で、かつ対立しているから。そう考えるのが自然だ、と思う。

 

「アルシーヴだけじゃなくて、他にもエトワリアを滅ぼそうとする人がいるなんて……!」

 

「これからは、おそらく三つ巴の戦いになるね。前途多難だよ、まったく。」

 

「しかも、その第三勢力のリーダーは『不燃の魂術』を施している、とか。」

 

 

 ローリエさんから告げられた「不燃の魂術」を宿している女性の情報。これが、一番の衝撃だ。

 不燃の魂術。ひとことで言ってしまえば、不老不死になる魔法。どんな怪我もたちどころに治るといわれている。しかも、肉体年齢を操作することで変装もできるって言ってたけど……

 

 

「不老不死はともかく、『肉体年齢の操作』ってピンと来ないね……」

 

「どういうことなんでしょう? マッチはすぐに察してたっぽいですけど。」

 

「えーとだね…すごく簡単に言うと、3歳の姿から90歳以上の姿まで、どんな状態にも変身出来るって事だよ。」

 

「それじゃ、本当の姿が分からないじゃないですか!」

 

 

 ランプの言うとおりだ。人は徐々に年をとっていくもの。とはいえ、5歳と15歳ではもう別人だ。例えば10年刻みで姿を使い分ければ、もうどれが本当の姿かなんて分かるはずありません。

 でも私は、ローリエさんが言っていたその『女』の特徴に聞き覚えがあります。

 

 

「……本当の姿が分からなくても、手がかりはあります。ローリエさんが言っていた、彼女の特徴で思い出したんです。『オーダー』されたるんさんを探している時のことを。」

 

「るんのことを? それは、どうして?」

 

「村の女の子が言っていました。『オレンジの長髪の、ユー子さんみたいなすらっとしたお姉さんに会った』と」

 

「あっ……!!」

 

 私がその時の状況を整理するように言えば、ランプが突然声を上げた。何かを思い出したみたい。おそらく、私と同じことだろうけど。

 

「確か、わたしの名前を知っていました…!!」

 

「そう。『ランプと名乗る子に会ったら手助けしてあげて』と、そう伝言していた……」

 

「………言われてみればそうだ…!

 でも、ランプはそんな人の事なんて知らない………」

 

 

 ランプには、女の子を通して手助けをし、クリエメイトの命は狙う。私達側でも神殿側でもありえないこの行動のギャップ。しかも、ランプのことを一方的に知っている。

 

 

「……考えられるのは、ランプに近しい人が『不燃の魂術』の副次効果で変装している可能性だ。」

 

「えっ……つ、つまり…わたしの身近にいた人で、『不燃の魂術』を使ってる人がいたって事ですか……?」

 

 私とほぼ同じようなマッチの推理に、ランプはただ戸惑う。無理もないだろう。自分に関わっていた女性の誰かが、『不燃の魂術』という禁忌を使っているだなんて。

 

「でも……わたしを知ってそうな女性って結構いますよ!? 女神候補生はわたし意外にもいますし、神殿で働いてる女性神官の方は多いです!」

 

「……まぁ、ランプはある意味有名だからね」

 

「うぅ…ご迷惑おかけします……」

 

 ランプはそもそも、アルシーヴがソラ様を封印したと告発し、皆に信用されなかったからここにいる。アルシーヴがオーダーを行うと言った時、人を集めて発表したので、その時呼び集められた神殿の人間ならランプを知る機会は十分にある。とはいえ、ランプを利用するには、ある程度ランプと仲良くないといけないかもだけど。

 

「ねぇ、ランプ。もし、ランプの知り合いがその『不燃の魂術』を施してる第三勢力の人だったとしたら、一緒に戦える?」

 

 つまり、その女性は、今までランプと親しい立場…例えば、親友等を演じていた可能性もあるということ。もし、『不燃の魂術』の人の正体が明らかになった時が来たら、例え今まで仲が良くても、戦わなければいけなくなるかもしれないのだ。

 

 

「…正直、大丈夫だと断言できません。わたし以外の女神候補生とも親交はある程度ありましたし、他にもお世話になった人がたくさんいます。そんな人達の誰かが『不燃の魂術』を使ったなんて考えたくもありません。」

 

 ランプはまだ完全には心を決めてないみたい。不老不死になり、姿も変えられる禁忌に対して、まだ整理ができていないみたいだ。当然といえば当然かもしれないけど。

 

「大丈夫さ、きらら。ランプはいざという時にはクリエメイトの為に動けるだろう。」

 

「マッチ……ランプを信頼してるんだね。」

 

「まぁね。ランプがクリエメイトを好きすぎるのを知っているだけとも言えるけど。」

 

 マッチがこう言うのは、ランプへの保護者としての信頼から来るものなのだろう。マッチ自身がクールな性格だからか、それを口にはしないけれど。

 でも、とマッチは続ける。

 

「不燃の魂術を相手が使っているのは、かなり厄介だ。

 『死なない』という事は相当のアドバンテージだぞ。」

 

 猫のような見た目からは想像つかないほどの神妙な態度でそう言うマッチは、こんな状況でも前を見据えている。いずれ私達と「不燃の魂術」を宿した人が戦うことを予見しているかのようだ。

 

 

「どうして? 死なないしどんな傷も治るって言ってたけど、それなら動けなくすればいいじゃん」

 

「ランプ。満身創痍の敵なら兎も角、傷一つついてない敵を捕まえる場合は、余程の力量差がないと出来ないんだぞ。ローリエに『運良く逃げられた』って言わしめるような相手だ。まず強いと考えた方が良い」

 

「再生に魔力を使うのなら、その魔力が尽きるまで攻撃すれば再生出来なくなる……という可能性はないのかな?」

 

「……僕もそこまでは分からない。なにせ、『不燃の魂術』について、持ってる情報がなさすぎる。

 とにかく、これからは神殿に向かってアルシーヴの企みを阻止するだけじゃなく、不燃の魂術の情報を集めるべきじゃないかな」

 

 

 マッチはそこまで言うと「ほら、街が見えてきたぞ」と話を切り上げる。

 

「きららさん、こっちです!」

 

 ランプに手を引かれて、マッチが示した方向を見てみれば、城壁に囲まれた、言ノ葉の樹の周りに建ち並ぶ都市が見えてきた。

 

 

「ここが、言ノ葉の樹なんだね。」

「そうです! わたし達はここを目指していたんです。

 ようやくここまで戻ってこられました……」

「まぁ、ここからがスタートとも言えるけどね。さぁ、まずは街に入るとしよう。」

 

 

 今まで見たことのないような広い街。ここでは、どんな出会いがあるのかな。

 気になる事は色々出来たけど、まずはこの街に入って異変や情報がないか探してみることにしよう。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 言ノ葉の都市。とある建物の高層階の部屋にて。

 背の高いオレンジ髪の女・ドリアーテが、狭く魔術書で散らかった部屋の中央に座している男に声をかけた。男は、部屋から出ていないためか、まだ年若いというのに髭はいい年した壮年のように生え、服装からも見た目の無頓着さが伺える。幸い、風呂に入る・髭をある程度切りそろえるなどの最低限の清潔感はあるようだ。

 

 

「仕事の時間だ、セレウス。」

 

 セレウスと呼ばれた若き男は、振り返ることなくドリアーテの呼びかけに答える。

 

「分かりました、御嬢(おじょう)。どのような仕事なのでしょう?なんなりと申し上げて下さいませ」

 

 この時点で、ドリアーテは目眩がしそうだった。仮にも自分が上司の筈なのだ。なのに、跪くどころかこっちを向かないのはどうなんだ、と思った。「御嬢」とはなんだ、あと「申し上げて」じゃなく「おっしゃって」だろうとも。

 

 

「………召喚士と女神候補生、賢者とクリエメイトの暗殺だ。」

 

 しかし、ドリアーテはツッコまないことにしている。いちいち口を挟むと、面倒くさい言い訳が先程の敬っているようで敬っていない失礼極まりない敬語と共に炸裂すると知っているからだ。「これが人物の情報だ」とリストを渡せば、「拝見いたそう」と言う。

 暗殺対象の特徴が綴られたリストにしばし目を泳がせると、セレウスはそれを目の前に広げて並べた。

 

 

「召喚士きららにランプ、マッチ、賢者ローリエに助手のアリサ。それに、市長のジンジャー殿も暗殺対象ですか。そして、クリエメイトは詳しくは不明、と。」

 

「召喚士がクリエメイトを探す力を持っている。彼女らと共に行動している者はほぼ確実にクリエメイトだと言ってもいい」

 

「解った。このセレウス、役目を果たしになろうではないか。御嬢は静かに果報をお待ちしていてくだされ」

 

 

 そう表面上は恭しく了承する間も、セレウスは立ち上がることも振り向く事もしない。世界が世界なら、確実に上司の反感を買いパワハラの対象になっていた事だろう。

 

 ドリアーテはこの面倒くさい存在とこれ以上会話することなどないと言わんばかりに部屋を後にする。態度は慇懃無礼(いんぎんぶれい)そのものであったとしても、彼の固有の魔法が強力であることを知っている以上、ある程度の仕事はすると考えているからである。

 マントを翻して彼女が立ち去るその際もセレウスは微動だにしなかった。

 ―――故に、その翻したマントに何かがついていたとしても、誰も気づくことすらないだろう。

 

 

「……さて。久しぶりにこの力を振るえる事、恐悦至極であるが。

 …召喚士、賢者、そしてクリエメイトの諸君。その命、私に献上させて貰おう。我が魔法から逃れられると思わぬ事だ。」

 

 

 ただ一人部屋に残った男は、まるでそこにいるかのように、笑みを浮かべて虚空に語りかけた。

 言ノ葉の都市では珍しい、霧が立ちこめる天候がしばらく観測される。その裏では、召喚士と賢者、そして謎の暗殺者による戦いが勃発していたという。

 

 




キャラクター紹介&解説

きらら
 ローリエが話していた、『第三勢力』がいることを確認し、オーダーだけでなく不燃の魂術にも関わりだした本家主人公。クリエメイトを守る為にランプやマッチと都市に入る訳だが、並び立つ背の高い建物群に感動する田舎者ムーブを見せる。

ランプ
 自分の親しい人の誰かが不燃の魂術を宿していることを知って、内心ショックな女神候補生。先生二人に裏切られた上、親しい誰かが『第三勢力』に属しているこの状況、折れてもおかしくないのに心構えが出来ないと正直に語り、それでも抗おうとしている。ここでも既にある程度の心の強さが見え隠れしている。

マッチ
 不燃の魂術と戦うことを見据えているマスコット。しかし、情報不足が否めず、情報を集めようと考えている。もちろん、本来の目的の神殿に向かいアルシーヴの企てを阻止することも忘れてはいない。

ドリアーテ
 不燃の魂術をその身に宿す女。ビブリオからの連絡が途絶えたことで失敗したと薄々感じたので、新たな刺客を動かすことにした。

セレウス
 ボロい服を身にまとい、壮年のようにヒゲを生え揃えた若者。慇懃無礼な性格。ドリアーテが用意した新たな刺客のようだ。魔法に相当の自身があるようだが……?



△▼△▼△▼
ローリエ「えー、○田渚のモノマネをしまーす………ジンジャーが」
ジンジャー「ちょっと待てェ! 何だその雑なフリは! あと潮○渚って誰だよ!」
ローリエ「このカンペの台詞を少年っぽく言えばいいだけだから。さ、やってみよ」
ジンジャー「はぁ? 一体どういう……おい、この台詞を言うのか? 人として大丈夫なのかよ潮田○って」
ローリエ「行くぞジンジャー、スリーツーワンアクション」
ジンジャー「だぁぁぁ早い!! えっと…………こ、『殺せるといいね、卒業までに』」

次回『金髪同盟はきんいろの瞳に惹かれる』
ローリエ「次回もお楽しみに〜」
ジンジャー「おい! なんか反応しろよ、ローリエッ!!!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
今回はちょっと短めです。
あと連絡になりますが、4月からは社会人として投稿していきます。


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第51話:金髪同盟はきんいろの瞳に惹かれる

とうとう拙作と原作の乖離が現れてしまいました。詳細はあとがきのアンケートにて。



“金髪同盟の大宮忍と松原穂乃花と出会い、俺はほんの少しだけ、右目喪失の危機(笑)を味わった。なんつって。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第6章より抜粋


 ドリアーテの正体という、俺の()()をアリサ・ハッカちゃん・コリアンダーに聞かせた後は、他言無用を促し、ようやくジンジャーとコンタクトを取るために言ノ葉の都市に転移していた。

 

 

「霧が出ていますね……」

 

「…おかしい。都市ではこんな天候観測されない筈だ。少なくともこの時期では………」

 

 

 そうなんですか? と尋ねてくるアリサに軽く説明しながら今回の事態を分析してみる。

 

 やっぱり『オーダー』の影響、なんだろうか?

 

 今回召喚(オーダー)されるのは6人。漫画(聖典)『きんいろモザイク』の女子高生達だ。

 大宮(おおみや)(しのぶ)。アリス・カータレット。小路(こみち)(あや)猪熊(いのくま)陽子(ようこ)九条(くじょう)カレン。松原(まつばら)穂乃花(ほのか)

 この内アリスとカレンはイギリスからの留学生である。オーダーの影響がクリエメイトによるものであるならば、霧のロンドンよろしくこんな天候になるのもおかしくはない。

 ……しかし、俺の知っている『きららファンタジア』には、そんな影響は出ていない。せいぜい都市中の人々が金髪好きになるだけだ。

 

 そうなると、考えられるのはバタフライエフェクトであるが、そんなものは俺とコリアンダーがいる時点でもう蝶は羽ばたいている。つまり、この方面に考えることは時間の無駄だ。

 

 

「―――っ!!?」

 

 

 突然、殺気を感じる。

 突き動かされるようにパイソンを抜くと、その銃身が金属製の何かとぶつかったかのような音がした。

 

「い、いつの間に!?」

 

 視線を移すと、そこには群青色のコートを羽織り目深に帽子をかぶる髭面の男がいた。

 

 コイツ、俺とアリサの警戒をくぐり抜けやがった……!

 普通に近づくだけではまずできない芸当だ。あと少し殺気に気づくのが遅れていたら、怪しげなものが塗られてないとも限らないナイフが俺にかすっていたかもしれない。

 

 

「……お前、何者だ?」

 

「…ククク………」

 

 

 突然現れた男にそう問うも、気持ち悪くそう笑いながら、霧の奥に走り去っていく。そして、霧に溶け込むかのように消えてしまった。

 

「っ!! 待ち―――」

 

「アリサ。深追い厳禁だ」

 

 霧の中に走りだそうとしたアリサの肩を掴んで止める。

 

 

「どうしてですか…?」

 

「保護するべき人間が出来たかもしれない。情報は渡すから、手分けして探してからにしよう。クリエメイトがさっきの不意打ちを受けたら間違いなく誰かが死ぬ」

 

「なっ………!?」

 

 ただでさえ俺やアリサの警戒網をくぐり抜けたような奴だ。なにかトリックがあるのだろうが、一種の初見殺しには違いない。戦いに慣れていないクリエメイトがこれを受けたら、例えきらら達が側にいても流石に危ないだろう。良くても怪我をする。というか、戦いに慣れてるクリエメイトって、『夢喰いメリー』の人以外にいなくねーか…?

 

 

「G型をいくつか貸す。それを使ってクリエメイトを見つけ、きららちゃんかジンジャーに連絡―――」

 

「嫌です」

 

 耳を疑った。クリエメイトの危機なのだ。神殿側にしろきらら側にしろ、彼女達の生存は第一条件のはずなのに……いったい何を考えて―――

 

 

「どろーんが良いです。アレはあんまり触りたくありません」

 

 ……あ、なるほど。そういう事ね。

 でも、俺には俺で考えがあるんですよ。

 

「…………………人探しには、G型(アレ)の方が向いている。ルーンドローンは戦闘もできるが、隠密機能ではやや劣ると言わざるを得ない」

「それでもです。どろーんの方が良いです」

「G型」

「どろーん」

「G型」

「どろーん」

「「……………………」」

 

 

 ……頼むよアリサちゃん。お願いだから引いてくれ。

 

 G型、ドローンと譲らずの言い合いの末、俺が折れて、ルーンドローンをアリサに数機貸すことになった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 見渡す限りの、洋風の都市。

 日本とは全く違う、石と煉瓦でできた屋根、家、道路。幻想的にかかった霧。そして……どこからでも見えそうな、見上げるほどに大きく、太い樹。

 日本人には馴染みの薄いそんな光景に、私は心を奪われた。

 

 いや、最初は驚いたよ? いきなり知らない街へテレポートしちゃったんだもん。パスポートで海を渡った記憶もないのに、だよ? 頬をつねって、夢じゃないと気付いて焦ったよ!

 

 でも、しばらく経って街並みを見ながらあてもなく歩いていくと、そんな戸惑いや焦りが消えていった。まるで外国の由緒ある街に迷い込んだみたいに思えて、むしろ楽しくなってきた。

 

 アリスちゃんや、カレンちゃんの故郷ってこんな風な街なのかなぁ。

 忍ちゃんとここを歩きながら、金髪について話したいなぁ。

 でも、ここがどこか分からない。

 街の人に声をかけようにも、どうしても尻込みしちゃうし……

 

 

「お困りですか、お嬢さん」

「わひゃっ!!?」

 

 

 声を、かけられた。

 振り向くと、そこには素敵な男の人がいた。私の好きな金髪じゃなかったけど、ライトグリーンの髪に、オレンジと金色の瞳。まるで、海外のモデルさんか俳優さんみたいな綺麗な男の人。

 

 

「迷っているご様子だったからここに来るのは初めての方かと思ったのだけど」

 

「あ、合ってます!! 素敵な街並みですけど、ここがどこだかも分からないもので……」

 

「オーケー。それなら、俺が案内をしてあげよう。俺の名はローリエ。君は?」

 

 

 俳優のような人に手を差し出され、私は。

 

 

「……松原、穂乃花です。」

 

「穂乃花ちゃんか。いい名前だ。」

 

 その手を握り返した。

 

 

 

 

 

 ローリエさんと名乗った男の人は、私が迷い込んだ都市―――いや、世界について教えてくれた。エトワリアという世界の、言ノ葉の都市。ここは、そういう名前らしい。そして、聖典という重要な本があるみたいで。

 

「聖典って、何ですか?」

 

「女神ソラが書く異世界の観察記録みたいなものだ。穂乃花ちゃんがいた世界の記録もある」

 

「へぇぇ。女神ソラさんって?」

 

「分かりやすく言うなら『ウェーブがかった金髪とナァイスバディが特徴のお姉さん』だ」

 

「女神様が金髪のお姉さん!!!?」

 

 ぜ…是非会いたい…! カレンちゃんの金髪も素敵だけど、私とは違う世界の金髪もどんなものかを見てみたい……!

 

「金髪が好きなのかい?」

「えっ!!?」

「顔に出てたよ」

 

 思わず顔をそらしてしまう。そんな、金髪の事を考えてた事が顔に出てたなんて、恥ずかしい。

 

「そんなに金髪がいいのなら、知り合いの金髪に会わせたかったんだけど……ソラちゃんは今、体調を崩してるんだ。風邪が伝染ると大変だから、会うことはできない」

 

「そ、そうだったんですか……女神様が風邪なら、仕方ないですね」

 

「俺の髪は金色というより黄緑色だからなぁ。金髪の知り合いも、ソラちゃん以外にはいないんだ。ごめんね」

 

「あ、謝らないでください! え、えと、金髪が一番好きなだけで、じゃなくて……その…そ、その金色の目も素敵だと思います!!」

 

 

 金髪じゃないだけで謝られるなんて思わなかった。なんか申し訳なくて、咄嗟に右目の金色を褒めちゃう。すると、ローリエさんはそんな事を言われると思っていなかったのか、金色とオレンジ色の瞳を見開いた。

 

「……穂乃花ちゃんにそんなことを言われる日が来るとは。ありがとう。とても嬉しいよ」

 

 そして、まっすぐに私にはにかんだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 松原穂乃花は、金髪好きだ。

 アリスと金髪が大好きな忍と意気投合して金髪同盟を組むくらいには。だから、金髪でない俺が話しかけても、テンションが振り切れて事態がややこしくなる事はないと踏んだのだ。まぁ彼女自身の身の危険を考えると見つけたらすぐに合流するべきなんだけど。

 

 そんな彼女が……まさか、俺の金色の目を褒めてくれるとは。金髪好きの忍か穂乃花ならまったくあり得ない可能性ではないが、意外だった。

 

 

「私達の世界では金髪の人はいたけど、きんいろの目をした人なんて初めて見ました! 永久保存したいくらいです!」

 

「……穂乃花ちゃん。その言い方だと、目をくり抜いてホルマリン漬けみたいなイメージを与えかねない。『スマホがあるなら撮りたい』くらい詳しく言わないと」

 

「そう、ですよね。目は流石に痛いし駄目ですよね。金髪なら切ってもまた生えてくるんですけど」

 

「おい」

 

 

 ……言い方がやけに物騒なんだけど。なんなの穂乃花ちゃん。体のどこかに数字のある蜘蛛の入れ墨でも彫ってんの??

 

 そんな会話をしながらも、俺と穂乃花ちゃんはある建物まで来ていた。それは、石と黒い金属の外壁と門で覆われた洋風の建物。前世のバッキンガム宮殿を彷彿とさせる建築物だ。

 

 

「……ここは?」

「この都市の市長がいる建物。市長官邸だ」

 

 そうして俺は、ジンジャーを呼び出すべく、門の古風な呼び鈴を鳴らすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 八賢者の顔があれば、顔パスで通ることなど朝飯前である。クリエメイトを連れてきたならなおさらだ。客室へ行く最中に、何人かの従業員やメイドとすれ違った。そのうち、メイドは全員金髪だった。モブのはずなのに顔面偏差値がことごとく高い。穂乃花ちゃんがいなかったら、一人ずつに声をかけてたところだ。

 

 客室の前では、既に身支度を済ませたであろうジンジャーが、人当たりのいい笑顔で立っていた。市長の身でありながら、もうすぐクリエメイトを自ら探しに行こうとしたのだろう。逞しい限りである。

 

 

「わりぃな、ローリエ。本来都市でのクリエメイトの回収は私の仕事だってのによ」

 

「構わないさ、ジンジャー。こちらとしても、色々話したいことがある。」

 

「…で、お前がクリエメイトの穂乃花か。もう既にクリエメイトが一人、ここで待ってるから、いま合わせてやる」

 

「え、あ、はい、ありがとう…ございます??」

 

 

 ジンジャーが先に客室に入り、しばらくしてから「おい、入れ」と声がかかる。先に入った穂乃花ちゃんが嬉しそうな声を出した。続いて俺も客室に入ってみれば、いつもとは違う格好のシノ――忍ちゃんのことだ――と穂乃花ちゃんが再会を喜んでいた。

 

 

「ありがとうございます、ジンジャーさん。ベリーマッチ!」

 

「あぁ…穂乃花を連れてきたのは私じゃないんだ。ローリエがここまで連れてきたんだよ」

 

 ジンジャーが俺に目を移すと、シノが嬉しそうにこっちを見た。

 

「ありがとうございます。えっと…」

 

「ローリエだ。君は大宮忍ちゃん、で合ってるかな?」

 

「はい、忍です。」

 

「他の子達も俺とジンジャーがすぐに連れてきてあげるからな。」

 

「他の……っ! もしかして、カレンちゃん達もここに来ているんですか!?」

 

「あぁ。アリスとカレン、綾と陽子あたりはおそらく来てるだろう。」

 

「な、なら、すぐに探して―――」

 

 

 ほわほわした雰囲気で穂乃花ちゃんを見つけたお礼を言うシノとカレンの身を案じる穂乃花。いても立ってもいられないと言わんばかりに部屋を出ようとするが、ジンジャーに手を掴まれる。

 

 

「穂乃花たちが探す必要はねぇよ。私が見つけてきてやる。ま、忍からの情報だけだと探すにはちょいと足りねえかもしれねぇが、何とかするさ。ちょうど、異様に聖典に詳しい奴もここにいるしな」

 

 ジンジャーの言葉は、落ち着き払っていて、『諭す』とかそういう言い方がしっくりくるかのような言い方だ。「異様に聖典に詳しい奴」で俺を見たのはつまり後で力貸せってことなのか? どうせシノの事だ、ジンジャーにはアリスとカレンの金髪に対する愛しか語ってない可能性が高い。アヤヤと陽子にも触れてやれよ……

 ジンジャーが穂乃花ちゃんを落ち着かせている間、シノは俺を―――俺の目を見ていた。俺が視線に気づくとシノは目を見つめたまま話しかけてくる。

 

 

「……穂乃花ちゃんの言うとおりの、金色の目ですね。コンタクト……とかではないんですよね」

 

「ああ。……金色の目って、忍…ちゃんの世界では珍しいのかい?」

 

「はい。金髪は何度も見ましたし、大好きですけれど、きんいろの目は初めて見ました。私の知る限り、外国人にもきんいろの目はなかなかありませんでしたから。」

 

 答えのわかりきっていた質問を、シノに投げかけると、嬉しそうに答えてくれる。俺の知っている外国人も、だいたい目の色は青か茶色だったもんな。それ以外となると、アルビノかカラコンでもないと再現できない。

 

 

「きんいろの瞳って、見ていると不思議な気分になります。まるで、外国の博物館で希少な宝石を見ているかのようです。……もしかしたら金髪以上の値打ちになるかも」

 

「…………忍ちゃん、ヒトの目を幻影旅団みたいな鑑定眼で見るの、少し自重できないかな?」

 

「はい?」

 

 しかも距離がちょいと近いし。アリスに見られてない所で良かった。こんな絵面をアリスに目撃されたら、確実にダークアリスになってしまう。

 距離といい発言内容といい他意はないんだろうけど、人々の捉えようによってはかなり危ないぞ。流石、「鬼畜こけし」の二つ名は伊達じゃあないな……

 

 

「でも、やっぱり金髪が一番でしょうか。ね、穂乃花ちゃん。うふふふふー」

「そうだねぇ。私達、金髪同盟だからね」

 

「金髪同盟……」

 

「ジンジャーさんとローリエさんもどうですか? 一緒に金髪愛を育んでいきましょう!」

 

「金髪以外の子も愛でていいなら――ごふ」

「ローリエこのヤロウ…

 ――ま、そんなに素晴らしいってんならますます早く見つけて来ないとな」

 

 

 そんないつも通りの金髪同盟の申し入れに素直に答えたらジンジャーから肘鉄を貰ってしまった。俺が一体なにをしたというんだ………

 その後、「アリスやカレンの金髪が素晴らしすぎて誘拐されてしまうかも」と世界の損失を心配し始めたシノと穂乃花を宥め、俺とジンジャーは客室を後にした。

 

 

「ジンジャー」

「なんだ?」

「さっき、『人攫いをするような奴はここにはいない』って金髪同盟の二人に言ってたよな? そのことなんだが………」

 

 そこで、俺は霧から現れた通り魔について話した。現れた状況、俺とアリサをくぐり抜けた何らかのトリック、初撃を失敗したらすぐに消える周到さ、まさに神出鬼没。ソイツが、アルシーヴちゃんから聞いた『第三勢力』である可能性があること。ソイツの狙いが、俺だけじゃなくアリサやジンジャー、果てはクリエメイトにまで及ぶかもしれないことも。

 

 

「そうか」

 

 

 すべてを聞いたジンジャーはそれだけ言うと、窓から霧に包まれた街を鷹の目で一望した。

 ここは自分が治めている街だ。その平和は私が守る。そのためなら、なんでもやる。街の平和を乱すようなヤツは、天が許しても私が許さない。

 

 ……そんな決意が全身から滲み出ていた。まぁ当然だろう。人攫いどころか人殺しがいる可能性が出てきたんだからよ。

 

 

「私の街でそんな事を企むヤツがいるとはな。

 ――――――絶対、後悔させてやるぜ」

 

 

 ジンジャーの心が燃え上がる。目の瞳孔が細まり、猫のような耳と短冊が連なったような黄色い髪が逆立つ。そのさまが、番長のような学帽と制服とマッチし貫禄が出てくる。

 その姿は、群れを守る為に立ち上がる、巨大な獅子を彷彿とさせた。

 

 

 

 ちなみに、その後一旦スイッチを切り替えたジンジャーにシノと穂乃花の友達のクリエメイトについて尋ねられたので、分かりやすいように1人ずつ説明したら、なんか「お前ちょっと詳しすぎないか? 逆に怖いぞ」みたいな事を言われた。人が一生懸命情報提供したっつーのに、その対応はあまりにもあんまりだと思わねーのかよ。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
金髪同盟の二人に遭遇し、思った以上にきんいろの目を気に入られ、若干困惑した主人公。ジンジャーに情報を与え、味方につける。なお、シノと穂乃花以外のクリエメイトの情報をジンジャーに渡す際、詳しく教えすぎてジンジャーにちょっと引かれた。

じんじゃー「他のクリエメイトについてなんか知ってんだろ?教えてくれよ」
ろーりえ「おそらく他に来ているのは4人。それぞれアリス・カータレット、九条カレン、小路綾、猪熊陽子という。アリスは忍よりも背の低いツインテの金髪少女。(〜〜中略〜〜)簡単な情報は似顔絵と共にこの紙にまとめておいた」っアリス・カレン・綾・陽子の性格とカラーデフォ絵が書かれている紙
じんじゃー「……………いや知りすぎだろ。逆にこえーわ。ストーカーか?」
ろーりえ「は? マタタビまみれにした後ぶっとばすぞ」

ジンジャー
言ノ葉の都市の市長。官邸敷地内に召喚された忍を保護した後、クリエメイトを探しに自ら出かけようとしてローリエと穂乃花に出会う。自分の街に不埒な輩がいることが判明し、街の平和を守る使命に燃えている。

大宮忍&松原穂乃花
ローリエの金色の瞳を地味に気に入った金髪同盟の方々。さり気なくローリエの目に対して二人とも辛辣というか、エグいというか、目が痛くなりそうなことを言っている。

アリサ
ローリエのG型を使用するのを拒んだ呪術師兼助手。結果、ルーンドローンを勝ち取っている。現在、霧の中の襲撃者からクリエメイトを守るため彼女達を捜索中。




きんいろモザイク
原悠○先生作の漫画作品。2010年〜2020年と、10年に渡って連載され、アニメ2期、映画を2本も(1本は予定だが)制作された大作。
ホームステイ経験のある高校生の大宮忍とイギリスの留学生アリス・カータレットと九条カレン、忍の友達の小路綾と猪熊陽子の5人が中心となって織りなす、『モザイク』のような異国文化交流コメディー。

夢喰いメリー
牛木義○先生作の漫画作品。2008年〜2020年現在連載中。
男子高校生・藤原夢路と幻界(ゆめ)から現界(うつつ)に迷い込んだ夢魔・メリーの二人が、人の夢を食らう夢魔から人間たちを守るために奮闘するバトル物語。2020年3月現在において、『きららファンタジア』に参戦中の作品では唯一のバトルものである。

鬼畜こけし
大宮忍が腹黒い言動を見せていること・またはそのさまを指す。主にホームステイ以来の親友であるアリスが被害を受けることが多い。
原作での忍は決して腹黒いとは言えないのだが、天然な性格ゆえに空気が読めないことが災いして、結果的にドS疑惑のある言動が目立ってしまった。
本人にとって悪気があるわけではないものの、つい暴発する点ではある意味厄介。
(例)・アリスを買うなら、という質問(by勇)に対して「10万円!」
・アリスのプレゼントに対して「これはゴミですか?」
・イギリス人(アリス)にイギリスの石をプレゼント

幻影旅団
『HUNTER×HUNTER』に出てくる悪名高い盗賊団。団員全員が蜘蛛のタトゥーをしていることから、「蜘蛛」という別名がある。クラピカの一族を滅ぼしている。




△▼△▼△▼
忍「穂乃花ちゃんと会うことが出来ました!私達は、異国情緒溢れる部屋と街でゆったりジンジャーさんとローリエさんを待っています!
 ……ただ、アリスとカレン達は不穏な事になっていまして…あぁ! アリスやカレンが万一に怪我でもしてしまったら、私は……!!!」

次回『霧の中に潜む者』
忍「次回もお楽しみに!」
▲▽▲▽▲▽


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第52話:霧の中に潜む者

“都市に舞い降りたのは二人の天使。金髪をたくわえた二人は、街中の人々をあっという間に魅了していった。”
 …ランプの日記帳(後の聖典・きららファンタジア)より抜粋



 

 アリサは走っていた。

 ローリエと別れた後、一刻でも早くクリエメイトを見つけて、あの神出鬼没な暗殺者から彼女達を守らねばならないと考えていた。

 アリサの目的は、兄を殺した仇への復讐。その為には、ローリエと組み「第三勢力」の力を削ぐ必要があると踏んでいた。彼の指示に従うのもこのためである。クリエメイトの情報も、既にローリエから貰っていた。

 

 

「どこ……クリエメイト………!!」

 

 

 一刻も早く、彼女達の元へ辿り着く。

 先程の不意打ちがアリサだけで防げるとは限らないが、クリエメイト単体の時に不意打ちを受けたら確実に防げない。

 

 霧の中に逃げていったあの男よりも先にクリエメイトを見つけるべく、足を動かし魔力で速度を上げながら都市中の屋根を跳びながら歩き回り、クリエメイトを探し回るアリサである。

 

 ただでさえ霧の中で視界が悪くなっているというのに、多くの市場の人だかりの中から指定の女性を見つけるなど至難の業である。

 

 

 だが、天はほんの少しだけ、アリサに味方したようだ。

 

 人混みから少し離れた、人の少ない場所にアリサがたまたま目を移したところ、二人組の少女を見つけたのだ。濃い青色のツインテールの少女と、茶に近い赤髪のショートヘアの少女の二人組。アリサがローリエから聞いたクリエメイトの特徴と一致する。

 

 しかし、()()()()()()()、である。

 

「いた、けどっ―――!!」

 

 二人の周辺の()()()()()()濃くなったと思えば、路地裏から光る刃物のようなものを手に取り、()()()()()……先程、ローリエに不意打ちをした()()()()()のである。

 アリサは、焦った。魔法で加速してまで都市を走り回った苦労が水の泡になりかけている。目的の人を見つけたと思ったら、襲われる5秒前だったのである。

 

「――ソニック、レイド……っ!!!」

 

 自身の風魔法の加速をトップギアに無理やり切り上げる。反動が来そうなスピードでクリエメイトの二人と男の間に割り込むと、すぐさま魔力で男の凶刃を弾いた。

 

 

「なっ……!?」

「えっ……!?」

「チッ……!」

 

 突然の出来事に驚き目を見開く濃青色ツインテの少女と赤茶髪ショートヘアの少女の二人に、舌打ちをして近くの路地裏に走り去っていく男。

 

 アリサは、去っていく男を睨みつけ、追撃が来ないことを確認すると、初撃を防げたことに安心し、二人の少女―――ともに、クリエメイトだ―――に声をかけた。

 

「大丈夫ですか!? お怪我はありませんか!」

 

「え? まぁ……ないけど、君は?」

 

「アリサといいます! お二人はコミチ・アヤさんとイノクマ・ヨーコさんで合ってますか?」

 

 コミチ・アヤとイノクマ・ヨーコ改め小路綾と猪熊陽子は衝撃を受けた。なにせ、茶髪で見慣れない異世界ファッションに身を包んだ少女が初対面にして自分たちの名前をぴたりと言い当てたからである。もしローリエのような大人の男性がこれをやっていたら確実に通報されていた。

 

「えっ、と……確かに私達は陽子と綾だけど……どうして知ってるの?」

 

 陽子が綾を背中で庇いながらアリサに問いかける。

 さらりと行われた彼氏ムーブが、綾の心を掴んで離さない遠因であるのだが、当の陽子本人は全く気づいていない。鈍感すぎて綾が可哀想だ。

 陽子と綾の関係を分かりきっていないアリサは話を進める。

 

 

「勝手ながら私、お二人の護衛に来ました!

 お名前のことも含めて事情を説明しますので、信じてくださいますか?」

 

 

 突然の申し出に、綾と陽子は顔を見合わせた。いきなり名前を知られた人間に「守らせてくれ」と言われたのだ。驚くなという方が無理な話である。

 ただ、さきほどのアリサの行動は雄弁に信頼性を語っていた。不審者の攻撃を受け止めた技量を格好いいと言う陽子といまだ不安がぬぐいきれない綾……散々悩んで二人で相談した結果、陽子と綾はアリサを受け入れたのである。

 

 かくして小路綾と猪熊陽子は、自分たちが迷い込んだ世界がどのようなものかを、自分たちの世界が聖典として描かれていることを知ることとなる。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 大きな門をくぐって街に入った時、正直私は圧倒された。

 当然だ。私は今まで、拾われた村でしか生活していなかったから。港町も人が多くて驚いたし、好きになれた。砂漠もこの目で見れたし、渓谷を渡った時もある意味楽しかった。

 でも、この都市で見かける人の多さは、それまでの比ではない。あちこちからパスを感じ、クリエメイトを探すのでひと苦労もふた苦労もしそうなほどに、多くの人々で溢れかえっていた。

 ここまで人が多いと、クリエメイトを探すためにパスを辿る方法は使えない。地道に聞き込みをするしかないと思っていた。しかし―――

 

 

金! 髪!

 金髪! 金髪! 金髪!

 

「アリース、これは一体なんのお祭りデスか?」

「お祭りじゃあないと思うよ。それに―――」

 

「あぁ……金髪様だ……金髪様がいらっしゃるぞ………!!」

 

「「「金髪! 金髪! 金髪! 金髪!」」」

 

「なんで拝まれてるのー!!? それにここどこー!!」

 

 

 市場の異様な光景が目に飛び込んできた。

 都市の住人だろう人々が、二人の金髪少女を拝んでいる。そして……その金髪少女から、クリエメイトのパスを感じた。

 

「ここがどこかはわかりまセンが、似たような状況を見たことがありマス。クラス替えの時、アリスとホノカがこけしを拝んでマシタ!」

「ええっ、あれが!? 端から見ると、こんなに異様だったの……?」

「でも、皆から崇められるのってちょっといい気分デース! みなのものー、ひかえおろー!!」

「「「「「ははーーーっ!!!」」」」」

 

 

「ははーーーっ!!」

「ランプ、何してるの!?」

「間違いありません! あの金髪!喋り方!

 アリス様とカレン様です!!」

 

 ロングの金髪少女の「ひかえおろー」に街の人たちと一緒に跪き、直後人混みの中に突っ込んでいくランプ。クリエメイトと仲良くなるためならなんでもしそうだから、意外だとは思わないけれど、ちょっと遠慮くらいした方がいいんじゃ……

 

 

「アリス様ァー! わたくしめにお任せください!!

 必ずこの人混みから救い出して―――」

「うわぁーーー!?」

「アリスが襲われたデス!?」

 

「こ、こいつは……いきなり飛びかかるとか、あれの一体どこが普通の接し方なんだ!」

 

 私もそう思う。私の言った通りかしこまってはないんだけどね…

 

 

 金髪少女は、背の低い方と高い方。それぞれ、アリスさんとカレンさんと名乗った(というよりランプが紹介してくれた)。いつものようにこうこう?にいたらここにいたのだという。

 私達は、アリスさんとカレンさんにこのエトワリアについて尋ねる前に尋ねておく。

 

「それで、どうしてこんな状況に?」

 

「多分…この立て札のせいかな?」

 

「……金髪令?」

 

 立て札には、確かにそう書いてあった。

 なんでも金髪に生まれた者を崇め奉るように、というお触れらしい。

 このお触れがあったからさっきアリスさんとカレンさんが拝まれていたんだなと納得した。

 

「それで…その、あんまり状況が分かってないんだけど、金髪令って普通じゃないよね?」

 

「そうですね……金髪令は、普通じゃないです。」

 

「可能性として考えられるのはオーダーの影響だろうけど、こんなのが出るのがな……」

 

 マッチが推察する。

 今までのオーダーの影響は、いずれも普通ではなかった。空の色が消え、人々がやる気をなくす。ゾンビの群れが現れ、村人が引きこもったり臆病になったりした。果ては巨大な建物がまるまる一軒出来上がる、など。

 

 確かにオーダーの影響が一番可能性が高いんだろうけど……

 

「オーダー? 誰かが注文したデスか?」

「えっとですね、ここはカレン様がいた世界とは違う世界なんです。」

 

 ランプがお二人にエトワリアのことを説明しだしたので、私も説明に加わり、マッチも加わる。マッチの説明が一番わかりやすく、私とランプが補足に回る。アリスさんもカレンさんも相槌を打って、ここの事を理解したようでした。

 

「ナルホド……つまり私たちは召喚されてここに連れてこられたという訳デスか。シロモンの説明はわかりやすいデス。」

 

「僕をクロモンの仲間みたいな呼び方しないでくれるかな!?」

 

「それで、オーダーっていうのでわたしたちが連れてこられた影響が出ると……

 この影響、心当たりが……」

 

「アリスさん?」

 

「ううん、なんでもない。」

 

「とにかく、シノ達もこの世界に来ているのなら、早く見つけないとデス。」

 

 

 そう言うカレンさんとアリスさんの他にも、クリエメイトがいる可能性が高いけど、やはりパスの場所までは絞り込めない。そもそも、ここは人が多すぎる。2つずつが離れてあることくらいしか分からない。

 

 

「なら、まずは色んな人に聞きこまないといけないね。きっとシノたちを見かけた人もいるはずだよ。」

「僕も賛成、いい考えだと思う。

 まったくアリスは小さいのにしっかりしてるね」

「アリス様はこの中で一番のお姉ちゃんですから!」

「え、そんな麻冬さんみたいなこと……あるの?」

「あるよー!!!」

「麻冬の時も思ったけど……アリスの世界には、身長が伸びない呪いでもあるのかい?」

「呪いじゃないよ! というか、そのマフユさんって誰なの!?」

「アリス様、麻冬様というのはですね……」

 

 先導するアリスさんを中心に、ランプとマッチが和気あいあいと話が広がる。私達はこれまでの冒険を語りながら人の多い市場へ聞き込みに向かうことにした。

 

 

「……?」

 

「キララ、どうしたデース? 後ろに何かいまシタか?」

 

「あ、いえ。何でもありません、カレンさん。」

 

 後ろの方にいる気配が一つ、何かが散るように消えたのを感じ取ったけれど、この時は賑わう都市の人々の誰かが家に帰るとか眠りにつくとかしたのだろうと思い特段気にはしなかった。

 

 

 

 

 

 聞き込みは、最初はつまづいた。なぜなら、アリスさんやカレンさんが話をしようとした途端、尋ねた少女達がオーダーの影響からか、金髪に感動して話にならなかったからだ。

 聞く人を私とランプに切り替えて話を始めると、早速こんな情報が耳に入ってきた。

 

 

『八賢者のローリエ様が、茶髪の見かけない少女を連れて市長官邸の方に向かっていった』

 

 

「アイツ……賢者としての自覚はあるのか?」

 

 初めてこの情報を耳にした時、マッチは呆れた。またローリエが女の子を口説いたのかと。ランプもアリスさんもカレンさんも苦笑いするだけだった。

 でも、私は妙に引っかかったのだ。

 いや、ローリエさんが女の人にちょっとだらしない点は否定しないんだけど、行き先がおかしいと思ったの。

 

「ねぇマッチ、市長官邸ってなに?」

 

「ん? あぁ、きららはここが初めてだったね。

 市長官邸っていうのは、この都市の市長がいて、都市の行政をしている建物だよ。」

 

「じゃあどうしてローリエさんは市長官邸に向かったのかな? 市長って確か、ジンジャーさんっていう……」

 

 ローリエさんのお話とは別で聞いた、ジンジャーさんについてのやり取りを思い出す。

 

『ジンジャー様のはからいのお陰でこの都市で生活が出来ている』

『金髪令もきっと街のことを考えた結果出したものだろう』

 

 八賢者のひとりでありながら、都市を統治する存在。様々な政策を出しあらゆる問題に対しても先頭に立って街を守る人。

 街の西で火事になりかけた際も、パンチの拳圧で火を消し建物を崩して延焼を防ぎ、事後処理や住宅の再建も自らが指揮を取ったという。

 

 そんな立派な人がローリエさんのナンパを見たら間違いなくたしなめるだろう。

 そう考えた時、ランプが閃いた。

 

「そっか! ローリエもそうだけど、ジンジャーも八賢者のひとり……!」

 

「えっ! 八賢者ってさっき話してた八賢者だよね。

 私達を狙っている……」

 

「八賢者が同じ八賢者のいる市長官邸へ連れてった茶髪ガール……そして、金髪が集まる屋敷…………

 ―――名探偵カレンの出番デスね!!」

 

「推理の必要もなく、そこにクリエメイトがいるだろうね」

 

 脱線しかけていた話を一気に戻すあたりマッチらしいと思う。クリエメイトはそこにいると考えてもいいだろう。遠目に見える、ちょっと大きな屋敷に向かって、私達は歩を進めた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ジンジャーがいるという屋敷―――市長官邸は、街の中心と言うに相応しく、広さと高さ、そして華麗さを兼ね備えていた。派手さを押しすぎて悪趣味に感じたイモルト・ドーロとはまた違う。

 

「さすがに、正面からは無理だよね……」

「そうだね。八賢者の屋敷となると当然、警備くらいあるだろうし……」

 

 できる事なら、誰にも見つかることなく中にいるであろうクリエメイトを助け出したい。おそらくあるであろうクリエケージも壊せるなら壊してアリスさん達を帰してあげたい。

 ただし、ジンジャーはそれを阻むだろう。ローリエさんも、一時期は協力したけど今回はどう出るか分からない。だから、警備との戦闘で消耗は出来るだけ避けたい。

 

「ンー、中がよく見えまセン。」

 

「もーあんまり動くと見つかっちゃうよ?」

 

「なら、僕の出番かな。」

 

 マッチが得意げに飛び上がる。すぐさまカレンさんが「飛行ユニットのマッチを装備してフライングデスね!!」と言ってマッチを困らせる。カレンさんの世界には、空を飛べるユニットがあるのかな? エトワリアにも空を飛べる魔法がないわけでもないらしいけど……

 

 

「お前ら、騒がしいぞ。」

 

「「「「「!!!!」」」」」

 

 

 門から出てきたその人は、私達がうるさかったのか、そう言ってくる。

 学帽と学ランらしき服を身に着けている。短冊が連なったようなモフモフの長い髪をした頭には猫の耳がついている。そんな女性がなんだかワイルドな口調で出てくる。

 

「…誰デショウ? とってもモフモフしてマス……」

 

「………ジンジャー…!」

 

「えっ、この人がそうなの!?」

 

「いきなりボスの登場デスね。」

 

 

 ……! この人が、ジンジャー……!! 

 

 

「クロモン達から話は聞いていたが、本当にランプ達も来てるとはな。何が折れただよ。根性ついてんじゃあねぇか。

 ……そっちの金髪二人はアリス・カータレットと九条カレンだな。」

 

「私達のことも知られてマス!?」

 

 ジンジャーは、もうクリエメイトの情報を持っている。苺香さん達がオーダーされた時も、「神殿は入念に準備をする」と聞いたし、きっと今回も情報を仕入れたんだろう。

 

「当然だ。

 でもそっちから来てくれるなんて、出向く手間が省けたな。

 

 一応、挨拶しとくぜ。私はジンジャー、この『言ノ葉の都市』の統治者だ。ランプから聞いているだろうが、私は八賢者でもあるからな。

 

 クリエメイトは当然―――奪うぜ?」

 

 

 ……!

 突然の「奪う」宣言。思わず身構える。

 

 

「慌てるな。何もいきなり取って食おうってわけじゃあねえよ。ただ……そこのクリエメイト、置いてってはくれねぇか? そうすりゃ、私としては穏便に済ませられる。

 今は結構立て込んでてな。面倒ごとは手早く片付けたいところなんだが………」

 

「お二人を渡すわけにはいきません!

 わたしたちにも、皆様を必ず無事に帰すって約束がありますから―――!」

 

「まーそうだよな。お前たちにもお前たちなりの目的というものがあって当然ってことだ。

 ―――けど、それは私も同じ……はいそうですかと退()くわけにもいかねぇ。」

 

「………っ。」

「………!!」

 

 

 闘気がどんどん増していく。

 これからぶつかってくるであろうジンジャーのそれに、息を呑み、冷や汗が流れた。

 この人……間違いない。今までの八賢者の中で一番強い……!!!

 

 

「構えろ、召喚士。

 

 ……私の拳は、少しばかり重いぞ?」

 

 

 霧が濃くなる市長官邸の前で、私達の戦いは突然、始まった。

 

 




キャラクター紹介&解説

きらら&ランプ&マッチ
アリスとカレンと合流した原作主人公一行。原作との違いとしては、聞き込みでジンジャーのことに加えて、穂乃花とデートしたローリエを目撃した人からその手の情報を得ることが出来たこと。しかし、それでも名探偵カレンの出番は回ってこなかった。さすが最終兵器。

アリサ
 きんモザ公式百合CPを守り今回MVP候補に上がった八賢者助手の呪術師。クリエメイトを広範囲から探すため、忍者のように屋根を跳びまわる。間一髪で霧の男の凶刃から二人を守った。なお、陽子と綾の百合具合はローリエから知らされていない。

アリス・カータレット&九条カレン
 きらら一行に出会ったイギリス人金髪コンビ。忍の分身かと疑われるレベルの金髪狂信者に囲まれ困惑していたが、ランプに救出される。麻冬という前列がありながらも、やはり背の小ささからお姉ちゃんと認識されなかった。なお、ランプから麻冬の話を聞いたアリスは、彼女と仲良くなれそうだからコールして欲しいなと密かに思っていたりする。

猪熊陽子&小路綾
 アリサのお陰で事なきを得た百合CP。突然召喚されて戸惑うところに不審者からナイフの一撃。普通なら参ってしまう。特に綾は陽子しか知るもののいない状況についてこれず、不安になりまくっている。そんな不安定な乙女心に陽子の彼氏ムーブが直撃した。結果、陽綾が流行る。

霧の男
 霧に包まれた言ノ葉の都市に神出鬼没に現れ、ナイフで攻撃していく通り魔。一撃しか攻撃しないと決めているのか、失敗したらすぐさま逃げていく。正体はいまの所は不明。






△▼△▼△▼
アリス「突然始まったきららさんとジンジャーの戦い。ジンジャーのとてつもないパワーにきららさんは防戦一方で………」

アリス「そう思ったのもつかの間、周りを包んでいた霧が男の人の形になって襲いかかってきた!おまけに攻撃が通じない!? い、いくら異世界だからってそんなのアリなの!!?」

次回『慇懃無礼な横槍』
アリス「See you next time!!」
▲▽▲▽▲▽


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第53話:慇懃無礼な横槍

“金髪のためなら、私は命だってかけられます!…って、忍様なら言うのだろうか。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


2020/4/30:次回予告の誤植を修正しました。


 

「オラァっ!!!」

 

 

 ジンジャーが拳を振り上げる。私が杖を構えて防御体制をとると同時にずしん、と杖から衝撃が全身に走る。

 さっきからジンジャーの攻撃はこんな感じだ。でも、今までにないほどの威力と脅威。一瞬でも気を抜けば吹き飛ばされそう……っ!! 火事と燃えている家を拳圧だけで消したパンチは伊達じゃあない!

 

 

「流石八賢者というべきか…パワーが段違いだ!」

 

「どうしたんだ、召喚士? あたしはまだ本気を出せてないぜ?」

 

「―――っ!」

 

 

 今の状態でもなかなか厳しいのに、本気ではないというジンジャー。彼女の全力を受け止めるには、どれくらいの魔力を使えば良いんだろうと思ってしまう。

 でも、私は―――

 

 

「私は……みんなを、守る……」

 

「それで守っている?甘えるんじゃねぇよ!!」

 

「きゃあっ!!?」

 

「きららさん!」

 

 再びジンジャーの拳が私を捉える。

 直撃は免れたものの、あまりの衝撃に態勢を大きく崩してしまった。

 ランプの声が聞こえる。

 確かにこの人は強い……! でも、だからといってここで負けるわけにはいかない……!!

 

 でも、どうすればいい?

 唯一にして最大の切り札である「コール」は確かに強力。でも、私だって何度も召喚していたら、さすがに限界がくる。『誰を呼ぶか』、慎重に選ばないと状況は良くならない。呼ばれてすぐにダメージ超過で消えてしまったら申し訳が立たないし。

 

 判断材料を得るためにはもう少しジンジャーと戦い、攻撃の特徴を捉えないといけない。でも、この人の攻撃力は今までにないくらいに高い。しかも、市長官邸の前の広場で戦っているから周囲に住宅が並んでいる。受け流そうものならランプ達や街に被害が及ぶかもしれない……!

 

 

「旅の恥はかき捨てと言いマス。とにかくやってみるデース!!」

 

「?」

 

 

 カレンさんのそんな声が聞こえてちらりとそっちを見る。

 

 すると―――そこには、どういうわけか踊っているカレンさんとアリスさんがいた。

 アリスさんの方がなんか動きが鈍い。直撃の発言からしてカレンさんがなにか言ったんだろうけど……

 

「ふ、二人とも急にどうしたの!?」

 

「きららの方が先に引っかかってるんだけど!?」

 

 し、しまった。いくらなんでも、戦いの最中に余計なことに気を引かれたら、ジンジャーにつけいる隙を与えることに……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金……髪…………!!」

 

 

 ………………あ、あれ?

 ジンジャーも引っかかってる……?

 

「ジンジャーの気が引けています!?

 か、カレン様、もっとです! もっと頭を振ってみてください!」

 

「もっと……こうデスか!?」

 

「あぁ……金髪が舞い踊っている…!」

 

 カレンさんが頭を使ってダンスを踊る。ジンジャーの目が激しく揺れ動く金髪に奪われている……! ものすごく見ている事に気づいたアリスさんが効果があると知り、カレンさんに倣う。

 

 

「アリス様はカレン様とは逆方向へ! ジンジャーを混乱させます!」

 

「な、なんなんだこのふわふわした空間は……でも、この機を逃すわけにはいかないね。」

 

 

 ランプの号令でアリスさんとカレンさんがダンスをしながら逆方向に移動し始める。ジンジャーは二人を交互に目で追うので精一杯で戦いどころではなさそう。

 

 だったら、今のうちに逃げて、態勢を立て直すのがいい。

 

 

「きらら、今のうちだ! 二人が注意を引きつけている間に逃げ道を確保しよう!」

 

 

 ……なのに、どうして。

 

「………」

 

 どうして、こんなにイヤな予感がするんだろう。

 私の……私だけが感じられるパスが不穏なサインを送っている。

 

「…きらら?」

 

 霧が濃くなって、見えにくくなっているマッチがまた私を呼ぶ。ここまで濃い霧なら、ジンジャーを撒くことも十分可能なはずなんだけど。

 

「……ちょっと待って、マッチ。」

 

「なんだよ。早くしないと、ジンジャーへの時間稼ぎがなくなるぞ?」

 

「分かってる。でも……この霧に違和感を感じる。」

 

「え、きらら? どういうこと?」

 

 戸惑うマッチに答えるより先に、目を閉じて全神経を集中させる。

 

 霧だらけの中、全力で周囲のパスを探る。

 

 感じるのは、まず私のそばに小さな反応が一つ。マッチのパスだ。

 あと、官邸の門の前で動かない反応。これはジンジャーのだろう。

 更に、逆方向にゆっくり動くクリエメイトのパス。これは、カレンさんとアリスさんだ。そして、アリスさんのそばにあるやや小さい反応はきっとランプのものだろう。

 

 

 そして―――

 

「…っ!! 『コール』っ!!!」

 

 周りから何かが集まって出来たような、()()()()()()()()()反応が―――

 ()()()()()()()()()()()()()()()()……!!

 

 

「きらら!!?」

 

「誰かが現れた! たぶん敵!」

 

「なんだって……!?」

 

 ほぼ反射的に、「コール」を使いアリスさんとランプのいる方向に向かって霧の中に突っ込んでいくように走り出した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「はい。今では()()()()()()()跡も残りませんでしたけど………()()()をつけられたのは、アリス様とカレン様がジンジャーを惑わし、いざ逃げようとしたその時でした」

 

 

 八賢者ジンジャーとの戦いのさなか、その動きを金髪の機転で止め戦略的撤退をしようとした直後、とんだ横槍を入れられたのだという。その体験をした人物の一人が、女神候補生のランプだ。彼女はその時のことをこう語る。

 

 

「わたしはその時、アリス様と行動していたんです。カレン様が金髪を振ってダンスしていたので、それに続くアリス様を誘導していました。カレン様と別方向に移動することで、ジンジャーを撹乱しようとしたのです。

 その時でした。急に霧が濃くなって、視界が悪くなったんです」

 

 異変に先に気づいたのはランプだった。すぐさま踊っていたアリスに伝えたのだという。

 

『アリス様、アリス様』

 

『ランプちゃん? どうしたの?』

 

『霧が濃くなってきてませんか?』

 

『え? ……あ、ほんとだ。でもどうして……?』

 

 それは、わずかな違和感。しかし…違和感は、たちまち疑惑になっていった。そして、その答えはすぐに突きつけられる。

 

 

「隣にいらっしゃるはずのアリス様もはっきり見えなくなるほどに霧が濃くなった直後、自分の目を疑うような光景を目撃したんです。

 

 ―――真っ白な霧が音もなく集まって、ローブをまとった男の姿になっていったんです。」

 

 

『―――っ!? アリス様、危ないっ!』

 

『きゃあ!!?』

 

 

「……その男はナイフを持っていました。

 どうしてアリス様を狙うのか、どうやって霧から人になったのか。そんな事を考える前に、体が動いていました。

 もし、あそこでわたしがアリス様を突き飛ばさなければ、わたしではなくアリス様が刺されていたかもしれなかったから。」

 

 

 ランプの行動は、間違いなくアリスを守った。

 だが、その代償は皆無ではなかった。

 

 アリスを突き飛ばしたことで、ランプは無防備な身体を迫りくる男の刃の前に晒したことになる。とはいえ、男の存在に気づいていたランプも咄嗟に回避を試みた。

 

 そして―――

 

『ううっ!!?』

 

『え、ランプちゃん……!!?』

 

 

「アリス様を狙った刃は、わたしの左の二の腕に掠りました。出血はあんまりなかったんですが、じくじくと痛むほどのものでした。」

 

 

 切られた腕を押さえ倒れるランプにアリスが駆け寄る。その様子に……アリスを襲った、霧でできた男が今まで閉じていた口を開いた。

 

 

『ほう。悪運ばかり強いとは。いやはや、流石昨今の女神候補生はとても素晴らしゅうございます。この私めにもお教えして欲しいものですな』

 

「………とても嫌な声と喋り方でした。

 表面上は敬語を使って恭しく話しているのに、話している内容はむしろわたしを馬鹿にしているかのようでした。」

 

 

 しかしそこに、きららとカレン、コールされたクリエメイト達、そしてマッチが到着した。

 先頭に立っていたきららは、霧から現れた男を見つけるやいなや杖を構えて臨戦態勢を取り、警戒しながら話しかけた。

 

『……あなたは何者ですか。その子を…ランプを、傷つけたのはあなたですか』

 

 きららからの問いかけに対して、男はフンと鼻を鳴らしてこう言った。

 

『貴女は初対面の人に先に名乗らせ、武器を向けるマナーをお持ちなのですか。流石、世界は広い。私の浅学未熟さを恥じるばかりである』

 

『何を、言っているんですか…! いきなりアリス様に斬りかかってきたくせに!』

 

 

 人に名乗らせる時は、まず自分から名乗るのがマナーであり、人とのコミュニケーションを円滑に始めるコツでもある。しかし、出会い頭にナイフで刺そうとしてきた人間がそんな事を言っても説得力など生まれるはずもない。

 遅れて来たきらら達もランプの反論で何が起こったのかを理解した。

 

 

「……思えば、この時には既に体の様子が変でした。

 立ち上がった時、違和感を感じたんです。怪我は軽いもののはずだったのに、体が少し重く感じたから。でも、私の声もきららさん達の怒りの視線も無視して霧の男は、こう続けたんです。」

 

『……ならば、私はその貴女独自のマナーにお答えになるとしようか。

 私はセレウスとおっしゃる者。貴女達の命を頂戴になる者である』

 

 

 横槍を入れた人間は、慇懃無礼にそう名乗る。今ここに、マッチの恐れていた事態―――三つ巴の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 突然現れた霧が集まり現れた男は、セレウスと名乗った。

 そして、間違いなく言い放った。私達の命を頂くって。ちょっと言葉遣いが変だったけど。これで、ローリエさんの言っていた「第三勢力」に真実味が出てきた。

 

 今のこの状況。ランプとアリスさん、私とカレンさんとマッチの間にセレウスがいる立ち位置だ。セレウスと二人の方の距離が近く、ナイフの攻撃範囲内に入りかねない。

 しかも、どういうわけかランプの表情が苦しそうだ。怪我を負っているとはいえ、立てるはずなのに、立つのだって少しゆっくりだった。

 

 再び感じる嫌な予感。セレウスはそんなもの知ったことかと言わんばかりにナイフを振り上げる。アリスさんとランプにまた斬りかかるつもりだ。

 

 させない!

 

「!!!」

 

 セレウスのナイフを弾いたのは、緑の装飾が中央にある盾を持った少女―――いや、クリエメイト。その後も何度か攻撃を試みるも、アリスさんとランプは距離を取っている。

 

 

「突如現れたな……」

 

「きららさんの仲間には手出しさせません」

 

 そう宣言し、クリエメイト―――美紀さんがセレウスの攻撃を盾で弾き、槍で攻撃する。

 しかし、セレウスの表情から余裕の2文字は消えなかった。なぜなら……

 

「攻撃が効いてる様子がない……」

 

「ですね、きららさん。手応えがまったくない」

 

「ようやくお気づきしたか。貴女達に私を倒す事など出来ませんよ」

 

 美紀さんの攻撃は何度かセレウスの身体を掠めたり当てたりしているのだが、まるで効いていないから。まるで、相手は当たっても痛くも痒くもないことを分かってるかのようだ。そして、事実ダメージを与えられていない。

 

 

「そんな事より……私にばかり注意を払っていていいのですか?

 少しは手負いの仲間に気をお配りした方が良いと賢慮しますがね」

 

 セレウスが意図の読めない発言をした直後……

 

 ガキン、と。

 

「「!!?」」

 

 金属同士がぶつかる音がした。方向は、ランプとアリスさんが逃げた方向。二人には、「コール」したクリエメイトを一人つけているけど、すぐに駆けつけないと!

 

 

「美紀さん! その人の事はお願いします!!」

 

「はい!」

 

 すぐさま、ビブリオとの戦いで身につけた加速魔法を私自身にかける。この状態での全力疾走は、霧の中の私達の距離を一気に縮めた。

 

 

 

 

 ランプ達のもとに駆けつけた時、目に見えたのはランプとアリスさんはもちろんのこと、「コール」で呼び出した麻冬さん。そして。

 

「如何なさった、幼い少女よ。武器のリーチは私より長いのだから、攻めてきたらどうかな」

 

「前衛は苦手なのよ、私は…!」

 

 

 その麻冬さんの杖にナイフを食い込ませんと力を入れる、セレウスという男だった。

 

「さっきまでは美紀さんと戦ってたのに……!!?」

 

 そう思いながら、麻冬さんに専念しているセレウスに加速した勢いで一撃を入れる。

 

 

「「「!!!?」」」

 

 

 ―――やはり、手応えがない。空振りしたみたいだ。

 でも、セレウスの気を一瞬でも引けた。

 

「みんな、大丈夫!!?」

 

「きらら! ランプが……!」

 

「ランプがどうしたの!!?」

 

「身体が痺れるって言うのよ。おそらく、最初の攻撃で毒か何かを盛られたみたいね……!!」

 

 

 ランプの異常を麻冬さんから知る。最初の攻撃。確か、アリスさんにいきなり斬りかかったという攻撃。きっとランプが気づいて咄嗟の判断で庇ったんだろう。今、庇った本人はうつ伏せになって倒れている。

 

「きらら、さん……来たんですか?」

 

「うん、来たよ! だからもう安心して!」

 

「ランプ! 身体は動く?それともまだ無理?」

 

「ご…ごめんなさい……まだ、ちょっと―――」

 

 

 

「無駄だ。その麻痺毒は大型クロモンでさえ15分は動けなくなる代物。小さな子供の体躯に打ち込まれたなら1時間は全く動けまい。」

 

「「「「!!!!」」」」

 

「助かるなどという傲慢な考えはお捨てしろ。ここを死に場所と愚考した方が身の為だ」

 

 なにを……言っているの、この人は…!? 

 助かるって考えが傲慢? ここで死ぬ方が身の為?

 私達を…クリエメイトをいきなり襲っておいて、なんて勝手な事を言う人なの。

 

 

「あなたは……あなたは何を言ってるんですか!!」

「随分身勝手な事を言うじゃない…!!」

 

 

 私と麻冬さんが同時に怒りを口にしたその時。

 

 

ゴウッ

 

 

「「「!!!?」」」

 

 突風が巻き起こった。

 全員が全員、いきなり吹き付けてきた風に耐える。私と麻冬さんは顔を覆い、アリスさんは倒れているランプに覆いかぶさる。

 しかし、一人だけ様子が変わった人がいた。

 

 

「くっ……このタイミングで風だと……!?」

 

 

 セレウスだ。忌々しげに呟いたかと思えば、身体を霧に変えてあっという間に消えてしまった。それに伴う形で、ものすごく濃かった霧が徐々に晴れてくる。すっかりなくなった訳ではないが、セレウスがいた時と比べるとかなり薄くなっている。

 

 

「セレウスが……消えた?」

「いったいどういうことなの?」

「きららさん!」

「美紀さん! 大丈夫でしたか?」

「はい。そちらは?」

「突然セレウスが現れて……ランプが麻痺毒を盛られたみたいなんです」

「えっ……? セレウスは消えるまで私と戦ってましたよ?」

 

「!!?」

 

 アリスさんも麻冬さんも突然の敵の撤退に困惑する。美紀さんからの情報に、私も混乱した。

 つ、つまり……セレウスは、分身のような事が出来るってこと?

 

 

「くそ、何だったんだ今のは。もしやさっきローリエが襲われたって言う霧の男、か……?」

 

 ジンジャーの呟きが聞こえる。どうやら、ジンジャーも霧の男に襲われていたようだ。となるとさっきの突風はジンジャーさんの拳圧とか?

 何だかいきなりの事で色々と分からないけれど、取りあえず今は、クリエメイトを狙うジンジャーから離れないと。

 

 

「アリスさん、ランプを背負えますか?」

「任せて!」

「麻冬さんは麻痺の治療をお願いします!」

「わかったわ」

「アリス! ミナサン! 大丈夫デース!?」

「ら、ランプ!? 何があったんだ!!? さっきの霧といい風といい……」

「はうぅ……アリス様の金髪が近いです…役得です………!!!」

「……余裕そうだな、こいつ」

「とにかくここから離れるよ!」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ごめんね、ランプ。私のために…」

「謝らないでください!! わたしは必死だっただけですから!

 麻冬様もわざわざありがとうございます…!」

「いいのよ。今の私はそうりょなんだから、早く身体を治しなさい」

「ところで、ランプはジンジャーと知り合いなのデスか?」

「顔見知り…よりは少し親しいくらいです。この街はエトワリア最大の都市なので、統治者は代々八賢者の一人に任されていました。」

「その統治者がジンジャーさんなんだね。」

「はい。ジンジャーは神殿に来ることがなかなかなかったから…わたしのような神殿の使いを気に入ったのかもしれません。声をかけてくれて、時々お茶菓子もゆずってくれるようになって…」

「まぁ要するに可愛がられてたってことさ。」

 

 カレンさんとアリスさん、マッチ、そしてアリスさんに背負われているランプで話に花を咲かせている間、私はさっきの霧の男……セレウスについてちょっと考えていた。

 

 パスの反応は確かにあった。小さなパスが集まって人間のパスとして現れたり、かと思えば空気中に散って溶けていくかのようにパスの反応が消える。そんなパスは初めて見た。

 そして、極めつけはランプの見た、セレウスが現れる瞬間。

 

『アリス様の真後ろあたりで、霧が濃くなって集まっていくのを見たんです。そして、それは男の人の姿になりました。』

 

 霧から出来ている身体ならば、攻撃が効かなかったのにも納得だ。突風を受けて消えたのは、身体を固めることが出来なくなったからと考えるのが自然だろう。

 

 

「あんなに金髪が好きとは知りませんでした。戦闘中に気を取られるほどとは……」

 

「きっと、オーダーの影響を受けているんだろうね」

 

 セレウスについてある程度まとめたところで意識を皆さんに向けると、オーダーの影響の話になっていた。私は、「前にも八賢者が影響を受けていたことがありましたし」とセサミを思い出しながら話に参加する。

 

 

「そっか…まぁそうじゃないと金髪令なんて出てこないよね」

 

「ともかく、ジンジャーからはなんとか逃れられたけどこれからどうしよう。」

 

「あの屋敷に二人が囚われているのはパスで分かるんだけど……」

 

「すぐに戻るのは得策じゃあないだろうね。

 少なくとも、ジンジャーがいないタイミングを狙わないと難しそうだ」

 

「でも、そんなタイミング来るのかな…? セレウスの事もあるし、クリエメイトがあそこにいるなら、ジンジャーは離れなさそうだけど。

 きららさん、他の方のパスは感じられそうですか?」

 

 

 クリエメイトの命を狙うセレウスが現れた以上、ジンジャーが市長官邸から離れることはあんまりなさそうではある。

 でも、だからといってこのまま何もしないなんてありえない。私の出来ることをやってみよう。

 

 

「うん。ここでのパスの感じ方はだいたい掴めてきた。北の方に二人だね」

 

「北……か。そこにも市場があるから、そこでまた聞き込みだな」

 

 

 パスを頼りに他のクリエメイトを探すため、私達は霧が晴れない街の中を北に向かって歩き始める。




キャラクター紹介&解説

きらら&マッチ&九条カレン&アリス・カータレット
 八賢者と戦っていたら第三勢力と思われる男に横槍を入れられた原作主人公一行とクリエメイト。ジンジャーの気を逸らすために金髪ダンスをしたはいいものの、最悪なタイミングで乱入された。しかし、きららは視界が悪くなる中機転を利かし、セレウスの襲撃を最低限の被害で退ける。

ランプ
 アリスを庇い、麻痺毒を受けた女神候補生。大型クロモン(主にド・クロモン、クロモンヌ、ソルジャー、キングクロモン等)用の麻痺毒を受け、アリスに背負われる事になる。しかし、それはアリスの金髪を間近で見れるという役得だったため大した精神ダメージはない。むしろ金髪に近づけただけご褒美と思ってしまう節を持つ。逞しすぎでは。

直樹美紀&星川麻冬
 きららが「コール」したクリエメイト。美紀はセレウスの攻撃から一時的にランプとアリスを守り、麻冬は麻痺毒を受けたランプの治療に当たった。

ジンジャー
 召喚士からクリエメイトを奪おうとして第三勢力に乱入されるという、一番厄介な場面に出くわしてしまった市長兼八賢者。きららやランプにセレウスが襲いかかる中、ジンジャーも何気に襲われている。しかし、拳圧から放たれた突風で難を逃れる。これにより、セレウスの逮捕を中心的に考えるようになる。

セレウス
 きらら達とジンジャーの戦いの最中に現れ、一網打尽を企てた、第三勢力の男。アリスを狙い、ランプを麻痺毒で行動不能にすると、仕留めそこねたアリスと賢者のジンジャーを葬るべく分身して攻撃を始める。その間も息をするように失礼すぎる言葉を発する事を忘れない「失礼の呼吸」の使い手。しかし、ジンジャーのパワーによる突風により撤退を余儀なくされる。




△▼△▼△▼
カレン「突然の襲撃で危機一髪デシタね。ランプが受けたマヒの状態異常はまだ治らないみたいデス。ゲームならまんげつそうやキアリクで一発なのに、ズルいデス!!」

綾「か、カレン…襲撃って何のこと!? まさか、カレン達も不審者に襲われたの!!? 怪我はない!!?」

カレン「ワーォ、すごい剣幕デース……でもアヤヤ、心配ゴ無用デス! 詳しくは次回に話しますが、誰も死んでまセンので!!」

綾「当たり前でしょ!! 誰かが死ぬとか縁起が悪すぎるわ!!!!」

次回『しろいろメット・アゲイン』
カレン・綾「「See you next time!!」」
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第54話:しろいろメット・アゲイン

ゴールデンウィークも自粛が続く中、お元気ですか?
私は、執筆が遅れることもありますし、生活リズムの調整が大変ですが元気です。決して、中古で買った世界樹の迷宮Ⅴが面白かったからとか、モンストのエヴァコラボに向けて気合いを入れてたからとかじゃあないですからね?






“そこには、私の理想があった。
呪術の有無に関係なく、人の賑わう都市で友達と他愛のない話題で笑いあう。こんな非常時でなければ、もっと楽しみたい。”
 …アリサ・ジャグランテ


 言ノ葉の都市・とある高層建築物の一室にて。

 

 

「チッ……つくづく、悪運の強い奴らよ」

 

 

 怒りを募らせながら呟く青年がいた。部屋は魔導書で乱れ、服装も髭も雑さや無頓着さが伺える。

 青年の名はセレウス。ドリアーテに頼まれて、召喚士とクリエメイト、賢者の暗殺を行おうとしている者である。

 

 彼は先程、市長官邸前に集まった八賢者ジンジャー、召喚士、クリエメイトを一網打尽にするべく霧の魔法で強襲した。しかし、召喚士の「コール」とジンジャーの圧倒的パワーを前に撤退せざるを得なくなったのだ。

 

 

「やはり我が魔法、風に弱いのが唯一の難点か……

 おまけに、ターゲット共を見失うとは…」

 

 

 セレウスの魔法。

 それは、霧を生み出し、操り、分身を生み出す魔法である。

 こう表現すれば、魔法としては破格なものに思えるかもしれない。しかし、実際のところはそうもいかない。有り体に言えば強力だが使い勝手は悪い方だ。欠点らしい欠点もいくつかある。

 

 まず一つ、霧を操るには相当の集中力が要ること。

 霧を濃くしたり薄くしたりする事は動きながらでもできるが、自分そっくりの分身を形作るまでいくと、動きながらでは不可能だ。故に、彼は街の建物の中の部屋に鎮座し、目を閉じて集中力を極限まで研ぎ澄ます。

 

 二つ、自然の天候に極端に弱いこと。

 そもそも魔法に霧という性質をもつ以上、強風や必要以上に暖かい気候などの霧が蒸発しそうな高温下では本領を発揮しにくい。故に、先程ジンジャーと召喚士に奇襲をかけた時、ジンジャーのパンチの風圧に撤退せざるを得なかったのだ。

 

 三つ、範囲が広い半面、消費魔力(クリエ)が多い。

 セレウスは、本気を出せば魔法の霧で言ノ葉の都市を覆い尽くせる。しかし、それではあっという間にセレウスのクリエが尽きてしまう。標的の命を狙うことはあっても、自分の命を危険に晒そうとは微塵も考えていない地味に姑息なセレウスである。

 

 

 一撃入れてはすぐさま撤退を繰り返したのには、理由がある。

 霧が出て、(セレウス)が現れては不意打ちをかまし、すぐに消えるように逃走する。こんな事が続けばどうなるか?

 答えは単純明快。狙われた方は『霧が出ている間はいつセレウスが現れてもおかしくない』という結論に至り、いつ狙われるか分からない恐怖に神経をすり減らす。セレウスは、己の魔法の弱点が露呈しない限りはこの戦法が続くと確信を得ていた。そして、その弱点が露呈する時は永遠に来ないと。

 

 

「まぁ、よい。召喚士達は次の機会に襲えば良いことだ。まだ私が優位に立っている。

 ジンジャーの方は、正面から戦うなど考えない方が良いな。目の前に出る度に風圧で散らされてはかなわん」

 

 魔力の回復薬をあおる。聖典でのクリエの回復が何故か出来なくなっていたが故の代行措置だ。まぁ、セレウスという男は聖典はクリエを得るためだけに本を開く程度しかしないが。

 

「さぁ、霧の恐怖に怯えるがいい……!!」

 

 再び、セレウスは虚空に向かって笑いかける。そこに標的がいるかのように。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 言ノ葉の都市に、新たな政令を発令した。

 内容は、指名手配。ローブをまとい、髭をはやした男・セレウスを見かけた方はこのジンジャーか市長官邸まで。

 いま、この内容をクロモン達を使って都市中に発布している最中だ。こんな事をしているのには理由がある。

 

 あの男。名乗りを上げたのを遠目に聞いていたのだが、クリエメイトのアリスに襲いかかっていたようなのだ。私に攻撃してきたのもあり、ローリエから事前に話を聞いたのもあり、このセレウスっつー男がアルシーヴから聞いた「第三勢力」なのは間違いないと思っている。

 

 クリエメイトは、捕まえればいい。なにも殺す必要はねぇ。なのに命を狙おうとするアイツを野放しにはしておけねぇからな。忍や穂乃花を悲しませたくはねぇし。それを抜きにしても、私の街にあんな危ねえ奴はいらねぇ。

 というか。

 

 

「『おっしゃる』とか『お答えになる』とか自分に使う言葉じゃねぇだろ……」

 

 アイツの言動はどこかしらおかしい。言葉遣いの節々から感じる人を見下す態度。

 こんな奴が生まれる温床を放っておいた私の責任も少なからずある、ってことかな。

 

「ジンジャー様」

 

 声がかかる。私のメイド長のものだ。

 

「最後のクロモンから指名手配発布完了の報告がありました」

 

「そうか……市民の反応はどうだ?」

 

「金髪令の時以上に動揺が走っています」

 

「そうだろうな……皆には悪いことをしちまうな」

 

 報告をしてくれるメイド長。お辞儀をする金髪からアリスとカレンの金髪を連想してしまう。忍に金髪について力説されたことといいさっきのことといい、金髪に影響を受けすぎなのだろうか?

 

「ところで、お前はどこに行ってたんだ?」

 

「……ローリエ様に、街中へ連れ出されておりました」

 

「何やってんだアイツは!!!」

 

「面目次第もございません」

 

 クリエメイトを集めるって任務を受けてる最中でセレウスという第三勢力の人間も現れたというのに、ふざけてんのか、アイツは。

 

「いや、いい。後であのバカをはっ倒せばいいだけだ。

 それで、何か変なことはされなかったか?」

 

「いえ、怪しいことはほぼ何も。

 私や街中の人々に、階層の高い建築物や髭の生やした不審者について聞き出したことくらいでしょうか。その後、彼とはここに来るまでに別れましたが」

 

「なんだそりゃ」

 

「それと、ローリエ様からジンジャー様に伝言がございます。『霧の男が再び現れたら信号弾を撃ち上げてほしい』とのこと」

 

「……???」

 

 

 「これが信号弾です」とスイッチのついた丸いものを渡されたが、意味が分からん。セレウスが現れたらこれを撃ち上げろって、どういう事だ? 加勢する、って事だとすると駆けつけるまでの時間がかかりすぎる気もするが。

 そもそも信号弾(これ)の使い方がわからんと呟けば、メイド長から紙を貰う。ローリエから預かった信号弾の説明書のようだ。ボタンを押してぶん投げるだけらしい。使い方が分かりやすいというのは有り難い。

 

 

「よく分からんが、アイツなりに霧の男(セレウス)を探しているって事でいいんだよな?」

 

「断言は出来ません。ですが、サルモネラを逮捕し、ビブリオを排除したその実力は認めてもいいかと存じます」

 

 

 サルモネラとビブリオについてはアルシーヴとカルダモンから聞いている。何か隠してるみたいだが、捕まえた・捕まえようとした点は事実だろう。だから、ローリエを信じて信号弾を上げるくらいはしてもいいだろう。

 賢者になる前は稽古をつけた仲だ。弟子の頼みの一回くらいは、聞いてやってもいいだろうな。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 言ノ葉の都市、北の市場。

 霧の男の襲撃からヨーコさんとアヤさんを守った後、この世界のことについて教えた。ローリエさんから『召喚(オーダー)されたばかりのクリエメイトは見知らぬ世界に戸惑っているから、出会ったらまずその部分を説明しろ』と言われたので、アドバイス通りエトワリアについて話せば、二人ともある程度の理解を示してくれた。

 

 

「……へぇ! じゃあ、さっきのスゲェスピードも魔法なんだ?」

 

「はい。私は風魔法と炎魔法が得意なのです。魔法については、話しましたよね?」

 

「クリエ?とやらを使うんだよな。いいなぁ私も使ってみたい!」

 

「他にも呪術と呼ばれる魔法も得意ですよ」

 

 

 私に積極的に話してくるのは、くせのついた茶髪のお姉さんのヨーコさんだ。彼女は物怖じしない性格なのか、私の説明に早めに適応した。彼女達の世界には魔法というものがないらしく、魔法について強い興味を示している。

 

 

「じ、呪術………!?」

 

「あ、呪術といっても、イメージされるような怖いものじゃあないんですよ。包丁と一緒です。正しく使えば人の役に立つことが出来るんです」

 

「そ、そうなの……? 呪術と包丁を一緒にするなんて初めて聞いたわ……」

 

 

 いま話したのは、紺色の髪をツインテールにまとめたお姉さんのアヤさんだ。彼女はヨーコさんとは違って、口数が多い方ではなく、人見知りするような印象を受ける。『きっと陽子と一緒じゃなければ綾は心が折れてただろう』とはローリエさんの言だが、慣れない世界で無理をしているのだろうか?

 

 

「お二人の世界の話も興味深いです。『コウコウ』の話や、ご友人である『リューガクセー』の話などは、とても」

 

「そうかぁ? 私達にとってはありふれた話なんだけど……あ、留学生はあんまありふれてないか」

 

「アリスとカレンが二人して留学してきて、そのうち一人がしのの家にホームステイ、みたいな事なんて本来珍しいことなのよ」

 

 

 私の魔法の話のお返しに語ってくれた、ヨーコさんとアヤさんの友人のシノさん・アリスさん・カレンさんの話はとても興味深い。別々の国の人が親睦を深める様子を直接見てきたのだろう二人の話に引き込まれていく。こんな様子を「聖典」で分かるというなら、もうちょっと真面目に読むべきだったかな。

 

 

「そういやさ、今私達はどこへ向かってるんだ?」

 

「もう、陽子ったら話を聞いてたの? 市長官邸に向かうって言ってたじゃない」

 

「市長官邸にはジンジャーさんがいます。あの方ならば、お二人の命の保証をしてくれるはずです。」

 

「あぁ、ジンジャーさんか。どんな人なの? 綾と二人きりだった時から名前くらいは聞いてるよ。評判はかなり良さげだったけど」

 

「そうですね……私もあまり関われていませんが、情に厚い方だと聞いております。」

 

「情に厚い……あー、この間見たドラマの主人公みたいな!」

 

「どらま?」

 

「そうそう! こうやってヒロインを気遣って二人の世界を作り上げてさ」

 

「二人の世界!!?」

 

 ヨーコさんがアヤさんの腰に手を回して自分に引きつけると、アヤさんの顔がみるみるうちに赤くなる。まるであっという間のスピードで果実が熟していくかのように。

 しかし、ヨーコが言ってたどらま、とは何だろう。主人公とかヒロインとかいう言葉から察するに何かの物語なのかな。

 

 

「ねぇヨーコ―――」

「陽子様! 綾様!!」

「……」

 

 何者かの大声で聞きたいことを阻まれてしまった。

 

「アヤヤとヨーコ見つけたデス!」

 

 それに続いて、知らない声がカタコトじみた言葉でヨーコさんとアヤさんを呼ぶ。ヨーコさんは声の主を見つけるなり、「カレン!アリスも!無事で良かった」と顔を綻ばせている。

 

「お知り合いですか?」

 

「知り合いもなにも、さっき話してた友達、留学生だよ。いやー良かった良かった。ここに来てたのはやっぱり私達だけじゃあなかったんだなー。」

 

 なるほど。金髪の少女が二人、ヨーコさんと仲良さげに再会を喜んでいる。二人を連れてきたと思われる、召喚士さんとランプ、空飛ぶ猫さんも嬉しそうだ。アヤさんはというと―――

 

「……………………アリス?

 ……………………カレン?」

 

 二人を見つけた瞬間から直立不動で、呆然としていた。かと思えば、目がうるみ、それはやがて涙となってポロポロと溢れ始めた……ってどういうことなの…??

 

 

「……気づいたらいきなり、よく分からない所に陽子と二人でいて……なんだか服も着たことのないものになってて……怪しい不審者には襲われて……

 私、本当に不安でどうしたらいいのか分からなくて…」

 

 ――やっぱり、不安だったみたいだ。

 アヤさんは二人の金髪少女に会う前から、必要以上に警戒している節があった。もうちょっと気遣うべきだったのかな?

 気付けなくてごめんなさい、と声をかけようとして…アヤさんがなにか続けようとしているのに気づき、口を閉ざす。

 

「それなのに……陽子はいつも通りで…」

 

「え? 私、怒られてるの? でも怒られるようなこと―――」

 

「違うわよ! ぐすっ……褒めてるのよ!!」

 

「ええっ、泣きながら!? え、私どうしたらいいの!?」

 

 困惑しているヨーコさんにしがみつき、アヤさんが人目も振らずに泣き始める。その様子にどうして声をかけたものかと考えていると、肩を叩かれた。

 

 

「あの……アリサさん、でしたよね?

 イモルト・ドーロでローリエさんと一緒にお会いした」

 

「あ、はい。アリサです。

 皆さんは召喚士さんとランプさん…」

 

「きららです。」

「ランプで結構ですよ。」

 

「それと、ええと…空飛ぶ猫さん……タッチだかグッチだかみたいな名前の」

 

「マッチね!!」

 

 

 あ、そうだマッチだ。名前が思い出せなかったのは正直悪かったと思います。

 やれやれと軽く悪態をつくマッチを見て苦笑いしながら、私に向き直る。

 

「アリサさんは、どうして陽子さんと綾さんと一緒にいたの?」

 

「それがですね……」

 

 私は、ヨーコさんとアヤさんと出会ったいきさつを話す。霧の男について話せば、3人……いや、2人と一匹の顔が徐々に曇っていく。

 

「………どうかなさいましたか?」

 

「…陽子さん達の所にも現れたんですね。実は……私達も一度、霧の男―――セレウスに襲われたんです」

 

「なんですって………!!?」

 

 

 このタイミングで、二人の金髪少女――アリスさんとカレンさんと言うらしい――とヨーコさんと泣き止んだアヤさんが話に合流し、すぐさま情報共有の時間となった。

 

 私達は、セレウスに一度襲撃されたこと・私の呪術のおかげで怪我人が出なかったことを。

 きららさん達は、ジンジャーと相対している時にセレウスに襲撃されたこと・アリスさんを庇ってランプが傷を負い、麻痺毒を盛られたことをそれぞれ交換した。

 

 ランプに「傷と毒、大丈夫なんですか」と聞いてみれば、「麻冬様が治してくださったから大丈夫」という。しかし、足元がまだおぼつかず、治療があったとはいえ麻痺毒が抜けきっていないようだった。よほど強力な毒を盛られたに違いない。セレウスの容赦のなさが伺えた。

 

 

「アリサさん。陽子様と綾様を守っていただき、本当にありがとうございます」

 

「お礼はいりません。私は仕事をしただけです。クリエメイトからクリエをいただくにしろ、クリエメイトを帰すにしろクリエメイトの生存は絶対条件です。私は、賢者からの命令でそれを守ったにすぎません」

 

「それでもです。綾さんと陽子さんが助かっていますから」

「そうそう。アレは流石にビックリしたよ。まさかかなり危険なヤツだとは思わなかったけど」

 

 

 ヨーコさんはともかく、きららさんとランプまでお礼を言う。本来ならば、オーダーを阻止してクリエメイトを帰す立場だというのに、神殿側にいるはずの私に対する接し方がなんか優しい。イモルト・ドーロでの共闘の件が会ったからか。ちょっと安心した。

 

 

「な……なんなのその男…聞けば聞くほど、敬語の使い方がなってないじゃない!!」

 

「え、綾?」

「アヤヤ、落ち着くデース」

 

 アヤは―――何してるんだろう? アリスとカレンからセレウスについて聞いていると思ったら、何かに憤慨している。

 

「アヤさん、どうしたんですか?」

 

「どうした、というより……間違った敬語は見逃せないの…」

 

「オゥ、それは…信じられナス、デスね!」

 

「それは掘り返さないで!!」

 

「? セレウスの特徴として、嫌な敬語を使うとランプから聞いてはいましたが……その『間違った敬語』とは何か関係が?」

 

「敬語は正しく使えば人を敬う表現が出来るんだけど、間違って使うとかえって失礼な表現になっちゃうんだよ」

 

「しかもそのセレウスって男が喋っていた、あらゆる敬語が間違って使われてるのよ!

 尊敬語と謙譲語を逆転させるとか初歩的なテキストの『正しい敬語に直せ問題』にしか出てこないわよ……」

 

「よくよく考えてみると、『賢慮』って自分に使わないし、『愚考』って自分以外に使っちゃダメなんだよね」

 

 

 日本語について話を深めるアリスさんとアヤさん。

 詳しいことはよく分からないけど、要するにセレウスは言葉の使い方を間違えてるってことなのでしょうか。

 

 

「つまり……セレウスは『正しい敬語を覚える事も正しく敬語を使うことも出来ない馬鹿』ってことですか?」

 

「ばっ!!? あ、アリサさんって結構辛辣よね……」

 

「てっきりこっちを見下しているのかと思ったけれど……」

 

「なるほどデス! 正しい言葉が分からないのなら納得デスね!」

 

「いや、アリスが正しいだろ……」

 

 アヤさんから辛辣と評価された。不服である。

 この後、ヨーコさんが参加した事で―――

 

 

「え? ヨーコ、いまどっちが正しいって言ったデース?」

「いやだから、アリスのほうが正しいって……」

「アリサ?」

「アリス!!!」

「ひゃいい!!?」

「あ、ごめんアリス、呼んだ訳じゃあ……」

「アハハハ、アリスとアリサって、発音がソックリデスね!!」

「そ、そうかもしれないけど……」

「―――ふふ。呼び間違いに気をつけてくださいね?」

「アリサさん!?」

 

 

 ―――話は、もう一度盛り上がる。

 そこには、私の理想があった。

 呪術の有無に関係なく、人の賑わう都市で友達と他愛のない話題で笑いあう。こんな非常時でなければ、もっと楽しみたい。

 

 

 ―――その為には、セレウスを倒し……ひいては、このオーダー事件を、女神ソラ様の呪いを、何とかしなくちゃ。

 

 

「……アリサさんって、意外といい人ですね。」

 

「賢者の助手って思い出して、身構えちゃったけど杞憂だったかな?」

 

「きららさんほどじゃあありませんよ。

 あと、マッチは見た目の割りにあんまり可愛くないですね」

 

「君のその僕への当たりの強さはなんなんだい!!?」

 

 




キャラクター紹介&解説

ジンジャー&メイド長
 セレウスを指名手配した市長官邸組。2020年5月2日現在開催中のイベントクエスト『メイドは見た!金髪館怪人事件』では、ついにメイド長の名前が出ることはなかったが、今作では派手に名付ける予定。

アリサ
 きらら達と合流した八賢者の助手。きらら達の人の良さを知り、綾とアリスから敬語の基本を軽く教わる。クリエメイトとの交流を通してセレウス打倒の意志を固めたが、『ドラマ』については聞きそびれてしまった。

きらら&ランプ&マッチ
 原作通り、陽子と綾に無事合流を果たした3人組。賢者の助手ということは知っていたが、『イモルト・ドーロ』での共闘もあり、態度はやや柔らかい。

猪熊陽子&小路綾&アリス・カータレット&九条カレン
 原作同様、きらら達と行動しているもえぎ高校JK。綾は典型的な優等生なので、あからさまな間違いには敏感な模様。アリスも、忍や陽子よりも四字熟語や日本文化に精通している日本人らしさがあったため、綾の敬語の悩みについていけている。

セレウス
 失礼の呼吸の使い手。彼の魔法について少々説明する回でもある。前回の襲撃により、ジンジャーへの厄介さを知る。だが、逆を言うとそれ以外はまったく学んでいない。この事が今後のセレウスの運命を決める。



失礼の呼吸
 日本人が最も重んじていると言われている「礼」を、極限まで削ぎ落とすことによって完成する呼吸法(笑)。相手に心理的不快感を与え、戦闘への集中力をじわじわと削っていく。相手はキレる。

壱の型・尊譲逆転(そんじょうぎゃくてん)
 そのまんま、尊敬語と謙譲語の対象を意図的に入れ替えること。

弐の型・空嘉賞(うつろかしょう)
 まったく褒めていない文言を、あたかも褒め称えるかのように言い換えること。

参の型・浅学踊(さいがくとう)
 己の行動を棚に上げ、相手の威嚇・暴言をマナーと受け取り、自分の浅学未熟さを恥じる演技をすること。

 なお開発者曰く、発展の余地アリとのこと。迷惑千万な話である。



△▼△▼△▼
ジンジャー「先の襲撃以降、鳴りを潜めていたセレウス。だが突然、街の衛兵から連絡が入った! 『ローブを着た髭面の暴漢が市民を脅迫してる』だと…!? 私の市民に手出ししやがって、絶対に許さねぇからな! というか、信号弾上げたのに、ローリエはどこだ!!」

陽子「その頃私達は、しの達を取り戻すためにジンジャーさんの屋敷へ潜入! したんだけど……わあぁっ!やっぱりセレウスが出た!! アリサさんときららが召喚した人が時間稼ぎしてくれてるけど……私達、超ピンチじゃねぇ!?」

次回『エトワリアのジャック・ザ・リッパー』
陽子「しーゆーねくすとたいむ!」
ジンジャー「また見てくれよな!!」
▲▽▲▽▲▽


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第55話:エトワリアのジャック・ザ・リッパー

“苺香様と慈様とアリサさんの放ったそれぞれの魔法は、ひとつの太陽となって、悪意でまとまる魔法の霧を完全に晴らしたのである。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


 

 

 

「まさか、私一人に5人がかりで来るとはな……」

 

 あらかじめ持ってきておいた抗毒薬を飲み干して、瓶を無造作に投げ捨てる。視界が悪い霧の中、頼れるのは己の戦いの勘だけ。

 

 

「こんなに早く駆けつけてくるとはな……」

「なんと見苦しいことか。自分がお目汚しになっていることをご自覚した方がよいのでは」

「重役は重役らしくご出勤なされよ。街の人の命程度が何だと申し上げるのか」

「流石は賢者。腕力だけは右に出るもの無しですな」

「貴女は私が悪人にでも見えるのか? 驕るな」

 

 

「やかましい! 驕ってんのはどっちだ。

 あとな、なんの罪もない街の人を暴力で脅かしている奴は普通、悪人って言うんだよ!!」

 

 神経を逆撫でする言動しかしない、ヒゲの生えたみすぼらしい男が……5人。兄弟以上とかそういうレベルじゃない。まるでコピーしたかのように、ほぼそっくりな5人を前に戦闘体勢をとる。

 コイツが……街を混乱に陥れた元凶、霧の中に隠れる指名手配犯・セレウス………!! 

 

 

「私の街で悪事を企んだことを後悔させてやる!」

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 今こうして複数のセレウスと敵対している理由。それは、確か指名手配を発布してから1時間とちょっとくらいのことだったか。

 衛兵の一人が、大慌てで私の屋敷の門を叩いてきたかと思えば、耳を疑う報告をしてきたんだ。

 

『ローブをまとったヒゲ面の男が、暴力行為を働いている』

 

 すぐさま支度を済ませ、忍と穂乃花を警備兵やクロモン達に任せると、報告で受けた場所まですっ飛んでいった。かなりの速度で走っているハズなのに、それがとても長く感じた。一刻も早く駆けつけて市民を守らなきゃいけねーのに………!

 そして、やっとのことでたどり着いた先―――霧が濃くなっていたその場所では、ローブの男が、ナイフを片手に市民を脅しているじゃあねーか。

 

『『『召喚士とクリエメイトはどこにいる。この街にいるはずだ』』』

 

『はぁ? 知らないよそんなこと! もうここから離れたんじゃないの?』

『そもそも、お前は誰なんだよ!』

『怪しい格好して、アンタこそ疚しいコトでも考えてるんじゃないの!』

 

『貴様、私がおっしゃる事を否定する気か? 使えない女だ』

『貴様は質問には質問で返す流儀でもお持ちしているのか? 無礼だ、改めろ』

『黙れ、見た目で全てを判断出来るほど偉いと驕る小物が』

 

『きゃああ!!』

『うわぁぁっ!!?』

『ぎゃああ!?』

 

 ……いや、脅しているというより襲っている、といった方が良いな。奴の言動は理不尽そのもの。思い通りにならないと癇癪を起こす子供みてぇな理由で街の人に暴力をふるいやがる。

 街の人々の悲鳴が響く。それを聞いた私は、腹の奥のマグマのような怒りが煮え滾るのを感じた。それ以上その音を聞いていられずに突っ込んでいく。

 

『させるか!』

 

 すぐさま市民達と男の間に割り込んで、拳を振るう。拳圧で風が起きて、霧が吹き飛んだ。

 

『『『『!!!?』』』』

 

『じ、ジンジャー様!?』

 

『市長命令だ! 私は今からこいつらと戦うから、出来るだけ早く、周りと協力して逃げろ!!』

 

『で、ですが……』

 

『早く行け! ここは私が治める街だ!これ以上怪我人を出されてたまるか!!』

 

 そこでやっと、街の人たちが避難を始めた。私に付いてきた金髪メイドの数人は、街の人の混乱を抑えつつ、避難誘導をしている。

 それを見たローブの男は、3人から5人に数を増やして私を取囲もうとする。毒使いだと分かっていたから、持ってきていた毒の抗体を服用する。

 

『八賢者ジンジャー……まさか、こんなに早く駆けつけてくるとはな……』

『なんと見苦しいことか。自分がお目汚しになっていることをご自覚した方がよいのでは』

『重役は重役らしくご出勤なされよ。街の人の命程度が何だと申し上げるのか』

『流石は賢者。腕力だけは右に出るもの無しですな』

『貴女は私が悪人にでも見えるのか? 驕るな』

 

『やかましい! 驕ってんのはどっちだ。

 あとな、なんの罪もない街の人を暴力で脅かしている奴は普通、悪人って言うんだよ!!』

 

 

 己の所業をこれでもかと棚に上げた戯言を一蹴して、いつでも拳を放てるように構えた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 先に仕掛けてきたのは、セレウスだ。

 二人の霧の分身がナイフを向けて突っ込んできた。

 それらを軽く受け流して回避する。何かが塗られている可能性のある刃には触れないように。

 

「無駄だ―――“斑蛇腹(まだらじゃばら)”」

 

「!!」

 

 受け流したはずの刃が、うねった軌道でこの身に迫る。確実に人間の関節の可動域を超えた動きだ。それも一人だけじゃない。5人がほぼ同時に放ってきたのだ。

 

 持ってきたバットを抜き、ナイフの数々を弾く。そしてその勢いのまま、セレウスの分身の一体に向けて振り抜いた。

 

 

「“骨砕き”!」

「“霧裂き”!」

 

 

 バットの一撃はセレウスの反撃をたやすく破り、奴の体にモロに的中する――――――が、やはりというべきかあるべき筈の手応えがない。まるで、空振りでもしているかのようだ。

 

 

「“猛打衝(もうだしょう)”!!」

「“霞初月(かすみそめづき)”!!」

 

 

 私の大地を揺らすほどの猛撃とセレウスの弧を描く斬撃が衝突し、再び私が競り勝った。……しかし、敵をぶっ飛ばした感覚は手にやって来ず、ただ風が巻き起こるだけだ。そこで確信に至れる。

 

 ……やっぱり、コイツは分身のみに戦わせている。本体はどこかに隠れ潜んでいるはずだ。コイツらと戦っている限り、埒が明かねぇ。

 

 

「……ハッ! どいつもこいつも手応えが全くねぇな! そんなにこの私が怖いか!!」

 

「貴様など恐れるものか。このまま体力の限界まで削れば良い事。我が刃からは逃れられぬぞ」

 

「なら分身におんぶに抱っこじゃあなくて本体も出てきたらどうなんだ?」

 

「頭を使って戦うとはこうするのだ」

 

 

 気に入らねぇ精神だ。自分だけ安全なところからチクチクと攻撃する。姑息という言葉が一番ピッタリきやがる。だが、それが面倒なのは確かだ。この手の奴は本体を探すのが手っ取り早いが今の私にそれができるかと訊かれれば首を傾けざるを得ない。私がこの場を離れた途端、セレウスが市民を害そうとするのは目に見えている。

 だとするならば―――コレを使ってもいいだろう。

 

 

「…!? “煙霞(えんか)”!!」

 

「それ!!」

 

 

 私が何かを手に持ったのを確認するやいなや、全身を霧化させて逃げようとするセレウス。だがこれは攻撃するためじゃねぇ。

 その正体は、ローリエがメイド長を通して私に預けた信号弾だ。ボタンを押して投げるだけという簡素なものだが、それが私の腕力と組み合わさると、意味をなすようになる!!

 

 思いっきりぶん投げた信号弾は、みるみるうちに地上との距離を離し、シルエットが小さくなっていったあたりでボカンと赤い光の花を咲かせた。

 

 

「信号弾………!? だが、遅い!」

 

 

 攻撃の準備かと思い逃げの態勢をとっていたかと思えば、信号弾と知るが早いか、攻撃の態勢を取り始めた。狙いは………私の後ろにいる、メイド達―――避難誘導中を狙うつもりか!!

 セレウスを先回りするかのように、彼女たちを庇うかのようにメイド達の前に立ち塞がり、バットを構える。

 

 

「かかったな、八賢者! 狙いは最初から貴様よ!」

 

「―――! 分かってる、よ!!!」

 

 

 懐に突然現れた分身を蹴り飛ばす。

 だが、その時間が少し危なかった。そのスキに他の分身を取り込んだのか大きくなったセレウスから少し目を逸らしたのだ。

 視線を戻したときに見えたのは倍の大きさになったセレウス。全力で攻めているが、明らかに先を見通した攻撃だ。ちょいと調子を崩されようが関係ない。力を温存しているスキを突いて、私の全身全霊を込めて霧ごとすべてを吹き飛ばしてやる。

 

 

「“豪熱魔球(ごうねつまきゅう)”!!!」

 

「“瞬技(しゅんぎ)霧々舞(きりきりま)い”!!」

 

 

 熱を含む光の打球、バットのフルスイング。

 霧化魔法を最大限に利用したかのような斬撃の連打。

 

 その二つが、激突した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ジンジャーとセレウス×5が激突するよりも少し前。

 クリエメイトと賢者の助手・アリサを引き連れたきらら達一行は、再びジンジャーの屋敷の前まで来ていた。

 

 当然門には門番がいたが、彼もまたオーダーの影響を受けていたためか、カレンが前に出た途端タジタジになってしまい、門番を果たさなくなってしまっていた。

 

 

「き、金髪様のお供ということなら、どうぞお通りください!」

 

「アリガトウゴジャイマス。それでは、みなさん行きマショウ!」

 

「いいのかなぁ……」

 

 ジンジャーの市長官邸。その屋敷の広い……一般家庭の全敷地の何倍も広い庭にさしかかったところで、アリサがきらら達に話しかけた。

 

「……ここまで、ですね。」

 

「アリサさん?」

 

「申し訳ありませんが、私はここから先へお供する事は出来ません」

 

「「「!!!?」」」

 

 突然の戦線離脱の宣言。どういうことかとランプが問い始める。

 

「ど…どういう事ですか!?」

 

「私は、とある目的のため神殿と協力しています。クリエメイトの護衛を担ったのはそのためです。しかし、皆さんはジンジャーさんと敵対し、クリエメイトを帰そうとしているんですよね?」

 

「は……はい。もし避けられないというのなら、戦うこともあるかもしれません。」

 

「そうなった際、私が皆さんと同じ立場にいることは出来ませんので」

 

「協力、してくれないんですか……?」

 

「クリエメイトの命は守ります。ですが、それとこれとは別です。皆さんへの恩義もありますから、ジンジャーさんと戦う時は私はどちらにもつかないことを約束します」

 

 あまりにもまともな理由だった。

 本来、神殿側・きらら側・第三勢力の三つはお互いが敵対しているのだが、ある特徴で2つに分けられる。

 それは―――『クリエメイトを生かすか、否か』。

 きらら一行は勿論のこと、神殿側もクリエを得るために、またクリエケージ内でもクリエメイトを生かし続ける必要があるため、生け捕り必須なのだ。しかし、第三勢力はクリエメイトを殺すことを前提としている。他の2勢力と反りが合わなくて当然である。

 アリサは神殿側についている。クリエメイトは生かさなければならないという点ではきらら達と同意見だが、それでも本来はきらら達と敵対する立場なのだ。ソラが呪われた件はアルシーヴから固く口止めされている。故にいざとなったら戦わなくてはならないのだ。

 

 

 だが、人間いきなりこんなことを言われて「はいわかりました」と納得するように出来ていない。

 

 

「そんなこと言うなよ! アリサは私を守ってくれたし、エトワリアのこと色々教えてくれたじゃあないか!」

 

「ねぇ……どうしても、ここで別れなきゃいけないの………?」

 

 陽子がアリサを引き止めようとする。綾は不安げに、かつ少々の寂しさを込めて念を押した。二人の手を握ったアリサは、それとは対象的に後悔もしていないといった顔つきで、朗らかな笑顔でこう返す。

 

 

「立場がありますから。でも、これから私達が戦うわけじゃありません。ですのでお気になさらずに。ヨーコさん、アヤさん、お二人に会えてとても幸せでした……」

 

 

 それに、とアリサは二人から手を離す。

 

 

()()()()()()()()()()()()()……!!」

 

「「!!!?」」

 

 

 霧が濃くなっている。

 セレウスの襲い方を分析していた彼女達は、その言葉の意味を分かっていた。すぐさま陽子と綾はきららの側に集まった。

 

 アリサが周囲に風を放つ。霧が乱れて、きらら達とやや離れた場所に集まり、やがて男の姿となった。

 

 

「やはり現れましたね、セレウス……!」

 

「霧の中に現れる殺人鬼……ジャック・ザ・リッパーそのものデス……!」

 

「え…? じゃっく……?」

 

「ジャック・ザ・リッパー。昔のイギリスに出たっていう人斬りだよ」

 

「言ってる場合か! セレウスが仕掛けてくるぞ!」

 

 

 カレンの言葉の中にでてきた単語に戸惑うきららと補足するアリスをマッチが叱咤する。確かに敵の前でする話ではないが、肝心のセレウスはただ距離を少しずつつめるのみであった。しかもアリサが武器を構えた途端歩みを止める慎重っぷりである。

 

 

「……? 仕掛けてこない?」

 

「話は済んだか? おそらく最期になるであろうからな。言いたい事は言っておけ」

 

「随分と舐めた言動してますね」

 

「これは余裕というものだ」

 

 

 その表情と態度からして、虚勢を張っているわけではなさそうだった。また、先に攻撃して来ないところを見るに、先手を譲るつもりなのだろうか。ともあれ、セレウスは勝てると踏んでいるのだろう。

 

 

「……“ウィンドベール”」

 

 

 ならばとアリサが発動させたのは、気流操作の魔法。周囲の風を操って、鎌鼬を起こしやすくする。風属性魔法の威力を高める効果もある、攻防一体の魔法である。

 

 

「“渦巻霧(うずまきり)”」

 

 しかし、セレウスが発動させた霧を集める魔法で戦況は拮抗する。渦のように集まる霧は、アリサのウィンドベールでは散らしきれない。

 

(これだけで凌げるほど甘くはないか。

 でも……炎は通用するのか……?)

 

 セレウスの霧化魔法は、風だけでなく高熱も弱点ではあるのだが、それはもちろん湿気を上回るほどの火力が出ればの話である。そして、アリサは自身の炎魔法の最大火力でセレウスの霧を蒸発させ切れるか確信が持てなかった。

 

 しかし、自分本位なセレウスがアリサを待ってくれるはずもない。

 

 

「―――“水鎌霧(みずかまきり)”!!!」

 

「―――っ!!?」

 

 

 セレウスが仕掛けてきたのは飛んでくる水の斬撃。三日月のようなそれらは、霧による視界の悪さも相まって対処の面倒くささが増す。そんな厄介な飛ぶ斬撃の目指す先は――――――非戦闘員のクリエメイトたちだ。

 

 すぐさまウィンドベールで軌道を逸らそうとする。だが全てを逸らしきることができない。大方の刃は明後日の方向に飛ばすことはできたものの、まだいくつか残っている

 

 

 襲いかかる水の刃は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――きらら達の目の前に現れた、炎の壁にぶち当たって蒸発した。

 

 

「「!!?」」

 

「アリサさん! 手伝います!」

 

 

 そう言うのはきらら。彼女ならば、攻撃を防ぐ力を持つクリエメイトを召喚するなどわけない話だったのである。アリス達より一歩前に出て、クリエメイトを即座に召喚し防御魔法を使用したのである。

 

 炎が晴れた時、きららのそばにいたのは………二人。

 一人は、濃紫色のチャイナドレスを纏い灰色のローブを頭からかぶったピンクのウェーブヘアーの女性。

 そしてもう一人は、アリサのよく知る人物であった。

 

 

「苺香さん!!?」

 

「お力添えします、アリサさん!」

 

 

 そう、苺香である。『オーダー』された時に着ていた白鳥のようなドレスはそのままに、光の魔力を携えている。きららの『コール』で魂の写し身として召喚されたことで、戦えるようになったのだ!

 

 

「それで、もう一人の貴女は………?」

 

 

 そんな苺香とは対称的に一向に何も喋ろうとしないもう一人の女性にアリサがおずおずと尋ねる。そこで、ようやく彼女が口を開いた。

 

 

「………佐倉(さくら)(めぐみ)。教師()()()女よ」

 

()()()……………?)

 

 

 慈の発言の一部に引っかかったアリサだったが、戦闘中ゆえに今はそれ以上追及しないことにした。

 

「手を貸していただけますか!」

 

「勿論よ」

 

「何人現れようと無駄なのだ!

 “雲合霧集(うんごうむしゅう)”!!」

 

 

 セレウスが霧を集めて姿をくらます。その霧の濃さたるや、1メートル先どころか手を伸ばした掌の輪郭さえ見えないほどの濃さだ。

 セレウスはこの隙にアリサ・苺香・慈の後ろへ回り込み、更にきららの横をすり抜け、視界の効かなくなったクリエメイトから先に始末しようとする。5対1は望んで戦うが、1対3では真正面から戦おうとしない。とことん姑息で卑怯な男である。

 

 

 ―――しかし、セレウスの脳裏に浮かんでいたそんな作戦は、叶わなかった。

 

 

 

 

「ぬおぁっ!!?」

 

 

 きららの脇をこっそり通ろうとした直後、巨大な魔法の波動が凄まじいスピードでセレウスに直撃し、霧の体を散らしたのだから。

 

 意識の外からの攻撃に対応出来なかったセレウスは、攻撃が飛んできた方向を見やる。そこには、クリスタルを構えた苺香とこちらに指をさしているアリサがいた。

 

 

「ほ、ホントに当たりました……!!」

 

「信じて下さりありがとうございます、苺香さん」

 

(ば、バカな!!? まさか、霧だらけで視界に頼れないこの状況で、このセレウスの位置を正確に把握いたしたというのか!?)

 

 

 アリサのウィンドベールは周囲の風の動きを察知することで、隠れた敵を探すことにも向いている。攻撃も想像しているよりも簡単なのだ。ゆえに攻防一体。

 

 だがセレウスは諦めなかった。

 己の霧の魔法とそれを駆使した変幻自在な戦術。それは誰にも負けることなどないという矜持が、セレウスに「諦めて降参する」という選択肢を与えなかった。

 

 

(―――筆頭神官さえも凌駕しうる私の魔法が、あんな小娘に破れる訳がないのだ!)

 

 

「調子に乗るなよ……“五里霧中”!」

 

「「「!!?」」」

 

 

 セレウスの霧化魔法派生術、『五里霧中』。それは、霧を薄める代わりに自身の体をカメレオンのように変化させて、敵の視界から逃れる高度の水属性隠密魔法である。全身の風の流れに気を配り、ウィンドベールに引っかからないように気を配るのも忘れない。

 透明マントを全身で包んでいるような術の出来に、アリサも苺香も慈も、セレウスの姿を見失った。

 

(ククク………早いところ、クリエメイトやランプの命を頂戴してくれる!)

 

「慈さん! 噴水の石垣の前です!」

「―――――――――ッ!!?」

 

 しかし、きららのパス探知は誤魔化せなかった。

 

ゴオオオオォォォッ!!!

 

 慈がきららの指示通りの場所にフラスコを投げれば、叩きつけられて割れたフラスコから背の高い炎が燃え上がる。セレウスは驚きと焦りのあまり術を解除し姿を表した。

 

 

「な…なんだこの熱量はッ!? ()()()()()()()()()ッ! す、すぐに火をお消しにならなければ!!」

 

 

 今、戦っているのは霧で作られたセレウスの分身だ。痛覚などはなく、痛みや熱さなどの都合の悪い触覚は持ち合わせていない。ただし、強風で形を保てなくなり―――強力な炎に炙られると分身を構成する霧が蒸発してしまう。

 

 

「そうか……セレウスの分身は霧でできていたのか! 霧が蒸発してしまえば、セレウスが分身を作って襲ってくる事ができなくなる! 迂闊だったなセレウス……いま、お前は言っちゃいけない事を言った!!」

 

「!!!? し、しまっ―――」

 

 

 マッチに指摘され、慌てていたが故の己の大失態を悟るも、口に出した言葉はもう引っ込めることはできない。

 

 

「―――“イグニッション”」

 

 

 アリサが攻撃魔法の準備行動に移る。それは、炎属性魔法の火力を爆発的に上げる補助(バフ)魔法だ。全身に炎が舞い、足元に紅い魔法陣が浮き上がる。

 

 

「―――お遊びはお仕舞いです

 

 

 苺香が微笑む。だがそれは、セレウスから見たら高位の悪魔が丁度いいオモチャを見つけ、これからそれで遊んで(いたぶって)やろうと考えているかのような笑みにしか見えない。こんな事を苺香に言えば凹む事確実だが、彼女の目つきが災いしているので、ある程度は仕方ない。

 

 

「これで終わりよ、セレウス」

 

 

 慈が虚ろな目でセレウスを見据える。生者にはない、光のない眼差しに、セレウスは尻込みしたくなる。まるで地獄から舞い戻った死人のそれだと思った。セレウスの目と感性だけはどうやら正常のようだ。

 

 

 三者三様のトドメの姿勢。セレウスは、逃げることはしなかった。だがそれも、「ここで逃げたら私の誇りが消える」という、自己中心的な理由からであった。

 

 

「わ、私を……私をそんな目で見るなァァァァ!!!

 消え失せろ! “幻影霧揉矢刃嵐(きりもみやばあらし)”!!!」

 

“フレアドライブ”―――!!!

そりゃーーーー!!!

はああぁぁーーーーっ!!!

 

 

 

 飛び交う斬撃が、嵐の様に暴れ回るセレウスの必殺技。

 それに対抗するは、アリサが放った巨大な剣のような炎、苺香が放つ光の極太レーザー。慈の投げたフラスコが変化した降り注ぐ炎の雨。

 

 

 三人の少女の必殺技が一つに合わさる。太陽のような光と熱を帯びたそれは、セレウスの霧の刃の嵐を鎧袖一触と言わんばかりに打ち破って、セレウスに迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な…………お…おのれ!!

 ただの小娘どもの分際で……よくもこの高尚なるセレウスの分身を!!!

 私が負けるはずがないのだ!!! ただの人間なんぞよりも! 何十倍も! 価値ある私が、こんな女ごときに―――」

 

「いいえ。あなたは負けたの。こんな女にね」

 

 

 怒りとともに本性を撒き散らしたセレウス。少女達を悩ませた、分身の一人が高熱と強力な光の魔法に晒されて、欠片も残さず蒸発していく。

 

 消えゆくセレウスの分身。慈の皮肉の混じった一言は、確かに蒸発寸前の魔法の霧を通して、セレウスの本体に伝わった。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ジンジャー
 街の人々を守るため、都市で暴れ回るセレウスの分身達と戦い時間稼ぎをしてみせた八賢者にしてきららファンタジアの姉御。この出来事が切欠で、ジンジャーに救って貰った人々やジンジャーの戦闘の勇姿を見た街の人々の中から『親衛隊』が結成される。信号弾を約束通りブン投げたため、ローリエが動く。『あとは任せろ』と言わんばかりに。

アリサ&桜ノ宮苺香&佐倉慈
 ジンジャーの大きな庭にて、セレウスの分身と激戦を繰り広げ、勝利を収めた賢者の助手&クリエメイト。きららと共に不意打ちを防ぎ、火力で押し切った。なお、この戦いで庭がメチャクチャになり、アリサだけがジンジャーに謝罪する。

ありさ「ごめんなさいでした!」
じんじゃー「まー確かに残念だったがよ、クリエメイトを守るためだったんだろ? それに、庭ならまた整えりゃいい!」
めいどちょー「あ、ハイ、ソウデスネ……」

セレウス
 ジンジャーだけを警戒した結果、きらら達に(分身とはいえ)敗北してしまった男。難癖をつけて市民をいたぶり、ジンジャーをおびき寄せて数で袋叩きにするつもりだったが、予想以上に粘られる。きらら達との戦いでは、分身が蒸発される直前に本性が漏れ出てしまっている。



セレウスの技
 大体が「霧」「霞」にちなんだ言葉だが、「〜きり」で終わる言葉を思いついた順に書き並べた感じ。最後の必殺技は「キリモミヤマアラシ」にしようと思ったがどこかで聞いたことがあるのでちょっと変えた。

ジャック・ザ・リッパー
 別名・切り裂きジャック。殺害方法から切り裂く者(リッパー)と呼ばれるようになった。1888年にイギリスで連続発生した猟奇殺人事件および犯人の通称。世界的に有名な未解決事件であり、現在でも犯人の正体についてはいくつもの説が唱えられている。


△▼△▼△▼
ローリエ「お、からすちゃんとくっしーちゃんじゃん。今夜ヒマ?」

烏丸先生「ええと? 予定はない、ですけど…」
久世橋先生「烏丸先生、そこはウソでも『予定が入ってる』と言うべきです。大体、貴方はなんなんですか!イキナリ口説きにかかるなんて……」

ローリエ「おいおい、口説いていると決めつけるのは心外だな。生徒の模範たる先生がそれでいいのか? ………口説いてるんだけどね」

久世橋先生「そ、それも一理ありますね。決めつけるのは良くな………って! やっぱり口説いてるんじゃないですか!この変態!」

ローリエ「CV.大○沙○」
久世橋先生「何をわけの分からないことを!」

次回『(悪意)が晴れる街』
烏丸先生「See you next time! また次回!!」
▲▽▲▽▲▽




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第56話:(悪意)が晴れる街

“霧が晴れていく。今まで覆っていた悪意が、消えていくかのように。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第6章より抜粋


 

 

(クソッ! なにが『こんな女に負けた』だ!!

 どこまでも私を愚弄しおってあの女ァ!!!)

 

 

 言ノ葉の都市・とある高層建築物の一室。

 

 そこでは、青年セレウスが瞳を閉じたまま、慈の言葉への怒りに表情を染めていた。内心は嵐の海の如く荒れ狂っている。己の敗北を未だ認められないのだ。

 いつもの冷静なイメージの面影はまったくない。分身たちがジンジャーとの戦闘中でなければ丁寧な物腰すらもかなぐり捨てて、周囲のところ狭しと積み上げられている魔導書に八つ当たりをしていただろう。

 

 

 

 

 セレウスという男は富裕層と呼ばれる家庭に生まれた。両親や周囲の人間が持つ選民思想は、セレウスにもしっかりと受け継がれた。とりわけ、セレウスは人一倍自尊心が強い少年だった。神殿に新人神官として入学した時も「私はエリートだ」「トップに私がいるのは当然だ」といった思想が性格に染み込んでいた。

 だから、アルシーヴが筆頭神官の第一候補であることが許せなかったし、彼女と親交の深いローリエもまた許す事ができなかった。

 

『あの女がこの私よりも優れているはずがない。何か良からぬ事に手を染めたからに決まっている』

『そして、魔法をまともに使えないミソッカスが、他の馬鹿どもに持ち上げられていい気になっているのが気に食わない…!』

 

 実際にはアルシーヴの成績は彼女自身の正当なる努力の賜物であることに間違いはなかったし、ローリエはその女癖から女性神官には恐れ(笑)られ、男性神官からは勇者(笑)と尊敬されていただけであり、また発明品の実用性も確かであったので、それらの感情は的外れだったのだが、セレウスは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、アルシーヴやローリエを貶めるために暗躍を始めた訳だが、もとより事実無根の感情からきた疑惑。うまく行くはずもなかった。

 しかも、その時の情報集めに法から外れた手段を用いていた事が明るみに出たため、セレウスは神殿から追い出されたのである。

 だが………この手の傲慢な人物にありがちと言うべきか。やはりセレウスは、己の過ちを認めはしなかった。

 

 

『…なぜだ。なぜアルシーヴとローリエが守られ、私だけが追放されなければならないのだ………!!

 やはり…神殿()()()に住まう()鹿()()にこのセレウスの()()な考えを理解してもらおうと思ったのが愚かだったのか』

 

 ―――とまで思う始末である。

 はっきり言って救いようがない。

 それからというもの、セレウスは有り余る自尊心を燻ぶらせたまま人との交流を避け、一室の中に引きこもる日々を送っていた。数年前にドリアーテが彼の()()()()()に目をつけ、仲間に引き込んだのである。

 

 

 

 

 そして―――今。

 ドリアーテから敵対者殺害の命を受けて霧化魔法を展開し、神出鬼没に襲い続けていたセレウス。だが、一度も戦果をあげられないばかりか、分身……及びそれを構成していた霧を蒸発させられて、霧化魔法は弱体化を受けてしまったのだ。しかも()()()()()()()()()()()()()()。「私が負けるはずなどない」と自信を持っていたセレウスからしたら苛つくのも仕方のない話に思えるだろう。

 

 

『オラァ! どうした? 気合が全くこもってねぇな、張り合いがないぜ!! そんなんで私に勝てると思ったかよ!!!』

 

(!? し、しまった! 余計なことを考えたせいで、ジンジャーに競り負けた!!)

 

 

 しかし、その魔法の弱体化がジンジャーとセレウスとの戦いにおいて一瞬の気の緩みとなり、勝敗を分かつ決め手となった。ジンジャーの豪熱魔球がセレウスの瞬技・霧々舞(きりきりま)いを破り、更に霧の分身達をバラバラにし、ただの霧に帰したのだ。

 

(すぐに立て直さなければ!)

 

 再び意識をジンジャーとの戦いに向けるべく、瞳を閉じた、その瞬間――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パリィン!!

 

 

「がッ!!?」

 

 

 

 突然、セレウスの上半身を激痛――激痛というレベルでは済まないかもしれない痛みだが――が襲った。

 それは、今までに感じたことが無いほどの痛みであった。何の脈絡もなくその身を走った限りのなく鋭い苦痛に、セレウスは体勢を崩し、魔法の維持もできなくなる。

 

 

(一体、何が…………!?)

 

 

 もんどり撃つ度に襲いくる痛み。その原因を手で探ろうとして……セレウスは信じられないものを見た。

 

 

ば…か、な………血、だ…と………!?

 

 

 己の手にべっとりとついた鮮血。それを見た途端掠れる声で絶句する。その間も、自分の体から赤いものが流れる感覚がしてきた。

 どういう訳があって、何があったのかは全くわからなかった。なぜ、自分はこんな大怪我を負って、無様に床に転がっているのか?

 

 ひょっとして、知らぬ間に誰かが部屋に侵入してきたのか?―――否、それはない。いくら分身に意識を向けてるセレウスといえど、本体がドアの開く音を拾うくらいはできるはずなのだ。それに、周りには自分以外誰もいない、隠れている様子もないようだ。

 

 ならば、先ほど穴が空くように割れた窓の外から何かしてきたのか?―――よく調べれば分かるかもしれないが、今のセレウスにそんな余裕などあるわけがない。

 

 分からないことだらけで本格的に恐怖が芽生え、状況に混乱してきたセレウス。

 だが、そんな彼でもかろうじて確信出来る事が一つだけあった。

 ……それは、このまま何もしなければ間違いなく自分が死ぬ、ということ。それだけは避けなければならない。

 

 

(何も………何も、分からないが……まずは、この部屋から出なければ……ッ!

 ここにいては、回復も安心して、でき……ない………)

 

 

 恥も外聞も捨てて、床や魔導書が血に濡れることも厭わずに部屋を這うセレウス。その速度は芋虫が尺を取りながら動くよりもゆっくりであった。セレウスは最後の力を振り絞ったが………しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パリィン!!

 

 

 窓に二つ目の穴が空く方が、セレウスが部屋の出入り口に辿り着くよりも……早かった。

 先程よりも鋭い激痛が全身に走ったかと思えば、悲鳴を上げる時間もなくセレウスの頭に霧がかかり、その手から意識がすり抜けて落ちていった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「…………よし、ミッションコンプリート」

 

 スコープ越しにみすぼらしい男……セレウスと思われる男が動かなくなったのを確認してスコープから目を離せば、見渡す限りの街の景色が、霧に遮られる事なく俺の目に届いた。それは、セレウスの悪意と言う名の霧が、都市から晴れたことを意味していた。

 

 このローリエ、現在地はというと―――言ノ葉の都市の周囲を囲う城壁の、そのてっぺん。見張り台にて、狙撃銃(スナイパーライフル)『ドラグーン』を展開していた。

 

 

 今までどこで何をしていたのか。どうしてここにいてセレウスを狙撃したのか。それを1から説明するとしよう。

 

 まず、ジンジャーにセレウスの事を報告した後、メイド達を口説きついでに「ジンジャーの直属の部下で、それなりに偉い奴は誰か」と聞いて回った。そこで俺はメイド長ことリリアンちゃん(本人は名前を呼ばれるのが恥ずかしかったようだが、俺には関係ないね!)と出会う。

 次に、リリアンちゃんを連れ出してデートという体裁を取りながら、彼女や街の人達に「ここら辺で背の高い建物かヒゲの生えた青年を見なかったか」と聞き回った。途中でアリサからドローンを通して奴の名前(セレウス)という情報も得たのでそれも含めて尋ねてみる。すると、見事に一つの場所に辿り着いたというワケだ。

 その後は、リリアンちゃんとの別れ際に信号弾等をジンジャーに渡すよう伝えて……俺は霧が及ばない、かつセレウスがいると思われる建物を狙撃できる所まで移動。

 あとはジンジャーの信号弾を確認できた瞬間に部屋の中にいた霧の男ソックリの奴に向かって引き金を引くだけ。アリサがきららちゃん達と合流していたのは彼女に貸したドローンを通して確認済なので、セレウスがそちらに現れていたとしても抜かりはない。まぁ、分身を倒していたようなので急いで狙う必要もなかったワケだが。

 

 

 そうだ。ジンジャーに報告くらいしないとな。

 ルーンドローンの一つを、ジンジャーの目の前に移動させる。

 

 

「やっほー、ジンジャー。感度良好かな?」

 

『うおっ!!? 見慣れねぇ機械から声が……ってその声はローリエか!? おい、何があった!?』

 

「え、何がって―――」

 

『そんな小っちぇえ体にされて……誰かから変な魔法でもかけられたのか!?』

 

 ……そんな訳ないでしょ。ジンジャーは俺の魔道具をなんだと思ってるの?

 

「違うよ。今俺は城壁の見張り台にいんの。音声をこの魔道具を通してジンジャーに伝えてるだけ。まぁ、少し前に作った携帯電話あったろ? アレの応用だ」

 

『そ、そうか……無事でなによりだ。それより、さっき街を包んでた霧が一気に晴れたんだが何か知らないか?』

 

「セレウスなら俺が今討伐した」

 

『はぁ!!? ちょっと待て、早すぎるだろ!? さっきの間にセレウスの居場所を見つけて、取り押さえたって言うのか!?』

 

「今から言う地点に出向くか人を回すかしてくれ。そこで怪我を負ってるヤツがセレウスだ」

 

 

 そう前置きしてセレウスがいる建物(おそらく宿屋か借家だろう)の名前と場所、階層、城壁側から見て右から何番目かなどの情報を述べていく。報告を終えれば、ジンジャーから「メイド長を派遣するから、案内してやってくれ」と連絡が入る。

 

『私はすぐに官邸に戻るからな。………あと、ウチのメイド長が世話になったみてーだな。お礼を期待してろよ?』

 

 ―――と残して走っていった。その件は違うってのに………

 

 

 涙を我慢しながら城壁から降りて、件の背の高い借家の前で待っていると、リリアンちゃんと衛兵部隊がやって来た。詳細を話し、部屋を調査をさせれば大怪我を負ったセレウスと奴の身元証明の道具が運び出される。

 あらかた確認作業が終わったあたりで、リリアンちゃんに声をかけられる。

 

 

「ローリエ様、少しお尋ねしたいことが」

 

「ん、なんだリリアンちゃん? モテる秘訣か? 逢瀬の約束か?」

 

「それについてはまた後程。私が聞きたいのは、セレウスの傷についてです」

 

 彼女は、至極真っ当な目で俺を見る。

 

「あの傷は、剣や槍で刺されたのとは種類が違います。血の量からして致命傷でした。もう少し手当が遅ければ死んでいたでしょう。今も予断を許さない状況です。

 ―――いったい、どのような方法でセレウスを撃破したのですか?」

 

 ……うーん。

 その質問はなかなか答えづらい。というか答えてしまっていいものか。俺としては、拳銃の存在はあまり広めたくはないし、構造や理論については絶対に教えられないと思っている。現に『パイソン』や『イーグル』、『ドラグーン』の設計図は俺の頭の中にしかないし。

 

「詳しく教えることは出来ないが、この力はアルシーヴちゃんやソラちゃん、そして賢者の皆のために使うことを約束しよう」

 

 とりあえずこう答えてみる。これで納得してくれるなら良し、具体的な説明を求められても拳銃の概要をサラッと話し、何故秘密にするのかを口が酸っぱくなるほど並べ、内緒にする約束を取り付ければ何とかなりそうな気がする。

 

 

「…分かりました。ローリエ様がそうおっしゃるのであれば、信じることに致します」

 

「分かってくれて助かるよ」

 

 

 リリアンちゃんはそう言って恭しく一礼すると、衛兵隊と一緒に牢獄病棟(警察病院のようなものだ)へセレウスを運んでいった。

 

 

 ……さて。俺もジンジャーの市長官邸に向かうとしましょうかね。

 元々俺達はドリアーテとビブリオの手がかりを探しに来たんだし、もしかしたらきららちゃんとジンジャーのファイトに間に合うかも………でもなぁ。

 

 リリアンちゃんの件の誤解、解けるかなぁ。ジンジャーのことだから、弁明する前に殴りかかってきそうで怖い。

 

 

 

 

 

 屋敷の庭に辿り着いた時、アリサが現れてこちらに話しかけてきた。

 

 

「ローリエさん。セレウスの討伐、お疲れ様でした」

 

「おう。そっちもお疲れ様、だ。

 ところでこの庭…だよな?……ひでー有様だな」

 

「う…セレウスの分身を撃退するのに必死でつい……ジンジャーさんは謝ったら許してくれましたが……メイドの皆さんに合わせる顔が…」

 

「大丈夫。リリアンちゃんなら文句は言わんさ」

 

「……リリアン?」

 

「メイド長の名前だ」

 

 

 アリサのフォローをする過程でメイド長の名前がリリアンであることを話せば、アリサがうつむいて「また女の人をナンパしてたの…?」とボソッと呟いた。そこ、聞こえてるぞ。ナンパじゃあないの。セレウスの居場所を突き止めるのに必要なことだったの。リリアンちゃんを本気で口説くのはドリアーテを滅ぼした後にするわ。

 

 

「それで、この後はどうしますか?」

 

「書類をちょっと拝借して、住民票とビブリオの悪行の証拠を集めよう。ついでに何か見つかるかもしれない」

 

「………ジンジャーさんの手助けはしないんですね。」

 

「あれはジンジャーの仕事だ。それに……ドリアーテを倒す鍵になりそうだからね、きららちゃんとランプは」

 

 あと、君は彼女達の義理立てとしてジンジャーときららちゃんとの戦いには参加しないのだろう?ドローン越しに聞いたぞ―――と言う前に、アリサは驚いた面持ちで俺を見て、食い気味に尋ねた。

 

「え、あの人達がドリアーテを倒す鍵、ですか!?」

 

「まずきららちゃんは『コール』が使える。伝説の召喚魔法の使い手だ、仲間にしないという選択肢はありえない。

 そしてランプは―――新たな聖典の作者になり得る」

 

「!!!?」

 

「さァーて、とっとと調べに行こうぜアリサ。書類関係の資料室はあっちだな」

 

 

 困惑するアリサを誘導するように先頭を歩き屋敷内に入ると、クリエケージやシノと穂乃花のある部屋とは別方向の資料室に向かって進んでいく。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「どうして、ランプが『新たな聖典の作者』になると思ったんですか?」

 

 資料室に入り証拠探しを始めて数分後。ふとアリサが、俺に向かってそんな事を聞いてきた。

 

「ソラちゃんとランプがそっくりだからだよ。二人とも、聖典の登場人物がこれ以上ないってくらい大好きなんだ」

 

「そうなんですか? でも、いくら似てても実力が伴わなければ意味がないと思うんですけど」

 

 俺の答えに対してそう反論するアリサは的確だ。だが……それは、()()()()()()()()()の話である。

 

「確かにな。だがそこで、聖典学の成績が生きてくる。ランプは、聖典学だけ見れば、成績はトップだ。当時のアルシーヴちゃんやソラちゃんよりも優れてるんじゃあないか?」

 

 その代わり、他の学問の成績が聖典学にほぼ全部持ってかれてる形でズタボロだけどな。

 

「聖典は女神がクリエメイトの様子を書いたもの。例えばクリエメイトに理解と情熱があり、女神候補生たるランプがクリエメイトとの日々を日記に書いたとしたなら……それはもう立派な聖典といっていいだろう」

 

「………!!!! そ、それは…!!

 今すぐ筆頭神官さまに報告すべきなんじゃあ……!?」

 

 

 ランプの可能性を話せば、アリサは分かりやすく動揺してそんな事を口走る。兄のしでかしたソラちゃんの呪いを解けるとあっちゃあ、まぁ、気持ちは分からなくもないが―――

 

 

「ダメだ。落ち着けアリサ」

 

「でも……!!」

 

「まだ第三勢力がいる。ドリアーテの正体については推測を語ったが不確定な上、まだ何か仕掛けてこないとも限らない。

 『ランプの可能性』……この情報は、第三勢力(ヤツら)はモチロン、神殿側にもきららちゃん御一行にも知らせるべきじゃあない。知る人間は、少なければ少ないほどいい」

 

「!!! そ、それもそうね……でも、どうして私に教えてくれたの?」

 

 

 俺がランプの可能性をアリサに教えた理由。

 知る人間は少なければ少ないほどいいとは言ったが、それなら誰にも話さなければいいだけの話である。それにも関わらず、俺はアリサに教えることにした。その理由。それは―――

 

 

「いざという時、()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ」

 

()()()()……か。

 ――――――――――わかった。」

 

 

 俺達と第三勢力の戦いは、勝利条件と敗北条件が明確にされていると言っても過言じゃあない。

 勝利条件は、ソラちゃん・アルシーヴちゃん・きららちゃん・ランプが生存したまま、ドリアーテを倒すこと。

 敗北条件は、前述の4人の誰か一人でも再起不能になること。特にランプが再起不能にされると致命的だ。新たな聖典の力がなくなり、そのままなし崩し的に世界滅亡、なんて十分あり得る。

 

 故に、あの二人の命は丁重に扱わなければならない。きららちゃんは今までの賢者たちとの戦いを経て強くなっているはず。俺はその間にドリアーテに繋がる手がかりを見つけなくては―――

 

 

「ローリエさん、なにか落ちましたよ」

 

「……ん?」

 

 

 突然、アリサからそう声がかかる。なにか落ちた、という言葉に従って床を探していると、一枚の紙のようなものが手に触れた。

 

 ―――それは、住民票であった。元々は処分されるはずだったのが何かの間違いで保管され続けていたのだろう、埃が被りに被っている。

 埃を手で払えば、最も求めていた名前が、忘れるはずのない顔写真と共にそこに記されていた。

 

 

「―――アリサ。これを見てくれ。ビンゴだ。」

 

「―――え? これ……」

 

 

 

「―――『ドリアーテ』。手がかりどころか、大当たりを引いたようだ。」

 

 

 年数は、ざっと1()0()0()()()。当時の賢者がウッカリ紛失したのか、はたまた別の理由があったのか……なんにせよ、ドリアーテへ繋がる手がかりを、また一つ、見つける事ができた。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 セレウスを狙撃(ゴルゴ)した八賢者。情報集めを裏で行っており、セレウスの本体の居場所を突き止めた。ソラ・アルシーヴ・きらら・ランプを救うために、秘密の一つをアリサに教えた。また、市長官邸では、立ち寄った資料室で偶然デカい手がかりを見つける。

メイド長/リリアン
 拙作で初めて命名された、ジンジャーのメイド長。名前で呼ばれる事を恥ずかしがっており、ジンジャーもその気持ちを汲んでメイド長呼びしている。ローリエの情熱的な口車に乗ってしまい、本名を教えた。セレウス狙撃の後処理も行う。ちなみに、セレウスについては「ジンジャー様に手を出したクソ野郎ですので、死んでも構いませんが、ジンジャー様が後で困るだろうから殺しはしない」と思っている。

ジンジャー
 ローリエの迅速な仕事に驚く八賢者。ローリエの報告を受けた後は、メイド長のお礼参りを約束した後、市長官邸に戻りきららと激突する。アリサが謝罪してきたので、庭の件は許した。

セレウス
 ―――再起不能(リタイア)。めぐねぇの皮肉にブチ切れて冷静さを失い、ジンジャーに競り負ける。その後、ローリエの狙撃によって生死の境を彷徨う羽目になった。過去編をサラッと書いたが、我ながら最低な部類の過去になったと思う。イメージCVは○西克○氏。名前のモデルはセレウス菌(要するに食中毒の原因)から。




△▼△▼△▼
きらら「私の力は、なんの為にあるんだろう? …ずっと考えていたことでした。答えは、まだ出ません。すぐに出してはいけないのかもしれません。私は、後悔したくありませんから。守りたいものを、指の間からこぼしたくありませんでしたから。」

次回『この力は、みんなの為に』
カレン「See you next time! Bye!!」
▲▽▲▽▲▽


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第57話:この力は、みんなの為に

いやーお待たせだよ。球詠特別編なんて書くからだね。後悔はしてないけど。





“たとえ「守りたいものが指先から零れ落ちる」なんて言われても、私は…大切なものを守りたかったんです。ランプの為にも、素敵なクリエメイトの皆さんのためにも。そして、ソラ様を救い出すためにランプと一緒に戦えているんです。”
  …召喚士きらら


 ジンジャーの屋敷にある筈の、見つからないクリエケージ。

 カレンさんが隠し通路を見つけていなかったら、見つけるのにもっと時間がかかっていたかもしれない。そして、見つけたクリエケージを破壊しようとした瞬間………

 

 

「あ……………」

「きらら、危ない!」

 

 ジンジャーの襲来。綾さんが気づかなかったら、不意打ちを受けていたかもしれない。あの腕力で不意打ちは絶対に受けちゃいけない。

 

「―――いい反応するじゃあねえか。」

 

「ジンジャー! どうしてここに!?」

 

「セレウスを捕まえたからな。心配する必要がなくなったのさ。それに………スイッチが押されれば、当然戻ってくるさ。準備も万全でな!」

 

 スイッチ。それは、クリエケージのある部屋に来る前、忍さんと穂乃花さんのいた部屋に備え付けられていた赤いスイッチ。

 忍さんがうっかり押してしまった結果、クロモンに一時的に取り囲まれたあのスイッチか。押すのを止めることができていればと後悔するももう遅い。

 

「「「「「くー! くー! くー!」」」」」

 

「クロモンに囲まれちゃってる……!」

 

「これはピンチデスね……」

 

「全員揃ってるな?

 召喚士、今度は守りきれるかな?」

 

「きらら! 気をつけ―――」

 

「遅いッ!!!」

 

「きゃあっ!?」

 

 クリエメイトのみんなを再び囲むクロモン達。ブレるジンジャーの影。マッチが何かを言い切る前に、私の体にとんでもない質量が襲いかかった。それを受け止めて、全身が揺らいで、飛びのくジンジャーを見てそれがジンジャーの一撃だとようやく分かった。

 

「キララ!?」

 

「人の心配が出来るやつは好きだな。まずはアリスから奪わせてもらうッ!」

 

「あわわわわわわ………。」

 

「「くー! くー!」」

 

「アリス!?」

 

 私がよろけている間に、アリスさんがクロモンに囲まれてクリエケージの方へ連れて行ってしまった。

 

「皆様、注意してください!」

 

「あわわわわわわわ………」

 

「カレンちゃん!」

 

 続けて、カレンさんまで。穂乃花さんが悲痛な声をあげた。

 

「……これで二人目。

 ランプ、注意を促すだけじゃあ意味がねぇぜ。相手が何を狙っているのかを考えねぇとな!」

 

 私から目を離した一瞬。

 そこで、私は自身に加速魔法をかける。

 『イモルト・ドーロ』でローリエさんと共闘した時にビブリオを翻弄したあの力を。

 それをもってジンジャーに攻撃をしかけるも、やすやすと対応し、持っていた釘バットで防ぐ。

 

 

「召喚士のほうから仕掛けてくるとは、驚いたな。」

 

「ようやく…皆さんが一緒にいられるようになったんです。

 それを引き離すなんて、絶対に許せませんっ!」

 

 街を霧が包んでいた時は、いつセレウスが襲ってくるか分からない恐怖があった。さっきジンジャーがやって来た時は「捕まえた」って言ってたけれど、それまでは違った。

 アリサさんの協力やランプの咄嗟の判断がなかったら、クリエメイトの誰かが大ケガを負っていたのかもしれないのに……

 

「いいや、一緒にいられるさ。

 ……クリエケージの中でなッ!!」

 

 ジンジャーが私を押し返す。

 最初に戦った時から思っていたことだけど……やっぱり、この人は強い。純粋な力はさることながら、動きもまるで違う。

 力の強さだけは、ビブリオと同じか、それよりもちょっと強いくらい。大した違いはない。

 でも、ビブリオはその力にモノを言わせると言わんばかりに力の籠もりやすい武器で大暴れしていたのに対して、ジンジャーは動きの一つ一つに無駄がない。

 牽制も本命も、その時その時に最も効果的な……『狙われたら嫌な位置』を狙ってくる。また、攻撃の受け止め方も受け流し方も非常にうまい。ランプから聖典の話を聞く時に少し話題に出ていた、『武道』というものの強さがこういうものなのかなと思った。

 

 状況を打開するために「コール」を使いたいけど、そんなスキを見せたら確実にジンジャーが動くだろう。

 

「オラオラオラオラオラッ!!」

 

「くっ………! うっ!?」

 

 釘バットで押し返した勢いのまま、ジンジャーは蹴りの連撃を放つ。持続している加速魔法で攻撃の回避を試みてみる。ジンジャーがやっていた事の見様見真似だ。でも、最後の一発をかわしきれず、せめてと防御態勢を取って受け止める。勢いを殺しきれず、吹っ飛ばされてしまった。

 

「ハッハッハ! 私の真似のつもりか?

 線はいいが、粗削りもいいトコだぜ! 鍛えてやろうか? クリエメイトを全員回収した後でいいならな!!」

 

「まだ……まだ!!」

 

 しかし、そのままじゃあ終われない。

 加速魔法を再びかけて、ジンジャーにつっこむ。あらゆる魔力の攻撃を同時に放つ。

 

「効かねぇな!!」

 

 もちろん、簡単に勝てるとは思っていない。

 魔力の攻撃は撹乱、本命は杖の一撃……

 

 

「はああああっ!」

 

「おおおおおっ!」

 

 

 ……に隠した、魔力を纏ったパンチ!

 

「ぬっ!!?」

 

 杖の攻撃という囮に気を取られたジンジャーは、私の本命の一撃をモロに受けた。

 攻撃の勢いで後ろに吹っ飛び、着地する。

 確かに当てたと思ったのに……なぜか、手応えがあまりなかった―――!!

 

 

「…なかなかやるじゃねぇか。」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「だが、もう息があがってるみてーだな? そろそろ限界か?」

 

 一瞬でも気を抜いたら負けてしまうかのような戦い。

 一息つく暇もないから息が上がってもおかしくない。

 防戦一方の私に、皆が心配そうにこちらを見ている。このままじゃあ、勝てない。

 

「ジンジャーさんは………

 この街を守っているんですよね。」

 

「ああ、そうだ。この力はすべて、街の幸せと平和を守るためのものだ。セレウスみたいな悪意のある奴から、な。

 そのために、私はお前を倒す。」

 

 ダメ元で話しかけてみたら、律儀に答えてくれたジンジャー。守るための力だというなら、強いのも納得だ。

 でも―――私だって、みんなを守ってきた。

 

 シュガーやセサミを中心とした、賢者4人からクリエメイトを守り抜いて見せた。

 砂漠では、ゆきさんや悠里さんを狙う黒髪の男盗賊を倒した。

 時には、クリエメイトの命を狙う悪徳商人を撃退するため、ローリエさんと手を組んだ事もあった。

 そして……さっきは、変幻自在な霧で私達を襲うセレウスを退けてみせた。

 

 守るために戦っているのは―――ジンジャーだけじゃあないッ!!!

 

「私の力も……ランプやクリエメイトの皆さんを――――――この世界を守るためのものなんです。

 今も戦うことは怖いです。でも……大切な人たちのために、負けられませんッ!!」

 

 

 全身に魔力を込める。「コール」の態勢だ。

 ジンジャーはそれに気づくと、戦う姿勢にすぐさま戻り、様子を伺い始める。

 裏をかけ! 隙を作り出せ! 私とジンジャーの戦いは、そこにかかっている。このまま戦い続けても私の体力がなくなってしまうのは目に見えている。ならば、次の攻撃で決める気迫で行くんだ……召喚士・きらら!!

 

 「コール」を使う魔力が集まってくる。これをこのまま解き放てば「コール」になる。でも、これをこのまま使って……私を強化する!!

 

 

「―――っ!?」

 

 

 てっきり切り札(コール)を使ってくると思っていたであろうジンジャーの表情に焦りが生まれる。ここで、彼女の読みをついに外したのだ。

 ジンジャーの意表を突いた私の一撃は、圧倒的なパワーを誇っていてまるで叶わなかったジンジャーと互角に鍔迫り合い、弾くまでに至った。

 

「くっ……!?」

 

 私の新たな強化魔法。

 それは、ビブリオ戦で使ったそれとは違って、パワーの強化に重きを置いた強化だ。今までの加速をカルダモンをイメージしたというならば、今回の魔法はそれこそジンジャーを意識したもの。

 正面からマトモに戦っても勝負にならないくらいの強力なパワーは、私の強化魔法の構築に大きく役に立った。その結果が、私がギリギリで競り勝った今の状況だ。

 

 盤面がひっくり返った事で、戦いを見ていた全員が息を呑んだ。

 

 

「ジンジャーに隙ができた! きらら! 今のうちに攻めるんだ!」

 

 

 マッチが大声で私に言う。でも、私ももう限界だ。これ以上ジンジャーと戦っていたら、流石に持たない。

 それに……私の狙いは、()()()()()()!!

 

 

「これで、おしまいです!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り下ろした杖から放った魔法弾は――――――ジンジャーが守っていたクリエケージに寸分違わず命中し、粉々に砕け散った。

 ジンジャーが砕けたクリエケージに呆気に取られるも、すぐにこっちに向き直った。戦闘態勢はもう解いていた。

 

 

「……狙いは、最初からクリエケージ……オーダーの“楔”だった訳だ。」

 

「…私の実力では、ジンジャーさんに敵いません。

 力を振り絞って、ようやく隙を作れるくらいです。でも…………これで、忍さんたちを縛るものはなくなりました。」

 

「あぁ……その通りだ。私の失策だな。目的を見失わず、己の意志を貫き通した―――きらら、お前の選択が正解だ。

 おい! アリスとカレンを放してやれ!」

 

「ジンジャー…………」

 

 

 ジンジャーのひと声で、クロモン達がアリスさんとカレンさんから離れていく。というか、お二人と他の皆さんの間の道を作っている!?

 

「さて、私もクリエメイトを見送る準備をしないとな。」

 

「えっ…?」

 

「なんだ? クリエケージが破壊されたってのにクリエメイトを集める意味もないだろ? …それとも、まだ私と戦いたいのか?」

 

「あ、いえ! そういう事ではなく!!」

 

「ま、これ以上戦う意味なんてねーって事さ。

 あと……二人とも、悪かったな。」

 

 クリエケージが破壊されて……戦いが終わった途端、ジンジャーが忍さんと穂乃花さんに謝罪までする。さっきのアリスさんとカレンさんの解放といい、切り替えが早いというか、気持ちがハッキリしている人だなぁ。

 突然謝られたお二人も、戸惑いながらおもてなしてくれたお礼を言っているようだ。

 

 ともかくこれで、オーダーの影響もなくなるだろう。街の人達も重度の(って言うとちょっとおかしいかもしれないけど……)金髪好きじゃなくなるね、と言うと何故か残念そうに落ち込む忍さんと穂乃花さん。

 

「残念です〜〜。

 皆さんと金髪について三日三晩語り明かしたかったというのに…」

 

「……長くない?」

 

「まったくだな。是非私も参加した……はっ!!」

 

「ん?」

「おや?」

 

「な……、なんだその目は!」

 

 金髪について三日三晩語り明かしたいと驚くべき事を言う忍さんに綾さんがツッコんだかと思えば、ジンジャーさんから耳を疑うような言葉が………最初の時のオーダーの影響が抜けきってない、って事で良いのかな…?

 

「皆まで語らなくて良いのです。」

「金髪好きは皆兄弟……ですから」

 

「おいやめろ!」

 

「ずいぶん仲良くなったんだね。エトワリアでも友達が出来るなんて、さすがシノだよ!」

 

「友達というより脅迫に近いデスけどね。」

 

 

 ―――そうこうしているうちに、アリスさん達の体が光り始める。今まで何度も目にしてきた、クリエメイトの皆さんが元の世界に帰る合図だ。

 

「アリスもカレンも、まるで妖精―――いえ、天使ですね!」

 

「シノだって、後光が指してるみたいだよー!」

 

「それにしても、この楽しかった記憶が残らないのは……とても寂しいですね。」

 

「シノ…………」

 

「大丈夫です。皆さんが忘れてしまっても、私が覚えています!」

 

 忍さんやアリスさんを始め、この記憶が残らない事を残念がっているが、私が今宣言した通り、私達が覚えていればいい。だって……後で『コール』した時に、教えられる事ができるから。

 二度と来れない訳でも、二度と会えない訳でもない。私が『コール』を使う限り、必ずまた会えるんだ……!!

 

 その言葉に、クリエメイトの皆さんが涙ぐんで……あれ、忍さん?

 

 

「あの……忍さん、今になってどちらに?」

「ちょっと忘れ物をしてしまって……綾ちゃん、みなさん、待っててくれますか?」

「このタイミングで? それで…何を忘れたの?」

「金髪メイドを少々―――」

「ダメに決まってるじゃない!?」

「そんな! こんなにいっぱいいるのに、一人も持って帰れないなんて!!」

「いやいや、それ完全に誘拐だからな!?」

「まったくだ、忍。屋敷の主の前で堂々とメイドを誘拐しようとすんじゃねえ」

「シノ………」

「わああぁーーっ! アリスの目が虚ろにーーッ!?」

 

 

 あ、あはは…お別れの時なのに、皆さんってば……

 

 

「もー、ほらシノ! 帰るよ!

 皆さん、本当にありがとうございました!」

 

 アリスさんが、私達に頭を下げる。

 

「うう……ジンジャーさんも次に合う時は金髪同盟にぜひ!」

「ローリエさんにもよろしく言っておいてください!」

 

 忍さんが別れを惜しみ、穂乃花さんがローリエさんへの言伝を頼む。

 

「キララもランプもマッチもまた、会いマショウ!」

 

 カレンさんが、手を振って―――

 

 

 ―――そして、皆さんが、光に包まれて……元の世界に戻っていった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「……行っちまったか。

 最後の最後まで、飽きさせない連中だった。」

 

「はい……皆さん、楽しい人達ばかりでした。」

 

「…ランプはこれまでも、こんな別れをずっと経験してきたのか。それは――――強くなるな。」

 

「ジンジャー………」

 

 天に登る光を惜しげに眺めるランプとジンジャー。ジンジャーと仲が良かったというランプの言葉は正しかったようで、ジンジャーの言葉はしんみりとした感情と親しさを感じた。

 

「ま、湿っぽいのはこの辺にしておくか。

 それにしても……まったく、きららには負けたよ。」

 

 それも束の間、文字通り気持ちを切り替えて私に話しかけてきた。

 

「いえ、そんな! ジンジャーさんの方が強くて、私にはクリエケージを壊すことで精一杯でした……」

 

「だが、正しい判断だった。

 それを冷静に選べたのも―――きらら、お前の力だ。

 私は街を守る為に戦った。お前はなんの為に戦ったんだ?」

 

 

 ……何の為、か。

 それは、最初からずっと変わらない。

 たとえ「守りたいものが指先から零れ落ちる」なんて言われても。

 

 

「私は…大切なものを守りたかったんです。ランプの為にも、素敵なクリエメイトの皆さんのためにも。そして、ソラ様を救い出すためにランプと一緒に戦えているんです。」

 

「そうか…大切なものを守りたい気持ちは同じか……

 ならば良し! やっぱり私の完敗だ!!」

 

「そんな事を胸を張って言われてもな……」

 

「私が動き出せたのは、ランプのお陰ですから……」

 

「そっか…二人は似たもの同士か。

 ランプはいい相棒を持ったな!」

 

 私の答えを聞くと、やはり快活に笑う。話してみて分かった。ジンジャーさんは……本当は気持ちの良くて、素敵な良い人だ。

 だからか……気になってしまう事ができた。

 

 

「ジンジャーさん……2つほど、良いですか?」

 

「お、良いぞ! 何だ?」

 

「どうしてジンジャーさんは、アルシーヴに従っているんですか?」

 

「ん? そんなの私が八賢者だからに決まってんだろ。

 アルシーヴの命には逆らうことはできない。だが………まぁ、アルシーヴの言う事が絶対じゃあないと思っている事は確かだ。」

 

 

 ジンジャーさんはそう答える。

 やっぱり、納得していなくても従うしかない、と思っている。従者としては当然だ。

 だとすると、ローリエさんが『イモルト・ドーロ』で行った情報提供は……ある意味異常とも言える。下手したら、裏切りに思われるからだ。でも一体、どうしてそんな事をしたんだろう? 目的は聞いたけど、釈然としない。まるで、「嘘はついてないけど本当の事も全部言ってない」かのような―――

 

 

「……おい、きらら。2つ目はなんだよ?」

 

「え? あ!ごめんなさい!

 えーとですね……ローリエさんに負けた時に言われたことなんですけど―――」

 

 考えを中断して、ローリエさんの「守りたいものが指先から零れ落ちる」発言について、ジンジャーさんに言ってみる。それが、妙な説得力を持っていることも含めて全部だ。

 

「―――という訳なんですけれど、ローリエさんに何かあったのかなって思って……なにか心当たりはありますか?」

 

「……ねぇな! 悪いが、他を当たってくれ!」

 

「そ…そうですか…」

 

「ただ―――」

 

「?」

 

「アイツは賢者になる前、学生の頃は魔法工学と聖典学以外はからっきしだったと聞いたことがある。

 神殿に来た頃から魔法工学の天才だったけど、その前はそうじゃあなかったかもしれねぇ。」

 

「!!」

 

 ローリエさんについてのジンジャーさんの発言に、ランプが食いつく。聖典学以外のあらゆる学問がからっきし……それってまるで―――

 

「ローリエは昔、きっと何も出来なかったんじゃあねえか? その頃に……きっと嫌なことでもあったんだろう。」

 

「な、何故でしょう…なんか貶されてる気がする……」

 

「まぁ、あながち間違ってないかもね。」

 

「マッチ!!!」

 

「ワッハッハ!悪い悪い、ランプを貶す意図はなかったぜ? ただ、今話した事は、ただの推測でしかないからな。詳しくは本人を問いただすことだ! まぁ、アイツは秘密主義者なトコあるから、簡単には教えちゃくれねーと思うがな!」

 

 でも、ジンジャーさんの考えは、全くの的外れって訳でもなさそう。もし本当の事だったとしたら、私達の理解を越えた発明をするのにどれだけ努力した事だろう。きっと、嫌な事があった時に何も出来なかった無力な自分を誰よりも恨んだはずなのに。

 

 

「……アルシーヴは『ローリエがお前たちを倒した』と言っていた。

 ま、私はランプは来ると思っていたがな。もし、私を越えていくというなら……それに賭けてみようとも。」

 

「ジンジャー………」

 

 聞きたいことが終わると、ジンジャーさんからそんなことを聞く。八賢者の中にも、こういう人がいたんだね。

 

 

「よし、ランプ。せっかく私の街に来て神殿に向かうときたんだ。色々と持っていけ!」

「あ、ありがとうございま―――」

「食料がこれで、旅に役立つモンは大方そっちに入ってる。それでこっちは―――」

「ちょ、ちょっと量が多いかな? もう持っていくのも大変そうなんだけど!」

「この程度で遠慮はすんな! もっと持っていけ!」

「そ、そういえばおつかいの時もお土産をたくさん持たせてくれたっけ……」

「わけの分からない荷物がどんどん増えていってるんだけど!? よ、よくこんなに準備ができたな。」

「それで全部と誰が言った? ほら、もっともっと持っていけ!!」

「あ、あはは……ジンジャーさん、その、いろいろ、ありがとうございました……?」

 

 

 ―――街から言ノ葉の樹へ行く際に持ちきれないほどの大荷物を持たされるとは思ってもみなかったけど…

 

 




キャラクター紹介&解説

きらら
 見事、ジンジャーの守るクリエケージを破壊し勝利条件を達した召喚士。戦いの中で圧倒的に強敵なジンジャーを相手に戦力差を分析し、冷静な戦略を立てつつ、ジンジャーのパワーからも新技のヒントを盗みとった。これが後の『きららMAX』である(ツーアウト)。

ジンジャー
 どこかの慇懃無礼クソ野郎とは違って、素直に敗北を認めた八賢者。ローリエの発言についてきららから相談されると、「心当たりはない」と前置きしつつ、「こうだったんじゃあないか」と推測を立てていた。

大宮忍&アリス・カータレット&猪熊陽子&小路綾&九条カレン&松原穂乃花
 無事、誰一人欠けることなく元の世界に帰還したクリエメイト。今回築いた絆をもとに、「コール」のクリエメイトとしてきらら達と肩を並べて戦う日が来るだろうか。



△▼△▼△▼
ローリエ「俺達と敵対し、クリエメイトの命すら狙ってきていた『ドリアーテ』。ソイツの住民票が、ようやく見つかったぜ!!」
アリサ「何の偶然か分かりませんが、利用しない手はないですね」
ローリエ「コイツから分かる、驚くべき真実とは一体……?」
アリサ「そして、それを理解した私達は、新たな戦いへと赴きます……!!」

次回『ドリアーテ』
アリサ「しーゆーねくすとたいむ? なにこれ?」
▲▽▲▽▲▽


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第58話:ドリアーテ

“絶対に私を頼れ! 必ず力になってやる!
 ……一人で抱え込んだら、許さねぇからな”
  …ジンジャー・ヴェーラ


 俺達が資料室にて拾った『ドリアーテ』という住民票。本来ならば、捨てられるはずだったものだ。

 だってそうだろう。死んだと思われる人物の住民票ほど、必要ないものはない。死亡扱いされたのならば、そういった人間の住民票などすぐさま処分されて当然だ。

 

 だが今、なんの因果か……その住民票が、手の中にある。

 

「年代はざっと100年前。普通なら、老衰あたりで死んでて、処分されてもおかしくない」

 

「では、どうしてこんなものがあるのでしょうか?」

 

「今はそれより、コレに書いてある事の方が重要だ」

 

 

 おおかた、かつての賢者兼市長が紛失したとかそこらだろう。それで100年近くもつのもなかなかすごいけどな。

 

 

「名前は―――ドリアーテ。

 ここは、偽名でもなんでもないみたいだな。苗字が…『……グ……テ』か? ほとんど掠れてて読めないな…」

 

「………!」

 

「アリサ、どうした?」

 

「い、いえ……」

 

「誤魔化さないで良い。今は少しでも情報が欲しい」

 

「そうではありません。『私の姓と同じかと思ったけど、ただの見間違いだった』と思っただけですので」

 

「そうか」

 

 

 アリサが引っかかったことに納得しながら住民票を読み進めていく。

 アリサの苗字と同じ……ねぇ。まぁ確かに掠れてない部分からそう読めなくもないがほぼ読めないこの状況でそう断じるのは尚早すぎるか。

 

 ここに記載されているのを見る限り、ドリアーテは元は普通の人間だったようだ。当たり前の事だが、ここ出身だと分かるだけでかなりの御の字だろう。

 しかも―――

 

 

「……! この人昔、神殿に所属していたな………」

 

「!? し、神殿に!? どうして……」

 

 ドリアーテは、どうやらかつて神殿の人間だったらしい。住民票に所属が載っていたのだ。神殿が管轄している以上、捏造の余地はない。肝心のドリアーテはこの時点では管轄されている側。そこは確実だ。

 そして、彼女が神殿に所属していた以降の書き込みはない。

 

「ドリアーテは、神殿に新人神官か女神候補生として入り………そしてそこから先の記述がない。コレの意味する所は………」

 

「……行方不明になった、って事ですか?」

 

「惜しい。『行方不明になったことにした』んだろう」

 

「それ、何が違うんです?」

 

「考えてもみろ。そもそも、『不燃の魂術』は禁忌に指定されているんだ。『オーダー』を使ったアルシーヴちゃんみたいな特例でもない限り、禁忌は『使ったら即アウト・重罪確定』のシロモノだ」

 

「えーと…つまり―――」

 

「ドリアーテは何らかの理由で『不燃の魂術』を行使。それが当時の女神か筆頭神官あたりにバレて神殿を追われたんだろう」

 

「!!!」

 

 

 もっとも、コレは数ある推理の一つに過ぎないけどな。なにせ住民票に顔写真が乗ってないから証明のしようがない。ただでさえ俺がインスタントカメラを生み出す前のカメラは壊滅的に低レベルだったんだ。100年前となっちゃあ、そもそもカメラがあったのか怪しくなってくる。

 

 それを話せば、アリサは難しそうな顔をして「ドリアーテが『不燃の魂術』を使っている事や第三勢力のトップである事を証明できるんでしょうか」と呟く。

 

「そこに関しては問題ない。サルモネラとビブリオが重大な証拠を残してくれた。更に必要ならば、サルモネラとセレウス(治療後裁判予定)からもなにか引き出そう。

 『不燃の魂術』の証明についても、あまり問題ではない」

 

「どうするんですか?」

 

「彼女達の前で、ドリアーテを殺す」

 

「ちょ!!?」

 

 耳にしたら、間違いなく正気を疑われる提案に動揺するアリサ。だがコレは頭がおかしくなった末の投げ槍ではないし、間違いなく有効打ではある。

 

「意識してなくても負った傷が炎と共に治る。たとえそれがどれだけ深くても。

 そんな特徴は『不燃の魂術』そのもの以外にはない。また、不死身になる魔法ということだから、死ぬことさえあり得ない。

 つまり―――致命傷が炎と共に再生する所を見せる事ができれば、何よりも雄弁にソイツの『不燃の魂術』を証明できる」

 

 

 ……とはいえ、この作戦に大きな欠点がある事も確かだ。

 そのうちの一つが『失敗が許されないこと・取り返しがつかないこと』―――これである。実際に攻撃してみた所、傷が治らずそのまま死んでしまいました、となった際『不燃の魂術を使っていると思った。だが予想が外れた』では済まされないのだ。当たり前だが殺人は重罪である。

 そんな事はアリサも分かっているのか、凄まじく複雑な苦い表情をしている。

 

 

「分かっている。この案は細すぎる綱渡りに等しい博打だ。情報を集めに集め、100%黒幕だって確信出来なきゃ恐ろしくて実行できない」

 

「……出来れば、博打以外の証明が出来れば良いんですけれど」

 

「最終的にはどれも博打になるよ。まぁ、博打の勝率を上げることは出来る。今俺達がやっているのもそうだしな」

 

 

 とりあえず、情報を整理するとしよう。

 

 まず、かつてドリアーテは、神殿に所属している神官か女神候補生だった。

 だが、何らかの理由で禁忌『不燃の魂術』を行使。老衰や死とは無縁の肉体を手に入れるが、その代償に神殿内での立場を無くし、追われる立場となる。

 そして、ドリアーテは逃走した…と思われる。少なくとも、己を捕まえて罰しようとしたであろう神殿の追手に対して神妙に降伏したなどという殊勝な真似はしていまい。この時期に死亡扱いされ、ドリアーテの住民票が不要になったはず。

 

 その後、100年にわたり潜伏。この時期にビブリオとセレウスを味方に加え、盗賊たちやサルモネラを雇ったに違いない。また、改造兵士計画を立てたり、ソウマ氏を脅してソラちゃんを呪わせる準備もしてきたのだろう。

 

 でだ。

 今のドリアーテがどこにいるか、だが…………おそらく『オーダー』の情報をある程度掴める立場に化けているのだろう。

 そうでなければ、サルモネラやセレウスに的確な指示を出せるものか。

 

 

 ま、こんなところか。

 細かいところがいまだ不明だが、アイツの辿ってきた過去は大体分かった。

 

「次は如何しますか?」

 

「ジンジャーに聞き込みだな。ビブリオの商会と……ついでにセレウスの素性について聞こう。

 その後は一旦転移で神殿へ直行だ」

 

 

 

 

 

「おーいジンジャー! 任務は終わったかい?」

「おう……失敗しちまったから、理由でも考えねーとな…あとローリエ、一発殴らせろ」

「何故ェ!!!!!?」

 

 ジンジャーに声をかけたと思ったら返事が右ストレートだった。かろうじて躱すも、俺じゃあなかったら即死だったぞ。

 

「あっぶねぇ!? なにすんだイキナリ!!

 『ローリエが死んだ!』『この人でなし!』をリアルで実行する気かこらァ!!」

 

「うちのメイド長が世話になったお返しって言ったはずだよな?」

 

「おいィ!? 俺はちょっとリリアンちゃんと同行しただけだぞ!!? その過程でちょっとリリアンちゃんの名前を街のおばちゃん達に教えたくらいしか……」

 

「おもっきし有罪じゃねーかこの野郎!

 大体お前は私に対しても悪ふざけしまくりやがって!!」

 

「……?」

 

「自覚ナシかコラァ!!」

 

「わーっ!! 違う違う!!!」

 

 拳の雨から逃れながら弁明する。ジンジャーにやった悪ふざけって言われても、心当たりが多すぎてどれだか特定出来ないだけなんだ! それだけじゃない。俺の自覚ナシでジンジャーを不快にさせた可能性もいくらかある。まぁ、故意でやった方の確率がデカいけど……

 

「悪ふざけって言われても……

 ジンジャーに鰹節を預けたことか? ネズミの玩具を作ってネコ釣りをやったことか? 修行後の料理メニューを鶏ササミとマグロだけにしたこと? それともやっぱり、マタタビでうっかり発情させちまったことか?

 ………どれだ?」

 

「ハッハッハッハッハッ………敢えていうなら全部だ。その罪状に『ウチのメイド長を口説いた事』も加わるだけだ…!!」

 

「…………ローリエさん、あなたいい加減にジンジャーさんに謝った方が良いですよ?」

 

 アリサまでジンジャーの味方に回りおる。おのれ、男友達がもっと欲しい…! え、コリアンダー? あいつはカタブツだからこういう類の状況では頼りにならん事は分かっている。

 とりあえず、だ。

 

「そ…それよりもだ!

 一緒に探して欲しいモンがあるんだ!! 頼むから手伝ってくれないか!?」

 

「…? なにを探すんだよ」

 

「ビブリオの商会とセレウスの素性についてなんだがな―――」

 

 

 この時にジンジャーにはビブリオのオーダー事件とセレウスが潜んでいた部屋から出てきた物品について話しておく。さっきまで俺を死なない程度に面白くボコる雰囲気が、至極真面目なそれへと変化していくのに時間はかからなかった。

 

 

 場所を移動すること数分。

 俺達は、ジンジャーの仕事場であろう市長官邸の事務員達の仕事場に入った。現代社会のデスクがまとまったような、前世で見慣れた無味乾燥な所ではなく、もっとゴシックなデザインが施された、イギリス風のゴージャスな仕事場だ。せっせと働くのは、メガネにスーツ姿の表情が固まった人々ではなく、メイド服姿の金髪美人達であった。

 入れ食い状態かよ……最高だな。モブも可愛いとかエトワリア最高。最高すぎてサイコクラッシャー(という名のルパンダイブ)しそう。

 ―――と、思ったらジンジャーに手招きされ……椅子に縄でぐるぐる巻きに縛られた。「お前はそこで大人しくしてろ」との事……………何故だ。

 

 

「なぁ、ちょっといいか」

 

 俺を縛った後、ジンジャーが忙しなく動くメイドの一人(ひんぬー…もといスレンダーなロングヘアのキリッとした女性。勿論金髪だ)を捕まえて声をかける。一言二言会話を交わすと、そのメイドさんはリーダーだったのか他のメイドに指示を出して回る。すると指示されたメイドがビデオの早送りのような速度で動き………なにかの書類を指示を出した人の元へ手渡した。そして、それを受け取ったメイドリーダーさんがジンジャーに書類を手渡す。

 ………え、まさかもう終わったのか?

 

「ローリエ、アリサ! 頼まれていた書類の候補が見つかったぞ。コレだ」

 

「え、うそ!!? いくらなんでも早すぎませんか……!?」

 

「ローリエが邪魔さえしなければこんなモンだ」

 

 アリサが俺の心境を代弁すれば、ジンジャーは俺が邪魔すること前提とかいうストレートに失礼な事を言ってのける。俺が仕事の邪魔なんてする訳ないでしょーが。金髪メイドハーレムは互いの時間があった時にやるっつーの。

 

 

 ちなみに、ビブリオの商会とセレウスの素性について調べていく作業中においても、ジンジャーは俺を縛る縄は解いてくれなかった。

 

「なぁジンジャー、そろそろ解いてくれよ〜!

 誰かに持って貰わないと資料すら見れないって何の拷問よ。せめて片腕だけでも―――」

「駄目だ。自由になった手でウチのメイドにセクハラすんのが目に見えている。私の職場でそれはノーサンキューだ。本来なら目隠しもしたかったが…」

「目隠ししたら資料読むことすらできねーだろうがよ!!!」

「私が代読しても良いんですよ?」

「おいやめろアリサ。非効率的かつ非合理的だ。ジンジャーもその手があったかみたいな顔すんな」

 

 はー泣きそう。

 でもこの後滅茶苦茶資料を読み漁った。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ローリエに頼まれ、優秀なメイド事務たちに日々集めさせた様々な記録から、ビブリオの商会と今回の襲撃者・セレウスについての情報を集めさせた。

 

 ―――判明したのは、セレウスの経歴。

 こっちは大した情報はなかった。アルシーヴとローリエを嵌めるために違法行為を働き、神殿を追われ……以降、日雇い労働者みたいな生活をしていたが、ドリアーテとやらに魔法の才を見出された……みたいな感じだ。

 ちなみにローリエに魔法工学生だった頃にセレウスに会ったか聞いてみるが、「知らね。おおかたアルシーヴちゃんと一緒に殴り倒した連中の中の誰かだろ」との事。地味にセレウスが哀れに思えてきた。

 

 それより……ビブリオの商会が、アルシーヴに逮捕されるまで神殿に異常なほどの上納金を納めていた事が判明したことが衝撃的だった。ヒドいものには『衛兵に金を握らせてた』なんて証言書も出てくる。そしてその裏で……()()()()()()()()()()()()をしていた事も。

 

 許せねぇ……私が市長になる前の都市で、こんな事が横行していただと!?

 

 

「ドリアーテ……未だに姿は見えねぇが、許しちゃいけねぇ奴だってことは分かったよ。

 ローリエ、アリサ。私はしばらく、都市からは動けない。」

 

「え、ど、どうして―――あ、そうか。

 ジンジャーさんは市長なんですよね……」

 

「そういうこった。街の混乱を元通りにしなきゃなんねぇし、ビブリオの商会がしでかしやがった違法を取り締まれるよう法改正も必要だからな。

 だが、助けが必要になったら、いつでも呼んでくれ。必ずや駆けつけよう」

 

「ありがとう、ジンジャー。

 しかし……赤子攫いか。嫌な予感がするぜ」

 

「あぁ。その子の未来が悲惨になるのはモチロン、攫われた子の家族も悲しんでることだろう。如何なる理由があれども、厳しく罰せられて然るべきだ」

 

 ローリエは一拍おいて「その通りだな」と答える。地味に間があったのは気になるが、嘘はついている感じじゃあねぇな。まぁ問いただすまでもねぇだろ。

 あ、そうだ。

 

「ローリエ、ちょっといいか?」

 

「なに〜?」

 

「お前、神殿に入学する前に―――嫌な事でもあったのか?」

 

 

 ピシリ、とローリエが固まる。

 そんな擬音が似合うくらいに、ローリエが動揺したのだ。

 私としては、特に理由なく尋ねたつもりだったんだが……こりゃ地雷だったか?

 

 

「あー………すまん。脈絡なかったし、言いたくねぇんなら、別に言わなくても―――」

「……うん。あったよ、嫌な事」

 

 意外な事に、ローリエは答えてくれた。

 しかも、今まで見たことがないくらいに真面目で…かつ悲壮な雰囲気で。

 

「昔、二人の少女を守れなかった事があるんだ。

 俺はそれを、どうしても忘れることができない。」

 

 やがて、ぽつりぽつりと話し始めた。幼かったローリエの、悲しいくらいに『嫌な事』を。

 

「知ってるかい? アルシーヴちゃんのお腹には、まだ傷跡が残っているんだ。ソラちゃんは、未だに男とスムーズに会話ができないんだ。

 ―――2つとも、俺のせいだよ。俺が、弱かったからだ」

 

 聞いて後悔しなかった、と言ったら嘘になる。

 だがそれと同時に…私は、「どうして今まで私達に黙っていたんだ」という気持ちで一杯になった。

 そばで聞いていたアリサも同じ表情だ。頼ってくれなかった悲しさが顔に描いてある。

 

 ローリエは、多くは語らなかった。

 だが、何となく察してしまった。

 コイツは、アルシーヴを、ソラ様を、賢者のみんなを、クリエメイトを、大切に思っているんだ。そして――それが傷つく事がどれだけ絶望的で、悲しい事かも知っている。

 だから全力で守る。その為ならば手段は問わない―――文字通り。そういう奴なんだろう。

 セレウスが瀕死なのも、ローリエが全力で動いた結果なんだろう。

 

 ―――そうか。ローリエにもあったのか。こういうマトモな感情が。ちょいと過激なトコロもあるにはあるが……正直、女にモテたいから出世したのだと思ってたから、考えを改めねぇとな。

 

「―――ローリエ。ちょっと訂正したいことができた」

 

「?? なんだ?」

 

「絶対に私を頼れ! 必ず力になってやる!

 ……一人で抱え込んだら、許さねぇからな」

 

 

 ……ま、アイツの秘密主義が裏目に出ねぇことを祈るばかりだな。

 

 

「……ところで、なんでアルシーヴの腹の傷がまだ残ってることを知ってんだ?」

「実はここに来る前の夜にウッカリ脱衣所で出くわしちゃってだな………」

「…………………。」

「な、なんだその目は! わざと覗きにいったと思ってない!?」

「違うのか?」

「違うわ! …まぁ、ラッキーだったけど」

「はぁ………ローリエ、お前やっぱ殴るわ」

「結局ーーーーーーーー!!? ちょ、やめろジンジャー! やめるんDOOR!?!?

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ――――――エトワリアの某所・某時刻にて。

 

 ドリアーテは苛立っていた。

 ツヤのあるオレンジの長髪の生えた頭を片手で抱え、美しい顔だちをこれでもかと憤怒に歪め、歯を食いしばる。その怒りの矛先は、己の計画の邪魔をし続ける二人の人物である。

 

(おのれ……またしても、この私の邪魔をするか……!!

 召喚士きらら……そして賢者ローリエ……!!)

 

 まぁ当然ではある。ビブリオだけでなくセレウスという部下を失ってしまったのだ。それによって……己の目的を邪魔されているとハッキリ自覚しているのだから。その中心人物に怒りが向くのは不自然なことではない。

 

 

(許せぬ………たかが10年20年ぽっちしか生きていないガキ共の分際で……)

 

 気に食わない。頭に来て仕方がない。

 とある事情で女神ソラを呪い、聖典の力を封じ込めて……そして予想通り、現筆頭神官アルシーヴがオーダーを行う事を知り、チャンスととらえた。

 

 ―――これに乗じてクリエメイトや賢者を殺害すれば、エトワリアを滅ぼせる!!

 

 だが蓋を開けてみれば、今まで大失敗の連続だった。

 

 唆した盗賊団は、八賢者ローリエに一網打尽にされ。

 砂漠の盗賊サルモネラに依頼した時は、召喚士たちにサルモネラが返り討ち、そののち神殿に捕われ心を壊され。

 挙げ句の果てにはイモルト・ドーロでビブリオを、言ノ葉の都市でセレウスまでもが始末された。

 成果らしい成果は、ほとんど挙げられていない。強いて上げるならば女神の呪殺教唆と盗賊団の頭&ソラ襲撃犯のソウマを口封じすることに成功した程度。

 

 

 確かにビブリオは金にがめつく、セレウスは我が強かった。

 欠点こそあったものの、二人は二人なりに彼女への忠義を持った優秀な駒だった。それを潰されるという事は、彼女の戦力が落ちることと同義。

 

 結果、召喚士もクリエメイトも賢者も誰一人殺せていない。なんだこれは。なんだこのザマは。

 

(なにより……そんなガキ共に好き勝手されるほど軟弱な奴を部下にしていたのか、私は……!!!)

 

 なんて―――なんて使えない駒たちなのか!!!

 いくら忠義があろうと関係ない! 結果の出せない者達に価値などない!

 

 

 

「仕方あるまい………()()()の出番、といったところか。

 忠誠心しかなかった無能どもよりはいくらかマシだろう…!」

 

 だがしかし、怒りに奮えながらも、ドリアーテは次の手を打つ準備に入っていた。

 彼女の座っている席から、正面を見据える。そこには、一人の男がいた。

 

 

 赤黒い金属と深緑の毛皮が合わさって出来たようなバンデッドメイルを着込み、背には長槍を背負っている。己の身長の半分以上もある長いカイトシールドに若干寄りかかって、欠伸(あくび)をした。

 そして男の顔つきも色々とワケありだ。まず所々のシワからしてそれなりに年を食っている。現代的に言うとチョイ枯れというヤツだ。若かりし頃は豊かだったのだろう茶髪も、少し寂しいことになっている。何より―――額のど真ん中、斜めに刻まれた直線状の刃物による外傷跡(ケロイド)が目につく。歴戦の証というものだろう。

 

 

 そんなイイ年をしたオッサンがだらしなく欠伸を繰り返すのを見て、ドリアーテは口角を下弦の三日月のごとくつり上げた。

 

 

此度(こたび)は頼みますよ、ナット――――――()()()()()……或いは()()()()()と呼ばれた男よ。私の依頼を必ずやこなしてほしい」

 

「どの口が言ってんだか………」

 

 対するナットと呼ばれたオッサンは、ドリアーテに対して嫌悪感を顕わにする。ごくごく小さな舌打ちをし、並の小動物なら容易に射殺さんばかりの威圧で彼女を睨む。

 だが、暫く彼女を睨み続けて………余裕の表情が崩れないと分かると、やがて諦めたように溜息をつく。

 

 

「…………………………しゃーねぇな、わかったよ。オッサンは()()をこなす。お前さんは()()を渡す。そこはしっかり守ってくれよ?」

 

「あぁ。必ずな」

 

「頼むぜ…? 傭兵と依頼人を繋ぐ唯一の信頼の証だからな」

 

 

 ナットは彼女の返事にそう返し、気だるげにさっさとドリアーテの元を後にする。眠気に負けそうなだらしない目をこすると……

 

 

「……やるしかねぇか。

 俺も堕ちたモンだ。仕方ねぇとはいえ、()()()()()()()を引き受けちまうなんてよ」

 

 

 覚悟の決まった、鋭い目に切り替える。止まらぬ歩みの行く先は、言ノ葉の都市……その中央に(そび)え立つ、天をも貫かんとする大樹だ。彼の依頼の場所は―――その大樹の内部に形成された、自然の塔。その内部だ。

 ……もしこの場に鏡があったとしたら、その表情が戦い続けてきた今までより険しい表情になっている事に本人は気づけただろう。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ&アリサ
 ドリアーテの謎を紐解く主人公&助手ポジガール。金髪メイド達に見惚れ、メイド長の名前を街のオバチャン達に教えて羞恥プレイを敢行し、アルシーヴの風呂上がり(直後)姿を脳裏に焼き付けつつも、黒幕を追うことをやめない。ちなみに、アリサはローリエの問題行動の数々に呆れ、ジンジャーの鉄拳制裁を求めていた。

ろーりえ「実はメイド長ちゃんの名前は―――」
おばちゃん軍団「あらあ!リリアンちゃんって言うの!? どうして今まで黙ってたのさ!」「そーよ!可愛いのに!勿体ないわよリリアンちゃん!」「素敵な名前だわリリアンちゃん!」
ろーりえ「カワイイ!」
オバチャン軍団「「「カワイイ!」」」
めいどちょー「や……やめてください…/////」
ろーりえ(ここまですっごいにやけるのを堪えながら照れるメイド長初めて見た)

ジンジャー
 ドリアーテの部下達がしでかした所業に怒りを募らせる八賢者兼市長。街の平穏を一刻でも早く取り戻すために暫くは都市を離れられないが、ローリエの救援には必ず答えることを約束する。
 しかし、ソラの封印や第三勢力の黒幕の正体(予想)についてはまだ知らないため、本当に街の政策を最優先するようだ。

ドリアーテ
 今回で彼女の大筋の過去が明らかになった。100年前は神殿で指導を受ける立場だったが、禁忌を犯すことで永遠を手に入れ、神殿を追われた。

ナット
 ドリアーテに雇われた傭兵。『大地の神兵』や『不敗の傭兵』と呼ばれていたようだ。依頼を受ける裏には何かがあるみたいで、彼自身は『依頼』の内容を知ってて受けたようだが……?





「ローリエが死んだ!」「この人でなし!」
 元ネタはFateシリーズの「ランサーが死んだ!」「この人でなし!」という、ある意味一種のお約束。リアルでもアニメでもゲームでもランサーの幸運値はEと低く、このお約束が生まれる一員となっている。その為、「Staynight」でも「Apocrypha」でも「Zero」でも憂き目に遭っており、「FGO」でも遂に「ランサーが死んだ!」事態が起こってしまったようだ。

サイコクラッシャー
 格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズの登場人物『ベガ』が使う、全身にサイコパワーを纏い、相手に突っ込む必殺技。亜種には更に強力なサイコパワーを纏った「メガ・サイコクラッシャー」、ベガワープで姿を消した直後に画面全体を薙ぎ払う「ファイナルサイコクラッシャー」「アルティメットサイコクラッシャー」などの上位版も登場した。CV.若○氏で行うと威力が倍増する。




△▼△▼△▼
椎奈「あ…ありのまま起こったことを話します……『いつも通りプログラミングをしてたら森の中で猫に囲まれてた』……な、なにを」
ローリエ「お、どうした椎奈レフ」
椎奈「誰が椎奈レフですか。どうすれば良いんですこんな状況」
ローリエ「俺も聞きたいよ。『次章に続くと思ったら初っ端のネタがシイナレフだった』とか」
椎奈「……………忘れてください…」

次回『死んだ魚の目・情けないオッサン・しょーもない変態部』
椎奈「次回もお楽しみに。」
▲▽▲▽▲▽


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エピソード8:進め!デバッグ探検隊〜プログラマーを使い潰す奴は長生きしない編〜
第59話:死んだ魚の目・情けないオッサン・しょーもない変態部


“不可能を可能に………聖典を現実のものとするその力、どうして貴方様以外の者がなし得ましょうか…!”
 …フェンネル・ウィンキョウ




2020/10/25:本文の誤字を修正しました。


 

「……………。」

「……………。」

 

「……ドーモ、ハジメマシテ。ローリエデス」

「えっ…あっ……ど、どうもローリエ…さん? む、村上(むらかみ)椎奈(しいな)です」

 

 

 目の前にいる、西洋のスマートな鎧を着込み、死にかけの魚のような目をした儚げな美少女にアイサツする。アイサツは大事。古事記にもそう書いてある。

 だというのに彼女はオドオドするだけである。

 まぁ、彼女は初対面の人と簡単に打ち解けられるタイプの人間じゃあないし、無理もない。アイサツは返してくれたからスゴイ・シツレイではない。寛大にいこう。

 

 

 さて、説明が遅れたね。

 俺、ローリエ・ベルベット。現在―――言ノ葉の樹の中の自然の塔の中。クリエメイト・村上椎奈と二人っきりである。

 

 ……どうしてこうなったのか、少し遡りながら説明するとしようか。

 ジンジャーの市長官邸に訪れてビブリオ商会とセレウスの調査が終わった後。屋敷を後にした俺達は、まずリリアンちゃんからセレウスの物品を受け取り確認。そのなかに良い物があったので拝借した。

 その後アリサの転移魔法で神殿に戻ろうとした。しかし………魔法を行使し、いざ転移をしようと思ったその瞬間。

 

『こ…これはっ!?』

 

『一体何が―――』

 

 転移最中に変な音が出始めた。キィーーーンとした、耳に痛い異音だ。それと同時に、転移が発動し――――――気がつけば大樹の中に転移されていた。

 

 そして、アリサを探して大樹の中の森を彷徨い歩いていたらクリエメイトの椎奈ちゃんと会った。これがここまでのいきさつである。

 

 

 ここまで起こって、現在の状況を理解できない俺ではない。

 またオーダーが使われたのだ。ソラちゃんを救う手立てが整いつつある事を知っている身とすれば「オーダーをやめろ」とは言えないが……アルシーヴちゃん。あまり無理はしないで欲しいものだ。

 

 都市を抜け、神殿へ行くために言ノ葉の樹を進むきららちゃん達に襲いかかるのは、『先に進めなくなる』という、ゲームのバグのような現象。そこに現れたのは、聖典(漫画)「ステラのまほう」に登場するSNS部の面々+αだ。彼女達はここで、辺境から帰ってきたというフェンネルと出会う。これが6章のあらすじだ。

 もし…この『先に進めなくなる』バグが神殿へ進む人すべてに影響しているのであるならば…………神殿へ転移しようとしたアリサに同行した俺がこんな所に飛ばされたのに納得がいく。

 だとしたら、アリサもこの大樹の迷宮のどこかにいることになる。少しマズいな。早く見つけなければ、安心できない―――

 

 

 

「……あの、ローリエ、さん?」

 

「む? あぁ、ごめん。少し考え事をね。

 君のその様子を見るに、どうもここらの地理に明るくないだろう?」

 

「ええ…………まぁ、正直困っていまして…」

 

「ならちょっと話しておきたい。長くなるがいいか?」

 

 

 今は兎に角、椎奈ちゃんと先に進むことにしないとな。その為には、親密度が必要だろう?

 地図と聖典を取り出して、この世界についての説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか異世界に来てしまうなんて…………

 私達は、帰れるのでしょうか……?」

 

「クリエケージを壊せれば帰れると思うよ。少なくとも、こっちに永住する覚悟は必要ない」

 

 俺の事情説明に顔を青くして帰りの心配をする椎奈ちゃんに、さらりとジョーク混じりにそう答えるも、あまり顔色が良くならない。うーん、どうしたものか。

 

 

「他の人達も探さないとどうにもならないのは確かだ。

 ほら、これでも飲んでおくといい。気が楽になる」

 

「これは……水筒? しかも2つ??」

 

「それぞれ漆黒麦コーヒーとシャインドロップ…じゃあ分からないか。エトワリア特産のフルーツで出来た独特な味のフルーツジュースだ。個々に飲むなり()()()()()して、好きに飲んでくれ」

 

「………私達の事をよく知ってますね。」

 

「混ぜるのは椎奈ちゃんしかしないだろう?」

 

 そもそも、村上椎奈という少女は、メンタルがそんなに強くない。冷静沈着で真面目で、責任感が強い反面、躓いたり想定外の事態に陥るとドツボに嵌まるのだ。

 

 あやめちゃんでもいれば、もうちょいスムーズに会話ができて、SAN値が回復すると思ったんだけどね。

 ただまぁ、彼女の非日常を楽しむやり方を知っていたお陰で、出会い直後の気まずい空気は少し緩和されているが。

 

 こうして俺とコミュ障クリエメイトという奇妙なタッグは、景色の変わらない森を歩いていくのだった。

 

 ちなみに、漆黒麦コーヒーとシャインドロップを混ぜて飲んでみたものは、彼女的には普通だったらしい。なんでも、「それぞれの味は物珍しくて好みでしたが、混ぜたら予想通りコーヒーの味が勝ってしまった」とのこと。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ぐがぁ〜〜…………ごがぁ〜〜……………」

 

「「…………………」」

 

 ……歩いて暫く。

 俺たちは、とんでもない奴を見つけてしまった。

 

 荷物を枕に、いびきをかいて眠っているオッサンである。

 年は見た目から予測するに50代。髪はやや寂しげだが整えているからか情けなさや物悲しさは感じない。たまちゃんこと珠輝ちゃんが間違いなく食いつきそうなチョイ枯れである。額にある切り傷のケロイドも、歴戦の風格を醸し出すにはぴったりだ。

 ……だが、寝顔と寝姿ですべてが台無しである。まるで週末にテレビの前で酒を傍らに横になっている家庭の父親のようだ。

 

 俺と椎奈ちゃんは、そんな情けないオッサンを目の前に、ただ絶句するのみだ。「ちょっと!」と一言声をかけて起こすにも勇気がいる感じの空気になりつつある。

 

 

「あ、あの……彼は一体…?」

 

「俺も知らないよ。ちょっと起こしてみるから、椎奈ちゃんは下がってな」

 

 

 椎奈ちゃんを下がらせてオッサンに近づいてみる。

 こうして見ていると、やはりただの抜けたオッサンにしか見えない。そんなオッサンの、肩を強めに揺らした。

 

 

「ングッ………?

 ふあ〜〜〜〜〜ぁ……………………???」

 

 ものすごく伝染りそうな大きな欠伸をして、オッサンはバンデッドメイルを着た上半身を起こす。眠そうな目をこすると、再び欠伸をした。

 

「なんだよもぉ………オッサンが気持ちよく寝てんのによ………」

 

「今の言ノ葉の樹は異常事態が起きてんの。一般ピープルのお前は閉じ込められたんだぞ?」

 

「メンドくせぇ……誰かが解決してくれるだろ。

 オッサンは今ここを動きたくないの。メンドくさいし」

 

 

 やっぱりダメなオッサンじゃねぇか。前世でもかなりの数見てきた無責任な人間の極地だなコレ。

 なんでこんなヤツがここにいるし。

 

 

「つーか、オッサン何者だよ? 定職には就いてるんだろうな?」

 

「えぇ……これ俺が自己紹介しないといけない流れ?

 メンドくせぇなぁ、自己紹介。やんなきゃダメ?」

 

「自己紹介すら面倒くさがるとか筋金入りかよ」

 

 もう完全にまるでダメなオッサンじゃねぇか。略してマダオ。

 この樹の迷宮内で、俺・きららちゃん一行・クリエメイト・フェンネル以外の人間がいるとしたら、それはまさしく第三勢力側の刺客だと思っていた。だが、目の前のマダオはとんでもなくだらしがない。本当にクリエメイトを狙う刺客かと疑うレベルだ。

 

 

「仕方ないな。椎奈ちゃん、この人の事は『マダオ』と呼ぶことにしよう」

 

「まだお……ですか?」

 

「そう。『まるでダメなオッサン』略してマダオだ」

 

「…失礼では?」

 

「こんな、この世の全てを面倒くさがるようなオッサンに敬意なんて払ったら敬意に失礼だろう」

 

「敬意に失礼って何ですか」

 

「だぁぁもう、やめろ!

 出会ったばっかの俺をダメなオッサン呼ばわりとか、お前さん方、手厳しすぎやしないか!? ったく……」

 

 オッサンは気だるげに立ち上がり、文句でもありそうな不機嫌な顔で自己紹介を始める。まぁ、ずっとマダオ呼ばわりは嫌に違いない。

 

「俺にはちゃんと、ナットって名前があるんだよ。

 仕事は……まぁ、何もしていない人さ。今回はただ、巻き込まれただけだからヨロシク」

 

 ため息混じりの自己紹介に、椎奈ちゃんは「なるほど」といった面持ちでよろしくお願いします、と小声で言っているが、俺はそうではない。

 何故なら…明らかに一般ピープルには必要ない装備を身に着けているからだ。

 

 1つ。荷物が人を駄目にするソファのミニバージョンと同じくらい大きいのがまず怪しい。まぁ、こっちは旅の準備と言われればそれまでだが。

 2つ。オッサンが身に着けている、バンデッドメイル。赤黒い金属と深緑の毛皮を素材にして作り出されたそれをなぜ身に纏っているのか。自衛にしても金をはたきすぎではないだろうか? 「推定無職の、しかも巻き込まれただけの一般ピープル」なら尚更である。

 

 だが、メタ視点だけで疑っても仕方がない。オッサンにイキナリ背後を狙って襲ってくるような気配もない。警戒するに越した事はないが、暫くは泳がせてみよう。

 

「オッサン、自衛とか出来るか?」

 

「自衛?」

 

「強そうな見た目の鎧着てるからよ、気になってな。」

 

「自衛ね……全く出来なくもないが、期待しすぎんなよ。鎧も…この盾も、所詮は見た目だけの代物だ」

 

 オッサン―――ナットが荷物からチラリと盾を見せる。ほんのり赤がかった黒色と銅色の縁取りをしているソレは、シワが出始めたナットの年相応に渋かった。

 一応、コイツの言葉は鵜呑みにしないでおく。素が自堕落なオッサンだからか、どうも信用出来ないんだよね。

 それに、俺の前世の勘が告げている。――『こういう物臭なタイプの人間の本気は凄まじいと相場が決まっている』―――と。敵に回って本気でも出されたら大変そうだ。

 

「さて。オッサンも起こしたことだし、これからどうしようか?」

 

「本田さん達を探すにしても、私達には手がかりもありませんし……」

 

「よー分からんけど、まずは身を守る準備だな」

 

「は?」

 

「近くに何体かいるぞ。構えな」

 

 オッサンがそう言った直後、なんと茂みの中からクロモンの数々が飛び出てきて、あっけにとられた俺達の前に現れたではないか。

 しまった。オッサンばかりに気を取られて周囲の警戒が薄くなった。だが、クロモン相手にいまさら遅れは取らない。

 

 

「椎奈ちゃん、俺の側から離れるなよ」

 

「へ? ―――きゃあぁ!!?」

 

 

 片腕で椎奈ちゃんを抱きしめると、『パイソン』でクロモン達に発砲。弾はぷにぷに石弾だが、直撃したクロモン達はポリゴンのように消えていく。それほどまでに、レベル差がもうついているのだ。

 

 

「どどっ、どどどどどうして銃をぉ!!?」

 

「話は後、だ!!」

 

 全方向から来るクロモンに向かって、回転しながら弾幕をばら撒いていく。二人はまるで、社交ダンスのダンサーだ。まぁ、俺の右手は銃で埋まってるし、時折リロードもしないといけないからちょっと荒っぽいエスコートになってしまうけど、クロモン達は確実に一掃できている。

 もちろん、クロモン軍団も負けていない。圧倒的に劣る質を数でカバーしようとしている。そして、近づこうとするのだ。そんな時は……

 

 

おっさんガード!

 

「おいぃぃぃぃ!! 何の予告もなしにオッサンを盾にしないでくんない!? ビックリしちゃうわ!!!」

 

 ………とまぁ、こんな感じで危なげなく戦えてる。

 そう……()()()()()。なんかこのナットというオッサン、奇妙なんだよな。

 戦い方は全体を通して危なっかしい。まんま剣と盾を持って間もない素人そのもの……のように見える。だが俺は見逃さなかった。致命傷を適切に防ぐその盾づかいを。クロモンを一太刀で合理的に倒すその剣さばきを。

 つまりこのオッサン―――ただ剣と盾に振り回されているだけのド素人ではなさそうなのだ。偶然……にしても出来過ぎているな。

 

 

 ………本当にコイツ何者だ?

 これじゃあまるで、戦いの素人ではなく、むしろ―――

 

 

「あの………………ローリエさん……………」

 

「? ……あ! もう終わったかな?」

 

「ええ。ですからその………手を、離して……」

 

「あぁ、悪い悪い! つい、な。」

 

 そうこうしてたら大方片付いたので椎奈ちゃんを離してやる。今回はあまり満足の行くエスコートができなかったな。もう5年たった後なら、もっといいエスコートを約束出来るんだが―――

 

 

「あの、ローリエさん、後ろからどなたかが……」

 

「どなたかってどわああぁぁぁぁあ!!?

 あっぶねぇ!!!?」

 

「椎奈様から離れなさい、八賢者!!」

 

 

 突然、何者かが突っ込んできたので咄嗟に回避行動を取る。

 突っ込んできた赤い風は、俺がいたところを通り過ぎ、なにかにコケたのかそのまま少し先の地面にぶっ倒れた。「へぶっ!」と悲鳴をあげて顔面ダイブを決めた赤髪の小さな女の子は、よく見なくても俺の生徒だった。

 

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 

「いったたた……あれ、椎奈様?

 はわわぁ〜、もしかして今、椎奈様に心配された!?

 こ、これは体を張った甲斐がありました〜!! 最高です! 幸せです〜〜!!!」

 

「おう元気そうだなダイナミックお馬鹿。聖典だけじゃあなくて魔法工学も勉強してんのか?」

 

 椎奈ちゃんを見て幸せそうに身をよじっていたランプは、俺を見るなり固まる。失礼極まりないリアクションだ。だが俺は寛容である。

 

「よし、神殿に戻ってこられた暁には貯まりに貯まった課題をプレゼントだ。今からでも楽しみに待っておくといい」

 

「うわぁーーーーーーーーっ!!!! 嫌なこと思い出させないでください!!

 ローリエ先生の鬼!悪魔!!変態!!」

 

「変態は関係ねーだろうが―――」

 

 

 銃を抜く。

 椎奈ちゃんとランプの驚き顔をよそに、俺は振り向かずに右側に構える。そして……

 

「よっと」

 

 

 キィンッ!

 

 

 ―――と、金属音が鳴り響く。

 遅れてそっちを見れば、銃とレイピアが鍔迫り合っていた。俺に対して振るわれた、神速の細剣。思い当たる人間など、一人しかいない。

 

 

「―――そうは思わないか? フェンネル」

「貴方が変態なのは今に始まった事ではないかと」

 

 

 俺の言葉を辛辣に返したのは、先端を三つ編みにした青緑色の髪の少女。黒色の肩掛けに黒と白が基調の制服を着て、三日月の飾りを施した半スカートと鎧のようなロングブーツを履いている近衛兵のような姿。

 

 八賢者、フェンネル・ウィンキョウがそこにいた。

 

 

 

「ところでフェンネル。なんでイキナリ斬りかかってきたん?」

「ローリエが遂に未成年にナンパを始めたかと思いまして」

「は?キレそう。おっぱい揉みしだくぞ」

「やってみなさい、両手を切り落として差し上げますわ」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 一触即発になりかけていた空気はきららとマッチ、そしてクリエメイト・本田珠輝(ほんだたまき)がやってきたことで緩和した。

 というのも、誰かが説得したとかそういうことではなく―――

 

 

『異世界のおじさまぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』

 

『え、ちょっ―――ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?』

 

『うへへ……やっぱり世界を越えてもおじさまは格好良いです……!!!』

 

『ぐふぅ……………だぁぁぁぁ離れろッ!! オッサンはおめーみたいな乳くせえガキに興味ねーんだよ!!! つーか誰だお前は!』

 

『あっ……申し遅れました…!

 本田珠輝といいます! おじさまは?』

 

『おじさまってお前な………

 俺の名はナット。取り敢えず離れてくれ』

 

 

 ―――とまぁ、俺の予想通りにたまちゃんがナットに食いついたため、さっきまで張り詰めていたのが皆馬鹿馬鹿しくなったのだ。

 冷静さを取り戻したフェンネルは、言ノ葉の樹に辿り着いた経緯―――辺境への出張から戻ってこようとしたが、オーダーの影響で神殿に着けず困っていたこと・アルシーヴちゃんのオーダーの反動を心配していること―――を話した上できらら達一行に「手を結びませんか?」と尋ねる。勿論、先へ進むためにオーダーを解除するという意味でだ。だが―――

 

 

「あり得ません!! フェンネルは八賢者なんですよ!? しかも……アルシーヴを一番信仰していました。

 常にアルシーヴに付き従い、アルシーヴが黒と言えば白いものも黒と言う。

 そんなフェンネルがアルシーヴに歯向かうなんて…たちの悪い嘘です…!」

 

「ランプ……アルシーヴ様とお呼びなさい。」

 

 まぁこの有様である。

 俺という例外はいたものの、彼女たちは基本的にクリエメイトをめぐってきららちゃん達と戦ってきたのだ。今更敵に手を組もうと言われても、信じられるはずがない。

 これがもし、カルダモンやシュガーからの提案だったなら、ランプは俺という前例を元に、賢者を信じただろう。だが相手はアルシーヴちゃん専門の百合女ことフェンネルだ。話は変わってくる。

 

「まーフェンネルが裏切るなんてあり得ないな。アルシーヴちゃんがダジャレの乱舞を耐えきれると断言するくらいあり得ない」

 

「ローリエ…アルシーヴ“様”とお呼びなさい…!

 あとアルシーヴ様ともあろうお方がダジャレ程度耐えられないなんてことある筈ないでしょう…!!」

 

 悪いなフェンネル。実は君の出張中にもう検証済みなんだよ。サルモネラの逮捕報告をした際、耳元でぼそりと「これで砂漠は安心だ。()()()()れるくらいにな」と言ったら彼女、太ももをつねったのだ。追撃で脇腹をつついたら決壊(爆笑)した。あそこまで笑った彼女はその時初めて見たかもな。

 まぁ、それは置いといて。

 

「オッサンはどうする?」

 

「ぶっちゃけ動きたくないが……まぁ、頂上の街に着ければなんでもいいさ。メンドくせぇし、一緒に行動した方がいいんじゃねーの?」

 

「…このマダオが」

 

 オッサンに手を組む件を尋ねると、思った通り投げ槍な答えが帰ってくる。この場にいた皆は、どうやらこのナットというオッサンの人となりをある程度理解したようだった。

 

 

「ローリエ……その自堕落な中年は?」

 

「ナット。今回のオーダーに巻き込まれただけの一般人らしい」

 

「なるほど」

 

………カラダ捌きが尋常じゃないから、絶対ただの一般人じゃない事も注意しておけ。俺も常に見ておく

 

「………仔細把握いたしましたわ」

 

 ナットについても、フェンネルときららちゃん一行に紹介しておく。最後の会話だけ、フェンネルにだけ聞こえるような小声で伝えた。フェンネルはどうやら目的を達成するためにクリエメイトを護衛する方針を取るようだ。

 

 

 こうして……俺とフェンネル、きらら一行に――おそらくナット。

 それらの様々な思惑が絡みそうな珍道中が今、始まる。

 

 

 

「しかし、オーダーね……クリエメイトと会えるこの光景も、アルシーヴ様の崇高なるお力があってこそね。

 不可能を可能に………聖典を現実のものとするその力、どうして貴方様以外の者がなし得ましょうか…!」

 

「す、すごいですね。フェンネルさん……」

「……けど、似ていますね。」

「似てるって、何がですか?」

「フェンネルさんと本田さんがです。」

「ええっ!? 私が!!?」

「本田さんもお父様の話をする時はあんなふうに笑顔で話されていますから。フェンネルさんが本田さんならアルシーヴさんの魅力が分かるというのもそういうことかと思います。」

 

 ……しっかし相変わらずフェンネルのアルシーヴちゃん崇拝具合は半端ないな。宗教関連に前世から疎い俺からすればちょっと考えられない。

 

「ええ、その通りですわ、椎奈。

 ですが、1つ勘違いをなされている。

 それは……そもそもアルシーヴ様の魅力を理解できない人などいるわけがないという事です!!」

 

 アルシーヴちゃん関連の話題で仕上がっていくフェンネル。大丈夫なのかこれ、オッサンに隙を突かれや……あ、オッサン引いてるわ。

 

「以前、アルシーヴ様が庭園をひとり散策されていた時のこと―――」

 

 うーわ、また始まった。フェンネルのアルシーヴちゃん語りは表現が誇張的かつ語彙力抜群なので時間がかかる。ちょっと茶々入れて時間短縮だ。

 

「確か、星が綺麗に映る夜の中、寝間着(ネグリジェ)姿で歩いてたんだっけか。いやあ、アレは絵になるよ。個人的にはアルシーヴちゃんのあの姿は寝室で二人きりの時に見たいものなんだが―――おっと」

「ローリエ………どうやら今ここで死にたいようですわね…?」

「お、やんのか? オッサンを重点的に、ついでにクリエメイト二人を巻き込んで久しぶりに勝負といくか?

 確かフェンネル、お前との戦歴は900戦中俺の451勝だったよな?」

「寝ぼけてますねローリエ。わたくしが451勝ですわ!」

 

「あーはいはい、お前ら賢者だっけ? 二人とも仲良すぎだな、ホント」

 

「「冗談は自堕落さだけにしろ(てください)」」

 

「お前らホントにオッサンに厳しかないかい!!?」

 

「大丈夫ですおじさま! 私は優しくします!!」

 

「やめてくれ……プライドに刺さる…」

 

 

 たまちゃんに好かれたからって調子乗るなよナット。

 誰がフェンネルと仲が良すぎるんだよ。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 帰宅しようとしたらオーダーの進行不能バグで大樹内に転移してしまった八賢者。彼自身転移魔法が使えない訳ではないが、大樹内で椎奈を置いたまま転移などあり得ないとその選択肢を切り捨てている。また、クロモンの襲撃をナットと協力して退けるも、その戦い方はランプとフェンネルの誤解を招いた。

村上椎奈
 オーダーで大樹内に召喚されたSNS部部長。人見知りでネガティブな性分なのだが、ローリエの差し入れの飲み物で落ち着きを取り戻す。

ナット
 大樹内にて進行不能バグに巻き込まれたという一般人。無気力で無責任なオッサン。年齢的には珠輝の好みだが、彼にロの付くアレの気はない。「メンドくせぇ」が口癖。個人的なイメージCVは平○広明氏だが、人によっては小○力也氏、あるいは故藤○啓○氏をイメージする方も多いかもしれない。

本田珠輝
 きらら達に保護して貰ったクリエメイトにして、「ステラのまほう」の主人公。ファザコンであり、その影響でおじさま好き。作者的には渋くて責任感のある中年も好きそうだが、ナットのような物臭な中年も「これはこれで」と好みそうではある。

フェンネル
 第6章のボスを務める八賢者。アルシーヴを深く信仰しており、ローリエとは馬が合わない。しかし、アルシーヴのため最低限クリエメイトを守らなければならないと考えているので、ローリエの懸念だけは受け入れている。



漆黒麦コーヒー
 作者が2秒で考案。エトワリア特産の麦を黒くなるまで煎り、コーヒー豆を使わずにコーヒーの味と香りを再現した飲み物。

シャインドロップ
 作者が16秒で考案。エトワリア特産のフルーツを原料に岩塩、砂糖などを使いジュースにした。ただただ甘味だけでなく、渋味と酸味も味わうことのできる独特の味。故に好みが別れる。

ステラのまほう
 く○ば・U氏によって2012年〜2020年7月現在連載中の、4コマ漫画。本田珠輝が、村上椎奈や関あやめ所属するSNS部に入り、部活動として同人ゲームの製作を通して青春を過ごす。登場人物のかわいさだけではなく、人間的な悩みを持つこともこの作品の魅力である。



△▼△▼△▼
ナット「次回予告ぅ? そんなん適当にパパッとやっちゃえばいいだろ」
珠輝「そうですね!おじさまがそう仰るなら!!」
椎奈「ダメですよ本田さん、ナットさん。次回予告の一面を預かった人として無責任な真似はできません」
珠輝「そ…そうですよね部長……ごめんなさい、異世界のおじさまが目の前にいるのでつい…」
椎奈「では話を戻します。賢者達、そしてナットさんと行動を共にすることになったきららさん達でしたが、クリエメイトの情報がありません。そ、そこで……聞き込みをするのですが……
 ………良いんでしょうか。私なんかが、町の人たちの営みを邪魔するようなマネをして……」

次回『シナリオ担当と黒い歴史』
ナット「椎奈ちゃん……お前、意外とメンドくせぇな」
椎奈「仕方ないじゃないですか……こんな性分なんです……!」
ナット「……難儀だねぇ」
▲▽▲▽▲▽


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第60話:シナリオ担当と黒い歴史

“ナットは一言で言えばロクデナシだった。仕事はせずとにかく楽をしたがる。故に、この後の行動には驚かされたものである。”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第7章より抜粋



2020/8/12:あとがきを追記しました。


 

 

 椎奈ちゃんとたまちゃんを保護した俺達は、相も変わらず進行不能バグに手こずっていた。

 

 その手こずり具合は、フェンネルがナットを護衛に椎奈かたまちゃんを囮に使うのはどうだ、と提案するほどである。もちろんランプは猛反発。フェンネルも本気ではなく、椎奈ちゃんがはっきりと反対の立場をとったことで提案を引っさげた。まぁ、この提案はあくまで「最後の手段」に等しい選択肢の1つに過ぎないのだが。

 

「……フェンネルの案だとオッサンが働かざるを得ないじゃない? やだよ、そんなメンドくさいこと」

 

 …………約一名ほど、常識を疑うような理由で反対し、白い目を数多く向けられたヤツもいたけど。

 

 そんなマダオはともかく、手詰まりになってしまった一行は、取り敢えず来た道を戻り、言ノ葉の樹の根っこ付近に存在する町―――通称“根本の町”に行くことにした。

 ある一定の場所まで行くとオーダーの影響で引き戻される。ならば、他のクリエメイトも同じ事が言える。あの先に進んでしまっていることは無い筈だとはマッチの言だ。

 まぁ事実、俺の記憶ではあやめちゃんも歌夜ちゃんも裕美音ちゃんも根本の町にいるんだけどね。裕美音ちゃんに至ってはBLを崇める新興宗教まで作ってるだろうし。

 

 

「「「くー!」」」

 

「皆さん、敵です!」

 

 で、その根本の町までの道中に…やはり現れるクロモンの群れ。しかも今度は、さっきの俺とオッサンが主体となって追い払った群れより数が多い。

 

「ちょうどいいですわ。あの群れの3分の2を私達が持ちましょう。きららは残りをお願いします」

 

「頑張れ、若人たち! オッサンに楽させてくれよ!」

 

「「…………」」

 

 クロモンを倒すことはやぶさかではないが、楽が出来ると活き活きしているオッサンを殴りたい。フェンネルも同じような事を考えている顔をしているが、きららちゃん達に一般人と紹介した手前、前線に放り投げる事もできない。

 

「…あのオッサン、後で制裁だな」

「ですわね」

 

 そして、流れるようにフェンネルとの共闘が始まった。

 

 フェンネルが前線を斬り開く。そして、開いた前線を突き進み、俺が弾丸をばら撒く。フェンネルが前衛、俺が後衛という陣形で、クロモン軍団をせん滅していく。

 

 フェンネルの戦い方は、レイピアを迅速に振るうスピード型……に見せかけた防御系カウンター型だ。

 ゲームの話になるが、彼女はとにかく物理攻撃が通用しない。魔法主体で攻めるのがセオリーなのだが、魔法使いの攻撃やバフに反応して的確に反撃を仕掛けてくる。その仕様を再現しているかのように、彼女はクロモン達の行動に合わせて各個斬り伏せていっている。

 

 だが、圧倒的に数で勝るクロモン相手にそれをやったら囲まれることは明白で……

 

「いけない! フェンネルさんが囲まれて……!!」

 

「「「「くーー!!」」」」

 

「甘い!」

 

 だが、遠距離からならフェンネルの死角がよく見える。そして、そこを狙っているクロモン達も。

 ソイツ等に向けて銃弾をバラ撒けば、「くー!?」と悲鳴をあげて消滅していく。

 

「フェンネル! これで貸一つだ!」

 

「調子に乗らないでください!!」

 

「きららちゃん! 自分の戦いに集中しな!」

 

「……お気をつけて!」

 

 フェンネルにも気を遣ったきららちゃんは、すぐさま『コール』を発動し、カレンとアリスの金髪コンビを召喚しながら戦いに戻っていく。

 

 その後も、戦いは続く。2丁拳銃から放たれる弾丸は、フェンネルの完璧に近い美しい剣舞の隙を確かに埋めていった。こうなってしまえば、いくらクロモンが頭数を揃えたところで手も足も出ないのは純然たる事実なのだ。

 

 数は多かった筈なのに、戦闘はあっという間だ。フェンネルの宣言どおり、俺とフェンネルの賢者タッグは簡単にクロモンの群れの3分の2を追い払ってしまったのだから。

 残りのクロモン達だが、それももうすぐきららちゃんと呼び出したクリエメイトが片付ける。

 

「お待たせ〜、クロモン共はもう追い払った。フェンネルときららちゃんもじきに戻ってくる」

 

「す、すごい……」

 

「私を抱えながら戦った時もそうでしたが、なかなか凄まじい戦闘力です」

 

「いや〜、俺は嬉しいよ! なにせ、若人がここまで優秀なんだから。お陰でオッサン、メンドくせぇコトせずに済んだぜ〜!!」

 

 一足先にみんなの元へ戻れば、たまちゃんと椎奈ちゃん、そしてナットがそれぞれ声をかけてきた。クリエメイトのJK達に褒められるのは何度経験しても気分が良いぜ。あとナット、とりあえずお前はフェンネルが戻ってきたら一発殴ってやるからな。

 

 ほどなくして、きららちゃんとフェンネルも戻ってくる。そして、真っ先に何をしたかと言えば………ナットに顔面パンチだ。しかも、八賢者二人の同時攻撃。

 

 

「ごばァァァァァ!!!?」

 

「おじさまあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!?!?!?!?

 ちょっと! 二人ともおじさまに何をするんですか!?」

 

「いい年してる上に自衛できるのに俺達に全部丸投げするオッサンが悪い」

 

「そういう事ですわ、珠輝。大人たるもの、大人らしく人並の責任感を持つべきです。」

 

「そういう責任感が強くてシブいおじさんの方が好きだろ?たまちゃん」

 

「それは………確かに、そうですけど!

 ナットさんみたいな昼行灯(ひるあんどん)なおじさまも素敵だと思うんです!!」

 

「あ、あははは……話の内容がズレてきてない?」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――根本の町。

 きららさん達とやってきたその町は、林のように生える木の根っこ達の上に組み立てたかのような入り組んだ町並みが特徴的でした。

 私達の世界ではまず考えられないような町。きららさんが言うことには、ここで本田さん以外のSNS部のメンバーの聞き込みをするとのことでしたが………

 

 

「き、急に見知らぬ方に声をかけるなんて、ハードルが高すぎます………」

 

「いやお前さんな、聞き込みってそういうモンだぞ?」

 

 ナットさんにため息をつかれました。

 でも苦手なものは苦手なんです!

 

「道行く人たちにもそれぞれ生活があって、大事な用があるかもしれなくて。それを私ごときが妨げるなんて、どうにも………」

 

「………………メンドくせぇ性分してんなお前は。

 ちょっと待ってろ。オッサンとローリエがお手本を見せてやる」

 

 そう言うと、ナットさんはつかつかと聞き込みを始めているローリエさんの元に向かって、それぞれ聞き込みを始めました。

 ローリエさんが20代くらいの女性に話しかけ、ナットさんが細めのおばさんに話しかけます。それが終わったかと思えば、ローリエさんが長髪の綺麗なお姉さんに声をかけて、ナットさんが妙齢の女の人に近づいていって……

 ………ってアレ。

 

「あの………なんか二人とも女性にしか声をかけてないような………?」

 

「ローリエは神殿では有名な女好きですわ。…何を言われたのかは知りませんが椎奈、アレらは絶対に見習わないように。欲望はコントロールするもの。アレはいい反例ですわ」

 

「ぎくっ」

 

 フェンネルさんがそう言いますけど、アルシーヴさんについて話す時のフェンネルさんを見た私からすれば説得力が生まれません。あとローリエさんとナットさんについて言及しているわきで、何故か本田さんが肩をびくつかせました。さては本田さん、あなたちょい枯れの男性限定に聞き込みをするつもりでしたね。

 

 

「…とはいえ、それはそれで良いような気がします。

 わ、私が聞き込みしたところで、まともに情報を聞けるかわかりませんし……ジェスチャーくらいが関の山な気が………」

 

「駄目です! ローリエ先生は綺麗な女の人にしか話しかけないでしょうし、ナットさんは絶対サボりそうです! おじさんを珠輝様に任せるとしても、若めの男性から聞く人がいなくなってしまいます!」

 

「え、えと……なら、部長さんがフェンネルさんの口調を真似てみれば上手くいくと思います!」

 

「えっ」

 

「部長さんは、さっきフェンネルさんと出会ったばっかりなのにお話出来ていたじゃありませんか!」

 

 確かに。厳密には、フェンネルさんだけでなく、ローリエさんやナットさんとも会話はしましたが、なにせお二人は男性です。私が真似する口調には不適切かもしれません。ですが……

 

「その喋り方は、フェンネルさんだからこそでは―――」

 

「部長さんなら上手くできると思うんです。私は早く先輩たちを見つけたいです! 一緒に、やってくれませんか?」

 

 

 本田さんが曇りなき眼でまっすぐこっちを見つめてくる。

 私だって、藤川さんやあやを早く見つけたいわよ……仕方ありませんね……

 

 

「…………分かりました。」

 

「あ、落ちた。」

「さすが珠輝様、攻めキャラです」

 

 確か、ローリエさんやナットさん、本田さんが聞こうとしない若い男性、でしたよね。ううっ、もうこの時点で帰りたいしやめたいしなかったことにしたい……

 

 でも皆さんと帰る為です。ここで尻込みしていたら、飲み物を恵んでくださったローリエさんにも、守ってくださったきららさんやフェンネルさんにも、頼ってくださる本田さんにも申し訳がたたない……!

 ―――そうして、意を決して近くの男性に近づく。

 

 

「もし、少々お時間よろしくて?」

 

「! あぁ、なんだい?」

 

「この辺りで、普段では見慣れない女の子を見かけませんでしたか?」

 

「……いやぁ、見てないね。」

 

「…そうですか。では、他をあたってみますわ。

 ご協力ありがとうございました。」

 

「いやいや、こちらこそ力になれなくてごめんよ?」

 

 そうして、男の人は去っていった………

 

 …………

 ………

 ……

 

「おお…なかなかサマになってましたよ、椎奈様!」

「部長さん、さっきは残念でしたけど、このまま続ければ、いつか―――」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!!も゛う゛ダメ゛でず……」

 

 な……なんて恥ずかしい……!

 なんでこんな事をしてしまったんでしょう……!

 大体、声をかける最初の一言が「もし」って……流石に無いと思います……

 しかも!! その挙げ句に成果なしだなんて……

 所詮、ミジンコ以下のコミュニケーション能力はミジンコ以下ということなんでしょう……

 

 

「あぁっ! 部長さんが倒れた!!」

「椎奈さん、大丈夫ですか!?」

「先程までご自分の意見をあんなにハッキリ言っていたというのに……」

「おお しいな!

 しんでしまうとは なにごとだ!」

「ローリエ、椎奈死んでないから」

 

 倒れた私に皆さんが駆け寄ってきます。こんな人間捨ておいてもいいはずなのに……

 あとローリエさんはそのネタは……私達の世界のゲームのネタ、でしょうか? 考え過ぎかもしれませんが…

 

 

「ローリエ、戻ってきたということは、何か掴めたということですか?」

 

「あぁ。あやめちゃん―――関あやめの情報を手に入れた」

 

「あやの情報をですか!?」

 

「あ、椎奈が復活した」

 

「わ、私の苦労は一体………」

 

「と思ったら倒れたー!?」

 

 ローリエさんがあやの情報を見つけたと聞いた途端、凄まじい徒労感に襲われました。柄でもない事をするんじゃなかった………

 

 

「あ? なんだこの空気。もしかして、探し人が見つかったんか?」

「そういうナットさんはどちらに行ってたんですか?」

「え、オッサン? オッサンはね…そう! 店の人という人に聞いて回ったよ。妙な宗教団体の情報しか得られなかったけどな」

 

 そして、一回り大きくなったバッグを背に戻ってくるナットさん。バッグからはみ出た詩集から察するに、この人途中から人探しそっちのけでお土産集めしてましたね。後で皆さんに伝えておこう。

 

 

 

 

 

「ここで間違いないんですか? ローリエさん」

 

「あぁ。聞き込みで得られた情報はこの場所だった」

 

 ローリエさんが聞いたという部屋の一つの前に、私達が立つ。あやがここにいるという情報は人伝のものだから不安ですが、ここはローリエさんが声をかけた方(おそらく女性でしょうね…)を信じるしかありません。

 ローリエさんが、ゆっくりと扉を開けて―――

 

 

 

「あー! 来た来たァー!! 降りてきたッ!

 ふふっ、まさにこれは筆が止まらないというやつだね。

 『貴殿の輝きなら幾千の星空の中から見つけ出せるわ! それでも追ってはいけないの!』」

 

 

 ―――すぐに扉を閉めた。

 

「あの…どうして閉めてしまうんです?」

 

 きららさんがドアノブを持つローリエさんに問いかけると、答える代わりに扉を開く。すると―――

 

 

 

「『運命の星が流れ落ちる。決して届かない場所へと。アヤの瞳には星雲が―――』……………?!」

 

 

 また小説を書くあやが見えた。あやが音読しながら文章を書いていると、唐突にこっちと目が合って……

 ………やはり閉じた扉に遮られた。

 

「えっと……何がしたいのですか?」

「ローリエ? どうして彼女は声に出しながら文章を書いていたんだい?」

 

「椎奈ちゃん。これがエトワリアの典型的な『お邪魔しました』だ。

 マッチ。もし、もう一度その質問をしたら、お前を二重の極みの刑に処してやるからな」

 

「二重の極みって何!?!?!?」

 

「ローリエ、息をするように椎奈に嘘を吹き込まないでくださいまし。さぁ、入るわよ」

 

「入るなら入れよ!! なんで『何も見てませんよ』とでも言いたげにドアを閉めてなかったことにしてんだよーー!!!」

 

 ドア越しに聞こえたあやの悲鳴――あるいは羞恥の慟哭にやや同情した。

 その後、ランプさんとローリエさんによる、あやへの辱めが行われた。『星屑のインテンツィオーネ』の暗唱を始めたかと思えば、『Iri§先生』(あやのペンネーム)を連呼しまくり……私も「続きは書かないの?」と援護射撃を行って、トドメはナットさんの詩集を渡しながらの「どうせ人間、生きてりゃ生き恥の10や20は晒す」という身も蓋もない正論。あやは見事に(うずくま)ってしまった。

 つまり、やりすぎた。

 

 

殺せよ……もうあたしを殺せよっ…………!

 

「ご…ごめんなさい、あや。流石に止めなかったのはやりすぎたわ」

 

「安心しなよ。詩や小説なんて最終的にみんな黒歴史になるモンなんだからよ」

 

「ナットさんは黙っててください」

 

 

 他の皆さんが今後の方針について話し合っている中、フォローにすらなっていないナットさんの言葉を切り捨ててあやの背を撫でる。最終的に黒歴史になるとか、なんてコトを言うのかしらこの男……

 

「………オッサンの言葉は兎も角、なんか色々と悪いな、しー。」

 

「謝らないで。あなたはただ黒歴史を掘り返されて辱めを受けていただけでしょうに」

 

「ヤメロォ!!!!」

 

 

 そう言いながら、あやの目はナットさんから貰った詩集の見開きに注がれている。私もそれが気になって、あやの開いている詩集を横からちょっと覗いてみる。

 

 


 

八つの賢人

 

筆頭神官は女神を導く

導く八つの光を携え

八人の賢者は光を宿し

神官の頭の意に沿うだろう

 

甘い賢者は友好の光

誰が相手だろうと心を開き

悪人の邪気を和らげ欲望を閉じ込める

 

思慮深い賢者は智慧の光

朝に夕なに側に仕えて

従う姿こそまさしく信徒なり

 

迅速の賢者は果断の光

彼女の前に一縷の迷いはなく

窮地を駆け巡っては調停をもたら

 

神算の賢者は先見の光

計略と策謀をもって照らされる力となりて

歩む先の穴を見つける一助となるだろう

 

剛毅の賢者は豪胆の光

豪腕をもって敵をたおし敏腕にして街を守る

人の暮らしを護ること獅子の群れ長の如くなり

 

誠実なる賢者は守護の光

己が後ろに苦難を通さず

勇猛果敢に主を守るまさしく聖人

 

寡黙な賢者は夢想の光

主の為に力を秘匿し

謎に包まれ夢想に組する

 

黒き賢者は情愛の光

全てに等しく愛を注いで

情を持って日を斬り拓く黒き剣

 

八つのは未来を照らし

八人の賢者は世界を照らす

 


 

 

「……なんでしょう、この詩」

 

 詩のところどころに線が引かれています。詩集の他のページを開いてみても、この詩のように下線が引かれているなんてことはありません。また、この詩があるページだけページの斜め上が折られています。

 

「なぁ、この線オッサンが書いたのか?」

 

「ええ? あぁうん、そうだよ。

 理由なんて聞くなよ? 説明メンドくせぇからな」

 

 あやも詩集に引かれた下線が気になったのか、ナットさんに尋ねたものの、まともな答えは帰ってきませんでした。無理に聞き出そうとしても「メンドくせぇ」を連呼して強引に話を終わらせようとするのが目に見えています。

 だから、でしょうか。

 

 

 詩集の中の、下線の引かれたこの詩が、後で()()()()()()()()()()()()()()ことなど思いもよらなかったのです。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 フェンネルと共闘し相性の良さを見せつけた八賢者兼主人公。フェンネルの防御特化とローリエの一撃必殺初見殺しは組み合わせたら悪魔的な強さになる。だがアルシーヴの見方で対立しており、性格的にはお察しな模様。

村上椎奈
 コミュ障のSNS部部長。聞き込みに対して消極的だったが、珠輝の説得で聞き込みに参加。彼女にしてはフェンネルの口調で頑張ったのだが、一人目でもう無理であった。

関あやめ
 現在進行形で黒歴史を書き続けていた椎奈の幼馴染。ペンネームは『Iri§』。エトワリアにてテンションが上がり、執筆中の所を一行にバッチリ見られた。ローリエは一応、マッチの『声に出しながら小説を書く理由』について釘を刺していたが、その後のあやめのからかいやドアの開閉芸で色々帳消しである。

本田珠輝
 地味に欲望に忠実だったSNS部部員。聞き込みにて女性にしか声をかけなかったローリエとナットを見て自身もおじさまに声をかけまくろうと思った矢先、フェンネルに言葉のクリティカルヒットを貰ってしまう。なお、彼女が聞き込みをした人の半分は、やはりおじさんだったという。

ナット
 色々な意味で駄目な大人。自身の都合で最後の手段に反対して白い目を貰うことを筆頭に、大人としてダメな言動をこれでもかとしてもらった。「メンドくせぇ」という口癖を中心としたこういう性格も、ナット本来のものだという。



しんでしまうとはなにごとだ!
 『ドラゴンクエストⅠ』で初登場した、王様の台詞。主人公が力尽きると、この台詞と共に王城に戻される。
 ゲームオーバーという概念がないドラクエシリーズにおいて、その先駆けとなった名台詞である。

二重の極み
 『るろうに剣心』に登場する、相楽左之助の必殺技の一つ。一見するとただのパンチだが、巨岩や大木を粉微塵にするほどの破壊力がある。その破壊力は1発目の打撃で物体の抵抗力を殺し、瞬時に2発目を打ち込むことで完全に破壊するという原理により生じるものと説明されている。ジャンプ科学にしてはリアリティがあったため、当時の子供たちはこぞって習得した。

八つの賢人
 拙作に登場した、完全オリジナルの詩。流れの吟遊詩人が歌い上げたものをとある作家が書き写したもので、アルシーヴに仕える八賢者をモデルにしたという。ただし、八賢者の情報は人伝であったため、事実とはかなり異なる部分が多い。

ふぇんねる「『全てに等しく愛を注ぐ』…?誰ですか、この情愛の賢者って…?」
ろーりえ「それを言うなら、この『勇猛果敢な聖人の賢者』なんて八賢者にはいないだろうよ」
ふぇんねる「………ローリエ、表に出なさい」
ろーりえ「…決闘か?いいだろう。確か、652回目だったか」
他の賢者達「「「「「「……………」」」」」」
※なお、この時の勝負はローリエが勝った模様。



△▼△▼△▼
珠輝「おじさまがご自身のことについて語ってくれました!」
あやめ「おじさま……って、ナットさんの事だよな? どんな事を話してくれたんだ?」
珠輝「家族のことでした。なんでも、わたしを見たら思い出したそうなんです」
あやめ「たまちゃんを見て思い出す家族がいるなんて、ナットさんも大変そうだな〜」
珠輝「え、どうしてですか?」

次回『珠輝とナット、時々歌夜』
歌夜「私も出るよ〜次もお楽しみに♪」
▲▽▲▽▲▽


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第61話:珠輝とナット、時々歌夜

前半はたまちゃん視点、その後ローリエ視点でお送りします。


“彼には、彼なりの事情があると知ってしまった。だが、例えそうであっても、クリエメイト達に仇なすというのならば、躊躇はしないつもりだった。”
  …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
   第7章より抜粋


 ローリエさん達の聞き込みの結果、関先輩を見つけ出して、情報を共有したあと、もう一度聞き込みを再開しようとしたその時、問題が発生したとローリエさんが皆さんに言ってきました。

 

 

「ここの人達、なんかおかしい。同じ事しか喋らなくなっている」

 

 

「いやぁ、知らないなぁ。」

「いやぁ、知らないなぁ。」

「いやぁ、知らないなぁ。」

「いやぁ、知らないなぁ。」

「いやぁ、知らないなぁ。」

 

 

「……確かに、奇妙なことになってますね。歌夜様の事だけでなく、クリエケージの情報も誰からも出てこないなんて……椎奈様、あやめ様、どういうことか分かりますか?」

 

 まるでゲームのテストプレイでバグったかのように、同じ事しか喋らなくなっている方々。男の人だけじゃなく女性の方も「いやぁ、知らないなぁ。」と言ってきたことに違和感を抱いていると、部長さんと関先輩が答えてくれました。

 

「一言一句同じ反応でしたね。」

「あー……やっぱりそうなのかなぁ…」

「おそらく情報収集自体が上手く進行しない状況になっている可能性があります。まさかこんな形で進行不能バグが出てくるとは思いませんでしたが…」

 

 

 まさかとは思っていましたが、また進行不能バグがこの世界でもう一度出てくるなんて……!

 きららさん達が不思議そうな顔をしている中で、ローリエさんだけが納得した様子ですけど…バグとか分かるんでしょうか?

 

「えーと、二人がなんの話をしているのか詳しく分からないんだけど……」

 

「単純な話です。オーダーの影響によって、情報収集が不可能になっているんです。」

 

「…手立てが無いということなのでしょう。単純な話とは思えませんね。」

 

「いや、そうでもない。人に聞けないなら、それで探しようはある」

 

 

 藤川先輩の探す手がかりである聞き込みが出来ない以上、打つ手がないように思えた時、そう言ったのはローリエさんでした。

 

「歌夜ちゃんがいそうな場所を考えればいいのさ。彼女がエトワリアに来たとき、何に興味を示すかを考えればいい。」

 

 な、なるほど……それなら、藤川先輩のいそうな場所をある程度探せます。でも、その方法は私達なら探せたとしても、初対面のきららさんやナットさん、フェンネルさんやローリエさんが探せないんじゃないでしょうか?

 

「ローリエ……居そうな場所ってどうやって考えるんだ?」

「少し想像してみたまえ、ワトソン君」

「いや誰がワトソン君だよ」

 

「例えば、たまちゃんを探すとなった場合。おじさまの多く集まる場所を探し回ってみるといいだろう。」

 

 ―――おじさまの集まる場所!!?

 

「そんな所があるんですか!?」

 

「―――とまぁ、こんな思考実験を歌夜ちゃんバージョンでやってみることだ。そうすれば、自ずと答えが―――しいては方向性が見えてくる」

 

「―――っ! わかりました! 楽器屋さんです!」

 

 なんか私を例に使われた気がしましたけど、ローリエさんの言うことがなんとなく分かりました―――と言おうとしたら、先にランプちゃんが答えを一つ挙げました。流石、私達の知識が豊富と自負するだけありますね。誰にも言ってないパパ関連のことも当たり前のように言い当てたし……

 

 

「おおー、いいね。手本にしたいくらいの模範解答だ。

 ………この根本の町に楽器屋や演奏の場が無い事に目を瞑ればな」

 

「なっ!?」

 

 楽器屋がない、ですか……ランプちゃんの楽器屋さんは良い案だと思ったのですが…無い、となると音楽や珍しい音が好きな藤川先輩の行き先に見当がつかなくなってしまいます……

 

「そうですか……ならば考え直さないといけませんね…」

 

「ご、ごめんなさい。わたし…」

 

「い、いや、意見を出してくれるのはありがたいよ。ともかく最初から整理し直そう。」

 

「そうだな。思考実験その①。『歌夜ちゃんはこの状況を受け入れてるか、否か?』」

 

 

 藤川先輩がこの状況を受け入れられてるか、ですか…………それについては、戸惑いよりも興味の方が大きいと思います。しかも、音関係の事に……。

 

 

「…ふむ。まぁ、たまちゃんがそう言うのならそうなんだろうね。確かに、歌夜ちゃんが異世界召喚程度でビビるキャラじゃないからな…」

 

 思ったことをそのまま言えば、ローリエさんが概ね同意してくれました。思考実験その①なるものが終わったので思考実験その②に移行しますが、そのテーマは……

 

「次の思考実験は……『藤川先輩が興味を持つもの』、でしょうか?」

 

「そう、ですね。やっぱりSiguna(シグナ)様が興味を持つのは音関連なのは間違いないんですよね?」

 

「はい。そこは確定で良いと思います。

 ですが、楽器屋などに関係しないとなると、少し難しいですね。」

 

「うーん、この世界で藤川さんが興味を持ちそうな音ってなんだ? やっぱり、独特なやつ?」

 

 藤川先輩が興味を持つ、楽器屋関係以外の音がなかなか浮かんできません。部長さんや関先輩も、思いつくのに苦戦していらっしゃるようです。

 そこで声を上げたのも、やはりローリエさんでした。

 

 

「じゃあ、アレだな。クロモンの鳴き声」

 

「クロモンの鳴き声、ですか?」

 

「あぁ。ありゃあ、聖典の人たる君らにとっちゃあ、なかなか珍しいタイプじゃあないかな? …サンプリングすれば、使い道は結構ありそうだし……」

 

「……もしそうだとすれば、クロモンの群れに自ら突っ込んでいくことになりますよ?」

 

 ローリエさんと部長さんのやり取りで血の気が引いていく。そ、それって、いくら藤川先輩でもかなりマズいのでは…?

 

「………いやいや、いくらなんでも、クロモンに囲まれてちゃ、気付くと思うんだが…………」

 

「ダメです!! 藤川先輩、音に集中するとモアイと般若を足して2で掛けたような顔になっちゃうんですよ!!?」

 

「意外とぶっ刺すね本田さん…でも、本気モードの藤川さんならありえるかも」

 

「オイオイ、言ってる場合かよ? その藤川さんって子さ、クロモンの群れに突っ込んでったのか? なら今頃襲われてんじゃあねーの?」

 

 

 ナットさんの投げやりな一言は、身も蓋もないですけど、的確に藤川先輩の状況を表しているように聞こえて、私達だけでなく、きららさんやランプちゃんの顔からも血の気を奪っていきました。

 

 

「と…とにかく急ぎましょう!!

 先生や椎奈様の推測通りなら大変です!!」

 

「あ、それじゃあ、頑張ってね〜。オッサンはここで待ってっから」

 

「何を寝ぼけた事を言っているんですか!!!

 ナットさんも行くんです!!」

 

 ランプちゃんが大慌てで町の外―――クロモン達の群れをよく見かけた場所へ歩いていって、それに付いていく形で、皆は町を後にする事になりました。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 藤川先輩を助けに行く行軍は、先頭がフェンネルさん。その次にきららさん。その後ろから部長さん、関先輩、ランプちゃん、マッチと続いてローリエさん、そして殿をわたしとナットさんが歩く、という形になりました。

 というのも、ナットさんが『殿が良い』と盛大にゴネたからです。ローリエさんが反対していましたが、『オッサンの本音は譲れない』と粘った上に藤川先輩の安否を早めに確認したかったのもあり、ナットさんの近くにわたしとローリエさんがつく事を条件に先を急ぐ事にしました。

 

 

 ナットさんを見れば、ランプちゃんに叱責された時の嫌々そうな表情と、疲れたような表情がない混ぜになっていて、表現しづらい仏頂面になっていました。

 ……えへへ、おじさまのこういう複雑な表情も素敵ですね。元の世界に帰った時に再現できるように観察しなくっちゃ―――

 

 

「……おい珠輝ちゃんよ。そんなにジロジロ見つめて、オッサンの顔になにか付いてんのか?」

 

「!!!!」

 

 き、気付かれてしまいました! 流石に、ちょっと失礼でしたよね。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「まったく……こんなくたびれたオッサンの何が良いんだよ?」

 

「良いに決まってるじゃないですか! むしろこのちょうど良い枯れ具合が魅力的なんやもん!!」

 

「そこまで熱くなる程かよ…」

 

 もう少し欲を言うなら、性格的にもっとしっかりして欲しかったです。そうすれば、パパの次くらいには素敵なおじさまだったかもしれへんのに……

 

 

「はぁ……お前みたいなのと話してると、姪っ子を思い出すよ……」

 

「え? ナットさん…姪っ子さんがいらっしゃるんですか!? こんなおじさまが身内なんて羨ま…じゃない、どんな人が訊いても良いですか?」

 

「お前今羨ましいって言おうとしたか。……まぁいい。

 姪っ子―――エイダはね、妙に俺に懐いた子だったよ。なんでそこまで俺を好くのかわからねぇくらいにな。珠輝ちゃんくらいの年になるのに『結婚するならおじさんみたいな人が良い』なんて言ってきてね。俺みたいな男は総じてロクでなしなんだからよせばいいのにさ」

 

「なんでしょう。その姪っ子さん……エイダさんと代わってほしくなってきました。ちなみに、ご両親は?」

 

「とうとう欲望を隠さなくなったなコラ。

 ……エイダの両親はもういない。俺のせいでな」

 

 

 ……え?

 今、なんて言いました?

 エイダさんのご両親が、もういない……?

 

 

「…………それは、」

 

「あっと、誤解のないように言っておくが、オッサンが二人に何かした訳じゃねぇぞ。ただ、俺への報復を、俺の身近な人間にされたってだけだ。

 こう見えてオッサン、昔は色々物騒な仕事してたかんな。恨みを買う覚えなんて掃いて捨てるほどある」

 

 

 物騒な仕事、と言いました。具体的には何だかよく分かりませんし、想像もつかない。なにせわたし達の住む世界は平和すぎてそんなものが必要とされてないから。だから、何が起こってしまったのかを理解することが出来ない。

 というか……それよりも、エイダさんのご両親の話から一気にヘビーになったせいで、話の半分も落ち着いて受け止められているか自信がありません。事情はよく分からないですけど、ナットさんへの仕返しを、ナットさん自身にしないでご家族を狙うなんて、陰湿にもほどがあります。

 

 

「え、エイダさんは、どうして、無事に……?」

 

「そん時たまたま余所のお友達の家に遊びに行ってたんだと。俺も仕事から帰ってきた時には全てが終わってた。

 その後俺は今までやってた仕事をやめたよ。兄貴と義姉(アネ)さんの忘れ形見を守る為―――いや、違うな。俺は……」

 

「………?」

 

 ナットさんがそこから先を口にすることはありませんでした。ですが、すごく……後悔しているような顔をしていました。わたしは…大好きなおじさまのその表情だけは、好きになれませんでした。

 

 

「だからオッサンは『何もしていない人』なのさ。あの時も、これからもそうさ。生まれた時から面倒臭がりだったけど、エイダの両親の事があってからは何だか全部がメンドくさくなっちまってね。

 さっきは初対面で『マダオ』なんて言われたっけなぁ。『まるでダメなオッサン』略して『マダオ』だってな。まぁ……まさしくその通りさ。」

 

 

 だから、おじさまの全てを諦めたかのような目を……どうしても、否定したかった。

 かつて……藤川先輩が掲げていた、『創作は自分の為に行わないといけない』って持論を認めたくなかった時のように。病弱だった頃の裕美音の冷たくなりかけてた心をなんとかしたかった時のように。

 

 

「…話しすぎたな。ともかく珠輝ちゃんよ、こんなオッサンはほっといて―――」

 

「おじさまはダメなおっさんなんかじゃありません!!!」

 

 

 ありったけの声でナットさんに呼びかける。

 おじさまは、気だるげな目を見開いた。今まで、見た事のなかったような驚きの表情だ。

 

「わたしは…おじさまとは出会ったばっかりで、どうしてそんな話をしてくれたのかは分かりませんが……おじさまが…ナットさんが全く悪くない事や…エイダさんを大切にしてる事くらいは分かります!!」

 

 わたしの声に皆さんが振り向く気配を感じるが、そんなものは関係ない。

 

「確かに、お兄さんとその奥さんを亡くされた事は気の毒だと思ってます! でも、ナットさんにはまだ姪っ子(エイダ)さんがいるじゃないですか!! 

 それとも、エイダさんが『何もしていない』ナットさんを好きになると思っているんですか!!?」

 

 

 少なくとも、そのエイダさんがナットさんを好いていないなら、冗談でも『結婚するならおじさまみたいな人が良い』なんて言うはずがありません。

 わたしが幼い頃からおじさまの劇画を描き続けておじさまやパパを好きになったように、エイダさんがナットさんを好きになったのにも理由があるはずなんです。

 

 

「………はぁ。珠輝ちゃんよぉ、分かったから声を抑えてくれ。あと、藤川さんを助けに行くんじゃあなかったのか?」

 

「そうですけど、ナットさんを放っては―――」

 

「分かった分かった。続きは藤川さんを助けてからにしようや。」

 

 

 ……納得いきませんが、藤川先輩を待たせるのも良くないですね。わたしが大声を出したせいで皆さんもこっちを見てしまって歩みが止まっています。仕方がないから、追及を一旦終わらせることにしました。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 「ご迷惑をおかけしました」と、たまちゃんがいきなり大声をあげてしまった事を謝罪すると、再び歩みは始まる。

 それにしても―――オッサンにそんな身内と事情があるとはな。たまちゃんとオッサンの前を歩いていたから、そんなつもりはないのにほぼ全部聞いてしまった。だが、それを口にしないのは良い男の嗜みだ。

 

 そう思っていると、クロモンの群れが見えてきた。

 

 

「今までの群れの中で一番大きいですわね……」

 

「フェンネル、ローリエ、ナット、少し珠輝達を任せてもいいか? 僕達が先行して別ルートで偵察してくる」

 

「……ええ、ちゃんと守ってみせます」

「うーす、了解」

「メンドくせぇなぁ……」

 

 マッチの提案を(約1名ほど嫌々だが)引き受けてたまちゃん達の護衛につく。その間に、きららちゃんとランプとマッチで偵察―――もといパスを使ったクリエメイト探しに向かった。

 暫くして、二人と一匹が戻ってくる。どうやら、目的の人―――藤川(ふじかわ)歌夜(かよ)を見つけたようだ。曰く「藤川さんを見つけた、けど襲われているわけでもなく、逃げる様子もない」とのこと。まぁ、歌夜ちゃんのことだから、クロモン相手にサンプリングの収録という名の拷問でも強いているのだろう。あの子は厳しいからな。ちょっとの雑音や音圧不足&オーバーでリテイクしまくっている事だろう。ちょっぴりクロモンが可愛そうだ。

 

 

「半分くらい外れて欲しかったですが…まぁいいでしょう。しかし、クロモン…多いですね。」

 

「藤川さんが真剣すぎて、戸惑ってるのか。でも、私達が助けに行ったら間違いなく襲ってくるだろうな…」

 

 歌夜ちゃんは、クロモンの群れのど真ん中、そこにある岩に腰掛けて、俯いて何かを操作しているようだ。

 

「この数だと全部を何とかするのは難しいかもしれませんね……」

 

「私達八賢者がクロモン達を引きつけますわ。そのスキに貴方達で救出なさい。」

 

 ただ、群れの数が今までよりも遥かに多く、きららちゃんが『コール』を使っても全員を相手取れるかは難しいほどであった。強気に囮を名乗り出るフェンネルでもそれは変わらない。俺が助太刀するにしたって限界はあるし、何より面倒だ。

 歌夜ちゃんを救出するために防御力のあるフェンネルと殲滅力が最も優れた俺が組んで足止めをするのは一見合理的だ。他に良い手がないのは明らかだし……

 

 

「はぁ〜〜〜〜………メンドくせぇ。ンな回りくどいコトすんじゃねえよ。ちょっとオッサンに任せな」

 

「「「「「!!!!?」」」」」

 

 

 なんと、ここでそう言ったのは、ナットであった。あの面倒臭がりのオッサンが、である。そしてそのまま、クロモンの群れへつかつかと歩いていく。

 ま、まさかあのクロモンの群れをオッサン一人で? いくら実力が底しれなくても、限界がある!!

 

 

「待ってください、ナットさん! いくら何でも無謀です!」

 

「そうですわ。一般人を無謀と分かっていて行かせはしません。戻ってきなさい!」

 

「考え直すんだ、ナット!」

 

 きららちゃんやフェンネル、マッチの制止を気にもとめず、群れへと進んでいく。

 

「くー!」

「くくー!!」

 

 そして、案の定それに気づいたクロモン達が警戒立って―――

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――ッ!!!」

 

「「「!?!?!?!?!?」」」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 ……と、効果音でも出すべきプレッシャー―――いや、そんな生温いモンじゃない。良く言って闘志、悪く言って殺意……そんな覇気をクロモンの群れに放ったのだ。あのオッサンが。

 あまりに濃厚な覇気に、咄嗟に武器を構えていた。きららちゃんも震える足に鞭打ったのかランプやマッチの前に出て、フェンネルも腰に下げているレイピアに手をかけた。SNS部の3人は足がすくんで動けない。

 直接覇気を向けられたわけでもないのに、近くにいるだけでこの有様なのだ。では、直接覇気を向けられたクロモン達がどうなったのか? ………考えるまでもない。

 

 

「くー!!!!」

「くー……」

「くー!? くー!!!」

「くぅ……」

 

 ―――案の定、ほぼ全てのクロモンが力なく倒れるか逃げていく。気絶半分、逃走半分といったところか。まぁ、助かったといえば助かった。

 それを確認したオッサンは、すぐに威圧を引っ込めて、こっちを向くと困ったように笑った。

 

 

「いやー心配かけて悪かったね。オッサン、小さい頃からクロモンにだけは嫌われててな。年をとったらなんとかなるかもーと思ったんだが、こりゃあ一生クロモンを抱き上げられねーな!」

 

 

 ……果たしてそんな言い訳の通じる人間が何人いると思っているんだか。今の威圧は、ハッキリ言って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。フェンネルもその言い訳を信じている様子はない―――

 

 

「そ、そうなんですか…大変でしたね、ナットさん。でも、だからって無茶はしないでください!」

「す、凄いプレッシャーでしたよ、ナットさん。それ引っ込めて近づいていけば、クロモン達にも好かれたんじゃ…」

「おやぁん???」

 

 

 なんか奇跡的に二人も(きららちゃんとたまちゃんが)いた。

 マジか。その理由信じちゃうんだ。そう思っていると、その一言で警戒が解けたのか、椎奈ちゃんとあやめちゃんも口を開く。

 

 

「せめて一言言ってください。ビックリしたではありませんか」

「なんだよ、オッサンすげーじゃん! あたし、オッサンのこと誤解してたよ」

 

「誤解なんてしてねーよ。オッサンはすごくない。ただの面倒臭がりさ。ただ、姪っ子のことを良く言ってくれた子がいたんでな。たまたまやる気が出ただけさ」

 

「えっ……!? はわっ、そ、それってうちの…こと……?」

 

「お前以外に誰がいんだよ」

 

 

 何たることか。ナットが、たまちゃんを中心にあっという間に打ち解けていったのだ。あの、人間関係すら面倒臭がりそうなマダオでは考えられないような行動である。やっぱり、たまちゃんに家族の話をしたことが影響しているのだろうか。

 推定怪しい人が同行者たちと打ち解けていくさまを見て、俺はフェンネルと顔を見合わせた。

 

 

「ひょっとして、このナットという人……悪い人ではない、のでしょうか………?」

 

「分からん。少なくとも只者じゃあないはずだけど………」

 

 

 分からないことを深く考えてもしょうがない。とりあえず、本来の目的を達しようじゃないか。

 気絶したクロモン達を踏まないように歌夜ちゃんが座っていただろう場所へ行くと、案の定歌夜ちゃんが腰を抜かして座り込んでいた。音のサンプリングをしている最中にオッサンの底知れぬ覇気を受けたんだ。こうなって当然だ。

 

 

「………立てるか? SNS部の皆が待っているが……」

 

「…あはは、ごめんねお兄さん。私、ちょっと腰が抜けてるかも。いきなりあんなプレッシャーで驚いて、転がり落ちた拍子にどっか打ったみたい」

 

「やむを得ないか………ちょっと運ぶぞ」

 

「え、ちょ………きゃっ!」

 

 

 戸惑う歌夜ちゃんをそのままお姫様抱っこする。恥ずかしいかもしれないが、女の子の運び方はこれ一択、それ以外は論外と相場が決まっている。そのままSNS部の皆ときららちゃん達のものまで歩いていった。

 

 

「おーいみんな。歌夜ちゃんは無事だ。ただ、どっかのオッサンのプレッシャーのせいで暫く腰が抜けて歩けないけどな」

 

「ほらね。やっぱりナットのやり方は強引だったんだよ」

 

「しょうがねぇだろ!? なら馬鹿正直にあの数のクロモン達と戦った方が良かったってか? 冗談じゃねぇぞ、メンドくさ過ぎて死ぬわ!!!」

 

「わ、わぁ……藤川先輩がお姫様抱っこされてるの、初めて見ました………」

 

「あ、あの、本田ちゃん。あんまり見ないでくれると助かるんだけど………」

 

 マッチもマッチでナットのやり方が最善じゃないと判っていたようだが、そんな事は重要ではない。重要なのは歌夜ちゃんが悠○碧(あおちゃん)ボイスで照れていることだ。しかも、その表情を至近距離で見ることができている。この上ない役得だ。

 

「あの、お兄さん? 下ろしてくれると嬉しいなって、思うんだけど………」

 

「ならもう一度聞くようだが…立てるかい、今?」

 

「う、う〜ん……ちょっと、自信ない、かな?」

 

「じゃ、もうちょいこのままね」

 

「なっ!!?」

 

 下ろして、と真っ赤になった歌夜ちゃんが抵抗するも、まだ本調子じゃないみたいだ。今下ろしたら、彼女が躓いて転ぶ危険性があるが―――

 

 

「………フェンネル?そのレイピアをしまうんだ。

 話をしよう。待ってくれ、プリーズ」

 

「邪な男にクリエメイトは任せられませんわ。早く藤川歌夜を解放しなさい!」

 

「あれ、なんで俺が悪役みたいになってんの?」

 

「いやぁ、はたから見たら悪役だよ? お兄さん?」

 

「……ローリエだ。歌夜ちゃん、でいいのか? 流石にそう言われると泣くぞ? 俺もう20歳になるけど泣くぞ?」

 

「いい加減に観念しなさい、ローリエ」

 

 オッサン以外の全員から離せコールをされたので、仕方なく歌夜ちゃんを下ろすことにした。しかし、未だ回復していないので歌夜ちゃんはフェンネルが背負うことになった。泣きそう。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 さり気なくナットと珠輝のやり取りを耳にしてしまった主人公。今回はナットの威圧で腰が引けた歌夜をお姫様抱っこするというとんでもない役得を得たが、勿論コイツがそれをし続けることが許されるはずもなく、儚いラッキーイベントとなってしまった。

本田珠輝
 「ステラのまほう」の主人公らしく、人の意見に真っ直ぐぶつかる実直さをこれでもかと見せつけたファザコン女子高生。ナットが自身の姪について話してくれた事については、「どうして話してくれたんだろう」という戸惑いこそあったものの、「エイダと仲良くなれそう」という気持ちが勝っている。

藤川歌夜
 クロモンのボイスのサンプリングをしてたらいきなり殺気をぶつけられるという凄まじいとばっちりを食らった自由人のSNS部音響担当。ペンネームは『Siguna』。拙作ではとばっちりを受けたせいでローリエにお姫様抱っこされることに。しかし、SNS部の前でそんな姿を晒すのを耐えられるはずもなく、フェンネルのおんぶを希望した。

ろーりえ「こんなイケメンにお姫様抱っこされたってのに、何がお気に召さなかったんだ?」
かよ「自分でイケメンなんて言ってちゃ世話ないよ…?」

ナット
 エイダという姪っ子の存在と家族関係、そして自身の過去がある程度明らかになったダメなオッサン。彼も彼なりに悩みを抱えて(?)おり、それの解決を今まで諦めていた。珠輝の必死の説得の甲斐もあり、歌夜救出に一役買うことにした。ちなみに、クロモンに嫌われる体質は本物らしい(本人談)。



△▼△▼△▼
ランプ「Siguna様も見つけた事で、SNS部の皆様が揃いました! しかし、クリエケージはどうしても見つかりません……」
ローリエ「いや、まだだ。クリエメイトは全員揃っちゃいない」
ランプ「え! でも、他に召喚されそうなクリエメイトは………あ!裕美音様!!」
ローリエ「その通り! 正直俺はBLは苦手なんだが………彼女とも合流しなくっちゃあな。」

次回『教祖ユミーネに会いに行こう』
ランプ「次回もお楽しみに!!!」
▲▽▲▽▲▽


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第62話:教祖ユミーネに会いに行こう その①

“裕美音様のじょうほうをあつめるため、いろんな人にきいてまわりました。とてもきつかったです。先生やあやめ様もつらそうでした。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


 歌夜ちゃんを救出した俺達は、再び根本の町まで戻ってきた。その際も、オッサンことナットは「殿がいい」と連呼し、ダダをこねた。なんなのお前。殿にいい思い出かジンクスでもあんの?

 

 

「やっと町に戻ってこれました…」

 

「いやぁ、皆本当にありがとね。私の行動については……まぁ、迷惑をかけたと思ってる。ごめん。」

 

「いえ、歌夜様がご無事ならそれで良かったというものです!!」

 

「ところで、クリエケージというものは、誰も見かけてはいませんの?」

 

「あ………」

 

「クリエメイトを追いかけていればクリエケージが見つかるはずですわよね? そこのところどうなっているのかしら?」

 

「あー、私は見てないよ? そのクリエケージってやつは」

 

 

 問題になったのは、フェンネルと歌夜ちゃんの言う通り、クリエケージが未だ見つかっていないことだ。きららちゃん達にとってもクリエケージの状況が今までと違うから、説明に手間取っている。

 だがしかし、それで『SNS部のメンバー全員を見つけたのにクリエケージが見つからない』と捉えてはいけない。

 ―――『まだ会っていない、召喚されてるクリエメイトがいる』と考えるべきなのだ。

 

 

「うーん、まだいるんじゃないの? 『オーダー』で呼び出された子」

 

「まだ呼び出されたクリエメイトがいると? SNS部が全員揃っているのに?」

 

「確かにそうだが……しかし、むしろなんでこれで呼ばれた子が全員だと思うんだ。他にも可能性はあるでしょーが。裕美音(ゆみね)ちゃんとか水葉(みなは)ちゃんとか乃々(のの)ちゃんとか」

 

「「「「!!?」」」」

 

 

 俺の知っている記憶では、あと一人『オーダー』によって呼び出された子がいる。

 

 布田裕美音(ふだゆみね)

 たまちゃんのお友達にして―――折り紙付きの腐女子だ。………………そう。()()()()()腐女子である。

 俺はそもそも、ノーマルなんだ。GLは大歓迎だが、BLについては…干渉はできるだけしない代わりに干渉して欲しくないと考えている。やっぱり、俺自身が男だからどうしても気にしてしまうようなのだ。故にBL本とかはあんまり読みたい部類ではない。もし俺をモデルに薄い本でも書かれたら死ねる自信がある。

 

 話を戻そう。

 布田裕美音は『オーダー』された後、エトワリアを夢だと思いこんでBLを布教しまくったのだ。その結果、あっという間に腐った(意味深)町の人たちに彼女は教祖として祭り上げられてしまうのである。これが、原作知識を元にした裕美音の行動だ。

 

 ……まぁ、まだ誰が来てるかわからないこのタイミングでピンポイントに裕美音ちゃんを言い当てるのもちょっとアレだからブラフとして飯野(いいの)水葉(みなは)ちゃんや池谷(いけたに)乃々(のの)ちゃんについても会話に混ぜたがね。

 

 

「ローリエ。どうして、そんな事が言い切れるのです?」

 

「こんなもん聖典読んでりゃ分かるだろ。むしろ、何故分からない? フェンネルお前、聖典学大丈夫? 当時赤点とか取ったりしてないよな?」

 

「余計なお世話です。当時聖典学と魔法工学のテストだけ当たり前のように200点300点取ってた人間に言われたくはありませんわ。」

 

「あの、ツッコミどころしかない会話に割り込んですみませんが、私も誰かが……多分、裕美音だと思うんですけど…エトワリアに来ていると思います。」

 

 

 フェンネルの成績の心配をしていると、たまちゃんがそんな事を言った。どういうことかと言うと、町の人たちの会話が耳に入った時に、違和感を感じたのだという。

 それを証明するかのように、たまちゃんが近くにいた男性に声をかけに行く。

 

 

「すみません、ちょっと良いですか?」

 

「どうしたんだい? 私は()()()()の布教で忙しいのだが?」

 

 

 …………うん。まぁ分かってた(諦)

 『(())+()()』という単語なんて「ステラのまほう」では裕美音以外は積極的に使わないよね。分かる人にはもうこの一言で誰が呼ばれたか解っちゃうだろ。

 

 

「あっ、ご、ごめんなさい! 良いと思います。」

 

「分かれば宜しい。()()()()()()()などと抜かす輩がまだいるとは思わんのだがな……」

 

「……布田さんだな。」

「裕美音様ですね」

 

 

 あーあ。あやめちゃんもランプも分かっちゃったよ。口に出していない椎奈ちゃんと歌夜ちゃんも完全に察してるし。

 

 

「せ、攻め? 今の人が何を言っていたのか……全然分からなかったんだけど…………」

 

「私もですわ。ただ、普通じゃないのは分かりましたわ。」

 

「オッサンもだ。正直、イマドキの若いもんの趣味趣向は移りが早すぎてついていけねーよ………」

 

 

 きららちゃんとフェンネルは幸い、まだ知らない。そのまま純潔(腐的な意味の)を守ってほしい。あとナットは腐男女以外に喧嘩を売っているに等しいその発言をいますぐ撤回しろ。

 

 

「と、とにかく一刻も早く裕美音を見つけ出しましょう! このままいくと、この町でさっきの会話が繰り返されてしまいます!」

 

 

 うん。たまちゃんには賛成なんだが、情報収集のために腐の道には進みたくない。そんな腐男子の真似事をするくらいなら俺は……原作知識をフルに使って裕美音ちゃんのいる場所(地下教会)へ真っ直ぐ向かい、彼女を拉致してでもたまちゃん達と合流させるだろう。むしろ、そういった行動を起こす自信しかない。

 

 

「あれ? どうしたんですかローリエ先生? 先程は裕美音様がいるかもしれないとおっしゃっていたではありませんか。」

 

「ランプ、裕美音ちゃんの好きなものを思い出してみろ。俺は()()の否定はしないが、()()にどっぷり浸かる気はない。

 俺は女を愛するために生まれてきた男だ。それを腐らせるつもりはないぞ」

 

「ワガママ言わないでください! 裕美音様が見つからなくなるではありませんか!」

 

「ランプがいれば百人力だろ? それとも、唯一点を取れてた聖典学の知識にすら自信なくなったか?」

 

「それは………って、その手には乗りませんよ!!」

 

 

 むむむ……もうちょいでランプを乗せられると思ったんだがな…きららちゃん達と冒険してきて得たものでもあったのか?

 仕方ない。あの手を使おう。近くをたまたま通った綺麗なお姉さんに近づく。

 

 

「あの、すみませ〜ん」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「俺の連れ……この子達が、ユミーネ様の教えを授かりたいそうでして………」

 

「まぁ! そうなんですか?」

 

「ええ。是非、ひこぜめ?とやらの王道の基本からプロの考察までを叩き込んで頂きたく」

 

「お任せください!」

 

「なっ!?」

「ちょっ!!?」

「えっ!?」

 

 

 ここで俺は魔法カード「身代わりの闇」を発動!!

 ランプ・あやめ・珠輝をお姉さんに押し付け(リリースす)る事で、俺は腐女子講座から逃げられるって寸法よ!!

 フッ…、勝ったなワハハハ、裕美音を(合法的に)攫ってくる―――

 

 

「あ、お兄さんもご一緒に如何です?」

 

「えっ! お、俺ですか? すみません、急用を思いつい―――じゃない、思い出してしまって―――」

 

「男だからって怖がらなくても大丈夫ですよ。ユミーネ様は寛大です。それでは、崇高なる教えを賜りましょう」

 

「「「じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……………」」」

 

「…………………お前ら……

 ……ご、ごめんなさい、本当に急いでいて―――」

 

 

 寒気がしたので、すぐさま立ち去ろうとした―――その時。

 

 ガシッ、と。

 体を掴まれる感覚がした。

 

「!!?」

 

「おい…逃がすと思ってんのかよローリエさん……さっき散々あたしの黒歴史をいじってくれた仕返しだぜ………!!」

「裕美音を助ける為です。逃しませんよ……!」

「死なば諸共です、先生」

 

「じょ、冗談じゃねえ!!!? ヤメロー!!!」

 

 

 ローリエはにげだした! しかし必死の3人(ランプ・あやめ・珠輝)にまわりこまれてしまった!!

 

「それじゃあ、始めるわね?」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 正直に申し上げて、心が折れるかと思った。

 裕美音やその信者の語るBL論が理解できないとか分からないとかそういう訳ではないのだが、やっぱりキツい。男たる俺が腐の道を進んでいるような感覚がなんとも耐え難い。

 『人間の精神は納豆やヨーグルトじゃあない、故に腐ったらアウトである』というのが持論だったが故に思った通り―――否、それ以上の大ダメージを受けた。

 

『ろ、ローリエさん…? 大丈夫か…?』

『アーウン、ツヅケテー』

『おーい、これでも読むかー?』

『アーウン、ツヅケテー』

『うわぁ、これはダメだ。酷すぎる………!』

 

 受けたダメージを少しでも癒やすため、あやめちゃんから詩集を借りて(あやめちゃん自身も、詩集はナットから貰ったのだという)、腐の聞き込みの合間に読むことにした。

 

 詩は趣味ではないが、それでもBL理論をわんこそばのように食らわせてくる信者との会話よりかはマシだった。中には『八つの賢人』といった、読んだことのある詩や『風ニモマケズ』といった、前世の詩にかすりすぎて別の意味で危ないのもあった。そして―――その『八つの賢人』の詩の中に、下線が引かれている部分を発見する*1

 

 あやめちゃんに聞いてみれば、『オッサンが書いたみたい、理由は教えてくれなかったけど』とのこと。俺は早速、またBL理論を展開しようとしている腐女子町人をランプとたまちゃんとあやめちゃんに任せ、ナットに話を聞くことにした。

 

 

「オッサン、ちょっと良いか」

 

「なんだ?」

 

「この下線、オッサンが引いたのか?」

 

「……あぁ、あやめちゃんから借りたのか。で、下線だったな。確かにソレはオッサンが書いた。でも、理由とか聞くなよ」

 

「………やっぱり、面倒くさいからか?」

 

「分かってんなら聞くなよ」

 

 ……やはり、理由を教えてくれない取り付く島のなさはあやめちゃんから聞いた通りだった。普段からあらゆるものを面倒くさがってそうなナットだが、こんな変な所で頑ななのは妙だ。

 ……何を隠しているんだ? 隠し方にしたって「買ってあった詩集に元から引いてあった」という、オッサンの言うところの『もっとメンドくさくない答え』があったはずだ。それなのに、そう言わずに「自分が書いたが理由はメンドいから言いたくない」の一点張りって………

 

 

「そういやオッサン、出会ってからずっと俺達の一番後ろを付いてってるよな。アレとなんか関係あんのか?」

 

「………どうかねぇ。ただ、殿(しんがり)がオッサンの本音なのは本当の事だぜ」

 

 

 ……今の答え、若干間があったな。それに、どうも違和感を感じずにはいられない。何より、否定しなかった。

 なんだ?一体、何を隠している?

 オッサンの本当の実力か? 俺達を監視していることか? それとも…俺達の命を狙う第三勢力であることか?

 

 ここで有耶無耶にされたら、裕美音ちゃんを助け出してからクリエケージに向かうまでしかオッサンを問い詰めるチャンスが残らない。それは非常にマズい。

 

 考えろ!

 ナットに関することの何でもいい! どんな些細な事でも思い出して、このオッサンの先を読み取れ!!

 

 ナットに出会ってから今までを鮮明に思い出していく。

 

 額の傷に渋いバンデッドメイル&盾の歴戦の風格。

 全く危なげなかったオッサンの闘いっぷり。

 たまちゃんに似ているという、エイダという名の姪っ子のこと。

 あやめちゃんに詩集を渡したこと。

 いつどんな時でも、『殿が良い』とゴネまくっていたこと―――

 

 

 

「………殿(しんがり)?」

 

「あぁ、殿だ。()()()()()()()()()()()()()ぜ」

 

 

 一つの単語に引っかかり、そこからオッサンの発言に引っかかり、()()()()()()()()()()瞬間―――全身に電流が走る。そして、目の色を変えながら持ち物を探り、作図用の鉛筆を取り出した。目を向けた()()()()と鉛筆を使って()()()()を行って……………そして、あるメッセージの可能性が浮かぶ。その意味を理解した瞬間、言葉を失った。

 

 

「オッサン………マジか? マジに言ってんのコレ?」

 

 やっとの事で口にできた確認の疑問に、オッサンはただ不敵に微笑んでいるだけであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――ローリエがナットと会話している頃。

 BLにハマった町人達を相手に情報収集をしていたランプ達は、物騒な言葉を耳にする事になる。

 

 

「ユミーネ……その名を口にするんじゃあないッ!

 まきこまれたくなかったらな………」

 

「えっ、ま、巻き込まれる!? な、何かあったんですか?」

 

「『解釈違い』だ。我ら逆カプ派はアサシン部隊を結成する予定である……………あの憎きユミーネを排除するためにッ!!」

 

 

 ユミーネを排除。アサシン部隊の結成。

 物々しい証言にランプとあやめは面食らう。ただでさえBLトークに精神をすり減らしていた二人にとっては、まさに決定的ダメージを受けることとなった。その様子を見ていた椎奈はこれ以上の情報収集は不可能と判断、切り上げることにした。

 

 

「……藤川さんの情報収集はまだ簡単な方だったのね…」

 

「ユミーネ様って……一体どうなっているんだろう…?」

 

「いやー、ランプちゃんと関さんがいなかったらここまで集まらなかったよね、情報」

 

「ええ。男どもはどうにも役に立たなかった印象がありますわ」

 

 

 珠輝が友人の祭り上げられ具合に戸惑い、歌夜がランプとあやめのありがたさを痛感し、フェンネルが辛辣に肯定する。その場にいた男性二人は、さっと目を逸らした。

 ……擁護するようだが、ローリエは3人にBLトークに引きずり込まれた後、別に情報収集を怠っていた訳ではない。ランプやあやめと比べて、BLに対する耐性が著しく低く、先に限界が来ただけである。こればっかりは、ローリエの性別と価値観からなるものなので、責められる謂れはない。ちなみに、ナットは『BLというものをよく知らない』というエトワリア人特有の理由を盾にただサボっていただけだ。

 

「私は……いや、ボクは…一体どれほどのものを犠牲にしてしまったんだろう……………」

「うーん…とろろよりも大根おろしが好きで、雅介と二郎の関係性が―――」

 

 尤も、一番褒められるべきはランプとあやめだ。BLに理解と耐性のある女性のメンタルを上記のように直葬寸前まで削って集めた情報は唯一無二と言っても過言ではない。間違いなく情報収集部門のMVPである。

 

 

「おーい、戻っておいでー。ランプちゃんの話だと、布田さんが危ないんでしょ?」

 

「―――はっ!!! そうでした!!」

 

 その情報の中で特に問題になったのは、裕美音(ユミーネ)排除の為に少数派の『逆カプ派』がアサシン部隊を結成する予定がある、という情報だ。

 

「この町ではBLの布教が随分と進んでいるようで、既に解釈違いが生じています」

 

「解釈違いって?」

 

「あー……きららさんの純真さを見てると、心がかえって苦しくなるね………

 …解釈違いはAとBのカップリングがあったとして、その関係性が異なるものを言うんだ。」

 

「この町にはヒコを攻めとするユミーネ派とヒコを受けとするアンチユミーネ派がいるようですね」

 

「えーーっと……その、解釈違いが生じていると、どんな問題が起こるんだ?」

 

「戦争です」

「戦争だな」

「戦争なんですかッ!?」

 

 

 ランプとあやめがR-18に突っ込まないようにBLの基本知識に触れながら町の現状を紐解いていく。下手すれば戦争までいくという話に、きららとマッチを中心としたエトワリア民は動揺を隠せない。勿論ローリエは基本知識は知っているので例外だ。

 

 どこの世界でも、腐女子または腐男子のパワーを舐めてはいけない。特に強い愛着のある『解釈』を()()()解釈と甘く見てはならない。()()()解釈なのだ。

 解釈違いが生じる原因としては、そのコンテンツやキャラクター、カップリングに並々ならぬ愛情や執着心を持っているからであり、また、それぞれの腐女子が歩んできた人生も、どういった解釈をするかに繋がる。今までの経験から導き出した解釈が他人によって否定されたら、たしかに複雑な気持ちになる人がいるというのも頷ける話なのだ。

 故に―――解釈違い…『どちらを攻めにするか?』で意見が割れただけで親友関係が絶交し、時にはネット炎上や傷害事件さえ起こりうる。

 ランプとあやめの「戦争だ」発言は誇張でも何でもないのだ。

 

 それにしても、裕美音が広めたばかりだというのに、少数派とはいえ解釈違いがもう現れるとは、恐るべき布教スピードである。流石は愛(♂)の伝道師・布田裕美音だ。

 

 

「クロモンに突貫する女の子の次はアサシン部隊を結成されてまで命を狙われる女の子かよ。

 ……なぁ椎奈ちゃんよ、おたくらのお仲間ってどうしてそんなにヤベェの?」

 

「私に訊かれても困りますナットさん。でも、早く手を打たなければマズいですね……」

 

「ねぇ、ナットさん? いま私をヤベー女呼ばわりしなかった??」

 

 ナットは身も蓋もない言い方で、椎奈は的確に、裕美音のピンチを危惧する。歌夜があけすけなナットの言い方に突っこむが、それを拾う人は誰もいない。

 

「裕美音、大丈夫かな………」

 

「そこまでの事態になっていたなんて……」

 

 裕美音を探すつもりが、町の戦争寸前の解釈違いを巻き込んで壮大な状況になっていたことにきららは愕然とし、珠輝は渦中の親友を心配する。

 

「ともかく、私達が出来ることは一刻も早く裕美音様をお救いすることです。

 幸い目撃情報はさっきまでの会話で入手しています!」

 

「まさに時間との勝負だな。油断せずに、テキパキ合理的に進もう」

 

 

 ランプとローリエは、他の全員を急かすようにそれぞれの言葉で励ます。

 

 きらら達は、ランプを先頭にしながら町の中を走っていく。行き先は当然、裕美音の目撃情報があった地下へと続く遺跡のような場所だ。

 まだ見ぬ新たな愛の教祖―――もとい、残ったクリエメイトと1秒でも早く合流する為、全員の足が徐々に加速していった。

 

 

 

 

 

 

 

*1
『第60話:シナリオ担当と黒い歴史』参照




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 町の人たちの腐った話にSAN値が削られていった主人公。気分転換&精神回復であやめから借りた詩集を読んだことでナットに話しかけ、そこで何か重大なコトに気づいた。ちなみに、既にヒントは出尽くしている。例によってローリエのように先んじて『重大なコト』に気づいた読者は、感想欄での明言は避けていただけると幸いである。

ナット
 何かを隠している様子の謎多き怠惰なオッサン。BLトークで精神を削られているローリエを見て、BLというものは、人の精神を壊す恐ろしきものなのかと誤解(?)を深めていっている。隠し事(?)に気づいたローリエに対して不敵な笑みを浮かべていたが、それが意味することとは一体―――?

ランプ&関あやめ&本田珠輝
 早々にBL情報収集をリタイアしたローリエとは違い、SAN値直葬寸前まで情報収集をした粘り強い女神候補生&クリエメイト。ランプは聖典学の知識を、あやめはIri§の演技を武器に最高の仕事をした。なお、珠輝は男体化したら攻めという神聖視によって信者から情報のみを引き出せていたので、ランプやあやめよりもダメージは少ない。

きらら&フェンネル
 聖典オタクでもないために、BLに詳しくなく腐った町人たちの言葉が欠片も理解出来なかった本家主人公の召喚士&八賢者。所謂『ノンケ』と呼ばれる彼女達に腐った知識を教えようとしたあやめが罪悪感を覚えたのは無理もない。

村上椎奈&藤川歌夜
 コミュニケーション能力と肝っ玉の強さが致命的に欠けてるヤベー女とクロモンの群れに突貫したヤベー女。微力ながらも最後までランプ達の情報収集を行った。



聖典学と魔法工学が常に100点オーバーのローリエ
 何言っているか分からな過ぎてナニイッテルカワカリマセン共和国民になっている方々のために説明すると、当時からローリエはこの2科目においては無双とも言うべき卓越した知識を持っていた。それこそ、当時の聖典学と魔法工学の教師よりも優れていたと言っても過言ではない。二人のイジワル問題をものともせず、全問正解した上で誰も知らない予備知識をテストの裏面にびっしりと書いていた。200点300点という常軌を逸していた点数の裏にはこのような事があったのだ。

そら「ローリエ! また魔法工学の知識で先生をイジメたでしょ!謝りなさい!」←聖典学99点、魔法工学61点
ろーりえ「イジメたとは人聞きの悪い。先に俺のテストだけ全問引っ掛け問題にしたのはアッチだ。俺はそれを全問ボコした上に小型カメラと洗濯機の理論を裏にオマケしたに過ぎん」←聖典学195点、魔法工学288点
あるしーぶ「自重しろと言っているんだ、この馬鹿者が。どこに教師の面目を粉々にした上ですり潰す生徒がいるのだ」←聖典学96点、魔法工学97点



あとがき
 夏休みなので筆がより進みました。と言う事で、
 次回は『教祖ユミーネに会いに行こう その②』をお送りします。



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第63話:教祖ユミーネに会いに行こう その②

“BLこそが世界の正道。みんなの心に新たなる光をもたらしてくれるものとなるでしょう”
 …布田裕美音改め教祖ユミーネ


 根本の町の中心からやや外れた場所にあった、地下へと続く遺跡。それは、地下への階段を降りるとレンガを重ねて掘り進めた迷路のように入り組んでおり、数多く道が分岐していた。それこそ、手分けして探そうものなら道に迷ってしまいそうなレベルだ。

 

 こりゃ、探すのも一苦労だな。

 

 

「この地下道のどこかにいらっしゃる筈なのですが…」

 

「ひとしきり探しましたが…ここが最後の突き当たりですわね。」

 

「脇道も、扉もありませんでしたね」

 

「やっぱり、クリエメイトがいるというのは間違いだったのではないかしら。」

 

 

 難航した捜索の果てに辿り着いた最後の道は、フェンネルや椎奈ちゃんの言うとおりただの行き止まりにしか見えない。だが俺は、ソレがユミーネ派がアンチの目を欺く仕掛けだということを知っている。

 その上でよ〜く観察してみれば、行き止まりであるはずのその壁は、壁を映し出して入口を隠蔽する魔法―――否、魔道具が使われている痕跡があった。流石原作では誰も気づかなかっただけあって、なかなか巧妙に隠されているな。スゴく解析したい。

 

 

「で、でも入口近くでアサシン部隊の方々を見かけましたよ?」

 

「アサシン部隊を混乱させる為の偽情報だったかもしれませんわ」

 

 ランプとフェンネルの話し声が聞こえる。フェンネルの推測もいい線をいっているが、今回ばかりはランプの方が正しい。

 

 

「なぁオッサン、どう思う?この行き止まり」

 

 俺はメモを渡しながらオッサンにそう尋ねる。

 

「ん? オッサンに聞くまでもなく、お前さんなら分かるだろう、こんなモン」

 

 オッサンの答えと共に返ってきたメモに目を通し、それを懐にしまうと今度はきららちゃんに声をかけられる。

 

 

「あの…分かるんですか、ローリエさん?」

 

「ん? ………あー、まぁ教えてもいいか。

 ここな、すごーく上手に入口が隠されてるんだよ。この先にクリエメイトがいるかどうかまでは分からんけどな」

 

「流石、ローリエだね。じゃあ行ってみようか」

 

「おい待てマッチ」

 

「グエッ」

 

 

 マッチは俺ときららちゃんの会話を聞いて先を急ごうとする。大方、きららちゃんのパス探知を隠したいとするが故の行動なんだろうが、そうは問屋が卸さない。俺は、先へ行こうとするマッチのしっぽをマスコット停止ヒモとして掴んで止める。

 

 

「何をするんだ!? しっぽを引っ張るのは痛いからやめてくれないかな!!」

 

「常に飛行形態のお前には分からないだろうけど、こういうのって一歩先が断崖絶壁だったり罠のバーゲンセールだったりするのよ。迂闊に踏み入ると危険だぜ。

 それとも、そういう類の危険が無いって確信でもあるのか?」

 

 続きは、言うかどうか迷った。「―――例えば、クリエメイトのパス探知とか」とここで囁くのは簡単だ。しかし、おそらくその必要はない。ここまで言えば、きららちゃんが反論するからだ。

 

「いいえ……その心配はありません。ランプも間違ってません。この先に裕美音さんがいます!」

 

「随分と自信たっぷりじゃあないか。この先に道がある事を見破ったのは俺だけど、その先に誰かがいるとまでは言ってないぜ?」

 

「そ、それは………なんというか、上手く説明できないんですけど、分かるんです。」

 

 きららちゃんの説明は、思った通りに要領を得ないものだった。流石に、フェンネルの耳があるところで「パス探知」のことはあんまし言いたくないか。俺自身のことも八賢者として見ているのかもしれない。まぁ俺は知ってるけどな。

 

「よし。じゃあ、デバッグと行きますかね」

 

「え、ちょっと先生?

 いきなりデバッグって―――ちょっ!? 待ってください先生!!」

「おい、二人揃って壁に向かって走るやつがい―――あれ?」

 

 

 俺は壁に向かって走った。壁がどんどん近づいていき、ゼロ距離になっても岩壁にぶつかる気配はない。

 振り返ると、そこにはやっぱり岩壁しか見当たらない。しばらくしていると、ランプが壁から飛び出してきた。

 

 

「わあぁっ!!」

 

「お、来たようだな」

 

「先生! いきなりどうして……」

 

「俺の教える教科を忘れたのか? あの壁には、行き止まりと誤認させる仕掛けがあったのさ。超ハイレベルだったから、俺以外だと初見じゃ気づかなかったんじゃないか?」

 

「あっ、そうか………!」

 

「おーい、大丈夫かー?」

「ランプちゃーん、ローリエさーん! 聞こえたら返事をきてー!」

 

 おっと、まだ来ていない人達に安否を知らせてなかったな。あやめちゃんと歌夜ちゃんの声が聞こえる。すぐに無事を知らせないと。

 

 

「俺達は今、いしのなかにいるー!!」

 

「い…今石の中って…!」

「大丈夫じゃねぇ!!? な、なんとかして助けないと…!」

 

「ローリエ先生! ふざけている場合ですか!

 あやめ様、歌夜様ー! こちら問題ないですー!!」

 

 

 おおう、意外と通じたわ、このネタ。

 俺とランプの無事を確認できた皆は、次々とこちらに向かってくる。一列に並んで壁から透明化した幽霊のように出てくるさまはなかなかシュールだった。

 

 

「こんな空間が壁の向こうに広がってなんて……驚きましたわね。」

 

「あっ! 裕美音様があそこに!」

 

 

 ランプが指をさした方向を見る。そこには黒山の人だかりがわらわらと集まっており、その中心である祭壇に一人の少女が立っているのが確認できた。

 薔薇があしらわれたマリアヴェールをかぶり、白と赤の修道服を身にまとった少女――――――あー、間違いなく裕美音だわ、アレ。

 

 

「「「「BL万歳ー! ユミーネ様万歳ー!! ヒコ攻め万歳ー!!!」」」」

 

 

「さて………問題はアレをどうするかだけど……」

 

「あの中に入っていくのは嫌だなぁ……」

 

 

 マッチとあやめちゃんが呟く。

 裕美音が目の前にいるのに、周りの取り巻きたる腐男女の群れがイヤすぎる。目標まであと一歩だというのに、最後の砦が強固すぎる場面に出くわしたかのようだ。だが、このまま帰るわけにはいかない。帰りたいけど。

 

 

「うぅん…………あ」

 

「「「あ?」」」

 

 良い事思いついた。

 

「たまちゃん、一筆お願い出来ないか?」

 

「はい???」

 

 作戦を始める第一歩として、たまちゃんに紙と鉛筆を渡す。オイみんな揃ってその顔はなんだ。ちゃんと説明するから、「絶対やらかしそうだ」って目でこっちを見んな。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「さぁ……信じるのです。」

 

 ―――そこは、理想の世界だった。

 最初は、やけにリアルな夢だな〜くらいにしか考えていなかった。壁にぶつかった筈なのに痛くなかったし、その先に部屋まで見つけちゃったからね。

 そこに出入りする人たちは、全員が普段接しない人たちで、全員が普段見ない服装をしていた。珍しく、豊富なネタが集まれば、「fudafuda(ふだふだ)」としてインスピレーションが湧かないわけがない。

 

 

純白なるBL(イノセント・ボーイズラブ)に導かれし者たちよ………何も恥じることはありません。」

 

 

 私は、勇気を持って一人の女の人に私の話を聞かせてみた。………すると、彼女は私を肯定してくれたのだ。しかも、友人を呼ぶというリピーター付きで。

 しばらくすると、本当にその女の人がお友達二人を連れてやって来た。私がさっきの話をすると今度は最初の女の人含む三人に絶賛される。

 

 

「間もなく男の人がみんな男の人と付き合う世界が訪れます。」

 

 やがて三人が10人に、10人が20人に、20人が50人に………と集まった結果、私はいつの間にか「ユミーネ様」と呼ばれるようになった。

 

「すなわちBLこそが世界の正道。みんなの心に新たなる光をもたらしてくれるものとなるでしょう―――」

 

 驚くべきことに、ここまで来たというのに、私の解釈に異議を唱える人が誰もいなかった。皆が私の解釈を支持してくれた。こんなこと、即売会の打ち上げですら滅多にない凄いことなんだよ!

 

 

 ……そんな都合のいい世界なんて、ある訳ないんだけどね。

 でも、夢の世界なら、夢らしく自由でいたいじゃない?

 

 

「皆の者ー!! BLは好きですかー?」

 

「「「「BL万歳ー! ユミーネ様万歳ー!! ヒコ攻め万歳ー!!!」」」」

 

「「「「BL万歳ー! BLこそが世界の真理ー!! 珠輝様は攻めー!!!」」」」

 

 

 嗚呼、なんて最高な世界。

 このままずっと、覚めなければいいのにな―――なんてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「異議あり!!」

 

 

「「「「「「「!?!?!?」」」」」」」

 

 

 それは、機械で出した音声だった。

 まるで、刑事ドラマとかで良く見かけるタイプのボイスチェンジャーを使った声が部屋中に響いた。さっきまでの皆の熱狂が、水を打ったように静まり返る。

 声の主は、意外と近くにいた。全身をマントで包み、顔もサングラスと布で隠れていてほぼその人の特徴を見いだせない。

 

 

「誰だお前は!」

「ユミーネ様の教えに異議ですって!?」

「アンチだ! きっとアンチ派だわ!」

「万死に値する!」

 

 

 信者の皆が口々にそう言うのを気にも止めずに、私に近づき、あっという間に動きを止められた。信者に対して、私を盾にする形だ。

 

 

「さぁ…信者ども。異教徒と共に教祖を打ちのめす覚悟を持った者から石を投げるといい」

 

「ゆ、ユミーネ様を人質に!」

「汚いぞ!!」

 

 

 ひ、人質? それってあの人質??

 突然のことで混乱が収まらない。襲撃者に力一杯抵抗しても動かない。

 このままじゃどうなるかわからない。どうしよう………と思った時。

 

「これを」

 

「え?」

 

 まさかの襲撃者から何かを手渡された。ボイスチェンジャー越しの声ではなく、素の声でボソリと言いながら。

 それは小さな紙だった。しかも、そこには見慣れた字でこう書いてあった。

 

 

『裕美音へ

 その人と私達を信じて、合わせて 珠輝』

 

 

 たまちゃんの字!? こ、これって一体どういう事なの……!!? よく分からないけど…たまちゃんが信じてって言うなら、信じて合わせてみよう……!!

 

 

「BLが世界の正道だと? そんな世迷言は、『薔薇の間に割り込み隊長』のドリアーテが許さんッ!!」

 

「なんですって!!? そんな横暴が…許されると思っているのですか……!!」

 

「そうだそうだ!」

「ユミーネ様を離しなさい!」

「この異教徒め!」

 

「異教徒…? そう言ってられるのも今のうちだ…世は間もなく、第三勢力の我らの教え『割り込みNL』以外認めない風潮となる…その世界に貴様らは不要ッ!! そして、このドリアーテこそが………エトワリアの女王となるのだーーーッ!!!」

 

「「「な、なにィィィーーーーーッ!!!?」」」

 

 

 ごめんね、たまちゃん。早速だけどもう限界が来そうです。

 この機械音声の人、なんでここまで腐女子の地雷をことごとく的確に踏めるの? いくら信じて合わせてって言っても限度があると思うの。最終的にはキレるよ?

 

 

「そ、そこまでです!」

 

 

 ――! こ、この声は!

 祭壇の袖から別の人々が現れる。そこにいたのは、思った通り、たまちゃんがいた。あとたまちゃんの所属している部活の人達。あと、見慣れない赤髪の女の子と星の髪飾りとツインテが特徴的な女の子。あと、兵隊の鎧が似合うカッコイイ系の女の子も。

 

 

「ドリアーテ! 貴女の野望もここまでです!」

「自分の好みをおしつけるなんて、ぜったいにゆるしませんー!」

「逃しはしませんわ! ここの人達の夢と命は、このフェンネルが守ります!」

 

 

 ……あれ、ちょっと待って。星の髪飾りのあの女の子、演技力がアレすぎない?? 今の台詞、途中から棒読みだったよ!?

 でも、なんか安心してきた。今の棒読みのお陰で、さっきのが演技であり、たまちゃんの手紙が事実だって確信が持てたから。信者の人達にはまだ見抜かれてないのか、たまちゃん率いる突然の乱入者その②を応援しだしている。

 

 

「また来やがったな! だが、ユミーネがここにいる限り、私には手も足も出せまい!」

 

「それはどうかな?食らえー!」

 

 たまちゃんが指をふる。次の瞬間、謎の人物の背中が爆発した。もちろん、その人物だけを攻撃するかのような規模の小ささだ。

 その爆発を受けた途端、腕の拘束がゆるくなったのですぐさま脱出する。たまちゃんの大活躍(?)に信者達は大盛況だ。

 

「グワアァァァァァァーーーーーー!!!! し、しまった!ユミーネが!」

 

「ひとじちをかいほーしました!」

 

「次は貴女ですわ!」

 

「クソ! これで勝ったと思うなよ〜!!」

 

 

 小爆発にしては派手なリアクションをとり、わざとらしく私を解放した怪人は、煙玉をばら撒く。煙が立ち込めて、消えた時にはもう怪しい人はどこにもいなかった。

 ―――なんだろう、この子供向けのヒーローショーみたいな寸劇は。

 

 

「裕美音!!」

 

 と、とりあえずこっちに駆け寄ってきたたまちゃんを抱き止めた。最後の最後まで付いていくことは出来なかったけど、これも夢ならでは、って事で良いのかな??

 

 

「無事で良かった! ユミーネ様なんて言われて……裕美音はここで何をしてたの?」

 

「勿論、BLを広めてたんだよ〜。

 皆私の解釈に賛成してくれてさ。凄いことなんだ。

 まぁ、夢の世界とは分かってるけど、こういう時くらいは自由に―――」

 

「あのね、裕美音。ここは夢の世界じゃないんだよ。」

 

「あはは、夢の中でもたまちゃんは優しいなぁ。」

 

「ち、違うの! 本当に夢じゃあないの!!」

 

「え、まさか……まさかそんなわけ………

 …………ほ、本当に夢じゃあないの!?」

 

「だから、そうだって言ってるでしょ!!」

 

 

 信者の人達の「珠輝様万歳!」「攻めの珠輝様万歳!!」の拍手喝采の中、たまちゃんは皆を集めてこの世界の事を―――エトワリアの事を説明しだした。

 その時に知ったことだけど、ここまでBLが浸透したのも、私達を呼び出す魔法「オーダー」の影響なのだという。ううっ、BLで世界を変えるとか、始祖になるとかそんなつもりはなかったのに…………

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 どさくさに紛れて体を覆い隠すマントとサングラスを脱ぎ捨てて、ボイスチェンジャーをしまう。クリエメイト達の後ろに回り込む。そしてナットを見つけて小声で確認を行った。

 

 

「―――どうだった、オッサン? ()()?」

 

「……あぁ。ローリエが()()()()を出した途端に動揺したヤツが一人。ほぼ確定だろうな」

 

 

 ―――うん。作戦は成功だな。

 俺が立てた作戦。それは、俺が姿を隠してユミーネを攫う人になりすまし、きららちゃんとフェンネル、そしてたまちゃんがユミーネ拉致を阻止する()()をする。それをもってユミーネ教徒をきららちゃんと神殿の味方に引き込む作戦だ。勿論、敵役が己を「()()()()()」と名乗ることも忘れない。

 この作戦は危険がない故に、ほぼ賛成票を得て実現した。いちおう、ランプに「煽りすぎには気を付けてください。裕美音様の怒りを買ったら大変です」というありがたいアドバイスは貰ったが。

 

 ……この作戦には、他の狙いもあったけど、それも達成できたようでなによりだ。裕美音に「サングラスの女(暫定)=俺」と気づかれていないようなので完璧である。

 

 

「よし。これで裕美音ちゃんとも合流できたな。しかし、クリエケージの在処がまだ掴めていないみたいだけども。」

 

「そのクリエケージってやつを壊して、私達が元の世界に帰ればいいんですよね?

 んーそうだ! それなら、皆に聞いてきますね」

 

 

 聞くって何を―――と誰かが言う前に裕美音は近くの人から何かを尋ねはじめた。あっという間に人が集まり、数分会話すると裕美音が戻ってくる。

 

 

「クリエケージの場所が分かりましたよ〜!」

 

「この一瞬で、ですか!?」

 

「うん。蛇の道は蛇ってね。町のBL仲間に聞いたら、裏情報も手に取るように集まっちゃった。」

 

「……その情報網に感謝せねばなりませんわね。アサシン部隊の動きを察知してここに移動したのも、ソレのお陰でしょう」

 

 何たることぞ。裕美音のBL仲間の情報網、ハンパなさすぎません? ジンジャーの金髪メイド部隊と引けを取らない情報収集スピードってどういうことなの。

 

 

「あぁ……それと―――

 

「!!?」

 

 

 ゾクリ、と背筋が凍りつく。裕美音のこっちを見る目は墨を垂らしたように真っ黒だ。なぜだ…どうしてそんな目でこっちを見る? 嫌な予感しかしない。

 

 

「さっきの発言について…色々と聞かせて貰いますね、ローリエさん???」

 

「え……いや、何のことだか―――」

 

「BL仲間が教えてくれましたよ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を」

 

「………………………」

 

 

 バレテーラ。最悪だ。

 ユミーネ教徒のヘイトを買うために「ドリアーテ」の名を借りて散々悪口に等しい過激な発言をしてきたが、どうやら一番裕美音の怒りを買ってしまったらしい。あの発言の数々が演技であり、本心じゃあないことは分かっている筈なんだが、「それはそれ」ってことなのか!!?

 

「ほら!だから言ったじゃあないですか! 裕美音様を怒らせるなって!!」

「作戦を立てたローリエの自業自得だね」

「ですわね。反省してもらういい機会かと」

「あ、あははは………」

 

 皆がみんな「あーあ…(呆)」みたいな雰囲気になっている。助けはまず望めない。

 と……とりあえず! こういう状況になったら、取れる手は一つしかないッ!!

 

 

「このことはどうかご内密に………」

 

 

 平謝りである。ここでユミーネを拉致ろうとしたドリアーテの正体がバレたら作戦が一気に瓦解してしまう! フェンネルを中心に俺を見る目が一気に冷めるが命より重いモノはない。

 

 

「……じゃあ、エトワリアにおけるBLの保護。宜しくお願いしますね♪」

 

 

 これが……後にエトワリア創作界の一大勢力を担うことになる、BL勢力の始まりであった。…心が挫けそうです、ハイ。

 

 

「あ、あの……裕美音さん、クリエケージは…?」

 

「あ、そうそう。それなら案内できると思うよ。

 ここからちょっと離れてるから歩くことになるけどね」

 

「とにかく、クリエケージが見つかったのなら向かうとしよう。早く神殿に進まないとね」

 

 

 先を行く皆の中、唯一凹んでいる俺を励ましてくれたのは、なんとナットだった。何も言わずにポンポンと肩を撫でるだけだったが、それでもいくらか心が軽くなったのである。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 こうして、BLという(エトワリアにとっては)新しい概念を巡ったユミーネ騒動は終わりを告げた。これによって今回、『オーダー』によって呼び出されたクリエメイトは全員きらら一行withフェンネル&ローリエ&ナットによって保護されたことになる。

 

 ―――だが、まだ戦いは終わっていない。むしろここからが本番だ。

 

 

 

 

 ナットはひとり、少し過去のことを思い出していた。内容は…ドリアーテの依頼の事。

 

 

『もし私の依頼をこなせれば、貴方の大切なもの……それが二度と誰かに奪われない事を保証します。

 此度(こたび)は頼みますよ、ナット――――――()()()()()……或いは()()()()()と呼ばれた男よ。私の依頼を必ずやこなしてほしい』

 

『どの口が言ってんだか………』

 

 珠輝には言葉を濁して誤魔化したが、ナットはかつて傭兵だった。ドリアーテは、その頃のナットの実力を頼りにして依頼したのだ。

 その依頼内容とは―――

 

 

『召喚士きららと八賢者ローリエ。それらに組する人間。そして、「オーダー」で呼び出されるクリエメイト。

 ―――ソイツらの()()()()さ』

 

 

 ナットは、反論したかった。お前は傭兵を殺し屋か何かと勘違いしているのかと。依頼の難易度が高すぎると。だが……彼はそうしなかった。()()()()()でドリアーテの機嫌を損ねるのを避けたかったのだ。

 

 

『…………………………しゃーねぇな、わかったよ。オッサンは()()をこなす。お前さんは()()を渡す。そこはしっかり守ってくれよ?』

 

『あぁ。必ずな』

 

『頼むぜ…? 傭兵と依頼人を繋ぐ唯一の信頼の証だからな』

 

 故に、こう答えざるを得なかったのだ。

 ナットも、ここまで来たら覚悟を既に決めていた。

 

 

(……あとは、オッサンの覚悟とタイミング次第、か。

 メンドくせぇが、俺にも譲れないモンがある……

 …………恨むなよ)

 

 

 だが、ぐうたらで怠惰なオッサンはそれを口にすることはない。

 ただひたすらに、己のタイミングを測るのみである。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 壁の魔法を見破り、裕美音救出のためにひと芝居打って悪役をこなした八賢者。作戦は功を奏し、BL勢力の人間の殆どは八賢者フェンネル所属の神殿や召喚士きららに良感情を持つようになり、またドリアーテと第三勢力を敵視するようになった。ただし、ヘイトスピーチが度を越していたため、裕美音にバレた時は思い切り叱られた。ナットと秘密裏になにか話していたようだが……?

布田裕美音
 エトワリアに召喚された事態を「夢を見ている」と勘違いしたせいで欲望のままにBLを広め、あっという間に教祖ユミーネとなったたまちゃんのお友達。ドリアーテ(仮)に乱入された時は動揺しまくったが、たまちゃんの一筆ときららの演技()で落ち着きを取り戻す。ただし、演技と分かっていてもドリアーテ(仮)のBLを侮辱する発言は許さなかった。

ナット
 来たるべき依頼を前に、覚悟を決めるダメなオッサン。その覚悟を胸にどんな行動を取るのか、次回に乞うご期待。

きらら&ランプ&マッチ&フェンネル&本田珠輝
 裕美音を救出する役を演じた方々。裕美音とローリエ曰く、きららは演劇素人よりもヒドかったが、それ以外はなかなかサマになっていたという。なお、ランプだけは裕美音が後で恐ろしいほど怒るだろう事は察知していた。



行き止まりに見える通路
 原作ではデバッグと称して「オーダー」で生まれた場所のような言い方をしていたが、拙作はもともとあった地下教会の跡地への入口として登場。壁にしかみえない魔法or魔道具は、弾圧から逃れる為に有用であることから元々あったのではないかと考えた。魔道具にしたのは、フェンネルですら気づかない高度な偽装魔法を一般ピープルは覚えられないだろうと考えての事。これなら、かつての遺物を整備することで使うことができる。

いしのなかにいる
 元ネタはロールプレイングゲーム『Wizardry』に登場する最も悲惨な全滅の状態を表す文言。宝箱に仕掛けられているテレポーターのトラップで壁の中に閉じ込められた時にこうなる。今後一切の行動ができなくなり、死亡するだけでなく、デスペナルティとしてそのキャラがロストするという、昨今のゲームでは考えられない重罰が課されるという、プレイヤーのトラウマである。

薔薇の間に割り込み隊長
 万死に値する隊長の亜種。おそらく女隊長。ちなみにオリジナルは『百合の間に割り込み隊長』であるが、やっぱりこっちも万死に値する隊長である。
 元ネタは、2019年9月頃流行った「カードゲームのカードの名前を組み合わせる大喜利」の作品の一つ。当時は多くのカードゲーマーを笑わせてきたが、百合の間に割り込むのは当然許されない。



△▼△▼△▼
椎奈「布田さんとの合流を果たし…もうすぐクリエケージの元へ辿り着く……そう思ったのが、私の油断だったんでしょうか…」

珠輝「いいえ、部長さん…私がいけなかったんです。異世界のおじさまを前に舞い上がってしまった私が…!」

歌夜「その辺に…しよう、二人とも。普通、アレは予想できない。」

裕美音「ぐうたらなおじさんにしか見えなかったナットさんが、かつては伝説の傭兵だったなんて……嘘ですよね、フェンネルさん!?」

次回『大地の神兵』
フェンネル「次回もお楽しみに、ですわ!」
▲▽▲▽▲▽


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第64話:大地の神兵 その①

椎奈ちゃん視点とフェンネル視点で参ります。


“目の前がまっくらになりました。あの嫌な景色は、正直もう思い出したくありません。”
 …ランプの日記帳(後の聖典・きららファンタジア)より抜粋


 ローリエさんの頓珍漢というべきか、妙案というべきか……そんな奇策によって布田さんを救い出した私達は、ついにクリエケージの元へ向かいます。

 

 

「皆、準備はいいかい?」

 

 マッチが声をかける。

 そういえば、あやはどこに? 本田さんと藤川さんと布田さんがいるのに、あやだけ見かけ――

 ……いました。見回してみれば、後ろの方にいたローリエさんとナットさんと一緒に何か話しています。

 

 

「あやー、ローリエさん、ナットさん、行きますよー」

 

「「「!!!!!」」」

 

 

 ……全員、肩をビクつかせました。しかし、すぐにこちらに向かってきます。何なのでしょう?

 

 

「3人とも、さっき何の話をしていたのですか?」

 

「え゛っ!!? えーと……」

 

「俺とオッサンが男同士の秘密の話をしてたら―――」

 

「男同士の秘密!?!?!?!?」

 

「裕美音ちゃん、君の想像する事みたいなアレじゃあないから戻ってなさい。………で、話をしてたらあやめちゃんが注意してきたんだよ。な、オッサン?」

 

「んぁ? ……あぁ、そうだな。女の好みを話しただけだってのに、最近のガキんちょはませてんだから。」

 

「だろ、あやめちゃん?」

 

「えっ!!? 私!!!? えーと……そ、そうだな!いくらなんでも。えー……あ、夜のアレコレについて語るのは言い過ぎだ!」

 

「どうしてあやが一番動揺してるのよ」

 

 

 というか、あやが男の人の話に注意? なんだか、らしくありませんね。…ですが、そんな事もあるのでしょう。それほどまでにローリエさんとナットさんのデリカシーが欠けてたと考えれば納得いきます。夜のって、つまりそういうことですよね。まったく………

 

 

「…お二人とも。好みの話をするのは男性である以上仕方ない部分もあるかも知れませんが、せめて誰にも聞かれないようにお願いします」

 

「はーい」

「うーす」

 

 やる気なさげなお二人の返事と共に、先頭のフェンネルさんが歩き出しました。

 あとはクリエケージに行くだけだというのになんだか疲れますね……と、思っていると。

 

 

「わたし、やっぱり聖典と……珠輝様たちクリエメイトの皆様が大好きなんです。」

 

 

 ランプさんの、そんな声が聞こえてきました。

 

「でも、歌夜様をお助けする時や、裕美音様をお助けする時も、結局皆さんのお役に立つことはできなくて……変に勘違いをして、かえって皆様の足を引っ張ってしまいました。

 わたしにはきららさんやフェンネルみたいに力もなければ、マッチやローリエ先生みたいに知識もありません。魔法も使えないですし、今まで自信を持てていた聖典の知識も結局、珠輝様たちにはかないませんでした。

 

 ―――誰かの役に立てないとダメなのかなって思ったんです。わたしは、どうしたら誰かの役に立てるんだろう。」

 

 

 それは……ランプさんが一切見せなかった、苦悩の証。自分は無力なんじゃないかという悩み。彼女はそれをぽつりぽつり、と隣を歩く本田さんに話していました。盗み聞きをするつもりはありませんでしたが、耳に入ってしまったのです。そしてその苦痛は、私には痛いほど分かるものでした。

 

 

 先輩が卒業した後、SNS部の部長を継ぐことになった私でしたが、ふとした時に考えてしまうのです。自分と先輩の、圧倒的な差を。何でもできたあの人に比べて、自分は大したこともできない………と。そう思ってしまうのです。

 私はその悩みを思い出すたび、ドツボにハマっていたような気がします。

 ………いけませんね。思いだしたらまたモヤっとしてきました。ですが……

 

 

「わたしは、皆様と違って何もできないままなのかなって―――」

 

「ううん、違わないよ。」

 

 

 そういう時、私たちの心に響く声をかけてくださるのが、本田さんなのです。

 

 

「私も先輩たちに助けてもらってばかりで、どこまで役に立っているのかわからなくなっちゃうから。」

 

「……珠輝様もですか?」

 

「うん。でもね……それでいいと思うの。

 私は昔から遊びを考えるのが好きで、今もそれは変わらない。ただ―――先輩たちとゲームを作るのが楽しくて、だから頑張れるんだ。

 今、ランプちゃんはきららさんと旅をして、私たちと出会って、楽しいって思ってくれてる?」

 

「それは…………はい!もちろんです!」

 

 

 ……些か恥ずかしいことも平気で言ってきますが、本田さんはそういうことすらも、本気で言ってくるのです。心の底から本気でそう思ったことを言うのです。お陰で、SNS部も潰れずに続けることが出来ているのだと思います。……こんなことを言えば、本田さんは思いきり謙遜するでしょうけれど。

 

 

「なら、大丈夫。誰だってみんな、自分にしか出来ないことをしているから。

 私はSNS部でそれを知って、ちょっと気が付くことができたの。だから、まだ気づいていないかもしれないけれど、必ずランプちゃんにしか出来ないことはあるよ。」

 

「わたしにしかできないこと………」

 

 

 本田さんの言葉に、ランプさんは表情が明るくなる。目元にキラリと光ったものが見えたことについては、見なかったことにしておきましょう。

 

 

「それにね、好きなものを好きと言って悪いことなんてない! ってね。私も先輩たちに教えられたから。」

 

「なんだかそう引き合いに出されると恥ずかしいな。」

 

「「!!」」

 

 あ、あやがランプさんと本田さんの話に割って入っていきましたね。「好きなものを好きと言って悪いことなんてない」って、あやの言葉でしょうに。ま、同感ですけど。

 

「あや、自分の言ったことには責任を持たないと。」

 

「いや、それはそうなんだけどさ!」

 

 そう言うあやは、なんというか………ただでさえ欠けている落ち着きが一層欠けているように見えました。心なしか、顔色も悪いです。

 

 

「あや?」

 

「!! な、なんだよ、しー。」

 

「…………何か隠していませんか?」

 

「……な、なんのことだ?」

 

 

 スゴく怪しいです。

 こっちを見ようとしませんし、目が泳いでいます。まるで締め切りが間に合ってないのを隠している時のようです。

 

 

「どーでもいいけどさ、お二人さん。とっとと先行こうぜ。オッサン早く帰りたいんだわ」

 

 なぜか私達に割り込んできたナットさんによって追及ができなくなってしまいましたが、後で話は聞くからね、あや。

 ただ、本田さんが布田さんと藤川さんに声をかけ、先を急ぐ雰囲気だったので私たちも足を動かし始めなければいけませんね。

 

 

 そんな風に考えた時でした。

 

 

「ん? どうしたんだオッサ―――うっ!!?

 

 

 あやのちょっとくぐもったような声が聞こえたのは。

 

 

「うぅぅ………がはっ………!」

 

「えっ……!?」

 

 

 明らかに異常な声に急いで振り返りました。そこに見えたのは、思いもよらぬ光景でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナットさんがあやの鳩尾(みぞおち)に何かを押し付けているように見えるのです。握っているのはまるで十字架のような形でしたが………なんだか、何かの柄のように見えます。

 彼がそれを引き抜くと、真っ赤に濡れながらも銀色に光る何かが現れました。そして、あやの目が見開かれたと思えば、口元から赤いものを吹き出して…ふらふらしだす―――

 

 

「あやめ様っっ!!!」

「あやっ!!!!!」

 

 

 今まで聞いたことのない引き裂かれそうな悲鳴が、喉から出ました。そして、滅多に出ないような速さですぐにあやを受け止めました………ど、どうなっているんですか………!! 何故……どうして、この子がこんなに真っ赤に濡れて倒れているんですか!!!

 

しー…?

 

「喋らないでください……傷が開きます!!!」

 

 

 私達のやり取りで周りが騒がしくなります。

 ローリエさんと本田さん達が近づいてきて、回復魔法らしき光を手から放ちます。

 

 

「…ダメだ……出血が酷すぎて、傷が塞がんねぇ!!!」

 

「そんな……!!!」

 

「急所を刺したのか………! ナットの奴……!」

 

「おじさま!!! どうして――どうして関先輩を、こんな目にっ………!!!!!」

 

 

「『どうして』だと……?

 そんなモン、こうだからに決まってんだろ」

 

 

 ナットさんは、荷物から黒い盾を取り出し、背中の長槍を引き抜き。そして―――私達の進路に立ち塞がったのです。

 藤川さんを助けた時に使ったプレッシャーを放っていました。ただし、圧の強さはあの時の比ではありませんでしたが。

 

 

「お前らの討伐依頼を受けたのさ。特に恨みとかねぇけど……悪く思うなよ」

 

 悪く思うに決まっています……! 誰のせいで、あやが血まみれの瀕死になっていると思っているんですか…!!

 

 

「おのれ…よくもクリエメイトを!

 貴方だけは楽には死なせませんわ―――ナット!!!」

 

 フェンネルさんのレイピアとナットさん―――いいえ、ナットの槍が交差して、金属音を鳴らす。そこで私は再び意識をあやに向けました。

 

 

「あや……ごめんなさい…! 私が、最後の最後で油断していたばっかりに……!」

 

「違います、部長さん! 私です!私がおじさまを前に舞い上がってしまったから………!!」

 

「……よそう、二人とも。あやめちゃんの傷を治すのが最優先だ」

 

 私も本田さんもあやを気にかけようとしますが、空回ってしまいます。どうしても、ナットの接近を許した私がこんなに憎くて仕方がありません……! 藤川さんだって、顔を見れば本当は何を言いたいのか分かりますよ………!!!

 

「そ、そうですね…………だ…大丈夫よ、あや………すぐにローリエさんときららさんが治してくれます。だから―――」

 

みんな…ありがとな………あと、ごめんよ……

 

「―――!! 謝らないでっ!!!」

 

 つい怒鳴ってしまう。いや―――涙で前がまともに見えないですから、悲鳴だったかも、しれませんが。でも、こうでもしないと―――

 

 ―――あやが……あやが遠くへ行ってしまいそうです。

 

 

私…もうちょっと、皆でゲーム…作りたかったな……

 

「そんな言い方はやめて……わたしだっで、こんな中途半端は嫌ッ!!!」

 

あれ……春馬?信人?きてたんだぁ

 

「…あや?何を言ってるの…?」

「まずいよ…かなりの重傷だよ…!?」

「関先輩! 気を確かに!!」

「わたしは…どうして、こんな時に、なにもできないの……っ!」

 

 

 あやのうわごとに嫌な予感がしました。それは布田さんも本田さんも同じようです…!ランプさんはぼろぼろと涙を流しながら地面を殴りつけました。

 こうして話している間も、ローリエさんが回復してくださっているようですが、効果が………っ!

 

「ローリエさん! もっと強めの回復魔法を―――」

「――すまん。俺じゃあこれが限界だ」

「そんな……!!」

 

悪ぃ、姉ちゃん………ちょっと…ねむい………わ…………………

 

「あや?あや!! 寝ちゃ駄目!

 お願い、目を開けて!!!」

 

 

 信じたくありません。あやの手が…私の手を握り返す力がだんだん弱くなっていきます……!!

 

 お願い、あや……生きて……お願い…死なないで―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……………」

 

 

 光が強くなってきました。振り向くと、そこにはローリエさんの他に回復魔法を使っていると思しき私と同じくらいの女の子が二人……!

 

 

「お待たせしました!」

 

「あ…貴方がたは………!?」

 

「ゆのです!」

「忍と言います!すぐに治しますね!!」

 

「お願い、します………」

 

 

 それしか言えなかった。藁にも縋るような声だったと思います。それと同時に、ローリエさんがお二人にひとこと言うと、フェンネルさんの方へ走って行きました。

 

 

「ゆの様!忍様! お願いです!!あやめ様を―――」

 

「当然だよ!今の私は『そうりょ』なんだから……!!」

 

「絶対に助けます!」

 

 

 ゆのさん、忍さんと呼ばれたお二人の杖の輝きが更に強くなっていきます。それが周囲だけではなく、壊れかけた私の心のヒビも暖かく照らしているような気がしました。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「おのれ…よくもクリエメイトを!

 貴方だけは楽には死なせませんわ―――ナット!!!」

 

 

 瞬間、私のレイピアとナットの槍が交差する。

 衝撃波が巻き起こり、二人はそれぞれ距離を取りながら地面に着地する。

 

 今度はナットが槍を振るう。

 すると、宙に浮いた土がひとりでに槍の形に成形され始めます。

 そして――ナットの神速の突進と共に土の槍が一斉に襲い掛かる。

 襲い来る槍を次々と捌きつつ、ナットの突進を受け流しました。ナットは大柄です。私では重量的に正面から受け止められません。

 

 

「―――オラァァ!」

 

「くっ……!」

 

 

 突進を躱されたと認識した瞬間の攻撃。しかも、槍を振るうだけではなく、穂先を地面につけ、魔力を流しての二重攻撃です。

 槍本体の一撃は避けられましたが、地面が棘のように変形して襲い掛かってきた光景は目を疑いました。

 そのせいで、いくつか掠ってしまいます。

 

 

「……ナット。一般人とは何の冗談ですか? 貴方の力は、『一般』を明らかに逸脱しています」

 

「…いても良いだろ、強え一般人くらい。お前さんこそ防御能力狂ってんのか? メンドくせぇ」

 

 

 貴方みたいな八賢者と渡り合える一般人がいる訳ないでしょう。

 現に……私には、目の前のナットの戦い方に心当たりがあります。

 神殿で騎士として文武を修めてきた者なら一度は耳にする通り名。土の魔力。黒い盾にバンデッドチックな鎧。そして長槍。

 もし彼が私の思った通りの人間であるならば―――口惜しいですが、()()()()()()()()()()()()()

 

 

「しらばっくれるのはやめた方がよろしいですわよ?

 ……『大地の神兵』ナット……!」

 

「……随分懐かしい通り名で呼んでくれるな。分かったところで、お前さんはオッサンに勝てんのか?」

 

 

 勝てるかどうか、ではありません。

 全てはアルシーヴ様の為。あの方の道に立ち塞がるものは全て倒す。

 それが例え―――最強の傭兵と謳われた、『大地の神兵』であっても!!

 

 

「とりゃーーーーーー!!!」

 

「!!」

 

 

 突然、緑色の剣の一閃がナットに襲い掛かりました。

 ナットはそれを盾で受け流すも、それを仕掛けてきた意外な人物に、目を見開く。

 その正体は、簡単に言えばクリエメイトでした。ベレー帽にサメの袖が目立つ服、サメの腹にフォークが刺さったような……え、それ武器なのですか…?

 

 

「貴方は………?」

「桜ねねです! フェンネルさん?の助っ人に来ました!」

「さくっ……! ンでここに聖典の人間が…!?」

 

 

 きららの『コール』ですね。私への助っ人―――なのかどうかは分かりませんが、ナットが敵だと認識したのでしょう。ですが、数が少ない。

 もしや、関あやめの回復に人員を割いているのでしょうか。だとしても―――

 

 

…好都合です。私が防御をしますので、貴方は斬りこみなさい!

 

「おっけー!!」

 

 今度は私が仕掛けます。距離を詰めて、レイピアを振り上げます。かなりのスピードで踏み込んだつもりなのですが、これにも長槍と大盾で反応できるナットはもはや一般人ではありませんわね。

 ……ですが、私の狙いは、攻撃ではありませんのよ!

 

 

「フォースキャンセラー!!」

 

「!?」

 

 魔力を込めた私のレイピアは、ぶつかったナットの長槍が纏う覇気のようなものを削いでいきます。

 『フォースキャンセラー』。相手の攻撃力を徐々に奪っていく剣技ですわ。続いて、敵を翻弄する剣舞をたて続けにお見舞いしてくれますッ!

 

「メガロマニア!」

 

「ちっ――!!」

 

 ナットの視線は私の剣戟にばかり集中し、いらだたし気な声が漏れました。

 奴が私に夢中になっている隙に、桜ねねが後ろ側――ナットの死角側に回り込んでいます。武器強化抹消、混乱、そして正面からは私の全力。気づいていたとしても対処などできませんわ!

 

 

「たああああああああああっ!!」

「おおおおおおおおおおおっ!!!」

「はああああああああああッ!!」

 

 

 三種類の雄たけびが響き、大地が割れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……土煙が晴れていく。

 私は…信じられなかった。

 

 フォースキャンセラーで自己強化を消した。メガロマニアは確かにナットを翻弄した。桜ねねの攻撃も、『コール』のお陰で力が増強されているからか力強かったし、タイミングも完璧だった。

 

 

「う、うそ………!?」

 

「………危ねー危ねー。ギリギリだったぜ。思ったより体が動かねぇ、か。年は取りたくないね」

 

 

 それなのに、私の剣と桜ねねの武器を槍と盾を器用に使って防いでいるナットは、もはや化け物と言わざるを得ません。

 『大地の神兵』相手に今ので勝てるとは思っていませんでしたが、ここまで効かないとなると嫌気が差しますね。

 

 

「……その割には、汗一つかいていませんわね。貴方は化け物ですか?」

 

 自堕落なオッサンはどこへやら。目の前にいるのは、れっきとした百戦錬磨の強者ではありませんか。

 

 

「現役時代にゃよく言われたよ。失礼しちゃうよな、ちとイケイケだっただけだってのに―――黒神鉄装甲(アダマンタイト)

 

 

 ナットが両足をがっしと踏みしめると、地面にヒビが入りました。…続いて、肌を焼くような熱風……!

 

「土の魔力じゃない……!?」

「うわちちちち!!? 何これ、風が熱いんだけど!?」

 

「他でもない俺の魔力だぜ? 対策してて当然だろ!」

 

 とんでもない魔力です。普通、個々に眠る魔力は一つのはず。

 私は月、アルシーヴ様もまた月、ローリエは…知りませんが、おそらく陽でしょう。ですが、2属性同時というのは聞いたことがありません……!

 おそらく、基本的にはその身に宿った土属性で戦い、弱点が突かれそうな時は炎属性魔法で牽制する………といったところでしょうか。なんて狡猾な戦い方をする男なのでしょう…!

 

 

「さぁて……もうちっと準備運動に付き合ってくれや」

 

 

 …私は、これまでの人生の中で最大の危機にして最強の相手との戦いが始まる予感が、既にこの時点でしていた。

 

「オッサンは関節が固いからな……準備運動は欠かせねーんだ、マジで」

 

 初めて出会った時の「自堕落な中年」やら「完全にダメな大人」といった印象など、とうに綺麗さっぱり吹き飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

村上椎奈
 親友が刺されるというショッキングな場面を目撃してしまったSNS部部長。この時ばかりはコミュ障とか血がつくとかそんなものをかなぐり捨ててあやめに呼びかけている。あやめの死を何より恐れていて、心が崩壊寸前まで行った。

関あやめ
 普通のJKではまず体験しない事を体験した女子高生。
 しー、ごめんよ。私は―――

ナット
 あやめを刺して『討伐依頼を受けた傭兵』の面を全面に出し始めたダメなオッサン。かつては『大地の神兵』とまで呼ばれ、桁違いな力を誇っていたという。現役を退いて年をとった今でも、無類の強さを持っているようだ。ちなみに、全身は基本的に土属性だが、無理やり炎属性魔法を覚えたことで、低威力ながら苦手属性への牽制になっている。

フェンネル&桜ねね
 ナットと戦う八賢者&クリエメイト。フェンネルは防御に長けており、バフ消しや混乱を使ってまでナットを抑えこもうとするも、ねねが苦手な炎属性魔法をナットが使ったことで状況が一変した。

本田珠輝&藤川歌夜&布田裕美音&ランプ&ゆの&大宮忍
 あやめに駆け寄ったクリエメイト+α達。ゆのっちとシノはきららに大急ぎで『コール』され、あやめの治療に専念している。

百武照
 SNS部の創設者にしてOB。彼女が椎奈、あやめ、歌夜を巻き込んで部を創設。彼女が卒業した後、あやめに部長の座を継がせた。




△▼△▼△▼
きらら「ローリエさん、ナットさんからアレを奪うのを手伝って貰えませんか?」

ローリエ「アレって何よ」

きらら「ナイフです!」

ローリエ「そんなもん気にして何になるのさ。大体、あやめちゃんを刺した奴を無罪にする訳ねーだろーが。」

きらら「………ローリエさん?」

次回『大地の神兵 その②』
きらら「次回もお楽しみに。」
▲▽▲▽▲▽

あとがき
 ようやく書けたぜ。
 次の話も、明日の昼くらいに予約投稿しますんでよろしくお願いします。


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第65話:大地の神兵 その②

きららファンタジア、サービス開始1000日おめでとうございます。記念として何か特別編を書く時間はなかったけれども、せめてこんな形でも祝わせてください。
さて、今回はフェンネル視点ときらら視点でお送りしますよ。


“大地の神兵? あぁ、ちょっとした知り合いよ。昔はお互いヤンチャしたものだわ。……うっかり試合が死合になるくらいにはね”
 …とある元・勇者の証言


 ナットの周囲には変わらず熱風が吹き荒れる。

 正直、手詰まりと言っても過言ではありません。微々たる量とはいえど、この熱風がジワジワと体力を奪っている感覚を覚えるのです。これは、かなり厄介です。

 ただでさえ凄まじい頑丈さと状況対応力、そして頭の回転を持っている『大地の神兵』です。そんな敵を相手に持久戦は、いくら私の得意分野でも分が悪いです。熱風と相性の悪い桜ねねなら猶更のこと。

 

 さり気なく後方にいるきららにクリエメイトの交代を呼び掛けたいですが、ナットはなぜ桜ねねが現れたのかを知らない様子。召喚士がいると彼に情報は与えたくありません。

 

 

「来ねぇーならこっちから仕掛けるぞ―――」

 

 ナットが再び地面に槍の先端をつけると、その場でこちらに振り回します。槍の刃が描いた軌道の形の斬撃が、矢のような攻撃が、こっちに飛んできますわ…!

 

「ダイヤモンド・ダスト!!」

 

 それらの規模は、一面に広がった豪雨みたいではありませんか! ここまで一斉に攻撃を放てるナットは、もはや自身の仮の姿を完全に脱ぎ捨てましたね。

 しかし…

 

「うわわわわわ!!? どっどどどどどうしよう!?」

「落ち着きなさい……私はアルシーヴ様の盾!!」

 

 防げない程ではない!!

 

「クレセントフレア!」

 

 

 紫色の流星群のような魔法が剣先から放たれ、ナットの斬撃の瀑布とぶつかった途端に大爆発を起こした。

 

 

「突っ込みます!!」

「えええええっ!!?」

 

 

 爆発の煙が消えないうちに、桜ねねの手を引き、クレセントフレアで空いた斬撃の瀑布の穴を突っ込む。

 少々無謀ですが、ナット相手に棒立ちはそれよりはるかに危険です。

 

 

「ハッキリ申し上げておきます、桜ねね。ナットは史上最強の傭兵ですわ。真っ向勝負していい類の人間ではありません」

 

「えええええっ!! 嘘ぉぉぉ!!!?」

 

 

 大地の神兵。

 それは、かつて傭兵ナットに付けられた通り名です。

 曰く、勇者や己を含めた数人で百万の兵を蹴散らした実績があること。

 曰く、その魔力は圧倒的な制圧力に長け、無双の剛力を誇ったこと。

 曰く、彼が暴れる証に地震や地割れなどが挙げられたこと。

 しかし、その偉大な称号も十年ほど前からは噂で聞かなくなり、今では教科書のキーワードに成り果ててしまったこと。

 

 こうして挙げてみた訳ですが、つまり彼は生きる伝説のような相手ですわ。生半可な実力や策では歯が立たないことは明白。1秒1秒が勝敗を分ける敵を前に、技を相殺してそのままは「隙を突いてくれ」と言っているようなものです。

 

 しかし、彼に私達の討伐依頼を受けさせるなど、どうやったのでしょう………? まぁ、良いです。

 

 煙を斬り裂き、ナットがいたあたりを見れば……予想通り、誰もいません。もう既に場所を変えた証左ですわ。

 

 

「警戒を怠らないように―――」

 

緋々色(ひひいろ)の金槌」

 

「「!!?」」

 

 

 いまだ晴れない土煙の死角から、ナットが現れた。二人の死角が重なるピッタリのところから、です。

 ……その手の長槍の穂先に、巨大な長方形の…まるで石切り場から切り出したブロックのような大岩を突き刺したまま。そうすることで、大きさも発想も桁違いな槌を一時的に作り出したのです。

 しかも――恐るべきことに、そのブロック岩は、どういう原理か赤熱化していたのです。感じる魔力は土ですが、アレをまともに食らうのはまずい!!

 

 

「―――ッ、ムーンキャリバー!!」

「ぐっ、うううっ、はあああああ!!!」

 

 

 私も桜ねねも、咄嗟に高火力の斬撃を放つも……

 

 

「ドおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

「「きゃああああああああああああ!!?」」

 

 

 瞬間、この身を浮遊感が襲った。

 いや、状況はわかる。二人がかりで、ナットの膂力(りょりょく)に負けたのです。

 ダメージが蓄積していく感触と宙を舞う感覚を感じながら、なんとか足を地面に向けて、着陸に備えながら考えます。

 

 ……強い。

 どうして言ノ葉の樹の根本でぐうたらしていたのかが分からないくらいに強い。

 私はまだ体力に余裕がありますが、この後召喚士を石化させて神殿に連れて行くようアルシーヴ様から言われております。いざという時の為に温存はしておきたいです。

 だからといってナットが手加減して勝てるかと言ったら、否です。そもそも、手加減する余裕まではありませんわ。

 ……現に、桜ねねはもう既に息が上がっている状態です。『コール』で呼び出されたクリエメイトがどうなるのかは気になりますが、これ以上ナットと戦うのは危険でしょう。

 

 

「…桜ねね、一旦下りなさい」

 

「ええっ!? で、でも、フェンネルさんは……」

 

「もうボロボロではありませんか。それに、私はまだ平気ですわ。伊達に八賢者の座についていません」

 

「で、でも一人は……」

 

「いいから早く!」

 

 

 私が声を少し荒げてようやく言うことを聞いてくれた桜ねねは、一目散にきららのいる後方へと走っていった。その間、何故かナットは動きませんでした。

 

「……随分余裕ですわね」

 

「苦手属性の反撃がメンドくさかっただけだよ。

 ……さ、そろそろ本番と行きますか!!」

 

 暴風雨のような斬撃を放って、大岩を振り回してようやく準備運動終わりですか。つくづく嫌になりますね……!!

 

 いつでも受けられるよう構えた瞬間、ソレは始まった。

 

 

「―――ふっ!」

「!! ―――しっ!!」

 

 長槍の刃と柄が私に襲い来る。

 レイピアと防御魔法でいくらいなしても、その度に変幻自在に攻撃パターンが変化する。中年らしく、力強さと技の冴えだけでなく、老獪さも槍の連撃から感じます。

 

 槍の突き、柄、槍、また槍、柄。器用に暴れるという芸当をやってのけるナット。槍を弾いたところで私は、異変に気が付き―――

 

(……妙に軽い? 私ですらかろうじて気づく軽さを…………何故?)

 

 

 ―――嫌な予感がしました。

 盾を持つ手を見てみると、そのまま私を狙ってきます。まさか、このまま盾で殴る気―――

 

 

「―――っ!!?」

「!!?」

 

 

 突然、ナットが転がって距離を取りました。地面を良く見ると何か小さな穴がえぐれていました。ナットが見つめる方向に目を移せば、そこにいたのは―――

 

 

「……オッサン。そこまだ」

 

 

 まさかの、ローリエでした。

 服装も髪の毛も、目の色だっていつも通り。ですがその表情は分かりやすい程の怒りに染まっていた。

 

 

「…ローリエ、関あやめは?」

 

「峠は越えた。ゆのっちとシノが治療中だ。

 ……あそこまでしでかしたら、お前に言うことは一つだけだ」

 

 ローリエは懐から変わった武器――あとで拳銃という、弾を高速で発射するモノとお聞きしました――を取り出す。両手に持ったそれらのうち一つをナットに向けます。

 

「―――ナット。お前を殺す」

 

「やってみろ」

 

 

 瞬間、何かが爆発するかのような破裂音が鳴る。

 盾と槍を構え鎧が擦れる金属音がする。

 2つの音が同時になり、そのコンマ数秒の直後に金属同士が派手にぶつかったような高い金属音が響きました。

 しかし―――ローリエはナット相手にはかなり不利です。あの重量と長いリーチは私以外にはどうにもなりません……!!

 

 

「ルナティックフレア!」

 

「!!」

 

 レイピアの先が光った途端、ナットが大爆発しました。

 悪いですが、これは戦いです。それに、相手は私達よりもはるか格上です。

 

「…モード・オリハルコン――」

 

 ―――無傷!? 今の爆発を至近距離で受けて……

 

 

「――イレイズ・カウンター!!」

「―――っ!!?」

 

 

 今までの攻撃の何よりも冴え渡ったカウンターの一撃。

 完全に隙を突かれた攻撃、でした。

 

 

「きゃあ!!?」

「……ッ、お前っ!!」

 

 私は物理攻撃には滅法強いと自負しています。ですのでこの程度わけないのですわ。

 ……強がりではなくってよ…? それなのに、ローリエは憤怒の表情を一層険しくしてナットに魔道具らしきものを向けて攻撃しています。

 ……アレではナットに簡単に隙を突かれてしまいます…! 私と『コール』のクリエメイトでもまともに隙を突けなかったどころか、二人の死角をまんまと突いてきたのです。頭に血が上っていれば、足元を掬われるのは明白………!!

 

 

 しかし、ナットはローリエの攻撃を大盾で防ぐだけで、何もしてきません。

 こ、これは一体………!?

 

 

「…どうした? 近づかないのか?」

 

「……地雷をたんまり仕掛けておいてよく言うぜ」

 

 

 下を見てみれば、ひび割れた地面と列を組む蟻くらいしかいません。不自然なものは一切見当たりませんし、先ほどまでの激戦の最中に地雷を仕掛ける余裕があるとは思えません。

 するとナットは舌打ちを一つしてから、片足を振り上げました。

 

「…メンドくせぇな。まとめて起爆させてやるか!!」

 

 そして、そのまま地面に向かってかかと落とし。…すると。

 

 

 

 

ドオオオオオーーーーーーッッン―――!!!

 

「こ……この揺れはッ!?」

「なんなんですか、地震!!?」

「…いいえ、ナットさんが起こしてるものです。見てください、あそこ!!」

「え………これを、ナットが!?」

 

 動揺するクリエメイトたち・召喚士・ランプとマッチ。

 私自身も、大地震にでも遭ったかのような揺れを受け、一瞬体勢を崩しかけました。

 

「アレをナットが……!? な、なんてメチャクチャなやつなんだ!」

「きららさん…なんとかなりますか?」

「わからない……ねねさんももうギリギリみたいだったし…」

 

 後ろの面々は地震と錯覚するかのような衝撃を放ったナットに驚いているようですが……私はそれ以外にも驚くことがありました。それは―――

 

「………蟻たちが飛んでいる…!?」

 

 さっきまで地面を歩いていた()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。それも一匹や二匹ではありません。ざっと見積もっただけで()()()()()

 

「…すげー地震だったな。バランス崩すところだったぜ」

 

 蟻たちはローリエを守るように四方八方を飛び回っています。ナットはそれを見ているだけです。ただ、様子を伺っているかのように。ま、まさか……ただの羽蟻じゃあない!?

 

 

「そいつら一匹一匹がお前さんの魔道具かい……? さっきの飛び道具といい、末恐ろしい武器だな。

 現役時代にそんなのがなくて良かったよ」

 

「今でも十分脅威的みたいだな」

 

 

 お互いがそう言うと、今度はナットが長槍を振るいます。連続突きが魔力を纏って私達に飛んできます。まるで無数の砲台から、魔力のレーザーを放っているかのようです。

 

 

「ミスリル・ラッシュ!!」

 

 

 対するローリエはというと……なんと、技を使うこともなく、その身ひとつで砲撃の数々の間を縫うようにかわしているではありませんか。暇さえあればジンジャーとカルダモンと私で散々揉んでやりましたが、その時の逃げ足並みの軽やかさです。

 

 ローリエはその間にも攻撃の手を緩めていません。拳銃をナットに向けて発砲したり、魔道具の蟻をこっそりナットに近づけさせたり、大型の銃で発砲したりしていました。私もまた、クレセントフレアやルナティックフレアで加勢いたします。

 

 しかし、ナットはそれでも悠々と戦い続けています。拳銃の見えない攻撃を防ぎ、蟻を近づけさせずに起爆させたり、己の身を私の爆発魔法から守ったり……と防御行動だけでなく、砲撃のような突きと波のような斬撃、そしてカウンター攻撃で緩急をつける。八賢者ふたりを前にしても尚、『大地の神兵』たる所以を見せつけてきます。

 

 

 事態は一進一退、硬直状態です。…今のところは。

 このまま戦いを続けても、体力の問題があります。ナットの体力をこれまでの言動から考えると……やはり、加齢のことがあっても、私たちよりあると想定して良いでしょう。このまま時間をかけても私達が苦しくなるだけ。

 ……しかし、決め手が欠けるのも事実。私自身の手札ではどうにもならないのもまた事実。

 ローリエの武器ときららの『コール』。

 これらでどうにかナットを倒せれば良いのですが……

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 あやめさんの治療をするゆのさんと忍さんに力を注ぎながら、私はフェンネルさんとナットさん、そしてローリエさんの戦いを見ていた。

 

 戻ってきたねねさん(今はもう帰りました)からナットさんがとんでもない力の持ち主である事を知り、また先程の地震を体験して、それが本当である事を確信しました。そもそも、普通の人は槍の突きがビームみたいな砲撃になったり大岩を軽々と持ち上げたり出来ません。『コール』したクリエメイトでも無理でしょう。

 

 

「おじさま、めっちゃ強かったんや……」

 

「そうだね。でも、あれだけの力がありながら、私達を襲おうとする理由が分からないよ」

 

「言われただろ、依頼されたって。理解出来ないかもしれないけど、傭兵ってそういうものだよ。

 依頼を受けたら、たとえ親しい間柄でも依頼を優先する。ナットがさっき、あやめを刺したみたいにね」

 

「…マッチ。椎奈様を思いやって」

 

 

 ナットさんが私達を狙う理由か……

 

 あやめさんが刺されて、大量に血を見てしまった私は、大慌てで癒やしの力を持つクリエメイトを『コール』し、その後ナットさんを倒すためのクリエメイトを一人呼んだ。

 でも、今冷静になってみると、何ともおかしい事に気がついた。

 

 まず、ナットさんがどうしてあのタイミングであやめさんだけを刺したのかが分かりません。

 ナットさんの実力なら、最初の一撃であやめさんだけでなく私達全員を吹き飛ばす事が出来たはずだ。それが一番「面倒」じゃないはずなのに。でもナットさんはそれをしなかった。

 

 何より、あやめさんのパスから感じる感情に違和感を覚えたんです。

 ……「罪悪感」でした。恐怖でも混乱でもなく、罪悪感を強く感じたのです。特に、椎奈さんが泣き始めるとその罪悪感は強くなっていきました。

 なぜあやめさんが罪悪感を覚えているのか?

 もしかしたら、ナットさんの最初の攻撃。あの時に何か秘密があるのかもしれません。確か、あやめさんを刺したナイフはナットさんがそのまま持っていったから………

 

 

 あやめさんの容態を確認しながらゆのさんだけを帰し、代わりに他の方を『コール』します。

 

「き、きららさん…? どなたを喚ぶつもりで―――」

 

 

 『コール』に応じてくれたのは、茶髪をサイドテールに結んだナイトの方でした。珠輝さん達と比べて年上な印象です。彼女が現れた瞬間、忍さんが反応しました。

 

 

「久世橋先生!!?」

 

「はっ!!?く、久世橋先生ですか!? でも、どうして今………」

 

「……久世橋先生。忍さん達を見ていただいても宜しいですか?」

 

「良いですが、貴方はどうするつもりなのですか?」

 

 私はこれから、少し無茶をするつもりでしたが、久世橋先生に引き止められるようにそう訊かれました。……仕方ありません。こうなったら素直に言うしかないですね。

 

 

「私はこれから、フェンネルさんとローリエさんの助太刀に行きます」

 

「「「!!!?」」」

 

「む…無茶です! あんな凄まじい力を隠してたナットと戦うつもりですか!?」

「……正気かい、きらら?

 ナットの強さは、ここからでも感じ取れるくらいに異常だ。正面から戦っていい相手じゃあない」

 

「二人とも、安心して。

 ちょっと確かめたいことがあるだけだから」

 

 

 そう言うと、まっすぐ3人の戦っている場所へ急行します。

 

 こっちに気づいたナットさんが、魔力の刃を放ってくる。

 私は、自身に強化をかける。かける種類は………速度強化だ。

 ナットさんのとんでもない攻撃力は後ろからも十分すぎるほどに確認できた。いくらジンジャーさんを見習って編み出した攻撃力強化だとしても、一発当たれば終わり、という点は変わらない…と思う。

 

 

 カルダモンさんのスピードを思い出しながら、飛んでくる斬撃の隙間を速く、でも正確に通り抜ける。そして―――蹴りを一発!

 

 

「……ちっ!」

 

「はっ!」

 

 

 スピード特化の一撃はナットさんの盾の守りを抜いて腕に当たりましたが、そもそも攻撃力に魔力をかけていないので、さほどダメージは与えられていないみたいだ。

 

 

「…なんだ嬢ちゃん? 子供が大人の争いに首を突っ込むと死ぬぞ。…引っ込んでな」

 

「……ナットさんに聞きたいことができました。引っ込むわけにはいきません!」

 

「あっそ。じゃあ後悔すんなよ?」

 

 

 ナットさんは軽くそう言うと地震のような足踏みをする。そして、ねねさんを追い詰めた熱風が再び巻き起こり、肌を焼き付けた。

 

 

「きららちゃん!? 何でここに!」

 

「ナットさんの持っているナイフに……あやめさんが刺された刃物に何かがあるからです!」

 

「何か、とは?」

 

「分かりません。でも、ナットさんからそれを奪えば分かります!」

 

 

 ローリエさんとフェンネルにはこう説明する。だけど、二人とも難しい顔をした。

 

 

「……マジ? 倒せるかどうかの問題なのにそんなこと言う?」

 

「…ですわね。こちらにそのような余裕があるとでも?」

 

「もしかしたら、ナットさんとこれ以上戦わずに済むかもしれません!」

 

 

 フェンネルさんが不思議そうな顔をする。

 ローリエさんが一瞬、小さく笑みを浮かべる。

 そして、ローリエさんが武器を―――私と戦った時に使った武器と同じものをナットさんに向けます。

 

 

「きららちゃん―――」

 

 

 …え? ローリエさん!? どうして、そんなことをするんですか―――

 

 

 

半日前に聞きたかったな

 

「ちょ、ちょっと待っ―――!!」

 

 

 

 私の制止も空しく、小さな爆発音が響いた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キンッ

 

 

ゴギャン!!!!?

 

「「!!!?」」

 

 

 そして…男性の悲鳴がしました。ですが……ローリエさんの声でも、ナットさんの声でもありません。

 ならいったい誰の……と思ったところで、近くの茂みから一人の男性が倒れながら出てきたんです!

 

「ローリエ!」

「分かってるよ!!」

 

 その男の人が現れた途端、さっきまで戦ってたはずのローリエさんとナットさんが連携しだしました。

 

「駄目押しだ、オラオラオラ」

「ほぅ…コイツ『ジュド・モナス』って名前なのか……だが慈悲はない」

 

 ローリエさんは、既にぐったりしている男の人に向かって武器を向け、バンバンと撃ち始めて……ちょっと!その人意識ないですよ!!

 ナットさんは、男の人を持ち上げて両手を首に巻き付け、締め落とそうと……って、もう意識落ちてますから! それ以上やったら死んじゃいます!!

 

「……ナーイス、オッサン」

「ローリエこそ、いい腕してんな。お陰で手間が省けた」

 

 しかも―――完全にその人の意識が無い事を確認した途端、ローリエさんとナットさんがいい笑顔でハイタッチをして………こ、これは、どういうことなんですか…………????

 

 

 

「ちょ…ちょっと待ちなさい!!

 これはどういう事ですか!!? まるで意味が分かりません!!

 ローリエ!ナット! 貴方達は組んでいたのですか!!! ちゃんと説明しなさい!!」

 

 

 フェンネルの混乱した声で二人とも動きを止めた。

 良かった…誰だか分からないけど、いきなり攻撃なんてダメだからね。でも、彼は一体何者なんでしょうか………??

 

 

「……あぁ、そうだな。ちゃんと説明しなくっちゃあな………ローリエ頼む。オッサン、メンドくせぇわ」

 

「丸投げかよ……」

 

 ナットさんから説明を押し付けられたローリエさんは、頭を掻きつつ「簡単に説明するぞ」と口を開く。

 

 

今叩き出してボコったこの男は、オッサンが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「!!!?」」

 

「更に裏がいるだろうが……ひとまず、オッサンが言ノ葉の樹にいたのは、()()()()()()()()ということになる」

 

 

 監視役……その存在が、ナットさんの立場をより面倒くさくしていることを私が知ったのは、この時だった。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ&ナット
 『監視の男』を再起不能にするため、決別して戦うフリをしていた主人公八賢者&マダオ。実は、監視についてのフラグは今までにいくつかあった。ソレを次回で一気に回収する予定。

フェンネル&きらら
 ナット相手にそれなりに戦えていた八賢者&あやめの感情の違和感に気づいてナットの元へ向かった原作主人公。その結果、ナットに監視がついていた事をローリエの口から知ることになる。

久世橋朱里
 聖典『きんいろモザイク』に登場する、忍たちの先生の一人。教科は家庭科。生徒のために働く良い教師なのだが、表情の固さと若干の口下手、自他ともに厳しい性格が災いして伝わりにくい。
 拙作ではナイトとして登場。しかし今回はきららの代わりに他のクリエメイトを見ていてほしいと頼まれただけだった。

ジュド・モナス
 ローリエが仕留めた『監視の男』。ドリアーテの部下でありナットの仕事ぶりを報告するよう命令されていたが……ローリエの跳弾によってほぼ一言も喋らずに再起不能(リタイア)に。だが、どこかの奇妙な冒険では一言も喋らずに再起不能になる某ケニーGや某アラビアンファッツがいたりするので比較的マシな扱いの部類ではある。名前のモデルは緑膿菌とも呼ばれる『シュードモナス』から。



ナットの技
 基本的に鉱物の名前を使用している。ダイヤモンド、アダマンタイト、オリハルコン、ヒヒイロカネなど硬度が高いものや伝承の中にしか存在しない鉱物を優先的に採用している。『大地の神兵』に恥じない強力な技をイメージした。



△▼△▼△▼
フェンネル「まったく、肝を冷やしましたよ!敵と内通しているのかと思いましたわ!」

ローリエ「あー…その部分についてはマジで悪かった。詫びといっちゃあ何だが、俺とオッサンが裏で何をしてたのか、包み隠さず全部話すさ」

フェンネル「当然ですわ。…そういえば、ナットが刺した関あやめは無事なんでしょうね?」

ローリエ「あぁ、そのことなんだが―――」

次回『三人の舞台裏』
ローリエ「……次回もお楽しみに!」
▲▽▲▽▲▽


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第66話:三人の舞台裏

「あっちこっち」参戦おめでとうございました(過去形)。
伊御がいないのは残念ですが……まぁ、いずれ男子が参戦することに期待しましょうか。

伊御「音無伊御。つみきはいるか?」
タカヒロ「香風タカヒロ。ラビットハウスのバーのマスターをしている。娘が世話になっているようだね」
ディーノ「ワタシはディーノと申しマス。普段はスティーレの店長として頑張っていマスが、ここに来たからには苺香サンの為に頑張りマス!!!」




“いつもの明るすぎる星のような目を真っ赤な怒りに染めて、彼女は云った。『小さな女の子一人救えないで、女神様など救えない』…と。”
 …ランプの日記帳(後の聖典・きららファンタジア)より抜粋



 

 

 フェンネルときららちゃん、そしてオッサンを伴い、監視の男を厳重かつ強固に縛り上げて連行しながら椎奈ちゃんらの所へ戻ると、なんとそこでくっしーちゃんが武器を構えてオッサンに向けたのだ。

 きららちゃんが事情を話すと、構えを解いてくれた。

 

「……そういえば、ナットが関あやめを刺したことを忘れたわけではないでしょう? 許されると思っているのですか?」

 

「…あぁ、そのことね。―――あやめちゃん、()()()()()ー!」

 

 俺がそう呼び掛ける。すると……

 

 

 

「―――やっと終わったのか、ローリエさん。あとちょっと遅かったら誤魔化せなかったよ?」

 

「「「「!?!?!?!?」」」」

 

「あ、あやめ様…!?」

「まだ動いちゃ駄目!! 傷口が開くわ!」

「あやめちゃん、何、どういう事!?」

 

 そう答えたあやめちゃんが椎奈ちゃんの手を離れて悠々と立ち上がった。

 SNS部の皆が心配の声を上げる。……が、心配には及ばないのだ。

 

 ……そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「あー…ゴメン、これには深い事情があってだね………」

 

「良いか、ちょっと時系列を整えて説明するぞ。

 アレは裕美音ちゃんを見つける前のことだ―――」

 

 俺は、皆がこれ以上混乱する前に説明を始めることにした。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 俺が異変に気付いたのは、オッサンがあやめちゃんに渡した詩集と「殿がオッサンの本音だ」という言葉を照らし合わせた時だ。時系列で言うと裕美音ちゃんへの聞き込みの真っ最中だ。

 まずは、問題の詩集の下線部を以下に列挙してみよう。

 

筆頭神官は女

神官の頭の意

誰が

悪人

欲望を閉じ

思慮深い賢者は智

朝に夕なに

信徒

調停をもたら

照らされ

敵をたおし

勇猛果敢

全てに等し

日を斬り拓く

八つの

 

 これらとオッサンの「殿がオッサンの本音だ」という言葉―――これを照らし合わせ、下線部の一番後ろを読むと……

 

【女意が人じ智に徒られた敢し明光】

 

 もちろん、このままでは意味が通じない。そこで、読み方を工夫する必要がある。

 「女」は女神(めがみ)の「め」、「明」は明日(あす)の「あ」なのでそれぞれそう読み、最後の「光」は「ひかり」とひらがなで読んで一番後ろの「り」を読む。そして、全部ひらがなに直すと……

 

【めいがひとじちにとられたかんしあり】

 

 ……そして、これを別の漢字に直すと。

 

()()()()()()()()() ()()()()

 

 

 ……となる。

 そう。ナットは詩集と言動を使ってSOSを出していたのだ。

 そして俺がこのことに気づいて……

 

『オッサン………マジか? マジに言ってんのコレ?』

 

 ―――そう口にした時、オッサンは小さなメモを差し出してきた。そこには、こう書いてあった。

 

 

お前さんが読み取った通り、エイダが人質に取られたのは事実だ。

 俺は、エイダを返してもらうことを条件にお前さんらの討伐を依頼された。ご丁寧に監視付きでな。

 だが俺はなんとかして監視を無力化したい。協力を頼めるか?

 

 

 オッサンのその行為で、俺は周囲を見回したい衝動を我慢した。

 ナットは、監視の人間に「監視されていることに気づかれた」と悟られたくないのだと。

 それ以降、ナットとはフェイクで日常会話から女の趣味談義までの話をしながら、()()()監視を無力化する作戦を練っていた。

 

 

「オッサン、そっちの壁、何か仕掛けとかあったか?」

監視を倒す時の合言葉を決めるべきじゃないか。俺がオッサンの名前を呼んで「お前を殺す」と言うのが合言葉とかどうだろ

 

「んー……いや、なんもなかったねぇ。お前さんが見つけられないモンなら、オッサンにも分からんよ」

合言葉自体は良い発想だ。だが、監視を倒す時はどうする? 武器を直接向けるのは絶対ナシだぞ。下手に感づかれたらオシマイだ

 

「そっかぁ。じゃあ仕方ない。他を探すとしますか」

俺の飛び道具の跳弾で倒す。腕は信じてほしい

 

 

 ……とまぁこんな感じで二人で色々と決めていたのだ。

 

 オッサンが敵対するタイミング。

 それに対するきららちゃん達とフェンネルの行動。

 監視を見つけるタイミング、そしてソイツを倒すタイミングも。

 

「―――どうだった、オッサン? ()()?」

「……あぁ。ローリエが()()()()を出した途端に動揺したヤツが一人。ほぼ確定だろうな」

 

 ちなみに、裕美音ちゃんをド派手に救出した上にドリア―テの名前を出したのも、多くの腐った町民や腐ってない町民の中から監視の男・ジュド・モナスを炙り出すための作戦でもあったりする。

 

 だが、そこでちょっとしたイレギュラーが発生した。

 

 

「なぁ、何してんだー?」

 

「「!!」」

 

 

 それは、あやめちゃんがオッサンからメモをぱっと攫いながら聞いてきたのである。完全に不意打ちだったため、俺もオッサンも反応出来なかった。そして、彼女はメモの内容を―――オッサンの姪っ子が人質にされている事を知ってしまう。

 

「お…おい、これって―――むぐっ!?」

 

「(それ以上は絶対に言うな。悟られたらお終いだ)」

 

 あやめちゃんは頭が良い方ではないが、その一言で事の重大さをある程度理解したようだ。そして、少し動きが止まったかと思うと……

 

「…なぁ、書くもの貸してくれ」

 

「はい?」

 

 言う通りに鉛筆を貸せば、彼女はメモに何かを書いていく。そして、見せてきたメモには、こう書いてあった。

 

 

オッサンの姪っ子を助けるために、あたしに何ができる?

 

 

 ……と。

 

 俺は感心した。会って間もないオッサンの、見たこともない姪っ子のためにこんなことが出来る子だとは思っていなかったのだ。その事を含めて彼女に「どうしてそう思った」と訊けば、「本田さんに似ているとあっちゃあ一度見てみたいからだ」とのこと(もちろん筆談だ)。これにはオッサンも苦笑いだった。

 だが、オッサンの苦笑いはすぐに『笑い』が取れ、『苦さ』だけが残ることになった。

 

気持ちだけ受け取っておこう。お前さんは何も知らないフリだけしてくれればいい。

 

 そうなのだ。

 あやめちゃんは、現在オーダー中のクリエメイト。きららちゃんに『コール』されているクリエメイトとは違い、戦うことはできない。

 オッサンが提示したベストアンサーに、あやめちゃんは唇を噛む。まぁ実質的な戦力外通告だし、事実なんだけど納得いく訳ないよなぁ。

 

 

 だが、俺は思いついた。

 あやめちゃんに作戦の協力ができ、かつ監視に怪しまれずに騙す方法を。

 それが、あの恐るべき『あやめちゃん、オッサンに襲われたフリ作戦』だったのだ。俺考案のケチャップ味血糊とマジックジャックナイフ(宴会芸で良くある引っ込むヤツ)を使えば実現できるものだ。

 

 敵を騙すには味方からとは言うが、この作戦なら、二人の演技力と血糊次第できららちゃん以外全員を騙せるだろう。

 残りのきららちゃんも問題ない。あやめちゃんのパスを感じ取れれば、違和感を抱かせて俺とオッサンの戦いの場に割り込ませることができるのだから。その時に監視を始末して、事情を説明すれば良い。

 

 問題は、あやめちゃんがこの作戦を行う際に生まれる罪悪感や良心の呵責に勝てるかどうかだった。

 

……という手もある。やってもいいしやらなくても良いが、仮にやるなら終わるまで貫き通して貰う

 

 俺はこの作戦を事細かにあやめちゃんとオッサンに説明し、判断を委ねた。オッサンは『まぁそう使うならアリにはアリかな』という顔と雰囲気を出す。

 そして、肝心のあやめちゃんは………

 

オッサンは、姪っ子さんを救う為に覚悟決めてるんだろ?ならあたしだって覚悟決めなきゃな

 

 ……どうやら、後で椎奈ちゃんに泣かれる覚悟を決めたようであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……ということがあったんだ」

 

 

 ローリエさんの説明が終わった後のあたしの気持ちは、例えるなら判決を待つ被告人のようだった。

 だってそうだろ? 口と胸から血ノリを吹き出すマネまでして、しーや他の皆を心配させた挙句、騙したんだ。もしあたしが、しーに同じ事をやられたら「ふざけんな」って怒鳴る自信がある。

 覚悟を決めたとはいえ、血ノリに沈むあたしの周りで号泣する皆を薄目で見たあたしは、何度もすぐに立ち上がって「冗談だよ」と言ってしまいそうになった。でも……それじゃあ、オッサンの姪っ子が助けられないのだと言う。だったら、と皆を騙している罪悪感を飲み込んででも重傷者を演じ続けた。

 喉のどうしようもない苦味は、血ノリのケチャップ味では到底紛らわせそうになかった。

 

 

「そう………だったんですか……」

 

 しーがこっちに近づいてくる。表情は、読めない。あたしは口を噛み締めた。

 怒ってる……よな。騙したんだから。

 

『あや……ごめんなさい…! 私が、最後の最後で油断していたばっかりに……!』

『違います、部長さん! 私です!私がおじさまを前に舞い上がってしまったから………!!』

『……よそう、二人とも。あやめちゃんの傷を治すのが最優先だ』

 

 

 しーが一歩、こっちに向かって足を踏み出す。部の皆の心配する声が蘇る。

 

 

みんな…ありがとな………あと、ごめんよ……

『―――!! 謝らないでっ!!!』

私…もうちょっと、皆でゲーム…作りたかったな……

『そんな言い方はやめて……わたしだっで、こんな中途半端は嫌ッ!!!』

あれ……春馬?信人?きてたんだぁ

『…あや?何を言ってるの…?』

 

 

 そして、もう一歩。しーがこっちに近づく。思い出されるのは、あたしの偽の遺言。自分の精一杯の演技にして―――許されない嘘。

 

 

 そして、ついに。

 しーが目の前まで来た。普通に手が届く。殴られたりビンタされたりするならこの距離だろう。

 あたしは、来るであろうほっぺへの衝撃と痛みに耐えるべく、ぎゅっと目を瞑った―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かった―――!!」

 

 瞬間、あたしが感じたのは痛みじゃなかった。

 自分の胸の中に、人ひとりが飛び込んでくる感覚。背中に手を回され、掴まれる感覚。あたしが想像したようなものは、全く来なかった。

 そこで初めて、自分の状況に気づく。

 

「……………え?」

 

 

 ……なんで?

 だって、あ、あたしは……しーを、みんなを、だまして―――

 

「良かった…もう、会えないかと思った……あやが……死んじゃうがど、思゛っだぁ…!!!」

 

 私の胸に顔を埋めて、凄い勢いで涙を流すしー。今までコイツと付き合ってきた中で、初めて見る彼女の一面だった。

 しーを泣かせる覚悟こそしてたものの、ここまでとは思っていなかった。

 だから、かな。

 

 ―――目の前が、だんだん滲んできたのは。

 

 

「…しー。あたしは、エイダちゃんを…オッサンの姪っ子を助けたかった。

 本田さんがあそこまで必死になるきっかけになったエイダちゃんを見てみたかった。そんな子が人質になってると知って、いてもたってもいられなかった。」

 

「水臭いじゃないか、あやめちゃん。私達に教えてくれたって……いや、ダメだったんだっけ。」

「でも! ちょっとは話してくれてもいいじゃありませんか!!」

「そうですよー。ぶっちゃけ、超肝が冷えたんですからね」

「……まったくよ。私達がどれだけあやのこと心配したと思ってるの?」

 

 

 藤川さんも、本田さんも、布田さんも、しーも、そう言う表情にあたしを責める様子とか、そんな感じはしない。

 

 

「それに……ローリエさんの言う事が確かなら、監視の目を騙して、エイダさんを救う手助けをしたのはあやなんでしょ? ……それはすごいことだと思うわ」

「しー……」

「でも――もう二度とあんなマネはしないで」

 

 しーが再び顔をうずめる。

 あぁ……あたしって、バカだなぁ…

 

「―――っ、……ぅぅ…」

 

 こんなことなら、焦って一人で参加しないで皆に一言相談すりゃ良かった……っ!

 

 

「………ごめん、しー、みんな………」

 

 大声が出そうになったので、その代わりにしーを強く抱きしめた。

 

 

 

 

 

「…ところで、これからどうするんだ?

 ナットはどうやら、戦う理由がなくなっちゃったみたいだけど」

 

 収拾がついたところで、マッチが口を開いた。

 薄々考えていたことであって、避けて通れない話でもあった。

 ……そういや、あたしが重傷者のフリをしていた時にオッサンを監視してた奴は倒したんだよな?

 

「……今ぐるぐる巻きにされてるソイツなんだろ? オッサンを監視してたのって」

 

「あ!そうだよ!

 ナットさん、人質取られてたそうじゃあないか!!」

 

「おじさま、エイダさんは見つかりましたか!?」

 

「………」

 

「……おじさま?」

 

 

 オッサンの表情はものすごく暗かった。

 言葉を聞かずとも、その顔に張り付いた絶望の表情と、周りが見えておらず考え込むような雰囲気でオッサンの答えが分かってしまった私が……どうしようもなく嫌だった。

 

 

「………いない。どこかに幽閉されているのか…?

 まさか、あの女…最初からエイダを返すつもり……

 いや、違う。だとしたら、なんでいない……!?」

 

「そんな……!」

 

 

 それは、誰が言ったか。

 オッサンの見たことのない弱りように、あたしたちは言葉をかけられずにいた。…今のオッサンに何を言っても気休めにもならないと察してしまったからだろう。オッサンとは直接関係ないフェンネルさんまで黙ってしまって、あたしたちは途方に暮れてしまった。

 

 ―――ただ一人を除いて。

 

 

「大丈夫です、ナットさん。エイダさんは生きています」

 

「「「「「!!!!」」」」」

 

「……証拠は?

 言っておくが、根拠がねーのはただの楽観って言うんだぞ」

 

「……()()、です。」

 

()()…?」

 

「簡単に言えばナットさんの絆の事です。

 エイダさんとの絆はまだ切れていません。少なくとも、命は無事です」

 

「ちょっ、きららさん!?」

「なっ―――馬鹿!!!」

 

 

 きららさんがオッサンに姪っ子が生きていると告げた。

 理由を言えば、なぜかランプとマッチがうろたえだしたけど……なんなんだ?

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 こんなことを言うのは今更だけど―――私は、パスを感じることができる。

 パスっていうのは、人と人との間に存在する「つながり」や「結びつき」……そして「絆」のこと。

 それは人が生まれながらに持っているもので…いろんな形がある。

 今まで私はそれでクリエメイトの皆さんを探してきたけど、その気になれば、パスを使って色んな事ができると知った。

 

 それで試しにナットさんに「パスを感じることが出来る能力」を使ったら―――なんと、エイダさんの命があることを知ることができた。

 私は躊躇いなくそれをナットさんに教えたんだけど―――

 

 

「何を考えているんだ、きららッ!!? フェンネルの前では内緒にしようとあれほど―――」

「そっ、そうですよ、きららさん!! いくらナットさんが人質を取られてたとはいえ―――」

 

 

 ……まぁ、こうなるよね。

 フェンネルさんと会った時、この能力は秘密にしておくと決めておいたんだ。二人からすれば、いきなり私が約束を破ったみたいに見えるかも、だけど。

 私のこの行動にも、ちゃんと理由がある。

 

 

「………ランプ、マッチ。

 私ね…今、()()()()()()()

 

「…へ?」

「きらら、さん?」

 

「もともとこの戦いって、私達と神殿の賢者のクリエメイトを巡った戦いだったでしょ?」

 

「…確かに、そうですね。私は『オーダー』をなんとかしたくて、偶然きららさんと出会って……」

 

「でも、なんでいまその話を?」

 

「分からない、マッチ?

 ――砂漠の盗賊やビブリオ、セレウスやドリア―テみたいに戦いに乱入するのはまだいい。クリエメイトの皆さんの命を狙うなんて許せることじゃないけど。

 でもね。それ以上に、彼らは……ううん。きっとドリアーテだろうけど―――許せないことをした。」

 

 

 怒鳴りそうな激情を深呼吸で落ち着かせようとする。でも……その程度じゃ、私の怒りは収まらなかったみたいで。

 

 

「どうして―――何の関係もないナットさんやエイダさんが巻き込まれなきゃいけないの……!!?」

 

「「!!!」」

 

 

 そう言った私の声は、震えていた。

 だってそうでしょ? ナットさんは傭兵だったみたいだけど、もう昔の話みたいだし…エイダさんに至っては、私達の戦いに巻き込まれる理由なんてひとつもなかったはずなのに。

 現に、エイダさんは人質にとられ、ナットさんはそれを開放するためにさっきまでフェンネルさんやローリエさんと戦っていた。

 ローリエさんとあやめさんの機転で監視の存在が明らかになったからこれ以上戦わなくてもよくなったけど、もしナットさんのメッセージにローリエさんが気づかなかったら、私達は今もナットさんと戦い続けていたかもしれないんだよ?

 

 

 そう考えると―――お腹の底あたりが、ぐつぐつと煮えていくのを感じたんだ。

 ナットさんとエイダさんを戦いから解放したい……その為なら、マッチが話した戦略が、とてもちっぽけなものに感じたんだ。

 別にマッチが悪い訳じゃない。でも、ナットさんとエイダさんの事を知ってしまった以上―――私はエイダさんをナットさんの手に取り戻したくなったんだ。

 

 

「特にエイダさんは戦いに関係ないのに……これ以上巻き込みたくないんだ。

 だから、ナットさんに協力したいの。」

 

「きららさん……!」

 

「…悪いねぇ、若いのに巻き込んじまってよ」

 

「いいえ。今の話が事実なのであれば、巻き込まれたのは貴方がたの方ですわ」

 

「―――フェンネルさん!?」

 

 

 私がナットさんにそう言えば、フェンネルさんまで前に進み出た。

 

 

「ずっと疑問だったのです。面倒なことを嫌い、私達に仕事を押し付けるような超のつくダメ人間の貴方が、なぜ急に関あやめを刺したのか。なぜ急に仕事の話を持ち出したのか」

 

「……フェンネル、お前さん何気に酷いぞ?」

 

「『大地の神兵』であったことには驚きでしたが、それにしたって怠惰な性根が急変するなら訳がある。

 先程はアルシーヴ様の『クリエメイトを傷つけずに捕獲』を破られたと思って冷静さを欠いてしまいましたし、戦闘中は疑問どころではありませんでしたが………今になって考えれば…成る程、ローリエの説明とも辻褄が会いますわね。」

 

「おい、オッサンの反論は無視か?」

 

「いくらアルシーヴ様やその盾たるわたくしとて、無関係の人間を巻き込むほど節操を無くしたつもりはありませんわ。勿論、アルシーヴ様の命があればその限りではありませんが………あの方がそのような命令を下すとは思えませんので」

 

 

 フェンネルさん……!

 手を貸してくれるんですね。心強いです。

 

「…みんな揃ってお人よしだな。オッサン、ちょっと泣きそうだよ」

 

「勘違いしないでくださいまし。

 別に貴方のためではありませんわ。怠惰で退廃的な人間など不摂生の祟りを受ければいいのです。

 ただ、エイダさんのような一般人の少女の身の危険を見過ごす八賢者などいないだけですわ」

 

「………違う意味で泣きそうだよ、オッサン」

 

「…フェンネル。そこら辺にしとけよ、オッサンをイジんの。

 慣れないツンデレをぶっつけ本番で使ってまで建前つくる必要ないだろうに」

 

「あ、あはは……」

 

 

 みんながみんな、エイダさんを助ける方向で決まったみたいだ。

 

 

「……ところで、エイダさんはどこにいるとか心当たりはないんですか?」

 

「…あるにはある。おそらく、ドリアーテの手の中だろう。監視の野郎が連れてないってことはおそらくそこだ。

 あの手の輩は…とにかく人を信用しない。そういう奴の奪われたくないモンは手元にあるものさ」

 

「そうですか……しかし、ドリアーテという人をどうやって連れてくるのですか?」

 

 ナットさんが言うには、そのドリアーテっていう人がエイダさんを攫っているのは確定みたいだ。

 だったら、エイダさんを取り戻すために必要なのは………

 

「…嘘の報告……」

 

「きららさん、今なんて?」

 

「嘘の報告です。『ナットさんが依頼を達成した』と嘘をつけば……エイダさんを連れてやってくると思います!」

 

「なるほどね。俺もそれには賛成だ、きららちゃん」

 

「でも、そのためには準備が必要です。相手が信用しない性格だというなら、簡単に見破られてはいけない気がします……」

 

 

 私の意見に、頷いて賛成したローリエさんと相手に警戒されてはいけないと言う椎奈さん。

 確かに、「私達を倒した」って報告を受けたのに、敵を倒した跡とかがないと流石に怪しむかな……?

 

 

「椎奈ちゃんの言う通りだ。相手がどんなバカでも『敵を倒した』って聞きながら血とか倒した証拠とかがねェと怪しむってもんだ。ドリアーテみたいな人を信用しない奴なら猶更だ」

「そこは、リスクを考えると偽物を使った方が良いかもしれませんが……それならそれで、高い精度が欲しいですわね。いざ呼びつけて、エイダさんとドリアーテが離れる前に見破られたら目も当てられませんし…」

 

 

 椎奈さんの意見に賛成する形で懸念したのはナットさんとフェンネルさんだ。

 一番に優先するのはエイダさんの救出。もし、ドリアーテを騙せなかったら、エイダさんの身に危険が及びます。

 でも、私もランプもソルトみたいな変身魔法なんて使えませんし……

 

 

「―――問題ない。高度な偽装を使える人間ならアテがある」

 

「ろ、ローリエさん!?」

 

「……ローリエ。もしや、ソルトに協力を仰ぐのですか?」

 

「…あ!確かに、ソルトはローリエ先生やフェンネルと同じ八賢者だし―――」

 

「――違う。あの女を騙すのにそもそも変身魔法なんて使わない。

 ガワを真似るだけの魔法に、防御力などないに等しいからな」

 

 

 ローリエさんの「アテがある」発言と「変身魔法は使わない」宣言に皆が驚いた。

 ソルトの「変身魔法」を使わないで、人を騙す……!?

 

 

「変身魔法っていうのは……?」

 

「…あ、そっか。たまちゃん達には説明しなきゃね。

 変身魔法は、その名の通り誰かに変身する魔法だ。忍者の変化の術みたいなモンさ。ただ……中身までは変身できないから、相当上手くやらないとすぐにバレる」

 

「なら、どうやってドリアーテ?を騙すんですか?」

 

「待ってろ。今からソイツに連絡する」

 

 

 ローリエさんは薄い四角形の箱のような何かを取り出すと、ソレを耳元に当て始めた。

 

 

「もしもしィーコリアンダーくん? 今暇? ちょっと言ノ葉の樹の根本の町まで転移できる?

 …………ドリアーテの顔を拝めるって言ってもか? …おう。 ……あー、まぁ、詳しくは来てから話すわ。」

 

「ありゃあ、通信の道具か?」

「携帯、ですね…私たちの世界の道具のはずなのに……」

「………にしてもなんか、ダチを飲みに誘うノリだな……オッサンいつもああ誘われるぞ」

「だ、大丈夫なんでしょうか……?」

「いきなり先行きが不安ですわ……」

 

「―――おー。じゃ、待ってるぜー。

 ……良し。これでオッケー」

 

「…何がオッケーなんですか……?」

 

 

 椎奈さんの呟きは、今ここにいる私たちのほとんどの総意だったと思います。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 ナットの事情を察知した上で、監視の男を倒すナットの提案に全面的に協力した主人公。筆談による作戦会議の過程であやめにメモを見られてしまったが、咄嗟に犠牲者を演じる作戦を思いついた。なお、あやめが恐れていた罪悪感や良心の呵責についてもしっかりと彼女に説明し、ダメだったら彼女を巻き込まずにローリエとナット二人だけで激闘をしつつ、どさくさに紛れて監視の男を再起不能にするつもりだった。
 また、ナットの姪・エイダを取り戻すためにコリアンダーに助力を要請する。

関あやめ
 ローリエとナットの筆談を見て、ナットが姪を人質に取られていることを一足先に知ってしまったクリエメイト。おかげでローリエから『襲われたフリ大作戦』を提案される。下手に情報を漏らせば人の命が危なくなるこの状況で他の部員に相談できるはずもなく、また珠輝がナットの姪について心配していたこともあり、作戦の参加を希望した。

ナット
 姪・エイダが実は人質にされていた大地の神兵たるオッサン。最初から彼は姪を取り戻すために動いていた。SOSを出したこともその一例だが、もし最初の暗号で誰も気づかなかったとしたらもっと直接的な筆談でローリエかきららにヘルプを出していただろう。

きらら&フェンネル
 それぞれの思いでエイダを救出する手伝いを申し出た八賢者と召喚士。きららは純粋に「救う」決意で今まで戦ってきたため、エイダを助けようとすることに異論はない。むしろ「珠輝さんくらいの女の子一人救えないでソラ様を救えない」くらい思っていてもおかしくない。
 フェンネルはアルシーヴ命であるがゆえに、彼女の執政のスタンスもなお知っているので、無関係な非戦闘員の少女を本人の意志を無視して巻き込むような真似を良しとしない。彼女自身の騎士道を行く性格もまた、表立って反対しない理由だ。ただ、正直ではないので色々建前をたてているが。




△▼△▼△▼
きらら「エイダさんを取り戻す。その為に、私達はもう一度手を組みます。」

フェンネル「ローリエが呼び出した助っ人に、木刀に仕込まれた魔法。それらが、ドリア―テを騙すカギになると彼は言いました。」

きらら「そしてついに、嘘の依頼報告から始まるエイダさん奪還作戦が動き出します。」

フェンネル「サルモネラやビブリオ、セレウス……賊を操り、クリエメイトを害そうとした痴れ者・ドリアーテが―――ついに、わたくし達の前に現れます。」

次回『アダマンタイトは(ヒビ)割れない』
きらら&フェンネル「「次回もおた……あっ」」

きらら&フェンネル「「…………」」

ローリエ「オイイイイィィィィィィィ!!!? 最後の最後でトチんな!色々台無しだろうが!?」
▲▽▲▽▲▽


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第67話:アダマンタイトは罅割れない

いつも応援ありがとうございます。ハナヤマタと落ちこぼれフルーツタルトって同じ作者の漫画だったのね……と最近気づいたMIKE猫でございます。感想や高評価が作品のモチベーションになっております。

今回はついにオッサンの人質救出作戦です。ゆっくりたのしんでいってね!





“大地の神兵と呼ばれたナットは、ただ姪を守るため、そして姪の元へ帰るため、その槍を振るった。”
  …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
   第7章より抜粋



 ローリエとナットの二人の筆談から始まった「エイダ争奪作戦」。

 それも今、大詰めを迎えようとしていた。

 彼が呼び出した「コリアンダー」という人物。そして、『高度な偽装』の伝手。

 きららが提案した「嘘の報告」でドリアーテをおびき出す手段。

 

 それらが上手くいくかどうかは、まだ誰も知らない……

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 言ノ葉の樹の、神殿へと続く森の中。

 一人の女性が、美しいオレンジの長髪を揺らしながら歩いていた。

 誰もが振り向きそうな美女であったが、あいにくここには誰もいない。しかし、美しいものはあらゆるものと相性がいい。森の木々や草、花たちも彼女を彩る景観になっていく。

 

 やがて彼女は、代わり映えしないはずの森の、目の付く場所まで辿り着いた。

 そこは、植物がなくなった場所だった。クレーターのように地面が抉れて、地面が曝け出されている。そこでは、何か尋常ではないことが起こったことを容易に想像させられることだろう。

 

 彼女は、クレーターの中心に、いくつもの人影を見つける。

 一人は、額の傷と歴戦の風格、そしてだらけた表情が特徴的な、中肉高背の中年。

 一人は、全身が血にまみれ、地面に縫い付けられたように這いつくばる少女。星型の髪飾りが特徴的だ。

 

 やってきた女性――この女こそ、ドリアーテである――は、満足そうに少女を一瞥すると、その笑みを隠さずに中年に向けた。

 

 

「……よくやりました、ナット。召喚士の討伐に成功したようですねぇ」

 

「…………」

 

 

 対する中年―――ナットは、女性の言葉に対して、何も言わない。

 

 

「……他の者たちは?」

 

「…フェンネルには深手を負わせたが逃げられてね。だが他の連中は御覧の通りだ」

 

「ほぉ………」

 

 

 女性は周りを見渡す。

 よくよく見れば、地面に真っ赤な華が大小合わせて6つほど咲いている。倒れ伏してくたばっている召喚士の仲間のなれの果てだろう、と女性は思った。

 

 

「よろしい。では、報酬です、ナット」

 

 

 ドリアーテは満足げに魔法を呟くと、彼女の傍に転移のワープゲートが開き、一人の少女が降ってきた。

 深緑色のはねっ毛がやや目に付き、つぶらな黄色の瞳が特徴的な少女。SNS部に見せれば、本田珠輝の2Pカラーのようだと言われていたことだろう。

 そんな珠輝をカラーリングチェンジしたようなこの少女こそ、ナットが取り戻したかった人物―――エイダ、その人であった。

 

 

「エイダ!」

 

「おじさん!!」

 

 

 エイダはナットの姿を見とめると、すぐさまナットの胸元へ飛び込んだ。ナットもまた、エイダをしっかり受け止めた。

 はたから見ればどう見ても感動的な親子の再会の場面である。惜しむべきは、場面がややというレベルで誤魔化せないほどに血なまぐさいことだ。

 

 そんな二人をドリアーテはただ見つめるだけである。ただ冷たい視線で様子を見ていた彼女は…

 

 

「…………………

 …………………………………………フ」

 

 

 二人の視界から自分が出ていったことを確かめると。

 抱き合っている二人に左手をかざし。

 その左手の指先を向けると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――その左手ごと、左半身が吹き飛ばされた。

 

 

「―――ッッ、なっ!!? これ、は……」

 

 

 驚き。

 その表情に染めたのも一瞬で。

 ドリアーテは、己を炎で包んだ。

 

「……ナット………これは、なんの…マネですかっ…!?」

 

 普通なら、左半身が消し飛ばされるなど致命傷のはずなのに、それでもこんな事を言えるドリアーテは、間違いなく普通の人間から逸脱していた。

 そして、己を包んだ炎は、徐々に消失した部位を再生していた。

 それが意味する事は……たったひとつだけ。

 

 

「それはコッチの台詞だ。エイダが五体満足で戻ってきたからまさかと思ったぜ。

 ―――お前、随分性格悪ィじゃあねーか。俺達をまとめて始末するつもりだったか?」

 

「…っ、随分と用心深いんですねぇ」

 

 

 ナットの不敵な笑みとともに投げかけられた質問。

 口ごもるのは一瞬。だがナットにとっては……しいては()()()()()()()にはそれで答えは十分だった。

 

 

「へへ……エイダは俺の家族だ。必ず貰っていくぜ」

 

「小癪なマネを―――」

 

 

 再生が終わり、反撃をしようとするドリアーテ。

 しかし、それは彼女たちが許さない。 

 

 

「どおりゃあぁぁぁーーーーー!!!」

「えいやっ!!!」

 

 シャベルとバットが同時にドリアーテを襲う。

 それらはかろうじて躱されるものの、攻撃の余波をモロに食らい、身体のあちこちにかすり傷がついて―――そして、肌から吹き出す火によって癒されていく。

 ドリアーテは、不満が表情に漏れ出ていた。攻撃してきた人物……恵飛須沢胡桃と一井透の二人を見た途端に、何が起こっているのかを察したからである。

 

 

「クリエメイト……!? なぜ、コイツ等が……っ!!」

 

「エイダさんには……手出しさせませんっ!」

 

「!!?」

 

 

 生きているはずのない人物の声に、ドリアーテは咄嗟に魔力のレーザーを放った。狙いは、倒れ伏して動かないボロボロの召喚士。

 雑巾のような召喚士は、そのレーザーに貫かれ………跡形もなく、消えたのだ。文字通り。まるで、高温の金属か焼石に水をかけ、その水が蒸発したかのように。

 

 

「―――ナットォォォオオ!! 貴様!この私を図ったな!!?」

 

「あー……なんのことだ?」

 

「とぼけるな!! 確かに聞いたぞ……召喚士と、クリエメイトの討伐に成功したと!!!

 裏切りおったな!なにが『大地の神兵』だ!! このドリアーテの……私の依頼を達成など、できていないではないかッ!!!」

 

 嘘のように消えた召喚士・きららを目にしたドリアーテはすぐさま激高してナットに襲い掛かる。だが、ナットはドリアーテの魔法の数々を軽くいなしながら煽るようにすっとぼける。ドリアーテが『依頼』の話を持ち出すと、ナットは表情を険しくしながらこう告げた。

 

 

「何を言っているんだ? お前さんからは、依頼なんて受けちゃいねーよ」

 

「なっ!!? 依頼ならしただろう!! 召喚士とクリエメイト、そして八賢者の討伐依頼を―――」

 

「報酬はエイダの命。それもてめえが攫っておいた、だ。おまけに契約が終わった瞬間に消しにかかるときた。あのな、そういうのは、ふつう『依頼』って言わねえ。『脅迫』って言うんだよ」

 

 言外に自分が受けたのは「脅迫」だというナット。そして。

 

 

「―――人を馬鹿にすんのも大概にしろ」

 

 

 地が揺れるかと錯覚するレベルの威圧。

 まさしく「大地の神兵」の通り名に相応しいオーラを身に纏い、膨大な殺意がドリアーテ一人だけに注がれる。流石の彼女も、これには動きを止められた。

 

 このタイミングで、現れた人物がいた。

 星の髪飾りをツインテールにかざりつけた、黒いローブが特徴的な少女・きらら。

 ライトグリーンの髪、そして紫と群青色に染まった瞳を鋭く突きさす、二丁拳銃の男・ローリエ。

 そして……近衛兵のような姿をした少女・フェンネル。

 三人の登場に、ドリアーテは確信する。自分は嵌められたのだと。

 

 

「いい気になるなよ……一度騙した程度でこの私に勝ったつもりか!!」

 

 だが、ドリアーテは貪欲に、傲慢に立ちはだかる者たちを亡き者にせんと、黒色の炎を全身から噴き出した。周囲の木々に燃え移ることなどお構いなしと言わんばかりの超火力が、五人に襲い掛かる。

 

 

「オブジディアン!」

「クレセントフレア!」

 

 だが、ナットの鋭利な一突きとフェンネルの月の魔力が、禍々しい炎を相殺。

 

「お願い!」

「でやっ!!」

「でええええいっ!!」

「!!?」

 

 消えた炎から胡桃とトオル、きららが現れ、ドリアーテに肉薄する。

 胡桃とトオルは『コール』の力で、きららは攻撃力の自己強化を乗せた三人の攻撃は、ドリアーテに命中する。しかし、ドリアーテは全身を燃え上がらせたと思えば、あっという間に三人の攻撃のダメージを回復してしまった。

 

 すぐさまドリアーテはレーザーの魔法で三人に反撃する。

 ―――が、三人はレーザーに命中した途端、再び消えた。周囲を見渡せば、既に三人はドリア―テから距離をとっていた。

 

「幻か……これまた小癪な手を……!」

 

「くっ……!」

「なんてズルい力……!」

 

「なんとでも言うがいい!『不燃の魂術』は不滅の魔術……私を殺すことなどできぬ!

 たとえ1000回死のうが、不死鳥のごとく蘇る!! 貴様らの攻撃、全てが無駄なのだ!!!」

 

 ドリアーテが生み出した「不燃の魂術」。決して死ぬことはないということは、それだけで十分なアドバンテージだ。「たとえ負けてもコンテニューし続ければ勝てる」という、ゲームでしか通じなさそうな暴論を実際に行う事を可能としたおぞましき秘術に、彼女は絶対の自信を持っている。

 

 

「ふーん、1000回殺しても生き返る、ねぇ。流石に要らないかな。

 オッサン、40年近く生きてきた人生でもかなり疲れが溜まるのよ。寿命はあんま伸ばしたくはないかな」

 

「だな。独りで不老不死になっても意味がねぇ。どうせならカワイ子ちゃんを嫁にしてから考えるわ。

 それに―――」

 

 

 メンド臭がりなナットと女好きのローリエがそれぞれの武器を向けた。

 完全にドリアーテの死角を突いている。

 

 

「「千回殺しても死なないんなら一万回殺るまでだ」」

 

 

 ローリエの魔法弾とナットの槍の衝撃波。二つが重なり、ドリアーテの頭を消し飛ばした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ローリエの電話に答えたかと思えば、いきなり言ノ葉の樹の根本の町まで来いと言われた。『ドリアーテを拝める』と言われて。

 半信半疑で転移してみれば、そこで迎えに来たのは、ローリエと同じ八賢者のフェンネル。

 何があったんですかと問えば、彼女は合流地点へ案内しがてら、事細かに教えてくれた。

 

 再び『オーダー』が行われ、SNS部の部員だというクリエメイトが召喚されたこと。

 同じ賢者のローリエとフェンネル、そして召喚士きららの一行が巻き込まれたこと。

 ナットと呼ばれる、かつての伝説の傭兵と戦いになったこと。

 ナットの裏にいた監視の目を再起不能にしたこと。

 だが、ナットの人質をドリアーテが握っていて、依頼を報告しなければ解放されないこと。

 そして―――ドリアーテの目を誤魔化すために俺の力が入り用になったこと。

 

 

『俺の力が必要になったことは分かった。それで、どうすればいい?』

 

『そうだな……幻影魔法と水鏡(すいきょう)魔法を組み合わせてきららちゃんのデコイを作ってくれ。そっから先は、補助魔法での後方支援を頼む』

 

 

 ローリエが『オーダー』とクリエメイトに関わる事件でふざけないことを知っている俺は、すぐにきららという少女の幻影を作り出す作業に取り掛かった。幻影を作るのに必要なのはイメージだ。きららという少女には協力してもらって、土埃を被ったり血糊を塗りたくってもらったりした。正直、年頃の女の子にこんなことをするのは気が引けた。

 だが………おかげで、ドリアーテですら初見では本物と誤認するようなクオリティの高い幻影を作り出すことに成功したから僥倖だ。

 

 

 ―――そして、今に至る。

 

 

「……あいつら化け物かよ」

 

「なんて戦いだ……目で追うのが精一杯だよ」

 

「きららさん………」

 

 

 俺たち――俺の他には女神候補生のランプとその保護者のマッチの他、『オーダー』されたクリエメイトと人質にされてたエイダという少女もいる――は今、戦場と化しているだろう取引の場所であるクレーターから距離を取った、入り組んだ茂みの中に身を隠している。ローリエの迷彩型ルーンドローンから映像を中継して、ローリエ達の戦いを見守っていた。

 この中継を見てて思ったことだが……俺も一応は戦える自覚はあったが、これは桁違いだ。俺は今、幻影魔法と水鏡魔法を使ってローリエ達の援護を陰ながらしているが、ドリアーテの目の前に姿を現したらすぐさま殺される自信がある。それくらい………今の俺では、届かない次元の戦いだった。

 

 悔しい自覚はある。親友が表立って戦っている中、俺は隣に立つことが出来ないんだ。悔しくない訳がない。

 だが、それ以上に…心配だった。

 

 相手は死なない化け物だ。

 ローリエとナットによってたった今、頭がぶっ飛ばされたというのに、首から炎が吹き出したかと思えば、新たな頭が生えているじゃあないか。こんなの、もはや人間じゃあない。

 

 こんな化け物を、どうやって倒せば良い?

 

 

『……ッチ、キリがねぇぞこりゃ』

 

『…メンドくせぇな。お前ら! 1分稼げ!それでどうにかする!!』

 

『させると思っているのか、この馬鹿がアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァッ!!!!』

 

 

 ドリアーテが炎を纏ってナットの方に突貫してくる。その姿は、まるで炎でできた鷲か鷹のようだ。

 だが、ナットの前に誰かが立ち塞がる。

 

『邪魔はっ、させないん、だからぁぁあああああああああ!!』

 

 金髪のツインテールの少女が…おそらくあの子もきららさんが呼び出したクリエメイトなんだろうが、その子が盾を構えて炎の鳥を受け止める。炎の鳥は盾を強引に突破しようとするが、少女はそれを押し返そうとする。

 そこに、フェンネルもやってきて、金髪ツインテの女の子に加勢する。

 

 

『そこをっ、どきなアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!』

 

『うわああああああああああああああああああああああああああ!!!』

『負ける、ものですかァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

 魂の叫びがドローン越しに響き渡る。

 皆の視線は、画面に集まった。

 

 勝ってくれ。

 

 ここにいる俺たちの願いはただ一つだけだ。

 頼む………コイツに、首や左半身さえ吹っ飛ばしても再生するような不死身のコイツに、勝ってくれ!

 

 

 全員がそう願った時。

 

 

『ぐわッッッ!!?』

 

『『!?』』

 

 

 炎の鳥が風圧で吹き飛ばされたかと思えば、画面全体が揺れる。今のをドローンがまともに食らったのか……! 墜落さえしなければ大丈夫そうだが、激しく揺れていて何も見えない。

 

「こ…これは……?」

 

「暴風をまともに受けたんだ! 頼む操縦、地面に落ちてくれるなよ……!」

 

 

 必死に遠隔操作で上昇を試みる。運良くコントロールを早く取り戻したお陰で墜落はしなかったが、バランスを取り戻したドローン越しの映像に、全員が言葉を失う。

 

 クリエメイトとフェンネルの後ろからざっざと前に出て現れたのは―――厳つい顔をした男だった。ローリエにはない、ツッパったリーゼントヘアに、人を数人殺していそうなほどに恐ろしく鋭い目。そして………黒が基調の鎧と長槍。

 

「だ…誰だ、コイツ………!?」

「新たな刺客…!?」

「ナットさんが確認出来ません! コリアンダーさん、ちょっとカメラを回してみてください!」

「お、おじさま……!?」

 

『貴様ァァ……何者だッ!?』

アァン!!?テメェこそなにジロジロ見てんだよ…………タコにされてェのかオラアアァァァッ!!!

 

「「「「「「ひいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃっ!!?」」」」」」

 

 

 ちゅ、中継で見ているだけの皆すら震え上がらせるこの男…一体誰だ!? 敵なのか!!?

 マズいな。敵だとしたら、すぐさま手を打たないとッ! 幸い今はドリアーテに目を引かれているが………

 

 

『あの……あなた…ひょっとして、ですけど……

 ………………………()()()()()、ですか?』

 

『オウともよ! 俺こそがかの「大地の神兵」にして「不敗の戦士」!! ()()()様たァ、俺のことだッ!!!』

 

「「「「「「「……………え?」」」」」」」

 

 

 きららの質問。堂々と答えたヤンキー。

 それに一拍、茂みが静まり返り。

 そして。

 

 

「「「「「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!?」」」」」」」

 

 

 茂みが大きく揺れて、鳥たちが逃げ去っていった。

 

 

「な、な、ななななな、ナットさんんんんーーーーっ!!!?」

「ウっっソだろ!? 完全に別人じゃねーか!! ホントにオッサンなのかあのヤンキー!?誰だよアイツ!!」

「お……おじさまが、おじさまじゃあ、なくなっ―――きゅう」

「わあああああああたまちゃーーーん!!大丈夫!!?」

「若返る……だと……もう何でもアリだな…」

「だだだだだ、誰ですか!あの不良のボスみたいな人は!!」

 

 

 も、もう訳がわからん。ナットって確か、見た限り中年だったぞ? それが若返るだと?? 不燃の魂術……じゃないよな。かすり傷が一切治ってないし。だとするともう意味が分からん。

 こっちはもう滅茶苦茶の混乱状態だぞ。大慌てする(椎奈)、頑なにオッサンも認めようとしない(あやめ)、気を失う(珠輝)、それを介抱する(裕美音)………俺だって一人だったら大慌てするしかなかっただろう。それ並みに緊張状態だ。

 

 …………本当に、なにがどうしてこうなった??

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 …あ、ありのまま今起こったことを話そう。

『夏帆ちゃんとフェンネルがドリアーテを抑え、俺が援護射撃していたと思ったら、変なヤンキーがナットの名を名乗りだした』

 ―――うん。本当にありのまま起きたことを書き連ねただけなのに、これは間違いなく言ったら

「言っている意味がわからない…頭がイカレてるのか?」と言われるな。

 

 ……え、理解できないって?

 安心してほしい。俺もよく分かっていない。何を言っているか分からないかもしれないが、本当になんだこれは。

 

 

「あの……あなた…ひょっとして、ですけど……

 ………………………()()()()()、ですか?」

 

「オウともよ! 俺こそがかの『大地の神兵』にして『不敗の戦士』!! 傭兵()()()様たァ、俺のことだッ!!!」

 

 

 ……というか、きららちゃん…よくあの不良染みた野郎がナットだって分かったな。まさか、それもパスを感じ取れるお陰なのか?

 

 

「……オッサン、なのか? なんでそんな―――若返った、でいいのか? そんな姿をしてるんだ??」

 

「オッサンじゃない、ナットだ。 それと、これは“本気の姿”だ……!!」

 

「………………本気の姿?」

 

 まぁ若返った今ならオッサンじゃあないよな、とは言わずに気になるワードを追及する。

 

「俺くらいのオッサンは、本気出せば最盛期の若い姿になるくらいわけないの。

 ……さて、ドリアーテをぶっ潰すぞ。この姿で戦うの久しぶりだな。ちと加減を忘れそうだ」

 

「おい、オッサン……! その姿で本当に戦えんのか!?」

 

「安心しなローリエ。

 ―――この姿の俺はオッサンの姿(いつも)の70倍は強い」

 

 

 槍を持った手元がブレた気がした。

 そして……再び黒い炎を出そうとしたドリアーテの()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことにワンテンポ遅れて気づき。

 

「「「「!!!?」」」」

 

 そして………さらにワンテンポすると、ナットの前方…ドリアーテの後ろの木々が木端微塵になっていた。

 

「―――大矢紋土堕須斗(ダイヤモンドダスト)

 

 すべての動作が終わってから、技名を呟くと、大爆発が再び起こった。

 

 

「お……オッサン…!?」

「な、なんて強さですの…!!?」

「で、でも! これなら勝てます!ドリアーテに勝てますよ!!」

 

 

 俺と一緒に呆気にとられるフェンネルに、俺のぶんまで大喜びするきららちゃん。

 だが、俺はきららちゃんの喜びには全面的に賛成しかねる。

 

 確かに…一見、俺達いらなくね?ってくらいに圧倒的な戦闘力を、ナットは見せてくれた。

 だが………よく考えてみて欲しい。

 いくらこの状態のナットといえども、もとはと言えば自堕落なオッサンだ。自堕落うんぬんはさておいても、オッサンなのである。若い頃ほどの持久力を期待するのは良くないだろう。

 しかも、相手は「不燃の魂術」をその身に施したドリアーテなのだ。決して死ぬことはなく体力もどうなっているかは分からない。

 

 つまり……持久戦ができないこの状況の不利は、何も変わっていないのだ。

 

 

 

「………なぁオッサン。()()()()()()()()?」

 

「「!!?」」

 

「あー………ローリエには分かっちゃうかぁ。年は取りたくねーな、ホント。

 ―――逃げる時間も加味して5()()()。それ以上は無理」

 

「ご、5分!!?」

 

 

 きららちゃん、声がデカい。

 しかし…5分かぁ。ウルトラマンよかマシだけどぶっちゃけどうなのよ。

 俺はここに生まれてから今まで、こんな状況下で戦いをしたことがない。時間制限という点では広大な砂漠からサルモネラを探した時や、イモルト・ドーロでスティーレのメンバーを保護した時と似ているが、ここまでハッキリとした生死に繋がる制限時間というものを感じたことはなかった。

 

 

 ドリアーテが徐々に再生していく。

 こっから先は、撤退戦だ。

 だが……タダでは終わらん。

 オッサンが余裕をもって戦えるこの5分間。ここで必ず、ドリアーテの……不燃の魂術の弱点を見つけてやる。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 ドリアーテ戦に地味に参加しながら、ナットのトンデモ大変身の裏を真っ先に読み当て、「不燃の魂術」について分析し出来るだけ見極めようとする主人公。ローリエの攻撃手段は拳銃という実在する武器によるものなので、ナットのド派手な攻撃に比べるとどうしても見劣りしてしまうが、それだけ合理的に敵を無力化することに特化していると言うべきか。

フェンネル&きらら&日向夏帆&恵飛須沢胡桃&トオル
 ナットとローリエと共にドリアーテと戦っていた八賢者&原作主人公。きららの今回の『コール』は、夏帆(ナイト)、胡桃(せんし)、トオル(せんし)の物理よりの編成。実際、ドリアーテがきらファンに実装されるならば()、水☆5キャラのオールスターズによるワンパンリレーが幕を開けるだろう。

ナット
 本気を出すことで一時的に若返った大地の神兵のオッサン。戦闘力も桁違いで、槍の連撃で人の上半身を周囲一帯ごと消し飛ばすことが可能。だが、年には勝てず、あまり長い時間若返ることはできないようだ。

なっと「オッサンと張り合ってた勇者、元気してるかな…今頃だいたい――」
きらら「す、ストップです!なんか、それ以上言ってはいけない気がします!」
ろーりえ「勇者ってのもさ、本気出したら若返ったりするのかな?」

らいね「……………。」

ドリアーテ
 念入りに準備された状況証拠と偽の討伐報告にまんまと騙された黒幕。怒りに任せてナット達戦闘員を消しにかかるが、ナットの本気により状況が変わる。なお、本人も知らないことだが、状況は未だ彼女の有利にある。

コリアンダー&ランプ&マッチ&本田珠輝&村上椎奈&関あやめ&藤川歌夜&布田裕美音
 ローリエに呼ばれて工作を行った神殿事務員&きららの仲間&クリエメイトたち。ドリア―テがやってきた後は距離を取って身を隠し、またコリアンダーはドリア―テの隙をついてナットの姪・エイダを保護した。迷彩型ドローンで密かに戦況を見守っていたが、ナットの大変身にほぼ全員が狼狽する。



△▼△▼△▼
ナット「大地の神兵として生きてきたが……ここまでマジに戦うのは初めてだぜ。」
ローリエ「頼むぜオッサン。ドリア―テは必ず倒す。だがそれは今じゃあない。神殿の禁書にも載ってないような『不燃の魂術』の弱点……この戦いで見つけてやる!」
フェンネル「撤退戦、ですのね………不本意ですが、不死身というのは厄介ですわ…」
きらら「皆さん、無事に戻りましょう!命あっての次ですから!」

次回『Goddes Save The Heroes』
ランプ「きららさん…先生…ナットさん…必ず戻ってきてくだs―――」
フェンネル「ランプ。わたくしは?」
ランプ「…………」
フェンネル「こっちを見なさいランプ!」
▲▽▲▽▲▽


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第68話:Goddes Save The Heroes

“ナットさんこそ、ご無理をなさらないでください!
 エイダさんが…貴方の帰りを待っています!!!”
 …きらら


 

 

ギガントフレア!!

御須利琉(ミスリル)羅襲(ラッシュ)!!

 

 

 何度目かも分からない土色の大爆発が起こる。

 気分はまるで、大怪獣バトルに巻き込まれた一般人だ。

 なにせ、かたや巨大な火の玉、かたや極太レーザーの群れだ。どっちもタダの人間が出していいモノじゃあない。

 

 ただ、俺たちがただの一般人と違うところといえば……

 

 

「オラァッ!!」

 

 俺達もまた、戦う力を持っているということだ。

 火の玉を出したドリアーテに向かって二丁拳銃の銃撃。見えないスピードで突っ込む水属性の魔法弾は、寸分違わずドリアーテの体に吸い込まれて、風穴を空けた。

 

「無駄だと…言ったはずだ!」

 

 しかし、風穴すべてを再生しながら、俺に向かって熱風を放つ。外套で防ぐが、生身で受けたら火傷しそうなそれをやり過ごしながら、風の勢いに乗ってオッサンの後ろへ戻ってくる。

 

 それと同時に、きららちゃんが呼び出したクリエメイトが、ドリア―テに突貫してところで、ドリア―テのリアクションを思い出していた。

 

 

「…やっぱり、基本的な攻撃は全部効かねぇか」

 

 

 戦いが………オッサンが本気を出してから2分。オッサンのガチの猛攻を中心として、必死に攻撃しまくり、常人なら即死確定のオーバーキルな技をいくつも受けていて尚、あの女は戦意がまったく削げていない。

 

「『死ぬまで殺しきる』案はナシの線が濃いな……少なくとも、5分じゃ足りない」

 

 オッサンが本気を出せる5分間。俺は、『不燃の魂術』の弱点探しをしながら戦っていた。勿論、ドリアーテに悟られないように、である。

 前世の趣味を嗜んできた人間として、「不死者あるいはそれに似た類が出てくる創作」はいくつか読んできた。そこに載っていた、「不死の存在を殺す方法」を全て試す気でいた。

 

 銀の武器で心臓を貫く。

 太陽の力(陽属性)を込めた刃で頸をはねる。

 人体急所への攻撃。

 『賢者の石』みたいな、弱点となる核への攻撃。

 

 今までの2分でこれらを全部試したが駄目だった。弱点になりそうなものはなかったし、どこへの攻撃もあっという間に再生されてしまった。分かったことと言えば、水属性なら攻撃がよく通る事くらいか。

 そして今、撃破回数は100回を超えた。しかし、それでもドリアーテの表情は曇らない。このペースじゃあ、一万回は届かない、か。

 毒を使うという手段も、『不燃の魂術』の弱点が明確にならないと意味がない。

 最終手段もあるにはあるが―――

 

「(今、試せないことだからな)」

 

 単純に要員が足りないから、使えない。

 仮に足りていたとしても、今ここで使った結果、不発して下手に対策されるのは面倒だ。

 

 

「ローリエ! 早く戦線に戻ってきなさい!」

 

「悪いフェンネル、ちと考え事をな」

 

「余裕ですね!!」

 

「今後のため、だ!!」

 

 

 魔封剣(サイレンサー)で迫る黒炎を斬り払う。

 このサイレンサーも、ドリアーテ本体をたたっ斬るには至らない。要改良だな。

 

 やばいな。まったくもって弱点が見当たらん。さっきからオッサンがブッ飛ばし、フェンネルが切り刻み、俺が風穴を空けまくった上にきららちゃんが全力の『コール』で相手してるってのに、あの女、体力の衰えがまったく見えねぇ。その証拠にバンバン反撃してくるし、ホント嫌になるわ。

 

 ただ、ドリアーテをブチ倒しまくっている最中に気づいた事がないでもない。

 

 どんな傷でも治るようになるという『不燃の魂術』をその身に宿したというドリアーテだが、どうも、再生の炎が強く燃え上がる時と地味な時があったのだ。

 

 

「………やっぱそうだ。致命傷を受けた直後の炎がでかい」

 

 

 特に、致命傷―――ドリアーテはそれとは無縁かもしれないので、ここでは『普通の人が受けたらまず即死する傷』と定義する―――を受けた直後の再生が激しかった。

 例えば…首を刎ねられた時。

 例えば…全身に銃弾を受けた時。

 例えば…ナットの土属性特大攻撃を受け、全身の4割以上が持っていかれた時。

 

 逆に、再生の炎が地味だったのは……

 致命傷以外の、すべて。また、そういった致死性の低いダメージを継続的に受けていると、傷口から出ている炎が減っていく……ように見える。

 

 一見、当たり前のように見えるがポイントは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という点にある。

 不死身というのは嘘ではないらしい。体力が減っている様子がないのも虚勢ではないだろうな。

 だが………死なない程度の傷を何度も受け続けたら、どうなるのかな?

 

 

「―――っ!!!」

 

「……はっ、当たりか」

 

 

 さっきまでは頭や心臓部分を狙っていた銃口で手足を狙って撃てば、ドリアーテの表情が若干曇った。再生はしたのだが、頭や胴体に風穴があいた時よりも出てきた炎はぱっと見小さい。このまま続けて殺さないように痛めつければ、やがて再生が追いつかなくなるか、出来なくなるだろう。

 

 だが。

 

 

「くっ……面倒な、エクスプロウド―――っ!!」

 

「!!!」

 

 

 ドリアーテも、やられっぱなしではなかった。

 全身を光らせ、構えを取るドリアーテ。

 まさか…そんな事も出来るのか……!!?

 

 

「コイツ、自爆する気か!!? みんな!ヤツから離れろォォォーーーーーーッ!!!!」

 

 直後、今まで以上の爆炎が襲いかかってきた。

 各々が、遮蔽物を使って襲い来る爆発を凌ぐ。

 

「……そうか。『不燃の魂術』の不死性のお陰でいくらでも自爆特攻ができるんだ」

 

「厄介なヤツだな、メンドくせぇ……まとめてブッ飛ばしちまうか」

 

「時間は?」

 

「あんま持たねぇぞ! どうした、なんか見つかったか?」

 

「あとちょっとでなんか掴めそう」

 

「出来るだけ早めに頼むぜ!!」

 

 オッサンは俺がドリアーテの弱点を探していることをなんとなく察していたのか、簡潔に、かつ俺にだけ分かるようにそう言った。そして、その声できららちゃんとフェンネルも俺に何か考えがあるのだと理解した。そして………ドリアーテにも。

 

 

「いい加減にくたばれ、塵屑が!!」

 

 何かを練っていることを感じたドリアーテが、白っぽい黄色に輝く、波打った剣を生成しだした。

 5、6本生み出したその剣先が、奴の頭上で交差したかと思えば、こっちに向かって振り下ろしてきた……!!

 

「やっばい!!」

 

「チッ!! 若人ども!オッサンの後ろに下がれ!潮時だ!!」

 

 オッサンがそれを見て、何度目かの前に出てのその指示にフェンネルやきららちゃん、そして『コール』されたクリエメイトが下がっていき……きららちゃんは再び『コール』を使い、くるみと夏帆ちゃんを引っ込めてりーさんと沙英ちゃんを召喚して……え?

 

 

「お手伝いします!!」

 

「お節介も度が過ぎると死ぬぜ、嬢ちゃんッ!!」

 

「ナットさんこそ、ご無理をなさらないでください!

 エイダさんが…貴方の帰りを待っています!!!」

 

「……………生意気な…」

 

 

 オッサンと沙英・トオル・りーさんが立ち並び、それぞれがドリアーテの大技に立ち向かおうとしている。

 そして、それぞれの全力がぶつかった。

 

 

 

「プロミネントバースト!!!」

冥土印兵琉(メイドインヘル)!!!」

「トロピカル・ビッグウェーブ!!」

 

 

 炎と土と水と、その最大火力がぶつかり、霧雨となって降り注ぐ。

 風向きからして、競り勝ったのだろうか?

 目を開き、急にできた(もや)の奥に立っているであろうドリアーテを見ようとして。

 

「……おや?」

 

 フェンネルの転移魔法が完成し……目に飛び込んできた()()()()()()の意味を知るよりも先に、俺達はこの無茶苦茶な戦場から一人も欠けずに離脱することに成功した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 転移した先には、クリエケージが目の前にあった。

 俺達は勿論、距離をとって避難していたコリアンダーやエイダ、クリエメイト達も次々と到着している。

 

 

「ふぅ……終わったか」

 

「「「ナット(さん)!?」」」

「「おじさん(ま)!!?」」

 

 ドリアーテを撒いたことに成功したと知るやいなや、オッサンがぶっ倒れた。本気時の若々しい姿も、今はもう元々のオッサン姿に戻っている。

 

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「本気出した反動が来ただけだ。オッサンしばらく休みてぇ」

 

「あの、みなさん。おじさんを助けて下さり、本当にありがとうございました。」

 

 

 全員と比べて一回り小さい女の子からそんなお礼を言われた。

 この子がエイダちゃん、か。髪の色が黒っぽい深緑であることと目の色が淡い桃色であること以外はたまちゃんそっくりだ。まるで、たまちゃんの従妹みたい。

 

 

「良いんだよ。全部成り行きだから。………たまちゃんちょっとエイダちゃんの隣に立ってみ?」

 

「え? はい、こう、ですか…?」

 

「…………う~~~ん、見れば見るほどそっくりだ。いとこかはとこって言われても違和感ねーぞ」

「…確かに、本田さんの妹みたいですね」

「世の中には自分のそっくりさんが三人はいるって聞くけど……」

「今しっかり見比べると、ちょっと小さくなったたまちゃんみたい!」

 

 

 あまりにも似ているたまちゃんとエイダちゃんを見比べるSNS部をよそに、俺はこっそりフェンネルに近づき、耳打ちをする。

 

 

「……オッサンとエイダを送るのは俺がやる。クリエメイトと…きららちゃんを任せてもいいか?」

 

「!」

 

 フェンネルの目が見開かれる。

 フェンネルの本当の目的は、きららちゃんを石化魔法で石にして、アルシーヴちゃんのもとへ連行することである。『オーダー』の邪魔をするきららちゃんを先に行動不能にすることで、安全にクリエメイトからクリエを回収しようという算段なのだ。

 つまり……今のフェンネルに向かってこう言えば、『ナットとエイダは俺が何とかするから、きららちゃんの確保は任せるよ』と聞こえなくもない。

 

「…………知っていたのですか? 私の目的を」

 

「石化、だろ?」

 

「…いつからご存じで?」

 

「最初から」

 

「!!」

 

 フェンネルの確認に嘘をつかずに答えれば、フェンネルはいつもの凛々しい表情になってからひとことこう告げた。

 

「早めに行ってきてください」

 

「……そうだな。オッサン達は巻き込まれただけだからな。早いとこ帰してやろう」

 

 

 ぐがぁ~ごがぁ~とうるさいイビキをかいて眠っているオッサンを背負ってエイダのところへ歩いていく。エイダは、そっくりさんと言われたたまちゃんと別れを惜しんで―――

 

 

「珠輝さんのお父さんってそんなにカッコいいの!?」

「うん!そうなんだよ! ウチのパパはね、おヒゲが似合うダンディーなおじさまなの! 表情もいつもキリっとしててね!」

「あー……真面目な時の私のおじさんみたいな?」

「ナットさん……は確かに真面目に戦ってるときはそんな感じでしたけど、いつもがちょっと、だらしないじゃあないですか」

「あはは、否定はしないよ。ただ、私は普段と真面目のギャップが良いんだー。ちょっと私がはぐれちゃった時はこう…私を抱きしめて『もう大丈夫だ』って」

「え…エイダちゃん……」

「た、たまちゃん?」

「ウチ、今日帰ったらパパにぎゅーってしてもらう!!」

「あはは!良いね!! じゃあ私もおじさんにやってもらおーっと」

 

 

 ……まったく惜しんでなかった。しかもおじさま仲間に出会ったお陰で水を得た魚みたいになってるし。早いところエイダを回収して送り届けなければ。

 

「エイダちゃん、そろそろ行くぞ。」

 

「あ、はい!分かった!

 ……たまちゃん。また会えるかな?」

 

 エイダは、オッサンの人質にされたとはいえ、『オーダー』と八賢者の任務については話していない。ただ純粋な疑問だ。一時的な別れになると思っている。

 

「……うん! きららさんがいれば、また会えるよ!」

 

 

 屈託のない笑顔で答えるたまちゃん。

 この言葉を嘘にしないためにも、俺たちは頑張らないといけないな。

 

 

「エイダちゃん、おうちの場所は分かるかい?」

 

「はい。港町の近くの町なんですけど……」

 

「うーん、港町かぁ。転移できなくもないし、不安もあるが……まぁいいだろう!」

 

「?」

 

 

 

 

 

 ……港町に転移後、エイダの案内でナットとエイダの家に案内してもらった俺は、そこで二人と別れを済ませる。

 

 

「…悪ぃな、オッサンをここまで連れてきてもらって」

 

「良いんだ、二人とも無事に帰ってこれるなら。

 ……あ、あとコレ、保険代わりな」

 

「これは…?」

 

「第六感に働きかけて悪意あるヤツを近づけさせない結界と『キメラの翼』だ。

 基本的に結界があれば誘拐犯も入ってこれないだろうが、いざという時はその翼を持って神殿と念じて欲しい。俺たちはいつでも力になる」

 

「何から何まですまねェなァ、ローリエ。

 オッサンは疲れがとれにくいからな……ホントに助かるわ」

 

「本当に、ありがとうございました!!」

 

 ソウマの結界を俺なりにアレンジした結界装置と一度だけ転移できる道具を渡してから、俺は二人の家をあとにした。これで、ドリアーテの追手程度なら防げるはずだ。

 さて、オッサン達を無事に帰したはいいが、これからどうしようか。ずいぶん遠くまで転移してしまったし、俺は自前の魔力を使ってしまった。『キメラの翼』もエイダに渡した一個しか持ってきてないし、どっかで日を跨ぐまで休むしかない………そう思った時。

 

 

 

 

 

 

 ―――突然、視界が海の見える港町から鬱蒼とした墓地に切り替わった。

 

 

「………は?」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 近くの墓石の冷たい感覚を試す。

 最初、俺はハッカちゃんみたいな夢幻魔法を疑ったが、どうもそんな気配がないし、五感がしっかりと現実のものだとわかった。

 何より、俺はここを知っている。

 

 ―――歴代女神や筆頭神官たちの埋葬地。

 エトワリアの頂点として、この世界を治めた人々が安らかに眠るために作られた、特製の墓地。

 

 何があったか調べるために歩き始めた俺の目に、見覚えのある姿が入ってきた。

 

 おさげにした茶髪に、黒いローブ……あれは、まさか。

 

 

「おーい、アリサ………か………」

 

 

 言葉が出なくなった。

 アリサだと思っていた人が、人違いだったからではない。

 アリサだと思った少女は、確かにアリサだった。

 俺が固まったのは、()()()()()()()()

 

 まず、その女性は、全体が白っぽい。

 日本の怪談に出てくる幽霊みたいな、()()()を着ていて。

 足元を見れば、()()()()()()()………()()

 つまり、アリサと話していたらしいその女性は……比喩でもなんでもなく、幽霊だった。

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!? オバケだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「誰がオバケですか! 失礼ですね!!」

 

「うわあああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァオバケが喋ったアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」

 

 

 に、逃げ、逃げなければ!!

 こんなの、ソラちゃんと元女神の葬式で震えあがった時以来だぞ!!? 冗談じゃねぇ!!!

 

「ローリエさん、落ち着いてください。この人、元女神のユニ様ですよ!」

 

「え………??」

 

 

 アリサの一言でちょっと我に返る。

 え? 元女神? ユニ様?? この人が………ってことは。

 この人が――――

 

 

「あの時のクラブの女王ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!!?」

 

「だ、誰がクラブの女王ですか!!私は正真正銘清純な元女神です!!」

 

「いや、清純な女神さまは死後にクラブの女王やって葬式を仕切らないと思います!!」

 

「なっ……!!? ま、まさか……」

 

「……赤いエナメル服。バタフライマスク。ムチ。タバコにライター…………どうせなら生前にやってほしかっタコス!?!?

 

「イヤァーーーーーー!!! 忘れて!一刻も早く忘れて!!!」

 

 

 ……初めて幽霊にブン殴られる体験をした。しかも、地味に超痛ぇ。しっかり質量があったぞ。どうなってんだ???

 アリサはそんなやり取りをした俺達を信じられないような目つきで見つめている。なのに、元女神に同情的で俺に対してちょっと冷えた目を向けるのはなんでだよ。

 

 

「もう! ローリエさんに大切な話をしようとしたのに!

 信じられません!! バカ!クズ!!女の敵!!!」

 

「えっ、そこまで言う…?」

 

 

 流石に凹むぞ。泣いちゃうぞ。

 内心そう呟いていると、アリサが目線を落とした。まるで、元女神……ユニ様の『大切な話』で気まずくなってしまったかのように。

 

 

「わ、悪かったって。それで……大切な話って何さ?」

 

「………折りいってお願いがあります。ローリエ・ベルベットさん。

 ―――いえ、

 ―――木月(きづき)桂一(けいいち)総理」

 

 

 

 息を忘れた。

 ……待て、コイツなんて言った?

 ()()()()()()()()()()()()

 落ち着け。呼吸を整えろ。

 

 ………ふぅ。いや、なんともまぁ、()()()()()()()()()名前だったから、一瞬変な錯覚しちゃったよ。困ったね。

 

 

「エトワリアを、守って欲しいのです」

 

「……それについては、やぶさかじゃあないが、二言言わせてもらうぞ。

 ひとつ。ヒトの秘密をおいそれと他人のいる場所で言うんじゃない。それは『アウティング』といって、情報社会のタブーだぜ。

 それともうひとつ。…………アンタ、()()()()()()()()()()()()()……??」

 

 

 

 さて、随分と後回しにして、ずっと言ってこなかった事だが。

 この『木月(きづき)桂一(けいいち)』という名前というのは。

 

 

 ――――――実は、()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ/木月(きづき)桂一(けいいち)
 とんでもないタイミングで前世の名前が判明した拙作主人公。前世の彼については、あまり出しゃばらない程度には情報を出すつもりです。なにせ、この物語は、『今世のローリエの物語』なのだから。

ナット&エイダ
 ドリアーテの魔の手から逃れた最強の傭兵とその家族。ローリエから結界装置と逃走用のキメラの翼を貰い、アフターケアもバッチリ。ちなみにエイダのイメージCVは黒沢と○よ。それぞれの名前の由来は、納豆菌と枝豆だったりする。

フェンネル
 実はアルシーヴからきららの捕縛を命じられていた八賢者。ローリエから「あとは任せていいか」発言を受け、ローリエがナットとエイダを送ることを了承した。

アリサ
 女神の墓地にいた呪術士の妹。実は、ローリエが言ノ葉の樹の中でいろいろな騒動に巻き込まれている間、彼女はずっとここにいた。話し相手がいたようだが……?

ユニ
 何故か女神の墓地にいた元女神の幽霊。どういう訳かアリサの近くにおり、ローリエの前世の名前を知っていた。その謎は、次回明かされる。かもしれない。イメージCVは早○沙織。



ソウマの結界
 ローリエが、呪術士の家の跡地から発見された魔法陣を元に作り出した結界装置。悪意ある人間の第六感に働きかけ、寄せ付けない能力を持つ。

キメラの翼
 ローリエが作り出した魔道具。念じる事で転移魔法が使えるが、一度使うと魔力の充填が必要になる。充電池のように何度も使え、エコロジカルな仕様となっている。


△▼△▼△▼
アリサ「あの…ローリエ、さん? それとも……桂一さん、の方が良いですか?」

ローリエ「いつも通りローリエで頼むよ。木月桂一は確かに俺だったが……もう死んだヤツだからな。」

アリサ「えっと…その、木月桂一さん、って何者だったんですか?」

ローリエ「………やっぱ気になるよなぁ。しょうがねぇ、あんまり人に言うなよ?」
次回『女神と前世(むかし)のおはなし』
ローリエ「次回もお楽しみに〜。」
▲▽▲▽▲▽


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第69話:女神と前世(むかし)のおはなし

こんにちは。ラパンがまったく引けなくてブチ切れそうな作者でございます。今回のお話でローリエの前世がかなり明らかになります。地味にフラグ回収回でもあります。これまでに撒いたフラグを確認しながら見てみると良いかもしれませんよ。




“大きな何かをを為すには、別の何かを切り捨てる覚悟と準備が必要だ。覚悟と準備をしていた人だけが、犠牲を最小限に出来るし最善な結果を出せる。”
 …木月桂一


 木月桂一とは、エトワリアに生まれた八賢者ローリエの―――いわゆる前世である。

 この事実を公表したら次に大多数が気になるのは「その木月桂一ってどんな人だったの?」という点である。

 そこで、その疑問に答える為、しばし時間を頂戴して木月桂一の人生を……振り返りながら話していきたいと思う。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 木月桂一は、東京都郊外の、とある中間層の家庭に生まれた。

 小さな企業の代表取締役であり家庭も顧みれる父と気立ての良い母、そしてかわいい弟・妹に恵まれ、桂一は幸せであった。

 

 公明正大で勤勉で、慈悲深い性格に育った彼は人を惹きつけ、小学校では人気者であった。

 だが……とある事件をきっかけに、彼は変わってしまった。

 

 

 中学生の頃、気の置けない親友であった少女が、いじめを苦に自殺してしまったのだ。

 彼はとても悲しんだ。そして、後悔した。彼女の苦しみにどうして気づけなかったんだと。どうしていじめを止めることができなかったんだろうと。

 桂一はすぐさま教師や自身の両親に法による徹底抗戦を訴えた。だが、二人や教師達の反応は芳しくなかった。

 

『桂一。彼女の件は心苦しいが……訴えても、勝てそうにないんだ。』

 

『いじめの主犯だった子たちね、政治家や弁護士や警視総監が身内にいるんですって。○○さんちは訴状を出すつもりらしいけど、受理されるかどうか……』

 

『木月君。君の親友を失って悲しい気持ちはなんとなく想像できる。でもね…これは、○○さん家の問題なんだ。交友関係には間違いなく君がいるが、それ以上じゃあない。ここは、大人たちに

任せなさい』

 

 そして、悲しいことに、両親の読み通りとなった。

 司法は、いじめの主犯になった女子生徒やそれに加担した生徒たちを、全て証拠不十分かつ未成年ということで不起訴としたのだ。不起訴になった生徒は、みな権力者の身内であった。

 

 ―――事の顛末を知った時、木月桂一は決意した。

 

 

『いつか必ず、親友を手にかけた連中を後悔させてやる』

 

 

 その日から桂一は、政治・経済・司法………それらを中心とした学問にのめり込んだ。暴力に出ることには限界があるし、何より法を捻じ曲げる手段を取った時点で復讐相手と同じであることを知っていたからだ。

 父の経営戦略にも関心を持ち、15歳から父の仕事を手伝う形で経営を実際に学び始めた。

 

 桂一は何かの才能に恵まれるような人間ではなかったが、人一倍の努力家であった。父親から教わった事や失敗をもって身に着けた教訓は決して忘れなかったし、日々の政治経済の勉強も怠らなかった。彼が打ち出した、長期を見据えた非道なまでな合理的経営に反して給与や保障はしっかりする体制で社員や一定層からの大きな人望を得ることとなった。

 父の会社はあっという間に功績をあげて…3年後には、海外から商売で莫大な金をぶん取れるほどに成長していったのだった。父はここまで成長できた息子の功績を認め、幹部の席を用意したが、桂一はこれを拒否。彼は、政治家を志すことになる。

 

『桂一。ずっと会社にいて欲しかったが…やはり、政治家になるんだな』

 

『ごめんなさい。でも、俺が決めた道だから』

 

 

 桂一の政治家デビュー自体は順調だった。父の企業を成長させる過程で得たコネクションが役に立ったのだ。

 だが、議員として当選する段階までは上手く行かなかった。もともと政治には無関心で怠惰な国民性のツケだ。新進気鋭の木月には、やや逆風だったのかもしれない。

 しかし、それ以上に厄介なのはライバルの妨害だった。自身の立場にしがみつき、甘い汁をすするためだけに、法に触れず、かつ悪質な妨害工作を平気な顔をして行える国会議員に、流石の桂一も辟易とした。

 

 

『こんなのがいるから、国は乱れるし国民の信用がなくなるんだな…』

 

 

 だが、木月桂一は至って冷静だった。

 妨害してくるのはどれも立場が上の議員たちばかり。無視を決め込んだらエスカレートするのが分かり切っている以上、どうやって反撃するべきか? それをひたすらに考え、煮詰めた。

 彼が選んだのは『予測による失脚』だった。つまり、相手の行動スケジュールを手に入れて予測し、誰にも気づかれないように失脚ねらいの工作を施したのだ。幸い、彼には海外の知り合いがたくさんいたから、情報戦ではアドバンテージがあった。

 

 例えば、個別のいち執務室の時計の針を一時間遅くした。

 その執務室を使っていた大物国会議員は、会食の時間に遅れ、焦って速度違反を犯した結果、5人が事故死する大事故を引き起こした。彼は最高裁で有罪判決を受けた。

 

 例えば、クリスマスの日に国道の工事を発注し、裏路地の数をしぼった。

 その国道をよく通る権力者の一人が、迂回した裏路地で浮浪者に刺殺される事件が発生した。被害者の男性は国会議員とコネのある弁護士だった。

 

 例えば、とある医者の薬の中身を一日分、すり替えた。

 その医者にかかっていた老年の男性が、心臓発作でこの世を去る不幸な事故が発生した。その男性は警視総監で、死後に数々の事件の隠蔽が発覚した。

 

 ちなみに、隠蔽された事件――中学生のイジメが少女を殺したという悲しい事件だ――が明るみに出た際、過激なマスコミによってイジメ加害者の名前と顔が報道され、彼ら彼女らの人生が破滅した事は言うまでもない。

 

 ……先に断っておくが、桂一とその一派は()()()()()()()

 ただ、時計のチェックをしたり、経費で仕事を発注したり、医療現場を視察しただけである。後ろめたい事は一切していない。

 

 ……ともあれ、ライバルを消し去―――否、ライバルがいなくなった木月桂一は、これまで立てていた復讐の目標以外に明確な目標を立てようと考えた。

 その時に思いついたのが………中学時代に親友に勧められてからというもの読み続けていた、『まんがタイムきらら』の漫画と、そこに住まう輝かしいばかりの少女たちであった。学生時代は細々と読んでいただけの趣味だったが、大人になって時間に余裕が出来たからこそこの趣味を嗜めたし、新たな発想に繋がったのだ。

 

『そうだ。どうせなら……あの子達が暮らしている世界のような、「優しい世界」を目指してみよう!』

 

 桂一は「優しい世界」を作るべく、すぐさま行動に移した。

 廃れた教育を見直して整備する事でイジメの温床を減らした。

 雇用の増加を目指すべく労働と家庭のバランスが取れるようにした。もちろん…雇用の数字確認だけではなく実態として生活できてるかを確認しながら。

 国や地方自治体を挙げて結婚を支援することもした。

 

 そういった成績が認められ、ついに木月桂一は、総理大臣の座まで手に入れた。……ちなみに、その頃には対立候補はもうほとんど牢獄か鬼籍に入っていたが、蛇足でしかない。

 

 国のトップの座を手に入れた木月桂一は教育と雇用といった、未来を担う若年層の育成に精一杯の力を注いだ。日本という国を、より良くするために。

 結果、かつて低迷していたGDPはめざましく成長した。人の行き交いは活発になり、人々は希望を持てるようになった。……今まで通り政治家の汚職発覚や恐ろしい殺人事件は後を立たなかったが、それでも昔よりはかなりマシになったものだ。汚職が発覚した政治家や殺人事件の被害者が尽く反木月派の人間達だったが、ただの偶然でしかないし、日本経済の復活という偉業に比べればこんなもの些事である。

 

 そうして、首相就任から2年。

 桂一の政策で希望の光が見え、そこへ向かう道に目処が立ち始めた………そんな時期に。

 

 

 

 

 ―――木月桂一は、とある悲劇に巻き込まれた。

 

 演説中の狙撃という、現代日本にしては物騒すぎる手口で重傷を負い、すぐさま病院に運ばれ………しかし、手術もむなしく帰らぬ人となってしまった。父親を失ったと言う青年が、『殺された親父の仇討ちだ』という逆恨みも甚だしい動機で起こした事件だった。

 

 ―――享年37歳。

 『優しい世界』を目指した桂一は―――皮肉な事に、冷酷かつ非情な人生を送った、誰よりも優しさに欠けた男であった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「………といったところです」

 

 場面を女神の墓地へと戻して。

 幽霊と化したユニ様は、俺とアリサを前にその人生を――――――俺の前世・木月桂一の人生を語っていた。

 

 ……そう。()()()()、だ。

 いやなんで知ってんのお前。名前のこともそうだけど、桂一(おれ)の人生知りすぎだろ。俺が俺自身の意思で話すってんならまだしも、赤の他人にここまで知られてるとは思わんだろーが。

 前世のことは、一度も、独り言でさえ呟いたことが……無いわけではないが、声量と場所くらい選んでたぞ。なのに何故そこまでバレている?……ま、まさか。

 

「あー……ユニ様? ちょっと思ってたことなんだけど、ユニ様ってもしかしてス……スのつく、ちょっと危ない人だったりするんですカルヴァンっ!!?

 

「誰がストーカーですか!失礼ですね!!」

 

 再び質量のあるビンタを貰い、俺の頬に紅葉の跡が出来たのを確認してから、ユニ様とアリサは話し始めたのである。

 

 

「それにしたって、おかしいですよ。

 その…ローリエさんの前世?をなんで知っているんですか?」

 

「……女神が異世界を観察していることはご存じですね?」

 

「「え?」」

 

 いきなり当たり前のことを言う女神様。

 そもそも聖典ってのは、女神による『異世界観察記録~物語風味~』なのだ。

 ……ん? いや、ちょっと待て。いまその話が出てきたってことはつまり―――

 

「…覗いてたのか? 俺の人生を…」

 

「はい。といっても、女神候補生の頃、異世界を観察する練習中にたまたま見てしまった光景でしたが……」

 

 なるほど。それなら納得だ。

 確かに、『きららファンタジア』にはその設定はあるし、何もおかしくはない。

 エトワリアと観察中の世界の時間の流れの問題も、あんまり気にしなくてもいいだろう。

 

「でも、俺みたいなヤツの人生覗いてても楽しくないと思うぞ?」

 

「はじめはただの偶然でした。でも、確かに生前、この目で見たのです。

 あなたが、私生活で聖典を愛でる姿を。

 …そして、己の理想の為に他者を排除する姿も」

 

「ひ、ヒトを独裁者みたいに言わないでくれないかな~。

 俺はただ、国をよりよくする仕事をしてただけだぜ?」

 

「その結果、ライバルを逮捕に追いやったり死の原因を作ったりしたのですから、それは嵌めているのと何ら変わりません」

「下手な独裁者よりタチ悪そうな感じでしたけど」

 

「うっ………!」

 

 そ、そんなにイヤな手段だったかな?

 嵌める…っつたって、ちょっと道端に小石を撒くようなモンだろうに。

 小石に躓いた結果、どこへ転がり落ちようが知ったこっちゃないってだけで。

 ………ダメっぽいなぁ。日本では許されたんだけど。

 

「……仕事中の貴方は褒められるものではありませんでした。

 でも……聖典たちへ向けられる貴方の熱意もまた、本物だったのです」

 

「!」

 

「だから私は…もっと昔に貴方と話したかった。

 貴方のような人なら、反対する人間を排除することなく、上手く折り合う道もあったはずです。

 ……聖典のような『優しい世界』を作るためなら、尚更…」

 

「そこについては言い訳はしない。

 何を言おうが、決めたのは俺だ。

 暗殺されたのだって、俺の注意と人徳が欠けていたからだ」

 

 自分の生き方に責任を持つのは当然のことだ。仮に責任を満足に持てなかったとしても、批判を恐れて逃げてはいけない。……それこそ、今世の幼少期みたいなことは二度とあってはならないんだ。

 

 

「その心意気だけは立派だと思います……話を戻しますね。

 私は木月桂一さんを観察していましたが……

 ちょっと目を離してる間に桂一さんが殺された事を知って、焦りました。

 貴方が死んでしまえば、二度と会話の機会はなくなってしまうから」

 

「ユニ様、『コール』なら、死んだ人間でも呼べるんじゃ……?」

 

「アリサ、『コール』を使えるのは召喚士だけだ。そして、ユニ様が生きていた頃、召喚士は現れなかった……そうだな?」

 

「はい。

 どうしても桂一さんと話がしたかった私は……許されざる禁忌に手を染めたのです…」

 

「まさか……『オーダー』…!?」

 

「…………そうです。私は極秘裏に『オーダー』を使いました。

 呼び出す対象はもちろん、木月桂一さんです」

 

 

 何たることぞ。この先代の女神…ユニ様が、まさか『オーダー』に手を染めていたとは。

 俺でさえ知りえなかった事実だ。もちろん、『きららファンタジア』にもそんな設定はない。

 

 

「……でも、ユニ様が『オーダー』を使った時、桂一…つまり前世の俺は死んでいたハズだ。

 そんな状態の人間を……死んだヤツを呼び寄せることなんて、できたのか?」

 

「結果は半々、といったところです。

 木月桂一さんの魂を呼び出すこと自体には成功しましたが…それは半壊した魂で、とても会話できる状態ではありませんでした」

 

「それで、どうしたんですか?」

 

「元の世界に戻すことも魂の状況からしてほぼ不可能だろうと思った私は―――その日、たまたま参拝に来ていた妊婦さんのお腹に触れて半壊の桂一さんの魂と赤ちゃんを融合させました」

 

「!!」

 

「その妊婦さんの名前は『オリーブ・ベルベット』。覚えがあるんじゃないかしら?」

 

「オリーブ……?」

「俺の母親だ……!!」

 

 

 つまり、ユニ様が木月桂一の魂を融合させた結果、俺と言う前世の記憶持ちの転生者に生まれたってことだったのか。

 なんだか、思わぬところで思わぬ秘密を知ってしまったなぁ。

 

 

「しかし、『オーダー』の代償が、無視できるものであるわけがなかったのです」

 

「……あぁ、『オーダー』はエトワリアに異変を起こしてきたし、術者のクリエを大幅に削る。命を縮めるといっても過言じゃあない」

 

「はい。木月桂一さんを呼び出した代償は……私自身の体が脆くなること以外にも出ていました。

 例えば……貴方の魔力が封印されていたこと」

 

 

 封印? イヤイヤちと待ってくれ。

 

「俺自身が魔力を十分に扱えないのは、俺の属性が安定していないからだぜ。

 魔力総量ばっかりは、ここではどうにもならない問題だろう?

 だから俺は、前世の世界の武器を再現したし、戦略で敵の裏をかいて戦ってきた」

 

 そう。生まれてこのかた、純粋な魔法は苦手だったのだ。だからこそ魔法工学に力を入れて、『パイソン』や『イーグル』、ニトロアントやルーンドローンまで作り上げた。

 この選択に間違いはないはずだ。あったら結構凹むぞ。

 

「あぁ、別に今までの貴方を責めてる訳じゃあないのです。

 ただ、あの女と……ドリア―テと再び戦うのでしょう?

 だったら、手札は多いほど良い、という話なんです」

 

 ようやく弱点のヒントは掴めてきたが、確かに文字通りの不死身は厄介なことこの上ない。

 だが、手札とは? と考えているとユニ様が言葉を続ける。

 

「そもそも、ローリエさんは『魔人族』という単語を知っていますか?」

 

「知ってる……普通の人間よりも、使える魔法の属性が多い人種をそう呼んだそうだ。感情で目の色が変わるのが特徴らしい。そんな特徴や、多くの魔法が使えることを恐れられて迫害された、とか」

 

「あなたはその魔人族の血を引いている。というのに、使える魔力が明らかに低い。

 コレは矛盾しています。魔人族が、魔法に適性がない訳がない。

 ……その理由は、もうなんとなく分かりますか?」

 

 ユニ様のそんな言葉にハッとする。

 今までは、「まあそんなこともあるのかな」って思ってたし、そもそも魔人族について知らなかったけれども、今は違う。

 さっきの話を聞かされて、思い当たる節がないわけがない。

 

「日本人の魂を混ぜたから……!」

 

「おそらく。少なくとも、純粋な魔法発動の大きな枷になっているのは間違いありません」

 

 

 なるほど。前世で住んでいた日本には、当然ながら魔法なんてシロモノはなかった。

 37年間で培われていた価値観が、今なんらかの形で足を引っ張っていてもおかしくはない!

 

 

「ちなみに、その『大きな枷』を、外すことはできないのか……?

 ドリアーテと決着つける時にそれに振り回されるとか嫌だぞ」

 

「今すぐに、とはいかないと思います。

 魔法の実感を掴みながら、実践を積むしかない……ですが、そろそろ外れると思いますよ」

 

「そうか?」

 

「今まで、戦闘経験は積みましたか?」

 

「ジンジャーとカルダモン、フェンネル相手に山ほど。

 ガチの戦いでとなると、アリサときららちゃん、ビブリオにオッサン、ドリアーテの時くらいか。あ、あと盗賊どもを薙ぎ倒した事もあったっけ。

 サルモネラとセレウスとの戦いは微妙だな。狙撃しただけだし」

 

「なら、限界突破まであと一歩のところまで来ているかもしれません。

 油断せずに努力を続ければ、応えてくれます」

 

 

 あと一歩、ねぇ。

 まあ、油断せずに行こう。

 急ごしらえだが、アリサあたりに見てもらうのも悪くないかもな。

 

 

「あの………ローリエ、さん?

 それとも……桂一さん? もしくは、総理とお呼びした方が良いですか?」

 

「アリサ?」

 

 アリサに呼ばれたと思ったら、なんだか距離感がおかしい言動になっている。

 おい、本当にどうした。目が泳いでるし、敬語が変だぞ。

 

「いや、なんだか知られたくないことまで知ってしまったと言いますか。

 まさか貴方が、かつては偉い人だったとか知りませんでしたから……」

 

「総理って知ってるのか?」

 

「日本を統治するトップってことは…」

 

「………間違ってないけどな」

 

 

 だからって、そんな対応されたら困る。

 確かにそりゃ、前世の話なんて積極的にしなかったさ。

 でもそれは、『言ったところでまず信じないだろう』し、『証明する手段が俺の証言以外にない』し、なにより『もう終わったこと』だからだ。

 仮に言ったとしても『ハハッ、嘘乙』みたいな反応しか想像してなかった。

 今のアリサみたいに、思いきり信じられて変に畏まられると、逆にどうすりゃいいか分からん。

 

 

「……なぁ、アリサ。

 今、お前の前にいるのは誰だ?」

 

「え? あの、どういう意味―――」

 

「『ローリエ・ベルベット』か?『木月桂一』か?

 今の俺はどっちに見える? って聞いてんの」

 

「え………それはもちろん、ローリエさんですけど」

 

「なら、それでいいじゃあないか。

 そもそも、木月桂一はもう死んでるんだぜ? 今の俺は、八賢者ローリエだ。

 だから、変に畏まるのはやめてくれ」

 

 

 ありのままの心を、アリサに伝える。

 それを聞いていたアリサは、距離感を掴みきれていないような戸惑いがなくなり、表情が晴れた……ような気がする。

 

 

「……分かりました。そういう事でしたら、これまで通りの接し方をさせていただきます!」

 

「ありがとう、アリサ」

 

 

 アリサの気持ちの整理が終わったところで、俺は彼女にある「お願い」をした。

 その内容はもちろん、俺の足を引っ張る『枷』を外す手伝い。アリサは、喜んで了承してくれた。

 しばらく修業の時間の都合上、神殿には戻れないかもしれないが……来るべき決戦のためだ。

 

 きっときららちゃん一行は、間違いなく神殿に着くだろう。

 アルシーヴちゃん達も、『オーダー』は諦めない。

 だが……ドリアーテは、間違いなくその戦いに首を突っ込むハズだ。それも―――漁夫の利を得られるタイミングで。すべて上手くいった暁には、彼女は躊躇なくエトワリアを滅ぼすだろう。

 

 しかし。そう上手くいくと思うなよ?

 首を洗って待っていな、ドリアーテ。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ/木月桂一
 転生者:オリジンを知り、そこでまさかの強化フラグを得た拙作主人公。前世は褒められた仕事はしていなかったが、聖典への熱い想いをユニに気に入られ、エトワリアに『オーダー』される。だがそもそも、『オーダー』は負担の大きい魔法。死にたてホヤホヤで魂オンリーの桂一が耐えきれるはずもなく魂は半壊。ユニの手によってエトワリア人の妊婦の中の、赤ちゃんと融合され、今に至る。
 幼少期に盗賊相手に逃げたのは、ローリエにとっても桂一にとっても正面切って戦う経験がなかったから。

アリサ
 元女神のアウティングによってローリエの前世の存在を知ってしまった呪術師の少女。彼女としてはオカルトには耐性があり、なおかつ魂に関わる天職(呪術師)であるためある程度はオカルト話は信じるが、前世となると流石に鵜呑みにはしない。元女神の幽霊がマジメに話したからこそ彼女は信じたのである。

ユニ
 アウティングという、情報社会においてあんまりよろしくない真似をしてローリエの前世&誕生裏話を披露したCV早見沙○の元女神。だが、ローリエの魔術起動に枷がかかっていることを予想立てて彼の強化を齎したり、()()()()()()()()()()()()()と、ローリエにとっては利益になる情報も与えた。今回では死の状況について書けていないが、この先にて必ず書くだろう。少なくとも、この物語では女神ユニの死はアッサリ終わらせていい話題ではない。



木月桂一の人生
 木月桂一は、恵まれた才こそなかったが幼い頃から努力を続けた男であった。
 血族が経営していたとある企業の代表取締役にわずか20歳で着任。画期的な発明と経営戦略で外国から資産をこれでもかと巻き上げ、あっという間に企業をトップ入りさせた。長期を見据えた非道なまでな合理的経営に反して給与や保障はしっかりしたので社員や一定層からの人望はあった。私生活では、まんがタイムきららの漫画と『きららファンタジア』を好んだ。
 30歳ごろから企業を兄妹に任せて政治に進出。きらら漫画のような『優しい世界』を作るため、腐敗の温床たる環境を正し、腐敗政治家を片っ端から牢屋に放り込むか闇に葬ってきたが、あまりに非道とも言うべき合理的手段が一部の反感を生む。だが反論の余地なきド正論を武器についに総理大臣にまで登りつめる。政治が軌道に乗るかと思ったところで過激で向こう見ずな活動家の凶弾に倒れてしまう。享年37歳。
 木月桂一の功績は、腐敗していた日本政治を一新させたという点では評価が出来るだろう。反対派の暗殺によって長期政権こそ叶わなかったが、もし彼がトップの座を握り続けていたならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()多くの日本国民の生活水準や日本自体の国際的地位が大いに上がっていた事には間違いない。現代版織田信長。

木月桂一と『オーダー』
 波乱万丈ともいうべき木月の人生を人知れず覗く存在がいた。女神ソラの前任女神ユニ(当時の女神候補生)である。ユニはたまたま観測した世界にいた人間・木月桂一の人生について複雑な感情を持っていた。自分のように聖典を愛しているのは良いのだが、反対派の人間には容赦のない木月と話がしたかった。しかし、ユニが目を離している間に木月は殺されてしまう。「このままでは木月と話す機会が永久に失われてしまう」そう思ったユニは大慌てで極秘裏にオーダーを行った。しかし、呼び出されたのは肉体から離れ半壊状態の木月の魂のみ。壊れた魂だけでは会話さえもできず、元の世界に帰す事も不可能なので、仕方なくユニはその日に参拝していたローリエの母に宿る新たな命と木月の魂をこっそり融合させたのである。これが『転生者ローリエ』誕生の経緯である。



△▼△▼△▼
ローリエ「…知らなかったなぁ、俺誕生の経緯。まあ思えば神様なんかには会ってないしな」
ユニ「エトワリアには女神しかいませんからね」
ローリエ「うわあああああああ!!!? ユニ様!? なんで出てきてるんですかねぇ!!!」
ユニ「あら、死んでちゃなにか問題でしたか?」
ローリエ「問題しかねーだろ!! オバケは大人しく俺以外の誰かを呪っててください!」
ユニ「誰が怨霊ですか! …とにかく、次は貴方の生徒さんの出番ですよ!」
ローリエ「え、ランプの?」

次回『わたしがいる意味』
ユニ「楽しみに待っててくださいね!」
▲▽▲▽▲▽



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第70話:わたしがいる意味

今回は、ローリエがオッサン達を送った後のきらら・フェンネルの話のランプ視点です。





“何もないわたしにも、できることがあると信じたかった。”
 …ランプの日記帳(後の聖典・きららファンタジア)より抜粋


 先生がナットさんとエイダさんを送りに行くために転移した後。

 目の前のクリエケージにきららさんとフェンネルが歩いていくのを見て、私は今回出会えたクリエメイトの皆様に別れを言っている時でした。

 

 

「ねえ……なんだか、きららの様子がおかしくないかい?」

 

「え?」

 

 

 歌夜様がそう仰ったのがきっかけでした。

 歌夜様が指さす方を見てみると………きららさんとフェンネルがなにか言い争っているように見えました。

 なんだろう、と思っていると―――なんと、きららさんの足が色を失っているかのように石化していくではありませんか!!

 

 

「き、きららさん……?」

 

「な、なにこれ…?」

 

「石化魔法ですわ。貴方にはそのまま固まってもらいます。」

 

 

 ま…まさかフェンネルは、最後の最後でわたし達を裏切ったっていうんですか!?

 

 きららさんが何かを察したように杖から光の弾を放ち、クリエケージを破壊します。

 

 そして………珠輝様たちが輝きだしました。

 もとの世界に…帰る証です。

 

 

「この状況で自分よりもクリエメイトを優先するなんて、忌々しいまでに良い子ですわね。

 ですが……それでも私の目的は果たされました。」

 

「こ、これは……体が…!」

「いやー………参ったね。こんなことになるなんて。」

「嘘だろ……

 こんな状況で帰らないといけないのか!?」

「ど、どうしたら……私達、何もできないの?」

「ランプちゃん! きららさんを助けてください!

 私たちにはもうできないから……

 ランプちゃんだけが、できることだから!」

 

「そんな! 皆様!!

 わたしには……そんなの、」

 

 

 無理です、と言おうとした瞬間。

 皆様が強く光り輝いたかと思うと。

 

 椎奈様が消え。あやめ様が消え。裕美音様が消え。歌夜様が消え。

 そして―――珠輝様が、消えた。

 

 

「―――――っ!!!」

 

 

 気が付いたら、全力で走り出していた。

 そうしなければ、叫んでしまいそうだったから。

 

 

 

 

 気がつけば、息を切らしながらクリエケージがあった場所へ辿り着いていた。顔を上げた時に見えたのは、きららさんそっくりの石像と、やり遂げたって表情をしたフェンネルでした。

 

「はぁ……はぁ………! フェンネル!

 きららさんに何をしたんですか!」

 

「ちょっと石になってもらっただけよ。」

 

 ―――っ! そんな……!

 

「大丈夫。すぐに戻してあげるわ。

 ………アルシーヴ様の元でね!」

 

 

 …やっぱり、信じちゃあいけなかったんだ。

 

 

「クリエメイトもきららも人が良いわよね。

 私の受けていた命令は、きらら―――召喚士を傷つけずに捕らえることだったわ。

 パスを感じ取る力を持つ存在だとアルシーヴ様は考えていたの。」

 

 ちょっと、考えれば、分かることだったじゃんか。

 

「私が近づいたのは、その力を本当に持っているか確かめるため。

 クロモンを倒したのも、クリエメイトを助けたのも、ナットやドリアーテと戦ったのもきららの信頼を得るため。

 全ては、きららの能力を暴くための策。

 不安要素だったナットとエイダも、ローリエが責任を持って護送してくれたわ。だからこそ今……こうして、手中に収めた………!」

 

 フェンネルが……

 「アルシーヴの盾」を自称し、アルシーヴの身辺警護に当たっているあのフェンネルが―――

 

「……僕たちを騙したのかい?」

 

「騙すなんて人聞きが悪いわね。私がアルシーヴ様に叛すると―――本気で思っていたの?」

 

「……アルシーヴの身を案じて、というのも嘘だったのか?」

 

「いいえ、これで今後のクリエメイト集めは最小限の労力で済む。アルシーヴ様の御身は傷つかないわ。

 私はアルシーヴ様の盾。私にとって大切なのはアルシーヴ様だけ。

 それは噓偽りない、私の本心よ。」

 

「くっ…………!!」

 

 

 アルシーヴの狂信者だってことくらい……!!!

 

 

「ランプ。貴方は人を見る目はあったのかもしれないわ。

 きららは、自分の思う為すべきを為す子だった。

 気に入ったわ。アルシーヴ様ほどではないけど。

 だから、そうね……最後にきららに謝らせてあげる。貴方に出来ることはそれしかないだろうから。」

 

 

 きららさんは石になり、マッチも押し黙ってしまったこの状況。

 もう…絶望しかない。ゆっくりと、縋るような思いと足取りで、石像になったきららさんに向かっていく。

 どうすれば……どうすればきららさんを助けられるのでしょうか………??

 どうすれば……珠輝様との約束を果たすことができるのでしょうか……??

 何もない……聖典を読むしかないわたしが、どうやって?

 

 

 

 ―――そう、考えた時でした。

 

 

『問題。君は、()()()()()()()()()()()()()()?』

 

「―――っ!!」

 

『ヒントは、()()()にある。』

 

 

 ……そんな声が、脳裏をよぎったのは。

 これを言われたのは、確かソルトを退けた直後。アルシーヴとローリエ先生が初めて襲撃してきた時でした。

 未知の武器できららさんとクリエメイトを圧倒したローリエ先生がわたしに対して発した言葉。

 

 あとは…なにかあったはず。『イモルト・ドーロ』で苺香様達を帰した後だったような………

 

 

『ランプ自身は何も出来ないと思っているかもしれないが、案外そうじゃないかもってことだ。

 ()()()()()()()()()()()()()について、()()()()()()()()()……()()()()()()。フェンネルに会うまでに考えておくといい。

 これが、スペシャルヒントってところだよ』

 

 

 ―――っ!!!

 まさか……そういうことだったんですか?

 ローリエ先生の言っていた、『フェンネルに会うまでに考えておいた方が良い事』……それって、この事だったと言うんですか!?

 

 先生の言葉が、ここまで今の状況にピタリと一致するなんて誰が思うだろう。さっき思い出したばかりのわたしも、到底信じられません。

 しかも、「きららさんの為に何ができる?」なんて……わたしが教えてもらいたいくらいです! ヒントも「わたし自身にある」なんて……とんでもない。わたしには何もないはずなのに。

 

 そこまで考えて。

 ふと、過去の映像が走馬灯のように、アタマの中を流れだしたのです。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 その日は、わたしがまだ神殿にいた頃、魔法工学の授業内でのことでした。

 確か、『魔法の使い方』……みたいな話だった気がする。その授業で先生は、わたしのクラスでいちばん魔法に優れた同級生と模擬戦を行ったんでした。

 

『俺はマトモな魔法なんて使えないが……遠慮はいらない。これまで身につけてきた全部をぶつけなさい』

 

『え……でもそれじゃあ、先生が危険なんじゃ…』

 

『遠慮はいらない。二度目だぞ。』

 

 わたしの同級生の中で魔法実技のトップの子は人を気遣える優しい人で、ローリエ先生に指名された時はあまり乗り気じゃあなかったみたいだけど、先生の二度目の『遠慮はいらない』発言で全力で先生にぶつかる決心をしたようでした。

 

 

『じゃあ………いきます!!』

 

『来い! 他の皆もこの模擬戦、見逃さないように!!』

 

 

 そして、彼女の雷魔法の初撃を皮切りに、異例の模擬戦が始まった。

 始まった戦いは、先生が防戦一方でした。彼女がふんだんに魔法攻撃をしていたのに対して、先生は身のこなしだけで全てを躱しきる。一歩間違えれば大怪我です。傍から見ていてもとてもヒヤヒヤしました。

 

 

『流石だな! その年でここまでの魔力とは! アルシーヴの教えが良いからだな!』

 

『くっ……!』

 

 でも、先生の表情はそんな危機的状況をまったく気にしていないかのように笑顔で、完全に余裕のある人の佇まいでした。

 反対に、優等生の彼女の表情は曇っています。自慢の魔法をすべてさばかれているから仕方ないのかもしれませんけど。

 

『さて、他にはないのか? もうおしまいか?』

 

『まだ、まだ!』

 

 先生は、追い詰めるかのように前に出ていきます。魔法の迎撃なんて意にも介さずに直撃しないように動きながら。

 彼女は、距離を詰めてくるそんな先生をなんとか遠ざけようと連射性があって、しかも当たったらかなり吹っ飛んでいきそうな魔法に切り替えて攻撃していますが……

 やっぱり、防戦一方のはずの先生と攻め続けている彼女の表情は変わることはなかった。

 

 ただ、戦況はここで一気に決着に向けて変わったきっかけがあった。

 ローリエ先生は、優等生さんの攻撃をかわしながら、右手を水色に光らせたんです。そして、ひとこと、こう呟いたのでした。

 

 

『―――ハイドロバースト』

 

『『『『『『『!!!!?』』』』』』』

 

 

 生徒全員が息を飲みました。

 「ハイドロバースト」といえば、高度な水属性魔法の一つ。八賢者のセサミが使うことで有名な魔法です。マトモな魔法を使えないと公言するローリエ先生からそんな魔法が出てくるとは到底信じられなかったんだ。

 そして……息を飲んだのは、先生と戦っていた彼女もまた、例外ではありませんでした。そして、その一瞬が、決着のきっかけとなったのです。

 

 

『え……きゃっ!!』

 

 突然、彼女が体勢を崩して尻餅をついたんです。

 そして、立ち上がろうとしたけれど……

 

『あ………』

 

『ハイおしまい。お疲れ様でしたー』

 

 遠くから瞬きひとつせず見ていたからかろうじて分かるようなものでしたが、先生は息を飲んだ一瞬のスキを突いて、彼女に足払いをかけていたのです。見事に転んだ彼女が顔を上げた時には、先生は手刀を彼女に突きつけ、模擬戦の終了を宣言していたのでした。

 

 そして、模擬戦の振り返りに入っていきます。

 

 

『今の模擬戦の俺の動きについて、何か気づいたことはあるかな?』

 

『はい!』『はい!』『はいっ!』

 

『じゃあ―――ランプ』

 

『!』

 

 積極的な生徒に混じって、おずおずと手を挙げたわたしが真っ先に指されて、動揺しましたが…言ってみました。

 

『先生は……最初から最後まで、平気な顔をしていましたと思います。セレナーデさんの雷魔法にも早い魔法にも突っ込んでいって……』

 

『なるほど。終始余裕そうな顔をしていた、と。他には?』

 

 わたしがそう言ったのを皮切りに、他の生徒たちもどんどん意見を言っていく。

 「相手の魔法を魔力を使わずにかわしていた」「相手が焦るのを待っていた」「すごすぎてほぼ見えなかった」等……よく見ていたらしき意見から漠然としすぎて笑いを誘うような意見まで、いろいろと出尽くしたところで。

 

 

『そういえばせんせー!

 さっきの模擬戦中、確か「ハイドロバースト」って言ってましたケド……

 ひょっとして使えるんですか!?』

 

 同級生のひとりが、そんな質問をした。

 その質問には、わたしも含め「言われてみればそうだ」という顔をして…

 

『そ、そうですよ! 私、本当に撃たれるかと思いました!』

『まさかローリエ先生って、実は魔法めっちゃ使えるとか…?』

『そこのところ、どうなんすかせんせー!!』

 

『あー、それね。アレはただのハッタリだよ。

 ハイドロバーストなんて俺が使える訳ないじゃん。アッハッハ』

 

『『『『ええええええええええっ!!?』』』』

 

 

 あっけらかんと笑う先生に、驚くわたし達。

 だ、だって、あの時の先生は思いきり水の魔力を放とうとしたようにしか見えなかったんですけど……

 

『あれ? 信じてないな?

 だって、何度も授業で見てきたじゃない? 俺が頻繁に聖典でクリエを回復してた所。

 ―――それなのに、なんで今回の模擬戦でみんな…「ハイドロバーストを撃ってくるかも」なんて思ったんだろうね?』

 

『『『『!!!』』』』

 

 ローリエ先生の質問に、みんなハッとする。そして、あっという間にざわざわしだした。周りの人とああだこうだと相談しだしたんだ。

 どうして「ハイドロバーストが来る」と思ったのか。この時は、わたしも簡単に答えが出てこなかった。模擬戦の先生は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とばっかし思ったから……

 

 

『実は、さっきランプが正解に近いことを言っていたんだ。』

 

『え。わ、わたし!?』

 

『そう。終始平気そうな顔をしていた、って言っていたよね?

 ハッタリが通用したのはそこがミソなんだ。

 余裕ありげな笑みを浮かべて魔法を撃った直後にさも本当に発動するかのような詠唱で、呟いた。

 だからみんな、「マジにハイドロバーストが来るのかもしれない」と思ってしまったんだ。』

 

『『『『『『!!!!!』』』』』』

 

『これから先、みんなが戦う時が来るかもしれない。

 そうじゃあなくても、ハッタリが必要な時が来るかもしれない。

 その時に重要なのは、たとえどんなピンチに陥ってもふてぶてしく笑うことだ。

 人の心なんてまず読めやしない。もし笑っていれば、相手は「策があるかも」と思うかもしれないだろう。

 仮に「何もない」って思われても、0.1%でも「何かあるかもしれない」って思わせることが重要なんだ。

 では、このハッタリの使い方についてプリントを配るから―――』

 

 そうして、走馬灯は終わりを告げました。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ……そうだ。あったじゃあないか。わたしにも出来ることが。

 きららさんの為になるかは分からない。でも。

 

 きららさんはいつもわたしを見守ってくれた―――

 きららさんはいつも隣で明るく笑って―――

 辛い時はいつも励ましてくれた―――

 確かにわたしに出来ることは何もないかもしれない……それでも!!

 

 

「……わたしは、きららさんと一緒に世界を救うって誓ったんです。

 このままきららさんが連れていかれるのを見てるだけなんて嫌です。

 いつも守ってもらってばかりだけど―――今はわたしが絶対に、きららさんを守ってみせます!!」

 

「…無理よ。貴方に出来ることは聖典を読むだけ。

 魔法も、力も、知恵も何もないのだから。」

 

 

 フェンネルが淡々と事実を告げる。

 でも……泣いちゃ駄目!!

 先生が教えてくれた。どんなピンチでもふてぶてしく笑えと!!

 

 

「………ふふふふ…」

 

「? 何がおかしいのです?」

 

 確かに私には戦う力はありません。魔法にしたって……日常使いする魔法をちょっぴり使えるだけ。

 でも、()()()()()()()()()使()()!!

 

「あら。流石のランプでも日常魔法は使えるようね」

 

 使うのは、指先を光らせる魔法。ローリエ先生のおかげで使えるようになった日常魔法のひとつ。

 これを………全身に巡らせる…っ!

 

「わたしでも、これくらい、できるんですっ……!」

 

「話にならないわね。マトモに戦える魔法の一つでも使えるようになってから出直しなさいな」

 

「出直す……ですか。無理な相談ですね。

 ―――だって、ここで退いたらきららさんがいなくなるから」

 

 

 ……想像以上にきっつい!!! これだけで、倒れそう!

 でも――やり通すしかない!! この、ハッタリを!

 

 

「はぁ。言ったでしょう。貴方には何もないと。

 マトモに魔法も使えない貴方が、わたくしの邪魔をしないでくれるかしら?

 はっきり言って、うっとうしいですわ」

 

「………マトモに使えない? 確かにその通りです」

 

「?」

 

「だってこの魔法、マトモに使ったら()()()()()()()()()()()()

 

「「!?」」

 

 

 マッチの顔が驚きに変わる。

 フェンネルの眉が少し動いた。

 

 

「……ハッタリですわね。ランプがそんなこと出来るはずがない」

 

 ―――ば、バレてるーーー!!?

 で、でも……認めるもんか! たとえ99%ハッタリだと思われても! 残り1%で「もしかしたら本当に?」と思わせられる限り続けてやる!!

 

 

「え、ええ。この魔法は、一生使う気はありませんでした。

 なにせ使った瞬間、わたしの人生が終わっちゃいますからね。」

 

「………?」

 

「……わかりませんか、フェンネル? これからわたしがやろうとしていることが。

 さっきまで戦っていた―――()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()のに。

 ドリアーテと違って、()()()()1()()()()使()()()()()けど」

 

「!!?」

 

 

 ドリアーテと皆さんの戦いは先生作のドローン越しに見ていました。

 彼女の、不死性を利用した、普通じゃ考えられない自爆特攻も見てきました。

 ちょっと癪ですが、ドリアーテからはいいアイデアを貰ったと思います。

 先のことなんて一切考えてませんが、笑顔も余裕の態度も崩しません!

 

 

「まさか……()()()()()()()…!!?

 ありえない! あのランプが、そんなこと……!」

 

「『出来るはずがない』ですか? …とんでもない。

 ここで『できない』って答えるようなら、わたしは今ここに立っていない!!」

 

「馬鹿っ! 考え直せ、ランプ!!

 君がいなくなったら、誰が―――」

 

「そんなの、マッチに決まってるでしょ。

 きららさんのこと、お願いしてもいい?」

 

「なんてっ―――! 無茶を、言ってくれる!」

 

 

 マッチにはこのハッタリについては当然、言ってない。

 わたしが本当は「エクスプロウド」なんて使えないことも、分かってると思う。

 それでも合わせてくれるあたり、流石だ。わたしとずっと一緒にいたからかな?

 

 そして、このマッチの演技が、決定的になった。

 

 

「………正気?

 いまここで貴方が自爆しても……きららを助けるどころか、粉々になるわよ!!」

 

 

 ―――かかった!

 フェンネルはおそらく。わたしの余裕が演技だと思っているのでしょう。

 でも……それと同時に、「もしかしたら、本当に自爆するかもしれない」とも、思っている!!

 

 

「……まさか、その点について、わたしが何も考えていないとでも?」

「!?」

「まぁ…どうするかは教えませんけど」

 

 何も考えていませんし、教えられません。

 なぜなら…「エクスプロウド」の時点でハッタリだから。

 でも、余裕の表情を崩さずにそう言えば……ヒヤヒヤしている内心は絶対にフェンネルには伝わらない!

 

 

「聖典を読むことしかできないけど、それでもわたしはここまで旅をしてきたんです!

 だから、わたしにも何かできることがあるんです!!

 わたしだって、きっと―――輝けるはずなんです!!!

 たとえ一瞬でも、閃光のように―――!!!!」

 

 

 そこまで啖呵を切って。

 あ、そういえば、ここから先はなんにも考えてなかったっけ、と。

 そう思った時。

 

 

 

 

 ―――不思議なことが起こった。

 

 

「えっ―――」

 

 

 わたしの全身が、強烈な光を放ったんです。

 さっきまで纏っていた、日常魔法の光ではありません。もっと強力な光です。

 当然、土壇場で思いついた策にこんなことは想定してなくって。

 

 

「ランプっ!? 一体、なにがっ!!?」

 

 

 みんな眩しくて、つい目を閉じてしまって。

 光が収まるまで、目を開けられませんでした。

 

 

「……………………

 ………ん、えっ…あれ?」

 

「!!」

 

 

 一瞬、聞きたかった声がしたような気がして。

 きららさんのもとへ駆け寄ってみれば。

 

 

「きららさん!」

 

「……えっと、ランプ? 何が一体どうなって―――」

 

「きららさんっ!!!」

 

 

 きららさんの石化が……解けていたんです!!

 肌や髪、そして服の色も…石のような無機質な感じではなく、暖かい、もとのきららさんの色に戻っていたんです!!

 

 

「よかった、良かったです、きららさん………!!!」

 

 

 無意識に涙がこぼれてきました。

 きららさんが石化した時は、諦めたくないのに、もう諦めるしかないのかとも思っていましたが………ローリエ先生の教えと今までしてきた旅、そして…出会ってきたクリエメイトの皆さんのおかげでなんとかなった、のかな……?

 

 そう思った時。レイピアを抜く音が聞こえた。

 

 

「あり得ない。どうして、きららの石化が解けたというの?

 ……ランプ。貴方が、何かしたというの?」

 

「えっ?」

 

「……私は貴方を甘く見すぎていたのかもしれないわ。

 私は判断を誤ったのね。きららを石化すると同時に、ランプ。

 ―――貴方も始末するべきだった!!」

 

「え、えええええええええええええええええええええええええええええッ!!!?」

 

 

 う、ウソ!?

 まさか、わたし、フェンネルに危険視されてる!!?

 ち、違うんです! 全部ハッタリだったんです!!

 自爆する気なんて毛頭なくって、ただきららさんを守りたかったから、思いついたことを全力で実行しただけなんです!!!

 ……って言って、信用してくれる、でしょうか? 信用しませんよね!!絶対信じてくれませんよね!!?

 

 

「覚悟!!」

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 そして私に迫ったレイピアは―――杖に遮られた。

 星がトレードマークの、きららさんの杖に、です!

 

 

「状況はよくわからないけど……

 決着をつけないといけませんね、フェンネルさん。」

 

「っ……もう一度魔法を展開する時間はないわね。

 多少手荒になっても、貴方を逃がすわけにはいかない。

 無理やりにでも、捕らえさせてもらうわッ!!」

 

 

 復活したきららさんと、フェンネルの最終決戦が始まる。

 わたしは、きららさんを信じて、マッチと一緒に後ろに下がることにした。

 逃げるためじゃない。わたしの勇気も、誓いも、ここにいる意味さえも、きららさんに託すために。

 




キャラクター紹介&解説

ランプ
 ローリエの授業をもとに、すべてを賭けたハッタリをかまして女神の片鱗をみせつけ、きららの石化を解いた女神候補生。内心ではなんにも考えてなくてヒヤヒヤしていたらしく、のちに「もう二度とやりたくない」と語っている。

ろーりえ「いいじゃあないか。女神の素質あると思うぜ」
らんぷ「ハッタリに女神の素質は関係ないと思うのですが…」
通りすがりのトゲトゲ弁護士「弁護士の素質もあると思うよ」
通りすがりの大学教授「心理戦も立派な英国紳士の嗜みさ」
らんぷ「誰ッ!!!!?」

マッチ
 ランプのハッタリにいち早く気が付いて、それに乗っかることでフェンネルの疑惑を崩した自称保護者。マッチの方がマスコットの見た目らしからぬ真面目さを持っているので、彼が動揺するのを見てフェンネルはランプのハッタリを信じたといっても過言ではない。彼の動き方次第で、フェンネルに見破られてたことを考えると彼は彼の為すべきを為したと言えよう。

フェンネル
 見事にランプの策にハマった八賢者。彼女から見たらランプは『不敵な笑いを始め、自爆のそぶりを見せてきたと思ったら召喚士の石化を解除してきた』ようにしか見えないため、彼女の中でランプの脅威度は上がっている。なお、全部誤解である。

ローリエ
 ランプの回想の中で、逆転の一手を打つきっかけを与えた拙作主人公。この授業では、文字通り虚実を交えた攻めの意味を実践込みで教えることをしていた。魔法工学からはやや離れているが、臨時の講師として抜擢されていたのだ。

セレナーデ
 ランプの回想に出てきた、ランプと同級生の女神候補生。魔法に優れ、雷魔法を得意とする。今頃はしっかりと勉強中である。今回のみ出てきたモブキャラ。



「一瞬……でも、閃光のように」
 元ネタは『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』に登場するダイの仲間・ポップの言葉。人間の素晴らしい生き方をひとことで表した名言である。



△▼△▼△▼
ランプ「良かった……!きららさん、このまま石になって戻らないんじゃないかと……!」
マッチ「しかしな、ランプ!なんだあのハッタリは!!心臓が止まるかと思ったぞ!」
ランプ「うぅ…確かに、心臓バクバクで頭の中がマッシロになりましたけど……きららさんを救えたから良し!!」
マッチ「調子のいいやつ…まだフェンネルとの戦いは終わってないし、アルシーヴがここに来るんだぞ!!」
ランプ「え………来るんですか!!? アルシーヴが!?」

次回『再来するもの』
アルシーヴ「クリエを、この手に―――!!」
ランプ「ぎゃああああああああ!ほんとに来たあああああああああ!!?」
▲▽▲▽▲▽


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第71話:再来するもの

 いつも応援ありがとうございます。とうとうハッカを引いて嫁にBOXに迎えることに成功した作者でござる。でもラパンは無料10連期間中にも来てくれなかった。ミカンママも来てくれなかった。リョウとユタカとマゼンダミキは来てくれたのに。
 それに第2部も始まりましたね。新たな敵の全貌・目的・背景………すべてが謎ですがというかなのでというか…とりあえず、拙作では第一部と外伝の完結に向けて執筆していきたいと思います!
 という見事に物欲センサーに引っかかったガチャ運と新たな物語はおいといて、今回はきららとフェンネルとアルシーヴの回だー!!



“その戦いに一番星を見た。封印されし女神様のもとに届きうる流星の光を、きららさんは見せてくれた。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋




 ランプを庇う形で、突然始まったフェンネルさんとの戦い。

 彼女には、明らかに余裕がなかった。

 当然だ。ナットさんとも戦ってたし、さっきまで私やローリエさんと手を組んでドリアーテと戦っていたんだから。体力はあまり残っていないはず。

 

 …とはいえ、私も決着は早めにつけたい。

 ナットさんと戦った時や、ドリアーテからエイダさんを救いだした時に多くのクリエメイトの皆さんの力を借りました。

 なにより、土壇場でクリエケージを壊してからさっきまでの記憶が途切れていて、あんまり状況がよくわかっていない。

 

 ―――でも! ここで負けられないのは確か!!

 

 

 身体強化をかけて、すぐさま連撃を叩き込む。

 カルダモンを真似て編み出した速度強化を乗せた攻撃さえ盾で防いでいくフェンネルは、流石アルシーヴの盾を自称するだけはあると思う。

 それでも…今のフェンネルに、余裕の表情はない。

 

 

「はあああああああっ!!」

 

「ぐううううううッ!!」

 

 

 連撃を盾で防ぎ、耐えている様子のフェンネル。

 その隙に、あの力をもう一度使う!

 これまで私が頼りにしてきた、召喚士の力を!

 

 

「『コール』ッ!!」

「!!!」

 

 

 呼び出したのは、白の魔女帽と露出の高めな服に身を包んだまほうつかい。

 ―――港町で出会った、ひふみさんだ。

 ひふみさんは、雪の結晶のようなクリスタルに魔力をこめる。それを、フェンネルさんにぶつけるために。

 

「…っ! させません!!」

 

 フェンネルさんはそれに対して、レイピアを振るってカウンターを決行。

 でも、それを思い通りにやらせる訳にはいかない。

 彼女の戦い方は共闘した時に見てきました。そのカウンター攻撃に、私は更に攻撃を仕掛ける!!

 

「はあぁぁぁっ!!」

「うっ!!?」

 

 ひふみさんを呼び出すのは一瞬だけ。フェンネルのカウンターを誘うためのフェイク。

 そして、フェンネルさんの戦法を利用した、カウンター攻撃に対するカウンター。

 いつものフェンネルさんなら、あるいはこの攻撃に反応して、なにかしらリアクションを取っていたかもしれません。

 しかし、今の彼女は連戦の後で疲れ切っている。だからだろうか。

 

 

「――うぅっ! 流石に、厄介ですわね、その力は…!」

 

 

 ひふみさんに気を取られ、私の本命に気づかなかったみたいだ。

 魔法弾をまともに食らい、膝をついた。

 チャンスです! この戦いを終わらせる時……!

 

 

「これで、おしまいです!」

 

 

 私達が先に進むため、ソラ様を救うため……最後の一撃を放とうとしたところで……

 

 

 

 

 

「――――!!?」

 

 

 別の、だれかの気配がしました。

 あの時と、同じです。『オーダー』でめちゃくちゃに繋げたような、パスの気配…!

 これは、まさか………!!!

 

 

「……っ、もう、お越しになりましたか。

 ―――アルシーヴ様。」

 

 

 魔法を中断し、畏まったフェンネルと同じ方向に目を向けると―――

 そこには……確かに、いた。

 格式高い法衣と肩の金属鎧、そして桃髪が特徴的な筆頭神官が。

 山道で直接戦いこそしなかったが……私達と出会った、今回の元凶らしき人が。

 ………アルシーヴが、冷え切るような紅い瞳で、こちらを見ていた。

 

 

「…フェンネル。召喚士を捕らえたのではなかったか?」

 

「申し訳ございません……アルシーヴ様……。」

 

「そうか。お前の策が、破られたか……ローリエは?」

 

「彼なら、今回の『オーダー』で巻き込まれた者たちの護送に…」

 

「そうか。………フェンネル、下がれ。」

 

「ですが、アルシーヴ様!」

 

「下がれ。」

 

「………………はい…」

 

 

 うろたえるフェンネルを有無を言わせぬ態度で下がらせると、今度はこっちに…私に対して明確に、話しかけてきた。

 

 

「……久しぶりだな、召喚士。」

 

 

 ……アルシーヴ。この人が、ランプの先生にして――

 ―――女神ソラ様を、封印した張本人………。

 初対面じゃないけれど、やっぱり、慣れないプレッシャーだ。

 

 

「アルシーヴ………ランプの先生だった貴方が、

 どうして…こんなことを………。」

 

「……全てはただ一つの目的を果たすためだ。

 ―――召喚士、私の元へ来い。

 お前のその力さえあれば、私の望みは限りなく実現に近づく。

 ランプの世迷い言に付き合う猶予などない。」

 

 アルシーヴは、ストレートに私に要求してくる。

 それに、私は……

 

「……それは、できません。

 私は、ランプの言っていることが世迷い言だなんて思いません。」

 

 ……否と、叩きつけた。

 

 

 瞬間、アルシーヴの放っていたプレッシャーが一段と強くなり、私達を覆って握りつぶそうとしてくる。そんな風に錯覚するレベルの、覇気だった。多分だけど……ナットさんのアレよりも強い…そんな風に思えた。

 

 

「そうか……ならば。

 力尽くで連れていくしかあるまい。」

 

 

 アルシーヴの魔力が高まっていく。

 始まるんだ。私とアルシーヴの、エトワリアを賭けた戦いが……!!

 

 

「『コー…」

「『ダスクブランド』」

「!!」

 

 先手を取られた。

 私の力を……『コール』を使えたら一気に有利になるけれど、フェンネルさんもアルシーヴもなかなか使わせてくれなかった。流石に何度も八賢者と戦っていると、対策も立ててくる、ってことか……!

 放たれた闇の魔力を飛びのいて躱すと同時に、『コール』に使うつもりだった魔力を『速度強化』に切り替える。

 

「速度強化魔法………? ならば―――『シャドウバインド』」

 

「!!?」

 

 アルシーヴの周囲から現れた、真っ黒でつかみどころのないような、茨みたいなモノが加速する私目がけて追ってくる。出来る限りスピードを上げていくが、振り切れる気配がない。

 

 

「―――ッ、はああああああ!!!」

 

 逃げ続けてもキリがないと、踏んだ私は、アルシーヴへ突っ込んでいき、魔法の茨をかわしながら至近距離で魔法を―――連射!!

 

「!? ぐっ……!!」

 

 効いている……!?

 そう思った瞬間、加速魔法で強化された私にアルシーヴの魔法の茨がぶつかり相殺される。今の茨は、速度を下げる魔法だったってことだ。

 

 

「きららさん!」

 

「まだ…大丈夫!」

 

「………っ!」

 

「アルシーヴ様!」

 

 

 アルシーヴの姿が揺らぐ。

 さっきの魔法の連射をモロに受けたのか、苦しそうな顔をしている。

 それが、どうも変な感じがした。

 

 

「すごい………あのアルシーヴと互角?

 いや、きららの方が勝っているんじゃあ……」

 

「すごい、すごいです、きららさん! これなら、ひょっとすると―――」

 

 

 アルシーヴと互角。ひょっとすると。

 ランプとマッチの言うことには私も同感だ。

 ()()()()()()()()()()()

 

 私はあの時よりも強くなったと思う――――――ううん、強くなった。

 けど、優勢なのはそれだけじゃない。明らかに変なんだ。

 神殿の神官たちを率いる筆頭神官……これが、本当に彼女の全力なのか?―――そう思えてしまうくらいに、魔法の威力が弱い。

 アルシーヴと戦ったことはこれが一回目だけれど……かつての私が手も足も出なかったローリエさんの上司が、こんなに弱いはずがない!

 

 これが、フェンネルさんの言っていた『オーダー』の反動、だとしたら…………今なら私の力でも………!!

 

 

「っ、いきます……!!」

 

 

 仕切り直しに牽制の魔法。

 お互いに放ったそれが、私とアルシーヴの間でぶつかり合って爆発を起こすとすぐさま速度強化をかけ、素早い動きと砂煙でアルシーヴの視界から外れようとする。

 

「小癪な…」

 

「でやあっ!」

 

 アルシーヴの反応が僅かに遅れたのを見た私は、そのまま一気にアルシーヴとの距離を詰める。

 そして―――強化の変更・攻撃強化。ジンジャーさんを見習った強化魔法を纏った一撃!!

 

 

「!!?」

 

 

 紙一重で攻撃をかわし、距離を離したアルシーヴ。

 生まれた隙を使い、あの魔法を使う! 今度は、邪魔させない!!

 

 

「『コール』!!」

 

 

 魔法陣が三つ現れ、クリエメイトの皆さんがその中から出てきた。

 

「いつも隣に、九条カレンデース!」

「よっ…と。思いっきりいくぞー!」

「あまりはしゃぎすぎないでよ、カレン、陽子!」

 

 青と赤、黄色、そして白い羽付きの派手な衣装のカレンさん。

 緑の盾、鍔の丸い剣、そして騎士然とした格好の陽子さん。

 紺色のフード付きローブを着た魔法使いの綾さん。

 

 

「皆さん、一気に攻めましょう!!」

 

 

 クリエメイトの皆さんと、攻撃の準備を整える。

 『コール』が発動できた今、状況はこっちが有利です!

 

 アルシーヴは立ち上がると、私に『コール』を使わせたのが失策だったかのようにきっとこちらを睨んだ。

 ―――その時。

 

 

「……これ以上はおやめください、アルシーヴ様!」

 

「フェンネルさん!?」

 

「フェンネル―――」

 

 

 私達とアルシーヴの間にフェンネルさんが割って入ってきて…

 

 

「申し訳ございません、アルシーヴ様……これ以上はお身体が持ちません!

 私の役目はアルシーヴ様をお守りすること。叱責は覚悟の上です。

 ここは、どうか退いてください!」

 

「お前―――」

「待って!」

 

 

 ―――あっという間に、アルシーヴと一緒に転移されてしまった。

 ナットさんと戦って、ドリアーテと戦って、私とも戦ったのに、まだそんな力が残っていたなんて………

 その後マッチの説明で、私がフェンネルさんの石化魔法に囚われて、ランプがハッタリをかました次の瞬間まで石像に囚われていたことが解りました。そして……珠輝さん達が無事に元の世界に帰ることが出来たことも。

 

 

「あ、あの、ランプ…? もし私がピンチになっても、自爆とかしちゃ、ダメだよ…?」

「えっ!? だ、大丈夫ですって! そもそも使えませんからね!自爆魔法なんて!!」

「なら、良いんだけど……ハッタリなんて、よくできたね?」

「え、ええっと…ローリエ先生のお陰、なのかな…?」

 

 

 ランプのハッタリや、その後放った謎の光について話しながら、私達はもう通れるようになった頂上への道を歩み始めます。

 神殿は、もうすぐそこです。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――きららとアルシーヴの戦いが一種の決着を迎えていたその頃。

 

 とある森の中で、盛大に大暴れをしている者がいた。

 

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおのォォォォォォォォォれエエエエエエエエエエ!!!

 おのれ召喚士! おのれ大地の神兵!! おのれ八賢者!!!

 私の目的を邪魔する害虫どもがアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

 

 その者は、普段美しい顔をおぞましいほどの憤怒に歪めて、八つ当たりのように―――否、実際に八つ当たりである―――森の木々に火を放ちまくっていた。

 放たれた炎は、彼女の怒りを顕現するかのように、轟々と燃え盛り、あらゆる木を灰に変えていく。

 

 彼女の名は―――ドリアーテ。

 先ほどまで、召喚士きらら・八賢者フェンネル&ローリエ・大地の神兵ナットと大乱戦を繰り広げていた、『不燃の魂術』の使い手だ。

 彼女は本来、ナットの姪・エイダを人質に、ナットに召喚士と賢者の始末を脅迫(いらい)していた。

 だが……彼ら彼女らの策に見事に引っかかった結果……人質にも、召喚士にも賢者にも、神兵にも逃げられてしまうという大失態を犯した。

 無論、ドリアーテがこんな失態、許せるわけがない。

 その結果が―――この大規模な山火事である。

 

 傍から見ている人間からすれば、彼女の行動は感情の赴くままに癇癪を起しているように見えるだろう。

 だが、表に出している怒りとは裏腹に、彼女の中には冷徹で狡猾な悪鬼が潜んでいる。そいつが、激情に流されることは、無い。

 

 

「な、なんだこの山火事は―――」

「おい、すげえ勢いで―――」

 

 

 現に、山火事の様子を見に来た村人の男性二人を、視界に入るやいなや高圧の火炎で斬首したのだ。

 哀れな無辜(むこ)の民は、自身の身に起きたことを1ミリたりとも理解できないまま、首から上が消滅した。

 山火事の主であるドリアーテは、村人をなんの躊躇いもなく焼き殺したのだ。

 だがそれは、怒りに呑まれた故の暴走による、もらい事故などではない。ドリアーテの「目撃者は一人たりとも生かしてはおかない」という冷静な打算の末に行われた。つまり、ドリアーテは村人を見つけると彼女自身の意志で村人たちに最大限の殺意のもとに攻撃を行ったのである。

 

 

 どさり、と力なく頭なしの死体が二つ転がる。

 

 それでほんの少しは怒りが収まったのか、ドリアーテは肩でため息をつくと、

 

 

57号!!!

 

「こちらに」

 

 番号を呼ぶ。すると、ドリアーテのそばに、とある少年が現れた。

 

 少年の出で立ちは、一言で言うなら「執事見習いの美少年」。

 白のワイシャツと黒の燕尾服が見事なモノクロファッションとなっている。真紅の髪とネクタイもまた良いアクセントとなって執事服にピッタリとマッチしていた。

 だが、その容姿を手放しに褒められるかと言えば……断じて否だ。何故なら、その少年の表情が―――どう見ても、人間のそれではないからだ。

 異形ということではない。むしろ、世が世なら『あざとさ7割カッコよさ3割』等と謳われ持て囃されるレベルの美少年だ。しかし………本来人間が持つべき、「温かみのある表情」と呼ぶべきものが一切ない。

 瞳は墨汁を垂らすどころか墨の海に漬け込んだのではというレベルで昏く、表情筋が石化でもしたかのように口元や眉が一切動いていない。

 

 異常な程に「人間らしさ」が削ぎ落とされた少年を、まともな人間が同じ「人間」と判断できるだろうか?

 

 ―――いや! こんな機械のような人形(ひとがた)が「人間」のはずがない!!

 

 

「……命令だ57号。私に歯向かう者達を、皆殺しにしろ!!」

 

「…はい」

 

 ドリアーテの命令に最小限の返事を返すと、少年はひとっ跳びで姿を消した。

 ドリアーテはほくそ笑む。

 あれは最も使えるコマだ。反抗する事も、裏切ることもない。しかも、自分の意志を最大限に叶えてくれる。オマケに実力は折り紙付きだ。

 砂漠のチンピラ(サルモネラ)金の亡者(ビブリオ)自尊心の化身(セレウス)などとは違う。本当に信頼できる部下だ。

 

「(……57号なら、必ずや私の命令をこなしてくれるだろう……!!)」

 

 

 ドリアーテは、そう信じて疑っていなかった。

 

 

 

 

 

「…ドリアーテ様は絶対。ドリアーテ様の言うことは全て正しい。必ず『命令』は実行する……!」

 

 

 そんな横暴な主人に指示された真紅の少年は、濁り切った目や抜け落ちたような表情を変えることなく、機械的にそう呟きながら言ノ葉の樹の登り道を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

きらら&アルシーヴ
 拙作ではソルト戦後の山道でダークマター祭りをされなかったので実はここが初戦となる主人公&1部ラスボス。しかし、アルシーヴの『オーダー』の反動は大きく、原作とは誤差の範疇でしか差がない。具体的に言うと、寿命が数か月伸びたかな?って程度。

フェンネル
 アルシーヴの盾たらんとしてアルシーヴの戦いを中断させた八賢者。アルシーヴの身体のみを鑑みて割り込んでいくほどの、原作と変わらぬ忠誠心を再現した。

ドリアーテ
 誰も葬れなかった怒りを戦場で発散する『不燃の魂術』使いの黒幕。ナットの人質作戦も不発に終わったため、奥の手たる「最も信頼できる部下」の動員を決断したようだ。

57号と呼ばれた少年
 ドリアーテが最も信頼している部下の少年。見目は美しいようだが、表情が完全に死んでいるようだ。彼の正体とは一体……?

村人A・B
 山火事かと思い消火活動をしようとしてドリアーテの八つ当たり現場を見てしまったために、あっという間に殺されてしまった哀れな人たち。モブではあるが、拙作の中で過去一番に登場シーンが少ない。


言ノ葉の樹内の火事
 『オーダー』の影響が治まった後に発生。それなりの規模になったが、あまり延焼はしなかったために樹のダメージは比較的少ない。ただし、焼け跡から二人の死体が見つかったことから、消火は容易ではなかったことが伺える。





△▼△▼△▼
ハッカ「遂に我が出番なり。刮目せよ」
ローリエ「待ったハッカちゃん。アルシーヴちゃんも帰ったばっかでクタクタだし、俺に至ってはまだ墓地で修行中だ」
ハッカ「墓地で修行……? 珍妙な画なり。経緯は如何に?」
ローリエ「次回予告で話してる時間ねーだろ。帰ってきたらその辺はしっかり話すさ。それと……」
ハッカ「ローリエ、心配無用。」
ローリエ「………そうか?」

次回『ハッカ始動』
ハッカ「次回、乞うご期待。」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
 遂に配信された第2部、やってみましたが期待半分不安半分の気分は収まりません。新たな展開は楽しみではありますが、クリエメイト達がどこまで苦しむのかが不安です。別にこれは悪いことではありません。現に、ローリエ参戦の第2部を色々と断片的に考えていますから。ただ、今は第1部を完結させることに専念させてほしいってだけで。
 とりあえず、以下の台詞をちょっと見てほしい。

①伊御「俺とつみきの絆はっ――誰にも…引き裂けない!!」

②ローリエ「誰にモノを言っているのかね? 私は木月。日ノ本の大総統……」

③きらら「コン○ームがなかったら死人が出ていたかもしれません…」

 さ、これらの一言からくる展開を想像してみよう。





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エピソード9:エトワリア学園情報処理部~寝込みを襲うのは紳士のやる事じゃない編~
第72話:ハッカ始動


ま、間に合ったー! コレが正真正銘、2020最後の投稿です!
今年も拙作を読んでいただき、ありがとうございます。
節目の年にしては暗い話題も多い年ではありましたが、暗さに負けないニュースもありました。300億にして日本一の男、煉獄さんのおかげですね(笑)! 私も、執筆を続けてきたつもりです!
それでは皆様、良いお年をお過ごしください!そして、2021年も頑張っていきましょう!


 

 フェンネルによって、召喚士との戦いは中断を余儀なくされた。

 そして私達は今、転移魔法によって神殿へと戻ってきていた。

 

 

『申し訳ございません、アルシーヴ様……これ以上はお身体が持ちません!

 私の役目はアルシーヴ様をお守りすること。叱責は覚悟の上です。

 ここは、どうか退いてください!』

 

 

 …別に叱責するつもりはない。私の身を案じてくれたなら猶更だ。フェンネルはフェンネルの為すべきを為したまで。

 フェンネルから一通り言ノ葉の樹内で起こったことの報告を受けた後は、彼女に待機命令を出して一旦下がらせる。

 

 それよりも私が気になるのは……ローリエについてだ。

 フェンネルによると、戦いに巻き込まれたという傭兵のナットとその姪エイダの護送の為、港町方面に向かったとのこと。もし転移魔法を使用したのならば、アイツが帰ってくるのが翌日になる。だが、それでは遅いのだ。

 

 もうすぐ、召喚士たちが頂上の街へやってくる。その際にローリエを向かわせるつもりだった。

 アイツなら……一度召喚士たちを退けた彼ならば、必ずや邪魔者を排除してくれるだろうと。だが、肝心のアイツは今港町にいる。現地調達で魔力を回復させてでも戻ってこさせる必要があるのだ。でも、彼との通信手段は一つしかない。

 仕方ない。コリアンダーを探して、ローリエに繋がる通信機を借りるしかない。

 

 

 

「コリアンダー、いたか。」

 

「!? アルシーヴ様!!? どうしてここに……」

 

「通信機を貸してくれ。ローリエに連絡がしたい」

 

 

 ローリエとコリアンダーの部屋に向かい、部屋内にいたコリアンダーから通信機を借り、周りに誰もいない場所まで移動してスイッチを入れる。

 

 

『はい、こちらアリサです。』

 

 アリサ、だと? 確かローリエと共に行動することを志願した呪術師だったか。

 しかし、なぜ彼女が通信機に出てくるんだ?

 

「アルシーヴだ。ローリエはいるか? 至急頼みたいことができた。お前たちが今どこにいるか教えてくれ」

 

『え、えー、と………女神の共同聖墓、です……』

 

「なんだって?」

 

 

 女神の共同聖墓……なぜ今そんなところにいる?

 あそこは言ノ葉の樹の隅にある、かつて神殿にて世界の為に尽くした筆頭神官や女神の方々が眠る墓地だぞ。今この状況で墓参りに行っている訳ではあるまいし、それ以外の目的など考えられない。

 

「……少し、状況を説明してくれるか?」

 

『わかりま―――あっ、ローリエさん……』

『こうなった状況は俺から話すよ』

 

 アリサから通信を変わったローリエが話し始める。

 神殿への転移の途中で『オーダー』の影響が出たからか、アリサは聖墓に、ローリエは樹の中に分断された事。

 フェンネルや召喚士たちと行動を共にしたこと。

 そこで出会った刺客・傭兵ナットと、その事情のこと。

 人質を取り返すため、不燃の魂術を用いた謎の女ドリアーテと戦ったこと。

 ナットと人質を護送したあと、共同聖墓に転移されたこと。

 そこで―――先代女神ユニ様と出会い、魔法の稽古を付けてもらっていること。

 

 

 ………『オーダー』の影響がそんな所に出ていたとは予想外だったが、ナットと人質を贈り届けた辺りまでは信じても良いかもしれない。フェンネルからの報告とも一致するしな。

 だが、先代女神ユニ様とは……? 彼女は既にお亡くなりになっている筈だが……?

 

 

「…お前の帰りが遅い理由は理解した。

 だが、ユニ様にお会いしただと? 私がそんな言葉を信じると思ったのか?」

 

『嘘じゃないんです! 現に、そこにいて、筆頭神官さまに話しかけてるのに…!』

『アルシーヴ、お久しぶりでーす! 葬式で人魂取っちゃったぶりだけど、元気ですか?』

 

『え゛ッッ!!? ユニ様そんなことしてたの!? 何故ッ!!?』

 

「……お前達は何を言っている?」

 

 

 切羽が詰まりつつあるこの状況で、冗談を言っているのか?

 仮にローリエだけならそう断じて今すぐ戻ってこいと叱りつけていたが、アリサまでローリエの悪ふざけに乗るとは考えにくい。しかし……

 

 

『ユニ様のことは置いておくにしても、だが。俺自身の魔法の稽古だけじゃあない。……ユニ様の死が事件性を帯びてきてな。事情聴取…もとい詳しく調査を行う必要が出てきたんだ。』

 

「どういうことだ?」

 

『ユニ様が病気で崩御したんじゃなくって誰かに殺害された可能性が出てきたんだよ』

 

「!!?」

 

 

 ゆ、ユニ様が殺されたかもしれない、だと!?

 あり得ない! ソラ様が就任した直後に亡くなられたからといって、ちょっとやそっとで殺人を疑うなんて、話が飛躍しすぎている。

 

 

「アリサ、本当か?」

 

『え、あ…は、はい。』

『ユニ様が残したものの中にね、明らかに重要な証拠があったんだ。「病気で崩御した」って事実が覆るレベルのものがな』

 

 

 そういうことならば、すぐに戻ってこれないと言う理由も分かる気がする。「魔法の稽古」云々はその空いた時間で行うついでのようなものだったんだろう。まさかユニ様が霊になっているとかではないだろうが。

 だが、それでもローリエ達には戻ってきて欲しいのだ。

 

 

「………その重要な証拠については分かった。だが……それは、『例の件』とは関係ないだろう」

 

『!』

 

 

 『例の件』―――それは、ソラ様が呪われてしまった事件のことだ。私が封印しなければ、とうの昔に命を落としていたことだろう。そして、ローリエにはこの件の捜査を依頼していた。

 そして……ソラ様を呪った実行犯を突き止めてくれた。その後起こったビブリオによる『オーダー』も、ビブリオを生け捕りに出来なかったものの、証拠を大量に持ち帰る金星を挙げた。そして、ジンジャーの協力のもと、それらの証拠を裏付ける作業も終わっている。

 故ソウマ氏の発言に出ていた脅迫者の女の謎が残っている以上、捜査は終わっていない。こう言えば……戻ってきてくれる、ハズだ。

 

 

「その証拠、持って帰ってきて欲しい。もちろん持って帰れる代物ならば。

 今は何よりも、『オーダー』とその障害となる召喚士を排除するのが最優先だ」

 

『…ユニ様殺害事件と「例の件」に()()()()()()()()()()()()、と言ったら?』

 

なっ!!?

 

 

 ローリエの二度目の衝撃発言に声が出てしまい、咄嗟に周りを確認してしまう。

 ………よし、誰もいない。コリアンダーにも話はまったく聞かれていないな。し、しかし…!

 

 

「どういうことだ…!?」

 

『アリサのお兄さんの事はビブリオのオーダーの時に聞いたはずだ。彼に女神を呪えって指示したヤツと今回襲ってきたヤツの共通点があったから怪しいと思ってたんだが………確証が持てる証拠を掴んだんだ。』

 

 

 なんだか、話がだんだん壮大になっている気がするぞ……

 ソウマ氏を脅した者とフェンネルの報告にあった襲撃者に共通点があって、怪しいと踏んでいた? つ、つまり………

 

 

「…フェンネルから傭兵ナットの人質奪還戦のことは聞いている。脅迫者と思われるドリアーテという女の事も、そいつが不燃の魂術(禁忌)を身に宿していたことも。

 ソウマ氏の最期の言葉と照らし合わせるに、ソウマ氏を脅した人物とナットを脅した人物が同一である可能性は考えられるが………」

 

『そうだ。

 アリサのお兄さんに殺人教唆した奴、オッサンを人質取って脅した奴―――そして、先代女神ユニ様を殺した奴。

 俺達二人は………この三つが同一人物による犯行だと見ている。』

 

「なんということだ………」

 

 

 完全に予想外だ。どうやってどんな証拠を掴んだのかは分からないが、もし事実だとするならばそいつは完全にこのエトワリアを滅ぼしに来ているではないか。

 ソラ様にした事を初め、ソウマ氏やナットへの脅迫、殺害の唆し、ソウマ氏の口封じ。ビブリオや下手するとサルモネラやセレウスとの繋がりもありそうだ。

 これらの罪、生半可では償えないぞ………!

 

 

『だから、最後の調査のためにすぐさま神殿に転移、って事はできないかな』

 

「仕方ないな。そういう事なら、彼女に頼むしかないか……」

 

『ハッカちゃんを動員する、ってんなら俺とアリサが補佐に入ってもいいか?』

 

 ?? なんだか、奇妙な提案だな。神殿にはすぐ転移できないと言った筈なのに、ハッカの補佐には入る……証拠はどうしたんだ?

 

 

『証拠の事なら問題ない。持ち運べるものだからな。ただ時間が欲しいんだ』

 

「そ、そうなのか。しかしだな―――」

 

 

 それにしたって、ハッカの補佐になど………いや、待て。

 先程、黒幕の可能性が色濃くなったばかりではないか。その状況で、ハッカ一人……いささか、危ない気がしてきた。

 ハッカの夢幻魔法は強力だが術者の負担が大きい。それに、発動したら最後、解除するまで()()()()()()()()ために()()()()()()()()()

 もし召喚士達やクリエメイトの意識を夢幻魔法で閉じ込めている間に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………??

 それを考えると―――誰か付けた方が良さそうだな。

 

 

「頂上の街にてオーダーと夢幻魔法を行う。巻き込まれないよう注意しつつ、彼女の護衛を頼めるか? ……コリアンダーもつけておくが、3人のほうが安心だろう」

 

『流石、話が分かるぜアルシーヴちゃん!! そういう所も大好きだよ』

 

「……………お前は何を言っているんだ、馬鹿者」

 

 

 ローリエの聞き飽きた口説き文句を流しながら通信を切り、彼女の部屋に向かう。無論、コリアンダーも一緒だ。

 さぁ、切り札を切る時だ。

 

 

「ハッカ、私だ」

 

「どうぞお入りを」

 

 

 許可を得て入れば、いつも通りの彼女が。

 ハッカの夢幻魔法。危険だから秘匿していたが、召喚士が神殿の目と鼻の先まで迫り、黒幕の女の謎が明らかになり始めた以上、ここが良いタイミングだろう。

 黒幕の方はもうしばらくローリエ達に頼ることとなる。まずは、邪魔をする召喚士を排除しようではないか………!!

 

 

「これより八賢者ハッカ、神殿事務員コリアンダー両名に指令を言い渡す」

 

「――何なりと。」

「―――えっ!? お、俺もですか!!? は、はい!!」

 

「ハッカ、夢幻魔法の使用を許可する。その力を以って、召喚士を排除せよ。

 コリアンダー、お前はハッカの補佐につくように。あらゆる手を使い、ローリエとアリサの力を借りて、召喚士を始めとした脅威を退けよ。」

 

「「―――はっ!!」」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ……通信が切れる。

 さっきまで魔法の枷を外す修行(3時間で終わる超極悪コース)が終わって間もなくの通信だったためにビックリしたけど、なんとかなったぜ。

 

 アルシーヴちゃんから帰還命令が下った時はかなりビビったが、「女神ソラ呪殺未遂・ナットの脅迫者及び先代女神ユニ殺害事件の犯人が同一人物である証拠を見つけた」と伝えることで許しを得られてホッとした。

 

 ……ウソじゃあないぞ。肝心のその証拠というのは、ユニ様(亡霊)の証言だ。彼女の許可も取って録音も完了している。

 アルシーヴちゃんへの報告だって『ユニ様が残したもの(本人の魂を含む)の中に、明らかに重要な証拠(証言)があった。「病気で崩御した」って事実が覆るレベルのものが』と言ったのだ。

 

 

 ユニ様の証言。内容はこうだ。

 

『ある日、お昼寝中に呪いをかけられた感覚で目を覚ましたの。

 起きると同時に攻撃したら、そこにいたのはオレンジの長髪の女が炎で防御している姿だった。翼を広げた鳥と紅宝石(ルビー)が特徴的な杖で放出した炎を消すと、どこかへ転移してしまった。

 誰かの助けを呼ぼうとしたけど、そこで声が出せないように魔法をかけられていて、直後に力尽きたわ。』

 

 この証言、ユニ様が呪われてから力尽きるまでの死の間際を的確に証言した決定的なものだ。ぶっちゃけ、この事を聞いて二人ともぶったまげたからな。

 これが事実なら(というかこんな物騒な嘘をつくメリットなど一切ないだろうが)、ユニ様の死因が病気ではなく他殺であることが証明される。「炎で防御した」と証言していたが、或いは直撃こそしたものの、『不燃の魂術』で治癒している最中を見たのかもしれない。

 そして、俺の記憶を元に描いたドリアーテの人相書を見たユニ様が「私を襲った人です!」と言っていたことから、先ほどの三つの容疑が同じヤツに向くに至ったのだ。

 

 

 ……とにかく、俺達の行動方針は決まった。

 頂上の街に向かい、ハッカちゃんと合流する。

 その後は……まぁ、アリサと上手くコミュニケーション取りながら、ハッカちゃんに無理をさせないこと、かな。彼女、原作ではきららちゃんに自分の記憶を見せようとしてアルシーヴちゃんに当て身されてたし。

 

 

「アリサ、これからの方針は決まった。頂上の街に行って、八賢者ハッカと合流する。」

 

「分かりました。ドリアーテの出方が分からない以上、賢者といえども二人以上で行動する、ってことですね」

 

「……あぁ、そうだな。その通りだ」

 

 

 前回はオッサンを人質取って『依頼』したドリアーテだけども、アレが最後の手と考えるのは、ちょっと違うだろう。

 確かにナットは強かった。俺とフェンネル相手に余裕で立ち回ってみせた。だが……信頼関係というものに欠けていた。エイダという人質を取って脅迫していたんだ。皆無といってもいい。人を信用しないドリアーテの奥の手―――すなわち『もっとも信頼できる手下』かなにかがまだいるのかもしれない。セレウスかもとは考えたが、アレはドローン越しにも我が強すぎると思ったしな。

 

 それに、もし、だが。ハッカちゃんが夢幻魔法できららちゃん達を閉じ込めてる最中に現実世界でドリアーテの残った配下に襲われたらシャレにならねーしな。

 もっとも、必ずしも襲ってくるとは思えないし、ドリアーテにどれだけ手が残されてるか分かんねーが、念は入れておいた方が良い。

 

 

「…そろそろ、行くのですね。」

 

「ユニ様」

 

 

 墓石の隣のユニ様の霊は、さっきの俺達の通話と会話を聞き、うっすらと微笑む。

 

 

「私は、ずっと待っていました。私の声を生きてる人に届けることを。そして…あの者を倒してくれる者を。

 ……必ず、ドリアーテを討ち取ってきてください」

 

 信じています、とはやみんボイスでそう願う彼女が、日光に照らされて光り輝く。

 天の川のような綺麗な光の数々を陽が昇った時間帯に見れる事に言葉を失いつつも、かろうじて我を取り戻した俺は、ユニ様の手を取って文字通り透き通り輝く手に唇を落とした。

 

 

「…約束します」

 

 

 それだけ言って、アリサを引き連れ、頂上の街へと進んでいく。

 振り返りはしなかったが、亡霊となった元女神様が手を振って健闘を祈ってくれているだろうと、確信していた。

 

 

「……ローリエさん、歩けるんですか?」

「歩くだけで超激痛だけど大丈夫だ」

「…途中で倒れられたら困るんですけど」

 

 やめろ、修行を思い出させるな。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 元女神ユニの証言を録音し、アルシーヴから猶予を貰ってユニ様と約束をした主人公。また背負うものが増えたが、本人はそれを苦とも思わない。この後、ハッカ&コリアンダーと合流するようだが…?

アルシーヴ
 ローリエの有能さと先代女神の死の真相に衝撃を受ける筆頭神官。ソラ襲撃犯に裏がいたことは既に知っていたし、ナットの件はフェンネルから報告を受けていたが、先代女神の死が殺人事件で、しかもうっすらと見えていた黒幕が繋がっていると知り、動揺を隠せなかったようだ。原作とは違い、第三勢力を警戒してハッカにコリアンダーをつける。

ユニ
 実は他殺によって死んでいた先代女神。幽霊になってでも自分の言葉を誰かに届けようとしていた。自分の死の間際のことをローリエに証言し、必ず罪を暴くように約束をもちかけた。最後に消えていくような演出があったが、ただ陽の光に照らされていただけである。



△▼△▼△▼
ハッカ「始まった我が任務。それは……ローリエとの共同任務であった。」

ハッカ「彼は、私の人生を救ってくれた人。そして―――」

ハッカ「―――己の罪の象徴。」

次回『少女ハッカのこゝろ』
ハッカ「………次回を待たれよ。」
▲▽▲▽▲▽


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第73話:少女ハッカのこゝろ

新年、明けましておめでとうございます。2021年も拙作をよろしくお願いします。
これからも「きらファン八賢者」の連載を続けていきたい所存です。その為にも、読者様も作者も、お互い体には気を付けなければ。
さて、新年開始1発目の本編はハッカちゃん視点のお話です。彼女の過去を盛大に捏造します(今更)

2021/1/11:アリサとハッカが初対面じゃないことをすっかり忘れていました。よって、本文を一部改稿しました。



“我が人生、二つの救済あり。されど、一度目は己の虚弱さゆえに無碍にしてしまった。”
 …ハッカ・ペパーミンの独白


 アルシーヴ様による『召喚士排除命令』。

 

 それは、これまでに召喚士とランプが数々の八賢者を退けてきた証左。

 私とローリエを除く八賢者全員が敗れてきたとも聞いている。アルシーヴ様も、これまで以上に警戒するのは当然だ。それ故の夢幻魔法の許可と補佐の同伴なのだろう。

 

 

「そ、それでは…ハッカ…様? いかがしましょう?」

 

 アルシーヴ様が去りし後、コリアンダーが尋ねてくる。やや口がおぼつかず、こちらを向くこともしていない。

 

「…様付けも敬語も不要。

 頂上の街に赴き、クリエケージの確認。クリエメイトの捕獲。仕事は数多(あまた)あり。」

 

「わ、わかり……じゃない、わかった……」

 

 耳まで紅潮するコリアンダーが納得したところで行動開始。

 まずは指定された場所にクリエケージがあることの確認。

 そして、安全に夢幻魔法が使える場所の確保。 

 クリエケージの確認はコリアンダーに任せ、私は待機場所の確保だ。

 

 夢幻魔法とは、膨大な魔力で泡沫の幻の世界を作り出す魔法。今回の指令はこれを利用し、召喚士とランプ、そして『オーダー』で呼び出されたクリエメイトを夢の世界に閉じこめ、封印する。それがアルシーヴ様のお望みのようだ。

 ただし……この魔術、効果は絶大なれど反動も無視できぬものなり。連続して使うことは当然叶わず、発動している間は術者である私も夢の世界に赴くために現実の身体は眠り続ける。

 

 故に仮拠点は襲撃されぬ場所を選ぶが吉。逃走経路の多く人目も少なくない、街の中心通りがらひとつ外れた場所の宿の一室を借りる。クリエケージの設置場所はアルシーヴ様が決める手筈。ローリエとアリサの合流もクリエケージの設置場所にて。以降は共に任務につくという。

 

 

 ……ローリエ、か。

 私は、彼の者の事を聞くと、どうしても思い出してしまう。

 ―――幼き日のあの光景を。私の、罪の象徴を。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 物心ついた時より、私の家に住む者は度々変わっていた。

 ……より正確な言い方をするなれば、私はあらゆる家を転々としていて、そこで家事等の手伝いをする居候のような生活を送っていた。

 なにゆえ、このような生活を送っていたか……始めは分からなかったが、居候先の人々が陰で口にしているのを聞くうちに察してしまった。

 

『なんであんな化け物を引き取ってきた』

 

『アレは災いを呼ぶといったろう』

 

『厄介者だけど、親族の目が怖くて仕方なかった』

 

『早く誰かに押し付けよう』

 

 皆が皆、口を揃えて同じ事を言うのだ。察しない方がおかしい。

 ―――私は、望まれた子ではなかった。

 それが分かった途端、全てがどうでもよくなった。知るまでは甲斐甲斐しく行っていた家事のすべても、どんなお手伝いも。裏で自分を邪魔者扱いしていると知ってしまえば、私に向ける親族であろう者たちの笑顔など、信じられなくなっていた。

 幼い私のそんな不信を見抜いたのだろう大人たちは、優しく接することをやめ、私を文字通り厄介者扱いすることを始めた。

 

『なんだその目は!生意気なんだよ!』

 

『私に口答えする気!? 厄災を招く魔人族の分際で!!』

 

『誰が厄介者を保護してやったと思ってるの!!?』

 

『存在そのものがウゼェんだよ!お前はもう喋るな!!』

 

 

 暴言を受ける事は日常茶飯事、手をあげられることもしばしば。

 何故そんな事をするのか?私があなた達に何かしたのか? ……そんな事を訊いても返ってくるのは理不尽な暴言暴力のみ。

 私が忌み嫌われる理由である「魔人族」の意味が分からないまま続けていたこのような生活だが……あることをきっかけに全ては変わり始めた。

 

 それは……当時幅を利かせていた山賊に襲撃を受けた事。私以外の家族は殺され、私は山賊に拉致された。

 普段から人ならざる扱いを受けていたため家族を殺された点には何も感じてはおらぬが、山賊が私を売り渡すと知った時、私は人生に絶望した。

 

 救いなどない。やはり私は皆の言う通りの、呪われたマジンの子。呪われているからこんな目に遭う。

 当時の私は、そこで一度諦めた。人として生きることを。大人しく口を閉ざして、山賊が管理する牢に入れられてるだけの存在になり下がった。

 ……しかし、ここまででお終いでは、「全てが変わったきっかけになった」とは言ってない。

 

 

『…あ、あなたは…?』

 

『……?』

 

 ある日、私一人しかいなかった牢に一人の少女が放り込まれた。

 背丈からして、私よりもやや年上だった。この少女こそ、のちに女神になられるお方であるソラ様だった。

 

『捕まったの……?』

 

『う、うん……あなたは?』

 

『山賊に売られる身。いつ売られても仕方ない』

 

『そ、そんなことないよ! だって…アルシーヴやローリエが、きっと助けに来てくれる。』

 

『……誰?』

 

 ソラ様はこれまでの経緯を話した。幼馴染にアルシーヴとローリエという者がいること。突然、山賊に襲われたこと。アルシーヴが戦ってくれた事。だが自分を庇って怪我をしてしまった事。彼女の命を助ける代わりに攫われてきたこと。

 

『…何故、』

 

『?』

 

『何故、助かると確信できる…!? 私は…苦しくても助けてくれる者など、誰もいなかったというのに…………!』

 

 この時思った事はそれだった。私の周囲には、傷つける者こそ掃いて捨てる程いても、手を差し伸べる者などいなかったのに。私と彼女で何が違うのか―――入ってきてすぐの彼女がやや腹立たしくなった。

 だが、それはすぐに誤解だと気づくことになる。

 

『……私だって確信してる訳じゃあないわ。ほんとうは、怖い。今すぐ逃げて、諦めちゃいたい。

 でも―――そうしたくないって思うのも、確かなの。』

 

『発言が矛盾している。』

 

『確かにね。でも違うの。私だって、一人だったら耐えられない……………だけど、私は信じてるの。二人が助けに来る――とまでは行かなくても、私の為に動いてくれてるってことを。まぁ、あなたには私が現実逃避しているだけに見えるかもしれないけどね。』

 

『………成程』

 

『えっ?』

 

 その人達をどうしてそこまで信頼できるんだろう。

 今でこそ、この時のソラ様の発言の意味は理解できるが、まったくもって信用できない家族としか関わっていなかったこの頃の私はそれを理解する度量を所持していなかった。

 

 だから、この後のあの時に、()()()()()をした。

 

『ソラちゃん!』

『ローリエ!?どうしてここに……』

『シッ!あいつが起きる。早くここから出るよ。』

 

 それは、ソラ様の言う通り、ローリエという少年が街の衛兵を連れて助けに来てくれた時だ。

 外に出るか否か迷うタイミングで山賊に見つかり、衛兵が身を挺して時間を稼ぐ事態になったため、三人で走って逃げざるを得なかった。

 体力の限界まで走った。もし再び捕まったら、今度は間違いなく殺されるから。それも、散々いたぶられてから。

 

 ―――だから、私とソラ様を庇い、盗賊と戦って討ち倒した少年に、間違いはなかったのだ。

 

 

『もう大丈夫だ。さぁ、帰ろう。』

 

 

 振り向いてそう言ったあの少年の笑顔は、一体何を意図してたのか?……考えるまでもない。ソラ様と私を安心させるためだ。

 そもそも、正面切ってあの盗賊と戦ったのはローリエだ。彼があんなことをしたのは、ただ単に勇敢だったからか? それは分からぬが………確かなことは一つ。

 

 

『で、でもよ!こうでもしないと俺達、命なかったかもしれない、だろ?

 なぁ、そうだろ?そこのキミも、そう思うだろ?だから……』

 

『………………』

 

『………………………あ……!』

 

 

 私は、彼を信じ切ることが出来なかった。そのせいで、彼を傷つけた。

 今なら分かる。差し伸べた手を、全力で叩き落とすに等しい行いだ。

 

 この時、私がどんな顔をしていたかは分からぬ。だが、私を見た彼の表情が目に見えて曇ったのだ。まるで「やってしまった、とんだ大失敗を犯した」と絶望しているかのようだった。

 その後、ローリエはソラ様に私と共に街に帰るように伝え、私は、ソラ様に手を引かれて言ノ葉の都市に行き……それっきり、彼とはしばし会わなくなった。……罪悪感は、日に日に増していった。

 

 

 あの後、ソラ様とアルシーヴ様に出会った事で、私は信頼できる人を得た。お二人は私の人生を救済してくれた恩人。残り全ての人生を使って、御恩をお返しする所存。

 しかし私は…()()()()()()()に、礼を返すこともあの勇気を無碍にしたことを謝罪することもできていない。檻の中の私の元に来たのはアルシーヴ様でもソラ様でもなく、一人の衛兵とローリエだったというのに。

 衛兵の事はのちにソラ様から聞いた。ペッパーという名で、我ら三人を逃がすために殉職したと。彼が埋葬されている頂上の街付近の墓地に、偶に足を運んでいる。

 だがローリエについては……先述の通り。あの時の罪悪感からか、彼を避けてしまっている。お互いが八賢者になってからは避けることは少なくなり、ローリエの盤を使った遊戯を共にしたり、カードの遊戯を行ったり(最も、これはローリエの不正行為が偶にあるが)しているが……お互い、初めて出会った日について言及することは、無い。

 

 ……私は、いつからこのような恩知らずになってしまったのか?

 認めたくなかったのかもしれない。こんな事認めてしまえば、かつて私を虐げていた親族の者共と同じになってしまいそうだったから。

 しかし……いつかは必ず、言わねばならない。機を逃し続けていれば、本当に恩知らずになってしまうから。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ―――そこまで考え、頭を振る。

 今は任務の途中。注意散漫は厳禁。

 ソラ様の呪いを解く程のクリエを集める為に、為すべきを為さねば。

 罪の告白は、全てが解決したその時にするべき。

 

 

「あらいらっしゃい! お一人様?」

 

「否。あと三人来たる」

 

「四名様ってことね! じゃあ、ちょっと広いお部屋を用意するわ!」

 

「心遣いに感謝する。」

 

 

 恰幅の良い宿屋の女将に連れられ、夢幻魔法を使うための宿の一室を借りることができた。あとはクリエケージの場所へ行き、コリアンダーとアリサ、及びローリエと合流するのみ。アリサの顔は知らぬが、アルシーヴ様より「ローリエとアリサは一緒に行動している」との情報。問題はない。

 

 兎に角、今は召喚士達を夢の世界に封印する。

 それ以外の事は考えぬようにしよう。

 そう決意し………

 

 

「すみません、ハッカさん! あの、助けてくれますか!?」

 

「……何事?」

 

「ローリエさんがナンパしてまして!

 私一人じゃあ抑えられないんです!!」

 

 茶髪と黒ローブの少女・アリサに連れられた先で。

 

「お願いです、頼子さん。貴女の力が必要なんです」

「えぇ……い、いくらローリエさんでもその…こ、この中に入って欲しい、なんて……」

「貴女の嫌がる真似はしない。紳士として女神に誓います。だから―――」

 

「「………………………」」

 

 

 ローリエが、女性に言い寄る姿を目撃した私は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変態……成敗すべしッッ!!」

 

「おぶぉはアアアアァァァ!!!?」

 

「ローリエさーーーんっ!!!?」

 

 

 ……全力の助走ののち、持っていたコリアンダー謹製の金槌にてローリエの横っ腹に一撃をお見舞いした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ローリエが言い寄っていた女性は、クリエメイトだった。

 松本(まつもと)頼子(よりこ)。確かにその名は、聖典に出ていた。

 

 

「ありがとうございます!! いくら私が注意しても、『教え子の嫉妬』って言って聞かなくって!」

 

「礼には及ばぬ」

 

 私に頭を下げるこの女子は、アリサだ。ローリエと共に行動している、八賢者の助手として動く呪術師である。先日、黒幕の件で話し合った時にもいた少女でもある。

 ……呪術師のことは、アルシーヴ様とローリエから聞いている。彼女が『例の件』の実行犯である兄の贖罪と脅迫者である黒幕を倒す為に、我々に協力を名乗り出たことも。

 

 それで、ローリエが松本に言い寄っていた理由なのだが、アリサ曰く―――

 

 

「ローリエさんと私は、ここに来る前にクリエメイトのヨリコさんと会ったんですが……

 あの人がエトワリアのことをヨリコさんに話すついでに口説き始めてからずっとこんな調子で……注意しても、『先生に嫉妬か?』って教え子扱いして。

 ヨリコさんも注意したんですよ? 『教え子の前ではしたないことをするな』って」

 

「…二人とも、災難に遭った。」

 

 

 やはりローリエは変態(ローリエ)だった。

 ちなみにコリアンダーだが、その場にこそいたが、クリエケージのある空き家の隅で真っ赤になっていた。何事?

 

 

「それはそれとして、松本。この檻……クリエケージに入って頂きたく」

 

「あ~…ローリエさんにも言われましたが、やっぱり入らないといけないんでしょうか?」

 

「そ、そう………です。入って頂けません、か…?」

 

「え、えと…」

 

 

 松本はクリエケージの中に入るのを渋っている。どうも牢のような見た目に難がある模様。コリアンダーも説得しようとするが、ぼそぼそと言っている為、松本に引かれている。何をしているのやら。

 ソラ様の件を話せば一発で協力はしてもらえるだろうが、あの件はそもそも他言無用のもの。アリサは知っているがコリアンダーはこの件を知らぬこともあり、話すわけにはいかない。

 力づくという手も無きにしも非ず。しかし、心証は確実に落ちるので、最後の手として残しておきたいが………

 

 

えーと確か……お願い、おかーさん!…って言えば良いのかな?

 

「!?」

 

 アリサが突然、松本を母親呼び!? 一体如何なる理由で……

 

「……異世界でまでおかーさん呼び…しょうがないですね、今回だけですよ?」

 

「ありがとう、おかーさん!!」

 

「「!!?」」

 

 

 松本が突然クリエケージに入ることを了承したことに私もコリアンダーも動揺する。

 

 

「お、おい、アリサお前……松本さんに何したんだ!?」

 

「詳細を求む」

 

「あのですね、ローリエさんによると、あの人の学校でのあだ名が『おかーさん』らしくって……」

 

「なんで『おかーさん』だ………」

 

 

 珍妙なあだ名はさておき、松本が自主的にクリエケージに入っていくのを見た私達は、取っておいた仮拠点に戻ることにした。

 

 

「コリアンダー、クリエケージを見守るべし。

 私とアリサは夢幻魔法を使う場所に戻る」

 

「分かった。………ちなみに、そこでぶっ倒れてる馬鹿はどうする?」

 

「……アリサ、背負えるか?」

 

「はい……」

 

 

 コリアンダーがさした指の先で倒れて気を失っているローリエは…置いていっても構わないと判断するが、再び松本に言い寄っても面倒な為、一応回収することにした。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ハッカ
 今回、過去を事細かく盛大に捏造した寡黙な賢者。ローリエに対して、ソラやアルシーヴ並みに恩義を感じているとともに、一種の罪悪感も抱いている。それらの心は、ソラの一件が終わったら話そうと思っている。ただしセクハラ、お前は駄目だ。

コリアンダー
 ハッカの補佐としてついてきた神殿事務員。頼子にクリエケージに入ってもらうよう説得するも、女性限定のコミュ障のせいで引かれる。なお、召喚士等が来た時のためにクリエケージの守りを担当する。

アリサ
 ローリエのナンパを止めるため、たまたま来ていたハッカに頼った呪術師。アリサ自身も注意したし、止めようとしたが、彼女一人だけではローリエは止められなかったようだ。

ローリエ
 ナンパ野郎の八賢者。頼子に対しては年齢も百合要素もないため思いきり口説きにかかる。しかし、ハッカの変態成敗ハンマーの一撃で意識をふっ飛ばされる。前回、ユニによる超極悪の修行を行い全身が痛いため、それがダメージにより響いている。

松本頼子
 聖典(漫画)『ゆゆ式』に登場する、ゆずこ達の教師。担当教科は英語。あだ名が『おかーさん』であることから分かる通り、母性的な包容力と面倒見の良さからくる「お母さん感」があるのだが、未婚。またゆずこ達情報処理部の顧問も務めている。
 拙作では捕まってクリエケージの中にいる枠として登場。原作ではクリエケージを壊そうとしたタイミングで夢幻魔法にかかるため、話の大筋に違いはないと判断した結果だ。



ゆゆ式
 三上小○先生による、四コマ漫画。
 野々原ゆずこ、櫟井唯、日向縁の三人が、気になった単語を検索してとりとめのない雑談から得た教訓をまとめる部活「情報処理部」の活動や優しい教師との触れ合い、新しい友人達との出会いなどを通じ、まったりとにぎやかな学校生活を送ってゆく物語。
 盛大に何も始まらず、時系列もあまり進まないのが特徴で、季節感を出しながら進級・卒業などには触れない「サ○エさん方式」が強い構成となっている。



△▼△▼△▼
ローリエ「なんてことしてくれてんだハッカちゃん! もうちょいで頼子さんとうまくいったのに!!」

ハッカ「知らぬ。軟派痴漢はお断り。」

ローリエ「シドイ……」

ハッカ「軟派していた分、働くべし。魔道具を少々拝借する。使い方は……」

ローリエ「おい待て! 勝手に動かすな!!」

次回『迎撃準備』
ローリエ「じ、次回もお楽しみに~~…ってコラ!無視すんな!」
▲▽▲▽▲▽




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第74話:迎撃準備

“我が親友は己と他の人との力量を比べ、その結果を認めることのできる男だ。己の理想の為に人を簡単に切り捨てられるような何処かの馬鹿とは比べようもない程に価値がある。”
  …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
   第8章より抜粋


 

 

 

 

 

「……知らない天井だ」

 

 夏帆ちゃんに続き、この台詞を言う日が来るとは思わなかった。

 上半身を起こすと、複数人の視線がこっちに向く感覚を覚える。

 

 

「…起きたか、変態」

 

「開口一番変態扱いとか酷すぎません??」

 

 ハッカちゃんによるドSプレイはご注文ではないので後生だからやめてほしい。

 

「自業自得ですよ。ヨリコさんにあそこまで言い寄った挙句、私を袖にして」

 

「おいその表現は何処で習った!?」

 

 アリサまで……

 ひどいことをする、と思いながら気絶までの記憶を辿った。

 

 

 

 頂上の街に着いた俺とアリサは、偶然にも道に迷うクリエメイトと出会ったんだっけか。

 その人の名は松本(まつもと)頼子(よりこ)聖典(漫画)『ゆゆ式』に登場したおかーさん先生だ。未婚である若手にも関わらず、生徒からおかーさんと呼ばれる母性と面倒見の良さ。もちろん、アピールするに決まっているだろう。

 エトワリアと異世界召喚(オーダー)の事を説明してたらアリサが「クリエメイトを口説かないでください!」とうるさくなって来たので全部まるっと「教え子の嫉妬」にしてスルーした。そしたら今度はおかーさん先生が「生徒の前でこんな姿を見せちゃダメです!」と言ってきたが、

 

『何故です?俺は貴女にこの世界の事を教えてるだけですよ』

 

 ―――とか言って盛大にはぐらかした。

 オマケに色々頼子さんの好みやら何やらを聞いて、もうひと押しで自主的にクリエケージに入ってもらう所まで行ったのに、そこでハンマーとか聞いてない。おかげでさっきまで意識がキング・クリムゾンしていたのだ。

 

 

「これ今、どういう状況なんだ?」

 

 聞けば、アリサが教えてくれた。

 おかーさん先生は、俺が意識をフライアウェイしてる最中に自らクリエケージの中に入り。コリアンダーはそのクリエケージの護衛役に。アリサとハッカちゃんは俺を背負って夢幻魔法を発動させる際の場所―――つまり街の宿屋の一室まで移動してきたのだという。そこでこの街で行う作戦の概要をアリサが聞き終わったところで俺が目覚めたとのことだ。

 

 

「なるほどな。手間かけさせて悪かった。だが、俺は俺なりに頼子さんを説得してただけなんだぞ?」

 

「そうは見えませんでした」

「軟派の言い訳?」

 

「……はぁ、もういい。ところで、アリサはなにしてるの?」

 

「ん、どろーんで街を見回ってるんです。いつきららさん―――召喚士が来ても良いように」

 

 

 俺の質問に、俺の機械を勝手に拝借しているアリサは画面と俺を交互に見ながら答える。しばらくすると「あ!」と零した。見つけたのか?

 

 

「ローリエさん、ハッカさん! これって………!」

 

「……! 間違いない、きららちゃん達だ。ゆずこもいるぞ!」

 

「…何?」

 

 

 ハッカちゃんも加えた三人でドローンのカメラで撮られた映像を見る。すると、そこには街に入ったばかりのきららちゃんとランプ、マッチの二人と一匹………そして、ピンクの髪の少女が一人。俺には、その子が一発で分かった。

 野々原(ののはら)ゆずこ。今回の『オーダー』で呼び出されたクリエメイトの一人だ。ノースリーブの洋服&短パンにゴーグルを首から下げた動きやすい格好になっている。さっき確保したおかーさん先生も除いて、あと呼び出されたのは櫟井(いちい)(ゆい)日向(ひなた)(ゆかり)、そして相川(あいかわ)千穂(ちほ)の三人だったか。

 

 

「この映像は……?」

 

「え………あぁ、ハッカちゃんは知らないんだったな。ルーンドローン―――まぁ、空を飛び、遠くの様子を観察できる魔道具を作っておいたワケよ。今見ているコレはその魔道具が映している映像だ。」

 

「なんと…! ローリエ、魔道具開発の腕は流石。斬新な発想なり」

 

「褒めても口説き文句しか出ないぞ」

 

「軟派はお断り」

 

「つれないなー」

 

 そんな軽いやりとりをしたまま、経過を見守る。きららちゃん達を見つけたルーンドローンは光学迷彩を搭載しており、また距離もあるためまだ見つかっていないようだ。

 

「気づいてないみたいですね……なら、先制攻撃を―――」

 

「オイ、ちょっと待てアリ―――」

 

 アリサは俺が制止するより先に操作端末のドローン攻撃ボタンを押す。

 ドローンは命じられたまま、レーザーをきららちゃん達の無防備な姿に狙いをつけ、発射される―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ことはなかった。

 

 

「………あ、あれ?」

 

「何事か、アリサ?」

 

「れ、レーザーが出ないんですけど…故障ですか?」

 

 

 あー、だから「待て」って言おうとしたのに、言う前にボタン押しちゃうんだもんな。

 俺自身、作った魔道具がオーバーテクノロジーである自覚はある。武器兵器なら猶更……『安全面』には気を付ける。責任ある製作者として当然だ。

 

 

「故障じゃない。俺の造った武器はちょっとしたセキュリティを入れててな。()()………って言っても分からないか。とにかく、俺以外の人間には俺の武器は使えないってこった」

 

 

 そう。端末の攻撃ボタンに限らず、『パイソン』や『イーグル』といった銃器など俺が扱う武器(一部を除く)には、()()()()がついている。「俺」か「俺以外」を見分けるだけの簡素なものだが、下手なセーフティの何十倍も安全性が増している。

 例えば敵が俺の銃を奪い、銃口を俺やみんなに向けたとして引き金を引こうとしても、引き金にロックがかかり、銃弾が発射されることはない。

 オマケにこの指紋認証の設定、一度変更したら改変は不可能になっている。というかそうした。俺謹製の銃の設計図が形あるものとして存在していない以上、『大蛇(パイソン)』も『大鷲(イーグル)』も俺らに牙を剥くことはない。

 

 

「成る程。なればどろーんによる奇襲、ローリエが行うべし」

 

「へっ?」

 

「空からの急襲。反撃は困難。実行しない手は無し」

 

「あー…………」

 

 ぐぬぬぬぬ、と言いたい衝動を死ぬほど抑えて、絞ったように声が出る。

 く、くそぅ…超やりたくねぇ。

 アリサが押した先程のボタン…確かに、アレを俺が押せば、ドローンは今度こそきららちゃんに攻撃してくれるだろう。

 だがやりたくないモンはやりたくない。きららちゃんは主人公だし、それを抜いても基本的に良い子だったからな。ドリアーテの一件が終わったらお茶に誘おっかな~とも思っているし、その際の計画も立てている。この段階で、好感度がガタ落ちするような真似だけは絶対に避けたいのに―――っ!!

 

 だが、それを言っても意味のないこと。

 八賢者として神殿側にいる時点である程度お察しだし、ソラちゃんがランプの聖典で回復すれば全て丸く収まるハズ。それに、今「きららちゃんに嫌われたくないから撃ちたくなーい」ってハッカちゃんに意見するワケにもいかない。

 だから今は、納得できる理由を言うべきだ。

 

 

「いや…今はやめておこう。クリエメイトの命を狙うような輩を探すのが優先だ。頼子さんにはコリアンダーがついてるし、ゆずこは彼女達に守らせておこう。残りのクリエメイトを探すべきだ」

 

「なるほど…確かに、そちらの方が大切ですね。ドリアーテの刺客が、まだ残っていないとも限りません」

 

「クリエメイトの特徴、分かるのか?」

 

「あと何人召喚されてるのかは知らんが、可能性のある人とすれば、櫟井唯、日向縁、相川千穂、長谷川(はせがわ)ふみ、岡野(おかの)(けい)といった所か。ちょっと待ってろ、特徴とか書いてやる」

 

 

 手近な紙とペンでデフォルメされたゆゆ式キャラを描きながら、ハッカちゃんに説明する。

 クリエメイトを害する奴がいるかもしれないこと。

 その根拠として、ドリアーテの人柄と言ノ葉の樹でフェンネルと体験した出来事を語り。

 オッサンことナットのこと、人質のこと、おびきだしたドリアーテのことを語り。

 まだ何か隠し持っていてもおかしくはないと締めくくる。

 

 

「フェンネルと大地の神兵の件、仔細把握。

 ―――ドリアーテは、ナットを微塵も信用してなかった。

 故に、切り札を持つ可能性大……その推測、的を射ていると考察。」

 

「やっぱり、ハッカちゃんもそう思うか?」

 

「おそらく、アルシーヴ様も似たようなお考え。

 私の任務にコリアンダーが同行しているのが証拠。」

 

「なるほどな……」

 

 

 原作では、ここはハッカちゃん一人だったのだが、ドリアーテの件もあり、アルシーヴちゃんも彼女なりに警戒しているようだな。ハッカちゃんが夢幻魔法の発動で眠っている間、現実の彼女はコリアンダーに守らせるつもりだったのか。そこに、俺とアリサが合流したいと知って、ついでに盛り込んだのかな?

 

 

「ローリエ」

 

「なに?」

 

「夢幻魔法にて私が眠っている間、私へのお触り厳禁。」

 

「しねーよ!後が怖いわ。命が5000個あったって足りないぜ。

 ……というか、俺は紳士なんだ。寝込みを襲うような真似をしないよ!」

 

「紳…士………? ローリエは紳士に非ず」

 

「おいマジか」

 

 

 俺の事を何だと思ってるんだ。アルシーヴちゃんにも言われなかったことだぞ。

 アリサ、何笑ってんだコノヤロー。誤魔化そうとしても肩が揺れてるから丸わかりなんだよ。

 極めつけにというか、念を押してというべきか……

 

「ねぇ、ひょっとして君達は、俺が夢幻魔法中のハッカちゃんに手を出すと本気で思っているのか?」

 

 ……という質問に、アリサもハッカちゃんも全力で首を縦に振りおった。

 いい加減にしなさいよ君ら。いくら身内に心の広い俺でも限度はあるよ?

 

 

「アリサが守ってくれると心強い」

 

「そう言って頂けて何よりです。必ず、ハッカさんを守りますね」

 

「うん、いい約束なんだけど、白い目でこっちを見ながらやるな」

 

 

 そろそろ泣きそうになったので、コリアンダーに繋がる通信機を手に取ってから部屋を出ることにした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

『………うん、それは普段のお前の行いが悪いな』

 

「よーし、この任務が終わったらお前の机にエロ本仕掛けまくってやる」

 

『おいやめろ、それは冗談にならないからマジでやめろ』

 

 

 コリアンダーにさっきの出来事を愚痴ったらそう言われたので、コイツはエロ本の刑に処してやろうと思った。

 

 

「良いんじゃあないか? お前だって女が嫌いってワケじゃあるまいし」

 

『そ、そりゃそうだけどよ……』

 

「よし、ならばエロ本だ。読ませた後でコリアンダーの好みも訊くからな」

 

『よしでもならばでもねぇよ、やめろエロ賢者』

 

 

 コイツの女性の苦手具合は結構前から知っていたが、大人になるにつれ「女性に興味はあるが、話題の振り方や付き合い方が分からない」って感じだったな。だからこそイジりやすいってのがある。

 人間50年、こんなタイプの友達は初めてだ。

 前世では初めての親友は女の子だったから、男同士のエロ話など当然できるはずもなかったし、ほぼきらら漫画の話ばっかりだったな。彼女との話も充実してたが、オッサンやコリアンダーとできる話も…………いや、これ以上はやめよう。

 20年前にくたばった亡霊の、見苦しい未練だ。

 

 

『なぁ、ローリエ』

 

「ん、なんだ?」

 

『俺は、召喚士……きららたちに勝てるのかな?』

 

 

 いつにも増して、真摯な声が鼓膜を揺らす。

 

 

『……根本の街に呼び出された時、初めてお前の戦う姿を見たよ。

 フェンネルとナットと、きららとさえも肩を並べて、ドリアーテと戦ったな、お前は。』

 

「お、おう……」

 

『だからか……俺の力が、きららたちに通じるのかが不安で仕方がない。

 あいつらが良い奴らなのはお前に呼び出されたちょっとの間だけでも分かる。

 だが……「任務」として敵対する以上、クリエケージの番として戦いは避けられないだろ。』

 

「そうだな………」

 

 

 コリアンダーのその相談は、自分と相手の戦力差を正確に分かっているが故の、至極当然の不安だった。圧倒的な格上に挑む不安。俺がドリアーテを葬れるか否か悩むかのような気持ちだ。

 正直、コリアンダーがきららちゃん達に勝つ必要はない。こっちにハッカちゃんがいる限り、夢幻魔法が完成するまでの時間稼ぎができればこっちの勝ちではある。

 でも、力に大きな差があった場合、時間を稼げないのが普通だ。となると、コリアンダーは死に物狂いできららに立ち向かうしかない。アイツが何を作っているかはお互いに製作物には不干渉だったために知らないが、アイツならそうするだろう。

 

 だがまぁ、そもそも―――

 だからといって、「時間稼ぎが出来ればいい」と答えるなんて、失礼なんてレベルじゃあない。彼への侮辱だ。

 

 

「…コリアンダー」

 

『……なんだ?』

 

「俺は、お前を信じるぜ」

 

 

 俺は、これだけを伝える。

 この後、何が起こるかなんて分からない。きららちゃんとコリアンダーの戦いは、きっと起こるだろう。この戦いは、俺の記憶には完全に存在しない戦いだ。

 正直、どっちにも勝ってほしいし、負けて欲しくはない。だが、勝負することになる以上、どちらかが勝ち、どちらかが負けるだろう。

 

 

『……ありがとう、ローリエ』

 

 

 コリアンダーからそう返事が来たのを最後に、通信が切れた。

 宿屋の扉に寄りかかり、天井を仰ぐと慎ましいシャンデリアが視界を照らす。

 

 

 きららちゃんとコリアンダーが戦う意味……ないしは、アルシーヴちゃん達ときららちゃん一行が戦う意味。それは、俺だけが知っている。

 ランプにソラちゃんを救う「聖典」を書かせること。その為ならば、きららちゃんとコリアンダーが戦うのも仕方がない…のだろう。

 

 

「はぁ~あ。」

 

 

 ため息が出る。

 きららちゃん達にソラちゃん呪殺未遂事件の全貌を教える準備はできている。プランも練った。アルシーヴちゃんの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だがタイミングは今じゃあない。ハッカちゃんの夢幻魔法が破られ、神殿へ帰還する時だ。

 

 もし、コリアンダーに事件の裏側を話せれば、どれだけ楽だったか。それだけで、きららちゃんと彼の衝突を防げたかもしれないのに。でも、もう賽は投げられた。

 

 

「全てを救うのも楽じゃあねーな………分かってたけど」

 

 

 目的の為に、「為すべきを為す」以上の結果を……全てを救うために、過程を無視するのは…思っていた以上に重かった。

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 ハッカの夢幻魔法を使わせるためにコリアンダーをきららとの戦いに送り出したエロ賢者。ハッカへのセクハラ疑惑も晴れず、ちょっとブルーな気分。しかも、アルシーヴの緘口令を破る気マンマンであった。ただ、ハッカのように自発的に話したら上司からの制裁が待っていると知っているので、策も巡らしている。

ハッカ&アリサ
 寝込みを襲う変態紳士絶対許さないウーマンズ。ローリエが頼子へナンパしてたから仕方ない部分もあるが―――というかその部分しかない。なお、きらら達への奇襲をしないというローリエの理由は納得した。

コリアンダー
 来たる召喚士との戦闘への緊張をローリエから来た通話でなんとか紛らわすことができた神殿事務員。親友のブレなさに苦笑しつつも、一番の激励を貰い、持てる全てを発揮してきららと戦おうと思っている。

長谷川ふみ&岡野佳
 聖典(漫画)『ゆゆ式』に登場する、千穂の友達。きらファン公式第7章ではそもそも実装すらされていなかったために登場しなかったが、ローリエが怪しまれるのを防ぐためにブラフとして言及された。



キング・クリムゾン
 『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』に登場するスタンド。その能力とは、「時間を消し飛ばすことで過程を無視し、結果だけを残す」こと。この性質から能力発動中は攻撃を当てることができない。ビデオで例えるならばスキップみたいな能力で、「自分の意識が飛んでいて、さっきまでの過程が分からないこと」や「物事をカットすること」等の動詞にも使われている。略称「キンクリ」。

ローリエの指紋認証
 現代の技術を輸入し、ローリエが自身の指紋とじっくりにらめっこしながら作ったセキュリティ。自分の作った銃器が危険だということを知っていたので導入した。製作の経緯から「ローリエ」か「ローリエ以外」かを判定することしかできず、安易に再設定できなくした。これは敵に武器を使わせないというメリットの反面、味方が代わりに撃つことができないというデメリットもある。



△▼△▼△▼
きらら「新たな『オーダー』によって呼び出されたクリエメイトの皆さんを見つけ、クリエケージの前に行くと……そこには、ドリアーテとの戦いで力を貸してくださったコリアンダーさんが、武器を向けていました。」

きらら「ど…どうしてですかコリアンダーさん! 一度は協力したじゃあないですか! 私達に……戦う意味があるというんですか!!」

次回『きららVS.コリアンダー』
きらら「答えてくださいっ、コリアンダーさん!!!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
 …というわけで、今章のクッション回でした!
 早くきららVSコリアンダーを書きたいし、ドリアーテの刺客を書きたいです。
 今回の章の敵は、サルモネラやビブリオ、セレウスとはまったく違う、それでいておぞましい敵となる予定です。もうちょこっと出ている、というと若干ネタバレですが………


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第75話:きららVS.コリアンダー

“それでも俺は……ここで立たなきゃ、先に進めねェ!”
 …コリアンダー・コエンドロ


 これまで数多くの障害を乗り越え、襲い来る賢者を次々退けてきたきらら・ランプ・マッチの三人。

 そうして彼女たちは頂上の街に辿り着き、そこでまたもや『オーダー』が行われたことを知る。それを受けて、すぐさまパスの探知によるクリエメイト探しを始めたのは言うまでもなかった。

 

 まず、街の入り口付近で野々原(ののはら)ゆずこと出会い、南部で櫟井(いちい)(ゆい)を、東部の豪邸内で日向(ひなた)(ゆかり)を探し当てた。そして、自警団の本部で相川(あいかわ)千穂(ちほ)と合流した。

 もちろん、障害がなにもなかったわけではない。

 道中、街中に「めんどくさいという魔物」が現れ、迷惑行為を働きだしていたのだ。もちろんきらら達の邪魔も始め、きらら達はその魔物たちを撃破・成敗しながら進んでいく。

 

 そして……クリエメイト探しも大詰め、残り一人となったきららは、再びパスを探知して、居場所の特定に成功した。

 

 

「なんだか、今回はやけに順調だな……後が怖くなるね」

「き、気のせいじゃない、マッチ? 魔物の妨害もあったんだし…」

「あー、順調すぎると後で強敵に出会う、とかあるよねー」

「ゆずこ様まで不安になることを……」

 

 

 探知した場所にあったのは、かつては誰かが住んでいたであろう、大住宅の跡地だった。

 戸を開けて中を見渡してみれば、室内からも屋根も外壁もしっかり崩れずに残っていたが、逆にそれしか残っていなかった。内壁も床もすべて取っ払われており、そのおかげで広そうな外観の住居跡が更に広く感じられる。

 そして………広間のような室内の奥に、それはあった。

 

 

「あれは…クリエケージ!」

 

「おかーさん!」

「おかーさん!」

「おかーさん先生!!」

 

「お、お母さん!?」

 

 牢の姿をしたクリエケージ。そして、その中に囚われている松本(まつもと)頼子(よりこ)

 クリエメイトたちが珍しすぎるあだ名を呼んで中の先生に駆け寄ろうとしたその時。

 

 

「み、皆さん!? 止まって―――」

 

 

 頼子の制止の声と同時に、駆け寄ろうとしたゆずこ・縁・千穂の足元に一本の線が走る。

 

「「「っ!!!?」」」

 

「み、皆様!!? 大丈夫ですか!?」

 

「い、今のは一体………!?」

 

「―――お前ら、そこを動くなよ」

 

 

 一本の線を地面につけた主が、きらら達に警告した。

 彼はゆっくりと部屋の中心に立ちはだかると……眼鏡のズレを手で直す。

 紫がかった黒髪をクセなくストレートに整えた、眼鏡の青年。

 木刀を片手に睨んでくる彼に、きららもランプも心当たりがあった。―――最近出会ったばかりのはずだから、記憶に新しいと言うべきか。

 

 

「えっ……こ、コリアンダーさん!!?」

 

「どうしてここに………!!?」

 

 

 きららもランプも動揺を隠せない。

 なぜなら、彼女たちの記憶では、警告をした男―――コリアンダーは黒幕すら騙せた幻影魔法の使い手であると同時に……頼もしい助っ人だったから。

 

 

「知り合いなのか?」

 

「この前協力してくれた人です。詳しく話すと長くなりますが……」

 

「コリアンダーさん……どうしてそこにいるんですか? やめてくださいよ、そんな怖い顔でこっちを見るの……」

 

 ランプも馬鹿ではない。クリエケージを護るように立ち塞がり、武器を構えるコリアンダーが、自分たちに何しに来たのかが分からない訳などなかった。ただ、認めたくないだけで。

 ―――コリアンダーは、そんなランプに現実を突きつけた。

 

 

「きらら……いや、召喚士。クリエメイトの捜索と護衛、ご苦労だった。

 あとはこちらで受け持つゆえ、身柄を引き渡して頂きたい」

 

「な―――っ!!」

 

 

 これにはランプは当然、きららも衝撃を受けた。

 先日は自分達を助けてくれたはずの人が、木刀を向けて立ちはだかっている。信じていた人の、まさかの対応。

 賢者との連戦を潜り抜けたきらららしくない、あからさまな隙が生まれる。だが、コリアンダーはその隙を突くことなく、まっすぐな眼でこう続けた。

 

 

「もし、俺の言うことに従うのなら、今引いた線のこっち側に、野々原・櫟井・日向・相川の四人を送ってほしい。クリエメイトの命もお前達の安全も保障しよう。

 …だが、もし残りのクリエメイト…松本さんを助け、『オーダー』を止めようと言うのならば………その線のこっち側に…召喚士、お前ひとりで来い。全力で相手になってやる」

 

 

 息を呑む音が聞こえる。ゆずこも唯も縁も千穂も、きららがまさか顔馴染みと自分達を天秤にかけられるとは思っていなかったのだ。

 

「き、きららちゃん……どうするの?」

「きららさん、そんな…コリアンダーさんと戦うなんて…」

「馬鹿正直に戦わなくてもいい。一旦引いて、作戦を考えるべきだ」

 

 縁がかろうじて呟く。ランプが悲しそうな顔をして、マッチは冷静に意見を述べる。

 一見マッチの意見が正しいように見える。だがランプもきららも囚われた頼子を救いたい気持ちがあった。それに―――決意を抱いたコリアンダーが、一時撤退を許すはずがない。

 

 

「…どうした? 敵に背中を向けるのか?それでよくここまで来れたもんだな。

 言っておくが、もし今から退くつもりならその隙を突かせてもらう」

 

「!!」

 

 コリアンダーの挑発ともとれるこの発言。きららはこの言葉から、彼の本気度合を察した。

 きららはもとより、この状況で尻尾を撒いて逃げるような人間ではない。

 

 

「…戦う前にひとつだけ、お聞きします。

 貴方がここに立って私達と戦う理由……それはなんですか?」

 

 

 きららが線を越える一歩手前まで歩いて尋ねる。

 

 

「あぁ、言ってなかったっけか。俺は神殿の事務員なんだ。

 いざという時は、筆頭神官と八賢者に従い……戦うこともある。」

 

「……………そうですか」

 

 

 本当にそれだけですか、という言葉は飲み込んだ。これ以上訊いても答えてくれなさそうだったから。

 きららが杖に魔力を集中させる。いつでも『コール』が使えるように。

 そして、一歩。コリアンダーが引いた線を、跨いだ。

 

 

「私にも、守りたいものが…助けたい人がいるんです!

 そこを通らせてもらいますッ!!!」

 

 

 きららの杖と、コリアンダーの木刀。

 二つの武器から発せられた光が、開戦の合図となった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 呼び出しに応じて飛び出ていったのは、まずくるみさんとカレンさん。

 二人がかりでの攻撃に、コリアンダーさんは回避を選択した。

 

「なっ……!」

 

 この時、コリアンダーさんの周囲に大きな水の龍が突然現れて、土と月の斬撃からコリアンダーさんを庇うようにうねって、「グォォォオオオオ」と低く唸ったと思ったら……霞のように消えた。

 

「どうした召喚士? ()()()()()()?」

 

「…水の龍が、くるみさんとカレンさんの攻撃を……!?」

 

「そうか」

 

 二人をすり抜けて、最低限の返事でこっちに突進してくるコリアンダーさん。

 それを―――呼び出したもう一人が、黄土色の大波で食い止める。

 

「チッ……! 本田、珠輝……!」

 

「させませんっ!」

 

 土の魔力を一気に解き放った珠輝さん――最初の『コール』で来てくださった三人目だ――は、その勢いのままコリアンダーさんを押し流さんとする。

 コリアンダーさんの動きがちょっとだけ止まった、気がした。

 

 

「珠輝さん!相手は剣士です!無理は禁物ですよ!」

「わかりました!」

 

「面倒な…!」

 

 

 コリアンダーさんが木剣をおさめ、腰から全身を低くして―――

 

「キララ!防御デース!!!」

「カレンさん!?」

 

 その言葉を信じ、咄嗟に防御する。

 ……同時に、コリアンダーさんの姿が消え、縦横無尽に閃光が駆け巡る。そして、全身に痛みと強い衝撃を感じました。

 

「ぐっ!?」

「うわぁっ!?」

「アーーウチ!!?」

「カレンさん!!!?」

 

 い、今カレンさんが派手に吹き飛ばされましたよ!?

 

「だ…大丈夫ですか!?」

 

「ちょ…ちょっとだけ厳しいデース…」

 

「さ、さっきのは……」

 

「い、居合デス…二ホンの剣術に、ありマシタ……」

 

「無理しないで! 少し下がっててください!」

 

 

 私の元まで吹き飛ばされたカレンさんは、明らかに大ダメージを負っていて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので戻しましたが……

 正直に言って、神殿の事務員と聞いてほんの少しだけ、油断してしまいました。まさか、今の技でクリエメイト一人が撤退寸前まで追い込まれるなんて……!

 

 重傷のカレンさんに代わって呼び出したのは……銀色の甲冑姿の椎奈さん。ナイトの象徴の盾を持って現れます。

 さっきのコリアンダーさんの「イアイ」……せんしのカレンさんでさえ大ダメージを受けています…回復なしでは戦線復帰できないほどに。だから、防御力を優先です。

 

 でも、くるみさんも珠輝さんも攻撃を受けたと思ったんですが、大ダメージを受けたのはカレンさんだけ……カレンさんに庇われたのでしょうか?

 今は詳しく考える余裕はありません。

 

「皆さん、反撃できますか?」

「ええ」

「いつでもいけます!」

「当然だ!」

 

 クリエメイトの皆さんを確認してから自身に強化を少し、かける。ジンジャーを元に編み出した攻撃力強化だ。

 

 

「はああっ!」

「らあああ!!」

 

 

 コリアンダーさんは、クリエメイトをすり抜け私に迫る。

 振り下ろされた縦振りを受け止めようとした―――その瞬間。

 

 

「―――っ!!?」

 

 手足が突然ふらついて、力が入らなくなる。

 何が何だか分からないけど、このまま防御なんてできない。

 急に襲われた虚脱感に、すぐさま防御を回避に切り替える!

 

 

「ぐ………!」

 

 ……でも、回避が間に合わなくって、攻撃を軽く受けた。

 右肩の痛みが襲ってくるのと共に、力の抜ける感じがなくなった。

 すぐさま反撃を行う。

 

「――てやっ!」

 

「はッ!!!」

 

 けど、噴水のように斬りあげた一撃に相殺された。

 その勢いで、再び距離が離れていく。そのコリアンダーさんを、くるみさんと椎奈さんが追いかける。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「はい…。コリアンダーさん、明らかにこちらの戦い方を知っています…!」

 

「ドリアーテと戦った時に見ていたんじゃないかな…?」

 

「おそらく、ですが。

 次は、私も前に出て攻めてみようと思います」

 

 

 強い。

 コリアンダーさんは、間違いなく強さを磨き続けてきた人だ。

 ジンジャーさんやローリエさん、カルダモンとはまた違った強さだ。

 ……だからこそ、この人に勝つには、受け身じゃあダメだ。

 

「どうして?」

 

「コリアンダーさんは……多分、搦め手のエキスパートです。

 協力してくださった時に見たのもそうですが、あの人の魔法は妨害に特化していました。」

 

 さっきの攻防なんかもそうだ。

 クリエメイトを目にも止めず、私に一直線に向かったと思えば、力が抜ける魔法かなにかをかけて、私を仕留めようとした。機転が利かなかったら、痛手を受けていた。

 

 

「わかった。うちはどうすればいい?」

 

「目立たないように立ち回ってください。合図がくるまで、力を溜めて…」

 

「了解」

 

 

 珠輝さんの返事を聞くと、私は追撃してくれた二人と並びます。

 くるみさんも椎奈さんもコリアンダーさんも、息を切らしていますが、コリアンダーさんだけが傷が少ないです。

 

「…きららさん? 良いのですか?」

 

「大丈夫です。むしろ、コリアンダーさんに勝つには攻め続けないと…!」

 

「わかった。でも気を付けろ、きらら! コイツ、蜃気楼みてぇな技を使うぞ!」

 

 会話の隙を縫って、コリアンダーさんの木の太刀筋が襲い掛かる。

 さっきみたいな脱力感が襲ってこないことを確認しつつ、避けては防ぎ、そして魔弾で反撃をした。

 そして、攻撃力強化をキープしつつ、コリアンダーさんの木剣を受け止め、鍔迫り合いに。

 

 

「大人しくクリエメイトを渡せば良かったものを、召喚士!」

 

「嫌です! 退くわけにも、負ける訳にもいかない!」

 

「俺といい勝負できた程度で、調子に乗るな!」

 

 

 再び、私の身体に異変が訪れる。

 今度は、平衡感覚が狂う感じ。杖を頭につけてぐるぐる回り続けた直後の、まさに「酔う」といった感覚。

 すぐさまコリアンダーさんを押しのけて、椎奈さんの盾に隠れる。直後に放ったくるみさんの横一閃を、しゃがんで避けては攻撃が来た真後ろに龍を幻視する斬撃で反撃する。それが、隙だらけのくるみさんのお腹に当たるのが見えてしまった。

 

 

「ぐあっ!?」

 

「「くるみさん!!?」」

 

 吹き飛ばされたくるみさんは、すぐさま受け身を取り、お腹をさすりながら立ち上がる。撤退を余儀なくされるダメージじゃあないけど、コリアンダーさんはこの一瞬で、椎奈さんの目の前まで飛び込んできていた。

 

 

「いつの間に!?」

 

「……フゥー―――」

 

 息を吐き、腰に剣を納める。

 ―――居合の前動作。椎奈さんに防御を指示………しなかった。

 しても動きが間に合わない!

 

 椎奈さんの槍とコリアンダーさんの木剣。初動は間違いなく槍が先に動いていた。迎撃のための薙ぎ払い。

 しかし、コリアンダーさんの武器はそれよりも速かった。つまりこちらよりも後に動き出し……にも拘わらず、こちらよりも早く相手に刃を届かせる一撃。

 ……瞬間スピードは、カルダモンに届くかもしれない。

 

 

「ううっ………!!?」

 

 

 木剣は椎奈さんの盾に当たり、それを弾き飛ばした。

 盾がなくなることで私とコリアンダーさんの目が合って―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――っ!!?」

 

 

 コリアンダーさんは、その目を大きく見開いた。

 何故なら、盾で隠れていた場所には、私だけじゃなく。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「今です!!」

 

「なっ―――」

 

「でりゃあああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 珠輝さんの流星のような魔法が、ガラ空きになったコリアンダーさんに突き刺さる。

 コリアンダーさんを突き飛ばした魔法は、空き家の外壁に直撃することでようやく消えた。

 

 

「が……はっ……!」

 

 

 コリアンダーさんが落ちて、地面に叩きつけられる。

 

「か……勝った、のか……?」

「やったー……けど…」

「コリアンダーさん……」

 

 唯さんとゆずこさんとランプの声が妙に響く。

 私が立っていて、彼が倒れているこの図は、間違いなく私達の勝ち…なんだけど。

 

「きらら。納得いかない気持ちは理解できるけど、ひとまずクリエケージを壊さないか?」

 

 ……マッチの言う事はちょっと酷だけれど、コリアンダーさんは言ったんだ。「筆頭神官と八賢者に従う」って。だから……こうなるのも、仕方ないのかな?

 ソラ様を救った後にでも、話し合って仲直りとかできないかな?

 木剣は離さないままだったけど、起き上がったりはしないコリアンダーさんを―――!!?

 

「みんな!!!」

 

「う……嘘…!?」

 

 

 ……目の前の光景が信じられなかった。

 だって、コリアンダーさんが……立って……

 

 

「……さっきのは、効いたぞ………召喚士……!!!」

 

「コリアンダーさん! もうやめましょう!! ボロボロじゃあないですか!!!」

 

 

 堪らず荒げた声が出る。それは、ここにいるみんなの総意だったと思う。

 

 

「……………それでも俺は……ここで立たなきゃ…………先に進めねェ…!!!」

 

「「「「「「「!!?」」」」」」」

 

「…ローリエも……他の、賢者も……お前も………俺なんかじゃ、足元にも…及ばねぇ…

 そんなん……わかってる…」

 

「コリアンダーさん……」

 

 コリアンダーさんは…もう、戦闘不能寸前だ。

 服はボロボロ、息も荒いし、かけてた眼鏡もさっきの魔法でどっかにいったみたいだ。

 でも、木剣を杖にヨロヨロと立ち上がりながら、私の叫びに答えた。

 

「でもな……諦められなかった!

 証明しなきゃなんねぇ……凡人でも、天才に…並び立てることを!!!」

 

 コリアンダーさんの独白のような叫びに、答えられる人は誰もいなかった。

 わたしには、その一言が何を意味しているのか、理解してしまった。

 コリアンダーさんの言う天才、ってまさか―――

 ……いずれにせよ。

 

 

「……コリアンダーさん、強かったと思います。

 私は、この戦い中、ずっとヒヤヒヤしっぱなしでした。

 カレンさんが吹き飛ばされた時、右肩を斬られた時、鍔迫り合い中に酔った感覚がした時、くるみさんが斬られて、こっちに急接近した時………。

 ずっと、負けるかと思いました。だから攻め続けた。受けに回ったら、絶対勝てないと思ったから……」

 

「!!…………そう、か…」

 

 

 さっきの使命感のような迫力を帯びた声は一変、落ち着きを取り戻した。

 かと思えば、コリアンダーさんが木剣を杖にして俯いたまま沈黙していて。

 くるみさんに確認させると………そのまま、気絶していたのでした。

 

「……クリエケージを破壊しましょう。」

 

 

 私には、こう言う事で精一杯だった。

 みんなも、何も言わなかった。何も言えなかった。

 とりあえず、クリエケージを壊してクリエメイトの皆さんを帰してあげなければ、と思ったところで。

 

 ―――白い煙が立ち込めて、あっという間に意識が奪われた。




キャラクター紹介&解説

きらら&ランプ
 コリアンダーという存在が敵になったことで複雑な気持ちを抱く本家主人公と女神候補生。きららとしては顔見知りが敵になったという事実が足を引っ張り、最終的に勝利をもぎ取れたとはいえ、割り切りたくはない様子。

コリアンダー
 ローリエという天才に一種のコンプレックスを抱いていた、拙作主人公の親友。彼も彼なりにローリエや八賢者、果てはきららに実力で近づけるよう努力はしていた。ローリエの発明の腕を誰よりも認めているが、当の本人は発明について「目的のために使っているだけだし、何より一種のチートの恩恵でしかないので誇りに思えなくて当然だ」と思っていることを知らない。



コリアンダーが使用した技
 おまけ編に投稿しておいた『ゲーム・きららファンタジア風資料集敵編②』に準拠している。ゲーム的な効果は資料集の方に。
水龍の陣……水の龍の幻を生み、術者を護る。
霧双剣鬼……土以外の属性キャラに大ダメージを与える。広範囲に居合の抜刀術を行う技。
水鏡剣 ……敵の力を奪いつつ、自身の水鏡の幻影を生み出す剣技。
錯乱剣 ……敵の平衡感覚を大きく奪う剣技。
刹那  ……敵より後に動きつつ、かつ敵より先に刃を届かせる、後の先を地で行く神速の抜刀術。抜刀術という体裁である以上攻撃直後が大きな隙となる。コリアンダーの必殺技。



△▼△▼△▼
ローリエ「遂に完成した夢幻魔法。きららちゃん達もクリエメイトも眠ってこれからどうするかと考えた矢先……突然!ハッカちゃんに刃を振るう子供が現れた!」

ローリエ「俺とアリサはそれを凌ぎ、街中を逃げ回る!だがそれはソイツをぶちのめすためだ!女の子の扱いもなってねぇ、オマケに目も死んでるような奴に、遅れは取らんさ!!」

次回『名もなき殺意』
ローリエ「次回もまた、見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
 ゆるキャンの大塚○夫さんと美味しいものに表情が崩れるリンちゃんが再び見れて大満足な作者でございます。
 投稿が遅れたのはきらファンで笑ってはいけないを妄想してたからです。フルーツタルトというきらファンの銀魂枠も来たし、タイキックさん(♀)の登場も許されるはず!まぁ蝶○ビンタは流石に可哀そうだから導入しないけど。
 さぁ~てこっくりさんこっくりさん、この後タイキックされるのはだ~れ?

こっくり(in紺)「そんなこと妾に訊かれても…」
いのっち「い、いやです!タイキックはイヤー!」
はゆたん「は、はゆが受けたら死んじゃうよー!」
ろこ先輩「あー…私は、身長的に無理かなーって…」
にな先輩「ええええっ!!無理無理むりだよー!」
へもちゃん「イノ先輩以外のタイキックはお断りです!」

タイキックさん「ジットシテロ!」
フルーツタルト「「「「「嫌ァァァァァーーーッ!!!」」」」」


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第76話:名もなき殺意

アンケートの結果、桜タイキックからの梶野禊のタイキックに決まりました。おめでとうございます。

イノっち「うそだああああぁぁぁぁ!!!!」
ホホ「てかなんで私が選択肢にいるんだよォォォ!!」
タイキックさん「観念シロ!」


“異常とは、何か?その定義とは? どこからが正常でどこからが異常か? ……これより綴るのは、その境目が曖昧になりそうな体験談である。”
 …ローリエ・ベルベット著 自伝『月、空、太陽』
  第8章より抜粋


 コリアンダーとの激戦ののち、きららちゃん達があっという間に倒れていくのを迷彩型ルーンドローン越しに確認する。

 

「ハッカちゃんの夢幻魔法にかかったようだ」

 

「了解、あとはクリエメイトの回収ですね」

 

 

 ハッカちゃんも眠っているが、きららちゃん達御一行はマッチを除いて全滅だ。これで後は現場に急行し、マッチをノしてクリエメイトをクリエケージの中へ放り込んでしまえばアルシーヴちゃんのミッション完了、ではある。

 

 でも、大人しくそんな行動をするわけにはいかない。

 俺はそもそも、ランプが旅路を書いた聖典をソラちゃんに見せて呪いを解く為に動いてきた。今ここでその努力が水の泡になってたまるか。

 

 

「そのことだけど……クリエメイトの回収はしない」

 

「えっ?」

 

 クリエメイトの回収は当たり前のように行うと思っていたのか、きょとんとしてしまうアリサ。

 

「ど…どうしてか、聞いても良いですか?」

 

「アルシーヴちゃんのやり方……クリエメイトからクリエを奪うやり方は、当たり前だがクリエメイトの負担が大きい。命の維持はできるのかもしれないが、大きな問題がある。

 それは…クリエを奪ったクリエメイトに、その場での命以外の保証がないことだ。例えば、元の世界に帰れるのか?寿命の問題は?クリエを奪う時に痛みは走るのか? それ以外に問題が出てこないと何故言える?」

 

「それは……」

 

 

 保証などできるわけがない。

 何故なら、原作でこの作戦は一度も成功しなかったのだから。いざ盗ってみて解呪には足りませんでしたとかも普通にあり得る。そうなったら笑い話にもならない。

 その反面、ランプの聖典なら原作において完成し、ソラちゃんの呪いを解くことに成功している。現段階で知ってる原作とは全然違ってしまっているが、それでもこの方法を選ぶことには意味があるのだ。

 

「そこで、この前話した『ランプの可能性』の件になるんだが……」

 

「……ソラ様を救う一計があると?」

 

「ああ。ランプは、これまでの旅路を日記帳に描いている。それをソラちゃ―――」

 

 

 ―――説明途中に、ほんの少しだけ。

 気配がした。常人なら「何奴!? ………なぁんだネコかー」で済ませてしまうような小さな気配。だが、感じたものを不安にさせる不吉な気配。

 

 これまでの最高速度で銃を抜きつきつける。

 そこには、さっきまで宿屋の部屋に影も形もなかった少年がいた。

 少年……そう、ぱっと見、そいつは年端もいかない少年だ。真紅の髪にネクタイ、モノクロカラーの執事服をキッチリと着ていて………しかも、両手にデカい針のような暗器を握っていた。

 少年は、俺に存在を気づかれるやいなや、表情をぴくりとも動かさないままにこちらを見つめてきた。……気味の悪い目だ。

 

 

「……お前、何者だ?」

 

「………」

 

 質問の答えはその針の一本だった。

 飛んできたモノを首だけを動かして避け、牽制に威嚇射撃を行うと、ベッドで横たわるハッカちゃんを抱き上げてから再び距離を取る。その間に少年は壁に突き刺さった針を回収し、アリサは出入り口のドアを蹴破っていた。

 

 

「アリサ!!」

「はい!!」

 

 俺達は、音もなく現れた少年の正体を察した。コイツはドリアーテの部下……その腹心であると!

 そしてすぐさまここから離れ、マトモに戦える場所まで撤退するべきだと。

 間髪入れずに襲ってくる暗器の数々を風魔法の風圧で跳ね返すと、すぐさまドアから飛び出すように部屋を脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ハッカちゃんを背負って部屋から受付のあるロビーまで全力疾走、階段を落ちるように降りて、しかるのちにカウンターにいた恰幅の良い女将さんに金貨を数枚、叩きつけるように渡す。

 

「急で悪いが、チェックアウトだ!! 釣りはいらない!!」

 

「ええぇっ!!? ど、どういうことだい!?」

 

「話す余裕がない!分かってくれ!!」

 

 

 そう言いながら宿屋を出ていこうと扉を開けたその時、天井に丸い穴を開け、執事服の少年が落下してきた。一気に突き放したと思ったのに、最短距離で追ってきやがったぞ……!? いくら直通だからって、天井に風穴を開ける真似を躊躇なくやるとはぶっ飛んでやがる!

 

 

「ちょいとアンタ!! ウチの屋根になんてことしてんだい!」

 

「お、女将さん!そいつから―――」

 

 

 離れろ、と言うべく落ちてきた少年にずかずかと歩いていく女将さんを止めようと声をあげたが、すべてが遅かった。

 少年は、何のためらいもなく右手を振るう。

 右手にはナイフのような長針が握られていて……一拍、遅れて女将さんの首から鮮血が噴き出した。

 恰幅の良い体形が力なくどさり、と血だまりに沈む。

 

 

「お、女将さん!!」

 

「アリサ、逃げるぞ!」

 

「でも、あの人が!」

 

「目的は俺らだ!ここで戦ったらもっと民間人が巻き込まれるぞ!!!」

 

 女将さんは悪くなかった。ただいつものように非常識な客に注意しようとしただけだった。

 俺達も、全員で生き残るために戦略的撤退を選ばざるを得なかっただけにすぎない。

 異常なのは、当たり前のように首への斬撃を放ったあの少年だ。

 

 女将さんを斬った時に少年の瞳をハッキリ見たのだが―――正直言って、鳥肌が立った。

 だって、あんなに人間らしくない真っ暗な眼は初めて見たからだ。

 今まで見たゲスい欲望に塗れた盗賊や刺客たちとはハッキリ言って種類が違う。一言で表すのなら…「無」。例えるなら―――日本人形の虚ろな目、といえば分かるだろうか?

 そんな人間が眉一つ動かさずに人を殺せば、誰だって恐怖を覚えるだろう。覚えるなという方がムリだ。

 

 現にコイツは人を殺した。まるで、道端の蟻を踏み潰すかのように。

 俺らの焦りと動揺に何も感じていないのか、斬り捨てた女将さんを見ようともせずに少年が肉薄してくる。俺はハッカちゃんを背負っているせいで武器を抜けない、が。

 

 

「クロスガスト!!」

 

 アリサが反応出来ている。圧縮された風の槍に、少年は攻撃を中止、距離を離す。

 カルダモンを見慣れた俺にはモチロン、彼女にも素早さは脅威にならない。それよりも、部屋で奇襲を受けた時、直前までどちらも気づけなかった方が問題だ。

 

「行くぞ!」

 

 

 宿を出て人のいない所………クリエケージのある大住宅跡の方角へ全力ダッシュ。

 本当はあそこには行きたくないんだが、他に人のいない場所といったら、裏路地だ。そこはあの少年に有利すぎるからナシ。他は距離が離れすぎている。

 

 着実に不利な展開を押し付けられている。嫌でもそう感じざるを得なかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ど、どうするんですか、これ!?」

 

「理想は遮蔽物のない平原荒野に誘い込むのが一番なんだが……そんな場所この辺にないしな」

 

 

 少年からの奇襲。

 俺達賢者とその助手はケガ一つしていないが、一般人が犠牲になってしまった。

 俺は幼少期に殺人を経験してしまっているとはいえ、気分の悪くなる光景だ。

 

 八賢者として一般市民の安全を守る責務がある以上、すぐに迎え撃って市街地で戦うのは論外だ。ただでさえ出ている死人をこれ以上増やすわけにはいかない。

 幸い、件の少年は俺達以外眼中にないと言わんばかりに、時折針のような暗器を投げながらまっすぐこっちを追ってきている。

 

 

「しかし……追ってきますね、彼。私達が逃げたら周囲の方々を手に掛けそうではありましたが」

 

「挑発してるからな。それに……アイツは異常だからな」

 

「異常?」

 

「目を見りゃ分かる。あんな虚空を見てるような目が、人間のものであってたまるか」

 

「……っ、確かに!!」

 

 

 振り向きざまに飛んできた暗器を吹き飛ばしたアリサも、あの少年の人形の瞳を一瞬でも覗けたようだ。

 目的は、俺達八賢者と…おそらく呪術師の生き残りのアリサを始末する事ただひとつ。

 さっき女将さんを殺したのは、ただ邪魔をしてきたからというだけにすぎないのだろう。

 

 

「でも…あいつ、どうしましょう?」

 

「手はある。その為に時間が欲しい。1分くらいは」

 

「また3分かかりましたとかやめてくださいよ?」

 

「安心しろ、今度こそちゃんと1分だ」

 

 

 この少年を何とかするには、やはり八賢者たる俺がやるしかない。ハッカちゃんは夢の中できららちゃん達と激闘中だから無理だし、アリサは今も拮抗状態を保ちながら少年の攻撃を防げているが、決め手に欠けているからか攻めに転じることができていない。

 時間を稼ぐ間にハッカちゃんの背負い手を代わってもらい、少年をここで撃破してくれる。幸い、この大住宅跡付近は誰も住んでいないから、派手に暴れても暴れられても問題ない。

 

 

「“ルーンドローン”ッ!!!」

「イグニッション―――――スプレッドファイア!!!」

 

 呼びかけに応じたルーンドローンの群れが少年に光の砲撃を開始する。

 アリサの周囲が燃え上がり、炎があっという間に少年の周囲へ広がって業火を浴びせる。

 

 それを確認すると、ハッカちゃんをゆっくりと芝生の上に寝かせ、あるものを取り出す。

 それは、ひとことで言うならばショットガンだ。名は『アイリス』。様々な属性弾をカラフルに撃ち出す事から名付けた。今までは使いどころが無かったので初披露だ。

 で、この『アイリス』なのだが、実は俺のみが使える超必機能がある。そのうちの一つは、特殊弾頭を使ったものだ。

 

 

「―――穿て、アイリス

 

 

 特殊弾頭を装填し、特定のワードを口にしながら引き金を引くと。

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオォォォ!!

 

 

 

 『アイリス』の銃口から、銃身に見合わぬぶっといレーザーが放たれた。

 これが機能その1。殲滅に特化した特殊弾頭の名前は―――アヴェンジャー。

 さて、どうくる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「……チッ」

 

 …どうやら、寸前で見て回避したらしく、全身土埃とかすり傷にまみれながらも、少年は五体満足でこっちに向かってきている。

 少年が突進してくる。『モード・アヴェンジャー』の後隙を狙ってのことだろうが、そこを考慮してないと思ったのか?

 少年の足元で()()()()()()()()()。爆風で吹っ飛ばされた少年が見えた。

 

 あれで倒せるほど甘くはないだろうが、今この場での目的は()()()()()()()()

 

 

「ローリエさん……どうか、ご武運を!」

 

「アリサ、ハッカちゃんとその他諸々、任せるぜ」

 

 

 ハッカちゃんを背負ったアリサが大住宅跡へ向かって走って行く。

 それに気付いた少年が空中で姿勢を直しながらアリサに暗器を投げようとするも、すべて『アイリス』とルーンドローンですべて撃ち落とす。

 

 

「…ここを通すと思ったのか?」

 

「……」

 

「いい加減になんか話したらどうだ?」

 

「……………」

 

 

 着地した少年が警戒を緩めずに周囲を見渡す。

 だが、隠れ蓑になりそうなものは残っていない。すべてガレキと化している。

 なぜ、そんな状況になったのか? ……答えはひとつ。

 さっき俺が、()()()()()()()()()()に決まってるだろう?

 

 

「……あくまで何も言う気はねぇってか。

 そっちがその気なら容赦はいらねーな?

 ―――かかってこい、ドリアーテの操り人形!!!」

 

 今ここで、再起不能になってもらうぞ!!

 襲いくる少年に、二丁拳銃とルーンドローンが火を吹いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 粉々に破壊された、住宅街跡地で勃発したローリエと執事服の少年の戦い。

 少年は、爆風で飛ばされた身体を安全に着地させながら周囲を確認。

 追跡時にあった遮蔽物が、綺麗さっぱりなくなっていることに気づき、警戒度をあげる。

 

(……先程の射撃で全て破壊したか。あの爆撃、直撃は危険か)

 

 ローリエの話し声をすべて無視し、目の前の標的を抹殺する方法に全神経をつぎ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ―――ローリエとアリサを襲撃してきたこの少年だが、()()()()()()()

 強いて挙げるとするならば、彼は他の子供たちと識別するために、育ての親の女性に「57号」と呼ばれていたくらいだ。

 

 彼は、物心がついた頃から女性と共に暮らし、女性に戦い方の訓練を受けてもらってきた。

 女性は、この少年に実に様々な事を教えてきた。

 

 世の中には善悪があること。

 自身の言うことは例外なくすべて正しく絶対であること。

 自身の「道具」として、徹底的に命令に従う事こそ、正しい生き方であること。

 彼女の主義主張と合わない『常識』や『法』があるのなら、その『常識』・『法』が間違っていること。

 彼女の主義主張を否定する者が現れた時は、その者が異常者であること。

 あらゆる武器・暗器の扱い方。

 気配の消し方や人体急所の位置など、人を合理的に殺す方法までも。

 

 そして少年は、教えてもらった知識を元に己の価値観を確立させ、その価値観を元に女性の命令を執行してきた。

 とりわけ57号は優秀だった。彼女に命じられたことはなんでもやったし、彼女に殺せと言われた人たちは誰でもその手に掛けてみせた。

 

 例えば、呪術師の人質を探せと言われた時は、その妹を人質にした。

 腕の立つ盗賊を探せと言われた時は、砂漠に住まうサルモネラを見つけ出した。

 ビブリオに協力しろと言われた時は、魔術師や傭兵の斡旋等の補助をした。

 セレウスに部屋と魔術本を与えろという命令にも従った。

 「大地の神兵」の弱みを探す指令にも、姪を探し出して拉致する結果で答えた。

 「ジシンノウミノオヤ」なる夫婦を殺害せよという命令も、しっかり遂行したこともある。

 

 

 他にも色々あったにはあったが、省略させてもらおう。

 つまり何が言いたいかというと。

 ―――この少年は、自身に全てを教えた女性・ドリアーテが神にも等しい絶対的な存在であると認識している。

 

『……命令だ57号。私に歯向かう者達を、皆殺しにしろ!!』

 

 57号は、自身の主から言われた最新の指令にも、勿論従っている。

 ドリアーテ様の言うことは、絶対だ。彼女に逆らうなどという愚かなマネをした者たちは死をもって償うべきだし、指令を邪魔する者は命を取られても文句は言えない。言うべきではない。

 彼は当たり前のようにそう思っているのだ。

 

 

(…それより、敵が分断した。援軍が来る前にこの八賢者を仕留めるべきと判断)

 

 

 無機質な瞳とは裏腹に、57号は敵対する異常者・ローリエの殺害を改めて決断する。

 本来なら無防備なハッカとそれを背負う人間をまとめて処理するつもりだったが、順序が変わっただけだと判断した。

 

 

「―――かかってこい、ドリアーテの操り人形!!!」

 

 

 見たことのない、だがさっき超大型砲撃をしてきた杖らしきものを構えた八賢者ローリエに対して、57号は短剣を抜いて襲い掛かった。

 

(……………アヤツリニンギョウ? なんだそれは?)

 

 一瞬だけそんなことを考えたが、すぐさま敵の殺害に切り替えた。

 未知なる八賢者と名もなき殺意。二つがぶつかる激しい闘いの幕開けである。

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ&アリサ
 いきなり執事服の少年から奇襲をくらい戦略的撤退(「逃げるんだよォ!」)を余儀なくされた八賢者と賢者の助手。少年を一般ピープルを最低限巻き込むことなく撃破することを決意し、ハッカの背負い手を交代してローリエが少年と戦う事を決意する。

ハッカ
 現在リアルではおねむ中の八賢者。だが夢幻魔法の世界できらら達を夢に閉じ込めるべく暗躍しているので彼女を責めてはいけない。ただ今回は夢幻魔法の最大のデメリットを敵に突かれる形となっただけだ。

執事服の少年(01型57号)
 ドリアーテの命令に従い、ハッカ・ローリエ・アリサに奇襲をかけた目の死んだ少年執事。57号と呼ばれていることから察しがついた方も多いかもしれないが、彼には名前がない。というより名前がつけられていない。そのため筆者的には印象がないかもしれないという危惧はあるが、そこは描写でカバーしたいところ。本名についてですが、彼の「余計なことは一切しない、人間性を排した超合理的な性格」から最後まで名乗る気がしないのでここに明記しておく。



特製ショットガン『アイリス』
 ローリエが製作したショットガン型魔道具。散弾や大型弾も発射できるほか、特殊弾頭とローリエの合言葉で超広範囲砲撃も可能。まだ機能は隠されているようだが……?
 名前のモデルは同名の花から。様々な射撃を可能とする点を、様々な色を咲かせる菖蒲(アイリス)と重ねた。ショットガンをイメージしづらい読者は、ぐーぐる先生で「ウィンチェスターM1887」と検索するといいだろう。



△▼△▼△▼
ローリエ「始まったな、俺と不気味な少年との戦いが!だのにこのガキ、あらゆる攻撃に一切ビビりやしねぇ! 死にたいのかコイツは!?」

ハッカ「否。彼の者は死を望んでいるではない。死を恐れていない。故に常人は躊躇する戦い方も可能。」

ローリエ「何だソリャ………マジにやべーやつじゃねーか!気を引き締めねーと、大怪我じゃ済まないかもしれないぞ……」

次回『八賢者(ローリエ)VS人形(57号)
ハッカ「次回、見逃すなかれ」
▲▽▲▽▲▽


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第77話:八賢者(ローリエ)VS人形(57号)

“人形の生とは、哀れなり。”
 …ハッカ・ペパーミン


 

 

「―――かかってこい、ドリアーテの操り人形!!

 無機物みたいな目した奴に、八賢者が倒せると思うなよ!!」

 

 

 ローリエが啖呵を切る。

 両手に握られた二丁拳銃から弾丸が発射され、ルーンドローンからも砲撃が来る。

 初見で躱すことはほぼ不可能な一撃。ドリアーテの腹心・01型57号と呼ばれた少年とて何が起こったのかさえ分からなかった。

 

 ローリエの攻撃で見たものといえば、最初の奇襲に失敗した時の破裂音と周囲の遮蔽物一帯を薙ぎ払った砲撃のみ。判断材料がなさすぎるのだ。

 

 だが、それでも57号は回避を試みる。

 

 

「………!」

 

 

 ローリエの拳銃の弾丸は57号の右脇腹に命中した。もう一発は左の頬をかする。

 初めての痛みを自身の身を以って味わう57号は…しかし、表情ひとつ変えることはない。

 動きもまったく変わらず、細く見えにくい針を投げ返して反撃する。

 まるで、「今、なにかしたのか?」とでも言うように。

 

「チッ……!」

 

 決して浅くない被弾にノーリアクションの57号の攻撃を、ローリエは外套を翻して防ぎ、叩き落す。

 この少年は、さっきハッカの寝込みを襲おうとした子供なのだ。

 しかも、気配を消すことに関してはトップクラスといってもいい。

 おそらく、この少年の最も得意とするのは―――『暗殺』だ。

 針一つといえども、直接食らうべきではないとローリエは判断していた。

 ……刺さった針の先に、何が塗られていても不思議ではないからだ。

 

 

「はっ!」

「………」

 

 

 57号は近距離~中距離を自在に行き来し、短剣と暗器で追い詰める。

 対してローリエは、中距離を保ち、不可視の弾丸とルーンドローンの攻撃で動きを制限していく。

 ローリエは、57号をここで仕留めるつもりでいた。もし、ここで暗殺に特化した無感情な敵に逃げられててしまったら、この後…神殿での最終決戦の大きな不安要素になると確信しているからである。

 もっとも―――57号は、逃げる算段など立てておらず、ただ機械的にローリエを葬ることに決めているようだが。

 

 続けて、第二の攻防。

 今度は57号の方が早い!

 57号の急接近に、ローリエは『アイリス』に散弾を込めて、構える。

 57号は再びあの砲撃に備える、が。

 ショットガンから放たれたのは弾がバラバラに散る射撃だ。

 

「……!?」

「…へっ」

 

 爆撃読みで距離を離し回避姿勢をとっていた57号。その隙をローリエは見逃さない。

 すぐさまアイリスを手放し、パイソン&イーグルの二丁拳銃を57号に向けた。

 

 パァンパァンと、発砲音が響く。

 すんでのところで再びの被弾を防いだ57号は、AIのルーチンのようにローリエに接近していく。

 そんな少年の様子に、ローリエは気味悪さを覚えた。

 

 

(ここまで無反応にできるとは……効いていない、わけじゃないよな?

 ノーリアクションも度が過ぎてやがる……不気味すぎるぜ)

 

 

 実際、57号がやっているような、表情を封じて敵に手の内を悟られにくくするという戦術はある。ポーカーフェイスとも呼ばれるそれは、実に理に適う戦法ではある。

 とはいえ、致命傷ではなくとも銃弾1発食らって尚声一つあげない、眉一つ動かさないというのは異常すぎるが。

 

(―――対象、戦闘継続可能。

 攻撃パターンより、遠距離攻撃が得意と分析。

 周囲の状況より、身を隠す事は不可能。)

 

 そんな異常性に手を焼いているローリエの心情もまた、57号に読み取られる事はない。

 彼は、ただ主の命令に従う人形である。余計な思考は、人形には不要なのだ。

 

(戦況は硬直。援軍が来る確率75%以上。時間が経てばこちらが不利。

 逃走……成功確率は30%未満。なれば―――

 ―――暗殺プランをDに変更)

 

 57号は、腰に下げていた薬品の一つを、躊躇なく自身に打ち込む。

 ローリエは身構える。

 57号が自身に刺したのは注射器のような形だ。そこから、何らかの液体が注入していくのが見えた。十中八九、ロクでもないものだろうと考える。

 そして……その考えは、正しかった。

 

 

 

「―――――っ!!」

 

「な!!?」

 

 

 さっきまでは目に追えていた57号の動きがブレだし、見えなくなっていたのだ。注射器を打つ前と後では雲泥の差、というレベルだ。

 

 

「ぐっ!?」

「―――」

「こ、ンのやろ!!」

 

 

 ローリエは苦し紛れに発砲。

 しかし、当たらない。57号はそのまま強烈なインファイトを仕掛け、ローリエは両手が拳銃で塞がったまま、接近戦を強いられる。

 

 そもそも、ローリエは近づいての殴り合いはあまり得意ではない。

 スピードではカルダモンに及ばず、パワーではジンジャーに敵わない。防御力もまた、フェンネルに比べると心許ないと言わざるを得ない。

 三人にしごかれたこともあって一流ではあった。これなら、かつて『ひだまりスケッチ』のクリエメイト達を攫おうとした盗賊程度造作もないのだが、超一流には届かない。

 

 目の前の少年・57号は、残念なことに…近接戦闘においては超一流であった。特に、暗殺用に拵えた武器を使った短剣術においては。

 

 

「うっ……せいっ! でりゃあ!!」

 

「……………」

 

 

 57号の無尽に襲い掛かる斬撃に、なすがままのローリエではない。

 咄嗟にイーグルを手放し、空いた手で腰に差していた銅剣・サイレンサーを引き抜いて迎撃する。

 だが、それでも形勢は不利のままで。

 ローリエの外套がククリナイフの斬撃で少しずつ破れていく。このままではすぐにローリエ自身に切り傷がついてしまうだろう、というところで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドドジュウッ、と。

 

「―――!?」

 

 

 57号の両肩に、レーザーが直撃する。

 それを放ったのは、ローリエのルーンドローンだ。

 ローリエとて、命懸けの戦いにおいて不利になる接近戦に付き合う理由はない。

 ルーンドローンが自動で動き、無防備な57号の背中を攻撃することは、予め命令されていたのだ。

 そのレーザー攻撃により、肩甲骨付近に、浅くない火傷ができる。

 

 だが57号は眉一つ動かさなかった。

 レーザーが2本着弾しても、動きがちょっと止まっただけだった。

 そしてすぐにローリエへの攻撃を中止し、己を攻撃した物の正体を目で追う。

 

 

「―――フッ!!」

 

「!!?」

 

 

 57号は空高く飛んでいくルーンドローン2機に向かって、ククリナイフを投げた。

 薬品の効果で強化された腕力で投げられたそれは、寸分違わずにルーンドローンに命中し、その機能を止めた。

 重力に従い落ちていくルーンドローンが地面に不時着すると、57号はその残骸からククリナイフを引き抜いた。その間、ローリエが『パイソン』で妨害するも、ククリナイフが手に戻る時間がほんの少しだけ長くなるだけだった。

 

 

「チッ…………来やがれ」

 

 冷汗が顎へと伝う。

 ローリエは援護射撃の当てが無くなっても尚、目の前の人形のような少年を逃がさないように挑発する。57号はそれに対して口では答えない。

 

(接近戦の不利は味わった筈。学習能力の欠如か)

 

 

 57号は、機械のような感情の籠っていない目でローリエを見据え、再び距離を詰める。

 薬剤でブーストされている脚力が、いきなり目の前に現れるかのような瞬間移動を可能にする。

 

 57号のククリナイフがローリエに襲い掛かる。ナイフの斬撃だけではない。蹴りや肘、あらゆる手段をもって目の前の敵を葬らんと全力を出している。

 ローリエも全力を尽くして57号の攻撃をいなして反撃しようと食い下がる。だが、薬のブースト前ならまだしも、ブースト後の今となると、どうしても一歩遅れてしまう。

 

 

「この……」

「……………」

「なっ―――ぐおおおおおお!!?」

 

 

 ローリエの頬に拳がめり込み、大きく吹っ飛ばした。

 空中で錐揉み回転しながら宙を舞い、地面に叩きつけられるローリエ。

 意識を手放してたまるかと顔を上げれば、57号の異変に気付いた。

 

(こ、コイツ………()()()()()()()()()()()!!

 さっきの薬の副作用か何かか!!?)

 

 

 そう。57号の急激なパワーアップのきっかけになったあの薬品。

 あらゆる力が増強する―――というだけの美味しい薬なハズがなかった。

 

 ローリエには知る由もない話だが…………実は先程57号が自身に投与した薬品は、ドリアーテ特製の、『滅殺の狂剤』と呼ばれる薬だ。

 投与した者の力・瞬発力が爆発的に高まる…という効果があるが、内臓を中心とした全身に信じられないほどの負担がかかり、寿命が縮まるという割に合わない副作用があるのだ。

 現在、57号の状態は充血した目から血涙が流れ、負荷がかかりすぎて破れた皮膚からも血が出ている有様だ。ローリエを追い詰めているはずなのに、自身が血塗れになっていた。

 それでも、自身の身体の異変を全く気にも留めず、少年の意識はローリエが戦闘継続可能か否かを見定める事に割かれていた。

 自身の血にまみれ、感情が消えたような無表情で敵を見据える、年端もいかない少年。誰が見ても背筋が凍る光景だ。

 

 

「………対象、戦闘継続可能と判断」

 

「……!!」

 

 

 呟いた57号が持っていた物を見たローリエは、目を見開いた。

 ―――それは、自身が使っていたハズの自動拳銃・イーグルだった。

 

(ひ、拾われたのか………!)

 

 57号は、相対したローリエの武器の脅威性を認めていた。そして、評価もしていた。

 敵に向けるだけで、ダメージを与えられる。魔法や弓矢とも違って攻撃の軌跡が読めない。

 ローリエを始末した後でコレを主に届ければ、この上なくお喜びになるだろう、と。

 相手は虫の息。だが、この期に及んでどんな手を使ってくるかわからない。

 

 ―――ならば、奴自身が開発した遠距離攻撃が可能なこの魔道具でトドメを刺そう。

 57号の合理的な思考回路はこう答えを弾き出した。

 

 

 ゆっくりとイーグルを向ける57号。

 ローリエは、さっきのクリーンヒットが効いたのか、立ち上がれずにいる。

 だが、目だけは諦めていなかった。

 

 

(勝敗は明確。無駄な可能性に縋るとは非合理的で愚かな)

 

 脳裏でそう言いながら、57号は引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――がッ………!!?

 

 

 次の瞬間、()()()()()()()()5()7()()()()()

 首に重いものが直撃する感覚がして。

 こみ上がってきたものを吐き出せば、それは真っ赤な液体だった。

 それも……数多くの命を奪ってきた57号には見慣れたものだった。

 

 

(な、何が起こって……!?)

 

 

 想定外の事態に驚きを隠せない(といっても表情の変化は微々たるものだが)57号は、震える手でもう一度イーグルの引き金を引く。

 

 ―――が、()()()()()()()()

 途中で何かに引っかかったように止まるのだ。

 

 

(このタイミングで故障!? 都合が良すぎる………)

 

「―――残念だったな」

 

「!!」

 

 

 ローリエが立ち上がる。

 口元の血を拭うと、指を立てて「来い」のジェスチャーをする。

 と、57号の手にあったイーグルが、ひとりでに手元を離れ、ローリエの左手に収まった。

 

 57号はわけが分からなかった。

 なぜ故障したハズの魔道具がまだ動くのか? なぜローリエは笑っているのか?

 ……そもそも、首に撃ち込まれたと思しき激痛の元は一体なにか??

 

 痛みでマトモに動かない首に鞭打って周りを見る。そして、そこにあったものに57号は目を疑った。

 何故なら……ローリエが手放したハズの()()()()()()()()()()()()()()()()()()、しかも()()()()()()()からだ。

 

 

「そのイーグルはな……お人形さんのオモチャじゃあないのさ」

 

 

 ローリエが言い放つ。

 瞬間、ショットガンが()()して、57号を取り囲んでいくではないか。

 増殖していくショットガンの全ての銃口、そして、ローリエの両手の二丁拳銃の銃口が。

 一斉に、57号へ向いた。

 

 

一斉掃射(フルファイア)

 

 

 ローリエの号令と同時に、あらゆる銃器が銃声を響かせた。

 57号の肉体に、全方位から鉛玉が撃ち込まれた瞬間だった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――勝った。

 かなり危ない戦いだった。思いっきり重い一撃は貰ったが、毒の類は受けていない。

 奴の戦い方はおぞましく恐ろしいものだったが、俺の魔道具を奪ってトドメを刺そうとしたのが間違いだったな。

 俺の武器は俺以外には使えない。指紋認証のトリックを見破らない限り、奪っても意味がないのだ。

 引き金を引き、不発した隙に『アイリス』の新機能・浮遊&分身を使った一斉射撃のとっておき『メタルジャケット・フルファイア』でジ・エンドだ。

 奴の得意分野を考えると、被害は軽微とも言えなくもない。

 

 だが、課題も見えたな。接近戦がまだ甘い。ジンジャーを中心にしごかれたつもりだったが、まだまだ詰めが甘いようだ。

 この後にドリアーテが待っていると考えると気が重いが、ひとまずはこの少年からだ。

 

 

「…おい。お前、ドリアーテの部下なんだろ?」

 

「………………」

 

 

 ボロボロになって仰向けに倒れたっきりの少年は、即死こそしていないものの、命が尽きるのも時間の問題だ。

 だのに、というべきかだから、というべきか……全てを諦めたかのように終始目と口を閉ざしたままだ。

 はぁ……やっぱり喋らねぇか。このまま死ぬつもりかよ。仕方ないけどさ。

 

 

「ローリエ!!」

 

「え? ……ハッカちゃん? なんでここに!? てか、目覚めて……」

 

「…召喚士の排除は失敗。面目ない。

 目覚めてすぐに、アリサから事情を聞いた。

 ローリエが刺客と戦闘中と聞き、助太刀に参った。」

 

「……ありがと、ハッカちゃん。でも、ご覧の通りもう終わったんだ。」

 

「………その少年は?」

 

「ドリアーテの部下……だと思うんだけど、まったく口を割らなくてな。

 まったく…とんだ忠誠心だ。最期の最期まで主に忠実とは見上げた野郎だぜ」

 

 

忠…実………?

 それは、違い…ますよ

 

「「!!?」」

 

 

 戦闘後にやってきたハッカちゃんとの会話に割り込んできた少年。

 何か話すと思わなかったから驚いた。

 

 

使い手の、目的を果たせないモノに……何の価値がありましょう?

 私は………忠実たりえませんよ

 

 

 初めて自分から発した言葉。

 それで、コイツは自らを無価値と語る。

 そこに自虐とか自嘲とか、そんなニュアンスは含まれていない。

 どこまでも平坦で……自暴自棄になったというより、心の底から自分が無価値だと思っているかのようだ。

 

 

「………私が借りた宿の女主人を殺めたと聞いた。

 汝は、何ゆえに彼女を殺めた? 八賢者が目的なら、私とローリエを狙えば良い話。なのに―――」

 

………………? 貴方が私をとがめる理由は何ですか?

 ドリアーテ様の行動は全て正しい。貴方が憤る理由が分かりません。

 

「―――ッ!!?」

 

 

 感情的になったのか、やや口数が増えたハッカちゃんの質問を平坦に切り捨てる少年。

 俺には、なんとなく分かってしまった。

 

 

「―――成る程。生まれてすぐに外の情報を遮断して己の主を絶対的な存在と刷り込めば、世の倫理なんざ通用しない化け物の出来上がりと。

 これが、ドリアーテとビブリオが絡んでた『改造兵士』の正体か。」

 

 俺の予想が、嫌な形で当たってしまった。

 きっと、ビブリオが赤子を調()()して、ドリアーテが()()していたのだろう。

 本当に―――クソみてぇな連中だな。

 

「…ハッカちゃん。コイツに人道を説いても無駄だよ。

 なにせコイツには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだからな」

 

「肯定。となると、彼の者も哀れなり。

 ……同情など栓無き事なのやもしれぬが」

 

「……そうだな」

 

 

 この歪んだ純真に驚かされてる間にも、少年の色のない瞳から更に光が失われていく。

 

 

「……無駄かもしれねぇけど。言い残す事があったら、聞いてやる」

 

そう…ですね。花の、面倒を、見ることができないのが………ざん、ねん―――

 

 

 その言葉を最後に……少年の目が完全に光を失い、指先さえ動かなくなった。

 遺留品を検分してみるも、見つかったのは俺を散々苦しめたククリナイフと無数の暗器……それから、花のスケッチが描かれた革の手帳だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 ドリアーテが仕向けた改造兵士を下した八賢者。ドリアーテの命じられるままに人の命を奪い続けたであろう57号に容赦はしなかったものの、一定の同情はしている。

01型57号
 戦闘中も殆ど喋らない人形のような刺客の少年。今回の戦闘描写が難産だったのは間違いなくコイツのせいである。超合理的な思考回路ゆえに『敵と会話すること』『技名を口にすること(若しくは技に名前をつけること)』をしない。故に、楽しめる描写にするどころか描写そのものをすることにかなり苦労した。
 そんな彼も―――再起不能(リタイア)。ローリエの一斉掃射を受け、敗北し命を落とした。人として持ってて当然の名前すらなく、ドリアーテに道具として使われた哀れな人生であった。
 イメージCVは蒼○翔太。この名で本人の顔や時間をさかのぼる云々を連想した方は、間違いなくポ○テピ○ックに毒されているので、大人しく「はめふら」を見るか彼ボーカルの楽曲を探そう。

ハッカ
 原作通り(失礼)、きらら達の排除には失敗した八賢者。アリサから事情を聞き、すぐにローリエの助太刀に行った。そこで、57号の歪んだ純真さを目の当たりにする。詳しくは次回にて。



メタルジャケット・フルファイア
 ローリエのとっておき。分身した『アイリス』、『パイソン』『イーグル』で一斉掃射を放つ。ローリエが敵として出たときのチャージMAX時の必殺技でもあり、プレイアブル時のとっておきでもある。



△▼△▼△▼
ハッカ「ローリエは激戦の末、刺客を下した模様。」
アリサ「ハッカさんの方は……どうだったんですか?」
ハッカ「…………申し訳なし。」
アリサ「えっ……? それって、つまり……」

次回『夢から醒めて』
アリサ「………あっ!次回もお楽しみに〜!!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
 自分と同じきらファンプレイヤーで『もしもきららちゃんがスマブラに出たらこんなアクションになるのかな』と想像している方がいて、なかなか面白かったので自分もローリエ参戦の妄想とかしています。
 多分ですけど、自分の武器だけでなく他の八賢者とアルシーヴの武器を使って戦うファイターかなーと。

シュガーの大剣→横&上強攻撃。汎用性に富む。
セサミのオーブ→横スマでアクアスプレッド。上Bでディープレイン
カルダモンの短剣→弱攻撃&空N&空前。出が早い。
ソルトのハンマー→下スマ、下強、空下。出は遅いがダメージ高めでメテオも狙える。
ジンジャーのバット→横Bでシュートバースト➡メガバーストMk.2➡アンブッシュスライダー。超吹っ飛ぶ。
フェンネルの盾→シールド。ダッシュ攻撃でシールドバッシュ。
ハッカの魔法札→上スマ&空後。吹っ飛ばしと攻撃範囲が強い。
ローリエの銃器→NBでジョーカー風射撃。貯めでアヴェンジャー・アイリス発動。下Bでルーンドローン起動
アルシーヴの杖→最後の切り札。初撃に当たった敵にアルシーヴ達とルナティック・ミーティアを放つ

 ……みたいな。


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第78話:夢から醒めて

どうも、モンスト×るーみっくわーるどコラボ記念に『ラムのラブソング』を聞いた結果「あぁ男の人って何人好きな人が欲しいの?」という歌詞がローリエに刺さりまくるなぁと思った三毛猫でございます。

あるしーぶ「どうなんだ、ローリエ?」
そら「何人欲しいのかしら?」
ろーりえ「おい、お前ら笑いながらスゴむな怖いぞ。ちゃんと答えるから待てって。えーと……………4、5、6…」
じんじゃー「数えんな!」
はっか「制裁!」
ろーりえ「ウボァーーーー!?!?」

突然ですが、ハッカちゃんVSきららちゃんはキング☆クリムゾンします。
すまんのハッカちゃん。今章のガチバトルは57号戦で打ち止めじゃ。





“頬を染めながら古風を装う彼女の言葉が、この時俺を和らげてくれたのだろう。例えるならば、潰れそうなほどの重荷たちの中の一つをようやく下ろせたかのような、そんな気持ちだ。”
 …ローリエ・ベルベット著 自伝『月、空、太陽』
  第8章より抜粋


 

 

 

「………口惜し。明朝には、邪魔者を一掃できたものを。」

 

 アルシーヴ様から下された召喚士完全排除のため、作り出された夢幻の世界。

 入った者が永住を望むような幸福な日常が過ごせる世界――情報処理部のクリエメイトと学園生活を送る世界――を作り……『遠足』に出発した時、クリエメイトともども、完全な眠りに堕として夢の世界に封印する……という筋書。

 

 しかし、その筋書はあと一歩の所で、きららとランプに見破られた。

 

 

「このハッカ、究極の夢幻魔法が見破られてはやむを得ぬ。

 斯くなる上はこの手で、永遠の眠りに誘わん。」

 

「っ、きららさん―――」

 

「大丈夫。ランプ、私から離れないで!」

 

 

 その後は、召喚士との戦いになり。

 そして。

 

 

秘術『夢幻開闢(むげんかいびゃく)』―――!!!

 

「行きなさい、あや!」

「先輩! いっけええええ!」

分かったけど黒歴史(さっきの)は忘れろォォォォォォォォ!!!!

 

 

 

「うあああああああああーーーーっ!?!?!?」

 

 

 激突の末………敗れ去ってしまった。

 

 

 私の敗北。それは、召喚士とクリエメイトを閉じ込める夢幻の世界が破られ、現実に戻ることを意味する。

 アルシーヴ様の命に応えることができなかった。

 ソラ様を救うために必要な、クリエメイトの確保も叶わず。

 私を現実世界で待っている者たちにも示しがつかぬ。

 

 無念の情を抱いたまま、崩れゆく夢幻の世界から追い出された。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ―――目が覚めたら、そこから見知らぬ天井が見えた。

 

 気だるき体を無理やり起こせば、不安そうなアリサと目が合う。

 

 

「ハッカさん!」

 

「アリサ……?」

 

 

 そこで周りを見渡せば、夢幻魔法を行使した時にいた部屋とは全く違う、屋根のみがついている住居跡地であった。周囲にいるのはアリサのみで、ローリエの姿が見えない。おそらく、私をアリサが運んだのだろうが………

 

 

「…何があった? 説明求む。」

 

「実は―――」

 

 アリサが語ったものは、いささか信じられぬ程、衝撃的であった。

 私が夢幻魔法で眠っている最中に、刺客が現れ私の命を狙おうとしたことに始まり。

 ローリエとアリサが意識不明の私を守りながらここまで運んでくれたということ。

 そして、その過程で一般人――私がチェックインした宿の女将――が刺客の刃にかかってしまったこと。

 また、ローリエがその刺客と戦っていることが告げられた。

 

 アリサからこの話を聞いた私は愕然とした。

 アルシーヴ様から賜った使命を果たせなかった私と違い、ローリエが私を守りきったというのか?

 

 

「ローリエは何処(いずこ)!?」

 

「え!? えっと、向こうです!!」

 

 

 アリサが質問に答えるなり、私は走り出した。

 ローリエが刺客と戦っている。もしもの事はないか?

 ……否、考えたくないことだ。もし、最悪の予想が当たってしまえば、私は彼に…あの時の感謝と謝罪を伝える機会を、永久に失ってしまう。

 

 やがて、ローリエの姿が見えてくる。

 

「ローリエ!!」

 

「え? ……ハッカちゃん? なんでここに!? てか、目覚めて……」

 

「…召喚士の排除は失敗。面目ない。

 目覚めてすぐに、アリサから事情を聞いた。

 ローリエが刺客と戦闘中と聞き、助太刀に参った。」

 

「……ありがと、ハッカちゃん。でも、ご覧の通りもう終わったんだ。」

 

 

 幸い、不吉な予想はまったく外れ、そこにいたのは頬を腫らしながらも(しっか)りと両の足で立っているローリエと。

 

「………その少年は?」

 

「ドリアーテの部下……だと思うんだけど、まったく口を割らなくてな。

 まったく…とんだ忠誠心だ。最期の最期まで主に忠実とは見上げた野郎だぜ」

 

 ローリエの攻撃によって致命傷を受けたのであろう、力なく倒れている赤髪の執事服の少年であった。

 そう……少年だ。見た感じの年齢は、シュガーやソルトよりもいくつか年上か程度である。このような幼さの残る子供が刺客とは……

 

 

忠…実………?

 それは、違い…ますよ

 

「「!!?」」

 

使い手の、目的を果たせないモノに……何の価値がありましょう?

 私は………忠実たりえませんよ

 

 

 子供の発する全くもって子供らしからぬ言葉に、衝撃を受ける。

 これが、今回私の寝込みを襲い、宿屋の女主人の命を奪った刺客だというのか。

 ローリエやアリサがいなかったらと思うと、背筋が凍る。

 

 

「………私が借りた宿の女主人を殺めたと聞いた。

 汝は、何ゆえに彼女を殺めた? 八賢者が目的なら、私とローリエを狙えば良い話。なのに―――」

 

………………? 貴方が私をとがめる理由は何ですか?

 ドリアーテ様の行動は全て正しい。貴方が憤る理由が分かりません。

 

「―――ッ!!?」

 

 

 女主人を殺めた理由。それに対する少年の答えは回答ですらなく、「疑問」だった。

 なんでそんなことを聞くの? という問い返しに等しい。つ…つまりこの少年は、『ドリアーテ様』とやらの言う事ならば、例え人の道をどこまで外れようとも従うと言うのか?

 私とてアルシーヴ様やソラ様にはどこまでも従う所存である。しかし、この少年は異常だ。主に従うという決定や、それ以前の言動に人としての感情が感じられない。感情表現に乏しいという段階ではない。まさに絡繰。致命傷を受けていなければ、人を極限まで模した機械と勘違いする程。

 

 

「―――成る程。生まれてすぐに外の情報を遮断して己の主を絶対的な存在と刷り込めば、世の倫理なんざ通用しない化け物の出来上がりと。これが、ドリアーテとビブリオが絡んでた『改造兵士』の正体か。

 …………ハッカちゃん。コイツに人道を説いても無駄だよ。なにせコイツには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだからな」

 

 

 ローリエによって少年の歪な精神構造が明らかになる。

 ビブリオやドリアーテらがエトワリアを破滅させんと暗躍していたことは知っていたが、まさか子供を洗脳し、それを兵にする事まで行うとは……既に正気の沙汰に非ず。

 

 

「肯定。となると、彼の者も哀れなり。

 ……同情など栓無き事なのやもしれぬが」

 

「……そうだな……おい少年。無駄かもしれねぇけど…言い残す事があったら、聞いてやる」

 

そう…ですね。花の、面倒を、見ることができないのが………ざん、ねん―――

 

 

 その言葉を最後に、少年は息絶えた。

 遺留品は暗殺に用いていたであろう暗器・薬品の数々がほとんどで、それ以外のものといえば、手帳だけだった。うち白紙の1ページに、少年が描いたと思われる花のスケッチが色なしの状態であり、それが妙な後味の悪さを匂わせた。

 

 

 

 

 

 人生を道具の様に使われた哀れな少年の埋葬が終わった頃には陽が沈み、満月の穏やかな光が周囲を照らしだす。

 

「………ハッカちゃん。来てくれてありがとな」

 

「礼は不要。此度の手柄はローリエにあり」

 

 

 ローリエから、言われる事のないと思っていた礼を言われた。意外な言葉に、当たり障りのない言葉を返すに留める。

 ローリエが刺客の少年を倒した事実は明白。しかも相手は、暗殺に特化していただろうとの言。召喚士とドリアーテ、二方面の相手をしている現状にて、暗殺者を一人再起不能にした功績はあるだろう。それは、ローリエ一人だけのものだ。

 

 

「私は、行かねばならぬ。召喚士たちの封印に行かねばならぬゆえ」

 

 

 私も、早く行かなければ。手柄を立て、恩を返さなければ。

 このまま帰ったのでは、アルシーヴ様やソラ様に申し訳が―――

 

「待つんだ」

 

 手を掴まれた。

 誰が、とは言うまでもなし。

 

「そんなフラフラの身体で何をする気だ」

 

「知れたこと。私の受けた命は召喚士の完全排除。

 なればその命を果たす事こそ私の為すべきこと」

 

「そうはいかない」

 

 

 ローリエの至極冷静な声に、私はローリエを突き放す………が、掴まれた手を振りほどけぬ。

 

 

「…放せ」

 

「駄目だ。夢幻魔法で消耗してるクセに、無茶すんじゃねぇ」

 

 図星を突かれる。何故…何故そのことを知っている。

 私はアルシーヴ様に秘蔵されていた身。夢幻魔法を使う事や、そもそも夢幻魔法とは何かを、ローリエが知っていたとは思わなかった。

 しかし…例え満身創痍だったとしても、私は行かねばならぬ……!

 

「放せ――っ!? きゃあ!」

 

 

 驚かせて手を緩めさせる為に放った魔法符からの火花が跳ね返り、眼前で炸裂する。

 バランスを崩して、尻餅をついてしまった。こ、これは一体………!?

 

 

「リフレクタービット。魔法を跳ね返す魔道具だ。マホカンタとかマカラカーンとかいう通称もある」

 

「小癪な……!」

 

「気付かなかったのか? 俺、君が何か放とうとするのを()()()()()()()ぞ?」

 

「!!?」

 

「消耗しきっている証拠だ。これ以上戦ったら倒れるぞ」

 

 

 そんなことは分かっている…!

 でも、今やらねばならぬのだ!

 アルシーヴ様の命を果たし、ソラ様をお救いするためには……今!戦わなければならぬのだ!!

 

 

「今、やらねば……ソラ様がいなくなってしまう!!

 私の命は…あの人達の為にある! ならば…為すべきを為さねば…!」

 

 自分でも驚く音量の震え声が出た。胸が苦しい。鼻や喉が痛い。

 でも、私は諦めたくはない。

 私に、人を信じる心を教えてくれたソラ様を救いたい。

 私に、あらゆる魔法と生き方を教えてくれたアルシーヴ様に報いたい。

 その邪魔をする者たちは…たとえ、かつての恩人でも許しはしない……!

 

 

「どうして邪魔をする……!

 よりにもよって、私を救ってくれたあなたが!!」

 

 ローリエが言葉に詰まる。だが堂々と立っている。まるで、私の心の全てを受け止めんとしているかのように。

 

「ソラ様やアルシーヴ様を助けたくはないのか!

 答えよ………ローリエ!!!」

 

 だから、私は思ったことをそのまま叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――俺は、誰も諦めるつもりはない」

 

 端正な表情を真剣そのものの表情にして、ローリエは答えた。

 膝をつき姿勢をかがめた彼の、左右で色が違う、宝石のごとき目に視線が吸い込まれる。

 

「アルシーヴちゃんも、ソラちゃんも、他の賢者達も、ランプも、アリサも…………そして君も。

 誰一人として諦めたくない。諦めるつもりもない。

 ソラちゃんの呪いを解き、アルシーヴちゃんの反動も治し、ドリアーテをぶちのめす。それら全部やってみせる。全てを救う。それが俺の覚悟だ」

 

 

 なんて我儘な覚悟だろう。

 なんて無茶な挑戦だろう。

 そう思っていても……何故だか、反論できなかった。

 

 

「だが、俺一人でできる事なんて限られてる。だから……」

 

 

 あの時の様に、ローリエは手を伸ばす。

 

「こんな俺を信じてくれるなら、手を貸してくれないか?」

 

 

 その姿が、10年前と重なる。

 私とソラ様を守るために命を懸けて、盗賊と戦った彼と。

 あの時は、手を取ることが出来なかった。己の虚弱さ故に。

 

 しかし、私は変わった。あの頃の恐怖に怯える自分ではないのだ。

 それに、ローリエからはアルシーヴ様やソラ様を本気で助けたいという気持ちを感じる。

 私は未だ、為すべき使命を果たす事こそ出来てはいないが……

 

 

「……ローリエ。あなたの覚悟は、甚だ傲慢だ」

 

「!!」

 

「一人で全てを背負おうなど、傲岸不遜と呼ぶに他なし。」

 

「うっ………」

 

「だが……それは一人なら、の話。

 ローリエはもっと人を頼るべし………私も力になるから。」

 

 

 私は、ようやくローリエの手を取って立ち上がる。

 それは…10年前の答えとは正反対のそれであった。

 

「―――ありがとう、ハッカちゃん」

 

 ふわりと外套が穏やかな風に乗り、全身がローリエに包み込まれる感覚を覚える。

 普段ならせくはらに該当するこの行為が、全く嫌ではなかった。………むしろ、非常に暖かく、心地よかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――やっと、念願がひとつ叶った。

 ついに…ついに、ハッカちゃんを抱けたんだーーーーーーーーーーッ!!!!!

 

 

 

 

 ………はい、今ひYな妄想をした方は帰――らなくてもいいけど、しっかり反省してくださいね。

 ハッカちゃんがぶっ倒れそうになってでもきららちゃん達を止めに行きたい訳を本気で叫ばれたので、こっちも真剣な気持ちを思いきりぶつけたらこうなったってだけだぞ。

 

 冗談は兎も角として、俺は彼女のあの反応にちょっぴり救われた気がする。

 

 

『……ローリエ。あなたの覚悟は、甚だ傲慢だ。

 一人で全てを背負おうなど、傲岸不遜と呼ぶに他なし。

 だが……それは一人なら、の話。

 ローリエはもっと人を頼るべし………私も力になるから。』

 

 偶然にも10年前のような立ち位置とポーズで「力を貸してくれ」と頼んだ俺に対して、こう答えてくれたんだ。……若干、頬が赤くなっていたのは見逃してないが見なかったことにした。

 そうして……今に至る。ハッカちゃんが腕の中にいる。最高かな?最高ですね間違いない。

 

 

「…………………ローリエ」

 

「なに?」

 

「……そろそろ、離して欲しい。」

 

「えー……俺はあと30分くらいはこうしていたい。というか離したくない」

 

「離さねば痴漢せくはらと判断する」

 

「離したくないと言って痛アァァい!!!?

 

 

 ハッカちゃんとのハグを楽しみたかっただけなのに、幸せな時間は腹パンによって強制終了となった。ざ、残酷すぎる……泣きそうだ。

 

 

「…して、今後は如何にするのか?

 私が召喚士の排除に失敗してしまった以上、次の手は必至。」

 

「いやあの、それ以前に俺に対する思いやりとかないの…?」

 

「ローリエ、あなたには何か考えがあるのか?」

 

 そう言うも、俺の抗議は思い切りスルーされる。

 

 

「………はぁ、考えだっけか? 勿論ある。

 きららちゃん達に事の真相を話すんだ」

 

「…!? しかし、あの件は箝口令が敷かれていた筈。話す事はアルシーヴ様への謀反を意味する」

 

「そうだ。口頭で伝えるのはもちろん論外だ」

 

 だから、工夫する必要がある。

 そういう意味も込めて話を続ける。

 

「口頭以外…となると。

 我が夢幻魔法を応用するか?」

 

「アルシーヴちゃんはそれも想定している筈だ。

 変な真似をしたらすぐに飛んでくるだろう」

 

「ローリエは、如何様に考える?」

 

「…今から言うのは独り言だけどね。」

 

「?」

 

「俺は今回の緊急事態ね、事細かに記録してんのよ。

 いつもはその日誌は部屋に置いてあるし、何よりアレにはパスワードをつけて俺以外には見れないようにしてある。

 ………神殿に殴り込んできたきららちゃん達が、()()()()俺の部屋に入って、()()()()パスワードを解除して中身を見るなんて、不可能なんだよ」

 

「……!!」

 

 

 ちなみにパスワードだが、俺の前世の記憶を活用したものとなっている。

 聖典にも載っていないワードを選んで使ったため、当てずっぽうで解除などまず不可能。

 俺が()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、エトワリアの人々には何が何だかだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()開けるのは無理だろうな。はっはっはっは。

 

 

「………さて、アリサを待たせちゃってるな。早いところ戻ろう。」

 

「ローリエ…あなたは、ズルい人だ」

 

「え、何が? ハッカちゃん、何も聞いてないだろ?」

 

()()()()()()()()()()

 

 

 ハッカちゃんのその返事は、俺の案に賛成する事を意味していた。

 さて、最後にきららちゃん達と顔合わせでもして帰りますかね。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「よう、きららちゃん」

 

「ローリエさん……それに、アリサさんとハッカまで…!」

 

 

 神殿の転送ゲート前。

 俺は、途中で合流したアリサとハッカちゃん…それとコリアンダーを背負うクロモン達とで転送ゲート前に立ち塞がる。

 如何にも『ここから先へは行かせん!』と言わんばかりの立ち位置だが………

 

 残念と言うべきか否か、戦うためにスタンバってるんじゃあないんだよね。

 

 

「ハッカちゃんの夢幻魔法を破るか……やはり伝説の召喚士。強力だな」

 

「……私一人の力ではありません。

 ランプやマッチや…クリエメイトの皆さんと見つけた力です!」

 

 

 うん、良く知ってるよ。

 みんなを繋ぐ『コール』が、今までの困難を跳ね除けたことも。その経験が確かな力になっていることも。

 だから……その力を、ドリアーテ討伐の為に貸してくれないかな?

 

 

「フッ……まぁいい。

 全てを知りたかったら、神殿まで来ることだ。

 ――アリサ、ハッカちゃん、行くぞ」

 

 

 マントを翻し、転送ゲートに足を進める。

 その際に、()()()()()()ことには二人とも気に留めない。

 

 転送ゲートに三人が乗り……謎の浮遊感が始まる。

 馴染みの神殿に戻り……おそらく、これから最終決戦が始まるだろう。

 幸い、アリサとハッカちゃん――二人の協力者を得ることができた。

 帰ったら早速、例の作戦を実行しようではないか。

 

 

 

 

 

「…さて、ローリエさん。ハッカさんと何してたか教えていただけますか?」

「心して聞くべし、アリサ。ローリエの策は尋常に非ず、狡猾と言うべし」

「ハッカちゃん、言い方。

 えっとな、陽が落ちるまでハッカちゃんを抱き、心を通わせダナモッッ!!?

「…誤解を招く発言は厳禁。」

「えっと、あの、ちょっと何言ってるか分からないです」

 

 

 ただ、嘘は言ってないのにこの仕打ちは全くもって納得いかない。

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ハッカ
 八賢者の中で唯一、きららとの戦闘シーンが殆どキング・クリムゾンされてしまった可哀想な人。しかし、全ての真相を知っているだけあって、ソラとアルシーヴを助けたいという想いは本物で、ローリエに止められて彼の決意・覚悟と作戦を聞くまではぶっ倒れてでもきらら一行を止めようとしていた。彼も自分と同じで『大切を諦めたくない』という想いを持つことに気づいた彼女は、ローリエの手を取り、過去の弱かった自分を乗り越えることを選択する。
 キング・クリムゾンの理由として、(ややネタバレ成分が含まれるが)夢幻世界での出来事がほぼ変わらなかったからという点が大きい。

ローリエ
 ハッカの本気に自身の本気で応えたイイ男。自分だけではどうしても限界がある事を知り、己のトラウマと密かに戦いながらもハッカに「力を貸してくれ」と手を差し伸べた。そして、ハッカの答えに救われる。それは、一言に集約されているといっても過言ではない。

アリサ
 目覚めたハッカに現状を伝えた八賢者助手。その後は自然とフェードアウトしており、今回の出番は控えめ。なお、ローリエの『例の作戦』は合流後に聞くことになる。

コリアンダー
 きららとの戦いの後、クロモン達によって回収、医務室まで運ばれた。



夢幻世界のキング・クリムゾン
 今回の章は、本家では夢幻魔法によって生み出された世界をメインにしてきたが、ローリエやアリサが現実世界に残った事、ハッカの夢幻魔法の性質と弱点から考えた時に、ドリアーテの刺客が夢幻魔法に囚われると考えるより寝込みを襲うと考えた方が自然であったために、本家7章と違い現実にフェードインした物語構成となった。
 それ故に、グダるのを防ぐために、夢幻魔法の世界で起きたことは丸々カットということになった。



△▼△▼△▼
ローリエ「とうとうきららちゃん達が神殿に来る…!八賢者全員が集まったところで様々な役割を命じられていく。そんな中、俺とハッカちゃん、アリサに命じられた役割は『遊撃』。」

ローリエ「……実に好都合だ。暗躍するドリアーテの野望を止めるためには一番の立ち位置だ。さて、全てを救う大作戦の始まりだ…!」

次回『集う者たち』
ローリエ「次回もまた、見てってくれよな!」
▲▽▲▽▲▽


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エピソード10:導かれし未来~ハッピーエンドを獲りに行く編~
第79話:集う者たち


どうも、第2部の敵たちを見て悪い事思いついちゃった三毛猫です。でも創作してて分かったことなんですが『なんだかんだでこうなる』とか『色々あってそうなる』は思いつくんですけど、繋ぎの『なんだかんだ』『色々』が難しい。それをどう面白くするかが創作なんでしょうね。
メディアってロリ…なのかな?合法ロリじゃないよね…?ローリエの母オリーブみたいな。もし見た目通りの年齢ならば、教師のローリエと元女神候補生でもありうるメディアとの繋がりができそうだ。
ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろうけど。

ろーりえ「よっ、メディ。ギルド長の仕事は順調か?」
めでぃあ「師匠(せんせい)!お久しぶりです! えぇ、ちょっと大変な事もありますけれど、皆の力もあってがんばれてます!」
らんぷ「え゛ッ…メディア様とローリエ先生ってそういう仲だったんですか!?」
ふぇんねる「いつかはやると思いましたわ」
ろーりえ「おい、メディがせんせーっつったの聞いてねーのかコラ」












“ローリエ先生の「おきみやげ」で知ったじじつに、わたしはおどろいてしまいました。みんなから愛されたユニ様をどうしてころしたのか?ころさなければならなかったのか?ころしたくなるほどの何かをされたのか?………いくら考えても、こたえは出ませんでした。”
 …ランプの日記帳(後の聖典・きららファンタジア)より抜粋



「―――で、ハッカちゃんを連れて戻ってきた。夢幻魔法が破られたハッカちゃんにどんな負担があるか分からないからな。

 以上が今回の事の顛末になる。」

 

「そうか。ハッカ、気に病む事は無い。お前は為すべきを為した。

 そしてローリエ、よくやった。ハッカを守り、暗殺者を撃破したことは賞賛に値する」

 

「有難き幸せ」

「ありがと、アルシーヴちゃん」

 

 

 

 俺・ハッカちゃん・アリサの三人が神殿に帰還し、アルシーヴちゃんに頂上の街で起こった出来事を報告した後、いつもとは違う雰囲気に気が付いた。

 八賢者の全員が集まっているような気配がするのだ。普段はあちこち飛び回ってるカルダモンやいつもは市長として都市を守っているジンジャーもいる感じがするから尚更だ。

 

 

「おやおや、みんなお揃いじゃあないか」

 

「お揃い……八賢者が、ですか?」

 

「如何にも。」

 

 

 おおかた、ハッカちゃんの夢幻魔法を察知したのだろう。

 俺達がそんな話をしているのを耳に挟んだのか、ジンジャーやカルダモン、シュガーとソルトがやってくる。

 

 

「ローリエ……それに、ハッカも。戻ってきてたのか。」

 

「まーさっき戻ったばっかだけどな」

 

「…ジンジャーとカルダモンはなにゆえここに?」

 

「偶然、ハッカの魔力を察知した時に一緒にいたから。」

 

 

 カルダモンが意味深に笑う。俺の知識が確かなら本当に偶然一緒にいたんだからそんな意味深な笑みなんてやめればいいのに。かわいいから良いけど。

 

 

「ローリエとハッカはなんで一緒にいるのかな?」

 

「ん、あー…アルシーヴちゃんが後で説明してくれるよ。今話しても二度手間だしねー」

 

「そう言うなよ。大体の事情くらい教えてくれても良いじゃねぇか。」

 

「仕方ないな………あんまり大声出すなよ?

 俺とハッカちゃんは、さっき重要な決断をしたんだ。

 ―――二人で、前を向いて生きていくことを。」

 

「「「!?!?!?」」」

 

 ジンジャーとセサミ、カルダモンの表情が見る見るうちに驚きに染まる。

 

「なっ……おま、マジかローリエ!!?」

「少しタイミングがアレですね…しかし、まさか本当に…!?」

「へぇ〜。ローリエもそういう事考えるんだね…!」

 

「あぁ。だがタイミング的にまだ言いたくなかっタトバ!!!?

「ローリエ…誤解を招く発言は厳禁と言った筈…!」

う…ウソは言ってない……

「より質の悪い妄言なり。」

 

 

 幸せな誤解タイムも、ハッカちゃんのハンマーで終了した。本当に嘘なんてついてないぞ!帰る前に俺はやっと過去を乗り越えハッカちゃんと二人で(アリサ込みだと三人で)作戦を遂行すると決めたじゃんか!!

 だがそんな抗議を心の中にしまったばかりに、妄言扱いされる。泣きそうだった。というか泣いた。

 

 

「……おい、これはどういうことだ?」

 

 しかも間が悪いことにそこにアルシーヴちゃんが登場。困惑したアルシーヴちゃんにハッカちゃんが「ローリエの所業なり」とか言ったせいで全部俺が悪いみたいな空気になった。ひどす。

 

 

「と……とりあえず、だ。招集もせずに集まった八賢者は、その。

 大したものだな……うん。」

 

「ねぇ、アルシーヴ様がなんか締まらない感じになってるんだけど。間違いなくローリエのせいだよね?」

 

「いや知らねーよ!? 俺はウソもセクハラもしてないよ!今日は!!」

 

「ウソ云々は兎も角、セクハラは改めろ、ローリエ。カルダモン、話を戻すがいいか?」

 

「はーい」

「はい…」

 

 

 理不尽な飛び火を受けつつ今後の流れを考える。

 おそらくだが、ここから先の物語は少し、だが決定的に違っていくだろう。

 その要因が―――ハッカちゃんだ。彼女は、本来の流れならばきららちゃんに女神封印の経緯の記憶を見せようとしてアルシーヴちゃんに当て身され、最終章では一切出てこなかった。だが今、彼女は俺の隣でアルシーヴちゃんの話をしっかり聞いている。

 

 

「どうして、ハッカを動かした。アルシーヴ様の命令か?」

 

「そうだ。事は急を要した。ローリエも協力を名乗り出てくれたしな。

 ―――召喚士の排除はハッカをしても叶わなかった。それに、ドリアーテがまだ残っている。」

 

「ふうん。それってつまりさ…召喚士とドリアーテ、両方を相手取るってこと?

 それってこっちは不利じゃない?大丈夫なの?」

 

「ローリエが直前に奴の側近だった暗殺者を一名、再起不能にしたが……楽観はできない。

 敵勢力の把握は最急務だ。ローリエ、必要ならば、あの忌むべき虫魔道具をいくら動員しても構わない。…………任せてもいいだろうか?」

 

「……分かった、俺に任せてくれ。みんなも、今回だけはビジュアルは気にしないでくれよな」

 

 

 G型の封印がとけられたが、皆の表情は芳しくない。まぁ当然だわな。

 アレはみんなから絶不評だったから禁止されてたヤツだからな。見てない所でコッソリ使ってたけど、今回は人目を気にせず解禁ってことだな。

 

 

「分かっているとは思うが、猶予はない。この神殿でオーダーを行う。」

 

「っ………。」

 

「これまでのオーダーから、オーダーの影響規模とクリエメイトの出現範囲は予測がついている。出現範囲を神殿内に収めることは可能だ。お前達には、それぞれの役割を演じるとしよう。」

 

 さて、そろそろ役割の話になる。

 これは重要な話になるだろう。俺がいる事やハッカちゃんがいる事……それが本来の物語とどう差異が出るのか…それによっては、計画の細かな点を確定及び変更する必要があるからだ。

 

「セサミ―――お前は正門を守れ。時間を稼ぐ間に、私がオーダーを行う。」

 

「はっ。」

 

「シュガー、ソルト………そしてカルダモン。お前達は神殿内でクリエメイトを捕えよ。

 オーダーの影響で、神殿内が迷宮と化すだろうが、お前達を信じるぞ。」

 

「はーい! 頑張ろうね、ソルト!」

「もちろんです。アルシーヴ様の仰せのままに。」

「分かった。」

 

「ジンジャー……お前はクリエケージを守護しろ。」

 

「私でいいんだな?」

 

「あぁ。そして最後に、ハッカとローリエだが………お前達には所謂『遊撃隊』として各場面の補助に入って貰う。」

 

「「!!」」

 

「ハッカは夢幻魔法の消耗が回復しきってない筈だ。それに、ローリエには敵の捜索を任せているからな…………故に、各仕事を回りつつ、不慮の事態等に臨機応変に対応して欲しい。」

 

「「―――了解!!」」

 

 

 ……成る程、遊撃隊ね。

 どこに組み込まれるか、どうやって抜け出すか考えていたが、そこら辺の心配はなくなった。

 

 ……しかし、アルシーヴちゃん…かなりの無茶をしているようだけど、それでいいのか?

 アリサと録音したユニ様の証言を出し、ユニ様の声がしっかり聞こえる事を確認した上で内容を聞かせたはずなのに、終始そのことには一切触れなかったが……

 まぁそこは俺達がなんとかしよう。さて、アルシーヴちゃんがフェンネルを連れて奥へ歩いていくのを見届けたので、ちょいと他の皆に頼み事をしてみようかね。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 アルシーヴ様のお話が終わり、いざきらら……召喚士達を迎え撃とうとした矢先、ローリエが「話がある」とあたし達を呼び止めたのだ。なんでも、頼み事があるみたいだけど。

 

 

「皆の魔力を、少しだけ分けてほしい。そんで、銃弾に込めてほしいんだ。皆で、同じ弾にだぞ」

 

 ローリエの提案は、少しだけナンセンスなものだった。これから、召喚士と戦うってことなら、自分の魔力は最大を保っておきたいだろう。それを仲間にとはいえ分ける事は戦力を減らす事に他ならない。

 

 

「……そんな事をする意味が分からねぇ。悪いが、きららを相手にする前に魔力を分ける余裕はねぇぞ」

 

 ジンジャーも同じ意見だったようで、ローリエの提案には否定的だ。セサミもソルトも怪訝な顔をしている。シュガーは分かってなさそうだけど。

 

「そう言うと思ってな〜……ほらコレ」

 

「―――魔力回復薬!? こんな物をどこで……」

 

「セレウスの部屋。あの野郎、これでもかと言うほど買い占めてやがってたからな。奴を倒した時に証拠品として収めるついでに何本か貰ってきた」

 

「ドロボーすれすれではありませんか…」

 

「犯罪者の部屋から証拠品を巻きあ……押収するのは当然のこった」

 

 ローリエもタダじゃあ乗ってくれないと思ったのか、報酬に魔力回復薬を懐から取り出して見せてきた。セサミとソルトが入手先を尋ねれば、犯罪者?から取ってきたものらしい。他の賢者たちの前で盗品スレスレの物をぶら下げるとか、肝が据わりまくってるね。さらっと巻き上げるとか言いかけたし。

 

「ソルト、いいんじゃない? おにーちゃんはあんまり魔法使えないんだし、回復薬もらえるんなら別に良いと思うよ?」

 

「ですが、シュガー……」

 

 単純だけど効果的な報酬によって、シュガーが提案に肯定的になった。まぁ、あたしとしても魔力を減らさずに済むならそれに越したことはないんだけどね。

 でも、気になるなぁ。なんで、そんな物を欲しているんだろう?

 

 

「ねぇローリエ」

 

「なーに、カルダモン」

 

「それをくれるんなら分けるのもやぶさかじゃあないけどさ……どうして、そんな魔力をミックスした弾を欲しがるの?」

 

「これからやってくる敵は手強いからね。備えはあった方が良いだけのことさ」

 

「…………」

 

 

 嘘……じゃないね。むしろ本当のことしか言ってない。でも、6色の魔法弾に拘る理由になってないし、何よりローリエの言う『敵』とあたし達の想定する『敵』は若干の………それも、ごくわずかに、ブレがある気がするよ。なんとなくだけど。

 

 

「その敵って言うのは……?」

 

「ドリアーテの事に決まってるじゃないか」

 

「おやおや、ローリエ君。誰か忘れていませんか」

 

「「!!」」

 

「小耳に挟んだけれどね、確か召喚士の子も、神殿の敵だった筈よ」

 

 

 突然、しわがれた声が聞こえた。

 声の方に顔を向けると、腰が曲がって小さくなったおばあさん……前任の筆頭神官のデトリア様がいた。

 

 

「……デトリア様。」

「一般の神官には避難命令が出ていた筈です。デトリア様も例外ではありません」

 

「固いコト言わないで、セサミ。…確かにこんなばばあじゃ前線には立てないけど、力になれることはあるはずだわ」

 

 

 セサミのお咎めにも穏やかな笑顔を浮かべる。

 

 

「…だいじょーぶ、デトリア様? アルシーヴ様がいるから、無理しなくて大丈夫だよ?」

 

「シュガーちゃんは優しいねぇ。もちろん、敵襲はみんなに任せるわ。わたしはね、アルシーヴちゃんの元へ行ってあげたいだけなのよ」

 

「「「………」」」

 

 

 うーん…いくら前任の筆頭神官だったからといって、そんな主張通っていいものなのかな?

 デトリア様は、長いこと筆頭神官を勤め上げた、いわば隠居さんのはず。そりゃ、あたしの記憶の中でも結構古い頃………それこそ、物心ついて筆頭神官について知った時は既にデトリア様が筆頭神官やってたし、その影響かこの人を尊敬する神官たちもいまだ多いと思うよ。

 でもご高齢だってことも踏まえて、今の神殿内にいるのは結構危ないはずなんだけどな。……一体何歳なんだろ、この人?

 

 

「デトリアさん……こんな事を言いたくはないが、いい加減にしてくれないか?」

 

「!」

「ろ、ローリエ!! デトリア様に失礼です―――」

 

「貴女がアルシーヴちゃんを心配しているのはわかりました。後継者が大事だってことも。でも、貴女が心配するように、我々やアルシーヴちゃんも貴女が心配で、大事なのです。どうかその気持ちを、汲み取ってはくれませんか?」

 

 

 そんな中、ローリエが言った事は、大なり小なりあたし達がデトリア様に対して抱いている感情を抜身に表していた。

 心配。セサミのやや咎めるような言い方もシュガーのストレートな言葉も同じ所から来ているんだ。どれだけ長い間、デトリア様が今までアルシーヴ様と同じくらいの激務に励んでいたかなんて想像できるはずだ。

 

 デトリア様は、ローリエの言葉を聞いてあたし達を見回す。

 

 

「みんな、良い子に育ったねぇ。わたしは幸せだよ……後継者にも、頼もしい子たちにも恵まれて……こんな老いぼれにはもったいないくらいさねぇ」

 

 

 そして、涙が零れそうなくらいに嬉しそうな顔を、あたし達ひとりひとりに見せるように上げ、笑いかけた。その後、神殿の出口に向かってゆっくりと歩いて行った。

 賢者達はその言葉と後ろ姿に穏やかな笑みを浮かべていたけれど……ハッカとローリエだけは、目が全然笑っていないように見えたのは、あたしの気のせいじゃあないはずだ。

 魔力を分けた時に二人の顔を見たから言えるよ…………たぶん。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ローリエとハッカ、アリサが帰還したその頃。

 神殿への転移陣の前でローリエらと対峙したきらら達は、「真実を知りたければ神殿まで来い(意訳)」的なやりとりをした後、いざ転移陣に乗り、神殿へ向かおうとした時であった。

 

 

「うわひゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」

 

「ら、ランプ!!?」

 

「ど、どうしたんだ!?」

 

「ご…ゴキ……きららさん、アレが…!!」

 

 

 きららが怯えるランプの視線の先を目で追うと、ランプが突然に悲鳴を上げた理由を察した。

 例の黒光りするアレがカサカサ動いていたのだ。

 

 

「ねぇ、マッチ。何か……叩けるものない?」

 

「えええっ!? いきなりそんな事言われても…きららの杖でこう――」

 

「それはちょっと…」

 

「……わ、わかったよ! ちょっと待ってて、確かジンジャーから貰った物の中に…」

 

 

 きららの武器調達のお願いに、持ってる杖が一番手っ取り早いと言うマッチだったが、これは明らかにマッチが女心を分かっていない。

 そもそも、一般的な女子がGを退治するにはありったけの勇気を振り絞る事が不可欠だ。それは―――例えるなら、人間の身でしかない勇者が魔王に立ち向かう勇気。たった一人で、悪の秘密結社と戦う勇気。3分という限られた時間の中で、巨大な怪獣を倒すのに必要な勇気。

 マッチの合理的な提案は、きららが振り絞った、そんな『女子の勇気』を無下にする行為に近い。

 きららの『そんなのってないよ』という目が良心にクリティカルヒットしたマッチが折れ、ジンジャーから貰った雑誌を荷物から取り出し、それをを丸めて即席のG叩き棒を作成。完成した棒をきららに渡して、いざ尋常に覚悟、となった時、不思議な事が起こった。

 

 

『わーーーーー!!! 待て、叩くな!せめて話を聞いて!!』

 

「「「!?!?!?!?」」」

 

 

 なんと、たった今叩き潰そうとしていたGから、抗議の声があがったではないか。…しかも、()()()()()()()

 意外な人物の声に、きららも手が止まる。

 

 

「ろ、ローリエさん!? なんで、ここからローリエさんの声が……」

 

『あぁ、質問するのは勘弁してくれ。なにせ、これは録音だ。実際に今俺が喋ってるわけじゃあないから答えられない。』

 

「録音って……?」

 

「聞いたことがある。確か、音や声を保存して好きなタイミングで再生する技術だったはず…」

 

「も、物知りですね、マッチ…」

 

「魔法工学の授業にあったぞ? 概要はランプも習ってるはずなのにね。」

 

「うっ……」

 

『時間も限られてるし、さっさと話しちゃうぞ。』

 

 

 ローリエの声の正体は録音であった。

 エトワリアでも、論理はそれなりに流通している。しかし、マッチの知っている録音機は、ローリエのものであろうGの姿を模した魔道具に搭載できるような小さなものではない。

 アイツの技術はどれだけ先を行っているんだ、とマッチは内心考える。

 

 

『言う事は二つ。君達の気になる「女神封印」の真相と、先代女神ユニ様暗殺の真相だ』

 

「あ……()()だって!? どういうことだ!!」

 

「うそ………!?」

 

「え………!?」

 

 

 ローリエのトンデモない音声に、言葉を失うきらら一行。

 マッチとランプが知っている限り、先代女神ユニの崩御の原因は病気だったはずだ。詳しくは分かっていないが、原因不明の病で倒れたというのは共通認識になっている。

 きららは、ソラの封印の真相をあっさり教えてくれるような口ぶりと先代女神ユニの暗殺、そしてそれを聞いて取り乱す二人……と、状況が飲み込みきれずにいた。

 だが、予め録音されたローリエの音声は、そんな事など知るよしもない。

 

 

『女神封印については……今ここで言うよりも、神殿にある俺の部屋で確かめた方が信じられるだろう。だから詳しくは言えない。

 むしろ、二つ目の先代女神の死因が主な話題になるだろう』

 

「「「………………」」」

 

 

 女神ソラの封印の真相が知りたければ、神殿のローリエの部屋に来いと言う録音に、さまざまな思惑を巡らせる。それについては、また後程語ろう。

 録音されたローリエが主に取り上げるのは、先代女神ユニの死の真相だ。

 

 

『ユニ様は長年、原因不明の急病で亡くなられたと思われていた。

 しかし……つい最近、その事実がひっくり返る証拠を見つけた。

 これを聞いて欲しい』

『ある日、お昼寝中に呪いをかけられた感覚で―――』

 

「ユニ様!!?」

 

「この声が、ユニ様…?」

 

「あぁ。ソラ様が女神に就く前に女神だった人だ。しかし、どうして……」

 

 

 先代女神ユニの声――ローリエとアリサが協力し録音したものだ――がきらら達三人に明かされる。

 ランプもマッチもユニの声は何度か聞いたことがある。だからこそ、この音声が偽物だと断定できなかった。記憶の中のユニの声と、あまりにも似ているからだ。

 

 そのユニは、明確に語っていた。

 自分自身が死に絶える前の数分間の記憶。

 昼寝の時間を襲われ、反撃を炎でものともせず、一瞬で転移してしまった事。

 呪いをかけられて、わずか数分で息絶えた事実。

 下手人の特徴―――髪色、髪型、持っていたもの…………それら全てを。

 

 

『炎の防御…と言っていたが、反撃が直撃して『不燃の魂術』で治癒する姿だったのかもしれない。

 いずれにせよ、真実が知りたかったらこの神殿に来いという主張は変わらない。

 最後になるが……このメッセージの再生が終わったら、G型ごとデータを爆破させるから離れときな』

 

「えっっ!?!?!? いや、ちょっと―――」

 

『きらら、ランプ、マッチ………真実を知った先で、折れない事を祈っているぞ。』

 

 

 ローリエのそんな言葉を最後に、録音を再生していたG……否、G型魔道具がポンッ、という景気のいい音と共に五体を爆散させた。

 中に入っていたであろう機械的な何かも白い煙を上げており、もはや修復は不可能だ。

 

 三人の中で数分間の沈黙が流れる。

 が、最初に沈黙を破ったのはマッチだった。

 

 

「………罠の可能性は、ゼロじゃあないと思うよ。」

 

 

 何が罠か…とは、きららもランプも聞き返さなかった。

 きらら達の求める真実がローリエの部屋にあること、先代女神ユニの死の真相、そして彼女の音声データ、etc(エトセトラ)……

 仕掛けようと思えばいくらでも仕掛けられる情報ばかりだったからだ。

 

 

「……私は、信じたいと思います。確かにアルシーヴは…オーダーは許せないけど、ローリエさんはアルシーヴに従いつつ、なんとか私達に情報を渡そうとしてくれたって。」

 

「わたしも信じてみたいです。ユニ様のあの声が嘘や捏造には聞こえませんでした。どうやって録音したかはわかりませんけど……それに、ローリエ先生は、クリエメイトの皆様を守ってくれました。二度も」

 

「……………」

 

 

 しかし、きららとランプはローリエを信じる事にした。

 『イモルト・ドーロ』で出会った時も夏帆や美雨、秋月を守ってくれたし、苺香を取り戻すために共闘した。

 更に、言ノ葉の樹内ではクリエメイトやナットと共に行動し、裕美音やナットの姪・エイダの救出やドリアーテとの戦闘でも手を貸してくれた。

 フェンネルには裏切られてしまったが、ローリエには旅を始めてからは一度も裏切られていない。

 それに、彼は『全てを知りたかったら神殿まで来ることだ』と言っていた。

 

 

「ジンジャーさんも言っていました。『アルシーヴには従うけど、絶対正しいとまでは思ってない』って。

 きっとローリエさんも、そう思っているんじゃないでしょうか?」

 

「……油断だけはしないでよ。神殿はアルシーヴ達の本丸だ。どこに何が仕掛けられててもおかしくない」

 

「わかったよ、マッチ。」

 

 

 マッチの念を押す言葉に強く頷くきららとランプ。

 まだ、女神封印の真相は分からない。

 でも、先代女神暗殺にドリアーテが関わっている。

 少なくとも―――ドリアーテは敵になりそうだ、と思いながら。

 

 そして、女神ソラ封印の真実を追い、彼女を救うため。

 二人と一匹は、転移陣に乗り、移動を開始した。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ&ハッカ
 今回の神殿での戦いに参加することになった賢者二人。一人はアルシーヴに当て身された結果、もう一人はそもそも二次創作オリ主であるために原作では参加しなかったが、自由に動くことが可能な『遊撃隊』として動くことを命じられる。なお、アリサもローリエの助手として遊撃隊に入ることになった。
 その後、賢者全員を魔力回復薬で釣って魔力を分けてもらう事に成功した。

カルダモン
 中盤にて第一者視点になった迅速果断の八賢者。ローリエの「魔力回復薬あげるから魔力弾に分けて♡」というお願いにほんの少し疑問を抱いた。ちゃんとお願いは答えたけど、乱入してきたデトリアに対する言動を見て、ひょっとして何かあるのかな?と思っている。

デトリア
 自分の後継者と賢者達を心配するあまり、一般人に向けた避難命令を無視してまで神殿に駆け付けた前任の筆頭神官。しかし、ローリエの「貴女が心配するように自分たちも貴女が心配なんだ」という説得によって出口へ向かった。定年退職後も職場を気にするワーカホリックぶりである。これを頼もしいバックアップととるか余計なお世話ととるかは本人達次第。

きらら&ランプ&マッチ
 転移する直前に先代女神ユニのトンデモな死の真相と女神ソラ封印事情の気になる引き延ばしを盛大に食らった原作主人公パーティ。原作でアルシーヴ戦後に『真実』を知って少なからず打ちひしがれていた事をローリエは覚えており、一足早く真実を知った時に歩みを止めないように祈ってくれたが、もとよりアルシーヴを止め、ソラを救うまでは止まる気はない。
 今回の出来事がきっかけで彼女たちの心境は、原作よりも『アルシーヴとオーダーを許さない』という感情よりも(もちろんゼロではないが)『女神ソラをなんで封印したのか』『ドリアーテとはいつか戦うんだろうな』という気持ちの方が強い。



△▼△▼△▼
ローリエ「とうとう『オーダー』が始まり、うらら達が呼び出された。紺ちゃんには悪いが、俺の部屋まで来てもらおうか……と思ったが、俺の部屋に先客がいた。」

アリサ「まさか、私達の……ローリエさんの策が見抜かれて……ってアレ? あの人、寝てません?…ローリエさんのベッドで…。」

次回『5人のうらら』
臣「………zzZZZ」
アリサ「……次回もお楽しみに」
▲▽▲▽▲▽


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第80話:5人のうらら

中古で買ったドラクエ11が面白すぎて執筆する時間が奪われてる今日この頃。

“三人でローリエさんに蹴りを入れた時…何というか、安心したの。あぁ、この人たちも同じ女の子なんだって……他意はありませんよ?”
 …巽紺


「……! 始まったか……」

 

「廊下の形状が変わって……!! これって!!」

 

「オーダーの影響也。」

 

 

 デトリアさんが去り、八賢者もそれぞれ行動を開始し始め、俺・アリサ・ハッカちゃんの最終打ち合わせが終わってから数十分。

 いつも見慣れた神殿の廊下に変化が現れた。上下左右に道が枝分かれするように増え始めた。『うらら迷路帖』のクリエメイト達を『オーダー』することで生まれた影響だ。さしずめ、神殿内が迷路帖と化した、と言っても差し支えない。

 俺はすぐさま、近くにあった俺の部屋の窓を開け、下から綱を垂らした。神殿にオーダーの影響が現れ迷宮化しだした以上、普通の方法では出口まで辿り着くのに時間がかかりすぎる。今回みたいに内部が迷路になっていても、窓を開けた先が普通に神殿の外に繋がるのは確認済だ。

 

 

「よし…あとは、打ち合わせた通りに行くぞ!」

 

「了解。」

 

「………」

 

 

 …む、アリサから返事が聞こえない。

 思い当たる節はあるから、ちゃんと言っておこう。

 

 

「アリサ。気持ちは分からんでもないが、一人で突っ走る真似だけはすんなよ。

 お兄さんの敵討ちも、その後の色々も、命あってこそ初めてできるんだからな」

 

「分かりました。」

 

 

 即答か。本当に分かっているのか、それとも納得いかないのか知らんが、もし暴走したら大変だ。医務室のコリアンダーを引きずり出してでも彼女をカバーする羽目になるだろう。今それをやられるのはかなりマズい。

 

 話を戻そう。今回の作戦についてだ。

 今回俺達は、アルシーヴちゃんから『遊撃隊』と称して敵の監視と各部隊への応援を任されているが―――ぶっちゃけ、俺は『敵の監視』以外の仕事はしない。というのも、他にやるべき作戦を遂行するからである。

 

 まず作戦の第一段階として、俺の部屋にあらかじめ書き記しておいた『今回の女神呪殺未遂事件の記録』を目立つように出しておく。こうすることで、きららちゃん達が部屋に入ってきた時に目につきやすくなるというものだ。

 

 で、第二段階だが―――

 

 

「せぇぇぇーーーーーい!よいしょっと」

 

 俺が自室から垂らしたロープを頼りに神殿の外へ降りると、すぐさま神殿の門に向かって走り出した。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 必要あるのか?と思う人もいるだろう。あんな伝言残しておいて、まだ必要なのか?とも。だが…向こうは俺の部屋に寄る()()()()()()()()()。ソラちゃん封印の真相なんて、最悪アルシーヴちゃんを下した後で彼女に訊けばいいのだ。マッチあたりは俺の親切心からの伝言を「罠だ」と言うかもしれないだろう。ランプときららちゃんは根が良い子だから分からないが、スルーされる可能性もある。そうなったら最悪だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 故に、俺は―――(たつみ)(こん)、彼女を誘拐する。

 

 何で彼女かというと、たった一つのシンプルな理由だ。それは……「『オーダー』によって呼び出される場所が分かること」だ。

 今回呼び出されるクリエメイトは、「うらら迷路帖」の見習いうらら4人。千矢(ちや)ちゃん・紺ちゃん・雪見小梅(ゆきみこうめ)ちゃん・(なつめ)ノノちゃんだ。この内小梅ちゃんとノノちゃんは神殿内に召喚され、それぞれシュガー&ソルトとカルダモンに捕らえられる。

 個人的にはノノちゃんが良かったが、神殿内に召喚されるクリエメイトは具体的に何処に呼び出されるかが分からない。こちらが迷路と化した神殿内をしらみつぶしに探し回っている内にクリエメイトが他の八賢者に見つかり捕まってしまったら意味が無くなってしまう。

 その反面残りの二人は『神殿の入口・門の前』に召喚される事が分かっている。だから、狙いは召喚される場所の分かっている千矢ちゃんか紺ちゃんの二人に絞られる。

 そこからは消去法だ。「どちらが攫いやすいか」………これを考えた時、カルダモン相手に鬼ごっこができるフィジカルと身軽さを持つ千矢ちゃんは些か厳しい。その反面、「こっくりさんを呼び出す手間がある」紺ちゃんは素の体力等は千矢ちゃんより低い。よって、残った紺ちゃんをターゲットにした訳だ。

 

 悪いが―――というよりひっっっっじょーーに申し訳ないが、ドリアーテを滅ぼす為だ。ピーチ姫のごとく攫われて貰うぜぇ………!

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 エトワリアの中心、神殿にて始まった、最後の『オーダー』と呼び出されたクリエメイト争奪戦。

 神殿へ進むきらら一行とそれを迎え撃つセサミ。一度勝利した相手ではあるが、港町のコテージで戦った時とは状況が違う。相手は本気が出せる状態であり、しかも回復薬まで持っていた。

 

 だが、きらら達の神殿進行は、まったくもって予想できない形で出鼻を挫かれる事となった。

 

 ―――その時のことを、のちに召喚士・きららはこう語る。

 

 

「神殿に突入する時、アルシーヴが『オーダー』をするであろう事と行く手をローリエさんを除いた八賢者が立ち塞がるだろうことは予想していました。神殿の入り口に陣取っていたセサミさんを見つけた時も、彼女がお出迎えするためじゃなく、私と戦うつもりなんだってことは、半ば確信していました。」

 

『……通してもらえますか、セサミさん。』

 

『残念ながら、そうはいきません。貴方にはアルシーヴ様のためにここで倒れてもらいます。なんとしても、オーダーは完遂されなければならないのです。』

 

 

 きららは、パスを感じることができる能力をもって、いまだ『オーダー』がされていない事をこの時点で分かっており、かつセサミもこちらを倒す気で来ることもまた分かっていた。

 ソラを救う為に先へ進みたいきららとアルシーヴの命に従い、為すべきを為さんとするセサミ。譲れないもの同士が相対すれば、あとは激突するのみである。

 

 

「セサミさんとの戦いは…激闘でした。でも、コテージで戦ったセサミさんとこの時のセサミさんの実力が違うように…私もまた、あの時とは違うんです。」

 

 

 きらら達の神殿までの旅路もまた、順風満帆とは言えず、道行く先で強敵に苦しめられることもあった。

 砂漠では、クリエメイトの命を狙う盗賊サルモネラや最速の賢者カルダモンと戦った。

 渓谷の村々では、計略の達人ソルトと戦ったし、発明王ローリエとの戦いで初めて敗北を喫した。

 イモルト・ドーロでは、狂暴化した魔物や醜悪な大男たるビブリオとも戦い。

 言ノ葉の都市でセレウス&ジンジャーと。言ノ葉の樹内でフェンネルと。夢幻世界でハッカと。

 あれから強敵との戦闘経験をこれでもかと積んできたのは事実。セサミが本来の力を出せるように、きららもこの短期間で逞しく成長していたのだ。

 

 そんなきららとセサミの戦いが、港町のコテージでのそれよりも激しくなっているのは、必然であった。

 

 

「あの時は必死で、セサミさんの魔法をかわして、『コール』したクリエメイトの皆さんと協力してセサミさんに近づいて攻撃する事だけに集中してたから………気が付いたら勝負がついてた、って感じなんですけど。それでも……私はセサミさんに勝ちました。」

 

『なるほど……私はまた見誤っていたというわけですか………………………。』

 

『……クリエを使い過ぎたか。気絶しているだけだ。しばらく休めば目を覚ますだろ。』

 

『…先を急ぎましょう。早く、ソラ様をお救いするために。』

 

 

 きららが『コール』したクリエメイトのとっておきとセサミのハイドロバーストが交差し……立っていたのはきららだった。セサミはクリエの消耗によって気を失い倒れる。

 その時だった。きらら達の真上が光り輝き、そこから人が現れたのは。

 

 

「一瞬、変な感覚がしたと思ったら、二人の女の子が落ちてきてね。この時に思ったんだ。『オーダー』、されちゃったんだって………」

 

 長い銀の髪を後ろにまとめた少女と、キツネの耳をつけた黒髪の少女が、神殿の門前に落ちてくる。きららが『コール』していない以上、『オーダー』である事に違いないだろう。

 二人の少女は、ランプが「千矢様」「紺様」と呼んだことによってクリエメイトだと、きららも確信することができた。二人と一匹は一安心した。『オーダー』で召喚されたクリエメイトのうち、二人を保護することができたのだから。

 ―――しかし、きらら達が「出鼻を挫かれた出来事」は、ここから始まった。

 

 

「結構高いところから着地した千矢さんとセサミさんの上に落ちてきた紺さんにランプ達が、これからエトワリアについて説明しようと……近づいた時に、私は気づいたんです。―――足元に転がっている、棒みたいな何かに。」

 

 

 それは、何故転がっているのか分からない―――そういった形状をしていた。

 木の棒にしては表面が滑らかすぎるし、何らかの金属だったとしても落ちている意味がわからない。そもそも、自然にあるような形状にはとても見えない……と。きららだけがその棒状のそれに気付いた途端、異変は起こった。

 

『きゃああああっ!!? なにこれ、眩し―――』

 

『うわぁっ!?何ですかこれ!!?』

 

 

「―――はい。目を開けていられない程に、それが一斉に光りだしたんです。そして……その直後、紺さんの悲鳴が聞こえまして……」

 

 

『きゃあっ!!! 一体なに―――』

 

『紺!!?』

 

『何が起こってるんだ…!!?』

 

『分かりません………め、目がぁっ……!』

 

 

「…光が治まって、眩んだ目が回復して見えるようになった時………千矢さんの隣にいたはずの紺さんがいなくなっていました。そして、急にいなくなった紺さんは……縛られたまま、ローリエさんに抱き上げられていて、ロープで神殿内の窓へ回収されていく最中でした。」

 

 

 光――ローリエの閃光手榴弾によるものだ――が治まり、全員の視界が回復した後、最初に忽然といなくなった紺を見つけたのはマッチだった。

 

『みんな、あそこだ! 紺が攫われた!』

 

『紺!!』

 

『紺様!!!』

 

 紺は、先ほどのどさくさに紛れて全身を縛られ、ローリエにお姫様抱っこをされていた。

 そのまま数階上の窓へロープに引っ張られて回収されるローリエと紺を目の当たりにして、千矢がじっとしていられる訳がない。

 

『待って!紺から手を放し―――うわぁっ!?』

 

 

「千矢さんがローリエさんを追いかけようとした時、千矢さんの足元に斧が振り下ろされたんです。

 その斧の持ち主を見て……ぎょっとしましたよ。なにせ―――私よりも大きなロボットが2、3体も立ち塞がったんですから」

 

 

『紺ちゃんは俺の部屋に置いておく!返してほしくばそこまで来ることだ!

 …プロトバトラー、命令だ。俺が神殿内に入るまで、彼女たちを近づけさせるな』

 

『リョウカイ』

 

 ローリエが命令を下すと、機械仕掛けの兵隊は光る目をきらら達に向け、石の斧と木製の棍棒を振り下ろさんと重厚な足音を響かせた。

 無機質な兵士の進撃に、きららは戸惑いながらも千矢やランプの前に立ち、『コール』を使用。襲いくる機械兵に太刀打ちしたのである。

 

 

「この時、一つだけ壊す事に成功して、他の数機はとある事情で止まったんですけど……ここで一番驚いたのは、壊れた機械の中から操縦者が出てこなかったことです。普通なら、クロモンなり何なりが出てくると思うかもしれませんけど……」

 

 きらら達を足止めした機械兵たちは、文字通り機械仕掛けのみで動くカラクリだった。

 当然、エトワリアにおいては完全にオーバーテクノロジーである。操縦者なしでどう動かせるかという段階すら知らない者たちからすれば、未知との遭遇といっても過言ではない。

 それでいて、『コール』で呼び出したゆずこや唯、縁の情報処理部のメンバー相手に一定の立ち回りを見せていたから尚更である。

 

「正直……怖かったです。こんな強力な機械兵が神殿内で待ち受けていたら……そう思いました。それに、紺さんを攫ってまでローリエさんが何を見せようとしているのか…それも、気になって仕方がなかったです。」

 

 

 

 ―――紺を返してほしければローリエの部屋に来い―――

 

 きらら達と千矢は、ローリエのその声を聞き、立ち尽くすだけだった。

 正確に言えば、彼女たちを足止めしようとした機械兵がいたが、きららと『コール』したクリエメイトが一機撃破したところで残りの機体も沈黙したのだ。……『任務完了――スリープモードニ入リマス』という電子音とともに。

 それは、きららとクリエメイト達が紺をすぐに取り戻すことに失敗した瞬間だった。

 

『そんな…紺様!』

 

『逃げられた……! ローリエのやつ、何が何でも部屋に来て欲しいみたいだったな…!』

 

『うん…………私も、気になることができたし。それに…ソラ様が待ってる。』

 

『絶対に紺を取り戻すんだから!』

 

『そう、ですね…! ここまで来て諦められません!』

 

 それでもきらら達が折れなかったのは、偏に女神ソラを助けたいという感情があるからである。千矢が考えるよりも行動する性格だったのも幸いした。

 出鼻を折られたとはいえ、本拠地は目の前だ。ここで諦めるという選択肢は彼女たちにはなかった。

 

『ところで、ちょっといい?』

 

『千矢様?』

 

『私達の事を知ってるの? わたしといい紺のことといい……』

 

『………あぁ、まだ説明してなかったね。といっても、いきなりあんなマネされたらそれどころじゃあないわけだけど…』

 

 千矢にエトワリアとオーダーの事情を説明しながらも、彼女は歩みを進めていった。

 

『えーっとオーダーで女神様でひっとーしんかんさんで……?』

 

『『『……………』』』

 

 なお、千矢がエトワリアの説明を完全にのみこみ切れず、協力を取り付けるのにちょっとだけ時間がかかったのはご愛嬌である。

 

「この時は、まだ思いもしませんでした………ソラ様の封印にあんな事情があったなんて。だから、当時の私達は神殿内に入り、先へ進むことにしたんです。これが……後にあの戦いに繋がるわけですが。」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――第二段階、クリア。

 

 俺の部屋に帰還する事に成功した俺は、すぐに紺ちゃんを縛る縄を解く。

 案の定彼女は逃げようとするも、入り口はアリサとハッカちゃんが守っているため、通ることができない。他の出口は窓だが、そもそも俺の部屋が2階にあるから飛び降りることになるだろう。

 

 

「まずは……いきなりあんなマネしてすみませんでしたー!」

 

「!!!?」

 

 

 腰を90度曲げて謝罪。しかるのちに紺ちゃんにエトワリアの事について説明を行う事にした。聖典を引っ張り出して丁寧に、彼女を尊重することを忘れないように説明していく。

 

 

「―――というわけなんだ」

 

「……つまり、さっきの召喚士?の人をここに招く為に私を攫ったってこと?」

 

「あぁ。正直に本当の事を教えるからここに来てって言っても信じるか怪しいからな」

 

「…私が貴方を信じるとも限らないのに?」

 

「でも、君がここにいる限り召喚士―――きららちゃんはここに来る」

 

 

 拉致という手段を取った以上、紺ちゃんから警戒される事も覚悟の上で、きららちゃん達に確実に来てもらうためにここに来てもらった事も説明した。紺ちゃんの表情からは不安そうな様子や雰囲気は消えたが、疑惑は払拭できない。仕方ないことだが、彼女の出口はこの部屋にはない。

 

 

「……その、きららさん達?をここにおびき寄せる目的は?」

 

「意外と頭が回るね。実はここには読んで欲しいものが―――」

 

「ろ、ローリエ! 寝床に誰かいる!」

 

「「!!!?」」

 

 

 話の核心に迫った時、ハッカちゃんの声が聞こえた。

 すぐさま俺のベッドに近づき、他の女子三人には距離を取るようにハンドサインを出す。

 ……このタイミングで俺のベッドに誰かいるだって? 実にアヤシイ。どうして俺のベッドにいるのか知らんが、俺の策に気づいたヤツが誰かいるのなら、手を打たなければいけなくなる。

 

 俺はいつでも攻撃できるように用意しながらも、紺ちゃんを攫う時にはなかった掛け布団の膨らみに手をかける。

 そして―――そいつを引っぺがすッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すー…すー………zzzZZZ」

 

「「「「……………。」」」」

 

 

 そこにいたのは、気持ちよさそうに眠っている女の子だった。

 紺ちゃんと同年代と思われるが、比較的小柄な体型で、紫がかった髪を両サイドでおだんごにまとめている。

 

 

「…………(おみ)?」

 

 信じられないといった声色が紺ちゃんから漏れた。俺も信じられないと叫びたかったが、良い寝顔の彼女の為に必死でその言葉を飲み込んだ。

 ……バカな。ここにきて、クリエメイトの追加召喚だと!!? いや、『スティーレ』の面子みたいなイレギュラーがあったが、『きんいろモザイク』の時も『ステラのまほう』の時も、『ゆゆ式』の時も原作通りのメンバーだったから、この土壇場で追加召喚はたまげた。

 

 で、この眠れる美少女だが、ちゃんと聖典のクリエメイトだ。

 

 二条(にじょう)(おみ)

 聖典(漫画)『うらら迷路帖』に登場し、九番占昇級試験を最速で突破した貴族の才女であり、「夢占い」という最高難易度の占いをマスターした少女だ。中身はどこかの警察官ばりに富と名声と権力を欲しており、YOKUBOUに忠実なお方なのだが……俺の知る『きららファンタジア』には、彼女は『オーダー』で召喚されていなかったはずだ。

 

 

「んぅ………」

 

 

 紺ちゃんの声で、臣ちゃんが目を覚まし、のそのそと動き出す。そして。

 

「……ここどこ?」

 

「………紺ちゃん、手伝ってくれ。臣ちゃんに説明する」

 

「え、えーっと……はい…」

 

 俺は紺ちゃんにした説明をもう一回する必要があると判断した。

 まさかの事態に内心冷汗をかくが、その動揺が表に出ない程度には説明が出来たと思う。特に自己紹介の時に「八賢者ってのは、まぁなかなかに偉い人だ」とか「技術開発を担当してるから、特許関係で儲かっててね」とか言ったのが功を奏した。奏しすぎて話し終わる頃には臣ちゃんの瞳から眠気は綺麗に消し飛んでてキラキラに光っていた。富だけに。

 

 

「…………貴方、占い師に困ってないかしら?」

 

「臣!!?」

 

 

 ただ、エトワリアの金貨を増えるコインマジックの要領でポンポン見せたのは彼女には劇薬過ぎたかもしれない。俺の自己紹介が終わった後の第一声で俺に雇われようとしているのだから相当だ。でも俺に懐きすぎて、元の世界に帰る時「神殿の方がお給料いいから帰らない」とか駄々捏ねられても困るぞ。

 

 

「臣ちゃん…モノは相談なんだが…」

 

「何でしょうか」

 

「近い近い! …夢占いは、精度を上げるために裸で同衾すると聞いたことがある」

 

「確かにその方が詳しく結果が見れるわよ。それで?」

 

「まず最初に、俺をその同衾タイプの夢占いで占ってホメ゛ロス!!!?

 

 

 仕方ないので急遽最初の仕事を振ろうと思ったら、視界が揺れて俺の身体が棚に叩きつけられた。胸の苦しみ(物理)を咳で我慢し、痛みの元を探るべく顔を上げると、アリサとハッカちゃんと紺ちゃんがこう、ゴミムシを見るような表情で何かを蹴った後のように片足を上げていた。

 三人による連携同時キックかよ………

 

 

「ただセクハラしたいだけじゃないですか!」

「占いに乗じて乙女を脱がす所業、まさに鬼畜」

「は、はれんちです、ローリエさん!」

 

「ち、違う!! 俺はただ単に仕事を―――」

 

「言い訳無用」

 

 

 夢のようなまっとうな仕事の依頼を言い訳にされた。チクショウ。

 その後、ハッカちゃんの「今は作戦を遂行するべく、一刻を争う時。占う猶予はなし」という至極まっとうな正論によって、俺と臣ちゃんの夢占い(意味深)はお流れになってしまった。ドチクショウ。

 

 そんな訳で凹んでしまった俺は、泣く泣く臣ちゃんに夢占い以外で最初の仕事を改めて与える羽目になった。

 

 

「……この部屋にいるだけでいいの?楽すぎて裏を疑っちゃうわ」

 

「コレ前金ね」

 

「やります」

 

「臣はもうちょっと疑いなさい!!?」

 

 

 それは、ただシンプルに『この部屋できららちゃん達待っててよ☆』というものだ。前金に金貨を与えれば即断してくれた臣ちゃんについては、いつか金に釣られてロクでもない目に遭わない様に祈るばかりである。

 そして俺は、早速舟を漕ぎだした臣ちゃんを紺ちゃんに、部屋の入口をアリサに任せて、ハッカちゃんと一緒に作戦を次の段階に進めるべく部屋を後にした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――寝落ちする。

 

 ―――夢を見る。

 

 不思議な光景が見えてきた。

 

 そこには一貫して同じ男の人が出てきた。明るい緑の髪の、両目の色がそれぞれ違う人。さっき私を破格の金貨で雇ってくれた、ローリエさんだ。

 

 彼がたくさんの女の子と談笑している光景もある。色んな女の子を口説いている。青い髪の水着の人、桃色の髪の凛々しい人、白黒の長髪に髑髏を乗っけてる人………口説かれている方は、みんながみんなまんざらでもなさそうだ。

 

 場面が切り替わる。彼が何らかの絡繰りを作っている光景だ。それは、金属質のボディをしていて、物々しい雰囲気を漂わせている。そんな自分の背並みにある機械を、なにか呟きながらいじっていて………この口の動きは…「こんなの作っていいのか」かな…?

 

 そして、また場面が切り替わる。

 それは……赤髪の少女を庇い、血を流したローリエさんの―――

 

 

「―――ッ!!!?」

「臣、大丈夫…!?」

「……ん、大丈夫よ。また寝落ちしちゃっただけ」

「そうだけど…飛び起きる臣は初めて見たわ」

「そう…なの?」

「えぇ…」

 

 

 飛び上がりたくもなる。あんな場面を見せられたら、誰だって動揺するだろう。

 私はらしくもなく、いま部屋を出ていった気前の良い雇い主の身を案じた。

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 紺を拉致した後だというのに、偶然呼び出された臣にセクハラをかましたブレない拙作主人公。臣の富・名声・権力のスタンスは知っていたのでそこをアピールしたが、我ながらやりすぎたと思っている。

きらら&ランプ&マッチ
 神殿前でセサミを撃破した直後、ローリエと機械兵の急襲に見舞われた原作主人公一行。きららには『バキ』的な語り部を担当してもらった。紺がおらず、クリエメイトが千矢のみのスタートになったが、クリエメイトの捜索に支障はなく、きららやランプは特に紺を取り戻さねばという使命感にいっそう燃えることとなった。

巽紺
 わけもわからぬままローリエに縛られ、お姫様抱っこで攫われた見習いうらら。CV本○楓。ローリエの部屋に軟禁され、窓からも出入り口からも脱出が難しく、こっくりさんを憑依させて打開しようかしらと思った矢先に臣と出会い、緊張がほぐれる。ローリエに雇われた(笑)臣に付き添う形で部屋に残ったが、これで良いのかとも思っている。

千矢
 神殿の門前に召喚されたクリエメイトのうち、攫われなかった方の子。山育ちということもあって、原作でカルダモンと鬼ごっこができるくらいにフィジカルに富んでいるのが幸いした。また、紺が攫われてもすぐに取り返そうとし、失敗した程度でへこたれない強メンタルもまた、きらら達に影響している。CV原田○楓。

二条臣
 原作きらファンどころかうらら迷路帖一期でさえ影も形も登場していなかった5人目のメインキャラクター。「夢占い」を得意とし、どこかの葛飾区亀有公園前の警察官のように「富・名声・権力」が大好きという少女。割と欲望に忠実で手段を選ばない様子。拙作ではその性格を逆手にローリエに魅了(金銭的な意味で)されたり同衾(意味深)を求められたりした。きらファンのみを見ていると、貞操観念は人並みにはあるが、同性相手ではガードが甘くなる印象。また、今回の最後にさらっと重要そうな夢を出したのも、今章での夢占いの出番はほぼないだろうと思った故の、筆者による精一杯のアピールである。




プロトバトラー
 ローリエが開発した、自律思考する機械の兵隊…の、試作機。攻撃面は装備している兵装が石斧と棍棒とお粗末だったためにイマイチだが、金属ボディの防御はかなりの頑丈さを誇る。イメージは『ドラゴンクエスト』シリーズの『プロトキラー』。というか、まんまソレ。



△▼△▼△▼
きらら「『紺さんを返してほしくば部屋に来い』……そう言われた私達は、小梅さんやノノさんを助けながら、ついにローリエさんの部屋に辿り着きました。部屋の前に現れたアリサさんは待っていましたと言い………部屋には臣さんと紺さん……そして、鍵のかかった日誌がありました。ろ、ローリエさんが言っていた真相って、まさかここに……!?」

次回『臣と真実と鍵のかかった本』
きらら「次回もお楽しみに!」
▲▽▲▽▲▽


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第81話:臣と真実と鍵のかかった本

“真実を知った時、わたしは心が折れていたのかもしれません。でも……(※以下、文字が滲んでいるため読むことができない)”
 …ランプの日記帳(後の聖典・きららファンタジア)より抜粋


2021/4/19:本文の一部を補足しました。


「こ、これは……!?」

「うわ…予想はしてたけど、これは中々だな」

「神殿の中って、こうじゃないの?」

「おそらく『オーダー』の影響だ。僕たちが出ていった時はここまでぐちゃぐちゃな迷路じゃなかった」

「も、申し訳ありません…神殿なら、案内できると思ったのに…」

「いや、流石にこればっかりは仕方ないだろう」

 

 神殿の中は、上下左右に入り組んでいました。

 わたしが出ていく前とは全然違う。これでは、わたしもマッチも神殿の中を案内することができません。

 これでは千矢様に合わせる顔がありません。セサミを倒した直後に紺様を攫われるという痛恨のミスを犯してしまった分、神殿の案内で挽回しようと思ったのに………!!

 

 

「こうなったら……みんなの匂いを辿るしかないね!」

 

「えっ!!? で、できるんですかそんな事!」

 

「えーっとね……こっちだよ!ついてきて!」

 

「さすが千矢様です!!」

 

 

 しかし、こちらにはきららさんがいますし、山育ちの千矢様はどうやら他のうららの皆様を嗅ぎ分けることができるんです!!クリエメイトが見つからないで迷子になるってことはまずないですね!!

 

 

「くんくん………こっちだね!」

 

「す、すごいです!だんだんとパスが近づいてきています!!」

 

 

 千矢様の鼻ときららさんのパス探知によって、クリエメイトの皆さんに近づいていきます。

 ソラ様の封印もありますが、クリエメイトの皆様が優先です。そうしなければ、きっとわたしはソラ様に怒られてしまいますから。

 

 

 

 

 千矢様の嗅覚を頼りに、きららさんがパスを読んだ辿り着いた先で―――八賢者ときららさんの戦いが、再び幕を開けました。

 

 小梅様を捕らえていたのはシュガーとソルトで、二人は息の合ったコンビネーションできららさんを攻め立ててきました。

 シュガーからソルトの攻撃が来たり、ソルトからそのままソルトの攻撃が来る……みたいな攪乱の戦法は、わたしなんかじゃ到底読み切れませんでした。こちらは戦える人がきららさん一人しかいないから、きららさんの集中する隙を作ることができれば、という時に千矢様が囮になると言ったのです。わたしは正直気が引けましたが、その結果きららさんは見た目に惑わされずに戦えるようになり―――そして、小梅様を取り戻すことに成功しました。

 

 ノノ様を捕らえていたカルダモンは、小梅様の振り子・ユレールによる振り子占いで見つけた、のですが…

 

「―――きらら、あたしはね。君と本気で戦いたいんだ。」

 

「……それなら、千矢さん達を巻き込む必要はないはずです!」

 

「いや、あるよ。そうした方が君は確実に本気で戦ってくれるだろう?」

 

「―――ッ!!?」

 

「……君がここまで来たのは、誰かを守るためだ。生まれ育った村、出会ったクリエメイト、そしてそこにいるランプ………誰かを、何かを救うためにここにいる。君は救うため・守るためにこそ、本気を出すことが出来る。

 さぁ、きらら。本気で戦おう。……クリエメイトを守るんだろう?」

 

 カルダモンは、これまでにない身のこなしでクリエメイトの皆様全員を捕らえ、きららさんを挑発したのです。

 ……そこから始まったのは目には見えない高速のやりとりでした。手元どころか、姿そのものもブレて見え、第三者からは何が起こっているのか分からない始末。そこで出来たことは、マッチと一緒にきららさんの勝ちを祈ることだけでした。

 

 …やがて、スピードが落ちてきて、お互いの姿を確認できるくらいに失速すると、不意にカルダモンが膝を付き、仰向けにひっくり返りました。

 

 

「きらら…確かに君の力、見せてもらったよ。

 あたしを上回るとはね……すごく、面白かった。」

 

「「「……………。」」」

 

 

 どうやら、きららさんが勝ったみたい。それは良かったんだけど、戦いの様子が速すぎて全く見えなかったわたし達からすると、何がなんだかなんだけどね……

 

 

「……どうして、カルダモンさんはここまでして私と本気で戦おうとしたんですか?」

 

「……あたしにとって、正義とは面白さだ。

 八賢者になったのも、その方が面白いものが見られると思ったからだ。

 アルシーヴ様もきららも、クリエメイトもローリエも、面白かった。」

 

「ローリエ先生も、ですか?」

 

「気になるかい?」

 

「えっと……それは…」

 

「あたしも気になったんだ。ローリエについてはね」

 

「!」

 

 

 カルダモンとの会話の中に、ローリエ先生が出てきたことに私はビックリする。カルダモンが面白いもの好きなのは知ってたけれど………

 

 

「ローリエね、何かを隠してるみたいなんだ。

 きらら達を敵対視してないし、何より作り出す発明品が面白い。いつ見ても飽きないんだ。アルシーヴに従ったのも……まぁ、面白いから。

 そんな中きららの事を知ってね。砂漠で戦ってからというもの、どっちが面白いのかなってずっと思ってた。それで、本気で戦おうと思った」

 

 

 カルダモンが本気での戦いを望んだ理由についてを聞きながらわたしが考えてた事は、やはりローリエ先生のことでした。

 カルダモンがそこまで興味を引かれるローリエ先生が、神殿の入口までやってきて、不意打ちで紺様を攫った理由が、どうしても良くわからないままなんです。

 

 

「……でも、ローリエさんは紺様を誘拐しました。

 許されることではないと思います。」

 

「え、そうなの? おかしいな………てっきり、ローリエはきらら達の事を敵として見ていないと思ったんだけど」

 

「それは……相手にするまでもないってことですか?」

 

「分かんない。今回の敵は誰って質問に、ドリアーテだとしか言ってなかったからな……そういう意味はないのかもしれない。詳しくは本人に訊きなよ。

 あたしはここで休むとするよ。しばらくぶりに面白い戦いができたしね………………」

 

 

 カルダモンはそこまで言うと、目を閉じて寝息をたてはじめました。これで、クリエメイトを捕らえることもわたし達の邪魔をする事はもうできなくなりました。

 

 

「まったく……勝手に満足してくれちゃって。」

 

「きららさん。千矢様達を迎えに行きましょう」

 

 

 マッチがカルダモンの勝手さにため息をつく。わたしは、きららさんにそう言うと、カルダモンに捕らえられた皆様を迎えに駆け出しました。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「これで、あとは二人か。」

 

「うん……それも、二人同じ場所にいるみたい。」

 

「紺様はローリエ先生に捕まっています。そして、返してほしければ部屋まで来い、とも言っていました。

 だからきっと……二人揃って部屋にいるのかもしれません。」

 

「コッチヨ」

 

「ありがと、マツコさん」

 

 

 助け出したノノ様によるマツコ様の占いときららさんのパス探知を頼りに、ローリエ先生の部屋まで近づいてきています。

 あと少し……あと少しで、皆様が合流できます!

 

 

「…! 見て、あそこ…!」

 

「? 人がいるわね……」

 

「アリサさんです。八賢者ローリエさんの助手、ということなんですが………!」

 

 

 茶色のおさげに黒いローブ、そして金色の装飾品……何より、ジンジャーの街で綾様と陽子様といた顔ぶれ。間違いない。あれが、アリサさんですね。

 セレウスとの戦いでは、風や高火力な炎できららさんやクリエメイトをサポートしましたが……いざ戦うとなると、厄介になるでしょうね―――

 

 

「……きららさん。お待ちしておりました」

 

「えっ……?」

 

 

 そう思ったのもつかの間、アリサさんからまさかの歓迎の言葉をかけられました。今までの八賢者とは戦ってばかりでしたし、カルダモンに至っては本気のぶつかり合いだったから、この対応は予想していませんでした。

 

 

「クリエメイトが待っています。部屋にお入りください」

 

「あれっ、扉が開いて―――千矢!小梅!ノノ!」

「あーーっ、紺だ!臣もいる!」

「良かったわ……!」

 

「……どうして、通してくれたんですか?」

 

「このお部屋に、見せたいものがあるそうです」

 

 

 クリエメイトを部屋の中で再会させてくれたアリサさんによると、どうやら……ローリエ先生がわたし達に見せたいものがあるそうでして。確実にここに来てもらう為に紺様を攫ったのだそうです。

 

 

「見せたいもの?」

 

「臣さんが今持っているものです」

 

 

 よくよく見てみると……確かに、臣様が本を持っていました。アレに一体何が書かれているのでしょうか?

 と、とりあえず今は……

 

 

「臣様!!紺様!!」

 

「はいっ!?」

「うわっ!? な、何かな?」

 

「はうぁぁぁ〜〜〜〜〜〜、本物です……!

 占ってください!お代ならいくらでも出すので!!!」

 

「……………………えと、まず貴方の事を聞かせてくれる?」

 

「臣、どうして今の答えに間があったの?」

 

 臣様のお金にどん欲なところも素敵です!!

 

 

 

 

 

 わたしのアピールがマッチに流される事もありましたが、その後自己紹介等も終わり、本題だという臣様が持ってた本についての話になります。

 

 

「それで……この本が、見せたいものだってことでしたが……」

 

「はい。ローリエさんからは、その本の中身を皆さんに見せろと言われております」

 

「……鍵かかってるんだけど」

 

 

 臣様が持っていた、アリサさん曰く「わたし達に見せたい本」は、頑丈なカギがかかっているようで、このままでは開いて中を見ることができません。鍵穴らしき場所も見た限りありませんし……

 

 

「…あ、ここに何かの文字盤があるよ!」

 

 

 きららさんが声をあげる。

 皆できららさんが見つけたものを見てみると、確かに…五十音の文字盤のようなものが本の重厚なカギについていました。

 

 

「これは……打鍵印字機(タイプライター)だわ。迷路帖の洋物店で見たことがあるもの」

 

「でも、なんで鍵にこんなものがついてるの?」

 

「ま、まさか……」

 

「どうしたの、マッチ?」

 

「…ひょっとしてアリサ。君は、この鍵は『合言葉』を入力しないと開かないとか……

 そういうタイプの鍵だ………なんて言うんじゃあないだろうな?」

 

「はい。その通りです」

 

「「「「「「「「!!!!?」」」」」」」」

 

 

 小梅様とマッチによって、五十音の文字盤の意味が分かると同時に、わたし達は………軽く絶望しました。

 つ、つまり……聖典でいうところの『パスワード』のシステムですよね!? 決まった言葉を入力しない限り、鍵が開かないという、あの!!?

 

 

「ぱ、パスワードですって!?そんなの…無茶苦茶です!!

 わたし達はこの鍵のパスワードなんて知りませんよ! 開けられるはずがありません!!」

 

「た、確かに…『合言葉(パスワード)』が分からないと手の打ちようがないよね…」

 

 

 ローリエ先生はいったい、何を考えているんでしょう!?

 わたしは転移陣の前に魔道具で伝言したり、紺様を攫ってまで教えたいことがあるというから、皆でここまで来たって言うのに……

 そこまで来て、ようやくの手がかりが「鍵がかかっていて読めません」なんて…そんなのあんまりです!

 

 

「ローリエさん曰く…忘れた時の為のヒントが裏に書かれてるみたいです」

 

「あの……アリサ、さん? 貴方が教えるんじゃあダメなのかしら?」

 

「ごめんなさい……私はヒントをもってしてもパスワードが分かりませんでした」

 

「……?? どういうこと?」

 

「見れば分かると思います」

 

 

 紺様の質問に対するアリサさんの答えの意味を分かりかねないまま、きららさんが鍵のかかった本をひっくり返します。すると…そこには、こんな文が書かれていました。

 

『ヒント:初代総理大臣』

 

 単純明快にソレがヒントだと書かれている文を読んで。

 それを、何度も読み返す。 ―――その、()()()()()()()を。

 

 

「……あの、そうりだいじんって何ですか?」

 

 

 わたしが聞こうと思っていた事を、きららさんが口にしました。

 アリサさんは、その言葉に目を見開きます。

 

 

「……知らないんですか?」

 

「はい…初めて見ました。」

 

「聖典でも見たことのない単語ですね…」

 

「『大臣』ってあるくらいだから、何らかの役職で、『初代』だからそれに最初についた人間なんだろうけど…」

 

「つ、つまり……コレを開ける『合言葉(パスワード)』は…人の名前ってこと?」

 

 

 臣様の言葉に、わたし達は困り果ててしまいました。

 だって……真実が書かれているものには鍵がかかっていて、しかもそれを開けるのに人の名前のパスワードが必要だなんて………

 暗証番号だったら、時間はかかるけど何種類か入力していけば、いずれは開けることができるかもしれません。でも、パスワードではその方法は使えません。ヒントでパスワードが『人の名前』だという事は分かりましたが、それでも殆ど何も絞れていませんよ……

 

 

「ねぇ、アリサさん。この本のパスワードや中身について、ローリエさんから他に何か聞いていないんですか?」

 

「そうですね………まず中身ですが、今までの日誌だと聞いています」

 

「日誌? …え、なんか、もっと重大なものだとばっかし思ってましたけど……」

 

「それと、パスワードについてですが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と聞いています」

 

「……私、ですか?」

 

「でも、『初代総理大臣』に心当たりはないんですよね?」

 

「はい……」

 

 

 …ローリエ先生ときららさんにしか分からないパスワード?

 ローリエ先生はパスワードを設定した人だからともかく、きららさんなら分かるってどういう意味なんでしょう?

 きららさん本人は、『初代総理大臣』について心当たりはないと言っていますが……

 

 

「……ひょっとして、クリエメイト関連の言葉なんでしょうか?」

 

「え、でも……私達は知らないよ?」

 

「千矢達に限った話じゃあないんだ。きららは、クリエメイトを召喚する事もできる。

 シュガーとソルトと戦った時にも見ただろう?」

 

「……あ! あの子たちの!!」

 

「きらら、『コール』で誰か呼び出してみてくれ!!もしかしたらパスワードが分かるかもしれない!!」

 

「はい!」

 

 

 きららさんが杖を振り、『コール』を使う。

 すると、天井が光りだし、そこから一人のクリエメイトが降りてきました。

 言ノ葉の都市で出会った、綾様です!!

 

 

「きらら、どうしたの? 急に呼び出すなんて」

 

「すみません、綾さん、少し聞きたいことができまして……」

 

 

 呼びかけに応じて現れた綾様にきららさんが事のなりゆきを話します。とはいえ、『本のパスワードを解いて欲しい』なんて、ちょっと難しい気もしますが…

 そして、綾様に件の鍵のかかった本とパスワードを見せれば、少し不安そうだった綾様の表情が晴れました。

 

 

「あぁ、なるほどね。これなら行けるわ」

 

 

 明るい声の綾様が、すぐに文字盤を打ち始めました。全員で綾様のしなやかな指先を目で追っていきます。

 ふぉぉぉぉ………なんだか、声が出そうです……!

 

「……………あの、ランプ?」

 

「…あ、はい!なんでしょう?」

 

「そんなにマジマジと見ないで!」

 

「ご、ごめんなさい!!!」

 

 そんなやりとりもしながら、綾様が打ち出した合言葉は…………

 い…とう…ひ…ろ…ふ…゛…み……

 いとう、ひろぶみ?

 

 

「綾様、いとうひろぶみ、とは……?」

 

「伊藤博文ね。日本で、初めて総理大臣になった人の名前よ。ヒントが正しいなら、これで開くはず……」

 

 

 綾様がエンターキーを押す。すると、どうでしょう!

 『パスワードヲ確認シマシタ』という文字が浮かび上がり、ガチャっという音と共に、これまでしっかり本を開かせまいとしていた重厚な鍵が、見事に開いたではありませんか!!

 

 

「すごいです! さすが綾様……!」

 

「そ、そんな事ないわよ! こんなの、歴史の授業で習ったものだし…」

 

「その知識がとても助かりました。ありがとうございます」

 

「そ…そう、かしら? まぁ…また何かあったら呼んでね?」

 

「本当にありがとうございました!!」

 

 

 わたし達の心からの感謝に頬を赤くしてそう呟くと、綾様は光の粒子に包まれて帰っていきました。

 これで、ようやくローリエ先生の本の中身を確認することができます!

 紺様を誘拐してまでここに誘導してきて、何を見せたがっていたのか。それがようやく分かります!

 

 

「やれやれ。どうなるかと思ったけど、本が読めるようで良かった。

 綾が鍵を開けられなかったら、ここに来た意味が半分無くなってしまうからね」

 

「それで……なんて書いてあるんですか、きららさん!」

 

 

 本を開いたきららさんに声をかけますが……返事がありません。

 集中して読んでいるんだな………最初はそう思いました。

 でも…なんだか、様子がおかしいことに気づきました。

 ローリエさんの本を読んでいたきららさんの顔色が―――だんだんと、悪くなっていったんです。

 

 

「……きらら、さん?」

 

「ら、ランプ……マッチ……これ……!!!」

 

「一体何が書いてあったというんだい?」

 

 

 きららさんの手から力なく渡された本を受け取ってマッチと一緒に読んでいきます。どれどれ…

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 〇月×日

 ソラちゃんが呪われた。下手人は全身をローブに包んだ男だ。

 俺とハッカちゃんで追いかけるも、逃げられてしまった。

 アルシーヴちゃんが封印してくれたお陰で即死はしていないが、

 エトワリア創史以来の未曽有の危機だ。

 

 〇月△日

 アルシーヴちゃんは、ソラちゃんを救うためにクリエを集め始めた。

 ソラちゃんの呪いの解呪には、大量のクリエが必要だからだ。

 フェンネルやカルダモンの出張が多くなり、俺にも仕事が回ってきた。

 それは『犯人捜査』。大切な幼馴染を呪った奴だ、必ず見つけてやる。

 

~~~~

 ★月〇日

 犯人捜査の任務に失敗した。容疑者のソウマ氏が口封じされた。

 オレンジの長髪が目立つ、俺の銃すら物ともしない不死鳥のような女に。

 ソウマ氏の妹であるアリサという少女は保護に成功したが……

 ここから先どうしたものか。

 

 ★月●日

 オーダーによって『イモルト・ドーロ』が現れた。

 俺はすぐそこに突入し、つい今しがた夏帆ちゃんを保護した。

 だがクロモンがクリエメイトを殺しに来てたぞ?

 神殿では絶対出さない指示だ。マジでどうなってんだ?

 

~~~~

 □月▽日

 ビブリオを操っていた奴はドリアーテという名の女のようだ。

 亡きソウマ氏を脅していたのもコイツだという裏付けもアリ。

 これで、俺が事を構える相手を見つけることはできた。

 あとは、どうやってこの女を表舞台に出すか、だ。

 

~~~~

 □月☆日

 ドリアーテについて分かったことを書いていく。

 ・かつては神殿に所属していた(神官か女神候補生か?)

 ・神殿より先の詳細な記録がない(行方不明扱い?)

  →『不燃の魂術』行使で追放?

 ・追放後、身を潜めながら仲間・駒集めか

  →サルモネラ、ビブリオ、セレウス、暗殺者の少年など

 ・エイダを人質に、神殿側ときらら達排除をナットに依頼

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「………………………うそ」

 

 

 言葉が、それしか出ませんでした。

 他にも真実が、ページをめくるたびに次々と出てくる。

 

 ―――わたし達がハッカの世界に囚われている間に、先生はドリアーテの刺客と戦っていたこと。

 

 ―――先生がナットさんを送り届けた後に、ユニ様の幽霊にお会いしたこと。

 

 ―――セレウスを無力化して、都市から霧を晴らしたこと。

 

 ―――先生がソラ様を呪った呪術師を探していたこと。

 

 ―――そもそも、ソラ様は呪いをかけられ、封印しなければ命がなかったこと。

 

 

 今まで信じていたものが崩れ去っていく。アルシーヴは…アルシーヴ先生はつまり……

 ―――ソラ様を、助けるために『オーダー』を使っていた……?

 

 

「…………これ、本当なのかい?」

 

「……はい。すべて、私の兄が……いえ。

 私が人質になるくらいに弱かったからです」

 

「それは違います!! アリサさんは悪くありません!!!」

 

 

 マッチと、きららさんと、アリサさんの声が遠い、です。

 内容は……耳に入ってきません。

 

 

「ソラ様を呪うように言ったのはドリアーテです!

 ソウマさんとアリサさんは利用されただけじゃあないですか!」

 

 

 わたしがいままでしんじてきたものはなんだったの?

 だってわたしは、ソラ様が、のろわれるのをみて―――

 ―――それで、アルシーヴがまちがっているっておもって、とび出して。

 きららさんと出会って、いろんなクリエメイトと出会って、ここまできて……

 ………それがぜんぶ、ムダだったってこと……?

 

 

「そう思うよね、ランプ?」

 

「………」

 

「……ランプ?」

 

「――――――ぁ?」

 

 

 いきなり話を振られてきて、驚いたわたしがもう一回言うようにきららさんに言おうとした時。

 身の異変に気が付きました。

 

 

「―――っ! ―――ぇっ!! ―――ぁっ!!!」

 

 

 …嘘!? どうして…!?

 ―――声が、出ない……!!!

 

「だ、大丈夫!? どうしたの、ランプっ!!!」

 

「しっかりするんだ、ランプ!!!」

 

 喉をおさえ、丸くなってしゃがみ込むわたしに、マッチが駆け寄りきららさんは背中を撫でる。

 でも、心にぽっかり穴が開いたような気分はぜんぜんおさまらなくって。

 

 周りがだんだん真っ暗になっていく。

 とても悲しくって……なみだがとまらなくって……

 あるはずのない視線が、突き刺さるのを感じる。

 ……やがて、聞こえないはずの非難の声が………聞こえるようになる。

 

 

『ほ~ら、やっぱりランプはダメダメのへっぽこじゃん!』

『アルシーヴ様に従っていれば良かったものを。』

『この程度なんだ。なんだか、思ったよりもつまんないね』

『やはりランプごときではどだい無理な話だったのです』

『おいおい…私をどこまでガッカリさせる気だ?』

『やはり、正しいのはアルシーヴ様なのです!』

『聖典を読むしか能のないランプにはお似合いの末路。』

『英雄ごっこは仕舞いだ、ランプ。』

 

「(ち…ちがう! おしまいなんかじゃない! 諦めたくない!)」

 

 心がそう叫んでいるはずなのに、身体がまったく言うことを聞いてくれない。

 みんなみんな……わたしをみつめてくる。『オマエハムリョクダ』っていって、私の中のあったかい何かを奪おうとしてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その時でした。

 

 

「ランプちゃん!!!」

 

「―――ッ!!?」

 

「―――ちょっとここで、占っていかない?」

 

 

 臣様が、千矢様が、紺様が、小梅様が、ノノ様が。

 何かを決めたような瞳でこちらにそう呼びかけてきたのは。




キャラクター紹介&解説

きらら&マッチ
 八賢者を数々退けてきた召喚士の原作主人公とマスコット。ローリエの衝撃的な事実に比較的耐えることができた。きらら達はここでアリサの正体を知る。彼女たちからすれば、アリサは『エイダと同じように、巻き込まれただけの人』と認識している。実際、エイダ&ナットとアリサ&ソウマがドリアーテからされた仕打ちは、結末こそ違えどよく似ている。

ランプ
 ローリエの真実を目の当たりにして、折れかかっている女神候補生。あまりのストレスと喪失感から、一時的に声を失うショック症状を患ってしまった。

千矢&巽紺&雪見小梅&棗ノノ&二条臣
 きららに救出されたクリエメイト達。ローリエの本に書かれた真実には当然ビックリしたが、ランプの並々ならぬ異常に気付いたことをきっかけに、彼女たちなりの方法でランプを導こうと決意する。詳細は次回にて。

シュガー&ソルト&カルダモン
 きららとの戦闘シーンが軽くキンクリされた人たち。詳しい違いこそ生まれているものの、大体は同じなので泣く泣くカットに。最終章は拙作らしくオリジナリティ多めにいきたいと思ったが故の犠牲である。

アリサ・ジャグランテ
 ローリエの部屋の前でスタンバり、きららを部屋内に入れるよう頼まれていた呪術師。兄・ソウマが大罪を犯した挙句口封じに殺されたことをきららとマッチに話し、協力を取り付けようとするも、ランプの異常事態にそれどころではなくなった。

小路綾
 きららの呼びかけに応じ、パスワードを解くためだけにやってきたもえぎ高校女子高生。彼女が来たのは単なる偶然で、もしこのタイミングで勉強(特に歴史)が苦手な陽子や忍、ココアあたりが来ていたらそれはそれで面白い事態になっていたが、確実にグダっていただろう。



伊藤博文
 日本・明治時代の政治家にして、元内閣総理大臣(初代)。大日本帝国憲法の制定を中心に、日本に立憲政治を定着させることに大きく貢献した人物である。拙作では、ローリエのパスワードとして名前のみ登場。

うらら迷路帖
 はり○も氏によって連載されていた漫画。2014年連載開始、2019年完結。女性の花型職業であり、女の子の憧れともいえる占い師「うらら」が治める町である迷路町にやってきた見習いうららの千矢が、同志である巽紺、雪見小梅、棗ノノ、二条臣と共に、最高のうらら・一番占を目指していくというストーリー。2017年にはアニメ化され、クセのあるOPテーマで話題となった。

迷路帖のうらら達が総理大臣を知らない理由
 そもそも、『うらら迷路帖』の世界観(特に迷路帖の外)や時代設定が非常に曖昧で、フランスなどという単語から国関係は明治・大正初期とほぼ同じと思われるが、原作コミック1巻にては○かも氏が「明治・大正初期の町で占い冒険活劇だったがあえなくボツになった」旨の発言をしていることから、日本とよく似ているが別のファンタジー時空と推測できる。
 拙作では、多少の矛盾は覚悟の上で「うらら迷路帖の世界は日本によく似てるがちょこっと違う」という設定にした。まぁ、山育ちの千矢は仮に総理大臣という役職が存在したとしても知らなそうではあるが。

きららとローリエだけが開けられるパスワード
 ローリエは、己ときららにしか分からないパスワードを設定し、その中に女神呪殺未遂事件の資料を封印した。その際に何をパスワードにしたかといえば……『現実世界(つまり我々が生きている世界)で通っている常識(できれば義務教育範囲内)で、なおかつ聖典に記されていない事象』である。
 この条件でパスワードを設定すれば、現実世界で生きてきたローリエやクリエメイトを『コール』で呼び出し知恵を借りることができるきらら以外には破られないだろうと考えたのである。



△▼△▼△▼
ランプ「―――っ!!」
臣「無理しないで。よく分からないけど、本の内容がそれほどショックだったみたいね」
紺「分かるわ、その気持ち……私も、不安になることはあるもの」
小梅「なら、占えばいいのよ!うららって、そういう仕事なんだから!」
千矢「よ~~し、やってみよう!」

次回『予知夢とくろう、時々信念』
臣「次回もお楽しみに!」
▲▽▲▽▲▽


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第82話:予知夢とくろう、時々信念

どうも、うらら迷路帖を見たのが昔過ぎて見返しながら書いてる作者です。
今回のお話は、千矢ちゃん視点です。

“分からないけど、分かんないことがあったほうが多分楽しいよ”
 …千矢


「―――ちょっとここで、占っていかない?」

 

 私達うららがランプを占うことを決めて、臣がランプに声をかける。

 このことを決めたのは、ついさっきの事だ。

 

 部屋に入った時に臣が持っていた鍵のかかった本がきららの力によって開いたのはいいものの、その本を読んでからかな。ランプが、苦しそうにもがき出したんだ。私も見たけど内容はよく分からなかった。でも紺や小梅や臣が真剣な表情になってたし(紺は「分からない方が幸せかもね」って言ってたけどどういうことだろう?)、ノノが不安そうにしていたから明るい内容じゃあないことだけは分かる。

 きっとその本に書かれてたことが、ランプにとってはとっても辛かったのかな?………だって、今のランプはまるで、しかけた罠にかかって痛そうに、苦しそうにして弱ってた動物たちみたいだったから。

 

 だから、私は今こそ占いで何とかならないかなってみんなに言ったんだ。みんな、すぐにうなずいてオッケーしてくれたよ。

 

 

「……なんとかできるのかい?」

 

「直接は無理よ。でも…ランプは今、この先、どうすればいいのか迷ってると思うの。

 だったら、迷ってる手を引っ張って一緒に歩くくらいの手助けはできる筈よ」

 

 

 私達はうららだもの、と胸を張る紺。

 それにね、と話を続ける。

 

 

「私も、悩むこととか、怖くなることだってあるもの」

 

「友達がいないこと?」

 

「違うわよ!泉中術の時の話!」

 

 

 せんちゅーじゅつ? せんちゅー………あ! 泉で一緒に見たおばけのことか!

 だってあの時は、紺の様子がおかしくって、話そうって誘った夜に紺の悩みを…『神様を見ちゃったかもしれない』って聞いて、たとえ神さまにダメって言われても紺のそばで力になるって言って、皆で占ったら占えて、紺の力が奪われてなくって………結局あの時見たのはおばけだったって話だったよね?

 

 

「そんな事があったのね……」

 

「今のランプも、あの時の私みたいだったから。

 あの時の私は千矢に助けてもらったけど……今度は、皆でランプを助けようってなったのよ」

 

「まぁ、最初に言い出したのは千矢だけどね。ホント、千矢はすごいわ」

 

「え? そ、そうかな~?」

 

 

 臣が感心してる横で、ランプが何かを言いかけて……何度も頷いてる。

 涙は止まってないけど、笑顔だった。うれし泣き、って言うんだよね、こういうの。

 

 ランプは、しばらく何か言いたげな様子だったけど、すぐに書いてあった紙に何かを書き込んでいく。そして、書き終わった紙を私達に見せてきた。紙には、こう書いてあった。

 

 

『ぜひ、お願いしてもいいですか?

 占う内容は、ずばりこれからの戦いです。

 ここで知った事が本当か、アルシーヴ先生の真意は、

 そして、ソラ様をお救いする方法も、できれば。』

 

「……これは、正直僕達も知りたいところだ。

 アルシーヴがオーダーをしていた理由もそうだけど、ソラ様を救う手立て……これが一番知りたい。

 こんなところでソラ様を救う方法が分からなくなっちゃあ、僕達がここまで来た意味が無くなってしまう」

 

 

 マッチの言葉と、すっごい幸せそうな笑みのランプの言葉(が書かれた紙)を見て、私達も頑張らないとってなった。

 私の占いはくろうの力が必要だからどうなるかわからないけど、他のみんなも占うつもりだ。

 

 

「ふふん! このミス・プラムに任せなさい!」

 

「ま、マツコさん…いける?」

「マカセテ!」

 

「あ、紺! ここでお狐様を呼び出せるかな?」

「えぇ。きっとここでも呼び出せると思うのだけれど…」

 

 

 きらら達の力になるために、みんなの力を集める時!

 よーし、やるぞ~!

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「まずは私ね……行くわよ。」

 

「あの、臣が眠りだしたんだけど良いのかい?」

 

『臣様は夢占いで占うお方なのでいいんです!!』

 

 

 臣が目を閉じて寝息をたて始め、まずは紺が占いを行う。

 

 

「奇々も怪々お招きします、こっくりこっくりおいでませ。

 …この身を差し出す御代わりに、どうか導いて下さいな。」

 

 

 紺の占いは、こっくり占い。

 本当は紙とおかねを使う占いだけど、紺のこっくり占いはお狐様が紺に宿る特別なものだ。

 …ランプが紺の祝詞に目を輝かせているけど、喋れないのはちょっと辛そうだなぁ。

 

 

……ふむ。これはまた珍妙なところに招かれたものだな。

 

「えっと……紺さん…?」

 

お主…初めて見る顔じゃの。ほれ、近くで見せてみい―――わひゃっ!

 

「お狐様だー!!!」

 

 やったぁ! とりあえず、お狐様を呼び出すこと自体には成功した!!

 

「…一体、何が起きたんだ?」

 

「紺のこっくり占いはね…お狐様を体に憑依させることができるんだよ…」

 

「まぁ、ちょっと気まぐれなところあるけどね。」

 

おぉ、千矢か。わらわを撫でてくれるのは嬉しいが、これはいったいどういう状況なのかのう?

 

「実はね…………」

 

 

 小梅とノノがきららとマッチに紺の占いについて話してる間に、私がお狐様に今のことをちょっと話してみる。

 きらら達は、ソラ様っていう女神様を助けるためにあるしーぶって女の人と戦ってて…でも本当は女神様を救うために動いてたんだって。

 

 

……す、すまぬ、千矢…お主の説明は、少しばかり要領を得ん…

 

「あ、あれ?」

 

「しょうがないわね、千矢。私からお狐様に説明してみるわ」

 

 

 なんだか伝わらなかったから、紺がお狐様に説明しだした。

 ……うん、さすが紺は頭がいいから、説明のしかたが上手だね。私も見習いたいな。

 

 

ふむ……つまるところ、その女神を助ける為には、その生命を蝕む呪いを解かねばならぬということだな。……では、その呪いを解く方法を占ってみる、というのはどうじゃろう?

 

『で、できるんですか!?』

 

? なぜ筆談を……あぁ、お主が声が出なくなった子供か。不可能ではないぞ。

 しかしのぅ。タダ働きは気が乗らぬのぅ……?

 

「お願いお狐様。全部終わって迷路町に帰ったらいっぱい撫でてあげるから………ね?ダメかな?」

 

「ちょっ」

 

仕方ない。それで手を打つとしよう

 

「お狐様ってば、ホント千矢には甘いわよねー」

 

 

 お狐様のごきげんを取ったところで、占いが始まる。

 紺の身体を借りたお狐様が目を閉じて、部屋の中が静かになる。

 

 …………

 ………

 ……

 ―――そして、ゆっくりと目を開いた。

 

……ふむ。見えたぞ

 

「な、何が見えたんですか?」

 

桃色の髪をまとめ、白黒の神官服を来た女が、書庫の本を漁る姿じゃ。呪いを解く方法を探っているようで、かなり切羽詰まっておった

 

「ま、間違いない……その特徴はアルシーヴだ!」

 

 

 お狐様が占って出てきたのは、昔のできごとみたい。

 それも、きらら達が倒すって言ってた、あるしーぶって人の様子みたいだね。

 

 

「それで、解呪の方法は……!?」

 

『大量のクリエを以て呪いを体外へ弾き出せ』……と呟いていた。女神が封印された今聖典を開いても意味がない、という事も

 

「そ、そんな事が……」

「つまり…ローリエの日誌に書かれてた事は事実ということか……!」

「そのアルシーヴって人は、ソラ様の事をすっごく大事にしているんだね!」

 

 『くりえ』……確か、私達を捕まえようとしてきた賢者たちは、それを取り出すために襲いかかってきたんだっけ。

 

「だから、私達を捕まえたのね。」

 

「それなら…少しくらい、分けてあげてもいいんじゃ……?」

 

「………!!!」

「分ける程度の気分で分けられるものじゃあない。凄まじい苦痛を強いられるはずだ。例えソラ様を救うためとはいえ、その提案は簡単には認められないな」

 

 ノノが『くりえ』を分けることを提案したけど、ランプはぶんぶんと全力で首を横に振った。そして、いま話せないランプに代わってマッチが代弁する。

 

 うーん。痛いのはやだし、女神様を助けられないのもやだなぁ。なにか、ノノの言う『私達のくりえを分ける』以外の方法で女神様を助けることってできないのかな?

 

「他になにか見えなかった、お狐様?」

 

うーむ……いま見えたのはアレで全部じゃ。

 これ以上は紺に負担をかけかねん。しばし休ませてはくれまいか

 

「そっか……それなら、仕方ないね」

 

 

 あんまり紺とお狐様に頼ってばかりもいられない。

 だったら、小梅やノノや、臣や私の占いで手がかりを掴むしかないね。

 

 

「私は…アルシーヴと話がしたいです」

 

「きらら?」

 

「『オーダー』に手を出した理由は分かりました。クリエメイトの皆さんの持つクリエなら、ソラ様の呪いが解けると思ったんでしょう。

 でも………クリエメイトを呼び出す方法は、何も『オーダー』だけじゃありません」

 

「「「「「「!!!」」」」」」

 

 

 そっか! きららは、『コール』で色んな人を呼び出してたよね!!

 『オーダー』はデメリットのある怖い魔法だけど、『コール』は神殿が迷路みたいにぐるぐるになるとか、そういうデメリットがないんだよね!

 

 

「『コール』か……! でも、いまさらアルシーヴが聞き入れてくれるかどうか…」

 

「その為にも、ここからクリエケージを通って、アルシーヴに辿り着くまでの道が知りたいです。」

 

「クリエケージの場所だね! いけそう、ノノ?」

 

「う、うん……頑張る。」

 

 

 ノノが祝詞を歌い上げる。

 やっぱり、ノノの歌は綺麗な声だよね。

 この歌のような祝詞は、ノノの優しさが溢れてるみたいで……私は大好きだよ。

 やってみるまでノノは自信なさげっぽかったけど、ノノとマツコさんの人形占いは、きっとうまくいくはずだよ!

 

 

「ンー、コノ部屋ヲ出テカラ左カナ。ソノ後ハグルグル回ルケド………」

 

 

 うん、成功だね!

 ランプがマツコさんの言葉を聞き逃さないように全部聞きながら道を書いてるみたんだから、これでここからの道は大丈夫だね!

 

 それから、小梅は……?

 

「……なにしてるの?」

 

「ユレールちゃんで占おうと思ったんだけど、この紙と一緒にタロットカードがあったから、こっちでも占ってみようかなーって…」

 

 

 そう言って小梅が見せてきたものは、色んな絵が描かれたカードと、『占いに必要になったらぜひ使ってほしい byローリエ』と書かれた紙だ。そういえば、小梅って振り子以外の占いもできるんだっけ。

 

 

「随分と用意がいいな……で、コレはなんなんだい?」

 

「用意が良すぎてちょっと怖いくらいよ……で、コレはタロットって言ってね。

 22種類のカードを混ぜて、順番にめくって未来を占うのよ」

 

「どうやって占うの?」

 

「それぞれのカードに暗示があって、それを元に推理していく……みたいな。そんな感じよ」

 

 

 マッチと会話しながらカードを混ぜている小梅に聞けば、そういえばって感じの答えを返してくれた。

 

「ちなみに、どんな暗示があるんですか?」

 

「そうね……きらら、例えばこのカード…『力』のカードなんだけど、どんなイメージがある?」

 

「えっと………元気とか、勇気とか…あと、負けないぞってイメージがあります」

 

「そう。『力』の暗示はだいたいそれで合ってるわ。でも、逆位置―――逆さまの状態だと、甘えとか無気力とか、そういう暗示に変わっちゃうの」

 

「デザインがひっくり返るだけで意味が変わってくるのか…」

 

 けっこう難しそうな占いだね。でも、そういう占いをそつなくこなしていく小梅なら、できるような気がするよ!頑張って!

 

 

「ちょっと待っててね……」

 

 

 小梅がカードを混ぜ終えて、慎重にカードを一枚ずつ上からめくり始める。

 そして、それを繰り返すこと5回。出てきたカードは………

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「…………えっと、小梅? これは……」

 

「これが戦車で、これが運命の輪。……で、こっちが塔。あとは、星と悪魔ね。」

 

「う〜〜ん、よく分からないなぁ……」

 

 

 ちょっと頭がぐるぐるしてきたかも。

 私、こういうむずかしい占いって苦手なんだよね…

 つまり、これはどういう結果なんだろう?

 

 

「悪魔って……なんだか、不吉なイメージですね…」

 

「この悪魔は逆さま……逆位置だから、良い暗示なのよ。『回復』とか『解放』とか、そういうイメージがあるわ」

 

「そうなんだ! ねぇ小梅、他のカードはどういう意味なの?」

 

「そうね……まず戦車は『勝利』や『成功』の意味。

 運命の輪には『良い方向に向かうチャンス』みたいな意味が込められてて、星も『希望』みたいな良い暗示があるわ。」

 

「………小梅?」

「あの、小梅ちゃん?…そんな顔してどうしたの?」

「カードの暗示はすごく良さげの筈よ?」

 

 

 占いの結果は私が聞く限りだとすごく良い結果だと思うんだ。

 ―――でも、小梅の表情が晴れないのはどうしてなのかな? それに気づいたノノと紺も心配そうに小梅に尋ねた。……すると。

 

 

「いや、他の4枚の暗示は確かに全部良いのよ。

 ただ………このカードが出てきた事が気になってね…」

 

 小梅がそう言いながら指をさしたのは、クワガタと雷に当たったような建物が描かれたカードだった。アルファベットで『THE TOWER』って書かれている。

 

 

THE TOWER(ザ・タワー)……確か、塔だっけ。小梅、これにはどういう暗示があるんだい?」

 

「……崩壊」

 

「―――え?」

 

「悲劇、惨劇、災害、事故。……いずれにせよ、ロクな暗示じゃあないのよ、この『塔』のカードは」

 

 

 小梅から告げられた占い結果に、みんな黙ってしまう。

 だってそうだよ。これからの戦いを占うのに、そんな悪い暗示のカードが出たら、みんな不安に……そうだ!

 

「わ、分からないよ! どんな悪い事が起こるかなんて、その時にならないと分からないでしょ?

 そうだ、小梅! ちなみに…その『とう』のカードを逆さまにしたら、どんな意味になるの?」

 

「千矢……『塔』は正位置も逆位置も悪い暗示なのよ。塔の正位置が災害なら、塔の逆位置はそういう悪い事の瀬戸際に立たされてる、みたいな暗示だからね」

 

「うっ………!」

 

 そんなカードがタロットにあったなんて……

 

「でも、逆に言えば他はぜんぶ良いカードなんでしょ? だったら、すっごい悪いわけじゃないと思うんだけど……どうかな?」

 

「………そうね。千矢の言う通り、全体的には悪い結果じゃあないわ。『塔』だけじゃなくって、『星』とか『戦車』とか、今出たカードの暗示を全部組み合わせて、これから起こることを推理するのがタロット占いだから」

 

 組み合わせか……つまり、どう受け取るかでこの結果は良くも悪くもなるのかな?

 この5枚の暗示を組み合わせると……組み合わせると…

 ……暗示、なんだったっけ?

 

「…小梅、もう一回どんな暗示だったか言ってくれる?」

 

「あんた、もう忘れたの…?」

 

「やれやれ……」

 

 

 む、むずかしいの覚えるの苦手なんだもん!しょうがないじゃん!

 

 

「ええと……タロット占いの暗示はそれぞれ…」

 

『戦車→勝利

 星 →希望

 運命の輪→チャンス

 悪魔・逆→回復

 塔 →災害』

『―――です!』

 

「あ!そうそう! 書いてくれてたの、ランプ?」

 

「……!」

 

「ありがと~!!」

 

 小梅の言ってたことはちょっと忘れちゃったけど、ランプが書いてくれていたんだ!

 声が出せない分、きららの力になりたいって気持ちが伝わってる気がするよ。きららの嬉しそうな言葉に、笑顔で頷いてる。

 

 

「じゃあ、ちょっと組み合わせてみるけど……そうだな、例えば……

 希望はあるし、勝つこともできる。それはチャンスを掴めるかどうかで、ソラ様の回復にも世界の崩壊にもなり得る………みたいな?」

 

「それが妥当なのかしら……

 今は理不尽な災害に見舞われているけど、成功・解放のチャンスは必ず来る。希望を持ち続けることが転換点になるだろう……といった風に解釈はしてみたけど」

 

「なんだか……どっちもちょこっとだけ意味が違うね…」

 

 そうだね…。いま、マッチと紺が小梅のタロット占い結果をもとに考えをまとめてくれたけど、マッチの考えだとチャンスを掴めるかどうかで大成功と大失敗が分かれるみたいな言い方だし、紺の考え方だと今がものすごくつらくて苦しいけど諦めなければ希望がある、という風にも聞こえるね。

 

「これ、どっちが正しいのかな?」

 

「う~~ん、こればっかりはノーヒントだから……こっち、ってはっきり言えないのよね。」

 

 さすがの小梅もそれは分からないみたい。何かがつっかかる感じがしてスッキリしないなぁ。こういう時にはっきりと分かればいいのにな。

 

 

「……私はマッチの解釈が合ってると思う」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

「臣!!!」

 

 

 起きたんだね!臣が起きたってことは……夢占いについても何かが出たってことだね、きっと!

 

 

「おはよう、臣。早速だけど、理由を聞いてもいいかしら?」

 

「おはよう。……私、さっきまで『ランプの身に起こる近い未来』を占ってみたんだけど……」

 

「う、占ってたのかい? 寝てるようにしか見えなかったけど…」

 

「ランプが筆談してたけど、臣は夢で未来とかを見て、それを踏まえたアドバイスをする『夢占い』が得意なの」

 

「寝ながら占えて、お金も稼げる……一石三鳥の占い」

 

「…言っとくけど、超高難易度の占いよ?」

 

「「……………」」

 

 

 あ、そっか。臣の夢占いを知らないと、ただの居眠りに見えちゃうか。

 ランプは知ってたみたいだけど、紺と小梅が改めて説明すると、きららとマッチが何とも言えないような目で臣を見た。

 楽ができるからって言いながら、一番むずかしい占いをマスターするなんて、臣ってすごいよね!

 

 

「それで…占いの結果に戻るけどね。

 私が見たのは……ランプが誰かに本を…今持ってるそれを渡すか、渡さないか迷う光景

 ―――そして、渡した場合…()()()()()()()()()()()()って光景

 

「「「「「「「!?!?!?!?!?」」」」」」」

 

 

 ―――え、臣…いま、なんて言ったの?

 せかいが、焼きつくされる???

 

 

「な…それは、」

 

「それって………!!」

 

「そんな…!!」

 

 

 みんなの顔色が青くなる。

 世界が焼き尽くされるなんて想像できないよ……! どういう、ことなの?

 

 

「落ち着いて、みんな。」

 

「………悪いけど、今の占い結果を聞いて、落ち着いてなんていられないな。」

 

「私は『ランプが誰かに本を渡したら、世界が焼き尽くされる』って未来を見たの。

 そして、本を渡す前、ランプは本を渡すか渡さないか迷ってた。」

 

「…………!!!」

 

 

 ランプが何かを閃いたかのように、突然持っているペンを紙に殴りつけるかのように書き込んでいく。

 そして……書き終わって見せてきた紙には。

 

 

『つまり、私のこの日記を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですね!!』

 

「そう、その通りだよ。ランプ………というか、その本は日記だったの?」

 

 

 ランプが頷く。きららが付け足して言うには、今までの旅で出会ってきたクリエメイトとの思い出を書きとめた日記なんだって。クリエメイトが大好きなランプの宝物みたい。

 臣はすごいな。もしこの占い結果を知らないで日記をその『誰か』に渡しちゃってたら、大変な事になってたんだね。それを避けることができたんだから、ホントにすごいや。

 

「ちなみに……その、ランプが日記を渡すか迷ってた『誰か』は分かりましたか?」

 

「ごめん…そこまでは。でも、髪の色は覚えてる。確か白っぽかった」

 

「白っぽかった……?」

 

 

 きらら達が「ランプの日記に気を付けよう」って確認したところで、臣の占いは終わった。

 あとは私が力になる番だね。私だって、紺たちと同じ、九番占なんだから!

 

 

「あとは私の番だね!」

 

「千矢、まさかアレをやるの…?」

 

「九番占試験の時の、くろう占い…!」

 

「そう! 私だってなにか力になりたいもん。

 試験で成功してからも、こっそり練習してきたんだから!」

 

 

 ランプに近づいて、「何か占ってほしいものとかある?」って聞いた。

 クリエケージの道も、あるしーぶがくりえを集めた理由も、これからの戦いの流れも、日記についても分かったランプは、きららやマッチと相談してから、紙に何かを書いていく。

 ランプときららが一緒に私に差し出したそれを、読んでみると………

 

 

「『不燃の魂術を使っている人が誰かが知りたい』……!」

 

「お願いしてもいいですか…?」

 

「………」

 

「………」

 

「……不燃の魂術ってなーに?」

 

「あっ」

 

 

 知りたいことがあるのはわかったけど、その『不燃の魂術』が何か知らないと占えないかな……

 

 でも、すぐにきららが教えてくれた。要するに、『不燃の魂術』っていうのは不老不死になる魔法で、オーダーと同じで使っちゃダメって決められているものみたい。

 小梅が「永遠に若いまま…体重も増えない!?」って少し揺れてたけど、私は不老不死って憧れないかなぁ。だって…そんなコトして不老不死になったら、紺や小梅や、ノノや臣が年を取って死んじゃっても、私だけ一人ぼっちになっちゃうもん。

 

 

「今回の事件…クリエメイトの命を狙う人たちの話はしたよね?

 その人達もボスが、『不燃の魂術』を使った不死身の人かもしれないの」

 

「わかった、きらら! 任せててね!!

 ―――いでよくろう!! 『不燃の魂術』を使った不死身の人の正体をこの眼に視せて!!!」

 

 

 さぁ、来い!!!

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 

「………………………………………。」

 

 

 …………あ、あれ?

 

 

 

「ち、千矢ちゃん………?」

 

「………ええっと、それで、何が見えたのかな?」

 

 

 ……おかしいな。

 なにも、見えてこない……!

 

 

「………ふぅぅ~~~~っ、ダメだぁーーーーーーーッ!!!

 失敗しちゃったみたい。なんにも見えてこないや…」

 

 

 九番占試験の時はうまくいったのに、どうしてここで上手くいかないんだろう?

 あの時も今も、「誰かの力になりたい」って気持ちはちゃんとあるのにな……

 

 

「千矢……」

 

「やっぱり私、占いでは全然―――」

 

 役に立たないね、って言おうとした時。

 ぶわぁっ、と。何かが隣に立ったような気配がして。

 気配のする方に振り向けば。

 

 

「―――あ!!」

 

 私よりもはるかにおっきな、透き通った真っ黒い姿。

 ウサギの耳と、吸い込まれるような真っ赤な目。

 くろうを呼び出せた、って嬉しさもつかの間。

 

 

 

 ―――視えた。

 オレンジの髪をした女の人が見たことのない笑みで燃え上がる姿が。

 金髪のキレイな人が、ランプと一緒に戦う姿が。

 

 他にもいろんなものが視えたけど、見えたものを忘れないうちにきらら達に伝えなきゃ。

 

 ―――間違いなく、ランプの日記が光ってたよって。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

千矢
 野生児うらら。自分から主導してランプの為に占ってみた。原作ではくろう占いは失敗してしまったが、拙作ではほんの少しだけくろうは力を貸してくれた模様。命の危機とあったら保護者と言えども力を貸さないわけにはいかなくなったようだ。
 くろうが千矢に何を見せたかは、だいぶもったいぶって秘密にする予定。

巽紺
 ぼっち(過去形)うらら。お狐様をその身に憑依させて、『アルシーヴがオーダーに手を出すきっかけになった過去の出来事』を見た。迷路町に帰った後は、千矢にたっぷりお腹ナデナデされる予定。これによって、巻き添えが確定した。

雪見小梅
 西洋かぶれのうらら。ローリエの部屋に何故かあったタロットのカードを使い、タロット占いで『きらら達の戦いの行く末』をざっくりと占い、未来を推察した。小梅自身は塔のカードに一抹の不安を抱いていたが、他の4枚のカードが良かったため千矢のフォロー(?)を素直に聞いた。
 なお、ローリエのタロットカードのデザインは、『星』こそ気に入ったものの、その他のデザインは理解できなかったor不評だった模様。

棗ノノ
 引っ込み思案なうらら。マツコさんとの人形占いで『クリエケージへの道』を占った。きらら達からすれば人形が喋る時点でだいぶホラーだったが、ランプは知っていたため怖がることはなかった。

二条臣
 ねぼすけうらら。お得意の夢占いで『世界の分岐点になるランプの行動』を見た。夢占いが「未来を夢で見てそれを元にアドバイスをする」という修得難易度に見合った合理的な効果を持つ以上、彼女の今回の寝落ちはガチのファインプレーだったと思われる。

きらら&ランプ&マッチ
 うらら達に占ってもらった原作主人公一行。原作とはまったく違う形の占いになったことで迷路の正解ルート以外の結果を知ることになった。原作との最大の違いであり、ここから原作とは違うエンディングに向かって彼女たちは動き始める。
 なお、くろう占いの結果を聞いたランプはきらら&マッチいわく「いつも以上に晴れやかな顔をしていた」そうだ。




タロット占い
 タロットカードを1~5枚めくり、その暗示で未来を示す占い。アルカナは22種類あるため、全てを説明はできないが、
・基本的に正位置は良い暗示、逆位置は悪い暗示
・悪魔は正位置が悪い暗示、逆位置が良い暗示
・塔は正位置&逆位置ともに悪い暗示。最も良くないよ
この3つを押さえて欲しい。挿絵のデザインは『ジョジョ』3部と『ペルソナシリーズ』のタロットのデザインを組み合わせた。



△▼△▼△▼
ローリエ「ドリアーテの正体はもう暴いた。ジンジャーを説得し、フェンネルを何とかくぐり抜けてアルシーヴちゃんの元へ行かなきゃならない。」
ハッカ「ローリエ。フェンネルの説得、やはり不可か?」
ローリエ「アイツの正義はアルシーヴちゃんだ。ダマくらかしてでもどいてもらうしかあるまいよ。」

次回『統治者と転生者、時々幻』
ハッカ「次回、乞うご期待。」
▲▽▲▽▲▽


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第83話:統治者と転生者、時々幻

“あいつ、バカみてぇな理想を語っていた。だが…それ以上に、絶対にやりとげてやるっていう『本気の覚悟』も、持っていた。”
 …ジンジャー・ヴェーラ


 

 

 きららちゃん達が俺の部屋で例の本を開けようと四苦八苦している頃。

 俺とハッカちゃんは、迷路となった神殿を進み、大広間まで歩いていた。

 

 

「これより先は、ジンジャーが守護するクリエケージの在り処。如何なる行動を移すつもりか、ローリエ?」

 

「ジンジャーは、なんとか説得したいな。できる限り箝口令の敷かれたソラちゃんの件は話さないで」

 

「……至難の業なり。」

 

「そうなんだよなぁ…ドリア―テの話だけで説得しきれるかどうか………

 それと、その奥でフェンネルが番をしている可能性もある。そこの対策も考えないと」

 

「フェンネルはアルシーヴ様と奥へ向かった。『盾』たるフェンネルがアルシーヴ様への道を守るは必然?」

 

「そういうこった」

 

 

 カルダモン・シュガー・ソルト・セサミは気絶中だ。後でアリサあたりに根回しを頼むことにしよう。

 きららちゃん達は、俺の部屋で全てを知った後で先へ進むとするならば、クリエケージを守護しているジンジャーとアルシーヴちゃんへの道を守るフェンネルと戦うことになるだろう。

 

 だが、俺は最終決戦前にきららちゃん一行と賢者達がこれ以上戦うべきではないと考える。ドリアーテと戦う前に戦力を削るマネはこれ以上したくない。セサミは正門前での足止め係だったし、シュガー・ソルト・カルダモンは迷路の中にいるから時間的に仕方ない部分もあったが、残り二人はそうはいかない。

 

 ジンジャーは、先ほど言った通り説得する余地があると考えている。

 彼女は『守る』事に信念を置いており、都市でも敏腕市長として尊敬されている。最近も、人身売買を禁ずる法を作り出して尊敬を集めていた。

 そんなジンジャーに、ドリアーテについて調べたことを話して「都市を、ひいては世界を守るために力を貸してくれ」って頼んだら、いけそうな気がするんだ。

 

 だが問題はフェンネルだ。

 フェンネルは「アルシーヴ様こそ正義」を地で行く絶対アルシーヴ様崇めるウーマンと言っても問題ないくらいにはアルシーヴちゃんを崇拝している。しかも、そのせいか俺ともあまり相性が良くない。

 ドリアーテ相手に共闘したはしたから、そこに説得の糸口はあるにはあるんだが……そうなるとアルシーヴちゃんに禁じられた女神封印の件を話さなければならなくなる。だが俺は命令を破るつもりは毛頭ない。「ソラちゃんは実はドリアーテに呪われたんだ」と言えない以上、説得は時間がかかると考えた方が良い。………ゲームにおけるフェンネルを物理攻撃だけで倒すのと同じくらいの時間はかかりそう。正直やってられない。

 

 故に時間がない今、説得するのはジンジャーだけにして、フェンネルには別の手を使うことにした。

 

 

「フェンネルはある意味難攻不落だ。説得して道を開けてもらおうとしたら、こっちの持つ情報を全部使う羽目になる」

 

「アルシーヴ様の命は絶対。」

 

「そうだな。箝口令をこっちから破るワケにはいかない以上、敵対するしかないのかな………となると、ハッカちゃんに任せることになるけど……いいか?」

 

「肯定」

 

 

 フェンネルが固いことは知っていたが、高いのは物理防御力だけにして欲しかった。まさか、アルシーヴちゃん専門の百合女になるレベルの忠誠心がここで壁になるとは思わんかった。

 あらかじめ考えてあった作戦をハッカちゃんに伝えて任せることに了承を得てから、二人で大広間へのドアを開けた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ウォーミングアップ中に大広間のドアが動いたのが見えた瞬間、いつでも戦えるように構える。

 だが、ドアの間から見えてきた影が誰だかわかると、私は拳を下ろした。なんというか、ここに来たのが予想外な人物だった。

 

 

「おう、どうしたんだ? ローリエ、ハッカ」

 

 

 アルシーヴから「遊撃隊」を仰せつかっているローリエとハッカだ。

 その立場上、ここに来るのは別に不自然でもなんでもねぇが……なんだ?この雰囲気は。

 てっきり、ここで私と3人がかりできららを迎え撃つのかとも思ったが…なんとなくだけど、どうも今の二人からは、そんな提案が出てくるようには見えなかった。

 

 

「……なんの用だ?」

 

 ここに来たワケをストレートに尋ねれば、ローリエは真剣な眼差しでこっちを見てきた。

 

 

「ジンジャー、今から話すことを良く聞いてくれ。……その上で、ちょっと難しいお願いをする」

 

 

 そう前置きをするローリエに、何だか胸がざわついた。

 嫌な予感……ってレベルのものでもねーが、それでも穏やかじゃあないな。まるで、真っ暗い雲が覆う、明日あたりに一雨来そうだなって感じの空を見上げた時のような気分だ。

 

 

「ドリアーテが現れた。今、神殿のどこかにいる」

 

「!!!!」

 

 

 そして…告げられたそれに、言葉が詰まった。

 ドリアーテって、あの……ドリアーテだよな?

 街の人達を攻撃したセレウスのバックにいた奴で、ビブリオを使って赤子の人身売買をやってた奴だよな?

 そいつが、ここにいるだって?

 

 

「……どうしてわかった?」

 

「それに答える為には、ちょっとドリアーテの説明が必要だ。

 ドリアーテはとある魔術を身に宿している影響で、変装がとんでもなく上手い。

 ―――『不燃の魂術』。全身を再生する炎にして、不死身になる禁忌の魔法。これには、自身の肉体年齢を操作して疑似的な変装ができるという特徴もある」

 

「お、おいおいおい……ちょっと待て!」

 

 

 つまり…なんだ? もう既に、そのドリアーテってやつは、神殿の誰かになりすましてるってことか!?

 冗談じゃねぇ事態になってるじゃねぇか! クリエ云々とか言ってる場合じゃあなくないか!?

 

 

「二人は……ドリアーテが神殿の誰かに化けてるって確証が…あるのか?」

 

「……そうだ。違うと良いな、とは思ってたがな」

 

「不燃の魂術を宿す者は、あらゆる傷が燃え上がりつつ再生する。

 ちなみに、我ら二人はドリアーテではないと断言する」

 

 

 ハッカの言葉と同時に、二人が手袋を外し、手の甲にあったバツ印の傷を見せてきた。おおかた、それで無実の証明ってところか。

 私も、『不燃の魂術』の特徴は大体知っている。どんな傷も再生し、年をとらない禁忌だってことくらい、神官の必修事項だ。つまり、この二人は本物のハッカとローリエなんだが……

 ……まさか、このタイミングでセレウスらの裏にいたドリアーテが出てくるとは思わんだろ。しかも、不死身の禁忌をひっさげて。

 

 

「ちなみに、誰に化けてるとか、分かっているのか?」

 

「もちろんだ。ただし……もしここでそれを知ったら、後戻りはできなくなる。なにせ『正体』を知っているのは俺とハッカちゃん、そしてアリサだけだ。敵に情報が漏れる危険性を鑑みて、アルシーヴちゃんにも言えなかったことだからな」

 

 

 確かめるように尋ねるローリエ。

 正直、上手いなと思った。明らかに、こういう交渉とかに慣れている。場数を踏んでいなければ、ここまで話の流れを掴めない。

 

 

「…そのドリアーテとクリエ集めが、どう関係してくるんだ?」

 

「ドリアーテの目的はおそらく、クリエメイトの殺害…及びエトワリアの滅亡。これまでのクリエメイト争奪戦でも、クリエメイトの命を狙った輩が少なからずいたんだよ。盗賊どもに始まり、サルモネラも、ビブリオも、セレウスもそう。アルシーヴちゃんの話にあった、ドリア―テの側近の暗殺者も、俺達だけじゃなく、クリエメイトの命も狙っていたと思われる」

 

「確かに、そんな話があったな……どんな奴だったか、聞いても良いか?」

 

「人形みたいなヤツだった。そのくせ、人の命を奪うことになんの躊躇いもなかった。

 表情をまったく変えずに攻撃を受けたり、副作用で血塗れになる薬を自身に投与してた。

 ―――正直、今になってもアレが機械じゃなくてシュガーソルトくらいの年の子供だったことが信じられない」

 

「……冗談だろ?」

 

 

 私は、話を掘り下げたことを後悔した。

 ローリエのその口ぶりは、冗談抜きのマジでそんなありえない人間性の刺客と戦った事を、如実に物語っていた。

 ハッカが、唖然として冗談じゃないと分かっていても冗談だろとしか言えなかった私に答える。

 

「事実。私が死に際の彼に宿屋の女将を殺めた理由を尋ねたところ、少年は『人を殺めた事を咎める理由は何か』と問い返してきた。………歪な質問を、純粋な瞳で尋ねてきた。」

 

 

 なんだ、それは。

 あ、頭がパンクしそうだ。

 一般の民が犠牲になったこともショックだが、人を殺しちゃいけねぇ理由なんざ、普通聞かなくったってわかるだろ? 聞かなくたって、よっぽどのことがない限りなんとなく学べるはずだ。 どうして、シュガーやソルトくらいの年になるまでンな恐ろしく歪な純真さのまま育った?

 

 ―――まさか、と。私に嫌な可能性がよぎった。

 理論上できなくもないが、人倫的にやっちゃあいけねぇ類の可能性だ。幸いというべきか不幸にもというべきか、ピースはあった。

 

 

「まさか…まさか、だけどよ………そいつは、物心のついた時からそういう風に『教育』されてた、とかじゃあ…ないだろうな?」

 

「ジンジャー……」

 

「頼む…ローリエ。『違う』と言ってくれ。私は今……イチバン胸糞悪ィ可能性に辿り着いちまった」

 

 

 こうは言ったが…なんとなく、それは裏切られるだろうという予感があった。

 ハッカもローリエも心配そうな目で私を見ている。ふつふつと湧き上がる胸の中の怒りが、顔やら拳やらに出ちまってんだろうな。元々、こういうのはあんま得意じゃあねぇって自覚もある。

 

 

「ジンジャー……実は、戦った後の会話で、俺も―――おんなじ可能性に行きついた。

 ビブリオが攫った赤ちゃんをドリアーテが私兵として育てた………そんな可能性に。確証はないが、多分事実だろうな」

 

――――ッッッソが!!!

 

 

ガァァァアアアアアン!!!

 

 ―――と、金属性の鈍い轟音が、大広間に響き渡った。

 遅れて、握りしめた右の拳がじんわりと熱と痛みを帯びて、血がしたり落ちる。

 拳を思いきりぶつけたクリエケージが、少し歪んじまったが、今はどうでもいい。

 そう思えるくらいに、怒りや憎しみのような感情が、胸に溢れる。

 

 

人の命を……なんだと思ってやがるんだッ……!!!!

 

 

 この一言に尽きる。

 ドリアーテの野郎……一発殴らねーと気が済まないぞ…!!

 命を息でもするかのように奪った刺客の少年もそうだが、何よりその少年にそんな歪んだ教育を施し、人生を食い物かなにかのように喰い潰したドリアーテを、許せるものか……!!!

 

 

「同感だ。ドリアーテには、相応の報いを与えてやんなきゃ気が済まない……!」

 

「然り。我らの世界を脅かすものなら尚更、放置するわけにはいかぬ」

 

「ローリエ…ハッカ………

 ―――っふー。悪ぃ。ちっと取り乱した」

 

「イヤ、無理もない。子供が戦いに駆り出された挙句使い潰されたなんて、許されるわけがない」

 

 

 一発殴ったお陰か、ドリアーテの非道に対する怒りは……まぁあるままだが、ある程度は落ち着けた。そして、ローリエとハッカの目的も分かってきた。

 二人は、ドリアーテを倒す気だ。アルシーヴがオーダーにこだわる理由も一人で背負いこもうとしているのもわからねーが、二人の目的はハッキリとした。だが、肝心なことが聞けていない。

 

 

「……それで? こんな話をしておいて、『ちょっと難しいお願い』ってのはなんなんだよ?」

 

「単刀直入に言おう。召喚士・きららちゃん達と戦わないで欲しい」

 

 

 ……これ以上引っ張らずに単刀直入に言ってくれるのはありがたいが…これまた、ちょっとどころじゃあないお願いが来たぞ。どうすればいいんだ。

 頭を抱えそうになるが、問題は詳しく話を聞いてからだ。

 

 

「………ちょっとじゃねぇ。すげぇ難しいお願いだぞ。それは」

 

「ドリアーテと戦う以上、戦力は必要だ。ここでお互いが戦い合っても奴に利しかない」

 

 

 ……言いたいことはすげぇよく分かる。

 ドリアーテがエトワリアを滅ぼす事を目的としている以上、奴は神殿と敵対するだろうな。きらら達も、根は良い奴らだ。あいつらもあいつらなりの目的があるだろうし、それはドリアーテとも相容れない事も予想がつく。

 でもな……

 

 

「…私、アルシーヴからクリエケージを任されてんのは知ってるよな?

 アルシーヴの目的は知らないけど、私に任せるくらいクリエの回収は重要なモノらしいんだ。悪いが、これを簡単に投げるわけにはいかないな」

 

 アルシーヴがクリエケージでクリエを集める理由は知らない。でも、アルシーヴが大量のクリエを必要としてる事くらい立場で分かる。

 ローリエの『お願い』は、それを無駄にすることだ。

 

 

「……クリエの確保だが…アテはある」

 

「それは、なんだ?」

 

「ランプの聖典だ」

 

 

 ローリエが言い出した『アテ』。それは、到底信じられないものだ。

 ランプの聖典、だと? 歴代女神にそんな名前いなかったし、まさか女神候補生のランプが聖典を書いてるとか言わないよな?

 

 

「ローリエ。私をからかってんなら、話は終わりだ」

 

「……いや、大マジメだ」

 

「よりダメだろ! なんであの、女神候補生のランプが聖典を書けるんだ!!」

 

「じゃあ聞くが、そもそも聖典とはなんだ?

 例えば、俺がクリエメイトの日常を小説にしたとするならば…それは聖典足りうるのか?」

 

 イキナリ何言ってんだコイツ。

 ランプの聖典といい、話が読めない。

 

「……なるワケねーだろ。聖典っていうのは、女神が異世界を観察した記録の事を言うんだ。素養のない奴が書いたところで、クリエを生み出す力なんて生まれないだろ?」

 

「そうだジンジャー。今『女神が異世界を観察した記録』と言ったが、主にどんな情報がアレに書かれてる?」

 

「はぁ? 質問の意味がよく分からねぇぞ?」

 

「例えば………登場人物が一切ない、図鑑や子供用の絵本のような聖典はあったか?」

 

「…………いや。子供用に編集されていたのは見たことがあるが、それもクリエメイトの日常とかがメインだったかな。人物は少なからず出ていた筈だ」

 

「じゃあ……だ。もし、将来有望な女神候補生が、クリエメイトとの直接の交流を日記帳に書き込んだとしたら…その日記帳はどうなると思う?」

 

「……? …………………………!!!!

 な、お前……まさか!!」

 

 

 質問を繰り返すうち、ローリエの言っていた「クリエのアテ」に半ば確信を得た。

 だが、そんなことあり得るのか…?

 

 

「お前…ランプの書いた日記帳を聖典に仕上げるつもりかッ!!?」

 

Exactly(そのとおりだ)―――!!」

 

 

 ローリエの、あまりにぶっ飛んだ提案に、返す言葉も失った。

 それは……例えるなら、社会にすら出ていない衛兵の訓練生をイキナリ実戦に連れていくかのごとき蛮行。

 成功する方が難しいどころかダメで元々といってもいい、ムチャクチャにして無謀な挑戦だ。

 

 

「ま……マジに言ってんのかッ! どんだけ無茶言ってるか、分かってんのか!?」

 

「かつてソラちゃんは歴代最年少で聖典を編み出すことに成功した。そんなソラちゃんとランプは良く似ているんだよ……性格も成績もな。あながち、分の悪い賭けでもないと思うぜ?」

 

「それでも! だいぶ無謀な事には変わらねぇだろ?」

 

 

 ランプは、聖典学以外の成績は振るわなかったと言っていた。神殿から飛び出す前は、私の治める都市に来てはそんな悩みを言っていたか。そんな一面を見ている者としては、ランプに聖典を編み出すなんて重役は力不足にもほどがあると思ってしまう。

 確かに、都市で久しぶりにあった時は成長したなと思ったさ。………いや、成長したのはきららの方か? ……いやでも、ランプはランプなりに得たものもあったんだろう。だがそれでも、ローリエの作戦(というにはお粗末にも程があるがよ)は、ランプへの無茶ぶりにしか聞こえない。

 

 

「どうしてそんな事が考えられる? どうして、そこまでできる……?」

 

 

 私はどうしても、正気の沙汰とは思えない考えを持って、私にぶっ飛んだお願いをしたローリエの本心が知りたくなった。

 

 

 

 

「―――信じているからだ。

 ランプを。みんなを。そして……未来を。

 ドリアーテを倒し、俺は全てを救う。それが…俺がここにいる理由だ」

 

 

 答えは、ちょっとクセェ字面の台詞だった。

 だがそう答えたローリエは、臆することもチャラけることもなく、真剣そのものだ。

 しかも、それだけじゃあない。コイツからは……『本気の覚悟』を感じる。並々ならぬ覚悟の雰囲気を感じた。そして……その様子が、二人が来る前に見たあいつを彷彿とさせた。

 

『私にしか為せないことがある。その言葉に偽りはない。私は…目的を果たす。』

 

 息も絶え絶えで、目だけはギラギラで。そんな様子のアルシーヴから放たれたプレッシャーにそっくり………いや、それ以上だ。まるで、あの状態のアルシーヴが二人いるかのような………

 

 

 

「「「………………」」」

 

「…………はぁ。」

 

 やがて、私のため息だけが大広間にいやに染み渡った。

 

 

「……言っとくけどな、私にできることは限られるぞ。

 それと、いざとなったら責任は全部おまえ持ちだからな」

 

「やっったぁ~~~!!!! ありがとうジンジャー! 大好き!抱いて!!」

 

「うっせぇバカ。しくじったら絶対許さねぇからな?」

 

「大丈夫! 俺にまっかせなさい!!!」

 

 

 私は、散々悩んだ末に、ローリエの『お願い』を可能な限り聞くことにした。きららとは戦わない。だが、話くらいはしてもいいだろうし、なんかあったらローリエが責任を取ってくれるようだ。

 了承した途端にプレッシャーが霧散したローリエが、調子の良いコトを言ってハッカに小突かれる姿を後ろで見ながら、少々無責任になっちまった己の立場を考える。

 

 確かに、アルシーヴは並々ならぬ覚悟を持っていた。

 ローリエの非常識な『お願い』も、よほど覚悟が決まっていなかったら一蹴する気だった。

 でも、あんなモン見せられちゃあな………私の『街を守る覚悟』程度では足りねぇと認めざるを得ないじゃあないか。

 

 それにしても―――

 

 

「ドリアーテ、か」

 

 

 もう一波乱ありそうだな、と。そう思った私は、身体が鈍らないようにウォーミングアップを再開した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ……わたくしは今、アルシーヴ様からこの上なく重要な使命を仰せつかっておりますの。

 『誰一人とて、この道を通すな』。他でもないアルシーヴ様の盾に相応しき命令ですわ。

 私はアルシーヴ様の盾。アルシーヴ様に叛する者は全て私の敵。

 誰であろうとも、ここを通るというのならば、このフェンネルが立ち塞がるのみですわ。

 

 ですから、そんなわたくしが………

 

 

びえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん!!!! ママああああああああああああああああああああああ!! どこにいったのお゛お゛お゛おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 

「……………………」

 

 

 ………迷子に構っている暇などないというのに……

 というのもこの少女、わたくしがアルシーヴ様をお見送りした後にこの通路に迷い込んできて、先ほどからこのように泣いてばかりなのです。年はおそらく5歳くらい。オレンジの短髪と良いところのおべべが特徴的な子供ですわ。

 正直うっとうしいのですが、相手は幼い子供。下手に動いてアルシーヴ様の顔に泥を塗るわけにはいかない以上実力行使に出る訳にもいかず、かといって泣きわめいているこの子になんと声をかければ良いのかも検討がつかず、この状態が続いているのです。

 

 

「ふぐう゛う゛う゛ぅぅぅぅ……………ママァ……」

 

 …それにしても、ニ十分ほど前から迷い込んできたにもかかわらず、この子はずっっっと泣きっぱなしですわ。よっぽど母親が恋しいのでしょうか?

 しかし、わたくしには何よりも優先するべきアルシーヴ様の命令が―――

 

マ゛マ゛ァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!

 

 ……………。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛………!!!!!!」

 

 ………ああもうっ!! うるさくて任務に集中できませんわ!!

 というより、このまま泣き続けるこの子を放っておいているのを誰かに見られでもしたら、それこそ八賢者の…ひいてはアルシーヴ様の尊厳に関わる!!

 こうなったら、どうにかしてこの子に泣き止んで貰って、早く母親の元へお送りしませんと!!

 

 

「……ねぇ、キミ?」

 

「………!」

 

「大丈夫? はぐれてしまわれたのですか?」

 

「おねーさん……誰…?」

 

「フェンネル。ここの神官ですわ。あなたのお名前は?」

 

「デリー……」

 

「デリーちゃんね。ママとはどこではぐれちゃったかわかるかしら?」

 

 

 デリーと名乗ったその子は、わたくしが声をかけるとすぐに泣きやみ、ママとはぐれた状況を教えてくれました。

 なんでも、彼女の母親は神殿のお偉方で、『オーダー』の際に避難している最中に人波に揉まれてはぐれたようです。

 しかし、困りましたわ。わたくしはここを離れる訳には参りませんのに……

 

 

「いいですか? ここからまっすぐ進んだ先に大広間があります。そこにいるジンジャーという八賢者を頼ってください。必ず力になってくれますわ」

 

「おねーさんは来てくれないの……?」

 

「わたくしは、どうしてもここを離れることができないのです。わかってくれますね?」

 

「やだ……」

 

「お願い。良い子ですから」

 

「やだぁ………」

 

 

 ……参りましたわね。どういうわけか、懐かれてしまったようです。

 仕方ありませんわね。この子にこのままくっつかれても使命の邪魔になるだけ。大広間のジンジャーにこの子を預け、ローリエかハッカに任せにいくしかありませんか。

 

 

「……わかりました。では、大広間まで一緒に行きましょ? そこでジンジャーに会ってから貴方が決めてください」

 

「わかった……」

 

「良い子ね。じゃ、行きましょ……ふあぁ…」

 

 

 少女を連れて大広間に進もうとした時、あくびが出ました。

 いけません、この後はアルシーヴ様から賜った大役があるというのに。

 居眠りなど言語道断ですわ。目の前に少女がいるという……のに………

 

 

「…おねーさん?」

 

「………大丈夫、ですわ」

 

 

 どういうわけか、急に瞼が重く…なって……

 

 

「させるか、ハッカちゃん!」

「無論! ドリアーテ、覚悟!!」

「チイィッ!間の悪い虫ケラ共があッ!!」

 

 

 ―――意識が落ちる直前、かろうじてわかったのは、肌を撫でる風が少しだけ暖かくなったことだけでした。

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 ランプの書いた日記帳が『聖典』になることを中心に、仲間も召喚士たちも未来も信じ、全てを救う『覚悟』をジンジャーに見せつけた拙作主人公。彼の提案は某王様になりたいという夢並みに荒唐無稽ではあったが、成功するという確信がある。ランプの日記の習慣とクリエメイト&聖典愛を信じるが故の行動だ。

ハッカ
 ローリエと共に行動を共にする八賢者。ジンジャーにドリア―テの宿す「不燃の魂術」の見分け方を伝授し、自分達の身の潔白を証明した。その方法たる「手の甲にバツ印の切り傷をつけること」は、彼女が提案したことである。

ジンジャー
 ローリエの覚悟にアルシーヴと似通ったものを見出した八賢者兼言ノ葉の都市市長。アルシーヴが目的を語らないが故に信用していなかったが、『クリエが大量に必要だ』ということは理解している。今回、ローリエの提案したクリエの回収法に呆れていたが、彼の覚悟に折れる。また、01型57号の生まれた経緯が人間性を完全に無視したものである可能性に行きつき、義憤に駆られた。

フェンネル
 アルシーヴの言いつけ通り最後の砦とされる通路を守っていた八賢者。しかし、突如迷い込んだ幼女の相手をせざるを得なくなった上に、突然の眠気に襲われた。

デリー(迷子の幼女)
 迷路になった神殿にて、フェンネルのいる深部の場所まで迷い込んでしまった推定5歳の幼女。神殿からの避難中に、人波に揉まれて母親とはぐれたそうだが…?



△▼△▼△▼
ローリエ「おいおい……なにやってんだよフェンネル!仕事中に居眠りしちゃうなんて、らしくねーぜ?」
ハッカ「フェンネルに迫る悪意の炎。……不燃の魂術、恐るべし。肉体年齢の操作は、この耳に聞き及んでいたものより厄介なモノなり。」

次回『燃える魂と燃えない魂 その①』
ローリエ「絶対見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽



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第84話:燃える魂と燃えない魂 その①

こんばんちわ、MIKE猫でございます。
今回から、とうとうドリアーテ戦が始まります。まずは――『戦場 戦慄』このbgmと共にどうぞ。

“因縁の対決…第一戦は、防戦だった。なにせ、仲間を守るために突発的に起こったものだったから。”
 …ローリエ・ベルベット著 自伝『月、空、太陽』
  第9章より抜粋


 突然だが、人が「青鬼」―――ゲームに出てくるあの青鬼だ―――を恐れる理由が何か聞かれた時、さっと答えられるだろうか?

 大きいから?デザインが気持ち悪いから?足が速いから?表情を変えずに一定の速さで襲ってくるから? ……それらの意見も間違ってないだろう。だが、その答えに「全身が青いから」というものもある……と言われたなら、納得できるだろうか?

 そもそも、自然界に『青色』が存在しない―――といっては言い過ぎだが、珍しい部類なのだ。「そんな訳ないだろう、青い蝶や鳥やクラゲもいるじゃあないか」と思う人もいるだろう。だが、それは鱗粉や羽、水が光の中の青だけを反射させているだけなのだ。茹でると殻が真っ赤になるエビやカニもその最たる例だろう。『純粋に青い色素を持っている存在』が滅多にいないからこそ、全身が青い異形に『コイツは何かが違う』と感じるのである。

 

 ―――さて、初っ端から盛大に脱線してまで何が言いたかったのかと言うと。

 人は、本来ありえないものを見ると多かれ少なかれ本能的に恐怖する、ということだ。

 

 

「させるか、ハッカちゃん!」

 

「無論! ドリアーテ、覚悟!!」

 

 

 …それは、例えるなら、船を漕ぎだしたフェンネルに歪んだ笑みを浮かべて炎を放とうとしている幼女、とかだ。まだこの世の常識を分かり切っていないような年齢の幼女が、無邪気さの一切ない、悪意100%で人に炎をブチ込もうとしている様子を目の当たりにして、異常を察知しない方がおかしい。

 

 だが、俺は流石にその異常事態に心当たりがあったため、すぐにハッカちゃんに合図を送り、すぐさま行動に移ることができたし、ハッカちゃんもすぐに動かなければマズいと察してくれたから同様に対応できた。

 魔法符から放たれた魔法と拳銃から放たれた弾丸がそれぞれ幼女に直撃し、爆炎を上げた。

 

 煙が晴れた時、そこにいたのは幼女ではなく、炎に身を包んで再生を完了したらしきドリアーテの姿だった。

 

 

「チイィッ!間の悪い虫ケラ共があッ!!」

 

 

 『不燃の魂術』の特性は知っていたが、まさか自分の肉体年齢を5歳まで巻き戻してここまで忍び込んでくるとはな。

 俺達はアルシーヴちゃんへの道を進みながらドリアーテを探していたが、まさかビンゴが出るとはな。ここで会ったが百年目というやつだ。ここで食い止めてみせる!

 

 

「―――っ!!? 貴様、一体どこから…」

 

「フェンネル、油断大敵」

 

「は、はい!!」

 

 ドリアーテへの攻撃が当たると同時に、フェンネルが目を覚ましたのか、ドリアーテから距離をとる。だが、まだ何かを探している様子だ。

 

「どうした?」

 

「…先程までいた幼い女の子が見当たりません! 一体どこに―――」

 

「目の前にいんだろーが」

 

「え?」

 

「構えろ。ボケっとしてたら死ぬぞ!!」

 

 呆気にとられ、棒立ちになっているフェンネルに喝を入れた直後、真っ黒な炎が飛んでくる。

 フェンネルを突き飛ばして、俺も回避したことでかろうじて直撃は免れたが、アイツはまだ目の前で起こっている事が信じられない様子だ。

 

 

「まさか……さっきの女の子は、ドリアーテだったというのですか……!?」

 

「そうだ。見たぜ? 5歳児らしからぬ殺意でお前を燃やそうとしてたの」

 

「まさかとは思ったが……57号は死んだのか…………本当に使えない子供だ。あれだけ手塩にかけて育てたのに、誰一人殺せずに死ぬとは。

 無能の屑がこの世で一番嫌いだと言って聞かせたのに…これだから役立たずは嫌いなのだ……」

 

 

 おいおい、何を言いだしてんだ、ドリアーテは?

 57号……ってのは多分、話の脈絡からして、俺達が頂上の街で戦った無表情の少年のことだよな?

 この女、本当にあの子供を道具扱いしてやがったのか。

 

 

「お陰で―――私の手間が増えるではないか」

 

 

 心底腹立たしげに、かつ呆れ果てたようにそう呟く。

 この世の全てを呪うかのような緑色の瞳がこちらを射抜くやいなや、今度は真っ赤な炎の弾丸――いや、ネズミの形をした炎の群れが、ところ狭しと地を這いながらこちらに迫ってくるではないか!

 

「『ブレイズ・ラッツ』……前座に付き合っている暇はないのだ。まとめて死にたまえ」

 

「お前はここでコンティニュー出来なくなるけどな!!」

 

「然り。死ぬのは貴様のみ」

 

「アルシーヴ様の命です。ここから失せなさい、ドリアーテ」

 

 しかし、それらに臆しはしない。俺とハッカちゃんは覚悟を決めていたが故に、フェンネルは一度ドリアーテと戦っているが故に、迫りくる炎に対処する。

 魔封剣『サイレンサー』とレイピアで襲いくるネズミを切り裂き、月の魔法がネズミ達を弾き飛ばす。

 

 だが、炎のネズミをおおかた処理し終わった頃には、ドリアーテが次の攻撃の準備を終えていた。

 

「ギガントフレア!!」

 

 オッサンと一緒に戦った時に見た巨大な火の玉だ。

 俺は、水の魔力が籠った弾をパイソンに装填し、火の玉に照準を向ける。

 

水纏(すいてん)降魔(こうま)―――魔光衝符(まこうしょうふ)!!」

 

 ハッカちゃんが水属性にチェンジして魔法符から水属性の魔法を放ち、炎の玉を相殺する。

 炎が消滅し、ドリアーテを目視できるようになって、そこで引き金を引いた。

 バァン! と鳴った音と共に、弾丸はドリアーテの右肩に寸分違わずに命中した。

 でも、アイツに怯む気配がまったくない。

 

水幻符(すいげんふ)白雨(はくう)】!!」

「ラーヴァ…!」

 

 続けた攻撃は、ハッカちゃんが室内に魔力の雨を降らせる。夕立のような、白く見える雨に対して、ドリアーテがその手から放ってきたのは………

 

 

「…溶岩だと!?」

 

 すぐさま水属性弾を放つも、真っ赤になったドロドロに吸い込まれただけ。効果が薄い……!

 その時、異変を察知して属性変化をしたのはハッカちゃんだった。

 

風纏(ふうてん)ノ降魔―――風幻符(ふうげんふ)黒風(こくふう)】!!」

 

 風属性の暴風に、さっきまで勢いよく迫ってきていた溶岩の色がくすんで、真っ赤から黒くなっていく。どうやら、溶岩は固まったようだ。

 そうか。溶岩は溶けた岩と書く。土属性の魔力で生み出せてもおかしくない。だが、今のハッカちゃんはマズい。風属性の炎属性への耐性は最悪だ。今ドリアーテの攻撃が来たら……!!

 

 

「ハッカちゃん! 今すぐ水属性に―――」

「甘いわ! 死ねェ!!」

「―――ッ!! アイスバラージ!!!」

 

 

 咄嗟にハッカちゃんの前に躍り出て、すぐに両手拳銃で水属性弾を一斉掃射。

 氷の刃となった弾丸は、襲い掛かる黒い炎をかき消していき、ドリアーテにまた傷をつける。

 だがこれは防御技じゃない。撃ち漏らしが二人に迫ってきて………

 

 

「―――はっ!!!」

 

「……!」

 

 

 フェンネルの魔力の盾に弾かれた。

 

 

「…ローリエ。コレで貸し借りナシですわ」

 

「何言ってやがる……さっき寝落ちから救っただろーが」

 

「口答えしない!前を見る!!」

 

 

 フェンネルに助けられた実感がわかないまま、フェンネルの月の魔力を纏った突きがドリアーテを抉った。

 俺はすぐさまドリアーテに一発ブチ込むと、ハッカちゃんを見る。

 ………よし、怪我とかはないな。

 

 

「いけるか?」

 

「肯定。先程は助かった、ローリエ」

 

「相手は不死身のバケモンだ。ペース配分は慎重に、なっ!!」

 

「了解! 水纏ノ降魔―――水幻符【白雨】!」

 

 

 再び夕立が降り始める。ドリア―テは鬱陶しげに俺達を見つめ、再び溶岩を生み出そうとする。

 だが、同じ手が二度も通じないのはお互い様だ。すぐさま、イーグルに一発、弾丸を込めて放った。

 

 

「ぐっ!? …小癪なマネを―――」

 

「隙だらけです!」

 

「があっ!!?」

 

 

 放った弾は、ドリアーテの手に当たり、溶岩の発生を阻止した。その時に生まれた隙にフェンネルが斬りこむ。

 さっき撃ったのは風属性弾だ。ドリアーテ本体に対するダメージはほぼないが、土属性魔法の溶岩攻撃の発生を防ぐことくらいはできる。さっきハッカちゃんが溶岩を風属性魔法で固めたのとほぼ同じ原理だ。

 

 

「ローリエ。今後の戦況、如何するか?」

 

「そうだな…………」

 

 ―――イイ感じに戦えている、ように見えるだろうか?

 だが答えは否だ。相手は不死身で体力も無尽蔵。HP∞の敵と戦ってるようなモンだ。クソゲーもいいところである。というかクソゲー以下だ。

 このままでは全員力尽きるのは目に見えている。だから、きららちゃん達を待ちながら、コイツをアルシーヴちゃんが待つ部屋に押し込んでアルシーヴちゃんにも参戦してもらいたい。彼女は消耗しているから、きらら一行の合流とアルシーヴちゃんの合流をほぼ同時にするのがベストなんだが。

 

「……今は時間稼ぎしかない。きららちゃん一行が来るのを待つか、戦いながらアイツをアルシーヴちゃんの元へ移動させるか…」

 

「アルシーヴ様は疲弊中。危険な彼の者を相手にすることに懸念あり。」

 

「俺の()()()はココで使う訳にはいかない。一発目を当てたら二発目を当てるのが格段にムズくなる。

 アイツの倒し方は今んところ一つしかない。それがヤツに悟られたら終わりだ」

 

「……………。」

 

 

 …実は、オッサン・フェンネル・きららちゃんと一緒に初めて戦った時、不死身を倒す方法を色々試したと言ったが、あの時には試せなかった方法はある。そしてそれは、不燃の魂術のメカニズムをある程度予想できる今なら、確実に使えるだろう方法でもある。

 今それをやらないのは、できないからだ。この作戦の要は………まず、ランプ。そして、ソラちゃん。後は、俺。俺しかいない今の状況では、この手は使えない。

 

 である以上、俺達にできるのは時間稼ぎしかないんだけど………

 

 

「『ヒートウィンド』……『ブレイズ・ラッツ』」

 

「同時発動……っ!! そんなんアリかっ!?」

 

炎纒(えんてん)ノ降魔―――宿星桔梗印(しゅくせいききょういん)却火(きゃっか)!!」

 

 

 それがめちゃくちゃキツい。

 この前は本気を出したオッサンがいたからなんとかなったんだろうが………今回は防戦一方だ。

 どれだけあのオッサンが規格外だったかが伺える。

 

 

「……オッサンが来てくれりゃあな…!」

 

「オッサン…?」

 

「ナットという、大地の神兵のことですわ。今は引退済ですが!」

 

「…無い物ねだりの余裕なし。」

 

「知ってるよ!!」

 

「ふざけた真似を……前座ごときがこの私の足を引っ張るな!!!」

 

 

 心が折れないように軽口を叩きあう。

 それすらも気に入らないのかドリアーテの魔力が増していく。

 

 

「どこまでも…どこまでも私の邪魔ばかり…!

 足を引っ張る事しかできないゴミクズが、いい加減にこの世から消えろ!!

 この私を苛立たせた罪は…その命で償ってもらうぞ! 消え失せろカス共が!!!」

 

 言ってる事も集まる魔力も滅茶苦茶だ。

 というか、コイツこんな力を隠し持っていたのか!!?

 咄嗟に魔法弾を二丁拳銃で撃ちこむ―――が、全く止まる気配がない!!

 

 

「やっべェ……!」

 

「ッ…!! ガーディアン―――」

 

驟雨塁壁(しゅううるいへき)……天岩戸符(あまのいわとふ)……!!」

 

 

 リフレクタービットにフェンネルとハッカちゃんのバリアが多重展開され。

 

 

 

「ティタノマキア!!!」

 

 

 ―――次の瞬間、すさまじい轟音と共に目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「―――はっ!!!!」

 

 

 気が付くと俺は、空を見上げていた。

 起き上がって辺りを見回してみる。

 

 

「身体は無事か……で、ここは一体…?」

 

 

 下は神殿の床ではなく、切りそろえられた草で。背中側に石でできた壁があり。

 正面には……見慣れた神殿が。だが、それだけじゃあない。

 

 

「…あの技、ティタノマキアだったか……で、ここまで飛ばされた、ってか…?」

 

 

 俺が目覚めたのは、神殿の入り口だった。さっきの爆発?で、ここまで吹っ飛ばされたのだ。

 バリアがあってよかったぜ。なかったらと思うとゾッとする。多重展開したバリアの数々があってなおこれだからな。

 よく見ると、神殿は全体の3、4割くらい天井や壁が吹き飛んでいた。

 あの威力でこれくらいで済んだ、と思うべきか。それともここまで被害が出た、と考えるべきか。

 いや、それよりも、だ。

 

 

「……フェンネルもハッカちゃんもいない……俺同様吹っ飛ばされたか?

 G型は……だめだ、半分くらい映らねぇ…さっきのでダメになったか」

 

 

 残った半分にも、探している人は映っていない。

 ……してやられた。まさか、あんな手札を持っていたとは。エクスプロウドだけに注意が向いてて、他の超強力な魔法の可能性が抜けていた。……厳密にはそれなりに対策を練っていたが、こうなったら言い訳にしかならん。

 

 一本取られた俺は、すぐさま次の手を打つ。

 通信機を手に取り、とある人物を呼び出す。

 

 

『ローリエさん!無事だったんですね! ところで、あの、さっきの爆発は……?』

 

「ドリアーテが隠し持ってた手札だ。アイツ、神殿の奥まで潜んでいる」

 

『そ、それなら急がないと……!』

 

「アリサ、状況はどうだ?」

 

『セサミさんとソルトさんの()()はさせました。シュガーさんはまだセサミさんにおぶさってます。あとはカルダモンさんだけ……ですよね?』

 

「あぁ。余裕があればフェンネルとハッカちゃんも探してほしい。きっと生きているはずだ」

 

 

 はい、とアリサの元気な返事を確認して通信を切る。

 あの二人も、どこかに吹き飛ばされている筈だ。というか、彼女達を重点的にリフレクタービットで防御した。俺が五体満足で神殿の外まで飛ばされた事を考えると、神殿内のどこかで生きている可能性は高い。

 

 ……俺も急がないと。ドリアーテとアルシーヴちゃんが出会ったらどうなるか分からない。

 

 

「最短ルートは………っと!!!」

 

 

 最短ルートを検索しながら、ダッシュでアルシーヴちゃんの部屋まで向かう。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「「「「「「「「うわあああああああっ!!?」」」」」」」」

 

 

 ドリアーテが『ティタノマキア』を放ったのと同じ頃。

 きらら達一行はアリサと別れ(曰く「戦力を調達してきます!」とのことだった)、クリエケージのある大広間へ辿り着いたその時、未曽有の暴風圧に襲われたのだ。

 マッチやノノのマツコは、吹き飛ばされないように近くの人にしがみつくだけで精一杯だ。もちろん他の少女たちもただでは済んでいない。

 

 

「な、なに今の!?」

 

「前から突風が……あっ…」

 

「扉が壊れてるじゃない!?」

 

 

 きらら達は気付く。さっきまで目の前にあったはずの大広間への扉が壊れ、中が丸見えになっていることに。そして、奥にクリエケージがあることに気付き、更に……

 

 

「あの檻って……!?」

 

「だれ、あの人?」

 

「……なんだ今のは? とんでもねぇ暴風だったが…あ~あ、ドアが壊れちまってら。後で直さなきゃ………お?」

 

 

 八賢者・ジンジャーとも目が合った。

 きららは、すぐさま戦闘態勢――きららが前に一歩踏み出すだけだが――をとるも、ジンジャーに声をかけられた。

 

 

「…成る程。良い覚悟の目だ。アルシーヴやローリエに及ばねぇがな。」

 

「あ、あれ…まさか、獅子を憑依しているの?」

 

「これは生まれつきだよ。さて……きらら。初めて会った時よりも強くなったな。私にはわかるぞ。」

 

「……ありがとうございます。」

 

「あの時はクリエメイトを守るために戦っていたな。今はどうなんだ? 何のために戦っているんだ?

 私に挑まれたからか? やっぱり、クリエメイトを守るためか? ……それとも、何か違う理由でもできたか?」

 

「……ソラ様の呪いを解き、ドリアーテを止めるためです。」

 

「―――は?」

 

 

 何故戦うのか、というジンジャーの問いに、ローリエの部屋で知った真実を元に定めた心の内を正直に話すきらら。

 だが、ジンジャーは「ソラが呪われていること」を知らない。

 理解できなかったと思ったきららは続けた。

 

 

「ソラ様を呪ったのは、ソウマさんという人だったそうです。ですが、彼は妹さん…アリサさんを人質にとられ、やむなくソラ様を呪いました。そして………ソウマさんを脅して呪いをかけさせたのがドリアーテです。

 そしてアルシーヴさんは、ソラ様の呪いの進行を止めるためにソラ様を封印しました」

 

「…………」

 

「ソラ様を封印して、エトワリアを滅ぼそうとするドリアーテを許すわけにはいきません。私が戦う理由は……ソラ様と、この世界を救いたいからです!!」

 

 ジンジャーは絶句するしかなかった。

 ソラの体調不良が、実は呪いにあって、しかも呪いの進行を止めるために封印をしたなど、信じられるわけがない。……証拠がないなら、尚更だ。

 

「………ソラ様が呪われたって、証拠はあんのか?」

 

「ローリエさんの部屋にありました。ソラ様が呪われた事、ソウマさんが罪を告白する動画、ビブリオやセレウスとドリアーテとの繋がり………それら全部が、あそこに」

 

「あの野郎………」

 

 

 ジンジャーは、事が終わったらローリエをタコ殴りにしてやろうと心に誓った。

 あいつ、全部分かって、黙ったまま自分に『きららと戦うな』と頼んだな、と思ったからだ。

 

 また、クリエケージの番を頼まれた理由も理解してしまった。ソラの呪いを解くために大量のクリエを必要としていたのならば、納得がいった。

 

 自由すぎる同僚に呆れ果てたジンジャーは、話題を逸らすため、今度はランプに話しかける。

 

 

「……ランプ。お前はどうして、アルシーヴを止め――いや、違うな。

 こう聞いた方が良いな。ランプ―――お前は一体、どうしたいんだ?」

 

 

 ここで「わからない」などと答えようものなら、ローリエとの約束を破る、という勢いでランプに問う。

 ジンジャーの問いを受けたランプは、いくばくか動きを止めてから、手元の紙にペンを走らせていく。

 

「………筆談? なんで…」

 

「ついさっきね、ランプはショックで声が出なくなったんだ」

 

「そ、そうか…悪い。…で、答えはなんだ?」

 

 ランプは、書き終わった答えをジンジャーに見せる。

 

 

『わたしは、ソラ様を助けたい。

 確かに、アルシーヴ先生がソラ様のために封印したと知った時は、ショックで声が出なくなりました。

 でも、呪われているのは事実です。だったら、わたしがどうなってでもソラ様を助けてさしあげたいんです!!』

 

「……………わかった。」

 

「………!」

 

 

 ランプの赤裸々な想いが書かれた紙を懐にしまうジンジャー。

 深呼吸をひとつして、彼女が下した意志を告げた。

 

 

「どうりであいつ、本気の覚悟を持っていたわけだ…」

 

「本気の覚悟……?」

 

「あぁ。私の背負っているものよりも大きいものを背負っていることは薄々分かっちゃいたが……ソラ様、ひいてはエトワリアの未来を背負っていたとなったら納得がいく。

 女神は聖典を生み出せる唯一の存在だ。そんな人が殺されたとあっちゃあ、聖典も世界の情勢もメチャクチャだ。

 筆頭神官として、それだけは避けたかったんだろうな」

 

「「「…………」」」

 

「いざとなったら……いや、十中八九お前らはそんな覚悟を背負うことになる。

 ……できるのか? あいつの覚悟を背負うことが。」

 

 

 アルシーヴの覚悟の源を理解したジンジャーは告げる。

 彼女もまた、違う形でとはいえ、女神ソラとエトワリアを訪れた危機から救うために動いていたのだ。

 きららの考えている事は、『コール』でクリエメイトを呼ぶことだが、それでもアルシーヴとぶつかる可能性は高いだろう。

 だが、ジンジャーは既に決めていた。ローリエとハッカが提案した『賭け』に乗ることを。

 

 

「出来ねぇんなら今すぐクリエメイトを渡して帰れ―――と言いたいトコだけど。」

 

「「「「「「「「……???」」」」」」」」

 

「ランプ、お前、日記帳書いてるか?」

 

「…?」

 

 ランプは、質問の意図が分からぬまま、ジンジャーの質問に首肯する。

 

 

「いやな、とんでもねぇーバカがよ、お前の日記が聖典になるなんて言い出すから、期待しちゃってな」

 

「「「「「「「!!!?」」」」」」」

 

「私も落ちたモンだよ。なにせ、ハッカも賭けてるからって理由だけで、私もその賭けに乗っちまったんだから」

 

「じ、じゃあ………!!」

 

「援護してやるよ。流石にアルシーヴ相手の説得は無理だが、ドリアーテには何発も拳ブチ込みてぇ気分なんだ」

 

 

 ジンジャーが、人の良い、爽やかな笑みを浮かべた。

 それを向ける事は、今ここできららとジンジャーが戦い合う必要がなくなったことを意味していた。

 

 

「ジンジャーさん……ありがとうございます!!」

 

「お礼なんか言うんじゃねぇ。私が今からやるのは『サボり』だ。怒られこそすれ、感謝されるような事じゃあねえよ」

 

 ジンジャーは大広間の隅に寝転がり、眠るフリをした。ローリエのお願いを最大限汲み取った形だ。

 後はクリエケージを破壊するのみ……となった時、きららはぽつりと口にする。

 

 

「でも……どうして、ドリアーテはエトワリアを滅ぼそうとするんだろう…?」

 

「きらら……気になるんなら、今ハッキリさせといた方が良いぞ」

 

 意外と耳のいいジンジャーがきららの呟きを拾い、千矢もなるほどという顔をする。

 

「そっか、それできららは悩んでたんだね」

 

「千矢さん、気づいていたんですか?」

 

「なんとなく、だけどね。

 さっききららが一瞬、うーんってなってたから。」

 

 とてつもなくふわっとした理由。だが、それでいて千矢らしい『野生の勘』だった。

 きららは、そんな千矢の野生の勘を聞いて、一人で悩んでいた事を明かす事にした。

 

 

「ランプ、あと…皆さんも。少し聞いてほしいんだ。

 確かに、『オーダー』は止めなくちゃいけないし、クリエメイトの命を狙うのも許せないよ。でも、ドリアーテもアルシーヴみたいに理由があるのかなって思うんだ」

 

「そ、そうかしら……?」

 

「私は、アルシーヴがあんな理由で『オーダー』をしているなんて知らなかった。

 ドリアーテについては、目的どころか正体も分かってないし、やってる事も許せない……けど。

 またアルシーヴみたいに大切な理由があったらどうしようって思うと……どんな気持ちで戦えばいいか、わからなくなりそう―――」

 

「―――それなら、そのドリアーテさんに聞けばいいんじゃないかな?」

 

「千矢さん……」

 

「ドリアーテさんに会った後で、どうしてこんなことしたんだーって聞けばいいんだよ。」

 

 

 きららの、再び迷いそうな悩みに千矢が答える。

 それは実に千矢らしい、正直な答えだった。……だが、今回はだいぶ相手が悪い。

 

「…本気で言ってるのかい、千矢? クリエメイトや僕らを亡き者にしようとした人物だぞ?」

 

「大丈夫。話してくれるまで粘ればいいんだから。」

 

「は、話してくれるまで……?」

 

「悪いことをしてきたら、それを止めながら粘るの。

 それで、マッチの言うように悪い理由だったらめーってすればいいんだよ。

 なんだったら私も一緒に聞いてあげる!!」

 

 マッチはこれまでのドリアーテの行動を指摘するが、千矢は明るくそう続ける。

 確かに、ドリアーテの所業は許せる範疇をとうに超えている。しかし、きららはアルシーヴのように重大な事情を抱えている可能性を捨てなかったし、千矢は眩しいくらいに相手を信じている。

 

『そんな可能性は、考えてませんでした。

 ドリアーテがソラ様を害した理由…確かに、それも知りたいです。

 きららさん、その為に一緒に戦ってくれますか?』

 

 

 千矢の言葉を受け、ランプもこう書いた紙をきららに見せている。

 ランプの言葉に「もちろん!」と答えるきららを見て、これにはマッチも折れるしかなかった。

 

「やれやれ……わかった。でも、相手が危険なのも事実だ。命は大切にしようね。」

 

 もう迷わない―――そう決めたきらら達一行。

 この先に待つのは、果たしてまだ見ぬ真実か、それとも底なしの悪意か。

 それが分かるまで………もう、あとすこし。




キャラクター紹介&解説

ローリエ&ハッカ&フェンネル
 ドリアーテとの戦い―第一陣―に参戦したメンバー。ただ、今回は決定打に欠け、ドリアーテの『ティタノマキア』によって各員バラバラに吹き飛ばされ撃退されてしまい、神殿の最終決戦(予定)地から距離を離されてしまう。だが、その程度で諦める八賢者は誰もいない。

ドリアーテ
 幼女に化けていた不燃の魂術の使い手。前回あんなに泣きわめいていたのは演技で、フェンネルを眠らせて始末しようとしていた。そこにローリエとハッカの邪魔が入り、きらら達の健在も知って57号がしくじった事を察して怒りを爆発(文字通り)させた。

ジンジャー
 原作とは違い、きらら達と戦わなかった八賢者。ローリエからドリアーテの事情とお願いを聞き、偶然とはいえきららから女神ソラの封印事情を聞いてローリエ側につくと心に決めた。それはそれとして、今回のゴタゴタが全部片付いたらローリエをしばき倒そうと考えている。

じんじゃー「てかきららからソラ様封印の事聞かせるのも全部計画のうちだったろ!?」
ろーりえ「計画通り……!(そ、そんなことないよー)」
じんじゃー「よし覚悟しとけこの野郎」
ろーりえ「建前と本音間違えた…」

きらら&ランプ&千矢
 ジンジャーと戦わずに済んだことで、体力を温存できた召喚士とそのご一行のうち、「ドリアーテがどうして今までの凶行に及んだか」を考え出しているメンツ。ドリア―テのやってる事はどす黒いくらいにクロ100%だが、彼女たち視点では知らない事も多く、特に千矢はお人好しも度を超すレベルで人を信じている。その様相は某欲望の王ライダーを彷彿とさせるが、きらら漫画のメインキャラはほぼ全員お人よしなため、多かれ少なかれ適性はあると思われる。

ちや「えーっと、(キツネ)のメダルと、小梅(ネコ)のメダルと、ノノ(タヌキ)のメダルで……なにコンボ?」
鳥系グリード「………………」



△▼△▼△▼
きらら「アルシーヴさん…ソラ様が呪われたって本当ですか?」

アルシーヴ「ッッ!!!? な、なぜそれを知っている!?」

きらら「私は、もう迷いません。ソラ様を救うため、ドリアーテを止めるため、アルシーヴにそう問いかけました。」

アルシーヴ「…だが私にも矜持はある。今までの努力を無駄にするわけにはいかん。そう答えようとした時、意外な人物が現れる……!」

次回『燃える魂と燃えない魂 その②』
アルシーヴ「次回もお楽しみに。」
▲▽▲▽▲▽


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第85話:燃える魂と燃えない魂 その②

ブライダル・オア・ヘルのイベントでランプが自分自身の欲望と戦う展開を見て思いつきました。

~~~~~~~~
欲望『君は僕には勝てない。だって僕は…君の欲望なんだから。さぁ……証明しようか! 君に茨の道など歩けないことをね―――変身!』

【プテラ!トリケラ!ティラノ!(CV.高野麻○佳)】
【♪プ・ト・ティラーノ・ザウルゥース!!】

らんぷ「あなたには負けません!!負けるわけにはいかない!!」

そら「……ローリエ?」
ろーりえ「何で秒で俺を疑うの?」
そら「貴方なら知ってるかなって」
ろーりえ「知らないよ。アレがオーズっていう欲望の王の力を継いだ仮面ライダーだとか、3枚のメダルを組み合わせて変身するとか、プトティラコンボっていう超強力だけど危険なコンボの詳細とか、俺が知るワケないでしょ」
るっきー「めっちゃ博識じゃないの」
全員「「「「「「……………」」」」」」
ラジオ『聞いてください「POWER to TEARER」』

~~~~~~~~



 ―――はい。というわけでついにきらら達がアルシーヴちゃんの元へ辿り着きます。今回の推奨BGMはコレです『Dirty&Beauty』……クイン・セクトニアのように美しくもおぞましく汚れた本性を持つドリアーテの正体とは一体………!?

“ソラ様の部屋で、私の目的を言い当てられた時。体が芯から冷えていく感じがしたんだ。後になって裏切られたなかと思ったんだぞ!”
 …アルシーヴ
  ローリエに対して


 きらら達は、女神ソラ封印の経緯を話し、ドリアーテを止める事をジンジャーに話した結果、彼女の援護を取り付ける事に成功した。

 

 クリエケージを破壊し、千矢達迷路町のうららを元の世界へ戻した後、きらら達は先へ進もうとする……のだが。

 

 

「なに、これ………」

 

「通路がメチャクチャだ…ここで何があったというんだ……?」

 

「これは………炎、か?ところどころが焼けていやがる……!?」

 

 

 大広間から女神ソラの部屋へ向かう通路。

 それが、めちゃめちゃになっていた。

 石畳が高熱により融解・ガラス化しており、壁や天井もほぼ全壊で外の光景が丸見えだ。他の部屋はどうにか無事なようだが、元がどこにでもある神殿の廊下だというのが信じられない程に変わり果てていた。まだ庭のガラス通路と言った方がそれっぽくなっていた。………もっとも、瓦礫や地面の抉れでそれどころではないが。

 

 

「…ドリアーテだ」

 

「なんだって?」

 

「これ程の規模の破壊の痕……きっとドリアーテがやったんです! 八賢者の皆さんやアルシーヴはこんなことする理由がない。ドリアーテが戦ったんだと思います…!」

 

「これをドリアーテがやっただって……!? なんて奴だ…!」

 

 

 きららは、すぐにこの惨状を引き起こした張本人を推測した。神殿側には、ここまで本拠地を破壊する理由がない。よって、ここに来ているであろうドリアーテの仕業だと言った。マッチも、神殿のいち廊下をここまで様変わりするほど暴れられるドリアーテの実力に恐怖が漏れる。

 

 しかし、ここで二の足を踏む時間もない。

 ジンジャーは、ここに通路の番のフェンネルと先へ進んだローリエ、ハッカがいない事を懸念していた。つまり、ドリアーテと戦ったのはその3人であって。最悪の可能性を頭に入れながらも、アルシーヴの身の危険を察知して先に進まなければならないという使命感に駆られていた。

 きららもまた、ドリアーテを放っておく理由はなかった。アリサを盾にソウマを、エイダを盾にナットを脅迫した他、数々の刺客を送り自分たちの命を狙ってきた。このままドリアーテを放置していたら良くない事が起こるのは明白だ。故に、一時は敵対していたとはいえアルシーヴを狙われる事を良しとしていない。ましてや、真実を知った今なら尚更である。

 

 

「ジンジャーさん、行きましょう」

 

「…あぁ。行こうぜ」

 

 なお、ジンジャーは最悪な可能性をきらら達に伝えていない。戦意喪失の危険性があったし、決定的な証拠がない以上どこかで生きてると信じたかったからだ。

 

 

 

 神殿深部、女神ソラの部屋。

 ……ついに、とうとう、ここまで来た。

 

 きららは村にいた頃、こうなるなんて思ってもみなかった。

 でも、ランプとマッチと出会った日から、全てが変わった。

 自分に、伝説の召喚魔法『コール』の使い手である召喚士の力があったこと。

 そこから始まった、神殿への旅。その道中で『オーダー』されてしまい……それでも、出会うことのできた、クリエメイトの皆との交流。

 決して楽な事はなかった、八賢者達や、ドリアーテとの刺客との戦い。

 色んな事が、頭の中をよぎる。

 そして―――今。

 

 

「……この扉の奥に、アルシーヴがいるんですね」

 

「あぁ。間違いねぇ。きらら……分かってるな?」

 

「はい。アルシーヴさんの事は、私達だけでやります。

 もしドリアーテが出てきたら、お願いします」

 

「おう。……行ってこい」

 

 

 ジンジャーに肩をたたいてもらい、背中を押してもらう。

 隣では、不安そうにランプがきららのローブを掴んでいる。言いたいことは書いてきてあるけど、それを見てもらえるかは分からない。声の調子が戻っていない以上、喋れないことは分かっているが、言いたいことを言えないもどかしさが伝わってくる。

 

 

「…大丈夫だよ。ランプのぶんまで、私が話すから」

 

「―――!、―――」

 

 小さな相棒の声の出ない唇が、「ありがとうございます」と動いたのを確認して。

 召喚士一行は、扉を開いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 八賢者は倒れ、オーダーも打ち破られた。

 先ほどの爆音が鳴りやんでしばらく、沈黙が続いていた。

 

「…ソラ。ローリエはよくやっているよ」

 

「…………」

 

 当然、この手で封じた親友が答える訳がない。でも、止まる事は無い。

 

「ユニ様の死の真相をも暴き、ドリアーテの配下を次々と下し、そして今は、ドリアーテ本人の正体に迫っているんだ…」

 

 ユニ様が本当にドリアーテに殺されたと知った時は衝撃だった。そして、その事実をローリエが見つけてきたことにも。八賢者達の前で平静を装うのに精一杯だったんだぞこっちは。まったく人の気も知らないで……だが、あいつが成果を上げているのは事実だ。

 

 対して、私はどうだろう?

 ソラを封印する事しか出来ず、決死で行ってきた『オーダー』も、すべて打ち破られてしまった。

 ソラを救うために行ってきた事全てが徒労に終わり、私の命も尽きかけてきている。

 これでは……これでは、二人に…合わせる顔がないじゃあないか!

 

 

「せめてこれだけはやり遂げるよ……私は、為すべきを為す」

 

 

 何も為せなかった私でも、たった一つでも為し遂げることができれば、二人に誇れる友になれるだろうか? それなら、この身がどうなろうとも………

 

 

 

 バァァン!!!

 

「!」

 

 

 突然、ドアが乱暴に開かれた。見ると、そこには案の定というべきか、召喚士きららとランプ、そしてマッチが立っていた。………あと一人、誰かの気配がするが、どうも入ってくる様子はない。

 

 

「…………来たか。」

 

 

 ランプなら「ソラ様から離れなさい!」とキーキー騒ぎそうなものだが、不思議なくらいに静かだ。

 そしてきらら……召喚士は、良い目をしている。山道であった時とも、フェンネルを迎えに行った時とも違う。

 

 もはや、衝突は不可避だろうな。ならば……

 

 

「アルシーヴ、貴方に聞きたいことがあります」

 

「……何?」

 

「私達は、最初はただあなたを倒してソラ様を救う事だけを考えていました。

 でも……クリエメイトの皆さんや、他のさまざまな人たちと出会って…思ったんです。

 どうして…ランプの先生であるあなたはこんな事をしたんだろうって。

 貴方の口から教えてください。―――どうして、ソラ様を手にかけたんですか? 禁忌である『オーダー』に手を出してしまったんですか?」

 

 

 ……ふむ。

 どうやら、何も考えていないわけではないみたいだな。流石、八賢者全員を退けただけはある。

 だが私は、ドリアーテを倒して、ソラ様を呪いから解放しなければならないのだ。その為に為すべきことを今までやってきたつもりだ。その「為すべき事」の中には、この騒動で起こった事の責任をすべて背負う事も含まれている。

 

 

「………答える必要など無い。」

 

 

 だから、こう言うだけだ。

 私の答えに、ランプは地団駄を踏み、召喚士は息を吐く。話し合うことなど不可能だ。

 

「…やっぱり、答えてくれないんですね。」

 

「当然だ。お前達には関係のないことだからな。」

 

 女神ソラ様が呪われたなど、エトワリアを揺るがす大事件だ。たかが『コール』に目覚めたばかりの村娘や、私の生徒に教えるには……この真実は重過ぎる。

 私はクリエを手に入れ、ソラを救う。それが達成されるまで、私は倒れる訳にはいかない。

 お前たちがそれを阻むというのなら、全力をもって―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()聞きたかったですが……仕方ありません。

 ―――()()()()()()()()()()()()()()

 

「――――――は?」

 

 

 ま、待て…………ッ! 今、こいつは何と言った…!?

 

 

「クリエが減っていく呪いを受けたから……呪いの進行を止めるために、封印したんですよね? …ソラ様の命を繋ぎとめるために。

 そして……呪いを解く方法が、『大量のクリエを使う事』。ソラ様の聖典が機能しない以上、クリエの調達は必要だった……」

 

 なぜそれを知っている。いつ、どこで、どうやって―――そんな事を知ることができた!!?

 知っているはずのない人物から、知っているはずのない事実が………次々と述べられていく。

 私の…「それ以上話すな」という、恐怖と焦りとが入り混じった混乱した思いとは裏腹に。

 

「私達は……ついさっき、この真実を知りました。

 信じられなくって、受け入れがたいコトだったけれど……それでも、ここまで来ました」

 

「なぜだ…」

 

「私達の進む理由が、目的が、変わらなかったからです。

 それは……たった一つのシンプルな願い。

 『目の前で困ってたり苦しんでたりしている人達を救いたい』

 それだけの為に動いていたからです」

 

「――――――」

 

 

 堂々と、そんなことを言ってのける召喚士に。

 私は………とうとう、というべきか。堰が切れた。

 

 

「そんなものは私だって同じだ!!!」

 

「「「!!」」」

 

「ソラが呪われてから……様々な手を尽くした!!

 辺境の秘宝も、地下の財宝も…全部ダメだった!!

 呪いを解くには…もうこれしかなかった!!

 世界を乱すのは分かっている!だから私は……この責任を、全て背負うつもりだったのに…!!」

 

 

 …………気が付けば、洗いざらいぶちまけていた。

 筆頭神官として、エトワリアを治める長として、あるまじき行為だというのは分かっている。

 だが……そうせずにはいられなかった。

 

 知らなかったとはいえ、私の『オーダー』を全て無に帰したのだ。…いや、ここまでは私のみに非があるからまだ良い。私を止めようとしたことは、クリエメイトの身の危険を思えば当然のことだ。

 だが、事情はどうあれ真実を知ってもなお、私の前に立ちはだかるのは分からない。

 同じソラ様を救うためならば……どうして引かない!? 私の命が潰え、ソラ様がいま崩御なされたら……その先に未来がないのは分かっているだろうが……!!!

 

 

「お前たちがどうしてソラ様の呪いを知ることが出来たか………今はどうでも良い。

 だが……だったら分かるはずだ! 私は為すべきことを為す!! その為には倒れる訳にはいかないんだ!!!」

 

「『オーダー』をしてクリエメイトを集めたのは……ソラ様の呪いを解くクリエを集める為だった…」

「アルシーヴは、とても危険なギャンブルをしていたわけだね。」

 

「………そうだ。そして、私にはもう何度も『オーダー』を使う力は残されていない……できてあと一回分…それも、この命と引き換えに、だ…!」

 

「……『コール』じゃあ、いけないんですか?」

 

 

 召喚士が、そんなことをのたまう。

 無知だからか何かは知らんが、その提案は無意味だ。なぜなら。

 

 

「『コール』はクリエメイトの()()()()()を呼び出す魔法だ。

 『オーダー』のように、()()()()()()()()()を呼び出すわけではないから、そこからクリエを引き出すことは出来ない………!!!」

 

「そんな………!!」

 

 

 ようやく、事の重大さが分かったようだな。

 召喚士もマッチも、絶望が表情に見え隠れしている。

 だが、状況はもはや手遅れだ。

 

 

「再び呪いごとソラ様を封印することが出来るものはもはや誰もいない。

 私も、たび重なる『オーダー』の代償でクリエが削られている。今も、ソラ様の封印を保つことで精一杯だ。

 もはや……他に道はない。この私が最期の『オーダー』を行い…呼び出したクリエメイトからクリエを引き出す以外にはな」

 

「「「……………」」」

 

 

 下手に事情を知っていることを逆手に取り、私を止める気力を削ぐ。

 ドリアーテのような後顧の憂いを残す事は非常に不本意だし、二人の友人を悲しませるだろうが……もはや、これしか方法がない。

 それより前に成功していれば他にやりようもあったが……ここまで来てしまっては、この選択肢を選ばざるを得ないだろう。

 エトワリアの生ける命全てか、私一人か。

 天秤にかけるまでもない。私本人だとしても即決できる比較だ。

 

 

「分かったか? これまでの全ての責は私にあるのだ。責任を取るのは当然だろう?」

 

「………………」

 

 

 召喚士たちにそう呼びかけた時だった。

 さっきまで静かにしていたランプが、てくてくと私の元に歩いてきて、一枚の紙を差し出してきたのだ。

 

 

「これは………?」

 

『ソラ様に、お話したいことがあるんです。封印を解いてくださいませんか?』

 

 

 紙に書かれていたことを見て、私はため息をつく。

 まったく、話を聞いていたのか? ランプには、もう少し話をまとめる事を教えるべきだったか。

 どうしてわざわざ筆談なんて手段を取ったか詳しくは分からないが、厳しくさせてもらう。

 

 

「ランプ。お前は人の話をよく聞くことを覚えるべきだったな。

 今、ソラ様を失うわけにはいかない。その為の手段は、ひとつしかない。

 わかっている筈―――」

 

「いいえ………。そうとも限りません」

 

 

 だが、召喚士がその言葉を遮った。

 

 

「聖典が『女神が書いたクリエメイトの日々』ならば……まだ可能性はあるはずです。

 ……例えば、ランプがクリエメイトとの日々を書いた日記帳とかに!!」

 

「!!?」

 

 

 召喚士の提案に、私は目を見開いてたまげるしかなかった。

 ランプといえば、まだ女神候補生…修行の身だ。聖典など書ける訳がない。

 無茶にもほどがある、そのような馬鹿げた策でソラ様を危険に晒すわけにはいかない―――と言おうとした時だ。

 

 

「そうねぇ。可能性は捨ててはいけないわね」

 

「「「「!!!?」」」」

 

 

 私達以外の声が聞こえた。

 振り向くと、そこにはしわがれた老婆―――デトリア様がいた。

 腹に赤い宝石を埋め込んだ鳥を模した杖で身体を支えて、今にも倒れそうな足取りでこちらに歩いてくる。

 

 

「デトリア様!」

 

「マッチ? こ…この人は一体…?」

 

「アルシーヴが筆頭神官になる前の筆頭神官………つまり前任の筆頭神官だ。3年前に辞めるまで実に70年近くも筆頭神官だった人だよ」

 

「そ…そうなんですか!? え、えと……」

 

「かしこまらなくていいわよ。今は…ちょっとアルシーヴちゃんと関係があるばばあでしかないのだから」

 

「あ、はい! きららといいます!」

 

「デトリアです。よろしくね、きららちゃん」

 

 

 このタイミングでのデトリア様の登場に、頭が追い付いていない。

 体がぴしりと悲鳴を上げたような気がして、片膝がついた。

 そんな私の元に、デトリア様が近づく。

 

 

「大変でしたねぇ、アルシーヴちゃん。失礼ですが、話は聞かせていただきました。」

 

「も、申し訳ございません……ソラ様を救うためとはいえ、禁忌に手を出してしまいました…」

 

「ビックリしたわよ。でも、貴女は自分の為にルールを破る子じゃあなかったからねぇ」

 

 

 デトリア様は、私の師といってもいい。

 彼女がいなかったら、私は筆頭神官にまで上り詰めることなどできなかっただろう。

 だが、今は御年のことも考えて神殿に入らないようにしたはずだが………まったく、現役時代から、過保護なくらいに私達に気を配りすぎだ。

 

 

「貴方ほどではありません。私は為すべきを為し遂げることができませんでした」

 

「諦めるのはまだ早いわ。きららちゃんも言ってたでしょう? 『ランプの日記帳に可能性がある』って」

 

「ですが……」

 

「それにね、貴方が命を懸ける必要なんてないわ。ダメだったら、いちばん年寄りな私が『オーダー』をすればいいのよ」

 

「「「デトリア様!!!?」」」

 

 

 そ、それはダメだ!

 私は…最初に『オーダー』を使う時から決めていた! 「全ての責は私にある」と!

 それを……最期の最後で、デトリア様に押し付けるみたいな真似など……

 そんなことをしてしまったら、自分で自分を許せなくなる!!

 

 

「なりません!! 全ての責は私にあるのです!!

 お考えを改めて―――」

 

「それこそ、なりませんよ。アルシーヴ」

 

「っ!」

 

「貴方は、許されざる罪を犯しました。その償いをしていかなければなりません………私がいなくなった後、残りの一生を使って。間違っても、ここで死んでそれらから逃げるようなマネなど、私が見過ごすはずがないでしょう」

 

「…………!!」

 

 

 デトリア様の厳かな反論に、私は何も言えなかった。

 確かに…言われてみれば、ここで命を賭して『オーダー』をする事に、満足しようとしていた自分がいた、のだろうか………? 今すぐには、答えが出ない。考えがバラバラで、簡単にまとまる気がしない。

 

 

「………とはいえ、今のエトワリアにソラちゃんが必要なのは事実。

 まずは、ランプちゃんの日記帳が聖典に値するか確かめましょう。

 ソラちゃんに読ませるのは、それからでもいいですか?」

 

「は…はい。私に異存はありません。」

 

「あ、私もそれでいいと思います!」

 

 

 デトリア様がランプに近づいて行って、そして尋ねた。

 

 

「さ、ランプちゃん。その日記帳を私に見せてくれないかしら?」

 

 

 デトリア様が手を差し出しながら問う。

 ランプは……それに、どうも迷っているようだった。

 その間、やはり何も話す様子がない。どうしたんだ?ソラ様を助けるつもりではないのか?

 

 

「…ランプ。どうしたんだ? 早くデトリア様に日記帳を」

 

「―――っ…――――――」

 

「………? おい、どうしたんだ?」

 

「あ、あの、アルシーヴさん、デトリア様。ランプは…色々事情がありまして、今、声が出せないんです」

 

「…あぁ、成る程。道理で、いつも騒がしいランプが今日は静かだったのか…」

「おやまぁ……ランプちゃん、辛い思いをしたんだねぇ…それほど、苦しい旅だったのかい?」

 

「―――――――――」

 

 

 召喚士の言葉に納得した。デトリア様も同情して、ランプの頭をしわだらけの手で撫でる……が、ランプの警戒している様子が変わらない。まるで、何かを思い出したかのようで。

 そして………ランプは、自分の日記帳を、身体で庇うように隠した。それは、「日記帳を渡してちょうだい」というデトリア様のお願いに―――「イヤです」と拒んでいるようであった。

 

 

「お願いよ、ランプちゃん。ちょっとでいいの。その間に、聖典の確認作業は終わるわ」

 

「……ランプ。ソラ様を助けたいんじゃないのか? それとも、何か問題があるのか?」

 

 

 私も一緒に問いかけるが、ランプは首を振るばかり。

 何が言いたいのか分かりかねた私は、更にランプを問い詰める。

 

 

「おい、いい加減にしろ。ソラ様をその日記帳で救えるか確かめるんじゃあないのか?」

 

 ランプが首を縦に振る。

 

「なら、デトリア様に渡すんだ」

 

 ランプが首を横に振る。

 

「…………?? どういう事だ? その日記帳なんだろう?クリエメイトとの日々を書いたのは」

 

 ランプが首を縦に振る。

 

「………恥ずかしいのか?」

 

 ランプが再び首を縦に振った。

 どうやら、声が出せないのは本当らしい。お陰で、どうしてデトリア様に渡さないか聞くのも一苦労だな。「はい」か「いいえ」で答えられる質問を続けていくしかないか………

 

 

「ランプちゃん。ホントの本当にお願いよ。このばばあのお願いを聞いてほしいわ。貴女は、女神様になるんでしょう?」

 

 

 ランプに近づくデトリア様に、デトリア様から離れようとするランプ。一体なぜ、そこまでランプはデトリア様に日記帳を見せるのを嫌がるんだ―――と、そう思った時だった。

 

 

 

 

 

 

 ―――デトリア様の頭に複数の風穴があいたのは

 

「えっ―――!!?」

「なッ―――!!?」

「デト………ッ!!?」

 

 

 ……始めは、人の頭に風穴が開いたこと自体への驚きだった。

 どのような飛び道具であれ、頭部を貫通する傷など致命傷だ。それが瞬間的に複数も現れた事に呆気にとられる。

 そして………ボッ、と音がしたかと思えば。

 

 

「傷が………!!?」

「そんな………!!」

 

 

 頭の穴から()が吹き出す。そして…何という事だ。

 頭に開いた傷が…穴が、()()()()()()()()()()()()ではないか!

 そして、頭の炎が鎮火した頃には……傷など受けていないかのように()()な頭があらわになった。

 

 

「………………………」

 

 

 傷を受けたデトリア様はというと、何事もなかったかのように入り口の方へ顔を向ける。

 この時に、たまたま顔つきが見えたのだが……私は己の目を疑った。

 何故なら、私の知るデトリア様なら絶対に誰にも向けないような、怒りや憎悪、不快の感情がこれでもかというほどに宿っていたからだ。

 そうして、デトリア様は入り口に立っていた人物―――ローリエを睨みつけて言った。

 

 

「…足を引っ張るなと言ったはずだぞ、ゴミクズが」

 

「ご立腹だな。マトモな人間の顔じゃあないぜ。そんなカッカしてっとただでさえ少ない寿命が縮むぞ?

 まぁ……生ゴミ以下の本性が暴かれちゃあ無理もないか、デトリアさん………いや、()()()()()

 

 

 目を疑うと言えば……さっきの傷の炎…いや、()()

 頭を貫通した傷を、()()()()()()!!! そんな条件に当てはまる魔法はひとつしかない!!

 

 

「不燃の魂術……!! 貴様がドリアーテだったのか…!!?」

 

 

 ソラを呪い、幾度もクリエメイトや賢者の命を狙い、エトワリアの崩壊を目論んだ黒幕。

 その正体が……そんな、神殿の皆から愛されたデトリア様だったとは……!!

 信じられないが、目の前で起きた再生は疑いようもない…!!!

 

 

「ここまで私を邪魔しおって……

 だが、ここまでくればもう関係ない。

 貴様ら全員、ひとり残さず焼き殺せば済むだけだ。

 楽には殺してやらないからな……覚悟しろ、カス共が…!」

 

 

 私の言葉の返事は、デトリア様―――否、ドリアーテの独白と吹き上がる熱風だった。




キャラクター紹介&解説

アルシーヴ
 いきなりきららに『オーダー』の目的を言い当てられ、動揺を隠せない筆頭神官。最期の最後までソラを救う事を諦めておらず、命すら賭そうとしたが、デトリアに説教される。だが、その直後、信じられない事実を決定的な証拠と共に叩きつけられて、ソラの仇と対面することになる。

きらら&ランプ&マッチ
 アルシーヴの目的を知っていた原作主人公一行。アルシーヴの目的を言い当て、『コール』で力になれないか尋ねるも、クリエを引き出せないと知る。その後、ジンジャーの言葉をもとにランプの日記帳に可能性を提示して、ソラを救おうとするも、ただでは上手くいかないようだ―――。
 ランプは今回も終始喋れなかったが、臣の占い内容は覚えており、迷った時は日記帳を渡してはいけないことをしっかり覚えていた。だが、尊敬する前筆頭神官デトリア相手にそんな迷いが出てくるとは思わず、臣を信じる一心で占いに従った結果、ローリエが辿り着くまでに最後の希望を死守することに成功した。

ローリエ
 『ティタノマキア』で吹っ飛ばされたメンバーのうち、真っ先にソラの部屋に辿り着いた男。ハッカやフェンネルと比べて吹っ飛ばされた距離が長かったのに早かったのは、最短ルートを通ってきたことと、単独行動だったことが関係している。本人達は知るよしもないが。

デトリア→ドリアーテ
 拙作のラスボス。表向きは長年筆頭神官をやっておきながら、エトワリアを滅ぼすために暗躍していた。今回もランプの拒絶とローリエの頭部発砲がなければターゲットには殺す直前まで(もしくは死ぬまで)正体を隠しているつもりだった。だが致命傷を炎と共に回復するという決定的な証拠を見られ、全てを焼き尽くす方向にシフトしたようだ。これにより、全面戦闘が始まる。
 きららのパス探知に引っかからなかったのは、パスを探知されないように微量な魔力をまとわせ、きららが誤認するように仕向けたからである。
 名前の由来は、フランス語かなんかで「削除」の意味だった気がする。詳しくは忘れた(オイ)。ただ、アルシーヴがアーカイブのフランス語読みであったことは覚えているので、その反対語で名前を考えようとした記憶はある。まずデトリアを作り、そこからローマ字に直してアナグラムしたのがドリアーテである。



△▼△▼△▼
アルシーヴ「まさか、デトリア様がドリアーテだったとは……」

ローリエ「俺はわりと前から分かってたけどな。さて、次からは本格的な戦いだ。アルシーヴちゃん、準備しとけよ~?」

アルシーヴ「…一応、私が上司だからな……?」

次回『燃える魂と燃えない魂 その③』
ジンジャー「私も出るぞ!次回、待ってろよな!!」
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第86話:燃える魂と燃えない魂 その③

 どうも、ナットの意外な人気に驚いている作者です。
 前回、ドリアーテの正体について「予想通り」というコメントがありました。これを見て、「しまった、ヒントを与えすぎた」と思いましたね。初めての創作なので匙加減が分からなかったのは事実だけど、これからの反省点にしたいなぁ。
 さぁ気を改めて、今回からドリアーテとの戦いが始まります。今回の推奨BGMはコチラ→『戦乱 紅炎は猛り白刃は舞う』最初は静か、かつ不穏に、そこからだんだんと盛り上がってまいります。


2021/6/8:本文を一部修正しました。


“ドリアーテの…不燃の魂術の恐ろしさは本人の魔法力ではない。決して死なず、疲れない。その一点にある。”
 …ローリエ・ベルベット著 自伝『月、空、太陽』
  第9章より抜粋


「さ、ランプちゃん。その日記帳を私に見せてくれないかしら?」

 

 

 デトリア様にそう言われた時、どうしてわたしがこんなに迷っているのか疑問でした。

 それと同時に……臣様の占い結果―――『迷った時、日記帳を渡したら世界が焼き尽くされる』という―――を思い出して、まさか、この人が……と思ってしまいました。

 

 だって、私の知っているデトリア様は、公明正大なお方。筆頭神官を70年近くも続ける立派なお方だったから。信じられなかったけど、臣様を裏切るわけにもいかなくって。

 

 でも、声が出ない今、駄々っ子みたいな拒み方しかできませんでしたけど、それでも渡すまいとして、アルシーヴ先生とデトリア様をなんとか誤魔化した時………デトリア様の頭に風穴が空いて。

 

 

「…足を引っ張るなと言ったはずだぞ、ゴミクズが」

 

「ご立腹だな。マトモな人間の顔じゃあないぜ。そんなカッカしてっとただでさえ少ない寿命が縮むぞ?

 まぁ……生ゴミ以下の本性が暴かれちゃあ無理もないか、デトリアさん………いや、()()()()()

 

「不燃の魂術……!! 貴様がドリアーテだったのか…!!?」

 

 

 噴き出す炎にあっという間に治った傷、デトリア様とは思えない恐ろしい顔つきに、乱暴で尊大な口調。そして……やってきたローリエ先生の言葉。そして、そのやり取りから察したアルシーヴ先生の言葉。

 

 信じられない。本当に、デトリア様が、今までわたし達の命を狙ってきたドリアーテだったなんて……!

 

 

『ランプちゃん。あなたは正しいわよ。』

 

『あなたが見たもの、あなたが聞いたこと。それを信じているから、ここまで来たんでしょう?』

 

『―――ランプちゃんが『ソラ様を救いたい』って思ったのも、あなた自身の意志でしょう?』

 

『―――わたしは、どこにいても、ランプちゃんの味方です。応援していますよ。』

 

 

 港町でかけてくださった言葉が頭をよぎる。

 ……あれも、全部嘘だったんですか?

 一体、何を思ってああいう言葉をかけてくださったんですか?

 わたしを、わたし達を……みんなを、今の今まで騙していたんですか?

 

 頭に浮かんだ疑問は……やはり、どうしても喉が言うことを聞かず、言葉に出すこともできないまま、心の中に留まっているのです。

 そしてそのまま、最後の戦いは始まったのです。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ドリアーテの正体は誰か?

 俺は、ある程度前から、それに何となく予想はつけていた。きっかけは、ビブリオの書斎でデトリアさんのサイン入りの恩赦証明書を見つけた時だ。

 どうしてデトリアさんは、あの性悪デブ商人を牢から出したのか?……女神就任の大赦と言ってしまえばそれまでだし、そういう事が今までなかった訳ではないが、それでも何か引っかかったのだ。

 

 そして、疑いを決定的にしたのは、この台詞だ。

 

『わたしも信じたいんだけどねぇ。砂漠の盗賊、変な依頼を受けてたそうじゃない。なんか、()()()()()()()()()って言ってたわよ』

 

 ビブリオ撃破後に戻ってきた際に出会ったデトリアさんの言葉。これは……実は良く考えればおかしいんだ。

 思い出して欲しい。俺はサルモネラに対しては……『金を積まれてクリエメイトを狙ったこと』()()()()()()()と釘を刺してある。サルモネラが余計な事を話していればすぐ分かる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ―――答えは一つ。彼女が依頼人だったからに他ならない。

 

 ダメ押しに……ドリアーテが「役立たず」扱いした、あの少年の手帳。

 ハッカちゃんは見落としていたようだが、予定がビッシリ書き込まれていて……その中に『ドリアーテ様が筆頭神官の職務をしに行く』旨の内容が書き込まれていたのだ。これこそ決定的な証拠。ドリアーテとデトリアさんが=(イコール)で結びついた。

 

 そして、それらの証拠をあらかじめ手に入れ、確証を得ていた俺は、ソラちゃんの部屋に着いてすぐに日記帳を持つランプに近づくデトリアさんの頭に向けて発砲。その結果が……

 

 

「楽には殺してやらないからな……覚悟しろ、カス共が…!」

 

 

 ……これだ。

 炎が燃え上がる。

 それは、デトリアさんの姿を包み込んで激しくなる。

 炎が晴れた後に立っていたのは…よぼよぼで腰が曲がり、今にも倒れそうな老婆ではなく、オレンジ色の長髪とユー子くらいの背丈のある、緑の目をした美女(かいぶつ)だった。

 ソイツこそ、ドリアーテ。ソラちゃんを呪うように仕向け、エトワリアを滅ぼそうとした黒幕だ。

 

 

「きららちゃん、アルシーヴちゃん。コイツを止めるぞ。……できなきゃ、エトワリアはおしまいだ」

 

「…はい!」

 

「元よりそのつもりだ!」

 

 

 きららちゃんが『コール』を始める。アルシーヴちゃんは俺と並び立つ。これから戦うのか分からないくらいに、この場は静かだった。……嵐の前の静けさとはこのことか。

 そして……それは、始まった。

 

 

「『ギガントフレア』!」

「『シャドウバインド』!」

 

 巨大な火の玉と、真っ黒な茨がドリアーテとアルシーヴちゃんそれぞれから放たれる。激突した魔法は爆発を起こし、少しの間煙幕になる。

 

「―――フッ!」

「っ!!? だぁっ!」

 

 煙幕に身を隠し、ドリアーテに斬りかかった俺のサイレンサーは、ドリアーテがデトリアさんだった時に持っていた杖で防がれる。その勢いを利用してドリアーテから飛びのき、距離を取ると同時に弾丸を何発かブチ込んでやる。

 

「小癪な……っ!?」

 

 その弾丸の追撃に、別方向から魔法が飛んでくる。

 その存在に気づかなかったドリアーテは魔法をモロに食らうも、ダメージはない。

 魔法が飛んできた方向を見れば、『オーダー』が解除されて帰ったはずの小梅ちゃん………いや違う。アレ、『コール』の小梅ちゃんか!

 

「ホントに手応えないわね……」

「まだ始まったばかりです! 油断しないで!」

「はあああぁぁぁぁっ!!!」

 

 小梅ちゃんを睨んだドリアーテに、今度はキツネ耳をつけた黒髪ロングの美少女が斬りかかった。紺ちゃんだ。

 

「邪魔だァァァあああああ!!!!」

 

「うおっ!?」

「きゃっ!!」

 

 

 全身から弾けるように出てきた炎でできたネズミの群れに、俺も紺ちゃんもその場から離れた。そして、サイレンサーの回転斬りで、襲いかかる炎ネズミを消し飛ばす。

 

 

「助かりました!」

 

「いいってことよ!」

 

「千矢さん、二人を守ってください!」

 

「任せてー!」

 

 

 きららちゃんの指示で新たに戦線に加わったのは、千矢ちゃんだ。「かしこみかしこみ!」と呟けば、残りの炎ネズミの矛先が千矢ちゃんに向いて、そしてそれらが彼女の黒い剣で切り裂かれていく。

 

 

「ドリアーテさん! どうしてこんなことするの!

 悪いことするなら見過ごせないんだからね!」

 

「これから焼け死ぬ貴様らに言っても無駄なことだァ! 『アドラスクレイモア』!!」

 

 炎ネズミが無力化されたのを見て、次にドリアーテが放ってきたのは、一言で言えば火の鳥だ。大きさと姿はカラスやワシなどの猛禽類のそれであり、それら十数羽が、甲高い鳴き声を上げながら襲ってくる。

 

 

「もう!この分からず屋!!」

 

「まったくだ。こんな美少女の言葉を無視するなんてなぁ!!」

 

「どんな理由があれ……みんなを傷つけるなら、許さないんだから!」

 

 

 それぞれ、炎の猛禽を捌きつつ、ドリアーテの接近を試みる……が、ネズミの時と違ってしぶといな。

 だが、そう思ったのもつかの間、猛禽たちが氷の槍に貫かれ、あっけなく消滅したではないか。

 ここまでの魔力を操れるのは………

 

 

「…アルシーヴちゃん、助かった。」

 

「造作もない。だが…前に出れないことが少々歯がゆいな」

 

「無茶すんなよ?」

 

 

 今まで連続で『オーダー』やってきたんだから、と援護してくれたアルシーヴちゃんにそう言いつつ、俺達はドリアーテに突っ込んでいき、武器を振るう。

 

 

「いつになっても馬鹿の一つ覚えのように……無駄だと分からんのか!!」

 

「ううん、分からないよ。例え無駄だったとしても……悪いことは見過ごせない!!」

 

「うっとうしいぞッ! 『コール』で出てきた模造品の分際でェェェェェ!!! どこまで…どこまで私の邪魔をする!!」

 

「あなたが悪いことするわけを話すまで!」

 

「くどいわァァァ!!!」

 

 

 千矢ちゃんに真っ黒い炎をバンバン撃ってくるドリアーテ。その隙を紺ちゃんが突いて攻撃する。その後ろから、小梅ちゃんが魔法で狙い撃つ。ドリアーテから、絶えず炎が噴き出している。でも、奴の様子はいまだ変わらない。なんて奴だ。

 

 

「そんなにしつこい小娘は―――こうだ!」

 

 ドリアーテは、何を思ったのか左手を広げ、千矢ちゃんの剣に向ける。まるで、片手で白刃取りをしようとするかのように。

 そして、襲い来る剣に指を動かす―――ことはなかった。剣はそのまま、指の間から肘と手首の間まで食い込んでいった。

 

「―――っ!!?」

 

 かと思えば、真っ二つになった掌を握り……剣を固定したのだ!

 簡単に大怪我が治らない普通の人間がやる事じゃあないッ!!

 

「ウオオオオオオ!!」

 

「うわわわッ!!?」

 

 残った手で拳を握り、黒い炎を纏って千矢ちゃんを殴りかかる。

 千矢ちゃんは、予想外の防御を目の前でやられて、剣を手放せば距離を離せるという考えに至っていない! …いや、それが出来たとしても後々マズいが……

 とにかく、魔法弾で…いや、アブねぇけど徹甲弾で援護するべきか―――と思った時。

 予想外の人物が二人の間に飛び込んだ。

 

 

 

「ウオオオオオラアあああアアアアアアアア!!!」

 

「「!!!?」」

 

 

 黄色い一陣の風となった彼女は、突如千矢ちゃんとドリアーテの間に割り込み、正拳突きをドリアーテの隙だらけのどてっ腹にブチ込んだ。

 ドリアーテの身体はくの字に曲がって吹き飛び、やがて両足を地面に突き刺して減速した。いきなり現れた乱入者に、肩で息をしながら睨みつける。

 

 

「チッ………手ごたえがちと軽かったか…後ろに飛んで逃げたな」

 

「ジンジャーさん!!」

 

 

 ジンジャーだ。左手に釘バットを握りしめ、右の拳にふっと息を吹きかけながら、吹っ飛ばしたドリアーテをかっと睨む。

 さながら、群れを守るひときわ大きな獅子である。

 

 

「テメェの部下共が世話になったんでな……借りを返しに来た!!!」

 

 

 ジンジャーにはドリアーテと直接の因縁こそないだろうが、ジンジャーの治める都市でセレウスの一件があったし、暗殺者の少年・57号の時も犠牲になった女将と人生を操られた子供に心を痛めていた。それらを引き起こした目の前の元凶を、許す道理はないだろう。

 

 

「八賢者、ジンジャー………!!」

 

 ドリアーテは、さっき拳に纏った黒い炎を、複数の散弾にしてジンジャーに放つ。

 ジンジャーはバットや拳の風圧で炎を弾き飛ばし、千矢ちゃんと紺ちゃんは各々の武器で身を守り、俺は最低限の動きで躱す…といった風にそれぞれが飛んできた黒炎に対応する。

 

 続いてジンジャーに肉薄したドリアーテは、いつの間に生成した炎の剣を両手で握り、周囲を別の剣状の炎を舞わせながら剣を振り抜く。が、すべてジンジャーの釘バットに捌かれる。持つ剣は釘バットに阻まれ、周囲の炎も風圧のため近づくことができていない。もともと拳圧だけで火事を消せるような人だ、正面からの戦闘で遅れは取らない。

 

 

「はあっ!」

 

「ウォォオオアアアア!!」

 

「だりゃあ!!」

 

「ぐおおおおッ!!?」

 

 

 やがて、ジンジャーはドリアーテに一発、釘バットの一発をお見舞いすることに成功する。

 

 

「はぁぁぁぁあああ………!!」

 

 

 その際に生まれた隙で、ジンジャーが床を踏みしめ、全身に力を溜めた。

 ―――あいつのとっておきを…『アレ』を放つ準備だ。

 

 

「ジンジャー!」

 

「おう!」

 

 ジンジャーがバットを構え、周囲に三つの光玉が浮かび上がる。

 その玉に魔法弾を発砲。玉は……俺の弾丸を食らい、輝きが増した。

 

「トップギアで決めてやる!一発目―――シュートバースト!」

 

 ジンジャーが輝きが増した玉のひとつを釘バットで打った。

 飛んで行った玉はまっすぐドリアーテへ飛んでいき………彼女に直撃。

 

「ぬ…ぅううう! この程度……!」

 

 いや、違うな。受け止めているんだ。ジンジャーの全力フルスイングで打った剛速球を。しかも余力がありそうだぞ。このままだったら、やがて弾き飛ばされてしまう。

 だがこれでジンジャーのとっておきは終わりじゃあない。三つあるうちの一つしかまだ打ってない。

 

「しまっていくぜ、二発目―――メガバッシュMk31!!」

 

 続けて打たれた二発目。それは、さっきの一発目をようやく無力化したドリアーテに間髪入れずに飛んで行った。

 一瞬、ドリアーテの顔が驚きに染まるも、すぐさま防御態勢を取ったが、間に合わなかったようだ。剣状の炎が何本かかき消えている。

 ここにつけこまない理由はない!

 

「ジンジャー、今だ!!」

 

「わかってらぁ! コレで最後だ、よーく味わえ!!」

 

 ジンジャーがフルスイングの体勢に入ると、最後まで残った光の玉が大きく、より輝いていく。眩しくて前が見えない程に。―――そして。

 

 

アンブッシュスライダー!!!

 

 打った音は、果たして釘バットと光の玉だったか。もしかしたら、金属バットで金属ボールをはじき返した時の音の…30倍くらいか? の轟音が部屋中に鳴り響いて。

 

「ヌッ!!? グッ…グオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!?」

 

 

 二発目に気を取られて対応が遅れたドリアーテのみぞおち辺りに直撃。そのまま彼女を、ソラちゃんの部屋のガラス張りの壁まで運んだ。

 これぞ、ジンジャーのとっておきの必殺技『爆裂猛打三連撃』。だんだんパワーアップしていく必殺技を立て続けに放つ大技だ。今回は、俺の魔法弾で打球が強化された特別バージョンだな。

 

 

「ジンジャー」

 

「…なんだ?」

 

「まだいけるか?」

 

「当たり前だ。相手は不死身なんだろ? 今のでバテてたらやってられねぇよ」

 

「そっか。少しばっかり、前を任せてもいいか?」

 

「お前はどうするんだ?」

 

 俺はそれを確認すると、ジンジャーに前を任せようとする。どうする気だと問われるが、答えは一つ。

 

 

「ドリアーテを倒す術をアルシーヴちゃん達に話してくる。いま必要なのは……ソラちゃんの復活だ」

 

 

 俺の答えに頷いたジンジャーを信じて、アルシーヴちゃんの元に駆けつける。アルシーヴちゃんは、今までの『オーダー』の反動とデトリアさんがドリアーテだったショックで動揺している。それが手に取るように分かった。

 

 

「アルシーヴちゃん!」

 

「…ローリエ? どうしたんだ?」

 

「ドリアーテは不死身だ。だから、手を打つ必要がある。

 その為には、アルシーヴちゃんと………」

 

 

 だが、作戦が先だ。考えていたことを実行に移すのに必要な人を見つけて、手を掴む。

 

 

「―――ランプ。君の協力が必要だ」

 

 

 指名されたランプは、見て分かるくらいにはうろたえた後、チラッときららちゃんとマッチを見て……二人が頷くのを見て、口を開き―――

 

「―――! ……」

 

 何か言うのかと思ったら何も言わずに、強く頷いた。

 その行動の意味が気になるが、今は戦闘中だ。

 OKが貰えたんだから、それ以上追及する暇も必要もないか。

 

 

「それで、どうするつもりなんだ? 私とランプの協力が要ると言ったが……」

 

「ソラちゃんの復活だ。それ以外にはない」

 

「だが、それは―――」

 

「俺はランプを信じる。コイツの先生だからな」

 

 

 封印中の呪われたソラちゃんが、ランプの聖典で呪いが解けるのか?

 俺の知っている『きららファンタジア』では上手くいったが、今この状況でそれと同じ奇跡が起こるとは限らない。

 

 だが……俺は信じることにした。なぜなら、ランプは今、ここにいるから。

 偶発的な事故とはいえ、真実を知ってしまったランプは大きなショックを受けただろう。しかし、折れることなくこの子はここにいる。

 仲間がいたからか? 自分で立ち直ったのか? いずれにせよ、諦めて歩みを止めることなくここまで来たんだ。しかも……聖典の内容は、おそらくオリジナルよりも多い。ソラちゃんの呪いを解くには十分すぎる。

 

 

「………まったく。お前はなんで、ここぞという時に根拠がないんだ…」

 

「アルシーヴちゃん……えっとな―」

 

「…だが、悪くない。前代未聞だが、やらねばエトワリアを救えん」

 

「……!!」

 

「ローリエ、具体的にどうするんだ?

 足止めは召喚士とジンジャーがやってくれているが、限界はある」

 

「…いつもありがとな」

 

「まったくだ」

 

「で、だ。作戦内容なんだが―――」

 

 

 

 

 

「賢者も!女神も!!エトワリアも!!! まとめて消えろォォォオオ!!」

 

「―――ッ!!!? マズい! みんな、距離を取るかガードを―――」

 

 

 俺は、ドリアーテの絶叫に目を向けた。

 そしてその瞬間、奴が何をしようとしているのかを察した。

 なにせそれは、先ほどの戦闘で最大ガードの八賢者三人を吹き飛ばした凶悪魔法なのだから。

 

 

 

 

「ティタノマキア!!!」

 

 集まった魔力が、神々の大戦の戦火のような破壊をもたらさんと、俺達に襲い掛かった。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 不死身のドリアーテを討つべく、ジンジャーと協力して強化した必殺技で隙を作り、アルシーヴとランプの協力を取り付けた拙作主人公。真実を知っても尚、ここまで来たランプの強さを信じて、女神ソラ解呪に移る。ちなみに、この時点ではまだランプが声が出せない事を知らない。

ジンジャー
 ドリアーテが本性を見せる前からソラの部屋の前でスタンバっていた八賢者。ローリエと入れ替わるように前線へ出てきて、必殺技を食らわせる。ローリエと入れ替わるようにドリア―テに殴りかかり、接近戦を仕掛けていたようだが…?

千矢&巽紺&雪見小梅&ドリアーテ
 正体を暴かれた黒幕とそれに必死に食らいついた、きららに『コール』されたクリエメイト。あまりの粘着具合(ドリアーテの主観)に怒りがMAXを突破したドリアーテは、八賢者三人を吹っ飛ばした魔法『ティタノマキア』の再度使用を敢行した。
 千矢・紺・小梅のそれぞれのモチーフはそれぞれ☆5ナイト・せんし・まほうつかいの性能になっている。



爆裂猛打三連撃
 ジンジャーがゲーム内でも使う、代表的な必殺技。『シュートバースト』『メガバッシュMk32』『アンブッシュスライダー』を連続で放つパワーのゴリ押しを体現したものだ。ちなみに筆者は、『メガバッシュMk32』を長い間『メガバーストMk2』と勘違いしていた。

ティタノマキア
 ドリアーテが使用する、周囲を暴力的な破壊が襲う炎属性魔法。通路で使用した時は通路の外観を跡形もなく吹き飛ばし、八賢者三人をガード有りとはいえ遠距離まで吹き飛ばすほど。もちろん、代償がない道理はない。
 元ネタは『女神転生』『ペルソナ』のスキル。ギリシア神話で語られる大戦からとった技名でもある。



△▼△▼△▼
ローリエ「再び発動されたティタノマキア。どうする俺達!?」

セサミ「どうするではありません。防がなければ大ピンチ必至ではありませんか」

ソルト「しかし、召喚士もローリエも、タダで転ぶつもりはないのでしょう?……ソルト達が来るまでの辛抱です。しっかりしてくださいね」

次回『燃える魂と燃えない魂 その④』
ソルト「次回もお楽しみに。」
▲▽▲▽▲▽



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第87話:燃える魂と燃えない魂 その④

 どうも、早くドリアーテ戦を終わらせたい作者です。
 でも、急ぐあまり描写が雑になってはいけない……!そして皆には勝って欲しいけど、圧勝したんじゃつまらない……!!これが創作者のジレンマだろうか。


“ハッカさんの手当を終えて部屋に入った時、目に飛び込んできたのは、全身から血の気が引くような、そんな光景でした。”
 …アリサ・ジャグランテの独白


 時はほんの少々遡る。

 神殿内を駆け抜ける姿が、そこにはあった。

 

 まず、八賢者ローリエの助手にして呪術師のアリサ。

 同じ八賢者のソルト、セサミ。セサミは、未だ意識が戻らない(爆睡中ともいう)シュガーを背負っている。

 そして、復活を果たしたカルダモン。そして――先ほど合流を果たしたフェンネルがいた。

 

 

「アルシーヴ様の危機ですか……アリサさん、本当に信じていいんですよね?」

 

「お恥ずかしい限りですが、セサミ。ドリアーテが攻めてきた事は真実ですわ。わたくしを含めた八賢者三人でも抑えきれなかった事も」

 

「さっきの爆発の後、ローリエさんから通信がありました。ハッカさんとフェンネルさんと三人でドリアーテに挑み、爆発によって大きく吹き飛ばされたと。幸いけがはないようでしたけど……」

 

「八賢者が三人がかりでも勝てないドリアーテって、何者なんだろうね」

 

「分かりません。ですが、エトワリアの滅亡を企んでいるのと、女神様の部屋に向かっている事は確かです」

 

 

 アリサは、女神ソラの呪いと封印…そしてそれらに関連した真実を未だ喋っていない。「ドリアーテが侵入したこと」「八賢者三人がかりでも止めきれなかったこと」「アルシーヴの元へ向かっていること」を中心に話して、同行を求めたのだ。他の八賢者は全員、仕える主の危機と聞いてアリサと行動している。

 

 

「ちなみになのですがアリサさん、貴方の上司になっている、ローリエさんは今どこにいるのですか?」

 

「きっと先回りしてもう女神様の部屋に着いているのではないでしょうか? …さっきから呼び出しても反応しません。意識があるのは先程確認しましたので……応じる余裕もない、とか」

 

「急いだほうが良さそうだね。あとはここを真っすぐ行くだけだし、走るよ」

 

 

 一同は、走るスピードを上げて大広間の壊れた入口と女神ソラの部屋へ至る道を駆ける。

 大広間を抜けた先で見たものに…全員が絶句した。

 

 

「な……何ですの、これは…!?」

 

「通路……だったよね? ここ…」

 

「壁も天井も吹き飛んでいます……!!」

 

 

 そこは、フェンネル・ハッカ・ローリエがドリアーテと一時しのぎを削った戦場となった神殿廊下の面影は、全くなかった。

 天井や壁は吹き飛び、床はガラス化して、地面が焼けている。

 変わり果てた様相に、言葉が出ないアリサと賢者達。

 そこに、声をかける者がいた。

 

 

「これは破壊の魔法・ティタノマキアによるもの。ドリアーテは危険。」

 

「ハッカ! ここにいたのですか!」

 

「先程到着したばかり。」

 

「無事だったんですね! ローリエさんから、爆発で吹き飛ばされたと聞いて……」

 

「ローリエの魔道具を含めた全力防御の結果。」

 

 

 ハッカは、ドリアーテの力は危険だと警鐘を鳴らす一方で、自身は三人で協力してバリアを張ったから吹き飛ばされただけで済んだとアリサの質問に言葉少なに返す。

 

 

「先を急ぐべし。僅かに戦闘の音あり」

 

「……!! えぇ、そうですね、ハッカ。アルシーヴ様の身に何かあったら大変ですわ」

 

 

 アリサは、先を急ぐことを促すハッカの、腕に視線を注いでいた。

 ………合流した時から、左腕を押さえる右手を。

 

 

「……皆さん、先に行っていてください。」

 

「アリサさんは?」

 

「ハッカさんと話があります」

 

 ハッカ以外の八賢者を行かせると、すぐさまハッカの抑える手と服の袖をどかして腕を見る。

 よく見れば、その腕はドリアーテに吹き飛ばされた時に怪我をしたのであろう。腕からの出血が指先へ伝い、下へ垂れているではないか。合流した時に誰にも気づかれなかったのは、ハッカが長袖かつ黒色の和風メイド服に起因していた。

 

「ひどい怪我……! すぐに治します!」

 

「心配無用。かすり傷なり」

 

「かすり傷にも毒が入ったら死ぬんです!大人しく治されてください!!」

 

 答えを聞かずに、アリサは治療を開始した。

 あまりにも一方的な理由とはいえ善意で回復魔法をかけ始めたアリサを、流石に振り払うわけにもいかず、ハッカはアリサの治療にしばし甘えることとなる。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 一方その頃、ローリエに前線を任されたジンジャーときらら、そして『コール』で召喚された千矢・紺・小梅は、ドリアーテの様子を伺っていた。

 

 先ほど、ローリエの魔法弾によって強化されたジンジャーの必殺技『爆裂猛打三連撃』をモロに食らわせたのだ。相手が不死身とはいえ、すぐさま元通り、とは考えたくなかったのだろう。

 

 

「…………うざい。ウザすぎる…!」

 

「………チッ……化け物め」

 

 

 舞い上がった土煙の奥から小さな声が聞こえたことで、ジンジャーは悪態をつく。

 仲間の力をも借りて全力で放った必殺技だ。食らった後でも喋れるとは、タフさが段違いだと思った。

 

 

「エトワリアが邪魔だというのだ。黙って大人しく滅ぼされるのが筋というものだろうが……!!」

 

「なにを……言っているんですか…!!?」

 

「皆そうだ。不老不死になった程度で、化け物扱いして、あげくに封印までしようとする……!」

 

 

 ドリアーテは、瓦礫を払いのけながら、そんなことを口にする。

 年を取らなくなったことで、己が不利益を被ったのだろうことが伺えた。

 きららやジンジャー、クリエメイト達が初めて知ることになった彼女の事情は…いったい、何を思って吐露しているのだろうか?

 

 

「そこまで化け物扱いするのなら……化け物らしく振舞ってやろう。

 ―――ただし、滅ぶのは貴様らだがなァ………!!!」

 

「何を言ってやがんだ。黙って滅ぼされろと言われて聞く訳ねぇだろうが…!」

 

「私たちのいるこの世界を……エトワリアを、あなたなんかに滅ぼさせはしません!」

 

 

 死なない化け物としてエトワリアを滅ぼすと断言したドリアーテに、正論で返すジンジャーと純粋な決意で立ち向かうきらら。

 

 

「黙れ!!もう少しで、私の理想が叶うのだ! それを阻むというのなら―――!!!」

 

 ドリアーテが魔力を集め始める。それは、きららやジンジャーにとっては初めて見たもので……しかし、これまでにない強大な何かの準備動作だと察するには十分過ぎた。

 

「賢者も!女神も!!エトワリアも!!! まとめて消えろォォォオオ!!」

 

「―――ッ!!!? マズい! みんな、距離を取るかガードを―――」

 

 

 ローリエの声が聞こえた。

 それを聞いて、ジンジャーはドリアーテから離れ、きららもクリエメイト達に防御を指示しようとした。

 だが、一手遅かった。

 

 

「ティタノマキア!!!」

 

 荒ぶる不死鳥の烈火が、彼女達に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?」

 

 

 きららは、想像していた爆発や熱が襲ってこないことが不思議に感じた。

 目を開いてみれば……そこには。

 

 

「みんな………だいじょうぶ…?」

 

「なんて熱量なのでしょう……!!」

 

 

 きららが倒したはずのセサミが、ジンジャーの前に立っていて。

 自身が呼び出した千矢が、紺や小梅ごと守るかのように目の前で仁王立ちをしていた。

 

 

「せ、セサミ!! 大丈夫なのか!?」

 

「咄嗟に『ウォーターウォール』を張ったお陰です。…それでも、まさか蒸発されるとは思っていませんでしたが」

 

「千矢! まさか私達を…!!」

 

「こん…こうめ、ケガはない……?」

 

「こっちの台詞よ!! なんて無茶してんのよ!!!」

 

 

 セサミはドリアーテのティタノマキアに対抗するべく、水属性の防御魔法『ウォーターウォール』を最大出力で発動したからか、ジンジャーを庇っても大した怪我はないようだ。

 だが千矢は違う。防御力の高いナイトの力を持って『コール』された身であり、強化されているとはいえ……建物が下手すれば溶けるレベルの火炎の大魔法を複数人分、生身で受けて無事なはずがない。

 元の世界に帰った千矢に影響はないとはいえ、千矢の身体は透け、実体を保てなくなっている。無茶した結果だ。もうすぐ、ダメージ超過で消えてしまうだろう。

 

 

「私達を、守ってくれたんですね」

 

「うん。さっきの…なんとなく、あぶないっておもったから」

 

「……ありがとうございます。そして、ごめんなさい…!」

 

 

 きららは杖を振り、立ち往生した弁慶のように直立不動で笑顔の千矢を消した。ダメージ超過で消える寸前だったのだ。この戦いで彼女の力を頼ることはもう出来ないだろう。

 

 

「ハァ……ようやく一人…!」

 

「ドリアーテ……どうしてそこまでして、エトワリアを滅ぼそうとするんですか……! ユニ様の命を奪ったのも、ソラ様を呪ったのも……なんの意味があったと言うんですか……!?」

 

 

 全身から噴き出す炎が消えかかったドリアーテを、きららが問い詰める。例え再び「これから死ぬ貴様に言う事はない!」と言われようとも、きららは問わずにはいられなかった。

 きららは、両親こそいなかったものの、理不尽に何かを奪われた事はない。彼女の本質的な性格もあって、誰かを…自分以外の誰かを責めたことも、恨んだ事もなかった。

 だが、きららの「答えてもらえないだろう」という予想は、意外にも裏切られた。

 

 

「……エトワリアは、私を“不死の怪物”と見ている」

 

「!?」

 

「私を否定し、追放し、封印しようとする!

 死を超越した私に絡みつこうとする異常者どもにはもううんざりだ!

 故に私は! こことは違う世界に行く! くだらぬ聖典やクリエメイトと無縁の世界で、頂点に立つ!! その為にも……貴様ら過去の亡霊は一匹残らず駆逐してくれるわッッ!!!」

 

 

 ドリアーテが三度(みたび)炎上する。それは、まるで炎そのものが意思を持っているかのようにうねり、きらら達はその炎に生者を嘲笑う悪魔を見た。

 

 

「そんな…ことで、ユニ様やソラ様や、ソウマさんを……? 全部…全部、自分の為じゃないですか!」

 

「当たり前だ!! 人は誰しも、自分のために生きる! 私の願いは自由に生きること!ゆえにあらゆる手を尽くして世界を滅ぼす!! 偽善を掲げる貴様ら異常者とは違うのだ!」

 

 自分が永遠に生き続ける為に、多くの人々を犠牲にしてきた事を棚に上げ、正当化するドリアーテ。自分達の……仲間達の思いを『偽善』とか『異常者』と一蹴したことで、きららの堪忍袋の緒が切れた。

 

「…………よく分かりました。

 貴方は、自由になってはいけない事が。

 貴方を許しちゃあいけない理由が。

 エトワリアを守るため……私は貴方を倒します!! 『コール』!!」

 

 

 目の前の不死の女を野放しにするわけにはいかない。

 自分が今まで得てきたもの……仲間、絆、旅の記憶。それらを守るために、きららはその言葉を叫ぶ。

 今まで、自分が使ってきた、最も信頼できる力の名前を。

 

 『コール』に応じて現れたのは、水着のような恰好をした二人の少女だ。片や背の低い黒髪の少女であり、その胸は平坦であった。片やオレンジ色のハイビスカスの飾りが特徴的な金髪の少女で、その胸は豊満であった。

 二人のクリエメイトの名は、一井透と日向夏帆。かつて、きらら達とエトワリアを冒険した個性的な二人が、せんしの力を得てここに現れた。

 

 

「夏帆さん、トオルさん……巻き込んでしまってごめんなさい。でも……」

 

「事情は大体わかるよ。るんちゃんや私のいる世界に、こんなの来て欲しくないしね…!」

 

「そうだね……私で良いなら、いくらでも頼ってよ!」

 

「ありがとうございます!!」

 

 

 再び現れたクリエメイトを忌々しげに一瞥したドリアーテは、黒い炎の玉を放つ―――きららに。呼び出されるクリエメイトよりも『コール』を使う召喚士を明確に狙った、殺意ある攻撃だ。

 

 だが、2つの剣閃が、殺意の黒炎を切り裂いた。

 トオルも夏帆も水属性だ。炎属性とは、相性が良い。

 

 

「トオルさん、夏帆さん、ドリアーテに魔法を使う隙を与えないようにいきましょう」

 

「オッケー」

 

「攻撃を続けていれば、再生力が落ちます。そこを何とか突ければ……」

 

 きららの言葉は厳密には「即死以外の傷を受け続ければ再生の火力が落ちるが、即死級の傷を受ければ再生力が元通りになる」という意味では違うのだが、十分的確であった。

 

 きらら・紺・夏帆・トオルが四方からドリアーテに急接近する。せんしのクリエメイト達の剣が、ドリアーテに命中した。反撃の黒い炎やネズミ型の炎は、剣で弾くかきららがバリアを展開して防いでいる。

 

「オラァ!!」

 

「ッ!? ヌウウウウウウッ!!!!」

 

「ハァーーーーーーーーーッ!!!」

 

 ジンジャーも負けていない。

 釘バットで鍔迫り合いに持ち込んで、自慢のパワーで押しきりつつ、本命のキック。

 内臓にダメージを与えられたかと思うのもつかの間、全身が燃え上がりながら再生した。

 これが、吹き飛ばされてから立ち直るまでの間で行われるのだから、タチが悪い。

 

 

「……フゥ。さて、あと何年続ける?」

 

「ふざけた野郎だ!!」

 

 

 余裕綽々なドリアーテに、再び肉弾戦を仕掛けるジンジャー。

 だが、誰も気づかなかった。ドリアーテが余裕の笑みを浮かべている意味を、読み切れなかった。

 

 

「『ルーヴェンボルケーノ』」

 

「なッ―――ぐぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?」

 

「「「「ジンジャー(さん)!!?」」」」

 

 

 ドリアーテの手元から突如現れた存在――ドリアーテの背丈の2倍ほどの大きさの、炎の雄牛だ――それが、ジンジャーを撥ね飛ばした。

 ドリアーテの隠し玉をジンジャーはマトモに食らい、宙を舞って床に叩きつけられた。

 

「じ、ジンジャー! 大丈夫ですか!!?」

 

「………くッ…油断した……!」

 

 セサミが駆け寄ると、すぐさまジンジャーは上体を起こす。

 しかし、全身が焼け焦げ、ススがついている。戦闘不能ではないかもしれないが、それでも大ダメージだ。

 

 

「私は別世界に行く用があるのだ。さっさと消し炭になるのだ……『ルーヴェンボルケーノ』」

 

 

 ドリアーテの指パッチンの音が鳴る。すると……恐ろしいことに、先ほどジンジャーを撥ね飛ばした炎でできた雄牛が群れをなして現れたではないか!

 現れた牛はどれもこれも人の背丈を優に超えていて、しかも今にも突進してきそうに鼻息を荒くしてこっちを見ている。

 

 

「―――負けるわけには参りません! 『デリュージカノン』!!」

 

 

 セサミが水属性大魔法『デリュージカノン』を放つ。高圧の水流はドリアーテが出した炎牛の一匹に当たり、消滅させた。だが……ドリアーテの周りにはそんな存在がうじゃうじゃいる。一匹相殺したところで、戦況が変化したとは言いにくい。

 

 

「…くっ! 『デリュージカノン』でやっと一匹ですか。嫌になりますね……!!」

 

「だったら、協力してすべて倒すまで!」

 

「えいやー!!」

 

 紺がトオルと一緒に炎牛に斬りこんだ。

 だが、純粋な炎ではありえない、質量を持ったパワーで、雄牛は二人を押し返そうとする!

 

「負けないっ!」

 

「えいっ―――!!!」

 

 そこに夏帆と攻撃力強化をかけたきららも参戦。

 ようやく雄牛の歩みが止まり、4対1の押し合いにもつれ込む。

 押して、押されて……やがて、勝利したのはきらら達だ。炎の雄牛は、形を崩し、やがて霧散する。

 

 

「よし、押し勝てたわよ!」

 

「4人がかりでコレって、なかなかだね」

 

「そうだね。それに――――あと何体いる?」

 

「――! みなさん、周りを警戒してください」

 

 

 きららが注意を促す。

 顔を上げれば……先程の、雄牛の数々が、きららやクリエメイト達、ジンジャーとセサミを囲んでいた。

 

 

「……いけるか、セサミ?」

 

「いけるも何も、突破しなければ明日はありません」

 

「……お願いします、クリエメイトの皆さん。それに、ジンジャーさんとセサミさんも」

 

「……小梅、闘牛ってどこの国だったかしら?フランス?」

 

「スペインね!そんなこと言ってる場合!?」

 

「あはは、ちょっと緊張ほぐれたかも」

 

「…行くよ!」

 

 

 各々がそれぞれ軽く言葉を交わすと、エトワリアの未来を守るべく、炎の雄牛達に敢然と立ち向かった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ドリアーテが放ったティタノマキアは、きららちゃんもジンジャーも、それぞれ庇われる形で事なきを得たようだ。

 それは、こちら―――後方でソラちゃんの封印を解くべく集まった俺達3人も例外ではなかった。

 

 

「アルシーヴ様、おにーちゃん、大丈夫…?」

 

「シュガー!ソルト!」

 

 なんと、八賢者のロリ姉妹が、俺の危機を察知して自動で飛び出したリフレクタービットと一緒にバリアを展開してガードしてくれたのだ。

 

「これがティタノマキアか。確かに、まともに食らったらタダじゃあ済まないかもね」

 

「カルダモン、お前…!」

 

「あそこで燃えてるのがドリアーテで良いんだよね? アルシーヴ様の敵だって聞いたけど、なんできららと共闘してるの?」

 

「ドリアーテの目的がエトワリアを滅ぼす事だったからだ。オマケに先代女神の暗殺疑惑もある。世界が滅んだら、クリエどころの話じゃあないだろ?」

 

「……へぇ。ちょっと詳しく聞きたいな」

 

「後で教えるから、今はアイツ倒すの手伝ってくんない?」

 

「もちろん」

 

 

 さらにカルダモンまで来てくれた。流れるように協力を取り付けることに成功すると、カルダモンはナイフを両手に持って臨戦態勢をとった。

 

 

「ご無事ですか、アルシーヴ様!」

 

「フェンネルも無事で何よりだ。」

 

「さぁ…ご命令を。私はアルシーヴ様の盾ですから」

 

「フッ………それなら、なにも聞かずに私達を守ってほしい」

 

「承知いたしました」

 

 

 フェンネルも到着したようだ。真っ先にアルシーヴちゃんの元へ行き、彼女の命令に跪いて従う。

 人も集まってきたことだ。きららちゃんやジンジャー、セサミがドリアーテの足止めしてくれている以上、今なら行ける気がするぜ!!

 

 

「アルシーヴちゃん! 今なら行ける!」

 

「あぁ。封印を解くぞ」

 

 

 アルシーヴちゃんが杖に念じると、眠っていたソラちゃんの身体がひとりでに起き上がる。

 そして、胸に南京錠と鎖のようなものが浮かび上がり、鎖がほどけ、錠は開いて消えた。

 それが終わると、ソラちゃんが目を開き、意識を取り戻した。………封印が解けた、証拠だ。

 

 

「………これは…どういう状況なの?」

 

「…ソラ様。ソラ様をお救いする手立てが見つかりました」

 

「え…ほ、本当なの!!?」

 

「あぁ。まずはその身で確かめて欲しい。ランプ。ソラちゃんに日記帳を」

 

「――――――」

 

 

 俺の言葉に何も言わずに頷いたランプは、日記帳をソラちゃんに手渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させるかァァァァァァァァァあああああああアアアアアアアア!!!!」

 

「「「「「「「!!!!?」」」」」」」

 

 

 突然の絶叫に振り返れば、そこには炎を纏いながらこっちに突っ込んでくるドリアーテが。

 バカな!? きららちゃん達はどうしたんだ!!?

 

「ソルト!」

 

「えぇ。させません!」

 

「ここは通しませんわ!!」

 

「邪魔だ!!『アドラスクレイモア』『ルーヴェンボルケーノ』!!!」

 

「「「!!!?」」」

 

 通すまいと立ち塞がるシュガー・ソルト・フェンネルだったが、ドリアーテは炎の鷹と巨大な炎の牛を呼び出し、それぞれに襲わせた。

 三人はひとりでに動物を象って襲ってくる炎に驚いてそっちに気がそれた。成る程、そうやってこっちに来やがったのか………!!

 

 

「その聖典を渡せェェェェェェェェェ!!!!!」

 

 

 ドリアーテの手の中の炎が、波打った刃の剣の形になる。

 マズい!! いま、ランプやソラちゃんに攻撃されたら、ランプの日記帳を燃やされたりしたら………エトワリアを守ることができなくなってしまう!!

 

 ………いや、そうじゃない。

 させるものか! 絶対に守るんだ!! 今度こそ!!!

 だって俺は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランプも、ソラちゃんも死なせるわけにはいかない。

 だから、俺は。

 

 

「―――ロー、リエ?」

 

「――――――ぇ、――ぁ…!!

 ――せ…先生ッッ!!!!!!

 

 

 ……リフレクタービットを貫いてくるとは思っていなかった。

 炎の剣は、二人の前に飛び出した俺の腹に突き刺さっていた。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 ソラを復活させ、呪いを解こうとしたところで襲い掛かってきたドリアーテから生徒と親友を守るために自身の身を呈した男。構図は「ONE PIECE」の頂上戦争時のエースによく似ているが、凶器がマグマより低温なので、ソッチよりは軽傷ではある。

マダオ「不滅の炎も焼き尽くすのがマグマじゃあ…!」
ろーりえ「……………」

きらら&千矢&巽紺&雪見小梅&日向夏帆&一井透
 ドリアーテに立ち向かった召喚士と彼女に呼ばれたクリエメイトの方々。千矢は二発目のティタノマキアでダメージ超過となりリタイアしてしまったが、それ以外は被害は軽微。そもそも、ドリアーテが召喚士メインで攻撃してきているため、呼び出されたクリエメイトのダメージは幸か不幸か少ない。

ジンジャー&セサミ&シュガー&ソルト&フェンネル
 ドリアーテとの戦場に辿り着いた八賢者たち。セサミが特にドリアーテと相性がよく、ティタノマキアを全力防御ウォーターウォールで防ぎ、炎の巨牛をデリュージカノンで消滅させた。

ソラ
 久々に復活した女神。呪いを解く手立てが手に入ったかと聞いてひと安心と思ったところで、見知らぬ燃える女に襲われ、結果的に幼馴染が炎の剣に刺されるというショッキングな光景を封印解除直後に見せられる。




Q.結局ドリアーテは何がしたかったのか?
 ドリアーテの目的―――それは、『エトワリアとは違う世界(自身が不死身であることを知らない世界)に行き、そこを征服すること』『自身が不死身だと知っているエトワリア及びその住人を滅ぼすこと』この2つである。
 その為に、先代女神ユニを女神交代のゴタゴタに紛れて病死に見せかけて殺害したり、ソウマを脅して女神ソラを呪うよう強要した(勿論、呪いの種類まで注文した)のである。
 『オーダーで呼び出したクリエメイトのクリエを貰おう』というアルシーヴの考えも立場上知ってたため、盗賊団やサルモネラ、ビブリオやセレウスを使い、神殿側ときらら一行の妨害を同時に行っていた。
 我々のいる世界に、こんな不死身の化け物が侵略目的に来るなど冗談ではないだろう。だから、きららやローリエ達はコイツに抗っているのだ。

Q.そんなことをしたら移動先の世界でも不死身(不燃の魂術)がバレちゃわない?
 彼女としては、裏から世界を支配するつもりである。そもそも、『魔法』がマトモに信じられていない世界で魔法で不死身になった存在を看破することなど、科学の概念をかなぐり捨て無い限り不可能。もしバレたなら、そいつを口封じすればいいだけのことだそう。



△▼△▼△▼
ランプ「先生ッ!お願いです、死なないでください!!わたしはまだ……先生にも、言いたいことがあるのに………!!」
ソラ「やっと、呪いが解けるって思ったのに……ここで貴方が傷つくというの!?お願いだから…死なないで!生きて帰ってきて!!!」

次回『わたしの銃士様』
ソラ「お願い……ローリエ………!!!」
▲▽▲▽▲▽





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第88話:わたしの銃士様

 今回は読む前に処刑用BGMを用意しておきましょう。某ひっぱりハンティングのコラボ超究極のあとひといきBGMが似合うと思います。
 オススメBGMはコチラ『血戦 身命を賭して』です。世界樹の迷宮が多い?気にするな!大切なのは、ローリエの「大切な人の為に己の身を張る」という精神が伝わる事なのだからな!
 サブタイトルの元ネタは「ソードアート・オンライン アリシゼーション」より「ぼくの英雄」。








“信じるべきは自分自身。頼るべきは己の記憶。”
 …元女神ユニドリアーテ


“大事なモンのためならば……この古びた魂、いくらでも使ってやらァ!!!!”
 …ローリエ・ベルベット


 

 

 

 ―――目の前の光景が、信じられなかった。

 それは、あっという間のことだった。

 

 

「―――ロー、リエ?」

 

「――――――ぇ、――ぁ…!!

 ――せ…先生ッッ!!!!!!

 

 

 さっきまでデトリア様だったドリアーテが、ローリエ先生のお腹に、剣を突き刺して―――っ!!

 いや、ちがう。わたし達を庇ってくれた………!?

 

「おにーちゃんっ!!! ソルト!」

 

「ええ、分かってますッ! しかし…!!」

 

「ローリエッ! この、邪魔しないで…っ!」

 

 他の賢者達は…シュガーも、ソルトも、フェンネルもカルダモンもアルシーヴ先生も、ドリアーテが出してきた炎の鷹やおっきな牛に邪魔されて、こっちに来れる気配じゃない。

 

 

「無駄だ。アイツらは助けに来れない。

 コイツは死ぬ。私の邪魔を散々したんだ。それくらい当然だよなァァァーーーーッ!!!」

 

「そんな……!」

 

 

 そこで呟いたことで気づく。声が出るようになった事を。……全然、安心してる場合じゃないけど。

 声が出たことに驚いていると、ドリアーテが先生に突き刺した剣をグリグリ回し始める。

 

 

「やめなさいドリアーテ! 先生が…死んでしまいます!!」

 

「愚かな……『やめて』の一言で殺し合いが止まると思っているのか?」

 

「―――っ!! デトリア様の姿で言っていた事は嘘だったんですかっ! 『わたしの味方だ』って…『応援する』って言ったのは……全部ウソだったんですかッ!!!」

 

 

 戻ったばかりの声を張り上げて、ドリアーテをきっと見ると、ドリアーテの手が止まった。…よし。きっと心に届いているんだ。このまま―――

 

 

「……ウソじゃありませんよ」

 

「えっ?」

 

 意外な答えに驚く。見ると、とてつもなく若かったドリアーテが、どんどん背が縮み、シワが増えて、わたし達のよく知るデトリア様のお姿になったではありませんか!

 

「わたしがランプちゃんを応援しているのは、本当でしたよ。現に、ランプちゃんはよく動いてくれました。」

 

「で…デトリア様?」

 

「行く先々で『オーダー』を止めてくれた。それが、アルシーヴの命を無駄に削る行為とは知らずにね。

 『信じるべきは自分自身。頼るべきは己の記憶』。この信念のまま動いて、私の為になってくれたわ。」

 

「え…? えっ………??」

 

 そして、デトリア様の声で語り始める……ローリエ先生に、剣を突き刺したまま。

 それがなんだか怖くて、止めたかった。でも、足が動かない。

 

 

「それ…ユニ様の座右の銘……」

 

「…ふふふ。ランプちゃんは単純で助かるわ。ユニにそんな座右の銘ないのにね。ソレは私の座右の銘よ。」

 

「うそ…」

 

「ホントよ。でも、ランプちゃんの味方なのも応援してるのもホント。なんなら、エトワリアには貴方のような子が必要ってのも貴方が正しいって言ったのもホントだわ。……本当に助かったのよ? 貴方がいて良かったわ。

 ―――貴方みたいな、単純脳ミソでとてつもなく騙しやすい馬鹿がね……!!!」

 

「う……うぅぅ………!」

 

「ありがとうね、ランプちゃん。お陰でアルシーヴちゃんもソラちゃんも、賢者共も召喚士も、気兼ねなく始末できそうよ。エトワリアの滅亡だって、少しだけラクになったわ」

 

 ユニ様の座右の銘も、私の味方だってのも、ウソだった。全部に嘘をつかれた訳じゃなかったけど、騙されたことに変わりはない。

 

 

「ふざけるな、ドリアーテ! それは…お前の都合の良いようにランプを利用しただけだろっ!!

 お前はランプの味方でもなんでもない!! ランプは……お前の操り人形なんかじゃないっ!!!」

 

「フンッッ!!」

 

「ぐああああっ!!?」

 

「マッチ!!?」

 

「子守り動物風情が……人間の言葉を使うな。烏滸がましい……」

 

 

 そんな…マッチが……ドリアーテの放った炎に当たって、爆発して吹き飛ばされた!!

 許せない。信じていたのに……裏切るなんて。それに、こんな…アルシーヴ先生の覚悟も、きららさんの優しさも、全部踏みにじるなんて………!!

 

 今度はデトリア様がどんどん若返っていく。そして、きららさん達と戦っていた、ドリアーテの姿に戻った。そこで、嫌でも分かってしまった。

 デトリア様がくれた言葉は……全部、私を利用する為だったってことに。

 

「……っと。ランプ。お前は本当に使いやすい()だったよ。この状況は全部……ゼーーーンブ、お前のお陰…いや、お前のせいだったんだからなァァァァァ!!! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!

 

うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーっ!!!!

 

 

 悔しくて、悲しくて、許せなくって。

 ドリアーテの笑い声に、全力で声を張り上げて聞こえないようにするしか、なかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「弁明は終わりましたか、ドリアーテ」

 

「ソラ、様……?」

 

 

 自分でもゾッとするような、冷たい声が出た。

 久しぶりに目が覚めたと思ったら、目の前で色んな事が起こったからだ。

 アルシーヴから呪いを解く方法を聞かされて、ランプから聖典を受け取って、かと思ったら賢者のみんなが炎の動物に襲われ―――そして、炎を纏った見知らぬ女性に、ローリエが刺されて。

 まだ混乱しているけど……ランプと目の前のオレンジの長い髪の女――デトリア様とかドリアーテって呼ばれてた上に急速に老けるようにデトリア様に変身したからデトリア様=ドリアーテだと思うけど――との会話で、色々なことが判明した。

 

 アルシーヴの『オーダー』を「クリエメイトには危険だから」ってランプが止めていた事。

 でもドリアーテはその事実を「アルシーヴの命を削るために」利用したこと。

 そして、この人こそ、エトワリアを滅ぼそうとしていること。

 

 ドリアーテがランプの心を抉っているのに気付いた私は、すぐにランプの前に立った。これ以上、子供に対する身勝手な大人のいじめをさせないために。

 

 

「貴方のしでかした事は、もはや永遠の命をもってしても償えるものではありません」

 

「お前は頭脳がマヌケか? 死にぞこないの女神ソラ。

 裁かれるべきは私ではない。私を追い回した異常者共……ひいてはそれを指示した神殿。見て見ぬふりをした愚民共だ。」

 

 

 封印解きたてな上に呪いで痛む体にムチを打って立ち上がり、そう言い放てば、ドリアーテは不敵にもそんなことを言い返してきた。自分は悪くない、裁かれるべきは自分じゃないって……ここまでのことを招いておいて…エトワリアを滅ぼそうとしているのに、本気で言っているの?

 

 

「貴様らに数える罪があっても、私にそれはない。なぜなら私は不死だから。貴様らとは違う、特別なのだよ。

 法、道徳、誇り、優しさ……そんなくだらぬものに縛られている馬鹿や異常者に、私は裁けん。私を好きにできるのは私のみ!! 私が裁くと言ったら裁かれよ!私が死ねと言ったら死に絶えろ!私が支配すると言ったらそれに従え!! この世界のルールはただ一人……このドリアーテだっ!!!」

 

 

 それは、まるで自身の考えに一点の曇りもない、間違いなんてないと言わんばかりの態度。宇宙の真理を語っているかのような口ぶり。

 でも……肝心の中身は、自分本位。この一言に尽きる。自分は特別だから、何をしても許される―――理解できない。到底、許すわけにはいかない暴論だ。

 

 アルシーヴは、苦しそうな顔で、私を生かすために、私を封印した。

 ローリエは、私を呪ってきた襲撃者に大怪我をさせてでも、私を守ろうとした。

 二人の覚悟を、目の前のこの女は侮辱し、否定した。それに、エトワリア滅亡が目的ということは、エトワリアに住むすべての人を巻き込むことと同義。看過するわけにはいかない。

 

 

「……なんという大逆無道。もはや慈悲はありません」

 

「くだらなくなんかない! ここまでの旅路も、きららさんやクリエメイトの皆様との絆も!

 わたしはたくさんのものを貰ってきた! あなたみたいな……“なにもない人”に負けません!」

 

 

 ドリアーテ、私は貴方を許すわけにはいきません。

 女神らしく威厳たっぷりにそう言うと、ランプも立ち上がって決意の籠った目で、ドリアーテを見据える。

 良い目ね、ランプ。貴方が堂々とそう言えるようになった……その理由であろう、「ここまでの旅路」を見てみたかったわ。

 

 

「負け惜しみか、女神ソラに虫ケラのランプ。悲しくなってくるねぇ。

 ―――貴様らも所詮はあの男の後を追うしかないというのにな!!」

 

 

 どれだけ強がっても、呪われた私とまだ女神候補生のランプに変わりはない。

 そんな現実を突きつけたドリアーテが、燃え上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………よく…言った、二人とも」

 

「「「!!!!」」」

 

 

 え!!?―――い、いまローリエの声が…!?

 ローリエを見れば、剣をお腹に突き刺したまま、私達の前に立っている!!

 ち、血がポタポタ垂れているのに……!! 痛そうなんてレベルじゃあない! 見てるこっちが痛いくらいだわ!!

 

 

「さっきっから、黙って聞いていれば……コイツの言っていることは全部…“()()()()()”だ。

 法や誇り…優しさ……『それに縛られるのは馬鹿だ』と言っていたが……

 ()()()()()()()()()()()が目の前のコイツだよ。………わかるか?ソラちゃん、ランプ。

 自分以外の誰も信じず、人を利用することばかり考える……ゆえに、ヤツの手には何も残らない。オマケにそれに気付かないまま、自分以外のすべてが“異常”に見えるんだ。

 ………怒りを通り越して、最早哀れだな」

 

 

 その言葉は、胸にすとん、と落ちたかのように妙に説得力がある言葉だった。

 哀れ、か。言われてみれば………そうかもしれない。法やルールならともかく、誇りや優しさを『縛るもの』って言ってくるドリアーテには、なにか違和感を覚えたもの。

 

 ローリエの言葉を聞いたドリアーテは、青筋を立てて、歯を食いしばり……まさに「怒り心頭」って感じだった。

 

 

「哀れ………だと…!? ふざけるんじゃあないぞ…!

 哀れっていうのは…貴様のことだッ!! 今にも死にそうな……貴様のことを言うんだッ!!!」

 

「お前に理解できるとは思っていない……特に、自分だけが正常だと勘違いしている、お前のようなヤツにはな…」

 

「黙れ貴様ァァァァ!!!!」

 

「危ないっ!!!」

 

 

 ローリエにさっきの炎の剣が迫ってくる!

 これ以上、この人に怪我を負わせたら…本当に死んでしまうかもしれない!!

 そう思って、なかなか言う事を聞かない足を動かしてローリエを庇おうとした………その時。

 

 

 

「……ま、間に合った…!」

 

「アリサ、さん…!?」

 

 

 黒いローブを纏って金色の首飾りをした茶髪の女の子が、襲ってきた炎を吹き飛ばした。

 ランプの言葉とこの行動から考えるに、味方っぽいけど………?

 

 

「ナイス、タイミングだ………!」

 

「無茶はやめてください!! 重傷ですよ、それ!」

 

 アリサって呼ばれた子が、ローリエを叱りつける。

 けど、ローリエは今も尚血が止まらないくらいの大怪我を気にしていないような口ぶりを笑みで、こう言った。

 

「悪いが…それは聞けないな………なぜなら、ここの皆は……俺の命よりも、大切なものだからだ」

 

「ローリエ……」

 

「賢者のみんなも…ランプも…きららちゃん達も…ソラちゃんやアルシーヴちゃんも……みんな、俺が守りたい人だ!!

 大事なモンのためならば……この古びた魂、いくらでも使ってやらァ!!!!

 

 

 痛いでしょうに、まだ戦うみたいだ、私の幼馴染は。

 現に、ローリエが作った拳銃に、弾を装填しているのが見えた。

 

 

「ソラちゃん、ランプの日記帳を……いや、『聖典』を読むんだ」

 

 突然、私に出された指示。その内容に驚いた。ら、ランプが聖典を書いたってこと?………それに、ランプの日記帳から聖典って言い直した意味は……?

 

「読めば分かる。時間は俺が――俺達が稼ぐから、早く」

 

 真っ直ぐこっちを見てからの「読めば分かる」を信じて頷くと、すぐにランプが渡してくれた日記帳を読んでみる。

 

 

「させると思うなよ…!『プロミネント―――」

 

「『宿星桔梗印(しゅくせいききょういん)瀑布(ばくふ)』!」

「『アイスジャベリン』!」

 

「ぬっ!?」

 

 

 その様子を見て、私に手を向け何かを放とうとしたドリアーテに、氷の槍の数々と大きな滝のような流水が、魔方陣から襲いかかった。

 

「ハッカ、参上。ソラ様を守護する」

 

「ソラには指一本触れさせん!」

 

「先生! ハッカも…!」

 

 ハッカとアルシーヴだ。私達を守るように並び立っている。

 

 

「貴様ら……『ルーヴェンボルケーノ』を当てたはずだ……3体も! なのに、何故……」

 

「私をそこまで低く見積もるとは…悲しいですね、デトリア様。それとも、長生きのしすぎで耄碌したか? この私にはあの程度……造作もないッ!!

 ……ソラ様! 速やかに聖典を!!」

 

 

 再び氷の槍をドリアーテに降らせながら、アルシーヴは私に言う。ハッカも、こっちを見てこくりと頷いて、かと思えばドリアーテに水属性魔法を放っていた。

 

 

「……ありがとう、みんな!」

 

 

 一言、感謝を告げてから、ランプの日記帳を開いてみる。

 

 

――今日は海がみえる町にいきました。風がちょっとしょっぱかったです。

 

――今日はさばくにいきました。みわたすかぎりすなだらけで、とてもあつかったです。水とうの水も、あっという間になくなりました。

 

――今日はすずしいところにいきました。この間のさばくより、ずっとあつくないと思いました。

 

 

「……なんだか、かわいい文章ね」

 

「そ、ソラ様の聖典に比べたら、非常につたないですので、なんだか申し訳無いです……」

 

「い、いえ、その…別に悪くないと思―――んん??」

 

「ど、どうしました?」

 

「なんだか、急に文章が難しくなった場所があったような………あ、これ……」

 

――それは太陽の光を跳ね返す、艶やかで鮮やかな黒髪を持った女性だった。

 

「……うん。」

 

――そのシャベルは、女王を守る近衛の盾のように、ゆき様を狙った不届きな矢を弾き飛ばした。そして、振り返った姿はまさしく戦乙女のそれであり、わたしは心のどこかで必ず助かるという確信をこの時、得ていた。

 

――都市に舞い降りたのは二人の天使。金髪をたくわえた二人は、街中の人々をあっという間に魅了していった。

 

「これは……!」

 

――お星様かと思った。どれだけ暗くとも、離れていても、わたしに突き刺さる芯の強いまたたきにわたしはときめいていた。わたしはいつまでもついていくと誓った。闇を照らす星のような人――きららさんに

 

「すごい……!」

 

 

 日記帳を通して…ランプの熱意が、クリエメイトや聖典への愛が、伝わってくる……!!

 

 

「えっ―――に、日記帳から、光が!!?」

 

 

 ランプの言葉と同時に、日記帳の開いたページから、光が溢れ出す。

 眩しくて、目も開けられなかったけど、とっても暖かい光だった。

 光を浴びる感覚を覚えるのと同時に、身体の中の何か…とても悪いものや、身体の怠さや痛みが、全て吹き飛んでいくのを感じた。

 

「ば…バカな。本当に……聖典に――ぐあああああああああああああああッ!?!?!?」

 

 それは、アルシーヴの元へ行って嫌な予感を相談した、運命のあの夜にかけられた呪いが。

 あの日から始まった、私を蝕み続け、おそらくアルシーヴ達に無理をさせた、忌まわしき因縁が。

 この瞬間に、消え去っていくことを意味していた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 新たな聖典の光が、この場に満ちた。

 そして、ソラちゃんの呪いがその身からかき消されたのを確認した俺は、すぐにドリアーテに銃口を向ける。

 

 そのドリアーテだが、聖典の光をモロに浴びたからなのか、未だに苦しんでおり、軽い錯乱状態に陥っている。

 

 

「あらゆる傷を再生していたドリアーテが苦しんでいる……!?」

 

「やはり……聖典が弱点だったのか。不燃の魂術」

 

「…詳細求む。」

 

 

 たまたま俺の近くにいたハッカちゃんが俺の言葉を拾ったので、この際だからと説明する。

 

 

「不燃の魂術………いままで、弱点が不明だった。だがそのリアクションで確信できたぜ。

 ドリアーテ…お前、俺達のように『聖典を読んでクリエを回復すること』ができないんだろ?」

 

「!!!!」

 

 

 ドリアーテの動揺っぷりは、今の質問の答えを語らずに、如実に語っていた。

 やはりな。オッサン・フェンネル・きららちゃんの四人で戦った時、俺は見ていたのだ―――周囲の土や植物、空気からクリエを奪って、身体を再生するさまを。

 一見、絶望的な光景に見えるだろう。だが、ぶっちゃけ俺はそんな事をする必要性が分からなかった。基本、クリエは聖典でしか回復できないからだ。魔力回復薬みたいなのがあるとはいえ、魔力の大本・クリエまでは回復できない。だから俺は考えた。………聖典で回復しないんじゃなくって、()()()()()()()()()()()()って。

 

 本来、聖典は人々の減ったクリエを回復するものだ。だが、『不燃の魂術』を使って永遠の命を手に入れてしまうと、体内のクリエが変質して、聖典の純粋なクリエでは回復が出来なくなっちゃうんじゃないだろうか? それどころか、あの苦しみようなら、むしろ生命力(最大HP)魔力総量(最大MP)が減っちゃうくらいのデメリットがあるんじゃないか? 半信半疑だったが、いい方向に推測が当たって良かったぜ。

 

 つまり、ソラちゃんとランプが日記帳のやりとりを見て襲い掛かったのは、新たな聖典がワンチャン誕生してソラちゃんの呪いが解ける事だけじゃあなくって、自分自身の弱点が生まれかねなかったから、燃やそうとしていたんだな。

 

 

「『不燃の魂術』は、不死身の身体を手に入れる事ができる代わりに、今まで聖典を綴ってきた女神達から見放される禁忌だったんだ。

 聖典を読むと、クリエが回復するどころか、自身のクリエが減ってっちゃうんだよ………きっとな」

 

 

 さて、不死身のドリアーテとも散々戦ってきたが、そろそろ幕引きといこうか。

 作戦の最終段階に突入して、ドリアーテをこのまま()()()()()()()()()()()()()()

 銃口の照準をピッタリ合わせて―――

 

「――っとと……マズい…!」

 

 ふらっとした。銃口がブレるし、全身の力がいま一瞬抜けた気がする。

 さっきの一撃で血を流し過ぎたな………ヤバいぞコレ。

 前世の死にざまよりかは痛くないけど、身体が冷えてく感じがなんかやだな。

 くたばる前にとっとと決めちゃおう―――と思ったところで、温かい感触が俺に伝わってきた。

 

 

「無茶をするな、ローリエ」

 

「己一人で背負い込むべからず」

 

「大丈夫ですか、先生?」

 

 

 温もりの正体は、アルシーヴちゃんとハッカちゃんとランプだった。

 アルシーヴちゃんとハッカちゃんが、俺の両脇で支えてくれ、銃を持つ手にそれぞれの手を添えてくれた。

 ランプはランプで、俺の足…特に膝ががくっといかないようにしてくれてるみたいだ。

 

 

「……悪い、正直超助かった。愛してるぜ」

 

「無駄口は良い。弾は入ってるんだろうな?」

 

「おう、超・特別製のヤツだぜ。ソラちゃん!呪いが解けたなら、転送魔法の準備だ!!」

 

「えっ? あっ、わかった!」

 

 

 三人で狙いを定める。そしてそれが、まだ聖典のクリエにやられてまだ立ち直れないドリアーテに向けて―――

 

 

真・天衣無縫の魔弾(メタルジャケット・エクス・マキナ)!!!

 

 

 ―――放たれた。

 最終決戦直前で出来上がった、至高の一発。賢者のみんなに魔力を分けてもらった結果完成した、必殺の弾丸。

 

「なっ―――グあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」

 

 真っ白な軌跡を通って、咄嗟にドリアーテが出してきた炎の壁や鷹を自ら回避して、レーザービームのように戦場を突き抜けた弾丸は、寸分違わずドリアーテのどてっ腹に命中した。

 真・天衣無縫の魔弾(メタルジャケット・エクス・マキナ)は、全属性の魔力に加えて、『サイレンサー』と同じ、魔法封じの力が籠もっている。オマケに防御不能と自動追尾付きだ。コイツをまともに食らったドリアーテは、転移どころか、魔力をリセットできる『エクスプロウド』すら使えない。

 とっておきを食らわせ、ドリアーテの全てを封じた……今が好機ッ!!

 

「ソラちゃん!!」

 

「できたわ! でも…行き先はどうすれば…!!?」

 

「俺が決める!!」

 

「あっ、おい!!」

 

 支えてくれた三人には悪いけど、それを振り切ってソラちゃんに歩み寄る。

 

 

「ドリアーテ……そんなに、別世界に行きたいなら…行かせてやる……!」

 

「は……?」

 

「――だが!! 絶対地球には送ってやらねえからな!!」

 

 

 ソラちゃんの転送魔法にドリアーテの行き先を書き込む。

 行き先は……俺が木月だった頃の世界…でも、惑星レベル…いや、宇宙レベルで位置を指定しない。

 これで…どの惑星に……いや、全宇宙のどこに送られるか分からなくなった。半ば暴走みたいなモンだが、問題ナシ。

 

 

「ま…待て!どういう意味だ!? 私は…どこに送られるというのだ!!?」

 

「そんな事―――俺が知るかッッ!!!」

 

「私は…支配者だぞッ!! こんなこと、あっていいはずが――」

 

「違うな。お前は支配者じゃあない。

 死にたくないだけの、ただの臆病者だッ!!!」

 

 

 まぁ、地球に送られちゃう可能性もまったくのゼロではないが………

 

 

「私が何を…何をしたというんだァ!! やめろ…私を…私を……!

 私を一人にするなァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 そんな確率は、80年連続で宝くじ一等を引く確率よりも遥かに低いからな。

 ドリアーテは、最後に涙目になり、そんなことを喚きながら消えていった。転移魔法が成功した証だ。

 しっかし、自分以外を信用せず、利用することしか考えてなかった老害が、別世界(宇宙)に追放される直前の最後の言葉が「一人にするな」はだいぶ皮肉が効いてるぜ。

 

 ―――まぁ、とにかくだ。

 

 

「………勝った……」

 

 

 見事全員生き残り、ドリアーテも作戦通り、別世界の宇宙に追放することに成功した。

 ソラちゃんは呪いから解放された。アルシーヴちゃんもすぐに聖典を読めば『オーダー』の反動に苦しむこともない。

 これでようやく―――俺達の戦いは終わった。終わったんだ……!!!

 

 

「―――っしゃーー! 勝っ――」

 

 

 勝った!!! と叫ぶ直前、視界がぐるりと回った。

 

 

「―――あららら?」

 

 皆が駆け寄ってきて、全員の必死な顔が見えた瞬間。

 ―――プツン、と。まるでテレビの電源を切るかのように、俺の意識は途絶えた。

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 腹を刺され出血が止まらない重傷の中でも、闘志を燃やして切り札の弾丸をドリアーテにブチ込み、彼女を別世界の宇宙に追放することに成功した主人公。『不燃の魂術』対策には真・天衣無縫の魔弾(メタルジャケット・エクス・マキナ)を用意していたが、ナットと共闘した記憶からドリアーテの弱点は聖典にあるんじゃないかと予想も立てていた。それらが見事に的中し、ドリアーテ戦のMVPを飾る。

ソラ
 完・全・復・活!!!したゆかな…じゃなくて女神様。復活したての段階でなかなか混沌的な状況に戸惑っていたが、ドリアーテのネタバラシ&ランプいじめで頭が冷える。その後、ドリアーテを転送する魔法を展開して勝ちへの最後の一手を担った。

ランプ
 老害にいじめられていた可哀想な子。しかし、ソラの厳格な姿に落ち着きを取り戻し、自身の行いが無駄ではないと啖呵を切った。そして、やはりその言葉は正しかった。

ドリアーテ
 己の欲望のままに生き、エトワリアを滅ぼそうとした黒幕。だが己の身に施した『不燃の魂術』の弱点を思い切り突かれ最大HPMP減少ダメージを食らった上、ローリエのリーサル・ウェポンを食らい、抵抗できないまま別世界のどこか(銀河・宇宙的な意味で)へ転送されることで、エトワリアから追い出されてしまった。最早、誰もドリアーテがどこにいるかを把握するのは不可能になった。
 そんな迷惑なヤツの最後には、『ジョジョの奇妙な冒険・戦闘潮流』のカーズの最期に近しい何かを感じる。

アルシーヴ&ハッカ&アリサ
 ケガの治療ゆえに遅れた八賢者&助手と炎の牛を最速突破してきた筆頭神官。ローリエ達死に体+非戦闘員を守り、ローリエの切り札を決める手助けを行った。



真・天衣無縫の魔弾(メタルジャケット・エクス・マキナ)
 ローリエがドリアーテ用に最後の最後まで温めていた最後の切り札。全属性の力が籠もっている上に自動追尾&障害物回避性能が備わっており、当たった敵の魔法を全て封じるというチート万歳な能力。ドリアーテ戦直前に完成したこともあり、効果は絶大。特に不死身かつ一旦死ねば魔力が最大回復する『不燃の魂術』にはぶっ刺さった。

ドリアーテ戦の転送魔法
 ソラが発動し、ローリエが行き先を設定して、ドリアーテを追放した魔法。ソラ自身が転送魔法を使える事が「NEW GAME!」のクリエイターズクエストで判明している。ローリエはこの転送魔法の行き先を『木月桂一が生きていた世界の、宇宙のどこか』と設定したため、ドリアーテがどこに行ったか、マジで誰にも分からなくなった。宇宙の広大さからして、太陽系付近に送られる確率さえ怪しい。しかも、『木月が生きていた世界』には、エトワリアにはあって当然の『あるもの』が存在しない。



△▼△▼△▼
木月桂一「―――戦いは終わった。女神ソラの呪いは解け、ドリアーテは宇宙の彼方に消え去り、きらら達とアルシーヴの誤解も解けた。……だが、これでめでたしめでたしとはいかないな。前世で人気を誇った『きららファンタジア』だ。私の知らぬストーリーモードが更新されててもおかしくない……」

木月「………おっと失礼。やや先の展開まで読み過ぎたね」

次回『星と予感と新たな日常』
木月「次回もお楽しみに」
▲▽▲▽▲▽


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エピローグ~勇者(意味深)の凱旋~
第89話:星と予感と新たな日常


最終回まで泣くんじゃあないぞ……


“わたし達のために身体を張って戦ってくださった先生が、激戦から三日たちようやく起きたと聞き、部屋に入り込んだ時、ベッドから起き上がりこちらを見つめる金と橙の瞳が、眩しい陽の光を反射してわたしの視界にしっかりと焼き付いた。”
 …ランプの日記帳(後の聖典・きららファンタジア)より抜粋


 転送された先に見えたのは、闇だった。

 先程まで半壊の女神の部屋にいたドリアーテは、ここはどこだと周りを見渡す。

 ……しかし、それは無意味だ。なぜなら、上下左右360度見渡してみても、どこまでも続くような闇しか見えなかったからだ。

 

 

「(まぁいい……どこに送られようと、生きてさえいればいい……! 必ず舞い戻って、今度こそ滅ぼしてくれる!!)」

 

 

 ドリアーテは転送魔法を食らう直前の涙目から一転、不敵で下卑た笑みを浮かべて、これからの事を考えようとしたその時だ。

 ……彼女が、自分の体に異変を感じたのは。

 

 

「(な…こ、これは………………い…息が、できない………!!?)」

 

 

 いくら吸い込んでも、空気が入ってくる様子がないのだ。

 しかも、吐き出す空気が戻ってこない。

 そこでやっと、ドリアーテは自分がどこに送られたのかを理解した。

 

 

「(宇宙! そうか、ヤツめ、私を宇宙へ送ったのか! だが……いくら死んでも、クリエがある限り、地球へ戻るまで再生して―――)」

 

 

 ドリアーテはそのまま、炎を噴き出した反動で進む。

 だが、ドリアーテは忘れていた。ローリエがドリアーテを送る前に言い放った言葉の中に、こんなものがあったことを。

 

『ドリアーテ……そんなに、別世界に行きたいなら…行かせてやる……!』

 

 

 やがて、体が窒息し始め、常人なら意識を失い死にまっしぐらという状態になったドリアーテは、なんの躊躇いもなく自死を選んだ。全身が燃え上がったと思ったら、赤い丸のような炎になった。

 

 そして、体を再構築しようとした時に……ドリアーテは気づいた。

 

「(く…クリエがない!!? な、何故…!?)」

 

 そう。体を再構築する時に必要なクリエが、空気中(といっても宇宙は真空状態だが)から取り込めないのだ。

 ドリアーテが送られたのは、我々が暮らす世界によく似た、木月桂一が住んでいた世界である。そこでは、ファンタジックなものは大分否定されている。当然、聖典を開けば手に入るクリエがあるはずもない。

 

 そして……その事に気づいた時には……もう、取り返しのつかないミスを犯した後だった。

 

「(再生…できないっ!!? まさか、私はずっとこのまま……!?)」

 

 クリエがなければ再生もできない。唯の炎の玉から体を再構築する術が急に失われてしまった。炎を放出して、推進力を得ることも出来なくなった。

 

 

 ―――ドリアーテは、二度とエトワリアに…地球には帰れなかった。

 小さな恒星のような姿で、永久に宇宙空間を彷徨うのだ。

 死ぬ事は勿論、意識を失うことすらも彼女には許されなかった。

 やがて、悠久にも等しい時が流れ、どこまでも広がる壮大な宇宙の中、10等星にも劣る、小さく真っ赤な光を放ちながら………

 

 

 ―――ドリアーテは、考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――目が覚めたら、そこは首相官邸だった。

 何を言ってるのかわからないと思うが、俺も何が起こっているのか分からない。確かドリアーテとの戦いの中、負っていたと思った腹の傷も、どういうわけか塞がっていた。

 

 何で気付いたのかというと、前世の職場だったからだ。総理大臣・木月桂一。暗殺の一件があったから約二年しか働けなかったが、それでも国民の支持率もGDP・GNPも爆上がりした。そんな仕事をした場所だから、覚えてて当然だ。

 で、部屋にあった全身映る姿見で自分を見たところ、そこには全く無傷のローリエ・ベルベットが映っていたのだ。だからそう判断した。

 

 

「良かった、気づいたようだね」

 

「!!」

 

 

 突然かけられた声がした方を振り返ってみれば、そこにはかつての俺―――木月桂一が立っていた。

 髪も目の色もスーツも全て黒。ネクタイは喪に服してないからかワインレッドだったが、それでもほぼ黒一色だ。身長は木月の方が低い。でも、かつての俺だったという確信がある。

 

 だから、目の前に木月桂一が現れた事に違和感を抱いていた。

 なぜ、コイツが目の前にいるのか。なぜ―――

 

 

「…なぜ、死んだはずの木月桂一がいるのか。魂さえも、元女神ユニによって、ローリエと混ぜられた筈なのに……と。違うかな?」

 

「!!!?」

 

 

 当たり前のように心を読まれ、咄嗟に銃を抜こうとする―――が、ホルスターがあるはずの懐に、それがない。

 

 

「落ち着いてくれ。私は君と戦いに来たんじゃあない」

 

「…じゃあ、ここはどこだ? お前は一体………」

 

「………ここは、君の精神空間。夢の中といってもいい。

 で、私は…その女神ユニに混ぜられた、木月桂一の魂そのものだ」

 

「…ってことは、俺の本体は……」

 

「眠っているよ。怪我もほとんど治されているが、後は体力が戻れば目覚めるだろう」

 

 成る程。つまりここは俺の心の世界………『ペ○ソナ5』でいうところのパレスや『まちカドまぞく』でシャミ子が潜り込んでいた先天的無意識みたいな場所って認識でいいんだな?

 となると、よっぽどのことがない限り、俺自身に危害はなさそうだ。元の世界にも戻れるみたいだからひと安心か。

 

「……ユニ様によると木月、お前は…『オーダー』された直後は“半壊状態”だったって聞いたぞ? それがどうしてここにいる? 実は半壊してなかったとかか?」

 

「いや、それはない。私自身もその当時の記憶が曖昧だったし、君の記憶を通じるまで私が『オーダー』されてローリエと混ざった事も知らなかったから断言はできないが……おそらく、女神ユニは嘘をついていない」

 

「じゃあ、回復したとか?」

 

「ほぼ間違いないだろうね。なにせ君の体に20年もいたんだ。お陰でこうして君と話せるくらいまで回復したんだと思うよ」

 

 

 そうか。俺は木月桂一から生まれ変わったと思ったんだが、ユニ様の証言で木月と赤子の魂が混ざりあった結果ローリエが生まれた事が判明したからな。

 半壊した魂も俺の中で20年もかけて少しはマシになったのか?………ん?

 

 

「つまり……俺と木月は別物……?」

 

「そうだとも言えるし、違うとも言えるね。

 君は『私の記憶の影響』を盛大に受けて人格が形成された。でも…その影響は100%じゃあないはずだ。例えば君が女の子に執着するのは、私の人生の記憶だけじゃなく、今世の君の父上の影響も受けているはずだ。

 かくいう私も、君の知っている『私の37年の人生』に君自身の経験がプラスされて、より成長していると自覚しているよ。

 例えるなら、オリジナルのローリエという名の真っ白なキャンバスに私の経験という名の絵の具がぶちまけられた、という事になる。よく似た存在になって当然だ。でも、君は更にその上から君自身の経験という絵の具を塗りたくった。()()()()()()()()。私も『私自身の経験』と『君自身の経験』という絵の具は得られたが、塗り方は当然、君とは違う。同じ画材・色でも、塗り方次第で人物画にも風景画にも前衛芸術にもなり得るように」

 

「……………」

 

 

 つまり、アレか。闇マ○クや闇バ○ラ、あとは「魔人族の王子」としてのメリ○ダス、「鬼滅の刃」にちょくちょく出てくる、死んだ筈の人達が話しかけてくる現象………みたいな、そんなフワッとしたモンか。そう考えていると、また心を読んだのかフフッと苦笑された。

 

 

「……で、話を戻すが…なんの用なんだ?

 俺のハーレムルートのアドバイスか?」

 

「…その辺りの話は、いちおう大切な話が終わってからにしようか」

 

「大切な話?」

 

 

 なんかイラついたので話を戻しながらジョークを振れば、思いもよらない話題が浮かび上がってきた。

 

 

「まず質問するが、『きららファンタジア』……君がいない、アプリ版の物語の方だ。そっちで、いまだ謎の部分があったはずだ。それが何か、分かるか?」

 

「アプリ版の物語? 謎の部分?

 ………あ、『誰がソラちゃんを呪ったか』か?」

 

「そうだ。生憎、その謎が解明するアップデートが来る前に私が殺されてしまったからもう情報は得られないが………それでも推測はできる」

 

「…チョット待て、木月。それはもう明らかになった筈だ。ソラちゃんを呪った犯人はソウマ。しかし彼は、家族を人質にドリアーテに脅されていた。つまり黒幕はドリアーテだった。そうじゃあないのか?」

 

 

 なんだか不穏な話題になってきたから、ブレーキをかける意味でも話を遮る。ちょっとだけ不躾な真似だったけど、遮られた方の木月は、不快そうな表情や感情は一切せずに俺の言葉に頷いた。

 

 

「………ここでは、そうだった。君は完璧に敵を退け、ドリアーテからエトワリアを守った。

 だが……これで終わりと考えることは、私には出来なかった」

 

「なんでだ?」

 

「為政に“反対者”や“邪魔者”が現れるのは必然だからだ。

 政治に“反対者”は必要だ。アンチテーゼがなければアウフヘーベンは生まれない。肉類と野菜、好き嫌いせずにどちらも食べなければ健康を保てないのと同じだ。

 でも、“反対者”の中から『()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()』とか『()()()()()()()()()()()()()()()()()』とか『()()()()()()()()()()()()()()()()()』とかいう、愚……過激すぎる考えを持つものが現れる。そういった人間は、目的の為に手段を選ばないどころか、手段と目的を履き違えたり、先の事を一切考えず欲望を満たそうとする。それが“邪魔者”だ」

 

 

 まぁ、確かに…事を為すとき、どこかしらの誰かから反対が出るのはある意味当然といってもいいだろう。みんなが皆、100%同じ考えなんて持てるわけがない。

 そして、木月桂一もまた、その“邪魔者”に手を焼いた人生を送った政治家だったし、その記憶を俺も持っているので、気持ちは良くわかる。

 

 

「そして、そういった“邪魔者”が絶えることはない。血縁関係なんかとは違って、思想はより伝播しやすいからね。私と君(わたしたち)は、実力や策略を以て不当に仲間達を貶める“邪魔者”たちから彼女たちを守る準備をしなければならないと考えている」

 

「……キリがなさそうだな」

 

「一生向き合う問題だよ、コレは。油断はできないさ。

 大好きな『キャラクター』……失礼、大好きな人達が増えた今なら尚更だ。

 ……もう、真新しい墓前で懺悔などしたくないだろ?」

 

「……………っ、」

 

 

 図星を突かれた。言葉に詰まる。

 前世において、木月(おれ)が政治家を目指すきっかけになったのは、『大親友の殺害とその隠蔽』だ。当時の木月(おれ)は、復讐を果たすために突き進んだが、それ以前に殺された彼女の苦しみや辛さに気づけなかった自分自身を恨み、後悔した。

 

 例え、それが厳密には別人の記憶だったとしても、だ。

 俺の知る大好きな人達がそんな目に遭うなんて、絶対に嫌だ。

 

 

「まぁ、その話を抜きにしても、エトワリアは大人気を誇ったあの『きららファンタジア』の世界だ。

 私の死後、私ですら知らない新たなストーリーが更新されててもおかしくはない」

 

「………要するに、油断しないでアンテナ張り続けろってことか?」

 

「うん、そういうことだね。そこで、だ。

 私から君に発明品のアイデアを授けたい」

 

「自分自身にアイデアを送るのも変な話だけどな」

 

「ははは、そうだね。じゃあ、私の心を読んでご覧?

 私が君の心を読めたから、君にもできるはずだ。私に意識を集中して」

 

 

 嫌な予感を察しながら、俺は目の前の木月に意識を集中させた。

 すると、木月の心中が脳裏に送られてくる。

 木月の善意やみんなへの心配………そういったプラスの感情ののちに送られてきたのは―――やはりというべきか、物騒のひとことで片づけられないものばかりだった。というか、どれもこれもゲームやアニメで見たことあるヤツばっかだった。

 

 

「…………………キラー○シンってお前…キラー○ジン○ってお前……戦車ギ○レーもか………星○字○士団(シュ○ルン○ッター)の能力や『ネ○ま』の魔道具もある……極めつけはDNAで敵を区別するウイルス型ナノマシン………だと…」

 

 どれもこれも、たった一つでラスボス張れるんじゃね? ってくらいの凶悪な魔道具の設計プロットが送られてきた。だが考えてもみろ。こんなの全部世に出したら色んな意味でエトワリアが終わるわ。

 生前の木月は自重しなかったけど、もうちょっと手加減してくれても良いだろォ!?

 

「なぁ木月お前………実現できるか否かはおいといて、1000%ムチャクチャだろこんなの。もうちょいお手軽というか、オーバーしてないテクノロジーというか……ないの?」

 

「自重して何も守れず死ぬよりかはマシだよ」

 

「自重しなかった結果殺されても仕方ないだろうが」

 

 

 味方から刺されるのも嫌だぞ俺は。

 ただでさえ拳銃やルーンドローン、プロトバトラーやリフレクタービットがオーバーテクノロジーなんだ。これらが全部アウトとセーフの境界線を跨いでるようなモンだぞ? 木月考案のヤツなんて、もうほとんどアウトをぶっちぎったアウトじゃねーか。

 

 

「『アウトをぶっちぎったアウト』ね……命を守るためならば、その境界線なんて些事だと思わないか?」

 

「些事って言うなこの野郎。そのアウトをぶっちぎったアウトが人の命を脅かすんだよ、分かってんのか? でも核兵器の情報を送ってこなかったのだけは褒めてやる」

 

「ありがとう。流石にアレは永遠に封印されるべきだと判断したんだ」

 

「だよな! これに乗じて、もうちょいマシなアイデアを―――」

 

「それは私と君で考えていこう」

 

「チクショウ!!!」

 

 

 この後だが、木月とゲーム・アニメ談義をしていった。

 自分自身との対話にこの話題は変かもしれないが、なかなかない経験だった、とだけ言っておこう。

 

 

「最近のゲームは10股できる、とか生徒と先生の禁断の関係、とかあって刺激的だよね。

 P○4やSw○tc○がハードだと限りなく3Dに近いグラフィックだから尚更にね」

「わかる。ビアンカ・フローラ論争なんてもう遥か過去の話だもんな。10股するヤツ、バレンタインデーでボコされるけど」

「そうだね……ローリエ、悪いことは言わない。彼女たち相手にハーレムはやめるべきだ。ただでさえ一人で一騎当千するような子たちだ。下手な事をすればそれこそ命が5000兆個あっても足りない」

「分かってる。早いトコ、本命を決めないとな。でも、皆に幸せになって欲しいんだ」

「気持ちは分かるけどね……君、ジョー○ーやベ○トみたいに器用じゃあないだろう?」

「うっせーわい。お前も器用じゃあないだろが」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 やがて木月との会話が一通り終わり、意識が遠くなる。もう一度目を開けると、そこは俺のよく知る神殿の天井だった。

 

 

「ローリエ!!!」

 

 

 最初に目が合ったのは泣きそうなアルシーヴちゃんだ。彼女の声でソラちゃんとハッカちゃんが来て、俺が目覚めたのを見たハッカちゃんがすぐに部屋を出ていった。きっと他の子を呼びに行ったに違いない。

 で、起きた時にアルシーヴちゃんとソラちゃんをまじまじと見たんだが………まぁ、酷いもんだ。

 

 

「…ドリアーテも酷い事するぜ。こんな可愛い顔を、火傷させやがって」

 

「一番重傷者のお前が言うな…!死んでいたかもしれないんだぞ!!」

 

「そうよ!! 傷を塞いだのに、3日間も寝込んで………もう、起きないんじゃないかって…思って………!!!」

 

 3日、かぁ。随分長かったな。木月とそこまで長く語らった覚えはないんだけど………と。アルシーヴちゃんとソラちゃんに抱きつかれながら、ぼんやりとそんな事を考えていた。でも、すぐに二人の頭を撫でた。

 

 

「安心しろ。俺は戻ってきた」

 

「このバカぁぁ………!!」

 

「ほんっっっとに心配したんだからぁぁぁぁ………!!」

 

 

 入り口に立っていたハッカちゃんに「内緒にな」と合図を送った後、離れようともしない二人が泣き止む……もとい、落ち着くまで、俺は二人を撫で続けていた。

 ―――二人のマスクメロンが当たって役得だったぜ☆とか微塵も考えてないからな?

 

 

 その後駆け付けたみんなによると、俺が寝込んでいる間に、色んなことがあったらしい。

 

 きらら達と賢者のみんなには今回の件を全て話していたこと。

 アルシーヴちゃんもランプ謹製の聖典を読んで、『オーダー』の悪影響はすっかりなくなったこと。

 崩壊した部分の神殿の復旧工事が行われていること。

 そして―――

 

 

「―――アリサが神殿に住む?」

 

「あぁ。彼女は元々山奥に暮らしていたが、唯一の肉親であった兄も……な?」

 

「なるほど……でも、アリサはそれでいいわけ?」

 

「はい。ドリアーテもいなくなった以上、どうやって生きていくか……ちょっと、分からなくなったので。

 神殿に住み込みで色々学びながらじっくり考えたいと思います」

 

「……………………そっか。」

 

 

 アリサは、神殿に入学し、「女神候補生」として学ぶことになったこと。

 ちなみに入学用のテストは既に受験&合格済みで、あまりの成績の良さにランプが嘆いていたとマッチが苦笑いしていた。マッチもマッチでミイラっぽくなってるが大事なさそうで何よりだ。

 

 その後、俺に『機密事項だったソラちゃんの呪いをきらら達に話したのではないか』という疑いがあった事が完全に落ち着きを取り戻したアルシーヴちゃんから告げられるが……

 

「俺はクリエメイトを部屋に保護しただけだよ。機密が書かれた本にもロックがかかってたし……パスワードもあった。狙って開けられるモンじゃあない。つまりな…()()()()()()()()。隠してたことが()()()()()()だけなんだよ♪」

 

 そう言えば納得してくれた。アルシーヴちゃんやフェンネル、セサミやジンジャーあたりは頭を抱えたりジト目だったりと「ズル過ぎるぞこの野郎」って顔をしていたけど……最終的に事情が事情だったため、有難いことに『謹慎1ヵ月』―――怪我の完全治癒が1ヵ月くらいかかるから実質的な『お咎めなし』という審判を頂いた。

 

 

「あ、そうだアルシーヴちゃん。ものは相談なんだが……これ着て看病してくれないか?」

「…………一応聞こう。これは?」

「ナース服。聖典にてかのフローレンス・ナイチンゲールが開発した、怪我人看護の為に生まれた由緒正しきものを、エトワリアにて再現したもの―――」

「ふざけるなローリエ。大人しく体を休めろ」

「しょーがないなー。じゃあソラちゃんに着てもらうしかないか」

「ソラ様がこんな破廉恥なもの着るわけないでしょう!いい加減になさい!」

「お、ンなこと言っていいのか?クリエメイトに聞けばナイチンゲールの名くらい出るぞ」

「ぐっ…………!!!」

「……ローリエ、丈が短いのは本当に再現なの?」

「……………………当たり前だろ」

「ねぇ、私とアルシーヴの目をみて言って♪」

「………………」

「やはりセクハラではないか!!」

「わーーーっ!待て待て!!腹はダメ!腹はああああああああああああああああいだだだだだっだだだだだだだだだアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?」

「「「「「「「「…………………」」」」」」」」

 

 

 ―――そして、また数日の時が流れた。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 木月と会話し、第二部のメタ話をして未来の警戒をしつつも、今の神殿・居場所に生還した主人公。生還してもなおセクハラに余念がない。ちなみに、ナース服は最終決戦どころか賢者になる前に既に設計してあったとのこと。

ろーりえ「みえ…みえ…を意識しました!」
あるしーぶ「着ないぞ?」
そら「着ないわよ?」
ろーりえ「泣きそう」

アリサ
 女神候補生になった呪術師。母親が病死し、兄にも先立たれたために天涯孤独になった彼女を神殿が放っておくことは不可能であった。また、アリサももといた住まいすらも燃やされた為、戦いの後の身の振り方は地味に悩んでいたのだが、神殿に住み込むというソラの案を渡りに船と言わんばかりに乗った。

ありさ「NEETだけは回避します!」
そうま(霊)「………」

ドリアーテ
 ―――再起不能(リタイア)。宇宙空間で窒息死し、クリエの存在しない木月の世界であるためにクリエを補充できず、小さな炎の姿でしかいられないまま『ジョジョ』のカーズやマジェントよろしく考えるのをやめた。カーズは地球から追い出されたことを考えると、位置の特定はカーズよりも難しく、仮に地球から観測できたとしても、一握りの天文学者が「なァんだ、ただの10等星かァ」くらいにしか思われない。



△▼△▼△▼
ローリエ「――俺、復活!」

きらら「良かったです、ローリエさん。皆さん心配していたんですよ? 特にアルシーヴさんとソラ様なんか、毎日ずっとローリエさんの隣に―――」

アルシーヴ「言わなくていい!ローリエに余計な事を教えるなきらら!」

ローリエ「アルシーヴちゃん、そんな感じだったの!?…意外と可愛いね?」

アルシーヴ「うるさいッッ!!!」

ソラ「アルシーヴをからかわないの、ローリエ。さて、皆帰ってきたことだし、心置きなくお茶会ができるわね?」

最終回『「黒一点の」八賢者』
ソラ「次回も……お楽しみにね♪」
▲▽▲▽▲▽




































木月「……おや? 見つかってしまいましたか……まぁ、丁度良かったです。すこし、お聞きしたいことができまして。協力してくださいますか? ……なに、蛇足…つまり外伝のことです。」


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最終話:「黒一点の」八賢者

ついに…ここまで来た!


“この物語は、女の子が大好きなえっちな賢者が、本物の英雄になる物語。”
 …アリサ・ジャグランテ著 聖典『きららファンタジア外伝・ローリエ~八賢者物語~』
  序章より抜粋


 最終決戦後、初めて目覚めたあの日から1ヶ月。

 俺は、久しぶりに教壇に立っていた。

 

 

「ローリエ先生!」

「怪我治ったんですか!」

「良かったです!!」

「心配してたんですよ〜アリサが」

「ちょっとセレナ!余計な事を言わないでください!」

 

「はいはい。皆も元気そうで何よりです。

 さて、予め出してもらった鉱石と付与魔法のレポートを返しますよ。名前呼ばれたら取りに来てください」

 

 

 ホントに久しぶりだなこのやりとり。この前まで任務続きで、皆と顔を合わせられなかったのは正直悪かったと思っている。

 

 アリサは、俺の学級に来て(というか女神候補生のクラスなんて一つしかないのだが)女神候補生のひとりとして学んでいる。とはいえ、どうしていくかは本人も悩んでいるそうだ。スクライブとして聖典の写本を行ってもいいし、神官の一人として女神を支えていくのもいいし、本当に女神になってもいい。もちろん、他の道を選ぶのも自由だ。ともあれ、どうするかは彼女次第だ。

 

 

「はい、それじゃあ解説は一通り終わったので、質問があったら各自来るように。

 あと天文学のレポートと魔法学の課題、聖典学の課題が提出日近いから各自やるようにな!」

 

 

 解説とそれに関連した復習で授業時間が終わり、生徒達は休み時間に入る。俺の授業はこれでラストだ。病み上がりなためか、時間が少なめに設定されていたのは有難い。

 

 さて、ソラちゃんとこに行きますかね〜!

 

 

 ソラちゃんの部屋は、ドリアーテ戦直後はまぁ酷いものだったという。特に石材のガラス化が酷く、復旧作業は難航した。ガラス化した素材をステンドグラスに再利用し、新たな床が敷かれた。

 それでもまだ復旧が完了しておらず、隅っこではヘルメットを被ったクロモンがコリアンダーの指揮の元ハンマーを振るったり石材を運んだりしている。そのせいか部屋の半分くらいは立ち入り禁止となっていた。

 

 

「それで、きらら。もっと詳しく話を聞かせて頂戴。

 貴方がランプとどのような旅をしてどのようなものを見てきたか……」

 

 

 丸テーブルを囲んで座るきららちゃんとアルシーヴちゃん、そしてソラちゃんがもうお茶会を始めていた。

 いつものソラちゃんには全くと言っていい程似合わない厳かさを出して、きららちゃんから旅のことを聞き出そうとしていた。

 

 

「なーにしてるの、ソラちゃん」

 

「あら、ローリエ」

 

「ソラちゃんらしくないオーラマシマシで、きららちゃんに迫っちゃってー。」

 

「ちょっと、らしくないってなに!?」

 

「どっちかっていうとランプっぽいじゃん普段。それをそこまでやるって、そんなにクリエメイトの話が楽しみなのか?」

 

「もっちろん!! だって…クリエメイトとの旅なんてすっごく羨ましいもの!余すところなく聞きたいわ!!」

 

 

 俺の質問に、スーパーハイテンションで答えていく。こういう所、ホントランプとそっくりなんだから…

 

 

「あれ? ローリエさん、そういえばランプはまだ来ていないんですか?」

 

「ん、あぁ、ランプのことだからまだ課題が終わってないんだろ。まったく手を付けていない訳ではないと思いたいが……」

 

 

 きららちゃんの未だ姿を見せない相棒に対する質問に、俺なりに予想していると、息を切らしたランプが部屋に入ってきた。

 

 

「ローリエ先生! アルシーヴ先生! 課題が終わりました!」

 

「おっ、やってきたね!どう? できた?」

 

「その、聖典学以外には自身ないですけど………」

 

「……まったく、聖典学以外にも励めと言ったはずだが。」

 

「うっ……が、頑張ります。」

 

「しっかりしろ……神殿の未来を担う一人なのだから。」

 

「………! はい…!!」

 

 

 相変わらず聖典学以外には自信を持ててないランプだが、今ではアルシーヴちゃんとは良好な師弟関係だ。

 誤解から始まった因縁だったけど、最終的に二人とも和解できて良かったよ。

 アルシーヴちゃんは、ランプに対する辺りが間違いなく柔らかくなったし、ランプもランプで聖典学以外の勉強も始めるようになった。まぁ……顔見知りのアリサが優秀だったからってのもあるのかもしれんけど。

 

 

「ほらほら、そんな事より早くお茶会を始めましょ!」

 

「はい!」

 

「やったぜ〜見渡せば美女・美少女だ。ハーレムだぜハーレム……フフフッ」

 

「はーれむ?」

 

「…この馬鹿の言葉は覚えなくていい、召喚士。」

 

 

 アルシーヴちゃんがきららちゃんに俺を子供に見せられないもののように教えている。なにげに失礼な行為だが目の前の光景の素晴らしさに免じてそこは追求しないでおこう。それよりも、だ。

 

「アルシーヴちゃん、もうきららちゃんのこと『召喚士』って呼ぶのやめない? もう敵対なんかしてないんだしさ。」

 

「む……それもそうか」

 

「ふふっ、呼びやすい呼び方で大丈夫ですよ?」

 

「あぁ…だが、ローリエの言う事も一理ある。いつまでも『召喚士』では少々固いか。」

 

 もうきららちゃん御一行を立場上の理由で変に気遣う必要もなくなった。アルシーヴちゃんの「きらら」呼び解禁も間近な今、正々堂々とお茶会やら何やらに誘うことができるしね(もちろん変な意味ではない)。

 

「今日は、久しぶりのお茶会なわけだし……ランプからたくさんお話をしてもらいたいの。何か話してくれないかしら?」

 

「分かりました!話したいことはたくさんあるんです!

 聖典の素晴らしさやクリエメイトの皆様の尊さ……それと、きららさんと出会えたことの嬉しさも。

 たくさん話しましょう! まずはですね―――」

 

 

 ランプからこれまでの旅路が聞かされる。

 知っている内容とはいえ、時に楽しそうに、時に真面目に話すランプが幸せそうで、ただ見守っていた。

 

 

「え…きららちゃん、タイキックされたん!?」

「はい………何者だったんでしょう、あの人……」

「お尻を蹴られたなんて…痛くなかったの?」

「はい…ちょっと……いえ、かなり……すごく、痛かったです」

「「「すごく!?!?」」」

 

 きららちゃんがタイキックされた事を筆頭に、ランプがセレウスからアリスを庇ったとか、フェンネル相手にハッタリかましたとかストーリーモードにはなかった事を言い出した時は流石にビックリしたが……過ぎた今になっては笑い話なのだろうな。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ランプの話は長きにわたり、やがて陽が傾いても尚、終わることはなかった。

 そのため、一旦話を切り上げて、続きはまた明日ねってことになった。

 きららちゃんを神殿に長く拘束しちゃったから、今日はきららちゃんもここに泊まるらしい。

 神殿は部屋いっぱいあるし、寝床には困らないだろう。

 さて、と。

 

 

「今夜も今夜とて、魔道具の試運転だな」

 

 

 できたばっかの魔道具のテストだ。今日のできたては三つだ。

 一匹は水色のトンボ、一匹は赤いカブトムシ、そして残り一匹は灰色のトノサマバッタの姿をしている。

 そのうちの水色のトンボを起動すると、トンボは宙に浮き、全身が透き通るように消えてしまった。

 

 このトンボの名は『メガネウル』。ルーンドローンとは別タイプの、偵察用マシーンだ。

 透明化・自動飛行のほか、コイツには独自の機能がついている。

 

 

「おぉ~~~~、見える見える……!!」

 

 

 それは―――透視機能。

 男湯の脱衣所に忍ばせたメガネウルから、壁を隔てた先の映像が送られてくる。

 そこでは、アルシーヴちゃんとソラちゃん、あとハッカちゃんときららちゃんが入浴タイムを送っていた。

 NOZOKIは結構やってきたが(笑)、機械を使った試みは初めてだ。音声は入ってこないし、見れる角度も限定される反面、壁越しなため、バレるリスクも激減している。

 

 ふむふむ、ソラちゃんは相変わらずスゴイな。ハッカちゃんも、最近はバランスの整った美しい姿になりつつある。きららちゃんは、将来に期待だね。アルシーヴちゃんは……またおっきくなったかな!?

 いやぁ~~それにしても、俺ってばなんて天才。これらの昆虫メカは、今まで作った魔道具のノウハウを使って作ってみたもの達だ。つまり、前世から着想を得るだけじゃあ作ることはできない。エトワリアで学んだ魔法工学の経験が物を言っているのだ。

 

 

「俺もやればできるもんだなぁ~」

 

「…そうかもしれませんが、使い方が最低ですね」

 

「!!!?」

 

 

 突然かけられた声に振り向くと、さっきまでいなかったはずのソルトとシュガーの姿が……!!

 い、いったいいつの間に……!

 

 

「入浴前のアルシーヴ様から声をかけられたのです。風呂を覗く不埒者を成敗せよ、と。

 ローリエの事ですから、手を変え品を変え覗きに来ると計算していました。予想通りですね」

 

「おにーちゃん…そーゆーえっちなことに魔道具使うの、良くないと思うよ?」

 

 

 オーマイガッ!! シュガーにそんなことを言わせてしまうなんて、心が痛む!!

 だが、もしここで捕まろうものなら、病み上がりがベッドへ逆戻りするレベルのお仕置きを受けた上で、説教の嵐を受けることは必至! 今回ばっかりは…捕まるわけにはいかない!!

 幸い―――姉妹に見つかったタイミングで、カブトムシとバッタの魔道具は手に持っている。

 

 

「ローリエさん、手に持っているバッタとカブトムシを手放して、投降してください」

 

「捕まったらどの道また大怪我するんだ。急用も思い出したことだし、今夜ばっかりは諦めてもらうけど、良いよね?」

 

「むー、ダメだよ、逃げちゃ―――」

「さすがに往生際が悪すぎま―――」

 

「まぁ答えは聞かないけど」

 

Start Up

 

 

 カブトムシ型の魔道具のスイッチを押した瞬間、全てがスローになった。

 スーパースローで口を動かすシュガー・ソルトの脇をすり抜け、部屋を出ると避難場所の一つへ全力疾走した。

 

 

3…2…1……Time Over

 

 やがてカブトムシ型の魔道具からそんなアナウンスが聞こえると、俺以外の時間の流れが元通りになった。

 このカブトムシこそ、二つ目の魔道具―――その名を『ソニックビートル』。スイッチをひとたび押せば、10秒間だけ自身のスピードを数百倍にすることが出来る。昔の仮面ライダーと似たようなモンだ。一度使うと、再使用までに1時間以上はかかる上、途中でソニックビートルを手放すと加速が解除されちゃうけど、強力なモノには間違いない。

 

 

「……あぁ~~、煙あげてら。要改良だな」

 

 

 ソニックビートルは試作品の為か、加速自体はできたが反動が凄まじいな。手を加えて負担をどうにか減らさないと再使用はできなさそうだ。

 仕方ないので残ったバッタの魔道具を起動する。

 

SASUKE Invisible

 

 魔道具の名は『サスケ』。これもスイッチを押せば発動するタイプで、持っている人を見えないようにすることができる。手で持つ必要はなく、身につけていれば不可視化はできるが、魔力探知に引っかかる点が課題だ。

 でもまぁ、今回はこれで問題ない。追っかけてきたシュガーとソルトも、完全に見失っている。

 あとは悠々と目的地に行くだけだ。

 

 

 

 

「…………で、なんでここにアリサがいるの」

 

「ローリエさ…いえ、もう先生、でしょうか?」

 

 避難場所には、先客がいた。

 最近女神候補生になったことで、俺を先生って呼ぶようになったアリサだ。

 

「ここにいるのは偶然です。聖典の書き方を参考にしようと昔のものを探ってたら……たまたま」

 

「聖典の書き方?」

 

 

 はて。アリサが聖典を書く?

 彼女は、一体どんな聖典を書くんだろうか?

 

 

「何を書くつもりなんだ?」

 

「そう、ですね………女の子にモテることしか考えない、えっちな主人公が、世界を救う話です」

 

「……なんじゃ、そりゃ?」

 

「察しが悪いですね、珍しく」

 

 

 そんな事を言いながら、アリサは数枚の紙を見せてきた。

 そこに書いてあったのは、俺がアリサに会ってからドリアーテを倒すまでの、旅の道筋。アリサが何をしてきたのか、俺が何をしてきたのか……それらが全て、書かれていた。

 一番上の紙――表紙に当たる部分だ――のところには、題名らしきものが書かれていた。『きららファンタジア外伝・ローリエ~八賢者物語~』……と。

 

 

「これは……!」

 

「ローリエさんの物語です。いかがですか?」

 

 

 驚いた。まさか、俺の物語を書こうとしていたとは。

 きららちゃんはランプによって物語にされていたし、そうなって当然の活躍はしてきたが……俺がこうなるとは思ってなかった。

 

 

「俺は為すべきこととやりたいことをやっただけなんだが………聖典に書く程のものか?」

 

「…本気で言っているんですか?

 ローリエ先生は、ドリアーテの正体をいちはやく見破ったりソラ様とランプを守ったりしたじゃあないですか。十分立派だと思います」

 

「あー、そういうことじゃない。そういう気持ちも無きにしも非ずだが、俺の話を書きたいんなら好きにするといい。

 でもアリサ、君はなんで俺が呪術師に辿り着いたかとか、君に会う前何してたかとか、知らないだろ?」

 

「………あっ」

 

「多分だけど、アリサの聖典案……コレに足りないのは書き方じゃあない。中身とそれを得る為の取材だ。俺の事なら、あの件以外全部話すのに」

 

「…ありがとうございます」

 

 

 アリサから受け取って読んだ聖典に対してアドバイスをすれば、きちんと頭を下げた。夜も遅いのに、熱心に勉強とは偉いものだ。俺もたまには、徹夜で何か研究してみるかな?

 

 

「とにかく、今日はもう遅い。日が変わったら、すぐにでも俺ん所に来ると良い。あの事件で俺がやったことは、包み隠さず全て話そう」

 

「そうだな、ローリエは今夜私と先約があるのだ」

 

「「…………………!!?」」

 

 

 俺の日を改めてから協力しよう発言に同意するアリサではない声が聞こえて、即座に振り返る。

 そこには、身体からまだかすかに湯気が上がり、お休み用のネグリジェ姿のアルシーヴちゃんがいた。

 即座に俺は、アルシーヴちゃんに顎クイする。

 

 

「アルシーヴちゃん…ダメじゃあないか、そんな姿で夜出歩いちゃあ。悪いオオカミさんに襲われちゃうぞ? それに、俺と先約なんて…期待してもいいのか?」

 

「…………あぁ。期待してくれて構わないぞ」

 

 !!? き、キタァァァァァァァァァァァァァァアアアアアア!!!

 

「―――今夜は貴様という名のオオカミさんを成敗してくれる。嫌という程な……」

 

「ぎゃああああああああああああああああああ!!!?」

 

 ……前言撤回、来てなかった。というか終わった。

 顎クイした手と首根っこを同時に掴まれる。

 

 

「さぁ、大人しく来い」

 

「い、嫌だァァァァァァァァァァァァァァ!! アリサ!助けてくれェェェェェェ!!!」

 

「お断りします。変態な先生が悪いんです」

 

「ウソだぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」

 

「アルシーヴ様、ローリエ先生の取材なのですが……明日じゃなくって明後日の方が良いですか?」

 

「そうだな。明日は反省の時間に充てることが、今決まった」

 

「ヘルプミィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

 

 

 

 

 こうして、俺達にとって騒がしく、当たり前で……でも、輝かしく心地いい日々は過ぎていった。

 

 だが―――この時の俺は、まだ知らなかった。

 新たな脅威が、もうすぐそこまで来ていたことを。

 木月桂一が夢の中で言っていた“邪魔者”が、予想以上に悪辣で狡猾だったことを。

 現実主義者(リアリスト)を名乗る者たちが暗躍していたことを。

 ―――そして、最強にして最悪の敵は、俺のすぐ身近にいたことを………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――と、言っておけば、完結しても尚本作の人気が上がり、あわよくば『きららファンタジア』のDL数や人気も上がるかもしれないので、とりあえず言ってみた俺だ。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 最終回にあろうことかNOZOKIを敢行した拙作主人公。透視機能の付いたトンボ『メガネウル』で透視し、ソルトとシュガーに見つかった際は『ソニックビートル』と『サスケ』で逃走。逃走先でアリサと自身を主人公にした聖典を目にして、協力を約束するが、アルシーヴに捕まった。この後、幼馴染二人と主人公から白い目で説教される羽目になる。

アルシーヴ
 最後の最後まで、ローリエのNOZOKIを折檻した幼馴染筆頭神官。オリジナル版と比べて巨乳なのは、間違いなくローリエが原因だが、自覚はしていない。むしろ、「最近大きくなって動きにくいな…」とまで思っている。

アリサ
 神殿にて女神候補生として頑張ることにした呪術師。元々勉強はできる方なのでほぼ苦労はないが、自ら聖典を書く課題に苦戦して徹夜しようとしたところでローリエとばったり会い、情報収集の大切さを知る。なお、宣言通り「明後日」にはちゃんとローリエに取材をしに行った。聖典案には、本作の題名を使うことも考えたが、ローリエが本作できららとは別行動することが多かったので、『きららの物語の外伝』としてオリジナルの題名をつけた。

ソラ
 復活して、ランプの土産話に興奮していた女神。入浴時にローリエに覗かれたと知った時は少なからずショックだったが、前の様に避けられているわけではないことを知りちょっとだけ安心した。

そら「でものぞきはダメ!」
ろーりえ「えー!」
そら「えーじゃない!このエッチ!」
ろーりえ「CV.ゆ○な」



メガネウル
 ローリエが開発した水色のトンボの姿の魔道具。自身が透明化したり、飛行したりしてカメラで撮影・録画できる他、壁一枚程度なら透視することができる。名前の由来は最古のトンボ「メガネウラ」から。

ソニックビートル
 ローリエが開発した赤いカブトムシの魔道具。スイッチをおして起動すれば、約10秒間、数百倍のスピードで動くことが出来る。しかし、一度使用すれがクールダウンに時間を要する。モデルは『仮面ライダーファイズ』と『仮面ライダーカブト』のゼクター。ただし木月桂一の記憶が曖昧だったために、ファイズとカブトが合わさった感じになった。

サスケ
 ローリエが開発した灰色のバッタの魔道具。スイッチを入れると、手にした人間を透明化できる。現在、魔法による探知を潜り抜ける方法を模索中。




あとがき
 はい。これにて『きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者』本編完結となります。2年と5か月ほどでしたが、ご愛読ありがとうございました。拙作が作者の『ハーメルン』デビュー作というのもあり、フラグ管理や文章の言い回しなどに苦労し、読みづらかったりフラグが回収しきれなくってモヤモヤしたりすることもあったかもしれませんが、お気に入り登録・評価付与・感想が、作者の励みになりました。
 第二部についてですが、アプリ版でも第三章が始まったばかりですので、もう少しストーリーや敵の正体が判明してからにしようかと思います。これは、拙作と原作の致命的な矛盾を避けるためです(今の時点で十分怪しいですが……)。物語のあらすじは決まっていますが、それこそ細かな部分が全然できていません。ですので、他の創作をしつつ、純粋に『きららファンタジア』を楽しみたいと思います。
 今までのご愛読、本当にありがとうございました。またどこかでお会いできるのを楽しみにしております。それでは。

 …あ、そうだ!外伝も書き終わり次第投稿していくんで、そっちもよろしくお願いします!(別れの挨拶の意味ェ)




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外伝:予告と後日談と明るい未来編
次作予告・Elysium


―――理想郷。
そう聞いて、貴方は何を思い浮かべますか?

アーサー王が渡った不死と医療の島(アヴァロン)
永遠の若さと希望が手に入る喜びの島(マグ・メル)
莫大な富が約束された黄金の都(エルドラード)
……それとも、正しき心の持ち主だけが辿り着ける幸福の世界(エリュシオン)…とか?









えー、という訳でお試し投稿・映画の予告MV風です。
第2部をベースにストーリー作っているので、当たり前のように『きららファンタジア第二部 断ち切られし絆』のキャラクターやネタバレを含んでおりますからそこだけご注意を。


それと、外伝の内容をアンケートした結果、以下の様になりました。
1位:各キャラ結婚ルート
2位:きららVSローリエ
3位:ハッカ、夢に潜る
4位:女神候補生アリサの新生活
5位:ハ○プリ○、ローリエと出会う
  木月桂一の人生
7位:アルシーヴVSローリエ
とりあえずは1位の「各キャラ結婚ルート」を細々を書いていきたいと思います。まぁ必ずしも結婚というわけではないですが、要するにそれぞれのキャラ一人×ローリエってやつですね。2位3位以降は余裕があれば書いていこうかな~。


 ―――意識が闇に沈む。

 一言でまとめるならば、そんな感覚がローリエを襲っていた。

 何も思い出せない。何も分からない。

 確かなのは、己の身体が何かから落ちていくような感覚だけだ。

 

 

『―――哀れだね、ローリエ』

 

 

 男の声がした。

 続いて、現れる姿。

 黒髪・黒目に黒縁眼鏡、スーツ姿も黒とほぼ黒一色の無個性な男。

 だが、その姿は覚えがあった。…なにせ、()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 

『すべてを救うと息巻いて、徒にクリエメイトを苦しめ、最後にはきららの身代わりになっておしまい、か……?』

 

「うるせぇ。死人が今更なんの用だ……!」

 

『もはや沈んでいくだけの君を助けるのは不可能だ。パスを断ち切られたんだ、命綱なしでバンジースポットに放り込まれた状況に等しい。

 でも……何故、君は諦めていないんだろうね?』

 

「何が言いたい……!!」

 

『…あぁ、焦らなくていい。君が諦めない理由など、問わずとも分かる。

 大好きな「きららファンタジア」を穢されて、怒らないわけがないだろう?』

 

「!!!!!」

 

 

 図星だった。

 ローリエは、この世界を愛している。

 女性にはやや遠慮がないが、それでも本質は変わらない。

 

 たとえ図星でなくとも、ローリエは答えに窮した。

 なぜなら、目の前にいる男―――木月桂一は、ローリエの前世だ。ローリエにとっての『もう一人の自分』である木月が、ローリエの心中を察することは容易いことを知っていたからだ。

 

 

『私ならば、リアリストを倒すことができる』

 

 

 木月が、笑みを浮かべた。

 

『君が良ければ、なんだけどね―――』

 

 そして、ある案を提示する――――――

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「移民キャンプ?」

 

「そうなんだ!最近現れた移動する理想の都!建都記念の超豪華式典も行われる、人助けのパレードみたいだぜ!嬢ちゃん達も行ってみたらどうだ?」

 

 

 リアリストとの戦いが終わり、平穏を享受していたきらら・ランプ・マッチ・うつつ。四人は偶然耳に挟んだ『移民キャンプ』の話が書かれたチラシを男性から受け取ると、頬を寄せて覗き込む。

 

 

「うわぁ、うさんくさ……みんな、行くのやめない?」

 

「そうですね…うつつさんの言う通りかも…」

 

「聖典の新約版のバーゲンセールなんかもやってたなぁ、確か」

 

「行きましょう!!」

 

「ねぇ、いま行かないって言わなかった…?

 いくら何でも手のひら返しがヒドすぎない?」

 

 

 聖典絡みの話が出るなり食いついたランプに、面倒くさげに徹底して不参加を勧めるうつつ。自分自身に降りかかる災難を恐れているようでもあった。

 きららは、いつも通りの二人を前に、穏やかに笑うだけだった。

 

 だが。

 

 

「ローリエ先生が、帰ってきていない?」

 

「うん、そうなんだ。アルシーヴ様から探し出せって命令が出されてね。フェンネルやシュガー達と一緒にあの都市に行くことになったんだけど……」

 

「やだよぉ……完全に事件の予感だよぉ……」

 

 

 ローリエが行方不明。

 そんな事情を持ちアルシーヴに捜索命令が出されたカルダモンと合流し、八人目の賢者の心配をしながら移動都市へ赴くことになる。

 

 

『常若の希望が集う、幻影の都市・ティルナノーグ。

 そこでは、人々が助け合い、平和に生きる理想郷が展開されていた。』

 

 

「す、すごい……!」

 

「うわ、なにこれ……ま、眩しすぎて直視できない……」

 

「何て言うか…完璧だね……うん…」

 

 

 賑わう商店街。

 笑い声が絶えない住宅の数々。

 お互いに助け合う人々の姿。

 

 絵にかいた理想がそのままキャンバスから出てきたような光景に、一同は言葉を失うが………調査を始めていくにつれ、彼女たちはその都市の姿に魅了されるようになる。

 

 

「うわぁ……すごいです! こ、こんなに聖典が!!はぁぁぁあああああっ!!!」

 

「えへへへ……陽キャの町だと思ってみたけど…住めば都、かも…」

 

「面白い…どれもこれも興味深いな」

 

「ねーソルト!今度はあっち行こ!甘くて美味しそうなお菓子が売ってたんだ!」

 

「ま、待ってくださいシュガー!まだお土産を買い切れていません!!」

 

「な…どうして、アルシーヴ様が……あぁっ、いけませんわアルシーヴ様、まだ…まだお昼なのに…!」

 

 

 聖典の山に埋もれるランプに、陰キャ専用の施設に入り浸るうつつ。尽きることのない様々な娯楽に惹かれるカルダモン。古今東西百種のお菓子に夢中になるシュガーとソルト。そして、アルシーヴとの蜜月の時を過ごすフェンネル……

 仲間が街の魅力に惹かれる中、きららは衝撃的な出会いを果たす―――!!

 

 

「―――えっ!!? は、ハイプリス……!?」

 

「……? 確かに私はハイプリスですが…私を知っているのですか?」

 

 

 きららが出会ったのはかつてのリアリストを束ね、『リアライフ事件』を引き起こした黒幕であったハイプリスだ。

 しかし、今の彼女に当時の雰囲気はない。髑髏の被り物をしておらず、深緑色のローブを身にまとい、行く先々の人々を手助けしながら、身構えたきららに本当に分からないといった様子で首を傾げた。

 邪悪な彼女を知っているきららからしたら、ひっくり返るレベルでの人物の豹変だ。

 ……しかし、驚くのはまだ早かった。

 

 

「もう私は私の罪から逃げないの。残りの一生で、償うって決めたの」

 

「暴力からは暴力しか生まれない。私はそう学んだんだ」

 

「人助けもできて、お菓子も貰える。こんな良い生活他にないよねー」

 

 

 己の悪事と向き合い、ひたむきに奉仕作業を行うヒナゲシ。

 非暴力を唱えながら、喧嘩の仲裁をするリコリス。

 心の底からの笑顔で、一汗かいた後のお菓子を齧るスイセン。

 リアリスト達と戦ったきらら達からすれば、誰だお前らと異口同音にツッコむレベルで人格が変化している彼女たちに、動揺を隠せない。

 改心したといっても、限度がある。中身だけが入れ替わったと言った方がまだ納得できるくらいであった。

 

 ―――しかし、衝撃はまだ、終わっていなかった。

 そして……これが、空前絶後の事件のきっかけになる事も、まだ知らない。

 

 

『予期せぬ再会』

 

「―――やぁ、観光客の皆様。ティルナノーグは…私と『贖罪の聖女』達が作り上げた都市は気に入ってくれたかな?」

 

「ろ………ローリエ!?」

 

「その…格好は?」

 

「………あぁ、成る程。皆さん、詳しい話はこちらにて……」

 

 

 きらら達の知るものとは口調も服装も全く違うローリエが現れる。

 しかし彼は…己を『キヅキ・ケーイチ』と名乗った。

 

 

『残酷な真実』

 

 

「ローリエさんが………再起不能…!?」

 

「リアリストとの戦いでパスを断たれまして……私がいなければ彼は廃人まっしぐらでしたよ」

 

「じゃあ君は一体………?」

 

「正直に言うなれば……ローリエの、『前世』…ってところですかね」

 

 

 ローリエの豹変の正体。

 それは、リアリストとの戦いで受けた致命傷をカバーした前世の魂だった。

 そして、キヅキは自身の目的を話しだす。

 

 

「ご覧になったでしょう?生まれ変わったリアリスト達を。

 私達が作り出した『優しい世界』……誰も理不尽に何かを奪われる事のない世界で過ごした結果だ。

 ―――君達には、エトワリアがそんな世界に生まれ変わることを認めて欲しいんだ」

 

 

『真っ二つに分かれる仲間たち』

 

 

「それってさ、キヅキ。君の自己満足で人を洗脳してるだけじゃあないの?」

 

「兄さんに会える可能性が少しでもあるなら……私はそれを信じたい!」

 

「私はアルシーヴ様の盾。もし、アルシーヴ様がこのような現実を望まないのであらば……この命ある限り、アルシーヴ様の望むがまま従いますわ!」

 

「理不尽に何かを奪われない世界……か。もしそれが本当ならば、どれだけ良いだろうな。だが、奪われない事と引き換えに、何を失うってんだ……?」

 

「ソルトは…シュガー達のパパとママに会いたくないの!?」

 

「会いたいに決まっています!でも……だからってこんなの、間違ってます!」

 

「や…や、やめようよぉ……」

 

 

 静かに自身の意見を述べるのは、カルダモンとアリサ。

 面白いものが正しいという独特な価値観を持つカルダモンには、キヅキが『優しい世界』を口実に洗脳を行っているように見えたようだ。対してアリサは、二度と会うことの叶わない兄への想いを…少女らしい純粋な思いを口にする。

 

 また、フェンネルとコリアンダーは明確に『こっち』と決めることが出来ていない。

 フェンネルはいつもの様に「アルシーヴ様のお望みのままに」と言っている。だが、これは一種の盲信であり、思考の放棄と言われても仕方ないだろう。コリアンダーは未だ、「理不尽に何かを奪われない事」への代償・代価が何かが見定めかねており、すぐに決定する気配でもなさそうだ。

 

 そんな4人に対して珍しく意見をぶつけ合わせてるのは、シュガーとソルトだ。

 幼いながらも両親不在で苦労したからか、姿も知らない親への想いを口にする妹のシュガーと、世の中の柵を己にも言い聞かせるように語る姉のソルト。

 お互いが血を分けて常に一緒にいた姉妹だからか、その様子に遠慮などは一切ない。

 

 うつつが臆病ながらに言い争いをやめるように促すが、議論はヒートアップするばかりだ。

 

 

「きらら……どうするの、これ?」

 

「きららさん…そうだ、きららさんなら!」

 

「……………」

 

 

 長い旅の中で芽生えた信頼が、ランプとうつつの心を光で照らす。

 しかし。

 

 

「………ごめんね、二人とも。

 私には……どっちが正しいのか、わからないよ……!」

 

「「…………」」

 

 

 

『今、最大の決断を迫られる―――!!!』

 

 

「ローリエを返してもらうぞ、英雄気取りの亡霊よ。

 その身体は―――貴様が使っていいものではないッ!」

 

「アルシーヴ…君には私がそう見えるんだね……残念だ」

 

「例え貴様が何と言おうと……私の英雄はローリエのみ!」

 

 アルシーヴの魔法とキヅキの兵器が衝突し、爆発を巻き起こす。

 更に、ハッカが放った魔法符から放たれた攻撃を、ひとりでに動く石像が庇った。

 その石像は一つに限らず、その全てがリアリスト達を象っているように見える。どうやら、石像もキヅキが造り出した攻撃の仕掛けのようだ。

 

 

『敵か、味方か!?』

 

 

 月明かりに照らされたティルナノーグの移動要塞の屋上に、ひとり黄昏るローリエ………否、キヅキ。

 

 そこに足音が響き、それに気付いてキヅキが振り返る。

 

 彼の視線の先には―――覚悟を決めた。そう言わんばかりの表情をしたきららが立っていた。

 

 風がお互いのローブをたなびかせる沈黙の中、先にそれを破ったのはキヅキだった。

 

 

『正義は、どこにあるのか?』

 

 

「―――よく来たね。

 答えは、出たのかな?」

 

「…………キヅキさん、私は―――」

 

 

 きららが、キヅキの問いに答えるべく口を開いた。

 

 

貴方の世界に、抗います―――

 

―――貴方の世界を、認めます

 

 

 

 

『―――その正義を、貫け。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きららファンタジア~断ち切られし絆~

二次創作・始動!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きららファンタジア

~断たれた絆と蘇る理想郷(エリュシオン)

 

―――2021年13月、連載開始!

 

 

 




Q:なんだって!本当かい!!?
A:もちろんさぁ☆きらファン八賢者第二部、公開予定!震えて待て!!

Q:13月なんてねーよ!
A:すまない……具体的なスケジュールは未定なんだ…すまない……

Q:内容の急変更とかある?
A:ある。

〜〜〜〜〜〜〜


ろーりえ「なぁ木月…この芽はなんだ?」
きづき「“理想郷の芽”だ」
ろーりえ「“理想郷の芽”?」
きづき「育てれば夢に描くような理想郷が生まれる木だよ」
ろーりえ「……それ、詐欺だったりしないよな?」
きづき「断言はできない。だが、もし生まれた理想郷が詐欺だと思ったなら……きっとそれは『思ってたのと違う』という感情だろう。多くの無辜の人々が救われる事実は変わらない」
きづき「君は………この芽に水をあげてもいいし、逆にこの芽を摘み取ってしまってもいい」
ろーりえ「……………」


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アルシーヴ編 プライド革命

はじめに。読む前に「プライド革命/CHiCO with HoneyWorks」という曲をご用意ください。まぁ、なくてもいいのですが、会った方がより良く楽しめるかと思われます。


「シュガー、ソルト、大義だった。しばらく体を休めるといい。」

 

「「ありがとうございます。」」

 

 ふたつの声が重なり、姉妹が去っていく。姿が見えなくなったところでふぅと息をつき、肩の力を抜く。

 

 

「どうしたのアルシーヴちゃん?」

 

「うわああああっ!!?」

 

 そうしたところで、突然緑髪の男が私の視界に入ってきて、オレンジと金色のオッドアイが私を覗き込む。いつものことなのだが、やめて欲しいものだ。心臓に悪すぎる。そして―――遅れて胸に、手が沈んでいく感覚が。

 

「あと私の胸を揉むなッ、ローリエ!」

 

「いやぁ、いいじゃない別に。それに今日のアルシーヴちゃんのボインちゃんも美味しそうだなーと……」

 

「『ルナティック・ミーt―――」

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!

 ゴメンなさい!!! 謝るからそれだけはぁぁぁぁぁぁッ!!!?」

 

 

 詠唱のふりをすると、手のひらを反すように目の前の男・ローリエは目にも止まらぬスピードで土下座を行う。まったく、調子のいい男だ。

 その後、私の悲鳴を聞いて飛んできたというフェンネルにローリエを引き渡し、溜息をこぼす。

 

 ……こんなことをしている場合じゃないというのに。

 

 

「……アルシーヴ様、いかがされましたか?」

 

「何でもない。ただ、久しぶりに実家へ顔を出そうと思っただけだ。」

 

「…ご実家に、ですか?」

 

 ……そう。私は明日から、実家の両親に会いに行く。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 きっかけは、数日前に遡る。

 

 

「アルシーヴ、しばらくあなたに仕事は与えません。」

 

「………はい?」

 

 私の幼馴染であり、上司でもある女神・ソラからそう宣告されたのだ。

 初めて聞いた時は時が止まった。いや……私が固まったと言うべきか。

 

「……ソラちゃん、言い方。

 それだとクビの通告みたいになってるから。違うでしょ?本当は」

 

「えっ…? えっと……」

 

 女神の言葉を物怖じせず諫めるローリエに、戸惑うソラ。余計、私を混乱させる。

 

「………あー、つまりだな、アルシーヴちゃん? これにはソラちゃんなりの理由があってだな………」

 

 それに見かねたのか、ローリエが説明を始める。

 どうも、私の働く姿を見たソラが、過労を心配し、セサミと話し合った結果、休暇を与えることにしたらしい。しかし、休暇を与える度に私がその休暇を返上するので、「だったら命令して休暇を押し付けよう」と思いついたそうだ。

 

 だが、私は筆頭神官。たとえ女神の命令でもそう安々と休むわけにはいかない。為すべきことを為さねばならないのだ。

 

「『だが、私は筆頭神官。たとえ女神の命令でもそう安々と休むわけにはいかない。為すべきことを為さねばならないのだ』とか考えてそうな所悪いが、これはソラちゃんの親切心なんだぜ?」

 

「ナチュラルに私の心を読むなローリエ。大体私はだな――」

 

「大体も何もねーだろ、このワーカホリックが。過労死した挙げ句幼馴染二人を泣かせる気か?」

 

「アルシーヴっ!! わ、私は許しませんよ!!! アルシーヴが……そんなっ…働きすぎて死ぬなんて………っ!!!」

 

「おいローリエ、早速幼馴染(ソラ様)が泣きそうなんだが」

 

「ううっ、ぼくちゃんももう泣いちゃうッ……! アルシーヴちゃんのばかっ……!!」

 

「お前だけぶっ飛ばしていいか?」

 

 

 流石に涙目の幼馴染(片方は100%嘘泣きだろうが)のお願いには勝てず、私は渋々休暇を消化することになったのだ。

 

 あとローリエはぶっ飛ばした。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 そんなことがあって。

 私は、休暇が来るまでの数日間を、仕事に集中しきることがないまま過ごした。

 

 そして遂に、私の休暇が始まった。

 

 

 

 実家への帰路をとぼとぼと歩いていく。心は全く休まらなかった。

 やらねばならない事は多くある。しかし、追い出される形で休暇を与えられてしまった。ソラと八賢者は仕事をしている時刻だ。それなのに、私だけ働いていないこの現状に、疎外感と罪悪感を覚える。

 今すぐに神殿に戻りたいが、きっと門番やセサミに追い返されるだけだろう。

 

 

「や、やめなよ! これ以上いじめたら私が許さないよ!」

 

 

 ……?

 通り過ぎようとした公園から女の子の震え声が聞こえる。

 

 

「うるせぇ! 生意気なんだよッ、弱いくせに!」

 

「俺達に逆らうつもりか!?」

 

 

 見てみると、今にも泣きそうな女の子が、二人のガラの悪い男の子から身を挺して子犬を守ろうとしている様子だった。

 ……いじめの現場に遭遇してしまったわけか。ただでさえ気分が良くないのに、拍車をかけて追い打ちをかけてくる。

 

 

「おい、そこら辺にしろ。今ならまだ見逃してやる。」

 

 

 子供たちに強めに声をかけることに、躊躇いはなかった。

 だって―――もしも、ここで見て見ぬふりでもしようものなら、ただでさえ良くない寝覚めが更に悪くなるではないか。

 

 

「誰だ、ねーちゃん? 俺たちの話に首を突っ込んでくんなよ!!」

 

「………!! ば、馬鹿! この人ってまさか……」

 

 

 一人は喧嘩を売ってきたが、もう片方は私の顔に見覚えがあるようで、段々と顔が青くなっていく。

 

 

「あ、アルシーヴ様だ!」

 

「なっ……!?」

 

「もし、今いじめをやめれば見逃してやろうと言っているんだ。」

 

「ご……ごめんなさいィィィッ!!?」

 

「あ、てめ、引っ張るんじゃあねーよ! アルシーヴ様が何だ! 俺がその程度でビビってたまるか!」

 

「うわぁぁぁっ! ほんッとにごめんなさい!!!」

 

 

 ……ほう。

 男の子たちは私を前に逃げるか戦うかで仲間割れを始めるが、私の名を聞いてまったく臆さないのは、珍しいな。やっていることは決して褒められたものじゃあないが。

 

 

「俺は最強の剣士になるんだ! 逃げてたまるか!!」

 

「ほぅ、最強を目指す割にやっている事は弱いものいじめか。滑稽すぎて笑い話にもならんな」

 

「なッ……! それは、あの犬が……………チッ!!」

 

 正論をぶつけてやれば、舌打ちをしながら男の子達は去っていった。

 奴らの背中を一瞥した後、女の子と子犬に視線を移すと、魂でも抜け出しそうな驚く表情で私を見つめていた。

 

 

「あっ、あっ、ああああアル、あ、アルシーヴ、様」

 

「落ち着け。とりあえず―――怪我はないか?」

 

「あっ、は、はいっ、あの、えっと……」

 

「何故、あんな事になっていた?」

 

 

 女の子に尋ねてみると、彼女は緊張した様子から一変、俯いて喋らなくなってしまった。

 これは、少し踏み入りすぎたか?

 

 

「………何でもない。忘れて―――」

 

「―――だったからです。」

 

「なに?」

 

「かわいそうだったからです。」

 

 

 女の子は、ぽつりぽつりと話し始めた。 

 なんでも、この子犬、肉屋や魚屋で盗みを働いていたのだが、それは母犬がいない故に生きていくためにやむを得ずやっていたことを知っていて、犬を懲らしめる男児たちを見たことでつい庇ってしまったとのことだそうだ。

 正直、意外だった。あまりに人懐っこそうで、元気に尻尾を振っているこんなに可愛い犬が、そんな事をしたとは思えない。…………だが、真実なのだろう。

 女の子の事情をすべて聞いた私は、少々酷であろうとも、彼女に現実を突きつけることにした。

 

 

「お前の気持ちはよく分かる。だが……この子犬が働いていた盗みは、魚や肉を取り扱う者たちにとってはたまったものではない筈だ」

 

「うっ…………」

 

「可哀そうだが、あまり餌を与えない方が良い。人に慣れてしまえば、盗みがエスカレートする可能性がある。そうすれば、子犬は形振りかまわなくなり、怪我人も出るだろうから」

 

「そう…ですよね………」

 

 

 こればっかりはこう答えるしかない。

 少女や犬にとっては気の毒かもしれないが、肉屋や魚屋だって生活がある。まぁ、だからといって先程の男の子たちを全肯定するわけでもないが。

 だが、落ち込みながら帰っていく少女の背中を見送っていくうちに、ふと「これで良かったのだろうか」という思いが湧いて出てきて、自分はここまで優柔不断だっただろうかと頭を抱えた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ……そんな出来事があり、久方ぶりに我が家に帰宅したのだが。

 

 

「あら、おかえり、アルシーヴ。ローリエ君来てるわよ」

 

「――は? 母さん、今なんて…」

 

「珍しいな、お前が帰ってくるなんて」

 

「あ、あぁ。ただいま父さん。それよりも今…」

 

「アルシーヴちゃんおかえりー。お先にお邪魔してルビィッッッ!?

 

「……二人とも。なぜこの馬鹿を家に入れたんだ?」

 

 

 ありのまま目の前で起こったことを言い表すのなら……

 「いつもの家に帰ってきたと思ったら、父と母だけじゃなくローリエも出迎えてきていた」。何を言っているのか分からないと思うだろうが、私にも何が起こったのか分からん。

 精神系の魔法や催眠術の類ではないとは思ったが、頭がおかしくなりそうだった。

 とりあえず混乱の元凶を張り倒してから、両親に状況の説明を求める。

 返ってきた答えは、考えたくはないが予想通りのものだった。

 

 

「聞いたわよ、ローリエ君と付き合ってるんだって?」

 

「………はぁ、やはりか」

 

「…コイツ、ここ数か月娘以外に手を出してないそうだぞ。まぁ…余所見したり婚前に出来たりしたら承知しないが」

 

「や、やだなー。タッチ以上の事はしてませんぜ?」

 

 

 ローリエの軽薄そうな答えに父の目が鋭くなる。そしてすぐさま私に「変なことはされてないよな?」と視線で問われたので問題ない、と返しておいた。

 それにしても、私とローリエが付き合っている、か。別にそういう訳ではないので、誤解を解いておくことにしよう。確かに半年くらい前から、お互い距離が近くなった自覚はあったが……

 

 

「…付き合っているというのは語弊だ。

 ただ、ローリエとは最近、距離が近くなっただけなんだ」

 

「へぇ、例えば?」

 

「二人きりで芸術の都や水路の街へ行き…そこの展覧会を視察したり、スイーツ関係の特産品を巡ったりしただけです」

 

「アルシーヴ……世間一般では、それを『デート』って言うのよ」

 

「………」

 

 

 おかしい。誤解を解くつもりが、ますます誤解を生んでしまったようだ。母は完全に私とローリエがそういう関係だと思ってしまっている。すぐさま父に目を向けた。こういう時、ローリエはデートだという誤解をまず解かないからな―――

 

 

「……本当か?」

 

「はい。お土産も送りましたよ、素猫の画集とか、水羊羹とかマジックアクアミストとかそうです」

 

「そうか。…二人で楽しめたか?」

 

「はい。アルシーヴちゃんと二人きりで、素敵な時間を過ごすことができました」

 

「…………………」

 

 ……何ということだ。父が、ローリエとの話で完全にデートだと思いこんでしまった。先程引き合いに出した話を、男女のデートとして父に吹き込むローリエに対して「余計な事を言うなッ!」と思わずにはいられない。

 

 

「あらあら、見てお父さん!アルシーヴが真っ赤になってるわ!」

 

「おぉ…初めて見るな、こういうの」

 

 

 な、なんなのだ、二人して。

 頼むから、こっちを見るな。見ないでくれ。

 なぜだ…両親にそう言われてから顔を触れば、本当に顔が熱くなっていた。別に変な事は言ってない。さっきの仕事の話は本当のことなのに。なぜ、なんだ。

 

 

「……好きなのか?」

 

「違う!! 誰がこんな浮気男を!!」

 

「説得力ないわよ~?」

 

「ほんとに違うのに…」

 

 

 だ、だめだ。誤解を訂正しようとすればするほど、どんどん誤解が進んでいく! これじゃあ逆効果だ…! 何て言えば分かってくれる? 本当の関係を教えるにはどうすればいい!? ………ええい、仕方ない…!

 

 

「そ、それより! ローリエ、お前仕事はどうしたんだ?」

 

「有給だよ。溜まってたからまとめて取ったに決まってるじゃん。仕事は全部セサミとフェンネルに押し付けたんで」

 

「二人が何をしたというんだ…」

 

 

 いくら考えても分かりそうにない疑問に蓋をするように、別の話題を振ってすべて誤魔化すことにした。

 ちなみに、この後の夕食は、コイツも一緒だった。抗議したかったが、ローリエが食器の片づけを申し出て、母と談笑しながら手を動かすさまを見てしまったし、風呂や寝室は流石に別々の部屋だったため何も言えなくなってしまった。

 

 

 

 その日の夜は、あまり寝付けなかった。

 というのも、実家への帰り道に出会ったあの少女とのやり取りが、寝る直前になって思い出されたからだ。

 確かに、子犬をいじめたのは悪いことだ。だが、あの男の子たちが子犬をいじめた理由は恐らく魚屋や肉屋の盗みへの義憤といったところだろう。かといって女の子が子犬に対して「かわいそう」と思ったことは間違いじゃないはずだ。子犬も子犬で、必死に生き抜くために食料を得ようとしていただけだ。

 誰が悪い訳でもないのだ。しかし、秩序のため……ルールがあるから、ああ言うべきだったし、間違いではない。それでいいはずなのに、やはり眠れない。

 

 夜風に当たるべくベランダに出たら、そこにはローリエが座っていた。

 月明かりが照らしたローリエの顔は、私を見ると、笑顔を浮かべた。

 

 

「アルシーヴちゃんも、眠れないのかい?」

 

「…ローリエも、か?」

 

「俺は……なんとなく睡魔が来なくってな。夜風に当たろうとか、そういうありふれた理由よ。アルシーヴちゃんは?」

 

 

 ローリエの質問に、昼の出来事を話すかどうか少し迷った。

 あの出来事は終わったことなのだ。私自身、あの場面で一番良いと思ったことをして、女の子にもああ言った。だが………最善を尽くしたというならば、今もなお気になって……それこそ眠れない程に気になってしまうのは何故だろうか?

 迷った挙句、全部話してしまうことにした。どの道すぐに眠れそうにないから。

 

 

「なーるほど。ちなみに、アルシーヴちゃんはその行動に後悔とかしてるの?」

 

「…まさか。筆頭神官として、秩序を保つ者として当然の事を―――」

 

「あ、違う違う。そうじゃなくって」

 

「?」

 

「アルシーヴちゃん自身は―――『ただのアルシーヴ』として、その行動で良かったの?って訊いたんだ」

 

 

 …私自身として…「ただのアルシーヴ」として、だと?

 言われた事の意味が分からない。

 

「…どういう意味だ?」

 

「筆頭神官とか八賢者とか考えずに、君自身の考えはどうなんだって言ってるんだ」

 

「……そんな事、考えたこともない。

 為すべきを為す。神官として当然のことをし続けてきたからな……私情を持ち込む事は厳禁だったから尚更だ」

 

「………そっか」

 

 今まで私は筆頭神官としての役割を、感情より優先させていた。当然だ、神殿の準トップが個人の事情で動くなどあってはならない。上にも下にも自由過ぎる人達*1もいるし。

 

「……少し、聞いてほしい事がある。

 そうだな……とある役人の話だ」

 

「役人?」

 

「そうだ。そいつは、多くの人々を守り、豊かにする為に…古い慣習を破って新しいルールを作った。だがそれは、大のために小を切り捨てる事を意味していた。でも役人は、それをした。『それが役人として正しいから』『国を背負うものとして当然のこと』としててね。

 結果的に国を豊かにする事には成功したが……彼自身は暗殺されてしまった。切り捨てられた反対派の人間にね」

 

「……そいつが、前世のお前という訳か?」

 

「フ……ハズレだね。彼の名前は大久保利通だ。岩倉使節団で外国を見てきた彼は、地租改正や治安維持、富岡製糸場建設を始めとして、聖典日本の近代化に努めたと言われている」

 

「…ソレで上手くはぐらかしたつもりか」

 

 

 私は、ローリエが日本という国に住んでいた誰かの生まれ変わりだということを知っている。いつだったか、ソラと一緒に証拠つきで問い詰めたところ、あっさりと白状したからだ。とはいえ、その時は彼の言う「前世」で生まれた世界がどんなものかを話してはくれたが、コイツの昔の名前や人生は聞き出せなかった。というかソラも私も世界観の説明に夢中になり、聞きそびれてしまったのだが。いつか聞き出してやる。

 

 そう思いながらはぐらかそうとしたことを静かに咎めるが、彼はあくびを我慢している様子だった。

 

 

「アルシーヴちゃん。そろそろ眠くなってきたから戻るね」

 

「はぁ。また誤魔化すのか」

 

「………いつか話すよ。でも、マジでもう眠いから。

 本当はアルシーヴちゃんと一緒に寝たかったけど…」

 

「父さんに張り倒されるぞ」

 

「ですよねー。じゃあ大人しく戻るわ。おやすみ」

 

「……ああ、おやすみ」

 

 

 ローリエの後ろ姿を見送りながら、さっきの話を考える。

 やや極端な例を引っ張り出されたが……

 

『―――「ただのアルシーヴ」として、その行動で良かったの?』

 

 要するに、アイツは私の話を聞いてこう思ったのだろう。だが、その言葉が何を意味しているのか……小骨が喉にひっかかるようなスッキリしない感情を胸に抱いたまま、眠気がやってきて部屋に戻らざるを得なくなった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「……!! ち、遅こ…いや、違う…か……」

 

 

 翌朝。ぼんやりと9時を示す時計を見つめ、遅刻したと思ったが、よくよく考えてみれば休暇を貰っていたことに気付き、冷えた肝が再び熱を帯びていく中、ぼんやりと時計を見つめながらベッドからゆっくりと這い出た。

 

 

「ここまでゆっくりな朝はいつぶりだ…?」

 

 少なくとも、神殿に来てからはかなり規則正しい生活を送っていた。休日もここまで遅くなかった気がする。寝間着から着替えてダイニングへ行けば、そこにあったのは母の姿だけだった。

 

「あら、今起きたの? 珍しいわね、こんなゆっくりなんて」

 

「おはよう、母さん。父さんとローリエは何処にいるんだ?」

 

「二人ならもう出かけたわよ」

 

「へ…? で、出かけた? どこに?」

 

「宝…、いや、どこだったかしらねぇ。イヤだわ、忘れちゃうなんて」

 

 食器を洗いながらそんな事を言う母さんは、テーブルに用意されたパンとベーコンエッグを指さして、「貴方も早く食べちゃいなさい」と言う。

 

「あぁ…ありがとう、母さん」

 

「お礼はローリエ君に言いなさいな」

 

「あいつに?」

 

「父さんと作ったらしいわよ。あの人ったら、普段料理なんて滅多にしないくせに、張り切っちゃうんだから……」

 

 確かに。父は普段料理なんてする人じゃなかった。となると、ローリエの提案かなにかに乗せられたのか珍しくやる気を出したのか……本当の所は本人に聞くとしても……だ。いつの間に父と………いや、両親と仲良くなったのだ、アイツは。幼馴染だったから面識はだいぶ前からあったが、いくらなんでも、私の知る関係ではなかったような………

 

 

「アルシーヴ、どうかしたのかしら?」

 

「母さん?」

 

「そんなにローリエ君が気になる?」

 

「なっ!!?」

 

 

 その質問は、正直言って不意打ちだった。

 

 

「あらあらあらあら!! 真っ赤になっちゃって!うちの娘にもようやく春が来たのね~!」

 

「ち、違う!! そんなんじゃないって昨日から言ってるだろう!」

 

「も~~恥ずかしがらなくたって良いのに~!」

 

「~~~~~~~~ッッ!! 少し歩いてくる!!!」

 

「えーっ、もういいの!? ご飯は?」

 

「後で!!!」

 

 

 顔が熱い。心臓がうるさい。母からの追及から逃げるように、私は家を出た。

 

 私が、ローリエと、だと? あり得ない。だって…ローリエだぞ? 美しい女性には節操なく声をかける、あのローリエだぞ??

 

 

「あんな男と付き合う……? ない。絶対ない。次の日には浮気されてもおかしくないような男と…何故私が………?」

 

 

 だが、もし。もし………朝起きた時に、アイツがいたならば。もし、ローリエが今日のように、朝食を用意してくれていたなら。朝早くに父と家を出ることなく、珍しく寝坊した私を待ってくれていたなら。

 

『おはよー、アルシーヴちゃん! ご飯できてるぜ!』

 

 ……そういえば、あのベーコンエッグ、美味かったな……

 

「(………いかん、いかん! 何を考えているのだ私は!?)」

 

 

 全身が熱くなるのを、朝の風で冷やすために家を出たはずなのに、心なしかさっきよりも―――顔が、心臓が、身体が、熱い。この熱が治まる気がまったくしない。

 なんでだ。どうして、こんなことになった? こんなの、初めてだ。ま、まさか本当に、私は………アイツのことが、す、す、す、好―――

 

 

「オラアアア!! この人質が見えねェーかァー!!!」

 

「!!!!?」

 

 

 その思考は、突然聞こえてきた声によって、冷や水を思いきりぶっかけられたように冷えていった。

 男の、人質を取ったかのような言動に我にかえった私が周囲を見渡すと、商店街の一角に人だかりを見つけた。

 

 そこまで走って店を見てみると、人の頭や体でよく見えないものの、ガラの悪そうな男が金属の刃物に似た何かを持って何かに当て、宝石店に立てこもっていた。

 

 

「このナイフをよォ〜、このガキの柔らけー喉元にブッスリいかれたくなかったらよォ〜〜〜〜〜、近づくなっつってんだよ! そんでそのままケツめくって帰りやがれ、この衛兵どもがァ!!」

 

「な、なんと卑劣な…!」

「人質の安全を考えろ!」

 

「店ん中にも人質いるからなァ~~~、そこもちゃんと考えろよ!! 仲間もいるしなァ~~~~!!

 野次馬共も、サーカスの出しモンでも見てるみてえに集まるんじゃあねェーーーぜーーーッ! とっとと道を開けやがれッ!!」

 

「……………」

 

 

 人質は会話から察するに子供のようだ。なんと卑怯なと思うが、立てこもり犯は恐らく子供の首にナイフを突きつけているのだろう。下手な真似をすれば、子供が危ない。

 

 正直、あの程度の立てこもり犯など私の敵ではない。一瞬で蹴散らせる自信と実績がある。だが問題は周りだ。立てこもり犯に脅された野次馬たちは、恐怖におののいているものの、逃げる気配がない。しかも、立てこもり犯は子供を盾にしている。オマケに、店内の奥がよく見えないせいで、何人仲間がいるかも分からん。

 私が奴を倒す一瞬……その一瞬の間に、子供が怪我を負うかもしれない。また、奴には仲間がいて、外の異変を察知して店内の人質に手を出されでもしたら大変だ。

 

 私が今、奴らを倒す為に出ていってもいいのだろうか。否………怪我人を一切出さずに、あいつらを全員倒す方法はないか。

 人波に圧されるふりをしながら出来るだけ前に出て、様子を見た方がいいな。

 

 

「あっ! おい馬鹿! 戻れ!戻れーーーー!!」

 

「!!?」

 

 

 ようやく人込みの最前列に行くことができ、店の内部をよく見てみようと思った瞬間、誰かの声がして、そっちに向き直った。

 なんとそこには、昨日子犬を庇っていたあの女の子が、子供を人質にした恐ろしい立てこもり犯に向かって、立ち向かうように走って行く姿があるではないか!!

 

 無謀だ。少女はまだ手足が伸び切っていないのに、大人の男を相手にするなんて……!

 それは、この場の誰もが分かっていた。

 

 

「なァんだ? このガキは!」

 

「うっぐ!?」

 

「ば…か……! なん、で………来た……!」

 

「君が、助けを求める目をしてた!!」

 

 

 ―――それは、おそらく……飛び出した少女も、だ。

 立てこもり犯に蹴り飛ばされながらも、人質になった少年がかろうじて絞り出した問いにそう答えながらも立ち上がった………『考えるより先に身体が動いていた』。そういう事なのだろう。

 

 私は、この一瞬で、昨日の夜にローリエから聞かれたあの問いの意味を理解した。

 何が最適か? それも重要なことだ。だが……考えることを重視するあまり、私の心をないがしろにしてきたんじゃあないのか? これまでも…これからも…それでいいのか?

 

 気づけば私は、少女を庇うように、立てこもり犯の前に立ち塞がっていた。

 

 

「よく言った」

 

 

 少女にはこう言いながら、私は先程までの己を恥じた。

 助けることに躊躇して、幼い少女にヒーローをやらせるなんて、なんと恥ずかしい。

 私は筆頭神官アルシーヴ。人々の命を背負っている以上、この名は容易に投げ捨てられるわけがない。

 

 でも。

 

 筆頭神官として…いや、それ以前に「私自身」が、どうしたいか。今、この場での答えは決まった。

 何よりも早く、今すぐに………コイツを、倒す!!

 

 

ルナティックミーティア・スターダスト!

 

「ぐぶげげぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァ!!!?」

 

 

 右手の指先に集まった光が、五条の光線となって男に襲い掛かる。

 光線の一本は男のナイフを弾き飛ばし、残りの四本は男に全弾命中した。

 男はド派手に空中を錐揉み回転しながら、数メートル先の地面に激突して、そのまま衛兵に確保された。が、死んではいまい。

 私が今放ったのは、弱すぎる犯罪者をうっかり殺めてしまわぬよう威力調整した魔法、星屑(スターダスト)なのだから。

 

 

「…………そうだッ! 中の人質は―――」

 

「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」」」

 

 少女の保護にばかり気が向いてしまって忘れかけていたことを思いだし、店の中を見ようとした時、今度は大小それぞれの体格の悪そうな男たちが割れた窓ガラスをまき散らしながら店の外に吹き飛ばされてくる。

 その後、遅れて店の外から歩いて出てきたのは、いつものような笑顔で吹っ飛ばした男たちに二丁拳銃を向けるローリエだった。

 

「さてお前ら。牢屋に行くか? それとも地獄に行くかい?」

 

「「「も…もちろん牢屋に行かせていただきますッ!!!」」」

 

「「「……………」」」

 

 

 八賢者としてだいぶ危ない脅迫を受け、各々情けない悲鳴をあげながら自ら衛兵に捕まりに行く仲間を見て、私の焦りは何だったのだと脱力してしまう。そこに、私に気付いたローリエが歩み寄ってきた。

 

 

「アルシーヴちゃん…? どうしてここに?」

 

「こっちの台詞だ。お前まさか、人質として捕まっていたのか?」

 

 

 犯人が全員逮捕されたことで事件が終わり、私とローリエは情報を交換する事にした。

 なんでもローリエは、この立てこもり集団にばったり会う事こそなかったものの、宝石店のトイレから戻る直前に物々しい雰囲気を感じて隠れたそうで、店内にいた立てこもりには見つからず、人質にこそならなかったが、一対三は流石に厳しく、しかも父まで人質になっていたというので、隠れながら様子を伺っていたらしい。そこに私の大立ち回りが三人を揺さぶり、その一瞬の隙を突いて全員を吹っ飛ばしたそう。

 

 

「いやぁ、良かったねお嬢ちゃん! アルシーヴ様が守ってくれたぞ!」

 

「うん…! ありがとう、アルシーヴ様!!」

 

 私も事情を話せば、ローリエが勇気ある少女に話を振り、少女は私に屈託のない笑顔でお礼を言っていた。

 ……ありがとう、か。それは…

 

「私は、君の行動に動かされた。君がいなかったら、私は口先だけのダメな人間になっていたかもしれない。

 君の勇気が、私にも勇気をくれた。だから………君にも、ありがとう」

 

 目線を合わせた私の言葉に、少女は目を見開くと、目をうるうるさせながら言った。

 

「うん! どういたしまして! アルシーヴ様も、助けてくれて、あり…が、どう……!」

 

「ああ。どういたしまして」

 

 最後の方は泣いてしまっていたので、頭を撫でて、彼女の親が迎えにくるまでそうしていた。

 

 

 

「…今日は、正直助かった」

 

「ローリエ?」

 

 

 少女が迎えにきた両親と共に帰った後。

 ローリエが唐突にそんなことを言ってきた。

 

 

「あの時のアルシーヴちゃんがああしてなかったら、俺も見つかってたかもしれない」

 

「それはこちらの台詞だ。あの後、店内の仲間をどうするか考えてなかった。父が人質に取られてる事も知らなかった。父を守ってくれたのは、間違いなくお前だ」

 

「あら珍しい。アルシーヴちゃんが、あの場の勢いだったのか?」

 

「分かってるさ…らしくないって。だが………悪くなかった」

 

「そっか…………ねぇ、アルシーヴちゃん」

 

「? なんだ?」

 

 

 ローリエが向き直る。まだ朝の時間帯の日に照らされたその顔は、いつにもなく真面目だった。

 

 

「あの……えっと………………ダメだ。

 いつもの調子ならいくらでも声かけられんのに……」

 

「お、おい、どうした………?」

 

 ローリエが、どこからともなく、手品のように黒く小さな箱を取り出し、深呼吸をする。

 その時に気付いた。――ローリエの顔が、妙に赤い。

 持っている箱を開くと、そこにあったのは、陽の光を穏やかに反射して輝く、銀色の指輪だった。

 

 

「俺は、ずっと君に助けられた。俺も、君の助けになりたいんだ。

 だから………アルシーヴ。こ、これからも―――俺のそばにいて欲しいんだ。人生のパートナーとして!!」

 

 

 その意味は、すぐに分かった。

 だが……こんな往来で、そんなこと言われるとは思ってないだろう! みんな見てるし―――父さんと母さんまでいる!?なんでこんなところに!!?

 

「プロポーズの相談を受けてな。一緒に店に言ってた。まぁ、予約してたモンを受け取りにいっただけだったが」

 

「さ、さ。早く答えちゃいなさい、アルシーヴ!」

 

 母さん完全に楽しんでるだろう!!?言動が野次馬と大差ないんだが!? 父さんも父さんで気になることを言っているが…

 空気が私の答え待ちだし、それに…目の前のこの男は、もはや別人なんじゃないかって眼差しで、答えを待っている!!?

 

 お、落ち着け……ないけど、私の答えは決まっている。

 あれこれ考えすぎないと決めたんだ。ものすごく恥ずかしいけど、勇気を出すんだ、アルシーヴ…

 ローリエ、お前は勘違いをしている。お前は、私の助けになりたいと言っていたが…お前はもう、私にとっては―――

 

 

「……私で良ければ、よろしくお願いします…!」

 

 

 

 私は、拍手喝采と優しい朝日に包まれながら、目の前の大切な人(ローリエ)を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♬MUSIC:プライド革命/CHiCO with HoneyWorks

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ソラ・カルダモン・ローリエが筆頭だ




あとがき
 よっしゃー!!ようやく、一人目を書き終えたーー!!!
 という訳で、いかがだったでしょうか、アルシーヴとローリエの超・特別編。作者自身の考える「かわいいアルシーヴ」と「かっこいいアルシーヴ」を書くことができて満足でござい。

 さて、タイトルで気になった人がいると思うので説明しますが、要するに「ギャルゲーの各キャラ攻略のハッピーエンド」みたいな感じでローリエと様々なキャラを絡ませます。ガッツリとR-18にならない範囲で。
 何人やるかは決めてませんが、少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()。他にも色々意見があると思いますが、アンケートを取ってみようかと思います。それでは、また次回。





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ソラ編 君じゃなきゃダメみたい

本番外編は、きらファン1部のストーリーを大体把握し、オーイシマサヨシさんの「君じゃなきゃダメみたい」を用意してからスタンバることをお勧めします。


「被写体になってくれないか」

 

 いきなりローリエからそんなことを言われたときは、ただただ混乱するしかなかった。

 

「ごめんねローリエ、もう一回言って?」

 

「被写体になってくれないか?」

 

「ちょっと何言ってるのか分からない」

 

「……あぁ、『被写体』の意味が分からないか」

 

「いや、発言の意図がわからないの」

 

 

 彼の発明によって小型化されたカメラを片手に、聖典の編集中の私にローリエは、清々しい笑顔でそんな事を言ってきた。

 どうして私を撮りたいのか聞けば、意外な答えが帰ってきた。なんでも……

 

 

「私達の写真集!!?」

 

「うん。今度、神殿の神官や女神の仕事ぶりを収めたいんだと。ほら、この前星咲高校の新聞部が召喚されたでしょ? それでな」

 

「伊部さんと宇佐美さんのこと?」

 

「そう!! それで、ちょっと取材を手伝う名目として、写真を撮ることになってな。

 仕事をしているソラちゃんとか色々撮りたいわけよ」

 

「そんなことだったら、いいわよ?」

 

 

 特にお仕事の邪魔をするわけでもないみたいだし、写真撮るくらいならと快諾すると、「仕事続けてよ」と言われた。でももうそろそろ終わりなのよね…。

 聖典の編纂作業は楽しいから、すぐに終わらせてお忍びで街に行っちゃったりするからね、普段は。今日もいつもみたいに聖典をさっさと書き上げて、街へ行きたいわ。

 だからこの後、めちゃくちゃ聖典を書きまくりました。パシャパシャなるカメラのシャッター音をBGMにしながら。

 

 

「よ〜し、終わった!」

 

「え、もう? 随分仕事早いんだぁ」

 

「いつもこんな感じよ。私、聖典が好きだから……すぐに書き終えられるのかしらね」

 

「まぁ〜確かに。凄まじい集中力だったけど…」

 

「ローリエはどうなの? 新聞部のお手伝いなんかする位だから、今日の仕事は終わったのかしら?」

 

「あぁ。問題ない」

 

「じゃあ、少し街に出ましょ?」

 

「え、俺も!?」

 

 

 いつもなら誰にも言わずに神殿を抜け出ているけど、目の前にローリエがいる以上、このまま勝手に抜け出たらすぐにアルシーヴやセサミに気付かれる。それなら、ローリエも護衛という名目で付けたほうがいいから、ローリエも誘うことにした。

 それに、彼はこういうの……嫌わないって確信してる。だって、小さい頃は…ローリエが考えついたイタズラを3人でやったものだったから、ね?

 

「……ま、この後の俺ヒマだし、いいぜ。どこ行く予定なんだ?」

 

「きららの住む里まで行きましょ!」

 

「オーケーソラちゃん。今日は日帰りにするか?」

 

「うん。皆に心配をかけすぎるのも良くないしね」

 

 

 ちなみに、ローリエは監視カメラを使って、誰にも見つからずに神殿の外に出るルートを弾き出してくれた。どうすればアルシーヴ達に見られずに抜け出すか………普段地味に悩んでいた事がこんなに簡単に解決した事に驚きつつ、感謝してもしきれないと言いました。

 ………今月のお給料、ちょっと色つけようかしら?

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 今日目指すのは、きらら達が住む里。

 ……の、つもりだったんだけど、ローリエは最初に言ノ葉の都市の服飾店に寄ろうと言った。

 

 

「ある程度の変装は必要だ。あそこはきららちゃん達の知り合いが山ほどいるから尚更な。即女神バレして、アルシーヴちゃんに知られるのも面白くないだろう?」

 

「サングラスとマスクじゃ駄目?」

 

「駄目だ。アレはどっからどう見ても不審者以外の何者でもない」

 

 

 ……自信満々の変装を不審者扱いされたのはちょっと悲しかったけど、「たまにはオシャレしような」という、ローリエにしては必死なフォローに免じて許す事にした。

 

 

「ローリエ、顔を隠さないと私やローリエだってバレちゃうんじゃないかしら?」

 

「顔を隠すのは変装の常套だけど、やり過ぎると不審感しか湧かなくなる。髪型、服装、香水……他の要素も使えばあっという間に別人になれるのさ。顔なんか隠さなくてもな」

 

 

 うーん、そういうものなのかしら。女神の服以外の、店頭に並んでいるような、可愛い服を着ている自分がちょっと想像できない私は、顔を隠さなければ変装にならないような気がしている。

 

「ねぇ、ローリ―――」

 

 エ、と続ける前に、私は言葉を失った。何故なら振り向いた先には、全く別の姿をしたローリエがいたから。

 いつもの黒マントとカジュアルシャツはどこへやら……限りなく黒に近い緑色のYシャツに鮮やかなオレンジ色のネクタイをしめ、上から青いジャケットを着ている。ズボンは上に合わせたデザインみたいで、色は明るいネズミ色。髪型も前髪を上げたそれに変化していた。

 

 

「…………!?」

 

「どうだ? 惚れ直したか?」

 

 

 …正直、驚いている。

 完全にイメチェンに成功した姿だ。いつもの軽い調子で「惚れた?」って聞かなければ……正直街角でちょっっとすれ違っただけじゃあローリエだと気づけたか分からない。

 

 

「凄い……」

 

「これくらいやれれば、別人だと思うだろうな。

 まぁ、それ抜きにしても、ソラちゃんはたまにイメチェンしてもバチは当たらないと思うぜ」

 

「そ、そんなこと……」

 

「ある。絶対ある。そもそも、こんな美人がオシャレしないなんて勿体なさ過ぎだ」

 

「!!」

 

 

 真っ直ぐこっちを見ながらの言葉。

 それは、ローリエが本心で語っていることを教えてくれた。

 わ、私を、美人だなんて……!

 

「そういう事を大真面目に言わないの!」

 

「えっ…なんで?」

 

「………ばか!」

 

「??????」

 

 と、取りあえず私も、イメチェンするために、ローリエと着る服を選んだり髪型を変えたりしたんだけど。

 

 

「………ローリエ…これでいいのかしら? ちょっと、下が涼しいわ……」

 

 

 私が着た服は、黒一色のワンピース。首にサンゴ石を磨いて作った真珠のネックレスをつけ、帽子にアストラハンハットを被った姿。長い髪は、ハーフアップでまとめたものだ。そして、変装用眼鏡にはいつもの大きくて濃い色のサングラスの代わりに、赤縁でフレームがまん丸の、色なしの伊達メガネ(ローリエに勧められた)をかけた。

 

 

「ソラちゃんは髪色が良いからな……ソレを活かすコーディネートにするべく服装は黒に寄せたんだ。いつも真っ白な服着てるしね。どうかな?」

 

「確かにコレも可愛いけど……ローリエはこれで良いの?」

 

「当然だ。アルティメットでシャイニングな風格と、エクストリームでジーニアスでハイパームテキな雰囲気を醸し出す金髪を目立たせない手はない」

 

「………」

 

 

 …………うん。どうアルティメットで、エクストリームで、はいぱー無敵なのかは分からないけど、気に入ってくれるならソレでいっか。

 そうして、服装を新調してきらら達の里へやって来た私達。いつもの変装じゃないからか…それともここはクリエメイトの皆が多いからか分からないけど、何だか視線が気になってしまう。人通りも多いような……

 

 

「気になるか?」

 

「ちょ、ちょっとね…」

 

「いつもと違う服装してるんだ。良いところのお嬢様にでも見えてんだろ。

 それでも不安なら………ほら」

 

「!」

 

 

 ローリエから手が出される。その行動の言わんとしていることは……つまり、そういう事なのねと思って。

 

 

「…エスコート、お願いできる?」

 

「勿論だ」

 

 

 全く嫌な感じもしなかったから、ローリエのお言葉に甘える事にした。

 

 

「そういえば、人多いな」

 

「そうね……あ、アレじゃない?」

 

 いつもより賑わっている事を実感していると、目に入ってきたのは『新作発表』って書かれた遊具屋の看板。そして、そこに群がる人達だ。

 

「『EAGLE JUMP』……イーグルジャンプ!? 新作って、ゲームのことか!」

 

「青葉ちゃんのところね!!」

 

 なんて素晴らしい偶然。青葉ちゃん達の働く、あのイーグルジャンプの新作が、まさかプレイできるの!!?これは見逃す手はない! 是非、プレイしないと!!

 

 

「ローリエ!」

 

「勿論、並ぼうぜ。でも、少し落ち着いてくれ。女神様だとバレるぞ」

 

「うっ!?」

 

 

 取りあえずは、ゲームの行列に並ぶ事に成功した。

 やがて列が進み、前が見えてくると、行列の要因になったゲームが見えてきた。それは、大きな台に見える。プレイしてる人を見る限り、持ち運ぶゲームじゃないみたいだけど………

 

 

「なっ…!」

 

「ローリエ?」

 

「あれ、アーケードゲームの筐体だ。イーグルジャンプはこんなのも作っていたのか……!!?」

 

「…知ってるのね。あのゲームのこと。

 ひょっとして、『前世』で遊んだ事あるの?」

 

「あっ!? いや、えーと…」

 

「もー、隠さなくて良いのに。もう知ってるんだから」

 

「…あー、そうか。そうだったわ」

 

 

 日本人の生まれ変わりだというローリエは、その正体を知ってたみたい。

 というか、ローリエに前世の記憶がある事は前にアルシーヴと聞いたんだから、誤魔化そうとしなくていいのに。彼としては「ずっと秘密にしたかった」って言ってたし、突拍子もなさ過ぎて信じてもらえないだろうと思って隠してたみたいだけど。

 

 でも、私にはそんなの関係ないのにな。

 例えローリエ……貴方が前世、とても悪い人だったとしても、幼い頃の私を助けてくれた事は事実なんだから。

 

 

「ソラちゃん、次俺らだぞ」

 

「…ええ。わかったわ」

 

 

 ローリエの呼ばれた声に返事をして、私はゲームの筐体の前に立って、ローリエの隣のボタンとレバーを握った。

 

 

「ちょっ…待っ、強くない!?」

「容赦なし、フルスロットルだ」

「酷い!! あーっ、やめ、ハメるのダメぇ!!」

「おー、コマンドあの時のままだ」

「やめて!やめ…あーーーっ!!!死んだ!この人でなし!手加減してくれてもいいじゃない!!」

「何言ってんの。手加減は侮辱行為そのものだ。本気でやりあってこそ、礼儀になる」

「そーいう礼儀なんていいから!!もう一回!もう一回やるわよ!!」

「分かった分かった。手加減な」

 

 ……割とボコボコにされました。

 1回戦目とかパーフェクトされて泣きそうだった。

 ローリエのばかー!

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ごめんて」

 

「つーんだ」

 

「マジでごめんってば。2回戦目は手加減したでしょ? 最弱キャラで目を瞑りながらやったんだぜ?」

 

「それでも体力半分以上削られたんですけど!?

 もー、どうせ私は格闘ゲームのセンスなんてありませんよーだ!」

 

 

 あまりにも大人気ないゲームが終わり。私はご機嫌斜めです。

 ……いや、言う程怒ってないけどさ。でも1回戦目のパーフェクトは流石に無いと思う。アレは本気で嫌いになるかと思った。2回戦目は悪いと思ったのか、手加減という手加減をしてくれたお陰で辛勝だったけど。だから、もうちょっとだけ怒ってるフリです。

 

 

「ごめんよホントに。さっきは俺が大人気なかったってば。だから機嫌直して………あ、この後のスティーレ、奢るからさ」

 

「……分かった」

 

 

 うぅ〜ん。流石にそこまでしてくれると悪い気がするけど……まぁ、良いかな。意地悪して機嫌損ねたフリしたし。

 

 「いらっしゃいませ。人間のお店に来るなんて恥知らずな豚共ですね」という、苺香ちゃんの最高のナチュラルドS接客を受け、席に案内される。

 その間に麻冬ちゃんや美雨さんとすれ違うけど、私の事には気づかない様子。……それとも、お仕事中だから気にしないようにしてるのかしら?

 

 

「お嬢ちゃーん、注文いい?」

 

「気やすく呼ばないでよね!…それで、なに?」

 

「この限定パフェ2つね」

 

「ちょっと待ってなさい!」

 

 

 ローリエが夏帆ちゃんに注文した時も(後でメニュー表見たら一番ゴージャスで高かった。これを奢る気?)、夏帆ちゃんはツンデレキャラを維持したまま、キッチンの方へ向かっていくだけだった。

 

 

「……気づかれなかった」

 

「そうだろう? 顔隠さなくっても、変装できるモンなんだよ」

 

「みんなお仕事に一生懸命で気づかなかっただけじゃない?」

 

「夏帆ちゃんは兎も角、苺香ちゃんは出迎えた人だぜ? 何らかのリアクションくらいするだろう。つまり……気付かれてない証拠さ」

 

「ほんとかなぁ?」

 

 

 夏帆ちゃんに出されたお水をすする。

 そして目の前の、完全に見た目が変わった幼馴染その2をじっと見つめる。

 ジャケットもネクタイも、前髪を上げた髪型も普段はやらないだけに、見れば見るほど新鮮に見える。一体何処で、ここまでのファッションセンスを身につけてるのかしら……前世とか?

 

 

「ねぇ、ローリエ」

 

「なに?」

 

「貴方、前世で誰かと付き合った事とかある?」

 

 気になったことを尋ねると、ローリエはきょとんとした顔つきになり。そして困ったような顔をして、口を開く。

 

「……それ、今聞くことか?」

 

「うん。今気になったこと。教えてくれる?」

 

 渋々としたローリエの質問に即答。すると、「仕方ない」と言わんばかりの表情で、質問に答えた。

 

「前世では…彼女、のような存在がいた」

 

「ような、って何よ?」

 

「お互いの家に行くのは当たり前。でも男女の仲というより、気の置けない親友みたいな感じだったな、ソイツとは」

 

「親友、ね」

 

「お互いの好きな漫画を紹介しあったり、ゲームで対戦したりしてな。惚れた何だって感じかといえば、違う気がするよ」

 

「…ふーん」

 

「……ソラちゃん、そろそろ勘弁してくれないか?

 今は君とのデート中だ。他の女の話はしたくない」

 

「……良いわよ、許してあげる。この話はまた今度ね」

 

 

 ローリエもこの話題は苦しかったのか、早々に切り上げてしまった。話す様子も楽しそうというより、とうの昔に過ぎ去った過去をほんの少し懐かしむような感じで、「私と元カノさんとどっちが好き?」とからかおうと思ったのに、そんな気も失せてしまった。元カノの有無の話題を振った時点で私もちょっと意地悪だったかな?

 

 

「あぁ。そもそも、傍から見たらカップルの俺らが属性喫茶(スティーレ)でしていい話題じゃあない」

 

「チッ、リア充め…祝ってやる」

「祝われろ…!」

「絶対に祝ってやるぞ…!」

 

「ほら、周りのお客さんにも悪いしさ」

 

「………祝うって聞こえた気が…」

 

 

 呪いのような祝いの言葉に、居心地の悪さを実感しながら、限定パフェをひたすら待ち続けていた。

 パフェの味は、良かったけど、空気の悪さ…気まずさは自業自得のような気がして、ちょっとだけ苦しかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 スティーレの会計は、本当にローリエが奢ろうとしていた。

 あの後で割り勘っていうのも違うけど、なんだか、悪いことしちゃった気分。

 ホントに良いのか一言聞いたけど、結局お言葉に甘えて奢ってもらっちゃった。

 

 

「今日はごめんね、ローリエ」

 

「……それは何に対しての『ゴメン』だ?」

 

 

 険しくなったローリエの言葉に、なんて返していいか迷ってしまう。

 

 

「だって……元カノさんの話、振っちゃったから」

 

「それについては『気にするな』。俺もちょっと話し過ぎた。そもそも、女の子と二人っきりのデートの最中に他の女の話をするなんてご法度だ。元カノの話なら尚更。分かっていた上で話しちゃったんだから、今回は俺が全面的に悪い」

 

「で、でも………」

 

 

 ローリエは頑なに「気にするな」って言うけど、本当にそれでいいの?

 話すきっかけを作ったのは私だよ? 確かに、ローリエの言う事は間違ってないけど……

 私はただ、昔のローリエの事が知りたいから訊いただけなんだけどな…

 

 

「すみません。少し、宜しいですか?」

 

 

 突然、声をかけられた。

 ローリエとは違う、ちょっと高めの声に振り向けば、そこには如何にもな格好の紳士が立っていた。

 人の良さそうな笑みで、問いかけてくる。

 

 

「建築ショップに行きたいのですが、どちらにいけばよろしいでしょうか?」

 

 

 その紳士さんは、きっとここに来るのが初めてで、道案内して欲しかったと思う。

 だから、たまたま通りかかった私に声をかけたんだって。

 

『そこのお嬢ちゃん、俺と来て貰うぜぇ……!』

 

 だけど―――思い出してしまう。

 かつて、見知らぬ盗賊に攫われたあの日を。

 アルシーヴが目の前で傷ついて……震えたまま攫われた。自分を背負う、二度と思い出したくないあの感触。真っ暗な闇の中、無理矢理連れ出され、埃っぽい牢に投げ込まれて………まぁ、そこでハッカと出会ったわけだけど。

 助けに来た衛兵さんが死んじゃって、ローリエが私たちを引っ張ってくれたのに、私は走れなくって。それで……もう一人の親友の手を、血で染めて。

 

 それからだったかしら。私が……男の人と、普通に話せなくなったのは。

 二人きりはもちろん駄目で、お父さんとも距離がないと目を合わして話せない。今までの女神の業務で男のお客さんと出会った事はあったけど、アルシーヴのフォローのお陰で何とかなったようなもの。

 正直に言えば、重症だ。だって………あの日から十何年も立っているのに、目の前の紳士さんに、道を教えることも、できないんだから。

 

 

………ぅ、ぐっ……!

 

「あの、お嬢さん? 大丈夫ですか??」

 

 

 い、いけない! 大丈夫って言わなくっちゃ!

 この人は何も悪くない。ただ、私に道を聞いただけなのに…このままじゃあ、この人を悪者にしちゃう……! それだけは、絶対に避けないと!

 でも、声が出せない。紳士さんとの距離が少し近いせいか、喉がきゅう、ってなって、声が出てこない。足も根っこが生えてしまったかのように動かないから、距離を取ることもできない………!!

 

 

「すみません、ウチの連れにどのような御用で?」

 

 

 ローリエの声が、した。

 すぐに抱きしめられる感覚がして、喉の感覚も溶けるように消えていった。足も根付いていた何かから解放されたかのように自由になった。

 

 

「おや…貴方のお連れでしたか。申し訳ない」

 

「お気になさらず。それで…建築ショップなら2番目の右を曲がって行けば見つけられますよ」

 

「あぁ、ありがとうございます!」

 

 

 紳士さんは去っていった。

 私は、息を落ち着かせながら、ローリエの腕の中になされるがままにしがみついた。

 

 

「ローリエ……」

 

「ソラ、ちゃん………

 ………少し、街から離れよっか」

 

「うん……」

 

 

 彼に付いていくがままに、小高い丘まで登ると、さっきまでの苦しさは、殆どなくなっていた。

 

 

「落ち着いたか?」

 

「ありがとう。もう大丈夫よ」

 

「……今日はごめんな」

 

「…どうして謝るの?」

 

「いやー……今日のお出かけ、楽しませてあげられなかったかなって。

 ゲームは一方的にボコしちゃったし、スティーレでは元カノの話なんかしちゃって。

 それに…さっきのさ。ヤなこと思い出しちゃったんだろ?」

 

「……」

 

 

 本当に申し訳なさそうなローリエに対して、「気にしないで」と言おうとして………さっきのやりとりを思い出す。

 ローリエに元カノの話振っちゃってゴメンって謝った時、「気にするな」って言われてもそんなことできなかったように、ここで「気にしないで」なんて言ったら、ローリエはますます気に病んじゃうんじゃないかと思ってしまう。

 そう考えると、軽く「気にするな」って言えなくなるなぁ。それが本音なのは確かだけど、ローリエにあまり心配をかけたくないのも本音。

 

 じゃあ何を言うかといえば……さっきの出来事。

 ローリエが手を引いてくれた時、苦しみがあっという間に引いたのを知っている。それはまるで、私が盗賊に攫われたあの時、助けに来てくれた時のようで。

 

 

「ローリエ。さっきあなたが来てくれた時、私、心の底から安心したのよ?」

 

「……?」

 

「今も男の人とは普通に話できないけど……あなたなら、大丈夫なの」

 

「そ、それって……」

 

「だから……また行きましょ? 今日みたいに、ガラっとおめかしして。」

 

「……良いのか?」

 

「もちろん」

 

 

 私は、自分自身の意志で、ローリエに近づき、背中に手を回して抱きしめる。

 ドキドキするけど、さっきみたいな苦しさは一向にやってこなかった。

 むしろ、ほんのりとした温もりが心地いい。

 

 

「……好きよ、ローリエ。貴方が大好きなの。だから…」

 

「―――本当に俺で良いのか?」

 

「―――貴方じゃなきゃダメなの。他の人じゃない、貴方が良いの」

 

 

 そう…こんなに私を許せるのは、ローリエしかいないんだから。だから……他の色んな事、私に教えてね? と、近くなった彼の顔を見上げるように見つめる。

 

 ローリエの金色とオレンジのオッドアイと目が合う。

 しっかり5秒、見つめあってから、彼が満面の笑みを浮かべた。

 

 

「……分かった。そういうことなら、俺も心を決める。絶対離さないからな」

 

「うん……お願いね」

 

 

 夕陽に照らされた二人の影が、一つに重なった。

 

 

 

 

 

 

 

♬MUSIC:君じゃなきゃダメみたい/オーイシマサヨシ

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、二つ約束して。ひとつ、ゲームは絶対手加減すること。ふたつ、私以外の子へのセクハラをやめること」

「え…………あ、わかった」

「『え』って何よ。あと今の間はなに?」

「いや、前者はムズいし……二つ目に『私以外の』って言わなかったか?」

「言ってない。あと手加減はこれから学べばいいでしょ」

「……そうだな」




あとがき
 はい、ソラ様とのデートでした。ちょっと拙作でのソラ様の設定を盛り込みましたので、公式ソラ様とはほんのちょっと違うけども。
 ちなみに、このルートと前回のルートは別々の世界線です。違うからね? あっ、卵投げないで!魔法撃たないで!
 テーマ曲については、大体歌詞から取っています。元々ソラ様のテーマ曲は別の曲だったんですけど、諸事情により今のに収まりました。序盤の展開はその名残です。


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アリサ編 我ら思う、故に我ら在り

 今回のMUSICは「我ら思う、故に我ら在り/氣志團」でござるよ。コイツがないと感動半減になっちまう…かも。
 さぁ、皆さんもご一緒に。―――命、燃やすぜ!(アウト)

2021/08/19:本文に脱字があったため、修正しました。


 最初は、私がなぜここにいるのか分からなかった。

 周りを見渡しても、自然に満ちた美しくも、変わらない景色しかない。

 

 だが――いや、だからこそ、気づいてしまった。

 自然とはマッチしつつも、目立っていたログハウスがなく、代わりに燃えカスの群れが転がっていたことに。

 

「さて、どうしたものか」

 

 きっと魔法も使えないだろう。心配なのは家族の事だ。

 たった一人の、誰よりも大切な人。

 

「アリサ……生きていると嬉しいんだけど…」

 

 情報を集める為、人がいっぱいいろだろうという雑な理由で、言ノ葉の樹が見える方角はどっちだったかなと考えだしながら歩きだした。転移魔法の偉大さを噛みしめながら、やがて仕事で何度か来た言ノ葉の樹に辿り着いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 神殿に来てから、規則正しい生活が身についたせいというか、お陰というか……平日なら遅刻しない早めの時間に起きてしまった今日という休日。

 

「………」

 

 私、アリサ・ジャグランテは、基本的に休日にやることがない。

 宿題はもう終わらせちゃったし、今日は誰かと出かける約束もしていない。

 誰かと出かけるってなら話は別だけど、そうでない日―――ひとりで過ごす日は、どうしてもやることがなくなってしまうのだ。呪術を使って改造したりしてみたいけど、下手に暴走させて先生たちに迷惑かけちゃうのもなぁ。

 

「……行かなきゃ」

 

 でも―――今日は違う。

 どんな手を使ってでも休みたかったこの日。

 今年は奇跡的にも、『この日』と休日が被ったから良かったけど、もし授業日だったとしたら、聖典に語られる“不良”のごとく、授業をフケてでも休む所存だ。

 ……あの先生たちの事だから、気遣ってはくれるんだろうけど。

 

 

 

 突き動かされるように辿り着いた場所は、集団埋葬地。

 神殿に仕えた神官さんや、頂上の街に住んでいる人達などが埋葬されるこの地は、どこからか線香のにおいがする。真新しい花や綺麗になった墓石が並んでいて、家族が最近参りに来たんだろうなって感じがする。逆に、何年も手入れのされていないような、雑草だらけで土埃の被ったお墓もあり、誰にも参られてないんだなって思うと、物悲しくなる。

 

 久しぶりのような、何とも言えない感覚で水を汲み、迷わずに数多く並ぶ墓のうちの一つの前に立つ。

 

 

『Amanda Jagrante

 Souma Jagrante』

 

「来たよ―――母さん、兄さん」

 

 そう、今日は―――兄さんの命日だ。

 忘れもしないあの日………兄さんは、ドリアーテに利用されて、あげくに殺された。

 私は……ドリアーテが憎かった。奴を討つためなら、命すら惜しくなかった。でも、兄さんを失ったその時にローリエ先生とアルシーヴ様に出会い、苺香さん達に会い、綾さんと陽子さんに会い、ユニ様に会い、きららさんたちに会い………彼女たちを守っていくうちに、命懸けで、でも命を捨てることなく動くようになって、遂にドリアーテを倒すことができた。

 

 その後の私の身の振り方は悩んだものだ。

 あの森に帰るか、神殿にいるか。

 そして―――お墓を移すか、移さないか。

 

 天涯孤独になってしまった私に、相談する家族などいるはずもなかったので、すべて自分自身で決めなきゃいけなかったから、そこは辛かったけど、最終的に私は神殿に移り住むことになり、お墓は神殿の近くの埋葬地に移ることにした。

 

 正直、生まれ育った場所を引っ越すのは悩んだ。でも、私一人で何かできるなんて想像できなかった。だから私が神殿に移り住む事を告げると、ローリエ先生から私の兄の話が出てきて、ソラ様がお墓を移すことを提案し、あっという間に遺留品を山奥から言ノ葉の樹へ持って来ることになった。まぁ、ソラ様が「ここから山奥なんて遠いわ!」と私を気遣う善意で提案してきたから、断りにくかったのは確かだけど………

 

 

 ま、いいか。とりあえず報告を済ませなくっちゃ。

 

 周囲の草をむしって、持ってきていた袋に入れる。目立つ場所の草をおおかた抜いたら、墓石に水をかけて、タオルで拭き取る。無言で暫く作業に没頭し、草取りと掃除が終わってから、線香を焚き始めた。

 

 

「兄さん。私ね…女神候補生の勉強、頑張ってるよ。ランプやセレナーデや…他の友達もいっぱいできたんだ。将来どうするかまではまだ分からないんだけど……

 呪術師のことはまだ隠してるけど……もう、差別とかは昔の話になってるんだって」

 

 この前、ちょっと話題を振ったらそんな事を言っていた。

 歴史としてそういう事を習うには習うし、呪術の概要も習うけど、使い方を間違えなければ怖くない、と。

 そしてそれは、私の持論とほぼ同じだった。

 

「私、皆と出かけたりしてるんだよ?

 セレナなんかは、しょっちゅう私を誘ってくれるんだから」

 

 語り掛けても、返事は返ってこない。

 ただ、冷たい風が肌を撫でるだけ。それ以外の音はなく、静寂という言葉がぴったり来る。

 

「私…私……兄さんに見て欲しかったんだよ……今の、私の姿を」

 

 

 言ってはいけない、でも心の底から思っている事を口にしてしまった。

 分かっているつもりだった。割り切ったつもりだった。ドリアーテを倒して、ケリを付けたつもりだった。

 

 

「私、言ったよね?『言ノ葉の都市』に行きたいって。皆で仲良く暮らしたいって……」

 

 

 でも、どうしてなんだろう。

 

 

「なのに………」

 

 

 どうして―――涙が止まらないんだろう。

 

 

「どうして………?」

 

 

 確かに、都市に行けるようになった。呪術に頼ることなく、神殿で友達と切磋琢磨する生活が手に入った。でも……兄さんがいないと、意味ないよ。

 私は、ひとりで街で暮らしたかったんじゃない!

 いくら皆がいても、友達がたくさんできても………それでも…!!

 ―――兄さんと一緒に、生きたかった。

 

 

「兄さん……えっぐ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

 

 そこから先は、止まらなかった。

 悲しみ。寂しさ。辛さ。その他の、言葉に表しがたい感情。

 ここは、静かだ。だからこそ、止められなかった。私の声以外は、ここに響かない。それに、ここに来る人間なんて、まずいない。

 まるで、世界中に自分だけが生きているかのような感覚を覚えたことも、泣くのを止めなかった理由なんだろう。人前でこんな情けない姿を見せたくないから、ありのままを曝け出せたのかもしれない。でも…今はそんな色々考える余裕などなかったから、ただ声をあげることだけしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

「…………ふぅ。」

 

 

 しばらく泣き続け、自然に泣き止んだ私は、ポケットからハンカチを取り出す。幸いにも、ここには誰も来なかったからさっきの姿を見られた、なんてことはないはず。見られてたら恥ずかしすぎる。

 涙を拭いた私は、もう一度手を合わせる。

 

 

「俺も、祈っても良いか?」

 

 

 全身がビクリと固まった。

 自分以外の誰かが来ると思っていなかったから、完全に意識の外からの声だ。

 ワンテンポ遅れて振り返ったら、声から連想される、思った通りの人が立っていた。

 

 

「せ、先生……!」

 

 

 見たことのない黒い礼服に身を包み、花束を抱えて立っていたのは、ローリエさんだった。

 

 彼は最初は、兄さんの仇として出会い。

 その後、兄さんを利用したドリアーテを倒すため『八賢者』の助手として共に行動し。

 そして戦いが終わった今……私はこの人から、魔法工学を教わっている。

 ひとことでは言い表せないくらいに奇妙な間柄になっているけど、彼がいなかったら今の私はいない―――という事は、間違いない。

 

 私が墓前からどき、それを許可の合図にすると、先生は静かに花束を置き、懐から線香とライターを取り出し、火をつけて香炉に入れ、手を合わせた。

 

 墓地特有の静寂の時間が流れる。暫く私も先生も、沈黙を保ったまま、手を合わせた。

 

 

「……どうして、兄さんの墓参りに…?」

 

「…君のお兄さん――ソウマは、ドリアーテに殺された。だが……そのきっかけを作ったのは俺だ。

 俺がソラちゃんを守るための行動が、ソウマを追い詰めることになってしまったのも、事実だ」

 

「そ、れは………兄さんの事を『ソラ様を呪いに来た刺客』だと思ったからじゃ…」

 

「そうだな。でも、そんなの言い訳にしかならない」

 

 ドリアーテ撃破後、先生やソラ様、アルシーヴ様からは兄さんの凶行は聞いている。知らぬ間に私が人質にされてたとはいえ、兄さんはソラ様を呪いに行ったのだ。何も知らなければ、反撃しても当然だった。でも、先生の攻撃が兄さんを大きく傷つけたのは事実で……当時の私からすれば、兄さんを傷つけた人が許せなかったのもまた…事実で。

 

 

「アリサ……本来なら、君は俺を許さなくってもおかしくないはずだ」

 

「なら、なんで墓参りに来たんですか…?」

 

「『俺自身がそうしたいから』だ。誰に許しを乞うでもない。例え許されまいが何を言われようが、俺は俺の決めたことの責任を取る。それだけだ」

 

「……………」

 

 

 兄さんを見るかのように、まっすぐ墓石を見つめる先生に、私はそっとデコピンの形を作り、私の方を全く見ないのをいいことに、押さえていた中指を、一気に解放した。

 

 

「いって!!? あ、アリサ!?」

 

「…これでチャラです。兄さんの事を想うのはありがたいですけど、罪悪感を背負い過ぎるのはなしですから」

 

 

 確かに、兄さんの怪我に思うところはあるけれど。さっき思いきり泣いたこともあって、すっきりしていたからか、それで話を終わらせたかった気がした。

 

 

「兄さんはそんなことで怒る人じゃありません。兄さんの方が悪いことをしていたから、なおさらです」

 

「…そうなのか?」

 

「はい。兄さんは……呪術を人の為に使おうとしていた人でしたから」

 

 

 だから私は…先生を許すことにした。

 兄さんなら、きっとそうするから。

 誰かを憎み続けるのは、とても疲れるから。

 

 

「……やっぱ、あの言葉は金言だな」

 

「え? 何のことですか?」

 

「とある医者の言葉にな―――『人が死ぬのは、人に忘れられた時さ』って言葉があってな。アリサの言葉を聞いて思い出したんだ。」

 

「人に、忘れられた時…?」

 

「逆に言えば、例え命が無くなっても、覚えている人がいる限りその人は死なないみたいだ。現に、君の兄さんのことを、ほんのちょっと知れたしな」

 

 

 先生の言葉に、私ははっとした。

 覚えている人がいる限り、人は死なない?

 つまり……兄さんも?

 

『俺の魂はいつも、アリサの心と共にある―――っ!!』

 

 先生の魔道具に録音されていた、兄さんの言葉が蘇る。

 もしかして、兄さんは……このことを知っていた?

 まったくの偶然かもしれないけど。でも、もし知っていたら……!

 

 

「………ふふっ」

 

「? どうした?」

 

 

 なんだ。何も、悲しむ必要なんてなかったんだ。

 兄さんはずっと、私の心と一緒に、生きていたんだ。

 

 

「いえ。兄さんも、同じことを言っていたので、つい…。

 離れ離れになっちゃったけど……きっと、まだ兄さんは“生きて”いますよね?」

 

 

 私は、独りじゃあなかったんだから。

 うっかり、忘れちゃうところだったよ。

 

 

「そうだな……あ、そうだ」

 

「?」

 

「ソウマの事を教えてくれないか?

 俺も、彼の事を()()()()()()()()ね」

 

「良いですよ! 兄さんはですね―――」

 

 

 先生に、私の兄さんの事を話しだす。

 兄さんの魂が私の心の中に生きていることを強く意識しながら。

 

 人間である以上、先生もランプもセレナも…私も。いつか、死んでしまいます。

 だからせめて、生きている間は一緒にいて、思い出を増やしていって……絶対に忘れないようにしよう。

 そう、決意しました。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 墓地から出た私が、最初に見たのは…

 

「「………………」」

 

 女神候補生の友達の、ランプとセレナだった。どういうわけか二人とも、ちょっと目元が赤い。

 しかも私を見つけた途端、露骨に目を逸らした。だんだん嫌な予感が膨れ上がり。そして………

 

 

「ランプ?セレナ? …どうしてここに?」

 

「え? いえ、たまたま通りかかっただけです! ね、セレナーデ?」

 

「う、うん! そうよ!」

 

「……ひょっとして、見ちゃった?」

 

「見てませんよ!あの、辛くなったらちゃんと言ってくださいね?」

「見てないわよ!今度は、花とか持って行った方が良いかしら?」

 

「………~~~~~~ッ!!」

 

 

 ―――的中した。

 

 

「見てたじゃあないですか!!!バカーーーーーーーーーー!!!!!!」

「「わああああああああああああああああああっ!!!」」

 

 

 即座に逃げ出した二人を追いかける。

 後で先生に聞いたところによると。この時の私は……笑っていたようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♬MUSIC:我ら思う、故に我ら在り/氣志團

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 セレナーデとランプがアリサの号泣シーンを見てしまった事がバレ、アリサに追い掛け回される。

 まぁ俺もソウマ氏の墓参りついでに二人から「アリサの様子を見てくれ」って相談受けたけどさ、自分らで来てたんじゃあ意味ないでしょうに。

 笑いながら追いかけっこを続ける三人に向かって走ろうとして、

 

 

「―――妹を、アリサを、よろしくお願いします」

 

 

「!!!?」

 

 …そんな声が聞こえた気がして。

 

「――分かってますよ、当然ッ!!!」

 

 

 

「…先生、いま誰に向かって言ったんですか?」

「いや、別に。ただの―――約束だよ。男同士のな!」

 

 

 思いきり返事をした後で、動きが止まったアリサのほうへ駆けていった。

 

 




あとがき
 はい、というわけでアリサ編でしたー!ロリ系はこんな感じに恋愛要素なしor薄めでやっていこうね。ガッツリ恋人と認知しちゃうと色々アカンから。
 アリサ編をやる上で出したかったのは、やはりソウマ氏の存在です。アリサの唯一の家族でありながら、ドリアーテの秘密に気付いた人ですから、あのままフェードアウトは少々勿体ない気がしてきてですね……そういう意味でも、墓参りのお話にしました。

 それと、外伝アンケートのご協力ありがとうございます。また更新しておきますので、再投票よろしくお願いいたします。








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ハッカ編 Lonely lullaby

今回は、ハッカちゃんの特別編。
神谷明さんで『Lonely lullaby』の音源をご用意してお読みください。


「……夢幻魔法を使いたい?」

 

「そーなの! でもさぁ、覚えたくても詳しく書いてある資料はどこにもないわ、ハッカちゃんを探そうにもなかなか見つからないわで苦労したんだぜ?

 だからお願い!夢幻魔法の覚え方とか、教えちゃくれねーかな!?」

 

 唐突にそんなことを言ってきたローリエは、両手を合わせ、私に(おもて)を下げる。

 如何(いか)なる経緯でそのような頼み事をしようと思ったのかは不明だが、頼み事にしては余りに愚かで、無謀なもの。この男は、アルシーヴ様が私を秘蔵している意味を理解しているのだろうか。

 

「…不可(なり)。ローリエは、夢幻魔法を全然理解しておらぬ。」

 

 そもそも、夢幻魔法を使う為には、あらゆる条件が必要不可欠。容易に覚える事など不可能である。

 夢幻魔法とは、夢の中にて、偽りの世界を生み出す魔法。その世界では、火も水も、風も大地も、昼と夜とも全てが泡沫の幻。故に、全属性の魔法の適性を持つものでなければ、夢幻魔法を習得することは叶わぬ。

 また、それらを実現させる為に、膨大な魔力を消費する。生半可な魔力総量では、偽りの世界を形作ることすらできぬ。

 

「……つまり、全属性を存分に使えて、かつ魔力総量に相当恵まれてないと夢幻魔法を覚えられない、と?」

 

「然り。」

 

「なんだよ、賢者だから覚えられると思ったのに……

 やっぱ、ダーマ神殿で遊び人から転職しないとダメなのかな……」

 

「? だーま? あそびにん?」

 

「いや! なんでもない! こっちの話だ!!

 ……まぁ使えない魔法をねだっても仕方ないか。」

 

 

 よく分からないことを並べてから、はぐらかすようにまくし立ててうーんと考え込むローリエ。そうして暫し考え込んでから、

 

 

「じゃあさ、夢幻魔法を使う時にどんなイメージしてる、とかある?」

 

「イメージ?」

 

「なんかこう……注意点みたいなのくらいあるでしょ。例えば…世界のイメージを固めないとその『偽りの世界』がバグる、とか。」

 

「ふむ……」

 

 確かに、そこを言われてみればあるにはある。

 当然、記憶にない場所は生み出せない。以前、召喚士に見せたものも故郷にて幼き頃に通っていた寺子屋の記憶から再現させた。「一度訪れたことのある場所」ならば、細かな記憶が曖昧でも世界を創造出来る。尤も、細部まで憶えていればより有利なのだが。

 今、思い出せる夢幻魔法の注意点とやらはそのくらいか。ローリエにそう伝えると、

 

 

「なるほど。ありがとね、ハッカちゃん♪

 それじゃー、ぼくちゃん急用できたからこれで!!」

 

 と、お礼をした後息つく暇もなく嵐のように立ち去っていってしまった。

 それにしても、夢幻魔法に興味を持つとは。一体、何を考えているのだろうか?

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ローリエが夢幻魔法を?」

 

「はい。」

 

 

 いくらか思案した末に、私はアルシーヴ様に報告することにした。彼はアルシーヴ様やソラ様とは幼馴染と聞く。何か御存知なのではないだろうか。

 

 

「何かお心当たりはございますか?」

 

「………すまない、ハッカ。

 あいつは、そういった魔道具を使わない強大な魔法を覚えようとは思わない奴のはずだ。

 ……覚えたところで、使えないからな。」

 

 

 返ってきたのは、至極当然の答え。いかな人間とて、自身の手に余る力と明確に分かっていて手に入れようとは思わぬ。仮に手に入れようとするならば、「自身が使いこなせる」といった野心があったり、見通しが甘かったりする場合のみ。私には、ローリエが野心家にも無能にも見えなかった。

 

 

「分かりました。」

 

「ただ、あいつは目的のためなら徹底的に合理性を求めるところもあるんだ。」

 

 少なくとも、ローリエが考えなしで夢幻魔法について訊くことはない、と言い切ったアルシーヴ様の様子は、確かにローリエの幼馴染だというだけあり、説得力に満ちていた。

 

 

 一応、ソラ様にも同じことを尋ねたのだが。

 

「うーん……ごめんなさい。私も、心当たりはないの。ローリエ、魔法単体は苦手で、魔法工学の話しかしないから。」

 

「成る程。」

 

 答えはアルシーヴ様と似通ったものだった。

 そうなると、彼は一体何を考えて夢幻魔法に近づいたのか? 興味本位で? それとも、他に理由があるのだろうか?

 如何に考えても、霧か(かすみ)のように掴み所のないあの男の考えていることなど、判る筈も無かった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 アルシーヴ様とソラ様にローリエの事を尋ねてより数日。ローリエを図書館で見かけることが多くなった。

 

 

「ローリエ。何をしている?」

 

「…………まぁ、ちょっとね。ハッカちゃんは? 俺に会いに来た?」

 

「戯言を。」

 

「即答!? ヒドい!!」

 

「酷いのは汝の頭の出来よ。」

 

 

 彼は本を読んでいた。他愛もない会話をしながら何について調べているかを背表紙を見て確認する。

 『夢の世界』、『夢幻魔法の無限性』、『夢幻魔法構築理論』、『イメージを魔法に』………やはり、夢幻魔法についての本が多い。彼が夢幻魔法について何かをしようとしているのは確定のようだ。

 

 

「何を調べている?」

 

「え? え~と……ちょっと、特殊な魔法をね。」

 

「汝に夢幻魔法は使えぬよ。」

 

「知ってるよ、そんな事。」

 

「ではどんな魔法を調べているのだ。」

 

「んー…………秘密!」

 

「何故、秘密にする。」

 

「悪いかよ。男にゃあ秘密の1個や2個や100個はあんの!」

 

 

 それを言うなれば女の秘密ではないか、と心で呟きつつ、近くの本を捜す素振りをする。そこまでして隠しておきたいことがこの男にはあるのだろうか。

 

 秘密というものは、ばれると困る故に秘密というのである。我が一族も、その身ひとつで全ての属性を操れることは門外不出の極秘とされてきた。その極秘は(つい)に外に漏れ、私以外の一族はほぼいなくなってしまった。

 

 この男には、そのような秘密があるとは思えない。

 

 ――否、思えない、というより分からない、とした方が正確やもしれぬ。

 

 日常的にせくはらを仕出かす痴漢かと思えば、物事を先まで見据え行動する。現に、ソラ様の襲撃事件の黒幕を最初に暴いたのも彼だ。

 真剣な眼差しを持つかと思えば、のらりくらりとこちらの言葉を(かわ)す。

 

 秘密どころか、秘密自体があるのか否かもわからぬ男。それが、ローリエだと考えている。

 

 結局、その日はローリエの行動について聞くこともかなわず、図書館を後にした。

 

 

 

 それ以降も、ローリエは図書館と教室を行き来するようになった。

 どういうわけか、一向に休もうとしない。

 見かけるたびに、常に何かを読み、書き、魔法か何かを建築しているように見える。

 

 流石にそんな様子が何日も続けば、明らかに様子がおかしい事に気づき始める者も増えてくるもの。アルシーヴ様やソラ様はローリエの異変に気づき始め、神殿に駐在する八賢者や女神候補生の中にも異変に気づく者も現れ始めた。

 

 

「ローリエ………何を考えている?」

 

「アルシーヴ様」

 

「ハッカか。アイツのあの様子……どう見る?」

 

「……何らかの魔法の構築?」

 

「バカな。魔法工学ひとすじに生きてきたような男だぞ? それに―――」

 

 

 アルシーヴ様がローリエに目を向ける。その視線の先には、白紙に複数の直方体を描き連ねるローリエの姿があった。背景を黒と紫に塗り、すべての直方体を灰色と黄色に塗り分けている。何かの絵だろうか? 決して下手ではないが……

 

 

「………アレが魔法の構築に見えるのか?」

 

「…………否。」

 

 

 まったくもってローリエの事が分からなくなってきた。

 

 

「理解不能。」

 

「私もだ。頭が痛くなってきた……」

 

「アルシーヴ様やソラ様以外でローリエを知る人物はいらっしゃらないのですか?」

 

「アイツには両親がいる。言ノ葉の都市に住んでるが………ハッカは会いにいけないか。」

 

「肯定。」

 

 私は秘蔵されている身。都市へ行くどころか、神殿から出るときも、アルシーヴ様やソラ様から許可を貰い最大限の注意をしながら外出せねばならない。御両親を呼び寄せるしかないが、お二人が許可しないだろう。

 であれば……

 

「なら、アイツだな。コリアンダーだ。」

 

 アルシーヴ様の思い出したかのような言葉に私もはっとなる。

 彼についてはローリエ本人から聞いたことがある。神殿に来てからできた、友人であると。

 では、ローリエの奇行についても、何か知っているのだろうか?

 

 

「私が代わりに聞いてきてやろうか?」

 

「否定。私が訪ねたいと存じます」

 

「む、しかしだな……」

 

 

 我が提案に、アルシーヴ様は難色を示す。

 当然だ。私の素性は、神殿の人物でもごくわずかしか知らぬ。アルシーヴ様とソラ様以外では、賢者達以外は私のことを知らぬだろう。コリアンダーはかつて任務で同行した都合上私を知る人物とはいえ、無闇矢鱈に出歩くのは良い顔をしないようだ。

 

 しかし、私は私自身の手で知りたくなったのだ。

 そこまでローリエを突き動かすものとは何かを。

 

 

 

 

「……成る程。それで、俺に話が回ってきたのか…」

 

「然り。ローリエの情報提供求む」

 

「そう言われてもな……」

 

「如何なる些細な情報でも構わぬ」

 

 

 部屋にいたコリアンダーに事情を説明して問えば、難儀な顔をしてこめかみを揉み始める。

 記憶には新しいはずだから友人のコリアンダーならなにか分かるやもしれぬと思っていたが、彼自身も思い出すのに苦戦している様子。

 人の記憶とは儚いものだ。「一昨日の夕食は何だった?」と訊かれて即答することが困難であるように、最近とはいえ友人の情報は思い出しづらいやもしれぬ。

 最悪、収穫なしを予測していた……が。

 

 

「……あ。そういえば…」

 

「…! 何か思い出したか?」

 

「いや、大したことじゃあないんだが……最近、ローリエが誰かを口説いたって噂を聞かないからな。」

 

「……あのローリエが?」

 

「あぁ。あのローリエが、だ」

 

 

 一体、ローリエはどのような悪いものを食してしまったのか?そう疑いたくなる程の情報が飛び出した。

 つまり……私がアルシーヴ様と共に目撃した、ローリエのあの謎の行動を、噂に成る程の軟派よりも優先して行っていたほどである。

 

 

「ローリエが、日々の行いよりも優先するもの…? あの男、遂に正当な性倫理に目覚めたか?」

 

「さり気なくローリエに失礼だが……そうでないにしろ、アイツがあそこまで没頭する程の何かが、必ずあるはずだ」

 

「理解不能。ローリエは、日常的に私の元に訪問していた。異変の様子はなし」

 

「えっ…そうなのか?ハッカの元に?」

 

「? 如何したか?」

 

「あー……いや、別に何でもない…」

 

 

 コリアンダーが突然、どういったわけか呆ける。その訳を尋ねようとするが、何故か誤魔化されてしまった。追及しても、押し黙ってしまい、それ以上の情報を得ることは叶わなかった。これ以上のことは分からないだろうと判断し、すぐさまこの日は帰ることにした。

 

 だが……この時の私は、いささか悠長であった事を悟ることになる。

 それは、私がコリアンダーに話を聞きだしてから数日後。神殿内がやけに騒がしいと思った朝の事だった。

 

 

「アルシーヴ様、本日は妙に騒然としている」

 

「ローリエが倒れたんだ。過労だ」

 

「な…!!?」

 

 

 衝撃と焦燥に駆られそうな心を必死に抑え、アルシーヴ様の案内の元、部屋に向かえば…そこには、やや窶れた様子のローリエが寝息を立てていた。

 

 

「何故…」

 

「文字通り全く寝ていなかったようだ。今朝、書庫の入り口で倒れていたのをセサミが発見した」

 

「ローリエは…大丈夫でしょうか?」

 

「ただの寝不足といえば軽いが…倒れる程だ。命に別状はないだろうが、しばらく無茶は禁物だな」

 

 

 私には、目の前の状況がいささか信じられなかった。

 飄々とし、我らの前では余裕を見せていた男が、このような弱った姿を晒すのは。

 

 

「どうやら、ある魔法を研究していたらしい。

 イメージの伝達について書かれていたみたいでな……現在、セサミが分析中だ。」

 

「アルシーヴ様。私が彼の看病を行いたいと存じます」

 

「やってくれるか。有難い。夢幻魔法で原因を探ることも考えたが…」

 

「ローリエは疲労困憊。時間をかけて行うべきと判断。」

 

 

 アルシーヴ様の仰るように、意識のない者に夢幻魔法を用いて彼の者の意識へ潜りこみ、対話を行うことは可能ではあるが、多用ができない上に過労で倒れたということなら、あまり負担をかけるわけにもいかなかった。

 アルシーヴ様が去ってからは、タオルを水で冷やし、ローリエの額にあったタオルと交換した。交換したタオルが熱を持っていたので、熱も上がっている様子。

 何故、彼は倒れるまで魔法を開発しようとしたのか? そこまで無茶する程のものがあったのか?

 

 眠り続ける彼の傍らのイスに座りながらそのような事をぼんやりと考えていた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ―――看病を続けていくうち、眠ってしまったようだ。

 そう考える根拠は、目の前の光景である。

 

『ようこそ、■■■■■家へ!』

『私たちのことは、家族だと思ってくれ!』

『遠慮しないでいいからね!』

『よろしくね!』

 

 遥か昔、山賊によって殺された家族が、貼り付けたような笑顔を浮かべながら、言葉だけは私を歓迎している……この光景を、私は見たことがある。

 言わずもがな、様々な家を転々としていた頃、最後に私を迎え入れた四人家族の様子である。

 

 今の私なら分かる。この者たちは、私の事を本気で歓迎などしていなかった。どこかの闇商人………それこそ、あの盗賊あたりにでも、高額で売り払うつもりだったのだろう。現に……彼らの「優しい家族」の仮面は、いとも簡単に剥がれた。

 

『なんであんな化け物を引き取ってきた!?』

『アレは災いを呼ぶといったろう?』

『厄介者だけど、親族の目が怖くて仕方なかったのよ!』

『災いを呼ぶの?じゃあ…早く誰かに押し付けよう?』

『いや……アレは売るべきだ。闇ルートだととんでもなく高値がつくらしい』

 

 聞くのもおぞましい会話を、欲望と恐怖にまみれた表情でしている家族たちを始めて見てしまった時は、別物を疑ったものだ。だが…現実は残酷だった。

 

『……あ?』

『……おまえ』

『『『『…なに、見てるんだよ?』』』』

 

 

 その声を聞いた瞬間、心臓が凍っていく感触を覚えた。

 この日からだ。私への暴力や暴言が、露骨になったのは。そして…盗賊に家族を皆殺しにされるまで続いたのだったか。

 これは過去の出来事だ。もう過ぎ去った、我が心が生み出した、文字通りの幻に過ぎない。

 

 

『なんだその目は!生意気なんだよ!』

『私に口答えする気!? 厄災を招く魔人族の分際で!!』

『誰が厄介者を保護してやったと思ってるの!!?』

『存在そのものがウゼェんだよ!お前はもう喋るな!!』

 

 

 だというのに……体が動かない。

 あの頃に受けた痛みを思い出す。全身の打撲の傷と、胸の奥を刃物を深く突き刺されたような痛みを思い出す。

 彼らは…最期の最後まで、私を恨んでいた、のだろう。私を盗賊に売ろうとし、欲をかいて皆殺しの憂き目に遭った際も……口の動きがそう言っていた。

 

おまえの…せいだ

やっぱり、まじん、ぞくは…やくさい、を…

あいつさえ……いなければ

 

 彼らは『信じていなかったけど裏切られた』と言わんばかりに私を恨んでいたが……はっきり言ってしまえば、私が彼らを恨みそうだった。しかし、それ以上に悲しい、苦しい感情が渦巻いて、怒り恨みを飲み込んで………

 

 そして。

 

 私の傍らの誰かに温かく包まれた気がして、意識が浮上した。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「―――ここ、は?」

 

「お、起きたかハッカちゃん」

 

「!!?」

 

 

 目が覚めると、なぜか私はベッドに寝かされていた。

 しかも、ローリエが隣で胡坐をかいて座っている。

 窓から入る西日が、二人を照らしている。

 

 

「ローリエ、いつの間に起床…!?」

 

「ちょっと前だ。目が覚めたら、ハッカちゃんが看護したまま寝ちゃってるから驚いたよ」

 

「体の調子は…!」

 

「もう大丈夫。ぐっすり寝たからな。

 それよりも……ハッカちゃんは、大丈夫なのか?」

 

「? 何故、その質問をする?」

 

「いや、だって………魘されてたから。泣きながらよ」

 

「!!?」

 

 

 慌てて顔を拭ってみれば、ほんの少し、湿っているような、冷たいようなそんな感覚がした。

 

 

「……心配無用。少々疲労が蓄積したのみ」

 

「そうか………なら、その話題は終わりにしよう」

 

「ローリエ、疑問。何故、連日睡眠を取らなかったのか」

 

「出来るだけ早く、完成させたい魔法があった。そんで、ハッカちゃんに見てもらいたかった」

 

「…私に?」

 

 

 先程の悪夢を詳しく追及されなかったのは助かるが、私に見せたい魔法をいち早く完成させたいが為に、無茶を続けたようだが…いったい、そこまでの事をする魔法とは何なのだろうか? 何故、私なのか?

 ………そもそも―――

 

 

「私の、せいなのか?」

 

「それは違う。連続の徹夜を選択したのは俺だ。

 今回ぶっ倒れたのは、俺がマヌケだっただけのことだ」

 

 

 即答。ローリエは、此度過労にて倒れたのは己の責任だと断言した。

 それは、今回のケースにおいて正しい事なのだろう。ローリエの目には一切の迷いが無い為、己の責任を感じているのは真実なのだろう。

 なれば……私は知るべきなのだ。ローリエが如何なる理由で無茶に走ったかを。

 

 

「……では、私に見せたい魔法とは如何に」

 

「ぶっ倒れる直前に完成した。その名も―――」

 

 

 ぐ~~~~~~~~~~~~

 

 

「「………………」」

 

「…詳細を聞く前に、夕餉にするべきか?」

 

「……あぁ。今日はまる一日寝てたんだった…」

 

 

 ……顔が発火した様子のローリエから盛大に鳴った腹音によって、真実は夕食後までお預けと相成った。

 

 

 

 ―――食事時は、修羅場となった。

 食堂に現れたローリエを見るやいなや、アルシーヴ様やソラ様を筆頭に、ローリエに駆け寄り「驚いたんだぞ」とか「自分自身を大切にしろ」と説教を受ける羽目となった。更に、私にも「ローリエが目覚めたのなら早く報告して欲しかった」と飛び火を受け、私まで巻き添えを食った。しかし、看護途中で寝落ちしてしまった事も事実な為、甘んじてお言葉を受け入れることとした。ローリエの二度目の腹音がなければ、食事時間がずれ続けていたかもしれない。

 目が覚めてから倒れるまで何をしていたんだと質問攻めにあっていたが、ローリエは空腹である事を理由に追求をかわしていた。私と目があった時にウインクしたが、どういうことなのか?

 

 部屋に戻った後で尋ねてみると…

 

 

「……あの魔法は、ハッカちゃんに一番最初に見せたかったんだ。」

 

「何ゆえ、私に拘る?」

 

「ハッカちゃんの夢幻魔法と併用すること前提の魔法だからだ」

 

「!!」

 

「まぁそれ抜きにしても、君に見て欲しいんだ。俺のことを」

 

 

 ローリエへの疑問が、ここにきて氷解した。

 夢幻魔法は、現状私にしか使えぬ。そう考えると、夢幻魔法と併用するらしき新魔法は私と使うのが効率的、ではあるのか?

 しかし……ローリエのことを私に見て欲しい……とは一体…?

 

 

「まぁ早速やってみよう。ハッカちゃん、おでこ貸して」

 

「…どうするつもりか?」

 

「俺の魔法なんだけどな。記憶を他者に伝達するものなんだ。相手に見せる為には、頭が近いおでこ同士でやるのが一番なんだよね。」

 

「成程」

 

 

 ローリエの説明で痴漢せくはら目的ではないと悟ると、ローリエの額に…私の額を…近づけた。

 さり気なく屈んで身長を合わせてくれたローリエとの顔が近い。変な…もとい余計な考えが浮かぶ前に瞼を閉じた。

 額を通じてローリエの体温が伝わってくる。心音も伝わってきそうだ。そう考えていると、ローリエから思念が飛んでくる。―――このまま夢幻魔法を使ってほしい、と。

 

 

「し、しかし…夢幻魔法は危険な魔法……」

 

「俺を信じて」

 

 

 思わずな提案に言い訳の様に危険性を隙もなく、思わず開いた目とローリエの至近距離からの視線がぶつかった。どういうわけか吸い込まれていく瞳と、揺るぎなき「信じて」の言葉に、私は。

 

 

「……了解。しかし、二度目は無し」

 

 

 夢幻魔法を、行使した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 そこは、生まれてこのかた見たことのない景色であった。

 

 まず、真上には星空。曇りなき夜空が、地平の彼方まで続いている。次に、周囲。無機質な鉄の床を肩ほどの高さの鉄柵が囲んでいる。

 そして、鉄柵の奥…そこには見たことのない都市が広がっていた。直方体の建物らしきものが所せましと並んでいて…建物についている、無数の四角の窓が光り輝いている。更に、建物の間を縫う道路も煌々としており、まるで光の河のようである。

 青、白、橙、赤、緑………様々な色の光を放ち、星渡り*1の群れを髣髴とさせ……更に、それよりも明るい光景だった。

 その光景は未知に溢れていて…近未来的かつ神秘的な美しさを誇っていた。

 

 

「これは…ここは一体……!?」

 

「『日本』という国の『東京』という都市で見れる夜景だよ。超高層ビルの屋上さ」

 

「ローリエ!?」

 

「この光景は…俺が最も好きな景色だ。

 俺の前職はこの国の汚いトコばっか見てきてるからな…こんな国、出ていきたくもなった。

 でもそう思う度、ここに来るんだ。そうすると、ココも満更でもないなって思うんだ。明日も頑張ろうって思えてくるんだ」

 

 

 いつの間に隣に立っていたローリエが感慨深く都市の夜景を見つめるローリエ。

 未知な場所を知っている上にかつてここで働いたことのあるかのような言動。疑問に思うのは必然だった。

 

 

「ローリエ、この都市を知っているのか? 『日本』とは、聖典の国なり。生半可な想像では実現できぬ都。ここは夢幻魔法の筈。この都市が現れた原因は…?」

 

「あぁ。ここは夢幻魔法で作られた世界だ。()()()()()()()()()()()

 知っている記憶しか再現できないのも本当だ。何故なら俺は…この世界を()()()()()

 

「ローリエ、貴方の正体は…?」

 

 ローリエがここまで未知で美しき世界を知っている理由を尋ねる。

 すると、真摯な顔をしたローリエが、こちらを向いた。

 

「ハッカちゃん。君は、“生まれ変わり”を信じるか?」

 

「!? ま、まさか…」

 

「そうだ。俺には、生まれ変わる前の記憶がある。

 日本人・木月(きづき)桂一(けいいち)としての記憶が、な」

 

 

 そこから語られたのは、衝撃的な内容だった。

 一人の人間の一生の記憶。国を治める道を進み、清濁併せ吞む覚悟を以って突き進んだ人生。

 中には、耳を塞ぎ目を背けたくもなる醜い人間もいたという。だが、目の前の彼は為すべきを為したのだそうだ。

 

「俺は…この秘密を語らずにいるつもりだった。

 でも……ハッカちゃんの事を考えると、話さない事に疑問を抱いていた。それでいいのかなって。そんで、気づいたら新魔法を……『思念伝達魔法』を開発していた。

 ハッカちゃんの前だけでは……ありのままの俺でいたかったから」

 

 衝撃的な告白に、言葉を失うばかりである。あまりにも現実離れした秘密。しかし、夢幻魔法は如実に日本の東京(とし)を映していた。

 

 

「…信じられないかな?」

 

「確かに、信じ難き事項。されど、証拠は揃っている」

 

 

 ローリエの今までの言葉が空言ならば、ここまで正確に、日本の都市を再現できる筈がない。

 

 

「話はそれだけか、ローリエ?」

 

「いや……ここで言っておきたかったことがある」

 

 

 ローリエは黒い小箱を取り出し、中を開けながら渡してきた。

 そこにあったのは、紫色の小さな宝石が埋め込まれた、銀色の指輪だった。

 

 

「君が好きだ、ハッカちゃん。

 結婚を前提に付き合ってくれないか?」

 

「―――!!!」

 

 

 それは、不意打ちだった。

 ローリエが…私を、好き? 急に…そんなこと言われても…ローリエだって、そんな予兆……

 

『最近、ローリエが誰かを口説いたって噂を聞かないからな』

 

 …あ。そういうこと、だったのだろうか?

 口説いた噂を聞かないのに、私の元には通い詰めていたということは。

 ……そういうこと、で良いのだろうか?

 

 

「……私で、良いのか?」

 

「ハッカちゃんだから良いんだ」

 

「私は、魔人族…それでも、良いと?」

 

「お、奇遇だね。俺も魔人族の血を引いてるみたいよ」

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

「あはは、何その顔。鳩がメテオ食らったみたいな顔してるぞ」

 

「……メテオなる物は知らぬが…衝撃的な事実!!」

 

「あれ、言ってなかったっけ? まぁいいや。そろそろ、答えを聞いても良いか?」

 

「!」

 

 

 私は…ローリエの本気の申し入れに―――

 

 

「私は…貴方の申し出を受ける。

 余所見は厳禁。貴方を本気で魅了する所存」

 

「嬉しいなぁ~、世界一の美女が本気で魅了しに来てくれるのか?

 こんなに幸せな男は他にいないな!!あっはっはっは!!」

 

「……ふふっ」

 

「お、笑ったね、ハッカちゃん! ―――イイ笑顔だ」

 

 

 ―――今までで滅多に見せなかった、渾身の笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

♬MUSIC:Lonely Lullaby/神谷明

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
夜行性の渡り鳥。寒くなる時期の新月に群れを作り暖かい南の国へ飛んでいく。




あとがき
 ハッカちゃんの渾身の笑顔はここだー!
 というわけでハッカ編でした。夢幻魔法を利用してローリエが思念を伝達し、日本の東京の夜景を見せるという特別編はずっっっっっっっと前から考えていました。なんなら本編でビブリオが出てくる前から温めてたかなと思います。そういうこともあり、ハッカちゃんの特別編は外伝の中では自信作です。温めすぎて案が固ゆで卵みたいになっていなければ良いですが。
 次はアンケートの状況と各キャラ編の進捗を鑑みてやりまーす。







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ジンジャー編 September

今回のお話を読むにあたって、ジンジャーのメイド長の名前が決まっています。「リリアン」です。そこら辺の確認をよろしくお願いします。

音楽の方はEarth,Wind&Fireの「September」のご用意を御願いいたします。「ナイトミュージアム」の主題歌、と言えば伝わりますか?誰もが一度は聞いたことがある、音楽史に残る名曲ですよ。


 街の街路樹が色づき始め、残暑が落ち着き始めたこの頃。

 夏の暑さで削がれていた役人達のやる気やら意欲やらが復活し始めるこの季節がまたやってきた。

 

 

 

 あのことがあってから、初めての秋である。

 

 

 ちょうど一年ほど前に、私はアイツからのプロポーズを受けて、夫婦になった。同棲しているアイツから、「ちょっとコレ書いておいてくれ」と婚姻届を手渡される、というちょっとムードに欠けた始まり方したプロポーズだったが、何だかんだで指輪もくれたし、皆も祝ってくれたしで不満はない。

 

 夫婦生活も不満はなかった。あたしは言ノ葉の都市の市長、アイツは最近できた技術開発局局長兼魔法工学教師という、お互い仕事に追われるだけあって、家にいる時間は大切にしてきた。その甲斐あって、ご近所でも仲がいいと評判だ。

 

 ……そう、()()()()()()()()。最近、ちょっと不満、というか納得いかない部分が顔をだしてきた。

 深刻な問題じゃないと思いたいんだけどね。結婚前のアイツの性格とかを考えると、イヤなことを思いついてしまう。

 

 

 ………ローリエの野郎、最近帰りが遅いんだ。

 

 

 

 ローリエといえば、神殿一の変態で、無類の女好き。美しい女性を見れば、口説かないなんてことはない。そして、自慢の魔法工学の技術を使ってでも、女性の体を拝もうとする………ここまで挙げると完全に女性の敵である。なんでこんなのと結婚したんだか。

 私と結婚してからは、そんな許せない要素たる節操の無さは鳴りを潜めてきたと思っていたんだが……

 

 

 ―――まさかあの野郎、他の女に手を出してるんじゃあないだろうな?

 

 アイツが見目麗しい女性を言葉巧みに口説いている姿がありありと思い浮かぶ。間違いなく結婚する前からセサミやカルダモン、ハッカやアルシーヴ、果てはソラ様にまで言い寄っている姿を見てきたからだな。

 

 

 もしそういうことを今でもやろうってんなら、ぶん殴ってやる。

 

 

 そのためにも、アイツが何をやっているのか、調べる必要があるな。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ローリエの日常は忙しい。

 私よりも早く目覚め、朝食を用意する。そうしてできた朝食のいい匂いが香り出す頃に私を起こしに来る。

 そして私よりも早く出勤したあいつは、神殿の教壇に立ち、教鞭を執る。

 

 アイツは、今や神殿の学生たちに人気の先生である。教科は魔法工学。授業がある日は、殆どの時間を授業や生徒からの質疑応答に費やす。

 

 

 授業が終わったら、いつもならまっすぐ神殿内の書斎に向かっていくはずなのだが―――

 

 

 ―――追跡開始だ。

 

 今日の私の執務は、あらかじめ前日に片付けておいて、頼もしい部下たちに任せてきた。もし今日私への用で誰か来たとしても「今日は見回りだ」と言うように伝えてある。抜かりはねぇ。

 あとは、尾行するだけだ。今日のローリエの予定は、授業こそあれ、そこまで遅くまで働く日じゃあないからな。

 現在私は、神殿内の教室…その死角になっている角に隠れている。ローリエが出てきたら始めよう。

 

 

「……! 来た……」

 

 

 教室から出てきたローリエは、曲がり角に隠れた私に気付くことなく、まっすぐ大広間へ向かった。

 まだ日も落ちていないこの時間帯、大広間にいる人物といえば……ソラ様とアルシーヴだったか。

 

 女神であるソラ様と筆頭神官であるアルシーヴ。二人は、ローリエの幼馴染なのだという。結婚式の披露宴にて、新郎のくせにワイン一杯で口調が怪しくなっていたローリエが言っていたっけ。

 でも、一体何の用であそこへ行ったんだ?

 扉に近づいて聞き耳を立てると、声が漏れてくる。

 

 

『じゃ……頼んだぜ』

 

『あぁ……ジンジャーには?』

 

『内緒に決まってるでしょ、ンなの。あ、あと、きららちゃんにも黙っててな』

 

『どうして?』

 

『あの子隠し事超ヘタクソだからな』

 

 

 なんだなんだ? 私に隠れて何を企んでる?

 くそ、気になるな………!

 

 そう思っていると、扉が動き出す。慌てて離れて身を隠すと、ローリエが大広間から出てきた。

 

 

「…よし、あとは街の人たちと……リリアンちゃんが鬼門だな。どう言いくるめるか」

 

 

 ―――そんなことを言いながら、街へと繰り出していくローリエ。

 きららに話さねぇ理由は分からねえけど、リリアンまで味方にしようだと?

 リリアン―――メイド長は私が絡むと面倒なのはローリエが一番よく知っているはずだ。付き合うってなった時はリリアンが発狂して襲いかかったし、結婚式を挙げるってなった時は泣きながら発狂して式を乱入してぶち壊した上に襲いかかった筈だ。まぁ余裕で生き延びたアイツもアイツだけどな。最終的に泣き散らすメイド長を慰めるのどんだけ苦労したと思ってんだか。

 

 とにかく、だ。ソラ様やアルシーヴに話して、リリアンにまで話す予定なのに、私やきららには話さない……という事は分かった。もうちょい情報を集めてみっか。

 

 

 ローリエを追跡していくと、アイツは言ノ葉の頂上の街の中央通りに出てきていた。

 そこに行くと、街の人々と会話をしているように見えた。最初はまたナンパかと思い、すぐにブッ飛ばしてやろうかと思ったが、よくよく見てると、男の人とも会話している。

 

「…………!」

「…! …………」

 

 くそ、なんの話してるか分かんねーな。人通りが多いから、行き交う人たちの足音や会話に紛れて全然聞き取れねぇ。もうちょい近づきたいが、これ以上近づくと、ローリエに尾行を気づかれるかもしれない。

 後で通りかかった時にそれとなく聞いておくために、誰に話しかけたか覚えとくか。つーか、今できることがそれしかねぇ。ローリエが去った後すぐに話しかけないのは、相手に「じ、ジンジャー様!? 先ほどのお話、聞かれていたのですか!!?」ってなって警戒されないためだ。

 

 さっきの話の相手は噴水の業者だったなとか、今話しかけてるのは都市のレストランのシェフかとか、ローリエが声をかけてる相手を一人ずつ覚えながらアイツの跡をつけていく。相手に共通点がなかなか見つからねぇなと思っていると、ローリエの歩みが見覚えのある建物に続いていることに気付いた。

 ……というか市長官邸か! 私の事はちゃんと伝えてあるから大丈夫だが……見回りだと言いながら市長官邸にいるのを見られたら一瞬でウソがバレる。

 今度こそ見つからないように……より気を引き締めて尾行を続けることにする。

 

 すると、私は付いていった官邸内で耳を疑うことになる。

 

 

「リリアンちゃん、ジンジャーいる?」

 

「本日は市中見回りですのでいらっしゃいませんが……お呼びしましょうか?」

 

「いや、いないなら好都合だ」

 

「……?」

 

 

 なんだって? 私がいないなら好都合……だと?

 私に隠して、何を企んでいるんだ?

 

 

「………内緒……パーティー………呼び………協力……?」

 

「成程…………ー様………」

 

「…………ぜ!」

 

「…ジンジャー様…………」

 

 

 さっきの人々の喧騒でよく聞こえなかった街中とは違って屋内だからちょっと聞きやすくなっている。そのお陰で、会話の端々で気になるワードを聞き取ることが出来たぜ。「パーティー」とか「協力」とか……読めたぜ。

 ローリエのヤツ……私に内緒で何らかのパーティーに参加するつもりだな!! どうして私をのけ者にするのかは知らんが、そうは行かねぇぜ!

 

 

「ただいま~!!」

 

「!」

「ジンジャー様!?」

 

 

 物陰から、あたかもたった今帰ってきたみたいに登場して、二人に声をかける。

 案の定こっちを向いたが、リリアンがちょっとビクッてなったな。やはり、話の内容がやましい系の何かなんだろうな。だが、いきなり聞くんじゃあなくて……

 

 

「お、メイド長とローリエじゃねえか。

 いつもは会う度にケンカばっかしてるのに、珍しいな?」

 

「ケンカっつーか、俺が一方的に命狙われてるんだけどな?」

 

「それは、この男がジンジャー様に不敬なことを……」

 

「不敬ってお前な…こんなんでもいちおう旦那なんだぞ? 多少は大目に見てくれな?」

 

「そもそもジンジャー様、本日は見回りに一日使うのでは?」

 

「早めに終わったから帰ってきた!

 で……そしたら二人の話してる場面に出くわしてな。珍しいなと思ったんだ」

 

 

 私からすれば、「何の話してたんだ?」って聞いた方が性に合っているんだが、私やきららに内緒にしている可能性がある以上、そう聞いても答えてくれないかもしれないからな。「見回りから帰ってきたら、たまたま聞いちゃったー」って体にした方が話すかもしれねぇ。

 さぁ……どう出る、ローリエ!?

 

 

「そっか。まぁでも、リリアンちゃんでも世間話くらいするものさ。なぁ?」

 

「! は、はい。先日のテンペスト出現とその討伐時のお話をしていましたの」

 

「あー……アレか」

 

 

 アレは厄介だったな。

 アルシーヴへの逆恨みで都市でテンペストをけしかけて大暴れさせようとしたいち魔導士の事件だったか。

 魔導士本人はショボかったが、呼び出したテンペストが厄介で、ローリエとの連携や、たまたま合流したフェンネルにまで力を借りて倒したんだったな。ぶっ倒れて意識のない魔導士に「許‶さ‶ん‶ッ!!」と言いながら蹴りを加えるローリエやフェンネルはどうかと思ったが。追い打ちじゃなくて死人蹴りだったろアレ。当然犯人は生きて服役中だけどもさ、あの八賢者の姿は誰にも見られなくて良かったと思う。マジで。

 

 でも、それは本命じゃあない。私に何を隠している?

 

 

「へぇー。それだけか?」

 

「あぁ。それだけだ」

 

「なんだよ、つれない事言うなよな! まだ何か違う話題でもあったんじゃあないのか~?」

 

「イヤ、そんなのないが?」

 

「私とお前の仲だろ? 隠し事はナシでいこうぜ?な?」

 

「だから、隠し事ナシで話してるんじゃあないか。信じられないか?」

 

「………」

 

「じ、ジンジャー様。ローリエと話してた事は先程の話題だけですわ」

 

「………………」

 

 

 頑なに話そうとしないローリエに、どういうわけかローリエに味方するリリアン。

 ここまで話さないと、本当に何かやましい事でも隠しているんじゃあないかと思ってしまう。

 仕方ない。今回は、引くしかないな。なんでリリアンまでローリエに加担するなんて……

 

 ちなみに、この後二人で家に帰ってから寝るまで……ローリエが日中に何をしていたのか、何を目的として都市中を回っていたのか……それを、語ることはなかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「―――ってことがあってよー……モヤモヤすんだ。何か心当たりとかねーか?」

 

 

 次の日も、その次の日も、ローリエがあの件について話す事は無く……とうとう誰かに相談したくなった…というより話す機会ができちまったのでつい話してしまったワケだ。

 市長官邸の庭先でテーブルを囲んでティータイムとなったこの昼下がり、三人の参加者にこのことを話して相談してみたんだ。

 

 

「ローリエさんが……珍し…くはないのでしょうか?」

 

 相談者その1、きららが言う。

 きららとは、都市で激闘してから良きライバルになっている。こういう時に話すことになるとは思ってなかったな。

 

「先生が………浮気!?」

 

 相談者その2、ランプの一番考えたくない可能性を私は否定しきれなかった。

 確実に結婚前のアイツを知っているからだな。こればっかりはアイツの自業自得と言わざるを得ないな、オイ。

 

「しかしそうなると、都市の人々に男女問わず話しかけるのはおかしいのでは?」

 

 ランプの熱弁に、相談者その3のアリサが反論する。

 確かに、都市でのアイツを尾行した時は女性を手当たり次第に、というより一軒一軒を回るように、といった方がぴったり合う感じだったし、その際に声をかけた中には男も夫婦もいて、老若関係ない感じだったな。

 

 

「そ、そうですよ! 奥さんを貰ってまでそんなことをするでしょうか?

 ローリエさんは今やもう市長の旦那さんですよ! 浮気と断定するにはあまりに…」

 

「ありえない話じゃありません! むしろ…ジンジャーと結婚してから今まで、先生は良く耐えた方なのでは!?」

 

「ランプ、お前……アレでも私の旦那なんだぞ? 決定的な証拠でもねぇ限り疑いたくはねーよ。マジにやってたらぶん殴るけどな」

 

「メイド長さんともお話していらしたとの事でしたが……ローリエ先生とメイド長の仲ってどうなんですか?」

 

「式に参加したお前らなら知ってるだろ? 乱入したリリアンの乱心具合を。ぶっちゃけ、あの時のままだ。今も目の敵にしてる…この前理性的に話してたのが奇跡的なくらいだ」

 

「「「…………」」」

 

 

 結婚式が血痕式になりかけた惨状を思い出して、三人は押し黙ってしまう。

 うーむ、こうなるとリリアンに声をかけた理由がマジでわからん。少なくともメイド長相手に浮気しようものならバレる前に(物理的に)襲われるからその線だけはないか。

 

 

「あの、ちょっと質問を変えてもいいですか?」

 

「ん、きらら?」

 

「あの…ローリエさんとの結婚生活は……その。どうでしたか?」

 

 きららが頬を染めながらしてきた質問に、私はどう答えたもんかと今までの生活を振り返る。

 今までの生活に不満なんてなかったからなぁ……

 

 

「仕事が忙しい分、家での時間は大切にしてるぜ? いつも一緒で…その日あったことを飯食いながら話したり…あ、あと風呂まで一緒したいって言ってきてな。一回許したら大変だったんだぜ?」

 

「お、お風呂も一緒なんですか!?」

「お、大人だぁ…!」

「せ、先生……ジンジャーと一緒に…」

 

「……わ、悪かった…私が悪かったからそのリアクションやめろ。恥ずかしいだろ…!」

 

 

 新婚生活を語った私に対する三人の初々しいリアクションは、私まで恥ずかしくさせた。

 それと同時に、風呂のくだりをこの三人に話したことをひどく後悔した。こいつら、ここまでピュアだったのか…………私の相談相手は、ちと荷が重かったかもしれないな。

 

 

「あー……話を戻すぞ。要するに、最近ローリエが何か隠し事をしてるかもしれないんだ。

 結婚生活では不満げにしてなかったみたいだし、私にはサッパリだ、って事だな」

 

「きららさんに話していない辺り、先生は本気で何かを隠しているのは確かですね」

 

「ええええっ!? どうして私に話してないことが、本気で隠し事をしてることになるの?」

 

「だってきららさん、隠し事全部言っちゃうじゃないですか。

 ランプがすっかり忘れてた宿題を前日ギリギリに人のレポート内容書き写したことも全部言ったし、私が内緒で買おうとしたランプの誕生日プレゼントも、同行した時にコルクさんに包み隠さず言った事、今も覚えていますからね」

 

「え、えぇ……」

 

「(誕生日プレゼント、か……)」

 

 

 きららが隠し事を全然できないエピソードに花を咲かせたものの、肝心の「ローリエは一体何をかくしているのか」については、コレといった答えが出せないまま、ティータイムが終わった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 きらら・ランプ・アリサとお茶したその日の夜は、都市の長の仕事にしては珍しく仕事がめっちゃ溜まっていた日だった。最後の書類にサインをした時には、ゆっくりめだったはずの陽はもう沈んでいて、窓から見る都市も街灯や建物の窓から見える明かりが光の大半を占めていた。

 

 腹も減ったし、帰ろうかと思った時、一人の人物がドアを開け入ってくる音がした。

 メイド長かとも思ったが、たしか今日は早めに上がったっけと思って、顔を上げると。

 

 

「よっ、ジンジャー。遅くまでお疲れ様」

 

 

 そこにいたのは、最近私を悩ませる旦那だった。

 ローリエは私の苦悩など分かっていないかのように――実際分かってないんだろうが――私の荷物を集め始めた。

 

 

「なんで、ここに来たんだ? いつもみてーに、ここに来ねーでゆっくり帰ってくりゃいいじゃねーか」

 

「……おいジンジャー、なんでそんな不機嫌なんだ? 俺が何かしたか?」

 

「さーてな。お前の胸に聞いてみろ」

 

 

 そんなコイツを、あえて見ないまま、そう突き放す。

 冷たいかもしれないが、アレ以降隠し事を一切吐かないんだ。これくらい妥当だろ。

 コイツが何をしているのかを話すまで、私はこういう態度を取ることにした。頼んでも絶対に一緒に風呂にも入ってやらねぇからな。

 

 

「―――参ったなぁ。今日は特別な日なのに」

 

「……特別? 今日、なんかあったか?」

 

「え? マジでわからない? ジンジャーなら知ってるかと思ったんだが」

 

 

 ローリエの様子が一変し困った表情をしてから聞き逃せないことを言った。

 特別な日?今日が? 何だったかな……?

 ローリエの誕生日……はまだだし、私の誕生日、でもないな。私やローリエの親族の誕生日…も違ったはず。じゃあなんだ?

 

 

「…分からないって顔してるな。答えはベランダに出て見りゃ分かると思うぜ」

 

「………」

 

 

 ローリエの言葉のまま、モヤモヤした今日という日の正体に迫る為、ベランダへ出る戸を開ける。そると、そこには。

 

 

 

ヒュ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ドン!!!ドン!!

 

「「「「「「「ジンジャー様、結婚一周年おめでとうございます!!!」」」」」」」

 

 

「……え?」

 

 市長官邸の中庭から上がる花火と、クラッカーやら何やらを盛っている都市の人達が、そこにはいた。

 

 

「ローリエ様から聞いたよ! 内緒でお祝いしたいって!」

 

「あぁ~、ワシはのぅ、あいつから依頼受けてたんじゃよ。『花火が欲しい』って」

 

「みんな、結婚記念日を祝うために、ローリエ様のお声がけの元集まったんです!」

 

「………なんだって!?」

 

 

 確かに、よく見てみれば……最近尾行した時、()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃあないか!!

 つまり…なんだ? ローリエは、この日の為に、皆に声をかけていたというのか!?

 

 

「おめでとう、ジンジャー」

 

「ソラ様!?」

 

「私達も今回の件に一枚噛ませて貰った。路上整理中心の裏方だったがな」

 

「アルシーヴ様!!?」

 

「やぁ、ソラちゃんアルシーヴちゃん、色々ありがとね」

 

「…良かったのか? ジンジャーに話さないで。呆けてるぞ」

 

「良いんだよ。これぞ『サプライズ』ってやつだ」

 

 

 ソラ様とアルシーヴもこの場に来ていて、たまげるかと思った時……思い出した。あぁ、確かにこの二人にも声をかけてたっけ、と。

 だがこうなるとは思わんだろ!! 何が起こってるのか状況の理解が追い付けなくて、動けないわ!

 

 

「ジンジャーさん」

 

「きらら!? ランプにアリサも!」

 

「やっぱり、ローリエさんは貴方を大切にしていたんですよ」

 

「そうですね。誕生日ならともかく、結婚記念日にここまで人を巻き込むなんて」

 

「私も、初めて聞いた時は正気を疑いましたが……ジンジャー様の結婚記念日にここまでの人に祝われるのを見ていると、満更でもありませんわね…」

 

「メイド長まで……!」

 

 

 私だって予想外だ。お互いの誕生日ならともかく、結婚記念日は当人でも忘れがちな日じゃなかったのか?

 現に私だって思い出せなかった。でもローリエは何か知ってる風だった。つまり……

 

 

「ジンジャー」

 

「!! な、なに!!?」

 

 

 突然声をかけられ、咄嗟に返事をした…がそのせいで変な声が出た気がする。

 ローリエは、そんな私を笑う事なく、今までに数回しか見たことのないレベルのマジメな顔で、何かを差し出した。

 

 ―――それは、大きな宝石がついたブローチだった。

 楕円形であるが、蝶番で開くようになっていて……開くと、その中には、いつだったかツーショットで撮った写真が入っていた。

 

 

「ローリエ………これ…!」

 

「まだ1年目だけど……ジンジャー。これからも、宜しく頼む」

 

「最近、帰りが遅かったのは……!」

 

「この日の為の仕込みやら準備やらだ。サプライズにしたかったから黙ってたんだけど……」

 

 そこで言葉を切り、こちらを覗き込むように見つめるローリエ。

 こっちは何も悟られないように表情を抑えるが……目頭が、どうしても熱くなってしまった。

 

「……いらない不安をさせたみたいだ。ごめんね」

 

 全身が暖かくなった。ローリエの両手を背中に感じる。

 それと同時に、参加者たちの黄色い声が上がった。

 …こ、公衆の面前で…恥ずかしいだろ、と言ってやりたかったが、ンなこと言ったら確実に調子に乗るのがローリエだ。

 それに……私の為に色々、ここまでやってくれたのに、私は浮気まで疑っちまったからな……そこは申し訳ないと思っている。

 だからここは、ゆっくりと腕をほどいて、目頭を拭う。そして―――

 

 

「ワッハッハ! いやーそうだったのか!!

 私としたことが、らしくもないことしちゃったな!!

 ローリエ! 私の方こそ、末永くよろしく頼むよ!!」

 

 思いきり、笑ってみせた。

 そして、締めにハグし返してやると、辺りは歓声と拍手に包まれた。

 

 

「さぁ、ローリエ! この後はどうするんだ?」

 

「乾杯の音頭だ。一緒にやるか?」

 

「もちろんだ! ……あ、そうだ」

 

 

 飲み物の準備が終わるまでの短い間に、ちょっと気になったことをコッソリ聞いてみる。

 

 

「ローリエは、誰かに現を抜かすとか、これからもないよな?」

 

「はは…あぁ。勿論だ。俺は生涯、ジンジャー一筋だぜ」

 

 

 答えは、最高のものだった。

 

 

 

 

 

 

♬MUSIC:September/Earth, Wind & Fire

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき
 ジンジャーのテーマ曲は割と早い段階で決まったんですよね。夜っぽくお祭り感もあり、しかも「September」は歌詞がラブソングなんですよね。和訳してみると案外深く面白いものだったりします。
 今回の話は結婚した後のローリエ・ジンジャーの話でしたので、メイド長を筆頭としたジンジャーファンへのダメージは覚悟の上です。その為のメイド長大暴走でした。







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きらら編 ふわふわ時間

表題曲は放課後ティータイムから「ふわふわ時間」です。
きららちゃんの声優さんって作詞作曲もやってるみたいです。凄まじすぎる。
まぁそれは置いといて。始まるよー!


「歌のコンテスト?」

 

「はい。隣町で行われるらしくって…」

 

 

 きららちゃんが渡してきた紙を見つめる。

 それは大会のパンフレットだった。『隣町のデュエットの大会』らしく、一か月半後に行われるようだ。参加資格に制限はほとんどなく、『親子・友達・恋人…誰でも来い!!』って感じがビンビン伝わる。

 

 

「しっかし、なんで俺を誘ったんだ? きららちゃんなら他にも誘う相手の一人や二人いたでしょうに。ランプとか」

 

「ランプは神殿の宿題が終わってないみたいで…」

 

「あいつまだ宿題やってないのかよ……」

 

「それに、ランプ達じゃダメなんですよ」

 

「ダメ?」

 

「参加資格のとこ。見てください」

 

 

 参加資格? 再びパンフレットに視線を落とす。そして参加資格のところを目で追って探すと、そこには……

 

 

「参加資格は………『男女』…!?」

 

「女の子二人じゃ参加できないんですよ…このコンテスト」

 

「…成る程。道理で俺が誘われたワケだ」

 

 

 きららちゃんの知り合い…もとい友達は女の子しかいないもんな。

 こんな参加資格があっちゃあ、同性同士の友達が参加できないじゃあないか。

 というか、だ。

 

 

「きららちゃん、なんでこの大会に出ようと思った?」

 

「優勝賞品がですね……」

 

「優勝賞品?」

 

 

 再びパンフレットに目を落とす。すると、きららちゃんの言う『優勝賞品』が、デカデカと書かれていた。

 

 

「『優勝賞品:芸術の都特別ツアー他』……だと!?」

 

「どうも、この特別ツアーじゃないと行けない場所があるらしくって。

 皆さんと行ってみたいなぁ……と思いまして。」

 

「へぇ。きららちゃんが芸術に興味を持つとは意外だな」

 

「え、いえ……あ! あはは、まぁ、ソンナコトモアリマスヨー」

 

「………」

 

 

 俺は見逃さなかった。優勝賞品が芸術の都ツアーだけじゃあないことを。しっかりと『ツアー他』と書かれており、米とか肉とかも贈呈されることを。そして、その贈呈されるモノのなかに、ツンツーンがあったことを。

 だが、俺は嘘をつくことが苦手な彼女の名誉のために、芸術の都特別ツアーが目当てなんだという事にした。

 

 

「それで、誰に教わるつもりなんだ?

 一か月半後って書いてあるケド、割とあっという間だぞ」

 

「そうですね……放課後ティータイムの皆さんやフルーツタルトさんに頼むべきでしょうか。」

 

「フルーツタルトはやめといた方が良い気がする……まぁいいか。歌う曲とか決まってるのか?」

 

「えっと、待ってくださいね……………あれ?」

 

「…き、きららちゃん?」

 

「……の、載ってない…」

 

 

 それは…かなりマズいんじゃあないか?

 目を泳がせながら、顔色が青くなりつつあるきららちゃんを引っ張り、一刻も早く放課後ティータイムの助力を得ないといけないとこの時、俺は決心した。

 

 

 

「―――それで、私たちの所に来たわけか」

 

「そうなんだ。だから、『放課後ティータイム』の楽曲を歌う許可が欲しいと思ってきたんだ」

 

「申し訳ないです………」

 

 

 放課後ティータイムのライブハウスに行けば、やはり『けいおん!』の皆はそこにいた。

 例のごとく練習と称してお茶会してる彼女たちの中から、比較的常識人な澪ちゃんとあずにゃんを中心に話を切り出した。きららちゃんに優勝してもらいたいと彼女を立てながら。

 

 

「……そういうことなら楽曲を使ってもらっても構わない。CDもあるしな。ただ…」

 

「ただ?」

 

「その大会、去年私達も見に行ったんだがな……なかなかのハイレベルだった」

 

「「!!!」」

 

「特に優勝した組の歌唱力は圧巻だったんだ。それにすら勝つと考えると、生半可な練習では太刀打ちできないだろう」

 

「……そんなにスゲーの?」

 

「はい。今でも思い出せます」

 

 

 どうやら軽音部の皆はこのコンテストを見に行ったことがあるらしく、しかもその様子は思った以上のハイレベルだったんだそう。○OU○UBEみたいな便利なモノがないからすぐにその様子を見ることはできないが、去年の優勝ペアの歌が未だあずにゃんの耳に残ってるのなら相当だろ。

 

 

「……きららちゃん、どうする? やめる?」

 

「やめません! いきなり諦めたくありません!」

 

 

 俺が確認の意味でこう問うが、きららちゃんの闘志は十分のようで、俺は早速彼女たちに手伝ってもらうことにした。力を貸してくれるかという問いに『けいおん!』の皆が逞しく頷いてくれた。

 

 それから始まったのは、放課後ティータイムと俺達二人のセッションである。

 「いろんな曲歌ってみようよ!」という唯ちゃんの言葉に始まり、色々歌ってみた。

 『Don't say“lazy”』に始まり、放課後ティータイム名義の曲はほとんど歌った。『ふわふわ時間』とか『GO!GO!MANIAC』とか『U&I』、俺ときららちゃんをボーカルに大盛り上がりしたことは確かである。途中から楽しくなった唯ちゃんやそれに巻き込まれたあずにゃん、澪ちゃんまで歌うことになっていて、最終的には放課後ティータイムfeat.きらら&ローリエみたいになっていた。無論、抜け目なく録音しておいた。

 

 いやぁ~~、流石放課後ティータイムの豊崎さんと日笠さんは素晴らしいな。意外だったのが、俺ときららちゃんのデュエットが、オリジナルと雰囲気がだいぶガラリと変わった事である。録音して聞いてみて分かった事だが、男女の声が合わさったことで歌の違う一面が見れたような気分だ。きららちゃん自身も歌は地味に上手かったので、そこも印象の激変に繋がったのだろう。流石楠木さんだねぇ。俺の声と合わせてしまって大変申し訳ない気分になってくる。

 

 

「きららちゃん良い声だね」

 

「え!そ、そうですか? ローリエさんの声こそ、素敵だと思います!」

 

「でもなぁ………」

 

「でも、何ですか?」

 

「男女デュエットに合ってないというか……俺の声だけが浮いてるような気がしてるんだよ。気のせいだといいんだけど……」

 

「えっ? いま、なんて?」

 

 

 放課後ティータイムは、バンドメンバーが全員女性で構成されている。当たり前だが、歌詞が澪ちゃんと唯ちゃんが歌うことでベストマッチすると思っている。

 確かに俺ときららちゃんで歌った場合、新鮮さを味わうことができるだろう。でも、それを以てしても二番煎じのような気がしてしまうのだ。

 練習を重ねれば良いものにはなるだろう。でも、それで勝てるかと言われるとな……。

 

 

「…イヤ、何でもない。俺が足を引っ張らないように頑張らないとなって思っただけだ」

 

「……? そうですか。私も頑張りますね!」

 

 

 パートナーになったきららちゃんの良い笑顔と、練習に付き合ってくれた軽音部の皆の見送りに、ちょっと心が痛くなった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 『男女で出場する』という参加資格のあるデュエット大会に出るべく、ローリエさんをパートナーにして、軽音部の皆さんと練習が出来たところまでは良かったんです。

 私は……その。優勝賞品が欲しくって、参加資格を満たすことだけを考えていたので、何を歌うかとか全く考えてなかったから、そこをローリエさんがリードしてくれたんですが………

 

 

『…俺の声だけが浮いてるような気がしてるんだよ。気のせいだといいんだけど……』

 

 

 練習が終わった後で、思い詰めたような顔をしてそう呟いたのが聞こえてしまった。

 私は、ローリエさんのその言葉の意味がぜんぜん分からなかった。ローリエさんの声は歌っている時は擦れる事も音程がずれる事もないし、問題はなかったと思う。澪さんも紬さんも、誰もその辺りのことを指摘しなかった。

 だというのに、どうして自分の声だけ浮いている、なんて言うのかな?

 

 私は、ローリエさんについてあまりよく知りません。

 ソラ様がドリアーテの陰謀によって呪われた時の事件では、最初こそ戦ったけど、クリエメイトの命を守るために共闘したり、アルシーヴさんが『オーダー』に手を出したワケをこっそり教えてくれたりと密かに頼りになるような人でした。

 でも、プライベート的なことを何か知ってるのかと聞かれれば、そうでもありません。ランプの先生で、色んな発明を生み出す発明家でもあるってくらいで………あ、あとアルシーヴさんやソラ様とも親しかったはず。

 

 そこで私は、まずはアルシーヴさんにローリエさんの声のことをちょっと聞いてみました。

 

 

「……ローリエの声をどう思うか、だと? きらら、お前に一体何があったというのだ?」

 

「え!!? な、何もありませんよ! ちょっと隣町の大会にローリエさんと出場することになっただけです*1!!」

 

「…そうか。大体わかった」

 

 アルシーヴさんの追及をうまくかわした*2後、アルシーヴさんは少し考えるかのように頭に指を当て、そして答えました。

 

 

「答える前に…ローリエは自身の声についてなんと言っていた?」

 

「私とデュエットすると、自分が浮いている気がするって言ってました。私は、良い声だと思ったのですが……」

 

「私も同感だ。あいつの声は訓練生の頃から、音楽の教師に褒められていた」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。だが…今は、その声であらゆる女に声をかけるから手を焼いているが……」

 

「あ、あははは………」

 

 ローリエさんのナンパに頭を悩ませるアルシーヴさんに笑う事しかできないと思った矢先、聞き逃せない事をアルシーヴさんが喋ったのです。

 

 

「ソラ様がしっかり話せる数少ない男の一人だというのに…」

 

「え? …それ、どういう意味ですか?」

 

「……あぁ…きららには話しても良いか。ただし、あまり口外するなよ?

 ソラ様はな…わけあって、男と会話するのが致命的に苦手なんだ」

 

「それ、って……」

 

 

 アルシーヴさんの言葉に、私は固まった。

 あのソラ様が、男の人と話せないって、どういうことですか、って思って。

 

 アルシーヴさんによると……ソラ様は子供の頃、ある男盗賊に攫われたことがあるらしい。

 その時は、ローリエさんが衛兵さんと一緒に助けに行ったから助かったみたいだけど、攫った相手は当時残虐さで名を轟かせていた盗賊で、放っておいたら何をされていたか分からなかったようだ。

 そんな事件があってからというもの、ソラ様は男の人と話すことが……特に距離をとらずに二人きりで話すのがダメになっちゃったみたいだそうです…。

 

 

「ソラ様にそんなことが………」

 

「今でこそマシになったが……問題は根深い。

 しかし、だ。ローリエと話す時だけは、違うようなんだ」

 

「どういうことですか?」

 

「封印される前から、ローリエとソラ様は交流があったみたいでな。発作も出ないと言っていた」

 

「そうだったんですね……」

 

「あら、何の話をしてるのかと思ったら…」

 

「ソラ様!!?」

「えっ!!?」

 

 

 ローリエさんだけはソラ様と話しても問題ない…そういう話を詳しく聞こうと思った矢先、ソラ様の声が聞こえたと思ったら、アルシーヴさんの部屋に入ってきたソラ様。

 

 

「聖典の編纂はどうなさったのです?」

 

「8割がた終わらせたわ。ちょっとここで話してっても支障はないわよ。

 ……それで、どうして私が攫われた事件の話をしてたの?」

 

「実は、ローリエさんが―――」

 

 

 私は、ローリエさんと港町のデュエット大会に出ることになった事に始まって、彼が自分自身の声について言っていた事までをソラ様とアルシーヴさんに話すことにしました。

 

 

「そういうこと、ね…」

 

「ローリエさんとならお話出来るって、本当ですか!?」

 

「えぇ。だってローリエは、あの日洞穴の中にまで私を助けに来てくれたもの。」

 

 ソラ様に確認すれば、やっぱりアルシーヴさんの言うとおり、ローリエさんが盗賊からソラ様を取り戻した事が本当のことだったんだと思い知ることになった。

 

「それなのに、どうしてローリエさんはあんな事を言ったのでしょう?」

 

「たぶん、だけど。

 彼、自信がないのかしら?」

 

「じ、自信がない???」

 

「ま…まさか、ソラ様。あの男ですよ? 自信がないという事態とは無縁そうなあのローリエですよ?」

 

 

 ソラ様の仮説に、アルシーヴさんはありえないという風にローリエさんの人物評を述べた。

 確かに、あの人は頼もしい一面もあるのかもしれませんし、アルシーヴさんがそう言うなら間違いないのかもしれませんが……

 

 

「いえ、分かりませんよ。もしかしたら、ソラ様の言う事もあり得るかもしれません。

 むしろ、そういう『悩み』みたいなものを隠しているのかもしれないです」

 

 ジンジャーさんが言っていました。ローリエさんは秘密主義者だって。

 そりゃ、人間ひとつやふたつ秘密があってもいいと思います。

 それでも、いざ困った時は、誰かに話した方がいいと思うんです。でも、きっとそれは簡単にできることじゃあありません。ローリエさんも、そういう事が起こってるんじゃないのかなって。

 

 

「誰にも言えない悩み、か……しかし、それが歌に合わせられない事と何の関係が?」

 

「きららちゃんと歌うことに自信をもてないんじゃないのかしら。それで、そのことをなかなか言えないんじゃない?」

 

「………ローリエさんに聞いてみてはどうでしょう?

 何に悩んでいるか…話してくれるとは限りませんが、なにか得られるのではないでしょうか?」

 

「…そうだな。それが一番建設的だ」

 

「そうね。その通りだわ」

 

 

 やっぱり、ローリエさんは自信がなくって悩んでいるのかもしれません。

 となると、どうしてローリエさんは自信がないんだろう。

 こうなったら、直接本人に訊くしかない。あれこれ悩むより、聞き出して力になってあげた方が良いな、と思ってそう伝えれば、二人とも頷いてくれました。

 

 ローリエさんを探すべく、神殿内を歩き回っていると、音楽倉庫から、軽快な演奏と歌声が聞こえてきました。

 覗いてみると……そこには、キーボードを弾きながら、素敵な歌を歌うローリエさんがいました。

 

 

「♪いつも頑張る 君の横顔 ずっと見てても 気づかないよね~」

 

「……これは」

「すごい…!」

「ローリエさん……」

 

 

 まさか、練習していたんでしょうか?

 その歌声は、私には絶対出せない低い声で、でも音程も合っていて素敵なものでした。放課後ティータイムの皆さんと一緒に練習した時と違ってソロですので、その良さが際立っている気がします。

 やがて歌が終わったタイミングで私達は、ローリエさんに声をかけるべく音楽倉庫に入っていきました。

 

 

「ローリエさん」

 

「いひぇぇぇぇえええええああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」

 

「驚きすぎだろ」

 

 声をかけたらひっくり返ってしまいました。そ、そんなに脅かすように言ったつもりはないんだけど……

 

「あの、素敵な歌でしたよ!」

 

「え………………聞いたの?」

 

「え? はい」

「聞いた。こんなに上手かったと知らなかったよ」

「カッコ良かったわよ〜」

 

「そ、そうか? いや〜〜〜、それほどでも……あるけど

 

「いま『ある』って言ったわね」

 

 

 歌への感想を三人で言ったら、あからさまに照れた。ものすごく顔が赤いですよ。

 それほどでもあるの意味はちょっと分からないけど……

 

 

「…不安なんですか?」

 

「…っ」

 

「あの大会で優勝できるかどうか……ですか?」

 

「……それもある。」

 

「話してくれませんか?」

 

「…………バレちゃったならしょうがないか」

 

 

 ローリエさんは、ため息をついて観念したかのように話し始めます。

 

 

「そもそも、本番で歌うって決めた曲……『ふわふわ時間(タイム)』は、元を正せば放課後ティータイムの曲だ。彼女たちが歌うことで初めて傑作になるんだ。

 昨年優勝した組は、あずにゃんの記憶にも残るほどだ。カバー曲といえば聞こえはいいが……それで勝てるか…ましてや悔いなくできるか…分からないんだ」

 

 

 それは、大会での優勝への悩みだけじゃなかった。満足いく結果を出せるか……その不安を無くすために一人で練習していたってことなんでしょうか?

 

 

「……なぜ、こんな所でひとり練習を?」

 

「…努力するところは人に見せるモンじゃあないだろ?」

 

 私は、そう答えるローリエさんの目の前に近づき、そのほっぺを両手で軽く挟み込むように叩いた。

 

 

「いっ…たくはないが……何すんの?」

 

「ローリエさん。その不安………分かります。

 私もこういう大会に出るのは初めてなので……どこまで通じるか分かりません。」

 

「……そうだよね。だから、俺がきららちゃんを引っ張れるくらいに上手くならないと痛い!?」

 

 

 ローリエさんの言葉をさっきよりも力を込めた両平手打ちで止める。

 そうじゃない。そうじゃあないんですよ。ローリエさん。

 私の望みは………

 

 

「ひとりじゃ絶対に勝てません。悔いも残ると思います。

 私だって勝ちたいですし、たとえ優勝できなくっても、悔いのないようにしたいのは同じなんです。

 私と二人で、頑張りましょう………いえ。私と一緒に、力を合わせてくれませんか? お願いです」

 

「きららちゃん…………」

 

「きららの言う通りだ。二人で参加するのだろう? ならば二人で練習する方が理に適っている」

 

「一人じゃ限界があるわ。一緒に練習した方がいいわよ、きっと」

 

「アルシーヴちゃん、ソラちゃん…」

 

 

 ローリエさんは、私の両手をゆっくりと掴み取ると、そのまま包み込むように両手にとって、まっすぐこっちを見てほほ笑んだ。

 

 

「……そうだな。きららちゃん……いっしょに頑張ってくれるか?

 俺は…その。また背負いこもうとしてた。一人で出る大会じゃあないのにな」

 

「そ……そうです!! 私を頼ってください!

 ……あ、でも…私も頼りないかもしれないですけど……」

 

「分かった。これからはそうさせてもらう」

 

 

 ローリエさんの表情は、もう既にスッキリしていて、それが悩みを吹き飛ばしていた事を意味していた。

 

 そこから先は、二人一緒に練習を積むことになりました。

 彼は八賢者の同僚さんに聞かれるのを恥ずかしがったり、男女の歌合せでたくさん躓きましたけど、充実した時間になったと思います。

 そして―――

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「―――とうとう、ここまで来ましたね」

 

「あぁ。見ろ、人がいっぱいだ」

 

「恥ずかしくなりましたか?」

 

「冗談。きららちゃんこそ、本番中に噛むなよ?」

 

「大丈夫です。今までの練習を信じましょう」

 

 

 デュエット大会当日、隣町にて。

 舞台袖には、準備を整え切った私とローリエさんがいました。

 あとは、ここですべてをぶつけるだけです。

 

 

『エントリーナンバー35番! チーム「流星」!この大会のダークホースです!』

 

「! ローリエさん!」

 

「ああ…行こう!」

 

 

 司会者に呼ばれて、舞台に登場する。

 そして、マイクの前に立って………

 

 

『歌う楽曲は―――放課後ティータイムさんの、「ふわふわ時間(タイム)」!』

 

 

 

 

 

♬MUSIC:ふわふわ時間(タイム)/放課後ティータイム

 

 

 

 

 

 全てをぶつけた後、私とローリエさんは、息を切らしながら、拳を軽くこつん、と突き合わせた。

 そして、その結果は。

 

 

『いま、全てのエントリーナンバーの点数が出揃いました!

 入賞商品のある5位から発表しましょう!! まずは第5位―――』

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 大会後、私とローリエさんを中心に神殿で宴会が開かれました。

 みんながみんな、私達の健闘を讃えてくれて……まぁ途中から沢山のお酒が振る舞われたことでうやむやになっちゃったけど。

 

 クリエメイトの皆さんはお酒を飲むことに抵抗がありましたが、ローリエさんが「この世界に未成年飲酒禁止法はないッ!!!」とか「ここにあるのはぶどうジュースだッ!ちょっと酒の匂いがするだけでッ!!」と焚きつけてからは大変なことになってました。半ば無理矢理飲まされた澪さんが律さんに泣きながら甘える姿とか、梓さんが唯さんを振り回す姿とか、ちょっと言葉にできないくらいの事をして、他の皆さんに迷惑をかけてるイノさんや仁菜さん、それらを見ながら鼻血を垂れ流すランプやソラ様の姿など………いささか目も当てられないくらいの混沌ぶりです。

 ……ここまで大暴れしているクリエメイトの皆さんは、見たかったような、あまり見たくなかったような。

 

 

「よ~~し、これで40人くらいのキャラソン・カバーソングは集まったかな~?」

 

「ローリエさーん」

 

「お、きららちゃんじゃん」

 

 

 それで、みなさんを焚きつけた張本人はと言いますと、さっきまで歌を歌っていたようです。それも、酔った皆さんを巻き込んで。

 最初はローリエさんが聞いたこともない歌を歌い始めて、麻冬さんやねねさん、はじめさん辺りが「カッコイイ曲だ!」と反応して「歌ってみるかい?」って聞いたのが最初、そこからはクリエメイトのカラオケ大会みたいになっていました。

 ローリエさんの歌のレパートリーの多さにみんな目を向いていたと記憶してます。

 

 

「どれだけ歌知ってるんですか? いっぱい歌ってましたよね?」

 

「まーな。みんな乗り気で助かったぜ」

 

「あの耳に残るフレーズはどこで聞いたんですか? 『心ぴょんぴょん』とか『ぷとてぃら』とか『たじゃどる』とか…あと『ぎゃんぐすたあ』とか…」

 

「あー……聞いちゃったんだ、アレ」

 

「はい、聞いちゃいました。どこで知ったんですか?」

 

「……………なんか展開的に知ってた、じゃあダメ?」

 

「…ダメです。そんないい加減な理由で納得する人なんていませんよ」

 

 

 思いきり誤魔化そうとする彼を一刀両断する。ローリエさんは私の態度に降伏したのか、「後日二人きりの時に必ず話す」と言ってくれました。まぁ、ここだと人がいっぱいですしね。

 

 そんなローリエさんと今まで一緒に練習をしたことで分かったことがあります。

 慎重と大胆を使い分けることが上手い反面、地道な努力を人に見られる事が恥ずかしいっていう、ちょっとシャイなところ。

 そのくせ、普段は色んな女の人を口説いてしまうところ。

 それなのに、私との練習や大会準備のことで手を抜かないこと。

 真剣にするべき時は、しっかり自分の役割を果たすところ。

 

 彼は、彼なりに私との時間を……大会などについての事を、真面目に取り組んでくれたこと。

 瞳を閉じれば、ローリエさんの真剣な表情を思い出すくらいです。そして、そんな真剣なローリエさんを、私は―――。

 

 

「……みんな、良い人だね」

 

「ローリエさん?」

 

「きららちゃんは、頑張れて良かった?」

 

「―――はい。私に後悔はありません」

 

 これは、私の本音。ローリエさんと二人三脚で頑張れた証だと思います。

 

「―――準優勝だったのに?」

 

「はい。ツンツーン……じゃなかった、旅行は逃しちゃいましたが…ほんとに悔いはないんです。」

 

「そっか………」

 

 たとえそれが………本来の目的を達成できなかった結果だったとしてもです。

 

 

「奇遇だな。俺も、全然後悔してないんだ。

 きっとそれは、君と二人で………いや、それだけじゃないな。

 放課後ティータイムの皆や、お節介を焼いてくれたアルシーヴちゃんやソラちゃん……あとは、お節介を聞いてやってきたクリエメイトのみんな。

 全員で頑張ったからなんじゃないかな、ってうっすら思うワケよ」

 

「そうですね。皆さん、私達の為に、頑張ってくれましたもんね。」

 

 

 だから。

 この夢にでるような素敵な日々は、思い出に残ります。いや…残したい。

 そんな思いが、宴会が終わった切なさを上回ると信じながら。

 

 

「…ちょっと外に出よっか?」

 

「え?」

 

 

 キーボードを持ってさっさと神殿の外に出ると、綺麗な星空が私達を見下ろしていた。

 

 

「きららちゃん……歌を、歌ってくれないか?」

 

「どうして……急に?」

 

「聞きたくなったから、じゃダメ?」

 

「……いえ、良いですよ。リクエストはありますか?」

 

「そんなの決まってるだろ? ―――ふわふわ時間(タイム)だ!」

 

 

 

 その夜、どこまでも続く星空に、ローリエさんの演奏と私の歌声…ふたつの音楽が溶けていく感じがした。

 

*1
きらら特有の、隠し事ができない癖が発動

*2
本人は本気でそう思っている




あとがき
 きららちゃんの表題曲は超・迷いました。
 結果的に、大・大・大・大・大難産になりましたがゆるしてヒヤシンス。
 まぁ、きららちゃんは公式でも1部・2部ともに歌っていますので問題はなさそうではありますが……
 ちなみに、ローリエは今回の宴会でさまざまなキャラによるアニソン・特撮ソンのカバーの録音に成功しています。本人は「Daydream Cafe」「Power to tearer」「Time judge it all」「裏切り者のレクイエム」を確実に歌っています。酔ったクリエメイトによってまずこの4曲はカバーされました。その他のチョイスとカバーリングは読者の想像にお任せします。

 それと、あとがきアンケートへのご回答ありがとうございました。これからは「次のヒロインは?」ではなく「どの物語が良かった?」という質問にシフトチェンジするため、前質問のアンケートを締め切り、新アンケートは全キャラ結婚(?)ルートを書き終わってからのお楽しみにしたいと思います。連載後も変わらぬ声援をありがとうございます。もうちょっとだけ続くんじゃ。
 


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セサミ編 True my heart

本番外編を読む前に「True my heart/佐倉紗織」を流す準備をしておきましょう。
『Nursery Rhyme -ナーサリィ☆ライム-』というギャルゲーで使われており「きしめん」の愛称があるこの曲ですが、セサミの声優さんである赤崎千夏さんも歌っています。「セサミが歌っているワケではない」ので注意ですが。


 鴛鴦(オシドリ)夫婦という言葉をご存知だろうか。

 

 鴛鴦は、夫婦になると常に行動を共にする習性があり、その仲の睦まじさから「仲の良い夫婦」のことを鴛鴦夫婦と呼ぶようになったという。聖典に書いてあった。

 

 で、だ。なぜイキナリそんな話をしたのかというとなのだが………私の両親がまさに鴛鴦夫婦と呼ぶにふさわしい夫婦だからだ。

 

 例えば……

「今日はママとデートだもんね!」

「そうですね、パパ。楽しみです♡」

 

 ……これは、私の所属する神殿主催の運動会での会話である。

 言っておくけど、私の運動会はデートスポットでもなければ、聖典にあった「スポーツ選手」とやらの試合でもない。それなのに二人ときたら、父兄参加型の親子二人三脚レースで、

 

「ママー! お前に一位を捧げるから、ご褒美用意して待ってろよ!!」

 

「うふふ…頑張って、パパ。」

 

 という会話のあと、お父さんは私を半分引きずりながらマジで一位をかっ攫い、お母さんのご褒美に預かっていた。

 

 そのあまりのラブラブっぷりに見てるこっちが恥ずかしかったので、知らない人のフリをして立ち去ろうと思ったが、結局捕まった挙げ句、それからしばらく「お前の両親超ラブラブ!」と神殿のクラスメートからしこたま羞恥プレイを受けるハメになった。正直、この時ばかりは両親の人目の憚らなさを恨みに恨んだ。

 

 

 たまにならともかく、お父さんとお母さんは毎日こんな感じなのだ。しかも、()殿()()()()()()()()()()()()()タチが悪い。日常的に「いつ弟か妹ができるか楽しみだな!」とからかわれる私の身にもなってほしいものだ。

 

 ここまでくると、あの二人は喧嘩とは無縁だったんじゃないかとも思ってしまう。結婚前から仲良くないと絶対あそこまで人目を憚らずイチャイチャできない。少なくとも私には無理。

 

 だから、私は面食らってしまったのだ。

 

 

「え? 結婚前? そこまで仲良くなかったぜ?」

 

「はっ???」

 

 

 お父さんにさりげなく聞いて返ってきた答えに、とんでもなく素っ頓狂な声が出てしまった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 あれから、仲良かった、良くなかったと不毛な押し問答をした後、変にノロケられるのも嫌だった私は家を飛び出した。

 

 どうしても信じられなくて、お父さんとお母さんの事をよく知る人物に尋ねて、本当のことを知ろうとした。

 

 本人たちに聞くのはなんか恥ずかしいし、絶対ノロケられると思ったから、とある人に聞いてみることにした。二人の事をよく知っているはずの人だ。

 

 

 

 

 一時間くらい後、私は神殿の事務室に来ていた。

 扉をあけると、机について作業をしていた、壮年の男性がこちらへ振り返って、笑顔を浮かべた。私を見とめると、トレードマークの眼鏡をくいっ、とあげる。

 この事務員さんこそ―――私が神殿でお世話になっている大人のひとり―――コリアンダーさんだ。

 

 

「やあ、クミンちゃん。今日はどうしたんだい」

 

「こんにちは、コリアンダーさん。実は………」

 

 

 

 

 

「―――君のお父さんとお母さんの昔の話ィ?」

 

「はい。もしも知っているなら、その時期のことを教えていただけませんか?」

 

 私が真っすぐ見つめて尋ねると、コリアンダーさんは頭をかきながら答える。

 

 

「……いいのか? 昔の君の両親は、その……刺激的だぞ?」

 

「だいじょーぶです! 私だって、もう14歳ですから!!」

 

「…………大丈夫かなぁ」

 

 もう、コリアンダーさんももったいぶるなぁ。心配なんかしなくっても良いのに!

 そう言っても納得いってなさそうなコリアンダーさんは、私に対して「聞いてから後悔するなよ」としつこく念を押しながら話してくれた。

 

 

「まず君のお父さん……ローリエだがね。

 ―――ひと昔前はとんだセクハラ大魔人だった」

 

「………………はい?」

 

 

 耳を疑った。お父さんがセクハラ大魔人?

 あの、お母さんが大好きで人目を憚らずイチャイチャしてるくらいには一途で一筋なあのお父さんが???

 お、落ち着くんだ。そうだ、お父さんから落ち着く方法を聞いてたんだ。確か「そすう」を数えるんだよね?

 1、2、3、5、7、9…………………ふぅ。

 

 

「……えっと、ジョークですか?」

 

「ジョークだったらどれだけ良かったか……」

 

 

 そこから語られた事は想像を絶するエピソードだった。

 通りすがりの女性に声をかけ、女湯を当たり前のように覗き、その為だけに魔道具を開発した、と。ヒドイ時には、隠し子が何人もいるとかいう噂も流れた程だって。

 

 

「―――という訳だったから、セサミと付き合ってから浮名を流さなくなったと知った時は全員が焦ったさ。『洗脳魔法でも使われたんじゃあないか』って。それでアイツに魔法の痕跡がないか調べて……まとめてセサミに張り倒されたのは良い思い出さ」

 

「………本当のことですか?」

 

「残念ながらな」

 

 

 頭を超重量級のハンマーで殴られたかのような衝撃が、私に襲い掛かる。

 コリアンダーさんの語るお父さんのエピソードが、ことごとく私の想像と正反対で、何があったのか知りたいくらいであった。

 さっきコリアンダーさんが言っていた、「聞いてから後悔するな」と念を押してきた意味が、ここでようやく分かってしまった。

 

 

「へ、へぇ………」

 

「それで、君のお母さんだが……」

 

「ま……待ってください。お母さんは…マトモだったんですよね?」

 

 

 コリアンダーさんからまた爆弾を落とされる前に、念を押しておく。

 お父さんの意外すぎる姿が明らかになった以上、どんな情報が飛び出てくるかわかったものじゃあない。

 でもお願いだからマトモであってくれ!

 

 

「そうだな……とりあえず、この写真を見てくれ。」

 

 手渡された写真は集合写真のようだった。

 ソラ様やアルシーヴ様や、賢者の皆さんが写っています。あ、お父さんもいた。

 でも、この写真が一体なんだと…………?

 

「……!!? お、お母さん!?」

 

 その写真に写っていたお母さんを見て、私は驚きの余り声をあげてしまった。

 なぜなら……そこに写っていたのは、水着もかくやというレベルで露出度の高い服装?をしたお母さんだった。

 

 

「な、なに……この格好…?」

 

「ひと昔前の秘書の正装だったんだと。諸事情あって今の露出の激減した服装になったんだけどな」

 

「うそだ………」

 

 

 え、どういうこと? これ、お母さん恥ずかしくなかったの?

 こんなの痴女じゃん! 変態だよ!HENTAIさんだよ!! 大事なところは隠れてるけど……というか、大事なところしか隠れてないじゃん!!

 よくこんなの着れたよね、お母さんを含めた今までの秘書さん!!?

 私の知る秘書の正装は、胸元こそ開いているし、なんだか恥ずかしそうだなって思ってたけど、写真の中の水着……いや、下着にも等しいコレには及ばないよ!!

 

 なに、どういうこと? 今までの情報を集めると……昔のお父さんはとんでもない女たらしかつセクハラ大魔人で、お母さんは行き過ぎたハレンチスタイルをなんとも思っていなかった痴女さんで……それってつまり。

 

 

「わ、私は……セクハラ大魔人とダイナミック痴女の間に生まれた、へんたいさんの子供だった……?」

 

「たぶんそれは違うと思うぞ。あと君、割と両親に容赦ないな…」

 

 

 ……正直、超ヘコんだ。取り乱したよ。最近おっぱいが大きくなってきて、ブラもおっきいのに交換したばっかりだという心当たりもあるし……。

 知らぬ間に、男子のクラスメートに変な目を向けられてたんじゃないかって思ったほどだ。まぁ、そんなの今のお父さんとお母さんが許さないと思うけどさ。

 うぅ、これから貞操観念しっかりしよう。明日からスカートの長さ伸ばそうかな………?

 私の出自と日々の素行のマトモさについてコリアンダーさんが慰めてくれた後、私は冷静さを取り戻した頭で考えてみた。

 

 もし…もしコリアンダーさんの言ってる事が本当だったとして。

 その女好きだった当時のお父さんは、どうしてお母さんを好きになったのかな? まさか体目当てとか…?

 

 

「お父さんがお母さんと付き合ったきっかけとかって知りませんか?」

 

「えっ、付き合ったきっかけ? ちょっと待ってくれ………」

 

 

 コリアンダーさんがこめかみを揉みだす。

 どうにかして思い出そうとしているのが分かる。

 

「えっとな、一時期ローリエ…君のお父さんがナンパをやめた時期があってな。ほぼ同時期にそれなりに漫才みたいなやりとりをしてた筈のセサミと避けあってた気がしたんだが……すまない、詳しくは分からないな」

 

「そうですか……」

 

 やっぱり、そう簡単には思い出せないんだろうか。

 私でも「一週間前の晩御飯なんだった?」って聞かれると答えが出るのに時間かかったり、答えが出てこなかったりする。ましてやお父さんとお母さんが付き合いだしたのって、軽く見積もっても15年以上前でしょ? なかなか出てこないものなんだね……

 

 

「あ、そうだ。」

 

「!! 何か思い出しましたか!!?」

 

「いや、俺じゃなくって、アイツなら俺より詳しく知っているかもしれないって話だ」

 

「アイツ……?」

 

 私は、両親の馴れ初めを知っているかもしれない人物に話を聞くべく、コリアンダーさんの言葉を聞き逃さないように耳をそばだてた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「お久しぶりです、ジンジャーさん」

 

「おぉ、クミン久しぶり!おっきくなったじゃねぇか! 今日はどーしたんだ?」

 

 言ノ葉の都市、その市長官邸の客室。

 メイド長さんに出された紅茶をちびちびと飲みながら、コリアンダーさんの言葉を手掛かりに訪ねた人物―――ジンジャーさんに話を切り出した。

 

 お父さんとお母さんの、私の知らない過去の姿。

 そこから想像できなかった二人の馴れ初めを、ジンジャーさんなら知ってるかもしれない、ってコリアンダーさんから聞いたこと。

 

 

「―――成る程な。まったく、あの二人ももうちょい娘と話しろってのに……」

 

「あ、あの、仕方ないと思います。お父さんもお母さんも、神殿では大事な役職なんでしょ?」

 

「そうだがよ、娘なら親にワガママ言うモンだろ? 今ならまだ許される年頃だぞ」

 

 そう言われても……あんまりワガママ言いたいと思った事ないんだよね…

 パッと思いつかないでいると、「で、二人の馴れ初めだったか」とジンジャーさんが話を戻す。

 

「詳しい事は私も知らん。

 でも、一時期セサミがおかしかったのは知ってるぞ」

 

 

 私の期待通りの情報が得られなかったことにガッカリしそうになった時、直後に聞こえてきた情報に顔を上げた。

 

 

「お母さんがおかしかった………? あの、それは服装ではなく…?」

 

「私からすりゃあ、今のファッションセンスに驚いてるんだがな……そうじゃあなくって」

 

 ジンジャーさんは、話してくれた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 アレは、ローリエとセサミが付き合うーってなる2か月くらい前のことだったか。

 私は、セサミと街へ出かけた時の話なんだがな。

 

『せ、セサミ? どうしたその恰好?』

『秘書の正装なら洗濯中()

 

 最初は、あのきわどい正装以外の格好のセサミ以外を見たことのない私の気のせいかと思ったんだがな。

 

『それじゃ、早速()()()()

 

 どうしても……どうしても普段と違う服装で普段と違う話し方をするセサミに違和感を拭えなくってな。そんで、どんどん違和感は膨らんでってな……

 

『ここのアイスクリーム屋()()()()()ね。この前新しくできたらしいのよ。今日は何にする、ジンジャー?』

『……たまには抹茶にでもしてみっか』

『そう。それなら私は、この前迷ったベリーミックスに()()()()()

 

『…おぉ…!うめぇ…!』

『ホント…! ねぇジンジャー、こっちも一口()()()()()、そっちも一口()()()()()―――』

 

 それが限界だった。

 

『セサミ……お前、どうしたんだ? 何か、あったのか……?』

『え、あ、いや……ちょっとイメチェンといい…いうか………やっぱり変、ですよね。―――はい。()()()()()()()()?』

『いや…変じゃあねーけどよ………』

 

 「ですます調」の丁寧語がデフォルトだったセサミが、イキナリくだけた口調になるなんて、何があったんだって思う方が自然だろ? イメチェン…にしても変え方が地味すぎて不自然だったしよ。

 

『なんで急に?』

『いえ、別に………』

 

 セサミは溶けそうなアイスを気に留めることもなく空を仰いで、

 

『やっぱり、これが普通なんでしょうか…』

 

 それは、誰に言ったわけでもない言葉だったんだろう。少なくとも私に言ったんじゃないと思うけど、どうなんだろうな。ただ、その時の私はそれに対して何も言う気になれずに、「アイス溶けるぞ」と話をそらす事しかできなかったのは、覚えてるよ。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「そんなことが……」

 

 コップの中の紅茶はとっくのとうに飲み干され、一緒に出されたお菓子も一つも残っていない。ここに来た時は高かった太陽も、今は次第に傾き始めている。

 

「あぁ。でも―――悪いな。結局、直接の理由はさっきも言ったように分からねぇ。」

 

「ありがとうございます。でも、お母さんにそんなことがあったのか知ることができました」

 

 ジンジャーさんの言う通り、写真で見たきわどい格好したお母さんが、普通の格好をしてくだけた言葉遣いするのには理由があるんだと思う。

 ここまで来たら、もうなりふり構っていられないのかもしれない。

 

 

「なぁ。…この話、娘のお前がセサミに聞けば教えてくれると思うぜ?」

 

「教えて…くれるでしょうか?」

 

「もちろんだ。なんせ……セサミだからな」

 

「ありがとうございました、ジンジャーさん!」

 

「おう。早く帰ってやれよ。今日はセサミの誕生日なんだからよ」

 

「―――え?」

 

 

 時間が止まった。いや、私が固まった。

 そうだ!!そうだったじゃんか!!! なんで…こんな大切なことを忘れてたんだ!?

 お母さんに誕生日プレゼントを送るのには、意味がある。いつもは恥ずかしくて言えない「ありがとう」を伝えるためだ。

 毎日美味しいご飯を作ってくれてありがとう。色んな家事をしてくれてありがとう。困った時、力になってくれてありがとう。そういう想いを伝えないといけないのに。

 多分何も送らなくっても、お母さんは何も言わないのかもしれないけど、そんなの嫌だ。

 

 ジンジャーさんにお礼を言いながら、私は官邸を飛び出して走り出した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 必死に足を動かして、せっせと家に帰り、やっとの思いでっ玄関についたところで、私は一番大事な事に気がついた。

 

 

「あ………誕生日プレゼント……」

 

 忘れてた。今日は大事な日だったのに、一刻も早く家に帰ることに気を取られてしまったんだ。

 もう今日という日は半分以上終わっている。今から探したところで、間に合いっこない………!

 

「たっだい…クミン?」

 

「………お父さん」

 

 どうしようと途方に暮れていた時、玄関のドアを開けて帰ってきたお父さんとバッタリ出会った。

 私は、滲む視界と零れそうなものをこらえながら、お父さんに言うしかなかった。 どうしよう。今日、お母さんの誕生日なのに、プレゼント、買うの忘れてきちゃった。―――って。

 すると、お父さんは優しい笑顔で頭を撫でながら、

 

「―――よく言ってくれたな。後は父さんに任せろ。クミン、お前に頼みたいのは時間稼ぎだ。できるね?」

 

「え…どうするの?」

 

「誕生日プレゼントをなんとかするのさ! いいか、何としてでも持ちこたえて欲しい!」

 

 

 そう言うと、お父さんはそれ以上何も言わずに再び出て行ってしまった。

 じ、時間稼ぎって言われても……!

 

 

「おかえり~…ってあら、クミン。いつの間に帰ってたの?」

 

 マズい。お母さんがやってきた。

 何でも良いから時間を稼げそうな話題を―――

 ―――あ。

 

 

「……お母さん、実は今日ね……」

 

 

 咄嗟に良い話題を思いついた私は、今日何をやっていたのかを全部話した。

 お父さんとお母さんが昔は仲がそこまで良くなかったって知ったこと。

 昔の二人はどんなものだったのかを知る為に、コリアンダーさんとジンジャーさんの所に行っていたこと。

 ジンジャーさんが様子が当時のお母さんの異変を覚えていたこと。

 

 その全てを聞いたお母さんは、合点がいったという表情でほほ笑んだ。

 

 

「なるほど。どうりで、今日は何も言わずにどこかへ行っていたワケですか。」

 

「ごめんなさい…」

 

「謝らなくていいですよ。ただ、次は何処へ行くかちゃんと言ってください。

 ……ジンジャーが覚えているのは、あの時のことですね。そんなに面白い話じゃあないですよ?」

 

「それでも聞きたい」

 

「ほんとに?」

 

 

 私は、僅かに頷いた。

 

 

「―――それでは、昔話をしましょうか。

 その当時のパパはですね、意外にもスゴくモテたのです。並大抵の可愛い女の子が束になっても敵わないような綺麗な女子の数々に好意を向けられてたの」

 

「セクハラ大魔人だったのに!?」

 

「ええ。セクハラ大魔人だったのに。大体あの人卑怯なんです。いつもは最低なことしかしないのに、いざという時や落ち込んでる時は欲しい行動や言葉をぴったりくれるんです。口説いてるんだって分かってても……好きになるに決まってるじゃないですか」

 

 口を尖らせて不満そうなことを言うお母さんは、どこか嬉し気だ。

 

「でも、あの人は誰かの好意に答えることはなかった。それでも私は、他の誰でもない…私に、振り向いて欲しかった。」

 

 目を閉じた母さんのまぶたの裏には、何が映っているんだろう。

 

 

「そんなときね、お父さんの女の子の好みを聞く機会がありまして。

 ………お父さん、友達になんて言ったと思います? 好みのタイプ」

 

 え、お父さんのタイプ? いったい何だろう?

 

「―――普通な人。そう言ったんです。」

 

 そ。それは―――

 

「ここでクミンに質問。私って、普通に見えますか?」

 

 うーん。どうなんだろう。

 でも、今日の記憶を辿って、言葉を選びつつ絞り出した答えは……

 

「ちょっと独特、なのかも……?」

 

 今思い返してみると、大胆な水着を恥ずかしがらずに着れちゃう(そして、そう言う時いつも慌てるのはお父さんの方だ)し、ですます調はウチでもなかなか崩れないし、おっぱいおっきいし……もっとも、私にはそんなの関係ないけど。

 

 

「ふふふ、ありがとう。でも、その時の言葉を聞いて思ったんです。『あ、それって、私じゃないのかもしれない』って」

 

「そう、だったんだ…」

 

「ですから、『普通』になるべく頑張りましたよ。最初は、そもそも普通というのが何かが分かってませんでしたから、ソラ様やフェンネルや……他にも色んな人の知恵を借りて、服とか話し方とかも調べていた時期もありまして。そうやって試行錯誤をしてた時期が……」

 

「…ジンジャーさんが覚えてたあの一件、なんだ」

 

 

 お母さんが頷く。あの時言ってた、誰に言ったでもない言葉は、ひょっとしたらお母さん自身に言っていたのかもしれない。

 

 

「その時ですかね。お父さんが『お前どうしたんだ? 最近なんか変だぞ』って言ってきたのは。まったく、人の気も知らずに……」

 

 あ~。知らなかったんだろうとはいえ、お父さんも言葉が悪かったような…。

 

「何も知らない筈のあの人についイラっとして、ひどいこと言って大喧嘩になりました。

 そこからは、お互いがお互いを避ける日々が始まりましてね。

 その時は辛かった。この世でこんなに苦しい事があるんだってくらいで、時間が物凄く長く感じたのですから」

 

「………」

 

「一週間か二週間か……無限にも思える時間が経った頃、お父さんの方から話しかけてきたんです。

 いきなり頭を下げて『ごめん!俺が原因なら謝るよ。お願いだから機嫌を直してくれ。俺はお前といつまでもこんなに気まずいのは嫌だよ』って。」

 

 うわぁ、お父さんストレートだなぁ。お母さんが声を低くしてモノマネのように話す。

 コリアンダーさんのトコで見た写真の中のお父さんがこう言っているのをイメージすると、そうとう勇気のいることだったんじゃないかな?

 

 

「私は、そのお父さんに『じゃあ、どんな関係がお望みなのですか? 普通な子が好きな貴方は』って言いました」

 

 い、イジワルだ。そんなことを言われちゃったら何にもできなくなりそう。お母さんもお母さんで素直じゃないよ。

 

「そしたら、私のそんなイジワルにこう言ったんです。

 『あのな、それには続きがあんの。――俺が好きなのは、普通な子。普通に話して、普通に一緒にいて、普通に笑いあえる関係の楽しい子。こんな気まずくて、話もできないで、まともに顔も合わせられないんじゃあ、嫌な子だよ』って」

 

「……? !!! わ、わわわわわ、わわ!!」

 

 

 そ、それって。つまり。

 つまり……そういうこと!!?

 

 

「最初は、言われた事の意味が分からなくて……でもそれが分かった途端、ふふ、泣いちゃいましたね。もう大号泣でした。」

 

 あれは嬉しかったなぁとしみじみと思い返す様子のお母さんに、お父さんのスゴさを見た。

 

「お父さん、すごい人だったんだ……」

 

「それからは、クミンの知る私とパパになったわけです。

 ………このこと、パパには内緒にしてくださいね?」

 

「言えないよ、恥ずかしくって…………」

 

 

 でも、そんなことがあったんだ。

 お父さんとお母さんが今も仲がいい理由が分かった気がするよ。

 普通に一緒にいて楽しいんなら、付き合ってから一気に仲良くもなると思う。娘が恥ずかしいのを鑑みないのはどうかと思うけど。

 

 

「おーーーい、帰ったぞー!」

 

「!!」

 

 

 ウインクするお母さんをリビングに置いて、私は声がした玄関へ駆け出した。

 そこには、大荷物を抱えたお父さんがいた。「ミッションコンプリート!よく頑張ったな」とか褒めてもらった後、大荷物の中の1つを私に持たせた。その時に、お父さんの顔をマジマジと見てしまう。

 …こんな顔のお父さんが、あんなことを………。まぁ顔立ちは良いけど、普段がね………

 

 

「…? どったのクミン」

 

「ううん。お父さんって、スゴイんだね」

 

「ようやく気づいたのか。ホレこれお前の分のアレね。ほら行った行った」

 

「ちょ、待ってっ、待ってってば!」

 

 

 それなりのサイズの箱が入った袋を押し付けて私の背を押し、お母さんのいるリビングに戻る。そして。

 

 

「ママ、お誕生日おめでとう~!!」

「えっ、あ、お、おめでとう~~!!」

 

 お母さんに押し付けられた袋を渡す。急に渡されたから中身を確認する暇もなかったから分からないけど、何が入ってたんだ?

 

 

「わぁ……! すごい!」

 

「ケーキだ!! お父さん、こんなのどこで…?」

 

「人気店のヤツだ。3か月前から予約殺到だったからな、間に合って良かったよ」

 

 

 が、ガチすぎる……分かってたけど、お父さんのお母さんへの愛がスゴ過ぎる。

 いろんなクリームやチョコレートのトッピングがあるんだけど、こんなのいくらかかったの…?

 

 

「あ、俺からはコレね」

 

「それは……!! 超有名ブランドの紅茶セットじゃありませんか!!! しかもこんなにたくさんの種類が!! い、いいの、パパ!!」

 

 アレ。

 なんか、お父さんが渡した紅茶の方が、喜んでない?

 こっち誕生日ケーキだったはずなんですけど。

 

「もちろんだ」

 

「わあーーーーーっ!! ありがとうパパ!大好き!!」

 

「知ってる」

 

「…あのー」

 

 

 お母さん、思いっきりはしゃぎながらお父さんに抱きつかないで。

 お父さんもお父さんで、なんとか言ってよ。

 あのーお父さんお母さん! ここに娘がいるんですけど。教育に悪いんですけどー?

 

 文句の一つでも言おうかと思ったが、お母さんが私にちょいちょいと手招きをした。近づいてみると、そのままお父さんと一緒にお母さんに抱きしめられて。

 

 

「ありがとう、ローリエ(パパ)、クミン。―――愛してる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♬MUSIC:True My Heart/佐倉詩織

 

 

 

 




あとがき
 さーて皆さん一緒に、すなーおな気持ち――――――――――
 はい。そんなこんなでセサミ編でした。こんな旦那にメロメロなセサミは違和感すごかったでしょうか? それとも可愛かった? 安心してください。私自身も違和感とそれを塗りつぶすレベルの可愛さにやられています←
 セサミは女子力の高さ以外のプライベートが現時点で謎だったため、羞恥心が薄いとか紅茶が好きとかは完全に独自設定ですが、公式の設定を見て「こういうのありそうだな」ってものを設定しています。
 それでは、次の特別編でお会いしましょう。
 


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フェンネル編 フィクション

イベントストーリー「サマーナイトレディオ」「サマーナイトリゾート」の2つの内容を頭に叩き込んだ上で、表題曲「フィクション/sumika」のご用意のほどをお願いします。


「ふっ、はぁっ!!」

 

「でりゃあ!!」

 

 

 剣がぶつかり、火花が散る。

 世界がゆっくり動いているかのような感覚を研ぎ澄まし、目の前の男を倒すことに全力を注ぐ。

 相手は何をしてくるかわからない。奴になにもさせない、短期決戦が望ましい!!

 

 

「ムーンライトファント!!」

 

 

 月の魔力をまとった、強烈な突き。

 それに対して彼は、持っている銅剣を傾けて突きを受け―――受け流すかのように我が剣をやり過ごそうとする。

 しかし、その程度の防御などとうに想定済みです!

 

「たあっ!!」

 

「うおっ!!?」

 

 レイピアを持っている手とは逆の手で相手の腕を力強く引っ張る。

 意識の外から行われたそれは、容易に彼の体幹を崩すことに成功し、ローリエは地面に転がる。

 すぐさま受け身を取ることに成功したようですが、それはこの私にとっては十分な隙になり得る―――

 

 

「?……そ、それはっ!!!」

 

 

 転がる時、ローリエの手が何かを持っていることに気付く。

 その赤色と一本の突出した角のようなものの意味を察して、それを取り上げる前に、それは起動した。

 

Start Up

 

 瞬きひとつ。

 そのほんの一瞬で、目の前で転がっていた筈のローリエが消えた。

 そして、頭にゴツリと硬い感触。

 

 

「はい俺の勝ちー。コレで俺の459勝だな。」

 

「ぐっ……」

 

 

 感触の正体がローリエのケンジュウだと分かっていた私は、ため息をついて膝から崩れ落ちる。

 やられた。あれほど警戒していたはずなのに!

 ローリエの作成した魔道具『ソニックビートル』。使用すればカルダモンさえ凌駕するスピードを発揮する代物は、十分に脅威だから、使わせたくはなかったのに……!

 しかし、今回は油断していたお陰で、私とローリエの戦績が457勝459敗と勝敗記録がひっくり返ってしまいました………なんたる失態。

 

 そもそも、この男はいつもこうです。

 何かしらの魔道具を忍ばせ、褒められた手段はほぼ使わない。私に勝った459回の戦いだって、G型魔道具に襲わせるだの私の能力を半減させる魔道具だの罠に嵌めるだのして勝ってきたようなものです。いくら対策しても手を変え品を変え仕掛けてくるので今になっては何がくるのか分からない状態になってしまいました。

 

 この人は、どうして…こう、正々堂々戦うことをしないのでしょうか?

 

 

「……ローリエ。貴方、毎回このような形で勝って嬉しいのですか?

 もっとこう……正々堂々ということをしないのですか?」

 

「………騎士道精神で長生きできるなら、俺も立派な騎士とやらになってやるさ」

 

「しかし…!」

 

「ドリアーテの一件だってそうだぞ? 軒並み卑怯な奴しかいなかったからなアイツら?

 非戦闘員を狙うサルモネラに、『サブジェクト』でクリエメイトを操ったビブリオに、安全な場所から一方的に襲撃してきたセレウス。不意打ち暗殺特化の少年もいたな。そんで極めつけはアリサやエイダを人質にソウマ氏やオッサンを操ったドリアーテだ」

 

 

 確かに、あの事件ではドリアーテの卑劣な手に悩まされたものです。

 特に大地の神兵・ナットに私達の討伐依頼をされた時は正直厳しかった。ドリアーテの人質作戦だったのが幸いして機転を使ってエイダさんを救出したことで事なきを得ましたが、そうでなかったらどうなっていたか分かりません。

 でも、それが誇り高き騎士道精神を捨てる理由にはならないでしょうに…!

 

 

「そうであってもこれは決闘ですよ! そういう手は自重して……」

 

「勝つためにあらゆる方法を模索してるだけだ。それの何が悪い?」

 

 

 ~~~~ッ!!! この男はッ!!

 

「勝てればそれで良いのッ!? たとえ勝てても…そんな薄汚れた手段で得た勝利に価値なんてありませんのよ!!!」

 

「薄汚れたとは失礼な。フェンネル、お前が何に拘ってるのかは知らないけど、結果は何より雄弁だと思うんだ。」

 

 

 ドリアーテ襲撃の際は色々功績を立ててソラ様達を救った立役者だから少しは見直したのに……やっぱり意見がとことん合わない!!

 

 

「…失礼しますッ!!!」

 

「…………」

 

 

 怒りに任せて立ち去った自分自身の背中に、視線が注いでくるのさえ、とても不快でした。

 しかし、この後あんなことが起こるなど、わたくしでも想像できませんでした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「クリエメイトが行方不明?」

 

 きららの里からそのような連絡が入り、アルシーヴ様の元に招集された八賢者達。シュガーとソルト、カルダモンにセサミは別の任務中のため集まることが出来ていないので人数は半分ですが。

 

 

「現在行方が分かっていないのは、丈槍(たけや)由紀(ゆき)櫟井(いちい)(ゆい)天王寺(てんのうじ)(なぎさ)小野坂(おのさか)こはる・なずな・舘島(たてじま)虎徹(こてつ)の6人。合流次第手分けして情報の収集と共有を行うぞ」

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 里に着いた私達は、アルシーヴ様の指示通りに情報を集め始める。

 ジンジャーは街の人々へ聞き込みを始め、ローリエは捜索本部になっている甘兎庵へ赴き、わたくしはハッカとアルシーヴ様と共にきららのいる海岸へ行きました。

 

 

「捜索の状況はどうだ?」

 

「あ、アルシーヴさん。それが……パスは感じ取ることができるのに、姿が見えないんです。いなくなった皆さんのパスは全員ここにあるのに…」

 

「なんですって?」

 

「奇々怪々なり。」

 

 

 きららの発言だと、まるで行方不明のクリエメイトがここにいるかのようではありませんか。

 当然ながら周りの海岸一帯にはそのクリエメイトは誰一人いません。しかし、きららのパス探知能力は本物です。それは、言ノ葉の樹の一件でこの眼で確かに知っている。ということは……

 

 

「きらら、そのパスですが、偽物という線はございますか?」

 

「…いいえ。それはないと思います。そもそもパスはその人の絆や生命力、健康状態などが大きく関係しています。真似ようと思って真似できるものではありません」

 

「そうですか………」

 

 

 思いついた偽物説も違うとなれば、わたくしにはお手上げですわ。

 途方に暮れている矢先、ローリエさんが幼い少女を連れてやって参りました。

 

 

「みんな!! 拉致してる奴の目途が立った。この子―――良ちゃんに協力してくれないか?」

 

「皆さん、聞いて下さい。実は―――」

 

 

 良子さんの話によりますと、シャロさんとぼたんさんがラジオと会話したらしいのです。

 また、千夜さんがランプのラジオで「帰れなくなる遊園地」の怪談を聞き、それらを繋げてできた推理というのが、「遊園地のような怪異がラジオを通して人を招待し、行方不明の人をさらったのではないか」というものでした。

 

 シャロさんとぼたんさんを囮にしてこちらの最大戦力をつぎ込んで鎮圧する、という作戦を聞き、全員がそれに賛同しました。お二人に危険が及ぶかも知れませんが、あっちが招待するタイミングを逃せば接敵するチャンスを逃すため、実行するしかありませんね。

 

 

 

 ―――怪談情報によれば、迎えは夜に来るとのこと。

 日が沈んだ頃、シャロさんとぼたんさんには住宅の入口で待ってていただき、我々は陰に隠れ彼女達が動いたら尾行する役目を賜りました。

 行方不明になったクリエメイトの友人とシャロさんぼたんさんの友達も合わせてかなりの大所帯です。

 

 

「…! 動き出しました。行きましょう!」

 

 良子さんの号令で、私達も進軍を開始します。

 シャロさんとぼたんさんにはミカンさんが誘導弾用のビーコンをつけてるようで、万が一見失っても大丈夫のようです。

 ぞろぞろと尾行する我々の中で、ローリエだけが妙に周囲を気にしているようでした。

 

 

「ローリエ」

 

「ん?」

 

「どうしたのです、そのようにキョロキョロして。」

 

「えっとな、今日この辺霧の予報が出てたかなぁって思ってさ」

 

「霧?」

 

「ちょっとシャロとぼたんちゃんが見えにくくなってねぇか?」

 

 

 ……! 確かに。

 言われてみれば、尾行前は霧など一切なかったのに、少し、視界が悪くなってきて言うような……

 

 

「何なんだ、この霧は。位置関係が見えづらい。」

 

「この視界不良は想定外。危険かも。良はまだまだ勉強が足りない……」

 

「ねえ、この霧だいぶおかしいわよ? 気象は専門外なんだけど。」

 

 

 いや……違う!! もう異変は起きているッ!!!

 クリエメイトの中にも異変を察知している人が何人もいる。どうやら、皆で固まる動きのようですが………って! どんどん霧が濃くなって、周りが何も見えないではありませんか!!!

 

 

「「「うっきーーーーーーー!」」」

 

「猿!? お猿の群れが~~!!」

 

「見えない! 霧の中で何が起きてるっていうのよ~~!?」

 

「いや~~~~~っ!」

 

「「「うきーーーっ! ほっほっほっほっほ!!」」」

 

 

 なんと、どういうわけか猿の群れの鳴き声とクリエメイトの悲鳴が聞こえてきます。しかも、ドドドドと、何かが大量にやってくる……! まさか、猿の―――

 

「うわあああっ! な、何をするのです!!」

 

 体に飛びかかってきた猿たちが、わたくしの鎧や服の隙間に手を突っ込んだり、ひっぱがそうとしてくる! 気持ち悪いったらないですわ! すぐさま猿を振り落とそうとする。

 

 

「きゃあああ!たくさんのお猿さんがっ!」

 

「ダメだよ! そんなに服を引っ張らないでっ!」

 

「このっ、さわるな!! エロ猿ども!」

 

「猿過剰。対処不能。」

 

 

 他の人々も、猿に襲われているようで、抵抗したりしているようですが……

 

「くうっ…! そんなところに、手をっ、入れるな……!」

 

 

 敬愛する方の声を聞いて、ぷっつんと切れました。

 

 

「おのれ~~~~! アルシーヴ様に不敬を働くエロ猿共め!!

 全て吹き飛ばしてやりますわ!! ルナティック―――」

 

 

 アルシーヴ様にまとわりつくエロ猿共を吹き飛ばすべく、わたくしの最大を必殺技を使って猿共を消し炭にでも変えてやろうかと思ったその時でした。

 

 

総員! 耳を塞げーーーーッ!!

BOSS(ボス)! MAXIMUM(マキシマム) DRIVE(ドライブ)!!

 

 

 ローリエの妙に通る声と、聞きなれない誰かの音声が響き渡った。

 急なその大声に困惑しながら、レイピアを持ったまま咄嗟に耳を塞いだ。

 その次の瞬間です。

 

 

「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

「「「「「「「!?!?!?」」」」」」」

 

 

 霧の中、響き渡ったのは雄たけびでした。

 男の声からしてローリエのものでしょうけど……み、耳が壊れそうですわ!!

 あまりに咄嗟に耳を塞ぐことができてないから、手と顔の肌の隙間から、耳を直接攻撃するかのような雄たけびが響く…!!

 

 そうして……雄たけびが止んだその時、わたくしは自身の身の異変に気付きました。

 ―――先ほどから、鎧や服の中をまさぐる猿どもの手が止まっていることに。猿共が心なしか震えていることに。

 

 

「う……き………」

「きゃあーーーーーーーーーっ!?」

「きっ………きぃーーーー!!」

「きぃぃぃえーーーーー!?」

 

「猿共が…逃げていく……!?」

 

 

 中には耳を抑えて苦しんでいる猿や、泡を吹いてひっくりかえっている猿もいますが、さっきまでの興奮状態のエロ猿共とは大違いですわ。

 おそらく原因はさっきのローリエの雄たけびなのでしょうけど、全くもって意味がわかりません。

 霧がどんどん晴れていきます。すると、割と近くにローリエがいたことに気付きました。

 

 

「ローリエ…」

 

フェンネル、大丈夫か?

 

「ええ…しかし、先ほどの雄たけびは一体……」

 

BOSS(ボス)』の魔導メモリを使ったんだ。さっきの猿共には、ボス猿の怒りの威嚇に聞こえたろうさ

 

「魔導メモリ?」

 

ホントはガイアメモリなんだけど…地球の記憶ってほど大層な魔力は込められてないからね。道具を介さないと使えない未完成品だけども

 

 ローリエが見せてきたのは、細長く小さい長方形の何かと、何の変哲もないメガホンでした。どうしてメガホンなんて持ってたんですか……それと。

 

「……ノド、大丈夫ですか?」

 

ぶっちゃけ、水が欲しい……

 

 さっきのでローリエは喉に少なくないダメージを負っていた。

 何やってるんですか、まったく。ボス猿の威嚇攻撃は正直助かりましたけれど、それで自分の喉を痛めては皆さんが心配するでしょうに。

 「水持ってない?」と弱々しく聞くローリエに、水筒なんて都合の良いもの持ってませんわよと言おうとした時。

 

 

「ローリエ、これを飲むと良い」

 

あぁ、アルシーヴちゃん。助かる………?

 

 

 アルシーヴ様がワイングラスを差し出して……

 ―――()()()()()()

 

「え、いつの間に、アルシーヴさ……ま………?」

 

 

 差し出されたものに違和感を覚えたわたくしは、目を凝らして声の主を見る。

 

 ―――それは、アルシーヴ様だった。しかし、わたくしの知るアルシーヴ様ではなかった。

 いつもの筆頭神官の服を着ていない。いつの間に着替えたのか、漆黒のビキニだけという過激な格好で―――

 

 

「なっ――あ、あああああアルシーヴ様!?!?!?」

 

 

 な、なぜ……そのような格好を!?

 豊かな胸元とか、引き締まったくびれやら、おみあしやらがま、ま、丸見えではありませんか!!!?

 わ、わたくしは、幻覚を見ているのでしょうか!!? いや、しかし………

 

 

「? どうした、フェンネル? 皆が待っているぞ。

 ローリエも……こっちに来ないか?」

 

「あ…アルシーヴ様? なぜ……そのようなはしたない格好を?」

 

フェンネル………鼻血出てるぞ

 

 

 変態は黙ってなさい。平常心が乱れるでしょう。

 そもそも、アルシーヴ様がこんな格好でいる事がおかしいのです。先程まで普段通りの神官服でしたのよ? しかも、ワイングラスなど何処から持ってきたというのです。水筒よりあり得ないですわ。

 

 しかし……その時、不思議な声が響いた。

 

 

『おや…なにをおっしゃいます、お客様。

 お客様は、皆様を連れて最初からこのリゾートにやってきていましたし、貴女はこれから水着に着替えるところだったではありませんか』

 

「フェンネル、行くぞ。ソラ様がフェンネルを着飾りたくて待ちきれそうにない」

 

「なっ―――ななななな!?!?!?!?」

 

 

 み、み、水着のアルシーヴ様が、更に近づいてきたー!?

 わ、わたくし、幸せすぎる……

 

ちょっ!!? フェンネル!起きろこのバカ!!フェンネル!フェンネルーーー!!!?

 

 倒れる直前、周囲をちょっと見たのですが、明らかに森ではありませんでした。

 そして、意識が飛ぶ前に、ローリエがなにか言っていましたが、ほぼ聞き取れませんでした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「―――ネル、フ……ネル…………フェンネル!」

 

「……?」

 

 

 目が覚めると、わたくしは海の見えるリゾートの、サマーベンチに寝転んでいました。

 声に呼ばれて体を起こすと、ソラ様と目があって……ソラ様!!?

 

 

「ソラ様……なぜ、ここに?」

 

「あら、何を言っているの? 皆で来る事にしたじゃない。このリゾートに。」

 

「…そうでしたわね!」

 

 違和感が一瞬だけ顔を出したけど、すぐにそんな気がしてきましたわ。

 

「アルシーヴ様達はどちらに?」

 

「あっちよ」

 

 ソラ様の示した方向へ歩いていく。

 そこには、レストランのテラス席があって。

 

 

「おかわり。ストレートで」

「は〜〜い」

「ローリエ、強豪」

「えぇ、本当にすごいですね」

 

 

 ………地獄が広がっていました。

 まず、ローリエがパーカーらしき上着を前全開にした海パン姿で飲み干した飲み物をおかわりし。シュガーとソルトがそれにおかわりをつぎ。ハッカとセサミがローリエの両隣に座って、ローリエを褒め称えています。

 幸い、アルシーヴ様はセサミの反対側の隣に座っていたためローリエの隣にはいませんが………目を疑いたくなる光景なのは確かです。

 

 

「な…何やってるのですかローリエ!! そんなに女性に囲まれて……」

 

「ん? フェンネルか。俺はこのリゾートを満喫してるんだ。見ての通りにな」

 

「不埒です! せめて、一人と付き合いなさいっ!!!」

 

「ハーレムは男の夢なんだぞ!」

 

「秒で諦めなさいよそんな夢!!」

 

 本当にハレンチな男です!

 そのような男女のお付き合いは一対一でするものでしょう! それをあの子もこの子もと……どちらも選べない優柔不断か、欲張りなバカくらいですよ、こんなこと考えるの……!

 

 

「おーおー、何やってんだよお前ら。

 そんな事よりビーチバレーに行かねぇか?」

 

 

 そこに、ジンジャーがビーチボールを持って現れる。

 遊びの誘いに、アルシーヴ様を始め賢者のみなさんもその誘いに乗りだしました。

 

 

「フェンネル、ローリエ! お前らも行くぞ!付いてこい!」

 

「分かりました。行きましょう!」

 

「オッケー! 本気でやってやろうじゃん!!」

 

 

「オラァ!!」

「くっ……凄まじいサーブだ…」

「フェンネル!」

「はい! せやぁっ!」

「いよっと!」

「はい! ジンジャー!」

「任せろォォッ!!」

 

 

 しばらく、ビーチバレーに興じました。

 当然、わたくしはアルシーヴ様のチームで、ローリエとは別のチームです。あのムカつく顔にスパイクを叩き込んでやろうとも思ったのですが、その機会に恵まれる事なく、ビーチバレーの楽しい時間は過ぎていきました。

 

 やがて、ビーチバレーが終わり。

 わたくしは、どういう訳かローリエと二人で海を眺めていました。

 本当はアルシーヴ様とご一緒が良かったのですが、アルシーヴ様ご自身が一人にしてくれと仰るものですから。

 ローリエもローリエで付き添いの買い物を待っているのだとか。

 

 

「……いい海だな」

「……そうですわね」

 

 さっそく途切れる会話。あぁもう、じれったいですわね。わたくしから何か話しかけたほうがよろしいのでしょうか……?

 

「こうやって、美女と一緒に見るのも良いモンだな」

 

「また、そうやって口説こうとして……満足しようと思わないのですか?」

 

「複数の女の人を笑顔にするのは男の甲斐性だって父さんから教わってな」

 

 ローリエさんのお父さん……ガリックさんですか。まったく、オリーブさんとの文通で知ってましたケド、親子そろってどうしようもないですわね。アルシーヴ様がこの人の毒牙にかけられてはたまりませんわ。

 

「…そのような考えを持つ男に、アルシーヴ様は似合いませんわ。」

 

「ほう?」

 

「その強欲を改めて、一人で満足できれば、恋人の一人や二人、できるでしょうに。

 ローリエ、貴方は…その。見た目だけは良いのですから……」

 

 

 言ってやった。ローリエがなぜそこまでハーレムなどというものに拘るのか知りませんが、そんなもの不誠実ですから。

 しかし、ローリエさんはまっすぐこっちを見ます。その表情にふざけた雰囲気はありません。

 常にわたくしをおちょくっている彼の、こんな顔初めて見た気がします。

 

 

「誰でもいいワケじゃあないんだ。一緒にいて、楽しい人が良いんだ。

 …ここじゃあ、たまたまそういう人がいっぱいいただけでさ」

 

「……その中から一人を選んでくださいと言っているのです」

 

「それじゃあ……そうだな。

 フェンネル。君にしようかな?」

 

 

 そう言われた時に、頭が真っ白になりました。

 何故? 一体、どうしてわたくしを? 出会ってから喧嘩しかしてなかったのに?

 

 

「……冗談もそこまでくると―――」

 

「冗談だと思ってるんだ?

 ……俺は、フェンネルと毎回戦うの、悪くないと思ってるよ。同じ手は何度も通じないし、毎回正面から戦ってくれるしな。

 というか、毎回どうやってフェンネルに勝つか考えるの好きだけどな。」

 

「え……」

 

「だって、フェンネルの剣技スゲーもん。真正面から戦ってちゃ1000%勝てないもん。工夫を凝らすのは当然だろ?」

 

「…………」

 

 

 …そんな風に考えてらしたのね。

 わたくしは、姑息な手ばかり使ってくると思って嫌っていたのに。

 てっきり、ローリエの方もわたくしを嫌っているとばかり思っていたのに、そこまで考えていたのですか。

 なんというか、不思議な気分です。まさか、わたくしをライバルのように見ていたとは。悪くないですわ。

 

 

「……わたくし、堅実で一途な方が好みなのですけど」

 

「はっはっは。そっか。じゃあ、そーゆーことにしとくわ。

 じゃあ、行くぞ。そろそろ皆も買い物終わるだろ?」

 

「あ、ちょっと、待ってください!!」

 

 

 ローリエは、心地よさそうな笑顔で意味深な事を言いながら、他の皆さんと歩きだしました。

 行き先は、遠目に見えるホテルでしょうか。ローリエについていくように、他の皆に遅れないように歩き出しました。

 必然的にわたくしが最後尾になり、その前をローリエが歩き、他の全員がその前を歩く形です。

 だから、でしょうか。

 

 

「………ぐっ!」

 

「!!?」

 

 

 屋外ステージを横切ろうとした時に、ローリエが膝をついたのに、わたくしが真っ先に気付いたのは。

 

 

「あ……がぁ……っ!! ハァ……ハァ………!!」

 

「ローリエ!? どうしたのです、ローリエッ!!!!」

 

 

 すぐに駆け寄ってローリエを看ます。

 ……息が乱れている。顔には脂汗が浮かび、左胸を抑えて、浅い呼吸をしながら苦しんでいる…!

 こんな症状、今まで見たことがありません。ましてや、ローリエがこんな事になったのも……! 一体、彼の身に何が起こっているというのです!!

 わたくしの声に反応して、アルシーヴ様を始めた皆が駆け付けます。

 

 

「フェンネル! 何があったんだ?」

 

「わかりません!ローリエが急に苦しみだして…!」

 

「見せてみろ」

 

 アルシーヴ様達がローリエに近づく。そうして、何かを観察したかと思うと―――全員が、穏やかな笑顔を浮かべました。

 それを見て……ゾッとしました。なぜ、そんな表情ができるのです。ローリエが苦しんでいるのですか?

 いくら、日頃からセクハラされているとはいえ、その仕返しにしてもあまりにおかしい。

 

 

「ローリエ、大丈夫だ。ここでは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

「えぇ。息を整えたら立ってください。まだまだ遊びましょう?」

「おにーちゃん、安心して。シュガー達が守るからね?」

「もう()()()()()()()()()()()()よ、ローリエさん」

「ローリエ、お前は大丈夫だ。()()()()()()()()()()

「心配無用」

 

 

 各々の言う事に、耳を疑った。

 殺される? 暗殺? 撃たれる? みんな、何のことを言っているのですか?

 ローリエは生きているではありませんか。生きている以上そんなのあり得ないじゃあないですか。

 そもそも、なんで全員そんなことを知っているのですか? 知らないわたくしの方がおかしいのですか??

 

 目の前の状況が整理できないまま混乱していると、ローリエがゆっくりと立ち上がった。

 顔は頭ごとうなだれるかのように地面を見ているので、表情は読めません。

 

 

「………みんな、ありがとう。心配かけたな。

 心配かけたついでに………確信できたことがあるから、聞いてくれないか?」

 

 

 ローリエが顔をあげましたが…この時の彼の表情に、今度は目を疑った。そして、全身の肌が粟立った。

 なぜなら彼は、この時……底なしの憎悪を煮詰めたような、逆鱗に触れた竜のような…そんな恐ろしい表情をしていたのですから。

 

 

「―――お前らは偽物だ。消えろ!!!」

 

 

 即座にケンジュウの破裂音が響き渡る。

 弾は……その場のわたくしとローリエ以外の全員に、風穴を空けていた。

 

 

「ろ、ローリエ!! な、な…なんてことを…!」

 

「落ち着け、フェンネル。見ろ」

 

「見ろって、何を―――!!?」

 

「「「「「「ギャアーーー…………ッ」」」」」」

 

 

 なんと、風穴を開けられたアルシーヴ様達の姿が崩れて、全く違う姿に……魔物になっているではありませんか!!

 姿が元に戻った魔物たちは、全てがどこかに手を伸ばし、力尽きて崩れ落ちると、そのまま消滅した。

 その一部始終を見た途端、頭の中がすっきりして、今までの事を全て思い出した。

 

 ―――そうだった!! わたくしは、行方不明のクリエメイトを探すべく、シャロさんとぼたんさんの囮作戦に参加して……猿に襲われて…………それからは…!!

 

 

「ローリエ!! この遊園地は一体…!?」

 

「幻覚…っぽい何かだろうな。多分、ここにクリエメイトが囚われて……」

 

『あぁ、なんてことでしょう。どうやらあなた方はお客様ではなくなってしまったようだ。』

 

「!! フェンネル!」

「えぇ、言われずとも分かっています!!」

 

 

 ……聞き覚えのある声!! 確か、偽アルシーヴ様に迫られた時に聞いた……! この声の主が、クリエメイトを攫った元凶ですか!!

 姿なき声に剣を抜いて敵の姿を捉えるべく周囲を見渡す………が。

 

 

『お帰りはあちらでございます。』

 

「「は?」」

 

 

 何かがブレたと思った瞬間、霧に包まれ―――きららの里のビーチ…その海岸に戻されていました。

 

 

「……フェンネル。今のって……」

 

「えぇ。クリエメイトの誘拐犯だと思われます…が……」

 

「あっ! あんなところにローリエさんとフェンネルさんが!」

「なにっ……!!? 急に現れたというのか!?」

 

「…とりあえず、皆に無事を知らせよう」

 

「ですわね」

 

 

 何が起こったのかよく分かりませんでしたが、きららさん達が駆け寄ってきたので、こちらの事も知らせておかなければなりませんわね。

 しかし、わたくしはそれとは別にローリエが苦しんだ理由が未だに頭から離れませんでした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 わたくしとローリエは、アルシーヴ様達の心配の声に驚きました。

 つい先ほどまで、わたくしとローリエは、行方不明者ということになっていたからです。

 そこで二人で自分たちの身に起こったことを懇切丁寧に説明すれば、皆さん納得のいったご様子でした。エンギさんとミカンさんも「敵に追い出された」と言ってくれましたし。

 

 

「それと…『みんなには遊園地が見えていて、外の人には遊園地もそこで遊ぶみんなも見えていない』と、めぐみ殿にも言われたな…」

 

「成程……フェンネル、ローリエ、二人とも、よく帰ってきてくれた。

 ハッカ、どういうことだか分かるか?」

 

「委細把握。幻覚に非ず、夢幻世界でも別世界でも非ず、規模は大なれど単純なる視界操作の法なり。」

 

「どういうこと?」

 

「テレビやラジオのチャンネルみたいなモンで、本当に見えていないだけってことか?」

 

「然り」

 

「それが分かれば後は造作もない。

 …ハッカ、この魔法の周波数に合わせて、同じ視覚操作の魔法を我々全員にかけろ。」

 

「了解」

 

 

 エンギさんとミカンさんの体験談、そして私達の話によって敵の魔法の手口がわかり、ハッカの視覚操作の魔法がこの身に降りかかります。

 すると、目の前の海岸が、先ほどまで私達がいた、豪華絢爛なビーチリゾートの遊園地に変化していくではありませんか!

 

 

「よーしっ! つまりここが敵の本拠地だな!! お前ら!こっからが本番だ!!

 夏らしく―――ド派手に殴り込んでやろうじゃねえか!!!」

 

「「「「「「「おーーーーーーー!!!」」」」」」」

 

 

 ジンジャーを含め、先ほどはぐれてしまった仲間たちもいます! これなら……クリエメイトを救いだせるかもしれません!!

 

 

『あなたたちはお客様ではございません。お帰りはあちらでございます―――』

 

 

 ―――!! やはり、この声の主が邪魔しに来るか! しかし……!!

 

 

「お生憎様、ですわね。またわたくし達を追い出すつもりでしたか?」

 

「視界操作。把握済み。」

 

「残念だったな! 同じ手は二度と食わないぜ!」

 

 

 今回は、こちらにハッカがいます! 彼女がいる限り、強制的にこの遊園地から追い出されたりはしません!

 こうしている間にも、クリエメイトが次々と、囚われたお友達を救出しています! この遊園地を生み出す幽霊か魔物だか知りませんが、奴もここまでです!!

 

 

『残念でございます。残念でございます。』

 

 しかし……その声は、まったく動揺していませんでした。

 

『当リゾートは本日をもって閉園いたします。ご愛顧どうもありがとうございました。』

 

 それは、普通の遊園地やらテーマパークやらの営業終了のアナウンスのようで。

 

『ですが、ここは「どこにもない遊園地」。皆様におかれましては、私ども同様―――どこにもなくなっていただきます。』

 

 

 その宣言ののち、地響きが起こり……

 

 

「え…なにこれ…」

「何かが、こっちに来るよ!」

「遊園地の置物やら、ピエロの飾りとか……」

「自分で動き出して、こっち来る……」

 

 

 成る程。ここまで追い詰められたから、口封じをしてしまおうという訳ですか。

 ですが………そう簡単にいくと思わない事です!!

 

 

「でも…みんな来てくれた。あとはやっつけるだけ!!」

 

 

 良子さんの号令により、私達と遊園地の置物共がぶつかり、大乱闘が始まりました。

 クリエメイトは、ある人は敵を斬り倒し、ある人は魔法でまとめて吹き飛ばし、またある人はケガ人を集めて回復に専念しています。

 わたくし達も負けてはいません。わたくしはアルシーヴ様の盾。戦闘においては、前線に斬りこんで、敵を攪乱する!

 

「やあぁっ!!」

「オラオラァ!!」

「夢幻土纏符!!」

「この程度の敵…造作もない!」

「えーいっ」

 

 ジンジャーやハッカ、アルシーヴ様やきららの里にいた人々もまた、一騎当千といわんばかりの快進撃です!

 でも……一体一体が口ほどにもない分、数で攻めてきますわね!

 

 

「ったく…どんだけいるんだ、コリャ?」

 

「ローリエ…もうへばったのですか?」

 

「馬鹿言え。欠伸が出るわ。……でもまぁ、そろそろ終わりにしたいからさ…」

 

 

 わたくしの元へやってきていたローリエは、わたくしに何かを見せる。

 それは、エロ猿どもを追い払った時に持っていた『魔導メモリ』…とやらでした。

 

 

「ちょっと手を貸してくれない?」

 

「……『ボス』でどうするのです?」

 

「大丈夫。今回使うのは『BOSS』じゃないよ」

ICEAGE(アイスエイジ)!

 

 

 確かに、手に持っていたのは、あの時の黒い長方形ではなく、青色をしています。

 アイスっていうくらいですから、氷系の何かと思われますが……

 

 

「…わたくしは、どうすれば良いですか?」

 

「俺を、信じてくれ」

 

「わかりました」

 

 

 ローリエは、任務や戦場でふざけたりはしない男です。そのことを踏まえて信用することにします。

 わたくしの了承を得たローリエは、青い長方形の何かを、なんとわたくしの持つレイピアの鍔に突き刺したのです!

 

ICEAGE(アイスエイジ)! MAXIMUM(マキシマム) DRIVE(ドライブ)!!

 

 しかも、挿した瞬間にそう音声が鳴りました。あの時のボス猿の威嚇もこうしたのかと思いつつ、目の前のあり得ない現象に、どうすればいいか分かりません。

 

「切っ先を、敵軍団のボスっぽいヤツに向けて」

 

 ローリエが察してくれたのか、そう指示します。

 何も分からないままレイピアを言う通り敵の中の大将らしき禍々しいワラバカシに向けると……その時、不思議な事が起こりました。

 

 

「うわぁ、なにこれ!?」

「敵が、どんどん凍っていくわ!」

「一体誰がこれを…!?」

 

 

 なんと、眼前に迫っていた敵が氷漬けになりました。更に、敵を凍らせた冷気はどんどん広がり、次から次へと敵を凍らせていきます!

 

「こ、これは一体…!!?」

 

「『ICEAGE(アイスエイジ)』は氷河時代をモチーフにした魔導メモリだ。コイツにかかりゃあ敵を凍らせることなど容易い」

 

 やがて、敵を凍らせる冷気が、波のようにワラバカシを包めば、宙を舞うはずのワラバカシも、霜が降り、霜が走り……あっという間に氷像のひとつにしてしまいました。

 

 

『な…こ、これは……!? う、動けないッ!! なんだコレは! これでは、脱出することが―――』

 

「!! あのワラバカシから声が…!!」

 

「どうやら、アイツが親玉だな。動けない内に三枚おろしにしちまおうぜ」

REQUIEM(レクイエム)! MAXIMUM(マキシマム) DRIVE(ドライブ)!!

 

 

 ローリエが持っていた銅剣の柄頭にまた別の魔導メモリを挿すと、また別の音声が鳴る。

 そのままローリエは一瞬こっちを向いた。まるで……「行くぞ」とでも言うかのように。

 私はローリエに頷き、すぐさま走り出す。ローリエと並走して、凍り付いて動けないワラバカシに肉薄した。

 

 

「はあああああああああああああああッ!!!」

ダブル・ソードフリーザー!!

 

『ぎゃああああ!!?』

 

 ローリエと私は、そのままX字にワラバカシを斬りぬけた。

 二つの斬撃を受け、バラバラになった氷像の中から、真っ黒な人型のモヤのようなものが現れ……

 

『ぐわああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?!?!?!?!?』

 

 いくばくか苦悶したあと、それは大爆発した。

 攻撃を終え、心地いい風を全身に受けながら、お互いにそれぞれの剣を振って汚れを落として鞘に納める。

 

 

「よし、黒幕はブッ倒せたようだな」

 

「えぇ。コレで元に戻るはずですわ。……というか、何ですか、『ダブル・ソードフリーザー』って」

 

「俺が5秒で考え付いた。カッコいいだろう?」

 

「………ちなみに、なぜ氷のレクイエム?とやらの斬撃だったのに敵は爆発したのでしょう?」

 

「俺の趣味だ。良いだろう?」

 

「……………」

 

「……嘘だよ。ホントは俺にもわからん」

 

 いつの間にか、海岸リゾート遊園地は消え、元通りの海岸になっていました。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 それからというもの、「どこにもない遊園地」という怪談を聞くことはめっきりなくなりましたが……私にはあまり関係ありませんわね。今日もまた、ローリエのセクハラ騒ぎに引っ張り出されている私には。

 

 

「ローリエ! 今日という今日は許しませんわよ!!」

 

「わぁああああ!!? 待て待て待て!! 事故だって事故!」

 

「信用できるか!!」

 

 

 そう言いながらローリエが何かを取り出そうとするのを察知して投石!

 

 

「うわっ!? し、しまった!!」

 

「隙あり!!!」

 

 

 そして、魔道具を封じたのを確認してすぐにローリエに飛び掛かる!

 逃げられないように、全身で押さえつけて………

 

「………」

 

「……??」

 

 …ローリエの抵抗がなくなった。この男、とうとう観念したか?

 

 

「……今更潔くしても無駄ですわよ」

 

「いや、そうじゃなくって……この体勢…かなりマズいぞ」

 

「へ?」

 

 

 かなりマズい体勢って…まずローリエが仰向けに倒れていて…わたくしはその上から魔道具を使われないように手首を抑えて、足の動きも封じる為に両足で挟むように動きを止めて………

 

 

「なんの話をしているのです?」

 

「何で気付かないんだ!? だってこの体勢は……」

 

「フェンネル~、ローリエ捕まえ………!!

 あ~~~~ゴメンねフェンネル! あたし急用あったから戻るよ!

 ごゆっくり~~♪ …ローリエ! ヤりすぎちゃダメだよ?」

 

「………」

 

「…………カルダモンが勘違いしてあんな事言うくらいヤバいんだよ」

 

「……~~~~~~~~~ッッッ!!!!!!」

 

 

 カルダモンのリアクションと、自分自身の体勢。

 それを鑑みて、その意味が分からない程の乙女ではありませんでした。

 よ、ようやく気付いた!! やってしまった! この体勢って……!!

 

 

「ば、バカバカバカ!!! なんで言わなかったんですか!!

 最低!! 変態! 女の敵!!!」

 

「イヤ、言ったからね!!? 俺言ったよ!!?」

 

「もっと早く言ってください!! バカ!!もう…バカ!!」

 

「痛い痛い!!!」

 

 

 これは確実にローリエが悪いでしょう!!?

 もう……やっぱり、こんな男にアルシーヴ様は任せられません!!

 どうにかして……アルシーヴ様を諦めてもらわないと…! でも、どうすればいいのでしょう?

 

 その答えが出るのは、もう少し先のことでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♬MUSIC:フィクション/sumika

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき
 今回のフェンネルの特別編は2021夏のイベクエに助けられる形で投稿できました。
 ちなみに、このフェンネルの物語にはあるテーマがあります。

フェンネル「貴方にアルシーヴは相応しくありません。ですのでわたくしで我慢してください」

 これに尽きます。でもこれを言わせる機会がありませんでした。ローリエの親密度的にちょっと足りなかったからです。でも、もしフェンネルがナイトリゾートでローリエに「どうしてあの時苦しんでいたんですか?」って聞けば教えてくれると思います。「信じられないかもしれないけど」って前置き付きで。
 恋愛要素はちょこっと入れたと思いますが、これは要するに「フェンネルとローリエが付き合うまであと100日」みたいなイメージで書いたからです。

 それでは、また別のキャラ編の特別編でお会いしましょう。






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ソルト編 ヒトリゴト

今回のMUSICはClariSより『ヒトリゴト』です。
エ□漫画先生?そんな名前の人は知らないですね。


「なぁソルト、ここの計算が間違っているぞ?」

 

「え?」

 

 いつも通りの仕事の計算をアルシーヴ様に報告した時に、書類を見返したアルシーヴ様にそう言われて思わず固まってしまいました。

 大慌てで指摘された箇所を見直してみると、確かに間違えてしまっています。それも、普段のソルトなら絶対に間違えないような、簡単なところを。我ながらケアレスミスもいいところです。

 

 

「も、申し訳ございません…!」

 

「今気づけたのだから問題ない。しかし……ソルト、体調でも悪いのか?」

 

「い、いえ、そのようなことは決して……」

 

 これは本当です。

 ハロウィンを過ぎ、冷え込んだ日が続く中、ソルトは体調管理はしっかりしています。気温の把握と室温・湿度もまた、計算のうち。ソルトが間違えるなんてありえません。

 

 

「…そうか、まぁ良い。少し自分を大事にすることだ、ソルト」

 

「………わかりました。」

 

 

 釈然としませんが、アルシーヴ様はおそらくソルトを労っているだけ。それに反論するなんて、非合理的です。

 アルシーヴ様のいる筆頭神官の書斎から出て、シュガーとソルトの部屋に戻る途中、そこにある教室から声が聞こえてきました。

 

 

「さぁーて、ここで問題です。この幻惑魔法が付与されてる魔道具の回路、どっかで見たことがあるはずだ。それは何でしょう? この部分を見ればわかるはずだぜ」

 

「はい!」「はい!」「はーい!」「ハイ!」

 

「おお、結構上がってるね。分からない人は、教科書の46ページにヒントが書かれていますよ」

 

 

 ローリエの魔法工学の授業です。

 彼はこうして見れば、普通に良い教師なんですけどね。ソルトとシュガー以外の賢者やアルシーヴ様、ソラ様にセクハラをしでかす時点で総評価はゼロを通り越してマイナスに突入しています。

 今授業を受けている女神候補生の方々だって、今はローリエの標的にされてはいませんが、成長したら分かりません。まったく、こんな危険因子をどうしてアルシーヴ様は………

 

 

「ソルト!」

 

わひゃあぁっ!!?

 

 

 う、後ろから声が!! い、一体誰の―――

 

 

「―――ってシュガーでしたか……まったく、そんな大声出さなくっても聞こえますというのに…」

 

「聞こえてなかったよ? 何度も何度も呼んだのにさ。どうしたのさソルト?」

 

「え………」

 

「……あ! ローリエおにーちゃんを見てたから分かんなくてもしょーがないかー」

 

「…何を言っているのです、シュガー」

 

「だってソルト、おにーちゃんの事が大好きだもんね!」

 

「……は?」

 

 

 一瞬、シュガーの言っていることが分かりませんでした。

 ソルトが…ローリエの事を? 大好き?

 ……いやいや。言うに事欠いて何を言っているんでしょうか、この妹は??? いくら冗談でも、度を越しています。

 だいたいこんな浮気男、どう好きになれというのですか? この前なんて、都市で3人グループの女性をまとめてナンパしてたダメっぷりですよ?

 しかし…落ち着きなさい。慌てて反論してもシュガーを面白がらせるだけ。ならば……冷静に答えるのみ!

 

 

「……シュガー。いい加減なことを言うのはやめてください。よりによってローリエだけはありません」

 

「へぇ〜〜。じゃあおにーちゃん以外にいるの?好きな人」

 

「そ、それは………」

 

 言葉に詰まる。その様子を見たシュガーがにやりと笑う。これはよくない流れです。

 

「ほぉ~~ら! やっぱりソルト、おにーちゃんのこと好きなんじゃん!!」

 

「違います!違うと言っているでしょう!!」

 

「えぇ〜?顔真っ赤だよ? 説得力ないよ?」

 

「っ!!?」

 

「あ、今顔確認した! 自覚あるんじゃん、もう〜!」

 

 …!? しまった!

 ハメられた!ソルトとした事が、油断した!!

 

「なっ……! い、今のは誰でも確認するでしょう?」

 

「ふ〜ん、まぁ…そういうことにしておくよ!」

 

「…………」

 

 

 慌てて弁解するも、ニヤついたシュガーはその表情を緩めぬまま、軽やかに走り去っていきました。

 その様子がソルトを煽っているようで不快でしたが、手を出せば今度こそシュガーにからかいのタネを与えてしまうと分かっていたため、手を出せませんでした。

 

 

「まったく……シュガーは、軽率で単純で短絡的なんですから…」

 

 少し異性を見ていただけで好きだと思うなど、単純すぎます。

 何でもかんでも恋愛に繋げる恋愛脳になるのは勝手ですが、それをソルトに押し付けるのは迷惑以外の何物でもありません。

 さて、アルシーヴ様から指摘をいただいた、書類のミスを修正せねば……

 

 

「……?」

 

 部屋への廊下を歩いている最中、倉庫の奥で何かが見えました。

 気のせいかとも思いましたが、確かめた方が合理的ですので、倉庫の方へ歩を向けて進みました。

 

「……こんなところに扉なんてありましたっけ?」

 

 倉庫の入り口なら兎も角、倉庫の奥に更に扉なんて、普通つけません。そのような建物の構造は不自然だからです。ですから、慎重に……扉を開けました。すると、地下へと続くと思われる急な階段があって。

 そこを降りていくと、広がっていたのは一室の研究室でした。地下とは思えないくらいに清潔感があり、壁・床ともに機械的です。

 

「こんな部屋が……!」

 

 誰が何を目的にこんな部屋を作ったかはわかりませんが、最悪神殿に潜り込んでいる反対勢力が集まる秘密基地かもしれません。徹底的に、かつ迅速に調べ上げなければなりません。

 最初に目についたのは、真ん中に置かれているテーブル。そして、その上にあるのはこれまた機械的なデザインのブレスレットとメダルの数々。

 

「なんでしょう、これ…?」

 

 ブレスレットにはメダルをはめると思われる空洞がありますけど、これは……?

 それを手に取ってあらゆる角度からそれを見てみます。やはり気になるのはメダルの数々と腕輪のくぼみですね。メダルを合わせると、くぼみと合わさりました―――

 

 

MAGICAL(マジカル) GIRL(ガール)

 

「うわああああああっ!!?」

 

 

 び、ビックリした!! 急に腕輪が喋り出すなんて聞いていませんよ!!

 しかも結構おっきい音で……しかも、驚いた拍子に腕輪を落として、ガシャンと結構な音を鳴らしてしまった……! い、今の誰かに聞かれたかもしれません……!!

 

 

「……ソルト?」

 

「わああーーーーーーッ!?!?!?」

 

 

 声をかけられた事に驚いて、振り向きざまに声がした反対側の壁まで距離を取る。

 

 

「だ、誰ですか―――」

 

「……お、俺…そんなに嫌われるような事したかな? 言ってくれよ、嫌だと思ったら……もうしないから………」

 

「…………ローリエ?」

 

 そこには、傷ついて明らかにヘコんでいるローリエがいました。

 ワケが分からないですが、分からないなりにローリエを慰めつつ(少々めんどくさかったですが)、さっきの腕輪とこの地下のラボの正体を尋ねました。

 

 

「それで……ここは何なんですか?」

 

「…良く聞いてくれた。ここは―――魔法少女ラボ!!!」

 

「魔法少女ラボ??」

 

「ほら、エトワリアにテレビ最近生まれたろ? それを使って娯楽としての番組を作ろうってなってな。」

 

「娯楽の番組、ですか?」

 

 

 成る程。確かにエトワリアはテレビが普及し、どの家庭もテレビが置かれるようにはなりましたが…そういえば先日、子供の層や若い世代の視聴率に伸び悩んでいるというデータを拝見しましたっけ。

 

 

「若年層の視聴率獲得のためですか?」

 

「あぁ。それに、クリエメイトや彼女たちから話を聞いた人々から魔法少女への憧れも増えてな。

 生み出すことにしたんだ。エトワリア産の、新たな魔法少女をな」

 

 

 成る程。流行に乗っかり、魔法少女の番組を作って色々な利を得ようとしているわけですね。

 

 

「どういう魔法少女にする予定なのですか?」

 

「エトワリアにちなんだ、世界を渡れる魔法少女にした」

 

「世界を…渡る?」

 

「簡単に言っちゃえば、別世界を移動することができる、ってことだ。例えば、ここから聖典の世界へ移動する、みたいな」

 

「さらっと凄まじい事考えますね……ソラ様でもできないのに」

 

「いーんだよ。テレビ番組なんだし、『大体わかった』で済ませられる」

 

「雑ですね……それで、ここがその魔法少女の番組を作る本部みたいなところですか?」

 

「違うよ? 言ったでしょ、ここはラボだって。本部は里にある。ついて来な」

 

 

 そう言うと、ローリエさんはラボを出て倉庫外の廊下へ歩き出す。

 慌てて後を追ったソルトは、ローリエさんと一緒に転移魔法で里にあるという本部まで向かうことにしました。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ようこそ、我らが本部へ」

 

 

 案内されたのは、里のあるビルのような建築物の会議室でした。入口の看板に『イーグルジャンプ』ってありましたけど、あそこってゲーム会社じゃありませんでしたっけ………?

 会議室にいたのは、クリエメイトの皆さんでした。篠田はじめに桜ねね、星川麻冬に日暮香奈…それとスティーレの秋月紅葉もいますね。他にもそれなりの数のクリエメイトがいました。あと、なんでここにランプがいるんですか?

 

 

「待ってましたよローリエさん……って、その子は?」

 

「あれ、ソルト!?」

 

「……ローリエさん。なんでランプがいるんですか?」

 

「ランプも立派な製作スタッフだ」

 

「なぜ言わなかったのです…!?」

 

「聞かなかったじゃん」

 

 

 いや、確かに聞いてませんでしたけど………これは予想外です!!

 何をされるのか不安なままローリエさんについていると、ローリエさんからあのラボで見た腕輪を渡されました。

 

 

「せっかくだ。仕事を見ていくついでに頼みたいことがある。コレをつけて変身してくれ」

 

「………………えッッ!?!?!?!?」

 

 な……何故!? というか、もう変身できるんですか!?

 こ、この男……私の知らぬ間になんてものを………というか、ソルトが変身するんですか? この状況で!?

 

「……驚いてるトコ悪いが、コレはマジの仕事だ。今回の番組を作るにあたり、魔法少女番組のプロを揃えている。そう言った方々から意見を聞くために、必要なことなんだよ。」

 

 いやいやいや…そうかもしれませんけど……それをソルトがやる意味はあるんですか!?

 

「しかし、そういうのは他の方がやった方が…」

 

「バックルは今1個しかない。交換しながら変身してたら時間がかかる。だから頼む。」

 

「……………」

 

 ローリエのお願いだけではなく、他のクリエメイトの方々からも『お願いします』って視線がすごいです…! ものすごく気まずい…!

 結局、ソルトはその場の人々に押し切られて変身アイテムを使うハメになりました。

 

 

「で…では、行きます…………変身」

 

MAGICAL(マジカル) GIRL(ガール)

RULER(ルーラー)

 

「おぉ…なんかカッコイイですね!」

「そうね……でも、彩りがちょっと…」

「そうですよ! もっとカラフルな方がいいと思います!」

「了解。もっとカラフル…集まる人影に色つけてみるか?」

「それがいいと思います!」

 

 

 ローリエが作ったと思われる道具を起動すると、人影が現れてソルトに集まるという、目を疑う演出が現れました。

 しかも演出が終わった後で自身をちょっと見ると、花やリボンが増えて、聖典に書かれた「魔法少女」みたいです。は、恥ずかしい…!

 

 

「えっと…では、次、行きます…」

 

MAGICAL(マジカル) GIRL(ガール)

PRISM(プリズム)

 

「違います!ぷりずむはもっとこう、ピカーって感じの変身なんです!」

「ほう。具体的に何が足りない?」

「頭から下…いえ、顔以外の全てが光ります!そして、そこからコスチュームが生まれるんです!」

「あー成る程。プリ○ュアによくあるヤツか」

「そうです! あ、光の色は虹色で!」

「虹色ね。ちなみに、似たタイプの変身シーンの魔法少女でーすって人いる?」

「は、はい!『ラブリーショコラ』もこんな感じです!」

「『ムーンレンジャー』も同じ感じでーす!」

 

 

 しかし、クリエメイト達は、私の変身を見て、本気で議論しています。

 香奈さんはソルトがいま変身した「まじょっ子ぷりずむ」とやらを熱弁し、ローリエはそれを分析して取り入れつつ、他のクリエメイトの意見も掬い上げています。

 なんというか、そのような様子を見ていると、不思議な気分になります。

 

 

「…………」

 

MAGICAL(マジカル) GIRL(ガール)

LAPIN(ラパン)

 

「わぁ…ラパンの変身シーンも作ったの!?」

「おう。こんなんでいい?」

「もっちろん! すごくカッコ良かったよ! 本編じゃ変身シーンなかったから尚更!」

「青山さんも異議はありませんね?」

「はい! このようなデザインをしてくださって、ありがとうございます!」

 

 

 他にも、フリルやらムーンレンジャーやら、色んな姿に変身させられましたが、変身するたびにクリエメイトとローリエが大真面目に議論するさまを見て、さっきまで恥ずかしがってたソルト自身が恥ずかしくなってきました。

 彼らは娯楽のテレビ番組を作るために、このような事を日々続けていたのですね………

 

 

「―――それで、その肝心の主人公は、誰が演じるのですか?」

 

「そうだったな。他の役は順々に決まっていっているんだけどな……」

 

「あのー……本人さえ良ければ、ソルトちゃんに頼んでみませんか?」

 

「お! いいね、そうしようか!」

 

 

 ―――は?

 え、なんか今、ソルトが主演やるって聞こえたような気がしますけど……

 

 

「なぁ、ソルト!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! いきなり主演なんて……!!」

 

「うーん、やっぱイキナリは無理があんじゃねーのか?」

 

「そっか。じゃあ時間はあげるよ。あと台本も読ませよう。」

 

「イヤ、そういう問題ではなくですね―――」

 

「まぁ、受けるか断るかはそっちに任せるけど…演技力を上げるには丁度いいかなって思ってさ。

 変身魔法あっても、中身の演技力がなかったらすぐにバレちゃうからなぁ。」

 

「…………」

 

 

 急な出演依頼に断りを出そうかとも思いましたが、ローリエのひとことに考えが止まりました。

 確かに……かつてソルトが一井透に百木るんの変身を見破られたのは事実です。

 そう考えると……参加してみるのも、悪くない…のかもしれませんね……?

 そんな事を考えながら…ソルトは、あっという間に新番組『魔法少女ルーラー』の主役を買って出ることになったのでした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 それからというもの、ソルトは魔法少女番組作成チームと共に撮影への練習が始まりました。

 ソルトが行う役は主役でありながら傲岸不遜で我が道を行くタイプの少女。ソルトとはまったくの正反対の役です。シュガーにでもやらせた方が上手くいくんじゃないですかね?…と思いましたし、ローリエさんにもそう言ったんですが、ローリエは「よく演技できている」と好評価をいただきました。褒められることは悪くないんですけど……

 

 それに、番組監督としてのローリエの仕事ぶりには目を向きました。何がすごいって、周囲を美人で囲まれているにも関わらず、撮影中……否、仕事中はナンパやセクハラの類を一切行わないのです。何があったのか問いただしたことがありましたが、「やって欲しいのか、ソルト?だが残念、キミはあと7年経ってから出直してこい」と冗談半分にからかわれてはぐらかされるだけでした。ちなみに、その際は拳で返事をしてやりましたとも。えぇ。

 

 ……ですが、撮影は常に順風満帆とはいきませんでした。問題が発生したのです。

 それは……魔法少女フリル役の人に土壇場で出演を断られてしまったということでした。

 

 

「監督!どうしますか?」

 

「う…む………急な話で、こっちも整理できないが……代役を今から探すしかない。

 見つからなかったら、放送スタートの延期も視野に入れるか……」

 

「そんな…………!」

 

 

 新番組に力を入れ続けていたスタッフが絶望しかけた表情をし、ローリエの困り果てた表情を見た時、胸が苦しくなりました。

 

 

「(どうして………こんなに苦しいのでしょう?悔しいのでしょう? 皆さんが頑張ってきたのは知っている。でも、フリル役の方がドタキャンするなんて………)」

 

 

 フリル役の人が誰なのかは聞いています。なので、確信できることがあります。

 彼女は……何の理由もなく、ドタキャンするような人物だとは()()()()のです。

 しっかりとした根拠もあります。彼女は聖典の中では、そこまで無責任な人物ではありませんでした。

 なので、ソルトは彼女―――桜ノ宮苺香さんに会うべく立ち上がりました。

 

 

 

 探していた人物は、なかなか見つかりませんでしたが、夜の砂浜に座り込んでいるのを見つける事ができました。

 

 

「苺香さん」

 

「っ!!?」

 

「大丈夫です。ソルトは、話をしにきただけですから。

 連れ戻そうとか考えていません……嫌なことを無理矢理やらせるなど非合理の極みですから」

 

「そ、そうですか……」

 

 苺香さんは、ドタキャンした罪悪感からかソルトを見るなり立ち上がろうとしましたが、ソルトがそう言えば落ち着いてくれました。

 こういう場合、こちらから話すのが良いでしょう。撮影が始まってから、共演者とは色々話しましたが、主演になったきっかけとかは話した記憶はありませんからね。

 

「……少々、ソルトのお話に付き合ってほしいのです。いいですか?」

 

「あ、はい…その程度でしたら……」

 

「ソルトは元々、『ルーラー』役はローリエにスカウトされたのですが………正直、気が進みませんでした」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。急に道具のテスト役やらされて、そのままよく分からない魔法少女番組の主演ですよ? ローリエの正気を疑いました。

 撮影が始まってからも、ミスが多くて、皆さんの足を引っ張ったかと…………ですが、ソルトはこの仕事を、やり切ることにしました。」

 

「…どうして、ですか?」

 

「ソルトは、一度始めたことは途中で投げ出したくないのです。シュガー…妹が何でもかんでも投げ出しがちでしてね……そのフォローをしているうちに、そういうタチになりました」

 

 

 シュガーは諦めがちな子でしたからね………そんなあの子をやる気にさせる為に、色々行ったものです。

 そんなソルト達の姉妹関係に相槌を打っている苺香さんに、ソルトは続けます。

 

 

「それに………ソルトは、『変身』したいのです」

 

「変身?」

 

「より良い自分、更に上の自分……そんな存在に、ですね。

 ソルトは『変身魔法』と計略には自信がありますが……きららと戦った際に、敗北した事がありまして」

 

 

 それからソルトは、あの山奥の村での一件を、苺香さんに話すことにしました。

 変身魔法は完璧だったのに、見破られたこと。策を練って挑んで、敗北したこと。あの時の悔しい出来事を、事細かに。

 苺香さんは、何も言わずに聞いてくれました。

 

 

「―――その日から、ソルトは考えるようになりました。

 今のままで、これからも大丈夫だ……とは、到底思えなくなりました」

 

 

 そこまで話した時に、腕に『魔法少女ルーラー』の変身アイテムがあることに気付きました。

 返し忘れたと思いましたが、それと同時に良いコトを思いつきました。

 

 

「だから私は……もっと演技力や、計略や、自分の力を、もっと磨き上げて………!!!」

 

MAGICAL(マジカル) GIRL(ガール)

RULER(ルーラー)

 

「え!!? そ、ソルトちゃん!!?」

 

 メダルをバックルに入れて閉じれば、たちまち私は『魔法少女ルーラー』の格好になりました。

 苺香さんが混乱するのも構わず、彼女を真っすぐ見据えます。

 

「もっと良い自分に『変身』したい。

 ソラ様やアルシーヴ様のお役に立ちたい。

 そう思ったから、ソルトは『ルーラー』をやり抜こうと思ったのです」

 

「………そう、だったんですね。

 私も同じです。直前になって、皆さんの足を引っ張るのが怖くなりました」

 

 やはり、でしたか。

 桜ノ宮苺香は、無責任ではありませんが、少々自信がないきらいがありますからね。

 彼女がこのような理由で動けなくなるのも、ある意味予想通り、ではあります。

 

「私も、スティーレで働く前は…色んな所の面接に落ちてまして。

 今回の撮影も、笑顔が怖くて皆さんにご迷惑をかけてしまいたくなくて…!」

 

「表情の問題なら、ソルトにも理解できます。

 普段使わない表情筋を使うんですよね。もっと笑ってとか言って、何度リテイクを食らったか」

 

「私は、意識して怖くない笑顔にしようと思うんですけど……やはり、上手くいかないんです…!」

 

 

 ……その後は、表情を出すことに悩みのある者同士の愚痴大会みたいになってしまいましたが、まぁいいです。

 帰り際に「気が変わったら、早めに会いに来てください」と添えてソルトは去ることにしました。

 

 翌日、撮影現場に苺香さんの姿があったことに、ひとまず安心しました。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 やがて、『魔法少女ルーラー』の全撮影が終わり、放送されるようになった頃。

 全てのテレビで放送されると聞いて、覚悟はしていたんですが………

 

 

「「「おおおお……!!」」」

 

「や、やめてください…恥ずかしい……!」

 

「これ、まんまソルトじゃないのか?」

 

「違います、ソルトではありません! 現に服のデザインも派手だし、耳が生えていません!」

 

「いえ、ですから耳が生えていないだけのソルトなのではと……」

 

「み、見ないでください………」

 

 

 ここまで恥ずかしいとは思いませんでした!!!

 だ、だんだんと体が熱くなっていく……!

 番組制作に関わっていない皆様(特にきららさんとソラ様)が私を『魔法少女ルーラー』として見ているのがちょっと……!

 穴があったら入りたいとはこのことです…………!!

 

 

「うああぁぁぁぁ…………ろ、ローリエさん…助けてください……………」

 

「何言ってんだソルト。『魔法少女ルーラー』はもう最終回まで撮ってあるんだから、これから毎週あの姿を見られるんだぞ。慣れとけ」

 

「わぁぁぁぁぁぁ!!! ローリエさんのバカ!!!嫌いです!!もう!!!!!」

 

「何故だァァ!!?」

 

 

 ローリエに助けを求めたら、案の定と言うべきか、そんな回答が。

 もう……なんでここまで意地悪なんですか。嘘でも、ソルトを慰めてくれてもいいのに。

 やはり、ソルトが子供だからですか? ……だったら簡単です。

 こっちも、ローリエが構うような()()()()()()()()()です。

 幸い、『魔法少女ルーラー』の撮影は、演技力向上という点では、有意義なものになりました。恥ずかしかったけど後悔はありません。この経験も糧にするのみです。

 7年経って、背が伸び切ったソルトにローリエが言い寄ってきて、その正体を知った時のリアクションが今から楽しみです。

 

 ……あ、変身魔法という意味ではありませんのであしからず、です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♬MUSIC:ヒトリゴト/ClariS

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき
 はい、というわけで「いつの間に好きになっていた」系のソルトでしたー。
 読んだ方はわかると思いますが、UA突破記念閑話「Hの誕生/魔法少女大戦」に繋がっている部分が多いです。
 ソルトがローリエにスカウトされた経緯や、主演を受ける&やり通すことにした理由をフォーカスして書きました。
 八賢者編で書いてないのはあとカルダモンとシュガーだけになりましたね。必ず二人のお話も書くぞよ。それでは、また次回会いましょう~。

P.S.とうとうNEWGAMEも終わりか~。長いようであっという間だったなー。あおっちを始めとしたイーグルジャンプの皆、大好きだぜ。そして得能先生、お疲れ様でした。







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カルダモン編 気まぐれロマンティック

本番外編を読む前に「気まぐれロマンティック/いきものがかり」の用意をお願い致します。


「リュウグウランドの招待券?」

 

 始まりは、彼女からの誘いだった。

 

「そう。二人まで行けるチケットでね。まぁ、誰も誘わないのは勿体ないから。」

 

 彼女―――カルダモンは困ったように笑う。

 

「そんなもん、セサミかジンジャーでも誘えば良かったんじゃ?」

 

「男女カップルで更に安くなるチケットなんだって。こういうの、指定しない方が儲かりそうなのにね?」

 

「ほう。それで、俺に声がかかったってワケか」

 

「ううん。先にコリアンダーを誘ったんだけどね。仕事があるって断られちゃった」

 

 

 俺――ローリエの質問にそう答えたカルダモンに対して複雑に思ってしまう。なんでだ。まさか、カルダモンが俺より先にコリアンダーをお誘いとは。カルダモンのことだから別に深い意味はないんだろうが…………とりあえずコリアンダー、お前は後で泣いたり笑ったりできなくしてやる。

 

 

「……嬉しくないの?」

 

「嬉しいに決まってるだろ。君みたいな超がいくつも付くほどの美人からデートに誘ってもらえるなんて。

 しかも―――()()()()なら尚更だろ。男として答えなくっちゃあな」

 

「あはは、相変わらずだねー、ローリエ」

 

 

 かわいく笑う俺の彼女は、久しぶりの俺とのデートに超わくわくしていた。

 

 

「…ちなみに、俺より先にコリアンダーを訪ねた経緯を教えてくれない?

 時と場合によっちゃあアイツをオカマにする必要が出てくる」

 

「あははは! そんな大した意味はないよ。ただちょっとからかっただけだって。嫉妬してるの?かわいいね、ローリエ」

 

「うっさい。つーか、かわいいのはカルダモンの方だろ」

 

「……そういう事言うのちょっとアレだと思うよ」

 

「ちょっとアレってなに!!?」

 

 

 こっち向いて下さいカルダモンさん!!?

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 調停官であるあたしは、基本的に紛争地に赴いて争いの調停をする為に、基本的に神殿には帰れない。

 だから、今日という日を楽しみにしていた。久々に貰えた休みに、リュウグウランドの招待券。それを使って、あたしの恋人と遊びに行けるんだ。楽しみじゃない訳がない。

 

 だからこそ、この時の私は、あんな事が起こるとは思いもしなかった。

 

 

「いやぁー、こうして二人で遊ぶのって初めてじゃあないかな?」

 

「まーカルダモンはしょっちゅうあちこち周ってるしな。俺とて決して暇じゃない。今日みたいに二人きりでどっか行けるとかないだろうなぁ…」

 

「そうだね~」

 

「とにかく、今日は色々回ろうじゃない! さっさと優待パス買いに行こうぜ!」

 

 

 リュウグウランドは、人気も相まってか「優待パス」が存在する。

 持っていればアトラクションとかに早く乗ることができる、便利なものだ。

 普段はいけない分、ローリエはすぐにこのパスを確保できたから、どのアトラクションも時間をかけずに乗れた。

 

 

「カルダモン絶叫系好きだね、知らなかった」

 

「そう? 確かに、あたしこういう刺激のあるもの大好きかも」

 

「そっかぁ。じゃあ、もっかい乗る?」

 

「うん、良いよ。その次はお化け屋敷ね」

 

「え。ちょっと待って、あそこって確か―――」

 

 

 ジェット系って大好きなんだよね。まぁ退屈じゃあないなら何でも良いんだけど、刺激は強い方が良いに決まっているよね。

 最恐って名高いお化け屋敷に行くって言った時にローリエの表情が一瞬固まったのを見た瞬間、「あ、これは絶対行こう」と決意した。面白いものが見れそうだったから。

 

 

『あ゛あ゛あ゛ああ!!!』

 

「ギャアアアアアアアアアアアーーーーー!?!?!?!?」

 

「うわああああああああ!? ちょっと、驚きすぎだよ!」

 

「だから無理だって言ったのにィ……もう無理だって…」

 

ガタンッ

 

「わあああああああああああああああああああああ!!!!?」

 

「きゃああああああああ!!」

 

 

 ……結果、なんというかローリエの怖がりようは予想以上で、あたしはお化けのギミックよりもローリエの絶叫で驚いた回数が多かった気がするよ……でもまぁ、あたしの知るローリエとはまた別の一面を見れたと思えば、役得ではある、かな?

 

 

「あはは、あそこまで怖がるとはね」

 

「だからやめようって言ったのによ……」

 

「でも、お陰で良いコト知っちゃった。また来ようね?」

 

「おう、そりゃ良いけどさ……お化け屋敷だけは……」

 

「ちょっとしっかりしてよねー。あたしの彼氏でしょー?」

 

「うっ……でも無理なものは無理だよ…」

 

 

 お化け屋敷で弱っていたローリエを近くの建物3階にあったカフェに連れてそこでの創意溢れるメニューを頼む。

 意外だったなぁ。ローリエが怖いの苦手とはね。ユニ様のお葬式でソラ様と変な挙動してたのは、何か見えたから、とかだったりする? ………まさかね。

 でも、あんまり情けない姿は見せないものじゃないかな。少しでも慣れた方が良いと思うけどね、あたしは。

 

 それはおいといて。

 注文から暫くすると、店員さんがオシャレなハンバーガーセットを持ってきてくれた。味もなかなか、悪くない。

 

 

「良いお店だね。来て良かった」

 

「そ、そうだな…あのアトラクションの出口付近だったからすぐ寄ったけど、これは大当たりかもしれない」

 

 

 おすすめだからって頼んだこのハンバーガーだけど、ジューシーなお肉とピリ辛なスパイスが効いていて食欲をそそる。セットについてきたサラダやらドリンクも、ハンバーガーに合う味だ。

 ふと反対側を見てみると、ローリエが笑っている。

 

 

「なーに? あたしの顔になにかついてる?」

 

「えーとね、カワイイ笑顔、かな?」

 

「もー、なに言ってるのさ!」

 

 

 ローリエは付き合い始めてからというもの、あたしに可愛いとかなんとか誉め言葉をよく使うようになった。曰く「信頼を得るためにやってる」みたいなんだけど、それを言うなら付き合う前の身の振りも考えれば良かったのに。

 

 そんな事を考えていたその時―――カフェのガラス張りの大窓から、黒い煙が上がるのが見えた。それにやや遅れて小さく何かが破裂したような音が。

 あたしとローリエは、黒煙が上がる瞬間を見た途端、フォークとナイフを置いた。

 

 

「……あーあ、まったく。折角のデートが台無しだ」

 

「ほんとだよ。遊園地に爆発物持って来る人がいるなんてね」

 

 

 二人で席を立ち、カウンターへ向かう。あの爆発の規模からして、もうすぐここにも危険物爆発のアナウンスが流れるだろう。避難にごった返す前に、ここから去ることにした。会計も時間がないからか、ローリエが「釣りはいらない」と代金より多い金貨を渡していた。

 

 

「はぁ~、勿体ないことしちゃったな」

 

「それは、お金のこと?それとも食べ物?」

 

「どっちもだよ。食べ物と金の恨みはすさまじいんだぞ」

 

「そうだね。じゃあ、あの犯人たちにその恨みをぶつけに行かない?」

 

「怖えー怖えー。ま、俺も恨みが溜まってたところだ。下手なテロリストだったら後悔させてやる」

 

 

 怖いと言いながら思いっきり悪いこと考えているローリエの横顔を見て、苦笑いしながら、爆発が起こった現場へと二人で歩みを揃えて向かうことにした。

 

「さて、ここだな…」

 

 煙の出た場所に到着すると、そこは入場受付なんかがある、スタッフ達の事務局と思われる建物だった。黒い煙があがり、物々しい雰囲気になっている。

 これは、ほぼ確実にまぁ、無難にお金目的ってところかな。

 

「どうする?」

 

「正面突破がリスク高いから、こうして屋根から入ってきてるんでしょ?」

 

「まぁね」

 

 そう。あたし達は今、問題が起こった建物の屋根から既に侵入していて、通気口から室内の様子を伺っている。

 このまま通気口の金網を外せば、あたし達は室内に突入ができる。しかし………

 

 

「相手は?」

 

「10人。それなりに多いね」

 

「時間がかかる数だな……人質を背に戦いたくない」

 

 

 職員は皆犯人グループらしき人達に縛られている上に、犯人グループは皆武装している。無策で突っ込んでいい状況じゃない。幸い二人はお金をバッグに埋め込んでいる為か手には持ってないけど、大差はない。

 

 

「ローリエ、カブトムシは持ってきた?」

 

「そんなの持ってきてる訳ないだろ」

 

「そっか、残念。アレさえあれば即座に終わらせられたのに」

 

「G型とニトロアントが数匹ずつと二丁拳銃くらいしか持ってきてないからね。あと弾」

 

「……いや、十分だよ。随分と用意がいいね」

 

 

 ローリエはひょっとして、常に飛び道具と爆弾とおぞましい虫の偵察機を身に着けてるの? 明らかにデートに必要ない物の筈なのに、こういう非常事態で頼もしく見える分、なんか複雑な気分。

 最近作ったっていう超加速できるカブトムシさえあれば、一瞬のうちにあたしが敵を黙らせることが出来たんだけど、贅沢は言わないよ。

 

「G型を使って、詳しく偵察してよ」

 

「おっけー」

 

 ローリエが、通気口付近で虫の魔道具を起動する。

 虫がカサカサと通気口から天井を這うように進むと、ローリエの手持ちの端末に映像が映し出された。

 

「エントランス……この下が一番多いな。6人いる。うち二人が……いや、一人だけになったな、金詰め込むの。

 で、3人は通り側の入口の警備と衛兵への威嚇、残り1人が裏口を監視してるようだ」

 

「いつ突入する?」

 

「ニトロアントを爆破させる。テロリストを半数ぶっ飛ばしてから奇襲攻撃だ」

 

「弾、いくつ使う気?」

 

「12発だ」

 

 

 ローリエが左手をサムズアップにしてから、立てた親指をそのまま人差し指の付け根に倒す。そこに付いているスイッチを押すような動作は、ローリエを知るあたしにとっては、ゴーサインだった。

 

「「「「「ぐわあぁぁぁ!!?」」」」」

 

 通気口の金網を蹴破ってエントランスに突入すると同時に爆発に巻き込まれたテロリスト達と人質のみんなの悲鳴が反響した。

 驚かしてごめんね、人質の皆。必ず助けるからね。

 

「な、何なんだ今ノブハァ!!?

 

「おい、どうしたわば!!!?

 

「何が起こってるんダバス!?!?

 

 人体急所の顎や鳩尾を打ち抜いて、一人ずつ敵の意識を刈り取る。爆発で少なくとも3人は吹っ飛んだのを見たし、ローリエの発砲の音も聞こえるから、爆発に巻き込まれた奴はまず戦闘不能だろう。これで6人。エントランスの敵はあっという間に全滅だ。

 

「な、何事だ一体…!?」

 

 流石に表に出ていた3人も、異変を感じて室内に戻ってきたようだけど、反応が遅い。

 爆発で起きた土煙に紛れて一番反応が遅い奴に回り込んで、勢いがついた蹴りをお見舞いしてあげる。

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!!!!?」

 

「な、何だテメーは!!?」

 

「教えてあげるよ……全員叩きのめした後でね」

 

「このガキッ………!!?」

 

 

 逆上して剣を振り上げても遅い。

 すぐさま相手の懐に潜り込んで、金的と顎の2コンボを叩き込んだ。

 

「あ゛ッッッッ!?!? グボォ………」

 

 結果、振り上げた剣の重さでひっくり返って、男は泡を吹きながら倒れた。確実に意識を奪えたね、これで8人…あと2人だ。

 で、その残りなんだけど………

 

 

「う、う、動くんじゃあねぇぇぇぇ!!」

 

 

 やっぱり、こうなるか。

 2人は、未だ縛られているままのスタッフを人質にしてきたね。

 あたしとしては、誰一人死なせずに鎮圧したかったから、これはちょっとまずい事態だ。

 

 

「よ、よくも仲間を……! 武器を捨てろ! 人質を一人ずつ殺すぞ!!」

 

「下手に動いてみろ……後悔するぞ!!」

 

 

 よくありそうな三下じみた台詞だけど、効果はそれなりだ。

 人の命がかかっているんだ。たとえハッタリでも、あたしが八賢者で調停官である以上、下手を打つことはできない。あの2人が一般人に危害を加える前にあたしのスピードで無力化することは簡単だ。でもそれだと、その現場を見ている人質の皆に「八賢者は人質よりも敵の撃破を優先した」と思われかねない。

 

 まったく、上手くいかないもんだよ。このままじゃあ、あたしも武器を捨てて降参せざるを得ない。大ピンチだ――――――ローリエがいなかったら、ね。

 

 

「さぁ、とっとと服を脱いで―――わあああああ!!?」

 

「オイどうした、なんだってん―――ぎゃあああああああ!!!!?」

 

 

 突然、二人が悲鳴を上げた。武器を手放して、服の中に手を突っ込んだと思えば、何かを叩きつけた。

 ―――それは、ゴキブリだった………イヤ、ローリエのG型魔道具だった。でも、テロリスト達はそんな事知るよしもない。あたしでさえ、知らなかったら本物かと思うくらいそっくりだ。動きからツヤまで。………ちょっと気持ち悪いな。

 

 

「なん、なんで、ゴキブリがあああああああああああ!!!!」

 

「離れろっ、服の中に入ってくんなぁぁぁぁあああああああ!!!」

 

 

 もう、2人とも人質どころではない。

 突然降りかかり纏わりついたG型たちに恐慌状態で、その相手に必死になっていて、完全に隙だらけだ。

 

 

「ラッキー♪ 隙ありだね」

 

「しま…ガッ!!!?」

 

「そこだ」

 

「ギャアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 あたしは、G型が生んだスキを突いて一人を蹴り上げて気絶させる。

 残りの一人は、ローリエの弾丸が彼の目を撃ち抜いていた。非殺傷弾だろうけど、痛そー。

 

「「セイヤアアアアアア!!!」」

 

「タコス!?!?!?!?!?!?」

 

 そうして、目を抑えて苦しむラスト一人を、ローリエとの息を合わせたダブルキックでKO。

 これで、占拠していた連中の完全制圧に成功したのだった。

 

 

「いやー。ゴキブリが偶然味方になってくれて良かったぜ。ツイてるー!」

 

「白々しい………」

 

 

 一般人たちに運が味方したみたいに聞こえるようにローリエは大きな独り言を言っていたけど、タネが割れてるあたしからすればわざと言ってるようにしか見えないよ。まぁ助かったから良いんだけどさ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「随分鎮圧が早かったから何事かと思えば……お二人がやってくださったんですね。ありがとうございます」

 

「礼には及ばないよ。あたし達はたまたまここにいただけなんだから」

 

 

 リュウグウランドに警備隊と一緒にやってきていたウミガメのウミに敵を全員引き渡し終えてから、お礼を言われる。あたし達からすれば、デートの邪魔されたからやったようなものだし、オフだったからそういう公式の謝礼を受け取る気はないよ。

 

 

「そうそう。俺らデート中にここに来てただけなんだって。お礼の品受け取ったらソラちゃんあたりに叱られそうだ」

 

「そうだったんですね。なら、そう言う事にしておきます。」

 

 

 「ありがとうございました!」と言って、ウミと警備隊は犯罪者たちを連行していった。

 ローリエもあたしも、戦いを終えてデートどころじゃあなくなったため、帰ることにした。

 

 

「いや〜、とんだ休日になっちゃったな」

 

「そうだね。まさか、テロリストと戦う事になるなんて。」

 

 

 仕方がないと言えば仕方ないけど、今度は2人きりでゆっくり過ごしたかったのにな。戦闘でのローリエのサポートは助かるけど、オフの日くらいは普通に過ごしたかったなー、と。

 そう思っていると、ローリエは急に肩を抱き寄せてきた。そして、こっちの目を見つめてくる。

 

 

「なに? ローリエ」

 

「…今度はトラブル無しの旅行が良いな。またどこか行こうぜ?」

 

「…約束だよ?」

 

 

 ローリエは、あたしの言葉に力強く頷いた。

 

 

「あぁ。約束だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♬MUSIC:気まぐれロマンティック/いきものがかり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき
 カルダモンってTDリゾートで例えるとタワテラとかビックサンダーとかホーンテッドとか刺激の強い絶叫系大好きそうですよね。でもそういうのは積極的に言わずにさりげなくアピールしてきそう。
 書き続けてきた各キャラ特別編も終わりが見えてきました。最後の最後まで応援ありがとうございます。もう少しだけ、お付き合いをお願いします。


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シュガー編 白金ディスコ

表題曲の用意をお願いします。はぁどっこい!


 いつもよりも早く目がさめる。

 鼻歌を歌いながら、クローゼットを開いて、そこにある服を見て、笑顔になる。

 今日は、夜が待ち遠しい。

 

「おや、珍しいですね。シュガーが早起きなんて」

 

 珍しいものでも見たかのようにソルトがシュガーに声をかける。

 とーぜんだよっ! だって今日は……

 

「だって今日は、おまつりの日なんだもんっ!!」

 

 

 今日は、何より楽しみなお祭りの日。おにーちゃん達との約束の日だ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「「お祭り(ですか)?」」

 

 

 時は少々遡り、数日前。そうシュガーに聞き返すのは、かつて敵対した召喚士・きららと、同僚の八賢者の唯一の男・ローリエである。

 「そう!」と元気よく返すのは、狐耳を生やしたフレンドリーな少女・シュガーである。

 

 

「それって、言ノ葉の都市で行われる……?」

 

「そーだよっ! そのおまつり! 今年もシュガーは楽しみにしてるんだよ!」

 

 嬉しそうに耳をぴょこぴょこするシュガーに、ローリエは顔を綻ばせる。

 

「それで、話ってのは俺達をそのお祭りに誘おうって話か?」

 

「そう! いろんな屋台が並んで、楽しいと思うよ!

 だからさ、一緒に行こうよ、おにーちゃん、おねーちゃん!!」

 

 

 シュガーはこの祭りの日を楽しみにしていた。

 都市の祭りは、一日だけの特別な日。見慣れぬ屋台や提灯(ちょうちん)が並ぶ。屋台の内容も綿飴(わたあめ)、たこ焼き、焼きそばの食べ物からお面、射的、金魚すくいのアクティビティに至るまで、同じ店はなく、優しい明りが、例年の祭りを華やかに彩っていた。

 今年も例に漏れず、市長ジンジャーの指揮のもと、祭りが行われるのである。

 

 

「はい! みんなで一緒に行きましょう!」

「当然だろ! 俺もあの祭りは大好きなんだ!」

「…!!」

 

 

 無論、あらゆる絆を繋いでそれを大事にしているきららと、前世から日本古来の縁日やお祭りに触れているローリエが断るはずもない。

 二人の気持ちの良いOKに、シュガーは嬉しさで飛び上がった。

 

「やった〜〜〜! ありがとう、二人とも!おまつりが楽しみだね!」

 

 生まれてからずっと一緒の姉だけじゃなく、和解したお姉ちゃんと仲良しのお兄ちゃんの二人と一緒にお祭りに行ける。その楽しみな行事が、シュガーに数日間の活力を与えた。

 シュガーはこの日の為に、ギリギリまでやらない宿題を稀に見る速さで終わらせることに成功し、当日は早起きする事も出来たのだ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 今夜が楽しみでわくわくしていると、たまたまソルトが机に向かっているのが目に見えた。

 こっそり覗き込んでみると、皆に出された宿題をやっていた。もうそろそろ終わりそうだけど……

 

 

「あれ、ソルト…宿題終わってなかったの~?」

 

「毎日コツコツとやっていたのです。昼までには終わるので大丈夫です。

 シュガーはやりましたか?」

 

「もっちろん! 一気に終わらせちゃったもんねー!」

 

「…本当に珍しい。普段からそこまで頑張れれば良いのですが」

 

 

 もう。終わったんだからいいじゃん!

 お祭りの本番は夕方からだけど、やきそばとかわたあめはそれよりも前から出てやってるんだから、今から行かないと損なのに。ソルトはいっつもコツコツやるから、こーゆうおまつりの時に遊びに行けないのは損だよねー。

 それじゃあ、ソルトは置いてって、シュガーはもう行っちゃおう!

 

 

「ソルト、シュガーはもう行っちゃうね?」

 

「もう、せっかちですねシュガーは。今行っても殆ど始まっていないでしょうに」

 

「いーの! それじゃ、集合はお昼に噴水前でいーい?」

 

「はいはい、分かりましたよ」

 

 

 シュガーは、ソルトを置いて言ノ葉の都市に行くことにしたよ。

 

 

 

 街は、もういっぱいの人でにぎわってた。

 今夜おまつりがあるって知ってるから、皆今からでも楽しもうって思ってるんだね。

 もう、皆こうなんだから、ソルトもさっさと宿題終わらせちゃえばいーのにね。

 

 

「おじさーん! わたあめ一個くださーい!」

 

「おや、お嬢ちゃん一人かい? 偉いね~、ちょっと待ってな」

 

 早速開いているわたあめ屋さんに行って、早速わたあめを買いました。

 おじさんがサービスでちょっと大きいわたあめをくれたのが嬉しかったなー!

 

 そうして、わたあめやヨーヨー釣りを楽しんでいたら、あっという間に昼過ぎになっていたから、ひさしのあるベンチで焼きそばを食べながら休憩する。

 

 

「ソルトも来れば良かったのに……」

 

 そうすれば、わたあめやらヨーヨー釣りやらがいっぱい楽しめたのに。

 まぁ、この後シュガーはいったん戻って、着物に着替えないといけないんだけど、それでも十分楽しめたよ?

 一人で回った屋台では、お店のおじさんやおばさんがサービスしてくれたけど……なんだろ。なんだか、楽しくなくなってきた。ソルトでも一緒にいれば、楽しくなってたかな?

 

 

「どうしたシュガー? 浮かない顔して」

 

「! ローリエおにーちゃん! どうしてここに?」

 

「祭りの警備ついでに見回ってたのさ。シュガーはどうしたんだ?」

 

「あのね……」

 

 

 シュガーは話した。今日という日のために、宿題をぜんぶやったこと。まだ終わってない様子のソルトを置いていって、一人でおまつりに行ったこと。最初は楽しかったけど、後からつまらなくなったこと。

 おにーちゃんは、シュガーの話を最後まで聞いてくれたあと、こう言った。

 

 

「まぁ、人間そんな日もあるものだ」

 

「そんな日?」

 

「ひとりでいたい日もあるってこと。でもな…そういうのって、後から寂しくなるものなのさ。誰かと一緒にいたくなる」

 

「そうなの?」

 

「あぁ。俺だってそうさ」

 

「おにーちゃんも?」

 

 おにーちゃんが寂しがっている所なんて見た事ないよ? いっつも授業してて、ランプ達に囲まれて、一人でいてもカッコイイけどね。

 

「そうは見えないなぁ」

 

「まー人に見せるもんじゃあないからね」

 

 むー。そう言われると、見たくなっちゃう。

 おにーちゃんってなんでそうかくしたがるのさ!

 

「おにーちゃん、隠さなくってもいいんだよ!」

 

「いや、隠してるわけじゃあないんだけどさ……だってシュガー、子供だしねぇ」

 

「子供じゃないもん!」

 

「そう反論してる内はまだ子供だ。」

 

 

 もー、子供じゃないって言ってるじゃん!

 しかもそう言ったら「それが子供だ」って……どうすればいいのさ!

 言いたいことはもっといろいろあったけど、夕方に備えて着物に着替えないといけないから、戻らないといけない。

 シュガーはしょうがなく、「警備の続きだ」って言ったおにーちゃんと別れて、戻ることになった。

 ……あーあ、大人になりたいなぁ。

 

 

 

 

 

「シュガー、どうしたのです? 随分浮かない顔をしていますが」

 

 

 帰ってきた時、ソルトからいきなりそんなことを聞かれた。

 そんなにシュガーの顔が不機嫌に見えたのかな…?

 ソルトは気になる事はぜったい確かめる性格だから、シュガーの悩みをちょっと聞いてもらおっと。

 

 

「…ソルト、大人になるにはどうすればいいのかな?」

 

「………あなた本当にどうしたのです? 熱でもあるんですか?」

 

「そんなわけないでしょ!! 失礼なんだから、ソルトは!」

 

 

 本当に驚いたような顔をしたソルトに怒ったら、ソルトは「すみません」と軽く謝った後、

 

 

「そうですね~、まずは食べ物の好き嫌いをなくしてですね……」

 

「違うよ、そういうことじゃないの」

 

「? なら、どういうことなのです?」

 

 

 うっ、な、なんて言えばいいんだろ。

 おにーちゃんとの事を話したいけど、そのためにはシュガーが一人でおまつりに行った時に感じた、あのなんかよく分からない気持ちから話さないといけないんだけど………

 どうやって説明すればいいのか分かんないよ。だってだって、シュガー自身にも分からないものを、ソルトにどうやって説明すればいいのかな?

 

 

「………シュガー?」

 

 

 着物にきがえて、これから楽しいおまつりに出かける時になっても、答えはわからなかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 やがて、約束の時間になって、太陽が地平線に沈んでいく時間帯。

 ソルトときららおねーちゃんとローリエおにーちゃんと会っても分からなかった。

 分からなかったけど………

 

 

「おねーちゃん! おにーちゃん! 今日はいっぱい遊ぼうね!!」

 

「はい! いっぱい遊びましょう!」

 

「シュガーとソルトが行きたいトコから行こうぜ」

 

「さっきまで考え込んでいたのは何だったのですか……」

 

 

 おにーちゃん達ふたりの顔をみた瞬間、おまつりを楽しみたくなっちゃった!

 おにーちゃんがシュガー達の行きたい場所から行きたいって言うから遠慮なく言っちゃおう!

 えーっとね、まずは……

 

 

「金魚すくい!」「型抜きが良いです」

 

「「……………」」

 

 

 うわー!! こんなときにソルトと意見が割れたー!!

 でも、ちゃんとふたつとも連れてってくれた。他にも、色んな所にみんなで行ったよ。

 

「わーん!外れた!」

「どれだシュガー。俺が当ててやる」

「ほんと!? あそこに立ってるやつなんだけど」

「ほい」

「「「一発で取ったーーーー!!?」」」

 

 射的に行って、シュガーのほしかった景品をおにーちゃんが代わりに当ててくれたり。

 

「きららちゃん、ちょっとこれ被って『俺は人間をやめるぞ』って言ってもらってもいい?」

「え? えっと……こうして…お、おれはにんげんをやめるぞー! ………これでいいですか?」

「完璧!」

「何が完璧なんですか」

「ていうか、これなに?」

「石仮面のレプリカ。本物は被ったら吸血鬼になれる」

 

 お面屋さんに行って、おまつりのお面を買ったり、石仮面みたいなヘンな仮面を眺めたり。

 

「やったー!3匹目!!」

「しゅ、シュガー……ローリエが…!」

「オイィィィィィ!!あんちゃん、勘弁してくれ!!!」

「そうですよ!いくら何でも取りすぎです!!」

「大丈夫。後でみんな返すから」

 

 金魚すくいに行ったり。シュガーは5匹すくえたよ!

 ちなみにだけど、おにーちゃんは水槽にいた殆どの金魚をすくってた。流石にぜんぶ持って帰れないから最後返してたけど、あれすごかった。どうやるんだろう。

 いやー、楽しかった! あとは皆で花火を見るだけだね!

 

 

「………って、あれ?」

 

 

 周りを見渡すと、気づけば誰もいなくなっていた。

 ソルトも、きららおねーちゃんも、ローリエおにーちゃんも、見えなくなっている。

 これって、まさか……はぐれちゃった!!?

 

 

「ど、どうしよう………!!」

 

 

 朝やお昼に比べて人がいっぱいいるから、はげしくなった人波でみんなバラバラになっちゃったんだ!

 本当にどうしよう……1回みんなで行ったところ探してみる? それとも、シュガーが見つかりやすいところに行った方が良いかなぁ?

 え、えーと………こういう時は……

 

 

「今まで行ったお店の人に聞いてみよう…!」

 

 

「お嬢ちゃんの連れ? いや、見てねぇなぁ。」

「ゴメンね、お客さんいっぱいいたから、覚えてないわ。」

「嬢ちゃん、そう言う時はあらかじめ集合場所を決めておけば良いんだよ!」

「ジンジャー様のいる本部に行った方が良いと思うよ?」

 

 

 う、うぅ……ダメだった。全然見つからない。

 そうだよね、お店の人だって暇じゃないから、ソルト達を見かけても覚えてないって……。

 どうすればいいんだろう? 確かにジンジャーのところへ行けばきっと力になってくれると思うけど、迷子のお知らせを流されるのは……ソルトになんて言われるかわかんないし、大人になりたいのにこんな子供みたいな解決方法はいやだ。

 こうなったら、シュガーだけでなんとかしなきゃ! それをやってこその「大人」じゃんか!

 

「………」

 

 そうやって意気こんで探したけど……やっぱり見つからない。

 みんな、どこにいるのかな? もしかして、もう先に帰っちゃったのかな?

 ……やっぱり心細いよ、ソルト、おねーちゃん、おにーちゃん。

 

 

「シュガー!!!」

 

「!!?」

 

 

 突然、名前を呼ばれた。

 振り返った先にいたのは……

 

 

「お、おにーちゃん……!」

 

「探したぞ!! みんな心配してたんだ!

 ………怪我とか、具合悪いとか、なかったか?」

 

 息を切らしながらそう聞いてきたおにーちゃんに、シュガーは、もう、限界だった。

 

 

「おにーちゃぁぁぁぁぁあああああん!!! うわああああああああ!!」

 

「!! よ、よしよし……もう大丈夫だからな」

 

 寂しかった。辛かった。一人ぼっちはいやだよ。

 その思いを、おにーちゃんはその時はただ受け止めて、抱きしめて、頭を撫でてくれた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 シュガーが泣き止んだ後、ローリエは通信機できららとソルトに連絡しようとする。

 しかし、シュガーはそれを袖を引っ張って止める。

 

 

「シュガー……?」

 

「もうちょっと…おにーちゃんと一緒にいたい」

 

 

 ローリエはため息をついて、「後が大変になるぞ」と尋ねる。

 彼はきららとソルトがシュガーを必死に探していたことを知っている。ローリエはきららに通信機を持たせて、ソルト・きららと別れて探していたのだ。連絡が遅れるということは、きららとソルトを心配させる時間を延ばすことを意味している。

 

 

「………集合場所に行くぞ」

 

 

 ローリエは、2人に申し訳ないと連絡は入れないまま、あらかじめきらら達と決めていた合流場所である言ノ葉の樹の入口へ行くことに決めた。シュガーも、その案を呑んだのであった。

 目的地について、2人でベンチ代わりの窪みに座った時、夜空にぱっと咲いた光の花に気付いた。

 

 

「あ、あれ……!」

 

「おぉ、花火だ。良いタイミングだったな」

 

 

 そして、その花を皮切りに次々と花火が上がる。

 シュガーとローリエは、派手に咲いては夜空に消える、光輝く花火に釘付けになった。

 

「おにーちゃん…」

「?」

 

 シュガーが、おもむろに小さな体を隣に座るローリエに寄りかける。

 

 

「今日はありがと……おにーちゃん。好きだよ。大好き」

 

 

 舟を漕ぎながらのその言葉。

 受け取りようによっては告白にも聞こえるそれに、ローリエはいくばくか、沈黙を貫き。

 

「シュガー……お前はまだ子供だ。俺よりもイイ男に会う機会ならいくらでもある」

 

 それは、告白に対する「NO」だった。

 しかしシュガーは、ローリエの答えに何も文句は言わなかった。

 何故なら―――

 

 

―――5年だ。5年後にここで同じことを言ってくれたなら、俺も本気で考えるよ

 

 

 まどろみながらもシュガーは、その後の言葉を聞き逃さなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♬MUSIC:白金ディスコ/阿良々木月火(井口裕香)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき
 というわけで、シュガー編でした。テーマ曲はあらかじめ決めていましたよ。決して中の人ネタではないからね!
 ローリエの最後の台詞は、絶対に言わせたかった言葉です。
 子供相手ならではの、ローリエの口説き文句です。まぁ、ローリエは子供を口説くことはありませんけど。最後の台詞も、シュガーには聞こえてないだろうと思って言ったのもですからね。
 さて、あとはあの子だけだね。誰だか分かりますか? 予想しながら待っていてくださいね。それでは。







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ランプ編 恋するフォーチュンクッキー

もう完全に懐メロですね。AKB48より「恋するフォーチュンクッキー」のご用意をお願いします。


 

 きっかけは、いつのことだったんだろう。

 ドリアーテから庇って貰った時だったのか? 言ノ葉の樹の中での出来事からか? それとも、イモルト・ドーロでわたしに襲いかかったビブリオを止めてくれた時か? ……まさか、ソラ様封印の目撃を夢と偽った相談に乗ってもらう前から、とか??

 

 定かではないけど、とにかく、今は先生の事を思うと、顔がかぁぁぁってなって、どきどきするようになった。大好きだったはずの聖典を読む気にもならないし、読んでも頭の中に入ってくる気がしない。

 どうすればいいんだろう、と思いながら毎日を過ごしているうちに、きららさんに「なんか変だよ? 聖典を読む手が進んでないし」と気付かれ、あれよあれよと言う間にきららさんとその時食堂に居合わせたライネさんに話す事になり。

 

 

「ランプちゃん……そのローリエさんの事、好きになっちゃったのね?」

 

 

 そこで、初めて落ち着かない感情の正体を知る事になったのです。

 だって、ライネさんの言葉に「違います」と反論する前に、どこかにすとん、と落ちるように納得しちゃったから。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ランプの様子がおかしい??」

 

「うん、そうなんだ。最近ひどくてね。」

 

 

 マッチからそんな相談を受ける。なんでも、ぼーっとする事が多いみたい。

 

 

「そういう日もあるんじゃないの? どこか具合が悪いとか?」

 

「聖典を読む手が進まないんだぞ?」

 

「それはおかしいね」

 

 

 ランプが聖典を読まなくなるなんておかしい。旅をしてた時も、毎日欠かさず読んでいたほどだ。あんなに聖典が大好きなのに…それが「読む手が進まなくなる」なんて………何かあったと思った方がいい。

 

 

「今日は、ランプと出かける約束してたの。だから、その時にちょっと聞いてみるね」

 

「頼むよ。僕が聞いても誤魔化されるから……ね」

 

 マッチに隠すほどの何か……? それとも、マッチには言いにくい、とか?

 どっちにせよ、何か深刻な悩みでもあるなら、抱え込んじゃう前に何とかしたいな。

 そんな会話をした翌日、ランプと都市へ出かけたんだけど……

 

 

「ねぇ、こんなのはどうかな?」

「………」

「ランプ?」

「ひゃいっ!!? え、あ、良いと思います!!」

 

「この後の聖典専門店なんだけどね、ランプ」

「………はい」

「私、その前に行きたいところがあるんだけど」

「………はい」

「……聞いてる?」

「えっ!? き、聞いてますよ!!」

「……………」

 

 

 こんな感じがずーーっと続いた。

 流石におかしいと思った私は、ライネさんのお店で思い切って聞いてみた。

 

「……ねぇ、今日のランプなんだかおかしいよ。何かあったの?」

 

「…………」

 

「悩み事があったら、私が聞くよ。聞くことしかできないかもしれないけど…」

 

「………」

 

 でも、ランプは答える気配がない。話してくれないかなぁ。マッチにも言ってくれなかったって聞いたし、私にも言いにくいことだったかな?

 

「………ごめんね。変な事聞いたよね。やっぱり、さっきの話は忘れて―――」

 

「……いえ。きららさんになら、話しても良いと考えました。これ以上考えても分からなかったので…………」

 

 !! 私に、聞いて欲しいこと?

 諦めかけたその時に、ランプの方から話してくれた。

 

 

「実は…最近、聖典を読むのも何をするのも、手がつかないんです。

 あの人……先生のことばっかり考えるようになってしまって……いつも、顔が熱くなるんです。

 こんな事、今までなかったのに………」

 

 ―――それは……あいまいな言葉だったけど、私でも分かるくらいに明確で。

 

 

「ランプちゃん……貴方、ローリエさんの事、好きになっちゃったのね?」

 

「―――はい。きっと、そういうことだと思います」

 

 ランプに好きな人ができた……恋の相談だったんだと、偶然居合わせたライネさんの言葉で確信することになった。

 

 

「ら、ランプがローリエさんを!?」

 

 

 ランプとローリエさんは生徒と先生の関係だ。まったく関与がないわけじゃあないけど、そこからそんな展開になるなんて。

 

 

「そ…それで、どこまで進んだの、ランプ?」

 

「き、きららさん!!?」

 

「あら、興味あるの、きららちゃん? こんな話に…」

 

「あ、えっと…ランプの初恋だから、私も応援したいなー、なんて……」

 

「うふふ、素敵よ、きららちゃん。

 でも焦っちゃダメ。ランプは、今気持ちを自覚したばっかりなんだから」

 

「あっ、そうか………ご、ごめんね?」

 

「大丈夫です。むしろ……ちょっと手伝ってくれると嬉しいかなって」

 

「ランプ……」

 

「だって……わたしが好きになったのは、あの先生ですから」

 

「「……あの?」」

 

「きららさん、ライネさん……『あの』ローリエ先生ですよ?

 色んな女の人を口説いちゃう、おっきな女性が大好きな、あの先生ですよ!?」

 

「「あっ…………」」

 

 

 ランプに詳しいこと……恋の状況を聞いてみれば、思った以上に厄介な事になっているのに気が付いた。

 まず、ローリエさんは色んな女の人を口説いて回る―――浮気?ナンパな?気が多い?………とにかく、そんな人だ。酷い時にはお風呂の覗きもするらしい。一回、覗かれたというアルシーヴさんやフェンネルさんと一緒にお仕置きしたことがあったっけ。まぁ、そこまでする位には女の子が大好きな人だ。誰かひとりを好きになるローリエさんの姿がまったく想像できない。

 次に、ランプとローリエさんの関係なんだけど―――

 

 

「ランプ、『おっきな女性が大好きなローリエさん』って、どういう意味?」

 

「先生はアルシーヴ先生やセサミ、カルダモンやジンジャー、ハッカにはナンパしまくるくせに、シュガーやソルトには何もしてこないんだそうです」

 

「そういえば、私やカンナはよくローリエさんと話したり口説かれたりするけれど、クレアが口説かれたって話は聞かないわねぇ」

 

「うーん、それはある意味当然なんじゃないかな…?」

 

 

 大人の人が子供に言い寄るって、ちょっと怖いし危ない雰囲気が出るから、ローリエさんもそれをわかっているのかな? ―――でも、そうなるとランプは………

 

 

「ライネさん、これって…」

 

「えぇ。ランプちゃんにとっては……」

 

 

 ―――苦い思いをするかもしれないわね。

 耳打ちしたライネさんの答えは、あまり考えたくない親友の恋の行く末の一つを、抜き身に表していた。

 

 私としては、ランプを応援してあげたいけど、ライネさんの言う事も納得してしまった。

 ローリエさんの好みは、それなりに年を取っている人。詳しくは知らないけど、私にも紳士的に接してくれることから、私よりも幼いランプやシュガー達にもそんな風に接している気がする。

 

 でも、それはそれとしてランプがどうしたいのか分からないと、何をやっても余計なお世話どころか逆効果になりかねない。まずは、ランプの気持ちを知らないと。

 

 

「ランプは…どうしたい?」

 

「きららさん……私は………」

 

 ランプが黙り込んでしまう。やっぱり、ランプから言い出した事もあって、年の問題は分かってるのかな?

 なんて励ますか、なんて言ってランプを勇気づけるか迷っていると、ライネさんがランプに近づいて話しかけた。

 

 

「ランプちゃん。…ちょっと意地悪な質問をするわね」

 

「ら、ライネさん……?」

 

「もし、ローリエさんがランプ以外の女の子と付き合いだした……ってなったとしたら、ランプはどう思う?」

 

「ライネさん!!」

 

 いきなりそんな…失恋した時を話すなんて、ひどすぎませんか―――そう言おうとする前に、ランプは答えた。

 

「そんなの嫌です!!」

 

 感情的にそう答えたランプに、ライネさんは微笑む。

 

「うふふ、ごめんなさいね。

 でも、そう思っているってことは、ローリエさんの事が好きで、付き合いたいって思ってるんじゃないのかしら?」

 

「つ、付き合……!?」

 

 ランプの顔が、あっという間に真っ赤になった。

 わぁ、本当にローリエさんの事が好きになっちゃったんだね。私もなにか応援できることがあればいいんだけど。

 でも、ローリエさんはランプくらいの年の子をそういう目で見ないからなぁ……直接言うんじゃなくて、違う方法は…………あ、そうだ。

 

 

「手紙を書くのはどうかな?」

 

「!!」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 私の提案は、即座にランプとライネさんのお二人からオーケーを貰えました。

 直接言う事は憚られても、手紙で伝える分なら大丈夫。そうと決まってからは、行動は早かった。ランプはめったに使わなさそうな便箋を選んでペンを手に取り、ライネさんは書く内容や書き方にアドバイスをする。私も、少しだけど意見を出すよ!

 

 

「ねぇ、書く内容だけど…会ってくださいっていうのはどうかな?」

 

「ええぇぇーーーっ!!? む、無理ですよ!ムリムリムリ! そんなの恥ずかしくって書けません!」

 

「ランプの名前は書かなくて良いんだよ! 場所だけ決めてさ……それで、ランプがそこで待っていれば良いんだよ!」

 

「それってつまり……宛名のない手紙で会う約束を取り付けるってこと?」

 

 

 我ながら、良い作戦だと思う。

 確かにランプは、ローリエさんの好みを知っているだけに、自信を持てないのかもしれない。でも、だからって何もしないと、ローリエさんは違う誰かを口説き落とすかもしれないから。

 

 

「でも、宛名がないんじゃ怪しまれないかしら?」

 

「美女を装いましょう」

 

「きららさん?」

 

「確かに、宛名がないとなると怪しまれるかもしれません。ですが、相手はローリエさんです。文面で美女を演出できれば、興味を引く事はできると思います。」

 

 

 これにはランプもライネさんも納得いったらしく、ランプはいつも以上に字を綺麗に書くことを意識しながら手紙を書き始めました。

 

「ランプ、ここの部分は『好きになっていました』じゃなくって『心を奪われてました』って書く方がいいんじゃないかな?」

 

「わかりました!」

 

 そうしてできた手紙は、ランプの文字でも文でもなくって、まるで別人みたいでした。

 これなら、ローリエさんへ出しても、簡単に差出人を見破られることはないはずです……!

 

 

「『……そんな貴方に心を奪われてしまいました。二人きりで会ってお話がしたいです』

 ………うん。字も綺麗だし、これならいけると思うわ」

 

 ライネさんの太鼓判もいただけましたし、手紙はばっちり!

 あとはこれをローリエさんの元へこっそりお届けするだけです!

 最近、ポストが設立されて、文通のブームもあります。忍さんや由紀さんが届けてくれるはずです!

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ―――ランプの手紙の内容は、恥ずかしくって名乗れない謎の美女Xからの「会ってくれませんか?」という誘いであった。

 きららの作戦は、この手紙に書かれている待ち合わせの場所へ行き、ローリエがいることを確認してから時間にだいぶ遅れる形で偶然を装ってローリエに近づき、行動を共にするというのが概要だ。

 きららやライネは二人の後をつける形でフォローを行う。この作戦は、手紙を書く時点で「美女を装いましょう」と言った時点できららには脳内に浮かんでいた。

 

 要するに、この作戦が成功すれば、ランプは架空の美女にドタキャンをされたローリエとデートが出来るという寸法だ。デートが自分目当てじゃない事が気になるランプだったが、直接告白した場合のリアクションが想像つくため、きららの意見に賛成したのである。

 

 ―――そして、数日後、美女Xの手紙の指定の当日。

 きらら・ランプ・ライネの三人は、集合場所に指定していた噴水前の広場の一角にあるカフェのテーブル席に座っていた。もちろん、ライネ主導の変装(イメチェン)済みである。特にランプは気合が入っており、まさしくデートコーデだ。

 やがて、手紙に指定した集合時間の15分前。とうとう、3人のお目当ての人物が現れた。

 

 

「……あれ、ローリエさんじゃない?」

 

「! そうですね……あまり見すぎないようにしましょう。私達がランプとローリエさんのデートの仕掛け人だってバレてしまいます」

 

「…きららちゃん、気持ち声小さめね?」

 

「まだ行かないんですか?」

 

「偶然を装わないといけないから、ランプはまだ行かないでね」

 

 

 待ち合わせ場所に来た途端に別の顔見知りの女性が来たとか、デートの男性にとっては悪夢でしかない。場合によっては、すさまじく気まずくなるからだ。それに、タイミングが良すぎると逆になにか仕掛けられていることに気付かれてしまうかもしれない。

 

 ローリエは待ち合わせ場所に辿り着くと、そわそわしながら周りを見渡し始める。噴水前に着くなり歩き回ったり、しきりに時計を見たり……まるで、誰かと待ち合わせをしているようだ。この様子ではどうやら、幸いにもきらら達には気づいていないと思われる。

 

 

「きららさん、もういいんじゃないですか?」

 

「ま、まだ着いてから3分しかたってないよ? 早すぎるって…」

 

「だって、緊張でこれ以上待ちきれないんだもん…!」

 

「落ち着いて、ランプちゃん。平常心よ」

 

 

 やがて、何分か経過して誰も来ないと判断したのか、ローリエが落胆したような様子で帰ろうとした時、ランプはきららとライネに背中を押されてローリエの元に駆けつけることとなる。

 

 

「…行きましたね」

 

「あとは見守るだけね」

 

 

 ランプがローリエに話しかける様子が見える。

 きららとライネの位置からは行きかう人々の喧騒にかき消されて声が届かない。

 あまり近づきすぎるとローリエに気付かれてしまう。変装こそしているが、過信は禁物だ。

 

 

「……何を話しているのかしらね?」

 

「ランプが偶然を装ってローリエさんに話しかけて、一人で行く予定だったインテリアショップに行くって計画ですけど……」

 

 

 打ち合わせは何度もしたし、練習もした。

 きららは、自分が演技ができない事を薄々分かっていたが、だからこそランプの演技は上手いと思っていた。見破られるとは思えない、とも。

 

 やがて、何らかの話が終わったのか、ランプとローリエが同じ方向に歩き出したのが見えた。

 

 

「あっ! 一緒に動いていきます!」

 

「上手くいったのね!」

 

「行き先は………あのお店です!」

 

「ランプちゃん、すごいわ!」

 

 

 2人があらかじめ決めていたインテリアショップに入っていくのを遠巻きに眺め、ランプのお誘いが成功したことに確信を持つきららとライネ。

 暫くは店から出てこないだろう。見守り組の2人は近くにあったベンチに座り、新聞や本を読んでいるフリを始めた。

 

 

「それにしても、ランプちゃん……大丈夫かしら」

 

「そう、ですね……ローリエさんはちゃんと見てくれるでしょうか…」

 

「大人だから大丈夫かもしれないけど……でも、お店の中で知り合いの女の子に会っちゃったら……!!」

 

 ライネの心配は尤もだ。ローリエはランプの年代を恋愛対象として見ていない。それは社会倫理的に正しいことなのかもしれないが、ランプとその恋を応援する2人にとっては高い壁となる。

 つまり……ランプのおでかけ=ランプとデートと認識していないローリエが、たまたま出会った女性をナンパする可能性はあるというのだ。

 すぐさまきららが立ちあがる。

 

「や…やっぱり…私達も一緒に店内に入った方が……!」

 

「…2人がお店に入ってから結構たってるわ。店内で入れ違って見失ったり、ばったり会ったりしちゃったらそれこそ見守ることができなくなる。入口で待っていたほうが確実よ」

 

 

 ライネもきららの言う通り、店に入りたいという気持ちがある。でもそうすると予想外のトラブルに遭遇する可能性が高まる。見失ってしまうならまだ良い。でもばったり会ってしまったら、ランプのデートを台無しにしてしまう……そう分かっていたため、入り口で待つことしか出来なかったのだ。

 

 ―――どれほどの時間が経っただろう。気が遠くなると感じるくらいの時間が経過して、待つことも新聞等を読むフリも注意散漫になりかけてきた頃。

 

 

「…………!! あ、ライネさん、あそこ…!」

 

「え? ………! ローリエさんとランプちゃんが同時に出てきたわ!!」

 

 

 とうとう、ランプとローリエが店から出る場面を目撃した。

 ローリエはランプと向かい合って、顔を近づけた。

 そこで、何か言われたのだろうか。ランプは、膝をついてうずくまった。

 

 

「「!!!!!?」」

 

 

 ローリエは、そのままどこかへ去っていく。

 きららとライネは、カモフラージュ用の新聞と本すら投げ捨てて、ランプに駆け寄った。

 

 

「ランプ! 大丈夫!!」

 

「なにか嫌な事でも言われたの!?」

 

「ローリエさん……いったい何を言ったの…」

 

「……………ち、ちがう、ちがうんです…きららさん、ライネさん」

 

「「??」」

 

 

 てっきり、ローリエに酷いことを言われたのだとばっかり思っていたきららとライネは、ランプの上ずったような声に首をかしげる。よくよく見ると、ランプの俯いた顔が、茹で上がったように真っ赤な事に気付いた。

 

 

「せ、先生………『今度は手紙じゃあなくてもう少しストレートに誘え』って…ぜ、ぜんぶ、わかってたんだ………!!!」

 

「え………!?」

 

「あら…………!!」

 

 

 ローリエが別れ際にランプに告げた言葉………それは、今回のデートの相手が謎の美女Xではなくランプであると分かっているかのような発言。

 ランプは、名前なしの手紙ではない方法でデートに誘えという言葉に赤面していたのだ。何故なら、あの手紙がランプの書いたものであると分かっていたということは………そこに書かれていた、ランプのありのままの想いも、筒抜けである事を意味していたから。

 

 

「どうして、ローリエさんはあの手紙のことがわかったんでしょう…?」

 

「そっか…ローリエさんはランプちゃんの先生だったわね。課題とかで、筆跡は見慣れていたのかしら……? だから分かったとか…?」

 

 

 きららの「何故ランプが書いたと分かったのか」という疑問に、職業上筆跡で判定することに慣れていたのではとライネは推測するが……実際の所は、ローリエ本人以外に知るよしもない。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁ………し、知られちゃった…知られちゃいました……! どうしよう、きららさん……!」

 

「ええぇぇっ!!? えーと………」

 

 

 涙目で親友に掴まれるきらら。

 しかし、ここできららは気づいた。

 

「(あれ?……ひょっとして、ローリエさんも満更でもない…のかな?)」

 

 ローリエは「今度はもっとストレートに誘ってくれ」と言った。しかし、眼中にない相手に果たしてそんな事を言うだろうか?

 もしかしたら、この恋は進展したのかもしれない。最初に考えていた、ほろ苦い未来は来ないのかもしれない。ランプにも、チャンスはあるのかもしれない……!

 

 そう思いながらも、まずは相手に想いが知られたと思って羞恥に震えるランプをどうにかして立ち直させるべく、かける言葉を選び始めるきららであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♫MUSIC:恋するフォーチュンクッキー/AKB48

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき
 よし、ランプ編終わり!取りあえず、描きたいキャラ編は全て書けて満足です!!この後はちょっとした後日談……というか私が書きたかった蛇足を書いて終了です。
 手紙がランプ筆なのにローリエが気づいたのは、ライネの予測通り筆跡からです。多少綺麗に書いたところでクセは変わりませんからね。ローリエは分かっていて噴水前に来ましたし、ランプと出かけました。彼がランプに本気になるかは彼女次第、ですね。

 そして、これまでのキャラ編ストーリーのアンケートを取りたいと思いますので、是非投票をお願いします。







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後日談:きららVS.ローリエ

お待たせしました。
いやー、2部の4章驚きでしたね。骨のある奴も出てきたし、中々敵を追い詰められないし、先行きが不安です。まぁ、拙作ではリアリスト達を余裕で超える実力の持ち主をもう数人出しちゃったからそっちはそっちで不安なんだけどネ。

さて、遂に書きたかったお話………言ってしまえば裏ボス戦の投稿です。そして、これにて『きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者』の連載は終了となります。今までありがとうございました。
それでは、最後の物語をお楽しみください。どうぞ。


 それは、ある一言から始まった。

 

「きららとローリエって、どっちが強いのかな?」

 

 昼食中に集まった中での、マッチの何気ないひとことに即答するものが二人いた。

 

 

「そりゃあもちろん、きららさんでしょう」

「おそらく、ローリエ先生の方が強いと思います」

 

 瞬間、視線をぶつける2人。

 一人はランプ。“ドリアーテ事件”できららと出会って以降、彼女と行動を共にした、女神候補生だ。

 もう一人はアリサ。こちらも、ドリアーテの事件の重要関係者になって以降、ローリエと共に真犯人の一味と戦った呪術師で、現女神候補生である。

 

「きららさんは、他の八賢者やアルシーヴ先生とも戦ったんですよ? 強いに決まっているじゃないですか」

 

「ローリエ先生はドリアーテの刺客を何人も倒してるし、ナットさんやドリアーテ相手に生き延びてる。ローリエ先生の方が強いと思うな」

 

「ナットさんやドリアーテなら、きららさんも戦っています」

 

「ローリエ先生も、一人で盗賊団を壊滅させたり暗殺者を倒したりしてますよ」

 

 立ち上がって静かに睨み合う二人。ランプはきららを、アリサはローリエを推して譲らない。

 

 

「お、おい!やめないか! 僕はちょっと思っただけだぞ?どっちでもいいじゃあないか!」

 

「「よくありません!!」」

 

 マッチが止めようとするも、逆効果。二人にぴしゃりと黙らされてしまった。

 ここまで譲らないのは二人とも、ひとえにお互いの友人や師の実力を知っており、尊敬しているからである。

 とはいえ、こんな議論は到底意味があるとはいえない。お互いがぶつかった事がない以上、過去に基づいた想像で語るしかないのだから。

 

 埒が明かなくなったと踏んだマッチは、ある提案をした。

 

 

「そんなに気になるなら、試合でもなんでもさせればいいじゃあないか」

 

「「それです!!!」」

 

 昼食中にも関わらず、手を付けた料理をほっぽってローリエときららを探しに行ったアリサとランプ。はっきり言ってお行儀が悪い。

 

「……ごめん、きらら、ローリエ……多分、二人が迷惑かけると思う……」

 

 一匹取り残されたマッチは、これから巻き込まれるであろう二人に対して、ただ虚空に謝ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ある日、お昼ご飯の真っ最中にアリサに「ちょっと来てください」と言われて無理やり神殿前に連れてこられた。理由も言ってくれないため、理解不能だった。「いつもは落ち着きがある奴なのに、珍しい奴」と思う余裕もなかったかもしれん。

 連れられた神殿前では、ランプに手を引かれたきららちゃんが頭上にハテナマークを浮かべまくっていた。彼女もまた、連れてこられたのだろうか?

 

 

「おう、きららちゃん」

 

「ローリエさん」

 

「…何か聞いてる?」

 

「いいえ、何も………」

 

「先生、きららさん。ここに連れてきたのにはお願いがありまして…」

 

「「お願い???」」

 

「お二人のどっちが強いかを私達に見せて欲しいんです! その為に、是非戦ってほしいんです!!」

 

 

 ランプが俺達を連れて来てまで何を頼むかと思ったところ、そんな事を言って頭を下げてきた。ランプの隣でアリサも何故か「お願いします」と頭を下げている。

 ……ちょっと何言ってるか分からない。何言ってるか分からな過ぎてナニイッテルカワカリマセン共和国が生まれそう。

 

「……どう言う事なの?」

 

「実はですね…」

 

 当事者(?)が混乱中の中、きららちゃんがかろうじて訳を聞くと、アリサは話してくれた。

 何でも、先の事件で活躍した俺ときららちゃんの実力がどれほどのものかが知りたいらしく、どっちが強いかという議論になったらしい。その為に俺らは連れて来られたというワケだ。

 俺は、しょうもなさすぎる理由で口論したという生徒二人に、はっきり言うことにした。

 

 

「ランプ、アリサ。正直に言わせてもらうよ?

 ……ぶっちゃけ、俺もきららちゃんも、君達の議論に付き合って戦う理由も義理もないと思うよ」

 

「「うっ…」」

 

「まぁ……もし、きららちゃんがどうしてもって言うなら、俺はきららちゃんとひと試合するのもやぶさかじゃあないけど」

 

 そう言ってきららちゃんを見る。

 俺と同じで未だ状況が飲み込めてないようで、ずっと黙ったままだ。考え込んでいるのか?

 

「え、えっと………ローリエさんに迷惑かかっちゃうよ…」

 

「え?きららちゃん、俺の話聞いてた? 君が嫌ならやらないって意味で言ったのよ、俺」

 

「良いんですか? そちらこそ、ランプの頼みとはいえ、急にこんな迷惑なこと……」

 

「迷惑とは言ってない。ただ、きららちゃんの都合があるだろってだけで」

 

「いえ、ローリエさんが…」

 

「だから、きららちゃんが…」

 

「「「「………」」」」

 

 

 俺としてはきららちゃんの意思を尊重したつもりだったのに、きららちゃんまで気を遣ってきたことで、なんかお互いで遠慮しあう変な感じになってしまった。

 ランプとアリサは、この様子を見て「双方合意で良いですね」とか言い出しおった。コイツら読解力ねーな。戦いが終わったら、2人に居残り講義を受けさせてやる。科目は当然、国語だ。

 

 子供とは時に残酷なもので、この事をアルシーヴちゃんとソラちゃんに報告しおったせいで、なんか試合が組まれる事になってしまった。「戦う準備ができる」点では公平だけど、本当に良いのだろうか。

 いちおう、きららちゃんに聞いてみたけど、「いきさつはとても急でしたけど、やるからには勝ちに行きますから、お互い頑張りましょう!」って言ってきた。良い子すぎない?それでいいのか召喚士。

 

 まぁ、きららちゃんが良いと言うなら、俺にも異存はない。『きららファンタジア』の主人公と戦える機会なんてそうそうない。俺も()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 試合は、ランプとアリサが俺らを引っ張ってきた日から1週間後に行われることとなった。

 ルールは単純。決定打を打ち込んだ方の勝ち。武器を脳天や首、心臓等の急所に突きつければいい。拳銃の場合は、銃口を急所につければいいとのこと。当然、命に関わる攻撃は禁止。これによって、俺の銃の弾丸がぷにぷに石弾以外使用不可能になる上に武器がいくつか制限されるが問題ない。

 

 試合は、神殿近くに急増された会場で行うことになった。このときの試合会場を建設するにあたって、神殿の森の奥に作ってあった俺の射撃場が会場に魔改造された。泣きそう。

 

 まぁそんななんだかんだがあって、俺ときららちゃんが戦う時がついに来た。

 

 

「きららちゃん、魔力の貯蔵は十分か?」

 

「はい!もちろんです!」

 

「開始は、打ち上げたコインが地面についた瞬間からとします。両者、準備はよろしいですね?」

 

 セサミの確認に揃って頷く。

 

「それでは………参ります!」

 

 

 キィィィン、とコインを弾く音が、森のさざめき以外の音がしなくなった試合会場に響く。コインが回転しながら高く上がり……そこから、高度を落としていって………やがて、地面に、落ちた。

 

 ―――と同時に、俺達は行動を起こした。

 きららちゃんは即『コール』を使用し、クリエメイトを呼び出すつもりでいる。

 俺もまた、初手を打つ。それは、マントを翻すこと。それと同時に、何かが散らばり。そして―――

 

 

「うわぁぁぁ!またあのゴキっ……!」

「うわっ…初っ端からアレか…」

「容赦ありませんわね、ローリエ……」

 

 その何か―――G型魔導具は、群れとなってきららちゃんと呼び出されそうになったクリエメイトに襲いかかった。

 きららちゃんが立っていた場所とクリエメイト達を旋回して囲い込むG型の群れ。だが、悲鳴は一切聞こえない。それは羽音のせいか否か……だが、俺はもう次の攻撃に移行していた。

 

 G型の群れのど真ん中……きららちゃんが立っていると思われる位置に『パイソン』で発砲。

 だがその直後、G型の竜巻の上から飛び出す影があった。

 きららちゃんだ。全身にほんのり赤いオーラを纏い、クリエメイト2人……ひでりくんと宮ちゃんと手を繋ぎ、さっきの銃撃を避けたようだ。

 

 

「やるね」

 

「そっちこそ…!」

 

 どちらも、お互いの行動を見抜いていた。きららちゃんは、俺のG型攻撃に対して、G耐性の高い宮ちゃんとひでりくんを『コール』したのだ。俺はそれを見越して二人の弱点の月属性魔法弾を放ったんだが……

 飛び上がったきららちゃんは、ひでりくんと宮ちゃんを帰し、新たなクリエメイト召喚を詠唱しながら、俺に向かって杖を振り下ろしてくる。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 彼女が向かってくるのを確認して、俺は空いている手でサイレンサーを抜刀した。襲ってきた杖の一振りを、その銅剣で受け止める。

 ……重い。ただの少女の腕力ではあり得ない、ジンジャーの軽い一振りでも相手にしているかのようだ。きららちゃんがまとっているオーラ……おそらく、身体強化だろう。

 

「えいやぁぁぁ!」

 

「!!」

 

 鍔迫り合いをしていると、すぐそばから第三者の声が聞こえた。

 反射的に杖の押してくる力を利用して距離を離れると、剣が空ぶった。

 俺は、さっきのやや気の抜けたあやねるボイスを知っていた。そして、それが今俺ときららちゃんの鍔迫り合いの途中で攻撃をしてきた人なんだろうなと、なんとなく察していた。

 

「ココア……」

 

 一週間の間に、ごちうさキャラの『コール』も可能にしていたのか。

 俺は、きららちゃんとココアちゃんの2人から目を逸らさずに、周囲の気配にも気を配る。保登(ほと)心愛(ここあ)ことココアちゃんが来ている以上、他の子たちが来ている可能性が高いから。

 

「! 魔法ッ!! そこか!」

 

 光り輝く魔法が飛んできた。それらを捌きながら反撃で一発撃つと、弾が金属に弾かれたような音がした。

 ………2人だな。魔法を撃ってきた子と、俺の弾を弾いた子。いちおう、それぞれが誰だかもおおよそ予想がついている。

 

 

「いきます!」

 

「かかってこいッッ!!」

 

 

 身体強化のかかったきららちゃんとせんしのココアちゃんが同時に接近してきた。

 きららちゃんは杖を、ココアちゃんは剣を舞わせ、それぞれの武器が襲い掛かってくる。

 サイレンサーで太刀打ちし、パイソンで牽制するが……

 

 

「はっ!」

 

「てやーーー!」

 

「ぬっ!? ぐっ…」

 

 

 やはり、2対1なのが向かい風になっているせいか、ドンドン押されて行っている。

 様々な敵と戦ってきた事が伺える、きららちゃんのフェイント混じりの杖の舞。

 せんしのクラススキルを併用しているのか、振るう度に威力が増していくココアちゃんの剣の舞。

 どっちか片方だけなら、あるいは善戦できたのかもしれないが、流石に同時相手はキツイ。剣一本じゃあいなすのにも限界があるし、弾幕を放とうにも……

 

「うおおおっ!!」

 

「リゼちゃん!」

 

「防御は任せろ!」

 

「ありがとうございます、リゼさん!」

 

 ……と、ナイトのクラスを持つクリエメイト・天々座(てでざ)理世(りぜ)ことリゼに全て防がれてしまう。

 

「はぁぁ!」

 

「うおおおお!!? あっぶね!?」

 

 更には、遠距離からまほうつかいとなった香風(かふう)智乃(ちの)ちゃんが高火力な魔法を放ってくる。

 これで実質4対1。戦いにおいて、数の利を簡単に覆すことができるのだ、『コール』は。落ち着いて息を整える暇さえない。

 きららちゃんが強い訳だ。しかも俺とタメ張れる八賢者全員と戦ってきたんだろ? 強いに決まっている。

 まぁ―――だからといって、大人しくこのまま負けてやる義理なんてないがな!!

 

 

ドグォォォォ!!

 

「きゃああああ!!?」

 

「ふおおおおおお!!?」

 

「これは…爆発!!?」

 

 

 突如、きららちゃん・ココアちゃん・リゼの前衛組の足元が爆発した。それと同時に、土煙があたりに巻き起こる。

 リゼちゃんの言う通り、コレは爆弾による爆発だ。最初に展開したのはG型だけじゃあない。ニトロアントもまた、地面に隠れスタンバっていたのだ。G型の嵐に襲われていたきららちゃんには、見えなかったようだけど。

 俺はその爆発で起こった土煙の中で静かに息を整え、弾を補充する。視界が一時的に悪くなった今、味方へ攻撃が当たるのを恐れてチノちゃんは魔法を撃てない。だから、『パイソン』の照準をチノちゃんの方向へ向ける。

 俺の目からはチノちゃんは見えないが、ルーンドローンが上空から彼女の場所を教えてくれた。まほうつかいは厄介だから、先に撤退させておきたい。

 

 

「チノ!……させるか!」

 

 

 そのまま俺は、光る弾丸を放った。

 チノちゃんに弾丸が当たる前に、リゼが射線上に立ち塞がり。そのまま、盾で弾丸を弾こうとして。

 

 

「ぐああっ!!?」

 

「リゼさん!!!?」

 

 弾こうとして失敗したのか、リゼの全身がブレ、姿勢が崩れてゴロゴロ転がっていった。

 カラクリは今俺の放った弾丸にある。ドリアーテとの戦いで奴のありとあらゆる魔力を封じた『真・天衣無縫の魔弾』だ。コレを試合用に調整した弾である。名付けるなら『至高の魔弾』といったところか。

 試合用に調整した弾と言ったが、それでも、受けた人物は残り体力の9割を持っていかれるという凶悪な性能を持つ。誰であろうと一発でも受けたらひとたまりもない。

 

 本当はきららちゃん本人に1発目を撃ち込みたかったが、ここで押し切られたら元も子もない。チノちゃんを狙ったのも、リゼに庇わせるためだ。その為にわざわざリゼに気付かれる位置で撃った。本当はこんなことしたくないが、今は真剣勝負中だ。後で埋め合わせをさせて欲しい。マジで。

 

 リゼが満身創痍になったのを確認して、俺は……弾倉を三つ回転させて、そのまま真後ろに向かって発砲した。

 

 

「うわああああっ!!?」

 

「ココアさん!!」

 

 

 ノールックで撃った火炎弾は……後ろから迫ってきていたココアちゃんに命中。炎のエフェクトを纏いながら吹っ飛んでいった。

 さっきのやりとりの間に、ココアちゃんが俺の後ろから来ていた事は確認済みだ。ルーンドローンのカメラに抜かりはない。

 

「!!」

 

 ない―――はずだった。

 真横の土煙から突然現れたきららちゃんには、全く気付かなかった。

 俺にぶつかる直前の振り下ろされた杖は……回避が間に合わない!!

 

 

「ぐううう―――っ」

 

「うっ……」

 

 

 避けられないならばときららちゃんに撃った弾が、脇腹を掠っていくのがスローモーションで見えた。

 それと同時に、左腕に激痛が走り、思わずパイソンを落としそうになる。

 きららちゃん容赦なさすぎ………

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「ふぅー………」

 

 

 すぐに回復魔法を剣を持った右手で使うが、時間がないから気休めでしかない。

 左手が回復するまで、銃を撃てないため、パイソンを落とす前にホルスターにしまった。

 しかし、なぜルーンドローンの監視網をかいくぐることができたのか………いや、違うな。

 

「ドローン何機か撃ち落としたな」

 

「………えぇ、まぁ」

 

 

 肩で息をしながらそう答えるきららちゃんは、いつもの温厚な雰囲気はどこへやら、真剣な眼差しでこちらを見ていた。

 

 あぁ、こりゃあ容赦なくなるわ。だって、本気で挑んでいるんだもの。

 今まで手を抜いてたワケでは断じてないが、レディーファーストとか言ってる場合じゃない。俺は、その瞳の奥に垣間見えた闘志の炎を前に、彼女の本気に答えたくなった。

 

 故に―――使える手は使わせて貰うぞ…!

 

Start Up

 

「!! しまっ―――」

 

 赤いカブトムシ『ソニックビートル』を起動して、超高速の世界に突入する。

 HPが大ピンチのリゼの懐に一閃。続いてココアちゃんにも数回斬撃を入れた。

 超高速の俺にまるで対応できず、煙に巻かれてダメージ超過で消えていく2人をよそに、チノちゃんの真後ろに回り込んだ。

 

3…2…1……Time Over

 

「でやぁああああ!」

 

「ううっ!?」

 

「チノさん!!」

 

 そして、時間切れを通知する音声と同時に、魔法封じの剣でチノちゃんに攻撃した。

 さすがにワンパンはできなかったが、これで彼女はしばらく通常攻撃の魔法すら出せない。

 

「勝たせてもらうぞ、きららッ!!!」

 

「私も…負けませんよ、ローリエさんっ!!!」

 

 感覚が戻り、痺れが取れ始めた左手の指を鳴らすと、上空のルーンドローンが一斉に砲撃を始めたのだ。そして、ドローンの砲撃の雨を縫うように突貫する。

 次の『コール』で誰を呼び出すのかは知らないけど、きららちゃんも何人も呼び出していたら辛いはずだ。ゲームでは助っ人含めて6人。この戦いが始まってから確認したのは宮ちゃん、ひでりくん、ココアちゃん、チノちゃん、リゼの5人。きららちゃんにどれだけ余力が残ってるか知らないけど、あと10人くらいはフルで戦えるとかはないと思いたい。

 

 

「『コール』…、っ!!」

 

「ちっ、召喚に間に合わなかったか」

 

 きららちゃんは、ルーンドローンの砲撃前にチノちゃんを帰していたようだ。だが、それと新たな詠唱、そして回避は同時には出来なかったようで、身体のところどころにレーザー痕がつき、煤けていた。しかし、それでも『コール』を発動させたのだ。

 上空に魔法陣が現れ、その2つからクリエメイトが現れる。そして、それもやはり俺の知る作品から来たキャラだった。

 

「くらえぇ〜!」

 

「いつも隣に!九条カレンデース!」

 

 呼び出されたのは、アルケミストの斉藤恵那ちゃんと、せんしのカレンちゃんだ。

 恵那ちゃんは、呼び出されて早速フラスコのデバフ薬品を投げてきた。受けるダメージは度外視で、俺の弱点を突きに来たか。だが……

 

 

「月属性は食らってやれないな」

 

SASUKE Invisible

 

「「!!?」」

 

 

 バッタ型魔道具『サスケ』の効果を発動し、光学迷彩で2人の視界から消える。

 呼び出されたクリエメイトは動揺したが、きららちゃんは至って冷静だ。

 

 

「大丈夫! 姿が見えないだけです。まだ、2人の目の前にいます!」

 

 

 まぁ、予想通りってところか。きららちゃん()まだ俺が見えるんだろう。

 きららちゃんは、パスで人を見分けることが出来る。初見でソルトの変身を見破れる程には正確だ。そんな彼女の前では、ただ姿を消す魔道具は無意味に見えるだろう。

 だが―――クリエメイトはそうではない。パスで探知できるのはきららちゃんだけだ。そこを狙う。

 

 陽属性の戦士特化型魔法弾がパイソンに入っていることを確認して、カレンちゃんに斬りかかる。

 単純に真っすぐ攻撃しているのだが、それに気付いているのはきららちゃん本人だけだ。カレンちゃんも恵那ちゃんも、全く気付かない。

 こんな状況で「正面から攻撃!防御してください!」と言ったところで間に合うわけがない。ならば、どうするか。

 

 

「―――ぐっ!」

 

 

 きららちゃん本人が、カレンちゃんの前に立って受けるしかないよな。

 距離があって駆け付けるのが遅れたためか、彼女はずいぶん無理な姿勢で俺の剣を受けていた。当然、力など入る筈もなく、今なら簡単に押し勝てる。

 

 

「カ、レン、さん…銃口が、そっちに」

 

「オラァ!!」

 

「うわああああああ!!?」

 

「キララ!?」

 

 きららちゃんを押しのけ、カレンちゃんに特攻弾を撃ち込んだ。

 

「ア―――――――――――――ウチ!?!?!?!?」

 

 月属性せんし対策の陽属性魔法弾は、たった一発であっけなくカレンちゃんのHPを全損させたようで、カレンちゃんは悲鳴をあげながら煙と共に撤退していった。

 きららちゃんの限界が近いからか、恵那ちゃんも姿が維持できなくなって、煙をあげて消えてしまったみたいだ。

 

 

「うぅ……」

 

 

 きららちゃんは、まだ諦めていないようで、俺を見る目から闘志は消えていなかった。でも、身体の方がダメージの魔力の消耗についてこれなかったのか、簡単に立ち上がることもできない様子だ。

 あとは、俺が銃口か剣を急所に突きつければ勝ちだ。確かに彼女は主人公で、色々な困難を乗り越えてきたのだろうが、俺も俺で魔道具やクリエメイトの属性相性を最大限に利用し、俺自身も磨き上げたものがある。今回は、ちょっと競り勝ったんだ、などと思い近づいていると。

 

 

「まだ………まだ!!!」

 

 

 きららちゃんの杖が光り輝いた。

 そして、その現象の意味が分かった瞬間、見上げた魔法陣から出てきた()()に剣を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――瞬間的に、腕に返ってくる衝撃が今までで一番重いと確信した。

 次いで視界に入ってきたのは………金のボタンとワッペン型勲章が目立つ真っ黒な軍服と軍帽。俺の剣を受け止めた、美術的な鍔が目立つサーベル式軍刀。そして………それらを絶妙に着こなした、うっすらヒゲが特徴的な、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……フッ、間一髪、といったところか」

 

「な………!!?」

 

 俺は……その男性を知っていた。そして、この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だが…だが! こんなことってあるのか?『コール』って、こんなこともできるのか!?

 

()()()()()()、だと………!!?」

 

 そう。()の名は香風タカヒロ。『ごちうさ』の聖典に登場する、「ラビットハウス」のマスターにして……()()()()()()()()()()だ。

 俺は、クリエメイトの中で何人か警戒していた人がいたが……この人が来るなんて完全に予想外だ! しかも彼は―――()()()。戦闘力はあると考えるべきだ…!

 

 

「はぁぁぁっ!」

 

 すぐさま、鍔迫り合いをキャンセルして距離を取り発砲。しかし。

 

「ほう。筋は良いようだ」

 

 タカヒロさんは、それをあっさりと避けた。

 プロは銃口を向けた相手の目だけでどこに撃つか分かり、射線を予測して躱せるって聞いたことあるけど、まさかそれか!?

 近づいてくるタカヒロさんに斬りこみたいが、下手な攻撃はカウンターを招く。どうしたものか―――

 

「呆ける暇があるのか?」

 

「うっ―――!」

 

 いや、攻撃しなくても、どの道あっちから攻めてくる!

 剣と剣がぶつかりあう金属音がこの場に鳴り響き始める。

 タカヒロさんの太刀筋は素早く、そして重い。まったく目で追えないから、殺気で先読みするしかない!

 

「なっ―――」

 

 だが、それも長くは続かなかった。

 殺気がくる方向を予測して……振りかぶっての縦切りを読んだはずなのに、軍刀が真横から来ている!!

 

「ぐおおおおおぉぉぉぉ!!?」

 

 横からの一太刀を、思いっきり食らって転がり込んだ。

 そこに、追いかけてくるタカヒロさんが見える!

 

「おおおおおおおっ!」

 

「でやああああああああああああああああああッ!!!」

 

 立ち上がることもできず、再び剣戟にもつれ込まれた。これはマズい。一旦ニトロアントで爆破させて、仕切り直しに持ち込みたい。

 声を張り上げて、必死に、かつ冷静に剣を振り回すことで、かろうじてもう一撃は受けていないが………

 

「―――む!」

 

「なっ―――」

 

 だが、爆破する直前でタカヒロさんは、飛び上がって俺との距離をとった。

 それによって、直後に巻き起こった爆発の範囲から逃れることに成功していた。

 

 

「……ホントに元・軍の交渉役か? メッチャ強いじゃんかよ」

 

「…敵地に一人で赴くのもまた交渉役だ。いざという時、敵に囲まれても尚、生還できるほどの強さがなければ務まらんさ」

 

「なるほど」

 

 

 タカヒロさんの言い分に一理あると思いながらも、立ち上がった俺は状況を考えた。

 きららちゃんはもうほとんど動けない。だが、彼女は最後の力を振り絞りタカヒロさんを『コール』した。

 全力なら兎も角、俺も消耗してるこの状態でタカヒロさんと真っ向勝負は分が悪すぎる。

 なんとか彼を突破してきららちゃんの元へ行きたいところだけど……ソニックビートルのクールタイムが終われば勝ちの目があるが……

 そう思って手を突っ込んだときに気付いた。

 ―――ない。

 

 

「…お探しのものはこれかな?」

 

「あっ―――!!!」

 

 声をかけてきたタカヒロさんの手には、俺が持っているはずのソニックビートルがあった。彼はそのまま、ソニックビートルをきららちゃんの座る位置の真後ろまで放り投げる。

 いつ抜き取ったんだあの人。まったく気づかなかったぞ………

 

「ココアくんとリゼくんを破ったスピードは見せてもらった。アレ相手は私も骨が折れるからね」

 

「骨が折れる程度かよ……つーか、娘さんいるのにそんなことしていいワケ?」

 

「フフ…確かにチノにはあまり見せられないな。だから―――手っ取り早く終わらせよう」

 

 タカヒロさんがじりじりと歩き始めた。マジで終わらせる気だ。

 俺も、最後の一撃をお見舞いして、きららちゃんとの戦いを終わらせる気概でいかないといけない。

 だから、俺はサイレンサーを放り、パイソンの銃口を空へと向けた。

 

 

月食弾(エクリプス)

 

「!!」

 

 そして、引き金を引く。

 撃ちあがった紫色の弾は、途中で16発のホーミング弾になり、タカヒロさんに襲い掛かる。

 男二人は、同時に駆け出した。俺は、きららちゃん目がけて。タカヒロさんは、間違いなく俺に向かって。

 

 お互いが、距離の縮めていく。最初の一太刀だけを避けるんだ!そこで、アレを叩き込む!

 

 

「ハァッ!」

 

 

 振るわれた軍刀。俺は全く見えないそれを、大ジャンプで躱した。

 

 

「!?」

 

 

 タカヒロさんは、躱した俺の位置をすぐに探し当て、上を向いた。

 このままでは着地を狙われるが、今度はこっちの全力攻撃だ。

 ここで俺は、今の今まで隠していた武器―――ショットガン・アイリスを構え、すぐに分身機能を使い。

 

 

一斉掃射(フルファイア)

 

 

 メタルジャケット・フルファイア(試合版)をぶちかまし、ぷにぷに石弾の雨を注ぎ込んだ。

 立ち上がる煙の先を見ている時間はない。着地した俺は、すぐさまきららちゃんの方へ走り出し……

 

 そして、両膝をついて、杖で身体を支えながら荒い息をするきららちゃんを確認する。そして―――

 

 

「―――くると、おもってました」

 

 

 きららちゃんの手から放たれた魔法の光に気付いた。

 なるほど、タカヒロさんに引きつけて、文字通り最後の魔法弾で仕留める気だったのか!

 確かに、もう俺に余裕はない。かわしたり、食らったりしたらタカヒロさんに追い付かれて敗北決定だ。

 

 だが―――!

 

 

「俺の方も、予想通り―――!」

 

 

 俺は『リフレクタービット』を持って、きららちゃんの魔法弾を跳ね返そうとする―――

 

「ぐ―――!」

 

 ―――が、予想以上に身体のダメージが響き、手元がブレた結果、リフレクタービットを落とし、魔法弾はあさっての方向へ飛んで行った。

 だが問題ない。足の動きは止めてない!そして、このまま―――!!!

 

 

 

 

 

 

 会場の誰もが、息を忘れていた。

 そう言うくらいの静寂に包まれた試合会場の真ん中で。

 

 俺は……確信していた。

 

 

「……参りました、ローリエさん」

 

 

 きららちゃんの頭に、パイソンの銃口を当てた感覚と―――

 

 

 

 

 

 

 

「参りました、ね………

 そりゃ俺の台詞だよ、きららちゃん。だってこの銃、()()()()()()()()()()

 

 俺の首筋に、軍刀の峰が当たる感覚を。

 

 

 わあああああああと、一拍おいて歓声が響くと同時に疲れ切った体が倒れ、それを確認したようにきららちゃんも倒れた。

 

 

「はぁぁぁぁ、きららちゃん強すぎ。もう動けんわコレ」

 

「えと、ローリエさんも強かったですよ? タカヒロさんを『コール』できなければ負けてました」

 

「あ!そうタカヒロさんよ!なんで『コール』できたのさ!?」

 

「わかりません……負けたくないって思って無我夢中でコールしたので……気が付いたら、って感じで」

 

「なーんじゃそりゃ」

 

「あははは」

 

 

 体力も魔力も出し尽くした俺達は、見上げた青空の様に晴れやかに笑っていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ―――それからの話をしよう。

 

 まず、ランプとアリサについてだ。

 俺ときららちゃんの熱戦・烈戦・超激戦を見て満足したのか帰ろうとしたが、俺は日を跨いでも二人を逃がさなかった。戦う前に決めたことを有言実行し、徹夜で作った国語のプリントを押し付けてやったのだ。やりたくないと言っていたが、そうなったらそうなったであいつらがラビットハウスの特別期間メニューが食べられなくなるだけだから問題ない。

 

 あと、俺VSきららちゃんを見ていた他の賢者達やアルシーヴちゃんにも大好評で、特に俺について「あそこまで戦えるとは思ってなかった」的な事を次々と言ってきた。しかも、ソルト以外の賢者が「私とも手合わせして♡」とねだってきた時はなんの冗談だと思った。こういうモテ方は望んでねーよ。フェンネルは毎回のように俺と戦ってるだろ飽きろ。カルダモンもカルダモンでとっておき級の技見せちゃったからめんどくさいし、ジンジャーも諦めが悪い。あと、ハッカちゃんやアルシーヴちゃんは上目遣いで「私とも戦って♡」って頼むな。色仕掛けの使いどころ超間違ってるぞ。

 

 そして、最後に―――タカヒロさんがエトワリアに来た。

 ……いや、俺だって衝撃的だよ? あの戦いだけのオマケ演出なのかと思っていたから尚更。でも、ティッピーもチノちゃんも驚いていたから俺の勘違いではない筈だ。

 まぁ、「エトワリアは女の花園だろ」という理論もあるだろうけど、タカヒロさんは(サキ)さん一筋だから大目に見て欲しいところではある。ちなみに俺は大目に見ることにした。

 

 何故って? そりゃあもちろん―――

 

 

「よう、タカヒロさん。やってる?」

 

「いらっしゃい、ローリエ君。………また違う女性を連れてきたのか」

 

「ローリエさん、どういうことですか?」

 

「ちょ、きららちゃん違う誤解だ! タカヒロさんも人聞きの悪いこと言わないでください!」

 

「そうか? てっきり私は、君があらゆる女性に手を出しまくる節操なしかと思ったが。

 ………娘に何かあったら出禁にするぞ」

 

「言い方ァァァァァ!!しかも釘の刺すタイミングが最悪だァァァ!!!」

 

「ローリエさん♪」

 

「き、きららちゃんその顔怖いからやめて!!!!!」

 

 

 昼のラビットハウスは勿論、夜のラビットハウスの雰囲気も大好きだからに決まってるだろ。 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ&きらら
 裏ボス戦と題して戦いつくした2人。決着は一応きららの勝利となっているが、お互いが「やられた」と思っている。しかし、それでも本人達は満足している。なお、この戦い以降、里に生まれた夜のラビットハウスにもしばしば通うようになる。

ランプ&アリサ
 自分の信じる人同士の強さが気になった結果、特別試合を立ち上げた発起人達。試合後はローリエによって宿題に国語の特別課題が増やされ、泣きを見る羽目になった。また、終わらせないとラビットハウスの新メニューを食べてはいけないという罰も課され、やらざるを得なくなった。

宮子&神崎ひでり&保登心愛&香風智乃&天々座理世&九条カレン&斎藤恵那
 ローリエ戦できららが『コール』したクリエメイト達。ローリエから受けたダメージはすべてぷにぷに石弾によるもので、再召喚した時にはすっかり傷が癒えている。リゼとココアはリベンジに燃えており、またカレンはワンパンされた己の力不足を実感してライネの修業所にしばしよく通うようになったとか。

香風タカヒロ
 聖典(漫画)『ご注文はうさぎですか?』に登場する、喫茶店「ラビットハウス」のマスターにして、チノの父親。元軍人で、リゼの父とは軍人時代の任務を通じて知り合ったという。
 拙作では、なんと公式では叶わないと思われる形で「クリエメイト」として登場。退役軍人とは思えない実力で、きららを助けた。エトワリアでは、娘たちが先んじて建設していたラビットハウスに住み、夜のバータイムの営業や会計事務を請け負うようになった。





ローリエの使用技
詳しくはコチラ→『ゲーム・きららファンタジア風資料集:敵編その⑤』。ソニックビートルとサスケは、この資料集の後に編み出したため、明記されていないが、それでも裏ボス級の強さをローリエは持っている。


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