Fate系 クロス+短編ネタ集 (ルルー)
しおりを挟む

FGO小話 格闘家の少女と幼馴染朝の風景

 

 ストーリー1 格闘少女ゲルダ

 

 氷である。

 大地は雪に埋もれ、木は氷でできた世界である。

 周りを見てみればところどころに蒼炎がぽつぽつと燃え続け、遠くを見れば山が燃えている。

 そのような世界にも生き物は存在する。

 魔獣と巨人、そして――人間である。

 100ある集落は結界に覆われており、中と外を行き来するには原初のルーンが刻まれた石造りの門を通らなければいけないが何とか人間は生きられた。

 そしてそんな集落の一つ、第23集落。

 そこに金の髪を持つ少女、名をゲルダ。

 彼女は料理や花が好きな普通の13歳の少女なのだが、もう一つ好きなものがあった。

 それは……

 

 「ハッ……ふう、日課の正拳突きが終わったわ! ご飯にしましょう!」

 

 格闘技である。

 本来、この異聞帯では戦う力など持つことはない。

 いや持つことはできない。

 なぜならば力など持たず子15歳までに結婚し、子を産み25歳ほどで死ぬという運命とも呼べるルールを完全に受け入れているからである。

 では、なぜ彼女は戦う力である格闘技の特訓など行っているかといえば。

 

「ふう、今日もいい汗かいた気がするわ!」

 

 一言で言ってしまえば健康のためである。

 あと二年いないに結婚しなければいけない彼女はまだ見ない相手にために健康であろう、と思った健気な思いからであった。

 

「食べ終わったらこっそり外に出て森で追いかけっこね!」

 

 そのはずである……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ストーリー2 二人は幼馴染

 

 

 ある晴れた休日。

 鳥たちが鳴きながら空を悠々と飛ぶ雲一つない空の朝。

 藤丸と刻まれた表札の家にある少女がやってきた。

 オレンジ色髪のセミショートの少女で頭にアホ毛が生えている。

 名を藤丸立香(ふじまるりっか)

 藤丸という苗字ではあるが、ここの家とは血縁はないただの偶然である。

 さて、この少女は慣れた手つきで家の前にある小さな植木鉢を持ち上げ、そこに隠してあった鍵を取り、何の抵抗もなく家へと入っていった。

 普通であるならば住居不法侵入であるが彼女は気にする様子はなく靴を脱ぎ中に入りずかずかと階段を上ってある部屋の前に立った。

 その部屋のドアにはりつかとひらがなで書いてあった。

 それを確認すると、彼女はこっそりドアを開け眠っている少年をおこさぬように部屋に侵入し。

 

 眠る少年のベットまで来ると、ジャンプし少年のベットに飛び込んだ。

 

「ぎゃああああああ!?」

 

 部屋に痛みと驚きが混じった叫びがこだまする。

 

「なっなになになに!?」

 

 少年はベットからはいずり出るとベットに乗った少女と目が合った。

 目があった少女は少年いこう言った。

 

「おっはよー! 立香(りつか)!」

「おはよう……立香(りっか)

 

 明るく朝の挨拶をしてくる少女に、少年は疲れたようにそう返した。

 これがこの少年と少女のよくありきたりな日常の風景の一つであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Fate/Grand Order 混沌都市アーカム 最も新しき旧神

主人公と出会うまで


 藤丸立香は夢を見る。

 それは、どこか(異世界)であった物語。

 そこには悲劇があった、嘆きがあった、悲しみがあった、憎しみがあった、怒りがあった。

 そこには、光を犯し、蹂躙し、恥辱の限りを繰り返す畜生と、それを見て笑う燃える三つの目を持つ暗黒の神がいた。

 その神はある目的のため、舞台を、運命(シナリオ)を、人間(コマ)を動かし、仕えし万物の王である盲目にして白痴の神を呼び起こし、住処()を解放しようと目論んだ。

 そのために世界を廻し、白と黒の王を生み出し、永遠輪廻にも思える試行を繰り返し、世界を、宇宙を、()を蹂躙しようとした。

 

――だがしかし、神の目論見は失敗する、ほかならぬ自身が生み出した王の手によって

 

 憎悪の空より現れ、正しき怒りを胸に、魔を断つ刃を振り下ろす白の王が神を打倒したのだ。

 ――それは、荒唐無稽な御伽話(おとぎばなし)

 ――それは、ありきたりな英雄譚。

 ――それは、誰もが望んだ大団円(デウス・エクス・マキナ)

 

 魔を断つ刃、最弱にして最強の機械神、マスター・オブ・ネクロノミコン 

 人と機械と魔導書の三位一体の旧き神。

 

 魔を断つ刃に終わりはない、ありはしない。

 彼らの存在はいまだ健在である。

 

 だがしかし、何度打倒されようと、何度倒されようと、あの神は――ナ■■ー ラ■■プはその邪悪なる願望をあきらめることはなかった。

 

 藤丸立香は夢を見る。

 魔を断つ刃、最も新しき旧神が、邪神と相対する光景を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無数の触手が鋼鉄の人型へと迫る。

 その数は、視界がそれで埋まるほど膨大で、鋼鉄の人型に逃げ場などありはしなかった。

 一つ一つの触手には漆黒なる殺意が濃縮されており、ひとたび触れてしまえばどんな存在もひとたまりもないだろう。

 だが、この光景を見ても、鋼鉄の人型は逃げも隠れもしなかった。

 瞬時に己が右手に()を鋳造、背にある翼を稼働させ、迫りくる触手群を一刀両断していき、邪神へと迫ろうとする。

 しかし、ただただそれを観客のように見ている邪神ではなかった。

 常人が聞いてしまえば、即座にその心身を食い尽くされるであろう言霊を、触手に無数の口を生み出し紡ぎ始める。

 紡がれた詠唱は、魔術となり、無数の刃(皇餓)を、目には見えぬ爆弾(スターヴァンパイア)を、破壊の閃光(レガシー・オブ・ゴールド)を放つ。

 

 世界を犯す闇の言葉によって放たれるその技は、どれもこれも一撃必殺。

 並みの存在では、掠っただけでその存在を無に帰すだろう。

 四方八方逃げ場をなくすように迫りくる無数の悪意に、鋼鉄の巨人は魔術で対抗する。

 

 先ほど出現させた()を多重鋳造、それを周囲に展開し、攻撃を阻む結界を生み出す。

 攻撃が命中する。

 一撃目、無数の刃を結界が防ぐ。

 二撃目、無数の爆発により結界に(ひび)が入った。

 

 これに鋼鉄の巨人は並行世界より無限の魔力をくみ上げる心臓部を全力稼働、あふれ出る魔力によって即座に罅を修復、三撃目である閃光を防ぐことに成功する。

 

 すべての攻撃を防ぎ切り、一安心することもなく鋼鉄の巨人は反撃を開始する。

 鋼鉄の巨人は、邪神が紡いだ言霊ににた呪文を紡ぐ、それにより召喚されるは二挺の魔導拳銃。

 焔の神性を宿す回転式拳銃(クトゥグア)凍てつく風の神性を宿す自動式拳銃(イタクァ)を両の手に召喚する。

 結界用に召喚した複数の()を、数本射出、邪神へとの射線を確保する。

 

 鋼鉄の巨人が二挺の力を構え、人と魔導書が謡う。

 

「「イア クトゥグア イア イタクァ!」」

 

 二丁拳銃から、弾丸が発射される。

 クトゥグアから発射された六発の弾丸は周囲の触手を灰燼と化しながら迫り、その間をイタクァより発射された弾丸がすり抜けるように飛んでいく。

 この攻撃に、邪神は時の力によって対処する。

 ド・マリニーの時計。

 それは、世界を何度も回す際に使用された術式。

 効果は至極単純、時間の操作である。

 それの効果により、邪神へと向かっていた弾丸は巻き戻るように鉄の巨人へと帰っていこうとする……が、それを予測していた鋼鉄の巨人は己も同じ術式を発動させ、無効化する。

 

 そうして弾丸は邪神の肉へと着弾する。

 周囲には焼けた肉のような悪臭が広がっていき、触手の動きも鈍り邪神は気味の悪い声を出しながら悶えている。

 これを好機と見た鋼鉄の巨人は、脚部の術式を展開、空間を歪曲、その際に発生する反発力を持って急速に加速し強烈な蹴りを叩き込んだ。

 

「アトランティス・ストラィィィク!」

 

 それにより吹き飛ぶ邪神。

 だが、邪神は突然に急停止した。

 停止する邪神をよく見ると、そこには糸のようなものが邪神を拘束していた。

 それは、鋼鉄の巨人が新たに紡いだ拘束の魔術であった。

 何とか逃れようとする邪神だったが、それを許す鋼鉄の巨人ではない。

 邪神をを倒すために、邪神に尊い光を犯させないために、鋼鉄の巨人は――魔を断つ刃(デモンベイン)は、祈りの言霊を紡ぐ、

 その背には、巨大に輝く五芒星。

 

「光刺す世界に、汝ら暗黒、住まう場所無し」

 

 掲げる右手に動力部、獅子の心臓(コル・レニオス)を直結、並行宇宙より無限熱量を汲み上げる。

 本来は周囲に被害を出さないようにする結界は張ることはせず、掲げた右手を邪神へと向かわせる。

 

「渇かず、飢えず、無に還れっ!」

 

 それは、魔を断つ刃(デモンベイン)が放つ第一近接昇華呪法、その名は――

 

「レムリア・インパクト!!」

 

 魔を断つ刃(デモンベイン)の右手が邪神へと叩きつけられる。

 逃しようがない無限熱量が邪神を襲い、魔導書が終わりの言霊を叫ぶ。

 

「昇華!」

 

 その瞬間、邪神を中心に大規模の爆発が発生する。

 発生した無限熱量の大爆発によって周囲を埋め尽くしていた触手は跡形もなく消え去り、魔を断つ刃(デモンベイン)の周りには青い空だけが広がっていた。

 

「この世界で悪事を働いていた悪鬼は打倒したな、九朗」

 

「ああ、これでこの世界は大丈夫なはずだぜ……アル」

 

 これでこの世界は安心だ、そう思っていた二人であったが、邪神がいた場所から突如として漆黒と呼ぶにふさわしい色の穴が発生した。

 

「なんだ……!?」

 

「これは……奴の最後の悪あがきか!?」

 

 黒い穴からは複数の黒い手が現れた。

 現れた手は魔を断つ刃(デモンベイン)に迫り襲い掛かろうとしてくる。

 

「バルザイの偃月刀!」

 

 再び鋳造した偃月刀でその手を切り裂こうとするが、偃月刀は手をすり抜けてしまう。

 

「何ィ!?」

 

 手は魔を断つ刃(デモンベイン)の装甲をすり抜け中へと入り込み、中にいた青年、九朗と呼ばれた青年を掴んだ。

 

「九朗から離れろ!」

 

 そばにいた紫髪の少女、アルと呼ばれた少女が抵抗しようとするが、ほかの黒い手が彼女を一冊の本へと変えてしまった。

 

『なんだと!?』

 

 少女が驚くのもつかの間、九朗と呼ばれた青年は、デモンベインをすり抜け黒い穴へと引きずり込んでしまった。

 

「アルーーーーー!」

 

『九朗ーーーーー!』

 

 九朗が穴に消え、そこには一冊の本とデモンベインだけがそこに残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のは……夢?」

 

 カルデアのマイルームで藤丸立香は目を覚ました。

 なにやらとてつもない夢を見ていた気がするがとても現実的ではなかった。

 カルデアにやってきてサーヴァントと呼ばれる英霊や特異点、人理焼却など、超常的な事柄には慣れた立夏ではあったが、この夢のようなものに関しては未知の体験であった。

 

「ん?」

 

 ふと、立香は寝ていたベットに目を向ける。

 すると、ちょうど立香の腹部のあたりに何やら膨らみが見える。

 肌から感じる感触から、長方形の何かのようだった。

 意を決して掛布団を剥ぐと、そこには先ほど夢で見た一冊の本があった。

 

「これって夢の……?」

 

 立香が本を手に取り表紙を見ると、そこには何やら文字が書かれてはいたが立夏には読むことができなかった。

 試しに中身を読もうと表紙に手をかけようとした瞬間、突如本が光りだし喋りだした。

 

『このうつけが!? 汝のような人間が妾を読もうとするでない!』

 

「うわっなに!?」

 

 光が晴れると、そこには先ほど夢で”アル”と呼ばれていた紫髪の少女が現れた。

 

「おのれぇ……邪神めぇ……何とか九朗を追っては来たものの、このような場所に出てしまった……」

 

「い、いったい何が……」

 

 混乱する立夏、ぶつぶつと何者かに恨み言をつぶやく紫髪の少女、カルデアの一室で何とも混沌としている空間が形成されていた。

 そこに、一人の少女がマイルームへやってきた。

 

「先輩! 大丈夫ですか!? 先ほど何やら強大な魔力反応が発生したのですがって……あの子の方は?」

 

 それは、デミサーヴァントと呼ばれる存在の少女、マシュキリエライトだった。

 

「じっ自分にも何が何だか……」

「おい! そこの汝」

「はっはい!?」

 

 困惑する立香に、紫髪の少女が話しかけてきた。

 

「妾の名はアル・アジフ。 軽く見たところ、汝らも魔術に所縁があるようだ……ちょうどいい」

 

「ちょっちょうどいいって?」

 

 すると紫髪の少女は、意を決したようにこう言った。

 

「妾の伴侶を助け出したいのだ、どうか協力してほしい!」

 

 これが魔を断つ刃とカルデアの初の会合の瞬間であった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Fate/Grand Order  厄災落下都市海鳴 不屈の少女

 暗い暗い闇の中、光すら届かない場所に一つの人影があった。

 

――ここどこ? また誰か夢の中?

 

 突然の暗闇の中だというのに落ち着いているこの青年、名前を藤丸立香。

 人理継続保障機関、カルデアのマスターである。

 

――真っ暗だ……誰の夢だろう?

 

 彼はカルデアにてサーヴァントと呼ばれる超常的的な存在達と契約を交わしている。

 

 そして契約を交わす際にサーヴァントと霊的ラインがつながる彼は、時折、契約したサーヴァントの過去の記憶を、夢として見ることがある。

 

 本来、マスターと契約するサーヴァントは一体で、見る夢も契約サーヴァントの物だけなのだが、複数のサーヴァントと契約を結んでいる彼は、多くのサーヴァントの夢を見ることになった。

 

 聖女や海賊、科学者や騎士、さらには暗い神性を宿す者の夢も見ることになった。

 

 そんな経験があるせいか、このような状況になっても落ち着き、冷静に周りを探る程度には馴れきってしまっていた。

 

「ニ……イ……」

 

――ッ! 誰!?

 

 暗闇を手探りで探っていた立香の耳にどこからか小さな声が耳に入る。

 

「ニク……ニ……」

 

――どこ、どこにいるの!

 

 立香が声を上げるが相手は返事を返さない。

 だが、代わりに聞こえてくる声は段々と大きくなっていく、さらには

 

――近づいてきてる?

 

 聞こえる声は段々と近くで聞こえてくるようになっていった。

 

「ニ……イ……ニク……ニクイ!」

 

――がっ!?

 

 声がはっきり聞こえた瞬間、声の主が立香の首をつかむ。

 

「ニクイニクイニクイ!」

 

 声を荒げながら立夏を持ち上げる謎の人物。

 首を絞められながら持ち上げられるせいで息苦しい中、何とか立香は首を絞めている人物を見ようとする。

 

 暗闇の中で目が慣れていたのか、何とかその人物を見ることができた。

 その人物は、深紅のような赤い瞳、腰まで伸びる銀色の髪、両頬には赤い回路のような線が走った若い女性だった。

 

「オマエタチノ……オマエタチノセイデワタシハ! 」

 

――いっ息が!?

 

 呼吸することもまともに出来ずもうろうとしていく意識の中、立夏は彼女の瞳から落ちるものを見た。

 

――泣い……てる……?

 

 それが、藤丸立香が見た最後の光景だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――今のは……?

 

 立香が目を覚ますと、そこは見慣れたカルデアのマイルームだった。

 先ほどのまでの息苦しさが嘘のように消えている。

 ただの悪夢だったのか? そう思いつつも、首を絞められた時の痛みは夢幻だとはとても立香には思えなかった。

 ならば、相談したほうがいいだろうと思った立香は服を着替え管制室へと向かった。

 管制室へと向かう途中の廊下で、立香は小さな人影を見つけた。

 それは、立香が契約しているサーヴァントの一人であるキャスターの一人、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンであった。

 イリヤスフィールの頭の上では彼女の宝具? のような存在であるステッキ、マジカルルビーがくるくると回っていた。

 二人は何か話し込んでいるようで気になった立香は二人に話しかけた

 

「あ、マスターさん!」

「これはこれはグランドマスター! ちょうどいいところに!」

 

――ちょうどいい?

 

「ええと、さっき食堂から自分の部屋に戻ろうとする拾ったんですけど……」

 

 立香がそう返すとイリヤスフィールが立香に小さな掌を向ける、そこには青い宝石のような石があった。

 

「封印はされているようなのですが術式が刻まれた魔力の結晶体でのようで、サーヴァントの皆さんの誰かが落としたのではないか? と私は思ってるんですけど心当たりはありませんか~?」

 

――んー

 

 そうルビーに言われまず最初に思い当たったのが女神イシュタルであったが、彼女であればすぐに気づきそうだと思い別の人物を考える。

 ギルガメッシュなども思いついたが、彼の場合は落としたところで気にもしないだろうと思いこれも違うと判断。

 なら誰だろうとさらに考えるが、立香には思い当たらなかった。

 

――今からダヴィンチちゃんのところに行こうと思ってたから一緒に行って聞いてみようか。ホームズもいるだろうし

 

 そう言って、イリヤスフィールたちと共に管制室へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーこれは……」

 

――ダヴィンチちゃん、これが何なのかわかった?

 

 管制室にたどり着いた立香たち、さっそくホームズにこれが誰のものかを推理してもらうと思うがそこにいたのは万能の人、レオナルドダヴィンチだけであった。

 いない者はしょうがないので、立香たちは先に、ダヴィンチに青い宝石の解析を依頼した。

 

 それを快く受けたダヴィンチは五分と経たずに青い宝石を解析したのだが、彼女の表情は困り顔だった。

 

「もしかして……危ないものですか……?」

 

 不安になったのかイリヤスフィールがそう聞くと、ダヴィンチは笑って答えた。

 

「いやーこれ自体は封印処理がされてるみたいだから、少なくとも何らかの外的要因でもなければこれは膨大な魔力を蓄えた石だよ?、ただ……」

 

――ただ?

 

「これに刻まれていた術式が問題でね、言ってしまえば、この石は聖杯と似た機能を持っている」

 

――これが……聖杯?

 

「え……? 聖杯だったんですかこの石!?」

 

 驚く立香とイリヤスフィール。

 

「聖杯といっても私たちが集めた聖杯とは違って、ちゃんと願いはかなえられないみたいだけどねぇ~」

 

――そうなんですか?

 

「うん、ところどころ術式が崩れていてね、これじゃあ下手すれば大爆発! なんてことになりかねない、なのでこれは私が後で処分を……」

 

 ダヴィンチが言葉を言い切ろうとした瞬間であった。

 管制室に特異点を知らせる警報が鳴り響いたのは。

 警報を聞いたダヴィンチは説明を切り上げ、カルデアの機械を操作し特異点が発生した場所を調べ始めた。

 

「ダヴィンチちゃん!」

 

「おお、マシュちょうどいいところに」

 

 警報を聞いてきたのか、マシュ・キリエライトが管制室へとやってきた。

 それと同時にダヴィンチが特異点の発生場所を突き止める。

 

「特異点が発生した場所がわかったよ、場所は日本だ!」

 

「日本……先輩の故郷……!」

 

 立夏がカルデアス見上げると、日本のある地点に特異点を示す光の点が存在していた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

筆にて世界を照らすもの

 世界が球状であるならば、そこは真下に当たる場所だろう。

 吹雪が吹き荒れ、狂気山脈と名付けられたけられたその場所は、人間と呼ばれる種族が未来(人理)を守るために生み出した。

 人間の英知である科学と、世界に刻まれし願い(信仰)の結晶である魔術、その両方を使い、星を見る一族(アニムスフィア)が設立した、人類の希望の組織。

 人理継続保障機関フィニス・カルデアと名付けられたその場所には、サーヴァントと呼ばれる者たちが呼び出されれている。

 サーヴァントとは、ある者は怪物を打倒し、ある者は国を成し、ある者は悪逆に手を染め、ある者は、またある者は、などと言い出せばきりがないが、その者たちは様々な偉業を成しえた者(英霊)である。

 時は彼の者魔術王と呼ばれたものが行った大偉業、人理焼却を乗り越え四つの特異点を修復した後のこと、カルデアの廊下に一体の獣が現れていた。

 

 その獣とは、純白の毛皮をした一匹の白い犬であった。

 サーヴァントや魔術師が跋扈するカルデアでは珍しいほど普通という言葉が似合う犬であった。

 みれば呑気にあくびなどをしていて、まるで緊張感がない、放っておけばそのままそこで寝てしまいそうな勢いだ。

 

「う~?」

 

 そんな白い犬に、どこからかいい匂いがやってくる。

 その匂いを嗅いでみれば、和風の鰹節の匂いや魚を焼いたにおいがしていて、誰かが料理をしているようだった。

 

「ワウ!」

 

 その匂いにつられ、いまにも眠ってしまいそうだった白い犬は歩き出した。

 しばらく歩いていくと、様々な単語で食堂と書かれたネームプレートが這ってある場所についた。

 白い犬が中をのぞくと、そこには白髪の褐色の肌をしたエプロンの男が料理をしていた。

 白い犬が男の足元に近づくと男は白い犬に気づいた。

 

「犬?」

 

「ワウ!」

 

 白い犬はハァハァと舌を出しながら男の焼いている魚を見つめていた。

 

「なぜカルデアに犬が……少し前に召喚されたアヴェンジャーでもないようだし……君はどこから来たんだ? カルデアで召喚された新たなサーヴァントか?」

 

 男はしゃがんで目線を合わせそう聞くが、白い犬の興味は男の話ではなく、男の焼いている魚に向いていた。

 

「はぁ……どうやら話は聞いてもらえないようだな……この様子では腹を満たすまでは話にならんな」

 

 男はため息つきながら、白い犬をそのままにして魚を焼き上げた。

 そして、魚を白い皿に乗せ、白い犬の前に差し出した。

 

「ほら、食べるといい」

 

「ワウ!」

 

 差し出された魚に白い犬は一目散にとびかかる、魚はあっという間に白い犬の腹へと消えていく。

 

「はは、どうやらかなり腹を空かせていたようだな」

 

 男は笑いながらその光景を見守っていた。

 魚を食べ終わると、白い犬は皿を男の前へと返した。

 

「ワン!」

 

「お礼のつもりか? それならどういたしまして」

 

 男が皿を受け取りキッチンのシンクで洗い、片づけた。

 男が皿を洗う際中、男の体から何やら玉のようなものが出現し、白い犬に吸い込まれていった。

 

「エミヤさーん!」

 

 それを白い犬が見守っていると、食堂の入り口から何やら女性の声が聞こえてきた。

 その女性は、胸元を露出させた着物を身にまとい、頭には狐の耳、背からは大きなしっぽが見えた美女であった。

 

「おや、キャスター、何ようかな?」

 

 エミヤと呼ばれた男は皿を片付けながら、キャスターと呼んだ美女から話尾を聞いた。

 

「おや? このお犬様は?」

 

 近づいてきたキャスターは、エミヤの足元にいた白い犬に気づいた。

 

「どうやら焼いた魚の匂いにつられてきたようでね、どうも腹を空かしていたようだったから先ほど焼いていた魚を与えたところだ」

 

「おお、流石食堂のオカンと呼ばれるお方、対応が完璧ですねぇ~」

 

「誰がオカンか」

 

「まあまあ、マスターがお呼びです、私も呼ばれておりますので共に行きましょうか」

 

「了解した」

 

 エミヤはエプロンを片付け、キャスターと共に食堂を出ていこうとする。

 

「おや、先ほどのお犬様は?」

 

「何?」

 

 キャスターの指摘にエミヤは周りを見渡す、けれど先ほどまで魚を食べていた白い犬はどこにもいなかった。

 

「……まぁいいだろう 悪意を持っているようには見えなかった。 ダヴィンチ女史に報告しておけば大丈夫だろう」

 

「そうですか……ではいきましょうか」

 

 エミヤとキャスターは食堂を出ていった。

 

(ですが、あのお犬様、何やら私と近しいものを感じたような……? 気のせいでしょうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう! なかなかの一筆じゃあねぇか! このイッスン様に負けず劣らずのいい腕だ!」

 

「ほー、そんなちんちくりん身なりで筆を扱うのかい?」

 

「筆を執るのに身なりがかんけぇいあっかってんだ! べらんめぇ!」

 

「ははっちげぇねぇや!」

 

 カルデアのとある一室、まるで盗人にでも入られたかのように様々なものが散乱している部屋で、一人の女性と小さな虫のような存在が話をしていた。

 その女性の手には筆が握られており、先ほどまで筆で描いていたようだった。

 

「しっかし、あんたも大変だねぇ…‥突然ここにやってきちまうなんてなぁ」

 

「まったくだぜ一緒にいたアマ公ともはぐれちまうしよう」

 

「アマ公? いったいなにもんだいそいつぁ?」

 

 女性がイッスンにそう聞くとイッスンはこう答えた。

 

「アマ公ってのは、見た目は力が抜けちまうくらい緩い犬っころだなんだが、いざとなれば流麗な筆しらべを持って世を守るやつのことだ!」

 

「へぇ~筆しらべってやつが何だか知らないが面白そうじゃないか、あってみたいものだねぇ」

 

「アマ公もここに飛ばされてるはずなんだがなぁ……どこに行ったんだか……」

 

「ここにいるってんなら、ますたぁ殿に聞いてみればわかるかもしれねぇな……よしいっちょいってみるか」

 

「おおそいつは助かるよろしく頼む」

 

「おうさ! この葛飾北斎未任せておきな!」

 

 そう言ってイッスンと葛飾北斎はカルデアの管制室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、件の白い犬――アマ公はというと? 。

 

「膝の上で寝てしまわれて、全く動くことができません……」

 

 道中で出会った少女、マシュキリエライトの膝の上で眠っていた。

 

 おお、我らが慈母アマテラス大神よ眠っておられるのですか! 。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

そそり立つもの

大奥のネタバレあり


 藤丸立香、マシュ・キリエライト、シオン・エルトナム・ソカリス、ゴルドルフ・ムジーク、シェヘラザード、マタハリ、柳生但馬守宗矩、春日局、松平信綱、そして――殺生院キアラの尽力により、人理崩壊域徳川廻天迷宮 大奥を解決して数日が立った時だった。

 

 第四異聞帯 インドへと向かうためにダヴィンチをはじめとした技術者が虚数潜航艇シャドウボーダーの改良が完了するまで藤丸立香は英気を養っていた。

 これは、英気を養っていた藤丸立香が、聖杯に縁のあるとある少女を依り代にしたサーヴァント、カーマと呼ばれる神霊を召喚した日のことだった。

 

(…………)

 

「なにか聞こえる……? でも確か俺は寝たはずなんだけど……」

 

 

 何かの声が聞こえた気がして、立夏は目を開ける。

 だが目を開けているはずだというのにそこは真っ暗であった。

 

 ここはどこだろう?、藤丸立香は今日の記憶を思い出そうとする。

 

「確か今日はカーマを召喚して……トレーニングを……」

 

 その日召喚を終えた藤丸立香は、日課のトレーニングを行っていた。

 

「だけど、”トレーニングも結構だが、休息もしっかりとらなければいけないよ?”って、ホームズに言われて、トレーニングをほどほどにし早く寝たはず……てことはこれは夢?」

 

 トレーニングによる疲労と、彼を気遣ったマシュ・キリエライトが、リラックスや快眠に効果のある香を持ってきたことにより、快適な睡眠へと移行したはずだということを思い出した。

 

 眠ったはずの立香が声を聴くということは、誰かが起こしに来たか、あるいは夢の中で誰かの記憶を見ている時だけだ。

 だが、彼を起こしに来たというならば体を揺さぶるはずだろう、だが藤丸立香に揺さぶれている感覚はない、ならばここは誰かの夢の中ということになるのだが……

 

「んーダメだ」

 

 辛うじて自分が立っているということはわかるのだが、首を動かしたり歩き回ったりしても、明かりがある場所を見つけることはできなかった。

 

(……)

 

「これは……もしかしてさっき聞こえた声?」

 

 しばらく立っていると、先ほど聞こえた声が再び立夏の耳に届いた。

 

「……行ってみるか」

 

 この状況を打破するものが何もない立香は、声の聞こえる方向へと歩いていくことにした。

 進めど進めど暗い闇の中、立香が歩いていくと途中何かを通り抜けた感覚が立香に走ると世界が変わった。

 先ほどまで真っ暗だった空間だが、とある一点だけ、天から降りる光によって照らされていたのだ。

 遠目でわからないが、その光の下には何か動いているように見える。

 立夏がその光を目指し、一歩、また一歩と近づいていくと、その蠢くもののが何なのか見えてきた。

 

「なに……あれ……?」

 

 それは、逞しくそそり立つものだった。

 緑色の体、何かを模したような細い触手、明らかな殺意が見える戦車(チャリオット)

 そして、その存在は……男性のとある場所にとても類似していた。

 その存在は立香に気づいたようで、ゆっくりと近づいてきた。

 血数いてきたその存在は、驚きで動くことができない立香を気にすることなく話しかけてきた。

 

「おー何らかの縁でワシとつながっているようだな! 若者よ 喜ぶがいいワシと縁が結ばれたということは、ワシほどではないがさぞご立派なものになるだろう ワシとの縁はそのような効果もあるのだ。 うれしいだろ? これでお主が気になる女子(おなご)もイチコロというわけよ!」

 

「えっええ……」

 

 ダムが決壊した無図のごとくマシンガントークでしゃべるその存在に立香は圧倒されるばかりであった。

 

「あっあの……あなたは?」

 

 だが、いままでのサーヴァントとの交友により鍛えられたメンタルによって、何とか勇気を振り絞りその存在に質問をする。

 

「お? わからんか? 今日、お前さんとワシは熱くつながったというのに!」

 

 その存在はそういった。

 

「今日……?」

 

 立香思い返すが、このような存在とつながったことは記憶はない。

 むしろこんな存在とつながることがあるのなら、立香でも全力で拒絶するだろう。

 

「ふむ、わからんか? ワシというご立派なものを見ても思い出せぬと? ……しょうがないならば名乗るとしよう。 我が名は魔王マーラである」

 

「マーラ……マーラ!?」

 

 マーラ。

 それは立夏が数日前に打倒した人類悪のことである。

 そこで立夏は思い出した、カルデアに召喚された神霊カーマはマーラという名を持って人類悪になったことを。

 

「もっもしかして……カーマと契約したから?」

 

「おお! その通りだ。 どうじゃ? ワシのようなご立派な魔王と契約できてうれしかろう!」

 

「ええ……」

 

 マーラはその体うねらせてそう言った。

 

「ま、まああなたと契約してしまったことは置いておいて、そろそろ俺起きたいんですけどどうすればいいですか?」

 

 立香そう聞くとマーラはこう言った。

 

「そうか、残念だが起きたいというのか…‥‥それならば問題は無かろう、もうすぐ迎えが来るだろう」

 

「迎え……? うっ」

 

 マーラが迎えが来るというと、立香の意識がゆがんだ。

 

「来たようだな」

 

 マーラがそう言うと立夏の意識は闇へと沈んだ。

 立夏が最後に見たものとは。

 

「黒い炎……?」

 

 何者かがマーラへと放った黒炎だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ」

 

 ノウムカルデアにあるマイルームのベットで立夏は目を覚ました。

 

「はぁ……夢か……」

 

 先ほどまで見ていたすさまじい光景を思い出し、立香はため息をついた。

 そんな立香のマイルームの扉が開く。

 立夏はマシュでもやってきたのかと思ったが、入ってきたのは、少し前に召喚したカーマであった。

 

「管制室へとお呼びですよー全くなんで私がこんなことをしなければいけないんですかー」

 

 そういうカーマを見ながら、立香はこう言った。

 

「カーマ」

 

「はい? なんですか?」

 

「来てくれたのが君でよかったよ……」

 

「急に何を言ってるんですか……気味が悪いです」

 

 

 立香の頭には先ほどまでのおぞましい光景が残っていた……。

 




ちなみに最後のシーンは、ポプテピのようにミシャグジ様を呼ぶ予定もありました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

物質電脳化都市 秋葉原 青の電脳戦士

「おかわりどうですか? 先輩」

 

「あっお願い」

 

「はい、ではどうぞ」

 

「ありがとうマシュ」

 

 第二拠点ノウム・カルデアのマイルーム。

 藤丸立香、マシュキリエライトは、来るべき第四異聞帯に備え、お仇やかな休息をとっていた。

 少し前に発生した事件、大奥にて第三のビーストの片割れを打倒し、無事カルデアの職員たちやサーヴァントたちを取り戻した後のことだった。

 立香たちが休息している間にも、シオンをはじめとする技術者によってシャドウボーダーの改造が行われていることは言うまでもない。

 

 替えの紅茶を受け取り、クッキーをお茶請けにしながら談笑すること数分語、マイルームへと一人のサーヴァントがやってきた。

 

「センパーイ! いらっしゃいますかー? いらっしゃいますよねー? てなわけでお邪魔しまーす!」

 

「おや、BBさん? どうかなさったのですか?」

 

 やってきたサーヴァントの名はBB。

 クラスはムーンキャンサー。

 いつの間にかカルデアへとやってきていた、いまだ謎の多いサーヴァントである。

 

「用というほどではありませんが。あっクッキーいただきますね、なんとなーくセンパイのほうへやってきたほうがいいかなぁーって、こう電波? 交信? 的なものがきまして、で、こうしてやってきたのですけれど何か変わったことはありませんでしたか?」

 

「はぁ‥…いえ、とくには」

 

「ですよねーじゃないとこんなにゆったりしてませんしねー……BBちゃんどうしちゃったんでしょうーか、よよよ」

 

 そう言いながら、BBは服の裾で顔を隠しながら泣きまねをしていた。

 しばらく鳴きまねをしていたBBであったが、

 

「もしかしてこれから何か起きるかもー? なんて」

 

 と冗談交じりにそういった瞬間であった。

 

「警報!?」 

 マイルームに警報が鳴り響いたのは。

 警報に続いて、シオンの放送がマイルームに響く。

 

『あーあー現在ここノウムカルデアにシステムに大規模なハッキングを受けています! マスターである藤丸立香、マシュ・キリエライトは至急管制室に来てくださーい! 大至急!』

 

 そう言うと、放送が消える。

 

「ハッキングって……」

 

「とっとにかく急ぎましょう! 先輩っ」

 

 立夏とマシュは考え事を始めたBBを置いて、急いでマイルームを出ていった。

 

「アトラス院の技術をハッキング? そんなのムーンセルか同じアトラスの技術でも使わなければ……っておいて行かれたー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藤丸立香来ました!」

 

「同じくマシュ・キリエライト到着しました!」

 

 立夏たちが管制室にやってくると、そこにはゴルドルフ新所長とシオンが待っていた。

 

「あれ? ホームズやダヴィンチちゃんたちは?」

 立香がいない二人に気づきシオンにそう聞くと

 

「お二人には、ハッキングが再び始まったときに瞬時に対応してもらうため別の場所で待機してもらってます」

 とシオンはそう答えた。

 

「それで、いったい何が起こっているというのかね!」

 

 ゴルドルフ新所長が落ち着かないようすで、シオンにそう促した。

 

「まぁまぁ落ち着いて、まずこれを見てくださーい!」

 

 そう言うとシオンは空中にディスプレイを投影する。

 そこには、悪魔のようなマークが映し出されていた。

 

「これは?」

 マシュがそう聞くと、シオンは硬い表情で答えた。

「ここをハッキングしてきた輩に対し、ハッキングし返した際に発見した画像です」

 

「ハッキングし返すって……」

 

「量子ハッカーですのでこれくらいはお茶の子さいさいというやつです! まあ、それは置いておいて、逆ハックした際に発見したデータはこれだけではありません、これを」

 

 次に映し出された画像は、青い物体へと変化した見知らぬ街の風景だった。

 青い物体には、光の線がが走っており、まるで機械に内蔵される電子回路のようだった。 

 だがそれ以上ぬ目立つのは、空に浮かぶ巨大な立法体の物体であった。

 

「あの……これは?」

 

「詳しいことは何も、このほかにもいくつかの画像データ、そして位置データが発見されました。 発見された位置データを調べてみた結果、日本のとある都市に特異点の反応が検出されました」

 

 シオンがそう言うと、日本列島を映し出す。

 特異点を示す光は、日本の首都、東京の秋葉原を指していた。

 

「特異点……!」

 

「はい!、というわけで、藤丸君には至急この都市へとレイシフト、特異点の排除をお願いしたいのです……大奥の疲れがまだ残っているかもしれませんが……行ってくれますか?」

 

 シオンは心配の表情を浮かべながら、立香にそういった。

 

「だいじょうぶですよ! しっかり休めましたし、今すぐにでもいけます!」

 

 立夏は笑顔でそう答えた。

 

「わかりました! ではいってみましょうか!」

 

 こうして立夏たちは特異点へとレイシフトしていった。

 

「まにあったー!」

 

 途中で到着したBBと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ……」

 

 立夏たちが向かった特異点の中心部に浮かぶ青い巨大な立法体の内部。

 そこに、眼帯をした長髪の男がいた。

 男の手には、岩のような様なものが握られており、その目はとあるものに向けられていた。

 

「もうすぐだ……もうすぐだ……光熱斗、そのナビロックマン。 この世界のすべてを電脳物質へと変化させ、あの月の形をした惑星規模の超巨大コンピューターと一つになることができれば……ふふふハーハハハハハ」

 

 男の高笑いがあたり絵と響き渡る、男が向く場所にはとある存在が居座っていた。

 まるで燃えるような赤い体、腕には腕輪が付いていて、その背中にはまるで羽のように六本の剣が存在していた。

 

「もうすぐだ……もうすぐだぞ……ネビュラグレイ!」

 

 ネビュラグレイ……そう名付けられた電子世界の怪物は、異界のテクノロジーを取り込もうとしていた……。

 かつてこの怪物を打倒したあの少年と青きネットナビはいまだおらず……

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幻想少女と最後のマスター

「ふう、なかなか勉強になった礼を言うよ紅閻魔」

 

「いえいえ、あちきも教え甲斐があって楽しかったでちよ」

 

 カルデアの食堂で、赤い礼装を纏ったの英霊と赤い髪に赤い装束の少女がいた。

 赤い礼装の男、エミヤと赤い着物の少女、紅閻魔がキッチンで会話していた。

 二人の顔は何かをやり遂げたようにすがすがしい。

 

「いやはやヘルズキッチン……なかなかの強敵だった……」

 

「エミヤ様は基礎をはじめとちた様々な技術が豊富でこちらも得るものが多くありまちたとても有意義な時間でちたよ」

 

「ふっ、そう言ってもらえるとは光栄だよ紅閻魔」

 

 そう会話をしている二人は、まるで長らく苦楽を共にした戦友のようであった。

 

「傍から見ているだけでも大変勉強になりましたね! 先輩」

 

「途中から何をやっているのかさっぱりだったけどね」

 

 その光景を傍らで見ていたのは藤丸立香とマシュ・キリエライトだった。

 彼らの前にはエミヤたちが作ったのだろう、和を中心とした様々な料理が並んでいる。

 だが、立夏たちだけが食べるにはとてもではないが食べきれない。

 

「これだけの料理は私たちだけでは食べきれませんね……」 

 

「いささか作りすぎてしまったようだ」

「でちね」

 

「……シオン達やほかのサーヴァントのみんなを呼んでこようか……」

「ですね……」

 

 

 立香とマシュは、シオン達を呼んでくるために食堂を出た。

 

「まずはシオンさんのところへ行ってみましょううか」

 

「シオンなら多分管制室かな? ……ってあれ?」

 

 そう言ってから、管制室へと向かう途中の時だった。

 突然立夏の意識がもうろうとし始めた。

 視界はぐるぐると回りだし、まともに立つことができずに座り込んでしまった。

 

「先輩!? 大丈夫ですか!?」

 

「なんだか……意識が……」

 

 だんだんと目蓋が閉じられていき、視界が暗くなっていく。

 ついにはマシュに寄りかかって倒れてしまった。

 

「先輩! 先輩!」

 

 叫ぶマシュを置いて立夏の意識は沈んでいった……

 

「クロスかぁ……」

 

 そうつぶやきながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スペルカードは3枚! で今日は勝負だ!」

 

「はいはい、わかったわよ」

 

 幻想郷と呼ばれる場所。

 そこは、忘れ去られた物や妖怪、さらには神などの人ならざる者たちが、移り住む最後の理想郷。

 境界を操る妖怪の賢者、八雲ゆかりと龍神と呼ばれる者をはじめとする者たちによって創造された隠れ里である。

 そんな世界の重要な場所、博麗神社と呼ばれる神社の上空に二人の少女が飛んでいた。

 金色の髪に大きな帽子、さらには箒にまたがって空を飛んでおり、さながら物語で出てくるよ魔女のような少女。

 対するもう一人は、頭に大きな赤いリボン、脇を露出した独特な巫女服、その手にはお祓い棒を持っている赤い少女だった。

 

「そんじゃまずは私から行くぜ! スペルカード!」

 

 そう言って金髪の少女は星のマークが刻まれた一枚のカードを取り出した。

 

『魔符 ミルキーウェイ』

 

 金髪の少女がカードに書かれた名前を宣言する。

 すると、彼女を中心とした場所から星型の光が現れ、螺旋を描きながら巫女服の少女へへと向かっていった。

 

「いきなりスペカとか飛ばしすぎでしょ……」

 

 巫女服の少女は、やってくる弾幕とも呼べる光をの隙間に身を滑らせて、または巫女服の少女の横に引っ付くように浮遊する黒と白の陰陽模様の球状の物体から発射された球で打ち消したりして避けた。

 巫女服の少女が30秒ほどそれを続けると、時間切れなのか弾幕が消えた。

 

「さすが霊夢! かすりもしないか、じゃあ次はこれだ!」

 

 再び金髪の少女がカード取り出す、それと同時にかぶっていた大きな帽子から八角形の形をした茶色の物体を取り出す。

 八角形の物体の中心には、霊夢と呼ばれた少女の真横に浮遊する球状の物体と同じく陰陽の模様が描かれていた。

 

「連続してスペカって……ほんと今日は飛ばしてくるわね、いつもはしばらくは弾幕を放ってから使ってるのに」

 

「へへ、今日はなんだか調子がいいんだ! もしかしたら今日は私が勝つかもな!」

 

「はいはい、寝言は寝てから言いなさい」

 

「む……よーしそこまで言うなら賭けでもするか? 私が勝ったら霊夢、お前が隠してるあのお酒で夜飲む!」

 

「はぁ!? 勝手に決めないでよ!」

 

「もしかして勝つ自身がないのか~?」

 

「やってやろうじゃない! けど”魔理沙”! 代わりに私が勝ったらあんたの秘蔵出しなさいよ!」

 

「別に構わないぜ! なんだって今日は私が勝つんだからな!」

 

 そう言うと、魔理沙と呼ばれた少女は先ほど取り出した八角形状の物体を自身がまたがっている箒の穂先に埋め込み、箒の柄を足場に立った。

 その姿はまるで海にいるサーファーのよう。

 そのまま魔理沙は、先ほどと同じようにカードに描かれた名前を宣言する。

 

『彗星 ブレイジングスター』

 

 宣言と同時に、箒の穂先に埋め込まれた八角形状の物体から白いレーザーが噴き出した。

 

「行くぜ!」

 

 さらに魔理沙は光を纏って一筋の先行となり、星形の弾幕周囲へとばら撒きながら魔理沙は霊夢へと一直線に迫った。

 

「よっと」

 

 迫りくる魔理沙を霊夢は紙一重(かみひとえ)で避ける。

 魔理沙は霊夢の真横をすり抜けていくとぐるりカーブの軌跡を描きながら再び霊夢へと突進し返してきた。

 

「いつもと同じなら簡単によけられるわよ!」

 

「それはどうかな?」

 

 そう言うと魔理沙は穂先でふかしているレーザーを、さらに太くし急加速した。

 

「何!?」

 

 急に加速した魔理沙に驚きながらもなんとか躱す霊夢。

 通り過ぎていった魔理沙は再びカーブし、霊夢へと迫ってくる。

 霊夢はよけようとするが、周りを星形の弾幕で埋められ、逃げ場はなくなっていた。

 

「調子がいいというだけあるわね……ならこっちも!」

 

 霊夢は魔理沙も使用したスペルカードを取り出した。

 カードには魔理沙とは違い陰陽マークが刻まれている。

 

『夢符 封魔陣』

 

 霊夢が手に持つお祓い棒を振ると大量のお札型弾幕現れる。

 現れたお札は星形弾幕を打ち消しながら、迫りくる魔理沙に襲い掛かる。

 魔理沙に迫るお札は、魔理沙に張り付きその動きを止めようとする。

 だが、遅くすることには成功するがその動きを止めるには至らなかった。

 

「わあお……いつもならこれで止まるのに」

 

 それでも時間を稼ぐことには成功していたようで、スペルカードが解除された。

 

「ちぇっ時間切れか。 ならこれで決めてやる! 恋符マスター……」

 

「ちょっと待った! 魔理沙」

 

「ってなんだよ! これからって時に」

 

 魔理沙は、穂先に埋め込んでいた八家系の物体を取り出し、霊夢のいる方向へと向け、スペルカードを宣言しようとしたが、突然として霊夢が叫び静止させた。

 

「上から何か来る……」

 

「何かってなんだよ、宙はこんなにも真っ青で雲一つないんだぜ? 雨が降るわけじゃあるまいし」

 

「私の感よ」

 

「おおっとマジかよ……」

 

 霊夢の言葉に、魔理沙は顔を引き締める。

 霊夢の言う感というものは、どうやら彼女にとっては十分すぎる説得力だったらしい。

 

「来るわよ!」

 

 霊夢がそう言うと同時に、彼女たちの飛んでいる高さから少し上あたりの空が突然()()()

 裂けた空の奥には多くの目玉がこちらをのぞいており、切れ目の端には赤いリボンが結ばれているように見える。

 その中から、何かが落ちてきた。

 それは人型の物体だった、というか人そのものであった。

 

「人!?」

 

「驚いてる場合じゃないわよ! 私が減速させるから受け止める!」

 

 驚く魔理沙に指示を出しながら、霊夢は先ほどまで使っていたお札とはまた違ったお札を取り出す。

 取り出したお札を落ちてくる人間へと向けて放つと、放たれたお札は落下してきている人間に張り付いた。

 お札が張り付いた人間は、その落下速度をゆっくりと緩めながら魔理沙のほうへ落ち、お姫様抱っこできゃちした。

 

「っと、なんか腕のほうに大きな魔力を感じるけど魔法使いかなぁ……この男の人」

 

「気絶してるみたいだから私の神社で介抱するわよ」

 

「はいよ、はぁ……酒はお預けかぁ……」

 

 霊夢と魔理沙は落ちてきた男を連れて下にある博麗神社へと降りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うーん」

 

「おっ! 気がついたみたいだぜー! 霊夢」

 

 博麗神社の縁側で寝かされていた男……藤丸立香は意識を取り戻した。

 

「ここは……」

 

 立香は身を起こすとそばには魔女のような姿をした金髪の少女、霧雨魔理沙が座っていた。

 

「気分はどうだ?」

 

「大丈夫……ええと君は?」

 

「私の名前は霧雨魔理沙 普通の魔法使いだぜ!」

 

「魔法使い……?それって魔術師ってこと?」

 

「まあ、そうともいうな! というかあんたもそうだろ? 手にそんな魔力の塊があるし」

 

 魔理沙は立夏の手にある赤い刺傷を指さして言った。

 

「いや俺は魔術は……」

 

 立香そう言おうと瞬間、ふすまを開けて巫女服の少女がやってきた。

 その手には陶器製のコップが握られている。

 

「お、来たか。 こいつは博麗霊夢、ここ博麗神社の巫女さんだ」

 

「勝手に自己紹介しないでよ魔理沙」

 

「なんだよこっちのほうが早いだろう?」

 

「はぁ……まあいいわ それで、あなた名前は?」

 

「俺? 俺の名前は」

 

――藤丸立香です。

 

 

 こうして幻想の楽園の住人と人類最後のマスターは巡り合った。

 この出会いは幻想郷、ひいては人類最後のマスターに何をもたらすのか……それはまだ誰にもわからない。




「幻想郷……?」

幻想郷にて巡り合う、幻想の少女たちと人類最後のマスター

「聞いたことがあるでち 確か神秘が薄まる現代で日本の化生たちが最後に行きつく場所だと」

 特異点や異聞帯とはまた違った世界で人理最後のマスターは歩き出す

「アタイ行ったら最強ね!」

 霧の湖の氷妖精

「あなたの運命はどうなるのかしらね……」

 運命を操る赤い館の吸血鬼

「切ってみればわかることです!」

 半人凡例の二刀剣士

「その儚き命で……私を楽しませてね?」

 迷いの竹林に住む月の姫

「南無三!」

 寺に住む魔法使いの僧侶

「さあ! 神遊びを始めよう!」

 もう一つの神社に住む祟り神

「あなたの心には恩讐の炎に焼かれながらも守る優しい影が住んでいるのですね……」

 旧地獄に住む悟り妖怪

「あなたがコンテニュー出来ないのさ!」

 狂気にとらわれる吸血鬼の妹

「さっ異変解決と行きますか!」

「はぁ……お茶飲んでゆっくりしていたいわ……」

 楽園の巫女と普通の魔法使い

そこで人最後のマスターはどのような人物たちと出会うのか

「どこでだって変わらない、俺は自分のできることをするだけだ!」

 それはどこかで語られるだろう……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一幕、カルデアの食堂にて 博麗霊夢

「肉じゃができまちたよ、次の注文は何でちか?」

 

「天むすだそうだ! 紅先生!」

 

「了解でち!」

 

「相も変わらず生が出るわねー、閻魔って名前のやつは真面目じゃないとだめってルールでもあるのかしら?」

 

 カルデアの食堂で、ゆったりと緑茶をすする少女がいた。

 大きな赤いリボンに脇を露出した紅白の巫女服という奇抜な服装をした彼女の名は、博麗霊夢。

 ここカルデアに、サーヴァントとして呼ばれた少女だ。

 まぁ、正確に言えばサーヴァントではないのだが、それは置いておくとしよう。

 そんな彼女にしゃべりかける影があった。

 カルデアの制服に身を包んだ青年である。

 名を藤丸立香、カルデアに存在する唯一のマスターである。

 

「ん?、霊夢がいたところにも閻魔様がいたの?」

 

「ええいたわ、めんどくさい奴がね……」

 

 眉をひそめながら霊夢はそういった。

 

「霊夢がそんな顔するってことは、そんなに?」

 

「ええ、会うたび会うたび説教されて大変だったわ……」

 

 霊夢はそのことを思い出したようで、うんざりした顔になっていた。

 そんな霊夢のもとに、調理場で料理をしていた赤髪の少女がやってきた。

 紅閻魔と呼ばれるセイバーサーヴァントである。

 

「おや、幻想郷の閻魔様の話でちか? 興味ありまちね、あちしも聞いてみたいのでちが、いいでちか?」

 

 やってきた紅閻魔の顔は、興味津々なようだった。

 

「紅閻魔さん、もう食堂のほうはいいの?」 

 

 急にやってきた紅閻魔に立夏がそう聞くと

 

「エミヤ殿と変わってきまちた」

 

 紅閻魔はそう答えた。

 

「それで? 幻想郷の閻魔様はどのような方だったのでちか?」

 

 紅閻魔にせかされて霊夢は話始める。

 

「名前は四季映姫・ヤマザナドゥ。 能力は……白黒はっきりつける程度の能力だったかしらね」

 

「程度の能力って霊夢の空を飛ぶ程度の能力みたいな?」

 

「そ、幻想郷のやつは大体能力を持ってるわ、で、映姫の能力は名前の通り白黒をはっきりつける能力のこと」

 

「白と黒?」

 

「いいか悪いかって意味よ。で、自分の中に絶対の基準があるらしくて、地獄の裁判では浄瑠璃の鏡と合わせてすぐに判決が出るそうよ」

 

「すぐに判決が出るということは、幻想郷では十王裁判はしないのでちか?」

 

「あー幻想郷ではしないらしいわよ? なんでも映姫の決定は絶対だからって三途の川の橋渡しのサボり魔の死神が言ってたわね」

 

 霊夢の脳裏には、三途の川のほとりで眠る死神の顔が浮かんでいた。

 

「死神がサボりとは……幻想郷の閻魔様は苦労されているでちね……」

 

 霊夢の言った死神のことで紅閻魔は呆れている。

 

「幻想郷ってところは平和そうだね」

 

 立香は霊夢にそう言った。

 霊夢は少し考えてから答える。

 

「うーん……平和っていえば平和だけど、たまーに面倒ごとを起こす奴らが多くてねぇ……解決する身にもなってほしいっての」

 

「へぇ~どんな人たちがいるの?」

 

 立香は幻想郷で騒ぎを起こす者たちに興味を持ったようで、霊夢にそう聞いた。

 すると、霊夢は顔を少ししかめながら口早に答えた。

 

「そうねぇ……紅魔館の吸血鬼でしょう、白玉楼の亡霊に妖怪のところにある早苗んとこの神社。ほかにも旧地獄のヤタガラスに鬼、妖怪寺とか……あと不良天人とか、色々いてほんとに大変なのよ」

 

「吸血鬼に幽霊に神の使い、亡霊に天人……幻想郷とは本当に様々の者たちがいるようでちね」

 

「ほんとに大変なのよ、この間だって、吸血鬼のレミリアのやつがまた異変を起こそうとしたりして……」

 

 霊夢が幻想郷でのことを語り始めると、やれ吸血鬼が、やれ天人がと、その口は止まることを知らず、そのまま十分ほど話し続けた。

 

「それで天使のやつが……って何笑ってんの立香!」

 

 途中、霊夢の話を聞いていた立香が笑っていることに気づいた霊夢は立香に詰め寄った。

 立香は少し身を引きながらこう答えた。

 

 

 

 

「いやだって、霊夢楽しそうだったから」

 

 

 

 立夏の言葉に霊夢は口をひらき、一瞬ぽかんとした顔になった。

 

「は? 楽しそう? 私が? いや……いやいやいやそんなことないわよ!? だってあいつらのせいで私がどれだけ疲れたことか!」

 

「でも、嫌いじゃあないんでしょ?」

 

「そんなわけないでしょ!? 大っ嫌いよあんな奴ら!」

 

 霊夢がそう否定すると紅閻魔が

 

 

 

「嘘、でちね」

 

 

 

と霊夢の言葉を否定した。

 

「嘘じゃないわよ! 私のゆっくりとした時間を毎度毎度ぶち壊すのよあいつら」

 

 否定された霊夢は口早に弁明する。

 

「この紅閻魔に、嘘は通じないでちよ? でも、このあちきでなくともすぐにわかったことでちょう」

 

 だが、嘘を見抜く紅閻魔は、真実を看破する。

 紅閻魔の名の通り、閻魔の前では嘘は通用しない。

 

「そうだよ、だって霊夢そんなこと言ってるけど――笑ってるじゃないか」

 

 霊夢の顔は先ほど話始めたときとは打って変わって、頬を緩めていた。

 

「はぁ!? ななな、なにを言って」

 

「だって、ほんとうに嫌いだったら、笑いながら話続けられないでしょ? 十分も」

 

「ぐっ」

 

 押し黙る霊夢に、紅閻魔が追撃をする。

 

「嫌よ嫌よも好きのうちってことでちね」

 

「んぐ!?」

 

「こういうのをツンデレっていうのかな」

 

「ぐお!?」

 

 怒涛の立夏と紅閻魔の言葉に、霊夢は机に突っ伏しプルプルと震えていた。

 

「あれ? 霊夢?」

 

「どうしたでちか?」

 

 何も言わなくなった霊夢に、二人が心配の声をかける。

 何かあったのかと二人が思う中、突如として霊夢は叫び声を上げながら立ち上がった。

 

「ああああああああああああ」

 

「うわ!?」

 

「なにごとでちか!?」

 

 二人が驚き戸惑う中、霊夢は二人を置いて足早に食堂から出ていってしまった。

 ……顔を真っ赤にしながら。

 

「悪いことしちゃったかな?」

 

「でちかね」

 

 

 

 

 

 

 

 さて、これはカルデアでの安らぎの一場面。

 幻想の都よりやってきた少女と星詠みの最後のマスターの優しげな日常。

 楽園の素敵な巫女は、異邦の世界でもふわりふわりと空を飛ぶ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紅茶のrequiem 「エリセと私の出会い編」

「さぁて、いよいよラスボスと行きましょうか」

 

 布団をかぶり、その中でお菓子を食べながら携帯ゲーム機でゲームをする。

 それは、私にとって何事にも代えられない至福のひとときである。

 ゲームはとてもいい、15の年月を過ごしてきた私に潤いを与えてくれる。

 私と同年代であろう者たちは、外のコロシアムやテレビで血沸き肉躍るという戦いというものを見ているのだろうが私には関係はない。

 私にはゲームとお菓子、それと寝床さえあればそれでいいのだ。

 我ながら女として終わっている気がしなくもないが、まあ、いいだろう。

 ゲームの局面はいよいよハイライト、今まさに赤い帽子をかぶった髭の配管工のおっさんが、囚われたピンク色のお姫様を救うために、ラスボスである亀のような魔王を倒すというシーンだ。

 

「当たる当たる、あっぶなあと少しで死ぬとこだった」

 

 魔王の攻撃でおっさんが小さくなってしまって、あと一撃食らえばゲームオーバーという瀬戸際。

 私は意を決してボタンを押して魔王の攻撃をかわし、とどめを刺そうとした。

 その瞬間であった。

 私がかぶっていた布団が、引っ剝がされてしまったのだ。

 

「あっ」

 

 それに驚いてしまって、魔王の攻撃に当たってしまい、髭のおっさんは燃えてしまった。

 画面に映るはゲームオーバーの文字、軽く呆然とする私に男の声が聞こえてきた。

 

 「マスター、いい加減布団の上でお菓子を食べるなと何度も言っているだろう」

 

 視線をこえの方向へ向けると、華やかなエプロンを身に着けた、白髪の男が私の掛布団を手に持って立っていた。

 普通であるならば、仮にも女である私の部屋に勝手に入ってくるであろう男は犯罪者だろうが、残念だがこの男は違う。

 なぜなら、()()()()()()()()()()()()()()()() () 

 

「アーチャー! 今いいところだったのに何するのよ!」

 

「何度も呼び掛けたのに反応しなかった君が悪い、朝食ができた。 今すぐに部屋から出てきたまえ」

 

 アーチャーがそう言うと、ドアの向こうからいい匂いがやってくきた。

 私が、壁にかかっている時計を見るとその針は朝の7時30分を指していた。

 

「うっわぁ……ほんとだもう朝だ」

 

「はぁ……わかったのならば早く着替えたまえ」

 

 アーチャーはやれやれとため息をつく。

 ぶっちゃけため息をつきたいのはこちらなのだけど、夜通しやっていたせいで疲れているしおなかもすいているので、観念して着替えることにしよう。

 

「……はーい、じゃあ着替えるから部屋から出て行って」

 

「了解した、ああ」

 

「どうしたの?」

 

 部屋のドアから出ようとしたときアーチャーが立ち止まった。

 なんだろうか。まだ何か言われるのだろうか。

 

「マスター、下着はクローゼットの下の段に入れておいた。 いつものところには置いてはいないから気を付けたまえ」

 

 そう言うとアーチャーは部屋から出ていった。

 私は扉を閉めてからクローゼットの下の段を開ける。

 そこにはきれいにたたまれた下着たちが鎮座していた。

 今着ている寝間着を脱いで渡井は着替え始めた。

 ……冷静に考えると、長年暮らしているとはいえ男に下着を洗ってもらうのはどうなのだろうか?

 

「まぁ、いっか」

 

 着替え終えた私は、扉を開けてリビングへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 かつて戦争があったらしい。

 名付けられた戦争の名前は、聖杯戦争。

 魔術師と呼ばれる者たちが行ったらしい。

 らしいというのは、その戦争は私が生まれる前に行われたからだった。

 その戦争のおかげで、世界は再構成どこもかしこも大変なことになったらしいが、ぶっちゃけ私はどうでもいい。

 昔と今、どちらを優先するべきかなんて明白なのだから。

 さて、私とアーチャーはリゾート地であるここ、臨海都市《秋葉原》に存在する高級マンションの一室に住んでいる。

 住んでいる言ったけど、基本的には部屋でぐーたら過ごしているので引きこもりということになるのだろう。

 聖杯戦争の影響で、全人類の心臓には聖杯と呼ばれ者が宿っている。

 それは、全人類を老衰や遺伝子劣化、感染症、ウイルス、悪性腫瘍などを防止するとと共に不老不死の効果をもたらしたのだった。

 まぁ、不死といっても大きなけがを負えば死んでしまうのだけれど。

 それともう一つ、心臓にある聖杯はある効果を持っている。

 それは、サーヴァントと呼ばれる者たちを召喚することができるようになるという効果だった。

 

(でも……とても英霊って呼ばれる存在には見えないんだよなぁ……)

 

 アーチャーが用意してくれた朝食を食べながら思う。

 見事な包丁さばきでデザートであろう果物を切っているその光景は、歴戦の戦士というよりは書府のように見える。

 

――英霊

 

 英霊の座と呼ばれる場所に刻まれた超人、今から何年も何千年も昔を生きていろいろ成し遂げた存在のことだ。

 例えば、おそらく世界で一番有名な武器だろう聖剣エクスカリバーを振るった騎士の王、アーサーペンドラゴン。

 例えば、ウルクと呼ばれた国を治めた王、ギルガメッシュ。

 例えば、ギリシャの十二の試練と呼ばれる難題をこなしたヘラクレス。

 私が、英雄と呼ばれる存在を表す中で最初に浮かぶのはこの三人である。

 といっても主に私がよくやるゲームに出てくるという理由が一番強いのだけど。

 

「デザートだ」

 

「ありがとう」

 

 切ってくれた果物を食べる。

 みずみずしい果肉が私の口の中へと入っていく。

 アーチャーは私が食べ始めると、先ほど食べた朝食の後片付けを始めていた。

 ちなみに朝食は、トーストとサラダにスクランブルエッグ。

 

「さて、今日はどうするんだね? マスター」

 

 アーチャーが片付けながら私にそう聞いてくる。

 

「うーん、どうしようかな」

 

 またゲームをする? いやいや、アーチャーにまた何を言われるかわからない、彼は何というかゲームにも出てくるオカンと呼ばれる人なのだ。

 そんなことをすれば、きっと口からは止まらないお小言が来るだろう。

 ならどうしようか……そう思った時、私の脳内にある人影が浮かんできた。

 

「うん!決めた カレンさんのところ行ってみようか」

 

 カレン、その名前を出すとアーチャーは決まって少し顔をしかめる。

 何かカレンという名前に嫌な思い出もあるのだろうか。

 遅れて了承の返事が返ってきた。

 

「じゃぁ、いこっか!」

 

 片づけを終えて霊体化アーチャーと共に目指すは秋葉原中層部にある、繁華街から離れた場所の教室だ。

 

 

 

 

 

 

 

 教室につくと、そこには独特な服装の銀髪の女性が立っていた。

 教室の席に目を向けてみれば、空いた席がよく目立った。

 それでも椅子に座っている人たちの年齢は様々で、この教室があまり人気ではないことを示していた。

 ここで行われているのは旧人類史講座、戦争前の歴史とか間違ったこととかを学ぶ講座だ。

 といっても私の目的はこの講座ではない。

 ここの講師であり、この秋葉原を統治している管理AI、カレン・フジムラに用があるのだ。

 でも、最初ここに来た時に彼女の名前を聞いたアーチャーが何だかひどく驚いていたのはなぜだったのだろうか、いまだに教えてくれないのだが、まぁ、今は置いておこう。

 私は、元気よく挨拶をする。

 

「おはようございますカレン先生!」

 

「おはようございます、レイナさん。 今日もいつものですか?」

 

「はい」

 

「では、今日の講座が終わるまで近くで待っていてください」

 

「わかりました」

 

 私は少し離れた場所にある椅子に座った。

 すると、小声で霊体化したアーチャーの声がした。

 

(マスターは相変わらずゲームが好きなのだな)

 

「当り前じゃない、ゲームは人類が生み出した叡智の一つよ」

 

 小声でそう返す。

 そう、私の目的はいまだに知らぬゲームを知るということだ。

 というのも、カレン先生は昔の歴史だけではなく、それ以外の知識持っているのだ。

 そこには当然サブカルチャーの知識も存在する。

 それに目を付けた私は、たびたびカレン先生と雑談をしに来るのだ。

 

(平和でいいことだな……おや珍しい、彼女が遅れてくるとは……ん?後ろにいるあの金髪の少年は)

 

 アーチャーがそう言うと、教室のドアを開けてやってくる少女の姿があった。

 いつもなら一人でやってくる彼女なのだが、今日は金髪の少年と一緒だ。

 珍しい、来るたびに必ず彼女は時間通りに席に座っていたのに今日は少し遅れてやってきた。

 後ろに連れているあの金髪の少年が原因だろうか。

 彼女は慌てて席へと着いた、金髪の少年と共に。

 

(まっ私には関係ないか)

 

 そう思っていると、カレンさんの講座が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――これが、何気ない彼女と私の見えない関係であった。

彼女エリセと私レイナの道筋が交差するとはこの時夢にも思わなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俯瞰する端末

 可能性と呼ばれる物はそれこそ無限と呼べるものだ。

 あなたが右を選ぶ可能性があれば、その逆左を選ぶ可能性も存在する。

 ことこれについては考えること自体が馬鹿馬鹿しくなるだろう事柄だ。

 

 さて、そんな可能性という物は”あなた”という存在をどこかへと連れて行こうとしているらしい。

 ”あなた”の住む家にはゲーム機はあるだろうか? テレビゲームでも携帯ゲーム機でもスマートホンでも何でもいいが、”あなた”は何かしら電子的なものを触ったのだ。

 

 ”あなた”はその瞬間、自身の感覚がどこかへと飛んでいくという奇妙な感覚を体験したのだった。

 

 何かに”あなた”の視界がつながる。

 何かに”あなた”の腕の感覚がつながる。

 何かに”あなた”の足の感覚がつながる。

 何かのすべてに”あなた”の持つ外界認識機能が付与される。

 

 つながった視界が、近場にある鏡を使って今の姿を映し出す。

 

 

 何かは人型だった。 されど生き物ではない。

 何かは人形だった。 されど生身ではない。

 何かは無機物だった。 されど有機物ではない。

 

 

 

 ”あなた”が混乱するのは当然であり、”あなた”の精神衛生状態も悪くなる一方だろう。

 つながった腕と視界を使い、現在自身がいる場所を探索する。

 

 まず見つかったものは何らかの大きな機械、その次に見つかったものは何やら現代人が見慣れてはいないだろう言語で書かれた羊皮紙、ほかにはよくわからない機械などがそこら狭しと置かれていた。

 多少整理などはされてはいるが、”あなた”にはどう見てもごみ置き場か倉庫にしか見えない。

 

 四肢に力を入れると、ぐらりと視界が少し揺れながらもなんとか立ち上がることができた。

 少しばかり視界が高くなるが、あまり大きくは広がることなく、どうやら今の”あなた”の背はあまり高くない様だった。

 

 ”あなた”はこの場所から出ていくために扉を探し始めた。

 ここにはこんなにも者が置かれており、さらにはあまり埃も見えないところから考えて。今もなお使われているとそう思ったからだった。

 

 そして、度重なる苦労(ガラクタ)を越えて何とか扉を発見することに成功するのだが、”あなた”が開ける前に扉が開いた。

 

 開いた先にいたのはメガネをかけた紫が身の少女だった。

 手には束になった羊皮紙やコピー紙が束になっている。

 少女は驚いているようで、声が出ない様だった。

 その代わりというのか、少女の後ろからやってきていた同じく羊皮紙やコピー紙を持った男性が声を上げた。

 

「どうしたんだいマシュってなんだ君はー!?」

 

 ”あなた”のファーストコンタクトはこのような結果で終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで私のところに連れてきたのか」

 

 ”あなた”は男性と少女に連れられて、工房のような場所へとやってきた。

 工房には”あなた”が見たことのある絵からそのまま飛び出てきたのかと見間違えるほどの女性が立っていた。

 

「ああ、君ならこれが何なのかわかるだろ? レオナルド」

 

 男性は”あなた”を指さしてそう言った。

 

「ふーむ……たしかマリスビリーが考えていたプランにあったような……思い出した。 デミサーバント計画の前に考案されていたオートマタだったはずだよ」

 

「マリスビリーが?」

 

「ああ、だが生まれたものは一般人程度の霊基を受け入れられる程度のものでね。 とてもじゃないが私たちサーヴァントを受け入れるには役不足だったから、試験的に一体制作されただけで凍結された計画だったはずだよ」

 

「つまり……廃棄品ということでしょうか」

 

「そうだね。 マリスビリーの奴が処分するのを忘れていたのか、ほかの職員が忘れていたのかは知らないが、たまたま残ってたんだろう」

 

「そうか。 で、なぜその試作品が動いてるんだ」

 

「うーんそうだな、君ちょっとこっちに来れるかい?」

 

 レオナルドと呼ばれた女性が”あなた”に手招きをする。

 ”あなた”は怪しみながらも、ゆっくりとレオナルドのもとへと向かう。

 レオナルドは”あなた”がの前にまで来ると、”あなた”の頭の上に手を置いた。

 そしてレオナルドは、”あなた”には理解できない言葉を歌うようにつぶやいた。

 ”あなた”が自分の中を覗かれているような感覚を覚えながら一分ほど待つと、レオナルドはあたまから手を離した。

 

「軽く解析してみたが、どうやらどこからかこのオートマタにつながっているようだ」

 

「……ここ(カルデア)を探るためにか?」

 

 男性は、”あなた”を見ながらそう言った。

 どうやら男性は”あなた”をスパイか何かだと思っているようだ。

 ”あなた”は何とか弁明しようとするが、その前にレオナルドの返答が遮った。

 

「いや、どうやら違うみたいだ。ここ(カルデア)を探るなら真正面からくればいいことだ。 なにせ政府お抱えの組織なんだからね。 ほかに魔術師だったとしてもその線もなしだ。 ここに侵入できる程の魔術師ならこんなへまはしないだろう、精神や魂に防壁もなかったし。 だが、ここで一つ疑問生じるんだ」

 

「どういうことですか?」

 

「さっきなにかと繋がっていると言ったね? カルデアの防壁は簡単に破られるほどやわじゃないのは二人も知っているだろう。 だが、これは防壁なんて関係ないと言わんばかりにすり抜けてどこかと繋がっている」

 

 レオナルドは軽く興奮しているようだった。

 

「つまり、異世界とでも繋がっているとでも言いたいのかい?」

 

「ああ、今はそう言うしかないだろうね!」

 

 そう言うレオナルドの顔は満面の笑みだった。

 そんなレオナルドにあきれながらも男性が言う。

 

「楽しそうだな、レオナルド」

 

「そりゃあ楽しいさ、異世界の存在なんてめったに見れないんだよ!」

 

「だが、楽しんでいるとこ悪いが話を戻そう。 これは安全なのか?」

 

「さあ、それは本人に聞いてみるしかないだろう、 ね?」

 

 レオナルドは”あなた”に顔を向けた。

 

「君は一体どんな存在なんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これを持っていただけますか?」

 

 ”あなた”は少女、マシュ・キリエライトから資料の束を受け取り、彼女に次いで歩いている。

 あの後、彼らの話し合いの結果、マシュのサポートという形で作られたというオートマタという形で監視されることになった。

 もちろんそのまま動き回れるというわけではない、その証拠に”あなた”の首の部分には首輪が巻かれている。

 これにはもしマシュや誰かに危害を加えようとした瞬間に、”あなた”の魂を消滅させる呪いがかかっている。

 それを聞かされたのが首輪をつけられ後だったので、その時”あなた”は驚いていたが、すぐにしょうがないと考え直した。

 即処分されるよりはましだと考えたのである。

 

 その後、カルデアという組織の説明を受け現在に至る。

 世界……人理と呼ばれる物をを守る仕事だというが、スケールが大きすぎてピンと来ていないのが今の”あなた”の現状だった。

 

 カルデアの者たちも、似たような存在を時計塔と呼ばれる場所で見ているらしく、あまり気にも留めていなかった。

 

 そうこう”あなた”が考えているうちに目的の場所に着いたようだった。

 工房の中には、レオナルドともう一人ロマニがいた。

 

「ダヴィンチちゃん、頼まれていた資料持ってきました」

 

「ありがとうマシュ。 そこに置いておいてくれ」

 

「はい」

 

 マシュの置いた資料の横に”あなた”は次いで持っていた資料を置いた。

 

「それでは私はこれから訓練がありますので」

 

「ああ、がんばってきてくれ」

 

「失礼します」

 

 ”あなた”はマシュに続いて工房を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マシュたちが工房から出ていったことを確認した後、二人は話し出した。

 

「うまくいっているみたいだね」

 

「みたいだな、一時はどうなるかと思ったが何のこともなかった」

 

「そうだね、異世界の存在が少女と出会いよき友となり日常を歩ん行く、そうなってくれればいいんだけどね」

 

「ああ、それは何とも」

 

――ロマンのある話だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――回線切断

 

――これ以上の可能性を観測することは不可能

 

――第一から第七までの次元座標のロスト

 

――観測を停止します

 

 可能性の未来は、見知らぬ”あなた”によって委ねられた。

 世界をつなぐ(うた)が響く日は、そう遠くはない。




時系列はぐだがくる一年前ぐらい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再演回帰特異点 封神演義 風の操者

 遠い過去。

 とある存在と戦った者たちがいた。

 とある存在、その名は歴史の道標、始まりの人の一人――女媧。

 戦った者たち、その身に仙骨をと呼ばれる特殊な骨を持つ者たち――仙人と道士。

 

 千を越える年月をかけ、戦いは仙人たちの勝利に終わった。

 そして、仙人たちは神となり人とのかかわりを完全に立ち人の時代が訪れた。

 これこそ人と仙人が袂を分かった出来事である。

 

 そして、その大戦後いなくなった者がいる。

 

 名を、伏羲。

 

 周と呼ばれた国で軍師にして、仙界対戦の最大の功労者である太公望と金鰲列島に所属し、太公望たち崑崙山の仙人たちと戦った者である王天君の本来の姿。

 歴史の道標である女媧と同じく空からやってきた始まりの人の一人である。

 

 伏羲がいったいどこへと消えていったのか、それは崑崙の仙人たちも、天然道士の少年も、乗り物であった聖獣も知らない。

 真実は流れる風に消えて行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「うーむ」

 

 カルデアの管制室、そこに一人の女性が地球儀のような小さくなりながら立っている。

 その姿は世界的に有名な絵画、モナリザに酷似……いやその者とも言ってもいいかもしれないほど似た姿をしていた。

 彼女の名は、レオナルドダヴィンチ。

 モナリザを描いたその人であり、芸術から始まり様々なものに精通している万能の人であり、現在はサーヴァントとしてカルデアに呼ばれた英霊の一人だ。

 

 そんな彼女が巨大な地球儀のような物体、地球環境モデル・カルデアスを見ていた。 

 

「極小だが特異点反応がある……だが、これは一体」

 

 考え込むダヴィンチのもとに、やってくるものがいた。

 カルデアのマスターである少年藤丸立香と、デミサーヴァントの少女マシュ・キリエライトだ。

 

「来てくれたね二人とも、さて早速だがこれを見てくれ」

 

 カルデアスが動き出し、指定した場所を映し出す。

 映し出された場所は、現代において中国と呼ばれる場所だった。

 

「中国に特異点ですか?」

 

「ああ、時代は紀元前1046年。 殷王朝が滅亡し、周という国が生まれた時代だよ」

 

――周って昔の中国の?

 

「そうですね。 牧野の戦いという戦いが終わり武王という人物が周という王朝を起こした時代ですね」

 

「大きな戦いの後だから、サーヴァントを連れていればそれほど危険もないだろう。 だが、少しおかしなことになっていてね」

 

 

――おかしなこと?

 

「ああ。 特異点が拡大と縮小を繰り返しているんだ」

 

――大きさが安定していない?

 

「ああ、今までいろんな特異点を観測してきたが、このような特異点は初めてだ。 レイシフトは問題なく行えるだろうが、特異点の中はどうなっているかはわからない」

 

「それは……危険なのではないですか?」

 

 マシュが心配の声を上げる。

 

「おそらくは大丈夫だろう、マシュやほかのサーヴァントがついていくのだからよほどのことが無き限り問題はないはずだ。 それに、極小とはいえ特異点だ。 放っておけば人理に影響が出るかもしれないから修復しておいて損はない。十分に気を付けて行ってきてほしい」

 

――了解です!

 

「護衛には哪吒や玉藻についていってもらうことにする。 それじゃよっろしくー」

 

 そうして、立香たちは古代中国へレイシフト行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 立香たちカルデアが向かっている特異点のとある場所で、少年が岩に胡坐をかいて川に糸を垂らしている。

 竿は少年の体のようにうつらうつらと上下に揺れて魚を誘っている。 

 だが、泳ぐ魚が釣れることは無い。

なぜなら魚をつり上げるための餌はつけられてはいないし、針の形は真っ直ぐで釣れるはずもない。

 ならなぜこの少年は釣竿を手に胡座をかいているのか、それはこの形が彼の瞑想の形だからだ。

 

「……はっ、寝てしまっていたか」

 

 ……そのはずだ。

 少年は1度竿を引き上げると、もう一度軽く川に投げ入れた。

 

 

「さて、大物が釣れるといいのだがのう……」

 

 そう言って、また少年は瞼を閉じて瞑想を始めた。

 

 

 

 

 優しい風が吹く、それは彼の手によるものか、それともほかの要因(カルデア)のせいか。

 巡りし星は動き出す、向かう先は歴史の道標を超えたその先に、人類最後のマスターと少年は出会う。

 その出会いの行先がどうなるのかは、あの傾国の美女ですらきっと分からないだろう。

――これは道が途切れた世界、決別の先、なまけたがりの軍師が導く物語だ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

周回は呼吸

こういうこと……?


 マスターの朝は早い。

 召喚室から日々現れる様々なサーヴァントたちのために、種火やスキル石を確保するためだ。

 マスターはまず種火を集めるために修練場へと向かった。

 

 修練場はカルデア驚異の技術力によって生み出されたシュミレーション機能により無駄に広大な森が展開されている。

 マスターは木々があまり生えていない小さな平野へと降り立った。

 マスターがそこににあらわれたしゅんかん木々の間から人の腕のような怪物たちが現れた。

 黎明の腕と呼ばれるそのエネミーはマスターを見つけると襲い掛かった。

 

「すぅうう」

 

 呼吸。

 エネミーが襲い掛かかっていた瞬間、マスターは普通とは違う呼吸を行っていた。

 呼吸によって体内の魔術海路に効率よくカルデアからの供給されている魔力を流していく、そして、矛でもあり盾でもあるサーヴァントたちの影を出現させた。

 

「周回の呼吸……一の型」

 

 現れる影は二つ、一つは小さな少女の姿。

 手には不釣り合いに見える斧を持った開拓者のサーヴァント。

 もう一つの影は、杖を持ったいかにも胡散臭そうな雰囲気を醸し出している魔術師のサーヴァント。

 

「お任せを、夢のように片付けよう」

 

 魔術師のサーヴァントが開拓者のサーヴァントに強化し、

 

「これが開拓者魂だー!」

 

 開拓者の少女が宝具を使用する。

 急激に巨大化した少女が空高く飛び上がりエネミーたちを踏みつぶす。

 

「カレスコマーリン」

 

 エネミーたちがが消え、代わりに輝く金平糖のような物体が現れる。

 マスターはそれらを回収すると、更なる種火を求めて奥へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 奥へと進んでいったマスターは、森の中にポツンと心材する小さな湖に集まっていた次なる獲物を見つけた。

 それは、少女が先ほど踏みつぶした腕のような複数のエネミーたち、それとその傍に立っている人型の影。

 削岩に使うドリルのような形をした剣を担いだ男性の姿だった。

 

「周回の呼吸……二の方」

 

 マスターはエネミーたちに見つかる前に再び呼吸を行う。

 先ほどと同じように召喚される影は先ほどの存在たちではなくその数も違った。

 現れた影の数は三体、鉄パイプに鎧といういびつな姿の騎士。

 残りの二体は、ドレスと識棒のような物を持った瓜二つの姿の女性だった。

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaa!」

 

「どれにしようかな」

「ふふ、こういうこともできる」

 

 二体の女性の影から紡がれた神代のルーンが鎧の騎士を強化する。

 鎧の騎士は高ぶる魔力を糧に宝具を起動させる。

 

「Arrrthurrrrrr!!」

 

 そして放たれるは騎士の宝具によって宝具へと変えられた現代兵器。

 一般的にはバルカン砲と呼ばれる物から無数の弾丸が放たれ、腕と影はハチの巣へと変えて消滅させた。

 

「スカスカスロット」

 

 マスターは先ほどと同じように種火を回収しながら、奥へ、さらに奥へと向かっていく。

 が、そこに空から声が響く。

 それはマスターがよく知る人物の声だった。

 

「先輩! そろそろボックスガチャのだそうですよ!」

 

「なん……だと……」

 

 マスターはその言葉を聞いたと同時に抱えていた種火を地面へとばら撒いた。

 

「こんなことしてる場合じゃない」

 

 マスターは急ぎシュミレーションを終了させ、自身のマイルームへと走った。

 目的はとある黄金の果実。

 それはマスターに力を与えるドーピングのような物。

 

「待っていろボックスガチャ……まだ周回の呼吸は残っているぞ、リンゴもだ!」

 

 マスターの周回は続く……



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。