小鬼のくせになまいきだor2 (スッパもいもい)
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第1話 偶発的遭遇

「GROOR……」

 今日も今日とて彼らは穴蔵暮らし。ジメジメと陰湿で腐臭で満ちるよくある洞穴。

 そこで彼らにとっての昼。つまり忌々しい太陽が沈むまで、棲みかであるよくある洞窟に潜む。

 人の子供程の背丈、肌は汚い緑色。あらゆる怪物の中で最も弱いとされるモンスター。

 ゴブリンだ。

 獣と比べれば脳ミソは発達しているが、およそ文明文化とかけ離れた暮らしぶりだが、数が揃えば社会や序列が生じるのは必然である。

 現にその穴蔵にいるゴブリン達を率いるのは他の同朋より頭が回るゴブリンシャーマンだった。

 動物の頭蓋骨を組合せた杖を持ち、頭には何の意味があるのか、皮の頭巾を被っている。

 そんな彼は何を思ったのか手にした杖でガリガリと地面を引っ掻く。円を書き、意味不明な模様を描く。

 神の啓発でもあったのか、召喚陣らしきものを描いている。

「GROORB!」

 満足したのか、彼はその出来の悪い魔方陣に向かって喚いた。

 召喚術は素人が見よう見真似で行える程簡単なものではない。天上世界にいる《真実》が振るうサイコロの出目も芳しくない、筈だった。

 

ーーその時、不思議なことが起こった!

 

 グラグラグラっと、四方世界の遊戯盤が揺れ、賽の目がコロりと変わった!

 《真実》と《幻想》が互いに顔を見合せ、サイコロの目を確認する。

 クリティカルだ。

 彼のゴブリンシャーマンの幼稚な儀式は、何の結果も出す事無く終わるはずが必然か偶然か、多次元の世界からある者を呼び寄せた!!

 カッ! と魔方陣が光り、エーテルが逆巻き唸りをあげる。

 突如の現象にゴブリンシャーマンも、その取り巻き達もこれにはびっくり。

 光が弱まったと思ったら一段と強い閃光を発し、ゴブリンの小さな体をよろめかす程の突風が走る。

 ゴブリンシャーマンが庇っていた顔をあげるとそこに在ったのは……。

 

 

 ◇◇◇

 

 ゴホゴホっと召喚された破壊神はまずむせた。 

 何なんだ一体? トレーニング部屋でコケ達をのんびり眺めていたら、まぁた呼び出された。また魔王が征服した世界を勇者達に奪い返されたのか?

 立ち上る煙を手でパタパタやっているうちに段々感覚が戻ってきた破壊神は顔をしかめた。

 臭い。尋常無く臭い。ダーク股ーを鍋で煮詰めた様な、鼻を通り越して脳まで直接突き刺さる様な悪臭!

 そして目の前には何やら小汚なく醜悪な緑色の生物が沢山。世界広しと言えどここまで醜い生き物はそうそうお目にかかれるモノではないぞ!

「GRAAAM! GOROOOB!」

 そのゴブリンシャーマンは何やら喚き、手にした杖をブンブンと振り、隅に転がる自分達が散々に弄んだ只人の女を指した。それに合わせて回りの奴らも騒ぎだす。

 破壊神は鼻を押さえながらげんなりした。

ーー召喚されし悪魔(デーモン)よ。この贄を喰らい我に服従せよ!

 奴らの言語(?)は理解できなくても、お互いに混沌の勢力に属している為か何となくニュアンスは解った。

 破壊神は早くも家に帰りたくなった。いきなり呼び出され、訳の分からないのに絡まれる。しかもそいつらはこの上なく不潔! 

 眼を閉じた破壊神の脳裏に前回呼び出した魔王の顔が浮かぶ。彼は実に紳士的で礼儀正しかったなあ、と改めて思った。

 だがそれに比べて今の状況はどうか。それを考えると何かムカムカしてきた。

 破壊神は手にしている鶴嘴を肩に担ぎ上げ、片方の手の中指を天上に向かい突き立てた。

ーーおぅ、ふぁっくゆー!

 するとゴブリンシャーマンは憤怒(?)の表情でギャーギャー叫ぶと手下をけしかけて来た。

 召喚主の言うことを聞かない奴はちからずくで従わせる、と言うことらしい。

 ズシンッと緑で巨体な怪物が進み出て拳を振り上げる。

 破壊神は知らなかったが田舎者(ホブゴブリン)は筋力特化型のゴブリンだ。その膂力はとかげ男に匹敵するかもしれない程だ。

 その拳がだいぶ大振りながらブンッと飛んでくる……その前に破壊神は動いた。

ーー□ボタンもとい、ツンツン攻撃を食らえ!

 手にした鶴嘴によるつつく攻撃! 威力自体は決して大したものではないが、破壊神による鶴嘴攻撃だ。

 つつかれたホブゴブリンはギャッと声を上げるや灰のように体の端からみるみる崩れ去っていく。

 養分が周囲に飛び散り土を肥やす。肥えた土は新たに生命を生み出し、または他の生けるモノを養うだろう。こうして世の中は循環していくのだ。

 破壊神はその神の眼で周辺の土を見やる。

 は? 養分が1しか増えてないんだけと?

 破壊神は戸惑った。あんなメタボおとこ並みに巨大だったのに、養分がこれだけってどう考えてもおかしい。

 試しに他の取り巻きの緑色達も何匹かつついてみたが、ダメだっ! 養分が1も溜まらん!

 破壊神が愕然とする中、この醜悪なカスのような生き物が悲鳴を上げる。

 とんでもない者を呼び出してしまった、大失敗と言う訳だ。

 破壊神は慌てふためく生き物を養豚場のブタを見る眼で見ると地上に向かい歩き出した。

 いくら破壊神でも養分が無い土からはどうやっても魔物を作れない。ましては彼はきれい好きだった。

 こんなばっちい所にダンジョンを造りたくない。誰だってそう思うだろう?

 そして、しばし歩くと破壊神は地上に出た。太陽の陽射しが暖かい。

 思えばダンジョンを造り、魔物を創造し侵入してくる勇者達を撃退しても、自分が地上を歩いた経験は無い。

ーー地上を散策するのも良いかもしれない

 世界征服(仕事)をしようと言う魔王も居ないし、いいよね! と勝手気ままに破壊神は歩き出す。

 破壊神()がこの四方世界に及ぼす影響を(破壊神)はまだ知らない。

 

 

 ◇◇◇

 

 爽やかな森の木漏れ日を浴びながら破壊神は上機嫌に歩く。先程まで不衛生な洞窟に居たから森の清浄さが嬉しい。

 ルンルン気分でスキップで進んで行くと、前から4人の少年少女達に出会った。

「うわぁ、いい歳した大人がスキップしてるよ……」

「ちょっとあんた、いくらなんでも失礼でしょ」

 鉢巻きをした若者を黒髪を束ねた胴着の少女が窘める。

 第一村○発見! 構成は男、女女女。……ぺっ!。

「あのさ、あんた。この辺の人かな? 聞きたいことがあるんだけど」

 話しかけてきた鉢巻きをした若者を破壊神は思わず二度見した。

ーーハジメ君!? ハジメ君じゃないか!

「えっ? ち、違います。人違いですよ」

 慌てて否定するハジメ君もとい鉢巻きをした若者。

ーーあっそう……それで? 

 近辺の人、ていうか人じゃないけどね。

「俺たち依頼を受けてゴブリン退治に向かうんだ。この辺りにゴブリンの巣があると聞いたけど、知ってるか?」

 破壊神は考え込む。ゴブリン。ゴブ、リン? ……知らない魔物ですね。

「は? ゴブリン知らないって何? あり得ないでしょ」

 そう言うは魔法使いのような杖を持ったとんがり帽子の眼鏡っ娘だった。

 おまえ初対面の人にそれはないだろ……。これがツンデレーなのか。

「誰がツンデレよっ!」

 ギャーとムキになるツンデレ娘を白い神官服を着た金髪の娘が遠慮がちに宥めた。

「まあまあ。えっと、あのですね。ゴブリンっていうのは緑色をしたーー」

 ああ、そういうことね。完全に把握した。てか、あの醜いのゴブリン言うのか。

 破壊神は先程まで居たゴブリンの巣穴の位置を教えた。

「ようしっ! 場所は突き止めた! 早速乗り込むぞ!」

 息巻く若者は言うや否やずんずんと歩き出してしまう。

「ああ、もう待ってよ!」

「ふん」

 と胴着の少女とツンデレ魔法娘が続く。

「えと、お話、ありがとうございました!」

 たっ、と駆け出す神官娘を破壊神は呼び止めた。先の3人とは違い、ちゃんと礼を言える善い娘には破壊神から贈り物をあげよう。

 懐から取り出すは一本の松明だった。

 かつて破壊神が造ったダンジョンに侵入してきた勇者が持っていた物だ。ダンジョンに入った瞬間、ニジリゴケコマンド部隊によるコケ地獄戦術で文字通り瞬殺にした後に回収したものだ。

「えっ、いいんですか?」

ーーいいの、五万とあるし。それに希望(あかり)は幾らあってもいいからね

 ダース単位で持ってく? と取り出すが、神官娘は顔を引きつった笑みでそれを辞退した。

 なんて謙虚なのだろう!

 頭目の若者の呼ぶ声に神官娘は、ペコリとお辞儀をし今度こそ駆け出していった。

 破壊神はその若人達の背中を眺める。

 

ーー慈悲深し豊穣の神よ、往く若人達に幸あれ(ハーレム羨ましそす)

  




何か勢いで書いてしまった。後悔はしてないが反省はしてる。
ところでみんなは「ゆうなま」好き? 自分はへたっぴだけど好き。

ツルハシ
 破壊神のツルハシ。むしろ本体? 穴を掘って、魔物を産む事が出来る。すごい。

松明
 トーチ。勇者の持ち物。灯りの側に居ると回復する。
 女神官に持たせたから彼女ら生存ワンチャンあるで。

ゴブリン
 養分魔分ともに無し。


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第2話 辺境の街からの

続いてしまいました……第2は投下です。短いですよ。


 


「ここは辺境の街です」

 破壊神が気の向くままに歩を進めていると市壁を有す街に着いた。門を潜り抜ける際、門番と思われる人に街の名前を聞いたらそのような答えが返ってきた。

 それ街の名前じゃなくね? と破壊神は思ったが、追及するのは野暮と言うものだろう。そういう仕様なのだ。

 あっさり検問を通った破壊神はメーンストリートを通り、広場に出た。辺境と名が付くものの街には活気があり多種多様な人の在り方に内心興奮が押さえられない。

ーー人間って勇者や王、姫以外にも沢山いるんだなぁ

 市場の露店を見て回るのも愉しいが先ずは腹拵えが先決と考えた破壊神は、その人離れした嗅覚をもって良さげな店に当たりをつけた。

 何の因果か、その店は冒険者ギルドにある酒場であった。

 ギルドの自在扉を開け、さも当たり前の様に建物内へ。適当な席につくとケモい女給が早速注文を取りに来た。

「いらっしゃいませーっ! 旦那! 今日のお勧めは水の街で取れた鮮度抜群のカワカマス! 仕込みも料理長(コック)の腕もバッチリさ! 一品どうよ!?」

ーーほうほう、ではそれを頂こう、あと何か酒と……

 破壊神は壁に掛けてあるメニュー表の右端を指差した。

「はぁーい! 炙り牛ですね」

ーー違うぞ

 へ? と首を傾げる女給を他所に破壊神はメニュー表を指している指を動かした、右端から左端へと。

 ここは冒険者ギルド内の酒場だ。体が資本の冒険者相手の客商売だから、必然と出す料理の量も一品一品多くなる。

 大剣背負う筋骨隆々の男もフリッテッラの大盛りを食べれば満足する程には。そんな労働者向けの品をすべて注文するとは……

 しかも破壊神はさも当然とばかりに、全部大盛りね、と言い放った。

 女給は破壊神の顔を思わず覗き込む。

 (うわぁ……マジだぁ)

 破壊神の狂気の瞳と眼が合った。

 

 ◇◇◇

 

 数時間後。

 ギルドの酒場の一角では、人だかりが出来てちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。

ーーげぇぷっ

 と破壊神は注文した最後の料理である子豚の丸焼きを完食したところだった。ピンっと小骨を弾き、数分前まで丸々としていた子豚の頭の骨にINさせる。

 わっ、と周りでは暇していた冒険者達が声を上げる。会話を聞くに完食出来るか賭けをしていたらしい。

「いやー! まさか本当に食べきるとはねぇ」

 厨房の方から出てきた女給が呆れ声を出す。

ーー出されたものは全部頂く。これ鉄則。

「限度ってもんがあるっしょ!?」

 破壊神は食べた食べたと腹をさする。八分目位かな。

「ところでお客さぁん……お勘定の方は……」

 女給は小声で心配そうに問う。

 破壊神は、どかりと袋をテーブルに置いた。中身は砂金の大粒だった。それも沢山。

 ひゃー、と変な声を出す女給と黄金に興奮する冒険者。

 過去のダンジョン製作中に出てきた宝箱の中身の一部だが十分な額だろう。さてと、それじゃあ……

ーーまたメニュー表の端から端まで、お願いするよ

 

 

 ◇◇◇

 

 飽きるまで食べ続けた破壊神は冒険者ギルドを後にした。充電完了。さて次はあの女給が話していた水の街にでも行ってみよう。何でも水路と何とか神の神殿が見事な造りなそうな。気に入れば今後ダンジョンの建設に役立ててもいいな、と期待に胸を膨らます。

 辺境の街を出て暫く歩く。和な風景だ。人の往来で踏み固められた素朴な道が続いている。

 何故か寄ってきた小鳥達と戯れながらテクテク歩いていると、鳥達が急に飛び去ってしまう。

 原因は明白。武装したチンピラが3人、破壊神を包囲したせいだ。

 破壊神はぐるりと首を巡らす。さっきの冒険者ギルドで見かけたような顔(というより装備が)がちらほらとある。

ーーねえ、退いてくんない? あんたら邪魔

「つれねぇ事言うなよ。俺達ちょーぴり、懐が寂しくてよ」

 恵んでくれねぇか。

 頭目らしい男が剣を抜きながらにじり寄る。

ーーはぁ? 寂しいのは手前の頭だろ。いくら破壊と創造を司っても育毛はちょっと……

「うるせえ! 野郎共っ。殺っちまえ!!」

 抜剣した男はそう叫ぶや仲間に号令を発した。

 ハゲの悪漢達が、襲いかかってきたぞ!

 破壊神は暇をもて余す神々の構えで迎え撃とうとする。

 

ーーその時、不思議な事が起こった!!

 

 空から火の玉が、火球(ファイヤーボール)が降ってきたのだ。

 着弾。周囲を巻き込みながら火柱が立ち上る。

 幸いに双方に直撃はしなかったのものの突然の事にビックリ仰天。特にチンピラ達の狼狽は酷かった。

「上! 悪魔(デーモン)だ!」

「くそったれ! どうしてこんな所に!?」

 空を飛ぶ悪魔……だと? バッ、と破壊神も上を向くと、そこにはコウモリの翼持つ人形の怪異が飛んでいた。 

ーー何だ、デーもんじゃないじゃないか……

「GARGLE!」 

 その招かざる客は雄叫びを上げながら乱入し、チンピラ達に対峙するように降り立つと同時にもう一発、ファイヤーボールを放った。

 口から飛び出した炎はチンピラの一人に直撃し、盛大に燃え上がる。

 うぎゃぁあああ! と絶叫し、踊るように暴れる只人。その断末魔の叫びは直ぐに聞こえなくなった。

「ひぃっ」

 敵わないと思ったのか一人が逃げ出す。その姿を認めた悪魔が本能か、はたまた残忍な本性故か、逃げ出した男を追いかけて襲った。

「ぎゃあああぁッ!」

 後ろから体当たりされ、押し倒された男は生きたまま悪魔に喰われる運命を辿った。

 仲間が次々とやられ、頭目の男は呆然とする。

 こんな筈では……金持ちの旅人を一人殺すだけの簡単な山賊業(しごと)の筈が……

 不意に背後で空気の動く気配がした。振り返ると、直ぐ近くに鶴嘴を大上段に振り上げ、三日月のような笑みをあげた破壊神がそこにいた。

 

 ◇◇◇

 

 ビッ、と脳天から鶴嘴を生やしている元頭目の男を振り払う。

 うへぇ、何かピンク色のカスが付いてる。えんがちょ!

 地面に鶴嘴を擦り付け汚れを拭き取っていると、食事を終えた悪魔が破壊神の前にやって来た。

 フゴフゴ、と鼻息を粗くし何か訴えかけてくる。

 ふむふむ。魔神王の復活とともに秩序の勢力に攻勢をかけるべく、魔神将なるものが戦力を集めていると。えっ? そこに破壊神も参戦しろって?

 え~っ、と破壊神はあからさまに拒否の表情を作る。

 オフの日に仕事を持ってこられたら誰だってこんな顔になるだろ。それにこっちは旅行中だぞ。

 目の前の悪魔はそんな破壊神を見て眉尻を下げた(そう見えた)。

 喉を鳴らし身ぶり手振り必死に破壊神を説得にかかる。破壊神を連れてこないと彼が仕置きとして殺されてしまうとかなんとか。世知辛いね。

 大きく溜め息した破壊神は渋々、諾と頷いた。

 悪魔はパッと顔(?)を輝かせ、善は急げとばかりに飛び立った。破壊神を足でむんずと掴んで。

ーーちょっ、こうやって運んで行くの!?

 気分はまるで猛禽類に狩られた野鼠の気分。

 思いがけない空の旅は案外悪くはなかった。

 




~没ネタ~
 村娘奪還の為に小鬼の巣穴を目指す白磁級冒険者達は、道中奇妙な旅人と出会い不思議な力が宿る松明を授かる。
 そして小鬼の棲みかを見つけ出し乗り込むが、その洞窟の中では小賢しくも小鬼の群れが待ち伏せをしていた!
 若者は長剣を振り回し奮戦するが包囲され袋叩きにあって致命傷を負ってしまう!!

鉢巻の若者「オレの最後の波○だぜ! 受け取ってくれぇーッ!!」

 その決死の覚悟に呼応するかの如く魔法の宿る松明はより一層燃え上がる!
 トーチは、○紋増幅器だった!?
 燃え盛る魔法の炎は、残された3人娘に力を与える。これにより娘達はパワーアップ! 怒濤の反撃に出る!
 神官娘は二本のバヨネットを振り回し、武道家娘が震脚をすれば大地は震え、魔法使い娘は人類最強の攻撃呪文を唱える!

神官娘  「前へッ! 前へ前へ! Amenー!!」
武道家娘 「七孔噴血……撒き死ねぃッ!!」
魔法使い娘「黒より黒く闇より暗き漆黒にーーエクスプロージョン!!」


ゴブリンシャーマン「(命が)ないです」
ゴブリンスレイヤー「(ゴブリンが居)ないです」
地母神ちゃま   「(私の信者がこんな娘なわけ)ないです」


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第3話 オーガの砦にて 前編

続きを投下します。


 上の森人(エルフ)の住まう巨大な森。そこから程ほどに離れた荒野にそれはあった。

 サイコロの様な四角の石製の入り口。そこから闇の底に続くのかと錯覚しそうなほどに暗い階段。奥からは滲み出る様な、まがまがしい魔力!

 ダンジョンだ。

 その最深部では世にも恐ろしい魔物が蠢いていた……

ーー♪~♪♪~

 破壊神は上機嫌に鼻歌を歌いながら鶴嘴を振るい地中を掘り進める。その後ろでは大量のニジリゴケがウヨウヨと動き回り、新設中のダンジョン内に隈無く養分を行き渡らせていた。

 ふぅっ、と破壊神は一息ついて、ここ数日間不眠不休で造り続けていたダンジョンを改めて見渡した。

 名付けて「神代風、地中に埋もれしタワー型ダンジョン」である。

 中々の渾身の出来と成りつつあった。対侵入者用の罠や殺し間は当然であり、さらに破壊神なりに新機軸を多数投入した。

 侵入者の平衡感覚を狂わす為に建物全体が微妙に歪んでいたり、柱には20本の溝が縦に走り、やや膨らみを帯びたドリス式円柱を採用! 巨大鉄槌(ストレンジハンマー)が無くとも柱を即席の武器に出来る敵味方に優しい素敵仕様! さらに壁には来訪者を飽きさせない為に神話風創作壁画を全面に描き込み、極めつけは吹き抜けになっている塔型ダンジョンの天井部分は石材であるにも関わらず、なんということでしょう! 月光が透き通るではありませんか! これにはどんなお客様も思わずニッコリ。

 そして最深部の大広間には台座があり、聖剣よろしく鎮座するは破壊神の二つ目の鶴嘴。

 腕を組みをし満足げな破壊神ではあるが、そもそも何故混沌の手勢と成り果てたのかというと、それは数日前に遡る。

 

 ◇◇◇

 

「貴様が破壊神とやらか……」

 破壊神は下っ端悪魔に連れてこられ、悪魔の軍勢の野営地にやって来た。そこの悪魔兵団を従える指揮官と面会する。

 自らを魔神将と名乗る、これまた悪魔が重々しく口を開いた。

 角と尾を有した大きな人型の悪魔だ。鼻と口は大きく、長い髭を伸ばしている。

 何故か全裸だ。ブラブラしてるし…… 

 なんだか便所がとても似合う様な気がする。

 破壊神は目を背けながら頷いた。

 魔神将とやらは破壊神をじろじろと観察し「予言は……」とか「魔神王様の神託の通り……」などと意味不明なことを呟く。

ーーそれで? 用件は何?

 強引に連れて来られた上に、茶の一杯も出ない塩対応に破壊神は不満が溜まり、ちょっと荒いしゃべり方だったのだが、案の定、その態度を見咎めた鬼のような怪物が声を荒げる。

「貴様! 魔神将様に向かい、何たる口の聞き方!」

 濁音混じりの野太い声だ。聞き取りづらい。

「良いのだ、人喰い鬼(オーガ)よ。それで用件だったな。単刀直入に言うが、其の方、我らに助力せよ」

ーー続きを聞こうか

 大仰に頷き、魔神将が語り始めるが破壊神は早くも後悔した。

 この魔神将の主君である魔神王の武勇伝から始まり、如何に素晴らしいかを小一時間に渡り話し続け、ようやく現状に移ったかと思えば、これまでの秩序の勢力への戦いの歴史を語りだし、結局、話が終わったのは太陽が2度沈んで月が夜空に登りきってからだった。

 破壊神は周りに助けを求めようとしたが、魔神将の部下達は混沌の勢力にあってはならないほどの純粋の瞳でうっとりと魔神将の語りを聴いていた。

 駄目だ……考えることを放棄している……

 破壊神の忍耐力は置いといて、話しの内容は詰まるところ世界征服に協力しろという事だった。

 案の定というか、何というか……

 つーか、この魔神将、話長過ぎ。混沌勢が秩序勢に勝てない原因の一端が見えた気がする。要するに無能なのだこいつらは。

 所詮は前時代的なTRPG勢。RTA勢である破壊神とは情報処理能力や、そもそもの格が違うのだよ。

「無論、我らに力を貸せば褒美をやろう。これだ……」

 魔神将が指をぱちんと鳴らすと、部下が恭しく箱に納められた何かを持ってきた。

 破壊神は興味無さげにそれをちらりと見るや、クワッと目を開いた。

 程よい太さと長さを備える木の棒の先端を二つ割りにし、その間に青色の鉱石をはめ込み縛り付けたシンプルなピッケル。珍しいと言えば珍しいが、余程の奇特な好事家以外では見向きもしなさそうなそれ。

 だが破壊神は。破壊神だからこそ、その真価を一目で看破した。

ーーそっ、それはもしや、マカネコピック!?

 マカネコピック。それは次元の異なる世界の猫型の獣人が使用しているというピッケルだった。

 破壊神は思わず走り寄り、ワナワナと震えた手でそのピッケルを宝石でも触るかの様な慎重な手つきで触ろうとするが魔神将がそれを阻んだ。

「返答は如何に」

ーー我が真名にかけて! 魔神王様のお役に立てるよう粉骨砕身尽力いたしますっ!

 魔神王万歳。秩序死すべし、慈悲は無い。サツバツ!

「宜しい。其の方に期待するぞ。それでは受け取るがよい」

 許可が出るや否や破壊神は引ったくる様にピッケルを受け取り、感嘆の溜め息をもらす。

 その様はまるで恋した乙女のようだっだ。きもい。

ーーまさか、四方世界(こんなところ)で御目にかかれるとは……柄は樹齢600年を越えるバルテックオーク、人体工学に基づき枝を厳選された上、丁寧に最上級のオイルで塗装されている……そして半透明の覚めるかのような蒼色のマカライト鉱石……はっ!? ピックとブレードの部分の鉱石は研磨加工されている様に見えその実、採石された未加工の状態のまま使っているだと……

 ぶつぶつ、と破壊神は頬を上気させ、舐めるようにピッケルに釘付けだ。

 破壊神はこのピッケルに出会ったことを天上界の神々に感謝した。

「早速ではあるが、其の方に成してもらいたい任を与える」

ーー何なりと

 破壊神は神妙な顔で魔神将の前に跪く。

 魔神将は大きな顔を近づけた。

「秩序勢の背後を突け」

 

 ◇◇◇

 

 破壊神は懐から羊皮紙を取り出す。魔神将から受け取った指令書だ。内容は、秩序の勢力である連合軍への総攻撃に先駆けての破壊工作兼陽動。

 秘密裏に只人の王都を大きく迂回潜入し陣地を構築、時が来るまで可能な限り軍事力を溜め込み、作戦開始時刻と同時に全軍出撃。連合軍の補給線を叩く。つまり食料を生産する街や村を手当たり次第に襲い、連合軍の補給物資と士気を奪うのだ。

 破壊神の役目はその陣地を構築する事だ。

 計画ではこの拠点は後に森人の領域を攻め落とす前線基地となる為、要塞陣地にするのが望ましいとの事。

 敵方にばれない様に秘密裏に、しかし大規模の拠点造りは確かに破壊神しか出来ぬであろう仕事だ。

 適材適所という訳だ。ついでに軍も自前で揃えましょうかと魔神将に進言したところ、戦力はこちらで用意すると言っていた。何でも経験豊富な指揮官も派遣するとか。

 魔物の管理は繊細で難しいし、その分ダンジョン造りに時間を割けるからそれはそれで都合がいいと破壊神は思った。

 しかしッ! 指示された事しか出来ない、気が利かない男(?)では破壊神は務まらない!

 混沌勢力の、ひいては魔神王に貢献できるように破壊神は知恵を巡らせた。

ーーそうだ! 計画の第2段階である森人の制圧が容易に進むように仕掛けを施そう!

 しかし、新参者の破壊神が多大な功績を挙げれば、出る杭は打たれる事になるだろう。それを避けつつ、しかし戦果を挙げるためには……

 しばし考えて閃いた。そして破壊神は自分の発想に戦慄した。きっと政略家の才能があるのだろう。

 思い立ったら吉日。破壊神は即座に行動を開始した。

 まず、ダンジョンを出ます。辺りは荒野ですがその土は養分レベル2が大半です。

 豊穣の女神、地母神様に感謝。

 後は鶴嘴を振るうだけ。ねっ? 簡単でしょ?

 ザックザックと土を掘り魔物を生み出す。産まれてくるは白い大きな蟻のようなモンスター。ガジガジムシだ。ついでに餌となるニジリゴケも生み出しガジガジムシの成長を促す。

 全てのガジガジムシがサナギりになり、ガジフライに成長するまでそう時間はかからなかったが、その間に自由勝手にガジフライ達は動き回ってしまう。

 そこで破壊神は笛を取り出した。紐の付いたそれを振り回すと風切り穴を空気が抜けてピューピューともホワァンホワァンとも摩訶不思議な音が出る。蟲笛と言うやつだ。

 それを聴いたガジフライ達は破壊神の元に集まってきた。

ーーそう、いい子ね

 破壊神はガジガシ達に微笑むと遠くの大きな森を見つめた。森人の森だ。

 そして徐々に振り回す蟲笛の速度を上げつつ、ガジガシ達のテンションがMAXになった頃合いに高々と蟲笛を放り投げた。

 一段と高い音を発する蟲笛と同時にガジフライ達が一斉に飛び立つ!

ーーさあ皆! 森へお帰り!

 森を目指し群れで飛ぶガジフライの光景は、さながら飛蝗の様で実に神秘的だった。

 




神代風、地中に埋もれしタワー型ダンジョン
  破壊神製。

ニジリゴケ
 養分の運搬役。植物系スライム? 体当たりしてきたり、花になると「なにかもよも
 よしたもの」を飛ばす。コケを制した者がダンジョンを制すのだ。

魔神将
 姿がよく分からないので、本作では悪魔ベルフェゴールがモデル。

RTA
リアルタイムアタック。

マカネコピック
 異次元の世界の産物。その価値は破壊神以外理解出来ない代物。

ガジガジムシ
 蟻っぽい虫。大黒蟲ほどの大きさ。羽化すると飛べる。塩ポテト味。





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第4話 オーガの砦にて 後編

次話投下です。


ーーふぁああぁ~

 破壊神は建設を終わらせたダンジョンの深部で優雅に惰眠を貪っていた。

 破壊神に今出来る仕事は、派遣される後続の部隊の到着を待つだけだ。なんだか自分がデーもんにでもなった様な錯覚を覚えた。

 魔神将の所から持ってきた人類大辞典も既に読破してしまい、あまりにも暇だから

追加でニジリゴケ達も全部送っておいた。破壊神の目(ゴットアイ)で確認すると森ではガジガシやニジリゴケ達は新天地でもしっかりエンジョイしていた。実に逞しい。

 ムクリと起き上がり、たまたま側にいたガジガジムシ(食用)を捕まえ、バキッと真っ二つにへし折り中身の身を食べる。

 塩ポテトの味がする。うーん、流石に毎日は飽きてきた……

 増援早く来ないかな、と考えているとダンジョンに複数の来訪を感知。噂をすればシャドー。

「ほう、中々の出来ではないか」

 ズンっズンっ、と大きな足音を立て、通路の奥から姿を表したのは巨大な筋肉質の怪物だ。魔神将との面会時にいた人喰い鬼(オーガ)だった。あの濁音混じりの聞き取りづらい声の奴だ。

ーーあんたが増援?

「ふん。口の聞き方に気を付けろ。我は此度の作戦で指揮を執る将軍なるぞ」

ーーあっそう。まあ、精々頑張りや。……えっ? 増援ってまさかお前だけ?

 オーガが強力な魔物だと言うことは知っているが、戦争は数だ。相手より如何に多くの戦力を揃えられるかが勝利への鍵となる。

 破壊神はそれを知識として、そして実体験から痛いくらいに知っている。

 意気揚々にダンジョンに入り込んできた勇者一党。コケに呑まれ屍を晒す憐れな勇者。あるいは魔物を揃えられずに迎え撃ち、一刀両断されるトカゲおとこやゴーレム達、そして簀巻きの魔王!

「貴様に心配される謂れはない。兵は連れて来ておる」

 オーガがそう言うと、遅れて通路の奥からぞろぞろとその戦力がやって来た。

「GBOR」「GROOB」「GBB……」

ペタペタと間抜けな音を出しながら姿を現すは忌々しい小鬼の群れ! その数、実に100匹は下らない!

ーーほげぇーッ!

 思わず絶叫する破壊神。

 その叫びは自分が丹精込めて造ったダンジョンがゴブリンに汚されるのに対してか、ゴブリン風情を「俺の兵士」と宣うオーガに対してかなのか……たぶんその両方だ。

ーーざけんな! よりにもよって何故ゴブリンを連れてきた!? この馬鹿! ばか? バカなんだな!? てめぇっ!

 プリプリと怒り罵声を浴びせる破壊神。オーガは始め、鳩が豆を食らったようにポカンとしてたが、みるみる顔を赤くし戦鎚を床にドカンと振り下ろした。新築に何してんの!?

「このっ……! 無礼者め!! 我は魔神将から軍を預かる者なるぞ!」

ーーその軍が役に立たねえと言ってるんだこのスカタン! ……ちょっと待て。魔神将から軍を預かったとか言ったか?

 そうだ、と肯定するオーガを見て破壊神は絶句する。あの便所悪魔(魔神将)め! やりやがったなぁ!

 酸欠の魚のように口をパクパクする破壊神を他所にオーガは何故か自信たっぷりの不適な笑みを浮かべる。

「我の言はすなわち魔神将の言だ。今後は我の指示に従ってもらうぞ」

 そんなこんなでダンジョンはオーガの手に落ちた……丹誠込めて造った結果がこれだよ……

 破壊神は精神的ショックにより自室で暫く寝込んだ。その間にもゴブリン共は好き勝手にダンジョンを荒らす。ところ構わずう○こするなんて本当に信じられない。

 便所の場所くらい決めろとオーガに抗議すると、オーガも思うところはあったのか入り口に程近い部屋を汚物溜めとした。

 ダンジョン内じゃなく外にしろよ、という突っ込みは、もうね、起きる気すらしなかった。

 ある日。偵察と託つけて破壊神は気分転換にダンジョンの外に出て散歩をしていた。

 ガジガジの胴に縄を付けての散歩だ。その辺をブラブラしているとを一人の女の人が近づいてか来た。耳が長い。森人だ。女の森人だ。

「こんにちは」

ーーはい。こんにちは

 女森人は首を傾げ怪訝そうに破壊神を見た。長い絹の様な金髪がサラサラと流れる。対するは、鶴嘴を持ち、人間の子供程の大きさの蟻の様な蟲にリードを付けている人物。

 破壊神はしまったと己の失態を悔いた。糞を入れる袋を忘れた! 

 世界一の魔物トレーナーを目指す身でありながら、なんたる初歩的なミス!

 破壊神の葛藤を他所に女森人は口を開いた。

「えっと……魔物使い(テイマー)の方? でしょうか。ちょっとその蟲についてお聞きしたいことがあるのですが、実はーー」

 話を聞くと、どうやらこの女森人は最近故郷の森で異常繁殖している蟲型モンスターの発生源の調査をしている冒険者のようだ。 

 顎で挟めるものはとりあえず何でも齧るガジガジは木々をいたずらに傷つけ枯らすので問題視され、挙げ句に幼い森人が何人か齧られ怪我を負ってしまったらしい。しかも何千年も生きる年嵩の森人も、この蟻に似た生物は見た事も無いというので外来、森の外から来たのだろうと推測され、たまたま故郷に立ち寄っていた根無し草の女森人に調査の依頼が来たらしい。

 破壊神はガジガジを見た。ガジガジも破壊神を見る。どうしようか?

「この白い蟻のような蟲について、知っている事があれば教えて下さい」

 ほうほう、つまり森人達はガジガジムシに興味があると。

 破壊神はガジガジムシの生態について、この女森人に教えることにした。

「ほう、塩ポテイトの味がするのですか」

ーーそうだ。塩ポテイトだ

 海老を割るように、連れていたガジガジをバキャッと割ると半分を女森人に差し出した。

 破壊神がガジガジを食べる様子を見てから、女森人もガジガジのプリッとした身を口に運ぶ。

「おお、これは確かに美味しいです」

ーーでしょ?

 種族が異なっていても、同じものを食べれば解り合える。私はそう信じます!

 そして話題はダンジョンに移る。

「遺跡? そこから出てきているのですか?」

 そうだと肯定する破壊神。発生源を聞いた女森人は破壊神に情報提供の礼を言い、そこに行くと言い出すが破壊神は止めた。

「ゴブリンが居る?」

ーーたくさん居るから近付かない方が良い。森に帰りなよ

 帰りなよ、帰っちゃいなよ。だがそれは逆効果だった。

 女森人はゴブリンと聞き、戦意を滾らせる。自分の故郷の近くに大量のゴブリン。

 想像してごらん……自分の家の周囲に、日に日にゴブリン(うんこ)が増えていく様を……これは激怒待ったなし。

 女森人の決意は固く、破壊神が説得で止められるものではなかった。それに己が造った芸術的作品(ダンジョン)を見てもらいたい。

ーーそうか……健闘と無事を祈るよ

「ありがとう」

 そう言って二人は別れた。

 破壊神の耳にダイスがカラコロと転がる音と、あちゃー、と言う誰かの声が聴こえた気がした。

 

 ◇◇◇

 

 破壊神はダンジョンの外回り、広野を巡ってリフレッシュしてから幾日が経過した。ダンジョンに戻ってみると、例の汚物溜めに通じる部屋からゴブリンの耳障りな騒ぐ声と、絹を裂くような悲鳴が聞こえる。

 それを無視し、深部の広間はまでやって来るとオーガがやけに上機嫌だった。

 酒を片手に破壊神に「我が砦に森人の侵入者が……」「返り討ちに……」「ゴブリン共のの玩具よ……」うんぬん勝手に話しかけてくる。

 ああ、あの森人虜囚になってたのか……しかばねが無いから逃げ帰ったのかなと思ったが……

 破壊神は生きているならダンジョンの感想を聞きに行こうかと思った。

 ねぇねぇ、今どんな気持ち? 勇ましくダンジョンに挑み敗北して今どんな気持ち?

 ……やっぱいいや。何となく、殺されそうだから止めた。

 しかし、と破壊神は広間を見渡すとその周囲にはゴブリン共の姿が、遂に深部に浸透してきやがった。忌々しい!

 大事なものを自室に避難させようと、飾られてあるマカネコピックに目を向けた。

 その時、破壊神は見たのだ。伝統的な歴史ある異次元のピックにゴブリン共が触れているその様を!!

 破壊神は激怒した。破壊神には四方世界の理(小鬼への理解)が解らぬ。破壊神はただの破壊と創造を司る神である。けれども、理不尽に対しては神一倍に敏感であった。  

ーー野郎っ! ぶっ殺してやる!

「GOBR……?」

 シュバッ、と破壊神は疾風の如く駆け出すと、台座とその周囲に群がる複数のゴブリンを力任せに殴りつける! 憐れ、神の一撃を受けた小鬼共は瞬時にしてネギトロめいた肉片と早変わり!

「うぬっ!? 貴様! 何をするっ」

 破壊神の行動にオーガは声を荒らげるが、破壊神はオーガに対しても怒声を上げる。

ーー黙りゃ! この筋肉達磨め! 本当に手足を落として達磨にしてやろうか!? 

「黙って聞いておれば……! 魔神将に目を掛けてもらっているからと、図に乗るな!」

 遠巻きにゴブリン達が嘲笑うのも他所に破壊神とオーガは激しい言い争いを行う。

 元来から高い能力を持つ故か、オーガはプライドが高く短気で破壊神の煽りに直ぐにムキなった。

「この……! 穴掘りとスライム、羽虫を作り出す事しか出来ない雇われの分際でッ!」

 そして破壊神に対し致命的な暴言を言い放つ。これには破壊神もガチ切れ。

ーー言ってはならない事を! 謝ってっ! 早く多次元にいる全破壊神に謝ってッ!

「訳のわからん事を! 貴様などゴブリンと同じよ」

 ゴブリンと同じだと……? 芸術的ダンジョンを造る事で定評のある、破壊と創造を司る破壊神を小鬼風情と同列だと!? 

ーー赦せんッ!

 ウキャーッ、と奇声を発しオーガに殴りかかる破壊神!

「貴様! 反旗の翻すか!」

 それに真っ向から迎え撃つオーガ! 大地を揺るがす2人の嵐の様な争いに巻き込まれるゴブリン達! 

 それはまさにっ! 歯車的破壊の小宇宙!

 

ーー3日後……

「ぜぇーっ、ぜぇーっ…… 貴様、やりおるな……」

ーーハァハァ…… いい加減、倒れろ…… デカブツめ…… 

 一昼夜ではなく三昼夜に続き大乱闘は続いた。地中深くの大広間は、かつての美しい外見は見る影も無い。

 柱は倒れ床石は砕け、壁には無数の罅が走る。黒い汚れは巻き込まれたゴブリンの痕だ。

 互いにボクサー的にイケメンな面構えになり疲労困憊。直接戦闘に関しては素人の破壊神が肉弾戦でオーガに引けを取らないのを称賛するべきか。それとも制限はあるけれども神の一柱に互角のオーガを讃えるべきか。

 天上界の神々もこれには苦笑い。

 そして流石と言うべきかダンジョンは破壊神の建造しただけあり機能には全く支障はなかった。だが、2人の友情(?)には修復出来ない程の裂け目が入る。

 ここでオーガは将軍特権を行使した。

「き、貴様など、もういらん! 任を解く、何処へなりとも往くがいい。2度と我の眼前に姿を現すな!」

ーー上等だ。こんなダンジョンなんかお前にくれてやらあ! この人でなし! 

 人では無く鬼だ、というオーガの反論に破壊神は耳もくれない。むんずと唯一の貴重品(破壊神にとって)マカネコピックを掴むと大広間を出ていく。

 その途中、運よく生き残っていたゴブリンを見つけ、八つ当たり気味に止めを刺す。

「おい! やめろっ!」と叫ぶオーガ。うるせぇ、と叫び返す破壊神。

 腫れた顔を押さえながらダンジョンを出た。地平線から朝日が昇り始めている。柔らかい陽射しを浴び目を細め、顔から手を離すと腫れは既に引いていた。

 




 オーガが左遷されたか判らないけど、やっぱりさぁ、ゴブリン使うよりオーガが単体で村とか街で暴れた方が良くない? って思う今日この頃。

 


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第5話 偶発的遭遇Ⅱ

次話投下しますね。


 破壊神が広野のダンジョンを出奔してから数刻が経過した。太陽は中天を昇りきり、今や再び地平線に沈もうとしている。

 破壊神はその間、広野をのんびり歩きながら只人の都を目指していく。魔神将から受け取った司令書によれば、そろそろ混沌勢の暗黒の兵団が動く頃合いだ。

 破壊神的に混沌と秩序のどちらの勢力が勝利を得るか等はあまり興味無いが、数千数万の軍勢同士のガチンコには興味がある。さぞ、見物だろう。

 日が暮れ始めても町や村に着けなかったので、野宿の準備をするため鶴嘴を振るう。

 周囲の土を掘り返し、夜風を防げる程度の低い土壁を円環に形成。掘り起こした石で炉を作り、そこらに転がっていた倒木や枯れ枝を集め、火を焚く準備をしていると複数の足音が聞こえてきた。

「おおう、先客が居るの。わらしらも一緒していいかいの?」

 ひょっこり顔を出すは禿頭に長い白髭、ずんぐりむっくりとした背の低い男の老人、鉱人(ドワーフ)だ。

 あっ! ここ人類大辞典に載ってたところだ!

 しかし、一人キャンプに興じようとしていたところに、突然の来訪者、招かざる客。

 破壊神は渋い顔をする。

 いきなりそんなこと言われてもなあ~。アポイントメントは大事、いいね?

「何じゃい……駄目か?」

 それでも食い下がる鉱人だが、その後ろから長い首をぬっ、と出すは民族服を纏う、見上げる程に大きな体躯の男。

「旅の御仁ですかな。拙僧らは冒険者一行でしてな。明日、大きな小鬼の巣穴に挑む故、体力を温存出来る場所を探しておりまする。ご迷惑でなければ一夜、同席してもよろしいかな」

 その大男は鱗を有し、まるで破壊神のかつての戦友、トカゲおとこそのものだった!

ーーもちろん、いいぜ! ささっ、こちらへどうぞ!

 破壊神は(一方的な)親近感でトカゲおとこ、もとい蜥蜴人(リザードマン)の頼みとあらばと快諾し、岩を転がして即席の席を作る。

「ぷぷぷ、鉱人ったら厚かましいから拒否されてるじゃない」

 そう言うは、弓を持つ女の森人だった。

「うるさいのぅ。しかし、鱗のがすごい歓待を受けとるんじゃが」

 鉱人道士がチラと見ると、蜥蜴僧侶は破壊神から茶を受け取っているところだった。

「おお、ご厚意感謝しますぞ、旅の方。いやぁ、徳は積むものですなぁ」

 鉱人道士は珍しく溜め息を漏らした。

「釈然とせんが、まあええわい。かみきり丸、娘っ子もはよう来んかい」

 呼ばれて来るのは二人の只人。「邪魔をする」「お邪魔しますね」と片方はかみきり丸と呼ばれた薄汚れた鉄兜と革鎧、鎖帷子を纏った声からして青年の冒険者で、もう片方は白い神官衣に錫杖を持つ若い娘だった。

 野営が一気に賑やかになる。破壊神が薪に火を付けて顔を上げると、女神官が不思議そうな顔で破壊神を見ていた。

ーー何かな? お嬢さん

「あの、以前何処かでお会いした事ありませんか? その鶴嘴に見覚えが……」

 破壊神もこの女神官にやけにバブみを感じ、考えを巡らすが思い当たる節はなかった。

ーー他人の空似じゃない? 今時鶴嘴なんて、誰でも持っているしね

 なぁ? と破壊神は冒険者男性陣に同意を求めた。話を聞いていた妖精弓手が笑う。

「まさか。鉱人じゃあるまいし、持っているわけ無いじゃない。ねぇオルクボルク……」

 そして言葉を詰まらせる。オルクボルクと呼ばれた只人の腰には剣の他に予備武器として、ゴブリンから奪った鶴嘴があった。鉱人は言わずもがな。何の呪いに使うのか、小型のピッケルを所持している。

 妖精弓手はバッ、と蜥蜴僧侶を見て見つけた。彼の、蜥蜴僧侶の頭にある羽毛か何かの被り物の飾りの一つに、鶴嘴の刻印がされたペンダントがある事を。

「ぐぬぬ」と妖精弓手は端整な顔を歪め、またしても、はっ、と女神官を振り返る。

 よかった……彼女は持ってない、と一安心したのも束の間。

 その時、妖精弓手の視力は捉えた! 彼女の鞄から冒険者セットの! 小さいピッケルの頭が飛び出ているのを!

 驚き! この場に集う6人中5人が、鶴嘴またはピッケルを有している。

 時代はまさに、大穴堀時代!

 私? 間違っているのは私の方なの!? とブレイクダンスを披露する妖精弓手を他所に、破壊神と冒険者一行は和気藹々と談笑を続ける。

ーーほう、音に聞こえしゴブリンスレイヤーとはあなたの事なのか

「そう、呼ばれている」

 破壊神は只人の青年。ゴブリンスレイヤーに興味を持った。小鬼を屠る者。なんと善い響だろう! 

 うんうん、と頷く破壊神にゴブリンスレイヤーはやはりと言うべきか、ゴブリン退治の話題を振る。

「話では、この辺りはもうゴブリン共の活動範囲内だ。ゴブリンを見かけたか?」

 破壊神は素直に見た、と答えてから、やったしまった、と思った。

「やはりか。何時、どこで見かけた? 数は? 武装の有無は? 犬やトロルは側にいたか?」

 今まで口も開かず、置物の如く座っていたゴブリンスレイヤーが堰を切った様に喋り出す。破壊神はその勢いに詰問を受ける錯覚を覚えた。 

 破壊神は内心困った。このゴブリンスレイヤーに協力したいのはやまやまだが、まさか「あなた達が目指してる、そのゴブリンが陣取る遺跡(風ダンジョン)は破壊神(じぶん)が造ったの! ごめんねテヘペロ☆」何て言おうものなら、ゴブリンに与する者として即座に首が飛びそうだ。

 それに図らずも破壊神と人喰い鬼が壮絶な喧嘩をしたお陰でゴブリンの数も半減、とはいかないまでも3割くらいは減ったし、間接的にこの冒険者達の手助けをしていると言えるのではないか。

 それに蜥蜴僧侶に嫌われたくないので、当たり障りの無いことを伝えることにした。

 あれこれゴブリンスレイヤーと話し込んでいると、何か良い匂いが漂ってくる。

 見ればいつの間にか蜥蜴僧侶と女神官が夕食の仕度をしていた。

「お二方、一旦話はそこまでに。さあ、焼けましたぞ」

 蜥蜴僧侶は串焼きを皆に配る。蜥蜴人が故郷の南方にある沼地の獣の肉だとか。旨いなこれ。

 鉱人道士が酒に合うと、がつがつ食べているのを見て妖精弓手は顔をしかめ、小馬鹿にしたように笑う。

「これだから鉱人はやなのよね。お肉お肉って意地汚いったら」

「野菜しか食えん兎もどきにゃ、この旨さはわからんよ。おお! 旨い旨い!」

 旨いと連呼して見せつけるように串焼きを頬張る鉱人道士。自分が食べられない物を旨そうに食べる様を見せつけられて妖精弓手は小さく唸る。

 それを見た破壊神はポツリと呟いた。

ーーあっ! ここ、人類大辞典に載ってたぞ! 

「ねぇ、なんか言ったぁ?」

 誰にも聞こえない程の小声なのに森人の耳には届いたらしい。破壊神は誤魔化す様に荷物を漁り、中から布に包まれたものを取り出した。

ーー森人が肉を食べられないって本当なんだなって。でも、これなら食べられるでしょ

 布を取り除くと白っぽい塊が現れた。

「何ですか、それは?」と女神官。破壊神は、とりあえず一口、とそれを切り分けて皆に配る。

 真っ先に食べたのは鉱人道士だった。

「ほう、食感は干し肉に近いが、味はイモじゃな。なんじゃいな、これは?」

 女神官も未知の食材を啄むように食べる。

「美味しいですね、これ。でも、お芋じゃないですよね。お肉でもないし……」

 妖精弓手は手渡された未知の食材に顔を近づけ、クンクンと匂いを嗅ぐと食べれると思ったのか、その小さな口でパクついた。

「あっ、イケるわねこれ。優しい味で」

「実に美味でありますな。して、これは一体何なので?」

 蜥蜴僧侶に問われ、破壊神はネタバレをする。

ーーガジガジムシの干し肉だ。まあ、要するにデカイ蟲だ

 ぶーっ、と噴き出す鉱人道士。女神官は喉に詰まらせた。ゴブリンスレイヤーは口元に運んだそれをそっと戻す。

「ちょっ! 汚いわねッ」

「ゴホッ、ゴッホ。おまえさん! なんちゅーもん食べさせるんじゃ!!」

 妖精弓手の抗議を無視し、鉱人道士は声を荒立てる。

ーーさっき世界中の旨いもん食べたいって言ったじゃん

 実際旨かったから何も問題ない筈だ、と破壊神は主張する。

「確かに言ったが……せめて食う前に教えてくれ。ほれ見ぃ、娘っ子が窒息しそうじゃ」

 自らの胸を叩く女神官にゴブリンスレイヤーは水の入った水筒を差し出す。それを受け取って飲み、女神官は窮地を脱した。

「おや? 小鬼殺し殿。食べないなら拙僧が頂いても?」

「いいぞ」

 かたじけない、と蜥蜴僧侶は一口で丸飲みする。

「けほけほ。食べる前に教えて欲しかったです。本当に……」

 恨めしげに破壊神を見る女神官。

ーーおやおや

「おやおや、じゃねぇつーに。というか鱗のと長耳のは平気なのか……」

 虫の肉だと言われても、平気でうまいうまいと舌鼓を打つ蜥蜴僧侶と妖精弓手を鉱人道士は呆れ顔で見る。

「拙僧の故郷では普通に食してましたぞ。いやはや、なんとも懐かしい味で……」

「私がいた森でも昆虫食は普通だったわよ」

 あっけからんと言い放つ二人に、文化の違いを見せつけられた鉱人道士は口をへの字に曲げ、女神官は苦笑いを浮かべる。

 森人の食事事情は知らんが、ガジガジムシを食べないトカゲおとこなど存在しないのだ。

「これは私も何か出さなくちゃいけないわね」と森人的に旨いものを食べて気を良くした妖精弓手がゴソゴソと葉に包まれたものを取り出した。葉を広げるとパンに良く似たものが姿を表した。

 というかこれ、レン○スじゃね?

「森人の保存食。ホントは滅多に人にあげてはいけないのだけど、今回は特別」

 妖精弓手がレ○バスを出し、負けじと鉱人道士が自慢の酒を取り出した。壺に入ったそれの封を切ると良い香りの酒精が放たれる。

「ふふん、わしらの穴蔵で造られた秘蔵の火酒よ」

「火のお酒?」

 妖精弓手が興味津々と鉱人道士の手にした酒を覗き込む。

「なんじゃい耳長の。まさか酒も飲んだことないなんざ、童子みたいなこと言わんよな?」

 挑発する鉱人道士に妖精弓手は酒の入った椀をひったくった。

「お酒って葡萄のやつでしょ。飲んだ事あるわよ、子供じゃないんだし……」

 そのやり取りを見ていた破壊神はやれやれと息を吐いた。

 やり取りが、親戚の集まりで背伸びをしたい子供をからかうおっさんの図、そのものだった。

 明日は戦いに赴くのだろう? 子供には響くからやめとけ、と破壊神は妖精弓手に言ったが、湾に並々注がれた酒を猫のように嗅ぐ妖精弓手は、じろりと破壊神を睨む。

「私は2000歳よ。子供じゃないわ」

 ……なんだやっぱり子供じゃないか、と破壊神は鼻で笑うが、その仕草が鉱人道士と同じく挑発と受けとったのか、妖精弓手は一息に椀の酒を飲み干した。

 途端、瞬時に顔を赤くさせ盛大にむせる妖精弓手。

「はっはっはっ、娘っ子にゃ早かったかのう!」

「程々にな。野伏が酔い潰れたのでは話にならないぞ」 

 その様を見て実に愉快そうに笑う鉱人道士を蜥蜴僧侶が窘めた。

 それからはちょっとした宴会の様だった。絡み酒の妖精弓手がゴブリンスレイヤーに絡みチーズを出させ、そのチーズがお気に召した蜥蜴僧侶が騒ぎ、鉱人道士が破壊神の持つ鶴嘴に興味を持ったり、荒ぶる森人がまたしてもゴブリンスレイヤーに絡み、彼の荷を漁ろうとして手を叩かれた。

 宴もたけなわになった頃、そう言えば、と鉱人道士がぽつりと呟いた。

「小鬼共はどこから来るのかのう。わしらは、ありゃ堕落した圃人や森人だのと聞いとるが……」

 それを聞いた妖精弓手が鉱人道士をきっと睨む。

「ひどい偏見ね。私は黄金に魅せられた鉱人の成れの果てと聞いたわ」

「お互い様だの。鱗のはどうじゃ?」

「拙僧は地下にある王国から小鬼共はやって来ると、父祖より教わったが……人族はどう考えておるのかな? 女神官殿」

「あっ、はい。わたしたちはーー」

 そんな哲学的問答をする冒険者一行を横目で見つつ、フライパンで何かを煎りながら破壊神はそれは無いと思った。 

 今まで色々な人の国で巨大なダンジョンを掘ってきたが、地中にゴブリンの国など見た記憶など無い。

 べらぼうめぇ! 偉大な母なる大地にそんな穢れたものがあって堪るか!

「じゃあ最後、旅人さんはどう思うの?」

 妖精弓手に問われ破壊神は顔をあげた。

 女神官は誰かが失敗すると一匹涌くと言い、ゴブリンスレイヤーは緑の月からやって来ると言った。

 破壊神はどちらかとゴブリンスレイヤーの考えに近いかもしれない。

 かつて、世界征服した大陸の周りには更なる巨大な大陸があった……。あれにはマジコーヒーを吹いた。

 それと同じようにこの陸地の、海の向こうからゴブリン共が何らかの方法でやって来るかもしれない。

 破壊神はふと、夜空を見上げた。冒険者達も連れて空を見上げる。満天の星空だが破壊神には月や星々の他に何かがうっすらと見えた。

 体の前でバッテンを作り、言っちゃダメだよ! という必死のジェスチャーをする真実と幻想の姿だ。

 破壊神は眉間を揉んだ。

ーーさてねぇ。本当の事は、神のみぞ知るってやつだろうよ

 

 ◇◇◇

 

 翌朝。太陽が地平線から顔を出した頃、破壊神と冒険者一行は出立の準備をしていた。

 準備といっても簡単に朝食を取り、焚き火の後の燻る炭に土をかけて消火し、各々の荷物を手に引っ掛ければ準備万端。流石に旅慣れた者達だった。

ーー久しぶりに楽しい夜だった。ありがとう

「何の。拙僧らこそ、とんだ邪魔を致した」

 カカカッ、と笑う破壊神に蜥蜴僧侶は奇妙な合掌で応える。ちょうど蜥蜴僧侶が背に朝日を背負う形となり、後光を放っている様に見える。

 その光景と律儀な蜥蜴僧侶に破壊神はまたしても笑う。

ーーいやあ、本当に楽しかったから……そうだな、これから戦いに赴く若人達にささやかながら礼をさせてくれ

 そう言って破壊神は懐から袋を取り出し、少し迷ってから、それをゴブリンスレイヤーに押し付けた。

「これは?」

ーー内緒。いざとなったら使うとよろしい。後、松明持ってく?

「やっぱりあなたはあの時の人ですよねえ!?」

 松明を取り出した破壊神に今まで大人しかった女神官は声が広野にこだました。




妖精弓手「オルクボルク、何貰ったの?」
ゴブスレ「……豆だ。煎った豆だ」


オーガ 「なんか嫌な予感する……」




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第6話 決戦の果てに

次話投下するぞえ。ゲスト出演有り。

~没ネタ(ジョジョ成分含有)~

オーガ「ここを我が砦と知っての狼藉と見た!」
 
蜥蜴僧侶  「拙僧と小鬼殺し殿が前に出る! 援護を!」
鉱人道士  「心得たわい。一分間に600発の石弾(ストーンブラスト)を食らえオーガ!」  
妖精弓手  「Hey! クラッカーボレー!」
ゴブスレ  「パウパウパウ!」

オーガ   「奥義神砂嵐ッ!」
 
ゴブスレ一行『んあーッ!』
女神官   「……大冒険、完っ!?」


破壊神   「ホント、没でよかった……」
真実・幻想 「それな」



 只人の王国の郊外の何処か。野に陽は沈みかけ、夕焼けにより空を真っ赤に染める。

 遊詩人でもいれば美しくも悲しい夕陽に因んだ歌の一つか二つは思い付くだろうが、その平野には今、連合軍と呼ばれる各種族の兵士達が何千何万も集まり完全武装で隊列を組み、今から始まる大戦に緊張した様子でその時を待っている。

 夕刻、黄昏時、逢魔時! 魔に逢う時間だ! 

 刻々と沈みゆく太陽を背に、地平線から蠢く不気味な影が涌き出るように姿を現す。

 秩序たる連合軍に相対すは魔神王率いる混沌が勢力、暗黒の兵団(アーミーオブダークネス)動死体(ゾンビ)屍喰鬼(グール)骸骨兵(スケルトン)幽鬼(ワイト)に悪魔。まさに亡者の軍団だった。今まさに、世界の命運を賭けた戦争が始まろうとしていた。

 

 ◇◇◇

 

 冒険者達と別れた破壊神は急ぎ平野の戦場に向かうと、そこには既に混沌、秩序の軍勢が戦列を組んで対峙していたところだった。

 野次馬根性で少しでも近づいて観戦してみたいと思ったのが運の尽き。サクッと見回りをしていた悪魔に見つかり、破壊神は軍団に編入されてしまったのだ。

 場所は移り、混沌勢力左翼指揮所。

 編入された破壊神は左翼を預かる、仮面を被り黒いタキシードを着た、自称全てを見通す地獄の公爵とともに呑気に茶を飲んでいた。

 聞けば、出稼ぎの為に破壊神と同じように召喚されて来たのだとか。

「そんな訳であるからにして、貧乏店主に任せては何時まで経っても資金が貯まらんと思った我輩は、短期アルバイトとして魔神王とやらの元で仕事をしているのだ」

ーー地獄の公爵閣下でさえも、金銭のしがらみからは逃れられんと。世知辛いねぇ

 破壊神もダンジョン製作に必要な堀パワーの不足にしばしば悩んだ経験もある為に、ここをこうしたいのに出来ない! という苦々しさはとてもよく分かる。

 しかし何だ、働けば働く程貧乏になる店主って。まるで大○家具ではないか……

「時に、破壊神よ。お主ダンジョンを創るプロフェッショナル、だそうだな」

 破壊神ハ、厄介事ヲ、察知シタ。

ーー……次のセリフは、『我輩のダンジョンを創ってくれぬか?』だ!

「ここはひとつ、我輩の為に壮大なダンジョンを創ってくれないか……はっ!? 未来を見通す我輩を見透した、だと……」

ーーそんな能力無くても分かるわ。ダンジョンの一つや二つ自力で創れよ

 取り付く島もない破壊神に、地獄の公爵の方も本気では無い様でやれやれと首を振る。

 破壊神の世界も征服した大陸の周りに、さらにデカイ大陸が囲うようにしてあったり、魔王城を奇襲とはいえ飛行機が爆撃したりと混沌だが、この地獄の公爵の世界も中々に混沌(カオス)な様だ。

 そんな世界に出張とか御免蒙る。破壊神はインドア派なのだ。

 茶を飲み駄弁っていると太鼓と角笛が鳴り響き、次いで鬨の声が大地を揺るがす。

 何事かと見ると睨み合っていた両軍が前進を開始した。

「むっ。始まったのか」と他人事の様に呟く公爵。

ーー軍団、指揮しないでいいの?

 天幕を出てジャンボニジリを椅子に観戦モードに入った破壊神が呟く。

「心配には及ばん。戦に慣れているオーなんとかという輩に指揮を一任しておる」

 ぶっちゃけ指揮経験何ぞ無いのでな、と地獄の公爵やはり他人事の様に笑う。

 しかし、前線で戦う混沌勢の兵士は実に勇ましく、魔法攻撃や弓矢の一斉射で倒れた味方の屍を平然と乗り越えながら秩序勢の連合軍に突撃していく。

 連合軍は大楯と長槍で迎え撃つ。何百何千本の槍衾が怪物の軍勢相手に怯まず堅守に徹して前線を形成、敵の勢いが滞った頃合いで後方から迂回して飛び出してきた只人や馬人(ケンタウロス)の重装騎馬隊が混沌勢力の横腹に飛び込んだ。

 完全武装の重騎馬隊の突撃は破壊の権化だ。ゾンビやグール、比較的小さい怪物達は文字通り踏み潰され、巨体を誇るトロルですらランスチャージを次々に喰らい倒されていく。

 騎馬隊は勢いそのままに敵陣の奥深くへ、このまま決着が着いてしまいそうだ。

 だがしかし相手は魔の軍団。騎兵が通過し、屠られた筈の混沌勢の兵士がムクリと次々と起き上がる。

 亡者の軍団だからこそ出来る戦術だ。攻めていた筈の騎兵は気付いたら完全包囲された。

「怯むな! 速度を維持しろッ、正面突破あるのみッ!!」

 騎兵隊の隊長は叫び、騎士達に檄を飛ばし敵前突破を試みる。雄叫びを上げる騎馬隊だが、その面前に異形の怪物の群れが立ち塞がる。

 スライムかブロブに酷似した黒い怪物。その名は、コマンドジャンボ!

 混沌勢力に破壊神が30秒間で作り出し提供した唯一の戦力だった。

ーーいけぇー! カッ飛ばせーっ!

 破壊神の声援が届いたのかは分からないが、横一列に並んだコマンドジャンボが騎兵突撃をその巨体さをもって、もももっ、と受け止める。

 敵陣の真っ只中で止まった騎兵など、ただの的でしかない。

 勇ましい騎兵隊の最後は、実に哀れなものだった。

 周囲の亡者共が殺到し、騎士や馬を次々と喰らい始めたのだ。

 悲鳴と怒号と絶叫が響かなくなるまで、そう時間は掛からなかった。

 次に仕掛けたのは混沌勢力側だった。トロルの中でもさらに巨大なトロルが背に投石機(カタパルト)を背負って前進し、秩序勢の長槍部隊を射程に捉えるや、四つん這いになり、自らを土台とし随伴の下級悪魔(レッサーデーモン)がトロルに取り付きいて投石機を巻き上げ射撃準備に入る。

 スプーンのお化けのような発射台に弾丸(・・)をセットし、一斉に発射した。

 弧を描きながら連合軍を襲う投石攻撃。なまじ目視出来る速度だからこそ、より恐怖感がある。

 次々に連合軍に襲い掛かる質量攻撃。「危ないッ!」と叫ぶ連合軍の兵士だが、密集隊型では避けようとも避けきれない。ダイスの出目を祈るばかりだ。

 ドォンっ! と鈍い音と共に着弾。血飛沫が舞う。

 直撃した兵士は人の形の原型があるものの、手足が明後日の方向に曲がっていたり、間接が三つ四つ増えていたりと見るに耐えない。

 何より周囲に巻き散らかす血肉の臭いときたら想像を絶する。

 それを間近で見た戦場経験の長いベテラン兵士はある違和感に気付いた。死んだ兵士の傷を診るに、内蔵のはみ出しも無いのに、ここまでの大きな血溜まりは不自然だ。

 それに飛び散った肉片には子供程の大きさの手足の末端が転がっている。死んだ兵士のものでは無い。

 これが意味する事とは……

「また来るぞ!」

 誰かの叫びに、ばっと上を見るベテラン兵士。

 カタパルトで飛ばされた弾丸を見やり驚愕する。

「何て事だ! 奴ら……ゴブリンを飛ばしてやがる!」 

 飛来する弾丸は生きたゴブリンだった。

 

 ◇◇◇

 

「おっと、これは凄絶な悪感情! 美味である」

ーー悪感情ってどんな味なん?

 地獄の公爵は人間の悪感情を食べるらしく、破壊神が提案したカタパルトによるゴブリン投擲は複数の意味で効果は上々の様だった。

 穢らわしいゴブリンは減らせるし、秩序勢の戦力は削れるし、公爵閣下の腹は満たされる。一石三鳥! 

 悲鳴を上げ泣きながら飛ばされるゴブリンはちょっとした見物だ。

 たっぷりと悪感情を食べた地獄の公爵は、ジャンボニジリからしぶしぶ腰を上げると面倒臭そうに呟いた。

「さてと、そろそろ我輩も給料分の仕事をするか……」

 足元の土を捏ね、自身をデフォルメしたような人形をいくつも拵えると「逝け! 我がしもべ達よ!」と号令を発し、公爵人形は連合軍に向かって走り出した。

ーー何あれ! かわいいっ!

「ほう、いい趣味をしているな。お一ついかがかな?」

 差し出された公爵人形を破壊神はありがたく貰った。

 走り出した公爵人形は連合軍まで達すると身近な兵士に抱き付き、プリチーな外見とは裏腹に自爆という過激な行動に出た。

 投石と爆弾人形により連合軍は隊列を乱し、そしてその隙を混沌勢力は見逃さなかった。

 アンデットと化した先程の騎兵を先頭に混沌勢は一斉攻撃に出た。

 その様は大量のニジリゴケを一掃する魔法使いの範囲攻撃か錬金術師の直線攻撃に似ていた。

ーーこれは、決まったな……

「そのようだな」

 亡者の軍勢の攻撃は留まることを知らず、連合軍は必死の抵抗を試みるも崩壊は時間の問題と思われた。

 

ーーその時、不思議なことが起こった!!!

 

 星を取った配管工の様な勢いだった混沌勢が目に見えて狼狽え始めたのだ。それどころか一部では逃亡を始めている有り様ではないか。

「ふむ。どうやら魔神王が討ち取られたらしい」

 やっぱり他人事の様に地獄の公爵はそう言った。何で分かるんだと思ったが、この地獄の公爵は見通す悪魔だった。

ーー復活して早々に、持病の発作で死んじまったのか?

「んっんー。どうやら勇者が乗り込んでパパッとやられてしまったようだ」

ーーはぇ~。この世界の勇者は容赦ないねえ

 破壊神の居た世界では、そんな野蛮なことはせず、勇者は魔王と出会っても簀巻きにして引きずり回すだけだった。

 ……考えてみたらどっちもどっちだった。破壊神はげんなりした。

「おおっと! これは大変な悪感情! 珍味である」

 そいつはどうも。しかし、改めて考えると混沌勢は魔神王一人のカリスマで保っていたことになる。それはそれで相当な求心力だと破壊神は感心した。

「さて、雇用主は死んだことだし、我輩はさっさとお暇するとしよう」

ーーとんだタダ働きだったねぇ

「それには及ばん。既に前金として貰っているのでな」

 飄々としている割りに、金銭面についてはしっかりしている地獄の公爵であった。それとも見通す力で見ていたのか。

「フッフッフ。それではな破壊神よ。気が向いたら我輩のダンジョン製作に協力してくれたまえ。はいこれ名刺ね」

 破壊神が名刺を受け取ると「さらばだ!」とポーズを決めると地獄の公爵の体が土くれになっていく。

 本体である仮面だけが宙に浮かび、それもすぐに幻のように消えてしまった。

 破壊神は戦場を見渡すと秩序勢の連合軍が態勢を立て直し反撃に移り、混沌勢は蜘蛛の子を散らす様に敗走している。

 もはや統制された軍は完全に瓦解した。ぐずぐずしていると連合軍の追撃に巻き込まれるかもしれない。

 いにしえの偉人は言った。三十六計逃げるに如かず! 逃げるのは恥だが役に立つ!

 破壊神は鶴嘴を振るいガジガジムシを複数産み出し、見事な早業で成虫に成長させると全てのガジフライにロープの端を持たせた。そしてロープの束を尻の下に敷く。

 ブーン、と一斉に飛び立つガジフライを動力としたガジコプターだ。

 まるで鬼の太郎のような感じで空を飛び、颯爽と戦場を後にする破壊神。

 こうして混沌の暗黒兵団と秩序の連合軍の戦いは幕を閉じた。




マンガ、アニメで描写されなかった秩序対混沌の戦争を妄想した回でした。
ぶっちゃけゴブリン投石をしたかっただけです。
次回は最終章に入ります。書き溜めを完全消費したので、次話は暫くかかります気長にお待ちください。



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第7話 旅のしおり

ふふ、私と眼が合いましたね。貴方が思っていること、当てましょう。
ずばり!
「こいつ、エタったんじゃないのか?」
……半分、当たりです。


 ここではないどこか。ずっと遠くて、ずっと近い場所で。

 

 そこは不思議な空間で、ひとりの女神とひとりのまかがまがしい神が熱心に語り合いながら広げた紙に何かを書き込んでいます。

 

 できました! そう言って幻想の女神はバーンと掲げた紙には広い広い迷路が描かれています。

 

 おめでとう! とまがまがしい神、破壊神は手を叩き女神へ祝福を送ります。

 

 ふたりが作っていたのはダンジョンなのです。

 

 幻想が次の冒険のためにダンジョンを製作していたが、納得いくものが創れなかったとき、ふと遊戯盤をテクテク歩いていた破壊神を見つけ、ダンジョン造りのプロフェッショナルである破壊神に「ねえねえ、ツルハシちゃん。ダンジョン、一緒に創らない?」と声を掛け、誘われた破壊神はもちろん、二つ返事で応じたのです。

 

 苦労して作り上げた迷路をかかげて、ふたりは、わーい、とはしゃぎ回りますが、ふと動きをとめました。

 

 しまった。ダンジョンには怪物がいなければならないのです。

 

 冒険といえば迷宮にコケ地獄、一本道にドラゴン複数! 

 

 罠があればなお良しですが、さてどうしましょう?

 

 とりあえずといった感じで幻想と破壊神は交互に駒を配置します。

 

 幻想はゴブリン、沼竜を。破壊神はしかばね、ふん。

 

 破壊神がうんちばかり置くのでついに幻想は怒りだします。

 

 その時に、話しは聞かせてもらったぞ、と何処からともなく男の声が響きます。

 

 誰だ、と、破壊神が言うと、その声の主が「私だ……!」と答えます。

 

 そう、真実がやって来ました。

 

 幻想と破壊神は疑わしげに視線を向けますが、真実は気にするふうもなく、まあ見ろよと、1冊の本を虚空から取り出します。

 

 本を開くと出るわ出るわ、まがまがしい怪物に罠の数々。

 

 本の中にありながら生きてるように蠢く怪物の絵に真実がさわり取り出すと、幻想が止める暇も無く迷路に怪物と罠を押し込んでしまいました。

 

 あーっ! と声をあげる幻想に、真実はケタケタ笑いながら言います。

 

 後は適当な邪教団にでも託選でも出せば完璧だ、と。

 

 ホントかなあ、と幻想。

 

 どや顔で、大丈夫だ問題ない、と真実。

 

 幻想と真実がわちゃわちゃやっている間、破壊神は紙にかかれた迷路の1マスがわずかに動くのを見ました。

 

 疑問に思い、ツン、とさわると一体どうしたか、迷路内に水が溢れていくではありませんか。 

 

 おお! とさんにんは目を見張ります。

 

 水が迷宮中を巡り、幻想が配置したゴブリンはパイレーツゴブリンに変異

し、意地悪な真実がしこたま配置した怪物や罠もよい感じにナーフされました。

 

 結果オーライというやつです。

 

 幻想と破壊神がハイタッチし、真実はちぇっ、と口を尖らせます。

 

 何はともあれ、神3柱で造った強力なダンジョンの完成です。

 

 

 

ーーその時不思議な事が起こった!

 

 

 

 ゴゴゴゴゴ、と紙にかかれた迷路から地鳴りめいた音が響きます。

 

「あっ……」

 

「おっ……」

 

「マジか……」

 

 迷路から溢れ出た水が幻想、真実、破壊神に襲いかかります。

 

 『あーーーーッ!!』

 

 破壊神たちはどんぶらこと流されてしまいました。

 

 追々。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ハッとして破壊神は目を覚ました。すぐさま己の下半身を確認。

 

 ……大丈夫だ、問題ない。

 

 なんで寝てるときの水に関する夢ってちょっと危ない事が多いのかなあ、と神でもわからない問いに頭を捻りながら破壊神は身を起こす。

 

 なんだか長い夢を見てた気がする。

 

 夢の中でも仕事をしていたかのような、朝から若干疲れた目覚めの破壊神であった。

 

 そこにある男がやってくる。

 

「やや、破壊神様! 如何されました?」

 

 キンキンと甲高い声を発する、キノコの生えたフード付きローブをまとった痩せた男は朝から妙にハイテンションに破壊神に話しかける。

 

 ここは水の街。辺境の街から東へ二日程のところにある歴史ある古い都、の地下深くにあるジメジメと暗い石造りの部屋、もとい祭壇。

 

 なぜ破壊神がこんなところに居るかというと時間は少し巻き戻る。

 

 混沌勢と連合軍との決戦後、破壊神は各地を観光して回った。

 

 森人の森へ行き、かつて放ったガジガシムシの様子や「MBEEENBEー!」と鳴くでっかい竜(?)を観賞し、南方へ行っては蜥蜴人の暮らす集落へ遊びに行き、またピラミッドのような墳墓を登頂し、冒険者気取りで旗を突き刺したりとエンジョイしていた。

 

 そして水の都へやって来たとき、彼と出会った。

 

 混沌勢が壊滅し、魔神王が首ちょんぱスレイするも健気に再び魔神王を復活させんと草の根運動をしている邪神官らしい。

 

 彼は破壊神を一目見るなり、顔から出るものを全て出しながら「我が神はここに降臨せりーッ!!」と破壊神の足にしがみついてきた。

 

 そんなこんなで破壊神は水の都の地下にある邪神官の自宅(祭壇?)に居候している。

 

「今日の朝食は焼きたての白パンに、水の都産の15歳の生娘のステーキでございます」

 

 と、こんな具合に身の回りの世話を焼いてくれるので、貰えるものは貰っとく派の破壊神としては印象こそ最悪だったものの今ではそれなりに邪神官を良く思うようになっていた。

 

「さあっ! 破壊神様! 今日もきたる日の世界征服に向けて生け贄共を集めましょうぞ!」 

 

ーーはいはい、がんばってねー

 

 ステーキをモキュモキュしながら破壊神は返事をする。

 

 超適当な返事にも関わらず、邪神官は感無量といった感じにさらにハイテンションになり、床につく程の長いローブを引きずり祭壇を出ていく。

 

 今日も彼は贄をコツコツと集めて変な鏡で妙な儀式を行うだろう。

 

 朝食を食べ終えた破壊神は邪神官にしばし遅れて祭壇を出ていく。

 

 何しにいくのかって? もち! 水の都の観光だろ! この街は良い。特に水路の芸術なまで配置ときたら……

 

 己のダンジョンをより美しく、より機能的にするのに余念がない破壊神だった。




水の都の地下迷宮
 設計 幻想・破壊神
 内装 幻想・真実・破壊神

ふん
 ドラゴンのふん。別名ダーク股ー。勇者を足止め出来るすごいうんち。

パイレーツゴブリン
 破壊神が出した水に適応するため突然変異したゴブリン。

沼竜
 アリゲーター。別名きれいな沼竜。迂闊に近づくと破壊神も襲われる。危ない。 

邪神官
 混沌の神を信仰する痩せた神官。偶発的遭遇で破壊神と出会い、破壊神を自分が信仰
 する神と勘違いする。別に骸骨ではない。ローブにマジカルキノコが生える。

幻想と真実
 幻想「ヒマを持て余した……」
 真実「神々の……」
 幻想・真実『遊び……!』



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第8話 おわりのはじまり

で、出来た……。一万文字位は書けただろう。

真実「ざんねーん! 3000文字でーす!」

かふっ!(吐血)

他の投稿者方を尊敬申し上げるこの頃。
次話投下、最終章突入です。勇者ちゃん登場ですよ。


破壊神が水の都に来てしばらく、今日も邪神官が憐れな小娘を拐ってきては訳のわからない儀式をしている。

 

 破壊神はというと、片肘を付きながらその様子を見守っている。

 

 邪神官は良い奴だ。日がな一日ゴロゴロしていたり、只人に混じり水の都を散策したり、至高神の神殿にいる大司教の沐浴を覗いたりする破壊神に小言を言わずに毎日甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。

 

 いや、最後の覗きは流石に怒られた……。

 

『何やってたんですか破壊神様! 憎き剣の乙女を葬る絶好の機会だったんですよ!』

 

 ……知らないよ。

 

 しかしただ一つ、気に食わないことがある。

 

「GROOOR」

 

「GOBR……」

 

 小鬼共の存在だ。

 

 邪神官は何かを復活させる為に小鬼を使って贄を集めているが、何も小鬼じゃなくてもいいじゃない……。

 

 ガーゴイルとか、格好いいのじゃダメなのか?

 

 凄惨な儀式も終わり、用済みの生け贄の亡骸にハエのごとく群がり食らう小鬼共。

 

 破壊神は溜め息をつく。

 

 水の都も大方観光し尽くし、もうこの街に居る理由が無くなった。そろそろ他のところに旅立つ頃合いかもしれない。

 

 そんなことを考えていた時、今日も地下迷宮に入ってきた侵入者を破壊神は関知した。

 

 只人2人に森人、鉱人、蜥蜴人の一党だ。

 

 奇襲をかける小鬼を返り討ちにしまくっている。実に清々しい。

 

 特に蜥蜴人と戦士の只人には見覚えがある。森人の森の近くの広野で会った小鬼狩りの一党だ。

 

 あいつら生きていたか! と破壊神は内心静かに喜んだ。皆、五体満足なのを見るに人喰い鬼(オーガ)を見事倒したようだ。ざまあw。

 

 さて、地形的にここまでは来ないようだが、邪神官に知らせるべきか……。

 

 しばし悩んで、放って置いた方が面白そうだから止めとこ、と内緒にし、もうしばらくこの街に滞在することにした。

 

 気軽に決めたこの選択が、後に破滅神の運命を大きく変えるとも知らず。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして数日後、地下迷宮にある一室で邪神官は怒り狂っていた。

 

「くそ、くそくそ! ちくしょうめー(ガイガャックス)! なんたる大失敗! 何故我らの祭祀場が暴かれたッ!?」

 

 唾を飛ばしながら邪神官は罵倒と呪いの言葉を吐く。

 

「我々の計画は完全で、決定的で神の加護もあったはず! どこに手違いがあった!? 何故小鬼共が皆殺しにあっている!?」

 

 アイスクリンを頬張りながら、狂乱する邪神官を破壊神は眺めていたが突然、頭が痛くなる。 

 

 冷たいアイスクリンを食べたせいかな? と破壊神は思ったが何かが違う。

 

 脳の真まで響く痛みというか、とにかくタチの悪い痛みだ。まるで命の危険があるかのような……。

 

 その日、破壊神は思い出した。奴らに支配されている恐怖を。鳥かごの中の屈辱を……。

 

 破壊神と邪神官がいる部屋の扉が勢い良く開きこの場に似合わない、底抜けに明るい夜明けの陽のような声が響く。

 

「やあやあ! そこまでだ、ってボクいっぺん言ってみたかったんだよね!」

 

「奇襲のアドバンテージを自ら捨てる理由がわからない」

 

「なに、名乗りは大事だぞ。挑発に成功すれば攻撃を集めることが出来る」

 

 現れたるは、女が3人。若い。剣聖と呼ばれる長身の剣士に賢者の異名を持つ魔法使い。そして最後、太陽のように眩しい輝きを放つ聖剣を持つ少女……。

 

「勇者、参上ッ!!」

 

 破壊神は驚愕した。

 

 この年端もいかない少女が過去に屠ってきたどんな勇者なんかよりも強いということを直感で理解した。

 

 破壊神は立ち上がる。

 

 力量の差を理解してないで逸る邪神官が邪魔だ。

 

「おのれぃッ! 魔神様の怨敵! ここで報仇う果たさせてもらお──ぐぇっ!!」

 

 邪神官の首根っこを掴み、無造作に後ろへ投げ飛ばす。

 

 「は、破壊神様!? 一体何を……!」

 

 邪神官は今まで見たこともない程に禍々しいオーラを放つ破壊神を見て言葉を失うが、ツルハシを構え戦闘態勢の破壊神をみて次第に狂ったかのように高らかに嗤う。

 

「は……、はっはははははーッ!! 勇者ァッ!! 貴様らもこれまでだー! 我が神、破壊神様がお相手だ! 貴様らなんぞ一捻りだァ!!」

 

 笑い続ける邪神官をよそに、破壊神はさらに一歩、間合いを詰める。

 

 ズンッ! とまるで巨人が踏み出すようにダンジョンが揺れる。

 

「ぬっ!」

 

「むっ!」

 

 勇者と剣聖は予想外の大物の出現に得物を握り直す。

 

「こ、このプレッシャー……。魔神王並みか!? そんなバカな!」

 

 油断はしていなかったがあまりにあんまりな強敵に剣聖は普段の冷静さを忘れる。

 

「違うよ。こいつは魔神王なんかよりずっと強い」

 

 勇者は普段欠かさない笑みを消して相手の強さを持ち前の直感で正確に見立てる。

 

「この部屋は、異次元の魔力で満ちている……。平行世界の魔神を召喚した? 場所が悪過ぎる。ここは一旦地上へ退くべき」

 

 賢者はその明晰な頭脳で少ない情報から破壊神を分析し、現実的な戦術を提案する。

 

「だめだよ! そんなことしたらどうなるか分からない! 皆でここで倒すんだ!」

 

 地上の水の都には何万何千の無辜の民がいる。こいつが地上へ出たら、と思うとその被害は想像を絶するだろう。

 

「全く……。相変わらず無茶ばかりを言う」

 

「でも、勇者の言う事は正しい」

 

 知らず知らず弱気になっていた剣聖と賢者だがパーティーリーダーの一声で二人は勇気を取り戻した。

 

「未知の相手です。動かれる前に速攻で仕留めます」

 

「うん! プランA(ガンガンいこうぜ)だね! 賢者はフォローをお願い!」

 

「分かってる。因みにプランBは?」

 

「その時はその時だよっ!!」

 

 それを合図に、ばっと3人は散った。

 

 息の合ったコンビネーション。

 

 破壊神に突撃する剣聖と呪文を唱える賢者は囮。二人が命をかけて作る僅かな隙を勇者が突いて破壊神を倒そうとする。

 

 未知の強敵が行動する前に倒そうとするその選択はおよそ完璧。3人の実力も申し分無い。

 

 だが、相手は百戦錬磨の破壊神。勇者共の突然の襲来には慣れている。

 

 そして戦略は戦術の上をいく!

 

 呪文を唱えながら移動する賢者だが、ふと、足を止めた。否、詠唱を中断し膝から崩れ落ちた。

 

「そんな……」

 

 賢者は後ろを振り返った。魔術に精通する彼女すら解らない魔方陣がそこには浮かんでいた。

 

 だが、重要なのはそこではない。

 

 賢者は顔を青ざめ愕然とする。

 

「術が使えない!」

 

 破壊神がこんなこともあろうかと作っておいた魔方陣に賢者の持つ魔力のほとんどを吸収されてしまったのだ。

 

「賢者!?」

 

 仲間の異常事態に勇者は思わず叫ぶ。

 

 連携が崩れた。

 

 そして破壊神はその絶好の隙を見逃さなかった。

 

 ツルハシを地面に叩きつける。

 

ーー超局地! ダンジョンクエイク!

 

 叩きつけたツルハシから賢者に向かい地割れが走る。

 

「……ッ!」

 

 賢者は動けず絶対絶命。蛇のように走る地割れが賢者に達しようとした時、間一髪で勇者が賢者を引き寄せた。

 

「ギリギリセーフ!」

 

 真っ先に魔法使いから潰そうとした破壊神はチッと舌を打つ。

 

「チェストーッ!」

 

 肉薄してきた剣聖が大上段から刀を振り下ろす。

 

 速い!

 

 接近戦が苦手な破壊神だったがツルハシで受け止め弾く。だが、剣聖の攻撃は終わらない。

 

 弾かれた勢いを利用してさらにそれに自分の力と技を乗せ、先程の振り下ろしより速い剣戟を繰り出してきた。

 

 眼にも留まらぬ連撃を破壊神はツルハシをバトンのように高速回転させて防ぐ。

 

ーーこのっ! ちょこざいなッ!

 

 連撃の隙を突き、破壊神はツルハシによる反撃を繰り出す。

 

 剣聖の腹を裂いてやろうと死神の鎌の如きツルハシを薙ぐ。

 

「くっ!」

 

 しかし剣聖は寸でのところでこれを回避、連続バク転で間合いを取る。

 

「僕の事を忘れてもらっちゃ困るよッ!」

 

 追撃に移ろうとした破壊神に絶妙のタイミングで勇者が入り込む。

 

「夜明けの、一撃いぃッ!!」

 

 避けられないッ!

 

 彼女の持つ聖剣が翠玉色の弧をえがきながら下から上、斜めに破壊神を切り上げる。

 

 斬ッ! 破壊神の片腕が宙を舞った。破壊神の顔に苦悶の表情が浮かぶ。

 

「破壊神様ァ!」

 

 邪神官の金切り声が上がる。

 

「もう一発ッ!」

 

 振り上げた剣の勢いを殺さぬように勇者は駒のように回り、再度斬撃を叩き込もうとするが、破壊神はそれより早く後ろに跳んでこれを避けた。

 

ーーこのッ、小娘がァッ!!

 

 吼えた破壊神は怒りのまま、力任せに床を掬うようにツルハシを振り抜く。

 

 石畳の床が粉々に砕け! とんでもない速度の! 無数の礫が!勇者を襲うッ! 

 

 回避不可の面攻撃。飛んでくる石礫が一発でもかすれば人体なぞバラバラになるだろう。

 

 迫り来る絶対絶命……。だがその時! 勇者の脳裏に女神の神託が下ったッ!

 

『勇者よ……。逆に考えるのです。当たっちゃってもいいさ、と……』

 

 これはひどい。

 

 例え賢者でも大事な魔導書を地面に叩きつけるレベルの神託だが、勇者は違った!

 

 彼女の内に秘める勇気と、ひたむきに明日を望むその情熱が、とんでもない冒険を生んだ!

 

 勇者は走った! 前にッ!

 

 そして跳躍! 空中で仰向けの姿勢になり、迫る石礫に足を向ける。

 

 迫り来る無数の石礫だがそこには確実に隙間が存在した。通常の人の面積では通れない程の僅かな隙間だが、勇者の機転と直感、大胆さと幸運、そして彼女の小柄な体躯の全てが作用し、万に一の奇跡を引き寄せた。

 

 唸る弾丸の雨の中を勇者は見事すり抜けてみせた!

 

 そして跳躍の勢いのまま、破壊神にキックを食らわす。

 

ーーがぶッ!?

 

 まさかあの弾幕をこんなふざけた方法で回避し、しかもそのまま攻撃に移ろうとは夢にも思わなかった破壊神は、顔面に勇者の飛び蹴りを受けてたたらを踏んだ。

 

「今だ! 一気に畳み掛けるよ!!」

 

 機を逃がさんと勇者と剣聖がここぞとばかりに猛攻を仕掛ける。

 

ーー小娘共が! ぶさけるなッ! 

 

 破壊神はツルハシを振るい応戦。こしゃくな冒険者達の頭をカチ割ろうとツルハシを振り下ろすが2人には当たらず床を砕くのみ。

 

 勇者と剣聖は間合いを取る。

 

(大丈夫……。やれる!)

 

 剣聖は自分の技が通用しかつ破壊神が接近戦が不得手と見るや再び肉薄攻撃を仕掛けようと構えるが、その時大地が揺れた。

 

「なっ、何だ。地震!?」

 

「退がって! 早くッ!!」

 

 勇者の指示に素早く後退する剣聖。

 

 はたして、石作りの床を破壊しながら現れたのは黒い鱗を持つ巨大なドラゴンだった。

 

黒竜(ブラックドラゴン)ッ!」

 

「違う……。混沌竜(カオスドラゴン)……!」

 

 賢者が呟く。

 

「CHAAAAOS!」

 

 衝撃を伴うドラゴンの咆哮。アギトからは黒い炎が漏れる。

 

「うっひゃひゃひゃひゃーっ。破壊神様やっちゃって下さい!」

 

ーーうるせえッ! 引っ込んでろッ!

 

「はい」

 

 でしゃばってきた邪神官を破壊神は一喝で黙らした。

 

「DRAGOOON!」

 

 破壊神が生み出した混沌竜は漆黒の炎の吐息ブレスを吐く。

 

 禍々しいまでの黒きの炎の範囲攻撃!

 

 生身の只人の娘なぞが食らえば瞬時に骨まで焼き尽くす。

 

「やりましたなあッ! 破壊神様! 勇者といえど、これ程の攻撃を食らい無事で済むはずがない! 否、確実に殺りましたッ! 魔神様の仇を取りましたぞォ!!」

 

 全てを焼き尽くすブレス攻撃が収まりつつある光景を見て興奮を抑えられないように騒ぐ邪神官を尻目に、破壊神は未だ陽炎と煙りが踊るその向こう側へ鋭い視線を送り続ける。

 

 魔法使いと剣士はともかく、あれ程の勇者がブレス一発で死ぬとは到底考えられなかった。

 

 そしてその予感は的中し、視界が晴れると賢者を中心に光る球状の魔法障壁に守られた勇者一党の姿があった。

 

 破壊神が仕掛けた魔方陣に魔力のほとんどを吸いとられた賢者だが、なけなしの魔力を振り絞りカオスドラゴンのブレスを辛くも防いだのだ。

 

 しかし流石の賢者も相当無理をした為か、立っているのもやっとというふうに力なく自らの杖にすがりつく。

 

「ハア、ハア、これで打ち止め……。しばらくは魔法は使えそうにない……」

 

 ごめん、と顔を青くした賢者が言う。

 

「いえ、今のをよく防いでくれました。礼を言います」

 

「ナイスだったよ、賢者! 後は任せて!」

 

 勇者と剣聖はそう言って、仕切り直しだとばかりに剣を構える。

 

 カオスドラゴンのブレスを受けて無傷(ノーダメージ)とは、しかも怯むどころか互いが互いを頼り、信頼し合って士気を上げるその様を破壊神は何か眩しいのを見るように眼を細める。

 

ーーまあ、だからと言って手は弛めないが

 

 カオスドラゴンに行けと合図を出す。

 

「CHAOOOSS!」

 

 巨大な図体からは想像も出来ないほどに俊敏なカオスドラゴンの噛みつき攻撃!

 

 それを剣聖は見事な足捌きで回避し勇者はなんと、自分の体を軽くひと呑みできる程の顎に向かい、自らその口に入っていった。

 

「勇者ッ!?」

 

 常に限界突破(ブレイクスルー)の勇者に慣れている剣聖でもこれには驚きの声を上げる。

 

 自ら竜の口に飛び込んできた小娘を噛み砕かんとカオスドラゴンは口を閉じる。

 

 しかしそれこそ勇者の狙い通りだった。

 

「とおおおーッ!」

 

 閉じる上顎に聖剣を突き立てる。深々と突き刺さる聖剣にカオスドラゴンが叫びを上げて暴れだす。

 

 そして勇者はすかさず次の行動に出た。

 

「あーっ! うるさあーい!《カリブンクルス火石……クレスクント成長……ヤクタ投射》!! 」

 

 カオスドラゴンの喉奥目掛け火球(ファイヤーボール)を連続投射。

 

 リアルサザエさんからの体内根性焼きでカオスドラゴンは体の穴という穴から魔法の炎を吹き出し、その巨体を地面に伏した。

 

「CHAO……S」

 

 瀕死のドラゴンは助けを求め己の創造主にその眼を向けるが、その瞳に映るのは……眩い閃光?

 

 破壊神はカオスドラゴンが勇者と戦う間、有り余る堀パワーを体内で巡らせ蓄積、極集中させていた。そして臨界点に達した堀パワーを一気に眼から放出! 狙うは勇者ただひとりッ!

 

ーー(破壊神版)聖撃(ホーリースマイト)ッ!!

 

 ファンシーな世界に似合わないSFチックな高音を響かせ極太レーザーが照射された。

 

「勇者ァッ!」

 

 仲間の悲鳴をかき消し、巨体を誇るカオスドラゴンを瞬時に消滅させて閃光は勇者を周囲もろとも呑み込んだ。

 

 この攻撃は、地揺れとなって水の都はもちろん、遠く辺境の街までとどいたという。

 

 想像を絶する圧倒的破壊を目の前に誰もが動けず耳鳴りがするほどの静寂の中、閃光が収まると先が見えないくらいの大穴が空いており、そこに勇者の姿は無く、主を失った聖剣が弱々しく光るのみだった。

 

「勇者……?」

 

 残された勇者の一党は目の前の現実が信じられない。今まで多くの危機が彼女達を襲ったがいつも3人で乗り越えてきた。魔神王との戦いだって誰ひとりとして欠けることはなかった。

 

「今のは失敗した」

 

 だから今回もそんなことを言いながら、恥ずかしそうな顔をしてひょっこりと勇者が現れると剣聖と賢者は期待したが、いくら待ってもその勇者きぼうは現れなかった。

 

 死んだ……? あの、勇者が……?

 

 剣聖と賢者は目の前が真っ暗になった。その闇の中邪神官の耳障りな声だけがこだまする。

 

 

 

「世界に平和はおとずれなぁいッ!」

 

 




沐浴中の剣の乙女
 すごい! 何が凄いってもう全部しゅごい!!

ゴブリンスレイヤー一党
 原作通りにゴブリン討伐中

ダンジョンクエイク
 破壊神の一発芸。

宙を舞う破壊神の腕
 真実「……。閃いた!」

破壊神版聖撃
 某吸血鬼のアレ。目からビームは男の夢。





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第9話 クライマックス・フェイズ

Continueしますか?

   ➡️ はい 
     いいえ


ーー聖撃(ホーリースマイト)ッ!!

 勇者を確実に仕留めるために渾身の一撃(クリティカル)を放った破壊神。カオスドラゴンをかき消し勇者に迫り来る破壊の光線。

ーーさあッ! どうする勇者! 

 迫る死。破壊神のガチ攻撃に幻想は慌てるが、もはやサイコロを振る時間も神託を告げる暇もない。

 避けることも防ぐことも不可能な攻撃に勇者は己が死ぬビジョンを幻視した。

 足がすくむ。常人ならば絶望し、諦めるしかない状況だが彼女は違った。

 勇者とは、聖剣を抜いたり、たかが魔神やドラゴンを倒せばなれるものではない。

 真の勇者とは、誰もが恐れる恐怖に耐え、困難に立ち向かうその誇り高き姿にある!

 そして今の彼女はまさしく勇者たる存在だった!

「敗けられないッ! 世界の為にも! 大切な仲間達の為にも! 絶対に敗ける訳にはいかないんだーッ!!」

 勇者の心からの叫びに呼応するように聖剣は太陽のように光を発する。

「うっあああああーッ!」

 剣を振り上げ、迫り来る閃光に叩きつける。

 2つの高エネルギー体がぶつかり激しく拮抗するが、ジリジリと勇者は押されていく。

 勇者は必死に踏ん張るがそれでも後退するのは止められない。聖剣を握る手が裂けてて出血する。

「くッ……!」

 痛い! こんなの、1人じゃ耐えられない!

 涙を浮かべながら歯を喰い縛り懸命に堪える。

 バキリッ! と勇者の足元の石畳があまりの衝撃に耐えきれずに真っ二つに割れた。

 勇者の体勢が崩れる。

(しまったッ!)

 聖剣が押され破壊の閃光が勇者を呑み込もうとする。

 その時!

「勇者! しっかり踏ん張って下さいッ!!」

「1人じゃ無い。私達が付いてる!」

 剣聖と賢者が勇者の体を支える。

「みんな!」

 1人では無理でも仲間達と一緒ならば耐えられる。勇者一党は一丸となり破壊神の攻撃を凌ぐ! 

「ハアアアアッー!!」

ーーオオオオオーッ!!

 互いの全力をぶつけ合い、辺り一面を激しい閃光が満たし爆発し、その余波は地揺れとなり水の都周辺地域を揺るがした。

 破壊し尽くされ当初の面影は欠片も無くなった部屋に土埃が舞う。

 果たして勇者達はどうなったか。

 破壊神がツルハシを振るい風圧で邪魔な土埃をかき消すと、破壊神は禍々しい程の笑みを浮かべた。

 そこには傷付きながらも健在な勇者達の姿が!

ーー素晴らしい! たかが人の身でよくぞ耐えてみせた! 素晴らしいぞ、勇者よッ!

 何が嬉しいのか、破壊神は笑う。

ーーさあ! 勇者よ。互いにそろそろ限界だろう。フィナーレと行こうじゃないか!

 破壊神はそう高らかに言うと、残された僅かな力で最後の選択をする。

 どんな結末になろうと、次で決める。これが最後の一手にして最強の手札。

 破壊神は呪文を唱えた!

ーーいおぬ わのな ぞむほ もからな ぱもほへ かとめ ばじき ぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺッ! 出でよ、じゃしんッ!

 カッ、と魔方陣が怪しく輝き蠢く。平面上の魔方陣が立体になり扉になった。

 その扉は直ぐにヒビが入り崩れ去り、深海の暗闇のような空間から現れるは群青色をした巨体にギョロリとした真っ赤なひとつ目、背中にはコウモリの翼を有する悪魔(デーもん)だった。

「EVILGOOODッ!」

 重低音な禍々しい叫びを上げて、じゃしんが勇者達に襲い掛かり強力なパンチを繰り出す。

「ここで新たな魔神王級とか冗談でしょう!?」

 剣聖が魂からの悲鳴を上げながら賢者を抱え回避。重鈍なじゃしんの攻撃はすばやい剣聖を捉えることは出来なかったものの、パンチを受けた地面はクレーターのように陥没してその桁外れの威力に剣聖は息を飲んだ。

 ドカンッ、ドカンッとじゃしんが攻撃する度に大地が揺れる。

 しかし勇者達を相手取るにはあまりに遅過ぎた。

「いっくぞーッ!」

 勇者はそう叫ぶと、じゃしんの振り抜いた巨大な腕を走るという曲芸めいた動きで接近し、懐に潜り込む。

「スターバースト・ストリームッ!」

「勇者、それはいけない」

 賢者の忠告を振り切って勇者は必殺の技を放つ。

 斬撃の嵐、目にも留まらぬ16連撃をじゃしんに叩き込む。げに恐ろしいのは、その一発一発が会心の一撃(クリティカル)ということだ。

「IDOLLLッ!」

 然しものじゃしんもこれには堪らず後退り倒れる込む。

「ひああっ!」

 じゃしんが倒れ込んだ先には邪神官がいて情けない声を出す。

ーーというかお前まだいたの?

 夥しい血を流しながら、じゃしんは起き上がろうとする。

 その時、じゃしんの赤い瞳と邪神官の視線が交差した。邪神官の背中に嫌な汗が流れる。

 じゃしんは邪神官に腕を伸ばした。そして掌がバッサリと裂けて現れたのは恐ろしい牙が覗く真っ赤な顎だった。

「な、何を!?」

 邪神官が悲鳴を上げる間もなく掌に現れた大きな口は邪神官に噛み付く。

「ぎッぎゃあーッ! た助けッ! 破壊神様ッ!? お助けーッ!!」

 邪神官の叫び虚しく、彼は生きたまま咀嚼され、頼りの破壊神は不思議そうにその様を見つめるのみだった。

「いっ、嫌だァッ! 死にたくなァいッ!!」

(あれかなあ? 邪神官(あいつ)のローブにキノコが生えてたからかなあ?)

 ムシャムシャと邪神官を食べるじゃしんを見ながら破壊神は取り留めの無い事を考える。

 邪神官(キノコ?)を食べて体力を回復したじゃしんは再び勇者に立ち向かう。

 その戦闘意識は賞賛に値するが、敵前で背中を見せる事ほど迂闊なことはなかった。

「太陽の一撃ィッ!!」

 勇者の聖剣がじゃしんを穿った。

 じゃしんは熟れたトマトのように裂けて、最初から無かったかのように消えてしまう。

「ハッ、ハッ……」

 流石に疲労の色が濃い勇者。だが、その瞳は闘志を失ってはいない。

 賢者と剣聖も隊列に加わり、油断無く破壊神を包囲する。

 少し前までは堅牢な石造りだったこの部屋も、今や原型を留めない程になっていて大きくひび割れた壁からは水が浸水している始末。

「残るは貴方だけ……」

「最早、逃れられないと知れ!」

 賢者と剣聖が武器を構えながら言う。

 軍パワー、堀パワーが底をつき、文字通り片手の破壊神は抗う術がない。

 上等だ。勇者が地上に帰還するまで破壊神は諦めず戦い続けるものなのだ。

 誇り高い破壊神は、決して秩序 (へいわ)には屈することは無い!

「さあ! クライマックス・フェイズだ。いくぞ! 勇者、推参ッ!!!」

 聖剣が秘める力を一気に解放し、その力を加速装置にして一気に距離を詰める勇者。

ーー来いッ! 勇者! 我を殺してみせろーッ!

 破壊神は勇者を迎え撃つべくツルハシを渾身の力で振るう。

 聖剣とツルハシがぶつかり合う。

 そして勇者の聖剣は破壊神のツルハシを両断し、光を纏う勇者の斬撃は確実に破壊神を捉えた。

「太陽の、爆発ッー!!!」

ーーぐわあああーッ!

  

 ◇◇◇

 

 静寂の中パラパラと瓦礫が落ちる音と水が流れ込む音だけかこだまする。

 倒れ伏した破壊神が目を開けると緑色の満月が煌々と輝いていた。

 カラーン、と高い金属音が側で聞こえ、ぼんやりとその方を見ると両断されたツルハシがカラカラと虚しく転がっていた。

ーー熱く……永い戦いも、とうとう決着したか……

「ボク達の勝ちだね」

 傍らに来た勇者が破壊神を見下ろす。

ーーそなたの勝ちだ。しかし……只人の娘1人に敗れる事になるとはなあ

「それは違うよ」

 勇者の否定の言葉に破壊神はゆっくりと瞳を向ける。

「剣聖と賢者。皆の力がキミを(まさ)ったんだ」

ーーふ、ははは……。そうか、仲間の力か……。

 仲間の力……。久しく忘れていた。あの抜けているが憎めない魔王との苦楽を共にした日々が破壊神の脳裏に浮かび上がる。

ーーあれは、良いものだよなあ……。

 勇者達は破壊神の愛と友情を肯定する言葉に驚き顔を見合わせる。そして勇者は何を感じ取ったのか、膝をつき破壊神に寄り添う。

「危険です」と剣聖は止めようとするが、「大丈夫」と勇者。

「……ねえ、もしさ。出会い方が違ったら、ボク達友達になれたかな?」

ーー再び……合見えることができれば、それも良いかもなあ……

 ついさっきまで死合ってたとは思えない勇者の無垢な顔を破壊神は力無く笑いながら見上げる。

ーー最後に、そなたの名前を、聞かせてもらえぬか……

「ボクは───だよ」

ーーそうか……。勇者───よ。我を討ち倒しそなたに、『超勇者』の称号を贈ろう。

「超勇者……」

 勇者は宿敵からの言葉を神妙に受け取る。

 一歩引いたところから見ている剣聖と賢者は、月光が二人を照らして神からの奇跡を授かる神聖で荘厳な物語の場面のように感じた。

 

ーーその時、信じられないことがおこった!

 

 カッ、と眼を見開いた破壊神は目にも止まらぬ早さで勇者を突き飛ばした!

「なッ! 貴様!」

 剣聖は卑怯な振る舞いの破壊神に激怒し、止めを刺そうと斬りかかろうとするがその刹那、勇者がいた場所に巨石が落ちて来て破壊神を押し潰す。

 破壊神と勇者達の激しい戦闘の余波に地下迷宮そのものがが耐えられなくなってきたのだ。

「崩落が始まった。ここにいては危険」

 賢者の忠告通り、岩盤には亀裂が走り次々に岩が落ちてくる。浸水も既に洪水のような勢いで、後数分でこの空間は水没するだろう。

「勇者。立って下さい!」

「待って! まだあの人が!」

「もう間に合わない」

 剣聖と賢者が勇者を引き立たせ出口へ向かう。

 岩に挟まれて動けない破壊神は、地上へと向かう3人を穏やかな表情で見送る。

ーーふっ……。全ては栓無きことよ

 激しい崩落と浸水の中、破壊神の意識は微睡みに落ちるように消えていった。

 

 ◇◇◇

 

 辛くも地上へと脱出した勇者達は強烈な疲労と安心感で地面に倒れ込む。

「ハア、ハア……。破壊神(あれ)は、どうなったんでしょう……」 

「禍々しい魔力は消えた。完全に打ち倒したとみていい……」

「そーかなあ?」

 勇者は空を見上げる。緑色の満月が夜空を覆っている。

「なんだか、また会いそうな気がするけどなあ……」

 




取り敢えず、完結です。
お疲れ様でした。




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