対岸の火事とはいかなくて (路可礼音)
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プロローグ

深く考えるな、感じろが基本スタイルです。


 私という存在はどこまでもちっぽけで、誰かのためになにかをするなんて到底できる存在ではない。そんなこと痛いぐらい理解しているというのに。どうしてこんなことになっているのだろう。

 

 

「はーい、ちっぽけな蟻さん以下のマスターさんにお知らせでーす。見事センパイは異世界トリップに当選しました~。好きな漫画を特等席で眺めるなんて、キモオタにとっては最高のご褒美ですよねー。ほら喜んで喜んで。まあ、流石にダメダメなセンパイを一人で放り出すのはBBちゃんも心が痛んじゃいますし? ちゃーんとお手伝いを完璧にこなしてあげますし、サポートサーヴァントも用意しておきました☆ それじゃあ、楽しい楽しい異世界ライフを謳歌してくださいね、セ・ン・パ・イ」

 

 

 眠りにつく直前、そんな声が聞こえた気がした。幻聴にしては随分とハッキリ聞き取れる。兄も両親もこんな音声を聞く趣味はないのに、一体なんの音なのだろうか。気にならなくもなかったがきっと関係ない話だろう。そう思ってさっさと睡魔に意識を任せた。

 

 

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 目が覚めた。しかし視界に広がる天井はまるで見覚えのない和風のものだ。私の部屋は白い天井でしかなかったはずだというのに。

 仕方なくむくりと起き上がると周囲にあるのはやはり見覚えのない光景。タンスにたくさんの漫画やDVD、小説の敷き詰められた本棚。教科書らしきものが立てかけてある低い和風の勉強机。襖も畳も、さっきの家具も私のような素人がパッと見ただけでも高級品だとわかるほどのもの。

 私はそういう大層な家具を遣えるほど裕福な家庭の娘じゃない。それどころか兄妹揃って私立に行ってるもんだから割とギリギリっぽい。よく知らないけど。

 もしかして誘拐!? そう思って一人震えていると、枕元に置いてある携帯電話、いわゆるスマートフォンが着信音を鳴らした。

 

 

「なにごと!?」

 

 

 パッと手に取って出たところで、番号の確認をしていないことに気付いた。

 

 

「変な勧誘とかだったらどうしよう……」

『おやおやっ、まさかノータイムで出るなんてさすがセンパイ。その愚かな無警戒ぶりにBBちゃんもびっくり~』

「……夢かな」

 

 

 その声は私がずっとプレイし続けているスマートフォンアプリ『Fate/Grand Order』にコラボイベントにおいて実装されたBBというキャラクターの声にそっくりだったのだった。

 しかし、彼女は所詮二次元の存在でしかない。テキストとイラストと声優さんの声によって生み出されたキャラクターだ。つまりこれは夢でしかないということだ。

 そういうことでさっさと切ろう。また寝れば夢から覚めるかな。

 

 

『ちょっと待ってくださーい! 全くセンパイったらBBちゃんは存在していまよ! っていうかセンパイが寝る前に言ったこと、覚えてないんですか?』

「あぁ……なんか当たったとかどうとか聞こえたね。でも、そんなんあるわけないし……」

『あぁ、なんて嘆かわしいことでしょう! 私のオモチャ二号もといセンパイがこんなにも頭の固い人だったなんて! それでは仕方ありません! こうすればわかりますか?』

 

 

 自称BBちゃんはそういうと通話を切った。

 

 

「なんだったんだ……? うおっ!?」

 

 

 不意にスマートフォンが光ってそこから女の子が出てきた。

 

 

「全くまさかこんな序盤も序盤から出るハメになるなんて……まあいいです、遅いか早いかの違いは」

 

 

 そこにいるのは間違いなくBBちゃんだった。なんか長い髪も大きい胸も、ギリギリ見えてるパンツというかレオタードも。でもなんで?

 

 

「だから、センパイは異世界トリップに当選したんですよ。私は案内役です」

「いやそこもあり得ないんだけど……」

「世界は名探偵コナン。センパイ、お好きでしょう? じゃあ、BBちゃんはスマートフォンからきっちりサポートしますので、お世話係サーヴァントにもよろしくお願いしまーす」

「ちょ、待って……」

 

 

 そう言ってBBちゃんは私のスマートフォンに入っていってしまった。

 ん? お世話係サーヴァント?

 そう思った直後、背後の襖が開く音がした。




まあ、ここまで。全体的にぼーっと読み流していただければ。


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一話

他にも登場させたいサーヴァントがいれば教えていただけると。
ただ、あんまり多いと活躍させらんないので(作者の技量的に)そこはご了承いただけると幸いです。


「起きたかい? 朝飯はできてるっぽいぜ」

「まさかの人選」

 

 

 襖が開いた先にいたのは頭に赤いバンダナ? スカーフ? を巻いて身体に刺青を入れた青年。つまりはアンリマユ。何故だ。私は彼をゲーム上で召喚した記憶はまるでないし初登場のゲームも未だにプレイできていない。要するになんの縁もないのだけど。

 それにどう見てもお世話係サーヴァントとは程遠いだろ! 全然違うだろ!

 もっとこう、BBちゃん的にはロビンフッドとかその辺じゃないの!?

 

 

「オタクも物好きだねぇ、レアプリ溶かしてまでオレを召喚しようしてたとか……」

「それか!」

 

 

 まあ、実のところ私は彼を召喚したさにせっかくのレアプリズムを溶かしてまでフレンドポイントをゲットしていたりする。……それでもこいつは召喚できなかったけどね!

 理由としては、まあ、声が好きなキャラと同じ声優さんでどことなく声質も似ていたからっていう極めて不純なものだったりするのだけど。別に彼自身に興味がないわけじゃないんだけどね。

 

 

「いや、それにしてもだよ。貴方お世話係サーヴァントって風じゃないでしょ!?」

「そりゃそうだ。なんたってオレは単なるオマケであって、お世話係じゃねぇし」

「オマケってなんだよ!」

 

 

 すごいことサラッと言ったな! そういうキャラなんだろうけど!

 ……ん? じゃあ結局お世話係って誰なんだろう。アンリマユが来てる時点でなんかもう割となんでもありな気がするし。

 

 

「まあ、それは見てのお楽しみってことで。行こうぜ、マスター」

「うん……」

 

 

 なんか釈然としないな……。

 

 

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「起きましたか、マスター。ささ、席にお座りください」

「ここはある意味予想通りというか……関連性はあるんだ」

 

 

 居間にいたのは青い巫女衣装を着た玉藻の前だ。彼女は『Fate/EXTRA CCC』に登場する、というかメインサーヴァントの一人だから特におかしな人選ではないと思う。

 多分おかしいのはアンリマユなんだと思う。この状況自体も大分おかしいけど。

 

 

「冷めてしまう前に召し上がれ」

「あぁ、うん……」

 

 

 促されたのでとりあえずでっかい机に置いてある見事な朝食の前に座った。ほんとになにがなんだかサッパリである。

 

 

「私のことはご存知ですよね。貴方のキャスター、玉藻ちゃんでっす!」

「知ってるけど……別に私イケメン魂でもないのになんで……」

「そんな細かいことは言いっこなしなし! とにもかくにも朝食をお召し上がりください!」

 

 

 一応そう言われたから箸を手に取ってごはんを食べる。うん、とても美味しい。

 

 

「さて、私は今日から貴方のお世話係兼護衛として付き添うことになります。そちらのアンリマユさんと共に、ですが」

「おー、よろしくなー」

「なーんかちっとも頼りにならなさそうですが……よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ……」

 

 

 なんだかおかしなことになってしまった。ただ、自分の思考力やらはまるであてにならないし、多分過ごしているうちに元に戻るでしょう。

 とりあえず楽しんでおくのが吉かな。



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二話

原作軸にいきたいと思いつついきっても多分速度的には変わらない。
そして主人公の名前っている? ちなみに今回はめっちゃ苦しい感じになったけど出さないようにした。


「一応ここには引っ越してきた身ですし? ご近所付き合いということでお隣に菓子折りでも持っていきます?」

「そうだね、確かにそういうのは大事だね」

 

 

 なんだか主婦的発想な気もするけど、そういったことをしてくれる母がいないというのなら私がやるしかないんだと思う。コミュ障な私にできるのかはわからない。というか悪印象を持たれて終わりな確率の方が高い気もするから不安だ。

 一部しか分かってないのに結構大きいことがわかる敷地の隣は、どんな人が住んでいるのだろう。

 

 

「正直すんごく気に食わないのですけど、念のためにあのBBめの入ったスマートフォンを持っていった方がよろしいかと。私も現代の服に着替えてまいりますので、マスターもご準備を方をよろしくお願いしまぁす!」

「んじゃあ、オレは霊体化して見てるからそこんとこよろしくお願いしますよ、マスター」

 

 

 アンリマユはそう言って消えた。霊体化っていうのは確か見えなくなる状態のことだよね。耳と尻尾と服を現代に合わせればなんとかなる玉藻ちゃんと違ってアンリマユは刺青入ってるしね。いやでも消せないのかなアレ。

 そう思ったけど、本人がどうしようとかしてないから気にしなくていいのかな。

 

 

「全く、あんの黒男、マスターの着替えを見るつもりかってんですか! マスター、私がしっかり止めておきますのでご安心ください」

「うん……そんな面白いもんじゃないけどね」

 

 

 玉藻ちゃんは考えすぎだ。私の着替えになんて価値はないというのに。

 

 

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『ひどいですよー! このBBちゃんをこんなにも放っておくなんてー!!』

「ごめんごめん」

 

 

 着替えが終わってスマートフォンを見ると放っておかれたことでBBちゃんはご立腹だった。というか普通に出てくればいいのに。

 

 

『もー、センパイったらー。このスマートフォン、ほとんどBBちゃんの力で動いてるのにー』

「ん? ……今、とんでもないこと言わなかった?」

『はい、このスマートフォンは機能的にも通常のものより優れていますが、その分壊れやすいので随時私がチェックして直しているのです。後、充電もいりませんのでいくらでもお使いください』

「わー、もうこれチートじゃーん」

『代わりといってはなんですが、閲覧履歴全般はBBちゃんが見ているのでえっちなサイトとか見たら丸わかりですよー?』

 

 

 それは大分やばいな。この子にそういうサイトを見ているのバレたら死ぬまでからかわれそうな感じがする。ある意味普通のより恐ろしい状態になってるってことか。

 うん、そういうサイトを見るのは控えよう。辞めるとは言えないけど。

 

 

「マスター? お着換え終わりましたか?」

「うん、終わったよー」

 

 

 まずはお隣との関係だ。大丈夫かな?

 

 

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「もしかしてここって……」

「さ、行きましょう」

 

 

 玉藻ちゃんがインターホンを押すのを見ながら思い出す。ここ、もしかして工藤新一の家なんじゃ……。

 

 

「どうも、工藤ですけど」

「あ、はじめまして。私達隣に引っ越してまいりました。引越しでは何かとお騒がせしてしまいご迷惑をお掛けいたしました。これからお世話になります。どうぞよろしく御願いいたします」

「はい、今出ます」

 

 

 表札でわかったけどやっぱりかー! ていうかまだ工藤新一のままなんだ。つまりは原作前っことになるか。

 

 

「はじめまして、工藤新一といいます」

「こちら、心ばかりの品ではございますが、宜しければお受け取り下さい」

「ありがとうございます」

「それではまた」

 

 

 玉藻ちゃんがそう言っている。とりあえず私も会釈をしておく。というかそもそもこういうのって私がやるべきだったんじゃ……。

 

 

『今日は日曜日なので、明日からはちゃーんと学校に行ってくださいね、センパイ』

 

 

 勉強、ついていけるかなぁ……。



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三話

主人公の名前は今回も出さない。


 お隣さんが工藤新一だった。

 まあ、大丈夫だよね。ただ単にお隣さんってだけで事件に巻き込まれるとはそんなんあるわけないし。

 息つく間もなく中学校だ。どうやら玉藻ちゃんは家に残って家のことをするらしい。

 

 

「なにかあったらすぐにお呼びください。アンリマユの野郎だけは心もとないありませんので」

「ひっでーなぁ。人間相手だったらオレは無敵みたなもんだってのに」

 

 

 なんて会話があったりする。

 それに中学校に主要キャラはいないし、事件に巻き込まれるとかそうい心配はない。一番問題は勉強についていけるかどうかなのだから。

 私は元々真面目に勉強をするタイプじゃないし。

 

 

「よし、行こうか、BBちゃん」

『は~い、じゃあ勉強に着いていけなくて半泣きになるセンパイをここから楽しみますね!』

「マジでありそうなんだけど……どうすんのさ」

 

 

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「なんとかぎりぎり……」

『でもあの程度なんて、センパイほんとに社会人だったんですかぁ~? BBちゃんびっくり~』

「うっさい、これでもできてる方だって思ってるから」

 

 

 BBちゃんにからかわれながらこの世界における家に帰る道を辿っている。BBちゃんのサポートがあるから迷子になることはない。一応仲良く話せる相手はできたし中1だからかいうほど勉強には困らなかったし、上々と言っていいだろう。

 帰っての復習をやればまあ、問題なく着いて行けると思う。

 そう思ってると、爆発音と共に一つの影が目の前を通りすぎていった。

 

 

「え? なに?」

「あいたた……ん?」

 

 

 腰をさするそのご老人は後の江戸川コナンに便利な道具を作る科学者の阿笠博士だった。まさかここでご対面になるとは思わなかった。

 

 

「あの……大丈夫ですか? すごい勢いでしたけど……」

「気にすることはない。それで君は?」

「隣の隣に越してきました者になります。今後ともよろしくお願いいたします」

「あぁ、あのやけにでかい武家屋敷の子か。丁寧にどうも」

 

 

 一応自己紹介はしておこうと思って頭を下げながら挨拶をする。阿笠博士も同じように頭を下げてくれた。

 

 

「なにやってんだよ博士? また爆発したのか?」

「おぉ、新一!」

 

 

 お話してるとどうやら工藤新一が学校から帰ってきた。学校からと思ったのは普通に制服を着てるからである。推理もあったもんじゃないな。

 

 

「うちのお隣さんとどうしたんだよ」

「あぁ、たまたま会ってな。ちょっと立ち話をしとったんじゃ」

「どうも」

 

 

 会話する二人に会釈をする。挨拶になっているかはさておき、ポーズを見せることは大事だと思う。

 実のところ事件に巻き込まれたくないからあんまり話したくはないけど。

 

 

「そうじゃ、立ち話もなんだし、中に入るかね?」

「えぇ?」

「いいんじゃねーか? 家も近いし」

 

 

 大丈夫かなぁ……まあ、この状況で事件もなにもないか。

 

 

「なら、お言葉に甘えてお邪魔させていただきます……」

 

 

 悲しきかな、オタクは欲求に抗えなかった。

 

 

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「工藤さん、探偵なんですか? 高校生なのに?」

「そう! なにか困ったことがあったら言いな。俺がずばっと解決してやるからさ!」

「ははは……そうさせていただきます……」

 

 

 ソファに座って工藤新一とお話をする。なんというか、アニメやマンガで見てる時も思ったけど、結構目立ちたがりなんだということを改めて知った。

 

 

「そういえば、蘭くんはどうしたのかね? いつも一緒に帰っとるじゃろ?」

「あぁ、今日は楽しみにしてた新刊が出るから俺だけ早めに帰ったんだ」

 

 

 確かに蘭姉ちゃんがいない。なんかいつも一緒ってイメージがあったんだけど、こういう日もあるのか。少しだけ意外だった。

 

 

「それじゃあ、私はこれで」

「おぉ、またな!」

 

 

 将来小さくなることとか言うべきなんだろうか……。

 

 

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『ダメです』

「なんで?」

『センパイはただの旅行者みたなもの。結果に対する干渉は認められていません。したとしても、ただ叩き出されて修正されてハイ終わりです』

「そっかー……」

『最初に言ったでしょう? 特等席で眺めるって。それはつまりそういうことなんです。なので勇敢でお優しいセンパイにおかれましてはただ目に見える結末を楽しんでください』

「ダメなのかー……」

 

 

 自室。BBちゃんに言われてごろりと寝転がる。なにかしらできたら良かったんだけど、本来は違う世界の私の干渉していい部分ではなかったらしい。

 

 

「マスター。お夕飯できまたしたよー!! たんとお召し上がりくださーい!」

「あぁ、うん。今行くよ!」

 

 

 とりあえずお腹がすいたから玉藻ちゃんが作ったご飯を食べよう。



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