私に勇気を下さい (小将)
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プロローグ

「夕祈〜起きなさーい」

 

微睡む意識の中、母の声が聞こえる。聞こえはするがこの眠気の誘惑には抗えそうにない、ということでもう少し、惰眠を貪るとしよう。

 

「夕祈、母さんが呼んでいるわよ、二度寝なんてしてないで起きなさい」

 

紗夜お姉ちゃんの声がする、いつの間に私の部屋に入ったんだか、既に私の布団の目の前で立っているし、ここまで来られたらもう寝ていられないだろう、諦めて起きてしまおう。

 

「はいはい、今起きますよっと」

 

「じゃあ、夕祈は日菜を起こしてきて、まだ夕祈みたいに布団の中だろうから」

 

「うん、了解したよ、日菜姉は起こしておくから紗夜お姉ちゃんは先に下に行ってて」

 

「そうね、じゃあ先に行ってるわね、ちゃんと起こしてくるのよ」

 

「そこまで疑わなくてもいいのにー!」

 

「あら、お母さんの呼びかけを無視して二度寝しようとしていたのは何処の誰かしらね」

 

それだけ言い残すと紗夜お姉ちゃんは行ってしまった。その通りなんだけど、なんか癪だなー。これは日菜姉をからかってプラマイゼロにするしかないな。ゴメンね日菜姉、これは不可抗力なんだよ。

そんなくだらないことを考えながら軽い身支度を済ませ部屋を出た私の目の前には

 

「おっはよう!ゆうちゃん起きてるかい?」

 

すっごい笑顔の日菜姉がいた。紗夜お姉ちゃんの嘘つき!日菜姉ガッツリ起きてるじゃん。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

というわけで、家族5人で朝食の時間を過ごした私は学校への道のりを歩いていた。

私の通う学校は、羽丘女子学園と呼ばれている女子校だ。羽丘には日菜姉も通っているので必然的に一緒に登校することになる。まあ、私は中等部で日菜姉は高等部だから完全に一緒ではないのだけれど。紗夜お姉ちゃんは花咲女学園という女子高に通っているので一緒には登校出来ないのだ。

 

「お姉ちゃんも一緒に登校出来たらもっとるん!って来るんだけどな〜」

 

このセリフもなんど聞いたことか。

 

「日菜姉、私そのセリフすっごく聞き飽きちゃったよ、そろそろ慣れなよ」

 

「えー、だって一緒にいたいんだもーん」

 

「じゃあ、日菜姉は私といる時にはるん!ってこないんだー」

 

「む、その言い方はちょっと意地悪じゃないかな〜、あたしがゆうちゃんのと嫌いなわけないじゃん」

 

確かに少し大人げなかったかもしれない、まあ、日菜姉の方が私よりも大人なんだけど

 

「ごめんごめん、ちょっと朝のこともあって、からかってみただけだよ」

 

「え、朝のことって何?あたしなにかゆうちゃんを怒らせるようなことしちゃったっけ?」

 

「いやぁ、ちょっと紗夜お姉ちゃんとね」

 

あ、しまった。私の口から紗夜お姉ちゃんの話題をだしちゃ....

 

「そっか、お姉ちゃんと....」

 

遅かった。目に見えて表情を曇らせる日菜姉、けどそれも一瞬で、直ぐにいつもの笑顔に戻った。

 

「だからってあたしに当たらないでよー」

 

あぁ、まただ、また日菜姉に無理をさせてしまった。笑顔でも隠しきれてないよ、何年一緒にいると思ってんのさ、日菜姉も紗夜お姉ちゃんも。

ただ、無理してるよね、なんて言えない。無理をさせてしまった私が、その無理を意味の無かったことにさせるのは許されないから。

 

「可愛い妹のイタズラだよー、むしろ有難く思ってほしいなー」

 

「全く、調子いーんだから」

 

こんな下らない会話をしながら私達はいつも通り学校へと向かった。

 

ーーーーーーーー

 

日菜姉と別れ中等部の教室に向かう途中で私の大親友がいたので声をかけた。

 

「おはよー」

 

「あっ、ゆうゆうおっはよー!」

 

「今日もあこは元気だねー、朝からそんなに元気で尊敬するよ」

 

「ふふふっ、当然!我が体には抑えきれぬ魔力が常に放たれているのだからな」

 

この、元気いっぱいで偶にカッコつけたことを言ってしまう女の子は私の幼なじみであり大親友の宇田川あこ。小学校の頃からずっと仲良くしてきて中学3年になった今でも大の仲良しだ。

 

「流石は聖堕天使あこ姫だね。で、その魔力もとい元気の秘訣は?」

 

「えっ、秘訣?ひけつ...ひけつ......あっ!お姉ちゃん!」

 

「そこで出るのがやっぱりトモちゃんなんだ。あこってほんとトモちゃんのこと大好きだよねー」

 

「うんっ!大好きだよ!カッコイイし優しいし。それにゆうゆうだって紗夜ちゃんに日菜ちんのこと大好きでしょ?」

 

「そう...だけど、そんなに堂々と大好きなんて言えないよ、恥ずかしいし」

 

「そっか、ゆうゆうは照れ屋さんだねぇ」

 

こちらをからかうように言ってくる。

 

「もう、早く教室行くよ」

 

「あっ。待ってよゆうゆーう」

 

私は恥ずかしくなり話を切り上げ、教室を足早に目指した。

 

ーーーーーーーー

 

4限まで授業を終えて、今は昼休み。私とあこは2人で昼食を食べながら話していた。

 

「ライブ?」

 

「そう、ライブ!今日の放課後にライブハウスでやるの!」

 

「そのライブってafterglowが出るの?」

 

「うん!だから一緒に行かない?」

 

afterglow、トモちゃんがドラムを担当している幼馴染で結成されているバンドの名称だ。ちなみにメンバー全員私のお友達でもある。

うーん、ライブかー、afterglowのみんなが出るんなら是非とも行きたいな

 

「うん、いいよ行こっかライブ。私もみんなの演奏聴きたいし」

 

「やったー!じゃあ、放課後にお姉ちゃん達と合流してからライブハウスにレッツゴーだよ」

 

ということで放課後にライブハウスに行くことが決定した。

軽い気持ちで行くつもりだったが今後の運命を定める放課後になるとはこの時の私は想像もしていなかった。

 



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衝撃

退屈な授業が終わりホームルームも終わってすぐの今、あこは私の目の前にいる。ホームルーム終了の号令と同時に立ち上がり私の元へと来たのだ。

随分と全く帰りの身支度の早い事で、さてはホームルーム中に片付けてたなー。

 

「さあ行こう、ゆうゆう!」

 

「待ってよあこ、ちょっと早すぎるって」

 

「そんなの当たり前だよ、すっごい楽しみにしてたんだからね!ほらゆうゆう急いだ急いだー」

 

ほんとあこはトモちゃんのことになると凄いなぁ。とにかくテンションが高くなる、いつもが高いからこの状態のあこのテンションは相当高い、少しウンザリするくらいだ。まあ、楽しそうなあこを見るのに悪い気はしないから全然許容件内だ。

 

「よし!準備終わったねー、じゃあお姉ちゃん達のところへしゅっぱーつ!」

 

「あっ、先に行かないでよー、ねぇあこ!聞こえてるーー!?」

 

とまあ、先に行ってしまったあこを追いかけて私はやや駆け足で教室を後にした。

 

ーーーーーーーー

 

あこに追いつき駆け足から早歩きに移行した私達は相当早く待ち合わせの校門に着いた。

 

「あれ?お姉ちゃん達まだいないや」

 

「当たりまえだよ、多分高等部含めても私達が1番早いんじゃないの?」

 

周りにはまだ生徒が見当たらないあたり本当に1番かもしれない。

 

私達が着いてから5分ほどたった頃、高等部の方から見覚えのある5人が駆けてくるのが見えた。

 

「おーーい!あこーーー!」

 

「あっ!お姉ちゃん!おそいよー」

 

「ははっ、悪い悪いこれでも急いだんだけどな」

 

真っ先に着いたのがトモちゃん。高身長で綺麗な赤い髪を揺らしながら到着。

 

「待ってよ、と....巴......は...早すぎるよ」

 

「ひまりちゃん大丈夫?よかったら私の水筒飲む?」

 

「なんであんなに走ってつぐは平気なの!」

 

次いで、息も耐えたえの状態で到着したのがひまりちゃん、ピンクの髪と大きな胸が特徴。

そんなひまりちゃんと同時に到着したのが可愛らしいという言葉がお似合いのつぐちゃん。

 

「到着〜、あこちんにゆーちゃんは随分早いね〜」

 

「あこに夕祈、2人とも待たせたね」

 

「あれ〜、蘭息きれてるけど大丈夫〜」

 

「っ、余計なこと言わないでよモカ」

 

最後に到着したのがのほほーんとしているモカちゃんとモカちゃんにからかわれて赤くなっちゃってる蘭ちゃん。

 

「これで全員だな、じゃあ行くか」

 

トモちゃんの掛け声で私達は歩き出した。

 

ーーーーーーーーー

 

そんなわけでライブハウス着いた私達、トモちゃん達は準備があるからって先に中に入っていった。去り際にトモちゃんが「2人共!アタシ達の音、しっかりと聴いとけよ」なんて言っていた、それに対してあこもすっごい元気に返事してたし本当に2人は仲がいいなぁ。

 

今回のライブはafterglowの他に2つのバンドも参加するらしくafterglowの出番はは2番目だ。てっきりトリはafterglowが飾るものだと思っていた。afterglowは贔屓目に見なくても相当上手でそこら辺のバンドと比べてもかなりレベルの高い方だ、だからトリはafterglowだと思っていたのだが、今回は上がいたらしい。

しかし、プログラムのトリの所には1人の名前が書かれておりバンド名が書かれていなかった。

 

「湊.....友希那 ?」

 

「どうしたのゆうゆう?」

 

「あ、いやなんでもないよ、ほらもう中に入れるみたいだし行こっか」

 

湊友希那、どんな人なんだろう、少し興味があるな。

 

 

 

「わぁ、この空気感久しぶりだよ」

 

会場に入った私は懐かしい空気に浸っていた。ここに来るのも1年振りくらいか、afterglowが出るライブしか見てないってのが主な理由なんだけど。

 

「そうだね、去年はお姉ちゃん達、受験とかでライブ出てなかったもん」

 

「うん、だから誘われた身だけど私も結構楽しみなんだよね」

 

「だよね!1年ぶりのお姉ちゃん達のライブ楽しみだなー、早く始まらないかな〜」

 

あこの「楽しみ」というセリスを聞き飽きた頃、会場が薄暗くなった。ライブ開始の合図だ。直ぐに1組目のバンドが入ってきた、MCが終わり、メンバーが各々楽器を構える。一瞬の静寂に包まれたのも束の間、その静寂は消え去り楽器それぞれの音が聞こえ始める。

 

あぁ、やっぱりいいなこの感じ、耳だけで感じるはずの音を体全体で受け止めて感じる、体で音を聴くこの感じ、ライブでないと味わえないこの高揚感....堪らない。

 

気がついたら演奏は終わり、1組目のバンドはステージを後にしていた。つまりは直ぐにくるという事だ、私達の最高にカッコイイ友達が。

 

「待たせたね、みんな。1年ぶりのアタシ達の曲、しっかりと聴いてって」

 

蘭ちゃんの手短なMCが終わり、先程と同じような一瞬の静寂。一転、音の爆弾が弾けて私の鼓膜を、身体を、心を震わせた。

 

ーーーーーーーー

 

蘭ちゃん達の演奏は圧巻で、申し訳ないが最初のバンドとは比べ物にならなかった。あこも同じ感想のようで先程から、というか演奏の途中から「すっごい」としか言えていなかった。あこは興奮すると語彙力が下がってしまうらしい

 

「ゆうゆう!お姉ちゃん達、どバーンって、ズバーンって、とにかくすっごくて、みんなカッコよかった!」

 

「うん、すごかったしカッコよかった」

 

うん、私の語彙力もあこのことを言えないぐらいに下がっている。

しょうがないね、だってカッコイイんだから。

 

私達の興奮冷めやらぬ中、蘭ちゃん達が去った後のステージに足音が響いた。その足音に気づき視線をステージへと向けた。

綺麗、自然とそんな言葉が頭に浮かんだ。ステージの上、凛々しい姿でマイクを構える。

 

「聴いてください」

 

MCとは呼べないたった一言、言い終えた後に演奏が始まった。

イントロが流れている中、目を瞑り自分の出番を待つ少女。その少女が息を吸い込み口を開く。

ーーーーーーーそこから先は覚えていない、彼女の歌声に圧倒され魅了され、ただただ彼女の歌を聴いていた、いや聴かされたのだ。彼女の声は私の心を掴んだ、無理やり掴まされた、だけど悪い気はしない、むしろ心地いい。

あこではないが私の頭の中にはたった一言しか出てこなかった。

 

「カッコイイ....」

 

この瞬間から私、氷川夕祈は彼女、湊友希那の虜になった。

 



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零れ落ちる本音

なんだろうこの気持ちは、久しく忘れていたような感じだ。目の前にいるステージに佇んむ彼女がもの凄く輝いて見える。

覚えている、私はこの感情に覚えがある。そう、この感情は......渇望だ。

 

「ごめんあこ!先に帰るね!」

 

「えっ、ゆうゆう?」

 

その感情を自覚した私は自分を抑えられなかった。ライブハウスから出てただひたすらに走った、()()を求め、ある場所を目指した。

走っている今の私はどんな顔をしているだろうか、苦しい顔?疲れた顔?興奮した顔?こんな自問自答に意味はない、だって私は自覚しているから今の自分がどんな顔をしているか、決まっている、飛びっきりの笑顔だ!

 

 

目的地であるおばあちゃんの家、到着と同時に目的のものを求めた。

 

「おばあちゃん!私のギターどこにある?」

 

私の呼びかけに対し、リビングの方からおばあちゃんが出てくる。

 

「あら、夕祈急にどうしたの、今日は来る予定だったかしら?」

 

「いや、来る予定はなかったんだけどちょっとね。それより私のギターどこにある?」

 

「それだったらいつもの部屋に置いてあるけれど、本当にどうしたの、何かあったの?」

 

「ごめん、後で説明するか、心配しないで」

 

そう言い残し私は言われた部屋を目指す。

階段を登り、見覚えのある部屋の前、勢いよくとびらを開ける。

特にこれといってものが置いてある訳でもない部屋、その部屋の隅の方、スタンドに掛けてある青いギターが私を呼ぶ。

直ぐに手に取り手短にチューニングを済ませる。そのまま感情に任せて弾く。弦を抑える感覚、ピックで弦を弾く感覚、耳に届く音、その全てが今の私には心地よく感じた。決して上手いとは言えないような演奏、だけど止められない、だって今私は1番音楽を欲しているんだから。

 

ーーーーーーーー

 

私には2人の姉がいる。

1人は天才、どんなことも1度見聞きしてしまえば出来てしまう。自分の欲求に忠実で、自分にも他人にも嘘をつかないで、今までの人生で挫折や諦めなどした事の無いような本当の天才。

1人は秀才、1度見聞きしれば出来るなどといった天性のものはない、だけど、それを補って余りある心の強さ。こちらは挫折も数多かったことだろう。だが諦めはただの1度もなかった、そんな心の強さを持っている。

 

だったら私はどうだろう、天性の才能もなくて、ただただ平凡な才しかなく。強靭な心なんてなく、あるのは吹けば飛んでしまうような弱くて脆い心。

ねぇ、私には何があるの?何が出来るの?

........あの2人に負けないところはあるの?

分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からないわからないわからないわからないわからないわからないわからない

...........分かんないよ。

 

いつからなのかな、こんなことを考えるようになったのは、少し前までは仲のいいただの姉妹だったんだけどなぁ。日菜姉がなんでも出来るのなんて当たり前だった、それを見ていつも悔しがっていた紗夜お姉ちゃんも見慣れたもの、そんな2人を苦笑しながらもいつも追いかけていた私、そこにこんな醜い感情はなかったのに。あぁ、前は本当に楽しかったなぁ、本当に。

 

 

そんなことをひたすらに考えているうちに私は欲することを辞めた。

望んでも手に入らない才能も、心の強さも要らない。負けないところなんて要らない。楽しかった過去なんて当てにしない。.........私に意味なんて要らない。

 

そうやって私、氷川夕祈は出来上がってしまった。

自分を諦め、嘘をつき、自分の心を欲求をひたすらに偽って上っ面だけを作り上げて、本当は一緒にありたいのに2人と共にいることではなく、2人の後ろでただ眺めていることを選んだ。心の弱い実に私らしい選択だ。

 

 

 

 

それなのにあの歌声は、彼女の声は私の心の否応なしに開かせた。どうしてだろう、あれほど悩んで決めて、何も欲しないって決めたはずなのに。私の欲求なんでどうでもいいとそう思ってたのに硬い蓋を心にしてたのに、心の蓋を開けるだけでは飽き足らず、心から感情を溢れさせた。

ダメなことだって今も思っている、欲しても無駄なんだとも思っている。だけどしょうがないじゃないか、押し留めていたものが溢れて飛び出したのだ、もう止めることは出来ない、ならばあとはその欲求に従うのみだ。

 

ーーーーーーーー

 

弾き疲れて寝てしまっていたらしい、窓の外に月が見え部屋の中も薄暗い、随分と長く眠っていたらしい。

ただ覚えている、私は衝動的に音楽を求めた、音楽を欲した、彼女の隣に立ってみたいと憧れたのだ。

憧れ、昔諦めたはずの感情だ、諦めたはずの。だけど!自覚してしまったから、少なくともこの欲求だけは騙すのはやめだ。

 

「私.....音楽をやりたい。湊 友希那、彼女の隣に立ちたい」

 

その夜、嘘だらけの私からひとつの本音がこぼれ落ちた。



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行動

時刻は朝、場所は教室。ホームルーム前の生徒たちが登校してくる少しうるさい位の現在、まだ眠いため目を軽く擦りながら自分の席に着いた私の前には、私と正反対に朝から元気そうなあこが腕組をして立っていた。

 

「さあゆうゆう、昨日のことについて話してもらうよ!」

 

案の定この要件だ。そりゃあそうだろうね、昨日は突然だったもんね

 

「あ〜昨日ね、ほんとごめん。なんにも言わないで行っちゃって」

 

「も〜、ゴメンとかはいいの!それよりも、あこはゆうゆうがなんで帰っちゃったか教えて欲しいの」

 

なんでか、ほとんど衝動的に行動しちゃってたから口で説明しようとするとすごく難しいなぁ。まあ、正直に言えばいいだけか。

 

「ちょっとね、急にギター引きたくなっちゃって」

 

「ギター?めずらしいね、ゆうゆうからやりたいって言うの」

 

「なんかあのトリで歌ってた人の歌声を聞いたらさ、いてもたってもいられなくて......」

 

「...友希那」

 

「え?」

 

「湊友希那!最後に歌ってた人の名前!」

 

湊友希那、覚えているのは当たり前だ。なんせ私が目標に定めた人物なのだから。でもまさかあこの口から彼女の名前が出てくるとは思わなかった。

 

「あこってあの人のこと前から知ってたの?」

 

「ううん、知らなかったんけどね。あの人すっごくカッコよかったから調べて、それで名前分かったの」

 

「あこも、あの人のこと気になっちゃったか〜」

 

当たり前か、カッコイイ好きのあこが、あんなにカッコイイ人を見逃すはずがないしね。

 

「もっ、てことはやっぱりゆうゆうも?」

 

「まぁね〜、急にギター弾きたくなるぐらいには夢中かもね」

 

「それって相当だよ!?」

 

あこが驚いようにツッコミを入れてくる。

 

「え、そんなに?」

 

「うん、そんなに。あこもね友希那さんの歌を聞いた後にドキドキして、すっごくドラムが叩きたくなってゆうゆうと同じ気持ちになったよ、けどお姉ちゃん達もいるしちゃんと我慢したんだよ!」

 

あこは思ったことをすぐ行動に移したりしがちに見えるけど、案外しっかりと周りを見ていて行動は大人だから流石と言ったところだ。

それよりもあこも私と同じで楽器に触れたかったというのは驚いた。

 

「ごめんごめん、それよりもあこもドラム叩きたくなったの?」

 

申し訳ない気持ちは本当だが、軽く謝りつつ私は気になることを問いかけた

 

「うん!あこってお姉ちゃんみたいにカッコよくなりたくてドラム始めたでしょ。けど、友希那さんの歌を聴いたらね、お姉ちゃんと同じくらいカッコイイって思って、あの時のお姉ちゃんに憧れた時と同じ気持ちになってすごくドラムを叩きたいって思った!」

 

同じだ、憧れたんだあの人に。

 

「そっか、じゃあさ、あこはどうしたい?」

 

けど、まだドラムが叩きたいってだけのようだ

 

「どう?ドラムを叩いてその後....」

 

「私はね、決めたよその先の事」

 

だから示してあげる、そこから先にある気持ち、私と同じ気持ちを

 

「私は、友希那さんの隣でギターを弾きたいんだ。あの人の歌に魅せられて夢中になって憧れたんだ。そんな憧れと肩を並べたい、その憧れを目指したいんだ。あこは違う?憧れただけで終わり?」

 

違うよね、あこは私みたいに嘘つきじゃないもん、道が見えればとことん走っていく、私の知っているあこは...

 

「隣で一緒に...うん、あこもやりたい。友希那さんの隣でドラムを叩いてみたい!」

 

それでこそ、私と正反対の大親友だよ。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

4限が終わるチャイムがなる。つつがなく授業も終わり、周りではグループで購買に行ったり、作り席をくっつけたりして昼食を取ろうとしているところ、あこは一目散に私の元へと着て弁当箱を広げた。

急いできた理由は察しがついているので、直ぐに話をふる

 

「じゃあさっきの続きをしよっか」

 

「うん!」

 

先程の話はチャイムがなって途中でおあずけになってしまった為ずっと話したかったのだろう、いつもよりも食い気味に返事をしてくる。

とは言ったもののどうしようか、あこのこと焚き付けちゃったのは私なんだけどなんにも思いついてないし

 

「とりあえず探すしかないか」

 

「そうだねー、けどどう探そうか?」

 

そっちの方もノープランの為返事は咄嗟のものになる。

 

「と、とりあえずライブハウスでまた歌うかもしれないからそこの確認をしようか」

 

咄嗟とはいえ無難すぎたかな

 

「おぉ、確かにー、流石ゆうゆう」

 

あこは気に入ってくれたみたいだ。あこが満足してくれたなら私の発想も悪くなかったのかな

 

「じゃあ早速今日の放課後にでも聞きに行こっか」

 

「あ、それならお姉ちゃんも用があるって言ってたから一緒にいこうよ」

 

「そうなんだ、じゃあ放課後に待ち合わせだね」

 

「よーし、けってーい!じゃあ、早くお昼食べちゃってお姉ちゃんの教室に行こう!」

 

 

 

トモちゃんとの待ち合わせ場所の高等部の校門、私は1人でトモちゃんとあこを待っていた。あこは日直の仕事があるから先に行っててと言われ、トモちゃんはまだ着いていない。

周りでは私と同じで待ち合わせをしている人や帰宅している人がチラホラと見られる。

少し待っていると何人か知った顔も通っていく、家の手伝いがあるからと急いでいるつぐちゃん、バイトに行くらしいモカちゃん、二人からトモちゃんも日直の仕事で遅れているとのこと、姉妹揃ってこんな所でも仲がいいのか。そして

 

「あっ、ゆうちゃーん!」

 

羽丘の高等部に通っている日菜姉がここを通るのは必然的だった。

私を見つけた日菜姉は周りの目なんか気にせずに子供のように駆け寄ってきた。

 

「ゆうちゃんが高等部の前にいるなんて珍しいね、もしかしてあたしに用?あれ、けど今日は用があるって連絡してきたよね、もしかして高等部に用があるの?だったら言ってくれれば...」

 

大抵の人はこの日菜姉のテンションにびっくりしてしまうだろうが流石にもうびっくりはしない、伊達に何年もこの人の妹はやっていない。

 

「落ち着いて日菜姉、私は用があってトモちゃんとあこを待ってるだけだから、日菜姉は今帰り?」

 

「そうだよー、あっそうだ!これからねー....」

 

「ちょっと日菜ー、待ってよー」

 

ん?なんかギャルっぽい人がこっちに向かって走ってきてるけど日菜姉の友達?なんかああいう人と付き合いがあるのは意外だ。まあ、日菜姉自体が意外性の塊みたいな人なんだけどね

 

「あっ、リサちー。もう遅いよー」

 

「え〜違うって、日菜が早すぎるんだよ。で、その娘は?」

 

「あっ、そうだ!紹介するね、この娘は私の妹のゆうちゃんだよ!」

 

「どうも、ゆうちゃんこと氷川夕祈ですよろしくお願いします。えっと...」

 

「あぁ、私ね。私は今井リサ、気軽に下の名前で呼んでもらっていいよ〜。」

 

「はい、改めてよろしくお願いしますね、リサさん」

 

「うん、よろしくね〜夕祈。」

 

なんか、思ったよりも真面目そうな人だな〜、世の中見た目で判断しちゃ良くないね

 

「それで〜、日菜姉を追いかけてたみたいですけどどうかしたんですか?」

 

「それはね、ちょっと日菜に頼まれ事があってね、これから一緒に行こうとしてたんだけど、日菜ってば急に走って行くんだもん、びっくりしちゃったよ〜」

 

あぁ、なるほど納得です。

 

「なんか日菜姉がすいませんでした」

 

「あ、いいっていいって、別に怒ってないし。このぐらい慣れっこだよ」

 

「そういうことなら。で、用事って....」

 

「あっ、そうだよ!リサちー早く行こ!」

 

「えっ、ちょっと日菜!?」

 

突然走りだした日菜姉にびっくりしているリサさん。ほんと姉がすいません

 

「ゆうちゃーんまた後でねー!」

 

「じゃあアタシもいくね、またね夕祈。 待ってよ日菜ー」

 

少し先で手を振っている日菜姉を追いかけるリサさん。見送る私は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。ほんっと日菜姉は日菜姉だな〜。

さて、私はもう少し働きものさん達を待つとしますか。



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