あなたの願いは何ですか? (くぬぎのき)
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プロローグ

なんとなく思いついた設定を少しずつ膨らませながらの投稿。
書くのって難しい!


暗い。寒い。寂しい。

 

とある教会の地下深くにて、一人の少年が幽閉されていた。部屋の四隅にともされたろうそくの炎が唯一の光源だが、しかし少年にはその光は見えなかった。

なぜなら、その少年には目隠しがされていたからだ。いや、目隠しだけでではない。人間大の巨大な十字架に彼は鎖で雁字搦めに縛り付けられて、文字通り指一本自由に動かすことはできなかった。

なぜ彼がこんな目に会っているのか。それは彼の個性が原因だった。

彼の個性は願いの成就。その名の通り、どんな願いでもかなえる個性。

そう、どんな願いでも。

 

 

 

 

 

ある男がいた。その男には難病に苦しむ娘がいた。ベッドの上で日に日に弱っていく娘をただただ見ているしかなかった。妻を早くに失くし、娘まで失いそうになった彼は気が狂いそうだった。

そんなある日、とある噂を聞いた。

 

『どんな願いでも叶えることができる個性があるらしい』

 

普段なら、そんな馬鹿なと一蹴していただろう。そんな都合のいい個性があるわけない。ただの都市伝説だ、と。だが、当時の彼にはそんな余裕などなく、もう藁にも縋る思いでクモの糸のような噂のつながりを手繰り、出所である教会にたどり着いた。そして教会への寄付という形で大金を支払い、娘の死まで秒読みという段階で男はついにその少年に会する権利を得た。

男は願いを叶えるべく、磔にされている少年の白い肌に向かって手を伸し、その頬に触れた。

 

『娘を、娘を助けてくれ。それが俺の願いだ……たの』

 

瞬間、まるでシャボン玉でも弾けるように男が消えた。

男が知らなかった、もう一つの真実がある。確かに、少年に触れればどんな願いでもかなえることができる。彼のように病魔の根絶は無論のこと。大金や肉体の欠損、果ては死者の蘇生に至るまで、いかなる願いでも確実にかつ即座に叶う。

しかし、その成就には代償が必要なのだ。その代償とは『いらない物』。その人にとって、不要だと思うものが強制的に少年のもとへと譲渡される。

男は願った。娘の回復を。心の底から強く強く、それこそ『娘のためなら自分はどうなったってかまわない』と思えるほどに。

ゆえに男は消えた。娘に比べたら男にとって自分は『いらない物』だから。願いを叶える対価として存在そのものが少年へと譲渡され、そして無事に個性は発動し、件の娘は奇跡的な回復を起こす。その体は健康体そのものとして復活した。両親のいない、一人ぼっちで。

 

 

 

 

 

その後も、少年のもとへ訪れる人は後を絶たない。彼の対価のことを知ってか知らずかはわからないが、様々な人が様々な願いをもって彼に触れていった。

これからもきっと彼は願いを叶えるための道具として生き続ける。永遠に暗い暗い地下室で、磔にされながら死に至るその日まで。

 

 

 

 

 

だが、何の前触れもなくその世界は壊された。

 

『もう大丈夫』

 

彼の世界に一筋の光が差した。

 

『僕が来た』

 

突如として現れた、呼吸器のようなマスクをつけた黒スーツの男は少年の拘束をたやすく壊し彼を解放した。そして何が起きたのかわからにといった表情のその少年に、そっと白い手袋に包まれたその手を差し出した。

 

『おいで。君に世界を教えてあげる』

 

世界とは何なのか。目の前の男が誰なのか。少年には何もわからない。わからないけど

 

『僕には君が必要だ』

 

そんなことはどうでもよかった。『願いを叶える』それだけが自分の存在意義であり、そして何より、もう独りは嫌だった。あんな暗くて寒くて寂しい思いはしたくない。

だから、

 

『うん』

 

僕は、その手を取ったんだ。




設定

NAME:(かなえ)
本名は不明。その個性からAFOが名づけた。AFOのことをパパと呼んでいるが当然本当の親子ではなく、叶がそう呼んでいるだけ。

叶's hair
透き通るようなきれいな銀髪。地下に幽閉されていた時はただ伸びるだけだったが今ではショートカットになっている。

叶's face
女の子と見まがわんばかりに愛らしい。いわゆる男の娘。

叶's body
見た目は十歳程度の身長だが、それは地下にいたため成長が遅いからであり実年齢はもう4,5歳上。全体的に華奢であり、face同様に女の子のような体をしており、肌は白磁のように白く美しい。

性格
一言でいえば子供。ただ弔のようなわがままさではなく、純粋さという意味で子供であり、無邪気さゆえの邪悪さを地で行く。そのため、幼子が虫を殺すような気持で人を殺し、一切罪悪感を抱かない。願いを叶えることが自分の存在意義であると考え、ことあるごとに願いを叶えようとする。ただし、AFOに助け出されたことに恩を感じており、基本的に彼の指示に従う。ただAFOに従っているだけなため、別にヒーローを嫌っていたりヴィランになりたいわけではなく、たまたまヴィラン側にいるだけ。

個性:願いの成就
直接触れた対象(自分を除く)の一番の願いを即座に確実に叶える個性。叶える願いに制限はなく、病気やけがの治癒、個性の発現、死者の蘇生、不老不死などどんなものでも叶える。ただし、本能で生きる動物や、思考のない意識のない人などには効果がない。
願いを叶える代わりに、その人にとって『いらない物』が叶に譲渡される。そのため同じ願いであっても、その願いが強ければ強いほどそれ以外の物が相対的に『いらない物』となるため、支払われる代償は変わってくる。
(例えば、腕を失った医者とマラソン選手では腕の価値が変わってくるので、同じ『腕を取り戻したい』という願いであっても医者の方がより大きな代償を支払うことになる)
奪えるものに制限はなく、有形無形関わらずに譲渡される。そのため、腕や足などだけでなく、知識や経験に才能、果ては個性や寿命に至るまでいかなるものでも(指定はできないが)奪うことができる。


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ヴィラン連合へ

叶ちゃんのAFOの呼び方をお父さんからパパに変えました。なんかそっちの方が可愛いからね。
叶ちゃんのルックスとしては俺○イルの大天使トツカエルをもっと幼くした感じ。知らない人は検索して見よう。男でも良いかなって思えるから。


「「…………」」

 

薄暗い、古臭さを感じさせるバーで、二人の男が驚きのあまり呆然としていた。

一人は体全体がもや状になっており、バーテンダーの役割を担っているのか従業員の側に立っており布巾でグラスを拭いていた。

もう独りの男は奇妙なことに、顔や腕にいくつもの白い手を付けており、首筋には痛々しいひっかき傷がいくつも残っていた。

巨悪の意志を受け継ぐものとして教育を受けたヴィランである二人が呆然とし、あからさまな隙をさらしてしまうほどにその光景は異常だった。

 

「こんにちは!僕の名前は叶って言います!これからよろしくね!」

 

十歳ほどの少女が、手を上げて元気よく二人に挨拶をした。学校でも公園でもないここはヴィランのアジトであり、それを差し引いてもバーという大人の空間であることを考慮すればそれはあまりにも異常な光景である。

 

「おい先生、ここはいったいいつから託児所になったんだよ」

 

ゆえに当然の疑問を男はその原因に苛立ちを感じさせる口調で問いかける。使える奴が来る。そう聞いていたのにいざ蓋を開けてみれば出てきたのは女、おまけに彼の大っ嫌いな子供であるとは誰が予想できただろうか。

 

「以前言っていただろう、もう一人そっちに送ると」

 

「男って言ったろうが。しかもよりにもよってガ「こんにちはー!!」うるせえ!!」

 

「むぅ」

 

少女は一向に挨拶を返してくれないどころか怒鳴りつけられて、すねるように頬を膨らませる。すっとそらした視線の先で、黒いもやのような男と目が合った。

 

「…………こんにちは」

 

「!こんにちは!」

 

返事を返してくれたことに気をよくした少女はとことことカウンターに駆け寄って、よじ登るようにして大人用に高めに設計されたその椅子に座る。その一方で、男は画面の向こう側の男へ苛立ちをぶつけていた。

 

「彼の個性については説明しただろう。見た目通りだと思ってると痛い目を見るよ。そして、その子は言った通り男だ」

 

「は?いやだってどう見ても……」

 

振り返ってそれを見るが、身に着けているものは純白のワンピース。どこからどう見ても女物である。

 

「これ?パパが買ってくれたんだ」

 

「「!!」」

 

「先生、まさかあんたそんな趣味が……」

 

凶悪なヴィランとして知られる先生が、まさか趣味まで凶悪だとは思わなかった。

 

「ははは。……それは違うよ」

 

「どう、かわいいでしょ?僕にはこういうのが似合うって言われたんだ?」

 

少女、もとい少年が椅子からポンッと降りて見せびらかすようにくるりとその場で一回転すると、遠心力によってふわりとスカートがわずかに浮きほっそりとした女の子のような足が見える。

 

「誰だよ、そんなこと言ったの……」

 

「?僕だけど」

 

「「は?」」

 

二人が困惑の声を上げる。自分に似合う服を自分が教えたという明らかにおかしい言い回しを前にそれは妥当な反応だった。なぜそんな奇妙な言い回しをしたのか。その答えはモニターから帰ってきた。

 

「彼の個性については説明しただろう?おそらく、そういう『好み』でも奪ったんだろう。奪うということでは、彼は非常に柔軟だからね」

 

個性しか奪うことのできないAFOの個性に対して、叶の個性は指定こそできないがどんなものでも奪うことができる。

 

「だから彼を見た目通りの強さだと思わないほうがいいよ。しっかりと教育もしてあるから使い物になるはずだよ」

 

「これからよろしくね、弔君。君の言うことを聞くようにってパパに言われてるから」

 

「……はっ」

 

無邪気な笑顔で、友達を遊びに誘うかのような気軽さでそういう叶を見て、ガキということを気にしていた自分があほらしく感じた。ガキだろうが何だろうが関係ない。ヒーローを、この社会をぶっ壊す為なら子供も大人もない。誰であろうとなんであろうと利用するのみだ。

 

「いいだろう、せいぜい役に立てよ」

 

「任せてよ。弔くんの願い叶えてあげる」




叶ちゃんは色々な物を奪いすぎてどれが自分のなのかわからなくなっています。そのため、自分の意見を他人の意見のように言ったり、逆に他人の意見を自分の意見のように言ったりもします。



すごい今更だけど最近、猛烈にポケモンのエメラルドがやりたくなってわざわざ中古でソフトとDSを買いました。自分はパールまでしかやった事ないけど、その中で一番好きなのがエメラルドだったりする。当時は個体値とか全然知らなかったので今度はそういうのも頑張ってみようかな。


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成就

頭の中でイメージができていても、それを文章化することのなんと難しい事。自分でも呆れるくらいの文才の無さですが、温かい目で見てください(ふかぶか〜
あとコメントとかいただけると嬉しいです。


私は、自分の個性が大っ嫌いだった。

そのきっかけはずっと昔、私が幼稚園に入った時の最初の自己紹介だった。

 

「せんせー、誰もいないよー」

 

それまで、私と関わりあってきたのはほとんどが身内であり、私の個性について気を使っていたのだろう。あえて触れたりすることはなかった。だから私も、自分の個性については特に何も感じなかった。

だが幼稚園に入り、初めて赤の他人と関わったことで、私は自分の個性が多種多様な個性の中でもかなり特殊であることを自覚した。

 

「透ちゃんは見えないから一緒に遊んでもつまんない」

「透は見えないからずるじゃん」

 

誰にも見えない。『顔』という、人との関係を築いていくうえで、一番最初にさらされる情報を例え意図せずとも隠していた私は友人関係というものを築くことができなかった。

そしてそれは、小学生になってさらに加速した。未だ個性という多様さを受け入れられるほど成熟しておらず、かつ『いじめ』という形で異端を排除するすべを覚えた子供たちはその標的を私に向けた。

 

「いない奴の机なんていらないよねー」

 

私の机を外に出し、

 

「先生、プリント一枚余り増したー」

 

当たり前のように私にはプリントとかは回ってこない。

 

文字通り『いないもの』として私は扱われ続けた。

やがて私は中学に上がり、その頃には全員と言わずとも私の個性を受け入れてくれる人も現れて、初めて友人と呼べる人もできた。私がヒーローを目指したのはそのころだ。初めて友達ができたことで余裕が生まれた私は、他にも個性が原因で苦しんでいる人もいるということを知ることができた。だから私はヒーローになることで、私と同じように個性で悩んでいる人たちに『私みたいな個性でもヒーローになれる』ということを見せて、それで少しでも救いになってくれればいい。個性で苦しんでいる人たちにも笑顔になってほしい。だからこそ無理にでも明るく振舞って、ヒーローになるため雄英高校を目指し、無事合格し夢への第一歩を刻んだ。

でもーーー

 

「よかったね、お姉ちゃん」

 

それは決して私の個性が好きになったわけではない。個性とは先天性のもの。たとえどれほど嫌な個性であろうともそれと付き合い続けなければいけない。だからこそ、私は個性との付き合い方を変えたのだ。

 

だからーーー

 

「お姉ちゃんの願い、叶ったよ」

 

こんなことになったんだろう。

 


 

ーーーUSJ---

 

「…………」

「あいたぁ!」

 

突如として襲撃を仕掛けてきたヴィランの集団。そのうちの一人転移系の個性を持った黒い霧上の男のよって飛ばされた轟焦凍と葉隠透は先ほどまで居たUSJの施設の一角土砂ゾーンへと飛ばされていた。

 

「大丈夫か、葉隠」

「ありがと、轟くん」

 

鍛えられた体幹を駆使して難なく着地を決めた轟とは反対に、身体能力は年相応であり個性もそれを底上げするようなものではない葉隠はしりもちをついており、そんな彼女に轟は手を差し伸べる。

 

 

「お兄さん、何してるの?」

 

 

「「!!」」

突如、後ろからかけられた声にもはや条件反射のように反応し凍結の個性を展開する。個性持ち同士の対決において先手を先手を取ることは何よりも重要。相手が何人いようと関係ない。一気に氷漬けにして終わらせる。

そのつもりだったが、

 

「待って、轟くん!!」

「ッ!」

 

葉隠の静止。そして自分も『それ』を認識した。今にも襲い掛からんとしている氷の波は対象の寸前で静止した。

 

「こ、子供だと!?」

「なんでこんなとこに……」

 

二人の後ろにいたのは子供。真っ白なワンピースに身を包んだ、見た目十歳ほどだろうか、銀髪の少女がそこにはいた。その子は何をされているのかわからないのか、目の前に迫った氷に対しても大した反応を示さずに、不思議そうに首を傾げながら轟へと問いかける。

 

「誰かいるの?」

「あ、えっとね。私、葉隠透っていうの。私は個性のせいで目に見えないんだ」

 

何もない場所から帰ってきた返答に、少女は小さく驚きながらも「そうなんだ」と、安堵の笑みを浮かべる。たしかに、何も知らない人から見れば轟は誰もいない場所に話しかけ、手を差し伸べる所謂危ない人に見えただろう。

 

「葉隠、もしかしたらその子は人質かもしれない。俺たちで保護しよう」

「うん、もちろんだよ。それにしてもこんな子供まで巻き込むなんてヒーローとして許せないよ」

「ああ。取りあえず、その子の相手は葉隠がしてくれ。俺は周囲の警戒をするから」

 

落ち着きを取り戻した二人はすかさず連携を取り、行動を開始する。轟が周囲の警戒をする中、子供の扱いが得意な葉隠は少女から情報を聞き出す。

 

「そっか、叶ちゃんっていうんだパパかママはどこにいるかわかるかな?」

「わからない」

「そっか。じゃあ……」

「ねえ、お姉ちゃん」

「ん?」

 

それまで、聞かれたことに応えるだけだった叶という少女は葉隠の言葉を遮るようにして問いかけてくる。

 

「お姉ちゃんのお願いことはなに?」

「え、お願い?」

 

唐突な、何の脈絡もないその問に彼女が戸惑う一方、轟は自分たちが送り出された先で敵襲を受けていないという現状に嫌な胸騒ぎを感じていた。

 

(なぜ誰もいない?送る場所を間違えた?……いや、あれだけ用意周到な計画を練って来て、そんなミスをするとは思えない。単なる時間稼ぎか?それとも……もうすでに来ている?)

 

轟がその答えにたどり着いたのと、それが起きたのはほぼ同時だった。

 

「お姉ちゃんの願い叶えてあげる」

「え……」

 

すっと、まるでなでるような優しさで少女の白く小さな手が葉隠の頬へと触れた。それと同時に、今まで味わったことのないような虚脱感が彼女を襲う。それはまるで、今まで自分の中に有った何かが無くなってしまったかのようなーー

 

「良かったね、お姉ちゃん」

 

少女はその見た目にはふさわしくないほどの慈愛に満ち溢れた微笑みを浮かべ、彼女の頬に触れているのとは逆方向の手を上げてーー

 

「お姉ちゃんの願い、叶ったよ」

 

その手が、三日月のように変形していき

 

「だからーーーー死んで」

 

死神の鎌が、彼女の首めがけて振り降ろされた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。色々と至らぬ点はあったと思いますが、最後まで目を通していただき幸いです。次の更新はいつになるかは分かりませんが、また読んでいただけると嬉しいです。本当にありがとうございました。


エメラルド無事殿堂入り。ストーリークリア目的だったのでラグラージだけ育ててたら殿堂入り時点で72レベに・・・。
今は育成とフロンティアを楽しんでる最中。自分的にはチルタリスが一番好きだけど、いかんせん同じドラゴンのマンダやフライゴンに比べて如何ともしがたい能力差が・・・。


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いらないもの

オリジナル設定として葉隠ちゃんの個性は異形型という事にしました。ネットとかでも調べたけどどっちかわかんなかったので一応記載。

ついにUAが1000を超え、お気に入りももうじき30です。読んでくださった方々本当に感謝感激雨あられです。
また誤字報告をしてくださった「ふーん」さん。ありがとうございました。


では第4話です。どうぞ。


「だからーーーー死んで」

 

死神の鎌が首を断ち切るーーーーーーーーー寸前

 

「葉隠ぇ!!」

「え?きゃあ!」

 

一体何が起こったのだろうか、全然理解が追い付かない。叶ちゃんという女の子を保護してよくわからない質問の後、ほっぺに触られたと思ったら突然の喪失感。さらにそこへ追い打ちをかけるようにして轟君がらしくない大声を上げて私を思いっきり後ろに引っ張った。突然のそれに反応できなかった私はされるがまま後ろに下がり、ここに来た時のようにしりもちをついた状態でそれをただ見ているしかなかった。

 

ガキンッという、甲高い硬いもの同士が勢い良くぶつかり合う音があたりに響く。気づけば叶ちゃんの右腕が三日月状の鎌に変形しており、死神を彷彿させるそれを轟君は左腕を氷で覆って作った即席の鎧で受けていた。

 

「ぎゃあ!」

 

氷の鎧は完全には鎌を受け止めきれずに刃は肉に少しだけ食い込んでそこで静止し、その一瞬のスキをついて轟君は相手を蹴り飛ばして凍結で拘束していた。

 

「えっと……葉隠で、いいんだよな?」

「?うん、そうだよ」

 

ここでようやく轟君は私の方を向いた。いや、正確には向いていない。私からわざと視線を外すようにしており、その態度は普段きちんと相手の目を見て話していた轟君にしては珍しいものだった。

 

「これ。俺ので悪いけど」

 

そう言って、轟君は自分の氷を溶かして脱いだ上着を私に差し出してくる。その行動に首を傾げていると、急かすように揺らしながら「頼むから早く着てくれ!」と言ってくる。一体なにを言いたいのだろう。服を着たら相手に丸見えになって私の『透明化』のメリットがなくなってしまう。そんな簡単なこと轟君だってわかってるはずなのに……

 

「え……な、なんで」

 

そこで、私は気づいた。()()()()()()()()()。異形型である私の体は生まれたときからずっと透明であり、親は無論の事、私自身ですら自分の体も見たことないのに今はどういうわけか私の手足がしっかりと私の視界に映っており、手を開いたり握ったりするとその手も私の意志通りの動きをして私の手であることを伝えてくる。

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ん?ちょっと待って?

 

今、私の個性はどういうわけか発動していない。そして私の個性は『透明化』であり、それを最大限生かすために私のヒーローコスチュームは『ない』。つまるところ私は全裸であり……

 

「きゃあああああああああああああああ!!こっち見ないでぇぇ!!」

 

絶叫を上げて轟君の上着を思いっきりひったくる。貸してもらう側の態度ではないが今はそれどころではない。今の私は全裸で大股広げた状態でしりもちをついているという女子にあるまじき様である。

 

「み、見た?」

「…………………………悪い」

 

長い沈黙ののち、短く簡潔に聞きたくなかった答えを返す轟君は、普段のクールな表情のままわずかに頬を染めていた。そんな彼を涙目で睨みつけながら私は借りた上着を羽織り前を閉める。当然ながらスカートなどないが、私よりずっと身長の大きい轟君用に作られているそれはワンピースのように私の膝あたりまで覆ってくれた。

 

「うう、ひどいよ~」

「わ、悪かったって」

 

もちろん轟君が悪いわけではない。私だって気づけないほど突然の変化だったし、彼は私を助けてくれたのだから感謝こそすれ不満を口にすべきではないことはわかっている。わかってはいるが、しかし裸を見られたことは女子高生である私にとって重大な問題である。乙女心は複雑なのだ。

 

「でも、一体なんで急に個性が消えたんだろう」

「さあな。でも、原因は間違いなくあいつだろう」

「うん」

 

私と轟君の視線が首から下が氷漬けになっている子供へと向く。その子は文字通り指一本動かすこともできない状況でありながら、一切の焦りを感じさせない無邪気な笑顔のままで、首を傾げながら「ん?なーに?」と言っている。そのさまは非常に愛らしく、まさに天使というにふさわしいものだったけど、私を殺そうとした直後という今の状況でそれができる精神構造が私は恐ろしくてたまらない。

 

「お前、葉隠にいったい何をした」

 

「お願いを叶えただけだよ」

 

そう言って叶えちゃんは、いやヴィランは私の方を向く。

 

「つらかったよね。苦しかったよね。でももう大丈夫だよ。ほらーー」

 

「なっ!?」

「それ!私の個性!?」

 

ヴィランの体が空間に溶け込むかのように透明になる。服だけが不自然に残っているそのさまはまさしく私の個性『透明化』の特徴だった。

 

「もう大丈夫だよ、お姉ちゃんの願いは叶ったんだよ」

 

そう言いながら再びヴィランの体が見えるようになる。

 

「おい、それを今すぐ返せ。それはお前のようなヴィランが触っていい物じゃない」

 

「やだよ。これはもう僕のものだし、それにいらないといったのはお姉ちゃんの方だ。僕はただお姉ちゃんのお願いを叶えただけ」

 

「願いを叶えた、だと?」

 

繰り返す轟君にヴィランは誇るように、それでいてなぜか憎むような雰囲気を出しながらうなずいた。

 

「そう、それが僕の『個性』。みんなの願いを叶える力。どんな願いでもかなえる代わりにいらない物をもらうだけ。すごいでしょ」

 

いらない物。そう言われて、私は即座に否定できなかった。なぜなら私は、自分の個性が大っ嫌いだったから。付き合い方を変えることで前向きになることはできても、生まれてからただの一度もこの個性をもって生まれたことに感謝したことはない。こんな個性が邪魔だと思ったことは数えることなどできないほどに。

 

「お姉ちゃんのいらないものを僕がもらって、お姉ちゃんは願いが叶う。みんなハッピー。だから大丈夫だよ。お兄さんの願いもかなえてあげる。欲しいものはある?なりたいものはある?会いたい人はいる?それと、死んでほしい人はいる?」

 

「結構だ。自分の願いは自分で叶える、ヴィランなんかの手は借りねぇ」

 

「ううん、遠慮しないで。叶えてあげる、いや叶えさせて。僕を使って僕を必要として。そのためだけに僕はいるんだから。じゃないと僕は何のためにうふふあはははははは!!」

 

突然狂ったように笑いだすその狂気に、私は一歩下がる。そんな私とは対照的に、さすがは推薦合格者というべきか轟君は疲れたようなため息をつくだけだった。

 

「はあ、話にならねえな。とにかく、プロヒーローが来るまでお前は動けねえから静かにしてろ」

 

「……それは困るなあ。これ、解いてくれない?じゃないとお兄さんたち殺せないじゃん。君たちを殺せって弔くんに言われてるんだから」

 

「そんなこと言われて解くわけねえだろ」

 

「そっか。じゃあーーー」

 

次の瞬間、ヴィランは信じられないことをした。

 

 

 

 

 

ボキン

 

 

 

 

 

ぞっとするような不気味な音が周囲に響いた。それは固い何かが折れるような音であり、そして何が折れたのかは一目瞭然だった。

 

「んー、腕が取れたのなんて久しぶりだなあ」

 

懐かしそうに目を細めて、どこかおかし気にそうつぶやくヴィランの右腕が無くなっている。氷漬けになってしまった腕を無理やり動かそうとしたことにより、肩から少し先を最後にしてそこから先は砕けて折れており、噴水のように血が噴き出していた。

 

「ひっ!」

「お前!?」

 

それを前にして私たちは恐怖した。自分の腕を迷わずへし折り、それをしながら相変わらずニコニコしているその精神。今までテレビや街中で見てきたものなんかとは比較にならない本当の狂気(ヴィラン)を前にして肌が粟立つ。

そして動揺収まらぬうちに新しい異常が起こった。

 

「再生、だと」

 

ずるりと、右腕の断面から新たな腕が生えてくる。新しくなったその腕には一切の傷はなく、先ほどまで同様に白磁のようなきれいな腕だった。

そして当然、腕だけでは止まらない。

 

バキン

 

左腕

 

ベキン

 

右足

 

ゴキン

 

左足

 

「さて」

四肢のすべてをへし折って、そして再生させた。もうそこには、先ほどまでと同じ無傷の子供がそこにいた。そして、まるで挨拶をするかのような気軽さで、恐ろしいことを口にする。

 

「じゃあ、殺そっか」




今回も読んでいただきありがとうございます。ちょっとしたものでもいいのでコメントいただけると嬉しいです。
さて本編のついてですが、叶ちゃんは奪ったものを自由に出し入れすることができます。そのため、異形型の個性でも仕舞えば元どおりの可愛らしい男の娘に早変わり。また奪った腕や足を使って、最後のように失った肉体を修復することも可能です。イメージとしては障子くんが複製腕を切られても平気な感じ。




現在、エメラルドでサンドパンを育成中。可愛い。飼いたい。


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素敵な日

今回はちょっと長めです。戦闘シーンの描写って本当難しいですね。

気づけばUAが2000を超えててびっくりしました。そんなに沢山の人に読んでいただき作者として嬉しい限りです。
『KAIN』さん、『転生チートスマホ(人間化)』さん、誤字報告ありがとうございました。

それでは第5話です。ほんの少しでも楽しんでいただければ幸いです。


(強い!)

 

轟焦凍は、叶に対して率直にそう思った。叶の身体能力は明らかに見た目通りの物ではない。それは個性によるものだと彼は判断し、そしてそれは的中していた。叶は今、同時に五つの個性を発動していた。

葉隠の殺害を試みた『鎌』。それに加え増強系である『身体能力強化』『脚力倍加』『膂力増強』。それらの同時発動によって、わずか140cm程度の身長と女児のように細い四肢でありながら常人をはるかに超えたスピードとパワー、そして反射神経に瞬発力を得て足場の悪い土砂ゾーンを縦横無尽に疾駆している。

それに加えーーー

 

(なんて厄介な個性だ!)

 

つい先ほどまで葉隠透がもち、そして叶へと譲渡された個性『透明化』。それによって敵の姿を轟は目視できずにいる。

 

「ほらほら、こっちだよ!」

「ぐはっ!」

 

声がしたと思ったら次の瞬間背中に焼けるような痛みが走る。振り返ると同時に凍結を図るが、しかしすでにもうそこには誰もいない。致命的な一撃は未だ受けていないがその体には次々に切り傷が増えていく。

それでも、轟が今なお叶と戦うことができてるのは二つの要因がある。

 

一つは轟の個性が点ではなく、面での攻撃に特化していること。小柄で速く、かつ目視不可能なヴィランを牽制できることに加えて氷を踏み砕く足音によって大まかな居場所を把握できていること。これらのお陰でギリギリ救われた命は一つ二つではない。

 

しかし、いかに轟の個性がこの戦いにおいて適しているといってもそもそも彼我の実力差はかけ離れている。確かに轟の実力は同年代に比べて頭数個分は突出しており、日本一と言われる雄英高校の中でもその強さは個性・身体能力・思考力に判断力すべてで圧倒的である。だがしかし、それでも遥か小柄な叶の方に戦闘の軍配は上がっている。

 

なぜなら叶は『一人』ではないから。

叶えてきた。個性が発現してからAFOの手で救い出されるその日までありとあらゆる願いを叶え続け、そして奪い(貰い)続けてきた。その数数十、数百、数千ーーいいやそれ以上。もはや叶本人すら思い出すこともできないほど膨大な代償が叶の小さな体にストックされている。

 

そして彼の奪えるものに制限はない。相手が『いらない』と思うものなら何でも奪える。だから当然、奪ってきたものの中には戦闘に関するものも多数ある。その知識、経験そして才能(センス)に努力。膨大なそれらが今、文字通り『一つ』になっているのだ。いかに優れていようともただの学生が勝てるような相手ではない。

 

ゆえにそこにはもう一つ、これは叶の方に要因がある。

 

「今度はこっちだよぉ!」

「ぎぃっ!」

 

叶は遊んでいる。幾度も殺せるチャンスがありながら、かつすぐそばに足手まといがある状況でありながら意図的に狙わない。今もそう、一瞬でその首を断ち切ることができたというのに彼はわざと腕を切りつけた。なぜそんなことをするのかと言われれば

 

「楽しいからさ」

 

どこまでも子供らしく、無邪気に答えるその口ぶりに嘘はない。幼子が虫をばらして遊ぶようにじわじわと殺していく。より長く、より楽しく遊べるように。もともと彼は倫理観を有していないため殺人に躊躇いはないが、だからと言って殺したいわけではない。死柄木弔に言われているから仕方なく殺そうとしているだけである。

もちろん、AFOに直接命令されていたら彼は一切の遊びなく、数秒でその首を断ち切っていただろう。だが、その指示は死柄木から出されており、叶は別に彼の仲間になったつもりはなく、AFOに言われているため仕方なく従っているだけである。ゆえに、そのストレス解消として遊んでいるのだ。

 

その二つの要因がかみ合うことで、今轟の命はギリギリでつなぎとめている。だが、それでも状況はじり貧であり傷は徐々に確実に増えており、そこに加えてーーーー

 

「はあっ、はあっ」

 

どさりと、隣で葉隠が倒れる。凍結の個性を持って生まれた自分はほかの人よりもはるかに寒さに耐性を有しているが、彼女は違う。無個性となってしまったことを抜きにしても肉体的には普通の人と変わらない上に、上着を一枚身に着けているだけの葉隠はそれほど寒さに強いというわけではない。そんな彼女のそばで氷の世界を展開し続けていればそう遠くないうちに凍死しかねない。

そてそれを抜きにしたとしても叶の強さは圧倒的であり、偶然氷でとらえることができてもまるでトカゲの尻尾きりのようにその部位を引きちぎって脱出する。そして無論、次の瞬間には無傷に戻っている。そんな相手に勝算などなく、轟自身の死まで秒読みの段階である。

 

(死ぬ……のか)

 

その年で実感するのはあまりにも早すぎるそれがよぎる。

 

(こんなところで。こんな年で。まだ、ヒーローにだってなれていないのに)

 

一歩一歩、死の断崖へと歩を進めていく中、轟焦凍の走馬燈が映し出したのはクラスメイトのことでもなく、兄や姉、そして大好きな母親のことでもない。

 

 

 

『焦凍』

 

『お前は俺の完全な上位互換!』

 

『あの女との間に生まれた、俺の最高傑作だ!!』

 

 

 

(ふざけるな!!俺は、俺はあんたの道具じゃない!俺はあんたを超える。(これ)を使うことなくあんたを超てNO.1ヒーローになってみせる!!だから、こんなとこでーー)

 

「!!?」

 

先ほどまで死にゆくだけだったその瞳に光が戻り、

 

「死んでたまるかぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ

 

 

 

そこに現れたのは、一言でいえば『氷山』。先ほどまでとは明らかに規模の違う、今の轟の出せる最大規模によって生み出されたその氷の壁の中に叶はまるで映画のように閉じ込められていた。手足を無理に動かすことすらできないため、これでは先ほどまでのように引きちぎることすらできない。

 

チェックメイトである。

 

「はあっ、はあっ」

 

ガクリと膝をつく。一気に一度に出せうる限りの氷を出したことにより急激な脱力感にさいなまれ、ひどい眩暈を誘発し立っていられないがそれでも意識ははっきりしている。すぐにでも横になりたい気持ちを抑えて立ち上がり葉隠の元へと駆け寄る。

 

「良かった……」

 

意識はないが脈ははっきりしており、右の個性で温めると呼吸もはっきりしてくる。

 

「よっと……」

 

葉隠の背中と膝裏に腕を回して持ち上げる。いわゆるお姫様抱っ子の状態で、そのまま皆がいるであろう出入り口を目指して歩き出す。

 

(強かった……危なかった……)

 

ギリギリ勝つことはできたが、いつ死んでもおかしくなかった。

 

(もっと、強くならねえとな)

 

「う、う~ん」

 

さらなる決意を固めていると腕の中で唸り声ともぞもぞと動く感覚がし、目を向けると葉隠が意識を取り戻したところだった。

 

「あれ?轟君?」

「良かった。痛いところはないか?」

「うん。……って!ちょちょちょ下ろして下ろして!」

「?悪い」

 

自分がお姫様抱っこ、さらには裸の上に一枚上着を羽織っているだけの状態でそれをされていることに気づいた葉隠はじたばたと轟の腕の中で暴れる。降ろされた彼女は先ほどまで極度の低温にさらされていたことで若干の違和感を手足に感じていたが問題なく動かすことができた。

 

「うう~、裸を見られただけでなくお姫様抱っこまでされるなんて」

「すまん、気持ち悪かったよな」

「……ははは、轟君らしいや」

 

轟の鈍感ぷりに苦笑していた葉隠はそこではっと気づいたように顔を上げる。

 

「そういえばヴィランは!?」

「あれだ」

 

そうって示された場所にあるのは大氷壁。それを見た彼女はまさに開いた口がふさがらないという状態だった。

 

「凄い……流石だね、轟君」

「いや、正直ぎりぎりだった。今までにないくらい強い奴だった。あとはプロに任せようと思う」

「そっか。うん、そうだね。それがいいよ」

 

(叶ちゃん、か……)

 

倒したことで余裕が生まれたのか、ヴィランのことを気にかけていた。

 

あの子は、轟君に願いを叶えなければいけないといったとき、笑っていたけどどこか怯えているような、強迫観念のような思いを感じた。そもそもあんな小さな子が、普通は笑いながらあんなことができるわけがない。そして『願いを叶える』という、その個性。もしあの子の言っていたことが本当だったら、きっとあの子はその個性が原因でまともな人生を送ってきていないのだろう。それゆえにあんなふうになってしまったんだろう。だから、

 

(今度は、幸せになってくれるといいな)

 

ヴィランとしてではなく普通の子供として、当たり前の幸せを手に入れてほしい。

 

「葉隠、行こう。他の奴らが気になる」

「うん!」

 

そのためにも、少しでもいい世界に。まずはこの場を生き抜こう、みんなと一緒に。

 

そうして、二人はUSJの入り口目指して走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン

 

爆音、そして後ろから熱風と共にばらばらと何かが崩れ落ちる音が二人の耳に届く。

 

「嘘、だろ……」

「そんな……」

 

二人は震えながらゆっくりと振り返った。そこに何がいるのか、それは火を見るよりも明らかだったが、その予想が外れることを願いながら。

 

「ふふふ、残念だったね。この程度じゃ死なないよ」

 

笑っている悪魔がそこにいた。砕け散った氷の破片がイルミネーションのように幻想的に輝く中、まるで芸術作品としてすら通用する美しい肢体を隠すことなくさらしながら無傷の悪魔がそこにはいる。

 

「逃げるぞ!!」

「う、うん!!」

 

二人は慌てて走り出す。無理だ。あれには勝てない、勝てるわけがない。

 

(くそ!くそ!くそ!)

 

ヴィランを前にして無様な撤退をしながら彼は心の中で悪態をつく。あの男を超えるどころか、あんな子供にまけるだなんて、と。

 


 

「いい、いいねえ」

 

走り去っていく二つの背中。死柄木弔に殺すように言われた二人が走り去っていく様を見ていながら叶は一歩も動こうとはせず、ただうれしそうに笑っていた。

 

「轟くん、だったかな。下の名前も知りたいなぁ」

 

この氷を作り出す直前、途轍もない光が彼の目に宿った。あの輝きは知っている。『憎しみ』だ。それも今まで叶えてきた中でもかなり上位にくこむほどの強い『願い』。

 

「叶えたい、叶えてあげるよ、轟くん。そのために僕がいるんだから」

 

願いを叶える、それだけが僕の存在意義で、僕はそれをし続けなくちゃいけないんだから。じゃないと、

 

『お前が殺したんだからな』

 

「?」

 

誰かに言われたそのセリフを思い出して叶は首を傾げた。はて、これは誰の記憶だったかなと。膨大な記憶を有している弊害として、それがもともと誰の記憶だったのかを思い出せない。

 

「まあ、いっか。どっちにせよ、ゲームオーバーだ」

 

USJ(ここ)に来た時から発動し続けていた個性は実はもう一つあった。それは『結界』。人の出入りを阻害するためのものではなく、一定領域内にいる人の数とその増減を知覚できる個性。それについ先ほど、誰かが出ていく反応があった。それはつまり、そう遠くないうちにプロヒーローたちを呼ばれるということ。

 

「黒霧さん失敗しちゃったかな。まあ、僕もだから人のことは言えないけど」

 

今回の作戦の失敗条件は『プロヒーローを多数呼ばれること』『脳無がやられること』の二つであり、どちらか一方でも満たせば即座に撤退しなければいけない。それをAFOに厳命されている。

 

「残念だけど、お預けだね。轟くん」

 

パキパキと氷の破片を踏み砕きながら二人の後を追うように叶は歩き始めた。

 

「それにしても今日は素敵な日だ。願いもかなえて素敵な人に会えた。ああ、パパありがとう。パパがいなかったら、こんな気持ち知らなかったよ」




ちなみに叶ちゃんが最後に氷を壊すのに使った個性は『自爆』です。自分の体を爆弾がわりにして、犠牲にする部位の大きさに応じて爆発の威力も変わってきます。また、自分から離れた部位は爆発させられないため自分もダメージを負います。叶ちゃんは『いらないもの』を奪うその特性上、持つのは基本的に没個性ばかりです。ただ前回同様ストックがあるので即座に再生します。

最後まで読んでいただきありがとうございます。そろそろUSJ編は終わりになると思います。もちろん、その後も話は続きますが。
質問などはコメント欄でしてくれると嬉しいです。ただど素人のガバガバ設定なので矛盾点も有ると思います。その時は修正できたら修正しますが、どうしてもの時は・・・申し訳ありません(土下座ずざー)




エメラルドでボルテッカーを覚えたライチュウを育成。電気玉とか現役時代存在も知らなかったよ。思った以上に奥が深い。


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