バカと無情の試召戦争 (Oclock)
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大問1 Fクラスの下剋上編
プロローグという名の問題文


?(ついに来た…運命の日…振り分け試験…。)

 

 俺はただひたすら、鉛筆を走らせる。

 

?(かなり難しいと噂されるだけあって、考えさせられる問題が多い。)

 

 しかし、その勢いは全く止まらない。

 

?(この調子なら……。)

 

 ただひたすらに、解答欄に答えを埋め続ける。

 

?(学年主席(Aクラス代表)は、ほぼ間違いなく俺だろう。)

 

 そう思い、この俺、双眼零次(そうがんれいじ)は、思わずニヤリと笑みを浮かべた。

 

零次(……だが問題は、Aクラスの奴らが、俺をどう思うかだ。去年の俺は、大きな問題こそ起こさないものの、成績はほとんど底辺に位置していたからな…。あの噂さえなけりゃ、そんなことしなくても済んだが……、今考えても、しょうがないことだ。)

 

 問題を解きつつ、そんなことを考えていると、

 

ガタン

 

 突然、俺より前の席にいるピンクの髪の生徒が倒れた。

 

?「ひ、姫路さん!」

 

 彼女の近くで試験を受けていた男子生徒が様子を確かめている。騒ぎは大きくなっている。

 

零次(アイツは確か……、Fクラスの吉井明久だったか。観察処分者であり、学園一の問題児。…それが周りの奴らの評価だな。)

 

 だが、俺は知っている。アイツが観察処分者になった裏で起こった、一つのエピソードを。

 

明久「ちょ、ちょっと先生!具合が悪くなって退席するだけで、それは酷いじゃないですか!」

 

零次(とりあえず、姫路とかいう、あの生徒のことは明久に任せるか。どうせアイツは、まともに解いたって、Fクラスになるのはほぼ確実だ。それよりも、まずは自分のことだ。途中退席者のことを心配して、俺の計画が破綻するのだけは御免だ。)

 

 その後は、特にハプニングもなく、振り分け試験の1日目が終了した。

 

 

・・・

 

 

零次(1日目、文系科目の試験が終わった。明日は理系科目。俺の得意科目で、確実に学年主席の座を手にする!)

 

?「れ~い~じ~く~ん~。試験の調子はどうでしたか~。」

 

零次「……。」

 

 後ろから俺を呼ぶ声がした。一瞬、足を止めたが、声の主を判断し、家に帰る道へと歩を進める。

 

?「ちょ、ちょっと~。無視は流石に酷くないかな~?」

 

 そう言いつつ、声の主は、俺との距離を変えずに追ってくる。

 

?「そういえば、今日は大変じゃなかった?途中退席者が出たって聞いたけど。」

 

零次「……。」

 

 俺は少し考えて、立ち止まった。

 

零次「………一つ聞こうか。その途中退席者の名前は?」

 

?「姫路。姫路瑞希さん。」

 

 俺の質問に、声の主、近衛秋希(このえあき)は即答した。

 

零次「……。」

 

秋希「おや?外れたかな?」

 

零次「正解だよ。………ハァ………。」

 

秋希「………心配かい?」

 

零次「………ああ。」

 

 俺はそう短く答えた。実際、心配だ。彼女がFクラスに入るのだから。

 一つ目に、クラスの環境。彼女の体が弱いことは、学園のほとんどの人が知っている。そんな彼女が普通に学園生活を送るのも大変なくらい、Fクラスの設備は酷い。実際に見に行ったことがあるが、本当に『酷い』の一言しか出てこない。

 二つ目に、クラスメイトの質。Fクラスの生徒は余程のことがない限り、劣等生の塊だ。そんな連中に囲まれても、彼女の成長は見込めない。

 そして三つ目に………………、いや、これを言うのはやめておこう。ある意味、二つ目に被るし、そもそもその可能性があったら、去年からその兆候が見れてもいいからな。

 

秋希「まあ、安心しなよ。私がキチンとFクラスの動向を見守るからさ。」

 

零次「見守る?お前、まさかとは思うが……。」

 

秋希「そのまさかだよ。」

 

零次「………………サイアクじゃねぇか。」

 

 俺は頭を抱えた。彼女は、去年の中間・期末で常に学年2位に位置している。俺が思うにコイツも自分の点数を誤魔化しているだろうが、それはまず、おいておこう。本当に恐ろしいのは、彼女の人知を超えているといっても過言でないレベルの情報収集能力だ。こうやって、彼女が俺の『味方』をしている時でさえ、恐ろしいと感じているのだから、『敵』になった時はどう表現すればいいのか………。

 

秋希「…安心してよ。クラスが変わったって、私は君の『味方』でいるから。」

 

零次「その言葉はどれくらい信用できるんだ?」

 

 コイツの場合、本当のような嘘の話とか、笑えない冗談とか言うから、俺的にはあまり信用できない。

 

秋希「う~ん………。大体90%かな?」

 

零次「そうか。」

 

 そのくらいなら、まあまあ信用してよさそうだ。コイツは俺のことをよく知っているから、下手に『敵』に回ることはしないだろう。逆にコイツが100%と言ったら、俺はその言葉を絶対に信用しない。コイツとの付き合いは5,6年ほどだがその間に培った経験則ってやつだ。

 

秋希「………あ、もう駅に着いちゃったのか。」

 

零次「そのようだな。」

 

 気がつけば、空はもう真っ赤に染まっていた。平日の俺達の出会いと別れの場所、文月駅。そこには、あちらこちらに人の影が見えるのに、どこか、寂しげな雰囲気が漂っていた。

 

秋希「それじゃ、零次。明日も頑張ってよ。」

 

零次「じゃあな、近衛。お前も………って、お前は別に頑張る必要ねぇじゃねぇか。」

 

 コイツの目標は『Fクラスに入ること』だからな。学年2位の人間には造作もないことだ。

 

秋希「そうだった。じゃ、また明日~!」

 

 そう言って、近衛はまっすぐに走っていった。俺は左へと曲がる。そしてそのまま、家へと帰った。



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小問1 クラス分け

 振り分け試験2日目は、特に何事もなく終わり、それから1週間が過ぎた。今日から、新たな学園生活が始まる。

 そんな俺は今、文月学園に向かうため、そこに続く急な坂を歩いていた。周りに人の姿はない。それもそうだ。現在の時刻は6:30。登校するにはまだまだ早い時間帯だ。

 だが、学校に行く準備は前日に6回、今日になっても、3~4回くらい確認して、朝食も軽く済ませてしまった以上、家にいる理由も無くなったため、早々に出ることにしたのだ。……一応『テレビを見る』という選択肢もあったが、今までに何度もテレビをボーっと眺めているのが嫌で、テレビをつけてから1分も経たずに、勉強道具を持って来て、黙々と勉強し、気がつくと、学校に遅刻する寸前の時間まで勉強してた、なんてことが過去に何度かあったため、進級初日からやらかしたくないので、頭に思い浮かんだ瞬間に却下した。

 15分後。学校の正門前に辿り着いたのだが………。

 

零次「………閉まってるな。」

 

 現在時刻6:45………いや、今6:46になったな。まあ、どちらにせよ、そんな早朝から文月学園は開いているわけもなかった。遠くでは、先生方が運動会などで使うテントを張ったり、おそらく成績表が入っているであろう封筒を仕分けしていたりするのが見えた。

 とはいえ、先生方は忙しそうだし、俺が行ったところで、去年の行いを鑑みるにできることなど皆無に等しいと思い、俺は来た道を数歩引き返し、リュックから英語の参考書を引き出し、正門が開くまで時間を潰すことにした。

 

・・・

 

秋希「おはよー。零次君。」

 

 その声とともに、右肩を軽く叩かれ、ふと周りを見渡すと、すでに多くの生徒が登校していた。参考書をしまい、その手でリュックに入れていたスマートフォンを取り、時間を確認すると、8:14を示していた。学校に入り、少し進んだ先にあるグラウンドでは、まるで道を作るかのように先生方が準備をしていたテントが並んでいた。

 

秋希「なんか、自分が去年いたクラスの担任から成績表をもらうみたいだよ。」

 

 先に学校に入ったはずの近衛が、俺の横に突然現れ、そんなことを言ってきた。確かに目の前の看板にはそんなことが書かれているが………。

 とにかく、どんな結果だろうと、まずこの目で見てみないことには始まらない。俺はまっすぐ進み、右側の2つ目のテントに続く列に並んだ。

 待つことおよそ2分。ようやく、俺は去年の担任の信楽勇二郎(しがらきゆうじろう)先生の前にやってきた。

 

信楽「おめでとう!君は今、2年生への道を一歩踏み出した!自分がどのクラスかは、自分の目で確かめてくれ!」

 

 そう言って、信楽先生は、俺の成績が入っているであろう封筒を渡してきた。俺は、さっさとその場を後にして、誰にも見られないようにして封筒を開けた。

 

零次(手ごたえは十分にあった。ケアレスミスなどしていなければ、計画通りにいっているはずだ。)

 

 封筒から出てきたのは3枚の折りたたまれた紙。1枚目は振り分け試験の結果。それを見た後、2枚目の紙、所属クラスが書かれた紙を見る。

 

『双眼零次………Aクラス代表』

 

 俺はニヤリと笑い、Aクラスのクラスメイトの名前が書かれた3枚目の紙を眺めた。

 

・・・

 

 零次が信楽教諭から封筒をもらっている頃、私はまだ、別の列に並んでいた。いや、別にこっちの列の方が長い訳じゃなくて、私の担任教師が、一人一人の生徒とよく話すからなんだけどね。

 聞こえてきた中だと、端的に言えば、『よく頑張ったんだな。』とか『今年は惜しかったな。』だとか、そう言う感じのことを言っていた。私の担任はそれだけ教育熱心で、生徒一人一人に向き合おうとしている、素晴らしい教師だ。その反面、学校きっての問題児達に悩まされているけど。

 

 さて、ここでこのクラス分けについて説明しておこう。『え?ただのクラス発表でしょ?そんなのデッカイ紙に貼りだせばよくね?』とか考えているなら、その考えは甘い。市販のミルクチョコレートくらい甘い。

 この学校は、とにかく学力主義なのだ。一年の頃は、特に意識する必要はないが(入試の結果に関わらずランダムにクラスが決まるから。)、二年・三年は、私達が約一週間前に行なった振り分け試験の結果で決まる。成績が良ければAクラス、そこから順にBクラス、Cクラス………と続き、成績が悪いとFクラスに編入することになる。

 要は、この学園の二年生と三年生は、所属しているクラスで学力のあるなしが大体わかってしまう、ということだ。だから、誰もがAクラスを目指そうと、そしてFクラスになるまいと努力する。………例外もいるだろうけど。

 

 そんなこんなで、私も去年の担任である、西村宗一教諭の前にやってきた。それまでに、赤髪で高身長の男子生徒が自分の結果を見て、不敵な笑みを浮かべていたり、ぱっと見女子っぽい容姿をした男子生徒が、ため息をついていたり、小柄で無口な感じの男子生徒が落胆した様子でいたりしたが、彼らのことはおいておこう。

 

秋希「おはようございます。鉄………西村先生。」

 

西村「おう。おはよう、近衛。ところで今、『鉄人』と言わなかったか?」

 

秋希「言ってませんよ?言いかけただけです。」

 

西村「少しは隠そうとせんか!全く…………。」

 

 おっといけない。口が滑ってしまった。『鉄人』というのは、生徒の間で呼ばれてる西村先生の渾名だ。先生の趣味がトライアスロンなので、そこから来ている。見た目からして体育会系の先生だが、生徒指導や補習の担当も任されていることから、それなりに学もある教師だ。そして私は、今年一年この教師に世話になるだろうと予感もしている。

 

西村「ほら、これがお前の結果だ。受け取れ。」

 

 封筒にはキチンと『近衛秋希』と書いてある。まあ、私は見なくても結果は分かるんだけどね。

 

西村「ところで、だ。近衛、お前に一体何があった?」

 

秋希「………?何のことですか?」

 

 封筒を開けるのに若干苦戦しつつ、西村教諭の話を聞く。

 

西村「俺はお前を去年一年見てきたが、決して不真面目な生徒ではないと思ってたんだ。」

 

秋希「そうですか?私、自分が真面目だと思ったこと一度もないですが。」

 

西村「まあ、仮にお前の言う通り、真面目でなかったとしてもだ。やはり、お前らしくないと思ってな。」

 

 その言葉と同時に、私の封筒が開いて、中身が出てきた。

 

『近衛秋希………Fクラス』

 

西村「で、どういうことなんだ?お前ならAクラスは狙えたはずだろう?」

 

秋希「そうなんですけどね………。なんかAクラスの設備は、お金がかかっててあんまり好きじゃないんですよね、正直言って。」

 

西村「………そんなこと言うのは、お前が初めてだな。」

 

秋希「私、真面目じゃないんで。それに、Fクラスでやらなくちゃいけないことがあるんで。」

 

西村「………そうか。分かった。それなら俺から言えることは何もないな。だが、何か困ったことがあったら、我々教師を頼ってくれ。」

 

秋希「分かりました。ありがとうございます。」

 

 本当に、西村教諭は頼もしい教師だ。こんな先生のいる学び舎で勉強できるだけで、私は幸せだ。

 私はお辞儀をしてその場を立ち去った。こうして、私は新たな一歩を踏み出すのであった。




~後書きRADIO~

秋希「第1回!」

零次「後書きRADIO。」

秋希「は~じま~るよ~!」

零次「うん。」

秋希「………………零次。」

零次「なんだ?」

秋希「………………暗い!というか、テンション低い!」

零次「何を今更。俺は元からこんなんだろ。」

秋希「そうだけどさ!」

零次「とにかく時間が無いんだ。さっさと進めるぞ。」

秋希「分かったよ………。えーと、この後書きRADIOでは、本編の補足だったり、次回予告をグダグダと行なって行きます。」

零次「あと、この後書きRADIOは、不定期開催だ。………ただでさえ投稿が安定しないのに、更に不定期って………。」

秋希「まあ、ね。とりあえず、次回予告をよろしく。」

零次「ああ。次回は一応設定集を出そうと思っている。」

秋希「なんで?原作があるんだから、それでいいんじゃ………。」

零次「原作と本作で色々変えている設定があるんだよ。特に試召戦争関連。本作はそれをメインにしていくから、そこを明確にしておきたいんだ。」

秋希「あ~、なるほど?(よくわかってないけど。)」

零次「それから、俺達の設定も出す予定だ。こっちはあくまで予定だが、これからもオリジナルのキャラは増えるから、面倒くさくならないうちに、さっさと済ませておく。」

秋希「………どんだけ増えるの?」

零次「今後の展開次第になるが………。メインになるのは、俺と近衛と、それからA・Fクラスにもう一人ずつになるかな。というか、原作でもAとF以外はほとんど触れられてないだろ。特にEクラス。」

秋希「それなら安心………かな?」

零次「………このくらいか?」

秋希「そうだね。」

零次「じゃ。」

「「次回もよろしくお願いします!」」


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設定という名の参考書(文月学園編)

~雑談RADIO~

 

零次「さて、ここでは本作の設定(の一部)を公開していく。」

 

秋希「私達の会話が入って若干見づらいけど、………作者の考えをまとめているから、ぜひ読んでいってね。」

 

零次「それじゃ、始めるぞ。」

 

 

 

・・・

 

設定その1 科目について

 

・本作の使用教科は、『現代国語』『古典』『数学』『物理』『化学』『日本史』『世界史』『現代社会』『英語』『英語W(ライティング)』『保健体育』の11科目を使用する。

 

零次「これは、………作者が原作の試召戦争で使われた教科を抜き出したものだ。本作ではこれを実際に文月学園の授業で習っている、ということで試召戦争で使っていく。」

 

秋希「逆にいえば、それ以外の教科は、文月学園で習わないし、試召戦争でも使われない、と。」

 

零次「そういうことだな。試召戦争では、他に『総合科目』もあるが、当然、点数はこの11科目の総和だ。」

 

・・・

 

設定その2 試召戦争について

 

・原作1巻の『試験召喚戦争についてのルール』の第6項を以下のように変更する

 

 召喚可能範囲は担当教師の所持点数に依存し、その範囲は半径(教師の所持点数)cmとする。

 

・教師の展開可能な教科のフィールドは、その教師の担当教科と、その教師が450点以上取得している教科とする。また、全教科で450点以上取得していれば、学年主任や補修担当教師でなくても、総合科目のフィールドを展開できる。

 

・一つの教科で400点以上取得した生徒には、その教科において『金の腕輪(特殊能力)』を使用することができる。ただし、一部の腕輪の能力によっては例外もある。

 

零次「今のところ言えるのはこのくらいか。」

 

秋希「それじゃ、説明もよろしく。」

 

零次「ああ………。まず、最初の『召喚範囲の変更』についてだが、召喚範囲が半径10m程度というのは、あまりにも広すぎるのではないか、と…作者は思ったそうだ。それで、実際に計測したんだが………。」

 

秋希「結果は?」

 

零次「詳しい数値は出さないが、実際に…作者が通ってた学校で試召戦争をすると、思った通りフィールドが広すぎた。教師二人がかなり距離を離さないと、別々の教科のフィールドを展開できない状況になる。召喚フィールドには『干渉』というシステムがあるからな。」

 

秋希「あー………。そういやそんなのあったね。『干渉』についての説明は?」

 

零次「今はまだいいだろう。そこまで重要じゃない。」

 

秋希「そう?それじゃ、2つ目の設定についてお願い。」

 

零次「これに関しては、説明する必要はない。…作者が、『一応入れとこうかな~。』という感じで作った、ハッキリ言うと、死に設定だ。」

 

秋希「あ、そうなんだ。」

 

零次「このことについて知ってる生徒なんて、ほとんどいないからな。だが、坂本とかお前とかは作戦の一部に取り込んだりするんだろうな。」

 

秋希「要は、情報戦の幅をさらに広げるための設定かな。こちらにとっては、いい設定じゃない?」

 

零次「最後の設定は、原作で、若干あやふやな感じの印象がした、高得点者の所持する『腕輪能力』をハッキリ定義しただけだ。だから、これも説明不要だ。」

 

秋希「………ねえ、この設定の但し書きに書いてある『例外』って具体的にどんなのさ?」

 

零次「………秘密だ。」

 

・・・

 

設定その3 振り分け試験について

 

・振り分け試験は、春休みの最終土・日曜日の二日間にわたって行なわれる。

 

・時間割は1日目(土曜日)に『現代国語』『古典』『日本史』『世界史』『現代社会』『保健体育』の6科目、2日目(日曜日)に『数学』『物理』『化学』『英語』『英語W』の5科目になっている。(順番は年度によって変わる)

 

・不正行為はもちろん、途中退席及び欠席も全科目が0点扱いになる。(強制的にFクラス入り)

 

秋希「………改めて見ると、最後が特に酷い設定だね。」

 

零次「残念だが、これが現実だ。諦めろとしか言いようがない。」

 

秋希「せめて、欠席くらいはどうにかならないのかな?特に試験日が忌引とかに重なったら、どうするのさ?」

 

零次「そんなの、俺が知るか。学園長に聞け。」

 

秋希「それもそうだね。」

 

・・・

 

零次「……………さて、最後がなんかダラダラとなった感が否めないが、今回はここで終わりだ。」

 

秋希「あれ?私達の設定は?」

 

零次「メインキャラ4人の名前が出そろった時点で公開することにした。………本音を言うと、俺達の紹介文が、まだうまく纏まってないらしい。」

 

秋希「え~………。」

 

零次「まあ、気長に待ってくれ。」

 

秋希「それでは!」

 

「「次回もよろしくお願いします!」」



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小問2-A 教室と級友の印象

~前書きRADIO~

零次「………俺だ。双眼零次だ。今回は、Aクラスサイドの話となる。というか、本作はほとんどAクラスサイドの話だけどな。………だから、原作とほとんど変化がなく、それほど重要じゃない部分はカットしていくから、そのつもりでこの先の話を楽しみにしてほしい。」


零次「………………………。」

 

 現在、俺は自分のクラスである、Aクラスの前にいる。一言感想が欲しい、なんて言われたら、おそらく大多数の人間はこう答えるだろう。…………豪華すぎる、と。

 教室の扉は、いたって普通だが、まず、その広さが異常である。去年、俺達が過ごしてきた教室の5,6倍の広さだ。去年の教室の広さをちょうどいいと思っている俺からしたら、この教室は広すぎると思うくらいだ。

 次に設備に驚く。視線を右に移すと、本来なら黒板のあるスペースに、プラズマディスプレイが備え付けられており、生徒の椅子は、リクライニングシートで、机も、おそらくいろんな機能満載のシステムデスクだろう。視線を正面に戻せば、いかにも高級品、という感じのソファやガラステーブル、ちょっと左にずらすと、お菓子の入ったバスケットや、ファミレスとかで見かけるドリンクバーが設置されていた。視線を上にあげると、黒地に金色の文字で『2-A』と書かれたクラスプレートが吊るされていた。周りの『2-B』『2-C』『2-D』が、普通に白地に黒の文字で書かれていることから、これも特別、という感じがした。

 

零次(………豪華すぎるだろ、この教室。あの学園長は、どれだけここにお金をつぎ込んでいるんだか。)

 

 そんなことを思いつつ俺は教室に入ることにした。

 

・・・

 

ガラッ

 

零次「………………………。」

 

 ………………どうやら、誰も俺のことに気づいてないようだ。教室のドアが開いたにもかかわらず、無反応とは。いや、数名ほどこちらに視線が向いたな。

 

「…………おい、アイツって確か………。」

 

「間違いない………『死神』だ………。」

 

「なんで、この教室に………?」

 

 ………予想していたが、やっぱり、そういう反応だろうな。

 俺が通っていた中学校は、この辺りでは有名な不良校だった。『力こそ正義』と言わんばかりの校風で、強い後輩が弱い先輩や先生を敬わないことなど、その学校では珍しくなかった。俺もそんな生徒の一人で、『死神』はその時に付いた渾名だ。

 まあ、その時の話がどういう経緯で知ったのか、その噂が原因で俺から距離を置こうとすること自体は、別にどうでもいい。他人の人間関係に口出しする権利などないのだから。だが、本当の問題は………………、

 

「そういや、座席表にアイツの名前があったような…………。」

 

「マジかよ。うわ、サイアクだわー。」

 

「どうせ、カンニングでも、したんじゃない?」

 

「もしかして、先生たちを脅して、この教室に入ったんじゃない?久保君とか、近衛さんにしたみたいに………………。」

 

 こういう奴らだ。まあ、俺に対して露骨に不快感を出している奴については、おいておこう。こちらとしても、そういう奴と付き合わなければいい訳だからな。

 だが、俺がカンニングしただとか、先生方を脅してるなどと言っていた、女子二人は論外だ。一般的にいえば、『不良=頭が悪い』とか、『不良=平気で暴力をふるう』といった等式ができているのだろう。俺も実際、そんな奴を中学生の時に多く見てきたからよく分かる。俺が気に食わないのは、そんな等式に俺を勝手に当てはめて距離を取っていたくせに、いざ自分の想定していない事象が起きた時、それを認めず、そのうえ自分を正当化して、起きた事象に文句を言う、その態度なのだ。

 そんな話をしているクラスメイトから目をそらし、俺は席に着いた。ちょうど隣には、俺の友人の一人、久保利光がいた。

 

利光「やあ、零次。久しぶりだね。」

 

零次「おう、久保。本当に久しぶりだな。春休みの間、全く顔を合わせなかったからな。」

 

利光「零次のことだから、勉強に没頭していると思ってね。そう考えると声をかけづらくてさ。」

 

 ………………………………実際そうだったから、何も言い返せない。

 

零次「…………ああ、そうだ。久保。」

 

利光「なんだい?零次。」

 

零次「一応聞いておくが………、このクラスの代表が誰か知っているか?」

 

利光「………ごめん。分からないんだ。」

 

零次「分からない?」

 

利光「うん。霧島さんが代表だと思って、さっき挨拶に行ってきたんだけど………。どうやら、霧島さんが代表じゃないらしいんだ。」

 

 俺は久保の言葉に頷きつつ、前の席に座っている女子生徒、霧島翔子に目をやった。

 

零次「…………そうか。なら、いいや。」

 

利光「……零次は気にならないのかい?代表が誰か。」

 

零次「ああ。だって、……………………………俺は誰が代表か、知っているからな。」

 

 そう言って、俺はニヤリと笑った。 

 



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小問2-F 私の新たな一歩

~前書きRADIO~

秋希「やっほー。近衛秋希だよ。今回は、Fクラスサイドの話だよ。しばらくは、Aクラスの話とFクラスの話が交互にしていくらしいから、そのつもりで、よろしくね!」


秋希「………………うわあ。」

 

 私は今、Fクラスの教室前に来ている。一言感想をください、なんて聞かれれば、きっと多くの人はこの教室をこう評価するだろう。……………酷すぎる、ここは本当に教室なのか、と。

 まあ、中の様子は、とりあえず入ってみてから改めて確認しよう。ただ、上を見ると、『2-F』と書かれた木製のプレートは、ひび割れており、もう少しで壊れそうな………、

 

バリッ

 

………訂正。たった今壊れてしまった。『2-E』のプレートも同じく木製だが、向こうのは、ひび割れが全く確認されないところから、EクラスとFクラスにも明確な差があるようだ。

 

秋希「………とりあえず、入るか。」

 

 ちなみに、あのプレートを後日詳しく観察したところ、『F』の字は『E』の一番下の横棒を塗りつぶしたものだったことが分かった。要は、『2-F』のプレートは、使い古した『2-E』だったのだ。

 

・・・

 

ガッ ガラッ

 

秋希「おはよー。」

 

 まさかとは思ってたけど、教室のドアもガタガタとは………。設備の酷さがこんなところにも出ているとは。

 

?「ああ、おはよ………って、近衛か?」

 

 教壇に立っている男子生徒は、私を見るなり、驚いた表情をした。………………よし、せっかく教壇に立っているんだったら………。

 

秋希「………そうですよー。坂本『先生』。」

 

?「待て、近衛。俺は先生じゃない。」

 

秋希「分かってるって、坂本『君』。」

 

 ちぇっ、普通に返されたか。でも、実際その男子生徒、坂本雄二君は、身長が180センチ強と高く、スーツとか着ていたら、教師と間違えられても、おかしくはない。ただ、この学校だと、いろいろ問題を起こしているから、その変装に意味はないけれど。

 

秋希「ところで、坂本君はそこで何をしているの?」

 

雄二「特にやることもないから、教壇に上がってみた。」

 

秋希「へー………。」

 

 よかったね、坂本君。今の話を零次が聞いたら、どうなってたことやら。………いや、よく考えたらそんな大事にはならないか。せいぜい、呆れられるくらいかな?

 

秋希「ってことは、坂本君がFクラスの代表?」

 

雄二「そうだ。だから、このクラスにいる奴、全員が俺の兵隊だな。」

 

秋希「………………そう。」

 

 坂本君の話を聞きつつ、私は教室の設備を改めて確認した。……先輩から聞いていたとはいえ、やはりこの設備は酷いの一言が真っ先に出てくるものだった。

 机の代わりに置かれているのは卓袱台で、椅子の代わりには座布団。これだけ聞くと、『へ~。Fクラスって、和風な教室なんだ。』で済まされるけど、学力最低クラスであるFクラスに、まともな設備が支給されるわけがない。卓袱台の多くは、足の折れたものを何とか補強してるような感じだし、座布団は、地べたに座っているのと大差ないくらいに綿が入っていない。窓ガラスは一部が割れているし、カーテンなんてものはない。………これを教室と呼んでいいのだろうか?

 

雄二「ところで近衛、お前はどうしてこのクラスに?双眼ならともかく、お前が来るなんてどう考えてもあり得ないんだが。」

 

 やっぱり聞いてくるか。去年の成績を見れば、零次は下から探した方が早く、対して私は学年2位。しかも、学年トップの霧島さんと数点しか違わないから、普通に考えたら、私がここに来るなんてありえない訳だ。零次の名前を挙げたのは、一緒に行動しているところをたまに見かけるからだろう。

 

秋希「………………確かに、私の成績なら、Aクラスに入るのは簡単だよ?」

 

雄二「ああ、だから………………、」

 

秋希「でも、こうは考えられない?Aクラスに余裕で入れる点数があるのだから、ちょっと点数を操作すれば、どのクラスにも入れる、って。」

 

雄二「………………は?」

 

秋希「それに、『どう考えても』って、坂本君は言ったけど、答案用紙を無記名で出したら、優等生もバカも関係ないよね?そんなポカしたら、間違いなくFクラス行きだよね。」

 

雄二「まあ、それは、そうだが………。」

 

秋希「………………ま、私がここに来たのは、Aクラスの過剰な設備と待遇が嫌いだから。そして、Fクラスの環境が私にとって一番居心地の良いところだから。………これで、満足かな?」

 

雄二「あ、ああ、そうか、分かった。」

 

 どうやら、一応は納得してくれたみたいだ。私に押され気味に見えたのは、多分気のせいだ。………いや、気のせいじゃないだろうね。………多分。

 

秋希「………………あ、それと坂本君、もう一つ言うことあった。零次は、ここには来ないよ。」

 

雄二「な、なんだって?」

 

秋希「それに、私も君に協力する気はない。ま、詳しい話は、また時間がある時にでもしようか。」

 

 その後、私は教室の様子を観察したり、やって来るクラスメイトに挨拶したり、読書をしたりしてHRが始まるのを待った。一体これからどんな生活が待っているのか、………。出来れば、平和な日々を過ごせますように。



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小問3-A 不信、対立、そして分裂

?「皆さん進級おめでとうございます。私はこの2年A組の担任、高橋洋子です。よろしくお願いします。」

 

 時計が示す時間は8:45。ちょうど1時限目が始まる時間だ。本来なら、8:30頃にHRが行われるのだが、高橋先生が8:40頃にこの教室に来たことから、どうやら進級初日だからか、まだ本格的に授業を始めるわけでもないようだ。

 

高橋「まずは設備の確認をします。ノートパソコン、個人エアコン、冷蔵庫、リクライニングシート、その他の設備に不備のある人はいますか?」

 

 ………そういえば、確認していなかったな。まあ、今すぐしなきゃいけないことでもないから、しばらく放っておくか。

 

高橋「参考書や教科書などの学習資料はもとより、冷蔵庫の中身に関しても全て学園が支給致します。他にも何か必要なものがあれば遠慮などすることなどなく、何でも申し出てください。」

 

 高橋先生、今、『何でも』って言ったな?………………と、冗談はさておき、俺より後ろの方から、何やらいい香りがするな。そのにおいを頼りに、俺は後ろの方を向いた。

 その時、教室の外に一人佇んでいる生徒を見かけた。俺のいる席から顔とかは分からないが、席が埋まっているから、このクラスの生徒ではないのは確かだ。………早速他のクラスから偵察が来たか?それとも、ただ遅刻しただけか………………。

 

高橋「では、はじめにクラス代表を………」

 

零次「すみません。」

 

高橋「はい。何ですか?」

 

 とりあえず、さっさと追い返すか。俺がそう思い、挙手したのと同時に、その生徒は教室を離れた。

 

零次「………………いえ、すみません。大丈夫です。続けてください。」

 

高橋「…………そうですか。分かりました。」

 

 高橋先生が何か聞いてくる様子はなかった。まあ、その方が俺にとってはありがたい。

 

高橋「では、改めて、クラス代表を紹介します。」

 

 きっと、皆の頭の中では、クラス代表が霧島か近衛だと思っているのだろうな。当然だ。実際、彼女は去年の試験で、常に学年1位で、近衛は数点差で学年2位になっていた。何かの拍子でこの二人の順位が入れ替わったって、何の不思議もない。

 だが、残念だったな、Aクラス諸君。代表になるのは、霧島でも近衛でも、ましてや久保でも姫路でもない。

 

高橋「双眼零次君、前に出てきてください。」

 

零次「はい。」

 

 Aクラス代表は、この俺だ。

 

 

・・・

 

 

「おい。あの『死神』が代表だと………………。」

 

「何かの間違いだろ。」

 

 やっぱり、そうなるよな。この教室に来た時から、そうなるとは思っていた。そして………………、

 

「どうせ、カンニングでもしたんだろ。」

 

「だよな。そうじゃなきゃ、あんなクズが、Aクラスに入れるわけないんだ。」

 

「この教室にいるだけでもサイアクなのに、代表なってるとか、もっとサイアクだわー。」

 

 こういう奴が出てくることも想定済みだ。

 さてと、そういう奴らばかりなら、容赦はしない。先生次第ではあるが、早速『プランA』を始動…………、

 

利光「君たちいい加減にしてくれないか。」

 

 ………………………………久保?

 

「な、何だよ、いきなり!」

 

利光「零次はカンニングなんかしていない。零次はそういう不正を嫌う人なんだ。そもそも君たちが思うような酷い人間だったら、不正をしたって、このクラスに入ることだってできないだろ?」

 

 …………まさか、久保が俺をフォローしてくれるとは………。これは予想外だな。

 

利光「それに先生方だって、不正行為が無いように必死で監視していたんだ。特に零次の周りは監視を強化していたようだし………。………………それとも、零次がカンニングしたって、証拠でもあるのかい?」

 

「う、そ、それは………。」

 

「確かに証拠とかはないけど…………。」

 

 どうやら、このままこの話題は沈静化して………………、

 

「だ、騙されるかよ、久保!そう言うようにあのクズから言われたんだろ!?アイツに何か弱みを握られて…………」

 

バンッ

 

零次「いい加減にしろ!!!」

 

 全員の視線が、久保から教卓の方に移動した俺の方に向く。俺は深く息をついて言い放った。

 

零次「………………一応聞こうか。俺が代表をすることに不満がある奴は、何も言わずに挙手しろ。」

 

 真っ先に久保と論争していた………………確か豊嶋だったか?アイツが手を挙げた。その後すぐに一番前の席に座っている木下秀吉………………、いや違うな、秀吉の姉(名前は聞いてない)も手を挙げた。それにつられるように一名、また一名と手を挙げる。最終的に手を挙げなかったのは、久保と霧島を含む数名だけだった。

 

零次「………………先生、どうしましょう。これがクラスの意見なんで、代表を変えられませんかね?」

 

高橋「それは出来ません。校則で決まっているので。」

 

 即答だった。まあ、分かっていたけどな。どのあたりに書いていたかは忘れたが、『各クラスの代表は、そのクラス内で総合科目の得点が最も高い生徒が担い、いかなる理由であろうと、代表の変更は認めない。』みたいなことが書かれていたはずだ。

 

零次「なら………………、こうしましょう。霧島翔子、前に来い。」

 

翔子「……………………。(コクリ)」

 

 霧島は黙って前に出てきてくれた。それじゃ、『プランB』始動だ。

 

零次「俺は、霧島翔子を副代表に任命する。………………霧島、任せてもいいか?」

 

翔子「……うん。……零次が何をしたいか、なんとなく分かったから。」 

 

 やっぱりコイツは頭がよく回る。頼もしい限りだ。他の奴らは全く見当がついてないようだが。

 

零次「これから、Aクラスを二つのグループに分類する。俺のグループと、霧島のグループ、好きな方に入れ。お前たちが自己紹介するとき、どちらのグループに入るかちゃんと申告しろ。それがなかった場合は、強制的に俺のグループだ。………………俺からは以上だ。」

 

高橋「それでは皆さん、これから一年間、双眼君と霧島さんを代表にして、協力し合い、研鑽を重ねてください。これから始まる『戦争』で、どこにも負けないように。」

 

 ………………そういや俺、結局自己紹介しなかったな。まあいいか。誰も俺のことなど興味もないだろうし、先生も、これ以上時間を浪費するのを避けたいだろうからな。

 




~後書きRADIO~

秋希「さあ、第2回!」

零次「後書きRADIOの時間だ。」

秋希「今回も張り切っていこうか!」

零次「ちなみに今回は、というか、今回からか?ゲストが来ている。」

秋希「え?まさか、霧島さん?それとも久保君?まさか、豊嶋君は違うよね?」

零次「………………作者曰く、この後書きRADIO限定のオリキャラだそうだ。どうぞ。」

?:ドーモドーモドモドモドー!後書キRADIOヲゴ覧ノ、MI!NA!SA!MA!!!ハジメマーシテー!

秋希「何このキャラ!色々ツッコミどころしかないんだけど!!ってか、誰!?私の知り合いにこんな人いないんだけど!」

零次「………………自己紹介頼む。」

?:O!K!私ノNAME!ソレハ!

秋希「このままいくの!?ちょっと流石に五月蝿いんだけど!」

?:………………………………………………………。

秋希「?」

?:………………………………………………………………。(プツッ)

秋希「あ、あれ?」

零次「………………………近衛。」

秋希「………え?これ、私が悪いの?」

零次「そうだ。」

秋希「そうだ、って………………というか、ホント誰なの?零次の知り合い?」

零次「俺の知り合いにあんな五月蠅い奴はいない。」

秋希「零次もそう思ってたんだ………………。じゃあ、結局誰なの?」

零次「奴の正体は次回に持ち越しだ。」

秋希「あ、そう。分かった。」

零次「それじゃ、今回の解説だ。」

秋希「そういや零次。随分思い切った行動じゃないかな、これは。」

零次「そうか?この『プランB』、正式名称『俺と霧島の2人でうまくAクラスを引っ張っていこうぜ作戦』は、なかなかいいと思うんだが?」

秋希「いや、それ霧島さんがOKしたからよかったものの、霧島さんが嫌だと言ったらどうするのよ?」

零次「その時は『プランA』、正式名称『そこまで言うならテメェは俺よりいい点数取れるんだよなアァン?作戦』を発動するまでだ。」

秋希「『プランA』の正式名称がめっちゃ口悪いんですけど!!」

零次「ちなみに『プランA』の内容は、クラス全員でもう一度振り分け試験の問題を解く、というものだ。ただし、俺以外は、教科書・ノート等持ち込み可、かつカンニングなどの不正行為もあり、という内容だ。」

秋希「……………こっちも結構言葉通りの内容だったね。頭の悪い不良がズルして入ったのなら、頭のいいAクラスの生徒がズルすれば、皆霧島さんレベルの点数を取れるよね、ってことか。」

零次「そういうことだ。………………というわけで、今回の話はこれで終わりだ。」

秋希「それじゃ。」

「「次回もよろしくお願いします!」」


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小問3-F 渡る世間はバカばっか?

秋希「………………坂本君。」

 

雄二「………………なんだ?」

 

秋希「………先生、来ないね。」

 

 現在時刻は8:41。ほとんどの席、もとい座布団が埋まってきた時間帯。本来なら、この時間にはHRが行なわれており、8:45には、1時限目が始まるはずだ。まあ、振り分け試験の最後に配られたプリントでは、初日はその1時限目に、HR兼オリエンテーションが行なわれる、と書かれていたから、来ていなくてもさほど問題はない。けど、Aクラスはきっと、この時間にはもう、担任教師が来て、HRの準備とかしているんだろうな。そう考えると、ちょっと不快な気分になる。

 

秋希「………あ、そういや坂本君。黒板のところにチョークはある?」

 

 教室に入って来た時の記憶を思い出すと、確か無かったはずだけど………………。

 

雄二「んあ?待ってろ。………………………………あ、無いな。」

 

 …………やっぱりそうだったか。

 

秋希「じゃあ、これ置いとくね。先輩から聞いたときは、まさかと思ったんだけど、念のために持ってきて良かったよ。」

 

雄二「お、おお。分かった。」

 

 用意の良い私に対して驚く坂本君を尻目に、私はチョークを置いて、すぐに元の席に戻る。

 現在、時計は8:42………………いや、8:43を指している。そろそろ担任教師が来てもいいと思うんだけどな。

 

・・・

 

秋希「………………………来ない。」

 

 現在時刻は8:46。他のクラスは、もうHRを始めているであろう時刻になっても、教師が来る気配がない。ま、まあ、去年も教師が1~2分遅れることはあったし、私もそんなに時間にうるさい性格ではないからいいけど、さすがに暇になってきた。

 

ガラッ

 

 お、やっと来たか?

 

?「すいません、ちょっと遅れちゃいました♪」

 

雄二「早く座れ、このウジ虫野郎。」

 

 って、思ったら、アンタか、吉井明久!折角の期待を返せ!

 

明久「先生の代わりって、雄二が?なんで?」

 

雄二「一応このクラスの最高成績者だからな。」

 

 坂本君は、私が来た時と同じセリフを言った。………………あ、吉井君の顔が、にやけてる。きっと、坂本君を説得すれば、クラスを動かせる、とか思ってるな。その考えは間違っちゃいないけど、君が坂本君を動かせるとは到底思えないんだよな、去年の行動からして。

 

?「えーと、ちょっと通してもらえますかね?」

 

 坂本君と吉井君が話していると、担任教師らしき人が教室に入って来た。

 

?「それと席についてもらえますか?HRを始めますので。」

 

明久「はい、わかりました。」

 

雄二「うーっす。」

 

 ………………それにしても、この教師からは、暗いオーラが漂っている。なんか、見ているこっちが心配になりそうな感じだ。声に覇気はなく、シャツもピシッとしていない。言い方は悪いが、生徒になめられる教師の一例を見事なまでに体現している。

 そんなFクラスの担任は、吉井君達が席に着くのを見届けると、壇上に立ち、ゆっくりと口を開いた。

 

?「えー、おはようございます。二年F組担任の福原慎です。よろしくお願いします。」

 

 そう言って、福原先生は、私が置いていったチョークで、黒板に自分の名前を書いた。

 

福原「皆さん全員に卓袱台と座布団は支給されてますか?不備があれば申し出てください。」

 

 ………………正直言って、この教室には不備しかない気がするんですが。

 

「せんせー、俺の座布団に綿がほとんど入ってないですー。」

 

 とある男子生徒が(というか、現在私含めて3名以外は皆男子だけど)、自分の座っている座布団を掲げて申し出た。あー、なるほど。それは、れっきとした不備だ。そんな座布団じゃあ、床に座ってるのと大差ないしね。さて、それに対する、教師の回答は?

 

福原「あー、はい。我慢してください。」

 

 不備があれば申し出てください(必ず改善するとは言っていない)。

 

 こ れ は ひ ど い。

 

 というか、それが正式回答なの?なんか、聞いた感じだと、ただ面倒臭がっているだけに聞こえるのは、気のせいだろうか。

 

「先生、俺の卓袱台の脚が折れてます。」

 

 また別の生徒が不備を申し出る。確かに、これもれっきとした不備だ。これじゃあ、ノートが取りづらいだろうね。流石にこれは『我慢してください』とは言わないだろう。

 

福原「木工ボンドが支給されていますので、後で自分で直してください。」

 

 せめて瞬間接着剤が欲しいです、先生!

 

「センセ、窓が割れていて風が寒いんですけど。」

 

 先生。今度はまともな対応期待してますよ?

 

福原「わかりました。ビニール袋とセロハンテープの支給を申請しておきましょう。」

 

 ………………………なんとなく予想してたけど、期待した私がバカだった。

 

福原「必要なものがあれば、極力自分で調達するようにしてください。」

 

 とりあえず、帰りに100均に寄って、綿を買い占めよう。そして、明日は早めに来て、教室の座布団という座布団をパンパンに膨らませてやる。

 

福原「では、自己紹介でも始めましょうか。そうですね。………廊下側の人からお願いします。」

 

 そんな小さな野望を抱き、福原教諭の話を聞いていると、どうやら、自己紹介でもするようだ。廊下側と言っていたから、窓際で、かつどちらかと言えば後ろの方に座っている私の出番は、しばらく後だ。ちなみに代表の坂本君は、一番窓に近い列の、一番後ろ側にいた。その位置だと坂本君は、一番最後に自己紹介することになるけど………………。まさか、それも計算していた?

 

?「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる。」

 

 そう言って自己紹介したのは、ぱっと見女子っぽい顔立ちをした男子生徒だ。いや、もしかしたら何らかの事情で、男子生徒の制服を着ている女子生徒かも、という可能性も去年考えたが、『生物学的にも、戸籍上でも、男じゃ!』って、本人が言っていたから多分そうだろう。というか、そんなことで嘘つく奴がいてたまるか。

 

秀吉「………………と、いう訳じゃ。今年一年よろしく頼むぞ。」

 

 ………………しまった。去年の思い出にふけっていたら、木下君の自己紹介を聞き逃がしていた。………………まあ、いいか。去年と同じクラスだったし。

 

?「…………土屋康太。」

 

 次に、木下君の後ろの席にいる小柄な男子生徒が自己紹介をしていた。………………って、あれ?またしても知り合いだ。 というか、この生徒とは、ロクな思い出がない。

 たしかそれは、去年の夏頃の話だ。体育の授業の準備で着替えをしていた時のこと。ふと、窓の外の方から人の気配がして見てみると、一瞬だけ、彼の姿を発見した気がした。ほんの一瞬の出来事だったから、幻覚かと思ったが、数日後、零次からの報告で、彼のもとを訪れてみると、彼がその時盗撮したであろう写真を売っているところを目撃した。当然、私は彼を現行犯で捕まえたが、こういう問題を明るみにできない文月学園のことを考えて、とりあえずは、注意するだけにとどめておくことにした。

 

?「…………です。海外育ちで、日本語は会話はできるけど、読み書きが苦手です。」

 

 ………………おおっと。また、去年の思い出に浸っていたら、いつの間にか次の人に………………、訂正、席の位置を見るに、4名ほど聞き逃していた。仕方ない。後で機会があれば聞いておこう。

 

?「あ、でも英語も苦手です。育ちはドイツだったので。趣味は………………。」

 

 そういえば、やけに聞き覚えがある声だと思っていたら、島田美波さんか。去年、入学したての頃は、言葉関係でいろいろ苦戦していたみたいだけど、今ではそんな様子は全く見られない。友達もまあまあ出来たみたいだけど、一つだけ問題がある。

 

美波「趣味は吉井明久を殴ることです☆」

 

 この暴力性。これさえ何とかすれば、彼との距離が縮められるのに。………………私個人としては、縮まってほしくないけど。

 

?「あなたでしたか………………、吉井君を傷つけるクソ女は………………。(ボソッ)」

 

 ………………ん?どこからか声が聞こえたような………………。まわりの反応を見ると、どうやら私だけが、その微かな声の内容を聞き取ったようだ。

 

 

 

・・・

 

 

「…………です。これから、よろしくお願いします。」

 

 それから、十数名ほど淡々とした自己紹介が続いた。それにしても、つまらないなー。もう誰か、鼻から牛乳でも飲んで、笑いを取ってくれないかなー。当然、私はそんなことやらないけど。牛乳もないし。

 

?「根民円≪ねたみまどか≫です………………。趣味は………人形作り。………よろしく。」

 

 と、そんなことを思っていたら、私の後ろの方で、別の女子生徒が自己紹介していた。その声は今にも消えそうな程か細かったが、先ほど島田さんを『クソ女』と言っていた声だ。

 一応、知り合いではあるが、私や吉井君達と違って、彼女の去年のクラスはFではなくB。それだけが理由ってわけではないけど、とにかく、彼女との交流はそんなになかった。

 

明久「………コホン。えーっと、吉井明久です。気軽に『ダーリン』って呼んでくださいね♪」

 

「「「ダァァーーリィーーン」」」

 

 ………………吹いた。確かに、誰かに笑いを取ってくれとは思ったよ?でも、君が実行するのはズルいよ!ちくしょう!私の腹筋を返せ!

 

円「………………ダーリン。(ボソッ)」

 

 根民さんがこっそり言っていたけど、そんなのに構っている余裕もない。

 

明久「……失礼。忘れてください。とにかくよろしくお願い致します。」

 

 吉井君もなんか気分が悪そうな顔をしている。冗談のつもりが、本気で返されるとは思っていなかったんだろう。

 

ガラッ

 

?「あの、遅れて、すいま、せん……。」

 

「「「え?」」」

 

 私が呼吸を整えていると、教室のドアが開いて、一人の女子生徒が入ってきた。………………今思い返してみれば、ここにいるはずの『彼女』がこの教室にいないことに、疑問を持つべきだった。

 

福原「丁度よかったです。今自己紹介をしているところなので、姫路さんもお願いします。」

 

?「は、はい!あの、姫路瑞希といいます。よろしくお願いします……。」

 

 姫路瑞希さん。振り分け試験を途中退席してしまった唯一の生徒。去年の成績で言えば、3位と4位を行ったり来たりしている。そんな優秀な生徒がこの教室に来るなんて、まずありえない。

 

「はいっ!質問です!」

 

瑞希「あ、は、はいっ。なんですか?」

 

「なんでここにいるんですか?」

 

 ………………………だから、彼女がここにいることに、疑問がある生徒がいるのは仕方ないことだけど、その質問の仕方はどうなの?せめて、『どうして、あなたみたいな優秀な生徒がFクラスに入ってしまったんですか?』とかじゃないかな?

 

瑞希「そ、その……、振り分け試験の最中、高熱をだしてしまいまして……。」

 

 まだ緊張しているせいか、体のあちこちを震わせつつ、姫路さんは丁寧に答えた。その回答にあちこちから言い訳がましい話が聞こえた。例えば『俺も熱(の問題)が出たせいでFクラスになった』とか、『弟が事故に遭ったせいで実力が出せなかった』とか、『前の晩に彼女が寝かせてくれなかった』とか。醜い。なんて醜い言い訳だ。

 それを見かねたのか、福原教諭が動いた。

 

福原「はいはい。皆さん、静かにしてください。」

 

 そう言って、教卓を叩いた。次の瞬間。

 

バキッ パラパラパラ………………

 

 教卓が崩れた。………………………そこだけはFクラスのマシな部分だと思ってたのに。

 

福原「えー……替えを用意してきます。少し待っていてください。」

 

瑞希「あ、あはは……。」

 

 これには姫路さんも苦笑い。お願いします、福原先生。一番いい教卓を頼みます。

 

明久「……雄二、ちょっといい?」

 

雄二「ん?なんだ?」

 

 ふと視線を坂本君に向けると、吉井君と何か話していた。と思ったら、教室を出ていった。

 

 ………………どうやら、進級早々、動く羽目になりそうだ。



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小問4 少年は理想を抱き、少女は現実を見る。

~前書きRADIO~

零次「どうも、双眼零次だ。そして………………、」

秋希「近衛秋希でーす。」

零次「今回は前回の話の続き、つまり、Fクラスの話だ。」

秋希「………………あれ?今回の話数、『小問4ーF』じゃないの?」

零次「あー……。そういう話は後書きRADIOでしようか。」

秋希「え?まあ……………、いいけど。」

零次「では、本編をどうぞ!」


雄二「……んで、話って?」

 

 福原先生が教卓を取りに行っている間に、『僕』はクラスの代表になった『雄二』を廊下に連れ出した。今からする話は、あまり人に聞かれたくないからね。

 

明久「この教室についてなんだけど……。」

 

雄二「Fクラスか?想像以上に酷いもんだな。」

 

明久「雄二もそう思うよね?」

 

雄二「もちろんだ。」

 

明久「……Aクラスの設備は見た?」

 

雄二「ああ。凄かったな。あんな教室は他に見たことがない。」

 

 そうだよね。僕もAクラスの設備を見てきたけど、壁全体を覆うほどの大きさのプラズマディスプレイや、リクライニングシート。エアコンは各人に一台備え付けで、あの設備の数々を思い出すたび、自分達がこれから一年暮らしていくであろう、Fクラスの教室の酷さに虚しさを覚えてしまう。

 でも、僕たちには、こんな状況をひっくり返せる手段がある。

 

明久「そこで僕からの提案。折角二年生になったんだし、『試召戦争』をやってみない?」

 

雄二「戦争、だと?」

 

明久「うん。しかもAクラス相手に。」

 

?「それは聞き捨てならないよ、吉井君。」

 

 

 

・・・

 

 

秋希「それは聞き捨てならないよ、吉井君。」

 

 教室のドアを開け、廊下に出て、ドアを閉める。この一連の動作をしつつ、『私』はそう言い放った。

 

雄二「近衛、お前どこから聞いてたんだ?」

 

秋希「えーっと……。君たち二人が廊下に出て……、坂本君が『んで、話って?』って言った所から。」

 

雄二「最初からじゃねえーか!」

 

秋希「それはともかく。吉井君………………じゃなかった、ダージリン君って呼んだ方がいいかな?自己紹介の時そう言っていたし。」

 

明久「いや、紅茶の名前で呼んでほしいなんて言ってないよ!あの時は『ダーリン』と呼んでって……、いや、それでも呼んでほしくないから!」

 

雄二「お、明久。ダージリンが紅茶の一種だって、よく知ってたな。」

 

明久「さすがに、それくらい知ってるよ雄二!」

 

秋希「………ボケた本人が言うのもなんだけど、いったん落ち着こうか。本題に入るよ。」

 

 吉井君を軽く睨みつける。ここからは、私のターンだ。

 

秋希「吉井君。君は何で、Aクラスに『試召戦争』をしようとするの?」

 

明久「いや、だってあまりにひどい設備だから。」

 

雄二「嘘をつくな。全く勉強に興味のないお前が、今更勉強用の設備の為に戦争を起こすなんて、あり得ないだろうが。実際、お前がこの学校選んだのは『試験校だからこその学費の安さ』が理由だろ?」

 

秋希「それに、君の言い分が本当だとしても、キツイ言い方になるけど、そんなくだらない理由で『試召戦争』をしないでほしいな。そんなに酷い設備で暮らすのが嫌なら、去年のうちから勉強して、少しでも上位のクラスに行けるように頑張ればよかったのよ。」

 

明久「うぐぐ……。」

 

秋希「………………で?本音は?」

 

 これで吉井君が『試召戦争』をしたがる本当の理由を聞ければいいけど、そう簡単にはいかないだろうね。

 

明久「あー、えーっと、それは、その……。」

 

 現に、吉井君はなんとか言い訳を考えようとしている。

 

雄二「……もしかして、姫路……と近衛の為、か?」

 

明久「!!(ビクッ)ど、どうしてそれを!?」

 

雄二「本当にお前は単純だな。カマをかけるとすぐに引っかかる。」

 

 ………本当に分かりやすい。坂本君が私の名前を後付けで言ったのは、私がこのクラスに入った理由が姫路さんと違うからだろう。姫路さんが学校の規則で『仕方なく』Fクラスに入ったのに対し、私は『望んで』このクラスに来たわけだからね。

 

秋希「…………なるほど、そういうことね。」

 

明久「いや、別にそんな理由じゃ……。」

 

秋希「そう?これは、あくまで私の予想だけど、『自分や雄二はともかく、姫路さんがこの教室で過ごすのはどうなんだ?確かに姫路さんは本番で実力を発揮できなかった。体調管理も実力のうちかもしれない。けど、それだけの理由でFクラスに落とされるのは気に食わない。もうちょっとチャンスがあってもいいじゃないか。こうなったら、彼女のためにも、まともな設備を用意してあげないと。できれば、実力に見合ったAクラスの設備を。』って、君は思っているんじゃないかな。」

 

明久「君はエスパーか、何かかい?」

 

秋希「ということは、姫路さんのためってことは認めるのね?」

 

明久「………………。」

 

 黙る、ってことは事実みたいだ。

 

雄二「ま、気にするな。お前に言われるまでもなく、俺自身Aクラス相手に試召戦争をやろうと思っていたところだ。」

 

秋希「君もなの?…………一応理由を聞かせて?代表なんだから、ちゃんとした理由なんでしょうね?」

 

雄二「世の中学力が全てじゃない、そんな証明をするためだ。」

 

秋希「要は、最低クラスの意地を見せつけたいの?」

 

 隣で吉井君が頭に『?』を浮かべている中、私は坂本君に聞いた。

 

雄二「まあ、そんなところだ。」

 

秋希「ふーん。ま、坂本君がもともとやる気なら、これ以上私からは何も言わないや。」

 

 ここで私が反対したところで、代表は坂本君なのだ。彼がやると言ったら、皆やる気になるだろうし、そうなったら、もう止められない。

 

秋希「………いや、二つだけ言わせてもらうよ。坂本君、私『個人』としては、君たちに協力する気はないけど、『Fクラス生徒』の私としては協力してあげる。」

 

雄二「?どういうことだ?」

 

秋希「『試召戦争』になれば分かるよ。あともう一つ。私の悪友の言葉を君に送るよ。」

 

雄二「な、なんだ?」

 

秋希「………………………世の中は、力が無ければ生きていけない。……力が無ければ、誰も守れない。………………そのことを覚えておいて、坂本君。」

 

 そう言って教室に戻った。福原教諭が戻ってきたのは、その30秒ほど後だった。

 




~後書きRADIO~

零次「第3回!」

秋希「後書きRADIOの~?」

ゲスト「………………………え?これ、僕も言うの!?」

零次「というわけで、改めて後書きRADIOだ。今回はゲストに吉井明久を呼んでいる。」

明久「ええと……、これ、どういう状況?」

零次「考えるな。感じろ。」

明久「いや、わけわかんないよ!あと、零次の隣に置いてあるスピーカーは何?」

零次「ああ。コイツは前回来てもらったゲストだ。とある事情で、途中で帰ってしまったので、今回も続投という形になっている。それではどうぞ。」

?:皆様、お久しぶりです。ワタクシ、天鋸江≪あまのこえ≫と申します。

秋希「誰!?この前と声は同じだけど、性格変わり過ぎでしょ!?」

明久「そうなの?」

天:はい。前回は非常に不快な思いをさせてしまい、近衛秋希様、本当に申し訳ありませんでした。

零次「コイツの性格は毎回変わるからな……。前回の後書きRADIOの後、スピーカーを起動して話したが、その時はオネエ口調だったぞ。」

明久「うわぁ………………。」

秋希「あ、危なかった………。その性格で出てきてたら、スピーカーぶっ壊すところだったよ。」

零次「さて、そろそろ本題に入ろうか。」

秋希「まず、前書きRADIOでも言ったけど、今回の話数は、『小問4ーF』って表記じゃないの?」

天:そういう話題でしたら、ワタクシから解説致します。前回までの『小問2』『小問3』では、それぞれ『Aクラス視点』と『Fクラス視点』で同時刻で話が進んでおりました。今回は、『同時刻』における、Aクラス視点の話がありませんので、『小問4-F』と、クラスを表す符号がついていないのです。

零次「この時間帯は、普通に自己紹介していただけだからな。特に面白くもないし、近衛みたいに、他のAクラスの奴らと接点があるわけでもないから、カットさせてもらう。」

天:では、次は吉井明久様達の話題に入りましょうか。

明久「よかった………。どんどん話が進んでいくから、忘れられたかと思った。」

零次「それはスマン。ところで明久、くだらないこと聞くがいいか?」

明久「え、何?」

零次「振り分け試験で倒れたのが姫路じゃなくて、例えばそうだな………………久保とかでも、同じ行動をとるのか?」

明久「え?どうだろう………………。たぶん、とるんじゃないかな。」

零次「島田なら?」

明久「………………………………きっと、とっていたと思う。」

零次「若干迷いがあったな。最後に坂本なら?」

明久「絶対助けない!(ニコッ)」

秋希「満面の笑みで言ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

明久「で、結局のところ、何が言いたかったの?」

零次「最初にも言ったが、考えるな、感じろ。」

明久「またそれ!?」

零次「というわけで、今回は、ここで終わりだ。」

秋希「最後は吉井君も一緒に。せーの………。」

「「「次回もよろしくお願いします!」」」




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小問5 戦いの幕開けとαクラス

福原「さて、それでは自己紹介の続きからお願いします。」

 

 教卓を持って戻ってきた福原教諭は、HRを再開させた。でも、持ってきた教卓は壊れたものより少しマシな程度で、きっと1週間くらいすれば、また壊れるのだろうなと、私は思った。

 

?「えー、須川亮です。趣味は………………。」

 

 須川君か。確か、彼も去年同じクラスだったような………………。というか、このクラスの多くの生徒が去年もFクラスのクラスメイトだったような気がするんだけど………………。気のせいか?きっと、気のせいだ。そう思うことにしよう。

 

福原「近衛さん?あなたの番ですよ?」

 

秋希「え?………………あ、ああ。すみません!」

 

 気がついたら、私まで順番が回ってきていたようだ。

 

秋希「え、えーと…………、皆、名前だけは知っていると思うけど、近衛秋希といいます。ゲームとか、漫画とか、アニメが大好きです。」

 

 このクラスの生徒の多くは帰宅部で、帰り際にゲーセンとかに寄り道している人もいれば、勉強をサボってゲームをしている人もいる。このことは、去年の時点で既に調査済みだ。きっと、これで何人かと繋がりができるだろう。

 

秋希「あと、『なんで学年次席がここに?』なんて、聞かれると思うので先に言っておくと、えーと………………まあ………………、ちょっと調子が悪かったんだと思う。」

 

 そう言うと、また教室のあちらこちらから姫路さんの時と同じような言い訳をする声が聞こえてきた。本当、何度聞いても見苦しい。

 

秋希「そういう訳なんで、これからよろしくお願いします!」

 

 その後は、特になんて事のない自己紹介の時間が流れた。

 

福原「坂本君、君が自己紹介最後の一人ですよ。」

 

雄二「了解。」

 

 そして、坂本君の番がやって来た。教卓の方へ歩く姿からクラスの代表という感じが滲み出ているが、普段のバカ騒ぎしている印象が強すぎて、私から見たら、どうも取って付けた感じがしてしまう。

 

福原「坂本君はFクラスの代表でしたよね?」

 

 坂本君は、福原教諭の問いかけに、鷹揚に頷いて応える。

 クラス代表。この言葉だけ聞くと、なんともすごい感じがするが、思い出してほしい。彼が所属しているのはFクラス。学力別に振り分けられた私達にとって、ここは劣等生(私と姫路さんは除く)の集団が通う教室。そこの代表だなんて、Aクラスの代表と比べたら、その価値は天と地ほどの違いがある。

 

雄二「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺のことは代表でも坂本でも、好きなように呼んでくれ。」

 

 この瞬間、私の脳裏にいくつもの坂本君の呼び方の候補が思いついた。

 

第1候補:坂本君

 要は、今まで通りの呼び名。シンプルイズベストである。

 

第2候補:雄二君

 名前呼び。折角だし、距離を縮めておこうかな、なんて思ってる。

 

第3候補:ダーリン

 吉井君がやったボケを坂本君に返してみる。もしかしたら、『彼女』が反応するかもしれないし。

 

第4候補:チョッコラム・ピョピョピョ・ピュエーカー

 ………………………………はい。ふざけただけです。

 

 これらを含めて、108くらいあった候補を吟味した結果、結局『坂本君』と呼ぶことにした。うん、やっぱり、普通に呼ぶのが一番だ。

 

雄二「さて、皆に一つ聞きたい。」

 

 そう言って、坂本君は教室のあちこちを眺め、皆の視線を誘導する。

 

 かび臭い教室。

 

 古く汚れた座布団。

 

 薄汚れた卓袱台。

 

 ………………改めて見ると、本当にひどい設備だ。やっぱり、Eクラスに入るべきだったかな?

 

雄二「Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいが………………。」

 

 坂本君は、ここで一呼吸いれて、そして、静かにこう告げた。

 

雄二「………………………不満はないか?」

 

「「「大ありじゃぁっ!!」」」

 

 ふーむ、この心の叫びはどう解釈するか。自分たちのいる設備の酷さに不満があるのか、Aクラスの設備の豪華さに不満があるのか、または両方か。まあ、私も不満はあるけどね。勉強を怠ると、こういう結末になると知っておきながら、ほとんど勉強せず、何とか進級したくせに、底辺に落とされると、上にいる奴を逆恨みするような生徒にだけど。

 

雄二「だろう?俺だってこの現状は大いに不満だ。代表として問題意識を抱いている。」

 

「そうだそうだ!」

 

「いくら学費が安いからと言って、この設備はあんまりだ!改善を要求する!」

 

「そもそもAクラスだって同じ学費だろ?あまりに差が大きすぎる!」

 

 坂本君の言葉に続き、どんどんクラスメイトから不満の声が上がる。もはや、福原教諭では抑えられないくらいに。

 

雄二「皆の意見はもっともだ。そこで、これは代表としての提案だが………………。」

 

 そして坂本君は、こう宣言した。

 

雄二「………………FクラスはAクラスに『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う。」

 

 

・・・

 

 

 所変わりAクラス。時は進み、10:00。2時限目が始まり、10分が過ぎている。だが、教師の姿はない。何故なら、今は自習の時間だからだ。日本史担当の飯田先生が授業の始めにプリントを置いて、出て行ったのだ。なんでも、『FクラスとDクラスが試召戦争をするから、その準備をするため』らしい。

 

 さて、俺から、その『試召戦争』とは何かを説明させてもらおう。『戦争』という響きから、何か物騒な出来事を連想しているなら、それは違うと言っておこう。ハッキリ言って、この試召戦争というのは、『ゲーム』だ。

 この文月学園では、4年ほど前から、1時間の試験時間に対して問題数が無限にあるという、独特のテスト方式を採用している。つまりどういうことかと言えば、テストの点数に上限がなく、能力次第でいくらでも成績を伸ばせるということだ。

 さらに、文月学園では、科学とオカルトと奇跡ともいえる偶然により、とある研究所で生み出された『試験召喚システム』を使用している。これは、自分が取得した点数に応じた強さをもつ『召喚獣』を使役することができるものだ。まあ、『召喚獣』なんて言ったが、イフリートとか、リヴァイアサンとか、バハムートとか、そういう類のものではなく、一言で表すと、もう一人の自分、要は『アバター』のような感じだし、我々生徒(システム的に言えば『召喚者(サモナー)』)が召喚獣を出すには、教師(システム的に言えば『形成者(メイカー)』)の立ち会いが無ければいけないのだが。

 このシステムと振り分け試験、設備に格差のある教室により生み出されるのが、この学園を語るうえで最も外せない要素。生徒の勉強へのモチベーション向上のために提案されたという、召喚獣を用いたクラス単位の設備入れ替え戦(シャッフルマッチ)、それが試験召喚戦争、略して試召戦争である。

 

 俺は今、1時限目の自己紹介の時に、俺のグループに加入すると言ってくれた生徒と共に、教室の後ろ側(階段に近い方)にあるソファで顔合わせをするところだ。と言ったって、プリントをやりつつ、だが。

 

零次「さて………………、Aクラスの連中に後ろ指をさされつつ、それでも意見を曲げずに俺についてくることを決めてくれて、本当に感謝する。」

 

利光「礼を言われる理由は無いよ。僕は零次の友人として、君についてきただけだからね。」

 

?「久保君の言う通りです。双眼君は、Aクラスの代表なんですから、もっとしっかりしてください。」

 

 そう言ったのは、佐藤美穂という女子生徒だ。確か、物理が得意だったはず。他の2名もそれに続き頷く。

 

零次「そうか、ありがとう。それじゃ、Aクラス零次グループ、改め、αクラスのメンバー確認をする。呼ばれたら返事をしてくれ。………………αクラス生徒番号3番、久保利光。」

 

利光「はい。………………ってあれ?零次、今3番ってきこえたけど。」

 

零次「ああ、そうだ。1番は近衛秋希、2番は真倉(まくら)ねるのって奴だ。残念ながら、どちらもAクラスに来なかったが……………。ちなみに俺は0番だ。」

 

利光「そうか。分かったよ。」

 

零次「続けるぞ。αクラス生徒番号4番、工藤愛子。」

 

愛子「はいはーい。」

 

 工藤愛子。Aクラスの中では、かなり異質な存在だ。クソが付くほど真面目な連中ぞろいの中で、自分のスリーサイズを公表したり、特技がパンチラと堂々と宣言したりと、かなりヤベー奴な感じだ。そういうわけで、現在のαクラスのメンバーでは、近衛に次いで警戒している生徒だ。

 

零次「次。αクラス生徒番号5番、佐藤美穂。」

 

美穂「はい。」

 

零次「αクラス生徒番号6番、影山幽也(かげやまゆうや)。」

 

幽也「………………………………………うん。」

 

「「「うわ!」」」

 

 俺以外の3人は驚いた。それもそのはず、影山は、身長が199.8cmもあるのに、細身で内気で声が小さいからか、存在感が希薄なのだ。まともに話せるのが家族と俺と近衛だけというのが、現状である。

 そんな彼だが、一応演劇部に所属している。と言っても、秀吉と違い、舞台に上がることはなく、道具制作や雑用をやっているが。

 

零次「さて、これで全員だな?………………では、改めて聞く。俺達は、これからきっと、辛い道を歩むことになる。いざという時、誰も頼れず、誰にも縋れず、周りは敵だらけ。そんな状況に陥る、あるいは向かっていくかもしれない。」

 

 全員がプリントを進める手を完全に止めて、俺の方を見る。

 

零次「………………………それでも、この俺についてくるのか?」

 

 少しの間、沈黙がその場を支配した。

 

利光「………………当然さ。零次の実力は、僕がよく知っている。だから、僕は君を支えるんだ。」

 

美穂「私達の代表は、霧島さんからあなたに変わったんです。代表についていくのは、当然ですよ。」

 

幽也「………………僕も………………久保君………………と同じ。それに………………、佐藤さん………………の言うことも………………間違って………………ない。………………零次が…………代表で………………、僕の友達………………だから、………ついていく。」

 

愛子「ボクは一年の終わりにこの学園に転入してきたから、君のことはよくわからないけど、皆が言うような悪い人には見えないんだよね。それに、一緒にいると、何か面白そうだし。」

 

零次「そうか………………。分かった。なら、明日からαクラス、本格的に始動する。各々、準備と覚悟をしておくように。それでは、解散!」

 

 さあ、覚悟するがいいAクラス。否、第二学年全生徒。これが俺、双眼零次だ。

 




~後書きRADIO~

零次「それでは………………。」

ゲスト「後書き………………RADIOの………………始まり………………。」

零次「………今回で、第4回を迎えるな。」

秋希「………………今回、なんか暗いね。」

零次「今までちょっと、はしゃぎすぎてた感じがあるからな。近衛もそれを感じ取っているんじゃないのか?いつも大声でツッコミを入れてるからな。」

秋希「ま、まあ、そうだけど。」

零次「それに今回にゲストは影山幽也だ。より落ち着いた雰囲気になるんじゃないか?」

秋希「いや、落ち着いてるというよりは、お通夜みたいな雰囲気に近いけど。」

幽也「………………………………ごめん。」

零次「お前が謝る必要はない。さて、本編の解説だ。今回は、テンポよくいくぞ。影山、ついて来いよ。」

幽也「………………分かった。」

秋希「まず、召喚システムについてだね。『召喚者』と『形成者』っていうのは、本作オリジナルの設定、ってことでいいのかな?」

零次「ああ。詳しくは言えないが、実はこのシステム、文月学園以外の所でも使われているからな。その時、原作の説明のままだと、その場所では使えなくなるからな。」

幽也「…………つまり、………………その場所は………………学校じゃない………………と。」

零次「ま、そんなとこだ。」

秋希「じゃ、次。零次が立ち上げたαクラスについて。というより、そのメンバー構成だね。」

零次「原作のAクラスで、そこそこ出番のあったキャラクターを選んだだけだ。特に深い意味はない。基本、本作のAクラスは俺に敵対しているわけだし。不安な点を挙げるなら、………………作者が原作のキャラの特徴をうまく表現できているかどうかだな。」

秋希「なるほど。それじゃ、次回予告をどうぞ。」

零次「次回は、やっと影山が登場したから、俺達の設定を出す。」

秋希「ようやくね。………………作者の世界じゃ、3ヶ月経ってるよね?」

幽也「………………時間の………………流れって………………早いね。」

秋希「いや、グダグダしているk………………作者が悪いんだから。」

零次「文句は後にしろ。それでは。」

「「次回もよろしくお願いします!」」

幽也「………………次回も………………よろしく。」


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設定という名の参考書(メインオリキャラ編)

~前書きRADIO~

天:久しぶりだな皆の衆。儂の名は天鋸江じゃ。今回は、オリキャラの設定じゃ。ついでに後書きでは、本作における原作キャラの設定も、おおざっぱじゃが書いておくぞ。つたない説明文じゃとは思うが、どうか見ていってくれんかのう?



・双眼零次(そうがんれいじ)

性別:男

身長:164cm(島田美波と姫路瑞希の間)

誕生日:6月10日

出身校:大寒小学校(転校前)→小雪小学校(転校後)→処暑中学校

 

趣味:勉強

好きな飲み物:ブラックコーヒー

 

クラス:1-D→2-A代表

 

評価(A>B>C>D>E>Fで表す)

学力:A

(去年はある噂の信憑性を増すために、Fクラス並みの学力しか見せてこなかったが、本来は霧島翔子を超える学力を持っている。去年の時点で彼の違和感に気づいたのは、木下秀吉と久保利光、そして影山幽也の三名だけだった。)

運動能力:D

(学校の体育の授業の面では、平均的な能力しかない。)

戦闘力:A

(零次一人VS大人数の構成が喧嘩全体の99%を占めているため、多対一の戦闘になれている。)

統率力:F

(基本的に単独行動が目立ち、かつAクラス生徒の大半が彼を信用していないため。)

 

 本作の主人公。無表情で、必要以上のことはあまり話したがらない。文月市(本作の舞台)では有名な不良校、処暑中学校出身だが、余り喧嘩は好まず、面倒事はなるべく避けようとする。その反面、『敵』と判断した相手には容赦ない。近衛秋希と共に行動することが多いが、彼女に好意は全く寄せておらず、代わりに寄せているのは敵意である。

 

・近衛秋希(このえあき)

性別:女

身長:164.5cm

誕生日:9月19日

出身校:小雪小学校→処暑中学校

 

趣味:アニメ、漫画、ゲーム、情報収集

最近のマイブーム:飲食店巡り

 

クラス:1-F→2-F

 

評価

学力:A

(霧島翔子に数点差しか違わないレベルだが、零次曰く、もっと点数が取れるらしい。)

運動能力:B

(近衛家次女には劣るものの、チームワークが大事なスポーツでは、好成績を収めている。)

戦闘力:A

(双眼零次とほぼ同じレベル。喧嘩で彼と同じ土俵に立てるのは彼女しかいない、とまで言われている。)

情報収集力:A

(対象の名前や得意教科、趣味などはもちろん、本人が隠し通している秘密すら暴いてしまう。情報の仕入れルートは謎に包まれているが、その能力の高さは、双眼零次の助けになっている。)

 

 零次の悪友。文月市では有名な企業『近衛ビクトリア』の社長の娘であり三女。しかし、金銭感覚は庶民に限りなく近く、彼女の財布の9割近くは硬貨が占めている(というか、彼女の財布から千円札以外の紙幣が出てくることは滅多にない)。零次と同じく不良校出身だが、人当たりの良さ故か、第一印象は零次とは正反対で好印象だった。双眼零次と共に行動することが多いが、好意は全く寄せておらず、彼とは常に腹の探り合いである。

 

・影山幽也(かげやまゆうや)

性別:男

身長:199.8cm(二学年では最も高い)

誕生日:2月13日

出身校:立冬小学校→望月中学校

 

趣味:読書

特技:自分の影を限りなく薄くすること

所属している部活:演劇部

 

クラス:1-A→2-A

 

評価

学力:B

(Aクラスに何とか入ったが、クラス内では最下位の成績。)

運動能力:D

(良くも悪くも平凡。語ることも特になし。)

観察力:A

(一度見たものをすぐ真似できたり、相手の些細な体調の変化に気づいたりと、零次の知る中では、彼より優れた観察眼を持つものはいないらしい。)

 

 Aクラス所属の男子生徒。自分に自信を持てず、よくネガティブな思想に陥る。体型や性格、声量などの理由で存在感が希薄なため、学校はもちろん、日常生活でも会話できる人が少ない。そのため、自分の存在を認識してくれている近衛秋希や双眼零次に感謝している。演劇部では文字通り、幽霊部員扱いであり、学園生活でも、度々欠席扱いされがちである。また、文月学園に伝わる七不思議を九不思議に増やした張本人でもある(本人にその自覚はない)。

 

・根民円(ねたみまどか)

性別:女

身長:157cm(木下秀吉と同じくらい)

誕生日:10月17日

出身校:三日月小学校→長月中学校

 

趣味:人形作り、読書

好きな人:同クラスのAさん(ただし告白する気はない模様)

 

クラス:1-B→2-F

 

評価

学力:F

(総合的に見るとFだが、古典と日本史はBクラス並みの点数を持つ。)

運動能力:E

(姫路瑞希ほどではないが、体は弱い方。)

嫉妬深さ:C

(霧島翔子に匹敵するレベル。とは言え、理不尽に暴力を振るわないため、一応自制は利いているようだ。)

 

 Fクラスに所属する前髪で目が隠れている女子生徒。やや消極的な性格で、教室で一人でいることが多い。上記のように嫉妬深い一面があり、そのことを自分自身を理解しており、付き合うと迷惑をかけてしまうと言い、自分の好きな人に一定の距離を置いている。その反面、彼を傷つけるものには呪いをかける一面もあり、趣味に人形作りとあるが、その実態は、ファンシーなものではなく、人を呪うために使う藁人形である。彼女が常に持っているノートには、とある秘密が書かれているらしい。

 

・天鋸江(あまのこえ)

性別:自称、男(実際のところは不明)

身長:不明

誕生日:不明

出身校:不明(そもそも学校に通っているかも不明)

 

 後書きRADIOでのみ登場する、オリキャラ。スピーカーを通して後書きRADIOに参加しているが、双眼零次も近衛秋希も、直接会ったことはないらしい。スピーカーの電源を入れるたび、性格や口調が変わる。




・原作キャラの設定

身長
雄二>(180cm)>利光>明久>(170cm)≒翔子>美波>瑞希≒美穂>愛子>(160cm)>康太≒優子≒秀吉

出身校

明久…睦月小学校→長月中学校(原作通り)
雄二…水無月小学校→神無月中学校(原作通り)
康太…弥生小学校→京成中学校
秀吉…菊月小学校→望月中学校
美波…ヤヌアール小学校→ゼプテンバール中学校
瑞希…睦月小学校→長月中学校(原作通り)
翔子…水無月小学校→神無月中学校(原作通り)
利光…三日月小学校→京成中学校
愛子…雨水小学校→曙中学校→師走帝徳高等学校(転校前)
美穂…三日月小学校→白露中学校
優子…菊月小学校→望月中学校

去年のクラス
明久…Fクラス(原作通り)
雄二…Fクラス(原作通り)
康太…Fクラス(原作通り)
秀吉…Fクラス(原作通り)
美波…Fクラス(原作通り)
瑞希…Cクラス(原作通り)
翔子…Aクラス
利光…Dクラス
愛子…Aクラス
美穂…Eクラス
優子…Aクラス

零次「とりあえず、A・Fクラスの主要メンバーの身長、出身校、去年のクラスを書き出してみた。原作で明記されている部分は原作通りで、そうでない奴は、独自設定だ。………………作者曰く、自分で学校の名前を考えるのは、結構面倒くさかったらしい。」

秋希「なんか島田さんのだけ学校名おかしくない?」

零次「おかしくないぞ。アイツは文月学園に来る前はドイツで過ごしてたんだ。むしろ、それで漢字を使う方がおかしいと思うが?」

秋希「なるほど。」

零次「他にも小問5の時点で登場しているオリキャラはいるが、今後も増えるため、そいつらの紹介は後回しだ。やるにしたって、ここまで詳しくは書かないと思う。」

秋希「それじゃ。」

「「次回もよろしくお願いします!」」



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小問6-A 昼食

 3時限目の数学も4時限目の現代国語も、2時限目と同様の理由で自習となった。俺を見下したり、軽蔑したり、霧島を過大評価したりはすれど、流石Aクラスだ。自習といえど、授業中のため、私語はほとんど聞こえない。あったとしても、他人の勉強の邪魔をするような大声ではなく、ヒソヒソ話程度の声量だが。

 そんな感じで、今は昼休みだ。俺は教室を離れ、校舎裏へと向かった。放課後なんかは、運動部が部室棟へ向かうために通ったり、告白する時に使われたりもする場所だが、さすがに昼は、誰も来ないようだ。

 去年入学してから数週間後くらいから、よくここで昼食を食べているため、その辺は詳しい。特別なイベントと言ったら、たまに、俺と同じ中学を卒業したという、用務員のおっちゃんが草刈りに来たり、そのついでに駄弁っていったり、期末試験が終わった頃になると、昼でも告白スポットになることもあったから、偶然その現場に居合わせちゃったり、なんてこともあった。

 けど、今日は進級初日だ。用務員のおっちゃんが来ることはあっても、こんな日に告白するような輩はいないだろう。多分、きっと。そういう訳で、ゆっくりのんびりご飯を食べつつ、午後の授業(どうせ、自習だと思うが)に向けて英気を養っていこうと思っていた。

 

零次「………………で?何故ついて来た?」

 

 奴らがいなければ。今俺は、αクラス(真倉を除く)のメンバーと一緒に昼食をとっている。今の時間帯、ここにいるのは、大抵俺一人か、近衛や用務員のおっちゃんが来て最大3人なので、これだけの人数が校舎裏に集まるのは極めて異常な事だろう。

 

美穂「何故って……、その、代表が教室を出て行くので、学食に行ったのかな、と思って………………。」

 

 佐藤の話に耳を傾けつつ、口の中にから揚げを放り込む。衣はベチャッとしているが、中はジューシーだ。………と言っても、冷凍食品だが。

 

幽也「…………僕は………………ただ………………、零次と一緒に…………食べたかっただけ………………。そういう………………気分………………だったから………………。………………ダメ………………だったかな………………。」

 

 次に影山が口を開く。ゆっくり、細々とだが、彼なりの主張をする。俺は白飯を食べつつ、彼の言葉を拾った。

 

零次「そうか………………。ハァ………………。」

 

秋希「どうしたの?零次。」

 

利光「大丈夫かい?」

 

零次「大丈夫だ…………。ただ、去年はここで一人でいることが多かったからな、昼休みは。」

 

愛子「そうなんだ。友達とかいなかったの?」

 

 …………その質問はどうなんだ、工藤。俺がもう少し短気な性格だったら、殴り飛ばすところだったぞ?

 

零次「………………………逆に聞こうか。あのAクラスの様子を見て、俺が友達を作れるとでも?」

 

愛子「そ、それもそうだね………。」

 

零次「去年から、俺に対して変な因縁だとか、言い掛かりとかつけてくる奴が多かったんだよ。本当に進学校なのか疑うほどな。おかげで、学食も安心して使えやしねぇ。」

 

秋希「あ~、あれね?確かに、あの事件は酷かった。」

 

 二個目のから揚げを食べつつ、あの時のことを思い出す。本当に腹が立つ事件だ。あの時突っかかってきた奴らもそうだが、今は別の学校に勤務している山口先生のことも、本当は思い出したくもないくらい。

 

利光「どういうことだい?零次だって、この学校の一員だ。学食を使う権利はあるはずだよ。」

 

零次「ああそうだ。だが、去年の春頃、だったか?当時の3年の先輩が変な言いがかりをつけてきたんだ。確か、『ここは、俺達みたいな高尚で、順風満帆な将来を約束されたエリートのためにある場所だ。お前みたいな1年のクズが気軽に使っていい場所じゃない。』みたいなことをな。」

 

利光「それは酷いね………………。」

 

美穂「そうですよ。私の友達、今年はEクラスなんですけど、そんなこと言ってくる人はいませんでしたよ。」

 

零次「まあ、俺の場合は、中学校がアレだし、『死神』なんて渾名が付いているほどだったから、相当悪い意味で目立っていたんだろう。……………話を戻すぞ。で、俺はその先輩方を適当にあしらった訳だが………………。それがいけなかったのか、先輩方が俺に殴りかかってきてな。こっちとしても、余り喧嘩とかして、問題を引き起こすことは避けたかったから、ひたすら防御したり、躱したり……………。そのうち、先輩方も疲れたのか、撤退していったけど、学食の椅子とかテーブルとかがめちゃくちゃになってな………………。」

 

 途中から、椅子やテーブル(プラスチック製)を投げつけてきたからな。他の人に当たるかもしれないから、回避することも出来なかったし、それ以外はまあ、何とかなった感じだが。

 

零次「で、問題はここからだ。あの先輩達が去ったあと、俺は、学食おばちゃんと一緒に後始末をやってたんだが………………、そこに山口先生が来てさ、俺を職員室に引っ張っていったんだよ。そこで『俺が先輩たちに変な言いがかりをつけてきて、無視したら、いきなり殴ってきた。』このことについて、延々と説教された。」

 

利光「………………ちょっと待って?さっき零次が言ったことと、話が違っているじゃないか。」

 

幽也「…………………………むしろ………………逆………………な気がする………………。」

 

零次「ああ。あの時学食を使ってた奴らが、報告の仕方を誤ったのか、故意に嘘の報告をしたのか、それともあの先輩達が報復手段として、そうしたのか、まあ、それは置いとくとして、だ。とにかく山口先生は事実と全く違うことを無理矢理認めさせようとしてきたんだよ。途中で、学食のおばちゃんが、俺を弁護するために来てくれたが、おばちゃんが去った後、まあ、予想通りというか、そのおばちゃんの発言も、俺が脅して言わせたと言ってきやがった。」

 

愛子「酷いね………………。」

 

零次「………………まあ、あたかも向こうが悪いみたいに俺は言ったが、実際のところ、こっちにも非があったのかもしれないし……。結局、あの後、3ヶ月間の学食使用禁止が言い渡された。それ以来、こんな面倒事は嫌だから、学食を使わなくなったんだ。」

 

秋希「しかも、あの時の先輩達のこと調べたら、Cクラスの人だったんだよね。成績も平凡だし。」

 

 その情報で、俺の怒りは倍増されたわけだが。

 

零次「………………………なあ、ふと思ったんだが。」

 

美穂「はい。」

 

利光「何だい、零次。」

 

零次「ここを俺達αクラスの集合場所………………というか、活動拠点にしないか?ここで、昼食を食べつつ、情報交換をしあう。一応代表だからな。折角俺についてきてくれた、お前達とは出来れば仲良くやっていきたいと思っている。………………どうだ?」

 

利光「僕は全然構わないよ。」

 

美穂「いいですよ。去年は怖いイメージがあったんですけど………………。もっと、代表のことはいろいろ知りたくなりました。」

 

幽也「…………………………僕も………………いいと…………思う………………。でも、………………雨の日とかは………………………………どう………………する………………。」

 

零次「………………その時は、その時だ。ま、候補としては、Fクラス隣りの空き教室辺りになりそうだが。」

 

秋希「いいじゃん、いいじゃん!なかなか面白くなってきたよ!」

 

 こうして、俺の二年初めの昼休みは過ぎていった。

 

 ………………………………まあ、この話はもうちょっとだけ、続くけどな。

 



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小問6-F 報告

 坂本君が試召戦争の引き金を引き、吉井君が宣戦布告に行って、ボロボロの状態で戻ってきて、ついでに言えば普通に授業を受けた後のこと。私は坂本君達との昼食の誘いを断り、校舎裏にやって来ていた。いつもなら、零次と情報交換(と言っても、私がほぼ一方的に話しているだけなんだけど)をしているわけだけど、今日はいつもとちょっと違うことがある。それは人数が多いことだ。

 零次がこの校舎裏で弁当を食べるようになってから、そろそろ一年が経つ。その間、昼休みの時間にこの場所に来る人は、ほとんどいなかった。去年の感じだと、4~5回に一回用務員の乙津佐助(おつさすけ)さん(愛称は用務員のおっちゃん)が校舎裏の手入れにやってくるくらいだ。期末試験が終わった頃だと、3回に一回は告白の現場に居合わせて、そのうち3分の2が恋が実らず終わるという、悲しい結果だった。

 要は、特に何もなければ、この時間帯この場所は、半ば私と零次の専用スペースになっているのだ。だから、これだけの人数がいるのは、いつもと比べたら異常なことである。

 でも、それも去年の話だ。零次がαクラスの集会所として、ここに集まることを決めたから、きっとこれからは賑やかになってくるだろう。

 

 さて、私がここに来たのは、こうやって、皆とワイワイ騒ぐためじゃない。さっきも言ったけど、本来は零次と情報交換するために来ているわけだ。でも、この様子だとそれもちょっと難しいかな?

 

零次「………………そういや、近衛。」

 

秋希「ん?」

 

零次「FクラスがDクラスに宣戦布告したらしいが………………。その事について、何か知っているか?」

 

 おっと。まさか、零次の方から聞いてくるとは。こっちは、零次もこんな大勢の前で話したいとは思わないはずだから、また時間を改めて話そうかと思ってたのに。でも、不思議ではないか。これは、私が独自の方法で調べた結果だけど、進級初日に、いきなり試召戦争を仕掛けたなんて、前例はないからね。しかも、行動を起こしたのは最下位クラス。零次じゃなくても気にはなるだろう。

 

秋希「そりゃあ、当事者だからね。何も知らない訳ではないよ。」

 

利光「当事者?もしかして、近衛さん………………。」

 

秋希「うん、Fクラス。私にだって、調子の悪い日くらいあるって。」

 

 まあ、実際はFクラスに入れるように、点数を調整しただけだけどね。

 

幽也「………………………………………………。」

 

秋希「影山君、どうしたの?」

 

幽也「………………別に………………………なんでも…………。」

 

秋希「………そう。それならいいけど。」

 

 そういえば、余り会ったことないけど、影山君の観察力がすごいって、零次に聞いたような………………。もしかして、嘘ついていることがバレたかな?

 

零次「で?どういうつもりなんだ?」

 

秋希「あ、そうだった。えっと………………。」

 

 そして、私は話し始めた。Fクラスが試召戦争に挑む理由と、そのちょっと後の話を。

 

 

・・・

 

 

 話をしようか。あれは今から、36億年前……いや1万年と2千年前の話か…………、という冗談は置いといて、吉井君がDクラスに宣戦布告のための死者…………、もとい使者として向かったちょっと後の話。私は、坂本君に適当な理由をこじつけて、吉井君のもとに向かった。

 というのも、下位クラス、特にFクラスが宣戦布告した時、余程のことが無ければ、宣戦布告の使者は酷い目に遭う。具体的に言えば集団暴行に近いかな?とにかく、上位クラスからしてみれば、授業の時間が減るわ、補習は増えるわ、そのせいで放課後の時間が削れるわで、とにかくデメリットしかないため、宣戦布告の使者はその八つ当たりを受けるのだ。ちなみにこの風習は、2年前の2年Aクラスの生徒がやったことが発端らしい。………学年の顔とも言える人達が何やってんだか。

 そんな訳で、Aクラス脇の階段についた。別に、廊下を通ってもいいんだけどさ?Dクラスに見つかると坂本君の作戦に支障をきたしそうだからね。目立たないように行動しなければ。

 というわけで、Dクラス教室前に到着。既に吉井君は教室に入っているし、中の様子を確認。

 

『調子に乗ってんじゃねぇーよ、クズがぁ!』

 

『進級初日から戦争とか、頭おかしいんじゃねぇか!?』

 

『安岡!お前のバット貸せ!』

 

明久『え、ちょっと、ギャアアアアアア!』

 

 ………………ゴメン、吉井君。君の犠牲は無駄にしないよ………………………………多分。

 

 それから10分後。吉井君は、なんとか生還したようだ。それにしても………………、零次も私も去年から思ってるけど、ここ本当に進学校なの?下位クラスに対する扱いが予想以上に酷いんだけど。………………こんなのが3年にもいると考えると………………。もう一度言うけど、本当に進学校なの? 

 

明久「チクショウ!騙され………………え?こn」

 

秋希「シーッ!Dクラスに気づかれるから、こっちに。」

 

 とりあえず、吉井君の手を引っ張ってAクラス脇の階段まで戻った。見た感じは、想像より酷い怪我を負っていなくて、良かったというべきか………………。

 

明久「それで、どうしてここに?」

 

秋希「そんなの、一人のクラスメイトとして、君が心配だからだよ。」

 

明久「え?」

 

 いや、そんな驚いた顔されても………………。まあ、君とはそんなに仲良くなかったから仕方ないけどさ。

 

秋希「これは、紛れもない事実だよ。それに君が試召戦争やりたいって言ったんでしょ?こんなことで倒れてもらっちゃ困る。君には、たくさんやることがあるからね。」

 

明久「やること?」

 

秋希「そ。それが何かは、私からはどうとも言えないけど、でも、君たちの目的を達成するためには、君の力はどうしても必要になってくる。」

 

 私は、一呼吸おいて、彼に告げた。

 

秋希「つまり、何が言いたいかっていうと、坂本君は君のことを『いてもいなくてもいい存在』なんて言ったけど、私はそう思わないってこと。」

 

 宣戦布告前、坂本君はFクラスでもAクラスに勝てる要素があるといった。 

 男子からは畏怖と畏敬を女子からは軽蔑を以て挙げられる『寡黙なる性識者』、もとい『ムッツリーニ』の二つ名を持つ、土屋康太。

 去年学年3位、もしくは4位に位置し続けたが、振り分け試験の時に起きたアクシデントでFクラスに入ってしまった、姫路瑞希。

 双子の姉がAクラスに在籍している演劇部のホープ、木下秀吉。

 小学生の時は『神童』と呼ばれていた、現在は『悪鬼羅刹』と噂されるFクラス代表の坂本雄二。

 そして、彼、吉井明久。だけど、彼の場合はちょっと違う。名前を聞いてもピンと来ていない人がほとんどだったし、代表である坂本君自身が『いていなくてもいい雑魚』だと、オチ要因として平然と切り捨てた。

 

 だけど、私は彼をそんな評価はしない。彼の良いところは、成績には決して現れないところにある。そう思っている。ついでの推測だけど、坂本君も口ではああ言ってはいるものの、本心では吉井君を信頼していると思っている。

 

秋希「それじゃ、私はもうちょっと用事があるから、吉井君は先に戻ってて。」

 

明久「分かったよ。チクショウ、雄二め。よくも騙したなぁぁぁぁ………………!」

 

 いや、騙したって………………。君、坂本君としょっちゅう行動しているんだから、いい加減学習しなよ……。

 

 

・・・

 

 

秋希「…………………以上が私の話せる全てかな?」

 

零次「そうか。ご苦労だったな。」

 

秋希「いえいえ、お気になさらず~。」

 

利光「それにしても、吉井君にそんな酷い事をするなんて……。」

 

 あれ?なんか、久保君怒ってる?というより、根民さんと似た雰囲気を醸し出してるんだけど。

 

利光「代表!」

 

零次「却下だ。」

 

愛子「返事が早くない!?」

 

零次「久保、お前の言いたいことは分かる。Dクラスに宣戦布告するつもりだろう?」

 

利光「そうだよ。吉井君を酷い目に遭わせたんだ。そうでもしないと気が済まないんだ!」

 

 なんだろう、ただ正義感が強い人の言葉にも聞こえるけど、個人的感情が含まれているようにも思えるんだけど。

 

零次「なるほどな。久保、お前の気持ちは理解した。だが、それでも試召戦争は認めない。」

 

 でしょうね。零次ならそう言うと思っていた。……その一方で、早めに行動を起こしてくるかもしれないとも思ったけど。

 

美穂「え?ど、どうしてですか?」

 

零次「どうしてか、って?それは……」

 

 

キーンコーンカーンコーン……

 

 

「「「………………。」」」

 

 一瞬、静寂がこの場を支配した。どうやら、昼休みが終わる時間になっていたようだ。外に時計が無いのって、こういう時不便だよね。

 

零次「………………いったん帰るぞ。」

 

愛子「そ、そうだね。」

 

美穂「分かりました。」

 

 ………………仕方ない。私も教室に戻りますか。

 




~後書きRADIO~

零次「あー。今回は、用件だけ、手短に話すぞ。簡単に言うと、タグをちょっと変更した。それだけだ。そういう訳なんで、次回もよろしくお願いします、と。」


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小問7 第三者としての行動

 昼休みが終わり、5時限目の化学が始まると同時に、FクラスとDクラスの試召戦争が始まった。この時間は、自習じゃなくて普通に授業が進んだ。まあ、わざわざ言う必要もないと思うが。

 そして、現在6時限目。そろそろ向こうの戦争も正念場を迎えたころだろうか。そう考えながら、先生が置いていったプリントに答えを書き込んでいた。

 

ピンポンパンポーン

 

 …………うん?こんな時に放送か?

 

『連絡致します。船越先生、船越先生。』

 

 この声は明らかに先生の声じゃないな。ということは、FクラスかDクラスの誰かか?船越先生に一体何の用だろうか。

 

『吉井明久君が体育館裏で待っています。』

 

 ………………待て。明久はFクラス生徒だ。それに奴の学力とFクラス代表の性格を考えると、おそらく戦線で戦っているはずだ。Dクラス代表が体育館付近を本陣に構えていない限り、あの付近にいるなんてことはあり得ないし、そもそもそのDクラスは本陣を教室に構えている。戦争開始直後、数名のDクラス生徒が出てきたからな。その可能性が最も高い。

 ここから考えられることは、この情報が嘘のものであるということ。だが、何のためにそんなことを?そしてどうやって、船越先生をその場所へ誘導するんだ?

 

『生徒と教師の垣根を越えた、男と女の大事な話があるそうです。』

 

 OK、大体把握した。確かにあの先生なら、この話を聞けば間違いなく体育館裏に来るだろう。船越先生は年齢は流石に知らないが、婚期を逃して、単位を盾に生徒に交際を迫るようになった先生だ。実際俺も被害に遭ったからな………………。だが俺は、その災厄を退けた。どうやったかって?簡単だ。試召戦争をした。船越先生が勝ったら、俺は船越先生と付き合う。俺が勝ったら、船越先生は金輪際、今回のような真似はしないことを誓う。こういう条件付きだ。

 話の流れから察している奴もいると思うが、結果は俺の勝ちだ。あの時はわざと点数を下げていたから、先生もかなり油断していたはずだし、俺は俺で、中学の時の喧嘩のスキルを存分に試召戦争で発揮していたからな。ま、理由はどうだっていい。とにかく、船越先生はそれ以来、ああいう行動はとっていないから、おそらくは大した問題にはならんだろう。………………きっと。

 

利光「代表、今の放送………………。」

 

零次「落ち着け、久保。………………おそらくは、Fクラスが流した偽情報だ。」

 

利光「え?そうなのかい?」

 

 この言葉と同時に廊下から微かに『須川ぁぁあああああっっ!』という声が聞こえた気がした。多分気のせいだ。……………………いや、聞こえてた。これで、俺の導いた事実が確証に変わった。

 

零次「ああ。船越先生に対してあの手の情報を与えたら、99.9%の確率で食いつく。」

 

 実際俺も被害に遭ったし、と小さく呟いておく。

 

零次「それで、船越先生を戦場から離そうとしたんだろう。明久も、なんだかんだで有名だし、囮にするには、十分だってことだ。………………もっとも、実行したのがDクラスという可能性も考えられるが、どのみち、偽情報なのは確実だ。」

 

 というか、Fクラスの代表はアイツだからな………………。俺の確証に近い予想は間違っていないだろう。

 

翔子「……………………零次。」

 

 突然、霧島が話しかけてきた。

 

零次「なんだ?」

 

翔子「……今、時間ある?……相談したいことがある。」

 

 コイツも影山と似た雰囲気を醸し出してるな………。まあ、彼女は声は通る方だし、影山より言葉と言葉の間の沈黙が少ないから、話のテンポも取りやすいが。

 

零次「………………後ろ行くか。」

 

霧島「………………。(コクッ)」

 

 ………………一体、何の相談だ?

 

 

・・・ 

 

 

零次「………………それで、相談ってなんだ?」

 

翔子「……Aクラスの一部の生徒がFクラスに試召戦争をしようとしている。」

 

 場所を移して、ソファに座り、霧島の口から出たのは、俺からしてみれば少し訝しむ言葉だった。

 まず一つ目の理由として、この文月学園入学する理由のおよそ4分の3は、『学費が安いから』。これが占めていることだ。『試験召喚システム、および試験召喚戦争に興味がある』という理由で入学した生徒は、ものすごく少ない。情報収集に関しては一切の妥協もない近衛が、慎重かつ大胆に集めたデータだ。俺は、その信憑性は高いと思っている。

 第二の理由は、この試召戦争、Aクラスが宣戦布告するメリットが皆無であること。前にも言ったが、試召戦争は、クラス単位で行なわれる設備入れ替え戦≪シャッフルマッチ≫だ。だから元々最高の設備環境の下で学習しているAクラスにとって、戦争する理由はないに等しいのだ。その上、仮にAクラスが敗北すれば、設備が交換される。否、正確には『教室ごと』交換されるのだ。

 つまり、何が言いたいかというと、勉強することを目的に学校に来ている奴らが、何故そんなハイリスクノーリターンの戦争をしようとしているのか。それが謎なのである。

 

零次「一部の生徒?誰だそいつは?」

 

 そして、それより気になるのは霧島が言った『一部の生徒』という言葉。それが一体誰なのかだ。

 

霧島「……豊嶋。」

 

零次「あいつか…………………。」

 

 今日のHRで久保に突っかかってきた奴だ。

 

翔子「……昼休みに偶然聞いた。『Fクラスのクズ共に自分の立場を分からせる』みたいなことを言ってた。」

 

 その言葉そっくり返してやりたいものだ。

 

翔子「……優子はそれに賛同していたけど、私はあまり気が進まなかった。……だから相談に来た。」

 

零次「なるほど。だいたい事情は分かった。」

 

 それにしても、木下が賛成するとはな……。自分の弟がFクラスにいるというのに。そんなに弟が嫌いなのか?

 

零次「………実はな、久保も似たようなことを言っていてだな。」

 

翔子「……………………そうなの?」

 

利光「本当だよ、霧島さん。」

 

 まさかの本人登場か。

 

零次「どうした、久保。プリントは終わったのか?」

 

利光「ああ、ついさっきね。………話は戻すけど、さっきの話は本当だよ。もっとも、僕はDクラスに挑むつもりだったけど。」

 

翔子「……Dクラスに?どうして?」

 

零次「宣戦布告に行ったFクラスの使者に、集団暴行を行なったことが理由だ。」

 

 久保が感情に任せて喋る前に、俺が代わりに話した。あの時の久保は、結構感情的になってたからな。できれば落ち着いた雰囲気で話し合いをしたい。

 

利光「けど代表は、その意見を却下したんだ。だから………………。」

 

零次「ああ。久保の思っている通りだ。豊嶋達の意見も当然却下だ。俺達は試召戦争をしない。」

 

利光「やっぱりそうか。ところで、昼休みの時は聞きそびれたけど、どうしてだい?」

 

翔子「……私にも、理由を聞かせて。」

 

零次「ああ。まず一つ、勘違いしないでもらいたいのは、久保の意見も、豊嶋の意見も、間違っていると思ってない。それだけは覚えておいてくれ。」

 

 実際そうだ。Dクラスが暴行を行なったのであれば、それに対して怒るのは筋の通っている話だし、Fクラスが戦争をして、少なからずAクラスに迷惑が掛かっているのも事実だ。

 

零次「だけど、それを理由に試召戦争するのは、試召戦争の目的から外れている気がする。だから、試召戦争はしない、と言ったんだ。」

 

利光「………目的?」

 

零次「分からないか?試験召喚システムは、生徒の学力向上のためにあるシステムだ。それなのに『いじめの制裁』だとか、『Fクラスに立場を分からせる』とか………。そんな理由で戦争していたら、時間がいくらあっても足りねぇよ。」

 

 まあ、実際は戦争で敗北したクラスは、戦争の泥沼化を防ぐために、3ヶ月間の宣戦布告禁止期間が設けられるから、そんなことにはならないが。

 

零次「それに、戦争が終わった後にDクラスかFクラスに宣戦布告してみろ。相手から、『戦争直後で弱ったクラスを貶める、最低なクラス』なんて印象を持たれることは、容易に想像できる。更に、宣戦布告した相手が負けたクラスだったら、『負けた相手を、さらに痛めつける鬼畜なクラス』。そんな印象も追加されるんじゃあないか?」

 

翔子「……それは…………。」

 

利光「確かに困るね………………。」

 

零次「加えて、仮に俺達が負けて、この設備が第二学年の間はしばらく、あるいは二度と使えなくなる可能性がある。そして、勝ったからと言って、俺達が何か報酬をもらえるわけでもない。………………ここで質問だ。そんな、『損』をする可能性があるのに、そのリスクに見合った『得』を得られない賭けをしたいと思うか?久保、霧島。」

 

 俺の質問に対して、両者共に首を横に振る。当然だろう。賭け自体をしたくない、と思っている可能性もあるかもしれないが。

 

 先程、戦争に負けた時は、クラスの入れ替えが行なわれると言ったが、それは『上位のクラスが負けた時』の話だ。では、『下位のクラスが負けた時』はどうなるかと言うと、『設備のランクが1つ下がる』のだ。つまり、仮にAクラスとFクラスが戦って、Aクラスが負ければ設備(&教室)が交換され、Fクラスが負ければ、Fクラスの設備のランクが1つ下がる。こういうことだ。

 もっとも、Fクラスより下のランクの設備があるのか?そんな疑問が浮かび、西村先生辺りに聞いてみたところ、生徒手帳の『2年次以降の設備についての規約』の欄に書いていないだけで、実はいくつか下のランクが存在するらしい。

 

零次「ま、そういうことだ。大体、Fクラスには姫路瑞希や近衛秋希がいる。返り討ちに遭う可能性だって十分にあるんだ。できればFクラスとの争いは避けたい。」

 

 別に俺は、その二人が相手でも負けるつもりは毛頭ないが。いざとなれば、こちらには『切り札』があるわけだし。

 

利光「そういえば自己紹介の時にいなかったけど………………。姫路さんもFクラスだったんだ。」

 

翔子「……私も。姫路は振り分け試験の時に倒れたって聞いたから、なんとなくそうだとは思った。……でも、秋希はBクラスだと思ってた。名前を書き忘れたとか、そういうミスで。」

 

零次「………………ま、そうでなくても俺はFクラスを警戒すべきだと思うけどな。」

 

 そのつぶやきに、久保が反応した。

 

利光「え?どうしてだい?」

 

零次「簡単だ。クラス分けは、あくまで振り分け試験の点数の成績順だ。どれだけ一つの教科に特化してたって、他の教科を疎かにしていては話にならない。ムッツリーニ………………いや、土屋康太がいい例だ。」

 

 正直な話、土屋のことを『ムッツリーニ』とあだ名で呼ぶのは、好きではない。せっかく親から付けられた名前があるのに、それを蔑ろにしている気分になるのだ。まあ、名前の一部を取って呼ぶようなものなら、話は違ったかもしれないが………………。

 

零次「まあ、あいつは極端な例だが、Fクラスをバカの集まりだと思っていると、痛い目を見るってことだ。」

 

翔子「……分かった。それじゃあ、豊嶋達に……。」

 

零次「待て、それはやめとけ。」

 

 霧島が豊嶋達を説得しようと腰を上げたが、俺はそれに待ったをかける。

 

翔子「……どうして?このままだと豊嶋達が宣戦布告してしまう。……それを止めないと……。」

 

零次「そうだろうな。遅かれ早かれ行動するだろう。」

 

翔子「……だったら!」

 

零次「だが、ここで動いたって意味ねぇんだよ。どうせ、説得しに行ったところで、『俺に脅されて言わされてる』、それで全部片づけるんだ。そしてその勢いのまま、Fクラスに宣戦布告………………。十分にあり得る。」

 

利光「確かに、そうだね。」

 

 実際にHRで突っかかられた久保が同意すると、説得力が上がるな。

 

零次「だから、しばらく様子見だ。俺達は、このクラスに挑んできたクラスを全力で相手して、この設備を守り通せばいい。わざわざこちらから出る必要もないんだ。得るものはないに等しく、失うものが多いのだからな。」

 

翔子「……分かった。」

 

 霧島の返答と同時に6時限目終了のチャイムが鳴った。その後、7時限目も特に問題なく自習が行なわれ、進級初日の学園生活が終わりを迎えようとしていた。




~後書きRADIO~

零次「第5回。」

秋希「後書きRADIOの!」

零次「始まりだな。」

秋希「なんか久しぶりだね。」

天:そりゃそうだろうな。なんせ、作者の世界では1ヶ月くらい経とうしているからな。

秋希「あ、今回のゲストはまた、天鋸江さんか。」

天:ああ、そうだな。

零次「それじゃあ、今回の解説………、いや、前回の話をしようか。」

秋希「前回って………………、ああ、アレ?タグを変えたとか言ってたっけ?」

零次「そうだ。他の作品のネタだったり、キャラクターの能力を召喚獣の腕輪能力で使用したり、色々する予定なので、変えることにしたそうだ。」

天:おいおい、それはオイラが言う台詞じゃないのか?

零次「後は、天鋸江の性格に使用したりとか、な。」

秋希「ところで何とクロスオーバーするの?」

零次「それは………………、天鋸江、どうぞ。」

天:OK。一応確定しているのは………………。

1.ポ〇ットモンスター

2.〇ndertale

3.東方pr〇ject

このくらいだ。

秋希「3番目隠す気ゼロでしょ………………。」

天:『〇』なだけに?

秋希「やかましいわ!」

零次「まあ、他にも候補はあるが………………。あまりクロスオーバーさせる作品が多いと、今度はキャラが渋滞するからな。」

秋希「というか、3番目の候補はただキャラクター登場させるだけでもいいけど、残り二つはどうクロスオーバーさせる気なの?」

零次「………………作者から聞いた話だと……いや、まだ話す時期ではない。あとで教える。」

秋希(あ、これ絶対ロクなこと考えてないな。)

零次「……さて、そろそろいいか。」

秋希「もうそんな時間?それじゃ、」

「「次回もよろしくお願いします!」」


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小問8-A 警告と提案

ピンポンパンポーン

 

『Dクラス代表、平賀源二君が戦死しました。よって、Fクラスの勝利です。繰り返します………………。』

 

 現在時刻は16:50。7時限目が終わって、Aクラスからほとんどの生徒がいなくなった頃、この大番狂わせの達成が知らされた。

 

利光「これは、偽情報とかじゃないよね?」

 

零次「そうだな。」

 

 放送の声は、その高さからして女性で間違いないだろう。Fクラスの男女比は知らないが、去年の時点では、総合成績ワースト50は、45対5で男子が圧倒的に多かったから(そのうちの一人が俺だが)、その比率で考えると、Fクラスの偽情報の可能性はそんなに高くないだろう。Fクラスが勝ったとはいえ、大体3時間もかかったんだ。多くの生徒が戦死した(召喚獣の点数が0になった)はずだ。

 逆にDクラスだったら、自分の代表が戦死したなんて放送は、まず流さないだろう。…………敵を油断させるつもりなら、あり得ない話ではないかもしれんが。

 

零次「それじゃ、もうちょっとしたら行動に移すぞ。影山、霧島、久保、佐藤。心の準備はいいか?」

 

 7時限目も結局自習だったので、αクラス、および霧島には『今日のうちにやっておきたいこと』を話しておいた。ちなみに工藤は部活があるからということで、先に帰っていった。良くも悪くも自由な奴だ。

 

利光「当然。」

 

翔子「……………………。(コクッ)」

 

美穂「は、はい!大丈夫です!」

 

幽也「………………うん………………大…………丈夫………………だよ。」

 

 それから、各々本を読んだり、駄弁ったり、勉強したり…。そうしている間に時計は17:00を示していた。

 

 

 

 ………………………………さあ、行動開始だ。

 

 

・・・

 

 

ガラララ………………

 

 教室の扉を開けると、ちょうど目の前にDクラスとFクラスの生徒がいた。奴らの戦後対談が終わった後を狙って来たが、ここまでドンピシャだとは思ってなかった。

 

零次「………………戦後対談は終わりか?」

 

 念のために聞いておく。もしかしたら、話の途中に割り込んだ可能性もあるからな。

 

雄二「いや、今ちょうど終わったところだが………………。」

 

 その質問に坂本が答えた。おそらく、コイツがFクラスの代表だろう。そうでなくても、重要なポストを任せられてそうだ。実際、勉強はできないけど、頭が悪い訳ではないからな。散々バカやっているせいで、そうは見られないが。

 

零次「そうか。ならちょうどいい。ちょっと話がある。」

 

「一体なんだよ。」

 

「早く帰ってゲームしてぇから、さっさとしてくれよ。」

 

「大体、なんでお前みたいなクズがAクラスの教室から出てきてんだよ。」

 

零次「落ち着け久保。俺の計画が台無しになる。不満を爆発させるのは今ではない。」

 

利光「うぐっ…………。そ、それもそうだね。ゴメン。」

 

 FクラスもDクラスもざわつくなか(殆どが俺への罵倒だが)、俺は、HRの時みたいに怒り出しそうになっていた久保を手で制した。久保って見た感じだと冷静な性格に見えるが、案外、そうでもないんだな。HRの時といい、昼休みの時といい………。やっぱり、見た目なんて当てにはならねぇな。『アイツ』と同じで。

 

翔子「……………………雄二。」

 

雄二「う、しょ、翔子………………。」

 

 ん?なんだ?坂本の様子がおかしい………………。って、そうか。坂本と霧島は幼馴染だったな、確か。去年ちょっとした事件?というか相談?みたいなもので霧島と関わることがあって、その時に聞いたんだっけな………………。結構、興奮して話していた記憶がある。

 

翔子「……雄二、これは私からの警告。……Aクラスとは、試召戦争をしないで。……あなた達には…………勝ち目がないから。」

 

雄二「な、なんだって?」

 

零次「坂本。お前はちゃんと分かっているだろう?試召戦争は、相手クラスの代表を倒さなければ勝てない、ということを。」

 

 これが『今日のうちにやっておきたいこと』その1。Fクラスに、Aクラスに対する戦意を削ぐこと。まあ、代表の闘志は消せないと思っているが、他の奴らの意思は削れるだろう。

 

零次「真正面から戦って勝てる相手ではないことは、お前だって理解しているだろう。去年の学年末試験の上位10人の強さは圧倒的だ。特に代表の学力は理屈とか、常識とか、そんなもんで説明できるものじゃない。それが第一の理由だ。」

 

 まず、代表の強さを示す。あまり具体的に言うと、ボロが出る可能性があったから、言葉は少なめにしたが、Fクラス相手なら、長々と説明するよりは、この方がいいだろう。とにかく、『代表が霧島翔子』だと、なるべく長い時間思わせたいのだ。少なくとも、今日一日だけでもそうしておきたい。

 

美穂「それに、Fクラスの設備でも、負けたら、設備のランクが下がるのですよ?確か……………『畳と卓袱台』が、『ござとみかん箱』になるとか。」

 

 次に、坂本の計画が失敗した時のリスクを示す。こちらは、なるべく具体的に。ここから代表の正体が割れるとは考えにくいからな。

 

美穂「もちろん、リスクを負わずに対価を得ることはできないことは、私にも分かります。でも、そのせいで体の弱い姫路さんがFクラスからいなくなってしまう………。私が坂本君の立場なら、それだけは避けたいと考えるのですが………。」

 

雄二「あー、確かに、近衛が協力してくれない以上、姫路を失うのはデカいな…………。」

 

美穂「これが、代表が言っていた第二の理由です。それで私達からの提案なんですけど………。」

 

利光「僕達Aクラスと、不可侵条約、というか協定を結ばないかい?」

 

雄二「きょ、協定だと!?」

 

 坂本が随分と驚いた様子を見せた。まあ、学力最高クラスであるAクラスが、学力最低クラスのFクラスと手を組むだなんて、普通は考えられないからな。これが『今日のうちにやっておきたいこと』その2だ。

 

零次「安心しろ。何か裏があると思っているなら、それはハッキリ否定させてもらう。」

 

雄二「まさか、それを信じろと?」

 

零次「そうだ。ま、疑う気持ちは、よーく分かるよ。けど、こっちにも、そうするだけの事情があるんだ。」

 

雄二「事情?」

 

零次「ああ。実はな、Aクラスは、今二つの派閥に分かれてるんだ。代表を支持する派閥と、反抗する派閥にな。………………それだけか、なんて顔はするなよ?クラス一丸となって行動できないってのは、なにかと致命的な問題なんだ。」

 

 特に試召戦争の時なんかは、そうだ。代表の命令を聞いてくれない、あるいは無視する。最悪、敵に寝返る、協力する、謀反を起こす。そんなことが起きれば………………まあ、俺は別に何ともないが、普通は試召戦争なんてできる状態じゃなくなる。クラス崩壊は免れないだろう。

 

零次「そういうわけで、反抗派閥が暴走する前に何か手を打っておきたい、そのための協定だ。勿論、それなりに見返りは考えている。例えば、AクラスがFクラスに宣戦布告した場合は、強制的にAクラスの敗北扱いにする、とかな。」

 

 俺の言葉に、どこからともなく、ざわめきが聞こえ出す。久保達もきっと驚いているだろう。この件に関しては全く話していない、というか、たった今思い付きで話したことだからな。

 

零次「勿論、不満があるなら可能な限り要求は受け付けるつもりだ。どうだ、乗ってくれるか?坂本。」

 

雄二「………………………………。」

 

 坂本は………………即答しない。何やら考え込んでいるみたいだが、こっちも時間は限られているんだ。さっさと終わらせようか…………。

 

零次「考え込む必要などないだろう?お前達Fクラスが最高の設備が手に入るチャンスがある。Aクラスの代表派閥はそれをきっかけに、反抗派閥を黙らせることができる。お互い良いことしかないじゃないか。それに………。」

 

「………確かに霧島さん相手に勝てるわけないよな……………。」

 

「だったら、この協定に乗るのは全然いいんじゃないか?」

 

「だよな。霧島さんに勝てなきゃ、意味ないんだし………。」

 

「確かに………。アレ以上に設備が酷くなるのはなぁ…………。」

 

零次「クラスメイトは、協定について肯定的な雰囲気だが?代表として、聞き入れるべきじゃあないか?」

 

雄二「…………なあ、双眼。その内容って、本当に代表が言ったことなのか?」

 

 ………この質問は、一体どういう意味だ?まあ、素直に答えるとするか。

 

零次「………そうだが?逆に聞くが、お前は協定云々が、俺独断での行動だと思っているのか?そう思われないように、わざわざ代表が同行してくれているのに。」

 

雄二「………それもそうか。」

 

 全く………………一体、何を考えているのやら。

 

雄二「………………よし、分かった。双眼、お前のその提案………………。」

 

 ………………断らせてもらう。坂本はそう言い放った。

 

「「「………………は、はあああああああああああああ!?」」」

 

零次「ほう…………………。」

 

 Fクラスの連中が驚きの声を上げた。俺もこの答えは予想していなかったな。

 

「ふざけんな、坂本ぉ!」

 

「せっかく、Aクラスのシステムデスクが手に入れられるというのに!」

 

雄二「それは、Aクラスの反抗派閥とやらが、代表の意思に関係なく宣戦布告した時の話だ。この協定の狙いは、FクラスにAクラスと戦わせないようにするためのものだ。そうだろ、双眼。」

 

 チッ、早速見抜かれたか。そう、坂本の言う通り、今回の行動の一番の狙いは『Fクラスの行動の制限』、それに限る。去年から明久、坂本、土屋、秀吉の四人は色々な事で目立っていたし、そういう時は大抵四人で行動していたからな。学力の差がクラスが別になる程度ではない、この四人なら、ほぼ確実に一緒のクラスになり、何か大きな行動を起こすだろうと考えていた。

 

零次「ハァ………。バレたんなら仕方ねぇか。そうだ。この協定の本当の目的は、坂本の言った通りだ。もっと言えば、Fクラスの行動を制限することも考えたんだがな………………。」

 

雄二「ほお?随分と考えたものだな。」

 

零次「だが、ま、少なくともお前にAクラスに挑むという、無謀に近い志があることが分かったことだけでも良しとするか。」

 

 こうして、俺達は撤収、もとい帰宅することにした。果たして、この坂本の行動が吉となるか、凶となるか………………。ま、それは明日になれば分かることだ。

 




~後書きRADIO~

秋希「さあ。今回も後書きRADIOの時間だよ~!」

零次「今回で確か、6回目か?あ、ちなみに今回ゲストはいない。」

秋希「第1回の時以来だね?」

零次「第2回の時も実質ゲストなしのようなもんだが………………。まあいい。」

秋希「それにしても、また、1ヶ月近く掛かっての投稿だよね?」

零次「一応…………作者も今回は、難産の話だったそうだ。坂本のセリフをどうするかとか、色々悩ませたようだ。展開としては………………。」

1.DクラスとFクラスの試召戦争が終了

2.αクラス&霧島翔子が戦後対談に乱入

3.双眼零次が罵声を浴びる

4.そんな中、Fクラスに協定を持ち掛ける

5.坂本雄二がこれを断る

零次「…………という骨組みだけが作られていて、肉付けは気分次第の行き当たりばったりで行われたんだ。ま、これまでの話も似たような感じだが………………。」

秋希「…………この小説の闇に軽く触れたね。」

零次「そもそもの話だ。………………作者の文章力じゃあ、どうやったって、あの個性豊かな原作キャラクターの魅力を最大限引き出せる訳ないんだ。俺達オリジナルキャラクターですら、まだ不安定な部分があるくらいだからな。」

秋希「そ、そうなんだ………………。それより、スルーしかけたけど、骨組みの3番って、どうしても必要なの?」

零次「当然、必要に決まっているだろう。よく考えてみろ。『死神』の肩書のせいで、去年入学した時から、俺はどんな目に遭わされた?Aクラスの奴らから、どんな評価を受けた?学校での俺の立ち位置なんざ、下手したら明久より下だ。…………ここまで言えば、お前なら理解できるだろ。」

秋希「あ~…………。そうだね。必要かどうか考えると、やっぱり無くてもいい展開だと思うけど、この展開があった方が自然な流れになっているのは確かだと思う。」

零次「そうだろうな。…………さて、話を本編に移すが、近衛、お前は一体どこにいたんだ?あの時、お前の姿が見えなかったんだが………………。」

秋希「フフフ…………。それは次回分かりますよっと。…………また1ヶ月くらい後になりそうだけど。」

零次「絶対、とは言えんが大丈夫だ。次回の話は、…………作者が何度もシミュレーションしている。問題があるとすれば、それを文字にするのにどれだけ時間が掛かるか、それだけだ。……作者自身、最新作を投稿してから、1ヶ月以内に次回作を上げることをルールとしているらしいし。」

秋希「…………不安はあるけど、とりあえず。」

「「次回もよろしくお願いします!」」


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小問8-F 現実と決意

~前書きRADIO~

秋希「ど~も。近衛秋希で~す。結局前回の投稿から約1ヶ月後に投稿となったね。今回の話は長いから、もう、さっさと本編にいっちゃいましょう!」


 ピンポンパンポーン

 

『Dクラス代表、平賀源二君が戦死しました。よって、Fクラスの勝利です。繰り返します………………。』

 

秋希「やっと、終わったか~…………。今回は私、完全に出番なかったな~。」

 

 時刻は16:50。今回の試召戦争で、全く出番のなかった私は、教室で寝ころびながら、そう言った。坂本君の作戦は、どうやら上手くいったみたいだ。………これ、もう私いなくてもいいんじゃないかな?

 

秋希「ま、坂本君に協力しないと言っちゃった訳だし、不満はないけど。そろそろ行きますかね。」

 

 協力はしてないけど、一応クラスの一員だし、初勝利を祝わないとね。そのついでに、『彼』に詳しい話を聞きに行くとしよう。

 

 

・・・

 

 

明久「雄二、皆で何かをやり遂げるって、素晴らしいね。」

 

雄二「………。」

 

 教室を出て、さほど苦労もせず目的の人物を見つけたけれど、当の本人は、坂本君と握手をしていた。………………いや、よく見たら吉井君は手首を掴まれてる。一体何があったのかな?

 

明久「僕、仲間との達成感がこんなにもいいものだなんて、今まで知らな関節が折れるように痛いぃっ!」

 

雄二「今、何をしようとした。」

 

明久「も、もちろん、喜びを分かち合うための握手を手首がもげるほどに痛いぃっ!」

 

 あー、なるほど。吉井君の足元には包丁が転がっている。おそらくこれで坂本君を刺そうとしたんだ。そりゃ、そうなるだろうけど、そろそろ止めに入るか。

 

秋希「はいはい。お二人さん、そこでストーップ。」

 

明久「近衛さん!?」

 

雄二「………近衛か。どうした?あのまま帰ってても良かったんだぞ。」

 

秋希「いやー、さすがにそういう訳にもいかない事情があるからさ。とりあえず、吉井君借りれる?」

 

雄二「ふむ………。別に構わんが、一体何の用だ?」

 

秋希「この包丁を返しに行くのと、今朝の続き、かな?あの時は時間の都合上、言えなかったことがあるからね。…………あ、坂本君はここに残ってよ?代表としての仕事があるんだから。」

 

雄二「言われなくてもそのつもりだ。ただし、後で俺にもお前が何を考えてるか、ちゃんと聞かせろよ。」

 

秋希「当然。二人だけの時間があれば、の話だけど。」

 

 そう言って、私は吉井君を連れて、家庭科室へ向かう。さっき坂本君に、二人だけの時間があればと言ったけど、それは案外簡単だろう。去年の話だけど、私も坂本君も朝早い時間に学校に来るからね。

 ………………おっと、いけない。大事なことを言うの忘れてた。

 

秋希「坂本君、Fクラス初勝利おめでとう。とりあえず、今のところは素直に言っておくよ。」

 

 

・・・

 

 

ガチャッ キィー……… バタン

 

秋希「ここなら、邪魔は入らないよね。」

 

 家庭科室に包丁を返しに行って、今は、旧校舎の屋上にいる。

 

 旧校舎というのは、私達2年Fクラスと、あとは同じくEクラスがある校舎で、上階は確か、3年のD~Fクラスがあったはず。そして、残りの1学年全クラスと、2年のA~Dクラス、3年のA~Cクラスがあるのが新校舎だ。

 というのも、文月学園の歴史は意外と長い。確か、今年で創立100と6、7年くらいだったかな?当然、その中で、何度も改築している。けれど、新校舎ができたのは、5~7年程前。試験召喚システムに合わせて建設が行なわれ、そんな歴史の中で見ればつい最近のことだ。Aクラスの設備や教室の広さから考えると、おそらくこの増築は、あの格差を明確に示すために、今までの校舎ではそれに関して十分なスペースが無かったがために、行なわれたものだろう。

 

 さて、本題に移ろう。吉井君を連れて屋上に来たのは、言うまでもないことだと思うけど、今朝の話の続きだ。まあ………………。

 

明久「えっと………。近衛さん?僕をここに連れ出して、どうしたのさ。」

 

 当の本人は分かってないようだけど。

 

明久「あれ!?やたらと単純!?」

 

秋希「何がー!?」

 

 しかも、明後日の方角に勘違いしてるし!

 

秋希「ちょ…………ちょっと吉井君……………、まさかと思うけど………告白されるかもとか思ってるのなら………、それは、流石に…………バカすぎるよ。」

 

明久「うぇっ!?イ、イヤ、ソンナコトナイヨ?」

 

秋希「そう……。」

 

 まあ、よく考えりゃ、そう思うのも仕方ないか。なるべく人の目がある所で話したくないこととはいえ、空が茜色に染まった時間帯に男女で二人きり、屋上にいる。このシチュエーションで告白以外の答えなんてものは、まず出てきやしない。家庭科室を出て、校舎裏で聞くことも可能だったけれど、運動系の部員の通り道になっているし、去年の事から、あそこでの話し合いはロクな目に遭わないことが目に見えている。その他にも候補はあったけど、どこも校舎裏と似たような感じだし、屋上を選んだのは、ある意味消去法だ。

 

秋希「ハァ…、本当は君が嫌いな理由を30個程言いたいところだけど、時間がないから、本題に入るよ。」

 

明久「さ、30!?僕どんだけ嫌われてんのさ!」

 

 実際は3個しかないけどね。10回言い回しを変えて言うだけだ。

 

秋希「吉井君。君は………………、どうやってAクラスに勝つつもり?」

 

明久「へ?」

 

秋希「姫路さんのために設備を向上させたい、君のその気持ちはよ~く分かった。」

 

明久「う……。」

 

秋希「設備のランクアップを目標とするなら、試召戦争で勝たなきゃいけない。勝って奪い取るしかない。坂本君も試召戦争に乗り気だったからよかったものの、そうでなかったら、どうするつもりだったの?………改めて聞くよ。君はAクラスに勝つ方法を何か考えてるの?」

 

 私の予想では、答えはNOだろう。なぜなら、彼の戦争に参加する動機には、姫路さんが関わっているから。彼女がここに来なければ、吉井君は坂本君に脅されでもしない限りは動くことはないだろう。その最大の理由は彼のみが持つ肩書きにある。

 

 その名も『観察処分者』。字面から分かるように決していい肩書ではない。むしろ真逆。そもそもこの肩書きが課せられるのが、成績不良かつ学習意欲に欠ける生徒なのだから、良いものでないのは明白だ。

 この『観察処分者』という肩書きだが、これを持っている生徒は、教師の雑用を手伝う義務みたいなものが課せられる。おそらくは、今まで遊びに無駄に費やしてきた時間を有意義に使えってことだろう。そして、この雑用では召喚獣が用いられる。本来召喚獣は立体映像か幽霊みたいなもので、召喚獣の体以外で触れられるものはほとんどないのだが、『観察処分者』と教師の召喚獣は特例として現実の物体に干渉できる召喚獣を使役できるのだ。私の召喚獣は通常仕様なので、教師から聞いた内容でしかないのだが、なんでも『見た目と違って、ものすごく力持ち』なのだとか。実に曖昧な情報だが、自分にとって都合がいい操り人形をいつでも自由に使えると考えれば、快適な生活を送れるだろう。………………『自由に』使えればの話だが。

 残念ながら、教師はまあ…学校内に限れば、フィールドを自分で展開できるから、それなりに自由に召喚獣を使役できるが、『観察処分者』はフィールド形成権がないから、教師の監視下でしか呼び出せない。つまり、『観察処分者』である吉井君が、自分のために便利な自身の召喚獣を使う機会は無いに等しいのだ。教師が召喚獣を使いたい時に吉井君を呼び出しては、彼に召喚獣を召喚させ、手伝わせる。言い方は悪いが、まるで奴隷みたいだ。

 それでもこの観察処分の制度に不満があるのに、こういった物理干渉能力を持った召喚獣に負担がかかると、何割かが召喚者にフィードバックするようにプログラムされている。簡単に言えば、召喚獣をあちこち動き回らせれば、その分、召喚者にも疲労が表れる。召喚獣が転んだり何かにぶつかったりすれば、その痛みも召喚者に何割か返ってくる、といった具合だろうか。

 

 話を戻せば、吉井君は一応自業自得とはいえ、そんな『観察処分者』の肩書きを持っているから、積極的に動きたくないと思うのだ。だって、試召戦争じゃ、雑用で使う以上のダメージを受けることは避けられないからね。学園長も、せめて試召戦争の時は、観察処分者の設定を解除すればいいのに…………、いや、それはそれで面倒か。

 さてと、吉井君の反応は…………?

 

明久「それは…………………えと……………。」

 

秋希「…………やっぱり、ノープランなのね。」

 

明久「ちょ、やっぱりって何さ!」

 

秋希「言葉通りの意味よ。何か考えがあるなら、そんなに考え込む必要ないでしょ。」

 

明久「う…………。」

 

 ま、予想通りだったね。

 

明久「で、でも、雄二には何か考えがあるんだから、僕はそれに従えば大丈夫だよ。」

 

秋希「坂本君ねぇ…………。随分な自信だけど、何か理由でもあるの?」

 

 過去に『神童』って呼ばれてたらしいけど、結局は過去の話だし。一応、霧島さんが幼馴染だってことは知っているけど、それを利用するのかな。

 

明久「いや………、近衛さんって結構頭いいし、理論的な考え方をしてるから、理由にはならないと思うけど……、雄二が昼休みの時、言ったんだ。『俺達は最強だ』って。」

 

秋希「…………君が『理論的』って言うと、やっぱり違和感あるわ………。」

 

明久「ちょっと!」

 

秋希「ハハハ、ごめんごめん。確かに私からしてみれば、理由と呼べるものでは無かったね。」

 

明久「うぐ………。」

 

秋希「じゃ、そんな君に、悲しいお知らせがございます。坂本君にも後で言うつもりだけど、君の胸の内に仕舞っといて。誰にも言わないと、ここで約束してくれるかな。」

 

 吉井君は一瞬迷ったような顔を見せたけど、一応了承してくれたようだ。私もそれに応えるように一呼吸おいて、話した。

 

秋希「簡単に言うよ?私達はどう頑張っても、Aクラスには勝てない。いくら姫路さんが頑張ってくれても、坂本君が私に頭を下げて、協力を申し出たとしても。」

 

明久「………………うん。」

 

秋希「…あんまり驚かないんだね。君ももしかして、自分で言ったものの、打倒Aクラスなんて無理なんじゃないか、って思ってる?」

 

明久「まあ………、そう……かも、しれない。」

 

秋希「いいよいいよ。自分と相手の力量差が分かってるんだから。」

 

 そう思うのも、無理もない。去年の時点でも、上位50名のうち、11位~50位の生徒はBクラスレベルの生徒と大した差はない。実際、この領域に入る生徒の順位変動が激しかった。けど、私や姫路さんを含む上位10名は、常に同じ生徒で構成されていた。10位と11位の生徒の総合得点の差が1000点を超えることも多かった。

 今年はその10名のうち2人がFクラスとはいえ、残り8名は確実にAクラスだろうし、ついでに言えば『アイツ』がいる。まず間違いなく、私達が勝てる確率は0だ。

 

秋希「それに、やっぱり君達が試召戦争をすることに賛同できない。私個人としては、坂本君にはこれ以上戦争をやって欲しくないし、次に戦争を起こした時は、負けてもらいたい。そう思ってる。」

 

明久「ちょっ、そんな!じゃあ、姫路さんはどうなるのさ!それに、近衛さんだって、あんな設備イヤでしょ。」

 

秋希「………………………………………………別にどうでも?」

 

明久「………は?」

 

 その声からは明らかに怒りの感情が汲み取れた。まあ、普通に考えたら、私の思考なんて分かる訳ないから当然だろうけど。

 

明久「どういう意味さ。」

 

秋希「言葉通りの意味だよ。私は別に姫路さんと友達という訳でもないから、彼女がどうなろうが、私には関係ないし。それに私自身は、あの環境の方がAクラスの何倍も過ごしやすいからね。」

 

明久「姫路さんが可哀想だと思わないのかよ!」

 

秋希「じゃあ、君は今Aクラスにいる人が、あのゴミ溜めにぶち込まれるのは可哀想だと思わないのね!?」

 

明久「………………!!」

 

秋希「おそらくだけど、坂本君はAクラスに勝つまで、どことも設備を交換する気は無いと思うの。Fクラスの皆は、設備目的で試召戦争に参加しているから。だから、もしそんな状態でAクラスに勝ったら、あの設備をAクラスの人達に押しつけることになる。…………姫路さんは体が弱いから、それを心配する気持ちは分かる。でも、Aクラスにだって、姫路さんと同じような人間がいることも頭に入れといて。」

 

明久「………そうか………………、ごめん、近衛さん。一番身近な姫路さんのことばかり考えて、他の人のことは全く考えてなかった。」

 

秋希「………いや、私もゴメンね。吉井君がそんなに姫路さんに惚れてるとは思ってなかったから。」

 

 あ、いけない。吉井君が落ち着いたのを見て、ちょっとからかってしまった。

 

明久「え!?い、いや別に、そんなんじゃ………。」

 

秋希「そう?ま、別にいいけど。」

 

 さっきまでの不穏な空気はどこへやら。屋上に来た時よりも軽い空気がこの場を満たしていた。

 

秋希「………さてと、吉井君。ここからが本題だけど。」

 

明久「え?」

 

秋希「改めて聞くけど、君は姫路さんがあの設備で暮らしていくのに納得していない。その気持ちは変わってない?」

 

明久「………もちろん。」

 

 一瞬、解答までに間があったけど、まあいいか。

 

秋希「それならさ、今回みたいに姫路さんを活躍させるような戦い方は………………、うまく言い表せないけど、君の目的とちょっと違うんじゃないかな~って、思ってさ。できるなら、君自身の手で代表を仕留めたりとか、そういう戦果が欲しくない?」

 

明久「まあ、そりゃあ欲しいけど………。」

 

秋希「なら決まりだ。明日の放課後、この場所に集合。観察処分者の仕事は、全力で回避して?」

 

 そう言って、私は『ある人物』の家の住所が書かれた紙を渡す。

 

明久「………え?………いや、どこなの、ここ。」

 

秋希「分からないなら、明日地図を渡すから。それじゃ、また明日。」

 

 若干逃げるような形で、私は屋上を後にした。

 とりあえず、帰りに100均に寄ろうっと。明日には綿がいっぱい詰まった座布団を量産して、クラス全員の度肝を抜いてやる。

 

 



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小問9(1) それぞれの朝

~前書きRADIO~

秋希「どうも~。近衛秋希と………。」

零次「双眼零次だ。」

秋希「今回も変わった小問だね。『(1)』って。」

零次「今回は、ここで言わせてもらうが、本来なら両クラス、Aクラス視点とFクラス視点、纏めて書こうとしてたんだが、あまりにも長くなってしまってな………。かと言って、『9-A』と『9-F』に分けるのも違和感がある、ということで、前後編的な意味合いで、今回の記号が用いられた。」

秋希「へぇ~。」

零次「それじゃ、そろそろ本編に行こうか。」

秋希「そうしましょう!」



ガッ ガッ ガラララ………

 

秋希「おはよー…………ま、誰もいないよね。」

 

 昨日よりガタガタになっている教室の扉を開けて、私は教室へと入った。時計は現在7:30を示しており、それは普段の私なら、決して学校にいるはずの時間帯ではないのだが、今日だけは別件だ。

 

秋希「さてと………………。ちゃっちゃと取り掛かりますか。」

 

 そう。Fクラス教室の、座布団の綿詰めだ。昨日市内の100均やら、雑貨屋やらを駆け巡ったり、姉や弟に頼んだりして、とりあえず予定の量はなんとか手に入った。問題があるとすれば、普段登校するときに使っている鞄では入りきらず、弟の冬由(ふゆ)のリュックを借りる羽目になってしまった事くらいだ。いや、普通なら借りることだけはいいんだけどさ、私の家庭環境はちょっと複雑だからね………。

 

ガガッ ガッ ガラララ………

 

雄二「お、近衛、おはよう。」

 

秀吉「む、近衛がおるのは珍しいのう。」

 

 それから数分後、坂本君と木下君がやって来た。木下君が珍しいと言ったのは、私が普段、学校に来る時間が8:00前後だからだ。

 

秋希「おはよう。坂本君、木下君。君達がここに来たってことはもしかして………。」

 

雄二「ああ。設備の交換はせずに、和平交渉で終わらせてきた。」

 

 やっぱり。坂本君のことだから、そうするだろうと考えていた。

 確かに設備のランクが上がることは、Fクラスにとって、良い事だ。けど負けた時に、Dクラスの平凡な設備からEクラスの少しボロい設備に下がるのと、Fクラスの劣悪な設備がさらに悪くなるのとでは、後者の方がまだマシな方だ。

 それに、Dクラスと設備を交換すると、Fクラスの大半のモチベーションである、『設備への不満』が緩和されることになる。結果、これ以上試召戦争をすることに反対する生徒が出てくるかもしれない。それは『打倒Aクラス』を掲げている坂本君にとって、厄介な事態だ。

 まあ、他にも色々坂本君は考えているだろうけど、私にはどうでもいいことだ。

 

秋希「まあ、ちょうど良かったよお二人さん。時間が空いてそうだし、ちょっと手伝ってよ。」

 

秀吉「うむ。別に構わんが……。何をすればよいのじゃ?」

 

雄二「お前の周りに散らかっているものを見るに…………、座布団に綿を詰めてるのか?」

 

秋希「正解。折角だし、お礼も弾むよ?」

 

 

・・・

 

 

 現在時刻は7:45。代表になった俺は、あのAクラスの雰囲気故に、あまり気は進まないものの、こんな早い時間に学校に来ることにした。

 正直な話、Aクラスは決して良いクラスだとは思えなかった。学力はあるが、性格を見れば、下のクラスの奴らと同じだ。人を見た目と噂と自分勝手な価値観、偏見で判断する。更にはその嫌悪感を本人の前でも露わにする奴もいるほど。一年過ごせば、中学の頃と同じく何かしら変化はあるだろうと考えてたが、その考えは甘かったようだ。

 

「待ってたぞ、双眼零次!」

 

 そう言って、新校舎の玄関で待ち構えていたのは………、確か、時任に栗本、それから奥井か。去年の近衛の情報だと、学年の15~20位の間を行ったり来たりしていた奴らだ。

 

零次「………一体朝から、何の用だ?」

 

「俺たちはな、お前が不正をした証拠を掴んだんだよ!」

 

 随分と自信満々な様子で時任が喋りだす。それにしてもなぁ………。

 

零次「お前ら、俺がHRギリギリに来てたら、どうするつもりだったよ………………。」

 

 去年、2~3回に1回は遅刻寸前の時間に学校に来ていたんだが………。

 

「そ、その時は休み時間とかに持ち越しだろうが!」

 

零次「それもそうか。まあ、普通の反応で良かったよ。どっかの誰かさんだったら、俺に脅迫されてたとか、ふざけたこと言ってそうだったからな。」

 

「ああ……。豊嶋のことか……。」

 

「私も………、あの人とは仲良くなれそうにないです……。」

 

 俺の言葉に栗本や奥井が同意と取れる反応を示した。時任も、口には出さないが、苦い表情をしている。

 

零次「………で?俺が不正をした証拠って何なんだよ。」

 

「そ、そうだよ!危うく忘れるところだったじゃねぇーか。」

 

 忘れんなよ、結構大事なことだろ。

 

「あのですね、正浩君の代わりに言うと、さっき、近衛さんがFクラスの教室に入っていくのを見たんです。」

 

「それで僕達は思ったんだ。近衛さんは、もしかしてFクラス所属なんじゃないかって。」

 

零次「なるほどなぁ…………。で?それと俺の不正がどう関係するんだ?」

 

「しらばっくれんなよ!振り分け試験の時に、近衛と答案を入れ替えたんだろ!」

 

「入れ替えたというよりは、お互いに相手の名前を交換して答案用紙に記入した、の方が正しい言い方になるかな。」

 

「そうだ!近衛を脅して、答案用紙の名前を入れ替えたんだろ!どうだ、大人しく白状したらどうだ?」

 

 いわゆる、替え玉受験みたいなことか。まあ、確かに理論としては、成り立っているだろう。昨日、俺が教室に入って来た時の反応からするに、俺は平気で暴力をふるい、人を脅すような人間と思われているみたいだからな。

 けれど………………。

 

零次「………断る。」

 

「ハァ!?」

 

 実際、俺はそんなことをしていない。というか、不正そのものをしたこともない。

 

零次「なんで、やってもいないことを、認めねばならないんだ。そもそも、近衛と俺の試験会場となった教室は別々だ。名前を入れ替えて書いてたら、すぐバレる。久保も言っていただろう。俺の周りは監視が強化されていたって。」

 

 正直、余りにも監視が強くて、集中力が途切れかけた時が何回かあったからな…………。思い返すと、よくAクラス代表になれたと思う。

 

「そ、そんなの、本当かどうか分からないじゃないですか!」

 

零次「だったら、今からでも先生に聞いてくればいいだろう?HRまでまだ十分時間があるんだ。俺を批判する時間があるのだから、それくらいの余裕はあるはずだろう?」

 

 今、俺と時任達がいる場所と、先生方がいる職員室との距離は目と鼻の先くらいだ。しかも、この時間帯なら、先生もそれなりにいる。ちょっと話を聞くくらいなら、数分程度で終わるだろう。

 

零次「………………話は終わりか?それなら俺は、教室に行くぞ。時任、栗本、奥井、お前達も遅れずに来いよ。」

 

「………………いや、まだだ!双眼零次!お前に試召戦争を挑む!」

 

「ちょっと、正浩君!?」

 

「正浩、それは、やめといたいいぞ!?」

 

 …………なるほど。無理矢理にでもAクラス教室に来させないつもりか…。

 

零次「………別に断るつもりもないが………………。先生がいないと、試召戦争できないぞ?」

 

「………………あ。」

 

 ………もしかしてアレか?時任って、学力はあるけど、肝心なところで抜けているタイプの人間か?栗本と奥井は頭を抱えているし………。

 

零次「………じゃ、また教室で………………。」

 

信楽「おー!おはよう、双眼!………って、なんだなんだ、その顔は?」

 

 ………このタイミングで来るなよ、って顔だ。

 

「…………!ナイスタイミングだ。信楽先生、Aクラス時任正浩が双眼零次に試召戦争を挑みます!」

 

信楽「………あ~………、そういうことか。仕方ねぇ。承認するぞ。」

 

「試獣召喚≪サモン≫!」

 

 その言葉と共に、時任の足元に幾何学的な魔方陣が描かれる。これが、先生の立ち会いの下で試験召喚システムが起動されたことを示している。

 その魔方陣から出てきたのは、中世の騎士をイメージさせるような鎧を纏い、剣と盾を装備しており、顔立ちは目の前にいる時任とそっくりである。そう、これが、『召喚獣』である。

 

「行くぞ!雷太!舞!」

 

「ちょっと待てよ!僕たちを巻き込むなよ!」

 

「やるなら、正浩君一人で…。」

 

 ほう。時任を囮に、二人は逃げるつもりか?

 

零次「気が変わった。Aクラス代表双眼零次。時任正浩、栗本雷太、奥井舞の三名に試召戦争を申し込む。試獣召喚≪サモン≫。」

 

「「!!!」」

 

零次「まさか、ここまでしておいて、逃げられると思ったのか?俺はそこまで優しくねぇんだよ。」

 

「「…………試獣召喚≪サモン≫。」」

 

 そして、俺と二人の召喚獣も出揃った。栗本の召喚獣はトレンチコートに棍棒のようなものを装備しており、奥井の召喚獣は、魔法使いを連想させるような黒い衣装と帽子に、それとは不釣り合いなノコギリのようなものを得物にしていた。それに対して、俺の召喚獣はというと………。

 

「…………ブッ、ハハハハ!双眼!なんだよ、その装備!」

 

「双眼君、その装備で本当にあっているのかい?」

 

零次「ああ。正真正銘、俺自身の召喚獣だが?」

 

 文月学園指定の学生服に黒色の木刀を持っているだけ。どこぞの観察処分者とほとんど同じ装備だ。

 

零次「だが、大事なのは装備より点数じゃあないのか?」

 

 その言葉と同時に俺と時任たちの点数が表示される。

 

[フィールド:化学]

2-A 双眼零次・・・487点

 

2-A 時任正浩・・・248点

 

2-A 栗本雷太・・・270点

 

2-A 奥井舞 ・・・227点

 

 

 

「………………え?」

 

「な、なんですか………その点数。」

 

「嘘だろ………。なんでこんな高いんだよ…………。」

 

 栗本、奥井、時任。それぞれが俺の点数を見て、皆驚いている。ま、去年の俺からは全く考えられない成績だからな。

 

「い、いや待て落ち着け!アイツは不正してるんだ!そんな奴に負けるか!」

 

零次「ほう。先生の前でそんな言葉を吐けるとは、ある意味凄い奴だな、時任。本当は本気で相手するのも面倒臭いが、『お前は先生の前で特定の生徒を侮辱した』。それだけの理由で絶望を与える。栗本、奥井。恨むなら、時任を恨むことだな。」

 

 さあ、勝負開始だ。

 



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小問9(2) 表と裏

~前書きRADIO~

零次「よう。俺だ、双眼零次だ。今回で小問9が終わるかと思ったら、また次話まで持ち越しだそうだ。おまけに………作者が最近、忙しくなってしまって、なかなか続きが書けないでいるらしい。それでも、この小説を見てくれるとありがたい。それじゃ、本編をどうぞ。」


雄二「………なあ、近衛、ちょっといいか?」

 

秋希「うん?どうしたの、坂本君。」

 

 三人で黙々と座布団に綿を詰める作業を続けて、十数分後。時計が普段私が学校に来る時間を示す頃になって、坂本君が口を開いた。

 

雄二「実は昨日、双眼に遭ったんだが……、その時アイツ、Aクラス教室から出てきたんだ。」

 

秋希「…………たまたまじゃない?Aクラスの誰かに用事があったとか。」

 

秀吉「いや、一言一句覚えとるわけではないが、AクラスとFクラスとで、協定を結ぶ、とか言っておったな。」

 

雄二「まあ、打倒Aクラスの目標があるから、アイツの言う協定は断ったんだが、俺が言いたいのはその事じゃねぇ。」

 

 あ、そうなの?昨日会ったことの報告とかじゃないんだ。

 

雄二「なあ近衛……、お前は知っていたんじゃねぇのか?アイツが………、双眼がAクラスに居ることを。」

 

秀吉「む?それは本当なのか、近衛よ。」

 

秋希「……………まあね。でも、なんでそう思ったの?」

 

 綿を詰め終えた座布団を適当に放り投げて、私はそう答えた。残りの数は既に10個より少なくなっていた。

 

雄二「いや、確証はないんだが、お前が俺に協力しないと言ったことや、お前が双眼と仲が良いことを考えたら、その方がしっくりくる、そう思っただけだ。」

 

秀吉「…………ふむ、どういうことなのじゃ?雄二よ。」

 

雄二「単純に、双眼がAクラスに入った以上、この教室にアイツを入れたくないってことだろう。他の連中からしてみれば、双眼はFクラス確実の成績だったんだ。けど、双眼はAクラスに入った。………どうやってかは分かんねぇけど。とにかく近衛が、双眼がAクラスに居ることを知っていたとすれば、折角双眼が手に入れたAクラスの席を俺達に奪われる、ということは阻止したい。だから、俺たちFクラスに協力しない。なんとなく辻褄は合うだろう。」

 

 …………流石神童と言われていただけある。確証がないだ何て言ってるけど、私が零次がAクラスに居ることを知っていたというには、十分だ。ただね………………。

 

秋希「…………坂本君、君の推理はいい線まで言っているけど、違うところが3つある。」

 

雄二「何?」

 

秋希「まず一つ。私と零次は別に仲良くない。具体的に言うなら、君と吉井君くらいの仲だね。」

 

秀吉「そんな風には見えんのじゃが………。」

 

秋希「それは坂本君達だって同じでしょ。」

 

 私達は互いに相手のことをよく知っている。普段皆に見せている『表』の顔はもちろん、特定の人しか知らない『裏』の顔も知っている。それ故に、互いが互いに、相手のことを警戒していて、その結果、お互い相手が不穏な行動をしないようにと、相手を監視し、すぐに暴走を止められるように行動を共にしている。その反面、『とある目的』で利害が一致していることもあって、二人の間での最低限のコミュニケーションは欠かさない。これが、私と零次の関係である。

 

秋希「だから、別に零次が豪華なAクラスに居ようが、貧相なFクラスに居ようが、そんなのは関係ないの。これが違うところその2。」

 

雄二「………待てよ?なら、Fクラスに協力しない理由はなんだ?」

 

秋希「おや?私は、『Fクラス生徒としてなら協力する』って、言ったと思うけど?」

 

雄二「…………この成績で協力というか?」

 

 そう言って、坂本君はカバンから、1枚のプリントを取り出した。そこには、Fクラス生徒全員の点数が表にまとめられていた。そして、今の私の点数はというと…。

 

現代国語 65点

古典   72点

数学   58点

物理   56点

化学   60点

日本史  77点

世界史  78点

現代社会 61点

英語   69点

英語W  67点

保健体育 55点

 

総合成績 658点

 

 ………………うん。

 

秋希「私の言った通り、十分な協力だね。」

 

雄二「何言ってんだ?こんなのまるでFクラス並………………って、そういうことかよ。」

 

 坂本君は分かってくれたみたいだね。私が言いたかったことは、『Fクラス生徒と同じくらいの成績としてなら、協力してあげる』ということだ。ただ、正直言って、昨日の態度を見た限りだと、Fクラスに協力したくないというのが本音だけど。

 

秋希「まあ………、今日は、昨日の戦争で消費した、点数の補給するためのテストだけで一日が終わるだろうし、他のみんなの頑張り次第でDクラスレベルまで上げてもいいと思ってるけど。」

 

雄二「随分上から目線だな。」

 

秋希「そりゃあ、実際私の方が上だから。」

 

 クラスの地位では代表である坂本君の方が上だけど、本来成績では、私の方が圧倒的に上だ。それに、零次の『目的』に協力するためにも、今、代表の指示に従って動くつもりもない。

 

秋希「………とにかく、私が協力したくないのは、零次がAクラスに居ることとは、全く………、いや、ほとんど関係ないから。それとは別の理由があるのよ。」

 

雄二「別の理由だと?」

 

秀吉「一体、何なのじゃ?」

 

 二人とも、残った座布団を全て縫い終わり、そう聞いてきた。

 

秋希「……………それを話す前に、昨日吉井君に話した現実を話すね。………………零次がAクラスにいる以上、私たちに勝機は一切ない。その決定的な理由を。」

 

 

・・・

 

 

西村「戦死者は補習だぁっ!」

 

「ちょ、ちょっと待てよ!あんなん反則だろ!」

 

「やっぱり、そうなりますよね………。ハァ……。」

 

「正浩、後で覚えていなよ。」

 

 現在時刻は7:50………………いや、正確には、7:49か。俺は、先程、試召戦争を仕掛けてきた時任と、その取り巻きの奥井、栗本を倒し、彼らが西村先生に連行される姿を見ていた。

 ん?勝負の過程が気になるのか?生憎、人に見せられるような戦いじゃあ無かったのでね。

 

信楽「あー………、双眼、なんか悪かったな。」

 

零次「いいえ、別に問題ないですよ。」

 

 偶然でも故意でも、いずれ奴らとは戦うことになるのだ。寧ろ、俺の真の実力を見せることで疑念ができるはずだ。『零次は本当は頭がいいんじゃないか?』『代表の座を零次に任せても大丈夫では?』って具合にな。最も、豊嶋という反乱分子がいる以上、そんなことにはならないのは分かってはいるし、俺自身、欲しかったのは、『霧島に勝った』という事実だけで、代表なんて向いていないと思っているが。

 

信楽「にしても、あの様子だと、Aクラスに居場所なんざ無いんじゃねえか?」

 

零次「別にそんなことは無いですよ。少ないですが、仲間はいますから。」

 

信楽「そうかい………………。そんじゃ、今日も一日勉強頑張れよ。」

 

 言われずとも、そのつもりですよ、と。………………さてと。

 

零次「………………………で、そんな物陰でコソコソと何をしている。木下。」

 

優子「……別に、ただ通りかかっただけよ。」

 

零次「それにしては、随分と怯えてないか?もしかして、俺達の勝負を見てたか?」

 

優子「…………。(コクッ)」

 

 少しの沈黙の後、木下は頷いた。予想は当たっていたようだ。

 

零次「そうか……。だったら、アイツらに協力してやっても良かったんじゃないか?不意討ちでやられた程度で俺は文句は言わねぇぞ。」

 

 実際、目の前にいる木下は学年7位に位置する実力者だ。隙をつけば、俺に致命傷を与えられるだけの点数を持つ召喚獣がいるのだから、加勢しない理由など無いだろう。

 

優子「あんな点数を見て、挑もうだなんて、無謀なことはしないわよ。それに、これから授業だって始まるのに、一時限目から補習室で缶詰め状態なんて嫌よ。」

 

零次「……なるほどな。」

 

 召喚獣が戦死して点数が無くなったら、その生徒は補習室で補習を受講する義務を負う。試召戦争のルールにしっかりと明記されている事項だが、これに限らず試召戦争のルールは、クラス対クラスでは当然だが、個人対個人でも適用される。だから、俺と戦って負けた時任達は、しばらく補習室から出られない訳で、HRはほぼ確実だが、最悪一時限目は授業に出られないことになる。まあ、アイツらは優秀な方だし、試召戦争中でもないから、さっさと補習室から出てくるだろう。

 

零次「ま、戦う意思がないのなら、俺は教室に行かせて貰うぞ。」

 

優子「え、あ、ちょっと待ちなさいよ。」

 

零次「………………なんだ?お前も俺が不正した証拠を見つけた、とか言い出すのか?」

 

優子「そんなんじゃないわよ!ただ単純に、近衛さんとどういう関係なのか聞きたいだけよ。」

 

 近衛との関係?木下は一体何を企んでいる?近衛からいろいろデータは貰っているが、全くもって見当がつかない。

 

零次「………とりあえず、教室に向かいながら話す。それでもいいなら、答えるが。」

 

 正直、さっきみたいな目に遭う前に、さっさと教室に行きたい。HRの少し前までは、先生は教室に来ないし、授業が始まれば、そっちを優先するからな。とりあえず、昼休みまでの安全は確保できる。

 

優子「………………別にいいわよ。」

 

零次「………わかった。結論から言うと、俺と近衛は、文月学園にいる、たった二人だけの同級生………同じ学校の出だ。」

 

優子「………………え?」

 

 まさか、聞き逃したのか?仕方ない。

 

零次「だから、俺と近衛は………。」

 

優子「ちゃんと聞こえたわよ!ただ………、確か双眼、あなた、処暑中学よね?卒業したのって。」

 

零次「そうだ。近衛も同じ学校を卒業している。」

 

優子「………………冗談でしょ?あの品行方正で真面目な近衛さんが、処暑中って。」

 

 ………………やはりコイツもか。どいつもこいつも、そうやって近衛を持ち上げる。だが別に、アイツの魅力とかそういうのが分からない訳でも、同じ中学出身なのに、扱いが天と地ほど差があることを恨んでいるわけでもない。

 ただ、アイツに限らず、人の表面ばかりを見て、まるで、それで全てを知ったかのように評価を下す。それが気に食わないだけだ。

 

零次「………そう思うのも無理はない。それにアイツは………こういうこと言うと………怒られるが、大企業の娘でもあるからな。誰だって、ちやほやしたがるし、何か起きたところで、誰も近衛のことは疑わない。」

 

 俺は一息つくと、こう言った。

 

零次「けど、お前らは何も知らないだろ?木下、今更だと思うが言っておく。近衛とはなるべく関わるな。アイツに関わるとロクなことが無い。」

 

 同じ学園にいる以上、絶対に関わらない、ということは無理だが、接触を少なくすることは可能だろう。

 

優子「…………いきなりどうしたのよ?」

 

零次「残念ながら、近衛はお前達が思っているような、いい人間じゃない。むしろ逆だ。俺が会った中では、最低最悪………………は、言い過ぎにしても、そのくらいの悪しき人間だ。」

 

優子「…………どういうことよ。」

 

零次「ま、別に話してもいいんだが………………。昨日の今日で何があった?お前、俺が代表なのが不満なんじゃなかったか?」

 

 さっきから、ずっとあった違和感。木下は、なんというか真面目で、どこか高圧的な雰囲気のある奴だからな。俺みたいな不真面目な印象のある奴は、憎まれる対象にあれど、親身に話を聞いてくるような感じではなかったはずだ。

 

優子「不満はあるわよ。『死神』なんて言われる物騒な生徒より、去年もクラスをまとめていた翔子が代表やってくれた方がいいわよ。」

 

零次「俺の点数については?」

 

優子「いろいろ疑問はあるけど、点数をつけたのは先生方でしょ?だったら、それに文句を言うのはナンセンスよ。」

 

 なるほど。あの時、俺は『俺が代表であることに不満があるか?』と聞いた。だから、『不満がある』生徒が手を挙げた。けれど、木下の話を聞く限りでは、『俺が不正をした』と思っている奴は、案外少ないのかもな………。

 

零次「分かった。HRまで、まだ時間は沢山ある。教室でお茶でも飲みながら、話せるだけ話してやる。」

 

 



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小問9(3) それぞれの願い

秋希「……………これが、今私が語れる零次の力よ。ま、これだけでも十分、Aクラスに挑むのが無謀だって分かるでしょ。」

 

 私が語った零次の実力。それは、話を聞いた二人は開いた口が塞がらなくなっていた。

 

秋希「ま、別に私は、君達が試召戦争を続けることに反対なわけではないし、決めるのは代表である坂本君だから、その決定には従う。ただ、Fクラスの現状を考えると、Aクラスを倒すのは難しいと思うのよ。」

 

秀吉「確かに、今の話を聞いた後じゃと……。」

 

雄二「ああ………………。だが、だからって、俺の意思は変わらねぇ。Aクラスを倒す。」

 

 坂本君からは並々ならぬ決意が見て取れる。

 

秋希「なるほど。ところで、坂本君に聞きたいんだけど、どうやってAクラスを倒すつもりなの?」

 

 腐っても元神童だ。きっと、素晴らしい作戦を考えているはず………………。

 

雄二「ああ…………。それが、だ。実は、翔子との一騎打ちで決着をつけようと思ってたんだ。」

 

秋希「霧島さんと?」

 

秀吉「それで勝てるのかのう?」

 

 秀吉君が不安がるのも、無理はない。はっきり言って、Fクラスの代表がAクラスの中でもトップクラスの実力を持つ生徒と真っ向勝負で勝てるとは思わない。

 

雄二「ま、普通に戦ったら無理だからな。だから、条件を限定する。」

 

秋希「条件?勝負科目をこっちが指定するってこと?」

 

雄二「そうだ。科目は日本史で、レベルは小学生程度。百点満点の上限付きで、召喚獣は使わず、純粋な点数勝負で勝敗を決する。」

 

秋希「………………それで倒せるの?」

 

 はっきり言って、そんなの注意力とか集中力とかの勝負だ。まともに戦うよりかは幾分かマシだけど、それでも100%勝てるとは思えない。

 

雄二「ああ、その点は問題ない。ちゃんとした根拠もある。」

 

秀吉「ん?それは何じゃ?」

 

秋希「私も気になるね。零次には『絶対』教えないから、聞かせてもらえるかな?」

 

 まあ、そう言ったけど、大体分かる。坂本君と霧島さんは、同じ小学校と中学校を卒業している。それだけなら別に重要な要素でもないけど、去年の調査で、中学はともかく、小学生の頃は二人は仲が良かったことが分かっている。そして、その時に起こった出来事も………………。

 

雄二「ああ。実はアイツは、ある問題を必ず間違えるんだ。」

 

秀吉「ある問題?それは何じゃ?」

 

雄二「その問題は………………『大化の改新』。」

 

秋希「大化の改新?小学生レベルの問題ってことを考えると、何年に起きたかとか?」

 

雄二「そうだ。その年号を問う問題が出れば、俺達の勝ちだ。大化の改新が起きたのは645年。こんなの明久でも間違えないだろうが………………。翔子は必ずこれを間違う。これで俺たちは勝利し、この教室ともオサラバって寸法だ。」

 

 確かに私の調査でも、霧島さんは坂本君に勉強を教えてもらったことがあったという記録がある。多分その時に、坂本君が間違った答えを教えてしまったのだろう。

 

雄二「ただな………………、零次のことを考えると、この作戦はもう使えないだろうな。」

 

秋希「まあ、そうなるだろうね。」

 

 この作戦は、坂本君が霧島さんと戦える舞台がちゃんと整っていなければ成立しない。零次が代表なら、一騎打ちのメンバーは確実に零次だ。

 私が覚えてる限りでは、アイツが負けた姿は、というより追いつめられた姿は一度しか見ていなかった気がする。それに、点数に関しても、中学の頃はもちろんだけど、小学生の頃でも、テストはほとんど100点だった。まあ、この学校じゃ、そんなもの大した根拠にはならないけれど、まず、Fクラスじゃ、敵いっこない。

 

秋希「じゃあ、今の話を聞いて、もう一度言わせてもらうけど…………。私は今のFクラスには、今以上の協力はしないし、ぶっちゃけ、君のことを『元神童』だと過大評価してた。『悪鬼羅刹』と呼ばれて3年くらい経つようだけど、随分と堕ちたものね。」

 

雄二「なんだと!?」

 

秀吉「近衛よ、それは流石に言いすぎでは………。」

 

 気づけば、時計は8:10を示していた。坂本君に文句をぶつけるには、まあ、十分な時間だ。

 

秋希「紛れもない事実でしょう?大体、そんな条件で勝負できると思うの?」

 

雄二「それなら問題ないぞ。試召戦争のルールじゃ、戦争ではテストの点数を用いていればいいんだ。だからこの方法でも何の問題もなく勝負できる。それに、その交渉を進める方法も考えてあるし、今のところ、それも順調に進んでる。」

 

 確かに、試召戦争のルールでは、『勝負には必ず召喚獣を用いなければならない。』という文章が無ければ、『テストで義務教育レベルの問題を出してはいけない。』なんてことも明文化されてない。そもそもこのルール自体がちょくちょく改定されていたり、まだ試験召喚システムがこの学校に採用されて4年しか経っていなかったりで、まだまだ試召戦争に関して手探りな部分が多いのだ。まあ、何でもかんでも文章にして、ガチガチに縛るよりかはマシだけど。

 

秋希「…………そう。でも、坂本君、あなたはそれでいいの?」

 

雄二「それでいいって………………一体何が言いたい?」

 

秋希「あなたの試召戦争における目標は、『学力が全てじゃないことを証明したい』じゃ、なかったの?テストの点で勝つなんて、学力があることを証明する一番わかりやすい方法で勝って、その目的が達成できるわけないでしょ。それとも、確実な勝利のために、『結局、学力が全てだ』と言って、諦めるのかしら?」

 

雄二「くっ………それは……。」

 

 少なくとも、今までの坂本君の言動を見てきた限りでは、彼はそんな性格ではなかった。ただ、真っ先にそんな作戦を伝えたところを見ると、きっとそれ以外ではAクラス勝つのは不可能だと思ったのだろう。

 

秋希「それに、試召戦争のルールには、『戦争の勝敗はクラス代表の敗北をもってのみ決定される』とあるわ。つまり、代表が霧島さんじゃなければ、即敗北なのよ。……………まあ、だからこそ、零次がAクラスに居ることを考えると使えないって思ったのは、いい判断ね。」

 

 まあ、霧島さんが代表だったとしても、勝てるとは思わないけど。注意力、集中力以前に、『大化の改新』が出ない可能性だってあるわけだし(最も、日本史において大事な部分だから、そんなことはないだろうけど)。

 

雄二「…………。」

 

秋希「さてと、話を戻そうか。もともとの議題は、『なんで、私が君達に協力したくないのか』だからね。」

 

秀吉「そういえばそうじゃったの……………。」

 

 一呼吸おいて、私ははっきり告げた。

 

秋希「結論をさっさと言っちゃうと、君達にAクラスの設備を使う資格がない、あの自己紹介の時間でそう判断したからよ。」

 

秀吉「む?どういうことじゃ?ワシらじゃって、Aクラスの設備を使っても…。」

 

秋希「そう。使う『権利』は当然あるわよ。そのための設備格差、そのための試験召喚戦争だから。でも、私が言っているのは、使う『資格』があるかどうか。Aクラスの設備を使うに値する人間かどうかってことよ。」

 

秀吉「ま、全く分からんのじゃが…。」

 

雄二「あ~。要はこういうことか?俺達にAクラスの同等の学力がないから、協力したくない、と。」

 

秋希「………………曲解すれば、そうなるだろうね。でも、そういうことじゃない。君達が普段どれだけ勉強しているかってことよ。」

 

雄二「ああ………なるほどな。」

 

秀吉「それを言われると、ぐうの音も出ないの…………。」

 

秋希「………ま、このことはいずれ、他の皆にも言うつもりだから、今回はここで止めにしとくよ。」

 

 現在時刻は8:17。座布団は全部縫い終わったけど、それをちゃんと整理しなきゃいけないし。次に早いのは、おそらく姫路さんで大体8:25くらいには着くかな。

 

秋希「………………ただ、坂本君、Aクラスを目指すなら、一つだけお願いしてもいいかな。」

 

 そして私は、坂本君に一つお願いをした。彼の野望と私の希望を同時に叶えるために。それに坂本君は、渋々ながらも、なんとか了承してくれた。

 それからはというと、特別なイベントも起こることなく、クラスの皆は補充試験をして(私はしないけど)、一日が過ぎていった。

 

 

・・・

 

 

零次「………………ま、これだけ語れば十分だろ。ご清聴ありがとうございました、てな。」

 

 まだまだ人もまばらなAクラス教室の後ろ側で、俺は木下と、ついでに教室でばったり会った影山と霧島に、俺の過去の話を聞かせた。と言っても、アイツらに話したのは、ほんの氷山の一角、のまた先端の部分。水に隠れている部分は当然だが、水面に出ている部分でさえも、全てを曝け出すには、奴らはまだまだ俺の本質を知らなさすぎる。最も、俺の本質を知る頃には、俺はここにいないだろうが。

 

「「「………………。」」」

 

零次「信じられないって顔だな。」

 

優子「そりゃ、そうでしょ………。」

 

翔子「……人は見かけによらない、って言うけど………、流石にイメージと違い過ぎる。」

 

 まあ、それがアイツだからな。影山が黙ってるのは………………、まあ、どっちでもいいか。

 

零次「だが、これは紛れもない事実なんだよなぁ。と言っても、信じるか否かは任せる。」

 

 実際、どっかの誰かさんに同じ話を聞かせたところで、『近衛の信用を落とすために根も葉もない話をでっちあげている。』で一蹴されるのが目に見えてるわけだからな。

 

零次「………とりあえず、今日のところはお開きにしておこうか。豊嶋あたりが色々ケチつけてくる前にさ。」

 

翔子「……………………零次。」

 

零次「なんだ、霧島。」

 

 さっさと勉強して、これから先いずれ巻き込まれるであろう試召戦争に備えようと思ってると、霧島が俺を呼び止めた。

 

翔子「……豊嶋達と、どうにか仲良くできない?」

 

優子「翔子の言う通りよ。その……私が言える立場じゃないのは分かってるけど、それでも、クラスはやっぱり纏まってる方がいいと思うから。」

 

 ………確かに、木下が言えた立場じゃないな。豊嶋ほどでもないにしろ、コイツも率先して、俺が代表であることに反対した一人だ。

 

零次「残念だが、それは無理な話だな。アイツはこっちの話を聞く気が無いんだから。」 

 

 向こうに話を聞く気があるなら、霧島や高橋先生あたりにに仲介役を頼むとかして、いくらでも場を設ける機会を作れるのだが、アイツはこっちの話なんて一切聞かないからな………。それだけならまだマシだが、こっちの話を全否定してくるものだから、たまったもんじゃない。

 近衛が度々、進学校なのかと、疑問を呈する理由がよく分かった。………最も、俺も去年の時点でそう思ってたわけだが。

 

翔子「……………………そう。」

 

零次「残念ながら、人間、誰とでも仲良くできるなんてのは、夢物語でしかないのさ。お前だってそれは分かっているはずだ。」

 

 コイツも過去に辛い目に遭っていることは近衛から聞いている。それなのに何故そんなことが言える?いや、そうだからこそ、自分と同じ目に遭ってほしくないってことだろうか。

 

翔子「……それは分かってる。でも、それでも私は、出来ることをやりたいから。」

 

零次「それなら、俺に関わってくれない方が、よっぽど良い。どうしてそこまで俺に近づこうとする?」

 

翔子「……ただ、あの時の恩を返したい。……あなたは必要無いと言ったけど、やっぱり、私の気が収まらない。」

 

 しばしの沈黙。そして考える。

 

零次「……ハァ…………分かった。勝手にしてくれ。」

 

翔子「…………それって…。」

 

零次「ただし、そうした結果、お前に何らかの被害が出ても、俺は一切関わらない。その覚悟があるのか?」

 

優子「ちょ、ちょっと、流石にそれは………………。」

 

翔子「……………………それでもいい。」

 

 木下は止めようとしたみたいだが、霧島はそれで納得してくれた。ま、流石に近衛が行動に出たら、同行せざるを得ないが。

 

零次「……………………そうか。………お前の覚悟がよく分かった。だが、俺が任命したとはいえ、お前は俺の敵である存在だ。そのことを忘れるなよ。」

 

 それからは特に語るべきことは何もなかった。だが、それが逆に不安にもなる。豊嶋、お前は一体、何を考えているんだ………………?

 




~後書きRADIO~

天:あ、あー、あー………………よし。

天:どうも、天鋸江です。今回は一つ手短に連絡を。

天:端的に言うと、元々この場所には『後書きRADIO 第7回目』があったんですけど、諸事情で消すことにしました。

天:この回では、感想をもらったことに関して、ちょっとだけ触れてたけれども………。これを記録している現在、感想は0なんです。

天:つまり、もう無くなっている感想について話しているものを、いつまでも残しておくのはどうなのかな、と思った次第です。

天:これから先、感想が届いた時は、なるべく目を通すようにしますが、返信については………………あまり期待しないでください………………。

天:以上、作者からの伝言です。次回もよろしくお願いします。


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小問10 αクラス、始動!

明久「えっと……ここだよね、近衛さんが言ってた場所って。」

 

 近衛さんから貰った地図を頼りに、昨日言われた場所にやってきたけど………………、目の前には、どこにでもありそうな一軒家があった。

 

明久「………………もしかして、ここ、近衛さんのお家?」

 

秋希「いや、違うけど。その想像力は他に活かせないの?」

 

 一言多いよ、って言いたいけど、ここで近衛さんの機嫌を損ねるのは良くない気がする。本当だったら、こんな面倒臭いことは無視して、ゲームをしていたいけど、そうしたら、結局近衛さんにどやされるのは目に見えてるし、下手したら、近衛さんが試召戦争に参加しなくなるなんてことも考えられる。そっちのほうがもっと嫌だ。

 

秋希「…………まあ、いいや。とりあえず……。」

 

?「(ガチャッ)………………そこで何をしている。」

 

 入ろうか。そう近衛さんが言おうとした瞬間扉が開いた。出てきたのは、近衛さんと身長がほとんど同じくらいの男。髪はボサボサで、たった今起きたばっかりみたいな表情で、僕らを睨みつけている。

 でも、僕はこの人と面識がある。去年、観察処分者になってから、よく関わるようになった、双眼零次だ。

 

秋希「ゴメン、零次。いろいろ準備とかで手間取ってた。」

 

零次「………………まあいい。で、明久。お前が、近衛の言っていた、強くなりたいっていう奴か?」

 

 近衛さん、一体どういう紹介の仕方をしたのさ。もしかして、試召戦争で勝つために、喧嘩の技術を学べってことなのかな?

 

零次「………明久。お前が俺を見て何を思っているかは、なんとなく分かるが、とりあえず、中に入ってくれ。たった今αクラスで勉強会を始めるところだったからな。」

 

明久「あ………………αクラス?」

 

 そんなクラス聞いたことないけど…………。けど今は、近衛さんも中に入ったことだし、僕もお邪魔させてもらおう、っと。

 

 

・・・

 

 

 αクラスの面々(+一名)が俺の家に集まり、各々自己紹介を終えた今、順調に勉強会は進んでいる。

 元々ここにいるメンバーは、近衛が連れてきた一名を除けば、全員Aクラスに入れる実力があるし、昨日新たに獲得した、俺を支持してくれる四人は、影山以外は皆、Aクラスの上位にいる奴らだ。これで勉強が捗らない訳がない。

 今日の勉強会では、2~3名のグループを作り、お互いに得意教科を他のメンバーに教えていくスタイルを取ってみた。

 αクラスのメンバーの得意分野は、近衛・久保・影山が文系で、佐藤はやや理系より。工藤と真倉は特に苦手と言えるべき教科はないが、工藤は保健体育が他と比べて突出している。

 そして、俺は理系なのだが、文系科目も特に苦手という訳ではない。というのも、近衛以外は誰も知らないだろうが、俺は、『1時間あれば、全ての科目で400点以上を確実に取ることができる』のだ。あの霧島でも達成できていない、『全科目腕輪持ち召喚獣』を俺は持っているという訳だ。

 この情報を基に、俺は今いるαクラス7名+明久を、『久保・佐藤・真倉』『工藤・影山』『俺・近衛・明久』にグループ分けした。

 

 そして俺達は、明久の現状を見るため、30分のテストを解かせたわけだが………………。

 

零次「……………………明久。」

 

明久「………………………………はい。」

 

零次「……………お前、姫路をAクラスに送りたいんじゃないのか?」

 

明久「…………………………そうですが。」

 

零次「……………………ハッキリ言おう。この点数じゃ無理だ。」

 

[科目:日本史(小学生レベル)]

吉井明久・・・27点

 

 俺が明久に解かせたのは、近衛が持ってきた小学生用の歴史の問題集………のミシン目で切り離しができるようになっている、最後のページに付いていた総復習テスト。振り分け試験で明久が最も点数が高い教科で、制限時間も30分程度とちょうどよかったし、明久も小学生レベルなんて余裕だと言っていたため解かせたのだが………………。まさか、半分も解けないとは。

 

秋希「吉井君、流石にふざけてない?名前を書き忘れて、0点取っちゃった☆とかなら、まだ許すけど、この点数見る限りだと………………。」

 

明久「如何にも…………僕の全力です………………。」

 

零次「正直でよろしい。」

 

 というか、こんな学力で、よく文月学園入れたな。多分、受験の数日、数週間前は、必死で勉強してたけど、それが長続きしなかっただけだろう。だからって、これは低すぎだが。

 

零次「とにかく、お前の今後の方針は決まった。基礎を徹底的に復習する。」

 

明久「そ、それはいいんだけど………………。」

 

零次「なんだ。もn………意見があるなら、言ってくれ。」

 

 最も、何を言ったとしても、取り合う気は無いが。 

 

明久「今、文句って言おうとしなかった?」 

 

零次「気のせいだろ。何もないようなら、さっさと始めるが。」

 

明久「いや、その……さっきから零次がいろいろ仕切っているけど、零次って頭いいの?」

 

秋希「あ。」

 

 …………………………………………………………………とりあえず一旦落ち着こう。勢いに任せて暴走するのは良くない。これでも俺はAクラス代表だ。それに、こうやって疑問形で聞いてくる分、豊嶋達よりかは随分マシだ方だろう。

 

零次「………………………まあ、それなりにな。必死で勉強したよ。お前の観察処分者の仕事を手伝ったのも、先生方に質問するついでだった訳だし。」

 

 観察処分者に課せられる雑用だが、全部が全部、召喚獣を使うようなものでもない。

 例えば、プリントを運ぶのなんて、召喚獣がいれば、人手が実質的に増えるとはいえ、操作を誤ってプリントをぶちまけてしまったら、その分、無駄な仕事が増えるわけだし、そういう事務的な雑用では、むしろ召喚獣の出番はほとんどない。

 逆に召喚獣が必要になる雑用って言ったら、校庭にあるゴールポストなどの重たい物の移動とか、危険物の処理とかか?まあ、後者は危険な仕事なわけだから、それを生徒に押し付けるような、最低な教師はいないとは思うが。

 

 そういう訳で、俺も少しはイメージアップをしようと考え、明久が観察処分者になってからは、一緒に雑用をしたり、隙あらばサボろうとするのを防ぐために監視したり、逃走した時は全力で明久を捕まえるために奔走した。最も、アイツが観察処分者になった原因の一端を、俺が持っているからというのもあるが。

 

明久「そ、そうだったんだ……………。なんかゴメン。」

 

零次「気にすんな。そうやって、疑問に思ったことを直ぐに、素直に聞けることは良い事だと思ってる。…………だが、その個性も、時と場合によっては、人を傷つけることになる。当たり前だが、喋り過ぎには気をつけろってことだ。」

 

明久「……そうだね。」

 

零次「さて、本題から逸れたが、さっさと勉強を始めるぞ。本当だったら、一分一秒も無駄にできないんだからな。」

 

 さあ、勉強開始だ。………………一番勉強すべき人間がやる気ではないが。

 

 

・・・

 

 

 あの後明久は、『勉強なんて嫌いだ』とか『難しすぎる』など、弱音を吐きつつも、俺達の協力のもと、問題を解き続けた。

 Fクラスは今日は、Dクラス戦で消耗した点数を補充すべく、一日中テストを受けていたそうだ。部活動の時間になり、皆が帰る頃に、担任の福原先生が課題としてプリントを1枚渡してきたようで、そのプリントをさっさと片付けることにしたのだ。

 けど、コレ無事に先生の所に渡るだろうか………………?近衛の情報だと、明久は課題をまともに提出しないし、提出したとしても珍解答のオンパレードらしいし、そんな生徒がいきなりちゃんとした課題を提出してきたら、誰かの(姫路か近衛でおおよそ確定だろうが)解答を写してきたと思われるだろうな………。

 

 時計が19:00を示すあたりになって、αクラスは一応解散となった。今俺の家にいるのは、まだ課題が終わっていない明久と、絶賛爆睡中の真倉、それから明久と共に料理を作っている近衛だ。

 普通この場面だと、俺が明久たちに晩御飯を振舞うところだが、残念ながら俺は料理があまり得意でない。できないこともないが、俺にとって食事は『見た目を度外視してでも食べれればいい』という発想だから、人に食べさせる代物ではないんだよな………………、近衛を除いてだが。

 ………………とりあえず、真倉を起こすか。

 

零次「………………起きろ、真倉。」

 

ねるの「…………ふあ………………。あ、また寝ちゃってました?」

 

零次「ああ。久保が言うには、朝まで起きないくらいに熟睡してたそうだ。」

 

ねるの「うう~……………。それはごめんなさいっしゅ。」

 

零次「まあ、体質なんだし、ある程度は仕方ないだろう。昔よりかは改善してるんだろ?」

 

ねるの「そうでしゅね。小学生の頃の自分なら、ホント、朝までグッスリだったっしゅよ。」

 

 そういいながら、まだ覚めきってない目をこすりつつ、真倉は机から顔を上げた。

 

 真倉ねるの。久保達より早く、αクラスとして活動したメンバーで、確かCクラス所属だったはず。常に眠そうな表情をしていて、所々舌足らずな喋り方をするのが特徴の女の子だ。

 彼女との話から推察できる奴もいると思うが、コイツはとにかくよく寝る奴だ。本人曰くそういう病気、というか体質らしく、少しづつ薬などで回復してはいるものの、ちょっとでも油断すると、いつの間にか寝ていた、なんてことが多々あるとか。進級してからこの2日間で、既に計4~5回はやらかしてしまったとか。Cクラス入りしたのも、テストの途中で寝落ちしてしまったからで、本来の学力はAクラスの中堅、21~30位くらいだ。

 

零次「ところで真倉、お前、ご飯は食べていくか?」

 

真倉「はい。今日、両親は帰りが遅いっしゅから。」

 

 この後、近衛たちと共に4人でご飯を食べて、明久の勉強を見ながら自分達の勉強を進めていった。今日食べたご飯は、いつもより美味しく感じたが、友達と食べたからか、それとも、作り手が良かったのか………………。

 時計が21:00を示す頃、3人も無事解散という流れになった。女子二人を送り出すには心配になる時間だが、近衛に関しては何の問題もないだろう。

 

 ………………さて、ここからが俺の勉強の本番だ。家に鍵をかけて、先程まで使っていた勉強道具を持って2階に移動。今日は、折角明久に日本史を教えていたのだから、それを中心に勉強していくか。そう思い、日本史の参考書を手に取り、ノートに解答を書き込んでいった。

 

 次の日近衛から聞いたことだが、明久は課題を提出したはいいものの、俺の予想通り、課題があまりにもうまく出来過ぎてたため、西村先生に疑われ、自分の力でやり遂げたことを説明するのに10分かかったそうだ。

 



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小問11(1) Cクラスの代表が勝負をしかけてきた! 

 進級から3日目。この時点でAクラスに大きく分けて3つのグループが形成されつつあることが分かってきた。これも、近衛や久保、霧島に木下達のおかげというべきか。

 

 まず一つ目が、俺と、俺が代表であることを不満に思ってない生徒のグループ。

 二つ目に霧島と、どちらかといえば霧島の方が代表にふさわしいと思っている生徒のグループ。

 そして最後に、断固として俺を代表と認めないグループ。もっと言えば、俺をAクラスの一員とも思わず、下手すれば、観察処分者以上に、この学校から俺を追い出したいと思っているグループ。

 簡単に纏めると、順に代表支持派、霧島支持派、代表排斥派と言ったところか?

 

 その中でも最も多いのは当然、霧島支持派の生徒だ。実際、霧島は寡黙ではあるが、暗い性格という訳ではないし、何より俺には到底理解できない美しさであったり、人を惹き付ける魅力がある。本人自身もよくクラスの纏め役を引き受けてたらしいし…………。その他にも様々な要因があるが、同じ学年の生徒は勿論、先輩や今年入って来たばかりの後輩ですら憧れる生徒として真っ先に名前が浮かぶ、それが『霧島翔子』という人間だろう。

 

 その霧島支持派の中でも、代表排斥派の生徒は特に過激な集団だということも分かった。メンバーは、梶恋太(かじれんた)西京葉玖(さいきょうはく)豊嶋圭吾(とよしまけいご)横沢芽衣(よこさわめい)。男子2名、女子2名の計4人だ。

 梶と豊嶋は共に霧島に告白したもののフラれ、逆恨み同然に霧島と、彼女が好きな人物に迷惑をかけた。

 横沢は、霧島や近衛ほどではないものの、どっかの大企業の社長の一人娘らしく、それを理由によく他人を見下していた。

 西京は性格が真面目すぎて、自分が信じていることを何がなんでも貫こうとして、周りの生徒に迷惑をかけまくった。

 それでも彼らの言動が先生方の間であまり問題視されてないのは、彼等が表向き優等生であることと、明久達のような問題児の行動が目立っているからだろうか………。まあ、あまり考えてもしょうがないか。

 

 さて、Aクラスの現状を説明し終えたところで、本題に入ろう。簡潔に言うと、またFクラスが試召戦争を仕掛けた。今度はBクラス相手にだ。

 

「FクラスがBクラスに………………。」

 

「流石に無謀じゃないの?」

 

「つーかアイツら、Dクラスに勝ったからって調子乗ってるんじゃねーか?」

 

「私たちの授業時間が減るじゃない!」

 

 こんな感じで、多くのクラスメイトは慌てていたり、憤慨してたりしたが、俺からしてみれば、この程度は予想の範疇だ。多くの生徒・先生がFクラスにいると思っている明久や坂本がDクラスに勝った程度で止まる訳がない。霧島も、Aクラスに必ず挑みに来ると思っているようだし。

 ま、何があろうと、俺達は豊嶋達の行動に警戒しつつ、挑みに来る奴らを誰であろうと迎え討つ。それだけだ。

 

 

・・・

 

 

?「私達CクラスはAクラスに試召戦争を仕掛けるわ!!」

 

 翌日。まさか、Cクラスが、しかも代表の小山友香が直接来るとはな………。と言っても、Eクラスは大半が体育会系の生徒で試召戦争など興味無さげだし、Dクラスは、Fクラスに敗北したことで、3ヶ月間は宣戦布告が禁止されている。そして、FクラスとBクラスは今も戦争中。Cクラスだけ、動かない理由も動けない理由もない訳だ。

 

友香「木下優子!よくも私達を豚呼ばわりしてくれたわね!貴方だけは絶対に許さないわ!」

 

優子「え!?な、何のことよ!」

 

友香「とぼけても無駄よ!さっき、散々私達のこと侮辱しておいて、ただで済むと思わないことね!」

 

 ………………ちょっと待て。『さっき』だと?木下は俺が教室に着いた時には、既に自分の席で本を読んでいた。ブックカバーをしていたから、何の本なのかは分からなかったが。最も、他人の読み物に興味などないけどな。話を戻そう。その木下は、俺が教室にいる間ずっと本を読んでいたり、予習をしていたりと、教室を一度たりとも離れていなかった。つまり、彼女が『さっき』Cクラスに行って小山達を挑発してくる、といった一連の行動自体が不可能という訳だ。

 

優子「私はそんな事してないわよ!」

 

友香「じゃあ、誰だって言うのよ!Cクラス全員がはっきりアンタだって言ってるのよ!」

 

 では、木下以外で、こんなことができる奴は一体誰なんだ?その何者かを木下と誤認しているということは、それだけその人物の見た目が木下とそっくりだと考えられる。俺は、その人物に心当たりがある。木下も、こうして話している内に『彼』の存在に気付き始めるはずだ。Cクラス代表と関係のある人物を考えれば、『彼』が行動を起こす理由も出来上がる。

 

優子「そ、それは………………………。」

 

友香「あら?何も言えないの?だったらアンタしかいないじゃないの!」

 

 ただ、木下がそれを話すことは、ほぼ不可能なんだよなぁ………………。何故なら、その人物は、木下の双子の弟。そう、木下秀吉だからだ。いくら姉弟であり、学力に天と地ほどの差があるとはいえ、他人のせいにするのは、彼女の優等生としての信頼を損なうことになり得る。それに、小山は完全に木下だと決めつけて、こっちの話を聞いてくれそうもないしな……。

 

友香「とにかく!開戦は午後からにするわ!首を洗って待ってなさい!」

 

 結局、一方的に言うことだけ言って、帰っていったな………………。

 

 

・・・

 

 

優子「だから、私は知らないって!」

 

「でも、あの怒りようは、ただ事じゃないって。」

 

「木下さん、本当に身に覚えがないの?」

 

優子「無いわよ。そもそも、私はずっと教室にいたわけだし。」

 

 さて、どうしたものか。と言っても、皆疑うには疑うけど、ちゃんと木下の話は聞いてるわけだしな。霧島ほどではなくても、彼女には優等生としての人望がある訳だし、このまま放っておいても良さそうだ。

 

「ハッ、そんな見え透いた嘘、誰が信じると思ってんだよ!」

 

「前からずっと思ってたけど、優等生だからって調子に乗るんじゃ無いわよ!」

 

「正直に認めてください!そして、皆に謝ってください!」

 

 豊嶋達が出しゃばらなければな。全く、さっきまでの雰囲気が台無しだ。かと言って、ここで俺や霧島が割って入っても、焼け石に水だろうし……………………………。

 そんな事を考えていたら、メールが届いた。差出人は………………近衛?で、内容は………………………………なるほどな。それなら、早めに行動を起こすか。手短にメールを返信し、教室を出る。

 

翔子「……零次、どこへ行くの?」

 

 霧島に呼び止められた。適当な嘘も思いつかないし、正直に話すか。

 

零次「ちょっと、近衛に呼ばれてな。一旦席を外させてもらう。」

 

翔子「……優子のことはどうするの?」

 

零次「近衛の呼び出しは、ちょうど今の状況についてだ。木下の事は、去年からの友達であるお前に任せる。それと、試召戦争についてもな。俺にも作戦があるにはあるが、それを実行すると、試召『戦争』ではなく、ただの『殲滅』になってしまいそうでな………………。それでも良いなら、その作戦、通称『プラン0』を実行するが。」

 

翔子「……………………考えておく。」

 

 その言葉に、了解と呟き、近衛との待ち合わせ場所である、補習室へ向かった。

 

 

・・・

 

 

翔子「……零次。Aクラスの皆をグループ分けしておいた。」

 

 現在、3時限目の古典…………の自習中。俺は、霧島から渡された試召戦争のプランに目を通している。当然、自習課題など開始20分で終わらせた。その時には、霧島は既に終わらせていたような感じだった。

 

零次「………………………………なるほど。良いんじゃねぇの?」

 

 そう口では言うが、基本的に俺は、試召戦争みたいな『団体』対『団体』の戦いに関しての知識は全くない。そもそも俺にとって『戦い』というのは『一人の人間を集団リンチすること』、簡単に言えば『俺』対『団体』だ。

 ま、初めての試召戦争と言えど、こっちはAクラス。学年トップの頭脳集団だ。点数がモノをいう試召戦争なら、余程のことが無い限り、負けることは、まず無い。

 

 余程のことが無ければ………………な。

 

零次「とりあえず、俺も大まかな指揮はするが、基本的に霧島が皆に指示を出してくれ。」

 

 どうせ、俺の指揮なんぞ、αクラス以外は聞かなそうだし。

 

翔子「……分かった。」

 

零次「それじゃ、よろしく頼むぞ。」

 

 後は試召戦争の時を待つだけだ。

 

 

・・・

 

 

 時刻は13:00。文月学園某所に数名の生徒が集まっていた。

 

?「…………さて、この昼休みが過ぎればAクラスとCクラスの試召戦争が始まる。」

 

 その言葉に他の生徒が頷く。

 

?「それに関してだが、お前たちにある任務を課す。かなり無茶な課題だが、必ず遂行しろ。」

 

?「分かったよ………。一体どんな任務だい?」

 

?「それはだな…………………………………。」

 

 彼が課した任務。それは、そこにいた生徒全員を動揺させた。

 

?「ま、かなりキツイ任務だということは、俺も分かってる。だが、だからこそ、達成に向け努力してくれ。」

 

 その後も、彼はその任務について話していった。

 

 そうして………………時刻は13:25を示そうとしていた。試召戦争の時は刻々と迫ってきていた。




~後書きRADIO~
零次「さ、後書きRADIO、第8回目。」

秋希「始めるよ~?」

円「今回は、私がゲスト。」

零次「………………いや、誰だ?」

秋希「まあ、零次は彼女と、接点が今のところないから仕方ないか。私と同じFクラスのオリキャラ、根民円さんです。」

円「よろしく。」

零次「そういえばいたな……………。とにかく、解説に移るか。」

秋希「今回の話はAクラスがCクラスと戦争する前の話だね。木下さん、あなたの弟が迷惑かけて、ごめんなさいね。」

零次「別に構わんさ。そっちの事情は大体分かってるし、仮にFクラスが動かなかったら、俺が直接Cクラス出向いてたさ。あの代表の事だから、適当に煽れば、試召戦争は確実にできるだろう。………………むしろその方が、嫌われてる俺にヘイトが集まるから、傷が浅いのか?」

円「どれだけ嫌われてるの。」

秋希「一応補足すると、私が零次に送ったメールの内容は、その事に対する謝罪と、ついでにFクラスの現状報告だね。メールでも謝ったけど、こういうことは、やっぱり直接話すべきだと思ったんだよね。…………一番の理想は、木下さんに直接謝ることだけど。」

零次「残念ながら、その時木下はかなり動揺していて、まともに行動できそうになかったぞ。俺が戻った時には一応落ち着いてたが、豊嶋達のせいで若干上の空だったし。」

秋希「………………試召戦争までには回復するよね?」

零次「大丈夫だろ。木下については、俺はあまり知らないが、そんなにメンタルは弱くなかったはずだ。」

円「………そう。それより、気になるのは最後のアレ………………。」

零次「それについては黙秘だ。詳しい内容は、次回だ。折角だし、予想してみるのもいいかもな。」

秋希「それじゃ、今回はここまでだね。という訳で………………。」

「「「次回もよろしくお願いします!!」」」


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小問11(2) 決戦!!Cクラス

 時刻は13:25。試召戦争5分前だ。霧島がクラスメイトを鼓舞しているところだ。実際は、作戦の最終確認と、簡単な応援な訳だが、言ってることは間違ってないだろう。

 霧島の考えた作戦はいたってシンプル。点数差で押しきる、ただそれだけ。だが、全員で突撃するようなバカな真似はしない。霧島はクラスメイトを4つのグループに分けた。

 文系主体で戦う、豊嶋率いる『文系部隊』。

 理系主体で戦う、梶・西京率いる『理系部隊』。

 この二つを補佐する、横沢率いる『補充部隊』。

 そして俺や霧島を守る、木下率いる『近衛部隊』だ。

 

 Cクラスは全体で見れば、文理のバランスが取れたクラスだが、理系の生徒が若干多い。そういう訳で、Cクラスに近い側に文系部隊、その後方に(無いとは思うが)奇襲対策に理系部隊を配置。霧島がなるべく隙のないようにメンバー構成を考え、そこに俺がαクラスのメンバーを適材適所でぶち込んだ。

 ちなみに代表排斥派の連中が前線の各部隊長を務めているのは、それなりに学力があるからでもある。

 そしてもう一つ霧島を介して、Aクラス全体にこう伝えた。『代表が霧島であるという体で立ち回れ。』と。

 おそらく、あの代表の事だ。周りの意見などに耳を傾けず、感情的になって作戦を組んでくる。そうでなくても、俺が代表であることを知ってるCクラスの生徒は、小山と仲の悪い真倉だけ。Aクラスの連中でも認めたくない現実だし、そもそも試召戦争を想定して情報収集している奴など、Fクラスの坂本、土屋、近衛だけだろう。これを利用し、相手の不意を突く。

 

 ま、そんなこんなで、もうすぐ13:30、試召戦争開始の時間だ。一体、どんな勝負となるだろうか。俺の予想では、かなり混沌とした戦争になるだろうな。理由は………………その時になれば分かることだ。

 

 

・・・

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 13:30。5時限目の授業開始を知らせる鐘の音と共に、『僕』達の試召戦争も始まった。僕が零次の指示で配属されたのは、豊嶋君が部隊長を務めている文系部隊だ。正直、零次の事を馬鹿にする人の指示なんて聞きたくないけど………………、零次からの『任務』を遂行するにあたって、この状況は僕にとって都合がよかった。後は、その『任務』をどのタイミングで実行するかだけだ。

 

「うおおおおお!Aクラスがなんだーっ!!!」

 

「立ちふさがる敵は誰だろうとブッ倒せぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「サーチアンドデェェェス!!!」

 

 随分と物騒な掛け声だね。数は………………いや、待って。ぱっと見でも20人以上いるんですけど。対してこっちは10人。点数じゃ勝てないから数で押すつもりなのだろうか。

 

「おい、待て。久保がいるじゃねぇか!」

 

「え!?久保君が!?」

 

「クソッ、こんな所で俺は死ぬのか…………?」

 

 そして、僕を見た途端に慌てだす。確かに、学年上位常連だけど、過剰反応じゃないかい?

 

「ハッ、今頃気付いたのか?大体、Cクラスの凡人風情が、エリートのAクラスに敵う訳ないだろが!久保、さっさとやっちまえ!」

 

 ………………そうだね、さっさとやろうか。

 

「…………おい、聞いてんのか?」  

 

利光「もちろん、聞いているさ。………………Aクラス久保利光。」

 

 そうだ。折角だから、やってみようか。零次が大きなイベントを実行するときのルーティンを。

 

利光「豊嶋圭吾、君に勝負を挑むよ。」

 

 心の中で呟く。『さあ、行動開始だ。』と。

 

 

・・・

 

 

「で、伝令!文系部隊、久保がCクラスに寝返りました!」

 

優子「な、なんですって!?」

 

 その報せが届いたのは、試召戦争を開始して5~6分くらいした頃。俺の予想よりも早く行動を起こしたか。

 

翔子「……一体、何が………………。とにかく、理系部隊に伝えて。補充部隊数名と合流して、久保に注意しつつ、Cクラスに……。」

 

「伝令!理系部隊の佐藤………………えっと、さ、佐藤美穂が味方陣営を攻撃してます!至急応援を………。」

 

優子「ちょっと、美穂も!?一体、どうなってるのよ!?」

 

 いい具合に混乱してるな。そんな中、霧島だけは考え込んでいる。………………流石に気付いたか?

 

翔子「………久保も美穂も、零次のグループに参加している生徒。……まさかと思うけど、零次、この一連の行為は、あなたが指示したもの。………………違う?」

 

 ………………やはりバレたか。霧島の推理に、周囲の生徒はざわつく。

 

零次「………………………クックック。ご名答だ。流石、学年主席だ。………と、今は学年次席か。」

 

 頭の上で手を叩き、霧島の洞察力を褒める。同時に周りの奴らに怒りが見てとれる。

 

「どういうつもりだ、代表!」

 

「私達、味方でしょ?」

 

優子「久保君達に味方を攻撃させるなんて…………。双眼、アンタ一体、何を考えてるの!?」

 

 ………………おかしいな。どいつもこいつも、現実と矛盾したことを言ってやがる。

 

零次「………………………………お前ら、一つ聞いていいか?」

 

「な………………、何だよ。」

 

零次「一体いつから………………、俺は『お前らの』代表になったんだ?」

 

 さあ、行動開始だ。



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小問11(3) αクラスの作戦

 遡ること13:00。文月学園校舎裏に俺達αクラスは集まった。

 

零次「…………さて、この昼休みが過ぎればAクラスとCクラスの試召戦争が始まる。」

 

 俺の言葉に全員が頷いた。

 

零次「それに関してだが、お前たちにある任務を課す。かなり無茶な課題だが、必ず遂行しろ。」

 

利光「分かったよ、代表。一体どんな任務だい?」

 

零次「それはだな、Aクラスを殲滅することだ。」

 

 先程頷いてくれた彼らも、この言葉には驚きを隠せなかったようだ。それもそうだろう。俺にとってAクラスは、同じ教室にいるとはいえ、『敵』という認識だが、彼らにとってはAクラスの奴らがどう思おうが、同じ教室で学園生活を過ごす以上、『味方』という認識でいるのだから。 

 

零次「ま、かなりキツイ任務だということは、俺も分かってる。だが、だからこそ、達成に向け努力してくれ。」

 

美穂「だ、代表。本気ですか?」

 

零次「当然だ。そうでなきゃ、こんな事話すわけないだろ。それに、この顔が冗談を言う顔か?」

 

幽也「そう…………は…………見えない…………けど………………。」

 

利光「零次って、あんまり表情変わらないよね?」

 

零次「ま、まあ、そうだが………………。」

 

 近衛からはたまに言われるけど、そういう自覚は全く無いんだよな………………。大体普通は、そんなに人の顔など注視することもないし。

 

零次「って、俺のことは今はどうだって良いんだ。正直、お前達が今回の任務に抵抗があるなら、それはそれで良いんだよ。………………俺一人でやるだけだからな。」

 

 その言葉に、全員がさっきと同じ反応を示した。ま、45人対1人だなんて、さっきより無理難題言ってるわけだからな。ただ、そこですぐに嘲笑しなかったところは、褒めるべきところか?

 

利光「零次、それこそ無理があるんじゃないかい?」

 

零次「久保、俺は不可能なことは言わないぞ。それにお前だって、条件が揃えばクラスの殲滅………は出来なくても、一部隊の壊滅ぐらいは出来るはずだと、俺は思ってるが。他にはここにいる奴じゃ、工藤も出来なくはないか。」

 

美穂「えっと………………。どうして久保君と愛子ちゃんも?」

 

 分からないのか?と思ったが、よくよく考えたら、他人の成績なんて、あまり意識しないもんな。去年のテストの結果だって、上位の生徒の名前は分かっても、点数までは書かれてなかったし……………。

 

幽也「…………………………………あ、分かった……………かも。」

 

「「「ええ!?」」」

 

幽也「……………多分………………召喚獣…………の…………腕輪………………のことだと思う。………………点数は………消費するけど………その…………能力は………………………絶大だと…………聞いたこと……が………あるから…………。」

 

零次「……………ま、そういうことだ。」

 

 まさか、俺の考えをドンピシャで当ててくるとは…………………。流石影山と言うべきか?久保達も開いた口が塞がらないようだった。

 

零次「霧島には、各部隊に一人以上教師を立会いとして呼んでもらうよう、既に頼んでいる。あとは隙を見て、各自所属部隊を、特に各部隊長を務める豊嶋・梶・横沢は優先的に叩け。」

 

利光「OK。分かったよ、零次。」

 

 真っ先に声をあげたのは久保だった。コイツの所属は文系部隊。部隊長の豊嶋とは仲が悪かったからな…………。チャンスだと思ったのだろう。

 

零次「それじゃ、任務の再確認だ。最低目標は各部隊の部隊長である豊嶋・梶・横沢の撃破。最大目標は各部隊のAクラス生徒の全滅。作戦開始の合図は、そうだな………………、久保、お前が豊嶋に勝負を挑んだ時でいいか?」

 

利光「問題ないよ。僕がいる部隊が一番最初にCクラスと戦うことになるんだ。むしろ、こっちからお願いしようと思っていたさ。」

 

零次「そうか。なら、それを合図に、各自判断し、任務を遂行してくれ。」

 

 随分と抽象的で曖昧な指示だというのは目を瞑ってくれ。俺だってこれでいいとは思っちゃいないが、試召戦争になったら、もう意思疎通が出来なくなるも同然なのだから。文月学園第二学年の中でも、トップクラスの学力を持つ彼らが、その場の状況を見て、即行動してくれた方がよっぽど効率がいい。

 ………………………『それならば、Aクラスから何名かαクラスに引き入れればいい。』なんて考えはないからな?俺は一度敵になった奴は、二度と信用しない。そうやって、掌返す奴は、どうせすぐに裏切る。そう思ってるからな。

 

美穂「分かりました。その任務、必ずや成し遂げてみせます!」

 

愛子「う~ん……。ボクはあんまり自信ないけど……、頑張ってみせるよ。」

 

幽也「………………。(コクッ)………了………………………解………………。」

 

 時計は13:08くらいになっていた。後は、時間の許す限り話をして昼休みを過ごしたのだった。



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小問11(4) 終戦Cクラス

 これが今の混乱に繋がっている訳だ。Aクラスでもトップクラスのメンバーが、揃って本来味方であるはずのクラスメイトを攻撃してきたのだ。一応ここまでは計画通り。後は、この状態がどのくらい続くかだ。

 

「な、どういうことだよ!?」

 

零次「忘れたか?俺は進級初日にAクラスを二つのグループに分けた。あの時お前達は代表に誰を選んだ?そこで霧島を代表に選んだ時点で、俺達にとっては、お前達はCクラス同様『敵』なのだよ。」

 

 実のところ、霧島を副代表に任命すること自体は、既に決定事項だった。本来の計画なら、霧島には俺のサポートをしてもらい、俺がAクラスに馴染めるよう、架け橋になってもらうつもりだった。だが、実際のAクラスの印象は最悪。初日の少ないやり取りで、そう思えてしまうほどだった。ま、久保が俺を庇ってくれたお陰で、霧島を副代表に置くことで、俺を代表として認めない『敵』と、そうでない『味方』を区別する方法をとった訳だが。

 

「何言ってるのよ!?私達はAクラスでしょ!?なんで敵扱いされなきゃいけないのよ!!ふざけないでよ!」

 

 他の近衛部隊の奴らも、そうだそうだと、声を荒げる。

 

零次「ふざけるな?それはこっちのセリフだ。人の事で散々陰口叩いて罵倒して、今度はその事を棚にあげておいて、代表らしくしろだと?仮にお前達が代表だったら、そんな奴の頼みを聞くのか?」

 

 その質問に答える奴はいなかった。ま、この質問に『YES』を返す奴は、とんでもないお人好しか、ただのバカだけだろう。

 

零次「お前達が俺にやってきたのは、そういう事だ。そりゃあ、先生方だって対応に困っただろうよ。問題児が秀才を押し退けて学年トップになったんだから。けどな、それでも俺が、このAクラスで代表をしている。これが何を意味するか分かるか?」

 

 俺は一呼吸おいて、堂々と言い放った。

 

零次「俺が!文月学園の第二学年で!一番頭がいいということ!それを先生方が認めてくれたということだ!そしてこれは、決して不正したわけでも、脅迫まがいの事をしたわけでもない!正真正銘俺の実力だ。」

 

高橋「双眼君の言う通りです。彼は不正などをしていません。それに、彼の去年の学校での態度は、成績が低いことを除けば、模範的なものでした。そんな彼は、Aクラスの代表になれる程の点数を取るために、かなりの努力をしてきたのだと、私はそう思っています。」

 

 近衛部隊の勝負のために呼んでいた高橋先生からも、後押しが入った。流石に学年主任の先生に言われたら、ぐうの音も出ないか。

 

零次「……さてと。久保達が折角頑張ってくれたんだ。お前達も色々考えているだろうが………………。そういう事は補習室でゆっくり考えてもらおうか。」

 

 高橋先生に古典のフィールドを展開してもらって、俺や霧島、それから木下以外の近衛部隊の計9名が召喚獣を繰り出す。

 

[フィールド:古典]

2-A 双眼零次・・・403点

 

2-A 霧島翔子・・・402点

 

他2-A生徒7名・・・平均297点

 

 …………流石、霧島が近衛部隊に選んだメンバーだ。それなりの点数はあるようだ。

 

「嘘………………。霧島さんより、1点だけだけど、点数が、上なの……………?」

 

「だ、だけど、8対1なんだ。数で押せば、倒せる!」

 

零次「なるほどな……………。ところで、木下は参加しないのか?」

 

優子「ええ。小山さんとは直接戦うためにも、点数は温存しておきたいし……………。あなたと敵対する理由もない訳だし……………。」

 

零次「まあいい。今回は見逃そう。そこで、仲間が手も足も出ずに負ける姿でも見ているんだな。」

 

 さあ、行動開始だ。

 

 

・・・

 

 

友香「あら、随分と人が少ないのね。なんかAクラスに一部の生徒が裏切りを働いたみたいだけど……………。試召戦争中にそんなことしてるなんて、随分と余裕なのね。」

 

 あれからCクラスの代表である小山がこの教室に来るまでに、そこまで時間はかからなかった。おそらく、教室から数多くの生徒が戦死して、補習を担当する西村先生に連行されていくところを見て、好機だと思ったのだろう。

 

[フィールド:古典]

2-A 双眼零次・・・403点→3点

 

2-A 霧島翔子・・・402点→3点

 

2-A 木下優子・・・387点→戦死

 

他2-A生徒7名(近衛部隊)・・・戦死

 

他2-A生徒12名(他の部隊)・・・戦死

 

 それに、見ての通り、俺も霧島も満身創痍だ。途中から、生き残った他の部隊が霧島に加勢しようとしたが、俺が得意とするのは、多対一の戦いだ。それに、俺は処暑中学でそれなりに喧嘩をしてきたんだ。それを召喚獣に正確に行なわせる技術も手に入れた。つまり、アイツらに勝ち目などないのだ。

 

友香「それにしても、木下優子はどこ行ったのかしら?」

 

翔子「…………優子なら、さっき戦死した。残っていても、あまり意味ないと思ったから」

 

友香「へぇ……意外と薄情な面もあったものね。まあ、ちょうどいいわ。霧島翔子、今ここでアンタに引導を渡してやるわ!」

 

「「「試獣召喚≪サモン≫!!」」」

 

 Cクラスの生徒、代表込みで9名が、一斉に召喚獣を繰り出す。パッと見た限りでは、ある者は剣、またある者はハンマー、多種多様な武器を持っていた。そんな召喚獣達が一斉に俺達に襲い掛かる………………………。

 

[フィールド:古典]

2-A 双眼零次・・・3点

 

2-A 霧島翔子・・・3点

 

VS

 

2-C 小山友香・・・187点→pass→3点

 

2-C 榎田克彦・・・132点→failure

 

2-C 神戸慎 ・・・167点→failure

 

2-C 新沼京子・・・155点→failure

 

他2-C生徒5名・・・平均144点→failure

 

 ………………なんてこともなく、小山を残し、Cクラス全員の召喚獣は霧散した。

 

友香「………………はあっ!?一体どうなってるのよ!?」

 

翔子「……これが、『代表』の腕輪の力。……条件を満たしていない召喚獣を、問答無用で戦死させる。」

 

 そう。これがAクラス生徒が、大量に戦死した本当の理由だ。いくら優秀な生徒の集まりであるAクラスと言えど、腕輪が指定した条件を満たす奴は、少なくとも俺が戦った奴らの中にはいなかったということだ。

 

友香「何よそれ!そんなの反則じゃない!」

 

翔子「………だけど、この腕輪の能力を発動させるには、点数を400点消費する必要がある。使ったらほとんど瀕死に近い状態になるから、あなたみたいに、生き残られたら、ピンチなのはこっちの方。」

 

友香「………………それもそうね。だったら、ここでアンタを討ち取って私達の勝ちよ!」

 

 その言葉と共に、小山の召喚獣と霧島の召喚獣は動き出した。和風な鎧に刀と、互いに似た装備。武器を振るタイミングもはぼ同時。その結果……………。

 

[フィールド:古典]

2-A 双眼零次・・・3点

 

2-A 霧島翔子・・・3点→戦死

 

VS

 

2-C 小山友香・・・3点→戦死

 

 小山と霧島の対決は引き分けに終わった。

 

友香「ハァ………勝てなかったか。でも、引き分けに終わったし、これはこれで……………。」

 

翔子「………小山。私は代表じゃない。」

 

友香「………………は?」

 

 そう。霧島を倒したところで、この戦争は終わらないのだ。

 

翔子「……私は、あの振り分け試験で学年主席の座を降りた。これからは……………。」

 

零次「お前らが今まで見下し、忌み嫌い、罵倒し、罪を擦り付け続けた、俺が王座に居座り続ける時代だ。」

 

 その言葉と共に、立ち会いをしていた高橋先生が、俺達の勝利を無情にも小山に叩きつけた。




~後書きRADIO~
零次「さて、こちらの試召戦争が一区切りついたところで、後書きRADIOの時間だ。」

秋希「今回で9回目だっけ?あと一回で大台の10回目かぁ。」

零次「特に感慨深いものもないがな。」

秋希「それもそうだね。あ、ちなみに今回はゲストはいません。」

零次「と、いう訳で、互いに試召戦争の振り返りと行こうか。」

秋希「と言っても、私の方はほぼ原作通りだよ?違うところと言ったら、昨日円さんと島田さんの間で、ひと悶着あったくらいかな?」

零次「………………どういうシーンか、すぐに想像つくな。島田がまた暴力ふるって、それを根民が止めにかかった。そんなところだろう?で、根民が動くってことは明久関連か。」

秋希「うん。ザックリ説明すると……………。」

1.島田さんがBクラスに人質に取られる。
2.吉井君がその島田さんを偽物扱いする。
3.なんやかんやで島田さんを解放するも、吉井君はまだ疑う。
4.『吉井君が姫路さんのパンツを見て鼻血が止まらなくなった』と言う島田さんの発言で、やっと誤解が解ける。
5.吉井君が『最初から気づいてた』的な発言をして、島田さんに殴り飛ばされる。
6.その瞬間に、円さんが止めに入る。

秋希「………こんな感じかな?」

零次「………………………………アイツは馬鹿か?」

秋希「そりゃあ、Fクラスだから?」

零次「……………………………………本当は色々物申したいが、話が長くなりそうだから、後でその辺について話し合おうか。」

秋希「はいはい。…………で、今日のことは零次も知っての通り、秀吉君が木下さんのふりをして、Cクラスを挑発。その結果が今回のAクラス対Cクラスってわけね。」

零次「そうだ。………………そういや、Bクラスの代表は根本だが、特に何もなかったか?」

秋希「問題ないよ?去年のうちに協定、というか買収?………それに近いことをしてたから。」

零次「……お前、裏でそんなことしてたのか……………。あの、卑怯者とねぇ……………。」

秋希「………………それ、他人の評価で人となりを決めつけるなって、思ってる君が言う?」

零次「………………………………それもそうだな。悪い。」

秋希「それじゃ、時間もいい感じだし、終わろうか。次の後書きRADIOで零次サイドの戦争のまとめをしようか。」

零次「そうだな。それじゃ次回は、FクラスがAクラスに宣戦布告する回だ。もしかしたら次々回かもしれないが。」

秋希「それじゃ……………。」

「「次回もよろしくお願いします!」」



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小問12 神童の苦悩

 Bクラスとの戦争が終わり数日後。土日の休日を挟み、いつも通り教室にやって来たけど……………。

 

秋希「おっはよ~。……………あれ?坂本君どうしたの?」

 

雄二「ああ、近衛か。……………いや、なんというかな……………。」

 

 そこにいたのは、我らがFクラスの代表である坂本君。何やら、ノートを目の前にして難しい顔をしている。神童と呼ばれていた頃の彼だったら、不自然さは感じなかったけど、そんな面影が一切感じられなくなった今では、そんな姿に珍しさを覚える。

 

雄二「近衛、お前から双眼の事を聞いてから、ずっと頭の隅で危惧していた事が起きたんだ。アイツが……………双眼がAクラスの代表という、な。」

 

 ……………ああ、そう言えばそんなこと言ったね。多分一昨日くらいに。

 

雄二「……………それで、色々考えたんだ。Aクラスに、双眼に勝つための作戦をな。」

 

秋希「…………………………なら、それを実行すればいいんじゃない?わざわざ事前に私に話す必要はないと思うけど?」

 

雄二「………お前、知ってて言ってるだろ。その作戦が全部パァになった。本当だったら、アイツも言っていたAクラスの反抗派閥?のリーダーに協力を持ちかけて、双眼を追い詰めたり、DクラスやBクラスを巻き込んで人数差にものを言わせてAクラスを倒したりと、したかったんだが……………。」

 

秋希「……………………………なんというか、作戦と言えるけど、根本君のことを馬鹿にできないくらい、随分と卑怯な作戦だよね。」

 

 そんな作戦、提示されたら、Dクラスの平賀君はともかく、Bクラスの根本君は『人のこと言えないじゃないか!』とか言いそうだ……………。いや、多分言えないか。あんな目に遭わされちゃ。

 

雄二「卑怯汚いは敗者の戯言だ。俺達がやってるのは試召『戦争』だろ?どんな手を使おうが、勝った方が正義だ、そうだろ?」

 

秋希「間違いではないね。」

 

 根本君だって、勝つために必死に策を練ったに違いないんだよね。ただ、彼の場合は、その策で反感をあまりにも買い過ぎた。それだけだ。

 

雄二「………………話を戻すぞ。そんな感じで色々作戦は考えたし、それなりに勉強をし直したりもした訳だが……………、問題は双眼の腕輪だ。代表があの『死神』というだけあって、情報収集は意外と出来たわけだが、アイツの腕輪の事だけは、ほとんど分かってないんだ…。」

 

秋希「それで切羽詰まってる感じになってるのね。」

 

雄二「ああ……。近衛、正直お前には出来れば頼りたくなかったんだが、力を貸してくれないか?アイツらがまともに成長していない状況で言えた立場ではないが……。」

 

 ……驚いた。まさか坂本君が頭を下げて人に頼み込むなんて。彼にもFクラスの代表としての責任とか、プライドとか、そういうのがあるし、『神童』と呼ばれてた頃は上級生すら見下してたという話もあったから。

 それに、DクラスもBクラスも、私の協力がほとんどない状態で勝利を収めてきた。私がいなくても、なんとかなる。Aクラスにも勝てる。そんな雰囲気がFクラスにあるから、代表もそんな考えをしていると思ったけれど、それは杞憂だったか。

 

秋希「……分かった。いいよ。協力してあげる。元々、対Aクラスに関しては、全力を尽くすつもりだったし。」

 

雄二「本当か?いつものお前だったら、こうして頭下げても、首を縦に振らなかったろ。」

 

秋希「まあね。」

 

 その事については、否定する気は微塵もない。

 ただ、私は知っている。Bクラスと戦う前にした話のあと、坂本君が、去年よりほんの少しだけど、勉強に力を入れるようになったこと。吉井君も、まだαクラスで弱音を吐きつつだけど、勉強する習慣が付きつつあること。学園の問題児として真っ先に名前が挙がる二人が、目的を達成するために少しずつ変わり、成長しつつあること。

 出来るなら、そういった変化を見て、他のFクラスの生徒も勉強するようになってくれれば、もっと嬉しかったけど。

 たけど私には、それよりも気になっていることがある。

 

秋希「…………ねえ、坂本君。君はAクラスに勝った後、どうするつもり?」

 

雄二「………………………んん?どうって、具体的なことはまだ決めてないが………………。現状維持が妥当じゃないか?」

 

 現状維持。これはどう解釈するか。おそらくは、Aクラスの設備を他のクラスに取られないようにする、という意味合いだけど、曲解したら、Fクラスの今の学力を維持するとも聞こえる。

 

秋希「それだけ?まさかとは思うけど、君は今のFクラスのままでいいと思ってるの?」

 

雄二「……………まあ、概ねそうだな。」

 

 ……………概ね、か。となると、やはり後者の方か。まあ、他人の成績なんて心配したところで、自分の点数が上がる訳でもないしね。

 

雄二「そもそもアイツらだって、Aクラスの設備目的で動いてる訳だからな。それを維持するよう、俺が皆を引っ張っていけば問題ない。」

 

秋希「なら、別にAクラスに勝たなくてもいいんじゃない?」

 

 一瞬にして、空気が凍り付くような感覚に襲われる。自分でも、坂本君の態度に苛立っているのがよく分かる。

 

秋希「こっから先は、私の独り言だから聞き流して構わないわ。正直な話、この数日間、君含めてFクラスの皆のことを見てきたけど、君の言う通り、まともに……………いや、まったく成長している印象が見受けられないわ。その証拠に、Dクラス戦の後に福原先生が渡した課題をちゃんと解いて、私に提出したのは、ほんの数名だったわよね。」

 

 この課題を集めて提出しに行く途中で、全員のプリントの内容をざっと見渡してみたけど、ほとんどの人は空欄だらけだった。提出先は何故か西村先生だったので、Fクラスほぼ全員の分纏めて怒られることも考慮してたけど、結果は大きなため息が一つと、吉井君を呼んでくることだけだった。

 

秋希「で、一つ問題を出していいかしら?あの時、吉井君が呼び出しを食らったわけだけど、何故だかわかるかしら?」

 

雄二「あん?そりゃあ、あまりにも出来が酷すぎるから……………、と思ったけど、そう言うってことは、違うのか?」

 

秋希「そう。君の、そしてFクラスの皆の想像と真実は全然違うわ。………吉井君は、あの課題……………、出来が良すぎたのよ。」

 

雄二「………………………………は?」

 

秋希「まあ、私や零次が面倒を見たってのもあるけど……………、それは置いておこうか。吉井君の課題は、全ての欄が埋まっていて、尚且つほとんどが正解だったわ。……………というか、出来が悪くて呼び出し食らうんだったら、君達全員纏めて補習室行きでしょうが。」

 

 観察処分者である吉井君の存在が悪目立ちしているけど、実際の彼の立ち位置はFクラス内だけで見れば、中の下か、下の上と言ったところ。吉井君より点数低い人だって、普通にいる。要は、『観察処分者=点数が低い』というだけで、『観察処分者=学年最下位』ではないのだ。

 

秋希「それに坂本君、成長していない……というか、何も変わってないのは君自身もよ。Dクラスとの戦争では、姫路さんが決着を着けた。今回のBクラス戦は、土屋君が得意の保健体育で勝負して、代表を倒した。この二つの戦争、一体何が違うの?どっちも結局は、高得点所持者による一撃必殺じゃない。『学力が全てじゃない』って君は言うけど、今のところ、その証明が出来ているとは言い難いわね。」

 

雄二「うっ……………くっ……………。」

 

 もちろん、坂本君の指揮や作戦、Fクラスの団結が、これまでの勝利の一因になっているとことは理解している。けど、どうしても姫路さんや土屋君個人の強さの方が目立ってしまうのも事実。そして、この学園の人間、特に私達第二学年の生徒は、勝利の要因を後者だと思い、酷い場合は決めつける。これも、嘆かわしい現実なのよね。

 

秋希「そして、それは今回も同じよ。たとえ、Aクラスに勝ったとしても、私や姫路さんに頼って勝って、それで君は満足するの?目的を何も達成してないのに、勝てたからそれでいいと言うなら………………………、私はどんな手段を用いてでも、君達をもう一度この底辺の教室に叩き込むつもりだから。…………………最も、君には他にも何か目的がある気がするから、その誰にも言ってない『裏目的』を達成できれば、それはそれでもいいけれど。」

 

 最後に坂本君にギリギリ聞こえるくらいの大きさで呟いた言葉に、坂本君は肩を震わせた。………………………どうやら、当たりのようだ。

 

雄二「………………………お前は一体、どこまで気づいてるんだ?」

 

秋希「少なくとも、君には何か他に目的があるんじゃないか、ってことがあるくらいかな?だって、『学力が全てじゃないことを証明する』ってだけだったら、土屋君や秀吉君みたいに、何か一芸に秀でていれば、それで結果を見せればいい訳だし。第二に、これを誰に証明したいのか、君はあえて何も言ってなかったし。そもそも『学力が全てじゃない』って言っておきながら、学力が重要な要素である試召戦争を使っているし……………。」

 

 まあ最後のは、理由というよりは難癖というか、こじつけと言うか、理不尽な言い掛かりと言うか……………。そんなものに聞こえるけどね。

 

秋希「……………こうして考えてみると、君が他に何を考えているかがなんとなく分かって来たんだけど、答え合わせしてもいいかな?」

 

雄二「いや、結構だ。」

 

秋希「そう………………。ま、ゆっくり考えていったら?現状を考えたら、零次が君達にAクラスを譲り渡すとは思えないし、まともに相手してくれるかも怪しいからね。」

 

雄二「………………なんだ?まるで、俺達の態度次第じゃ、向こうが勝手に負けてくれるともとれるんだが……………。」

 

秋希「だって、零次はAクラスを嫌ってるからね。Aクラスを引き継がせてもいいと思う相手が現れれば、喜んで席を譲るし、相手の実力に不足が無ければ、全力で戦う。元々零次は争いごとが嫌いだからね。」

 

 その後も、私と坂本君の話は続いた。結論を言えば、坂本君は、今日のところは少なくとも、予定を変えることはないそうだ。 そうして、決戦の時間は刻一刻と近づいていった。




~後書きRADIO~
秋希「祝!後書きRADIO第10回目~~!!」

零次「……………………別に喜ぶべきことでも無いだろ。」

秋希「そうだけどさ。でも、やっと二桁の大台に乗ったのよ?喜ぶことでしょ。」

零次「それは、真面目にやってきたらの話だろ。不定期更新なのは百歩譲ろう。筆が中々進まないのも許そう。だがな……………作者は、遊び惚けてるだけだろうが。」

天:それはちょっと違うっスよ~。

零次「……………随分と久しぶりだな、天鋸江。」

天:そりゃあ、本作にま~ったく、関わりが無いっスからね。前にここに呼ばれたのが何時なのかも、覚えてないっス。

秋希「それはそれで問題だけど……………。」

天:で、さっき零次は作者は遊び惚けてるって言ってたっスけど、そもそも、この小説の投稿だって、作者からしてみれば、遊びの一つっスよ。それに、前に君が言ってたように、作者の書き方は頭の中にある会話のイメージと、大雑把なストーリーをたてて、これまでのストーリーと矛盾が出ないように確認しつつ、脳内イメージを出力するやり方だから、どうしても時間がかかるっス。

秋希「……………メモを取れば、ってツッコミは無しかな?」

天:そうして欲しいっス。零次を擁護するわけでもないけど、結局進捗は作者の気分次第っスからね~。……………あ、でも、次回は進みが早いらしいっスよ。

零次「そう言って、一か月後に投稿だったりしてな。」

天:ハハ……………あり得るっスね。まあ、言いたいことは言い終わったんで、そろそろ切るっス。

プツン…………。

秋希「……………零次。」

零次「……………なんだ?」

秋希「前回の後書きRADIOで言っていた、零次サイドの試召戦争のまとめをしようか。」

零次「……………本来だったら、後回しにするつもりなんだが、折角の10回目の後書きRADIOだ。それに、次回が書き終わる頃には、もう忘れてる可能性もありそうだしなぁ……………。仕方ない、やりますか。」

・・・

秋希「…………………という訳で、仕切り直そう。前回は、私がFクラスとBクラスの試召戦争の話をしたから、今回は零次のターン、CクラスとAクラスの試召戦争について、どうぞ。」

零次「正確には、Cクラス対Aクラス対αクラスだが、まあいいだろう。」

秋希「零次ならやるだろうとは思ってたけど、まさか本当にAクラスを蹂躙するとはね……………。」

零次「一応構想の段階では、俺の腕輪でこっそりサポートしながら、霧島をCクラスに直行させる方法もあった。AクラスとCクラスは隣同士なわけだし、あの腕輪の条件を満たす生徒はいないからな。霧島に挑みに行くだけでCクラスは勝手に蒸発する。」

秋希「本当にただの蹂躙だね。」

零次「だから、俺はあまりこの腕輪を使いたくないんだよ。俺がしたいのは、互いに認め合えるような、熱い戦いで、無双したいわけじゃないからな。……………まあ、今回の戦争で、Aクラスの印象は少々変わったがな。」

秋希「へぇ~。どんな風にさ?」

零次「具体的に数字で表すとだな……………。」

零次から見たAクラスの印象の内訳(αクラスと霧島を除く計44名)

・俺がAクラスの代表しても構わないが、霧島の方が安心できると思っている。及第点レベル。
0名→25名くらい(奥井・栗本・木下など)

・俺を代表には認めないが、それなりに筋の通った理由がある。まあまだ許せるレベル。
数名→10名ほど(時任など)

・『死神』の異名だけで、俺の価値や行動を決めつける。もはや論外のレベル。
ほぼ全員→6名(豊嶋・梶・西京・横沢、他二名)

零次「こんな感じだ。あくまで印象だから、かなり雑だが。」

秋希「大体が『死神』というだけで見下してた、という印象から、代表に関してはあまり気にしてない、って印象になったかな?」

零次「ま、この戦争の前に時任達との勝負があった訳だからな……………。もしかしたら、そこで印象が変わったか?」

秋希「それもありそうだね。……………そんなところかい?」

零次「ああ。俺から話せることは以上だな。」

秋希「OK。それじゃあ……………。」

「「次回もよろしくお願いします!!」」


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小問13 Fクラスの宣戦布告

 Cクラスとの激闘から数日。俺達は、Cクラス戦で消耗した点数を各自で補充する日々を送った。と言っても、ほとんどの生徒は一教科しか消耗してないから、思っているほど時間を浪費しなかったな。

 そして、俺や霧島が予想していたあの日が、ついにやって来た。

 

零次「なるほど、一騎打ちねぇ……………。」

 

 そう、Fクラスの宣戦布告だ。ただ、近衛から聞いていた宣戦布告の方法とはいろいろ違うところがある。勝負の形式を限定してきたことが一つ。そしてもう一つは……………。

 

優子「何が狙いなの?」

 

雄二「もちろん俺達Fクラスの勝利が狙いだ。」

 

 代表が直接Aクラスにやってきたこと。これまでFクラスの、というより形式的な宣戦布告は、使者を一人出して、宣戦布告する旨を相手クラスの代表に伝えるものだった。そして、その使者がボコボコにされるまでがワンセットなのだ。

 だが、今回は代表が直接宣戦布告に来た。それだけでなく、今までの試召戦争で使者を務めてきた明久を筆頭に、土屋、秀吉、姫路に近衛とFクラスのメイン戦力(一人二人首を傾げるメンバーがいるが……)が勢揃いである。

 

優子「面倒な試召戦争を手軽に終わらせることができるのはありがたいけどね、だからってわざわざリスクを冒す必要はないかな。」

 

雄二「賢明だな。」

 

 そりゃそうだ。いくら姫路や近衛がいるとはいえ、残りは雑兵も同然だ。もっとも、坂本がそう簡単に勝たせてくれるわけがないから、楽勝とは言えないが。

 

雄二「ところで、Cクラスの連中との試召戦争はどうだった?」

 

 ここは俺が答えるか。

 

零次「……………2ランク下のクラスだと思って侮ってな………。お陰で、戦争が終わった頃には壊滅状態だった。」

 

雄二「白々しいな。Aクラスを壊滅状態にしたのは、お前だろ?Aクラス代表双眼零次。」

 

 チッ。やっぱ無理な誤魔化し方だったか……………。しかも、『Aクラス代表』。派手に暴れ回ったからなのか、もうこの話が学年全体に行き渡ってそうだ。

 …………Fクラスサイドの数名が驚いた顔をしているが、本題から逸れるから、無視することにしよう。

 

雄二「ところで、Bクラスとやりあう気はあるか?」

 

優子「Bクラスって……、昨日来ていたあの……?」

 

雄二「ああ。アレが代表をやっているクラスだ。」

 

 木下は渋い顔をして、坂本はニヤリと笑みを浮かべている。その理由は簡単だ。Cクラスとの試召戦争があった放課後に、Bクラス代表の根本が俺達の教室にやって来たのだ。…………何故か女子の制服を着て。

 結果、Aクラスは一瞬にして悲鳴で埋め尽くされた。中には嘔吐仕掛けたやつもいたな。後から近衛に聞いた話だと、根本の自業自得とはいえ、この惨状が気の毒に思えた。

 ちなみに、この阿鼻叫喚の中ほぼノーリアクションだったのは、俺と霧島と影山の三人だった。

 

雄二「幸い宣戦布告はまだされていないようだが、さてさて。どうなることやら………。」

 

優子「でも、BクラスはFクラスと戦争したから、三ヶ月間の準備期間を取らない限り試召戦争は出来ないはずだよね?」

 

零次「いや、それは違うぞ、木下。コイツらは確かにBクラスを討ち取ったが、設備を交換しなかった以上、対外的には『和平交渉にて終結』という結果に終わってるんだ。つまり、Bクラスは負けていないから、普通に宣戦布告できるわけだ。……………それはDクラスも同様だ。」

 

 本来、戦争の泥沼化を防ぐ為にある3ヶ月の宣戦布告禁止期間。だが、実際にこれが適応されるのは、戦争した二つのクラス間で設備のランクが変更された時だ。

 まあ、これまでに行なわれた試召戦争の数が少ない上、それらの中に今回のFクラスのように、設備交換の権利を放棄してまで、さらに格上のクラスに連日挑みにいくような前例が無い訳だから、勘違いするのも分かるが。

 

優子「…………つまり脅迫ってこと?」

 

雄二「人聞きが悪い。ただのお願いだよ。」

 

 さて、木下はどうする?一応、クラスの代表だし、現在霧島が席を外してるから交渉の場に出ているが、今回の交渉は基本木下に任せている。どうせ、俺が決めると文句を言う輩がいるからな……。

 

優子「うーん……わかったよ。何を企んでいるのか知らないけど、代表が負けるなんてありえないからね。その提案受けるよ。」

 

明久「え?本当?」

 

 なるほど、答えは了承か……。まあ、実際木下の言う通り、Fクラスの誰が相手だろうと、俺が負ける等ありえないがな…。

 

優子「だって、あんな格好した代表のいるクラスと戦争なんて嫌だもん……。」

 

 ……なるほど、そういう理由か……。

 さて、ここで一度動くか……。交渉に関しては木下に任せているとは言ったが、このまま黙っているつもりもないからな。

 

零次「…………ただし、こちらからも提案がある。坂本、お前の言う一騎討ちを七回して、最終的に勝利数が多い方が勝ち。このルールで勝負して欲しい。」

 

優子「ちょ、ちょっと双眼!」

 

零次「別に問題は無いだろ?そもそもお前だって、一騎討ちを複数回行なわせるつもりじゃなかったのか?」

 

優子「そ、それはそうだけど…………。」

 

零次「なら、いいだろ。それで?坂本、この提案は受けてくれるか?」

 

雄二「なるほど。こっちから姫路が出てくる可能性を警戒しているんだな?」

 

零次「いやいや、そんなことまで考えてはいないさ。ただ、お前達に敬意を表したいだけだ。」

 

雄二「敬意、だと?」

 

 若干、不審がっているな……。言葉通り受け取ってくれれば良いのに。

 

零次「そうだ、敬意だ。これまでお前達Fクラスは、Dクラス、Bクラスと、二度も格上と戦い、そして勝ってきた。周りの奴らから、そして味方からもきっと『勝てる訳無い』と言われただろう。だが、そんな声をお前はひっくり返したんだ、坂本。これは決して姫路一人の力じゃない。お前の采配、策略、作戦…………まあ、そういうものが大いに関係している。俺はそう思っている。」

 

 姫路の学力の高さは入学して日の浅い第一学年の間でも、噂になるレベルだ。そんな奴がFクラスの味方になるのは、それだけでも十分心強い。

 だが、もし彼女一人に任せていたとしたら、Dクラスは勿論、最悪Eクラス相手でも負けていただろう。かつて神童と呼ばれた坂本の、まるで何年も前から練っていたであろう計画があったからこそ、今俺達の前に来れているのだ。

 

零次「だから俺は、Aクラス代表としても、個人としても、坂本、お前を評価しているのさ。それなのに、最後の勝負を一騎討ちの一戦で終わらせるのは、あまりにもつまらなすぎる。味気なさすぎる。ただそれだけの理由さ。…………まあ、何か企んでいるとすれば、お前同様、『俺達』の勝利、だけどな。」

 

雄二「…………………そうか。それなら、その条件を呑んでも良い。」

 

 数秒の沈黙のあと、坂本はそう返した。……………それにしてもさっきから、明久の反応が随分面白いな。声こそ出ていないものの、表情から、焦りが丸わかりだ。

 

優子「ホント?嬉しいな♪」

 

雄二「けど、勝負する内容はこちらで決めさせて貰う。そのくらいのハンデはあってもいいはずだ。」

 

 なるほど、そう来たか。

 

零次「………………………どうする?木下。」

 

優子「え!?そこで私に振るの!?」

 

零次「俺としては、Fクラスの希望は出来る限り聞いてやりたいが、それを猛反発する奴がいるだろ?最も、ベストな方法は、霧島に決めてもらうことだが、今は席を外しているから……………。」

 

翔子「……受けてもいい。」

 

 ……………噂をすれば、という奴だな。

 

零次「霧島、用事はもう済んだのか?」

 

翔子「……うん。……それで、雄二の提案を受けてもいい。」

 

優子「あれ?翔子、いいの?」

 

翔子「……その代わり条件がある。」

 

 まあ、そうだろうな。そう言うと、霧島は姫路の方をじっと見つめた。…………いや、睨みつけた、という方が正しいか?まるで、彼女には何か大切なものがあって、それを奪われまいとするような、そんな目だ。

 

翔子「……負けた方は何でも一つ言うことを聞く。」

 

 その言葉を聞くや否や、土屋はカメラを弄り始めた。それを見て、明久は撮影の準備がどうのこうのと、訳の分からないことを言い出したし……………。

 ……………あとで、霧島に謝罪しないとな。

 

優子「じゃ、こうしよう?勝負内容は七つの内四つそっちに決めさせてあげる。三つはうちで決めさせて?」

 

 ここで、木下から妥協案が出される。……………ま、これもまた、俺が望むベストな形だがな。

 

雄二「交渉成立だな。」

 

明久「ゆ、雄二!何を勝手に!まだ姫路さんが……………モゴガッ。」

 

秋希「ヨシイクン?ダイヒョウノケッテイハ、ゼッタイヨ?ソレイジョウ、クチヲヒラコウモノナラ、セッチャクザイデ、ハリアワセルヨ?」

 

明久「むぐ、むぐぐぐ…………………………。」

 

 ……………俺がキレる前に、近衛が我慢できなかったか。……………やっぱり後で、霧島に謝罪しないとな。

 

雄二「…………こ、近衛が、なんで怒ってるかは知らないが、心配すんな。絶対に姫路に迷惑はかけない。」

 

 霧島の考えがなんとなく分かるから言えることだが、正確には、迷惑は『かからない』だろうな。

 

翔子「……勝負はいつ?」

 

雄二「そうだな。十時からでいいか?」

 

零次「いいや。坂本、いくら代表戦とはいえど、連日試召戦争と補充のための試験を繰り返してきたんだ。一週間くらい頭と心を落ち着かせて、余裕を持たせて俺達に挑んだらどうだ?」

 

雄二「ごもっともな意見だ。けどな、そんなに長く期間あけるんだったら、今交渉しには来ないだろ。」

 

零次「それもそうだな。なら、三日後はどうだ?」

 

翔子「……零次。それも十分長い。」

 

零次「……………そうかい。なら、明日だ。とにかく、今日中は流石に無理だからな。」

 

 霧島や木下は全く理解できないだろうな、俺のこの行為が。俺としては『Aクラスが勝てばいい』のではない。『αクラス全員が勝利する』ことが前提なのだ。そのためには一人、どうしてもクラスアップする必要のある人間がいる。

 

雄二「…………分かった。明日のこの時間に勝負しよう。」

 

零次「いいだろう。」

 

 こうして、交渉は終わった。

 だが、俺にはもう少しだけやることがあるんだよな……………。



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小問14-A 戦争前の後始末

 坂本達から宣戦布告を受けた放課後。俺は缶コーヒーを片手に、旧校舎の屋上である人物を待っていた。

 

 その人物は、Fクラスの生徒であり。

 その人物は、Aクラスに血縁者がいて。

 その人物は、その者と顔が瓜二つで。

 その人物は、自分のクラスの保身のために、その者に濡れ衣を着せた。

 ついでに言えば、その人物は帰宅部が多いFクラスでは珍しく、部活動に勤しみ、その点では有名人である。

 

 まあ、ここまで言わずとも、察しが付く奴はいるだろう。

 明日に行なわれるAクラス対Fクラスの試召戦争。そこでその人物……もう面倒だから、『彼』と言わせてもらう………が、その血縁者に酷い目に遭わされることは、容易に想像できる。

 そんな彼とは、一応友達なのでな………。そういう最悪の事態はなるべく避けたいのだ。

 

ガチャッ

 

 ………ようやく来たようだ。

 

?「………話がある、というのはお主か、零次。」

 

零次「………こうして、話すのはいつぶりだ?…………大体一年くらいか。」

 

?「そんな事はどうでも良いじゃろ。ワシもそんなに時間は取れん。早く本題に入ってくれぬか?」

 

零次「それもそうだな。……………言っておくが、俺が満足する回答が得られるまで、逃げられると思うなよ……………………………………木下秀吉。」

 

 現在時刻は16:46。既に部活が始まってる時間だが、秀吉は言うには、部長に連絡を入れてから抜けてきたらしい。そこら辺はしっかりしてるな。

 

零次「………………………さて、秀吉。お前が何故呼ばれたか、心当たりはあるか?」

 

秀吉「うーむ………いや、全くないのじゃ。」

 

 心当たりがあれば、すんなりと本題に入れたのだが、自覚なし、か……………。まあ、正直に答えてくれることはありがたい。

 

零次「そうか………。なら、次の質問だ。お前、Cクラスの小山って奴は知ってるか?」

 

秀吉「……はて、誰じゃ?」

 

 これもダメか……………。まあ、よくよく考えれば、小山ってさほど有名でもないし、そもそも似たような名前も多いし、霧島でも学年全員の名前を覚えているか怪しいんだ。この反応もまともだろうな。

 

零次「そうか知らないか…………。なら、これ以上の質問は無意味だろうから、本題に入ろう。2~3日ほど前の事だが、俺達がCクラスと試召戦争したことは知ってるな?」

 

秀吉「うむ。それは知っておるぞ?」

 

零次「それは何よりで………。話を続ける。その時宣戦布告に来たのが、さっき言ったCクラスの小山って奴だ。Cクラス代表である、彼女が直接Aクラスに殴りこんできたんだが、ちょっと様子がおかしくてな………。」

 

秀吉「一体どんな様子じゃったんじゃ?」

 

零次「かなり頭に血がのぼってた様子だったな………。それこそ、いつ暴力ふるっても、おかしくない程の形相だったな……………。おまけに、それに感化されてか、一部のAクラスの生徒は木下…お前の姉のことを一方的に責め立てるし………。俺はともかく、もし霧島がいなかったら、どうなってたか……………。」

 

 秀吉は黙って話を聞いているようだ。自分の姉の事だというのに、まるで他人事のように聞いて……………はいないな。よくよく観察したら、足が震えている。

 

零次「俺が何を言いたいか、そして、何を望んでいるか、Fクラスの中でも比較的賢いお前なら、もう分かるんじゃないか?」

 

秀吉「……あ、姉上への謝罪、かのう?」

 

零次「概ね間違いではないな。だが、その結論でこの話を終わらせるんだったら、ここにいるのは俺じゃなくて霧島の方が適任だ。なにせ、霧島と木下は親友だからな。」

 

 俺には、木下のためにそこまでしてやる程の義理も仲もない。

 

零次「そもそも、それは俺に言われずとも、やるべき行動のはずだ。なのにお前はそれを口に出し、さらに疑問形で俺に答えた。ということは、だ。こうして俺に言われるまで、お前には罪悪感が無かったってことだ。」

 

 Cクラス戦後、木下には今回の件について、秀吉に何も問い質さないことを頼んだのだ。俺の思う秀吉は、比較的常識人というイメージだ。姉に迷惑をかけたのだから、その事についてちゃんと謝れる奴だと、そう思っていた。

 だが、結果はこれだ。秀吉は自分達の戦争に無関係の俺達を巻き込んだことを、どうとも思って無かったようだ。

 

秀吉「そう言われると………何も言い返せんのじゃ…………。」

 

零次「ま、そのことについても、俺は咎めるつもりは無いけどな。今更こんなことをグチグチ言ったって、この状況が変わる事は無いからな。」

 

 話の根幹である、秀吉が姉になりすましてCクラスに喧嘩を売った事については、既に全部終わったことだ。もう終わった事を何度も引っ張り出していたら、キリがない。

 

零次「俺が求めているのは、秀吉、お前が起こした一連の行動の真意だ。正直、木下が他人のことを大声で豚呼ばわりするなど、想像し難い事なんだが、実際真に受けているバカがいた訳だ。あの台詞、坂本が考えたのか?」

 

秀吉「ああ、それはじゃな、姉上の本性をワシなりに推測して……。」

 

プツッ ツー ツー……

 

 ……俺のポケットから、聞き覚えのある電子音が鳴った。全く……少しは堪えることが出来ないのか、あの優等生(笑)は。

 

秀吉「む?お主か?今の携帯の音は。」

 

零次「…………そう言えば、木下と携帯を繋げっぱなしだったのを忘れてたな。」

 

秀吉「姉上と?…………もしかしてじゃが、今までの会話が全部……。」

 

零次「恐らく、聞かれただろうな。」

 

 ま、わざと通話し続けた状態にしていたのだが。去年も度々秀吉から姉の愚痴を聞いてた訳だが、たまに本人や周りの人間に聞かれてはいけなさそうな、プライベートな内容まで口を滑らせることがあった。

 秀吉の欠点を挙げるなら、そういう警戒心の薄さと、木下のイメージが公私混同(ぶっちゃけ、『私』の割合が多目だが)している点だろうな。

 

零次「ま、俺としては聞きたいことが聞けたから、良しとするか。そういう訳で、また明日な。」

 

秀吉「ちょっ、お主……。」

 

零次「悪いが、待てと言われて待ってやる程、俺もお人好しじゃあないんでね。自分の撒いた種は、ちゃんと自分で責任を持って、面倒見るんだな。」

 

 俺は、秀吉のために姉との話を仲介してやる程の義理も仲もない。

 

・・・

 

 階段を下りる音が響いている。同時に何者かが俺に近づいてくる音が聞こえる。………方向的に下の方から、そして今、俺がいる場所は、旧校舎4階と屋上を繋ぐ階段だ。……となると、足音の主は屋上に向かっていることになるが……………。

 

零次「………………………お前か、木下。」

 

 あの時の小山同様、目で見て分かるレベルで怒ってるな。

 

優子「双眼、ちょっとそこを退いてくれるかしら?あの愚弟にちょ~っと話があるから。」

 

 ああ…、やっぱりな。完全に秀吉に制裁を加える気満々だ。だが、さっきも言ったが、俺と秀吉は、目の前にいる姉の進行を止めてやる程の仲ではない。

 

零次「………………………………………ほら、どうぞ。」

 

優子「あら意外。貴女が道を譲るなんて。」

 

零次「血相変えて、ドカドカと足音立てて来てるって事は、急ぎの用事なんだろ?俺の用事はとっくに終わった。」

 

優子「そ、そう。……ありがとね。」

 

 …………おっと、いけない。もう一つ用事があった。

 

零次「ちょっと待った、木下。」

 

優子「何?やっぱり通さないって、言うつもり?」

 

零次「いいや?木下、一つだけ心のどこか片隅でいいから留めて置いて欲しい言葉があるんだ。」

 

優子「何よ?」

 

零次「……………人間は完璧を目指す生き物である。同時に完璧を嫌う生き物である。俺はそう思っている。」

 

優子「………なぞなぞ?」

 

 ま、そう聞こえるよな。

 

零次「いや、お前の生き方を見て、ふと頭に思い浮かんだ言葉だ。意味は自分なりに考えてくれ。」

 

 それだけ言い残して、俺は帰路へ着くことにした。

 このやり取りの数秒後に上の方から断末魔が聞こえたのは言うまでもない。



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小問14-F 一区切りの作戦

 零次が秀吉君と話をしている頃、時を同じくして、零次宅。用事のある零次と、演劇部所属の影山君、今回の件に関係ない真倉さんを除く、αクラス全員が勉強そっちのけで私の話に耳を傾けていた。

 ……一応言っておくけど、不法侵入じゃないからね?ちゃんと零次から合鍵預かってるから。

 

秋希「………さてと。ついに、ついにこの時が来たよ。Aクラス対Fクラス。文月学園に試験召喚システムが導入されて4年。この対戦カードは、史上初よ。」

 

 極めて落ち着いた口調で話しているけど、内心ものすごく興奮している。きっとここが、零次が私に話した『分岐点』というものだからかな?

 

秋希「そういう訳で、零次から伝言を預かっています。………まあ、大層な物じゃないから、そんなにかしこまる必要は無いよ。」

 

愛子「そ、それもそうだネ……………。」

 

美穂「それよりも、本当に勝手に入っちゃって良かったんでしょうか……?」

 

秋希「だ~か~ら、合鍵貰ってるって言ったじゃん。だいたい私達全員、家に人を呼べる状況じゃなかったから、消去法でこうなっちゃったんだし………。」

 

 本当は私の家に集まってもいいんだけど、ちょっとした事情があって、あまり人を家にあげたくないんだよね……。吉井君も現在一人暮らしだから、その点では零次と同じだけど、勉強に集中するとなると、断然零次の家の方がいい。…吉井君の家に行ったことはもちろん、近くまで行ったこともないけどね。

 

秋希「……という訳で、読み上げるよ。……コホン、『俺達αクラスの目標はただ一つ。αクラスメンバー全員の完全勝利だ。』…………………………以上!」

 

利光「本当に、かしこまるほどのものじゃなかったね。まあ、零次らしいけど。」

 

明久「それより、まさかと思うけど、完全勝利って……………。」

 

秋希「うん。吉井君の予想している通り、君も頭数に入っているよ。」

 

 ……あ、滅茶苦茶分かりやすく、へこんでる。

 

明久「いやいやいやいや、無理だよ!僕がAクラスに勝てるわけないでしょ!」

 

秋希「うん、去年の時点だったら否定しなかったね。でも、今年は違う。たった数日とはいえ、Aクラス上位の面々に勉強を教えてもらって、君自身、自力で解ける範囲が少しは広がったって実感するでしょ。」

 

明久「日本史だけはね。」

 

秋希「今回はそれで十分よ。勝負内容を決める権利を、Fクラス4回貰ってるんだから、そのうち一つ、おそらく坂本君は私に一つ渡すだろうから、それを使って戦えばいい。それに、私は君が相手次第では100%勝てることを確信してるから。」

 

美穂「……………もしかして、吉井君の点数が私達並に上がってたんですか!?」

 

明久「いやいやいや!僕の点数って日本史でも100点とちょっとだから!」

 

 いや、流石にこの短期間でAクラス並みになるのは無理があるでしょ……………。

 

秋希「私としても、欲を言えばもう少し点数が欲しかったけどね。でも確信している理由はそこじゃないの。一つは、『観察処分者』のほぼ唯一の利点から。皆は、Cクラス戦で、召喚獣を自分の思う通りに動かすことができた?」

 

愛子「う~ん……。ボク、この学校に転入してきたのが一年の終わりで、召喚獣は見たことはあったけど、動かすのは初めてだったから、武器を振り回すことしか出来なかったヨ。」

 

美穂「私も……。」

 

利光「僕は去年、零次に散々勝負を挑まれてたから、それなりには動かせたけど…………。零次と比べちゃうとまだまだって感じだったね。」

 

秋希「あー……そうだったね……。まあ、久保君はともかく、実際召喚獣の操作ってのは、思ってるよりも難しいのよ。背丈も、パワーも、何もかも生身の自分と違うし、直接神経かなんかで繋がってるわけでもない。ついでに言えば、去年の時点で、召喚獣を召喚して実際に操作する機会を、学校側が正式に用意してくれたのは、たった一回。……………まあ、その一回の後は、時間と教師が許してくれれば、いくらでも経験できたけど、そういった生徒は少なかったって、誰かが言ってたような……………?」

 

 去年の二学期の、確か10月か11月辺りに行なわれた『試験召喚実習』の翌日からは、たとえ一年でも、召喚獣の操作の練習(教師に次第では試合も)を理由に試験召喚システムを利用することができた。この事実は教師からも正式にアナウンスされたけど、結局私や零次、そして彼に巻き込まれた久保君以外で使う人はほとんどいなかった。

 でも、よくよく考えれば、至極当然なことだ。この学園では『必要』だとしても、人生では召喚獣を動かす技術など『不要』、というか『役に立たない』。そんなもののために時間を費やすくらいなら、別の事に時間を使った方が何千倍も何万倍もマシだ。そう考える方が自然だ。だって、『試召戦争』自体が今年みたいに頻繁に起こるものじゃないからね。

 

秋希「とにかく、普通の生徒が召喚獣を操作する機会が『1回』と考えると、吉井君が召喚獣を扱った回数は、観察処分者を続けた期間から、1日1回召喚獣を使ったとすれば、ざっと『50回以上』は召喚してるはず。時間で考えたらもっと凄いわよ。試験召喚実習の『数分だけ』しか操作していない生徒と比べれば、吉井君は雑用で十数分、長い時は一時間くらい召喚してたんじゃない?平均して30分召喚したと考えても……………?」

 

美穂「吉井君は、『25時間』召喚獣を使っている事に……………?」

 

秋希「ご名答!………まあ、話として数字はかなり盛ったと思うけど、少なくとも君達よりも召喚獣の操作に慣れていることは明白よ。」

 

 実際、吉井君は3倍以上も点差があった、Bクラス生徒相手に終始優位に立ちまわれてたようだし。敵が3人に増えても、ダメージを最小限に抑えてたみたいだからね。

 

秋希「そしてもう一つは、吉井君が試召戦争において、圧倒的に『弱い』と思われてること。君達だって、吉井君とこうやって直接話すような機会がなかったら、きっとそう思ったはず。何故なら、彼は『バカの代名詞』とも言われる『観察処分者』の称号を持ってるからね。そんな奴、余程仲の良い友達でもない限り、関わりあいたくなんて無いでしょ?」

 

美穂「うう…………。そう言われると、そうかも…………。」

 

愛子「アハハハ…………。まあ、積極的に関わりたいとは思わなかっただろうネ……………。」

 

利光「僕も……………、否定できないな………。零次という前例があっても…………。」

 

明久「あれ?なんでかな?目から汗が…………。」

 

秋希「おっと、落ち込むのは早いよ、吉井君。本題はここからだから。」

 

 吉井君に向かって待ったをかけつつ、説明を続けた。

 

秋希「君達はこうして話を聞いているから、吉井君をバカにせずに勉強を教えてくれたから、もう偏見とかはないだろうけど、他の人が戦場で吉井君を見かけたら、きっと『こんなバカの相手など楽勝だ』、そう思うでしょうね。でも、吉井君には観察処分者の仕事で得た操作技術がある。これをうまく活用すれば、点数の差をカバーできると思わない?」

 

 なるほど、と心の言葉がそのまま出てきたような声が、誰からともなく聞こえてきた。

 

秋希「そうして点数差が縮まれば、次に相手はほぼ確実に焦りだす。最初、圧倒的優位に立っていたにも関わらず、いつの間にか同じ土俵まで下ろされてたんだから。『どうしてこんなバカに翻弄されてるんだ。』『俺がこんなバカに負けるなど、あっていいはずがない』。試合開始前からの油断や傲慢、試合中の混乱、焦り、葛藤。一度こういう風にこころが揺らいだら、目の前の現実を冷静に受け止めない限り、立て直すのはほぼ不可能。それに、この学校の人間の大半は、学力のあるなしだけで人の価値を決めつけるような人だから、吉井君が勉強してるなんて、夢にも思わないでしょうね。」

 

 もっとも、私が吉井君に指示して、学校では普段通りに生活してもらってるからだけどね。坂本君も半信半疑だったわけだし。

 

秋希「………………さて、そろそろ零次が帰ってくる時間だし、早く勉強に取りかかりましょうか。」

 

 その言葉と同時に、玄関のドアが開く音がした。

 

・・・

 

 αクラスの解散時刻である19:00になった。いつも通り、私が晩御飯の用意をして、吉井君と零次はそれをいただく。

 

明久「いや~、近衛さんの料理は最高だよ~。」

 

秋希「………………それはどうも。」

 

 なんだろう、普通に誉め言葉なんだけど、吉井君に言われると、妙に腹が立つ。

 

明久「こんな料理が毎日食えると思うと…………、零次が羨ましいよ。」

 

零次「俺が羨ましいだと?全く…………物事の一面だけを見て、そう言っているようだから言っておくが、近衛はお前が思ってるほど、聖人じゃないぞ。」

 

秋希「そうだね…………。零次の言う通りだ。」

 

 吉井君は予想外の反応に驚いているようだ。食器を洗い終わり、零次は私から少し離れた位置に座る。

 

秋希「吉井君、君が私をどういう目で見てるかは知らないけど、学校での私の評判くらいは耳に入って来てるよね?」

 

明久「え?…………ああ、うん。『近衛さんは真面目でいい人だ』とか、『近衛さんに憧れてる』とか色々、ね。」

 

秋希「そうね。でも、そういう言葉を聞くたび、私の心を埋めていく感情は、喜びじゃないのよ。湧き上がってくるのは『怒り』。どうして私が賞賛されなきゃならないのか。逆に何故零次が虐げられなければならないのか。君達の思っている『近衛秋希』と『本当の近衛秋希』は全く違う。吉井君だから言うけど、私以上に不真面目で他人に害でしかない人間はいない。私はそう思ってるよ。」

 

明久「………………いやいやいやいや!待ってよ。一体どうしてそうなるのさ!」

 

 今日の吉井君は元気だなぁ。一日に何度も大きい声をあげて。ただ、もう夜だから、少しだけ静かにして欲しいんだけど。

 

秋希「…………どうしても知りたい?」

 

明久「………………そりゃあ、もちろん。」

 

秋希「そう…………。じゃあ、情報料として、1000円貰うね♪」

 

明久「せ…………!?え…………!?」

 

零次「本当、こういう時に一番いい笑顔するよな、お前は。…………ま、そういうことだ、明久。近衛は情報に限らず、金を稼げることでは、とにかく金をとる。そういう奴なのさ。…………中学の頃とは違って、校内の被害者は俺だけだけどな。」

 

 去年の時点で、零次一人から、軽く10万は搾り取ったかもしれない。逆を言えば、それだけ零次が私を信頼している証明でもあるけど、普通は友達から金を取るような真似はしないよね?…………実際は、友達でも何でもないけど。

 

秋希「…………ま、今回は冗談さ。君から金はとらないよ。その代わり、これから話すことは、決して誰にも言わない事。…………折角だし、誓約書でも書かせようか?」

 

零次「そこまでする必要もないだろ…………。それより明久、お前、時間は大丈夫か?例えば、家の門限とか。」

 

明久「え?ああ、大丈夫だよ。僕、今一人暮らしだし、両親も海外に行ったっきり帰ってこないし。」

 

 ふと、時計を見ると、時刻は20:00を少し過ぎたあたりだ。

 

秋希「それはそれで、問題な気もするけど…………。まあ、私が心配することでもなさそうだし、それじゃあ、話をしようか…………。」

 

 こうして、FクラスとAクラスの命運を決める戦争前日は過ぎようとしていた。

 Fクラスが引き金を引いた下剋上は、終わりを迎えようとしていた。



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小問15 戦争直前、2人の行動

西村「…………そこまで!双眼、筆記用具を置け。」

 

 西村先生が試験終了のアナウンスをすると同時に、鉛筆を机の上に落とす。現在時刻は7:50。Fクラスとの、変則的な内容での試召戦争の開始時刻まで、2時間ちょっと、と言ったところか。

 

西村「それにしてもなぁ…………。まさかFクラス(アイツら)Aクラス(お前達)に挑む日が来るとはな…………。」

 

零次「俺は予想できてましたけどね。去年、散々バカやってはしゃぎまくってた、あの四人が一つのクラスに集まったんです。何もないまま、平穏に一年過ぎるという考えは甘い。というか、あの四人に関していい噂をあまり聞かない時点で、試召戦争が二年になったら本格的にできるようになる時点で、何かしら一波乱起こることは、もはや自明。正直この程度の予想、テストを解くより簡単だと思ってますが。」

 

 おそらく、こんな事態を想像できた奴などほんの一握りだろう。そのほんの一握りの人材も、結局は『Fクラスなんて学力最低の馬鹿の集団に出来ることなど何もない』と、嘲笑する。この学園のクラス分けのシステムをよく考えれば、Fクラスに思いがけない切り札がやってくることも、想定できるはずなのに、だ。現に、姫路がFクラスにいるわけだし、3年の方も、2,3名ほど途中退席者が出たらしい。

 

零次「………それより、近衛から、Fクラスの担任が西村先生、あなたに変わるらしいと聞いたのですが。」

 

西村「一体、アイツはどこからそんな情報を仕入れてくるんだか…………。ああ、そうだ。今回の戦争が終わり次第、担任が福原先生から俺に変わるそうだ。いくら『学力が全てではない』とは言っても、だからといって蔑ろにしていいものでもないからな。」

 

零次「その通りですね。」

 

 同じ『学力が全てではない』という言葉でも、勉強に打ち込むあまり、人間関係を疎かにしてしまった人間言うのと、ロクに勉強もしないくせに、親に怒られて逆ギレした人間が言うのとでは、言葉の価値は雲泥の差、月とスッポンだ。Fクラスの主張は明らかに後者。せいぜい坂本がどちらかと言えば前者といったところだろうか。

 

零次「まあ、安心してください。こうして早朝からテストを受けた以上、奴らにAクラスの設備を明け渡す気は毛頭ありません。」

 

西村「………………特定の生徒を贔屓するのは、教師としてあるまじき姿ではあるが………………、頑張れ。俺はお前を応援しているぞ。」

 

零次「ありがとうございます。それでは…………。」

 

 そう言って、俺は補習室を後にした。重めの扉が閉まる音が、いっそう俺の気合いを高めていった気がした。

 

 …………さあ、覚悟しろFクラス。そして、刮目せよ文月学園。これが俺、双眼零次のあるべき姿なのだ。

 

・・・

 

信楽「………………そこまでだ。筆記用具をおいて、答案用紙を持って来てくれ。」

 

 現在時刻は9:40。私と吉井君は1時限目の授業時間を使って、補習室で補充試験を受けていた。ちょうど、担任の福原教諭の授業で良かった。補充試験を受ける旨を伝えたら、二つ返事でOKを返してくれた。

 ちなみに二人きりで出ていこうとしたからか、Fクラスの過半数が暴走しかけた訳だけど、Aクラスとの試召戦争の話を盾にして乗り切った。

 

明久「はぁ~…………。疲れた…………。」

 

秋希「私も今回はちょっとね…………。そもそも、早起きしてって、昨日言ったのに寝坊するから、こうなるんじゃないの。おかげで無駄な労力使っちゃったわ…………。」

 

明久「ご、ごめんなさい…………。」

 

 まあ、大したことではないから、気にしてないけど。

 それより問題視しているのは、姫路さんの方だ。さっき言ったFクラスの暴走。そこには島田さんや姫路さんの姿があった。昨日の坂本君の演説の最中、坂本君と霧島さんの関係を知った時も暴動が起きかけた。その時、この二人は何故か、攻撃対象を吉井君に向けていた。

 私の調査と、根民さんから発せられるどす黒いオーラから(九割がたこっちだけど)考えると、原因はおそらく嫉妬。本来自分に向けられるべき、と思い込んでいる『好意』が別の誰かに向いているという不満から、二人は怒りをぶつけようとしているのだろう。そして根民さんはそれを察知し、無言で警告しているようだった。

 まあ、今はこの戦争を終わらせることを考えよう。彼女らの問題は、まだ放置しても大丈夫なレベルだし、吉井君から助けを求められた訳でもないからね。

 

明久「そう言えば、あの後気づいたんだけど……。」

 

秋希「なに?」

 

明久「零次はαクラスの完全勝利を勝利を目指してるんだよね?」

 

秋希「そうだけど?」

 

明久「それが達成されたら、僕らFクラス負けるよね?」

 

 …………チッ。あのまま気づかなきゃよかったのに。

 

秋希「………………そうだね。でも、問題無いよ。」

 

明久「え?どうして?」

 

秋希「零次はああいう風に伝言で言ってたけど、アイツの本当の目的は『双眼零次は文月学園にいても問題のない人間である。』その証明にあるからよ。学校での零次の評判は君以上に酷いものよ。『死神』なんて物騒な異名を付けられたおかげで、問題が起きれば何かと零次のせいにされてた訳だし。……まあ、処暑中学が不良校なのは事実だし、零次は喧嘩が強いことも認めるわよ。けどさぁ、一応進学校に入学できた訳なんだし、それなりに学力も兼ねていないと入学できないと思うのが、普通じゃないの?」

 

 隣にいるバカを見るまではそう思ってたよ。

 

明久「……なんか、サラッと馬鹿にされたような気がするんだけど。」

 

秋希「とにかく、零次の味方であるαクラスのメンバー全員の点数が進級した時と同じくらいか、大幅に上がっていれば、誰も文句なんて言えないでしょ。そして、それを手っ取り早く証明するのに、試召戦争は最適なのよ。点数が表示されるし、何よりαクラスメンバーのほとんどの成績は大体知られてるわけだから。」

 

 αクラスのメンバーの半数は、奇しくも去年、成績トップクラスだった人達だ。正直、零次と絡んだくらいで点数が何百点も落ちるほど、彼らの努力は陳腐なものでは無い。

 

秋希「………………ま、αクラスに関係なく、君には勝ってもらわないといけないけどね。私や姫路さんが負けることはほぼ無いし、土屋君も保健体育なら敵なし。けど正直言って、それ以外で確実にAクラスに勝てる生徒はFクラスにいないのよ。」

 

 島田さんの数学は、Fクラスと見れば確かに高いけど、Aクラス相手ではかなり厳しい。

 秀吉君は、あの木下優子さんの弟だけど、Fクラスに入ってる時点で点数はお察し。

 坂本君は対霧島さん用の作戦があるけど、そんなもの信用ならない。

 あと有望株と言ったら、根民さんがいるけど…………。残念ながら、Aクラスと戦えるほど、まだ点数は高くない。

 

秋希「それにいいチャンスじゃない?ここでAクラスに勝てば、姫路さんと話すキッカケができるし、君の目標も達成できる。もしかしたら、姫路さんと付き合うことも…………、なんてね。」

 

 ………これまでの戦争で、そして今回の戦争でも、姫路さんが十分活躍しちゃってるのは、この際仕方がない。FクラスがAクラスに勝つためには、彼女の存在が必要不可欠だったからね。

 

秋希「そう考えたら、ちょっとはやる気、出るんじゃない?もっとも、坂本君が2対5で負けてしまうような作戦をとると思う?こと作戦の立案に関しての頭の良さは、圧倒的に坂本君に軍配が上がるよ。だいたい、作戦があったら、あの時伝言で伝えているでしょ。」

 

 そもそも零次の戦いって、中学時代の喧嘩が基になってるから、作戦なんて無いに等しい。あったとしても、他人にやらせるくらいなら、自分が動いた方がいい、と考えるのが零次だ。

 

明久「…………それもそうか。」

 

秋希「………………とにかく、頑張ろうか。DクラスやBクラス以上に一筋縄ではいかないだろうけど…………。自信を持って。今の君は強い。」

 

明久「…………うん!」

 

 さあ、行こうか。標的はAクラス。勝ったら明日からシステムデスクだ。

 

 …………私は全く興味無いけど。



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小問16(1) 決戦!AクラスvsFクラス

~前書きRADIO~
零次「どうも。双眼零次だ。」

秋希「近衛秋希で~す。」

零次「ついに来たな……Aクラス対Fクラス。」

秋希「今回の話は、元から複数話に分けて投稿する話だけど、話の都合上、全部同じ小問の話数にまとめているわ。」

零次「そういう訳で、話を楽しんでいってくれ。」


零次「霧島、俺達の対戦の順番はどうなってる?」

 

翔子「………………。(スッ)こんな感じ。」

 

零次「………………………………………………なるほどな。単純に学力順で並べたか。まあ、無難だな。」

 

 霧島が組んだオーダーを眺め、ただ一言そう言った。

 

零次「…………なあ、霧島。『俺達』は当然、今回の試召戦争、全勝を目指しているが、お前は今回の戦争に望む結果はあるか?」

 

翔子「……ある。この戦争に勝って、雄二と付き合う。」

 

零次「………俺が聞きたいのは戦績の事なんだが………。それに、負けた方が云々は、やっぱりそういう私情か。ハァ……。」

 

翔子「………………零次。」

 

零次「睨むなよ。クラスを纏めてんのはお前だが、クラスの代表はあくまでも俺だ。それを忘れるなよ。」

 

 まあ、俺自身代表としての自覚はほとんどないし、未だに霧島を代表と思ってる奴もクラス内外に少なからずいるからな。

 

零次「それと、昨日はすまなかった。」

 

翔子「………………?何が?」

 

零次「昨日の明久とか、土屋とかの言動の件だ。『例の噂』、この学校から根絶したかと思ったんだが、まだどこかでしぶとく生き残ってたみたいだ。」

 

翔子「……別に…………、今はそんなに気にしてない。」

 

 いや、少しは気にしてくれ。多かれ少なかれ、自分に不利益が生じるものだぞ。

 

零次「………………そうか。ならいい。とりあえず、今回の戦争、絶対勝つぞ。アイツらに、Fクラスにこの教室を渡すわけにはいかないからな。」

 

 さあ、覚悟しろよ、Fクラス。

 

・・・

 

高橋「では、両名共準備は良いですか?」

 

 今回の戦争の立会人である、高橋先生の声がAクラス教室に響き渡る。勝負内容が直前まで分からない以上、全科目のフィールド形成権を持つ、学年主任の彼女を立会人にするのは最も合理的なことだ。………………と言っても、俺が頼みに行った時には既に坂本が手配していたようだが。

 それに、仮に断られても、同じ役割を担える教師は、各学年主任含めて、他に4人いる。しかもうち一人は、Fクラスが関わるとなれば、二つ返事でOKを出してくれる人だ。

 

雄二「ああ。」

 

翔子「……問題ない。」

 

 俺の代わりに霧島が答える。別に頼んだつもりはないが、Fクラスの事だ。多くのクラスに、俺がAクラス代表であることが知れ渡っている現状でも、一部の生徒以外は、ろくに情報収集せず、未だに霧島が代表だと思っているだろう。それを見越して、代表を演じ続けてくれているとは、流石だ。

 ………それとも、彼女なりの俺への宣戦布告か?まあ、どちらでもいいが。

 

高橋「それでは一人目の方、どうぞ。」

 

 高橋先生も、特に気にすることなく司会進行を務めている。

 同時に、そこはかとなくピリピリした空気は、こちらの先鋒によってぶち壊される。

 

「そんじゃあ、行ってくるぜ。あんなゴミ共など、一瞬でぶっ飛ばしてやるよ。」

 

 豊嶋圭吾。正直言って、問題児以上の問題児、それが俺の評価だ。よくもまあ、教師の、しかも自分のクラスの担任であり、学年主任である先生の前であれだけの暴言が吐けるものだ。

 

秋希「………………へえ。ならそのセリフ、そっくりそのまま返そうかしら。」

 

 一方Fクラスの先鋒は近衛秋希。正直、この対面は都合がいい。Fクラスの主力一名を潰せるし、邪魔な豊嶋の行動を制限できる。Fクラスが有利な状況になったら、コイツ含め、過激派のメンバーが邪魔立てしてくることも容易に想像できるからな。近衛なら豊嶋程度に苦戦はしないだろうし、仮にそんな状況に陥った場合は、問答無用で降伏させてもらうが。

 

「はぁ!?何でアンタが出てくんだよ!他の奴に変わりやがれ!」

 

秋希「残念だけど、これも『私らの代表』の決定なんでね。無理な相談よ。」

 

高橋「…………ゴホン。それでは、教科は何にしますか?」

 

「チッ…………、古典で。」

 

高橋「分かりました。それでは………承認します。」

 

 そう言えば、科目選択権をどのように使うかは全く話さなかったな。高橋先生も指名をしてなかったってことは言ったもん勝ちってことか?

 

「「試獣召喚≪サモン≫!」」

 

 そしておなじみのキーワードで互いに召喚獣が現れる。

 

[フィールド:古典]

2-A 豊嶋圭吾・・・364点

 

 これでも、Aクラスとしては高い方なんだよな。多分、身近にいる奴らが400点近い点数を平然と叩き出しているから、感覚がバグってんだろう。

 

「…………ハッ!そういや、アンタFクラスに入ってから、大分点数が下がったみたいじゃねぇか!だったら、俺でも楽勝だ!クズばっかのクラスに落ちて、そこの負け犬共と同じくらい落ちぶれた優等生など、俺の敵では……。」

 

ズドン!

 

秋希「………………俺の敵では……無いとでも言いたかったようだけど、私から一つだけ言わせてもらうわ。Fクラスを………………、そしてこの私を………………、ついでに双眼零次をなめるな。」

 

[フィールド:古典]

2-A 豊嶋圭吾・・・364点→戦死

 

VS

 

2-F 近衛秋希・・・399点

 

 そして、結果は見ての通り、一瞬で決着がついた。豊嶋の召喚獣は霧散し、フィールドには右手を中指から小指を曲げて、いわゆる『拳銃』の形にしたまま、先程まで奴の召喚獣がいた場所を睨みつている近衛の召喚獣が立っていた。

 

「………………はあああああ!?なんだよ、その点数!去年と大して変わんねぇじゃねぇか!ていうか、何で負けてんだよ!相手素手じゃねぇか!」

 

 相変わらず喚くな、コイツは。もしかして、こういう性格の輩が上位にいたから、下位勢力への暴行が蔓延したのか?……あり得るな。近衛曰く、2年前の2ーAがやり始めたらしいし。

 さてと、どうしようか。今回は今までの試召戦争と形式が違う。おそらく誰であろうと、この戦争の結末を見守りたいはずだ。故に今回の戦争では、戦死者が出ても補習室での補習の義務は後回しにしてくれないかと、今日補充試験をした時に西村先生に頼み込んでいる。つまり、いつもだったら使える豊嶋を強制退場させる術がない、ということだ。

 

秋希「………………豊嶋君、いい加減黙ってもらえないかな?でないと………………。」

 

ガラッ

 

西村「全く、事前に双眼から聞かされていた話と違うではないか………。来い、豊嶋!貴様は一昨日から反省しとらんのか!お前だけは特別に、今からみっちり補習を行なってもらうぞ。」

 

「ちょ、待ってくれよ鉄人!俺みたいなエリートよりも………………。」

 

バタン

 

 ………このAクラスの、というより新校舎全体の騒音対策は完璧だからほとんど聞こえないが、おそらく西村先生にこっぴどく叱られてるだろうな………………。自業自得だが。

 

 まあ、俺の計画通り初戦は黒星スタートだが問題ない。次が俺としてもFクラスとしても、心配どころの戦いになるだろう。




~後書きRADIO~
秋希「それでは!後書きRADIO!」

零次「第11回の開始だな。」

秋希「この小問16の間は毎話この後書きRADIOをやっていくわ。」

零次「今回は第1戦目の話だな。」

秋希「結構、アッサリと決着がついたわね。」

零次「当然だ。如何に学力が高く、それでいて今話までそれなりに出番が多かろうと、奴の立ち位置はモブキャラだ。そんな奴との戦いに時間をかける必要はない。」

秋希「まあ、そうだろうけど……。」

零次「それとも、なんだ?アイツの暴言や罵倒の数々を全部聞くつもりか?」

秋希「……それなら、サッと決着をつけて、退場してもらった方がマシか。」

零次「そういえば、なんで西村先生がやって来たんだ?豊嶋を回収してくれたのはありがたかったが…………。」

秋希「あー……。多分、高橋先生じゃない?パソコンを開いて、なにやらメール?していたみたいだから。」

零次「なるほど。高橋先生には感謝しなくてはな。」

秋希「ところで次回は2戦目になるのかな?」

零次「ああ。基本的には1話で1戦ずつ進める予定だ。」

秋希「OK。それじゃあ……………。」

「「次回もよろしくお願いします!」」


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小問16(2) 優等生vs観察処分者

秋希「……………どう?勝ってきたよ、代表。」

 

 そう言って、満足そうに笑みを浮かべて、近衛は俺達のところへ戻って来た。

 Aクラスとの試召戦争の一戦目の相手は豊嶋だった。成績こそ優秀だが、根本ほどではないもののいい噂を聞かない生徒だ。正直誰を出してもよかったんだが、そこで近衛がただ一言、勝ってくるから、と言って俺が止めるのも聞かずに勝負に行った。

 本来であれば、こういう勝手な行動は代表として注意とかすべきなんだがな……。相手が相手だし、何よりどう繕っても、勝利して帰ってきた奴に難癖つけるようなポジションになっちまうから、胸のうちに閉まっておくか。

 ただ、Aクラスが先に科目選択権を使ってきたのは嬉しい誤算だな。おかげで作戦にゆとりが出来た。

 ……それよりも一つ気になることがある。

 

雄二「なあ、近衛。あれが…………、指先から弾丸を飛ばすのが、お前の腕輪の能力なのか?」

 

 近衛の召喚獣だ。召喚獣の武器や防具はランダムに決まるものの、点数が高ければ高いほど装備は強力なものになったはずだ。

 アイツの成績は確か、去年の時点で翔子と数点差しかなかったはずだ。それなのに、近衛の召喚獣は、服装はともかく、武器は何も持っていなかった。いや、もしかしたら俺が見落としてただけかもしれないな。あの明久の召喚獣でも木刀を得物に持ってんだ。学年トップの中のトップの召喚獣が武器を持っていない、なんて話はまずないだろう。もしくは、腕輪の効果で本来持っていた武器が消滅したか、だ。

 

秋希「まあ、おおむね正解よ。」

 

 おおむね、か……。ということは、まだ何かあるのか?

 

秋希「それよりも、次の試合は誰に行かせるの?特に決めていないなら、私が指名してもいいかしら?」

 

 Aクラスの方は、既に準備完了のようだ。相手は確か西京……だったか?なら……。

 

雄二「いや、誰がこの勝負に出るかはすでに決まっている。明久!行って来い!」

 

明久「え!?僕!?」

 

 ここは、一旦明久でお茶を濁すか。本当なら秀吉に行ってもらいたかったが、姉の木下優子に変装した件で教師から目をつけられてしまったらしく、今回の戦争に姉弟共に参加できなくなったそうだ。

 

雄二「大丈夫だ。俺はお前を信じている。」

 

 惨敗する方にだけどな。

 

明久「ふぅ……。やれやれ、僕に本気を出せってこと?」

 

雄二「ああ。もう隠さなくてもいいだろう。この場にいる全員に、お前の本気を見せてやれ。」

 

・・・

 

 坂本君に背中を押され、吉井君は戦場へと歩を進める。でも、坂本君はきっと、いや多分……、いや絶対に吉井君のことなど信頼してないだろうなぁ。

 

秋希「……坂本君、君は本当に吉井君が勝てると思ってる?」

 

雄二「んあ?そんなわけないだろ。この勝負に出てくる相手は、Aクラス上位7名だろ?いくら観察処分者の操作技術があろうと、瞬殺だろ。」

 

 ……やっぱりね。そうだとは思ってたよ。

 

雄二「なんだ、お前はそう思ってないのか。」

 

秋希「……当然。私は勝てると思ってるよ。吉井君は………………、自分のためよりも、誰かのために強くなれる。そういう人だからね。」

 

雄二「…………?」

 

 さあ、見せてやろうよ。君の今の実力を。

 

・・・

 

 先鋒戦が予想通りFクラスの勝利で終わり、次鋒戦。こちらの選出は西京葉玖。豊嶋とは一転して、理系の生徒で、代表排斥派の四名の中では最もまともな生徒だ。

 とはいえ、彼女もまた、問題を抱えている。それは、『真面目すぎる』ということ。自分の価値観が正しいと信じて疑わず、他人の意見をほとんど聞き入れない。曲がったことを少しも許せず、ルールから逸れた生徒を見下す。アニメや漫画を見る生徒を『子供っぽい』と切り捨てる。決して悪い奴ではないのだが、その性格が災いし、周りの生徒からは距離を置かれていた。

 

 対して相手は、観察処分者の称号を持つ吉井明久だ。おそらく向こうの目論見としては捨て試合、と言ったところだろう。

 実際、明久の学力は悲惨なものだったからな。坂本も当然それを分かっているわけだから、奴の性格や言動からしても、明久を出オチ要員として使ってくるのも妥当だ。

 

「おい、吉井って実は凄いヤツなのか?」

 

「いや、そんな話聞いたことないが…。」

 

「いつものジョークだろ。」

 

 味方であるはずのFクラスから、応援する声は聞こえないのが何よりの証拠だ。

 ま、今までの『学校での』明久を見てれば、勝てないと思うのも仕方がない。

 

「………私の相手は、観察処分者ですか。まだ姫路さんが控えているようですけど、どうやら万策尽きたようですね。」

 

 この通り、西京も眼中に無いといった感じだ。

 

明久「う~ん……。雄二に限ってそんなことはないと思うけど……。僕を甘く見ないでよ。今までの僕は全然本気なんてだしちゃあいないんだから。」

 

 その言葉と共に袖をまくり、軽く手首を振っているが…。割とギリギリの戦闘だったと、近衛から聞いているのだが?

 

「え?それじゃあ、あなたはまさか……!」

 

明久「そう。君の想像通りだよ。今まで隠してきたけれど、実は僕……………………、左利きなんだ。」

 

「………………だから、何なのですか。」

 

 …………やっぱりバカだった、コイツは。

 

高橋「……コホン。それでは、科目を選択してください。」

 

「そちらが選んで下さい。先ほどは、私達Aクラスが選んだわけですし、わざわざ、こちらが選ぶ理由もありませんから。」

 

明久「……なら、日本史で。」

 

 ククク……だが西京よ、後悔するがいい。もっとも、その選択が俺の期待通りの結果を生むかは、俺にも分からないがな……。

 

・・・

 

 ……今、俺はとても驚いている。まさか、まさかあの明久が…………。

 

[フィールド:日本史]

2-A 西京葉玖・・・372点→358点

 

VS

 

2-F 吉井明久・・・133点

 

 ここまで戦えていること、そして何より、あの点数に。

 

「お、おい。なんだよあの点数!」

 

「Dクラス、いやCクラス並みの点数じゃないか?」

 

「まさかカンニングか!?」

 

 とりあえず最後の奴はあとでシメるか。

 

雄二「なあ、近衛……。明久のあの点数はなんだ?アイツの点数はせいぜい50~60点程度だったはずだが……。」

 

秋希「まあ、これ以外はその程度のものよ?振り分け試験で、一番点が高かった教科に絞って勉強させただけだからね。」

 

雄二「なるほど。つまり、日本史だけ点数が高い状態ってことか……。」

 

秋希「そういうこと。吉井君の場合はすぐに結果を出すなら、複数の教科を満遍なく勉強させるより、一つの教科を集中して勉強させた方がいいと思ったからね。」

 

 確かに、あのバカに沢山のことを一気に教えたら、頭がパンクして、かえって点が低くなりそうだ。

 

[フィールド:日本史]

2-A 西京葉玖・・・358点→247点

 

VS

 

2-F 吉井明久・・・133点→101点

 

「くっ……どうして………当たらないん……ですか……。」

 

 っと、試合の方に目を向ければ、もう中盤戦か。相手の西京とかいう生徒は明らかに苦しい表情をしている。それもそうだよな……。なんてったって、あの観察処分者相手にここまで苦戦してるんだ。それに加えて、観察処分者に任命されてる奴にしては異様に高い点数を取ってることも合わさり、さらに平常心を保てなくなってる。

 

雄二「なあ、さっき明久に勉強させたって言ってたけど、一体どうやったんだ?というか、明久に勉強させて、何が目的なんだ?」

 

秋希「どうやった、って…………単純なことよ?吉井君が試召戦争をする理由を改めて考えさせただけ。吉井君が活躍すれば、吉井君は胸を張って姫路さんと話せるし、坂本君の目的も……まあ達成できて、一石二鳥でしょ?……勉強してるから目的が破綻してる、っていう意見は聞き入れないから。結局いつかは勉強しなきゃいけない時は来るんだから。」

 

 そう言われると、ぐうの音も出ないな。まあ、元々俺もAクラスに勝った後は、本格的に勉強に取り組むつもりだから、近衛の言うことも一理あるが。

 

秋希「それに、元々召喚獣操作の経験が嫌でも多くなるのが、観察処分者の数少ない利点。だから、吉井君が勉強して結果を出すようになって、私並みの点数を取るようになったら……。どういうことになるかは、坂本君なら、分かるわよね?」

 

雄二「単純にFクラスの戦力が増える……いや、それだけじゃないだろうな。」

 

秋希「当然。他にも色々思うことはあるけど、吉井君の幸福のためにも、観察処分者の肩書きは早めに排除しておきたい。これが吉井君に勉強をさせた目的の一つ。他にもあるけど、後でゆっくり考えてちょうだい?」

 

 そう言って、近衛は俺のもとを離れていった。

 さて、勝負の方はどうなったか……。

 

[フィールド:日本史]

2-A 西京葉玖・・・247点→35点

 

VS

 

2-F 吉井明久・・・101点→57点

 

「…………認めたくありませんが……ここまでの……ハア……ようですね………。(チラッ)」

 

「ま、マジかよ!」

 

「よっしゃ、いっけーーー!吉井ーーー!」

 

明久「うおおおおおお!!」

 

 これはもう、明久の勝ちだな。もう西京に戦う力は残ってないようだし…。 だが、一瞬Aクラスの群衆に目をやったのはなんだ?

 

「……参りました!」

 

明久「…………え?」

 

 ………………降参!?確かに負けが確定した状況だが、一体なぜ!

 

「……高橋先生。」

 

高橋「……分かりました。では、この勝負、Fクラス側の勝利です。」

 

「「「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 ……まあ、どんな結果であれ、大きな白星を手にしたのは間違いない。この大番狂わせのおかげで、確実にAクラスに勝てるようになった。

 ……だが、なんなんだ、この違和感は。俺は何か大事なことを見落としているのか?




後書きRADIO
秋希「さ~て!今回も後書きRADIO、行ってみよ~!」

零次「今回で第12回だな。」

秋希「今回はゲストにM!V!Pの!吉井君と、ついでに坂本君に来てもらったよ~!」

明久「ちょ、ちょっと、その言い方は照れるよ。ここまで来れたのは、近衛さんや零次のおかげじゃないか。」

秋希「いやいや、点数に関してはそうだとしても、勝負をしたのは君なんだから、堂々としていいよ。」

零次「今回ばかりは、近衛に同意だな。お前はもう少し自分に自信を持ってもいいとおもうが?」

雄二「というか、本編では語り手だった俺が『ついで』扱いかよ……。」

秋希「今回の話のメインは、一応吉井君の戦闘だから。というわけで、解説といこうか。」

零次「今回はAクラス戦一番の見せ場、明久の戦闘なんだが、実はボツになったシーンがあるんだ。それは、終盤で西京がAクラスの群衆に目を向けた後のシーンだ。」

雄二「あの場面か……。どうなる予定だったんだ?」

零次「単純に言えば、他のAクラスが乱入してきて明久を倒す、といった具合だな。本作のAクラスは、原作同様まとも(?)な連中が大半だが、プライドが無駄に高い過激派連中がまだ二人残っている訳だからな……。特に横沢や補習室送りになった豊嶋あたりは、自分より下位の生徒を見下してるから、確実に乱入してくるな。」

明久「え、そしたらどうなるの?」

秋希「どうなるも何も、戦前協定で一騎討ちで戦うことで互いに同意しているのに、横槍を入れてるんだから……。」

零次「よくて、Aクラスに何かしらの罰則を設けての続行。最悪この時点で、Aクラスの反則負けの裁定が出るだろうな。」

雄二「じゃ、あそこで降参の意思表示をしたのは、その展開を阻止するためか。」

零次「そういうことだろうな。西京はルールに忠実だから、たとえ自分に不利益だろうと、違反行為しようとする奴を見て見ぬふりは出来ないはずだからな。」

秋希「それじゃ、今回はここでお開きにしようか。」

零次「次回は3戦目だな。」

雄二「次は一体誰なんだ……?成績順で見るなら、佐藤美穂か?」

零次「さあ、どうだろうな……。もしかしたら、坂本が知らなくて、明久が知っている奴かもしれんぞ?」

秋希「と、いうわけで!」

「「「次回もよろしくお願いします!!」」」


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小問16(3) 失うは級友(とも)か誇り(プライド)か

 今、俺達のクラスは混乱に陥っている。だがその理由は分かっている。

 

「こ、降参……?」

 

「い、一体なぜ……?」

 

 西京が突然、降参宣言をしたからだ。吉井の勝利に狂喜乱舞しているFクラスと違い、こちらはその理由を各々必死で考えている。

 

[フィールド:日本史]

2-A 西京葉玖・・・35点

 

VS

 

2-F 吉井明久・・・57点

 

 だが、彼女が降参する直前の点差は、絶望的という訳ではなかった。正直あの場面から、調子に乗った吉井が不意を突かれて負けるのではないか、なんて考えが一瞬頭をよぎった程だ。

 そういうわけで、誰もその真意には辿り着けてないようだ。……まあ、俺も未だ見当がつかない訳だが。

 

「………ん?お、おい!皆!これ……。」

 

 そんな中、一人の男子生徒が、何かを発見したようだ。俺もその声のする方へ向かった。

 

[フィールド:日本史]

2-A 梶恋太 ・・・345点

 

2-A 久保利光・・・402点

 

2-A 横沢芽衣・・・333点

 

「あの~…、高橋先生~。もうそろそろフィールドを消してくれませんか~?」

 

 そこにあったのは、三体の召喚獣。そして、この集団の奥の方から聞こえる声。そこに目を向けると、召喚獣の状況と同様に、久保と梶に身柄を拘束された横沢の姿があった。

 

美穂「えっ!?か、梶くん、一体何を………。」

 

「何を、って言われてもねぇ~…。彼女が、変なことをしようとしてたんで、咄嗟に止めたんスよ。」

 

 ……変なこと、だと?大体想像できるが、一応聞こうか。

 

「…………ちょっと、私の崇高な行いを、変なことだなんて言わないで頂戴?あの堅物クソ真面目に代わって、観察処分者のクズを叩き潰してあげようとしたのよ?それを邪魔する方がおかしいのよ!」

 

 …………やっぱりか。本当、豊嶋とコイツは救いようがない。

 

「……何が、邪魔する方がおかしい、ですか。一騎討ちで決着を着ける、というのは霧島さんの同意のもとで決めたルールですよ。それを捻じ曲げる方が、おかしいと思いますが。」

 

「何言ってんのよ。あのクズ共が勝ちたいからって、一方的に有利なルール押しつけてんのよ?それに従う必要がどこにあんのよ?大体、カンニングしてる観察処分者に負けそうになってたくせに、指図されるいわれは無いわよ!」

 

 ………おい、もうその辺にしとけ。でないと……………。

 

「カンニング……?あの点数は、本人の努力そのものだと、私には見えますけど。大体、何かそのような証拠があるとでも言うのですか?」

 

「あの点数が何よりの証拠でしょ!?観察処分者があんな点数取れるわけ…。」

 

ズシャッ

 

[フィールド:日本史]

2-A 梶恋太 ・・・345点

 

2-A 久保利光・・・402点

 

2-A 横沢芽衣・・・333点→戦死

 

利光「…………いい加減にしなよ。」

 

 ほら見ろ、久保がキレた。その形相は、どことなく俺に似てるな。

 

利光「さっきまで黙って聞いていたけど、君は吉井君の何を知っているんだい?少なくともこの一週間、僕達Aクラスを倒すために必死に勉強して来た彼の姿を、僕は見てきた。そして、その努力が今回の戦争で、点数うという形で現れたんだ。……その努力を否定する者は、誰であろうと許さない!」

 

 なぜだろう。その力強い決意からは、私怨が見え隠れしている気がするのだが…。明久関連の事象だからか?

 

「ちょっと、梶!いい加減放しなさいよ!葉玖もさっさと助けなさいよ!」

 

「あれだけ自分勝手なことを言っといて、まだ騒ぐつもりっスか?戦死者は補習室行きっスよ。」

 

「梶君の言う通りです。それに、Fクラスが勝ちそうになった時に、また邪魔されることがあっては、それこそAクラスの沽券に関わります。」

 

 こうして、横沢は仲間であるはずの梶と西京に捕らえられ、教室を出ていった。

 

零次「……さて、霧島。お前の計画ではこの後、佐藤美穂、工藤愛子、久保利光が順に選出され、その後にお前と俺が続く予定だったが……、全て破棄させて貰う。」

 

翔子「……え?」

 

零次「いや、正確には久保を出さない代わりに、俺が用意した補欠に、次の試合入ってもらう。いくら級友を止めるためとはいえ、今の戦いに関係ない奴が、召喚獣を出している時点で、ルールを破ったことと同義だ。」

 

「でも、久保君をメンバーから外して大丈夫なのかい?補欠が誰かは知らないけど、学年トップクラスの学力を持つ、彼の代わりを勤められる人がいるとは思えないけど……。」

 

零次「栗本、お前はさっきの戦いの何を見ていた?学力だけで試召戦争の結果が分かると思うな。……それに、Fクラスで警戒すべき特記戦力4人のうち、2人が早々にいなくなったんだ。残りの2人のうち、どちらか1人を倒せば、勝利は固いだろう。」

 

 そう言って、俺はフィールドで不気味に揺れている長身の男子生徒に目を向けた。

 

 さあ、ここから反撃開始だ。




~後書きRADIO~
零次「さあ、第13回後書きRADIOの時間だ。」

秋希「今回は3回戦……ではなく2回戦直後のAクラス陣営の話ね。」

零次「ああ、そうだな。……結局、前話との繋がりを考えて、前回の後書きRADIOで語った没シーンの名残りを使うことになったな。」

秋希「ま、それよりも今回は、Aクラス対Fクラス戦の休憩話だから、折角だし、第二学年の成績を見ていこうか。」

零次「唐突だな……。まあいい。じゃあ、まずはAクラストップ10を見ていこうか。」

1位 双眼零次(????点)
2位 霧島翔子(4412点)
3位 久保利光(3997点)
4位 工藤愛子(3782点)
5位 佐藤美穂(3779点)
6位 木下優子(3761点)
7位 西京葉玖(3574点)
8位 豊嶋圭吾(3499点)
9位 梶恋太 (3483点)
10位 横沢芽衣(3398点)

零次「俺の点数は、今回の戦争でおそらく公表するだろうから、伏せておくが、本作の振り分け試験の結果はこんな感じだ。」

秋希「本来は木下さんを飛ばしたトップ8が一騎討ちに出る予定だったのね?」

零次「ああ。木下は、前に自分の弟をボッコボコにしていたところを『誰かさん』に目撃されてな…。ソイツに呼ばれた先生に現場を見られて……、事情聴取の後、原因が試召戦争がらみだってことと、次にFクラスがAクラスに宣戦布告する予定だという、秀吉の証言から、『今回の戦争に不参加』という………一応、厳重注意という形でその話は終わったんだ。」

秋希「なるほど。秀吉君が戦争不参加の理由は察しが付いてたけど、姉が不参加なのはそういうことだったのね。所謂、喧嘩両成敗、と。」

零次「そういうことだ。」

秋希「それじゃ、次は学年全体のトップ10を……と言いたいけど、これは次の休憩話に持ち越そう。」

零次「マジか。というか、次の休憩話って……………、あったな。予定通りなら次々回に。」

秋希「それじゃあ、次回予告をよろしく!」

零次「次回はAクラス対Fクラスの3回戦だ。俺が久保の代わりに選んだ補欠とは誰なのか!……………って、αクラスのメンバーが限られてるから、もう『アイツ』しかいない訳だが……。」

秋希「アイツ…………。一体何山君なんだ!?」

零次「お前、ワザと言っただろ。」

秋希「そ、それでは!」

「「次回もよろしくお願いします!!」」


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小問16(4) 二つの寡黙な影

「う、うおおおお!」

 

「なんか、よく分からないけど、勝ったぞ!」

 

「お前なら、やってくれるって信じてたぜ、吉井ー!」

 

 Aクラスが味方の降参宣言に動揺を隠せないでいる中、Fクラスの生徒達は狂喜乱舞していた。その喜びようは、宝くじで一等を当てた時や、できの悪い子供が高偏差値の大学に受かった時の母親が見せる感動に似ている……多分。

 

雄二「なあ……。本当に明久が勝ったんだよな?」

 

秋希「坂本君、試合をちゃんと見てた?それとも現実を受け止めきれない?でも残念でした。この勝負、吉井君の勝ちだよ。」

 

雄二「だよな……。一応言ってみただけだ。」

 

 ……まあ正直、あれを『勝ち』と言えるかどうかは微妙なラインだけどね。

 

雄二「それにしても、明久があんな点数取れるなんてな……。」

 

秋希「そりゃあ、教えた人が優秀だからね。今回は時間が足りなかったから、一教科だけに集中して教えたけど、この戦争が終わった後は、もっとハードモードになるだろうね。」

 

 ま、吉井君からしてみれば、今までの勉強も結構ハードだったと思うけど。

 

雄二「そうか……。なあ、近衛。一体誰なんだ?誰が明久に勉強を教えていた?アイツが一人で黙々と勉強してる姿なんて想像できないからな。」

 

 ……随分と踏み込んでくるなあ。どうしようか。別に適当なことを言って、あしらってもいいけど、情報屋の土屋君がいるから、警戒して監視に差し向けてくるかもしれないし……。

 

秋希「ハア……。そんなこと聞いたって、何も得なんて無いでしょうに……。まあ、いいわ。吉井君に勉強を教えたのは、主に零次と久保君よ。ついでに、私とその他複数名のAクラス生徒ね。」

 

雄二「マジか……。あの久保がか……。お前や双眼が関係したとは思ってたが、久保が、なぁ……。」

 

 なんか失礼な言い回しだなぁ。坂本君の中での久保君のイメージは、一体どうなってんだか。

 

秋希「さてと、そろそろ試召戦争の話をしようか、坂本君。事態は思ったよりも、『私達』にとって良い方向に進みつつあるみたいだけど……。どうする?」

 

 坂本君の『裏目的』のことを考えれば、わざとこの後の三試合を捨てて、霧島さんがほぼ確実に出てくるであろう第6か7戦目まで引っ張ることもできる。でもそうすると、ここまで積み上げてきたアドが無くなるうえ、向こうが優位になる。

 正直な話、私は坂本君を全く信用していない。折角坂本君VS霧島さんの幼なじみ対決を実現できても、それに勝てなければ坂本君は戦犯もいいとこだ。

 

雄二「そうだな…………。ま、折角明久が活躍したんだ。この有利な状況を維持しよう。ムッツリーニ、出番だ!」

 

康太「…………。(スック)」

 

 坂本君の呼び掛けにムッツリーニ君、もとい土屋君が立ち上がる。

 彼こそ、Fクラスの秘密兵器と呼べる存在であり、今回の科目選択権を最も活かせる生徒である。というのも、彼は島田さんや吉井君同様の一教科特化型の生徒であり、しかも、その教科で400点を超えているのだ。その特化ぶりは、総合点数の殆どを占めるほど。彼の得意なフィールドで、勝てる奴などほとんどいないだろう。

 

 もっとも、ここまでは『私達』の想定通り。計画の鬼門であった、吉井君が勝利した以上、『私達』の勝利はもはや揺るぎのない決定事項となった。

 

・・・

 

高橋「では、三人目の方どうぞ。」

 

 あれだけの騒ぎがあったにも関わらず、何事もなかったかのように五将戦が行なわれる。Fクラスからは、土屋が選出された。どうやら先の二戦で、Aクラスが大したことない、名ばかりのクラスだと思われているようだ。なら、そのくだらない空想を、粉々に砕くとしよう。

 

高橋「…………どうしましたか?Aクラス側からも三人目を出してください。」

 

 ………………?一体何を言っているんだ、高橋先生は。

 

零次「高橋先生、こちらはもう既に出ていますよ。………なあ、影山。」

 

幽也「………………………………うん。」

 

 一瞬にして、教室中がざわめきの声で埋まった。まあ、傍から見たら、今まで誰もいなかった場所にいきなり人が現れたように見えるからな。実際は、ずっとそこで立って待ってたのだけどな。

 

幽也「……どうも……、影山………幽也で…す……。よろしく………………。」

 

康太「…………土屋康太だ。」

 

 数秒間の沈黙。これまでが大分騒がしかっただけに、異様な空気になっている。

 

高橋「……で、では、教科は何にしますか?」

 

康太「…………保健体育。」

 

 そしてまた、数秒の沈黙。

 

高橋「それでは、召喚を開始してください。」

 

「「…………試獣召喚≪サモン≫。」」

 

 そして、互いの召喚獣が召喚される。土屋のは忍者装束を纏った小太刀の二刀流。対する影山のは全身を覆い隠すような黒のロングコートにフードを目深に被り、右手には身の丈と同程度のトライデントを持っている。

 

康太「…………一気に終わらせる。加速!」

 

 先手を仕掛けたのは土屋だ。彼の召喚獣の腕輪が光り、その姿が一瞬にして消えた。

 奴の腕輪の効果は、セリフからしてもおそらく、速度の上昇という単純なものだろう。だがそのスピードはもはや瞬間移動と言ってもいいレベルだ。腕輪の能力なだけあって、あの攻撃を躱すのは難しいだろうな……。

 

 そう、相手が影山でなければ。

 

康太「…………何!?」

 

 次の瞬間、土屋の召喚獣の左肩をトライデントが掠めていった。その結果、能力が発動中だった土屋の召喚獣はバランスを崩して転倒。詰めていた距離も元々の距離と同じくらいに戻ってしまった。

 

[フィールド:保健体育]

2-A 影山幽也・・・401点

 

VS

 

2-F 土屋康太・・・572点→501点

 

「「「な、何ぃぃぃぃ!?」」」

 

 そして表示された点数に、両陣営から驚きの声が上がる。いや、正直俺も声を上げるほどではないが驚いている。まさか、ここまで影山の点数が上がるとは。だが、影山の召喚獣が腕輪を装備している様子は見られない。多分、ロングコートの下に隠れてるのだろう。

 

康太「………………隠してたのか…………実力を。」

 

 そんな中、土屋が影山に尋ねてきた。それにしても『隠してた』と聞くか……。ということは、気づいたのか?………………いや、それは多分無いだろうな。

 

幽也「…………違う。」

 

康太「…………何?」

 

幽也「僕は…………普通………………こんな点数………取れない。……『代表』が………今回……の戦争に……備え……て………………僕に……指示を……出した。」

 

康太「…………指示、だと。」

 

幽也「そう。…………もともと点数が一番…………低かった…………数学。吉井明久君…………対策の………日本史。そして………………君対策………の………………保健体育。………………これら……を…中心に……………点数……を………………上げろ……と。」

 

 途中、土屋はしびれを切らしてか、攻撃を仕掛け続けたが、残念ながらすべて、影山に防がれた。

 

[フィールド:保健体育]

2-A 影山幽也・・・401点

 

VS

 

2-F 土屋康太・・・501点→419点

 

幽也「だから……言葉……通り…………これらだけ……を…………ひ…たす…ら、………………勉強した。………………付け焼き刃な………部分は………多…い………し……、他の…………科目が……おろそ…かに………………なる……か…ら………………ここ……まで…………高い………………点数が取れ…るのは………………これが………………最初で………………多分………………………………最後。」

 

[フィールド:保健体育]

2-A 影山幽也・・・401点

 

VS

 

2-F 土屋康太・・・419点→335点

 

「何やってんだ、ムッツリーニ!」

 

「そんな奴、さっさとやっつけろ!」

 

 自分が参加しないからって、随分と言いたい放題だな。点数だけで見ても、相当な実力の持ち主だと分かるはずなのに。

 

幽也「だから………………この腕輪を………………使うのも………………多分……最初で……最後。」

 

 土屋が攻撃を中断すると同時に、影山の召喚獣は左腕を掲げ、ロングコートの袖をまくった。やっぱり、コートの下に隠れてたのか。

 

幽也「………………………………隠蔽≪インビジブル≫。」

 

康太「…………しまった!」

 

 影山のセリフに反応して、腕輪が輝く。そして、その光が消えると同時に……。

 

[フィールド:保健体育]

?????? UNKNOWN・・・???点

 

VS

 

?????? UNKNOWN・・・???点

 

 すべての召喚獣の姿が消えた。

 

康太「…………い、一体……何が……。」

 

幽也「それでは、………………さよなら………………。」

 

[フィールド:保健体育]

2-A 影山幽也・・・101点

 

VS

 

2-F 土屋康太・・・戦死

 

 そして、何もわからぬまま、土屋の召喚獣は影山のトライデントに貫かれていた。




~後書きRADIO~
秋希「さあ!後書きRADIOの時間だよ~!!」

零次「今回で第14回だな。」

秋希「今回は第3回戦目ね。それにしても、影山君がここまで点数が上がってるなんてね……。元々がAクラス最下位なんて思えないわね。」

零次「それは俺も思ったさ。今回の戦争において影山の役割は、俺が特記戦力としてカウントしている4人のうち、吉井と土屋を抑えるという、特定生徒への対策札としての役割だ。残り2人の姫路とお前だけは、流石にどうしようもないが、残りは一教科特化型だ。彼らがをなんとかしてしまえば、勝ち星は拾えるわ、科目選択権を無駄にできるわといいことづくめだろう?」

秋希「まあね。ただ、まともな戦力が少ないこっち側からしたら、今回の敗北は結構な痛手だよ。坂本君も土屋君が負けることは全く想像していなかったし……。」

零次「俺が坂本の立場だとしてもそうだろうよ。」

秋希「…………それじゃ、戦争の振り返りはここまでにして、折角だからここで土屋君と影山君の腕輪の能力を公開しようか。」

零次「ようやく、今回の本題に入れたな。それじゃ、まずは土屋の腕輪からだな。」

名称:加速
消費点数:20点(総合科目でも同点数で使用可能)
詳細:
現在自分がいる場所から、召喚者が指定した地点まで一直線に高速で移動する能力。

零次「まあ、原作通りの能力だ。見ての通り、本来は緊急回避用で、自動攻撃等の機能は無い。つまり、あの腕輪を攻撃に使用している土屋と、それを見切れた影山は、よほど動体視力がいいんだろうな。ちなみに、土屋が最初の影山の一撃を躱せたのは、とっさに能力を解除したからだろう。」

秋希「それじゃあ、次は影山君の腕輪ね。」

名称:隠蔽
消費点数:100点(総合科目では1000点消費)
詳細:
フィールド上の全ての『召喚獣の情報(所属クラス・名前・点数)』、『召喚獣の武器』、『召喚獣の姿』のいずれかを見えなくする能力。情報は伏字になり、召喚獣の武器や姿は透明になる。対象は召喚者が指定できる。

秋希「こうして見ると、随分使い勝手が悪そうな能力だね……。」

零次「武器の間合いだとか、点数(体力)管理を怠れないことを考えると、記憶力がいい奴が有利な能力とも言えるがな。情報だけ伏字なのは、召喚獣の位置が完全に分からなくなると勝負にならなくなる可能性があるからだろう。ま、絶えず移動し続けてれば関係ないが。」

秋希「確かに零次の言う通り、記憶力がものを言う能力だとすると、いざという時の何かしらの目印は必要になるものね。」

零次「それと、この効果は後からフィールドに召喚された召喚獣にも適用される。この能力のように『フィールド上の全ての……』で始まる能力は全て『フィールド効果』と呼ばれるもので、後からフィールド効果を持つ能力が発動すると上書きされる特性がある。……ぶっちゃけ、死に設定になりそうだが。」

秋希「……一応零次の腕輪もフィールド効果だけど?」

零次「まず、隠蔽の腕輪と併用する機会無いだろ。俺の腕輪は使用条件が厳しければ、発動条件も厳しいんだぞ。」

秋希「あ~……。それもそっか。」

零次「ま、そういうわけで今回はここまでだ。」

秋希「えっと……この調子でいくと次は4回戦だよね?」

零次「…………さて、どうなるだろうな。」

秋希「何その意味ありげな沈黙は。まあ、いいけど。それじゃ……。」

「「次回もよろしくお願いします!!」」


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小問16(5) Question from Ace(主席の疑問)

~前書きRADIO~
秋希「どうも~。近衛秋希で~す。まさか、約2ヶ月間も間隔が空くとはね……。まあ、不定期なのは変わらないけど、これからなるべく1ヶ月以上間隔が空かないようにするらしいし、これからも読んで頂けると嬉しい……かな?以上、……作者からの伝言でした。それでは、どうぞお楽しみください。」


零次「影山、よくやった。おかげで『俺達の』勝利は確実なものになった。」

 

 影山は黙って頷いた。その表情はどこか満足気というか、嬉しそうであった。

 

 現状Fクラス内で、俺が『特記戦力』と呼んで警戒している生徒は5人。

 Aクラスに入れる実力を持ちながら、学校の規則でFクラスに入れられた、『姫路瑞希』。

 Aクラスに入れる実力を持ちながら、あえてFクラスに入ることを選んだ、『近衛秋希』。

 総合的な実力はFクラスだが、召喚獣の操作経験が最も多い、『吉井明久』。

 そして、総合的な実力はFクラスだが、知識が保健体育一教科に特化している、『土屋康太』。

 

 他にも坂本や根民、島田、秀吉と警戒すべき人物はいるが、彼らは召喚獣の操作経験の少なさや、抜きん出て高い教科が無いといった理由から、現在は候補から外している。

 影山に任せた任務はこの特記戦力のいずれか一人の撃破である。特にその中でも、当たり枠に入る土屋を倒してくれた戦績は大きい。おそらく向こうも、アイツが勝つことを前提に戦略を組んできたはずだからな。いくら明久が予想外の勝利を手にしたとはいえ、落胆は免れないはずだ。

 

零次「…………さて、ここから一気に畳みかけるぞ。佐藤美穂、工藤愛子、準備はいいな。」

 

美穂「は、はい!」

 

愛子「こっちも大丈夫だよ!だ……あ~、零次君。」

 

 うっかり俺を代表と言いかけたな、工藤。まあ、別に事実だし、大々的にこの事実が広まりつつあるから構わないが、それでも信じてない奴はまだまだいる。特にFクラスは、情報収集をしているのは極々一部の生徒だけだからなぁ……。折角明かすなら、Cクラス同様、自ら名乗るのがエンターテインメントの雰囲気が出るというものだ。

 ……まあ、噓なのだがな。近衛が俺に無理やり見せたマンガの内容を取り入れてみたかっただけだ。

 

零次「よし。それじゃ、相手の出方次第で、どちらが出るかと勝負内容を決めるぞ。……それでもいいか?」

 

美穂「わかりました。」

 

愛子「…うん、特に異論はないかナ。」

 

 …………出来れば、少しは君らの意見を聞きたいのだが。俺個人としては、多少命令に反しても、最低限の仕事、今回の場合はFクラスに勝利してしまえば、何も文句は言わないぞ?

 

零次「…………そうか。なら、頑張れ。」

 

 さて、奴らが俺の指示通り戦った場合、Fクラスにメッセージを送ることになるのだが…………。坂本あたりは果たしてそれに気づくのだろうか。

 

・・・

 

 今のFクラスの心境を表すならば。

 

 絶望。

 

 この言葉がぴったり当てはまりそうだ。

 

 私が初戦を制して。吉井君が大番狂わせを達成して。それに続いて、土屋君と姫路さんが勝利を飾って、綺麗に勝負が終わる。7戦もせずに私達のコールド勝ち。Fクラスの誰もがそう思っただろう。

 しかし……。

 

[フィールド:数学]

2-A 工藤愛子・・・388点→363点

 

VS

 

2-F 島田美波・・・174点→戦死

 

[フィールド:古典]

2-A 佐藤美穂・・・376点→364点

 

VS

 

2-F 根民円 ・・・177点→戦死

 

 土屋君が敗北し、続く2人も大して点数を削ることなくやられた。もうAクラスに科目選択権は無いけど、2連勝からの3連敗。クラスの士気も、もうゼロに近い。

 

雄二「クソッ、やっぱりAクラス上位なだけあって、そう簡単にはいかないか……。」

 

康太「…………いや、ちょっとおかしい。」

 

 そんな中、土屋君が坂本君に話しかけてきた。

 

雄二「は?おかしいって、何がだ?」

 

康太「…………さっきの二戦、どちらともAクラスが科目を決めた。…………こういう時、普通は自分が得意な科目か、相手が苦手な科目で戦うはずだ。」

 

雄二「……まあ、普通はそうだよな。」

 

康太「…………だけど、工藤愛子が最も得意なのは保健体育で、佐藤美穂は物理の点数が最も高い。」

 

雄二「つまり、アイツらは、わざとこちらに有利なフィールドで戦ってた、ということか?」

 

 土屋君は、頷いて話を続けた。 

 

康太「…………その可能性が高い。…………それに、俺が調べた情報では、二人とも、選んだ教科ではあそこまで高い点数を取ったことはなかった。」

 

 そう言って、坂本君に見せた紙を覗き見ると、今回の団体戦に出場する可能性のある生徒の一覧と、点数の予想が、大雑把にだが書かれていた。

 

雄二「確かに、これと比べると、30~40点ほど上がってたな……。けど、いくらAクラスだからって、こんな短期間で点数上がるわけが……、いや、明久がとんでもない成長を遂げてるからあり得ない話ではないか。…………いや、ちょっと待てよ?」

 

 ふと、坂本君は渡された紙とにらめっこしながら、ブツブツと呟き始めた。

 

 …………もしかして、『私達』の意図に気づき始めてる?まあ、坂本君ならこれまでのヒントでなんとなく分かりそうだけど。

 

 しかし、それが一分と少し続いた後、結局考えるのは後にしよう、という結論になった。けど、坂本君のことだ。恐らく核心に迫っているはず。となると、今はタイミングをはかっているのかな?

 

秀吉「して、どうするつもりじゃ?こちらはもう、二勝三敗で後がないぞ。」

 

雄二「ああ、分かってる。姫路!久保でも、この際翔子でもいい!とにかく次の勝負に勝って、希望をつないでくれ!」

 

瑞希「は、はい!」

 

 あ~あ、坂本君完全に忘れてる。ここが一番の鬼門であって、まだ、『アイツ』が出ていないことに。

 

雄二「…………?どうした、近衛。」

 

秋希「坂本君…………。何か忘れてないかい?」

 

零次「全くだ…。お前たちの声が聞こえてきたが、久保?霧島?この勝負所で、何故ソイツらを出す必要がある?」

 

 Aクラス陣営から聞こえる、低い声。私がこれまでの人生で最も聞いた声が教室に響く。

 

零次「この勝負は俺、Aクラス代表双眼零次が、この手で終わらせてやろう……。」

 

 …………さあ、姫路さん。恐れずに立ち向かってよ。君のことは決して応援しないけど、決着がすぐに着かないことを願っているから。

 

 

・・・

 

 

「アイツが…………、代表だと!?」

 

「聞き間違いじゃ…、ないよな…。」

 

「まさか、カンニングか!?」

 

 俺の大胆な宣言に対して、Fクラスから罵詈雑言と動揺の声が届けられた。だが、そんなものはとっくに慣れている。奴らの声を無視し、目の前に立つ女子生徒に意識を向ける。

 

零次「姫路……。勝負の前に、お前に一つ聞こう。……お前は、なぜFクラスと共に戦う?」

 

 突然の質問に彼女は目を丸くしている。これだけでも何かしら答えられると思ったのだがな…。

 

零次「奴らとお前には接点なんて、これまでほとんど無かったはずだ。それに、この数日の間に奴らに肩入れ出来るほどの『何か』があったとも思えない。……まさか、Fクラスの一員として、当然のことをしているだけとは……言わないよな?」

 

 もしそうなら、勝負する価値もない。本気で戦って、一瞬で終わらせてやろう。

 

瑞希「………確かに、今思い返してみれば………、最初は、流されていたんだと、思います。Fクラスの皆が、Aクラスの皆さんを……、倒そうとしている……、その雰囲気に……。」

 

 でも、今は違います。

 

 そう言って、彼女は強い眼差しを、こちらに向ける。

 

瑞希「私は…、このクラスの皆が好きなんです。人の為に一生懸命な皆のいる、Fクラスが…。」

 

零次「…………ほう。Fクラスが好き、ねぇ……。」

 

瑞希「はい。だから、頑張れるんです。だから私は……………、皆の力になりたいんです!」

 

 そう答えた彼女の目には、嘘偽りは全くなかった。

 

零次「なるほど……。分かった。どうやら、俺とお前が今抱えている意識というものは、似て非なるものらしい……。だがその思いは、果たして正しいものなのか?」

 

 そう言って、俺は右のポケットから、小さく折り畳んだノート一ページ分の紙切れ数枚を広げ、そして、その紙に書かれた内容を一つ一つ淡々と、どこか機械的に読み上げる。

 

零次「須川亮。Dクラス戦が終わった翌日のことだ。お前は16:45に学校を出た後、ゲームセンターに向かい、そこで1時間半にわたり遊んでいたな。その後、家に着いたのは18:50頃。夕食を食べ、風呂に入り、そして課題にはほとんど手を付けず、21:30には就寝していたらしいな。」

 

「な、なんでそれを……。」

 

零次「近藤吉宗。同日のお前は、17:10頃に帰宅した後、自室で2時間にわたって、寝転がって漫画を読んでいたらしいな。それどころか、親に言われるまで……いや、親に言われてもなお、課題の存在を放置しようとしそうじゃないか。結局、両親に酷く説教されたそうだが。」

 

 その後も彼らの動揺を無視し、流れ作業のごとく読み上げを続ける。

 

零次「君島博。教室の席の位置は、一番前の列の中央。そんな最も先生の声と目が届く絶好の位置で、お前は授業中に堂々と居眠りしていたらしいな。それも一度だけでなく四度ほど。」

 

 一枚。

 

零次「田中明。お前には弟がいるみたいだが、彼がキッチリ宿題を終えた後に遊んでいるのに対し、お前はそれを傍目に遊び惚けているそうだな。それで一体何度両親に怒られてるのやら……。」

 

 また一枚。

 

零次「柴崎功。お前に至っては、例の課題を学校においていったきり、取りに行く様子がないどころか、忘れたことさえも頭にない。課題をする気がゼロと来たもんだ。親に言われても、課題を忘れたことを思い出さず、平気でなかったと嘘をついた。おまけに次の日学校に来ても、慌てる様子もなく、カバンに隠して『家に忘れてきた』とまた嘘をついた。俺がお得意様の『情報屋』には、すべてお見通しだ。」

 

 また一枚、紙芝居のように読み終わった紙を後ろに回して、読み続ける。

 そして、全て読み終わったことを示すかのように、紙を床にばら撒き、姫路に向き直る。

 

零次「さて姫路。お前はFクラスを一生懸命なクラスだと言ったが……、この現状を見てなお、そんなことが言えるのか?」

 

瑞希「そ……、それは…。」

 

美波「騙されちゃダメよ、瑞希!アイツって、『死神』と言われてる極悪人でしょ?そんなヤツの言葉を聞く必要ないわよ。」

 

 そう言って横槍を入れてきたのは…………、確か島田美波、だったか。ドイツから来た帰国子女ということと、小学生の妹がいるって話を近衛から聞いた記憶がある。

 彼女に関して俺が持ちうる情報は、それらと左側のポケットにも忍ばせていた紙に纏められたもの。それだけだ。

 だが、今の状況から推測すると、立場は少なからず上の方にあるとも思える。彼女の言葉に押されるかのように、他のFクラス生徒が、再び俺に罵声を浴びせ始めたのがそれを裏付けていた。……もっとも、Fクラスの数少ない女子に、少なくとも嫌われたくないという感情がある故の行動ともとれるがな。

 

零次「おいおい、悪人ならともかく極悪人とは、随分酷い言い草だな。大体、今の話が真実か嘘かなんて、言われた本人の反応を見れば一目瞭然だろう。……それとも、お前は人の話を聞く時、その真偽を内容(何を言ったか)じゃなくて、話者(誰が言ったか)で決めるのか?だとしたら、そっちのほうが悪人だと、俺は思うが。」

 

 まったく、折角Fクラスにも褒められるべき人物がいるということを言いたかったが、それすら嘘だと思われるのでは、話す価値もない。仮にその話は信じるというのなら、それはそれで自分にとって都合の悪い話を否定し、都合のいい部分だけに目を向けるクズ野郎という評価を下すことになるが。

 

零次「ハァ…………、姫路、もう一度言わせてもらう。Fクラスはお前が思っているほど、一生懸命なクラスでなければ、お前が力を振るうべきクラスでもない。もっと言えば、これから一年間、生活していくにも値しないクラスだ。それでもFクラスのためを思うのなら、今すぐ降参して、俺に勝ちを譲れ。そうすれば、少なくとも設備のランクダウンだけは見逃そう。」

 

 だが姫路の目は、光を失ってなかった。『Fクラスが好きだ』と、そう言った時と同じ目をしていた。先程狼狽えていたのが、まるでそんなことなど無かったかのように。

 

零次「………だがもし、それすら断るというなら、仕方ない。お前を圧倒的実力で叩き潰して、Fクラスに絶望を見せてやる。二度とAクラス(俺達)に戦いを挑もうなどと、思わないように。」

 

 さてと、随分と時間を使ってしまったな。高橋先生の方に、『終わりました。』と言うかわりに視線を送る。

 

高橋「……えー、前の試合でAクラスは、科目使用権を全て使い切りました。ですので、姫路さん、勝負する科目を選んでください。」

 

零次「そうだ、姫路。一つ…………いや、二つ教えておこう。俺の得意科目は数学で、苦手科目は古典だ。」

 

 ……さあ、どう来る。

 

「何だアイツ……。」

 

「自分から、弱点を言いやがったぞ!」

 

「やっぱり、アイツは馬鹿だ!姫路さん、あんな奴ボコボコにしちまえ!」

 

 随分と好き勝手言ってくれるな、Fクラスは。

 対してAクラスは……。こっちはこっちで驚いてるようだな。Cクラス戦で、蹂躙に使った科目が、まさか苦手科目だとは思わなかったのだろう。

 

瑞希「…………総合科目でお願いします。」

 

 そんなFクラスの野次を気にせず、彼女は堂々と宣言した。

 

零次「………いいのか?変えるなら今だぞ。」

 

瑞希「大丈夫です。私の思いが偽りでないということを……、あなたに勝って証明するのですから!」

 

「「試獣召喚≪サモン≫!」」

 

 恒例の呪文に応え、互いの召喚獣が姿を現す。姫路の召喚獣は、西洋風の鎧に身の丈の倍程はありそうな大剣を、軽々と構えている。俺の召喚獣と見比べると、随分と虚しい思いになってくる。これはこれで気に入ってはいるが。

 

[フィールド:総合科目]

2-F 姫路瑞希・・・4409点

 

「マジか!?」

 

「いつの間にこんな実力を!?」

 

「この点数、霧島翔子に匹敵するぞ……!」

 

 背後からそんな声が聞こえる。確かに、これまでの姫路では、考えられない点数だ。

 

零次「な……、なんだ、その点数は!?これが、お前の力だというのか!」

 

瑞希「そうです!これが今の私の実力です!」

 

 Fクラス陣営は開いた口が塞がらないようだ。だが、ぽつりぽつりとだが、勝ちを確信するような声があがってきている。

 

零次「そんな…………負けるのか…………。俺は…………お前に…………Fクラスに……負けるのか…………?」

 

瑞希「これで終わりです!はあああああ!!」

 

 その言葉と同時に、姫路の召喚獣が動いた。俺の召喚獣の所へ。ただまっすぐ。

 

零次「噓だろ……。認めない……。お前は…………。お前はぁ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋希「ダメだ、姫路さん!これは罠だ!」

 

零次「この程度の点数で、俺に勝てると思っているのかぁ!」 

 

 

 

 同時に、俺の召喚獣に付けられた腕輪が光を放つ。

 

[フィールド:総合科目]

2-A 双眼零次・・・5129点→1129点

 

VS

 

2-F 姫路瑞希・・・4409点→pass→410点

 

 光が消えた後、そこに残っていたのは、うつ伏せになり体を震わせている姫路の召喚獣と、それを見下ろしている俺の召喚獣の姿だった。

 

瑞希「え…………。どう……して……。」

 

零次「逆に聞こうか。そんな猪突猛進な攻撃が、俺に当たると思ってるのか?それで俺に勝てると、本気で思ったのか?そしてどうして、ろくに召喚獣を動かした経験もないお前が、観察処分者と同等の操作技術を持つ、俺に勝てる見込みがあると思った?」

 

 Fクラスの誰もが勝利を確信した直後に見せられた、予想だにしない光景に黙り込む中、俺は姫路に一言一句聞き逃さぬよう、そして彼女の考えの甘さを蔑むように、低い声で語りかけた。

 その光景は、さながら瀕死の勇者に対して詰め寄る魔王のような構図だろう……。近衛が無理やり見せてきたゲームの内容を借りるならの話だが。

 

零次「いや……答える必要はない。この問答に意味などないからな。……さあ、絶望するのはまだ早いぞ、姫路。お前はFクラスから希望を託されているのだろう?ならば、最後の1点まで抗え。お前の頭をフルに使って、無数の策を生み出せ。俺はその闘志を、策を、一つずつ真っ向から粉砕してやろう。」

 

 さあ……、行動開始だ。

 この戦いで、物語の一つの章の、終わりを迎えるために。




~後書きRADIO~
零次「さてと、今回も後書きRADIOの時間がやって来たな……。」

秋希「………………。」

零次「…………今回で第……15回だな。」

秋希「………………。」

零次「……どうした、近衛。だんまりなど、お前らしくない。」

秋希「いや、そうもなるでしょ!4戦目と5戦目オールカットって!見どころ無いからって、いくら何でも酷くない!?」

円「私も……流石にこれは酷いと思う。これ、一応私のデビュー戦なんだけど。こんな事ってある?」

零次「仕方がないだろう。相手の佐藤は、原作で唯一、団体戦に選ばれたのに、Fクラスと絡みが全くないモブキャラ同然の扱いがされたキャラクターだ。近衛には既に言ったが、そんな奴との戦いに時間をかける余裕はない!」

秋希「随分と清々しい顔で言うね…。多分美穂ちゃん外で泣いてるよ?」

零次「まあ安心しろ、根民。次章以降で、佐藤共々、出番は多くなるから。」

円「…………まあ、それならいいか。」

秋希(でも、その次章がいつになるかは定かでないんだけどね……。)

零次「さて、本題に入ろうか。今回は、第6戦目の導入部と、勝負開始直後の内容だな。」

円「一つ聞きたいけど、あの紙は一体何なの?いつの間にそんなの用意してたの?」

零次「一つと言いながら、二つ聞いてないか……?まあいい。あの紙は、本文でも言ってた通り、進級後のFクラスの動向を纏めたものだ。Fクラスに宣戦布告された直後に用意を始めた。」

円「…………じゃあ、情報そのものは?」

零次「……それについては本文でもある通り、『情報屋』から、『買って』手に入れた。決して安い買い物じゃなかったな……。」

秋希「さて、話を変えて、この試召戦争直前での第二学年の総合点数トップ10を見ていこうか。」

零次「……急に話題を変えてきたな。」

円「これ以上話されると困ること……、あるの?」

秋希「……。~♪(口笛を吹いている。)」

零次「誤魔化し方が下手過ぎるだろ……。まあ、いいか。これが現時点でのトップ10だ。ついでに、振り分け試験時の点数も纏めて記載しておく。」

1位 双眼零次(4961点→5129点)
2位 霧島翔子(4412点→4415点)
3位 近衛秋希(658点→4414点)
4位 姫路瑞希(途中退席で0点→4409点)
5位 久保利光(3997点→4145点)
6位 佐藤美穂(3779点→3906点)
7位 工藤愛子(3782点→3903点)
8位 木下優子(3761点→3765点)
9位 西京葉玖(3574点→3569点)
10位 豊嶋圭吾(3499点→3504点)

秋希「私や姫路さんが入っただけでなく、他のAクラス生徒の順位も変動してるね。」

零次「こっちもCクラスと戦って、消耗していたからな。そこで順位の入れ替わりが起こっている。」

円「……なんか、αクラスの点数の上がり具合が尋常じゃないんですけど……。木下さんや霧島さんが数点の上昇なのに、久保君や工藤さんは200点以上上がっているのは……正直、異常なんですけど……。」

秋希「まあ、それは……アレだよ。ご都合主義というやつさ☆」

零次「それお前が言うか……?まあいい。次回予告に行こうか。」

秋希「OK。次回!!零次VS瑞希、決着!!Fクラスの運命や如何に!」

零次「というわけだ。それでは……。」

「「「次回もよろしくお願いします!!」」」


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小問16(6) Answer of Queen(彼女の意思)

秋希「まず単刀直入に言うと、零次は霧島さんに匹敵するくらい、頭がいいのよ。」

 

 思い出していたのは、Dクラスとの戦いが終わった次の日の朝、近衛が話していたことだった。

 

秋希「処暑中学には、『金の卵』なんて大層な呼び名の制度……と言っても、生徒会が勝手にやってることだけど……そういうのがあってね。学力が低い生徒が多い処暑中学の中で、ずば抜けて良い成績を修めた生徒を不良生徒から守るために、四十年ほど前に作られたものでね。これに選ばれた生徒は、生徒会から、安全な学校生活を保障してもらえるのよ。……もっとも、この制度自体、処暑中学の関係者以外には知られてないけどね。十年に一回適用される生徒がいるかどうかってレベルだし、評判が悪い学校だから、成績がいい生徒がいたって、どうせ井の中の蛙だと思われてるだろうし……。」

 

 確かに近衛の言う通りだ。処暑中がどれほどレベルの低い学校なのかは、俺も正確には分からんが、そんな生徒ばかりとなると、テストの難易度だって、低く設定されるはずだ。そこで満点を取ったって、決して威張れるものでもないだろう。

 

秋希「……話を戻すわ。処暑中のテストは、偏差値が低いくせに、出される問題の難易度は、実は一般的な市立中学のそれとほとんど変わらないのよ。当然……って言い方も失礼だけど、周りの連中の点数は殆どが一桁。クラスに数人ほど二桁の点数を取る人がいても、精々20点代前半が関の山。そんな中、零次は全教科で100点満点を取ったのよ。……その後、零次がどうなったか、大体想像つくわよね?」

 

雄二「…………出る杭を打つ勢いで、周りの連中が零次をいじめにかかったんだろ?」

 

 秀吉はどうもピンと来てないようだから、俺が答えた。

 

秋希「大正解。しかも、零次って基本無表情だから、なおのこと癇に障ったようでさ。……………………そんな時、いじめの現場に偶然居合わせた生徒会長に助けられてね。それが、零次が『死神』の異名を持つ持たないの分岐点だったのよ。」

 

 そこからの近衛の話を纏めるとこうだ。

 

 いじめから救われた零次は、その後『金の卵』に認定された。

 その直後に零次は生徒会長に頼み込んで、護身術の体で喧嘩の技術を教わった。奴に恩を感じているというのもあるが、いくら『金の卵』に認定された生徒だとしても、学校外での出来事は生徒会の手にも負えないし、零次自身も生徒会に迷惑をかけたくなかったそうだ。

 そこから零次は急成長を遂げ、学校内では勿論、周辺の他校相手の喧嘩でも、もはや敵なしと言われるほどになった。

 そんな時に、当時の友達(零次自身はそんな風には思ってないようだが)から、悪ふざけ半分で、『死神』の異名をもらった。学校内外にこの異名が広がるのに、時間はかからなかった。

 

秋希「こうして、『死神』の名前だけが独り歩きした結果、零次は文月学園(ここ)で冷遇された、ってわけ。」

 

 道理で去年、アイツの噂があちこちで流れていたわけだ。殆どはくだらないもので、結局ひと月とちょっとで消えては新しい噂が作られるを繰り返してたが。

 …………そう言えば、最近アイツの噂を耳にしないな。いや、よくよく思い返したら、『翔子の同性愛疑惑』や『俺と明久の交際疑惑』も、いつの間にか耳にしなくなったな……。とくに後者は、明久(バカ)が弁明を盛大に失敗したおかげで、最早修正不可能と諦めてたから、一体いつ噂が無くなったのか、恐ろしく思えてきた。

 

秋希「それに、零次って実は、非好戦的……平たく言えば争いごとは好きじゃないのよ。だから喧嘩でも、自分がどれだけ不利な状況に陥ってたとしても、自分から手は出さない。相手の攻撃を躱し、時には同士討ちを狙い、相手が諦めるのをひたすら待つ。戦意を崩し、自らに向かう意思を砕く。これが、零次が『死神』と呼ばれる本当の理由。」

 

 ……そうだ。アイツとの喧嘩を思い出してみれば、確かに双眼は、俺を挑発してきてはいたが、殴りかかってくることは、ほとんどなかった。あっても、それらは全て、俺の攻撃を利用したカウンターだった。

 そして、アイツはずっと……、俺のことを、ため息をついては哀れむような目で見ていた。

 

秀吉「むう……なんか、想像と全く違うのう……。」

 

秋希「あれ?秀吉君は零次と一度か二度会ってなかったっけ?」

 

雄二「何?それは本当か!?」

 

 それにしては、終始目を丸くして聞いていたが……。もしかして、秀吉お得意の演技か?

 

秀吉「う、うむ……。じゃが、ワシが聞いておるのは、零次がテストで手を抜いておったことと、この学校をよく思っとらんこと、それから、去年の間はずっと不良のふりをし続けてきたことだけじゃ。今近衛が話しておったことは、ほとんど初耳なのじゃ。」

 

 秀吉の話は。コイツがこんな場面で嘘を言うとは、当店思えない。信じてもいいが、謎しか出てこないぞ?

 テストで手を抜いていた?それが本当なら、近衛が話した『双眼が賢い』という話も、アイツがAクラス所属なのも辻褄が合わない訳ではない。だが、なぜ去年は手を抜いていたのか、そしてなぜ今になって、真の実力を明かすことにしたのかが分からない。

 文月学園をよく思ってない?……いや、これはまだ納得できる。近衛も言ってたように、アイツは酷い扱いを受けていたんだ。それで学校の印象が変わらないという方がおかしい。となると、テストで手を抜いていたのも、これが理由か……?

 そして、不良のふりだと?アイツ、そんなことしてたのか。俺から見たら、かつて俺と喧嘩した頃と何も変わってないようだったが……。

 

秋希「……と、とにかく!話を纏めるわ。私の知っている零次は頭がよくて、喧嘩が強い。そして、独特な戦いかた故に、集中力も並大抵のものじゃない。もし、その集中力をもって召喚獣を操り、喧嘩の技術を召喚獣にトレースしてきたら、Fクラスじゃ…………、悔しいけど、私含めて誰も太刀打ち出来ない。……………これが、今私が語れる零次の力よ。」

 

 その近衛の話に俺の思考は途切れてしまった。

 

 

・・・

 

 

 

 今の教室中の様子を言葉で表すならば。

 

 驚愕。

 

 これがしっくり来るだろう。

 

 今、私達Fクラスを代表して戦いの場に立っているのは、姫路瑞希さん。彼女の強さを私はもちろん、Fクラスも、敵であるAクラスも認めている。

 そんな彼女はこの数日間で、去年学年首席を維持し続けた霧島さんに迫る点数を叩き出した。だから、誰もが現在のAクラス代表である、零次の敗北を確信していた。

 しかし……。

 

[フィールド:総合科目]

2-A 双眼零次・・・5129点→1129点

 

VS

 

2-F 姫路瑞希・・・4409点→pass→410点

 

 現実は逆だった。零次は腕輪の能力を使い、姫路さんの召喚獣を瀕死に近い状態に陥れた。普通に戦ったとしても、彼が十分に勝てる状況だったのにも関わらずだ。

 

瑞希「…………何が……起こったん……ですか……?」

 

 彼女から、うっかりかどうかは知らないけど、そんな言葉が漏れ出る。

 

 周りの反応は……、概ね予想通りね。

 吉井君は、零次の召喚獣が付けている腕輪が原因だということには気づいたようだけど、肝心の効果までは分からないでいるようだ。彼の場合、考えが表情に出るからわかりやすい。

 坂本君は、おそらく能力まで推測できているだろうけど、あえて口に出さない……つもりかな?それとも、判断材料が少なく確証が無いから、答えを待っているのか。

 他のクラスメイトは…………どうせ、理解できてないだろうね。そもそも、成績優秀者につけられる腕輪の存在を知っているかどうかも怪しい。

 対するAクラス側は…………多分、零次が口止めしてるのかな?それとも、彼らも理解が追い付いてないのか。多分、後者だろうね。ほぼ全員が為す術もなく一瞬で零次にやられたわけだから。

 

 だから、彼女の疑問に答える者は誰もいない。

 

零次「………逆に、こちらからも質問させて貰おうか、姫路。お前は何が起こったと思う?」

 

 零次本人を除いて。まあ、私も答えを知っているけど、聡明な彼女にわざわざ答えを教えてあげるほど、仲良くなった覚えはないからね。

 

零次「俺は質問には様々な種類があると思っている。相手の『興味・関心』を引き出すための質問。己の推測に対し『確信』を得るための質問。その他にも色々質問をする場面があると思うが、どんな状況においても、『自分の中に答えを準備している』という点では共通している。……ある二つの状況を除いてな。」

 

 そう言って零次は、先程まで姫路さんに合わせていた視線を、一瞬だけ床の方に伏せ、睨み付けるようにして、また姫路さんに目を向けた。

 

零次「それは、目の前で起きた状況を飲み込めず、『逃避』するための質問と、答えを知りたいだけの『怠惰』から生まれる質問だ。それらには自分が想定した『答え』が無い。そんな、思考の介在しない問いかけに答えるつもりはない。」

 

 実際、零次はうんざりしていた。おそらく零次の目は、今の彼女の裏側に、かつて自分に絡んできた処暑中の連中を重ね合わせて見ている頃でしょうね。

 奴等は課題をしょっちゅうサボっては、零次に答えを写させようと画策していた。その時は零次に力は無く、当然『死神』なんて異名も持っていない、ただの模範生だった。幾度か断っては、暴力の餌食になっていた。その回数はもう覚えちゃいないけど、そんな奴等を今でも許す気がないことは、明白だった。

 

零次「……(だんま)りか。本当に『逃避』するだけの質問だったのか、そんなに俺と口をききたくないのか……。それより、いいのか?ずっと俺の足元に召喚獣を寝転がせて、さ。」

 

瑞希「!!」

 

 その言葉に、姫路さんは咄嗟に自分の召喚獣を、足元まで移動させた。けど、それは最善手のように見えて悪手だ。

 

零次「………そこで退()くのか。折角、俺に剣が届く位置で倒れてたというのに、そこで攻撃に転ずることができない所が、間合いを取って正々堂々戦おうとか、仕切り直そうとか考える所が、お前が甘い証拠だ。」

 

 その通りだ。これは試召『戦争』なんだ。卑怯汚いも作戦の内、勝てば官軍負ければ賊軍だ。今私達は、窮地に陥ってるんだ。そこでバカ真面目に、もう一度勝負の仕切り直しなんてやっていられるほど、悠長な場面ではないのだ。

 

零次「そもそも、だ。姫路、何故Fクラスが上位クラス二つに勝利できたか、本気で考えたことがあったか?お前が試験を途中退席したことは、あの場にいた先生方はもちろん、生徒だって知っていたはずだ。」

 

 ……あ。そういえばそうだ。姫路さんが途中退席したことは、私が試験を受けた教室にも届いてきていた。それなのに、姫路さんがFクラスに居ることをDクラスの生徒は誰も知らなかった。

 ……まさか、本当に誰も知らなかったって訳じゃない筈なのに……。

 

零次「坂本の策がうまい具合に嵌った?お前がFクラスのために頑張ったから?逆にFクラスが一丸となってお前のために頑張ったから?…………どれも違う。その答えは『慢心』だ。Dクラスは『Fクラスが相手なら楽勝だ』と高を括り、Bクラスは『姫路瑞希(お前)さえなんとかすれば、残りは雑魚ばかりだ』と嘲笑し、共に碌にFクラス(相手)のことも調べず、戦いに出たから。ただそれだけだ。」

 

 確かに零次の言う通りだ。

 Dクラスが私達をクラスで弱者だと判断せずに、しっかり調査をしていれば、下手すれば、姫路さんが試験を受けている間に、やられてしまうことだってあり得たはずだ。

 Bクラス代表の根本くんだって、決して頭が悪い方ではないんだ。もう少しマシな手段を取っていたら、負けていたのは私達の方だった可能性が高い。

 ……そう考えてしまうと、今まで私達が勝利を収めてこれたのは、『坂本君が考えた策略がすごい』というよりも、『相手が私達を侮っていただけ』という、陳腐なものに成り下がってしまうね。……正直、そんな事実、受け入れたくないんですけど。

 

零次「そして、それはお前達も同じだ。俺が代表であることも、それが正当な評価だということも、先生方に聞けばすぐ分かったことだろう?だが、お前達は教師という存在を恐れているのか知らんが、そんな単純なことでさえ聞くことも出来ず、生徒共が垂れ流す、根拠無き妄想で固めた不確かな情報源を、さもそれが『事実』だという風に鵜吞みにする。そのくせに、今目の前で起きている現実は、自分達の情報収集不足を棚に上げて否定する。一体いつから、お前達はそんなに偉い立場にいると思い上がっているんだ?そんな奴らがAクラス(俺達)に勝とうなど、妄言も甚だしい。姫路はともかく、それ以外の奴等はあの貧相な設備が正当な評価だ。」

 

 零次、この状況を何気に楽しんでない?話の相手がいつの間にか姫路さんからFクラスに変わってるし、最早、顔が完全に悪役のソレじゃないか。

 

瑞希「どう……して……。」

 

零次「…………?」

 

瑞希「どうして……、そんな酷いことが言えるんですか!?」

 

 ここでようやく、姫路さんが口を開いた。てっきり、もうずっと放心状態のまま、零次に呆れられるかと思ってたよ。

 

零次「酷い?俺はFクラスを客観的に見つめた事実を言っただけなのだかな……。それを酷いと言えるってことは、お前はまだまともな感性があるってことだ。それだけはちょっと安心したよ。」

 

瑞希「…………どういうことですか。その言い方だとまるで…………Fクラスがまともクラスじゃないと言ってるみたいじゃないですか!!」

 

 珍しく私と姫路さんの思考が一致した。

 でも、それも仕方ないんじゃない?クラスメイトをもう一度ちゃんと見てみなよ。学園側から不名誉な称号を与えられたバカに、盗撮・盗聴を生業にしている男子。それから、特定の生徒に愛か憎しみか判断できない暴力を振るう帰国子女。はては進級当初から事あるごとに姫路さんにラブコールを送ってる生徒が数名いる。

 これをまともなクラスだとは、胸張っては言えないでしょ…。

 

零次「そう聞こえたのなら、素直に謝罪しよう。だが、そう思われる要因である、一部の問題児のおかげで、クラスの印象が悪くなっているのも、事実だろう?」

 

瑞希「誰が問題児ですか!?Fクラスの皆は、確かに成績は良くありませんし、勉学をサボり気味かもしれません……。でも、それだけで、どうしてそこまで酷いことを言われなければならないんですか!!点数に出てこない部分にだって、大事なことはいっぱいあるのに……!」

 

 少なくとも、『問題児』というのは、姫路さんではないわね。吉井君か、坂本君か、あるいはその両方なのか、全く別の誰かなのか……。

 まあ、そんなことはどうでもいい。問題は姫路さんが発した最後の台詞だ。

 

 『点数に出てこない部分にも、大事なことがある。』

 

 残念ながらその思考は、完全に零次の理解の外だ。

 零次が処暑中学にいた頃は、Fクラスに比肩する程のバカの集まりであり、自らに災難をもたらす奴等ばかりだった。文月学園では逆に、エリートや、それを騙る平凡な先輩(笑)に幾度となく冤罪をかけられた。

 これらの経験からなのか、零次の中では既に、人間は学力の有無に関わらず、ロクな奴がいないという結論を出してしまったのだ。それ故に、零次は人を欠点でしか見ることが出来ない。

 もちろん、まともな人間がいることは、零次だって頭で理解できている。でも理解しているだけだ。だから、零次は今まで誰一人として、心の底から信用したことはない。…………私を含めて、ね。

 

 ところで、これまでにどのくらい時間が経ったんだろう……。ああ、零次がそろそろこの状況に痺れをきらすタイミングだ。これはもう、姫路さんに勝ち目無いね。

 

零次「ハァ…………、姫路。」

 

トントントントン……。

 

 小気味良い靴音が教室に木霊する。

 

瑞希「……何ですか?」

 

零次「……………………恨むなよ?」

 

 その言葉と同時に、零次の召喚獣が動いた。

 

[フィールド:総合科目]

2-A 双眼零次・・・1129点→1109点

 

VS

 

2-F 姫路瑞希・・・410点→306点

 

瑞希「え…………。」

 

零次「何を驚いている?試召戦争はまだ終わってないぞ。それどころか、『始まってすらいなかった』というのに……。」

 

瑞希「………何を…言ってるんですか?」

 

零次「だってそうだろう?俺はさっきまで、召喚獣を一歩たりとも動かさず、お前が動き出すのを待っていたんだ。加えて、お前は俺の話に釘付けになり…………実際は違うんだろうが、召喚獣を動かしてない。これで勝負が行なわれていると思うやつがどこにいる?」

 

 というか、零次があまりにも喋りすぎたせいで、戦争中だってことを危うく忘れるところだったのだけれど。Fクラスに至っては、もう忘れてるんじゃないかな?

 

零次「それに、俺は攻撃する前に、合図を送ったぞ。『恨むな』とも言った。それなのに、防御するわけでもない、回避する素振りもない。ボーッとつっ立ってりゃ、召喚獣がダメージを受けて当然。むしろ、これでまだやられてないのが不思議なくらいだ。」

 

瑞希「だったら……何故今まで攻撃してこなかったんですか!?隙があったというなら、そうすれば良かったじゃないですか!」

 

零次「お前、それ本気で言ってんのか?俺とお前とでは、取り巻く環境が真逆なんだよ!お前が多少なりとも卑怯なことをしたところで、『お前は悪くない』だの『油断していた自分が悪かったんだ』だのと、味方は勿論、敵すらもお前の行ないこそが正しいと擁護する。だが、俺が同じことをすれば、敵は勿論、味方すらも俺を非難する。文月学園(ここ)行動の内容(どんなことをしたか)ではなく、行動の主体(誰が行なったか)で、その行動を評価する世界だ。そんな場所で、俺が下手に動けばどうなるかなど、先の説明で想像つくだろう?多くの目に囲まれた今の状況では尚更だ。」

 

 加えて、零次が善行をしたところで、『点数稼ぎだ』とか『余計なお世話だ』とか言われる始末だし、今回みたいに高得点を取ろうものなら、『カンニングだ』とか『教師を脅迫して、点数を水増ししている』だの『他の生徒を脅迫して替え玉を行なわせてる』などと、根も葉もない噂が瞬く間に拡散する。私や零次本人がどれだけ事実を述べようと、騒ぎは簡単には収まらず、さらには私に対して『零次の魔の手から解放してあげる』などと、的外れどころか的すら見てないような言葉を平然と吐く輩まで現れるおまけ付き。

 零次関連以外でも、思いつく限りでは、『吉井君と坂本君』、『霧島さん』、『秀吉君』などに関して、事実無根の噂が、さも真実かのように横行していた。まるで、情報の真偽をまともに判断できない人間をわざと集めているのではないかと、思ってしまうほどに…………。

 だからこそ、何度も言える。文月学園(ここ)は本当に進学校なのか、と。

 

零次「…………だから、お前は甘いというんだ。自分を取り巻く環境がどれだけ恵まれていると思ってるんだ?お前が声を発さなくとも、お前の異変に気づき、行動してくれる奴がいることが、どれだけ素晴らしいことか……。お前のために、己の名声が下がることも気にせずに、どんなことも平気でする人間がいることが、どれだけ幸せなことなのか、分かっているのか?それに気づいてないから、もしくはそれが当然だと心のどこかで思っているから……。」

 

 

 根本恭二に脅迫されるのではないか?

 

 

 …………零次、ついに爆弾を落としたな?『情報屋』から、この手はあまり好ましくないと、言われただろうに。

 

瑞希「なんで……それを知ってるんですか…………。」

 

 零次も『やっちまった』って、内心思ってるのかな?顔を少し伏せている。

 

瑞希「まさか……あなたが……。」

 

零次「だとしたら、どうする?怒りに任せてその剣を振るうか?俺に謝罪を要求するのか?」

 

 前言撤回。やっぱり零次は零次だった。自分の台詞に後悔なんてしていない。というより、さっきの台詞はわざとだ。今までの悶着状態を打破するために、わざわざ姫路さんを煽ったんだ。……本当に煽るつもりで言ったかは知らないけど。

 

瑞希「……そうですね。でもそれは私じゃありません。Fクラスの皆にです!……あなたに勝って、そして、Fクラスの皆をバカにしたことを謝ってもらいます!!」

 

 おお。見事なまでの勝利宣言。でも、それって所謂敗北フラグだったような気が……。

 

零次「……いいだろう。それがお前の決意なら、俺もそれ相応の力で相手しよう。……全力で来い。」

 

瑞希「言われなくても!」

 

 その言葉と同時に姫路さんは召喚獣を動かした。それは何の変哲もない、ただの突撃。当然、零次は難なく躱す。

 

瑞希「…………かかりましたね。『熱線』!」

 

零次「しまった……!」

 

 まあ、このくらいは想定しているよね。姫路さんの腕輪の能力は『熱線』。文字通り、高熱の光線で辺り一帯を焼き尽くすものだ。いくら零次でも、この至近距離で腕輪の能力をくらったら、ひとたまりもない。

 

 ただ………………。

 

零次「なんてな…………。」

 

[フィールド:総合科目]

2-A 双眼零次・・・1109点

 

VS

 

2-F 姫路瑞希・・・306点→211点

 

 『腕輪が使えない』となれば、これらの仮説も無意味なものだけどね。

 

瑞希「!!…………どうして…………。」

 

零次「またか…………。貴様の脳みそは、紙面上に書かれた問題を解くことと、四肢を動かすこと以外に機能しないのか?それとも、フィールドに散らばる謎の残骸が見えないのか?もしそうなら、腕のいい眼科医でも紹介しようか?」

 

 確かに零次の周りには、どこかで見たことがあるような金色に輝く金属の破片が散らばっている。零次が攻撃を仕掛けに行った時に、零次の点数が少し減っていたのは、その破片を踏んでしまったからだろう。

 

零次「どうした。終わりか?」

 

瑞希「…………いえ。まだです。」

 

零次「いや。終わりだ。」

 

[フィールド:総合科目]

2-A 双眼零次・・・1109点

 

VS

 

2-F 姫路瑞希・・・211点→戦死

 

瑞希「…………そ、そんな…………。」

 

零次「お前が強くなれたのは、Fクラスが好きだから…………だったな。なら、こちらからも言わせて貰おう。俺はAクラスが、否、お前達第二学年が嫌いだ。人を噂だけで判断し、下位クラスと言うだけで嘲笑う上位クラスが。互いに傷を舐め合い、上位クラスにいる奴の名を借りて、威張り散らすような下位クラスが…………!人の成長を!努力を!『カンニング』の五文字で汚すお前らが大嫌いだ…………。だからこそ、振り分け試験に本気で挑み、高みから見下ろす女王を、玉座から引き摺り下ろす必要があったのだ。」

 

 零次が文月学園に抱いていた不満の一部を吐き捨てた。

 

零次「…………これが、俺がここまでの点数を取れた理由だ。」

 

 こうして、Fクラスの下剋上は、誰もが想定していなかった魔王に敗北する形で幕を下ろした。

 




~後書きRADIO~
秋希「さあ!今回も後書きRADIOの時間がやって来たよ~!」

零次「今回で第16回だ。……なんだかんだ、長かったな。ここまで来るのに。」

秋希「今回は前半は坂本君の回想、中盤・後半は零次の独壇場だったね。……本当、零次に勝てる奴がいるのかねぇ……。」

零次「さあな。それは、今後の展開次第だな。少なくとも、現状対抗できるのは、お前くらいしかいないんじゃないか?」

秋希「それが冗談じゃないから、笑えないんだよね……。今後、Fクラスが成長するような事がなければ、尚更、ね……。」

零次「実際原作じゃ、明確な成長が見られたのは、明久と坂本くらいじゃないか?あくまで、点数だけに注目したらの話だがな。」

秋希「確かに、あの二人は点数が上がっても、中身……というか思考までは変わって無かったよね……。いや、変わっても困るけども、変わらないとそれはそれで、これからも問題を起こしそうで……。う~ん……。」

零次「まあ、悩むのは後にしてくれ。今回、本文が長いから、ここにあまり時間を取れないんだ。」

秋希「……いっそのこと、今回はさっさと切り上げる、というのは?」

零次「……あまり好ましくないんだがな……。今回はまあ、しょうがないか……。ないのか?」

秋希「悩むのは後にしたら?というわけで……。」

「「次回もよろしくお願いします!!」」






零次「まあ、次回かその次の回でこの戦いも終わるし、いいか……。」


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小問16(7) 消化試合

高橋「4対2でAクラスの勝利です。」

 

 淡々と伝える高橋先生の声を、俺は背中越しに聞いた。

 ついでに、Fクラスの悲痛に叫ぶ声も。

 

翔子「…………。」

 

利光「零次……。」

 

 そして、勝利を収めた俺を出迎えたのは、決して温かいとは言えないクラスメイトの視線。

 

零次「なんだ?文句があるならはっきり言ってくれ。だが、謝りはしないぞ。」

 

 堂々とあんなことを言ったんだ。クラスの奴等から非難されても当然だ。

 だが、そこまで言われるほどに、Aクラスの評価が地の底スレスレを這っていることを、明確に言わねば、奴等は自分を省みることはなかっただろう。

 

翔子「……零次…………よく、頑張った。」

 

 だが、霧島から送られたのは、称賛の言葉だった。

 

零次「……誉められることをした覚えはないが。」

 

翔子「……そんなことはない。もし、あそこで戦っていたのが私だったら、負けていたかもしれないから。……素直に受け取って欲しい。」

 

 それに同意するかのように、クラスメイトも次々と声をかけてくるが……。まったく、随分と都合がいい奴等だ。

 そうやって俺に媚びれば、牙が己に向くことはないと考えているのか?それとも、二度も腕輪の能力(ちから)で殲滅戦を行なっただけで、俺のことを畏怖する対象として見るようになったのか?一番考えられるのは、今までと同様に、霧島に同調してる線だが……。

 …………ま、そうやって疑っていったら、キリがない。今回だけは素直に受け取ってやろう。

 

利光「僕は、一、二個ほど言いたいことがあるけど……、わざわざ今話すことでもないからね。まずは、目の前のことを終わらせてきなよ、零次。」

 

零次「そうか。…………それじゃ、行くぞ。霧島。」

 

翔子「……?」

 

零次「忘れたか?試召戦争が終わったら、何をするか。もっとも、このまま終われやしないが……。とにかく、Fクラスのもとへ向かうぞ。」

 

 さあ、行動開始だ。

 

 

・・・

 

 

「そ、そんなバカな……。」

 

「姫路さんが……負けた……?」

 

 Fクラス陣営に来ると聞こえてきたのは、予想通りの言葉の数々だった。どいつもこいつも、姫路のことを完璧超人か何かと勘違いしていないか?奴とて人の子だ。失敗も敗北もあるだろうに。

 

零次「……さてと、負け組代表。交渉といこうか。」

 

雄二「……交渉、だと?」

 

零次「ああ、そうだ。どうせ、先生が『勝負がついた』と言ったところで、その勝者が俺な訳だ。納得するやつなど皆無だろう?」

 

 そう言い終えると同時に、あちこちから『姫路は負けてない』だの、『向こうがズルしてなければ、勝ってた』だの、『あんな勝負無効だ』だのと、馬鹿共が騒ぎ立てる。その様子は、奴らを『人間』というカテゴリーで見ることを、嫌悪してしまうほどだ。…………動物園の猿でも、ここまで騒げんぞ。

 

零次「だから、このまま七戦目に移ろうと思う。こっちからは、霧島が出る。というか、彼女以外の選出は認めん。」

 

翔子「……どうして?」

 

 疑問をぶつけてきたのは、意外にも霧島の方だった。

 

零次「今回の戦争では、勝利したクラスには通常の試召戦争で発生する報酬に加え、『負けた方がなんでも言うことを聞く』という、敗北クラスへの命令権があっただろう?Fクラスの数多の条件を了承する代償として加えられた、この条件を提唱したのは誰だったかな?」

 

雄二「翔子だろ。それがこの交渉と、どう関係するんだ。」

 

零次「その肝心の霧島は、今回の戦争で誰と戦った?………誰とも戦っちゃいないだろ?そのくせに、命令権だけは行使する、と言うのはおかしな話じゃないか?『働かざる者、食うべからず』って諺を真に受けるなら、『戦わざる者に、行使する権利はない』と、言ったところだろう。」

 

 なら、俺が命令権を使えばいい、って?バカか。いくら勝負の決まり事とはいえ、未だに俺のことを下に見ているFクラスの連中が俺の命令を素直に聞くとは思えない。

 

雄二「……一理ある。だが、仮にFクラスが勝ったとしても、四対三でどのみちAクラスの勝利で終わるだろう。それにこの場合、命令権は誰が使用するんだ?戦ってない奴が命令権を使うべきでない、と言うなら、負けた奴には尚更、命令権を使う権利は無いんじゃないのか?」

 

 わざわざこんな交渉をしてくるんだ。お前が命令権を使いたがらないのは明白だ。坂本の目が、そう語ってるような気がした。

 

零次「そうだな……。ならば、この勝負でFクラスが勝ったら、設備のランクダウンくらいは免除しようか。それと、例の命令権も、七戦目の勝者に渡す。これでどうだ?」

 

雄二「……いいのか?」

 

零次「負けた奴が、命令権を使うべきじゃない。そう言ったのはお前だろう?それに霧島は『負けた方が言うことを一つ聞く』と言っただけだ。この『負けた方』というのを、『クラス単位』でなく、『個人』と解釈すれば、何もおかしいことはあるまい。」

 

 若干屁理屈っぽい気もするが、霧島がこの提案に何も言わないのであれば、このまま押し通すのみだ。実際、異議を唱えてこないということは、それでも構わないと思ってもいいだろう。

 

雄二「……分かった。いいだろう。その条件、乗った!」

 

零次「そうか…。じゃあ、話も纏まったところで、この事を先生に報告に言ってくる。二人はそれぞれクラスの奴等に話を通してきてくれ。」

 

雄二「ああ。」

 

翔子「……分かった。」

 

 

・・・

 

 

高橋「……それでは、両クラス代表の同意により、第七戦目を始めます。各クラス、最後の一人は前に出てきてください。」

 

 高橋先生への交渉も、先生の二つ返事ですぐに終わり、俺はAクラス陣営に戻ってきた。こちらの選出は、坂本にも直接伝えた通り、霧島だ。さて、向こうは誰が出てくるか……。

 

雄二「俺の出番だな。」

 

 やはり、坂本か。近衛も姫路も役目を終えた現状では、彼以外の選択肢はないのだろう。だが、どんな科目を選択したところで、霧島が負けるビジョンが見えないのだが……?

 

高橋「教科はどうしますか?」

 

雄二「……教科は日本史。内容は…………、小学生レベルで方式は百点満点の上限ありだ!」

 

ざわ……!

 

 なるほど、そう来たか。一見、『そんなルール認められるか!』なんて、騒がれそうな発言だが、実際この方式はルールに一切違反していない。

 試召戦争のルールには、『テストの点数を用いた戦争であることを意識せよ』という記述はあるが、『必ず召喚獣を用いること』という記述はない。

 試召戦争で使うのは、あくまで『テストで獲得した点数』だ。召喚獣はそれを使う手段の一つにすぎない。

 

「上限ありだって?」

 

「しかも小学生レベル……。満点確実じゃないか?」

 

「となると、注意力と集中力の勝負になるわね……!」

 

 Aクラスも流石にその勝負内容は、霧島が負けてもおかしくないと感じたようだ。

 

高橋「わかりました。そうなると問題を用意しなくてはいけませんね。少しこのまま……。」

 

零次「先生。重ね重ねすみません。少しFクラスと話をしてもよろしいですか?」

 

高橋「ええ、構いませんよ。」

 

零次「…………ありがとうございます。」

 

 折角だ。坂本の作戦、ほんの少し利用させてもらおう。

 

雄二「なんだ?別にルール違反はしてねぇだろ。」

 

零次「ああ。お前のやり方に文句はあるが、それは今はどうでもいい。一つ頼みがあるだけだ。」

 

雄二「……言ってみろ。」

 

零次「お前の勝負内容はこれからテストを受けて、その点数の大小で勝者を決める、というものであってるよな?ならば…………、そのテスト、俺も受けていいか?そのついでに、須川亮・近藤吉宗・君島博・田中明・柴崎功・吉井明久。以上6名のFクラス生徒にも、同様のテストをしてもらいたいが。」

 

 直接俺が試験を受けている様子を、A・Fクラス全員に見てもらう。どうやらここまでしなければ、俺はずっと『カンニングでAクラスの代表になったクズ野郎』扱いされるみたいだからな。明久も指名したのも、似たような理由だ。アイツの点数を見たときも、Fクラスが『カンニングだ』とか、『あの明久(バカ)が、あんな点数とれるわけない』とか、ほざいてたからな。本当、それしか言えんのかと、心の奥底で思ったね。

 

雄二「……受けるだけなら、別にいいぞ。」

 

零次「ありがとうな。」

 

「おい待てよ。俺はそのテスト、受けるつもりないぞ!」

 

「そうだ!『死神』の分際で、そんなこと勝手に決めるな!」

 

 坂本は素直に了承してくれたが、巻き添えを喰らった須川と近藤は、案の定気に食わないようだ。

 

零次「……やれやれ。明久以外に指名されたメンバーの並びを見て、何も気づかないのか?第六戦目開始前に、名指しで恥をさらされたメンバーだろ。折角、汚名返上の絶好のチャンスを与えたというのに、それを棒に振るのか?もしここで俺より高い点数を叩き出したら、あの時の言葉を謝罪………いや、土下座して詫びてやってもいいのだが?」

 

 もっとも、俺はコイツらが良い結果を残せるとも思ってないがな。このまま言われっぱなしで終わるか、さらに赤っ恥をかくかの違いでしかない。 

 

「……いいぜ!その言葉、忘れんじゃねぇぞ!」

 

 須川に続いて、近藤、君島、田中、柴崎も『双眼相手に負けるわけない』と高をくくる。全く、どいつもこいつも単純(バカ)な奴らだ。

 

零次「…そういう事ですので高橋先生、テスト用紙を計9枚用意していただけませんか。」

 

高橋「わかりました。では、少しこのまま待っていてください。」

 

 そう言って、高橋先生は教室を出ていった。

 ところでこれって、今から作成するってことだよな……。

 

翔子「……零次。なんで、こんなことを。」

 

零次「俺の実力を証明するのに、もっとも好都合だったからだ。ここまでしなければ、俺の認識を改められないと思ったからな。」

 

 これでも改めない奴に関しては、もうどうしようもない。元々期待なんてものはしてないが。

 

翔子「……そう。それでも、何か相談くらいはして欲しかった。これからは、もう少し私のことを頼って欲しい。あなたを冷たい目で見る人は、前より少なくなってるから。」

 

零次「……なら、まずはお前が俺の信頼に値する人間か否か、示す必要があるんじゃないか?」

 

翔子「……どうすればいい?」

 

零次「簡単なことだ。これからテストが行なわれるだが、そこで…………。」

 

 俺は霧島に一つの『約束』をとりつけた。さて、霧島はどうするか……。

 

高橋「では、最後の勝負、日本史を行ないます。参加者の霧島さん、坂本君、君島君、近藤君、柴崎君、須川君、双眼君、田中君、吉井君、以上九名は、視聴覚室に向かって下さい。」

 

 数分後、問題作成から戻ってきた高橋先生の指示に従い、視聴覚室へと向かった。

 ……さて、俺の望む結果であることを願うとしようか。

 

 

・・・

 

 

 簡潔に、結果だけを伝えよう。

 

 概ね予想通りだ。

 

[日本史勝負:限定テスト(100点満点)]

2-F 君島博 ・・・7点

 

2-F 近藤吉宗・・・28点

 

2-F 柴崎功 ・・・6点

 

2-F 須川亮 ・・・32点

 

2-F 田中明 ・・・27点

 

2-F 吉井明久・・・97点

 

VS

 

2-A 双眼零次・・・100点

 

 

 

2-F 坂本雄二・・・71点

 

VS

 

2-A 霧島翔子・・・97点

 

 予想と違うのは、坂本の点数が思ったより高かったことと、明久がポカをやらかしたことぐらいだ。

 だが、結果は5対2で、Aクラスの勝利。そして、『俺達』の完全勝利だ。




~後書きRADIO~
秋希「さてと、第17回後書きRADIOの時間ですね。」

零次「それじゃ早速、前回の話のまとめから行くか。」

秋希「ところで、その前回の話でちょっと零次に聞きたいことがあるのよ。」

零次「………?何かあったか。」

秋希「ほら、あの人に質問する時は、多くの場合『自分の中にあらかじめ答えが用意されている』みたいな発言したじゃない?その後に例外として『気が動転している時』と、『思考放棄している時』の質問を挙げたわよね?でも、他にも『自分の答えが用意されてない』質問があるのよ。」

零次「…………本当にそんなのあったか?全く予想できないのだが。」

秋希「それよ。今の零次みたいに『必死で考えたけれども分からなかった場合』の質問よ。学校だと度々『分からないことがあったら先生に聞きなさい』なんて言われるけども……。この質問に関してはどう思ってるのよ?」

零次「あー……。確かに言われてみれば、それも『自分の中に答えがない質問』だな。だがこの場合は、俺が挙げた二例と違って、『自分で考えても分からなかった』という答えが出たとも解釈できる。…………まあ、実際そう考えていたわけだからな。お前の意見に対して、すぐに納得がいかなかったわけだ。」

秋希「そういうことね。じゃあ、次は姫路さんの腕輪解説に行きましょう。」

名称:熱線
消費点数:50点(総合科目では500点消費)
詳細:
前方に突き出した手から、高熱の光線を発射する。

零次「姫路の腕輪も土屋同様、原作通りの設定だ。まあ、今回は俺の腕輪のせいで不発に終わったが。」

秋希「それじゃあ、次は零次の腕輪を……。」

零次「いや、それはまだ秘密にしておこう。実際、お前の腕輪も詳細説明がされなかっただろ。」

秋希「あー……。そう言えば、そうだったわね。まあ、私の腕輪が特殊なことは、本文をよく見たら、気づくからね……。私達の腕輪のお披露目は、全貌が明かされた時、かしら?」

零次「そうだな。……では次に、前回の話の一番の焦点に移ろう。」

秋希「えーと……、あれか。Dクラスが姫路さんの存在に気づけなかったのは何故か、ってことか。」

零次「ああ。振り分け試験であれだけの騒ぎになったのに、Dクラスの誰も姫路が退席したことを知らないことに……作者は違和感を覚えたらしくてな。『Fクラスを侮ってた』と言ってしまえば、それまでだが、もしかしたら『途中退席者の点数は0として扱われる』ということを知らなかったとも考えられるんだよな。」

秋希「あー、もしかして姫路さんは優秀だから、皆心のどこかで『去年の成績を考慮して、教師陣は彼女をAクラスに入れてくれるはずだ』って、思ってたのかもね。」

零次「もしくは、退席するまでに受けた点数で、振り分けられると思ったのだろう。姫路が倒れたのは、4科目目の試験が始まって十数分後だ。文系でも400点弱の点数を叩き出していることから、3科目の合計点数は1000点を超えててもおかしくはない。そう考えると、FクラスではなくEクラス所属だと思っていた、と考える方が自然だろう。もし、Eクラスから宣戦布告された時は、かなり焦っただろうな。」

秋希「うーん……。でも、こういう振り分け試験のルールも、校則に明記されてたと思うんだけれど……。」

零次「確かに生徒手帳にも校則は記載されているが、そんなもん真面目に読み込んでるやつなど、Aクラスにもいないぞ。」

秋希「………零次、そろそろ次の話題に移ろう。」

零次「コイツは……。まあいい。前回の話で決着が着いた訳だが、今回は、本文でも話した通り、このまま霧島に例の命令権を使わせるのは納得いかないから、急遽第七戦目を行なった、という話だ。」

秋希「確かに、零次のおかげで勝ったのに、霧島さんが『あの命令』を坂本君に下すのは、な~んか釈然としないわね。」

零次「それに、原作小説1巻で一番外しちゃいけない名勝負(?)なわけだからな。姫路対久保もこれに匹敵するが、俺がいる以上、Fクラスには『姫路がいても勝てない』ことを第六戦目で暗に伝えて、目を覚まさせたかったのさ。」

秋希「その意図はFクラスには全く伝わってなかったけどね。」

零次「さて、そろそろ時間だ。」

秋希「次で、長かった小問16も終わりかな?」

零次「その予定だ。」

秋希「それでは……。」

「「次回もよろしくお願いします!!」」


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小問16(8) 戦争終了

高橋「5対2でAクラスの勝利です。」

 

 あの悲惨な結果を見て視聴覚室になだれこんだ私達に、高橋教諭はそう締めくくった。

 そこで私が目にしたのは、床に手をついて項垂れている坂本君と、零次に頭を下げている吉井君と霧島さん、それから吉井君の点数の高さに開いた口が塞がらないFクラスの姿だった。まさか、私と零次が思い描いた結末通りになってしまうとはね……。

 

翔子「……雄二、私の勝ち。」

 

雄二「……殺せ。」

 

秋希「へぇ……。覚悟はできてるって訳ね。…………いいわ。ひと思いにやってやるわ。」

 

 坂本君の言葉に私が真っ先に答えた。他のFクラス生が答えると、色々ややこしいことになりそうだからね…。

 それにしても、久しぶりね……。こうやってまた、人を殴ることになるとはね。

 

瑞希「こ、近衛さん、落ち着いてください!」

 

秋希「大丈夫。十分落ち着いてるわよ。」

 

 そうでなかったら、殺せの『こ』の字で右ストレートぶちかましてる。

 

秋希「まあ安心してよ。このしょうもない結果について、坂本君から理由を聞いて、納得いかなかったらぶん殴るだけだから。」

 

美波「納得がいったら?」

 

秋希「こんなアホみたいな負け方した代表に制裁を加える。」

 

秀吉「どっちにしても、殴るんじゃな……。」

 

 逆に殴らない理由でもあるのかしら?

 

秋希「で?この点数は何なのかしら?これが貴方の実力だとでもいうのかしら。」

 

雄二「……ああ。」

 

 瞬間。殴り飛ばしてしまった。机や椅子が巻き込まれて倒れる。…………流石にやり過ぎたと反省している。

 

翔子「……雄二、大丈夫?」

 

雄二「痛ってて……。クソ、近衛め……。予想より思いっきり強くぶん殴りやがって……。」

 

 あ、思ったより大丈夫そう。

 

翔子「……でも、危なかった。雄二が所詮小学校の問題だと油断していなければ負けてた。」

 

雄二「言い訳はしねぇ……。」

 

 くっ。落ち着け、私の右腕。アイツはさっき吹っ飛ばしたばかりだろ。これ以上殴ったら、流石の私でも停学・退学は免れないわよ!

 

翔子「……ところで、約束。」

 

 あ、ここで言うの?まあ、Aクラスの人達もいつの間にかやって来た以上、戻るのも面倒だからね。

 

雄二「わかっている。何でも言え。」

 

 坂本君も腹を括ったようで。それじゃあ、霧島さん、言っちゃって下さい!

 

翔子「……それじゃ……雄二、私と付き合って。」

 

 …………まさか、こうもサラッと、恥ずかし気もなく言えるものだとは。他のFクラスの奴らと違う意味で固まっちゃったよ。

 

雄二「やっぱりな。お前、まだ諦めてなかったのか。」

 

翔子「……私は諦めない。ずっと、雄二のことが好きだから。」

 

雄二「その話は何度も断っただろ?他の男と付き合う気はないのか?」

 

翔子「……私には雄二しかいない。他のひとなんて、興味ない。」

 

 もう諦めなよ、坂本君。彼女が君のことしか見ていないのは明白だ。去年、とある一件で霧島さんから君のことを聞かせてもらったことがあるけど、その時の彼女の熱弁ぶりは、今でも脳内で完璧に再現できる。

 

雄二「拒否権は?」

 

翔子「……ない。約束だから。今からデートに行く。」

 

雄二「ぐぁっ!放せ!やっぱこの約束はなかったことに……。」

 

 

 

零次「待った、霧島。まだ、この試召戦争の戦後対談は終了してないぞ。」

 

 先程までの悪役ぶりから一転して、某TCGを題材にした漫画の主人公を思わせる台詞で、零次は霧島さんの行く手を阻んだ。

 

翔子「……なんて?」

 

零次「そもそも霧島。今何時だと思ってるんだ?下校するには早すぎるし、学校デートをしようにも中途半端な時間帯だ。まさか、早退するつもりか?Aクラス二番手の生徒の行動としては、らしくないな。」

 

 確かに時計を見ると、その時刻は13:20を指していた。これから午後の授業もあるというのに、学校外に出ようとする様子は確かに優等生らしからぬ行為だ。

 

零次「……まあ、そんなことは些細なものだと思うことにしよう。本題はお前だ、坂本雄二。」

 

雄二「俺、だと?」

 

零次「ああ、そうだ。この勝負で勝ったのなら、何も言わなかったのだが、負けたのだから、素直に耳を傾けろ。」

 

 そう言うと、零次の目は先程までとは一転して、暗く冷たいものになった。

 

零次「まず、この勝負内容は、お前がやるべきものでは無かったな。これまでお前達が起こした試召戦争では、皆が皆、召喚獣を使い戦ってきた。今回の戦いでも、皆例外一つなく召喚獣を使ってきたのに、お前はそれから逃げたのだ。ルールを熟知していたとはいえ、これでは腰抜けと言われても、ぐうの音も出ないだろうよ。これが文句の一つ目だ。」

 

雄二「一つ目って……。他にもあるのかよ。」

 

零次「ああ。二つ目に、この勝負内容は、本来なら試験召喚システムでやってはいけないタブーだ。」

 

 零次の発言に皆目を丸くした。そりゃあ、実際適用されてしまっただけあって、何故ダメなのか、誰も理解出来てないからね。

 

零次「そもそも、試験召喚システムは、『生徒の学力向上』を目的に、この学校で試験的に導入されたものだ。こんなこと、わざわざ言わなくとも、少なくともお前なら理解してるだろう?」

 

雄二「……。」

 

零次「沈黙は肯定と捉えるぞ。その上で聞くが、俺達(高校生)が小学生レベルのテストを解いて、学力向上に繋がるか?そもそも、こんな勝負が出来るという事実が罷り通ったら、システムの存在意義が消滅する。こんな簡単なことで、Fクラス(最底辺の集団)Aクラス(最高レベル)の設備を、奪取出来てしまうのだからなぁ。」

 

 『手段』としては簡単だけど、その分交渉などの『過程』のハードルは、エベレスト級に難しいけどね。こんな方法でAクラスに勝とうとするのなんて、後にも先にも私達だけでしょうね。

 ま、仮にその手段で設備を手に入れたところで、一瞬限りの夢物語で終わるだろうけど。

 

零次「そして最後に……坂本、気づいているか?お前が掲げてきた目的と、取ってきた行動が矛盾していることに。」

 

雄二「矛盾……だと?」

 

零次「お前が試召戦争で個人的に掲げてきた目的は、『学力がすべてではないことを証明する』ことだと聞いている。なのに何故お前は、学力(テストの点数)で勝負をした?」

 

 坂本君はそっぽを向いたまま、何も答える気配はない。

 

零次「それだけではない。Dクラス戦も、Bクラス戦も、各代表(平賀や根本)にとどめを刺したのは、Aクラスに匹敵する点数を所持した生徒だった。それを見て、お前が伝えたかったメッセージが伝わると思うか?それとも『Fクラスが上位クラスに勝利した事実があればいい』とでも言う気か?いくら命題や過程で素晴らしいことを述べようと、結論がそれに伴わなかったり、命題と矛盾していたりするようでは、証明の意味がないだろう。」

 

 坂本君は依然として、黙ったままだ。

 

零次「……さて、坂本。お前からも一つ聞かせて貰おうか。」

 

雄二「…………なんだ。」

 

 随分と不機嫌な態度で、ようやく重い口を開いた。

 

零次「今回の戦いと、それより前のCクラス戦を通して、正直言って俺達が敗北するビジョンは現状見えないと言っても過言でない。ここまで言うと傲慢が過ぎると思われるかもしれんが、仮に俺の腕輪が使えなかろうと、その自信は揺るぎない。」

 

 いやぁ、実際零次が負けることは無いでしょう。そもそも、零次にとっては腕輪の方がおまけだ。その能力は強力だけど、それ故に零次はその能力を嫌っている。

 

雄二「随分な自信だな。まあ、あんな戦いを見せられりゃ、流石に俺も心が折れそうだ。」

 

零次「なら、Aクラスのことは諦めるか?相手が悪すぎることは、かつて直接戦ったこともあるお前なら、分かっていることだろう。来年、霧島がもう一度主席に返り咲くことを願う方が賢明だろうよ。」

 

 確かに、零次が代表である以上、私達がAクラスの設備を手に入れるためには、零次を倒すことが絶対条件だ。圧倒的な点数と操作技術を持ち、あんな反則級の腕輪も持っていては、勝負から逃げても誰も文句は言わないだろう。

 

雄二「……ハッ、何を言うかと思えば……。諦めるわけないだろ。」

 

 だけど、それで諦めるほど、坂本君も弱い男ではない。

 

雄二「大体、お前があんな点数取れることを考えたら、翔子が代表になることに賭けるなんて、消極的な考えだろ。それに、今回で俺はお前に二度も負けているんだ。このままお前にやられっぱなしでいられるか!」

 

零次「……そうか。そう言ってくれて、俺は嬉しいよ。喧嘩も試召戦争も、お前が相手の時が最も退屈しないからな。…………だから、お前達に強力な助っ人をプレゼントしよう。もっとも、お前達(Fクラス)にとっては、最大級のペナルティだと思うがな。」

 

西村「双眼。人のことをペナルティ扱いするな、まったく…………。それはさておき、Fクラスの皆。お遊びの時間は終わりだ。」

 

 零次が視聴覚室の扉の方へ目を向けると、そこには腕を組んで仁王立ちしている西村教諭の姿があった。

 

明久「あれ?西村先生。僕らに何か用ですか?」

 

雄二「双眼、まさか…………強力な助っ人って、鉄人のことか?」

 

 あの登場の仕方で、他に誰がいるというのだ。

 

零次「教師のことを堂々と渾名で呼ぶ、その態度は気に食わんが……、そういうことだ。」

 

西村「ああ。既に知っている者もいると思うが、今から我がFクラスに、補習についての説明をしようと思ってな。」

 

 『我がFクラス』。その言葉に皆首をかしげる。

 

西村「おめでとう。お前らが戦争に負けたおかげで、福原先生から俺に担任が変わるそうだ。これから一年、死に物狂いで勉強できるぞ。」

 

「「「なにぃっ!?」」」

 

 クラスの男子生徒全員が悲鳴をあげる。

 無理もない。西村先生と言えば、教師間でも『教育の鬼』なんて言われるほど、厳しい教育をする先生だ。その異名もあってか、試召戦争では補習室の管理を最も任されている先生でもあるし。私も興味本位で、西村先生のマンツーマン指導を1週間ほど受けてみたけど、アレは地獄だった。

 西村教諭の名誉のために少しだけ明言するけど、決して問題が解けなかったり、間違ったりしただけで怒鳴り散らすようなことは無かったよ?ただ、授業態度が悪いと怒られる。それが他の教師の何十倍も怖いだけだ。だから、常に気を張ってないといけない訳で、それがものすごく疲れる。ちょっとでも緩めれば、ドスのきいた声が教室中に鳴り響く。その時の恐怖を比較するなら、今日の零次の十数倍は怖い。(ただし、感じ方には個人差があります。)

 そんなわけで、勉強にはそこそこの意欲を持つ私ですら、体が震えるような教師が担任になるなんて、勉強嫌いな奴がほとんどであるFクラスにとっては、もはや地獄そのものじゃないかな?

 

西村「いいか。確かにお前らはよく頑張った。FクラスがAクラスに挑むことなど今まで一度もなかった。そういう意味では、お前達は快挙を成し遂げたと言ってもいい。でもな、いくら『学力が全てではない』と言っても、人生を渡っていく上では強力な武器の一つなんだ。全てではないからと言って、蔑ろにしていいものじゃない。」

 

零次「その通りだ。大体、仮に俺達に勝ったところで、その後お前達はどういう学園生活を送るつもりだったんだ?俺にはAクラスの設備を手にいれたことに満足し、余計に堕落する姿が目に見えている。それを、黙って見て見ぬふりをしてくれるほど、先生方は寛大ではないぞ。そうなれば、どのみち西村先生が担任になることに変わりないだろうよ。」

 

 普段なら、零次が口を開けばギャーギャーと喚き立てるような場面だけど、担任変更の衝撃と、西村教諭の存在のおかげで、そんな気も失せているようだ。

 

西村「吉井、坂本。お前達は特に念入りに監視してやる。なにせ、開校以来初の『観察処分者』とA級戦犯だからな。」

 

明久「そうはいきませんよ!なんとしても監視の目をかいくぐって、今まで通りの楽しい学園生活を過ごしてみせます!」

 

雄二「明久に同じだ!アンタに怯えて、つまらない学園生活を送るだなんて、死んでも嫌だね!」

 

西村「……お前達には悔い改めるという発想はないのか。特に吉井は、ここ最近点数が伸びてきてるというのに……。」

 

 溜息まじりに西村教諭はそう呟く。けど安心してください。いくら坂本君が策を弄して、西村教諭の目から逃れようと、私や零次の目からは逃れられませんから。

 

西村「とりあえず明日から授業とは別に補習の時間を二時間設けてやろう。」

 

零次「それと、今回の戦争のペナルティとして、Fクラスの設備のランクダウンと、三か月間の宣戦布告禁止を言い渡す。坂本、異論はないな。」

 

雄二「ああ……。というか、それこそ拒否権が無いだろ。」

 

零次「ま、今まで第二学年のほぼ全てのクラスに、直接・間接関係なしに迷惑をかけてきたんだ。それを考えたら、ランクダウンも宣戦布告禁止期間も、倍にしたところで文句は言えないけどな。」

 

 でも残念ながら、試召戦争で敗者に与えられるペナルティについては、設備のランクダウンについても、宣戦布告禁止期間についても、ルールでキチンと決められている。

 宣戦布告禁止期間は、立ち合いの教師の許可が下りれば、最低でも一ヶ月間まで短縮可能だし、設備のランクダウンを破棄すれば、最大半年まで延長可能だったりする。

 設備のランクダウンも同様に、その戦争で勝ったクラス以外への宣戦布告禁止期間を無くすかわりに、設備を2ランクダウンさせることができたりする。

 また、両方のペナルティを無効にして、両クラス間同意のもと、別の要求を敗者にのませることで、それをペナルティ扱いにすることも可能だ。今まで坂本君がやってきた『和平交渉』はこういうルールのもとに成立しているのだ。

 まさか、ルールの穴を突いてきた坂本君が、ルールに守られるとはね……。

 

 なんにせよ、これでFクラスの長いようで短い戦いは、Fクラスの敗北で幕を閉じた。でも、これは私達が戦いの場から退いたわけではない。私達が火種を燃やさなくても、きっと周りが火をつけて、私達のもとへ持って来るのだろう。そんな予感がする。

 

 それでもとりあえず、今は何気ない日常に戻るとしましょうか。




~後書きRADIO~
秋希「さあ、皆!後書きRADIOの時間だよ~!」

零次「これで第18回……。長かった小問16も、これにて終わりだ。」

秋希「今回は、戦後対談の回だね。原作と大きく違うところは、本文を見ての通り、この後も学校で授業を続けることになってるところだよね……。どうしてこうなったの?」

零次「理由は二つだ。一つは、原作を読み返してみて、たった五回(この作品では七回)の戦闘だけで、下校時間まで時間を潰すのは無理があったからだ。」

秋希「そうなの?そこはフィクションなんだから、いくらでもやりようがあると思うんだけど。」

零次「原作は四戦目まで、描写だけ見たら十秒足らずで終わった感じだろ。最も時間が掛かっていそうなのは、高橋先生のテスト作成時間だろうけど、あのハイスペック教師が、小学生レベルの問題の作成に手間取るとは思えないんだよな。他の先生と協力して作ったのなら尚更、な。」

秋希「四戦目までは、戦闘前に各々掛け合いもあったけど……。それでも下校時間まで引っ張るのは無理か。」

零次「で、もう一つの理由は、次回の話に繋げるためだ。次回は、Fクラスの長いようで短い戦いを終えた後の、Aクラス及びFクラスの話になる予定だ。特に、Fクラスには教室でやることがあるからな。」

秋希「やることって……もしかして『アレ』?」

零次「そう。『アレ』だ。」

秋希「…………じゃあ、今回はここまでかしら?」

零次「そうだな。」

秋希「それでは…。」

「「次回もよろしくお願いします!!」」


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設定という名の参考書(大問1サブキャラ編)

~前書きRADIO~
天:ガハハハッ!久しぶりじゃのう!改めて自己紹介をすると、儂は天鋸江≪あまのこえ≫という者じゃあ。次回の話に移る前に、今章に出てきた他の生徒・教師の設定を見ていこうではないか!

零次「……すまん。お前の存在をすっかり忘れていた。というわけで、次回の後書きRADIOはコイツをゲストに迎える予定だ。」

秋希「……果たしてその次回はいつになるのでしょうか?」

零次「…………多分、この章のエピローグかな。」


・信楽勇二郎(しがらきゆうじろう)

性別:男

身長:180.3cm

誕生日:9月12日

年齢:36歳

 

趣味:変な日本語Tシャツ集め

 

担当クラス:2-F(3年前)→3-E(2年前)→1-D(1年前)→2-C(本作開始時点)

担当教科:化学

 

 

評価

学力:A

(高橋先生や西村先生ほどではないにしろ、他の先生より突出した学力を持つ。)

運動能力:D

(運動に関しては、他の先生と大差はない。)

 

 去年、双眼零次の所属していたクラスの担任をしていた教師。ボサボサ髪に眠たげな眼、よれよれのシャツと全体的にルーズな印象が目立つが、学校や地域のイベントには積極的に参加する一面がある、やるときはやる男である。

 そんなだらしない風貌とは裏腹に、タバコは吸わず、酒も嗜む程度にしか飲まない。

 

・真倉ねるの(まくらねるの)

性別:女

身長:157.5cm

誕生日:1月3日

出身校:小暑小学校→京成中学校

 

趣味:音楽を聴くこと

 

クラス:1-A→2-C

 

評価

学力:A

(本来なら、Aクラス21~30位に入れる実力者。Cクラスにいるのは、振り分け試験中に寝る→終了の合図で起きるを繰り返していたため。)

 

授業態度:D

(課題は必ず提出するものの、授業中、高確率で眠ってしまう。そのため、事情を知らない教師から、マイナスの印象が与えられている。)

 

不思議度:A

(とある生徒の目撃談では、授業中彼女が寝ているとき、手だけは必死にノートに書き取りを行なっていたらしい。)

 

 日常生活中に突然眠ってしまう、特異体質に悩まされている女子生徒。この体質が原因で事故に巻き込まれたことは、不思議なことに、今まで一度も無いらしい。本人曰く、この体質は、これでも以前よりは改善しているらしい。

 自身のクラスの代表である小山からは、授業中に寝るような不真面目な生徒の癖に、いい点数を取っていることが気に食わないらしく、一方的に嫌われている。

 

 

~過激派メンバー~

・豊嶋圭吾(とよしまけいご)

 Aクラスに所属する男子生徒。学力は学年で10位以内に入れるほど高いが、それを理由によく他人を見下している。

 自分のクラスの代表である双眼零次のことは、不正行為をして無理矢理代表になったクズだと思っている。

 今年度になって、二度も西村先生から説教をくらっているが、西村先生曰く、反省する気が全く見られなかったそうだ。

 

・横沢芽衣(よこさわめい)

 Aクラスに所属する女子生徒。学力は学年で10位以内に入れるほど高いが、自分の親が大企業の社長を務めていることを理由に、傲慢なふるまいをしている。

 自分のクラスの代表である双眼零次のことは、カンニングしてAクラスに入ったクズだと思っている。

 明久と葉玖の対決の途中で乱入しようとしたことで、補習室に連行されたが、梶曰く、反省する気が全く見られなかったそうだ。

 

・梶恋太(かじれんた)

 Aクラスに所属する男子生徒。零次に『過激派』と呼ばれているメンバーの中では、比較的まともな性格をしており、零次が知る中では、近衛に次いで交友関係の広い生徒である。

 自分のクラスの代表である双眼零次のことは、成績や不正行為などと関係なしに、代表をしていることをあまり快く思っていない。

 豊嶋とつるんで、『霧島翔子は同性愛者である』という旨の作り話を広めた張本人。

 

・西京葉玖(さいきょうはく)

 Aクラスに所属する女子生徒。零次に『過激派』と呼ばれるメンバーの中では一番の常識人。しかし、あまりの堅物故に、周りからは距離を置かれがち。

 自分のクラスの代表である双眼零次のことは、教師を脅迫して代表になったと思っていたが、現在進行形で見方が変わりつつある。

 人を所属クラスや、周りの人間の評価で判断することがある反面、点数に関しては、本人の努力次第でいくらでも変えられるし、先生が採点ミスすることなど、ほぼほぼ無いと思っているため、評価の基準にしていない。




~その他原作に出てきたキャラクター~
・須川亮
・近藤吉宗
・君島博
・田中明
・柴崎功

 零次対姫路戦で、零次がFクラスの怠慢を証明するために引き合いに出された生徒達。全員原作では、1巻で登場を果たしている。

・時任正浩
・栗本雷太
・奥井舞

 進級二日目にして、無謀にも零次に挑んだAクラス生徒と、それに巻き込まれた同クラス生徒。全員原作での登場は10巻と終盤だった(特に奥井は、名字と性別しか分からなかった)。



零次「…………以上、大問1にて登場したサブ&モブキャラクター達だ。」

秋希「一応、吉井君や坂本君など以外の原作メインキャラ以外は全員紹介した感じかな?」

零次「そうだな。まあ、次章以降で一気にサブキャラ・モブキャラが一気に増える予定だが……。」

秋希「一体何人増えるか知らないけど…………、あの作者が管理しきれるかしら?」

零次「問題無いだろう。すでに何名かはキャラが固まっている。」

秋希「固まっていないキャラクターもいるのね……。」

零次「ちなみにどうでもいい余談だが、実は、過激派メンバーで豊嶋が一番、初登場が遅いキャラなんだよな。」

秋希「そうなの?」

零次「ああ。豊嶋の初登場は『小問3ーA』。久保との口論の場面だ。で、他三名の初登場は『小問2-A』なんだ。該当シーンは以下の場面だな。」

・・・

「そういや、座席表にアイツの名前があったような…………。」

(恋太)「マジかよ。うわ、サイアクだわー。」

(芽衣)「どうせ、カンニングでも、したんじゃない?」 

(葉玖)「もしかして、先生たちを脅して、この教室に入ったんじゃない?久保君とか、近衛さんにしたみたいに………………。」

・・・

秋希「うーん……。梶君と葉玖ちゃんにちょっと違和感はあるけど、話してる内容はしっくりくるわね。」

零次「だろ?……まあ、話すことはこのぐらいだな。」

秋希「それじゃ……。」

「「次回もよろしくお願いします!!」」


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小問17ーA トイカケ

 Fクラスとの試召戦争の末、奴等の野望をくい止めた日の午後。今まで試召戦争で潰れてしまった時間を取り戻すかの如く、急ピッチで授業が進められた。

 

 文月学園では、第二学年以降はクラスによって授業の進み具合も変わってくる。近衛が先輩から手にいれた情報では、2-Aが四月中に終わらせる授業の内容は、2-B・C・Dが五月上旬に、2-E・Fが五月までに終える内容らしい。当然クラスが違えば、同じ授業の進み具合でも、内容が変わってくるが……。

 

 そしてこれは、試召戦争にも関わってくる。俺たちに渡された試召戦争のルールには明記されてないから、知ってる奴など、ほぼ皆無だがな。

 試召戦争で下位クラスが上位クラスに勝利した場合、上位クラスと設備を交換できる。上位クラスの設備とサービスが優遇されるのは、それ相応の努力の賜物だ。それを下位クラスが奪い取るということは、この授業進度・授業難度がクラスごとに違う状況下で、その差を埋めたということだ。

 となれば、それ以前の授業の進めかたと内容は、もう十分であるとも解釈できる。例えば、仮にDクラスがBクラスに勝利した場合、前者は後者より優れていると(極端であるが)言える訳だ。それなのに、授業の進み具合が変わらないというのは、『Bクラス相応の学力を身につけたDクラス』に対して失礼ではないだろうか。

 ……何が言いたいか簡潔に言おう。試召戦争で下位クラスが上位クラスに勝利した場合、変わるのは設備だけではない。『授業の難易度も、その設備相応のものに変わる』のだ。

 つまり、あの場面で仮に俺達がFクラスに敗北した場合、Fクラスは最高の設備を手にいれる代わりに、授業の難易度が急激に上昇する訳だ。それだけじゃない。Aクラスに代わって学年の顔となった奴等には、少しの気の緩みも許されない。欠伸一つに目くじらたてられ、居眠りなんてものはご法度。授業態度が悪ければ、学校の評判にまで傷がつく。AとFでは、そういう意味での『授業の厳しさ』も天と地以上の差があるのだ。

 ちなみにだが、上位クラスの場合は負けたからって、下位クラスの授業進度に下がるわけではない。クラス全体がそれを望むなら別だが。

 

 そんなこんなで、午後の授業が終了した。

 終業のチャイムが鳴るのとほぼ同時で、霧島はもはや人間とは思えないほどの速度で教室を飛び出していった。……誰か怪我でもさせなきゃいいんだが……。

 そして俺は、途中近衛からとある依頼を受けつつ、新校舎の屋上へと向かっていた。というのも6時限目開始直前に久保から、『とある人物』が放課後にそこに来て欲しいという、伝言を貰っていたのだ。

 誰からの伝言なのか、久保に聞いたが、それについては教えてくれなかった。曰くソイツは、正体が判明したら、俺が話に応じてくれないと思ったらしく、堅く口止めをされたのだとか。

 別にそんなことはしないのだが……。ただ、向こうがわざわざそう言って、久保を通して間接的に接触しようとしているのだから、俺も深くは尋ねまいと、久保からの伝言をそのまま預かることにした。

 屋上へ出る重たい扉を開けると、そこにその生徒は凛とした姿で立っていた。

 

零次「……なるほど。お前か、俺を呼んだのは……。」

 

 西京葉玖。過激派と呼んでるメンバーの良心とも言える存在。彼女こそが俺を屋上に呼んだ人物だ。

 

「…………正直に言います。本当に来てくれるとは思いませんでした。」

 

零次「何を言う。こうやって話がしたいから、久保を利用したんだろう?俺に直接話に行けば、豊嶋あたりがあることないこと、いちゃもんつけに来ると思ったんだろう?」

 

「……否定はしません。あの人達とは、あなたのことが嫌いということだけで意気投合しただけであって、個人単位で見たら、あなたのこと以上に気に食わない人達ですから。」

 

 俺の問いかけに西京は素直に答えた。元々、彼女は噓をつくことが苦手だと聞いている。否、苦手と言うよりは嫌悪か。西京はそれだけ堅物なのだ。

 

零次「…………それで?一体何のようだ?」

 

 視線は彼女に向けつつも、警戒は決して解かない。豊嶋も横沢も帰宅部だ。他の生徒が部活中でも、自由に活動できる時間が奴らにある。俺が西京との会話に夢中になってる間に背後から……なんてこともあり得る。

 もしかしたら、この呼び出し自体が、俺をおびき出す彼女の罠という可能性も…………。

 

「今まで…………まず、その…………今まで、すみませんでした!」

 

 ………………………………………………………………は?

 

「私……ずっと考えていました。あなたが本当に先生方を脅して代表になったのか……。結局のところ、証拠なんて無いわけですし、先生方が嘘を吐くとも思えません。」

 

 …………もう少し聞いてやろうか。

 

「そして今日…………おそらく、高橋先生と西村先生が気を利かせてくれたのでしょう……、モニター越しに貴方の戦い、点数を見て確信しました。あなたは脅迫なんてしてなかった。あんな点数が取れるのなら、そんなこと必要ないですから。……いや、寧ろ………………。」

 

 そこまで言って、急に黙りこんだ。なんだ?何を言いたかった?

 

「……いえ、流石にそれはないでしょう(ボソッ)。……とにかく、私はあなたのことを色々誤解していたのです。……本当にすみません……。」

 

 そう言って、西京は頭を下げた。

 ……そうかそうか…………。ハァ…………。

 

零次「西京…………お前、ふざけてるだろ。」

 

「え…………。な、何故ですか!?何でそんなこと……!」

 

 どうやら、分かってないようだな。西京の行動が俺にどううつっているかなんてことは……。もっとも、俺が捻くれてるってだけかもしれんが。

 

零次「なぜか、だと?お前、自分で理由になりうる要素を言っていただろ。証拠も無いのに、人のことを疑った。それだけで十分、信用出来ない奴だと思わないか?」

 

「そ、それは……。」

 

零次「それだけじゃない。『先生が嘘を吐くと思わない』だと?先生だって人間だ。ミスをすることもあれば、嘘を吐くことだってある。お前の口調からはまるで、『教師は善人であり、悪人は存在しない』かのように聞こえるのだが……?」

 

 実際のところ、俺は文月学園のほとんどの先生を信用していない。去年だけで、俺に関わる出来事がいくらあると思う?そのすべてが、他生徒及び教師間の伝達ミスや情報改ざん。少しでも俺が関われば犯人扱い。俺の話は信用されず、まさに正直者が馬鹿を見る……、そんな学校生活だった。正直、何事もなく進級できると思ってなかった。

 

零次「そもそも、その謝罪に何の意味がある?そうやって、『自分は反省しています』とアピールしたところで、俺には多数派の意見に混ざりたいだけにしか見えないのだが?そうやって、手のひら返して俺に取り入ろうとする奴が、俺はこの世で二番目に嫌いなものだ。」

 

 そこまで言うと、西京は俯いて黙り込んだ。

 そもそも俺は、Aクラスはもちろんαクラスのメンバーも完全に信頼していない。そういう絶対的な信頼を寄せると視野が狭まることは、去年までで死ぬほど学ばされた。

 

零次「で、それだけか?だとしたら、もう話は終わりだ。お前に望むものなど何もない。仮に何か望むとするなら、二度と俺達に関わるな。……それだけだ。」

 

 そう言って俺は踵を返し屋上を後に……。

 

「待ってください。まだ話は終わってないです。寧ろ、ここからが本題ですから。」

 

 ……できなかった。まあいい。もう少しくらい話を聞いてもいいだろう。

 

零次「そうか……。分かった、聞こうか。ただし、さっきの謝罪以上に下らないものだったら…………、覚悟しておけよ?」

 

「……女子に手をあげるのは、どうかと思いますよ?」

 

 やかましい。あんな上っ面ばかりの反省を見せられては、期待のしようもないだろう。それに、なんか勘違いしているようだが、俺だって女子を殴ったことはない。…………アイツを除いてだが。

 

「まあ、いいでしょう……。あなたに聞きたいのは吉井くんのことです。」

 

零次「明久?なんだ、アイツに気があるわけでも無いだろう。」

 

「……少なくとも、私に勝ったのですから、意識はしてますね。……付き合いたいかどうかは別として。」

 

 意外だ。俺としては、近衛のようなからかい方をしただけだったのだがな。

 

 話が逸れるが、明久の恋愛事情に関して、俺が知っているのは三つ。

 明久に好意を持っている奴が『三人』いること。

 そのうち一人と結ばれる運命にあること。

 そして…………、ソイツと恋人の関係でいられる期間が一週間どころか三日も持たないことだ。

 最後に関しては、別に明久が悪いわけでも、相手が悪いわけでもないけどな。……詳しい事情は伏せておくが。これらのどれもが、近衛から聞かされたことだ。

 

「私が聞きたいのは、彼の点数です。彼の努力も元々の点数も知りませんが、それでもFクラス相当の点数からCクラス下位レベルにまで上がるのは異常です。……そう思いません?」

 

零次「思わないな。元からそれだけの実力を持ってたとは考えないのか?」

 

「……今だから言いますけど、私、去年部活から帰る時に、日本史の山口先生が彼のテスト用紙を見て、一人大声で笑っていた所を見たことがあるんです。あの様子からして、吉井くんが去年からあの点数を取れたとは思いません。」

 

零次「山口先生か……。」

 

 またその名前を聞くことになるとは。しかも、西京が言うには、生徒が間違う度に、大なり小なり吹き出し笑いをしながら、問題の解説をするという、言うなれば、他人の失敗を笑い者にする先生だったそうだ。

 あの人、よく去年までこの学園で教鞭とれてたな。ここって一応試験校なんだろ?というか、あんな指導を許していた学園側もどうかと思うが。

 

零次「なるほど、な。だったら…………、アイツが実力を隠していた、という考えはどう反論する?普段のバカな言動そのものが、本来の実力を隠すための演技だとしたら?」

 

「……それは…………反論…………出来ませんね。そこまで考え出したら、キリがないですよ。」

 

 それもそうだ。

 

零次「で?結局何が言いたい?明久の点数は、アイツの努力の結晶だ。お前だって、そう言ったろ?」

 

「彼一人の努力の結果だと思えない。そう言いたいのです。かといって、いつも仲良くしている三人が力を貸したとも思えません。」

 

零次「坂本なら、明久一人に付きっきりで勉強を教えるのは不可能ではないと思うがな……。だが、それだと話の筋道が絶たれたのではないか?明久一人の努力じゃ不可能、友達は力不足。ついでに言えば、お前はカンニングしたとは思ってないし、先生に聞きに行ったとも思ってないんだろ?」

 

 西京が小さく頷いた。肯定……ということか。

 

零次「なら、どうやって明久が点数を上げたというのだ?まさか、試験召喚システムに干渉した、なんて言い出すのか?」

 

「それこそ、とんでもない不正行為じゃないですか!そうじゃないです。他に交友があって、かつ学力も十分ある生徒が力を貸したってことです。」

 

零次「馬鹿馬鹿しい。そんなお人好しがこの学園にいるとでも?」

 

「……いますよ。去年、観察処分者となった吉井くんの仕事を手伝っていた生徒が……。貴方のことを言っているんですよ、双眼零次。」

 

 …………ほう。

 

零次「意外と、人のことを見てるんだな、お前。」

 

「失礼ですね。学校で目立つ人のことなんて、自然と耳に入ってきますよ。……貴方達の場合、ほとんど悪口ですけど。」

 

零次「そうかそうか。ま、お前の言う通り、明久に勉強を教えていたのは俺だ。正確には他にもAクラスの生徒が数名関わってるが。」

 

「一体、どういうつもりですか?他のクラスに手を貸して……。自分を認めないAクラスの皆への腹いせですか?」

 

零次「腹いせ?そんなことをすることに何の意味がある?ただ明久の友達として、俺にできることをやった。ただそれだけのことだ。」

 

「それだけのことって……!今回は無勝てたからよかったものの、貴方のその軽率な行動のせいで、もし私達が負けでもしたら、どう責任を取るつもりなんですか!」

 

零次「……随分とおかしなことを聞くな。お前のそれは、まるであの時点で、Aクラスが敗北する未来を想像していたように聞こえるぞ?」

 

「…………ええ、覚悟しましたよ。私が負けを認めたあの瞬間に。」

 

 ……………………なん…………だと…………。

 

「意外ですか?最初に豊嶋くんが近衛さんに負けて、私も吉井くんに敗北した。保健体育が得意な土屋くんと、去年学年三席を久保くんと争っていた姫路さん。この二人が控えている状態で、二敗した時点で、そう考えてもおかしくないでしょう。」

 

 そうかそうか……なるほどな……。

 

零次「…………意外だな。俺でさえ『自らの陣営』の勝利を疑わなかったというのに。」

 

「それこそ意外な反応ですね。貴方でも慢心することがあるとは。」

 

零次「慢心?ある意味そうかもな。俺が敗北を想定していないのは、絶対的な事実と自信から来るものだからだ。相手のことを相手以上に理解し、自分のことを誰よりも正確に把握すれば、負けることはないさ。」

 

 確かにFクラスには、思わぬ伏兵が潜んでいた。『最弱クラス』のレッテルの影に姫路が。その後ろには土屋が。『観察処分者』の蔑称を背負った明久も、その名を覆す程の実力を今回の試召戦争で見せつけた。そして、そんな彼らを纏めるのは、かつて『神童』とも呼ばれていた坂本だ。奴がいつ、その全盛期の実力を取り戻してもおかしくはない。

 だが、そんな伏兵にも弱点はある。土屋や明久の場合は得意科目以外の点数が軒並み低いこと、姫路や坂本は不測の事態に弱い、といった感じだ。敵の脆い部分を把握し、それに合わせた対処を適切に行なえば、最悪勝てなくとも、醜態を晒すことはない。

 もっとも、そんな対策をせずとも、俺にはあの強力かつ理不尽極まりない腕輪がある。あれを攻略する者が現れぬ限り、誰一人として俺に勝つことはない。

 

零次「だから、そんな敗北した後のことなんて、考えにない。これが正直な答えだ。だから聞きたいのだが、仮にAクラスが負けてたら、お前は俺に何を望む?」

 

「そうですね……。今までの私だったら、『退学しろ』……とでも言っていたでしょうね。豊嶋くんは、今でもそう思ってるでしょうが。」

 

零次「…………一生徒が退学することを、不祥事起こした人間が勤め先を辞職することと同義と考えてないか?そんな理由で、学校側が退学届を受理する訳ないだろ……。」

 

 そもそも俺には、どんなことがあろうと文月学園(ここ)を退学できない理由があるんだよ。そしてそれは、文月学園に関わる全ての人間の平穏のためでもある。

 

零次「…………ま、なんであれ、俺は試召戦争で負けるつもりはない。これから先も、だ。」

 

「………………そうですか。では、最後に一つだけ。根拠も何もない事ですけど……。」

 

 その後西京の放った言葉は、俺が西京の認識を約180度変えるには十分なものだった。だが……。

 

零次「その『真実』に辿り着くのに、時間がかかり過ぎたな……。お前の推測は正しい。が、残念ながら、その点で『不合格』だ。」

 

「そうですか……。」

 

零次「まあ、最初の詫びの時に、それを理由に謝らなかっただけ、良かったと思ってやる。だから、もしお前が今までのことを負い目に感じているなら、これまで通り自分が正しいと信じた道を進め。今のお前なら、きっと新しい道を拓けるはずだ。」

 

 そう言って、今度こそ屋上を後にした。どうやら西京はまだ、屋上に留まるらしい。

 

 さて……。それじゃ、近衛から頼まれた依頼をこなしますか。



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小問17-F コタエアワセ

 Aクラスとの試召戦争の末、新たな学年首席の実力を見せつけられた日の午後。今まで試召戦争で潰れてしまった分を取り戻すかの如く、授業が進められる……。そう思っていたけれど、私達は今、本来なら生徒がやることのない、『とある作業』をFクラス全員で行なっている。

 

 そう、『設備交換』だ。正確には、『設備のランクダウン』と言うべきだろうか。

 下位クラスが上位クラスに敗北した際、下位クラスの設備のランクが落とされる。

 実際の例で言えば、CクラスがAクラスと勝負して、Cクラスは敗北した。その結果、現在のCクラスの設備は、Dクラスと同じものになっている……はず。

 本来ならこの仕事は、用務員や手の空いている教師が召喚獣を使って、生徒が部活に励んでいる間や休日に終わらせるものなのだが、それを今私達がやっている、ということだ。今まで第二学年のほぼ全てのクラスに、直接的及び間接的に迷惑を掛けまくってたからね……。これでも罰としては軽い方だろう。

 

雄二「ふう…………。これで卓袱台は全部か?」

 

秋希「うんうん。後は、畳が6枚ほど。そっちは吉井君達を待とう。」

 

 卓袱台を、あらかじめ教師に指示された場所に置いて、坂本君が大きく息を吐く。

 西村先生は今頃、設備移動をサボったor観察処分者(吉井君)に押し付けた愚か者達の制裁に向かっているところだろう。

 そうして残ったメンバーで姫路さん達女子&秀吉君は、Fクラス教室で段ボール箱()ござ(椅子)の設置。その他男子は、残りの卓袱台の運搬で少し時間がかかる。

 …………故に今、この倉庫にいるのは私と坂本君の二人のみ。

 

秋希「……さて坂本君。今私たち……、二人きりだね……。」

 

雄二「…………なんだ?反省会でもするのか?」

 

 …………冷静に返された、チクショウ。

 

秋希「うん、そうなんだけどさぁ…………。少しはノってくれてもいいんじゃない?」

 

雄二「勘弁してくれ。命令で無理矢理とはいえ、翔子と付き合うことになったんだ。その直後に他の女に手を出すほど、俺はクズじゃねぇよ。それに、こっちだって一つ二つお前に言いたいことがあるしな。」

 

 何かな?まあ、だいたい予想はつくけど。

 

雄二「……まずは、すまねえ……。お前との約束を守れなくて……。」

 

 約束?……………………ああ、アレか。Dクラスとの戦争後に話した約束か。

 

 あの時私は、打倒Aクラスを掲げる坂本君に一つ約束を取り付けたんだった。それは、『零次達に勝利して、坂本君達の絆の力を見せて欲しい』というものだ。

 零次は孤独だ。誰も信用しない。誰からも信頼されない。歩み寄ろうとしなければ、惹き付けることもしない。彼が信じるのは自分のみ。

 そうなった原因の一端は私にある。だから、償いのために、零次と同じステージに立てる人間を作るためにαクラスを立ち上げた。バカばっかりやってるけど、楽しそうな吉井君達に目をつけた。零次が人を信用できるようになるために。

 

秋希「…………別に?気にしてないわよ。そもそも、期限なんて設けてなかったしね。三ヶ月後、Aクラスにリベンジするときに達成してくれたらいいよ。」

 

 そう言うと、坂本君は渋々だけども、納得してくれた。

 

秋希「それで?他には何かあるかしら?」

 

雄二「ああ。もう一つは、双眼の腕輪の能力についてだ。お前は双眼と仲が良いし、何か知ってそうだからな。」

 

秋希「別にアイツと仲良くはないって……。百歩譲って仲良いとしても、だからって腕輪の能力を知ってるかは別じゃない?坂本君だって、吉井君達がどんな腕輪を持ってるか把握してないでしょ。」

 

雄二「俺の場合は別にいいだろ。ムッツリーニ以外はどうせ、腕輪なんて使えないんだから。」

 

 それもそうか。そもそもAクラスでさえ、腕輪を使える生徒は上位の数名程度なんだ。それ以前に、試召戦争そのものが頻繁に起こるものではない。わざわざ頻度が少ないうえに、使う人も少ない要素なんて、無駄な警戒もいいところだ。精々初見殺しにひっかかるリスクをなくせるくらいだ。

 そう考えたら、他人の腕輪能力を把握している私の方が異常なんだけどね。

 

雄二「…………話を戻すぞ。姫路との戦いを見た限り、アイツの腕輪の能力は二つだ。一つは他の召喚獣への『強制ダメージ』、もう一つは『腕輪能力の封印』だ。」

 

 ……流石だ。あの一戦だけで、ほぼほぼ正解を言い当てるなんて。

 

雄二「ま、それでも疑問は尽きないがな。なんでアイツの腕輪だけ能力が二つもあるのかが謎だし、そんなチート染みた能力を今まで存在すら知らなかった理由も分からん。そもそも双眼以外、誰も使った奴がいないのが一番不可解なことだ。何か莫大なデメリットがあるんならまだしも、アイツの様子を見る限り、そんなのがあるようにも見えない。……言いたいことは大体言ったぞ。答えを聞かせて貰おうか!」

 

 ……さて、どうしようか。坂本君の推測は、かなり惜しい。零次から聞いた、霧島さんの推測と比べたら、かなり正解に近い。

 正直、このまま全部坂本君に教えてやりたいくらいだ。寧ろ坂本君だけでなくFクラスの連中全員に零次の腕輪能力の恐ろしさを、流布してもいいかも知れない。

 でも、これの実行には、リスクがデカすぎる。その能力はあまりにもチートが過ぎる故に、学園で暴動が起こる姿が容易に想像できる。それは、自殺行為というより、自爆テロのレベルだ。

 零次の腕輪も、学園長が能力の詳細を吟味し、調整を行なったうえで組み込んだ、言うなれば『学園公認』の腕輪だ。けど、それがなんだ。そんなこと、生徒には知ったことではないのだ。

 こうして学園で何かしらの騒動が起これば、それだけで学園の存続は一気に危うくなる。その場合、坂本君達は転校すればいいけど、私には文月学園(ここ)しかない。文月学園(ここ)の存在こそが、私を『近衛秋希』とする。

 

 その居場所を『今』、自分の手で潰す訳にはいかない。だから、坂本君にも零次のことはあまり話せない。

 

秋希「う~ん……惜しいっちゃ、惜しいかな?能力に関しては、合ってるっちゃ合ってる。でも腕輪一個につき能力は一つだけ。能力を二つ持つ腕輪は存在しないわ。」

 

雄二「…………本当か?だとしても、姫路の点数が一気に減ったのも、腕輪が使えなかったのも事実だろ。まさか、アイツだけ腕輪を二つ持ってる、なんて言わないよな?」

 

秋希「……ま、まあ、そう思うのも無理ないわね。前者はともかく、後者の腕輪封印は、実際あるし。……何にせよ、零次の腕輪は、皆と同じで一つだけよ。」

 

 ……待って…………今の坂本君、結構頭が冴えてない?なんで試召戦争の時は、ここぞという時にポカをするクセに、こういう時に限って、『真実』に近い答えを弾き出すの!?脳ミソの使いどころを間違えてない!?

 

雄二「……なんか変なこと考えてなかったか?」

 

秋希「イイエー、ベッツニー?」

 

雄二「そうか……?まあ、なんだっていいや。となると、この二つ能力のうちどちらかが双眼の腕輪ってことか?……まあ、能力が一つだというなら、『強制ダメージ』が双眼の能力だろうな。ダメージを負って腕輪が使えなくなったのか、封印のおまけでダメージをくらったのか……。そのどちらかなら、『ダメージ』がメインの能力だと考えた方が自然だろうよ。」

 

 ……これは喋ってもいいかな。

 

秋希「はあ……。概ね正解よ。というか、姫路さんに起こった現象は、君の言ったことそのままよ。零次の強力な腕輪能力の影響で、姫路さんの召喚獣が大ダメージを負うだけでなく、腕輪まで破壊された。そんな感じね。」

 

雄二「なるほどな。しっかし、改めて聞いてみると、クソチート能力だな。姫路の点数の減り幅を見るに、総合科目でほぼ4000点削るんだろ?そのうえ腕輪が使用不可って……。逆転の目を完全に潰しに来てるじゃないか。」

 

秋希「まあ……それがコンセプトの腕輪だからね。腕輪を持たない召喚獣は零次と同じステージに立つことを許されない。腕輪を持つ者も、その力のほとんどを零次の腕輪によって削り取られ、十分な力を発揮できぬまま倒される……。それが零次が持つ腕輪。その能力の名は…………『王者』。その名の通り、学年首席にのみ託される腕輪よ。」

 

 この能力を使えば、敵がほとんど消滅する。しかし、この能力は味方にも作用する。さっきも言ったように、Aクラスでも、腕輪が使える生徒は上位数名くらいだ。総合科目となればさらに少なくなって、片手で数えられる程度まで減る。

 強大な力を見せつけることができる代償に、味方も減っていく。「誰からの助けも得られず、孤独の中戦う。それはまさに零次の現状を体現したような腕輪……。」

 

雄二「……ほう。確かに双眼の現状を考えたら、学園側の誰かがそんな腕輪を作ってもおかしくはないか……。」

 

 …………ハ?

 

雄二「お前、途中から声に出てたぞ。おそらく開発者は、零次が翔子と同等の学力を持っていることを知ってる奴だろうな。『死神』の通り名のせいで、双眼が多くの生徒・教師から虐げられていることを知って、この腕輪を作り、双眼に復讐話を持ち掛けたんだろう。双眼はその話に乗っかり、今年の振り分け試験で学年首席となった。『死神』の名に踊らされ、アイツと距離をとって、比較的安全な場所から叩きまくっていた俺達の腐った性根が、今の状況を作り出したってことだろうな……。」

 

 ヤ、ヤバイ……。本当に坂本君が『真実』にたどり着きつつある……。今ここでバレるのはちょっと……いや、かなり都合が悪い、悪すぎる…………。どうにか、誤魔化せないか…………?

 

 

 

ガララ……。

 

 

明久「ふ、二人ともお待たせ~……。」

 

秋希「お、おー、お疲れー。」

 

  吉井君達が残りの畳を持って来た。ちょうどいいタイミングで来てくれたわね……。

 

明久「ところで、二人はさっきまで何してたの?」

 

秋希「フフフ……。人にはちょっと言えないこと、かな?」

 

 そう言って、私はさっさと倉庫を出ていった。

 その数秒後に坂本君の悲鳴が聞こえてきたことと、西村先生が倉庫にいた全員を補習室に連行していったことは言うまでもない。



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エピローグという名の解答欄

零次「それでは、我々の勝利を祝して……。」

 

「「「乾杯!!!」」」

 

 文月市某所のとある食べ放題の店。そこで俺達αクラスは祝勝会を行なっている。

 放課後に近衛からいきなり『祝勝会をするから適当に店探しておいて』なんて言われた時は、正直困った。そういうことは思いつきで突発的に言わないで欲しい。

 一応アテはあったんで、予約の電話をいれ、無事OKを貰ったところで俺の仕事は終わりだ。あとは近衛を経由して、αクラス全員に連絡するだけだ。

 

 ちなみに明久は欠席だ。近衛の話からするに、多分今頃姫路&島田とデート(っぽい何かを)してるんだろう。

 

零次「……さて、諸君。我々αクラスは、本日行なわれた試召戦争において完全なる勝利を手に入れた。」

 

 対外的にはAクラス5勝、Fクラス2勝でAクラスの勝利となっている。だが、選出メンバーを細分化した場合、次の通りとなる。

 

先鋒戦:近衛秋希(α) ◯ー● 豊嶋圭吾(A)

 

次鋒戦:吉井明久(α) ◯ー● 西京葉玖(A)

 

五将戦:土屋康太(F) ●ー◯ 影山幽也(α)

 

中堅戦:島田美波(F) ●ー◯ 工藤愛子(α)

 

三将戦:根民円 (F) ●ー◯ 佐藤美穂(α)

 

副将戦:姫路瑞希(F) ●ー◯ 双眼零次(α)

 

大将戦:坂本雄二(F) ●ー◯ 霧島翔子(A)

 

 この通りαクラスが6勝と、実質俺達の勝利。さらに大将戦でも、そのついでで俺や明久含め7名が同じテストを受けたが、それらを加えると、トップは俺だ。折角、霧島には100点を取るための秘策を授けたというのに……。

 

利光「僕は何もしなかったけどね……。」

 

ねるの「わたしゅはCクラスだから、関係ないっしゅけどね……。」

 

零次「……ともかく、全ての試合でαクラスが勝利したのは紛れもなき事実だ。だが、その勝利の余韻に浸るのは、今日までだ。」

 

 同時に空気が少し重くなった。皆、改めて姿勢を正している。先程まで夢の中へと旅立ちかけていた真倉でさえもだ。

 

零次「理由は……言わずとも分かるな?試召戦争なんてものはあくまでおまけ、他の学校には存在しない代物だ。試験召喚システムの中心にあるのは『意欲的に勉強をすること』と『それを継続すること』だ。それに終点(ゴール)は存在しない。」

 

 別に試召戦争で勝って喜ぶことは、悪いことではない。悪いのは、その余韻に浸り、歩みを止めることだ。

 言うなれば、テストの点で一喜一憂して、良い結果が出たときに浮かれているのと同じことだ。

 

零次「そもそも、ここに集まっているのはどんな集団だ?ここに来ていない明久(可能性を秘めたバカ)を除けば、皆Aクラスに入れる素質を持った猛者達だ。勝って当然なのに、こうやって大騒ぎする必要がどこにある?」

 

 召喚獣は召喚者のテストの点数によって動かされ、高得点を取れば取るほど、その能力も上昇する。故に学力最高クラスであるAクラスが、他のクラスに勝つのは至極当然であり、負ければ見せかけだけの無能集団と裏でも表でも呼ばれるようになる…………かどうかは定かではない。

 だって、Aクラスが敗北した事象は今まで無いわけだからな。ただ、文月学園の連中なら、そうやって言い回っても、何の違和感も不自然さもない。

 …………そう思う時点で、俺も大分毒されてるような……。

 

零次「そういうわけだから、今後は試召戦争で勝っても、こうやって祝勝会を開くことはないだろうな。例えこれから『新メンバーが加入する事があってもな』。」

 

美穂「え…………?」

 

利光「新メンバー……。」

 

幽也「…………加入…………?」

 

 やはりと言うべきか、皆最後の言葉に驚いているようだ。

 

 …………一人を除いて。

 

零次「気づいてないと思ったか?お前が去年から裏でコソコソと何かしていることは知っていた。先生方からも確認をとり、確証を得て、あえて何も言わないようにした。もう隠す必要はない筈だ。」

 

秋希「やれやれ……。この日のためにサプライズを仕込んでおいたのに、まさか零次に気づかれるなんてね……。」

 

 そう言うと、近衛は立ち上がり深呼吸して言葉を続けた。

 

秋希「実はね?このαクラスが、文月学園公認の部活動になりました!というか、してきました!」

 

「「「え、えええええええ!!」」」

 

 …………お前ら、驚く気持ちは分かるが声量抑えてくれ。他の客の迷惑になってるぞ。

 

愛子「ど、どどど、どういうこと!?」

 

秋希「いや……そのまんまの意味だけど。部活動新設の書類やら手続きやらを私の独断で行なってたの。」

 

 もっとも、αクラスを学園公認の活動にしようという動きは去年からあった。しかし、部活動を行なうために必要な最低人数は4名。去年の時点では一人足りなかった。名前を貸してくれる生徒を募るという案も近衛(発案者)から出たが、正直、勉強するだけの訳分からん活動に、そんなことしてくれるお人好しがこの学園に存在するとは思えなかったし、俺がいることを知られれば確実に断られるだろうから却下した。

 

零次「ま、これまでと活動内容は変わらん。ただ、部活動となれば、学園内の設備を使っても、それを理由に出来る。それに、顧問教師という心強い味方も出来る。」

 

 そこが一番の強みだな。まあ、誰が顧問なのかは知らないが。俺としては、西村先生か信楽先生、一歩譲って高橋先生が顧問だといいが。

 

零次「……さて、俺達からの話は以上だ。折角の食べ放題だ。どうせなら、元取って帰ろうじゃないか!」

 

 さあ…………、行動開始だ。

 

 

・・・

 

 

明久「や、やっと解放された……。」

 

 思えば今日は散々な日だった。

 試召戦争には負けちゃったし。……いや、αクラスとしては勝ったのか?

 設備交換は、皆僕に押し付けてどこか行っちゃったし。……まあ、これは僕が観察処分者だから仕方ないけど。

 放課後は、姫路さんや美波と一緒に映画観に行ったり、クレープ食べたりして、思いの外散財しちゃったし。……でも、近衛さんが帰り際にくれたクーポンやら割引券やらのお陰で、明日からも水道水を主食に出来る。もしそれがなかったら、公園の水が主食になりそうだった!

 

 …………あれ?『散々な日』って言うほど、『散々』でもない?

 

零次「ようやく帰路に着くのか?随分と余裕そうで何よりだ。」

 

 そんなことを考えてたら、僕のもとに一つの黒い影が近づいてきた。

 ……そういえば、αクラスで何か集まりがあったんだっけ。

 

明久「ご、ごめん零次。でもこれには訳が……。」

 

零次「明久。お前、理由を話せば、納得して許して貰えると思ってんのか?」

 

 や、やっぱり怒ってる!!

 

零次「……ハァ……。安心しろ、お前が来れなかった理由は近衛から聞いている。お前はお前で美味しい思いしてたんだろ?なら、お互い様だろ。」

 

明久「…………。」(目をそらす)

 

零次「おい、何故そこで目をそらす。女子二人両脇に並べて、映画鑑賞にスイーツ巡り……。大多数の男が羨む光景じゃあないのか?女子一人でも、こんなイベントに行き着く奴が何人いるか知れないのに、お前はそれが『二人』&『同時に』かつ『比較的平和に』行なわれたはずだ。どこに落ち込むような要素がある?」

 

 正直、美味しい思いをしてるかと言われたら、答えはノーだと思う。だって映画館でも、美波が連れてって欲しいって言ってた『ラ・ペディス』ってお店でも、僕は自分に一切お金を使ってないからだ。美味しいスイーツがたくさんあるお店で、水だけ飲んで女の子達がスイーツを食べてる様子を眺めてるだけの男を店員さんはどんな目で見てたんだろうか……。

 

明久「いや……別に……、僕じゃなくてもいいんじゃないのかな……って思ってさ。」

 

零次「…………それは何故だ?」

 

明久「だって、姫路さんと美波だよ!?バカでブサイクで甲斐性なしの僕といるより、一緒にいた方がいい人間なんて、いくらでもいるでしょ!?」

 

 突然、零次が吹き出した。

 

明久「え?どうしたの、いきなり。」

 

零次「いや、すまんな。お前がそこまで自分を卑下しているとは思ってなくてな。どうせ、アレだろ。坂本辺りがからかい半分……実際は悪意100%だろうが……で、言ったことを真に受けてんだろ。」

 

 確かに雄二からは何度も『不細工』だとは言われてる。『バカ』も事実だから否定できない。けど、アイツに『甲斐性なし』なんて言われた記憶はない。

 誰からだっけ……。もっと…………僕に身近な…………それでいて、年上の人に言われたような……。

 

零次「まあ誰だっていいけどな。けど、もう少し自信を持ってもいいと思うぞ。」

 

明久「ええ……。そうかなあ……?」

 

零次「確かにお前はバカだ。調子に乗ってふざけたこともしただろう。だが、お前の後先省みない行動で救われた人間もいるのも事実だ。」

 

 そう言われても、全く実感がないんだけど。

 

零次「ピンと来てない顔だな。だが、あの二人が本当に誰でも良かったんなら、お前を取り合うように映画館や喫茶店に誘ったりはしないさ。男子なんて、Fクラスは他より多いんだから。」

 

明久「うーん……。美波はともかく、姫路さんは男子のグループ入れるような勇気はないと思うけど……。」

 

零次「…………それでも最悪の場合、秀吉がいるだろ?本人が悩みの種としてるルックスのお陰で、そこらの男よりかは気兼ねなく話せるだろう。それに彼と一緒なら、何も知らない観察力の欠けた他人から見たら、女子二人が仲良く遊んでる風にしか見えないだろうよ。だが彼女らがそうしなかったということは…………。まあ、そこから先は自分で考えてくれ。」

 

 そうは言ってもね……。美波はBクラスとの戦争の時に交わした約束を守っただけだし、姫路さんは、その話を聞いて美波と一緒にクレープを食べたかっただけだと思うんだけど。姫路さんって、スイーツが好きそうだし、実際美味しそうに食べてたし。

 

零次「……さてと、本題はここからだ、明久。先程の祝勝会で、今後のαクラスの活動方針が決まった。」

 

 なんでも、これまでは零次の家で活動していたことを、部活動として学校で堂々と行なえるようになったとのこと。また、それに伴って、部員を募集するために今のαクラス全員で『入部試験』を作ることになったそうだ。

 あれ?これもしかして……。

 

明久「僕にもその入部試験の問題を作れと……。」

 

零次「そう言っているが?」

 

明久「…………いやいやいやいや、無理無理無理!無理だって!僕の点数分かってるでしょ!?」

 

 元々の点数は地を這うようなもの。今日のAクラス戦のために、零次達と勉強した日本史だって、美波の数学やムッツリーニの保健体育の点数と比べたら霞んでしまうレベルだ。

 そんな点数しか取れないのに、Aクラスレベルの問題なんて作れやしない。

 

零次「……点数?お前は何を言っている?」

 

明久「へ……?」

 

零次「αクラスで求められるのは『努力し続ける意思』だ。それがあれば、クラスがどうこうなんて問題はささいなものでしかない。ただその集団に、偶然にもAクラス上位陣が多数含まれていたに過ぎない。そもそも学力云々でαクラスの入部資格を決めるんだったら、振り分け試験と何も変わらんだろ。わざわざ部活にする意味もない。」

 

 そ、それもそうか……。

 

零次「まあ、そう簡単に問題なんて作れないのも事実だ。時間もそれなりに余裕を持たせている。お前らしい問題を期待しているぞ。」

 

 そう言って、零次はさっさと彼の家がある方向へと向かっていった。

 

 どうやら僕は、少々面倒臭いことに巻き込まれてしまったようだ。正直逃げたい。でも、逃げるわけにもいかない。

 結果として、Fクラスは負けちゃったけど、僕自信の点数が上がってることは確かな事実なんだ。このまま零次達と勉強を続ければ、観察処分者の仕事で手に入れた召喚獣の操作技術と合わせて、Aクラスを、ひいては零次を倒せるかもしれない。

 

 鉄人の監視下から逃れるためにも、次こそは必ずAクラスに勝つ!

 その想いを胸に、僕もまた、家に向かって歩き出すのだった。




~後書きRADIO~
秋希「さあ、後書きRADIOの始まりだよ!」

零次「今回で第19回目だな……。そして、ようやく大問1の終了か。」

天:ハロー♪久しぶりにゲストで呼ばれたよ。天鋸江《あまのこえ》だよ。

零次「というわけで、今回はかなり久しぶりに、後書きRADIO限定のオリキャラ、天鋸江をゲストに迎えている。……正直、俺か近衛のポジションと交代してもいいんじゃないか?」

天:そうだねー♪元々不定期更新なのに加えて、不定期開催の後書きなんだから、出番をくれるんなら、何でもいいけどー♪

秋希「でも、零次と二人で上手く回せるの?私と天は相性悪いから、二人で進行するなんて無理なんだけど。」

零次「……三人体制の方が現実的か……?」

天:それじゃあ、今回の議題に行ってみよー♪

零次「といっても、雑談なんだがな。近衛についての。」

秋希「私?」

零次「正確にはお前の名前『秋希』についてだ。実はバカテス原作に由来した名前なんだ。」

天:へー♪どんなものなんだい?

零次「結論から先に言ってしまうと、『明久と島田の距離を縮めさせないため』に付けられたものなんだ。」

秋希「『遠ざける』じゃなくて、あくまで『縮めさせない』なんだ……。」

零次「まあ、アレでもサブヒロインだからな……。」

天:それで?彼女と『秋希』の名前にどんな関係があるんだい?

零次「それを話す前置きとして、原作キャラクターが他のキャラをどう呼んでいるか、知っているか?」

天:えーと……。件の吉井君と島田さんは、こんな感じだったよね?

[吉井明久の場合]
・仲の良い男子生徒…名前で呼び捨て(雄二、秀吉)orニックネーム(ムッツリーニ)
・その他の男子生徒…名字に君付け(久保君など)
・女子生徒…名字にさん付け(姫路さんなど)

[島田美波の場合]
・男子生徒…名字で呼び捨て(坂本、土屋など)
・仲の良い女子生徒…名前で呼び捨て(瑞希など)

零次「ああ。そんな感じだ。ついでに姫路の場合も示しておこうか。」

[姫路瑞希の場合]
・男子生徒…名字に君付け(坂本君、土屋君など)
・仲の良い女子生徒…名前にちゃん付け(美波ちゃんなど)
・その他の女子生徒…名字にさん付け

秋希「一例ではあるけど、確かにそんな感じね。」

零次「で、ここからが本題だ。明久と島田のお互いの呼び名は最初の、本当の最初の頃は、『島田さん』『吉井』と、上記の法則通りの呼び合っていたのだが、Bクラス戦初日の放課後から『美波』『アキ』と呼び合うようになった訳だ。」

天:うんうん。

零次「ここでもう一度、島田の他キャラの呼び方を見てもらえば分かるが、島田は基本、女子生徒は名前を呼び捨てにして呼んでいるんだ。つまり、近衛のことは『秋希』と呼んでいるはずだ。」

秋希「あー、なんとなく言いたいことが分かったわ。その状態で島田さんが吉井君を『アキ』と呼ぶと、私と被るのね。」

天:ついでに姫路さんは、近衛さんと仲が良ければ彼女を『秋希ちゃん』と呼ぶことになるけど……。これもまたある意味吉井君のことを指してるよね?

零次「天の言う意図は当時の……作者には無かったがな。どのみち、原作ヒロインの好感度稼ぎイベントを阻害する要素になってるのは確かだ。」

天:そして、本作のヒロインである近衛さんと吉井君を……。

秋希「くっつけないでよ。そもそも私は吉井君のこと、そんな好きじゃなければヒロインでもないし。」

天:え?

零次「近衛のポジションは、どちらかと言えば『もう一人の主人公』って感じだ。そもそもヒロインだったら、カップリングの対象は主人公である俺になってしまうだろ。」

天:まあ、二人が付き合う可能性は、キャラ紹介の時点で皆無だってことは分かってるけどね♪

秋希「そういうこと。」

天:じゃ、キリもいいところで、次回予告といこうか。

零次「予定は二つだ。一つは原作の『○.5巻』にあたる話を作製する予定。もう一つは、『大問2』つまり清涼祭(学園祭)編に突入する予定だ。一応保険として、後者を優先して進めるつもりだとも言っておく。」

秋希「それでは…………。ここまでありがとうございました!」

「「「次回もよろしくお願いします!!」」」


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大問2 陰謀渦巻く清涼祭編
プロローグという名の問題文


~前書きRADIO~
零次「どうも。双眼零次だ。番外編がまだ途中だが、こっちが先に書き上がったのと、向こうがやや難航しているために、本編をちょっとだけ進めることにした。」

秋希「現状、番外編はあと3話ほど、清涼祭準備期間の話があと1、2話ほどを予定しているわ。どちらも気長に待ってくれると嬉しいわ。」

零次「それでは、本編をどうぞ。」


 桜の季節は終わりを向かえ、文月学園の木々が緑一色に染まる時期。

 俺達が通う文月学園では、新学年最初の行事である『清涼祭』の準備が進められている。

 

 俺が現在把握している出し物は次の3つ。

 

 1つめは、3-Dと3-Fが合同で行なう縁日……っぽいもの。偶然にも両者ほぼ同じタイミングで出し物がきまったため、折角だから一緒にやらないかと、Fクラス代表が声をかけたことから始まったそうだ。

 2つめは、3-Cの『召喚システム研究室』……要は試験召喚システムを使った出し物だ。試験召喚システムについて簡単な説明をするブースや、実際に召喚獣を召喚および操作の体験をするブース、他には学園中にスタンプラリーを設置する予定だとか。あのCクラス代表らしい出し物だ。

 3つめは、2-Dの喫茶店。進級初日にFクラスに敗北した爪痕なのか、提案者が強気な性格でそれに押されたからなのか、クラス代表そっちのけで決まったらしい。どちらにしろ、Dクラスのクラス代表の存在は、吹けば飛ぶホコリ以上に軽いもののようだ。

 

 そして我々Aクラスの出し物もちょうど決定した。

 

翔子「……それじゃあ、私達Aクラスの出し物は、『メイド喫茶』に決定。」

 

パチパチパチパチ……。

 

 教室中が拍手で埋め尽くされる。

 やはり、霧島に実行委員を頼んで正解だったな。これからも、団結力が重要視されるイベントは霧島に押し付け(任せ)よう。

 その後もメニュー、店名、役職と、次々滞りもなく決まっていった。当然、俺の役割も、な。

 

零次「……なるほど、『店番』か。まあ、それしか選択肢は無いわな。」

 

 これが、俺の役職。『メイド喫茶』において、霧島が挙げた役職は三つ。『接客』『調理』『呼び込み』だ。

 まず『メイド』喫茶と言っているのだから、『接客』は無理だ。だから、候補となるのは残り二つ『呼び込み』か『調理』かだ。

 前者は、チラシ作り程度なら協力出来るし、後者も…………レシピ通り作るだけだから、おそらく問題ないとは思う。木下優子をはじめとした他のクラスメイトからも、『それで問題ない』ということで、無事役職が決まった。……そう思ったんだがなぁ…………。

 

 そこに横槍を入れてきたのは、まさかの霧島翔子だった。彼女曰く『代表が裏方に回っているのは、どうかと思う。』と珍しく訳分からん理由で却下しやがった。

 そうなると必然、選択肢は『接客』になる訳だが、それで提案されたのが『女装(メイド服着用)での接客』と、これまた想像の斜め上をいくものだった。何が『零次は意外と背が低いから、メイクすれば誤魔化せる』だ。声色ですぐバレるからな?あと女子も『双眼零次()のメイド服姿は見てみたいかも』みたいな反応するな。取り残された奴らが微妙な表情してるから。

 そんな訳で、霧島中心の『接客派』VS木下中心の『裏方派』&『接客でもいいけど、執事服の方がマシ』という、いわゆる『妥協派』VS◯ークライみたいな構図が出来上がった。一応たった二人だけ『出禁派』がいたが、他の連中の圧力に十秒足らずで敗北し、教室の隅へと追いやられていた。

 

 そんな不毛な論争に終止符を打ったのも、また予想外の奴だった。このメイド喫茶の案を出した張本人でもある工藤愛子だ。普段はお調子者で、内心評価の低い彼女が、先の妙案を提案したのだ。

 店に入る時に必ず顔を合わせることになるから、『クラスの顔』として十分に機能するし、基本的に見張りの仕事だから、半分裏方の仕事みたいなものでもある。そして何より、暴動が起きても鎮圧できる腕力がある。……最後の理由には物申したいところだが、ここで茶々入れてもメイド服を着せられる未来しかないので、黙っておくとしよう。

 

零次「さて、と。Aクラス諸君。」

 

 霧島がいる、教卓の方へ足を進めて、声を大にして話す。先月は教卓を叩いて威圧してた事が、この一ヶ月間で、警戒はされているものの、どういうわけか、ちゃんと話を聞いてくれるようにはなっていた。

 

零次「お前達のことだから、こんなこと言わなくてもいいと思うが、今一度言わせてもらおう。我々はAクラスだ。学年の模範となるべき集団だ。」

 

 事実、こうして話をする間も皆姿勢を正し、浮わついた感情を抑えて真剣に聞いている。

 

零次「……まあ、簡潔に言うと、だ。たとえ勉学と一切関係のない行事だろうと、我々が他のクラスに後れをとることなどあってはならない、ってことだ。誰よりも本気でこのイベントを楽しみ、はしゃぎ、それでいて冷静さを保て。全力でこのメイド喫茶を成功させるぞ!」

 

「「「おおおおおおおお!!!!!!」」」

 

 全員が高らかに拳を上げ、教室中に歓声が鳴り響いた。

 この校舎に試召戦争を前提とした防音機能があることを心から感謝した日は、後にも先にもきっと今日しかあり得ないだろう。

 さて、こうして清涼祭の開催日が刻々と近づいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその裏で、何やら恐ろしい計画が進んでいることに気づかなかったことを後悔するとは、この時の俺は夢にも思わなかっただろう。



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小問1 学園長からの呼び出し

~前書きRADIO~
秋希「どうもー、近衛秋希でーす。」

零次「そして、双眼零次だ。」

秋希「皆さんお待たせしました。大問2、清涼祭編のスタートです!」

零次「と言っても、まだ前日談なわけだが……。まあ、これからもよろしくお願いしますよ。」



零次「はあ…………。」

 

 憂鬱だ。分かりやすく言うなら、最悪の気分だ。

 

 別に清涼祭の準備が面倒だとか、そういうことじゃない。寧ろ、今年は宣伝ポスターを考えたり、料理の試作品の味見を頼まれたりと、準備に携われることを嬉しく思ってる。

 去年は、久保以外全員が、『俺みたいなクズに学園祭を楽しむ権利などない』とかなんとか言って、教室から俺を追い出し、準備にすら関わらせてくれなかったからな……。まあ、その後校舎を歩き回ってたら、そんな俺を拾ってくれたとある先輩と出会って、『清涼祭運営委員』の大義名分を得ることが出来たわけだが。

 

 じゃあ何が不満かと言われたら、『作業着』だ。霧島が『清涼祭当日はしなくてもいいから、代わりに準備期間中はメイド服を着て準備を手伝って欲しい』と、アホなことを要求してきたのだ。しかも、さっきまで味方だった工藤が今度は敵に回る始末。理由は『面白そうだから』という、ある意味彼女らしく、悪く言えばふざけたものだった。

 で、まあ、紆余曲折あって、俺が折れる結果となったわけだ。しかも、メイクまで綺麗に施されるおまけ付きだ。

 それで何の違和感もない仕上がりになっている己の体型に嫌悪を覚え、ことあるごとに『カワイイ』を連呼する女子に苛立ちを覚え、こっちに目を向けてはすぐに視線を反らす男子に腹立たしさを覚えながら作業を進めていったわけだ。

 そして何よりムカつくのは、久保だ。アイツの挙動が他の男子と比べて明らかにおかしい。心ここにあらずというか、俺の方に微妙に怪しい視線を送ってきてるし……。明久がαクラスにやって来た時から薄々気づいてはいたが、どうやら久保は好意の対象が、同性に向いているみたいだ。……他人の趣味嗜好など、俺からしてみればどうでもいいことだが、実害が出るようであれば、それなりの処分を考えるべきだろうな。

 

 閑話休題。

 

 今日もそんな状況下で清涼祭の準備を進めていた最中、俺は校内放送で学園長から呼び出しを受けた。流石に『作業着』で学園長室に向かうわけにもいかないので、素早く制服に着替え、10分と掛からずに学園長室の前まで来たわけだが……。

 

『……賞品の……として隠し……。』

 

『……こそ……勝手に……如月ハイランドに……。』

 

『…………に関しては…………ですが、学園の…………。』

 

 何やら学園長が何者かと言い争っているようだ。

 

雄二「……ん?そこにいるのは、双眼じゃねぇか?」

 

明久「あれ?零次も学園長に何か用事があるの?」

 

 そこに学園を代表するバカコンビが合流してきた。コイツらを呼び出す旨の放送は無かったはずだ。となると、個人的な用事だろうか?……学園長に対して、個人的な用事がある一般生徒というのも大分おかしい気はするが……。

 

零次「学園長から『来い』と放送で言われたんでな。なのに、どうやらお取り込み中のようだから、待機していたところだ。そういうお前らは何だ?『新しい』設備に嫌気が差したか?」

 

雄二「……嫌気が差したのは教室のほうだ。あんな隙間風が吹きまくるような教室など、今はそこそこ快適でも、冬になったら最悪凍死しちまう。生徒の健康に害を及ぼしかねない状態だから、直訴しようってことだ。」

 

 なるほど、至極まともな意見だ。まともなんだが…………、坂本ってそこまで先のことを考えて動くやつだったか?というか、そんなレベルまで酷くなってるのかFクラス教室……。

 

雄二「とにかく、学園長がいるってことなら無駄足にならずに済んだな。さっさと中に入るぞ、明久。」

 

 そう言って、坂本は学園長室の立派なドアをノックしようと…………って、待て待て待て。

 

零次「待て、坂本。さっきも言ったが、向こうは誰かと話してる最中だ。内容は不明瞭だが、もし文月学園に投資してくれているスポンサーのお偉いさんが相手だったらどうする?」

 

雄二「そんなの、こっちが知った事かよ。そもそも、数分前に校内放送を使ってまで、お前を呼びだすほどの用事があったんだろ?なら、今話してる方は学園長からしても予期せぬ来客ってことだ。律儀に待ってやる必要もないな。」

 

 その言葉、そっくりそのまま返って来るぞ、坂本。学園長からしてみたら、お前らの訪問も『予期せぬ来客』だろう。

 

雄二「……ってことで、失礼しまーーす。」

 

 もう話す気は無いと言わんばかりに、ドアをノックして返事を待つ間もなく、学園長室に入っていった。……仕方ない、結局コイツらのフォローにまわらねばならないのか……。

 

零次「学園長、2年Aクラス代表の双眼零次です。申し訳ございません。お取り込み中のご様子だったので、先程まで待機していたのですが、そこにいる暴走したバカ二人を止められませんでした。」

 

?「まったく、本当に失礼なガキどもだねぇ。普通は返事を待つもんだし、人が話してるときにズケズケと割り込むもんでもないよ。」

 

 そう答えた長い白髪が特徴の人こそ、藤堂カヲル学園長だ。他にも教頭の竹原先生と三学年主任の小林先生がいる。

 

竹原「やれやれ。取り込み中だというのに、とんだ来客ですね。これでは話を続けることもできません。……まさか、貴女の差し金ですか?」

 

藤堂「馬鹿を言わないでおくれ。どうしてアタシがそんなセコい手を使わなきゃいけないのさ。負い目があるというわけでもないのに。だいたい、そこの生徒は先に私が呼んだんだ。アタシからしたら、とんだ来客はアンタ達の方さね。」

 

小林「そうですね。私の計算でも、彼が来ると想定した時間を3分14秒も超過していましたよ。……まあ、彼なら10分までなら待っていてくれるだろうと踏んでましたが……、まさか、私達以上に想定外の来客に計算が狂わされるとは……。」

 

 ほら見ろ、坂本。やっぱり待っていた方がよかったみたいじゃないか。

 

竹原「まったく……、こんな学園に害しか与えない生徒を呼び出して、何をお考えでいるのやら……。学園長は隠し事がお得意なようで困りますね。」

 

藤堂「さっきから言っているように隠し事なんて無いね。それに、双眼が『害しか与えない生徒』というのも聞き捨てならないね。撤回しな。」

 

小林「全くもってその通りですよ、竹原教頭。貴方今の発言は、一人の生徒を侮辱するものですよ。もう少し教育に携わる大人として、誠意ある言動を心掛けたらどうです?」

 

竹原「小林先生……!貴方はどっちの味方をしているんですか…………!」

 

小林「私はあくまで、客観的に見て正しいと思っていることを言っているだけです。どちらかの味方をするつもりはありません。強いて言うなら、私は私の味方、それ以外の何者でもありませんよ。」

 

藤堂「……とにかく、アタシは何も隠し事なんかしてないし、何かやましいことを企んでもいないさ。全部アンタの見当違いだよ。」

 

竹原「……そうですか。そこまで否定されるならこの場はそういうことにしておきましょう。」

 

 そう言って、竹原教頭と小林先生は学園長室を出ていった。…………竹原教頭が去り際に部屋の隅の方を見ていた気がするが……、まずは要件解決を優先しよう。

 

藤堂「ふう……。みっともない所を見せちまったね。で、そこのガキどもは一体何の用だい?」

 

雄二「今日は学園長にお話があって来ました。」

 

 な……坂本が敬語を使ってる……だと……?って、そんな驚くことでもないか。もう高校生だ、敬語くらい知識として知ってても不思議じゃない。ただ驚くほどに使う機会がなかっただけだろう。

 

藤堂「私は今それどころじゃないんでね。学園の経営に関することなら、教頭の竹原に言いな。それにさっき小林先生も言ってたけど、これ以上予定外の来客に構っていられるほど、アタシも暇じゃあないんだよ。」

 

零次「いえいえ、俺は待ってますよ。この部屋に先に入ったのは彼らですし、小林先生の言う通り、10分くらいは我慢の範疇だ。おとなしく聞き役にまわるか、外で待ってますよ。」

 

 坂本がわざわざ学園長室まで足を運ぶことになった、ということは、それだけFクラスが危機に瀕していると言ってもいい。だとしたら、ここで帰るわけにはいかないわけだ。俺からもやんわりアシストしておこう。

 まあ、暗に彼らにも『話をさっさと終わらせろ』と言ってるみたいなもんだが……。坂本なら分かってくれるはずだ。

 

藤堂「ふん……。まあ、アンタがそういうなら、話を聞いてやってもいいかもしれないね……。だけど、まずは名前を名乗るのが社会の礼儀ってモンだ。覚えておきな。」

 

雄二「失礼しました。俺は二年F組代表の坂本雄二。そして、こっちが…………。」

 

 そう言って、坂本は明久の方を示して、彼の分も紹介する……。

 

雄二「二年生を代表するバカ…。」

 

零次「…の友人の吉井明久です。」

 

 ……わけないと思ってたよ、当然。

 

雄二「テメェ……。」

 

零次「何か間違いがあるか?お前がFクラス(二年生のバカ)代表なのは間違いないだろ?自分で名乗ってた訳だしな。」

 

藤堂「ほぅ……。そうかい。アンタたちがFクラスの坂本と吉井かい。良いだろう、話を聞いてやろうじゃないか。」

 

 そう言って学園長は、映画の悪役みたく口の端を吊り上げた。……なんというか、随分と様になってるな。こんな表情、役者でもない限り人生でする機会などないはずなのにな。

 

 そして、坂本による交渉が始まった。

 要求はさっき部屋前で聞いていた通り、『Fクラス教室の改修』。坂本曰く、教室は学園長の脳味噌並みに穴だらけで、戦国時代から生きているような人間じゃなきゃ、まともな生活を遅れないから、被害が出る前にさっさと直せ、このクソババァ……とのことだ。

 当然、彼の口の悪さと学校の規則を理由に改修を却下…………するかと思いきや、提示する条件を呑むなら工事を頼むと、半分承諾の回答を貰った。

 

 その条件が、『召喚大会の優勝商品である如月ハイランドのペアチケットを回収すること』だ。ただし、優勝者からの強奪及び説得による回収は無効とする、とのこと。要は『召喚大会に出て優勝しろ』という、現実的に考えればFクラス二名に提示するものではない条件だった。

 暗に『教室の改修工事を行なう気はない』と言われてるようなものだが、坂本は何か策があるのか、更に条件を加えることで、その条件を呑むと言った。

 

 それは『召喚大会で使用する教科を坂本雄二が設定する』というもの。学園長は特に躊躇う様子もなく承諾した。

 

 …………ここまでが、目の前で行なわれた、坂本と学園長のやり取りだ。途中明久が改修工事のついでに設備向上を要求していたが、後者は完全に自業自得だ、当然通ることはなかった、ということを蛇足で付け足しておく。

 

藤堂「さて。そこまで協力するんだ。当然召喚大会で、優勝できるんだろうね?」

 

雄二「無論だ。俺たちを誰だと思っている?」

 

明久「絶対に優勝して見せます。そっちこそ、約束を忘れないように!」

 

 どうやら二人とも、やる気が出て来てるようだ。まるで、何かFクラスで起きてる問題を解決する手段が、この召喚大会に詰まっているかのようだ。

 

藤堂「……さて、それじゃようやく本題だね、双眼。」

 

零次「はい。いやあ、先程までの話し合いが、端から見てる分には随分面白かったので、すっかり忘れるところでしたよ。」

 

藤堂「そうかい、そうかい。本当なら、一方的にアンタのことを茶化してやりたいところだけど、時間も惜しいから、単刀直入に言うよ。」

 

 一呼吸いれて、藤堂学園長から言われた言葉は……。

 

藤堂「アンタが今使ってる『王者』の腕輪、その能力を清涼祭の間、封印させて貰うよ。」

 

 俺からしてみれば、どうでもいいことだった。



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小問2 制限&宣言

 召喚獣に着けられる『腕輪』は、強者の勲章だ。それだけに能力も強力なものが多く、それ一つで格下の相手を、点数が許す限りは一方的に蹂躙することだって可能だ。

 とは言え、『生徒の学力向上』を目的とした学校公認の『ゲーム』としての側面もあると言えるわけで、そうなればバランス調整も致し方ない。だから……。

 

藤堂「アンタが今使ってる『王者』の腕輪、その能力を清涼祭の間、封印させて貰うよ。」

 

 先月のCクラス及びFクラス戦でとんでもない性能を見せた、その能力を制限されることは容易に想像できた。ただ、『清涼祭の間』というのは短すぎる気もするが。

 

明久「ちょ、ちょっと待ってよ!どうして零次だけ、そんな妨害をするのさ!」

 

雄二「ま、当然だろうな。姫路が手も足も出せず、無様に敗北に追いやるような腕輪、バンバン使われちゃ、たまらんからな。」

 

零次「スマートフォンのゲームアプリでもよくあることだろ。特定のキャラが強すぎるから、ステータスやスキルを調整する。それと同じだ。」

 

明久「ごめん、僕携帯でゲームはやらないんだ……。」

 

 まあ、そうか。水道や電気の料金を度々払えず止められるコイツが、携帯の通信料金だけはちゃんと払ってるというのも違和感があるからな……。

 

藤堂「そういうことだよ。ま、当の本人は使う気なんて無いだろうし、システム側でもキツーい制限が掛かっているから、問題は無いだろうけど、一応通達しておかないとね。試験召喚システムを管理する者として、そして学園のトップとして最低限のことだね。」

 

 何故だろうな……。立場上、学園の『トップ』なのに、全くそれっぽく感じない。多分あれだ。普段接点がないから、偉さが全く滲み出て来ないんだろう。

 

藤堂「なんだい、双眼。何か言いたげな顔をしてるようだけど、アンタの意見も文句もこっちは聞き入れるつもりはないよ。召喚大会は一応学園のPRも兼ねてるんだ。それなのに、『王者』の腕輪で無双されちゃあ、PRにならないし、観客も白けるだろう?対戦相手だって納得しないよ。」

 

 でしょうね。俺の口から説明したって、相手が素直に聞き入れる可能性は、クラスメイトでない限りほぼゼロだ。なんなら、これ(腕輪)にいちゃもんをつけて、観客や先生方を味方につけて、無理矢理退場させることもあり得る話だ。

 

藤堂「それに、アンタ達にとっても、メリットでしかないと思うんだけどねぇ……。」

 

 坂本達に向き直って、学園長はニヤリと笑みを浮かべた。……やはり言うことになるのか。気づかないなら、気づかないで、当日に驚く様子を近衛から聞きたかったのだが。

 

雄二「メリット?どういうことだ?」

 

藤堂「アンタ、察しが悪くないかい?双眼も参加す()ると言ってるんだよ。参加しない奴の腕輪を何の意味もなく制限をかけるわけ無いだろう?」

 

明久「ええ!?零次も出るの?」

 

零次「当然だ。2年はもちろん、3年はそれ以上に俺のことを軽視していることが、前に行なったαクラスの退部試験で浮き彫りとなったんだ。いつまでも情報をアップデートしない連中に灸を据えることが、俺が大会に参加する目的だ。正直、如月ハイランド?のプレオープンペアチケット?なんか、全く興味ないな。」

 

 まあ、この状況を狙っていたのか、と言われると反論の余地がないんだが……。俺が学年首席になって一ヶ月経った今でも、俺を問題児扱いしている先輩が多いことは、想定外だった。

 それとも、認知されるにはまだ時間が掛かるとでも言うのだろうか?

 

雄二「なるほどな。だが、肝心のペアはどうした?詳しいルールは覚えてないが、確か名前だけ貸して、実際は一人だけで出る……みたいな真似は出来ないんじゃなかったか?」

 

 坂本の言う通り、そういう『名前貸し』にあたる行為は今回の召喚大会のルールに抵触する違反行為だ。

 大会のルールでは『二人一組のペアでの参加』が絶対条件。一回戦だろうが決勝戦だろうが、規定の時間までに会場に二人揃わなかった時点で、敗退が決定する。

 

 実際2年前、まだこのルールを制定していなかった頃に行われた召喚大会で、ペアを組めなかった先輩方が、参加する気のない、特にEクラスやFクラスの生徒を恐喝して無理矢理ペアを組み、実際は一人だけで参加する、という暴挙が横行したらしい。

 結果、本来お互いのチームワークが見せ場となるはずだった大会のほとんどの試合が、一対一で行なわれるという、異常事態が発生。最初の開催で、早くもコンセプトが崩壊する羽目になった。

 それでも学園外に召喚システムをアピールする数少ない企画だ。そのため先生方は、ルールの再調整に新たな企画の考案等々……連日連夜の会議が余儀なくされたのだった。当時の先生方、お疲れ様でした。

 他にも色々な事情が絡んで、結局去年は召喚大会が行なわれることが無かったのだが……。まあ、どうでもいいな。

 

零次「安心しろ……と、お前達に言うのはちょっと違うが、αクラスが存在する以上、一応アテはあるんだ。残念だったな。俺が不戦敗になることに賭けてたかもしれんが、そんな未来は元から無かったってことだ。」

 

藤堂「念を押して言っておくけど、双眼の相方を妨害して失格にしようなんて、考えるんじゃないよ。もしやったら、アンタ達も失格。つまりは、教室の改修工事の話も白紙になるからね。」

 

 この妨害行為への処分もまた、2年前に起きた出来事に関係している。さっきも言ったが、召喚大会に出たくとも、ペアが見つけられなかった奴らは、下位クラスの奴らと無理矢理組んで出場していた。それはつまり逆を言えば、ペアを組めた奴は大抵上位クラス同士組んで出ていたということでもある。

 当然、前者のペアと後者のペアとが対決となれば、有利なのは明らかに正規の手順で組んだ後者だ。そのため、下位クラスを無理矢理巻き込んだペアの連中の中には、両者の同意のもとで組んだペアを妨害し、試合に出せなくして不戦勝を狙うという、場外戦法を仕掛けてくる者もいたそうだ。

 無理矢理組んだ相手を更に脅迫し、相手のペアを妨害させる者。相手が食べる料理に下剤を仕込むなどの細工を施す者。一番酷いものとしては、友人関係にあるゴロツキ集団に相手を襲わせ、物理的に出場出来なくする奴までいたそうな……。

 

 そういう思考に至る奴らは、全体で見れば、出場者の10%にも満たないうえに、確たる証拠も清涼祭当日に出てこなかった。とはいえ、試験召喚システムを導入して、たった二年で問題が起きまくってることを考えると、文月学園の試験校の看板が偽りにしか見えてこない。

 俺が処暑中にいた頃でも、ここまで酷くはなかったぞ?

 

雄二「そ、そうだよな…………。ハァ……、となると、双眼が俺達と当たる前に、どっかで負けることを祈ることになりそうだな……。」

 

 随分と弱気だが、理に適っているのも事実だ。なぜなら、この大会にαクラス全員を参加させるつもりだからだ。

 折角、勉強の成果を学校全体に知らしめることが出来るのだ。俺の評価を変えるためにも、出来ることはしておきたい。

 もっとも、αクラスの面子であっても、俺を倒せるとは思ってないがな。アイツらが簡単に負けるとも思ってないが。

 

零次「ククク……、そうかそうか。坂本、そんな調子で本当に優勝出来るのか?今年は前回の開催より、三年の先輩方が多く出場するぞ?」

 

 特に、明久のラブレター騒動の最中に行なわれていたという、三年の試召戦争。その勝者であるEクラスや、振り分け試験を途中退室してしまった人達が集まったFクラスからのエントリーが多い。特にEクラスは、担任教師の特別授業の影響もあって……かは知らないが、2-Fと同等の戦力を持っていると見積もっていい。そう、近衛は言っていた。

 

雄二「…………ハッ、何を言うかと思えば、そんなことか?正直お前に勝てる気がしないのは事実だが、優勝を諦めてる訳じゃないぞ。」

 

零次「…………ほう?」

 

明久「え!?そうなの!?」

 

雄二「当たり前だろ、明久。これは優勝『出来る』か『出来ない』かの話じゃねぇんだ。俺達が優勝『する』、いや『しなきゃならない』んだ。そうでなきゃ、俺達の根本の問題は解決しないだろ。」

 

 …………はて、坂本から聞いたFクラスの問題と言ったら、『教室そのものの環境の悪さ』なのだが?それの改善要求のために、コイツらはわざわざ学園長室まで来たと思ったのだが……。

 さてはそれと同等、もしくはそれ以上に深刻な問題を抱えているな?例えば……学習環境の悪化に耐えかねて、Fクラスの誰かが転校する可能性がある……とか?

 

零次「なるほどな。まあ、お前達の奇策がどこまで相手に通用するか、見せてもらおうか。」

 

雄二「ああ、目にもの見せてやる!」

 

 もう坂本の目には、さっきまであった陰りは無くなっていた。

 

藤堂「…決まりだね。それじゃ、ボウズども。任せたよ。それと双眼は…、余計な真似をするんじゃないよ。」

 

「「おうよ!」」

 

零次「……まあ、わかりましたよ。」

 

 『明久・坂本のペアと決勝で当たった際に、俺のペアが優勝する』、これ以外は履行できる。

 学園長もなにかと誇張していたが、召喚大会は試験召喚システムのPRも兼ねている。流石にそんな大会の決勝戦で八百長は出来やしないし、するつもりもない。それ以前にコイツら相手に手心を加えるつもりもないが。

 

 こうして、文月学園最低コンビがここに誕生した。




~後書きRADIO~
零次「さ、後書きRADIOの時間だ。」

秋希「今回で20回目ね。それから、ゲストには坂本君を呼ばせてもらったわ。」

雄二「ま、よろしく頼むぜ、二人とも。」

零次「少々不安はあるが、まあ全力でついてきてくれ。」

秋希「今回は清涼祭期間中、零次に召喚獣の『腕輪使用禁止令』が出たわね。」

零次「まあ、現状発動したら『一方的に勝つに決まってる』訳だからな。多分、今後もまたどこかのタイミングで弱体化(ナーフ)されるだろう。」

雄二「結局のところ、お前の腕輪に関しては能力がちょっと割れただけで、ほとんど情報がないからな……。姫路やムッツリーニ以上に複雑な能力なのは間違いないが……。」

零次「ま、謎解きにしろ、答え合わせにしろ、次回以降に期待してくれ。」

秋希「それから、2年前の文月学園についても、ちょっと掘り下げられたわね。確か大問1で、『下位クラスに試召戦争を挑まれた時に、上位クラスが使者に八つ当たりをしていた』こと、『一番最初に行なったのは、当時の2-Aである』こと。この辺りをどこかで、ちょっとだけ触れたのかな?」

零次「一応言っておくが、『2年前』の設定は本作オリジナルだ。原作1巻で明久が宣戦布告の度にボコボコにされていた描写と、原作7巻での2-Fと3-Aの言い争い、その他細々とした描写から想像した結果、こうなってしまった。」

秋希「まあ、この設定を作ったからこそ、Aクラス問題児モブ4名(豊嶋、横沢、梶、西京)が生まれた訳だけど。」

雄二「…………なあ。上位クラスの報復の件も、今回の召喚大会の話も、全くの初耳なんだが。」

零次「そりゃあ、本編ではお前達に、一度も話したことが無いからな。」

雄二「いや、俺が言いたいことは、そういうことじゃねえ!今回で召喚大会は二度目なんだろ?なら、三年生辺りは当時のこと知っているはずだ。召喚大会の掲示がされてた所を見に行った時、それなりに人がいて、先輩方もいたはずだが、そういう噂一つ聞かなかった。これはどういうことだ?」

零次「それについても、納得いくかは怪しいが…………、理由はある。当時のスポンサーの大半は問題を起こした先輩方の親が代表だったんだ。」

雄二「……つまり?」

零次「問題が起きたら、親達が圧力をかけて事件を揉み消し続けてきた、ってことだ。そういう事に協力を惜しまないのが、当時のスポンサー連中だ。」

雄二「……この学園……、大分終わってんな……。」

秋希「まあ、今は代表が変わってたり、スポンサーを降りる企業がいたり、逆に新しくスポンサーになった企業がいたり……。2年前よりは大分マシになってるはずよ。」

零次「…………ま、一社だけこの学園の生徒と繋がりがある企業があるわけだがな……。(ボソッ)」

雄二「……んあ?何か言ったか?」

零次「いや……。別に何でもないが。」

雄二「……………………。」

秋希「さ、さて、そろそろ次回予告といこうか!」

零次「次回も清涼祭の前日談、学園長室を出た後の雑談になる予定だ。ぶっちゃけ、あってもなくても物語の筋道に影響は無いが……な。」

秋希「それでは……。」

「「「次回もよろしくお願いします!」」」


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小問3-A 交渉を終えて

雄二「………………なあ双眼、聞きたいことがあるんだが。」

 

 それぞれの要件を終え、学園長室をあとにした俺達だったが、不意に坂本に呼び止められた。

 

零次「何だ?言っておくが、俺のスリーサイズは答えんぞ。測ったことがないからな。」

 

雄二「いらねぇよ!んな情報!男のスリーサイズとか、誰が欲しがるんだよ!」

 

零次「…………近衛のバストはB寄りのAカップだそうだ。……いや待て、A寄りBだったかな……?」

 

雄二「女子のだったら、欲しいわけじゃないからな!?というか、わざと言ってるだろ、お前!!」

 

 ハハハ、何を当たり前の事を。

 

零次「大方、俺の腕輪についてだろ?それに関しては一度近衛と話して解決したんじゃないのか?」

 

雄二「そうだな。お前の腕輪の『能力』、それだけは分かった。」

 

零次「ほう?お前は俺の腕輪をどう思ったんだ?」

 

 坂本が言った俺の腕輪能力。それは、『相手の召喚獣にダメージを与え、かつ腕輪の能力を使えなくする』というものだ。

 

 まあ…………、惜しいな。霧島が唱えた、『特定の条件に満たない召喚獣を戦死させる』という能力よりかは言ってることは近いが、それでも正答じゃない。

 

雄二「そうなのか……。」

 

零次「落ち込むな。お前の考察の方が、いい線行っていたぞ?学校科目じゃないが、霧島に勝てたぞ、喜べよ。」

 

雄二「喜べるか。それに、お前の腕輪はいろいろ謎が多すぎるんだよ……。」

 

 謎、ねえ……。一体、何を言うのか。

 

明久「謎、って……。どこにあるのさ?零次の腕輪がすごく強い能力を持ってるのは分かったけど……。」

 

雄二「そうだ。腕輪の能力が強力なのは、姫路やムッツリーニのを見ればわかる。だが、お前のはその二人を明らかに超えた能力を持っている。それが謎なんだ。」

 

明久「…………どういうこと?」

 

雄二「あのババァもサラッと言っていたが、コイツの腕輪には『システムからもキツイ制限が掛けられている』そうだ。おそらく、その代償にあんなえげつない能力になったんだと思うが……。なんでお前の腕輪だけ、そんな特別仕様になっているんだ?」

 

 コイツ、しれっと学園長を『ババァ』呼ばわりしてるな……。確かに、あの人は数年前に還暦を迎えてたはずだが、一応学園の最高責任者だぞ?明久も、先程の坂本の交渉中『ババァ』呼びしてたが、コイツら学園長を敬う気がないな?そういう俺も心の底から敬える気はしないが。

 

零次「……それを聞いたところで、お前にメリットがあるのか?お前のことだから単純に興味の範囲を出ていないと信じてはいるが……。それはこの腕輪のトップシークレットだ。金を積まれようが、命の危機が訪れようが、口を割る気は一ミリもない。」

 

雄二「そりゃそうだろうな……。少なくとも、お前の実力を知ってる奴が『学年首席専用』を建前に、双眼専用の腕輪を作ったのは間違いないと推理してるが……。」

 

 それほぼほぼ答えが出てないか?さてはアイツ、口を滑らせたな?

 

明久「……ねえ雄二、ちょっと聞きたいんだけどさ。」

 

雄二「んあ?明久まだいたのか。」

 

明久「いたよ!二人が僕そっちのけで話してたから、話しかけることが出来なかっただけだからね!」

 

 別に仲間外れにした覚えは無いんだが。まあ、明久のことを忘れて話してたのは事実だが。

 

明久「それで雄二、どうしてそこまで零次の腕輪に拘るのさ?いくら試召戦争に興味があるにしてもさ……、なんか…………その…………あまりにも固執してるように見えて、不気味……なんだけど……。」

 

雄二「そうか?双眼に勝たなきゃ、俺達の悲願は叶わないんだ。そのために、あらゆる手段を使って、情報を集める。至極当然のことだと思うが?」

 

 確かに、坂本の言葉も一理あるが……。だとしても、俺の腕輪一つに固執してる様子は違和感しかないぞ?

 まあ姫路も土屋も、能力が単純だからな。それらに比べりゃ、俺の腕輪が異質なだけなんだが……。

 

零次「だからと言って、本人に聞くのもどうかと思うがな……。条件を達成している人数がごく僅かなために、勝敗に直結する状況が少ないとはいえ、試召戦争においては腕輪能力も重要な要素の一つだ。素直に教えると思っているのか?」

 

 そう言うと坂本は苦虫を噛み潰したような表情になった。アイツ自身も『本人に聞く』のは、最終手段と考えてたのだろうな。

 

零次「……………………ま、お前みたいに、俺の腕輪についてあれこれ考えてくれるだけでも、こっちからすればありがたいがな。」

 

雄二「そ、そうなの、か…………?」

 

零次「ああ。あまりにも突拍子もない出来事に直面したせいで、呆然と立ち尽くすような阿呆共よりかはよっぽど好感が持てるな。」

 

明久「零次、それさりげなく姫路さんのこと馬鹿にしてるでしょ?」

 

零次「……………………。」

 

 敢えて沈黙。俺の頭に最初に浮かんだのは、Cクラス代表の小山とかいう奴だったんだが、姫路もあの戦闘では終始あたふたしまくってたからな……。否定することも出来ん。

 

零次「というわけで、だ。坂本、一つ交渉といこうか。」

 

雄二「……は?交渉?」

 

零次「そうだ。そこまで貪欲にこちらの腕輪について考えてくれるのなら、少しだけだが情報をくれてやってもいい。」

 

雄二「……本当か?」

 

零次「ああ。だが、さっきも言ったように、本来この情報は敵から与えられるものではない。故に対価はそれなりのものになるがな……。」

 

 『対価』。その言葉に若干坂本は顔を歪ませた。

 

零次「俺が望む対価。それは、お前達が学園長からもらった特権。つまりは、召喚大会の教科選択を俺にもさせろ、ってことだ。」

 

雄二「……は?そんなんでいいのか?」

 

零次「そんなのって…………。お前にとっては大事なものじゃあないのか?お前達が有利になれるよう、自由にプランを立てられるのだからな……。」

 

雄二「それもそうだが…………。お前の言う通り、本来は敵から貰っていい情報じゃない。だから、もっとこっちが不利になる……、例えば『次の戦争で姫路と近衛の参加を禁止する』とか言い出すと思ったんだが……。」

 

零次「『次の戦争』の相手が必ずAクラスだと限らないだろ……。お前達Fクラスを敵視してる奴は大勢いるからな。」

 

 例えば、Cクラスとかな。アイツらは『木下優子(笑)偽装作戦』で、坂本にまんまと嵌められ、俺達Aクラスと無駄な戦争をした挙げ句に敗北しているわけだからな。霧島の口から真実が伝えられた現状、後はきっかけさえあれば、後先考えずにFクラスに突撃していくだろう。

 正直Fクラスは姫路や近衛の戦力に依存している節はあるが、全員が一つの目標に一致団結している。その団結力は、動機が不純ではあるが、学年一だろう。それにBクラスとの戦争では、最後にトドメを差したのは『保健体育のエキスパート』である土屋だ。その他にも、決して軽視できない生徒はいるし、明久だって徐々に成績は伸びつつある。

 

 とにかく、そういう制限をかけたところで、坂本の頭脳なら、俺達が相手でないなら勝つ可能性の方が高い。

 現状Fクラスに宣戦布告の権利はないだろうって?それなら相手を挑発して、向こうから挑まれるように仕向けばいい。それを禁止するルールは存在しないからな。

 このように、坂本が言うような制限も考えてたが、結局自分達の利益にはならない。ならば現在の状況から確約された近い未来に干渉する方がマシと判断したわけだ。

 

雄二「そうか……。まあ、どちらにしろ、トーナメント次第だろうな。誰が出場するかは一応一通りチェックはしたが、苦戦が必至であるのには変わりないからな。」

 

零次「つまり、当日まで権利をあげられるかは未定。期待は薄め。そう捉えていいか?」

 

雄二「まあ…………そうだな。そう思ってくれていい。」

 

 返答は『拒否に近い保留』。まあ、成功報酬が『教室環境の改善』だから、コイツらにとっては失敗は死活問題に繋がるからな……。

 だが、坂本がそこまで執着してるような感じがしないのは、気のせいか?それとも『学園長から教科選択の権利が貰えた』という事実が大事なのか……?

 何か裏がありそうな気がするな……。ま、今考えてもしょうがないな。

 

零次「了解した。そうだ、折角だ。明久と共にαクラスで勉強でもするか?」

 

雄二「いや…………、誘いはありがたいが、やめておく。作戦会議だってあるんだ。そんなの、お前達に聞かれるわけにもいかないからな。」

 

 作戦会議ねぇ……。となると、明久はどうするか……。αクラスで勉強、その後坂本と作戦会議でもいいが……。

 

零次「そうかそうか、了解した。なら明久は清涼祭が終わるまで、αクラスへの出入り禁止にした方がよさそうだな。うっかり作戦を漏らされでもしたら、優勝できなくなるだろうからな……。」

 

明久「零次、いくら僕がバカだからって、話していい事と悪い事のの区別はついてるよ……。」

 

零次「念には念を、だ。俺に話さなくても、例えば久保とかに、うっかり口を滑らせてしまう可能性だってあるだろう。」

 

 それに、普段から島田の地雷をわざとやっていると思えるレベルで踏みまくっている奴が、本当に話していいことの区別がついているのか、非常に疑わしいからな……。

 

零次「ま、お互いに頑張ろうか。それぞれの目標のために、な。」

 

 さて、行動開始といこうか。



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小問3-F 少女達は刃を研ぐ

コツ……コツ……コツ……

 

 部室棟の廊下には私の歩く足音が響く。

 所々明かりのついた部屋からは、中にいる人達の話し声が聞こえるけど、微かに漏れ出ている程度で、話している内容までは聞こえない。

 

 私がここに来たのは、この部室棟に活動拠点を持つ、とある部に用事があるからだ。別にその部に所属しているわけではないけども、私の情報収集癖にその部の現部長と目をつけてきたことが付き合いの始まり……だったかしら、ね?

 それからは私だけが知り得る情報を彼女やその後輩達に渡している。

 

コツ……コツ……

 

コンコン……

 

 …………と、そんなことを思っているうちに、目的地に着いたわね。部室のドアを叩き、反応を待つ。

 

……ガチャ

 

?「あややー。お待ちしてましたよー、秋希さん。」

 

秋希「αクラスの入部試験以来ですね…………、青葉先輩。」

 

 広報部部長、青葉文(あおばあや)先輩。この人が私が目的としていた人物だ。

 

 

・・・

 

 

 場所は変わって、部室棟の屋上へ。副部長の木地標示(きじしるし)先輩が加わって、情報交換が行なわれた。

 

文「なるほど……。ようやく、2年Fクラスの出し物も決定したのですね。」

 

標示「全く……今まで何をやってたのですか?清涼祭一週間前になるまで出し物が決まらなかったのは、私が学園に在籍したここ3年では、少なくともありませんでしたよ。」

 

 うーん、やっぱりその辺の嫌味は言われるか。

 

秋希「いやー、今日という日まで綿密な会議をして、ようやく出し物が決まったんで、許してくださいよ。」

 

標示「嘘を言わないでください。朝のHRの時間に、Fクラスの生徒がグラウンドを無断使用して野球をしていたでしょう?」

 

文「そういえば、西村先生が何やら頭を抱えてましたねぇ。」

 

 アハハ……。やっぱりすぐバレるか、こんな嘘。

 

標示「全く……。あなた方Fクラスが問題を起こすせいで、こっちに皺寄せが来てることを、あなたの口から言ってくれませんかね?現状ではそれほど目立つ問題は出てきていないのですが……。バカな彼らのことです。いずれ過激化して、学園外でも問題を起こすようになってからでは遅いのですよ。」

 

文「まあ、ね?無実の人間が将来的に『文月学園を卒業しているから』なんて理由で距離を置かれたら、堪ったものじゃないしねぇ。」

 

 まるで親の敵とばかりに睨み付けてくる木地先輩と、こめかみに指を当てつつ、やれやれと言うような表情をする青葉先輩。二人の表情は全く違えど、考えていることは同じみたい。

 

文「まあ、小言はこの辺にしておきましょう。それよりも、本来の目的達成のために、ミーティングを行ないましょう。」

 

 さて、ここで私達が集まった目的でも話そうかしら。

 

 青葉先輩と木地先輩は元々は今は亡き新聞部に所属していた。しかし、そこで発行していた『文月新聞』は、新聞というよりはゴシップ満載の週刊誌のようなものだった。

 

 青葉先輩はそんな『文月新聞』の在り方に不満を感じ、当時部長の八木先輩に抗議するも、部の体制が変わることはなかった。ま、読者の意見も称賛ばかりを耳に入れて、批判はシャットアウトしている人だ。あの時は青葉先輩一人だったけど、仮に集団を率いていようが、部のほぼ全員の意見書を叩きつけようが、結果は変わらなかったでしょうね。

 

 木地先輩も同様だ。青葉先輩ほどにスクープと呼べるネタに貪欲な姿勢を見せてはいないけれど、彼も読者に向けて正しい情報を発信するという考えで動いていた。

 けれど、それは八木先輩や当時顧問だった八木沢先生からしてみれば、気に食わない考えだったようで、木地先輩が所属していたグループは理不尽なパワハラを受けたり、その他陰湿な嫌がらせを受けたりと、とにかく冷遇されていた。その結果、木地先輩と同じグループにいたメンバーは一人また一人と彼のもとを離れ、それだけでなく、新聞部でない友達すらも、木地先輩に関わらなくなっていったのだ。

 

 そんな中、二人のもとに双眼零次への密着取材の依頼が送り込まれたのだ。おそらく、零次の学外での醜態を晒し上げて、悪者に仕立てよう、というのが八木元部長の考えだろう。

 もちろん、零次にそんなものはない。学内での印象は悪いけど、それだってほとんどは冤罪だ。となれば、青葉先輩達は当然事実に即した記事を書く。だがそれだけでは、八木元部長に突き返されて、書きたくもない内容に記事を無理矢理変更させられるのは、これまでの部の体制から目に見えていた。そこで青葉先輩達は、原稿を新聞発行期限のギリギリに提出することで、無理矢理修正できないようにしたのだ。結果として、八木元部長は怒りで肩を震わせながらも原稿を受け取り、青葉先輩達の『勝ち』で、その場は幕を下ろした。

 しかし、実際に『文月新聞』に掲載されたのは、彼女達の予測に反して、事実無根の誹謗中傷や、やってもいない犯罪の一部始終が書き連ねられた記事だった。しかも、その記事を書いたのは青葉先輩達だとして発行されたのだ。さらにこの記事を読んだ教師の一部が零次を強制連行。危うく零次は退学処分になりかけたのだった。

 

 この事件をきっかけに、ついに先輩達は新聞部との決別を決意した。

 今二人の中にあるのは、文月学園に対する『怒り』。八木元部長のことは当然、彼のような人物を頭に据える決定を下し、八木沢先生のような人をのさばらせ、事実無根の記事を鵜呑みにし、無実に生徒一人を退学させかけた教師陣の方々を許せるほど、彼女達の心はもう広く無くなっていた。

 そこで私は、今の二人の原動力に目をつけ、こう提案した。『学園の弱味になるような事件や物証を探して、白日のもとに晒してやろう。』と。それからは余裕のある時間を見つけては、こうして集まり学園に一矢を報いるための準備をしているのだ。

 

文「あやややや……。つまりは、私達がその『召喚大会』とやらで優勝すれば、学園を揺さぶれる材料とやらを手に入れられる。という解釈で良いんですよね?」

 

秋希「そういうことです。いやあ、それにしても私達、大分エグいことやってますよねぇ。こうやって、日々学園の弱味になるようなネタを探して……。新聞部とやっていることが、変わりありません?」

 

標示「他人の不幸を副菜に添えてご飯を食べているような奴らと一緒にしないでいただけますか?我々は己の正義のために、そして未来の文月学園のために行動しているのですから。」

 

 淡々と返された。『自分達の正義のため』が先に来て、『文月学園のため』がついでに加えてきたような言い回しをしている時点で、新聞部の『他人のために動いているようで、結局自分のことしか考えていない』という風潮を受けついでいると思うのだけれど……。

 

文「あやや?何か不満でもありましたか?」

 

秋希「いいえ、何も?」

 

文「そうでしたか。いやぁ~、何やら木地君が新聞部の悪い影響を受けているんじゃ……なんて思っているのかと。……ここだけの話、私もたまに木地君が怖く感じるんですよ。クソがつくほど真面目な人ですからねぇ……。」

 

 そういう先輩も怖いんですが。なんでサラッと、こっちの考えを見透かしてくるのか……。

 

標示「……とにかく、今後の予定は決まりですね。部長、今日からまた、みっちりと指導しますから、そのつもりで。」

 

文「あややぁ~……。やっぱりそうなりますか。」

 

標示「当然です。以前のαクラス入部試験の対策のためにあなたの学力を上げてきましたが、それでもAクラス下位レベル。優勝は十分狙えますが、確実性はありません。……まあ、彼女が参加している以上、うまくいっても準優勝で終わるのは目に見えてますが……。」

 

 ハハハ……、やっぱりちゃんと調べているか。私も召喚大会に参加すること、そしておそらくは相棒(パートナー)が誰なのかも。流石にその相手に私から大会に誘ったことまでは、分からないでしょうけど。

 

標示「…………おや、もうこんな時間みたいですよ。」

 

文「あややや……、これは早めに部室へと戻りませんと。」

 

 木地先輩が見せた腕時計の時間は、二人が部室に戻らないことを部員が不自然に思うくらいの時間が経っていることを示していた。こうして、今回の会議も滞りなく終わることになった。

 

文「…………いえ、木地君、あなただけ先に戻っていてください!何やら、どこかでスクープ……と言うよりかは、事件が起きたようです。早く取材に行って、情報を整理しなければ!」

 

標示「……!そうはいきません。取材は後輩に任せて、あなたは部長としての役目を果たしてください。私から逃げられると思わないでください。」

 

 ……騒々しくこの場を去っていきましたね、先輩方は。

 さて、こちらも行動開始といきましょうか……。

 

 

 

 

 

 

 あ、そうだ……。せっかくだから、もう一つ火種を投下してみますか。

 

プルルルル……。

 

秋希「……あ、もしもし姫路さん?実はちょ~っと、話したいことがあって…………。」



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小問4 祭り前の仕込み

 現在時刻は8:57。日時は清涼祭当日だ。俺は今、とある人物との待ち合わせのために生徒指導室前にいる。

 この日に至るまでに俺達Aクラスの催し物であるメイド喫茶にも多少の変化……というか改良がなされた。

 

 例えば某Fクラス生徒(土屋康太)の協力と高橋先生監督のもと、喫茶店内に隠しカメラを大量に設置したり。

 流石に外部から来る人間の中にはいないと信じたいが、文月学園の生徒連中に関しては既に信用も信頼もない。こちらの売上が好調となれば、嫌がらせを息を吐くかの如くしてくる先輩方がいると確信している。そんな輩を黙らせるためにも、防犯も兼ねてそこには徹底的に労力を割いた。

 実際にここまでガッチガチの防犯システムを組んだ店があったとして、行きたいと思うのは極々一部のマニアックな人達だけだと思うが……。こういうお祭り騒ぎに酔って、問題を起こす奴の被害に巻き込まれるより百万倍マシだ。

 

 それでも一部の奴らがゴネたのだが……、女子には『喫茶店内でのトラブルを自分達で解決すること』を、男子には『今後一切、土屋との取引を禁止にすること』を盾に強行した。

 

 ……と、どうやら目的の人物が来たみたいだ。

 

零次「……お前にしては、随分と早い到着だな。俺の予想では、待ち合わせ予定時刻の9時から5~10分遅れて来るとみていたが……。」

 

雄二「俺にしては、ってお前な……。最近、俺は遅刻してないだろ……。いや、去年から遅刻は一切してないんだが。」

 

 そういえばそうだったか。近衛からは『坂本は朝が苦手だ』ということと、『始業ギリギリに来ることもあった』ということは聞いていたが……。それらの情報がごちゃごちゃになってたんだろうな。

 

零次「それはすまなかったな。それよりも、この前の件は考えてくれたか?」

 

雄二「ああ。ついさっきトーナメント表を確認してきたんだが……。そうだな……、2回戦と3回戦の教科の選択権なら渡せそうだ。」

 

 そう言って渡されたトーナメント表を見てみると……。なるほど、俺達と坂本達が戦うことになるのは決勝のようだ。そして、坂本の名前のあるブロックを注視してみると……。なるほど、確かに3回戦はともかくとして、2回戦の相手を予想すると、科目の選択権は要らなそうだな。

 

零次「そうか。なら、お言葉に甘えて選択させてもらおうか。……と、その前にまず、他の場所の科目を先に決めてくれないか?万が一選択科目が被って、計画が狂ったら、元も子もないしな……。」

 

 こうして、坂本のプランと擦り合わせを行いながら、各々各回戦ごとに科目を埋めていった。俺の方は案外適当に選んでたんだが、同じ教科を別の対戦で使いたい、と言うような衝突も特に起こらず、すんなりと全ての対戦科目がピタリと決定した。

 

零次「……ところで坂本、気づいてるか?このトーナメント表を見て……。」

 

雄二「ん?ああ…………、秀吉も参加するんだな。」

 

 秀吉?もう一度トーナメント表を隅々まで確認してみるが………………。あったわ。『2-F 木下秀吉』って書いてある。ペアの相手は……『3-A 宝風月』?聞いたことない名前だな。まあ、秀吉とペアを組む先輩ってことは、十中八九演劇部関係の人なんだろうが……。

 

零次「…………って、俺が言いたいのはそこじゃない。もっと全体的な話、一年生が数名参加していることだ。」

 

雄二「確かに、一年が何人かいるな……。ってか、一年って参加出来んのか?召喚獣を持ってない筈だろ?」

 

零次「こうやって、参加できているということは……つまりそういうことだろ?結構勘違いされているようだが、召喚獣のデータ自体は一年のも既に存在している。」

 

 ただし、俺達第二学年以上の召喚獣と違い、武器も装備されてなければ、服装も学園の制服で防御性能なんて皆無に等しいがな。そのうえ、まだ中間試験の時期も来ていないため、彼らの最高点数は100点、つまり良くてもDクラス程度しかない訳だが。

 

雄二「そうか……、それなら脅威はさほど無いか。」

 

零次「とはいえ、油断は出来ないがな。こうして大会に出ている以上、彼らだって優勝を狙って来ているはずだ。……まあ、トーナメント表を見た限りだと、お前達が一年と当たることはなさそうだが、もし当たった時は最大限に気を引き締めておけよ。」

 

 そういえば、このトーナメント表に記載されている一年の名前だが……。知っている奴全員が広報部なのは偶然か?

 

零次「……と、少し話し込んでしまったな。今度はこっちの約束を守る番だな。」

 

 そう言って、制服のズボンのポケットから畳まれた6枚ほどの紙切れを取り出す。

 

雄二「……ほう。これにお前の腕輪の情報が書かれてるわけか?」

 

零次「そうだ。この中から2枚取れ。二戦分権利を譲渡した訳だからな。」

 

 坂本はそれなりに時間をかけて、時折紙に少し触れたり、考え込んだりをした後、意を決して二枚の紙切れをひったくっていった。

 

零次「…………改めて、交渉成立だな。今、ここで確認していくか?」

 

雄二「いや、お前はこういう約束を破るような奴でもないだろ。教室に戻ったあとで、ゆっくり読ませてもらうさ。」

 

零次「……そうか。それじゃ、俺はもう帰らせてもらう。後のことは大体お前に任せていいよな?」

 

雄二「ああ。たとえ、お前が『アイツ』と組んでたって、勝って見せるさ」

 

 ……さて、坂本の無謀と思える自信も聞けたし、そろそろ教室へと戻るか。

 

 

 

 

ピンポンパンポーン

 

『ただいま9時半をまわりました。これより第××回文月学園祭、清涼祭を開催します。』

 

 学園中のスピーカーから、祭りの始まりを告げるアナウンスが響き渡ったのはそれから数分後のことだった。



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小問5-A 東は紅く、西白く

 最近姫路さんが、おかしくなってると思うのは気のせいだろうか……。

 

 僕の記憶では、姫路さんは誰にでも優しかった。……それこそ僕みたいな、馬鹿で甲斐性のない人間にも優しくしてくれていた。それだけじゃなくて、姫路さんは努力家でもあった。詳しいことは思い出せないけど……、姫路さんが何かにひたむきに頑張る姿は、僕の目には『憧れ』に映ったんだ。

 

 でも最近の姫路さんは……、何故か分からないけど、僕への当たりが酷い気がする。この前のラブレター騒動に、ついさっきだって、召喚大会の優勝賞品の使い先について、美波と一緒になってしつこく迫られた。それこそ、雄二がフォローしてくれなかったら、ずっと付きまとってくるんじゃないか、って思うくらいに。……まあ、雄二のフォローの仕方も最低だったけどね。

 

 ……もしも。

 

 …………もしも、その原因がFクラスにいることだとしたら。僕がやっていることは、本当に正しいことなんだろうか?美波は、姫路さんが転校することをどうしても阻止したいようだけど……。それだって、数少ないFクラスの女子がいなくなって、友達が減ることを恐れているエゴから来るものじゃないんだろうか……?

 

 …………ダメだ。人のことをそんな風に悪く言うのは。たとえ、それが本心だとしても、姫路さんがいなくなって欲しくないのは、美波も僕も同じだ。

 やっぱり、零次や近衛さんに相談するべきなのかな……。とりあえず今は、この召喚大会を優勝することだけを考えよう。

 

 

 

・・・

 

 

 

 …………退屈だ。……いや、店番がつまらない、という訳ではない。そもそも清涼祭が始まって、まだ30分程度しか経っていない。その間にAクラスのメイド喫茶(出し物)に来た奴の特徴と言ったら、文月学園の生徒が約6割、他校の生徒と思われる人が約3割、残りその他、といった具合。その中でも俺が最も警戒している文月生徒も、9割は後輩と思われる顔ぶれで、わざわざAクラス(俺達)にちょっかい……もとい妨害を仕掛けてくるような奴はいなかった。……ま、このまま何事もなく終わってくれた方が楽なんだがな……。

 

「……あの。もう少し、やる気を見せてくれませんか?店番がそんなだらしない姿していたら、誰も入りたがらないと思うのですけど。」

 

 そう言って冷ややかな目を向けてきたのは、かつて過激派の一員だった西京葉玖だ。彼女とはちょうど数週間前のFクラスとの試召戦争を機に和解し、今は過激派から霧島派閥へ移りかけている途中らしい。

 

零次「それはそれでいいんじゃないか?客が入らなければ、少なくとも問題は起きないんだからな。」

 

「よくないでしょう。皆この日のために、入念に準備を進めて来たんです。ならばAクラスらしく、他のクラスに負けない利益を叩き出したいはず。その気持ちはあなたも同じでしょう?」

 

零次「残念だが、俺にそんな感性を期待しても無駄だ。俺が危惧しているのは店の利益よりも、面倒なトラブルが起きることだからな。」

 

 何か問題が起きれば、全責任が俺にのしかかる訳だからな。これがこちら側の不備だと言うなら、まだ納得できる。が、クレーマーが意図的に騒ぎ立てたものまで、こちらが悪い風に言われるのは、納得いかない。

 

零次「ところで話は変わるが、西京、お前は召喚大会にエントリーしていたみたいだが……。結果はどうだった?」

 

「……惨敗です。私達の力不足もありますけど、先輩の逆鱗に触れたことが、一番の敗因だと思います。」

 

 ……そういえば、西京達の対戦相手は誰だったんだ?坂本からもらったトーナメント表で西京の名前を探すと……。見つけた。

 

 

2-A 西京葉玖

2-A 横沢芽衣

 

VS

 

3-A 東堂茜(とうどうあかね)

2-E 戸祭太子(とまつりたいこ)

 

 

 ……なるほど。この人が相手だったのか。となると、敗けた原因も容易に想像できる。

 

 東堂茜。トーナメント表にある通り、3-A所属の生徒だ。去年の時点から清涼祭の運営委員長を務めており、去年俺がクラスを追い出された時も、彼女から運営委員会の監視部隊員に任命されたのだ。この大義名分のもと、俺は去年の清涼祭に参加することが出来たのだ。念のため、変装はしたが。

 そんな彼女の身長は大体185cmほど。女子にしては大分ガッシリとした体型の持ち主であり、体育でも先生からの評判は良いのだが、部活には所属していないし、スカウトもすべて断っているらしい。

 その理由はこれまでスカウトに来た人間が、『自分と好みの異性のタイプが合わないから』というもの。流石に小中学生や教師相手には自重しているそうだが、初対面の人には自己紹介の後に、ほぼ必ずと言っていいほど好みの異性のタイプを聞いているという。東堂先輩曰く、『好きな異性のタイプから、普段その人物がどのようなことを考えて生きているか、人には決して見せることのできない本性を割り出すことが出来る』とのこと。

 

 ちなみに俺はこの質問に対して、近衛の本性を包み隠さず暴露したわけだが、内容もさることながら、学園での彼女の評判と乖離し過ぎたためか、若干引かれてしまった。

 

零次「逆鱗に触れた、ねぇ……。東堂先輩とはおそらく初対面だろ?質問になんて答えたよ?」

 

茜「そこの生徒ぉ……確か西京、で合ってるよなぁ?コイツはぁ『勉強第一だったので微塵も考えたことなかった。』ってぇ、答えたぜぇ?」

 

「と、東堂先輩……。」

 

 ……噂をすれば何とやら、って奴だな。相も変わらず荒っぽく、かつやや間延びした口調だが、どこか俺には耳障りがよく感じるんだよな……。

 

茜「けどよぉ、コイツの言い分はぁ、まだ良いんだよ……。問題はコイツの相方の方だ!!ソイツはなぁ、『少なくとも年収は1000万以上で、私の言うことを何でも聞いてくれる人』とほざきやがったんだ!!相手のことを金づるか奴隷としか見ていねぇ!!こんなの、アタシじゃなくたってなぁ、キレるだろうがよぉ!!」

 

 東堂先輩、大分頭に来ているようだ。多分これまで質問してきた人でも、ここまで自己中心的な答えを述べた人はいなかったのだろう。隣で複雑な表情を浮かべている西京を見ていると、同情しか湧かないな。

 

茜「……ったく、その時のぉ、ソイツの顔を思い出しただけでも、腹が立ってきた。戸祭が業務の一部を引き継いでくれたけどなぁ、もうちょっとぉ、頭冷やさねぇといけないかもなぁ……。」

 

 そう言って、東堂先輩はさっさとこの場を離れていった。上の階へ向かったのを見ると、自分の教室(3-A)へ戻ったのだろうか。

 

 さてと、横沢がいないのが気がかりだが、西京が戻ってきたとなると、そろそろ俺の番が回ってくるだろう。ちょうど宣伝から帰って来た久保と栗本に警備を任せ、俺は召喚大会の会場へと向かった。

 

 

 

・・・

 

 

 

 ……さて、召喚大会に参加するために、会場である校庭の特設ステージ、その選手控室に来たわけだが……。

 

零次「……来ないな。」

 

 俺の相方が来ていない。まだ時間まで余裕があるとはいえ、少々不安になる。

 俺達のタッグの評判は、優勝候補の一角として他の参加者から注目を浴びている。だが、その要因は相も変わらず俺の相方だけに向けられたもの。俺個人の評判も『相方一人に任せきりにして商品をかっさらう卑怯者』、『Fクラスに落ちた優等生の威を借りている二年の恥さらし』、『寧ろ、自分が組んでやった方が苦労せずに優勝できるし、相方も幸せだろう』と、相変わらず散々なものだ。

 しかも、それを撒き散らしてるのは3年の上位クラスの先輩方ときたもんだ。学園の一番の顔とも言える人達がコレなのに、よく毎年毎年300~400に近い人数が受験しに来るもんだと思ってしまうわ。

 

?「いや~、ゴメンゴメン、零次。ちょっとFクラス(うち)の出し物の方でトラブルがあってさ……。」

 

 俺が会場に来てから3分ほど経過して、ようやく相棒がやってきた。……ま、俺がペアを組める相手なんて、二人に一人しかいない訳だが。

 

零次「トラブルだと?Fクラスの奴らが、とんでもないことやらかしたのか?それとも、Fクラスも同じ飲食系統の出し物だから……、質の悪いクレーマーでも来たのか?」

 

秋希「まあ、後者ね。アイツのお陰で、なんとか最悪の事態は免れそうだし、私も大分スカッとしたけど……さ。」

 

 アイツ?…………ああ、もしかして弟か?なら、近衛が若干不機嫌なのも説明がつく。

 

秋希「ところで…………零次でしょ。アイツを呼んだの。」

 

零次「どうだろうな。『Aクラスの出し物を見に来てくれ』としか、俺は言ってないからな。お前の所に来たのは、奴の勝手だ。」

 

秋希「いや、学園に呼んだら全クラスの飲食系の出し物、全部回るに決まってるでしょ。……まあ、私個人の事情でFクラスの総意を曲げるわけにもいかない訳だけどさ……。」

 

「あ、あのお取り込み中の所すみません。そろそろ時間なので、入場していただけませんか?」

 

 と、なんだかんだ口論をしていたら、運営委員会の生徒らしき人から、そう言われた。

 それじゃ、行くとするか。さて、お相手は……。

 

?「はあ…………。まさか、あの二人と真逆のブロックに組まれるとは……。折角、あのクソ女共をボコボコに痛めつけれると思ったのに……。」

 

?「私も同じ気持ちですわ。あの豚野郎をこの手で始末するチャンスでしたのに……!」

 

 近衛と同じクラスの根民と………誰だ?トーナメント表に目を落とす……までもなく、電光掲示板にデカデカと表示されていた。

 

 

2-F 近衛秋希

2-A 双眼零次

 

VS

 

2-F 根民円

2-D 清水美春

 

 

 ああ…………。アイツか。近衛がくれた情報だと、確か同性愛者で、Fクラスの島田に惚れているとか。それでいつも奴の隣にいる明久を目の敵にしているんだったか。

 

円「……ねえ。吉井君のこと、豚呼ばわりするのはやめてって、言ったと思うのだけど。」

 

美春「そのセリフ、そっくりそのまま返して差し上げますわ。お姉さまを愚弄する者は、たとえ神であろうと許しませんわ。」

 

 うーむ……。俺が言うのもどうかと思うが、この二人どうしてペアを組んだんだ?クラスが違う以上、接点と言ったら去年同じクラスだったとか、部活が同じとか、試召戦争くらいだろうが、どれの可能性を考えても、俺の持ちうる情報では、この二人が手を組む状況が想像できないんだが……。

 

秋希「あー、この二人が相手ねぇ。………………零次。」

 

零次「……なんだ?」

 

秋希「…………ここは任せる!!やってしまいなさい!」

 

零次「待てやコラ。」

 

 いきなり何言ってんだ、コイツは。たまに近衛の思考が想像の斜め上を飛んでいくことはあったが、今回はあまりにもその意図が読めなさすぎる。……まあ、この二人が相手で教科もアレなのだから、近衛がいなくても問題は皆無だし、その逆も然りだが。

 

円「……どうやら、向こうはAクラス代表一人で相手するみたい……。見下されているとも、それが妥当とも、どちらとも思えるのが腹立ちますね……。」

 

美春「問題ありませんわ!相手は一人。こっちは二人です!それに、卑劣な手段で学年首席になった偽りの代表なんて恐るるに足りません!」

 

 …………よし、少しは相手に合わせようとも思ったが……、一瞬で終わらすか。立会いの船越先生も体を震わせてるしな……。

 

「「「試獣召喚≪サモン≫!!」」」

 

お馴染みのキーワードで近衛以外が召喚獣を喚び出す。学園指定の制服に木刀を持つ者、ゴスロリ服に背丈程の大きさのカッターナイフを構える者、オーソドックスな西洋鎧を身に纏う者……。まさに三者三様だ。

 

円「……あ、そう言えば、Aクラス代表の得意教科って確か……。」

 

 

 

[フィールド:数学]

2-A 双眼零次・・・506点

 

2-F 近衛秋希・・・NONE

 

VS

 

2-F 根民円 ・・・100点

 

2-D 清水美春・・・106点

 

 

 

美春「……………………はい?」

 

円「ま、そうですよね。対戦ありがとうございました……。」

 

 一人が呆然とし、一人が諦めの表情を浮かべるのを横目に、俺達は二回戦へとコマを進めたのだった。



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小問5-F 冬の訪れ、秋との擦れ

~前書きRADIO~
秋希「皆さん、お久しぶり~。近衛秋希で~す。なんだかんだで、また2ヶ月近く空いちゃったね……。本当は後書きRADIOもやりたいところだけど、まずはこんな状況から脱却しないと始められないわね……。という愚痴は置いといて、さっさと本編に移りましょう。」


 時は零次と合流する数分前に遡る。

 

 私達Fクラスの出し物、中華喫茶『ヨーロピアン』は、私の事前予想を覆し、そこそこの盛況ぶりを見せていた。……ちなみに名前に関してのツッコミは吉井くんにして?出し物の案を急ピッチで捻り出そうとして、聞こえてきた単語を適当に拾った結果、こうなっちゃったんだから。

 

 ……まあ、名前なんて、この際どうだって良いかな。トラブルもなく、無事清涼祭の二日間を乗りきれれば、些細な問題よ。いくら私や姫路さんがいるとはいえ、基本自堕落と劣等感の塊みたいなFクラスの出し物にいちゃもんつけるほど暇してる奴は来ないでしょ。そもそも学園祭の出店に妨害をかけたところでされる側はもちろん、する側にもメリットなんて無いしね……。

 

?「マジできったねぇ机だな!これで食い物扱っていいのかよ!」

 

 ……そう思ってた数日前の私を殴り飛ばしたくなった。よくよく考えたら、文句付ける奴が、メリット・デメリットを考えるわけなんてなかったわ。ああいう奴らは、主張が正当かどうかなんて関係ない。気に食わなければ、その場の感情で叩くのだから。

 

秋希「うわ~……。随分、大変なことになってるみたいね。……まあ、段ボールの机しか用意できなかったのはこっちの落ち度でもあるけどさ……。」

 

明久「……あれ?近衛さん、今までどこ行ってたの?大会まではまだ時間あったよね?」

 

秋希「…………ちょっと、野暮用で席を外してたのよ。それよりどうしようか。やっぱりまともなテーブルなしで飲食系の出し物は無理があったみたい……。」

 

?「随分と騒がしいね。他の客にも、店員にも迷惑だ。」

 

 私たちが頭を悩ませていると、一人の少年が割って入って来た。もう少しすれば夏になるというのに、冬に着込むようなコートを纏い、口元はマフラーで隠れていた。

 そんな奇抜な格好で飲食を扱う出店にやってくる奴なんて、私の知っている中でも……いや、世界中探したってたった一人…………。私の弟、冬由(ふゆ)しかいない……!

 その証拠に数メートル後ろからは、さらに何人か歩いてくる姿も見えた。全員それなりにラフな格好はしてるけど、シャツもズボンもカッチリとしている。見る人が見れば、祭りを楽しみに来ているようには見えない。多分全員、冬由の付き人、ボディーガードだ。

 

?「あん?誰だ、お前は。」

 

?「こっちは、ここの責任者に用があるんだよ。お子様は帰ってた方がいいぜ。」

 

 そして彼の姿を見て、驚くことも恐れることもしなかった人も(身内以外で)見たことがない……。アイツと初対面の人でも、謎の寒気を感じるというのに。多分あの二人は余程肝の座った奴なのか、世間知らずの馬鹿なのだろう……。多分後者だ。

 

冬由「……なるほどね。机の正体がみかん箱で、それをクロスで隠してた、ってところか。……確かにこれだけ見れば、飲食の出し物としてはマイナスだろうね。」

 

 そんな先輩の声など気にも留めてないかのように淡々と店内を見渡し、冬由は状況を整理していく。台詞だけ聞いてると、先輩達の肩を持つ言い分みたい。

 

?「ハハッ。そうだよ、そうだよなぁ!」

 

冬由「……だけど、君達が言える文句じゃなくないかい?」

 

 ま、実際は逆だけどね。冬由の評価は『上げて落とす』『下げて上げる』で有名なのだ。

 『どんな一流の店だろうと、常に改善すべき場所は見つかるし、どれだけボロい店だろうと、強みはどこかに必ずある。』冬由が自分のブログに載せている自論だ。それを証明するかのように、彼はどんな店を紹介する時も、その店の良い部分と改善できる部分をそれぞれ必ず一点は挙げている。

 

冬由「文月学園は日本中、いや、世界中で見てもとても風変わりな教育方法をとっていると聞いているよ。生徒の学力に合わせて、学級設備の待遇が変化するとか。もっと嚙み砕いて言うなら、優秀な成績を収めた生徒(人物)には、過剰なほどに豪華絢爛で最先端技術の備わった教育環境が与えられて、逆に毎回赤点を取るような劣等生には、自宅学習の方がまだマシと呼べるほど劣悪な環境での学習を強いられるそうじゃないか。」

 

雄二「……明久、近衛。今のうちに、あの小悪党共の顔を覚えておけ。」

 

 先程まで、何やら秀吉君と話していた坂本君がそう指示してきた。後から報復でもするのか、出禁にするのか……。まあ、何だっていいけど。

 

 それじゃあ、情報を整理しましょう。今、私達のクラスは謎のクレーマーによる営業妨害を受けている。主犯は二人。どちらも外見上性別は男性。実は精神面は女性、という可能性も超低確率であり得そうだけど、本筋とは関係ないので、置いておきましょう。

 一人は中肉中背と一般的な体格で、髪型はその体つきとは対称的にソフトモヒカンと、一般的な髪型からはやや逸れたものにしている。

 もう一人は、坂本君よりちょっと小さめ……だいたい175cmくらいかしら?……で、頭は坊主に丸めていて、なんとも目立つ風体をしている。ウチの野球部でも、そんな髪型にしている人はいないでしょ。

 

 …………と、ここまでクレーマーが特徴を挙げてきたけど、ハッキリ言わせてもらうわ。この二人、召喚大会の参加者なのよね。名前は、坊主の方が夏川俊平、モヒカンの方が常村勇作。どっちも3年のAクラス、しかもどっちも両手で数えられるほどに高い順位に位置していて、成績面『だけ』は優等生なのよね。

 まあ、それは他の3-A生徒のほとんどに言えるけどね。なんでこの学園は、彼らを野放しにしてるのかしら。勉強を教えるだけが学校の役割じゃないでしょ。もしかして、教師側が『そういう』認識でいるとか……?今はもういない山口先生とか八木沢先生の件を考えると、あながち間違ってなかったりして。

 

冬由「……そして、この喫茶を運営しているのはFクラス。成績の面を見たら、劣等生の集団だ。それでも君達が騒ぐ前にそこそこの人の集まりが出来て、運営が出来ているのは、リーダーの統率がいいのか、単純に学力以外の一芸に秀でた人間の集まりなのか…。僕には知る由もないけど。」

 

俊平「……何が言いたい……!」

 

冬由「最初に言いたいことは言っただろう。ここはこの文月学園の中でも劣悪な成績を取っている生徒たちのたまり場。おそらくその段ボール箱は、そこで使われている貧相な設備を今回の学祭用に改造したんだろう。そして、君達が着ているのは文月学園(ここ)の制服。当然、この教室の設備の酷さは知っている訳だ。にも関わらず、わざわざクロスを大袈裟に捲って、怒鳴りたてている。ということはつまり、君達は営業妨害をする目的でこの店に来た、ってことかい?」

 

俊平「んな…………!」

 

勇作「んだと…………!」

 

 ……さて、このまま冬由がクレーマー先輩二人組を論破する光景を見ているのもいいけど、そろそろ時間だ。こちらから誘ったのに、こんなしょうもない理由で遅れた挙句、不戦敗になったりでもしたら、近場の海に沈められかねないからねぇ。それにアイツのことも、ちょっと聞いておかなきゃだしね。

 

秋希「……まあ、とりあえずは大丈夫そうね。とは言え、これじゃあ流石に今の状態のまま喫茶運営は不可能じゃない?」

 

雄二「安心しろ。すでに手は打ってある。」

 

 そういう坂本君の後ろには、秀吉君達が立派な造りのテーブルを運んでくる姿があった。おそらく演劇部で使っている大道具のテーブルだろう。

 

秋希「……なるほどね。よし、それじゃあクレーマーのことはアイツに、その後のことは坂本君達に一旦任せるわ。私はそろそろ召喚大会に出る時間だから。」

 

雄二「そういや、お前は双眼と組んでるんだもんな……。正直、どこか途中で敗退してくれると、こっちは助かるんだがなぁ……。」

 

秋希「残念でした。トーナメント表を見た限りだと、真正面からぶつかって私達に勝てる相手は、まあいないわね。それに、妨害に来たところで、私達ならまず、返り討ちにできる自信があるわよ。」

 

 これから戦うことになる相手の不幸を哀れみつつ、私は零次と合流することにした。

 

 

 

・・・

 

 

 

秋希「ただいま~。そっちの首尾は……。」

 

雄二「お、戻ったか。こっちは、そこそこ調子を取り戻してるぞ。」

 

 私が一回戦を終えて教室に戻ってきたところ、段ボールを積み上げただけの簡素な机は教室から姿を消し、その場所には立派な造りの豪華な机が設置されていた。ただ、置かれた机はサイズはバラバラで、天板にガラスが使われてるものとそうでないものが混在してたり、置き方も乱雑だったりと、統一感なんてものは無い。そもそも結構見覚えのあるものがちらほらとあるんですが……。

 

秋希「……ねえ、まさかとは思うけど、コレ、一部学校の物じゃないの?」

 

雄二「ああ。応接室のと、職員室そばの休憩室と、その他色々、な。いくら学校の物と言えど、そんなの客からすれば関係ないし、一般客が使用中の机を学園側が回収する手段などないだろうからな。」

 

 この代表はなんでこういう悪知恵となると、頭の回転が早くなるのかしら……。いつか、なんかの事件で代表が逮捕された時は満面の笑みでこう言ってやろう。『いつか、こんな日がやって来ると思ってました』って。

 

雄二「それよりも、一つ聞きたいことがある。」

 

 先程までの飄々とした態度をやめて、改めて坂本君は私に向き直る。

 

雄二「さっきの営業妨害についてだ。俺が店に乗り込む直前、見るからに暑苦しい……というか、大分季節外れな格好した奴が入っていって、常夏コンビと口論してただろ。ここまではお前も見ていた通りだ。」

 

 …………常夏コンビ?……ああ、『常』村先輩と『夏』川先輩だから『常夏』、か。なかなか良いネーミングセンスしてるなぁ。

 

雄二「……で、お前が大会の方に行った後もしばらく口論……というよりは、一方的な論破に見えたんだが…………、まあ、それが続いて遂に向こうが殴りかかったんだ。」

 

秋希「うわあ、めっちゃ想像できるわ。どうせ、直前で横槍入れられて返り討ちにあって、逃亡したんでしょ。そこのやり取りで、クレーマーの名前も知った、ってところかしら?」

 

雄二「ああ、その通りだ。ホントお前は頭が回るな。」

 

 まあ結局、今の様子を見る限りだと、冬由の助力でクレーマーは追い出せたけど、客足は遠退いたままみたいだ。もうすぐ昼時になるし、そこで売上を伸ばせないと、坂本君が言っていた『設備改修』も怪しくなってくるかもしれない。

 

雄二「……で、ここからが本題な訳だが、そのクレーマー追っ払ってくれた奴の名前は『近衛冬由』だそうだ。十中八九、お前の弟だろ?」

 

秋希「………………だとして?それが直接君に関係はないでしょ。」

 

雄二「まあな。ただ、ソイツが教室を去るときに言われたんだよ。『秋希姉(あきねぇ)に頼るのはやめろ』ってな。あの時の目は相当怖かった。間違いなく、人に向けていいモノじゃなかったぞ。」

 

 うわぁ…………。坂本君がそこまで言うって、普段から目付きは決して良いとは言えないけれど、一体どんな目で睨み付けてたっていうのよ……。

 

秋希「それは後で霧島さんにでも慰めてもらうとして……。まあ、安心しなよ。その目はそれこそ間違いなく、君じゃなくて、私に向けられた物だから。」

 

雄二「そうなのか?俺はてっきりシスコン拗らせて近くに男がいるのが気にくわないのかと思ったんだが……。だとしたら、お前どんだけ嫌われてんだよ……。」

 

秋希「ウチは結構複雑な家庭事情を抱えてるのよ。弟との軋轢もそれによるものだし……。」

 

 というか、冬由がそんな子だったら、こんな学校通ってないから。

 

雄二「そうか。…………じゃあ、だとしたら結局アイツはなんでここに来たんだ?お前と弟が不仲なら、姉がいる教室に来るのは、ちょっと不自然じゃないか。」

 

秋希「あー……、それは単純な理由よ。Fクラスが飲食系統の出し物をしてたからってだけ。アイツはこれまで全国各地、あらゆる料理……それこそ、三ツ星のレストランから大衆食堂、和食も洋食も中華にゲテモノ料理まで喰らって、厳正な評価を下してきているからね……。」

 

 一流料理人の間では、『アドバイザー』やら『審判員』やら呼ばれてるとか。あくまで噂程度で真偽は不明だけど。

 

雄二「それだけの理由でわざわざ学祭まで来るのか……。とは言え、色んな料理をこよなく愛する姿勢は、いざというときに利用出来そうだな。」

 

秋希「まあ、必要ならこっちから接触してみるのも、悪くないかもね。大丈夫、仲は悪いけど、こっちの言うこと全部無視されてる訳でもないから。実際頭を床に叩きつける勢いで土下座して、それでもお願いを拒否されたことはないし。」

 

 本当はそんなこと一度もしたことないけどね。なんで実の弟に対して、そこまで顔色を伺わなきゃならんのか。

 

雄二「さっきの近衛弟の目を思い出すと、嘘か本当かわからないな……。」

 

秋希「ハハハ……。それよりさ、坂本君。そろそろ私も接客に回っていいかしら?これ以上家族のことを嗅ぎまわられるのも気分悪いし……。」

 

雄二「あー……、まあ、気持ちは分らんでもないな。誰にだって、隠したい()()とか、そんなモンはいるしな……。」

 

 どうやら私が得ている情報以上に坂本君は母親に苦労しているようだ。……まあ…………。

 

秋希「……私にとって母親は…したいほどに……対象だけど……。

 

雄二「…………?な、なんか言ったか?」

 

秋希「…………できれば忘れて…………。」

 

 もしかしたら、悪意しかない先輩が昼時に本格的に嫌がらせをしてくるかもしれない。もっと言うなら、常村&夏川(例の先輩方)がより悪質な方法でこのクラスに打撃を与えてくる可能性すらあり得る。そうなったら、確実にこのクラスの、代表が目標とする金額まで売上を持っていくことができなくなってしまう。『困難』ではなく、『不可能』に……。

 ま、そうならないためにも、二回戦が始まるまで、ひたすら客に愛想を振りまいて、Fクラスに貢献するとしますか。



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小問6(1) 波乱の二回戦(Fクラスside)

雄二「うーむ…………。」

 

 二回戦(根本&小山ペア)を難なく(?)突破した後、今後の喫茶店の立て直しの計画を練ったり、召喚大会の作戦(プラン)を考えたりするために、俺は一度明久と別れ、トイレに籠っていた。

 

雄二(さっき確認したトーナメント表をもう一度思い出すと……。まず、翔子と木下姉のペア。これはまず順当に勝ちあがってくる。問題ない。姫路と島田のペアも、障害となりそうな相手はいない。)

 

2-F 姫路瑞希

2-F 島田美波

 

VS

 

3-E 潮村渚

3-F 緑川罪

 

 

2-A 霧島翔子

2-A 木下優子

 

VS

 

2-B 加賀屋寛

2-A 森兵恵

 

 姫路達の方は、三年の先輩とはいえ、俺達同様下位クラスのコンビだし、翔子の方は……正直、双眼以外に敗ける姿は想像できねぇ。

 このまま順当に行くなら、姫路達とは四回戦で、翔子達とはその後の五回戦……準決勝で当たることになる。

 

雄二(……正直、双眼とは決勝まで当たらなくてよかった……。ぶっちゃけ今でも対策なんて思い浮かばんし、何か弱点みたいなものでも……、弱点?)

 

 ……そういや、アイツ自身から腕輪の能力をまとめたメモ紙をもらってたな。今日の夜に一人でコッソリ見ようと思ってたが、何かヒントが思いつくかもしれんし、サラッと見てみるか。

 

『・「王者」の腕輪  能力詳細・

 一:消費点数■■点      

(総合では■■点)       

 二:使用条件その1…使用者が 

 学年主席であること。     

 三:使用条件その2…■■■■ 

 ■■■■■■■していること。 

 四:使用条件その3…■■■■■

 ■■■■■■■していること。 

 五:効果その1…フィールド上 

 ■■■■■■■点数を     

  399点(総合科目なら3999点)

 減少させる。         

 六:効果その2…各クラスの代表の

 減少後の点数が0以下の場合、 

 発動者と同じ点数になる。   

 七:補足その1…この腕輪の能力は

 3回しか使えない。      

 ■■■■■■■■■■■■■■ 

 ■■■■■■■■■■■■■■ 

 八:補足その2…この腕輪が 

 使用制限の超過や、      

 他の腕輪による妨害などで使用が

 不可能になった場合、     

 その召喚獣が本来装備していた 

 腕輪の能力が使用可能になる。』

 

 クソ、重要な前半部分が検閲にかけられたように、黒く塗りつぶされてやがる……。幸い救いなのは、手書きでなく、パソコンを使って書いたのか、黒塗りの部分の文字数が判別できること、それに前の試召戦争で姫路相手に使ったことで、能力の手がかりが掴めていることだ。

 

 例えば消費点数。あの時、総合科目で4000点ほど消費していることが分かってる。単純に考えるなら本来は 400点ほど消費するとみていいだろう。少なくともそれより下回ることはないはずだ。

 となると、残りの使用条件2つも、点数関係かもな。……まさかとは思うが、一教科 400点以上だけでは飽き足らず、『全部の科目で 400点』とか『総合点数4000点』とか言い出すんじゃないか?文末が似ているから多分両方……翔子でもそんな条件、達成するのは楽じゃないぞ……。

 そして肝心の効果。これに関してはドンピシャ。相手に強制的に大ダメージを与えるというシンプルなものだ。この書き方から察するに、あの時は相手が姫路一人だったから、莫大な攻撃のすべてが姫路に振りかかったのだと思ってたが、何人いようが、あのトンデモないダメージは全員が平等に受けることになるんだな……。

 つまり、腕輪を持つに至る成績を取れてない奴はそもそもアイツと戦う権利が与えられないわけか。こんなの、Fクラスどころか、Aクラスすらも壊滅状態に陥るじゃねえか……。

 

 さて、こうしてアタリを付けたところで、もう一つのメモを見てみるか……。

 

『ケイコク!!  サカモトゆうじ

 コノぶんをよんでいるということ

 は、おまエはアのてがみのなかか

 らきせきてキにこれをてにしたわ

 けだ。だが、ハたしてほんとウに

 それはきせきか?そのかラだをも

 っていきているのはひつぜんか?

 はなしたいギだいはつきることは

 なく、かたリたいモノがたりも、

 このかみにすべてをかききること

 ができない。ダが、ひとつだけか

 たることができるならば、ここか

 らしんじつをみいだせ。ひんとは

  かたらぬ。こううんをいのろう。』

 

 ……なんだ、これは?腕輪のことが一切書かれてない。それに、さっきのメモからうってかわって、平仮名ばかりで構成されている。…………まさか、何かの暗号か?これを読み解けば、双眼が持つ、『王者』の腕輪の重大な秘密が解き明かされるとか……。

 ……いや、どうやらそうでもなさそうだな。

 

 とにかく、大きな収穫は得られた。七番目の項目が真実であるなら、アイツはあと1回しかこの『王者』の能力を使えないってことだ。約1ヶ月前の時点でCクラス戦と姫路との戦闘で、既に2回使用している訳だからな。もっとも、アイツの点数を考えると、腕輪が無くても大差ない気がするのは……考えないようにしよう。

 それに、結局謎なのは、あの時『何故姫路は腕輪が使えなくなったのか』だ。まさか、あの大ダメージを負った衝撃で腕輪が粉砕された、とか?……だとしたら、姫路の装備していた鎧や大剣まで粉々にならないと辻褄が合わないのだが……。

 結局この謎を明らかにするには、まだ情報が少なすぎる。というか、ほとんど俺が知りたい情報は秘匿されたものを渡され、もう一枚も訳分からん内容だし……。まあ、比較的簡単な暗号だったから、『本当のメッセージ』にすぐ気付けたわけだが……。だからといって、一体どうすりゃいいのだか……。

 

 とりあえず、トイレに籠って大分経つし、そろそろ教室に戻るとするか。

 

ドンッ

 

雄二「っとと、すまねぇ、大丈夫か?怪我とかしてないか?」

 

?「大丈夫です。あ、あの、お兄さん…………『バカなお兄ちゃん』について、知ってますか?」

 

 この意外な来客を連れて、な。

 

 

 

・・・

 

 

 

美波「瑞希、そろそろ出番ね。……緊張、してない?」

 

瑞希「はい!いつでも行けます!」

 

 どうも、広報部員の花沢ちゆりです。今は召喚大会の運営に回ってます。一応この大会に参加もしていたけど……、負けたよ。手も足も出せずに負けましたよ。まあ3年の、しかも木地副部長と同じクラスの2人組なので、やや諦め気味になりながらも挑んだので、当然かもしれませんが。

 ですが、折角先行体験的な形で先輩方と同じ形式のテストに挑んで、部長・副部長両名からもお墨付きを頂いたのに、相手はこちらを称賛するわけでも、感傷に浸るわけでもなかった。寧ろこちらが一年生だからと嘲笑・侮蔑・暴言の嵐……。さらには負けた私達に対して『先輩を敬え』と高圧的な態度。ああ、あのモヒカンとハゲ頭……思い出すだけでも腹が立つ。

 

ちゆり「ええ……、島田美波先輩、姫路瑞希先輩。時間になりましたので、フィールドへと入場お願いします。」

 

 でもまあ、今は自分の役割を果たすのみです。先程の話を青葉部長と東堂運営委員長に話したところ、その二人となるべく噛み合わないよう、青葉部長はシフトを組み直し、クラスメイトだと言う東堂運営委員長はその二人に事情聴取を行なうと言ってくれました。敬える先輩というのは、こういう方達の言うんですよ。

 ……さて、選手の見送りをした後はしばらく暇な時間が出来てしまう訳です。私は、ついでにペアの相手も先の件から、彼らと間反対のブロックの管轄となっています。そしてこれがそのブロックの二回戦最終試合。クラスの出し物に足早に合流するのもいいですが、折角なので、試合を見ていきましょう。お相手は……。

 

2-F 姫路瑞希

2-F 島田美波

 

VS

 

3-E 潮村渚

3-F 緑川罪

 

 うわあ、クラス的に見れば大差なさそうとは言え、3年の先輩方かあ。それよりも、3-Fの人、なんて読むんでしょうか。みどりかわ……つみ?

 

罪「お、俺らラッキーじゃん。2回連続で雑魚クラス相手なんて。」

 

渚「シ、シン君。毎回毎回、相手を煽るのはやめようよ……。」

 

 シン?え、『罪』と書いて、『シン』と読むのですか?……言われないと、そうは読めませんね。これがキラキラネームってものでしょうか。

 そして、相方はこの前行なわれたαクラスの入部試験に合格した2名のうちの一人、潮村渚先輩ですね。もう一人もこの大会に参加しているのですが……結果はどうなったんでしょうね?後で聞いてみましょう。

 

美波「あら、先輩。そんなこと言っちゃっていいのかしら?」

 

罪「え、何(笑)。君ら、僕達に勝てると思ってんの?Fクラスの分際で(笑)。」

 

渚「シン君を、その……、庇うつもりは……その……ないんだけど……。僕も今回の科目には自信があるんです。だから、ですね……。簡単に負けるつもりはありません。」

 

 ……なんでしょう、潮村先輩はともかく、緑川先輩からは、あの先輩達と同じ雰囲気を感じます。……気のせいだといいのですが……。

 

美波「へえ……、では、お手並み拝見しましょうか、先輩。行くわよ、瑞希!」

 

瑞希「はい!」

 

「「「「試獣召喚≪サモン≫」」」」

 

 召喚獣を出す掛け声と共に魔法陣が描かれ、各々の召喚獣が姿を見せる。

 島田先輩は青を基調とした軍服にサーベル。

 姫路先輩は重厚な鎧に巨大な剣。

 潮村先輩はカジュアルなカーディガンにサバイバルナイフ……でしょうか。

 そして緑川先輩はスーツ姿ですが……武器の類が確認できません。

 とはいえ、召喚獣で大事なのは見た目ではなく、召喚者の点数です。さて、先輩方の実力を拝見するとしま……。

 

 

 

[フィールド:英語]

2-F 島田美波・・・65点

 

2-F 姫路瑞希・・・391点

 

VS

 

3-E 潮村渚 ・・・232点

 

3-F 緑川(シン) ・・・440点

 

 

 

美波「……………………え……………噓……。」

 

 ……いや、こちらも驚きですよ。4人中3人が、クラス詐欺とも取れる高得点を叩き出してるじゃないですか。

 まあ、姫路先輩については途中退席してFクラスに在籍していることは既に知っていましたし、潮村先輩も、3-Eが一教科ないし二教科に特化した生徒が集まっていることは風の噂程度には聞いていましたが。3-Bに勝利した要因も、そこにあるとかないとか。

 そして、私が緑川先輩から感じた嫌な予感はコレですか……。あの先輩達もそうですが、もしかして、双眼先輩や副部長みたいな人はレアケースで、点数が高い人は、性格がねじ曲がった人がデフォルトなんでしょうか……。だとすると、入る学校間違えたのかも……。

 

罪「ククク……ッ。フッフフフ……。アーハッハッハハハ!ええ?何その点数、ダッサーいww。なんなのww?そんな、みみっちい点数の癖して、僕らのことバカにしてたってことww?うーわwwww。ヒィー……待って……笑いすぎで……死にそう……。フフッwwww。ウフフッwwwwww。」

 

渚「シン君、笑いすぎだよ!そりゃあ……向こうも結構自信満々だったから、僕も少し警戒していたけれど……。」

 

罪「それに……ww、何が可笑しいって……wwww。向こうは俺達が姫路瑞希の存在を……ww、ただのFクラス生徒だって、思ってるって……、考えてるって、ところよ……ww。そして、肝心の本人は腰巾着にもならない、貧弱な点数って……wwww、ところがさあ、ギャグポイント高いと思うんよwwww。そこら辺、どうよなぎ……。」

 

ガキィィィィン!

 

[フィールド:英語]

2-F 島田美波・・・65点

 

2-F 姫路瑞希・・・391点

 

VS

 

3-E 潮村渚 ・・・232点→222点

 

3-F 緑川罪 ・・・440点

 

罪「おっと……悪いねー、渚。………………wwww。」

 

渚「いつまで笑っているのさ。これ以上は、もう助けないから。」

 

罪「はいはい。まあ、でももう問題ないでしょ。向こうは相方がアレだから、実質2対1だし…………。」

 

ヒュッ ドスッ

 

[フィールド:英語]

2-F 島田美波・・・65点→戦死

 

2-F 姫路瑞希・・・391点

 

VS

 

3-E 潮村渚 ・・・222点

 

3-F 緑川罪 ・・・440点

 

美波「…………ぁ…………。」

 

罪「どうせすぐにそうなるから。」

 

瑞希「美波ちゃん!?」

 

 まあ、相手の予想外の点数に驚いて、ずっと何もしていなかったら、そうなりますよね…………。そして、緑川先輩の武器は、スーツ内に仕込まれたクナイですか。……いえ、あの余裕そうな表情から察すると、おそらく至る所に暗器が仕込まれていることでしょう。

 

 それはともかくとして、これはもう勝負ありでしょうね。個人の感想としては、姫路先輩に勝利してもらいたいです。しかし、味方を一人失い、緑川先輩が必要以上に煽り倒した結果、冷静さを欠いてしまっているため、どこかでボロが出そうですね。…………もし、これが緑川先輩の狙い通りだとしたら、凄く狡猾ですね。

 

 この三分後、召喚大会二回戦Dブロックの最後の勝者が決定するのでした。




~後書きRADIO~
秋希「さあさあさあさあ、さあ!久しぶりの後書きRADIOの時間だああああああ!」

零次「今回で第21回となるわけだが、いつも通りの双眼零次とテンションがバグり気味になっている近衛秋希でお送りしていくぞ。」

秋希「今回はタイトル通り、Fクラスサイドの話ね。坂本君は相も変わらず君の対策に苦戦しているようだし、姫路さん達は強敵との戦いになったわね。」

零次「坂本があの二人にどうやって勝ったかは、原作と同じだからカットだ。Bクラス代表である根本の弱味を材料に、ペアの小山と交渉し、勝利を譲って貰った訳だ。……改めて思うが、コレ目の前に先生いるよな?……坂本はよくやれたな、と思うし、先生は何故見逃したんだ、と思うんだが。」

秋希「…………多分、その時の立ち会った先生が遠藤先生だったからじゃない?確か、あの先生って、多少のことは見逃してくれる寛容さがあるから……。もしかしたら、目の前でこういう買収行為を行なっても、なんとか丸め込む算段とか、あったんじゃないかな?」

零次「そうか…………。もしそれが勝利の要因になりうるなら、『本作』の坂本は俺の偶然に助けられたわけだ。」

秋希「…………あ、そういえば、二回戦と三回戦は零次が教科を選択してるんだっけ?」

零次「そうだな。…………作者も『原作』を何度も読み直しながら、『本作』を書いているのだが……。残念ながら……作者には『原作』の坂本並みに頭が回るわけではないからな……。それを考慮すると、『本作』の坂本は若干ダウングレードしているようだ。坂本雄二のファンにはちょっと申し訳ないな。」

秋希「……さて、この様子だと、次回は私と零次の戦いになるのかな?」

零次「いや、坂本や姫路達と俺達の試合までは、それなりに時間が空く。1,2話ほど挟んで、それから試合になりそうだな。」

秋希「それでは………………。」

「「次回もよろしくお願いします!!」」



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小問6(2) Servant said "Call me master". I said "WHY!?"

 無事一回戦を終えた後、再び俺は店番へと戻った。といっても、やっぱりほとんど暇だ。近衛の話だと、Fクラスには早速……と言うべきか、クレーマーが来たらしい。しかも、詳しく聞けば、3-Aの先輩だそうで。たった2日しか営業しない店に上流階級のごとき振る舞いをしているとは……その先輩方はどれだけ暇なんだ?…………いや、俺が言えた身ではないな。

 

零次「……さて、と。αクラスの……いや、ついでだから、Aクラスの大会の進出具合でも見てみるか……。」

 

 先程、取材を名目にやってきた青葉先輩から貰ったトーナメント表(二回戦進出者には分かりやすいように赤いマーカーがひかれていた)を眺め、Aクラスやαクラスのメンバーを探していくことにした。

 

一回戦敗退ペア(Aクラス・αクラス抜粋)

Aブロック

梶恋太 & 塚本大平(2ーD)

(工藤愛子 & 1-B 木戸藍蘭(きどあいら)に敗北)

 

Bブロック

豊嶋圭吾 & 工藤信二(2ーB)

(3-A宝風月 &2-F 木下秀吉 に敗北)

 

Cブロック

西京葉玖 & 横沢芽衣

(3-A東堂茜 & 2-E戸祭太子 に敗北)

 

Dブロック

近藤昇(2-E) & 飯島卓也

(2-C小山友香 & 2-B根本恭二 に敗北)

 

二回戦進出ペア(Aクラス・αクラス抜粋)

Aブロック

霧島翔子 & 木下優子

加賀屋寛(2ーB) & 森兵恵

工藤愛子 & 木戸藍蘭(αクラス)

 

Bブロック

井川健吾(2ーB) & 紺野洋平

佐藤美穂 & 真倉ねるの(αクラス)

 

Cブロック

双眼零次 & 近衛秋希(αクラス)

久保利光 & 影山幽也

 

Dブロック

吉井明久(αクラス) & 坂本雄二(2ーF)

潮村渚(αクラス) & 緑川罪(3-F)

 

 αクラスが全員参加しているのは当然なのだが、Aクラスもそれなりの数参加していたのだな……。

 

零次「…………ん?」

 

 今、俺の目の前には、二種類の不審者が映っている。

 一つはたった今出てきた客。ソフトモヒカンと坊主頭の二人組だ。学園の制服を着ていること、そして見覚えがあまりないことから、3年生だろうか?この二人組は、さっきから短時間で入店・退店を繰り返している。ちょうど今出てきたので4回目。最初に店に来た時から時間はまだ15分くらいしか経過していない。こんな頻繫に店に出入りして、怪しまれないと思ってるのだろうか……。

 そしてもう一つは、カメラを構えた小柄の男性。こちらも学園の制服を着ている。その男は、教室の足元の位置にある小窓から、パシャパシャと頻りにシャッターを切っている。…………前者はまだ不審者『容疑』の域を出ないが、後者は明らかに不審者そのものだ。それに一応知り合いだから、注意するか。

 

零次「…………今回、お前からカメラを借りたのは、店内治安維持のためなのだが…………。それは店外からの盗撮を許可するものではないのだが、土屋。」

 

康太「…………!!(ブンブン)」

 

零次「誤魔化すな、お前の一連の行動は既に録画しているからな?『現行犯で運営委員に突き出す』or『今すぐさっきの写真のデータを消す』……お前はどっちを取る?」

 

康太「…………一枚百円。」

 

 康太が選択したのは三番目の選択、『買収』でした。

 

零次「買収しようとするな!反省の色が見えないようだから、現行犯で逮捕し、運営委員会に……いや、それよりも西村先生に突き出すか……。」

 

康太「……!!(カチカチカチカチ)……………………データは全部消去した。」

 

零次「念のため確認するぞ?…………それよりもお前、クラスの出し物はどうした?まさか、サボりか?」

 

康太「…………。(ブンブン)…………敵情視察。」

 

零次「お前の『敵情視察』は店員をローアングルから撮影することなのか…………。」

 

 そんなやり取りをしていると、明久が坂本と共にやって来た。

 

雄二「明久、ここはやめよう。」

 

明久「ここまで来て何を言っているのさ!早く中に入るよ!」

 

雄二「頼む!ここだけは、Aクラスだけは勘弁してくれ!」

 

 やっては来たが……、何やら坂本は激しく抵抗している様子だ。

 

零次「毎度のことだと思いたくはないが……。本当に騒がしいな。」

 

明久「あ、零次。どうしたの、こんなところで。」

 

零次「店番だ。例えば無銭飲食者が出たときは、店を出る瞬間を狙って確保する。もし失敗した時は机の中にある、この無線を使って、運営委員会に応援を要請する……とかな。」

 

明久「へえ。近衛さんから去年のことを聞いてたから、また仲間外れにされてるんじゃないか、って思ってたけど、楽しんでいるようでよかったよ。」

 

零次「……………………それは嫌味か?」

 

 どうやら、さりげなさ過ぎて、洒落には気付かなかったようだ。

 

明久「ええ!?いや、別にそういうつもりじゃ……。」

 

零次「冗談だ。まあ、いくらなんでもクラス代表を邪険に扱うのは無理があるだろうからな。」

 

 そんなことがあったら、流石に高橋先生も黙っちゃいないはずだ。

 

零次「……それで?お前達は何しに来た?単純に昼食をとりにきたのか、敵情視察か、それとも………………営業妨害じゃないことだけは願いたいが。」

 

 最後の方は語気を強めて言った。ただでさえ、またいつ現れるかも知れない不審者の問題を解決せねばならないのだ。そこにコイツらが問題を起こすようなことがあったら、手に負いきれないぞ。

 そんな中、最初に口を開いたのは、案の定坂本だ。

 

雄二「広義では敵情視察かもな。ウチの店の悪評を流している奴がこの店に来ているらしい。」

 

零次「悪評だと?中の会話はほとんど聞こえないから誰かまで特定はできないが、頻繁に店を出入りしている先輩二人組が怪しい気がするな。」

 

明久「二人組?やっぱり常夏コンビの仕業なのかな?」

 

零次「怪しいのは店の出入り頻度が高いだけじゃない。タブレットで店内を監視しているんだが、あの二人はメイドの案内も待たず、店の中央の席に座ることもあった。それから少しの間何か話している様子なんだが、その後何も注文せずに店を後にする。どう考えても不自然極まりないだろ。後一回……または二回同じことを続けるようなら…………とも考えてたんだが、どうする?お前達に任せてもいいか?」

 

 『仏の顔も三度まで』なんてことわざがあるが、今回の場合、その『三度目』はとっくに過ぎている。だが俺の立場上、相手が何かしらの現行犯でなければ、いちゃもんをつけられて、こちらが不利になる。

 

雄二「そうだな、そうしてくれ。元々俺達のところで起きたことだし、それに…………お前に貸しを作りたくないからな。」

 

零次「実にお前らしい答えだな。それじゃあ、奴らをとっちめる作戦でも思いついたら連絡してくれ。作戦の根幹は任せるが、退路を塞ぐ人員も必要だろう?それくらいは手伝わせてくれ。」

 

 こっちも多かれ少なかれ迷惑を被っている訳だ。坂本らが問題を誘発して、例の不審行動を繰り返す先輩らを巻き込んでくれれば、それにたまらず逃げ出してくるところで足を引っ掛けるなどして、足止めくらいはできる。ついでに怒りの矛先がこっちに向いてくれれば万々歳だ。

 

 こうして、話は纏まっていき、坂本と明久……そして話の途中から合流してきた姫路らと共に、Aクラス教室……もとい、「メイド喫茶『ご主人様とお呼び!』」へと入店していった。

 ……そういえば、今回のメンバーの中には、明らかに小学生かそれ以下の女児もいたのだが……。明久達と一緒にいて、変な騒動に巻き込まれないか心配だな……。




~後書きRADIO~
秋希「さあ、第22回目の後書きRADIOを始めましょう!」

零次「今回の話のタイトルなんだが、『従業員(メイド)は"ご主人様とお呼び!"と言った。俺は"何故!?"と叫んだ』。意訳すると、こんな感じだ。Aクラスの出し物である、メイド喫茶の店名にかけたタイトル、というわけだ。」

秋希「というわけで、今回のゲストは、そんなふざけた店名の生みの親に来てもらいました!」

優子「……なんか、そんな理由で呼ばれたって言われると、気分が落ち込むわね……。あ、えーと、木下優子よ。」

零次「今回の話でAクラスとαクラスの大会出場メンバーが判明したな。……本作の話には大して関係はないが。」

秋希「まあ、どうせ誰が勝ち上がってくるかなんて、大体分かりきってるでしょ。」

優子「身も蓋もない言い方するわね……。まあ、吉井君と坂本君がちょっと気になるけど、貴方達が負けるところとか、想像つかないわね……。決勝で戦えることを楽しみにしているわ。」

零次「……そもそも、決勝以前に準決勝に行けるかどうかも、怪しいんだがな……。」

優子「え?」

秋希「ところで、Aクラスはどうしてこんなネーミングになったのよ……。」

零次「…………きだ……。」

秋希「え?」

優子「あー、名前はくじ引きで決めたのよ……。これでも色々悩みに悩んで浮かんだのがこの名前なんだけど……。まさか、当たるなんて…………。」

秋希「それはお気の毒なことで…………。ところで、つかぬ事お聞きしますが、この店名は一体どこから持ってきたの?なんか、最近古本屋で似たようなタイトルの本を見かけたような……。」

優子「うええっ!?き、気のせいじゃ、じゃあないかしら。ハ、ハハハハ……。」

(言えない…………。最近読んでいるBL本のタイトル『執事様とお呼び!』から引っ張ってきた…………、なんて、言えない!)

零次「まあ、お前の趣味嗜好がバレるのも時間の問題だろうがな……。」

優子「……どういう意味よ?」

零次「お前、Cクラスとの一件を忘れたわけではあるまい。秀吉がまたお前に成りすますような機会があれば、確実にやらかすだろうよ。アイツはお前が学校でどういう生活を送っているか、あんまり知らないだろうし、興味もないようだからな。……アイツの良心も意外と当てにはならんものだな。」

優子「だ、大丈夫よ。秀吉だって、その件で痛い目をみたんだし、アレ以上私に迷惑をかけるようなことはしないでしょ。」

零次「痛い目をみせた本人がそれを言うか?そもそも去年の時点から、何かとお前に恨みがあるような素振りを俺には見せてたぞ?よかったな、アイツが勉学を疎かにしてでも演劇に熱を入れるような奴で。それでいて、問題児達と付き合いがありながらも、良識を持ち合わせた人物で。さらに言えば、情熱を注ぐ『演劇』そのものがアイツにとってのストレス発散の場にもなっているのだろう。」

秋希「その他諸々の要因はあるかもしれないけどね……。でも、零次が挙げた要素のどれか一つでも欠けていたらきっと………………。」

零次「『優等生の木下優子』はもう既にいなかっただろうな。」

優子「……………………。(ガタガタガタガタ)」

零次「……さて、今回の話はこれくらいにしておこう。」

秋希「次回は、Aクラスに頻繁に顔を出しているというクレーマーを吉井君達が撃退する話ね。……作者の視点だと、今回の章で一番ではないけど、必ず入れたい場面ってことになるのかしら?」

零次「それでは……。」

「「「次回もよろしくお願いします!!」」」


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小問6(3) 少年はメイド服が嫌いなようです

明久「こ、この上ない屈辱だ……!」

 

秀吉「明久、存外似合っておるぞ。」

 

 明久が何やらメイド喫茶の制服(もちろん、未開封の予備だ)を持って店を出てきたため、ちょうど大会から戻ってきた久保に店番を任せ、彼らについていったところだ。

 

明久「まさか、ここまで完璧に着付けをされて、メイクまでやられるとは……。」

 

秀吉「そうは言うがのう……。変にお主らしさを残して、いざバレでもしたら、そっちのほうが恥ずかしくないかのう?」

 

零次「その通りだ、明久。分かっていると思うが、今回の作戦のキーはお前が握っている。つまり、お前達Fクラスの文化祭の成功・失敗は、全部お前にかかっているということだ。故に失敗は絶対に許されない状況、身バレ防止のために変装は完璧にこなさねばなぁ……。」

 

 坂本から話は一切聞いてないが、今この状況を見るだけで、奴が何を考えているかは大体想像できる。明久を従業員(メイド)に仕立て上げ、あの連中(明久から聞いた話では、Fクラスで騒ぎ立てていた二人組と同一人物だそうだ。)をトラブルに巻き込むのだろう。こっちにも都合がいい展開としては、店員にセクハラを仕掛けた加害者に仕立て上げる方法だ。それなら、奴らを出禁にする口実になるし、ここでの顛末をクラスメイトを通じて吹聴してもらえば、あの先輩らもこれ以上表立った行動ができなくなるはずだ……。何より、『こういう行事』で最も強い発言権を持つであろう相手を敵に回すことにもなるしな……!

 

零次「……ま、普段なら絶対にしない格好だから、気味悪く感じる気持ちも分からんでもない。だが、だからってコソコソしてるとかえって怪しまれるぞ。逆に言えば、敢えて開き直り、堂々としていれば……。」

 

文「ネタの匂いはここですかー----!!」

 

零次「うるせぇな!……って、青葉先輩ですか。何なんですか、いきなり。」

 

 明久に作戦実行に際しての心構えみたいなものを説いている最中、広報部の部長である青葉文(あおばあや)先輩が乱入してきた。…………ここ、男子トイレなんだけどなぁ……。それと、先ほどからバシャバシャバシャバシャと、シャッター音とフラッシュが五月蝿い。

 

秀吉「お主は確か、新聞部の部長じゃったか?一体、何をしに来たのじゃ?」

 

文「あややややややや。そんなの、何やら面白そうなネタの予感を感じ取ったので、大会をサッサと決着をつけて、木地君を振り切り、ここにやって来たに決まってるじゃないですかー。……それと木下君、ウチは『新聞部』ではなく『広報部』なので……以降お間違えなきよう…………。」

 

 過去の腐敗しまくった部活の名前を出されて、大変ご立腹のようだ。……まあ、そんな『新聞部』なのだが、近衛曰く、かつての部員は未だにしぶとく水面下で活動しているらしい。……あくまで噂のレベルで、決定的証拠みたいなものは、まだ見当たらないみたいだが。

 

文「あや~。それにしても、いいですね、いいですねぇ。その表情、華奢な体型、どう切り取っても最高ですよ!あ、もう少し恥じらいの表情とか浮かべてくれます!?女装している今のあなたは、とっても輝いてイッタアアアアア!頭ァァァァ……。」

 

 そうやって、明久の写真を大量に撮っていたところ、青葉先輩はいきなり拳骨をくらい、その場に倒れこんだ。その手の行方を追うと、そこには広報部副部長の木地標示(きじしるし)先輩が立っていた。その目は怒りに燃えており、顔中汗だくなうえに紅潮し、歯を食いしばっていた。

 

標示「ようやく見つけましたよ……!上から下まで…………!旧校舎から部室棟に新校舎まで……!そうして……あなたが……行きそうな場所を……『予測』して……先回りしても……見つからないしで…………!だから祭りは……嫌いなんですよ、毎度毎度…………!」

 

文「あややや……イタタタ、もう見つかってしまいましたか。ですが既に写真は撮影済み!あとはここからトンズラするだけです!」

 

標示「…………ここは3階ですよ?まさか、向こうの窓から飛び降りるつもりですか?」

 

 いや、流石に無理があるだろう。木地先輩の言う通り、俺達二年の教室は、3階にある。目の前のバカは、その気になれば平気で飛び降りそうだが……。ここから飛び降りたとて、まず無事ではいられないのは確実だろう。

 

文「…………くっ、そうですね。以前の私でしたら、あなたから逃げるため、最短経路でネタの元に辿り着くために、そういう自殺行為に等しい行動をも厭わなかったでしょう……。ですが、あなたの『予測』を前にこれ以上逃げてもそれに釣り合うリターンは無さそうですし、それに一度だけそれをして、足を捻ってますからね……。ここは、大人しくお縄につくとしましょう。大変不本意ではありますが。」

 

 やったことがあるのかよ……。しかも、案の定無事では済まなかったらしい。

 

標示「賢明な判断、感謝いたしますよ。…………それに先程、あなたのクラスに立ち寄った時、ある生徒が『トラブルが発生した』と言っていたので……。早く戻ったほうがいいですよ。」

 

文「あやややややややや、トラブルですか!?それを早く言ってくださいよーー!折角、学園長から許可をもらって、広報部として新たなスタートを切ったばかりなのに……。学園内に限らず、学園外の人間にも私達のことをアピールする機会!絶対に失敗はあってならないんです!というわけで、私はマッハで戻らせていただきますー----!」

 

ダダダダダダダダ……

 

 現れ方から去り際まで、とにかくやかましい人だったな。

 

零次「……さて、大分時間を食ってしまったようだが、そろそろ覚悟を決めろよ、明久。周囲の込み具合を確認した後、お前達に合図を送る。」

 

明久「さっき、思い切り写真を撮られたんだけど……。」

 

零次「青葉先輩なら心配ない。後で掲載許可くらいは貰いに来るだろ。その時に写真データを削除するよう、お願いすればいい。それより早くしないと、奴らが帰ってしまうぞ。」

 

 さあ、行動開始といこうか……。

 

 

 

・・・

 

 

 

利光「あ、代表、お疲れ様。」

 

零次「どうだ、久保。あれから例の二人の様子は。」

 

 明久達より一足先にAクラス教室前に戻り、店番を頼んでいた久保に話しかける。昼時ではあるが、人混みはまばら。サッと合図を送る。

 

利光「相変わらず、大声でゲラゲラ話しているようだよ。『2-Fの中華喫茶は酷かった』とか、『料理には虫が混入してた』とか、『店員の態度も最悪。いきなり自分達に殴りかかってきた』とかね……。」

 

零次「そうか……。先程明久達から聞いた情報と纏めると、あの二人組……夏川俊平と常村勇作は、2-F内で妨害を仕掛けていたようだ。だがそれが失敗して、二の矢で人が多く集まるであろう、昼時の飲食店で悪評を広めようって魂胆なんだろうな。もしくは一度目の妨害で客が少しばかり離れているから、作戦の第二段階に移ったとも考えられる。まあ、どちらにしても、今俺達の店で騒いでいる事実に変わりはないから、こっちの対応にも変更はないぞ。」

 

利光「……分かった。吉井君達が店内でなんとかするから、僕達は退路を断つ。…………ところで、肝心の吉井君は?」

 

 ……よし、どうやら気づいてないらしい。俺が会話で注意を引いていたのもあるが、この距離で違和感を持たれないなら、あの先輩達にも通用するはずだ。

 

明久『お客様』

 

勇作『なんだ?……へぇ。こんなコもいたんだな。』

 

俊平『結構可愛いな。』

 

 案の定、全く気づいていない。とはいえ間近で舐めるような視線を浴び続けてる本人からすれば、溜まったもんじゃないだろう。……あとで昼飯か何か奢ってやるか。

 

利光「…………もしかして、アレが吉井君?」

 

零次「察しがいいな。まさしく、『偽装メイドで悪質クレーマーを冥土に送ってやろう作戦』だ。」

 

利光「なるほど。『メイド』と『冥土』が掛かっているのか。それにしても……作戦名が長いね。」

 

零次「なら略して『偽装メイド作戦』としよう。これ以上使用用途があるかは知らんが。」

 

 さて、作戦は順調かな?開け放たれたドアの方に視線を移すと……。

 

明久『くたばれぇぇっ!』

 

俊平『ごばぁぁっ!』

 

 坊主の先輩にバックドロップを食らわせた明久(メイド服着用)の姿が。…………そこまでする必要あったか?

 

明久『こ、この人、今私の胸を触りました!』

 

 凄いな。あんな豪快にバックドロップを見せた後に、痴漢冤罪に話を持っていくとは……。いくらなんでも自作自演(マッチポンプ)が過ぎるだろ……。

 

俊平『ちょっと待て!バックドロップする為に当ててきたのはそっちだし、だいたいお前は……。』

 

利光『絶対に許さん!!』

 

俊平『ぐべらぁっ!』

 

零次「久保ォォォッ!」

 

 アイツ……。何の躊躇もなく、先輩を殴りに行きやがった……!もう、収拾つかねぇよ……。

 

茜「なぁんだぁ?ちょっと来ない間に、随分賑わってんなぁ。」

 

零次「東堂先輩……。数時間ぶりですね。」

 

茜「なぁに。今回はちゃんと客としてやって来たぜぇ?ちょうど昼時で腹ぁも減ってきたしなぁ……。」

 

 この事態から目を背けることも視野に入れ始めた瞬間、東堂先輩が再びやって来た。この文化祭の運営委員長を務めている彼女がこのタイミングでやって来るのはとても都合がいい。

 

茜「それよりよぉ、あそこにいるのって……、ウチのクラスの夏川と常村じゃねぇか。アイツら、自分のクラスの出し物そっちのけで、いつまで油売っていやがる……!」

 

零次「ああー……、それが先ほどから、他店の営業妨害のためだけに、何度も訪れているのですよ……。そのうえ、つい先程は従業員にセクハラ行為を働きまして……。」

 

茜「双眼、これ以上はよい。……これは少々話をするだけじゃあ、済みそうもねぇなぁ…………。」

 

 そう言いながら東堂先輩はボキボキと拳を鳴らしている。 

 

勇作『くっ!いくぞ夏川!』

 

俊平『こ、これ、外れねぇじゃねぇか!畜生!覚えてろ変態めっ!』

 

 クレーマーの先輩方は旗色が悪くなったのか、退散しようとしているようだ。しかも坊主の先輩の方はブラジャーをおみやげにして。……いや、メイドの格好をした男子生徒と頭にブラをつけた男子生徒だったら、明らかに後者のほうが変態なんだが……。明久が押し付けたのか?

 

ドンッ

 

俊平「……っ痛ぇ……。クソォ……、テメェ、何ここで突っ立ってやが……る…………んだ……。」

 

勇作「オイ、夏川。何止ま…………って……。」

 

茜「ヨウ、お前ら。後輩どもに迷惑かけて食う飯は、どんな味だ?あぁ?」

 

 だが、タイミングが悪かった。既に客用唯一の出入口は俺と東堂先輩が封鎖している。あと30秒ほど早ければ……、いや、関係ないな。間接的にだが、俺の邪魔をした以上は、見逃がすつもりなどないのだから。

 

勇作「と…………東堂…………。」

 

茜「お前らぁ、休憩時間はとっくに終わってんのによぉ、いつまでほっつき歩いていやがる。それに隣のAクラス代表からも、お前らが従業員への痴漢行為を働いていると報告があった。」

 

雄二「ああ、その話は本当だ。さっきもウエイトレスの胸をもみしだいていた挙句、ブラジャーまでパクっていったからな。坊主の先輩が被ってる下着が動かぬ証拠だ。」

 

 足止めしていたおかげもあって、坂本も余裕で追い付いてきた。これで先輩方は包囲された。逃げ場はないし、既にこちらは相手の情報を十分に握っている。先輩らの担任に証拠映像とともに告発すれば何かしら処分は下るだろう。……つまりは、チェックメイトだ。

 

勇作「…………ふ、ふざけんな!こっちは、ただ楽しく談笑してただけなのに、そっちがいきなり夏川にバックドロップ食らわせたうえに、下着まで押し付けてきただろうが!被害者はこっちだ!」

 

雄二「『楽しく談笑してただけ』?その言い訳は苦しくないか、先輩よぅ。今の時間は丁度昼食時で客もそれなりに入っているし、そうでなくとも、店には会話の内容を一言一句違わず記憶しているウエイトレスがいるんだ。証人には事欠かないぞ、先輩。」

 

零次「そうでなくとも、会話の内容が似通ったものを大声で話していたら、他の従業員だって嫌でも覚えるだろう?あなた方が、何度も店に出入りしていることは確認済みだからな。」

 

 証拠の動画もキッチリ録画してある。今この場で東堂先輩に引き渡すことも可能だ。

 

茜「まあ、何であれよぉ。清涼祭の運営委員長を務める身としては、トラブルが起きたからには、キチンと解決せにゃならねぇよなぁ。詳しく話を聞かせちゃぁ、くれねぇか?」

 

俊平「じょ、冗談じゃねぇ!コイツらのデタラメな言葉に耳を貸す気かよ!俺達優等生と、そこの問題児二人、どっちの言葉が信用に値するか、聞くまでもないだろ!なあ、東堂!」

 

 コイツ……、自分の状況が不利だからって、学校での立場を利用して、何が何でも正当化しようとしてきてる。この人達、本当に東堂先輩と同じクラスなのか?

 

茜「…………はぁ。そんなのよぉ、答えるまでもねぇ。」

 

俊平「そ、そうだよな!コイツらみたいなクズ連中の言うことなんて、聞く必要……。」

 

茜「自分の役目を他人に押しつけて、陰湿な後輩イジメをする同級生とよぉ……、普段は問題児だが、学校行事にはクラス一丸となって全力で楽しむ後輩……。アタシがどっちの言葉を信用するか、それこそ聞くまでもないんじゃないかぁ……?あぁん!?夏川俊平ィ!常村勇作ゥ!」

 

「「ひぃっ!」」

 

 東堂先輩の怒号が校舎中に響き渡る。扉がずっと開けっ放しだったから、メイド喫茶の客はもちろん、他のクラスの出し物を楽しんで出てきた人達も、全員が俺達に注目する。

 

 そりゃそうだ。東堂先輩は所謂『天才』と言われる部類の人間だ。勉強するのは必要最低限の所だけ。それ以外の時間は、家事手伝いをこなし、休日はボランティアに行ったり、市内外問わず開催されるあらゆる祭りに参加したり…………。とにかく地域との交流を大事にしていると、本人から聞いたことがある。

 そんな彼女からしてみれば、祭りを楽しむ者の評価が高くなるのは当然のこと。逆に、クレーマーの先輩方みたいに、勉強の出来不出来『だけ』で人を判別する人間を冷たい目で見るのも、当然のことなのだ。

 

茜「テメェらは、祭りを侮辱し、後輩を傷つけ、これだけ他人に迷惑をかけておきながら、自分は悪くねぇと言い張り続けやがったぁ……。アタシをここまで怒らせといて、ただで帰しはしねぇぞ。今から西村先生か小林先生んトコ行ってぇ、罪を洗いざらい白状したうえで、反省文がわりの補習でも受けてもらおうかぁ。」

 

勇作「わ、悪かった、東堂!Aクラスの奴らに迷惑をかけたことは謝る!」

 

俊平「ああ、常村の言う通りだ。それに東堂、お前ここに昼飯食いに来たんだろ?俺達がお前の分の飯代、立て替えるからさ……。」

 

茜「黙れ。もうお前らの言うことやること、全部信用ならねぇんだわ。それに、『Aクラスに迷惑をかけた』だぁ?それ以上に被害被った場所があんだろうが。それを理解するまで、お前らに祭りを楽しむ権利はやらん!お前らだってその方がいいよなぁ?自分達の仕事サボって、後輩に迷惑をかける暇があるほどに、周りとの協調性より勉強が大事だって思ってんだからよぉ……。」

 

 もはや、東堂先輩は彼らの言葉に耳を傾ける気はないらしい。先輩二人の襟首を掴んで、さっさとこの場を去っていったのだった。折角、昼食をとりに来たのに、その先でこんなクラスメイトの尻拭いをさせられたのでは、もう東堂先輩は二度と来ないだろうな……。

 

 …………と、そんなことをしていたら、もう少しで大会の二回戦が始める時間だ。今度は俺が遅れそうになってしまっては、近衛に一回戦のことを蒸し返されかねない。さっさと会場に向かうとしますか。



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小問6(4) 波乱の二回戦(Aクラスside)

~前書きRADIO~
零次「双眼零次だ。久しぶりだな、と言っても2ヶ月くらいだが……。いくら趣味100%で書いているとはいえ、ありがたいことに読んでくれている人がいるんだ。これからも更新はマイペースでしていくつもりだそうだ。少なくとも、余程のことがない限り、途中で頓挫するつもりはない。それでは本編を見て行ってくれ。」


秋希「やあやあ、零次君。君が約束の時間に遅れてくるとは珍しいね。誰かに足止めでもされた?それともAクラスも私達同様、飲食系の出し物だから……、クレーマーの対応にでも追われたのかな?」

 

 二回戦開始前。零次より先に会場入りしていた私は、一回戦前の零次のセリフをお返ししてやった。

 こういう聞き返しをしている時点である程度答えは予測しているけど、零次が時間に遅れた理由は確実に『クレーマーの対応』が理由でしょう。そもそも、零次を妨害なんて出来る人間など、そうそういないからね。

 

零次「…………俺達が一回戦を戦う前に、俺がお前に投げかけた質問の形式をパクったな?お前の予想する通り、答えは後者。もっと言えば、お前のところに来たクレーマーと……多分同一人物だ。」

 

 零次の所にもクレーマー?しかも私達の所に来ていた人と同じ?もし本当なら、あの先輩方はどれだけ暇なのよ……。

 

秋希「……その『クレーマー』ってもしかして、上に尖った髪型と、坊主頭の二人組だった?」

 

零次「そうだ。明久からも聞いていたが、やはり同一人物だったか……。」

 

 やっぱりか。冬由にボロクソ言い負かされたのに、まだ懲りずに他所の店で営業妨害を仕掛けていたとは。しかも、零次の監督下にある場所(テリトリー)でそんな行動に出るなんて、怖いもの知らずのバカなのか、零次に本気で勝てると思ってるバカなのか、…………それとも自分達が何をしても許される立場だと思ってる馬鹿なのか。

 

秋希「それは大変だったね……。」

 

零次「まあ、実際対処に取りかかったのは明久と坂本だし、後処理に動いたのは東堂先輩、久保、霧島の三人だしな……。俺は何もしちゃいないさ。」

 

 そうして駄弁っていること数分。一回戦と同じように、運営委員会の生徒の指示に従って、私達はステージへと上がる。一般公開は四回戦から行なわれるからか、まだ人は少なく、空席の方が明らかに多い。それでもここに来ているのは、敵情視察に来ている殊勝な人か、大分暇を持て余しまくってとりあえず来てみた、って人だろう。

 

零次「……近衛、一回戦は俺一人で戦わせたんだ。次はお前の番だからな。」

 

 二回戦の勝負科目は英語。零次も私も点差は殆どないけど……。零次の言う通り、一回戦は私の独断で零次一人で戦わせたわけだし、どこかで私が同じ立場に立たなければ、釣り合いが取れない。

 自分に要求を出しておいて、相手は同じ要求に答えない。それは、零次が嫌うことの一つだからね。

 

秋希「……わかった。零次なら、そういうと思ってたよ。対戦相手の先輩方には悪いけど、私達のチームワークは三回戦までお預けだね。」

 

?『この世に悪臭蔓延る限り!』

 

?『その臭い、俺らが消し去ってやろう!』

 

 スピーカーから対戦相手の口上らしき声が聞こえたかと思ったら、その直後、トランペットとドラムを主軸とした、アップテンポのメロディーが流れてきた。何かの特撮ヒーローの主題歌かな……?音楽を多少は聞きかじっているし、特にアニソンはメジャー・マイナー問わず網羅している。けど、この曲は聴きなじみが全くない。

 …………まさか…………自作している……?それに…………コレ、一回戦の時もしていたのかしら?だとしたら、大層手の込んだ演出だこと。

 

 ……けど、そんな疑問も些細なことに感じられるほど、不可解な事があった。その謎はすぐに零次の口から出てきた。

 

零次「……なあ、一応聞くが、今俺達は二回戦を戦うんだよな?そして対戦相手も間違いないんだよな?『何故か明久達の声が聞こえるのだが……。』」

 

 これは『私達』にしかわからないことだけど…………。今聞こえている声は、Fクラスの二人組、吉井君と坂本君のものに酷似しているのよ。本人達が事前に録音していた可能性も頭を掠めたけど、わざわざそんな小ネタを仕込む必要など皆無なはずだし、そもそも今回の『対戦相手』と、二人は面識がないはずだ。

 

 というか、これってあの二人に限った話ではないんだけど、私達二年生って、三年の先輩達とほとんど交流なくないかしら?私は既に情報として仕入れているけど、多分二年生で三年のクラス代表を答えられる人は一人もいないんじゃない?

 

明久?『安らぎを与える薄紫の香り。ラベンダーパープル!』

 

雄二?『爽やかさ広がる薄荷の香り。ミントグリーン!』

 

『『芳香戦隊ラベンジャーズが二人、ここに見参!!』』

 

 …………あ、いつの間にか、口上も終わりを迎え、ステージ上にはヒーロースーツ着込んだ二つの人型が立っていた。ごめんなさい、対戦相手のお二方。もし、次にまた見る機会があったら、その時は一言一句、一挙手一投足に至るまで見逃しませんから。

 

 さて、それでは対戦カードを見ていきましょうか。

 

 

 

2-F 近衛秋希

2-A 双眼零次

 

VS

 

3-C 上野糸広(うえのひろし)

3-C 鈴木達男(すずきたつお)

 

 

 

 3-Cの先輩方ですか……。青葉先輩が代表で、印象としては、『バリバリのオタク集団』ってところ。とにかく、勉強以上に、自分の趣味に時間とお金と労力を費やす人達が多い傾向があるクラスなのよね。

 傍目からだと、Fクラス以上に勉強していないように見えるけど、クラスの順位が物語っているように、ちゃんとやることはやっている。勉強にも精をだし、趣味を謳歌する。文月学園で最も人生をエンジョイしてるクラスじゃないかしら?

 

達男「ここで会ったが百年目!『死神』双眼零次よ、お前が行なってきた、罪の数々。今ここで、その全てを裁いてやろう。そのためにも、まずは近衛秋希をお前の呪縛から解放する!」

 

 ……はい?

 

糸広「君がどうやって彼女を籠絡したかは知らない。だけど、君のくだらない野心のために、何の罪もない女性を巻き込んでおいて黙っているほど、僕らの心は広くない!」

 

秋希「…………あのー、先輩方?その台詞って、あくまで先輩方のショー?の演出ですよね?身も蓋もないこと言いますけど。」

 

 どうも上野先輩達はやたらと零次だけを『敵』として見ていて、私を被害者のポジションに置こうとしているように見えるのよねえ。一応、私も対戦相手の頭数に入るはずなのに…………。

 

達男「ホント、身も蓋もないこと言うな……。ただ、それの答えはノーだ。最初の口上こそ台本通りだが、そこから先は100%アドリブ。俺達は本気で君を救いたいと思ってる。」

 

 ヒーロースーツの頭部分を脱ぎながら、鈴木先輩がそう答え、上野先輩はやや戸惑いながらも頷いた。つまるところ上野先輩達は、私が、零次の陰謀の片棒を担がされていると、本気で思っている訳だ。

 

秋希「へえ……、そうですか……。その割には、助けてもらった記憶が一切ないのですが……?」

 

糸広「それは……、正義のヒーローの主な仕事は、悪人を退治することだからね。善良な民間人の助けとなるのもヒーローの責務だけど、『悪』をこの世から消し去ることの方が大切なのさ。」

 

 うーん……。上野先輩のヒーローのイメージが大分偏っている気がする。なんというか……、本当に『正義』とか『平和』を目指しているというより、『正義のヒーロー』を自称して、善い行いをしている自分に心酔しているだけにも思えるのよね……。

 

達男「……話が逸れたな。とにかく、双眼零次!お前にはこれまで何度も近衛秋希を解放するよう言ってきた。だが、その度にお前はその要求を突っぱねてきた。『そもそも近衛秋希を縛り付けてなどいない』とか、くだらない噓を並べてな……!」

 

 ああ……、やっぱり『黒』だ。この人達も完全に、人の言うことを聞き入れちゃいないわ。こういう、自分の行いが全て正しいものだと信じ込んでいる人を相手にする時ほど、面倒くさいと思うことはないわね。

 

達男「だが、その押し問答もそろそろ終止符を打たせてもらう!双眼零次、これ以上近衛秋希と関わるな。さもなくば、こちらも手段は選ばんぞ。」

 

零次「そうか…………。ならここは、おとなしく先輩の意向に従うとしようか。そういうことだから近衛、お前はもう自由に行動していいぞ。」

 

秋希「へーい。ま、言われずとも、そうさせてもらうけどね。」

 

 鈴木先輩の態度に、そろそろ零次もウンザリしているみたい。なら、私がとる行動は決まっている。その独善的な勘違いから生まれた隙、しっかり突かせてもらいましょうか。

 

達男「……なんだと?」

 

秋希「あれ?どうして不審がるのです?助けてくれると言うのは…………やっぱり嘘なんですか……。」

 

達男「そうではない……。双眼零次、何を考えている?何の見返りもなく、お前が近衛秋希を開放するとは思えん……。何か罠でも仕掛けているのか?」

 

零次「随分疑り深いようですね……。ですが、安心してください。『俺は』何も企んでもいなければ、罠の類を仕掛けてもいませんよ。そもそも、そういう手法を取らなければ勝てないほど、俺は弱い人間じゃあないのでね……。」

 

 先輩二人の味方につくことを印象付けるように、さらに先輩のそばへと歩み寄っていく。ついでにさり気なく、二人の後ろに召喚獣が現れるように、立ち位置を調整しましょうか……。

 

「えー……それでは皆さん、召喚してください。」

 

「「「試獣召喚≪サモン≫!!」」」

 

 偶然か見計らってか、私が良いポジションにつくと同じタイミングで先生から指示が飛んだ。そして、いつものごとく掛け声に合わせ、召喚獣が姿を現す。

 

糸広「さあ覚悟しろ、双眼零次!君がこの大会での企みはここで終わらせる!今こそ、正義のヒーロー『ラベンジャーズ』の鉄槌を……!」

 

パァン、パァン

 

 

 

[フィールド:英語]

2-A 双眼零次・・・NONE

 

2-F 近衛秋希・・・502点

 

VS

 

3-C 上野糸広・・・117点→戦死

 

3-C 鈴木達男・・・188点→戦死

 

 

 

 いやー、後ろがガラ空きで楽に勝てましたねー。

 

秋希「はい、私達の勝利ってことで。零次、さっさと教室に戻るよ。」

 

零次「お前…………本当に性格悪いな。」

 

 何を今更。私が『そういう』性格をしてることは、零次本人が一番よく分かっているでしょうに。

 

糸広「な…なぜ……だ……。双眼零次の支配を抜けて、僕達の味方についたはずじゃ……。」

 

秋希「何言っているんですか、先輩。私が零次を本気で裏切るわけないじゃないですか。」

 

 『今のところは』…………って但し書きがつくけどね。

 

零次「そもそも、近衛のことなど、こっちは全く縛りつけていないしな。それとも、誰かから聞いたのでしょうか?『俺が近衛秋希を脅して無理矢理大会に出場する権利を得た』と。」

 

糸広「え…………や……それは…………。」

 

零次「……証拠もないのに、俺を勝手に悪者扱いして、近衛を勝手に被害者に仕立て上げて、挙句は俺達を勝手にあなた達の演目に巻き込んだのか……。先輩方の普段の行動がどんなものかは、俺は全く知らないし、知りたいとも思わない。だから、あなた達の言動を否定も肯定もする気はない。だがもし、先輩方がこういう活動を普段からしているなら…………、あえて言わせてもらいますが、それは『正義のヒーロー』じゃなくて、ただの『ヒーロー気取りの迷惑野郎』だ。」

 

 うわあ…………、ぶっちゃけ、性格の悪さは零次の人のこと言えないわ。相手のメンタルの傷口に塩を塗り込むようなこと言うんだもの……。まあ、同情はできないけど。

 

零次「全く……アニメが好きでも、漫画が好きでも、ゲームが好きでも、その他何が好きだろうと、そんなものは個人の勝手、他人が騒ぐことじゃあないが……。自分の価値観こそが絶対だと考えるような、そんなエゴに取り憑かれた正義のヒーローだけは、この世にいて欲しくはないな……。」

 

 何も言えず放心している先輩達に冷たい視線を送り、零次はさっさとステージを去っていった。

 …………私も教室がまた危機に晒されていないか心配なので、早めに教室へ戻るとしますか。

 

 

 

・・・

 

 

 

零次「さてと、久保。普段のお前と比べると、大分派手に暴れたな。」

 

 二回戦を終えてAクラス教室前へと戻った。そこで、ずっと店番を務めていた久保に先程クレーマーの一人をぶん殴ったことについて、問い質していた。

 

利光「ごめん、吉井君のことだから黙っていられなくてね……。たとえ、噓でも冤罪でも……。」

 

零次「まあ、仲間が酷い目にあっている所に、後先考えず飛び込んでいく勇敢さは称賛したくはあるが……。」

 

 噓や冤罪だと分かっていて、それでも明久の味方をすると宣言するのは、少々危なっかしくも思えるのだがな…。とはいえ、まだ様子見でも問題ないか?

 

 そんなことを思案していると、何やら旧校舎の方が騒がしくなってきた。また坂本あたりが何かトラブルを起こしたのか……?と思ったが、その原因は6つの人影。それがどんどんこちらへ近づき…………、床に頭をぶつける勢いで土下座を行なってきた。

 

糸広「…………本ッ当に…………すいませんでしたぁぁぁぁぁぁ!」

 

 人影の正体は、先程の対戦相手である上野先輩達だった。

 

零次「誰かと思ったら、上野先輩と鈴木先輩ですか。ついさっきぶりですが、どうしたんです?」

 

糸広「……重ねて、本当にすまなかった……。君を悪者だと決めつけて……、酷い暴言を吐いてしまった……。ヒーローにあるまじき行為だったと思うよ…。」

 

達男「近衛秋希から二人がコンビを組むまでの経緯を、ついさっき聞いてきたんだ。結果、双眼零次…………お前の言った通りだった。俺達は噂に踊らされ続けた道化だったってわけだ。」

 

 なるほど。旧校舎の方からすっ飛んできたのは、近衛に話を聞きに行っていたからか。……もっとも、今は昼時を少々過ぎたあたりだ。遅めの昼食をとりに行ったか、小腹を満たしに行ったか……そのついでだろうな。

 

達男「それで、だ。双眼零次、きっとお前のことだ。ヒロの謝罪程度で俺達のことを許してくれるわけじゃないだろ?」

 

零次「そりゃそうだ。」

 

 というか、それが普通だろうよ。謝るだけで全て水に流して円満解決。それが罷り通るなら、この国に警察はおろか、法もきっと存在しないだろう。

 

達男「だから、俺達で何か償い……ってほど大層なものでもないが、何か手伝えないかと思ってな。本当なら、俺達二人が起こした問題だから、俺達で責任をとるべきなんだろうが……。他のメンバーも多かれ少なかれ、双眼零次、お前に悪印象を抱いていたことが判明してな。」

 

 それでこんな大所帯で謝りに来た、って訳か。

 

糸広「そういうわけで、償いも兼ねて君の出し物に貢献しようと思ったのさ!まずはこの店のメニューを全部頼んで……。」

 

達男「反省のベクトルがおもいっきり明後日の方向に行ってるんだが?」

 

「一体何品あると思ってんのよ!」

 

「食べきれなければ、フードロスが発生して、なおのこと迷惑をかける事態に陥ると、想定。」

 

「それに、そんな一気に頼んだら、料理を作る後輩が過労死……まではいかずとも、疲労困憊で文化祭どころじゃなくなりそうだ……。」

 

「あなたぁ、本当に反省してますぅ?」

 

 鈴木先輩含め、一緒にいた他4名の味方から、容赦ないツッコミを入れられまくられる上野先輩。どうやら、この6人グループで一番扱いがぞんざいな存在のようだ。

 

零次「そういうことだ。こちらとしても、そんな有難迷惑な手法を取られても困るだけで、大した得もない。むしろ俺の名を出される分、俺へのヘイトが溜まるだけで、俺には害しかなさそうだから…。そんなことは絶対にやめてもらおうか。」

 

 ぶっちゃけ、元が最底辺の地を這うような好感度だから、他人の印象などどうでもいいんだが……。俺への印象が最悪、他のαクラスメンバー(特に明久)に飛び火するのだけは避けたいところだ。

 

零次「だから、今回の件は貸し一つ…ってことにしておいてくれません?今々思いつく訳でもないですからね……。」

 

達男「…………ま、普通にそうなるか……。分かった。それで手を打とう。」

 

糸広「それじゃ、ちょっと遅めの腹ごしらえと行きますか!ヒーローショーだったり、クラスの出し物だったり、召喚大会だったり……色々忙しかったしねー。」

 

 反省しているのか、若干の怪しさを覚えつつも、6人の先輩達の背中を見送るのだった。

 正直、近衛の話を聞いただけで、こうも手の平を返されても、反省の意思が見えない訳だが……。まあ、何もしない奴や 奴よりかはマシだがな。

 

 文月学園文化祭、『清涼祭』。1日目も午後に差し掛かり、祭りの熱はさらに高まりつつあるのだった。



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小問7-A 三回戦は一切れのケーキを添えて

 Aクラスで昼食を済ませたあと、僕達は召喚大会の会場へとやって来た。もちろん、あのメイド服は着替えて、今は普通に学園の制服だよ?アレを着て、こんな大勢の人の前に出れるわけないじゃないか。

 

 ここに来たのはもちろん、これから三回戦が始まるからだ。科目は化学。いくら零次からは理系中心で勉強を見てもらっているとはいえ、正直、ここが正念場だと思っている。

 というのも、対戦相手が強敵と予想されるからだ。一人はEクラスの山下君。以前、とある事情でスタンガンを借りて以来、会いに来なかったこともあって、『いい加減返せ』と怒られた。もちろん、僕らが恐れているのは、彼じゃない。その相方だ。

 

?「初めまして。ワタシの名は羽黒・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・ダ・プァウ、ラ…ファン・ネッポ……、ああああ、畜生!ワタシはいつもそうだ!尊敬する画家になぞらえて、自己紹介することもまともに出来ないとは!ワタシはいつだってそうだ!肝心なところでミスをする!だから、ワタシは誰にも愛されないんだ!ああああぁぁぁぁ…………。」

 

 

2-F 吉井明久

2-F 坂本雄二

 

VS

 

2-E 山下伝貴(やましたでんき)

3-A 羽黒光(はぐろひかる)

 

 

 そう。3年の先輩が相手なのだ。山下君の話だと、二人は同じ部活の先輩・後輩の関係。優勝商品を目的に誘われてコンビを組んだそうだ。

 …………そういえば、秀吉もいつの間にか大会に参加していたけど、その理由も山下君と同じだっけか。

 

伝貴「ああ…、気にしないでくれッス。いつもの発作みたいなものッス。部員の前だとちゃんと言えるのに、人前だと度々こうしてセリフを噛んでは悔しがるんスよ……。…………まあ、ちゃんと言えたら言えたで喧しいことには変わりないんスが…。」

 

 呆れ気味に、そう口にしているってことは、何度も聞かされているのだろうか。

 

雄二「なんか…………随分変な相手と当たってしまったみたいだな……。」

 

光「変!?ワタシのどこが変だと言うんだい?」

 

 雄二がこぼした言葉に対して、床に手をついて落ち込んでいた先輩が、飛び上がりざまに雄二を指差してそう言い放った。

 正直、僕から見てもその先輩は色々と変だと思う。さっきの感情の起伏の激しさもそうだけど、やや過剰なほどにメイクをして、女子の制服を着ている。声は明らかに男の人のそれなのに。

 

雄二「どこが、ってか…………。全体的に変、というより変態だろ。『男』が『女子』の制服を着ているところが特にな。んな格好するのは隣のバカだけで十分だ。」

 

 失礼な。僕にも女装趣味なんてないよ。それにさっきAクラスでやったのは、

 

光「…………ふぅん……。つまりはアレかい?ワタシを『男』として見ている、と。」

 

雄二「は?……ま、そうだが……。まさか、自分は『女』だとでも言うのか?だが、その声の低さ、背格好で『女性』を名乗るのは……、無理があるんじゃないか?」

 

明久「雄二、僕にはもう、何が何だか分かんなくなってきたんだけど……。『男』なのに『女の子』の格好して……。それで『女』だと言い張っているって……こと?」

 

 今の会話だけでも、色々と滅茶苦茶な先輩だ……。

 

光「……まあ、そう思うのも無理はないだろうね。身体(からだ)は『男』、精神(こころ)は『女』。ワタシの両親も、少々……いや、世間一般からすれば奇怪な目で見られることが多くてね。イジメにあう事も多かったさ。それでも、両親の生き様、支えもあって、今の『ワタシ』がいるのさ。」

 

 …………そうか。色々と滅茶苦茶だけど、その分苦労もあるのか。 

 

光「だから、秀吉君と友達であるキミ達なら理解を示してくれると思ったが……。どうやらワタシは幻想を抱いていたみたいだね……!」

 

伝貴「そりゃそうでしょ、部長。コイツらは、常軌を逸した行動をすることが多いッスけど、感性は一般人とそんな変わりないッスよ?」

 

 ……え?僕ら、どんな風に思われてたの?

 凄く気になるけど、そろそろ戦いが始まる。気を引き締めていかないと。

 

明久「ところで雄二、なんか作戦はあるの?山下君はともかく、もう一人の相手は先輩だし、慎重に立ち回らないと、負けそうじゃない?」

 

 それに先輩はAクラス。クラスだけで見れば、最悪の場合姫路さんとか、近衛さんとか、零次と同じくらいの点数を持っていてもおかしくない。そうなったら、僕らに勝ち目なんてない。

 

伝貴「ちょっと、ともかくってなんスか。一回戦も二回戦も、部長におんぶにだっこじゃないッスから。部長のサポートもあったけど、一人一殺で勝ち上がってきたッスよ。」

 

雄二「…………問題ない。今の俺達なら、山下くらいなら簡単に倒せるし、3-Aの先輩は……なにやら『秘策』があるみたいだしな。」

 

伝貴「話聞けッス。ってか、その『秘策』って何スか。その言い回しだと、他人の入れ知恵みたいッスけど。」

 

 うん。こっちも凄く気になる。……だけど多分、その入れ知恵をしたのは零次だろう。僕達が学園長の所へ行ったあの帰りに、科目選択権を零次にも渡す……みたいな話をしていた。だから、科目をいじったのが雄二じゃないなら、必然的に零次ということになる。

 ……でも、なんで化学なんだろう?零次が一番得意な科目である数学は、既に雄二が一回戦で使っているからだとして、その次に点数が高かったのは物理だったはず。前に見せてくれた成績表の数字はそうだった。それとも、今回は化学の方が出来がよかったのかな?

 

光「ハッハッハ!そんなこと、この戦場に立った時点でどうでもいいことだ!百聞は一見に如かず、というだろう。聞くよりも直接戦った方が、理解もしやすい。…………もっとも、ワタシには大方検討もついているがねぇ!」

 

雄二「来るぞ、明久!」

 

明久「あ、う、うん!」

 

「「「「試獣召喚!!」」」」

 

 こっちは黒と白の学ランに、それぞれ木刀とメリケンサックを装備したチンピラみたいな召喚獣のコンビ。

 相手の方は、山下君がバールのようなものを持ったグレーのつなぎを着た召喚獣で、先輩はパレットと絵筆を持った芸術家っぽい召喚獣だ。

 

 パッと見た感じでは、先輩の召喚獣が一番弱そうな印象を受けるけど、さっきの通り、一番学力が高いのも、その先輩だ。気を引き締めないと……。

 

[フィールド:化学]

 

2-F 吉井明久・・・82点

 

2-F 坂本雄二・・・164点

 

VS

 

2-E 山下伝貴・・・101点

 

3-A 羽黒光 ・・・93点

 

 ……………………え?

 

雄二「……ああー…………。もしかして、アイツの言っていた『秘策』って……。」

 

光「他人への礼節はなってないようだけど、勘がいいようだね。……ま、多くを語るのは後にしようか。キミタチに勝てば、何も問題は無いからねぇ!」

 

 よ、よく分からないけど、これならなんとか勝てそうだ。

 

 ……と、試合開始直後は思ってたよ。

 

[フィールド:化学]

 

2-F 吉井明久・・・82点→27点

 

2-F 坂本雄二・・・164点→43点

 

VS

 

2-E 山下伝貴・・・101点→戦死

 

3-A 羽黒光 ・・・93点→戦死

 

 うん……勝てたけど、結構ギリギリだ。

 点数の高い雄二が山下君を抑えている間に、召喚獣操作に慣れている僕が羽黒先輩を倒す。そのつもりでいたけど、パレットを盾代わりにして攻撃を受け止めたり、こっちの攻撃を読んで紙一重で回避したり……。とにかく、羽黒先輩の召喚獣の操作技術は僕とほとんど差はなかった。雄二が早めに山下君を倒して2対1の状況に持ち込んでからも、先輩の粘りは凄まじかった。……むしろ、そうなってから、余計に苦戦したような気もするけど……。

 

 とにかく、これで僕達は四回戦進出。あと3回勝てば優勝だ。……その『3回勝つ』が難しいけどね。雄二の作戦に任せきりするのもいけないし、僕ももうちょっと活躍しないとなぁ……。

 

 

・・・

 

 

 

零次「…………ふむ。まあ、予想通りだな。」

 

 昼休憩をもらった俺は、屋台で買った昼食を頬張りながら、先程見てきたトーナメント表の様子を、手元のものに写して眺めていた。

 

 

三回戦対戦ペア

Aブロック

第一試合

霧島翔子(2-A)&木下優子(2-A)

 

VS

 

磯野悠宝(いそのゆうほう)(3-E)&後川夜斗(うしろがわやと)(3-E)

 

第二試合

工藤愛子(2-A)&木戸藍蘭(1-B)

 

VS

 

青葉文 (3-C)&木地標示(3-A)

 

Bブロック

第一試合

井川健吾(2-B)&紺野洋平(2-A)

 

VS

 

夏川俊平(3-A)&常村勇作(3-A)

 

第二試合

佐藤美穂(2-A)&真倉ねるの(2-C)

 

VS

 

宝風月 (3-A)&木下秀吉(2-F)

 

Cブロック

第一試合

久保利光(2-A)&影山幽也(2-A)

 

VS

 

東堂茜 (3-A)&戸祭太子(2-E)

 

第二試合

双眼零次(2-A)&近衛秋希(2-F)

 

VS

 

堀田雅俊(3-A)&金田一真之介(3-A)

 

Dブロック

第一試合

吉井明久(2-F)&坂本雄二(2-F)

 

VS

 

山下伝貴(2-E)&羽黒光 (3-A)

 

第二試合

潮村渚 (3-E)&緑川罪 (3-F)

 

VS

 

伊藤正行(3-C)&深水真 (3-B)

 

 

 現在もまだ、αクラスからは脱落者はなし。霧島・木下(姉)ペアも順調に勝ち進んでいる。周りからしてみれば、明久・坂本ペアが勝ち進んでいることが予想外に見えているようだが、俺からしてみれば、学園長との取引がある以上、奴らはきっと決勝まで上がってくるだろうし、この三回戦も必ず勝つだろう。…こちらが事前に仕込んだ『策』もあるしな。

 

 昼食の入れ物をゴミ箱へと突っ込み、近衛と合流し、三回戦のフィールドへと立つのだった。

 

・・・

 

 さて、突然だが、試召戦争を優位に進めるにあたって、『教科の選択』の重要性を話そう。自分の得意な教科で戦うことが大事なんて言わずもがななのだが、俺がしたいのはそういう話じゃない。

 

 当然のことだが、先生だって一人の人間だ。誰にしてもらっても大差ない、なんてことはない。採点の基準やスピードはもちろん、作問に関しても基礎がちゃんと出来ているかを重要視するのか、逆に学んだことを応用する発想力に重きを置いているのか、様々な箇所に先生の性格・特徴が反映されるのだ。

 

 こういう話でよく耳にするのは、世界史教員の田中先生と、数学教員の木内先生だ。

 田中先生はおっとりとした初老の男性教師で、採点の判定が甘いかわりに、一人一人の考えをじっくり読み取るためか、スピードは遅めだ。特に記述式の回答となると、それが顕著に表れてくる。そして作問にも田中先生の性格は反映される。それこそ生徒の間では『田中先生のテストは解きやすい』と噂になるほどだ。まあ、これに関しては、自分が採点する時に、あまり時間がかからないようにしたいという、当人の意思もあるだろうが…。小林先生からは『』

 対して木内先生は全くの真逆だ。採点スピードは速いが、判定は厳しめ。俺もたまに細かいところで減点を食らうことがある。だが、決して雑というわけではないことだけは言っておく。テストの難易度は…………良くも悪くも普通だな。

 

 例えば、英語担当の遠藤先生は多少のことには目を瞑ってくれる、優しい所がある。……その性格を度々悪用されることもあるが。

 例えば、数学担当の長谷川先生は他の先生より広い召喚範囲を取れる。流石にシステムの仕様上、学年主任ほどではないがな。

 例えば、体育担当の大島先生はそのフィジカルと並外れた行動力で、予測のつかないルートを切り開いてくれる。そんな教師の活用法をするのは、後にも先にも今の2-Fしかいないだろうが。

 

 ……そして、三学年主任の小林先生は、採点の判定は厳しく、スピードも決して速くない。さらに、問題はAクラスすら簡単には解けない難易度だ。それ故に、大多数の生徒からはもちろん、一部教師からも嫌われている。当然のことながら、これらは全て、生徒への嫌がらせ目的ではない。

 採点スピードが遅いのは、生徒一人一人がその解答に至るまでの過程をじっくりと精査しているから。

 判定が厳しいのは、万が一甘い判定をする教師と同じ解答をして、それで満足していてはいけないという、戒めを込めているから。

 問題が難しいのは、学んだ知識をそのまま吐き出すのではなく、キチンと理解しているか、それを応用する力があるかを『試験』の文字通り『試す』ため。

 すべて、彼の教育理念故の厳しさなのだ。

 

 そんな彼は文月学園における『ある問題』に関して、最高学年の主任として頭を悩ませている。それは『文月学園の生徒のモラルの低さ』。特に自身が担任を受け持っている3-Aの生徒はそれが輪をかけて酷い。そう西村先生に愚痴をこぼしてしまうほどだ。

 そんなモラルや常識の欠如した生徒が、大衆の目に晒される四回戦までコマを進め、学園の印象が悪くなるようなことは避けたい。

 

 しかし、本来トーナメントの科目決定権を持つ小林先生から、その権利が坂本へと移ってしまった。だが幸運にも、俺がその権利の一部を貰うことを偶然聞いたためか、小林先生は俺に交渉を持ち掛けてきた。

 

 話が少々長くなったので、簡潔に言いたかったことを伝えよう。俺が……いや、『小林先生が』三回戦に化学を選択した目的は、3-Aを弱体化するためだ。彼は清涼祭直前に『抜き打ちテスト』の名目で、自作の問題を『化学』を選択した3-A生徒に強制的に解かせ、採点まですべて自分の手で行ったのだ。文月学園のある種の体裁を保つために…。一般公開が始まる四回戦までに、学園側が野放しにしている、優等生の皮を被った問題児共を振り落とすためにだ。

 

零次「もっとも…………そんな小細工があろうがなかろうが、俺達の結果が変わることはないがな……。」

 

[フィールド:化学]

 

2-A 双眼零次  ・・・462点

 

2-F 近衛秋希  ・・・377点

 

VS

 

3-A 堀田雅俊  ・・・72点→戦死

 

3-A 金田一真之介・・・68点→戦死

 

「くそ……何だよ……その点数……。」

 

「Fクラスの馬鹿と……文月学園一番の……問題児コンビの……くせに……。」

 

秋希「へえ……。去年から悪い意味で目立っていた零次はともかくとして、私のことも軽く見ていたんですね……。本当、最初から最後まで不愉快な先輩のままでしたね。」

 

 ……正直に言おう。勝負にもならなかった。いや、それ以上に心証が悪すぎた。開口一番から俺達への暴言。その後も、俺が『死神』の異名を持つほどの厄介者であることや、近衛がFクラスであることを嘲笑する態度ばかり取っていた。結果、怒りが頂点に達した近衛が、召喚直後にほぼノータイムで『銃弾』の腕輪を使い、相手を一撃で戦死に追いやったのだ。

 

「な…んだと……テメェ……!」

 

「先輩に対して……随分な……口の利き方じゃ…………ねぇか…………!」

 

秋希「だから何だって言うんですか?私より一年長く生きて……、私達の知らない先輩との交流があって……、その中で『自分より弱い立場の人間には何を言っても良い』ってことを学んだ……。そんなことを言うなら、その思想には同意できますよ。今の戦いで、あなた達は私達より…。」

 

零次「……これ以上はやめておけ、近衛。何を言ったところで、この人達は、俺達の言うことに聞く耳を持たないだろう。…………あの人達の説教は、他の適当な人に任せるぞ。」

 

 居心地が悪いのと、どうせこの後もこの先輩達からはロクな言葉も聞けないだろう。そう思い、俺達は前の二戦より足早に会場を去るのだった。

 久保も、佐藤も、工藤も、皆四回戦に勝ち上がるだろう。アイツらの今の実力を見れる絶好の機会だ。こちらも全力で相手をしないとな……。

 

 

・・・

 

 

零次「何?負けた……だと……。」

 

利光「本当にゴメン!代表!」

 

零次「別に怒っちゃいないさ。絶対勝てると思っていても、負けることもある。勝負なんてのはそんなものだからな。」

 

 三回戦終了後、俺はまた店前での見張りに戻った。しかし、Fクラスが来たアレ以降、特に問題になるような客は来ることもなく、店側からトラブルが起きた旨の報告もなし。言ってしまえば、再び退屈な店番の時間である。そんな時、三回戦まで駒を進めていた、紺野と久保がちょうど教室から出てきたため、呼び止めて各々の結果を聞いた、というのが今の状況だ。

 

零次「しかし、お前が負けるとは本当に意外だな、久保。紺野も、相方はともかくとして、お前は化学が苦手ではなかったはずだが……。」

 

 2-Bは比較的文系の生徒が多いクラスだ。そして、以前近衛から手に入れた資料では、紺野も相方の井川という生徒も、化学の点数はだいたい190~210点くらいと決して悪い点数ではない。俺と小林先生のテコ入れが入った3-Aの生徒が勝つには、相当な立ち回りが要求されるはずだ。3年の先輩達にそこまでの技量があるとは、到底思えないのだが……。

 

標示「やっぱり、ここにいましたか……。私の『予測』ですと、そろそろ休憩でも貰って、学内を回っていると思ったのですが。」

 

零次「トラブルが起きないんで、店番が実質休憩と同義なんですよ。ここを離れられるのは、召喚大会に出場するときくらいです。」

 

 だからといって、問題が起きてほしい訳では、当然ないが。ただでさえ、クラスの中に俺に対する不穏分子がいるのに、それに追加して無駄な面倒事など増えてたまるかってことだ。それに、去年はそもそもクラスの出し物にすら参加させてもらえなかったからな。こうして当日の役割が貰えるだけでも十分ありがたい。

 

零次「それにしても今日は、よく3-Aの生徒に会いますね。3-Aって、そんなに暇を持て余す生徒が多いのですか?」

 

標示「まあ……。3-Aの出し物は『お化け屋敷』ですからね。受付が2人、脅かし役のキャストが十数名ほどで回せますから、それ以外の大半が清涼祭で騒いでいても、不思議ではないでしょう。それはそちらも同じでは?」

 

 まあな。こっちも、店番は俺一人だが、接客班も厨房班も、それぞれ工藤と久保がうまい具合にシフトを組んでいるお陰で、特にクラスメイトに疲労は見られない。

 

標示「……しかし、小林先生もえぐい事をしますよ、本当……。3-Aの問題児を振るい落とすために、前日に試召戦争用の抜き打ちテストをして、今日まで採点を引き伸ばすとは……。私や東堂さんは『地学』選択なので、被害は少なめですが。」

 

 …………なるほど。久保や工藤が負けたのは、そういうことか。流石に小林先生も自分が担当しない科目にまで干渉は出来なかったか。

 木地先輩がサラッと言っていたが、試召戦争のテストには、ちょっとしたルールがある。それは『テストの採点が終わるまで、再試験はできない』というものだ。まあ、ちゃんと明文化しておかないと、試験終了後にすぐ解き直しが出来てしまうからな…………。文月学園の試験は実践形式を謳っている。それなのに、『出来が悪かったからやり直させて欲しい』とか、『解答欄がズレてたから直させて欲しい』なんて言い訳が通る訳がない。

 

標示「……と、そんなことより、双眼零次君。君に聞きたいことが。…………ここですと、ちょっと人目もあるので……少しだけ離れられませんかね?」

 

 いきなり何だ?先程までより真剣な表情をして、声を小さくしてきた。人に聞かれたくない内容なのはすぐに分かった。そして、急を要する話かも知れないこともな。

 

零次「…………久保。少しの間、ここを離れる。時間によっては、このまま召喚大会に直行する。……しっかり、店番としての責務を果たしてもらえるか?」

 

利光「分かったよ、代表。念のため、影山君も呼んでおくよ。」

 

零次「ああ、頼む。」

 

 とにかく、話を聞いてみないと、分からないな。本音を言うなら、これ以上厄介事に首をつっこみたくはないんだがな……。



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小問7-F 不良集団はケーキを切れない

秋希「やれやれ……。中華喫茶って名目だから、着るのは道理だろうとは思っていたけど…………。本当に着ることになるとはね、チャイナ服。」

 

 吉井君達が三回戦から戻ってきてすぐのこと。姫路さん達もAクラスでの休憩から戻り、今後の営業方針を話し合うことになった。

 そこで坂本君から提案されたのが、コレ(チャイナ服での接客)である。正直、安直な発想なのは、本人も承知のうえだ。けれども、これくらいインパクトのあることをしないと、客足が戻ってこないのも事実。

 

 当然、私は二つ返事で承諾。姫路さん、島田さん、根民さんの三人も、吉井君がチャイナ服好きであることが坂本君から(というより本人の自爆により)発覚したことで、承諾に至った。…………秀吉君?万が一木下優子()の耳に入ったら、秀吉君がとんでもないことになることは目に見えているので、私が全力で回避した…………かったけど、その多大なリスクよりも、疎外感が勝った本人の意思により、彼もチャイナ服を着ることになった。

 

秋希「それじゃ、私達はこれから三回戦に行ってくるから。その間店の方は任せたからね、お三方。」

 

瑞希「はい、いってらっしゃい!」

 

美波「ウチらの分も頑張ってきて!」

 

?「お姉ちゃん達、ファイトです!」

 

 ……ついでに、働き手が一人増えた。島田さんの妹、葉月ちゃんだ。小学生に、高校生の祭りの手伝いをさせるのはちょっと気が引けるけど、子供を一人でよく知りもしない場所をうろつかれでもして事件に巻き込まれるくらいなら、島田美波()の目の届くところに置いといた方が断然マシである。……それでも問題が起きた時は、姉の監督不行き届きにも出来るし。

 

 そういう訳で、清涼祭1日目の午後は、客足回復のために私達2-F女性陣+秀吉君が出来ることは2つ。

 1つは、各々休憩時間中にこのチャイナ服を着て学園内を巡って、中華喫茶の宣伝をすること。

 もう1つは、召喚大会で中華喫茶をアピールすること。

 やる内容に差は無いけど、後者に関しては、残りのメンツを見る限り、ほぼほぼ私一人に課せられた使命と言っても過言ではない。『決勝まで勝ち進める実力がある2-Fの女性』。これに当てはまるのは、もう私しかいない。姫路さんと島田さんのペアは二回戦で早々に敗退したし。まあ、私は水面下でもう一つ、2-Fへの集客のために動いている勢力があることは知っているけど……、坂本君達に教えることはしない。

 

秋希「それじゃ、行こうか、秀吉君。勝って、目的を遂行しようか。」

 

秀吉「う、うむ。じゃが、ワシにはあまり期待しないでくれると、嬉しいのう…。」

 

 そんな訳で、しれっと三回戦まで進んでいた秀吉君と共に、召喚大会会場へと向かうのでした。

 ……ちなみに、零次から私のチャイナ服への言及はゼロ。中華喫茶に来て欲しいという要望も、『行く機会があれば』と、来る気がゼロの返答だった。後者の反応はともかく、前者のノーリアクションを見てしまうと、島田さんとどっこいどっこいの自分のスタイルがちょっとだけ悔しく思えてきちゃう…。

 

 

 

・・・

 

 

 

雄二「お、お疲れ、近衛……って、大丈夫か?」

 

秋希「…………ええ。本当に疲れたわ。ちょっと休憩貰っていい?気持ちを鎮めないと、まともに接客もできそうにないわ…。ゴメン……。」

 

 私の三回戦が終わった。正直、今まで戦った中で最も酷い試合だった。……いや、アレを試合と言うべきなの?相手が只々こちらを不快な思いにさせた挙げ句、それに足りる実力を一切見せることもなく退場していったのだけど。

 

雄二「……一応聞くが、宣伝は出来たのか?その様子だと、それどころじゃなかったと、思ってるが……。」

 

 私は深く俯き、首を振ることしか出来なかった。坂本君も、それ以上深入りすることもなかった。

 

秋希「……ところで、私が大会に行っている間に、何かトラブルとかは無かった?」

 

雄二「いや、そんなのは……。」

 

 数秒の沈黙。追いつめられた精神状態の私に気を使っているのだろうか。だけど、話を聞くくらいの余裕はある。坂本君に軽く目を向けると、息を吐いて、真剣な顔つきで話し始めた。

 

雄二「…………強いて言うなら、明久が襲われかけた。」

 

 ……なんかあるだろうとは思ったけど、クラスメイトが襲撃されるなんてことは、流石の私も想定外だ。

 

雄二「どうやら、店で足りなくなった品物を補充しようと、空き教室に行った所を襲われたようだ。幸い、俺が追加で持って来て欲しい物品を伝えに来たから、何とか対処は出来たが……。」

 

秋希「犯人はどうしたの?」

 

雄二「その場で俺が対処したが、逃げられちまった。犯人は男三人。背格好からの推測だが、俺らと同年代。おそらくは、他校の生徒じゃないかと思ってる。明久もその点は同じ考えだ。」

 

 私達と同年代……。だとすると、少々面倒臭い事になりそうね。私達が加入している『チーム』と関わりがありそうだというのは、ほぼ確定するから……。

 

秋希「……そもそも、なんで吉井君が襲われるのよ?私達の知らないところで、恨みでも買った?」

 

雄二「さあな……。売れ行きがよくなったFクラスの妨害でもしに来たんだろ。」

 

秋希「そんな理由で絡んでくるのは、他校じゃなくて3-Aの人達でしょうが。……もしくは、その人達と何かしら繋がりのある人。」

 

 実際、あのクラスの先輩が私達2-Fを下に見ているのは、これまで会った人達の言動を見れば明らかだ。

 

 私達の店の悪評を大声で吹聴するだけに飽き足らず、他の店まで行って同じことを喚き散らかす先輩(夏川・常村)

 碌に相手のことも知らないくせして、所属クラスや他人の情報ばかりを鵜呑みにして、それだけで全てを知ったかのように振る舞う先輩(堀田・金田一)

 己の正義のためなら、言動の矛盾も自分の都合のいいように変える先輩(木地)

 

 他にも学園の生徒や先生の情報は、私のもとに嫌でも入ってくる。それらを加えたら、3-Aの評価なんて、地に落ちたなんてレベルじゃない。

 とにかく、下手人が内部だろうが外部だろうが、どちらにしても警戒のレベルを上げないといけないのは、変わりなさそうね……。

 

円「代表……近衛さん……。あなた達にお客さん。」

 

雄二「俺達に?誰かは知らないが……。根民、通してくれるか?」

 

 ……客?わざわざ私達を指名してくるってことは、普通の客ではないことは簡単に予想がつく。一体誰なのか……。

 

文「あややややややや。もしかして休憩中でした?だとしたら、ある意味ちょうど良かったかもしれません。木地君が君達を連れてきて欲しいそうなので、ちょっと、来てくれません?」

 

 ……なんだろう。さっき危惧した『面倒臭いこと』に首を突っ込まざるを得ない……。そんな予感がする。

 

 

・・・

 

 

 

ガラララ……

 

秋希「……え?零次?」

 

雄二「どうして、お前がここにいるんだ?」

 

 青葉先輩に連れられて来たのは、私達が使用している所とは別の空き教室。そこには、零次と木地先輩が机を挟んで向かい合わせに座っていた。……まるで取り調べでも行なうかのような布陣だ。

 

零次「おそらくはお前たちと同じ理由だ。木地先輩に話があると言われ、用意された席でお前達を待っていた所だ。……もっとも、坂本には関係ないことだとは思うが。」

 

 未だに何が理由で呼ばれたかは分からない。ただ、私と零次と坂本君に共通しそうなものを考えると、なんとなく嫌な想像が出来る。

 とにかく、話を聞くためにも、空いた席に座ることにしよう。零次の左隣に私、右隣には坂本君だ。

 

標示「……さて、まずはそちらにも清涼祭の出し物や、召喚大会などの用事があるにも関わらず、来てくれて感謝致しますよ。幸いなのは……、四回戦からは一般への公開があり、その準備のために、しばらく間が空くことですね。」

 

 現在時刻は 13:05。木地先輩の言う通り、四回戦が始まるのは今から一時間くらい後だ。

 ここから先は、生徒やスポンサー等の来賓だけではなく、祭りにやって来た一般の人にも試合が公開される。加えて試合を盛り上げるためだけに、わざわざ外部からアナウンサーを招集しているなんて話も聞いている。木地先輩の言う『準備』とは、会場の清掃だったり、一般客の整理だったり、そういった諸々の事を指している。

 

標示「……とはいえ、お互い持ち場を長時間離れるのは避けたいところ。ですので、正直に、かつ簡潔にお答えください。」

 

 そう言って、放り投げ気味に机に置かれたのは、三枚の長方形の板状の……分かりやすく言うなら、クレジットカードに非常によく似た物体。そこには西洋の両刃剣と数字の『7』を組み合わせたようなマークと、持ち主と思われる人物の名前や顔写真がプリントされていた。

 

『第七刀[七ツ星]所属 宝根古木(たからねこぎ)

 

『第七刀[七ツ星]所属 永塚尽(えいつかつくす)

 

『第七刀[七ツ星]所属 柚花激(ゆずはなげき)

 

 名前に覚えはないけど、机に放られたカードには覚えがある。吉井君達が襲われたって聞いた時から危惧した通り、面倒な事になることが確定した。

 

雄二「…………ん?こいつら、先程俺達を襲撃してきた連中じゃないか。」

 

零次「何!?それは本当か、坂本!」

 

秋希「……君から先に聞いた時から嫌な予感はしてたけど……、当たって欲しくなかったわよ、本当に。」

 

 零次がここまで動揺するのも珍しい。まあ、普段から感情の起伏が少ないけど、それ以上に零次はトラブルを人一倍嫌う性格だ。そうでなくとも、中学時代から訳の分からない因縁をつけられたり、覚えのない罪で教師に呼び出されたりと、トラブルが多かったからね……。

 

雄二「……で、結局これは何なんだ?」

 

零次「『七天八刀』のメンバーカードだ。先輩、それをどこで手に入れたのですか。」

 

標示「……同じクラスの東堂が襲われた時に、落としていったものですよ。」

 

秋希「………………はい!?」

 

 東堂先輩が襲われた!?坂本君が追い返したって聞いた時はホッとしたけど、実害出ちゃってるじゃない!

 

標示「あ、心配いりません。この三人のうち、この宝根古木という男は東堂の一撃で沈んで、現在取り調べを受けていることでしょう。……残り二人は現在もおそらく逃走中。とっくに学園の外に出ているかもしれませんが。」

 

秋希「そ、そうですか。それは良かった……。いや、私と零次にとっては、全く良くないことだけど。」

 

 ……つまり、この三人は、吉井君を襲撃しようとして、偶然やって来た坂本君に返り討ちにあって、逃げた先で東堂先輩にケンカを売って、またボコボコにされた…………ってことなのかな?同情することはできないけど、あまりにも不運が過ぎるでしょ。

 

標示「私が聞きたいのは、その『七天八刀』についてです。……あなた方の誰が、彼らをここに呼んだのか……。そして、その目的……。正直に答えてもらいましょうか。」

 

 正直に……と言ってもねえ…………。

 

秋希「この人達を呼んだ覚えは無いですね。」

 

零次「近衛に同じく、だ。」

 

雄二「俺に至っては、その『七天八刀』……だったか?そのメンバーでもないしな。」

 

 三者三様、否定の言葉を返すだけ。残念ながら情報が増えることはない。

 

標示「……………………そうですか。『悪鬼羅刹』と呼ばれていた坂本君や、処暑中学出身の双眼君と近衛さんなら、何かしら繋がりがあると踏んでいたのですが……。」

 

 そう言われると、何も繋がりがないわけじゃないけどね。中学の時ほど大きく行動することは無くなったけど、今でも私達は『七天八刀』のメンバーだから。

 

秋希「でも、坂本君に追い返された後で、あまり時間が経たずに東堂先輩に返り討ちにされたことを考えると、彼女が襲われかけたのは、ただの八つ当たりでしょう。」

 

 とはいえ、坂本はともかくとして、東堂先輩まで暴力に巻き込まれたとなれば、どのみち『報告』は必要なんだけどね……。

 『七天八刀』は元々複数の不良グループを吸収・合併を繰り返して出来たもの。そのためか、組織内の抗争には寛容だけど、その分部外者へ危害を加えることに関しては厳しい。相手から攻撃した場合には、ある程度の反撃は認められる。けれど今回みたいに、何の関係もない民間人相手にいきなり暴力をふるえば、当然悪いのはこちら側。警察から目を付けられるだけでなく、『七天八刀』にも迷惑がかかる。……それでも、組織を追放されることがないのは、リーダーなりの温情なのか、逆恨みを危惧した恐怖からなのか……。それは私も知らないけど。

 

標示「そうですかね?まあ、あなた達が何も情報を持ってないのなら、いま東堂の監視下にいる人物から情報を引き出すまでです。出来ればそこから『七天八刀』という巨悪を排除する一手が打てればよいのですが…………。」

 

 なかなかに物騒なことを言うなあ、この先輩は。私達が『七天八刀』の一員だと知って言っているなら

 結局のところ話の進展は見込めず、その場はお開きとなった。

 さて、これから大会までは十分な時間がある。それまでは、しっかり働いて稼ぎを出さないとね!



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小問8(1) 二人の少年の戦い・開戦

雄二「……そろそろ時間か。明久、準備はできてるか?」

 

明久「…………うん。バッチリだよ。」

 

 時計が午後二時くらいを指す頃。召喚大会の四回戦が始まろうとしていた。そのトップバッターが僕達だ。

 

雄二「まさか、姫路達が負けるとはな……。折角、ここでFクラスの中華喫茶を大々的に宣伝できると思ったんだがな……。」

 

 正直、今回の戦いは苦戦を強いられる。なんせ、今回は雄二の作戦や事前の準備が全部パーになっちゃったからだ。

 というのも、四回戦の勝負科目は古典。美波が最も苦手とする教科だ。雄二もこの日のために勉強してきたし、僕も名前の書き忘れだったり、解答欄がズレていたりといったポカをやらかしてさえなければ、実質2対1も同然……だった。

 

 だけど、姫路さん達はまさかの敗北。二人の口から聞かされた時は耳を疑った。

 だって、信じられると思う?相手は先輩とはいえ、所属はFクラスとEクラス。潮村先輩に関しては、αクラスの活動で英語が得意科目だと知っているけど、Aクラスの平均よりちょっと上程度。姫路さん相手では正直勝てるとは思わない。

 だからこそ、近衛さんから試合映像を見せられた時は目を疑ったよ。緑川先輩の点数。一方的な試合展開。そして……、試合の最初から最後まで姫路さん達に浴びせかけられる暴言の数々。見れば見るほど、ただただ辛い映像だった。

 

 そんな先輩が、僕らの四回戦の相手だ。今回ばかりは何があっても絶対に負けたくないし、負けられない。

 

雄二「……明久、お前の気持ちもわかるが、緊張しすぎだ。あの映像を見た限りだと、『シン』と呼ばれていた方の先輩は、相手の心の隙に付け込む戦い方をするようだ。そんなガチガチだと、真っ先に狙われるぞ。もう少し、リラックスしろ。」

 

 そう雄二に言われて、ゆっくりと深呼吸する。……うん、少し落ち着いたかな?だけど、雄二が僕のことを気遣うなんて……、明日雨が降らなきゃいいんだけど。

 

『それでは四回戦を始めたいと思います。出場者は前へどうぞ。』

 

 審判の先生に呼ばれ、僕たちはステージを上がる。三回戦までは学園生だけで、まばらだった観客席の様子も、来客用に増設された席までほぼ満席といった状態になっていた。

 対する相手側はというと……。

 

罪「へぇ、次の相手はまたFクラスのコンビ?しかも一人は『観察処分者』だっけ?わざわざ戦わなくても、結果は分かりきってるのにさぁ。やる必要ある?」

 

渚「……確かに僕達の勝率はほぼ100%だよ。でも、それは相手が無策で挑んできた場合の話。この大会に出た以上、そしてここまで勝ち上がってきた以上……。」

 

罪「何かしら策があるだろう、って?ハハハ、無い無い(笑)。二回戦で無様な負け姿を曝した『あの二人』と同じクラスの連中に、そんなこと考える脳味噌なんてあるわけないじゃんか(笑)。」

 

 うわあ、あからさまに僕達のことを見下しているなぁ……。

 

雄二「よう、センパイ方。二回戦はウチのクラスが世話になったな。」

 

罪「……何のことかな?俺さ、敗けた相手のことなんて一々記憶してないんだよねぇ(笑)。」

 

明久「……!!」

 

 思わず殴りかかろうになったところを、雄二に抑えられた。さすが雄二だ。この程度の挑発は慣れているのだろう。

 

雄二「……惚けるなよ。姫路達を終始笑い者にして、一方的に蹂躙する試合をしておいて、『忘れた』なんて言わせねぇぞ?」

 

 ……いや違う。よく見ると雄二も、手は震えているし、相手を睨みつける目も普段よりギラついているような気がする。少なからず頭にきているのは僕と同じなんだ。

 

渚「あ、あの。シン君が失礼な態度を取ったみたいで……。そ、その、ごめんなさい。」

 

明久「え、あの、潮村先輩が謝る必要はないですよ!」

 

罪「そうそう、俺の問題をわざわざ君が肩代わりする必要ないって。……まあ、コイツら相手に下げてやる頭なんてないけど(笑)。」

 

 ……この先輩、味方であるはずの潮村先輩すらも下に見ているのか……!?

 

『四人とも、そろそろ良いですか?』

 

 その様子を見かねてか、先生は苦笑いをしていた。

 

明久「あ、はい。それじゃあ……。」

 

「「「試獣召喚≪サモン≫!」」」

 

 僕ら四人の声に反応して、それぞれの足元に魔法陣が形成される。

 この様子だけでも、観客席から小さな歓声があがる。確か3ーCで召喚システムを利用した出し物をしているって、耳に挟んだことはあるけど、この試合から見始めた人にしてみれば、これだけでも十分物珍しい光景なのだろう。

 そして、本命である召喚獣の姿が現れる。僕らは何度も見慣れている、デフォルメされた愛嬌たっぷりの見た目だ。その姿が特設された大型のディスプレイに一人一人映されるたび、あちこちからさらに女子と思われる黄色い歓声があがっている。

 

『それでは、四回戦を……。』

 

雄二「ちょっと待ってください。すいませんが、少しマイクを貸してください。」

 

 審判の先生が開始宣言をしようとしたところで、雄二がそれを止める。そして、先生の返事が返る前にマイクを…………!

 

明久「雄二、危ない!!」

 

スコーンッ!

 

雄二「おい、明久。いきなりどうした…………って、なるほど、そういうことか。」

 

 あ、危なかった……。もう少し判断が遅かったら、雄二がいきなり退場することになってたよ……。

 そう思いながら、雄二と同じ場所を見つめる。そこにはさっき僕が間一髪で弾き飛ばした投げナイフが落ちていた。

 

罪「あーらら。防がれちゃったかぁ(笑)。」

 

 そして、ナイフを飛ばしてきた当の本人は、あっけらかんとしていた。

 

雄二「そういや、そうだったな。そうやって、島田を倒してたっけな、先輩は。大衆の面前で随分卑怯な手を使うじゃねぇか……!」

 

罪「何を言うのさ。敵が目の前にいる。戦いの舞台は整った。それなのに、目の前の敵以外に意識を向けている都合のいい『的』があるんだから、狙わない方がおかしいじゃないか。」

 

渚「……シン君に全面的に同意するつもりはないけど……。宣言するよ。『この勝負、一番最初に油断した人が負ける』って。どちらにしても、言いたいことがあるなら、僕らに勝ってから言いなよ。」

 

 こうして、僕達の負けられない戦いが、今幕を開けた。



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小問8(2) 少女たちの戦い 

~前書きRADIO~
秋希「どうも~、近衛秋希で~す。相変わらず不定期更新が続いて、すみませんね……。今回は吉井君達の戦いの裏で起こったもう一つの戦いの話よ。……それと一応、宣言しておこうかしら。次話の投稿は6月10日を予定しているわ。なるべく月一回投稿のペースに戻せるよう、努力する……ともね。それじゃあ、本編始まり始まり~。」


 これは、吉井君達が大会会場に向かったほんの少し後のこと。

 

美波「ちょっと!どこに連れていくのよ!」

 

瑞希「近衛さん!離してください!」

 

 そう喚く彼女達の声を無視して、二人を空き教室の方へ引っ張っていく。

 ほんの数時間前に吉井君が襲われかけた所へ連れていくのは、少々後ろめたいけど、出入口は一つしかないのだから、私一人でも何とか対処することは出来る。

 

秋希「……さて、お二人さん?さっさと教室に戻るか、吉井君達の応援に行きたいというなら、あなた達の考えを聞かせてもらいましょうか。」

 

瑞希「……?何の話ですか?」

 

秋希「ああ、そうね……。いきなりこんなこと言われても、自分がどんな理由で怒られているか、分からないか。いや、ねぇ。私達も進級して一ヶ月。Fクラスになって。坂本君の指揮の下、いきなりいろんなクラスに勝負を吹っ掛けて。…………無謀にもAクラスにまで挑戦して、学習環境が悪化しちゃって。」

 

 この一ヶ月で起きたことを一つ一つ思い浮かべる。正直、私にとっては、試召戦争関連のもの以外はロクな思い出がないけど。

 

秋希「だから、さ。そろそろハッキリさせておきたいの、色々とね。そのためにも、君たちにはいくつか質問をさせてもらうけど……。正直に答えてくれるかしら?」

 

 私に気圧されて頷く二人……。でも、私にはなんとなく分かる。二人は『噓は吐かない』だろうけど、『本当のことも話さない』って。

 

秋希「じゃあ、いきなり核心を突く訳だけど……。あなた達って、吉井君のことが好きなの?」

 

瑞希「ふえぇっ!?え、えっと、よ、吉井君のことは……その……///」

 

美波「べ、別に、『アキ』のことは……好きって……訳じゃ……///」

 

 吉井君の名前を出しただけで、この反応。二人が彼を好意的に見ているのは確定だ。にしても『アキ』ねぇ……。その呼び方は私の名前と被ってるんだけど。まあ、島田さんは私のこと『近衛さん』とか『近衛』って呼ぶから、ややこしくはならないけど……。

 

瑞希「……………………そうです……。好きですよ、吉井君のことが。」

 

美波「み、瑞希…………?」

 

 先にカミングアウトしたのは姫路さんだ。これはまあ、想定の範囲内。彼女の方が自分の気持ちに素直だから、島田さんより先に心に秘めた思いを打ち明けてくれるだろうと、思っていた。

 

美波「そうね…………。ごめん近衛、ウソついて。ウチも、本当はアキのことが好き。去年の頃から……ずっと…………。」

 

秋希「………………なるほど、ね。」

 

 ……島田さんの口からも、やっと聞けた。なんだかんだで、はぐらかされるかと思ってたけど、姫路さんだけでなく、それに触発される形で島田さんも胸の内を明かしてくれるとは。本人達なりに『覚悟』を決めたのでしょうね。二人の言葉に『嘘』はない。

 

秋希「それじゃ、次の質問。……………………()()()()()()()()()()?」

 

 ま、それを『信じる』かは、また別の問題だけどね?

 

美波「ちょっと!何よ、その質問!?」

 

瑞希「私達は何も噓を吐いてないです!」

 

秋希「私『達』、ねえ……姫路さん。自分が噓を吐いていないって、主張するのは百歩譲って理解できるわ。でも、島田さんが噓を吐いていないって、主張できる根拠は何なの?」

 

 気の知れた友人だろうが、寝食を共にしてきた家族だろうが、身も蓋もない言い方をすれば、結局のところ『他人』以外の何者でもない。

 それなのに、自分と吉井君に向ける思いが同じという、ただそれだけのことで、まるで『自分』を重ね合わせるように島田さんの代弁をする、姫路さんの言い分が気に食わない。

 

秋希「それに、今日一日のことだけでもいいから、自分達の行動を振り返ってみなさいよ。自分に都合のいい解答を求めて『彼』を問い質して詰め寄る。坂本(親友)の冗談を信じて『彼』に謂れのない属性を付与する。子供()の戯言を真に受けて『彼』を傷つけようとする。……そんなことをする人間が、その人のことを好きだと言って、誰が信じるのかしら?」

 

 ついでに言えば、どれもこれも自分の感情任せか、他人の言い分を鵜吞みにしているだけ。本人の言葉を聞き入れる素振りも全くなかった。

 

秋希「ま、あなた達の今の言葉が『噓』なのか、今までの行動が『噓』なのか……。どっちにしてもあなた達の言葉と態度、2つの辻褄が合わないことに変わりないわ。…………さて、一体どっちがあなた達の『本心』で、どっちが『噓』なのかねぇ……。」

 

 『好き』だと口では言うのに、その行動はどう見ても『好意』を寄せる人のソレに見えない。そこが私が引っかかる部分だ。

 

美波「そ、そんなの……!」

 

瑞希「美波ちゃん、今迂闊に答えるのは良くないです。確証はないですけど……、私達が何か言えば言うほどこっちが不利になる気がします。」

 

 島田さんが何か言いかけたけど、何かを察したのか寸前で姫路さんに止められた。そりゃあ、そうよね。

 『言葉』を嘘にしたら、仮に二人が吉井君に告白したところで、信じてもらえなくなる。

 『行動』を嘘にすれば、本音を隠して他人に暴力を振るうことを正当化することになる。

 どちらにしても、二人の立場が悪くなるのは、確実だ。

 

秋希「……まあ、いいわ。これは警告よ。もしあなた達が今の態度を改める気がないのなら……、今以上の危害を吉井君に加えようとするのなら…………。私はあなた達を消し去るようなことを何の躊躇いもなく出来るわ。社会的な意味でも、物理的な意味でも、ね。」

 

 零次にも負けずとも劣らない圧を放ち、話を締めに入る。一応、休憩と言う体で秀吉君から時間を貰っている。正規の接客班が彼しかいない以上、あんまり店を開けておけない。

 

秋希「……言っておくけど、私は別に吉井君に恋愛的感情は持ち合わせていないから。ただ、学園の環境を良くするために、自分が手を付けられる部分だけでも手を加えておきたかった。そのうえで、吉井君(観察処分者)の存在が都合がよかっただけ。」

 

瑞希「そ、そんな理由で…………。」

 

秋希「そう。それだけよ、理由なんて。環境を変われば、人の成りも変わってくる。そして人が変われば、それに応じて環境も変化する。この堂々巡りだったら、自分達人間が、環境を良くするために動くのが最善。そして、零次が既存の環境を『上』に立って破壊するなら、私は『下』にいる存在を引き上げることで変えてやるわ。」

 

 『バカの代名詞』という分かりやすい侮蔑の対象である『観察処分者』。

 それに学園で初めて選ばれてしまった吉井君の成績が良くなれば、『観察処分者より下位に落ちるのは嫌だ』と思う集団は、今以上に勉強を怠れなくなるはず。……もし、これで吉井君の妨害に走ろうとする奴がいたら……その時はもう、この学園は終わりだ。

 

秋希「……二つ目の警告。これは他のFクラスの連中にも言えることだけど、いつまでも『観察処分者』が下にいるから自分はまだマシだ、なんて思わない方がいいわよ。吉井君は私達の『想定通り』に成長を遂げて(点数が上がって)いる。来年には学年トップ……は流石に無理だけど、Aクラスに入れる見込みはつくでしょうね。」

 

美波「……あのバカがAクラスに入れる訳ないじゃないの。」

 

秋希「そう思っているなら、今まで通り自分の主張を押し付け続けてればいいわ。……だけど、好意を持たない私が『出来る』と信じて、好意を寄せているあなた達が『不可能だ』と否定する。この状況を…………周りはどう思うのかしらね。」

 

 とにかく、私はもう、二人のことは信用できなくなってきている。姫路さんはFクラスの雰囲気に染まりつつあるし、島田さんはツンデレの一面があるけど吉井君へ向ける言動は、それで済ませられるレベルを越えている。

 

 私のとれる行動は二つ。彼女たちを更正できる余地があると『信じ続ける』か、どれだけ言っても無駄だと『見捨てる』か、果たしてどちらに転がるべきか……。二人の今後を憂いながら、私は空き教室をさっさと後にするのだった。



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小問8(3) 二人の少年の戦い・戦闘

[フィールド:古典]

2-F 坂本雄二・・・211点

 

2-F 吉井明久・・・69点

 

VS

 

3-F 緑川罪 ・・・375点

 

3-E 潮村渚 ・・・64点

 

 

 

罪「あらら、今回は調子悪かったみたいだ。運だけはよろしいようで、お二人さん(笑)。」

 

雄二「はっ、そんなこと微塵も…思ってない癖に。」

 

罪「いやいや、調子が悪かったのは事実さ。元々国語とか古典とかは苦手な方でね。だけど、この学園のレベルなら、400点くらい常にとれるようじゃなきゃ、僕の望む『モノ』は得られないからねぇ!」

 

 緑川先輩の不意打ちから幕を開けた四回戦。その後の試合は、最初のいざこざが無かったかのような、普段の試召戦争と変わらない展開になった。

 とはいえ、緑川先輩の点数が姫路さんに匹敵するくらい高いのはちょっと気がかりだ。なんでこんな先輩がFクラスに……って思ったけど、僕のクラスも姫路さんや近衛さんがいるからなぁ……。姫路さんみたいに途中で退席しちゃったのか、近衛さんみたいに望んでFクラスに行ったのか……。どちらにしても、他のクラスに文句は言えないや。

 

明久「……潮村先輩。どうして、あんな先輩と一緒に大会に参加してるんですか?」

 

 それよりも、潮村先輩のことが気になる。あんな外道の極みみたいな振舞いをする緑川先輩と一緒になっているなんて、まともな手段で組んでいるが全くしない。

 

渚「……君達と同じだよ。シン君は僕の友達だから。……ただ、向こうがそんなこと、欠片も思ってないことは、重々承知している。君の学友を傷つける行為を見て見ぬふりしてたことも……。」

 

 そう話している間も、雄二が戦っている方向からクナイの様なものがこっちに飛んできている。

 

渚「それでも、僕がシン君を見捨てるわけにはいかない…!シン君は先生達を信用していない…。からも恨みを買っている…。僕までシン君を見捨ててしまったら、シン君は独りになってしまう……。誰かが……。そう、誰かがシン君を受け止めてあげないといけないんだ!」

 

 なんて気迫だ…!αクラスで一緒に勉強している時は、いつも何かに怯えるような、物腰の低い先輩という印象しかなかった。相方の先輩のためなのか、勝負ごとになると性格が変わる人なのか、そこまでは分からないけど、こっちだって負けられないんだ。

 けれど、何度か木刀を叩きつけても、その度にサバイバルナイフで的確に防がれる。おかしいな……。近衛さんからは、『僕より召喚獣の扱いに秀でる者はいない』ってAクラスとの戦いの前に言われたけど、それって僕ら2年の中だけの話で、先輩相手だとそうでもなかったのかな…?

 

渚「もしかして……疑問に思ってる?僕と君の実力が同じくらいってことに。」

 

明久「え……!?」

 

渚「顔に出てるよ。……でも、今このカラクリを教えることはできないよ。僕にとっても、君にとっても、大事な試合だ。……ここから先は、無駄話一切なしで行かせてもらうよ!」

 

 その言葉と同時に三度、ナイフが振られる。けど、潮村先輩も認めた通り、僕と先輩の実力はほとんど同じ。だとしたら、潮村先輩に出来て、僕に出来ないことがある訳がない!

 

ガッ ガガッ

 

渚「……やっぱり、対応できるよね……。だけど、それでも負けるわけにはいかないんだ!」

 

 ……よし!何とか対応できた。

 

 それから数分後。

 

[フィールド:古典]

2-F 坂本雄二・・・211点→戦死

 

2-F 吉井明久・・・69点→53点

 

VS

 

3-F 緑川罪 ・・・375点→140点

 

3-E 潮村渚 ・・・64点→戦死

 

 なんとか潮村先輩は倒せた。その代わり雄二もやられちゃったけど……後は緑川先輩だ。点数差は約3倍…。Bクラスとの戦いで既に経験している!この勝負、希望が見えてきた…かな?

 

罪「あーらら。やられちゃったの?数学と英語以外は相変わらずポンコツだねぇ。」

 

渚「……ごめん。吉井君を止めきれなかった。」

 

罪「大丈夫大丈夫。君がいなくなっても、僕ならここから巻き返せるからね。」

 

雄二「思っているより削れなかったな……。けど明久なら問題ない。コイツの大事な大事なお姫様を泣かせたんだ。」

 

 なんか、雄二がおかしなことを言っているけど、今はそんなことを気にしてもいられない。ここからが正念場だ。

 

罪「へえ……。この状況でも諦めないって言うのかい?なら、奥の手を切らせてもらうよ。」

 

 そう言うと、先輩は召喚獣を、自らの方へと走らせた。走らせて……先輩をすり抜けて……後ろの方へ隠れた?

 

罪「フフフ……君が相手だからこそ、できる戦い方があるのさ。……例えばこういう風にね!」

 

ヒュヒュヒュッ

 

明久「う、うおおお!?」

 

 この先輩、本来召喚獣が現実に干渉しないのをいいことに、自分の体を目隠しにして投げナイフが大量に飛ばしてきてる!それにしても、潮村先輩と戦っていた時から思っていたけど、この人の召喚獣はどこにこんな大量の武器を抱えているんだ!?全然弾切れする様子がみれないんだけど!

 

罪「……ふう。いくら馬鹿でクズな劣等生相手とはいえ、流石にこれだけ戦っていると、疲れてくるねぇ…。ちょっと休憩休憩…。」

 

 と、思っていたら、いきなり攻撃が止んだ?しかも、どこからか水筒を取り出し、トクトクと水を注いでいる。正直、訳が分からない……。でも反撃に転じるなら今がチャンスだ!

 

明久「いけっ!」

 

 僕の召喚獣は先輩と違って、物理干渉能力がある。だから、壁となっている先輩を迂回することになるけど、今先輩の意識は謎の水筒の方に向いている。倒せるとは思わないけど、一撃くらいは…………。

 

罪「フフ…。お~っとぉ~、手ぇ~が滑っちゃったぁ~(笑)。」

 

 と、いきなり会場に木霊する嘲笑う声。それから召喚獣に降りかかる水筒の液体。そして、僕の身体に突如襲い掛かる、焼き付くような激しい痛み…………!

 

明久「ぐ、ああああああああああああああああああああああ!」

 

雄二「あ、明久!?」

 

 なんだコレ!?水じゃ……ない……!?

 

罪「アレ?アレ?アレレレレレ~?なぁ~んで、君が痛がっているのさぁ~www。」

 

 しかも、さらに水筒の残りも全部召喚獣に降り注いでいく……。それに応じて体の痛みも、どんどん深くなっていく……。もう立ち上がる

 

罪「そうかそうかぁ。君は『観察処分者』だっけなぁ~www。召喚獣が受けたダメージの何割かを自分も受けることになるんだっけねぇ~www。」

 

雄二「おい…先輩…まさか…!」

 

罪「ハハハハハハハハハハハ!これが君達に……いや、『観察処分者』のクズ相手に用意した秘策だ!対人同士での加害行為は、試召戦争のルールで禁止されている!でも、人が召喚獣をボコボコにしても何も問題ない!」

 

 そう言いながら、さらに執拗に召喚獣を踏みつけていく。踏まれ蹴られから来る激しい痛みが、謎の液体を召喚獣にかけられた時の焼けるような痛みに重なって襲ってくる。

 

 

 

[フィールド:古典]

2-F 坂本雄二・・・戦死

 

2-F 吉井明久・・・53点→52点

 

VS

 

3-F 緑川罪 ・・・140点

 

3-E 潮村渚 ・・・戦死

 

 

 

罪「さらにぃ!人が与えた攻撃だと、点数もなかなか減らないんだよねぇ!だから、こうやってぇ!サンドバックにすることも可能なんですよぉ!」

 

 ダメだ……。もう……意識が……。折角…ここまで来たのに……。こんな奴に……ボコボコに……されて…終わるなんて……。

 

「や…やめなさい!緑川君!これ以上は反則行為として、失格処分にしますよ!」

 

罪「…………。」

 

 今…先生の声が…聞こえた……?よかった、流石に先生にまで言われれば、先輩も踏み止まるはず……。ようやく…この……地獄から開放され……。

 

ガァンッ!

 

明久「ゴヘアッ!」

 

 先輩…!ついに、水筒まで投げつけてきた…!

 

罪「やめる…?反則…?なぁに言っているんです?話を聞いてましたぁ!?人が召喚獣を痛めつけたところで違反にはならないんですよぉ!所詮、召喚獣は立体映像!踏もうが蹴ろうが、召喚者本人は痛くも痒くもない!……この現実に干渉できる唯一の召喚獣を持つ、そこで死にかけている『観察処分者』は別だけどねぇ!」

 

 そうだ……!西村先生(鉄人)も言ってたけど、僕は試験召喚システム導入以降、文月学園史上初で唯一の『観察処分者』…。召喚獣を痛めつけられて、苦しい思いをするのは僕だけ。先生も物に触れる召喚獣を使えるみたいだけど、フィードバックの割合は僕と比べると、あからさまに低い。つまりこの先輩……。最初から僕とまともに戦う気なんて無かったんだ……!

 

罪「それに……、私は今まで教師(自分達)がやってきたことと同じことをしているだけですがあ!?それを『反則だ』と糾弾するのは、今まで教師(貴方達)が行ってきたことを棚に上げてません?貴方達が普段、彼にしていることを見てきたからこそ、この作戦を思いついたのですよぉ!」

 

「んな…!」

 

罪「それとも、『教師(自分達)がやるのは愛の鞭。生徒(俺達)がやるのはただのイジメ。』ですかぁ?…まあ何だっていいけど。ここまで衰弱させれば、召喚獣からの一撃を貰うだけで………ここから先は言わなくても想像できるよね?」

 

 まさか……噓だろ……!いくらここまで非道な行いを繰り返してきた先輩でも、『ソレ』をやったら、一線を越えてしまう…!

 

雄二「や……やめろ!ここまで明久を痛めつけることに何の意味があるんだ!」

 

罪「召喚獣を失って何もできない負け犬は黙って見ていろよ!それに意味ならある!俺の望む『モノ』が学園の底辺一人を生贄に手に入れることができる!それを止めたければ止めればいいさ!俺に手を出した時点で、お前達は反則負けになるけどねぇ!」

 

 この先輩……どこまで狂っているんだ……。DクラスやBクラスに宣戦布告に行った時のことが、よっぽどマシに思えるなんて……。

 

罪「さあ……。くたばれ、吉井明久ァ!」

 

 

ドゴッ

 

 

 

罪「ゴ…ガハッ…。どういう……つもりだよ……渚……。」

 

渚「これ以上は止めよう、シン君。」

 

 な、何がどうなってるか分からないけど……。とりあえず、助かった…………?

 

罪「何……言ってるんだよ……。」

 

渚「僕達の悲願は『大会優勝』じゃなかったの!?こんな所で後輩を痛めつけて……。『賞品を手に入れて学園に恩を売る』って、僕に言っていたのは、嘘なの!?」

 

罪「……ああ、その話……かい?それは例えばの話だったろ……。…………学園に人生を……滅茶苦茶にされた、この僕が……そんなこと……本気で……思うわけないだろ……!!」

 

 ……何の話だ?学園に人生を滅茶苦茶にされた……?この先輩に……一体何があったって言うのさ……。

 

罪「目的が……早くに達成できるなら……さっさと片付けて……次の準備をするのは…………ごく自然の行動だろう……?そして、君がやるべきことは……『友達』として、僕のサポートをすることだろ……!」

 

渚「……それは違うよ、シン君。僕は君の力になりたい…。僕に出来ることは全力で成し遂げて見せる…。そこに噓は何一つないし、今日のように大会のパートナーを頼まれて参加したのも、その一つだ。だけど、もし君が狂気に呑まれて、人としての『心』が無くなりつつあるなら…、僕は全力で君を引き戻す。それが…僕の『友達』としての在り方だ!」

 

 潮村先輩の…言葉に……もう一人の先輩は俯きながらも…、会場を走り去っていった。

 

渚「……そういう訳なので先生、僕達は棄権します。……坂本君……ですよね?これから時間…ありますか?」

 

 とにかく……僕達の…………勝ち………………なのか……。

 先生の宣言を聞いて、それを確信してから僕は……………………意識を手放した。



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小問9(1) 裏で動く者の語らい

〜前書きRADIO~
零次「またまた久しぶりだな。双眼零次だ。結局、月一投稿に戻るのは、もうしばらく先になりそうだな…。今回の話はタイトル通り、裏で暗躍している者達の話だ。彼等が表舞台に出てくるのは、まだまだ先になるが…。一応、今後の話の流れを決めるためにも書いている。それでは、本編を楽しんでくれ…………。」


 第四回戦 第一試合 終了直後。

 

 学園のとある部屋。そこには、先程の試合の一部始終を端末越しに見ていた人影があった。

 

?1「あららら……。やってくれちゃったね……。このままじゃあ、文月学園は終わりじゃないですか?」

 

?2「…………そうですね。これだけの観衆の前で一人の生徒を意識不明にまで追いやったのです。説明責任は免れないでしょうね。……どうやら彼の学園に対する恨みは、私が思うよりも深く、大きいものだったようです。」

 

 そう言って一つの『影』は困り果てたように、目頭を抑える。 

 

?1「……どうします?『彼女』に頼りますか?」

 

?2「そうしたいのは山々ですが……。『彼女』の能力を利用するということは、緑川君を『消去』する必要があるのでしょう?彼にはまだ利用価値があります。それに、都合が悪くなったからと言って逃げに走る、あなたのその姿勢を、私は称賛しませんよ。世の中には、自分の利益になることばかりを享受して、害になることは周りに責任を転嫁する人もいるようですが……。成功も失敗も、両方を経験しなければ、人としての本当の成長はあり得ませんよ。」

 

?1「…………なるほど、身に染みる言葉です。しかし、残念ながらあなたの説教も『彼女』にとっては馬の耳に念仏でしたね。」

 

 そう言って、見せた端末の画面には、『彼女』なる存在が既に動いた後であることを示すメッセージが表示されていた。

 

(?) 十勝スカ(?????) 国と烏ん(???????) 恣意子泣き(?????) 瀬すら帰す地も(???????)

(???) 措置宮可(???'?) 都から瀬(????) 角煮と(????) 瀬すら帰す地も(???????)

 

?2「なるほど…。初めから私に選択の権限は無いということですか。」

 

?1「まあ、安心してくださいよ。緑川君……でしたか?彼が『消去』されることは無いですから。そもそも、毎回毎回そんな手法を使うのは合理的でないことくらい、『彼女』も理解していますしね。」

 

?2「……それならば、まあ、良しとしましょう…。それでも、『彼女』の行動は理解できませんがね。……ところで、『彼女』の存在は試験召喚システムに最初からあったのですか?」

 

?1「……………………ええ。それがどうかしました?」

 

?2「……今までも、学園の生徒が問題を起こすことが多々あったというのに、その時は『彼女』が何かしら行動したらしき形跡は何も見当たらなかったのですよ。それが今になって活動的になっているのが不思議でしたので…。」

 

?1「まあ、流石に『彼女』の堪忍袋の緒が切れたのでしょう。システム導入から四年経って、どんどん学園内の風紀が悪くなってきているでしょう?去年なんかは特に酷かったと、裏で報告を受けてますよ?……証拠が手元に無いので、こちらからは特に何もしませんが。」

 

?2「…………本当にそれだけか、非常に疑わしいのですが……。まあ、いいでしょう。私は、これから緑川君の所に向かうとしましょう。本当に無事か、この目で確かめておかないといけませんからね…。」

 

?1「そうですか。では、話の続きは、またの機会にでも。…………■■先生。」

 

 そう言って、一つの影が部屋から出ていったのであった。

 

?1「…………しかし、相変わらず言語がおかしいことになってますねぇ……。どれだけ『デバッグ』や『学習』を重ねても治る様子がないということは……。『彼女』の茶目っ気だと……信じたいですねぇ……。」

 

瀬すら帰す地も(???????) 空も競り開始(???????)

 

 

 

・・・

 

 

 

 同時刻。

 

 

罪「クソッ!クソッ!クソッ!」

 

 俺の苛立ちを表すように歩く靴音が辺りに響き渡る。

 

 俺の計画は完璧だったはずだ。渚と『観察処分者』の相方の召喚獣が不自然に戦死しないよう立ち回り、俺と『観察処分者』との勝負になったら、隙を見て『とある細工』が施された水をぶっかける。これを浴びた召喚獣は四肢の機能が通常の1%程まで鈍くなる仕組みが組み込まれている。そうして弱った召喚獣を介して『観察処分者』を痛めつけ、最後に大きい一撃を与えることで、過剰なダメージのフィードバックにより、『観察処分者』に重傷を負わせる。

 その一部始終を大衆に見せることで、この学園に蔓延るいじめの現状を伝えられるし、彼らを利用してこの学園を潰せると、俺は考えた。

 聞いた話だと『観察処分者』は現在一人暮らし。家族の中での扱いも良くはないらしいが、流石に自分の子供がこれだけの被害に遭えば、親は学園を問題視せざるを得ないはずだ。

 この学園に投資している、スポンサーの重役とかが見てくれていれば、なおの事良かったけど……、いなくともインターネットが世界中に張り巡らされ、ある意味インターネットに支配されたこの時代だ。いずれ上の人間の耳にもこの惨状は入る。情報規制する権力(ちから)はこの学園にはないし、あったところで人の手が加わる以上、100%完璧に止めることなど不可能だ。

 

罪「クソッ……渚…どうして、アイツは邪魔をした…!今まで俺のやることを強引に妨害することはなかっただろ…!」

 

 だけど、その作戦の仕上げにかかるところで、相方である渚に止められた。腹を殴られる形で。

 今まで俺が喧嘩をしようが、他人に罵詈雑言を浴びせようが、アイツは言葉で諌めるだけで、直接手を出してくることはなかった。

 

罪「強い者が弱い奴を掌握し、嘲笑うのが、この学園の本当の姿だろうが……!数学が俺より…いや、誰よりも博識だからって、それで自分が『強者』になったつもりかよ…、潮村渚ァ……!」

 

 思えば、俺のクラスの代表も、俺と似た事情でFクラスに堕とされた二人も、俺に対して反抗的な態度を見せてたな…。どうして俺の周りには、学園の風潮に逆らう奴しかいないんだ……!俺と似たようなことをしている奴なんて、探せば他にいくらでもいるだろう…!ソイツらには怯え、縮こまるクセに、『歳上』のはずの俺には食って掛かる。まるで、奴らに反発できない鬱憤を晴らすかのように。

 

 それからも、しばらく叫び続けた。逃げている最中、見つかる訳にはいかなくても、積もり積もった怒りを発散せずにはいられなかった。

 

罪「ハァ…ハァ………、フゥ……。」

 

 苛立ちが落ち着いて、辿り着いた先は部室棟の一部屋。使用している部活動の名前が書かれたプレートや、それに類するものが見当たらないところから、空き部屋だろうと思った。…まあ、扉を開けたら案の定、空っぽの棚に、埃を被った長机と、全然手が付けられていないのが、バカでも見て分かる様だった。

 

罪「…さてと、これからどうするかねぇ……。戻るにしたって、途中で先生に捕まるだろうしなぁ……。」

 

 仮に先生に見つからなかったとしても、今頃さっきの試合で起きた出来事は祭りに参加している一般の客に知れ渡っているだろう。腕に自慢のある人が犯人確保を名乗り出る可能性も考慮すると、校舎の方には、まず戻れないだろう。

 

「…………シン?そこにいるのか?」

 

 そんなことを考えていたら、何者かの声が聞こえてきた。もう、ここまで捜索の範囲を広げてきたか……。

 そう思ったが、壁から覗き込んできた顔を見て、ひとまず安堵した。

 

罪「おじさん…おばさん…。来てたんだ……。」

 

「当たり前だろう?シンの晴れ姿をみたいというのは、親として当然のことじゃないか。」

 

「それにしても、大変なことになっておるのぉ…。お前さんがその身を挺して学園を良くするために動いているというのに…。その邪魔をするとは……。」

 

罪「…僕でも分かっているさ。今回はちょっとやりすぎた。だけど、アレくらい目に見える形で、この学園が一人の生徒に対してのイジメを半ば容認していることを示さないと、誰も動かないと思ったのも事実さ。」

 

 一人の生徒がを気を失うレベルまで痛めつけたんだ。もうこれ以上大会を続けるのは不可能だろう。もし、強引に続けるつもりなら、それこそ学園の人間の正気を疑うね。

 

罪「何なら、二人が一部始終を動画に収めたのを匿名でネットにバラ撒いてくれても良かったんだけど。俺の晴れ姿を見たいっていうくらいだから、撮ってるんでしょ?」

 

「もちろんさ。それなら、今その動画を送るよ。私らには、マスコミの知り合いなんていないし、ネットのことは、シンの方が詳しいだろう?」

 

 …………ヨシ。これでこの学園は本格的に終わりだ。目の前にいる二人には大分世話になってきたけど、元々『本当の親子』ではないんだ。正直、未練も後悔も…、何もない。俺を見守ってくれた恩はあるけど、それももう少しで終わりをむかえる。

 

罪「…………あれ?何だこれ。」

 

 ……はずだった。

 

「どうしたんだい?大会の映像って、それで合っているだろう。」

 

罪「ああ……、間違ってない。間違いなく、さっきの試合だ。けど……なんで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 貰った動画には確かに先程の試合が映っていた。対戦相手も相方も科目も点数も何一つ俺の記憶と変わりない。

 違うのは試合の展開だけ。『映像の中の俺』は、『観察処分者』とその相方(名前は忘れた)を一人で相手にしていた。先にその相方を処理し、『記憶の中の俺』と同じ方法で、『観察処分者』を弱らせていた。だけど、そこから痛めつけようとした瞬間、ずっと後ろで待機していた渚が俺の召喚獣の首をはねて、決着となっていた。

 これじゃあ、『いきなり苦しみだした観察処分者』という不可解な絵面ができただけで、学園からしてみれば何の痛手にもならない……!

 

?「あら?こんなところにいましたのね。そして…………貴方達が深海秀彦(ふかみひでひこ)深海習恵(ふかみならえ)ね?『役者』が全員揃っているのは好都合ですわ。」

 

「だ、誰じゃ!?」

 

 俺が記憶と映像の矛盾に頭を悩ませていると、ドアの開ききったこの部屋に新たな来客が現れた。

 現れたのは、ゴシックロリータ風の衣装を身に纏った女性だ。首元のネックレスをはじめ、腕や指に付けた装飾品から高貴な雰囲気が醸し出されている。それに対して、黒を基調としてなお目立つほど、あちこちが赤黒く変色した衣装からは、潜り抜けた戦場の数と、洗浄しきれない程深く染みついた血生臭さが感じ取れる。

 

 その身は高貴でありながら、隠しきれない狂気も持ち合わせている。敵か味方か問われれば、誰がどう贔屓目に見ても、敵側・悪役がしっくりくるのだが、その女を俺は知っている。

 

?「失礼しましたわ。(わたくし)はこういう者ですの。平たく言えば、緑川罪君の学外のご友人ですわ。」

 

 

『第漆天[紫頂星]所属 七天八刀 副団長 九条院(くじょういん)(ひとえ)

 

 

 七天八刀。この文月学園がある市内全土を主に活動拠点とする不良集団の名前だ。そのナンバー2にして、経理のリーダーを務めているのが、今目の前にいる九条院だ。

 

単「緑川君、貴方の目論見はどうやら失敗したようですわね。けれど、潮村君には感謝しなさい。貴方に犯罪者の烙印が押されるのをギリギリで防いでくださったのですから…。」

 

罪「…………そんなの既に押されてるよ……。」

 

単「それは『偽り』の印でしょう?それを貴方自身の手で、『本物』に変えてどうしますの?それこそ、他人の人生を私怨で潰して、のうのうと人生を謳歌している連中の思う壺ではなくて?……もっとも、あの連中は貴方のことなど、微塵もおぼえていないでしょうけど。」

 

 それを言われると、ぐうの音も出ない。俺は『文月学園への復讐』という目的を意識しすぎたがために、手段を全く選ばなかった。それが巡り巡って、過去に俺を貶めた奴らが行ったレッテル貼りが成功してしまうことに、彼女に言われるまで、全く考えに至らなかった。それに気づかされた俺は俯くしかなかった。

 

「……それで、九条院さんとやら。儂らに何か用でもあるのか?」

 

単「当然ですわ。貴方達も……いいえ、むしろ貴方達の方が(わたくし)の話を聞く必要があると思っていますわ。」

 

 そうして一息入れてから彼女から告げられた言葉は、俺が……いや、俺達がずっと求めていたものだった。

 

単「ようやく見つけましたのよ……。緑川君のご友人であり、そして何より、貴方達の一人娘である『深海学菜(ふかみまな)』を殺した真犯人を……!」

 

 その言葉を聞いたとき、俺の中で止まっていた歯車が狂ったように動き出す感覚を覚えた。



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小問9(2) 表で続く戦い

 坂本君達に続く第二試合目。私達の相手は木下さんと霧島さんでした。2学年のAクラスに在籍していて、女子では近衛秋希さんに続くナンバー2とナンバー3…………でしたかね?

 いくら先輩とはいえ、私はCクラスで周りはAクラス。αクラス入部試験のために睡魔と格闘しながら勉強したと言っても、そんな方法で得た知識が長く頭に残る訳ない。木地君だって、両手で数えられる範囲の順位をキープしているとはいえ、相手の二人には劣る。しかも、対戦科目は古典。私は得意だけど、木地君は私より高得点を取るとはいえ、それほど得意という訳じゃない。

 

 ハッキリ言って、私達が真っ向から戦って勝ち目はないです。

 

翔子「……負けない……。私は…負けられない……!」

 

 でも、相手が分かっていれば、対策は立てやすいですね。

 

文「……あのぉ、木地君。本当にこの作戦を実行するんですか?私、夜道で刺されたりしません?」

 

標示「問題ありません。部長の家の周辺は街灯が多いでしょう。そもそも、部長はいつも18:00(部活終了時刻)に帰っているでしょう?今の時期は『夜道』というにはまだまだ明るすぎると思いますが。」

 

 あやや…そういう問題でしょうか……。

 まあ、この作戦を実行しなければ勝ちの目が見えないほど、相手は強敵だということでしょう。

 

文「えー、霧島翔子さん、少し二人で話しません?」

 

翔子「…………何?」

 

 手招きをして霧島さんを呼び出すと同時に私も歩み寄る。木下さんからも木地君からも十分な距離を取れたことを確認して、霧島さんに耳打ちする。

 

文「あなたからしてみれば、どうでもいい話だとは思いますが、一応耳に入れておきたい話がありまして……。これは、以前『サカモト君』と駅前のオシャレなカフェに行った時の出来事なのですが……。」

 

翔子「……優子、ここを任せていい?」

 

優子「ちょっと!翔子、どこ行くの!?」

 

 あやぁ?木地君の作戦では、この話題で霧島さんの集中を乱すはずだったのですが……。何を思ったのか、話を途中で切り上げて木下さんの静止も聞かず、戦線離脱しちゃいましたよ!?

 

優子「……………………。」

 

文「……………………。」

 

標示「…………そんな目で私を見ないでください。私も予想してませんよ、こんな結末。」

 

 ……そうですよね。私も知ーらない☆

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 目を覚ますと、そこは知らない天井だった……って言おうと思ったけど、周りを見渡すと、見知った風景が広がっていた。

 

雄二「……ようやく起きたか。」

 

渚「よかった……。いきなり倒れられたから、びっくりしました…。」

 

 足元の砂と、白いテントシートを透き通って照らす光から、今いる場所がどこか、確認できた。今日だけで3~4回は訪れた、召喚大会の控室。そこに急遽敷かれたであろう、ブルーシートの上に寝かされていたようだ。

 

雄二「それにしても、締まらない結果になっちまったな……。緑川先輩が俺ら二人をまとめて相手にしてる途中、いきなり明久の召喚獣に水をかけたかと思ったら、明久の様子がおかしくなっちまって……。それを見た潮村先輩は仲間割れを起こして、強引に試合を終わらせてくるとはな…………。」

 

渚「ご、ごめんなさい……。折角、一般に公開される初試合なのに、滅茶苦茶にしてしまって……。」

 

雄二「あ、いや…先輩を悪く言ったつもりはないんだが……。潮村先輩が間に入らなかったら、より酷い状況になってたかもしれないしな。…とはいえ、緑川先輩がまた俺達の所に襲撃に来るかもしれないし、警戒は怠れないがな……。」

 

 …………あれ?あの試合って確か、僕が潮村先輩の召喚獣を倒して、雄二は緑川先輩やられて…。その後に僕は緑川先輩にボコボコにされたんじゃなかったっけ?

 

雄二「……どうした、明久。」

 

明久「……僕の記憶だと、雄二が先にやられて、その後僕が死にかけた気がしたんだけど……。」

 

雄二「何だ、その都合が良さそうに見えて、『現実』以上の大惨事になっている記憶は…。倒れた時に頭でも打って、変な夢でも見てただけじゃないか?」

 

 そうなのかな?それにしては、その『夢』で傷つけられた場所が痛むんだけど……。

 

雄二「……まあ、いい。とにかく明久の目も覚めたことだし、教えてもらおうか潮村先輩。あの緑川って先輩のことを。」

 

渚「は、はい。……とは言っても、今回の件で話せそうなことは多くはないと思うんですけど……。」

 

ドドドドドドドドド

 

 ……うん?何だろう……この音。しかも…こっちに向かって来ている!?

 

翔子「……雄二!」

 

雄二「翔子!?もう試合が終わったのか!?ついさっき、召喚したばかりじゃなかったか!?」

 

 激しく足音をさせてやってきたのは霧島さんだったのか……!僕が倒れてから思ったほど時間が経っていなかったことも驚いたけど、それ以上に霧島さんの様子がおかしい……!

 

ガシッ

 

翔子「……浮気は……許さない……!」

 

雄二「あだだだだだ!?いきなり何だぁ!?」

 

渚「お、落ち着いてください!な、何があったんですか〜。」

 

 しかも、いきなり雄二の頭を鷲掴みしてきたし!潮村先輩も突然のことに慌てふためくばかりで、もう収拾つかなくなってきてない!?

 

零次「…これは一体、どういう状況だ?」

 

明久「零次!?それに近衛さんも……。どうしてここに……。」

 

秋希「どうしてって……、私達も四回戦まで勝ち残ったからね。ちょうど3年の先輩達は、別のテントを控え室に使っているから、作戦の打ち合わせも兼ねて早めに来たの。予め来ていれば、時間ギリギリまでそこに時間を使えるからね。」

 

 そう照れたように微笑む近衛さんとは反対に、零次は険しい表情を霧島さんに向けていた。

 

零次「……とりあえず、霧島。一度坂本から手を放せ。」

 

翔子「……零次。いくらあなたでも、邪魔はさせない。」

 

零次「その『邪魔』というのは、今坂本にしている制裁に対してか?それなら答えは却下だ。今すぐ手を放せ。さもなくば、今お前がしていることを、そっくりそのまま返すことになるが……。それでも構わないのか?」

 

 大変だ……!雄二が被害にあっているから、霧島さんのしていることに関してはどうでもいいけど、零次が暴力を振るうのは、色々とマズイ……。これは止めに入らないと……。

 

翔子「…………雄二が……青葉先輩と……カフェに行ってたから……。」

 

雄二「青葉先輩ィ?翔子達の対戦相手か……。ってか、そもそもその先輩と、カフェに行くほど仲良くもないんだが?」

 

零次「坂本みたいな帰宅部連中は他学年との交流は少ない傾向にあるからな……。」

 

 確かに…。僕もαクラスに入って、木戸さんや潮村先輩が来るまでは、あまり先輩達と話したりもしなかったなぁ…。入学したての頃は、ただの少しお茶目な一生徒だったし、『観察処分者』になった後は、余計に距離を置かれるようになっていたからなぁ…。

 

零次「とはいえ、青葉先輩は息をするかのように噓を吐けるからな…。『坂本とよく似た人』と話した経験を、あたかも『坂本と話した』かのように言ったんじゃないか?……もしくは別の『サカモト』って名字の人と話したとかな……。」

 

雄二「……それはありうるな。確か、『進級すぐに起こした試召戦争の話を聞きたい』って、広報部……だったか?の一年から取材を申し込まれたっけな…。その一人が確か『サカモト』だったような…。」

 

霧島「……雄二……零次の話に合わせて適当なこと言ってない…………?」

 

雄二「なんで俺の話すこととなると、そこまで懐疑的になるんだ!?」

 

 

ウオオオオオォォォ……。

 

 

 なんだろう?召喚大会の会場から歓声が上がってきたようだけど……。まさか…。

 

零次「……どうやら時間みたいだな。霧島、お前のその行動の結果を、自分の目で見てきたらどうだ?」

 

 そう言った零次は、ほくそ笑んでいた。それはまるで彼の計画通りに事が進んでいるかのようだった……。

 

 

 

・・・

 

 

 

優子「先輩方…絶対許しませんからね…!」

 

標示「……それは私達より先に、あなたの相棒に言うべきセリフでは?」

 

 

[フィールド:古典]

 

2-A 霧島翔子・・・不参加

 

2-A 木下優子・・・330点→戦死

 

VS

 

3-C 青葉文 ・・・216点→177点

 

3-A 木地標示・・・281点→246点

 

 

翔子「……ゆ、優…子…。」

 

 霧島と共に会場の選手入場口付近へ向かうと、そこには俺が予想していた惨状が、その目に映っていた。いくらAクラス上位の木下とはいえ、戦闘経験が少ないのだから、先輩2人を捌ける訳がないのは、火を見るよりも明らかだった。

 

優子「……翔子!もう、そっちの用事は終わったの?」

 

翔子「………!……優子…………ごめ……なさい……。」

 

 あの場に霧島しかいなかったことからなんとなく察しがついていたが、どうやら霧島は試合を途中で放棄して坂本の所へやってきたみたいだ。そのことに少しは罪悪感でもあったようだ。

 しかし、そこに木地先輩の冷酷な言葉が容赦なく降りかかる。

 

標示「はあ……。大戦犯がノコノコとやって来ましたか……。」

 

優子「それは……!先輩達が翔子に……変な噓を吹き込んだからでしょう……!」

 

文「あやや……。噓なんかではありませんよ?『サカモト君』と駅前のオシャレなカフェで話したのも、そこで『色々とデカい女が好きだ』と話していたのも、すべて本当の事ですよ?ねぇ『サカモト君』?」

 

 ……?どこに目を向けているんだ?『坂本雄二』は今、俺達側の控え室にいる。青葉先輩の視線は真逆の方向だ。だがその答えは豪快な笑い声と共に、現れるのだった。

 

「ぐわはっはぁ!そうじゃあ、そうじゃあ。部長の言うてることは、紛れもない事実じゃあ。考えても見い。自然界で生きる動物は、身体を大きく見せることによって強さを誇示し、相手を威嚇するし、異性に向けて求愛行動をとる……。ならデカいのが好き、というのは生き物としての本能じゃし、体躯の小ささを惨めに思うのも仕方のないことじゃろうて……。」

 

 …………俺と坂本が思った通りだ。霧島は自身に向けて言われたから、青葉先輩の言う『サカモト君』なる人物が『坂本雄二』だと勘違いした。だが実際は最初から先輩は、霧島と全く関係のない人物を話題に挙げていた、という訳か。

 

優子「いや……誰よ、アンタ……。」

 

標示「広報部に所属する、『阪本大河(さかもとたいが)』君です。部長は初めから、彼のことを霧島さんに話していたのですよ。」

 

翔子「……………………え…………?」

 

 俺の目には霧島の姿は背中しか見えないが、彼女の顔が青ざめていくのが分かる。そりゃそうだろうな。勘違いで坂本に危害を加えたうえに、坂本は本当のことを話していたのに、それを全く信じなかった訳なのだから。

 

標示「どうしました、霧島さん。まるで人の話を途中で遮った挙句、勘違いで彼氏に暴力をふるってしまったような顔をしていますが。」

 

優子「そうなるように、翔子を誘導したくせに、白々しい…………!」

 

標示「本格的に試合が始まる前に、『こんなことになるとは予想していなかった』と言ったはずですが……。そもそも、仮に『坂本雄二』と『阪本大河』を勘違いしたとしても、『自分が好きな坂本雄二は、霧島翔子(彼女)を放って、他の女とカフェに行くわけがない』と信じていれば、こんな惨めな結末は迎えなかったのではないでしょうか?」

 

 木地先輩の冷ややかな目と抑揚のほとんどない口調から放たれる正論で、霧島は手を握りしめたまま震えるしかなかった。もはや霧島のメンタルはズタボロだろう。

 

標示「……まあ、悪意を持って霧島さんを騙したのは認めましょう。ですがね、私達はまだまだ甘い部類ですよ。今回貴方達は準決勝へ進む権利を失っただけで済みましたが、これが極悪非道な輩であれば、似たような手口で金品を搾取することもできますし、最悪、あなたの人生すらも壊しかねないのですよ。…………反省してるというなら、今あなたに出来ることと言ったら、『きっと坂本雄二が優勝してくれる』と信じることだけです。」

 

文「まあ、どのみち優勝は無理ですけどね。余程のことが無ければ、私達が勝つでしょうし、仮に決勝に進めても、そこの相手に勝つのが無理なんです。『不可能』なら『不』を消せば『可能』にできても、『無理』は『無』を消しても残るのは『(ことわり)』です。優勝するのが誰かなんて……、初めから決まっているんですよねぇ~。」

 

 静かな怒りと呆れを抱えて、ドンドンと重い足音を響かせて退場する木地先輩。

 ケラケラと笑いながら、トントンと軽快に足を鳴らしながら退場する青葉先輩。

 俺は残されたクラスメイトの心境を案じながら、二人の先輩の去りゆく姿を見るのだった。



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小問10 七つの天、八つの刀

茜「ハァ……。チクショウ、負けだ負けだぁ。」

 

[フィールド:古典]

3-A 東堂茜 ・・・414点→戦死

 

2-E 戸祭太子・・・ 58点→戦死

 

VS

 

2-A 双眼零次・・・402点→94点

 

2-F 近衛秋希・・・394点→96点

 

 こうして召喚大会の四回戦は無事に終わりを告げた。

 色々とトラブルや番狂わせのあった第一試合と第二試合とは打って変わり、第三試合と第四試合は特にそういったものは無く、文月学園生徒の大半が想像する対戦カードとなった。……一部、俺が準決勝までコマを進めることを非難する奴がいそうなものだが……、きっと近衛が一人で勝っているものだとして無理矢理納得しているんだろうな…。

 

「サーセンッ!ジブンの力及ばず、先輩を優勝まで導けずに……。」

 

茜「あぁん?何に謝ってやがるよぉ。アタシはアンタと一緒に参加したかったからぁ、そうしたまでだ。それに、アンタは必死にアタシをサポートをしてくれたじゃあねえかい。アタシのためを思ってさぁ、頑張ったことはよ、決して無駄にはならねぇからよぉ。」

 

 確かに、戸祭は俺達の動きをよく観察していたし、戦死したあとはより的確に俺達の行動を東堂先輩に伝えていた。

 Eクラスは2年で唯一、まだ試召戦争を経験していないクラスだが、負けてなお東堂先輩の腕輪の能力が十分に輝いた試合だった。このことを考えると……、俺に勝つには学力(点数)が圧倒的に足りないにしても、司令塔として見ると、戸祭は十二分な活躍を果たしてくれると思うんだよな……。

 もっとも、Eクラス代表に教えてやるつもりは毛頭ないがな。

 

秋希「うんうん、東堂先輩の言う通り。ここまで私達を追い詰めたのは、先輩が持っていた『入替』の腕輪だけじゃない。それをどのタイミングで使うべきか、戸祭さんが見極めてたから、この惜敗となったのよ。」

 

 確かに近衛の言う通り、ここまで接戦になったのは初めてだな。これまでの戦いは、相手が早々に勝負を諦めるか、近衛の琴線に触れたかで、どちらにしろ一瞬で試合が終わったからな。

 さらに試合を難しくしていたのは、東堂先輩の召喚獣が持つ『入替』の腕輪だ。能力は単純明快。自分と相手の立ち位置を入れ替える、それだけだ。それだけなんだが……、だからこそ実に厄介な代物なのだ。

 相手に攻撃される瞬間に使えば、敵と入れ替わり同士討ちを狙えるし、他の味方と入れ替わることで身代わりを立てることもできる。単純に攻撃してくる相手と入れ替わって、回避することもできるし、他には敵が密集している地点に『入替』を使って、奇襲を仕掛ることもできるな。

 そんな感じで、『入替』の腕輪は単純な能力故に、応用が利きやすい能力と言えるだろう。先輩は今まで、回避目的でしか使っていなかったらしいが、今回の大会で戸祭のサポートを受けたことで、他の使い方にも気づけたそうだ。

 

茜「ともかく、アタシ達に勝ったアンタ達なら、優勝間違いないだろ。それに、これでアタシ達は明日は祭りの運営に全力を注げる。そっちも、全力で祭りを楽しめよ!」

 

 そう言って、晴れやかな顔で、二人はフィールドを去っていった。

 そして、これで準決勝のメンバーが出揃ったな。

 

準決勝 第一試合

 

2−F 吉井明久

2−F 坂本雄二

 

VS

 

3−C 青葉文

3−A 木地標示

 

準決勝 第二試合

 

2−F 近衛秋希

2−A 双眼零次

 

VS

 

3−A 常村勇作

3−A 夏川俊平

 

 そう言えば、俺達の対戦相手って、昼食時に俺達の店で問題を起こして、東堂先輩に連行された奴らじゃなかったか?どうやって先輩の監視下から抜け出して、準決勝までコマを進めたか疑問に残るが、次の試合も勝って、もう一度東堂先輩に突き出せばいいか。

 

・・・

 

 …さて、召喚大会の今日のプログラムが、残るは準決勝のみとなったわけだが……。

 

?「オーホッホッホ。こんな所で何ボーっと座っているのかしらぁ?双眼零次君?」

 

零次「…………そちらこそ何しに来たんですか、九条院(くじょういん)先輩。」

 

 Aクラスの出し物(メイド喫茶)ではなく俺を目的にやって来た者がまた一人。『彼女』は首や腕につけた装飾品と好戦的な目をギラつかせ、所々が黒ずんだ装いをして、店番をしていた俺を見つめた。

 その女性のことを俺は知っている。七天八刀の副リーダーが一人、九条院(ひとえ)だ。

 

単「何って、あなたが文化祭に参加すると聞いて、『組織』の視察を午前中に終わらせて、飛んできた次第ですわ。もちろん、リーダーと十三代(とみよ)も来ていますわよ。」

 

 マジか。七天八刀のTOP3が揃いも揃ってこの文月学園に来るとは…。というか、あの二人はどうかは知らないが、こんな異様な装いをした人が堂々と入れるって……、この学園のセキュリティはどうなってんだ?

 

零次「ま、去年はクラスの連中から追い出されて、変装して祭りの巡回をしていたからな……。今年は店番としてクラス内の役割を貰えただけマシだろう。」

 

単「そのようですわね。……まあ、それはそれとして、ここに来た目的は他にもありますわ。一つは緑川君に『例の事件』の真相を話しに。この学園の関係者から有益な情報を受け取りましたのでね……。」

 

 そう言いながら二本指を立てて、彼女は語りだす。

 ……そう言えば、緑川先輩も『七天八刀』のメンバーだったか。確か(もげき)リーダーと同じか一歳違いで、俺が『七天八刀』に加入した当時は、その中のチーム『仙緑丸』のリーダーを務めていたはず。しかし、『例の事件』と組織で言われるものが起きた後は、明久達を襲った連中と同じ『七ツ星』へと異動させられた……らしい。

 正直言って、どこのチームに異動になったかまでは、覚えていないんだ。はっきりしているのは、組織で問題を起こした人達で構成されたチーム、『陸奥守』『七ツ星』『八握剣』のどこかに行った、それだけだ。

 

 そんな緑川先輩が関わっている『例の事件』についてだが……。これまた俺は詳しいことは知らない。というのも『例の事件』が起きたのは、今から3~4年前。あまりにも凄惨な事件故に、当時中学生だった俺達には情報規制が敷かれ、『組織』の独自調査に関わることも許されなかったのだ。

 そして高校生となった今では、最初は百人規模だった『組織』の調査団も徐々に解体され、『例の事件』に関して未だ積極的に真実を知ろうと躍起になっているのは、十リーダー・九条院先輩・王先輩のTOP3含む十数名となった。

 

単「あまり鵜呑みにも出来ませんが、その者の目は私達と同じ……。自らの理念に反するものを許さない、と訴えるような目をしていましたわ。だからこそ、私達はその方を信じ、その情報を彼にも託しましたわ。」

 

零次「そうですか。正直、俺にはあんまり関係ない話ですがね。」

 

単「フフフ……。それもそうでしたわね……。」

 

 そう言って指を一つ曲げ、九条院先輩はもう一つの目的を話し始めた。その顔からは呆れと怒りの二つの感情が混ざっているように感じた。

 

単「もう一つは、ここの教頭に破格の報酬をチラつかされて、それにホイホイ乗せられたおバカさん達を回収しに来たのですわ。近衛秋希から『七ツ星』の宝根古木(たからねこぎ)永塚尽(えいつかつくす)柚花激(ゆずはなげき)の三名がこの学園で暴動を起こしたことは既に確認済み。他にも『陸奥守』や『八握剣』のメンバーを発見。不審な行動が多かったので、持ち物を調べたら、坂本雄二ともう一人……吉井明久と言ってたかしら……の写真を見つけましたわ。」

 

 つまり坂本達が襲われたのは、竹原教頭が仕向けたものだったから、ということか。だが、目的はハッキリとしないな。坂本の『悪鬼羅刹』の噂は、俺の『死神』と同レベルくらいは広まっているし、入学早々に明久共々悪目立ちしているわけだからな。そこらのチンピラ相手じゃ話にもならんだろう。……それとも、そうやって問題をわざと起こさせて、その責任を坂本に押しつけるつもりか?現状これが一番しっくりくるな。実際、別の教師に同じことを、俺はされたしな。

 そういえば、宝は東堂先輩に捕まっていたはずだよな。もしかしたら、話を聞けば、教頭の目的が見えるかもしれない……。

 

単「事情を聞いたところ、近衛秋希の報告と一致したため、写真は押収しましたわ。どうやら、報酬に目が眩んだおバカさん達は、私達に今回の件を報告しなかったうえに、勝手に金まで貰っていたようですわね………!」

 

 『七天八刀』にはいくつか『絶対厳守のルール』と呼ばれるものがある。

 

・組織外から受けた依頼は、所属チーム及び『七天』に必ず共有すること。

・報酬が発生する場合は、原則依頼を完遂の後、受け取ること。絶対に依頼締結と同時に報酬を受け取ってはならない。

 

 実際はもう少しニュアンスが違ったかもしれないが、少なくとも、今回教頭に加担した奴らはこの二つのルールを破っていることになる。まあ、『絶対厳守のルール』とはいっても、破ったところで、組織から即追放……なんてことは余程のことが無ければない事だが、今回事を起こしたのは、揃いも揃って組織でも問題視されている人達ばかりだ。流石にリーダーの堪忍袋の緒が切れるのではなかろうか。

 

 それにしても、近衛は一体いつの間に情報を渡しているのやら……。それにもう一つ気になることが。

 

零次「……そういえば、教頭が黒幕だってのは、どこからの情報だ?」

 

 流石に近衛と言えど、今回の件を、教頭のせいだと言い切るのは無理があるはず。俺の知らない場所で明確な証拠を見つけていたなら、まだ納得できないことはないが。

 そして先輩は、その答えをにこやかに話してくれた。

 

単「あなたが『蒼魔王』の次期リーダーに任命した、白崎輪護ですわ。正確には、その友人が彼の前でベラベラと喋りすぎただけなのですが……。あなたが見込んだ後輩は本当にいい仕事をしますわね。」

 

 俺は文月学園に入学するにあたって、十リーダー達と話し合い、しばらく『七天八刀』と距離を置くことにした。その際俺は『蒼魔王』のリーダー、そして『死神』の二つ名を白崎に譲り渡した。

 もっとも、そうしたところで、俺に対する文月学園の評判が変わるわけでもないことは重々承知の上だ。だが、『七天八刀』としては、俺は『組織』を抜けた扱いになっている。そんな現状にある俺に勝負を仕掛けることは、『組織』の外の人間に危害を加える行為に等しいものと、解釈される。もちろん、これも『絶対厳守のルール』と呼ばれるものの一つだ。俺へのリベンジを目的に『七天八刀』に加入した者には、少々申し訳ないことをしたがな……。そういう奴らが、これまで律儀にこのルールを守っているのを考えると、あの三人の酷さがより際立つな…。

 

零次「それは嬉しい限りだな……。それで、肝心の白崎は一緒に来ているのか?」

 

単「いいえ、今日はバイトだと聞いてますわ。……まあ、祭りは明日もやるのでしょう?あなたが望むのなら、後で彼に言っておきますわよ?」

 

 どうするかな……。俺の立場上、『七天八刀』に口出しすると、余計な連中までオマケで付いてくる可能性が拭いきれない。

 

単「フフフ……いくらでも悩んでくれて構いませんわ。私達はあなたが元の鞘に収まる時を待っていますの。あなたとしては、あと二年ほどすればまた戻ってくるおつもりでしょうけど……、そこまで気の長い人間は、ウチの『組織』には少なくてよ?」

 

 確かに俺はこの学園を卒業したら、また『七天八刀』に戻る。それはほぼ確定事項だ。リーダーは俺のことをちゃんと見てくれた。処暑中学にいたころ、まだ何の力もなく、いじめられていた俺に手を差し伸べて、居場所を与えてくれた。不良を束ねるリーダーではあるが、どこか悪になりきれていない。かと言って、正義のヒーローを気取る訳でもない。だが、リーダーは常に自分に正直に生きている。だからこそ、憧れる者が多いと、俺は思っている。

 

単「……と、それでは、私はあなたのクラスの出し物を楽しんで参りますわ。リーダーも十三代も、今はどこかで遊んでいるでしょうしね……。私も羽を休ませていただきますわ。」

 

 そう言って、九条院先輩は教室の方へ歩を進めていった。

 

 今のところ、怪しい来客はクレーマーの先輩くらいだが、もしかしたら祭りを続けられないくらいの騒ぎになる可能性が出てきた。今日のプログラムもそろそろ大詰め。気を引き締めなければならなそうだ……。




~後書きRADIO~
零次「…さて、後書きRADIOの時間だ。」

秋希「今回で23回目……。いくら不定期と言っても、流石に間が開きすぎでしょ。」

零次「前回が……第50話。1年以上期間が空いていたか。更新頻度が遅くなっているとはいえ、もう少し頻繫に開催すべきだな……。」

秋希「というわけで、リハビリがてら、今回はゲストは無し!本当は東堂先輩を呼びたかったけど……。それは次回で!」

零次「今回は久しぶりに感想をもらったからな……。それの解説でもしよう。」

秋希「えーと……。ああ…潮村先輩達の名前の由来か。」

零次「ああ。それについて二つほど話したいことがな。まず一つ。……実は潮村先輩の名前のベースになったのは暗○教室の主人公だけではないんだ。」

秋希「そうなの!?」

零次「……作者が愛読している小説の主人公が、もう一つのモデルだ。理系科目が消えた日本で、理系関係者達がテロを起こしたために、数学を愛する少女が警察らと協力し、それを止める物語だ。」

秋希「大分ザックリした説明だけど……。あらすじとしては間違ってないか。」

零次「主人公の名前が同じ『渚』ということでな。二人の名前を組み合わせた。作中では恐らく明記していなかったから、ここで言わせてもらうが……。潮村先輩の得意科目は、英語と数学。それ以外は軒並苦手科目だが…、特に壊滅的なのは、物理や化学、それから日本史だな。」

秋希「ああー……。得意科目と苦手科目は両方の設定を踏襲しているのね。」

零次「もう一つは、こういう他作品から命名のヒントを貰っているのは他にもいくらかいるってことだな。一例を挙げると、この4人かな。」

3-A 東堂茜

3-C 青葉文

3-E 磯野悠宝

3-E 後川夜斗

秋希「3-Eの二人に関してはなんとなく分かったわ。」

零次「まあ…………『3-E』だからな。」

秋希「ついでに言うと、東堂先輩はモデル元のキャラクターに性格が……似てるわね……。」

零次「腕輪の能力も似せているな。色々と違う部分はあるが。」

秋希「…………長くなりそうだし、この辺にしましょうか。」

零次「そうだな。次回からは準決勝だ。こうしてみると、まだ一日経ってないんだな…。」

秋希「それでは……。」

「「次回もよろしくお願いします!!」」


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小問11 二人のバカと広報部

雄二「おっしゃ!行くぞ!」

 

明久「おうっ!」

 

 拳をぶつけ合い、僕らは敵のいるステージへと歩みを進めた。

 

『皆さん!大変お待たせいたしましたぁ!これより準決勝第一試合を開始いたします!進行は私、3-Cの学級委員長(自称)、三沢がお届けいたします!』

 

 僕らが到着すると、審判を務める先生の隣にいる女子生徒が、アナウンスをしていた。時計を見ると、時間は準決勝の試合開始ぴったりだった。

 

『それでは選手入場です!ここまで来たのはまぐれか、必然か!?今大会のダークホース、2年Fクラスの二人組、吉井明久さん、坂本雄二さん!』

 

 まるで格闘技の入場みたいだと思いながら、フィールドに上がる。こうやって名前を呼ばれるのは、少し恥ずかしかったりもするけど、同時に気分も上がってきた。

 

『対するは、ここまで来たのは計算通り。優勝へのルートも構築済みか!?新聞…ではなかった、広報部の部長・副部長ペア、3年Cクラス青葉文さん、3年Aクラス木地標示さん!』

 

 同じ様に対戦相手の先輩の名前も呼ばれる。新聞部と言いかけた司会の先輩を睨みつけながら、二人はフィールドへ上がってきた。……って、よく見たら、僕のメイド姿を撮っていった先輩じゃないか!さっき見た時は霧島さんのことでそれどころじゃなかったけど……。

 

標示「どうも、坂本君に吉井君。先程ぶりですね。一応自己紹介をしましょう。去年新設された『広報部』。その副部長を務める3-Aの木地標示(きじしるし)です。そして隣がその『広報部』部長であり、3-Cの代表でもある……。」

 

文「青葉文(あおばあや)と申します。以後、お見知りおきを。」

 

 そう言えば僕の女装写真を撮っていた時も、やけに『新聞部』ではなく『広報部』であることにこだわってたような……。

 

雄二「ああ、先程ぶりだな。それにしても…緑川先輩しかり、常夏コンビしかり、アンタ達しかり……。先輩達はどうも後輩をイジメるのが、お好きなようで、困るな。」

 

 そう言えば、今日初めて顔を合わせた先輩は沢山いるけど、本当にロクな人がいない気がするなぁ…。観察処分者()が言えたことじゃないだろうけど。

 

標示「…………ああ、そう言えば、緑川『先輩』も姫路さんのことをボロクソに言ってましたね。……あまり気は進みませんが、あの人と同じ扱いは不服ですので、後日菓子折りでも持って、霧島さんに話でもつけに行きましょうか。」

 

文「あやや~……。緑川『先輩』相当嫌われてますね……。まあ、彼の言う『冤罪事件』の真偽がどうあれ、性格がアレですし、当然と言えば、当然な気がしますが……。」

 

 ……んん?『先輩』?緑川先輩も、目の前の先輩も同じ三年のはず……。もしかして、生まれが自分の方が早いから、そう呼ばせているとか?

 

標示「……さて、話はここまでにしましょう。円滑な大会進行のためにも、これ以上無駄話はできません。」

 

文「仮にあなた達にとっては必要な話だとしても、今ここでしなければならない話でもないでしょう?この大衆に共有したい情報でもあるのなら…別ですが。」

 

 ここにいる観客に知らせたいことか……。僕には特にないけど、雄二にはあるかな?

 そう思って雄二の方をチラッと見ると、既に戦闘態勢に入っていた。雄二も特に話すようなことはなかったみたいだ。

 

標示「では早速ですが、始めさせていただきましょうか。試獣召喚≪サモン≫。」

 

文「はいは~い。試獣召喚≪サモン≫っと!」

 

 こちらが召喚するより先に、先輩方が召喚獣を()び出してきた。

 青葉先輩は下駄の代わりに草履を履いた山伏……というか天狗?のような出で立ち。もう一人の木地先輩はモノクルをかけたスーツ姿に、身の丈程の大きな万年筆を手に持った召喚獣だ。

 どちらも先輩。加えてクラスも、当然自分達より上位のクラス。まともにやって勝ち目なんてない。でも、こっちには秘策がある!

 

雄二「よし行くぞ、明久!試獣召喚≪サモン≫!」

 

明久「了解!先輩方、この勝負の科目が保健体育だったことを恨むんですね!」

 

 グラウンドよりも高さのある特設フィールド。そのステージ端に目配せすると、既に伏兵は待機済み。これが本来なら霧島さん相手に使うはずだった、雄二の秘策だ!

 

明久「行くよ!新巻鮭(サーモン)!」

??「……試獣召喚≪サモン≫。」

 

 ()び声に応えて、出現する召喚獣。それはたとえAクラスの霧島さんでも太刀打ちできない強さを持った……。

 

文「あややぁ…。その召喚獣は……。」

 

 ムッツリーニの召喚獣。これが雄二の秘策『代理召喚(バレない反則は高等技術)』だ!

 

??「……加速。」

標示「くっ……。この卑怯者が……!」

 

 初撃から腕輪の能力を使って、相手の召喚獣2体を一気に切り伏せる。Aクラスとの勝負では影山君にしてやられたけど、本来なら保健体育でムッツリーニに敵はいない!

 

明久「よしっ!僕と雄二の……。」

 

雄二「…待て、明久。」

 

 勝利だ、と物言いがつく前に勝鬨を上げる直前に雄二に止められた。

 

明久「ちょっと、雄二。なんで邪魔するのさ。」

 

雄二「……フィールドをよく見ろ、バカ。」

 

 フィールド……?そんなの、先輩の召喚獣がなくなって、ムッツリーニの召喚獣もフィールド外に出て消えている。残るは雄二の召喚獣だけじゃ……。

 

 

[フィールド:保健体育]

2-F 土屋康太・・・511点→戦死

 

2-F 坂本雄二・・・177点

 

VS

 

3-C 青葉文 ・・・153点

 

3-A 木地標示・・・403点→383点→306点

 

 

 ええ!?ほとんど無傷!?

 ……よく見るとノッポの先輩……、木地先輩の召喚獣の武器の先には、ムッツリーニの召喚獣が突き刺さっていた。まさか、読まれたというのか、雄二の作戦が?

 

標示「……会場の皆様。大変失礼いたしました。どうやら、我々の戦いに水を差す不届きな蝿が紛れ込んでいたようです。」

 

 そういうと、武器の一振りでムッツリーニの召喚獣を振り払い、フィールドに叩きつけた。

 いや……、ムッツリーニの召喚獣を蝿呼ばわりって……。

 

標示「……通ると思いましたか?『相手が2年Fクラス』、『対戦科目が保健体育』。この2つの要素で『土屋康太に代理で出てもらう可能性』が頭を過らない訳がないでしょう。」

 

文「加えて君達には、二回戦を収賄(交渉)による不戦勝で突破した前科があります。先生の目の前であんな事を堂々と行える貴方達が、観衆の目だけ気にして、グレーな手段を避ける理由は存在しない。故に『代理召喚』はほぼ確実に行うと、木地君は言ってましたが……。木地君の『予測』は本当に恐ろしいですね。」

 

標示「ついでに看破しておくと、仮にここに立っているのが霧島さん達の場合は、あらかじめ木下優子さんを襲撃して双子の木下秀吉さんにすり替えるつもりでしょう。…まあ、この戦いが始まる直前まで、霧島さんか双眼君のどちらかが常に張り付いていたようですので、この作戦は失敗に…。いや、『失敗する前提で』実行させるとするなら、秀吉さんの救出係として土屋君を自然に会場入りさせるための布石でしょうかね…。」

 

 なんてこった…。雄二の考えた作戦の内容がほぼ完璧に見透かされている……!まさか、先輩達に情報を流しているスパイがいるのか……?

 

明久「雄二!大丈夫なの!?」

 

 いや、そんな事よりも、まずはこの勝負に勝つことを考えよう。

 

雄二「……ああ。想定外の事態だが、問題ない。」

 

明久「良かった。じゃあ作戦があるんだね?」

 

雄二「ああ、作戦な。……………………残念なことに無ぇよ。」

 

 ……………………はぁ?

 

明久「雄二…聞き間違いじゃなければ、今、作戦が無いって……。」

 

雄二「ああ…。そう言ったさ。そもそも、翔子たちが負けること自体が想定外の状況だ。加えて、相手は3年。情報は、ほとんど集められなかった……。」

 

明久「そんな……。」

 

雄二「さらに絶望的なのは、おそらく向こうはこっちの対策を万全にしている点だ。あれだけ、最初の不意打ちを警戒していた根拠を並べ立ててきたのを考えると……。仮に作戦があって、実行に移すことが出来たとしても、すぐに対処されちまう。……ハハハ。言葉にすると、あまりにも絶望的過ぎて、逆に笑えてくるな。」

 

標示「私達と戦うことを想定していないとは……。それだけ霧島さんを信用していたようですが、かつて『神童』と言われた貴方は、最早忌まわしき過去の遺物とでも言うつもりなのでしょうか?…………まあ、それは今、どうでもいいことです。」

 

 そう言うと、先輩はこちらに視線を向けてきた。

 

標示「さて、吉井君。早く貴方の召喚獣を出してください。今なら先程までの不正行為について目を瞑ります。……賢明な判断を。」

 

明久「……試獣召喚≪サモン≫。」

 

 

[フィールド:保健体育]

2-F 吉井明久・・・104点

 

2-F 坂本雄二・・・177点

 

VS

 

3-C 青葉文 ・・・153点

 

3-A 木地標示・・・306点

 

 

『え、えーと……。な、何やらハプニングがあったようですが……。両ペアの召喚獣が揃いましたので、試合を始めたいと思います!』

 

 雄二の策は見破られ、それ以上の作戦もない。さっきよりも絶望的な状況だ。それでも、負けるわけにはいかないんだ。雄二を頼れないなら、僕が頑張るしかない。……全力で抗うとしよう。




~後書きRADIO~
零次「さて、前回に引き続き後書きRADIOの時間だ。」

秋希「第24回目ね。そして、今回のゲストは……。」

茜「東堂茜だぁ。今回はよろしく頼むぜぇ…。」

零次「ということで、前回の予告通りだ。今回は東堂先輩の使用した腕輪能力の解説だ。」

名称:入替
消費点数:20点(総合科目では100点で使用可能)
詳細:
召喚獣を1体選び、自分の召喚獣と場所を入れ換える能力

茜「読んで字の如くの能力だなぁ。アタシは味方を囮に、戦線離脱できる能力だと『葵』から聞かされて、それを盲目的に信じ込んじまってたけどよぉ……。実際は、かく乱に使うものだったんだな…。」

秋希「一応、先輩の言い分も間違いじゃないですけどね……。代表とか、戦死してほしくない味方の身代わりができるので。」

零次「ちなみにだが、東堂先輩のモデルとなった別作品のキャラを意識して設定されたこの能力だが……、モデル元と比べると大分劣化した能力になっている。」

秋希「ああー……。確かにアッチは入れ替える対象を自在に選べたけど、こっちは『自分の召喚獣』と『相手の召喚獣』しか入れ替えの対象にならないからね。」

零次「ついでに言えば、この入れ替えも無条件で出来るわけじゃない。入れ替えたい二体の召喚獣の間に、他の召喚獣や教室の壁など、障害物があると入れ替えが失敗になる。イメージとしてはチェスのキャスリングに近いな。まあ、失敗した場合は点数は消費されないから、そこは安心してくださいね、先輩。」

茜「なるほどなぁ……。戸祭が思っている以上に扱いが難しい能力だったのかぁ……。」

秋希「……これ、元の能力より強いのって、『手を叩く必要がない』ってところだけなんじゃあ……。」

零次「確かにモデル元の能力と比べると悲惨に聞こえてしまうが、そもそも腕輪能力を使えるのは、エリート中のエリートというか、バカみたいな高得点を取れる連中だけだということを忘れてないか?」

茜「そうだなぁ。他の奴らが武器での殴り合いしかできない中で、レーザーぶっ放したり、目で追えない程のスピードで動いたり……。それらに比べちゃぁ、地味な能力かもしれねぇがよぉ、立ち位置を変えるのも、十分脅威だと思うけどなぁ。」

零次「登場するかは未定だが、点数消費が10点と軽めな分、これ以上に地味な能力も存在するしな……。」

秋希「……さて、そろそろお開きにしましょうか。次回は今回の続きかな?」

零次「いや、その前に書きたいことがあるのと、構成が纏まってないのとで、明久達が戦っている時の俺達の話になる予定だ。」

茜「……なあ、アタシが言う立場じゃないと思うんだがよぉ……。話の進みに悩むんだったら、青葉と木地が勝たない方が良かったんじゃなかったか?」

零次「……作者の構想ではそうすることも出来たそうだ。だが今後のことを考えると、青葉先輩達を明久達にぶつける方が都合が良かったそうだ。」

秋希「……今度こそいいかな?それじゃあ……。」

「「「次回もよろしくお願いします!」」」


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小問12−A 裏に潜む陰謀

 これは、四回戦を終えてFクラスの出し物の手伝いに回っている時のこと。私とほとんど変わらない背丈の男性が、坂本君くらいの背丈のスキンヘッドにサングラスをかけた男をSPのように引き連れて、中華喫茶へと入ってきた。

 私はその二人のことを知っている。『七天八刀』を創設した男、(もげき)一壱(ひといち)と、その右腕的存在である、(おう)十三代(とみよ)だ。

 その男は、席に着くなり私を呼び出して、話を始めた。内容は既に私が知っていること……。『七天八刀』の一部メンバーが吉井君と坂本君の襲撃を企てていること。それを、この学園の教師を名乗る人物から依頼されて行っていることだ。

 

一壱『まさかとは思うが……。実はお前も関わってた……、もっと言えば、お前がその教師の手先として動き回ってる……。なんて事はないよな?』

 

 当然関わってない、と答える。けど、私の返答が彼らに信用されるかと言ったら、それは否でしょうね。

 

 私と零次は、学園と七天八刀で真逆の評価がされている。

 

 『死神』の二つ名で知れ渡っている零次は、学園では忌避される存在だ。けど七天八刀では、彼に憧れているとか、強さの秘密を近くで学びたい、『組織』に入ってリベンジの機会を伺っている……等々の理由で『七天八刀』に入ってきた者が後を絶たない期間があった。要は、『七天八刀』のメンバーの多くにとって、零次は憧れであり、強さの象徴みたいなものだった。

 

 一方私は、学園では優等生扱いされている。けど七天八刀では、過去に零次絡みで起こした大事件によって、今まで『組織』で築き上げてきた信頼を、ゼロどころかマイナスまで堕とすことになった。

 この事件に関しては、本筋から反れるため、今は多く語らないでおく。ただ、当時の私は今以上に零次のことが憎らしかった、とだけは言っておきましょう。

 

一壱『……そうか。正直、お前のことは信用出来ねえ。……が、お前の言葉に嘘があったことが、一度もなかったのも事実だ。これくらいの問答なら、素直に受け取ることにしよう。』

 

 それからも、色んなことを言われたし、聞かれた。

 そういえば、リーダーは最後にこう言っていたっけ。

 

一壱『あの二人だけが標的になっているとは思えない。クラスの女子を人質にとることも……って、態々言わなくとも、お前なら十分予想しているだろ?お前に関しては何も心配していないが、他の女子が組織の毒牙にかからないよう、用心しておけ。』

 

 

・・・

 

 

秋希「……って、言われてたから、警戒はしていたよ?けどねぇ……。」

 

第七刀[七ツ星]所属 長岡■■(名称不明)

「お、おい……。」

 

第七刀[七ツ星]所属 内藤■■(記憶にない)

「嘘だろ……。ここで会うなんてよ……。」

 

第七刀[七ツ星]所属 荒巻■■(忘れた)

「…………!…………!!」(驚きすぎて、声が出ていない。)

 

第七刀[七ツ星]所属 宝根古木

「なんでお前がここに……。『男子トイレ』に来てんだよ……!」

 

秋希「こんなにいるのは予想外なんですけど……。」

 

 そう。私達がいるのは、新校舎3階の『男子』トイレ。『七ツ星』の面々が驚くのも、至極当然な話だけど……。

 

秋希「まあ、ここに来た理由は単純よ?『不審な人物が学園のトイレを占領してる』って苦情があってね……。皆忙しそうにしていたから、暇な私が来たってわけ。」

 

 うん。嘘は言ってない。『清涼祭運営委員会』は大会運営にも携わっているし、そうでない人達もパトロールや、クラスの出し物を手伝っているのがほとんどだ。唯一『嘘』と言えるのは、私がそこに所属していないことくらいだ。

 

秋希「それで?あなた達がここにいるのは、Aクラスの生徒を拉致するためかしら?」

 

「お、お、おい!根古木(コギィ)、話が違うじゃねぇか!」

 

「俺は『死神』や、その右腕である『近衛』に会うリスクを提唱した…。それを『学園の行事に参加しているから会うことなどない』と、一蹴したのはお前だぞ……。宝、お前は毎回毎回、見立てが甘過ぎる……!」

 

「…………。」(白目をむいて、倒れている。)

 

荒巻(マッキー)!気絶してねぇで起きてくれ!」

 

 狼狽える長岡。冷ややかな視線を宝に浴びせる内藤。私に遭遇したショックからなのか、倒れる荒巻。なんて酷い絵面だ。

 私に会うのがそんなに怖いの?自分で蒔いた種とはいえ、ちょっとショックだ。

 

秋希「……で?私の質問に答えてくれる、宝さん?多分だけど、あなたが主犯でしょ。他の人達の反応を見るにさ。」

 

「……だったら、どうするよ。」

 

秋希「止める。それ以外の答えがあると思う?」

 

 私だって仮にも文月学園の生徒で、『七天八刀』のメンバーだ。学園で問題が起こることも、『七天八刀』が無関係の人間に迷惑をかけることも、両方阻止しなければならない。

 たとえ学園が嫌いであっても、組織に嫌われていても、ね。

 

「……ハハハ。随分くだらねぇ答えだなぁ……。そんな事したところで、お前が得することなどないだろ!」

 

 確かに。私は過去に起こした事件のせいで、『七天八刀』に尽力したところで、十リーダー達からは『再び組織を巻き込んで騒動を起こすのでは』と、警戒を強めるだけ。そんなこと、私が一番わかりきっている。

 

秋希「でも『七天八刀』にとっては、問題点の早期解決に繋がるからプラスになる。『組織』に属し、活動している以上は、考えるべきは『自分の利益』より『組織の利益』でしょ。目先の金に目が眩んで、組織のルールを無視する誰かさん達を見逃す理由にはならないから。」

 

「…………やっぱ、テメェはぶっ殺す!Fクラスの女を人質に、吉井と坂本って奴をブチのめす話だったし、お前もその一人として連れてく話だったけどよぉ……。ここまで俺達をコケにしといて無事でいられると思うなよ…!」

 

 うわー、沸点低いなー。まあ、煽ったのは私だけど、正論ぶちかましただけでここまでキレることないでしょ。

 しかし、目的はAクラスじゃなくてFクラス。私と零次じゃなくて吉井君と坂本君、か…。これは早急に坂本君に問いただす必要が出てきたかも。

 とはいえ、まず場所が問題だなあ。一歩でも私が外に出ちゃうと、廊下にいる一般客や生徒が巻き込まれる。かと言って、このまま留まっても、トイレに人が来たら結局同じだ。

 

 ま、一応くだらない会話をしている間に、既に手は打ってあるけどね。後は時間と運任せ。私が呼んだ援軍が来るか、関係ない人がそれより先にやって来るか。はたまたアイツらの仲間がここに来るのか……。

 何にせよ、この『賭け』に勝つことを考えないとね。

 

 

 

・・・

 

 

 

トン……トン……トン……

 

 俺の足音だけが辺りの廊下に響く。

 今いる廊下の先へ進めば、何かしらの催し物がされているであろう体育館へと続く。しかし、その動線となるこの廊下は、『学園関係者以外立入禁止』の貼り紙がされた数個の椅子によって封鎖され、かわりに普段は開かない体育館の扉が開放されている。

 祭りの喧騒から切り離され、いつもの学園と変わらない風景を映し出すこの空間の途中にある扉の先に、俺の用事がある。

 

 『学園長室』。その扉を数回叩き、返事を待った。

 

零次「…………失礼します、学園長。2−A代表の双眼零次です。」

 

藤堂「……入りな。」

 

 言葉に促されるままに部屋へと入ると、そこには頭を抱えながら、パソコンを睨みつけている学園長の姿があった。

 

零次「……随分、お疲れですね。」

 

藤堂「冷やかしに来たんだったら、帰ってくれないかい?こっちは色々と忙しいんだよ。」

 

零次「そうでしょうね。坂本と取引をしてから、ずっと今のような様子だと、小林先生や西村先生あたりから伺っておりますし……。何より、去年一昨年から教師陣が慎重にルールを整備し、一年ぶりに開催に踏みきった大会だ。『失敗』など許される訳がない。」

 

 俺が話す間も、部屋はキーボード音だけが鳴り響いている。学園長の視線も、時折こちらに向くものの、基本はパソコンに釘付けだ。

 

零次「そういう訳で、今更言うのもアレですけど……、本当に良かったのですか?俺達を参加させて。敢えて言いますが、俺達が優勝するのは、ほぼほぼ決定事項みたいなものなのですが……。」

 

藤堂「随分、傲慢な言い方だねえ……。アンタらの準決勝の相手は、三年だろう?油断していると、足を掬われるんじゃないかい?」

 

零次「…………ありえませんね。相手が保健体育を得意としている話は耳にしていませんし、だからと言って、召喚獣の操作に秀でている噂もない。去年の試召戦争だって、今年のFクラスみたいに頻繁にしていたわけでもない。『正攻法で』俺達に勝てる要素は……ゼロですよ。」

 

 近衛に去年の試召戦争の履歴を調べさせた訳だが、今回相手となる先輩達が所属していたクラスの戦争経験は、たった二回しかなかった。

 あの二人は去年もAクラスの生徒だった。その中でも、粗暴な見た目に反して、5本指に入る成績の持ち主であることも把握している。戦争の詳しい記録までは聞かされなかったし、聞きもしなかったが、それを考えると、切り込み隊長を任されるか、余程接戦にでもならなければ、召喚獣を出したことも無いのではなかろうか。

 

 何はどうあれ、俺達があの先輩方に負ける要因は無い。仮に負けたとしても、決勝の科目は日本史。明久の得意科目な訳で、操作経験に圧倒的アドバンテージのあるうえに点数も俺達との勉強で、既にBクラス代表と同等の点数を獲得している。

 3-Aの生徒は頭こそ良いのだが、木地先輩や東堂先輩のような人格者は実は少数派で、大体は自己中心的な人物しかいない、なんて話をいつだったか聞き覚えがある。嬉々として下級生の出し物の店で営業妨害まがいのことを働いている時点で、あの二人もマジョリティ側だろう。そんななめ腐ったコンビ相手に明久達が今更不覚を取ることもないだろう。その裏についている人物も、明久達のことなど、学園を代表する問題児としてしか見ていないだろうしな…。

 

零次「まあ、それ以前に明久達が決勝に行けるかも怪しいですがね……。」

 

藤堂「何故だい?確かに霧島と木下の2年優等生ペアは、優勝候補に挙がっているようだけど……。坂本は何かしら策を練っているんだろ?なら、今はそれを信じるしかないさ…。」

 

零次「…………そもそも、相手が霧島達でないことはご存知ですか?」

 

 そう言って、トーナメント表をパソコンや書類で散らかった机の空いたスペースへと叩きつけた。

 

藤堂「……なんだって!?坂本達の相手は霧島じゃないのかい!?」

 

 案の定というか、やっぱり知らなかったみたいだな。

 それもそうだ。他の教師に心配されるほど追い詰められた状態なんだ。そんな状況で大会の行く末など気にしていられないだろうな……。

 

零次「坂本は確かに頭は切れるが、どこか詰めの甘い部分があります。もし、坂本の策が霧島の事しか意識していないようであれば……、奇跡でも起きない限り負けるでしょうね。」

 

藤堂「…………それでも、今のアタシに出来ることなどありはしないさね。答えは変わらない。あの二人を信じるしかないさ。」

 

零次「そうですか……。であれば、これ以上は何も言っても意味はありませんね。」

 

 極論を言ってしまえば、今からでもシステムに介入して木地先輩達の召喚獣のステータスを無理矢理下げるなどは出来そうだが……。バレれば、学園長の教師生命は絶たれるし、それ以前にそれが許されるなら、坂本達の点数の水増しを一蹴する理由も無い訳だしな……。

 

零次「……ただ、最後に一つだけ。あなたの目的が『如月ハイランドのペアチケット』ではないことに、坂本は気づいていると思いますよ?恐らくですが、あなたと話をした、あの時点で既に…。本当に二人を信じているのであれば、その『真実』を話すべきだと思います。……それでは失礼いたしました。」

 

 そう言って、俺は部屋を出ていった。

 時間を見れば、大会会場に向かうにはちょうどいい時間を示していた。

 ……ならば、このまま会場に向かうのが吉だな。次こそ先について、近衛をからかってやるとしよう。

 

 

 

・・・

 

 

 

?「アレ~?宝達はどしたの?まさか逃げられた?」

 

 宝達の発見から十分くらい後のこと。私の所に、一組の男女のペアがやってきた。

 

第七刀[七ツ星]リーダー 五条勝悟(ごじょうしょうご)

 

第七刀[七ツ星]副リーダー 二位類子(にいるいこ)

 

 先程私が見つけた連中のグループのリーダー格。それがこの二人の正体だ。

 

秋希「……五条さん、遅かったですね。宝さん達なら、先程西村先生に連行されましたよ。」

 

勝悟「ええ~…。マジィ~……?コレ先公の所に行かなきゃダメな案件?」

 

類子「ダメな案件ですね。……『七ツ星』の皆が大切じゃないと、言うのであれば、話は別ですけれど。」

 

 そうそう、あの『七ツ星』の連中とのケンカに発展する時心の中で唱えた『賭け』のことだけど……。結果的には私の勝ちで終わったわ。

 そう、『結果的に』は。あの時、私がコッソリ呼んだ援軍というのが、この二人……正確には迷惑をかけまくっている『七ツ星』のリーダーだ。だけど、それよりも先に西村教諭が巡回にやって来て、『七ツ星』の皆をまとめて鉄拳制裁を下したのよね……。だから『結果的』には私の勝利。だけど、後々の処理がちょっと面倒なことになっちゃった、ということだ。

 

勝悟「………………ハァ。大切に思わない訳ないじゃんか…。あんなゴミクズみたいな奴らでも、俺にとっちゃ大事な仲間で、他愛もない話ができる友だからな……。しゃあねぇ、行ってくるかぁ~。」

 

秋希「いってらっしゃ~い……と、言いたいところですけれど、西村先生のいる場所分からないですよね?」

 

勝悟「大丈夫大丈夫。適当にブラブラ周っていりゃ、いつか分かるっしょ。それに、宝達をまとめて連れてった、ってことはそれくらい強いってことだろ、その先公は。俺、そういう奴の居所が感覚で分かんのよ。っつー訳で行くぞ、類子。」

 

 大きく伸びをしてダルそうにしながら、男はその場を後にした。けれど……女の方、二位さんはその場に留まり、五条さんを見送っていた。

 

秋希「…………あの……類子さん?五条さんと一緒に行かないのですか?」

 

類子「………………今度は何を企んでいるのですか。」

 

秋希「……何のことでしょう?」

 

類子「惚けないでください。ここは男子トイレですよ?女性である私達が本来立ち入れる場所ではないはずです。それなのに、あなたがここにいるのは、ここに確固たる目的があるから。違いますか?」

 

 ああ、もうこれで宝達と西村先生に続き、3回目の説明だ。説明したところで、それで納得して引き下がってくれる相手ではないけれど、何も言わずに誤魔化すのは、より不審がられるだけだ。本当に面倒臭いけれど、類子さんにも説明した。

 

秋希「……という訳なのですけれども。ご理解いただけました?」

 

類子「……ええ、なるほど理解しました。ですが、それで私が納得すると思ってるのですか?」

 

 デスヨネー。

 

類子「…………ですが、今回のあなたの行動が『七天八刀』に害する行為にはならないと判断しました。この場所に立ち寄っていた事に関しては不問としましょう。」

 

秋希「え?あ……ありがとうございま……す?」

 

類子「何故疑問形なのですか……。」

 

 だって類子さんの性格上、納得するまで質問責めにあわされると思ったので……、とは流石に口が裂けても言えない。

 

類子「では、私は五条リーダーを探します。あの人がまっすぐ『七ツ星』の皆のもとへ向かえるとは思えないので。」

 

 そう言って、類子さんも五条さん同様新校舎の階段を降りていった。

 

秋希「…………………………ハァ、危なかった~……。」

 

 類子さんや西村先生には疑われたけれど、何とか目的自体は達成できた。

 私がここに来た目的。当然『七天八刀』という不審者集団の対応な訳がない。それだったら、わざわざ私が行くよりも、十リーダー達にその情報を流せばいい。

 

 本来の目的は西村先生が宝達を連れて行ってから五条さんが到着するまでの間に達成されている。私は隣の『女子トイレ』へすぐさま移動し、個室へと籠った。

 そして、スカートから男子トイレで回収した小型カメラを取り出す。

 

秋希「…………よし、無事撮れたようね。」

 

 そこに映され出されてた映像は、後に私達の学年を混乱に陥れる前触れとなるでしょう。でも、それは私達にとって必要なもの。

 

 私達の『計画』の第一段階は無事に終わった。第二段階では『試験』を開始する。

 さて、『受験者』達は無事合格できるのかしらね…。



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小問12-F 表で働く策略

雄二「明久!作戦はさっき伝えた通りだ!しくじるんじゃねえぞ!」

 

明久「それはこっちのセリフだよ!」

 

 準決勝第一試合。雄二の作戦はいきなり出鼻をくじかれ、ほとんど万策尽きたような状態だった。それでも、何とか雄二は策を捻り出してくれた。

 その作戦とは、僕が木地先輩を抑えてる間に、雄二が青葉先輩を倒す!

 ……うん、雄二にしては、らしくない大雑把な作戦な上に、僕の負担がメチャクチャ大きい気がする。

 

 けれど、これが正しいのかもしれない。雄二は代表だから、DクラスやBクラスとの戦争では後ろで指揮をしていたし、雄二が戦うほどの接戦にもならなかった。Aクラスの戦争では、テストの点数を利用した変則的な勝負を仕掛けていた。結局のところ大会が始まるまで、雄二は召喚獣を使ったことがほとんど無いんだ。そのため『観察処分者』の仕事や戦争の前線にいることの多かった僕と比べて、細かい操作は雄二にはできない。

 

 だからこそ、僕が点数の高い先輩の相手をする。できれば狙うのは、各個撃破だ。それができなくても、青葉先輩との勝負で疲弊した雄二でも相手できるように、点数を削っておく。それが僕の役割だ。

 

標示「……なるほど、坂本さんが実力の拮抗した部長の相手をし、召喚獣を操作に長けたあなたは私の足止めにまわる…。実に合理的です。ですが……。」

 

 途端に先輩の召喚獣の腕が輝く。…って、まさか腕輪!?なんとかして避けないと、マズい…………!

 

 

[フィールド:保健体育]

2-F 吉井明久・・・104点

 

2-F 坂本雄二・・・177点→138点

 

 

VS

 

 

3-C 青葉文 ・・・153点→111点

 

3-A 木地標示・・・306点→286点

 

 

 …………って、あれ?何も起きない?

 

文「あやああああっ!隙ありですよぉーっ!」

 

 って、青葉先輩が突っ込んで来た!?しかも何故か味方であるはずの木地先輩の方に。だけども、すぐに態勢を立て直して、こっちに向かって来た。たまらず、こっちも応戦する。

 

明久「……って、あ、あれぇ!?」

 

 召喚獣が思った通りに動かない!?いや、動いてはいる。けど、青葉先輩を迎え撃つはずが、その脇を素通りしていった。

 

文「もう一度言いましょう。隙ありですよ!」

 

明久「ぐへっ!」

 

 そのままガラ空きの背中に蹴りを入れられる。幸い点数差がほとんどなかったから、召喚獣へのダメージは軽微だ。それでも背中の痛みはそれなりにあるけど……。それ以上に頭に違和感があったような……。

 

文「あーやややややっやぁーっ!その程度でわたしを……いえ、わたし達を止めるなど笑止!身近に『腕輪』を使える人がいるせいで、2年生(そちら)だけの特権とでも思ってましたぁ?」

 

 うわあ、青葉先輩の言い方が、めちゃくちゃ小物臭いんだけど……。

 そもそも、腕輪は僕ら2年でも使える人は少ない。零次をはじめとして、僕の周りに腕輪を使える人が多いから勘違いしやすいけど、Aクラスだって上位10名の規格外な生徒を含めても、平均点は200点程度。ほとんどの生徒が腕輪を使えないのは、学力最高クラスのAクラスも同じだ。

 

雄二「……明久、大丈夫か?」

 

明久「うん。ちょっと頭がおかしくなってた感覚があったけど、もう大丈夫。」

 

雄二「お前の頭がおかしいのは、いつものことだろ。」

 

 え、ひどくない?バカは散々言われてるし自覚もあるけど、今のは普通に悪口でしかないでしょ。

 

標示「余所見とは随分余裕ありますね。」

 

文「さあ、第二ラウンド開始と行きましょうか!」

 

 しまった!さっきの攻防で隙ができたせいで、対戦相手が入れ替わってしまった!

 

[フィールド:保健体育]

2-F 吉井明久・・・104点→97点

 

2-F 坂本雄二・・・138点

 

 

VS

 

 

3-C 青葉文 ・・・111点

 

3-A 木地標示・・・286点

 

 

雄二「おい明久ァ!全然削れてねぇじゃねぇか!」

 

明久「そういう雄二だって、青葉先輩を抑えられてなかったじゃないか!」

 

 

 

・・・

 

 

 あやや……、やはり、こうなりますか。木地君の読みは本当によく当たりますね。

 

 木地君の予測では、まず、初撃は科目が保健体育であることを利用して、土屋君でこちらの不意をついての殲滅、もしくは一人を倒して有利な状況にする作戦とのこと。予測を的中させたことで、相手の出鼻を大きく挫くことに成功しました。

 

 そして失敗した場合は、各個撃破に切り替える可能性が高いとのこと。

 点数はそれなりにあるけど、召喚獣の操作経験が人並みしかない坂本君。その相方は、召喚獣の操作に秀でているけど、点数はお世辞にも高いとは言えない吉井君。互いが互いの弱点を補い合っている良い組み合わせに見えますが、その実態は真逆。連携しようにも、操作経験の乏しい坂本君では吉井君の動きについていけない。

 それ以前に、二人の仲も良好とは言い難いと、私も木地君も判断しています。一部の界隈では、『二人はデキている』とか不穏な噂が流れていますが……。話が脱線するので、個人的見解はまた別の機会にでもしましょう。とにかく、二人の仲が良いとは言えないのは事実。

 

雄二「だいたい、目の前の敵を素通りしていく奴がいるか!」

 

明久「だから、気づいたら木地先輩を狙ってたって、言ってるじゃないか!」

 

 現に二人は、互いに私達を追い詰められなかったことを言い争っている最中ですしね。

 

文「あややや、いつまで無駄話をしてるのです?味方と小競り合いしながらでも倒せると思ってるのなら……、流石にそれは舐め過ぎです…よ!」

 

明久「くっ…!」

 

 回避に防御に、時に撹乱。召喚獣の操作に慣れている吉井君相手に、一対一を維持し続けるのは結構ハードモードではありますが、それでも坂本君を倒せと言われるよりかはマシですね。

 点数に経験、それから頭の回転。どれを取っても、木地君が上。戦ってきた数で言えば、不良で有名な坂本君の方が上かもしれないけど、その経験を召喚獣に転用できていない現状では、何ら脅威ではありませんからね。

 

文「……と、あやや?」

 

 

[フィールド:保健体育]

2-F 吉井明久・・・97点→74点

 

2-F 坂本雄二・・・138点→77点

 

 

VS

 

 

3-C 青葉文 ・・・111点→91点

 

3-A 木地標示・・・286点→178点

 

 

 妙ですね……。木地君の点数の減りが私達より早いなんて……。召喚獣のステータスって、召喚者の点数に依存するんじゃ無かったんですか?それとも木地君がヒョロガリだから、Aクラス上位でも、大して強くなかったとか……?

 

標示「部長、何やら失礼なことを考えていませんか?」

 

文「イイエー、マサカマサカー。」

 

 本当に木地君は時折こちらの心を見透かしてくるので怖いんですよね……。エスパーなの?読心術使えんの?

 

標示「……単純にこちらの想定より操作が上手いって話ですね。吉井さんにでも習いました?それとも…………まさか三回戦で時間がかかった分、コツを掴みやすかった…とか、でしょうか。」

 

 三回戦といえば、この二人の相手のうち一人は木地君のクラスメイトでしたね。確か美術部の部長で、一番仲の良い後輩を誘って参加したんでしたっけ?独特の美学を持っていて、それ故に周りから距離を置かれていて、同じ理由が当てはまるか知らないけれど、召喚獣の操作も周りより抜きん出て上手い……というのが、木地君の話でした。

 その技術の高さがどれほどかは調査中ですが、木地君が其処まで言うということは、もしかしたら今目の前にいる『観察処分者』に匹敵すると考えるのが妥当……ですかね。

 

雄二「まあ、そんなところだな。意外か?」

 

標示「ええ…。ですが、それならもう一度あなた達のリズムを狂わせるだけです。」

 

 そう言うと、再び木地君の腕が光る。ただ最初に発動した時は腕をあげていたのに対して、今回は坂本君の拳を止めるために、前へ手を突き出している。

 でも、そうするということは、必然的に坂本君と距離が近くなるわけで…………。

 

 

[フィールド:保健体育]

2-F 吉井明久・・・74点

 

2-F 坂本雄二・・・77点

 

 

VS

 

 

3-C 青葉文 ・・・91点

 

3-A 木地標示・・・178点→158点→149点

 

 

 まあ、そこそこのダメージをもらうのも当然ですね。

 そして、私のやることはさっきと同じ。『坂本君』の方へまっすぐ突撃していく、吉井君を後ろから突き飛ばしつつ……。

 

 

 

 ………………あや?坂本君の方へ?

 

 

 

明久「くたばれえええええ!」

 

雄二「……!なるほど、『そういう』能力か!」

 

 あやや!?もしや木地君の能力を見破ったのですか!?しかも坂本君の召喚獣は、いつの間にか空いた片手のメリケンサックを外し、木地君の召喚獣の首を掴んでいる。これは……木地君、やっちゃった?

 

[フィールド:保健体育]

2-F 吉井明久・・・74点

 

2-F 坂本雄二・・・77点

 

 

VS

 

 

3-C 青葉文 ・・・91点

 

3-A 木地標示・・・149点→戦死

 

 

標示「…………お見事、です。」

 

 あやや、やはりそうなっちゃいますか。坂本君はうまいこと木地君の召喚獣を盾にして、吉井君の渾身の一撃は、そんな木地君の召喚獣の頭へと吸い込まれていった。無防備な頭に強い衝撃を受けるわけですから、そりゃあ、耐えられませんって。

 

明久「……ってあれ?なんで僕、雄二を狙ったんだ?」

 

雄二「やはり、な。木地先輩の腕輪の能力は『攻撃を1体の召喚獣に集中させる』能力だろ。だから、明久の認識にもズレが生じたんだ。……もっとも今の攻撃は、本当にズレが生じてたか疑う殺意の高さだったがな……。」

 

 その後、私一人で戦況をひっくり返せるわけもなく、何も語れる要素も無いほどにボッコボコにされました。

 まあ、元々私達は決勝は勝つ気が無かったですし……。そんな人達が勝つより、優勝を目指しているペアが決勝に進んだ方が、盛り上がるでしょう。

 

 もしかしたら、あの二人が優勝する、なんて大どんでん返しが見れる可能性も無きにしも非ず、でしょうし。もしその時は、大々的にうちの文学(ふみがく)新聞の一面、飾ってもらいますよ。

 



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