エルフの忌み子は鍛冶師 (枝豆%)
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少年期
プロローグ


次からは日記形式になります


 

 大昔のこと。エルフはクロッゾという魔剣貴族に森を焼き払われた。

 クロッゾの先祖が精霊を助けたことにより、クロッゾ一族は魔剣を打てるようになった。それからは人間の醜い部分が段々と現れ、魔剣を私利私欲のために使う。エルフの森はその一件に過ぎない。

 戦争の引き金になったり、逆に戦争での兵器として使われたり。

 

 だからこそ僕みたいなのが産まれたのかもしれない。

 

 

 目には目を歯には歯を、そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──魔剣には魔剣を。

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ての武器を魔剣に変えてしまう力が僕にはあった。

 本来ならそれは強力で、そして崇められる力だっただろう。国から護られて、他人は崇め、民草は献上する。それこそ神に近い存在になれただろう。

 

 僕がエルフでなければ。

 

 

 

 初めて受けた感情は怒りだった。

 物心着いた頃から殴られ続ける僕。子供の頃から続いていたので、僕は殴られるという行為が悪感情などとは思わなかった。

 痛いけど仕方ない、僕は殴られるのは仕方ない。そう思うようになった。

 

 次に貰った感情は慈悲だった。

 多分同い年のエルフが傷だらけの僕を見て労わってくれた。少女はレフィーヤと言うらしい。レフィーヤは「そんなの絶対おかしいです!!」と言ってくれたけど僕はどうでもよかった。

 

 そして僕は何も持ってなかった。

 残っていたのは空っぽの自分、僕にはほんとうに何も無かった。ただ一日を怠惰に過ごす毎日。

 殴られ、蹴られ、石を投げられ。それでもレフィーヤは僕を離さなかった。それでも、と助けてくれた。

 

 何か返してあげたいと思ったが、僕はどうしようもなく空っぽで空気のような存在だった。何も持っていない、手にしたものを魔剣に変える。それ以外、僕は何も持ってなかった。

 

 

 そんなどうしようもない自分が情けなかった。

 誰かを守る、僕を守ってくれるレフィーヤのような存在と比べてしまい何か心の中で凝りが産まれた。

 だが僕はその感情の名前を知らない。

 

 僕には本当に何も無かった。

 手にしたものは全て砕け、与えるものは何もない。辛うじて触れるのは生きている動物、そして武器としてみられない物質のみ。

 

 話をしてくれるのはレフィーヤだけ。

 僕を産んだ家族?という存在は、早々に僕を捨てて森を出た。別にそのことに関して思うことは無い。顔も思い出せない人達のことを恨んでも仕方ない。何より僕には恨むという感情すらない。

 

 レフィーヤは森にきた移動学校『学区』へと入学したので、僕は森から出ることにした。

 勿論移動学校に入学した訳では無い、そもそも僕は移動学校にすら入れてもらえない。

 

 だからレフィーヤに提案された。

 

 「オラリオに行った方がいいよ!」

 

 名前も知らないその土地。

 レフィーヤ曰く、焦がれるほどの夢を見られる場所。

 名声を、夢を、全てを手に入れられる。そう聞いてもいまいちピンと来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局森を出た。レフィーヤから座標を聞いたので、方角に従えば辿り着くだろう。

 エルフ達からは非難された。散々な扱いを受けたが、魔剣という力が無くなるのは大きな歪みになるからだそうだ。

 

 全てを無視して森をでた。

 レフィーヤと軽く挨拶を済ませて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして僕は、嬲られ半殺しにされた。

 

 

 

 森のエルフ達から一斉に魔法攻撃をされ、数に為す術もなく嬲られた。死ななかったのは奇跡ともいえる重症を負ったのは間違いない。そこら辺はエルフ達が何とかしてくれたのかもしれない。

 何せ僕は『魔剣を産み出す為だけの存在だから』。原則として僕の力は僕が触れていなければ発動しない。手元を離れたら魔剣ではなくなる。

 だからエルフ達は僕を見逃しはしなかった。

 

 

 

 この時、僕は初めて怒りという感情を理解した。

 

 

 

 

 

 特殊な首輪を付けられた。

 エルフ達曰く、森から離れようとするとエルフの森に警報を鳴らす魔道具らしい。それを付けながら生活を余儀なくされた。日中は拷問を延々と繰り返される。そしてモンスターが現れたら必ず駆り出されるようになった。一人見張りがいるがモンスターを倒し終えたら、必ず僕を攻撃してくる。

 反抗しようものなら首輪を通じて首に激痛が走るようになっていた。

 エルフの言うことを信じていた自分が腹立たしかった。いつか、この種を……。

 

 森の僕の住処で、一番端であり一番危険な場所で生活をしていた。レフィーヤはもう居ない、もしかしたらあの時、オラリオに向かう時、もしかしたらレフィーヤが森のエルフ達に教えたのではないか…そう思ってしまう自分がいる。

 そんな自分がどうしようも無く情けない。

 不幸とか可哀想とか思うだけなら今までも多少なりとも思えるようになった。

 だが僕は狂気に堕ちてしまいそうだ。

 それこそ狂ってしまうように、いや狂えるのならどれだけマシなのだろう。全てに当たり散らし、何も無かったかのようにすればどれだけ楽なのだろう。

 レフィーヤのことも忘れて、森のことも忘れて、一人ずつエルフを殺せたらどれだけ楽になるのだろう。

 

 僕のその問は誰も答えてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の湖で精霊に出会った。

 湖の乙女は、優しかった。それは昔のレフィーヤの様に。

 楽しかったのだと思う。湖の乙女はとても綺麗だった、手に取れば透けてしまうような、自分の手で壊してしまいたいような。

 だけど湖の乙女は赦してくれた。それは貴方にとって必要な感情であると言われ。

 だけど僕は殺すことが出来なかった。

 唯一無二の友人だった(・・・)レフィーヤのことを思い出すと、僕に優しくしてくれる存在を殺すことなど出来るはずもなかった。

 

 湖の乙女はそれを咎める訳でもなく、責める訳でもなくて、ただ黙ってこちらを見続けた。

 そして湖の乙女は僕という器を見極めた上で、黄金に輝くモノを与えた。

 

 それは僕の胸に入り、湖の乙女は静かにこういった。

 

 

『貴方に加護を与えましょう。だから貴方は我々の悲願を──【風】を探しなさい。【風】と共に歩み、竜を討ちなさい』

 

 

 僕の胸には刺青のようなものが浮かび上がった。

 詳しくは分からない、だが一つだけ分かることがある。それは剣の出し方。そしてその剣はとてつもなく強大であり強力であるということ。

 

 

『【風】の名前はアリア、彼女と……』

 

 湖の乙女はそう言って霞んでいき消えた。

 湖の乙女が何を伝えたかったのかは分からない。だが、それでも森から出なければならないということが分かった。ずっと切っ掛けを探していただけなのかもしれない。

 湖の乙女との約束があるが、それは殆ど僕には分からないこと。なのでそれは無視しよう。大切なのは、レフィーヤとの約束。

 オラリオに向かうこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の木々を手に取る。

 やることはただ一つ。木々を魔剣に変えて振るうだけ。

 それだけの簡単な作業。

 

 僕は数百の枝を手に取って、エルフに、森に、全てに。

 火を氷を風を雷を……。魔剣を振るった。

 

 そしてこの時僕は初めて───人を殺した。

 



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少年1

 ○月✕日

 

 夢から覚めたような感覚だった。

 僕は多分この日の事を二度と忘れないだろう。悲鳴をあげて助けを求めるエルフ達の顔。

 あの人達の顔が頭から離れない。大量の血を浴び、鼓膜が破れる程の声を聞いた。

 気持ちよかったのか気持ち悪かったのかは分からない。ただ、胸に空いた穴が、また広がったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 ○月☆日

 

 オラリオに向かおう。

 幸いエルフ達から金目のものは頂戴したので、当分困りそうにない。

 歩いて行こう。今日は無性に歩きたい気分だ。自由になったからか、楽になれたからか…その辺りは自分でも分からないが、今は歩きたい。そして、この森から今すぐにでも出ていきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月*日

 

 僕自身オラリオに行きたいのではなく、森から離れたかっただけだと直ぐに理解できた。

 ただ知っている場所がなかったからオラリオなだけで、森から離れられればどこでもいい。そう思っている自分がいるのが分かる。

 

 今日はモンスターに襲われた。

 落ちていた石ころを魔剣に変えて投げつけたところ、小威力だけどモンスターに致命傷を与えることが出来た。当たりどころが良かったのかもしれない。

 

 今日はもう寝よう、何だかとても疲れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月*日

 

 襲われている人を助けたら、何とオラリオへ向かっている商人の馬車に乗せてもらえることになった。

 僕がエルフだったこともあり、魔剣の力を魔法だと勝手に勘違いしてくれたみたいだ。確かに木の枝が魔剣になるなんて聞いたことは無い。その点でいえば幼くても僕は優秀なのかもしれない。

 確か商人のおじさんは、食料を運んできたらしい。朝に採った採れたての野菜をもらい齧り付いた。

 トマトが瑞々しくほんのり甘かった。僕も家庭菜園をしてみたい。

 

 商人のおじさんから色々オラリオについて教えて貰った。

 ファミリアやダンジョンについて教えて貰った。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月♪日

 

 ハメられた。

 商人のおじさんはあれが魔剣だった事など直ぐにわかっていたそうだ。でも魔剣は僕の能力なのでどうすることも出来ないみたいだ。手足を拘束されて、魔剣について散々聞かれた。

 今更尋問も拷問も怖くはない、でも痛みはこのおじさんのほうが数倍強かった。

 巨大なペンチのようなものを指に挟んだりされて、指の骨が折れたりした。爪は6枚剥がされたし、歯は三本抜かれた。

 

 この点でいえばエルフは魔法だったので死にそうになり気を失ったりしたが、こちらは気絶する暇も与えて貰えないので拷問らしい。

 とりあえず教訓として、これから他人は信用しないようにしよう。

 

 信じられるのは自分だけ。

 これだけは忘れずに生きていこう。

 

 

 

 

 〇月$日

 

 拷問を受けている間に、尖った石を手に取り拘束を外しておじさんを殺した。

 少し拷問してみたけど、チマチマと面倒くさかったので氷の魔剣で下半身だけを凍らせて凍死させようとした

 何度も眠りそうになっていたので、親切に顔を蹴ったから顔が腫れ上がって原型を留めていなかった。

 

 人を殺すことに、そして人に殺されそうになることに、僕は全く何も思わなくなった。

 どうやら僕の頭のネジはいつの間にかぶっ飛んでいたみたいだ。

 

 途中、モンスターが現れたのでおじさんをあげた。

 死んだフリをしていたみたいなので、餌として上げることにした。途中悲鳴が聞こえたけど一日ぶりに食事を始めた。

 

 やっぱり野菜は美味しい。

 食べられている、おじさんを見ながら、またトマトを食べた。

 何だかおじさんもトマトみたいだな〜と呑気に思った。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月°日

 

 

 馬車は問題なく乗れる。

 もしかしたら騎乗の才能があったのかもしれない、心做しかトマトの人が操っていた時より上手く動かせてる気がする。

 ウマゴン(命名)はかなりいい速度で移動してくれたおかげで、少し早めにオラリオの座標へと着いた。着いたら無くなってる、なんてベタな感じではないので普通にあった。

 

 さて、近場で馬車を降りて荷物を纏めた。

 商人でもないのに野菜を積んでる馬車に乗っているのはおかしいし、もしかしたらオラリオであのトマトの知り合いがいるかもしれない。

 

 やっぱりそう考えると途中からは歩いた方がいい。

 少量のトマトとキュウリを、あとはエルフから貰った宝石と木の枝を。

 

 

 

 

 思ったよりすんなりと入れた。

 あんなので良いのかと思うが、すごく簡単に入れた。

 皆、と言ってもレフィーヤとトマトだけだが、オラリオは噂通り活気が凄かった。自然の静かさやらなんやらを愛するエルフの森と比べれば真逆だ。あ、でも焼いた時とはいい勝負かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月?日

 

 

 今度はエルフの金品欲しさに喧嘩を売られた。

 何やらよく分からないことを言っていたが、気にしないでいいだろう。ファミリアがどうのこうのって言ってたと思うけど、オラリオに来たのが最近なのでまだ勝手がわかってない。

 

 高い建物から気持ち悪い視線を感じたので振り返った。

 よく分からなかったし気持ち悪かったけど、トマトやエルフと同じで品定めされているような気持ち悪さだった。

 

 お金を使って宿を取ろう。野宿もいいけど、もう一度オラリオに入ったり出たりするのは面倒だ。

 自分に部屋があるなんて生まれて初めてだけど、不思議と抵抗はなかった。

 自分には何処にも居場所が無かったことを改めて実感出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月々日

 

 凄いことになった。

 赤髪の人に話しかけられて、僕にとって武器とは何かと聞かれた。

 

 だから僕は答えた、凶器であり脆いものだと。

 すると鼻で笑われた。僕は武器を知らないと。

 

 こうも言われた、武器と凶器は違う。

 人を守れない鋼に価値はない、と。

 

 人を守る?僕には理解できない単語が出てきた。人を守るってなに?

 あれらは貶め、私利私欲を満たし、使えなくなればゴミのように捨てる存在だろ。そんなものを守ってなんになるの?

 

 悲しい子。そう言われた。

 心の穴が傷んだ。

 生まれてから痛みに慣れ、殆ど痛覚が麻痺しているのに痛いと感じた。

 

 

 

 そして僕は初めて武器を見た。

 どこまでも美しく、どこまでも透き通る。

 

 ナイフ、短剣、大剣、太刀、槍、斧、盾。

 部屋にはそういった武器が並んでいた。

 

 これは、誰が?

 

 僕は思ったまま赤髪の人に聞いた。

 すると私だと、いい誇らしげな顔になる。

 

 

 僕は人をもう信じない。

 自分以外は信じられない。

 人には頼らない。

 信じるのは僕という存在と能力だけ。

 

 でも、

 

 

 もし、

 

 

 

 答えてくれるなら。

 

 

 

 鋼だけは、信じてもいいんじゃないか。

 僕は多分、鋼の美しさに取り憑かれたのだと思う。

 あれ以上の物を作りたい。

 他でもない自分の手で。

 

 この手であれを超えたい。

 

 

 僕は神、ヘファイストスの神血を背負い。

 神の眷属となった。

 

 

 

 

 



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少年2

 〇月÷日

 

 トマトに付けられた傷が目立っていたので、赤髪の人、もとい主神ヘファイストスに聞かれたのでありのまま応えた。

 するとヘファイストスは怒っていたので、もう殺したことを伝えると「殺すか、殺さないかしか出来ないのか」と言われた。

 拷問は好きじゃない、と答えたら呆れられた。僕は今、おかしな事を言ったのだろうか?

 

 エリクサーという回復薬を貰って飲むと、身体が元どおりに戻った。抜かれた歯や剥がれた爪も何とかなった。

 

 主神に工房を与える、と言われたので付いていく。

 途中に黒髪で隻眼の女に声をかけられた。ここには隻眼の女しかいないのか?

 

 

 

 

 

 

 〇月」日

 

 随分と日が空いた。

 主神から恩恵をもらってから、一度もダンジョンに行かずに鉄を打っていた。

 一ヶ月ほど工房にこもり、そして何も食べていなかったので飯を食べることにした。

 豊饒の女主人という所で飯を食べた。主神より貰った金の殆どを使ったので腹は膨れた。が、頭の中では鍛冶での反省点を上げていた。あの時もう少し早くすれば、もう少し熱くしておけば。

 

 初めてということで妥協は許されない。

 何故なら、これは僕の半身をつくる行為なのだから。誰でもない、僕自身が僕のために武器を作る。

 

 

 

 帰り道、じゃが丸くんという食べ物をたべた。

 僕の後ろにいた同い年くらいの女の子が、財布を忘れていたみたいなのでひとつ奢ってあげた。

 オラリオには美味しい食べ物がいっぱいある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月>日

 

 とりあえず一ヶ月近く使って作り上げた剣を主神に見せに行った。

 評価は「初めてにしては、まぁまぁ」だそうだ。形が悪いや、芯がズレているなどの指摘をされた。

 ミリ単位のズレも冒険者にとっては命取り。と言われ新しく打ち直すことにした。

 だが、硬さと切れ味は上級鍛冶師(ハイスミス)位はあると評価された。

 ハイスミスとやらが何かは分からないけど、そこだけを頑張って作ったので出来ていたことに少なからず達成感を得た。

 先日の隻眼の鍛冶師、名は椿と言うらしい。何でもこのファミリアでは団長なのだとか…。

 僕からしたら男勝りな変態にも思えるのだが、これでもLv5の冒険者らしい。と言っても本業は鍛冶師で試し斬りついでに冒険者だそうだ。試し斬りをしなければ本当に必要な改善点が分からない、というのが椿の持論らしい。

 

 だから試作品二号が完成した時には僕も試し斬りをしてみようと思う。

 

 あ、能力のせいで武器が持てないんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月+日

 

 あれから椿に、そして主神に聞いてみた。絶対に折れない剣は存在するのか?と。

 主神は面白そうな目を、椿は歓喜の目を。両者共に良い感情からくる眼差しだった。

 そして一人と一柱は答えた。ある、と。

 何とそれは魔剣らしい。不壊属性(デュランダル)という特性を持った魔剣だそうだ。

 

 それはどうやれば手に入れられる?と聞くと、早い話Lvを昇華させて発展アビリティに鍛冶を取るのが言いそうだ。

 ならばどうすればLvを昇華させられる?と聞けば帰ってきた答えは「偉業を成し遂げろ」とのこと。

 

 偉業とは何か……。

 僕は一日だけ鉄も打たずにそれについて考えた。

 

 神が認める偉業。

 Lv5まで上がるのに成し遂げる偉業の数々のその一歩。

 

 武器を持てない、それは僕にとって最大の武器であり、最大のハンデでもあった。

 

 

 

 

 

 

 〇月<日

 

 主神から聞いたけど、僕の能力には名前があるみたいだ。たしかスキルで名前が【騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)】と言うらしい。もっと禍々しい名前だと思っていたのに、それを感じさせないほど華々しい名前で落胆した。

 こんなスキルに僕の人生は振り回されたのかと思うと、何故か笑えてしまう。いや、笑えなくなったから今僕はどんな顔をしているんだろう。

 手にしたものを破壊するように、記憶までも忘れられることが出来たのならどれだけ楽なのだろう。

 

 僕は今日も鉄を打つ。

 使い捨てになると分かる剣を作り、創り、造り……そうやって一つ一つを砕くことになるだろう。

 絶対に折れない剣。それはどんなものなのだろうか…。それを自分の手で造りあげることが出来たのなら、それはどれだけ良いものなのだろうか?

 己の命を預けられる、最後まで共に戦ってくれる。そんな相棒のような存在が。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月=日

 

 

 初めてダンジョンに潜った。

 サポーターのような格好をして行ったからか、同業者達から指を指されて笑われた。他にも脇に数本の作ったナイフがしまってある。大きいバッグの中には道中集めた木の枝が、これでもかとぎっしり詰まっている。

 

 肩慣らしを込めてゴブリンを相手にした。

 エルフは認めた存在にしか肌を触らせることは疎か見せることも許さないらしいが、エルフとして育てられなかった僕には関係の無いこと。

 小さなゴブリンの腹に拳を打ち込み、蹲る顔に蹴りを入れた。

 首は千切れ、飛んで行った。変な音もなっていたが気にすることではないだろう。

 ゴブリンの死骸から魔石を拾い上げる。

 

 その時に自分の力が上がっていることを確信した。神血(イコル)は、神の恩恵の力は自分が思うよりも絶大だった。

 毎日鉄を打っていたからか、筋力が上がったのかもしれない

 

 

 手に持ったものが全て魔剣と変わってしまうのなら……。

 

 

 

 

 12階層くらいまでなら素手でなんとかなった。殴ったり蹴ったりと。自分が思っていたより素手は殺している(・・・・・)という感覚があって良いものだった。

 しかし13階層から環境はガラリと変わった。

 

 常に使い捨ての木の枝を持っていなければ危ない状況が続いた。

 ナイフなら魔剣として扱え、4度は持つが。木の枝は元より耐久がないため1度きりだ。

 バッグに詰め込んでいた木の枝が五分の一も減った。

 

 

 15階層に降りた時には、素手での攻撃がほぼ効かなくなっていた。

 それで初めて一撃で倒せない敵が現れた。

 それは猛々しい角を二本生やした、人の形をした牛、ミノタウロスだった。

 試しに蹴りを入れてみれば、分厚いミノタウロスの皮に阻まれ僕は突進されてしまった。腕と足が変な方向に曲がっていたけど、注意するところはそこではない。

 今にも僕を殺そうとしている奴だ。

 

 死にそうだとは理解出来たが、怖い…とは思わなかった。

 この程度の修羅場、飽きるほど潜り抜けた。だが地力が違う。吹っ飛ばされた拍子にバッグはかなり遠くまで飛ばされた。

 4~5本地面に落ちているが、流石に取りには行かせて貰えないだろう。

 

 つまり懐にあるナイフ12本で戦わなければいけない。

 幸いミノタウロスは一匹。

 

 すぐさま懐からナイフを一振取り出した。

 手に武器を持ったということで、スキル【騎士は徒手にて死せず】が発動する。魔剣と成ったナイフを横目にミノタウロスを燃やした。

 

 

 そのまま灰へと化す予定だった。

 少なくとも僕はそう思っていた。だが現実は甘くないらしい。

 

 ミノタウロスは倒れなかった。傷一つついていないわけでは無い。致命傷とは行かずともダメージは入っている。あと5回、冷静に考えればそれくらいでミノタウロスを討てることは理解出来ていた筈だ。

 

 だが、僕は焦ってしまった。

 動かない足に、折れた片腕。そして自分の魔剣で倒れない上位種。

 

 

 

 だから僕は願った。

 

 神なんて目に見える神にも、見えない神にも、湖の乙女でも、渡された強力な剣でもない。

 

 僕は僕自身に願った。

 僕という存在に、僕のもつスキルに。

 

 邪魔でしか無かった手にした物を全て魔剣に変える力。

 人生において一度も役に立たない、この呪われた力。森からは嫌われ、同種からは軽蔑され、信じたい物は壊され、手にした物は全て失う。

 

 本当に碌でもない能力だ。これを呪いと呼ばずに何と呼ぶ。

 

 だが恨んでばかりも居られない。

 エルフの一生は長い、それこそ千年近くこれとは付き合っていかなけれならないだろう。

 だから、壊すことしか出来ないのなら。嫌われることしか出来ないのなら、枷になり続けるのであれば──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──力を寄越せ。

 

 

 

 

 知らずの内に制御のかけられていた【騎士は徒手にて死せず】は本来の力を、いや本来以上の力を解放し、ミノタウロスを…階層そのものを焼き払った。



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主神1

 〇月〒日

 

 私は剣のような子供に出会った。

 暗殺者でもしていたかのような真っ黒な瞳、雰囲気が無駄なものを全て削ぎ落とし、極限まで鍛えられた剣のような。そんなエルフを見つけた。

 

 下界に来て長い事経つけど、私はあれほど無機質な眼を見たことがない。憎悪や負の感情なんて生易しいものじゃない。

 ただ、本当に興味のない。それだけは私にも見て取れた。

 

 だから私は問うた。

 何故、など意味は無用だった。放っておけないという私の神としての性がそうさせたのかもしれない。

 

 「君にとって武器とは何?」

 私はそう聞いた。私は鍛冶神、読み合いとか慣れないことはしても意味ない。子供は神に嘘をつけない。だから嘘はすぐに分かる。

 

 するとその子供は、当たり前のことを言うように口を開いた。

 

 「凶器…あと脆い」

 

 私のことを知っていて言っているのなら、その喧嘩買ってあげようと思ったけど。

 

 分かる。

 何一つ嘘はついていない。

 

 これに関しては嘘をつかれた方がマシだったかもしれない。

 とても悲しい子、この子の年代なら剣を振り回して英雄にでも憧れているのに……この子はどこまでも現実的で、残酷で、武器の怖さを知ってる。

 

 いえ、逆に武器の側面しか知らない。

 

 

 だから私は強引に、私の工房へと連れていった。

 今から考えると何故そんなことをしたのか分からない。夢を見ていない子供に何処か腹を立てたのか…それとも武器の美しさを知って欲しかったのか…。

 ただ、このままではいけない。そう誰かに言われた気がした。

 

 工房を見せた。

 超一流の武器、私が神の力を封印して作った傑作達。

 

 どう思っているのか分からない。それでも尚武器を恨むのか、それでも認めないのか。

 この子は眉一つ動かさない。感情が無い訳じゃないのだろう。ただ、限りなく死んでいる。

 本当に、なんでこんなことしてるのか分からなくなる。

 

 

 「赤髪」

 

 そう言われたのが懐かしい。

 昔、その呼び名で神友に呼ばれていた時期があったから。

 

 「…僕でもこんな物が造れるか?」

 

 「それはアナタ次第よ」

 

 

 そう言ってエルフの少年は私の、ヘファイスト眷属(ファミリア)の一人と成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おかしいでしょ!!!!

 

 

 

 

 

 

 〇月×日

 

 エルフの少年、名前はロットと言うらしい。

 ロットは異質だとは思っていたが、ここまで規格外だとは思っていなかった。一体どんな生活を送ってきたら、こんなことになるのよ。

 

 

 

 ステータス

 名前:ロット・──────

 

 Lv:1

 力:I

 耐久:I

 器用:I

 敏捷:I

 

 とここまでは普通だった。名前が消されている?現象は普通ではないが、問題なのはそこじゃない。

 そこもかもしれないけど、そこじゃない。

 

 スキル

 

騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)

 ・手に触れた武器と認識できる全ての物質を魔剣に変える。

 

【湖の乙女の加護】

 ・悲願を果たすまで早熟する。

 ・竜族に対してステイタス超補正。

 ・────────────。

 

 

 

 

 

 何よこのスキル!!!確かに脆くなるし凶器になるわ!!!

 と、まぁ思いながらもステイタスを移した紙にもう一度目をやる。

 

 確かに【騎士は徒手にて死せず】は、凄まじいスキルなのは間違いない。だが、あと一つがヘファイストスにとって驚愕のものだった。

 誰でも知っているあの英雄譚。それに登場する湖の乙女が……もしそうなら、これは不味い。

 それに神血(イコル)でも写しきれないなんて怪しすぎる。

 

 この子は必ず狙われることになる。神に、冒険者に、そしてモンスターに。

 

 初めて見た。英雄の種を持つ少年を。

 恩恵をあげてからは、ロットはずっと工房に篭ってる。普通は鍛冶について聞かれると思ってたけど、あの子は見て盗んで自分で糧にするタイプだった。

 

 

 〇月<日

 

 もう一週間になる。新しい子供、ロットが出てこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月=日

 

 かれこれ三週間経った。まだ出てこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月*日

 

 幾ら神の恩恵(ファルナ)を与えたとしても、子供には限界がある。音が続いている限り死にはしないでしょう。けど、一ヵ月近く飲まず食わずで鉄を打ち続けるのは私でもしない。

 あれだあれだと思っていたけど、あの子はぶっ飛んでる。いろんな意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月〒日

 

 

 ロットが失踪した。

 工房から音が消えたので、やっと寝たのかと思い毛布でもかけてやろうと思ったらロットは工房からいなくなっていた。

 必死にバベルを探し回ったけど、全然見つからない。本当にあの子は心配を掛けさせる。

 

 

 と、心配していたけどどうやら杞憂だったみたい。

 街に出てご飯を食べに言ってたとか……私が最初にあげたお小遣い全部使って。

 もしかしてこの子浪費癖があるのかも。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月々日

 

 

 ロットが私と椿に訪ねた。

 椿とも交友があったなんて……この子は本当に面白い。

 

 そして何時か聞かれると思っていた問をされた。

 

 「絶対に折れない、曲がらない、そんな剣は存在するのか?」

 

 ロットが聞いているのは、伝説の剣などの夢物語の話ではない。この子はどこまでも現実主義だ。だから私と椿は答えた「ある」と。

 

 不壊属性があれば、それは可能な筈だ。

 折れない、曲がらない、そして砕けない。

 

 だからそれはロットにとって理想的だったものに違いない。信じた筈の半身に先に旅立たれる感覚。それを幾度となく繰り返すその能力。

 手元には何も残らない。

 よく正気でいられたものよ。私なら──、それは違うわね。あの子も私と出会った時から正気じゃなかった。

 

 

 この子には自分で理想の武器を造ってもらいたい。

 私はそう切実に祈った。()の加護がありますように…と。

 

 

 

 

 

 

 〇月|日

 

 

 ロットが失踪した。

 立て続けにそうなったら耐性もついてしまう。どこかほっつき歩いてご飯でも食べてるんでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月^日

 

 ロットが帰ってきた。

 しかし私は笑って出迎えることは出来なかった。たまたまダンジョンにいたロキの所の団員が保護しここまで運んできてくれた。『世界最速姫(レコードホルダー)』の【人形姫】に【九魔姫】が助けてくれなかったらと思うと……何が耐性だ。もしかしたら心配すらさせて貰えないままギルドから死亡報告が届いても何もおかしくなかった。

 そして一つ【九魔姫】に聞かれた。恩を返すつもりだと思って答えてもらいたい。

 そう言われて、私は何を要求されるのか分からなかったが何でも受けようと思った。私の子の恩人だ。私の武器を一つ造るのも吝かではない。

 

 「……このエルフの名前を教えてもらいたい」

 

 その問いには完全には答えられない。

 だってこの子は…この子の名前は、一部が読めなくなっているから。

 

 ありのままに伝えた。

 

 

 「ごめんなさい。この子の名前は一部が塗りつぶされて消えているの。ロット、それ以外は分からないわ」

 

 そう言うと【九魔姫】は部屋から出ていった。【人形姫】もそれに続く。ただ、一つ気がかりなことがある。二人からは手と足が万能薬(エリクサー)無しでは元に戻らない程の重症だったと聞かされていたが、それが元通りに戻っている。

 そんなスキルはないし、ましてやあれからお金も上げていない。

 

 ならどうやって?

 

 文字化けしていた、もう一つの能力?

 

 すぐにトラブルを運んでくるし、危なっかしいし、何をするのか分からない。

 英雄になるのか、それとも魔王になるのか。

 

 

 ねぇ、ロット。アナタは何になりたい?

 



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少年3

 〇月|日

 

 目が覚めた。

 少し前までダンジョンに居たのに、今は少なくともダンジョンでは無いどこかで寝てた。

 起きた時には誰もおらず、とりあえずベッドから出た。

 

 折れたハズの足は思ったよりもちゃんと動く。

 あの重傷なら切断もやむを得ないと思っていたので、完治していたから儲けものだ。

 

 部屋を漁り、腹に溜まるものを口に入れた。味がある食べ物は美味しい。

 

 

 すると、銀髪の帽子をかぶっている少女がこちらに来た。

 

 どうやらここは診療所だったらしい。

 身体に異常はないみたいだが、主神の計らいで目覚めるまではここに置いておくことになったらしい。

 

 オラリオには親切な人が多い。

 実は僕はもう死んでいて天国にでもいるのかと何度も思ってしまう。呪われた僕が天国にいけるのかは怪しいけど。

 ベッドで寝ていたので、料金を払わないといけない。

 

 そう銀髪の少女、アミッドに聞くと既に主神が払っていたらしい。

 だから、また別の日に渡しにくるとだけ伝えた。

 

 アミッドは最後までいらない、既に貰ったと最後まで了承しなかったが、ならば恩返しがしたいと伝えると渋々クエストで勘弁してくれと逆にお願いされた。

 

 本当にここは……とても僕には眩しすぎて生き辛い。

 

 

 

 

 

 〇月・日

 

 

 昨日主神に顔を出したら(はた)かれた。

 

 心配させるな。

 自殺紛いなことをするな。

 勝手に行動するな。

 

 そう言いながら叩かれた。

 普段鉄を打っている主神のビンタは強烈だった。でも叩かれた頬よりも、胸が痛かったのは何故だろう。

 途中、怒っているのに泣きそうになっている主神を見て胸が締め付けられたのは何故だろう。

 

 ここに来て僕はとても胸がざわつく。

 僕に感情なんて残っていたのか?

 どうなっているのか分からない。

 

 何だか今日はとても鉄を打ちたい気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月々日

 

 

 主神にステイタスを与えた時みたいに服を脱げと言われた。

 僕はそれに従い服を脱いで背中を曝け出す。

 

 「ダンジョンで何をしてきたのか?」

 そう主神に聞かれた。

 とりあえずあったことをそのまま伝えた。到達階層から僕の唯一(・・)のスキル【騎士は徒手にて死せず】を本来の出力でミノタウロスを焼き払ったこと。

 

 最後まで言い終わったら一昨日とは違い、グーで殴られた。

 上半身裸のまま、極東の神である主神の神友であるタケミカヅチから聞いた『正座』という特殊な座り方で、この前の続きの説教を永遠と聞かされた。

 

 そして最後に主神は笑いながら──。

 

 

 「Lvアップおめでとう。もちろん昇華させるわね?」

 

 僕は迷わず頷いた。

 発展アビリティは最初から欲しがっていた『鍛冶』をとった。初アタックでLvアップなんて前代未聞だと主神に言われた。

 今まででの『世界最速姫』のもつ所要期間一年を大幅に更新する偉業となる。

 

 眷属となった日にギルドには登録していたので、期間は丁度2ヶ月。

 主神は「はぁ〜、次の『神会』が憂鬱よ」と言っていた。

 とりあえず主神に謝ったところ、何故か畏まられた。何故だ。

 

 主神から解放された後、椿に絡まれた。

 何なんだコイツら。

 

 何でもLvアップした事は、主神があまりに大声を出すから聞こえていたそうだ。

 

 背中をパンパンと叩かれる。「良くやった!」などと椿は言うがレベルの差があるから非常に痛い。

 揉みくちゃにされてやっと逃げられた。あいつはもう少しお淑やかという言葉を勉強した方がいいと思う。

 

 

 ところでだ。

 椿の言う通りダンジョンで試し斬り、基試し撃ちをした所僕には欠点があることに気付いた。

【騎士は徒手にて死せず】は確かに絶大だ。だが、それは今の僕にとっては切り札だ。そして僕の手札には、この一枚しかカードはない。つまり、ずっと切り札を使っている状態だ。

 確かに強いが、消費が激しすぎる。更に小さいモンスターや敏捷の高いモンスターだと、的が絞れない。

 今回のアタックで避けられることは無かったが、次もそうとは限らない。

 

 ということで、靴を作ろう。

 武器になる靴を。

 確か【騎士は徒手にて死せず】は手にした武器と認識できるものが、条件だったはず。なら靴にナイフを仕込もうが、棘を仕込もうが魔剣にはならない。

 

 それに主神にも言われた。

 魔剣は確かに強いけど街中では使えない。街の中で戦闘になると見越しておきなさい、と。

 意図は分からないが、いい人ばかりじゃないと伝えたかったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月€日

 

 靴の試作品が完成した。

 靴と言ってもブーツだが……とりあえずダンジョンに潜って集めた資金で貯めた金を全部使い、サラマンダーウールを買ってブーツにしてみた。

 外から見れば何の変哲もないブーツだが、色々と隠し機能がある。

 

 中には外向きに小型ナイフや針が鎖を伝って全方位に巡ってる。しかし、それではこちらの足も痛めてしまうので砂鉄などでクッションを作る。

 

 耐火であるサラマンダーウールに砂鉄もあるのでブーツの中がすごく暖かい。

 

 これらは所謂サブ武器。

 メインは足の裏に仕込ませてる、大きめのナイフ。と言っても足のサイズ一杯なので24cm程しかない。

 それでも人間なら心臓へは間違いなく届く。

 

 これくらいで脚の装備はいいだろう。

 

 やっとできる。

 

 

 

 絶対に折れない、曲がらない剣を作ることが。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月☆日

 

 不壊属性の付与は未だに成功しない。

 2ヶ月近くダンジョンには行っていないが関係ない。僕の目的は不壊属性の武器を作る事。周りにインチキ野郎と言われても関係ない、僕は僕のしたいことをただするだけ。

 

 

 

 

 

 

 〇月÷日

 

 不壊属性を付与できなかった長剣やナイフを売り場に出した。

 ウチのヘファイストスのブランドを持つには足りないと思ったので断り、必要な金だけを提示した。

 所持金も少なくなってきたことだし、今日はダンジョンへ行こう。剣も持っていくが、何より重要なのは足技の方。

 

 

【騎士は徒手にて死せず】は魔力を使わないから無限に使える。本当に規格外なスキルだが、材料の方は有限である。

 色々と考慮した上で、小回りのきく近接戦闘がある方がいい。

 

 明日は試し斬りでも試し撃ちでもなく、試し蹴りをしてこよう。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月*日

 

 失敗した。

 脛の辺りの針やナイフが上手く刺さりすぎて、モンスターがくっ付いてしまった。

 他に敵がいない時はそれでも良かったけど、囲まれてたらと考えると……。

 脛には鎖だけにしておこう……。反省。

 

 

 

 

 

 〇月○日

 

 主神がいい顔で工房に入ってきた。

 嬉しそうに「無難よ」と言い紙を渡された。

 

 そこには【正体不明(アンノウン)】と書いてある。

 

 これは何かと聞くとLv2から与えられる二つ名だそうだ。

 正体不明って……まぁあながち間違いでもないが。何となく釈然としない。

 

 

 




二つ名が見つからなかった……。カッコイイ二つ名が考えられなくてスマヌ。


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少年4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇月¥日

 

 Lvが上がって、発展アビリティの鍛冶がついてから凄く早い速度で進歩している気がする。

 やはりステイタスに載るモノは、人生を左右する程に強烈と言わざるをえない。『不壊』とまでは遠いが【騎士は徒手にて死せず】の発動を10回まで耐えられるようになってきた。

 関係があるかは分からないが、耐久が上がっているのは確かなので良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月々日

 

 椿の顧客と顔合わせさせられた。

 ドワーフのオッサンで、やたらと酒を勧められる。一口飲んだけど酔わなかった。次は酔いつぶれるまで共に飲もうと言われ、断ろうとすると椿ものってきた。

 どうやら退路はないらしい。

 

 そしてドワーフ、確か名前はガレスが連れてきた狼人族の青年がひょっこりと出てきた。

 

 何やら興味深そうに、僕の脚の防具兼武器に見ていたので。

 「興味あるのか?」

 

 と聞いたところ「暇だから聞かせろ」と何故か怒っていた。

 

 とりあえず脚の武器に関する研究資料を読み聞かせた。余りに莫大な知識を一気に読み聞かされたから狼人は引いているかと思ったが、存外真面目に聞いてくれていた。

 

 そしたら最後に「お前、俺と専属契約しろ」って言われた。

 「なんだそれ?」と狼人に言うとポカンとした顔で、横から椿が入り込んで説明してくれた。

 何でも、調節や整備に新作など無料で提供する代わりに。狼人は労力で返すとのこと。専属になれば鍛冶師の名前にも箔が付くし、採ってきて欲しい素材も優先的にくれるそうだ。

 

 とりあえず、剣ではなかったので承諾した。

 

 「宜しく狼くん」と言ったら凄い睨まれた。「俺の名前も知らねぇのか!?」みたいな感じでキレられたから、反射で「知らねーよ」と言ってしまった。

 ガレスは爆笑、椿は堪えて笑ってた。そしてベートは怒りの頂天を迎え。

 

 「ベート・ローガだ!!覚えとけ、このクソエルフ!!」

 と超至近距離で怒鳴られた。凄く唾が飛んできた。

 名乗られたので、礼儀やなんよと常日頃から椿に口酸っぱく言われているので名乗り返した。

 

 「そうか、僕はロット」

 

 本当に出血くらいするのではないかと思わせる程、怒ってベートは出ていこうとした。

 ガレスも邪魔したな。と笑いながらベートに続く。

 

 「ベート・ローガ」

 「あァ!!」

 

 出ていこうとしたベートを呼び止め、ある物を渡す。

 

 「記念すべき契約1号だ、持っていけ。使った感想を聞いてから要望に応えよう」

 

 とだけ言って武器を渡した。

 終始ガレスは傍から笑っていたが、そんなに面白いことなのだろうか。

 

 今日はとても疲れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月〆日

 

 

 2週間後、ベート・ローガが武器にヒビを入れて帰ってきた。そして開口一番に「あんのォ隠しナイフはなんだァ!!!」とキレられた。

 なんなんだコイツは、常に怒っているな。

 

 「必要ないか?」

 と聞いたところ。「いらない」と答えられた。

 何でも、Lv3の冒険者にとっては下手な武器よりも身体能力が上回るため硬いプロテクターがあれば事足りるらしい。

 なるほど、硬さか……。

 今はまだ不壊が打てないので、完璧な要望には答えられないが……。

 

 ベート・ローガからの要望で、膝までプロテクターが欲しいとの事。

 「膝に隠し武器は必要か?」と聞いたところ「いらねェ!って言ってんだろォが!!」

 嫌がらせでピンク色にしようとしたら止められた。

 

 なるほど、コイツは意外と面白いやつかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月>日

 

 さて、【不壊】が作れないのであれば、簡単に耐久を上げる方法は一つに絞られる。

 素材の有能性だ。

 

 というわけで、今日はベート・ローガに連れて行ってもらった。

 Lv3とLv2なら割といい所まで行けるだろう。しかも今回の僕はサポーターの役割に近い。

 

 

 そしてそこで初めて見た。

 本物の戦闘というものを。速い。ベート・ローガからのオーダーは、軽く頑丈なもの。故に敏捷が高いタイプなのだろうと勝手に思っていた。その予想は当たっていても思い知らされる。

 目では追える。だが、体が動かない。反応が遅れる。

 

 ステイタスにLvが一つ開いただけで、ここまで違うのか…。

 そして、僕は冒険者という存在を初めて見たかもしれない。なるほど、あれが偉業を二度成した強者か。

 口に出せば怒鳴られるか、褒めんな、と言われそうなので心の中で賞賛しておこう。

 

 と、何故かダンジョンの中層には街があった。

 いや、自分でも何を言っているのか分からないが、普通に店やら宿やらと色々ある。

 

 途中、ベート・ローガに「ンなことも知らねェのかッ!」って怒鳴られたけど「知らん」とだけ返した。

 ダンジョンに街とか規格外だな。

 

 曰く生まれないだけで、違う階層からモンスターは侵入してくる模様。

 

 

 

 宿に泊まると思っていたが、ベート・ローガが「あんな高ェとこ誰が借りるかッ!!」とキレられた。心を鎮静させる魔剣とかないのかな。無性にそんな魔剣が欲しいんだけど。

 

 とりあえず野宿らしい。

 日帰りだと思っていたのは内緒にしておこう。何か言ったらまたキレられそうだし。

 

 地面でも木の上でも物心ある時からは、基本的にそこが僕の寝床だったので特に問題なく寝れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月:日

 

 朝に叩き起された。

 寝坊したのは僕が悪いので、素直に謝り安全圏(セーフティゾーン)から更に下へと降りた。

 

 やはりベート・ローガはまだまだ余裕のようだ。武器の耐久がやや気になるが、全く問題がない。

 ここら辺からは僕も援護に入る。

 

 と言ってもベート・ローガが強いモンスターを相手にし、僕が雑魚を魔剣で一掃するという至ってシンプルな陣形だ。

 

 

 

 

 

 それから数階下に降りると、ここらで引き返すことになった。

 何でも2人じゃここら辺が限界とのこと。正直剣の方も三分の一になっていたので助かった。

 

 目当ての鉱物は簡単には見つからない。

 一回で見つけられるとは思っていなかったので良かったが、やはり採れなければ採れないで残念という気持ちがある。

 

 

 このアタックを通して、少しだけベート(・・・)と仲良くなれたのかと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰ったら主神からの(鉄槌)を頂いた。

 

 「ダンジョンに泊まり込みで行くなら、先にそう言え」だそうだ。

 仕方ないだろ、僕だって日帰りだと思ってたんだから。

 

 次やったら槌で殴られそうだ。

 



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狼1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は弱ェやつが嫌いだ。

 弱ェのに戦う奴らに虫唾が走る。弱ェのに体張って助けて、そんで結局ダンジョンで死ぬ。死ぬくらいならダンジョンに潜んな、泣き喚くくらいなら命を張るな。

 

 

 だからジジィに連れられて、あったアイツも初めはそうだと思っていた。

 

 

 

 

 

 〇月÷日

 

 

 前のファミリアを抜けてロキファミリアに入った。

 元々Lv3だったので難なく入れた。探索系のファミリアはいつも主戦力となれる人材を望んでる。何でもこのファミリアはもう一つ神ロキの方針があるらしいが知らねェ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月=日

 

 名ばかりの入団試験が行われた。

 知らねェジジィが笑いながら出てきたから、蹴り殺してやろうと思い全力で蹴ったがジジィには全く効いてなかった。

 

 有り得ねェ。

 幾らLvに差があるからって、俺の全力を生身で食らってピンピンしてる訳がねェ。

 

 

 

 

 

 クソッ俺は強くなった筈だ。テメェのケツはテメェでふけるくらい。守れることが出来るくらい。

 これでも足りねぇのかよジジィ……。

 

 

 

 

 

 〇月♡日

 

 Lvが一つ下の女にあった。

 6歳も年下でしかもLv2になれたのはヤベぇことだ。それくらい俺にもわかる。しかも、元『世界最速姫(レコードホルダー)』でもあるらしい。

 アイズは強者だ。

 

 もしかしたら俺はアイズが██████(黒く塗りつぶした跡)

 

 

 もうだりィ。寝る…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月)日

 

 アイズに決闘を持ちかけた。

 直ぐに頷き、剣を抜いた。俺も腕のプロテクターを前に出すように構える。

 先日のジジィとの戦いは見られていたので、蹴りで意表を突くことは出来ない。むしろ手の内を明かしているぶん俺の方が不利だろう。

 そんなの関係ねェ。今は俺が上だってことを知らしめてやる。

 

 

 

 俺は確かに本気で戦った。勿論アイズも本気だった。だが、ある魔法がこの決闘に終止符を打った。

 

 「目覚めよ(テンベスト)

 アイズがそう呟いた瞬間、嫌な予感がした。アイズが体に風を纏わせているので魔法の類だったのだろう。

 慎重に、それこそ今まで以上に鋭い蹴りを入れたはずだった。

 

 しかし、風は強すぎた。

 俺よりも速く、そしてLv3()よりも力強い。

 

 

 有り得ねェ。俺はLv3なら最速に一番近いだろう。その俺をLv2(アイズ)が超えた。

 だが魔法を使ってステイタスの一つを超えたのなら、まだ納得出来る。

 だが力と敏捷の二つもとなったらそれは納得出来ねェ。Lv2がLv3を完全に圧倒する。超えることが出来るくらい魔法なんてものを、一言呟くだけで超えられるはずがない。

 

 だが押されたのは今の一撃だけ。

 直ぐに起き上がり、もう一度今の以上の攻撃をすれば。アイズは対処できない。あんな芸当を二回も連続でこなすことなど不可能だ。

 

 脚に力を入れ、アイズへと踏み込もうとした時。

 

 「やめぇぇい!」

 

 ジジィの声が爆ぜた。

 あまりの爆音に鼓膜が痛む。

 

 「何すんだジジィ!!」

 

 そう反論したが、自身の違和感に気付く。

 

 脚の装備が半壊していた。

 

 

 

 

 結局俺はこの決闘で負けた。

 Lv2の6つも下のガキに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月〒日

 

 ジジィが装備の点検に街へ行くからと無理矢理付いてこさせられた。ジジィには専属契約をしている鍛冶師がいるらしく、そいつの所に行くのだそうだ。

 ケッと吐き捨て、そして悪態をつきながらジジィに従った。

 何で俺がジジィに付き従わなきゃ行けねぇんだよ。

 

 道中その胸の内を晒した。

 ついこの間アイズに負けたばかりだということもあり、かなり俺は苛立っていた。それはもう、前のファミリアでアイツが死んだ時くらいには。

 

 全てを吐き出し、そして全てを晒した。

 して、帰ってきた言葉は意外なものだった。

 

 「じゃからだろうが」

 

 んでだよッ!!と反論するも聞く耳を持たず、笑いながら付いてこいと言うだけ。

 こっちの気も知らずに呑気な奴。

 

 道中ジジィは酒も買ったりなどして、呑気に食いもんも買ってる。

 無駄な時間過ごさせやがって。

 

 

 拠点(ホーム)からでて2時間弱。やっと目当ての場所に到着した。遅すぎんだろうが。

 

 

 

 言わずもがなそこは鍛冶場で、女のヒューマンと男のエルフがいた。

 あれは、確か間違いなければアイズの記録を破った『世界最速(レコードホルダー)』の【正体不明(アンノウン)】。

 アイツ、ヘファイストスファミリアだったのか。つゥか、何でそんな奴がここにいんだよ。

 

 「椿!整備を頼む!!」

 

 横でジジィがうるせェ声で椿に声をかけている。

 こんなヒューマンにジジィは武器作って貰ってんのかよ。

 

 褐色肌のヒューマンは武器の手入れを始めると思えば、隣のエルフと話し出した。ジジィもそれに気付きちょっかいをかけている。

 

 ってかあれ、ドワーフの火酒じゃねぇか。アイズよりも小っせェガキがあんなもん飲めんのかよ。

 

 存外飲めたようだ。しかもケロッとしてやがる。

 気に食わねェ。

 

 とりあえず俺はエルフにガンを飛ばした。

 しかし、エルフに相手にもされず無言を貫く。

 

 クソっ、癪だ。

 アイズの記録を超えたという一点には賞賛する。だが、見ただけでわかる。あいつはエルフだ、なのに剣ばっかり打っている。そして周りに杖はない。

 

 エルフが筋力で他種族に勝てるわけねェだろ。

 

 その時俺は、完全に見くびっていたんだと思う。

 

 

 

 だが奴は鍛冶師としては一級品のものだった。

 奴の装備を見る。剣のことはイマイチ分からねェが、防具のことなら人よりは分かってるつもりだ。

 あの脚の防具。あれは俺が以前付けてたやつより強ェ。

 

 それだけは分かる。

 

 そしてエルフが俺の視線に気付いた。

 

 「興味あるのか?」

 奴の声を聴いたのは初めてかもしれねェ。そしてその声音からは何も感じない。強者であるか、それとも弱者であるか。

 

 俺にはそれが分からない。

 

 

 

 成り行きで研究資料を見させてもらった。

 俺が見込んだ通り、俺の防具よりも強いのが数値として証明された。

 そして助言するかのように、女のヒューマンがある一つの言葉を発する。

 

 「コイツはまだまだ新人だが、耐久と切れ味に関しては手前と同じ領域に来ておる。なぁに心配する必要はない、今すぐとは言えないが奴は手前達を超えるだろう」

 

 やる気もねェ。

 強いか弱いかも分からねェ。

 鍛冶も俺は知らねェ。

 

 確かに【正体不明】だ。神も粋なことするじゃねェか。

 

 俺はこの日、自分がするなんて思っていなかった専属契約を自分から持ち出した。そして【絶対に砕けない】を信条とする鍛冶師との初めての会合だった。

 

 



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少年5

 

 

 〇月:日

 

 不壊属性(デュランダル)へと至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月〆日

 

 長かった。

 エルフは長寿といえど、余りに濃い。

 

 一年、大体ベートと出会い専属契約をして一年。その一年でやっと辿り着いた。

 

 歓喜、祝福、達成感。

 

 あらゆる物が押し寄せ、あらゆる人が賞賛してくれた。だがしかし、僕は何も感じなかった。

 一つだけ確かなこと。

 

 

 目的を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月|日

 

 

 何もすることがなくても武器を作ろうとしている自分がいる。

 至った。いや、僕は至ってしまった。

 

 空っぽの僕に初めてできた険しい夢。

 そして僕はそれを達成してしまった。

 

 故に僕はまた空の存在になった。

 僕という無価値なエルフの全てを失った愚者は、何もかも魔剣へと変えてしまうその呪いは。解けることはなかった。そして、奇しくも握れるようになったのは魔剣(デュランダル)だった。

 

 

 ベートが来て何やら言われたが、余り覚えていない。

 しかし珍しく怒鳴らずに気を配っていたようにも憶えている。

 

 ベートに心配されるくらいだったのか。僕はそんなに惨めだったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月=日

 

 

 主神に呼ばれた。

 

 「最近の武器の生産スピードが落ちているみたいだけど………何かあったの?」そう言われたので「なんでもない」と返した。

 

 初めに言っておいて欲しい。神に嘘がつけないなら。

 どうやら主神はそれを読み取り、僕を吊し上げて吐かせた。

 

 

 最近この主神、僕に対して厳しくないか。

 

 と、まぁ僕は隠すことでもないので答えた。

 「目的を見失った」半身を象る、もう一人の僕を作りたかっただけで、作り終わってしまえば、僕に剣を作る理由はなくなる。

 

 「僕が剣を打つ理由が無くなった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月♪日

 

 

 もう一度主神に呼び出された。

 そして一言「思い上がるな」そう言われた。

 

 不壊へと至ったからなんだ、ならばその上を目指せばいい。

 お前はまだ未熟だ、偉そうに辿り着いたなんて威張るな。

 魔剣を超えろ、宿命を超えろ、限界を超えろ。それでこそ鍛冶師(クリエイター)だ。

 

 そして主神は一つの英雄譚を見せてきた。

 

 「これを超えなさい」

 

 そう言われ見せられたのは、黄金の聖剣。

 僕は知らないが、誰もが一度は聞いたことあるのある童話らしい。

 

 「魔剣を打てる鍛冶師は聞いたことがあるけど、聖剣を打てる鍛冶師なんて聞いたことがない」

 

 だからよ。そう主神は呟く。そして続けるように言葉を重ねる。

 

 

 「誰かを辿るのは簡単よ。道が造られているもの。でもね、本当に困難なのは道のない道を歩み、そして辿り着くことよ。あなたも私の子供なら伝説の一つや二つ超えてみなさい」

 

 無茶を言う。

 本当に無茶なことを言う(ヒト)だ。

 

 だがまぁ仕方ないだろ。主神()にこうまで言われたんだ。

 英雄譚だろうが神話だろうが、御伽噺の一つや二つ超えてやろうじゃないか。

 

 

 誰かに埋めて貰われないと生きる目的すら定められない。

 そんな僕が嫌になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月>日

 

 お詫びも込めてベートと飯を食いに行った。

 奢ってやると言えば、ガキが生意気なこと言ってんじゃねェ。とキレられたけど、そこに総意があった訳では無いとベートも理解しているので飯には普通に来た。

 

 が、問題が発生した。

 ベートを呼んだはずが、どうやらオマケで何人か付いてきてしまった。

 そんなオプションがこいつにあったのか。しかも女か、いつの間に俺の直接契約者はハーレムを作っていたのだろう。

 

 と、思ったが目当ては僕だったらしい。何でも【不壊属性】を打てる鍛冶師がいるとベートが口を滑らしたらしい。

 そしたら付いてくると駄々をこねられ、撒いたと思ったが撒けきれていなかった様子。

 

 武器は造らないけど、飯ならベートが奢ると言い落ち着かせた。

 元々一人を除けばダメ元だったらしいので、そこまで気落ちはしていない様子。

 金髪の、確かアイズという名前の少女は諦めていない様子だった。

 

 見た感じベートがいつも話していたガキは彼女のことだろう。なるほど、ベートはあんな感じがタイプなのか。

 ……そうだな、僕は……いや止めよう。

 

 

 アマゾネス達は僕から見てもよく食べていた。食べ過ぎなまである。

 

 

 手持ちの(ヴァリス)をほとんど持っていかれた。(結局全員分払った)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月ー日

 

 

 僕は基本的に武器を売らない。

 最初の方のこそ、出来損ないと呼べる安値の剣を売っていたが。今の僕が造る剣は一本で家を買えるくらいあるらしい。

 

 だが、僕は売らない。身に余る金を貰っても意味は無いし、剣を預けるという行為をしたくない。だから僕は防具しか売っていない。

 

 やはり剣というモノは僕にとって、他のものとは価値観が違うのだろう。

 

 しかし、不壊が造れるようになり置き場所が無くなってきた。

 不壊が造れる前は溶かすなどして、元に戻したりも出来たが不壊が付与されてからはどうすることも出来ない。

 

 それなら売れば、譲ればいいでは無いのか?と思うかもしれない。

 だが、それは出来ない。何故か?は僕にもわからない、けど出来ない。

 

 

 だから持ち逃げしようとしている冒険者を殺しかけたことに関しても、僕は謝る気はない。

 むしろ僕のモノを盗もうとしたことに対して、開き直っている冒険者を殺し損ねたとすら思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月」日

 

 

 金髪の奴が来た。

 ベートに飯を奢った時にアマゾネス姉妹と一緒にいた女だ。

 

 「折れない武器をください」

 と言われた。勿論断る。

 僕の剣は人に預けられるような、誰かを守るように作られていない。

 

 常に理想と共にあり、そして溺死する。そんな物でしかない。

 しかし、ベートの想い人でもあるわけだし無下には出来ない。

 そこそこ冷たい態度をとるとベートは僕に殴り込みにすらくるだろう。

 あいつは存外そういう奴だ。本人の前でヘタレなのは確認済みだが。

 

 だから条件を付けた。

 「Lv5になれば不壊属性(デュランダル)を作ってやると」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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少年6

 〇月?日

 

 ベートが19歳を迎えた。因みに僕は12歳になった。

 久しぶりに日記を書く気がする。何時ぶりだ?……確か魔剣ではなく聖剣を目指すようになってからか。

 魔剣は元より金さえ払えば手に入れられる物で、数多くの人がその力と使い方を知っているが…。

 

 聖剣に関しては何もわからない。斬った相手の傷が癒されるのか、はたまたモンスターしか斬れないのか。もしくはビームが出るのか。

 

 今も尚、成果をあげることは出来ていない。

 まぁ今はそんなこといいか…。

 

 ベートによく連れていかれる豊穣の女主人に今回も飯を食うために呼ばれた。狼族は一人を好むって習性はどうやら嘘みたいだ。

 

 

 どうやら今日はヤケ酒らしい。

 何でもアイズに構ってもらえないやら、最近アイズの周りをうろちょろしてるエルフが居るなど。

 

 色々と面倒だ。「雑魚がアイズの周りをうろちょろしてんじゃねェ!」と酔いながら何度も怒鳴っていた。

 

 周りに凄く迷惑をかけていたと思うので、女将さんになるべく強くて高い酒を貰いベートに注いだ。あいつはそこそこ酒には弱い方なので30分くらいで潰れてくれたので助かる。

 ガレスや椿クラスになると、朝まではかかる。

 

 アイツらと飲みに行った記憶は早々に忘れたい。別に何かしたという訳では無いが…。泣いたわけでも無意味に絡んだ訳でもないけど。思い出したくはないな。

 酒は好物と呼べるものだが、僕は酔わない…いや、酔えない─か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月☆日

 

 ベートの所の団長が僕を訪ねてきた。

 ベートと仲良くしてくれてありがとう、やら社交辞令を一通り終わらせると話題は急展開を迎えた。何でも、アイズの剣を見たらしく打って欲しいとのこと。剣ではなく槍ならば大丈夫だとベートからも言われたのできた。そう言われた。

 

 しかし、槍は作ったことがないという理由で断らせてもらった。本来ならLv6の【勇者(ブレイバー)】の依頼など鍛冶師からすれば喉から手が出るほど欲しい案件だ。

 別段、フィンのことが嫌いという訳では無い。

 ただ、回り道をができるほど僕には余裕が無い。

 

 

 やはり彼もダメ元できたらしく、そこまで落ち込むことは無かった。

 そして最後にフィンから「エルフが憎いかい?」

 

 と聞かれた。意図はわからないが僕は思った通りに答える。

 「どうなんだろうな?」

 

 確かに彼等のおかげで怒りという感情が理解出来た。そして少なからず感情が残っていることも教えて貰えた。

 どうなんだろう?感情かがあると分かっただけで、理解は出来ていない。時折胸が締め付けられたり、穴が空いたりと心がざわめく。

 それは感情なのか?

 

 分からない。

 フィンへの問いに、僕は答えられるだけのココロを持っていない。

 

 僕はエルフを憎んでいるのだろうか?

 

 

 

 

 

 〇月^日

 

 少しダンジョンに潜ることにした。

 ベートを連れていこうとしたが、外出中との事なのでソロできた。僕もLvが以前と比べると上がったので中層は勿論のこと、深層も問題ない。Lvが上がったと言うよりも、折れない魔剣という絶対的な味方がいることが何より大きい。

 

 ダンジョンで火柱が上がる。と前までは言っていたが、焔だと周りへの被害が計り知れない。というのもダンジョンは破壊しすぎれば、抑止力としてあるモンスターが召喚される。

 なんて事のないLv5相当のモンスターなので問題は無いが、出来れば戦いたくない。既に奴の爪は採取してあるのでこれ以上狩る必要もない。

 

 とまぁ、それらの理由から焔ではなく氷を使っている。

 市場で出回るのは火しかない。他の属性が任意で操れるようになったのは最近だ。つまり魔剣は火以外にも打てるということが証明された。

 

 目当てのミスリルも入手出来たことだし帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月!日

 

 ベートに呼ばれた。何でも短剣を作れとのこと。

 断ろうとも思ったが、直接契約をしているベートの要望に応えないのも何かと思い造って。

 何故なのだろう……。

 

 信条があったと思えるし、剣を渡したくないという気持ちもある。

 なのに何故渡したのだろう、僕は変わってしまったのか?

 

 ……分からない。

 

 

 

 確かロキファミリアが遠征に行くそうなので、暫くは空けるそうだ。

 別に僕から出向いたことがないので無用だろう、と言えば激しく怒られた。蹴られた太腿が非常に痛い……解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 〇月^日

 

 オラリオを出ようと思う。

 

 

 理由は一つ。

 聖剣へ辿り着くために、オラリオだけでは足りない。もっと視野を広めなければ行けないと思うからだ。魔剣を克服し、新しい目標も手に入れた。主神も超えろと言っている。

 初めて出来た居場所から離れるのは少し忍びないが、それもまた一興と言うやつだろう。

 

 主神に伝えたら、驚かれ反対されたが意志を見せた時渋々ながら了承してくれた。

 三年、それが条件だそうだ。

 

 

 旅の支度を始めた。

 十振りの剣に、少しの金、そして主神しか知らない発展アビリティ《神秘》を用いて作ったマジックアイテム。と言っても武器になるようなものではなく、補助することをメインとして作ったので、戦闘スタイルが変わった訳では無い

 認識阻害の兜に、生きていない物質を大量に詰め込める袋。

 

 作れたのはそれだけだ。

 

 旅をしながら、必要ならばもう少し増やそう。

 

 最後にベートに挨拶してから出よう。

 遠征は確か来週迄あったはず、最後にミスリルを使った装備を渡してからオラリオをでよう。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月!!日

 

 

 初めてロキファミリアのホームに来た。

 最後くらい僕から出向いてやった、感謝しろ。さておき昨日豊穣の女主人で宴会をしていたと情報があったので、翌日に訪ねた。

 門番に騒がれたが、問題なく入れた。敵対するつもりは無いが、こうも睨まれたら剣に手を添えるのは仕方の無いことだろう。

 特に前回あったアマゾネス。「団長の依頼を断ったのはどういう了見だぁゴラァ!」とキレられた。

 流石【怒蛇】凄まじい殺気を感じる

 

 そしてもう一人は緑色の髪のエルフ。

 これは睨んでいる、というか何かを懐かしんでいる?なんだろう、初めて向けられる感情の類だ。僕は知らない。

 

 そして、最後の一人は安堵だった。

 後ろ一本に髪を結び、どこか懐かしいような顔。何年もあっていないが、直感で誰かを理解できた。

 

 間違いないだろう。僕はこの旧友(レフィーヤ)の事を忘れたことなど一度もなかった。……忘れたくても。

 強く抱きしめられた。力の限り、レフィーヤは僕を抱きしめた。魔道士にとって命とも呼べる杖を投げ捨てて。

 

 周りがざわめきく。ベートは声にならないような声が漏れており、少し前までキレていたアマゾネスも豆鉄砲をくらったような顔をしている。恐らくここの神も驚いていた。

 

 耳元からすすり泣く声が聞こえる。

 

 「もう誰も生きていないと思ってた」

 レフィーヤのその一言で僕は全てを悟った。

 

 「そうか、何も知らないのか…」

 僕とレフィーヤが住んでいたのは、本来のエルフの森ではない。クロッゾの魔剣によって森を焼かれたエルフ達が作った代用品の森でしかない。大半のエルフはもっと広々とした森へと移動したが、約100人くらいは次の襲撃を恐れてその場に留まった。が、その小さな森も狙われる可能性が無いわけじゃない。そこで僕に白羽の矢が立った。

 

 目には目を

 歯に歯を

 

 魔剣には魔剣を

 

 

 困ったことに僕はそれ以前の記憶が無い。だけどそれについては、もう1人のエルフが教えてくれた。

 

 

 「よかった、ロットだけでも生きててくれて」

 そう言って今にも泣き崩れそうなレフィーヤを僕は、抱き締め返す(・・・・・・)ことは無かった。そして、僕はその代わりにレフィーヤを突き放す。

 

 「え…」

 

 その行動にレフィーヤは動揺を隠せなかった。

 それもそのはず、今まで、森にいた時からは考えられない行動をとったからだ。

 レフィーヤは理解が追いつかない。

 

 「レフィーヤ、いいことを教えてあげよう」

 

 そして僕はレフィーヤに追い打ちをかけ、ドン底へと落とす。

 彼女は今どんな心情なんだろう。やっと見つけた生き残り、その一人が元凶だと知った時、彼女はどんな顔をするんだろう。

 

 

 「あの森を焼いたのも、エルフを虐殺したのも僕だ」

 

 

 開いてはいけない扉を開いてしまった。

 タブーに触れる行為。それに他ならない。

 

 もうレフィーヤは考えが追いついていない。思考が止まってしまっている。

 何が目の前で起きているのか理解できていない。

 ただレフィーヤは目に精気を無くし、涙を流している。

 

 「どういうことだ!」

 

 緑色の髪をしたエルフが怒鳴り声を上げた。

 噂ではこの人はエルフの王族様らしい。そんな人には分からないだろう。

 

 「どうもこうも、ありませんよ」

 

 これまでの仕打ちを教えてあげた。

 僕が森でどんなことをされていたのか、レフィーヤが森から消えてから何をされたのか、どうして焼き払ったのか…それらのことを細かく教えてあげた。

 

 レフィーヤはその場で嘔吐してしまう。

 あまりの惨さに、王族様は信じられないという顔をしている。

 

 しかし、その希望は神によって砕かれる。

 

 

 「ウソは、ついてへんな」

 

 神には真実か嘘か見抜くことが出来る。

 それが更に追い討ちをかけることになったんだろう。できれば否定して欲しかった2人。

 

 「…そんな、父上は」などと王族様は分からないことを言っている。

 周りの面々も僕への同情と軽蔑の色で埋まってきた。

 

 そろそろ用件を済ませて出ようとする。

 元よりそのつもりで来たのだ。他に意味は無い。今日はレフィーヤに会いに来たわけでも、王族様に会いに来たわけでもない。ベートへ餞別の品を渡しに来たのだ。

 

 「まて。お前は、その森より以前の記憶がないと言ったな。そして名前の一部も消えている」

 

 王族様がそう言って僕の興味を惹かせた。だがそれでは足りない。

 そんなもの必要ないし興味もない。

 

 「何故だかお前には知る権利がある」

 「必要ない」

 

 「聞け!」

 

 

 

 

 

 

 「お前の本名は、《ランスロット・ヴァン・アールヴ》私の弟であり王族だ」

 

 ずっと胸に秘めていたのだろう。

 嘘偽りはない。神でないが僕にも分かる。

 

 だが、さっきも言ったように必要ない。

 

 

 

 「僕に家族はいない、あるのは居場所と片手で数えられるほど少ない友達(・・)。それ以外に必要ない。今更名乗られても迷惑だ、家族などと軽々しく口にするな。

 僕がエルフ達から迫害を受けていた時お前は何をしていた?

 僕が拷問を受けていた時お前は何をしていた?

 モンスターと戦わされていた時は?」

 

 

 「何もしてないよな、答えはそういう事だ。お互い不干渉ということにしよう」

 

 

 そしてやっと本来の目的だったモノを取り出した。

 ベートは珍しく動揺していたが、装備を受け取る。何も言わない、いや何も言えない。

 僕は自分語りをするタイプではなかったから、彼もまた僕の過去には興味無い。剣を作る理由などは聞かれたがそれくらいだ。

 

 

 「待ってもらおう【大罪人(ハーレクイン)】」

 

 呼ばれたのは僕の二つ名。

 僕の武器を盗み出した馬鹿どもを半殺しにした時、相手方のほうがあることないこと証言し悪者に仕立てあげられた僕の忌み名。

 

 「どうしたフィン」

 「もう少しだけリヴェリアとレフィーヤに話をしてやってくれ。彼女達には言葉が必要だ」

 

 二人を交互に見る。

 その背中は弱々しくとても小さい。

 

 

 「一度しか言わない」

 

 僕は剣を握り締めた。

 同盟しているファミリアでの戦闘をしようとしている。ベートは悟る、これはハッタリではないと。

 

 「そこを退け勇者(ブレイバー)

 

 「待ってください!!」

 

 その緊張感を潰したのはレフィーヤだった。

 弱々しく、今にも崩れ落ちそうだったレフィーヤは自力で立ち上がり僕の前に立った。

 

 それは凄いことだ。

 だが、何故だろう。

 

 

 これではまるで、昔の僕にしてくれていたようではないか。

 僕が森のエルフで、それをレフィーヤが守る。

 

 

 何故だろう、この喪失感は。

 

 

 

 …ああ、そうか。

 レフィーヤ、君はもう……

 

 

 

 僕の味方じゃないんだね……。

 

 

 「レフィーヤ、もう僕のことは忘れた方がいい。お互いそうしよう」

 

 僕はなんの希望もなく、敵地(・・)から離脱した。

 




次からは原作ですね、多分。


感想ください。


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幕間
聖女の独白1


二話くらい投稿してましたが、忘れましょう。
忘れなくてもいいですけど方向を変えます。一気に飛ばし飛ばしで繋げるより、しっかり地道に進んでいきましょう。




 〇月々日

 

 私はあの人に出会った。

 治療院のベッドで寝るエルフを。目立った外傷もなく、毒に侵されている訳でもない。

 しかし、何故か起きない。こんな症状の患者はとても珍しいです。いえ、初めてかも知れません。

 何も異常がないのに目覚めない少年、私の彼に対する印象はそれだけでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月〆日

 

 

 彼が目を覚ました。

 一瞬目が合って退いてしまいました。何故でしょう、とても深い何かに……。

 深淵を覗いてしまったかのような、恐怖が私を駆り立てました。

 怖い、そういった感情が体を蝕みました。本来ならば、受け答えをしなければけないのですが……。

 

 結局動けるようになったのは二三分あとでした。彼はそんな私に対して何も言うことなく律儀にお金を払おうとします。

 

 ヘファイストス様から代金はもう頂いているので結構です、とお断りしたのですが食い下がられてしまいました。

 (ヒト)の好意は受け取っておいた方がいいものを。

 

 仕方ないので、薬草やクエストを採ってきてくれと伝えたところ納得して貰えました。

 ディアンケヒト様は少し不満そうにしていましたが、無料でアイテムを採ってきてくる、と言って宥めました。

 

 しかし、彼も私もLv1。さらに彼は駆け出しらしいので依頼することは随分と後になるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月>日

 

 正体不明(アンノウン)それが彼の二つ名だそうです。

 治療院に運ばれてきた時、彼は偉業をなしたということがわかりました。あんな状態になっていたのはスキルのせいなのでしょうか?

 上級冒険者となった彼は、今日治療院にやってきた。

 

 あれから少し経ちましたが彼の評価は非常に低いです。というのも、人形姫の記録を破れるはずがない。ダンジョンに入っていくところを誰も見たことがない。

 それらの意見により、インチキなどと大っぴらに貶されています。しかし、彼は興味が無いと言わんばかりの無視。それが火を油に注ぐ行為だったのでしょう。

 

 他の冒険者から反感を買ってしまったそうです。

 当店に来店されるお客様も、陰口をしている様子。注意しようとは思いませんが、見ていて不快でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月:日

 

 

 

 傷だらけの彼が治療院へやって来ました。

 ダンジョンで無茶をしたのか、それとも冒険者達からやられたのか、それについては分かりませんでしたが治療しなければ行けません。

 駆け寄って話をしようとすると、見当違いなことを言われました。

 

 「恩を果たしに来た。クエストの依頼を」

 

 私は思考が止まってしまいました。

 エルフだから厚着なので直には見えませんが、服に血が大量に滲んでいました。ここで平然と立っていることすら奇跡。

 そんな人がクエストなんて無謀すぎる。

 

 「バカ言ってないで、早く服を脱いでください」

 

 早く止血しないと、まずは輸血を…。

 

 「いい、必要ない。じき治るし痛みには慣れてる」

 「そういう問題じゃありません、重傷者を見逃すなど言語道断です」

 

 そう言ってほぼ無理やり服を脱がせました。

 ですがおかしいのです、血痕から見て服に滲んでる血液はつい先程出来たもの。少なくとも24時間以内のものです。

 

 「ッッ!!」

 

 ですが、大きな切り傷が既に塞がろうとしています。

 

 しかし驚愕したのはその事ではありません。確かに私は無神経だったかもしれません。

 体の至る所がに古傷があったのですから、焼き跡に切り跡、肉を抉ったような後に貫かれたような傷。

 

 エルフには肌を隠すという習性があるそうですが、これは余りにも……。これじゃあ誰も気付いて貰えない。

 

 何故か私は泣きそうになってしまいました。

 

 そして一言「ごめんなさい」そう言い服を着させました。

 依頼を、と迫られましたが今はまだ必要ないとだけ伝え、必要な時に私からお願いすると言い帰ってもらいました。

 

 

 

 そしてその一部始終をディアンケヒト様が見ておられ、一言だけ。

 「神の恩恵はそんなに便利なものでは無い。ランクアップなど以ての外だ」とだけ私に言い消えていきました。

 

 それから私は何故かあのエルフの少年を気にかけるようになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月○日

 

 エルフの少年に正式な依頼を持ちかけました。

 それは私がランクアップするまでパーティとして活動することを依頼しました。

 ディアンケヒト様から猛反対されましたが、二つ名がついた方が箔が付く。いつかなら今がいいと珍しくプライベートな我儘をしたので何とか押し切ることが出来ました。

 

 

 ダンジョンでは驚きの連続でした。

 エルフなのですから、魔法などを使う後衛メインだと思っていましたがどうやら彼は違うようです。

 体術でモンスターを倒していきます。普通ならそれは何も気にすることは無いのでしょう。ですが、あのエルフが……です。

 

 認めた者以外は肌の接触を許さない、と言われているあのエルフが。蹴ったり殴ったり、眼球に指を突っ込んだりとまるで悪魔のよう……

 なるほどまさに正体不明ですね。

 

 私のファミリアは探索系ではなく、主に回復薬や義手等の冒険者をサポートすることでお金を貰っているファミリアです。素材が無くなったりするとダンジョンに潜ることはありますが、毎日潜るということはほとんど有りません。

 だからこそより一層彼の戦い方の異常性を理解出来ました。

 

 

 そして13階層に初めてたどり着きました。

 周りにはオークなどのモンスターがいて、彼は強いモンスターを率先して倒してくれています。

 はぐれの敵を私にやらせてもらいました。少し楽しそうな横顔が見れたのは何故か私も嬉しくなりました。

 

 しかしそれが油断となったのでしょう。モンスターに死角を取られ襲われそうになりました。モンスターの雄叫びで気付けましたが、間に合いません。

 攻撃を喰らう、そう確信した時…彼は初めて魔法を使いました。

 

 「─!!」

 

 あまり口数の少なく、表情を崩さないそんな彼が初めて殺意を持った。その顔は怒っているようでもあり、そして哀しんでいるような顔でした。

 初めて手に握られた物はナイフ。投擲でもするのか……。

 

 そんな凝縮された時間を私は過ごした。

 なぜだかあの一瞬だけ、とても長く感じました。

 

 ナイフが光り輝く。

 その輝剣から魔法が飛び出る。

 

 速すぎて目視できません、ですが後ろでモンスターの死骸が地面に落ちる音だけが私の耳に入りました。

 

 「やっぱり出力はコントロール出来るようになってた」

 彼の言っていることは分かりませんが、自分は助けられた。その事だけは理解出来ました。

 

 「ありがとうございます」

 「依頼だ、気にしてない」

 

 どこまでいっても彼は私を見てはくれません。

 そして私も彼を見つけられていません。

 

 ダンジョンで見たのは彼の一部。

 

 この一日で分かったことは、本当にこの人は分からない。ということだけでした。

 

 

 

 ドロップアイテムは私が貰うことになりました。なんでも彼は鍛治に必要な素材と、その日を生きられる金と少しの蓄えがあればいいと言っていました。

 本当にどこまで行っても彼は分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月€日

 

 

 

 ロットさんをご飯に誘ってみました。二つ返事で了承して貰えると思っていましたが、彼にも予定があるみたいで工房に入ることすらさせて貰えませんでした。

 パイプになってもらった椿さんに聞いてみました、彼はなんなのだと…。

 彼のナニが私は気になっているのか…と。

 

 「手前は鍛冶師だ、鍛治のこと以外はてんでだめだ。だが手前が何を気になっているかくらい分かる。ロットは病人だ、故に手前は気になるのだろう」

 

 病人?

 

 その言葉が私の深い所に、深く、さらに深く刺さった。

 だからですか、私が彼を気になる理由は。

 

 

 私の性というものなのでしょうか……ではなぜ、彼は病にかかってしまったのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月♪日

 

 

 時間をあけてもう一度ご飯にロットさんを誘ってみました。

 今度はいい返事が貰えました。

 どこにするかと聞いたところ、豊穣の女主人。という場所を指定されました。なんでも行きつけなのだとか。

 

 こんな言い方をしてはアレですが、彼に拘りがあると思うと少し不思議です。

 指定した場所に移動すると、テーブル席に彼はいました……いえ、彼等はいました。

 

 「あァ?」

 とても野蛮そうな冒険者がロットさんと相席していました。

 第二級冒険者の【凶狼】。かなり有名な方です。

 

 一度周りを見渡してからテーブル席に座りました。もちろん凶狼からは敵対心を抱かれている気しかしません。

 

 「ベート、僕が呼んだ」

 そう言うと凶狼は大人しくなりました。おかしい、Lvも立場も下のロットさんがなんで上なのでしょう。

 

 結局非常に気まずく、殆ど私とロットさんが話すことなく食事会は終わりました。

 

 何も聞けずに一日が終わり不完全燃焼です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月☆日

 

 

 ダンジョンに潜った時、それとなく聞いてみました。

 椿さんが言っていた病、それはあの古傷が関係しているのではないのか。

 

 「あの傷はいつ付いたものなのか?」

 軽く探りを入れてみました。

 

 「聞きたいの?」と言われ私はもちろん頷いた。

 

 これが駄目だったのかも知れません。

 少なくともあの時の私は好奇心で聞きました、つまるところ覚悟が足りなかったのです。

 私には…あの時の私は、事実に耐える覚悟も準備も何も無かったのです。

 

 「これは────」

 

 聞かない方が良かったのかもしれない。

 あの時私はそう思いました。確かに私はあの時に……。

 

 彼の乾いた笑みに、衝撃を覚えました。

 

 

 「同族から受けたものだよ。僕はね、人から愛を貰ったことがないんだ」

 

 とても悲しい人。

 初めて会ったあの、真っ暗な深淵のような人はここにはいない。

 

 ただの沼。

 中途半端に光り(感情)を貰った彼の苦悩が痛いほど伝わる。あの乾いた笑みが頭から離れない。

 

 真っ黒なペンキに一滴の白粒を落としたように、それは一度だけ白の波紋を産み。そして必ず黒に飲まれる。

 

 この時私はやっと確信した。

 

 ロットというエルフは、もう壊れているのだとかそういう次元の話ではない。

 病人ではなく、これはもう死者に近い存在だと。




アミッドの話、あと一話か二話続きます。そしたら旅の話をします。


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聖女の独白2

修正しました、すまぬ。
ちょっと知りたいんだけど、ダンまちって今安売りしてる?笑

ほぼアニメとココくらいしか知識貰えないんだけど。あとwiki


 私は恵まれていたのでしょう。

 比較的まともな両親の下に産まれ、何不自由のない生活をさせてもらいました。裕福、とはもちろん言えませんがそれでも幸せな家庭だったと思います。

 オラリオに出てからもお金に関しては一癖はありますが、まともで良識のある神に拾って貰えました。

 

 そう、私は運が良かったのでしょう。

 恵まれていたと気付けなくなるほど、更により良いものをと願っていた今までは。

 

 そして気付かされました…。

 笑えない、お世辞にも慰めることが出来ない。

 

 私は貴方の気持ちを分かってあげることは出来ません。

 分かるなんて、私はそんな無責任なことは出来ません。

 

 だから、少しでも貴方が幸せに近付いてくれることを心から祈ります。

 ロットさん、私は貴方に笑ってもらいたい。貴方の笑顔が見たい。貴方の幸せそうな顔を見たい。

 

 貴方の持つ呪いという【業】を、いつか祓うようなことがおきることを──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月(日

 

 ロットさんは魔剣が打てるのですか?

 

 素朴な疑問を投げました。

 ダンジョンで奥へと潜るにつれて、彼は冒険者の奥の手とも言える魔剣を乱用していたからです。Lv2の冒険者の稼ぎでは、と言うよりも彼の貯金の仕方では魔剣を買うお金など貯まるはずもありません。

 ヘファイストスファミリアなのですから、凶狼のように意外にも親しくしている人から……たしかラキアからクロッゾが来ていると噂で耳にしたことがあります。物凄い魔剣が打てると、もしやその人から……。

 

 

 と思いましたが、地雷でした。

 ええ、なんというか…彼への質問はもう少し考えてからしなければいけないのでしょうか。

 

 エルフから差別的な扱いを受けていたのは、手に触れたものを魔剣に変えてしまうという能力があったからだそうです。

 ステイタスにして初めて名前が分かったそうです、名前は【騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)】ソレによって人生を狂わされた、そう言ってました。

 続けてこれが無かったとしても碌でもないと思うけど。とだけ付けていました。

 卑屈というのか、それだけの人生だったのか……。

 

 あまり人の事は言えませんが、ロットさんが笑ったとこを見たことがないです。少し気になったのは言うまでもないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月|日

 

 あの依頼から約二年、私はやっと上級冒険者の仲間入りを果たしました。とった発展アビリティは『神秘』。ディアンケヒト様も大喜びされてました。

 このことを彼にいち早く伝えたくて、私は柄にもなくオラリオを駆けました。Lvが上がり少しだけ敏捷が上がったからかいつもより速く走ることが出来ました。

 目指す場所は彼の工房、入れて貰えたことはありませんでしたが今は早く知らせないと。とその想いが加速して私を急かせます。

 

 彼はどんな顔をしてくれるのでしょうか。

 笑って…はないでしょうね。軽いお世辞と、ご飯を食べに行こうと言うだけで、多分それ以外彼はいつも通りでしょう。

 でも、私は今すぐに彼に会いたい。

 

 扉を勢いよく開けました。

 「ロットさん!」

 

 今私はどんな顔をしているのでしょうか。

 彼の生気のない瞳を見て私は何を考えたのでしょう。私が幸福だからといって彼も幸福とは限らない。なんでそんな簡単なことに気付いてあげられなかったのか。

 そういうこともある、と何故想定しなかったのか…。それほど私は切羽詰まっていたのでしょう。

 

 「どうしたのですか…」

 

 私は笑みから一転、表情を消しました。

 それは仕事の顔のように鉄仮面に。

 

 

 「目的が…不壊属性(デュランダル)が出来てしまった」

 

 それは彼の唯一の望み。

 彼は呪い故に半身とも呼べる武器を長期に渡って持つことができません。ダンジョンに潜ればその日の内に壊れてしまいます。

 

 だから彼は、折れない曲がらない砕けない。それを実現できるデュランダルへと挑戦していたのです。

 

 それは本来なら喜ぶことでしょう。

 焦がれるほどの夢を見て、彼はこれを待ち望んだのですから、おめでとうございます。そう言えばいい。

 ですが何故でしょう……何故あなたはそんなに辛そうな顔をしているのですか…。

 

 「だからもう、僕に鉄を打つ理由が。槌を持つ理由が……なくなった」

 

 そうか……。あなたはそれほどまでに賭けていたのですね。

 それこそ人生の全てをかける覚悟で、しかし直ぐに完成してしまった。

 エルフの長寿から考えて、まだ人生の一割も終わってません。なのにもう……。

 

 

 

 ──ならば…と。

 

 

 「理由が無ければ鍛冶をしてはいけないことはありません。誰しもが目標を持って何かをしている訳ではありません。殆どの人の動機は何となくや楽しそうだから、という明確なものではないのです。何かを成すのに大層な望みや目的は必要ありません。必要なのはほんのちょっとの好奇心です。

 それでも理由が欲しいと言うなら私の為に剣を打ってください。あなたの呪いを解くような、よく切れるなんて次元ではない。『業』を絶つ……そんな剣を作ってください」

 

 私はなんでこんなことを言っているのでしょう。

 改ればこれは恥ずかしい、そう思えます。

 

 勇気を振り絞っても彼に私の想いは届いては貰えませんでした。

 私は何故こんなことをしているのでしょう、同じパーティで死線を何度も一緒に乗り越えてきたから?

 これは義理なのでしょうか……。

 

 届かなかった想いというものはこれ程胸を締め付けられるものなのですね。

 私はあの(ヒト)が好きです。どんな人にも手を差し伸べ、自分のファミリアが零細ファミリアになってもその姿勢は変えません。

 そんな誰にでも優しいあの神に私は惹かれました。でもロットさんにもそれが通じる所が多々あります。

 彼も頼みを断らないのです、それは育った環境がそうしたのかは分かりません。彼自身も拒否権はなかったと言ってました。

 

 それが身に染み付いているから…なのかも知れません。私のエゴなのかも知れません。でも、彼は誰より優しい。

 自分が壊れてしまう程に、それまでして彼は他者の願いを叶える。彼自身そんなことは無いと言います。確かに鍛冶に関しては譲れないことがあるのかもしれません、人のことを考えることが出来ないのかもしれません。自分を信じることしか出来ないのかもしれません。ですが、絶望しそうな人を見た時に彼は必ず助けてしまう。ダンジョンにてそれはもう分かっている。

 そんなことない、そう否定しても事実助けてしまうのです。

 

 でも神と人では格が違う。

 前に助言しました「そのままでは身を滅ぼすことになる」と。

 しかし返答はありませんでした。つまり彼も分かっていることなのでしょう。でも今更生き方を変えられない。

 

 優しさとは上限を超えてしまうと、それは暴力に変わります。

 

 私にとって彼は治したい、から壊れて欲しくないに変わりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月|日

 

 それは唐突でした。

 聖剣を目指すと豪語してから数ヶ月、たまに彼と私はパーティを組んでダンジョンに潜ります。

 彼は誰よりも早くLvを上げ、第一級冒険者と呼ばれる高みに手をかけました。

 Lv6。【大罪人(ハーレクイン)】巷で彼はそう呼ばれてます。理由としてはいくつもありますが、

 曰く善良な一般市民を殺した。

 曰く同族のエルフを拷問して惨たらしく殺した。

 曰く生まれながらにして咎を背負っている。

 曰く、

 曰く、

 ……。

 

 挙げればキリがありません。私が尋ねても「まぁ、嘘じゃない」としか言いません。オラリオにて筆頭の力があるのに、地位は最悪。

 誰もが嫌い、そして恐れ恐怖する。

 まともじゃないエルフ、それがロットという人です。

 

 

 

 そして本当に唐突に、なんと突拍子もなく彼はこう言いました。

 

 「オラリオを出る、視野を広めるために」

 「今まで世話になったな」

 

 彼は何も感じていないように、別れることを惜しまないように。すぐ立ち去ろうとします。彼は本当に歩き続けるのです、目標ができれば小さくても一歩一歩と歩みます。それは違う道を歩いていたとしても、遠回りをしていたとしても立ち止まりません。だから今回もそうなんだと思いました。

 

 でも、

 

 待って!

 置いて行かないで、連れて行って下さい。

 

 そんな言葉を発してしまいそうです。

 しかし私はその言葉を喉で押し止め、やっとの思いで飲み込みます。

 

 彼と一緒にいたいのは本心です。

 ですが、器を昇華させるためにディアンケヒト様と約束したので私がオラリオを離れる訳には行きません。

 何より治療院の彼等を見捨てることはできません。

 

 だから私は欲を押さえつけました。

 

 「……そう、ですか…」

 

 「出発はベートが帰ってきてからにする。言わないとアイツ拗ねるだろうし。まぁ何だ、馬が合わないのは知ってるが仲良くしてやってくれ」

 

 「……はい。」

 

 遠いな…。

 彼の背中は、手を伸ばしても全力で走っても届かない。

 彼が走る先には剣しかない、私の事なんて見えてないのかもしれない。

 それが私はたまらなく悔しい。

 

 「大丈夫かアミッド?」

 「何がですか?」

 

 「だって、泣いてるから」

 

 

 

 あれ?

 

 私はなんで……。なんで涙を流しているのですか?

 

 「ちょっ……と、まっ、てくださいね」

 

 嗚咽を飲む、ダメだ止めなきゃ。

 彼を心配させてはいけない。彼は目標に向かって進んでいるんだ。

 

 「ご心配お掛けしました」

 

 涙は自分でも驚くほど簡単に止まった。

 彼のことを考えると、今は(・・)泣いてはいけない。最後に見せる顔が泣き顔なんてダメだ。

 

 「これから大変だと思うけど、頑張れよ」

 

 少しだけ柔らかくなった彼の表情を見て、まだ涙の跡がある顔でできるだけ心配をかけないように私は笑った。

 

 私が彼を見たのはこれが最後だった。

 

 

 ──涙が止まって(・・・・)よかった。

 止まらなければ彼は心配してしまったから、弱った私はもしかしたら胸の内をさらけ出したかも知れない。そうすれば彼はここに留まるか、私を連れて行ってくれただろう。

 だって彼は優しいから。初めてあった時から、彼は自分のためでなく人の為でしか行動しない。例外は鍛冶だけだ。

 だから友人である私が願えば、必ず彼は叶えただろう。

 

 だから、

 

 

 ──涙が止まらなければ(・・・・・・・)よかった。

 

 

 



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旅話1

んー、パワーアップイベントとエルフイベントを混ぜたら……。ちょっと変になったかもしれぬ


 

 

 〇月○日

 

 オラリオを出て半月が経過した。

 ただ、ひたすらに真っ直ぐに歩いた。オラリオを出た時に感じた喪失感が未だにつっかえている。僕のとった行動は間違っていなかったはず、限り少ないココロで考えても、感じて、そしてあの時の答えを出したはずだ。

 なのに何故喪失感を覚えたのだろう、目標を失った時のように、もしかすればそれ以上の何かが確かに押し寄せてきていた。

 それは嵐のようなものではなく、濁流に近いドロドロとした鈍ましいものだった。

 空になった胸を埋めたのはそういう普通ではないものだった。

 

 

 

 〇月♪日

 

 はぐれの冒険者に襲撃された。

 まさかオラリオ以外にこんなにできる冒険者がいたとは……。歳もかなり行っている模様。

 大きな傷を貰ったので、旅に出る前にアミッドから貰ったポーションを口に含んで傷口に吹き出した。

 あまりポーションを使う機会がなかったので少しばかり驚愕した。

 魔剣で凍らし、粉々に変えたのでよくわかっていなかったがLvで言えば5か6はあっただろう。

 そもそも人と呼べる存在だったのかすら怪しいが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月|日

 

 久しぶりに故郷と呼べる場所に帰ってきた。

 そこにあるのは未だに消えない人を焼いた時に出る特有の匂いと、誰のかも分からぬ数多の人骨。

 頬が緩んだのは気の所為だろう。こんな無価値な場所に来たかった訳では無い、ちゃんとした目的を持ってここへと来た《湖》だ。

 

 作業をした時、僕は湖だけは避けて壊した。

 故に形だけ無事なのは必然だろう。

 そして湖に到着すると、あの乙女が顔を出した。

 

 「殺めたのね」

 

 間違いなくエルフ達のことを言っているのだろう。開口一番にそう聞かれ酷く裏切られたような気持ちになる。最近特に変だ、妙にココロがざわめく。どうなってしまったんだろう。

 

 僕は沈黙したまま湖の乙女を見つめる。見蕩れている訳ではない、聞かれた疑問に対して沈黙をしたのだ。沈黙は肯定、そう捉えられるように。

 

 「まぁ、いいでしょう。あの種は、いえ一部の者達はアレ(・・)と同族だったのでいつか加護そのものを没収する予定でしたので。

 別に罪悪感は感じなくていいのですよ、畜生以下に情けはかけるものではないのですから。私が選んだ貴方は以前と比べて鋭さが無くなりましたね、もっと貴方は世界に絶望していたのに……拠り所でも見つけたのですか?」

 

 

 僕は沈黙した。

 

 

 「まぁいいでしょう。本来ならば私も従う側なのですが、ことが事なので私がこのような立ち回りをしなければなりません。私も慣れませんし、正直に話せば貴方一人で変わることが出来るなどと私は思っていません。

 だからもう一度言いましょう、【風】と共に……アリアと共に悲願を果たしなさい。

 

 そして新たに使命を授けます、我らが同胞を。成れの果てとなった同胞達を解放してください」

 

 

 初めてあった時よりも彼女はとても流暢に話していた。

 森を焼いたことと関係があるのかもしれない。いや、単純に人口が減ったからかも。

 まぁいい、悲願というものは一度聞いたことがあるから理解できる。内容は分からないが、その言葉に聞き覚えがあったからだ。

 

 そして最後に言われた使命?について考えるが結論は出ない。

 使命と言うよりは、懇願に近かった気がするのだが……。

 そして言いたいことだけいい湖の乙女は消えた。湖の中に溶け込んで行った。

 二度も見れば既視感はあるが、慣れることはどうやらなさそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月>日

 

 

 エルフの里に行った。

 ここは森とは違い、本来エルフ達が過ごす言わばエルフの国である。今更家族というものに興味はないが、森以前の記憶が無い理由くらい分かるだろう。

 会いたい会いたくないではない、会わなくてはならない。姉と言う存在のリヴェリアでは話にならない。もっと上の、妖精王でなければ。

 

 その思いもあり僕はたどり着くことができた。

 万能者(ペルセウス)から頂戴した漆黒兜(ハデス・ヘッド)を被っているので潜入に近い気もするが。

 まぁ、結論から言って会えた。多分あの人が僕の父親だった(・・・)人なんだろう。積もる話……ではないな、そういった擽るような話ではなかったことは確かだ。歓迎されていないことくらい僕でもわかる。

 

 聞きたかったことは聞けた。

 

 以前の記憶が無いということは、生きてきた時間そのものを消されたからだ。詳しく聞いたところで理解出来ていないが【ランスロット・ヴァン・アールヴ】という王族そのものを世界から消失させる禁術を使用したのだとか…。

 周りは忘れられないが、僕からその事についての記憶は全て無くなる。ついでに言えば、その時に形成されていたココロ。つまり喜怒哀楽ごと消されたという事だ。

 

 僕が笑顔を絶やさず、あまり怒らない子供だったとしよう。

 心のメモリの多くを喜が埋めており怒が少ないと仮定する。そこに消失させる禁術を使えば、メモリは一度リセットされるがそれだけでは終わらない。

 メモリを100と仮定した時に、喜が80、怒が20とした時リセットをすれば喜が-80、怒が-20となる。つまりスタートから異なるのだ。故に禁術を使う前の生活が幸せであれば幸せであるほど幸せを感じることが出来ず、負の感情を知らなかった分ココロにどす黒く塗りたくられる。

 

 王族という最高の環境にいたからこそ、僕は負の感情の方が身につきやすかったのだろう。慈愛よりも怒りの方が上回ったのはその為だと今にしてやっと理解出来た。

 

 そうか、つまり僕は。

 

 

 人為的に壊されたのか……。

 

 最後に魔法を返してもらった。森の外れで使ってみると威力が高すぎることが分かった。使わないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 森の最奥、エルフの中では王の間と呼ばれている場所に二人のハイエルフがいた。

 片方は王であることを示す冠を被り、傍らに神樹から造られた王だけが所持することを許される杖をもつ初老の男性。

 そしてもう片方は肩から剣を10本ほど背負っており、更に今さっきまで被っていた真っ黒な兜を片手に握りしめていた。

 

 この二人の会合のことをなんと言えばいいのだろうか。

 長年離れ離れになっていた親子の再会??

 

 違う、そんな幸せな結末が待っているような甘ったるいものでは断じてない。漂う雰囲気だけで言えば、処刑とあまり変わらないものだからそんな生易しいものでは間違ってもない。

 

 「久しいな、ロット」

 「久しい…か、そうなのだろうなお前からすれば」

 

 「青二才が、煮え切らん返答をしよって」

 

 名前も知らない、そんな目の前の男性についてロットがとる行動の選択肢は余りない。手札にはそれほどカードはない。

 

 「一つ聞きたい、エルフの王よ」

 

 「許す」

 

 

 「僕の記憶がない理由、それを教えろ」

 

 少しだけ目を開くエルフの王。

 しかし一つ心当たりがあり、瞬時に納得する。王族で唯一秘密を知り森を抜け出した一人を思い浮かべた。

 秘密といえど全てではないが…。

 

 「リヴェリアか」

 「…」

 

 

 

 「まぁいい、このような日が来ることは薄々気付いておった。貴様が咎を抱えているように、我も咎を背負ったのだから。爾の出ずるものは爾に反る。とはよく言ったものよ」

 

 全ては自身へと返ってくる。

 それは良いものでも然り、その逆もまた然り。

 

 「貴様の力はエルフからすれば負の象徴と言わざる得ない。未だ魔剣への憎悪も持つエルフは数え切れないほどいる。」

 

 一つ間を置き王は言葉を続けた。

 そこに歓喜や懺悔はない、一つの事実をそのまま語る。まさに模写でもしているような、そんなものだった。

 

 「才能を隠すには、それ以上の才能が必要になる。王族、魔剣、この二つだけで森は内紛が起こることは明白だった」

 

 反王族からすれば、それだけ揃えば民衆を集めることは容易い。

 

 

 「故に禁術をかけた」

 

 禁術について大まかに説明する王。禁術と呼ばれる位にはそれ自体が秘密とされているのがみてとれる。

 ここまで教えただけ、元一族としての義務故。

 

 全てを話した。

 何故記憶が無いのか、何故感情を理解できないのか、何故胸に穴が空いているような感覚に時折襲われるのか。

 

 存在を葬られ、死んだことにされ、里を追い出し森へ追いやったこと。

 ただ誤算だったのは、森のエルフが反王族派に染まっていたこと。

 ロット自身が王族とバレることは無かったが、魔剣という呪いとハイエルフに似た特徴を持つと言うだけで、あの扱いは当然の結果なのだろう。

 

 「最後に、エルフは生まれながら魔法を使える者もいると聞く。こういった言い方は不本意だが、王族の血筋にあたる僕が魔力を持たないのは魔剣の影響か?」

 

 

 素朴な疑問。

 ロット自身、自分がエルフとして生きてこなかったので気にはしなかったが、魔力を持たないのエルフというのは見たことがない。そう主神に言われて気にはなっていた。

 神からステイタスを貰わずともエルフは魔法を覚える。

 王族ともなれば、必ずと言ってもいいほど持っている。ロットが知るレフィーヤもその1人だからだ。

 

 「いや、違う。それは我が封じた。その封は解こう、魔剣だけでも厄介だが真に恐れるのはその魔法である」

 

 「魔剣よりも忌み嫌われるものなのか?」

 「否、使うことは勧めない。貴様は幼少期、その魔法を発動させ城の一部を消滅させた」

 

 

 王は神樹の杖を使い、ロットの封を解く。

 その封はどうにも胸にあったらしく、またしても胸に違和感が走る。

 

 

 

 「そうか、貴様は選ばれたのか。なんとも因果なものだな」

 「何の話だ?」

 

 「分からぬのならば良い。いや、どうにも貴様は重荷を背負わされる一生を生きねばならん見たいだな」

 

 「……」

 

 どこまで見抜いているのかわからない。見透かされている、そんな気がしてならない。

 暗殺者が殺気を隠すために分厚いコートのようなものを着込むが、目の前の王はそれを強制的にはだけさせているともみてとれる。

 

 だからロットはもう口は開かない。

 無性に今の自分を見られることに羞恥を感じたからである。

 

 「もう二度と会うことはないだろう。故に一つ伝えておきたい」

 「聞こう」

 

 

 「受け入れてやれ。害をもたらしたものに情はいらない。だが、貴様の友人と、そして良くしてくれた者達を受け止めてやれ。心が不完全な貴様に今言っても意味は無いかもしれない。もしかすれば、貴様は壊れているふり(・・)をしているのかもしれない。

 臆するな、現実を受け止めろ。世界は常に残酷だ、それ故に世界は美しい。決めつけるな、もう少し───」

 

 

 「──やめろ!!」

 

 王の物言いに、ロットは耐えきれなくなった。

 見当違いも良いところだ。そう肺から零れ落ちるような吐息で弱々しく言葉を吐く。

 一度ココロを落ち着かせるために深呼吸をした。

 

 「僕は人を信じない。今までと変わらない、これからも変わらない」

 「違うな、貴様は既に悟っているはずだ。それ故ここへと来たのだろう?」

 

 「違う」

 

 「違わないな。心と記憶、その二つの異変を知るためにここへと来た。そして同時に期待したはずだ、この胸のざわめきは全て我々エルフのせいだと。だが、見当は少し外れあくまでそのざわめきは自我によるものだと理解した」

 

 「………」

 

 「もう一度言う。《受け入れろ》それが出来て初めて貴様は成長出来る。人とは話し合いのできる生物だ、心を交わし身体を重ねる。時には仲違いもするだろう。しかしそれを修復することが人の本質だ。

 話し合え、それから初めて拒絶するなりなんなりしろ」

 

 「………」

 

 ロットは何も言わない。

 湧き上がっているであろう感情を押し殺して、今までと同じように感じていない振りをする。

 人間のフリをする機械が、機械のフリをする人間になったことを悟らせないため。そしてそれを初めて見破られたことへの羞恥。

 

 ロットは最奥の間から足早に逃げ出した。

 恐らく最後になるであろう肉親へと、置き言葉を預けないまま。



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旅話2

 〇月♪日

 

 椿の故郷である極東へとやってきた。

 故郷といっても、別に椿の母親に当たる人物の故郷であり椿とはほぼ無縁とも言っていい。

 しかし、毎年の初めによく酒飲んでぐーたらしている。何でも極東では恒例の行事だとかで。

 

 まぁともあれ極東へと着いた。

 オラリオと比べれば変わった格好のした人達で溢れていたが、()のことも同じような目で見られていただろう。好奇の視線に嫌気がさし極東風の服を購入した。今まで着ていた服は丁度サイズが合わなくなっていたので時期的にもいいだろう。

 

 見たところ和服?というものしか売っておらず、目に止まった『着流し』?と『羽織』?というものを購入した。

 店員から「エルフに和服…濡れる」と言われたが、会計を済ませ出来るだけ早く店から出ることにした。

 

 履物も『下駄』というものを買ったのだが、如何せん歩きにくい。親指と人差し指の間から血が出てしまっていた。

 

 ……うん。痛い(・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月*日

 

 

 この国の文化は面白い。

 

 魔剣を俺は打つことができるが、この国の人達は魔剣を作るのではなく『妖刀』を作る。

 秘めた力のある魔剣に対し、妖刀は秘めるための器であるとの事。

 

 丁度聖剣への活路を見いだせずいにたので、知らない知識である妖刀の製作方法を教わることした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ×月%日

 

 

 叩き出された。

 

 弟子は要らない、それだけ言われ叩き出された。

 

 

 

 

 

 々月€日

 

 しかし俺自身折れる訳にはいかなかったので粘ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ×日(日

 

 少し話すことに成功した。

 

 親方はなんでも「妖刀は自分の代で終い」と豪語している。

 

 「ここで先代から受け継いだ技術を腐らせるな」

 「妖刀一族としての誇りを果たせ」

 「後世に技を残してこそ真の一流」

 

 など、考えられることは言わないでおくことにした。

 本当に、なんとなくなのだが……親方は妖刀にあまりいい感情を抱いていないように見えたからだ。

 

 武器に関してその気持ちを抱くのは…痛いほど(・・・・)分かったから。

 

 逸る気持ち押し留め、今日も弟子入りを志願する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *月♡日

 

 

 一時間近く長い話をされた後に弟子入りを許可された。

 話したことは精々後悔するな、もし何かあっても怨むな。ワシのことは赦さなくていい。だが自分だけは呪うな。

 

 と、要約すればそういうことを長々と話された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・月*日

 

 なるほど今になって親方の言っていた意味がわかった気がする。

 怨むな……か。

 

 もう少し前なら葛藤に悩まされ、自分を蝕み、そして否定してきただろう。

 見えているものを見えていないといい。見えていないものが傍にあって欲しいと思っていたあの頃。

 

 幼かったのかもしれないし、幼稚だったかもしれない。

 力だけが先行し、体も心もついていけていなかったのかもしれない。

 

 

 問が出る……。

 そしてそれに答え、そしてまた新たな問いが生まれる。

 

 そうやって一歩づつ進むしかないんだと…矮小な俺は前を向く。

 

 

 

 

 

 

 

 ÷月.日

 

 妖刀を作るのには自然エネルギーというありふれた力が必要だ。

 刀だけでも極めて難しいのに、自然エネルギーを集めつつ刀を打つのは頭を使うので非常に難しい。

 自分に学がないことは承知しているので、頭で考えるより体に染み込ませることにした。

 

 だが、そこに妖刀の厄介な難点がある。

 

 それは廃棄方法に他ならない。

 マジックアイテムであるアイテムボックスに仕舞おうとしたが、妖刀は比喩でなく生きている。故に収納することは不可。

 かといって山に放置などすれば、草木が枯れ山そのものが死ぬ。

 

 川に流せば水に毒が混じって食中毒者が続出することになるだろう。

 

 故に残った案としては溶かすしかないのだが、自然エネルギーを吸ってしまっているので異様に硬い。そしてちょっとやそっとじゃ溶けることは無い。

 こうして妖刀の製作を1週間、そして溶かすのに2週間と本来の目的を忘れてしまうようなスケジュールとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月<日

 

 

 妖刀とは武器とは違う。

 それがここ一年で気付くことのできたことだ。

 

 前回記したように生きている。そしてそれは比喩などではないと記載しただろう。

 妖刀とは依代なのだ。

 

 平たく言えば封印に近い。

 

 極東での伝説によれば初めて記録された妖刀は、妖という俺たち冒険者で言うところのモンスターを殺すために始まったらしい。

 俺たちが神の恩恵を受けているように、本来の人間のスペックでは奴らには勝てない。

 だから極東の先祖であるモノノフは妖を討つために妖を利用した。

 

 刀身に妖が寄り付きやすいように『氣』と呼ばれる自然エネルギーを濃密に刷り込ませ妖の持つ特有の『妖気』を付与させることに成功させたのが始まりだったとか。

 それから技術は進歩していき妖本体を封印させることが出来たのだとか。

 

 

 そして妖刀にはもう一つ特殊なものがある。

 それは妖のはいっていない場合だ。それはただの依代では無いのか?と思うだろうが結論からいえば違う。妖刀ではなく怨念が入った場合だ。

 一昔前に妖に家族を殺された妖刀鍛冶師が、その妖を殺すためだけに家族の遺骨や自分の生き血で作り上げたというおぞましい妖刀があったそうだ。

 

 その妖刀は妖を宿した妖刀の何倍も強く。そしてより呪われていたのだ。

 

 妖の入った妖刀は中の妖を屈服させてから封印し、常に屈服させなければいけない。心の隙を見せようものなら体の所有権を剥奪されることもあるからだ。

 しかしもう一つの妖刀は、造られた数が少ないので断言は出来ないが予め代償を必要とさせられる。

 一番有名なのは寿命。あとは皮膚や眼球などといった人体に関わるものだった。

 

 

 長い歴史を見れば妖刀以外にも神刀や霊刀などの極東特有の武器があるのだが、オラリオに帰還するまでのあと約半年では知識以外は付けられない。

 俺が惚れ込んだのはあくまで妖刀。それ以外は後回しになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月・日

 

 

 ひとまず納得のいく妖刀が完成した。

 しかしまだ中身が入っていない。現代の妖刀は、刀身に妖が入ってこそ本物と呼ばれ畏怖される。

 

 というわけで屈服させに行こうと思う。

 

 出発は明日。親方からは許可を貰っているので、鬼の住処である『鬼ヶ島』へと渡し舟をしてくれるらしい。

 

 屈服させるには依代一振りしか駄目なので、骨が折れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 「ロット、着いたぞ」

 

 親方にそう言われ意識を覚醒させる。

 …そうだ、渡し舟をしてもらって鬼ヶ島へと着いたのだった。

 

 腰には一振のこれから妖刀になる依代、他には何も装備させることが出来ない。なんでもこれが正装なのだとか。

 昔に軍隊で妖を屈服させた極東の皇族が自慢のためだけに屈服させ、腰に下げていたが。それは数による暴力で屈服させただけだったので、その皇族が一人で屈服させた訳では無い。

 体を即座に乗っ取られ、小国を滅ぼした……などという逸話が残るのだ。

 だから屈服には丸腰、という掟が定着したらしい。

 

 

 「明日、同じ時間にここへ来る。それまでに完成させておけ」

 「分かった」

 

 今考えれば、手に生きている武器を使えば昔の目的は果たせたんだな。と思ってしまう。

 しかし無駄になることは無いだろう。

 

 あの日々が、あの時間が、あの渇望が。

 今の自分を作っているのだから。

 

 「…いくか」

 

 腰に下げた依代を撫でる。

 

 この中に妖を入れると思うとやはりゾッとする。というのが本音だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ──まずは山ほどいる小鬼たちを斬り殺すことから始めた。

 

 

 

 

 

 前提からして鬼ヶ島にはその名の通り鬼という妖がいる。

 この島ごと鬼の住処となっているのだ。鬼はこの島から出られないという特性があるので、島にいる人間は安心しているが。やはり悲願は鬼ヶ島の占領と鬼の殲滅。

 だからこそ、どれだけ鬼を屠ったとしても島の人間に咎められることは無い。

 

 「ガォァァア!!」

 

 目の前には量産型ともいえる小鬼がいる。

 ダンジョンで言うところの1階層程度の力しか持っていないので、どう転んでも負けることは無い。

 

 依代を抜刀する。

 そして即座に首を落とし、落ちた頭部を刺突させる。

 

 

 ──必ず頭を潰せ。鬼は頭さえあれば半日は生きていられる。仲間が現れて切り口に付けようものなら繋がってやり直しだ。

 ただの刀じゃ、そこいらが限界だ。気張れよ。

 

 

 親方の言葉を思い出す。

 もとより妖刀は妖を討伐するための武器。当然と言われれば当然だ。

 

 生きた剣というものを振るったことがなかったので、少々違和感を感じる。

 俺のスキルである【騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)】は生きていない武器と認識できる全てを魔剣に変える。

 だからこそ、砕けない魔剣を作ったのだが……。

 

 いや、それは以前にも出した筈だ。

 今があるのだから悔いるのはやめよう。

 

 今は依代があるのだから無粋なことを考えること自体が危険だ。

 

 

 血潮を飛ばしすぎ、血溜まりを歩いたからか下駄は赤黒く染まり。依代はまだ入っていないにも関わらず血肉に飢えていた。

 

 

 

『お主かえ?犠牲(いけにえ)として出されたのは』

 「犠牲?」

『なんだ?まさか口車に乗せられてここまで来たのか?』

 

 ケケケ。と独特的な笑い方をする鬼、いや本当に鬼なのかが分からない。

 鬼というのは角が生えており、肌は人のものでは無い色だったからだ。

 

 だから疑問が生まれた。

 

 

 ──この少女は鬼なのか……と。

 

 

 「さぁな。俺は俺の為にここへきた。お前は鬼…という認識で構わないのだろうか?」

『そうじゃな、鬼……ふむ。確かに鬼じゃな。じゃが鬼は鬼でもただの鬼では無い』

 

 「なるほど上位の個体と思って差し支えないのだな」

 

『そうじゃ。ワシは──吸血鬼じゃ。そして鬼…いや、妖の王でもある』

 

 

 少女はそう言ったが一つ違和感を覚える。

 確かに今までの小鬼とは比べ物にならないが……これくらいの実力ならダンジョンの深層……下層には居たぞ。

 

 「訳ありか?」

『まぁあるかないかで言えばある。だからといって見逃してはくれぬのじゃろう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──いや、全然。これくらいなら他の鬼を探すから」

 

 幼女を置いて鬼ヶ島を散策した。

 

 

 




一回ステイタスとか設定とか載せた方がいいですかね。
作者でも複雑に勘違いさせてこんがらがってしまう時もあるので。

次はオラリオに戻ります。


勘のいい人はこの作品の世界観からして聖剣の作り方分かった人もいるかも……。


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青年期
青年1


 ✕月〇日

 

 昔ここで生活していたのに新鮮さを感じる。

 それこそ初めてそこへと辿り着いたかのように。

 

 全てのものが色褪せており、無色だったあの頃の風景とは似て非なるものである。

 漠然とした目的を持って飛び出した迷宮都市。

 

 二度目に訪れた今回は、どんな刺激をくれるのだろう。

 

 主神への報告の第一声は何にすればいいのだろう。

 

 オラリオのシンボルであるバベルはもう目視できる。

 およそ3年。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ×月・日

 

 門番がド肝抜かれた顔をしていたが……まぁ、許容範囲だろう。

 嫌われ者が帰ってきたんだ。嫌な顔をされるのは仕方ないことだろう。

 その点に関しては昔から変わらない。俺の心が変わってもそれに関しては揺るぎようがない。

 結局の所、今も昔も……精神面はとうに達していたのだろう。

 

 街を歩けば(おそ)れを嫌でも集めてしまうので、主神の元へはハデスヘッドを装着して向かった。

 

 ……なんというか。

 いや、今に始まったことではないのでそこまで重要視するつもりは無いが……。

 こうして見ると神の土下座というものはオラリオならではなのだな。

 

 主神の神友(しんゆう)の……へ、ヘス……へ……。穀潰しが主神に土下座していた。名前は忘れた。

 

 

 とりあえず声をかけたのだが、俺自身もハデスヘッドを装備していることを忘れていたので二柱に驚かれた。

 

 主神にはやや呆れられながら笑われた。

 そしてとても優しく。

 

 「おかえり」

 そう言われた。何故だろう。途端に湧き上がったこの感情は……。

 答えを()は知っている。

 

 これが──。

 

 

 そして、穀潰しも土下座しながらだが「おかえり」と言ってくれた。

 ことある度に暇つぶし相手やらファミリアの勧誘やら、世話になってい……世話してやっていたのでこうみると懐かしいものだ。

 

 とりあえずこの修羅場がどういった経緯でのものかを聞いたところ。

 穀潰しがファミリアを作り、初めての子供だからと主神に武器を作って欲しい。

 とのことでこうなっていることを知った。

 

 一度主神に俺が打ってみるのはどうか?

 と聞かれたが…。

 

 「俺は今でもベートと契約をしているつもりだ。ベートから契約を破棄した訳でも。まして俺が契約を破棄した訳でもない。だから俺がその子に作ってはあげられない」

 

 そう言うと主神は驚いた目でこちらを見た。

 

 

 「驚いた。あなたのその言い方だと契約が無ければ造っても構わない。ということよ。随分とこの三年で丸くなったわね」

 

 ………。

 

 確かにそうなのかもしれない。

 ここを出て3年。色んなものに悩まされた。考えないよう、それから目を離してきたあること。

 なんてことの無い……ただ、いつもの様に勝手に分かった気になって。勝手に分かり合えたと思って。繋がりをできたと思って。

 そして自分で勝手に失望する。

 

 少し脱線した。

 

 色々と思うところがある。

 だから、あの時俺は主神へこういった。

 

 「なに。少し戻っただけだ」

 

 この一言がどれだけ皮肉めいていたのか俺やあのエルフの長以外知る由もない。

 しかし、あの時チクリとした胸の痛みを今は感じることは無かった。

 

 

 

 結局主神は穀潰し、改め紐神の願いを叶えるのだった。

 ある種の茶番を見せつけられ、少々溜息がこぼれる。どうも主神は(ヒト)を駄目にするのが得意らしい。

 聞いたことの無い分割払いを目の前でされた。

 

 少し同情してしまったのは伏せておこう。

 

 

 

 何やかんや主神が武器を作り始めたので、俺は退室することにした。

 神の御業も生で見ることは滅多にないが──聖剣の為となればそれは必要ない行為だ。

 

 「鍛冶場はちゃんとまだあるわよ。あの子があなたがいない間に掃除してくれてたわ」

 

 主神にそう言われ、脳裏に何人か過ぎった。

 一番可能性が高いのは椿。同じ鍛冶師でもあるので、月に一度くらい掃除をしてくれていたかもしれない。

 そして次はアミッド。あいつもあいつで忙しいので望みは薄そうだが、俺の数少ない友なのでもしや。

 

 あとは………二人ほど理由を持つ人はいるが。如何せん別れ際が酷すぎたため無いだろう。

 魔剣(ランベントライト)を渡した金髪もいるが…正直期待は薄いだろう。そんなことよりもダンジョンに潜っている方が金髪には合っている。

 

 「誰だ?」

 

 考えた所でわからない。

 いっそ聞いてしまおうと思い、俺は主神に聞いた。

 

 すると

 「自分で会って確かめなさい。あの子はあなたがいない三年間もあの場所の面倒を見てくれたのよ。ここで私が教えるのは公平(フェア)じゃないわ」

 

 その言葉を聞いて、何となく確信した。

 主神は多分分かって言っているのだろう。やはり、自分の子供に甘いな。

 本当に……いい(カミ)だ。

 

 

 

 

 主神の部屋から出るついでに狐の面を取った。

 いつまでもハデスヘッドを被る訳にも行かない。何人かオラリオでも仮面を付けている冒険者はいるのでやや好奇の目で見られるが、素顔よりはマシだろう。

 

 いや、今考えると極東の衣装に狐の面となると。

 少々奇抜だったと自覚している。

 

 

 まぁともかく。工房へ着いた。

 確かに外観からして清掃は怠ってないみたいだ。もっと埃が被っていても不思議ではなかったのだが……それは友のお陰だろう。

 

 

 久しぶりにドアに手をかけた。

 本当に久しぶりだ。

 

 自分の工房だからかそれを強く感じる。

 ドアノブに手をかける角度が、自分の体の成長を感じさせる。

 

 帰ってきたんだな。

 

 今はそれ以外考えられなかった。

 

 ガチャりとドアを開けて一望する。

 

 するとそこには友がいた。

 

 一度治療を受けてから恩返しとして護衛をした。

 その元護衛対象。

 

 本当にあの時は何も思わなかった。

 だけど、あの時の俺は愛されている彼女から何かを学ぼうとしていたのかもしれない。

 今となっては知る由もないが……。

 

 憧れてたんだと思う。

 

 

 嫌われる自分から、愛される彼女に。

 皆から愛される彼女のことを。

 

 

 「お久しぶりですロットさん。そしてお帰りなさい」

 

 「ああ。ただいまアミッド」

 

 そこに居たのは数少ない友人、アミッドだった。

 久しぶり……と言うのは少し気が引けた。三年しか経っていないが、やはりヒューマンの成長は早い。

 アミッドも例外に漏れず、背丈などが大きくなっていた。面影は残るが、しっかりと美人になっている。

 

 だから久しぶり……というのはしっくり来ない。

 

 だから──ただいま。だったのかもしれない。

 

 言葉一つ一つには意味がある。

 言葉とは時に刃よりも鋭い、極東で教えて貰った言葉だ。

 

 だから言葉には気を付けなければいけない。

 

 自分よりも他人……。

 ()はこの3年で随分と変わってしまったみたいだ。

 

 

 これといった会話は殆どせずに、2人で食事をとりアミッドは帰って行った。

 とても懐かしい感覚だった。

 出来れば次はベートも入れて飲みにでも行きたい。

 

 

 

 

 

 



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