ファイアーエムブレム ー俺の謎ー (ユキユキさん)
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ー第1部・暗黒竜と光の剣ー
第1話 ~放浪の竜騎士という設定だ。


テキトーに。

何か色々とモチベーションの為に練習。




皆さん初めまして。俺の名はオルドレイク、放浪の竜騎士である。そして突然ではあるがこの俺、…前世の記憶がある転生者なのだ。どういう経緯で転生したのかは謎だが、第二の人生ということで頑張ろうと思う。

 

因みにこの世界はファイアーエムブレム・紋章の謎の世界っぽい、しかもDSの新ではなくSFCの旧。そこはDSにしといてよ! …と思ったりしたけどまぁいいや。うろ覚えだけど何とかなるでしょ、自己紹介ん時に言ったけど俺…竜騎士だし。転生特典と思われる槍と剣、聖戦の系譜に登場する天槍グングニルと聖剣ティルフィングを持っとるし。…とりあえず今がどんな状況か分からんから、世界を巡ってみようかと思う。空を飛べば阻むモノなし、大空が俺を呼んでるぜ!!

 

 

 

 

 

 

…………で飛んでみれば戦争中、飛べば飛ぶだけ襲われます。マケドニアの裏切り者扱いっす、…所属しとらんのに。…竜騎士だから勘違いされた? いい迷惑だよ。まぁ転生者でグングニル持ちだから全てを返り討ちにしていますけど、…そのお陰で賞金首にされましたよ。……何てこった! これじゃあ大陸に留まれないじゃん! 速やかに離脱せにゃ休まらんではないか!! これはもう何処ぞの島に逃げるしかないか?

 

大陸を横断している途中で追われている少女を見ていられずに救出した、…ポニーテールが良く似合う可愛い娘やね。…名前はリンダ? 良い名前じゃないか。…何? 身内が全て殺されて帰る場所が無いだって? …奇遇だね、この俺も賞金首だから居場所が無いんだよ。これも何かの縁、一緒に行くかね? …追われる身であるけれど。

 

 

 

 

 

 

…リンダの身を気遣いながらの逃避行、当初の予定よりも大陸横断に時間が掛かっとります。まぁそのお陰でリンダと仲良くというか好かれたというか、…美少女に好意を持たれるっていいよね! リンダってば色っぽいローブのせいで身体の線がモロ分かりだし、眼福って感じかな? 歳のわりには発育が………。

 

騎竜の上でリンダと戯れながら空を飛んでいると、山の麓で女性が襲われているではないか! リンダの時と同じように救出、全滅は面倒だから空へと離脱しました。…で彼女は旅のシスターで名前をレナ、救出した際…丁寧にお礼を言われたよ。ぶっちゃけちょいと引くぐらいの感謝をされた、…そこまで感謝しなくてもいいっすよ?

 

とりあえず…何処か安全な場所へ送り届けようかと思ったんだけど、レナさんてば恩返しがしたいとのことで逃避行に同行したいって。…回復の杖が使えるシスターが同行とかってありがたい、故にその申し出を受けようかと思う。

 

………何故かリンダの機嫌が悪くなったんだけど、…これは仕方がないじゃないか。

 

 

 

 

 

 

俺の騎竜は通常の騎竜より大きい、故に三人で乗っても大丈夫。リンダ・俺・レナさんの順に騎竜へ跨がっている、美少女と美女に挟まれるなんて夢のようだ。気を抜くと顔がダラしなくなるから気合を入れとります、…頑張る俺に身体を預けすぎないで下さい。…俺男なんで、…悶々としちゃうんで!

 

自分自身と戦いながらの逃避行、追っ手を振り切ってやっとこ大陸を脱出。大海へと飛び出し、点々と浮かぶ島へと寄っては身体を休める毎日。リンダとレナさんがいるから頑張れるわけで、やはり守るべき者がいると違うね。

 

しかしこのまま逃げ回るのもアレだな、俺はともかく二人には静かで安心の出来る生活をして貰いたい。それを二人に言えばリンダは前のめりで拒否、レナさんもやんわりと断ってきた。……………思いの外、俺ってば好かれているようだ。ありがたいことではあるけれど、逃避行…というか逃げ回っているんだよ? 普通に大変な旅なんだよ?

 

 

 

 

 

 

…二人が俺から離れる気がないというなら、この俺が良い場所を見付けて落ち着けばいい。そう考えて目標をタリスに定める、確かここから紋章の謎って始まるんだったよな? マルス王子が打倒なんちゃらって立ち上がる的な? …そこに参加・潜入すれば堂々と過ごせるんじゃない? …と思ったわけで。俺の考えを二人に話せば大賛成、リンダ的にもしかしたら身内の仇討ちが出来るかもという打算、レナさんはシスター故に人助けを想定してやる気満々。それ以上にこの俺と共に在ることが出来ると喜んでいる、…男冥利に尽きますな!

 

そんなわけで、タリスを目指して飛び立ちましょうかね!!

 

 

 

 

 

 

……え~と、…タリスはこの方向で良いのか?




のんびり。


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第2話 ~タリス王国に上陸。

ーマルスー

 

アリティアからこのタリスに落ち延びて二年、一六になった僕は立ち上がる機を待ち望んでいた。死に別れた父上と母上、拐われた姉上のことを想いながら力を蓄えてきた。…この二年、僕なりに頑張ってきたつもりだ。タリス王の援助のお陰でもあり、この恩は必ず返したいと思う。機を見て立ち上がりアリティアを再興、ドルーアを倒した暁には受けた恩に報いたいと思う。

 

 

 

 

 

 

僕自身がやらねばならないことを考え、いつもの勉強に鍛練をしていた時に急報がもたらされた。タリス城からシーダ王女が来たのだ。…直ぐに彼女へと面会してみれば、ガルダの海賊にタリス城が襲われていると言うではないか! 多くの人々が殺され、タリス王も囚われていると涙ながらにシーダ王女が説明する。どうか城を取り戻し、タリス王…父上を助けて欲しいと懇願されたのだ。

 

それを聞いた僕はタリス城奪還を決意、タリス王も救出するとシーダ王女に約束をする。直ぐ様ジェイガンに軍の編成を頼み、速やかに出撃をする。タリス王を救出しなければならない、だからこそ素早く進軍しなくては。

 

必ず海賊を討ち倒しタリス城を奪還、タリス王を救出して士気を上げる。その勢いで挙兵し、アリティアをも奪還してドルーアを討つ!

 

今こそが立ち上がる時、タリスには悪いけれど機は熟したとでも言おうか。…待っていて下さい姉上、そしてアリティアの民達よ。僕が必ず解放し、……救ってみせる!!

 

 

 

───────────────────

 

 

 

ーオルドレイクー

 

リンダとレナさんに挟まれながら海を飛び、辿り着くことが出来たタリス王国。見た感じ何とも静かな島国に見えるが、……静かすぎやしないか? …何ていうか息を潜めているような? そんなことを考えながら降り立つと、一層そう感じる。怯えの入った視線を感じるのは何故? リンダとレナさんも戸惑っている。

 

…もしかしてもう原作に入っていたりする? うろ覚えの記憶によると海賊にタリス王国が急襲されるんだっけ? そんなことを考えていると、遠くから海賊らしき者達が気勢をあげてこの村を蹂躙せんと攻め寄せて来てるっぽい。………この村を襲うのは確実だな、欲望に満ちた叫びも聞こえるし。…これは奴等を倒すしかない、…むざむざ蹂躙を許すなんてことはしないさ。

 

それにこの村を守ればタリス王国の民達やマルス王子に好印象を与えられる、マルス王子の軍に受け入れられやすいのではなかろうか? …という打算的なことも考えている。こんな俺の考えを幻滅するか? と二人に問えば、世の中そんなものだと口を揃えて返してきた。…リンダはともかくレナさんもそう考えているとは、…やはり放浪のシスターともなるとそれぐらいは飲み込めないとダメなんか?

 

 

 

 

 

 

とにかく襲い掛かってくる海賊をグングニルで薙ぎ払う、腰から上下に真っ二つの残酷な光景。俺はそれに眉の一つも動かさずに繰り返す、グングニルを突き刺して胸に穴を開けたりとか。こんな俺の行いにリンダとレナさんはビビることなくスルー、…まぁここへ来る前に色々と殺りましたからね。二人共耐性が出来たようで、リンダに至っては嬉々として追撃をしてるし。レナさんもおっかなビックリで死体を杖で突っついているし、…確認する必要なく死んどるよ?

 

俺の強力無比な槍術にリンダの強烈な魔法、襲撃してきた海賊は壊滅状態。生き残りは逃走を図るも俺の前では無意味だね、空からの追撃で逃走不可になることは確実故に。リンダも遠距離からの魔法で殺っとるし、…お兄さん的には少し悲しい。もう少し淑女然として貰いたいがこれも世が悪い、早く平和な世になって欲しいぜ。

 

 

 

 

 

 

俺を中心にリンダと二人で海賊を全滅させた後に戻れば、レナさんが民達に俺達のことを話してくれたようで熱烈な歓迎をされた。感謝感激の言葉を貰い、俺とリンダはちょいと鼻高々。レナさんはそんな状況の中でも忘れずに、杖を媒介として回復魔法を唱えて癒してくれる。かすり傷程度の怪我だけど、本当にレナさんの献身がありがたい。

 

感謝の言葉を聞いた後、村人からタリス城の奪還とタリス王の救出を頼まれた。海賊達によって民達が蹂躙、多くの命が奪われたと命からがら逃げてきた者に聞いたという。それを聞いた俺とレナさんは心が痛み、リンダは身内が殺された光景を思い出したようで微かに震えている。俺はリンダを慰めつつ頼み事を承諾、震えるリンダをレナさんに任せて単身向かおうとしたが、二人は残ることを拒否してきた。

 

…………二人が同行するならば俺のやるべきことは一つ、進軍しているであろうマルス王子と合流するってこと。リンダとレナさんの身を考えるならばそれが一番、共に進軍することが現状での最上なる一手と愚考する。



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第3話 ~マルス王子との合流を目指す。

ーオルドレイクー

 

海賊を討ち村を救った俺達は、民達からの情報を元にマルス王子との合流を目指す。何でも王子達はここより東にある砦を本拠地として活動しているらしい。ならばここより東へ向かえば難なく合流出来るとみる、…がしかしこの間にも民達が襲われてしまう。そう考えるとこのまま東へ行くよりは、この村の近場を回って海賊を討つ方が人道的か?

 

…そんなわけで、俺達は非道なる海賊を討つことに重点を置く。海賊を討っていればいずれマルス王子と合流するだろう、その前に海賊の数を減らして民達を救うのが俺達の役目。記憶を辿る限りマルス王子達って数が少ないよね? しかも回復役がいなかったと思うし。それに比べて俺は強キャラでリンダも今では腕利きの魔道士、レナさんは回復の出来るシスターというわけで海賊に後れを取ることはないだろう。突貫し過ぎずにレナさんを中心に海賊を相手取れば負けることはない、とのことでマルス王子達の負担を減らす為に頑張りますか!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーマルスー

 

海賊の急襲、そしてタリス城の陥落を聞いた僕達は奪還の為に行動した。村々を襲う海賊達を討ちながらの進軍、どうしても進軍速度が上がらない。襲われている村々を見捨てれば速やかに進軍することが出来る、けれどそのような非人道的な選択肢はない。救える命を救わずに、祖国であるアリティアを奪還出来るものか! 僕達を受け入れてくれたタリスの民達だ、出来る限り救うことこそが僕達のやるべきこと。救わずにタリス城を奪還、タリス王を救出しても王は勿論…シーダ王女も喜ばない。…だからこそ時間が掛かってでも民達を救う、それが最善であると信じて。

 

 

 

 

 

 

進軍途中の村々を救っている為、僕を含めた皆が疲弊していく。そんな僕達を嘲笑うかのように、海賊達は絶えず襲い掛かってくる。正直しんどい、…でも諦めるわけにはいかない。一丸となって進軍をすればきっと、…タリス城が奪還出来ると信じて。

 

歯を食いしばって進軍するにつれ、海賊達の襲撃が少なくなった。あれほどの攻勢を仕掛けてきた海賊達も、僕達の奮戦によって疲弊し始めたか? そう考えていると、自ら偵察を買って出ていたシーダ王女が驚くべき一報をもたらしてくれた。

 

ここより先にある村々が、そこで暴れる海賊達が三人の勇士により圧倒されて蹴散らされているとか。竜騎士が空からの急襲により海賊達を混乱させ、その隙を逃さずに魔道士が魔法を放ち殲滅する。見事なまでの連携で海賊達の(ことごと)くを討ち取っているとのこと、民達の怪我も同行しているシスターの回復魔法により治療されているらしい。

 

竜騎士が気になる所だが、聞く限り敵ではないだろう。マケドニアの竜騎士であれば、仮想敵国であるタリスの民達を救う筈がないし。よって勇士の竜騎士はマケドニアとは無関係、…そう判断すれば僕達の取る行動は限られる。

 

前線で戦う三人の勇士と合流、連携してタリス城の奪還を目指すことこそが最も犠牲の出ない一手。ジェイガンも僕の考えに同意した為、

 

「皆、もう一頑張りだ! 前線にて三人の勇士が奮戦している、よって僕達はその勇士と合流をして速やかにタリス城を奪還しようかと思う! …だから皆、…僕に続け!!」

 

と、気合いの入った号令を発する。自ら先陣を切り皆を引っ張る、ここで躓くわけにはいかないのだから!

 

 

 

 

 

 

僕の号令により気合いの入った仲間達と共に神速をもって進軍する、襲い掛かってくる海賊達を蹴散らし進めば前方に砦が。シーダ王女の話だと、あの砦を落とせばタリス城は目と鼻の先らしい。ならばこのままの勢いで砦を落とし、タリス城を占拠する海賊達にプレッシャーを与えるのが最良か? …と考えるも、刺激し過ぎてタリス王と共に人質の命が危うくなるかとその考えを捨てる。

 

どう攻めようかと考える僕に大きな影が被さる、…これはシーダ王女の天馬とは違う。ジェイガンを筆頭に警戒するがシーダ王女がそれを止めるように言ってきた、…ということは件の竜騎士か? そう思い空へと視線を向ければ竜が一騎、僕達の下へ舞い降りてきた。降りてきた騎竜に跨がるは偉丈夫と言ってもいい男性が一人、その男性に抱き着くよう傍らに控える二人の女性。…男性の発する覇気とでも言おうか、…彼は相当な武人で強者であると物語っていた。



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第4話 ~マルス王子との合流。

ーオルドレイクー

 

民達を傷付ける海賊達に情けは無用、俺が先制で仕掛けてトドメはリンダの魔法。これで立ち塞がる海賊、村にて民達を苦しめる海賊達を討伐してきた。…中には間に合わなかった村もあった、その時はそこにいる海賊達を血祭りにあげて仇を取る。そんな感じで攻め続けた結果、情報が広まったのか…俺達を見れば逃げ出す始末。勿論、俺の視界に入ったからには逃さず討ち取るのが俺のジャスティス!

 

そしたらビックリ、拠点の一つであろう砦を捨てて逃げた模様。無血で砦を入手したのはいいが、…ちょいとヤバいかな? 逃げた奴等がボスに報告をして守りを固めるかもしれない、最悪…人質を使うかもしれない。そうなったらまた無力な民達が犠牲になってしまう、タリス王の命も危うい。そう考えた俺は全速力で逃げた海賊を追う、人の足が空を飛ぶ竜に勝てるわけがないのだから。…たぶん追い付ける、逃げてからそんなに時間が経っていないと思うし。

 

…結果的には追い付いて皆殺し、砦が落ちたことを伝えさせるわけにはいかんのよ。…と言っても報告が遅れるだけなんだけど、…恐らく城と砦を行き来していた奴がいたと思うし。砦から誰も戻ってこない、それか砦に行ってみたら落ちていました。そんな感じになるかと、…だからこそ気付かれる前にマルス王子と合流がしたい。もし日没前に合流が出来なかったら、…俺達だけでの奪還を考えなければならない。人質優先だからな、電撃作戦が良策になるか? 時間を掛けすぎてはいかんのですよ。そんなわけでケリは今日中に、油断している間にと俺は考える。

 

 

 

 

 

 

…でリンダとレナさんを回収、とりあえず落とした砦へ戻ってみると…マルス王子? それっぽい軍が砦の前に展開していた。…どう攻めようかと考えているのだろうか? まぁともかく挨拶せにゃならん。そう思い共にいる二人へそれを伝えてから下降、途中で天馬…シーダ王女でいいのか? 彼女と目が合い敵意がないとジェスチャーで意志疎通を図ってみる。聡い彼女は俺の言いたいことが分かったようで、慌ててマルス王子の下へと舞い降りていった。

 

降りる過程で警戒されていることに気付いていたが、シーダ王女が降りたお陰で警戒が解かれた。…これで安心して降り立つことが出来ますな、…言わずとも分かっていると思うが落ちるなよ? 二人共。…まぁ密着すれば安心出来るのは分かるよ? でもさ、…嬉しいんだけど降りた時に何を思われるか心配なんですけど。

 

 

 

 

 

 

美少女と美女に抱き着かれている為に顔が緩みそうになる、…が何とか引き締めてマルス王子の前に降りることが出来た。DSの新は少しだけ男らしさがあった、しかしSFCのマルス王子は見た目ほぼ女の子。…本当に男ですか? と聞きたくなる程の美少女顔、所謂男の娘ってヤツ? …俺は興味ないけど。

 

とにかく騎竜から降りて挨拶をせねば失礼か、そう思ってリンダとレナさんを先に降ろしてから俺自身も地に足を付ける。そして目線を合わせてから腰を折り、俺なりの挨拶をマルス王子にする。俺の挨拶に目を瞬かせてからマルス王子も挨拶を返してくれる、…何これ萌え声!? ハンパねぇなマルス王子!!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーマルスー

 

女性二人を先に降ろしてから彼も地に足を付いた。降りた彼は長身で凄みがあった、そして凄みと共に何処か気品すら感じる。そんな彼の姿を間近で見て一瞬…(ほう)けてしまい、直ぐ様気を取り戻して口を開こうとしたけれど、

 

「突然の来訪をお許し下さい。私の名はオルドレイク、放浪の竜騎士であります。マルス王子とそのご一行とお見受けしますが、…間違いないでしょうか?」

 

彼の方から胸に手を当て腰を折り、見惚れる程の礼で挨拶をされた。その立ち振舞いに再び(ほう)けそうになるが、何とか持ち直して礼を返す。

 

「初めましてオルドレイク殿、ご察しの通り…僕がマルスです。今回の海賊襲撃の件、貴殿らにご助力頂いたことについて感謝します。お陰で犠牲も少なく、多くの民達を救うことが出来ました。オルドレイク殿、…本当にありがとうございます。」

 

言葉と共に礼をし、再び彼の顔を見れば口許に小さな笑みが…。僕は彼の目に叶ったようだ、…何故か安心してしまった。

 

 

 

 

 

 

これが後に盟友となる空の覇者、オルドレイクとの初めての邂逅だった。



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第5話 ~タリス城奪還に向けて。

ーマルスー

 

互いに名乗り、続けて同行している二人の女性を紹介するオルドレイク殿。

 

ポニーテールの少女はリンダという名で大司祭ミロア様の娘らしい、…まさかの大物の名前に僕は驚く。ミロア様といえば大賢者ガトー様の弟子でカダインを統治しているお方、どうしてその娘のリンダさんが? …と疑問に思った。そして聞いてみれば、ドルーアに(くみ)するガーネフという男に一族が全て殺されてしまったというではないか! 何とか一人で逃げていた所をオルドレイク殿に救われ今に至るという。リンダさんに辛いことを話させてしまった、…それにしてもドルーアめ! カダインにまで手を伸ばしていたとは! …そしてガーネフ、…ミロア様を殺害出来る程の実力。…その名を覚えておかねば、…いずれ刃を交えることになるだろう。

 

もう一人の女性、赤髪のシスターはレナという名のようだ。マケドニア出身の方のようで、今回の戦争にマケドニアが絡んでいる。それに対して彼女は心を痛め、せめてもの償いとして各地を巡っては貧しい人々を治療してきたらしい。その途中で賊徒に襲われていた時、たまたま通りかかったオルドレイク殿に救われた模様。彼女曰く、オルドレイク殿が自身を救ってくれたことは運命…、神の采配によるものだとか。故にレナさんはオルドレイク殿へ生涯尽くすとのこと、純血を守ってくれた方なのだからそれは当たり前のことと断言。…見ればオルドレイク殿は苦笑いをし、リンダさんはレナさんを威嚇し始めた。

 

………僕はこの状況の中で学んだ、…女性には気を付けようと。

 

 

 

 

 

 

失礼ながら女性に苦労しているオルドレイク殿、その姿を見るしかない僕は…僕達はどうすれば? そう思い始めた時、苦笑いをしていたオルドレイク殿が二人を制した。制された二人はシュン…と気落ちしながら後ろに控え、それを確認したオルドレイク殿がタリス城奪還についての策を話し出した。

 

それに対してジェイガンが、『露骨に話をすり替えましたな…。』と小声でぼそり。全くその通りだと思う、…けれど僕はオルドレイク殿に同情する。どんなに気品があって強者であっても、自身を好意的に想う女性の前では無力。無理にでも下げて話をすり替えなくては立場的に…ね、だから僕はオルドレイク殿に同情する。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーオルドレイクー

 

マルス王子に挨拶をし、リンダとレナさんを紹介した所で問題発生。レナさんの恩返しが生涯尽くすに変わっとる! 俺が彼女を救ったのはたまたま、しかしそれは運命であり神の采配であるとか。故に俺と生涯を共にすると? …何か逆プロポーズのように聞こえるがどうなんだろう。…それを聞いたリンダが俺の腕に抱き着いて、『フ~~~~~ッ!!』と猫のように威嚇し出す始末。…マルス王子達の何とも言えない顔が俺の心に突き刺さる、…これはもう話を変えなければ俺が恥ずか死ぬ! リンダとレナさんを何とかせねばならんな!!

 

 

 

 

 

 

俺は優しくリンダを引き剥がし、レナさんの襟首を掴むという荒業で彼女をリンダの隣へ降ろす。そして彼女達の面前に(てのひら)を、所謂『待て!』と指示を出せば分かりやすいぐらいに気落ちしてしまった。…別に責めたわけではないからね? マルス王子とタリス城奪還についての話をだね、…俺はしたいのだよ。

 

 

 

 

 

 

マルス王子達の微妙な視線を受け流して強引に話を進める、タリス城奪還への道を。まずこの砦は既に俺達の手で落ちていることを伝えれば、マルス王子を筆頭に驚愕する。………ここで悠長に固まって話をしている時点で気付けよ、そう思ったのは内緒だ。…まぁそれはいいとして、この砦が落ちていることは城にいる海賊達はまだ知らないとみている。…が気付かれるのは時間の問題、気付かれてしまったら(いくさ)は長引くし人質も危うい。故に俺は直ぐ様城へ進軍すべきと言う、これは時間との勝負であると。

 

人質が心配だと思うが大丈夫、この俺が単身で忍び込むから。海賊故に頭が回らないと思うから、人質を一ヶ所に纏めていると予想している。そこを俺が押さえるから、マルス王子達はただただ城を落とすことだけを考えて欲しい。…何、俺は竜騎士だから神速で突っ走れる。マルス王子達が攻める頃には人質を確保している予定、一種の賭けではあるけれど信じてくれ。

 

例え失敗しても正攻法で攻めると同じ被害になるだけさ、勿論成功すれば人質は無事で被害は少なくなる。…決断してくれマルス王子、このまま攻めて人質を危険に晒し最悪その命を犠牲にするか、俺に賭けて人質の確保を目指し犠牲を最小限に抑えるかを。因みに賭けた場合の犠牲は人質に(あら)ず、失礼ながらマルス王子側の犠牲ね? 普通に考えて、攻城戦はなかなかの難易度だから。



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第6話 ~お願いします。

ーマルスー

 

オルドレイク殿の策は賭けだった、本人も賭けであると自覚している。…このまま正攻法でタリス城の奪還を目指したら、オルドレイク殿の言うように人質の命が危うくなる。いや、…確実に人質を使って脅してくるに違いない。そうなれば僕達もどうなるか…、考えるだけで頭が痛くなる。神速にて攻めればその前に決着が付けられるかもしれない、これもまた賭けの一つとなるだろう。

 

そう考えるとオルドレイク殿に賭けた方が最も良い結果となりそうだ、どの道何かを犠牲にしなくてはならないのなら。例え失敗したとしてもオルドレイク殿ならば、最低でもタリス王の安全は確保してくれるだろうと思う。僕達の目標にタリス王の救出がある、これだけは絶対に成功させなければならない。

 

他にも色々と思うことがある、しかし今は時間がない。なら僕は…、

 

「オルドレイク殿、僕は貴殿に賭けたい。いや…賭けなければならない、どうかお願いします。」

 

そう頭を下げてオルドレイク殿にお願いをすれば、彼は嬉しそうに一笑いしてから、

 

「…気付かれたようで何より、人質の確保はお任せ下さい。向かう前にシーダ王女、貴女に聞きたいことがある故に此方へ…。」

 

自ら出した策だからか、オルドレイク殿は快く引き受けてくれた。そして速やかにやるべきことを達成する為、シーダ王女に城の構造を聞くのだろう。彼は先を見て行動している、それに比べて僕は…まだまだのようだ。

 

 

 

 

 

 

オルドレイク殿はシーダ王女と共に飛び立った。単身で行くつもりだったようだが、どうしてもとシーダ王女が譲らなかったみたいだ。…二人が飛び立って行った方角を見詰め、自身の考えなしを思う。僕は義憤で立ち上がり、ただタリス城を奪還すればいいと思っていた。…人質のことを考えていないわけではなかったが、海賊が人質を利用するということに思い至らなかった。

 

あのまま攻め続けていたらどうなっていたか、考えるだけでも自分自身を叱責したい気分だ。タリス王を含めた人質はおろか、僕達もどうなっていたか。…単純に立ち上がり攻めるだけなら民達でも出来ること、攻めるにしてもどう攻めて人質はどうするかまで考えなくてはならない。知らぬなら仕方がないかもしれない、しかし僕は知っていた。それなのに僕は……!!

 

自身を責める僕の隣にジェイガンが立った、そして…、

 

「大事に至らぬ前で良かった、今はそう思いましょう。悔やむのは後にしてマルス様、皆に下知を……。」

 

そう言ってきた。…大事に至らぬ前か、…確かにその通りだ。それに僕にはやらなければならないことがあった、…悔やむ前にやらなければならないことが。タリス城へ進軍し攻め落とす、…これは絶対に成し遂げなければならない。そうしなければオルドレイク殿に申し訳が立たない、…タリス王やシーダ王女に合わせる顔もない。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーオルドレイクー

 

俺の策が採用されました。マルス王子に頭を下げてお願いされたからには、最善を尽くして成功させるのみ。それにマルス王子も気付いたようだしな、人質の有無で(いくさ)の結果が変わることを。現状賭けになったとしても先ずは人質を、それが重要なのだよ。出来ればタリス城奪還の為に立ち上がった時、…その時点で気付いて動いていたら賭けにはならなかったかと。軍師の立場であるジェイガンは気付いていた筈、あえて指摘をしなかったのか? …気持ちは分からんでもないが、最悪の結果になる可能性がある以上は指摘をするべきだと思う。始まりの終わりはマジで最悪だぜ? …モドロフがいないのが痛かったな、彼であれば指摘したであろうに。…彼ってば新にて再登場なんだよな?

 

当然リンダとレナさんは置いていく、今回は身軽が一番だからね。…まぁ二人共渋りましたがダメです、君達はマルス王子と共に城を攻めなさい。特にレナさんの回復魔法は大変重要なモノ、出来る限り死傷者を減らして欲しい。…リンダは城を壊さないように、オーラは禁止でファイアーにしときなさい。…分かったね?

 

…で次にシーダ王女、人質確保…救出の為に城の内部情報を聞く。知っているのと知らないの、圧倒的に知っている方が良いに決まっている。賭けと言ったが確実に救出したい、マルス王子の為にも。

 

準備は整った、さて…行きますか! …って所でシーダ王女が同行を熱望。断ったんだけど頑な、引く気がないので渋々同行を認めました。まぁ城のことを知り尽くしていると思うし、…足手まといにはならん…と思いたい。それと彼女がいれば救出時の交渉…、話がスムーズに進むこと間違いなし。そう考えれば悪くないか? …シーダ王女、…美人だし。

 

 

 

 

 

 

………………!?

 

……殺気?



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第7話 ~マルス王子よりも…。

コードギアスの方も考えないと…。


ーオルドレイクー

 

シーダ王女の先導でタリス城へ向かう。飛び慣れているからか、俺から見ても選ぶルートに間違いはないかと。直接向かう愚行はせずに山を越えて海へ出る、海側からタリス城を目指すルート。相手は海賊故にあり得ない、…そう思うかもしれない。海は海賊達の領域、しかし空を飛ぶ俺達にとっても絶好の領域であると言えよう。

 

海賊に遭遇したとしても船の帆を破壊すれば奴等は行動不能、大型船は帆が無ければ航行は出来んからな。オールを手動で漕ぐにしても時間がね、…その間に城を落とせるだろう。小型船であれば海賊もろとも海の藻屑に、よって俺的に安全かつ余計な海賊も始末出来て一石二鳥。よってシーダ王女は出来る女、少なくとも現在のマルス王子よりはな!

 

 

 

───────────────────

 

 

 

ーシーダー

 

タリス城が海賊達に襲撃され、父様達が捕らえられたのと同時に多くの民達が殺されてしまった。私は何とか脱出をし、マルス様へと助けを求めて共に戦いオルドレイク様と出会った。無関係であるのに民達を助け、今も父様達の救出の為に行動を共にしてくれている。

 

城へ向かう為に山を越え海へと出た、その途中で遭遇する海賊船には目もくれず速やかに救出を。私はそう思っていたのだけどオルドレイク様は違った、竜を駆り全ての海賊船を処理していったのだ。それでいて城へと向かうスピードは衰えない、…私との格の違いを見せ付けられるようだ。そんな私に対してオルドレイク様は…、

 

「気に病むことはないぞシーダ王女、貴女の判断は実に正しい。…が今回は私がいた、それだけのこと。」

 

私の内心を察してそう言ってくれた。…父様達の救出を建前に海賊達を見逃し、民達を見捨てる判断をした私を肯定した。そして私の心にある後ろめたさを消す為に、オルドレイク様は自らの手でその元である海賊達を()ってくれた。

 

続けて彼は言う、

 

「国を治める者は時に非情とならなければならない、国の為に大を守り小を切り捨てて。全てを守ることは美徳であるが、…それは力ある者だけの特権。意識してのことではないかもしれないが、…シーダ王女はその判断が出来た。…悔やむことはない、貴女は立派だ。誰かが否定したとしても、私は貴女を肯定する。」

 

…国を治めるには王が必要、失えば国は乱れて見捨てた以上の悲劇が起きる。国を守る為の非情な判断、…それが出来た私をオルドレイク様は評価してくれた。それと同時にマルス様のことにも言及している、…私がマルス様以上の素質があると言っているの?

 

オルドレイク様の言葉に悶々としながら空を駆け、…遠目ながらもタリス城を捉えた。このまま近くまで飛び、バレぬよう忍び込むのが私とオルドレイク様の任務。…何てことを考えていると、少し離れて飛んでいたオルドレイク様が器用に騎竜を操って私に寄せてきた。私の天馬に配慮しつつギリギリ寄せて、そこから身を乗り出して私に…………。

 

 

 

 

 

 

………………ひゃっ! …はわわわわわっ!?

 

 

 

───────────────────

 

 

 

ーオルドレイクー

 

侵入ルートもさることながら、海賊に対しての対応も現状を考えれば妥当。だが心優しいであろうシーダ王女はこのことを一生引き摺るとみる、そう予想した俺は海賊達を無力化或いは討伐をしてその心を守った。一応俺なりのフォローを入れたつもりだけど、…何か悩んじゃった的な?

 

まぁ済んだことは置いといて、タリス城が見えたからには切り替えよう。シーダ王女も切り替えたようでこのままどう潜入するか? それを考えた上でシーダ王女を見る、………天馬って目立つよね? 潜入系には不向きじゃね? そう思った俺は、騎竜を巧みに操りシーダ王女に超接近。俺の潜入方法を話せば、…おや? 固まりましたな。

 

 

 

 

 

 

潜入方法は簡単、シーダ王女を抱えてタリス城の死角へ飛び降りるだけ。その際、シーダ王女の天馬は人目の付かない場所に潜んで貰う。それに比べて俺の騎竜が目に付いても、はぐれ飛竜と見間違えるかと。たまに出るんだよね、各地に。はぐれ飛竜、俺の騎竜には色々と付属品があるけれど遠目になると思うから気付かんだろ。逆にはぐれ天馬はほぼ出ない、…野生の天馬は人里近くに現れないのだ。

 

そんなわけでシーダ王女を所謂お姫様抱っこで抱え、普通なら大怪我間違いなしの高度から飛び降りて潜入成功。シーダ王女も悲鳴を我慢、…俺の胸に顔を埋めて声を押さえきった模様。彼女を地に降ろせば顔が赤い、そしてチラチラと様子を窺ってきてる。………気付かれる前に行くとしようか!

 

俺はあえてスルーした、…今はそれどころではないし。



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第8話 ~僕は未熟者。

ーオルドレイクー

 

無事タリス城へと潜入した俺達、マルス王子達が進軍してくるまでまだ猶予があ…ないな。あると考えたけどマルス王子ん所にリンダがいたわ、魔法で海賊を消し炭にしながら突撃してくる筈。妨害なんざ意味がねぇ、故に進軍速度がハンパないと想定すれば悠長に構えている暇はない!

 

やや挙動不審なシーダ王女の先導で城内に潜入してみれば、シン…としている中で微かに海賊の笑い声。シーダ王女共々顔をしかめながら先へ進む、目的の場所はまぁ…地下牢になる。それも最奥部にある死刑囚が入る牢、そこにタリス王が囚われている可能性が高いとか。他の人質はその途中にある普通の牢、落とされてからあまり時間が経っていないからメイドさんは…無事であることを祈る。

 

何故そんな所にタリス王を? …何て思ったけどシーダ王女曰く、日頃からタリス王は海賊達を取り締まっていた。煮え湯を飲まされ続けてきた海賊達が報復の為、一致団結をして襲撃を仕掛けてきたのでは? …と。タリス王を死刑囚用の牢に入れたのも報復の一つ、いずれ殺すというメッセージを与えて精神的に追い詰める目的。襲撃時の脱出の際、襲撃班のリーダーらしき海賊が言っていたらしい。…よくもまぁ聞き取れたものだね、たまたまだろうけど危ないな。

 

とにかくそういうわけで、その言葉を信じるならばそこにタリス王が囚われているってこと。…というか信じるしかない、しらみ潰しに調べるわけにはいかんからな。…時間がない、さぁ急ごうシーダ王女! 極力見付からないように、邪魔なら瞬殺してみせる。だから安心して進んでくれ、俺が守るから。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーマルスー

 

オルドレイク殿とシーダ王女が城へと向かっている中、僕達は戦線を徐々に押し上げて進軍していく…つもりだった。速すぎるとタリス王を含めた人質救出に支障が出ると考えたから、…しかしその考えはリンダさんの魔法によって人知れず消える。…目の前には炎の柱、一人の海賊を飲み込んで燃え盛る業火。襲い来る筈だった海賊の蒸発、…それを間近で見た海賊達は怖じ気て各々四方八方に逃げ出していった。勿論逃すわけにはいかない、カインとアベルを中心とした少数の騎馬隊を追撃に出す。…二人共、どうか逃さずに討ち取ってくれ。

 

これだけならばまだ良かった、先制の一撃で士気が上がったわけだから。そこからじわじわと進軍…とするつもりが、リンダさんもカインとアベルを追うように海賊追撃に駆け出したではないか! そんな姿を見せられたら士気の上がった兵達も真似てしまう、強力な魔法を放つ魔道士がいる以上…負け戦となる可能性は皆無に等しいのだから。

 

自分勝手に行動するリンダさんに問題があるのか、それとも統率しきれない僕が悪いのか。そんなことを考えていると、近くに控えていたレナさんが…、

 

「…マルス様は指揮官の筈です。考えることは良いことですが、ご指示を出さねばお話にならないのではありませんか? リンダが動いたのはご指示がないので痺れを切らしたからです。間近に迫らんとする海賊がいるのですよ? 身を守る為に動くことは人の本能と言えるでしょう。…まぁオルドレイク様と早く合流したいという魂胆がありありですが、今しがたの飛び出しはオルドレイク様にご報告をして叱って頂きましょう。」

 

にこやかな表情で苦言を口にしたのだ。僕はその苦言に言葉が詰まった、確かに僕は考えるだけで指示を皆に出していない。辛うじてカインとアベルの部隊に指示を出しただけ、…後は進軍前の下知だけだ。

 

 

 

 

 

 

僕は自分自身の無能さに嘆きはしたが、…何とか奮い立たせて残る兵達に指示を飛ばす。僕もリンダさん達に負けぬよう全速力で駆け抜ける、…考えていたって仕方がない。もう…行くしかないんだ、今となってはそれしかない! オルドレイク殿とシーダ王女が危険に晒されるかもしれない、だが…もうやるしかないんだ!

 

僕のやるべきことは一つ、海賊達が体制を整える前に攻め込んで討つ。例えそこまで至らなくとも、散々に乱せば奴等は右往左往するだろう。…今回のことで僕自身のいたらなさが身に染みた、この体たらくで祖国アリティアを取り戻せるのか? だからこそ踏ん張らなくてはならない。現状統率出来ずに各々で攻め込んでいるけれど、何とか敵の…海賊達の目を此方へ向けさせるように立ち回らないと! 難しいけれど、潜入しているオルドレイク殿とシーダ王女の助けになるように。




リンダ→オルドレイクチームの特攻隊長?

レナ→オルドレイクの副官?


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第9話 ~人質救出。《その1》

思い付く内に書くのが俺。


ーオルドレイクー

 

シーダ王女が先導し、俺が邪魔になる海賊を気付かれる前に瞬殺。ティルフィング、何とも素晴らしい聖剣よ! 海賊相手にもこの威力、もし相手が魔道士だったらどうなるだろうか? 竜騎士なのに魔法に強い、…無双になること間違いなしじゃね? …ということを考えながらでも無駄なく行動しシーダ王女を守る俺。彼女は当然無傷、海賊にも気付かれていない。まぁ死体はそのままだからな、いずれ侵入者がいると気付かれるだろう。その前に人質の救出を、…問題ないな。前提として地下牢に人質がいること、…いなかったらちょいヤバい。

 

 

 

 

 

 

…途中の牢に生き残りの兵から要職に就いていた者、使用人…メイドさん達が囚われていた。見た感じ…乱暴はされていないようだ、皆シーダ王女の姿を見て喜んでいる。そんな再会に水を差すことになるが、タリス王の囚われている場所を聞けばこの奥にある死刑囚の牢。一応見張りの手練れが数人いるらしい、…とのことなので俺が先行して排除しときます。

 

…とその前に牢の鍵を渡しておこう、全員を牢から出して奥に来てくれ。…脱出は危険だからね、奥にて立て籠った方が助かる目がある。この地下牢は一本道なのだろう? なら俺が立ち塞がればいい。奥の見張りを片付けてからタリス王の身を確認し、そのままシーダ王女と人質の皆さんを奥へ誘導。後はこの俺が立ち塞がり来る者を斬る、何人も通さなければ万事上手くいく。…何、外ではマルス王子が上手いことやってくれる筈。日が落ちる前に全てが終わると信じている、…故に俺のことは気にせんでくれ。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーシーダー

 

私が先導して地下牢を目指し、その道を阻む海賊はオルドレイク様が華麗に討つ。手にする見事な剣で賊を断つ様に見惚れることしばしば、遂に地下牢へと辿り着いた。そこで見たのはそれぞれの牢にて項垂れる城の皆、見知った顔がいたのだ。我慢出来ずに駆け寄り声を掛ければ、皆が私に気付いて目に生気が宿る。

 

無事な姿に感極まって少しの騒ぎ、気付いて抑えようにも後の祭り。囚われの身である皆も気付いて慌てた時、オルドレイク様が現れて…、

 

「心配無用ですよシーダ王女、近場の賊は既に討ち取っています。故に落ち着かれますよう……。」

 

私達の行いを先読みし、対処をしたと笑みを浮かべて報告してくれた。その言葉にホッとした私達、彼には感謝しかない。

 

続けて尋ねてきたことは父様のこと、その問いに兵の一人が答えた。…あの時に海賊が言っていた通り、…父様はこの奥の牢に囚われていると。しかしその守りには賞金首の手練れが数人、そう簡単にはいかないだろうと言う。だけどそれを聞いたオルドレイク様は先行して排除すると言ってきた、無謀だと皆が言うけれど私は彼にお願いをした。

 

オルドレイク様は私に鍵を託すと奥へ駆けていった、暫くしたら皆を連れて奥へ来て欲しいと。脱出はしないのか? と誰かが聞けば、犠牲を出さずに脱出することは難しいと一蹴。ならば奥で立て籠る方が安全、外でマルス様達がやってくれる筈。それまでに守り切れれば勝利、最悪自身が全てを終わらせると自信に満ちた声で宣言。その言葉は覇気に満ちていて、彼に従うしかないと思わせる程のものだった。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーリンダー

 

オルドレイクさんはマルス王子に助力をって言っていたけど、肝心のマルス王子がロクに指示もしない。海賊達が迫って来ているのに! …兵士の人達は部下だからいいよ? でも私は力を貸すだけの助っ人。死にたくないからやっちゃった、エルファイアーもファイアーの内だから約束は破っていない。だから大丈夫だよね?

 

騎士の人達が動いたから私もいいよね? …海賊達を燃やしてオルドレイクさんに褒めて貰おっと! 頑張れ私、エイエイオー!!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ー???ー

 

…あの光、…炎は魔法か? …海賊達に魔道士はいない筈、…ということはマルス王子達か! 確か魔道士の幼馴染がいると聞いたことがある。

 

こうしてはいられない、今こそ好機! サジ、マジ、バーツ…! 俺達も参戦し、タリス王とシーダ様方をお救いするぞ! …遅れるなよ!!




何も考えずに書くと、自分が思う以上に話が長くなる。


???とは一体誰なんだ!?


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第10話 ~人質救出。《その2》

ーオルドレイクー

 

シーダ王女に鍵を渡して暫くしたら奥へ来るように言う、これが犠牲のない手であることを自信ありげに説明をして。俺が一人奮戦すれば何とかなる、でも何が起きるか分からんからマルス王子達には頑張って貰いたい。…とは言っても海賊如きに殺られはせんよ、聖剣ティルフィングと俺を舐めんなよ?

 

そんなわけで気合十分、一気に駆けて滅殺じゃい! 一本道で隠れる場所はなし、故に立ち塞がるしかない手練れの海賊達を全て一撃必殺。互いに逃げ場がないのなら、強者のみが生き残れる。それ即ち俺のみがここに立つ資格を持つということ、手練れと言っても所詮は海賊。この戦場を渡り歩いた俺の敵ではないのだよ!

 

 

 

 

 

 

手練れと言われていた海賊達を屠り、いくつかある鉄の扉の小さな格子を覗いていく。その中でも特に厳重な鉄の扉、凶悪な死刑囚を入れる筈の牢の中にその姿を見た。憔悴しているタリス王だと思われる男性を、僅か一日でこれ程までに…。彼の呟く小さな言葉を拾えばシーダ王女のこと、彼は脱出をしたシーダ王女のことを想い憔悴しているのだと気付いた。勿論民のことも呟いていたよ?

 

俺はその扉を開くことなく踵を返す、タリス王を救うのは俺の役目ではない。一人娘であるシーダ王女、そしてタリス城にて仕えていた者達がすべきこと。顔も知らぬ俺が救出の為とはいえ助けようとすれば、警戒されるのは目に見えている。これ以上の憔悴、…心を傷付けることは俺には出来ん。シーダ王女の為にも、そしてタリスの民達の為にもな。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーシーダー

 

オルドレイク様が奥へと駆けていく、…その後ろ姿に頼もしさを感じた。そしてその姿が消えた後に皆を牢から出す、出てくる姿を見て私は安堵した。昨日の襲撃…まだ一日しか経っていないけれど、亡くなった者も多いけれど救える命があって本当に良かった。…後は父様だけ、まだ安心は出来ないけれどオルドレイク様がいるからきっと大丈夫。

 

救った者達の中から声が上がる、あの方は一体何者なのですか? …と。その言葉に私は首を振り、私自身も詳しくは知らないと言った。放浪の竜騎士でたまたまタリスへ来た、襲われる民達を見ていられずに参戦してくれた。そして父様と皆を救出する為に単身でこの城へ、私は無理を言って同行していると。…彼の名はオルドレイク、私達の恩人よ。

 

オルドレイクという名を聞いた時、数人が首を傾げていた。竜騎士オルドレイク、…何処かで聞いたような? …と。私は初めて聞いた名だけれど、オルドレイク様はご高名な方なのかしら?

 

 

 

 

 

 

奥から聞こえてくる金属音、続け様に野太い悲鳴。その後の静寂に海賊達は全て討ち取られたと判断、言われていた通り私達は奥へ。すると途中でオルドレイク様と鉢合わせた、…何故此方の方へ? と思ったが通路に立ち塞がり守り切ると言っていた。だから此方へと戻ってきた、…ということはやはり?

 

私が問う前に、

 

「一番奥の牢にてタリス王が囚われています。さぁシーダ王女、そして皆さん。タリス王を救うのは貴女方の役目、私はそれを邪魔する無粋なことは致しません。この先にて海賊が来ぬよう目を光らせましょう、…では。」

 

そう言ってから綺麗に一礼、そのまま私達が来た通路を戻っていった。………父様は無事、それを聞いた私は奥へ駆け出す。続くように皆も、……………父様!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ー???ー

 

タリス王より厳命されている村々への見回りが仇となった、見回りの最中に起きた海賊達の襲撃。近場の村は救えたのだがタリス城は海賊の手に、だが希望は捨てずに潜伏をしていた。そんな時に上がった反撃の狼煙、経った一日で目まぐるしく状況が変わっていく。俺達はその流れに遅れぬよう参戦し、凄まじい魔法を放つ魔道士の少女と合流した。互いに名乗りあって共に目指すはタリス城、大切な人達がタリス城にいるという共通点。魔道士の少女…リンダに背を任せることが最善、彼女もそう思っているらしく…、

 

「さぁオグマさん、海賊という悪漢全てを討ちましょう! 私達を待っている人がいるのだから!!」

 

「分かっている! …(おく)れを取ったが挽回してくれよう、(ことごと)くを討ち我が忠義を果たさん!!」



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第11話 ~人質救出。《その3》

仕事の合間。


ーオルドレイクー

 

シーダ王女と人質になっていた者達が奥へ消えた、もう少しでタリス王と再会出来るだろう。

 

俺の目から見てタリス王は民達から病的な程に慕われている、例え非情な判断を下したとしても。誰一人王家を責めることはない、今回のような襲撃に遭ったとしてもだ。多くの民達が海賊の凶刃に掛かり亡くなった、『何故守ってくれなかった!!』という声がなかった。逆にタリス王達の救出を願う、何ともいえない国民性よな。…アカネイアなんて少数とはいえ民達から恨まれてたぜ? …そう考えるとタリスは稀有な国だよな、…島国だからか?

 

まぁ俺の考察はどうでもいいとして、もう少しでシーダ王女達とタリス王が再会する。多くの命が散った中での再会、それはもう感動的なものになるだろう。そんな悲しみの中の再会を邪魔するってんなら俺が相手になろう、無粋なる海賊に死を贈らにゃならん。

 

…俺はティルフィングを構えて迫り来る海賊達を捉える。人質を使おうと思ったのか、上から降りてきた奴等は既に死んでいる仲間を見て激昂。その反応に何様だ? …と思った俺。お前らには激昂する資格なんざない、被害者面すんじゃねぇよ。ならず者の海賊風情が意気がるな、…死んでその命で全てに詫びるがいい!

 

 

 

 

 

 

ここへ来る海賊が多い、襲い来る海賊達を斬り伏せながら思う。やはり人質を使う為に? …となれば、あの砦からマルス王子達がタリス城へと攻め上がってきたと考えれば? 若しくは既に辿り着いていたり? 故に海賊達が焦って人質を使おうと地下へ。……たぶんそんな感じだな、…でそこにハンパない程の強者である俺がいた。うん、そんな感じだろうな。

 

…戦いながら周囲を確認、シーダ王女達にも聞いたが隠し通路や部屋は存在しない。ついでに抜かれず討っているから死体が多い、…ってこれは関係ないか。…とにかく様子見で前進しますかね、隠し関連がないのなら抜かれぬ限り安全だし。むしろ地下牢への階段を押さえるか? そっちの方が音や声で戦況が判断出来ると思うし。…うん、それがいい!

 

そうと決まれば前進あるのみ。立ち塞がる海賊共め、死ねぇーい!!

 

…立ち塞がってたのは俺か?

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーシーダー

 

オルドレイク様が言っていた地下の最奥、薄暗い通路の先にある最も酷い死刑囚の牢。…その中に父様がいる、彼に渡された鍵を扉に差し込んで…ガチャリッ、そして勢いよく扉を開けた先には…、

 

「…父様っ!!」

 

壁に打ち込まれている枷に拘束されている父様の姿、力無く項垂れているその姿に悲しみが込み上げてくる。

 

私の声に反応した父様は顔を上げた。その表情は憔悴し切っており、僅か一日で人というのはこうも老け込むのか…と驚愕してしまった。その姿に驚きと悲しみ、生きていたという喜び、一気に色々な感情が私の中を駆け巡る。そんな私を視界に収めた父様は、憔悴から一転…破顔して、

 

「…おぉ、……おぉ! …シーダ、シーダよ無事だったか! …それにお前達もよく無事で!」

 

震えていたが喜色に満ちた声、その声を聞いた私は感情のあまり…涙が零れた。

 

私達は父様を拘束している枷を外し、その身を解放した。崩れ落ちそうな父様の身体を二人の兵士が慌てて支える、そして数人の兵士は自身の着ている上着を脱ぎ地に置いた。そこへ父様を座らせて一息、暫くしてから私は脱出後の経緯を話す。マルス様に助力を頼み、マルス様が立ち上がってくれたこと。旅の最中であった三人の勇士の助力、その一人の方が父様達を救ってくれたことを。

 

そして教えた、…彼の名を。その名を聞いた父様は、

 

「…オルドレイク? その竜騎士はオルドレイクと名乗ったのか…!?」

 

目を剥いて驚いた。やはりオルドレイク様はご高名な…、

 

「竜騎士オルドレイク。…私の知るオルドレイクであれば、…彼は元アカネイア貴族だ。」

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーマルスー

 

カインとアベルの騎馬隊が合流し、四方八方に散った海賊達を個別に撃破。自身の持てる力を駆使しながら進軍、タリス城目前でリンダさんとも合流出来た。彼女と共にいたのは傭兵隊長オグマ、そしてサジ、マジ、バーツといったタリスでも名の知れた戦士達。まさかリンダさんがオグマ達を引き連れているとは!

 

リンダさんとオグマを筆頭に攻め上げている姿を見て僕は奮い起つ、…負けていられないと! 僕は皆に指示を出し攻城戦へ参戦する、…もう一踏ん張りだ!!



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第12話 ~人質救出。《その4》

ーシーダー

 

救出した父様に経緯を話し終えた時、その口から驚くべき言葉を聞いた。…オルドレイク様は元アカネイア貴族、大国の貴族だったなんて!

 

父様の話に耳を傾ける。オルドレイク様はアカネイア聖王国の上位貴族、王女であるニーナ様に気に入られていた。しかし武勇もあり王族の信頼を受ける彼に嫉妬した貴族達に嵌められ、同じく武勇と信頼高いご両親を謀殺された挙げ句に家を取り潰された。自身の暗殺を察知したオルドレイク様は失意の中出奔、汚名を着せられたまま行方不明になったとか。

 

その後彼等を嵌めた貴族達は罪を暴かれ処刑され、オルドレイク様の冤罪…汚名は払拭されたが国に戻ることはなかった。当時ニーナ様の悲しみは見ていられなかったとのこと、そして数年後…ドルーアの侵攻。今でもオルドレイク様とそのご両親がご健在であったのなら、…結果は違っていたかもしれないと言われている。

 

 

 

 

 

 

…オルドレイク様の過去、本人かどうかは分からない。けれど私は本人であると思う、うっすらと隠されている気品は貴族であったのなら納得が出来る。それにあの覇気、そして強さ。結果が違っていたかもしれない、…と思わせるに相応しい強さがあると私は思う。

 

…オルドレイク様は何を想い放浪していたのだろう? 私はこの先で海賊達を討っているであろうオルドレイク様のことを想う、…彼の心中を知りたいと。…でも聞ける筈がない、容易く聞けるようなものではないと判断出来るから。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーオルドレイクー

 

地下へと下りてきた海賊達は全て斬り伏せた、後は上…地上の奴等のみ。俺は一歩一歩、確実に階段を上がっていく。途中で海賊に鉢合わせるが、冷静にその命を断つ。血の滴るティルフィングを目にした海賊は来た道を慌てて戻っていく、俺という存在によって恐慌状態となったようだ。

 

地上へと出てみれば、その周囲には多くの海賊達が。どうやら待ち伏せをしていた模様、…普通ならば取り乱すこと間違いなしの状況である。まぁ…雑魚が何人いたところで脅威になるわけもなし、されど俺はここから動くことはない。隙を突かれて地下へと下りられたら最悪だからな、故に俺は迎撃に専念しようかと思う。

 

 

 

 

 

 

地下への階段を背に俺は海賊達を屠る。一人で何人殺ったかな? …とか思いつつ海賊を斬る、外の喧騒に耳を傾ければ戦況は此方の優勢…でいいかと。所々で聞こえる爆音はたぶん、…リンダだな。城を壊すなと言っておいたが、…その約束が守られているか不安である。

 

海賊達の外の戦況は劣勢、そして内も俺の存在により及び腰。さて…どう動くかな? と考えていれば、

 

「たかが一人に何やってやがる! 情けねぇ奴等だ! …どけっ! このガザック様が殺ってやる!!」

 

そこそこ凄味のある海賊が現れた。…タリス城を襲撃した海賊達の親玉か? 怒髪天を衝いているようだがコイツは小物。俺の強さを理解せずに挑むとは、…その時点でただの蛮勇であると知れ!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーオグマー

 

タリス城まで攻め上げた俺達は門前の海賊達を平らげる、途中…マルス王子の軍と合流し共に攻めることとなった。…さて、どう城門を攻略するか。剣を振るいながら考えていると、

 

ドゴォォォォォンッ!!!

 

凄まじい音と共に爆風が肌を撫でる。何事かと思えばリンダが城門の一部を破壊していた、………今は平常時ではないから何も言うまい。そこから城内へと侵入すればいい、リンダの手柄となるだろう。…がせめて城門は城門でも木造の門扉にして欲しかった、…後の修繕が大変だな。

 

 

 

 

 

 

…一番に城内へと侵入、サジ達に門扉を開けるよう指示を出す。ここはマルス王子達に任せて俺は単身で城内へ、…そこで目にしたのは一人の騎士と海賊達。その騎士が味方であると瞬時に判断し、俺は………、

 

「貴様等はもう終わりだ! …今回の凶行、その命で償え!!」

 

海賊達に背後から斬り掛かった。




オルドレイクのイメージ。


【挿絵表示】


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第13話 ~人質救出。《その5》

やはり仕事の合間に。


ーオルドレイクー

 

海賊達の親玉(仮)ガザックと対峙する俺。自然体で構える俺に対し、ガザックの奴は斧を振り上げて下品な笑みを浮かべている。…何ていうか隙だらけ、そんなんで俺を殺るとか舐めてんですかね?

 

俺は幾つもの戦場を渡り歩いた男だぜ? そんな俺に対してその余裕はムカつく。まだお前の子分達の方が殺り難かった、一斉に掛かってくるからな。それに比べてお前は何だよ、単身でそれって笑える。それで俺を殺ろうってんなら笑い話だよ? …一度死んで出直して来い。

 

そして互いの刃が交わらんとした時、奴等の背後から金髪偉丈夫の傭兵が乱入してきた。…あれはオグマ!? 俺が当時好んで使っていた未来の勇者じゃないっすか! 何て顔に出さず内心で喜んでいると、対峙しているガザックがそのオグマに気を取られて…。

 

そこを突かなくても勝てるが、何かもうウンザリしてるんで殺らせて貰います。俺は一息にガザックへ接近し、余所見をしている奴の首を一閃する。その直後、ガザックの頭がぐらりと地に落ちて………。

 

 

 

 

 

 

鮮血を噴き出しながら倒れる身体。この瞬間だけスローモーション的な流れになり、ガザックが殺られたという事実に対して理解していく海賊達。そして…、

 

「…あぁ、…あぁ!! か…頭が、…ガザック様が殺られちまった! …勝てねぇ、こ…こんな奴に勝てるわけがねぇっ!?」

 

海賊の一人が叫べばそれが瞬時に広がり、この場にいた海賊達は戦意を失い逃げ惑うことに。

 

この時点で勝敗が決まり、瞬く間に海賊達がタリス城から駆逐されていく。タリス城の解放、俺達の勝利ってわけですな。…となれば、タリス王とシーダ王女を迎えに行かねばならん。俺が行ってもいいんだが、迎えに行くに相応しい人物が目の前にいる。その役目は彼に任せるのがいいだろう、そう…目の前にいるオグマにね。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーオグマー

 

俺が海賊達の背後から斬り掛かった時、…一瞬にして全てが決してしまった。味方と判断した騎士が動き、一人の海賊の首をはねたのだ。そこからはもう海賊達は烏合の衆、連携も何もあったもんじゃない。我先にと逃げ惑うだけ、…最早脅威ではなくなった。後は討つか捕らえるかのみ、ここにタリス城奪還は成ったのだ。

 

城内を制圧した後にすることは一つ、タリス王とシーダ様方の安否確認だけ。ご無事であることを祈りつつ、そのお姿を探さんとした時に呼び止められた。呼び止めたのは強者である騎士、正直…邪魔をしないで欲しいと思った。だが彼は恩人となるだろうからそれを飲み込み、目を合わせれば、

 

「タリス王とその他の方々も無事ですよ、…勿論シーダ王女も。身の安全を考え地下にてお待ち願っている次第、もう地上は安全でしょうからお迎えに行かれたらよろしいかと。」

 

彼は俺にそう言った。それを聞いた俺は居ても立ってもいられず、直ぐ様地下へ向かおうと動いたがその前に、

 

「…騎士殿、忝ない(かたじけ)!!」

 

その途中で彼に礼を言うことは忘れない、無作法であるが許してくれ!

 

相手の反応も見ずに地下へと駆け降りる。タリス王やシーダ様方のご健在なお姿を見るまではこの(はや)る気持ちが抑えきれない、俺はただ地下を駆け抜ける。…あの方々の下へとただ、…駆け抜けるだけ!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーマルスー

 

リンダさんの魔法によって城門、正確には城門近くの城壁が破壊された。そこからオグマ達がなだれ込み、その直ぐ後に城門が開かれた。僕達は隊列を乱すことなく城内へと侵入、混乱している海賊を次々と討ち取っていった。

 

城内の制圧が確認された時、…やっと肩の荷が下りたとでも言おうか。至らぬ点が多く見受けられた僕自身、これ以上の失態をするわけにはいかないと気合を入れて攻めタリス城を奪還した。後はタリス王の身だけれど、オルドレイク殿のことだから無事に救出してくれていることだろう。…海賊達が人質を使わなかった、…それがその結果だと思うから。



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第14話 ~さて、偵察に行きますか。

ーオルドレイクー

 

オグマが俺に礼を言ってきた、ただそれだけなのに感無量。当時のお気に入りだからな、…リアルなオグママジでかっけー!

 

オグマの後ろ姿を見ながらそんなことを思い、その姿が見えなくなったら切り換える。さて、この後直ぐにタリス王達が地下から地上へと戻ってくる。タリス王が王座に座って初めて奪還、解放宣言がされる。そして皆の歓声、タリス城は喜びに包まれることとなる。

 

それは悪くない、悪くないんだがまだ終わりじゃない。タリスに恨みがあるとはいえ、軍隊規模の海賊達が集い城を落とした。ただの海賊がこんな大それたことを考えられる筈がない、必ず黒幕がいて背後から操っている。城を奪還出来たけど、第二波がないとも限らない。

 

解放宣言がタリス王の口から発せられ、喜びで気が緩む。万が一…この時に第二波が襲来したら、少なくない犠牲が出るだろう。再び民達が絶望を味わう姿は見たくない、俺自身が断固拒否する! …よって俺だけでも警戒しよう、あわよくば発見・撃破が出来たら言うことなし。そもそも第二波が俺の考えすぎで終われば…、本当にいいんだけれどね。

 

 

 

 

 

 

竜のみが聞こえる笛を吹き、我が愛竜を呼び寄せる。単身で偵察へ行こうかと思っていたんだが、何処からともなくリンダが現れて背中に張り付いた。それに驚いている隙もなく、気付けばレナさんまでもいるではないか!? 彼女達は一体何なのか? 正直ビビったけれどまぁいいか、…ってなことで飛び立ちます。俺がいないと騒がれるかもしれないが、悠長に構えているわけにはいかないのでね。

 

えーと…俺の記憶が確かなら、何処かの港町に海賊達が集結していたような? 詳しく思い出せんのは仕方がない、とりあえず港町がありそうな島の沿岸を沿って飛ぶことにしよう。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーシーダー

 

父様から聞いたオルドレイク様の話、それを踏まえて私は考え込む。父様は落ちた体力を回復する為にその場から動かず、他の皆はそんな父様を気遣う。父様はタリス一の武人であった、だから年老いたとしても体力が戻るのにそう時間は掛からないだろう。

 

父様を救出してこの場に留まってから暫く、遠くから此方へ向かって駆けてくる足音が響いてくる。…オルドレイク殿? と思ったけれど何か違う気がする、そう思った私はこの中で唯一武器を持つ身として警戒する。私を含めて皆が緊張する中、足音が徐々に………。

 

 

 

 

 

 

私達の所へ来たのはオグマだった。オグマはタリス城奪還戦へ参戦し、リンダさんの助力とオルドレイク様の配慮でここまで来たとか。…オグマは自身の経緯を話した後、直ぐに頭を深々と下げて自らの失態を謝罪してきた。それに対して父様はオグマに失態はないと断言、あるのは海賊達を甘く見て今回の襲撃を予見出来なかった自分にあると言った。それを聞いたオグマは顔を歪めて再度頭を下げ、

 

「王にそのような発言をさせてしまったことは我らの不甲斐なさが生んだもの、これを戒めとして再度このようなことが起きぬよう一層の努力をお約束致します!」

 

それでも自身の失態とし、今回の件のようなことを起こさせないと誓った。…オグマは私達によく尽くしてくれている、だからこそ…気に病みすぎなければいいと私は思った。

 

そんなことがありつつ、私達はオグマの先導で地下から地上へと戻ることが出来た。父様が兵士の肩を借りながら姿を現せば、地上にて父様を待っていた者達からの歓声が迎えてくれた。ここでやっと緊張の糸が解れた、これもオルドレイク様やマルス様、オグマ達忠臣のお陰ね。

 

その中でもオルドレイク様は父様の救出とその守りに大きく貢献している、タリス城奪還の知らせをオグマに任せてくれたことも。私達のことだけではなく、オグマにも配慮をしてくれた心遣いには本当に感謝してもし切れない。

 

改めてお礼を言おうと考え、オルドレイク様の姿を探すけれど見えない。それどころかリンダさんとレナさんの姿も見えない、…オルドレイク様と彼女達の姿が共にない? …私は嫌な想像をしてしまった、彼等は成すべきことをやった為に立ち去ったのでは? …と。もしそうであれば酷い話だ、心からのお礼を言わせて貰えないなんて。私個人として、オルドレイク様にきちんとお礼を言いたいのに。

 

オルドレイク様の姿を探すもやはり見付からず、そうこうしている間に呼ばれてしまった。多少…というよりかなり気落ちしたけれど、それを表情に出さず謁見の間へ。そこには父様を始めとしたタリスの生き残った要人達とマルス様達、…今ここにタリス城の解放が宣言されるのだろう。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーオルドレイクー

 

地上から視認され難い超高度を飛ぶ俺達、一人であれば寒いと文句の一つも言ったであろう。しかし俺の前後にリンダとレナさんがいるから温かい、人肌ってーのはこんなにも良いものなんだね。…といったくだらないことを考えながら地上を見る、幾つかの港町を見たが異変は見られなかった。先の襲撃で被害があったであろう箇所は視認出来たけど、海賊を思わせるような物から姿まで一切見られないという異常。…凄く嫌な予感がするのは気のせいか?

 

 

 

 

 

 

…でその嫌な予感が的中しました。位置的にタリス城の西、そこに海賊達が集結しているではないか。港には大型の海賊船が一〇隻以上、小型は数えるのも嫌になるぐらい。そしてその中に海賊船とは違う更に大型の帆船、…何やらきな臭さを感じる。…黒幕説まで当たったのか?



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第15話 ~…海賊ですけど。

ーオルドレイクー

 

謎の大型帆船を中心に集う海賊船、調査したいけど高度を下げたら視認されちまう。何とか出来ないかと注意深く見回せば、大船団から離れた港町の外れに中小の海賊船が複数隻集まっていた。…彼処(あそこ)なら急襲しても危険は少ない、大船団に知られる前に殺れる。威力偵察でもしてみますかね?

 

…やれば港町の民達が危険に晒されることとなるだろう、けれどそれは必要最低限の犠牲と割り切るしかない。このまま見逃せば多方面で第二の蹂躙劇が始まる、心を鬼にせざるを得ない。同乗するリンダとレナさんにそのことを伝えれば、自分達もその咎を一緒に背負うとかって。…本当に良い女だよ、この二人はさ。

 

…しっかり掴まってなよ、…このまま急降下して奇襲を敢行する故に!

 

 

 

 

 

 

空からの奇襲に浮き足立つ海賊達、さぁ今回は此方から蹂躙を…と思った矢先、

 

「お…お待ちを! どうか…どうかお待ち下さい!!」

 

青髪の気弱そうな奴が低頭姿勢で必死に声を掛けてくる。なよなよしとるのに胆力がある、…他の強面達はビビって腰を抜かしとるのに。なよなよ君の勇気に免じて話を聞いてあげようじゃないか、内容によっちゃあ…蹂躙は取り止めてやる。

 

…なよなよ君の話によると、ここにいる中小の海賊達は先の襲撃に参加をしていない一団のようだ。賊の癖に? …と思ったんだけど、海賊には海賊のやり方があるようで。この一団にいる海賊達はある海域を縄張りにしていて、航行税として金や物を納めさせるやり方をしているらしい。金次第では護衛紛いのこともするし、ごく稀に武力行使をするようだがそれ以外は国境の関所と似たようなことをするだけ。…意外に普通、海賊らしからぬ奴等のようだ。

 

なよなよ君曰く、これがガルダの海賊本来のやり方。タリス城や村々を襲撃するのは海賊の皮を被った凶賊のやり方、だから襲撃に参加をしていない此方は無実であると主張してきた。

 

ふむ、問答無用で奪い殺す奴等と比べて良心的。この一団、ガルダの海賊は良識ある賊ってわけだ。それが本当であるならば蹂躙は出来んな、逆にいなければ民達が困るのでは?…と思うまである。ガルダの海賊に関しては国も黙認しており、だからこそ…襲撃が成功してしまったという背景があるみたい。

 

とにかくコイツ等は殺して奪い、そして国をも落とそうとするガルダの海賊を騙る奴等が許せんらしい。奴等を率いるのはガルダの海賊とは所縁(ゆかり)のないゴメスという凶賊、その背後にグルニア軍がいるらしく下手なことが出来ないでいた。…がせめてもの反抗として此処等一帯を占拠、民達の監視という名目で現状を維持しているとか。

 

………黒幕がグルニアか、…ってことは騎馬隊を隠しているな? あの大型帆船に待機しているか、既に上陸していて命令を待っているかのどちらか。………やはり犠牲覚悟で急襲するしかないんじゃないか? …騎馬隊は危険すぎる。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーレナー

 

オルドレイク様にぎゅっと掴まり、夢見心地で急降下。そこからオルドレイク様の武勇が示されるのです、私は邪魔にならぬようリンダと共に騎竜から飛び降りて海賊達を見据えました。リンダに倣ってオルドレイク様の援護を、そう思って魔道書を懐から取り出します。…実は私、シスターではなく司祭なのです。オルドレイク様とリンダには内緒でクラスチェンジをしました、タリスでの奉仕活動が実を結び良い経験となりましたので。

 

さぁお披露目です! …と気合を入れたのですけど、何故か対話が始まり力の披露は出来ず。しかもこの方達は良識ある海賊のようで、表向きは民達の監視でその実は保護をしているようです。…神よ、堕ちた者達に優しさを授けて下さったのですね! …彼等の魂もこの件で、淀んだ黒から少し淀んだ黒へと変わるでしょう。

 

オルドレイク様のお傍で最後までお話を聞いていると、今回の襲撃の黒幕がグルニア軍であるらしいのです。何と許しがたい、これはもうオルドレイク様の鉄槌を与えて浄化せねばなりませんね! 彼等のお話を信じるのであれば、此方の手中に民達がいる以上は遠慮なく戦えるってことでしょう? …ですよね? オルドレイク様。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーオルドレイクー

 

ゴメスという名の凶賊率いる偽りの海賊達とグルニア軍、下手に手を出せばとんでもない被害が…。必要最低限どころの問題ではなくなる、確実に民達は虐殺される。…となれば一度退いて体制を立て直すか? …だがそうなればさっきも考えたことだけど、多方面での蹂躙・虐殺が起きる可能性が極めて高い。…う~む、やはりこの港町を捨てる以外に選択肢がないかもしれん。

 

…と考えていたらレナさんからの指摘、…言われてみればそんなことを言っていたな。確認してみれば確かに民達はここにいるという、…ぶっちゃけ民達との関係は良好だったようですんなりと此方へ来たらしい。…で責任を持って民達を監視、いや…保護をしていたと。海賊と良好な関係、…言ってみれば用心棒的なもんだからか? 別段に可笑しな話ではないな。因みになよなよ君は民達の代表みたい、…海賊には見えない筈だわ。

 

…………あれ? ……これって殺れるんじゃね?



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第16話 ~港町の戦い。《その1》

ーオルドレイクー

 

民達を保護しているガルダの海賊、そして民達から参じた義勇隊。彼等には分散して貰い、この一帯の守備を任せることに。その中で弓の得意ななよなよ君、カシムと他数名を屋根の上へ。守備を担当する者達への援護に徹して貰う、リンダとレナさんは二人で組んで遊撃に。危険だからダメだと言っても頑なにやると言って利かず、遊撃と言ってもこの一帯から出ることを禁じて担当して貰うことにした。

 

…因みにレナさんが司祭にクラスチェンジしていたらしく、そのことを聞かされた俺とリンダはめっちゃ驚いた。だからこその自信、…納得っす。まぁリンダが対抗心メラメラで『シャーッ!!』と噛み付きそうな顔、…それに対してレナさんは涼しい顔。…仲良くやってくれよ? …マジで。

 

ここまで言えば察して貰えると思うけど、この俺は単身で敵陣に突っ込みます。それが開戦の合図、俺が奮戦すればする程リンダ達は戦いやすくなる。俺次第ってことで燃えとります、久々の単身による突撃ですからね。…アカネイアでの日々を思い出す、あの時も単身で凶賊を討ったっけ。…領地の民達の為に、…守る為に。

 

 

 

 

 

 

俺は一人大空の上、凶賊達とグルニア軍がいるであろう港町を見下ろす。一応タリス城へ伝令を走らせている、念を入れておくことを忘れない。伝令は馬だからそう時間は掛からんだろう、直ぐに軍を纏めて此方へ来てくれる筈。

 

そういうわけだからさ、ガルダの海賊を騙る凶賊とグルニア軍の皆さんには地獄を見せてやりましょう。民達にも許可は貰っている、派手にやって下さいと。町は既に奴等の手でめちゃくちゃだ、ならば奴等諸共って怒り爆発中なわけです。………遥々(はるばる)ガルダから、そしてグルニアからの遠征お疲れ様ですな。それを(ねぎら)い永遠の眠りを贈ってやるから感謝してくれ!

 

 

 

 

 

 

第一目標はグルニア軍の指揮官と凶賊の頭であるゴメス、次に騎馬隊ってところか? まぁ指揮官とゴメスを討てば統率を失う。凶賊共はガザック達と同じように逃亡を図るだろうし、グルニア軍は騎馬隊を中心に右往左往するだろう。そこを各個撃破出来れば理想的、伝令からの報告をどう判断して軍を編成するかで対処が変わる。理想を実現するにはマルス王子、またはシーダ王女の手に委ねられる。………頼むぜ?

 

俺は手綱を操り騎竜と共に急降下、リンダとレナさんがいない分…無茶な降下をする。目標は…グルニア軍のモノと思われる大型帆船、出来れば入手しときたいが加減出来るか? …やるだけやってみるかね!!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーグルニア兵ー

 

ガルダの海賊と良好な関係を保つタリス王国。その国へガルダの海賊を騙った凶賊をけしかければ、あっという間にタリス王国国内は蹂躙され城を落としたとの報が。タリス王国沖の船にてその報告を受けた将軍は決断、後詰めとしてタリス王国への上陸を決定した。

 

最早タリス王国を落とすのは赤子の手を捻るより簡単、楽な任務であると将軍を含めた全員が思っていた。現にタリス王国の港町に着けば、凶賊達により支配されていたわけで。明朝タリス城へ進軍、タリス王以下捕虜達を処刑した後に東方へ。何でもタリス王国の東方に反抗の旗頭となりうる存在がいるとか、…それが本当なら早々に退場を願わなければ。

 

 

 

 

 

 

明朝からの作戦に向けての準備は整った。まだ日は落ちていないが、英気を養う為に遊ばせて貰うとしよう。確か港町の外れに住民が押し込まれているんだったよな? 若い女でも見繕って発散させて貰おうか。仲間と共にそこへ向かおうとした時に俺は見た、上空から一騎の竜騎士が急降下してくる様を。

 

…その後が地獄だった。たった一人の竜騎士に将軍が討ち取られ、凶賊達諸共仲間達が蹂躙されていったのだ。その後直ぐに凶賊の一部が裏切り、外れの区画から勇猛果敢に攻めてくる。その中には魔道士がいるようで、ある者達は凄まじい炎で灰も残らず燃やされて、ある者達は氷の彫刻と化した直後に砕かれた。

 

…そんな光景を目の当たりにしたら戦う気力が無くなるってもの、俺と数人の仲間は武器を捨てて降伏を申し入れる。幸い俺達はまだ何もしちゃいない、何とかなる筈。そう考えていたら、赤髪の美人が俺達の前に現れ見詰めてきた。…その細めた目で見詰められると寒気がするんだが、…そう思っていると、

 

「…貴殿方は不埒なことを一時考えていましたね? …まぁ実行はしていないようですから良いでしょう、降伏を受け入れて差し上げます。…ですがお馬鹿な行動は控えて下さいね? …せっかく助かったのですから、…ああはなりたくないでしょう?」

 

美人の指差す方へ視線を向ければ、…粉々に砕け散った氷の彫刻が。…港町を好き放題荒らした凶賊達のなれの果て、…当然俺達は必死に頷き自ら進んで彼女の手伝いを、…味方を裏切ったのだ。

 

この後のことは正直分からない、…が逆らわずに全てを流れに任せようかと思う。



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第17話 ~港町の戦い。《その2》

ーオルドレイクー

 

大型帆船への急降下攻撃、途中で視認した豪華な装備の兵士をグングニルで一撃。突き刺したその兵士を海へ投げ捨て、グングニルを構え直して再び空へ。その直後に、

 

「敵襲~っ! …将軍が討ち取られた!! 空を警戒しろ! 相手は竜騎士だ!!」

 

何て叫び声が。…おぉ、初手で将軍を討てたか。俺の運もなかなかのものじゃないか、良き哉良き哉。相手の初動も見事、直ぐに空の警戒へ移行するとはな。…だがまぁ無駄だと思うがね、俺は其処らの竜騎士とは格が違うぜ?

 

俺は奴等の警戒を嘲笑うかのように、突撃と離脱を繰り返して蹂躙していく。俺の登場で港町が血に染まっていく、グルニア兵も凶賊も等しく討つ。武器を手にする者は全て敵、何という分かりやすさ。誰も俺を止めることは出来ない、例え弓兵が相手でも当たらなければどうとでもなる。

 

突撃と離脱を繰り返していると耳に凄まじい音が届いた、目に映ったのは炎の柱と氷の柱。リンダとレナさんも動き出したようだな、心配ではあるが二人を信じよう。二人の参戦はガルダの海賊達も動いたということ、…これで戦況が変わる。戦況が変わるというのなら、この俺も本格的に行動しようかと思う。先程までは相手の混乱を狙っての行動、今からは混乱ではなく掃討だ!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーリンダー

 

ガルダの海賊達と組んでグルニア兵と凶賊達を討つ。私とレナさんはこの一帯から出ることは出来ないけれど、遊撃としてならこの一帯を自由に行動出来る。…レナさんはいつの間にか司祭になっているし、だからこそ私はこの戦いで褒められるよう立ち回らなければならない。…オルドレイクさんを巡る戦い、負けられない戦いがここにある!

 

そんなわけで私はドーンッ! と魔法を放ち、凶賊達を建物ごと粉砕する。気持ちいーよねぇ~♪ タリス城の時は色々と禁止されていたけど、ここではそんなことを気にしないでいいんだもの。町の人達がいいよって言っていたんだから問題なし、派手にいっちゃうよー!

 

私はご機嫌で魔法を放つ傍ら、何度かレナさんを横目で確認してみたんだけど…凄いよね。元はシスターだけど今は司祭、私をも凌ぐ威力の魔法を放つんだもの。…ブリザーはそんな氷の柱を生む魔法じゃないよ? レナさんが凄くて負けられない! って思った私は気合を込めてエルファイアーを放つ。

 

チュドーーーーーーンッ!!!

 

……………必殺の一撃っていうのかな? …一区画? 吹き飛ばしちゃった! …グルニア兵と凶賊の皆さーん、私は魔女じゃありませんよー! そんな目で私を見ないでよもぉ~っ!!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーレナー

 

空へと飛び上がるオルドレイク様を見送り、私は手に持つ魔道書を抱いて喜びにうち震えています。何故って当たり前ではありませんか、私の司祭としての初陣ですよ? 私の魔法が日の目を見るのですよ? 守られるだけではなく肩を並べられるのですよ? …喜ぶのは当然のことです。リンダはそんな私に対抗心を燃やしているようですが、私は気にしませんのであしからず。私はただオルドレイク様より頼まれたこと、民達を守る為に魔法を行使するだけですから。

 

加減が分からない私はとりあえずブリザーを放ちました、…よく分かりませんけど凶賊を巻き込んでの氷柱が生まれました。ブリザーって凄い魔法なんですね、こんなモノを生むなんて。凶賊の入った氷柱を触っても叩いても、…全く微動だにしない程のモノのようです。ペシペシ叩いた後に興味本位で魔力を流してみれば、ビクともしなかった氷柱がガラガラと崩れ落ちてしまいました。…凶賊諸共粉々ですね、…安らかに地獄へ堕ちて下さいな。

 

 

 

 

 

 

そのような感じで主に凶賊を、時折グルニア兵を巻き込んでは凍らせて砕く。それらを繰り返していたら十数人のグルニア兵が降伏を申し入れてきて、…何故かは分かりませんが私に助力をしてきたのです。…土壇場で改心するとはやりますね? 貴殿方の魂はほんの小さじ程度でありますが浄化されたことでしょう、まだまだ白には程遠い淀んだ黒でしょうけど。

 

…今回の件を加味して恩赦を求めてあげましょうか? オルドレイク様はマルス王子に協力するようですし。兵の一人も持たずに参戦しようものならいずれ…侮られます、それだけはいけません。グルニア軍を裏切った者達をオルドレイク様の私兵へ、命が助かるのですから断らない筈。逆に英傑であるオルドレイク様の手足となるのです、誉れ高いことと感謝するでしょう。




あれ?

ちょいとレナさんが黒いか?


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第18話 ~マルス、動く。

今日も仕事前にポチッとな。


ーマルスー

 

王座に戻ったタリス王の口から発せられた言葉、解放宣言により今回の襲撃による戦いは終わった。生き残ったタリスの城仕えの者達、海賊達の討伐を聞き付けてきた近隣の民達。涙を流しながら喜びの声を上げる、その中には勿論僕達もいる。…けれど素直に喜ぶことが出来ないでいる、シーダ王女も僕と同じ気持ちを抱いていることだろう。

 

今回最大の功労者であるオルドレイク殿、彼はいつの間にか消えていたのだ。リンダさんとレナさんの姿もない、城内をくまなく探したけれどその姿を見付けることが出来なかった。僕の未熟さを自覚させてくれて、恩のあるタリス王と王国を救う助力をしてくれた。経緯はどうであれ、僕達の勝利で終わり士気も上がった。被害も少ないことから、打倒ドルーアに向けての初戦としても良い結果であると言える。

 

それらのことを含めてお礼を言いたいと思っていた、そして出来れば共に戦って貰いたいと。…しかしそれは叶うことがないこと、オルドレイク殿は何も言わずに去ったのだから。

 

 

 

 

 

 

徐々に日が傾いていき、怒涛の一日が終わりへ近付いている時に急報が届いた。タリス王国の西方にある港町にて、第二の襲撃を目論む凶賊達がいると。その凶賊達はガルダの海賊を騙っており、先の襲撃犯と同一の者達。その背後にはグルニア軍がおり、早急に対処をせねば先の襲撃以上の被害が出ると予想される。よってオルドレイク殿、リンダさん、レナさん、現地にて協力をしてくれる正真正銘のガルダの海賊と義勇隊。一致団結をしてグルニア軍と凶賊達を相手に奇襲を行う、奴等は騎馬隊を隠しているから警戒を忘れずに。

 

僕はその報を聞き終えた直後に兵を纏めた、港町のある場所を確認したら間を置かずに出撃だ!

 

オルドレイク殿達のことだ、一方的に相手を蹂躙していることだろう。僕達の助力は…必要ない筈だ、でも彼は僕達の下へ伝令を走らせた。それが意味することは一つだけ、オルドレイク殿は僕達と共に戦う意志があるということ。港町での戦いへ間に合わなくてもいい、そこへ向かう途中の過程が重要なのだと思う。

 

タリス城を落とし周辺の村々を襲撃した者達と同一、そうであるならば同じような経路で襲撃をしてくる可能性が高い。その者達の中にグルニアの騎馬隊が含まれている、…父上を討ったグルニアの騎馬隊。彼等の精強さは父上を討ったことから知っている、そんな騎馬隊がいるとなれば確かに先の襲撃以上となるだろう。

 

先の襲撃犯以上の者達に奇襲をする、オルドレイク殿達の実力からこれは成功するだろう。…となればどうなるか? 所詮は凶賊、恐慌状態に陥り混乱の中で四方八方へ散ると考える。勿論その中には騎馬隊がいる、その騎馬隊が一矢報いる為に捨て身の突撃をしてきたら? 破れかぶれになって村々を虐殺し回ったら? …そのような行動をさせるわけにはいかない! 凶賊以上の相手に襲撃を許してはダメだ、早急に討つことを皆に周知しなければ!

 

 

 

 

 

 

僕はシーダ王女から聞いた西方の地形、村々のある場所を頭に叩き込んだ。完璧に…とは言えないけど、あるのとないのとではある方がいいに決まっている。

 

直ぐ様僕は指示を出す、ジェイガンを筆頭にカインとアベルの騎馬隊は先行して西方の村々へ。村々の数は多くないからそれらを巡って港町を目指して貰う、細かな指示はジェイガンの力量に任せれば…。

 

僕やドーガ、ゴードンの歩兵隊は出来る限りの速さを維持して港町を目指す。この先の地形には多少の林や森があるとのこと、それらを利用して進軍しグルニアの騎馬隊を封殺出来るように歩を進める。

 

騎馬隊の行動は平地に制限される筈だ、…これで騎馬隊が現れても最低限の被害で抑えることが出来ると思う。万が一を考えて、タリスからも生き残りの兵を出して貰っている。二段構えにすれば確実に仕留められる、…空にはシーダ王女率いる天馬隊もいる。数は少ないけれど空からの目だ、僕達よりも遥かに視野が広い。地上を行く騎馬隊がいたのなら直ぐに捕捉されるだろう、これが僕の考えた出来うる最大の策だ。

 

 

 

 

 

 

確実に歩を進め、港町へと進軍する中で天馬隊の一人が僕達の下へ。…このまま進めばグルニアの騎馬隊と遭遇すると、相手は壊走しているが油断は禁物と知らせてくれた。…ジェイガン達が一当てしてくれたのか、…それともオルドレイク殿が蹂躙したのかは分からない。分からないが此方へ向かってくるのなら、確実に仕留めてみせる!

 

「ドーガ達重装兵達は前へ、騎馬隊の突撃を跳ね返すんだ! 足を止めた時がゴードン達弓兵の出番だ、倒すことを考えずに矢を撃ち込め!!」



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第19話 ~港町の戦い。《その3》

意欲が無くなるまで頑張ってみる。


ーオルドレイクー

 

敵を混乱させるから掃討に切り替えた俺、地上ギリギリを滑空しながらグングニルを振り回す。俺と愛竜の技量があればこれぐらいは余裕、通った場所にはもれなく赤い花が咲きますぞ。何処へ逃げようとも断ち斬るのみ、凶賊に情けは無用。…グルニア兵は降伏をすれば今は何もしないでやる、お前達はまだ何もやっていないのだから。…と言っても、凶賊をけしかけた罪はある。

 

凶賊は殺してグルニア兵には一応降伏勧告を、将軍は指揮官故に代表して罰を受けたということに。そういうことを一々言ってやる俺ってば優しいんじゃない? そうすれば、賢いグルニア兵は降伏を申し入れてきてくれる。逆に馬鹿な兵は抵抗し、捨てる必要のない命を散らすのみ。…馬鹿は要らんのですよ、後の禍根になっては困るからな!

 

 

 

 

 

 

民達の許可は得ているとはいえ、やはり町が戦火に晒される光景は嫌なもんだ。早々にこの戦いを終わらせなければ、…とのことで考えを少し修正。降伏を申し入れてきたグルニア兵を此方側として参戦させる、所謂見極めを兼ねた戦力増強。参戦した者は恩赦を与え、しない者は最後までグルニア兵として罪を償って貰う。戦後処理を見据えたこの策、俺の考えが分かるかな?

 

簡単に裏切る者を信用してもいいのか? …ここは戦場です、戦場には戦場の空気がある、使えるモノは使わねばならんのです。それに裏切るってことは、少なからずグルニアに不満を持っている筈。愛国心のある者はこの場に限っては要らない、そういう者に限って内部から…ってのが過去に何度かあるらしいし。逆に裏切った者は裏切らせないようにすればいい、簡単なことです。俺…自分で言うのもあれだけど、…カリスマがありますから! ………たぶん。

 

 

 

 

 

 

俺の策が大当たりです、降伏をしたグルニア兵が俺に付きました。驚くことなかれ、降伏をしたグルニア兵全員がですよ? …俺が言うのもあれだけど愛国心は? と聞けば、タリス王国侵略の作戦に組み込まれた時点から無いようです。彼等はドルーアへ(くみ)することに難色を示した、その結果…降格と左遷のダブルパンチだそうです。タリス王国を落とせなければ死、落としたとしても返り咲くことは不可能。故に不利と分かった以上は降伏を、道を誤り自分達を追いやったグルニアに一矢報いることが出来るなら…だって。

 

…ということは、彼等ってば世間一般的に言うなら元エリート? 即戦力じゃん! …にしては弱すぎじゃね? と失礼ながら言ってみれば、大半は手柄や強奪を目的とした弱卒だそうで。誇り無き者達故に弱くて当たり前、生かすことにメリットがないみたい。………殺るしかないみたいね? …悲しいけど、…これが戦争なのよね。

 

 

 

 

 

 

彼等を此方へ引き入れた瞬間、更に此方の攻勢…勢いが上がりました。相手方は最早虫の息、ただ逃げ惑い討たれるだけ。凶賊達の頭、…ゴメスだっけ? それっぽい奴はなよなよカシム君が討ったそうで、彼…弓の腕が良いみたいで感心したよ。

 

残念というか不覚というか、騎馬隊の半数以上を逃してしまった。伝令がマルス王子の下へ辿り着き、直ぐ様行動してくれていることを祈ろう。

 

もうそろそろ制圧か? と思っていたら、リンダとレナさんが合流してきた。…リンダはガルダの海賊と義勇隊の一部を伴っての合流、彼女達が通ってきたであろう場所を見てみれば住居が…ない。…戦いの最中に聞こえたとんでもない爆音、…やっぱりリンダだったようで。……………ニコニコしているリンダ、…やりすぎじゃね? これは叱らねばなるまい。

 

レナさんの方はグルニア兵を十数人引き連れている、…ということは俺と同じ考えか? …にしてはレナさん側のグルニア兵、挙動不審何ですけど。何故かレナさんの様子を恐々と窺っているような? …まぁ敵意が全く無いから心配はせんけど。

 

 

 

 

 

 

…その後、全員で港町を見回ったが生きている凶賊は一人もいなかった。裏切りを拒否したグルニア兵は見張りを付けた倉庫に閉じ込めた、…ってことで港町を支配していた敵勢力は討伐完了。後はマルス王子達の到着を待つだけ、逃げた騎馬隊を討ったという吉報を待つことにしよう。

 

………伝令、…マルス王子の下へ辿り着いたよね? マルス王子も此方へ進軍してきているよね? 逃げた騎馬隊を討ち取ってくれたよね? ………ちょいと不安になってきた。

 

 

 

 

 

 

杞憂だったようで安心したよ。あの後暫くしてマルス王子達が港町に着いた、そして進軍途中で騎馬隊と遭遇…討ち取ったとのこと。しかも自分達の被害を軽傷者だけに抑えたんだぜ? …凄いもんだと感心したよ、ぶっちゃけ死者は確実に出るであろうと考えていたからな。…俺はマルス王子のことを無意識に舐めていたらしい、…反省せねばならないな。



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閑話 ~ジェイガンの話。

仕事前に…。


ージェイガンー

 

メニディ川の戦いにてコーネリアス様が討ち死になさった。そして瞬く間に裏切ったグラ軍がアリティアを制圧、リーザ様とエリス様の命により私はマルス様と騎士団の一部を伴って脱出をした。アリティアと友好関係にあるタリス王国へ、タリス王のご好意で三年間…雌伏の時を過ごす。

 

 

 

 

 

 

…三年後、海賊達がタリス王国を襲撃。シーダ王女の救援要請に対しマルス様は快諾、タリス王救出の為の戦いが始まった。この戦いをマルス様がアリティアを取り戻す為の、王になる為の試練と位置付ける。恩があるとはいえ、タリス王国にはアリティアへの踏み台となって貰わなければ。私が一番に考えなければならないのはタリス王国のことではない、あくまでアリティアのこと…マルス様のことだけである。

 

 

 

 

 

 

私は最低限のことしか助言をしない、戦いに犠牲はつきものである。マルス様は優しすぎる、故に人質の危うさには言及せず。早めに自身の無力さを知って貰い、それを乗り越えて王器に昇華して欲しい。しかしその目論みは失敗に終わる、…あの竜騎士達が現れたが為に。

 

私の目論みは失敗に終わったが、あの竜騎士…オルドレイク殿とレナ殿のお陰でマルス様は一皮剥けた。私とは違い犠牲をあえて出すのではなく、自らの行動と言葉でマルス様に自身の無力さを自覚させたのだ。…私は(いくさ)ばかりしてきた身、故に犠牲を出さぬやり方を知らなかった。…いや、知ろうともしなかった。…オルドレイク殿には感謝せねばなるまい、マルス様の王器を無駄に汚すところであった。

 

 

 

 

 

 

自身の無力さを知ったマルス様は奮起、自ら先陣に立ちながら指揮を取る。僅かな時で少しの覇気を身に付けられた、間違いなくマルス様はコーネリアス様のお子。しかしながらまだまだ危なっかしい、老骨に鞭打ってでも私がお守りせねば。

 

…ほどなくしてタリス城を制圧。無自覚ながらマルス様はそのカリスマ性で皆を導いている、これを自覚した時にはコーネリアス様と並ぶ王器を、英雄となるであろう。オルドレイク殿の存在がマルス様覚醒の鍵となるか? 彼もまた英雄の器、…空の覇者という二つ名に偽りなし!

 

 

 

 

 

 

タリス城を制圧したことにより、この度の戦いは終わった…と皆は安堵していることだろう。しかし私の経験上…、終わりではないと断言出来る。考えて貰いたいのは何故、突然海賊達が襲撃してきたのか? ってことを。更に海賊が軍規模であったこと、海賊の規模と船の数が合わないということ。それらを合わせて考えれば自ずと分かろう、襲撃をしてきた者達は一部で本隊が何処かにいるということを。最悪、…背後に何者かがいる。私はそう確信している、…マルス様はそれに気付かれるか?

 

 

 

 

 

 

救出されたタリス王より発せられた解放宣言、それにより歓声が上がる。…マルス様にはまだ早すぎたか、…無粋であるが進言するしかあるまい。そう思った矢先に伝令が飛び込んできた、オルドレイク殿からの急報にマルス様が動かれた。その素早い対応に私は嬉しくなる、…本当に僅かな時間で成長なされた。

 

素早く兵を纏めたマルス様は出撃の下知を皆にする、それと同時に指示を飛ばし各々で進軍することに。私はカインとアベルを副官に騎馬隊を率いる、西方の村々を巡り騎馬隊の襲撃を未然に防ぐ為。私もマルス様と共に西方の地理を聞いている、故にこの指示は的確であると判断出来る。マルス様から離れる際、ドーガとゴードンにはしっかりと言い聞かせている。何がなんでもマルス様をお守りするようにと、…絶対厳守の役割だ。

 

…後はどの順で村々を巡るかと考えれば、時間等を考え…この順で巡れば騎馬隊とはあの辺りで………。

 

 

 

 

 

 

村々を巡り、その度に最低限の備えとして少数の騎馬隊を残しておく。そして予想していた通り、最後の村を発ち港町へ向かう途中…遭遇した。見たところ…数はあちらの方が上、されど統率されてはいない。港町にてオルドレイク殿に散々…追いやられたのであろう、故にあのような乱れた隊列で…。

 

…ふむ、なれば、

 

「私は単身にて突貫し一当てする、カインは私に続き奴等を更に乱せ! アベルは乱れたところに左翼から突撃、右方へ奴等を追いやるのだ! 隙あらば討ち砕くも良し、されど無理をすることは無し。…分かったな!!」

 

「「はっ!!」」

 

年老いたとはいえこのジェイガン、まだまだ現役よ! 軽く一当てし奴等を右方へ追いやりさえすれば、…後はマルス様が討ち取ってくれよう。…さて、参ろうか!!




何故かジェイガンの話。


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第20話 ~騎馬隊討伐、港町へ。

ーマルスー

 

グルニアの騎馬隊と遭遇した僕達はそのまま交戦した。相手は壊走状態、逆に僕達は陣形を整えて待ち構えている。…交戦の結果は僕達の勝利、グルニアの騎馬隊は全滅した。

 

 

 

 

 

 

前衛にて守備陣形を取るドーガ率いる重装隊、彼等の厚い守りの前に壊走状態の騎馬隊は足を止めるしかなかった。強引に突破しようとした騎馬兵がいたようだが、どっしりと構えた大盾と衝突しその身を投げ出されて討ち取られていた。

 

足を止めた騎馬隊に、後衛を任されていたゴードン率いる弓兵隊の矢が襲い掛かる。騎馬兵個人を(まと)にした射撃であれば、離脱に成功する者がいただろう。しかし(まと)にしたのが個人ではなく場であったのなら? …絶え間なく降り注ぐ矢の雨、場を(まと)にした無差別な射撃の前に騎馬隊が討ち取られていく。何せ何処に矢が射られるのか分からないのだ、避けようがなく時間差で次々と命を狩っていく。

 

弓兵隊による無慈悲な射撃が終わった時、最後は僕が率いる歩兵隊が前へ出る。矢に撃ち抜かれながらも生き長らえる者に剣を振るい、僅かに残った命を終わらせる。流れ作業のようにトドメを刺していき、ここにグルニアの騎馬隊が全滅したのだ。

 

 

 

 

 

 

騎馬隊の亡骸を一瞥し、僕達は隊列を乱すことなく前へ進む。途中で空から凶賊や騎馬隊を索敵していたシーダ王女率いる天馬隊が合流、逃れた騎馬隊はおらず凶賊の姿もないという報告に安堵した。何処かに隠れた凶賊がいるだろうけど、最早それほどの力がないと予想され追々討たれるのは目に見えている。だからこそ最も脅威的であった騎馬隊を討った今、脇見もせずに港町へと向かう。

 

そこにはオルドレイク殿がいる。騎馬隊を無事に討伐したことを知らせ、彼に…彼等に僕は言うんだ。『祖国アリティア奪還の為に、打倒ドルーアの為に力を貸して欲しい。』…と!

 

 

 

 

 

 

港町へと辿り着いた僕達はそこでジェイガン達と合流、戦いがあったであろう町の中へと歩を進めた。町の中は荒らされており、何もない区画があることから激しい戦いであったと想像がつく。その中で民達が海賊やグルニア兵の生き残りと共に、凶賊達の亡骸を運んでいる姿を目にする。海賊は味方であると伝令を通して分かっていたが、…何故敵であるグルニア兵が民達と共に? 僕達は疑問に思い声を掛けようとした時、空からオルドレイク殿が降りてきた。

 

…オルドレイク殿はタリス城奪還後、海賊襲撃の裏を読み動いたそうだ。そしてその読みが当たり、秘密裏にガルダの海賊と接触。今回の襲撃はグルニアが裏で糸を引いており、ガルダの海賊達は名を騙られていただけとのこと。それに海賊達は従うふりをして民達を保護、オルドレイク殿に従い港町奪還の力となった。グルニア兵にも色々とあるらしく、オルドレイク殿に従う者達、レナさんに従う者達、捕虜として捕らえられた者達、最後まで敵対し討たれた者達がいるらしい。…オルドレイク殿は分かるけれどレナさん? …一体何があったのか、…僕には聞く勇気がなかった。

 

民達とグルニア兵が共に作業をしている理由が分かった。…何というか、タリスの民達の懐の深さに感心してしまった。グルニアを裏切ったとはいえ、町をめちゃくちゃにした者達の仲間だった彼等。そんな彼等に恨み言の一つもないという、…これがアリティアであったのなら難しい。内容は全く違うけど、…アリティアの民達はそう簡単に裏切り者のグラを許さないだろう。

 

後…倉庫に捕らえてある捕虜、愛国心が強い者達らしい。オルドレイク殿曰く、愛国心の強い者程…獅子身中の虫になりやすいとのこと。故に捕虜として閉じ込めたと言い、彼等の扱いは僕かシーダ王女に任せると言ってきた。…僕は少なからずグルニアには恨みがある、でもだからといって傷付けようという考えはない。…さて、僕はどうすべきだろうか?

 

 

 

 

 

 

捕虜達はシーダ王女の手に委ねられた。何でもグルニアには親交のある将軍がいるそうで、彼等を城へと連行してタリス王と共にどうするか相談するみたいだ。僕はその判断に否とは言わない、オルドレイク殿もシーダ王女の考えに理解を示している。

 

大体の戦後処理を終えた僕達。終えたからこそオルドレイク殿に言おう、彼に向き直り口を開こうとしたが遮られ、

 

「先ずはタリス城へと戻り、タリス王へご報告をすることが先決でしょう。…私は逃げませぬ故、ご報告の後にマルス王子のお言葉をお聞かせ願えますか?」

 

やんわりと窘められてしまった。…僕は本当に馬鹿だ、逸る気持ちを抑えられずに!



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第21話 ~同盟軍の産声。

ーオルドレイクー

 

港町にてマルス王子からの吉報に喜び、捕虜になったグルニア兵もシーダ王女の手に委ねられた。町中の亡骸も一ヵ所に集められ、リンダのエルファイアーで処理をした。俺達のやるべき戦後処理は大体終わり、残りはマルス王子と共に来たタリス兵達に任せよう。彼等は快く引き受けてくれ、逆に感謝をされたよ。

 

此方に引き入れたグルニア兵を纏め、正式に俺の下へ…私兵になるよう言えば快諾。兵を持ったことから今よりオルドレイク隊としようか、…俺以外全員歩兵だけどまぁ大丈夫だろう。基本俺が指揮を取るけれど、俺不在の時はレナさんに任せようかと思う。…彼女、なかなかに頭がキレるからね。兵達も文句はないようだし、…リンダ? リンダは一兵卒、…アホだから指揮は出来んよ。

 

因みに海賊の一部と義勇隊の者達も俺ん所へ来たよ、何か俺の人柄に惚れたとかって。ちょいと嬉しいよね? そう言われると。勿論なよなよカシム君もオルドレイク隊へ、良い弓の腕を持っているから大歓迎さ。

 

……………で思い出したわけよ、カシムって原作キャラじゃん…と。そら、腕が良い筈だわ。

 

 

 

 

 

 

俺はマルス王子達と共にタリス城へと帰還し、港町での顛末をタリス王へと報告した。その詳細を知ったタリス王は先の襲撃の、自身の救出とタリス城奪還のことも合わせて礼を言ってきた。救えるのであれば救うのが俺のやり方、礼を言われる程のことでもない。ぶっちゃけ下心ありだし、…マルス王子率いる同盟軍に参加する為のさ。

 

礼を言われたことで今回の件は終わり、今度の話はこれからについて。マルス王子達は当然、アリティア奪還と打倒ドルーアを掲げて大陸へと渡る模様。最初に目指すのはオレルアン、未だ反抗を続けている唯一の国。打倒ドルーアを掲げるからには味方を増やさねばならない、…となればオレルアンは良い同盟相手となるだろう。

 

そんなマルス王子達にタリス王は兵を出して協力すると言う、オグマを隊長としたタリスの戦士達を。それと港町で捕虜にしたグルニア兵、彼等もマルス王子の下へ。タリス王と捕虜達が言葉を交わし、ロレンス将軍の名が出たことで捕虜達も従うことにしたとか。その将軍は兵から慕われているんだな、…あの頑なな捕虜達がねぇ。

 

続けてタリス王はマルス王子に語る。向かう先々にはドルーアを憎む者達がいる、隠れている者から捕らわれている者、脅されてドルーアに与する者等。そのような者達を気に掛け、共に戦えるのであれば戦うようにすること。人と人を繋げることが大切であると、タリス王はマルス王子に言い聞かせた。タリス王の言葉を聞いたマルス王子は決意を新たにしたようだ、良い目をしていやがるぜ!

 

マルス王子との話は終わり、次は俺の番となった。俺は行く宛のない放浪の竜騎士、しかも色々と訳ありな男である。本来ならば今回の件に関わることなく隠遁をする予定であったが、リンダとレナさんを救ったことで方針を変えた。だからこそこの場にいるわけであり、俺が進む道は決まっているのだ。だから言ったのさ、俺で良ければマルス王子と共に戦いましょう…とね。

 

そう言えばマルス王子は感激したようで、頬を上気させて瞳を潤ませながら俺に感謝の言葉を言ってきた。……………マルス王子は男、マルス王子は男やぞ俺!!

 

 

 

 

 

 

これからよろしくとマルス王子に挨拶をした俺。同盟軍入りしたからにはせめて、オルドレイク隊となった者達を極力犠牲にしないよう頑張らねば! …と密かに気合を入れた俺にタリス王からのお願いが。

 

「我が娘のシーダも同盟軍に参加をする故、オルドレイク殿にはシーダを始めとした天馬隊のことをお願いしたい。」

 

…だって。…まぁ俺は空での戦いについて、誰にも負けないと自信を持って言えるわけで。娘を心配する親心、確かに受け取りましたぞ。竜と天馬はちょいと違うが大丈夫だろう、シーダ王女のことはお任せあれ。

 

シーダ王女のことを快諾すればタリス王は破顔、シーダ王女も頬を染めて嬉しそう。いやぁ…そんなに嬉しそうにして貰えるとやる気が出るね、とりあえずこれからよろしく頼みますよシーダ王女。

 

 

 

 

 

 

さて…と、これで終わりでいいですね? 俺もこの後に行われる宴に参加をば、…と思っていたんだけど、

 

「シーダのことは良しとしてオルドレイク殿。…この先同盟軍と共にあれば、アカネイアの…ニーナ様との再会は免れまい。…如何するつもりか?」

 

…タリス王に問われました。…あえて考えないようにしたつもりだが、…やはりそうはいかんよなぁ。

 

アカネイア、俺の生まれた国。愛していた国であるけれど、今の俺にとってアカネイアは………。



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第22話 ~オルドレイクは思い出す。

感想ありがとうございます。

読むのが遅いと言われる作者ですが、そこは許してくだされ。


………で一言。

ジェイガンのトゲが短いのが気に入らない、FCはもっと長かったぞ!

トゲの長さがジェイガンの価値である!


ーオルドレイクー

 

タリス王からの問いに目を閉じて思い出す、この世へ転生してから自身の身に起きたことを………。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

父はアカネイア聖王国の聖騎士セルボルト、母はマケドニア王国の元竜騎士クラレット。そんな両親に憧れて研鑽を積み竜騎士となった、導かれるかのように入手したグングニルとティルフィング。弟のキールが生まれて喜んで、実力が認められてニーナ様の付き人兼護衛となった。国の為に、ニーナ様の為に、家族の為に、領地の為に、民達の為に、俺の全てを尽くして生涯を終える。そんな未来を想い描いて、アカネイア聖王国と共に在り続けていく。いずれ来るであろうドルーアの侵攻を両親と共に、国を想う仲間達と共に食い止めてみせよう。そう思っていたのに………………。

 

 

 

 

 

 

父と母は反乱鎮圧の要請を受けて出撃し討たれた、…反乱の首謀者として。俺も付き人兼護衛の立場を利用し、ニーナ様に害を為そうとした罪で捕らえられた。両親も俺もそんなことはしてないし考えてもいなかった、訴えても聞く耳持たず…両親の死も伝えられた。

 

…両親の死を知り項垂れて、愛するキールの身が心配になり俺は強引に脱獄。途中で我が手に戻ったグングニルとティルフィング、領地から主の危機を感じてか愛竜が迎えに来てくれた。脇見もせずに戻った領地は地獄だった、…見る影もない。散々に荒らされており、民達と共に我が家に仕える兵達の亡骸が無惨に捨てられている。…そして我が家の前には使用人達の亡骸が、…その中心に父と母の、弟の…キールの首が晒されていた。

 

 

 

 

 

 

大切な人達の変わり果てた姿に俺は慟哭、ただただ泣くことしか出来なかった。俺達が何をした? 国の為に最前線で戦い、尽くしてきたのにこの仕打ちは何だ? 中央にいる者達以上に血を流し、民達にも色々な苦労を負わせてきたのも国の為。ニーナ様にも誠心誠意仕えていたんだぞ! なのにこんな…、こんな結末があっていいのか!!

 

俺が様々な負の感情に囚われ、慟哭している時に現れた。脱獄した俺を追ってきた者達、父と母を謀って殺した者達、領地を荒らし…キールを殺した者達。…推測ではあるが、この場に現れた時点で確信する。見知った顔の者達、…仲間だと思っていた者達。…血の染み付いた姿を見れば奴等が、…この惨劇を作り出した元凶。…俺はお前達を仲間だと思っていたよ、だがそれは俺の…俺達の勘違いだったんだな? …疎まれていたんだな?

 

そうか、…なら死んでくれ。飛んで火に入る夏の虫とはこのことだ、…仇を取らせて貰うぞ? …我が天槍グングニルにて殺戮の限りを尽くそう、…誰一人逃がさん!!

 

 

 

 

 

 

俺に立ち向かってきた(ことごと)くを殺した、言葉通り誰一人逃さずに。これで俺は虐殺者となったわけだ、…きっと全てを俺の罪とするだろうがどうでもいい。もうこの国に尽くすこともないのだから、好きなようにすればいい。穢れた血で汚れた手を洗い、自らのマントに家族の首を包む。本当ならばこの領地に住まう民達を、仕えてくれた者達の亡骸も弔いたい。だが…悠長に構えているわけにはいかない、…許してくれ。我が家族の首をもって皆の弔いたいとさせて欲しい、…本当にすまない!

 

 

 

 

 

 

持ち出した家族の首を丁寧に葬った俺はアカネイアを出た。…こんなにも愛した国、…今では憎らしい。いずれ来るであろうドルーアに滅ぼされてしまえばいい、消え失せろアカネイア!!

 

僅かに残る良心で俺は雲隠れをしようか、…ドルーアに与することがないだけでもありがたく思え。

 

雲隠れをする前に王都パレスの方角を見る。彼女…ニーナ様には良くして貰った、願わくば無事に生き長らえるよう祈ろう。この祈りが最後の忠誠心、アカネイアにではなくニーナ様個人への。…貴女だけは憎めない、憎めないがさよならだ。

 

そして、俺はアカネイア聖王国に反逆した悪逆無道の竜騎士として手配された。全ての罪を着せられて、…全国に指名手配を。

 

しかしアカネイアの魑魅魍魎、中央の貴族達の思惑は外れて他国の反応は冷やかだったようだ。何せ未だに俺は健在なのだから、他国は誰一人俺を売る者がいない。まぁ…他国だからこそ俺の武勇が轟いているわけで、藪をつついて何とやらを気にしているのだろう。そのお陰で平和的に家族と民達を弔えている、…有難いことだ。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

アカネイアが滅んだことで俺は動き出した。この目で確かめたかったのだ、世界がどうなったのかを…。その中でアカネイアとは別の指名手配をされ、リンダとレナさんに出会い今に至った。二人のお陰で心穏やかにいられる、それは間違いない。

 

……………タリス王の問いで思い起こされた、ニーナ様のことを。あの時から変わらない、彼女個人に恨みがないことを。しかし恨みはなくとも俺は彼女の隣に立つことはない、彼女がアカネイアの王女である限り。罪は晴れたと言われても信じられない、きっと俺を誘き出す謀略の一つだから。本当のことだとしても今更だと思う、俺は全てを失ったのだから。それに疑心は残ろう、歓迎される筈がない。ニーナ様以外は疑わしき俺を歓迎しない、俺自身もニーナ様以外を信じることは出来ない。信じた結果があの結末なのだから、信じられる筈がない。

 

…結論、どう考えてもアカネイアに戻る気はない。ニーナ様に再び仕える選択肢もない、縁は既に切れている。

 

 

 

 

 

 

故に俺は…、

 

「…ニーナ様とは縁が切れています、故に彼女の下へ戻ることはないでしょう。風の噂で私の罪は消えたとされていますが、私はそもそも罪を犯してはいない。何せ善良なる者達を虐殺した賊徒を討っただけなのですから、…それを都合良く吹聴する国を信じることは出来ませんよ。アカネイアにしてみれば大罪人、…私の同盟軍参加も歓迎されることはない。…冷静に過去を思い出してみれば、私の同盟軍参加は悪手かもしれません。」

 

檄を飛ばしたのはニーナ様、その彼女を保護するのがオレルアン。…オレルアンは俺の存在を歓迎しない、アカネイアのニーナ様を保護しているから。…考えないようにしていたことを考えた時、俺が同盟軍に参加をしては要らぬ騒動が起きる。参加を表明してからそれに気付くとは何と愚かな、…しかし今更発言を無かったことにするのもな。喜んでくれたマルス王子に悪い、何よりリンダとレナさんに平和な世で生きて欲しいと願うからには、早々に戦争を終わらせなければならない。自分で言うのもあれだが俺は強い、俺の力が役立つことは間違いない。

 

さて、…そうなると答えはこれしかない。俺は表舞台に立たず、裏舞台で力を発揮させる。即ち本隊はマルス王子達が、俺達は別動隊として転戦すればいい。オルドレイク隊に苦労を掛けるが、そっちの方がある意味安全かと。そう考えた俺は、自身の考えを皆に伝えようとしたが…、

 

「オルドレイク殿はタリスを救った、そんな貴殿が裏へ回ることは許容出来ぬ。…アカネイアが気になると言うならば、我がタリス王国が後ろ楯になろう。救国の英雄に匹敵するオルドレイク殿を如何様にしようものなら、我々タリス王国はアカネイアに逆らうことも辞さぬ。」

 

タリス王は俺の発した言葉で察し、…そのようなことを堂々と言った。その発言に息を飲んだのは俺だけではない、マルス王子とその守役であるジェイガン、リンダやレナさんも驚いた。最も衝撃を受けたのは当事者である俺だろう、…まさかタリス王がそのようなことを言うとは思わなかったのだから。

 

衝撃を受けた俺は少しよろけてから片膝をつく、そして頭を深く下げると心中で色々な感情が駆け巡る。その感情の中で一番強く主張しているのが裏切り、また裏切られるかもしれないと強く主張してくる。最後にはまた俺が邪魔だと、あの時と同じように全てを奪われるのではないか? どす黒い感情が心中を駆け巡って………。

 

 

 

 

 

 

感情の波の中にいる俺の手を誰かが取った。顔を上げてみればシーダ王女で、

 

「オルドレイク様の過去が如何なるものか、…私には分かりません。ですが信じて下さい、タリスは貴方を裏切りませんから。万が一…裏切りと思ったのなら、オルドレイク様の手で私をお好きなように………。」

 

真摯な瞳で俺を見詰めて彼女はそう言った。…タリス王の娘なのだな、…俺の心中を察して先手を取ってくるとは。しかも自身の身を人質に…とまで、シーダ王女は信じている。国を、父を、民達を信じ切っている。だからこそ言える言葉、…シーダ王女は強い女性であるな。

 

 

 

 

 

 

………ここまで言ってくれるのなら、…タリスに身を置き仕えるのも良いかもしれん。…迷惑を掛けるかもしれない、…それでもタリス王とシーダ王女の善意に報いる為には。

 

自身を見詰め直す為にも俺は………。




オルドレイクは自身のしたことに対して後悔はない。仇を討つのはこの世界では普通のことだから。

悪いのは両親を謀殺した上に領地を荒らし、無用な殺しをした魑魅魍魎の手足となった貴族軍。間諜から内容を知らされた他国もオルドレイクの行動に理解を示した、それ以上にオルドレイクの強さに衝撃を受けた。

故に畏怖を込めて、オルドレイクを『空の覇者』と呼ぶように。

そして武勇の誉れ高い者を謀殺し、その子に背かれて手痛い反撃を受けたアカネイアは信用を失墜させる。それが後のドルーア侵攻の際、マケドニアとグルニア、グラを背かせることになる。

暗黒戦争最後の引き金は、オルドレイクの出奔だったりする。


この物語の裏話。


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第23話 ~まだ持っている。

へぇ…、アンケートってあんな感じなんですね。

なるほどなるほど。



ーシーダー

 

父様がオルドレイク様に問い掛けた、アカネイア聖王国とニーナ様のことを。その問い掛けにオルドレイク様の穏やかな表情が一変、苦悶の表情に変わった。そして目を閉じ何かを思い出している? …オルドレイク様を見ていると、…何故か心が苦しくなる。オルドレイク様の過去とは一体、…一体何があったというの?

 

 

 

 

 

 

暫くの沈黙の後、オルドレイク様が静かな口調で言った。ニーナ様とは縁が切れており戻ることはないと、アカネイア聖王国を信じることが出来ないと。そして自身の同盟軍参加を悪手と考えて、…表舞台から降りようと。…そう考えているのですか?

 

父様も私と同じような考えに至ったらしく、先手を取って発言をした。その内容にオルドレイク様を始めとした皆が驚き、…この私も驚いた。父様はオルドレイク様に感謝をしている、その感謝を込めて彼を守ろうとしている。…その優しい言葉の重みにオルドレイク様は、顔を伏せて震えていた。

 

私はその姿を見てから父様へ視線を向ける、父様はオルドレイク様を決意の籠った瞳で見詰めている。そして彼の傍らに控えるリンダさんとレナさん、黙して静かに控えている。…たぶんオルドレイク様の事情を、過去を知る身だからこそ何も言わずに控えているのだと思う。それに倣って見守ることが正しいのかもしれない、でも私は知らないから、知らないからこそ………。

 

 

 

 

 

 

気が付いた時にはオルドレイク様の側にいて、…その手を取って言葉を発していた。オルドレイク様の瞳を真っ直ぐに見詰めて、どうか信じて欲しいと彼に伝えていた。…彼が求めていると思ったから、そうしなければいずれ消えてしまうと思ったから。そして何よりも彼を…、オルドレイク様をリンダさんやレナさんのように、その傍らで支えてあげたいと思ったから。

 

その為ならば私の全てを懸けてもいい、私は父様は勿論のことタリスを信じている。だからオルドレイク様、…私達を信じて下さい。そして出会った時のように、先程のように穏やかな笑みを浮かべて下さい。貴方にその顔は似合わない、どうかその瞳に私達を、私を映して………。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーオルドレイクー

 

タリス王の決意が籠った瞳と言葉に心を揺さぶられ、シーダ王女の真摯な瞳と言葉に心が動いた。彼女に手を取られたまま視線を動かせばマルス王子達は心配そうに、リンダとレナさんは何があっても共にいるという決意が表情に出ている。この場にいる皆が俺に注目している、俺の発言を待っている。

 

戦争後の立場も考えねばならぬのに、タリス王国は俺の後ろ楯になると言ってくれた。シーダ王女も自身の身を懸けて信じて欲しいと言ってくれた、マルス王子達も俺の参加を喜んでくれた、リンダやレナさんは共に歩もうとしてくれている。少なくともこの場にいる者全てが俺を見ている、悪い意味ではなく良い意味で…。

 

俺自身…あの時から心に穴が開いたかのような、…何ともいえない虚しさとでも言おうか、心の大半がそれらに支配されていた。それらを少しずつ、そして確実に取り除いてくれたのがリンダとレナさんだ。リンダの過剰なスキンシップに助けられた、レナさんの献身的な立ち振舞いに癒された。短いながらも充実した逃亡生活、その日々が家族との日々と重なって見えて嬉しかった。そして今、タリス王とシーダ王女のお陰で心に希望の火が灯った。

 

何とも単純で情けないことか、俺はただ求めていたのだ。心の穴を塞いでくれるモノを、俺を導いてくれるモノを。リンダとレナさんは今や大切な人、傍を離れたら悲しくなるだろう。そしてタリス王とシーダ王女、お二方は大切な…守るべき人となる。俺を先へ導いてくれる存在、導き手を力の限り守るのは当然のこと。

 

俺の心はまだ定まり切ってはいない、それでも信じてみようじゃないか。今は信じて共に歩もう、裏切られたらその時に考えよう。アカネイアが滅んで動いた時と同じ、今はただ動こう。それでいいじゃないか、先程の俺に戻ろう。これは一種の逃げかもしれないがそれでいい、少しずつ心の闇を払っていこう。

 

 

 

 

 

 

少しだけ前へ行こう。差し伸べてくれた手を払い除ける程、俺はまだ堕ちちゃいないか。それはそれで朗報だわな、俺はまだ大丈夫。だから此方からも歩み寄り、その手を取ろう。そう思い直した俺は、

 

「タリス王とシーダ王女の心、…言葉と共に彼女の手より伝わりました。…心洗われました、…私はまだ信じる心を持っている。それを気付かせてくれたお二人に感謝を、そしてどうかタリス王国の末席に加えて頂ければと。気付かせてくれたこの恩、この身を持って返したいのです。」

 

シーダ王女が身を懸けたのだから、俺もこの身を捧げることが対価として良いのではなかろうか?

 

まぁ俺の気持ちを込めた言葉も、シーダ王女に手を取られながら故にカッコがつかない。何とも締まらない現状だけど、それが今の俺なんだろう。…とにかく、俺はタリスに恩を返したい。

 

…………オグマもこんな気持ちだったのだろうか? 受けた恩に報いる為、国に仕える決断をした時の気持ちは。




心情っての?

書こうと思うとなかなかに難しい。

書いててわけが分からなくなるのは作者だけ?

俺は何を書いているのだろう? と思いつつ、それでも仕事の合間に書き終えて投稿をする作者なのであった。


アンケートを見て、オリキャラは無しでいこうかと。両親と弟は死んでいるからノーカンさ。

その代わり、敵をそれっぽくがなかなかに伸びた。故に数人は使うかも。


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第24話 ~それは本当なのか?

寒暖差でだるい。


ーマルスー

 

タリス城へ帰還し、僕達は顛末をタリス王に話した。その流れで今後の話となり、嬉しいことにオルドレイク殿が同盟軍へ参加してくれるという。感極まった僕は彼の手を取り礼を言った、…礼を言っただけなのに悪寒がするのは何故だろう?

 

…そして気付く、リンダさんとレナさんが僕を注視していることに。二人共にこやかな笑みを浮かべているのに、…目が笑っていない! それに驚いて視線をさ迷わせれば、今度はシーダ王女と目が合い………。

 

まさかシーダ王女までもがあれほどの眼力を持っているとは、…女性というのはとても強い存在なのだと思った。しかし何故僕はあそこまで強く視線を向けられたのだろうか? …分からない。

 

 

 

 

 

 

オルドレイク殿の部隊へシーダ王女が入ることとなり、彼女は何とも嬉しそうに微笑んでいた。同じ空を翔る者同士、通ずるものがあるのだろう。それにシーダ王女は世話になった身なれど、妹のような存在だから彼の下へ入るのは賛成だ。彼…オルドレイク殿と共にあれば、これ以上の安心はないと言える。どうかシーダ王女をよろしく頼むよ、オルドレイク殿!

 

…これで話すことは終わり。後は長い戦いが始まる前に英気を養って…と思っていたのだけれど、タリス王がオルドレイク殿へ投げ掛けた問いにより周囲の雰囲気が一変してしまった。問い掛けられたオルドレイク殿の様子がおかしい、心配に思った僕は声を掛けようとしたのだが、

 

「…お待ちを、マルス様。オルドレイク殿は今、自身の過去を振り返っております。故に邪魔を致しませぬよう…。」

 

ジェイガンがそう言って僕を止めた。…過去を振り返る? ニーナ様の名とアカネイアという言葉が聞こえたけど、…オルドレイク殿の過去に何が? 僕は知らない、…ジェイガンは知っているのか?

 

何とも言えない雰囲気の中、僕は黙ってオルドレイク殿を見詰めていた。ジェイガンが止めた理由、冷静になってみれば分かる気がする。独特な雰囲気を纏っている彼は別人のようで、もし声を掛けていたら…何も言えずにいたと思う。纏うモノを変える程の過去、それは如何なるものなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

沈黙する彼から目を話すことが出来ずにいること暫く、遂にオルドレイク殿は口を開いた。その言葉はとても重い、ニーナ様とは縁が切れておりアカネイアは信じられない。…全てを聞き終えてから察するに、オルドレイク殿はアカネイア出身の訳あり。それを察することが出来たけど、同盟軍参加が悪手になるなどと…! 過去に何があったのかは分からないけれど、今はそれどころではないのが現実の筈。いかにドルーアを打ち倒すか、それに(くみ)する国を打ち破るのかが重要なんだ。

 

ニーナ様達もそれが分かって………、

 

「マルス様、…それが正論であることは誰もが認めましょう。されど、この状況下でも囀ずる者はいるのです。ニーナ様が望まなくとも、周囲の者達が許さぬのです。…オルドレイク殿はアカネイアに因縁がある、それが争いの元になるが故に悪手となる。しかしながら参加を表明した身、マルス様と共に戦うと決めた以上は裏に回ってでも。自身よりもマルス様のお立場を考えての発言、勿論…リンダ殿とレナ殿のことも含まれているのでしょうが。」

 

ジェイガンの言葉に僕は耳を疑った。打倒ドルーアではないのか? …それだけじゃダメなのか? ニーナ様とアカネイア、そしてオルドレイク殿の間に何があったのかは知らない。因縁があるにしても、…それよりも大切なことがあるんじゃないのか?

 

オルドレイク殿とジェイガンの言葉、どちらの言葉にも考えさせられる。僕が思い悩む中で聞いたタリス王の決意滲む言葉、シーダ王女の想い込めた強き言葉。二人の言葉を受けたオルドレイク殿の言葉、…それにより再び場の雰囲気が変わった。それは物語の一節にあるような、導く王と心優しき王女、そして心打たれし強き騎士。この場にいる僕が…僕達が場違いなのでは? …と思う程の場面に、思い悩む僕が矮小に思えた。

 

 

 

 

 

 

…実際にこの目で見て、この耳で聞かなければ何とも言えない。…幸いにも僕達はオレルアンへ向かう、そこには檄を飛ばしたニーナ様がいる。当然その周囲にはアカネイア貴族がいることだろう、…その時に確かめようと思う。ジェイガンが言ったように(さえ)ずる者がいるかどうか、共に戦ってくれるオルドレイク殿をどういった目で見るかも。

 

…だがそれでどうこう言うつもりはない。僕にはドルーアを倒すこと、祖国アリティアを奪還することが第一目標なのだから。悪いとは思うけど餌になって貰う、そして学ばせて貰おう。オルドレイク殿達のやり取りを焼き付けるんだ、きっとそれが僕の力となる筈だから。

 

オルドレイク殿が僕のこの考えを知ったら怒るだろうか? ………いや、怒ることはないだろうな。何となくだけどそう思う、…彼は小さい男ではないのだから。




新たなアンケートをば。

あくまで参考にする為のものです。

反映されなくても怒らないでね?


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第25話 ~俺はタリスでやり直す。

今日も仕事前に。


ーオルドレイクー

 

タリス王国の末席に加えて頂きたいと申し出た結果、タリス王とシーダ王女はかなり喜んでくれた。そういうわけで今日より俺はタリスの一兵卒、タリスの為に頑張ろうじゃないか。リンダとレナさんも自動的にタリス所属となってしまう、…勝手にすまないと謝れば二人は首を振る。俺に付いていくと決めた以上、俺が決めたことに口を挟むようなことはしない…と。

 

それに俺が二人を大切に思っていることを知っている、…少なくともこのことも私達のことを考えてでしょ? と問われれば頷くのみ。だとしたら私達も俺が大切だからって、…ずっと傍らで手伝いますと言ってくれた。…改めて思う、俺は信頼されているのだと。

 

…それに比べて俺は二人にも壁を作っていた、心の底では人を信じることが出来なかったからだ。故に二人が俺から離れられるよう頑張るつもりであった、安全が保証されれば俺と別れることになると考えていた。でも二人は本気で俺と共にあろうとしていたんだな? …なのに俺って奴は。

 

…だが今は違うぞ? もう一度信じてみようと、そう思っている。タリス王とシーダ王女に心を洗われた、俺はやり直すのだ。このタリスで生まれ変わる、いうなればNewオルドレイクだ。全身全霊を持って二人と共に未来を進もう、よろしく頼むぞ! リンダ、…レナさん!!

 

 

 

 

 

 

その後、予定通りに宴が行われた。そこでタリス王の口から、俺がタリス王国の所属となったことが知らされた。城仕えの者は勿論、近隣より集まった民達は俺を歓迎してくれた。………この光景、歓声を聞くと今は亡き領地を思い出してしまう。泣きそうになる自身を抑え、にこやかな笑みと言葉を発して(こら)える。…俺は自身が思っているよりも弱いようだ、…何とかせねばいずれ足を引っ張るかもしれん。

 

これより同じ国に仕える者として、先人であるオグマ達に挨拶をすれば、

 

「俺には空を舞う術はないがオルドレイク殿にはある。俺は地上よりシーダ様の為に剣を振るおう、オルドレイク殿はシーダ様と同じ空を翔る者。どうかシーダ様のことをお守りしてくれ、貴殿になら安心して任せられる。」

 

と未来の勇者オグマに頭を下げられた。だから俺は言ったのさ、

 

「お守りするのは当然だともオグマ殿、…私としても貴殿に頼みたいことがある。私が率いるオルドレイク隊は全てが歩兵なのだ、空を舞う私には全てを見ることが出来ぬと思う。故にせめて私が不在の時は気にして欲しい、レナさんがいるから大丈夫だとは思うが保険として。」

 

とね。そうしたらオグマは快諾、…彼とは良い関係が築けそうだ。互いに握手をし、軽く酒を(たしな)んで仲を深めた。

 

勿論忘れずにマルス王子へ挨拶をしたよ? 少しの気遣いを感じたけど、…先程の俺を気にしているのかね? 何か申し訳なく思ったよ。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ータリス王ー

 

宴が終わった後、私は自身の寝室にて今後のことを考える。考えることはオルドレイク殿のこと、そしてシーダのことだ。

 

オルドレイク殿は私達を信用してくれ、自ら我がタリス王国へと仕官をしてくれた。彼が仕官をした結果、共にいるリンダ殿とレナ殿も併せて仕官をしてくれ、更にオルドレイク隊に所属している者達が加わるとその戦力は計り知れない。

 

…そんな彼を、彼等をどういった待遇で同盟軍へと参加させるべきか。色々と悩むところだが、実力を考えれば将軍待遇が最も相応しい。さすれば他国から参加した者に侮られることもなし、そしてアカネイアの者からも余程の愚か者ではない限りそれなりの対応を取ってくれるかと思う。

 

そして、将軍位を与える最大の目的はシーダである。我が娘は見る限り、まだ淡いがオルドレイク殿を好いている。その想い…定まり切ってはいないが、今回の出兵にて高まり自覚すると読む。…となればシーダを娶らせることを視野に入れ、オルドレイク殿を将軍とすることが最善であろう。

 

親の私が言うのもあれだが、シーダは気立ての良い美しい娘である。そして何より国内人気が凄まじい、…故に生半可な者には娶らせることが出来ぬのだ。それを考えればオルドレイク殿、彼に白羽の矢が立つ。此度の襲撃の際、国内の被害を最小限に抑えての解放。私は勿論、民達も彼には感謝をしている。先の宴の際に公表した仕官の話、皆は熱狂的に彼を歓迎した。オルドレイク殿であれば誰も文句を言わぬだろう、そして口を揃えて相応しいと賛同してくれるに違いない。

 

更に後押しとしての同盟軍参加、そこで手柄を立てればより確実となる。まぁ…後はあれだ、シーダの自覚と頑張りが必須となる。

 

それと忘れてはいけない女性が二人いる、リンダ殿とレナ殿だ。この二人は完全にオルドレイク殿を好いている、いや…愛していると言っても良いかもしれん。この二人に配慮しつつ、オルドレイク殿との距離を縮めなければならない。真摯に接すれば、彼女達との仲も深まろう。

 

……………シーダの件は私の願望ではあるが、きっと彼とシーダは良い仲になると確信している。

 

……と、もう夜も深い。私も休むとしようか、明日は同盟軍の旅立ち故にな。




このアンケートは今話まで。


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第26話 ~マルス王子にお願いする。

現在モヤモヤしとる作者です。


ーオルドレイクー

 

朝食を食べた後、タリス王に謁見の間へと呼び出された。謁見の間には主要人物が既に集まっており、そこで耳にした言葉は…、

 

「オルドレイク、お主を我が国の将軍に任命する。続けてシーダ以下天馬隊とオグマ以下戦士隊、オルドレイク隊を率いて同盟軍への参加を命じる。見事マルス殿を助け、我がタリス王国の名を各国に知らしめるのだ!」

 

俺を将軍とし、シーダ王女とオグマの部隊を率いてマルス王子を助けろとのこと。…オルドレイク隊を率いる身として、オグマと同じ隊長位での仕官だと思っていた。…隊長位でもなかなかの要職で望みすぎか? と思っていた矢先、それ以上の位を与えられて驚くのは悪くないと思う。

 

…反対する者はいないのか? …と周囲へ視線を向ければ、皆が納得の表情をしていた。…確かにアカネイアへ属していた時、それっぽいことをやってはいたさ。だけどブランクがある、…数年ぶりだぜ? 将軍なんてやっていけるかどうか、…不安になりますよ。

 

俺の不安を余所に、皆は盛り上がっとります。リンダは凄いと自分のことのように喜び、レナさんは当然のことですと澄まし顔。シーダ王女とオグマもオルドレイク将軍と言ってくる、正直むず痒いがこうも持ち上げられるとやる気が出てくる。期待は重圧だがやるからには、…失望されぬよう力を尽くそう。

 

 

 

 

 

 

タリスを発つ準備の中、俺はマルス王子に声を掛けた。理由は一つ、同盟軍の大将は貴方ですよ…と念を押す為。俺の方が知勇に優れているとか、経験豊富だとかは関係ない。マルス王子には軍を率いる才能があるし、人を惹き付ける魅力がある。今はまだ小さい力なれど、経験を積めば俺とは違う覇気を身に付けるだろう。

 

俺が単身でこそ実力が発揮される個の英雄と見るなら、マルス王子は仲間と共に戦い抜く群の英雄。人を惹き付け実力以上の力を発揮させる天才、現に壊走していたとはいえグルニアの騎馬隊を仲間と共に撃破したのだから本物だ。

 

今はまだアリティアとタリスのみの同盟軍だが、この先オレルアンとアカネイアが同盟軍に加わることとなる。そこを考えれば悪い意味で名が広まっている俺より、祖国アリティアの奪還を掲げる魅力溢れるマルス王子が良いに決まっている。個の英雄よりも群の英雄だよ、故にマルス王子が大将に相応しいと俺は声高らかに言わせて貰うね!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーマルスー

 

他国諸公の反応を見る為の餌、必要なことであると分かっているのにやはり後ろめたい。だから宴の時も無意識に気遣って、逆にオルドレイク殿から気遣われてしまった。

 

そして次の日、タリス王の口から聞かされた言葉。オルドレイク殿が将軍に任命されタリス王の名代として同盟軍に正式参加、シーダ王女達を率いて僕達と共に戦ってくれる。これ程頼もしいことはない、…となれば同盟軍を纏めるのはオルドレイク殿。そう考えていたのだけれど…。

 

 

 

 

 

 

今日の昼頃に城を発ち港町へ、そこから海賊の先導でガルダに向かう。その為の準備に追われる中、オルドレイク殿が重要な話があると声を掛けてきた。聞いてみれば承知しかねる内容、オルドレイク殿を差し置いて僕が同盟軍全体の指揮を? 僕のような未熟者が率いてやっていける筈がない。そんなことをしたら手痛い反撃を食らって壊滅、同盟軍が瓦解するようなことになるやもしれないじゃないか。

 

だから僕よりもオルドレイク殿こそが、…そう言おうとしたのだが遮られた。オルドレイク殿曰く、僕には人を惹き付け導く力があると言う。そういう力がある者こそが率いるに相応しい、僕には群の英雄の素質があると饒舌に説き伏せようとしてくる。確かに未熟な所はあるだろう、されどこれからの戦いで皆と共に成長すればいい。戦いの中で成長すれば自覚する筈、成長なくしてアリティアは奪還出きるか? とまで言われれば黙るしかない。

 

そして僕を群の英雄と例えるならば、自分は個の英雄と例える。個としての実力が高いと自覚し、単身での戦いでは無類の強さを誇れる。しかし群を率いる戦いになったら? 結局は自身の強さを突貫して発揮することしか出来ない、単身突撃する者が総大将をしてもいいのか? やるにしても今のタリス軍将軍が限界であると言う。

 

そんな自分を信頼してくれるタリス軍はいい、そして僕達アリティア軍も信頼してくれるだろう。やるにしても今の段階でなら総大将は出来る、…が他国が参加するとなると絶望的。凶状持ちと思われている自分が他国籍の同盟軍を率いればどうなるか、…言わずとも分かるでしょう? と言われれば何も言えない。

 

結局オルドレイク殿と共にジェイガンからも説得され、不安に思いながらも了承することとなった。オルドレイク殿は勿論、皆が支えてくれるとのことだから頑張ろうと思う。

 

 

 

 

 

 

それらを経て僕達はタリス城を発った。タリス王達に見送られての旅立ち、…目指すはガルダを越えた先のオレルアン。…この先に待つのは戦いの連続、皆と力を合わせればきっと………。




反映するかもしれない新たなアンケート。


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第27話 ~…僕は知る。

今日も仕事前に。


ーマルスー

 

現在僕達は大海の上、グルニアより奪った大型帆船に乗りガルダを目指している。アリティアからタリスへ、そして再びアリティアを目指す。…海賊を騙った凶賊襲撃を機に立ち上がり、タリス軍と共に祖国アリティアへ。

 

色々な想いが巡る中で気になるのがオルドレイク殿、知勇に優れた元アカネイアの竜騎士。彼が僕を同盟軍総大将へ推す時に言った凶状持ち、そのことが気になる。ジェイガンは知っているようだけど、僕には教えてくれない。本人の口から聞くべきだと言うけれど、彼の傍らにはリンダさん達が常にいる。…そう簡単に聞けるものではない、…どうしたものか。

 

一人甲板の上で思い悩んでいると、

 

「…おや? マルス王子ではないですか。」

 

と声を掛けてくる者が。振り向けば件の人物、オルドレイク殿が立っていた。彼は一人でここへ来た、…これは聞くチャンスじゃないのか? これを逃したらいつ聞けるか、ニーナ様へ会う前に知っておくべきだ。そう思った僕は、

 

「オルドレイク殿、…貴方に聞きたいことがあります。凶状持ちとは如何なることなのでしょうか? …ニーナ様、…アカネイアに関係があることなのですか?」

 

十中八九、アカネイアに所属していた時に何かがあったのだろう。それを知るのは本人と各国の要人のみ、僕はそう読む。何はともあれ僕は知りたい、今後の為にも…いや、彼を知ることでその助けになりたいと思っている。

 

 

 

 

 

 

………長い沈黙の後、オルドレイク殿は小さく息を吐いてから話してくれた。彼がアカネイアにいた時の話を、心に傷を負わせる程の出来事を。

 

 

 

 

 

 

話を聞き終えた僕は怒りを覚えた。国に尽くしてくれた忠臣を謀殺し、身に覚えのない罪でオルドレイク殿を捕らえたこと。彼を捕らえている間にその領地へと攻め入り、罪無き民達を虐殺し彼の大切な者達を奪ったこと。アカネイア貴族軍が脱獄したオルドレイク殿を殺さんとし、反撃を受けて全滅しそれを反逆として全てを擦り付けたこと。…そして誰一人、いやニーナ様を除いた全ての人が彼を反逆者と見ていることが許せないと思う。

 

彼が…彼等が国へ尽くしていたことを知っている癖に、それらを無かったことにして彼を悪く言うことが許せない。何より、このような国の為に出撃し討たれた父上は何だったのか? そう思わせる程の内容に、オルドレイク殿がアカネイアを信じられないと思う気持ちが理解出来た。

 

 

 

 

 

 

真実がどうであれ、何かしらの情報を得ているであろう他国も彼を疑心の目で見る。そのような人物が同盟軍の総大将をしていれば、要らぬ騒動が起きると誰もが理解しよう。だからオルドレイク殿は僕を総大将に推した、…尚のこと頑張ろうと思った。彼は僕を信用し力を貸してくれる、僕もその信頼に応えつつ彼の力になる。

 

僕が決意新たにしていると、

 

「私に同情しアカネイア憎しと思うことはお止め下さい。貴方は曇り無き目で物事を見て、自身の想いを貫いて行動して下さい。それが貴方の強み、決して人に合わせて行動せぬように…。」

 

オルドレイク殿がそう諭してくる。…勿論分かっているつもりだ、怒りを覚えたけれどそれを出すようなことはしない。父上のことを考えれば多少は思うだろうけど、いや…父上はこのことを知っていても出陣し討たれたのだ。…僕がそれを思うことはない、父上の決断を否定することになる。

 

…オルドレイク殿の過去を知り、色々と思うことがある。でも彼が言ったように、先ずはこれからを自身の目で見て決めるよう心掛ける。それが大切であると改めて自覚したから、僕は僕の考えの下で行動する。

 

 

 

 

 

 

僕はオルドレイク殿と二人、並んで甲板から夜空を見上げた。互いに話すことはなく、静かに夜空を見上げるだけ………。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーシーダー

 

…ただの偶然だった。夜風を感じたくて甲板へ、そこでマルス様とオルドレイク様を見て聞いてしまった。オルドレイク様の過去を、…あの時父様が話してくれたものとは違う真実を。たぶんあの時話してくれたものは噂話、それかアカネイアが少しの真実を混ぜた虚偽の話。…真実は違っていて酷い話、オルドレイク様が人を信じ切れないのも無理のない話。

 

 

 

 

 

 

マルス様とオルドレイク様、二人並んで夜空を見上げる様を見てから私はこの場を後にする。声を掛けられない、掛けられる筈がない。二人だけの空間を壊してはいけない、直感的にそう思ったから。

 

部屋へと戻った私は外着を脱ぎ、ベッドの中へと潜り込む。想うことはオルドレイク様のこと、私は彼に何をしてあげられるだろう? …リンダさんとレナさんはどう接しているの?

 

………私だけがオルドレイク様にしてあげられること、そんなことを考えながら眠りにつく。



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第28話 ~抜けるはデビルマウンテン。

寝る前に。


ーオルドレイクー

 

ガルダへ向かう船上の甲板にてマルス王子に遭遇。総大将へ推す時に言った凶状持ちが気になったようで、真剣な顔でそのことを聞かれました。…知っていると思ったけど知らなかったみたいね? まぁ無理もないか、その時のマルス王子は一〇歳未満だと思うし。俺のことを教えられる筈もなし、…というか正確に伝わっていなかったと思うから逆に有り難いか? 初対面で疑心含む視線を向けられてたらアレだったし。…とにかく聞かれたんなら話さなきゃな、俺を知って貰う為にも。

 

 

 

 

 

 

…で話してみれば、マルス王子から不穏な気配が溢れ出てきました。これは不味いと思い、俺のことはいいから自分を見失うなと言いました。それでいつものマルス王子に戻り一安心、その後は無言で夜空を見上げましたよ。不思議と心地好く、暫く二人で見上げていた。流石に夜風が冷たくなってきたんで、目配せをして互いに部屋へと戻り寝かせて貰った。

 

 

 

 

 

 

急ぐ旅ではあるが、くだらぬ事故を起こさぬように二日掛けてガルダへ到着。焦ることなく一日をここでの情報収集にあて、どのようなルートでオレルアンを目指すかを考える。そう決めておいたんで早速情報収集に精を出しますか、シーダ王女やオグマ達も手分けしてお願いしますね?

 

 

 

 

 

 

………情報収集の為に解散した後、再び集まった俺達同盟軍。それぞれ入手した情報を披露し、有益なモノだけを纏めてみた。

 

結果、現在オレルアンはマケドニア軍に領土の大半を奪われているらしい。オレルアン城すら奪われており、ハーディン率いる狼騎士団はニーナ様共々南方へと逃れている。オレルアンを占領しているマケドニア軍は乱暴狼藉を繰り返している嫌われ者だが、一部の軍は規律を重んじており民達からは評判がいい。

 

…等々、他にもあるが特に気になったのはこれぐらいかね。今から向かうオレルアンにはマケドニア軍が展開中、主力のハーディン達はニーナ様共々未だ健在。展開中のマケドニア軍だが、それぞれの軍で独自の動きをしている。簡単に言うとこんな感じか? …これ等の情報を元にどう進軍するかを話し合おう。

 

 

 

 

 

 

商人や旅人等の民達が使用する街道は全てマケドニア軍が押さえている、故に正規ルートは難しい。下手をしたら全てのマケドニア軍と戦うことになるからだ、負けるつもりはないがただでは済まない。よって却下、…となるとルートは一つだけ。危険なルートだが、正規ルートと比べれば此方の方が安全。安全ではあるが凶賊が巣食う山道、…やっぱ危険だな。

 

…そんなわけで、有力候補の進軍ルートはデビルマウンテンを越えるルート。サムシアンと呼ばれる凶賊集団が支配する地域で、誰もが好き好んで通るルートではない。だが…、このデビルマウンテンを越えればオレルアン城は目と鼻の先。上手くいけば城を奪還出来、オレルアンに恩を売ることも可能となる。

 

更に言うならば、オレルアン城を守るマケドニアの将軍が二人いる。オレルアン城周辺を指揮するのが、堅実な策で敵を追い詰めるのが得意なムラク将軍。オレルアン城を守るのが、マケドニアの盾と呼ばれているマリオネス将軍。この二大将軍がオレルアン城の守将、他国にも名が知られている強敵だ。そして彼等は規律を守る誇り高きマケドニア軍、正直…何故にオレルアンへ派遣されたのかが分からない名将である。

 

何故にこの二人の将軍を知っているのか? マルス王子に聞かれたけど、たぶんジェイガンも知っているんじゃないかな? …と思いきや、名は知っているが細かい所は知らんらしい。…俺、知りすぎっすか? じゃあ仕方がないから教えよう。

 

「知らぬ者の方が多いと思うけれど、私の母はマケドニア出身の竜騎士でした。…ここまで言えば察しが付くかと思いますが、マケドニアの両将軍は私の親類です。ムラク将軍は母の兄、マリオネス将軍は母の叔父になります。」

 

そう告白すれば皆が驚いた。…そりゃ当然か、今から一戦するかもしれない者達が味方の親類なのだから。

 

デビルマウンテンを越えてオレルアンへと抜ければ、…ムラク将軍とマリオネス将軍が率いるマケドニア軍の領域となる。…とすれば俺を知る兵がいる可能性が高い、その(つて)を使い両将軍へ面会出来れば戦わずに済むかもしれない。しかし両将軍…叔父上達は忠誠心が高い、現マケドニア王ミシェイルをどう思っているかで決裂する可能性がある。しかし戦力を維持するには賭けるしかない、…先はまだまだ長いのだから。

 

 

 

 

 

 

戦わずに済むのなら…ということで、俺の提案したデビルマウンテン越えルートに本決まり。親類と交戦するかもしれない、そのことにマルス王子達が無理をしないよう気遣ってくれた。嬉しい限りだが、…その気遣いは無用。俺はタリスの将軍になったのだ、叔父上達と戦うことになっても槍を振るう。それが俺の覚悟、…敵となるならば親類をも殺してみせる。




誰得。

何か書きたくなった。


ムラク将軍。


【挿絵表示】


マリオネス将軍。


【挿絵表示】






忘れてた。

数年前に書いたヤツを発見。

リンダ。


【挿絵表示】


レナさん。


【挿絵表示】


因みにアレっすね。

アンケートはミネルバ人気。


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閑話 ~………俺は。

家庭の事情ってヤツで投稿が遅れました。

そのせいでストレスが、モチベーションが下がりまして。

それとプラスでメール投稿したのにマイページに届かない。四度送ってんだけどね、…何でだろ?


まぁとにかく、上がり始めたんでがんばりますわ。


ーナバールー

 

強者を求めて各地を巡り、数多の強者と死合をしてきた。…しかし俺の心を満たすことはなく、ただただ殺し合う日々。いつしか死合を求める故か、凶賊にすら手を貸す俺がいる。そんな俺を世間では『紅の剣士』と呼ぶらしい、…色々な意味を込めてそう呼ぶらしいがくだらぬ。…何もかもがくだらぬ空虚な日々よ、誰か俺を満たしてくれ。

 

 

 

 

 

 

世の流れに乗り剣を振るう日々、途中人助けのようなこともしたがよく覚えていない。…流れに流れてデビルマウンテンへ、凶賊集団でも名高いサムシアンに雇われた。基本は商人や旅人を、時には村や町へ下り凶刃を振るう。…俺は弱者を斬ることはない、ただいるだけで人は恐れる。…それだけなのに心が冷え切っていく、…俺は何処へ向かおうとしている? …分からぬ。

 

 

 

 

 

 

サムシアンでも満たされぬ日々であったが、…変わった男に出会う。ジュリアンという名の男で凶賊らしからぬ者、凶刃で殺すことはなく盗みに全てを懸ける。

 

「殺して奪えばいい、…貴様は凶賊だ。」

 

気付けばそう言っていた。それに対して奴は、

 

「殺して奪っちゃ意味がない、俺は盗みを極めたいんだ。そもそもアンタも同じじゃないか、サムシアンにいるんだから人を斬れよ。」

 

俺を恐れることなく言い返してきた。…それが珍しく、気付けば俺はこの男を目で追うようになっていた。

 

 

 

 

 

 

ジュリアンに目を付けてから幾日、この男は本当に変だ。他人から命懸けで盗んだ金を自分の為には使わず、薄汚い孤児院へ寄付をしている。…理解し難い、それに何の意味があるというのだ。そんな俺に対し、

 

「…何も知らないガキの笑顔を見る度に思うのよ、俺は最低な野郎だって。…そう思える内は大丈夫、俺はまだ人だって確認が出来る。アンタはどうだい? …まだ人でいるのかね?」

 

そう言って問い掛けてきた。俺は、

 

「………くだらん。」

 

としか返しようがない。俺自身が分からんのだ、…そんなこと。

 

…だがまぁこの男がやっているのだ、…似たようなことをすれば何か分かるか? そう思い気紛れで子供に菓子を与えた。たまたま入手したはいいが甘い物は好かぬ、捨てるのも何だと思い与えたのだ。そうしたらどうだ、…子供が俺を囲んで群がってくるではないか。…たかが菓子の一つでこの俺を恐れぬとは、…子供というのはよく分からん。分からんがまぁ…、悪くない。

 

 

 

 

 

 

ジュリアンと共に行動するようになって幾日、いつしか俺とこの男はコンビとして周囲に認識される。その周囲の認識に対しこの男は、

 

「…アンタが俺を付け回すからそんな風に見られんだよ。…何つーか、俺なんかじゃアンタにゃ釣り合わねぇのに。」

 

としかめっ面。…俺は悪くない、そう思った。物心付いた時から常に一人でいた、…存外誰かと共に行動することは良いものだ。…まぁ、この男以外は認めんがな。…この男は無謀で危なっかしい、俺が露払いをしてやらねば早々に死ぬだろう。………ふん、手の掛かる奴だ。

 

 

 

 

 

 

更に幾日、ジュリアンが深刻な顔で出会い頭に言ってきた。

 

「…ナバール、俺にはアンタしかいない。頼れるのがアンタしかいない、どうか俺の話を聞いてくれ。」

 

面と向かって頼られるのは初めてだな、少しの温かさを感じたが先を促す。聞けば初めて少しの消失感、孤児院が襲われ院長と数人の子供が殺されたと言う。殺されたのは俺が剣を教えた子供、俺がしてやれるのは剣を教えることぐらいしかない故。…ほんの僅かな繋がりだと思っていたが、…どうにも心がざわめく。

 

更に詳しく聞けば、院長と剣を教えた子供達が賊に抵抗。自分達より小さい幼子と女を逃す為に剣を取り戦い、…そして死んだという。そのお陰か、幼子と女達は何とか逃げ切りジュリアンと運良く出会えた。とりあえずジュリアンは幼子と女達を人気のない場所へ潜ませ、確認の為に孤児院へと行けば訴え通りの惨状。院内は荒らされており、院長と子供達は身ぐるみを剥がされていた。…彼等を弔ったジュリアンは今日に限って離れていた俺を探し回り、…今に至る。

 

…全てを聞いた俺は、

 

「…で、…賊とはサムシアンか?」

 

と問えば頷き、

 

「ここ等の賊はサムシアンしかいない。…荒らされた院内にアジトで見た物が落ちていた、…間違いない。…よりによってサムシアンだぜ? 俺達の仲間だけど、凶賊集団でもあるってことが抜けてたぜ。何て罪深いんだ、…死にたくなる。………ちくしょう!」

 

そう言って、ジュリアンは頭を抱えて涙を流した。

 

…僅かな繋がりである孤児院の惨劇、そしてそれを自分の罪のように哀しむジュリアン。…珍しく俺の心はざわめきから殺意へと変わる、心の片隅にあった小さな光は消え…哀しみの感情が顔を覗かせる。何とも言い難い感情の波に襲われながら、

 

「…子供達を連れガルダに行け、同盟軍の下へ。」

 

俺はジュリアンにそう言って踵を返す。呼び止めるジュリアンへ一言、

 

「………俺の剣は血を欲している。」

 

そう言って俺は駆ける。

 

 

 

 

 

 

……………ジュリアン達は俺に必要、…まだ分からぬがそう思う。…その一部を消した者達には報いを、…流した涙以上の血を!




まだホモっぽくない。

…というか、ナバールがジュリアンのお陰で他人に興味を持つように。

本編で徐々にホモっぽくするか?


オルドレイクは見た! ってな感じで。


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第29話 ~デビルマウンテンへ。《その1》

今日も仕事前に投稿です。


ーオルドレイクー

 

オレルアン城を制圧しているのは俺の親族、その事実に同盟軍が驚いた。しかもかなりの強敵故に正面からぶつかれば苦戦は必至、それを回避する為にデビルマウンテンを抜けるルートへ。更に親族という繋がりから俺が単身で接触、出来れば戦闘をせずに何とかなれば有り難い。…さて、どうなることやら。

 

 

 

 

 

 

進軍ルートが決まった後は、船旅の疲れを癒す為にガルダへ泊まる。そういうわけで各々が自由にしていいのだが、同盟軍に属する者達は皆真面目。明日の為に準備をしている、…少しぐらいハメを外してもいいんじゃないかい? と思いつつ俺も人のことを言えない。タリス軍の主要メンバーを集めて話し合っていますとも、何せ…俺は将軍だからね!

 

…で決まったことは、シーダ王女が天馬隊を率いる。オグマは戦士隊、リンダは魔道士だけどカシムと弓兵隊へ。レナさんはオルドレイク隊、俺はタリス軍本隊と各部隊の総指揮。戦闘に移った場合は俺が天馬隊の指揮を、本隊と各部隊の総指揮をレナさんへ移行し任せる。…彼女、意外に切れ者だから安心して任せられるわけよ。

 

まぁ行動へ移る前に、同盟軍総大将であるマルス王子の指示を仰ぐがね。俺達タリス軍は同盟軍に参加している、故に彼の指示の下で動くことは大切。各々が勝手に動けば軍は崩壊する、最低限の指示を貰わなければならない。その指示を主軸に各々が行動する、これが大切なのだよ。…分かるね?

 

 

 

 

 

 

各々がやるべきことを確認し、全ての準備が整った俺達タリス軍。ここでやっとこ解散、明日の進軍へ向けてそれぞれ英気を養おうということに。だから俺は、久々に一人で酒の一杯でも…と思ったんだけどね? オルドレイク隊の者達、…元グルニア兵達に酒場へと誘われた。うむ、コミュニケーションは大事だわな。当然、その誘いへ乗りましたとも。

 

…結局、シーダ王女やレナさん達も合流しての親睦会。進軍前の楽しい夜に、…何やら昂る俺がいる。しかしながら興奮し過ぎるのは駄目、最後まで冷静に仲良く飲んださ。レナさんが引っ付いてきたり、シーダ王女がお酌をしてくれたり、場に酔ったリンダが俺の膝上を占拠したりと誘惑が多かったが、鋼の精神力で堪えきった自身を褒めてやりたい。

 

………一応言っておくが、二日酔いは厳禁だぞ? 万が一なったとしても、問答無用で引き摺ってでも連れていくからな。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ージュリアンー

 

俺に助けを求めてきた子供達、孤児院で起きた惨劇。それらをナバールへと伝え、生き残った子供達の護衛を頼もうと考えた。…しかしナバールは単身アジトへ、殺意の色が見える目で駆けていった。呼び止める声はナバールへ届かない、…彼の中で孤児院は大切な場所の一つだったのだろう。

 

…俺は子供達の下へ走る、ナバールの言葉通りにガルダへ連れ出さねばならないから。そこに同盟軍がいる、何の同盟軍かは分からない。だがナバールからの情報だ、きっと助けてくれる。…子供達を、………そしてナバールを。

 

 

 

 

 

 

子供達と合流した俺は夜の森を進む。連れ出した子供達は文句を言わず、俺の後を必死に付いてくる。命が懸かっているのだから当然だ、俺もそれに合わせているしな。勿論、警戒を忘れはしない。…ここはサムシアンの縄張り、何処で襲われるか分からないからな。

 

………にしても、子供達と共に進むから今夜中に森を抜けるのは無理だな。子供達のことを考えなくちゃナバールに無言で叱られちまう、俺自身も子供達は大切な存在だし。

 

 

 

 

 

 

………そろそろ立ち止まって小休止させなきゃならない。…そんな暇はないけれど大切だ、子供達を第一に考えてこそだと思うし。…きっと大丈夫、俺達は同盟軍の下へと辿り着ける。

 

…僅かな時間だとしても、俺は子供達を寝かし付けながら周囲を警戒する。…妙な静けさに胸騒ぎを覚えながら、自身も子供達と共に少しの休息を。警戒中だからまともに休まらない、それでも体力ぐらいは………。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーオルドレイクー

 

次の日、二日酔いになった馬鹿は一人だけ。タリス軍の馬鹿は誰か、何となく分かるだろう? そう…リンダである。この娘、果実水と間違えて酒をイッキ飲みしたんだよね。…当然、目を回して倒れたわけよ。急性アルコール中毒の可能性もあったが大丈夫だったようで、現在もメソメソ泣いている。

 

…そんな馬鹿な娘がいる中で、順調すぎる進軍に疑問が。…既にサムシアンの支配する地へ入ったというのに襲ってこない、…これ如何に。軍故に敬遠しているのか? と考えたがそれはない、奴等は軍であっても襲う最大規模の凶賊集団だと聞いている。同盟軍程度の規模に臆することはなく襲撃してくる筈、…なのにそれがないのが解せぬ。…デビルマウンテンで何かが起きている?



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第30話 ~デビルマウンテンへ。《その2》

今日もいつものように仕事前投稿。

……にしても、コードギアスも書かなきゃって思っているんだけどね。


ーオルドレイクー

 

おかしい、…この一言に尽きる。俺達はデビルマウンテンを目指している、凶賊集団として悪名高いサムシアンの支配地だ。既にその麓、奴等の支配する場所へ足を踏み入れている。…襲撃を受けてもいい筈、なのに一度もそれがないのだ。…おかしすぎる、そう思った俺は天馬隊へ指示を出す。周囲を警戒、調査せよ…と。

 

続けて近くにいた兵を伝令とし、マルス王子にもこのことを知らせる。…何かあってからでは遅い、こういう時は先を読んで行動すべき。何かしらがあったら急報を走らせるが故、マルス王子達は予定通りの進路を進むべし…という伝令をな。俺の勘と言いますか、…このデビルマウンテンには何かある。…何だったか、…レナさんが関係していたような? ………う~む。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ージュリアンー

 

………………っ!? …やばい、寝ちまった! 焦った俺は直ぐに周囲を見回し、子供達の姿を確認して安堵した。子供達は寄り添って、…まだ寝ている。あどけない寝顔、それを見て心が温かくなるのと同時に悲しくなる。本来であればここに後…数人、院長もいた筈なのだから。

 

………罪滅ぼし、これはそれに当たるだろう。自身が積み重ねてきた悪事、サムシアンに属していたことへの懺悔。例えそれが偽善と思われても、後に恨まれたとしても俺は、…この子供達を無事にガルダへと連れ出す。それが俺のやらなければならないこと、そう改めて自身のやるべきことを再確認する。

 

…木々の隙間から淡い光が見え隠れする、…夜明けが近いか。…陽が昇る前に歩を少しでも進めよう、涼しい時間帯で距離を稼ぐことは負担が少なくていいからな。…さて、子供達を起こすか!

 

 

 

 

 

 

子供達を起こして歩を進める。…今日中にガルダへ着くかどうか、…着くことは難しいかもな。そんなことを考えながら先導していると、遠くから何かの気配を感じた。直ぐ様子供達を木の根元に伏せさせ、俺は神経を研ぎ澄ましてその気配を探る。

 

………………風切り音? ………空か? …空からの気配だとすれば。不審に思った俺は気配を消して木を登り、身を潜めながら空を探ってみれば見付けた。…天馬騎士? …何故に天馬騎士がデビルマウンテンへ? 疑問に思ったが直ぐに察することが出来た。あの天馬騎士こそが同盟軍なのではないか…と。

 

ここ等で天馬騎士と言えば二カ国、マケドニアとタリスだ。マケドニアの天馬騎士ではないのは確実、奴等は基本…三騎一組だからだ。それにこんな所を飛ぶ筈がない、サムシアンの支配地へお高いマケドニアが侵入するとか絶対にない。…となるとタリス以外にないわけで、噂じゃアリティアの王子を匿ったと聞いている。グルニアがちょっかいを出した筈だがここにいるってことは…だ、奴等を破って立ち上がったってことだろう。そしてガルダへ渡りデビルマウンテンを越えるルートを取った、…そう考えられる。

 

マケドニアはおっかないがタリスのいる同盟軍なら、…ナバールもその情報を得てガルダへ向かえと言ったのだろう。…で天馬騎士が飛んでいるとなれば、ガルダへ着く前に接触が出来るかもしれない。そう思った俺は直ぐ様地上へ降り、天馬騎士が飛んできた方向へ進路を取る。同盟軍はあの街道を進んでいる、そう確信を持って子供達を先導する。

 

 

 

 

 

 

…同盟軍がいるであろう街道を目指し、子供達と共に森を進む。…やはり、違和感があるな。ここまで来たのにサムシアン、…元仲間であった凶賊の姿がない。それに天馬騎士、…無事に空を舞うこと等本来は不可能な筈だ。…至る所に弓を得意とする奴が陣取っているからだ、天馬騎士なんて極上の獲物だぞ? それが舞っていたんだからおかしい、…本当に誰もいないんじゃあ。

 

………こんなこと、三ヶ月に一回の集会がある時にしか…っ!? …集会、………今日がその日じゃあ!!

 

なら誰もいないってーのに説明がつく。その集会へ参加する為に二、三日前からアジトへ移動する。それぞれの持ち場で貯め込んだお宝を運ぶ為に、余裕を持って行動するんだ。

 

………そこまで思い出して胸騒ぎの理由に思い至る。アジトには多くのサムシアンが集まっている、…そんな所へナバールは! …ナバールが危ない!!

 

…あの時、いつもだったらナバールは護衛を言わずともしてくれた。だが今回はそれをせずにガルダへ行けと、そして単身でアジトに。集会があると知っていて、…今なら脅威もなく子供達を連れ出せると分かっていて!

 

…くそっ! 俺は何て間抜けなんだ、…そんなことを忘れちまって!! …ナバール、………頼むから無茶はしないでいてくれよ!!



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第31話 ~デビルマウンテンへ。《その3》

寝る前に投稿。


ージュリアンー

 

ナバールがサムシアンの集会を狙い、単身アジトへと向かったことに気付いた俺。ナバールの強さは知っている、『紅の剣士』の異名は伊達じゃない。…しかしそれでも心配なんだ、どんなにナバールが強くとも相手は多勢だ。

 

それも凶賊集団の中で最凶と言われるだけあって、その強さで悪名轟く奴が何人もいる。その筆頭がナバール、…そして頭領のハイマン。…ハイマンは強い、サムシアンの中でも飛び抜けている。せめてもの救いは、奴が集会に顔を出すことがないってこと。頭領故に根城でふんぞり返っている、…アジトへ集まる奴等をコマと考えているからだ。…それにしても多勢に無勢であることに変わりない、どう考えてもナバールが不利である。

 

…考えれば考える程、ナバールの身が心配で妙に焦ってしまう。この調子が続いたら、くだらないミスを犯してしまいそうだ。そう考えた俺は子供達に発破を掛ける、ナバールを助ける為に頑張ってくれと。…そう言えば子供達は気合を入れて頑張ってくれた、…この子達もナバールのことが好きなんだな。それを知ると心が温かくなる、………もう一頑張りだな!

 

 

 

 

 

 

…子供達の頑張りもあって、俺の視界に同盟軍と思われる軍列が入った。一応子供達をこの場に残し、俺は単身その列へ。俺の登場に最大限の警戒をされたが、敵意がないことに気付くとそれを解いてくれた。小隊長と思わしき兵士に理由を話せば、上へ話を通してくれるとか。それと子供達も保護してくれるという、…ありがたい。

 

子供達を迎えに行って戻ってきてみれば、そこには王子様っぽい兄ちゃん? と厳つい爺さん騎士。暫くしてから天馬に乗った美人さんと竜騎士が、………あれ? この竜騎士の兄さん、…ナバールがライバル視している手配書の竜騎士じゃないか?

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーオルドレイクー

 

天馬隊を周囲へ散らしてから暫く、マルス王子からの伝令が俺の下へ。何でも森の中から一人の男が現れ、子供達を連れて保護を求めてきたらしい。更に重要な話があるとかで、俺もその場に同席して欲しいとのこと。…まぁここはサムシアンの支配地、その男がただ者ではないことは確実。故に万が一を考えての同席か、マルス王子も成長しとるね。直ぐに動ける俺を呼ぶとは、…何かあれば空を飛ぶ俺は身軽だからな。

 

 

 

 

 

 

伝令によって呼ばれた俺は、軍の指揮をレナさんに任せてシーダ王女と共にマルス王子の下へ。そこにいたのは赤髪の優男と子供達、……む? この優男には見覚えが。…今世ではなく前世?

 

……………ああ!? コイツ、…ジュリアンじゃないか!

 

原作で囚われのレナさんを連れ出した盗賊、元サムシアンのジュリアン。…デビルマウンテンに何かあるってーのはジュリアンのことか、確かにレナさんが関わっていたわな。まぁ俺の存在のお陰でレナさんは此方に、ジュリアンはレナさんの代わりに子供達という違いがあるけれど。…ってことは敵にナバールがいるな、…これは強敵だ。本来の道筋ではシーダ王女がナバールを説得するが、さて…今回はどうなることやら。

 

 

 

 

 

 

…何て考えていたが、ジュリアンの話を聞いて驚いた。ナバールがジュリアンの相棒、そして子供達の仇を取る為にサムシアンを裏切り単身アジトへ。この段階でジュリアンが孤児院と関わっていることにも驚いたが、紅の剣士と恐れられているナバールが子供達を気に掛けていた。…サムシアンに殺された孤児院の院長と子供達の仇、それを成し遂げようとしていることに驚かない方がおかしい。

 

ナバールがサムシアンに雇われていることを忘れていた、…がその存在は知っていた。その必殺剣は全てを斬り裂き、その血で身を(あか)に染める。ナバールが紅の剣士と呼ばれている所以である、その二つ名通りに恐れられているのだ。正直ナバールは強い、たぶん原作以上であると言える。何故なら俺は奴と一戦交えている、…この俺が苦戦したのだ。…この俺オルドレイクがだぜ? …恐るべきは凄腕の剣士、結局は俺が勝ったけど。

 

泣く子も黙ると言われているナバールがねぇ、…戦うことしか興味がなかった戦闘狂が人の仇か。…何が彼を変えたのか、…やはり子供なのか?

 

 

 

 

 

 

因みにこの話は子供達のいない所で行っている、聞かせることなんか出来ないだろ。こんなにも慕っているジュリアンがサムシアンの一員だった、大切な院長と仲間を殺した者達の一員。最悪…人間不信になってしまう、それだけは駄目だろう。

 

…俺としては助けたいと言うジュリアンの頼みを聞いてやりたい、ナバールは死なすに惜しい人物だ。変わったのなら尚更である、…死合をした仲でもあるしな。




ナバールは原作以上の強さになると思う。


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第32話 ~デビルマウンテンへ。《その4》

予定通り更新。

ここでは久々っすね!


ーマルスー

 

オレルアンへ行く為にデビルマウンテンを行軍中、一人の男が僕に話したいことがあるとのことで面会を求めてきたらしい。女の子中心の子供達を連れてきたとのこと故、…悪い男ではないと思うけれどこの地が問題だ。サムシアンの支配地に子供達と共に現れた、十分に怪しいと言える。…が会ってみないことには判断しにくい、………会ってみるしかないかな? 子供達を見捨てるわけにはいかないと思うし。

 

ジェイガンと軽く相談し、その場へオルドレイク殿を呼ぶことに。彼は誰よりも強い為、万が一…その男が刺客か何かだとしても何とかしてくれる。それに竜騎士故に身軽だ、彼が飛べば空にて待機している天馬騎士も動く。全軍へ速やかに連絡を届けることが出来る、うん…会っても問題無いかな?

 

 

 

 

 

 

オルドレイク殿と共にシーダ王女もこの場に来た。…二人が合流した後、子供達を連れてきた男と面会した。彼を見た印象、…見た目は優男で悪い者には見えない。彼は一体何者なんだ? と考える僕を余所に、赤髪の彼はオルドレイク殿を見て仰け反っていた。…オルドレイク殿のことを知っているのか?

 

この時点で普通の民とは違う、僕はこの優男を少しだけ警戒した。普通の民はオルドレイク殿のことを知らない筈、特にこの地方の民達は。知っているのは国の中心に近しい者か軍関係者、…そしてアカネイアの民達と裏に関わる者達。そう考えればこの男、…裏に関わる者と見るべきだ。…この地で言うならば、…サムシアンとかね。

 

 

 

 

 

 

…僕の考えは当たっていた。この男、ジュリアンはサムシアンの一員だったのだ。しかし噂に聞くサムシアンとは毛色が違うようで、所属してから一度も無力な民を殺したことはないと言う。盗み一筋、盗んだ物も孤児院へ寄付をしていたらしい。

 

…嘘は吐いていないようだ、その目を見る限り。それに子供達は彼を信頼し切っていた、…何とも不思議な男だと思う。…そんな彼は相棒のナバールを助けたいと言う、…突然すぎる大物の名前。紅の剣士ナバールの名は僕でも知っている、一振りの剣で戦場を渡る最凶の剣士。ジュリアンは紅の剣士の相棒、そのことに僕は驚いた。

 

更に詳しく話を聞いてみれば、サムシアンに孤児院が襲われて多くの子供達が殺された。その仇を討つ為にナバールは単身アジトへ、…紅の剣士が仇討ち? 何とも信じがたいことだけど嘘と決め付けるには……。

 

一刻も早くオレルアンへと行きたい、…だけど彼の頼みも聞いてあげたいと考えてしまう。上手くいけば紅の剣士を引き入れることが出来るかも、…そういう打算が頭をよぎる。どうすべきかと考える僕に、オルドレイク殿がこう言った。

 

「…助けるべきでしょう。」

 

…と。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーオルドレイクー

 

ジュリアンの頼み、単身アジトへと仇討ちに行ったナバールの救出。それをどうするかと悩むマルス王子に俺は言った、

 

「…助けるべきでしょう。」

 

…と。その言葉を聞いたマルス王子は俺を見る、こちらもマルス王子と視線を合わせて、

 

「ナバールと言えば世に名の知られた凄腕の剣士、こちらへ引き入れれば最高の戦力となりましょう。悪名もありますがそれは些細なこと、彼の救出と共に凶賊サムシアンを討ち取れば感謝はされど非難はされぬかと。」

 

そう言い切る俺に対しマルス王子は、

 

「…確かにオルドレイク殿の言う通り…か。うん…仇討ちをするからには彼は人だ、優しさのある者を見捨てることは出来ない。それにオルドレイク殿の言うようにサムシアンを滅するチャンスでもある、これを機にデビルマウンテン…サムスーフ山を解放しよう! 後顧の憂いを断つ、そして…オレルアンへ!!」

 

力強い言葉を発した。マルス王子の宣言にジュリアンは目を見開き、

 

「…ありがとうございます!!」

 

深々と頭を下げて礼を言ってきた。

 

…俺とジェイガンはマルス王子の言葉に満足、直ぐ様そのように考え発言したその姿を頼もしく思う。ナバールの救出をサムシアン殲滅の機とし、同時にオレルアン進軍の懸念であった凶賊達を滅することで後顧の憂いを断つ考え。…素晴らしいと言える、…やはりマルス王子は盟主に相応しい。彼の更なる成長を期待しつつ、ナバール救出の準備を進めようか。

 

 

 

 

 

 

慌ただしく準備に追われる同盟軍。マルス王子率いる同盟軍の主力は、サムシアンの頭領ハイマンが居を構えるサムスーフ城へ進路を取る。その主力にタリス軍のほぼ全軍を預け、その統括をレナさんに一任する。リンダと違ってレナさんは切れ者だし駄々を捏ねないからな、…本当に助かる。

 

ナバール救出の為の部隊を率いるは俺、ジュリアンを案内人とした少数精鋭で向かう予定だ。シーダ王女と数騎の天馬騎士、それに相乗る形でオグマとバーツを筆頭とした戦士隊…とリンダ。弓兵が配置されていないようだからね、空からの制圧を狙うのさ。…神速を以て救出させて貰う、時間は掛けられんからな!



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第33話 ~ナバール救出。《その1》

ーナバールー

 

ジュリアンに付き合い、孤児院へと僅かな支援を施していた。ジュリアンとは違い多芸ではない、俺に出来ることは剣を教えてやることだけ。…それだけの繋がり、それだけだというのに俺は………。

 

 

 

 

 

 

ジュリアンと生き残った子供達をガルダへと向かわせ、俺は久々に(たぎ)る殺意を持ってアジトへ。今日は三ヶ月に一度ある集会の日、デビルマウンテンに巣食うサムシアンが一同に集う日。…例え俺でもただではすまない、強者とはいえ多数を相手取るのだから。それに名の知れた猛者もいる、本来であれば喜びにも勝る死闘となるが…。

 

未だかつて感じたことのない悲しみが俺の中を燻っているが故、…嬉々として剣を振るうことは出来ない。…ただ殺そう、殺して殺して殺し尽くすことでこの悲しみを払おう。…この先にあるものが己の死だとしても、(たむろ)する者達の全てを道連れに前のめりで死を迎えてくれる。

 

 

 

 

 

 

アジトへと辿り着いた俺は、挨拶代わりに門番の首を斬る。落ちたその首を無造作に掴み、乱暴に扉を蹴り破り侵入。いつもとは違う登場に奴等の視線が俺に集中、その視線を浴びながら手にした首を奴等へ向けて投げ込み…、

 

「…お前達との関係は今を以て終わりだ。」

 

そう告げれば見知った顔の男が、

 

「…ナバール! 俺達を裏切るってのか!!」

 

怒髪天を()いた顔で怒鳴り散らしてきた。それに対し俺は口許を歪め、

 

「…その首がその証だが?」

 

心底馬鹿にした声色で返せば、奴…奴等は顔を赤く染めて、

 

「「「「ぶち殺せぇぇぇぇぇっ!!」」」」

 

各々武器を持ち襲い掛かってくる。俺は剣を強く握り締め、

 

「………ふっ。」

 

奴等に一閃、俺達の死闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

…斬り払っても斬り払っても、絶えることなく襲い掛かってくる。アジト内は既に血の海、死臭漂う地獄と化している。そんな地獄で俺は剣を振るう、数えるのが馬鹿らしくなる程に斬った。しかし奴等の数は減るどころか、…増えているような気がする。まぁ…当然か、正面から堂々と俺は裏切った。暗殺紛いや奇襲は好かん、…それ以上にそれでは心が晴れぬ。

 

多くの者を斬り伏せたが故に、俺の剣…キルソードの斬れ味が鈍る。それに合わせて体力の低下が目立ち始め、小さな傷が増えてきた。そんな俺の状態に奴等は笑みを深め、嬉々として獰猛に襲い続けてくる。…そろそろこの俺も年貢の納め時かもしれぬ、そう考え始めたのだが…。

 

俺の目に入ったのは何の変哲もない鉄の剣、…鉄の剣なのだが身に覚えがある物。…俺が子供達に与えた剣、アレで立ち向かい散った幼き命。

 

………………。

 

……そうか、…まだ倒れるのは早いか。そう思った俺は、

 

「…まだやれる、…俺はまだ人。」

 

自然とそんな言葉を小さく呟いた。毎日のように聞いていたジュリアンの口癖、…それを俺が口にするか。………面白い、存外俺はジュリアンに影響を受けていたようだ。

 

手にしていたキルソードを捨て、新たに手にするは鉄の剣。どうしてか、…この場に倒れる自身を想像出来ん。この俺が奮い立つ日が来るとは、…本当に面白い!

 

「…さぁ、…第二幕といこうか!」

 

鉄の剣を頭上に掲げて跳躍、新たな一閃と共に想いを乗せた戦いが始まる。

 

────────────────────

 

ーオルドレイクー

 

マルス王子率いる同盟軍の主力と別れた俺達。俺の騎竜にはリンダとジュリアン、リンダが俺の前に陣取りジュリアンが背後。ご満悦のリンダとは違いジュリアンは緊張気味、初めて竜に乗ったようだから仕方がないかと。オグマ達はそれぞれ一人ずつ天馬騎士と相乗り、…何か互いに恥ずかしがっているけれど何故?

 

…とにかくそんな編成で空を舞い、ジュリアンの案内でアジトを目指す。ナバールはそう簡単に殺られるような男ではない、…がそれでも急がなくては。多勢に無勢だからきっと満身創痍、遅れれば遅れる程ナバールの生存率が…。例え強者でも疲れや武器の劣化は避けられない、そうなってしまえば…言わずもがな。

 

 

 

 

 

 

眼中にアジトを捉えた。…このまま急襲するぞ! リンダ、彼処を吹き飛ばせ! 崩すのではなく吹き飛ばすんだ、エルファイアーの使用を許可する!!

 

ドゴォォォォォンッ!!

 

よし! 綺麗に吹き飛ばしたな、よくやったリンダ! …全騎、俺に続け!! 天馬騎士達はオグマ達を降下させ次第離脱、上空にて待機せよ! 俺はオグマ達と行くがリンダとジュリアンは…って、ジュリアン! …何故お前が一番に飛び出すんだ! リンダもそれに続くな!! ………えぇいっ!!



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